キモ姉&キモウト小説を書こう!part27

このエントリーをはてなブックマークに追加
1名無しさん@ピンキー
ここは、キモ姉&キモウトの小説を書いて投稿するためのスレッドです。

○キモ姉&キモウトの小説やネタやプロットは大歓迎です。
愛しいお兄ちゃん又は弟くんに欲情してしまったキモ姉又はキモウトによる
尋常ではない独占欲から・・ライバルの泥棒猫を抹殺するまでの

お兄ちゃん、どいてそいつ殺せない!! とハードなネタまで・・。

主にキモ姉&キモウトの常識外の行動を扱うSSスレです。

■関連サイト

キモ姉&キモウトの小説を書こう第二保管庫@ ウィキ
http://www7.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/1.html

キモ姉&キモウト小説まとめサイト
http://matomeya.web.fc2.com/

■前スレ
キモ姉&キモウト小説を書こう!part26
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1261220649/

■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。

■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
 ・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。

SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー!荒らしに構う人も荒らしです!!
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・スレは作品を評価する場ではありません
2名無しさん@ピンキー:2010/01/22(金) 22:53:18 ID:n7SP5Zsa
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1264090817/
と思ったらもう次スレ立ってたみたいだ・・・どうしよう
3名無しさん@ピンキー:2010/01/22(金) 23:38:15 ID:mzBsmv+I
>>1


2のスレは削除依頼も出てるし、スレタイとテンプレの両方に間違いがあるからこっちが本スレで
良いんじゃない
4三つの鎖 13 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/01/23(土) 00:10:58 ID:Avb0HgmG
>>1乙です。
こんなにはやく次のスレが立つとは思いませんでした。
連続で申し訳無いですが、続きを投下します。

三つの鎖13後編です。

※以下注意
エロなし
血のつながらない自称姉あり

投下します。
5三つの鎖 13 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/01/23(土) 00:13:25 ID:Avb0HgmG
 昼休みの終わる直前に春子と一緒に教室に戻った。
 「こーいち」
 僕に気がついた耕平が声をかけてきた。
 「夏美ちゃんが来て渡しといてやって」
 耕平は僕の机を指差した。そこには学校指定の鞄が置いてある。梓の鞄。
 夏見ちゃんのことを思い浮かべると胸がざわつく。ついさっきまで僕は夏美ちゃんをほったらかしにして春子といた。春子を抱いた。
 「幸一?どないしたんや」
 耕平が不審そうに僕を見つめている。
 「何が?」
 僕は平静を装ってこたえた。
 耕平は何か言いたそうな顔をしたけど、チャイムが鳴ったので自分の席に戻った。
 春子は少しつらそうに椅子に座っていた。
 椅子に座り僕はため息をついた。体が重く感じた。

 帰りのホームルームが終わった。
 僕は荷物をまとめて立ち上がった。僕の鞄と梓の鞄。帰って梓を看病しないと。体調は大丈夫だろうか。
 教室を出ようとしたとき、後ろで大きな音がした。
 机や椅子がぶつかり倒れる音。クラスメイトのざわめき。
 「村田!大丈夫かいな!」
 緊迫した耕平の声。
 振り向くと、机と椅子が乱れた中心に春子がいた。痛そうに腰をさすっている。
 「大丈夫だよ。ちょっとこけちゃっただけだよ」
 春子はそう言って自分で立ち上がった。微かにふらつく足元。
 周りのクラスメイトは心配そうに春子に声をかける。春子は笑顔で大丈夫というだけ。
 「生徒会があるから行くね」
 そう言って春子はクラスの出口に歩いた。僕のいるほうに。
 春子と僕の視線が合う。足を止める春子。怯えたように一歩後ろに下がり足がもつれる。姿勢を崩し後ろに倒れる春子。僕は素早く近づき、地面に倒れる寸前の春子を抱きかかえるように支えた。
 柔らかくて温かい感触。驚いたように春子は僕を見た。
 「大丈夫?」
 僕はそっけなく言った。春子は僕の腕の中で微かに震えている。
 「おいおい。無茶したらあかんで」
 耕平が心配そうに近寄ってくる。
 「今日は帰ったほうがええで。生徒会には俺が伝えとくわ。幸一。村田を家まで送ったり」
 「分かった」
 耕平はお大事にと春子に言って教室を出た。
 「春子。立てる?」
 僕の腕の中の春子に言うと、春子は微かにうなずいた。桜色に染まった頬。
 春子は立ち上がろうとして失敗した。ふらついて床にへたり込む。
 僕は無言で春子に手を差し伸べた。春子は視線をそらして僕の手を握った。柔らかくて綺麗な手。白い滑らかな肌。
 春子の手を握り、僕は一気に立ち上がらせた。ふらつく春子を支える。
 「歩ける?」
 「う、うん。大丈夫」
 手を離して離れようとする春子。ふらつく春子を僕は腕をつかんで支えた。
 「無茶しないで」
 僕は春子の腕をつかんでゆっくりと歩き始めた。
 「こ、幸一くん」
 僕は春子のほうを振り向いた。微かに上気した頬、潤んだ瞳、恥ずかしそうな表情。
 「は、恥ずかしいよ。お姉ちゃんは大丈夫だから、腕を離して欲しいよ」
 顔をそらして消え入りそうな小さな声で春子は言った。
 僕は手を離した。とたんにふらつく春子。僕は腕を差し出した。春子は僕の腕をつかんでふらつく体を支えた。
 「ご、ごめん」
 離そうとする春子の手を上から押さえた。
 「いいよ。僕にも責任はあるし」
 お昼休みの事が脳裏に浮かぶ。顔を真っ赤にする春子。僕の腕をつかむ白い手が震える。
 僕たちはゆっくりと歩き出した。今度は春子も腕を放さなかった。
 多くの生徒でごった返す校門。視線が僕たちに突き刺さる。仕方が無いかもしれない。
 春子は学校では有名だ。生徒会の一員で集会やイベントで他の生徒の目に触れる機会は多い。文武両道で美人でお茶目な女の子。学年や性別を問わず人気がある。
 悲しい事に僕も比較的有名だ。それもシスコンとして。加えてこの身長。妹は美人で有名。紹介して欲しいと何度頼まれたか。
 春子は顔を赤くしてうつむいた。僕の腕をつかむ春子の手が震えているのがよく分かる。
 「大丈夫?」
6三つの鎖 13 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/01/23(土) 00:16:42 ID:Avb0HgmG
 「は、恥ずかしいよ」
 「何が」
 いつも春子はもっと恥ずかしい事をしてきた。人前で抱きついたり頭を撫でたり手を握ったり。これぐらい何ともない。
 春子は恨みがましく僕を見た。その顔は面白いぐらいに真っ赤に染まっている。
 「幸一君は恥ずかしくないの。お姉ちゃん信じられないよ」
 そう言いつつも僕の腕を離さない春子。微かにふらつく足元。
 別に恥ずかしがる事はないと思う。体調が悪いなら仕方がないし。
 「家まで歩ける?タクシーを呼ぼうか」
 春子は首を左右に振った。
 二人でゆっくりと道を歩く。時々ふらつく春子を僕は支えた。春子は僕の腕をしっかりと握っていた。
 何も言わずに僕は春子の歩けるスピードにあわせた。春子は恥ずかしそうにうつむくばかりで何も言わない。
 僕の腕を握る春子の手から春子の体温が伝わってくる。温かいのにどこか頼りない温度。
 春子の家について玄関まで春子を支えた。おばさんもおじさんもいない。
 「部屋まで戻れる?」
 僕は春子に尋ねた。春子の部屋は二階だ。この様子では階段を上がるのは難しそうに見える。
 「だ、大丈夫だよ」
 春子は小さな声で答えて靴を脱いだ。歩こうとした途端にこけかける。僕は春子を抱きかかえるように支えた。
 「無茶しないで」
 何も言わずに春子はうつむいた。微かに震えている。
 僕は春子の額に触れた。びくっと震える春子。春子は切なそうに僕を見上げた。熱はないようだ。
 「立てる?」
 春子は立ち上がろうとして床にへたり込んだ。
 僕はため息をついて春子を持ち上げた。
 「きゃっ!?」
 春子の背中と膝に手を差し入れ胸の前で持ち上げる。俗に言うお姫様抱っこ。
 「ちょ、ちょっと!?幸一くん!?」
 顔を真っ赤にして手足をじたばたする春子。
 「暴れないで。危ないよ」
 「は、離して」
 春子は恥ずかしそうにうつむいた。
 「お、お姉ちゃん重たいでしょ。大丈夫だからおろして」
 梓を背負った記憶が脳裏に浮かぶ。
 「確かに梓より重いかも」
 「えっ!?」
 春子は目を見開いて僕を見つめた。
 しまった。失言した。
 でも、春子の身長で梓より軽かったらおかしい。
 「でも軽いよ。羽みたいだ」
 呆然とする春子を抱えて僕は階段を上った。自分でもびっくりするぐらい春子は軽く感じた。
 春子の部屋に入りベッドに春子を横たえた。その上に布団をかける。
 「おばさんが帰ってくるまで一人で大丈夫?」
 春子はぼんやりとうなずいた。心あらずというように僕を見つめる。
 今までに見た事のない春子の様子に胸がざわつく。
 風邪をひいた春子をお見舞いに行った事が何度かある。いつも春子は病人とは思えないはしゃぎっぷりだった。
 ずっとベッドで寝ているのが暇なのか、風邪にも関わらず春子は僕と話したり、ゲームで遊んだりした。おばさんが春子を叱るまで付き合わされた。
 今の春子にそんな面影はない。
 不安そうに、びくびくしながらも、僕から視線を逸らさない。
 僕は唇を軽くかみしめた。胸がざわつく。
 「何かあったら遠慮なく連絡して。じゃあ」
 梓の体調も心配だ。僕は春子に背を向けた。歩こうとした瞬間に袖に何かが引っかかる。
 振り向くと春子が僕の袖を握っていた。白い手が僕の袖を必死につかんでいる。
 「春子?」
 春子はベッドで横たわったまま僕を見上げた。目尻に涙が浮かぶ。
 目が合うと春子はびくりと震えた。
 「どうしたの」
 春子の目尻から涙が落ちる。
 「お、お姉ちゃん分からないよ」
 涙をぽろぽろ流す春子。
 「どっちが本当の幸一君なの。ベッドの上でひどい事をする幸一くんが本当なの。優しい幸一くんが本当なの。分からないよ。何であんなにひどい事をした後でこんなに優しくできるの」
 涙に濡れた顔で僕を見上げる春子。僕の袖を握る手は微かに震えている。
7三つの鎖 13 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/01/23(土) 00:20:12 ID:Avb0HgmG
 春子の言葉に胸がどうしようもなくざわつく。
 「僕も春子のことが分からないよ」
 小さいときから僕を助けてくれた春子。梓との仲直りができたのも、夏美ちゃんと恋人になれたのも春子のおかげだ。
 それなのに今は僕を脅し、夏美ちゃんを裏切る行為を強要する。
 多くを与え、多くを奪った女の子。
 「春子。こんな関係はもう止めよう」
 春子は首を横に振った。涙が飛び散る。
 「やだっ!絶対にやだっ!」
 春子の目からとめどなく涙が流れる。
 僕の手をつかむ春子の手。僕はそれをゆっくりと離した。
 「今日はごめん」
 何で僕は春子にあんなひどい事をしたのだろう。
 春子は嫌がって泣いていたのに。
 小さい時から何度も助けてくれて、そばにいてくれた僕のお姉さん。
 どうしてこんな関係になってしまったのだろう。
 春子はしゃくりあげながら僕を見つめた。
 涙で濡れた頬、子供のように泣きながら僕を見上げる瞳には頼りない光が浮かぶ。
 胸がざわつく。いろいろな感情がごちゃ混ぜになって胸の中で暴れる。
 「お大事に」
 僕は春子に背を向けた。春子の泣き声を振り切って家を出た。
 頭がおかしくなりそうだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 今日の朝、屋上で兄さんと夏美の情事を目撃した私は家に戻って兄さんのベッドの上でずっと横になっていた。夏美から連絡があったけどでる気にはなれなかった。
 脳裏によみがえるのは兄さんと夏美の情事。夏美の喘ぎ声と腰をふる兄さん。悪夢のような光景。
 兄さんは朝の時間、家で私といるよりも夏美といる方がいいんだ。
 脳裏に兄さんが夏美を犯している光景が頭に浮かぶ。気持ちよさそうな嬉しそうな夏美の嬌声。
 私はスカートに手を忍ばせ、下着の上から割れ目を触った。そのまま何度もなぞる。兄さんのベッドの上で行う自慰。兄さんに匂いに包まれ頭が熱くなる。
 「…あっ…ひうっ…にいさっ…んっ…はっ…すきっ…にいさんっ…んっ…」
 頭がぼんやりする。気持いい。私は快楽に耽るけど、同時に満たされない想いも大きくなるのが分かった。
 「んっ…なんでっ…なんで夏美なのっ…あっ…んっ…にいさっ…んっ」
 夏美といる兄さんの笑顔が脳裏に浮かぶ。私に向ける悲しそうな笑顔とは違う、嬉しそうな笑顔。
 みじめだった。あまりにも。
 一度は納得したはずだった。兄さんの恋人は夏美。それなのに。
 私は下着に指を入れ、膣の入り口を何度もいじった。兄さんを想いながら。
 絶頂に体を震わす。快感と悲しみで頭が爆発しそうだ。
 私は兄さんの枕に顔を押し付けた。涙がとめどなく溢れ兄さんの枕を濡らした。私は全身汗だくだった。下着だけでなく、制服も汗で濡れている。汗に濡れた制服と下着が体に張り付いて気持悪い。
 兄さんが帰ってくる前にシーツをかえて着替えないと。
 そんな事を思いながらも、私は眠気に包まれた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 目が覚めたとき私は自分の部屋に寝ていた。
 身を起して自分を確認する。制服だったのに私は寝間着になっていた。
 今何時だろう。机の上の目ざまし時計を見ると、隣にスポーツドリンクのペットボトルがある。それを見たとたん、強烈なのどの渇きを覚えた。私はペットボトルをつかんで一気飲みした。水分が体中にしみわたる感覚が心地よい。
 口を拭い時計を見る。時間はすでに夜だった。
 下に降りると、兄さんはリビングでアイロンをかけていた。私の制服だ。
 「梓。もう大丈夫なのか?」
 私に気がついた兄さんはアイロンを置いた。
 「帰ったら僕のベッドの上で制服のまま汗だくだったからびっくりしたよ」
 私はあのまま寝てしまったのか。
 「もう大丈夫。寝たらすっきりしたわ。お父さんとお母さんは?」
 「まだ帰ってきてない。時間もまだ早いでだろ?」
 確かに両親が帰ってくる時間はもっと後だ。
 「もしかして兄さんが私を運んで着替えさせてくれたの?」
 兄さんは恥ずかしそうに目線を反らした。頬が微かに赤い。
 「いや、その、すまない」
 私は頬が熱くなるのを感じた。
 「もしかしたら体を拭いてくれた?」
8三つの鎖 13 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/01/23(土) 00:23:20 ID:Avb0HgmG
 兄さんの顔がさらに赤くなった。気まずそうに頬をぽりぽりとかく兄さんが可愛すぎる。
 私は兄さんに抱きついた。背中に腕をまわし思いきり抱き締める。
 「ありがとう。すごく嬉しい」
 兄さんは驚いたように固まる。
 「兄さん。ごめんね。迷惑掛けて」
 正直言うと少し恥ずかしい。寝ていたとはいえ兄さんに服を脱がされ体を拭かれたと考えるだけでまた体が熱くなる。
 「梓。大丈夫?ちょっと熱いよ。まだ熱があるんじゃないか?」
 兄さんの手が私のおでこに添えられる。大きくて柔らかい兄さんの手。ひんやりとして気持いい。
 「横になった方がいい。後でお粥を作って部屋に持っていくから」
 兄さんが私のおでこから手を離そうとするのを私は上からそっと押さえた。
 「お願い…もうちょっとだけ…」
 「梓?」
 困惑したように私の顔を覗き込む兄さん。可愛い。
 「その…手が冷たくて気持ちいい」
 我ながら意味不明な言い訳。それでも兄さんは苦笑して私のおでこに手を添えてくれた。
 「氷枕も持っていくよ」
 兄さんの手が気持いい。おでこに触れているだけなのに。
 そうだ。兄さんに恋人がいても、家の中で一番そばにいるのは私なんだ。どこに行っても兄さんは必ず家に帰ってくる。だったら兄さんが家にいる間は思いきり甘えてやる。 
 そんな事を考えていると誰かの訪問を知らせるチャイムが鳴った。
 「僕が出るよ。梓は部屋に戻って横になって」
 兄さんの手が離れる。兄さんはリビングを出て行った。
 いったい誰なんだ。おかげで兄さんとの触れ合いが減った。
 まあいい。私はため息をついてリビングを出た。後で兄さんが手作りのお粥を持ってきてくれるまで部屋でのんびりしておこう。そうだ。ついでに「あーん」てしてもらおう。
 想像するだけでテンションが上がる。兄さんの「あーん」。だめだ。わくわくが止まらない。
 それなのに。玄関から聞こえてくる楽しそうな会話に私は足を止めた。
 「そうなんですか。それを聞いて安心しました」
 夏美の声が聞こえる。
 私はそっと玄関をのぞいた。夏美と目が合う。
 「あずさー!お見舞いにきたよー!」
 夏美は明るい笑顔を私に向け、大きく手を振った。元気で幸せに溢れた声。
 その姿に胸がざわつく。
 「鞄だけ置いてあったから心配したよ。体調は大丈夫?」
 梓は靴を脱いで私に駆け寄った。兄さんは苦笑するだけで何も言わない。
 何で止めないの。この家は私と兄さんの家なんだよ。なんで夏美が我が物顔で入るのを止めないの。
 夏美が心配そうに私を見た。
 「梓?大丈夫?」
 兄さんも心配そうに私達を見る。私と夏美を。
 何でなの。ここは私たちの家なのに。何で私だけじゃなくて夏美も見るの。
 「えっと、梓?」
 夏美は兄さんの恋人じゃない。私は外にいる時は遠慮しているのに。何で夏美は家まで上がり込むの。私が兄さんと誰にも邪魔されずにいられるのは家だけなのに。
 いつまで私と兄さんの家にいるつもりなの。
 心配そうに私を見る夏美を私は思いきり突き飛ばした。悲鳴をあげ尻もちをつく夏美を私は見下ろした。
 「出て行って」
 「え?あ、あずさ?」
 「出て行って!ここは私と兄さんの家よ!」
 私は感情のままに叫んだ。頭が爆発しそうだ。
 夏美は呆然と私を見上げた。早く出て行け。私は夏美をさらに突き飛ばそうとした。
 「梓!」
 兄さんが私を後ろから羽交い絞めにした。
 「なんで出て行かないの!夏美は兄さんの恋人じゃない!外でも学校でも一緒にいるじゃない!」
 「梓!落ち着いて!」
 「私の気持ちを知っているんでしょ!何で家まで来るの!私が兄さんのそばにいられるのはここだけなのに!」
 私は滅茶苦茶に暴れた。兄さんは必死に私を押さえる。
 「そんなに私に見せつけたいの!兄さんと一緒にいるのを!抱きしめてもらっているのを!キスされているのを!抱いてもらっているのを!」
 足元に滴が落ちる。涙がとめどなく溢れ私の頬を濡らす。
 「ずるいよ!私だって兄さんが好きなのに!ずっとそばにいたいのに!キスしてほしいのに!抱いて欲しいのに!」
 梓の瞳に理解と後悔の色が浮かぶ。
 「あ、あずさ。その、私、そんなつもりじゃ」
 「出て行って!これ以上私から兄さんを奪わないで!」
 夏美は涙をぽろぽろ落としながら後ずさった。
9三つの鎖 13 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/01/23(土) 00:24:16 ID:Avb0HgmG
 「待って夏美ちゃん!」
 「失礼します!梓本当にごめん!お兄さん、梓のそばにいてあげてください!」
 靴もはかずに夏美は飛び出した。
 「夏美ちゃん!」
 兄さんは私をはなして靴をはく。私は立ち上がる兄さんの袖をつかんだ。
 「いやっ!行かないで!」
 兄さんは私を見た。いつもの困った顔ではない。焦った表情。
 その表情に胸が締め付けられる。
 兄さんは私よりも夏美の方が大切なんだ。
 「ひぐっ…兄さん…お願い…家の中では私のそばにいて…私を見て」
 私の言葉に兄さんは困ったように微笑んだ。
 兄さんは袖をつかむ私の手を優しく引き離した。
 「梓。ごめん」
 そう言って兄さんは私に背を向けた。
 私に対する優しさで満ちた言葉なのに、全然嬉しくなかった。
 「温かくして寝るんだよ」
 そう言って兄さんは駈け出した。
 「いやっ!兄さん!兄さん!」
 遠ざかる兄さんの背中に叫んだが、兄さんは振り返ること無く走り去った。
10三つの鎖 13 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/01/23(土) 00:34:49 ID:Avb0HgmG
投下終わりです。
読んでくださった方に感謝いたします。
ありがとうございました。
HPにて登場人物の人気投票を行っていますので、よろしければご協力お願いします。
HPでは今までに投下した作品もあり、まとめてDLもできます。よろしければご利用ください。
ただ、最新作はスレにしかありません。ご了承ください。
次の投下は来週になると思います。

ttp://threechain.x.fc2.com/index.html
11名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 00:36:36 ID:Rq9jCHei
リアルタイム遭遇ktkr!!

うおおおGJっ!ついに妹のターンきた!これで勝つる!
12名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 00:43:54 ID:ZPa3ENyV
Good Job !

ところで俺が愛してやまない梓はこれからどうなるんだい?
続きが非常に気になるね!
13名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 00:43:56 ID:tROwyDoR
>10


ついに梓のターン
そして泥沼再来!
14名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 01:00:29 ID:Kiokjsdq
前回より悪化したかも…。
春子も本格的な攻勢に出てるし…
夏美ちゃん君だけはそのままでいてくれよ……

ブチキレ梓
ダーク春子
最後の一人は… 
15名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 01:47:31 ID:y1lYvCmS
三つの鎖……
16名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 02:03:45 ID:9MSK5tlM
そうか、やっぱりハーレムエンドは無理かなあ。ちょっとばかし期待してたけど。
まあ夏美を除く二人はヤンデレだし、当然の結果といえば当然なんだろうけど。
17名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 04:25:05 ID:U11FQhWQ
スレ立て、投下共に乙
とうとうヤンデレスレに追いついちまったな
18名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 11:28:20 ID:ydaKNiUy
ふむ、でもこのスレも段々過疎ってきてる気がするな。
未完で終わったSSも多いし。
息の長いスレになって、いつまでもキモ姉・キモウトssが読めますように!
19名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 12:17:51 ID:AgSZBJVy
あほかおまえ過疎ってるスレが500行かずに埋まるかよしね
20名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 13:24:59 ID:jY9pbkMb
未完作品の作者さんに降臨してほしい
21名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 13:57:00 ID:Pkj0dAeI
だな
22名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 14:24:05 ID:Rq9jCHei
とりあえず桔梗の剣カムバックプリーズ

寸止めにもほどがあるだろおおぉぉおおぉおぉお!!!
23名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 18:29:30 ID:gq7sMbxC
とりあえずソウカンジャーが来ないのが個人的に悲しい。
24名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 23:41:12 ID:jY9pbkMb
>>22
確かに妹と同棲!!みたいなところで切れましたしね
25名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 00:00:58 ID:nA9QoLF+
桔梗の剣:前回のあらすじ

父「兄と妹、いまからここで子作りしれ。んで後継者産め。」
兄「ちょwww親父マジ自重wwww」
妹「……かしこまりました。兄さん、父の言う通りにしましょう。(うひゃっほう!親公認!親公認ktkr!!産むぜぇ〜、超産むぜぇ〜)」
26名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 00:17:57 ID:EcFfl8cM
姿見村の続きが読みたい俺は、少数派なんだろうか。
いつかのソラも後一話で完結ってところでお預けくらっていて辛い……
27名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 00:21:35 ID:rAztzbq3
>>14>>15
ちょwww
三つの鎖ってそういう意味www
夏美まで黒くなったら幸一がカワイソスwww

虎とあきちゃんの続きを希望
三つの鎖もはやく読みたい
作者さん応援してます
28名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 09:20:08 ID:ZQO8seZb
ひょっとしたら秋さんか冬さんが三つ目として登場するのかもしれないぞw
しかし梓も春子も墓穴掘るのが好きだなーwある意味似たもの姉妹分かも

>>27
まさか私以外にも虎とあきちゃんの再開を心待ちにしている男がいたとはな!
29名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 10:43:58 ID:9ELEPOei
永遠のしろが超いいところで止まってるんだよなぁ
一年待機は辛いぜ
30名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 10:46:12 ID:5UWYBsC/
しろ姉が死ぬんじゃないかとガクブル
31名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 13:17:13 ID:rALEavXk
ホトトギスまだー?
32名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 15:32:17 ID:nA9QoLF+
一方俺は今でも__(仮)の正式タイトルと妹生存ルートを待ちわびていた
33名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 15:53:57 ID:e5OBhVd2
皆好きだなww

ま、かくいう俺も色々と待ってるんだがね
34名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 15:55:01 ID:e5OBhVd2
くそ、VIPに慣れると下げ忘れが多くなる…
35名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 17:27:57 ID:oAjjHJiR
いつまでも待つわ〜
36名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 17:45:08 ID:AO4coFhw
梓   ティターンズ
春子  エゥーゴ
夏美  アクシズ
37名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 18:52:26 ID:Oyy7LGlR
有名かもしれんがJanne Da Arcのsisterって曲は
このスレの為の曲と言っても過言ではない気がする

だれか曲をもとに小説作っておくれ
38名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 18:59:17 ID:EcFfl8cM
歌詞自体が物語に近いから、小説にすると、ただ文章にしただけになりそうだな
39名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 19:10:08 ID:EcFfl8cM
すみません、下げ忘れました……
40名無しさん@ピンキー:2010/01/25(月) 00:22:09 ID:5+gMM/j7
>>37
むしろ歌詞の内容まで至る過程が大切な気が
歌詞に鎖ってあるのを見て「三つの鎖」が浮かんだ
でも歌詞的には「未来のあなたへ」っぽい気がする
あるいは「弓張月」や「転生恋生」の将来っぽいかも

だめだ
続きが気になってしまうorz
41弓張月6 ◆1zfTn.eh/1Y3 :2010/01/25(月) 02:03:09 ID:/gcC7/cP
投下します
以下本編
42弓張月6 ◆1zfTn.eh/1Y3 :2010/01/25(月) 02:05:43 ID:/gcC7/cP
 放課後のグラウンドでは、多くの学生たちが、青春に汗を流している。
 かく言う俺もその一人、ところどころにシミのある白いユニフォームを着て、マウンドの上に立って白球を握っている。
 対面に座るキャッチャーが、ミットを構えた。
 ふう、と息をひとつ。
 両腕を振り上げて下ろすことで、多少の勢いをつけながら右足をあげ、体をぐっとひねる。
 右腕を前に突き出して、だん、と右足を地面に突き刺し、ボールを持った左腕を振りおろした。
 指に、ボールの縫い目が引っ掛かる感覚。スナップを利かせる。
 変化球なんて殆ど投げられない。そんな俺が此処に立てているのは、伊佐里高校野球部の部員が少なく、
 10回試合をして1回勝てばラッキーと言えるぐらい弱小だからに他ならない。
 渾身のストレート。それでも球速は110キロちょいと言ったところ。
 バッターがバットを振るい、迫る白球をジャストミートした。
 カーンと小気味よい音と共に、白球が夕焼けの空に吸い込まれていく。
 おお、かなり飛んだ!と嬉しそうな歓声をあげて、バッターがダイヤモンドを駆けだす。既に3塁ベースに居た走者がホームベースを踏んだ。
 白球の行方を追いながら、俺は、ちっと舌打ち。これで何本目のクリーンヒットだろう。
 自分で言うのも何だが、こんな弱小野球部のチームメイトに打たれこむなんて、しょぼ投手の俺でも珍しい事だった。
 寝不足のせいか、今日は球に力が乗らない。
 球速がある訳でもない棒球なんかで、抑えるのはさすがに難しかった。

† † † † †

「どうしたんだ、今日は調子悪かったな、飛鳥」
 ユニフォームを脱ぎ制服に着替えていると、肩に手を置いて真木が話しかけてきた。
 振り返ると、何故かにやにやと頬を緩めている。心配してる人間がする顔じゃないだろ、それ。
「そう言うお前は、ご機嫌だな」
 真木から顔を反らして、着替えを再開しながら不機嫌をにじませて呟く。
 あ、やっぱりわかる?と真木は声を弾ませている。
 殴ろうとする衝動をぐっと抑えた。
「花音のメアド手に入れたのがそんなに嬉しいかね……」
 真木の上機嫌は、昼休みのメアド交換に端を発していた。
 それからずっと、にやけっぱなしでウザい事この上なかった。
「は、お前には分かんないだろうな。花音ちゃんのメアドを他の男子生徒に売りつけたら数万の値はつくぞ」
「……お前」
 じとっと、睨む。妹のメアドをそんな事に使わせるわけにはいかない。
「冗談だって、売るわけないだろ!ただ、それだけの価値はあるってことだよ」
「もし売れば、どうなるか分かってるんだろうな」
「分かってる、分かってるって」
 真木は結構ビビリな所があり、いつもなら睨んだりするだけで怯むのだけど、今日はへらへらと暖簾に腕押し状態。
 ムカムカする気持ちを腹にためながら、ユニフォームを畳む。
 ぐしゃぐしゃなままでスポーツバッグに押し込んでもいいのだけど、そうすると花音がうるさい。
 どうせすぐ洗濯するんだからそんな些細なことで怒んなよ、と思うのだけれど家事は花音に頼りきりなので、唯々諾々と従うほかない。
「大体、花音のメアド貰ってどうすんだよ」
「へ?」
「メールするのか?」
「……」
「まあ、メールでデートの約束でも取りつけられるんなら話は別だけどな」
 ぱっぱとユニフォームを全てたたみ終え、スポーツバッグに詰め込む。
 よし、と一息。スポーツバッグと通学カバンを持って立ち上がる。
 真木を見ると、さっきまでのにやけ顔が消え去っていた。
 がっと肩を掴まれた。がくがくと揺すられる。
「やっぱ、そう思うよな!メアド交換したんだから、メールくらいしてもイイよな!」
「いや、俺、そんな、事は、言って、ないん、だが」
43弓張月6 ◆1zfTn.eh/1Y3 :2010/01/25(月) 02:08:46 ID:/gcC7/cP
 俺の返答も聞かず、真木は俺をつき飛ばした。
 突然のことでバランスを取る事ができず、ドスンと尻もちをついてしまった。
「そうだよなー。よし、今夜帰ったら、早速メールしちゃうぞー」
 うひひとおやじ笑い。お前は出会い系にはまった親父か。
 立ち上がり、パンパンと尻を叩き土埃を落とす。
 ウザいを通り越してキショい真木にはもう気にせず、さっさと帰る事にする。
 部室のドアを開けて、部室の外に出てドアを閉める前に一言、
「ま、精々頑張れよ」
 と言い残して、ドアを閉めた。
 まあ、花音が絡むとどうやら変人になってしまうようだが、いつもはいたって普通のいい奴なのだ。
 いつもは真木と分かれ道までは一緒に帰るのだが、正直今日はもうアイツと絡む気力はなかった。
 只でさえ寝不足気味――授業の殆どを寝て過ごしても、寝不足は治らなかった――の上に、部活終わりで疲れているのだ。
 それに、多分今夜も花音との眠れない夜が待っている。
「眠れない夜って何だよ……」
 思わず漏れる声も、気力10%未満。
 とぼとぼと言う表現がぴったりな歩調で、校門をくぐろうとして、
「眠れない夜って卑猥ですねー。どうかしたんですか?」
「ええ、それは花音が……って」
 思わず普通に喋ってしまいそうになる口を、ぐっと閉じた。
 いつの間にか俺の背後に、吉野先輩が立っていた。
「あれ、続きは?花音ちゃんがどうしたんですか?」
 自分の唇に人差し指を当てて、小首を傾げる吉野先輩。
「生徒会長ともあろう人が、盗み聞きは感心しませんね」
「あらあら、盗み聞きなんて人聞き悪いです。飛鳥ちゃんが勝手に喋っていたんじゃないですかー」
 心外ですね、と吉野先輩は頬を膨らませる。
 いつもなら何らかの反応くらいするのだけれど、今の俺に吉野先輩に構ってやる余裕なんてなかった。
 無言で少しスピードを上げて、すたすたと歩く。
 しかし、吉野先輩は鈍臭そうな印象の割に、中々機敏な動きで俺についてきた。
 こんななりをして、と言ったら失礼千万であろうが、吉野先輩は運動全般が得意だという。
 ただ、水泳とか短距離走などスピードを競うものは、比較的苦手だと言っていた。
 ……まあ、胸にそんだけカイデーなパイオツつけてたらなあ、としみじみ思う。

「何だか、疲れちゃってるみたいですね。大丈夫ですか?」
「ええ、まあ。部活帰りですから。吉野先輩は、生徒会だったんですか?」
「はい、そうですー。そろそろ新入生歓迎オリエンテーションとして球技大会があるので、その準備です〜」
「ああ、そう言えばそろそろでしたね」
 新入生歓迎と銘打つ割には、開催時期が微妙に遅い球技大会。
 クラスごとに幾つかの球技で交流を深めながら、勝敗を競うものだが、優勝したチームに何か商品がある訳でもなくその存在感は薄い。
 生徒にとっては一日授業がつぶれてラッキーといった程度のモノだ。
 そんな影の薄いモノのために、こんな時間まで雑務をしなければならないなんて生徒会と言うものは予想以上に面倒なもののようだった。
「今朝も早かったですけど、それ関連ですか?」
「ええ、そうですよ」
「生徒会長ってのも大変なんですねえ」
「そうですね。でも生徒会メンバーは、皆、優秀な方ばっかりですからそれほど負担ではないですよ〜。ただ、」
「真面目すぎるけど、ですか?」
「ピンポーンです」
 あはー、と吉野先輩が笑う。
 上品に控え目に笑う花音や快活に笑う都とも性質を異にする、吉野先輩の笑み。
 吉野先輩の傍にいると、何だか癒されるような感覚を覚えるときがある。
 言葉にするのは難しいけれど、ぽかぽかとした春の日射しの様な存在だろうか。
 俺だけではなく、他の人にとってもそういった印象を抱いているからこそ、吉野先輩の人気は不動の物となっているのだろう。
 その後は、何となく二人とも無言のまま、ぽてぽてと歩く
 昼間から雲がかかって薄暗かったけれど、この時間になれば辺りは完全に暗くなっていた。
 しんと静まり返った町。
 淡い明かりが灯った家々からは、夕食の良い香りが漂ってくる。
 今日の夕食は、何だろうか。
44弓張月6 ◆1zfTn.eh/1Y3 :2010/01/25(月) 02:11:23 ID:/gcC7/cP
 最低だと罵られるかもしれないが、自分の家での楽しみと言ったら花音の作る料理のみで、それ以外は俺にとっては苦痛でしかない。
 花音の存在さえも苦痛に感じられる時があり、そんな自分が凄く醜くて、吐き気さえした。
 道の両脇に連なる家々。その一つ一つに、ささやかな家族の団欒が存在するのだろうか。
 俺は家族の団欒と言うものがよく分からない。両親ともに忙しい人だったし、彼らと過ごした年月もそれほど長い物ではなかったから。
 一つの家から、微かな笑い声が聞こえた。
 そちらを見ると、カーテンの隙間から笑いあう家族の姿が覗いていた。
 俺と花音も、何時かあんな風に家族として過ごせる日が来るのだろうか。
 
 ぼんやりと無言のまま、10分ほど歩くと、やがて前方に新築の大きな家屋が聳え立った。
 “成金屋敷”なんて揶揄される事もある、この町で一番大きい、そう、まさに屋敷と言うに相応しい家屋。
 ここが、吉野先輩の自宅だった。
 屋敷の、矢張りこれも大きな門の前まで行って、吉野先輩がくるりと振り返った。
 ふわふわとした柔らかそうな癖っ毛が、宙に舞った。
「そういえば、都ちゃんとは上手くいっていますか?」
 唐突な質問に、一瞬呆気にとられる。
「ええ、まあ……」
 曖昧な答えになってしまったのはそのせいだろうか、それとも。
 吉野先輩は、そうですか、と嬉しそうに頷いた。
「というか、吉野先輩って都と知り合いでしたっけ?」
「都ちゃんとは、昨年委員会が一緒だったので仲良くなったんですよ。今も都ちゃんはクラス委員ですから、生徒会関係で色々とお世話になってます〜」
「はあ、そうなんですか……」
「都ちゃんと会話すると、いつも飛鳥ちゃんとの惚気話を聞かされるんですけどね」
「……ちなみに、どんな事を?」
 何だか不穏な話の流れになってきた。冷や汗を感じながら、恐る恐る尋ねる。
 吉野先輩は顎に人差し指を当てて、ん〜、と暫く考えるしぐさを見せた後、ぱん、と両手を合わせて。
「ごちそうさまでした。いやー、飛鳥ちゃんって結構テクニシャンなんですね〜」
「いやああああ!」
 かああ、と一瞬にして羞恥に顔が赤くなっていくのが分かった。
 え、マジで?マジで都は、そんな事を吉野先輩に言ってるの?
「プレイの幅が聞く度に広がっていくから、飛鳥ちゃんも大人の階段を上ってるんだなってお姉ちゃんとしては、寂しいような、嬉しいような複雑な気持ちです」
「すみません、俺が悪かったです。もう、勘弁してください」
「えー、私としては、今まで都ちゃんから聞き出した、飛鳥ちゃんの成長日記を全校生徒の前で発表する予定だったんですけど」
 至って冗談のように聞こえるけれど、吉野先輩ならやりかねない所が怖い。
「そんなことされたら、俺、学校通えなくなりますって」
「あらあら、学校に通えなくなるような事をしているって自覚はあるんですね〜」
 からからと吉野先輩が笑う。いや、笑い事じゃないですって、マジで。
「何でもするんで、都から聞いた事は吉野先輩の胸の中にしまっておいてください」
 地面を舐めんばかりの勢いで、頭を下げた。
 今なら、吉野先輩の靴をなめろと言われても、3回まわってワンと鳴けと言われても喜んで出来る。
 プライド?
 はは、そんなものは、その辺の側溝に投げ捨てた。
「何でもですか?ふふ、どうしましょうか」
 吉野先輩の声は、滅茶苦茶弾んでいる。間違いなくこの人は、この状況を楽しんでいた。
 何でもすると言った自分を早くも後悔しつつも、俺は、頭を下げたまま裁決が下るのを待つ。
 ぽん、と手を叩く音が聞こえた。
「それじゃあ、私の事を吉野先輩って呼ぶのをやめてもらいましょうかー」
「……諦めてなかったんですか」
 最近は言われていなかったから、てっきりもう諦めてくれたのだと思った。
 顔を上げる。相変わらず吉野先輩は笑顔を張り付けていて、何を考えているのか全く読めない。
「そうですね、何度か言ってた事ですけど、お姉ちゃんって呼んでもらいましょう」
「……それは」
 なんというか、まずい気がする。
 そんな馴れ馴れしい呼び方をすれば、親戚一同の反感を買いかねない。
45弓張月6 ◆1zfTn.eh/1Y3 :2010/01/25(月) 02:12:02 ID:/gcC7/cP
「別にいいじゃないですか。私と飛鳥ちゃんが親戚同士ってことはみんな知っている事ですし。呼称を変えた所で、誰も私たちの血縁について気付いたりしませんよ」
「いや、そうかもしれませんけど……」
「ああ、親戚一同の事を心配しているのなら大丈夫ですよ。私が一言いっておけば、彼らは何も言えなくなりますから」
「え……」
「これはオフレコなんですけれど。私、会社の経営をお手伝いしてるんです。私のお陰で、最近利益が上がっていますから、あの人たち、私に強く言えないんですよ」
 これでも権力持ってるんですよ〜、とのほほんとした声で言う。
 そののんびりとした様子からは、到底信じられない。
 けれど、否定できないような何かを先輩が持っているのも事実だった。
 少々言葉は古いかもしれないが、カリスマとかそんな感じ。人の上に立つべくして、生れて来たような人なのだ。
「まあ、お姉ちゃんは少し恥ずかしいかも知れませんから、佐里姉さんか佐里姉でもいいですよ。
 学年も違うんですから、校内で呼ぶことも少ないと思いますから、そんな気負う事もないと思います」
 確かに、お姉ちゃんよりはそちらの方が恥ずかしさも少なくて済みそうだった。
 いつの間にか、呼称を変える事前提に話が進められている事にも気付かず、
「分かりました。佐里姉さんとこれからは呼ぶ事にします」
「あはは〜、嬉しいです。それじゃあ、契約成立ですねー」
 怒涛。あれよこれよと言う間に、話が進んでいく。
 本当に、何でこんな事になったのだろう。
 と言うか、良く考えてみれば等価交換ではないような気がする。主に、こちらが損をしているような。
「じゃあ、早速呼んでください」
「……」
「わくわく」
 態々言葉にして、期待するような視線を向けてくる。
 ぐっと拳を握り締めた。
「……佐里、姉さん」
「はぁい」
 ハートがぽんぽん飛んでくる。
 何だろう、凌辱されたような気分。
 否、今まで凌辱されたことなんてないけれど。
 この恨みは、明日都にぶつけよう。大体、諸悪の根源はアイツなのだから。
 そう心に誓いながら、
「それじゃあ、俺は帰りますね」
 逃げるように自分の家に続く道へ足を向けた。
 足が重い。まるで鉛を詰め込んだような。
46弓張月6 ◆1zfTn.eh/1Y3 :2010/01/25(月) 02:12:48 ID:/gcC7/cP
「また明日〜」
 吉野先輩、否、佐里姉さんの朗らかな声に、振り返って軽く会釈。
 歩き出した俺の背に向かって再度、吉野先輩の声が追いかけてくる。
「飛鳥ちゃん、これから、よろしくお願いしますね」
 立ち止りかけた足を、ぐっと無理やり前に出した。
 今度は振り返ることなく、少しだけ速足になってその場を離れる。
「あははー。それでは、良い夜を」
 佐里姉さんの声は、まるで俺を嘲笑っているかのようで。ぞっとするような、うすら寒い感覚を覚えた。
 彼女と初めて会った時に感じたものと同じ感覚。
 煌びやかなドレスを身に纏った、今より随分幼い彼女の笑顔が頭を過った。
 どうしてだろう。俺はこの、ぬるま湯の様な日常で満足しているのに。このままずっと、こんな日々が続けばと願っているのに。
 俺を取り巻く環境は、それを許してはくれない。
 ギリギリのバランスでこの日常は成り立っている。
 漸くその事に気付き始めた俺は、愚かなのだろうか。もう何もかも、手遅れなのだろうか。
 空を見上げる。
 漆黒の空。厚い雲に覆われて、星も月も見えない。
 それでも、雲の隙間を縫うように、見えないはずの星を空に探す。
 どんなに探しても俺の目では、光るものを捉える事は出来なかった。

† † † † †

 無言で玄関のドアを開く。
 何故だろう。妙に仰々しい家の門をくぐった時から、どっと疲れがこみ上げてきた。
 まるで、体がこれ以上進むことを拒否しているかのようだ。
 ため息をつきそうになって、何となく堪えた。
 玄関に座り、靴を脱ぐ。
「おかえりなさい、兄さん」
 後方から聞きなれた声がした。
 ドクン、と心臓が波打つ。
 振り返る。いつの間にか足音もなく近寄ってきていた花音に、背後を取られていた。
 何時もの着物姿に、白いエプロン。
 呆然と見上げる俺に、花音はそっと首を傾げた。
 そのまま、数秒の時が流れる。花音はじっと俺の前に立ったまま動こうとしない。
 俺も、花音から視線を反らす事も出来ず、間抜けな恰好のまま膠着する。
 更に数秒の時を置いて、ようやく気付いた。
「……ただいま」
「はい、おかえりなさい」
 花音の微笑み。どうやら花音は、俺のただいまを待っていたようだった。
 俺が立ち上がるのと同時に、花音は、俺の手からスポーツバッグを自然な動作で抜き取った。
「夕御飯とお風呂、どちらも準備できていますけど、どうしますか?」
「そうだな、何時ものように夕飯が先で良いよ」
 言いながら、制服を着替えるために自室へ続く階段を上る。
 部屋に入り、鞄を置く。ちらりとベッドを横目でうかがう。
 このままベッドにダイブして、朝まで泥のように眠りたい。そんな誘惑に駆られる。
 一歩ベッドの方へと足を踏み出して、誘惑を振り払うように頭をふる。
 もしそんなことすれば、花音の機嫌を損ねてしまいかねない。
 生来、誘惑に弱い俺はベッドが放つ、強烈な誘惑を振り払うかのように、さっさと制服を脱いで部屋着に着替え、最後にベッドを一瞥してから部屋を出た。
47弓張月6 ◆1zfTn.eh/1Y3 :2010/01/25(月) 02:13:49 ID:/gcC7/cP
 一階へ降りると、花音が夕飯をテーブルに並べていた。
 今日のメニューは鶏の唐揚げと、きんぴらごぼうのようだ。香ばしい匂いに、ぐうと小さくお腹が鳴った。
 花音には確りと聞こえた様で、くすくすと笑い声。
 妹とはいえ、腹の音を聞かれるのは何となく恥ずかしい気持ちになって、無言のままテーブルに着いた。
 丁度タイミングを見計らったかのように、俺の前に白いご飯がおかれた。
 気を遣っているのか、湯気が立ち上る白米はいつもよりもこんもりと大きく盛り上がっている。
 箸を手にとって、唐揚げに手を伸ばそうとして、
「兄さん」
 ぱし、と軽く手を叩かれた。
「頂きますもしないで、行儀が悪いですよ」
 そう言いながら花音が、俺の対面に座った。
「あ、ああ、すまん……いただきます」
「はい、召し上がれ」
 花音のお許しが出た所で、再び唐揚げに箸を伸ばした。今度は叩かれるようなことはなかった。
 小皿にあらかじめ載せられていたマヨネーズをつけて、唐揚げを口に運ぶ。
 カリッと音がして、肉汁が口の中で弾けた。ぴりりとした生姜と醤油の香ばしさが口の中に広がった。
 濃い味付けを好む俺としては、マヨネーズの濃厚な味も良い。
 期待通りに美味しい花音の料理に舌鼓を打ちながら顔をあげると、花音が自分の食事にも手をつけずじっとこちらを窺っていた。
「どうした、食べないのか?」
「いえ、食べますよ」
 そう言って、花音も料理を食べ始めた。
 けれど、頻繁に視線がこちらへと向けられる。
 心の中で首を傾げながらも、まずは空腹の胃を満たすことに専念する。

「そういえば、花音、お前最近部活行ってないのか?」
 ある程度、腹を満たした後花音に話しかけた。
 じっと矢張りこちらを窺っていた花音は、びくりと身を震わせた。
 ……一体どうしたというのだろう。さっきから挙動不審だな。
「部活、ですか?」
「そう、弓道部。俺が帰った時は何時も先に家に居るようだからな。時々他の弓道部員が帰ってるところに出くわすし、野球部より早く終わってる訳じゃないんだろ?」
「そうですね。最近は、週に1〜2度顔を出すくらいでしょうか」
「1〜2回!?少ないな、殆ど幽霊部員じゃないか」
「まあ、放課後は買い物などやることも多いですから。それに、弓道はもうある程度上達しましたから」
「もうかよ!まだ入部して1カ月弱だろ?」
 驚いている俺を全く理解できないかのように、花音はきょとんとしている。
「ええ、弓道は毎回同じ呼吸、同じ動作を心掛けながら、確り的を狙って引けばある程度の的中は出ますよ」
「それ、他の弓道部員には言うなよ。恨まれるから」
 いつもそうだ。
 花音はある程度の事なら、人の何十倍、何百倍の速さでマスターしてみせる。
 俺の様な凡人とは、元々のつくりからして違うのだろう。
 見慣れてしまった俺としては特に何も感じないが、他人からしてみれば理不尽なまでの才能の違いだ、恨まれる事もあるんじゃないだろうか。
 否、もしかしたら花音の才能は、人に恨みを抱かせる事さえ出来ない程のものなのかもしれない。
 鬼才。神童。成程、花音は人を凌駕した存在なのかもしれなかった。 
 考え事をしながら、白ご飯を口に運ぶ。
 もぐもぐと咀嚼していると、突然花音が立ち上がった。
 そして、真剣そのものの面持ちで身を乗り出してくる。
 まずあり得ない事だとは思うのだけれど、殴られるのかと身を竦める。しかし花音の手は、両方ともテーブルの上に載せられたまま。
 こんな食事の途中に行儀の悪い事をするなんて、とそんな場違いな考えが過る。
 唐突な事に付いていけない俺をよそに、花音の顔が俺の顔へと近づいてくる。
 まずい、と思った時はもう遅い。花音の唇がそっと俺の頬に当てられた。
 そして、ぺろり、と生温かい感触。
48弓張月6 ◆1zfTn.eh/1Y3 :2010/01/25(月) 02:14:17 ID:/gcC7/cP
 ――舐められた!?
 混乱する頭。花音が唇を離した。乗り出すようにしていた体も元の状態に戻し、
「御飯粒が付いていましたよ」
 そう言いながら、ぺろ、と唇を舐めた。
「な――」
 絶句、というのはこういう事を言うのだろう。のどがキュッと締め付けられたようで、言葉が出てこない。
 鼓動が、痛いくらいに鳴り響いている。
 ふふ、と花音は妖艶に笑う。
 その笑みはいつもの撫子でも、何時か感じたようなバラのような笑みでもなく、まるで――。
 ぶるぶると勢いよく首を振って、考えを吹き飛ばす。
「な、何するんだよ、突然……」
 敢えて平静を装って、何とか声を絞り出した。
「何って、兄さんの頬に御飯粒が付いていたので、取っただけですよ」
「だけって、お前な……」
 何かおかしい所でもあったのかと言わんばかりの表情で、花音は椅子に座り、何事もなかったかのように食事を再開した。
「ったく、何なんだ、一体」
 少しだけイラついた声が漏れた。
 花音も俺の声の調子に気付いたのか、
「嫌でしたか?」
 と不安そうな顔になった。
「嫌とかそういう問題じゃなくて……」
 慎みとか、兄妹としての倫理観とか云々の説教をしようとして、やめた。
 正直、そんな気力はすでに残っていない。今日はさっさと眠ってしまいたかった。
 やっぱり、この家で花音と二人で居ると、疲れてしまう。
 更に、先程から昨夜と同じような体の火照りが、じわじわと現れはじめていた。
 体の中に入り込んだ何か恐ろしい物に、なけなしの理性が、がりがりと削られているのが分かる。
 何と言えばいいのか、まるで真綿でゆっくりと首を絞めつけられているかのような。
 最後の唐揚げを口に入れて、咀嚼しながらごちそうさま、と形ばかりの挨拶をして食器を流し場へと運ぶ。
 行儀が悪いですよ、と何度聞いたか分からない花音の苦言には気付かないふりをして、風呂場へと向かった。

† † † † †

 風呂からあがって、自分の部屋へ向かう。
 昨夜と同じ。ドクドクと血潮が体の中で暴れまわっている。
 頭の中では、ずっと警鐘が鳴り響いている。思考はぼやけて、正常とは言い難い。
 ふらふらと、足取りも覚束ない。 
 部屋に入り、ベッドに倒れこもうとして、気付いた。
 木製のベッドは剥き出しになっていて、寝具が何一つ載っていない。
 今日、家に帰った時には敷いてあったはずのマットがなかった。布団も、枕さえも。
 ――何で?
 呆然と、呟く。
 ほんの1時間前には、ちゃんとマットも布団も枕もあった。
 俺が何処かに持っていくはずもないし、寝具がひとりでに動くなんて事はありえない。
 となると、誰が寝具を取り払ったのか火を見るよりも明らかだっ
49弓張月6 ◆1zfTn.eh/1Y3 :2010/01/25(月) 02:16:06 ID:/gcC7/cP
「アイツ、何で……」
 自分の口から漏れ出た声は、怒りが滲んでいた。
 眠ろうとしていた所を邪魔されたせいか、物凄い量の苛々が蓄積されていく。
 ガシガシと両手で頭を掻き毟った。くそ、と毒づく。
 勢いよく部屋を飛び出した。階段を駆け下りて、ダイニングに続くドアを押し開けた。
「花音!」
 名前を呼ぶと、キッチンで洗い物をしていた花音が驚いたような顔をして振り返った。
「どうしました?」
 花音が洗い物を中断し、エプロンで手を拭きながらこちらへ近づいてきた。
 こいつ、惚けやがって。ぎり、と歯を噛みしめた。
「どうした、じゃねえよ」
 怒りに満ちた声。妹を睨みつける。
「ベッドからマットと布団が取り払われていたが、あれは嫌がらせか何かか?」
「ベッド……ああ、何だ、その事ですか」
 飄々とした花音の態度に、沸々と怒りが煮えたぎる。
 このまま花音を押し倒して、欲望のままに貪ってしまいそうだった。
「布団ならば、昨日と同じ様に、客間に敷いてありますよ」
「客間?……」
 何故、と問おうとしてはたと気づく。そう言えば昨夜、花音と暫くは一緒に寝ると約束していた。
 今日の夕方くらいまでは覚えていたのに、いつの間にか頭の中から抜け落ちていた。
 もしかしたら、考えないようにしていたのかもしれない。
 くすくす、と花音が笑う。
「そんな怖い顔をして、おかしな兄さん。もしかして、忘れていたのですか?」
 ち、と小さく舌打ち。怒りが急速に萎んでいく。
 代わりに、焦燥が身を焦がしだした。痛いぐらいに、心臓が跳ねている。
 喉が、からからに乾いている。ごくり、と唾を飲み込んだ。
 獣だ。俺の中に、獣が居る。ぐおお、と目の前に無防備に立つ至上の獲物を求めて、獣が吠えている。
「そう、だった、な……」
 獣を理性の壁で囲い、声を絞り出す。ふらつく足取りで客間へと向かう。
「俺、先に寝るから」
「はあ、分かりました。おやすみなさい、兄さん」
「ああ、おやすみ……」
 花音はまだ、洗い物の途中のようだし、風呂にも入っていない。
 花音が眠る時間まで、まだ猶予はある。その内に眠ってしまえば、花音を襲わずに済む、と思った。

 それから、2時間強。
 花音が来る前に寝なくては、と思えば思うほど眠れなくなって、布団に入るまでは眠くて眠くて苛々するくらいだったのに、今では目がぱっちりと冴えていた。
 そして、最悪な事に俺の隣にはすでに花音の躰がある。
 どうやら今夜も眠れない夜を過ごすことになりそうだった。
 腹の奥で、ドロドロとしたモノが渦巻いている。
 布団の中では、もうずっと下半身が屹立して痛いくらいだった。
 妹に欲情している証だ。
 睡眠欲よりも、性欲ってわけかよ。俺は猿か。クソ。
 歯を食いしばる。
 規則的な花音の吐息。五感全てが鋭敏になっていて、それらを含めた体中のありとあらゆる器官が、花音の一挙手一投足に対して向けられている。
 ごそ、と花音が隣の布団の中で、蠢いた。
 それだけで、俺の体はびくりと反応してしまう。
 俺の年で本当は読んではいけない漫画や、ゲームで何度か見た、全身が性感帯になったかのような感覚とはこの事かも知れない。
 ……男の俺が悶える姿なんて見ても、誰も喜んでくれるはずがないけれど。
50弓張月6 ◆1zfTn.eh/1Y3 :2010/01/25(月) 02:16:48 ID:/gcC7/cP
「ねえ、兄さん」
 ひゅと、息を飲む。
 背後から声が聞こえてくる。声の主は、当然花音だ。
 花音も、まだ起きていたのか。
 俺は、花音の呼びかけには答えず、無言で眠っている事をアピールする。
 けれど、俺のタヌキ寝入りなど通用しないとばかりに、花音は続ける。
「昨日も眠れていませんでしたよね」
 昨日の事まで気付いていたのか。
 ごそごそと、布団が擦れる音が、痛いくらいに静まり返った部屋中に響く。
 何をするつもりだ?
 振り返れば分かるだろうけど、今振り返ってしまえば何もかもが崩れ去ってしまう気がして動けない。
 ただ、息を殺して夜明けを待つ。
 当然、夜明けはまだ遠く。それどころか、未だ深夜という時間帯でさえなかった。
 やめてくれ。心中で懇願する。もう、俺を苦しめないでくれ。
 花音の気配が近づいてくる。体が金縛りにあったみたいに、思うように動いてくれない。
 やがて、背中に温かく柔らかい物が触れた。
 見なくても分かる。花音の身体だ。
 甘く、芳しい香り。
 俺を掠め取ろうと、触手を伸ばしてくる。
「何を我慢しているのですか?」
 花音が、耳元で囁いた。艶めかしい吐息が、顔に降りかかった。
 布団の中で、祈るように手を合わせる。
 けれど、花音はそんな俺をあざ笑うかのように言葉を紡ぎ続ける。
「我慢する必要なんてないですよ。私は何時でも兄さんの傍に居ます」
 するすると花音の腕が蛇のように伸びてきて、俺の手を掴んだ。
 焼き鏝を当てられたかのように、花音の手が熱い。
 花音が詠う。
「手を伸ばせば、ほら、直ぐここに」
 やめてくれ、やめてくれ。
 何とも情けない話だが、俺には祈ることしかできない。
 もし、声を出して花音の方を向けば、俺は、あっと言う間に流されてしまうだろう。
 俺たちは、兄妹なんだぞ。花音、聡明なお前の事だ。お前も自分の行為が、その範疇を超えている事くらい気付いているんだろ? 
 近親相姦と言うものが、世間でどれだけタブー視されているのか、知らないとは言わせない。
 もし、俺たちがこれ以上過ちを犯してしまったら、もう今までの様な関係には戻れない事も。
 それなのに、それを知っていて尚、お前は変化を望むのか?
 何もかも失ってしまうと分かっていて、俺との刹那の悦楽を求めると言うのか?
 臆病な俺は、心の中で問いかけることしかできない。
 がりがり。
 何かが削れる音が鳴り響く。
 もう、終わりが近い。きっと、俺は逃げられない。
 その終わりの形が、どういうものであろうとも。
 がりがり。
 削る。削る。
 気が付けば、それを削っているのは花音ではなくて。
 俺の中にすむ、獣が出口を求めてその鋭く尖った爪で一心に削っていた。
 
 そんな、言うなれば生殺しの状態が、その後数日間にわたって続いた。
 日に日に欲望は膨らんでいき、既にいつ爆発してもおかしくはない。
 来るべきその日を、獣が爪を研ぎながら、待っている。
51弓張月6 ◆1zfTn.eh/1Y3 :2010/01/25(月) 02:20:23 ID:/gcC7/cP
以上です。
途中一か所<<48の最後はコピペミスしてしまいましたが、
た。
だけですので物語上の支障はないです。もっと精進します。
52弓張月6 ◆1zfTn.eh/1Y3 :2010/01/25(月) 02:22:17 ID:/gcC7/cP
そしてアンカミス。
なんか、もう本当にすみません
53名無しさん@ピンキー:2010/01/25(月) 03:02:42 ID:0Ci7SKuy
>>52
gj!
花音の策士っぷりは感動もんだなw
こんな時間まで起きてて正解だったぜw
54名無しさん@ピンキー:2010/01/25(月) 08:10:36 ID:ev1czAD8
GJ
ずっと妹のターン!
55約束の代償:2010/01/25(月) 14:41:58 ID:aTvnpGZs
二回に分けて短いのを投下します

妹の柚子(ゆず)に連れられて、昔よく二人で遊んだ山に来た
結構奥深く危険な場所も多いために子供の頃は行くことを禁止されていたが、親の言いつけを破って遊びに来ていた覚えがある
土臭い草の臭い、吐き気がする
小学校の高学年にあがる頃には遠い都会の地に引っ越してしまったから、この臭いを嗅ぐのもかなりご無沙汰だ
「懐かしいねお兄ちゃん!!」
柚子はしきりに辺りを見回しながら騒いでいる
今日は朝からこの調子でご機嫌だ、何が嬉しいのやら
「俺は早く帰りたい」
俺は本音を漏らすことにする
なんと言うか俺は昔からここが苦手なのだ
昔ここで迷ったことがあるからだろうか、あの時は大変だった
何週間、下手すると何ヶ月か俺は柚子と一緒にこの山で暮らした
よく覚えていないが生還したとき俺は傷だらけで、周りの大人は奇跡だ奇跡だとはやし立てていたっけ
あんな恐ろしい目にあったというのに柚子はこの山に行きたい行きたいと常々言っていた
正直俺は行く気なんてなかったのにあんまり柚子がこの山に入りたいと言うから根負けしてしまったのだが
「おまえちょっとだけだとか言ってたじゃないか、話が違うぞ」
俺は抗議することにする、だってこいつはここにくるとき言っていたのだ
曰く『ほんのちょっとだけだから行こう?』と
なのに気づけば俺たちは大分奥まで歩いてきている
すでに時刻は夕暮れ時、これ以上は暗くなるし危険だ、どう考えてもまずい
「もうちょっとで秘密基地だから、そこまで行ったら終わりにしようよ」
超にこにこご機嫌フェイスの妹が振り返る
他の男は釣れるだろうが兄の俺にはまったくの無意味
柚子は思いっきり最初のマニフェストを違えているようだ、制裁を加えねばならん
俺は柚子の両こめかみに拳を当て、可愛い妹に泣く泣く裁きの鉄槌を振り下ろした
ぐりぐり
「あううううううう〜っ」
柚子は変な声を上げながら涙目になっている、クククいい眺めよ
これくらいでいいだろう、と拳を離すと今度は照れくさそうな顔で「えへへ♪」と頬を上気させていた
おのれもう一撃食らわせてやろうかとも思ったが俺も鬼ではない
「わかった、じゃあその秘密基地までな」
仕方なく妹の意見に妥協してやるのだった


しかし俺には引っかかることがあったのだ
秘密基地なんてあっただろうか?
俺の記憶にはそんなものはなかった
忘れているだけか?
だが俺の本能のようなものが警告を出している
『秘密基地』に行ってはいけないと
「どうしたのお兄ちゃん、暗くなっちゃうよ?」
「ん、ああ・・・」
柚子の声に促されて俺は慌てて後に続いた

『秘密基地』は小さな小さな小屋だった
倉庫と言う方が近いのだろうか
俺はその『秘密基地』の入り口で    

56約束の代償:2010/01/25(月) 14:42:42 ID:aTvnpGZs

震えていた
何が?
身体が、手が、足が、脳が、心が
「あっ・・・あっあっあっ・・・・」
自然と引きつった声が出る
何が言いたいのかもわからない
気持ち悪い、頭が痛い
「おかえり」
後ろから抱きしめられる
背中に柚子の控えめな感触がする
俺は思い出した
忘れていた記憶を
封印した恐怖を
血塗れの椅子、手錠、足枷
与えられる拷問、容赦のない狂愛
俺は、この山で迷ったのではなく
監禁されていたんだ
他でもない、妹に、柚子に
「約束してくれたから、一緒に外に出てあげたのに」
柚子の声が聞こえる
いつもの子供っぽい声ではなく、艶を帯びた、幼子に言い聞かせるような声

『お願い・・・します』
呼び出される、無理やり『なかった』ことにした記憶の断片
『家に・・・帰して・・・ください』
妹に懇願する、幼い自分の、いつかの言葉
『・・・いいよ』
幼い柚子が答える
『でも、約束だよ』

「柚子をお兄ちゃんのお嫁さんにして?」
記憶に上乗せするように柚子が耳元で囁く
いつの間にか本当に忘却していた記憶の中の約束
お嫁さんにする約束
「約束してくれたはずなのに」
少し拗ねたように言って柚子が俺の耳たぶを甘く食む
そう、約束したのに俺は
「あんな女に騙されちゃうなんて、酷いよ」
恋人を作って
「だからお仕置きだよ」
最期に聞こえた声は、悪戯っぽい、無邪気な言葉だった
「ずぅっと・・・柚子と一緒にいようね?」
この『ふたりだけのおうち』で


以上です失礼しました
57名無しさん@ピンキー:2010/01/25(月) 16:35:33 ID:Grdjqysb
キモいってより怖い
58名無しさん@ピンキー:2010/01/25(月) 17:11:03 ID:YGp+xKQo
>>52
これは良きキモウトだ
兄を籠絡しようとしつつも罪悪感が心の中に残ってるってのも好印象
兄にはぜひとも折れて欲しい
59名無しさん@ピンキー:2010/01/25(月) 19:50:37 ID:KlujjLtJ
久しぶりにキモウトのターンを見た気がする
60名無しさん@ピンキー:2010/01/25(月) 23:29:43 ID:FcVhRom+
>>56
すげえすげえ!!
みーまーみたいな狂気をビンビン感じる!!
ぜひ回想含めた監禁シーンをしっとりねっちょり書いてくれ!!
61名無しさん@ピンキー:2010/01/26(火) 16:37:33 ID:AupEZREm
ダブルプラスグッド
偉大なるキモウトは見ている!
62名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 22:54:49 ID:Qbzqbydh
濃い 主に
63名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 23:51:15 ID:+O509uRO
抱き癖というか何かを抱いたりするのが大好きなんだけど
もし俺と同じ嗜好の兄がキモウトをよく抱いたりしてた場合
(本当にハグするだけ。後は精々その時に頭を撫でたりするくらい)
それはキモウトからするとどうなんだろう
64名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 00:28:17 ID:mckMqiqw
え、普通に匂いをスーハースーハー、満喫してるんじゃないか?
「お兄ちゃんの変態。私以外にこんな事したら、女の子に嫌われちゃうから他の子にしちゃ駄目だよ」
とか言いそう
65名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 01:22:05 ID:qPfQD7W1
お部屋の匂い 1レスコネタ

最近、朋花姉の部屋に行くとなんともいえない良い気分になるんだ。
なんていうか・・・、メイテイ?とかいうやつ?
そうそれ。酔っぱらった感じの・・・。
綺麗な香炉を中国で買ってきたみたいで、それで焚いてるんだよな。
雰囲気があってさ。俺もかっこいいじゃんとか言ってたんだけど。
・・・あれ?どうもはっきりしないな。
えぇと、確か、中国?から帰ってきたときくらいからだよな・・・。
なにがって、あの、ほら香り。そう、朋花姉の部屋のやつ。気持ちいいんだよ。
え?身体からもそんな香りがしないか?
・・・うーん。そうかも?はは、よくわかんねえや・・・。
あ〜、これかな?今、俺メイテイ状態かも。
・・・。
え?誰に話してるのって?見りゃ分かるだろ、携帯だよ。
壊れてる?いやいや、壊れてないから。だってほら・・・。
あれ?これ、半分しかねえや。つーか折られてんじゃん。
・・・んん?どーしてこうなったんだっけ?朋花姉しってる?
しらない?そっか・・・。
うぅ・・・。もう考えるのメンドイわ。寝る。
え?もうちょい起きてろ?分かったよ、ともねえ。
・・・。あー。確かにともねえって言うに久しぶりかも。
やっぱちょっと酔ってんのかな?
え?ともねえも酔っぱらってる?うそぉ。じゃあ証明してくれよ。
・・・。
あれ、俺、ともねえに抱きしめられてる?あれ?キス?
・・・あ、分かった。確かに匂うわ。気持ちいい香り。ともねえの香り。
もっとほしくないかって?あ〜、うん。ほしい
・・・。
こんばん?なにもないよ。かのじょ?でーと?よくわかんないけど、いいや。
あー・・・。ねむい。ねていい、か・・・な・・・?

この日から、俺は毎日ほとんどの時間をともねえの部屋で過ごしてる。
ともねえがいない時はあの香を焚き、ともねえがいれば抱きしめてもらってる。
それでメイテイした俺は、ともねえと裸で寝てる。そんな毎日。
66名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 01:54:15 ID:bFyQmK07
実際に中国辺りだとここまでではなくても似た様な効果のお香とかあったりするんかな?
もしあったりしたらキモ姉妹歓喜! 「ちょっと中国に旅行に行かない?」とか言い出しそう

>>63
性欲を持て余してるキモウトとかだったら生殺し状態っぽいな
>>64
「私は嫌じゃないよ?」とか言う泥棒猫が出てきそう
67名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 07:08:26 ID:olZHamFD
どうでもいいことかもしれんが三つの鎖の夏美の髪型ってどういうのだろ?梓や春子はポニテと黒ロングっていうのは分かっているんだが…

俺読むときは登場人物の姿を想像して読むタチなんでそこらへん分かれば嬉しいのだが…
68名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 13:00:02 ID:cmdfCVzF
俺は転生恋生のわんこみたいなショートな感じかなと思って読んでる
69名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 13:29:24 ID:qd/buyE6
俺は ショート〜ベリショー くらいと見てるが
70名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 14:19:04 ID:gxG9AeZi
ここは敢えて、ポニーや二つ結びかもしれない。
アレの時や元気に駆けてくるときに、ぴょこぴょこ跳ねているところを想像してしまう。
まあ、文中に髪型が出てこないんなら好きに妄想していいと思う
71名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 15:01:28 ID:BCsSlnf1
ってか実際、活発っぽい子は
ショートってイメージが一般的だよな
72名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 16:12:20 ID:1g77L9DY
おれはツインテール
73名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 18:17:46 ID:jCOkzAyX
74名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 20:28:13 ID:MQfGEKKz
それは脅迫事件発覚後だろう
75名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 22:05:09 ID:Nq4Fi10E
前スレ>382です。前回はうっかり上げてしまいすいません。
勢いで初めて妄想を形にしてしまった駄作ですが、もしウザければやめますので言ってください。
金額とかはかなり適当だったのでリアリティーがないですが、勘弁して頂ければ思います。

あぁ姉が欲しかったなぁ。
76名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 22:09:37 ID:Nq4Fi10E
姉さんと僕は二人で住んでいる。一条の家は昔は名家だったらしいが、時の流れと共に名望家として生きていける時代は終わり、何代か前から企業家として生きていくようになったらしい。
そんな両親は仕事の虫で僕が中等部に入った頃からほとんど海外を転々とするようになり、家に帰ってくるのは夏休みと正月くらいだ。


「今日は僕が食事当番だから何か姉さんの好きなものでも作ってそのノリで説得できればいいんだけどなぁ。」


とはいえ姉さんはここ数年僕の作ったものをほめる事がなくなっているので何を作ればいいかもわからない。
昔はシチューが好きだったけど、前に作った時は不評ではないという程度だったし。


「でも文句がなかったって事は好評になる可能性ありって事だよな。いい肉を使ってビーフシチューにするか。」


肉は仕方ないから自腹で買おう。あの姉さんを説得するのにこのくらいの出費なら安いものだ。
それに久しぶりに姉さんに美味しいと言わせたいし。
77名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 22:11:51 ID:Nq4Fi10E


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「どう…?」


自分としては会心のできだったが、姉さんにウケなきゃ意味がない。恐る恐る感想を聞いてみる。


「…美味しい」


「あ、本当に?よかったよかった。やっぱりいい肉を使ったからかな〜
ほら最近姉さんに美味しいって感想もらった事ないでしょ?だから今日は奮発して頑張ってみたんだ。」


今日はグラム2000円の肉を使った。おかげで今月はもう新作ゲームは買えそうにないが…。


「ところでさ、部活会の予算の事なんだけど…」


「あたしに折れろっていうなら無理よ。むしろ香織に折れるようあんたから説得しときなさいよ。」


まぁ予想通りの返事だな。しかしもはや九条先輩にいってしまった手前姉さんを説得するしか道は残されていないので僕も粘らねばなるまい。
78名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 22:13:51 ID:Nq4Fi10E
「いやさ、確かに大会で不本意な結果に終わるのはさ、かわいそうな事だと思うけど、100万単位での増額すら今までにない事を考えると、いくらなんでも1200万は高過ぎると思うよ。
それに、道具の買い替えのために必要なお金は毎年の予算の中から積み立てておくべきなんじゃないの?今まで計画的に予算を使わなかったり、扱いが雑だから道具が壊れたりしたんなら、それは申し訳ないけどその部活の不注意というか自己責任じゃないかな。」


「………」


「だからやっぱり例年並みの増額で勘弁してくれないかな…?
各部活で必要な道具の費用の内、、支給すべきものと単なる不注意で壊したとかで必ずしもすぐに支給されなくても仕方ないものに仕分けをして何とか予算案を抑えられないかな?」


「………」

「………」



なんだこれは。いつもならすぐに反応があるのに(大抵は僕への反論)何で黙ってるんだ。

テーブルの向かいに座った姉さんは僕の手元あたりに目線を落としたまま固まっている。


「姉さん、聞いてる…?」


「あんたって―――やっぱり香織の事好きなの?」
79名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 22:15:19 ID:Nq4Fi10E
「(!!!)」


思わず肉を噛まずに丸呑みしそうになった。


「ゲホッ、ゲホッ、何突然言い出すんだよ!」


「だってそうじゃない!あんたって香織とあたしの意見が対立した時はいつも香織の味方で、あたしの味方になってくれた事ないじゃない!
どうせ今日だって香織と二人であたしの悪口でもいいながら帰ってきて、そこであたしの好きなものでも作れば丸め込めるとでも思ったんでしょう!」


「シチューを作ったのはそういうのがなかったわけでもないけど、一番は姉さんが九条先輩に言う事が理不尽だからだよ。」


「なっ!…何よ…」


初めて面と向かって姉さんが九条先輩に対して理不尽だと言った。さすがの姉さんも言葉に詰まって、何か言おうと口を動かしているが言葉が出てこない。


「…あんたあたしの質問に答えなさいよ。香織の事好きなんでしょ。だからあたしに辛くあたるんでしょ。」


確かに打算もあった。けれど姉さんと仲良くご飯が食べられればいいと思ってやったのも事実だ。それをこんな言い方をされて思わず頭な血が上ってしまった僕は――


「少なくとも姉さんみたいな人よりは好きだね。」
80名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 22:15:57 ID:Nq4Fi10E



言ってしまってからマズイと思った。さすがに言い過ぎた、と。とはいえ言ったそばからすぐに謝るというのも人間中々出来ないもので、どうしようかと迷っていたその時―――――

ポタッ

姉さんが―――泣いてる。

姉さんの涙を見たのはいつ以来だろう。その場が真空状態になったように感じられ、僕は固まってしまった。
姉さんは無表情でただ赤くなっている目に涙を浮かべている。


「姉さ―」


ガタッ


言いかけた僕の言葉を無視して姉さんはおもむろに立ち上がるととぼとぼと自分の部屋に入ってしまった。

説得するどころか喧嘩になってしまった。


「まったく何やってんだ…」


テーブルに残された僕は自分の言葉に後悔しつつも、頭の整理がつかなくてその日は結局それ以上姉さんと話す事なく終わってしまった。
81名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 22:17:17 ID:Nq4Fi10E
以上です。
お目汚しすいません。
前回は携帯まで規制くらいってしまいましたが、今後は投下を許していただけるなら、sageて投下終了の旨お伝えします。では。
82名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 23:10:20 ID:WXpZpE9L
GJ
83名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 00:21:44 ID:m3MqfCsd
GJ!
まったく全裸待機させるのが上手くなりおって・・・
84名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 01:33:37 ID:Ta7PJemC
ここも嫉妬スレの二の舞か
85名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 01:59:02 ID:2a3mVyTL
GJ! 姉がこれからどんな行動に移るのか楽しみです
86名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 06:56:06 ID:X5cy81Pz
言ってはならないことを言ってしまったな。監禁フラグが立った!
87名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 07:44:57 ID:bz6jZGc/
乙っ
88sister―上:2010/01/29(金) 11:08:12 ID:fFGCkvUN
投下します
>>37にあるsisterを参考にしました
あくまで参考ですので、若干異なる点もありますがご容赦を
以下本編
89sister―上:2010/01/29(金) 11:08:49 ID:fFGCkvUN
 悲鳴。
 轟音。
 
 身重の母親の負担を少しでも減らそうと、幼いなりに必死で窓ふきを行っていた俺は、同じように慣れない手つきで掃除機をかけていた父と顔を見合わせた。
 何かが階段を転げ落ちる音と、母親の悲鳴。
 幼い俺は、何が起こったのか咄嗟に理解できず首をかしげたが、父親は事態をある程度察したらしく、駆けるように部屋を飛び出した。
 俺は、訳も分からずその後をついていく。
 部屋を出て、直ぐの廊下。
 階段のふもとに、母親が丸くなって転がっていた。
 その脇に父親が屈みこんで、何かを叫んでいる。
 俺は、唐突な展開に混乱する頭のまま、ゆっくりと両親に近づき二人を見下ろした。
 母親が、苦しそうに呻いている。大きくなったお腹から、赤い液体が流れていた。
 それを見て、何故か母親と父親の声が蘇る。
 ――もうすぐリオンの妹がもう一人できるのよ。
 ――二人の妹のお兄ちゃんになるんだ、もっと強くならなきゃな。
 ぼんやりとした俺を置きざりにして、事態は進む。
 父親が必死の形相で立ち上がり、リビングへ戻った。
 暫くすると焦ったような声で、父親が誰かに喋る声が聞こえてきた。
 恐らく、救急車を呼んでいたのだろうが、当時の俺には分かっていなかった。
 ふと、名を呼ばれた気がする。いや、厳密には俺の名前ではない。
「お兄ちゃん」
 再び呼ばれる。
 幼い少女の声。
 声を追ってゆっくりと顔をあげた。
 階段の頂上に、俺よりもさらに幼い少女が立っていた。妹のマリア。
 目が合うと、マリアが笑った。
 さっきまではジージーとうるさかった筈の蝉の声がぱたりと止んだ。
 母親の声も、父の癇癪交じりの声も、周囲の音全てが消えた。
 マリアは、小さな唇を弧に歪めたまま、
「お兄ちゃんの妹は、私だけで良いよね?」
「マリア……?」
 妹の言葉の真意を掴めず、眉を寄せて呟く。
 夏の焼ける様な日射しを背にしたマリアが、かくんと首を傾げた。
 二つ結びにした母親譲りの金色の髪が陽光にキラキラと輝き、それはまるで、女神のようで。
 けれど、どうしてだろう。妹の笑みに背筋が寒くなるのを感じた。
 澱んだ視線に射竦められた俺は、呆けた様にただ妹を見上げるだけ。
「どう、して……」
 足元から母親の声。
 はっと、足元に視線を落とす。母親がゆっくりと、階段を見上げた。
「どう……マリ、ア」
 母親の声には、困惑や悲しみ、痛み、そして怒りと怯えが混じっていた。
 けれど、マリアは母親の方を見ようともしない。
 どうして、どうして。
 母親の声にならない声。蝉時雨が蘇る。
 
 このあと直ぐ判明する事だが、母親はお腹の中に身ごもっていた赤ちゃんを流してしまった。
 そして、彼女がどうして階段から転げ落ちてしまったのか。
 母親の証言から、その原因がマリアだということが分かった。
 階段を降りようとしていた母親を、マリアはあろうことか突き落としたのだという。
 激昂し理由を問い詰める父親に、マリアはあっさりと、
「だって、お兄ちゃんの妹は私だけだから」
 と全く悪びれることなく、寧ろ堂々とした面持ちで言ってのけた。
 その日以来、マリアは俺たち家族にとって腫れものになってしまい、やがて両親たちによって全寮制の神学校へ半ば無理やり入れられた。
 普段はくりくりした可愛らしい目を血走らせて、抵抗するマリアの姿が今でもこびりついて離れない。
 それは、今から十数年前の夏。
 俺が7歳、マリアが5歳のころ。
 何処にでもあるような、平凡な家族の形が木っ端微塵に砕け散ってしまった夏の日の事。


sister
90sister―上:2010/01/29(金) 11:09:20 ID:fFGCkvUN
 激しく雨が、降りつけている。
 石畳の歩道を叩きつけられた水滴が、ひっきりなしに叫んでいる。
 青々とした葉を付けた街路樹も濡れそぼり、ガス灯の淡い光にきらきらと輝いている。
 空には厚い雲がかかり星は見えないから、今夜はこの一際低い所で輝く雫が星の代わりだった。
 手に持った傘を、ぎゅっと握りしめた。
 石畳を歩く度に跳ねる雨粒が、ズボンの裾を濡らし俺の重い足取りをさらに重くさせる。
 それもそのはず、今から俺はマリアに久しぶりに会う事になっているのだから。
 ――何年ぶりになるだろう、マリアと会うのは。
 俺は、大学への進学を機にこの故郷を去り、マリアはこの町にある小さな教会の修道女として住み込みで働いている。
 大学を卒業し、そのままその地で就職した俺が今日この故郷に帰って来たのは、他でもない、マリアに会うためだ。
 あと一月後、俺は結婚する。その事をマリアに伝え、出来るならば、挙式をマリアが勤める教会で挙げられたらと、思っているのだ。
 あの夏の日から、何度か会いはしたし、マリアは俺を何時だって慕ってくれた。
 けれど、俺がマリアを、以前のように可愛い妹として見る事が出来なくなっていた。
 どうしても、あの日のマリアの笑みが脳裏を過り、妹に対して恐怖を抱いてしまうのだ。
 しかし、それでは駄目だと思っていたし、もう直ぐ俺の妻となってくれる人も、義妹となるマリアと仲よくしたいと言ってくれているし、今回はいい機会だと思った。
 人気のない夜。
 こんな時間になってしまったのは、マリアの都合によるものだ。
 もしかして、恋人の一人でも出来たのかもしれない。
 それでデートにでも行くのかと思ったが、マリアは聖職者、今はそれ程厳格ではないかもしれないけれど、
 こんな時間まで未婚の恋人たちがデートするというのは、余り褒められた行為ではないだろう。
 となると、仕事か何かだろうか。
 そんな事を考えながら、教会までの道を歩く。
 道路の両脇には、石造りの家がぽつぽつと建っている。
 その殆どの明かりが、すでに消えている。故にガス灯のみの道は少々暗い。
 そよ風が吹いた。のっぺりとした夏の匂い。
 闇に覆われた道を拓きながら進むと、やがて屋根の上に細い塔を載せ、その天辺に十字架を突き刺した、オーソドックスな形の小さな教会に着いた。
 教会の軒下に入り、差したままだった傘を畳み、壁に立てかける。
 木製の、建物の規模の割には大きな扉と向かい合う。
 すう、はあ、と一度深呼吸をして、ひと思いに扉を押し開けた。
 ぎいい、と軋んだ音を立てながら、扉が開く。
 教会の中は、明りが蝋燭のみで薄暗い。けれど、マリアの姿は直ぐに見つける事が出来た。
 俺の真正面、約20m程先。マリアは石膏で出来た神の聖像の前に跪き、祈りを捧げていた。
 部屋の各所に、幾つかおかれた蝋燭の灯が揺れるのに伴って、壁に映った大きめな彼女の影がゆらゆらと揺れる。
「マリア……」
 教会の敷居を越えないまま、記憶のなかよりも少し大きく見える背に向かって声をかける。
 マリアは扉の開く音で、俺が来た事には気付いていたのだろう、驚いた様子もなくゆっくりと立ち上がった。
 そして、こちらに振りかえる。
「時間ピッタリですね、兄様」
 小鳥の歌声の様に透き通った、けれど何故かよく通るマリアの声は昔と変わらず、優しく空気を震わせる。
 何時からだっただろう、マリアは俺を兄様と呼ぶようになっていた。
 彼女の通う神学校は、行儀作法に厳しい所だと聞いた事があるから、そのせいかもしれない。
「どうしたのですか、そんな所に立ったままで。雨に濡れてしまいますよ。それに、久しぶりなのですから、もっと顔をよく見せてください」
 開かれた扉を抑えたまま突っ立っている俺に、マリアは怪訝な視線を送って来る。
「あ、ああ」
91sister―上:2010/01/29(金) 11:10:07 ID:fFGCkvUN
 昨日電話で話したのだが、こうしてまだ距離はあるとはいえ、面と向かって話すのは久しぶりだ。
 何となく気恥ずかしい様な、むず痒い様な気持ち。今まで、マリアとどういう態度で接していたのか、良く思いだせなかった。
 おずおずと、一歩、境界を超える。
 場所柄のせいか、きんと空気が冷えたような感覚があった。
 じっとりと絡みつくような湿気を孕んだ外とは一線を画した、静謐な空気。少しだけ、背筋が冷えた。
 後ろ手に抑えていた、扉から手を離す。
 ぎいいいと呻き声を上げながら、ゆっくり、ゆっくりと、扉が閉まった。
 外の明かりが入って来なくなると、元々明るくはなかった室内が、更に暗くなった。
 そのせいで、確りとは見えなかったけれど。
 マリアが、昏く笑ったような気がした。

「久しぶりだな、マリア」
 室内にある十脚程度の木製のベンチの一つに、背もたれに対し横向きに座り、通路を挟んでマリアと向かい合った。
「この座り方、余り行儀は良くないですね」
 そう言ってマリアは、照れくさそうに笑った。
 どうやらマリアは、久しぶりの再会に戸惑っている様子はないようだった。
 しかし、俺の感じる二人の間に流れる空気は固く、とても兄妹のものとは思えない。
 2列のベンチの間の通路はそこまで広い物ではなく、膝を突き合わせた二人の実際の距離は遠くはない。
 けれど、俺にはマリアとのキョリが妙に遠く感じられて。
 まずは、当たり障りのない話題で、このよそよそしい雰囲気を解しておきたかった。
「本当に、お久しぶりですね、兄様」
「……」
 マリアの返す刃が、何だか皮肉っぽく聞こえたのは錯覚だったろうか。
 ゆらゆらと揺れる蝋燭の頼りない炎が、マリアの精緻な顔を照らす。
 しばらく見ないうちに綺麗になった、と思う。
 元々顔のつくりは並み以上のものであったマリア。
 しかし、記憶の中の彼女は可愛いという印象を抱かせる容姿だったが、今のマリアには美しいという表現がより相応しかった。
 幼いころから、マリアのコンプレックスの種だった、鼻の頭に散った薄いそばかすだけが当時のままに残っていた。
 女神の様な彼女を、地味で飾り気のない修道服が上手くひきたてていた。
 ベールをかぶっているので見えないが、マリア自慢の黄金色の髪の毛は健在なのだろうか。
 あの髪を、俺は結構好きだったから、変わってなければいいと思う。
「仕事、どうだ?」
「はい?」
「シスターの仕事。楽しいか?」
 何をぬけぬけと、と思う。
 家族に捨てられたような形で無理やり神学校に押し込まれ、興味もなかった神学を学ばされ、惰性で小さな教会のシスターとなったのだ。
 そんな、誰かにやらされた仕事が楽しいはずがない。
「楽しくはないですよ」
 マリアも肯定する。
「それは……」
 すまない、と言おうとして口を噤んだ。
 俺が謝った所で、何の意味もなさない。自己満足のためだけならば、謝らない方がまだ潔い。
「けれど、仕事とはそういうものだと思いますから。それに、この町には私以外にシスターがいませんから。必要とされている事は悪い気はしません」
 妙に達観した顔で言う。
 まだ20になったばかりで、少女のあどけなさを残したマリアの言葉としては年不相応。
 それが、マリアをもてあまし、放棄してしまった自分たち家族のせいだと思うと、凄く哀しかった。
 俺が俯いてしまうと、しんと重苦しい空気が流れる。
 マリアは本当に変わってしまったなと思う。
 神学校に入る前は、どちらかと言うと快活な少女で弾ける様な笑顔が印象的で、キラキラとした髪の毛と相まって太陽の様な子だった。
 けれど、神学校に入ってから、年に何度か会うたびにマリアの性格は変貌していき、今では月の様な静かな笑顔を湛える女性に成っていた。
 マリアの神秘的な容姿もあってか、彼女はこの田舎町唯一のシスターとして、町人たちから半ば崇めるように慕われているらしい。
92sister―上:2010/01/29(金) 11:10:43 ID:fFGCkvUN
 雨粒が、石造りの教会を叩く。ざあぁと雨音が、静かな聖域に響く。
 俺は、未だマリアとのキョリを測りかねていた。
 良く知った人間と、久しぶりに話をする場合の話題を探すのは、予想以上に難しかった。
 かと言って、俺がここに来た本題を切り出すには、まだ空気がそれを許す雰囲気ではなかった。
 何とか頭の中の回路を回転させて、
「背、伸びたな」
「そうですか?」
「ああ、ざっと2メートルくらい」
「そんなには、伸びていませんよ」
 ちょっとしたジョークだったのに、素で返されてしまった。あれ、もしかしなくてもスベッた?
 初夏だというのに、俺の周りだけ肌寒い空気。ちょっとだけ凹む。
 本当にマリアは変わった。今のしょうもないギャグでも、笑ってくれるような子だったのに。
 けれど、スベッたお陰で自棄になったのか、それから先は存外すらすらと会話が進んだ。
 一人暮らしはどうだと言う会話をする。
 料理や家事は出来るのかという会話をする。
 朝起きて、朝食を作って食べて、修道服を着て教会に来る人々を迎え、偶にだけれど誰かの懺悔を聞き、そして誰もいなくなった教会の奥で一人、夜を過ごす。
 そんな、マリアの一日の会話をする。
 ありふれた会話。
 他愛もない会話。
 内容としては、兄妹という近しい関係同士が行うやりとりにしては、違和感があるものではあるけれど。
 二人の間に流れる空気は、間違いなく兄妹のそれだった。
 俺の顔にも、自然と笑みが浮かぶ。
 もしかしたら、俺はマリアを警戒していたのかもしれない。
 その警戒も氷解し、温かく、他愛もない時間を過ごす。
 まるで、幸せを溶かしたココアのようだ。
 何年も前に失って、それに気付かず、当然になっていたもの。
 それがやっと戻って来たような。
 マリアと話していると、あの頃に、幸せだったあの頃に、回帰したかのような錯覚にとらわれそうになる。
 幼い自分と溶け込んでしまいそうな気がする。
 俺たち兄妹の空気が、こんなに自然だったものだったなんて、もう久しく忘れていた。
 話すうちに、俺が降った会話に応えるばかりだったマリアも、俺の大学生活や卒業後の現在の生活などを聞きたがった。
「兄様も、一人暮らしをしているのですか?」
「ん、いや、恋人と一緒に暮らしてるんだ」
「……恋人、ですか」
 何故だろうか、マリアの放つ空気に棘が混じっているように俺の肌を突き刺す感覚。
 さっきまでの自然な空気に、小さな波紋が起こった。
 夜の静かで穏やかな湖面に、小さな石を投げ込んだような。
 澄んだマリアの声が、冷たい刃を孕んで聞こえる。
「あ、ああ、俺もこの年だしな。そうだろう?」
 どうだというんだ。自分で自分につっ込む。
 マリアもよく分かっていないような顔をしている。
「私には、居ませんが」
「そうなのか?やっぱり、シスターはそんな自由が利かないのか?」
「いえ、今はそれ程厳格ではないですが。それよりも、何時から付き合っているんですか」
 話題の軌道修正も適わない。
 既に主導権を握っているのは、マリアの方だった。
「そうだ、な、大学入ってすぐだったから……かれこれ4年になるか」
「4年……」
 マリアの声が、一際低くなった。
 何となく悟る。マリアは、今日俺がこうしてここに居る理由を、ある程度察したのだろうと。
 まあ、今まで何年も会っていなかった俺が、こうして唐突に会いたいと言ってくるのだ、マリアも最初から何かあると想定はしていたのかもしれない。
 ふう、と息を吐いた。
 多分、本題を切り出すなら今だ。
93sister―上:2010/01/29(金) 11:11:35 ID:fFGCkvUN
「――結婚しようと思っているんだ」
 瞬間、マリアの瞳が揺れた。
 先程まで浮かべていた微笑が、ごっそりと抜け落ちた。
「そう、です……か」
 マリアの発する空気が、数段鋭さを増した。
 ――俺はタイミングを間違えたのだろうか。それとも、他に。何か別の過ちを犯したのだろうか。
「祝福、してくれないのか?」
 思えば、それは余りに間抜けな質問だったかもしれない。
 マリアはひどく傷つけられたような顔をして、
「出来ると思っていたのですか?」
「……して欲しい、と思っているよ」
 はん、とマリアが鼻で笑った。
 さっきまで聖女然とした妹は、堕天となった。
「私をこんな所へ押し込んで、自分ばかりは幸せを享受するのですか」
 マリアが、苛立たしげに下唇を噛んだ。
 やはり、マリアは、俺や両親を恨んでいたのか。
 考えてみれば、当然の事。自分がいかに甘い考えで、自分勝手だったか実感させられる。
「そういう、つもりじゃ……」
 動揺に声が掠れる。
「それなら、どういうつもりなのですか」
 マリアが詰る。俺は、それに対する答えを持っていなかった。
 無言の俺に対し、
「私は15年近く、こうして押しつけられた人生を送ってきました。何も文句も言わず、ただじっと耐えてきました。どうしてか分かりますか?」
 分からない。
 確かに、神学校への入学が決まった時はあんなに反抗していたマリアが、それ以来すっかり大人しくなった。
「忘れてしまったみたいですね」
 マリアの声には、既に明確な怒りの色が窺えた。
 形の良い柳眉がきりりと吊り上って、大きな目が細められている。
 二人の間にある蝋燭の火が、ゆらゆらと揺れる。
 照らされるマリアは、いっそ凶悪なまでに美しく。
「兄様は、神学校に入る時に言ってくれたんです。俺がちゃんとマリアを幸せにしてやると。だから、それまでは我慢してくれと」
 いわれてみると、確かに両親に頼まれてマリアの説得を行った気もする。
 しかし、その内容までは定かではなかった。
 あの時、俺は正直に言ってマリアの事が怖かった。
 俺の唯一の妹であるために、家族を壊した妹が。
 あの日、階段のてっぺんで、後光を浴びながら笑っていた妹が。
 恐ろしくて、怖くて、早く追い出してしまいたかったのだ。
 だから、妹と離れたい一心で、そういう事を口走ったのかもしれなかった。
 だけど、今、そんな事をどうして告白できよう。
 俺は、顔を伏せて、ただ、
「すまない」
 ただ、謝ることしかできない。
「どうして謝るのですか」
「……すまない」
「……嘘だった、と。あの日の言葉は、出まかせだったと言いたいのですか」
「そうじゃない、そうじゃないんだ、マリア」
「ならば!どういうことですか」
「あの日の言葉に偽りはないよ。ちゃんとお前の兄として、出来うる限りの事はサポートする。恋人もお前と仲よくしたいと言ってくれているんだ」
 俺の訴えは、懺悔にも似て。
 聖女に救いを求める、哀れな子羊になってしまったようだ。
 当時の気持ちではないにせよ、今、マリアと仲良くやっていきたいと思っている事は確かだ。
 十数年ほったらかしにしていた妹と、これからは、俺の妻となる人と共によりよい関係を築いていきたかった。
「そんな事、ただ、兄様の背中を眺めるだけの事に……」
 一体何の意味がありましょうか。
 マリアは何かを堪えるように、震える声で呟いた。
 深く息を吸い、そして吐く音が聞こえた。
 俺は、恐ろしくて顔を上げる事が出来ない。
「兄様は」
 再度切り出したマリアの声は、やけに平坦な響きを持っていた。
94sister―上:2010/01/29(金) 11:12:06 ID:fFGCkvUN
 マリアが立ちあがった。
 俯いたままでは顔を窺う事は出来ないけれど、どんな表情を以て俺を見下ろしているのだろうか。
 妹の心に去来しているものは、一体何だろうか。
 怒り。悲しみ。失望。嘆き。それとも。
「兄様は、私の気持ちを分かってくれていません」
 たっぷりと間を置いて、マリアは続ける。
 反論することなど何もない。マリアの言うとおりだった。
 俺は、妹の気持ちが全く分からなかった。そう、幼いころから。
「私はね、兄様」
 ちくりと、首に何かが刺さった。軽い痛み。
 驚いて顔を上げた。
「マリ、ア?」
 マリアは笑っている。
 唐突に、どうしようもないくらいの眠気が襲ってくる。
 急速に視界が霞んでいく。雨音がやけにうるさい。
 平衡感覚がなくなり、中空に浮かんでいるようだ。
 突然、俺を衝撃が襲った。ひんやりとした床の感触。どうやら、前のめりに倒れこんでしまったようだ。
「私は、兄様の事を、どうしようもないくらい愛しているのですよ」
 狂気の滲んだ声。
 ひどく穏やかに、けれど確かに澱んでいる。
「ねえ、兄様。私を幸せにしてくれるのでしょう?それなら二人、この天国でいつまでも幸せに暮らしましょう」
「まり……あ」
 最早、彼女の名前を、愚鈍に繰り返すことしかできない。
「愚かな兄様。私が、兄様を救って差し上げます。恋人?いいえ、其れでは兄様を救えません。兄様を救えるのは、私だけなのですから」
 さあ、天国へ昇りましょう?
 マリアの声が遠くなっていく。
 そして、俺は天国へ堕ちていく。
 耳の奥、蝉時雨が蘇る。
 最後に見た、彼女の顔は。
 あの夏の日と同じ、女神の笑み。
 
 床に倒れこんだ兄様を見て、思わず笑みがこぼれた。
 さっきまで感じていたイラ立ちが、嘘のように消え去っていた。
 兄様に結婚すると聞かされた時は、あれほど荒れ狂っていた心の波が、今では静かに凪いでいる。
「アーノルド!」
 ある男の名を呼ぶと、屈強な体つきの男が、教会の奥の間からぬっと姿を現した。
「この方を、牢へ連れて行ってください」
「はい……」
 男が兄様を抱える。
「くれぐれも、慎重にお願いします」
「はい」
 男は、わたしの言葉に頷くことしかできない。
 哀れな男。ある晩、教会へやって来た男の懺悔を聞いてやり、有り触れた言葉をかけてやっただけで私を聖女と崇めてきた。
 そんな愚かな人間は、彼だけでなく。この町には、私を崇め奉る人間が少なからずいる。
 おかしな話だ。私は、兄様しか救えないし、他の誰も救う気などないというのに。
 けれど、偶には役に立つこともあるし、この町でならある程度の自由が利く。
 駒と良い環境を手に入れられたと思えば、私を捨てた両親にも、まあ、感謝くらいはしてやっても良いかもしれない。
 男の後を追って、教会の奥にある扉を開く。
 ここから先は居住スペースとなっていて、同じような部屋がいくつか並んでいる。
 そしてその中の一つ、一直線に続く廊下の奥の部屋は、外観こそ他の部屋と変わらないように見えるが、中に入ると、そこには石煉瓦で覆われた牢屋がある。
 先の魔女狩りの名残か、異端者を拘束するためか、とにかく宗教は血生臭い歴史がつきもので、この牢屋もその夥しい血の一つだった。
 男が牢屋の中にある、大きなベッドに兄様を横たえさせる。
 こう言う時のために用意しておいたベッドは、ふかふかでこんな石がむき出しになった、肌寒い牢には異分子として写る。
 しかし、ここが私と兄様の愛の巣窟、天国となるのだ。
「ねえ、兄様。私を幸せにしてくださいね。私も兄様を幸せにしますから」
 今はまだ静かに眠る、愛する人へと囁いた。
95sister―上:2010/01/29(金) 11:13:44 ID:fFGCkvUN
以上です
続きは既に上がっているので近いうちに投下します
スレ消化失礼しました
96名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 13:26:49 ID:wIQbtTA1
傷つきやすいお姉ちゃんというのも中々・・・
97名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 15:09:40 ID:3wew1phk
マリア「うー!うー!」
98名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 17:16:45 ID:2mL8w2qc
後編楽しみ
99名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 18:45:06 ID:EoIGgE8B
監禁ktkr
続き期待!!
100名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 20:18:58 ID:ZLSz5e3d
ハイクオリティの予感
101名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 21:56:42 ID:4yXaHPmQ
これぞ妹、これぞ聖職者、と思いました。
マリアの存在感といびつさが素晴らしい。
続きの投下も楽しみです。
102三つの鎖 14 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/01/29(金) 23:12:47 ID:sooJAhF2

三つの鎖 14です。

※以下注意
エロあり
血のつながらない自称姉あり

投下します
103三つの鎖 14 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/01/29(金) 23:15:54 ID:sooJAhF2
三つの鎖 14

 チャイムが鳴る。玄関に行ってドアを開けると幸一君がいた。切羽つまった顔をしている。随分と走ったのだろう。春先の涼しい季節なのに汗だくだ。
 「春子。急な頼みで悪いけどシロを貸してほしい」
 「いいよ。シロ!」
 私は即答してシロを呼んだ。シロはしっぽを振って犬小屋から出てきた。
 幸一君は学校指定の女子の靴をシロに近づけた。
 「シロ、持ち主を追える?」
 シロはくんくんと匂いを嗅いだ後、私を見た。
 「頑張ってね」
 シロはわうと吠えて走り出した。幸一君もシロの後を追い走り去った。
 さてと。
 「これでいいのかな」
 私は後ろに振り返って玄関を見た。奥の居間の入り口から夏美ちゃんは頭だけぴょこっと出して私を見た。

 一応自己紹介をしておこうかな。
 私の名前は村田春子。
 幸一君と梓ちゃんのお隣さんにしてお姉ちゃんだよ。
 別に幸一君とあずさちゃんと血のつながりがあるわけじゃないけどね。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 夏美ちゃんが幸一君の家を飛び出した時に私がいたのは偶然じゃない。
 私は幸一君の家の数か所に盗聴器を仕掛けている。ちなみに夏美ちゃんの家にも仕掛けてある。初めて幸一君とホテルに行った時、待ち伏せできた理由はこれだったりする。
 夏美ちゃんを私は自宅の前で待ち構え連れ込んだ。夏美ちゃんは裸足だった。
 別に大した理由があるわけではない。ただ、追いついた幸一君が夏美ちゃんに優しくすると考えると腹が立っただけ。
 今の幸一君は私に優しくない。怒りと悲しみの渦巻く瞳を私に向ける。それはベッドの上でも同じ。いつも荒々しく私を抱く。今日は特に乱暴だった。レイプされているみたいで本当に怖かった。
 もちろん分かっている。幸一君は何も悪くない。責任は私にある。
 「ちょっとは落ち着いた?」
 私はソファーの上に体育座りしている夏美ちゃんに声をかけた。夏美ちゃんは泣き腫らして赤くなった眼を私に向けた。
 「すいません。もう大丈夫です」
 夏美ちゃんの声は小さいけどしっかりしている。
 その体勢だとパンツが丸見えだ。白くて柔らかそうな足も。そうやって幸一君を誘惑しているのかと思うと腹が立つ。
 「お兄さんとシロちゃんは大丈夫でしょうか。私はここにいるのに」
 「大丈夫だよ。シロには適当に走り回るように言ってるから」
 夏美ちゃんは驚いたように私を見た。
 「シロちゃんって賢いですね」
 「幸一君には悪いけど、シロの運動に付き合ってもらうよ」
 夏美ちゃんは笑った。元気のない笑顔。
 「で、いったい何があったのかな?」
 私は夏美ちゃんに尋ねた。むろん、私はリアルタイムで盗聴して聞いていたから全てを知っている。
 夏美ちゃんはうつむいて唇をかみしめた。そしてポツリポツリと話した。
 「私、梓に無神経なことをしたんです」
 無神経な事、か。
 「私、梓がお兄さんのこと好きな事を分かっていたのに、梓はその気持ちを我慢しているのに、梓がお兄さんを一緒にいられる場所に踏み込んじゃったのです」
 私が幸一君にしている事を知ったら、夏美ちゃんはどう思うのだろう。私は幸一君の気持ちを土足で踏みにじっている。
 怒るのだろうか。同情するのだろうか。
 「それで梓を怒らせちゃったのです」
 そう言って夏美ちゃんはうつむいて膝に顔をうずめた。
 本当に夏美ちゃんはいい子だと思う。幸一君に相応しいまっすぐで優しい子。
 「夏美ちゃんは悪いことをしたと思っているのかな?」
 夏美ちゃんは顔をうずめたままうなずいた。
 「じゃあどうするのかな?」
 夏美ちゃんは少し黙ってから口を開いた。
 「お兄さんの家にはもう行きません。梓の前でお兄さんと親しくするのはやめます」
 本当に健気な子。夏美ちゃんにとっては幸一君も梓ちゃんも大切なのだろう。
 「そうするとね、夏美ちゃんはずっと幸一君から離れられないと思うよ。だって一緒に住んでいるんだよ?」
 夏美ちゃんは顔を上げた。戸惑った顔。
 「好きな人と同じ屋根の下にいて我慢できるかな?」
 「それは、その」
104三つの鎖 14 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/01/29(金) 23:18:25 ID:sooJAhF2
 それきり言葉が続かない夏美ちゃん。
 「どれだけ好きでもね、いつかは別れが来るよ」
 そう。どれだけ好きでも、どれだけ身近にいても、どれだけ長く傍にいても。
 「私もね、幸一君の事は大好きだよ」
 夏美ちゃんはびっくりしたように私を見た。
 「ずっと一緒にいたんだもん。梓ちゃんもそうだよ。私にとって二人は可愛くて大切な弟と妹だよ」
 この言葉に偽りはない。ただ私の場合、それ以上に傍にいたいという気持ちが強いだけ。
 だから、あんな事をして、今も続けている。
 「でもね、それでも別れは来るよ。うんうん、この場合は今まで通りの関係ではいられなくなるって言う方が正しいかな」
 私は分かっている。例え幸一君を脅迫して従わせても、いつかは終わりが来る。梓ちゃんの鎖が切れたように、私の鎖もいつか切れる。
 それでもいい。それまでは傍にいたい。
 「私はお兄さんと梓の関係にまで立ち入るつもりはありません」
 「あのね、もし私が幸一君にべたべたしたら夏美ちゃんは嫌でしょ?」
 夏美ちゃんは絶句した。
 「嫌でしょ?」
 少なくとも私は我慢できなかった。だから幸一君を襲った。はじめてホテルに行ったあの日もそう。夏美ちゃんと幸一君がしてるのを盗聴器で聞いて我慢できなかった。だから待ち伏せしてホテルに連れ込んだ。
 どうなのかな。夏美ちゃんは我慢できるのかな。
 夏美ちゃんは意を決したように私を見た。
 「わたし、その、ハル先輩なら、お兄さんにべたべたしても」
 「やめて」
 私は夏美ちゃんの言葉をさえぎった。
 「そんな事聞きたくないよ」
 私は夏美ちゃんを見た。脅えたように夏美ちゃんは後ずさる。
 「私が幸一君にべたべたしても我慢できるの?私が幸一君に抱きついても?私が幸一君とキスしても?幸一君と寝ても?」
 私は夏美ちゃんに近づき頬を両手で挟んだ。夏美ちゃんの顔が恐怖に見開く。
 「嫌でしょ?」
 夏美ちゃんは震えるばかりで何も言わない。私は夏美ちゃんの顔から手を離した。
 「そんな事二度と言っちゃだめだよ。夏美ちゃんのその考えは最終的には幸一君が夏美ちゃんのもとに戻ってくるって余裕の表れでしかないよ」
 いけない。気持ちが高ぶっている。私は深呼吸した。気持ちを鎮める。
 「それにね、その考えは幸一君を侮辱しているよ。幸一君を私物扱いして貸してあげるって言っているのと同じだよ」
 幸一君は私のものだ。ずっと一緒だった。ずっと傍にいた。夏美ちゃんに私物扱いされたくない。
 夏美ちゃんはうなだれた。
 「ごめんなさい。私が間違っていました」
 そう言って私に頭を下げる夏美ちゃん。本当に素直でいい子。それが腹立たしい。
 「この後どうするの?良かったらお泊まりしていく?」
 「いえ。家で頭を冷やします。そうしてから明日お兄さんと話します」
 そう言って夏美ちゃんは立ち上がった。
 「今日は本当にお世話になりました」
 「気をつけて帰ってね」
 靴を履いていない夏美ちゃんに私はサンダルを貸した。
 外はもう暗い。夏美ちゃんは礼を言って帰って行った。
 私はそれを見送って部屋に戻ると、思い切りベッドをたたいた。
 夏美ちゃんが憎かった。幸一君に大切にされ、優しくされ、女として愛されているのが悔しかった。
 殺してやりたいと思ったけど、私は抑えた。幸一君が私に従うのは、夏美ちゃんの存在があるからだ。夏美ちゃんがいなくなるとどうなるか分からない。
 違う。分かっている。夏美ちゃんがいなくなると幸一君が私から離れて行きそうで怖いからだ。
 一番許せない相手の存在が幸一君を従わせる事を可能とする。頭がおかしくなりそうな矛盾。
 私はため息をついてベッドに転がった。
 幸一君に乱暴に扱われたお尻と胸が少し痛んだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 私は気持ちを静めてアルバムを開いた。
 写真の多くは私と幸一君と梓ちゃんの三人が写っている。明るく笑う私と恥ずかしそうに笑う幸一君と不機嫌そうな梓ちゃん。
 あの頃の私は幸一君と梓ちゃんが可愛くて仕方がなかった。それは今でも変わらない。何も知らない人には姉と弟と妹と間違えられるぐらいだった。
 腕白だけど女の子に対しては恥ずかしがりやな幸一君といつも不機嫌で面倒くさがり屋な梓ちゃんの世話を焼くのが私の楽しみだった。
 次のページを開いた。中学校に入学したばかりの私と幸一君の写真。二人とも購入したばかりの制服を着ている。私が幸一君の腕に抱きついていて、幸一君は居心地悪そうに笑っている。
105三つの鎖 14 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/01/29(金) 23:22:50 ID:sooJAhF2
 このころの幸一君は今と違っておバカさんだった。部活バカで試験はいつも赤点。お勉強を助けてあげた回数は数え切れない。そして今よりはるかに単純だった。
 そしてお調子者だった。女の子に対して恥ずかしがりやなのは今と変わらないけど、今とは別人のようにはしゃぐ男の子だった。写真を見ても底抜けに明るい笑顔が多い。
 懐かしい。中学に入ってすぐだったと思う。幸一君が私に告白したのは。私は断った。
 あの時の幸一君は年頃の男の子だった。恋に恋する年頃。周りにはやし立てられて彼女がほしいと思い、いちばん身近な私に告白しただけ。
 本当に私の事を一人の女の子として好きならいいと言った私に、幸一君はすぐに答えられなかった。私は幸一君にめっと怒った。最低だよという私に幸一君は落ち込んでごめんなさいと言った。私は笑って許した。
 あの時、断らなかったら今はどうなっていたのだろう。
 次のページを開いた。幸一君と梓ちゃんの仲が悪くなってから、幸一君は変わった。いつも少し悲しそうに微笑んでいる。写真を見ても別人にしか見えない。
 梓ちゃんの件からだ。幸一君と梓ちゃんと私の間に距離ができたのは。
 幸一君は梓ちゃんの事しか考えなくなった。私が傍にいても、話しかけても、抱きついても、頭の中には梓ちゃんの存在があった。私が料理や家事を教えている時も、幸一君は梓ちゃんの事を考えていた。
 梓ちゃんは幸一君を傍に置いて嬉しそうだった。私がかまっても昔以上にうっとうしがるだけだった。
 あの頃は二重の意味で寂しかった。
 すぐそばにいても幸一君も梓ちゃんも私を見ていなかった。成長して私を必要としなくなっていく幸一君をすぐそばで見続けた。
 いっぺんに弟と妹が独り立ちした気分だった。
 幸一君は優しくて思いやりのある落ち着いた男の子に成長した。でも、その優しさと思いやりを一番向けていたのは梓ちゃんだった。
 私は昔の関係に戻りたかった。ちょっと手のかかる情けない弟と、不機嫌で面倒くさがりやな妹の世話を焼く昔に。
 何度か幸一君に女の子を紹介した。幸一君に彼女ができたら少しは梓ちゃんから離れると思ったから。でも幸一君は梓ちゃんの事しか考えていなかった。幸一君に彼女を作る意思は無かったし、他の女の子に好意を持つこともなかった。
 夏美ちゃんを手伝ったのも深い理由はない。私たちの関係に変化を期待してのことだった。
 あの日、幸一君の家にみんなで泊まった日。私は自分の事を分かっていない事に気がついた。
 幸一君が夏美ちゃんに好意を持っている事を理解した時、感じたのは弟に好きな人ができた喜びではなく、嫉妬だった。女としてなのか、姉としてなのかは今でも分からない。
 自分でも信じられない暗くて醜い感情。幸一君に対する独占欲。
 夏美ちゃんが寝ている隣で私は悩んだ。自分自身の醜い独占欲が怖かった。
 私は幸一君と話そうと部屋を出た。リビングでぼんやりとしている幸一君を見て私は泣きそうになった。幸一君の表情は恋をした男の子のそれだった。そして恋の対象は私ではない。
 もし幸一君が梓ちゃんから離れても、次は夏美ちゃんの事を考えるだけ。
 私は声をかける事も出来ずにリビングを出て家を出た。自分の部屋で泣くつもりだった。
 自分の部屋に戻って私はベッドにあおむけになった。その時、中古で購入した高性能ビデオカメラと戯れに購入した手錠が目に入った。
 私の脳裏に思いついた考えは最低の発想だった。
 このビデオで幸一君を脅迫できる映像をとれば全てがうまくいく。
 幸一君を苦しめるだけという良心の声はすぐに消えた。指をくわえて幸一君が手の届かない場所に行くのはもう我慢できなかった。
 私はビデオカメラを持って幸一君の家に戻りリビングを確認した。幸一君はまだぼんやりとしていた。私は幸一君の家のお風呂場の窓に外から目立たないようにビデオカメラを設置した。風呂場の様子が見えるのを確認し、録画スイッチを押した。
 もし幸一君がお風呂に入らなかったらどうしようとハラハラしたけど、幸一君は思惑通りお風呂に入った。
 私はお風呂場に入り幸一君を誘惑した。でも幸一君は乗らなかった。
 どこかで分かっていたのだと思う。幸一君はそんな男の子じゃないって。そうじゃないと手錠を家から持ってくる理由がない。購入した時はこんな形で使うとは夢にも思わなかった。
 私は幸一君を拘束して無理やり犯した。
 初めてのセックスだったけど、痛いのは最初だけだった。幸一君とつながっていると思うと身も心も蕩けそうだった。
 幸一君が私の体に反応してくれたのが何よりもうれしかった。幸一君は少なくとも私の事を女として見ているのだから。幸一君の悲しそうな表情も可愛かった。
106三つの鎖 14 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/01/29(金) 23:25:59 ID:sooJAhF2
 もちろん残念だったこともある。幸一君が自分から私を抱いてくれなかったのは少し悲しかった。魅力がないのかと思った。
 そして撮影した映像もいまいちだった。どう見ても私が無理やりしているようにしか見えない。
 最初は私と幸一君の情事を夏美ちゃんに見せてあきらめさせるつもりだったけど、この映像では無理だ。それに幸一君を脅す材料にもならない。
 私は考えた。幸一君自身だけに害が及ぶ映像では幸一君を脅す材料にはなりえない。幸一君が脅しに屈するとすれば、幸一君以外の人に害が及ぶ場合。
 それにはどうすればいいのか。私には分からなかったけど、とりあえず夏美ちゃんの家にビデオカメラを仕込もうと考えた。考えるのも嫌だけど、将来二人が男と女の関係になった時に脅す映像が撮れるかもしれない。
 早速その日から行動した。しかし作業は思った以上に大変だった。
 幸一君の家に泊まった次の日に私は夏美ちゃんの家を訪ねた。夏美ちゃんは不在だった。私は躊躇無く鍵をピッキングで開けて侵入した。
 もし夏美ちゃんが来たら遊びに来たけど鍵が開いていたと言うつもりだった。しかし、なぜか夏美ちゃんは寝るとき以外は家にいないようで鉢合わせすることはなかった。
 ビデオカメラを仕掛けるいい場所はあったけど、問題はビデオカメラの制御だった。まさか録画ボタンを押しっぱなしにして放置するわけにはいかない。
 私はその問題をノートパソコンに接続することで解決した。ビデオカメラはパソコンに接続して制御したりデータのやり取りを行うことができるタイプだったのは幸いだった。ノートパソコンを置く空間もあった。
 夏美ちゃんの家のパソコンが無線LANなのも助かった。ビデオカメラで取り込んだ画像をノートパソコンに取り込み無線LANでネットにつなぎ家に送るように設定した。
 この家のパソコンのセキュリティは無いに等しかったけど、一応夏美ちゃんのパソコンに細工して勝手に無線LANを使用しているのがばれないようにした。
 もちろん鮮明な映像をリアルタイムで送るのはノートパソコンの性能的にもネット環境的にも無理だから通常は荒い画像を一定時間ごとに送るようにし設定した。
 必要があれば家のパソコンからの制御で鮮明な映像をいったん撮影してから送信できるようにした。
 一番不安だったのは電源コードとノートパソコンの騒音だった。もちろん電源コード自体は目立たないように設置した。ノートパソコンの騒音も静かなものを選んだけど、いつばれてもおかしくない。こればかりは仕方がなかった。
 ついでに盗聴器を仕込んだ。これは小型だからばれる心配は少ないし、無線LANでリアルタイムに音声を聞く事が出来た。
 作業が終わった時、私が感じたのは激しい自己嫌悪と徒労だった。私は何をしているんだろうと思った。達成感など微塵もなかった。いつ役に立つのかもわからないし、役に立つという事は幸一君が夏美ちゃんの部屋に行く時。
 幸一君も夏美ちゃんも奥手だ。その二人が夏美ちゃんの部屋でエッチするなどいつの話になるか分からない。
 要するに私は冷静でなかった。幸一君とエッチした事と、私自身の考えに興奮して冷静な行動ができなかった。冷静になればなるほど危険な橋を渡っているのを思い知った。
 まだ幸一君と夏美ちゃんが付き合うわけじゃないし、私にだってチャンスはある。
 そう考え、私は今後の展開を考えた。あの奥手な幸一君と恥ずかしがりやな夏美ちゃんが男女の仲になるには時間がかかるはず。梓ちゃんは徐々に仲が深まる二人に我慢できるだろうか。
 できない。私もそうだった。きっと何かのトラブルを起こすはず。そうなれば幸一君と夏美ちゃんの仲は今まで通りにはいかなくなるだろう。今、無理に二人の仲を引き裂く必要は無い。
 私はそう考えた。だったら幸一君と夏美ちゃんが徐々に仲が良くなるように仕向ければいい。
 幸一君と夏美ちゃんを屋上に呼び出して私が行かなかったのもこの発想に基づく行動だ。あの二人は自分から会いに行く事はないだろうから、会うように仕向ける必要がある。
 これを繰り返していけば二人の仲は徐々に深まるはず。そして梓ちゃんはそれに耐えられなくなる日がいずれ来る。
 夏美ちゃんに花を持たせるのはしゃくだけど、今だけ幸一君を貸してあげる。後で返してもらうけど。
 だけど事態は急展開した。梓ちゃんとの帰り道に公園で幸一君と夏美ちゃんがキスしているのを目撃してしまったのだ。
 その時の衝撃は忘れない。私の幸一君が、夏美ちゃんに恥ずかしそうに、そして嬉しそうに口づけしている姿。
 その後は私が望んだ事とはいえ、背筋の寒くなる光景だった。梓ちゃんがあそこまで取り乱すとは思わなかった。あそこまで直接的な行動に出る事も。
107三つの鎖 14 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/01/29(金) 23:30:00 ID:sooJAhF2
 走り去る梓ちゃんと立ち尽くす幸一君。私は梓ちゃんを追った。まさか夏美ちゃんに追わせるわけにはいかない。梓ちゃんは問答無用で夏美ちゃんを投げ飛ばすだろう。私が追うのが適任だった。
 私はあの時の行動を心底後悔している。あの時、何が何でも幸一君の傍にいるべきだった。
 あの後、梓ちゃんは部屋に引きこもって出てこなかった。とりあえず加原の家の家事は私が行った。何もしないとご両親に怪しまれる。ついでに盗聴器を仕込んだ。
 いったん家に戻って幸一君にメールを送った。今日は帰ってこない方がいい。耕平君の家にでも泊まるようにと。梓ちゃんは冷静でなかったし、会わせると昔の二の舞になる予感がした。
 京子さんが帰宅してから私は事情をかいつまんで話した。京子さんは話の分かる人だ。私に任せてほしいという頼みを二つ返事で承諾してくれた。
 私はふと夏美ちゃんが何をしているのか気になった。まさか幸一君を家に連れ込むとは思えないし、幸一君も女の子の家に泊まるような男の子じゃないと思っていた。
 それでも正体のわからない不安を感じた私は夏美ちゃんの家の映像を見た。
 ディスプレイに映っているのは抱き合う二人の姿だった。荒い画像でも誰かは分かった。
 私は頭が真っ白になった。幸一君が夏美ちゃんをベッドに押し倒した姿を見て気が狂うかと思った。
 それでも頭は冷静だった。この映像をとればこれ以上ない脅しの材料を手に入れる事が出来る。そうすれば幸一君を想いのままに操る事が出来る。
 私は高精度の映像を撮影するように設定した。高精度の映像を撮影している間、画像は届かない。私は盗聴器で幸一君が夏美ちゃんを抱いているのをリアルタイムで聞いた。
 幸一君は夏美ちゃんに優しかった。私は泣いた。涙が止まらなかった。幸一君と夏美ちゃんの情事を聞きながら、自分を慰めた。
 時間を見計らって私はデータを送信させた。思ったより時間がかかった。
 私は映像を確認した。鮮明な映像。幸一君と夏美ちゃんがベッドの上で裸で絡み合う。これ以上ない脅しの材料。
 みじめだった。私は幸一君のそばにずっといたのに、幸一君が選んだのは夏美ちゃん。
 私は幸一君を梓ちゃんに取られ、次は夏美ちゃんに奪われた。
 次の日に梓ちゃんにご飯を持っていた時に二人で話した。
 好きな兄を従わせるために罪悪感という幻の鎖で幸一君を縛る梓ちゃん。
 好きな弟を従わせるために幸一君と夏美ちゃんの情事を撮影し脅そうとしている私。
 私と梓ちゃんは間違いなく姉妹だと思い知った。例え血のつながりがなくても。幸一君を傷つける方法でしか従わせる事が出来ない愚かで哀れな姉妹。
 そして梓ちゃんは未来の私の姿だった。幸一君を縛り付ける鎖は、その鎖が何であれいつか必ず解かれる。それでも縛り付けずにはいられない。
 梓ちゃんがあれだけ幸一君を傷つけても私は梓ちゃんが好きだ。愛おしい妹。私と同じだから。それは私が入院させられても、幸一君を入院させても変わらない。
 幸一君と梓ちゃんの関係はとりあえず決着がついた。とりあえずと言うのは、梓ちゃんが我慢できるはずがないからだ。私が我慢できないのと同じ。
 それは今日の出来事で証明された。
 私は幸一君を脅してこの家のベッドで体を重ねた。そしてその様子を録画した。幸一君を脅す材料をさらに手に入れた。
 それ以来、私は幸一君と何度も寝た。二人きりになるたびに幸一君は私を説得しようとした。それでも私は止めなかった。あの映像を持ち出すと、幸一君は従うしかなかった。
 ベッドの上で幸一君は私を荒々しく抱いた。夏美ちゃんを優しく抱くのとは違って獣のようだった。
 今日のお昼休みの事を思い出すと、それだけで体が震える。本当にレイプされているみたいで、思い出すだけで恐怖がこみあげてくる。
 幸一君は精神的に思いつめているのかもしれない。もともと男女関係に対して真面目な幸一君が、夏美ちゃん以外の女の子と体を重ねるのは苦痛でしかないのだろう。それを強要する私に思い切り負の感情をぶつけたのかもしれない。
 私はため息をついてアルバムをめくった。高校生の私と幸一君が写っている。幸一君の腕に抱きつく私に恥ずかしそうに微笑む幸一君。
 写真に写る幸一君はもういない。今の幸一君は私の裸を見ても顔色一つ変えない。それどころか軽蔑の眼差しを向ける。
 滴がアルバムに落ちる。拭っても拭っても涙はあふれる。
 外で犬が吠える声が聞こえた。私は涙をふいて玄関に下りた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ドアを開けると幸一君がいた。シロの頭を優しく撫でている。シロは気持ちよさそうにしている。
 羨ましいな。私も幸一君に優しく頭を撫でてほしい。
 幸一君が私を見た。複雑な表情。
108三つの鎖 14 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/01/29(金) 23:32:16 ID:sooJAhF2
 「シロを貸してくれてありがとう」
 シロが気にするなというようにワンとないた。
 「いいよ。夏美ちゃんには会えた?」
 幸一君は首を振った。
 「メールが来た。落ち着いてから明日に会いたいって」
 そうなんだ。
 幸一君は汗だくだった。
 「上がって。飲み物とタオルを持ってくるから」
 「いいよ」
 「いいから」
 私は渋る幸一君の手をつかみ強引に家に連れ込んだ。お尻の痛みに足元がふらつく。こけそうになったのを幸一君は支えてくれた。私の部屋に行くように告げ、飲み物とタオルを持って部屋に入った。
 幸一君は部屋でぼんやりと立っていた。
 私は幸一君にタオルを渡した。汗を拭き終わると、冷たいお茶を幸一君に渡した。
 「ありがとう」
 幸一君はぶっきらぼうに言って立ったままお茶を一気に飲んだ。
 「あの、幸一君」
 私は幸一君に声をかけた。幸一君は荒んだ目を私に向ける。その瞳に体がすくむ。
 「その、ベッドに座ってくれないかな」
 心底嫌そうな顔をする幸一君。胸が痛む。
 「お願い」
 幸一君はベッドに座った。私はその隣にちょこんと座った。
 私は幸一君にもたれかかった。幸一君の太ももの上に頭を載せる。俗に言う膝枕。
 「春子?」
 上から怪訝そうな幸一君の声。幸一君の太ももは温かい。
 「あのね、そのね」
 駄目だ。恥ずかしすぎる。だけど言わなくちゃ。
 「その、お、お姉ちゃんのね、あ、あ、頭を撫でてほしい」
 幸一君が戸惑っている気配が伝わる。
 しばらくして幸一君は私の頭を撫でてくれた。優しい動きだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 訳が分からなかった。
 春子が自分の部屋に僕を呼ぶ時は何時もエッチのときだけだ。それなのに今僕は春子に膝枕をして頭を撫でている。
 この変化は吉か凶か。
 春子の髪はサラサラしている。
 そういえば何時から春子は髪を伸ばすようになったんだろう。活動的な春子は、動きやすい格好や髪形を好んだ。昔は今ほど長くなかったのに、気がつけば伸ばすようになった。
 春子は何も言わない。
 「春子。一体どうした」
 びくっと震える春子。この姿勢だと春子の顔が見えない。
 「えっとね、そのね」
 それでも春子が恥ずかしがっているのは容易に分かる。春子が恥ずかしがるのは珍しい。春子の頭を撫でる僕の手に春子の温かい体温が伝わる。
 「その、お姉ちゃんの事変に思わない?」
 「思わないよ」
 今さら何を言っているのだろう。僕を脅して何度も体を重ねたのに。
 「笑わないでね」
 そう言って春子は黙った。僕はせかさなかった。
 しばらくして春子は口を開いた。
 「さっき幸一君がシロの頭を撫でていたでしょ」
 確かにそうだ。それがなんだと言うのか。
 「そのね、お姉ちゃんね、シロが羨ましかったの」
 春子の頭を撫でる手を僕は思わず止めてしまった。背中を曲げて春子の顔を覗き込むと、春子は真っ赤な顔で恥ずかしがっていた。
 不覚にも可愛いと思ってしまった。春子がいつも僕を恥ずかしがらせようとする気持ちが初めて分かってしまった。
 「春子の馬鹿」
 僕はそう言って笑った。春子と一緒にいて笑ったのは久しぶりだった。
 本当に久しぶりに感じる。泣きたくなるほど懐かしい。
 「え!?だ、だれが馬鹿だよ!?」
 春子はぷりぷり怒った。
 「春子が」
 「もー!お姉ちゃんを馬鹿にしないの」
109三つの鎖 14 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/01/29(金) 23:34:16 ID:sooJAhF2
 そう言って春子は体を起こし僕を胸に抱きしめた。大きくて柔らかい春子の胸が顔に当たる。
 「ふふーん。お姉ちゃんの胸の中はどう?恥ずかしいでしょ」
 僕はため息をついた。
 「今さら何を言っているんだ」
 何度も体を重ねたのに。今さらこれぐらい何とも思わない。
 「むー。幸一君が生意気だよ」
 春子は僕の胸に顔をうめ頬ずりしてきた。
 「あのね、そのね」
 頬ずりする春子。僕の顔をちらちら見る。
 「頭を撫でてほしいのか?」
 僕の言葉に春子は恥ずかしそうにうなずいた。僕は春子の頭をそっと撫でた。
 春子は嬉しそうに頬ずりする。そこまで嬉しそうだと僕も恥ずかしい。
 「春子」
 僕の呼び声に春子は顔をあげて上目使いに僕を見た。
 恥ずかしそうな表情に頬が熱くなる。
 「その、えっと、お尻は、大丈夫?」
 春子はびくっと震えて僕の胸に顔をうずめた。
 僕の背中に春子の腕がまわされる。
 春子は何も言わずに震えた。
 「うっく、ひっくっ、ぐすっ」
 春子は震えながら嗚咽を漏らした。
 僕は春子の背中と後頭部に手を添えてそっと抱きしめた。
 「ごめん」
 罪悪感を感じてしまった。
 春子の背中と頭を撫でながら不思議に思った。春子の背中は何時からこんなに小さくなったんだろう。春子の肩は何時からこんなに華奢になったんだろう。
 「お、お姉ちゃんねっ、分かっているよ。ぐすっ、お姉ちゃんが悪いってっ。ひっくっ。で、でもね、怖かったよっ」
 春子は顔を上げた。涙でぬれた春子の表情。
 その悲しそうな表情に胸が痛む。
 「い、痛くてねっ、怖かったんだよっ。お姉ちゃんが止めてってお願いしても、幸一君、ケダモノみたいにお姉ちゃんにひどい事して、本当に怖かったんだよっ」
 春子目尻から涙がぽろぽろ落ちる。
 僕は春子を抱きしめた。
 「本当にごめん」
 春子は泣きながら僕にしがみついた。僕は震える春子の背中と後頭部をゆっくりと撫で続けた。
 自分でも自分の気持ちが分からない。春子には本当に感謝している。それと同じぐらい憎しみと怒りを感じている。
 でも、今のこの瞬間は、春子には申し訳なさと哀れみしか感じない。
 「春子。ごめん。もう泣かないで」
 僕の言葉に春子は鼻をぐすぐすしながら顔を上げた。
 春子がびっくりするぐらい頼りなくて幼く見えた。
 何も言わずに春子は僕の胸に顔をうずめた。震える春子を僕は抱きしめた。
 どれぐらい時間が過ぎただろう。春子は泣きやんで顔を上げた。恥ずかしそうに僕の胸に顔をうずめる。
 そのまま甘えように頬ずりしてくる。
 「幸一君。そのね、あの、えっと」
 もじもじしながら春子は上目使いに僕を見た。
 春子はすぐに恥ずかしそうに視線を逸らす。
 「お、お姉ちゃんをね、も、もうちょっとだけ、だ、抱きしめて」
 僕はそっと春子を抱きしめた。背中と後頭部に手をまわし、ゆっくりと撫でる。
 恥ずかしそうに僕の胸に顔を埋める春子。
 気恥ずかしくて静かな時間が流れる。
 今なら春子も分かってくれるかもしれない。
 「春子。お願いがある」
 春子はびくっと震えた。
 「もうやめよう」
 春子は頭を振った。まるで子供がいやいやと駄々をこねるような幼い仕草。
 「お願い。昔の僕たちの関係に戻ろう」
 「やっ!絶対にやっ!」
 僕を見上げる春子。涙がぽろぽろ頬を伝う。
 こんなに頼りない姿の春子は初めて見た。僕の中で春子はお姉さんだった。いつも年上ぶって世話を焼いてくれる頼もしい人。
 それなのに今の春子は幼い子供みたいだ。
 春子は両手で僕の頬を挟み、顔を近づけてきた。僕は拒めなかった。唇に柔らかい感触。春子は拙い動きで僕に口づけをする。
 「……んっ……ちゅっ……あふっ……んっ……」
110三つの鎖 14 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/01/29(金) 23:35:48 ID:sooJAhF2
 拙い動きだけど一生懸命な口づけ。春子は唇を離し僕の顔を見た。泣きそうな顔だった。
 「お姉ちゃんを抱いてっ」
 「ねえ春子」
 「いやっ!幸一君はお姉ちゃんの言う事を聞けばいいのっ!」
 そう言って春子は僕をベッドに押し倒した。僕に覆いかぶさり何度もキスしてくる。拙いキス。滴る涙が僕の頬に落ちる。
 そんな春子が哀れで可哀そうだった。
 僕は春子と体を入れ替えた。押し倒された形の春子を見下ろす。そして春子にそっとキスした。
 春子の服の上からそっと胸をもむ。くすぐったそうに身じろぎする春子の耳を優しく甘噛みする。
 「ひゃうっ!?」
 春子は驚いたように体を震わせた。
 僕は春子の服を一枚一枚脱がした。春子の白い肌が徐々に露わになる。
 一糸まとわぬ春子。恥ずかしそうに顔をそむけるあごに手を添え僕の方を向かせる。そしてキスした。
 最初はついばむようなキス。続いて春子の口に舌を入れた。びくっと震える春子を無視して、ゆっくりと春子の口腔を舐める。春子も一生懸命に舌をからませてくる。
 「……ちゅっ……じゅるっ……んっ……はふっ……ちゅっ……んんっ……」
 僕は唇を離した。糸が僕と春子の唇の間に垂れる。
 手早く服を脱ぐ。春子が恥ずかしそうに僕から視線をそらす。僕は春子の胸をゆっくりと愛撫した。
 「……ひうっ……ああっ……ひゃっ……あああっ……やあっ……」
 顔を真っ赤にしてそむける春子。
 「春子。こっちを向いて」
 「やだよっ…恥ずかしいよっ…」
 僕は春子の耳を甘噛みした。体を震わせる春子。切なそうな吐息。
 耳だけでなく全身にキスし舐め吸う。春子は恥ずかしそうに体をくねらせる。
 僕は春子の膝を割って足を開いた。春子の恥ずかしい場所が丸見えになる。
 「きゃあっ!?やあっ!だめだよっ!」
 恥ずかしそうに暴れる春子をしっかり押さえつける。春子の膣の入り口はすでに濡れていた。
 「ううっ…だめぇ…見ないで…恥ずかしいよ…」
 顔を真っ赤にして弱弱しくつぶやく春子。
 「春子。ここは大丈夫」
 今日のお昼休みのことが脳裏に浮かぶ。痛めつけるように抱いたのは僕だけど、妙に責任を感じてしまう。
 「んっ、まだ痛いけど、それほどでもないよ」
 恥ずかしそうに顔を背ける春子。僕は春子の足の間に顔をうずめ舐めた。
 「ひあああっ!?」
 体を震わす春子。僕は膣の入り口に舌を這わせた。
 「やあっ…だめっ…ひっ…きゃふっ…いやっ…ひうっ…んんっ…きゃっ…」
 羞恥に体を震わす春子。愛液がとどめなくあふれる。
 僕は顔を上げ春子の顔を覗き込んだ。春子は恥ずかしそうに顔をそむける。その顔は真っ赤だ。
 「どうした?いつもとは違う反応だけど」
 僕の言葉に春子は僕をちらりと見てすぐに視線をそらした。
 「だって、こんなに優しくしてくれた事、無いもん」
 僕は春子の頬にキスした。そしてすでに硬くなった剛直の先端をあてがう。クチュリと水音がした。
 春子は僕の顔を見て恥ずかしそうに頭を縦に振った。
 僕はゆっくりと腰を押しだした。剛直が徐々に春子に入っていく。
 「ひあっ…あああっ…入っているっ…ひっ…あっ、ああっ、あっ」
 体を震わせる春子。春子の膣は熱くて心地よい締め付け。膣の一番奥に触れると春子はびくっと震えた。
 春子は顔を赤くして恥ずかしそうにそっぽを向いた。かすかに肩で息をしている。白い胸が震える。僕は春子の頬に軽くキスした。
 「んっ…動いてっ…」
 蚊の鳴くような小さい声で春子は言った。僕はゆっくりと腰を振った。
 「ひうっ…あっ…んっ…ふあっ…んんっ…」
 恥ずかしそうに身をよじらせる春子。子宮の入り口をつつくたびに膣がキュッと締め付ける。
 僕は何度も春子の膣を擦りあげた。春子の嬌声が部屋に響く。
 「んっ…いいよっ…もっとっ…はげしくっ…」
 春子が恥ずかしそうに言った。僕は動きを大きくした。
 「ひあっ…ああっ…ひうっ…きゃふっ…」
 大きくて白い胸が揺れる。僕はその胸を両手でつかみ揉んだ。結合部からいやらしい水音がする。
 「ひうっ…やあっ…あっ…きゃふっ…ひっ…」
 自然と腰の動きが速くなる。恥ずかしそうに乱れる春子。僕は何度も春子を責めた。
 部屋に春子の喘ぎ声と腰のぶつかる音、結合部のくちゅくちゅという水音だけが響く。
 春子は恥ずかしそうに顔を背けた。視線だけを僕に向けるけど、すぐに恥ずかしそうにそらす。
 「んっ…ああっ…ひうっ…はあっ…んあっ」
 僕の下で春子は恥ずかしそうに体をよじる。
111三つの鎖 14 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/01/29(金) 23:38:08 ID:sooJAhF2
 白い肌は微かに桜色に染まっている。
 「ひぐっ…やあっ…やめっ…ひぎっ…きゃうっ…もうらめっ…んんんっ!」
 春子の膣が締め付けた。余りの締め付けに僕も我慢できなかった。頭が真っ白になるような快感。春子の膣に精液をはきだす。
 「ひっ…んっ…あうっ…でてるよっ…はあっ…んっ…」
 体を震わす春子。僕は春子を抱きしめキスした。泣きそうな顔で春子は僕を見上げた。すぐに恥ずかしそうに顔をそらす。目尻から涙が流れる。
 その泣き顔が夏美ちゃんとかぶる。
 春子は泣きながら僕を見上げた。僕にキスする。
 「んっ…おねがいだよっ…今はね…お姉ちゃんを見てっ…」
 春子は四つん這いになって僕にお尻を向けた。膣の入り口からは愛液と精液が混ざり合って垂れる。
 僕は硬いままの剛直を一気に押し込んだ。
 「ひあっ!!」
 春子は嬌声を上げる。膣の中は精液でぐちゃぐちゃでスムーズに動く。僕は春子の腰をつかみ少し速めに腰を振った。
 「きゃふっ!ああっ!ひぐっ!やあっ!」
 夏美ちゃんの笑顔が脳裏に浮かぶ。それを振り払うように僕は何度も腰を振った。腰と腰がぶつかる柏手のような音が響く。
 「ひぎっ!やあっ!ひっ!きゃあっ!んあっ!」
 子宮の奥をつつくたびに膣がキュッと締め付ける。それがたまらなく気持ちいい。春子の背中に玉のような汗が浮かぶ。僕は激しく春子を責めた。悲鳴のような嬌声を上げる春子。
 僕は春子に覆いかぶさり、耳を甘噛みした。膣がキュッと締め付ける。獣のような体勢で僕は春子を犯し続けた。
 「ひぐっ!すひっ!ひああっ!すひだよっ!ひぎっ!きゃふっ!」
 春子は涙を流しながら体を震わせた。呂律の回らない下で僕を何度も好きだと叫ぶ。
 徐々に射精感が高まる。子宮の入り口を何度もつつく。そのたびに春子は嬌声を上げて体を震わす。
 もうだめだ。僕は限界まで腰を振った。抜かずに春子の一番奥に射精した。
 「あああっ…あつひよっ…んんっ…ひゃひっ…」
 体をよじる春子を押さえつつ僕は何度も精液をはきだした。剛直を抜くと春子の太ももに精液が垂れる。
 僕と春子は絶頂の余韻に肩を震わせた。
 そのままの姿勢で僕たちは荒い息を繰り返した。
 「ねえ…こういちくん…おねえちゃんのこと…好き…?」
 夏美ちゃんの泣いた顔が脳裏に浮かぶ。僕は何も言わなかった。
 春子は体を起して僕を見た。
 「今日は何で優しかったの」
 シロが羨ましいと恥ずかしそうに言う春子の姿が脳裏に浮かぶ。
 「春子が可哀そうだったから」
 春子は寂しそうに笑った。
 「やっぱりお姉ちゃんと幸一君は姉と弟だね」
 そう言って春子は僕にキスした。
 「二人とも馬鹿なとこはそっくりだもん」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 春子は玄関まで送ってくれた。
 僕は春子を見た。寂しそうで泣きそうな表情。
 不思議な気持ちだった。春子を許せないという気持ちは確かにある。それと同じぐらい哀れに感じてしまう。
 「春子」
 僕は春子に声をかけた。春子はびくっと震えた。
 「もうやめようよ。お願いだ」
 春子の目から涙がぽろぽろ落ちる。春子は耳をふさぎ首を横に振った。
 「やだよっ。やだっ」
 頬を伝う涙が地面に落ちる。
 「もう幸一君が私を見てくれないのはやだっ。あんなに寂しい思いをするのはもうやだよっ」
 春子は僕に抱きついた。僕の背中に腕をまわして精いっぱい抱きついてくる。その非力さに悲しくなった。
 「お願い。もうこんな事はやめよう」
 「ひっくっ、いやっ、ぐすっ、いやだよっ」
 僕は春子の背中に腕をまわして抱きしめた。春子の背中はいつの間にこんなに小さくなったのだろう。それとも僕が大きくなっただけなのだろうか。
 「姉さん」
 春子は驚いたように顔を上げた。涙でぬれた顔。
 昔、春子の事をお姉ちゃんと呼んでいた。いや、春子が呼ばせていた。恥ずかしくなってそう呼ばなくなったのは何歳の時だろう。
 「姉さんはずっと僕を助けてくれた。苦しいときも、寂しいときも、嬉しいときも、いつも傍にいてくれた」
 両親が家にいなくて心細いときも、勉強が分からない時も、梓の事で悩んでいる時も春子は助けてくれた。いつも明るい笑顔を向けてくれた。
 涙があふれた。何でこんな事になったのだろう。僕は春子が好きで、春子も僕が好き。その好きの意味が違うだけで、どうしてこんな事になってしまったのだろう。
 「姉さんを嫌う事は出来ないよ。嫌いになってしまうなんて僕は嫌だよ」
 春子は僕の目元にふれてた。白い指が僕の涙をぬぐう。
112三つの鎖 14 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/01/29(金) 23:42:50 ID:sooJAhF2
 「幸一君はおバカさんだよ。お姉ちゃんね、幸一君に嫌われたと思ったのに」
 泣きながら春子は僕の涙を拭く。
 「どうしてこんなお人よしに育っちゃったのかな。お姉ちゃん分からないよ」
 僕は笑った。
 「ずっと姉さんを見て育ったから」
 優しい春子がずっとそばにいてくれたから僕はそう育った。そういう男になった。
 春子の言うとおり僕がお人よしの馬鹿ならば、それは春子も同じ。
 「姉さん。僕たちは血がつながっていなくても姉と弟だよ」
 春子は涙を流しながら僕を見上げた。悲哀に満ちた瞳が僕を見つめる。
 「ずっと姉さんを見て育った。だから分かるよ。姉さんは、本当はこんな事を平気で出来る人じゃないって。姉さんは本当は優しい人だって」
 春子は顔をくしゃくしゃにして涙を流す。
 僕の胸に顔をうずめて春子は声をあげて泣いた。
 「ごめんねっ、こんなお姉ちゃんでごめんねっ、お姉ちゃんねっ、それでもだめなのっ」
 春子は顔を上げ僕にキスした。ふれ合うだけの悲しいキス。
 「幸一君のそばにいたいのっ、幸一君が他の女の子のものになるのがいやなのっ、幸一君を私だけのものにしたいのっ」
 泣き叫びながら春子は僕にしがみついた。僕はその腕を振り払う事は出来なかった。

 この後、僕は涙を流す春子が落ち着くまで傍にいた。
 家に入った時、もうみんな寝ている時間だった。
 僕は梓の部屋の前で立ち尽くした。泣きながら夏美ちゃんにつかみかかる梓の姿が脳裏に浮かんで消える。
 部屋に入ろうとしてやめた。
 夜も遅い。梓はもう寝ているだろう。話は明日にしよう。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 次の日の朝、僕は目覚ましではなく誰かに揺らされて目を覚ました。
 「兄さん。おはよう」
 起したのは梓だった。呆然とする僕に梓はにっこりと笑いかけた。
 今日は僕が料理担当だったけど、梓は手伝ってくれた。昨日の事を感じさせない不自然なほど明るさだった。
 京子さんが出勤する時、僕に声をかけた。
 「梓ちゃんと仲良くね」
 そう言って京子さんは笑った。意味が分からなかった。
 二人で登校する時も梓は明るかった。人目もはばからずに僕の腕に抱きつく。たしなめても笑ってすますだけだった。少し早めに出たおかげで登校している人が少ないのが幸いだった。
 今日は曇っていた。今にも雨が降りそうなどんより雲。
 学校について僕は夏美ちゃんの教室に向かったけど、夏美ちゃんはいなかった。教室で梓と別れ屋上も行ったけどいなかった。
 僕は屋上で立ち尽くし空を見上げた。曇っていて青い空は見えなかった。夏美ちゃんはどこにいるのだろうか。携帯を取り出して電話した。
 『もしもし?』
 電話に出た声は知らない女の人だった。不安に胸がざわめく。
 「加原幸一と申します。失礼ですがどちら様でしょうか」
 『私は夏美の母の中村洋子と申します』
 夏美ちゃんのお母さん。一緒に暮らしていないはず。
 「夏美さんはいらっしゃいますか?」
 『夏美は昨日の夜に救急車で運ばれて今は病院にいます』
 夏美ちゃんのお母さんの声は微かに震えていた。その言葉が意味をもつのに数秒かかった。
 「兄さん」
 突然耳元で囁かれ僕は驚いて振り返った。
 そこには梓が笑って立っていた。
 全く気がつかなかった。
 「どうしたの?」
 梓は不思議そうに僕を見上げて笑った。
 本当に不思議そうに僕を見上げて笑っていた。
 遠くで雷が鳴った。
 雨が降りそうだった。
113三つの鎖 14 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/01/29(金) 23:43:57 ID:sooJAhF2
投下終わりです。
読んでくださった方に感謝いたします。
ありがとうございました。
HPにて登場人物の人気投票を行っていますので、よろしければご協力お願いします。
まとめてDLもできます。よろしければご利用ください。
ただ、最新作はスレにしかありません。ご了承ください。
次の投下は未定です。

ttp://threechain.x.fc2.com/index.html
114名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 23:45:30 ID:9EgbLurD
梓とうとうやりやがったか?

GJ
115名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 23:49:49 ID:/ZkLCBxl
GJ!!!
ガチチョッパネェなアンタ!
マジですげぇ作者だわ。
(毎回楽しく読ませて貰ってます。)

で、次は梓の出番が多いんだよな?な?
なんせ人気投票で1番だからな!
1番だぞっ。ここ重要だからなっ!
116名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 00:23:37 ID:ExYT49aW
GJ!
春子にキュンときてしまった
117名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 00:43:17 ID:VFHqqKT9
GJ!
てか何この波状攻撃
幸一君そろそろ過労死するんじゃないのかww
118名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 00:44:04 ID:VFHqqKT9
sage忘れすまん
興奮しすぎた様だ…ちょっと抜いてくる…
119名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 00:46:12 ID:bqFEvrTv
梓恐ろしいな…
夏美が幸せになることを願うぜ
120名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 00:53:03 ID:U/mo9hyP
あまりにも暇になったのでこっそり書いてみました。
初めての投下ですので、生温かくみてやってくれるとすごく嬉しいです。
タイトルは戻せない欠片です。
では投下します。
121戻せない欠片:2010/01/30(土) 01:00:30 ID:U/mo9hyP
誰も本当の私を見てくれることのない絶望の中


あなたに触れた温かさが、感触が。


私のすべてを狂わせた。


その温かさに触れた私に残されたのは、醜い嫉妬心。


くだらない日常の中で、あなただけが私の光。


だから・・・・・・。


私はあなたの《殻》になる。




-------

朝の眩しい日差しを浴びて、俺は目を覚ました。傍らに置いた時計を横目で見る。
時刻は6:30を指していた。
学校に行くにしては早すぎる時間だった。
1階からは何とも旨そうな味噌汁の香りがする。
『あいつは既に起きているだろう』
布団のぬくもりをおしみつつ起き上がり、顔を洗いに洗面所まで移動した。
『二人で住むには広すぎるよなぁ・・・・・・』
俺は今、妹と二人暮らしをしている。
両親はとうの昔に他界し、俺たちは二人で生きてきた。
洗面所の蛇口を捻ると、俺の後ろから声が聞こえた。
「珍しく朝早いんですね、私が起こしに行く前に起きるなんて」
「何、お前にばかり家事を任せるのもなんだから、朝飯くらい作ろうと思ってさ」
「嘘ですね、兄さんは早起きしても私を手伝ってくれたことはありませんから」
「じゃあ俺に朝飯作ろうとすると台所から追い出すなよ」
「まずくなるからやめてくださいね、それなら食器でも出しておいてください」
「だったら初めから言うなよ……」
しれっとした顔で俺の言葉をいなす、こいつはいい性格してやがる。
顔を洗って顔を拭いたタオルを洗濯機に放り込む。
洗面所を出ようとした時。不意に声をかけられた。
「あ、そういえばすっかり忘れていました」
「ん、何か用事か?」
俺が後ろを振り向くと、すぐ目の前に妹の顔があった。
「おはようございます、兄さん」
俺の妹、白木葵は綺麗な笑顔でそう言った。


122戻せない欠片:2010/01/30(土) 01:07:22 ID:U/mo9hyP
-------

時刻は5:00、学生が起きるには少々早すぎる時間帯だ。
私は態々その時間に目覚ましをかける。
今私がやるべきことは、兄さんに朝ご飯を作る事。
それともう一つ、私は熱い息を吐き出して、2階への階段を上る。
兄さんは6:00までは決して起きることはないと長い間一緒に生活してきた私にはわかっていた。
兄さんの部屋の前に立つと、顔が火照り始めていた。
『ごめんなさい、兄さん』
私は心の中で呟き、扉を開けて素早く中に入る。
窓は開け放たれていて、部屋から兄さんの匂いを感じることはできなかった。
少しだけ残念だったが、落ち込んでいる場合じゃない、私はベッドに近づき、兄さんの顔を覗き込んだ。
ぐっすりと眠っていてとても起きそうにない。
私はそっと兄さんの布団を捲りあげ、隣に寄り添う。
『あったかい・・・・・・』
兄さんは背中を向けている、どんな時も私を守ってくれた大きな背中。
そっと手を触れると、その温かみが私の手に伝わる。
自然と笑いがこぼれてしまう。
暫く兄さんを満喫していると突然兄さんが私のほうを向いた。
私はあわてて飛びのこうとしたが、どうやらただの寝返りだったようだ。
そのせいで、先ほどまで離れていた距離が一気に縮まり、私の顔の目の前に兄さんの顔が来ていた。
後数センチ距離さえあれば唇が重なってしまう距離。
心臓が痛いほど高鳴り、体はどんどん熱を帯びていく。
兄さんは私にとって毒だ、いや、どちらかと言えば麻薬に近い。
おそらく兄さんがいなくなったら、私はどんな手段を使ってでも兄さんを見つけ出すだろう。
横目で時計を確認すると、既に時刻は5:30を指していた。
そろそろ朝食の準備をしなくてはならない。
私がこんなに兄さんに執着する妹だと思われたくないし、やはり世間の目もある。
私は一向に構わないのだが、兄さんが近親相姦者の烙印を押されるのは何にしても避けなければならないからだ。
名残惜しいが、ベッドから這い出し、布団を整えて部屋を出た。
これ以上兄さんの部屋にいると、私の自制が効かなくなってしまうかもしれないからという理由もある。
1階の台所に移動し味噌汁を作っているときに、真上の部屋からごそごそと何かが動くような音がした。
兄さんはそろそろ降りてくるだろう。
兄さんは朝起きたらすぐに洗面所に行くので、私は洗面所に向かう、
やはり洗面所で顔を洗っていた。私は兄さんに声をかけ、他愛無い会話をした。
これだけでも十分私は幸せなのだが、幸せだとさらに欲が出てくる。
兄さんは顔を拭いたタオルを洗濯機に入れて洗面所を後にした。
兄さんが完全に見えなくなったころを見計らい、洗濯機の中を漁る。
あった、さっき使ってたタオル。
私はそれを取り出し、丁寧に畳んで自室にもっていき、かばんに詰め込んだ。
学校でも兄さんの匂いを感じるための大切な日課だ。
そして勉強机の上に飾ってある兄さんの写真を見る、その中には仲睦ましい兄弟が笑顔で写っていた。
私の兄、白木蒼治は照れたような笑顔で笑っていた。


123戻せない欠片:2010/01/30(土) 01:14:19 ID:U/mo9hyP
-------

俺は洗面所から出てから、食卓テーブルにつき、新聞を手にコーヒーを啜っていた。
大きな見出しと共に、大物政治家汚職発覚!などと取り上げられていた。暫くすると葵が入ってきて朝食を盛りつけ始めた。
「何か変わったニュースはありますか?」
葵はを俺の目の前に置いて席に着いた。
「いんや、いつも通りだよ、平和だねぇ」
「私は汚職って結構大きいニュースだと思いますけどね」
そういいつつ俺たちは朝食に手をつける。
程よく塩のきいた塩鮭と出汁が旨い味噌汁、これだけで米がどんどん進む。
何気なくカレンダーを見ると、今日の日付に赤い丸が振ってあるのに気がついた。
今日が何の日なのかすっかり忘れてしまっていたようだ。
「そうだ葵、今日の放課後は時間はあるか?」
葵は箸を止めて俺を見据えた。
「今年もまた行くんですね、わかりました、開けておきますね」
「そうしておいてくれ、これだけはいかないとな」
「でもさっきまで忘れてたんじゃありません?」
にやにやと笑いながら葵は俺を見る。
「んなことないさ、ほら、学校行くぞ」
「どうでもいいんですけど兄さんはそんな恰好で学校に行くんですか?」
そう言われ自分の服装を見ると、まだ寝巻のままだったことに気がついた。
「先に行ってもいいぞ別に、俺は気にしないから」
すると葵の顔からさっきまでの笑顔が消えた。
「ここを片づけておきますから、着替えてきてくださいね」
若干睨まれているのが気になるが、俺は自室に戻って着替えることにした。
カレンダーの赤丸の下には、命日と書かれていた。

-------

兄さんが着替えるため、自室に戻っていた。
私は兄さんの使っていた箸と自分の箸をとる。
そして兄さんの箸をそのまま自分の弁当の箸入れにいれ、かばんにしまう。
私の使っていた箸は、軽く拭きとってから兄さんの箸入れに入れた。
擬似的な間接キス。こんなどうしようもないことに私は喜びを感じる。
こんなことをしているのを兄さんに知られたら、私は何を言われるだろうか。
変態となじられ、軽蔑の目で見られるかもしれない。
だけどそれもなんだかいいような気がしてくる。もっと私を見てくれるなら、どんな風でもいい。
最近自制が効かなくなってきている気がするが、まだ大丈夫。
ふと思いついて、兄さんの弁当箱に私の写真を挟んでおく。
兄さんの恥ずかしがる顔が目に浮かぶ。
今、兄さんは着替えている。今部屋に入っていけば・・・・・・という邪な考えが浮かぶが、どうにか押しとどめた。
今日は母さんと父さんの命日だ、だから放課後、墓参りに行くのだろう。
墓参りはどうでもいいが、せっかく兄さんと二人で出掛けることができるチャンスなのだ。いかないはずがない。
誰の約束よりも兄さんと出掛けるのが大切だから。
兄さんを生んでくれたことには感謝するが、それ以上の感情はない。
私は生まれた時、両腕がなかった。
今は科学や医学の発達によって、私の両腕は本物のように動くけど、同時の私は好奇の目にさらされ続けていた。
実の両親にですら、良い顔はされなかった。
だけど、兄さんは私の《殻》になってくれた。
殻となって私をずっと守ってくれた、あの時の気持ちは今も忘れられない。
だから今の私があるのは兄さんのおかげだ。
多少は私の努力もあったかもしれないが、殆ど兄さんのおかげ。だから今度は私が兄さんを守ってあげる番なのだ。
兄さんのためなら何でもする。それが私の生きている意味だと思っている。
洗いものをすべて済ませて兄さんを待つ、携帯電話で時刻を確認してみると、7:30を指していた。
ちょうどいい時間帯だ。
私は1度自室に戻って、机の上に置いておいたペンダントを身につけ、下の階に下りた。
兄さんが高校の入学祝に買ってくれたペアのペンダント。銀でできていて割れた卵の殻を模している。
兄さんのものと合わせることによって1つの卵になる、私の宝物だ。
私はその殻を弄くりながら兄さんを待った。
124戻せない欠片:2010/01/30(土) 01:20:22 ID:U/mo9hyP
とりあえず以上で投下終了です。
では、失礼します。
125名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 01:28:34 ID:c/L49Q45
GJ!
これからなようなので、続きに期待してます。
にしても、この一週間のうちに新しい作家さんが3人も現れるとは嬉しい限りですな
126名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 02:34:51 ID:3JJWfldq
幸一君、ベッドの中じゃ、某鷹バリだな
127名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 08:39:55 ID:8XX3Oz5L
>>113
GJっす!

うぉぉぉぉぉぉぉぉー!夏美死ぬなー!!!!
エスナ!ケアルガ!エリK(ry

>>124
こちらもGJです。続きを期待してませう〜
128名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 11:05:54 ID:4EqROp/k
面白かった。続きが楽しみです
129名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 11:23:13 ID:6Lrp75nP
>>124
GJ〜!!
続き楽しみです
130sister―下:2010/01/31(日) 00:39:41 ID:Ruw0Ff+d
投下します
今回はエロありですが、何分エロシーンは初めてなので……
書いてみて、短編でやるのは無理があるな、と痛感しました。
所々辻褄が合わなかったり、展開が唐突すぎるかもしれません。ご容赦ください
以下本編
131sister―下:2010/01/31(日) 00:40:11 ID:Ruw0Ff+d
「ん……」
 目を覚ました時、初めに映ったのは石造りの天井だった。
「どこだ、ここ……」
 舌が痺れているようで、上手く呂律が回らない。それに舌だけじゃない。体も痺れていて、重く感じる。
 ――そうだ、俺、教会でマリアと話してて。急に眠くなって。それで、どうなったんだ?
 まだぼんやりと薄く霞がかかった頭のまま、立ち上がろうとして。
 じゃら、と金属の音と共に体を引き戻された。
「へ……」
 間抜けな声が漏れる。
 何故か、頭の上で万歳の格好で揃えられた両腕が、上手く動いてくれない。
 それでも無理やり動かそうとすると、何か固い物が手首を擦りつける。
「痛……」
 どうなっているんだ?
 起き上がって確認する事はおろか、寝転がったまま、頭上に上げられた両腕の様子を窺う事さえできない。
 身動きするたびに、金属音が空々しく部屋に反響する。
 目線だけを動かして、辺りを窺う。
 暗くてよく分からないが、自分が意識を失うまでに居た場所とは全く違う場所の様な気がした。
 聖域とはまた違った、暗さと肌寒さ。天井には電球すらぶら下がっていない。
 手が駄目そうなので、足を動かそうと試みるも、結果は同じ。
 殆ど可動域はなく、直ぐ足首に固い物が食い込む。
 そうこうしているうちに、段々と頭にかかった霞が晴れていき、気付く。
 どうやら俺は、両手両足を、恐らく手錠か何かで拘束されているようだった。
 そしてここは、牢屋……だろうか。
 部屋に一つだけある、ベッド脇の小さな窓は、鉄格子になっていて如何にもという感じだった。
 つまり、自分は両手両足を拘束されて、何処か牢屋らしき所に寝かされているらしい。
 ――何故?
 至極当然の疑問に行きつく。
 しかし、俺はそれに対する答えを持っていない。――本当に?
 雨音がうるさい。思考がうまくまとまらず、直ぐに霧散する。
 頭の中が混乱している。当然だ。自慢じゃないが、今までの人生の中で、拘束されて牢にぶち込まれる様な経験などない。
 大声で誰かを呼びたいが、相変わらず舌が痺れている。
 考えている間も手足を無理に動かそうとしすぎたせいで、手首と足首がジンジンと痛む。
「何なんだよぉ」
 思わず漏らした声には、恐怖と不安ばかりが色濃く。
 余りに唐突で、そして理不尽な展開に、女々しく泣いてしまいそうになる。
 こんな時であっても、大の男がめそめそ涙を流す醜態を晒すなんてまっぴらごめんだった。
 いや、こんな時だからこそ、かもしれない。
 誰か。
 誰か。
 声を出すと泣いてしまいそうで、心の中で祈る。
 誰か助けてくれ。
 その祈りが通じたのかは分からない。
 がちゃ、と微かに戸の開く音がした。
 出来うる限り首を持ち上げ、恐る恐る、僅かな視界を音のした方まで広げる。
 部屋の角の方に誰かが立っていた。
 その誰かは手にランタンを持っており、その小さな、しかし確かな灯りが、その誰かの顔を照らす。
「マリアか……」
「おはようございます、兄様。といっても未だ夜明けではありませんけれど」
 ああ、やっぱり。
 心の奥で、誰かが呟いた。やっぱり、お前か、マリア。
 すとん、と何か附に落ちたような感覚。欠けたパズルのピースが、ピッタリと嵌ったようだ。
 ズクンと痛んだ首に手をやろうとして、矢張り金属音に阻まれる。
 どうやら、マリアに何らかの薬を打たれた後、ここまで運びこまれた様だった。



sister 下編
132sister―下:2010/01/31(日) 00:41:03 ID:Ruw0Ff+d
「どうして」
 俺の力ない問いに、マリアは小首を傾げた。
 俺の問いが全く理解できないという顔。
 恐怖と不安ばかりだった心中に、一筋の怒りが生まれる。
「どうして、こんな事をしたんだ。ここは、何処だよ」
「ここは、教会の一室ですよ。どうしてこんな事をしたか?そんな事決まっています。兄様を私が救って、兄様は私を幸せにする。そのためですよ」
「こんな事をして、俺を救う?お前を幸せにする?そんなこと無理だろ。早くこの手錠を外してくれ」
「手錠を、ですか。そうですね、その態勢のままでは苦しいでしょうから、両手の拘束だけは解いて差し上げます」
 そう言うとマリアは、ゆっくりと俺の元へ歩み寄って来た。
 ランタンを、ベッドのそばにある小さな棚の上に置いて、修道服のポケットから鍵を取り出した。
 僅かな光源に照らされ、鈍く輝く。
 カギを持ったマリアが、俺の頭上に回り込むと、直ぐにカチャリという音がした。
「はい、これで両手の手錠は外れましたよ」
 言われて、両手をゆっくりと顔の前に持ってくる。
 今度は、何の抵抗もなく腕が動いてくれた。
 見てみると、両手首ともうっすらと赤く染まっている。
 そのまま、次は足の拘束を解いてくれるのを待つ。
 しかし、マリアは俺を嬉しそうに見下ろしているばかりで、一向に動こうとしない。
「どうしたんだ?早く足の拘束も解いてくれ」
「何故ですか?」
「何故って……いや、だから、こんなのおかしいだろ」
「おかしい?」
 全く理解できないという顔をするマリア。妹の考えている事、やりたい事が欠片も読みとれない。
 俺は眉を寄せる。
「こんな事しても、俺もお前も幸せになんてなれない。そのくらい分かるだろ?な、早く外してくれ」
 俺は、お前と兄妹として昔みたいに良い関係を築きたいんだよ、と訴える。
 こんな事をされても尚、俺の言葉に偽りはない。
 俺が、今までマリアにしてきた仕打ちを思えば当然の事だ。
 しかし、マリアは首肯しない。
「そんなことはありません。これが、最も幸福になれる方法。いえ、これ以外にはないのですから」
「お前……」
 絶句。
 マリアに俺の言葉は、微塵も届いていない。
 俺とマリア。距離はこんなにも近いのに。手を伸ばせば触れられるくらい、直ぐそこに居るのに。
 二人の間に横たわる壁は、果てしなく高く、そして堅牢だった。
 この壁は、もう壊れる事はないのか。何処にでもいる様な兄妹には、もうなれないのか。
 ――いや、果して俺たちに、一時でも分かり合えた頃などあったのだろうか。
 悶々とした俺の苦悩もどこ吹く風といった体で、マリアは、何やら棚の中をごそごそと漁っている。
 そして、棚の中から取り出した何かを徐に口の中に入れ、棚の上にあったコップに入っている水を含んだ。
 怪訝な視線を送る俺に、目を細めるだけの笑顔を向けながら、俺の足元へと回りこんでくる。
 そして、あろうことか、俺の下半身に跨るようにしてベッドの上に乗りこんできた。
 ギシ、とスプリングが、小さな悲鳴をあげた。
 マリアが何をするつもりなのか、理解しようと頭をフル回転させる俺をよそに、マリアが体をこちらに向かってゆっくりと倒してくる。
「な――」
 声を上げるのも束の間。
 俺とマリアの唇が重なる。同時に、丁度声を上げるために開いていた口の中に、マリアの口から少量の液体が流れ込んでくる。
 マリアの口の中で温められた水。
 ああ、生温いな。とぼんやりと思う。
 ごくり、と喉を鳴らしながら、水を飲み込む。その時になって漸く、酷く喉が渇いていた自分に気付いた。
 はりついていた喉が、ベりべりと剥がれていく。
 飲みきれなかった唾液混じりの水が、俺の頬を伝う。
 まだ足りない。喉を潤すべく、マリアの口の中から積極的に吸う。
 じゅるじゅると淫猥な水音が、どちらともなく溢れ出る。
 既に水は残っておらず、代わりにマリアの唾液が流れ込んできた。それさえも、今の俺には甘露のようだった。
 数秒の時を置いて、マリアが顔を上げた。
 ぷは、と息を吐き、呼吸を整えながら俺を見下ろして、妖艶に口を歪める。
133sister―下:2010/01/31(日) 00:44:07 ID:Ruw0Ff+d
「ふふ、喉が渇いていたみたいですね。もっと欲しいですか?」
「……普通にくれ」
 ある程度喉が潤ったことで正気に戻り、羞恥と後悔の念が襲ってくる。
 幾ら喉が渇いていたとはいえ、今のはやり過ぎた。
 自責に顔を歪めながら、自分で棚の上にあるコップを取るために体を起こそうとする。
 今まで気づいていなかったが、手の拘束がなくなった今、上半身を起こす事は出来る。
 まだ、両足の拘束が残っているので、立ち上がる事は出来ないけれど。
 マリアは、片手で俺の肩を、やんわりとけれど強い力で抑え、起き上がろうとする俺を押しとどめた。
 普段の俺ならば、女一人、それも片手一本分の力くらい押し返せそうなものだが、あっさり抑え込まれてしまった。
 まだ、体の痺れが抜けきっていない。マリアは一体どんな薬を俺に打ったのだろう。今更不安になる。
 マリアが、俺を抑えていない方の手を棚の上に伸ばし、コップを掴んだ。
 そしてまた、口に含み――
「――ん」
「んぐっ!?」
 再度の口付け。今度は拒もうとするも、舌でこじ開けられる。
 ぴちゃぴちゃと、水音がなる。
 二人の呼吸が、次第に荒くなってくる。
 水がなくなれば、唾液を啜り。
 唾液がなくなれば、またコップの水が、マリアの口を介して流し込まれる。
 それを何度か繰り返すうち、喉の渇きは潤った。
 しかし、次第に、体の奥から熱い何かがこみ上げてくる感覚が、強くなり始めた。
 まるで、水を湛えた器の中に、限界まで熱した岩石を放り込んだかのようだ。一瞬で臨界を突破した。
 下半身にドクドクト血が流れ、ペニスが痛いくらいに天を衝いている。
 頭がチカチカする。キスを終えても尚、呼吸が治まらず、寧ろ時を追うごとに荒くなっていく。
 異常なまでに、性欲が膨れ上がっていく。ぐつぐつとマグマが煮えたぎっている。
 頭の中で、何度も何度も精を放つ光景がリフレインする。
 その性欲のはけ口の相手は、決まってマリアだった。その事に罪悪感や、自己嫌悪を感じる余裕もない。
 気を抜けば、今にもマリアに腕を伸ばしてしまいそうだった。
 熱い、熱い、熱い!
 体が燃え盛らんばかりに、熱を帯びている。汗がじんわりと吹き出てくる。
 潤ったばかりの喉が、急速に渇き始めた。けれど、分かる。欲しいのは、水じゃない。
 この渇きを潤せるのは、今はマリアの躰のみ。あの、甘露の様なマリアの唾液が恋しい。
「マ、リア……」
 喉の奥からこぼれ出た声は、最早、妹の名を呼ぶものではない。
 その響きにマリアも気付いたのか、恍惚とした表情で、小さく体を震わせた。
 その拍子に、微かにマリアの身体が俺のペニスに当たる。それだけで、ビクンと悶える。
「あらあら、兄様、もしかして妹に発情しているのですか?さっきまで、兄妹として、何て言っていたのに」
 面白がるような声色で嘲るマリアの声も、今の俺には届かない。
 俺の上に跨る女を押し倒して、その体を貪ってしまいたい。ただ、その一心に駆られる。
 男としての本能が、女を求めてやまない。
 けれど、その獣のごとき意思に反し体は以前痺れて重く、マリアに抑えられているだけで身動きする事が出来ない。
 俺の中に残った僅かばかりの理性が、この異常な感情に事態を悟る。
「……何をした、マリア」
「あら、気付きましたか?まだ、理性は残っているみたいですね」
 マリアは、あくまでも飄々と、
「ちょっとした媚薬ですよ。効果に若干の不安はあったのですけれど、この分なら十分すぎる様ですね」
「媚薬……お前、そんなもの」
 俺を眠らせるときに使った怪しげな薬といい、一体どこから手に入れてくるのか。
「ちょっとした伝手があるんですよ」
「伝手?」
「ええ。でも、そんな事、今は関係ないでしょう?」
134sister―下:2010/01/31(日) 00:44:48 ID:Ruw0Ff+d
 マリアが、そっと俺の下半身へと手を伸ばしてくる。
 ズボン越しにペニスに触れてくる。う、と声が漏れた。可愛い、とマリアが俺を見下ろしながら呟く。
 器用な手つきで、マリアが片手でベルトを緩め、ホックとチャックを下ろし、ズボンとパンツをずらした。
 枷を外れて勢いよく飛び出したペニスが、俺の腹にベチンと当たる。
 ペニスは、かつてないほどに昂ぶり、屹立していた。
「兄様の、凄く元気ですね。それに凄く、熱い」
 マリアが、嗤う。まるで子供のような、無邪気な笑み。
 遠くで、雨音がする。遠雷。耳鳴りがする。何処かで獣が吠えている。
 マリアの白魚の様な柔らかい手が、俺のペニスに触れた。
 熱した棒の様なペニスに、ひんやりとしたマリアの手が心地よい。それだけで、射精してしまいそうになる。
 マリアが手を上下に動かし、扱き始める。
 酷くゆっくりとした動作。もどかしい気持ちに駆られる。
 SEXを愉しむなんてどうでもいい。相手が妹かどうかなんて、もっとどうでもいい。
 早く、このドロドロと溜まった熱を放出してしまいたかった。
「ふふ、兄様、物足らない顔してます」
「く……」
 苦悶に顔をゆがめる俺を弄ぶかのように、マリアの手付きが更にゆっくりとなる。
 マリアの手が竿を撫でまわし、玉袋を軽く揉んでくる。
 そして、もう一方の手でロングスカートを捲りあげ、口で裾をかむ。
 それから、スカートを掴んでいた手を、自らの下半身へと忍びこませ自分を慰める。
 今まで、パンツを脱ぐ動作もなかったのに、視界にちらちらとマリアのアンダーヘアが見える。
 元々パンツを履いていなかったという事は、初めからこうするつもりだったのだろう。
 マリアのは、そこの毛まで金髪なんだな。心の片隅でぼんやり思う。
 ほんの数秒後には、マリアの下半身から、くちゅくちゅと卑猥な音が聞こえ出した。
 マリアのヴァギナから、半透明の液体が溢れ出し、カンテラの明かりに淡く煌めく。
 艶めかしい形をしたマリアの其処に、視線が釘づけになる。
 ごくり、と思わず唾を飲み込んだ。
 入れたい。強く思う。
 目の前にある肉壺に、いきり立った肉棒を思いっきり突き立てたい。
 ただそれのみに思いを囚われて、それ以外の事を考えられなくなる。
 挿入した時の快感を想像して、ペニスがビクンと跳ねた。
 マリアの笑い声が聞こえた。
 見上げると、目を細めたマリアが挑発的な表情で見下ろしてくる。
 ヴァギナを弄っていた手を、自らの口元に持ってくる。
 てらてらと光る銀色の橋の架かった指を、ちゅぷ、とねぶりまわす。
 兄様。
 マリアが詠う。俺を誘う食虫花の様な笑みで。
「私に挿入れたいんでしょう?」
「あ……」
 考える間もなく直ぐに頷いた。俺たちの関係?そんなもの関係ない。
 俺とマリアは、男と女。ただそれだけで十分だ。
 それ以外の関係など、一体どれだけの意味があろうか。
「それなら、契約をしましょう?」
 ぴん、とマリアがペニスを指ではじいた。
 その拍子に、溜まり切った白濁が零れ出そうになるが、その瞬間に、ぎゅっとペニスを強く握られ、射精を無理やり止められた。
 う、と苦悶の声が漏れる。
「そんな不満そうな顔しないでください。ちゃんと気持ちよくして差し上げますよ、契約を結んでくれたら、ですが」
「けいやく?」
「そう、契約です。これから先、兄様は私だけのモノになってもらいます。代わりに私は、兄様を天国へ連れていって差し上げます」
「てん……」
「どうしますか?」
 考える間も与えず、マリアが畳みかけてくる。
 最も、いくら時間があったとして、今の状態の俺の状態では何の意味もなかったであろうが。
 事実、俺は深く考えることなく、大きく頷いた。
 すると、マリアが嬉しそうな顔をする。
135名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 00:45:17 ID:T9F4G189
>>113
はるこーーーー!!可愛いーー!
なつみーーーー!!死ぬなーーー!!!

>>124
妹さん変態すぎる…
136sister―下:2010/01/31(日) 00:45:56 ID:Ruw0Ff+d
「それなら……」
 そう言って、マリアが口をもごもごさせる。
 暫くして、マリアの顔が苦悶に歪んだ。
 不安になって見上げる俺に対して、無理やり顔を歪めて不自然な笑みの形を作った。
 だいじょうぶですよ、と口の動きで伝えてくる。
 そして、徐に体を屈め、唇を押しつけてきた。
 俺は、抵抗もなくその唇を受け入れる。
 マリアが、口の中に溜めた唾液を流し込んできた。
 その唾液は、鉄っぽい味がする。唾液にはマリアの血が混じっていたのである。
 不意にマリアが、俺の舌を捉え、噛みついた。
「――っ!」
 鋭い痛みに、ぶわと涙が溢れ出る。
「ず、じゅっ、ずずずっ!」
 舌から滲み出した血を、マリアが器用に啜る。
 コクコク、と喉の鳴る音が聞こえる。
 俺も、マリアの血を飲む。
 血を交わし合う。まるで、悪魔を呼びだす儀式にも似た契約だった。
 数分、否、数十秒にも満たなかっただろうか。
 マリアが体を起こす。二人の間を透明な糸が繋ぎ、あっという間に切れる。
「契約完了、ですね。ふふ、これで兄様は私だけのモノです」
 マリアがぺろ、と唇を舐める。その舌は、鮮血に赤く染まっている。
「それじゃあ、兄様に御望みのモノを差し上げます」
 そう言って、マリアがスカートの裾を再び噛んで、ヴァギナを見せ付けるように腰を浮かせた。
 俺のペニスを片手で固定して、ぴと、とヴァギナを当ててくる。
 我慢できず、俺は腰を浮かせて自ら挿入しようとするも、上手くいかない。
 マリアが焦らすように、ゆっくりと腰を下ろし始める。
「んっ―――!」
 マリアが顔を顰める。
 十分に濡れているとは言え、マリアの中は狭い。
 めりめりとマリアの中を裂きながら、肉棒が突き進む。
 ある程度進むと、何か抵抗を感じた。
 そこで、マリアが躊躇うように腰の動きを止めた。
 快感をお預けにされた俺は、その抵抗が何なのか考えることなく、更なる快感を得るために、腰を上げてマリアを貫いた。
「む、んんんんっぐ――――!!」
 マリアが叫ぶ。けれど、スカートを銜えたままなので、上手く声になっていない。
 俺の目が、マリアの秘唇から流れ出る赤いものを捉えた。
 けれど、俺の思考回路は既に焼き切れている。 
 体は重いが、快感を求めるために精一杯腰を上下させる。
 気持ちいい。
 マリアのヴァギナは、今まで肉体関係を持った女の中でも、一番の名器だった。
 体の相性がいいのかもしれない。
 ぎちぎちに締まった膣壁が、ペニスから精液を一心に吸い上げてくる。
 その痛みさえも、今の俺には快感をもたらす要因だった。
 一瞬で快感の虜になった俺は、夢中でピストン運動を繰り返す。
 淫らな音が、牢屋に響く。
 ギシギシとベッドが軋む。
 マリアの膣壁が、まるで生きているかのように収縮しながら、ペニスを扱いてくる。
 その凶悪なまでの悦楽に、直ぐに射精感がこみ上げる。
「ふぐ、ふ、ふふふ」
 マリアが笑っている。
 肉棒で体を貫かれ、磔にされながらも、聖女は笑う。
 つ、と聖女は、両目から一筋の涙を零す。
 無意識に手を伸ばし、その涙をぬぐう。
 マリアがその手を掴み、愛おしそうに頬ずりをする。
 ひときわ強い力で、マリアのヴァギナが締まる。
137sister―下:2010/01/31(日) 00:46:21 ID:Ruw0Ff+d
 頭の中で花火が弾けた。
 白濁をマリアの子宮めがけて、吐きだす。
 射精が止まらない。
 袋がパンパンになるくらいに詰まっていた精液が、全て無くなってしまうんじゃなかろうか。
 射精しながらも、ピストンは止めない。
「ん、ん、んぁあああ!」 
 マリアが絶頂に上った。初めてなのに、それだけマリアにとっても俺のペニスは相性が抜群だったのだろう。
 ぱさ、とマリアの口から、スカートが零れ落ちる。
 くて、とマリアが倒れこんできた。
「あ、あ、俺は、おれは……」
 そこに来て、ようやく事態を理解する。
 マリアの、妹の処女を奪い、あろうことか膣内で射精してしまった。
 兄として、いや、人としてやってはいけない罪を犯した。
「ふ、ふふ、兄様は私の処女を奪ったのですよ」
 マリアが、俺に罪の意識を植え付けてくる。
 それは、俺の中に驚くほどあっさり根付いていく。
 マリアに媚薬を飲まされてから、脳が溶けてしまったかのようで、思考力が格段に落ちていた。
 もしかすると、マリアが俺に飲ませたものは、媚薬だけではないのかもしれない。
 はあ、はあ、とお互いの荒い呼吸が部屋に満ちる。その合間を縫って、鳥の鳴き声が聞こえた。
 窓の外へ目をやる。
 雲の切れ間から、陽の光が筋状に射しこんでいる。天使の梯子だ。
 いつの間にか夜が明けていた。
 マリアはここを天国だと言った。けれど、ここに天へと昇るための階梯が架かるのならば。
 ――此処は、天国ではなくて、地獄なのではないか。
 じゃら、と足を繋がれた鎖が音を立てる。此処に縛りつけられた俺は、あの梯子を登る事は出来ない。
「愛してます、兄様」 
 肩で息をしながら、マリアが俺の胸元でささやく。
 そ、と俺の胸をしっとりとした手で撫でながら。
「兄様は、どうですか」
 私を愛してくれますか。マリアの声が不安げなものに変わる。
「愛しているよ、マリア」
 半ば無意識に言葉が溢れた。理性が焼け切れた今、俺の中には圧倒的な本能と理性の残り滓のみが残っている。
 そして、俺の獣並みの本能は、性欲の捌け口として至高の存在であるマリアの虜となっていた。
 もう、俺は梯子を登れない、登れないのだ。
 ぶるる、と小刻みマリアが震えた。ああ、と感嘆の声を上げながら。
 再びマリアの頬を涙が伝う。それを、矢張り指で掬う。
 何とはなしに、それを自らの口へ運ぶ。聖女の涙はしょっぱくて、びりりと脳を痺れさせる。
 マリアが俺の首に手をまわしてくる。
 誘われるように、俺もマリアの背に手をまわし、強く抱きしめた。
 当たり前のように、口付けを交わす。
 長い、長いキス。
 ぷは、とマリアが妖艶に息を吐いた。
 兄様。
 マリアが、俺の胸に手を付いて体を起し、見下ろしてくる。
「兄様、これからは、私以外の誰も見ないで、私だけを幸せにしてくださいね」
 そして、また二人、唇を預け合う。
 蕩ける様な熱を持った舌を絡めながら、濃厚な夏の匂いを嗅いだ。
138sister―下:2010/01/31(日) 00:46:57 ID:Ruw0Ff+d
以上です
スレ消化失礼しました
139名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 00:50:29 ID:T9F4G189
>>138
GJ!
途中にレスしてしまったorz
サーセン
次があれば楽しみにしてます!
140名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 01:26:22 ID:/FmiPR90
>>138
GJです!
141名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 01:47:53 ID:KkQ7/vQH
>>138
GJっす!
142名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 04:34:56 ID:mdUqnOVU
とても面白くえろかった。
143名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 11:04:41 ID:GfKGse6Z
>>138
GJです

雰囲気がジャンヌのあれだったのは、偶然ですかね?
144名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 15:05:45 ID:arKeq5UN
>>138
素晴らしく、そして激しくエロかった


>>143
>>88
145名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 15:11:27 ID:arKeq5UN
woo…
146名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 18:01:06 ID:y9LBuReH
濃い 主に ある
147名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 20:31:53 ID:QUxldlmr
職人の皆様GJです!!!
マリアエロ可愛いよマリア。こんな妹最高じゃないですか。
148名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 20:55:54 ID:x4YjEqSZ
>>138
GJ!
やべえ、俺ジャンヌのファンでsisterも好きだが
sisterって教会のシスターってゆう意見と妹だってゆう意見があって
俺は妹のほうだと思ってたが
まさか妹が教会のシスターだとわ盲点だったわwww
149名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 21:32:11 ID:nGxlFPoq
>>148はおまえまじすれちなんですけどしねかすあげ
150名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 22:25:21 ID:cYMGrLdo
>>138
GJ

>>135
そぉい
151名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 00:58:12 ID:ZUeIdMh9
三つの鎖を読んで気がついたけど、幸一やりすぎだろ

朝:夏美
昼:春子(お尻)
夜:春子(2回)
152名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 07:10:37 ID:hHpzm9bW
体力万全の高校生+人間精神的に追いつめられると性欲が
精力悪用?
153名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 08:05:03 ID:MvP173gR
これからは梓の時代になるのかのう…
まさに天下布武の妹よ。
154名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 08:28:26 ID:QeCihKvi
その瞬間、お市の方のキモウト話が頭をよぎった
155名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 09:33:44 ID:SVuq+V7o
>>151
その三人相手なら俺もそのくらいはできる自信はある
156名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 15:43:20 ID:IUieavw2
三人?
157名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 17:44:03 ID:2rbJpoWD
>>156
幸一を含めてだろ
158名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 18:27:10 ID:0p/HtFkB
>>152
さらに体育会系で格技系だからな
まだ余力が残ってるんじゃないかと思う(性的な意味で)

>>154
お兄ちゃんがキモウト以上にマッドネスなので妹とか嫁とか泥棒猫とか入る隙間のない話になっちゃう!
159名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 18:35:50 ID:lLbVJ8SG
規制
160名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 18:36:42 ID:DUROg4wN
はは
161名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 20:24:27 ID:tWPRvKVd
wikiの正反対な兄妹 第2話 ってどういうこと?期待して開いたら(ry
162sister―下:2010/02/01(月) 20:47:21 ID:Z8McjT/F
掲示板見た感じ、その作品の作家さんがいじったぽいね
wiki編集の練習みたいな感じかな?
163sister―下:2010/02/01(月) 20:52:30 ID:Z8McjT/F
掲示板見た感じ、その作品の作家さんがいじったぽいね
wiki編集の練習みたいな感じかな?
164名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 21:03:03 ID:Mnam4PQo
>>163
名前w
165名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 21:18:29 ID:Z8McjT/F
ぎゃあ、連続投稿に名前……本当すみません
半年ROMっときます
166名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 21:57:58 ID:IwS469A0
いや、あんたみたいな書き手にROMられたら困るって
167名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 22:21:27 ID:yi5tkJN8
>>165
SSを要求する
168名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 22:59:12 ID:RbORHTxt
さあ投下するんだ
169 ◆cW8I9jdrzY :2010/02/02(火) 01:07:02 ID:PENkACaa
前スレの続きを投下します。
SSの属性は以下となります。苦手な方はNGを。

■双子の兄妹、修羅場控え目、流血なし
 エロ有り(今回は無し)、タロット占い、キャラ多め
170水野兄妹観察日記・6(1/8) ◆cW8I9jdrzY :2010/02/02(火) 01:08:59 ID:PENkACaa
高熱を出して寝込んでいた啓一が、再び登校できるようになったのは、二日後のことだった。
元々の体力に加え、恵の懸命な看病もあって、何とか外出できるくらいに回復した。
まだ少し顔色が悪いが、足取りがふらつくことはない。
恵は時々不安な表情を見せながら、朝、啓一の教室まで付き添ってやった。
親しい友人たちが、早速そんな二人を見つけて集まってくる。
無論、その中には彼を待ち構えていたヒカルの姿もあった。
ヒカルは啓一が欠席している間、何度も見舞いのメールを送りつけており、
今も元気になった啓一の姿を前にして、我がことのように喜んでいた。
「啓一センパイ、治ったんですね! よかったあ」
「心配かけたね、ヒカルちゃん。でも、もう大丈夫だから」
啓一が笑って言うと、ヒカルは頬を朱に染めてはにかんだ。
ヒカルは根が真っ直ぐで素直な、悪く言えば単純な娘だ。
「妄想癖と暴走癖がなければいい子」というのは友人の夏樹の弁であるが、
このときもヒカルは啓一以外の全員を自己の認識から排除し、完全に浮ついていた。
その様子を横で見ていた恵は何も言わなかったが、一瞬だけ疲れたような表情を浮かべると、
小さく嘆息した。「悪い子じゃないけど扱いに困る」とでも言いたげだった。

友人たちが啓一の机を囲んで談笑していると、不意にヒカルが大声をあげた。
「そうだっ! センパイ、パーティしましょう! パーティ!」
「え?」突然のことに、啓一の口から間の抜けた声が出た。
「快気祝いってやつです。もう十二月で、世の中忘年会とかクリスマスとかで
 盛り上がってるわけですから、あたしたちもパーっとやりましょう!」
そのヒカルの言葉に真っ先に反応したのは、真理奈だった。
「いいわね。その話、あたしも乗ったげるわ。快気祝いとかどうでもいいけど、
 集まってワイワイやるのは好きだもん」真理奈らしい言い方だ。
啓一は顎に手を当てて考え込んだ。
「うーん、快気祝いか。でもなあ……」
ヒカルの好意はありがたかったが、たかが風邪が治ったくらいで
いちいちパーティを開くのも大げさに思う。
啓一がそう口にすると、ヒカルは彼の机を両手で叩いて力説した。
「何言ってるんですか! 皆センパイのこと心配してたんですよ !?
 お祝いするくらい、当たり前じゃないですかっ! 遠慮しないで下さいっ!」
「そうよそうよ。あんたの風邪とかどうでもいいけど、
 何か口実を作ってドンチャン騒ぎするのは酒飲みの基本じゃないの」
「……加藤さん、私たち未成年でしょ?」
恵は真理奈の言い草に呆れ果てたが、彼女の頭の中では
既に宴会を開くというのが既定事項になっているようだった。
さらにその場にいた他の友人たち、祐介や瑞希も控えめながら賛意を示したこともあり、
後日、正式に、啓一の復調を祝ってささやかなパーティが開かれることになった。
171水野兄妹観察日記・6(2/8) ◆cW8I9jdrzY :2010/02/02(火) 01:09:40 ID:PENkACaa
一番喜んだのは啓一でも恵でもなく、言いだしっぺのヒカルである。
また、真理奈もヒカルに負けないくらいに上機嫌だった。
普段からかしましい真理奈だが、何かイベントがあるといっそうやる気が出るらしく、
周囲によく響くかん高い声で、啓一と恵に向かって言った。
「じゃあ飲み会の場所とか予定の管理は水野兄妹、あんたたちに任せたわ。
 年末なんだし、試験もあるし、みんな忙しい時期なんだから、
 ちゃんと全員の都合を聞いて、文句出ないようにすんのよ」
腰に手を当て、半ば命令口調で言ってくる真理奈に、兄妹は顔を見合わせた。
てっきり、やる気満々の真理奈が仕切ると思っていたのだが、彼女は、
「だってめんどくさいじゃん。計画立てたり調整したりの裏方作業は
 優等生のあんたたち向きなんだから、サボらずきっちりやんのよ」
と笑って、それが当たり前のように二人を指差した。
「大丈夫大丈夫、美味しいもん食べて、適当に騒げたらそれでいいから。
 あと、あんまりお金かかんないとこがいいわねー」
勝手な注文をつける真理奈は、完全に人任せの様子だった。
「というか、俺の快気祝いじゃないのか……。なんで俺が仕切るんだ……?」
啓一はぼやいたが、真理奈は聞きもしない。
代わりに彼を慰めたのはヒカルである。
「センパイ、あたしでよければ手伝います。何でも言いつけて下さい」
「ありがとう、ヒカルちゃん」
啓一は微笑んでうなずき返したが、内心では、きっとヒカルちゃんには
何をしてもらうこともないんだろうな、などと冷めたことを考えてしまった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

その次の土曜日の晩、宣言通り、啓一の自宅で彼の快気祝いが開かれた。
年末で試験前でもあり、なかなか皆の都合が合わなかったことと、
飲み食いにちょうどいい店が確保できなかったことから、
両親が留守にしたときに許可をもらい、家でのパーティとなったわけである。
おかげで料理や菓子を用意するのも家主である啓一と恵の仕事となってしまい、
その買い物やら調理やらで、二人にとってはますます手間がかかる事態となった。
「まあ、でもいいじゃない。あんたたちがご飯作ってくれたら安くてお手軽だし、
 それにあんたの家なら、お店と違ってお酒飲んでも文句言われないしねー」
というのは、フライパン一つ握ったことのない真理奈の発言だ。
諦めの境地に達した啓一はそれを聞いても、ため息を一つついただけだった。
「当たり前だけど、経費は割り勘だよ」
「それくらい別にいいわよ。料理するのあたしじゃないしー。
 あ、何これ !? ビールもチューハイもないじゃん! もう、買っといてよ!」
当日の夕方、テーブルの上に置かれたスーパーの袋をガサガサあさりながら、
そう言って口を尖らせる真理奈には、遠慮の欠片も見受けられなかった。
「勘弁してよ、高校生がアルコール買っていいわけないでしょ……」
「ちっ、気のきかないやつね。これだから優等生は」
真理奈は舌打ちすると、別室にいた祐介に声をかけ、
コンビニまで走って飲料を買ってくるよう申しつけた。
「ざけんな、なんで俺が。しかも酒かよ」予想通り、祐介は反発した。
「だってあんた、すごい暇そうじゃん。
 せっかく仕事あげようって言ってんのに、文句あんの?」
「お前の方が暇だろうが。何もしねえ役立たずの分際で」
「なにぃっ !? あんた、中川のくせに生意気っ!」
激しい言い争いの末、結局ジャンケンで敗北した祐介が
飲み物の買出しに行かされることになり、彼は不満たらたらの様子で部屋を出て行った。
172水野兄妹観察日記・6(3/8) ◆cW8I9jdrzY :2010/02/02(火) 01:10:22 ID:PENkACaa
その頃ヒカルはキッチンで、料理の下ごしらえをする恵と瑞希を手伝っていた。
手伝うといっても、不器用なヒカルが必要とされる場面はあまりない。
せいぜい湯が沸くのを見張ったり、食器を取ってきたりするくらいだ。
ヒカルのそばでは恵と瑞希がエプロンをつけ、楽しそうに話していた。
「この牡蠣、フライにするけどいいよね」
「うん。あ、焼きそばに卵、使っていい? オム焼きそば」
「いいんじゃない? でも今日のメニュー、ちょっとカロリーが気になるわね」
揚げ物の用意をしながら、恵が微笑む。
それからはヒカルが手伝うようなところは特になく、
手持ち無沙汰になってしまったヒカルは、ふと啓一の様子が気になってその場を離れた。
すると向こうの部屋から、いつものことながらよく響く真理奈の大声が聞こえてきて、
ヒカルは思わずびくりと身を竦ませた。
「うおあー! 何じゃそりゃ、マジムカツクっ !!」
「……真理奈センパイ?」

真理奈がいたのは、八畳ほどの広さの、ごく平凡な和室だった。
黒塗りのタンスに、同じく黒いちゃぶ台が中央に置かれている。
真理奈はちゃぶ台の前に足を崩して座り込んでいた。どうやら正座はできないようだ。
部屋の隅では啓一があぐらをかいて、喚く真理奈を困った顔で見つめていた。
その真理奈の向かいには、ヒカルが見たことのない少年がいて、にこにこ顔で座っていた。
「あはは、残念だったね。まあ、こういうこともあるさ」
「ちょっと待ってよ! 今の無し! やり直しよ、やり直し!」真理奈が抗議する。
「いやあ、そんなこと言われても、こういうのはやり直しがきかないものだから。
 これからどんなに嫌なことが起きても前向きに受け止めて、諦めずに頑張ってほしいね」
「くそ、綺麗にまとめやがってぇ! あんた最っ低! こんなの二度とやらないからねっ!」
ちゃぶ台の上には長方形のシートと、何枚かのカードが置かれていた。
ゲームでもしていたのだろうか。ヒカルが真理奈の背中越しにのぞき込もうとすると、
ヒカルに気づいた真理奈が後ろを振り返り、極めて不機嫌な声をかけてきた。
「ああ、ヒカルじゃない。どしたの」
「い、いえ、センパイの声が聞こえてきたんで、何をしてるのかなーって……」
「ふん、見てわからない? 詐欺師に騙されてたのよ」細い眉がぴくりと跳ねる。
「詐欺師?」
何の話かわからず戸惑うヒカルを尻目に、真理奈は立ち上がった。
男子にも劣らないほどの長身と派手な美貌が合わさって、不思議な貫禄が漂っている。
しかしその口から吐き出されたのは、品のない言葉ばかりだった。
「あー、気分悪い、くそむかつく。しかも中川のやつ、まだ帰ってきてないじゃん。
 トロくさいわねー。あたしのレモンチューハイ、まだあ?」
「加藤さん、ちょっと落ち着いてよ」
「むっきー! 落ち着けなーいっ!」
このままでは真理奈が暴れだすかもしれないと危惧したのか、
啓一は彼女をなだめ、二人で部屋を出て行った。
いかにも気分屋の真理奈らしい行動だが、いったい何があったのだろうか。
ヒカルが呆然としていると、今まで真理奈と話していた少年が、ヒカルに声をかけてきた。
173水野兄妹観察日記・6(4/8) ◆cW8I9jdrzY :2010/02/02(火) 01:11:01 ID:PENkACaa
「やあ、こんにちは」
「あ、こんにちは」
ヒカルは少年の顔を見ながら、戸惑った様子で言った。
自分と同い年くらいの、美しい少年である。啓一も充分に美男子の範疇に含まれるだろうが、
この少年はそんなレベルではなかった。不自然なほどに、顔が整いすぎているのだ。
白い肌には染みやにきび一つなく、美術の教科書に載っているような石像を思わせる。
そのくせ妙に印象が薄く、そこにいる気配があまり感じられない。不思議な少年だった。
少年はヒカルを見て、にっこり笑った。
無邪気な笑顔は、新しい玩具を見つけた子供のように愛らしかった。
「君は真理奈さんの後輩だね。彼女、あの性格だからつき合うの大変でしょ」
「いいや、そうでもないですよ。いつも本音だから、わかりやすくて安心できます」
「そうかい? まあ、そうかもね」
ははは、と少年は爽やかな声で笑った。
その表情、声や仕草の一つ一つが宝石のようなきらめきを持っていた。
この少年がひとたび微笑むと、どんな女でも赤面せずにはいられないだろう。
ヒカルの頬も自然と紅潮して、恥ずかしさから下を向いてしまった。

少年はそんなヒカルを面白そうに見つめ、自己紹介を始めた。
「僕は啓一君や真理奈さんの友達でね。よろしく」
「あたしはヒカル、渡辺ヒカルです。ヒカルって呼んで下さい」
「ヒカルちゃんだね。わかったよ」少年がうなずいた。
「で、真理奈センパイはなんで怒ってたんですか?」
ヒカルの問いに、少年は落ち着いた声で答えた。
「僕は趣味で占いをやってるんだ。タロット占い」
「へえ、タロットですか」
ちゃぶ台の上には紙のシートが広げられ、その中心には二つの正三角形が
上下逆さまに組み合わさった状態で描かれていた。安物に見えるが、きちんとした印刷だった。
たしか六芒星って言うんだっけ、と心の中でつぶやく。
「けっこう本格的ですね」
「そうでもないよ。これで真理奈さんを占ったら、いまいちな結果になっちゃってね。
 おかげで気難しい彼女はプリプリとおかんむり、というわけ」
「そうだったんですか」ヒカルはつい笑ってしまった。

少年は慣れた手つきでカードの束を切りながら、ヒカルに言った。
「どうだい。君も占い、やってみない?」
「え、あたしですか? うーん、どうしよっかな……」
正直に言って、ヒカルはこうしたことにあまり興味はなかった。
テレビや雑誌でよく目にする血液型占いも星座占いも
どうでもよくて、今まで気にしたことがない。
だがこの少年の美しい笑顔を見ていると、ここではっきり断るのもためらわれた。
まさか金は取らないだろうから、暇つぶしの面白半分で占ってもらおうか。
ヒカルはそう思い、少年の申し出にうなずいた。
「じゃあ、お願いします」そう言って、少年の向かいに座り込む。
「OK。何を占いたい?」
「何をって……何をですか?」
初めての体験に、ヒカルは戸惑い気味だった。そのヒカルに、少年が優しく説明する。
「占いをするときは、まず何を占ってほしいのか、最初に明確にしてほしい。
 健康、恋愛、金運、進路……占う対象は色々あるよ」
「じゃあ今回は、恋愛についてお願いします」
「うん、いいよ。そこで質問だけど、今、君に彼氏はいるかい?
 別にいないならいないでいいし、片思いでも構わない」
「え、そんなことまで言わないといけないんですか?」
少年の突っ込んだ内容の質問に、ついつい、顔がまた赤くなってしまう。
「占う内容は具体的な方が、効果があるからね。
 どうしても言いたくないなら、それでもいいけど」
「うーん……」
174水野兄妹観察日記・6(5/8) ◆cW8I9jdrzY :2010/02/02(火) 01:11:33 ID:PENkACaa
ヒカルは上目づかいで少年の美貌を見つめ、考えた。
得体の知れない少年だが、啓一の友人であれば、まあ悪人ではないだろう。
それに絶世の美少年と言っていい外見と穏やかな物腰も、好印象の理由となった。
かなり悩んだ末、ヒカルは正直に相談することにした。
「す、好きな人がいるんですけど……その人とあたしはまだ、ただの友達なんです。
 できればちゃんとおつき合いしたいって思ってはいるんですけど、なかなか難しくて。
 それにその人を好きなのはあたしだけじゃなくって、ライバルもいるみたいです。
 だから、これからあたしがその人とどうなるのか、できたら占ってほしい……かな」
「わかった。じゃあ始めるよ」
軽くうなずき、カードの束を再び切ると、それをヒカルに手渡した。
ヒカルは促されるまま彼と同様にシャッフルして、また返す。
少年はマジシャンを思わせる鮮やかな手つきで、
カードを六芒星の頂点に一枚ずつ、裏向きで並べた。
「この星の形のことをヘキサグラムって言うんだ。ダビデの星とも呼ばれる、有名な図形さ」
「はあ、そうなんですか」
最後に七枚目のカードを中央に置く。これでカードが七枚、出揃った。
「これから、カードを一枚ずつめくっていく。それぞれの位置には意味があって、
 君の過去、現在、未来の内容やこれからの対応策などを示しているんだ」
「はあ、複雑ですねえ」
「そうでもないよ。例えば一枚目……ほら、見て」

少年がめくったカードの表には、中央に描かれた大きな円と、
それを何体かで取り巻いている、鳥だか天使だかよくわからない動物の姿が見て取れた。
もちろん知識の全くないヒカルには、何のカードかさっぱりわからない。
長い指で絵を指差し、少年が簡単に説明する。
「正位置の『運命の輪』だね。運命が人の生き方に強く干渉して、変化させる。
 いい変化のときもあれば、悪い変化のときもある。でも、確実に何かが変わる。
 おそらく君は以前、その人と、何か運命的な出会いをしたんじゃないだろうか」
そう言われて、ヒカルは啓一と初めて出会ったときのことを思い出した。
転んだところを助けてもらうという間抜けな話ではあったが、
確かに運命的な出会いと言えるかもしれない。
「はい、そんな感じでした」
にわかにこの少年がすごい人物のように思えてきて、ヒカルは彼から目が離せなかった。
「じゃあ二枚目、いくよ」
少年は次々にカードをめくっていき、それらの札に記された意味を解説していった。
時々気になることも言われたが、どうやら全体的に好調らしい。
今まで占いなど完全に興味の外だったヒカルだが、良い結果が出て嬉しくないわけがない。
まるで祝福してくれているかのような少年の口ぶりに、
ヒカルは途中から、すっかりいい気になっていた。

そして最後の一枚、六芒星の中央に置かれた七枚目のカードが開かれた。
「さて、最後だ……おやおや、これは」
「何ですか? このカード」ヒカルが訊ねる。
カードには一人の人間が描かれていた。一見すると女性に見える半裸の人間の周囲を、
植物の蔓だろうか、円形の線が取り巻いている。四隅には鳥やライオンの顔があった。
女は踊っているようにも見えるが、不思議と動きが感じられない。奇妙な絵柄だった。
少年は表に向けられたカードを見て、意味ありげな笑みを浮かべた。
「『世界』か。大アルカナの最後に位置するカードさ。
 その意味をひと言で言うと『完結』ってことだね。全てが終わること。恋愛の成就。
 一般的にはいいカードと言えるね。恋愛関係においては、結婚を意味することもある」
「け、結婚っ !?」
突飛な発言に、ヒカルは目を白黒させた。
驚き慌てるヒカルを前に、少年は唇で優美な曲線を描く。
「まあ、そんな意味もあるってことさ。別に君が、今すぐその人と
 結婚するってことじゃない。解釈は人それぞれだしね、こういうのは」
「はあ、そうですか……」
彼の言葉に何とか平静を取り戻したが、なかなか興奮は治まらなかった。
175水野兄妹観察日記・6(6/8) ◆cW8I9jdrzY :2010/02/02(火) 01:12:15 ID:PENkACaa
少年は占いを終えると、カードやシートを片づけ始めた。
「というわけで、役に立ったかな?」
「はい、なんか勇気が出てきました。ホントにありがとうございます」
ヒカルは少年に礼を言って、その場を後にした。
別室では買い物から帰ってきた祐介が真理奈とまた口げんかをしていたので、
ヒカルが仲裁することになった。
機嫌の悪い二人とは対照的に、ヒカルはすこぶる上機嫌だった。


ヒカルが去った後の和室に、占い師の少年が座っていた。
タンスにもたれかかり、何をするでもなく、手に持ったカードを見ながら笑っている。
そのカードは先ほどヒカルを占ったときにめくった最後の一枚、「世界」のカードだった。
「しかし、このカードが出るとはねえ……」
楽しそうに言って、カードを長い指で挟んでもてあそぶ。
「完結、全てが終わること。どうやらあの子の恋も、ここで終わりみたいだね」
さっきと同じ、そして違う意味の言葉を口にする。
少年は耳障りのよい、透き通る声で、誰にともなく話を続けた。
「まあ最初から、君たちの間に割り込めるわけがなかったんだ。
 皆がそれをわかってた。わかってなかったのはあの子だけさ」
顔を上げて、視線の先を目を細めて見やる。
そこにはヒカルの憧れの男、水野啓一が無言で立ち尽くしていた。

啓一をからかうように、少年はにやにや笑って言った。
「でも、今まではっきり断らなかった君も、いけないと思うよ。
 妙な期待を持たせて、結果的にあの子を苦しめることになった」
「……そんなつもりじゃない」
啓一は鼻白んで言い返したが、今は自分が不利であることを認めざるをえなかった。
「ヒカルちゃんのことは好きだ。つき合うことはできないけど、友達としてなら……」
啓一が言うと、少年は彼を小馬鹿にするような表情を浮かべた。
「やれやれ。君は何でもできるけど、そういうところはまるで駄目だねえ。
 世慣れてないというか、甘いというか」
「うるさいな、ほっといてくれ」
機嫌を損ねた啓一にも、少年は涼しい顔だ。
「とにかく、もう時間はないよ。僕がけしかけちゃったから、
 あの子もそろそろ勝負に出てくるはずだ。きちんと答えてやらないと」
「わかってるよ、くそ」
声を荒げる啓一が面白いのか、小さく笑って立ち上がる。
「おやおや、いい匂いがしてきた。これはご飯が楽しみだねえ」
そう言って部屋を出て行く少年を、啓一は苦々しい面持ちで見送ったのだった。
176水野兄妹観察日記・6(7/8) ◆cW8I9jdrzY :2010/02/02(火) 01:12:55 ID:PENkACaa
啓一の快気祝いということで始まったパーティだが、案の定と言うべきだろう、
乾杯が終わった時点で、誰もが啓一の風邪のことなどすっかり忘れ去ってしまい、
ただのどんちゃん騒ぎと化してしまっていた。
一番大はしゃぎしていたのは、これも予想通りと言うべきか、加藤真理奈である。
「ほーっほっほっ! あたしが女王様よ! ひれ伏せ愚民ども!」
俗に「王様ゲーム」と呼ばれる宴席での余興で、真理奈は他のメンバーに命令権を持つ
「王様」役を何度も連続で引き当て、友人たちをもてあそんだ。
きゃしゃで運動音痴の瑞希が腕立て伏せをやらされたり、
無口で無愛想な祐介が服を脱がされ晒し者になったりと、
夜が更けるにつれ、宴会は更なる盛り上がりを見せていった。

皆が真理奈への復讐を誓う中、王様を引き当てたのは、あの占い師の少年だった。
彼はそれまで一度たりとも王様にも罰ゲームの対象にもならず、
ただ横で笑っていただけだったのだが、ついに今回、初めて当たりを引き当てたのだ。
全員が固唾をのんで見守る中、少年は楽しそうに罰ゲームの内容を告げた。
「じゃあそうだね。二番と三番が口づけってことで、よろしく」
「おっ、キスか。いよいよきたわねー」真理奈が笑う。「で、誰と誰?」
ヒカルが手元のくじを確認すると、算用数字ではっきり二と書かれていた。
慌てて抗議しようとした矢先、相手が啓一とわかり、ヒカルは困惑した。
「け――啓一センパイと……?」
「よっしゃあ! ヒカル、遠慮はいらないからブチュッといきなさい、ブチュっと!」
無責任にはやし立てる真理奈の隣で、ヒカルはどうしたものかと困り果てていた。
自分は嬉しいというか、願ったり叶ったりの内容なのだが、啓一の方はどうだろうか。
ひょっとしたら迷惑に思うのではないかと気後れしていると、
その啓一が小さな声でヒカルに訊ねた。
「ヒ、ヒカルちゃん……俺とキスとか、嫌だよね?」
その言葉にヒカルは顔を上げて、啓一を見返した。
頬を染めた啓一の顔には、ヒカルに対する気遣いがはっきりと見て取れた。
「センパイ? そ、そんなこと……」思わず訊ね返すヒカル。
「ごめん、やっぱり他の内容にして――」
「いやいやっ! あ、あたしはオッケーですよ!
 むしろこっちからお願いしますっ! 啓一センパイっ!」
ヒカルはその場で立ち上がると、啓一にすがりついた。

啓一は複雑な表情でヒカルの顔をのぞきこみ、静かに問いかけた。
「……ホントにいいの? ほっぺにちゅっ、とかでよくない?」
「あ、あたしはやっぱり、お口にちゅーしてほしい、です……」
赤い顔で見つめ合う二人を、真理奈が横から煽る。
「ほらほら、何グズグズしてんのよー! さっさとやっちゃいなさい!」
「啓一……」恵が何か言いたげな表情を兄に向けたが、止めることもできない。
とうとう観念した啓一は、ヒカルの肩をぐっと抱き寄せ、目を閉じて唇を合わせた。
「んっ……!」ヒカルが鼻から息を漏らす。
口づけの時間はほんの数秒だったが、ヒカルには長い長い一瞬だった。
出会ったときから憧れ、一途に慕い続けた水野啓一との接吻である。
しかも衆人環視の中でとくれば、興奮しないわけがない。
息を止めて啓一と唇を重ねながら、ヒカルはそっと薄目を開けた。
視界の端には啓一の妹、水野恵の顔があった。
もじもじしてこちらを見つめる恵の姿に、ヒカルはかすかな優越感を覚えた。
恵の前でキスをすることで、彼女から啓一を奪い取ったような気分になったのである。
啓一が離れると、ヒカルは自分の唇をぺろりとなめて、にっこり微笑んだ。
「ありがとうございました、啓一センパイ」
「い、いや――ごめん……」
なぜ謝るのだろう。彼にも喜んでほしいのに。
ヒカルがそう思っていると、次のくじ引きの順番が回ってきた。
またああいう展開になることを心底願いつつ、
ヒカルは細いくじを一本、力を込めて引き抜いた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 
177水野兄妹観察日記・6(8/8) ◆cW8I9jdrzY :2010/02/02(火) 01:13:31 ID:PENkACaa
宴会が終わったのは、十時をかなり回った頃だった。
用心のため、男たちはそれぞれ女性陣を自宅まで送り届けることになり、
ヒカルはあの美貌の少年に連れられて、啓一に別れを告げた。
「センパイ、今日はありがとうございました。楽しかったです」
啓一の快気祝いという名目を完全に忘却したままでヒカルが言うと、
啓一は笑顔と困り顔の中間のような表情を浮かべて、うなずいた。
「気をつけて帰ってね、ヒカルちゃん。また学校で」
「はいっ! おやすみなさーい!」
そうしてヒカルや真理奈たちがその場を後にすると、家には水野兄妹だけが残された。
洗い物やゴミの片づけなど、手伝ってもらった部分もあったのだが、
あれだけの乱痴気騒ぎの後始末である。簡単なことではない。
汚れた食器を流しに運びながら、恵が言った。
「啓一、お疲れ様」からかうような笑みだった。
疲労を声に混ぜて、啓一が答える。
「なんか最近、その言葉ばっかり聞いてる気がするよ」
「そう?」恵がころころ笑う。

啓一は部屋に散らばった菓子の袋や割り箸を拾い集め、ビニール袋に入れていった。
「まあ、あいつに言われたからじゃないけど、確かにそろそろ、何とかしないとな。
 今日のヒカルちゃん、完全に舞い上がってたし」
「でも、いい子よね」恵がつぶやいた。嫉妬も敵意も全くない、静かな声だった。
そのままどちらも何も言わず、黙々と後片づけにいそしんでいたが、
不意に恵が先ほどのゲームに使ったくじを見つけて、啓一に見せつけた。
「ねえ啓一。王様ゲームの続き、やらない? 二人だけで」
悪戯好きの子猫のような恵の表情に、思わず呆れ顔を浮かべる。
「おいおい、俺たちがそれやって、何の意味があるんだよ」
「あら、意外と面白いかもしれないよ? じゃあ最初は、私が王様だからね」
くじを引きもせず、恵がささやいた。「命令よ。抱っこして、キスして」
「…………」

啓一はにこにこ笑う妹を無言で見下ろしていたが、
やがて大きなため息をつくと、大人しくその命令に従った。
貴族の令嬢でも相手にするかのような慎重な仕草で、恵を横抱きで抱え上げ、唇を重ねる。
当然のように口内に侵入してきた舌に、啓一は熱心に自分のを絡めた。
吐息が交わり、唾液が混ざる。ヒカルのときとは違う、深い深い接吻だった。
たっぷりと啓一を貪った恵は、恍惚の表情で口を離し、言った。
「ふふっ、やっぱり啓一ね。言わなくても、キスの仕方まで私の思い通りにしてくれる」
「当たり前だ」瞳に劣情の色を浮かべて、啓一が返す。
「俺はお前の半分なんだから、逆らえるわけないだろ」
恵の体を抱きかかえたまま、ソファに腰を下ろす。
啓一の腕の中で、恵は気持ちよさげに目を細めた。
長い黒髪を撫でてくれるのも、白い腿を揉んでくるのも、兄の全てが心地よい。
「そうだね、啓一は私の半分だもんね。そりゃ逆らえないか」
恵はそう言って笑い、啓一に自分の身を委ねた。
両腕を啓一の首に巻き、幸せそうに微笑んでみせる。
静かに抱擁を交わす二人は、もしもヒカルが見れば嫉妬で狂いそうなほどに、睦まじかった。
178 ◆cW8I9jdrzY :2010/02/02(火) 01:14:30 ID:PENkACaa
以上となります。
もうすぐ終わりますので、もうしばらくおつき合い下さい。
それではこれにて、失礼します。
179名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 07:34:43 ID:4KBhIfuS
一番楽しみにしてたのがきた
最終回が近いのは残念だけど楽しみにしてます
180名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 09:29:54 ID:swsLX+PQ
一見三角関係っぽいのに実は全然違うのが面白いな
なんか二人だけの世界って感じがする
181名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 11:00:08 ID:HlKHIjQq
『泥棒猫』じゃなくて『邪魔者』なのが新しいよな。
182名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 13:26:00 ID:8ZQ2gp1y
5年振りに会った妹が相変わらず駄乳だった
183名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 13:28:01 ID:8ZQ2gp1y
げ、もしもし規制解除されてたのねorz

>>178
GJです、ラストまで楽しみにしてます
184名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 15:53:43 ID:qpirAZHF
みんなGJ!
書き手が増えてて嬉しいね
185名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 23:29:10 ID:mmqj4vG7
GJ
例の御方が茶々入れにきたか、おもすれー
186名無しさん@ピンキー:2010/02/03(水) 01:31:18 ID:nZ24o02P
>>178
GJ
おお、もう直ぐ完結ですか……
結末が楽しみなような、終わるのが寂しい様な複雑な気持ち

そろそろクリスマスだし、甘ーいSS書きたいけれど、
キモ姉・キモウトと姉・妹大好きスレとの境界が難しいですね……
187名無しさん@ピンキー:2010/02/03(水) 01:32:40 ID:X3PmOLH1
なぁ、もののけ姫の序盤の最初の方。
「カヤはいつまでも兄さまを思っております。」
「私もそなたのことを思う」

っていう台詞でもののけキモウト想像したのはいい発想だと思うんだ。
だれか書いてくれないか^^
188名無しさん@ピンキー:2010/02/03(水) 03:30:51 ID:ZbcwTd+f
>>187
野暮なことを言わせてもらえば、あれのやりとりには血縁的な意味は、含まれてはいないんでないかな

昔は親しい男性のことを兄、女性のことを妹と呼称していたようだし
それともあの二人って普通に兄妹だったっけ?
189名無しさん@ピンキー:2010/02/03(水) 03:47:27 ID:X3PmOLH1
>>188
あぁ、いや兄弟じゃないはず。
たぶん呼称みたいなもんだろうとは思うんだけどさ


想像力豊かな私には変態紳士の発想しかできんのです^p^
190名無しさん@ピンキー:2010/02/03(水) 13:56:49 ID:1NPh4br8
今思ったが、泥棒猫を安易に殺すのも考えもの。
兄弟の泥棒猫に対する愛の深さによっては後を追って自殺しちゃうかもよ。
妻を失った夫は6割が3年以内に死ぬらしいからね。
止めようにも首吊りなんかだと足が床についててもできるし十分あれば十分だし。
191名無しさん@ピンキー:2010/02/03(水) 18:10:36 ID:U969itr0
その負のエネルギーを自分に対する精神依存に転換させるのが一流のキモ姉妹
192名無しさん@ピンキー:2010/02/03(水) 19:51:39 ID:CbzAr0q9
パート
193名無しさん@ピンキー:2010/02/03(水) 22:04:14 ID:cdpaiw9V
>>189
カヤから貰った玉の小刀
アシタカは平気でサンに渡してたけど
カヤがキモウトならアシタカは監禁調教されてるレベル
194転生恋生  ◆.mKflUwGZk :2010/02/03(水) 22:28:48 ID:vwQ4uHD4
間隔が空きましたが、今年最初の投下です。7レス消費します。
195転生恋生 第十九幕(1/7)  ◆.mKflUwGZk :2010/02/03(水) 22:29:47 ID:vwQ4uHD4
 連休が終わった。毎年連休明けの登校は気が重いというか、疲れた感じがするが、今年は極めつけだ。
 まずお袋の入退院と俺・姉貴の風邪でちっともレジャー気分に浸れなかった。例年だったら家族でドライブに行くくらいはするはずなのに。
 トドメが昨日の司と姉貴のバトル(?)だ。どういう因縁があるのかは知らないが、あのふたりを対面させてはいけなかったらしい。
 そもそも治りかけだった姉貴がおとなしく寝ていれば顔を合わせずに済んだんだが、俺を心配して玄関先で立ち尽くしていたためにまたぶり返してしまった。
 結局今日も姉貴は欠席だ。
「いいかげんに治さないと困るだろう。今日という今日はおとなしく寝ていろよ」
 登校前に俺が姉貴の枕元に来ると、姉貴は俺の襟首をつかんで、無理矢理自分の方へ引き寄せた。俺と姉貴の額が衝突する。
「痛い!」
「ねぇ、熱があるか測ってぇ」
 姉貴は全く痛みを感じていないらしく甘えた声を出したが、俺からするとヘッドバットを食らったようなものなので、熱を測るどころではなかった。
 それでも言われたとおり額を合わせてみる。まだ少し熱っぽいが、まあ昨日の朝に比べるとマシか。
「だいぶ下がってきたな。とにかくおとなしくしていろ。親父も今日大阪へ帰るし、お袋は病み上がりなんだから、面倒をかけるな」
「たろーちゃん、早く帰ってきてね」
「絶対に表に出るなよ」
 なかなか俺の手を離そうとしない姉貴を「遅刻するから」と説き伏せて、俺は家を出た。このやりとりだけで疲れた。
 昨日はあの後姉貴を寝かしつけたので、結局司とどういうトラブルがあったのか聞き出せなかった。
 まあ、千年前の話はふたりとも口にしていたから、前世の話とすれば辻褄が合うのかもしれない。だけど、そんな話を受け入れるには、俺の頭は健全すぎる。
 でも、司サイドの話も聞いてみるべきだろうか。
 ……いや、あまり建設的な方向には発展しないような気がする。
 それとは別に、雉野先輩の件もある。学校で会ったら、どんな顔をすればいいのかわからない。

 登校して教室に入ると、猿島が既に来ていた。いつものように俺の隣の席で文庫本を読んでいるが、ずいぶんと懐かしい光景のような気がする。
「おはよう」
「おはよう」
 声をかけると猿島も挨拶してくれたが、すぐに読書に戻ってしまう。これもいつもどおりだ。
196転生恋生 第十九幕(2/7)  ◆.mKflUwGZk :2010/02/03(水) 22:30:41 ID:vwQ4uHD4
 午前中の授業が終わると、猿島はすぐにどこかへ行こうとする。いったい、いつもどこに行くんだろう?
「なあ、猿島は昼休み何をしているんだ?」
 今日に限ってそんなことを訊かれることに猿島はちょっと戸惑ったような顔をしたが、あっさり教えてくれた。
「演劇部の部室で皆とお弁当を食べてるだけよ」
 なんだ、そんなことか。
「桃川君はいつも一緒に食べる相手がいるのね」
「え?」
 猿島はそのまま弁当箱を持って、前側の扉から教室を出て行った。そこには既に司が来ていて、猿島と入れ違いに教室の中へ入ってきた。
「センパイ、ご飯食べよ」
 ……猿島も司のことを知っていたのか。いや、ひょっとすると俺が自覚していなかっただけで、知れ渡っているのかもしれない。
 ともあれ、俺は司を連れていつものように校舎裏へ行く。司に訊きたいことは色々あるが、まずは昼飯だ。
 ふたりとも黙って弁当を片付けた。司は今日も多めにおかずを持ってきていて、俺は豚肉の天ぷらを分けてもらった。
 食べ終わると、司がポニーテールを揺らしながら俺にすりよってくる。さて、今日はこれからが本番だ。
「なあ、司。今日は真面目な話をするぞ」
「んー? 何かなぁ」
 司はあぐらをかいている俺の懐に入って、胸に頬をこすりつけている体勢だ。傍から見ると、イチャこいてるカップルそのものだな。
 ちゃんと話すために、俺は司の肩をつかんで、俺の正面に向き直らせた。
「おまえは俺の姉貴と知り合いなのか?」
 司の笑顔が強張った。
「……聞いていないの?」
 姉貴から自分のことを聞いていないのか、という意味だろう。
「あの後、姉貴は風邪がぶり返して寝込んだんだ。だから、休ませるためにも余計なことは聞いていない」
 司は俺の目をじっと見つめている。
「ご主人様は本当に思い出していないの?」
「千年前がどうとかいうやつか?」
「……思い出していないんだね」
 司は怒ったような、泣いているような顔になった。
「ボクはこんなにもご主人様に逢えてうれしさいっぱいなのに、どうしてご主人様は思い出してくれないのさ」
 司のこんな表情は初めて見たので、なんだか罪悪感にかられてきた。とはいえ、前世のことを思い出せと言われても、どうにもならない。
「姉貴は雉野先輩についても、千年前に因縁があるようなことを言っていた。おまえもそうなのか? 雉野先輩とも関係があるのか?」
「前にも言ったと思うけど、ご主人様が自分で思い出さないうちは、ボクから教えてあげても意味ないよ。どうせ信じないんでしょ?」
「……信じないというか、信じられないというべきだろうな」
 というか、司は前世の記憶とやらをどうして信じられるんだろう?
197転生恋生 第十九幕(3/7)  ◆.mKflUwGZk :2010/02/03(水) 22:31:32 ID:vwQ4uHD4
「ねぇ、それよりさ」
 急に司の表情が明るくなった。無理に気分を変えようとしているのだということはすぐにわかる。
「放課後、暇でしょ?」
「え? まあ、それなりに」
「じゃあ、ここで待ち合わせしよう。絶対来てね」
「何かあるのか?」
「そのときまで内緒」
 本当は早く帰って姉貴の看病をするのが正しい家族のあり方なんだろうが、今は司の用に付き合ってやった方がいいような気がした。 

 そして連休明けでいつもより長く感じられた午後の授業が終わり、俺は約束どおり待ち合わせの場所に来た。
 5分くらいしてから、司が現れた。ヘソ出しタンクトップにショートパンツ、スニーカーという、陸上部のユニフォーム姿だった。
「ご主人様、待った?」
「いや、今来たばかりだ」
「じゃあ、ついてきて」
 司は俺の手を取って歩き出した。やっぱり女の子の手だから柔らかい。
 目的地は、学校の敷地の外れにある古びた倉庫だった。司はポケットから鍵を取り出して扉を開けた。なんともいえないすえた匂いが漂ってくる。
「中に入って」
「どこだ? ここは」
「第二体育倉庫だよ」
 古くなった体操マットや体育用具、学校行事のときにしか使わないテントの資材などを保管してある倉庫だ。勝手に入っていいんだろうか。
「大丈夫だよ。ほら、入って」
 司に背中を押されるようにして中へ入ると、床に2枚重ねで敷いてあった古いマットの縁につまづいて、マットの上に転んでしまった。
 あたりが急に暗くなる。司が内側から扉を閉めたせいで、高い位置にある採光窓に光源が限定されたせいだ。
「おい、なんで閉めるんだ?」
「えへへ」
 司は質問には答えずに、俺もろともマットの上に倒れこんできた。ちょうど俺の上に馬乗りになった。
「なんなんだよ、いったい?」
「ご主人様ぁ」
 変に甘ったるい声を出しながら、司が俺の右手をつかむ。そして自分の腹を触らせる。
「おいおい……」
 柔らかくて、すべすべしている。そのまま司の手に誘われて、俺の右手は司の腹から上の方へ滑っていき、タンクトップの内側へ入り込んだ。
198転生恋生 第十九幕(4/7)  ◆.mKflUwGZk :2010/02/03(水) 22:32:42 ID:vwQ4uHD4
 指の先に突起が触れる。それが何かを悟って、俺の顔の表面温度が急上昇した。
「おまえ、ノーブラなのか?」
「だって、ボク、ブラジャーなんかつける必要ないもん」
「それでも乳首が見えるのは女子的にまずいだろ」
 そんなことを言いつつも、俺の手は誘導されるままに司の胸を撫で回している。
 服の上からだとぺったんこに見えるが、ささやかながら柔らかく盛り上がっていて、揉むことはできた。
「んっ……」
 いきなり司の顔が急接近してきたかと思うと、唇が重なった。俺は口を開いていたから、そのまま司の舌が侵入してくるのを防げなかった。
 司の舌が生き物のように俺の口の中で暴れて、歯茎やら頬の内側やらをつつきまわす。
 まるでモールス信号か何かのように、舌の先で口の中をつつかれる度に、司の熱情が伝わってくる。
 そして司の想いで加熱された俺の脳は、あっという間にゆだってしまった。
「……っはぁっ!!」
 司が唇を離してくれたので、俺は大きく息を吸い込んだ。自分が呼吸できないでいたことにも気づかなかった。
「もっとボクに触って」
 司に潤んだ瞳でせがまれて、俺は右手で司の胸を揉みながら、左手を司の腰に回した。腰から尻にかけて撫でて、その柔らかくも張りのある肉感を確かめる。
「気持ちいい……」
 司が俺の耳元で囁いて、俺の首筋に舌を這わせる。電気が走ったような感じがした。
 自分の意思とは無関係に俺の手は夢中で動いている。右手は人差し指と中指で司の左の乳首をはさみ、掌の部分で胸の柔らかい感触を味わう。
 そして俺の左手がショートパンツの上から司の尻の割れ目をなぞり、両足のつけねの間に達すると、司の口から吐息が漏れた。
「ぁぁ……」
 普段の司からは想像もつかないような、切なげで色っぽい吐息だった。思わず司の顔を見直すと、薄闇のせいでいつもよりも大人っぽく見えた。
 不意に司の右手が俺の股間を撫でた。
「うぁっ!」
 今度は俺が声を出す番だった。触られたのは股間なのに、ぞくりとする感触が脊髄を貫くのがわかった。
「硬くなってる……」
 司が通常よりも低い声で呟くと、まるでそれが当然であるかのように俺のファスナーを下ろして、中からカチカチになっているモノを引っ張り出した。
 薄闇の中で輪郭もはっきりしないけど、自分の体の一部が屹立して天井を見上げているのがはっきりとわかる。
199転生恋生 第十九幕(5/7)  ◆.mKflUwGZk :2010/02/03(水) 22:33:24 ID:vwQ4uHD4
「ちょっと待て、こんなところで……」
 白々しくも良識的な言葉が俺の口から出てきた。学校でこんなことをしてはいけないなんて、今の俺は少しも思っていない。
 むしろここまでしてくれる司の気持ちにこたえてやるべきじゃないか。初めて会ったときから俺に気持ちをぶつけてきてくれてるんだから。
 そりゃ、ちょっとアレなところはある電波女だけど、かわいいし、気が利くし、何よりこんなエッチなことをしてくれるじゃないか。
 男としてこたえてやるべきとかいう以前に、とにかくもう我慢できない。ここで止めたら頭がおかしくなってしまう。早く出したい……!
 それなのに、どうして俺の口は心にもないエセまじめなことを言ってしまうんだ!
 頼む、司。俺の言うことなんかきくな。そのままヌいてくれ……!
「大丈夫だよ」
 司は人差し指で俺のモノを軽く撫で上げながら、俺のチキンな理性と加速する欲望の両方を納得させる恵みの言葉を与えてくれた。
「この倉庫は運動系部活動の有志が学内カップル用に管理している“そのための場所”なの。今日は運良く予約できたから、ボクたちが自由に使っていいの」
「じゃあ……」
「誰も来ないから、安心していいよ」
 俺のチキンな理性はそれを聞いて昇天した。あとは加速する一方の欲望を吐き出すだけだ。
「続けてくれ……」
「ご主人様も」
 司は両手で俺のモノを包むと、ゆっくりと上下にしごく。俺も両手をそろえて司の尻から背中、胸と往復して撫で回す。
 姉貴にしごかれても気持ち悪いだけなのに、他の女の子にしてもらうと各段に気持ちいいのは何故だろう。
 やっぱり、肉体的刺激だけじゃなくて、精神的なものが大事なんだと改めて思う。いつも子供っぽいけど健全なイメージの司がいやらしいことをしてくれるというのがいいんだ。
「硬いのに柔らかいね。変なの」
 司が息を荒くしながら笑った。やっぱり、女からすると不思議な感触なんだろうな。俺にとっても、司の乳首とその周辺は慣れない感触だ。
「おまえの体も柔らかくて張りがあって、すべすべしていて……ずっと触っていたい」
「いいよ。ボクの体で気持ちよくなって」
 司の手の動きが若干速くなった。体中が熱くなって、更に深いところから熱の塊がこみ上げてくるのを感じる。
 ……いや、限界が近づいているんだ。もっと長持ちさせたいが、これだけ興奮させられると無理だ。
「司、そろそろ……」
「ん? 出るの?」
「ああ」
「でも、このままだと服が汚れちゃうね」
 そう言って司はいったん手を止め、屈みこんで俺の股間に顔を近づけた。
「……っ!」
 俺の先端部を湿った肉の感触が包み込んだ。司が咥えたんだ。それだけで体も心も快感が倍加する。
200転生恋生 第十九幕(6/7)  ◆.mKflUwGZk :2010/02/03(水) 22:33:56 ID:vwQ4uHD4
「飲んであげるから、いつでも出していいよ」
 いったん口を離してそう言ってから、司は再び俺のモノを咥えこんで、舌でじっくりしゃぶり尽くす。雁首の周りを舌でなぞられて、俺の口から情けない声が漏れた。
 司の体勢が低いので、もう胸に触ることはできない。代わりに俺は司の頭を撫でる。
「んっんっ……じゅ……」
 司は音を立てながらしゃぶり続ける。舌のざらざらした感触が俺の一番敏感なポイントを刺激する。
 もう限界だった。頭の中が真っ白に爆ぜた。
「出る……っっ!!」
 物凄い勢いで、俺の尿道を精子の大群が全力疾走で駆け抜けていった。そのまま司の口の中を満たして、あふれ出そうになるが、司は咽喉を鳴らして飲み込んだ。
 揺れる司のポニーテールが、まるで犬の尻尾に見えた。司も喜んでいるんだと思った。
 射精も一段落ついて、俺が落ち着いてきた頃に、思わぬ追撃があった。司が尿道の中に残っていた精液をストローのように吸い上げた。
「うぁ……」
 今日一番情けない声が俺の口から出た。全身を電気が貫いたみたいだ。
 暫く俺は天井を見上げながら、司の頭を撫でていた。司はまるでお清めであるかのように、硬さを失っていく俺のモノをしゃぶり続ける。
 やがて、司が顔をあげた。いつものあどけない表情に戻っているが、やけに満足げだ。
「ご主人様、気持ちよかった?」
「ああ、凄くよかった」
 俺の中で、性欲とは違う感情が湧きあがってきた。司を抱き締めたくてたまらない。
 だから、そうした。
「えへへ……、うれしい」
「ありがとうな……。というか、ごめん」
「なんで謝るの?」
「だって、その……汚かっただろ?」
 考えてみれば、今日は登校してから3回ほどトイレに行っている。ションベン臭かったんじゃないだろうか。
「平気だよ。ご主人様のだもん」
 司は何のてらいもなく笑った。それでまた司を抱き締めたくなったので、抱き締めた。
201転生恋生 第十九幕(7/7)  ◆.mKflUwGZk :2010/02/03(水) 22:34:31 ID:vwQ4uHD4
「なぁ、司」
「何?」
「おまえ、どうしてここまでしてくれるんだ?」
「ボクがそうしたいからだよ。今のご主人様には、それで充分でしょ」
 確かにそうだ。千年前がどうのとかいう話はどうでもいい。今の俺には、可愛くてエッチさせてくれる女の子がそばにいるということが重要だ。
 夢にまで見た童貞卒業の機会は目の前にある。
「司、今度はおまえを気持ちよくしてやりたい」
 俺は司の服を脱がそうとした。だが、司は俺の手を止めた。
「今はダメ」
「何で!?」
 お預けを食わされた俺は思わず大きな声をあげた。
「今日はご主人様を気持ちよくしてあげればいいの。ボクの初めてをあげるのは、もっとちゃんとした場所がいい」
 記念すべき初体験の場所が体育倉庫ではイヤだということか。こういうところはさすがに司も女の子だな。
 ……初めて? だとすると、血が出るのか。確かにここはまずい。上級者向けの場所だ。
 ということは、運動系の連中には結構慣れているヤツがいるってことだ。畜生、うらやましいぞ。
 いや、うらやましがる必要はないな。司がその気でいる以上、俺も童貞卒業は時間の問題だ。
 とにかく、今日は切り上げるしかなさそうだ。
「ここが空いている日があったら、今みたいに気持ちよくしてあげるね」
 司はウェットティッシュで俺のモノを拭いて、元通りしまってくれた。なんて気立てのいい女の子だ。
「さっきまで大きかったのに、今はなんかかわいいね」
 もう、この際電波が入っていようがどうでもいい。人生初の彼女ゲットだ。本音を言えばもうちょっと胸がほしいけど、このまま司と初体験しよう。
「司、近いうちにデートしような」
「うん。じゃあ、携帯の番号とアドレスを教えて」
 そういえば、一番親しくしている女の子なのに、携帯の番号も教えていなかった。何をやっていたんだ、俺は。
 倉庫の外に出てから、俺たちは携帯の番号とアドレスを交換した。辺りに誰かいないか気になったが、誰もいなかったのでほっとする。
 部活へ戻る司を名残惜しく見送ってから、俺は下校した。電車の中で倉庫でのことを反芻するうちにまた勃ってきて困った。
 この時点で俺は姉貴の存在をすっかり脳内から消し去っていた。
 
202転生恋生  ◆.mKflUwGZk :2010/02/03(水) 22:37:45 ID:vwQ4uHD4
投下終了です。6スレで充分だったかもしれませんね。
ともあれ犬ルートに突入したので、しばらくワンコ分多めの話が続きます。
それにしてもHシーンがこれほど難しく、容量を食うとは……
毎回濡れ場を書ける人には脱帽です。
203名無しさん@ピンキー:2010/02/03(水) 22:39:42 ID:FqN4/TN1
リアルタイムGJ!
もうすぐ本番?
全裸待機だ!
204名無しさん@ピンキー:2010/02/03(水) 22:47:04 ID:Mj9TqaI8
GJ 大阪が舞台だったんですね。
205名無しさん@ピンキー:2010/02/03(水) 22:54:48 ID:nZ24o02P
>>202
GJ!
ルート突入でこれからどんな展開になるか、わっふるわっふる
太郎君の思考が、なんか思春期の男子だなあ、としみじみ思った。
>>203
全裸にネクタイは付けた方がいいよ、風邪引くから
206名無しさん@ピンキー:2010/02/04(木) 11:53:29 ID:RN9G3xm5
GJ!
良作が長くづいてくれているから嬉しいわ。

俺個人としては、バカとビッチの裏が見たいな……
207名無しさん@ピンキー:2010/02/04(木) 17:10:24 ID:to1EOBLN
GJ
ああ、俺もご主人様って呼ばれたい……
208名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 01:07:34 ID:BWyjaFlX
GJ!
桃太郎もついに脱童貞か。姉貴は激怒するだろうなあ。

>>204
親父が単身赴任先の大阪に戻るってことであって、大阪が舞台じゃないんじゃない?

>>206
同意。あの妹がビッチたちをどう仕分けしたのか気になる。
209名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 02:38:01 ID:CixzLKnz
ももたろさん
210名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 05:14:56 ID:9Kma1d7E
>>204
読み返したんだけど、舞台が大阪らしき記述は何処にもなかったよ
211名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 05:17:28 ID:a8uw/qOM
弟君の貞操の危機ですな
212名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 14:59:31 ID:HwNfkEQH
泥棒猫、もとい泥棒犬のにおいが体中からするのか
213名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 16:28:00 ID:aMh94p6E
ももたろーが基の話なのだから岡山近辺だと勝手に脳内変換
214三つの鎖 15 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/05(金) 22:38:26 ID:NJzB+isD
三つの鎖 15です

※以下注意
エロなし

投下します
215名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 22:38:43 ID:nrRkDn8d
姉妹が小学生弟に聞かせる歌

♪ 一つでたホイのよっさほいのほい
ひとりエッチをするときにゃ〜 弟の目の前でせにゃならぬ〜

二つでたホイのよっさほいのほい
姉弟3Pするときにゃ〜 上下の口でせにゃならぬ〜

三つでたホイのよっさほいのほい
見せ合いオナニーするときにゃ〜 互いの指でせにゃならぬ〜

四つでたホイのよっさほいのほい
夜の散歩をするときにゃ〜 弟全裸にせにゃならぬ〜

五つでたホイのよっさほいのほい
淫乱姉とするときにゃ〜 精通前からせにゃならぬ〜

六つでたホイのよっさほいのほい
剥けたちんこにするときにゃ〜 姉妹の口でせにゃならぬ〜

七つでたホイのよっさほいのほい
舐めたまんことするときにゃ〜 しゃぶったちんこでせにゃならぬ〜

八つでたホイのよっさほいのほい
やらしい弟にするときにゃ〜 姉で精通せにゃならぬ〜

九つでたホイのよっさほいのほい
クリとクリとをくっつけて〜 被りちんこをはさみたい〜

じゃあ、しよっか


216名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 22:40:20 ID:nrRkDn8d
ものすごく申し訳ない orz
217三つの鎖 15 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/05(金) 22:41:29 ID:NJzB+isD
三つの鎖 15

 昨日の夜、私を振りほどいて兄さんが夏美を追った後、私は兄さんの部屋にいた。兄さんのベッドに転がりぼんやりしていた。
 抱きしめた兄さんの枕から兄さんの匂いがする。
 脳裏に私に背を向ける兄さんの姿が浮かぶ。私は枕をきつく抱きしめた。
 兄さんにとってあの女は私より大切なんだ。家にいる間は私だけを見てくれると思っていたのに、兄さんはあの女が家に入るのを笑って容認した。家にいるときだけは私の傍にいて欲しいという私を振り切ってあの女を追いかけた。
 涙がとめどなく溢れた。
 どれぐらいそうしていただろう。玄関に誰かが帰ってくる音がした。
 兄さん。私は部屋を飛び出して玄関に向かった。
 でもそこにいたのは京子さんだった。
 私はその場にへたり込んだ。兄さんじゃない。
 「梓ちゃん?どうしたの。」
 京子さんは私の様子にすぐ気がついたようだ。駆け寄り私と目線を合わせた。
 その後私は京子さんに連れられ自分の部屋に戻った。京子さんはアイスティーを持ってきてくれた。
 「何があったの?」
 京子さんは私の頭を撫でて優しく尋ねた。兄さんと夏美が屋上でシている様子が脳裏に浮かぶ。怒りと悲しみに体が熱くなる。
 「幸一君の恋人の事ね」
 私は驚いて京子さんを見た。京子さんは微笑んで私を見た。
 「確か夏美ちゃんでしょ?春子ちゃんから聞いたわ」
 京子さんは私を抱きしめた。柔らかい感触。
 「可哀そうな梓ちゃん。幸一君の事を愛しているのに、こんなにつらい思いをするなんて」
 私は京子さんの腕の中で唇をかみしめた。
 そうよ。私は兄さんを愛してる。あの女よりも愛してる。それなのに何でなの。たかが血を分けた兄妹と言うだけで何でここまで惨めな思いをしないといけないの。
 兄さん。好き。愛している。なのに何でなの。何で私を見てくれないの。何であの女を見るの。
 「梓ちゃん」
 京子さんの呼び声。私は顔をあげて京子さんの顔を見た。真剣な表情。
 「話したい事があるの」
 京子さんが私に話したい事。
 何度聞いても教えてくれなかったこと。
 「私を産んでくれた人の事?」
 「そうよ」
 私は私と兄さんを産んでくれた人の事は何も知らない。お父さんは何も言わないし、京子さんも何も言わない。
 知っている事は二つ。お父さんと京子さんの高校の時の知り合いということと、京子さんと同じぐらい胸が大きかったという事だけ。
 「どこから話せばいいのかしら」
 京子さんは目を閉じて天を仰いだ。しばらくして私を見た。
 「実はね、私とお父さんは結婚していないの」
 言っている意味が分からない。
 京子さんは私が物心つくころから傍にいてくれた。いや、家によく来て私たちの面倒を見てくれた。私が中学に上がってしばらくたったころにお父さんと再婚して家に住むようになった。少なくとも私はそう聞いた。
 「どういうことなの?」
 「梓ちゃん達には再婚したって言ったけど、正式には結婚していないのよ。婚姻届は出してないわ。結婚式をしなかったのは知っているでしょ?」
 それは知っている。ただ単に面倒くさいからしなかっただけかと思っていた。二人とも人を呼んで披露宴を行う年齢でもない。だけど婚姻届の事は初めて知った。
 「やっぱり最初から話すわね。お父さん、いえ誠一さんの家庭は複雑なのは知っている?」
 知らない。私は首を横に振った。
 「誠一さんは普通の家庭に生まれたけど、幼い時に交通事故で両親を亡くしたの。それで残された子供達は養護施設に入れられた。そして誠一さんは中学を出ると養護施設を出て就職して働きながら夜間の学校に通ったの。
 誠一さんには妹がいて、妹は養護施設に来てからすぐに他の家に引き取られた。その妹が引き取られた家はひどい家で、妹を虐待していたの。
 誠一さんは妹の事をずっと気にしていたけど、子供には何もできなかった。誠一さんは中学校を卒業すると働き出して、同時に妹を引き取ったの。
 その時はいろいろ大変だった。何せ働いているとはいえ、誠一さんはまだ未成年だったから。その時は職場の方が色々手助けしてくれて妹を引き取る事が出来た。その経験が警察官を志す原因になったのだと思う」
 はじめて知るお父さんの過去。
 お父さんらしいと思った。お父さんは仕事でとても忙しい。昔から接する時間は他の父親と比べても少ないと思う。それでも愛されていないと感じた事はない。接する時間が少ないなりに、私と兄さんに父親としての愛情を注いでくれた。
 「そうだったんだ。だから私達に祖父母はいないのね」
 私は祖父母に今まで会った事がない。最初からいないから何とも思わなかったけど。
218三つの鎖 15 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/05(金) 22:45:14 ID:NJzB+isD
 「誠一さんは夜間の高校に通っていたけど、妹は普通の高校に通学した。誠一さんは妹には苦労はかけたくなかったみたい。妹の同じ高校の友達に優子って子がいて、優子が誠一さんと初めて結婚した人。二人は高校の時から付き合い始めた。
 誠一さんは夜間高校を出てから警察官になった。妹は高校を出てから家を出て遠くの看護学校に入った。優子は地元に就職した。
 誠一さんと優子はしばらくして婚約した。結婚が決まった時に、二人は妹に招待状を出したわ」
 京子さんの話す妹とは誰なのだろう。私に叔母がいるなど聞いた事がない。産んでくれたお母さんの親類もだ。
 「お母さん。私に叔母っていたの?私が覚えている限り、会った事がないけど。それに産んでくれたお母さん、優子さんの親類にも会った事がないよ」
 「聞いていれば分かるわ。話を続けるわよ。この妹は秘めた思いを誠一さんに抱いていた。妹は一人の女として誠一さんを愛していたの」
 心臓がどくんと音を立てたのが分かった。お父さんの妹がお父さんに禁断の愛を抱いていた。
 私と同じ。
 「仕方がないと思うわ。家で虐待される状況で幼い時に生き別れた兄が助けてくれたのよ。その時の誠一さんはすでに働いていて、同年代の男の子とは一線を画す落ち着いた雰囲気だったわ。惹かれない方が無理よ。
 妹が遠くの学校を選んだのも想いを断ち切るためだった。何せ愛する兄にはすでに恋人がいる。一緒にいるのはつらかった」
 分かる。私も同じだから。
 あの女と兄さんが仲良くしているのを見るたびに、胸が張り裂けそうになる。
 「そんな事は知らない誠一さんは結婚式の招待状を妹に送った。妹は看護学校を出てから地元に戻らずに看護婦として、今は看護師と呼ぶけど、病院で働いていた。妹は誠一さんに会いに行った。
 誠一さんは久しぶりに妹と会って喜んだ。もともと情の深い人よ。そうじゃないと幼い時に生き別れた妹を探して引き取るなんてできないわ。妹は家を出て暮らしてから一度も家に帰らなかった。妹は会うのがつらかったのね。
 二人が再開した時、優子は実家にいた。久しぶりに会う兄妹に気を利かせたのもあるし、結婚の準備で実家にいたのもあるわ。
 誠一さんは数年ぶりに会う妹が大人の女性になっているのに驚いて成長に喜んだわ。
 妹は自分の想いを告げたの。愛しているって」
 京子さんは一息ついて私のアイスティーを一口飲んだ。
 私は京子さんの話にのまれていた。私と同じ境遇の人が身近にいたなんて。一度も会った事がないのもこれが理由かもしれない。
 「誠一さんは驚いたわ。青天の霹靂だったのでしょうね。家族として愛していた妹に愛の告白をされたのだから。もちろん誠一さんは断ったわ。妹は愛する兄の性格を理解していたわ。だからこう言ったのよ。
 私、兄さんがいないと生きていけない。でもそれは兄さんを不幸にする事ってわかってる。だからお願い。妹としての想いでだけでなく、女としての思い出をください。その思い出だけを胸に抱いて生きていきます。
 誠一さんは妹が哀れになったのでしょうね。いえ、誠一さんも妹の事を妹として見られなかったのかもしれない。その夜、二人は体を重ねたわ。
 次の日、妹は誠一さんのもとを去ったわ。結婚式にも出席しなかった。優子に兄をよろしくと葉書を送っただけだった。
 妹は二度と誠一さんと会うつもりはなかった。誠一さんに告げたとおり、思い出だけを抱いて生きるつもりだった。でもね、妹は妊娠したの。誠一さんの子を。実の兄の子を」
 心臓が高鳴る。信じられない話。お父さんに隠し子がいたなんて。いえ、私の兄か姉になるのだろうか。
 一度も会ったことのない血の半分つながった存在。近親相姦の禁忌に触れる忌むべき子。一体どんな人生を送ったのだろうか。今はどこにいるのだろう。
 「妹は悩みつつも子を産んだ。もちろん私生児として。父親がだれかなど言えるはずもなかったわ。そして子供を産んだ妹が仕事に戻ったころ、優子から葉書が来た。そこには妊娠した事が記されていた。
 そしてしばらくたってから今度は高校時代の同級生から電話が来た。それは優子の死を知らせる連絡だった。妹は子供を預けて誠一さんのもとへ行った。
 誠一さんは悲しみのあまり気が狂う寸前だった。あれだけしっかりした人なのに廃人のように呆然としていた。結婚して間もない妻と生まれてすらいない子供を同時に亡くしたのはそれだけ衝撃だったのね。
 葬式が終わって、残ったのは誠一さんと妹だけだった。全てが終わって泣く誠一さんを妹は傍にいて慰めた。そして兄妹は二度目の禁忌を犯した」
 私は京子さんの話に心臓が奇妙に高鳴るのを自覚した。京子さんの話はどこかおかしい。お父さんの最初の奥さんの優子さんは子供を産まずに死んだ。
219三つの鎖 15 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/05(金) 22:49:14 ID:NJzB+isD
 私と兄さんは誰の子供なのだ。
 「お通やとお葬式が終わって誠一さんはしばらく休職するように勧められた。周りの人が同情したのでしょうね。誠一さんはその通りにした。警察官のお仕事が務まる状態じゃなかった。
 妹は葬式が終わると仕事を休職してまだ乳飲み子を抱えて兄の世話をするために兄の家に戻った。そこで誠一さんは初めて妹に子供ができた事を知った。妹はあなたの子供だと告げた。
 その時、誠一さんの顔に浮かんだのは禁忌を犯した事を否応なしに突き付けられた怖れと恐怖、そして初めて目にした息子への愛情だった。誠一さんは赤子を抱いて涙を流したわ。
 誠一さんは職場に復帰した。そして前にもまして働くようになった。妹も誠一さんの近くのアパートを借りて病院で働いた。
 子供は誠一さんの養子にした。周りには父親の分からない妹の子供を引き取ることにしたと説明した。これは妥当な判断だわ。まさか妹との子供とは言えないもの。周りは妹の子供、つまり甥の将来のためにと思ったみたい。
 誠一さんは後に話していたわ。死んだ妻と子供が生まれ変わってあらわれたように感じたと。禁忌を犯した忌み子でも、誠一さんにとっては血を分けた息子には違いなかった」
 京子さんは息子と言った。つまり、生まれてきた子は男の子。
 「妹は誠一さんのもとに通った。誠一さんも拒まなかった。といっても体を重ねることはなかった。妹はそれでも満足していた。誠一さんは再婚の意思はなかったし、兄と一緒に子供を育てる事が出来たから。
 数カ月後に、妹は妊娠した事を知った」
 京子さんは疲れたようにため息をついた。私のアイスティーを一口飲む。
 「皮肉なものよね。妹が誠一さんに抱かれたのは二回だけ。それなのに二回とも妊娠した。近親相姦の禁忌に触れる忌み子を。
 二人は話し合って、妹はこの地を離れることにした。そこは知り合いが多いから秘密を保つのは難しいという事情もあった。優子の親類もいるのも理由の一つだった。
 もともと警察官は転勤が多いわ。特に若いうちや階級が上がれば。誠一さんは遠くへ転勤を希望した。そして希望は通った。周りは誠一さんの事を惜しんだけど、亡き妻の思い出のある土地にいるのはつらいのだと思ったみたい。
 そして今の土地に来た。本当なら官舎に住む事も出来たのだけど、同僚の人目を避けるために今の家を購入して住んだ。本当ならこんなに広い家に住むのは難しいけど、色々な事情からできた。
 昔はこのあたりは今ほど開発されていなくて不動産が安かったのもあるし、誠一さんが昔勤めていた伝手もあったみたい。
 そして妹は子供を産んだ。娘だった」
 私は鳥肌が立つのを感じた。
 お父さんの妹が産んだのは娘。
 その娘には兄がいる。
 「生まれた娘はお兄ちゃんと同じように誠一さんの養子とした。妹は近くにアパートを借りた。
 しばらくは誠一さんと妹は離れて暮らしていたわ。周囲には兄妹という事は言わなかった。そして誠一さんは子供と離れて暮らす妹が可哀そうになって家に住むように誘った。子供達には再婚するから一緒に住む事になったと告げて。
 そして今に至るの」
 私は全てを理解した。
 「お母さんはお母さんだったのね」
 「梓ちゃんを産んだ人は私と同じぐらい胸が大きいって言ったでしょ」
 京子さんは茶目っ気たっぷりにウインクした。
 信じられないような話。
 京子さんは私と兄さんのお母さんで、お父さんと京子さんは兄妹。
 「幸一君の名前を決めた由来は誠一さんから一文字と幸せになってほしいという願いを込めて」
 歌うように京子さんは言葉を紡ぐ。
 「梓ちゃんは誠一さんが名付けた。梓弓って知ってる?」
 私は首を横に振った。
 「梓弓は神事で使われる弓。鳴弦の儀っていってね、弓の鳴る音で魔を払う儀式があるの。誠一さんは近親相姦の結果に生まれた子供たちの未来に魔が寄らない事を願い子の名前にしたの」
 お父さんの姿が脳裏に浮かぶ。無口で感情の起伏に乏しい父。それでも子供達に深い愛情を注いでくれた。
 皮肉な話。お父さんは私に魔が寄らないように梓って名前を付けてくれたのに、私はお母さんと同じ禁忌を渇望する女になった。兄との禁断の愛を望む女に。
 「梓ちゃん。私はね、近親相姦を勧めているわけじゃないわ。はっきり言って障害は山ほどある。私と誠一さんの場合は本当に運も味方して今まで奇跡的にばれる事はなかった。
 それに幸一君には恋人がいる。幸一君は誠一さんの情に深いところはそっくりよ。きっと誠実に恋人を愛すると思う。春子ちゃんに聞いた限りは夏美ちゃんはとてもお似合いの子みたいだし。
220三つの鎖 15 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/05(金) 22:52:08 ID:NJzB+isD
 仮に男と女の関係になってもつらいわよ。私は誠一さんに二回しか抱かれた事がない。誠一さんにも思う事はあるみたい。
 私はね、梓ちゃんに絶望してほしくないの。確かに兄妹が愛し合うことは世間では禁忌と見られているわ。でもね例外がいるってことだけ知っておいてほしいの」
 京子さんは話し疲れたようにアイスティーを一口飲んだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 アイスティーは冷たくておいしかった。
 梓ちゃんは無表情な顔をしているけど、瞳は爛々と輝いている。
 私は少し意外だった。私の話した話は自分で言うのもなんだけど相当ショッキングな話のはずだ。何せ自分が近親相姦の禁忌に触れて生まれた忌み子という事実を知ったのだから。
 それなのに梓ちゃんにショックを受けた様子はない。興奮しているのは分かるけど。
 私がこの事を今梓ちゃんに話したのは、梓ちゃんが可哀そうに感じたからだ。梓ちゃんは昔の私と同じ。血のつながった実の兄を愛し、それゆえに苦しんでいる。兄に恋人がいるところまで同じだ。
 そんな娘が哀れに感じた。だから例外があるという事を、可能性は限りなくゼロに近くても無ではない事を知ってほしかった。
 「お母さん。聞いてもいい」
 梓ちゃんは私を見た。表情から何を考えているかは読み取れない。
 「ここまで話したのだから遠慮しないでいいわよ」
 「この事を私達に教えるつもりはあったの」
 「できれば墓の下までもっていきたいというのが私と誠一さんの考えだけど、現実的には難しいわ。戸籍を見れば両親がおかしい事は分かるもの。だから成人した時に母親の事だけ伝えるつもりだった。
 もちろん、本当の父親については言わないわ。昔私が付き合っていた人とごまかすつもりだった。誠一さんの養子にしたのは私生児だと将来的に不利になる可能性があるからって理由で伝えるつもりだった」
 そう。現実問題として全てを隠す事は不可能だ。それならば当たり障りのない部分を伝えることで絶対に知られてはならない事実を覆い隠すしかない。
 「もう一ついい」
 梓ちゃんは無表情に私を見た。何を考えているのだろう。
 私は無言で頷いた。
 「お父さんの最初の結婚相手の優子さんっているでしょ」
 心臓がかすかにきしむ。私の愛する人を奪った人。
 「その人が死んだ原因って何なの」
 今度ははっきりと心臓が跳ねた。
 梓ちゃんは私を無表情に見つめる。瞳が形容しがたい光を放っている。その瞳に心が揺さぶられる。
 「妊娠して入院していた時に階段からこけたらしいわ」
 私は動揺を隠して言葉を紡いだ。暴れる心臓を必死に抑えた。
 「そうなんだ」
 梓ちゃんは無表情に私を見た。その瞳に心が揺れるのを抑えられない。
 おかしい。私は今まで言葉では言い表せないほどの抑圧された人生を送ってきた。養父母による虐待、実の兄に懸想していた苦しみ、愛する人に恋人ができた嫉妬、禁忌を犯した喜びと恐怖。そんな環境の中で私は自分の感情を抑制することは必要不可欠だった。
 それなのに、実の娘の視線に背筋が寒くなるほどの恐怖を感じる。
 「そうなんだ」
 梓ちゃんは同じ言葉を繰り返した。形容しがたい恐怖が私を包み込む。
 まさか。知っているの。
 「お母さん」
 梓ちゃんは私を見上げた。視線を逸らしたい衝動を私は必死に抑えた。
 「もしね、愛する人が他の女を見ていたら、お母さんならどうする?」
 血のつながった実の娘の言葉が私の心に突き刺さる。
 知っているはずがない。もう十数年も前の事だ。
 「うんうん、お母さんはどうしたの?」
 心臓が恐怖に早鐘をうつ。
 知っているの。いや、私以外に知っている者などいない。これは私だけの秘密。
 思考が乱れる。異様に喉が渇く。早鐘を打つ心臓の鼓動をはっきりと感じる。
 「別に。私は何もしなかったわ」
 やっとのことでそれだけの言葉を吐きだした。声は震えていなかった。これも長年の抑圧のせいかなのかもしれない。この状況でも表面上は平静を保つ事が出来た。
 梓ちゃんは私に一歩近づいた。目の前に娘の顔が近付く。梓ちゃんの瞳が放つ光が私を射抜く。
 「本当にそうなの?」
 形容しがたい恐怖が私を包み込む。冷たい汗が背中を流れる。
 一瞬が永遠に感じる。
 終わりは唐突に来た。梓ちゃんは窓の外を見た。私もつられてみると、村田さんの家から誰かが出て行くのが見えた。
 あれは確か幸一君の彼女の夏美ちゃんだ。私が働いている病院で幸一君の傍にいたのを覚えている。
 幸一君の彼女を見る梓ちゃんの瞳に形容しがたい感情が宿る。その瞳を向けられたわけでもないのに背筋に冷たいものが走る。
221三つの鎖 15 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/05(金) 22:53:33 ID:NJzB+isD
 「お母さん。色々話してくれてありがとう。私用事があるから行くね」
 そう言って梓ちゃんは立ち上がり部屋を出た。
 梓ちゃんの後ろ姿が昔の私とかぶる。
 私は自分の部屋に戻りベッドに倒れこんだ。何度も大きな息を吐く。全身に冷や汗をかいていた。全身がどうしようもなく震える。
 深呼吸する中で昔の記憶が水泡のように脳裏に浮かぶ。
 優子が入院していた病院の屋上で、私の腕の中の赤子だった幸一君を見て恐怖と嫌悪に目を見開く優子。逃げるように私に背を向ける優子を私は…。
 吐き気がこみあげる。私はトイレに駆け込んだ。込み上げる吐き気のままに私は嘔吐した。口の中に胃液の酸味が広がる。
 荒い息を落ち着かせてから私は掃除をしてリビングに下りた。口をすすぎため息をつく。
 梓ちゃんの様子は今までに見た事のないものだった。私は小さいときから、それこそ生まれた時から梓ちゃんの事を知っている。梓ちゃんのことは全て分かっているつもりだった。
 それなのに、さっきの梓ちゃんは私の知っている梓ちゃんとは別人にしか見えなかった。
 私は早まった事をしてしまったのかもしれない。梓ちゃんに伝えるべきではなかったのかもしれない。
 梓ちゃんの表情が脳裏に浮かぶ。形容しがたい奇妙な光を放つ瞳。その瞳に魅入られた私が感じたのは言い知れない恐怖だった。
 私は窓の外を見た。夜なのに雲がはっきりと見える。明日は雨が降りそうだった。
222三つの鎖 15 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/05(金) 22:59:01 ID:NJzB+isD
投下終わりです。
読んでくださった方に感謝いたします。ありがとうございました。
HPにて登場人物人気投票を行っています。
よろしければ協力をお願いします。
今までに投下した作品をまとめてDLもできますが、最新作はスレにしかありません。
ご了承ください。
規制がなければ、続きは来週に投下します。

ttp://threechain.x.fc2.com/index.html
223215:2010/02/05(金) 23:04:07 ID:nrRkDn8d
>>222
GJ!

同時につまらんネタを投下してしまってすみませんでした。
224名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 23:04:25 ID:Lf+fQPiW
改行おかしいのは仕様なの?
225名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 23:15:39 ID:UHsWrAD8
別におかしくはないと思うけど。
今回の話は、物語上セリフが多いみたいだから、ぶつ切りにする訳にはいかなかっただけかと
2Chは1行に書ける文字数が決まっているから、SS書いてて時々不便。

>>222
なにはともあれGJ!
物語がだんだん確信に近づいてきたようで、続きがもうから楽しみです
226名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 23:17:00 ID:krxMK0I2
仕様だろ
GJ!やはり京子さんは実母だったか
227名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 23:29:16 ID:2ono0H6J
>>222
"神"乙。
マジパネェわ。
この作品は全てにおいて計算されてるね。

にしても俺の梓はやっぱかわいいな!
228名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 23:58:45 ID:P1+loLzN
>>にしても俺の梓はやっぱかわいいな!

じゃあシロはいただいていきますね
229名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 00:07:42 ID:zVVCn36Z
夏美に死亡フラグがたっとる…

てか京子さん…怖すぎるだろ
さすが梓の母親
まさか梓は京子さんと同じことを…?
230名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 01:18:49 ID:ZkC3erNU
まさか、娘も先人(母親)に学ぶ…とか…。
231名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 01:31:36 ID:4Jv1M9Ad
GJ
なんかまずい時にまずい話を聞いてしまったな、って感じだ。
232名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 02:16:10 ID:ugqOLRja
あんたのせいだったんかいwwww(でも物語を動かす意味ではナイスアシスト)
前に京子さん実母説か何かが出た時に「考えもしなかった」と言われていた気がするが
記憶違いだっただろうか、詳しく思い出せない。あるいはまんまと騙されてしまったのかw

>>213
その発想はなかったわ
オーナー!その脳内変換貰って行きます!!
233名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 07:36:41 ID:Zcsg3kk4
>>215
おまw ドンマイ
234名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 17:12:21 ID:DMgxaeMH
さようなら夏美
ここまで泥棒猫としてよく戦い抜いた
君の事は忘れないよ…
235名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 18:21:04 ID:h4ZsYGlS
>>234
落ち着けWW
まだ決まったわけじゃないよ
236名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 19:43:55 ID:ZeVmq/XL
夏美ちゃんが死んだら幸一君ぶっ壊れそうだ
237名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 21:10:25 ID:Zo2IFnvE
夏美は仮にこれ助かったとしてもなかなか再起は難しいぞ…
春子は梓には無力っぽい感じだし…


まぁ、つまりは何が言いたいかと言うとだな…




ハァァァァァイル!!!
アズサー!!!!
238Melt―上:2010/02/06(土) 21:28:56 ID:dRWs8Hqu
投下します
以下本編
239Melt―上:2010/02/06(土) 21:32:53 ID:dRWs8Hqu
 正直、俺は浮かれていた。
 熱に浮かされて、周りが見えていなかったのだ。
 だから、きっと。
 これは、そんな俺に対して罰なのかもしれない。
 自分の目先の幸せにとらわれて、見たくないものから目を反らし続けてきた俺への。 

 #

「――何をしてるんだよ……」
 かつてないほどに、声が震えているのが分かる。
 緊張?いいや。
 悲嘆?違う。
 喜悦?それこそ、もっと、あり得ない。
 この震えをもたらすものは恐怖だ。
 俺は恐怖している。気を抜けば、今にも歯がカチカチと虚勢じみた剣戟を交わしてしまう程に。
 金木犀の香り。濃淡な秋の香り。
 燃えるような夕焼け。眩しいほどの夕陽が、紅葉に染まった山の端を焼く。
 烏が行きかう。朱色の空を漆黒の羽で裂きながら、どこか物悲しい声で、逢魔が時を告げる。
 朱の海には雲。四角い窓で切り取った空に、紅霞がたゆたう。
 ごくり、と唾を飲む。静寂に満ちた部屋に、やけに響く。
「何を、してるんだよ」
 もう一度。今度は、出来るだけ虚勢を張って、声を平坦に意識して。
 答えは分かり切っているのに。理解することなんて、出来るはずもなかった。
 だって、見たくなかったんだもん。
 子供っぽい、拗ねたような声。聞きなれた声が、遠くから聞こえる。声の主は、直ぐ目の前に居るのに。
 スイッチ一つで部屋を照らす灯りは付けられておらず、夕陽のみを照明とした6畳弱の部屋。
 最近不機嫌だった妹のご機嫌取りに、と有名な洋菓子店で奮発したケーキを持ち、向かった矢先。
 俺は、その入り口付近に突っ立ったまま、足を縫いつけられたかのように動けない。
「お兄ちゃんが、あの女と並んで歩く所なんて、見たくなかったんだよ」
 部屋の隅に置かれた二段ベッドの下の階に、ぺたんと座りこんだ妹が笑う。
 肩を震わせて、さもおかしそうに。
 つぅ、と閉じた瞼から、赤い涙を流しながら。
 ベッドの影が、妹の顔に半分かかり、ぞっとするような雰囲気があった。
 妹の、二つ結びにされた色素の薄い髪は、淡く夕焼けに染まっている。
 頬が林檎の様に赤いのは、夕陽によるものか、昂揚によるものか、それとも痛みによるものなのか。
「あの女って……理乃、お前、まさか」
「お兄ちゃんが、わたしから離れていっちゃうんだったら、生きていたって意味ないから」
 そうだよね?と首を傾げながら、理乃が、手に持ったカッターナイフを自らの首筋に持ってくる。
「おい、やめろ!」
 理乃の傍に、思わず駆け寄ろうとして――
「――来ないで!」
 理乃の制止によって歩を止めた。
 俺は、その場にたたらを踏んで、
「なあ、そんな物騒なもの、早く下ろしてくれ。それに、病院にもいかないと、失明しちまうだろ?」
「無駄だよ、もう遅いよ。もう見えてないから」
「そんなの、今は医療技術も進歩してるし、良くなるって――」
「――必要ないもん」
 俺の言葉をさえぎって、理乃は駄々をこねる様に首を振った。
「自分で目を潰したのに、今更光なんて要らないもん。わたしを苦しめることしかしない現実なんて見たくないもん」
 幼い声色で、けれど、それはまるで呪詛の如く。
「見たくもない姿を見せる目も、聞きたくもない声を聞かせる耳も、嗅ぎたくもない匂いを嗅がせる鼻も、優しくもない現実を突き付けるなら、この命だって……」
 要らない、要らない、要らない。理乃が、嗚咽交じりの声で呪う。
 その目から流れる涙は、矢張り赤く。
「……それじゃあ、どうすればいい?どうすれば、お前はそのカッターを下ろして、素直に病院に行ってくれるんだ?」
「別れて」
 俺の問いに対し理乃は、間髪いれずに答える。
「別れて……って、静香とか?」
240Melt―上:2010/02/06(土) 21:33:18 ID:dRWs8Hqu
 理乃がこくりと頷いた。
 静香。それは俺の恋人の名前だ。
 まだ二人とも学生だから、結婚とかそういうのまで話は至っていないし、そもそも静香とは最近付き合い始めたばかりだ。
 理乃は、その恋人と別れろと言うのだ。理乃の命と引き換えに。
 命と引き換えになんて、冗談だろと笑えない状況でもある。
 理乃は既に、自らの目を傷付けている。今だってその激痛が彼女を襲っているだろうに、全くそんな素振りも見せない。
 それだけ、昂揚しているのか、狂ってしまっているのか。どちらにせよ、今の理乃には、何か、鬼気迫るようなものがあった。
 子供が癇癪を起すと、かくも手がつけられないものなのか。
「……分かったよ」
 声を絞り出した。理乃が、分かった?と鸚鵡返しに尋ねてくる。
「ああ、別れるよ、静香とは」
「ほんと?」
「ああ」
 頷くと、理乃がぱぁと顔を輝かせた。と言っても、相変わらず瞳から血は流れているし、瞼は閉じられていている。
 と、丁度その時、救急車のサイレンが近づいてきた。そして、家の前で止まったのが分かる。
 一階に居る両親に、救急車を呼ぶよう頼んだので、そのおかげだろう。
「丁度救急車も来たみたいだし……。病院に行ってくれるな?」
「うん。お兄ちゃんが、わたしの事を一番に考えてくれるなら」
「……それは、約束が違うんじゃないか?」
 確か、静香と別れろという話だったはずだ。
 しかし、理乃は、嫌なの?と再び、カッターナイフを首筋に当てる。
「嫌じゃない、嫌じゃないさ!」
 慌てて、否定する。
 よかった、と理乃が首筋からカッターナイフをずらした。
 ほ、と安堵の息を吐きながら、理乃の傍へと歩みよる。
 今度は、理乃の制止の声が掛かる事はなかった。恐る恐る、理乃の手からカッターナイフを取り上げた。
 チキチキと無機質な音と共に、安っぽい凶刃を納めた。
 きゅ、と腕を小さな手に掴まれた。その手を追うと、理乃が見上げてくる。
 理乃が、泣きながら笑う。
「えへへ、お兄ちゃんはこれから、わたしだけのお兄ちゃんだね」
 俺は、この、9つも離れた妹の気持ちが理解できない。
 10歳という年を考えれば、兄である俺を慕う気持ちも分からないでもない。
 妹は、両親に対してよりも強い親愛の情を、俺に見せてくれていて。
 俺だって、年の離れた妹が可愛くてたまらなかった。
 けれど、静香と付き合い始めてからは、その理乃の機嫌が目に見えて悪くなってしまった。
 俺は、生まれて初めてできた恋人に恥ずかしながら浮かれてしまい、暫くの間だけだろう、そろそろ兄離れの時だろう、と理乃の変化に然程頓着していなかった。
 それでも、恋人が出来て1月近く経って変な熱が治まり、漸く周りに目を向けられるようになり、妹と仲直りしようと思って行動を起こした。正にその日だった。
 理乃は、自らの目を、自らの手で、傷付けてしまった。
 
 #

 それから理乃は、救急車で病院へと運ばれ、直ぐに治療を受けた。
 幸い全盲にまでは至らなかったが、うっすらと光が見えるくらいで、これから先、視力が回復する事はないという。
 理乃自らの手によるものとはいえ、根本的な原因は俺にある。
 俺が、理乃の変化に気付くのが遅かったせいで、妹は今回の様な凶行に走った。
 つまりは。
 未だ幼い少女の光を、俺が奪ったのだ。
 俺は、その報いを受けなければならない。
 





Melt 上編
241Melt―上:2010/02/06(土) 21:34:12 ID:dRWs8Hqu
「別れようってどういう事?」
 ショートカットの髪の毛を小さく揺らし、静香は苛立たしげに眼を細めた。
 腕を組み、人差し指がトントンと動いている。どうやら、かなり苛立っているみたいだ。
 声を荒げないのは、ここが病院の中だからだろう。
 理乃が入院した事を知り、お見舞いに来てくれた静香に、理乃は終始不機嫌顔だった。
 しかし、静香がいるときはいつもこんな感じなので、静香は特に気にした風もなくいつも通りだった。
 静香は、自分が理乃に嫌われているなんて事、微塵も考えてなかったのだろう。
 とはいえ、俺と静香が付き合いだし初めて理乃に会い、件の不機嫌な態度を取られた時は、
「お兄ちゃんを取ったって思われてるのかな」
 と不安そうに言っていたが、
「理乃は、人見知りする子だから。最初の方は、誰に対してもあんなものだよ」
 と励ました事もあって、その後も、粘り強く理乃と仲良くしようと接してくれていた。
 ……結局、その頑張りは功を奏さなかったのだけれど。
 俺はといえば、理乃が何時、病室の中で突飛な行動を起こすのか不安で、生きた心地がしなかった。
 そんな何処となく気まずい雰囲気のお見舞いを終え、静香が去ろうとした時、
「お兄ちゃん、静香さんに話したい事があるって言ってたよね?」
「へ?」
 思わず素っ頓狂な声が出た。
「ん、何、話したい事って?」
 病室の出口へ向かおうとしていた歩を止めて、静香が首をかしげた。
 俺はといえば、驚いて理乃を見る。
 しかし、理乃はこちらを見てはいない。否、顔はこちらに向けられてはいるが、その目は俺を見てはいない。
 理乃には俺の姿が見えていない。にもかかわらず、理乃は俺の視線を感じたかのように、意味ありげに唇を弧に歪めて見せた。
 成程、早く約束を守れってことかよ。
 心の中で、重い溜息をついた。
 下がり切ってしまいそうになる肩を何とか維持しながら、静香に向かい笑みを作って見せた。
「ここじゃ、何だからさ。外に出ようか」
「え、うん……」
 俺の様子に何らかの異変を感じ取ったのか、訝しげな顔をする静香。
 俺は、彼女を誘導するように病室の外へ出た。
 病院の白い廊下には、看護師や点滴を押しながら歩く人などが行き交い、忙しない。
 別れ話を切り出すにしても、場所を移動した方がいいだろうと、どこか適当な場所を思い浮かべながら歩き出そうとする。
 静香に対する未練が俺の中に残っていて、出来るだけ先延ばしにしたかったのだ。
 しかし、そんな俺の思惑を知らない静香は、
「理乃ちゃんを一人にしない方がいいんじゃない?」
「は?」
「は?じゃないでしょ。包帯が取れたとはいえ、もう理乃ちゃんの目、殆ど見えてないんでしょ?そんな中で一人きりって不安だと思うよ」
 だから、誰か居てあげないと。静香が言う。
 基本的に静香は、面倒見がいい性格で、若干お節介焼きな所がある。
 故に、そこまで面識がない様な理乃の事を、もしかしたら俺以上に気にかけているのだ。
「や、でも、ここ人通り多いし……」
「何、そんな話し辛い事なの?」
「いや、そう言う訳じゃ……」
 言葉に詰まってしまう。実際、かなり話しづらい話題だ。
 しかし、既に静香は、ここで話を聞く態勢に入っている。
 こうなってしまったら、静香を説き伏せる事は難しい。
 彼女はおせっかい焼きに加えて、こうすると決めたらそうそう覆さない頑固な所があるのだ。
 ……正直、かなり面倒くさい性格だと思う。
 しかし、そんな彼女の性格も含めて、好きになったのも事実で。
「……分かった。ここで話すよ」
 諦めて、静香と身体ごとしっかり向き合う。
 いまだに残る未練を断ち切るためにも、ここで話したほうが良いのかもしれなかった。
 すう、はあ。小さく息を整える。
 じっと、静香を見据える。彼女も俺の態度に何かを感じたのか、真剣な表情になった。
 もう一度大きく息を吸って。
「俺たち別れよう」
 一息に告げた。
 
242Melt―上:2010/02/06(土) 21:36:09 ID:dRWs8Hqu
 #

「俺たち別れよう」
 妙に真剣な顔で、対面の祐樹が告げた。
 瞬間、時が止まった様に思う。
「何いきなり……冗談だとしても笑えないんだけど」
「……俺は本気だよ」
「――へぇ?」
 思わず声が裏返ってしまう。祐樹の表情は、相変らず真剣そのもので。
 この話が、冗談ではないことを雄弁に語っていた。 
 私達の間に、剣呑な空気が流れ始めた。
 それを感じ取ったのか、丁度通りかかった若い男性が、興味深げにこちらを見ている。
 私と目があったかと思うと、その男性はさっと目を背け、足早に歩き去った。
 その背が角を曲がり見えなくなるまで見送って、腕を組んだ。
「別れようって、どういう事?」
 じっと、睨みつけると祐樹が怯んだような顔をして目を反らした。
 祐樹は、結構小心者な所がある。
 それを隠して強がってみせる所なんか、可愛いと思う。
 まあ、そんな事を本人に言ったら、思い切り否定するのだろうけど。
「どういう事って……言葉通りだよ」
 祐樹がそう言って、顔を伏せた。
「言葉通りって、ふざけてるわけ?」
「い、否、そんなつもりは……」
「じゃあ、どういうつもりなの。……まさか、他に好きな子でも出来たわけ?……それで、私を捨てるんだ」
 祐樹が弾かれた様に顔を上げた。
 何か言いたげに、口をパクパクさせている。
 暫くの逡巡の後、
「ごめん」
「は?何で謝るの?私まだ、納得してないんだけど」
「ごめん。それでも、別れて欲しいんだ。」
「だから、何でなのって言ってるの。理由を教えてよ!」
 全く要領を得ない祐樹の言動に、抑えていた声を、つい荒げてしまう。
 周囲に居た人たちの視線を、一瞬にして集めてしまう。
 近くに居た看護師が、警戒した視線を投げかけてきた。
 さすがに病院で騒ぎ過ぎると、追い出されるだろうし、最悪、通報される恐れもないとは言えない。
 こみ上げる苛立ちをぐっと抑えた。
 どうしても抑えきれない分は、祐樹に射すような視線を送ることで発散する。
 祐樹は、依然何か言いたげな顔しながらも、口を開こうとしない。
 何やら、言いにくい理由がある様だ。
 とはいっても、祐樹からこの突拍子もない別れ話の原因を聞かない事には、私も、はいそうですかと引き下がれるわけがなかった。
 膠着したまま、数秒が経った。
 元々、余り気の長い方ではない私が耐えきれず口を開こうとして、
「お兄ちゃん?」
 背後から聞こえた、幼い女の子の声に遮られた。
 振り返ると、理乃ちゃんが、いつの間にか病室の引き戸を半分開けて立っていた。
 その顔はこちらに向けられている。
 目の見えない理乃ちゃんは、私と祐樹を間違えているようだった。
「理乃!」 
 おぼつかない足取りで、こちらまで来ようとした理乃ちゃんを、祐樹が慌てて駆け寄り止まらせた。
 理乃ちゃんは、手探りで祐樹の腕を掴み、抱きついた。
 もしかしたら、と思う。
 もしかしたら、祐樹は、理乃ちゃんのために私と別れようなんて言い出したのかもしれない。
 彼女がどうして視力を失ったのか、その理由を祐樹は何故か教えてくれなかった。
 けれど、どんな理由があるにせよ、幼くして光をなくしてしまった理乃ちゃんには、これからいくつもの試練が待ち構えている事だろう。
 それこそ、何の不自由なく暮らしてきた私なんかには想像もつかないような試練が。
 否、想像する事さえ、もしかしたら烏滸がましい事なのかも知れなかった。
 だから祐樹は、私と別れようなんて言い出したのではないだろうか。
 だってそれ以外に、私と祐樹が別れる原因なんて考えられない。未だ付き合って日も浅いし、喧嘩もした事なかったというのに。
243Melt―上:2010/02/06(土) 21:36:36 ID:dRWs8Hqu
 これから祐樹は理乃ちゃんの兄として、彼女を支えていかなければならない。
 理乃ちゃんは、見た感じ祐樹に一番なついている様だし、少なくとも理乃ちゃんが怪我に慣れるまでは祐樹が傍に居る事が一番だろう。
 祐樹は、私と言う恋人の存在が、これから理乃ちゃんを支えるにおいての負担となると考えたのではないか。
 若しくは、これからはどうしても理乃ちゃんに時間を取られることになるので、私に迷惑をかけてしまうと考えたのではないか。
 そうだとするならば。
 馬鹿だと思う。祐樹は、馬鹿だ。
 私も、理乃ちゃんを支えたいと思っている。それが例え微力であろうとも、少なくとも負担になんかなってやらない。
 理乃ちゃんの存在を迷惑に思うなんて、それこそナンセンスだ。
 私達が付き合い始めて、まだ一月程度しかたっていないけれど。
 それでも、私は祐樹と、これからも共に生きていきたいと思っているのだ。
 それこそ、酸いも甘いも一緒に飲み込みながら。
「祐樹、私は――」
 私の思いを隠すことなく告げようと、口を開いて。
「――お兄ちゃん」
 機先を制するように発せられた声に遮られた。
 理乃ちゃんが、祐樹の腕を抱えたまま焦点の合っていない目で、じっとこちらを見つめてきた。
 睨まれている様に思うのは、彼女の焦点があっていないからなのか、それとも。
「わたし、もうこの人の声、ききたくないよ」
 理乃ちゃんの声は、今まで以上に、私に対する嫌悪感で満ちていた。
「理乃、お前……」 
 彼女の言葉に、何故か祐樹はひどく驚いたような顔をした。
 そして、私をじっと見据えている理乃ちゃんを見下ろし、直ぐに慌てた様に顔を上げた。
 そして、どことなくひきつった、何かに怯えた顔で、
「……静香。もういいだろう、帰ってくれないか」
「な……」
「これからはもう、大学で会っても話しかけてこないでくれ。その方が、お互い、けじめを付けられると思うからさ」
 そう冷酷に告げて、祐樹は踵を返した。
 そして、病室の戸をあけて、個室の中へ入っていく。理乃ちゃんの腕を引きながら。
「ちょっと――」
 ――待って。
 追いすがろうとする私を、祐樹に手をひかれた理乃ちゃんが一瞥した。
 その時、彼女がうかべていた表情は。
 まるで勝利を確信した者が、敗者を見下し、嘲笑うかの様な笑み。
 その唇が、何かの言葉を紡ぐように開閉した。
 声は聞こえなかったけれど、その唇はサヨナラと告げている様に見えた。
 呆然と立ち尽くす私を置き去りにして、目の前で病室の戸が、ガタンという音と共にゆっくりと閉まった。
「何なのよ、コレ……」
 思わず呟いた。本当に、何がどうなっているのだろう。
 私が一体何をしたというのか。
 応えるものは最早居らず、私だけが、一人惨めに取り残されている。
 目の前にある、祐樹の居る場所へ繋がる戸は、どこか遠く。
 私の前に、堅牢な壁として立ちはだかっていた。
244Melt―上:2010/02/06(土) 21:37:24 ID:dRWs8Hqu
 #

 俺と静香が別れて、早いもので二ヵ月以上が過ぎていた。
 大学では元々学部が違うので、知りあう切欠であったサークルを辞めてしまったら、もう殆ど会う機会はなくなったことは幸いであろう。
 それでも、偶に大学のキャンパスや付近の道路で擦れ違う事が、二〜三度会った。
 一度目は、話し掛けてこようとした静香から目を反らし、足早に逃げてやり過ごした。
 背中に静香の視線を浴びながら、心の中だけでごめんと呟きながら。
 二度目以降になると、静香も、もう俺に話しかけてこようとはしなかった。
 静香は周りに男友達や、女友達を多くひきつれて楽しそうに、対して俺は一人居た堪れない気持ちで、俯いて。
 元々静香は、竹を割ったような性格だったから、俺のことなんて、きっともう吹っ切れてしまったのだろう。
 それに、快活で面倒見も良く、容姿も良いとくれば周囲の男どもが放っておかないだろう。
 もしかしたら、もう既に新しい恋人の一人や二人くらい出来ているのかもしれなかった。
 大体、何故俺と恋人になってくれたのか、我ながら、今でもよく分かっていないぐらいなのだ。
 まあ、今更理由が分かった所でどうしようもないのだけれど。
 全く未練がましい話だ。
 静香がこちらにやって来たらやって来たで困るというのに、離れて行ってしまうとそれに一抹の寂しさを感じている。
 何と自分勝手で、何と女々しい事か。
 自己嫌悪とか寂しさとかが凝って、行き場のなくなった想いを溜息と共に空へ逃がした。
 想いの塊は、冷気に白く煙り、あっという間に霧散してかき消えた。
 十二月ともなれば、気温は滅法低く、寒さが身にしみるようだ。
 もう暫くしたら、この町にも雪が降るだろう。
 更にはクリスマス、大晦日、正月。今月から来月にかけての間には、イベントが数多だ。
 生まれて初めて、恋人と過ごすはずだったクリスマス。
 今となっては、隣に恋人の姿はなく。
 俺は。
 純白の雪を、一体どんな気持ちで見上げるのだろうか。
 聖なる夜を、一体どんな気持ちで過ごすのだろうか。
 新しい一年を、一体――。
 体がぶるりと震えた。寒い。
 冷たい風が、びゅうびゅうと体に絡みついてくる。
 つんとするような冬の匂い。耳鼻がじんじんと痛む。
 今年の冬は、例年以上に冷え込むらしい。
 冬将軍を前にしたら、地球温暖化なんか些事に等しいのだろうか。
 天気予報では、寒波がどうたらこうたらと言っていたけれど、原因がどうであれ寒い事に変わりはない。
 空を見上げる。抜けるような青空。太陽は燦々と、けれど何処か儚く。
 俺は、後悔しているのだろうか。静香と別れた事を。
 自分でもよくわからない。
 後悔していないと言えば、嘘になるだろう。寂しさを感じているのも、また事実だ。
 出来る事ならやり直したい、と思う。
 けれど、もし一度だけやり直すことができるというのならば。
 一体、何処からやり直せばいいというのだろう。俺は一体どこで間違えてしまったのだろうか。
 俺じゃない誰か、それこそ漫画の主人公のようなやつだったならば、上手く選択肢を選び、最上の未来を掴めたのだろうか。
 静香とは恋人同士、そして理乃は光を失うことなく。三人で仲良く笑いあっている。
 そんな未来を掴めたのだろうか。
「はは」
 思わず、笑いが漏れた。ゴーヤを口いっぱい頬張ったような。
 つんと寒さが目に染みた。ずず、と洟を啜った。
 人が行き交う道を、とぼとぼと歩く。
 この道をあと数十分も辿れば、自分の家へとたどり着く。理乃の待つ家に。
 理乃は、一週間もせずに病院を退院した。
 これから先、目が良くなる事はないので、光のない生活に慣れるしかないのだという。
 光のない生活。
 一息に言ってしまえるような、言葉の中に、一体どれだけの苦労が詰まっているのだろうか。
 きっとそこには想像も絶するような、光景が広がっているのだろう。
 とかく、晴眼者の俺には想像できないような暗闇が広がっているはずだ。
 けれど、そんな絶望にも似た暗闇の中で生きながらも理乃は笑っている。
 学校も転校を余儀なくされ、毎日の生活が不便になったというのに、寧ろ今まで以上のご機嫌ぶりだ。
 話を聞けば、お兄ちゃんがかまってくれるから、と無邪気な笑みを浮かべていた。
 俺にかまってもらいたいがために、俺の一番になるために、理乃は光を手放した。
 理乃は、光り輝いている未来の扉を、自ら閉ざしてしまったのだ。
245Melt―上:2010/02/06(土) 21:38:27 ID:dRWs8Hqu
 自分の一生を左右する様な凶行に走った理乃。当時の妹の胸の内では、一体どれほどの感情が轟いていたのか。
 そして、そんな10歳という年不相応な感情を抱かせたのは、俺なのだ。
 どれだけの事をすれば、その罪を贖えるというのだろう。
 俺の罪は深く、濃い。どろどろと澱み、凝っている。
 一朝一夕で贖えるものではない。
 理乃は、俺が傍に居る事で満たされると言ってくれる。多分、それが俺にできる唯一の贖罪なのだろう。
 今はまだ、理乃の傍に。理乃が、俺を望む限りは。
 
 #

 夜。
 賑やかな家族の団欒が終わり、風呂に入り、ついでに歯も磨いて後は寝るだけを残すところ。
 風呂上がりで未だ湿った髪を、バスタオルでガシガシしながら自分の部屋に入る。
 自分の部屋、といっても理乃との共同だが。
 ほんの数か月前まで、大学生になったのだし一人暮らしは無理でも一人部屋を、と思っていた自分が妙に懐かしかった。
 理乃がこうなってしまった今、二人部屋というのはあらゆる意味で便利であった。
 ふう、と息を吐く。
「お兄ちゃん」
 不意に名前を呼ばれた。声の元を追えば、部屋の隅、二段ベッドの下の階に理乃が居た。
 俺よりも先に風呂に入った理乃は、猫柄のピンクのパジャマ姿だ。
 髪がしっとり濡れているのが分かる。
「なんだ、居たのか」
「うん……何か、居辛くて」
「ああ……」
 理乃のぼかしたような言い方に、頷いた。
 理乃が言っているのは、両親の態度の事だろう。
 両親は、理乃の失明の原因を事故だと思っているが、その分、理乃への接し方がやけに過保護になっていた。
 理乃ちゃん、一人でご飯食べられる?一人でトイレに行ける?一人で歯磨きできる?
 理乃ちゃん、理乃ちゃん、理乃ちゃん……。
 大体、両親は以前まで理乃の事を、普通に「理乃」と呼んでいたはずだ。
 だのに、今となっては「理乃ちゃん」だ。光を失った理乃の事が心配なのは分かる。しかし、両親の態度は過剰に過ぎると言えた。
 既に、家の各所には、理乃のために手摺が設置されている。
 両親に愛されるというのは、まあ悪くはないであろうが、過ぎたるは及ばざるが如しという言葉もある。
 正直、理乃が目を悪くしてからは家族の団欒というものが、空々しいものに変貌してしまった。
 幼い理乃ですら違和感に、居た堪れなさを感じるのだから相当だ。
 ったく、と舌打ちする。といっても、両親も悪気があってやっているわけではない。
 彼らは彼らで、娘の事を心から気遣っているのだ。
 まあ、だからこそタチが悪いのだともいえるのだけれど。
「わたしはお兄ちゃんがいれば、後は何もいらないのに」
「そういう事言うなよ。父さんと母さんも、お前が心配なんだ」
「それは分かってるけど……」
 ぷう、と理乃は頬を膨らませた。
「まあ、でも、わたしが自分の手でやった事だし受け入れないとね」
 直ぐに頬から空気を抜いて、大人じみた事を言う。
「ああ、まあ、な」
 俺が言葉を濁しながら、部屋の入り口で立ち尽くしていると、
「ねえ、こっちに来てよ」
 理乃が手まねきをする。
 特に抵抗する事もなく、理乃に従う。
 途中で手に持ったバスタオルを時2段ベッドの上の階に放り投げて、理乃の待つ一階のベッドに潜り込んだ。
 理乃の隣に座ると、早速理乃が俺の両腿の間に入り込んできた。
 ここ最近、寝る前の半ば習慣となっている時間だ。
246Melt―上:2010/02/06(土) 21:38:54 ID:dRWs8Hqu
「えへー」
 俺の腕を自分の前にまわさせて、ぎゅっと抱きしめてくる。
 お姫様の笑みは、無邪気にでれっと蕩けている。
「お兄ちゃんのにおい、好きー」
 理乃が笑みを張り付けたまま、見上げてくる。 
 理乃のくりくりとした大きな瞳は、以前は可愛らしさに花を添えるものだったが、今の焦点の合っていない瞳はどこか不気味ですらあった。 
 その目はわずかな光のみを残して、何も見えてはいない。
「理乃、ごめんな」
 ぽつりと漏れ出た言葉に、理乃は不満げに顔を曇らせた。
「また、それ?もう聞きあきたよ」
「そうかもしれないけど、な」
 目が見えなくなった理乃は、既に多くの障害にぶつかっている。
 目が見えない以外は、健常者と何の違いもない理乃だけど、世間はそう見てはくれない。
 世間にとって、理乃は身体障害者以外の何物でもない。
 そして、そんな事態にさせたのは、他でもない理乃の兄である俺。何度謝っても謝り足りないというもの。
「目が見えないからこそ、見えるものもあるんだよ」
 理乃はあっけらかんとした風で言う。
「それにね、お兄ちゃんがわたしのことを一番に思ってくれるようになったから、後悔してないよ」
 静香と別れて以来、理乃は俺に対し、一層気持ちを示してくるようになった。
 所構わず甘えるようになり、町中で抱きついてくることもままある。
 世間から見れば、目の見えない妹とそれを労わる兄の麗しき兄妹愛の様に写っているらしく、その度にむず痒くなるような視線が周囲から送られてくる。
 後悔していないと理乃は言う。俺がいれば、それでいいと。そのために光を捨てたのだと。
 愛していると理乃は言う。兄である俺を、男として愛していると。
 それを、幼い故の錯覚だと一笑に付す事は出来ない。
 理乃は、年幼くして妄執じみた情念を身につけている。
 そして俺に対しても、理乃が俺に対して抱くものと同質の感情を抱くように求めてくる。
 確かに、理乃の事を愛しいと思う気持ちは、俺の中に存在する。
 理乃が光を失い、以前より俺に頼るようになり、甘えるようになってからは愛しいと思う気持ちが強くなったようにも思う。
 理乃に慕われ、頼られると保護欲の様なものがかき立てられ、理乃を支えられるのは俺だけなのだと、傲慢な思いを抱いてしまうのだ。
 静香の事を引きずりながらも、心の一部は、すでに新しい方向へと向けられようとしている。
 一つの恋の終わりに、うじうじするのもどうかと思うが、ちょっと調子がよすぎるんじゃないかと思う。
 人それぞれではあるだろうが、俺は異性に頼られるとコロっとくるタイプらしかった。
 実のところ、静香においても、何度かそういう機会があったから好きになったのだ。
 それでも、それはまだ兄妹という枠内をぎりぎり出ていない。その枠は、固くて厚い。
 けれど、このまま理乃の妄執が萎むことなく月日が過ぎていけば、何時か俺も理乃を一人の女として愛してしまうような気がしていた。
 この女は、俺がいなければ何もできない。だから、この女は俺だけのモノなのだと、思ってしまう日が来るのではないか。
 それは、理乃が抱く、妄執にも似た―― 
247Melt―上:2010/02/06(土) 21:40:17 ID:dRWs8Hqu
以上です。
続きはバレンタインまでには何とか……
それでは、スレ消化失礼しました。
248名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 21:59:47 ID:tZWKywrR
>>247
乙。
続き期待してます。
249名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 22:27:43 ID:38KUwRxI
前後編だけでしか読めないのがすでに残念w
静香の動向が気になるところです。
GJ!
250名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 22:50:13 ID:R3N2O2X/
上中下かもしれないぞ?

とにかくGJ!
251名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 23:09:16 ID:ewEik9oX
>>247
面白かった。
252名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 01:00:45 ID:8JYlJXg1
主人公が俺の兄と同じ名前だから萎えた
つつづきが気になる GJ
253名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 04:57:29 ID:qLd/bbef
お前の兄の名前なんてどうでもいいんだよ
チラ裏にでも書いてろ
254名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 05:35:46 ID:H7HqR5By
つか三つの鎖のこの展開はかなりヤバくね…?

梓は春子が幸一に何をしてるか知らないわけだから、夏美を消せば幸一が手に入る(父親も発狂寸前であって発狂には至ってないから何とかなる)とか考えてるかもしれんが、現実には春子との事もあってこの状況で夏美がオワタになったら幸一は発狂してBADENDじゃねーか














出来すぎてるGJ
255名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 06:08:44 ID:oXGR9gZa
ギルス並の不幸属性だな…。
256名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 10:07:56 ID:jcffrBBs
まさかこのような辺境で平成ライダー亜種の名前を見る事になるとは思わなんだ
257名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 11:41:49 ID:HMQnIq10
ここでソウカンジャーなんですねわかります
258名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 15:38:28 ID:Ht4aNFzU
>>254
そう考えると、幸一にとって夏美という存在は
色々とギリギリな自分を繋ぎ止めてくれている「鎖」なのかな
あとの二人は…
259名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 19:41:14 ID:F91Cp8St
>>247
GJ!
呪われた日であるバレンタインデーが楽しみだ

>>258
その言い方うまい
確かに幸一の不幸さはやばいよな
幼馴染には逆レイプされ、盗撮され、脅迫される
妹はキモウト
あれ?一番健気なのって幸一かも
260名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 20:55:36 ID:Fl34SIJI
一番不幸なのは夏美だろ……

幸一とつきあったばっかりに、盗撮されるわ死にかけるわ……
261名無しさん@ピンキー:2010/02/08(月) 00:21:55 ID:RQDZBS/y
でも夏美はそのことを知らないんだよな・・・
これは幸せといえるのか不幸せといえるのか・・・
ある意味では幸せなのかもしれないけどね
262名無しさん@ピンキー:2010/02/08(月) 00:23:21 ID:6lY6nr5+
一番の親友だと思ってた子が実はキモ姉妹でした♪

これは死亡フラグ
よくて不幸フラグ
263名無しさん@ピンキー:2010/02/08(月) 00:58:55 ID:S4INQlvA
こうなりゃハーレムエンドに持ち込むしかないな
264名無しさん@ピンキー:2010/02/08(月) 09:27:39 ID:CQy15pex
読み返したら、春子があまりに鬼畜でワロタ

夏美が幸一に告白 → 幸一を逆レイプ
梓と幸一が和解 → その日のうちに盗撮した映像で脅迫、性交を強要
幸一と夏美の距離がちょっと縮まった → 帰り道を待ち伏せし他に盗撮した映像で脅迫、性交を強要

どれだけ鬼畜なんだよ
幸一が嫌がる春子の尻を掘った時、やりすぎだろって思ったけど、今は全然思わない
265名無しさん@ピンキー:2010/02/08(月) 23:14:34 ID:o1pY8Pyx
つまらんことで容量取るなゴミカス
しね
カス
一個のこといつまでも引っ張るんじゃねー
266名無しさん@ピンキー:2010/02/08(月) 23:29:14 ID:5kQM4Qxj



267名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 00:05:18 ID:1LpkxfCm
臭せえ
268名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 02:23:23 ID:+7Y0/c2j
受験落ちたからって八つ当たりすんなよ
269名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 07:18:28 ID:pFQ9prLq
言い方わるいけど>>265の言いたい事はわかるな…
確かに雑談ウザかったし。
>>268受験頑張れ
270名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 08:35:37 ID:yzyZb1ML
作品について話してくれるなんて作者冥利に尽きるだろjk
しょうもないケチつけるだけの買い込みと違って
作者のモチベだってあがるぞ
271名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 11:49:12 ID:mNSiCnyF
あんまり雑談が長引いても他の職人さんが投下し辛いんじゃないの?
三つの鎖の人は良いかもしれないけど
272名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 15:23:48 ID:Vz5GrgFQ
荒れない程度の雑談なら大丈夫じゃない?
273名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 18:42:22 ID:JrVuppdY
職人は自販機なんだから喋るな。
今度は客も自販機相手にいちいち喋んなってか。
結構な事じゃん。
感想も期待も無く、誰がどう楽しんでるのかも分からない文章が淡々と羅列される状態が理想なんでしょ、きっと。
大型規制以前に寂れて当然だね。
けったくそ悪い。
274名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 21:34:17 ID:7/hV5fEg
皆カリカリしてんなあ
バレンタインが近いからか?
キモ姉・キモウトどっちでもいいから、媚薬入りのチョコが欲しい……
275名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 21:55:09 ID:V7PbZXBT
>>274
俺のでよかったらやるよ
276名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 21:58:15 ID:5dSxU/JN
俺っ娘妹もいいよねうん
277名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 22:21:37 ID:tyXIzODt
格闘技が趣味で兄を技の実験台と称して体触ったり臭いを嗅ぐのが目的っぽい
278名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 22:52:52 ID:54wNFeE4
お兄ちゃんの脇の下と足の指の間が大好物な妹ですと
279名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 00:15:10 ID:Bd619s2/
http://tsushima.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1265724707/
【社会】 婚姻届を出しに帰省中のカップル、交通事故死。運転しいてた妹は重体…秋田・湯沢
280名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 00:18:01 ID:TvmFDsSz
不謹慎だぞ
281名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 00:31:19 ID:PyRocTFP
どういうつもりで貼ったのか知らんが、スレ参加者は現実の人死にをネタにするほどクズじゃないだろう
282名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 01:31:44 ID:wPjI0bgy
>>279
雑談を許すからこういうクズが出てくる
純粋な投下レスだけでスレが進むならそれが一番良いのに決まってんだろボケ!
283ポン菓子製造機 ◆lsywFbmPjI :2010/02/10(水) 02:51:21 ID:qa1yn+0V
投下します
284名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 02:52:01 ID:qa1yn+0V
 私が兄貴への思いを告げられずに、鬱屈した日々を送り続けて何年がたっただろうか。
窓の外を見れば、マンションの真下から藻岩山のてっぺんまで、この北の街は一面の雪景色に染まっている。
もうすぐ冬の街で始まるであろう恋人たちの季節。朝のニュース番組が盛んに喧伝するそれに私は一抹の嫉妬と侮蔑を込める。
「何がクリスマスイブのデートスポット情報だっつの、お台場ごと吹っ飛べ。畜生」
兄貴はカリカリになるまで焼いたベーコンを口に含みながら毒を吐く。
「モテないからって変な嫉妬しないの」私はトーストに白桃のジャムを塗る。
父さんは何も言わずに、黙々とバターを塗ったトーストを齧っていた。
やがて父さんはトーストとベーコンエッグの朝食をすべて食べきると、椅子にかけてあったコートを羽織りはじめる。
「今日、少し遅くなる」父さんはそう言って鞄を取ると、食堂の外へと出て行った。
どうせまた、母さんのところだろう。
本人曰く「終業時刻になると仕事が残っていても強制的に終わらせられる」職場に務めている父さんが遅くなると言うときは、決まって母さんのお墓に行く時だ。
父さんはよく母さんのお墓に行く。
なのに、それでもたまに母さんがそこにいるのように振舞う。
兄貴は父さんが静かに狂ってると言っているが、私はちがうとおもっている。
父さんはきっと、今もずっと母さんのことを愛しているんだと思う。
だから、母さんを忘れたくないがために、いつまでも母さんを感じれるように振舞って、母さんを愛していると言う事実を深く刻んでいるのだろう。
まるで手首を切って生きている証を刻みつけるように、そうやって生々しく母さんを刻みつけて、絶対に母さんを忘れないようにしているんだ。
私にはうっすらとだが、父さんの考えていることはわかった。
決して叶うことの無い、切なすぎる片想い。父さんは、私なんかよりもずっと深い悲恋を抱えているのだ。
「そら、俺たちも行くべ」
兄貴は私の分の食器も軽く流しで洗うと、食器洗浄機の中に突っ込む。
そして私たちはコートを羽織って家を出ると、すっかり冬の様相を呈した、雪の街へと踏み出した。
今日は十二月二十四日。世間ではクリスマスイヴとカップルたちが大手を振って闊歩するためのような日だが、私たちにとっては終業式と言う嬉しいイベントを兼ねた日でもあった。
夜のうちに積もった新雪を踏みながら、私たちは電停にたどり着く。
「兄貴」私は裸のまんまの兄貴の手を、きゅっと強く握った。「手ぇ、寒いでしょ」
「ん、ありがと」兄貴は頬を染めながら答える。
ここ数カ月で、兄貴は完全に私のことを異性としてみてくれるようにまでなっていた。
私の裏工作の賜物なのか、それとも元から私を異性として受け止めていてくれたのかは分からないが、私にとっては嬉しい半面、なぜか、どこか寂しい感じもしたのだった。
やがて、眩しいほどに朝陽を受ける雪を舞い上げて、深緑色のの連接車が滑り込んでくる。
私は兄貴の握った手を離すこと無く、連接車へと乗り込んだ。
285名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 02:53:17 ID:qa1yn+0V


「冴えない顔だな、千歳」
今年最後の放課後、まだ賑やかな教室の俺の席の付近の蒸気暖房に寄りかかっていた健史が言う。
「ああ」俺はふるふると手を振った。「センター試験が近いのが憂鬱でな」
「……それでもお前は第一志望C判定だろうが」
「C判定だからこそどう転ぶか怪しいんだよ……」
健史はぐっと伸びをして、蒸気暖房から体を離すと千歳の席の前を離れていった。
「……はぁ」俺は深くため息をつく。
センター試験、受験、そしてそらの事。俺の中での問題は山積みだ。
特に深刻なのはそら。
あいつはきっと完全に俺を異性としてみているのだろう。ここ数カ月の態度が、何よりの証拠だ。
そして、俺自身もそらを女として見始めている……。
『人を裏切るのは妹とセックスするようなものだ』
少し前にテレビの洋画劇場でやっていた、コメディ映画の主人公が確かそう言っていた。
有名洋画のパクリとバカらしい演出だらけの映画の中で、俺は主人公が真剣な様子で言ったそのセリフだけが何故か印象に残っていた。
直訳すれば、妹に恋愛感情を抱くようなヤツは人間の屑だ。と言うこと。
俺は果たして屑なのだろうか。それとも人間として踏みとどまっているのだろうか。
窓の外を見ると、白に染まった校門と電車通りがあった。ああ。深緑色のボギー車が今電停についた。
俺は配られたプリントを全て鞄に突っ込むと、席を立った。
無性にどこかに行って、静かに考えたい。そんな気分だった。
昇降口と校門を抜け、電停の前の赤信号で立ち止まる。
まるでタイミングを合わせたように、道路の端の方から路面電車が雪の電停めがけてゆったりと走ってくるのが見えた。
やがて信号が青に変わり、電停へとたどり着いた俺の目の前に深緑色の丸っこいボギー車が止まった。
俺は電車に乗り込み、まるで屍肉を見つけたハイエナのごとく我先に空席へと群がる生徒を横目に、つり革へと手を伸ばした。
電車はいくつもの電停に停車を繰り返し、ふと俺が気がつけば既に終着であるすすきのの電停に停車していた。
「全線定期券でよかった」
俺は電車を降りると、当てもなく、単に小腹がすいたと言う理由でそのまま近くのマクドナルドに足を運んだ。
どこかの動画サイトでさんざっぱらネタにされ続けてるピエロのポップに出迎えられると、俺はそのままカウンターの前へと進む。
「ホットアップルパイとフィレオフィッシュ。あと水ください」
俺はそれらを抱えて二階の客席へと上がっていく。
客席は多くの席がうまっており、中には同じ制服の連中も何人か混じっていた。俺は適当な席につくと、チーズバーガーの黄色い包みを開けて、噛り付く。
少し安っぽい味が口の中に残った。
「やっぱこんなんじゃそらの作る昼飯にはかなわんか……」
もしかすれば今頃そらは家で俺の分の昼食も作ってるかもしれない。
何も言わないでふらっと出歩くなんて、悪いことをしたな。そう思いながら俺はチーズバーガーを食べ切り、そのまま次のフィレオフィッシュへと手を伸ばす。
「あれ?千歳さん?」
フィレオフィッシュを半分ほど食べたところで、俺は突然声をかけられる。
見上げると、同じようにトレイを持った眼鏡の少女、里野藍がそこにいた。


286名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 02:53:43 ID:qa1yn+0V
「ふぅ……」
路面電車から降ろされた俺は、電車通りから裏通りへと入ってゆき、古ぼけたマンションの玄関をくぐる。
西日のせいで仄暗い共用のホールを過ぎると、いつも通り重苦しい雰囲気の、密かに俺が『囚人護送用』と呼んでいるエレベーターに乗り込んだ。
階数ボタンを押して扉を閉めると、エレベーターはゆっくりとした速度で、本当に死刑台に囚人を送り出すかのように昇っていった。


「せつないよぉっ……! あにきぃっ……もっと……っ!」
私のエッチな声が昼下がりの居間にわんわんと響いている。
指は次々に私の弱点を攻め上げて、時には酷く乱暴に引っ掻き回す。
だが、そんな痛みも、私の快楽と切なさにふやけた頭が、妄想の中の兄貴が与える快感に変えてしまう。
「もっと……もっとはげしくしてぇっ……!」
私の言葉通り、私の指の動きは激しくなる。
「ああっ! いいよぉっ!!」
もう私は、まるでシチューにつけた食パンのように、オナニーの作り出した妄想にじっとりと浸っていた。
それと同時に私の頭はこの虚しくも素晴らしい世界を維持すべく、触覚と快楽神経以外の外の世界へ通じる全ての感覚器官をシャットアウトしてしまっていた。


『囚人護送用』エレベーターはすぐに我が家の階に到着した。
窓の一つも無いために、真昼でも酷く薄暗い廊下を革靴を鳴らして歩いてゆく。
そして我が家の、これも刑務所のごとき重い鉄扉を開ける。
いつもならばそらがゲームでもやっていて、その音が玄関の方にまで漏れてくるのだが、今日だけはそれは違った。


「あにきぃっ……おにいちゃん、おにいちゃぁんっ! わたし、もうだめ、もうだめだよぉぉっ!!」
ラストスパート。指はこれでもかと言うまでに私の女の子の部分を磨り上げ、指が食い込むほどに胸を鷲掴みにする。
ぐちゅ、ぶちゅとひどくえっちな音が耳元で何度も鳴り渡る。
「おにいちゃぁぁんっ! すきっ! すきぃっ! だいすきぃっ!」
そう叫んだ矢先に、私は声にならない絶叫を上げながら、自分でも驚くほどに激しく悶えながら果てた。
最終区間を走りきった駅伝ランナーのごとくはぁ。はぁ。と肩で息を切りながら、私はソファに横たわったまま天井を仰ぐ。
そこにはいつもと変わらない、ヤニのせいで薄黄色く変色した天井と、プラスチックカバーの黄ばんだ照明があるだけだった。

どさ。

廊下の方から聞こえた突然の物音に、私は勢いの付いたワンタッチ傘の如く飛び上がった。
私の視線の先にあったのは、何が起こったのかわからない。いや、何が起こっていたのかは理解できたが信じられない。と言わんばかりの、呆気に取られた顔で立ちすくむ兄貴の姿と、どうやら音の主らしい、床に落ちた兄貴の鞄。
オナニーのあとの、虚しさを伴う余韻もあってか、私の頭は混乱することも、戸惑うことも無く、ただ酷く冷めていた。
「いや、見るつもりは無かったんだが、どうも凄い声がしたんで来てみたら……」
兄貴が必死の弁解を手を振って遮ると、私ははだけ気味だったブラウスをそのまま脱ぎ捨てる。
「兄貴、全部聞いてたでしょ」
ぱさり。とブラウスの落ちる音。
そして私はそのまま無防備な兄貴に抱きついた。
「そうだよ。兄貴も絶対気づいてたと思うけど、私ね、兄貴のことが男の子として好きなの」
 兄貴は嫌悪感が混じる顔をそっとそらす。対する私は兄貴の顔をじっと見つめていた。
「もちろん兄妹で好きあったりエッチしたりするのはのはいけないことだってわかってるし、私のこと気持ち悪い妹だって思ってるかもしれない。だけど私は兄貴が、お兄ちゃんが大好きなの! お兄ちゃんがいいの! お兄ちゃん以外じゃダメなの!」
次々に私の口から吐き出される、包み隠すものも無い率直なまでの本音。
「そら……」
「お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃんっ!」ぎゅうっ、とお兄ちゃんの背中に私の指が食い込んでゆく。
口火を切ったように、私の中で感情がのたうち回って暴れてゆく。
もうその激流は私にも止められなかった。
「お兄ちゃん、もう私の気持ちはわかったと思うんだ。だから、ずっと思ってたこと……していいよね」
私はお兄ちゃんの耳元でささやく。
「エッチ……しよ」
287名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 02:54:36 ID:qa1yn+0V


そこから先はまるで全自動だった。
俺はそらの言葉のとおりにそらの体を包む制服のスカートと下着を剥ぎとる。
何年かぶりに見たそらの体は、あまり肉付きは良くない、小ぶりで、乱暴にしてしまえば壊れそうな印象を受けた。
俺はそらのつつましい胸に手を当てる。
俺の頭の中に罪悪感とか、道徳観念とか、そういうものは不思議と浮かばなかった。
このとき北見千歳と言う男の中は、先程俺に「好き」を連呼させてみせた妹を受け止めてやろうとする父性と保護欲、そして少しばかりの好奇心と性欲の混じった、よくわからない感情でいっぱいだった。
「ぁっ……」そらがかすかな嬌声を上げる。
俺はその生めかしいとは程遠い、切ない声をあげる林檎色の唇を自身のそれでふさいだ。
お互いに舌を入れたり、とかそういう技巧なんてなく、ただひたすらにちゅう、ちゅう、とお互いの口内を貪ることだけに夢中になっていた。

「はじめてのキスはレモンの味っていうけど」そらは、混ざり合ってどちらのものか分からない唾液のたれた唇を開く。「お兄ちゃんのキス、りんごの味がした」
「そりゃさっき食ったホットアップルパイの味だ、バカ」
「お兄ちゃんは私のキス、どんな味がした?」
「……ケチャップっぽい味だった」
「それ、お昼のチキンライス味だよぉ」
そらは、俺も今までに何度かしか見たことの無いような、最高の笑顔で、俺に笑ってみせた。
「キスって、癖になっちゃうかも」
そして、そらは唯一そらの体を守っていたショーツに手をかけた。
「うわ、ぐっちょり……」
脱ぎ捨てたショーツがフローリングの床に、ぺしょ。と水っぽい音を立てて落ちる。
目の前のそらは、産まれたままの格好で、はにかむように上目遣いで俺のことを見上げてきた。
「どう……私のハダカ、きれいかな」
俺は、ああ……としか答えられない俺自身に正直ムカついた。
「じゃ……するね」
そらは俺のスラックスのジッパーに手をかけると、それを一気におろして、中に手を入れる。
やがてお目当てのものを見つけて手を引き抜くと、ひんやりとしたそらの手に収まった少しばかり大きくなり始めた俺のものが顔を出す。

「これがお兄ちゃんの……」
手のひらで包み込まれながらも肥大化するそれを、しげしげと眺める。
さっきまではちょっとだけかわいいかも。と思ってたお兄ちゃんのおちんちんはむくむくと膨れ上がり、私の手に収まりきらなくなるほどまでになった。
「こんなのが私の中にはいるんだ……」
そう考えただけで、下腹部がきゅぅっ。と反応する。
ちょっとしたコンプレックスになってる、ぷっくりと膨らんだ股間の裂け目からは、お兄ちゃんが欲しい、欲しいとだらしなく涎を垂らして待ち焦がれている。
いつの間にこんなえっちな体になったんだろうか……正直すぎる体に私は自嘲する。
ちょっと調子にのって、私は猫なで声でお兄ちゃんに言った。
288名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 02:56:09 ID:qa1yn+0V
「お兄ちゃん、ほら。いつでも大丈夫だよ」
「大丈夫……って」戸惑うお兄ちゃん。その仕草も、全部が可愛く見えてしまう。
私はお兄ちゃんを更にからかってみる。
「お兄ちゃんは普通に私の上になってしたい?それとも私が上になった方がいい?」
お兄ちゃんは赤面しながらああ、とかうう、とかしどろもどろになっている。
「私は、私が下になった方がいいなぁ」
そう言って私はごろんとソファに寝っ転がる。
そして手を軽く握って前に出し、足を広げて、足の付根の小高い丘を見せつけるようにした。
「えっへへ、ふくじゅーのポーズ……」
犬が自分より格上の相手に服従の意を持ってみせるポーズ。
もし私に犬の尻尾があるなら、千切れるくらいにぶんぶん振ってるに違いない。
お兄ちゃんは顔を真赤にして視線をそらしたが、おちんちんだけは正直にびくん、びくんと私の痴態に痙攣する。
「……本当にいいんだよな」
「全然大丈夫だよ」
「避妊とか大丈夫なのか?」
お兄ちゃんはまだ心配そうに聞いてくる。
「今日危なくない日だもん、全然大丈夫だよ」
大体、お兄ちゃんの赤ちゃんなら妊娠したいくらいだよ。と私は心のなかで付け足す。
「じゃ……いくぞ」
その宣言とともに、お兄ちゃんは私に覆いかぶさり、おちんちんが私の入り口にあてがわれた。
ずぷずぷ、とおちんちんは吸い込まれるように私のお腹の中に吸い込まれて行く。
だが、お腹の中の引っかかる感触と共に、途中でおちんちんは動きを止めた。
「これが……処女膜ってヤツか?」
「うん……たぶん」
破っていいよ。と私はお兄ちゃんに告げる。自分で誘っといてここでやめちゃうのも卑怯だし、なにより私の初めてはお兄ちゃんに破って欲しかった。
ずんっ! と付き入れられる感触。
そして、おなかが千切れそうなほどの激痛。
「―――――――――ッッ!!」
余りの痛みに私は声にならない声で叫んでいた。
「大丈夫か?」
「ものすっごい痛い」私はものすごい涙目で、呼吸を荒らげながらお兄ちゃんを睨んでいた。
マンガとか体験談だと処女でもそんなに痛そうな感じも無くイチャイチャエッチしてたのに、やっぱりすごく痛い。嘘つき。と叫んでやりたかった。
「でも……続けてくれなきゃやだ」
「本当に大丈夫なのか?」本当に心配そうなお兄ちゃんの声。
「痛くても……我慢するから……!」
こくり、と心配そうな顔を立てに振るお兄ちゃん。
そして腰の抽送がスタートされる。
破けた膜にいちいちおちんちんが引っかかり、お兄ちゃんが動く度に顔をしかめてしまう。
(私から誘ったのに、気を悪くしたらやだな……)
ゆるやかなピストン運動は徐々に激しくなってゆき、そのうちに痛みもだんだんと薄らいでゆく。
正直、結構時間が経過してもまだ痛かった。それでも下腹部からじんじんと伝わってくる熱が、私に一匙の幸福感を投げかける。
「ぁっ……っ……」
ぐちゅ、ぐちゅ、とはしたない水音。ぱんぱんと腰のぶつかり合う音。そして私とお兄ちゃんの押し殺したような吐息。静寂に満ちたリビングは、私たちのエッチな音で占領されてしまっていた。
289名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 02:56:35 ID:qa1yn+0V
「く……」
ごつごつとおちんちんは私の一番深いところをノックし、そのたびに子宮が熱を帯びてきゅうきゅうと震える。
「……そら、もう限界……」兄貴はばつの悪そうな顔で、私の中からおちんちんを引き抜こうとする。すかさず私はお兄ちゃんの上で足を交差させ、ぎゅっとお兄ちゃんを足の間で挟んだ。
「おい、そら!」
「……いいよ……出してもいい!」
お兄ちゃんの背中に手を回して、お兄ちゃんを抱きしめる。
「お兄ちゃん! 好き! 好き! 大好き!」
その瞬間、じゅわっ、と熱くなった下腹部が震え、きゅぅっとお腹が震えた。
「そら、そらっ、そらぁっ!」
「お兄ちゃん! お兄ちゃぁぁんっ!」
そして、お腹が震えたと同時に、私の一番深いところにお兄ちゃんのおちんちんから放たれた熱い迸りが降り注いだ。
「おにぃ……ちゃん……えへ……」
下腹部に感じる多幸感とお兄ちゃんの温かさ、そして行為の疲れの気だるさは、ゆるやかに私を包んでゆく。
今はずっと、このままでいて欲しかった。
290名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 02:57:13 ID:qa1yn+0V
窓の外では茜色の陽が名残惜しそうに夜の世界へとかき消されてゆく。
そらはいつの間にか普段着に着替えて、台所に立っていた。
俺はといえば、リビングの真ん中で、ぼおっと夕方のワイドショーを何の気なしに眺めていた。
内容なんて全然頭に入ってない。
ただ、怖かったのだ。
流されるがまま、そらと結ばれてしまったと言う事実が。
もしそらが俺の子を妊娠していたらと言う仮定が。
今更俺にそらを拒絶することなどできない。いや、する資格がないし、できたとしても絶対にできやしない。
俺に拒絶されたそらがどうなるかなんて、絶対に俺は見たくない。
だが、俺にそらをこの世界の正義とそれに便乗した悪意から守れるだけの強さがあるかといえば、そんな強さも無い。
むしろ俺の方が逃げ出したいぐらいだ。
『人を裏切るのは妹とセックスするようなものだ』
ああ、そうさ。俺は裏切り者さ。
妹とヤっておきながら、その責任も取れないような最低の裏切り者さ。
だからなんだよ畜生。どうすればいいんだよ。
そらを捨てて逃げろってか?
「兄貴?」そらが顔をのぞき込む。「どうかしたの?」
どうかしたって?お前のせいだよ!そう叫びたかった。
「いや、何でもない」俺は立ち上がると廊下へと続く扉の方へと向かう。「ちょっと部屋戻ってる」
「うん……」
鋭い針を突き刺すように冷え込んだ廊下を早足で抜け、自室の扉を開くと、俺はそのまま電気も付けずに自分のベッドに潜り込んだ。
何も思わずにベッド脇に眼を移すと、愛用のDSが枕元に放り出されている。
「そういや、ちょっと前までよく協力プレイとかしてたっけ……」
つい何ヶ月か前、そらと俺がまだ普通の兄妹だった時期。まだそれほど経っていないはずなのに、酷く遠く、懐かしい時期。
「いったい、どこで間違ったんだろうな」
俺は枕に突っ伏す。
何分経っただろうか、外の明かりだけに照らされた薄暗い部屋の中に、くぐもった振動音が響く。
携帯のバイブ。俺はベッドから降りると、机の脇に放り出されたバッグを開ける。案の定音の発信源は俺の携帯だった。
すぐさま携帯を開くと、痛いほど明るい液晶画面に記された「着信 里野藍」の文字。
俺はすぐさま電話を取った。
291名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 02:59:22 ID:qa1yn+0V
「兄貴ー」私は一通り料理を作り終えると、兄貴を呼びに行く。
兄貴と結ばれた。ようやく兄貴に思いを伝えられた。私はもう上機嫌だった。
寒い廊下もものともせずに、一路部屋まで足取りも軽く歩いてゆく。
部屋のドアは閉まっていた。
「あー……」ドアをノックしようとしたその時、ドアの向こうから聞こえる話し声。
電話してるんだ。私はノックしようとした手を収めた。
「ああ……やっぱそうか……うん。じゃあ、そらには黙っておいてくれよ」
私のこと?兄貴は誰と話してるの?
「それじゃ、色々とありがとう。里野」
もしかして、電話の相手って藍?
いったい何の話をしてたの?
私ははやる心を抑えながら、数秒ほどおいて、ドアをノックした。
「兄貴、ご飯だよ」
 おー、今行く。と兄貴の声。
 何の電話だったんだろうか……と私の心の中は、少しだけ、ざわついていた。
292名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 02:59:51 ID:qa1yn+0V

ご飯の後、兄貴がお風呂に入ってる間を見計らって私は携帯を取り出す。
リビングの時計はもう九時を少しばかり回っていた。
電話帳の「里野藍」の文字を押し、通話コールを聞かされること数十秒。
『はい、里野です』
「私、北見そら」
ああ、そらちゃん。といつもの調子で電話の向こうから帰ってくる藍の声。
「ちょっと聞きたいことがあったんだけど」私は少し声を強めた。
『何?』
「さっき兄貴と何電話してたの?」
『え?千歳さんに借りてた本の話……』
「嘘」
ぎり、と歯ぎしり。電話を持つ手にも力が入る。
「私に内緒って言ってたの、聴いたんだから」
え?と藍は戸惑ったように電話口でうそぶいていたが、すぐに声が帰ってくる。
『なぁんだ、わかっちゃってたんだ』
「いったい何の話してたの! 答えて!」
『べつに?』楽しそうな藍の声が電話口ので踊る。『ただ、ちょっとかわいそうな千歳さんを慰めてあげただけですよ』
「かわいそう?」
『うん。実のお兄さんのことが大好きな気持ちの悪い妹に初めて奪われた挙句既成事実まで作られたって困ってたから、それを慰めてあげてたんです』
私は言葉を失った。
全身から血が引いてゆく、貧血の時に体が冷える嫌な感じが私の全身を包む。
その間にも電話口の藍の声は嬉々として残酷な言葉を綴る。
『千歳さんのこと思ってお兄ちゃん、お兄ちゃんってオナニーしてたんでしょ?千歳さん本当にそらちゃんの事嫌がってましたよ。
だからわたしが言ってあげたんです。千歳さんを慰めてあげて、そらちゃんの事なんか忘れさせてあげますよって言ったら、千歳さんすっごい喜んでましたよ』
うるさい。
うるさいんだよ。
『まぁ、千歳さんはそんなワケで私がいただきますから、そらちゃんはひとり寂しく泣きながらでもオナニーに勤しんでて下さいよ』
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい
「……るさい」
『へ?』
「うるさい! 黙れ畜生!」
私は人生で一番の大声を出したんじゃないかと思うような叫び声を通話口に叩きつけ、乱暴に電源ボタンを押して、通話を切る。
そしてそのまま私は携帯電話をソファに叩きつけた。
ホワイトパールの携帯電話はぽうんとソファの上をバウンドすると、そのまま軽い音を立てて床に落ちる。
荒い息を立てながら、私はやり場の無い怒りを抱えて、その場に立ち尽くしていた。
「おい! どうしたんだそら!」
叫び声を聞いて、パジャマ姿で慌てて飛んでくる兄貴。
私は兄貴をこれ以上無いまでに敵意を込めて睨みつける。
「……どうしたんだ?」
「……何でもない」
「何でもないって……あんな大声出してて何でもない訳ないだろ」
「関係ないでしょ! 兄貴には!」
私は兄貴の側にまで詰め寄って、パジャマの襟を引っつかんで、引き寄せた。
「こんな気持ち悪い妹、嫌なら構わなきゃいいじゃない! 私なんか消えればいいんでしょ! 消えればすむんでしょ!」
は?ととぼけたふりをする兄貴。
白々しい。余計に怒りが湧いてくる。
「もういい! 兄貴の望みどおり私は消えてやりますから! どうぞ後はご勝手に藍にでも慰めてもらえばいいじゃない!」
一通り叫び終えると、私は落っこちていた携帯を持って部屋に帰っていった。
293ポン菓子製造機 ◆lsywFbmPjI :2010/02/10(水) 03:01:40 ID:qa1yn+0V
以上です。途中からそらの性格が違うのは仕様です。
あと次が実質的な最終回になりそうな予感です。
294名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 10:07:14 ID:EYQjtDYk
GJ
295名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 13:55:33 ID:yayUJjgM
いいキモ妹だ
296名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 16:02:50 ID:611uj1ef
泥棒猫の言葉を簡単に信じるってことは、一応罪悪感とかあるんだな
297名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 23:22:14 ID:QAJTzJP5
主に モテる
298名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 00:16:20 ID:hUPoifBx
保守

…何日経ったら落ちてしまうん?
299名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 03:47:20 ID:jQhxbnhC
>>298
死ね
300名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 06:34:49 ID:uVXZBvHK
>>299
sageろカス
301名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 08:14:19 ID:0fuRB1bq
ふむ
302名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 17:13:48 ID:+LTaHs+L
>>298
二週間は放置しても持つ。
ソースはつながりっぱなしスレとか。
303三つの鎖 16 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/12(金) 19:34:34 ID:q62zt04w
三つの鎖 16 前編です

※以下注意
エロなし
血のつながらない自称姉あり

投下します
304三つの鎖 16 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/12(金) 19:36:03 ID:q62zt04w
三つの鎖 16

 僕は生れてはじめて学校をさぼった。
 学校を飛び出し走る。雨がぽつぽつと降る中を傘もささずに走った。
 病院まで走り受付に飛び込む。春子と僕が入院した病院。夏美ちゃんのお母さんが告げた病室の部屋番号は奇しくも春子が昔入院した部屋と同じ。
 僕は夏美ちゃんの病室まで走りぬける。
 夏美ちゃんがいる病室を確認する。個室の病室。
 春子が青い顔で静かに眠っている姿が脳裏に浮かぶ。
 僕は唇をかみしめた。
 夏美ちゃん。どうか無事で。
 僕はドアを開けた。
 夏美ちゃんはそこにいた。
 「あれ?」
 ベッドに座っている夏美ちゃんは驚いたように僕を見た。
 「お兄さん?学校はどうしたのですか?」
 いつもと全く変わらない様子と声。顔色もいい。病人服である事以外は何も変わらないいつもの夏美ちゃん。
 僕は安堵のあまりその場にへたり込んだ。膝をついて大きく息を吐いた。
 よかった。無事で。
 夏美ちゃんは僕を不思議そうに見つめた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 「あらららー。そうなのですか」
 事の顛末を話した僕に夏美ちゃんは申し訳なさそうな顔をした。
 「心配をさせてすいません。見ての通り私は全然平気です」
 「いや、僕こそごめん。夏美ちゃんのお母さんの話を詳しく聞かずに来ちゃったから」
 夏美ちゃんはおかしそうに笑った。
 「どうしたの?」
 「いえ、お兄さんっておっちょこちょいな所もあるんですね。家事万能で文武両道の完璧人間ってイメージでしたから」
 今度は僕が笑ってしまった。夏美ちゃんが膨れた顔をする。
 「ぶー。私そんなにおかしい事を言いましたか」
 「違うよ。夏美ちゃんがそんな風に僕を思っているなんて思いもしなかったから」
 「何言ってるのですか!それ嫌味ですよ!」
 夏美ちゃんがぷんぷんする。膨れた顔がちょっとかわいいと思ってしまった。
 「そうじゃないよ。昔の僕は家事なんて何もできなかったし、授業は寝てばかりでついたあだ名が赤点キング。栄養は身長に回って頭に回っていないとかいろいろ言われていたよ」
 昔の僕は本当におバカなお調子者だった。それは今でも変わらない。
 「その話はよく聞きますけど、本当なのですか?今のお兄さんを見ても信じられませんよ」
 夏美ちゃんはくすくすとった。僕も笑ってしまった。
 「でも夏美ちゃんが無事で本当によかったよ」
 僕は立ち上がった。夏美ちゃんの無事を確認できたし帰ろう。授業をさぼるのは良くない。
 「お兄さん。もう帰っちゃうんですか?」
 夏美ちゃんが寂しそうに言う。そんな顔をされると帰りづらい。
 「夏美ちゃんの無事を確認できたし、そろそろ帰るよ」
 「あの、その、えとですね」
 もじもじする夏美ちゃん。恥ずかしそうに下をうつむく。
 「どうしたの?」
 「えとですね、実は私すごく林檎を食べたい気分なんです」
 机の上にはお見舞いの品か果物が置いてある。リンゴと果物ナイフもある。
 「でもですね、そのですね、わたし今は体の調子がおもわしくなくてですね、そのですね」
 夏美ちゃんは顔を真っ赤にして上目使いに僕を見た。
 「その、お兄さんに林檎の皮をむいてほしいな、なんて思っちゃたりしてですね」
 僕は苦笑して夏美ちゃんの隣に座った。もう少しぐらいいいか。果物ナイフを鞘から抜き確認する。きれいに手入れされている。僕は林檎に刃を当てて皮をむく。
 「おおー!お兄さん上手ですね」
 夏美ちゃんが感嘆の声を上げる。僕はゆっくり皮をむいた。少しでも一緒にいられる時間が増えればいいと思って。
 「はい夏美ちゃん」
 僕は切り分けた林檎の欠片を夏美ちゃんに差し出した。
 「ありがとうございます!」
 手を伸ばす夏美ちゃんの手を僕はひょいとかわした。
 「あれ?」
 夏美ちゃんがきょとんとして僕を見る。
305三つの鎖 16 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/12(金) 19:37:49 ID:q62zt04w
 「夏美ちゃん。あーんして」
 僕は夏美ちゃんの口元に林檎を近づけた。
 「え?ええ?」
 目を白黒させる夏美ちゃん。顔が徐々に赤くなっていく。
 「ふえ?ひゅえええ?」
 夏美ちゃんは口元を手で隠し奇妙な悲鳴を上げた。林檎よりも顔が真っ赤だ。
 「そそそそっそそそそっそそんな恥ずかひい事できまひぇん!!」
 だめだ。新しい世界に目覚めそうだ。楽しすぎる。
 春子が僕をからかって恥ずかしがらせる気持ちがよく分かってしまった。
 「だって林檎の皮をむけないぐらい調子が悪いんでしょ?」
 「うー!うー!」
 可愛く唸る夏美ちゃん。ついに観念したように林檎を見た。
 「…うむゅー」
 夏美ちゃんは小さく口を開けて林檎にかぶりついた。真っ赤な顔でもぐもぐと食べる。僕は夏美ちゃんが飲み込むたびに新しい林檎の欠片を口元に持って行った。
 最後の一つを口元に近付けた時、夏美ちゃんはその林檎の欠片をひったくった。
 「お、おお、おお、お、お兄さん!」
 夏美ちゃんは赤い顔で奪った林檎の欠片を僕に突き付けた。
 「あ、あ、ああ、あーん」
 赤い顔。震える手。そわそわする瞳。
 「く、口を開けてくだひゃい!」
 うわっ。これはちょっと恥ずかしい。頬が熱を持つのが分かる。
 僕は控えめに口を開けた。夏美ちゃんは目を閉じて林檎を突き付けた。
 「え、えい!」
 林檎は僕の鼻に突き刺さった。
 「ひばっ!?」
 僕は衝撃にベッドから転げ落ちた。受け身も取れずに無様にお尻を打つ。痛い。
 床から見上げると夏美ちゃんは赤い顔で目を閉じたまま手をつきだした姿勢で固まっていた。林檎の欠片は砕けてバラバラになっている。
 「あんた達何やってるの?」
 あきれたような声が病室の入り口から聞こえた。
 夏美ちゃんに良く似た女性が面倒くさそうに僕たちを見ていた。 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 僕たちは床に散らばった林檎を片づけた。
 「君、なかなか素質があるね」
 入ってきた女性は僕を見てそう言った。
 「ありがとうございます」
 素質って何のだろう。
 「こけっぷりが素晴らしかった」
 何の素質ですか。
 「ただ惜しむべきは、断末魔の悲鳴だ。あそこは『あべし!』と言うべきだった」
 至極真面目な顔で意味不明な事を話す女性。
 あべし?阿部氏?
 「『あべし!』がいやなら『ひでぶ!』でもいい」
 何を言っているか全然理解できない。
 「お母さん!変な事言わないで!」
 夏美ちゃんが顔を赤くして叫んだ。
 やはりこの人は夏美ちゃんのお母さんか。
 夏美ちゃんと同じように小柄で、顔立ちが良く似ている。活動的なショートの髪も同じだ。だけど面倒くさそうな表情が夏美ちゃんと違う。
 「で、この子が夏美の彼氏?」
 夏美ちゃんのお母さんが気だるそうに言った。夏美ちゃんは顔を真っ赤にしてうつむいた。
 「申し遅れました。加原幸一と申します。夏美さんとは親しくさせていただいています」
 僕は立ち上がって挨拶した。
 「へー。今時珍しいぐらい礼儀正しい子ね。夏美。あんたにはもったいないわよ」
 「お母さん!」
 夏美ちゃんが顔を赤くして抗議した。
 「夏美さんのお母様でしょうか?」
 「堅苦しい言い方は好きじゃないから洋子さんでいいよ。今日の朝電話くれたよね」
 「はい。その節はお騒がせしました」
 「え?お兄さん今日電話してくれたのですか?」
306三つの鎖 16 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/12(金) 19:39:24 ID:q62zt04w
 夏美ちゃんのお母さん、洋子さんが胡散臭げに夏美ちゃんを見た。
 「夏美。あんた彼氏をお兄さんって呼んでるの?」
 洋子さんは僕を面倒くさそうに見た。
 「君ってまじめそうに見えて変な趣味ね」
 僕は苦笑した。
 「お母さん!違うよ!私がそう呼んでいるだけだから」
 「なんなの夏美。そんなに兄が欲しかったの?」
 「だーかーらー!友達のお兄さんだからそう呼んでいるだけなの!」
 「何で名前で呼ばないのよ」
 「それは、その、なんていうか」
 「相変わらずシャイねー。名前を呼ぶのが恥ずかしいんだ。それで彼氏をお兄さんって呼ぶの。はっ、ガキくさ」
 「うみゅー!」
 顔を真っ赤にする夏美ちゃんと気だるそうな洋子さん。性格は似てないけど、仲の良い親子のようだ。
 不思議に思う。何で別居しているのだろうか。お父さんと仲が悪いのだろうか。
 「今日あの家に行ったら肉じゃがあったけど、あれってもしかして君が作ってくれたのかな?」
 洋子さんは気だるそうに尋ねた。
 「はい。作り置きに料理したものです」
 「へー。おいしそうだったから全部食べちゃった。すごくおいしかったよ」
 「ありがとうございます」
 「ちょっとお母さん!お兄さんの手料理全部食べちゃったの!?」
 「まともな料理食べたのは久しぶりだったからね」
 「うー!私の心の栄養源がー!」
 洋子さんは夏美ちゃんの頭を撫でた。どう見ても馬鹿にしているようにしか見えない。
 「ありがとうね。この子カレーしか作らないからまともなもの食べているか心配してたのよ」
 それでもそう僕に言う洋子さんの顔は確かに母親の顔だった。京子さんが脳裏に浮かんだ。
 「お母さんとお父さんもカレーとシチューしか作れないじゃない」
 夏美ちゃんはプイっとそっぽを向いた。
 ちょっと待って。今聞き捨てならない事を言わなかったか?
 「そうなのよねー。おかげで昔の我が家の食事は毎回カレーかシチュー。いや、シチューだとすぐになくなるからほとんどカレーなのよね」
 想像するだけで鳥肌が立つ。なんて恐ろしい家だ。
 「ま、私も旦那もこの子もカレーは大好きだからあまり問題ないけどね」
 あります。
 「旦那のプロポーズが毎日カレーを作ってあげるだったのよ」
 夏美ちゃんのお父さん。漢です。
 「お二人がよければ他の料理を持っていきます」
 僕は決心した。夏美ちゃんは育ち盛りだ。カレーだけだと栄養が偏る。
 「楽しみにしているわ。で、夏美。あんた何で救急車で運ばれたの」
 洋子さんが気だるげに尋ねた。そういえば僕も知らない。あまりに元気な夏美ちゃんを見て失念していた。
 「そのね、何があったか覚えてないの。昨日の夜に帰ってきたときに階段から落ちて頭を打ったみたいで。深夜にマンションの人に発見されて気が付いたら病院のベッドの上だったんだ」
 夏美ちゃんは恥ずかしそうに笑った。
 「あんたねー。ま、無事ならいいか」
 洋子さんはため息をついた。
 「大した事がなくてよかったけど、お母さんびっくりしたんだからね。しっかりしなさい」
 「ごめんね」
 「お父さんに連絡したらびっくりしてたよ。今こっちに向かっているって」
 「え!?そうなの!?」
 夏美ちゃんの顔が輝く。洋子さんのチョップが夏美ちゃんの頭に炸裂した。
 「きゃん!?」
 「何喜んでるのさ。お父さん香港から来るんだよ?文字通り飛んできているんだからね。いや、今はこっちに走っているか」
 「でもお父さんに会うの久しぶりだもん」
 嬉しそうな夏美ちゃんを洋子さんが複雑そうに見る。娘を一人置いて別居している身としては胸の中は複雑なのだろう。
 「お父さんはいつごろ来るの?」
 「もうすぐ着くと思うよ」
 親子の会話に不吉なものを感じる。
 「そろそろ失礼します」
 さすがに夏美ちゃんのお父さんと顔を合わせるのは気まずい。
 「えー。お兄さん帰るのですか」
 「ついでだし旦那にも紹介するよ」
 引き留める親子。
 「いえ。久しぶりの親子の再開に水を差すつもりはありません」
307三つの鎖 16 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/12(金) 19:40:55 ID:q62zt04w
 僕は立ち上がった。
 「あ!お兄さん待ってください」
 ベッドの上の夏美ちゃんは身を乗り出し僕に手を伸ばすけど届かない。そのままバランスを崩す夏美ちゃんを僕は支えた。
 「大丈夫?」
 顔を真っ赤にする夏美ちゃん。
 「あらあら。こんな場所で大胆ね」
 洋子さんはにやにやしながら言った。
 その時、病室のドアが開いた。一人の男が茫然と僕たちを見ている。
 最初の印象は、とにかく大きい。僕と同じぐらいの身長だけど、横幅は1.5倍はありそうだ。
 「意外とはやかったね。あれがうちの旦那の中村雄太よ」
 洋子さんは面白そうに言った。
 
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 「てな訳よ」
 洋子さんは呆然とする雄太さんを座らせて夏美ちゃんが運ばれた件を説明した。僕の事は何一つ言わなかった。
 「そう。無事で何よりだよ」
 心あらずといった様子の雄太さん。
 「お父さん。心配掛けてごめんね」
 夏美ちゃんは申し訳なさそうに言った。
 「ところで、この人はどちら様かな?」
 雄太さんが僕を見た。胡散臭げな目。帰りたい。
 「夏美の彼氏よ」
 雄太さんの目が見開かれる。
 「はじめまして。加原幸一と申します」
 続きを口にする前に雄太さんは立ち上がり天を仰いだ。座った僕からは見上げるような身長。顔を両手で覆い何も言わない。
 「あの」
 なんて呼べばいいのだろう。雄太さんでいいのかな。
 洋子さんが僕の耳元で囁く。
 (おとうさんって呼んであげな)
 「あの、おとうさん」
 雄太さんは僕を睨んだ。
 「君にお父さんと言われるいわれはない!」
 ええええーーー。
 洋子さんを見るとものすごい素敵な笑顔。
 「よくも僕の可愛いお姫様に手を出したな!ゆるさん!」
 「お父さん!恥ずかしい事言わないでよ!」
 顔を赤くして叫ぶ夏美ちゃん。
 「うちの旦那ねー、いっつもあんな感じで痛い事を言うのよ。夏美が変にテンション高かったり恥ずかしがり屋だったりするのは間違いなく旦那の影響なのよねー」
 まるで他人事の洋子さん。
 「昔はお父さんのお嫁さんになるって言ってくれたのに!」
 「今もそうだと困るでしょ!」
 「洋子さーん!どうしよー!」
 話を振られた洋子さんは面倒くさそうにため息をついた。
 「あんたねー、そんなんじゃ夏美に嫌われるわよ」
 「そんな!むむむ。加原君といったな!うちの夏美をたぶらかしてどうするつもりだ!」
 「お父さん!お兄さんの事を悪く言わないで!」
 顔を赤くして叫ぶ夏美ちゃん。
 「え?お、お兄さん?」
 目を白黒させる雄太さん。洋子さんが面白そうに口を開いた。
 「あれね、加原君の趣味らしいよ」
 「違います!」
 僕はすぐに否定した。
 「愛する可愛い娘の恋人が変態とは!」
 聞いてないよ。
 「お父さんもお母さんもいい加減にして!」
 夏美ちゃんが顔を赤くして叫んだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
308三つの鎖 16 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/12(金) 19:43:10 ID:q62zt04w
 あの後、夏美ちゃんは検査のために病室を出た。
 僕と夏美ちゃんのご両親は改めて自己紹介をした。
 「加原君。先程は見苦しいとこを見せてすまない。僕は娘の事が絡むとどうしても冷静になれなくてね」
 落ち着いた声。先程の姿は微塵も感じさせない。目の前にいるのは一人の落ち着いた父親。
 僕は自分の父親を無意識に思い浮かべた。普段から無口で感情の起伏の乏しい父。
 「夏美は電話でいつも嬉しそうに君の事を話すよ。お世話になっているようで申し訳ない」
 「いえ、僕も夏美さんにはいつもお世話になっています」
 夏美ちゃんのおかげで梓と仲直りできた。屋上で見た梓の笑顔が脳裏に浮かんで消えた。
 「夏美に寂しい思いをさせている身としては頭が下がる思いだ。本当にありがとう。まあ父親としては複雑だけどね」
 そう言って笑う雄太さん。その明るい笑顔は夏美ちゃんを連想させる。
 「全く。いつもこの調子なら間違いなくいい男なのに」
 「洋子さん。そんなこと言わないでよ」
 からかう洋子さんと困った顔をする雄太さん。小柄な洋子さんが大柄な雄太さんをからかうのは滑稽なようだけど、その一方で見ているだけで頬が緩むような愛嬌がある。
 不思議だ。何で別居しているのだろう。
 「ねえ加原君。君は疑問に思わないわけ?」
 洋子さんは面倒くさそうに僕を見た。
 「何のことでしょうか」
 「私たちが何で夏美と離れて暮らしているかよ。加原君はお人よしでお節介な感じがする。それなのに何も聞かないが不思議でね」
 「洋子さん」
 雄太さんが洋子さんをたしなめた。
 「本人が相談してきたならともかく、そうでないなら例えお付き合いしている身でも他の家族の問題に口出しする資格はありませんし必要もありません」
 夏美ちゃんの輝くような明るい笑顔が脳裏に浮かぶ。
 「それに夏美ちゃんを見ればどのような方のもとで育ってきたかは分かります。私は今の夏美ちゃんを育てたご両親を信じています」
 僕は今日初めて夏美ちゃんのご両親に会った。性格には驚かされるものがあるけど、夏美ちゃんのご両親と聞いても納得するだけのいい人だと思う。
 「娘に男を見る目があるようで安心したよ」
 「夏美にはもったいない彼氏ね」
 褒められるとて少し照れる。
 「ま、加原君には一応伝えておくけど、別に仲が悪いわけじゃないよ」
 洋子さんが面倒くさそうに言った。
 「うちの家は旦那の稼ぎだけでも十分に食べていけるけど、私も仕事をしている。旦那は商社の営業で海外にもよく行く。私はプラント建設のマネージメントをしている。こう見えても責任のある立場でね。ま、その分稼いではいるけど。
 旦那は海外を飛び回らないといけないし、私は私で担当しているプラントが完成したらまた次のプラントって具合に色々飛び回る。それで小さいときから夏美は旦那や私の両親に預けることが多かった。
 ま、それで両方から色々言われて正直まいってね。夏美も両方の祖父母に色々言われて嫌な思いもした。旦那が一生懸命庇ってくれるのも申し訳なくなってね。それで別れようと思った」
 「あの時は本当に大変だったね」
 懐かしそうな顔をする雄太さん。
 「この人が泣きながら別れないでくれって頼むから別れるのはやめたけどね。夏美がまだ小さい時さ。
 でだ。私達は二年前から別居している。正確にいえばこの人は香港に海外転勤、私は新型のプラント建設でアメリカに転勤になった。
 で、夏美をどうするかでこの人と喧嘩してね」
 「僕は日本に残した方がいいと思った。中学生から海外の学校に行くのはいくらなんでもなじめないと思ってね」
 「私はどちらかが連れていくべきだと思った。もし日本に残したらまたどちらかの祖父母の家に預けることになるし、私と雄太の両親はすでに高齢だった。今はもう鬼籍に入っているぐらいだしね。
 またあの祖父母に預けるのは可哀そうだと思った。それで夏美に選んでもらおうってことになった」
 「あの時の僕たちは本当に駄目な両親だった。最低な選択を夏美に迫ったわけだ」
 雄太さんは自嘲した。洋子さんもため息をついた。
309三つの鎖 16 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/12(金) 19:45:10 ID:q62zt04w
 「夏美はどちらも選ばなかった。あの子からしたら母親か父親どちらか選べって言われたようなもんだからね。どちらも選べなかったわけだ。それで夏美は寮のある女子校に転校するって言い出した。
 今時そんな学校は金もかかるし編入試験も厳しい。まあお金はいい。嫌な言い方だがうちはお金はある。あの子は成績が悪いから試験に受からないと私は思った。だから試験に落ちたらどちらかを選ぶって条件で編入試験を受けることを許したのさ。
 そしたらあの子は合格した。頭が悪いなりに努力したみたいでね。で、夏美は日本に残った。中学を卒業したらどうするか聞いたら、今の家に住むって言い出してね。私達の家を守るって。
 せっかくいい中学に受かって内部進学で高校も上がれるのに、夏美は結局今の家に戻って一人で暮らしているわけさ」
 気だるそうに洋子さんはそう言って僕を見た。
 「何も聞かないんだ」
 「洋子さんがいま日本にいるのは何故ですか?」
 笑う洋子さん。
 「そこを聞くのか。まあいい。昨日から打ち合わせで日本にいるだけさ。さすがにアメリカからここまですぐに来られる距離じゃない。それよりも聞きたい事はないのかい」
 雄太さんは心配そうに洋子さんを見た。
 「洋子さん。どうしたんだい」
 「いやね、加原君の澄ました顔を見ていると本音を聞きたくなるだけさ。気にならないの?仕事と夏美で仕事をとる私達の事情」
 雄太さんが申し訳なさそうに僕を見た。付き合う事はないと眼が告げている。
 「気にならないと言えば嘘になります。しかし、お仕事と家庭の事情は別問題だと僕は思っています。何かしら事情があるのでしょう」
 父さんは警察官で、京子さんは看護師。二人とも家にいる事は少ない。それでも僕は二人の事を尊敬している。誰かがやらないといけない事を二人はしている。
 「この人に関してはそうさ。有能なのにお人よしでね。しかも人望もある。私が惚れるぐらいだからね。おかげで色々なしがらみに囚われている。私は違う。今の仕事が楽しいだけさ。仕事と娘を秤にかけて仕事を選んだ最低な母親だよ」
 洋子さんは憑かれたようにしゃべり続けた。雄太さんはそんな洋子さんを心配そうに見つめた。
 「失望しただろ?夏美の母親がこんな女で」
 僕は首を横に振った。
 「それでも夏美さんが病院に運ばれたと聞いて飛んでくる優しいお母さんです」
 僕は産んでくれた母親の記憶は無い。母親の代わりは京子さんと村田のおばさんだった。二人とも忙しい人だけど、僕が風邪をひいたときは忙しいなか時間を見ては看病してくれた。
 洋子さんも同じ。子を大切に思う母親。
 「ねえ洋子さん」
 雄太さんが口を開いた。
 「夏美は僕たちを責めていないのは分かっているでしょ?それを加原君に八つ当たりするのは筋違いもいいところだよ」
 「うるさい。雄太のくせに私に意見を言うの」
 「僕は洋子さんの旦那だから」
 洋子さんは深呼吸して立ち上がった。
 「加原君。すまない。久しぶりに見た夏美が本当に私を恨んでいないのを分かってイラついた。あの子には私を責める権利があるのに。あの子は本当にお人よしだ」
 深々と頭を下げる洋子さん。その姿が夏美ちゃんとかぶる。僕の家に泊まりに来た夏美ちゃんも、目的は僕に謝るためだった。
 親と娘の絆を感じた。
 「やっぱり親子ですよ」
 「?」
 「夏美さんと洋子さんです。行動が同じですよ」
 きょとんとする洋子さん。それを見た雄太さんは笑った。
 「何がおかしいの」
 そう言って夏美さんはほっぺたを膨らませた。その仕草も夏美ちゃんに似ていた。
310三つの鎖 16 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/12(金) 19:48:15 ID:q62zt04w
投下終わりです。
読んでくださった方々に感謝いたします。
ありがとうございました。
HPにて人気投票を行っています。
よろしければご協力お願いします。
次の投下は規制がなければ来週になると思います。

ttp://threechain.x.fc2.com/index.html
311名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 20:22:48 ID:+A9z/LaN
ふふっ。
一週間ばかりsagaっていたこのスレッドもやっとagaってきたね。
さらにこのスレの住人もキモくなってきている。

そう。この調子だ。
◆tgTIsAaCTij7氏とスレッド、
そしてスレ住人達が三つの鎖で繋がりはじめたここからだ。

>>310
GJ!
毎回更新が楽しみです。
頑張ってください。
312名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 21:21:59 ID:jQhxbnhC
>>311
死ね
313名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 21:35:00 ID:q7U5xvmc
投下御疲れ様です

しっかし、ここで和んだということは次は…進化するんですね?

楽しみにしてますよ、えぇ…ふふふふふ
314名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 22:00:06 ID:Fzo593v2
>>310
GJ
ひとまずは無事でよかったのう>夏美
てっきり梓に脳天からアスファルトに叩きつけられて
意識不明の重体になってるかと思ってた
けど病室に居るってことは、もし襲われても逃げ場なしってことか…
315名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 22:24:22 ID:tP9VYhnf
実は既に下半身破壊されてて一生歩けない。
316名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 00:21:30 ID:/8ESdi0f
まだ引っ張るのか
でも夏美が可愛いからおk
GJ
317名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 00:22:41 ID:baeLHKwO
>>310
GJ

あと少し気になったのだけど、ラストから2行目は夏美さんじゃなくて洋子さんだよね?
318名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 12:36:36 ID:1fqG1yAQ
>>311
鳥肌立った…凄い気持ち悪い
319名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 14:36:17 ID:zEvbMuEG
ふとネタが思いついたので投下
ちょっと短いですがどうぞ
320某SF作品パロディ:2010/02/13(土) 14:37:54 ID:zEvbMuEG
…ここは、どこだ?
暗い部屋の中で目が覚めた俺は現状を理解できず混乱した。
なお悪いことに、いくらもがいても起き上がれない。手足が縛られているようだ。
そして頭に何か帽子のように何かが固定されているのも感じる。
しばらくもがいていると、突然に輝きが暗さに慣れていた俺の目を焼いた。
眩しさに思わず目をつぶるが、強い光が薄いまぶたでは遮りきらず頭が視界と共に真っ白になる。
いったい何がおきたって言うんだ、こらえきれず呻き声をあげてしまう。
10秒ほど焼かれた後だろうか、光量が下がり明るさに慣れようとしていた目では視界がかすむ。
ようやくマトモに目を開けられるようになると今まで不明だった周囲の状況が多少わかった。
薄暗いながらも目の前には電気スタンドがある。さっき俺の目を焼いていた犯人だろう。
横を見ると病院のベッドのような飾り気が無いシーツと机、そしてコンクリ打ちっぱなしの殺風景な壁が見える。

ここがどこだかわからないが、そんなことはどうでもいい。問題はそこに立ってる女だ。
その女は机の上に備えられたコンピュータとレバーのような機械を操作して俺の目をまっすぐに見つめていた。
黒髪で、背が高くて、年齢の割りに貧相な俺の妹。名前は樹里。
十数年俺と共に育って、俺を愛していて、そして俺が昨日……拒絶した女だった。
その女が俺に語りかけてくる。
「起きてくれたようだね、兄さん」
「どういうつもりだ樹里」
こうは答えたがだいたい事情は把握している。状況から判断して俺を拘束した犯人は樹里だ。
おそらく、昨日の件が関連しているのだろう。強硬手段にでたのだろう。
「どうって、決まっているじゃないか。兄さんにボクの気持ちを受け入れてもらうためだよ」
「こんなことしたって、人間の気持ちをそう変えられるものか」
どうやら樹里は俺が思っていた以上に愚かだったようだ。
体を拘束して、犯したといってそれで心まで支配できるとでも思っているのだろうか?
「昨日の問いをもう一度するね。兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
「樹里、オマエは妹だ。それ以外の何者でもない。あきらめてくれ。」
俺は昨日の言葉をもう一度繰り返す。昨日はそのあと口論になり、なきながら樹里が部屋に戻り終わったはずだ。
こんな問いをしても結果などわかりきっているはずなのに。
「兄さん、それなら仕方が無いね」
そういうと樹里は握っていたレバーをすばやく斜めに傾けた。
その直後、俺の脳が弾けた。臓器が焼ける。 眼球が取り出される。
突如、俺の考えうる限りのあらゆる苦痛が再現された。何も考えられない。ただただ、苦痛から逃れたくて叫び声をあげ泣き叫ぶだけ。
無限にも思える時間が経過し、ようやく苦痛が引いていく。
脈は上がり心臓が弾けそうだ。喉は枯れ、顔は涙でぬれている。考えたくないが、失禁までしている。
樹里を見ると液酸のように冷たい目で俺をじっと見つめていた。
無様な姿をさらす俺をこの目で見ていたのだろうか。そう思うと言いようの無い恐怖が湧き出した。
そうだ、どうやってかわからないが樹里こそがこの地獄の苦痛を与えた犯人に違いない。
「どうしてこんなことが……」
枯れた喉でどうにかそれだけ捻り出すことに成功する。
「兄さんの脳に電気信号で直に苦痛を送り込んでるんだ。だから、この世ではありえない苦痛も再現できる」
そんな馬鹿な……だが、俺の体に傷があるようには見えない。本当に脳だけに苦痛を与えていたのだろう。原理はわからないが。
「ちなみに、ボクが今回しかけた苦痛は最大出力の三割だね」
三割、あのショック死しても不自然ではなさそうな苦痛が三割だというのか。戦慄している俺に樹里が問いかける。
「なぜ受け入れてもらえないんだい?ボクはこんなにも愛しているというのに」
「兄妹だろうが……結ばれることが出来ると思っているのか!」
「そんなこと誰が決めたっていうんだい?世間が?」
321某SF作品パロディ:2010/02/13(土) 14:39:10 ID:zEvbMuEG
「常識で考えて結ばれられるわけないだろう」
「兄さんが言うような常識なんて多数派が形成する意見というだけに過ぎない。ただの固定観念じゃないか」
昨日も同じような問答が行われた。違うのは樹里がいつでも俺を苦しめることが出来るということだけ。
「だとしても、俺はいまさらお前を女として見ることは出来ない」
「女としてみるよう努力することも?」
「…………できるわけないだろう」
「……もう一度いうよ、兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
俺は言葉に詰まった。おそらく否定すれば先ほどの苦痛が再びもたらされるのだろう。
だが、ここで認めてしまうわけにはいかない。俺は覚悟を決めて答えを紡いだ。
「何度でもいう、無理だ」
「今度は35」
そして俺の体はミキサーにかけられ挽肉になった。無数の刃に全身をばらばらにされてなお意識が保たれる。
脳髄が苦しみ以外のあらゆるものを認識できなくなる。自分が存在しているのか把握できない。
そして時間と共に悪魔が体から離れる。
意識が朦朧として今の状況を忘れそうだ。
樹里が真上から俺の目をまっすぐ見つめているのが再び目に入る。
俺の意識がはっきりしてきたのを見計らったのか、電気スタンドのスイッチに手を伸ばした。
再び光が目を焼くが、あの地獄の苦しみに比べればどうということはない。だが、それでも俺の集中力を奪うには十分だった。
「兄さん、ボクはね男としても家族としても愛すことができるよ」
「樹里、お前はどちらかを混同しているだけだ。あきらめろ」

樹里がまた俺に話しかける。俺を痛めつけながらどの口でそんなことをいうのだろうか。
「話は固定観念の話に戻るけどね、中世では天動説が信じられていたじゃないか。それが常識で誰も疑うことなんてなかった。
たとえ真実でなくても事実として受け入れられていたじゃないか。少なくともヨーロッパ世界の中では。
そんな例なんてボクは古今東西でいくらだって挙げることが出来るよ。
しかもね、こっちは科学的事実の話じゃなくて人間の価値判断の話じゃないか。
それに確固たる真実なんて原理的に存在し得ない。にもかかわらず兄さんはそんなことにこだわる?」

「たとえそれがあいまいなものでも現時点ではそれが常識だ。そして、俺もその考えを持った多数派の一員だ」
樹里の言うことはなんとなく理解できる。だが、俺もその価値判断をもった人間の一人だ。それは樹里がなんと言おうが事実だ。
「そんな固定観念なんて捨てれば良いじゃないか。
でも、難しいのはわかるよ。ボクだってお星様が上空1キロの空に浮かぶ火の粒で簡単に消せるなんて考えになることは難しい
心に硬く息づいた考えを変えるのは非常に困難だ。でも大丈夫、ボクが矯正してあげるから」
樹里は普段のおとなしい口調とは打って変わって熱を帯びた声で演劇のように演説する。
「さて、もう一度聞くよ。兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
「あきらめてくれ」
俺はいつまで耐えられるのだろうか…
322名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 14:40:44 ID:zEvbMuEG
とまぁ今回はここまです
後半も同じくらいの長さだと思います
経験もすくないのでへんなかんじかもしれません
323名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 15:34:23 ID:AYAdbbDS
GJ!!
僕っ娘いいね
324名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 21:08:35 ID:Fx8SwDi/
GJだが、キモウトで樹理というとどうしてもあのゲームを思い浮かべてしまうな
325名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 23:32:39 ID:ab27BHmQ
拷問装置でヴァンパイヤー戦争思い出した
326名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 02:23:07 ID:6r2tVot3
GJ
最初腐○姫かと思ったw
327名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 07:57:54 ID:ct8Hw1ll
>>310
今回和み回に見えて映画とかにありがちな嵐の前の静けさだったり…
とりあえず投下乙とGJです。

>>322
GJ。
後半も期待してますぜw
328名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 16:43:33 ID:0FE7dTgc
主役 EX めずらしい
329名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 17:06:25 ID:J5t10cmV
昨日の続きです
投下します
330某SF作品パロディ >>320続き:2010/02/14(日) 17:07:36 ID:J5t10cmV
あれからどれだけの時間がたったのだろうか。数百年にも感じるし一時間足らずにも感じる。
樹里は演説の合間に拷問を続けている。何度も地獄と劇場を行き来して気が狂いそうだ。
形容しがたい苦しみで自らの思考を放棄させられ、その直後に我がシスターが暗示のように語りかける。
コレで正気を保ち続けるのは無理だ……
普通の外的な痛みなら多少は慣れてしまうことが出来る。だが、脳に苦痛の状態を直接作り出されてはどうしようもない。
意識が朦朧としつつあるある俺に再び言葉が降りかかる。
「そもそも妹としてというのはどういうことだい?それも兄妹とはかくあるべきという固定観念の産物だよ。
昔は女性が非常に軽視されていた時代があった。その時代に同じような価値観が普遍的だったと思うのかい?
ボクは似たような話をさっきから何度もしているじゃないか?どうしてそんな考えを捨てられない?」
もうすでに内容はうっすらとしか把握できていない。ただ束の間の安静で息を吹き返し次の地獄に備えるだけだ。
「ボクと結ばれることで幸福が得られるだろうことは兄さん自信も認めていることじゃないか。
料理だって出来るし、家事もそつなくこなす。頭もいいし、兄さんが困らないだけのお金だって用意できるよ。
それに、いくらだって抱かせてあげよう。知ってるんだよ?ボクの下着やらなにからチラチラ普段から見ているのは。
足腰も鍛えているから締まりも悪くないと思う。
兄さんのICBMをボクの硬化サイロ内で射出してかまわない。もちろんホットローンチだ。」
だが、この意識が朦朧とした状態で語りかけられるのが一番の曲者ではなかろうか。
表面の意識が飛ばされている分、自分の深層心理に直接的に書き込まれえていきそうな錯覚がする。
というよりもう限界だ。この苦しみから早く逃れたい。早く外界に戻してほしい。
「さて、もう一度。兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
「…………わかった、そうする。そうするから早く」
喉はすでに枯れはて、壊れた低音の金管楽器のような声しかでなかった。
「今回は70」
.
.
.
.
すべてが無と化すような苦痛だった。それが苦痛であったことすら後から認識される。
ここまでの苦痛を与えられたことはこの拷問の間ですらなかったことだ。
どのようにもがいたのか分からないがよほど暴れたのだろう。手足の枷と擦れて血が流れていた。
今まで以上に変な汗が全身から滝のように流れ出し、心臓がかつてないほど激しい鼓動を刻んでいる。
なぜだ!俺は認めただろう!わからない、何が何だか分からない。
「違うんだよ兄さん。今のは真にボクを愛する意思が出来ての言葉じゃない。
ただ、この苦しみをどうにか終わらせてほしいだけの言葉だ。それくらいは分かるよ。
ボクが求めている言葉はそんなものじゃない。ボクが欲しくて欲しくてたまらなくて自分だけのものにしたくて何千回でも何万回でも抱きたくて
…ちょうど、ボクが兄さんを求めるように…そんな言葉を欲しているんだ」
樹里はさっきから上気した声で演説を続けているが、声がさらに艶っぽさを増してきた。
無茶苦茶だ。もし俺が心からそんな言葉を発したとして、どうやって見分けるというんだ……
いや、コイツなら可能なのかもしれない。コイツは本気だ。本気で俺の精神を根本から覆そうとしている。
その狂気に改めて戦慄した。人間を人形か何かだと思っているのだろうか。
「……俺を洗脳して、こんな方法で洗脳して得た愛なんかに価値があると思っているのか」
「あるよ。これ以上はない価値がある。
そもそもね、恋をさせるってのは相手の精神を大なり小なり変革させることに他ならないだろう?
容姿で、言葉で、仕草で、その他あらゆる方法で意中の相手を射止めようとする行為はすべてそれだ。
そして恋をした側も相手の何かに心を奪われた……つまり相手が無意識的に変革してしまったんだ。
翻ってボクたちを見ると、同じことじゃないか。ただ人とは手段が違うというだけで。」
樹里の目がいくらか温かみが増したように感じた。
だが、今の俺には悪魔の目としか見ることが出来ない。いったいどうしてこんなことになったのだろうか。
本当は俺が異常で、実は樹里のほうが正しいのだろうか。いや、そんなはずはない。
だんだんと思考が犯されているのがわかる。
331某SF作品パロディ >>320続き:2010/02/14(日) 17:08:22 ID:J5t10cmV
「さて、ここでもう一度。兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
「欲しい。お前が欲しい。だから」
「今は35」
全身がムシに細胞の一つ一つをむしられる。木星の重力を全身に引き受けるような圧力で押しつぶされる。
いったいいつまで続けば許してくれるんだ…
そして手術台に突然戻される。いくら懇願すればいいのか分からず絶望のなかで途方にくれる。
「一つ聞くけど、ボクが兄さんをここまでして愛してもらおうとするのはなぜだか分かるかい?」
「俺のためだ、俺はお前と結ばれることで幸せになれると確信しているからだ」
これはなんとなく分かる。樹里は昔からおせっかいなやつだった。俺のためと言いながら結局はありがた迷惑なこともあった。
今回も似たようなことなのだろう。
「30」
すり鉢で体をペーストにされた。脳髄を砕かれる感覚が仮想的に何十秒も継続する。
取調室に戻った俺は今まで以上に混乱した。
俺が半ば確信を持っていた答えが間違いだったとでもいうのか。それなら、いったい何のためにこんなことを。
「失望したよ兄さん。もちろん今まで同様に愛しているけれど、兄さんの理解力に失望したよ。
そんな軟弱で奇麗事で対外的な言い訳のような言葉を聴かされるとは思わなかった!
いいかい兄さん。人に愛してもらう理由なんかただ一つじゃないか。ボク自身のためだよ。
自分が幸せになるため。自分が満たされるため。自分のため。すべて自分のためだよ。」
そんな馬鹿な。樹里は、結局は俺の事なんか見ていないのか?
俺が困惑している間も樹里はよりいっそう興奮した声で浪々と演説する。
「相手の幸せなんてものはそれを達成するための二次的な目標ないし副産物に過ぎない。
ボクも兄さんが幸せならとっても幸せだ。だから自分のために兄さんを幸せにする。
相手のためを思ってなんてのも、究極的には自分のためなんだよ。
無論、自己利益追求を常に優先させては見苦しさを演出するから、長期的な目線に立って考えねばならないけど。
相手の幸せのために自分の幸せを逃してしまうような底抜けの愚か者は、ボクから言わせてもらえば素人さ。
手段であった奇麗事を目的化して道を誤った馬鹿など泥棒猫に寝取られて当然だ。」
樹里の言うことは俺にも理解できないわけじゃない。だが、人としてそれを認めるのはどうかと思う。
「でも安心して兄さん。ボクは人形と化した兄さんに愛されても喜び薄い。ちゃんと兄さんの人格がないとね。
だから、ちゃんと妹に関する倫理観だけピンポイントに変えてあげちゃうから安心して。」
この期に及んで何を言うのか。だが、たしかに俺はまだちゃんと俺のままでいるのは確かだ。
樹里が本気を出せば俺を物言わぬ廃人とすることも、操り人形のようになった俺にすることも可能だったろう。
少なくとも廃人にはされない、そのことだけが今の救いだった。
「さて、もう一度。兄さん、ボクを女として愛してくれるかい?」
もう笛のような音しかでない喉でかろうじて答える。
「もちろんだ」
だが、樹里は無慈悲にレバーを倒した。
「今度は32」
苦しみの中で樹里の声が反芻していた。
早く開放されたい。だが、まだこの狂乱は続きそうだった。
332名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 17:11:57 ID:J5t10cmV
なかなか兄さんが落ちてくれませんがここまでです
樹里という名前は元ネタの登場人物の一人から取ったのですが有名なキモウトがすでにいましたか
今度こそ落ちてくれることを期待して続くかも
333名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 19:17:59 ID:4iyFO1P/
GJ
実にサイコ
334名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 22:06:49 ID:3EiojiWX
不覚にもおっきした
335名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 00:36:03 ID:HtT9K9U+
わっふるわっふる
336名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 05:08:41 ID:7ZQXxtG5
かなり懐かしい作品だが偏愛って作品と似たような設定のお話とかない?
続きがないのが惜しまれる……
337名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 09:41:29 ID:m7vAZpzr
これは素晴らしい妹ですね。続きも楽しみです。
338名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 09:55:31 ID:zuswo0FC
>>332
GJ
続きを全裸待機しています、全力で

バレンタイン投下、1つだけか……
もっとチョコ欲しかった……
339名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 11:28:15 ID:K5PVPlwG
>>338
いいから早く姉ちゃんの部屋いってやれ

昨夜からずっと全身チョココーティングでお前を待ってるんだぞ
そろそろいってあげなきゃしんぢゃう
340名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 13:50:07 ID:PEbvWt+9
姉本人乙
341名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 19:26:55 ID:wa7M8+cD
ここの男主人公って大体池沼寸前の頭の悪さの奴ばっかりだよな
342名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 20:08:55 ID:q8mu+ltk
>>341
キモ姉妹「だが、そこがいい」
343名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 21:02:24 ID:K5PVPlwG
>>341
池沼寸前なんだからいいほうだろ。
んなこといったら姉妹なんか池沼過ぎて池沼通り越してるんだぞ?それこそ『キモ』いくらいに
344名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 21:22:10 ID:wa7M8+cD
短編だとちょくちょくあるけど
たまにはキモ姉妹達の陰謀を事前に叩き潰して回る男君も見たいんだぜ?
345 ◆cW8I9jdrzY :2010/02/15(月) 21:22:15 ID:hJ4WfIsR
>>170-177の続きを投下します。
SSの属性は以下となります。苦手な方はNGを。

双子の兄妹、泥棒猫視点、修羅場少し、流血なし
今回はエロ無し、伝奇風味
346名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 21:23:18 ID:OE4oWF3A
ID:wa7M8+cD
ぐだぐだ言ってないでその妄想力を文章にしてみようぜ
347水野兄妹観察日記・7(1/9) ◆cW8I9jdrzY :2010/02/15(月) 21:23:56 ID:hJ4WfIsR
「ヒカル、最近ご機嫌だね」
午後の休み時間に、ヒカルに向かって唐突にそう言ったのは、友人の夏樹だった。
「あれ? そう?」
「うん、なんか浮ついてる感じがする。いいことでもあった?」
夏樹は顔に疑問の色を浮かべて訊ねてきた。
小学生のときからの長いつき合いで、今や親友といっても差し支えない間柄の夏樹は、
ここ最近のヒカルの変化を敏感に感じ取ったようだ。
椅子に座ったヒカルを見下ろし、眼鏡の奥から興味津々の眼差しを向けてくる。
「え? 何もないよー」
ヒカルはとぼけたが、自分でも多少の自覚はあった。
啓一とのデートから、風邪をひいた彼の見舞い、さらに快気祝いの席での口づけと、
このわずか一、二週間ほどの間に、自分でも驚くほど多くの出来事があった。
何しろ、相手は多くの女生徒が思慕してやまない理想の男性、水野啓一である。
その啓一との甘い記憶を思い返すだけで、ついつい頬が緩んでしまうのだ。
そして、誰が見ても有頂天になっている今のヒカルを、
ただでさえ詮索好きの夏樹が放っておくはずがなかった。
「何もないわけないでしょ。何があったの、白状しなさい」
「えへへ、実はね……啓一センパイとキスしちゃった」
「ええっ !? あんたまさか、水野先輩とつき合ってんの !?」
肩をつかんで追求してくる夏樹に、ヒカルは嬉々として自分と啓一の仲の進展ぶりを語った。
本当はもっと勿体をつけようかとも思ったのだが、それよりも
早くこの口の悪い友人に自慢してやりたいという欲求の方が強かった。

話を聞いた夏樹は、はじめこそ半信半疑だったものの、
普段まともに嘘もつけないヒカルの純朴さは彼女が一番よく知っており、
啓一と一緒に見に行った映画や、彼の家で開かれた宴会の様子を詳しく聞かされると、
さすがにヒカルの言葉を信じないわけにはいかなかった。
「へー、加藤先輩が仲を取り持ってくれたのかあ……。
 あの先輩もすごい美人だよね。恵先輩とはまるでタイプ違うけどさ」
「うん。いい人だよ、真理奈センパイは。ちょっと自分勝手なとこあるけど」
啓一とヒカルを同席させ、映画や買い物に連れて行ってくれたのは
啓一の友人の加藤真理奈だった。ヒカルがそのことを語ると、
夏樹も真理奈のことを知っていたようで、納得したようにうなずいた。
「そりゃあ、この学校じゃ有名な『恋の女王様』だからね。
 恵先輩とは別の意味で、色々とすごいらしいよ」
校内の噂話をあちこちで聞きかじっては脳内のメモに書き留めている夏樹のことだ、
あの派手な女、加藤真理奈についてもあれこれと聞き及んでいるのだろう。
夏樹は眼鏡のレンズをきらりと光らせ、意味ありげに笑った。

「しっかしまあ、あんたホントに水野先輩とつき合ってんのかあ。
 絶対無理だと思ってたんだけど、世の中何があるかわかんないよねー」
「あはは、ざまあみろ。すごいっしょ?」
ヒカルはふざけて舌を出し、照れ笑いを浮かべた。
「まあ、まだ正式な彼女ってわけじゃないけどさ。
 でも啓一センパイの反応見る限りじゃ、いけるんじゃないかなって思ってる」
「そっか、まだつき合ってるわけじゃないんだ。それなら急ぎなさいよ。
 早く先輩をものにしとかないと、誰かに盗られちゃうかもしんないから。
 『この人はあたしのモンですっ!』ってべたべたシール貼っとかないとね」
「もう。何言ってんのよ、あんたは」
冗談のような言い方だったが、夏樹の言いたいことはヒカルにも理解できた。
あらゆる分野において優等生の啓一は、性格も穏やかで人当たりが実に良く、
誰彼問わず優しくしてしまうようなところがあった。
そのおかげでヒカルも啓一に近づくことができたのだが、
いざ自分が彼と親密になると、今度はその美点が欠点に見えてしまう。
勝手な話だが、ヒカルとて一人の人間である以上、人並みの独占欲はある。
「好きな相手に振り向いてほしい」という願いは、
「自分以外の相手には振り向かないでほしい」という思いと表裏一体だった。
348水野兄妹観察日記・7(2/9) ◆cW8I9jdrzY :2010/02/15(月) 21:25:06 ID:hJ4WfIsR
ヒカルの内心を知ってか知らずか、夏樹はぺらぺら喋り続ける。
「私が思うに、水野先輩って優柔不断なんだよ、きっと。
 誰か一人に決めちゃえば、少しは群がってくる女の子も減るのにね」
そこまで言って、ふと思い出したように訊ねてくる。
「そういやヒカル、恵先輩のことなんだけど、結局どうだったの?」
「どうって、何が?」ヒカルは机に腰かける夏樹を見上げて、訊き返した。
「だからー、あの二人、兄妹で怪しい関係にあんのかって話よ。
 私も最初はあんまり信じてなかったんだけど、
 校内にはあの二人がそういう仲だって思い込んでる人、結構いるらしいのよね。
 だからこの際、あんたからも意見聞いとこうかと思って」
「え、あー、うーん……」ヒカルはとっさに答えられなかった。
「もしホントにそうだったとしたら、とびっきりのネタよ。
 どっちも美男美女のパーフェクトな双子なんて、ただでさえ漫画みたいな話じゃない。
 もしそれが禁断の関係だったなんてことになったら、スクープなんてもんじゃないわ」
いかにも新聞部員らしい発言だった。ひょっとすると夏樹は将来、
芸能人を追いかけ回すゴシップ記者にでもなりたいのかもしれない。
そうなったら天職だな、などと思いつつ、ヒカルは夏樹の問いを頭の中で反芻した。

水野啓一と水野恵の双子の兄妹は、いったいどのような関係にあるのだろうか。
以前、夏樹がどこかで聞きかじってきた噂によると、
二人は血の繋がった兄妹でありながら、恋人同士の仲だという。
二人をよく知る加藤真理奈もそう言っていた。
だが、それはあくまで根拠のない噂話でしかない。真理奈の話にしても
二人の仲については言及していたものの、具体的な内容を訊ねても
まったくヒカルに話そうとはせず、はぐらかすだけだったのだ。
自分で確かめろと真理奈に言われてから今まで、ヒカルはできるだけ
啓一のそばにいるよう心がけたが、少なくともヒカルの前であの兄妹が
互いの性的関係をほのめかす行動をとったことは皆無だった。
しかし、だからといって水野兄妹がごく平凡な双子かと問われると、疑問が残る。
二人の能力と性格がほぼ同一といってよいほど似通っているのは周知の事実だが、
それ以上にヒカルが密かに気にしているのは、
あの兄妹と一緒にいるときに覚える、かすかな違和感のことだった。
決して邪険にされるわけではない。無視されているわけでもない。
しかしあの二人の隣にいると、なぜか自分がまるでその場の異分子になったような、
場違いな邪魔者にでもなったかのような疎外感が、自然と胸のうちに湧いてくるのだ。
自分は何も悪くないのに、なぜかそこにいるだけで落ち着かなくなって、
気後れしてしまう。ヒカルは今までにそれを二、三度経験していた。
理由はわからないが、それはひょっとすると
あの二人がお互いに似合いすぎているからではないかと、ヒカルは思う。
啓一には恵が、そして恵には啓一がいて、初めて真に光り輝く。
最初から一対で作られた美術品のような存在が、水野兄妹だった。
それをヒカルは心の隅で認めていたが、それはつまり、
自分が何をしたところで啓一の伴侶になれないことを意味していた。
349水野兄妹観察日記・7(3/9) ◆cW8I9jdrzY :2010/02/15(月) 21:25:51 ID:hJ4WfIsR
(そんなのイヤだ。あたしは啓一センパイが好きなんだから)
常日頃から思い込みの激しいヒカルである。
はじめこそ一目惚れではあったものの、このところの啓一との触れ合いを通じて、
その慕情は百年の恋とでも呼べるものへと変貌してしまっていた。
啓一が欲しい。彼に優しく名を呼ばれ、この身を強く抱きしめてほしい。
衆人環視の中でもいい。むしろ望むところだ。
どうせなら皆の前で唇を重ねて、万人に二人の仲を祝福してもらいたかった。
そのヒカルの願望に応えるように、目の前に幻の啓一が現れ、彼女に近寄ってくる。
「ヒカルちゃん。君のことが好きだ」
両の肩に手を置いて告白してくる啓一に、ヒカルは喜びを隠さない。
「嬉しいです、センパイ。こんなあたしですけど、つき合ってくれますか?」
「もちろんさ。こちらこそ、僕の恋人になってください」
そして啓一はヒカルの後頭部に手を回し、情熱的に彼女の唇を奪った。
共に息を止めて口唇を触れ合わせる自分たちに、皆が見とれている。
自分と啓一を取り巻く人々の中には、啓一の妹、恵の姿もあった。
「おめでとう、ヒカルちゃん。啓一のことをよろしくね」
にっこり笑って、けれども少し悲しそうに自分を祝福してくれる恵の前で、
ヒカルはゾクゾクするほどの幸福と優越感に包まれていた。
「やったぁ! これであたしは、啓一センパイと――」

いつも通りの妄想を始めたヒカルを、現実に呼び戻したのは夏樹だった。
「おーい、ヒカル! ヒカル、目を覚ませー!」
「ふにゃ?」
パンパンと遠慮なく頬を叩かれ、ヒカルの視界から啓一が消える。
同じく恵もいなくなっており、今までの夢想が儚い幻なのを思い知らされた。
目の前にいるのは啓一でも恵でもなく、友人の夏樹だ。
眼鏡の奥の黒い瞳が、呆れ果てた色をたたえている。
「あ、夏樹……」
「もう。人が訊いてるのに、あんたは何やってんの?」
白昼夢を見ていたヒカルに、夏樹はすっかりおかんむりだった。
ヒカルは慌てて首を振り、夏樹に謝った。
「ご、ごめん。なんかぼーっとしてた」
「ヒカル、ホントに大丈夫? 前々から思ってたけど、病院行った方がいいんじゃない?」
「し、失礼ね。大丈夫よ、大丈夫。ちょっといい夢見てただけよ」
「夢ねえ……。なんで人と話しながら夢なんて見れんのよ。
 どうせヒカルのことだから、水野先輩の妄想でもしてたんでしょ。
 あんたほどわかりやすいやつっていないよね、ホント。天然記念物もんだわ」
「何だとー !? くそ、夏樹がいじめるー! うわああんっ!」

照れ隠しもあって、ヒカルは机に突っ伏して泣き真似を始めた。
確かに箸が転んでもおかしい年頃ではあるが、これほど表情がころころ変わる娘も珍しい。
夏樹は目を細くして、冷たい視線でそんなヒカルを見下ろした。
文句の一つも言いたいようだが、結局、夏樹の口から出てきたのはため息だけだった。
諦めて夏樹がヒカルの前に腰を下ろした、そのときだ。
「よーし、決めたっ!」
ヒカルは急に立ち上がると、教室に響き渡るような大声で言った。
夏樹のみならず、周りの級友たちも何事かと驚いた顔でヒカルを見やる。
自分に集まった周囲の視線も全く気にしない様子で、ヒカルは拳を握り締めた。
「あたし、やっぱりちゃんと勝負してくる! 中途半端なのはやだもんっ!」
その言葉の意味を正しく理解できたのは、おそらく夏樹だけだっただろう。
他の生徒たちはみな、気張るヒカルを訳もわからず眺めているだけだった。
にわかに静かになった教室の中で、夏樹がぽつりとつぶやいた。
「……やれやれ。ホントにこいつ、頭痛いわ」
もちろんその声は聞こえていたが、ヒカルは気にもしなかった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 
350水野兄妹観察日記・7(4/9) ◆cW8I9jdrzY :2010/02/15(月) 21:26:25 ID:hJ4WfIsR
「思い立ったら即実行」を座右の銘にするヒカルは、そのあと早速
啓一の携帯にメールを送り、放課後少し時間を割いてもらえないかと訊ねた。
啓一はサッカー部員だが、都合のいいことに今日は練習がなく、
授業が終わったあと、自分の教室でヒカルのことを待っていてくれるという。
午後の授業を終えたヒカルは、これからいよいよ啓一に告白するのだと
緊張と決意の入り混じった顔で、二年の教室に向かった。
放課後の廊下にはどこか弛緩した空気が立ち込め、
強張った自分の身体がまるで場違いなものに思えてくる。
これでは夏樹にからかわれるのも無理はない。
ヒカルは一度、大きく息を吸い込んで、可能な限り自分を落ち着けた。

下におりる生徒の流れに逆らって階段をのぼると、
そこで一人の女生徒がヒカルを待ち構えていた。
啓一の双子の妹、恵だった。
「ヒカルちゃん、ちょっといい?」
恵は穏やかな瞳をヒカルに向け、訊ねてきた。
相変わらずの落ち着いた物腰で、誰にでも好感を抱かせる模範的な態度だ。
こうして一対一で向かい合うと、改めて恵の魅力がよくわかる。
艶のある黒髪は長く、普段からきちんと手入れされているのだろう。
まるで自分で輝いているかのように、光を浴びてきらめいている。
体型と肢体はいずれも常人よりわずかに細く長く、
不自然ではない程度に色白な肌が、紺の制服によく映える。
しかし、それら外見の特徴よりもなお際立っているのは、
恵の持つどこか浮世離れした、神秘的な雰囲気だった。
恵の理知的な眼差しを浴びていると、さもこの女が自分の全てを見通しているような、
あらゆる出来事を知っているかのような、不思議な印象を抱いてしまう。
そんな荒唐無稽なこと、あるはずがないというのに。

ヒカルはかすかな息苦しさを感じながら、恵に言った。
「すいません。あたし、大事な用があるんです。また今度にしてもらえますか」
「うん、わかってるわ。それでも私はヒカルちゃんと話したいの。
 すぐ済むから、ちょっと来てくれないかしら」
珍しく強引な恵の言葉に戸惑う。
だがこの先で自分を待っている啓一を思うと、気がせいてしまう。
今は恵になど構っていられないと、ヒカルは再度、首を横に振った。
「すいません、急いでるんです。通して下さい」
邪魔するなと言いたげなヒカルに、恵は優しく微笑んだ。
誰しもが好意を持たずにはいられない、清楚な笑みだった。
「啓一なら大人しく待っててくれるわ。だから少しだけ時間をちょうだい」
「恵センパイ、なんで啓一センパイのこと知ってるんですか。
 まさかセンパイから聞きました? あたしのこと」
どうやら恵は、ヒカルが啓一に連絡したことを知っているようだった。
特に口止めしたわけではないが、これはあくまで
ヒカルと啓一とのプライベートな問題である。
いくら彼の妹とはいえ、首を突っ込まれては愉快になれるはずがない。
ヒカルの心に不快な感情が湧き出した。
351水野兄妹観察日記・7(5/9) ◆cW8I9jdrzY :2010/02/15(月) 21:27:03 ID:hJ4WfIsR
恵はヒカルを自分の教室に連れてきた。
恵は二年A組、啓一はB組であり、この隣の教室には啓一がいるはずだ。
ヒカルは一応、礼儀を保って恵に従ったが、
早く啓一に会いたいという思いで胸が一杯だった。
終礼も掃除も終わっていて、教室には誰一人として残っていない。
おそらく施錠は恵が引き受けたのだろう。教卓の上には教室の鍵が置いてあった。
もう廊下にも人がほとんどおらず、放課後の喧騒がやけに遠くから聞こえた。
恵は手近な机にカバンを置き、ヒカルを振り返った。
「座る?」と訊ねられたが、どうせすぐ啓一のところに行くので遠慮する。
とにかくさっさと話を終わらせようと、ヒカルは口を開いた。
「で、恵センパイ。話って何ですか?」
「ええ。ヒカルちゃんに聞きたいことがあるの」
細く優美な唇を笑みの形に曲げて、恵が言った。
「啓一のこと、好き?」
ヒカルはその問いに、思わず体を硬くした。

以前、風邪を引いた啓一の見舞いに行ったときは、
ヒカルの方がその質問を恵に投げかけた。そのとき恵はヒカルの問いにうなずいた後、
「でも、ヒカルちゃんの『好き』と、私の『好き』は別物よ。
 私と啓一の仲は、ヒカルちゃんが考えてるようなのとは全然違うから」
などという返答をよこしてきたのだ。
あのときは単に「自分たちは仲のいい兄妹だ」と言いたいだけかと思ったのだが、
今回のこのわかりきった質問には、いったいどういう意味があるのだろうか。
ヒカルはわずかな間、恵の前で逡巡したが、
最初から自分がこの手の駆け引きに向いていないことはよくわかっている。
下手に小細工をするつもりはなかった。
「はい。前にも言いましたけど、あたしは啓一センパイのことが大好きです」
「それは先輩や友達としてじゃなくて、恋の対象としてつき合いたいってことよね」
「そうです。これから告白しに行くつもりです」
ヒカルの返答は予想済みだったのだろう。恵はうなずいて、今度は別の質問を放った。

「そう。啓一のどこが好きなの?」
「どこって――そうですね。特に優しいところがいいですね」
初対面のときから、啓一はヒカルに優しくしてくれた。
元気が溢れるあまり空回りしがちなヒカルを迷惑がるでもなく、世話を焼いてくれた。
だからヒカルは啓一に恋をして、彼の隣にいたいと思ったのだ。
「見た目とか評判とか、そういうところはどう?
 それもヒカルちゃんが啓一を好きになった理由かしら」
「え、あー……確かに多少はそれもありますけど、
 やっぱり啓一センパイの魅力は中身だと思います。優しいっていうか、
 よく周りのこと見てるっていうか、大人っぽいっていうか……」
「そう。わかったわ、ヒカルちゃん」
その答えに満足したのか、恵はにっこり笑った。
恵の方がヒカルより少し背が高い。
ヒカルをわずかに見下ろす恵の視線が、静かに絡みついてくる。
恵の態度には悪意の欠片もないのに、なぜ向かい合っていると
酸素が不足しているかのように感じられるのだろう。
ヒカルは考え込んだが、この閉塞感の理由は皆目わからなかった。
352水野兄妹観察日記・7(6/9) ◆cW8I9jdrzY :2010/02/15(月) 21:27:32 ID:hJ4WfIsR
恵は惚れ惚れするような笑顔のまま、質問を続けた。
ところがその内容は、ヒカルが思いもよらないものだった。
「じゃあもう一つ訊くけど、ヒカルちゃん。私のことは好き?」
ヒカルは身構えた。質問の意図がわからなかったからだ。
「……意味がわかりません。何の話ですか」
「啓一を好きなのと同じくらい、ヒカルちゃんが私を好きになってくれるかってこと。
 どう、ヒカルちゃん。私のこと、好き?」
恵はそこまで言って突然、ヒカルに抱きついた。
見た目よりも大きな乳房をヒカルの体にぎゅっと押し当て、
細い両腕を回して胴体を優しく締めつけてくる。
何かつけているのだろう。花のようなほのかな香りがヒカルの鼻腔をくすぐった。
「なっ !? セ、センパイ、何するんですかっ !!」
不意を突かれたヒカルは慌てふためいて、力いっぱい恵を押しのけた。
恵もそれは予測していたようで、よろめくことなくヒカルから離れる。
その表情は、どことなく嬉しそうだった。

「ふふっ、ヒカルちゃん……私の恋人にはなりたくない?」
くすりと笑って、恵が問う。
柔和な笑顔に恐怖さえ感じて、ヒカルは拒絶した。
「や、やめて下さいっ!
 あたしが好きなのは啓一センパイで、恵センパイじゃありません!」
「あら、どうして? 私と啓一で、何が違うわけでもないのに」
「だって、恵センパイは女の人じゃないですか! あたしにはそんな趣味ないですっ!」
「そう、残念ね。外見じゃなくて、啓一の中身がいいって言ってくれた貴方なら
 わかってくれるかと思ったんだけど、やっぱり無理か。まあ仕方ないわね」
恵は長い黒髪を揺らして、笑顔のまま言った。
「それなら啓一は渡せないわ。ごめんなさい、ヒカルちゃん。
 啓一は私のものだから、あなたには渡せないの」
「つまり、それが言いたかっただけですか……!
 回りくどいことしてあたしをからかって、性格悪いですよ! 恵センパイっ!」
「わかって、ヒカルちゃん。『渡さない』じゃなくて、『渡せない』の」
「何が違うんですかっ !? 啓一センパイは啓一センパイで、あなたなんかとは違います!
 勝手にセンパイを自分の所有物みたいに言わないで下さいっ!
 そんな自分勝手な恵センパイなんて、大っ嫌い!」
「ふふふ。じゃあ、啓一のところに行ってみなさい。それで全部わかるから」
清純な乙女の笑みを浮かべて、恵は言った。
言われるまでもなく、もうこんな訳のわからない女とは話していられない。
ヒカルは全速力でその場を離れ、隣の教室に飛び込んだ。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 
353水野兄妹観察日記・7(7/9) ◆cW8I9jdrzY :2010/02/15(月) 21:28:30 ID:hJ4WfIsR
ヒカルがドアを壊しかねない勢いで中に駆け込むと、
入り口に背を向けて窓際に立つ啓一の姿があった。
冬の空は灰色に閉ざされ、寒々とした景色を見せつけてくる。
重苦しい空を無言で眺めながら、啓一は何をするでもなく、ただ立っていた。
「セ、センパイっ! 啓一センパイっ!」
振り向いた啓一は、常のごとく柔らかな笑顔を浮かべて、ヒカルに言った。
「やあ、ヒカルちゃん。待ってたよ」
「す、すいません。呼び出しといて、待ってもらうなんて……」
これも全部、あの女のせいだ。ヒカルは心の中で恵を呪った。
啓一の目の前で立ち止まって、紅に染まった顔で彼を見上げる。
「け、啓一センパイ……。実はあたし、センパイに大事な話があるんです」
「何だい? ヒカルちゃん」
啓一の姿を見つめて、ヒカルは今までの記憶を思い起こした。
あの運命的な出会いから、昼休みに一緒に昼食をとったり、映画に行ったり、
彼が体を壊したとき見舞いに行ったり、その後のパーティで口づけを交わしたり、
思えばわずかな期間に、啓一とは実に多くの出来事を経験した。
そして今の自分は、心の底から彼のことが好きだと思える。
啓一の気持ちこそわからないが、きっと良い返事をしてくれるはずだ。
ヒカルはそう信じて、喉の奥から震える声を絞り出した。

「センパイ――あたし、センパイのことが好きなんです……。
 好きで、好きで、どうしようもないんです」
「ヒカルちゃん……」
「お願いです、センパイ。どうかあたしと、つき合って下さい……!」
言いたいことを言い終えて、ヒカルは身を硬くして、啓一の答えを待った。
返事を聞きたい。全身全霊を込めて、啓一の言葉を受け止めたい。
肯定の返答を待ち望むヒカルに、啓一は落ち着いた声で言った。
彼のことだから、あらかじめ返事を用意していたのかもしれない。
「ごめんね。それはできないんだ」
「センパイっ !?」
全く覚悟していなかったわけではないが、いざ断られるとやはりショックだった。
ヒカルは目に悔し涙を浮かべて、啓一に問い直した。
「なんでですか。なんでセンパイ、あたしを認めてくれないんですか?
 センパイには彼女なんていないんでしょう? だったら――」
「ごめん、ヒカルちゃん。だけどやっぱり、君の気持ちには応えられない。
 俺にはあいつが、恵がいるから……。だから、駄目なんだよ」
「恵さんは関係ないですっ! あの人はただの妹でしょうっ !?
 妹さんがいるからつき合えないって、おかしいですよ、そんなの!」
とうとう泣き出したヒカルを前にして、啓一は苦渋の表情で唇を噛んだ。
「今まで黙っててゴメン。だけど、どうしても言えなかった。
 言っても信じてもらえないと思ったから、言えなかった。実は俺と恵は――」
そこで啓一は言葉を区切り、ヒカルの反応を窺った。
だがここまで話せば、ヒカルにだって啓一の言いたいことくらい理解できる。
やはり啓一と恵は、兄妹でありながら愛し合っているのだ。
兄妹の禁断の関係に、自分が割り込む余地は最早残されていないのだろう。
そう思うと、ヒカルの目から自然と涙が溢れ出た。
354水野兄妹観察日記・7(8/9) ◆cW8I9jdrzY :2010/02/15(月) 21:29:12 ID:hJ4WfIsR
ところが啓一の口から出てきたのは、ヒカルの予想とは全く違う言葉だった。
「実は俺と恵は、同じ人間なんだ」
「……はい?」
唐突に訳のわからないことを言い出した啓一に、意図せずヒカルの涙が止まった。
同じ人間とは、いったいどういうことなのだろうか。
頬を涙で濡らしたヒカルを見下ろして、啓一が続けた。
「同じって言っても、別に俺が女装して一人二役をやってるわけじゃないよ。
 俺の体も恵の体も、ちゃんと別々になってる。
 同じっていうのは体じゃなくて、中身のことさ」
「中身が、同じ……?」
「そう、特異体質でね。俺と恵は生まれたときから心が繋がってる、一人の人間なんだ。
 だから俺は恵から離れられない。いくらヒカルちゃんが俺のことを
 好きだと言ってくれても、恵を拒絶する君とは一緒になれないんだよ」
「あ、あの、センパイ……何のことですか? いったい何の話をしてるんですか?
 啓一センパイと恵さんって、いったいどういう――」
「まだ、わからない?」
啓一は手を伸ばし、ヒカルの顔に優しく触れた。
待ちに待った啓一の感触だというのに、今のヒカルはそれを嬉しがるでもなく、
呆けた表情で啓一の微笑みを見上げるだけだった。
「まだわからないの、ヒカルちゃん? 私がいったい誰なのか」
惚れ惚れするような笑顔で、啓一が言った。
「け、啓一センパイ……?」
短い黒髪も、凛々しい顔立ちも、引き締まって力強い肉体も、
いずれを見ても、目の前の人物は水野啓一以外ではありえない。
しかしヒカルには、ここにいる彼がまるで別人のように感じられた。

「啓一センパイ……どうしちゃったんですか?
 なんでそんな、女の人みたいな喋り方して……」
「啓一なんてどこにもいないわ。最初からいなかったのよ。あれは全部私の演技」
啓一はヒカルの頬をゆっくり撫でて、笑った。
つい先ほどまではこの感触を待ち望んでいたというのに、
今は啓一の言葉、啓一の仕草にヒカルは恐怖さえ覚える。
「啓一はね、生まれたときから心がなかったの。
 頭にも体にも、何も異常はなかったんだけどね。でも、心が生まれなかったの」
まるで乙女のように柔和な笑みを形作り、啓一は語り続けた。
ヒカルは逃げ出すこともできずに、ただ啓一を見上げるだけだった。
自分の前にいるこの男は誰なのだろう。いや、本当に男なのだろうか。
話し方も表情も、慎み深い令嬢のように柔らかだった。
「啓一には心がなかった。だけど私にはあった。それでね、ヒカルちゃん。
 私の特異体質ってのはね、心がない啓一の代わりに、
 私が啓一の体を自由に動かせるってことなの。いつでもどこでも、一日中ね」
「え? セ、センパイ、センパイは――」
「そう、やっと気づいた? 私は恵。さっきあなたに嫌われたばかりの、水野恵よ」
啓一の顔で、啓一の声で、そいつは楽しそうに笑った。
普段なら魅力を感じるソフトな笑顔も、今はヒカルの困惑と恐怖を煽る効果しかない。
ヒカルの体が小刻みに震え、再び涙がにじんできた。
355水野兄妹観察日記・7(9/9) ◆cW8I9jdrzY :2010/02/15(月) 21:29:44 ID:hJ4WfIsR
啓一の姿をしたそいつは、恐れにガタガタ震えるヒカルを楽しそうに見つめて、言った。
「どうして啓一が何でもできて、優しくて、カッコいいのかわかる?
 どう考えても不自然よね。何かズルしてるんじゃないかってくらいに」
そこで一拍、間を置いて、ヒカルの泣き顔を観察してから、話を続けた。
「なんでかって言うとね、この啓一は私の理想の姿なの。
 女の子が憧れる完璧な男の子なんて、どこを探してもいないわ。
 でも女の私なら、中身のない啓一に、自分の理想の男のイメージを投影できる。
 そうやって私は子供のときから時間をかけて、啓一を自分の思い通りに作り上げたの。
 ヒカルちゃん、わかる? 随分難しい話をして、ホントにごめんね」
ヒカルが慕う啓一の全てを、啓一自身が否定しようとしている。
それもヒカルが全く予想しなかった方法で、だ。
冬の空は急速に暗くなりつつあり、ヒカルを奈落の底へ突き落とそうとしていた。
「わ、わかんないです……センパイが何を言ってるのか、わかりません。
 啓一センパイは、啓一センパイで……恵さんとは違います、よね?」
「ううん、違わないわ。私は啓一だけど、恵の一部でしかない。
 そうね――恵の思い通りに動く、出来のいい人形ってところかしら。
 ヒカルちゃんにはわからないでしょうね。体が二つあるなんて感覚は」
「わかりません。そんなの、あたしにはわかんないです……!」
ヒカルは啓一から身を引いて、両手で自分の顔を覆った。
これ以上啓一を見ていたくない。彼の話を聞きたくない。
けれども今逃げ出してしまうと、もう二度と啓一に近づけなくなるだろう。
今にも切れそうな細い糸の上で、ヒカルは頼りなく揺れる。

「わからないならそれでいい。でもね、ヒカルちゃん。
 啓一は好きだけど恵は嫌いっていうあなたのセリフ、どれだけひどい言葉かわかる?
 たとえばヒカルちゃんが男の子に、『お前の顔、可愛くて好きだ。
 首から下は要らないけどな、ははは』なんて言われたら、どう思う?
 そんな相手をヒカルちゃんは好きになれる?」
ヒカルは答えない。頭が状況についていけないのだ。
彼女でなくとも、普通の人間ではこの話についていけないだろう。
ヒカルの前にいるのは、そんな異常極まりない生き物だった。
「だからヒカルちゃん、私はあなたとつき合えない。
 啓一の体も心も、全部私のものよ。あなたなんかに譲れない。
 それともこう言ってほしいの? 『この泥棒猫、私の啓一を横取りしないで』って」
「啓一センパイ、あ、あたし――」
「帰って。そしてもう二度と私に近づかないで。
 もう君の顔なんて見たくないんだ。帰ってくれ、ヒカルちゃん」

その言葉がとどめを刺すことになった。
ハンマーで殴られたかのようにふらふらとよろめいて、ヒカルはその場を後にした。
混乱した頭と濡れた視界が、元より不安定な平衡感覚を奪う。
何度も転び、壁にぶつかり、廊下に鈍い音を撒き散らしながら、
ヒカルは這々の体で逃げた。大好きな啓一から逃げて、逃げて、ひたすら逃げた。
どこをどう歩いたのか記憶にないが、気がつけばヒカルは校門の前にいた。
冬物の制服はあちこち薄汚れ、膝のすり傷からは血が滴っていた。
カバンはさっきの教室に置き忘れている。今の彼女の手には何もない。
昨日までは幸せの極致にあったというのに、見るも無残な有様だ。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。考えてもわからない。本当に惨めだった。
まさに、天国から地獄へと突き落とされた思いだった。
356 ◆cW8I9jdrzY :2010/02/15(月) 21:30:51 ID:hJ4WfIsR
以上となります。 おそらく次で終わりです。
それではこれにて、失礼します。
357名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 21:37:02 ID:wa7M8+cD
>>346
煽りは10秒、
SS300行書くのは10時間だからな
358名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 22:43:41 ID:id5Xja6S
>>356
GJ!!なんという超展開ww 
359名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 23:19:35 ID:jnptsIx/
>>356
GJです!
ヒカルちゃん、大丈夫かなあ…。

>>358
いや、以前の作品を知っていると超展開とは言い切れないんですよ、これが。
360名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 02:00:48 ID:QxsGFumd
なにこの展開怖い
361名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 02:48:36 ID:3vm4BCKJ
兄視点じゃないのはこういう事だったのか
確かにこりゃ第三者からの視点じゃないと無理だ
362名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 03:15:49 ID:bA14Nsmi
今まで控えてたけどそろそろ↓読んでこいと言うべきだろうな
ttp://eroparo.x.fc2.com/works/001/019/index.html
ただし今回のギミックの種明かしというかネタバレも含むので…
363名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 03:31:28 ID:MZgVqZlq
規制やら卒論やら就活やらでだいぶ間が空いてしまいましたが
ネタレス投下です。


あと、キモ分薄め+ロリ+アホ内容の3点セットなので
苦手な方はスルーでお願いします。
364集え! 近親戦隊ソウカンジャー:2010/02/16(火) 03:33:05 ID:MZgVqZlq
★これまでのあらすじ★
オス。ソウカンサーモンピンクこと牛山栖桃だ。今回はアタシがあらすじを担当するって事らしいから一つよろしく頼む。
アタシ達は兄貴を手篭めにしようと企んでる通称TC(シーフ・キャット)軍団と戦うせ・・・せ、正義の・・・味方、なんだ。
・・・っっちっくしょ! 何が正義の味方だくだらねぇ!! 万年発情してるクソ猫共の駆除に正義もヘチマもあるかってんだよ!!
オラァァァ兄貴!! セックスさせろやぁぁぁ!!!


お久しぶりですね。俺の名前は牛山大悟。ソウカンジャーこと3人の妹の為に現在進行形で禁忌を犯している糞野郎である。
俺の精子は特別製でソウカンジャーの力の源である「ZP(ザーメンパワー)」が宿っているのだ。コイツを最大限に引き出す為には対象の子宮に
直接ザーメンをブチ撒けなくてはならない。はっきり言ってやろうか、中出しだ。実の妹に中出しだ。3人全員に中出しだ。
この場にアグ●ス・チャンと仏陀とキリストが居たならば、俺は縛り上げられて袋叩きにされているところだ。
こんな鬼畜同然の俺が言い訳を言わせて貰えるのならこう言うだろう。「犠牲無しに得られる平和なんて無いんだぜ」

散々搾り取られた日の朝は穏やかなもんだ。まだまだお子ちゃまな3人は疲れ果ててベトベトのベッドですやすや寝息を立てている。
紅音(あかね)、栖桃(すもも)、真白(ましろ)。3人のベイビーエンジェルは歳相応の寝顔で夢の中だ。時々ニヤニヤにやける所が気がかりでは
あるが。ともあれ起こす理由もないので俺はシャワーを浴び朝飯の準備に取り掛かる。両親が不在の為、こういった事は兄貴の勤めでもある。
「さあ・・・ここで牛山選手が取り出したのは!! ・・・こっこれはっ! 白菜だァーー!!」
自分で自分の料理を実況しながら黙々と料理を作製する。我ながら料理の腕は世界で5本の指に入るのではないだろうか。勿論逆の意味で。

―――  ピンポーン  ―――

チャイムが鳴った。今日は日曜時刻は7時。回覧板回ってくる時間じゃあない。ということは・・・。
「TC軍団!?」
俺が出て行くよりも先に3人が躍り出る。ホントこういう時だけは常人を越える反応だ。
「こんな朝っぱらから・・・! 栖桃、真白、行くよ!」
「おお! ギッタギタにしてやるぜ!」
「折角のいい夢を覚まされた怒りを受けてもらいますわ!」
やる気は十分、精子も満タン。万全の状態って奴だ。さて、今回はどんな奴が相手なんだ・・・ん?
「あれ?」
「こいつ・・・」
「もしかして・・・?」
扉の前に立っていたのは3人よりももっと背の小さい女の子だ。黄色いコートにブカブカの帽子。そして背丈と釣り合わない旅行カバン。
「金美(かなみ)・・・?」
俺の口から出た名前は遠い田舎町で暮らしているはずの従妹の名前だ。牛山金美、父の弟の娘で3人より一つ年下の女の子。
9歳とは思えぬ頭の回転の速さに驚いた記憶がある。最後に会ったのは確か去年の元旦だっただろうか。
「・・・お久しぶりです、大にぃ」


***一方その頃、TC(シーフキャット)軍団本部***
―――本当に貴方が行くのですか?―――
「ふふふ、お任せあれ。ソウカンジャーの弱点は既に調査済みってね!」
―――そうですか。では今回は貴方に任せることにしましょう―――
「了解〜。期待して待ってていいよ!」
365集え! 近親戦隊ソウカンジャー:2010/02/16(火) 03:34:31 ID:MZgVqZlq
「はぁ!? しばらくここで暮らす!?」
「はいです。編入することになった私立小学校がこの近くだったです」
「そんないきなり言われても困りますわ。ねぇお兄様?」
「生活品は全部持ってきたです。寝床は廊下でも台所でも文句は言わないです」
「うーむ・・・、でもなぁ・・・」
4人の小娘がやいのやいの騒いでいる中、俺は悩んでいた。
一緒に暮らすのは構わない。現状の家庭財政なら一人くらい増えても大して問題はない。問題があるとすれば・・・そう、夜な夜な繰り広げ
られる淫猥な宴のことだ。それにソウカンジャーのこともある。下手をすれば危険に巻き込んでしまうかもしれない。
「なぁ金美、実はな、俺達ちょっと普通の家とは違ってて・・・」
オブラートに包みつつ説得を試みる俺。金美の後ろでは3人がコクコクと頷いている。「追い返せ」と言っているのだ。
「だから一緒に暮らすのはちょっと・・・」
従妹を危険な目にあわせたくない、という思いと共に夜の乱交中出し大会を見せたく無いという思いが沸々と浮かぶ。
あんな光景目にしてしまったらぶっ倒れるんじゃないか。そして漏れなくトラウマとなるであろう。まだ小さく、純粋な従妹には刺激が強すぎる。
「ああ、それなら―――」
金美が言いかけた途端、突如としてチャイムが鳴り響く。俺が、紅音が、栖桃が、真白がパッと顔を上げる。今度こそ間違いない、TC軍団だ!
「二人とも! 行くよ!!」
紅音の掛け声と共に飛び出す3人。金美は状況が把握できていないらしくキョロキョロと辺りを見回している。
「金美! この部屋から一歩も出るんじゃないぞ! あと布団をかぶって身体を小さくしとけ!!」
必要最低限の護身を金美に伝え、俺も外に飛び出した。


「ふっふっふ、みんなお揃いだね〜?」
仮面で顔を隠したTC軍団の幹部が仁王立ちをしていた。その声、その体系、その喋り方・・・。やっぱどっかで会ったことあると思うんだけどなぁ。
「私はTC軍団幹部・オサナナジミ。毎度の事ながらそこの大悟君は頂いていくよん」
上機嫌で語るオサナナジミ。紅音たちは俺を守るように並ぶと変身の構えを取った。
「お兄ちゃんには指一本触れさせないんだからッ!!」

『絶頂変身!!』
 
弾ける赤ブルマの紅音、引き締まったピンクスパッツの栖桃、柔らかそうな白スク水の真白。待たせたな、僕らのソウカンジャー見参!

「愛する兄に、捧げる純血ッ!! ソウカンブラッドレッド!!」
「蒸れる股間に、魅惑のワレメッ!! ソウカンサーモンピンク!!」
「腿に滴る、卑猥な粘液ッ!! ソウカンジェルホワイト!!」

『三つの心に六つの乳首ッ!! 近親戦隊! ソウカンジャー!!』(ドカーーン)


「さ〜て、と。じゃあこっちも始めようかね!」
オサナナジミは勢い良くダッシュしながら近づいてきた。その進路に栖桃が立ちはだかる!
「返り討ちにしてやるぜ! 突起棒・クリトリスティック!!」
ニヤリ、とオサナナジミがほくそ笑む。まるで待ってましたと言わんばかりの反応だ。
「それはこっちの台詞ってね! 愛妻弁当奥義・梅干マシンガン!!」
オサナナジミの両手から無数の梅干が放出される! 梅干は栖桃の腕へ、足へ、服の中へ、そして口の中へ入り込んだ!
「もがーーーーーーーッッ!!!???」
馬鹿な・・・何故あいつは知っているんだ!? 栖桃が梅干を大の苦手としていることに!!

366集え! 近親戦隊ソウカンジャー:2010/02/16(火) 03:36:09 ID:MZgVqZlq
「栖桃ッ!!」
呼びかけたが返事はない。おそらく口が「*」みたいな形になっているのだろう。
「ううう・・・アナr、じゃなかった栖桃の仇ぃぃぃッ!!」
紅音よ、いくらなんでもその間違い方はないわ。全国の梅干好きに謝れ。
「真白! 援護頼む! 振動剣・バイブレード!!」
「分かりましたわ! 水笛・潮吹!!」
二人の同時攻撃が展開される! だがもし相手が「嫌いなもの」を知っているのだとすれば・・・!?
「フフン、愛妻弁当奥義・ピーマン爆弾!!」
「いやああぁぁぁぁ!! ピーマンこっちこないでぇぇぇ!!!」
「あとは真白ちゃんね! 愛妻弁当奥義・くさやクラッシュ!!」
「ひぃぃぃぃぃ!!! 鼻が曲がりますわぁぁぁ!!!」
まいった・・・。3人の最も苦手な食べ物を熟知し、攻撃を加えるなんて・・・。さすがの3人もコレには相当参っているようだ。
3対1という人数的劣勢を一瞬にして逆転してしまうとは。このオサナナジミとかいう奴、かなりの手練と見た。
「そ・れ・で・は・・・。本日のメインディッシュをいただきまぁす♪」
じりじりと近づいてくるオサナナジミ。そしてその右手の弁当箱に入っていたものは!
「愛妻弁当奥義・イカの生姜焼き!」
俺の大好物キタ━━━( ´∀`)・ω・) ゚Д゚)・∀・) ̄ー ̄)´_ゝ`)ノД`)・゚・。━━━!!!!!
やばいやばいやばいやばいマジで飛びつく5秒前。ここ最近食べてなかっただけあって俺の腹の虫が騒ぎ出している。
無意識に、俺の足はお弁当につられてオサナナジミの方へと歩み寄っていた。1歩、2歩、3歩・・・鼻をくすぐる生姜の香り。俺達の好き嫌いを
的確に調査したこの相手、敵ながら天晴れである。
「行ってはだめです」
クイッと服の袖が引っ張られる。我に返って振り向くと、そこには家の中にいるはずの金美が立っていた。
「か・・・なみ!? おま、なんでここに!!?」
「理由は後で話すです。今はとりあえず・・・」
キッとオサナナジミを睨み付ける金美。対するオサナナジミは不思議そうな顔で金美を見つめていた。
「大にぃ、下がっているです」
ゆっくりと、腕を掲げる。光が金美を包み込むと高らかに叫んだ!

「絶頂変身!!」

声と共に金美を包んでいた光が弾け、アーマーに変化する。金色に輝くヨダレ掛けにオムツ、そしてヘルメットが装着された。

「一筋流れる、黄金(こがね)の聖水ッ!! ソウカンゴールドジュース!!」

「これはッ!!」
「まさかッ!!」
俺とオサナナジミが同時に叫ぶ! 金美が・・・4人目のソウカンジャーだというのかッ!?
「3人ともいつまで寝てるですか!? さっさと立ち上がるです!」
金美が3人に激励を飛ばす。口を*にした栖桃が、ピーマンの山から紅音が、鼻を押さえた真白が集合する。
「金美・・・あんた・・・」
「話は後です。カナが時間を稼ぐので3人はフィニッシュ技を決めるです」
そう言うと金美はオサナナジミに向かっていった。いつの間にかその手には金に輝く大弓が装着されている。
「唸れ! 尿弓・アンモニアロー!!」
ぷしゃぁぁぁぁぁっ、という放尿音を立てながら弧を描いて金の矢が放たれる。
「ちょっちょっ!! コレは反則でしょ!!?」


367集え! 近親戦隊ソウカンジャー:2010/02/16(火) 03:37:41 ID:MZgVqZlq
そこには黄金水フェチには堪らない光景が広がっていた。
独特のニオイが周囲一面に広がり、金色のシャワーが降り注ぎ、太陽に反射して虹のアーチが形成されていたのだ。
この嫌がりようを見るにどうやらオサナナジミはス●トロプレイは苦手と見える。
「今です!!」
金美が叫ぶ。3人はありったけの力を注ぎ込み、逃げ回るオサナナジミをロックオンした!

『ザーメン燃焼!! 中田氏希望!! 兄に届けこの想い!!』

合体必殺技・ファイナルアルティメットデスティニー!! しかもいつもより気持ち増量バージョン!
そんなに嫌だったのかあの食べ物攻撃・・・!!

『吹っ飛べえぇぇぇえぇえぇ!!!』

回避不能のこの攻撃の前にオサナナジミは為す術も無く弾き飛んでゆく。
「大悟君・・・そのイカの生姜焼き・・・美味しいよぉ・・・? なんたって私の・・・マンじr・・・」
断末魔の叫びは最後まで紡がれる事は無かった。うーん・・・やっぱり隣の幼馴染みに似てたような、似てなかったような・・・。
「・・・・・・」
目の前に置かれたオサナナジミの弁当箱。所狭しと盛り付けられたイカの生姜焼きを前におれの胃袋が疼き出す。
そういえばまだ朝飯食ってなかったんだっけ・・・。

パクッ

美味い。でら美味い。味付けからイカの柔らかさ、生姜の量まで完璧に仕上げてある。敵が作ったものではあるが、俺の手は止まらない。
「ハムッ! ハフハフ、ハフッ!!」
そんな俺に気づいたのか、4人が慌てて駆け寄ってくる。
「ちょ、お兄ちゃん!! あんな女の作った物なんて食べちゃ駄目! 吐いてっ、吐けッ!!」
紅音が背中を叩き、栖桃が俺の口に指を突っ込む。とどめに真白がみぞおちにパンチを繰り出す。
見事な連係プレーが決まり、折角食べたイカの生姜焼きは再び弁当箱に舞い戻ることとなった。
「安心するです大にぃ。カナは料理の腕には自信があるです。これからは好きな時に好きなだけ料理を作ってあげるです」
嗚咽が収まった俺の頭を優しく撫でる金美。ううう・・・お前はいい子だ。
「フン。ま、まあ料理係りとしてなら家で暮らすのも認めてあげなくも無いですわっ!」
真白がプイッとそっぽを向く。
「そうだな。ま、少なくとも俺たちが戦うときの時間稼ぎくらいにはなってくれそうだしな」
珍しく栖桃も真白に賛同する。
「でもコレだけは覚えておくのよ! お兄ちゃんのザーメン一番搾りは私達に譲ること! わかった?」
どうやら満場一致で可決のようだ。よろしくな金美。これからは4人で力を合わせt・・・

「黙るです年増共。今回はカナが一番活躍したから大にぃのザーメンは全部カナのものです」

俺は泣いた。
そうか、一緒に暮らすってことは金美(9歳)にも中出しするってことなんだ。倫理もクソもない、立派な畜生になるということか。
4人が喧嘩をしている横で俺は世界が平和になった後、どうやって死ぬべきかを考えることにした。



                                                         おわり
368名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 03:39:55 ID:MZgVqZlq
以上です。
待っててくださった方、励みになりました。
ありがとうございます。
369名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 03:41:05 ID:LXknMkkj
だれか>>363を逮捕してくれよ・・・

面白かったです。
370名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 04:31:35 ID:qLf3rhp7
>>369
死ね
371名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 10:52:50 ID:/+IU6X3h
こ れ は ひ ど い
い い ぞ も っ と ヤ れ

GJです大好きです
372名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 11:36:34 ID:cl3ubO9i
>>362
それの加筆修正版もある
アド晒していいかわからんので作者の人の酉でググってくれ
最終回も楽しみにしてます
373名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 20:50:06 ID:fEJeVnSK
>>368
GJです愛してます
374名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 21:05:33 ID:XajDu4LF
俺の若い頃は「三つの心」といえば、性戯と愛と劣情だったのだが
375名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 21:49:07 ID:1aaWmk7G
現在では「だらしねぇ」と「歪みねぇ」と「仕方ない」が三つの心ですよ?
376名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 21:49:24 ID:Pf8tOamA
>>356
設定だけ共有しつつも他スレじゃ敢えて触れてないのかなぁと思ってたがそういうわけでもなかったのかw
377名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 00:49:54 ID:YvC+B72L
>>370
事ある毎に「死ね」ってだけ
書き込むのはなんなんだ?

ハッキリ言って目障り。
子供はBBSPINKに来るなよ。
378名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 01:26:53 ID:Rorb2fV2
>>377
構うなよ
黙ってあぼーんしとけ
379名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 02:16:14 ID:fd9oBc2L
>>377
死ね
380名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 12:00:12 ID:f5I4l6S8
最後です
投下します
381某SF作品パロディ:2010/02/17(水) 12:01:09 ID:f5I4l6S8
…………もはや永遠とも感じられる時間をこの狂気の中ですごしていた。
樹里の想いを拒絶したあの日が遠い昔のように思える。
いや、そもそも普通の生活と言うものが思い出せなくなりつつある。
自分の世界は最初からこの苦痛のみであったのではないか……
いつの間にか思考すら放棄していたのだろうか、よくわからない空白感を感じていた。
「さて。兄さん、ボクのことを女として愛してくれるかい?」
もう何もわからない。
そもそも何故、樹里を拒絶したのか。それすら今の自分には説明できない。
愛とはなんだ。女としてとはどういうことなのだろうか?
わからない。いったいどういうことなのだろう……
「わからない。わからない。」
無意識に口に出ていた。
「兄さん、詳しく聞かせてくれ。」
状況に久しぶりに変化が訪れる。
俺の言葉を認識した瞬間、樹里の表情が一変した。
唇は右端がつりあがり、同時に右目に力が入り薄ら笑いのように細まる。
対照的に左目は極限まで見開かれ、俺を深遠まで見通そうとしているようだ。
長年共に生きた俺でも、こんな表情などかつて見たことがなかった。
あえて形容するなら、獲物を目前にした肉食獣のような。そんな気がした。
俺はそれに対して、ただただうわごとのように同じ言葉を繰り返すだけだった。
何回つぶやいただろうか。 いきなり眼前の電気スタンドが消され床に押しのかれる。
樹里は拘束された俺の体の上にゆっくりと四つん這いになると、俺の顔を正面から覗き込んだ。
目を見開き俺の目にじっと焦点を当て続ける。
そして先ほどの熱を帯びた口調から一転、冷たくゆっくりと語りかける。
「じゃぁボクが教えてあげよう。愛情に血縁は関係ない。近親相姦は禁忌などではない。復唱して。」
「愛情に血縁は関係ない。近親相姦は禁忌などではない。」
ほとんど反射的に復唱していた。そうか。そうなのか。よくわからないが、樹里が言うのならそうなのだろう。
「もう一度」
「愛情に血縁は関係無い。近親相姦は禁忌などではない。」
「もっとだ!もっと言うんだ兄さん!」
樹里の声が再び昂ぶっていく。
同じやり取りを繰り返すうちに樹里は次第に下半身を支えていた脚を伸ばし俺の脚に絡めてきた。
今ではすでに腰から下が完全に密着して体重を俺に任せている。
絡み合う下半身から樹里自身の熱が直接伝わってきた。
もう何十年も温かさを感じていなかったように感じる。久々の温もりに思わず安堵した。
その熱は包み込むように温かくて、かつ焼けるように熱い。
下腹部からは興奮で荒くなっている樹里の呼吸を感じることも出来る。
その熱さと対照的に俺を覗き込む樹里の表情だけはまだ冷たいままで、そのアンバランスに心を揺さぶられた。
しばらくそれが続くと、ついに樹里が無言になる。
ただただ沈黙の時間が流れ、ついに上半身も覆いかぶさってきた。
徐々に熱と圧力を受ける面積が広がってくる。
やわらかい胸がギュっと押し付けられた。同年代に比べ小ぶりだが、服の上からでも柔らかさを感じられたようだ。
樹里の体温と重さだけが今の俺の全感覚を支配していた。
「兄さん、もう疲れたろう。もう眠っていいよ。」
耳元で睦言のように囁かれる。もう眠っていいのか…………
樹里の温もりに包まれながら、俺の意識は溶けるようにまどろんだ。



382某SF作品パロディ:2010/02/17(水) 12:01:50 ID:f5I4l6S8




心地よい眠りから意識が戻る。
周りを見渡すと、俺はいつも使用するベッドの上にいた。
窓からは朝日が差し込んで部屋を照らしている。いつもと変わらない朝の風景。
間違い無く普段どおりの自分の部屋だ。足が金属の輪で拘束されベッドを離れられなくなっていること意外は。
前と変わりないのかと不安になったが手は自由に動かせるようだ。目の前で拳を開け閉めするが正常に動く。
手首に残った傷跡が痛々しいが手当てされたあとあった。ふと気が付いて頭を探る。アレをまたされてはたまらない。
とりあえず手で触れる範囲ではごく普通だ。思わず安堵のため息をつく。
数秒間だけベッドに体を任せて悪夢について考えていると、樹里が右側にある扉から入ってきた。
「やぁ、兄さんおはよう。ご飯持ってきたよ」
食器搬送用の手押し車を押しているのが見える。どこから用意したのだろうか。
ここの状況だけ見ればホテルのルームサービスのようだ。
「タイミングがいいな」
まだすこしかすれた声だった。どれだけ喉を酷使したのだろう。
しかし、よく考えればここまで絶妙のタイミングで入ってこれるのは不自然だ。
すると、樹里はいきなり神妙な表情を作りどこかふざけたような声で言った。
「ふふん、兄さんは見られてる」
……見られてるってのは監視的な意味でなんだろうな。
樹里の手によって朝食がベッドに横付けされた。これはベッドの上で食えと言う意味か。
丼いっぱいに盛られた白飯に四人前はありそうな大盛りの生姜焼き、バケツのようなサラダボウルいっぱいの野菜……
見た目やら繊細さはまるで無視して量だけを追求したような料理。どこかの貧乏学生ご用達の食堂みたいだ。
だが普段の俺からは考えられないが、その圧倒的物量を見る見るうちにたいらげてしまう。
美味かった。本当に美味かった。
おそらく原因は異様な空腹感だ。もう何年も食べていないのかと錯覚するほどだった。
空腹こそ最高の調味料と言う言葉を身にしみて理解した。
最後のほうになるとさすがに満たされてきて、今ではすこし腹がキツイくらいだがそのキツさがむしろ安心できた。
満腹感に満たされベッドに倒れこんだ俺に冷水の入ったコップが手渡される。
体を再び起こして喉を潤す。清冽に油っぽさが流されてさわやかな心地だ。
ただの水がこんなに美味いと思ったのははじめてなんじゃなかろうか。
383某SF作品パロディ:2010/02/17(水) 12:02:56 ID:f5I4l6S8
「兄さん、デザートも用意してるんだけど。」
樹里が俺に小包を差し出してきた。
正直、腹いっぱいだったが包装を開けて中身を確認する。
そこにはハート型の黒い菓子、つまりはチョコレートが入っていた。
「バレンタインには少し遅れたけど……本命も本命だ。受け取ってほしい。」
樹里はいつもどおりの表情でそう俺に告げる。
だが顔色はといえば赤化してるのがはっきりとわかる。いつから共産主義者になったのか。
というかバレンタインには遅れただと?
「ちょっと待ってくれ、今日は何日だ?」
「2月の17日だ。3日遅れだね」
俺の記憶ではっきりと日時がわかるのは2月12日。
あの暗い部屋の中で5日間経っていたのか。五日"しか"というべきか"も"というべきか。
「時間経過を知りたいんだね?
まず兄さんを拘束したのが12日の深夜、兄さんが起きて交渉が始まったのが13日の朝。
そして15日までぶっとうしで交渉して終わったのが正午ごろ。そのまま丸一日眠って今に至る
とまぁこんな感じだよ」
よく考えればその時間丸々、コイツは起きてあの演説を続けていたのか。ずいぶんと元気なものだ。
それとも愛のなせる業か…………
そして意識を眼前のチョコレートに戻す。
これを受け取るということは樹里を受け入れるということだ。樹里も俺がどうするのかを全力で窺っている。
俺はこの三日遅れのチョコレートを…………一気に口に含んだ。
口で溶かさずに咀嚼するとチョコ特有の風味が口腔内に広がる。
そして間髪いれずに樹里の後頭部に手を回して引き寄せ口付け。
こういう経験が無い俺はくちびるの柔らかさに戸惑いつつも感動する。
樹里を拘束している腕からかんじる首筋の温もりをもっと感じたくてさらに強く抱きしめる。
それだけでは我慢できないから、手を襟から服の中に進入させ背中を直接まさぐった。
自分が何をされているか樹里はよく把握できていない様子だった。
この混乱に乗じて樹里の口腔内に第一梯団としてチョコレートが随伴した舌を突入させる。
突破に成功した舌が樹里の歯にかち当たると迂回機動を取ってその奥へと侵入。
そのままの流れでOMGとして噛み砕いたチョコを無停止進撃させるよう試みた。
が、混乱から回復した樹里がやはり舌を用いて迎撃行動を始めた。
俺の舌に付いたチョコを削ぎ落とすように絡め取ってくる。その甘美な感覚にクラクラした。
戦線が樹里の口腔内で膠着しつつも激しい攻防戦が続く。このまま全面核戦争へと突入しそうだ。
俺は今、樹里を心から愛していた。
384名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 12:07:07 ID:f5I4l6S8
とまぁこれで終了です
なんか最初つくろう思ってた話とずいぶん変わってしまってしまいました
最初はもっと良思考に満ちたSSにしたかったのですがどんどん脱線して
じつはこれバレンタインSSということにしたのは>>338に触発されたでっち上げです
どうもありがとうございました
385名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 12:11:54 ID:f5I4l6S8
なお、この説得法は特殊な技能を持った専門の説得者が必要です
見よう見まねで行おうとすると廃人化や対象者の嫌悪感の増大などが起こる可能性があるので
いいキモウトはちゃんと勉強してからやってね
386名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 12:35:28 ID:UE4aLvEx
GJ
チクショウめ本番突入前に寸止めかよ、まだまだ寒い日は続くんだぜ?
あと絶食明けには粥とか汁物とか胃に優しい物の方が良いのでわ…
387名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 15:29:46 ID:aEeZR4az
素晴らしく良思考に満ちた作品だと思います、GJ。
元ネタのSF作品が分からなかったけど面白かった。
388名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 19:08:58 ID:gqwUh7UY
>>385
何人かの専門家が消息を絶った。
どうやら勉強する時間を惜しむ、気の短いキモウトがいたようだ…。
389名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 21:15:32 ID:VB4If+kk
姉弟モノを投下します
読んでもらえたらうれしいです
390名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 21:25:49 ID:WnZSoG7W
支援
391長い夜:2010/02/17(水) 21:25:57 ID:VB4If+kk
「―って、おい。人の話聞いてるか?」
「え?あ、えと。うん、聞いてるよ」」
いけないいけない。また弟くんに見とれてしまっていたようだ。
でも仕方ないじゃん、と軽くむくれてみる。もちろん心の中で。
なんといっても、弟くんは可愛いのだ。
高校生になっても、相変わらず。
別に小さいとか、童顔だとか、そういうわけじゃない。
そういんじゃなくて、…とにかく、可愛い。それはもう、食べてしまいたいくらいに。
そんなことを考えてまたぼんやりし始めたのだが、弟くんがさすがに怒り出しそうだったので、あわてて話を聞く。
「だから、今日は帰りが遅くなるって言ってんの。ご飯もいらないから」
ほら。ちょっと口調が乱暴かと思ったら、しっかり『ご飯』って言う。
そういうちょっとしたトコが、やっぱり可愛い。
―って、はい?
「そ、そうなんだ?で、でもやっぱり、うちで食べたほうがいいんじゃない?好きなもの作ったげるよ?」
弟くんと一緒に食べられないなんて寂しすぎる。
「いや、いいよ、姉貴も今日はゆっくりして。…たまには、ホラ、友達づきあい、ってやつだ」
…はっきり断られてしまった。こういうときの弟くんは、頑として聞き入れようとしない。
「…うん、わかった…」
しょうがない。それなら、私も今日は外で食べてこよう。
そのかわり、明日は弟くんに、買い物にでも付き合ってもらうとしよう。それはもう、朝から晩まで。
「…じゃあ、先に行くぞ」
「―あ、待って。おねーちゃんも行くよっ」
まあ、なんだかんだで、こういう毎日は悪くない。
さすがに、好きだ、とか言ったら引かれるに決まってるし、いろいろ問題がある。
だからまあ、一番近くにいられるだけで十分だと、そう思っていた―。
392長い夜 2:2010/02/17(水) 21:26:29 ID:VB4If+kk
「あーあ、どうしよ…」
外食しようと決めたのはいいのだが、いまいち食べたいものが思いつかない。
「弟くんがいっしょなら、もっと楽しいはずなのにな…」
やっぱり明日は買い物に連れ歩こう、そう改めて決心する。
「―って、あれ?弟くん?」
そうやって歩き回っていると、駅前で弟くんを見つけた。
だれか待ってるのかな…?
「そういえば、友達づきあい、って言ってたっけ…。いいなぁ、そのお友達は。弟くんとごはん…」
勢い余って、男友達にまで嫉妬していた。
そんなバカなこと考えてないで、さっさとその場を離れればよかったのだろうけど…。
「あれ、あっちは…」
向こうから、同じクラスの女子がやってくるのを見つけた。
割と可愛い、私と仲良しの娘だ。
ちょうどいい、夕食に誘ってみよう…と、声をかけようとしたのだが…。
「あ…れ…」
その娘は、弟くんに話しかけた。
おかしいな。あの娘と弟くん、知り合いだったっけ…?
そうしていると、弟くんとその娘は、手をつないで歩き始めた。
楽しそうに、まるで、恋人同士がするように―。
393名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 21:57:43 ID:z1Swe7vX
支援
394名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 22:41:00 ID:Sh+Kr09E
wktk wktk
395長い夜 3:2010/02/17(水) 23:01:48 ID:VB4If+kk
その後、どうやって帰ったのかよく覚えていない。
家に着くと、明かりも点けずに駅前での出来事を思い出す。
―2人は、恋人同士なのかな…?
―いつからああやって逢っているのかな…?
―どのくらい親しい関係なのかな…?
そうやって考えていると、ふと思い出したことがある。
「…あの娘、彼氏と別れた、って…」
少し前のことだ。
あの娘は、そのことがあってから、前よりも私と親しくするようになった…。
「じゃあ、私と仲良くしてたのって、弟くんが目的で…?」
そうだ。
そうに決まってる。
私と弟くんは、よく一緒に登下校していたから、そのときにでも見かけたんだろう。
そうして、あの可愛い弟くんに目をつけて、私と仲良くして接点を作ったんだ。
「……許せ、ない……」
許せない。
許せない。
許さない。
許さない。
「…あのメス豚…ぜったいに、許さない…」
弟くんが帰ってきたら、すぐに教えてあげよう。
あのメス豚は、最っ低のクズだって。あんなのと一緒にいたら、弟くんまで腐っちゃう、って…。
396名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 23:13:19 ID:QNKgqqAl
wktk
397長い夜 4:2010/02/17(水) 23:16:12 ID:VB4If+kk
「ただいまー…?」
来た。
「おい、姉貴?…なんだ、起きてたのか。電気くらいつけなって」
「ねえ、弟くん」
「んー?」
「…今日は、誰と遊んできたの?」
「…っ、クラスの男友達だよ。姉貴も、一回会ったことあると思うけど」
…弟くん、ウソついてる…。
きっと弟くんは優しいから、あのメス豚をかばってあげようとしてるのかな。
でも、これだけははっきりさせないと。弟くんのためだから。
「へえ、そう」
「ああ」
「…弟くんは男友達と、手、つないで歩くんだ…?」
「はぁ?」
「その男友達は、女子の制服着てるんだ…?」
「…おい、姉貴…まさか…」
「その男友達と、恋人みたいに、楽しそうに歩くんだ?」
弟くんの動きが止まる。
「―見てた、のか」
あ…ちょっとキツイ言い方になってたかな。弟くん、怖がらせちゃったかな…?
「あ、ううん。怒ってるわけじゃないよ?…でも、あの女はね、人間のクズなの。メス豚なの」
「…は?」
「だから、弟くんのためを思って言うの。すぐに、あんなのとは縁きったほうがいいよ?」
「…いや、なに言ってんだ。姉貴とも親しいって言ってたし、その、…優しい人だぞ?」
ああ、ダメだ。ちょっと一緒にいただけで、もう弟くんが毒されちゃってる…。
「大体、姉貴には…関係、ないだろ」
…関係ない?
私は、こんなに弟くんのこと想ってるのに?
―仕方ない。
弟くんのためにも、弟くんが誰のものなのか、はっきり教えてあげないと…。
398長い夜 5:2010/02/17(水) 23:18:02 ID:VB4If+kk
弟くんにしがみつくと、体重をかけてそのまま押し倒す。
後ろはソファだから、大事な弟くんが傷つく心配はない。
「お、おい姉貴?なにやって…」
少しの間、弟くんには静かにしていてもらおう。
可愛らしい唇を、私のそれでふさぐ。
「―っ?」
弟くんはびっくりして、口を閉じる余裕はなかったみたいだ。
舌をねじ込み、弟くんの口内を堪能して、私の唾液を流し込む。
万が一、あのメス豚とキスでもしていたら大変だ。
じっくりと長い時間をかけて、弟くんの口をすみずみまで、私の舌で掃除してあげる。
「―っ、はぁ…」
長い間口をふさがれていたせいか。
眼を潤ませ、頬を上気させ、唇を私の唾液で光らせて喘ぐ弟くんは、本当に可愛かった。
弟くんの息が整わないうちに、ちゃんと教えてあげよう。
耳元に口を近づけ、優しく囁く。
「…ね、わかる?弟くんは、私のモノなの。…あんなメス豚よりも、私と一緒にいよ?」
そうして、弟くんの耳に舌を這わせる。
「―そのほうが、ずっと楽しいよ…?」
―ちゅぷ、ちゅ。ぬちゃ。ぁ…ん、ちゅ、ちゅくっ…。
湿った音が部屋に響く。
音をたてて、弟くんに刻み込む。
所有の刻印、私という存在。
弟くんの心が、私でいっぱいになるように―。
399名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 23:18:56 ID:VB4If+kk
今日はここまでです
続きはまた明日
400名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 23:51:49 ID:K7oLP9hm
濃い
401名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 05:55:53 ID:qro+I0+e
>>399
寸止めですかぁぁぁぁぁ


GJ。最近キモ姉分不足してたから期待してるぜ
402名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 08:14:58 ID:a6WeVu2J
わっふるせざるを得ない
403名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 08:31:56 ID:5x6e58rM
こんな雪降ってるのに
全裸待機させるなんて鬼め
404名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 20:33:05 ID:aQFHtBSc
東京雪降ったな。
某田園(ry線は電車の車輪が雪でやられて、いつにも増して通勤が苦痛だったからかなわん。

今思えば車輪が弟君で雪がお姉ちゃん……?
405長い夜 6:2010/02/18(木) 21:01:53 ID:AWWMf23Y
>>389です
続きを投下します

「―わかった…?弟くんが、誰のものなのか」
そっと口を離して、たずねてみる。
弟くんの耳にも、唾液の跡が残る。つ、と透明な糸が伸びた。
「…な、何言って…っ。大体、こんなこと…」
息も絶え絶えなわりに、まだ強がっている。
可愛いんだけど、これは思った以上に深刻だ。
もっと深く、私をすり込む必要があるみたい。
続いて私は、弟くんの体に手を伸ばす。
制服のワイシャツの前をはだけ、Tシャツをめくりあげる。
「―あれぇ…?ちくび、硬くなっちゃってるねぇ…?…やっぱり、気持ちよかったんだ?」
弟くんの乳首は、見てはっきりとわかるほど隆起していた。
「し、仕方ない、だろ…っ」
弟くんは顔を真っ赤にして、なんとかそれだけを搾り出した。
「―そう、しかたない、よね。…だから、私もこんなことするの。弟くんが、わかってくれないから…っ」
仕方ないのだ。
私が、どれだけ弟くんのことを想ってきたのか。
どんな気持ちで、弟くんのそばにいたのか。
それもわからないで、弟くんは、あんなメス豚と…!
「…っ…。お、おい、ちょ…」
弟くんの乳首を口に含み、舌で転がす。
―ちゅ、ぴ、ぴちゅ…っ。ふちゅ、ん…。
再び、淫らな音が部屋に満ちる。
一旦口を離すと、続けて指先でもてあそぶ。
こりこり、と指で摘まむようにして、やさしく愛撫する。
「―あ、いまぴくっ、てした…?ふふ、感じちゃってるんだぁ…。女の子みたいだね、かーわいい…」
そういうと、弟くんは顔をそらし、必死で快感を堪えようとする。
―そんなふうに可愛いトコみせたって、やめてあげるつもりなんてない。
私の唾液でてらてらと光っていた弟くんの乳首も、愛撫を続けているうちに、ぬちゃぬちゃと粘ついた音を立てるようになっていた。
指の動きに合わせて、弟くんの身体がぴく、ぴくと反応する。
だいぶ素直になってきたみたい。
―もう、わかってくれたかな…?
406長い夜 7:2010/02/18(木) 22:43:43 ID:AWWMf23Y
「ねぇ、もうわかったでしょ…?弟くんは、私といたほうが絶対にいいの。こんなに気持ちよくなっちゃってるんだから、ね?」
乳首を弄ぶ手はとめないままに、もう一度聞いてみる。
「だ、だからなに言って…。姉弟だぞ、俺た…っ、ぃ、あっ…!」
まだ抵抗を続けようとする弟くんの反論を、乳首を少し強くつねって遮る。
―もう、許してあげない。
早めに認めるんなら、このあたりで解放してあげようと思っていたのに。
弟くんの下半身に手を伸ばす。
ベルトを外し、ファスナーを下げ、トランクスから弟くんのそれを解放する。
すでにトランクスは、先走りで大きなシミになっている。
そっ、と、竿の部分に指先で触れる。
それだけで、弟くんの身体はびくっ、と跳ねた。
「あはっ、そんなに我慢してたんだぁ?でもね、もう遅いんだ。弟くんが素直にならないから。簡単に気持ちよくなんて、させてあげない…っ」
それだけ言うと、ゆっくりと竿を上下に扱き出す。
ゆるゆるとした動きで、じわじわと快感を与えていく。
弱すぎて萎えてしまわないように、でも、決してイクこともできないように。
「…っ、もう、やめ…っあ」
うまくいっているみたいだ。
弟くんは快感で顔を紅潮させながらも、苦しそうに顔を歪めている。
それを見ると、私の心に黒い悦楽が浮かぶ。
―可愛い。こんなに可愛い弟くんが、他の女と一緒にいるなんて許せない。全部、自分のモノにしてしまいたい―。
少しずつ力を強めていく。
弟くんの顔が、射精できる瞬間を感じ取り、綻んでいく。
そして、弟くんのそれが、びくん、と一層強く脈打ち、白濁を撒き散らす―
その、寸前に。
根元の部分を、ぎゅっと締め付ける。
「…!っ、くぁあ…っ…!」
解放を予期していたのだろう、弟くんの顔が苦痛に歪む。
射精を許されなかった弟くんのそれが、びくびくびくっ、と震えた。
「…はぁ、っ…。どう、して…」
弟くんが、弱りきった、潤んだ目で見上げてくる。
危うく抱きしめそうになったが、我慢我慢。
心を鬼にして告げる。
「どうして?分かってたことでしょ?弟くんが素直にならないからでしょ?
……でも、かわいそうだし…、もう一回チャンスをあげる。
―弟くんは、誰のものなの?ちゃんと、そのお口で、おねーちゃんに言ってみて?」
亀頭に指を這わせながら囁く。
その間も、弟くんの身体は、小刻みに跳ね、より強い快感を求めていた。
「…姉、貴…」
「ぅん?よく聞こえなかったなあ…。相手に聞こえるように、おおきな声で言わなくちゃ、ね?」
もう一押しだ。
悦びを悟られないように、声を必死で押さえつける。
「―姉貴のモノだよ…っ!俺の全部は、姉貴のモノだ…!だから、頼む…もう、無理だ、イカ、せて…っ!」
やっと、聞けた。
この言葉を、ずっと待ってた…。
「―はあい、よく言えました…」
竿を強く握りなおし、全力で扱き出す。
弟くんの顔が、ついに訪れた快楽で蕩ける。
そして、溜まりに溜まった白濁を、思い切りぶちまける―
なんて、そんなわけない。
再び、ぎゅっと締め付ける。
「ふ、ぁぁっ!!な、んで…?」
弟くんは、もうワケがわからないみたいだ。
「―ふふっ、ごめんね?でもね、おねーちゃん心配なんだぁ…。弟くん可愛いし、これだけじゃまだ、他の女に騙されちゃうかもしれない…。
……だからね、もっと強く、おねーちゃんのことだけ考えられるようになるまで、おあずけ、ね?
―夜は、まだ長いんだから…」

見上げた空は曇り空。
月は、見えなかった。
407長い夜 8:2010/02/18(木) 22:58:06 ID:AWWMf23Y
次の日、私は学校にいた。
私の通う学校は進学校。こうして休みの日も、補習と称して授業がある日も、時々ある。
弟くんを買い物に付き合わせようと考えていたときはすっかり忘れていたが、今となってはありがたい。

あの後、限界まで我慢させて、弟くんが身も心も私のモノになった後。
2人して力尽き、眠ってしまったらしい。
再び私が目を開けたとき、弟くんはまだ眠りこけていた。
そうして、顔を合わせる前に、家を飛び出してきたのだ。

「―やっ、ちゃったなあ…」
絶対に嫌われた。
あんな、レイプまがいのこと。
冷静になってみれば、あんなことをして、本当に私のモノになってくれるはずがない。
それどころか、一生口もきいてもらえないだろう。
机に突っ伏す。
もぅ、いいや…。
ほとんど寝ていなかったようで、私は、絶望とともに眠りに落ちていった―。

目を覚ましたら、夕方になっていた。
身体のあちこちが痛い。
大きく伸びをして、ふと傍らに目をやると。
弟くんが、こちらをみつめていた。
「―え、な、なんで…?」
「お、起きた、か」
「なんで、弟くんがここに…?」
ワケがわからない。
「さ、帰るぞ」
「ちょ、ちょっと待って、どうして?……その、昨日、あんなことしたのに…」
「―姉貴」
「?」
「俺のこと、その…好き、か?」
「え?あ、うん、それは、もう!大好きじゃ、ぜんぜん足りない、けど…」
「じゃあ、いい」
「え、でも…彼女、は?」
「は?誰だ、彼女って?」
「え、だって…私のクラスの」
「俺に彼女なんていない。俺が一度でも、あの人を彼女だって言ったか?」
「あ、れ…」
「わかったか?―あそこまで女に言われて、放っておけない。
大体、好き放題してくれやがって…今晩、優しくすると思うなよ」

その夜の空には。
昨日とは違って、きれいな三日月が輝いていた。
408名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 22:59:40 ID:AWWMf23Y
投下終了です。
だいぶ長くかかってしまい、すみません。
はじめてのエロ系作品でしたが、なんとか完結させられました。
お見苦しい部分多々あったと思いますが、読んでくれた方々、本当にありがとうございます。
409名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 23:20:27 ID:qro+I0+e
>>408
GJ
お姉ちゃん大勝利エンドか


てかキモ姉ってキモウトに比べで勝利確率が高い気がする
410名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 23:26:50 ID:e6dX1Wiq
弟の反撃wktk
411名無しさん@ピンキー:2010/02/19(金) 00:24:24 ID:9CnFqY87
>>368
GJ!あいかーらずアホおもろいわw
ついにヒトケタきたか…
次回のOPはヒトケタ一番絞りシーンが?
412三つの鎖 16 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/19(金) 22:14:55 ID:hcjZui0x
三つの鎖 16 後篇です

※以下注意
エロなし
血のつながらない自称姉あり

投下します
413三つの鎖 16 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/19(金) 22:17:30 ID:hcjZui0x
 病院を出るとまだ曇ってはいるけど、雨はやんでいた。
 洋子さんと雄太さんは迎えに来たそれぞれの会社の人の車で帰った。
 送って行こうという雄太さんの申し出に洋子さんは頭をはたいた。
 「父親なら娘に気を使え」
 雄太さんは肩を落として僕を見た。
 「加原君。娘を頼むよ」
 そう言って二人は去って行った。
 僕と夏美ちゃんは病院を出てゆっくり歩いた。
 「あの、お兄さん」
 夏美ちゃんは僕を見た。すぐに恥ずかしそうにうつむく。
 「本当にありがとうございます。お兄さんのおかげで久しぶりにお父さんとお母さんと一緒にお食事できます」
 「僕は何もしていないよ」
 実際、あの様子だと二人とも日本を出る前に夏美ちゃんに会いに来た気がする。そして家族でカレーを食べたに違いない。
 夏美ちゃんの指と僕の指が触れる。僕は夏美ちゃんの手をつかんだ。小さくて温かい手。夏美ちゃんも握り返してくれた。
 嬉しくて気恥ずかしくて頭が爆発しそうだった。夏美ちゃんの顔を見ると真っ赤だった。僕と同じことを考えているのかもしれない。
 マンションまで夏美ちゃんを送った時、お昼前だった。
 「お腹すいちゃいました」
 朝から林檎しか食べていないらしい。
 僕は冷蔵庫を確認した。牛肉、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ…。カレーの材料しかない。
 仕方がない。肉じゃがにしよう。
 キッチンを見回すと、流しの中に使った食器が置いてあった。洋子さんは洗わずに病院に向かったようだ。鍋は見事に空っぽだった。
 僕は手早く材料を切り鍋に放り込んだ。調味料を足し、味見をしながら煮込む。
 後は煮込めば大丈夫という段階で僕は火を弱めキッチンを出た。
 「夏美ちゃん。後はしばらく煮込めば完成するよ」
 そう言って僕は帰る準備をした。今は昼前だ。今から出ればお昼休みには学校に着く。
 「あの、お兄さん。その、えっと」
 夏美ちゃんが寂しそうに僕を見つめた。僕も見つめ返す。やあって夏美ちゃんは目を伏せた。
 「いえ、何でもありません。今日はありがとうございました」
 僕は夏美ちゃんの言いたい事は分かっていた。
 今まで何度もこのマンションに来て料理を作ったけど、一緒に食べた事はない。いつも僕か梓が家の料理を作っていたから。
 「お勉強頑張ってくださいね」
 夏美ちゃんそう言って笑った。その笑顔には隠しきれない寂しさがにじみ出ていた。
 「夏美ちゃん。今週の金曜日を楽しみにしている」
 その日に夏美ちゃんのご両親も含めて初めてこの家で食事をする。
 「私も楽しみです」
 「お大事に」
 僕はそう言ってマンションを去った。
 外はいまだに曇りのまま。どんよりとした空。遠くで雷の音が聞こえる。
 夏美ちゃんの笑顔を脳裏に浮かべる。明るくて見ているだけで幸せになれそうな笑顔。思い浮かべるだけで胸が温かくなる。
 僕は夏美ちゃんの傍にいたい。
 それでも、すぐに学校に向かったのは春子と話すためだ。物心ついたときから一緒だったいちばん身近な女の子。いつも僕の世話を焼いてくれたお姉さん。
 春子の泣いた顔が脳裏に浮かぶ。僕をだれにも渡したくないと泣く春子。思い出すだけで胸が締め付けられる。僕には春子を恨む理由も権利もあると思う。説得なんて考えないで脅されている事を村田のおばさんにでも伝えればそれですむかもしれない。
 でも、できない。そんな不幸な結末は考えたくない。
 別に誰もかもが幸せになればいいなんて思ってない。そんなことは不可能だ。
 どれだけ一緒にいた時間が長くても、どれだけ好きでも、どれだけ一緒にいたいと願っても、どんな形であれ別れは絶対に来る。
 僕と夏美ちゃんにもいつか別れは来る。それは男女の別れなのかもしれないし、連れ添ったうえでの死別かもしれない。どんな形であれ、別れは必ず来る。それは僕と春子も同じだ。
 春子に対して僕は以前と同じ関係を望んでいた。以前のようにお姉さんぶった春子にからかわれながらも平穏に過ごす関係。徐々に大人になり子供じみた関係は少しずつ無くなっていく。そんな普通の幼馴染。
 でも、もう無理だ。僕たちは前の関係にはもう戻れない。お互いのすれ違う気持ちを知った以上、姉と弟にはなれない。例え僕がどれだけ望んでも。
 それでも、脅迫し脅迫される関係で終わりたくはない。春子を恨んで終わりたくない。
 僕は春子が好きだ。それは幼馴染としてであって、一人の女性として愛していない。何を言われようと何をされようと、それだけは変わらない。
 春子に伝えないと。僕は春子を一人の女性として愛していないと。こんな関係はもうやめようと。
414三つの鎖 16 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/19(金) 22:19:43 ID:hcjZui0x
 そんな事を考えながら歩いていると知っている顔が近付いてくる。
 遠くで雷の音がした。
 「どうしたの兄さん。難しい顔をして」
 梓。
 なんでここに。学校は。疑問は浮かび上がるけど、口にできなかった。
 「兄さん」
 そう言って梓は僕に抱きついた。嬉しそうに僕の胸に頬ずりしてくる。
 「ねえ兄さん」
 引き離そうとした瞬間に梓は僕の耳に囁いた。
 「夏美は大丈夫だったの?」
 梓を引きはがすのも忘れて僕は安心した。梓も夏美ちゃんの事を心配している。
 昨日、あれだけ喧嘩をしたから気まずいままかと思った。本当に良かった。
 「大丈夫だったよ。もう退院した」
 ここまで言って、僕は気がついた。気が付いてしまった。恐怖に背筋が寒くなる。全身に鳥肌が立つのが分かる。
 なんで梓は知っている。夏美ちゃんが入院した事を。
 今日の朝、僕は梓に何も言わずに屋上から病院まで来た。梓は何も知らないはず。
 「平気だったんだ」
 そうだ。洋子さんが学校に連絡したのかもしれない。そして夏美ちゃんの担任の先生がHRで告げた。そう考えれば納得できる。
 「どうしたの兄さん」
 梓は僕を不思議そうに見上げた。
 「夏美が無事なのがそんなに不思議なの」
 うっすらと笑う梓。背筋の寒くなるような笑み。
 「階段から突き落としただけだもん。死にやしないわよ」
 僕は固まった。全身の血液が凍りついたような恐怖。
 梓は僕の背中にまわす腕に力を込めた。まるで逃がさないというように。振りほどこうと思えば振りほどける、はず。どれだけ技があっても梓は女の子だ。腕力は僕の方がはるかにある。それなのに振りほどける気がしない。
 「ふふっ、ふふふっ。いい表情ね。兄さんのその表情、嫌いじゃないよ」
 梓はうっとりと僕の頬を撫でた。梓の指が信じられない熱を帯びている。
 その熱に頭が焼けそうに感じる。
 「ねえ兄さん」
 梓は僕に囁いた。耳元にふれる吐息が熱い。
 「家に行きましょう。話したい事があるの」
 僕は梓の顔を見た。梓は嬉しそうに笑っていた。その笑顔に背筋が凍る。梓は本当に嬉しそうに笑っていた。
 近くで雷が落ちる音がした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 玄関を閉めた瞬間、梓は抱きついてきた。
 僕の背中に細い腕をまわし胸に顔をうずめる梓。梓の体から信じられない熱さの体温が伝わる。
 「好き。大好き」
 梓は幸せそうにつぶやき僕の胸に頬ずりしてくる。
 僕は梓の両肩に手をかけて引き離そうとしたけど、離れない。
 「梓。離れて」
 「やだ。ずっとこうする」
 梓は腕を離さずに僕に頬ずりを続ける。
 「僕たちは兄妹だよ。こんな事をして許される年じゃない。離れて」
 「関係ないわ」
 梓は顔を上げた。嬉しそうな表情。梓の瞳が奇妙な光を放つ。
 「兄妹だからなんて関係ないわ。兄妹でも女として愛せるし、愛される事が出来るよ」
 紡がれる言葉に鳥肌が立つ。梓はなんて言った?
 「僕たちは兄妹だ。男女の関係にはなれない」
 「なれるわ」
 僕の背中に回される梓の腕に力がこもる。
 「キスだってセックスだってできるわ」
 梓は腕を離し僕の頬を挟んだ。頬に梓の手の温度が伝わる。
 焼けるような熱さ。梓の感情の激しさ。梓が顔を近づけるのを僕は肩をおさえて止めた。
 次の瞬間、足を払われ僕は仰向けにこけた。梓がのしかかってくる。
 「梓!やめるんだ!」
 僕は必死に抵抗した。キスしようとする梓を引きはがそうとする。
 梓は僕の腕をつかむと容赦なく体重をかけた。激痛とともに肩が外れる感触。うめき声をあげそうになるのを必死に耐えた。
 「素直じゃないんだから」
415三つの鎖 16 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/19(金) 22:22:07 ID:hcjZui0x
 そう言って梓は僕のあごに手を添えた。白くて小さな手。そして僕の唇に口づけした。
 「ちゅっ、んっ、ちゅっ、じゅるっ、んんっ」
 僕の唇をついばむ梓。唇をはいずる梓の感触に鳥肌が立つ。
 引きはがそうとまだ動く腕を伸ばしたけど、梓はその腕をつかみ容赦なくねじった。激痛が走る。
 「ふふっ、すごいわね兄さん。眉一つ動かさないなんて」
 梓は僕の上から嬉しそうに僕を見下ろした。
 「さすがに汗はかいているわね。大丈夫?」
 あまりの痛みに全身に冷や汗が出る。梓は僕の頬にふれた。熱い手。汗に冷えた頬に信じられない熱さが伝わる。
 梓は僕の頬から手を離し、その手を自分の顔に近付けた。指を口に含み陶然とする。
 「はむっ、ぺろっ、ふふっ、兄さんの味がするわ」
 嬉しそうに指を舐める梓に鳥肌が立つ。
 梓は僕の頬をはさみ顔を近づけた。振り払おうにも両腕が動かない状況では頭を振って抵抗するしかできない。しかし首を振るたびに両肩に激痛が走る。
 「ふふっ、あまり動かない方がいいわよ」
 梓の両手が僕の顔を固定した。振りほどこうにも激痛でこれ以上は動けない。
 そのまま僕の唇をむさぼる梓。頬を染めた嬉しそうな梓の顔が僕の目の前にある。唇にふれる梓の唇と舌がおぞましい。僕の口を割り梓の舌が侵入してくる。僕は歯を噛みしめて抵抗した。
 「ちゅっ、れろっ、ちゅっ、んっ、兄さんっ、口を開けてっ」
 僕は必死に耐えた。そんな僕を見下ろした梓は僕の喉を容赦なくついた。あまりの衝撃に口が開く。そこに梓の舌が入り込む。
 口腔を梓の舌が舐めまわす。僕の舌に絡みつく。
 血のつながった妹に唇をむさぼられている現実。心地よさも快感も無い。あるのは恐怖と怖れと嫌悪。近親相姦の禁忌を平然と犯す梓に鳥肌が立つ。
 僕は梓の舌を噛みしめようとした。その動きに気がついたのか梓は僕の口腔から舌を抜いた。梓の口の端から涎が僕の顔に落ちる。
 「ふふっ。ひどいよ兄さん。私のキスはそんなに嫌なの」
 言葉とは裏腹に嬉しそうに僕を見下ろす梓。桜色に染まった頬、嬉しそうな表情。他の男が見れば女の艶を感じたかもしれない。
 しかし血のつながった妹に迫られても感じるのは禁忌にふれる恐怖と嫌悪だけ。
 梓は僕のズボンのベルトを外した。
 「ここはどうなのかしら」
 鳥肌が立つ。激痛をこらえて僕は身をよじって抵抗した。しかし梓の手はチャックを開け入り込んだ。
 剛直にふれる梓の熱い手。嫌悪感に鳥肌が立つ。
 「残念ね。全然硬くなってないわ」
 梓は僕の剛直をたどたどしい動きで撫でた。快感など微塵も感じない。
 「やめろ梓!」
 あまりの嫌悪感に僕は叫んだ。梓は嬉しそうに微笑み撫で続ける。何の反応もないのに飽きたのか、梓はズボンから手を抜いた。そのまま指を口に含みうっとりする。
 「ふふっ、兄さんの味だわ」
 陶然とつぶやく梓に言い知れない恐怖と嫌悪を感じた。全身に鳥肌が立つ。
 「ふふっ、兄さんごめんね。今肩をはめるから」
 梓は僕の肩をはめた。激痛が少しだけおさまる。
 僕はすぐに起き上がり梓と距離をとった。梓はそんな僕を微笑みながら見つめた。
 「兄さん。私とシよ」
 恐怖と嫌悪に背筋が寒くなる。
 「梓は自分が何を言っているのか分かっているのか!?」
 押さえきれない感情に言葉が荒くなる。
 微笑みながら梓は僕を見つめた。
 「だって私もう我慢できない。好きな人が近くにいるのに何もないなんてもう無理よ」
 僕は唇をかみしめた。病院服を着た夏美ちゃんが脳裏に浮かぶ。
 「だから夏美ちゃんを怪我させたのか」
 梓の反応は劇的だった。笑顔が消え表情がゆがむ。
 「あの女の話をしないでっ!!!!!!」
 叫びが空気を震わす。
 梓は肩を激しく上下さして僕を見た。瞳は激情に染まっている。
 「あの女が悪いのよ!!私は我慢しようとした!!家の中で誰もいないときに兄さんに甘えるだけで我慢しようとした!!それなのにあの女はこの家まで入り込んで私の前で兄さんといちゃついたのよ!!私の気持ちを知っているくせに!!」
 梓の言うあの女に対する負の感情に僕は立ち尽くすしかなかった。
 「兄さんに分かるの?それがどれだけつらかったか。どれだけ惨めだったか」
 言葉を紡ぎながら梓は僕に近づく。恐怖に足がすくみ動けない。梓は僕の頬を両手ではさんだ。頬にふれる梓の手が熱い。梓の感情の激しさそのもの。
 「分からないでしょ」
 僕を見上げる梓の表情は悪鬼そのもの。そのまま梓は目を閉じ僕にキスした。僕は動けなかった。
 梓は目を開け僕を見上げた。先程と違う寂しそうな表情。
416三つの鎖 16 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/19(金) 22:23:59 ID:hcjZui0x
 「本当はね、兄さんの妹で我慢しようと思っていたの。兄さんがそれを望んで妹として愛してくれるならそれで我慢しようと思った」
 そう言って梓は悲しそうに首を横に振った。
 「やっぱり無理よ。私、兄さんが欲しい」
 梓は僕に抱きついた。背中に細い腕が回される。締め付ける力は小さいのに、振りほどける気がしない。
 「兄さん。私のものになって。私を兄さんのものにして」
 抱きつく梓から伝わる体温に強い嫌悪を感じる。僕は梓の肩を押して引き離そうとしたけど、梓の腕は離れなかった。
 「僕たちは兄妹だ。血のつながった兄妹だ。梓の望む事はしないし出来ない」
 梓は顔をあげて僕を見た。無表情な顔の中で双眸が奇妙な光を放つ。
 「あのね兄さん、私はお願いしているんじゃないわ」
 背中に回された梓の腕に力がこもる。
 「私はね、命令しているのよ」
 紡がれる言葉に背筋が寒くなる。足が震える。
 梓はそんな僕を楽しそうに見上げた。
 「兄さんだって分かっているでしょ?私がその気になればいつでもあの女を処分できるわ。兄さんにしたみたいに肩を外してもいいし、なんなら殺してもいい」
 僕は梓の言葉を必死に耐えた。足の震えを無理やり止める。
 「そんなのは生ぬるいわね。指を一本一本折るのもいいわ。どこまで兄さんが好きと言えるか試してみるのもいいかも」
 夏美ちゃんの笑顔が脳裏に浮かぶ。公園で恐怖に震える僕から庇うように背中を向けてくれたあの姿。その小さな背中は震えていたけど、逃げなかった。僕は梓の腕を振りほどき梓を突き飛ばした。
 梓は僕の動きに逆らわずに転がりその勢いで立ち上がる。
 「おバカな兄さん。私に勝てるはずがないでしょ」
 言い終わるや梓が迫る。迫る掌底を防ごうとしたけど肩の激痛に動きが鈍る。梓の掌底は僕の顎をうつ。姿勢を崩した瞬間、視界が反転し背中から叩きつけられる。
 肩の痛みにもがく僕に梓がのしかかる。腕を固定され動けない。
 「ねえ兄さん。私とするのがそんなに嫌なの?」
 梓は悲しそうに言った。僕は梓を見上げ激情のままに言葉を紡いだ。
 「血のつながった兄妹で体を重ねるなんて、けがわらしいと思わないのか!?」
 梓の顔から表情が消える。無表情に僕を見下ろす瞳に種類は分からないけど強烈な感情が渦巻く。その瞳に背筋が寒くなる。
 それでも僕は視線をそらさなかった。
 「…ふっ…ははっ」
 やがて梓は声を押し殺して笑い出した。
 梓の笑いはだんだんと大きくなる。おかしくて仕方がないというような笑い。
 「ははっ、ふっ、ふふっ、おかしな兄さん、あはははっ」
 何がおかしいのか。分からない。
 梓は笑いながら僕を見下ろした。
 「あははっ、ははっ。まあいいわ。私の言った事をよく考えてね。あの女が大切ならね」
 そう言って梓は僕の上から起き上った。
 僕は立ち上がり梓を見た。梓は本当におかしそうに僕を見ていた。
 何がおかしいのか僕には分からなかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 私は部屋に戻りベッドに寝転がった。扇子を取り出して顔をあおぐ。火照った顔に涼しい。
 さっきの兄さんとのやり取りを思い出すと全身が熱くなる。私は唇を指でなぞった。兄さんの唇の感触がした。私は熱い吐息を吐きだした。
 なんて楽しいのだろう。もう我慢する必要はない。兄さんに自分の気持ちを伝えても何の不安も無い。好きな人に好きと言い迫るのがこれほど楽しいとは思わなかった。
 兄さんの悲痛な叫びが脳裏に再生される。
 (血のつながった兄妹で体を重ねるなんて、けがわらしいと思わないのか!?)
 思い出すだけで笑いが込み上げてくる。兄さんは何も知らないからそう言えるんだ。
 兄さんは知っているのだろうか。知らないに違いない。
 私と兄さんの存在自体が、近親相姦の結果という事を。
 昨日の夜、私は知ってしまった。
 知ってしまった。
 もう我慢する必要はない。
 兄妹でも、たいした問題じゃない。
 兄さんの表情が脳裏に浮かぶ。愛しい兄さん。
 私は必ず兄さんを手に入れる。どんな手を
417三つの鎖 16 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/19(金) 22:30:16 ID:hcjZui0x
投下終わりです。
読んでくださった方に感謝いたします。ありがとうございました。
続きは多分来週になると思います。
HPで登場人物の人気投票を行っています。
よろしければご協力お願いいたします。
HPでは投下した作品の閲覧とDLもできますが、最新の作品はスレにしかございません。
ご了承ください。

ttp://threechain.x.fc2.com/index.html
418名無しさん@ピンキー:2010/02/19(金) 23:07:51 ID:LRJ575Cu
フフフ。
ついに僕たちスレ住人も本気を出すことになりますね。

投下主が再びここへ帰ってきた瞬間(とき)ーー

それが新たな時代の幕開け。第三次キモウト・ウォーズの始まりです。

「三つの鎖(Threechain)」ー
このスレが最も活気づく言葉ー

我々のスレはキモウトスレから三つの鎖スレへと変貌を遂げる。

>>417
GJ!
続きが非常に気になります!
やっぱ梓はかわいいな。
419名無しさん@ピンキー:2010/02/19(金) 23:53:22 ID:OcmdV+6c
>>418
そういうのやめろよ
他の職人さんのことも考えろ
420名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 00:23:40 ID:wHzPajD7
なんか見てるだけでなんかむず痒くて気持ち悪いな
421名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 00:26:47 ID:qeoxtEml
>>417
GJ
そしてドンマイ。気にするなよ。
続きを楽しみにしている
422名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 00:33:00 ID:ePEjNKPU
>>417
GJですよ
一度切れた鎖がさらに強固になって復活しちゃったなぁ>梓
筋肉の繊維みたいだ
423名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 00:57:01 ID:SLB3iT5w
>>417
GJ!梓のターンキター
424名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 01:17:07 ID:ta8MvJ5R
>>418
お前もうここ来るなよ気持ち悪い
キチガイ島(その59)
http://gimpo.2ch.net/test/read.cgi/denpa/1265922522/
↑のスレから篭って一生ROMってろ
425名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 01:19:48 ID:ta8MvJ5R
「スレから」って何だ、「スレに」だな
ちょっとヌいてくる
426名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 01:41:59 ID:BJIbdFN7
>>418
お前一人で別スレ立てて勝手にやってろよ

>>417
GJ
427名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 02:00:29 ID:etrBQjai
それにしても、キモ姉&キモウトスレは書くのがちょっと難しいな
キモいってのがよくわからん
428名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 02:34:34 ID:+v0QCsrf
>>417
GJ!
それにしても春子にたいする昔のままでいられないって気持ちが梓にブーメランされてて思わず幸平ざまあwwって感じてしまった
やっぱり妹はたいせつにしないと
429名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 02:56:06 ID:R+jacJJS
>>427
・没個性で優柔不断な典型的エロゲ主人公の♂
・美人で賢くて完璧な黒髪ロン毛のブラコン姉または妹
・姉や妹を油断させながら主人公を誘惑する泥棒猫

これが基本パターン
あとは殺害シーン・逆レイプ等のオプションを好きにつけたらいい
保管庫見て参考にするのもいいよ
430名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 03:39:12 ID:Hdpq/BhU
今更ながら、Sister聴いてみたけど。 メロディは氷室の様な感じなのに、ドギツい歌詞だな…。
431名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 07:43:42 ID:7Bm3YWdS
>>417
GJ!
いやはやいい感じに盛り上がってきましたな〜
梓がいかにして暴走するのか楽しみに待ってます。

>>430
たしかJanne Da Arcの歌だっけ?
432名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 08:52:32 ID:/fMcihQI
>>417
GJ。それにしてもこのキモウト、ノリノリである・・・いいぞ!もっと乗れ!

いやまあ、この私の悦びが有頂天状態から春子お姉ちゃんもビックリな大墓穴を掘ってしまって
逆ギレブチギレ暴走状態に移行、という未来がそこはかとなく見えなくもない気もするのだがw
433名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 10:12:04 ID:EaiT9d0+
416の最後の一行というk一言は途中で切れてるのかしら
434名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 12:28:48 ID:Yvii3Q+7
>指を一本一本折るのもいいわ

なんというロールシャッハw
435名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 14:09:53 ID:O13oQIcV
とにかく拷問だ、拷問にかけろ!
436名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 16:49:28 ID:qnIA3PVc
有個性 強個性
437名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 22:00:04 ID:k3ZKerV+
キモ姉、キモウト以外が幸せになれるほど
このスレは甘くない・・・
438名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 23:02:33 ID:seJWLvxM
どっちかっていうと泥棒猫の勝率の方が高い気がする
俺の読んだ中での話だがw
439名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 23:03:22 ID:1C8nDWsZ
なんでキモ姉キモウトすぐ死んでしまうん?
440名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 23:05:26 ID:5FK0QRoO
美学さ
441名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 01:34:28 ID:NV5BnPOp
やっぱり梓がストーリーのメインなのか!
梓好きとしては嬉しい限り。
442名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 02:14:22 ID:uu4wCAUv
キモ姉キモウトは死ぬか結ばれるかの二択が多い
443名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 02:19:53 ID:Do4nsDvg
>>442
というより、それ以外の結末(別れるとか単なる兄妹に戻るとか)を
書くのは結構難易度高くないか?
444名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 02:43:59 ID:ZNk4J9vg
新機軸、「どのルートを選んでも男を落とせない」キモ姉妹

なんてどうよ?
445名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 04:31:23 ID:qBZamURT
その歪んだ脚本、私が断ち切る!
446名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 06:30:24 ID:vut59g+j
では「どのルートで実姉or実妹が絡んできて、実姉実妹ルート以外はSATSUGAIされる」
447名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 10:07:23 ID:9J8VriXX
>>444
保管庫に行けばまったく脈のない姉妹が案外いたりするw

>>446
それもこのスレではよくあることじゃねーかw
448名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 10:23:09 ID:E6+/ylPe
むしろキモ姉キモウト無双みたいなアクションがいい!
欲しい兄または弟をどんな手を使っても手に入れる…
それがキモ姉キモウトなのだ!!
449名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 12:45:05 ID:UafOmHOd
キモウトと乳首当てゲームしたい
450名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 14:02:57 ID:jSPrypmN
>>449お兄ちゃん、なんかお姉ちゃんが呼んでたよ?
451名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 15:52:42 ID:AKLgN1t9
>>434を見て思ったけど
極まったキモ姉やキモウトって一種の精神的超人だよなw
452名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 17:03:11 ID:qBZamURT
泥棒猫が「BeHinD yOU.┓┏. 」と書かれた紙を拾ってしまうわけですね
お兄ちゃんが拾うパターンもありか
453名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 19:07:32 ID:sq5KbNuH
てか逆レイプ以外で弟or兄がキモ姉キモウトを抱く作品ってあるの?
454名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 19:49:20 ID:jSPrypmN
>>453
まとめ見てこい
たしかに(主に長編だと)逆レが多いが、けっこう逆レ以外もあるぞ
455名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 00:46:58 ID:KTj+rlvP
保管庫といえば、気持ち悪い妹が結構好きだ
結局報われなかったやつ

あれはなんかキモかったわ、ガチで
456名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 00:47:56 ID:KTj+rlvP
woo...
457名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 01:14:48 ID:f2Fyd5XU
リビングに『たまごクラブ』の入った紙袋を放置してキモウトの反応を観察したい
458名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 01:28:59 ID:HeDLoXSD
婚姻届も追加させて貰おうか…。
459名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 01:35:23 ID:pVHRx02R
でもなんだかんだ言って
キモ姉妹とやりまくってる主人公ってあんまいないよね
460名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 02:00:43 ID:K74/OM8b
    傷 冬馬
三つの鎖 幸一

両方とも(多分)やりまくり
ただ、両方ともキモ姉
キモウトとやりまくりの主人公は知らない
461名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 09:13:40 ID:typ7A8LK
>>460
水原兄妹観察日記
ソウカンジャー
姉妹間作戦

姉妹間作戦なんか子供うんじゃってるぞ
462名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 09:14:51 ID:typ7A8LK
↑間違い
水野兄妹だった
463名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 12:20:33 ID:Rj6CLI4W
兄弟の方が積極的になら、それは近親バカップルに過ぎない。
故に姉妹が異常行動に出る必要性が薄れる。
464名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 18:09:48 ID:VxJHs0Br
そんな条件を狭める必要ないと思うがね。
最終的に兄・弟がキモ姉妹を受け入れればいい話だし。
465名無しさん@ピンキー:2010/02/23(火) 06:11:08 ID:Mlxa3w8W
キモ姉妹はいざことに及ぶとアヘアヘ言わされてる印象がある
466名無しさん@ピンキー:2010/02/23(火) 21:08:48 ID:FieTpDZH
てす
467名無しさん@ピンキー:2010/02/23(火) 21:10:58 ID:wPpr6LN+
極端な話をすれば兄や弟に恋愛感情を持っているというだけで世間的に見たらキモイし
作品性の幅を狭めるような事はたしかにいらないな
468名無しさん@ピンキー:2010/02/23(火) 21:15:36 ID:KZFje7Pd
それよりオリンピック・アイスダンスの舞台、全世界(?)の見守る中で洗脳された兄が妹にプロポーズをだな
469名無しさん@ピンキー:2010/02/23(火) 22:06:56 ID:dStajMd9
濃い
470名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 12:56:44 ID:LVUCLiJq
>>468
キモ姉妹がもしプロフェッショナルの世界に進むとしたらスポーツや芸術より
政財界とか医療関係、法律関係のイメージが強いけどなあ。
まあでも、フリーな世界で生きる分、世間のしがらみは他より少ないかな?
471名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 13:07:50 ID:4oCstQ9h
外では普通のOLの顔をしつつ
家庭では……みたいな感じのも結構好きです
472名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 14:40:15 ID:I6NnXIr2
お前らのイメージなんてどうでもいいからwwwwww下らない事でレスんなwwwカスドもwww
473名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 17:27:45 ID:/v/u3Uzr
桃栗三年www柿八年wwwwwざんねーんwwww
我が輩の負けでござるwwwww
474名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 01:45:43 ID:J9I3OtGd
キモウトに「俺、お前のことが――」と言ったまま逃げ出して篭城したい
475名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 08:02:51 ID:sYuPl74F
そりゃアンタ籠城先の入口の戸を閉めたらもう中にいたフラグだぜ
476名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 08:57:53 ID:1YrBUOn1
ボッタクリバーに入っちゃったよ…
もう仕事行きたくないようお姉ちゃん…
477名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 13:44:42 ID:tCw3IVg8
人生丸ごとぼったくれるのと、どっちがマシか…
478名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 22:44:04 ID:qfZFq3fD
もう一週間近く投下が無い…
職人さんカムバァァク!
479名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 22:53:53 ID:sYuPl74F
そりゃ投下したって三つの鎖の話しかしないんだから他の職人は去るわな
480名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 23:35:48 ID:0g5stW1S
たった1週間投下無かっただけで催促してんじゃねーよしねかすあげ
481名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 23:57:56 ID:aLOKxOeg
ここはすでに三つの鎖スレだもんな
482名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 00:01:15 ID:GcRf0w3Y
俺は未来のあなたへ信者
483名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 00:05:12 ID:HHhHDgs5
俺はテンレン信者。
484名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 00:06:11 ID:qfZFq3fD
未来のあなたへ
弓張月
ウィリアム・テル
戻せない欠片

最近投下が無い…
職人さん待っます!
485名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 00:17:57 ID:HdJizhUS
催促は不要
ただ全裸待機あるのみ
486名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 01:19:00 ID:ke/LSdRO
基本あきらめの姿勢
487名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 01:37:08 ID:ggGIIJxC
こういう流れ前にも見たことあるな
催促ばっかになっちゃってさ
なんか笑えてくる
488名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 04:46:24 ID:oDGu/AL7
このスレもここらで潮時だな。
489名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 05:58:44 ID:+iJyXHvq
容量まだ大丈夫?
490名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 08:19:34 ID:m5NZjaHv
この書き込み前でちょうど414KB
491名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 11:11:08 ID:+mbDbozx
三つの鎖より綾シリーズのほうが面白いだろ
492名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 12:36:37 ID:UJLyrbQ1
一時間で書いた即興小ネタ投下
493ギャンブルナイト:2010/02/26(金) 12:38:06 ID:UJLyrbQ1
「ねぇお兄ちゃん。賭け、しない?」

半裸の妹が近づいてくる。
血が繋がった家族だとわかっていても、性欲旺盛な高校生にとってその姿は刺激が強い。
加えて同じく高校生の妹は、歳に似合わない抜群のプロポーションを持っていた。
早い話が俺は欲情していたのだ。
「な・・・んだよ、賭けって・・・」
「簡単だよ。『どっちが先に絶頂を迎えるか』」
妹が何を言っているのか分からない。少なくとも実の兄に向かって言う台詞ではないことは明らかだ。
少しずつ、俺たちの距離が縮まる。
「バ、バカかよ。俺たちは兄妹だぞ!? そんなこと許されるわけ・・・」
必死に目を逸らし妹の身体を見ないようにする。
が、行動とは裏腹に俺の下半身は痛いほどに反応しており、寝間着越しにも分かるほど盛り上がっていた。
「うん。いけないことだってわかってるよ。でも諦めがつかないの」
ついにベッドに乗り上げる。
顔をゆっくりと近づけ、暗闇の中でもお互いの表情が分かるポジションで止まる。
「だからね、決めたの。もし私がお兄ちゃんを先にイかせることが出来たら『私がお兄ちゃんの彼女になる』って。
 私でもお兄ちゃんの性欲を満たしてあげられるってことだもんね。で、私が先にイッた場合は・・・」
目の前でペラペラ語る妹の瞳が輝く。
まるで自分の夢を語るような、選挙カーに乗って演説をする人のようなその顔が目に焼き付く。
「私が先にイッた場合は・・・諦める。これからは『普通の妹』として生きる」
「そんな賭け、俺が受けるはずがないだろう。『あの事』は忘れるからもうそれでいいじゃないか」
下半身と違い、俺の放つ言葉は冷静だった。やはり兄としての遺伝子が妹を拒否しているのだろうか。
「もう、無理なの。自分で自分を抑えられない」
笑った。
そう思った次の瞬間には俺の唇は塞がれていた。
「んんっ・・・!?」
じゅるり、と唾液が混じり舌が絡み合う。AVなどで見た官能的なキスだ。
「おいっ!!・・・んっ、ふっ・・・こら、やめっ・・・んぐっ・・・ぢゅぱっ・・・」
顔を逸らし、身体を引き剥がそうとするものの、妹の熱烈なキス攻撃は止まらなかった。
俺の首に両腕をきつく回し、足を足に絡め、全身を密着させながら覆い被さっていた。
それでも男の俺が本気を出せば無理矢理逃げることは出来ただろう。
しかしキスという行為自体が初めてであり、密着した妹の身体の柔らかさ、匂い、温もりは童貞の俺から反抗する力を奪い取っていた。
やがて、俺が抵抗しないと見るや妹は更に激しく吸い付き、絡め合った。
しばらく俺は為すがままにされ、一段落がつく頃には俺の顔中は舐め回され、隅々まで唾液で滑っていた。
494ギャンブルナイト:2010/02/26(金) 12:39:39 ID:UJLyrbQ1
「それじゃあ賭け、始めようか」
俺の顔の上で、唇から糸を引きながら妹は笑った。
二の腕くらいまである長い髪が垂れて、毛先が俺の頬を掠める。
もはや有無を言わせぬ雰囲気だった。
互いに身体が上気し、息は激しく、どちらの下半身も湿っていた。
この時点で俺たちは兄妹ではなく、発情した雄と雌になり果てていたのだ。
「・・・ああ」
―――先にイかなければいいんだろ?
頭の片隅にそんな声が聞こえる。
今は兄妹のしがらみよりも、この溢れる性欲をどうにかしたい気分だった。
女性に縁のないこの俺が、童貞を卒業できるチャンスじゃないか。
虚ろな目で妹の割れ目に俺のモノが入っていくのを見つめる。17歳の冬、俺は妹で童貞を失った。


妹は昔から俺に引っ付いてばかりだった。
俺もそんな妹が可愛くて、何かと甘やかしたり、優しくしたりしてきた。
そうした結果が、妹に異常な感情を抱かせたのかと思うと俺にも責任はあるのかもしれない。
ともあれ、俺が妹の『そんな感情』に気がついたのはついこの間である。
『マジ・・・かよ・・・』
貸していた参考書を取りに、妹の部屋へと入っていった際、それを見つけた。
参考書を探そうと本棚に手を掛けた瞬間、上に乗っていた箱が落ちてきた。
鍵をかけ忘れていたのだろうか、中に入っていた大量の写真が地面にばらけ、俺は目を疑うことになる。
それから先は無我夢中だった。
妹が外出でいないのをいいことに、部屋中を隈無く漁り証拠の品を次々と見つけだした。
古着、下着の衣服類をはじめとし、歯ブラシや髪の毛、果ては兄妹モノの官能小説までもを発見した。
妹がいつから俺をそういった目で見ていたのかは定かではないが、
ともかく俺は見てはいけないものを見た気分になり自室の布団に潜り込んだ。
晩御飯の時などまともに顔を見れない始末。
そういった俺の反応から察したのだろうか、今回の夜の強襲へと至ったわけだ。
嫌われ、拒絶される前に賭けによって俺を手に入れてしまおうと考えたのだ。
495ギャンブルナイト:2010/02/26(金) 12:41:08 ID:UJLyrbQ1
「んっ・・・はぁっ・・・!!」
妹の気持ちを知ったとき、俺の胸の中は嫌悪感でいっぱいだった。
なんて気持ちの悪い妹なのだろうか、と吐き気を催すことさえあった。
だがこうして繋がり、舌を絡め、爪を立てながらお互い抱き合っているとそんな気持ちは無くなっていた。
―――女の中とはなんと気持ちがいい、ことにこの女は最高に相性がいいじゃないか。
セックスとは肉体的なものよりも精神的なものの方が強い、と聞いたことがある。
この妹からは、俺に対する愛情、熱情、独占といったオーラが流れてきており、繋がっているだけで精神的にも気持ちが良くなる。
ズチュズチュという卑猥な音も、滴る血の混ざった愛液も、俺の欲情を更に刺激する。
もはや賭けなどどうでもいい、そう思える一時であった。
「っ・・・で、出るっ!!」
その時は訪れた。
ただでさえ初体験の俺にとって、生でのセックスは到底我慢が出来るものではなかった。
俺の言葉を聞くやいなや、妹は腰の動きを緩め俺に囁く。
「お兄ちゃん、約束して。私を彼女にしてくれるって。一生私だけを愛すって」
絶頂寸前の俺にはその言葉の半分も聞き取れてはいなかった。
「そしたら、一番気持ちよくイかせてあげる。これから先、お兄ちゃんのっ、好きなと、きにっ、好きなだけっ・・・!」
妹の言葉にも吐息が混じる。俺はただコクコクと頭を振り、早く射精の快感を味わいたかった。
「や、くそく、するっ・・・」
妹だとわかっていたが止められるはずもない。
「いっ、しょう・・・あいし、つづけるからっ・・・だから・・・」
―――早くイかせてくれ―――
妹の腰が再び動き始める。
絶頂の刹那、俺の頬に温かい何かが滴り落ちた。
ポロポロとこぼれ落ちるそれは、きっと嬉しいときに流すアレなんじゃないかとふと思った。

「大好き・・・お兄ちゃん」

絶頂は殆ど同時だった。
膣内に直接射精することの意味を知らなかったわけじゃないが、とにかくそんなことを考えている余裕など無かった。
ヘナヘナと力が抜け、猛烈な眠気に襲われる。
きっとこれは夢なのだろう。だから目が覚めたら、いつも通りの毎日が待っているはずなんだ。
全裸で抱き合ったまま、俺は眠りにつく。
明日はどんな一日になるのだろうか―――

                                                おわり
496名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 12:43:29 ID:UJLyrbQ1
終了


兄貴の心変わりが早かったりあんまキモくなかったりってツッコミは勘弁
497名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 12:51:38 ID:e8sODMiP
GJ

>半裸の妹が近づいてくる。
大丈夫、この時点で充分に実妹としてのキモさは出てるw
498名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 13:55:02 ID:NQDZ4T9a
>>496
下半身がビンビンになったじゃないか、責任を取ってくれないか?
499名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 14:22:20 ID:qjPZWT1l
わかりやすくていいね
エロ薄いスレだからこういうのは美味です
500名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 14:41:19 ID:PzPwLN4P
>>496
GJ
やっぱりキモウト短編はいいね!
501名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 20:43:18 ID:vDOipXaP
>>496
GJ
一時間でここまで書けるとはうらやましい
502名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 22:43:40 ID:8FfjMYpw
三つの鎖マダー?
503名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 22:47:06 ID:ke/LSdRO
マダーって言っても何も状況変わらない
むしろ書き込みの労力分、損をしている
504名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 23:44:34 ID:HdJizhUS
荒らしだろ
スルーしれ
505三つの鎖 17 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/27(土) 00:12:21 ID:e4NiRrIP
三つの鎖 17 前編です

※以下注意
エロなし
血のつながらない自称姉あり

投下します
506三つの鎖 17 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/27(土) 00:14:27 ID:e4NiRrIP
三つの鎖 17

 出勤する父さんと京子さんを見送るために僕は玄関まで来た。
 父さんは僕を見て微かに眉をひそめた。
 「幸一。体調でも悪いのか」
 心臓の鼓動が少し速くなる。昨日、梓に外された肩が痛む。
 「そんな事ないよ」
 僕は平静を装った。父さんはそんな僕を無表情に見つめた。
 「何かあったらいつでも言いなさい。行ってくる」
 「行ってきまーす」
 京子さんは笑顔で言った。
 「行ってらっしゃい」
 僕はそう言って出勤する二人を見送った。
 父さんは相変わらずの無表情、京子さんはいつも通りの明るい笑顔。でも父さんは何か感づいている気がする。
 二人が家を出ると、僕はいつも通りの家事を行う。父さんと京子さんの部屋を軽く掃除し、布団を干す。
 掃除の終わった部屋を後にし、梓の部屋に向かう。
 梓の部屋の前で僕は掃除機を持って立ち尽くした。
 この部屋に梓はいない。いま梓はいつも通り下でシャワーを浴びている。
 僕は頭を振って部屋に入った。むせた空気。窓を開け換気する。いつも通り軽く整理して掃除機をかけた。
 リビングに下りると梓はもうシャワーから出ていた。頭を拭きながらアイスティーを飲んでいる。
 いつもならば僕が掃除を終えて降りてきてから梓がリビングに入る。梓の部屋の前でぼんやりした分だけ遅れたようだ。
 梓は僕を見て何かを僕に放り投げた。僕はそれを受け取った。ブラシ。
 「兄さん。お願い」
 そう言って梓はソファーに座った。シャワーを浴びたばかりでしっとりとした黒い髪。僕はブラシを受取ったままの姿勢で立ち尽くした。
 脳裏に浮かぶのは昨日の事。病院に運ばれた夏美ちゃん。洋子さんと雄太さん。夏美ちゃんを怪我させた事を告げる梓。僕に覆いかぶさり唇をむさぼる梓。
 唇に昨日の感触が蘇る。鳥肌が立つ。
 「兄さん?」
 梓は振り返って僕を見た。僕は首を横に振った。
 「梓。もうやめよう。梓の気持ちには応えられない」
 梓が期待するようなことはもうできない。してはいけない。
 「兄さん。私悲しいよ」
 そう言って立ち上がる梓。僕を見つめる瞳にはまぎれもない悲しみが浮かぶ。
 僕はその視線を受け止めたうえで言葉を紡いだ。
 「僕が女性として愛しているのは夏美ちゃんだけだ」
 梓の表情がゆがむ。
 「兄さん。私ね、本当に悲しいよ」
 僕にゆっくりと近づく梓。足取りはしっかりしているのに、どこか不安を感じさせる動き。
 「私ね、兄さんの事が好き」
 梓は僕の目の前でとまった。僕を見上げる。熱を帯びた視線。
 「あの女よりも兄さんを愛している」
 梓の腕が僕の頬にのびて触れる。柔らかくて熱い小さな手。鳥肌が立つ。
 「兄さんのためなら何でもするし、何をされてもいい」
 僕は頬に触れる梓の手に僕の手を重ねた。力を入れないようにつかみゆっくりと僕の頬から離した。梓はそんな僕を見上げた。瞳が奇妙な光を放ち僕を貫く。
 「僕は梓にそんな事は望まない」
 「私が望むの」
 梓は僕の手を握った。梓の体温が伝わる。
 「兄さんと手をつなぎたい。兄さんを抱きしめたい。兄さんとキスしたい。兄さんの料理を食べたい」
 梓は僕の手に口づけした。悪寒が走る。
 「兄さんを食べたい」
 そう言って梓は僕の指を口に含んだ。梓の舌が僕の指を舐める。梓の口の中の熱い温度が直に伝わり鳥肌が立つほどの嫌悪を感じる。
 僕はすぐに手を引っ込めて梓の口から指を抜いた。その動きにくっつくように梓の腕が迫る。
 「兄さんに抱かれたい。犯されたい」
 両足から重みが消え視界が反転する。梓に腰を払われ投げられた事に叩きつけられてから気がつく。体は自然に受け身をとるも、叩きつけられた衝撃で痛めた肩に鋭い痛みが走る。
 そのまま梓が覆いかぶさってくる。両腕を押さえられ動けない。上から僕を嬉しそうに見下ろす梓。その表情に感じる恐怖。
 実の兄に懸想する妹の顔。兄を男として求める女の表情。
 「ねえ兄さん。私を抱いて」
 「断る」
 僕は即答した。
 「あの女を抱いているのでしょ。私も抱いてよ」
 「梓は僕の妹だ。僕は梓の兄だ」
507三つの鎖 17 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/27(土) 00:17:08 ID:e4NiRrIP
 兄妹で体を重ねるなんておぞましい。
 「僕たちは、兄妹だ」
 梓は僕を見下ろしたまま笑った。
 「あははっ、あはははははっ、ふふっ、あははははははははっ」
 腹を抱え笑う梓。その姿に背筋が寒くなる。
 何がおかしくて梓は笑っているのか。分からない。血のつながった妹なのに、何も分からない。
 「あははっ、まあいいわ」
 そう言って梓は顔を僕の顔に近付ける。僕は顔をそむけた。
 頬に柔らかくて温かい感触。梓の唇。おぞましさに鳥肌が立つ。梓の舌が僕の頬を舐める。頬をはいずる舌が熱い。僕は嫌悪感を必死に耐えた。
 「んっ、兄さんっ、こっちを向いてっ」
 僕は梓の言葉を無視して顔をそむけ続けた。
 「兄さんっ、んっ、私を見てよっ」
 梓の囁き。僕は無視して顔をそむけ続けた
 頬の軽く噛まれる感触。梓の熱い息が頬にかかる。
 次の瞬間。頬に火を押し付けられたような痛みが走る。神経を直接火で焙られるような激痛。
 あまりの痛みに叫びそうになるのを必死に耐えた。体が震える。全身に冷や汗が出る。
 何が起きたのか。頬に走る痛みは一向に収まらない。
 「ちゅっ、じゅるっ、れろっ、ちゅっ、はむっ」
 梓の舌が痛みの走る部分を舐めまわす。頭がおかしくなりそうな激痛。
 「ちゅっ、れろっ、ごくっ」
 何かを飲み込むように梓は喉を鳴らした。
 僕は痛みをこらえて梓を見上げた。
 「あはは。やっとこっちを見てくれた」
 梓は嬉しそうに僕を見下ろす。
 頬に走る痛みは一向に収まらない。一体何が起きたのか。何をされたのか。恐怖に体が震えそうになるのを必死に抑えた。
 「ふふっ、あははっ、兄さんすごいわ。声一つ出さないなんて」
 嬉しそうな梓の声に体が震えそうになる。
 梓は嬉しそうに僕を見下ろしている。その口の周りは赤くなっていた。まるで血のような鮮やかさ。
 違う。
 今度こそ体が震えるのを抑えられない。
 あれは血。
 ようやく僕は頬から血が流れているのを感じた。そして痛みの原因も。
 「ふふふっ、あはははっ。兄さんのその表情も可愛いわ」
 そう言って梓は再び顔を近づけてきた。僕の頬を犬のように舐める。傷口に梓の舌が這いずり回る感触に気が狂いそうな痛みと嫌悪を感じる。
 「やめろっ!」
 肩が痛むのも無視して僕は暴れた。
 梓はしばらく暴れる僕を押さえながら頬を舐めていたが、やあって僕の上から離れた。
 僕は転がるように起き上り梓と距離をとる。震える手で頬を拭うと、拭った手の甲は血に染まる。
 そんな僕を梓は嬉しそうに見つめている。口周りの血をはしたなく舌でぺろりと舐める。その姿に耐えがたい悪寒を感じてしまう。
 「ふふふっ。兄さんおいしかったわ」
 梓が僕を見つめる。背中に壁の感触。気がつけば僕は壁まで後ずさっていた。
 「兄さん。あの女が大切なのでしょ。私の言っている意味、分かるよね」
 病人服を着た夏美ちゃんの姿が脳裏に浮かぶ。
 「今度は一日の入院じゃすまないわよ」
 脳裏に春子の姿が浮かぶ。僕を脅迫し、泣きながら僕にしがみつく春子。愚かで哀れな僕の姉。
 脅しに屈してはいけない。結局は問題の後送りに過ぎない。
 「断る」
 梓は楽しそうに僕を見た。その視線を僕は受け止めた。
 「ふふふっ。まあいいわ。今はこれぐらいにしてあげる」
 そう言って梓は背を向けた。
 「兄さん。学校に行こう。もうそろそろ出ないといけない時間だわ」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 兄さんは片手で靴をはいた。もう片方の手はハンカチで頬に添えられている。その紺のハンカチはよく見れば血の色に染まっている事に気がつくだろう。まだ血は止まっていないようだ。
 先程の事を思い出して私は頬が緩むのを止められなかった。兄さんの血も頬もおいしく感じた。だけど何よりも兄さんの表情が良かった。私に脅え嫌悪する表情が堪らなく愛おしい。
 本当に愚かな兄さん。血のつながった兄妹で体を重ねる近親相姦を恐ろしいと、けがわらしいと言う兄さん。
 私たち二人が近親相姦の結果なのに。
 この事を知ったら兄さんはどうなるだろう。考えるだけでぞくぞくする。
 玄関を出て片手で鍵を出そうとするのに手間取る兄さんから鍵を取り出し私が鍵をかけた。兄さんはそんな私を無表情に見つめるけど、その瞳には苦悩が渦巻いているのが見て分かる。
508三つの鎖 17 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/27(土) 00:19:13 ID:e4NiRrIP
 私は鍵を兄さんに渡し、兄さんの腕に自分の腕をからめた。兄さんのたくましい腕の感触が心地よい。
 「梓」
 兄さんが渋い顔で私を見た。私は無視してそのまま歩きだした。
 「大通りまでだから」
 そう言って家の敷居を出たところに、春子が立っていた。
 厳しい表情で私を見つめている。
 「梓ちゃん。兄妹でそんな事をしちゃダメだよ」
 口調こそいつも通りだけど、その声には強い感情を感じさせる。
 「もう兄妹でべたべたしていい年じゃないよ」
 兄さんが私の腕を振りほどこうとするのを、私は兄さんの腕にぶら下がるように体重をかける事で防いだ。兄さんの顔に微かに汗がにじむ。昨日、私が外した肩が痛むのだろう。
 「梓ちゃん。幸一君が痛がっているよ。やめてあげて」
 春子は私を睨んだ。
 私は春子を無視して兄さんの頬に触れた。兄さんの頬を撫でる。鳥肌が立っているのが分かる。私は兄さんの汗に濡れた指を口に含んだ。兄さんの味。
 ぎりっという歯軋りの音。春子が顔を歪める。いつものんびりした春子からは想像もできない表情。私に向ける視線には隠しきれない敵意。
 「いい加減にして!」
 春子は叫んで私の腕をつかみ引きはがそうとした。肩に響くのか兄さんの顔が微かに歪む。可愛い顔。
 兄さんの顔に気が付き春子は慌てて手を離した。兄さんはその場に膝をついた。微かに上下する肩。額にはびっしりと汗が浮かんでいる。そんなに痛いのだろうか。私は脱臼した事がないから分からない。
 「こ、幸一君、その、お姉ちゃんね、そね、ご、ごめん」
 春子は泣きそうな顔で兄さんに寄り添う。春子の髪から覚えのある匂いが漂う。どこかで覚えのある匂い。
 おろおろする春子に兄さんは微笑んだ。いつも通りの笑顔だけど無理をしているのが一目でわかる。
 兄さんは立ち上がった。微かにふらつく足元。
 「学校に行こう。遅刻するよ」
 そう言って歩き出す兄さん。もうすでに足取りはしっかりしている。その後ろを春子が泣きそうな顔でついていく。
 私は春子の後ろを歩いた。春子の髪から漂う覚えのある匂い。
 思い出した。夜遅くに帰ってくる兄さんから時々する匂い。
 何でなの。何であの時の匂いが春子からするの。
 私は学校への道すがらその事を考え続けた。
 兄さんは一言も喋らなかった。喋る余裕も無い様子だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 授業中、幸一君はずっとつらそうだった。
 幸一君を梓ちゃんに何があったかは盗聴器からの音声から把握している。多分だけど梓ちゃんが幸一君の関節を必要以上に痛めたのだと思う。
 午前最後の授業が終わると同時に私は幸一君に近づいた。頬にガーゼをテープで留めている幸一君。表情こそいつも通りだけど、額には微かに汗が浮かんでいる。
 「幸一君。生徒会準備室に行こ」
 幸一君は私を見上げた。疲れ切った眼差し。
 耕平君が心配そうに私達を見た。
 「こーいちー。どないしたん。えらいつらそうやで」
 幸一君は微笑んだ。喋るのもしんどいようだ。
 私は幸一君の耳元に顔を近づけた。
 「肩の治療をするから」
 幸一君は微かに頷き立ち上がった。その手をつかんで引っ張りたいのをぐっと我慢して生徒会準備室まで歩いた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 お昼休み開始とともに私は梓に近寄った。
 「あの、梓。よかったら一緒に食べない?」
 梓は私を冷たく一瞥しただけで教室を出て行った。私はため息をついた。朝からこの調子だ。
 「なつみー。梓と喧嘩でもしたの」
 他のクラスメイトに私はあいまいな笑顔で応じた。何があったかは言えない。
 今日の朝、梓は遅刻ギリギリに教室に入った。お兄さんにも会わなかった。
 梓の事は私が入院してしまってから何も話しあっていない。
 そうだ。約束していないけどお兄さんに会いに行こう。
 私はお弁当を片手にお兄さんの教室に走った。
 「なつみちゃーん!」
 聞き覚えのある声。振り向くと耕平さんがいた。
 「もしかしたら幸一に会いに行くん?」
 「はい」
 耕平さんは手をひらひらさせた。良く分からない仕草。
 「あいつ教室におらんで。生徒会準備室に行くて言ってたわ」
509三つの鎖 17 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/27(土) 00:22:18 ID:e4NiRrIP
 「分かりました!ありがとうございます!」
 私は礼を言って生徒会準備室に走り出した。後ろで耕平さんが何か言っていたような気がするけど、まあいいや。はやくお兄さんに会いたい。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 生徒会準備室で私は幸一君をベッドに座らせシャツを脱がして上半身を裸にした。鍛え上げられた筋肉。見とれそうになるのを我慢。今は治療が先。
 私は上半身を観察した。両肩、特に左肩に痛めた跡がある。
 幸一君の肩に触れ腫れの具合を確かめた。幸一君の表情が微かに歪む。
 「脱臼したの?」
 頷く幸一君。喋るのもしんどいようだ。
 私は用意してあった救急セットから痛み止めを取り出して幸一君に渡した。
 「痛み止め。飲んで」
 市販品だから気休めにしかならないけど、無いよりはまし。
 それなのに幸一君は黙って首を横に振る。
 「普通のお薬だから」
 幸一君が疑うのは仕方がないけどやっぱり悲しい。お薬を突き付けるとしばらくして幸一君は黙って飲んでくれた。
 私は幸一君の上半身を丹念に調べた。どこの筋を痛めているのか。腫れはどれぐらいなのか。そのうえでテーピングを使い肩周りを保護する。
 脱臼程の怪我をテーピングするのは久しぶりだ。テーピングは間違えると逆効果にしかならない。特に肩周りは複雑だ。私は肩周りを注意深く調べた。
 その時、ドアが開いた。
 「お兄さん!ハルせん、ぱ…い」
 夏美ちゃんが茫然と私達を見つめる。口元を押さえ震える。目が見開き表情が驚きから悲しみに変わる。両目から涙がぽろぽろ落ちた。
 何も言わずに夏美ちゃんは背を向けて走り出した。立ち上がろうとする幸一君を私は押さえた。こんな状況で走るのは危険すぎる。
 「待っていて。絶対走っちゃダメ」
 私は生徒会準備室を出て夏美ちゃんを追いかけた。
 「夏美ちゃん!待って!」
 夏美ちゃんは顔だけ後ろを向けようとして盛大に転んだ。
 私は夏美ちゃんに駆け寄り膝をついた
 「夏美ちゃん大丈夫?」
 夏美ちゃんは転んだまま起き上がらない。しゃくりあげながら体を震わす。
 私は夏美ちゃんの体を起こした。夏美ちゃんの顔は涙でぐちゃぐちゃだった。
 「ひぐっ、ううっ、ぐすっ」
 見ているだけで胸が締め付けられるような悲しい表情。
 微かに胸が痛む。私は夏美ちゃんを材料に幸一君を脅している。覚悟はしていたのに。
 「ひうっ、はるせんぱひっ、ひどひですっ」
 「夏美ちゃん。落ち着いて」
 夏美ちゃんは激しく頭を振った。涙が飛び散る。
 「あのね、誤解だから」
 何が誤解なのか。
 「幸一君は知ってほしくないと思うけど、幸一君は怪我をしているの。私はその治療をしようとしているだけ」
 夏美ちゃんは鼻をぐすぐすいわせて私を見上げる。
 「とりあえず来てほしいな。夏美ちゃんも手伝って」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 春子が夏美ちゃんを連れてきた時はほっとした。
 本当は起き上って追いかけるべきだけど、体の調子は予想以上に悪い。
 原因は肩を外された事だけではない。梓に迫られた事だ。昨日はほとんど眠れなかった。自分でも信じられないほど疲れている。僕にのしかかり唇をむさぼる梓を思い出すだけで悪寒が走る。
 春子は真剣な顔で僕の左肩にテーピングを巻く。夏美ちゃんは心配そうに僕を見ている。目が合うと夏美ちゃんはにっこりと笑った。励ますような笑顔。
 最後に春子は三角巾で僕の左腕を首に吊った。
 「どうかな」
 左肩は痛くない程度に固定されている。腕を三角巾で吊るすことによりずいぶんと楽になった。
 「悪くない」
 掠れた声しか出ない。夏美ちゃんはペットボトルのお茶を蓋を外して渡してくれた。僕は礼を言い受け取り口にした。喉が潤う。
 「右腕は外れてないから大丈夫だけど、あまり動かさないでね」
 春子は道具を片づけながら言った。
 「ハル先輩ってテーピングも知っているのですね」
 「昔に勉強したの。以前に幸一君が痛めた時に覚えたよ。テーピングは場所によっては一人だとできないしね」
 感心した風の夏美ちゃんに春子は淡々と語る。
 昔は春子によくお世話になった。柔道で痛めた時はいつも春子がテーピングを手伝ってくれた。
 「じゃあお姉ちゃん行くね」
510名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 00:24:27 ID:xCpadtlD
しえn
511三つの鎖 17 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/27(土) 00:24:27 ID:e4NiRrIP
 春子はそう言って立ち上がり背を向けた。
 「お昼の時間もあまりないから早くご飯を食べてね」
 生徒会準備室を出えいく前に春子は僕を見た。寂しそうな瞳。春子は去って行った。
 「あの」
 夏美ちゃんはうつむいている。
 「その、ごめんなさい」
 そう言って夏美ちゃんは頭を下げた。
 「私の早とちりでした。本当にごめんなさい」
 「気にしないでいいよ。誤解されても仕方がない状況だったし」
 本当は誤解でも何でもない。
 肩の傷が霞むぐらい罪悪感に胸が痛む。
 「その、本当にごめんなさい。私、お兄さんの事を信じられなくて」
 夏美ちゃんの目尻に涙がたまる。
 「私、不安で仕方がないのです」
 涙をぽろぽろ落とす夏美ちゃん。
 その姿に罪悪感が募る。
 「お兄さんにはハル先輩みたいな素敵な幼馴染がいて、ハル先輩は美人で、身長が高くて、胸も大きくて、賢くて、お料理も得意で、物知りで」
 夏美ちゃんの足元に涙がこぼれる。
 何も知らない夏美ちゃん。春子が僕を脅迫し抱くように強制している事も、僕と春子が何度も体を重ねている事も。
 全てを言いたい。ぶちまけたい。この罪悪感から解放されたい。
 でも、そんなことは言えない。
 「夏美ちゃんは春子の事を尊敬しているんだ」
 夏美ちゃんは首を縦に振った。
 「ハル先輩のおかげでお兄さんに告白できました。ハル先輩は私の恩人で尊敬する人です」
 夏美ちゃんのまっすぐな瞳。
 言えない。本当の事は。
 絶対に。
 「さっきもハル先輩だったら仕方がないって思っちゃいました。ハル先輩だとお兄さんの隣にいても仕方がないって」
 僕は固定していない手で夏美ちゃんの頬に触れた。涙にぬれた頬。
 「傍にいたいのは夏美ちゃんだけだ」
 びっくりしたように僕を見上げる夏美ちゃん。
 「傍にいてほしいのも夏美ちゃんだけだ」
 夏美ちゃんの頬がみるみる赤く染まる。
 「僕は夏美ちゃんが好きだ。明るい笑顔に僕は何時も励ましてもらっている。勇気をもらっている。この世に生れて一番感謝しているのは夏美ちゃんに出会えた事だと思うぐらいだ」
 恥ずかしそうに顔をそむける夏美ちゃん。耳まで真っ赤だ。
 「お兄さんの言っている事痛すぎです。お父さんより恥ずかしい事を言っています」
 夏美ちゃんの言葉が胸に突き刺さる。別の意味で胸が痛む。
 「でも」
 頬に添えた僕の手に夏美ちゃんの手が上からかぶせられる。小さくて温かい手。
 「そう言ってくれるのは嬉しいです」
 夏美ちゃんはそっぽを向いたまま恥ずかしそうに言った。
512名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 00:25:08 ID:xCpadtlD
しえn
513三つの鎖 17 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/02/27(土) 00:25:53 ID:e4NiRrIP
投下終わりです。
読んでくださった方に感謝いたします。ありがとうございました。
HPで登場人物の人気投票を行っています。
よろしければご協力お願いいたします。
HPでは投下した作品の閲覧とDLもできますが、最新の作品はスレにしかございません。
ご了承ください。
続きは多分来週になると思います。

ttp://threechain.x.fc2.com/index.html
514名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 00:47:43 ID:OCchDq+C
GJ!

続き期待しています。
515名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 01:24:18 ID:OMSQxJPo
GJ
幸一くんはいい加減ぶっ倒れてもおかしくないな
516名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 03:06:49 ID:pg7FNnDK
GJ
517名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 06:18:24 ID:KKwHQujG
GJ!!!!春子可愛いよ春子!!!!
518名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 16:07:26 ID:t7OXBNz5
禁忌を犯してまで溺れるほどキモウトの具合はいいのだろうか
519名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 16:33:01 ID:CGqwMeUM
GJ
>私は脱臼した事がないから分からない。
吹いた
520名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 17:15:18 ID:LOkN1pvs
>>518
じゃあ実際どうなのか試してみようよお兄ちゃん
521名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 17:37:52 ID:bQ6KpfTA
522名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 22:38:23 ID:Ey2d6D3I
>>521 単なるメンヘラですな。
523名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 23:05:31 ID:XNa28LD9
そういうのはもう座敷牢しかないのかな
524名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 23:32:04 ID:4CopJaXM
>>519
そこは俺もなぜか吹いたw
525名無しさん@ピンキー:2010/02/28(日) 00:24:00 ID:SWuexGNt
メンヘラとキモウトの違いを教えてくれ
526名無しさん@ピンキー:2010/02/28(日) 00:50:53 ID:NAkjOjcT
>>523
座敷牢の中で手首を切って、やむなく手当に来た兄を拘束。
いや、いっそ座敷牢のカギ穴に瞬間接着剤を流し込んで、
「これでずっと二人きり…ウフ♪」とかのラストもありかな?
527名無しさん@ピンキー:2010/02/28(日) 01:36:16 ID:izfOq6JD
>>525
ヤンデレとメンヘラの違いを勉強すれば自然とわかる
528名無しさん@ピンキー:2010/02/28(日) 08:35:22 ID:KXkXJBvs
一緒だろ…。
529名無しさん@ピンキー:2010/02/28(日) 09:15:55 ID:UZ5AeZ29
メンヘラは人を好きになるならない以前に勝手におかしくなってる。
ヤンデレは好きな相手を思っておかしくなる。
530名無しさん@ピンキー:2010/02/28(日) 09:20:17 ID:L9HCuRP7
ヤンデレは一途
531名無しさん@ピンキー:2010/02/28(日) 09:46:22 ID:aR23iFQQ
相手の気持ちを考えない一途
『お兄ちゃんが好き! だから、お兄ちゃんも私のこと好きにならなくちゃいけないの!!」
532名無しさん@ピンキー:2010/02/28(日) 14:46:30 ID:9bGGuCan
533名無しさん@ピンキー:2010/02/28(日) 20:20:07 ID:0K0eQbr9
ヤンデレは相手が自分を愛してる場合は無害化する可能性もある
メンヘラはなにしてもだめ
534名無しさん@ピンキー:2010/02/28(日) 21:28:29 ID:qHJxmdSn
>>531
だが待って欲しい、洗脳系のヤンデレはそのタイプなのではないだろうか
535名無しさん@ピンキー:2010/02/28(日) 21:57:28 ID:N+iT7Oe1
わかる人にはわかる3行解説!

キモウト:妹
ヤンデレ:幼
メンヘラ:女さん
536名無しさん@ピンキー:2010/02/28(日) 22:14:10 ID:ayUsxPfc
ツンツンしてる妹に抱き着いて「いい匂いがする」とか言ってみたい
537名無しさん@ピンキー:2010/02/28(日) 22:32:16 ID:izfOq6JD
>>528
全然違うよ

>>536
>>63の応用みたいな感じか
538名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 00:54:52 ID:VjttsN6S
BELL-DAの「まゆ」が人生最抜きゲーな俺としてはこのスレめっちゃ嬉しい
ぶっちゃけキモウトって最上級の誉め言葉だよな
539名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 03:17:37 ID:SF9M4nBn
雑談したいなら他所へ行け
540名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 03:37:27 ID:2hXj/9Mg
「他所へ行け」なんてくだらんひとことだけでレス数消費してる奴も他所行け
541名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 07:03:30 ID:fnO8DYKk
>>540つまらんしねかす
542名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 11:21:27 ID:Y4hpekGV
てかこのジャンルってエロゲ界には半端なく普及してるのにジャンルとしてのチメイドは超低いから、「他所へ行け」なんて言われても行き場所ないんだよね……
543名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 18:32:56 ID:8YozDOSQ
「「他所へ行け」なんてくだらんひとことだけでレス数消費してる奴も他所行け」なんてくだらんひとことだけでレス数消費してる奴も他所行け
544名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 18:50:21 ID:6HuAAaVU
545名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 22:02:14 ID:geXTin3M
エロゲの話がしたいだけなら
エロゲ以外にキモウトがスレタイに入ったスレもあるし
嫉妬ゲースレあたりもキモウトも包含してるでしょ
546名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 22:04:11 ID:geXTin3M
ありゃ、ミスってた
×エロゲ以外に
○エロゲ板に
547名無しさん@ピンキー:2010/03/02(火) 18:46:24 ID:Oc7TP5t0
記念パピコ
548 ◆cW8I9jdrzY :2010/03/02(火) 19:01:51 ID:wJKzMop+
>>347-355の続きを投下します。
SSの属性は以下となります。苦手な方はNGをお願いします。

双子の兄妹、エロ有り、伝奇風味
549水野兄妹観察日記・終(1/12) ◆cW8I9jdrzY :2010/03/02(火) 19:03:28 ID:wJKzMop+
ヒカルは翌日、学校を休んだ。
親には体調が悪いと言って、朝から寝込んで何も食べずにベッドの中で腐っていた。
夏樹や他の友人たちから送られてきた見舞いのメールも、全て無視した。
もちろんそのメールの中に、啓一からのものはない。
啓一のことを考えると、昨日の出来事を思い出して、また泣いてしまいそうだった。
なぜ啓一に振られたのか、結局ヒカルにはわからなかった。
自分の思い上がりでなければ、啓一もこちらに充分、好意を持ってくれていたはずだ。
いくら啓一が優しい男であっても、嫌いな相手とわざわざ映画に行ったり、
パーティに呼んだりはしないだろう。自分と話をしているときの啓一も、
迷惑という表現とはかけ離れた、楽しそうな顔をしていた覚えがある。
啓一に告白した自分の見込みは、決して的外れだったわけではない。
ヒカルはそう思っていたが、その啓一が自分を拒絶して
「二度と近づくな」とまで言い放ったのは、否定のしようがない事実だった。
なぜあそこまで言われなければならないのか、全くもってわからない。
なぜあのときの啓一がなよなよした女言葉で喋っていたのかも、
なぜ無関係なはずの啓一の妹、水野恵のことが会話に出てくるのかも、
元々深く考えることが苦手なヒカルには、さっぱり理解することができなかった。
わけがわからず、ヒカルはただ暗澹たる思いだった。

昼頃、ヒカルはベッドから這い出て、冷蔵庫を漁りにキッチンへと向かった。
いくら心が弱っていても、体には何一つ異常がない。
速やかにエネルギーの補給を行うように申し立ててくる自分の消化器官を
疎ましく思ったが、それに逆らうことはできなかった。
家にいる母親とできるだけ顔を合わせないようにして、ハムやパンをありったけ抱えて
ヒカルが自室に戻ると、ベッドの上の携帯電話が震えて、着信を知らせてきた。
どうせ夏樹だろう、お節介なやつだ。無視しておこうと思いながら、
それでも一応、確認のために手にとって画面をのぞき込むと、
そこには一つ上の先輩の加藤真理奈の名前があった。
おそらくヒカルが啓一に告白して玉砕したのを耳にしたのだろう。
これが嫌味な夏樹や何も知らないクラスメートであれば、無視を決め込んでいたところだが、
色々と世話になった真理奈であれば、そういうわけにもいかなかった。
それに真理奈は啓一の友人でもあり、彼のことをよく知っている。
ヒカルと啓一の共通の知人である真理奈なら、今のヒカルに
いい助言をしてくれるかもしれない。藁にもすがる思いで電話に出た。

「はい、もしもし」
「はーい、ヒカル。元気ぃ?」
出た途端、真理奈の陽気な声が聞こえてきた。
今のヒカルにとっては恨めしいほどの明るさだが、いかにも真理奈らしかった。
「あんた、学校休んでるんだって? 友達の子が心配してたわよー。
 夏樹ちゃんっていったかな。ヒカルのクラスメートの」
その言葉に、硬くなっていたヒカルの心が乱れた。
どうして真理奈が夏樹のことを知っているのだろう。
行動力のある夏樹のことだから、ひょっとすると二年の教室に出向いて、
啓一や真理奈にヒカルの事情をあれこれと訊いて回ったのかもしれない。
振られた自分を後で笑いものにするつもりだろうか。
それとも、純粋に友人として自分を心配してくれているのだろうか。
真理奈の口ぶりからは、何となく後者のように思えた。
550水野兄妹観察日記・終(2/12) ◆cW8I9jdrzY :2010/03/02(火) 19:04:08 ID:wJKzMop+
ヒカルが何も言えずにいると、真理奈は早口に話を続けた。
「それでね、ヒカル。あんた、夕方ヒマ? うちに来てほしいんだけど」
「え、真理奈センパイの家にですか?」
「そうそう。ヒカル、昨日学校にカバン忘れて帰ったでしょ。それあたしが
 預かってるから、取りに来てよ。あたしんちの場所は知ってるでしょ?」
そう言えば昨日、啓一に拒絶されたショックでカバンを忘れて帰った気がする。
啓一がそれを見つけて、真理奈に預けたのだろう。
啓一や真理奈に気を遣わせて、夏樹には心配される今の自分が、とても惨めだった。
カバンなんてどうでもいいから、このまま電話を切ってしまおうかとも思ったが、
真理奈はその雰囲気を敏感に察知したのか、強い口調でまくしたててきた。
「とにかくあんた、今日の放課後、あたしんちに来なさい。いいわね?」
結局断ることができず、うなずかされてしまった。
通話を終えたヒカルは、部屋を出てシャワーを浴び、私服に着替えて外に出かけた。
気晴らしにぶらぶら街をうろついて、土産に甘いものを買って、
冬の陰気な太陽が西に傾きかけた頃、真理奈の家に向かった。

既に真理奈は帰宅しており、やってきたヒカルを快く出迎えた。
「いらっしゃい、待ってたわよ」
真理奈はヒカルをソファに座らせ、温かい紅茶を淹れてくれた。
ヒカルが持ってきたプリンに目を輝かせたのは、真理奈の弟の直人だった。
まだ小学生で、真理奈に似て可愛らしい顔をしている。
気弱で人見知りするところはあるが、きっと将来はいい男になると
真理奈はもっぱら主張していて、その点についてはヒカルも同意見だった。
紅茶とプリンでささやかな茶会を終えると、真理奈は直人に言った。
「直人。あたしはヒカルと話があるから、部屋に戻ってて」
「うん、わかった」
直人は嫌がりもせず、部屋を出て行った。実にいい子だと思った。
傲岸不遜な真理奈の弟が、なぜあんなに気弱で慇懃なのか、ヒカルは疑問に思ったが、
兄弟姉妹の性格というのは、しばしば相反するものらしい。

それについて、さりげなく真理奈に意見を求めると、彼女は笑って手を振った。
「いや、あたしとあの子は姉弟じゃないわよ。一応、血は繋がってるけどね」
意外な返答に、ヒカルは目を丸くした。
「え? それってどういう――」
「従姉弟よ、従姉弟。うちのパパとあの子のお父さんが兄弟なのよ。
 それで叔父さんたちは今、海外に転勤しちゃっててさ。
 その間、うちであの子を預かってるの」
「へえ、そうなんですか」
その説明でヒカルの疑問が氷解した。確かにそれならば二人の苗字が同じなのも、
顔の造作が少しばかり似ているのも、納得がいく。
どうやら真理奈も直人も、外見は父親似らしかった。
会ったことはないが、きっと兄弟揃って優男なのだろう。
うなずいたヒカルに、真理奈はにやりとして言った。
「まだちっちゃいけど賢くて、将来が楽しみだわ。
 だから今のうち、あの子に色々と仕込んでるの。うふふふ……」
「あ、あのー、真理奈センパイ……仕込んでるって……?」
「おっと。まあ、直人の話は置いといて、これね」
551水野兄妹観察日記・終(3/12) ◆cW8I9jdrzY :2010/03/02(火) 19:04:56 ID:wJKzMop+
真理奈はソファの後ろから、ヒカルのカバンを取り出して、彼女に差し出した。
「ほら、ヒカル。あんたのよ」
「あ、どうもお手数おかけしました。ありがとうございまーす」
ヒカルがそれを受け取って礼を言うと、真理奈はどっかりとソファにふんぞり返った。
「まったく。学校にカバンを忘れるなんて、どうかしてるわ」
「は、はあ……。ホントにすいません……」
まったくその通りで、昨日のヒカルはどうかしていたのだ。
膝を撫でると、転んでできた傷に貼られた絆創膏が指に触れた。
痛みはもう引いているが、本当に痛いのは膝の傷などではない。また泣きそうになった。
「ヒカル、ヒカル」
「はい?」
呼ばれて顔を上げると、座ったヒカルのすぐ目の前に、真理奈が立っていた。
男子とそう変わらないほどの、長身の真理奈である。
こちらをじっと見下ろす姿には、かなりの威圧感があった。
真理奈は手を伸ばし、ヒカルの頬を挟み込んだ。静かな無表情が怖い。
呆然と真理奈を見上げる自分は、まるで蛇を前にした蛙のようだった。
何も言えなくなったヒカルに、真理奈が穏やかな声で訊いた。
「あんた、啓一に振られたわね。
 しかもそれだけじゃなくて、あいつらの秘密も知っちゃったのね?
 あいつらがただの兄妹じゃない、もっと頭のおかしい連中だってこと……」
それは質問でも詰問でもなく、単なる事実の確認だった。
ヒカルは目に涙を浮かべて、こくんと首を縦に振った。

真理奈は呆れた様子で、大きなため息を一つついた。
「はあ……だから、あたしはやめとけって言ったのに。時間の無駄だって。
 誰が迫っても、あの頭おかしい二人を引き離すのは無理だわ。
 だってあの二人、完全に自分たちだけの世界に行っちゃってるんだもん」
真理奈と初めて会った日、ヒカルは図々しくもこの部屋を訪ねた。
あのとき真理奈は、啓一について色々訊ねようとやっきになるヒカルを見つめ、
今と同じ呆れ顔で言った。「絶対に無理だ、やめておけ」と。
今から考えると、あれほど適切な助言もそうはなかったのだが、
あのときのヒカルにしてみれば、納得のいく理由もなしに
自分の可能性を否定されたようなものだったから、反発して当たり前だった。
過去の自分の、一体何が悪かったのだろうか。そもそも自分は悪かったのだろうか。
ヒカルは泣きそうになって考えたが、結局答えは出てこない。
そのとき、ヒカルの上半身を、真理奈が優しく抱きしめた。
豊満な胸の谷間がシャツ越しに自分の顔に押しつけられ、息が苦しくなる。
うめくヒカルの頭を撫でて、真理奈が囁いた。
「まあ、しょうがないわ。こうなるってわからなかったんでしょ?
 ならしょうがないじゃない。知らなかったんだから。
 今はそれよりも、これからどうすればいいのか、しっかりと考えなさい」
ヒカルが今まで聞いたことのない、慈愛に満ちた声だった。
真理奈の台詞が耳から頭に、さらに体全体に染み渡っていき、ヒカルは泣き出した。
「う、ううっ。セ、センパイ、センパイぃっ……!」
真理奈の着ている白いシャツを涙と鼻水で汚しながら、
ヒカルは自分の涙が枯れるまで、真理奈と抱き合った。とにかく、ただ泣いていたかった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 
552水野兄妹観察日記・終(4/12) ◆cW8I9jdrzY :2010/03/02(火) 19:05:28 ID:wJKzMop+
外から帰ってくると、啓一の体はすっかり冷えてしまっていた。
暖房の効いたリビングで身を小さくしながら、淹れたてのコーヒーで体を温める。
啓一の顔に湯気がかかり、大きなくしゃみが出た。横で恵が笑った。
「ふふっ。それにしても外、寒かったね」
「ああ。やっぱり晩飯、作ればよかったかな。その方が安上がりだし」
啓一は鼻と口元をティッシュで拭いて、そう言った。
夕食はわざわざ外に食べに行ったのだが、こうも寒いと自炊した方がよかった気もする。
恵はコーヒーを一口すすり、甘露に顔をほころばせた。
「まあまあ。美味しかったんだからいいじゃない」
「まあな」
カップをテーブルに置いて、啓一はソファにもたれかかった。
柔らかいクッションが冷たい体に心地よい。
普段は何事もきびきび動く啓一だが、時おりこのように
何もしない怠惰なひとときが、無性に欲しくなることがあった。
だらだらと弛緩した空気に包まれた体が、休息を求めてストライキを起こす。
隣では恵も同様に脱力して、ソファに体重を預けていた。

今、家にいるのは啓一と恵だけで、両親の姿はどこにもない。
二人はこの週末を利用して、一泊二日の旅行に出かけていた。
特に母はここ最近、姑の世話や不仲な親戚とのつき合いでストレスがたまっていたらしく、
今回の温泉旅行で久々に息抜きができると、ずっと楽しみにしていた。
両親としては当然、子供たちも連れて行くつもりだったのだが、
啓一と恵は試験前なのを理由に留守番することにした。父も母も残念がったが、
結局は信頼する息子と娘の意思を尊重し、夫婦水入らずで出かけていった。
平凡な両親ではあるが、啓一は二人のことを尊敬している。
ぜひともゆっくりと温泉に浸かって、美味いものを食べて、楽しんできてほしいと思う。
もちろんその間、こっちはこっちで好き勝手をさせてもらうつもりでいた。
たとえ敬愛する両親であっても、その親の目から離れて自分たちだけで過ごす
自由な一夜というのは、やはり思春期の啓一にとっては、甚だ魅力的なのだ。

「ところでどうする。寒いし、風呂でも沸かすか?」
その言葉に、恵は普段ほとんど人に見せない、悪戯っぽい瞳で啓一を見返した。
何をくだらないことを訊いているのかと、咎めているかのようにも見えた。
「そうだね、寒いね。じゃあくっつこうよ」
そう言って、飛びかかるように勢いよく、啓一に抱きつく。
二つの体がソファの背もたれに寄りかかって、きつく密着した。
どちらも黒い服を身につけているため、こうして触れ合うと
恵のワンピースと啓一のセーターの境界が溶けて消えてしまいそうになる。
ワンピースの下の部分はプリーツスカートになっていて、
その裾がひらひら揺れて啓一を挑発した。
「啓一、抱っこして」
「おいおい、またか?」
胸の膨らみを押しつけて命令してくる恵に、啓一は苦笑しつつもうなずいた。
脚と背中に手を回し、横抱きに持ち上げると、
恵も無言で腕を伸ばして啓一にひしと抱きついてきた。
結婚式の新郎新婦を思わせる姿勢で二人の顔が近づき、唇を合わせる。
恵の唇にはかすかに砂糖の混ざったコーヒーの味と匂いが染みついていた。
舌は入れずに繋げた口を蠢かし、肉をついばみ合う。
恵の瞳が、ほのかに赤い情熱の色を帯び始めた。
553水野兄妹観察日記・終(5/12) ◆cW8I9jdrzY :2010/03/02(火) 19:05:58 ID:wJKzMop+
啓一の吐息と鼻息を吸い込み、恵はうっとりして言った。
「はふっ、啓一ぃ――もっと、もっとしてよう……」
「いやー、これ結構重いんだけどな」
「重くないっ!」
怒った声でそう言うと、啓一の肩にぶら下がって更なる接吻を求めてくる。
軽口を叩いたものの、彼も恵の唇を吸いたくてたまらなかった。
恵の薄い唇は二人分の唾液に濡れて光り、艶やかな姿を晒している。
貪るようにその口唇にかぶりつく。
恵もすぐに舌を絡め、啓一の口内を荒々しくねぶってきた。
唾液が絡み、室内にくちゅくちゅと淫らな音が響いた。
「ん、んっ、んんっ。んふぅっ」
啓一の歯に舌先を擦りつけながら、ぎゅっとしがみついてくる。
啓一も恵の体を強く握って、入ってくる舌を口をすぼめてしごき上げた。
何かに操られているかのように、一心不乱に恵の肉を賞味した。
体温以上に温まっているはずがないのに、唾が熱いのが不思議だった。

名残惜しくも、先に離れたのは啓一の方だ。
自分の口から恵に向かって細い筋が伸びて、ぷつんと切れるのがわかった。
それが何とも切なくて、手で恵の顔を優しく撫でる。
お互い口づけの甘美な余韻に酔いしれ、何も言うことができなかった。
たっぷり時間を置いた後で、恵がやっと口を開く。
「ふう、けーいちぃ……」
幸福の吐息を漏らす恵の唇から一滴の唾が垂れていくのを、啓一は見逃さなかった。
もう一度、恵の体を引き寄せて、濡れた口元をぺろりと舐める。
シロップのような甘みが口の中に広がった。
「んあ――ふあっ、あふっ」
たった今キスを終えたばかりだというのに、恵の肉を舐めたくて仕方がない。
啓一は恵の半開きの唇を、執拗にしゃぶり続けた。
その下品な仕草に恵は視線で抗議したが、その一方では
彼の舌の感触が気持ちよくて、意識せず己の身をくねらせた。
幼児のように無邪気な戯れにふけりつつも、二人の表情は
子供ではありえないほど、邪で淫猥な色に染まっていた。

「もう、啓一ってば……」
「ははっ、そう言うな。気持ちいいだろ?」
たっぷりと恵の唇に自らの唾液を塗りたくると、次は空いた片手を
恵の胸元に伸ばして、布地の上から乳房を撫で回す。
丸い膨らみを下から支えるように、ぐにぐにと揉みしだいた。
恵は潤んだ目を心地よさげに細めて、より一層の愛撫を求めた。
「け、啓一……服の上からじゃなくて、ちゃんと触って……」
「まったく、エッチなやつだな」啓一がにやりと笑う。
「ば、馬鹿にしないでよ。エッチなのはそっちも同じでしょ?」
「はいはい、そうですねっと」
啓一は恵から、一気にワンピースを剥ぎ取った。
下着やストッキングも残らず脱がせて、しわにならないよう部屋の隅に置いておく。
真新しいタオルをソファに敷いて、汚れないように気を遣う辺りは、
いかにも真面目で潔癖なこの二人らしいと言えるかもしれない。
もっとも、本当に潔癖だったら、実の兄妹でこのような振る舞いには及ばないだろうが。
白い恵の肌が全て露になったが、暖房が効いていたことと
体が火照り始めていたこともあり、寒さはあまり感じていないようだった。
それでも、つんと先端の勃起した生の乳房に啓一が触れると、
「あっ」と小さくつぶやいて、体をぶるぶる震わせた。
尻に触れば腰が揺れ、背中に触れれば背筋が跳ねる。とても敏感だ。
啓一はそんな双子の妹が、自分の半身がとても可愛らしく思えてしまい、
恵が求めるままに乳を揉み、首筋に舌を這わせた。
「んあっ、ああ――啓一、啓一ぃっ」
恵の顔に脂汗が浮かび、艶のある黒髪を湿らせた。
頬を舐めるとかすかに塩味がする。啓一は夢中でそれを味わった。
554水野兄妹観察日記・終(6/12) ◆cW8I9jdrzY :2010/03/02(火) 19:06:41 ID:wJKzMop+
啓一のジーンズには、はた目にもわかるほどはっきりとした盛り上がりが
形づくられていて、布地にきつく圧迫されていた。
その勃起が膝の上にいる恵の尻に当たり、硬い感触を与える。
啓一は、恵の耳たぶを軽く噛んで囁いた。
「恵……俺のも、頼む」
「うん、わかった」
恵はソファから下り、しゃがみ込んで啓一の下半身に覆いかぶさった。
太ももの内側に顔を寄せ、いきり立った兄の股間を何度も愛しげに撫で回す。
細い指が布越しに触れるたび、啓一のものは興奮で痙攣した。
散々焦らしながら時間をかけてファスナーを開くと、
下着の中から、反り返った肉の棒が黒い顔をのぞかせた。
指でくにくにと幹を挟み、皮の剥けた亀頭に口づける。
我慢の跡を示すように滴った卑しい汁が、恵の唇を汚した。
「結構かわいいよね、啓一のおちんちん。毛、剃っちゃおうか」
悪戯好きの子供みたいに恵が笑うと、啓一が冷たい声で返した。
「お前のもツルツルにしていいんだったら、いいぞ」
「んー……じゃあ、やっぱやめとこ」
「ほら見ろ。思いつきで変なこと言うんじゃない」細い目で恵を見下ろす。
「えー、だってぇ」
「いいから、早くしてくれよ」
啓一はかけ合いを中断し、恵に速やかな奉仕を要求した。
今までもかなり我慢を強いられており、早く慰めてほしかったのだ。
口を尖らせながらも、恵も満更ではない表情で啓一のものを握りしめた。

左の手のひらに袋を載せ、右手の指でぐっと陰茎をつかむ。
いつものリズムに合わせて、亀頭を親指の腹でしゅっ、しゅっと擦ると、
すぐに先端の粘液は量と濃さとを増していった。
「ああ……やっぱりいいな、それ」恵の髪を撫でて、啓一が満足げに言った。
「当ったり前でしょ。今さら何を言ってるんだか」
どこをどのように刺激してほしいか、啓一の嗜好も性感帯も、恵は全て理解している。
何しろ、初めて二人がこの行為を始めたのは、中学校に入ったばかりの頃だ。
あれから数年が経過し、啓一の体は凛々しくたくましく成長したが、
こうして恵の手で責められ、嬉しがる姿は、その頃とまるで変わっていなかった。
そんな啓一の顔を見上げて手元の男性器をいじくる恵も、実に満足そうだった。
「お、うおっ……」
「どう? 指だけでイっちゃいそうでしょ。先に一回、出しとこっか」
亀頭を強く握ると、指の隙間から泡立った汁がにじみ出た。
一度、手を離して指を広げる。糸を引く様子が卵白を思わせた。
恵は妖艶な笑みを浮かべ、手についた汚濁を舐めとった。
唾液と粘液にまみれた唇が、光を反射して輝いた。
興奮のあまり、このままこいつの顔にぶっかけてしまおうかと啓一が考えていると、
急に恵が濡れた手を伸ばして、男根の根元をきつく圧迫してきた。

「つっ! お、お前――」
男の一番弱い部分をこうして締めつけられるのは、かなり苦しい。
恵はうめく啓一を見上げ、叱りつけた。
「こら、変なこと考えないでよ。目に入ったら後が大変なんだからね」
「い、いやー、ついつい……。あーあ、やっぱお前には隠し事できないな」
「当たり前でしょ、あなたは私の半分なんだから。
 何だったら、そっちの体と替わってあげようか? 最近交代してないでしょ」
握りしめた指を緩めて、恵が訊ねた。啓一は首を横に振った。
「いや、いい。それにこないだ替わってやっただろ。ヒカルちゃんのときに」
「ああ、そういえばそうだったわね」恵はわざとらしくつぶやいた。
「それにしてもヒカルちゃん、どうしてるんだろうな。心配だ」
啓一は憂いを帯びた顔で言った。
555水野兄妹観察日記・終(7/12) ◆cW8I9jdrzY :2010/03/02(火) 19:07:17 ID:wJKzMop+
あの日から、ヒカルとは顔を合わせていない。
真理奈から聞いたところによると、啓一に振られた翌日、ヒカルは学校を休んだらしい。
次の日からはきちんと出席して、少なくとも表面上は以前と変わらない様子でいるそうだが、
彼女が昼食時や放課後に啓一のところにやってくることは決してなかった。
そのため、あの元気一杯の声を聞くこともなくなって、
ヒカルがいないだけで自分の周りがこんなに静かになるものかと、
啓一は改めて思い知らされることになった。
出会ってからまだひと月にも満たないが、そのわずかな間に
彼女は啓一が思っている以上に大きな存在になっていたのかもしれない。
あのような形で拒絶したとはいえ、ヒカルのことは今でも決して嫌いではなかった。
今どき珍しいほど素直で明るく、表情豊かで、一緒にいると心が和む。
できることなら友人として末永くつき合っていきたかったが、
彼女の方は啓一ともっと深い関係になることを望んでいた。
そしてそれを、啓一は受け入れることができなかった。
やはり、ああするしかなかったと思う。
一途ゆえに思い込みの激しいヒカルは、生半可なことでは引き下がらなかっただろう。
結果としてヒカルには辛い仕打ちになったが、何とかその挫折を乗り越えて
再び笑えるようになってほしい。啓一はそう思っていた。
恵も啓一の心情を察して、陰茎をいじりながら同意した。
「そうね。ヒカルちゃん、早く立ち直ってくれたらいいんだけど」
ぬめった肉棒の表面を舐めあげて、そう言った。
「ヒカルちゃんのことは好きだけど、私はフラれちゃったから。残念だわ」
「よく言うよ。嫌がられるのわかってたくせに」
「それは言わないお約束、でしょ? 仕方ないよ」
恵はそこでヒカルの話題を打ち切り、奉仕を再開した。

一度、二度と尿道口にキスをし、肉棒の先を旨そうに口に含む。
食事の際にも少ししか開かない恵の口が、啓一の性器をくわえるために
一生懸命に唇を引っ張り、汚らわしい肉の塊を飲み込んでいった。
まだ風呂に入っておらず、きっと汗と小便の味がするはずだ。臭いもだ。
いくら啓一のように爽やかな男であっても、年頃の牡に特有の悪臭は隠せない。
その一物にふんふん言ってしゃぶりつき、舌で垢をこそげ取る恵は
きっと重度の変態なのだろう。啓一はそう思ったが、嫌悪の情は欠片もなかった。
恵が変態なら、啓一も変態だ。変態な恵がこれ以上なく愛しい。
二人がヒカルに語った話の中で、唯一、事実と違う点があるとすれば、
それは「恵が啓一を支配している」ということだろう。
啓一に言わせれば、自分も恵も元々一つだった人格が分かれたものであって、
右手と左手のように多少の機能差はあれど、そこに優劣はない。
したがって、本来なら二つの肉体の間に愛情が芽生えるはずはなかったのだが、
ちょっとした手違いでこうなってしまった。後悔はしていないが、後ろめたさはある。
思えば二人分の心が繋がって生まれてきたときから、ずっとこうして悩んでいた気がする。
精神の奇形児。啓一は自分のことをそう思って生きてきたし、
先日、真相を知ったヒカルの反応を見ても、概ねその評価は正しいように思えた。
恵の長い黒髪をさわさわ撫でつつ、そんなことを考えていると、
口淫にふける恵が、舌先で尿道を攻めながら啓一を見上げてきた。
何か言いたげだが、この状況では喋れるはずもない。
だが二人の間では、いちいち言葉を交わさずとも、ただ思うだけで意思が伝わる。
啓一は恵の髪の手触りを楽しみ、小さくうなずき返した。
「ん、サンキュ。じゃあ、続き頼む」
恵は何も言わず、舌先と唇の淫らな動きで答えた。
556水野兄妹観察日記・終(8/12) ◆cW8I9jdrzY :2010/03/02(火) 19:08:08 ID:wJKzMop+
ちゅぱちゅぱと下品な音をかき鳴らし、恵の口内で唾液と我慢汁とが混ざり合った。
唇が蠢き皮を引っ張る。舌が跳ねて亀頭を擦る。
絶妙の挟み具合で先端をくわえ、頭を上下させる恵の巧みなテクニックに、
啓一はいつしか爆発寸前にまで追い詰められていた。
「そろそろ、だな……」
間近に迫った射精の欲求に、緊張した声を出す。
恵もそれを熟知しており、ここぞとばかりに技を駆使してとどめを刺しにきた。
凄まじい勢いで肉棒を吸い上げられ、全てを持っていかれそうになる。
「う、恵っ……!」
震える声と共に、啓一は恵に向けて精を解き放った。
張った睾丸から待ちに待った子種が迸り、尿道を通過して口内に噴き出した。
「んんっ、んっ……!」
本来ならば胎内の卵子と結合すべきはずの精子の群れが、
愛液ではなく唾液と混ざって、恵の口いっぱいに広がった。
啓一も陰茎に絡みつく熱い白濁の感触を感じていた。
ねとねと糸を引く感触が、回を重ねるごとに中毒性を帯びていくような気がした。
「ん、んん……んくっ」
舌の上で転がしながら、恵は精液を少しずつ嚥下していく。
射精した分を飲み終わると、もう一度啓一のを口に含んで、
尿道に残った精をすすって綺麗にしてくれた。まさに至れり尽くせりだ。

啓一は、無事に奉仕を終えた恵の頭を優しく撫でてやった。
「出してもよかったのに。気持ち悪いだろ?」
「ううん、別にいい。ちょっと癖になっちゃったかも」
最近は飲み込むのにも抵抗を感じなくなって、残らず飲み下すのが習慣になっていた。
美容にいいというのは根も葉もないデマだろうが、少なくとも毒ではない。
「変態だな」恵の髪に指を絡ませて、啓一が言う。
「そうだね、変態だね。でも変態なのが好きなんでしょ?」
「そうだな、その通り。俺も変態だ」
二人でひとしきり笑った後、今度は恵がソファに座り、脚を大きく開いて啓一を誘った。
「じゃあ、もっかい交代ね。よろしくっ」
「OK、わかった」
啓一は、電灯にくまなく照らされた恵の陰部に鼻を近づけた。
散々見慣れた肉びらは、朝の草花のようにしっとりと濡れていた。
指で入り口を軽く開くと、濃厚な雌の臭いが立ち込めて、思わず唾を飲んでしまう。
そのまましばらく、視覚と嗅覚を駆使して観察を続けていると、
恵が羞恥と欲求不満に顔を赤らめて、弱々しい抗議の声をあげた。
「ちょ、ちょっと啓一、焦らさないでよ……」
「ああ、すまんすまん」
悪びれず言い、舌を伸ばして秘所の中に突き入れた。
濡れた膣の中を擦りながら侵入してくる肉の塊の感触に、恵の背筋が反り返った。
「んあっ、ううんっ」へたり込んだ恵の腰が、ガクガクと震えた。
557水野兄妹観察日記・終(9/12) ◆cW8I9jdrzY :2010/03/02(火) 19:08:43 ID:wJKzMop+
次は一度舌を引き抜き、膣口を嬲るように舐め始める。
恥丘に舌を這わせながら、「やっぱりここ、ツルツルに剃っちまうか」と
言って笑うと、恵は顔じゅう真っ赤にして嫌がった。
その仕草がたまらなく可愛くて、もっともっと愛情を注ぎ込みたくなる。
啓一は陰唇と言わず膣内と言わず、指と舌の届く範囲で、恵のあらゆる場所を責めたてた。
肉壷の中に一本、二本と指を差し入れては滴る蜜の音に聞き入り、
立ち上がった陰核を舌先でつんつん突いては皮を撫でる。
恵は啓一が動くたびに、「あふ、あふっ」と
声と息との中間のようなうめきを発して、彼を喜ばせた。
「声出しすぎ。もうちょっと我慢しろよ」
「あっ、ああ、んああっ」その返事も獣の鳴き声にしかならない。
とろとろ溢れてきた愛液が重力に引かれ、タオルの上にゆっくりと滴り落ちた。
恵の体が分泌するいやらしい蜜をもっと味わおうと、陰唇を唇で包んで吸い上げると、
じゅるじゅると生々しい音が響き、恵の息が引きつった。
「ひあっ! す、吸っちゃ――あ、ああっ」
ひっく、ひっくと泥酔したかのような声が示す通り、恵は酔っていた。
愛する男に醜態をさらけ出し、淫らな仕打ちを受けて沸きあがる興奮に酔いしれていた。
長い黒髪が汗ばんで、頬や乳房に張りつく。快感が全身に駆け巡った。

恵はそうして、一気に絶頂までのぼりつめた。
股間の欲望を必死で抑えつけながら、啓一は彼女の陰核を口に含み、散々に痛めつけた。
あまりの刺激に、恵の白い臀部が激しく跳ねてソファを揺らした。
「ああ、ひあっ! あ、ああん――ああ、ああっ」
声にならない声をあげ、何度も痙攣を繰り返す姿が滑稽でさえある。
敷いたタオルと啓一の顔は、共にべとべとになっていた。恵から漏れ出た水分だった。
汚れた恵の肌と陰部を拭きながら、笑って訊いた。
「なかなか派手にイったな。大丈夫か?」
「う、うん、だいじょぶ……」媚びた声が返事をする。
心地よい絶頂の余韻が、恵の身を温かく包み込んでいた。どこにも力が入らないようだ。
啓一は恵の隣に移動すると、火照った裸体をいとおしげにかき抱いた。
恵の頬を犬のようにぺろぺろ舐めて、汗の味を確かめる。
「あっ、け、啓一ぃ――やあっ」
くすぐったさに身をよじるも、絶頂を迎えて脱力した体では、思うように抵抗できない。
さながら玩具のような扱いだったが、恵の表情には不思議な安らぎが満ちていた。

啓一はたくましい腕で、細い恵の体を抱え込んだ。
後ろから抱きしめて耳たぶを数回噛み、恵の鳴き声を楽しむ。
「恵……そろそろ、いいよな」
その言葉が意味するところは、これ以上ないほどに明確だった。
ここまでくれば口に出す必要もないというのに、
啓一はあえて恵の羞恥心を煽るために、わざわざ耳元で問いかけたのだ。
恵の思考は霧がかかったように鈍くなっていて、ただうなずくことしかできない。
「うん、いいよ……入れて……」
快楽にとろけて、猫なで声で啓一を誘ってきた。
今、尻に当てている猛々しい雄の象徴を、心ゆくまで味わわせてやれる。
恵の体の奥で子宮がきゅうっと引き締まったのが、啓一にもわかった。
啓一も彼女と同様、既に忍耐の限界だった。
こちらに背を向ける恵の体を力任せに担ぎ上げて、大きく両脚を開かせた。
開いた腿を宙に浮かせ、丸見えの股間を自らの肉棒の上に持ってくると、
よだれを垂らした膣口が我慢できずに、ひくひく蠢いた。
「んっ……啓一、今日はこの格好で、するの?」恵は恥辱を隠せない。
「ほら、ちゃんと俺のを握って。ちょっとずつ下ろすから、自分で入れるんだ」
「うん、わかった……」
自分の体を啓一に預けたまま、恵は眼下の男性器を見下ろした。
腹に当たりそうなくらいに反り返ったそれの表面には太い血管が浮き立ち、
おそるおそる手で触れた恵に息を呑ませるほど、凶悪な姿を晒している。
558水野兄妹観察日記・終(10/12) ◆cW8I9jdrzY :2010/03/02(火) 19:09:30 ID:wJKzMop+
恵は啓一の陰茎を押さえて、己の入り口にあてがった。
そのままゆっくり慎重に下ろしてもらうはずが、
亀頭の埋まった瞬間、気持ちよさにうっかり啓一の力が抜けてしまい、
恵の体は重力に従って勢いよく、一気に彼の上にのしかかった。
「あ――あああっ !?」
悲鳴があがった。演技でも何でもない、真の悲鳴だった。
全体重をかけて貫かれた性器がのた打ち回り、急いで追加の愛液を分泌する。
いきなりの衝撃に、恵の息が止まった。とても苦しそうだった。
ところが恵を串刺しにした肉棒は、彼女の苦痛を糧にしてますますいきり立った。
なおも膨張する陰茎に膣内をめりめりと押し広げられ、恵の目から涙が溢れ出した。
啓一は慌てて謝った。
「す、すまん。手が滑った。てか俺も痛い……」
「バカぁっ! 啓一のバカ、バカバカっ!」
恵は身をよじって啓一のものから逃れようとしたが、力がろくに入らない今、
深々と挿入された男根がそれしきで抜けるはずもない。
それどころか結合部に要らぬ力をかけてしまい、恵はますます顔を歪めることになった。
「うう、もっとゆっくり入れてよ……啓一のバカぁ……」
「いやー、慣れない姿勢でするもんじゃないな。
 とりあえずちょっとの間じっとしとくから、痛くなくなったら適当に動いてくれ」
啓一はそう言って片手を恵の腿から外し、いたわるように背中を撫でた。
全く関係のない場所だったが、それでほんの少しだけ、恵の機嫌が良くなった。

啓一は首を前に伸ばし、恵の体を見下ろした。
表面に汗の浮き出た二つの乳房は、大きくも整った形をしていて、
硬く尖った先端がつんと上向いている。
白く滑らかな腹の下に、啓一のをくわえ込んだ浅ましい陰唇が、はっきりと見て取れた。
肉の塊をみっちりと埋め込まれて膨らんだ姿は、獲物を飲み込んだ蛇のようだ。
ぱっくり自分の形に口を開けた陰部から、卑しい汁がとろとろタオルの上に
こぼれていくさまを見て、何とも言えない嬉しさがこみ上げてきた。
「どうだ。そろそろいけるか?」
「あ……。う、うん、動くね……」
恵はうなずいて、彼の上でおずおずと体を上下に揺らし始めた。

「ん、んん……ん、くっ。ああっ」
声を出すつもりはないのだろうが、唇の隙間から自然とうめき声が漏れてしまっている。
何せ、背後から伸びた啓一の手に乳房や股間をいじられながら、
自分から腰を振って、じんじん痺れた陰部を硬い肉棒にえぐらせているのだ。
快感と興奮とが声になって口から出てくるのも、至極当然と言えた。
啓一は恵の背中にかかった髪をかき分け、淡い肌に舌を這わせた。
「恵、興奮してるだろ。中がきつくなったぞ」
「やだぁ、そんなこと言っちゃ……」恵は羞恥に自分の顔を覆った。
「遠慮しなくていいから、もっとおかしくなってもいいんだぞ?」
笑って、下から腰を小刻みに突き上げる。
腰の動きに合わせて中に埋まった肉棒が上下し、
恵の愛液を潤滑油にして、膣の内部を激しく摩擦した。
壁を擦る卑しい音と、汁が泡立つ淫らな響きが、二人の鼓膜を無作法に叩いた。
「やあっ、あっ、んんっ、ああんっ」
まぐわいの音を伴奏にして、恵が歌う。口と性器で奏でる淫らな楽曲だった。
「あー、やっべ……気持ちいい」
一切気取るところのない本音が、啓一の口から漏れた。
本能からの欲求が満たされつつあるときに発する、歓喜の声だった。
559水野兄妹観察日記・終(11/12) ◆cW8I9jdrzY :2010/03/02(火) 19:09:54 ID:wJKzMop+
「んっ、んひっ、ま、まだ……イっちゃ、ダメだからねっ」
恵が息も絶え絶えの声で、そう口にする。
同時に絶頂にのぼりつめたいのだろう。恵らしい考えだった。
「はいはい。お前の方こそ、先にイクんじゃねーぞ」
啓一は恵の尻をつかみ、繋げた部分をぐりぐりこね回した。
汁でびちょびちょの膣内をかき回されて、恵の嬌声があがる。
「いやあ……それ、ダメだよぉっ」
やめたらすごく嫌がる癖に、何がダメなのだろうか――。
啓一はそう思いながら、意地悪な悪童の表情を浮かべて、恵を苛んだ。
感度の高い体はあちこちがぷるぷる震えて、今にも壊れてしまいそうだった。
肉欲に支配されている恵の淫乱ぶりが、どうしようもなく可愛い。

恵は唇の端からよだれを垂らし、虚ろな目でよがり続けた。
啓一に持ち上げられた尻がまた彼の上に落下し、
抜けかけた肉棒が奥の奥まで突き込まれるたびに涙を流して、
「あひっ、あひぃっ」と引きつった声で泣き喚いた。
陰茎に汁の絡む音がじゅぽじゅぽと響き、啓一の嗜虐心をかきたてる。
この女をもっと責めたい、もっと鳴かせたいという欲求に突き動かされ、
恵の大事な部分を何度も何度も往復した。
一突きごとに膣の肉がきゅうきゅう締まり、彼に射精を促してくる。
まるで女性器そのものが、早くいかせてくれと絶叫しているかのようだ。
啓一もまた、間近に迫りくる絶頂の予感をひしひしと感じていた。
パンパンに膨れ上がった睾丸の内部で、
数億の精子が発射の瞬間を今か今かと待ちわびている。
少し気を抜くだけで、この衝動は恵を孕ませるために襲いかかるだろう。
だが、恵より先に達してしまうわけにはいかない。これは男の意地だ。
啓一は射精の誘惑の中で尿道を引き締め、遮二無二耐えた。
「あ、けっ、けい、啓一ぃっ」恵が彼の名を呼んだ。
相棒に自分の名前を呼ばれる。この当たり前のことが、とても嬉しかった。

もはや恵は自分が何をやっているのかもわからないのか、無意識に腰を振っていた。
いつも清楚な表情は淫蕩な色に染まり、肌も髪も汗と体液で汚れ、べとついている。
勝手に手が動いて自らの乳首や陰核を必死で慰めるさまは、まさに痴女そのものだ。
そうして何十度目かの上下運動を終えたとき、恵の体が大きく跳ねた。
「はっ、はあっ、はんっ! はひ、はひぃっ!」
海老のように反り返って奇声を発し、壮絶な絶頂を迎える。
膣内が精を求めて収縮したその瞬間、啓一も己を解き放っていた。
「うあっ、出る……!」
ようやく開放された尿道口から、白い濃汁が灼熱のうねりとなって噴き出した。
射精の音がびゅるびゅると聞こえてきそうなほどの勢いだった。
長い間焦らされた精子の群れが、たった一つの卵子を求め、膣の内部に染み渡る。
恵の子宮が狂喜のあまり痙攣しているのが、啓一にもはっきりわかった。
「はあっ、はあ――うんっ、あああ……」
恵の腹の底から出てくる、とろけるように甘い吐息が心地よい。
二度の射精を終えて小さくなった陰茎が結合部に隙間を作り、
そこから肉壷を満たしていた二人分の濃汁が、音もなく溢れ出てきた。
「あ、垂れてきた」
間の抜けた啓一の声に、恵は笑ったようだった。
繋げた体が離れるまでのわずかな時間、啓一は恵と一緒にいられる幸せを噛み締めていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 
560水野兄妹観察日記・終(12/12) ◆cW8I9jdrzY :2010/03/02(火) 19:10:25 ID:wJKzMop+
週明けの放課後、啓一が部活に行こうとすると、廊下でヒカルに出くわした。
「あ、啓一センパイ。こんにちは」
ヒカルは何でもない様子で挨拶してきたが、啓一は激しく動揺した。
もっと早く気づいていれば逃げることもできただろうが、
こうして声をかけられてしまった以上、あからさまに無視するわけにもいかない。
おそるおそる返事をして、何気ない言葉を二つ三つ交わしたとき、
ヒカルが改まった口調で言った。
「啓一センパイ、すいませんでした」
「え?」
なぜヒカルが謝るのかわからずにいると、彼女は真っ直ぐ啓一の目を見て言った。
「あたし、センパイのこと、全然わかってませんでした。
 センパイの気持ちとか、センパイの事情とか、全然考えずに
 一方的に自分の気持ちを押しつけてました。ホントにごめんなさい」
「い、いや、そんなことは……」
「あれからあたしも色々あって、今は楽しくやってます。
 もうセンパイにつき合ってくれなんて、言いませんから」
ヒカルはふっ切れた表情をしていた。
明るい雰囲気を取り戻した、ヒカルらしい快活な笑顔だった。

どうやら、ヒカルは失恋の痛手から立ち直ってくれたようだ。
啓一はできるだけ自分を落ち着けて、穏やかに言った。
「そっか、わかったよ。こないだはあんなこと言ってごめんね、ヒカルちゃん」
「いいえ。こちらこそ迷惑かけて、すいませんでした。
 恵センパイにも、ごめんなさいって言っといて下さい」
「うん。よかったら、またいつでも遊びに来てね」
ヒカルと顔を見合わせ、笑う。やっぱりこの子は笑顔が似合うと思った。
ヒカルはそんな啓一を見上げて、軽く首をかしげてみせた。
「でも、今でもあたし、よくわかんないんですよ。啓一センパイと恵センパイのこと。
 こないだのあれはセンパイの演技だったんですか?
 それとも二人の中身が入れ替わっちゃったとか?
 ねえ、啓一センパイ。いったいセンパイはどういう人なんですか?」
啓一はその質問に、困った顔を浮かべた。
「うーん……。説明するのが難しいけど、俺は俺だよ。それで納得してくれないかな?」
「そうですか。よくわかりませんけど、納得したってことにしときます」
ヒカルは笑ってうなずいた。
おそらく、ヒカルにもヒカルなりの悩みや葛藤があったのだろう。
だが今の笑顔はそれを感じさせない、とても爽やかなものだった。
「それじゃあセンパイ、さようなら。部活、頑張って下さいね」
そして頭をぺこりと下げて、ヒカルは颯爽と去っていった。

「ごめんね、ヒカルちゃん。あと、ありがとう」
ヒカルの後ろ姿を見て、そうつぶやいた。これで終わったのだと実感した。
おそらく、これからもヒカルとはたびたび顔を合わせるだろう。
だが、もうあの子を泣かせることは決してないはずだ。
啓一は疲労と安堵の入り混じった表情で、
一つの騒動が無事に終わったことを心の底から感謝していた。
561 ◆cW8I9jdrzY :2010/03/02(火) 19:12:43 ID:wJKzMop+
以上となります。今回で終わりです。
おつき合い下さいまして、ありがとうございました。
それではこれにて、失礼します。
562名無しさん@ピンキー:2010/03/02(火) 19:21:56 ID:mb8EfUCq
乙ですー
キモウトというより……キモ兄妹? でしたね
妹に支配される兄……ゴクリ
563鯖復旧オメ:2010/03/02(火) 19:50:19 ID:nba6BJPx
GJ
564名無しさん@ピンキー:2010/03/02(火) 21:35:09 ID:VfIJJbXj
おまえら攻撃されてる間元気だった?
565名無しさん@ピンキー:2010/03/02(火) 22:13:47 ID:CuaXGImn
GJ
今回のも面白くエロイ内容でした
566名無しさん@ピンキー:2010/03/02(火) 23:31:36 ID:p5k20gvh
した 高い
567 ◆6AvI.Mne7c :2010/03/03(水) 06:35:18 ID:hFaN6x5O
>>561
GJ&長編完結おつかれさまでした。
 
最近書けてなかったし、なんとなく久しぶりに投下してみる。
タイトルは「Super dreadnaught class an unpleasant……」。姉弟ものでだいたい13KB。
キモさ満点の姉を目指したはずが、だいぶ滑ったような気がしなくもない。
 
次レスより投下。投下終了宣言あり。5レス借ります。
568謝罪文  ◆6AvI.Mne7c :2010/03/03(水) 06:43:07 ID:hFaN6x5O
上レスにて投下宣言をしたのですが、タイトル長すぎエラーを食らいました。

文章をいじり直す時間がないので、また夜にでも修正して投下いたします。
まことに申し訳ありませんでした。


どうしてこうなった……?
569名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 07:15:50 ID:Y5oy20Aw
謝罪文 って題名かと思ったぜ
570名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 08:49:07 ID:L1mq8VPi
キモウトから原稿用紙20枚分くらいの謝罪文もらいたい
571名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 12:26:04 ID:dw4Wxkr+
>>570
原稿用紙20枚分の恋文とな?
572名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 12:40:03 ID:gFhtJgxG
GJ
完結お疲れ様
エロくて独創的で面白かった
573名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 13:09:59 ID:2+BqIS3K
むしろキモウトに原稿用紙20枚分の謝罪文を書かされる
○月×日
私は可愛い妹というものがありながらエッチな本を購入してしまいました
○月□日
私は可愛い妹というものがありながらクラスの女子とメルアド交換をしてしまいました
574名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 16:33:01 ID:+hlce2nV
>>573
それはキモくない
怖い妹だからコワウトだ
575名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 16:59:28 ID:RWhv3F0M
キモウトの場合は…
えっちな本の写真が全部妹の顔に貼り代えられたり、交換したメルアドは
なぜか通じなくなったりするのですね。
576名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 17:14:04 ID:rTzrdzLg
>>575

えっちな本の写真を全部自分の顔に貼り代えたり
兄の携帯に登録されているメルアドを
全て自分のアドレスに変更する


そんな白鳳似の妹はキモウトですか?
577名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 17:58:13 ID:L2vy6d0s
臭い
578名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 22:34:20 ID:qaMGqw11
私が兄に惚れたのは中学生一年になってからだった。それまでは普通の妹として生活してた・・・はず。
惚れたきっかけは学校の帰り道、不審者に襲われそうになった時兄が助けてくれた。いつもはエロゲとかばっかやってて、ただのオタク野郎としか思ってなかったけど、私を助けてくれた時のあの姿・・・・カッコ良くて、たくましい姿に惚れた。
それ以降はアピールしまくったし、ダイエットもした。デブとか言われた小学生時代からの男達は急に優しくなり告白された。もちろん断った。
でも兄から襲ってくれない。兄が持ってるエロゲの妹達を参考に、理想の妹になったのに。
だから今日私は兄に告白する。エロゲのヤンデレ妹みたいに襲うかもしれないけど良いよね?
私の気持ち受けとめてね。お兄ちゃん♪
579名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 23:20:33 ID:+hlce2nV
実際、小学生時代にデブだった妹が中学高校になっていきなりかわいくなっても、『あー、そうゆうトシゴロなんだなー』くらいにしか思わないよね。
580名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 23:45:30 ID:hQG0BeEa
遺伝子的に考えて
妹が可愛ければ、自分もそこそこイケメンのはずだから
彼女とかできて自然と外に目が向くはず
581Lv-"D", unpleasant…… (0/5) ◆6AvI.Mne7c :2010/03/04(木) 00:16:25 ID:2RZQKwWp
 
今朝はこちらの不手際で、ご迷惑おかけしました。
今度は大幅にタイトルを削ったので、たぶん大丈夫です。
 
というわけで、今度こそ投下。
タイトルは「Lv-"D", unpleasant……」。姉弟もので大体13KB。
 
次レスより投下。投下終了宣言あり。5レス借ります。
582Lv-"D", unpleasant…… (1/5) ◆6AvI.Mne7c :2010/03/04(木) 00:19:27 ID:2RZQKwWp
 
 朝目を覚ますと、今日も掛け布団が盛り上がっていた。
 いつものこととはいえ、うんざりしながら、僕は布団を跳ね飛ばす。
 するとそこには、やはり下着姿の女性――僕の姉さんが潜んでいた。
「あふぁ♪ ほふぁほうはーふぅん♪(あは♪ おはようたーくん♪)」
 そして彼女は、僕の朝立ちしたモノに、唾液塗れの舌を這わせている。
 僕は何も言わず、姉さんの身体を先程跳ねのけた布団へと、両腕で突き飛ばす。
「ひゃぁん♪」
 何の抵抗も感じさせないまま、姉さんは僕の身体から、跳ね飛ばされた。
 
 これらは全ていつもの光景。僕にとって――姉さんにとって当たり前の日常。
 僕に突き飛ばされた姉さんは、体勢を戻すことなく、視線を僕に向け続ける。
 ただ僕の姿を自らの瞳に捉えて、それ以外はどうでもいいかのように。
 そんな姉さんの姿に背筋を凍らせつつ、僕は急いで制服に着替える。
 途中で何度かこちらに接近を試みる姉さんを、眼圧で威嚇し留めながら。
 
 途中で堪え切れなくなったのか、姉さんが僕に懇願してくる。
「ねえ、ワタシもアナタのおキガえ、テツダってあげたいの。
 だから、そっちにイってもいいよね? いいよねぇっ!?」
 そう言いながら、のそのそと僕の居る場所に接近してくる姉さん。
「駄目だ姉さん、絶対に来るな。それ以上来たら絶交してやるから」
 かなり強く牽制をかける。これでほんのしばらくは大丈夫だ。
 けれどまったく油断はできない。僕は急いで着替えを終える。
「じゃあ姉さん、僕は朝食を食べて、学校に行くから――」
「あはっ♪ いつもイジワルなことイうよね、たーくんってば♪」
 姉さんが話しかけてくる。蕩けるような、恋する少女のような瞳で。
 僕は決して、その瞳を直視しないようにしている。気持ち悪いから。
 
「あはっ♪ アサゴハンはちゃぁんとできてるからね♪
 キョウはたーくんのダァイスきな、おミソシルとかぁ……」
「……悪いけど、姉さんの作った朝ごはんは食べない。いらない。
 何が入っているのかもわからないものなんて、僕は食べないから」
「……もう、アナタはホントウに、つれないなんだから♪」
 何が嬉しいのか、にやけ顔でしなを作る姉さん。気持ち悪い。
 相手をするのが嫌で、僕は彼女を無視して、部屋から出ようとする。
 
「でもダイジョウブなのよ。アナタはカナラず、ワタシのモトにクるから。
 だってたーくん、ワタシのコトがダイスきなんだもの。わかってるもの♪」
 無視し続けている僕の背後から、ひたすら姉さんが話しかけてくる。
「ワタシたち、コドモのコロに、ケッコンのヤクソクをしたんだもん。
 だから、オットになるアナタからのクチヅけを、ずっとマってるからね?」
 はっきり言って、姉さんは異常だ。狂ってしまっている。
 もうじき20歳になるのに、いまだに子供の頃の約束を引き摺っている。
 そう、2年前のあの悪夢の日から、ずっと――
583Lv-"D", unpleasant…… (2/5) ◆6AvI.Mne7c :2010/03/04(木) 00:24:07 ID:2RZQKwWp
 
 ある日突然、僕の姉は狂った。
 何を言っているのか解らないと思うけど、僕にもよく解らなかった。
 いや、兆候は前々からそれらしきものがあった、と今では思う。
 僕が姉に女を意識し、他所他所しい態度を取り始めたくらいから。
 僕の成長した全裸姿を、偶然通りすがった姉に見られたころから。
 僕の同級生の女友達を、僕の部屋に招いたのを見られたときから。
 僕が女の子に告白されたことを、うっかり姉に喋ったあたりから。
 とにかく、日に日に姉の心中(ナカ)で、狂気が熟成されていき――
 とうとうその感情が爆発し、僕の家は阿鼻叫喚の地獄絵図となった。
 
 僕が16歳になった誕生日の朝、目が覚めると僕の股間が生温かった。
 いや、生温かいなんてものじゃなくて――とてつもなく、熱かった。
 その強烈な違和感と気持ち良さに恐怖を感じ、掛け布団をめくると――
 そこには全裸の姉が居て、僕のモノを自分のナカに咥えこんでいた。
「あ、おはよ……ぅんっ♪ それからおっ、誕生日おめでとう♪
 ちょっと早いかも……だけど、お誕生日プレゼントだよっ♪
 これで貴方も立派な男になれたわ♪ おめ、っでと、うっ♪」
 
 そこから先の数日間は、正直いまだに僕にもよくわからないままだ。
 うっすらと覚えているのは、僕の悲鳴で部屋に両親が踏み込んで来たこと。
 頬を叩かれて僕から引き剥がされ、そして両親に罵倒される全裸の姉の姿。
 覚えていたのはそこまでで、僕は衰弱するように、三日三晩ほど眠り続けた。
 次に目覚めた時に初めて見たのは、憔悴しきった母さんと父さん――
 そして、まるで子供のような純粋さと――狂気を瞳に湛えた、姉さんの姿。
 姉さんはあの夜の出来事を全く反省しておらず、なおかつこう言ってきた。
「おはよう、ワタシのダンナサマ♪ キスをする? それともエッチする?」
 全力で姉さんを突き飛ばしたのは、多分その時が初めてだった。
 とにかく、僕は姉さんが怖かった。怖くて怖くて仕方なかった。
 
 
 結局それから2年が過ぎ、僕の家族は完全に壊れてしまった。
 父さんはもともと仕事人間だったのが、さらに家に寄り付かなくなった。
 母さんは心労で体調を崩し、療養のために長期の入院を余儀なくされた。
 姉さんは医者の前ではうまく化けるので、精神病棟にはぶち込めなかった。
 僕は隔離されるほどの理由も、身を寄せる親類もなく、逃げられなかった。
 基本的に借金とカツカツの稼ぎ故、独り暮らしに逃げるのも不可能だった。
 結果、いま家には僕と姉さん――あの気持ち悪い女しかいない。
 
 あの事件以来、姉さんは狂気に落ちてしまい、精神が一部退行してしまった。
 別に一般人としての生活が、全てできなくなったわけじゃない。
 現に姉さんは演技力のみで、何人もの精神科医を欺き通してみせた。
 けれどやっぱり、心の芯のどこかが崩れて、歪んでしまっていた。
 その最たる例が、僕に対しては粘着質に甘え甘やかすような現状だ。
 姉さんは、毎日毎日くだらない理由をでっち上げ、僕を愛撫してくる。
 時には布団の中。時には風呂の中。そして果てにはトイレの中。
 もちろん、ただなすがままではなく、僕自身もいろいろ抵抗はしている。
 時に腕力に訴えて。時に言葉で訴えて。時に距離をとることで。
 けれど、それらの行為は全てが無駄だった。
 むしろ拒めば拒むほど、姉さんは興奮して手に負えなくなる。
584名無しさん@ピンキー:2010/03/04(木) 00:28:59 ID:m+zMjOQ/
支援
585Lv-"D", unpleasant…… (3/5) ◆6AvI.Mne7c :2010/03/04(木) 00:29:53 ID:2RZQKwWp
 
 学生の僕が完全に姉さんから離れられる、まっとうな時間――学校。
 けれど当然ながら、学校には下校時間が存在する。
「帰りたくない……けど、ムダなんだろうな………」
 友人宅でも野宿でも、姉さんは僕を迎えに来てしまう。
 周囲は姉さんを正常だと思っているから、僕が悪者にされてしまう。
 だから毎日毎日、嫌だけど諦めて、僕は家に帰るしかなかった。
 
「あはぁ♪ おかえりなさいませ、ダンナさま♪
 ワタシにする? ワタシにする? それとも……ワタシにするぅ?」
 帰宅すると、姉さんが裸エプロン(透過率50%)で出迎えてきた。
 当然僕はそれを無視して、自分の部屋へと向かう。
 途中で姉さんが僕に縋りついてきたけど、全力で振り解く。 
「アナタ、ごハンよりもワタシをタべてくれたら、ウレしいな?」
「うっ……、うるさい姉さんっ! 僕に、近寄るなッ!?」
 割と本気で腕を振るい、姉さんの身体に叩きつける。
 けれど大きな胸に当たったせいか、逆に腕を跳ね返された。
 くそ……っ、昔はドキドキした姉さんの巨乳が、今は疎ましくさえ感じる!
 
「……はっ、たーくんが……シのオムネ……サワ………れた……♪
 ウレし……キモチい……………ひゃあaAあアAaん♪♪」
 対する姉さんは僕の触れた胸の部分を触り、やたら必死に悶えていた。
 ってなんだろうか、この甘酸っぱいような匂いと、液体の滴る音は?
「あは、あははぁ♪ ごごごめんなさぁいた〜きゅぅん♪
 ワタシイマのでイっちゃった〜♪ おまけにおモらしまでしちゃったのぉ♪
 でもしょうがないのぉ♪ おネガいだからユルして、ね♪」
「……………………!!」
 確かに姉さんの言うとおり、姉さんの足元に、水溜まりができている。
 そして姉さんのエプロンの下半身部分が濡れて、肌に張り付いている。
 それはいまだに現在進行形で垂れ続け、小水独特の匂いも漂ってきた。
 
「…………くそ、が!」
 最悪だ。最低だ。付き合ってられないっ!?
 僕は姉さんに背を向けて、自分の部屋に向かうことにした。
「ねぇたーきゅん♪ おソソウしたワタシを、シカってくれないの?」
 その場に立ち尽くしたまま、なおも尿を垂らしつつ、僕を見つめる姉さん。
 それを見た僕の中で、鬱積していた怒りが突然、爆発してしまった。
「知るかよっ!! 勝手に片づければいいだろうがっ!!?
 それから僕は今日も外で食べて来たから、晩ご飯はいらないぞっ!!
 もう寝るから、鍵は閉めてるから、絶対に入ってくんな!!!」
 
 言い捨てるだけ言い捨てて階段を駆け上がり、僕は部屋に閉じ籠った。
 姉さんは一応悪いと思ったのか、廊下でゴソゴソ掃除を始めたらしい。
 とりあえずすぐに2階に駆け上がってくる気配は、なさそうだ。
586名無しさん@ピンキー:2010/03/04(木) 00:32:16 ID:m+zMjOQ/
もう一回支援した方がいいかな
無駄だったらすいません
587Lv-"D", unpleasant…… (4/5) ◆6AvI.Mne7c :2010/03/04(木) 00:33:24 ID:2RZQKwWp
 
 部屋の入口を封印して、僕はベッドの上に倒れこんだ。
 姉さんにはああ言ったものの、実は夕飯を食べてきてなんていなかった。
 ただ姉さんと一緒に居たくないがために、逃げ出しただけだ。
 まあ、夕飯を食べるとしても、姉さんの作ったものは食べないけれど。
 
「ああ……、ひもじい……」
 ここ最近寝不足なうえ、空腹でなんだか意識が飛びそうだ。
 本当は今すぐにでも台所に行って、なにか適当なものが食べたい。
 けれど今すぐ部屋を出れば、食事を部屋に運んでくるだろう姉さんに遭遇する。
 それだけは避けたい。むしろ姉さんから、永久に逃げ出したいのに。
「あんな気持ち悪い女、誰が好きなもんか……!?
 あいつさえいなくなれば、僕は少しだけ自由になれるんだ!
 あいつさえ、あいつさえ、あいつさえ……!」
 
 
(ははは。嘘をつくなよ、僕)
 とそこで、僕の頭の片隅で、何かが語りかけてきた。
 何なんだ? この訳のわからない展開は?
(僕が何かだって? 僕は僕さ。君自身なんだよ)
 もう1人の僕? なんでそんなトンデモ展開になっているんだ?
(君がなんて言おうと思おうと、僕は君の本心そのものなんだよ)
 あはは、そうかこれは幻聴なんだ。タチの悪い夢なんだ。
 あの気持ち悪い姉さんに疲れた僕が、狂いかけてる証拠なんだ。
 
(あはははっ。よく言えたもんだな、僕。被害者ヅラなんかしちゃって)
 僕の心の中のもう1人の自分が、僕を糾弾するように訴えかけてくる。
(姉さんが君に男を意識したのも、元は君のせいじゃないか?)
 覚えていることも苦痛になったあの記憶が、また僕を蝕んでくる。
(思春期の性欲のはけ口に、姉の身体を選んだのは、どこの誰だ?)
 そうだ。一番最初に姉さんの身体に欲情したのは、僕のほうだったんだ。
(オナニーのおかずにしてしまって、それを見られた無様な弟は誰だ?)
 僕は今の姉さんと似たようなことを、姉さんにずっとしていたんだ。
(とうとう我慢できず、寝ていた姉の身体を舐め回したのは、誰だっけ?)
 そのくせに、今では自分が何も悪くないと、本気で信じていた。
(それでは収まらず、その姉の身体に、射精した馬鹿は誰だっけ?)
 そうでもしないと、姉さんが怖くて、自分が怖くて……!!
(そしてそれを全部知られ、姉の心の箍をぶち壊したのは――) 
「う……うるさいうるさい!! 黙っててくれよおおお!?」
(それでバツが悪くて逃げ出し、自分だけで何事もなかったとか――)
「僕は……僕はこんなことを望んで――違うんだあああ!?」
 耐えきれずに、僕はその場で膝をついて倒れ――ることはなかった。
 いつの間にか背後に居た全裸の姉さんが、僕を抱えていてくれたから。
 狂う前の優しかった瞳の姉さんが、僕を愛おしく見つめてくれていた。
(なあ僕、本当は君は、姉さんのことが――)
588Lv-"D", unpleasant…… (5/5) ◆6AvI.Mne7c
 
「……がぅ、違う!? 違ああああああああああああああああぁっ!!?」
 みっともなく大声を出して、僕はその場で飛び起き――られなかった。
「……って、さっきの対話は――僕の、夢?」
 どうやらもう1人の僕とか、昔のまともな姉さんとかは、僕の夢だったらしい。
 ほっとしたような、がっかりしたような、複雑な気分だった。
 
「ってあれ? なんで身体が動かな――ってコレは……」
 さっき起きられなかった理由はどうやら、胸元にいる姉さんのせいらしかった。
 姉さんはなぜか僕の身体の上に寝そべり、すぅすぅと寝息を立てている。
「しかもなんか、口の中に塩味と酸味が……」
 こっちに関しては理由は明白だ。姉さんの口元に、米粒が付いていたからだ。
 どうやら僕が寝ている間に忍び込んで、ご飯を口移しで食べさせたらしい。
 自由に動かせる腕で僕の頬に触れると、そこにも米粒があった。
 
「くそぅ……。気持ち悪い……気持ち悪い………はず、なのにっ」
 姉さんに口移しされた事実に気付いて、僕は確かに嫌悪感を感じていた。
 だけど同時に、なんだかわけのわからない、安心感さえ感じてしまった。
「僕は、こんな気持ち悪い姉さんに、一体なにを求めてるんだ……?」
 僕はなにをやっているんだ? 僕はなにをやっているんだ!?
 僕は姉さんを、跳ね飛ばさなければならないのに、なのに――
 なんで僕は姉さんの頭を撫でようと、手を伸ばそうとして――
 
「……ぁは♪ たーくんってばやっと、ヤサしくしてくれるのかな?」
「っぁぁぁああああああああああああっっっ!!?」
 僕の手が姉さんの頭に触れる直前で、突然姉さんが目を覚ました。
 いや、多分姉さんのことだから、ずっと寝た振りをしていたんだ。
「あはっ♪ ウレしいなぁたーきゅん♪
 やっとツンデレたーきゅんが、ワタシをミトめてくれたんだね♪」
 
「違う。断じて違うっ。僕はそんなつもりじゃなかった。
 姉さんに恋愛感情も抱かないし、欲情だって2度としない。
 僕は姉さんが嫌いで、嫌いで、嫌いで――」
 デモホントウハ、ボクハズット、ネエサンノコトガダイスキデ――
 
「ね〜え〜? ヒトリでぶつぶつイってないで、ワタシとアソびましょう?」 
 僕が自分のとった行動に混乱している間に、姉さんは全裸になっていた。
「あのコロにクラべて、ワタシはキレイになったかな? たーくん♪」
 姉さんが狂う前。思春期の僕が欲情してしまった、オンナの身体。
 あの頃よりも幾分が発育した、艶めかしい姿の姉さんが、そこに居た。
 僕は抵抗することも忘れ、その姿に見蕩れて――見惚れていた。
 
 
「たーくん、ダイスきです♪ たーくん、アイしてます♪
 ワタシとイッショに、カイラクのナミにノまれて、オボれましょう♪
 ワタシとフウフになって、シぬまでずっと、イッショにクらしましょう♪」
「………………っ!」
 無意識に姉さんの身体を包みこみそうだった両腕を、なんとか直前で止めて。
 僕はギリギリのところで、いつものように姉さんの身体を突き飛ばした。
 
 残念そうな顔の姉さんを視界の端に捕えながら、僕はただひたすらに祈った。
 
――この手がいつか、姉さんを突き飛ばさずに、抱きしめてしまいませんように。
 
 
                          ― Which is it that an unpleasant? ―