その匂いは物陰にも、そこで息を潜める女生徒にも広がっていった。
(やだ…何?この匂い…まさか…)
目の前でうずくまっている美香とともに、階段の影で息を潜める女生徒の名は香織という。
異変の始まりは下校する前に入ってたトイレの中で、話し声が急に聞こえなくなった時からだった。
トイレから出ると、廊下を歩いているクラスメート達が人形のように動かなくなっていて、
叩いても呼んでも反応を示さなくなっていた。
そしてそれに驚く間もなく、空から見たこともない異形の怪物が舞い降りて、
校門にいる動かないままの生徒達を食べていたのだ。
「な…何がおきたの?」
トイレから出てきた美香が驚愕の声を上げたのはそのときだった。
そして、校内に入った怪物の目をかすめて階段の影に逃げ延びるまでの間に見た光景で、
この学校の中で動いているのはトイレにいた香織と美香だけだったことを理解したのだ。
いいわ、続けて
そして、校内のクラスメート達が動くことも出来ないまま怪物たちに食べられてしまっていることも。
「あの怪物たちに見つかったらあたし達も食べられちゃう。何とか逃げないと」
そう話すも、怪物たちは廊下をうろうろしていて、見つからずに逃げる手立てもなかった。
こうなったら、怪物たちが立ち去るまで待つしかないかと思っていると、美香がささやくような声で言った。
「なんか足が痺れてきてるの。触っても感覚ないし、足の指を動かそうとしても動かない」
まさか…
この事態に気づいてから、意識して考えないようにしていた可能性が頭をよぎった。
この学校の生徒達が動かなくなった何らかの作用。
その効果が自分たちにも及んできたのかもしれない。
香織もつま先にわずかな痺れを感じ始めた。
形容しがたい嫌な痺れ。
「逃げよう」
二人がほぼ同時にいった。
このままいたら動くことも出来なくなる。なら、逃げるしかない。そう思ったのだ。
幸いにも怪物たちの通りが途絶えている。
香織は美香の手を引いて廊下に出た。
美香は足が動かなくなったのか足を引きずるようにしていた。
「大丈夫?」
香織が心配して尋ねる
廊下を必死で逃げ、非常口の目の前まで来た
「ちょっと…待って…」
美香が立ち止まったまま動かなくなっていた。
「まさか、足が固まっちゃったの?」
香織の問いかけにうなずく美香
「もう、腰の辺りまで感覚ないの。まるで、下半身が人形にでもなったみたい」
怪物が姿を見せたのはそのときだった。
!!!
悲鳴を上げようとした香織の体がその瞬間宙に舞う。
美香が香織を突き飛ばしたのだった。
「逃げて!」香織を突き飛ばした勢いでバランスを崩して転倒した美香が叫んだ。
倒れこんだ美香が怪物にさらわれていくのに後ろ髪引かれながら、外から校門に向かって走る。
美香の運命を気遣いながらも、校門へ走る。足が重くなっているのに気づいていたが、気にせず走る。
校門が見えたところで、そこに怪物がいるのに気づいた。
もう、足に感覚がなくなった香織には時間がないことは十分理解していた。
一気に逃げるしかない!
そう思って一歩目を踏み出したところで、その体が後ろに引っ張られる。
!!!
校門に注意を引かれている間に後ろに怪物が迫っていたのだ。
怪物は香織を抱えて食堂へ歩く。
香織は泣き喚くが、そこにいるのは動かない女生徒か、怪物に食べられた残骸だけだった。
食堂につくと、そこは信じられない風景が広がっていた。
たむろする怪物たちがてんでに捕らえてきた女生徒を厨房でバラバラに解体しては
焼いてテーブルで食べている。
食堂中に広がる匂いは、彼女達の体が焼ける匂いだったのだ。
香織は厨房に放り出される。
逃げようともがくが、既に腰まで感覚がなくなった体はいざることしか出来ず、
程なく動きを見咎められた怪物によって後ろ手に縛られてまったく動けなくなった。
鉄板で何人かの女の子の手足、胴体が焼かれるのが見える。
厨房では手足を失った裸身が転がっていた。
「絵梨…それに葉子まで…」
切り刻まれたまま無心の笑みを浮かべる女性の顔の中に
親しいクラスメートの顔がいるのに気づく。
彼女達もめいめいに焼かれては怪物たちに食べられてゆく。
焼きあがるときの独特の匂いがむわっと広がる。
時折聞こえるゴリゴリと骨を噛み砕く音が不気味に響く。
そして…
「美香ぁ」
恐怖の表情を浮かべたままの美香の体が解体されて鉄板で焼かれる。
眼をそらしたくてもそらすことが出来ず、さっきまで隣にいたクラスメートが
料理となり食べられてゆくのを瞬きせずに見ていた。
美香が食べられた後、香織の体はさっきまで美香が解体されていたテーブルの上に移された。
テーブルの周囲には美香の服や下着、そして、食べ残しの体の破片と
焼きあがった後の美香の体から流れていた肉汁が…そこまで考えて首を振る。
怪物が、大きな刃物を香織の太腿に当てる。
ゴクリ…
もう、逃げても無駄なことを悟ってしまうと体は不思議なほど従順に運命を受け入れていた。
スカートを捲り上げられて露出する太腿が刃物によって切断される。
太腿に冷たい刃物が入っていく感覚。骨に直接刃物が当たる感覚。
それらすべてを香織は呆然とした目で受け入れていた。
ゴトリと音を立てて太腿が転がる。もう片方も同じように切断される。
靴と靴下を脱がされた香織の両足は、鉄板で焼きあがって香織の目の前で食われる。
今まで自分のものだった太腿がこんがり焼きあがったキツネ色のまま肉汁を垂れ流す。
怪物がそれを噛み砕くと搾り取るように肉汁が怪物の口の中からこぼれる。
香織は自分の両足が食べられてゆくのを見ているしかできなかった。
香織の体の麻痺は既に胸に及んでいて、呼吸も苦しくなっていた。
両足を食べ終わった怪物は香織の胴体を横たえ、香織のスカートと下着を脱がせて腹部に刃物を入れる。
覚悟はしていたが…あれを見ることになるのか…香織は感覚を失った腹部にうっすらと
刃物の冷たい感触が伝わるのを感じた。
香織は、美香や他のクラスメートが解体されたときと同じように、腹部を切り裂かれては
中に入っている内臓を引きずり出された。
血の気の引いた表情で香織は目の前に自分の胃や腸、そして子宮や膣が引きずり出されているのを見た。
吐きそうになるが、今の香織の体には嘔吐するための内臓すらなかった。
香織の体の麻痺は頭部にまで及んでいて、考えることもままならなくなっていた。
視界と思考が少しずつぼやけていく。
焼きあがった膣や内臓が怪物の口の中へ入る。
コリコリと口の中で咀嚼されていくのが見えた。
あれ…美味しそうだな…
香織の思考は目の前の現実を受け入れるのを拒否し始めていた。
内臓を失ったあと、がらんどうになった香織の体は、腹部、胸、腕、乳房と解体されては焼かれてゆく。
ああ…これは夢なんだ…
目の前でこんがりと焼きあがった香織の乳房が食べられていくのが見えるとともに、視界が白い靄に包まれた。
香織の目にはすでに光が失われていた。
満腹となった怪物たちは女子高を後にして、別の時空へと転移し始める。
女子校は流れる時間の中の一瞬を切り取られたことに気づくことなく、
静かに下校時のひと時が流れていった。
美香と香織が放課後にトイレに行ったまま行方不明となったニュースが流れたのはそのしばらく後のことである。
以上です。
ほとぼりを覚ましたらまた別のを投下しようと思います
(モノはできてたけど忍法帖やらなんやらで投下できないままだったもので)
さます必要はないよ
股間が熱いうちにさあ、次のを。
クッキー☆は関係ないだろ!訴訟も辞さない!
>>608 遅くなったけれどとてもよかったよ
でもなんでふたりだけが行方不明になったの
他の女子生徒は?
なにか話に仕掛けがありそうだね
続き期待してやす!
>>584の続きを投下します。
NGword ◆gRbg2o77yE
「どうして苦しんでいるのかしら?」
視界を埋め尽くした数兆匹のアペカが、同じ言葉を同時に紡いだ瞬間、幾重にも折り重なる声音は
樹里の鼓膜を易々と突き破った。身動きできないまま、両耳から半透明の体液が流れ落ちる。
「ねえ。貴女もそう思わない? ああ、聞こえていない?」
「…………」
アペカはにっこりと嗤って、キララを見下ろした。
キララは薄く目を開いたまま、力無く横たわるしかできなかった。身体を傷めつけられても光が消え
ずにいた瞳にも、諦観の暗い色が浮かんでくる。最早、状況の打開が不可能と悟ったのか、状況そ
のものが理解を超えたのかは、焼け爛れた表情から読み取ることができない。
「悲しまなくても良いのよ。これは終焉ではない。永い永い観劇が、場面転換のために、少しの間だ
け暗転するようなものなの。私たちはまた、すぐに会うことができる」
そう言って微笑んだアペカの背後で、ガラスを研ぐようなかん高い奇声を上げて、巨大な異形が、
半透明の液体に濡れた触手を振り回した。青々とした柱のような体躯に、節々から伸びる瑞々しい
葉、そして頂上で開花した、白い花弁を纏う巨大花。そいつは地面に根を固く張り、ずるずると天に
向けて伸び続け、樹齢数百年の大樹の如く成長していった。
「一瞬のことだから、怖がらなくて良いの。毎晩眠って、また起きるようなものだから」
アペカは優しさに満ち満ちた顔で、うっとりと微笑んで、キララを見た。
その背後では、樹里という人間の態をとっていた存在が、人間の皮を脱ぎ捨てて、黄色い花粉を
蓄えた大花を激しく揺らしていた。花の中央には、鋭い牙が生えた口が付いている。
かつての人間で、今は人喰いの怪物。藤村に改造された樹里にとっては、人間の形は仮初の姿
であり、巨大な花の姿こそが本性となる。とはいえ、彼女がその姿を晒すのは、本能のままに人
間を貪るときのみ、すなわち、食事のときだけだったが。
「良かった。樹里はまた、私の友達でいてくれるのね」
優しく呟いたアペカの前で、キララの体躯は半透明の触手に絡めとられて、そのまま攫われた。
彼女は見えているのだろうか、かつて自分が助けようとした存在が大きな口を開けて、自分を噛み
砕こうとしているのを。見えていても、いなくとも、どうしようもないことではあるにしても。
胴体を噛み砕く音が聞こえる。
背骨の折れる音。内臓が潰れる音。肉が裂ける音。
それをうっとりと聞いていたアペカは、ふと苦笑を浮かべて呟いた。
「退魔の巫女というものは、本当に道化な存在よね」
周囲で、数百の同じ顔を並べたアペカたちも、うんうん、と同意の笑みを浮かべて頷いた。
「私たちと敵対する彼女たちこそ、私たちを支える藤村理論の最右翼の実例」
藤村理論。視覚・聴覚的に特殊な環境化で、あらかじめ人間を安全に発狂させることで、精神崩壊
を招く発狂を防ぐという狂気の理論は、今や『叡智の冠』全支部において、子供たちに施されていた。
「狂ってしまえばもう狂わない……。それは間違いなく、強さに繋がるわ」
天から血の雨が降ってくる。
アペカの白い体躯は、血で赤く染まっていく。
「退魔の巫女のように、私たちとさほど変わらない少女を、怪物と戦えるような勇敢な戦士に変える
ものは何なのか。能力なんて、永い競争の中で磨かれるものだから、大きな問題じゃない。それより
も希少なのは、心よね。どれだけ痛めつけても決して朽ちることなく、一時は屈服しても時間が経て
ば必ず甦る、その恐るべき心がどこから生まれるのかといえば、源は同じはず」
キララの戦士としての強い心はかつて、眼前で両親を殺されたときに生まれたのだろう。眼前で両
親を失った彼女の心は崩壊し、もう二度と崩壊しない強さを得て復活した。
「そんな長い歴史で、人食いが人間を食べ、力を得た人間が人食いを倒し、それを繰り返して」
ぼとり、とアペカの手元に落ちてきたもの。
それは、樹里に首から下を食い千切られた、キララの頭部だった。
半開きの瞳には、もう光は無なかった。
「できあがった最強の巫女を私が食べる」
アペカはキララの顔に舌を這わせた。
そして、リンゴを齧るかのように、しゃくりと音を立てて頭蓋の右半分を口に収める。
唇の端から赤い涎を垂らしながら、脳漿と頭蓋骨をボリボリと咀嚼し、その甘みに頬を緩めたアペ
カの前で、街を埋め尽くしたアペカたちも同じように、恍惚の表情を作っていく。
至福の表情を浮かべた異形の少女は、平穏だった街を埋め尽くして、海原のように蠢いた。
………………………………………………………………
………………………
怪物出現により、パニックになった人々も、少しは冷静さを取り戻しつつあった。
正体不明の怪物がショッピングモールに向かったという情報は、人々の間に広まっていた。それ
は、伝聞に伝聞を重ねたものだったが、内容としては正確であり、捕食者が自分たちの居場所とは
離れたと聞いて、避難していた人々はようやく安堵の声を漏らしている。
街の防災放送が避難先として誘導していたのは、近所にある市民グラウンドだった。
怪物の襲撃が起きた国道から少し離れた位置にあるグラウンドには、怪物から命からがら逃れた
者から、騒動を把握しないまま避難を命令された者まで様々で、個人の温度差は大きい。
それでも、放送が地区ごとに細かく避難所を指定して、ほぼ街全域の住民を動かしていること。大
量の警察車両やヘリコプターが動いていること等から、危機的な事態が起きたことは全員が認識し
ている。グラウンドには、2000近い人々が集まり、今もまだ増え続けていた。
そんな中に、怪物がモールに向かったと聞いて、顔を曇らせている姉妹がいる。
国道でキララに助けられ、道のまま逃げ続けて避難場所にたどり双子姉妹、理央と真央である。
両親が目の前で惨死した傷は癒えていないが、今、気がかりなのはキララの安否だった。命を落と
す危険のある場所で、自分たちを助けてくれた恩人がどうなったのか。
「お姉ちゃん」
「どうしたの? りっちゃん」
理央をみて、真央は優しく言葉を返した。妹が何が言いたいのかは分かっている。
「あの金髪のお姉さん。無事だよね」
「無事だよ。無事に決まってる」
しかし、今の彼女たちに、名前も知らない恩人が無事だと確認する術は無い。怪物の前に残った
のだから、状況からして、食い殺されている方が自然である。
「また会えたら、お礼をしないとね」
「うん。パパとママの分も、お礼を言わなきゃね」
今、こうして自分たちが生きていられるのは、金髪の少女のお陰である。
まだ名前も知らない彼女の背中を思い出して、姉妹はそっと身体を寄せてあい、両親を失った悲し
みに耐え、生きていられる喜びを実感する。
そんな姉妹の周りでは、人々が自分たちの状況を少しずつ把握し始めていた。
「携帯が使えねえ。電話もメールも駄目だ。ここで圏外って何だよ」
「ちょっと、ツリッターに投稿できないじゃん。こんな大騒動滅多に無いのに」
「お父さんに連絡取りたい……」
「みんな死んじゃう! 早く逃げないと! みんな食べられちゃう!」
「この人、錯乱しているみたいなんで、誰か、手を貸して……」
「もう大丈夫ですから。ここにいれば安全ですよ」
「さっきネットカフェにいたんだけど、30分ぐらい前から繋がらなくてよ。あー、セーブし損ねたぁ」
「ワイ混で生放送してたのに、ありえなーい」
「えっ! これって化物の写真なの! うわー、グロ入ってない? よく撮れたねえ」
「ウソ付けよ! こんな生物いるわけねーだろ」
「着ぐるみだね、きっと。こいつを誰かが間違って通報しちゃったんだろう」
「やべー、腹痛えー。便所どこだよ」
どうやら、インターネット関係の情報網は壊滅状態らしい。人々からは困惑の声が上がり始めてい
るが、情報を得る手段が無い以上、どうしようもない。それは、グラウンドの周囲に3台停車している
警察車両の警邏も同じようで、待機という指示を続行しているだけのようだった。
「ねえ、お姉ちゃん」
理央は怯えた顔で、くいくいと真央の服を引っ張った。
「どうしたの?」
「ここって、本当に安全なんだよね?」
「安全なんだよねって、安全に決まって……」
真央の言葉は途中で止まった。彼女たちはキララと別れた後、放送の指示に従って走っただけで
あり、そこに何らかの判断があったわけではなかった。周囲を見渡すと、グラウンドの回りには二階
建ての建物も数えるほどしかなく、遮蔽物は無いに等しい。確かに大人数を集めるには適した場所
だが、恐ろしい怪物に対して安全を確保するには、もっと頑強な建物が必要に思える。
怪物を直に見た経験からすれば、幼い真央でも、ここが安全とは言い切れない。
そのとき、スピーカーから割れた音声が響き渡った。
『市民の皆様、ご安心ください。すぐに救助のチームが到着いたします。なお、怪我をされている方
は、優先して手当てをいたしますので、グラウンドの中央にお集まりくださりますよう、お願いいたし
ます。また。混乱を避けるため、皆様、決してこの場所から動かないように……』
放送を聴きながら、真央は小さな声で、目をそらして答えた。
「安全に、決まってるじゃん………たぶん………」
「たぶんじゃ駄目」
両親、そして名前も知らない金髪少女に対して応えるように、理央ははっきりと言い切った。
………………………………………………………………
………………………
「樹里、気分はどうかしら? 改めて、人喰いの立場に戻った感想は?」
アペカが振り返って微笑みかけるも、人間の態をした樹里の表情からは、完全に感情が喪失して
いた。まるで、喜怒哀楽をどこかに置き忘れてきたかのように、ロボットのような無表情で、血達磨と
なって転がっているキララを見続けている。ぴくりとも動かないまま。
「悲しむことはないわ。私たちは常に、喰うか喰われるかなのだから」
ぺろりと唇を濡らしてアペカは嗤う。
「ええ、まったくそのとおりね」
アペカの言葉を肯定した声は、ちょうど彼女たちの反対側から聞こえた。
見間違えるはずもない。そこには彼女たちのリーダーである藤村と、取り巻きの瓶底眼鏡の二人
組、そして部下たちがずらりと並んでいる。キララに焼き尽くされていなければ、樹里に捻り潰されて
もいない。藤村も、眼鏡コンビも、無傷で、平然とそこに立っていた。
「藤村先生。上空に戦闘機らしき飛行物体を確認しました。五機もいます」
瓶底眼鏡の女は、青空の中に、肉眼では視認不可能な物体が見えているようで、形状の詳細を
藤村に報告し始めた。樹里同様に、人間がベースとはいえ、既に肉体は人間を逸脱している。
「近くのK基地から出撃したとして、出撃命令は騒動初期の段階ね。ふむふむ」
上空には、何も存在しているようには見えないが、確かにそれらは飛んでいるのだった。
「だけど、五機ってねえ、怪獣とでも戦うつもりかしら。いや、それもいいかも」
形状や装備から無人機と判断した藤村は、ふふふ、と愉快げに嗤う。
「モールにいるあの子は、避難所を襲う予定を取り消し、しばらく待機。モールの外で何が起きよう
と、決して建物から出さないように。レストラン街で食事でもさせておきなさい」
「先生、あちらは、トランスジェニックガール・アスカとかいう娘をまだ食べている最中でして。少しダ
メージを受けていますので、ゆっくりと食べさせています」
「ああ、それなら、それでいい」
藤村は嗤って、無人機が飛行する上空を見上げた。
そんな彼女を見てアペカは、少し呆れたように唇を尖らせる。
「ちょっと藤村、次の作戦はまだなの? だいぶ予定とずれているけれど」
「まあ、もう少し待ちましょう。あちらの一手を見極めてからでも、遅くは無いわ」
「あちら?」
「あちらとは?」
「どちらですか?」
「そんなことは決まっている」
四方から聞こえる声に、藤村は悩むことも無く答える。
「私たちは、ご当地ヒロインである、トランスジェニックガール・アスカちゃんとやらを血祭りにあげ、更
に、偶然とはいえ、全国規模で展開する非政府系の戦闘集団、巫女協会の最強戦士をも沈めてし
まったのよ? ここまでしてしまえば、もう一番上が登場するしかないわ」
まるで歓迎するように両手を広げて、藤村は言う。
「巫女協会に任せておけない。腰の重い、体制側に属する監督役。要するに国家権力のお出まし。
どうせ、この指揮官は近くにはいないのでしょうけれど。無人戦闘機なんて無粋なものを堂々と出撃
させて、事件を終わらせに来ちゃったのだから、スーパーヒロインタイムはここまでね」
「なるほど、つまり、これからは私の時間、スーパーアペカちゃんタイムということね」
アペカは目を細めて唇を吊り上げた。
同時に、街の上空に浮かぶ巨大な暗黒色の球体が、小刻みに振動したように見えた。膨張を続け
ている巨大な球は、今や街全体を覆い被さらんばかりの大きさになっている。
街の人々同様、戦闘機たちも球体を知覚できないようで、特に影響を受けず通過しているが。
「戦闘機五機は、いずれも上空を旋回。どうやら、標的を確認している模様」
「藤村先生、空に向かってピースしないでください!」
………………………………………………………………
………………………
「あら? お寝覚めかしら」
朦朧とした意識でそんな声を聞いた瞬間。
巨大な爆発音とエンジンの音、大気を震わせる獣声によって、意識は一気に覚醒する。
「ひゃああああっ! 何! 訓練だっけ!? もう朝? 寝坊しちゃったって感じぃ!? 静香! 絶
対に起こしてって言ったじゃん! どうして! 早く朝ごはんをー!」
キララは目を見開いて、倒れていた地面から跳ね起きた。
その肉体に、戦闘での傷跡は全く無かった。美しい金髪も、白い肌も、トレードマークのサファイア・
アイも、全てが元に戻っている。流れるような金髪と、肉付きの良い裸体を露にし、健康的な色香と
研ぎ澄まされた美しさを併せ持つ、白焔の光巫女の勇姿がそこに復活していた。
「でも生卵は嫌なの……あれ? キララ様は、もう死んだはずって感じ。どうなって……」
アペカのとの壮絶な戦いの末に、守ろうとした樹里に食い殺された記憶が甦る。しかし、自分が今
生きていること、記憶は大きく矛盾していた。それはまるで、
「夢ではないわ」
夢のようだと思った瞬間、視界に現れたアペカの言葉がそれを否定した。
「きゃああああああっ! いやあああああああっ!」
白焔の光巫女の顔は一瞬で蒼白になり、無様に尻餅を付きながら後ずさる。突然、眼前に現れた
恐ろしい敵を前にして、動揺を隠すことができなかった。精神もまだ立て直せない。嬲り者にされた
おぞましい記憶が一気に甦ってきて、戦意よりも恐怖が上回ってしまう。
「再挑戦には、もう少し時間が必要みたいね。いくら心が強くても、すぐには無理かしら」
優しい表情で、アペカはゆっくりと首を傾けた。
その背後では、やはり食い殺される前と同じように、何兆匹というアペカが白い海のように街を覆
い尽くしていた。さらに、街の中央から巨大な2つの影が盛り上がり、それに対して、戦闘機の編隊
が飛来して、次々とミサイルらしき物体を発射していた。ミサイルは巨大な影に当たって爆発する
が、影は全く揺るがずに奇声を上げて、街をぐしゃぐしゃ踏み潰して動き始める。
黒い影の片側からは、何十本もの触手が伸びて、空を飛ぶ敵を叩き落そうとしている。もう一体
は、姿ははっきり見えないが、翅らしきものが生えているのは見て取れる。
戦闘機の編隊も旋回し、再び攻撃を開始していた。
死んだのに生きている自分。街に出現した巨躯の異形たち。そして、眼前の人喰い。
何が起きているのかは分からないが、確かなことは1つ。
悪夢の戦いは、まだ終わっていないということだった。
「死は終わりでもない。勿論、新しい世界の始まりでもない。絶望という概念が、望みが絶たれただ
けの通過点であるの同じ。死なんて、私にとっては、ただの通過点でしかないの」
アペカは微笑む。
「30分嬲り続けた貴女はとても美味だけれど、60分嬲り続けて、もっと恐怖と絶望を感じてもらえば、
もっともっと美味しくなるはずよね? 単純計算で2倍? 実際はもっとかも?」
アペカは笑う。
「既に藤村理論の条件をクリアしている貴女は、決して発狂しない。絶望なんて、何回でも通過でき
る。絶望は何回もある。いくらでも恐怖を溜めることができる。恐怖はいくらでも持てる。どれだけ苦
痛を与えても、決して壊れない。貴女はいくらでも苦痛を受け入れることができる」
アペカは嗤う。
「責め殺してしまっても、生き返らせてあげるから。今みたいにね」
そして、アペカは破顔する。
「私の狩りは、10年かけて行うから」
………………………………………………………………
………………………
続きはそのうち。
ではまた。
なんという……なんという……
GJすぎるw 素晴らしいなぁもう。
巫女の作者です。
SSが長くなり、スレ専有に近い状態になっているため、
>>626でSS投下を打ち切ります。
巫女の続きは自ブログで更新します。
tp://ryonass.blog42.fc2.com/
ご愛読いただきありがとうございました。
2chの専ブラで見るのが楽しみだったのだが…
>>628 ブックマーク余裕でした。
まだ途中までしか読んでないけどセーラームーンの良かった。
そのうちまた何か投下して貰えたらうれしいなぁ。
年をまたいでの連載どうもありがとう
ブログの方で最期まで読ませて頂きます!
西暦20XX年。地球に異星人が来訪した。
その後の様々な混乱や試行錯誤はここでは省略するが、その結果人類は多くのものを得た。
挙げればきりがないが、大きなものの一つにクローン技術がある。
バックアップさえ定期的にとればいつでもその人間のコピーを記憶から意識までコピーして作り出すことができた。
(ただし、女性に限られたが)
いわば命のバックアップ。これができて、定期的なバックアップが習慣化してから
人類の女性から老衰以外の死は無縁のものとなった。
もちろん、それほどの大きな恩恵を何の代償もなしで手に入れられたわけではない。
むしろ、後から考えればその代償に彼らに渡したもののために彼らはこの技術を渡したのかもしれないのだった。
その代償は…地球の女性を食料として提供することだった。
この話は、そうした利害関係が試行錯誤を繰り返した果てに一定の妥協を得て
人類と異星人が共存を果たした時代の話である。
「ええ?あたしがですか?」
オフィスの中に作られたパーテーションルームに島野由佳の素っ頓狂な声が響く。
「そうだよ。明後日のパーティーで是非とのことだ。先方からのリクエストなんだよ」
上司を前に、由佳は驚きを隠せなかった。
この会社は異星人向けの商品の販売を行っている。
その得意先の一つの社長である異星人からリクエストがあったのだという。
今度の会食で由佳を食べたいのだという。
由佳の視線は上司が出した一枚のカードにあった。
「リクエストカード」
異星人が地球人を食べたい時に提示するカードだった。
これを示されたら重複がない限り本人に拒否権はないのだ。
そこにははっきりと由佳の名前が書いてあった。
興味深い
「…わかりました」
そういうしかないのだ。
「代わりのクローンは用意していただけるのですよね?」
由佳は念を押すように聞いた
「もちろんだ。可能な限りの意識と記憶は残してもらえるはずだ」
それは、リクエストカードを受け入れる代わりの条件であってことさら聞く必要はないのだが聞いておきたかったのだ。
由佳はリクエストカードを手に取った。
「処理施設には連絡がついた。明日11時に迎えが来るそうだ。そうと決まれば今日はもう帰ってよろしい。」
処理施設とは、女性を食肉に加工する施設のことだった。
「もう、この街をあたしが見るのも最後なのか」
クローンには意識は移されるが、あくまでコピーなので移された元の由佳がそのままクローンに乗り移るわけではない。
今の由佳には明日までの命であることは変わらないのだ。
由佳は、すぐさまお金をおろすと街へ繰り出した。
お金は残してもクローンが使うだけだし、そもそも会社からあたしを買った金がたっぷり入ってくるはず。
無一文になっても何の問題もないのだ。
といっても、ほしかった服やアクセサリーは手には取ったものの買う気になれなかった。
(買っても身に着ける暇もないもんな)
結局スイーツショップでちょっと高いスイーツを食べただけだった。
しばらく昼間の街をブラブラしていた。
こんな風景を見るのも明日11時までのことなのだ。
そう思うとどうしようもなく胸が切なくなった。
夕方、彼氏に「会いたい」と連絡をした。
もちろん明日のことは内緒だった。
口止めされていたのもあるが、余計な心配をかけさせたくなかったからだ。
いぶかる彼氏と最後のデートを楽しみ、今夜ばかりは由佳のおごりで高級ディナーを食べ、そのままホテルへなだれ込んだ。
由佳はむさぼるようにセックスを楽しんだ。
いつも以上に由佳は積極的になっていた。
普段は嫌がっていたフェラも、今日は素直にできた。
自分が自分でないような行為。しかし、今日は何をしても許されるのだ。
口の中に吐き出された精液を飲み干す。
由佳はベッドの上の彼氏のペニスを再び手と口で奉仕し、十分隆起したそれに尻を降ろす。
由佳は奔放かつ淫靡にベッドの上を泳ぎ回った。
疲れ果てて眠るまでお互いを求めあった。
翌朝、時間のすぎるのを惜しむように彼氏と別れた。
明日から会うあたしはあたしじゃない。
そう思うと、自分の複製であるはずのクローンに嫉妬心すら覚えた。
由佳は自宅に戻った。
一人暮らしの彼女の部屋に戻り、風呂に入る。
朝帰りだからというのもあったが、せっかくだから綺麗にしておきたかった。
入念に自らの体を洗っていた。
今まで以上に丹念に。
上がってから姿見で自分の体を見る。
自分で言うのもなんだけど形の良い胸。
ほっそりくびれたお腹
そして、女性らしい丸みを帯びたお尻と、そこからつながる適度に肉の付いた柔らかい太腿
この体が、もうすぐ食べられてしまう。
由佳は自分の体をじっとみつめていた。
そのあと、服を着替える。
化粧をし直し、部屋を片付けているうちに11時になった。
呼び鈴が鳴ると、由佳は呼吸を整えて返事をする。
迎えの車で処理施設へ行く途中、由佳は風景をじっと見ていた。
施設に着いた。
まるでホテルのような建物だった。
中も綺麗で豪華そのものだった。
入ると、一人の係員が近づいてきた。由佳より背の高い女性だった。
「私があなたを担当します柏木美樹です。ご自宅の鍵をお預かりします。施設に着き次第最新のバックアップを取らせていただき、
クローンを作成します。今夜にはこの部屋に眠った状態で鍵とともに運び込まれ、明日朝から普段通りの生活を始めることができます」
彼女はきわめて冷静かつ事務的だった。
彼女は由佳からリクエストカードを受け取る。
続いて由佳の二の腕にタグをつける。
「承りました。これに従い島野由佳様は当施設において島野由佳様を食肉加工させていただくこととなります。
食肉として出荷されるまでわたしどもが責任を持ってお世話させていただきます。
このタグは食肉管理タグです。出荷まで外れないようになっています。」
「食肉」「出荷」…一つ一つの言葉が心に食い込んでいく。
あたし…これから肉になっちゃうんだ。
由佳はクローンのための最新のデータを取ったあと、奥の大きな扉へ通された。
「こちらの扉は中に入ると中から出ることはできません」
つまり、ここを通るともう後戻りはできないということらしい。
部屋の中はホテルのロビーのような空間が広がっていた。
「食肉処理はある程度人数がまとまったところで行いますので、こちらでしばらくお待ちください」
見回すとかなりの人数がすでに集まっているようだった。
制服の女子校生が一団になっていた。
全寮制のお嬢様学校として有名な学校だった。
「奉仕活動のようですね。クラスごとにお見えになっているようです」
この学校はお嬢様学校であるとともに、この「奉仕活動」が有名だった。
容姿の一定以上の娘だけが入学でき、学費は免除される。
在学中に、その容姿に磨きをかけることをモットーとしており、卒業後はアイドルや女優になるものも少なくない。
しかし、その代わりに卒業生は「奉仕活動」として自らの体を食肉として提供することが義務付けられている。
その「奉仕活動」の一団だったのだ。
さらに見回すと、一か所に人だかりができていた。
「あれ、もしかして…」
テレビで見たことがあった。有名なアイドルだった。
「アイドルや芸能関係者の方はよく見えます。
接待関係で自らの肉体を提供する方も多いのですが、オークションされて来られる方もいます。
彼女は先日のコンサートの後行われたオークションで落札されたようです」
アイドルが人気が絶頂期を過ぎる頃に、自分の体でもうひと稼ぎするために昔はヌードになるのが多かったそうだが
今はそれとともに自分の体を食肉としてオークションするのが多い。
美樹は続けた
「彼女のような人の場合、自分自身がこれから食肉処理されることと、相手も同じ境遇であることがわかってますから今回ばかりは
気軽に誰でも対応してくれることが多いようです。それでは、これから他の方の案内を行いますので」
そういって美樹は離れた。
」
再び人だかりに目を移すと、見たことのある顔があった。
「夏樹?夏樹じゃないの?」
「え?うそ?由佳?」
驚く彼女は由佳よりも幼く見えるが同い年だった。
大学の同級生で、親しく付き合っていたが、就職してからはめっきり会ってなかった。
就職したのが由佳と同じ業種のライバル会社であるということは知っていたが、まさかこんなところで会うとは思わなかった。
「そう、あたしね、明日異星人の取引先を迎えてパーティーをするの。
そこで自分から志願したの。あたしを食材に使ってくださいって。由佳はどうして?」
由佳は正直に今までの経緯を言った。
「夏樹はすごいなぁ。あたしなんか自分からそんなこととても言えないもの」
それからしばらく積もる話を重ねていたら、アナウンスが流れた。
「食肉処理される方は、これから処理室まで移っていただきます。担当の方が案内しますのでしばらくお待ちください」
その場にいた半数が美樹のもとへ集められた。
「では、これからみなさんを控室までご案内します。ここで服を脱いでいただいた後、順番に奥の処理施設に移っていただきます。」
控室に行く人たちから離れたところに別のグループができていて、彼女たちは個別に係員から説明を受けていた。
女学生やアイドルも係員から説明を受けていた。
それを見た誰かが美樹に質問する。
彼女たちは食肉処理されないのですか?
「彼女たちはここでは食肉処理されません。ここに隣接していますレストランでお客様の目の前で調理される人たちです。
生きたまま解体されたり調理されるのには全く違う処置が必要になるために別途案内させていただいております」
解体をショーとして楽しみたい人や食べられる女性と最後の会話と楽しみたいなどといったそういうニーズもあるのだが、
無制限の誘拐や殺人の偽装を避けるために専用のレストランでしか許されていない。
より希少価値が上がるために自分を高く売りたい人たちが利用する。
女学生たちの「奉仕活動」。その仕上げとして行われる卒業記念解体販売も、このレストランで行われる。
控室は簡素な空間だった。
十数人の女性が、思い思いに服を脱ぎ、自分の名前の書かれた箱に服を詰めていく。
その服はクローンとともに自室に返却される。
しかし、服を脱ぐ女性たちの表情は多様だった。
ここで服を脱いだ後は、食肉処理されるだけ。
全員が、服を脱ぐことを人間から食肉への境目と感じていた。
空を見つめて静かに気持ちの整理を行いながら服を脱ぐ人。
決心が鈍ることを恐れたのかことさらに素早く服を脱ぐ人。
こらえきれなくなったのかうずくまって泣き出す人。
夏樹は風呂にでも入るようにそそくさと服を脱ぎ、奥の扉を開けていた。
由佳は、服を脱いだ後、一度深呼吸してから奥の扉を開けた。
扉の向こうの廊下はコンクリート打ちっぱなしだった。
そこに全裸の裸足で入っていく。
ひんやりとした感触が薄気味悪かった。
扉の向こうで長い列ができていて、夏樹は前の方にいるのを見た。
前を歩く夏樹の足が心なし震えているのが見えた。
一列に並んだ女性たちは、一人ずつ係の女性に股間を広げさせられて、陰毛を剃らされていた。
夏樹も由佳も、股間を完全につるつるにされてから再び並べさせられた。
うう…なんか恥ずかしいなぁ…
そして、彼女たちの剃毛が終わると前の扉が開けられた。
そこに見えた光景を見て、由佳は息をのんだ。
ベルトコンベアーが奥に向けて回り続け、その奥で多くの機械が動いている。
多くの娘がベルトコンベアに四つん這いで乗せられ、首を機械にはめられ、足は鎖の付いた輪っかで固定されている。
首をベルトコンベアと同じスピードで動く首輪にはめられた娘はそのまま機械のトンネルに入る。
そこには、高速回転する鋸が首の位置で唸っていた。
彼女の首を拘束する首輪は鋸を挟むように通過した。
トンネルを抜けると、首のない裸身が血を流しながら吊り下げられていた。
それに続いて二人目の娘の裸身も機械から出てきた。
下を見たら、目を見開いた娘の生首が転がっていた。
「人間牧場からの娘の食肉処理が終わりましたら皆様の番になります。あちらの処理台に順番に入ってください」
今処理されているのは食肉用クローンらしい。
道理で同じ顔の娘ばかりが何人もいるはずだ。そう思って次々と機械にのまれていく顔を見る。
同じ顔が続き、たまに一人だけ違う顔がいたかと思えば同じ顔が続く。
その顔はさっき見たアイドルと同じ顔だった。
人間牧場では買う側からのリクエストが多いアイドルなどのクローンが多いのだそうだ。
アイドルはオリジナルは成長期に出世のために業界内の誰かに食べられ、そのあとのクローンもオリジナルより味が落ちても
「本人がさっきまで生きていた肉」という理由から高値がつく。
成長期は業界内で、絶頂期が過ぎると一般客にと何度も自分の体を売るのだという。
そして、人気のあるアイドルならさらに人間牧場にデータを売ることで儲けるシステムが出来上がっていた。
思い思いに処理台の首輪に頭を乗せていく。
一人ひとり自らベルトコンベアに乗り、首に機械をはめる。
彼女たちは一様に顔面は真っ青になって、手足は震えていた。
左側の機械から順番に処理されるのだそうだ。
当然右側から先に埋まっていく。覚悟はできていても後の方がいい。たった今処理される絵を見せられたからなおさらだ。
残った中からいちばん右の処理台に乗り、首を乗せようとしたところでへたり込む夏樹の姿が目に入った。
「夏樹?どうしたの?」
夏樹はさっきとは打って変わって泣きそうな顔だった。
「どうしよう…ここに来るまでは、いちばんきれいな顔でお料理になろうと思っていたのに、
だんだん怖くなってきて…動けなくなっちゃった…怖いよ…う…」
見ると、処理台はあらかた埋まり、残るのはいちばん最初のものだけだった。
「夏樹、ここに入りなよ。少しでも遅い方がいいでしょ?」
夏樹以外全員が処理台に乗ったのを見た由佳は処理台を降りてそう申し出た。
「でも…いいの?」
「いいよ、夏樹だもん。その代り、あたしの最期を見届けていて。」
本当にそれがよかったのかはわからない。最初の処理台で一思いに処理された方がよかったのかもしれない。
だが、夏樹は由佳の気遣いに背中を押されたようにゆっくりと由佳がいた処理台に入り、首輪をはめた。
そして、由佳が最初の処理台に乗り、首輪をはめる。
係員が足に輪をはめた。
ガタン
処理台が動き出した。
ベルトコンベアに沿って一列に処理されていくクローンの列の後に由佳たちの列が続く。
隣のクローンを見ると、恐怖に怯えた顔をしていた。
彼女たちはこの日のために生きていくように教育を受けていて、覚悟もできているはずだったが、
それでも怖いものは怖いのだ。
肉として育てられる彼女たちにはバックアップはない。
それに比べたら、自分はまだマシだ。
そう思うと気が楽になった。
そうだ、これで少しだけ我慢したら、あたしの意識はこの体から離れてクローンに移る。
少しだけ我慢、我慢
そう思うことにした。
夏樹の方を振り向くと、四つん這いのまま由佳の方をじっと見ていた。
自由になる片手で夏樹に手を振って見せる。
ゴトリ
前の娘が首を落とされる音だ。
一瞬で現実に引き戻される。
機械が近づく。唸りを上げる鋸の音が近づく。
恐怖を紛らわすために夏樹の方を見た。
夏樹に目で最後の別れを告げた。
じゃあね。先に行ってるよ。
由佳は目を閉じた。
鋸の音、刃物の冷たい感触、鈍い痛みが伝わる。
そして、体の感覚がなくなった。
「あちらが先日指名なさった島野由佳です。ごらんのとおり、無事食肉として処理されましたのでご希望通りにお届けさせていただきます。」
処理施設のさらに上に大きな窓が開いていた。
その向こうで、美樹が大きな体の異星人を見上げて話す。
異星人は満足そうな顔で、首のない由佳の体を見下ろしていた。
彼が由佳の姿を見たのは地球に来た翌日のこと。
廊下を歩く女性たちの中で、ひときわ美しいスタイルの女性がいた。
彼女の体を味わってみたい、そう思った彼はそばにいた地球人に彼女の名を聞き、すぐにリクエストカードを書いたのだった。
今、改めて首のない食肉となった由佳の裸身を見て、彼は喉を鳴らした。
由佳の体からはすでに血が抜かれていて、マネキン人形のような肢体をさらしていた。
その体は無駄がなく引き締まっていて、それでいて太腿や乳房には十分なボリュームがあった。
あの太腿に今すぐかぶりつきたくなった。
あの姿をそのままローストするのもよいし、ソースに浸して濃厚な味を味わうのもよい。
どんな料理にして彼女を食べさせてくれるのか。
今夜彼女を食べるのが待ち遠しかった。
彼が立ち去るころ、処理施設では夏樹が膝を震わせながら機械に入っていくところだった。
処理を終えた由佳の胴体が梱包されて、切り離された首とともに箱に入る。
同じころ、夏樹の胴体もすでに食肉となっていた。
由佳たちはトラックに積まれて出荷された。
由佳は会場に着くと、そのまま調理場へ運ばれる。
手際よく下味をつけた後、女陰に香味野菜を詰め込んだ太いチューブを差し入れる。
太腿は大きく開かれて紐で縛られる。
そのままオーブンに入れられる。
熱を帯びたチューブが動くとともに意識のない体が跳ねる。
それとともに体内に収まりきれなくなった肉汁が飛び散る。
それを、由佳の生首がじっと見ていた。
生首はスタイリストによって化粧されていく。
化粧を終えると、スタイリストは閉じていた目を開いた。
それとともに、じっくり焼きあがった由佳の裸身がオーブンから取り出される。
首を切り落とされて、体の感覚がなくなった後、ごろごろ転がる感覚だけが暗闇の中伝わる。
あ…あたし…首を落とされたんだ…え?でも?なんで意識があるの?
不思議な感覚だった。痛みも暑さも寒さもない。
体を動かすこともできない。
でも、意識と感触だけはあった。
大きな手に抱えられる感触とともに、首がないまま肉として処理された自分の体とともに由佳の首は梱包されて箱に詰められた。
荷物として運び出される感覚は独特だった。
熱いとか寒いという感覚はなく、ただただ荷物として遠慮なく運ばれていく。
中に女の子が入ってるなんて配慮は全くない。
目を開けることもできない暗闇の中でどれくらいいただろうか…
視界が開けたのは一瞬だった。
目の前をこんがりと焼きあげられた女の子の体が通る。
太腿と手を大きな包丁で切り離されて、胴体だけが大きな皿に乗せられる。
え?あたし…食肉処理されたはずなのに…
食肉処理されたんだからあたしの体は死んだはず。
意識はクローンに移っているはずなのだ
じゃあ、今のあたしは何なの?
目の前で大きな皿に乗った体は、ローストされてキツネ色に変わり、
さらけ出された女性器はぱっくり開き、体内からあふれ出た肉汁がとどまることなく流れ出ている。
とてもさっきまでの自分の体とは思えない。
しかし、変わっていない胸の大きさ、体の形をみれば、それは明らかに自分の体だった。
あ…あたしの体だ。
あんな風になっちゃったんだ。
ぼんやりとそんなことを思う。
由佳の首は胴体の脇に乗せられて運ばれる。
自分の体をこんな形で見るのも初めてなら、そんな体を惜しげもなくさらされるのも初めてだ。
取引先の異星人だけでなく、同僚や上司も視線をローストされたあたしの裸に向ける。
視界が開けたのは一瞬だった。
目の前をこんがりと焼きあげられた女の子の体が通る。
太腿と手を大きな包丁で切り離されて、胴体だけが大きな皿に乗せられる。
え?あたし…食肉処理されたはずなのに…
食肉処理されたんだからあたしの体は死んだはず。
意識はクローンに移っているはずなのだ
じゃあ、今のあたしは何なの?
目の前で大きな皿に乗った体は、ローストされてキツネ色に変わり、
さらけ出された女性器はぱっくり開き、体内からあふれ出た肉汁がとどまることなく流れ出ている。
とてもさっきまでの自分の体とは思えない。
しかし、変わっていない胸の大きさ、体の形をみれば、それは明らかに自分の体だった。
あ…あたしの体だ。
あんな風になっちゃったんだ。
ぼんやりとそんなことを思う。
由佳の首は胴体の脇に乗せられて運ばれる。
自分の体をこんな形で見るのも初めてなら、そんな体を惜しげもなくさらされるのも初めてだ。
取引先の異星人だけでなく、同僚や上司も視線をローストされたあたしの裸に向ける。
地球人の同僚や上司たちは自分に近い人たちが同じような姿になることが多いだけに
あまり好奇の視線などはむけず、同情に近い視線の人も多いが、
自分を食べようとする異星人たちの視線には遠慮がなかった
「あの娘の肉、おいしそうだよな」
「あの股間からあふれる肉汁なんかたまらないよな」
「あの性器がまたおいしいんだよ、ほら、近づくと実にいい香りが」
そういいながらあたしの股間に鼻を近づける。
うう…恥ずかしいなぁ
乾杯が行われ、会食が始まる。
由佳の手足は綺麗に皿に盛りつけられて、異星人の口に入っていく。
やがて、時間がたち、料理人があたしの体に近づく、
包丁をあたしのお腹に入れ、一直線に切り開く。
切り口から湯気とともに、あたしの内臓が見える。
料理人は、切り口を広げ、内臓を遠慮なく皿の上に引き出していった。
包丁で切り口を下に切り開き、股間を抉り取る。
切り出された股間は女陰と膣、子宮卵巣までがくっついて別の皿に乗せられた。
肋骨から乳房と胸の肉を切り分け、鎖骨に沿って包丁を入れて肩の肉をそぎ落とす。
最後に脊髄に沿って包丁を入れて背中の肉を肋骨と脊髄から切り落とす。
あたしの体はあっという間に骨の周りの肉をまとわりつかせた骨だけになってしまった。
手際よくあたしの体は切り分けられて周りの異星人にふるまわれていく。
自分の体や内臓が目の前で食べられているなんて…
切り分けられて、もうどこの部分かわからなくなった内臓が異星人の口に入っていく。
まるで普通の肉を食べているような光景。
しかし、その肉はあたしだった。
指名をした異星人はあたしの股間を振るまわれていた。
肉汁を垂れ流している女性器をおいしそうに頬張っている。
あたしの女の子の部分が異星人に噛み切られて、口の中に入っていく。
目の前でなくなっていくあたしをみて、自分が食べられているのだという実感がわいてきた。
それをみて、不思議なことに安心している自分がいた。
もう、こうなったら元には戻れない。
せめて、自分の体は美味しく食べてほしかった。
そして、会食は終わった。
骨だけになったあたしの体は首と一緒に下げられて、別のビニール袋に詰められる。
その先の行き場は分かっている。
食材になった人間専用の処理場だた。
さっきまで自分のものだった肋骨や腰骨と一緒にまたもや無遠慮に運ばれていくあたし。
あたしの意識、いつまで残っているんだろ…
他の娘の食べ残しと一緒に運ばれながらそう思っていると不意にビニール袋が破れた。
あたしか誰かの骨がビニール袋を破ったらしい。
転がり出るあたしの首は同じように転がり出た首の隣に落ち込んだ。
(夏樹?)
夏樹の首は、満足そうな顔だった。
(そうか…夏樹も食べられたんだ)
その瞬間、目の前の視界が開ける。
大きな機械。
そこに、ほかのトラックから投げ落とされた骨や肉の食べ残しが投げ込まれると、粉々に砕かれて、下へ落ちていく。
そのすぐ後、由佳や夏樹の首もその機械へ投げ落とされた。
「あ…もうこんな時間だ」
目覚めるあたし。
「そうか、あたし食肉処理されて、施設へ行ったんだっけ。
それで、書類を書かされてから…」
そのあとの記憶はなかった。今の由佳はその時点までの記憶しかないクローンだったからだ。
由佳はベッドから起きると、会社へ行くための身づくろいを始めた。
ほとぼりを冷ましてたら続編希望されてしまってました。
ですが、予定のなかった続編でっちあげるのにもう少しかかるので予定通りのやつでひとつ
いつも素敵な作品を有難う!
次回作のちょっとしたリクエストなのですが、よければ捕食者側の姿形の
描写が欲しいです。読んでる時イメージができなくて…
社会的に容認されてるのはいいね。普通の日常の中で突然自分を差し出すことになると。