煩悩の十二国記*十三冊目

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679浩瀚×祥瓊 口付け:2011/01/28(金) 14:09:48 ID:y1AV73iD
言い募ろうとした陽子の手を祥瓊は軽く握った。
「…冢宰と青将軍の娼婦だろって聞かれたの」
桓碓以外の者が息を飲む。陽子の瞳に一瞬で怒りが灯る。
「桓碓っ?!」
「だから、俺は捕まえようとしました!」
「陽子、聞いて…」
視線を合わす。静かな青い瞳に怒りで揺れてた碧の瞳がおさまって行く。
「その人達も噂を信じたの。でも…ちゃんとわたしに聞きに来たの。だから、違うと言えたの。それは、ただ噂を流す人間よりわたしは偉いと思うわ」
愚かでも…。陽子がきつく唇を噛み締めた。
「でも…ひどい…」
「ええ…わたしもそう思ったわ…」
陽子を自分に引き寄せる。額と額をつけて…陽子に桓碓の表情を見せたら…駄目。
「…公主だから、誰にでも裸を見せることに慣れているって噂が流れたの…」
静かな言葉は、部屋で小さな渦を巻き…ガタンっという椅子が倒れる音に景麒が身体を飛び上がらせた。
「…しょ…将軍…?」
机の上で震える拳と、桓碓の身体に湧いた怒りに…景麒が怯えたように一歩下がった。
「…なんだいったい…」
景麒の声に陽子が祥瓊の手を放して顔を巡らす。
「…あいつら…そう言ったのか…」
低い声で聞かれ、祥瓊はゆっくりと桓碓を見つめた。祥瓊の顔には表情がない。
「…あの人たちは、わたしがお金を出したら誰にでも裸を見せてくれるんだろうと聞いたわ。」
でも…と、言葉を切る。
「…裸を見せ慣れているという話は、わたしの耳にも届いたの」
浩瀚の手が祥瓊の肩にかかった。もう、そこまで。肩に込められた力にそう言われた気がして、祥瓊は身体から力を抜いた。
「…祥瓊?」
心配そうに陽子が祥瓊を見る。祥瓊は力なく笑った。
「冢宰にもひどい話だわ…桓碓にはその場で否定してもらったけど…わたしが、冢宰の…なんて…」
言いどもったのは何故だろう…肩に置かれた浩瀚の手にもう一度力が入る。
「浩瀚…」
陽子が心配そうに祥瓊の後ろに立つ浩瀚を見る。浩瀚は苦笑いして陽子を見た。
「たいへん、勿体ない話です」
場にそぐわない言葉に陽子が目を丸くした。
「えっ……」
「祥瓊の相手が私などと噂されれば、祥瓊が迷惑でしょう」
祥瓊がぽかんと口を開け、浩瀚を見上げる。浩瀚は、その顔を見て肩をすくめて見せた。
680浩瀚×祥瓊 口付け:2011/01/28(金) 14:13:58 ID:y1AV73iD
「噂などすぐ消えます。祥瓊は私が相手など不快に思うかも知れませんが…」
そのおどけた口調に吹き出したのは陽子だった。
「なんなら…景麒もつけるか…」
「おやめくださいっ!」
悲鳴を上げたのは、景麒と祥瓊だった。悲鳴が重なり、景麒と祥瓊がばつが悪そうに視線を合わせ、逸す。だが…陽子は、席を立ったままの桓碓に首を向けた。
「春に、風紀の乱れを取り締まる書面を出したな。あれをもう一度、回せ」
「…御意…」
桓碓が頭を下げ、部屋を出て行こうとし…祥瓊と擦れ違おうとする前に…。
浩瀚の腕が祥瓊の肩に回され、その身体を自分の方に軽く、でも確かに引いた。
一瞬桓碓の視線が浩瀚の横顔に向けられる。だが、浩瀚は前を向いたまま桓碓を見なかった。
その瞬間だけの…凍るような空気。
桓碓がなにか言おうとして…なにも言えないまま部屋を出て行った。

祥瓊は一人で戻れると陽子には言ったが、陽子は納得しなかった。景麒か浩瀚か自分が送ると言い出して、浩瀚が笑って自分がと手を上げた。
「わたしが王に部屋まで送られたら、大変だわ」
「でも、きっとやりますよ」
浩瀚が笑う。祥瓊は嫌そうな顔をした。
「そして台輔も付いて来るんですよね」
「後ろから」
想像して吹き出した。涙が出るほど笑って、あぁ、最近こんなに笑った事が無かったと気がついた。
「なんか…すっきりしました」
夏の葉が繁げりはじめた樹々を見上げて祥瓊が笑う。暗い噂に振り回されて、鬱々とし笑う事さえ忘れていたのか。足を止め、浩瀚も眩しそうに樹々を見上げた。
「夏が来ますね…」
「干ばつなどなければいいけど…」
干上がった田畑を思い、枯れた草木を思う。
「今度…雨が降ったら…」
呟くような浩瀚の言葉に、首を向ける。
「雨が降ったら?」
浩瀚がゆっくりと祥瓊に顔を向けた。
…甘い…ふと空気が動かなくなる…。祥瓊が気がついて、目元を薄く染める。浩瀚としばらく視線を絡ませ…そっと逸らせた。…ずるい…本当に…ずるい。
浩瀚の指が、祥瓊の指に触れる。触れて…確かめるように握られて…。
681浩瀚×祥瓊 口付け:2011/01/28(金) 14:15:53 ID:y1AV73iD
祥瓊はその指のされるまま、指を浩瀚に与えた。指が絡み、手の平を合わせ…手首に触れられ…祥瓊が、ゆっくりと目を閉じた。
なんて…ずるい…。指だけで…わたしを動けなくしてしまう…。
肘まで上がった手に軽く力が込められ、祥瓊の身体は促されるまま浩瀚の前に立たされた。
「…雨が降ったら…」
優しい慈雨のような言葉が耳に囁かれる。祥瓊は目を閉じ小さく震えた。
「…あなたに愛しいと伝えてもよろしいか…」
あぁ…もう…なんてずるい…。
「…ずるいわ…」
祥瓊の呟きを聞かなかったように、浩瀚の唇が形のよい祥瓊の耳を啄む。祥瓊の腕が浩瀚の胸に当てられ、軽く力を入れずに押す。
「…今は…言っていただけない…?」
上目遣いで軽く睨まれて。その艶っぽさに浩瀚は溜め息をついた。本当に…華だ…。
「…雨が降ったら…」
浩瀚の目が祥瓊の唇から動けなくなる。祥瓊が浩瀚の胸に手を置いたまま…引き寄せられるよう口付けた。
薄いが形のよい浩瀚の唇に、祥瓊の桜のような唇が重なる。
…甘い…浩瀚はくらんだように目を閉じた。浩瀚の上唇を祥瓊の唇が軽く啄み放す。浩瀚の歯が祥瓊の下唇を軽く噛む。祥瓊の唇から甘い吐息が漏れた。
「…雨の降る…日」
祥瓊が浩瀚の腕の中から見上げて、笑った。
「忘れたら…いや…」
「…忘れません」
「約束…」
ねだる仕草に…浩瀚はゆっくりと唇を与えた。

つづく
682名無しさん@ピンキー:2011/01/28(金) 14:18:30 ID:83YvnUpL
あまーーーーーーーーーい
683浩瀚×祥瓊 口付け:2011/01/28(金) 14:21:16 ID:y1AV73iD
あっまーーいっ!

楽しいっ!

たかが外れた祥瓊は、べたべたに甘くなるかも。

以前、難しいって思ったのは、多分、ここなんだと気がつきました。
あのまま桓碓とくっつけてしまったら、祥瓊は桓碓に甘えられない。
でも、祥瓊の基本はファザコン。甘えたくて仕方がないはず…。

桓碓は、お仕置されちゃいましたが。ま、学んで強くなれ。

さあ、べたべたな初夜に向かいます。
684名無しさん@ピンキー:2011/01/28(金) 23:48:11 ID:t8g7A620
GJでございます!
初夜も期待してます!
685名無しさん@ピンキー:2011/01/29(土) 12:41:12 ID:tdjp3J5q
お昼休みは

毎度でございます。
先に謝ります。
長編になりました。

最長です。でも、後半は…

しっとりと、しっぽりと、です。

11か12落とします。

陽子の初夜とはだいぶ違うのになりました。
書き手は同じなのに、自分でもびっくりです。
お楽しみくださいませ
686浩瀚×祥瓊 初夜:2011/01/29(土) 12:43:20 ID:tdjp3J5q
「変だと思うの」
鈴が四阿でお茶を陽子と景麒に差し出しながら口を開く。また、始まった…。景麒がちらりと陽子を見た。陽子は、ちらりと後ろで立ったままの虎嘯を見上げた。
二人の視線の意味は、鈴をどうにかしてくれ、だ。
「変だと、思うの」
返事が無かったのが不服だったのか、鈴が言葉を区切りながら陽子に話かける。
「祥瓊が、だろ」
「そう!」
鈴の淹れたお茶が薄過ぎて、陽子は景麒の前の湯飲みを取り上げると、もう一度急須の中に茶を戻した。
「鈴、お茶が薄い」
渋い顔で不満を言うと、困ったように鈴がそっぽを向く。
「祥瓊がいないんだから、文句言わないで!」
「お茶ぐらい、ちゃんと淹れてから話せよ…」
虎嘯が渋々鈴に言う。陽子のお茶の蒸らし時間だと今度は渋くなるので見計らって、景麒がお茶を注いだ。
「悪い」
全然悪びれてない口調で礼を言い、一口含んで眉を上げる。景麒もお茶を飲んで…溜め息をついた。
「ぬるい…」
諦めたように景麒が立って、改めてお茶を淹れにいった。

「で、今度は何をしてた」
景麒が淹れたお茶を口にしながら陽子が鈴に聞く。
「…最近、よく買い物に行くの」
「それで何を買ってくるの」
「刺繍糸よ!」
あー駄目だ。なにもわからん…陽子は軽く頭を振り、机に突っ伏した。
「陽子!だって刺繍糸よっ?」
「ごめん、本当にわからない。その刺繍糸がなにを指すのかもわからないし、刺繍糸を買ってなにが変なのかもわからない」
お手上げ。話を放り出した陽子を軽く睨み、景麒に顔を向けた。
「わたしに言われて、答えがあると思うな」
先に言われ、鈴の顔が赤くなる。もうっ!と机の下でもどかしげに地団駄を踏んだ。
「虎嘯、刺繍糸ってこちらじゃなんか珍しいのか」
聞かれても虎嘯も困る。虎嘯だってさっぱりだ。
「刺繍っていや…飾りだろ?…俺には縁はないな」
虎嘯の武骨な指が針を扱う様を想像して、陽子が腹を抱えて笑った。
「…賑やかですね」
陽子の声に釣られるように、浩瀚と遠甫が現れる。
「いいところに来たな。今日のお茶の係りは鈴なんだ。鈴、太師にまずいお茶を出すなよ」
念を押され、鈴は真っ赤になって陽子の足を踏んだ。

しばし、ゆっくりお茶を楽しみ、陽子が太師に尋ねる。
「刺繍糸かの…」
しばし考えて…。さてと浩瀚を見た。
687浩瀚×祥瓊 初夜:2011/01/29(土) 12:45:23 ID:tdjp3J5q
「なにか里木の時期かの」
浩瀚がそうですねと呟く。里木と言われ陽子の顔がひき締まった。
「里木に帯を結ぶ。作物も、樹々も花も…王がしなければならない祭事は山のようじゃの」
「祥瓊は、その帯を作る為に?」
「さあて…それはわからん。あの娘は暇さえあれば気持ち良さそうになにかを繕っておるからの」
昼間のわずかな日の光を惜しんで針を動かす姿はやはり皆、目にしたことがあった。
これにて一件落着とばかりに陽子が立ち上がる。その袖を鈴が掴んだ。
「今年は干ばつは来ない?」
いきなりの言葉に返事ができず、陽子は景麒を見た。景麒が多分と頷く。
「主上が玉座にいるだけで、干ばつ大雨、蝗などはだいぶましかと…」
「どうして?鈴」
袖を掴んだ鈴の手を優しく包みながら聞く。
「…祥瓊が、雨が降るかしらって心配してる」
浩瀚が立ち上がる。
「…雲の上にいると、下界で雨が降ったかどうかわかりにくいですからね…」
太師が浩瀚を連れて歩き出す。
「…いい娘じゃな」
浩瀚は小さく頭を下げた。この伯には敵わない。
「とても、気立てのよい娘です」
そう答えたら、空気のように笑われた。

ゆっくりと針を動かす。昨日、陽子に赤の花の刺繍の入った襟を渡して喜ばれた。今は鈴の白い花を刺している。本当は、別の物も刺しているけど…それを知られるのは恥ずかしかった。でも、そちらも仕上げた。
駆ける足音がする。顔を上げると鈴が駆け込んで来た。
「祥瓊っ!夕暉が来るって!」
鈴の顔が嬉しそうに綻んぶ。あら…と祥瓊は立ち上がった。
「久し振りね…元気かしら」
「元気だと思うけど…」
軽く身の回りの荷物を包む。
「祥瓊?」
「お邪魔虫は退散します」
軽くおでこをつついて、片目を閉じた。鈴の顔が赤くなり…目を伏せる。
「ありがと…」
「…よろしく伝えてね」
そう言おうとした時…鈴の後ろから少し大人の顔になった夕暉が覗いた。その肩が濡れている…。
「鈴、兄さんの洗濯物いれてくれ…雨に濡れてしまう」
慌てて鈴が飛び出して行き、軽く頭を下げた夕暉が後を追った。

雨…

とくん…と大きな音が胸の奥でした。

688浩瀚×祥瓊 初夜:2011/01/29(土) 12:47:19 ID:tdjp3J5q
陽子の夕餉の準備をしていたら、陽子がいいよと笑った。
「今日、夕暉来てるんだろ?みんなでご飯食べておいで」
「じゃあ…寝台の準備までしてから…」
陽子が屈託なく笑う。
「どうせ、寝るだけだから。今日は雨だ…今夜は静かだよ…」
窓から陽子が空を見上げながら呟く。景麒を伺うと、小さく頷いた。この二人にも…静かな雨なのだろう…。祥瓊は静かに頭を下げて部屋を出た。
「主上は、夕餉か?」
出たところで、浩瀚に会った。顔が上げれない。
「…まだ…」
呟きさえ…聞き取れただろうか…。祥瓊が擦れ違う瞬間…浩瀚が呟いた。
「…私の部屋に…」
息が止まりそう…。頷く事もできず祥瓊は足早にその場を去った。

浩瀚は冢宰という立場からひとつの建物を与えられていた。理由は書庫だ。あらゆる部屋が書籍で埋まっている。
この書籍全部読んだのかしら…。不安になった。きっと全部読んだと言われたら…わたしあの人とは喋れない…。
入口を見つめ、壁に凭れて小さく息を吐く。誰かに見られるのが嫌で、入口の近くに寄れない。部屋にも入れない…迷子になった気分だった。
石造りの床に座り込み、小さな足を包んだ靴を脱ぐ。裸足の裏に石の冷たさが染みた。
夏が近いのに…雨が降ると寒い…。雲の上だからかしら…違うわ…石は温まりにくいのよ…。よく磨かれた石の目を指でなぞる。小さな時にした遊びだ。石の波紋が美しくて…波を指で伝って遊んだ。芳の国の床は白い石だった…ここは黒なのね…。
「祥瓊…」
声をかけられるまで気がつかなかった。名前を呼ばれて顔を上げて。困ったように笑う浩瀚に見とれた。
雨の中濡れて来たのか…肩が湿っている。雫がポタンと祥瓊の顔に落ち、浩瀚の指がそれを拭った。
「風邪を引く…おいで」
手を引かれ立ち上がる。手の冷たさに驚いた顔をして、祥瓊が裸足だと気がついて…抱え上げた。
「なぜ、靴を…」
抱え上げられて、祥瓊の腕が浩瀚の首に回される。
「…雨だから…」
二回背中を軽くあやされて。浩瀚は部屋に向った。
浩瀚の部屋は、殺風景だった。中央に円卓と椅子と本棚と服をしまう棚…そして寝台だけだった。
「他の部屋は書籍でいっぱいだったわ…ここだけ…淋しい…」
呟いた祥瓊に浩瀚が笑う。部屋の外にいた理由はそれかと、もう一度笑った。
689浩瀚×祥瓊 初夜:2011/01/29(土) 12:49:08 ID:tdjp3J5q
「椅子に?それとも…」
選べずに祥瓊が浩瀚の肩に顔を埋めようとして、濡れている事に気がついた。
「…下ろしてください…まず…着替えなきゃ」
風邪引いちゃうわ…。一度軽く抱き締められ、下ろされた。
部屋の暖炉に火をいれる。人が心地よい室温になるまでの時間に浩瀚は一度外に出て、水を浴びて来た。白の生地の寝間着に着替えて来た浩瀚を見て…目を伏せる。
どうしよう…なにも…わからない…。
暖炉の火を掻き回す振りをして、その前に座り込む。燃える火が美しかった。
「…さっきから、ぼんやりしてる」
静かな声に振り向く。浩瀚が椅子に座って祥瓊を眺めていた。手元に白い盃が置いてある。いつの間に出したのだろう。ぼんやりとそれを見つめ…口は違う事を言っていた。
「…書籍…全部読んだんですか?」
「まさか…」
笑って、浩瀚が口を押さえた。
「仙籍がないと難しい」
それを聞いて安心した。良かった…まだ人間だったと。
「全部読んだら、遠甫になれそう…」
そういうと、浩瀚は声を立てて笑った。
「そんなに火の近くにいると、焦げてしまう」
おいで、と言われ立ち上がる。
一歩一歩考えるように近付いて…。椅子に座っている浩瀚の膝の間に立った。浩瀚が軽く腕を回す。その肩に手を置いて…。祥瓊は深い溜め息を吐いた。
「…とても…話しにくい事なの…」
秘密を打ち明けるように話されて、浩瀚が顔を上げる。
「話にくい?」
祥瓊が頷く。
「でも…話さないと…いけないのかどうかも…わからないの…」
祥瓊の心から根から困った顔を見て。浩瀚は椅子を下げ、寝台に腰掛けた。
再び、祥瓊の身体を膝の間に立たせて…。どうぞと促す。祥瓊はゆっくり考えながら、浩瀚に語りかけた。
「絶対に、恥ずかしい事じゃないの。…でも…その事を話すのは、わたしにとっては、とても恥ずかしい事なの…」
しばらく考えて…考えて…浩瀚の肩が揺れた。祥瓊から腕を放し、寝台に上がって突っ伏す。肩が震えて…そのうち身体が震え出す。
「…もうっ、冢宰っ!」
必死に言葉を綴ったのに笑われて、祥瓊は身を乗り出して浩瀚を叩こうとした。その腕を絡み取られて…。
気がついたら寝台の上で浩瀚に抱き締められていた。
「冢宰と呼んだ…」
「だって笑うからっ…」
「約束したのに…」
ずるいわ…だって…
「…あなたも…約束したわ…」
690浩瀚×祥瓊 初夜:2011/01/29(土) 12:50:54 ID:tdjp3J5q
雨の日に…
そう言った…あれから…本当に雨の日が待ち遠しかった…だけど…。わたしだけかと思った…あなたは…待ち遠しかったの…?
浩瀚の唇が祥瓊の唇を啄む。
「祥瓊…さっきみたいな事は絶対に私以外の前で口にしてはいけない」
そう言われ、また啄まれる。
「…また…約束?」
「いや…お願いだ」
浩瀚の指が祥瓊の唇に触れる。
「…絶対に恥ずかしい事を…この口で恥ずかしがる祥瓊に喋らせたくなる…」
祥瓊の目が思いっきり丸くなり、顔が染まった。浩瀚を見つめていた視線が見つめる先を探して彷徨う。彷徨い疲れて…溜め息を吐いて顔を伏せた。
「…約束するわ…」
溜め息のように答えられ、浩瀚の指が良い子だというように耳に触れた。
「…話して」
しばらくためらった後…祥瓊が口を開く。
「…わたし…殿方と朝を迎えた事がないの…」
「…知ってた」
そう言われ、顔を上げる。…なんで…いつ…一瞬、将軍の顔が浮かぶ。まさか…でも…。
震え出した祥瓊の身体を宥めるように抱き締めて、その額に口付ける。
「春の始め…いや…正月の後ぐらいか…。主上と台輔が朝議を休まれた」
覚えている?と額を合わされて頷く。あの朝…朝議が開けなかった浩瀚にお茶を淹れて…香木を見せた。
「純情で…乙女だと」
瞼に口付けされ…身体の力を抜いた。
「…恥ずかしい…わたし…なんでも知ってる振りして…」
唇がわななく。陽子や鈴にお姉さんのふりをして…子供なんだからと、額を指でつついた。
「…恥ずかしい…」
本当は、鈴が一番お姉さんで…陽子に越された。でも…お姉さんでいたかったの…。
「愛しかった…」
頬で約束の言葉を零され…祥瓊の閉じた瞼から涙が伝った。

浩瀚の指が、祥瓊の髪に触れる。どうやって下ろしたらいいのかと迷う素振りをしたので、留めてあった髪留めを外した。青い髪が、火の光を浴びて…まるで朝日の上る雲海の様を呈する。
「…甘い香りがする…」
浩瀚が、髪に顔を埋めて呟く。祥瓊の指が、小さな匂袋をつついて見せた。
「…陽子の香炉の灰を貝殻にいれたの…」
二枚貝に香木の灰を入れて、零れないように布で閉じる。
「…器用だ…」
感心したように、浩瀚が祥瓊の指に唇を当てる。器用だと褒められて…嬉しかった。
祥瓊は、身体を起こし浩瀚の腕を押しとどめる。寝台から下り、ゆっくりと身に着けていた着物の帯を解いた。
691浩瀚×祥瓊 初夜:2011/01/29(土) 12:52:28 ID:tdjp3J5q
浩瀚が肘をついた姿勢で、暖炉の火を背中に着物を落として行く祥瓊を見る。
青い…芍薬…いや…牡丹?
白の襦袢に浮かんだ青い華が肩から胸に走る。祥瓊が嬉しそうに、胸元を抱いた。
「雨の降る前に…って。間に合って良かった…」
胸元を抱いた祥瓊の手首に手を伸ばし寝台に引き込む強さで掻き抱いた。
「…私は…華を散らす」
浩瀚の腕の強さと言葉の強さに、祥瓊は身体を震わした。抱きすくめられ…嗚咽が上がる。身体をひどく強張らせ、震え出した様子に浩瀚が腕の中を見ると…祥瓊が手を口に当てて泣いていた。
浩瀚を見上げて許しを請うように指を合わす…。お願い…と唇が震えた。
「…この華を…裂かないで…」
胸元を守るように…ただひたすらに…許しを請う。
浩瀚は…その胸元を覆った手に自分の手を重ね…すまない…と泣きじゃくる祥瓊の頬に唇を当てた。震えながら、胸元を抱き締める祥瓊になんと言えばよいのか迷う。
許しを請うように、身体をずらし、胸元の華に唇を当てる。
「…気に入らなかったの?」
「違う…」
「…じゃあ…なんで?」
震える声に困り果てて…。その指に口付ける。
「絶対に恥ずかしくなくて、私も恥ずかしくない事を話す…」
顔が赤くなるのが止められない。でも、勘違いさせたまま泣かせるよりましだった。
「…祥瓊の初めての殿方になることを…華を散らすと言う…」
祥瓊が、勘違いに気がついたように頬を染めた。
「…ごめんなさい…」
「…いや…」
言い方が…いけなかった…。浩瀚が、一度溜め息を吐き、祥瓊の襟に手をかけた。
「…脱がせていいか?…また…着せて見せてくれ…」
また…なにかおかしい…。調子が狂い過ぎて、浩瀚は口元を押さえた。
祥瓊がいつもと勝手が違う浩瀚を驚いたように見つめ…華が零れるように笑い、浩瀚の口元に添えられた指に口付けた。
「…今度…良く見てくださいね…」
そう言って、肩から襦袢を落とす。
なにが調子が狂うのか…その仕草でわかった。
祥瓊は、幼子と大人が混在している。大人として扱うと、幼さで泣き、幼子として扱うと…零れるような華の艶を出す。
手強い…。
天井を見て、自分を取り戻すつもりだったが、するりと自分の襟元に忍び込んで来た指に諦めた。
692浩瀚×祥瓊 初夜:2011/01/29(土) 12:54:31 ID:tdjp3J5q
祥瓊の指が滑るように浩瀚の胸を走る。大人の男…戦で走り回る男達を見た。傷ついた男達の看病もした。その時は…なにも感じなかった。ただ…仲間?だったから?分からぬ疑問は、しばらく考えて諦めた。
目の前の男の肌は白い。…日に焼けてないんだわ…文官だからかしら…。そう思い、首を傾げる。違うわ…陽子の方が地肌は黒い…。
指先を掬われて、浩瀚の口元に持って行かれた。
「…今…誰を考えた?」
言われて、顔を赤らめた。なんで分かるの…この人は…。
「…言わないと…」
指先に軽く歯を当てられる。慌てて、浩瀚の口に自分の唇を当てた。
「指先を噛まないで…辛いの…」
祥瓊は、指先や足先など末端が弱かった。同じ痛みでも鈴の倍じゃないかと陽子に笑われるほど、弱かった。
「…陽子の方が肌が…」
素直に白状した祥瓊に、浩瀚が笑う。そしてそのまま…
「…ぃ…や…」
祥瓊の指先を口に含んだ。辛いって言ったのに…。咥えられた右手に左手を添えて、身体を震わせる。
人差し指を軽く噛まれ、舌先でつつかれる。
「…い…や…」
やめて…と願う祥瓊を見ないふりをして口のなかで遊ぶ指を変える。
「…もぅ…やぁ…」
指股を掠められ、さすがに泣きそうになった。
「祥瓊…」
名を呼ばれ、揺れる目線を合わす。
「…辛いじゃなくて…気持ちいいと…」
意味がわからず首を傾げる。
「辛いと思ったら、良いと言って…」
今度は左手を取られる。
「良いって言ったら…止めてくれるの?」
浩瀚が試すように、左手の人差し指を歯で摘んだ。痺れる…。
「…痛い…」
そう呟くと、舌先で撫でられた。それは…祥瓊が辛そうに呟く。
「…浩瀚…許して…良いの…」
浩瀚の唇が祥瓊の左手の甲に当てられた。ほっとしたように肩の力を抜く。
そこを舌先でくすぐられ…祥瓊は息を詰め、身体をのけ反らせた。

青い髪が寝台を舞う。肌理が細かい肌は、高価な陶器のようだった。白く輝く。肩を軽く押しつけると、幼子のように身を捩った。肩から指を滑らす。
一瞬、陶器の様に固いのではないかと思った肌は、浩瀚の指を吸い沈む。その柔らかさに戸惑う。なんだ…これは…。
浩瀚は確かめるように身を屈めた。肩に口付け、首筋に唇を当てる。ビクンと祥瓊が怯える素振りをした。
「噛まないで…」
「噛まない…」
口付けて、軽く舌を滑らす。
「噛まないでね…」
693浩瀚×祥瓊 初夜:2011/01/29(土) 12:57:40 ID:tdjp3J5q
繰り返す祥瓊に笑った。
「…どうして?」
祥瓊が困ったような顔をする。
「噛むんでしょう?」
「なぜ?」
答えていいのかわからない素振りをする祥瓊の耳朶に歯を当てる。噛む素振りに、祥瓊が白状する。
「…陽子…噛まれて…歯形が…」
白状した褒美に、耳朶を口に含んだ。祥瓊が鼻にかかった甘い声を上げる。
「…辛い?」
うっとりと目を閉じて、小さく首を振る。
「いい…」
素直に答えた祥瓊の腰に手を当てる。身体をずらした。
「…ん…」
身体の中心をゆっくりと唇でなぞり、なぞったあと舌先で遊ぶ。面白いように祥瓊は身体を捩らせた。そしてそのまま…
「…あっ…」
下半身に息を感じ、祥瓊は上半身を起こそうとした。
「だめ…それは…だめ…」
手の平が浩瀚の額に当てられる。
「…やめて?」
「…なら…指を噛む」
祥瓊の手が揺れた。その指先を唇で捕らえようとして、祥瓊が身体を倒して逃げる。
「…ひどい…」
「ひどくない…」
「いや…ひどい…」
指を大事そうに包みこんで、祥瓊が小さく泣いた。
「…愛しい…」
「…ずるい…」
「ずるくない…」
言葉遊びのような睦言に祥瓊から力が抜ける。
「汗が…」
うっすらと浩瀚の汗ばんだ胸元を撫で…祥瓊が笑った。視線を絡ませ艶やかに笑う。
「…喉が渇いたの…」
華が咲いた。浩瀚は苦笑いして、身体を起こした。
「…酒だが」
祥瓊が頷く。浩瀚が机に手を伸ばし、盃を手にする。そのまま飲んだのを見て、声を上げた。
「…わたしの…なのに」
言う間に、口が塞がれる。甘い…祥瓊が呟いた。
「…続ける」
目で促され、トロンとした瞳が頷く。
「噛むのは…いや…」
それだけ呟き目を閉じ身体から力を抜いた。
青い茂みを指で掻き分ける。片手を滑り込ますと、なんなく開いた。身体を入れ、唇を寄せる。甘い…浩瀚が目眩がしたように目を閉じた。

身体の中心より少し下が熱い。なんでこんなに熱いのと、身体を捩ると足の間にいる男が太股の内側の柔らかい所に歯を立てる。
…いや…噛まないって言った…。
続けていいと言った。
続けていいから…噛まないで…。
動いたら…噛むかもしれない…。
いや…動かないから噛まないで…。
くすぐられ、弄ばれ…掻き回される。
気持ち良い…。呟いたあとは、同じ言葉しか出てこなかった。

あてがわれ、貫かれる。
辛いか?と聞かれ、首を振った。

694浩瀚×祥瓊 初夜:2011/01/29(土) 12:59:26 ID:tdjp3J5q
痛いけど…辛くないの…だから、やめないで…お願い…
浩瀚の肩に腕を回す。

華を…散らして…

浩瀚の喉が鳴った。

気がついた時…まだ外は暗かった。ぼんやりと暖炉で燃える炎を見つめる。
顎に手がかけられ、唇が合わさった。甘い…水…。
唇が離れるのがいやでもう少しと呟いた。しばらくして、上半身を抱えられて、水を飲まされそうになる。
違うの…唇で…
ふっと意識が戻った。
「…浩瀚…様…」
「浩瀚と」
浩瀚が水を口に含み、祥瓊に飲ます。口の端から水が零れた。
「…わたし…」
どうしたんでしょう…と言いかけて、浩瀚の肩が青いのに気がついた。
「…それ…」
「とても…繊細な針運びだと感心していた」
髪を掬われて唇に当てられる。
「祥瓊の華だ」
そう言われ、嬉しくて微笑んだ。身体を起こそうとして…身体の奥の鈍痛に呻いた。
「…なんだか…あちこち…痛い…」
泣きそうになり、浩瀚が笑う。笑い事じゃないのに…。祥瓊に恨めしげに見上げられて…浩瀚は愛しげに見下ろした。その浩瀚の片手に…煙管…?ゆっくりと紫煙が揺れる。浩瀚が、口に咥えた。
「嗜まれるんですか?」
「…良い事があったら…たまに」
浩瀚の指が祥瓊の髪を弄ぶ。
「存じませんでした…」
「…多分、遠甫しか知らない」
しばらく考えて…
「忘れてるかもしれない」
と真面目に呟いた。本当にまれに吸うのだろう。でも…。
「…階段で…」
助けてもらった時、この香りがした。もう…薄かったけれど…。
「…たまに、心がざわめいて眠れない時がある…」
紫煙を絡ませて…唇を重ねられ…
「…父が…」
呟いた。浩瀚が静かに待つ。
「…わたしが…幼い頃…窓辺で煙管を…」
雲海を見下ろしながら、立ち竦んでいるように見えた。…なにが怖いのだろうと、幼心に思った。
…怖かったのかもしれない…
いろんな事が…。
浩瀚が、頬にかかった髪を掻き揚げて、耳にかける。
「…寝なさい…明日は皆、寝坊する…」
「…だめ…皆で寝坊したら大変…」
もう半分は夢の中だ。
「浩瀚…様…雨は…」
「降ってる…」
良かった…陽子が玉座にいて…田畑が潤えばいい…。そしたら…怖くない…。
「…浩…瀚…」
「ん…。」
「…華は…綺麗に…散った?」
「…とても…艶やかに…」
そう…よかった。
祥瓊は静かに…笑った。
695浩瀚×祥瓊 初夜:2011/01/29(土) 13:01:15 ID:tdjp3J5q
朝、朝議が始まる時間になっても、控えの間には景麒しかいなかった。景麒が浩瀚を見て、目を逸す。
「…怪我でもされたか…」
…鋭い…。軽く頭を下げた。
「華を手折った際に…申し訳ない」
「…今の華なら…雨が似合う華だな…」
昨日から続く雨を見ながら、景麒が呟く。
「…主上は…」
「身支度に手間取っておられる。」
ふっ…と景麒の頬に紅が走る。それだけで察した。
「…女官が…祥瓊が来なくて…」
「昨日、虎嘯の弟どのが訪ねて来たと聞きました」
頷く。咎めるつもりはないのだろう。結局、景麒は陽子が喜んで笑ってくれる事が嬉しい。
「すまない。遅れた」
勢いよく飛び込んできた赤い髪が、揺れる。
「冢宰、悪い。待たせたか」
率直に謝る陽子に頭を下げる。
「今、参りました」
「うん。台輔、すまないが…ちょっと…ここ…うまくできる?」
景麒の前に立ち、背中の襟を引っ張りあげようとする。
「鏡だと…」
「動かずに…」
景麒がちらっと浩瀚に視線を送る。気がつかない振りをして、机に書状を並べる振りをした。景麒の指が陽子の項あたりに触れ、襟を立てるようにして大丈夫でしょうと呟く。
「ん、ありがと」
髪を下ろし、景麒の肩を叩いて、何事もなかったように浩瀚に歩み寄る。
「雨は続くのか?」
「時期の長雨の走りではないかと…」
梅雨みたいな物かと考え込む。
「…だが、もし長雨なら、橋の整備と川の護岸が必要か…」
しばし考えて。
「冢宰、そういう工事に詳しい者を、一度雁に行かせろ」
「分かりました」
「…視察させて、基礎を作れば、全土で同じ道具で同じやり方で統一できる…」
「ですが…州によってはそういうのを嫌う州師も…」
土木には利権が絡む。景麒が伺うように口を挟む。
「そこを今から戦うんだろ…」
軽く爪を噛んで、陽子は目を閉じ、開いた。碧の瞳が力を増す。
「冢宰、援護頼むぞ」
低くなった声に頭を下げた。
696浩瀚×祥瓊 初夜:2011/01/29(土) 13:03:37 ID:tdjp3J5q
朝議はやはり荒れた。だが、先を考えるとやはり陽子の意見が正しい。
基本は、国が行い、人夫は州が出す。どうにか体裁が整い、陽子はすぐに雁に視察に向かわせると朝議を閉めた。

「お茶を出す暇もなかったな」
視察に向かう人間を選出するために、浩瀚はそのまま部屋を出て行った。…陽子に祥瓊に渡すよう封書を託して。
「なんだと思う?」
「行儀が悪いですよ」
机の上で封書をひっくり返しては、指先でつつく。
「封はされてない…」
「主上!駄目ですよ」
そんな問答が続いて…我慢仕切れずに、陽子がそぉっとなかの紙を取り出した。甘い香りが漂う。
「…知りませんよ…」
頭を抱えながら、景麒が陽子の前にお茶を出し…その甘い香りに、目を見開いた。
「…香…?」
流れるような筆さばきで字が書き留められてる。陽子が呻いた。
「…読めない…」
だから陽子に託したのか…。悔しそうに顔をしかめる陽子から、景麒がその紙を摘み上げた。景麒がそんな行儀の悪い事に荷担するとは思わなかったので、目が丸くなる。
景麒がそれを読んで…軽く微笑んだ。
「なに?なにが書いてあるんだ?」
しばらく言い淀んで…景麒が紙を封書に戻す。
「…手折った華は美しかったと書いてあるんです」
意味がわからず、陽子が首を傾げる。景麒が小さく笑いその封書を盆に乗せ茶器の横に置いた。ここなら、祥瓊がすぐに気がつく。
「…なに、いったい」
珍しく、楽しそうな景麒に陽子が戸惑う。景麒は気に止めず、椅子に座った陽子の後ろに立った。
「景麒?」
首の後ろで髪を掻き分けられて、陽子が顔をしかめる。そこにあるのは昨夜つけられた歯の後。
「やめろ…馬鹿」
その首筋を…甘く噛まれ…。陽子の首が赤くなる。
「…怒るぞ…」
「後朝の短歌ですよ」
聞き慣れない言葉に首を傾げる。
「なんだ、それは」
歯形を指でなぞられて、陽子が手を払う。
「景麒…」
「…わたしは、歯形でしたね…」
苦笑いして。だが…やはりと感心もする。
祥瓊が宮中で暮らしていた事を踏まえたのだろう…やることが雅だ。
そして、ふと…気がついた…ということは…まさか…いや…。
祥瓊は、知らなかったのか?知らぬ間に、何故か顔が赤くなる。…なにもかも知ってるつもりで陽子を任せたこともあった…。
「…景麒…お前…外で顔洗って来いっ!」
怒鳴られた。

おわる
697浩瀚×祥瓊 初夜:2011/01/29(土) 13:11:14 ID:tdjp3J5q
あーはっは…。

さて、後朝の文とは、宮中で初めて一夜を過ごした姫に男性側が、送る恋文みたいなもんです。

でも!うちの浩瀚は意地悪です。多分、祥瓊は大変でしょう。

で、多分…うちの陽子も責めだなと…。

唯一、あっさりとしちゃってるのが、鈴と夕暉か…。

一段落すみました。

この…何日間だろう…夢とうつつを漂っていた気がします。

おつきあいありがとうございました。
698名無しさん@ピンキー:2011/01/29(土) 14:34:17 ID:BR9yjuw5
> ID:tdjp3J5q
すごいすごい、なんかここ何日かサイコーです〜♪
699名無しさん@ピンキー:2011/01/30(日) 18:28:46 ID:kTvvOVLW
晩ご飯の時間です。

一日一作って、なにやってんだか。と苦笑いです。

陽子の時に、延麒を登場させましたので、祥瓊のときは範のお二人に登場願いました。

えーと、ちと、エロ成分筆者にしては多めです。あと長いです。なんで長くなるかな…?

成人の方だけお通りください。約11落とします。

お楽しみ下されば幸いです。
700浩瀚×祥瓊 声:2011/01/30(日) 18:30:52 ID:kTvvOVLW
「李斎がおった処じゃな」
「お待ちください!呼びに行かせますから!」
「駄目よ。陽子はあたしとお話するのよ」
「景麒がおりますから」
「陽子…景麒とお喋りなんて、あんまり無理を言うと可哀相よ?」
背中に陽子の悲鳴と氾麟の声が心地よい。長雨を過ぎるのを待って遊びに来たのだ。
体面は、河川敷に使う工具の取り引き。その件については、すでに雁からも書状が来ていた。くれぐれも、雁経由で頼むと。知った事でない。腕利きの工具職人と乗り込んで来たのだ。これで文句はあるまい。
範国王呉藍滌は以前一時を過ごした園林を歩く。季節の長雨が過ぎ、樹々の影から出ると日差しが強い。夏が来る。
柳の枝を手折り、指先で遊ぶ。あの青い髪の娘は何をしているだろうか。範に帰っても、しばし氾麟との話題に上った。噂され、くしゃみでも出やしなかったと口元に笑みが浮かぶ。
三百年生きていると、こういう気持ちの動きがとても心地よいと知っている。国の傾かぬ範囲で首を突っ込みたくなる性分は、延王と通じる所があるかもしれない。
嫌そうな顔を思い出し、また笑った。
目の前にただ着てるだけという布が洗濯され風に舞っていた。その横の建物。
いきなり訪ねたら…どんな顔を見せてくれるか…。思わず指で遊んでいた柳を口に当て小さく笑った。

人気のない建物は静かだった。扉は風通しのためか大きく開いており…氾王は探していた女人を容易く見つけることができた。
薄暗い家の中で、窓から差し込む光に手元を翳している。優しげに微笑む唇は薄い紅を引いたようで形よく整っていた。その手に…白の襦袢がかけられ、その前見ごろに咲く青い華…。
祥瓊は、愛しげにそれを見つめていた。白い指が華を愛でる。

心に湧いた物はなんだろうか…。扉の柱に凭れかけ、しばし祥瓊に見入った。薄暗闇の中、まるで芝居の中の天仙のようで…。
美しかった。
だが…なにか…胸を刺した。なんだろうか…。
長い間に無くした感覚…。氾王は、それを探すように口に当てていた柳の枝を軽く振った。視界を柳が掠めたのだろう、ふっと表情を無くした祥瓊がなんだろうという顔で、氾王の方を向く。
あぁ…勿体ない…。そう思った。美しい物が消える瞬間。
「……っ?!」
悲鳴を上げなかったのは、大したものだった。手にしていた襦袢を固く胸に抱き込み奥に消えようとして迷う。
701浩瀚×祥瓊 声:2011/01/30(日) 18:32:22 ID:kTvvOVLW
言葉を無くし、叩頭することもできずに。氾王を見つめる瞳は…

この表情を見たかったわけではない。

氾王は唐突にそう思った。

園林を駈けて来る気配がする。視線をやると心配そうな表情で陽子が氾麟を腕に絡ませながら走って来るのが見えた。陽子の腕に楽しそうにじゃれる氾麟は、きっと祥瓊の手にしている物を逃がさない。
「…はよ、片付け」
氾王の言葉に弾かれたように身体を震わせ、一度大きく頭を下げて奥の部屋に飛び込んで行った。
「主上!見て見て!陽子すごい!」
「氾麟…ぶらさがらないで…」
赤い髪と金髪が、緑の園林に栄える。氾王は指にしていた柳を捨て二人に向かって歩き出した。

「…延王が一括してしてくださるとの事だったので…」
改めて、お茶の時間がやりなおされた。陽子がなんとも言えない顔で氾王を見る。
「なんで、間にあの猿を入れなきゃなんないの?」
あの猿…景麒が渋い顔をした。
「…はあ…以前、延台輔が大きな物を造るのは雁が得意だと…」
陽子が氾麟に答える。
「それでも…」
氾王がぱちんと扇子を鳴らした。
「道具や工具は範が得意だと、聞いたであろうに」
はあ…と頷くしかできない。その前に、お茶が差し出され、ほっとしたように湯飲みに手を伸ばした。
「…ですが…なにも、氾王自ら…」
そう言いかけて止める。自らやってくるもう一人の王と比べられたら、柳眉が立ちそうだ。
「なんじゃ…」
流し目で見られ、陽子は小さく肩を竦めた。なにか、機嫌が悪い。来た時との機嫌が、対極している。
なんかあったのか?考えても、理由がわからない。祥瓊は部屋にいたらしく陽子が建物に着いた時、奥から飛び出して来た。
「祥瓊、またお世話お願いね」
屈託なく氾麟に微笑まれ、祥瓊はぎこちなく笑った。すまん…祥瓊…。陽子は心の中で深く頭を下げた。
702浩瀚×祥瓊 声:2011/01/30(日) 18:35:16 ID:kTvvOVLW
薄衣の上着に手を通す。淡い新緑の色が夏らしい。
刺繍の施された帯を締め、一瞬手が止まる。
腰飾りを手にし、玉か組み紐か悩む素振りをした。
玉に決め、身体を起こす。
「お座りください」
心地よい声をかけられ、椅子に腰掛ける。白い手が、髪を梳く。
「祥瓊ってば、本当に綺麗に動くわよねぇ…」
感心したように氾麟が呟いた時、櫛が髪を引っ掛けた。
「すいませんっ」
「邪魔をするでない」
氾麟に注意し、構わぬと頷いた。氾麟が首を竦めて、氾王の足に纏わりつく。
「祥瓊、今度はあたしの髪よ」
「お待ちくださいね」
「…髪飾りしてみようかしら…」
たまに、柔らかい金髪を飾りたがる氾麟が、氾王が使う予定の簪を手にする。
「ここは慶国じゃ…国に帰ってからに」
膝に乗せられた金髪を指で遊ぶ。つまんないと唇を尖らした氾麟が顔を上げた。
「あら、耳飾り赤にしたのね」
陽子の髪みたいと笑う。
「腰飾りを玉にしたので、こちらも玉にと思って…」
氾王が頷く。細かい細工の腰飾りの玉は翡翠。耳は赤。悪くない。
「主上の悪くない、はとても良いという事よ」
氾麟が声を立てて笑った。

工具の貸出の取り引きはつつがなく進められ、この夏には範に慶の視察が執り行われる事も決まった。慶は貧しい。なにか、取っ掛かりを掴むためには陽子は貪欲だった。
明日には、帰らないといけないとなった日、ささやかな酒宴が設けられた。景麒と戯れるように、食事を摂り、珍しくお酒を口にした氾麟は、酒宴の終わりには景麒の膝の上で船を漕いでいた。
とても迷惑そうな顔を隠す事も諦めて、景麒が部屋に戻る氾王に膝から抱えて渡す。祥瓊が氾王に付き添い、氾麟を着替えさせ寝台に横たえさせた。
「失礼します」
氾王の寝室に入り、寝間着の準備をする。絹の寝間着に袖を通させ、帯を締める。足元に跪き、靴を脱がせる。
「…範に来ぬか…」
そう呟かれ、祥瓊はゆっくりと顔を上げた。
「…私がその為に来たとしたら…そなた、どうする」
青い瞳が驚いたように揺れた。
氾麟はなにかのたび、範に来いとねだった。冗談だと思いあしらい続けた。冗談のようにねだられ、冗談をと笑った。
氾王の手が、祥瓊の手を包み立たせた。その指先に触れ、眉を潜める。
「…この指は…絹の指じゃぞ?」
氾王の指先に祥瓊の指の荒れが当たり、ゆっくりと手の平を向ける。
703浩瀚×祥瓊 声:2011/01/30(日) 18:37:05 ID:kTvvOVLW
「…守らねばならぬ指じゃ…」
指で指をなぞられ、祥瓊の手が震えた。
「物が言えなくなったかぇ?」
祥瓊の唇が震える。言葉を発して無礼にならないのか、慶にとってどう答えたら良いのか、陽子の為にどうしたらいいのか…。
動けなかった。
氾王の指が動けない祥瓊の指を撫で、手相に沿って走る。その度に祥瓊の腕が小さく跳ねた。
「指先…辛いじゃろ?」
この指は、昔柔らかい物しか触れる事を許されなかった指だと。宮中の奥で守られて来た指だと…。
「…お許し…を…」
祥瓊の震える唇が紡いだ。指を止める。もう一度、祥瓊が呟いた。
「お許し…ください」
「…呉藍滌には、心は…割けぬか?」
その言葉に、祥瓊の身体が大きく震える。一介の女史ではないと…伝えられ…氾王に捕らわれた指を絡まされる。再び唇を震わせるだけになった祥瓊の指を…氾王は自分の唇に当てた。
「…や…」
初めて祥瓊の身体が氾王から逃れようとする。だが…氾王の指は祥瓊の指を絡めただけで、祥瓊の甲に口付ける。
そして…。指先に口付けをしようとし…祥瓊は、思わずきつく目を閉じ、天井を振り仰いだ。浩瀚が脳裏に浮かぶ…浩瀚…。
強く閉じられた瞼から、涙が零れ寝台に腰掛けていた氾王の膝に水滴として落ちた。
上向いた顎に指を伸ばし、下を向けさせようと軽く指を当て…
「主上、いけないわ」
静かな声だった。いつの間に…氾王が祥瓊の後ろに立つ氾麟を見る。
「祥瓊を泣かしてはだめよ。」
氾麟の指が祥瓊の腕に絡む。氾王は、表情を無くし氾麟を見ていた。祥瓊の顎から指を引き、改めて寝台に戻る。
「…祥瓊…ごめんなさいね…」
氾麟に謝られて…ようやく祥瓊は顔を手の平に伏せ大きく被りを振った。震える肩を、氾麟が優しく慈しむ。
「なぜ…邪魔を?」
氾王が平坦な声で聞く。氾麟がゆっくりと顔を上げ…小さく笑った。
「…昔、主上はある女性に恋心を抱いたわ…でも、その女性には他に好きな方がいて…主上はとても、ご機嫌が悪くなったの」
…その事は覚えていなかったが…その時の心の痛みを感じたのかと…ようやく気がついた。あの…祥瓊が青の華を愛でるのを見て…。
「…私は間が悪いのかねぇ…」
ふうと溜め息を吐いた。
「…すまぬ、祥瓊…酒が過ぎた」
小さく首を横に振る。
「…祥瓊、明日は見送りはいらぬ。…下がれ」
頷いて、氾麟が手をとり寝室から出て行く。
704浩瀚×祥瓊 声:2011/01/30(日) 18:39:21 ID:kTvvOVLW
寝台の上で軽く溜め息を付き、祥瓊が零した涙の染みを指でなぞった。
あの青の華を指先で愛でる先に…その男がいるのだろう。
あの美しさは…相手の事を想っての美しさなのだと…心のどこかで分かっていたのだろう。
自分には向けられる事のない…美しさ。思わず小さく笑った。恋心に気付く前に…波にさらわれた気分だった。

氾麟の手が優しく祥瓊の手を撫でる。
「…許してね?あたし達は本当に祥瓊が好きなのよ」
そう言われても返事ができない。指先を取られた時…怖かった…。
「主上も、きっと反省してるわ。だから…許して?」
「…勿体ない…お言葉で…」
他人行儀に言われ、氾麟が手を止め顔を覗き込んだ。
「…祥瓊…もう、あたしの事嫌いになる?」
そう聞かれて、首を横に振った。嫌いにはなれない…だって…。二人の支度をするのは物凄く張り合いがあったのだ。二人の間で翻弄されて、楽しかった。
「主上には、きつーいお灸を据えとくから。」
真面目に言われ、吹き出した。本当に…この可愛らしい麒麟は。ようやく笑った祥瓊にほっしたように氾麟の肩から力が抜ける。
「祥瓊の笑った顔がとても好き…」
でも…と呟く。
「…祥瓊の事が好きでたまらない人が、いるのよ」
氾麟の言葉の意味がわからず、手を引かれるまま、空いた窓からそっと外を見た。
園林の奥で佇む影。ゆっくりとその身体を紫煙が包む。
祥瓊は言葉が出なかった。驚いたように氾麟を見る。しーっと唇に可愛らしい指を当てた。
「祥瓊が夜、ここを出るのを確かめて…しばらくして、祥瓊の後を歩いて行くの。気がついてた?」
知らなかった。浩瀚は公務が激務だと聞いていたし、祥瓊自体も、氾王たちのお世話で忙殺された。擦れ違う事すら無かった。
「…あなたが心配でたまらないのね」
氾麟の言葉に…新しい涙が溢れる。
心がざわめいて、眠れない夜に…煙管をくゆらすことがある…
祥瓊は、そっと氾麟の手を取った。
「…つつがなく…。氾王にも…そうお伝えください…」
「ありがとう…祥瓊。大好きよ」
氾麟に首に抱き付かれ、そして、行ってと微笑えまれた。

宮の扉が開く。祥瓊が一礼して、下がる。静かに扉を閉め…。
ゆっくりと、浩瀚の方に顔を向けた。気がつかれたか…?紫煙の香りは薄く、漂ってもすぐに樹々の香りに隠れてしまうはずなのに。
705浩瀚×祥瓊 声:2011/01/30(日) 18:41:27 ID:kTvvOVLW
…浩…瀚…
祥瓊の唇が名を呼んだ。その瞳から、一筋の涙が零れる。煙管の火を落とし、固く土に踏み込んだ。そのまま腰帯に差し込んで。おいでと手を差し延べる。
祥瓊がゆっくりと歩いて来て…なにかに足を取られたように身体を揺らした。その肩を抱き留めて…すがりつかれ…。祥瓊が堪え切れぬよう…囁いた。
…あなたが…好き…あなたが…好きなの…
声なならない密やかな音に…浩瀚は目を閉じた。

寝台に腰掛け、指を絡めながら唇を啄むだけの口付けを交わす。煙管の香りがする。祥瓊が軽く喘ぐように身を捩り、また浩瀚の唇を啄む。
浩瀚はされるまま口付けを許し、絡ませてた指を開かせた。祥瓊がゆっくりと手の平を浩瀚の膝に差し出すようにして置く。
啄みを止めないまま、祥瓊が既に熱がこもった息を吐いた。浩瀚の指が祥瓊の人差し指に触れる。指先で触れるか触れないかの感覚に祥瓊が小さく呻いて、唇を放した。
浩瀚が啄み始める。祥瓊の上唇を啄み、重ね、下唇を甘く噛む。
「…指を…」
祥瓊が色付いた唇で囁いた。浩瀚が啄むのをやめ、顔を上げる。
「…指を…食べて…」
震えながら差し出された指に浩瀚は口付けた。
祥瓊の身体が寝台に伸べられた。浩瀚の指が器用に袷を解いて行く。次第に締め付けがなくなる感覚に、祥瓊は顔を腕で覆い、息を吐き出した。あらわになった白い乳房が息に併せて大きく上下した。
そのまま、浩瀚が身体を伸ばし、首に顔を埋めようとして、祥瓊の手が止める。
「…いや…」
祥瓊の指が浩瀚の襟に忍び込む。
「…脱いで…」
苦笑いして、浩瀚は一度身を起こし寝台から下りた。

落とされて行く服と、次第にあらわになっていく男の裸…。
「…あまり、見るな」
祥瓊の顔に指がかけられ、視線を合わされた。浩瀚が苦笑いしている。その…唇が好き…。
祥瓊の指が唇に触れる。唇を走り、うっすらと開いた浩瀚の口に指先を少し入れて見る。浩瀚は、軽く唇で挟み、前歯で甘く噛み、舌先でつついて返した。
「…辛くないのか?」
返事をせず、今度は浩瀚の顔を引き寄せる。目を開いたまま、舌先を小さく出し、さっきの指と同じ事をした。やはり、唇で軽く挟まれ、噛まれ、舌先が触れる。
変だわ…なんか…変…。そう思った。
「…ね…なんか…変なの…」
「…変だな」
浩瀚が笑う。
「恥ずかしい事を…言う?」
小さく頷いて、祥瓊は浩瀚の耳に囁いた
706浩瀚×祥瓊 声:2011/01/30(日) 18:43:42 ID:kTvvOVLW
…身体が…指みたいなの…
浩瀚の耳を啄む。
…わたし…変になっちゃったかも…
浩瀚の足に、自分の足を絡ませる。
…ね…指を…食べて…
浩瀚の背に腕を回して、強く抱き締めて…

祥瓊は一度小さく身体をのけ反らせた。

浩瀚の指が、確かめるように祥瓊の茂みを掻き分ける。零れるように濡れた秘部に一瞬驚いた顔をして…苦笑いした。
「…食べて…」
うわ言のように呟いた祥瓊の足が大きく開かされた。ぼんやりとそちらを見ると…、浩瀚が身体を屈めて来る。なにかが…あたる…。瞬間、見悶えた。
「…や…ひど…い」
身体にのめり込む杭に再び身体がのけ反る。…ひどい…まだ…なにもしてないのに…
ぐっ、と上から押さえ込むようにして…喘ぐ祥瓊を浩瀚は抱き締めた。
「…ひどい…わ…」
祥瓊のまなじりに涙が浮かぶ。
「…こうしてないと…飛んでいってしまいそうだ…」
「…いや…よ…動けない…」
「動かなくていい…」
熱い…と祥瓊が呟いた。無理矢理拡げられた所が熱い…。そして…固い…。
「いや…熱い…」
自然に腰が動く。浩瀚が笑う。
「…動けないんじゃないのか?」
「…動いてないわ…」
「動いてる」

嘘よ…と目を閉じ、浩瀚の背中に腕を回す。温かい…滑らかな背中に指を走らせて…脇腹に触れた。
「……っ」
耳元で浩瀚の息の詰まった声を聞いた。くすぐったそうに、祥瓊の指を払う。
再び、背中に戻して…今度は、背骨を伝ってみる。
「…祥…瓊」
浩瀚が一度身体を震わせた。震わせた感覚が祥瓊に伝わって心地よい。祥瓊が鼻から甘い息を吐いた。
「…いやよ…食べるの…」
浩瀚の耳を啄み、軽く歯を立て、口に含む。すると、仕置だと言わんばかりに、浩瀚の身体がぐっと祥瓊を突き上げる。
甘い声を上げた。
喉元に口付かれ、軽く噛まれる。そして舌先でくすぐられる。
「噛んで…」
望んだ感覚は与えられずに、祥瓊がいやいやするように身体を捩らした。すると、捩らしたことを許さないように、また、突き上げられる。
なにをしても…杭を打ち込まれるなら…
「…もっと…」
祥瓊の足が浩瀚の腰に絡まされた。祥瓊の腕が浩瀚の首に回される。
「…指を食べて欲しいんじゃないのか?」
「食べて…」
浩瀚が軽く呼吸を乱しながら囁く。うっとりと祥瓊が答えた。
「これじゃあ、食べれない」
「いやよ…食べて…」
707浩瀚×祥瓊 声:2011/01/30(日) 18:52:58 ID:kTvvOVLW
祥瓊が再び身体をのけ反らせた。
「…落ちるわ…」
すがりついているのに…落ちる感覚が不思議で、そう呟いた。
浩瀚が祥瓊の額にかかった髪を払う仕草で、祥瓊は自分の身体が汗でうっすらと覆われている事を知った。
「…落ちない…」
「…なにか…来るのよ…」
ゆったりと、さざ波のようなものが、次第に大きくなる。堪え切れなくなりそうで、足先に力が入り、逃げようとするのに…逃げられない。逃げたくない。
「…なんか…いけないことみたい…」
呟いた祥瓊に、浩瀚が笑う。浩瀚の指が祥瓊の唇に触れた。
「…落ちそうなときは、いくと…」
眉を潜める。
「また、言葉が違うの?」
前は、辛いと言ったら、良いと言うようにと言われた。今度は…いく?…
「…どこに?」
聞かれて、困ったように浩瀚が笑う。
「…落ちそうなとき、どこに落ちそう?」
今度は、祥瓊が考え込んだ。どこに落ちそうなのかしら…。はっきりしない…でも…
「…深いところ…だと思うわ…」
浩瀚が身体を揺すった。あぁ…また…波が起こる。
「…深い所に…いくと…思えばいいの?」
「…高い所に…」
そう囁かれて、あぁと頷く。確かに…なにか上り詰める気がする。たゆたゆような波が、次第荒れる。浩瀚の顎から汗が祥瓊の胸に落ちる。浩瀚の表情は、なにかを堪えているように、険しく…息が荒い。
「…ねぇ…」
祥瓊が突き上げられ、甘い声をあげる合間に、浩瀚の顎を捕らえて聞いた。
「…あなたも…高い所に…いくの?」
浩瀚の身体が叩き付けるように祥瓊の身体を突き上げ、甘い悲鳴を上げた祥瓊の唇を乱暴な仕草で奪った。

…紫煙の香りがする…甘い…。祥瓊は身体を起こした。床におちてる襦袢を肩にかけただけで部屋を出て行く。紫煙の香りが濃い所…
建物の一画に、沐浴の為の水場があった。小さな庭石が置いてあり、そこにやはり寝間着を羽織っただけの浩瀚がいる。
そっと後ろから近付いて、咥えていた煙管を取り上げた。ゆっくり振り向く浩瀚の顎を捉え口付ける。重ねるだけ。浩瀚が、祥瓊の肩から襦袢を落とした。
「身体を洗いなさい」
言われるまま、水に足をつけ奥に向かう。その背中に浩瀚の視線が注がれる。淡い月明りの下で、祥瓊の青い髪は沈み、白い肌が燐光を伴って輝いている。
水が腰に届いたところで、祥瓊はゆっくりと身体を沈めた。
「…呉藍滌に…なにか言われたね?」
708浩瀚×祥瓊 声:2011/01/30(日) 18:54:56 ID:kTvvOVLW
背中越しの言葉に頷く。この人には隠し事は出来ないと知っている。
「…範に来いと言われた?」
再び頷く。浩瀚はしばらくなにかを考えて…息を吐いた。
「…今夜…あの宮のそばで…祥瓊が私を呼ぶのを聞いた」
目を見開く。まさか…でも…。震える指で口を押さえる。まさか…わたし…声に出したの?
「…思わず…あの宮の扉を開けようとしてしまって…」
驚いた祥瓊が、水音を立てて振り返る。
「…氾麟が、立っておられた」
宮に飛び込もうとしてしまった浩瀚に、指を唇に当て微笑んだ。
…若いの…
そう呟かれ、下がれと言われた。いつもの所で待っておれ…と。
「…何だったのかと…」
煙管を口に咥えるのも忘れた様子で考え込む。
祥瓊は、公の場では浩瀚を冢宰と呼ぶ。それが分かっているだけにあの宮でいきなり自分の名前を呼ばれ驚いた。
だが…声は聞こえたのか響いたのか…。
「…呼んだわ…」
ゆっくりと一度息を吸って、祥瓊はとぷん…と水に潜った。
暗い水が揺れる。小さな泡が口から水面に上がって行く。青い髪が水草の様に漂い…祥瓊は身体を小さく丸めた。
音がしない世界…違う…コポコポと泡が上がる音だけ…。
水が揺れた。腕を掴まれ、身体を起こされる。導かれるまま、水面から顔を出した。
「…深い所…みたい」
呟き…なにか違うと考え込む。水の中は…目を閉じると確かに深く…でも。浩瀚に抱き上げられながら目を閉じた。
「…あなたが…好き」
額に口付けられ、言葉は届いたのだと嬉しかった。

朝議の後…陽子と景麒が氾王達の見送りをする為席を外した。控えの間で書簡を巻きながら、浩瀚は夕べの事を考える。
扉の前に立っていた氾麟…。いつもは幼さしか見せない麒麟が…怪しい女怪に見えた。怪しい…いや違う…妖艶な…だ。だから、足が動かなかった。あやかしかと思った…。
「あなた、浩瀚なのね」
急に名前を呼ばれ振り返った。扉を後ろ手に閉め氾麟が笑う。あどけなさが消え、妙に色香があった。
「…ご出立では…」
叩頭し、伺う。氾麟が笑った。
「主上のお仕度がすまないの」
祥瓊がいないから…そう言外に言われた気がするが、気にしなかった。
「夕べ、あなたが来て嬉しかったわ。」
ゆっくり、近付いてくる。浩瀚は無礼にならないよう視線をその裳裾に合わせた。
709浩瀚×祥瓊 声:2011/01/30(日) 18:55:55 ID:kTvvOVLW
「ご無礼をいたしました…」
他国の王と麒麟がいる堂に断りもなく立ち入った事は、後から考えてみてもしてはならぬ事だった。
「好きな娘に名を呼ばれた…当たり前じゃ…」
くくっと笑い声が上がった。…やはり…祥瓊が名を呼んだのか?
「頭に響いたであろ…」
…妖術か…。浩瀚は顔を上げた。氾麟の顔つきがくるりと変わる。小さく肩を竦めてみせた。
「ちゃんと祥瓊には謝ったわ。つつがなくって言ってもらったから、もういいの」
そう鈴の音が鳴るようにわらって見せた。
「…祥瓊…女史に、なにを」
「祥瓊に、じゃないわ。主上によ」
そう言って、またくるりと表情が変わる。
「…人のものばかり好きになる。昔も今も…。」
そう呟いて、金髪を指でいじった。
「憐れでみてられぬ…だから呪いをかけた。好きになる女に想い人がいるかいないか…わらわにしか、分からぬよう」
また笑う。
「夕べは、ちと酒を飲み過ぎた。…祥瓊の悲鳴に飛び起きる始末じゃ。あの声がそなたにも聞えた。…それだけの事じゃ」
…氾麟が浩瀚を見上げる。
「…そなたで良かったと思ったのは、本当じゃ…。」
毎夜立っていた事に気付かれていたか。
「…煙管はよしたほうがよい。闇には香りは紛れぬぞ…」
再び、小さく笑い。浩瀚の手を取った。一瞬、弾こうとした腕を必死に押さえる。相手は他国の麒麟だ…。
「…若いの…」
呟かれ…気がついた時には扉が揺れていた。額に冷や汗が浮かぶ。…あれが…氾麟…。大きく息を吐き、手の甲で額を拭った。敵わぬ…。素直にそう思った。

「おまえんとこ、氾の御仁になにやったんだよ!」
氾王達が出立した二日後、物凄い面白いものを見たと言わんばかりに六太が飛び込んで来た。
「…なにも…別に」
「…てゆうか…先日帰られたばかりで…」
陽子と景麒が顔を見合わせ首をかしげる。
「その足でうちんとこ来たんだよ!」
六太が机に突っ伏して笑い出した。
「真っ直ぐ、尚隆の部屋に飛び込んで来てさ!そのまま、寝室に立てこもりやがった!」
息も絶え絶えに笑う六太に陽子が、困ったように景麒をみる。
「も、物凄い荒れ模様でさ!尚隆の寝室、破壊されつくしたぜ!」
ひぃひぃと息を切らせて笑い転げる六太が、顔を上げた。
「…なに、やった?どうやったら、あんな八つ当たりするような事あの御仁にした?氾麟に聞いても教えてくんなくてさ」
710浩瀚×祥瓊 声:2011/01/30(日) 18:57:15 ID:kTvvOVLW
再び、突っ伏す。
「もともと汚い部屋だから問題ないわよね?だぜ?」
「…今も…雁に…?」
なにか気付かぬうちに失礼があったかと、陽子が青くなる。
「いや、部屋を破壊するだけ破壊して、暴れるだけ暴れて、しれっと邪魔したのって言い捨てて帰った」
なんだそれは…。
「なんかの八つ当たりなんだよ!だから来たんじゃないか。なにしたんだよ。教えてくれよ」
ねだる六太の声が響いた。

おわる
711名無しさん@ピンキー:2011/01/30(日) 21:33:03 ID:kTvvOVLW
たゆたゆな祥瓊が書きたくて書きました。
水のなかの祥瓊や、陽子は美しかろう…と。
氾麟…すいません。ちと、酸いも甘いも知ってて使い分ける女性になってもらいました。
八つ当たりされた尚隆には悪かったと思いますが、範で、自分の自室を荒らすのは、氾王には美意識でできなかったのだろうと。高そうなものが多そうで。
100スレ以上個人で使っちゃいましたが…

ちと、エロ。

エロ。

ばっちしエロ。

どこらへんまで、ここで書いて良いのか悩んでます。

今のとこ、祥瓊の「声」がエロ段階です。
ばっちしエロも書きたいような…許されるのかというような…。

また、なにか書いたら投下します。

おやすみなさい
712名無しさん@ピンキー:2011/01/31(月) 15:26:46 ID:uY5VNqTw
おやつの時間です

過去のSS読んで来ました。なんだ、まだまだエロぬるいじゃん〜と安心して、投下。

大概、現実に戻れと思ってますが、日々の仕事の合間だもんと、現実から逃げてます。

8落とします。
景麒×陽子です。やや、SMよりです。

ラブはたんまりです。
お楽しみ下されば幸いです
713景麒×陽子 紐:2011/01/31(月) 15:28:59 ID:uY5VNqTw
仏頂面の尚隆が行儀悪く机に腰をかけ、陽子を睨み付けていた。陽子は、相手にせず各地方から送られて来る作物の収穫予想を確認している。
雨は適度で、夏の日差しも農作物には良かった。このままいけば、秋にはこの冬を越すぐらいの収穫ができる。
だが…そうなれば、州師が裏で税収の絡繰りを始めるかもしれない…。指を噛んで自分の思考を巡らせていた陽子は、バンッと机を叩かれて煩そうに尚隆を見上げた。
「…叩かないでいただきたい。天板が割れたらどうするんですか」
「俺の部屋の机は、ただの木片に変わったぞ?!」
深く溜め息を吐く。書状を机に置き、指を組んで尚隆を見上げる。
「…範には、こちらからも書状を送りました。ご無礼が無かったかと。」
「そしたら?」
「なんの事か、存じぬが、とても良くして頂いたので、機会があればまた伺いたい。特に、世話をかけた女史には労いを頼む、と。」
しばし無言で睨み合う。
「…うちには、落ち度はないとおっしゃってますが…」
「じゃあ、なんだっ!俺の部屋の惨状はっ!」
「知りませんよ…」
溜め息を吐き、椅子から立ち上がる。
ようは氾王に八つ当たりされた尚隆が、腹を立てたものの氾王に直接文句を言えず、陽子に八つ当たりしているのだろう。
ようするに、とばっちり…っていうのか…。
「…範に直接…」
睨まれて、諦めたように陽子が溜め息を吐く。天敵だと言ってたな…確か。
「…だけど、本当に分からないんですよ…」
なにをそこまで八つ当たりするだけの事があったか…。尚隆がふんっと鼻を鳴らした。
「あれの気持ちが分かる者など、おるか」
複雑でややこしい。すぐ拗ねて、すぐ怒る。
尚隆は、ようやく諦めたように溜め息を吐いた。ここに来たのも八つ当たりだと知っているからだ。
「…陽子…」
お茶を淹れようとして、尚隆に背中を見せた陽子が振り向きもせずなんですかと答え…。
身体を絡め取られた。
自分より一回り大きな身体が、背中に被さり腕が陽子の身体に回る。
「…なにしてんですか…」
呆れた口調に尚隆が陽子の耳に息を吹き掛けながら囁く。
「…慰めてくれんか?」
…そう来たか…。うんざりして、手にしていた茶壺で尚隆の手を叩く。
「…わたしが本気で怒る前に離れて下さいね」
「…本気で怒ってもいい…」
714景麒×陽子 紐:2011/01/31(月) 15:30:37 ID:uY5VNqTw
あー本当に、女のあしらいがうまいな…。わけのわからない感心をしてしまい、身体の力を抜いた所を掬われた。
身体が反転し、そのまま、床に転がされる。身体を床に打ち付けずに済んだのは、尚隆の腕が優しく抱き込んだからだった。
「…本気で怒りますよ…」
碧の瞳がゆらりと揺れる。
「構わんと言った」
尚隆の口元が上がる。
「…この間のお姉さんの所行ったらどうですか」
赤い髪が床に舞う。
「国に帰ったそうだ」
陽子の肩にかかった髪を払う。顔を近付ける。
「…こういうふざけは、嫌いなんですが…」
「…でも、こういう事は、嫌いじゃないな?」
尚隆の指が陽子の首筋に触れた。そこにある…跡…。陽子の顔から表情が消えた。
「祥瓊!延王がお帰りだっ!」
隣りの部屋にいた女史が慌てたように扉を開け、…立ちすくんだ。
「…そう来るか…」
感心したように尚隆が呟く。まさか人を呼ぶとは思わなかった。
静かな怒りを孕んだ碧の瞳に苦笑いをした尚隆が映る。
「主上…どうされ…」
扉の前で固まった祥瓊を不審に思ったのか、ちょうど入って来た景麒が祥瓊の横に立ち…口を閉じた。
その声を聞いた瞬間、尚隆を睨み付けていた陽子の瞳が揺れ…一番見られたくない者に見られたという羞恥と怒りと泣きそうな表情を浮かべたのを尚隆は見逃さなかった。
景麒が一歩部屋に入ろうとして…身を翻して出て行く。そこまで確認して…尚隆は身を起こした。
「…案ずるな。陽子が茶を淹れようとして、俺に躓いただけだ」
手を差し出し、陽子を起こそうとして、陽子が握り締めていた茶壺で払われた。
祥瓊が慌てて陽子に駆け寄る。床から立ち上がろうとする陽子を見ながら、尚隆は腹癒せが収まった気分になった。
いい表情を見た。
「またな」
そう言って、陽子に向けた背中に茶壺が飛んで来て、祥瓊の悲鳴が上がった。

「冢宰っ…景麒知らないかっ?」
部屋に飛び込んで来た陽子に浩瀚が首を傾げる。
「先程…湯殿のほうに駈けて行かれたようですが…」
「ありがとっ」
既に走り出した陽子に、ですが…と言いかけた言葉を飲み込む。夏はあの湯殿を使うようにはなっていないのだが…。
今度は、陽子を追って祥瓊が走り込んで来る。
「…なにかあったのか?」
さすがに不審に思って浩瀚が尋ねる。息を切らした祥瓊が首を横に振った。
715景麒×陽子 紐:2011/01/31(月) 15:32:33 ID:uY5VNqTw
「…台輔…が、勘違いなさ…れて」
走る事があまり得意でない祥瓊は肩で息をしている。あまり見る事のない祥瓊の姿に思わず笑いながら、近くに寄れと手招いた。
事情を聞き、しばらく考えて手にしていた書簡を見直す。
「…どうしたら…いいかしら…」
心配そうに伺う祥瓊に軽く微笑む。
「台輔のご機嫌が治れば済む事。お二人の問題だから、気にしなくていい」
書簡の幾つかを、脇に置く。これは、陽子が目を通す必要があるもの。
「明日の朝議は、開けぬかもしれぬな…」
そう笑って、浩瀚は祥瓊の頭を軽く撫でた。

「景麒っ!」
まさか金波宮で追いかけっこをするはめになるとは思わず、陽子は湯殿の扉を勢いよく開けた。湯の変わりに水がはられてる浴場のちょうど真ん中あたりで濡れそぼった景麒が立っていた。
「…探したぞ…」
さすがに息が上がる。景麒は一度肩越しに陽子を見たが、すぐ視線を逸らし、水面を見た。
「…景麒、こっちに来い」
陽子が息を整えながら、浴場に足を踏み入れる。水が服に纏わりつくが構った事ではなかった。
「来い…景麒」
陽子の手が景麒の服を掴む。…景麒の身体が陽炎の様に揺らいだ。その揺らぎに見覚えがあり、陽子は思わず手にした服をきつく自分の方に引き、叫んだ。
「転変したら泣くぞっ!」
泣くぞと言う前に、既に涙が浮かんでいる。驚いたように陽子を見ていた景麒は…すとんというように、転変をやめた。
「…泣くぞ…本当に…」
ずるいと景麒が呟き、陽子の目から既に零れた涙を掬う。
「…延王にからかわれただけなんだ」
景麒の指が震える。
「言い訳じゃないぞ。お前がつけた跡をからかわれて、ああなった。…祥瓊を呼んだのに…お前が来るなんて…思わなかった!」
見られたくない者に見られた…その気持ちが一番強かった。だが…
「なんで、お前が助けに来ないっ!」
景麒の腕がきつく陽子の身体を抱き締めた。陽子の腕が景麒の背中にすがる。
「…申し訳…ない…」
震える頭を自分に押しつけるようにして謝る。
あの瞬間…身体が二つに割れるかと思った。飛び込んで行きたいと思った身体と、他国の王だと引き止めた心と。使令を使いそうになった心と、それを止めた身体と。
気がついたら、ここに居た。頭を冷やすように…。
「…殺してしまったら…どうなるかと…」
ぎょっと陽子が顔を上げる。
716景麒×陽子 紐:2011/01/31(月) 15:34:12 ID:uY5VNqTw
他国の王を殺したら…この国も…滅ぶだろう…だが…
「景麒…」
陽子の手が添えられ、視線が合わされる。泣いたからだろう、目の縁が赤い。赤い縁取りに碧の瞳が涙に濡れ、美しかった。
「…わたしが、油断してたのもある。…辛い思い…させたか?」
頬に添えられた手に顔を擦り付ける。陽子がその仕草に小さく笑った。
「…悪かった…お前の好きにしていいよ」
お前の物だからと…。陽子がゆっくりと唇を寄せた。

陽子の寝室に戻り、景麒がゆっくりと陽子の着ていた服を脱がす。水を含み張り付くように足に絡んでいた服を跪いて落とし…現れた膝に口付けた。
「…座ってもいいか?」
返事がないのを了承と得て、陽子が寝台に腰掛ける。湯殿からここまで濡れた靴を脱がされたまま抱き抱えられて来た。さすがに人目を気にしたが…誰とも会わなかったのは、祥瓊のおかげか?
「…っ…」
ふくらはぎを噛まれ、視線を向けた。景麒が睨んでいる。
「悪い…」
余所見をするなということか…。陽子の手が膝の所にある景麒の頭に触れた。
景麒が再び唇を滑らす。形よいふくらはぎを滑り、細く締まった足首を手に取り…。
「…ちょっ…まて…」
制止の声に目線だけ向ける。陽子が寝台の上で、片足を持ち上げられる姿勢にさすがに戸惑ったような表情を見せた。
「…景…麒…」
困惑した表情を確かめて、視線を逸す。好きにしていいと言ったのは陽子だ。足首を持ち上げ、唇を当てる。踝を軽く噛まれ、陽子の足が震えた。
寝台の前に跪いた景麒の手に陽子の片足が乗せられる。踝を舌でくすぐり、土踏まずの柔らかい所を甘く噛む。
陽子の指が寝台の布に皺を寄せた。こ…れは…辛い…。
「…景麒…止めろ」
景麒の息を思わぬところで感じ、思わず身を捩って手を払おうとした。
「それはっ…だめだっ」
景麒の手が陽子の足首を捕らえたまま、逃がさなかった。景麒が陽子の小さな足指先に口付ける。陽子の身体が大きく捩れた。
「やめろっ…やめっ…やめ…てっ…」
懇願が悲鳴に変わる。景麒は聞こえない振りをして、逃げようとする足首に力を入れる。人差し指に唇を寄せ、小さな爪を愛しげに舌で撫でる。指裏に歯を立て甘く噛む。指の間を舌でくすぐる。
陽子の自由になる足がもがき、景麒の肩を蹴り上げた。
「…っ…」
「…あ…」
痛みに顔をしかめた景麒を見て、陽子の方が驚いた声をあげる。
717景麒×陽子 紐:2011/01/31(月) 15:36:06 ID:uY5VNqTw
「…大人しく…してられないんですか?」
「無理っ…無理だ…景麒っ…」
「…我が儘な…」
景麒の手が床に落とされた腰紐に触れた。…好きにしていいと言ったのに…。
「…なんでそんなに嫌がる…」
「…無理…無理だよ…景麒…無理…」
泣きじゃくるようにしながらも、景麒を見つめる目を見ながら…景麒はゆっくりと身体を起こした。
「…無理は致しませぬ…」
「本当…か?」
「…好きにしていいとおっしゃったのは、主上ですよ…」
身体に被さった景麒の身体と重さと、優しい声に安心したように陽子は目を閉じた。景麒の手が陽子の片手の手首を捉える。
そこに回されるなにか冷たい物…そして、寝台に引き上げられた足首…。陽子は、目を見開いた。
「…大人しく、なさってください」
震える唇に唇を重ね…景麒はゆっくりと身体を起こした。
片膝を立たせるように寝台に上げ、その足首と伸ばされた手首に回された紐。
「…動かないでくださいね…」
「…景…麒ぃ…」
陽子の見開かれた目から涙が零れた。
「…良い子にしてたら、解いて差し上げますから…」
陽子の身体が寝台の上で捩られる。閉じられた瞼から伝う涙が寝台の布団に染みた。
幾度悲鳴を上げただろう。悲鳴を上げる度、身体のどこかに甘い痛みが走る。
噛まないでくれと何度頼んだのだろう…。頼む度、優しく唇を寄せられた。
合間に、唇から水が含まされる。…渇いた喉に甘く染みる。優しさと…甘い痛みと…繰り返される波にすでに喉は悲鳴を上げる事を止めた。
景麒が簡単に開かせた脚の付け根に身体を伏せ、唇で遊んでいる。
「…もう…いいだろ…?」
うわ言のように繰り返される言葉に、気を悪くしたよう景麒が突起に歯を立てる。陽子の身体が跳ねる。溢れた愛液はすでに布団に大きな染みを作り、その感覚も辛かった。景麒が笑う。
「…布団を換えないといけませんね…」
言うなと、陽子が顔を背ける。背けた事を許さぬように、花びらを噛んだ。陽子の身体がわななく。
面白い…そう景麒は感じていた。噛む所によって、陽子の身体は跳ねたり捩ったりする。あまり跳ねさすのも辛そうなので、優しく舌を這わせたら、甘い声を上げる。
景麒の動きに合わせて陽子が身体を捩らすのは、とても楽しかった。
己の絶対の存在が、己の思うままになる。
「…不思議なことだ…」
景麒の舌が秘壺をくすぐる。
718景麒×陽子 紐:2011/01/31(月) 15:37:43 ID:uY5VNqTw
陽子は身を捩るだけだが、そこから新たな蜜が溢れる。こんなに溢れたら…身体の水が無くなってしまう。
景麒は身体を起こすと、そばに置いておいた水差しからそのまま水を含み、陽子に口移しで含ませた。
陽子は力無く頭を落としている。のけ反った喉がゆっくりと水を嚥下した。
「…大丈夫…ですか?」
力無い様子に、景麒が心配そうに聞く。陽子がうっすらと瞼を開き、呟いた。
「…もう…いいか?」
そう聞かれ、首を傾げる。自分のなかで満足したかと言われると…まだしてないと思う部分がある。
「主上の身体は…不思議でなりません…」
そう呟き、陽子の身体を寝台に下ろした。陽子が諦めたように目を閉じ…景麒の手を取った。
「もう…動けないから…紐を解いてくれ…」
そう言えば、先程から抵抗が無かった事に気がつき、景麒が笑った。陽子の唇に了解の口付けを落とし、紐を外す。
やっと自由になった手首と足をそろそろと伸ばし、陽子は深い溜め息を吐いた。
…やってくれる…。
好きにしろとは言ったが…ここまでするとは…。
「…景麒…」
呼ばれ、景麒が身を起こし陽子を見下ろした。
「…限度を…考えろよ…」
そう呟いて、紐の跡の付いた手で、景麒のものに触れる。
景麒が触れられて、一瞬顔をしかめた。
「…動けないと…」
「…これ以上…動けない…」
指先で、景麒のを愛撫する。実際、指はようやく巡り出した血流で痺れたようになっている。
「…このまま…わたしを気絶でもさせるつもりか?」
何刻たった…?湯殿では、まだ昼過ぎだった。もう部屋を覆うのは夜の闇だ。
軽く咳き込む。喉がひりつく。悲鳴を上げすぎた。顔に髪が涙と汗で張り付き気持ちが悪かった。
「顔を拭いてくれ…気持ちが悪い」
景麒が水差しから水を自分が着ていた着物に含ませて、陽子の顔を拭った。冷たい感覚が陽子の身体に力を与える。大きく深呼吸をして、身体の強張りを解いた。
「…主上…」
ようやく、やり過ぎたかと気がついた様子で景麒が陽子を見た。
「…お前は、限度を知らんのか…」
呆れた口調に目を逸す。しかし…好きにしろと言ったのは…。
「…ちゃんと…してくれ…」
一人で落ちるのはもういいと陽子の腕がゆっくりと景麒の首に回される。
「…お前も…落ちろ」
陽子の脚が景麒の身体に絡み付いた。
719景麒×陽子 紐:2011/01/31(月) 15:39:32 ID:uY5VNqTw
陽子に触れられた事で、いきなり景麒は自分のそこに血が集まるのを感じた。
なぜ、そうすることを忘れていたのかと自分でも驚く。陽子の指が先を撫で、裏をなぞる。
「…なんで…これをくれなかった…」
陽子に睨まれて、景麒はしばらく考えて…白状した。
「…主上の身体に夢中になりすぎて…忘れてました…っ…」
言った瞬間、先端に爪を立てられ呻いた。
「…お前は…子供か…」
陽子の瞳に妖しい火が灯る。
「…このまま…終わるつもりだったのか?」
再び、指が先を柔らかく愛撫する。グッ…と太くなった肉茎に小さく陽子が笑った。
「…可哀相に…」
と、自分の指先が濡れた感覚に眉を上げる。不思議そうに、自分の指先を確かめて、再び触れた。
「…主上…」
景麒が辛そうに呻く。自分と景麒の腰の間に目をやり…陽子が顔を赤くした。
「…お前のも…濡れるのか…」
先走りが滲み、雫となり陽子の腹に落ちた。
「…このまま…してみるか…」
陽子が不思議そうに呟いたのを耳に捉え、景麒が頭を垂れた。
「…お許しください」
しばらく、陽子の指が景麒の先の滲みを拡げるようにしながら遊んでいたが…くすっと笑った。
「…来い…」
指を放して景麒の背中を抱く。ほっと身体の強張りを解き、景麒は身体を屈めた。
散々、景麒に弄ばれた陽子の花芯は喜んだように景麒のを迎える。支えもいらず、スムーズに押し込んだ時、中が一度大きくうねった。
「…しゅ…主上っ…」
思わず呻いた景麒の下で、陽子が身体を紅潮させ力を入れ捩った。きつく閉じた瞼に新しい涙が浮かぶ。身体を強張らせ、唇を噛み…しばらくして震えるように息を吐いた。
「…き…つい…」
陽子が苦しそうに呻く。
「…わたしも…辛いです」
景麒も喘いだ。柔らかく弛緩した肉襞が、思い出したかのように景麒のを絞り上げる。その度に陽子が呻いた。
「…お前…動くなっ…」
そう言われ、苦笑いした。
「…わたしは動いてはおりませんよ…」
「嘘をつく…な…あっ…また…」
景麒の腕がきつく陽子の身体を抱き締める。陽子の腰だけが捩り、景麒が笑った。
「…主上が動いてる…」
「…も…っ…お前も動けっ…」
真っ赤に染まった耳を軽く噛み、景麒は突き上げた。
奥に当たり、陽子が甘い悲鳴を上げながらのけ反る。
「…深いっ…景麒っ…深いっ…」
まるで…底が無い…。熱くて柔らかくて…景麒が喉を鳴らした。
720景麒×陽子 紐:2011/01/31(月) 15:41:33 ID:uY5VNqTw
どこまで深い…ここは…。景麒の腕が陽子の身体を掬い上げる。陽子の身体を膝に抱え上げ、落とす。
陽子が再び悲鳴を上げ、景麒の背中に爪を立てた。
「やめてっ…やめてっ…もうっいやっ…」
また落ちてしまう。落ちてしまう…。
景麒が陽子の肩に顔を伏せた。きつく吸い上げ…固く抱き締め…
「…きゃ…ああああっ…」
陽子の髪が大きく跳ねた。再び、中が景麒を締め上げる。
堪えきれず、陽子の中に精を吐き出し…景麒は陽子の肩に歯を立てた。

「…怖かった…」
青ざめた表情で祥瓊が震えていた。さすがに夕餉の時間を過ぎても現れない陽子を心配して様子を伺いに行ったのだが…。
浩瀚が苦笑いしながら、祥瓊の震える身体を膝の上であやす。祥瓊には刺激が強過ぎたかとその額に唇を寄せた。
「…なにをしてたか、覗いた?」
祥瓊が首を大きく横に振る。扉も開けれなかった。陽子の悲鳴と、なにかが寝台を打つ音と、景麒の聞いた事がない呻きと。
「…怖い…」
祥瓊は、昔車裂の拷問にかけられそうになって以来、男女の交合に急に恐怖を感じる事があった。なにかがきっかけで思い出すのだ。
浩瀚の手が宥めるように、祥瓊の手を握った。安心させる様に、力を入れる。
「きっと仲直りしてる」
「…本当?」
頷いて、祥瓊の頬に自分の頬をよせる。
「いろんな仲直りの仕方がある」
ゆっくりと祥瓊の身体から力が抜けた。すると今度は、陽子の濃厚な交合を覗いてしまった…というか、聞いてしまった事に顔が赤くなり、頭を強く振った。
「明日…どんな顔したらいいの?」
今度は、泣きそうな顔になって。浩瀚が笑った。
「なにも無かったように。祥瓊ならできる。」
目尻に浮かんだ涙を唇で拭いながら、浩瀚は大丈夫と頷いた。
「祥瓊はお姉さんだから、できる」
浩瀚の言葉に、ようやく祥瓊は小さく笑った。

おわり
721景麒×陽子 紐:2011/01/31(月) 15:43:45 ID:uY5VNqTw
えっちらおっちら。

さすがに、頭が煮えそうです。

外は雪だというのに…。

寒いですので風邪とか引かぬよう、御慈愛ください
722名無しさん@ピンキー:2011/01/31(月) 19:29:54 ID:fFqKJLG0
GJ!いつもありがとうございます
723名無しさん@ピンキー:2011/01/31(月) 21:18:32 ID:uY5VNqTw
ありがとうございます。
励みになるというか…楽しんでいただけたら嬉しいと素直に思います。

本当にGJをくれる方ありがとうございます。
また、なにか書いたら投下しますので、楽しみにしていただけたら、嬉しいです。

おやすみなさい
724名無しさん@ピンキー:2011/01/31(月) 22:57:56 ID:uY5VNqTw
桓碓です。

浩瀚×祥瓊の際に、お仕置をしたから…そろそろ許すべきだよな…
そう思いました。

桓碓は軍育ちの故、思った事は考えずに思わず口にしてしまうだろうなと思って。

でも、何気ない一言が人を傷つける事もあるんだと。

反省してくれたらいいな。と思います。

エロはないですが、続いてる話のなかの一話なので、投下します。
3です。

725桓碓 許し:2011/01/31(月) 23:01:17 ID:uY5VNqTw
夏の始め…見回りの途中に気がついたら、横に虎嘯が立っていた。しばらく何も言わず、二人で歩く。なにも言わない桓碓と、なにも言わない虎嘯…。
園林が見えて来た時、ようやく虎嘯が口を開いた。
「…なんか、あったか…」
「なぜ聞く。」
「…最近…なにかおかしいと鈴が気にしていた」
小さく笑う。でもその笑いも…自虐的だった。荒んだ雰囲気に虎嘯が苦い顔をする。
「…最近、ここらでお前を見掛けなくなったしな…」
今年の春までは、たまに遊びに来ていた。桂桂と遊び、鈴をからかい、祥瓊と笑っていた。
…繋がりが強い分…離れる事に違和感がある。それに気がついたのが鈴なのだろう。
「…忙しいだけだ」
そう言われたら虎嘯は黙るしかない。確かに将軍の立場の桓碓と、ただの一介の用心棒じゃ仕事の内容が違い過ぎる。だが…以前は、そのようなことを口にする男じゃないと知っている分…なにかがあったとわかった。そしてその事で…傷ついてる。
「…悪い…ひどいこと言ったな…」
桓碓は小さく謝罪した。構わんと虎嘯が呟く。桓碓は、なにかをやらかして…それでとても悔いてて…自己嫌悪に陥っている。
だが…それを悔いを改める方法が見つからず、闇を彷徨っているような顔をしていた。
「…なんかあったら…聞くぞ?」
桓碓は何も言わないまま…園林から身を返した。

…公主だから、裸を見せる事に慣れているという噂…
あそこにいた人間は…それを噂だと信じた。そういう風な話の流れだった。噂だから…と何度も繰り返され…
桓碓は、回廊の隅の階段で腰を下ろし、ゆっくりと頭を膝に伏せた。
もとが公主だ。裸なんか見せ慣れているだろうよ…そう言ったのは…自分だ。
そして、その噂に尾鰭が付いた。
冢宰と青将軍の囲われた娼婦
誰にでも、肌を見せる女
その噂をただ一人が、たった一人で…身に受けて…
「…っ…」
俺は、あそこまで言われないと…あの娘が傷ついた事すら気がつかなかったのか…。
ふがいなさで、落ち込む。そして、それ以来、自分が祥瓊と対峙する事も避けている。…祥瓊の自分に向けられた表情…なにもかも…知っているの…という表情で…だけど、責めなかった。それが、噂だから、だ。
そして、桓碓は黙って部屋の外に出た。自分を見なかった冢宰…。…噂の出を知っているのかもしれない。

726桓碓 許し:2011/01/31(月) 23:03:08 ID:uY5VNqTw
…だけど…やはりなにも言わなかった。なにもかも…自分が居心地がよかった場所を壊してしまった気分だった。
「…桓碓?」
パタパタと走って来る音がする。軽い子供の足音。ゆっくりと顔を上げると、桂桂が珍しそうに桓碓の前に立っていた。
「…どしたの?気分悪いの?」
純粋に心配された事に、小さく笑った。あの場所に戻る事ができたら…また、なにかあったら、心からの言葉が聞けるだろうか…だが、その言葉をうけとる資格がない。そう思うと…悲しくなった。
「少し、疲れたんだ。」
「なんで?」
率直に聞かれ、言葉に詰まる。
「お仕事で?」
違うと首を振る。桂桂の小さな手が桓碓の手に伸ばされた。
「…僕は、悪い事をしたあと、鈴にみつかるまでビクビクするのに疲れちゃうことがあるんだよ」
口を尖らして桓碓に愚痴を零すその言葉に…なにかが、胸に刺さった。
「…それでどうする?」
「…一生懸命隠すから…鈴、なかなか気がつかないんだよ。でも、僕疲れちゃって…ごめんなさいっていうんだ」
「謝るのか…」
「うん。まず悪い事をしたら謝りなさいってすごく怒る。そこに虎嘯までいたら、拳骨も付くんだ。」
最近の事なのだろう。桂桂が頭をさすった。
「でも、鈴は許してくれたよ。もうしたらだめよって。」
でも…と小さくいっちょ前に肩を竦める。
「しばらく、怒ってたけどね…」
桓碓は、やはり、自分の不甲斐なさに溜め息をついた。だが…目の前の子供に聞いてみる。
「俺は、とてもひどいことをある人に言ってしまったんだ。どうしたらいいと思う?」
きょとんとして、桂桂はあっさりと答えた。
「謝らなきゃ」
桓碓は一瞬目を見張り…桂桂に深く頭を下げた。

吉量の小屋の前で祥瓊が立っていた。餌が済んだ所なのだろう。吉量が甘える仕草で、祥瓊の袖を咥えて、それを笑いながら、引き離す。
耳の鋭い吉量が桓碓に首を向けた。それに釣られるように、祥瓊が振り向き…表情が消えた。
…もう…笑ってはくれないのか…。
苦い物が上がって来るが、仕方がない。桓碓はゆっくりと小屋に近付いた。祥瓊が桶を手にして、後退る。ある程度近付いて…桓碓は息を吐いた。
「…すまなかった」
祥瓊の顔は変わらない。自分に向けられて笑った顔をなくしたのは…自分だろ?桓碓は言葉を続ける。
727桓碓 許し:2011/01/31(月) 23:05:05 ID:uY5VNqTw
「…俺が、小臣達が噂するのを止めなかった」
吉量が、不思議そうに二人を交互に見る。
「…それから…お前が、公主だから…裸をみせ慣れてるって言ったのは…すまない。俺だ」
そう言って頭を下げた。
しばらく立ち尽くしていたらしい祥瓊が立ち去って行く足音がする。吉量が、祥瓊の後ろ姿を見送った。
歩く足が重い…桓碓は、吉量の小屋に近付くと腰を下ろした。吉量が軽く桓碓の肩を押す。立てた膝に頭を伏せて…。気がついたら、不思議そうに鈴が下から覗き込んでいた。
「桓碓?なにしてんの?」
「んー…鈴、俺、祥瓊に嫌われたかもしれん」
ポロリと零した桓碓の言葉に、鈴が呆れたような顔をする。
「なにしたのよ」
「…すっげぇ、ひどい事…」
呆れたように腰に手を当てて溜め息をつく。
「すぐに謝った?」
「…二か月ほどかかった」
「馬鹿ねぇ!なんですぐ謝んないの!」
叱られて首を竦める。
「悪い事をしたら、すぐ謝る!桂桂でも知ってるわよ」
…桂桂に言われて来たとなったら、さらに呆れられそうで口を噤む。
「…ちゃんと謝ったのね?」
小さく頷く。鈴はふうっと溜め息をついた。顔を差し出す吉量の額を撫でる。
「あのね、桓碓…。祥瓊はあんたを嫌う事はないわよ」
そう呟いた。
「でも、俺口きいてもらえない。」
なにより…笑ってもらえない。鈴が呆れたように桓碓を見る。
「悪い事をして、さらに二か月、ほっといて、どの口がそういうの!あんただったら、許せるっ?そういうの!」
畳み込まれるように言われて、小さくなる。言い過ぎたかと、鈴はちょっと考えて。
「…祥瓊はただ怒っているだけだと思うわよ」
そう呟いた。
「祥瓊だもん…謝った人は許すわよ…。あんたがしたひどいことは、わからないけど…謝ったのなら…ちゃんと許してくれるわ」
…まあ…しばらく時間はかかると思うけど…。それを聞いて少しだけ、なにかが肩から下りた。再び、膝に伏せた頭を、ポンポンと軽くはたかれる。
「…なんだよ」
「あ…ごめん…桂桂が謝った時、よく言えたねってこうするから…」
悪びれてない口調で言われ、桓碓の鼻の奥がツンとした。
「…桂桂並か、俺は。」
「すぐ謝れないのは桂桂以下ね」
そう言い返され、桓碓は顔を伏せたまま、肩を震わせて笑った。

おわる
728桓碓 許し
…なんとなく、ほっとしました。
桓碓のこの話を書くか書かないかで迷ってました。
書いて、ああこれで、もうしばらくしたら、あの賑やかな慶の国の人の笑い声が聞こえるかもと、嬉しくなります。

さて、今度は、祥瓊のエロ予定です。
…ん〜ハードになるかもしれません。
相手が浩瀚ですから。ねちっこく、エロします。

では、おやすみなさい。