【田村くん】竹宮ゆゆこ 28皿目【とらドラ!】

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1名無しさん@ピンキー
竹宮ゆゆこ作品のエロパロ小説のスレです。

◆エロパロスレなので18歳未満の方は速やかにスレを閉じてください。
◆ネタバレはライトノベル板のローカルルールに準じて発売日翌日の0時から。
◆480KBに近づいたら、次スレの準備を。

まとめサイト3
ttp://wiki.livedoor.jp/text_filing/

まとめサイト2
ttp://yuyupo.dousetsu.com/index.htm

まとめサイト1
ttp://yuyupo.web.fc2.com/index.html

エロパロ&文章創作板ガイド
ttp://www9.atwiki.jp/eroparo/

前スレ
【田村くん】竹宮ゆゆこ 27皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1260805784/


過去スレ
[田村くん]竹宮ゆゆこ総合スレ[とらドラ]
http://sakuratan.ddo.jp/uploader/source/date70578.htm
竹宮ゆゆこ作品でエロパロ 2皿目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1180631467/
3皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1205076914/
4皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1225801455/
5皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1227622336/
6皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1229178334/
7皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1230800781/
8皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232123432/
9皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232901605/
10皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1234467038/
11皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1235805194/
12皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1236667320/
13皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1238275938/
14皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1239456129/
15皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1241402077/
16皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1242571375/
17皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1243145281/
18皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1244548067/
19皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1246284729/
20皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1247779543/
21皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1249303889/
22皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1250612425/
23皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1253544282/
24皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1255043678/
25皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1257220313/
26皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1259513408/
2名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 00:10:10 ID:o66KvF03
Q投下したSSは基本的に保管庫に転載されるの?
A「基本的にはそうだな。無論、自己申告があれば転載はしない手筈になってるな」

Q次スレのタイミングは?
A「470KBを越えたあたりで一度聞け。投下中なら切りのいいところまでとりあえず投下して、続きは次スレだ」

Q新刊ネタはいつから書いていい?
A「最低でも公式発売日の24時まで待て。私はネタばれが蛇とタマのちいせぇ男の次に嫌いなんだ」

Q1レスあたりに投稿できる容量の最大と目安は?
A「容量は4096Bytes、一行字数は全角で最大120字くらい、最大60行だそうだ。心して書き込みやがれ」

Q見たいキャラのSSが無いんだけど…
A「あぁん? てめぇは自分から書くって事は考えねぇのか?」

Q続き希望orリクエストしていい?
A「節度をもってな。節度の意味が分からん馬鹿は義務教育からやり直して来い」

QこのQ&A普通すぎません?
A「うるせぇ! だいたい北村、テメェ人にこんな役押し付けといて、その言い草は何だ?」

Qいやぁ、こんな役会長にしか任せられません
A「オチもねぇじゃねぇか、てめぇ後で覚えてやがれ・・・」
3名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 00:10:35 ID:o66KvF03
813 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2009/01/14(水) 20:10:38 ID:CvZf8rTv
荒れないためにその1
本当はもっと書きたいんだがとりあえず基本だけ箇条書きにしてみた

※以下はそうするのが好ましいというだけで、決して強制するものではありません

・読む人
書き込む前にリロード
過剰な催促はしない
好みに合わない場合は叩く前にスルー
変なのは相手しないでスルー マジレスカッコワルイ
噛み付く前にあぼーん
特定の作品(作者)をマンセーしない
特に理由がなければsageる

・書く人
書きながら投下しない (一度メモ帳などに書いてからコピペするとよい)
連載形式の場合は一区切り分まとめて投下する
投下前に投下宣言、投下後に終了宣言
誘い受けしない (○○って需要ある?的なレスは避ける)
初心者を言い訳にしない
内容が一般的ではないと思われる場合には注意書きを付ける (NGワードを指定して名前欄やメ欄入れておくのもあり)
感想に対してレスを返さない
投下時以外はコテを外す
あまり自分語りしない
特に理由がなければsageる
4名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 00:14:06 ID:tGhsgNJs
>>1
5SL66 ◆5CEH.ajqr6 :2010/01/11(月) 00:16:44 ID:GitLwFcl
>>1乙です。
差し障りがなければ、後半を投下しますが? どうですか?
6名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 00:21:07 ID:tGhsgNJs
>>5
GO!
7SL66 ◆5CEH.ajqr6 :2010/01/11(月) 00:24:10 ID:GitLwFcl
では、次レスより後半部分を投下します。
8聖夜の狂詩曲 44/64:2010/01/11(月) 00:26:18 ID:GitLwFcl



「美由紀ちゃんって、本当に可愛い~。私もこんな子が欲しいよぉ」

 麻耶が、眠りこけて人形のように動かない美由紀を膝の上に乗せて、その頬を、ちょんちょんと突いていた。
 そのすぐ脇では、酔っぱらった北村すみれが豪快ないびきをかいて寝入っている。

「麻耶ちゃん、欲しいたって、物じゃないんだから、自分の子供は自分で産んで育てなさいよ。欲しがったって、はいそう
ですか、ってあげられる訳ねぇっつうの」

「いやん、産みたいけど、仕事忙しいし、お産は痛そうだし…。出来のいい子なら、産まずにもらった方がいいなぁ~」

 麻耶は冗談のつもりらしかったが、ちょっとばかり目がマジだった。亜美も、顔は笑っているように見えるが、内心は
穏やかではないのか、こめかみに青筋が、見え隠れしている。

「とにかく、この子は、高須王国の後継者なんだから、麻耶ちゃんは、自分のお腹を痛めて、自分の子を産みなさい」

「いやぁよ、もう、マル高だし…。それに出産って、鼻からスイカを出すくらい痛いっていうじゃん」

「ばっかじゃねぇの? お産がそんなに痛かったから、とっくの昔に人類は滅亡してるわよ。とにかく、案ずるより産むが
易しよ。我が子が生まれた瞬間には、痛みなんか全部吹っ飛ぶほどの幸福を感じるからさぁ」

 本気か冗談か判然とし難い女同士の言い合いが続いている。

「まぁ、その何だ…。男には理解不能な会話だな…」

 北村が、居心地悪そうに肩をすくめている。すみれが意識不明で本当によかった。そうでなかったら、話が更に
ややこしくなっただろう。

「そう言えば、息子の祐太くんはどうしたんだ? 未だ、二歳児だよな」

 竜児の指摘に、北村は渋面のまま頷いた。

「実は、ここへ連れて来ることも出来ないから、幸太のところに預けてきたんだ。あそこは、五人も子供が居るからな。
さくらによると、一人くらい増えたってどうってことはないらしい」

「さくらか…、学生時代は、可愛いが、ほわぁ~んとした感じの娘だったが、今や肝っ玉母さんだよな。見直したよ」

「さくらちゃんって、そんな風になってたのか…。人ってのは本質的な部分は変わらないが、時が経つと意外な面が現れ
るもんなんだな…」

「「たしかになぁ…」」

 能登の言葉に竜児と北村は深く頷いた。そう言えば、三人と同級生だった春田は、結局、瀬奈さんと結婚し、家業を
継いでいた。相変わらずのアホぶりらしいが、猿でも訓練すれば芸を覚えるように、社長業もそれなりに頑張っているら
しい。ただし、それもお目付け役である会長、つまり春田の父親の目が光っているためであろう。

「今日は来てくれなかったけど、香椎は、今や、キー局の看板アナだからな。それも、タレント的な女子アナじゃなくて、
科学番組や時代劇のナレーターもこなす、アナウンスの職人だ。香椎とは、あんまり話す機会がなかったから、これには
ちょっとびっくりだな」

 竜児が感慨深げに言うと、北村が「そうだな…」と応じた。

9聖夜の狂詩曲 45/64:2010/01/11(月) 00:27:52 ID:GitLwFcl
「いつぞや、テレビで香椎が安奈さんに対談形式でのインタビューをしていたな。安奈さんは相変わらず美しかったが、
香椎がもの凄く綺麗になっていて驚いたよ。それに、大女優に対して、一歩も引かずにインタビューしている。声に張り
があって、美しい。あいつは、本物のプロのアナウンサーだな」

「どんな番組だったんだ?」

 能登の問いに北村は、「う~ん」と、目線を上に向けて、その番組の内容を思い出そうとし、それから、合点がいったか
のように、「うん、うん」と呟いた。

「何でも、『家族』ってテーマだったな。安奈さんが老舗料亭の女将で、母親っていう設定の役を演じるんで、安奈さん
の家族観を伺うっていう番組だったよ」

 竜児は思わず苦笑した。

「その番組、うちの女王様には見せられないな。想像だけど、『私にも娘が居ますけど、未だに反抗期っていうんでしょう
か、私の意に反して、役者にはならずに、今は法律関係の仕事をしています。本当に困ったもんですわね』とか、言って
たんじゃないか?」

 北村は苦笑しながら、「当たり…」と呟くように言った。

「やっぱりな…。休戦協定っていうか、美由紀が生まれたら、お袋さんも態度を軟化させたんだよ。だが、どうも敵は美由
紀を歌手か女優に仕立て上げたいらしい。その意図を亜美も感付いているから、最近は、また美由紀のことでピリピリ
してるんだ」

「母親は、我が子のことになると神経質になるからなぁ…」

 能登は竜児とともに、北村の何気ないコメントをじっと聞いていたが、美由紀がぐっすりと寝入っているらしいことを
横目で確認すると、竜児に向き直った。

「その美由紀ちゃんのことで、話があるんだ」

「どうしたんだ、いきなりあらたまって、養子縁組だったら、俺もお断りだぞ」

 能登は苦笑しながら、「違うよ」と、かぶりを振った。

「実はな、美由紀ちゃんの学校と言うか、美由紀ちゃんの担任がらみで、何か変わったことはなかったか?」

「担任って、学校の先生のことか? それがどうかしたのか? 正直、特にはないようだが…」

「じゃぁ、高須には全然心当たりがないんだな?」

 竜児が、「お、おぅ…」と、訳が分からず曖昧に相槌を打つと、能登は亜美を呼ばわった。

「亜美たん! 女同士のトークを楽しんでいるところを申し訳ないが、亜美たんは、美由紀ちゃんと、彼女の担任との間
で何か変わったことに気付いていないか?」

「へっ?」

 亜美の方も、能登の質問の意味がよく分からないのか、麻耶との会話を中断して、素っ頓狂な声で返事をしてきた。

「へっ! ってことは、亜美たんも全然心当たりがないんだな?」

「べ、別におかしなところはなかったわよ。強いて言えば、今日、終業式から帰ってきた時から、変におどおどしていた
くらいかしらね」
10聖夜の狂詩曲 46/64:2010/01/11(月) 00:29:14 ID:GitLwFcl

「そうか…」

 そう呟いた能登は、「う〜ん、どう切り出そうかな…」と呻きながら、天井を見上げるように上目遣いをした。

「切り出す、ってどういうことだ? そんなに言いにくいことなのか?」

 竜児が、いよいよ能登の言わんとすることを計り兼ねてか、心持ち眉をひそめている。能登は、ちょっと困ったような
表情で、その竜児の方に向いた。

「いや、言いにくくはないが、にわかには信じてもらえないかもって、思ったのさ。何しろ、美由紀ちゃんに類似した事例を
取材した俺でさえ、未だに納得がいかないんだからな」

「勿体ぶらずに教えてくれ。新聞記者であるお前が見聞きした事例に、今の美由紀が当てはまるなら、なおさら聞かな
きゃならん」

 亜美も竜児の発言に頷き、夫とともに、能登の次の言葉を待った。

「よし、単刀直入に言うぞ。だが、呆れたり、驚いたりしないでくれ」

「相当に荒唐無稽な話みたいだが、そんな風に予防線を張られちゃ、聞かない訳にもいかんだろ?」

 能登は、竜児と亜美の目を、見比べるように窺ってから、本題を述べ始めた。

「美由紀ちゃんは、担任にいじめられている。それも、徹底的に憎悪され、敵視されている。このままだと、美由紀ちゃん
は、よくて鬱病、悪くすると自殺にまで追い込まれるおそれだってあり得る」

「お、おい! 冗談にもほどがあるぞ。教師が特定の児童を目の敵にするなんて、道義上あり得んだろ? それに、鬱病
とか、自殺とか、荒唐無稽もいいところだ」

「そうよ、美由紀は問題児じゃないし、成績だって悪くない。そんな子が先生にいじめられるなんて、信じられないわ」

 竜児と亜美の反応はもっともだというように、能登はいくぶんは渋い表情で頷き、同意を求めるように麻耶へと視線
を移した。麻耶も、能登の意思を感じ取ったのか、美由紀を膝の上に乗せたまま、竜児と亜美に向き直った。

「高須くんも、亜美ちゃんも、うちの旦那の言うことが信じられないのは無理もない…。私らだって、駅前で真っ青になっ
て震えていた美由紀ちゃんに出くわさなかったら、多分、気付かなかったでしょうね。その美由紀ちゃんの様子があまり
にも異常だったから、久光が取材の時みたいに、美由紀ちゃんから話を聞き出したのよ」

「真っ青になって震えていた? 麻耶ちゃん、それどういうこと?!」

 思わず叫んでしまった亜美を、麻耶は口唇に人差し指をあてがい、「し…」とたしなめた。

「こんなことを話している時に、美由紀ちゃんを起こす訳にはいかないでしょ? でも、亜美ちゃんがびっくりするのも
無理ないわね。だって、駅からここへ来る途中、美由紀ちゃん本人から聞かされた私たちだって、未だ納得がいかない
んだから、でも…」

「でも…、マジなんだな?」

 目を丸くして驚く竜児と亜美に、能登は「マジなんだ…」と告げ、麻耶は無言で頷いた。

「割り込んで済まないが、具体的には、美由紀ちゃんはどんな仕打ちを、その担任から受けているんだ?」

 当事者でないからだが、北村が、落ち着いた口調で能登に尋ねてきた。場を仕切るというか、イニシャティブを取ると
11聖夜の狂詩曲 47/64:2010/01/11(月) 00:30:51 ID:GitLwFcl
いうことにかけては、元生徒会長だけあって、一日の長がある。

「それは美由紀ちゃん本人から聞き出せなかったが、取材した事例と全く同じだろう。その事例では、ある児童が担任
に対して、『先生が日本や日本人を悪く言うのはおかしい』って抗議したんだ、そうしたら、その日以来、何をやっても
先生に認めてもらえなくなった。オール五だった通知表には一と二ばかりが並び、授業では、あらぬ難癖をつけられて、
しょっちゅう叱られるという有様だ」

「担任教師が反日教育をやっていたんだな?」

 北村の指摘に、能登が「ああ…」と応じた。

「そうなんだ。その子の担任は、日頃から公然と日本と日本人を悪く言っていた。例えば、日本人は、第二次大戦で、
アジア各地に攻め込んで、悪行の限りを尽くしたとか吹き込んでいたらしい」

 能登の話に、北村は、我が意を得たりといった風情で「なるほど…」と呟いた。

「ど、どうなってるんだ? 俺や亜美は未だ理解不能だぞ」

「まぁ、大先生は文科省の役人だからな。本来は、宇宙開発担当でも、噂は色々と耳に入って来るんだろう。しかし、そう
でない高須や亜美たんが、未だに話についていけないのは無理もない」

「だったら、早いところ、何がどうなっているのか教えてよ。ねぇ、麻耶ちゃん、うちの子っていうか、その事例の子の場合、
事件の背景は何だったの?」

 亜美に詰め寄られた麻耶は、傍らの夫に助けを求めるように困惑した表情を向けた。

「ちょっと、微妙な問題なんで、麻耶じゃなくて俺が話そう。その子の担任は、日本人じゃなくて在日朝鮮人だったんだ。
それも、日本の公立学校で教職に就いていながら、日本と日本人を侮蔑し、ホームルーム等では、公然と反日教育を
行っていた。例えばこうだ。『日本人は邪悪な民族だから、前の戦争では原爆を落とされた。日本にはもっともっと原爆
が落とされるべきで、日本人は一匹残らず死ぬべきだった』とかね…」

「ひでぇな…」

「取材した俺も絶句したくらいだからな。奴らは日本に住まわせてもらいながら、日本や日本人に感謝することはない。
日本人を理由なく敵視し、日本そのものの解体を図る危険な存在だ。これは、日本に帰化した元朝鮮人もそうなんだ」

 能登の口調は、努めて感情を交えない事務的なものだったが、内容の凄まじさに、居合わせた一同は暫し二の句が
継げなかった。

「で、でも、公立学校の教員は公務員だろ? それなのに、何で、朝鮮人が教師になれるんだ?」

 竜児が呈したもっともな疑問で、気詰まりな静寂が破られた。
 その質問に能登だけでなく北村も、いくぶん渋い顔をしている。

「大先生の方が俺よりもよく知っていそうだが、とんでもない特例があったんだよ。平成三年から、在日朝鮮人も公立
学校の教員になれるようになったんだ。これは、未だ確証がないが、日教組のゴリ押しで決まったようだ」

「日教組って、労働組合でしょ? それが何で、在日朝鮮人の利益になることをするの?」

「亜美たんの指摘はもっともだな。日教組ってのは、元々反体制的な体質があり、支持政党は社会党だった。その社会
党が朝鮮労働党との関係を強化した昭和四十年代から日教組も北朝鮮との連帯を強調し、訪朝団の派遣を積極的
に行ってきたんだ。その結果…」

12聖夜の狂詩曲 48/64:2010/01/11(月) 00:32:08 ID:GitLwFcl
「そ、その結果、どうなったの?」

 亜美と竜児が固唾を飲んで見守る中、能登は言いにくいそうにちょっと言葉を濁すと、軽く咳払いをした。

「日教組は今では、朝鮮人のための組織に成り下がっている。幹部の多くは朝鮮人だし、重用されるのも朝鮮人だ。
学校側に対しても、朝鮮人組合員を高く評価するようにゴリ押ししている。もう、根底から腐りきっているんだ」

「信じられん…。でも、美由紀の担任が朝鮮人だって、何で分かったんだ?」

 その説明を怠っていたことを迂闊に思ったのか、能登は「おっと…」と、呟いた。

「そうだった、その説明が未だだったな。これは美由紀ちゃんが教えてくれたんだが、今日の午後、俺たちと出会う寸前、
美由紀ちゃんは、彼女の担任と遭遇した。その時に、彼女は担任から『チョッパリのガキ』と罵倒されたんだ」

「ちょ、チョッパリって…」

 竜児と亜美は、思わず顔を見合わせた。

「その様子じゃ、高須や亜美たんも知ってるよな? チョッパリが朝鮮人による日本人の蔑称だってことを。日本人なら
まず絶対に使わない言葉だ。これだけで、美由紀ちゃんの担任が、朝鮮人であることは明白だよ」

「そ、そんなことって…」

 竜児も亜美も驚きの余り口ごもった。亜美は悪寒がするかのように、身を震わせている。

「残念だが事実だよ。取材した事例に鑑みれば、美由紀ちゃんの成績は、非常識なレベルにまで下げられているはずだ。
それが、朝鮮人に楯突いたチョッパリのガキへの報復ってもんらしい」

「く、狂ってる…。で、でも、能登くんが言うように、美由紀の成績が下げられているってのは何となく分かるわね。あの子、
学校から帰って来てから、妙におどおどしていたから…。きっと、あまりの成績の悪さにショックを受けていたのね」

「多分そうよね。だから、亜美ちゃん、美由紀ちゃんの成績がどんなに悪くたって、怒っちゃ駄目。美由紀ちゃんは被害者
なんだから」

「う、うん。それはさすがに心得ているつもり。むしろ慰めてやらなくちゃ…。でも、美由紀はなんで担任からいじめられる
ようになったのかしら」

「その辺のことは、俺たちも把握してないんだよ…」

 能登は、渋面でかぶりを微かに振った。その辺のことは美由紀が話してくれなかったからだ。

「だが、戦争がらみで日本人に反省を促すような反日教育のあり方に、美由紀ちゃんは反発したんだろうと思う。そうで
あれば事件が起こったのは、今月の八日頃だろう。この日は、日米開戦の日だからな。反日教育にはうってつけだ」

「過去のことをいつまでも蒸し返すとは、連中らしいな…」

 竜児が吐き捨てるように言うと、亜美も頷いた。

「おや? 高須に亜美、朝鮮人がらみで何かあったのか?」

 北村がきょとんとして、竜児の顔を眺めていた。

「いや、知財やってると、韓国や中国での権利侵害のひどさには閉口させられるからさ。手短かに言うけど、連中に遵法
精神はない、契約の概念もない。法律や約束は破るためにあると思っている。そして、痛いところを突かれると、過去の
13聖夜の狂詩曲 49/64:2010/01/11(月) 00:33:49 ID:GitLwFcl
戦争責任を蒸し返してくる。本当にどうしようもない連中だぜ」

「だったら、そんなイカれた奴に抗議しても何にもならないことは分かるよな?」

「ああ、担任に抗議すれば、美由紀が余計にいじめられるだけだな。だとしたら、教育委員会に訴え出て、その教師を
免職させるのはどうだろう?」

「理屈の上では可能だが…」

 北村は何かを言い掛けたが、口ごもった。それを能登がフォローした。

「過去においては、それが可能だったようなんだが、今は微妙だな。何せ、教育委員会の幹部も日教組の息が掛かって
いる。下手すれば、余計に窮地に追い込まれるぞ」

「じゃあ、どうしたらいいの? このまま美由紀がいじめられるのを黙って見ているしかないの?」

「転校しかないだろうな…」

 北村が、呟くように、ぽつりと言った。

「転校ですってぇ? 無理よ。転居でもしないと、勝手に転校なんか認められないでしょ?」

 北村は、亜美の意見が正しいことを示すつもりなのか、「うん、うん…」と二、三回頷いた。

「公立だったら、確かにそうだ。それに、他の公立小学校へ行っても、またとんでもない教師が居ないとも限らない」

「じゃぁ、どうしようもないじゃない…」

「そうでもないさ。公立が駄目なら私立がある。日教組の影響力が及ばない私立に横滑り出来れば、何とかなる」

「い、いや…、何とかって、そうした私立は、お受験で入るんだろ? それも、入学時の…。生え抜きの児童しか居ない
ような感じだが、どうなんだ?」

 竜児の指摘に、文科省の官僚である北村も困ったように、口をへの字に曲げた。

「確かにな…。他校からの編入を認めてくれる私立はそうはないかも知れない。だが、言い出した手前、俺も、ちょっと調
べてみるよ。都内のどこか、この家からさほど遠くないところにある私立で、美由紀ちゃんを受け入れてくれそうなところ
は、きっとあるはずだ」

「恩に着るよ。だが、俺たちも、インターネットでどんな学校があるのかは調べてみるつもりだ」

 言い終えて竜児は、置時計で時刻を確認した。

「十時近いのか…。飲み足りないようだったら、ウイスキーかブランデーでも嗜もうと思うが、どうだ?」

 竜児の誘いに、北村と、能登と、麻耶は、無言で顔を見合わせたが、それだけで意見の一致を見たらしい。

「お誘いは有難いけど、俺は遠慮しとくよ。何せ、かみさんがこのざまだし、一人息子を引き取りに行かなきゃいけない
からな」

「俺と麻耶も、そろそろ、おいとまするよ。これ以上、高須や亜美たんに世話になったら、恩を返し切れなくなっちまう」

「恩だなんて他人行儀な…。もうちょっとゆっくりしていけばいいのに…」

14聖夜の狂詩曲 50/64:2010/01/11(月) 00:35:03 ID:GitLwFcl
 亜美の誘いに、三人は微笑した。素直に応じても許されるだろうが、ここは退散するのが大人の良識というものだ。

「おっと、そうそう。これを今のうちに渡しておこう」

「俺も渡しとくよ」

 北村と、能登は口々にそう言って、綺麗に包装され、リボンが結ばれた包みを竜児に手渡した。

「俺たちから、美由紀ちゃんへのクリスマス・プレゼントだ。中身は、明日の朝まで秘密だけどね」

 北村は悪戯っぽく笑った。

「済まないな…。俺たちもプレゼントは用意してあるが、せっかくだから、戴いておくよ」

 竜児は、北村たちに礼を述べると、受け取ったプレゼントは書斎に隠した。美由紀が寝入った頃、子供部屋にこっそり
と置いておくつもりらしい。

「さて…、美由紀ちゃん、ちょっとおっきして。悪いけど、おばちゃんとおじちゃんは帰らなきゃいけないから、ね?」

 麻耶は、膝の上に乗せていた美由紀の身体を軽く揺さぶった。美由紀は、「う〜ん」とかむずかっていたが、うっすら
と目を開き、眠気を振り払うつもりなのか、顔を子犬のように、ぶるぶると左右に振った。

「はい、あんた、もう立ちなさい。そうしないと、麻耶おばちゃんが帰れないでしょ?」

 母親に促されて、美由紀は眠い目をこすりながら、立ち上がった。
 そして、大人たちがジャケットやコートを着る様子を見て、パーティーが終わってしまったことを実感した。

「じゃあ、高須に、亜美たん、ごちそうさま、何よりも楽しかったよ。それに、美由紀ちゃん、おじちゃんとおばちゃんは帰る
けど、今度よかったら、おじちゃんたちの家に遊びにおいで。美由紀ちゃんにも読める物語の本がたくさんあるからね」

「高須に、亜美、済まなかったな。予想通りに、かみさんは沈没した。酒は嫌いじゃないみたいだが、どうしようもなく弱い
のは、高校時代と変わってなかったな」

「いいってことよ…」

 竜児は、北村に赤いケーキを入れたタッパーウェアを手渡した。

「これは?」

 いくぶん戸惑っている北村に、竜児と亜美は淡い笑みを向けた。

「あたしたちが作ったケーキを、狩野先輩は未だ食べてないでしょ? だからそれを入れてきたの。でないと、みんなが
食べたのに、狩野先輩だけ食べてないのは、公平性を害すると思って」

「公平性を害するか、法律で飯を食っているお前たちらしい言葉だな」

 苦笑する北村に、竜児が言葉を添えた。

「そんな杓子定規な理由ばかりじゃないんだぜ。俺と亜美が作ったケーキの出来を、狩野先輩にも評価してもらい
たいっていう、俗な欲求もあるんだ。言うなれば、俺たちなりの自己顕示欲さ」

 北村は納得したのか、苦笑したまま、二度、三度、頷くようにかぶりを振った。そして、未だに、意識が朦朧としている
らしい北村すみれの肩を支えながら、玄関へ向かおうとした。

15聖夜の狂詩曲 51/64:2010/01/11(月) 00:36:28 ID:GitLwFcl
「祐作、タクシー呼ぼうか? 狩野先輩、歩くのがかなり辛そうだよ」

「いや、大丈夫だよ。先週も文科省とJAXAの合同での忘年会があったんだが、すみれはその席でも、飲めもしない
酒を飲んで、ひっくり返ったんだ。で、俺がタクシーが掴まえられるところまで、すみれを背負って行ったんだよ」

 言うなり、北村は、すみれの身体を、「よっこらせ…」と背負った。

「お、おい、北村、それじゃ荷物が持てないだろ? タクシーが拾える大通りまで、俺と麻耶が荷物は運んでやるよ」

 言うなり、能登と麻耶は、北村とすみれのバッグを、それぞれ手に取った。

「済まないな」

「なぁに、気にするな。それじゃ、高須に、亜美たんに、美由紀ちゃん。今夜は楽しかった。ありがとう…」

 狭い玄関で来客たちは軽く礼をして、最初に能登、次いで麻耶、最後にすみれを背負った北村が出て行った。
 来客たちが辞去した後、それまでの慌しさが嘘のように、美由紀の家は静寂に包まれた。

「ホームパーティーは、その最中は楽しいんだが、終わっちまうと急に寂しくなるな」

「また、みんなを集めてやればいいじゃない。今度は、節分にでも、適当な理由をつけてさ」

「そうだな、その時は、オイルフォンデュでもやってみるか。串に刺した肉や野菜を、銘々がオリーブオイルで揚げて食べ
るんだ。カロリーはちょっとあるかも知れないが、ゲーム性があって楽しいだろうな」

「そうね…。次回が楽しみだわ。で、寂しさを紛らわすために、ワインでもちょっとどう? みんなシャンパンを飲みすぎて、
肉料理の時に赤ワインをあんまり飲まなかったから、かなり余っちゃって…」

 亜美の誘いに、竜児もまんざらではないのか、柔和な笑みを浮かべている。

「いいんじゃないか? 例の話もあるしな。ちょっと、飲みながら気楽になった方がいいだろう」

「そういうこと、ね…」

 ちょっと意味深な両親の会話に、美由紀は剣呑なものを感じた。覚悟はしていたが、いよいよ通知表を両親に披露し
なければならないらしい。

「美由紀も、よかったらシャンパンもどきのソフトドリンクで付き合え」

「う、うん…」

 竜児の左手が美由紀の方に伸びてきて、彼女の右手がやんわりと掴まれた。
 パパの手は暖かい。その暖かさが、美由紀の恐れも、ためらいも、そして哀しみも癒してくれるような気がした。

「さてと…」

 リビングに戻った竜児は、愛用のソムリエナイフを操って、赤ワインのコルクを抜き取った。長めのコルクは、最後に、
ポコン、という微かな音を立てて、瓶の口から離れていった。その赤ワインを二本のボルドー型のワイングラスに満たし
ていく。

「はい、あんたは、こっちね」

 亜美は、フルートグラスにスパークリングワインに似せた炭酸飲料を注ぎ、それを美由紀に手渡した。

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「お疲れさん…」

 そう言って、竜児はワイングラスを目の高さまで軽く持ち上げた。亜美や美由紀も、それに倣ってグラスを持ち上げた。

「パーティーは無事に終わって、お客様も満足してくれたようだし、まずまずね。あたしたちだけでの締めの乾杯をしま
しょう」

「うん…」

 亜美による、「じゃぁ、かんぱ〜い」の合図で、親子三人はグラスを軽く合わせ、ワインや炭酸飲料を味わった。

「ふぅ…」

 長い時間を掛けてではあったが、シャンパンに始まって、白ワイン、赤ワイン、そしてドンペリ、更には再び赤ワインを飲
んだこともあって、亜美は頬を染めて陶然としている。少なくとも機嫌は悪くなさそうだ、と美由紀は踏んだ。

「どうかな? そろそろ、美由紀の通知表を、パパとママに見せてくれないか」

 飲みさしのワイングラスをテーブルに置いた竜児が、美由紀に問い掛けてきた。美由紀は、来るべきものが来たと
思い、両親に対して、こっくりと頷いた。

「じゃ、持ってくるから…」

 そう言って、子供部屋に赴き、ランドセルから通知表を取り出した。能登のおじちゃんが言った、『本当のことを話せば、
ちゃんと分かってくれる』ということと、両親の機嫌がそう悪くないことを鑑みれば、理不尽に叱られることはなさそう
だったが、成績が成績だけに、正直気が進まない。美由紀は、不本意な成績が記されている通知表を手に、のそのそと
リビングに戻り、おずおすと両親にその通知表を手渡した。

「どれ…」

 とばかりに竜児と亜美は美由紀の通知表を覗き込んだが、その瞬間、二人とも目を点にして絶句した。

「な、何、これは…」

「まさかとは思っていたが、能登の言うことが本当だったとはな…」

 一学期はオール五にも等しかった成績は、ほとんど一か二にまで低下していた。

「露骨だな…」

 成績の記載が意図的に歪められているのは、誰が見ても明らかだった。どうせなら、もうちょと巧妙に、心持ち評価を
下げる程度にしておけばいいものを、そうしたさじ加減が出来ないところが、いかにも朝鮮人らしい。

「評価の欄なんか、笑っちゃうわね。『テストの点もさることながら、道徳において問題があるようです。したがって、その
懲罰も兼ねて厳しい評価をさせていただきました』ですって…。美由紀の今学期のテストは、ほとんどが満点かそれに
近い点数だったのに、『テストの点もさることながら』って、何を言いたいのかしら」

「『道徳において問題があるようです』ってのも、ちゃんちゃらお笑いだな。こんないい加減な評価をする輩に道徳を論
ずる資格はないだろ? こうしたいい加減な教師こそが『懲罰』の対象となるべきだぜ」

「パパ、ママ…」

 ある程度の叱責は覚悟していたが、そうした気配が全くなさそうなことに、美由紀は安堵するよりも、目を丸くして驚
いた。
17聖夜の狂詩曲 53/64:2010/01/11(月) 00:39:18 ID:GitLwFcl

「心配するな美由紀。今回の成績はひどいもんだが、こんなものは嘘っぱちであることを、パパやママはちゃんと分かっ
ている」

「能登のおじちゃんやおばちゃんからも聞いたわよ。あんた、担任の先生と揉めているんでしょ? 評価の欄に『懲罰』
とかって書いてあるけど、これでその先生が腹いせで美由紀の成績を下げたってのが見え見えよ」

 父母は、眉をひそめた心持ち険しい表情であったが、その怒りの矛先は美由紀ではなく、件の朝鮮人教師へ向けら
れていた。

「どうやら、お前は担任の先生に口答えしたとかで、この先生に嫌われたらしい。しかし、単なる好悪の感情で、生徒の
成績を大幅に下げるとは理不尽過ぎる。パパは、こういう人間は大嫌いだ」

「ママも嫌いね、こんな教師の風上にも置けないようなのは。ただ、この先生がここまで美由紀を嫌いになったのには、
やっぱり理由はあると思うのよ。ね、よかったら、何がきっかけで、こんなことになったのかを話してくれない?」

「それは…」

 担任教師のホームルームでの言い草はたしかにおかしかったが、小学四年生である美由紀が、大の大人に歯向
かったことは事実なのだ。それを思うと、その時の状況をつまびらかにしてよいか悩ましかった。

「能登のおじちゃんは、日本とアメリカが戦争を始めた日である今月の八日に、美由紀の先生が、日本と日本人は前の
戦争の償いも反省もなってないとか、無茶苦茶なことを言って、それにお前が反論したんじゃないかって、言ってたぞ。
本当のところはどうなんだ?」

 図星に等しい父の言葉に、美由紀は驚いたが、同時に、ほっと安堵した。やはり、美由紀のパパやママは、頭がよくて、
話が分かる。

「う、うん…、パパの言う通り。その日、先生は、日本人は駄目な人間ばかりだから、朝鮮や中国の人にこれからも謝り、
償っていかなきゃいけない、なんてことを言ったから、私、我慢出来なくて…」

「先生に口答えしたわけね…」

 母の言葉に美由紀は頷いた。

「先生は、駄目な人間や悪い人間は、これからもずっと悪いままだから、永遠に反省と償いが必要なんだって…。
そして、それは、私らの子供や孫の代になっても続くなんて言ってた…」

「相当だな…。それじゃ、美由紀が反発するのも無理はない」

「その先生は、何のために法律や刑罰があるのかが理解出来ていないのよ。だから、美由紀は悪くない。おかしいのは
その先生の方ね」

 父母は怒りよりも、呆れているようだった。罪と言うよりも、弱みを握られた者が、未来永劫、償いを求められるのは、
およそ文明国ではあり得ない。未開な古代社会の忌まわしい風習そのものである。

「というわけで、美由紀。その先生は、どうしようもないから、出来るだけ早く別の学校に移った方がいいだろう。公立の
学校だと、また、あんな変な教師が居るかも知れないから、私立の小学校に行くことになるだろうな」

 転校は、美由紀にとっても願ったり叶ったりの展開だった。しかし、仲のよいクラスメート、特に、一緒に歌手になると
約束した、ともちゃんと別の学校に行くことは、ちょと心残りではあった。

「仲のよいお友達と学校は別々になるけど、学校が終われば、その子たちとも遊べるでしょ? 今は、昔と違って携帯電
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話があるんだもの。今までと全く同じという訳にはいかないけど、本当に仲のよい子とは、お付き合いは出来るわよ」

 美由紀の懸念を亜美が代弁し、それがどうにかなることも述べてくれた。ママは何でも知っているのだ。

「さて…、後は、美由紀にふさわしい学校を探さなくちゃな。祐作おじちゃんも探してくれるようだが、これはうちの問題
だ。だから、パパやママが、ちゃんと何とかするさ」

 竜児はそう言うと、書斎に引っ込み、程なく仕事で使っているノートパソコンを携えてきた。

「手始めという訳じゃないが、ちょっとインターネットで調べてみよう」

「そうね、インターネットの情報は断片的だけど、概略を把握するのには役立つから」

 竜児と亜美は、そんなことを言い合いながら、ノートパソコンの画面に表示される情報に見入った。
 だが、都内の有名私学のサイトをひとしきり見て、竜児は嘆息した。

「いやぁ、編入の条件は、どこも厳しいな」

「試験があるのは仕方がないとして、保護者面接とかがウザいわね。学校によっては後見人を要するし…」

「後見人は、通常は保護者の親、つまりは児童の祖父母ってことらしい。だが、泰子じゃ、後見人には明らかに役不足だ」

 こうした有名私学の後見人は、それなりの社会的地位と、財力が求められる。だが、未婚の母として竜児を産んだ
泰子に、そんなものはない。

「ねぇ、税理士やってる高須のお祖父ちゃんなら大丈夫なんじゃない? 社会的にも認められてるし、財力もそれなりに
あるから」

 だが、竜児は渋い顔をしている。

「美由紀にとっては曾祖父ということになる。親等が離れ過ぎだよ。多分、駄目だろうな。それよりも、お前のお袋さんや
親父さんはどうなんだ? 社会的な地位もあるし、親等も適切だ」

 今度は、亜美が膨れっ面をした。

「もう! パパはいいけど、ママに借りを作るなんて、まっぴら御免だわ。それでなくても、美由紀を芸能界に引きずり込も
うとしているんだから、本当に油断も隙もないのよ」

「じゃあ、どうすんだよ?」

「だから、困ってんじゃない! もう〜」

 不意に、『ピンポーン』とインターホンが鳴った。その音で、良策がなくて、互いに渋い表情だった竜児と亜美は、目
を丸くして顔を見合わせた。

「誰だ? こんな時間に」

「祐作か、麻耶が忘れ物があるとか勘違いして戻ってきたんじゃないの? あ、美由紀、悪いけど、ちょっとインターホン
に出てくれる?」

「う、うん…」

 言いつけ通りに美由紀はキッチンに備え付けのインターホンのハンドセットを取り、モニターの画面を見た。画面には、
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銀狐だろうか、黒っぽい銀灰色の毛皮のコートを纏った、どことなく美由紀に面影が似た女性が映っていた。

「お、おっきなママ!」

『しーっ』

 モニターに映った美由紀の祖母である川嶋安奈は、唇に人差し指をあてがう仕草で、大きな声を出した美由紀を
たしなめた。

「おっきなママどうしたの? こんな時間に」

 美由紀は、囁くように、モニターの向こうの川嶋安奈に問い掛ける。

『どうしたも、こうしたも、ないでしょ? 可愛い孫娘がメールで私の家でクリスマスを過ごしたいっていうから、お迎えに
来たのよ』

 しまった! 取り消しのメールを中途半端な状態で送信したままだったっけ、と思ったがもう遅い。よもや、本当に川嶋
安奈本人がお出ましとは、美由紀ならずとも驚きだ。

『で、あなたのパパとママは、今何してるの?』

 美由紀は、自身の転校先を両親がインターネットで調べている旨を手短に伝えた。

『そう…。それじゃあ、美由紀。これから、玄関に来て、鍵を開けて頂戴。玄関に行く途中、パパやママに何か訊かれ
ても、私が来ていることは内緒にして、適当に誤魔化してね。それじゃ、玄関で待ってるから』

 モニター上の川嶋安奈は、美由紀ににっこりと晴れやかな笑みを向けていた。その笑みには、抗いがたい拘束力が
備わっている。

『ともちゃんと同じだ…』

 こういうのを『カリスマ』って言うんだろう、と美由紀は思った。父にもなければ、母にもない。芸能界でひとかどの
評価を得られる大物女優たるには必須の資質というものなのだろう。
 美由紀は、ハンドセットを元通りに置くと、リビングを通って、玄関へ続く廊下へと出ようとした。

「あんた、何やってんの?」

 夫ともにノートパソコンの画面を凝視していた亜美が、美由紀に気付いて声を掛けてきた。

「あ、う、うん…。ちょ、ちょっとトイレ」

 玄関への途中にはトイレと洗面所があったから、格好の釈明ではあった。そのまま玄関にたどり着き、鍵を開けた。

「おっきなママ!」

「美由紀、いつまで待っても来ないから、迎えに来たのよ。まぁ、それはともかく、ちょっと、あなたのパパやママが何を話
しているのかを、こっそり聞かせて欲しいわね。だから、このまま抜き足差し足で、パパやママの居るところまで案内して
頂戴」

 川嶋安奈が、先ほどもインターホン越しに美由紀に寄越した笑みを向けている。美由紀は、僅かに良心が咎めたの
か、ごくりと固唾を飲んだものの、その抗い難い笑みに屈した。



20名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 00:44:47 ID:FRt/3Nwn
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21聖夜の狂詩曲 56/64:2010/01/11(月) 00:45:18 ID:GitLwFcl
「しかし、ここぞと思った私立は、どこも後見人とか保証人とかの基準がうるさいわね」

 リビングでは、亜美と竜児が、パソコンの画面を見ながら、相変わらず不毛な議論を重ねていた。

「う〜ん、ここも保証人を要するとか抜かしてやがる。困ったもんだ…。なぁ、やっぱりお袋さんか、親父さんに頭を下げて
だな、保証人とか後見人になってもらうしかないんじゃないか?」

 途端に、亜美が般若のように面相を歪めて竜児に噛みついた。

「冗談じゃないわよ! あんなババァに頭を下げるなんて、願い下げだわ。それに、あのババァ、うちの美由紀を歌手か
女優に仕立てようと狙っているのよ。ここで借りを作ったら、どうなるか、あんたにだって分かるでしょ?!」

「ま、まぁ、そうかも知れないが、お袋さんだって、そんなに悪い人じゃないだろう。話せば分かってくれると思うけどな」

「あんたは、川嶋安奈って言う人間の一部分しか見てないのよ! その正体は、強欲で、無知無学無教養で、陰険で、
傲慢で、どうしようもない俗物なんだからぁ! そんなババァを美由紀に関わらせるなんて、悪夢以外の何ものでもない
わよぉ!」

「お前、言い過ぎだよ」

 川嶋安奈への悪口雑言をまくし立てる亜美を、竜児がたしなめた瞬間だった。

「ずいぶんな言い草ね。亜美…」

 玄関に通じるドアが開け放たれ、シルバーフォックスのコートを纏った川嶋安奈が現れた。その後ろに隠れるように、
美由紀が控えている。

「ママ! ど、どうしてここに?!」

 狼狽して素っ頓狂に叫ぶ亜美を見下すかのように、安奈は、口元を歪めて、冷笑した。

「どうしたもこうしたもないでしょ? ここは、私の可愛い孫娘が居るところなんだから、その孫娘に会いに来ただけ、
それがどうかしたの?」

「孫娘に会いに来た、ですってぇ?! 断りもなく、勝手に入ってきたくせに。もろ、不法侵入じゃないの」

「ま、まぁ、二人とも落ち着いて。双方ともいきなり喧嘩腰じゃ、話せば話すほど、こじれるばかりだ」

 女同士の諍いを調停すべく、竜児が話に割り込もうとした。だが、亜美と安奈が、きっ! とばかりに般若顔負けの
形相で睨み返し、その迫力に、竜児は蛇に睨まれたカエルのように身をすくませた。

「不法侵入とか、小賢しい。大体が、この家は、孫娘が鍵を開けてくれたの。あなたのような小便臭い小娘と違って、
我が孫娘は優秀ね。隔世遺伝って言うのかしら?」

「しょ、小便臭い小娘ですってぇ?! 冗談じゃないわよぉ! ちゃんと、弁理士として世間で認められつつあるのに、
失礼にもほどがあるわぁ!!」

 酔った勢いも手伝って、亜美は金切り声で、安奈に詰め寄った。しかし、亜美以上に修羅場を経験し、それを乗り越え
て来たらしい川嶋安奈は動じない。

「おや、当人が居ないと思って、ババァ呼ばわりしたのは、どこのどなたさんだったかしらね。そっちの方がよほど失礼で
しょ。第一、あなた酔っ払っているんじゃない?」

「酔ってなんかいないわよぉ! そりゃ、今もワインは飲んでいるけど、こんな程度で酔っ払う訳がないじゃない」
22聖夜の狂詩曲 57/64:2010/01/11(月) 00:47:50 ID:GitLwFcl

 そうは言っても、亜美は頬を赤く染め、目も心持ちどんよりと濁っている。誰が見ても、酔っていることは明白だった。

「そうかしら? 酔っ払いは、大概が自分は酔ってないと言い張るものよね。ちょっと、酔いを覚ました方がいいようね。
これからママとクルマに乗って、夜風に当たりましょう。酔いを覚ましてからじゃないと、あなたとはまともなお話が出来
そうにないから。まぁ、そもそも、あなたは、女優になり損なった、出来損ないなんだけれど…」

 嫌味たっぷりの口調に、亜美がマジギレした。

「さっきから、大人しく聞いてれば、好き放題言いやがってぇ! ママ、あんたとは、一度決着をつける必要がありそうね」

「あら、瞬間湯沸かし器みたいに、すぐ熱くなるのね。もう、だいぶ前だけど、別荘の鍵が違っていた時も、電話でだった
けど、こんな状態だったかしらね。本当に進歩のないこと」

「失礼ねぇ! これでも、弁理士試験に合格したし、五年前には、竜児と一緒に、特定侵害訴訟代理業務試験にも合格
してるんだから、進歩がないなんて言わせないわよ」

 だが、川嶋安奈は、顔を真っ赤にして激昂している亜美が面白くてたまらないのか、双眸を意地悪く細めて、冷笑して
いる。

「弁理士試験? 特定侵害訴訟代理業務試験? それが何? ガリ勉で得た知識を競う試験が何だっていうの。
そんなことよりも人間として大事なことが、あなたは綺麗さっぱり欠落しているのよ。だから、女優への道を途中で
投げ出して、逃げたりするんだわ」

 亜美に欠けているという、『人間として大事なこと』は、川嶋安奈の台詞からは皆目分からない。多分に、川嶋安奈の
挑発臭かった。しかし、完全に頭に血が上っている亜美が、そんなことに頓着するはずがない。

「おーし! 上等よ、酔醒ましでも何でも結構! ドライブとやらに付き合ってあげようじゃないの」

 明かに、川嶋安奈のペースに乗せられていることが、竜児にも察せられた。

「お、おい…、迂闊な行動は、相手の術中に嵌るぞ」

 そうたしなめたが、亜美は、ヒステリー丸出しで、

「うるさい! 今夜こそ、ママと決着を付けてやるから、あんたは、美由紀と一緒に待ってるのよぉ!」

 と叫ぶと、コートハンガーに引っ掛けてあったダウンジャケットに袖を通し、安奈の後を追うように、リビングから廊下、
廊下から玄関の外へと出て行った。

「パパ…、ママ大丈夫?」

 美由紀から見ても、母である亜美は、祖母である安奈に比べて、冷静さを欠いている。安奈が仕掛けているであろう、
何かとんでもない罠に引っ掛かるような気がした。

「ま、まぁ、ママと、おっきなママは、実の親子だからな。変なことにはならないと思うよ」

 そうあって、欲しいものであった。
 そして、待つこと二十分。亜美と安奈が戻ってきた。

「う、うううっ、ひ、ひっく…。りゅ、竜児ぃ、こ、怖かったよぉ…、き、気持ち悪いよぉ…」

 いつもと変わらずに、颯爽とした川嶋安奈とは対照的に、亜美は、顔は真っ青、髪は振り乱してぼさぼさ、そして、
よろよろと覚束ない足取りで、リビングのソファーにへたり込んだ。
23聖夜の狂詩曲 58/64:2010/01/11(月) 00:49:30 ID:GitLwFcl

「ママ!!」

「お、おい、大丈夫か?!」

 娘や夫の呼び掛けも、まともに届かないのか、亜美は、ひっく、ひっくと、しゃっくりのような嗚咽を連発するばかりだった。

「お義母さん。いったい、亜美に何をしたんですか? 気丈な亜美がここまでボロボロになるなんて、ひどすぎる!」

 竜児は、川嶋安奈を内心では恐れていたが、最愛の女房をここまでいたぶられては黙って見過ごすことは出来な
かった。だが、さすがに芸能界一の食えない女、川嶋安奈は動じない。いつものように、謎めいた苦笑とも冷笑とも判別
し難い笑みを浮かべている。

「あら、いやだ、竜児さんは、バカ娘と違って、沈着冷静だったはずなのに、似た者夫婦っていうのかしらね、この子の
悪い面が伝染したのかしら」

「ふざけないで、真面目に答えてください! いったい、亜美に何をしたんですか?!」

「どうもこうもないわねぇ…。ちょっと、この界隈をクルマで走り回っただけよ。ただし、ちょ〜っとばかり、制限速度とかを
オーバーしていたかも知れないけど…」

「せ、制限速度をオーバー?!」

 竜児は思わず亜美と安奈の顔を見比べた。どうやら、安奈は、狭い路地を、WRCや、カースタント顔負けの荒っぽい
運転で走り回ったらしい。自らのドラテクに絶対の自信がある安奈本人はともかく、助手席で、今にも電柱や、塀、他の
クルマに激突しそうな恐怖に晒された亜美はたまったものではない。

「ふぇえええ〜ん、こ、怖かったよぉ」

「お、おい、亜美、しっかりしろ。ここは、俺たちの家だ。もう、怖い思いはしなくて済むんだよ」

 竜児は、幼児のように泣きじゃくっている亜美を抱いてやった。
 その竜児と亜美を、川嶋安奈は、冷やかな笑みを浮かべながら一瞥すると、美由紀の手を引いた。

「さぁ、約束通り、私の家でクリスマスを過ごしましょう。おっきなパパも、あなたが来るのを心待ちにしているのよ」

「ちょ、ちょっと待ってください! 美由紀は、うちの子だ。いくら、お義母さんでも、そんな勝手は許されない」

「あら、竜児さん。私は、美由紀に頼まれて、ここへ来た。美由紀が望むから、私の家に連れていく。それだけのことなのよ」

「美由紀が望むって、どういうことですか?!」

 気色ばむ竜児に、川嶋安奈は、自身の携帯電話機を突き付けた。その画面には、『今夜は、おっきなママのおうちで
クリスマスを祝いたいです。 美由紀』という文字が表示されていた。

「み、美由紀! こ、これは?!」

 美由紀は、ばつが悪そうに川嶋安奈の後ろで縮こまった。

「ご、ご免なさい…。私、二学期の成績が悪くって、パパやママに顔向け出来なくて、それで、おっきなママのおうちに
逃げたくなって、メールしちゃった…」

24聖夜の狂詩曲 59/64:2010/01/11(月) 00:51:19 ID:GitLwFcl
 後ろに美由紀を従え、携帯電話機を水戸黄門の印籠の如く竜児に突き付けた川嶋安奈は、どうだとばかりに胸を
張った。

「た、確かに、み、美由紀がメールしたようですが、美由紀は未成年です。法律上の権利能力を有しません。ですから、
美由紀が、お義母さんの家に行きたいという意思表示は、法律上は有効なものではありません」

 安奈に睨まれて、しどろもどろになりながらも竜児は必死に反論した。元祖性悪女。これに比べたら、亜美なんてのは
可愛いものだ。
 案の定、川嶋安奈は、竜児を嘲笑うかのように、口元を歪め、瞳には侮蔑の色をたたえている。

「おや、おや、辣腕弁理士である竜児さんは、自分の娘の権利能力を否定されるらしいわね。でも、この子は聡明よ。
だから、この子自身に、今この場で最終的な判断させましょう。どう?」

「ど、どうって…」

 完全に安奈のペースに飲まれてしまい、二の句が継げなくなっている竜児には構わず、川嶋安奈は美由紀の目線に
合わせるように屈み込んだ。

「賢い子である、あなたに決めてもらいましょう。あなたは、メールでの通り、私の家でクリスマスを過ごすのね?」

 微笑んでいる安奈には、抗い難い拘束力がオーラのように放射されていた。笑顔で同意を迫る様は、クラスメートの
ともちゃんも同じだが、威力は桁違いである。

「う、うん…」

 祖母のオーラに気おされて、美由紀は、ためらいがちに頷いてしまった。

「み、美由紀!」

 父である竜児が、柄にもなく取り乱し、娘の名を叫んだ。川嶋安奈は、勝ち誇ったように肩をそびやかしている。

「これで、竜児さんも文句はないわね? 美由紀は、彼女自身の判断で私の家に来ることを選択したんだから」

「ま、待ってください! 今の美由紀とお義母さんとのやりとりは、お義母さんが合意を強制したニュアンスが窺えます。
承服出来ません」

「合意を強制した? あなたは何を言っているの? 私は、屈み込んで美由紀に向かって微笑んだだけ。それのどこが
合意の強制になるのかしらね」

「そ、それは…」

 川嶋安奈の言う通りだった。安奈の微笑自体に、合意を迫る拘束力があると、竜児は言いたいのだろうが、あいにく、
それを証明する術はない。

「パパ…」

「美由紀、お前は、川嶋の家に行きたいのか? 本当にクリスマスをあっちで過ごしたいのか?!」

 言われて美由紀は申し訳なさそうにうつむいた。

「う、うん…。おっきなママに約束しちゃったから。その約束は、取り消しになってないから…。ほら、パパが前に教えてくれ
たでしょ? 約束っていうか、契約を解除するときは、そのことを相手にきちんと伝えないと駄目だって。私、そのことを、
おっきなママに伝えてない。その責任を取らなきゃいけないよね?」

25聖夜の狂詩曲 60/64:2010/01/11(月) 00:53:20 ID:GitLwFcl
 竜児は絶句した。美由紀が言っているのは、民法五百四十条の規定のことだ。以前、守れそうにない約束を友達と
したときは、どうしたらいいかということを、法規に則って説明したのが仇になったらしい。生真面目で賢い美由紀は、
その法規に従わねばならないと思い込んでいるようだ。

「美由紀、お、お前は…」

 肩を落とした竜児とは対照的に、川嶋安奈は、「おほほほ」と哄笑している。その様は、テレビや映画でお馴染みの、
悪役そのまんまだった。

「美由紀自身も異存がないようだし、この子は私が暫く預かります。いいわね?」

 念を押したときの面相は、ヤクザの姐御紛いの凄みがある。
 その迫力に、ぐうの音も出ない竜児を冷笑しながら、孫娘には、慈母の如き微笑を向けている。

「さぁ、外は寒いから、マフラーとコートを着て。それと、携帯電話機ぐらいは持って行ってもいいかしらね」

 祖母に促されて、美由紀は子供部屋へ行き、セーターを着て、マフラーを巻き、紺色のダッフルコートに袖を通した。
携帯電話機をコートのポケットに入れ、他に何か持って行くべき物はないか、ランドセルの中をあらためた。

「あ…、これをパパやママに見せてなかった」

 ハナマルが、朱の大きなばってんで打ち消されている水彩画と習字の作品。これを見せるのは、川嶋安奈の家から
戻ってきた後になるだろう。だが、美由紀が担任に理不尽にいじめられていることを、彼女の両親が理解してくれた今、
朱の大きなばってんも、どうということはない。

「美由紀、早くなさい」

 祖母がしびれを切らしたのか、廊下から美由紀を呼んでいる。その祖母に、美由紀は「はーい」と返事をすると、件の
水彩画と習字の作品を机に置いて、子供部屋を出た。

「すぐ近くにクルマを止めてあるけど、最近はお巡りさんが駐車違反にうるさいから、早く行きましょ」

「う、うん…。でも、おっきなママの運転って、怖くない?」

 母である亜美は、安奈の荒っぽい運転で、恐怖のあまり人事不省に陥っている。自分も同じような目に遭うかも
知れない、と美由紀はビクついた。

「大丈夫、あなたが助手席に乗っているときは、大人しい運転をするから」

 そう言う祖母に背中を軽く押されながら、美由紀は靴を履いた。そして、玄関から、廊下、更にはリビングに続くドアへ
と視線を彷徨わせ、両親に詫びるつもりで、軽くお辞儀をした。
 その様が可笑しかったのか、祖母は、ちょっと苦笑している。

「さぁ、クルマで行けば、すぐだけど、あなたに見せたいものがあるのよ」

 見せたいものとは何だろう、それに本当に大人しい運転をしてくれるのか、と訝りつつ、美由紀は玄関を出た。
そう言えば、美由紀自身も川嶋安奈に告げねばならないことがあった。



「うぇええええ〜ん、あの子、あの子がぁ!!」

 リビングでは、亜美が竜児にすがって泣きじゃくっていた。

26聖夜の狂詩曲 61/64:2010/01/11(月) 00:55:01 ID:GitLwFcl
「しかし、お袋さんがお出ましとはな…」

「あんたぁ! 何をしれっと言ってんのよ。これは拉致よ! 誘拐よ! キッドナッピングよ! エイリアン・アブダクション
なのよぉ!! は、早く警察に知らせなくちゃ」

「いやぁ、拉致や誘拐ったって、警察にどう説明するんだよ。嫁の実母が娘を連れて行きました、ってか? 警察は取り
合ってくれないって…。それに、エイリアン・アブダクションってのは何だよ。お袋さんは、いつから宇宙人になったんだ?
とにかく落ち着け」

「ばかぁ! あんた、実の娘がさらわれたのよ、これが落ち着いていられる訳ないじゃない!!」

 竜児は、上目遣いで亜美から目線を逸らし、大きなため息をついた。川嶋安奈は美由紀を溺愛しているから、
悪いようにはしないだろう。今は、そう思うしかない。
 その時、電話のベルが、リビングに響き渡った。

「おっと、電話だ」

 竜児は、亜美を抱いたまま、ラックの上に手を伸ばして、ハンドセットをどうにか取り上げた。いつもなら、ハンドセットを
持ち上げる前に番号通知のディスプレイを確認するのだが、この状態では難しかった。

「はい、高須です」

 相手が誰だか分からないまま電話に出るのは気が進まなかったが、致し方ない。その竜児の耳に、聞き覚えのある
初老の男性の声が聞こえてきた。

『今晩は、川嶋です。竜児くんだね?』

「お、お義父さん!」

 相手は、亜美の実父であり、川嶋安奈の夫であった。

「い、今、亜美に代わります。ちょ、ちょっと待ってください」

 岳父、岳母というものは、婿にとっては、どちらかというと苦手なものである。それは竜児であっても例外ではない。
 特に、岳母である川嶋安奈は難敵と言ってよく、まんまと美由紀を連れ去られた。

『いや、亜美は、安奈にこっぴどくやられて、電話に出られる状態じゃないだろ? それに、竜児くん、君に話があって、
電話をさせてもらったんだ』

「はぁ…」

 岳父は何を切り出すつもりなのか、竜児は、下手に言質を取られないように、ひとまず用心することにした。

『まずは、美由紀の件だ。先ほど、安奈と美由紀から状況は聞いた。何でも、今の美由紀の担任はかなり問題があって、
そのために、美由紀を私立の小学校に編入させたいそうじゃないか』

「は、はい、そうです…」

『だったら、私が及ばずながら力を貸そう。君たちも、もう分かっているとは思うが、まっとうな私立の学校は、編入はそう
簡単なものじゃない。後見人だか、保証人だかが必要だし、その他の基準も色々とうるさい。要は、生え抜き以外は欲し
くないんだな。編入試験を制度として設けていても、積極的には他校の生徒を編入させたくないのが本音なのだろう」

「そうかも知れませんね…」

27聖夜の狂詩曲 62/64:2010/01/11(月) 00:56:58 ID:GitLwFcl
 それは竜児も薄々は承知していた。インターネットで調べた限りでも、編入の条件は、どの学校も極めて厳しい。

『だが、コネというと響きは悪いが、人脈があれば、こうした障壁も問題ではなくなる。幸い、君たちの家から通学出来る
範囲にある私学の理事長と私は懇意でね。君たちさえよければ、その学校へ美由紀を編入させようかと思っている』

「ど、どこの学校ですか?」

 亜美の父は、竜児に学校名を告げた。その学校は、名門校だが、編入の条件があまりに厳しくて、真っ先に断念した
ところだった。

『どうかね? 水準も高いし、何よりも、反日教育をするような変な教師は居ないはずだ。そこなら、安心して美由紀を
通わせることが出来るだろう』

「は、はい…」

 個人の力だけではどうにもならない事態であっても、誰かの助けでそれが可能となることだってある。コネに頼らず、
亜美とともに徒手空拳で頑張ってきた竜児であったが、援助があればそれに越したことはない。その点は認めざるを得
なかった。

「もう一つは、仕事の話だ。独立して事務所を構えた君たちの活躍は、私の耳にも届いているよ。私の知人も君たちに
注目していてね、その知人らが経営する企業でも、君たちに製品開発やブランドイメージ構築のコンサルティングをお
願いしたいらしい。詳細は、私の事務所で話そう。週明けの月曜日にでも、亜美を伴って、来てくれないか?
時間は、そうだな、食事を挟んでゆっくり話したいから、午前十一時頃ではどうだろう」

「私はそれで結構です。多分、亜美も大丈夫でしょう」

「そうか…。それなら、旨い物でも食いながら、ゆっくり話そう。正直、君たちがいつも作っている物ほどではないかも知
れないが、その点は勘弁してくれ」

 事務所を開業して半年足らずだから、竜児たちの活躍が実業界で注目されるはずがない。多分に岳父のリップサー
ビスだろうが、形はどうあれ、評価してくれるうちが花である。

「何から何まで済みません」

 電話の岳父は、声を上げて笑った。

『礼には及ばないよ。その代価という訳ではないが、美由紀は暫く私たちの家で預からせて戴く。今年の正月も、長年
連れ添った婆さんの顔だけを見ながら屠蘇を飲むのも、何だか侘しくてな。寂しい老人のわがままだと思って許してくれ。
おっと、婆さんって言ったのは、安奈には内緒だからね』

 茶目っ気のある岳父の言葉に、竜児は少しだけ心が和むような気がした。川嶋家のようなセレブであっても、亭主と
いうものは、女房には頭が上がらないものらしい。

『安奈のことだが、彼女は、君や亜美には厳しい態度であるものの、内心では君たちの存在を認めている。私自身も、
君たちの手腕や力量を高く評価しているつもりだ。君たちの今後の活躍を楽しみにしているよ。頑張ってくれたまえ』



 助手席に美由紀を乗せたシルバーグレーのスポーツカーは、首都高新宿線をゆったりと進み、環状線に進入した。

「もうちょっとしたら、見えてくるからね」

「わぁ! すごぉ〜い」

28聖夜の狂詩曲 63/64:2010/01/11(月) 00:58:44 ID:GitLwFcl
 深夜になっても明かりの絶えない高層ビル群の間から、オレンジ色のナトリウムランプでライトアップされた
東京タワーが唐突に現われた。

「綺麗でしょ? 何十年も変わらない光景だけど、東京を代表する夜景の一つよね」

 美由紀は、きらびやかな夜景にすっかり見入られ、呆然と窓の外を眺めていた。

「ねぇ、美由紀…」

「あ、ご、ごめんなさい、おっきなママ。東京タワーがあんまり綺麗だから、ぼやっとしちゃった…」

 その子供らしい無邪気な反応に、川嶋安奈は微笑した。

「あなたのママも、昔は私が運転するクルマの助手席に座って、そうして東京の夜景を見ながらはしゃいでいた。それが、
どうかしらね。今では、すっかり生意気になって…。でも、こうしてあなたとドライブしていると、あの頃が懐かしいわね」

「おっきなママ…」

 美由紀は、憂いを帯びた祖母の横顔に暫し見入った。五十代とは思えないほど張りのある白い肌、そして美由紀に
も受け継がれている整った面相は、掛け値なしに美しい。

「あら、私の顔に何か付いているかしら? そんなにまじまじと見られると、ちょっと恥ずかしいわね。それはそうと…」

 川嶋安奈は、美由紀に夜景をよく見せるためなのか、アクセルペダルを緩めて心持ち減速した。

「あなたは何になりたいの?」

「え?」

 唐突な問い掛けに、美由紀は目を丸くした。

「あなたが昔書いた作文を読ませてもらったわ。『パパやママのような立派な弁理士になりたいです』って書いてあった
わね。でも、あなたは未だ小学生なの。今から、急いで何になるかを決めなくたっていいんじゃないかしら」

「う、うん…。そ、そうかも知れない」

 勉強が嫌になった訳ではないが、勉強以外のこともやってみたい気持ちがある。昼間、ともちゃんに誘われたように、
音楽をやるというのも一つの選択肢であるはずだ。

「あなたは、歌も上手いし、音楽の才能もある。あなたさえよかったら、勉強の合間だけど、歌や音楽のレッスンを受け
させるけど、どう?」

 カラオケや学校の授業でしか歌ったことがないけれど、歌っている最中は、引っ込み思案の美由紀でも、気持ちが
高揚し晴れ晴れとした気分になってくるのだ。

「うん…。歌は好き…。歌っていると、その間は嫌なことも気にならなくなるから。それに、オルガンやピアノも好き…」

 それを聞いて川嶋安奈は、もくろみ通りということか、にんまりと笑みを浮かべた。

「そう、それならよかった…。あなたのために専任の先生を用意して、あなたの才能を開花させるようにするわ。あなたは、
可愛くて、素質もあるから、きっと芸能界で成功するはずよ」

 芸能界…。実母である亜美は反対するだろう。かつて、母親もモデルとしてその世界に居たが、諸般の事情から、
足を洗っている。美由紀も、結局は大成せずに終わるかも知れない。それでも、美由紀は、その世界に首を突っ込んで
29聖夜の狂詩曲 64/64:2010/01/11(月) 01:01:15 ID:GitLwFcl
みたくなった。それに、ともちゃんとの約束もあった。

「ありがとう、おっきなママ…。でも、おっきなママに、お願いがあるの」

 何かをねだるということがほとんどなかった美由紀の意外な一言に、川嶋安奈は、はて? とばかりに目をきょとんと
させて、助手席の孫娘を見遣ったが、すぐに慈母のような笑みを浮かべて、視線を前方に集中させた。

「いいわよ…。他でもないあなたの願いなんですもの。ちゃんと聞いてあげるから」

 美由紀は、「うん」と微かに頷き、うつむいた。

「仲のいいお友達が居て、ともちゃんっていうんだけど、私以上に可愛くて、音楽の成績がよくって、そして何よりも、
あたしに歌を勧めてくれた子がいるの。その子も、私と一緒にレッスンを受けさせてもらえないかと、お、思って…」

 こんなこと、祖母であっても、川嶋安奈に頼めるものではないことぐらい美由紀は承知していた。
 しかし、ともちゃんは、一緒に芸能界へ行こうと誘ってくれた。それを思うと無下には出来なかった。

「そう…。会ってみないと何とも言えないけど、あなたがそれだけ推すということは、その子にも才能があるんでしょうね。
いいわよ。一回実技のテストをすることにはなるけど、そのテストに合格したのなら、その子もあなたと一緒にレッスンを
受けさせましょう」

 川嶋安奈は、ともちゃんが積極的な子で、美由紀を引っ張っていく立場の子だと直感したらしい。その子がいれば、
気の弱そうな美由紀でも、大胆な行動が可能だと踏んだのだろう。

「あ、ありがとう、おっきなママ!!」

「お祖母ちゃん、と呼んでいいわ。こう呼べるのはあなただけ。おっきなパパにも呼ばせていないんだからね」

 そう言って、川嶋安奈は、緩めていたアクセルペダルを踏み込んだ。背後でエンジンが唸り、シルバーグレーの
スポーツカーは、矢のように加速していく。
 ジャンクションを右折し、レインボーブリッジへと続く上り坂を川嶋安奈のクルマは飛ぶように駆け上がっていった。

「わぁ、まるで光の海の上を飛んでいるみたい!」

「そうね、今夜はクリスマス・イブだから、夜景がいつもと違って華やかね。ちょっと、寄り道しちゃったけど、急ぎましょ。
家では、おっきなパパ…、お祖父ちゃんが、あなたへのプレゼントを用意して待っているはずよ」

「う、うん…」

 走行に伴う微かな揺れが、ゆりかごのようだった。美由紀は、夜景に興奮しながらも、目蓋が重くなってくることに
抗えなかった。
 運転席の川嶋安奈の姿が、ぼやけてきて、意識が薄れていく。その薄れゆく意識の中に、先ほどの川嶋安奈の台詞
が浮かんできた。

『あなたは何になりたいの?』

 正直、美由紀にも本当に歌手や女優になりたいのかは分からなかった。だが、何かの可能性があれば、その可能性
に賭けてみたかった。

「美由紀、美由紀?」

 美由紀が妙に大人しくなったことで、川嶋安奈は孫娘が寝入ってしまったことを察した。ツインテールの長い黒髪、
大理石のように白い肌、そして長いまつ毛は、実母である亜美よりも、祖母である川嶋安奈の子供の頃にそっくりだった。
30名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 01:01:16 ID:FRt/3Nwn
C?
31聖夜の狂詩曲 65/64:2010/01/11(月) 01:01:52 ID:GitLwFcl

「何の夢を見ているのかしらね」

 出来れば、歌手になって成功し、更には安奈の後を継いで女優になっている夢であって欲しかった。

「まぁ、芸能界で生き残るのは大変だけどね…」

 そんなことを呟きながら、川嶋安奈はアクセルペダルを一段と深く踏み込んだ。シルバーグレーのスポーツカーは、
深夜の首都高速を軽やかに疾走していった。

(終わり)
32名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 01:03:47 ID:tGhsgNJs

この二人の続きが読めて嬉しい

でも、なんつーか作者の個人的な憎悪が入り込んじゃうと上手くノれなくて残念だな
必然性とかないだけに「モンスター教師に憎まれた」じゃあダメだったのかい?
33SL66 ◆5CEH.ajqr6 :2010/01/11(月) 01:03:49 ID:GitLwFcl
以上です。
最後のはみ出した部分は、64番目に吸収できなかったので、別のレスになってしまいました。
完全オリジナルで、エロなし、かつキナ臭い話入りでしたが、これにて、終わりです。
34名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 01:06:02 ID:o66KvF03
まだ読んでる途中ですが
投下乙です
35名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 01:30:10 ID:3On9EunB
あなたの書く作品は大好きなんだ。オリキャラだってOKさ。
でも、この作品は「竜児と亜美が困難を乗り越える話」を書きたいってよりは
「在日朝鮮人がいかに酷いか」を描きたいだけに思える。

だけ、って言っちゃうのもなんだがそこはポイントじゃないでしょ?
竜児も亜美も大好きだけど、そういういろんな意味で臭いネタはあんまり読みたくないって言うか、
正直ニュー極とか+とかで散々読んでるので食傷気味です。

オレは一応わりと愛国的なほうだと思ってるんですが(一般参賀にも行きました)、それでもこういう
「自分が大嫌いなものを醜く書いて、自分の憎しみを他人にも共感して欲しい」
っていうネガティブなSSはあまり好きになれません。
そもそもSSってのは「自分の好きなキャラクターに対する愛を他人にも共感して欲しい」
から書くものでしょ?

在日朝鮮人を憎んで呪いたいなら他のところでやろうよ。
そこでだったらオレも一緒に共感のレスをいくらでもつけちゃうよ。

でも、ここはそういう場じゃないし、それは愛じゃない。
せっかく上手いんだからもっとみんなが喜びで共感できるものを書いたらいいんじゃないか?

長々とイヤな感想だろうけど、でもちょっとだけでいいからココロの奥に刻んでおいて貰えないだろうか?
愛だろ、愛。
36名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 01:36:31 ID:GQnL/NAp
そうだよな、愛だよな、愛。
37名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 03:04:59 ID:TpY+dEER
>>33
大量投下お疲れ様です。ただ、内容的には20レス程度でまとめてもよかったような
キガシマス。私なら担任の部分と、料理の詳細はバッサリ切っちゃうなぁ。
そこをオミットすると、けっこうニヤニヤ出来ました。

>>35
意がよくまとまって、理知的ないい感想ですね。
こういう感想がつくと書き手としてはありがたいのでは?
最近はいい作品が投下されても、感想が少なかった。
こういう感想がつくとスレがよりいいものになると思います。
38名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 03:19:06 ID:IUmwQAKl
まだ読んでいないが、その注意書き
日本人だったら、愛国者じゃなくても反日にもならないと思う
そして、そのような政治的な色彩を帯びた物言いで非難を招くのはちょっと不味い
多分冗談だったけど

あと、日本人じゃない人もいるが、日本語教わった上、
このエロパロに来るぐらいなら反日的…はないだろうな
39名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 04:03:00 ID:45YqhAGu
いくら事実だったとしてもやりすぎだと思う。
これじゃ、あちらの方々と同じだと思うな。
40名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 04:52:27 ID:QhOzwZPd
長文お疲れ様です。レスするか迷ったけど感想を
ストーリー自体は好きな部類のアフターなんですが
>>35が書いているように無理矢理自分の嫌いな物を
悪く書いている様で非常に後味の悪い作品になっていて残念です

内容に関してはいい能登が娘に説明した所は普通いい大人が子供に対して
簡単に説明するような事柄では無い為、とても違和感がありました
良識のある大人の対応では無いかなと
41名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 08:56:09 ID:6mDX7T96
前スレの埋めがエロかった
42名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 09:59:42 ID:6mDX7T96
大河「だいたい、りゅーじは激しく突き過ぎなのよ、女の子のカラダはね、もっと優しく扱わなくちゃいけないの」
竜児「いやぁ〜、イロんな娘と付き合ってると、攻めドコロっつーか、こ〜すると感じるんだなって色々わかってきてな」
大河「…こっ、このエロ犬!!」
竜児「それはそうと大河、頼みがあんだけどさ… 今度の週末、また、マンション貸してくれよ」
大河「なっ!! …ちょっとあんた、そうやっていつも人の家をラブホ代わりにしてんじゃないわよ!」
竜児「いや、亜… 川嶋のやつ、アノ時の声がデカくってさ、俺ン家じゃ階下に丸聞こえなんだ。お前ントコのマンションなら
    カンペキ防音だしな」
大河「嫌よ! なんで恋人が浮気相手といちゃつくのに自分の家を提供しなきゃなんないのよ!あたしのベッドに他のオンナの
    体臭やらナニやら染み込ませないで!」
竜児「い〜じゃね〜か、あとでシーツはちゃんと洗っておくからさ」
大河「そーゆー問題じゃない!!」
竜児「…しょーがねーなぁ、だったら、ちょっと遠いけど、川嶋の別荘に行って泊りがけでヤッてくっか」
大河「えっ」
竜児「香椎に木原も呼べばついてくるかもな… 酒池肉林だなこりゃ」
大河「……」
竜児「悪かったな大河、厚かましいこと言って。もう、二度と言わないから」
大河「ちょっ、ちょっと竜児、なにもそんな…」
竜児「おーい川嶋」
大河「待って、捨てないでりゅーじ!!」
43名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 10:07:15 ID:7aJgBMui
>>42
ひ、ひでぇw
44名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 10:29:20 ID:ApNoqro4
>>42
なんというか、1レスなのに凄えというか。
とにかくGJ!
45名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 12:23:43 ID:6mDX7T96
大河「ねぇりゅーじ]
竜児「どうした大河?」
大河「…なんでわたしとは、バックからするの?」
竜児「は?」
大河「みのりんから聞いたわよ。『竜児はわたしがイクときの顔を見るのが好きなんだ』って。 りゅーじはわたしの
    イキ顔を見たくないの? りゅーじにとってわたしはただの肉欲の捌け口に過ぎないの?」
竜児「(ブツブツ)…まったく、櫛枝の奴… 二人だけの秘め事だったのに…」
大河「ねぇ、なんでわたしとは後ろばっかりなの? わたしは正常位でぎゅっと抱きしめてもらうのが好きなのにっ」
竜児「だからそれは、お前が俺の背中に爪を立てるからだろうが。痛ぇんだよ、お前の爪」
大河「そっそれは、…りゅーじが乱暴にするからじゃない!」
竜児「してねぇよ」
大河「嘘。いっつもわたしのお尻をぎゅっと掴んで、ガンガン突きまくるくせに。…聞いたわよ、木原さんに」
竜児「…なにを?」
大河「『高須君ったら、すっごく時間をかけて、身体のすみずみまでていねいに愛してくれる』って。…なんで私には
    優しくしてくれないの? 痛い痛いって泣いて頼んでるのに、もっと激しくするの?」
竜児「(ブツブツ)木原の奴…それはだな、木原には別に好きな相手がいるし、それに、あいつのことを前から好きな
    奴もいるしさ。後のコト考えて、ていねいに扱ってやんねぇとな」
大河「あんた、そのうちホントに友達なくすわよ」
竜児「うん」
大河「このタイガー・ウッズ!」
竜児「いや、大河、トラはお前だ」
46名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 13:23:31 ID:7aJgBMui
>>45
誰が上手いことを言えと(ry

大河が哀れだw
47名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 13:26:10 ID:hSmPN5vw
>>42>>45
竜児がとんでもなく下種になってる…

GJ!いいぞもっとやれw
48名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 14:18:17 ID:Zo3dNsF7
前スレ冒頭と最後に書いていらした方ですよね?GJ!
高須棒姉妹を思い出したが竜児の女たらしっぷりが更に上を行ってるw
49名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 14:47:42 ID:D7FVPtj2
高須棒姉妹好きだったなあ
50名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 16:14:37 ID:6mDX7T96
>>48
前スレ426に妄想を掻き立てられた通りすがりでゴザイマス
51名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 16:58:17 ID:IUmwQAKl
>>45

ゆり 「ねえ、高須くん」
竜児「はい、先生」
ゆり 「櫛枝さんから聞いたわ。なんか『週に二度ぐらい愛してくれてた』って?」
竜児「えっと、櫛枝は照れ屋さんですから、二度しかお願いして来ませんよね。」
ゆり 「二度…『しか』?」
竜児「はい。川嶋は三、四回ぐらいかな?本当はもっと欲張りなんだけど、仕事オフでなきゃ出来ないとか。
   そして、 木原はそれと同じぐらいですけど、香椎なんか学校に会うたびに求めてきてますね。」
ゆり 「へー、そうなんだ…」
竜児「大河はほぼ毎日でしたっけ。同棲してるみたいなもので…どうしたんですか?暗い顔して」
ゆり 「……私…してもらったの二ヶ月前なの……」
竜児「ん?そういえばそうでしたね。」
ゆり 「…先生はそんなに魅力ないの?」
竜児「そんなことありませんよ。他は皆処女だったから、ロクなテクはありませんでした。
    でも、先生とする時は凄かったんですよ。大胆な川嶋にもしてもらえないこともしてくれるし。」
ゆり 「私もそんなに経験なかったわよ…お尻でするのも初めてだったし…」
竜児「そうですか?じゃあ、皆を甘やかしすぎたから、テク付かせなかったかもしれませんね。
    今度はちょっと厳しく訓練させなくちゃ。」
ゆり 「厳しくしたいなら、その…私が……」
竜児「いや、先生は忙しいんでしょう?」
ゆり 「うう、確か今夜はお見合いもあるし…明日も早いし…週末はどう?」
竜児「週末は川嶋と香椎と木原にブックされたけど。
    まあ、今からでも俺は構いませんよ。保健室のマキコ先生にお願いするから」
ゆり 「でも、十分後に会議が…」
竜児「あ、そうですか。これでは僕は失礼します。」
ゆり 「ちょ…ちょっと待って、高須くん!」
竜児「お仕事、頑張ってくださいね。」

ゆり「…うぇぇぇぇーーーーー」
52名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 17:29:32 ID:0MaBadOt
下種な高須も(・∀・)イイ!!
53名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 18:23:31 ID:6mDX7T96
亜美「…ね゙え゙、だがずぐん」
竜児「こりゃまたひでぇ声だな、せっかくの美貌が台無しだぞ川嶋」
亜美「こんな声になるまで、ひと晩じゅう延々叫ばせたのは、誰だったかしら…」
竜児「…俺が悪かった…」
亜美「ところで高須君、タイガーから聞いたわよ。『りゅーじはわたしの髪の毛を掴んで、お尻をパンパンひっぱたくのが
    好きなの』って」
竜児「はぁー?」
亜美「高須君、それってヤバくね? マジで異常性癖のアブナい人なんじゃね?」
竜児「いやだからそれはタイガー・ウッズの性癖だから! 俺じゃねーから!」
亜美「じゃあ、高須君に髪の毛引っ掴まれて、マンションじゅう引き摺り回されたっていうのは?」
竜児「はじめ人間ギャートルズかよ…」
亜美「やってないの?」
竜児「し・て・ね・え・よ!!」
亜美「そうなんだ? …てっきりマジかと」
竜児「どこのDVオヤジだよ」
亜美「そしたら、二階の窓から逆さに吊るされたっていうのも嘘?」
竜児「それやったらマジで殺されるな俺」

麻耶「オッス、たっかすくーん」
竜児「よう」
麻耶「へっへっへー、亜美ちゃんからから聞いたよ〜」
竜児「…なにをだ」
麻耶「ひ・み・つ」
竜児「……」
麻耶「ワイルドな男のひとって、あたし〜、な〜んか憧れちゃうなー」
竜児「…いったい何を吹き込まれたんだよ…」
麻耶「ねぇねぇ高須君、あたしとヤルときも、もっとワイルドにやってほしいな〜。優しいのもイイんだけど」
竜児「そうなのか? いや、木原ってスッゲー可愛いから、なんか遠慮しちゃって手荒にできねーんだよ」
麻耶「そーなんだ? チョー嬉しいなー」
竜児「言っとくけど、俺がマジ入ったらハンパねーぜ」
麻耶「高須君の前戯って、チョー気持ちイイんスけど、…ひょっとしてヤバいクスリとか盛ってないよね?」
竜児「お塩学かよ俺は!!」
麻耶「あっ、でもヤバかったらマジで救急車呼んでね」
竜児「だから違うって!!」

奈々子「おはよ〜、高須君」
竜児「オッス、香椎。…ん、どうした?」
奈々子「麻耶ちゃんから聞いたんだけど… 高須君、わたしのことを『タコみたい』って言ったでしょう」
竜児「えっ」
奈々子「…言ったの? ねぇ?」
竜児「あ〜、いやぁー…」
奈々子「女の子に向かって『タコみたい』だなんてヒドくない? わたしのどこがタコに似てるのよ?」
竜児「だからその… 香椎とエッチしてるとき、キスまだったり、肌がきめ細かくて吸い付いてくるみたいだったり、
    ローションプレイでおっぱいがむにゅ〜ってなったり、そーゆーエロいトコが『な〜んかタコみたいだな〜』って」
奈々子「……」
竜児「いや、悪かったな、香椎」
奈々子「…そ、そうなんだ」
竜児「ほんと悪かった」
奈々子「いいのよ、そういうことだったら。…でも、わたしが『タコ』だったら、高須君は『毛ガニ』よね」
竜児「毛ガニ?」
奈々子「毛むくじゃらの長い脛が、毛ガニみたい」
竜児「…いや、そこまで毛深くねぇぜ?」
54名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 18:46:33 ID:7zGcem9y
vipみたいな台本ssは一発ネタだから面白いんだよ
ダラダラ貼ってると嫌われるぜ
55名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 19:19:31 ID:0MaBadOt
うん、ごめん
56名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 19:25:20 ID:M9H2uzQa
これ、バトン形式というのかな?
ID:6mDX7T96さん&ID:IUmwQAKlさん、どんどん続けて!
台本SSイイヨイイヨ!いい感じに続いてるんだからもったいない!!
57名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 19:25:24 ID:ApNoqro4
別に投下SSの内容まで指図しんくってもいいような気も
58名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 19:39:19 ID:6mDX7T96
いや、もうネタ切れ
59名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 19:45:29 ID:bdzCHdq+
全員分終わったあとに言われても困るわな
60名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 20:04:19 ID:0MaBadOt
まだやっちゃんの分が
61名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 20:09:13 ID:Txek+ycC
聖夜の狂詩曲、面白かったです
SLさんの気の強い部分がいい感じに出てました。
偏っててもそれはそれでありかなと。
62名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 21:46:18 ID:XSChAbIP
半年ぶりに覗いてみたけど、まだ過疎ってないみたいだな
全ての書き手さん乙です
63名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 21:46:40 ID:vdq8M16j
聖夜の狂詩曲、
在日教諭ネタはとらドラ(から派生した)キャラを使う必然性はなかった気がする
でもGJ、どうやら続きも期待できそうですな
64名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 21:51:21 ID:bvyA4bcg
2ch以外にとらドラSSってあまり見かけないねぇ
やっぱある程度原作の完結に満足されている作品はSSが少ない傾向なんだな
65名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 22:35:25 ID:9urhORkJ
ググると、アニメ化する前に書かれたssにヒットしたことがある
66名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 22:47:16 ID:deIM59t7
規制解除?
67名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 09:26:21 ID:Fm3S524z
ん、俺も在日ヘイトSS投下してもいいかい?
あーみんが在日出身、って事で、芸能界の在日事情など。
そういうのは認められんだろ?

さすがに今回ばかりは度し難い。
気を使ってんだか何だか知らないが、こんなSSに乙してる馬鹿も同罪だな
まぁ、これからも精々頑張って投下して、恥を晒していただきたい
68名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 10:43:16 ID:wxJ7cBBZ
敢えて差別の話を持ち込むのは
波風立てるしどうかと思う
だけどこれ以上喧々諤々しても
荒れるだけだからもうスルーしようぜ
他の作者が書きづらくなる
差別書きたいなら注意書き
不快なら読まないでいいだろ
ささっ、新年2週間も経ってないんだし
和やかに穏やかに
69名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 12:25:51 ID:wxJ7cBBZ
空気転換に、久々に乗せるぜぇ!
竜児×大河withみんな
一人称が間違ってたらごめんなさい
そして天啓をくれた前スレの埋めに感謝。
エロなしは勘弁。
70竜児の企み:2010/01/12(火) 12:26:29 ID:wxJ7cBBZ
「たたた、大河! 大変だよう!」
「どうしたの? みのりん!?」
男らしく駆け寄ってきた櫛枝が大河に抱きついたのは、昼休みのことだった。
それが櫛枝実乃梨でなければ、流血を見たであろう攻撃的なタックルだったと、目撃者は語る。
「大河、最近高須くんとは不仲じゃないよね?」
実乃梨の目は心なしか血走っていた。至近距離から問い詰められる大河は何が何だか分からない顔をしている。
「え! そんなこと! あるわけない……よ」
じぃっと大河の顔を見つめる実乃梨。
「じゃあなんで言い澱むの?」
「そ、それは……」
あれが手乗りタイガーの異名をとる逢坂大河か、というほど小さくなって顔を赤くする大河。
「なにか、心当たりでもあるの?」
大河はこくりと頷いた。
「だってね、竜児ったら最近キスしてくれなくなったし。
いつも起こす時と、出発の時と、帰ってきてからと、寝る前と、必ずしてくれてたのに。
最近、忘れることもあるし。それに都合がつかないっていって、最近はうちにも来ないし」
「そうか、やっぱり恐れていたことが起きたか」
「みのりん、鼻血鼻血」
「おっとごめんね大河」
手早く処理する実乃梨。内心、しすぎだろ、と思わないでもないが、幸せに口を挟むのは野暮というものである。
「これはあれだね」
「え! みのりん、何かわかるの?」
「うん、大河、私はね、高須くんの現場を押さえてしまったのだよ」

***

「頼むっ!」
竜児が亜美に両手を合わせて祈っている姿が、そこにはあった。
「えぇ、なんで亜美ちゃんが高須くんのお願い聞かなきゃいけないの?」
「いや、だって大河に部屋は借りられねぇし、そしたら川嶋の家しかなくってな。
それに当日は香椎や木原も来るんだ。それだけ大勢が楽しむには川嶋の家か大河の家しかねぇんだって」
「だからって一日貸してくれなんて」
「いや、半日でもいいんだ。だが、大河に知らせちゃならねぇ。それに、その日親御さんだっていないんだろ」
「うん、まぁね」
「頼む! お礼はするから」
「ふーん……。じゃあ代わりに何でも私の言うこと聞いてくれる?」
「う……、わ、わかった」
「私の脚を舐めろと言ったら舐められる?」
「女王様かよ。ってかそんなこと俺にさせてぇのか?」
「例えばの話よ。どう? できる?」
「わかった、なんでもする」
「なら、いいわよ。その言葉忘れないでね」
71竜児の企み:2010/01/12(火) 12:27:04 ID:wxJ7cBBZ

***

「その時のあーみんの顔は世にも黒かったのであった」
「みのりん、それ誰のモノマネ?」
「大河、高須くんは大河に知られないように、よからぬことを企んでいるのだよ、ワトソンくん」
「よからぬこと?」
「そうだよ。みんなで、親御さんがいないときに、高須くんと姦し娘三人とが、一日かけてするってことは!」
「え? え? え?」
「これはね、大河、世に言う『三年目の浮気』なんだよ!」
背景にドギャシャーンという文字が現れるような言い方で、みのりんは言い切った。
その瞬間、大河の顔は真っ赤になって、そして白く燃え尽きたように倒れ去った。
――そういえば、あっちの方もご無沙汰だったわ。
――もっと私の身体を人身供養しなければならなかったのね。
と今際の時に大河は思った。


「で、話ってなんだ?」
「で、話ってなんだい? 高須くん?」
「お、おぅ。ってなんで怒ってるんだよ、櫛枝」
「怒ってる? 私はこれっぽっちも怒ってないよ。ちょっと憤怒してるだけで」
「それって怒ってるだろ。いや、まぁいいや、櫛枝の方から先に言ってくれ」
「いやいや、高須くんのターンだよ」
「ターンって。う、じゃあ、次の週末の土曜日、空いてるか?」
「空いてるけど、誠くん。私まで酒池肉林に組み込むつもりかい?」
「え? しゅ、酒池肉林? 誠くん?」
「知ってるんだよ、私は。
高須くんは大河に内緒で、あーみんの家でえーみんとか、香椎さんとか、木原さんとかと一緒に――」
「そうそう、それに北村と能登と春田と、うちの泰子と」
「え?」
「ん?」



今、大河はキレていた。
キレまくっていた。
初め、みのりんからその事実を聞いた時、大河に訪れたのは深い悲しみ。
そして次に訪れたのは、激しい、怒髪天を突くような怒りだった。
――結局、竜児も私を捨てるんだ。
――それなら、それなら、私は
「竜児をめたんこたんにしてやる」
大河の装備はフル装備。ふりふりのドレスに、使い慣れた木刀(withさらし)である。流血にも万全だ。
「竜児め、竜児め、絶対にユルサナイ。ヤッテヤル。ヤッテヤルヤッテヤルヤッテヤル――」
そこにみのりんからメールが届いた。
心優しいみのりんは、私のために竜児の犠牲にもなるかもしれないのに、現場に潜入してくれたのだ。
こともあろうに、竜児はみのりんまで呼んだのだという。
――恥知らず。助平。卑猥。淫乱。
『高須くんが、あーみんの家に、来た』
大河は立ち上がった。見慣れたマンションのドアを開ける。左手で握った木刀を握りしめて。


72竜児の企み:2010/01/12(火) 12:27:31 ID:wxJ7cBBZ
「まったく櫛枝も相当早とちりだな!」
「北村、頼むからもう一枚だけ、服を着てくれ。それは局部しか隠していない」
「そうだぜぇい、北村くーん。大河は高須くんの身体にはなれたが、男の身体には慣れてないんだぜ」
「それはそうと、俺とか春田とかも呼んでよかったのかよ高須?」
「数が多ければ多いほど、楽しいだろ? こういうのは」
「でも、本当は明日なんだよね?」
「まぁ、明日は最近かまってやれなかったぶん、二人で過ごそうかと」
「あぁん、やっちゃん寂しいでガンス。明日一日、家にいないでほしいって言われちゃったんでヤンスよ」
「まぁまぁ、高須くんのお母さん。明日は一緒に買い物にでも行きましょうよ」
「お、木原も優しいな」
「だって高須くんのお母さん、美人なんだもの。麻耶も私もいろいろと教わりたいのよ」
「あ、私も行っていい?」
「あーみん、どこ行くのぉ? 俺っちも行くぅ」
「うるさい春田、引っこんでろ」
「うわぁん、木原さんが怖いよぉ」
「「「春田が悪い」」」
「でも、泰子さんもよくバイトを認めましたね」
「うん、竜ちゃんがね、『大河に贈り物をしたい。それだけは自分で稼いでそのお金で贈りたい』っていうから。
愛の力に負けたでヤンスよ」
「ひゅーひゅー。熱いぜ高須くん!」
「やめろよ櫛枝。葉っぱがとれる」
「北村、頼むから局部with葉っぱonlyはやめてくれ」


ピーンポーン。
と玄関のベルが鳴った。
「あ、来たみたいだよ、高須くん」
「あぁ、そうだな」
竜児は、いい鴨が来たぜ。一緒にネギと頂いてやる、と頬を歪めた。
わけでなく、愛しの大河が来たのに、少し、緊張しているようだった。
綿密に組み立てた計画。みんなで、みんなで祝うために。
竜児は立ち上がった。大河を迎えに行くために。
みんなで玄関に行く。皆の手には、クラッカー。
香椎と木原は横断幕。
そして、竜児がドアを開けようと前に出るより先に。
「へぇい、タイガー!」
春田がドアを開ける。
「「「「「「え!?」」」」」」
誰もがその春田のKYに驚愕。
そして、その瞬間――
「タイガーっ! お誕「うぉっりゃぁああああああああ」うぎゃああああ」
――大河が木刀を振るい、春田が沈んだ。
天網恢恢疎にして漏らさず。
悪が滅びた瞬間である。
気の抜けたように、やっちゃんのクラッカーが鳴った。
「え?」
大河は沈んだ春田を見、そして周りのみんなの姿を見(北村は視野から外しつつ)、横断幕の文字を見て。
そして目の前の竜児を見て。
呆然とした顔で。
「お、お、お、お、お」
どもる竜児。
櫛枝はその背中を少し押して、
竜児は大河を抱きしめる。
「お誕生日、おめでとう」
一斉にクラッカーが鳴った。


73竜児の企み:2010/01/12(火) 12:28:47 ID:wxJ7cBBZ
「大河、もう泣くなって」
竜児は大河を背負いながら、家に帰る途中である。
他のみんなは、泰子が持ち込んだ酒によって沈んだのである。
「だって、だって、私また勘違いして、それに竜児を疑ったりして、は、春田を殴って」
「いや、春田を殴ったのは正しい判断だ」
木刀で殴られた春田は、なぜかそのあと、すぐに復旧した。バカはああいう衝撃に強いのか。
曰く、「いつも親父に殴られ慣れてるし。ってか、なんで俺殴られたの?」といった具合だった。
「ありがとう、竜児」
大河が、竜児の方に顔をうずめながら言う。
「おう」
竜児は、前を見てそれだけ言った。
大河の軽い体重。肩から零れる大河の髪。大河の匂い。大河の温かみ。
竜児はそれだけで幸せだったのだ。
そのあとは無言のまま、大河の家まで。
途中から眠ってしまった大河を、ベットに運ぶ。
「竜児、今夜は一緒にいて」
目を覚ました大河はそう言った。
「もちろん」
竜児は、せいぜい恰好をつけてそう言う。
そして、思い出したように、ポケットからあるものを取り出した。
「大河、最近一緒にいられなかったのは、バイトしてたからなんだ」
「バイト? やっちゃんが許したの?」
「まぁな。それでさ、これを大河に」
竜児はその箱からシンプルで、だが可愛い小さな石のはめられた指輪を取り出した。
「あ、これピンキーリング」
「あぁ、大河に幸せを、と思って」
竜児は優しく大河の左手の小指につけた。
「大河、誕生日おめでとう」
「ありがとう、竜児」
そして、どちらからともなく、
唇を合わせた。
74名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 14:13:49 ID:txJdgM1i
>>73
短くまとめていて、テンポもいいね。GJ
75名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 16:41:30 ID:b124TJ1E
エロパロにすら不遜鮮人がいるのかよ…
俺はSL66を応援してるぞ〜
糞在日氏ねや
76名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 17:01:02 ID:pY7sJOm+
チョン批判したいなら、てめーの口でそういう板・スレで好きなだけ語れって話。
なんで、とらドラキャラを利用してここで主張するんだよ
77名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 17:02:56 ID:ckifNaZP
皆仲良く〜
78名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 17:07:07 ID:EqpZ7pYq
>>73
乙ー
たまの投下もいいもんだgj
79名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 17:08:28 ID:EqpZ7pYq
>>75
>>76
申し訳ないが場外にでも行ってくれ
80名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 17:15:06 ID:txJdgM1i
誘導
【隔離】場外乱闘専用スレ【施設】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1239770078/l50
81名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 23:37:50 ID:4XJ5zvtl
過疎ってるなぁ…
景気づけに、

不埒朝鮮人、支那人は、このスレ及び神国日本から、

出 て 行 け ぇ 〜 ! ! ! ! !

まさに正論。
82名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 00:22:48 ID:EqvteXLS
>>73
いやー良かったよ。
いかにもとらドラ!らしくてスレが洗われるようだ!

っつーことで思想の話は他所でやれ。
83名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 02:07:45 ID:FnCIBrp4
>>68
喧々囂々な
諤々は侃々
もう最近は混ざって新語っぽくなってるのかもしれんけど一応
84名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 08:19:49 ID:Oh2IuoZL
>>82
あ?クソチョン黙ってろよwww
85名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 09:26:56 ID:tfJloBry
SLさんは、問題教師をリアルに描くために日教組、在日教師という現実の問題を触媒にしただけって感じだけどね。
それが、反日左翼とか不埒朝鮮人をあぶり出す踏み絵になっちまったなwww
86名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 09:31:58 ID:iEYBfL8d
87名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 10:57:41 ID:kqnFl1kg
もういいよ、その話題
いつまで引っ張ってんの?w
思想で討論じゃなくて
とらドラで盛り上がってくれ!
とらドラ読みたいから来てんのに
何が悲しゅうて乱闘見るはめに?
ここはエロパロ板だよw
スレチということに気付いてくれ
正しいスレは>>80

>>83
新語というか広辞苑にも出てるし、
そんくらい許してやってくれw
88名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 13:18:43 ID:Oh2IuoZL
>>87
不逞鮮人の方ですか?
作者さんもついでに追い出すつもりなんだろ?

慎んでお断りします
89名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 14:47:20 ID:kqnFl1kg
>>88
言っておくが俺の家は遡れば武士の家系だし、
さらに言えば書き手の方だよ
そんなに語りたいなら
一緒に>>80へ行きましょうか?
頼むからこの良質なスレを荒らさないでくれ
90名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 15:01:07 ID:0LfTvWkL
真・スルー 何もレスせず本当にスルーする。簡単なようで一番難しい。
偽・スルー みんなにスルーを呼びかける。実はスルーできてない。
予告スルー レスしないと予告してからスルーする。
完全スルー スレに参加すること自体を放棄する。
無理スルー 元の話題がないのに必死でスルーを推奨する。滑稽。
失敗スルー 我慢できずにレスしてしまう。後から「暇だから遊んでやった」などと負け惜しみ。
願いスルー 失敗したレスに対してスルーをお願いする。ある意味3匹目。
激突スルー 話題自体がスルーの話に移行してまう。泥沼状態。
疎開スルー 本スレではスルーできたが、他スレでその話題を出してしまう。見つかると滑稽。
乞食スルー 情報だけもらって雑談はスルーする。
質問スルー 質問をスルーして雑談を続ける。
思い出スルー 攻撃中はスルーして、後日その思い出を語る。
真・自演スルー 議論に負けそうな時、ファビョった後に自演でスルーを呼びかける。
偽・自演スルー 誰も釣られないので、願いスルーのふりをする。狙うは4匹目。
3匹目のスルー 直接的にはスルーしてるが、反応した人に反応してしまう。
4匹目のスルー 3匹目に反応する。以降5匹6匹と続き、激突スルーへ。
91名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 15:17:19 ID:kqnFl1kg
>>90
まるで動詞みたいw
すみません、スルースキルを鍛え直します
92名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 15:19:28 ID:U/MwImaq
まあ、普通のスレならスルーが当たり前なんだがな
創作発表系はフォローやらあった方がいい場合もある

誘導もかかってるし、ここはスルーだが ←どっちやねん
93名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 17:31:10 ID:hVB73zlq
奈々子様かななこいの続きマダー
94名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 20:10:05 ID:tF3VIsEI
89 名無しさん@ピンキー [sage] 2010/01/13(水) 14:47:20 ID:kqnFl1kg Be:
>>88
言っておくが俺の家は遡れば武士の家系だし、
さらに言えば書き手の方だよ
そんなに語りたいなら
一緒に>>80へ行きましょうか?
頼むからこの良質なスレを荒らさないでくれ

ここ、笑うところ? 書き手なのに、句読点がまともに使いこなせていない。
本当に日本人かい? ハングル板に跋扈する不埒鮮人に酷似なんだが?
それに、日本人なら、「武士の家系」とか、まず言わない。
嘘でも誠でも出自に異様にこだわるのが朝鮮人。
自称「両班」(貴族)様ってところかな?
で、本当は、親かその上の世代か知らんけど、白丁(奴隷階級)なんじゃね?
95名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 22:58:50 ID:SvubLwvG
でもまぁ二次創作である以上、原作の雰囲気は大事にした方がいいわな
96名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 03:24:35 ID:DcP6XJ+f
SL66氏にはとらドラとは無関係な荒らしの元を作ったことで憤りを感じる
97名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 03:30:49 ID:YzfDI/Un
>>35の感想を書いた者だけど、SL66氏の作品は大好きなんだ。
長いだけじゃなくて、しっかりと内容も伴った骨太な作品だと思う。
キャラも原作に合致してると思うし、なにより魅力的に描かれてる。

だからこそ、憎悪を前面に出した描写にガッカリしたってだけの話で、個人的には
この続きを読みたくてたまらない。
だからSL66氏には挫けずにこの続きを書いてもらいたいのだ。是非頑張ってください。待ってます。
98名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 04:58:33 ID:X+VXkJ5L
嫌韓廚カミングアウトワロタw
99名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 08:37:11 ID:cW8RDgSk
チョン公共が何か申している様ですが、SL氏には是非とも続けて欲しい
100名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 09:33:26 ID:piN7vGGk
というか、この職人の作品は初期からオナニー色が強かったのに何でいまさら騒いでるんだ
二次創作である以上、ある程度のオナニー行為は当然許されるしまぁ含まれてて当然だけど
この人のは弁護士と弁理士の違いをしつこく毎回説明するとか
料理について描写がメインでもないのにやたら冗長すぎるとか
今回の教師の話にしろ、物語の主題よりも自分の語りたい話をひたすら書いてますって透けて見えるから
読者はほったらかしになってる感じがして、長文とあいまってざっと斜め読みしかしなくなるんだよね
料理に詳しいなら、描写は料理に興味ない奴でもへぇって思うような豆知識にとどめるとか
弁理士にこだわりあるにしても毎回毎回、違うんだよってアピールは無しにするしてくれるだけで
定期的に投下あるし、数少ない昔からずっと投下している職人さんだけに価値はあるのにな
101名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 10:27:37 ID:cW8RDgSk
文系で弁理士取ろうとしても事務所には入れない事は知ってる
102名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 12:23:54 ID:rW/pIcMC
言いたい事は大体>>100が言ってくれたが個人的な意見として。
面白いならチョンでも何でも読み進められるけど、この人のはそれが難しいんだよな。
硬派な文章に見えなくもないが、大事なのはとらドラ!らしく楽しい事だと思う。
103名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 12:30:43 ID:3LfTaLOh
ここまで続いたのは、多数の読者の声援があったから、作者がそれに応じたってのもあるんだろう。
サービス精神のある人だと思う。文章も読みやすいようによく推敲しているし。
ただ、元々そんなに長編向けでない主題を延々と引っ張ってしまったせいで、ふつうの読み手からすると
長い文章を読み進んでいく労力に対して、意外な展開に乏しいというか、先が読めちゃうというか、
いささかコストパフォーマンスの悪い読み物になっている気はします。
104名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 12:32:27 ID:Uz8kxFjJ
だからスルー・・・いえ、なんでもありません、はい・・・
105名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 13:04:06 ID:cW8RDgSk
参政権が貰えるってんで、ゴミクズ朝鮮人どもがこのスレでもやたらと調子乗ってんな

何思うのも自由だけど、SL氏や他の投稿者の投下を妨げるような発言は慎めよ

反日はマスコミだけで沢山だ。
106名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 13:57:41 ID:/sNxJFIJ
今回ばかりはスルーとかそういう問題じゃないだろ
ああいう作品書いたら>>105みたいなのが湧いてスレが荒れるなんて普通に想像付くんだから
遠慮してくれって言われるのは道理だろ
とらドラそのものと余りにも関係なさ過ぎてカップリングみたいに個人の好みがどうこう言える事でもないし
107名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 14:23:59 ID:typD/ynL
外国人参政権が認められたら、SLさんの作品よりももっと酷いことが起こるだろうな。
一つの都市が丸ごと反日外国人に乗っ取られ、そこを足がかりに日本全土が侵略される。
そうした警句が込められていると俺は見たけどね。
108名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 14:36:11 ID:iedKAlYC
だからここでその話題引っ張てる奴は、
お前さん達の嫌いな嫌韓厨とかと代わり無いんだから、
全員揃って場外行け。
109名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 14:43:56 ID:9RsJBGjE
そーいうのは+でやれよ
エロパロ板で演説すんな
110名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 15:12:38 ID:DEuBKkDi
そうそう、2次創作でキャラ借りて演説とか笑えないっつーの。
111名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 15:19:19 ID:/t01UUGW
むしろ、著作権意識の薄さとか検証不可能な個人的体験の絶対化とか
脈絡もなく主張していい気になってる感じとか、ご本人が憎んでるチョンそのものだったので笑えたけどな
日本人ならこんな空気読めない作品への冒涜とかしないだろw
112名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 16:20:54 ID:3LfTaLOh
SL66氏は事実を述べただけであって、成人式で騒ぐ新成人のようなネトウヨと一緒にしちゃ駄目だろ
113名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 17:30:08 ID:iUquTsOh
今日も平和だなぁこのスレは
奈々子様まだ?
114名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 19:32:03 ID:r44FMMoF
>>108
スルーしろスルーしろって
全然自分ができていない自称書き手の武士の家系の人みたいなのもスルースキルを鍛え直すべき
115名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 19:39:26 ID:9Q+YIZHT
「勇者の代わりに竜児が」〜〜  俺は待ってるぜ〜
116名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 21:30:31 ID:cW8RDgSk
外国人参政権がいかにヤバいか、多くの人が気づいてくれて嬉しく思うぜ!!
SL氏ありがとう。スルーとか言ってる朝鮮ゴミムシに負けず、これからも投下してください
117名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 21:45:34 ID:rXX/42tE
SSの完結せづに長い間更新されていないのはとても気になるが、俺的にはまとめサイトでまとめてる人きっちり漏れなくまとめておいてほしい。
118名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 22:27:02 ID:O7UdbAV5
今回のSL氏のSSで、思想主張の色があるのは許せない。
例えば、とらドラのキャラ使って宗教マンセーとかやられたら嫌だろう?
この人はそういうことをやったんだよ。

とりあえず、ここは嫌韓とか反日とかそういうのを語るスレじゃないんだ。
そういう話がしたい人はいい加減に他所でやってくれ。
119名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 22:35:20 ID:WrQzrLw1
【本日のNGワード】
嫌韓、チョン、スルー、朝鮮、反日、外国人参政権、演説、ネトウヨ
120名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 22:41:01 ID:0/ZfuFj6
そもそもその手の主張は、
エロパロ板でするのはどうかと。
パロディなんだからw
121名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 22:45:15 ID:Ub5mzC92
ここで主張して何の意味があるのかもよー分からんしなw
122名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 22:58:59 ID:iedKAlYC
叩きたいのは分かるけどいつまで続けんの?
123名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 23:11:25 ID:piN7vGGk
俺は扱った内容がどうとかより、どうせなら今まで書いてきた作品のアフター的な話なんだから
竜児と亜美がうまくいって子供が出来ていかに幸せにいってるかの姿を描く中で、子供に起こるトラブル
それが学校での今回の問題で、それが子供が成長する契機、かつそのために温かく支える竜児、亜美の成長した親としての姿
それこそが書きたかったんだなって思える作品なら扱った内容がどうとかって話にならなかった気がする
124名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 23:17:08 ID:o+Sk/TQk
おいおい、読んでない俺が話についていけないからそろそろ話題を変えてくれww
125名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 23:23:59 ID:rchJuO21
朝鮮人がよくある日常を文章にされて火病ってるスレはここですか?
126 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/15(金) 00:10:25 ID:JWYrm2jG
失礼いたします。

したらば板のみのりんスレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/7953/1252335454/
用に考えていた小ネタなので、エロなしですが、どうぞお気軽にお読み頂けたらと存じます。
今週末十七日に最終回を投下しようと存じております、みの☆ゴンのアフターものです。
タイトルの5は五作目という意味で、午後五時ではないです。宜しくお願い申し上げます。

題名 * M☆Gアフター5(おっぱいラーメン)
時期 * 二年生の二月。
設定 * 竜×実付き合って八ヶ月。エロなし。
物量 * 三レスになります。
注意 * みの☆ゴン未読ですと不快かもしれません。

「おっぱいラーメンだとっ?!」
「あわわっ、高須っ! 大きいって! 声っ、大きいって!」
 高須竜児は大急ぎで石川県の地名みたいな名前の友人。能登久光に口を塞がれる。眼鏡の奥
につぶらに輝くカワウソ眼(かわいくない)がワナワナと震えていた。
「す、すまねえ……で、なんだそのおっ……詳しく聞こうじゃねえか」
 2−Cの教室の片隅で密談を交わす思春期ど真ん中の男子二名。能登は改まってコホンと一
息つく。
「学校の近くの国道沿いにあるラーメン屋なんだけど、すっごい行列なんだよっ。何でだろう
 ね高須? 何でだと思う高須? 教えてあげるよたかし。それはねっ」
 たかしって誰だよ? っというツッコミをゴクリと飲み込み、竜児は能登の次の句をじっと
待つ。狂気に満ちた三白眼が能登の眼鏡に映り込む。
「裏メニューで、ぉっぱぃラーメンってのがあって、半熟卵がプルルンッ! って、ぉっぱぃ
 みたいに揺れてるんだけどそれだけじゃなくって……おっぎゃあぁぁ──っ!  想像した
 だけで興奮して……来たぁ──っっ!!」
 能登は真っ赤になり眼鏡を曇らせる。
「おかしいぞ能登! まだ話の途中じゃねえか! 興奮しないで最後まで話せ。落ち着くんだ
 っ。それにおまえ、そんなに騒いだら死ぬぞ!」
 竜児が必死に落ち着かせようと背中を擦ってやっていると、背後からアホの気配がプンプン
してくるのだった。
「ちょっとちょっと能登っち&高っちゃ〜んっ、な〜に盛り上がってんの〜混ぜてくれよ〜☆」
 そこには常春の友人。春田浩次がヘラヘラ漂っていた。
「あ、春田どこいたんだよ。おまえも誘おうと思ってたんだよっ! なあ春田、おまえおっぱ
 ……ラーメン好きだよな? ぉっぱぃも好きだろ? 大丈夫だ俺も好きだ。恥ずかしくなん
 かない。な? そうだよな? ラーメン。 え?」
 能登はグラングラン春田の肩を好き放題に揺さぶる。
「ふえ〜っ!! なになに能登っちっ、おっぱ? ラーメン? どっち?」
「どっちもだよ! こんな寒い日にはラーメンが恋しいだろ? そんでもって、おっぱいも恋
 しいだろ? 恋しいはずだっ! よし決定! 今からラーメン食べに行くべしっ!」
 すでに能登はおっぱいと言うのに声も潜める事なくノリノリだ。しかし、ちょっと待て。と、
竜児は一旦席を外し、帰りの準備をしている実乃梨に一声をかけ、戻ってきた。
「実乃梨が今日バイトらしいし、俺も付き合ってもいいぞ。ラーメン」
 そんな竜児に欧米人並に手のひらを天井に向け首をふる能登。やはりかわいくない。
「高須〜、おまえって、櫛枝氏に尻敷かれて大変だな。おっぱ……ラーメンぐらい好きに食べ
 させてもらえないの?」
 そんなカワウソ眼鏡の友人の吐いた言葉は、ベリーロールで飛べそうなくらい低い竜児のプ
ライドに引っかかる。
「そんなんじゃねえよ。てか、まだ話の途中だろ? 詳しく教えろよ」
 そして能登が説明するに、その店のバイトの娘が巨乳で、例の裏メニューを頼むと、秘技、
六道輪廻! と叫びながらその娘が、たわわなおっぱいをブルンブルンさせて回転してくれる
のだという。……それはスゴイ。たしかに見てみたい。見るだけならセーフだろう。多分。し
かし竜児の後ろでマギー耳を装備して盗み聞きしていた誰かさんには気付かなかったのだ……。

***

「さっぶ〜〜〜〜 ぜんっぜん、列動かね〜〜〜〜! ひょ〜〜〜〜!」
「さっき四人ぐらいまとめて出て来たのに……うー、じっとしてるから余計に寒い!」
 二月に入り寒さは本番。国道沿いの歩道には行列が曲がり角の向こうまで続いている。陽は
落ち、車のヘッドライトが竜児の獣眼に映り込む。
「今何時なんだ? ……おう!」
 ケータイが告げる時はすでに五時、この調子だと夕食が間に合わない。半分は進んだであろ
うが、竜児はまだ数メートル先のラーメン屋の店頭に立て掛けてある看板を、行列が判るよう
に写真をパチリ。昨日の残り、冷蔵庫内のチャーハンを食べるようにメールを打ち、写真とい
っしょに泰子に送信した。『送信しました』のメッセージを確認。フリップを閉じ手袋をはめ、
竜児は火もつかんばかりの勢いで手を擦りあわせた。
「なんか、誘ってごめんな高須。こんなに大変なことになってるとは思わなかったよ、夕食の
 買い物とかあるよね? 大丈夫? 間に合う?」
 ぷるぷる震えながらの能登の言葉に「いやいや」と竜児は手を振ってみせた。
「たまには俺もおっぱ……行列ラーメン味わってみたいしさ。家には今メールしっ……返信が
 来た。『竜ちゃん、テラ了解でヤンす〜☆』……だそうだ」
 そかっあ、と腕を組み、能登は暗い空を仰いだ。「ていうか、高須は竜ちゃんって呼ばれて
るんだ……」「キモいだろ」などと言う間にじりじり列は進み、気づかずに立ち止まった二人
の背中を春田が押す。
「はいはいお二人さん、みんな殺気立ってるから順番飛ばされちゃうぞ〜、進んで進んで〜」
 と、押されながら、眼鏡を拭きながら能登はしみじみ思うのだ。
「こんなこと言うのも何だけど、みんなおっぱい好きなんだな……」
「まあ……寒いしな。俺は肝心のラーメンに期待してるんだが……おうっ」
 並んでいる列を掻き分け、また一人客が出てきた。その客はなにやらブツブツ呟きながら、
「けしからん……いや、実にけしから……むふっ?」
 ……去っていくのだった。そいつが見えなくなるまで見送った能登のボルテージが上がる。
「見たか聞いたか高須に春田っ! けしからんらしいぞ、おっぱいラーメン! 熱すぎる!」
 上気する能登から立ち昇る熱に、ほんのり暖かくなる竜児。そして春田は、もう一人の眼
鏡の友人を思い出す。
「北村も誘ったらよかったんじゃないかな〜。ら〜めん」
「大先生はおっぱい興味ないみたいだし。ほらだって……ないじゃん、タイガー……」
「おうっ、能登! っぶねえよ!……滅多なこと言うもんじゃねえぞ。マジ危ねえって」
 能登のデンジャラスな発言に慌てて竜児が注意するのだが、
「何が危ないのよ。竜児」
「どわあっ! た、大河じゃねえか! おうっ……川嶋に、木原も……」
 なんの前触れもなく登場した要注意人物大河に焦りまくる竜児。だが能登が今生きている
ということはどうやら話の内容は聞かれてなかったようだ。大河の隣にいた美少女仮面が竜
児と春田の間にさりげなく割り込む。
「あっらー、並んでてくれたの〜っ? 三人とも。ありがとっ!」
 さらに不気味な色のマフラーを捲いたクソ寒い中、真っ白な太もも晒している少女も割り
込んでくる。
「行列見た時はやべーって思ったけどラッキー! なになにみんななんでここにいるの? 
 奈々子がここでバイトしてるの知ってんの?」
 三人の女子に割り込まれた行列の後ろで待ってた人々をフーッ! と威嚇している大河は
ほっといて、竜児はフリーズ。それは寒いからではない。
「いや……偶然だ……まさか、その例のバイトの娘って……」
 いくら鈍い竜児でも流石に気付いた。きっと、ラーメン屋の巨乳娘はほかならぬ同級生、
香椎奈々子であろう……この状況で例の裏メニューなど注文出来るほど、男子三人は大人で
はない。だから……という訳ではないのだが、
「や、やっぱり俺、時間ないから帰るな! みんなっ、よいラーメンを!」
 と、逃げた。

***

「いらっしゃいま……おおっ竜児くん! ラーメンは?」
 竜児は駆け足で実乃梨のバイト先のファミレスに走ってきた。贖罪のつもりかなんとなく実
乃梨に逢いたかったのだ。
「やめた。なんかな……おまえの顔見たくてな……」
 息をきらした竜児に実乃梨は腕を組み、観察するように様子を見る。

「ほんと〜?……あやしいなあ、浮気でもしたんじゃねーの?」
 大きな瞳を半分窄め、実乃梨は竜児を問い詰める。半分になっても実乃梨の眼力は竜児の心
を全裸にするのに充分だった。北風と太陽の太陽のように。
「し、してねえよ! しないし、したくもねえ!」
 白旗を振るように手を振る竜児に実乃梨は首を振る。
「どうだか……でももう私バイト上がっちゃうよ? 雪降るから店長がもう帰れって。竜児く
 んどうすんのさ? 注文する?」
 曇った窓に目をやると、チラホラ白いものが舞っていた。
「おうっ雪かよ! 寒いはずだな……もうバイト上がるんなら少し付き合えよ。注文するから」
 あいよーっと返事をし、いつもの禁煙席へ竜児を案内する実乃梨。誰もいない店内。ウェイ
トレス姿のまま、実乃梨は竜児の対面に座る。

「竜児くん、で、なに注文すんの?……おっぱい?」
「おおうっ! ……何故それを……き、聞いてくれ、俺は何も知らない見てない聞いてない!」
 飛ぶんじゃないかと思えるくらい手をばたつかせて弁解する竜児に実乃梨はやっと笑顔になる。

「わかってるって。さっき大河からメール着たもんよ。せっかくだから奈々子ちゃんの秘技、ノ
 ーブラボイン打ち見て来たらよかったのに。スゴイらしいよ。てかスゴイ。動画あるけど見る?」
 実乃梨はエプロンのポケットからケータイを取り出し竜児にちらつかせる。……ノーブラなわけ
ねえだろ……と思いつつも、誤解されるような行動をしてしまった自分に大反省する竜児なのだ。

「見ねえよ……俺はラーメン食いたかっただけだ。まあ、信じてくれなんて言わねえけど……」
 そんな竜児に実乃梨はキスでもするくらい顔をググッと寄せる。竜児の鼻息が跳ね返ってきた。

「信じるよ。私の彼氏だからね。ちゃんと分かってる。意地悪してゴメンなさい……で、注文は?」
 よく出来た彼女に竜児の心が満たされる。改めて惚れ直すのだ。そして竜児なりにその想いを
実乃梨に伝える。

「……おっぱい。お持ち帰りで」
「少々お待ちください」
 
 実乃梨は更衣室へ向った。


おしまい
130 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/15(金) 00:13:47 ID:JWYrm2jG
以上になります。お読み頂いた方有り難うございます。

また、まとめの管理人様、更新ご苦労様です。いつも有り難うございます。
他の方のお邪魔にならなければ今週こそ最終回を投下させて頂きたく存じます。
失礼いたします。
131名無しさん@ピンキー:2010/01/15(金) 02:05:42 ID:KDieQQB4
おっぱい!おっぱい!
132名無しさん@ピンキー:2010/01/15(金) 08:04:20 ID:dDq3T5TP
おっぱい!おっぱい!
133名無しさん@ピンキー:2010/01/15(金) 08:53:26 ID:ta0p3QUA
くッ、頭のなかで奈々子様のみだらな情景が展開されてゆく…
134名無しさん@ピンキー:2010/01/15(金) 09:25:29 ID:t9vKAFBt
×××ドラって終わった?
135名無しさん@ピンキー:2010/01/15(金) 17:55:12 ID:xf5rQDYC
俺のレスがここまでスレを荒らすことになるとは…、予想していたとおりだったw
136名無しさん@ピンキー:2010/01/15(金) 19:14:11 ID:uUow2KIc
奈々子の身体と正面から向き合った途端、竜児の全身がぞくり、とざわついた。
経験が無くとも、この肉体の凄さとヤバさが竜児にも本能的にわかった。
まるで体中の細胞が『この女のなかに遺伝子を送り込め!』と一斉に騒ぎ立てているようだった。

(それにしても、…これは、いくら何でも育ちすぎだろ…)

まるで雑誌のグラビアから抜き出てきたみたいな、高校生としての発育のレベルをはるかに超越したボリュームを誇る
大迫力のおっぱいは、その大きさにもかかわらず、まったく垂れていない。
アンダーバストから突然にぐいっとせり上がってくるようすは、まさにロケットのよう。
その過剰なまでのサイズもさることながら、あまりにも完璧なかたちをしているせいで、なんだかつくりものめいて見える。
「ん〜もうっ、はやく来て、高須君ったら」
すべすべした内腿が竜児の腰にぴとっと吸いつく。

膣のなかで肉槍が突っ張り、ところ構わず暴れまくる。

そんじょそこらのグラドル以上の肉感的ボディに圧倒されそうになりながら、休むことなく連打を放つ。
肉と肉が打ち合う、パンパンという乾いた音と、奈々子が漏らす歓喜のうめき声が室内に響いた。
プルンと弾けそうな胸の谷間に顔をうずめて、腰を突き入れていくと、あまりの気持ちよさに数ストロークだけで
果ててしまいそうになった。
あふれんばかりの肉体の海の中にどこまでも沈み込んでいきながら、すぐにでも吸い取られてしまいそうだった。
137名無しさん@ピンキー:2010/01/15(金) 22:28:22 ID:6zkKKYxO
支援?
138名無しさん@ピンキー:2010/01/15(金) 23:29:13 ID:KDieQQB4
奈々子さまのおっぱいは偉大だ
139名無しさん@ピンキー:2010/01/16(土) 03:10:25 ID:0UosrK+k
おお、まとめ更新されている。
管理人さんご苦労さまでした。
140名無しさん@ピンキー:2010/01/16(土) 13:20:22 ID:j4RR2LgE
外国人参政権がいよいよ成立しようとしているね。
SL氏が懸念するのも、無理は無かろうよ
このスレに巣くうチョンの妨害のせいで、うやむやになってしまったが
141名無しさん@ピンキー:2010/01/16(土) 13:25:41 ID:QAxQ0lde
>>136
おいおい
続かないのかよ!
142 ◆ZMl2jKQNg0m5 :2010/01/17(日) 12:43:31 ID:0v4KXpke
こんにちは。今から投下します。
ちょうど三スレ分です。
143 ◆ZMl2jKQNg0m5 :2010/01/17(日) 12:49:15 ID:0v4KXpke
申し訳ありません。前置きの作法をうっかり忘れてました。

短編連作シリーズ第二弾、《夏秋》
CP傾向は勿論亜美。注意書きは特に必要ないと思うが、
オリキャラのちわドラ娘と息子は出ています。

では、本番いきます。
144名無しさん@ピンキー:2010/01/17(日) 12:51:10 ID:0v4KXpke
最初の数日から見れば、夏休みの終わりは、永遠といった時間の果てにあるもの。
だから夏休みの終わりが世界の終わりに等しいというのも、意外ながら論理的な結論。
何世代経ってもこの浅ましい概念に囚われ、歴史からなにも学習していない。

まあ、ソレも人間の性ってヤツさ。

「なんでなんで〜〜!?なんで明日九月一日なのっ!?
 うえぇぇぇ〜〜〜パパ、何とかしてよ〜〜」

お恥ずかしいことデスガ、目の前に見っとも無くパニックしている女の子は俺の娘。
もう中学三年生なのに、色々小学生みたいなのが困る。身体は大きく成長して
いるが、考え方にしては幼児そのものだ。アレで成績がよかったりもするから、普通に
教育したくても、何処から手を掛けるか分からないから、かなり手ごわい。

しかし、この年になって「パパ」って呼ぶ子はそうそういないから、どちらかというとお得、かな。
思春期に入った娘に「オヤジ」って呼ばれて、俺に電話して一晩中泣き言吐く北村を
思い出す。あの子は親思いのいい子だし、母に似て豪快的だっていうより、きっと照れて
いるだけだから、何も泣くことはないと思うが。

というか、俺に当たるな。

「幾ら俺でもそれは無理だ。もう時間ないから、さっさと残りの宿題をやれ。」
「いやよ!まだ遊びたい〜パパだからできるじゃん!日付変えるぐらい!
 ホウテイに居たときなんか、真実を捻り変えたりするクセにぃー」

その尊敬の気持ちはくすぐったいけど、コイツは明らかに俺の職業の本質を誤解している。

「コラ。弁護は、真実を依頼者の立場から解析して主張することだ。違う角度から見れば、
 違う色の真実も見えるってのも、そんなに珍しいことじゃ────」
「うぇぇぇぇ〜〜〜またそうやって直ぐに理屈っぽくなるんだから〜〜」

俺からは何も手助けもないことに納得したか、俺のセリフを中断して、捨て文句だけ残し、部屋に飛び込んだ。隣に座り、ずっと観察していた亜美は俺の手を絡み、身体を寄せてくる。

「頭がいいのは竜児譲りで、外見も私とそっくりだけど、
 なんで性格はタイガーみたいになんのかな。」
「おう、性格だけは遺伝子に詳しく登録されてないものだな。
 でも、大河ほどは心配することもないと思う。」

小さい頃は大河に世話してもらったこと多いか、価値観を含む精神面は、俺と亜美よりも
昔のアイツの方に似ている。ただ、学校では「容姿端麗で才色兼備にして礼儀正しい」
という、絵にも描いたようなお嬢様キャラで通している。何だかんだ社会人としてのスペックは
期待できる方だから、かつての大河よりずっとマシだった。

猫かぶっている件については、「犯罪者の子供も犯罪者になりやすいな」と嘆くしかないが。

「ん?私の顔に何か?」

……「別に」と答えて、誤魔化しにキスしてやった。
そしたら、娘はまたバタバタ小走りして戻ってくる。

「逢坂小母さんの悪口い・う・な!ママと違って可愛いし、腹黒くもないし!
 あと、パパとくっつけない!イチャイチャすんな!」

おっと、話を聞かれたか。
尊敬(?)している人生の先輩の名譽を守って怒鳴る娘はまだご愛嬌だけど、
「パパとくっつけない」と言われて、尚身体を密着してくる亜美はちょっと怖い。

「へー、なんつって?アンタ、顔は私と同じだから可愛げないっていえねぇじゃん?」
「全っ然違うっ!あたし、顔に皺なんかないもん!ほらっ!」
145名無しさん@ピンキー:2010/01/17(日) 12:52:02 ID:0v4KXpke
顔を前に突き出し、亜美に見せ付ける。子供だから皮膚がいいのは当たり前だが、
その上疵一つもないというのは流石、セレブ家系秘伝のスキンケアスキル。

「こーんのぉクソガキがっ!仕方ないっしょ、もう!あんただって十年ぐらい経てりゃ
 肌に悩まれまくりだっつーの!ケアも一々甘いし、あたしよりもずっと早く!」

口論になると精神年齢が十年以上退化する亜美だった。

「あたし、パパの血を流れているから、ママの年になっても、泰子ばあちゃんみたいに、
 永遠の23歳で通せるもん!」

論理メチャクチャで、キャーキャー煩く吼える二つの近所迷惑。二人は友達感覚で
フツーにケンカしているんで、大した心配はいらないだろうが、そのテンションに圧倒され
てる俺の髪の毛には、もうちょっと気を使って欲しい。

にしても。

この構図を妙に懐かしく感じている俺が居る。ノスタルジアといったものかな。
好ましくない事情だと思いつつも、心のどこかに傍観し続ける願望を持つ。で、
「介入すると反発されたら痛い」という配慮もあって、調停せずにオロオロしてたら、
部屋から出る息子と目が合った。

『勉強に、集中できない。』

と目線だけで伝えてくる。

――――同情はしてる。しかし、女性の方が優位に居る我が家に、俺はとても非力である。
傷を舐めあうぐらいしか出来ないが、ソファーを立て、とにかく息子と付き合うことにした。
キッチンから二人分の飲み物を持ち出し、露台に出た。

残夏の風は面に向かって掠ってくる。もう直ぐ終わるとはいえ、流石は夏。
冷房から出たばかりの冷えた身体に、ゆっくりと沁み込む微熱。
長くは居られないが、数分間ぐらいなら結構心地いい感触だ。

居間の騒ぎを背で流し、夜の景色を眺める。平常心を戻すべく深呼吸。
手にしているビール缶を開き、一口啜る。

「勉強お疲れさん。休みを取る機会だと思ったほうがいいじゃないか。でも、
 十分成績いいんだから、なにもこんな時まで勉強しなくてもいいだろう?
 身体壊しちまうぞ。」

フォローのついでに軽く忠告した。だが、肝心な息子はこう答える。

「偏差?は良くても、無限にある知識の前じゃあ何もないよ。」

物理学家目指している、好奇心の強い、大変勉強熱心な息子。
真面目で大人しい性格だけど、何時もムッとしているから、ある意味その妹よりも難しい。
しかも目つきは俺と同じだから、常に近寄りがたいオーラを纏っている。

「……」 「……」

娘みたいな幼稚園児じゃないけど、コイツは成人しているどころか、もうそんな段階を
スペースジャンプで飛び越え、爺ぃみたいになってた気がする。

「……ん?」

俺達の無言の中で、騒いでいる背後は静かになっていく。振り向けば、仲良く抱き合って、
楽しく話をしている亜美と娘が居た。まだ一分も経っていないだろうに。
146名無しさん@ピンキー:2010/01/17(日) 12:52:50 ID:0v4KXpke
「やれやれ。」
と、息子は俺の気持ちを代弁した。まあ、そんなモノだ。でも、この仲直りのスピードを
目にしたら、また昔のことを思いだす。高校の時、あの二人は亜美と仲良くケンカして、
直ぐに仲良く仲直りしていた。俺と交際初めた頃でも、亜美はあの二人と一緒に居る
場合は多かった。

思えば、亜美と結婚して、駆け落ちみたいな形で町を出て行ってから、早々十八年。
その間、特にこの十年には、高校と大学の仲間達と偶々しか会っていなかった。皆も自分の人生のトラックを全力で奔る、再会する度、心が遠さがっていくの痛いほど感じていた。
どう盛り上がろうと頑張っても、歳を取ったせいか、学生だった頃の気持ちを思いだせない。

────いや。その言い方じゃあ安過ぎる。誰彼も同じく、お互いの知らない時間を過ごし、
本来の青臭い心を、あらゆる出来事に磨耗されたって、そう解釋した方がいい。
でも、

「北村はアメリカから帰国するらしい。」
「北村さんが?もしかして、その一家も?」

とりあえず口から出た話題だったが、まさか、あの無愛想な息子の興味を引かれる。
だから出来る限り奮発して、話を引っ張ってみたい。

「そうだ。奥さんが日本の大学に学部長として雇ってもらえたって。
 『もう大した新しいもの作れない歳だから、アメリカに長居したって無用だ。
 いままで積んでいた技術と経験を祖国貢献に使わせてもらうぞ』とか言ってた」

学者としては、まだまだ若い歳なのにな。自分の創造力を厳しく評価するあり方は、
さすが元・M〇T教員だ。ちなみに、北村は考古学者を辞めて、高校の教師として
働くつもりだ。自分だって凄く優秀な学者だったのに、妻をサポートするために自らの
可能性を断ち切るのはちょっと勿体無いが、当人達だけのことで、干渉することもない。

それに、亜美も同じだったから、俺からは何の文句言えない。

「あ、そう。」

あまりにも短すぎる返事と、あっけなく閉ざされた会話の可能性。

いや。相も変わらず淡々とした口調だったが、どこか嬉しそうに聞こえる。
気のいい年上の友達、北村が帰ってくるので喜んでいる────なわけない。
科学者としての先輩と交流する機会が出来た────というのもなんか違う。

息子の顔を伺おうとしたが、微妙にこっちの視線を避けている。まるで表情を隠している
ようで、逆に何考えているのを勘ぐってきた。流石に鈍感な俺でも分かる。
しっか、よりによって北村、というかアノ女傑の娘とは。こりゃ苦労するだぜ、息子よ。

ちょっと背中押してやろう。

「帰国する日に空港で迎えてやるってのは、どうだ?」
「うん、いいよ。」

……コイツがこうも素直になれるんだなんて、恋ってすげぇな。
無造作に、息子の髪の毛に手を伸ばす。嫌がっているけど、強く反抗はしなかった。
少し人間性を付いたなぁ、と思って、頭を掴んで少し乱暴に撫で撫でしてやった。
自分は大人気取っているが、俺から見ればまだまだ子供。恋もしたことないから、
なお更ガキだ。

ずっとほって置いたビール缶から、また一口飲み、ゆっくりと味わう。
本来は素早くぐっと喉に飲み込むモノだが、機嫌が良いときに限って気まぐれは起こるさ。

これで、クリスマスに家族用事は出来た。
ついでにもう一度、皆集まって忘年会やるか。
(おわり)
147 ◆ZMl2jKQNg0m5 :2010/01/17(日) 12:55:30 ID:0v4KXpke
以上です。

お読みしてくださる皆さん、ありがとうございました。
保管庫の管理人さんもご苦労さまです。

>coma、昏睡したってことかw
そうでしたorz
ご指摘ありがとうございました。

それでは、また。
148名無しさん@ピンキー:2010/01/17(日) 21:40:54 ID:7/8R8tJY
大河が小母さんか、ちょっと微笑ましかった
断片的に高校の後の未来のシチュエーションを描いていくのかな
次もまってるよ。
あと、感想が少ないのは規制の所為だからね、きっと

纏めサイト様、お疲れ様です。これからもどうぞがんばって下さい。
149 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/17(日) 21:49:23 ID:u50kSign
『みの☆ゴン』

前スレ>>268からの続きを投下させていただきます。
15レス分(148〜164終)です。

内容  竜×実です。その分、カップリングが原作と変わっています。
    虎×裸、亜×春 など。
時期  1年生のホワイトデー 〜 2年生の夏休み+αまでです。
    今回は最終回です。
エロ  竜×実です。
補足  内容、文体が独特で、読みにくいかもしれません。
    ご不快になられましたら、スルーしてください。
    いつも推敲時になるべく短くまとめるように改善しているのですが、
    先週見送った分、本来予定した沖縄でのエンディングを変更、大幅に修正、
    加筆し、蛇足かもしれませんがその後の二人の様子を本編に書き加えました。
    また、続き物ですので、ここからお読み頂いきますと、ご不明な点が多いと思
    います。
最後まで宜しくお願い申し上げます。
150みの☆ゴン148/164 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/17(日) 21:51:06 ID:u50kSign

 沖縄旅行二日目の早朝。高須竜児は宿泊先のコテージの大きなベッドの上で目を覚ました。
むくりと上体をあげると、隣ではまだスヤスヤと竜児の愛しの天使、恋人である櫛枝実乃梨が
寝ているのである。その寝顔を撫で、やさしくキスをしてみた。まさに恋人の特権である。す
ると彼女はくすぐったそうに寝返りをうち、少し微笑んだように見えた。その仕草に胸を射抜
かれてしまった竜児は幸せを噛み締めつつも、思わずもう一度、キスをしてしまうのであった。
 竜児は静かにベッドから降り立ち、僅かに外の明かりが漏れていたテラスのカーテンを開け
る。まだ五時前。この日の太陽はまだ姿を隠しているようで、その光の放射は上空の大気をむ
らさき色に染めていてる程度であったが、竜児の目前に広がる西側の水平線には星が竜児の気
持ちとシンクロしているように、甘い夜の秘め事を名残り惜しそうに瞬いているのだった。
 竜児は胸いっぱいに潮の香りを溜め込むと、カーテンを閉めバスルームへ向かった。寝起き
に優雅にシャワーを浴びようとしている訳では……実はなかった。
 本来であれば竜児と実乃梨はこれから旅行のメインイベント、皆既日蝕ツアーに行く事にな
っており、とっとと支度をして、違うホテルに泊まっている四人とクルーザーが碇泊している
マリーナの桟橋で合流しなければならないのだが、集合時間は六時半にもかかわらず、竜児は
掃除大会を開催してしまったのだった。寝ている実乃梨に気を遣って物音立てずにカミソリの
ような凶眼を光らせつつ任務を遂行するその姿は、沖縄に潜伏した国際テロリストがこの部屋
に泊まった形跡を払拭してアリバイ作りに奔走しているように見えなくもないのだが、無論そ
うではない。お掃除のプロ、ホテルのベッドメイクさんに無駄にライバル意識を剥き出しにし
てしまい、どうしようもなくお掃除好きな竜児はその衝動を抑えきれなかったのである。自前
でお掃除グッズ、伝家の宝刀、高須棒まで繰り出してしまうほどの掃除マニア、端的に言うと
竜児は変態なのであろう。しかしそんな変態を好きになってくれる好事家が世の中にはいるも
ので、そうして世界は上手く回っているのである……。
「出遅れた! おっはよん竜児くん、ぜってー起きたら掃除大会すると思ってたぜよ! 私も
 微力ながら加勢すっぜ〜!」
 Tシャツに下着だけの状態で朝から笑顔全開、竜児に向かって挨拶代わり、ピーン! と見
事なY字バランスを決める。今日も朝から彼女はパーフェクトに可憐だ。つい浮かれてしまう
竜児だったのだが、
「お……おうっ、おはよう実乃梨。起こしちまったか。すまねえ」
 寝ているうちにキスしてしまった事がバレてないの
だろうかと竜児は軽くキョドってしまうのだった。
「な〜に言ってんのさっ、竜児くんの考えてることなんて、まるっとお見通しだいっ! かわ
 いいやっちゃ」
 無防備な笑顔を蕩けさせ、そんなことを言いだす実乃梨に、「〜〜〜〜〜っ」と竜児は絶句
し、顔が火を噴くのも見られたくなくて、もてあそばれている気分にもなって、
「……いて」
 実乃梨の肩をとりあえずどついてやった。彼女は「ふへへ」と笑って腰をゆらゆらさせてい
る。

 そしてせかせか動きまわる二人は軽食を運んできたバトラーにたしなめられるまで、コテー
ジの水まわりや、インテリアや調度品の乾拭き、しまいにはシーツの洗濯まで始めてしまった
のであった。

***

 海岸線沿いの道をなぞるようにひた走る一台の派手な色のハイヤー。海辺の雄大な景観を鮮
やかに映り込ましているその後部座席の窓から竜児の顔が見える。すでに約束の六時半を過ぎ
てしまい焦りつつも、隣に座る実乃梨の髪の毛から、自分と同じシャンプーの香りがすること
が少し嬉しく感じてしまった竜児は、それを実乃梨に伝えると、「本当?」と言って彼女はク
ンクン匂いを嗅いでくるのだった。その彼女のなにげない仕草に萌えているうちに、二人を乗
せたハイヤーはスピードを緩め、マリーナの駐車場に入っていく。そして車止めに停車し、後
部座席のトロピカルなカラーリングの扉が開くと、中から竜児と実乃梨は手を取り合い降車し、
桟橋へと走り出す。ゲートをくぐり、コンコースを抜け、北村を見つけた竜児。少し遅刻した
こともあり、謝ろうとしていた竜児たちであったが、そこで出迎えた爽やかさが信条であるは
ずの北村佑作は……
「お、はよう高須……いっ、いい皆既日蝕日和だな。あっはっ……は……ぐほおっ!」
「おう! しっかりしろ北村!……なんでおまえたちそんなにくたびれてるんだ……」
151みの☆ゴン149/164 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/17(日) 21:52:34 ID:u50kSign
 トレードマークの銀縁眼鏡が指紋だらけで脂っこく曇っていて、尋常ではない事態が起こっ
たことを示唆していた。社会の窓が全開なのは特に気にはしなかったのだが、待ち合わせの桟
橋にいた他の面々も、何故かそろいも揃って目の下にクマを作っているのであった。
「おっす〜高っちゃぁん……実はみんな昨日、オ〜ルだったんだよ〜、ガハゲヘゴホッ!」
 春田浩次も夏休み限定で金色にした自慢のロン毛がボサボサだ。目も口も半開きで、いつも
の脳天気なアホパワーは影を潜めている。アホっぽいのは健在なのだが。
「オールとな? 君たち徹夜かね? あっちゃ〜大河っ! あんたもかいっ!」
 逢坂大河にいたってはベンチでアルマジロのように縮こまり、これから始まる世紀の天体シ
ョーなどどうでもいいような意気消沈ぶりだ。せっかくのギンガムチェックのひらひらワンピ
ースも萎れてしまっている。実乃梨は大河の目の前まで歩み寄り、目線を下げ、ツインテール
にしている大河のおつむを撫でる。
「うん……あの後みんなでカラオケ行って……朝まで八時間……モノマネメドレー百連発……
 コッホ!……」
 竜児と実乃梨は顔を見合わせ、なんとも残念な面々に深い息を吐く。
「ったくおまえら、なんとか何連発とか、そんなんばっかじゃねえか。四人で百曲って、一人
 頭二十五曲とか無茶しすぎだろ。喉潰して当然だ……大体モノマネする意味がわからねえ」
「大河大丈夫? 体調悪い? フリスクあげる。SHARPENS YOU UP!」
 昨日の清楚な白いワンピースからうって変わって、カジュアルなタオル地のパーカーに光沢
のある素材のハーフパンツ姿の実乃梨は、ポーチからフリスクを取り出し、大河に5粒渡した。
「すまん櫛枝、フリスク俺にもくれないか? ああっそれと櫛枝と高須。実は今、亜美が乗船
 手続きをしに行ってくれているところだ。しかし……亜美のやつ遅いな。もしかして昨日の
 アルコールが残っていてどっかで倒れてるんじゃないだろうな?」
 素知らぬ顔で、問題発言する北村の眼鏡のレンズに不可視光線を喰らわす竜児。
「酒か? 呑んだのか北村! おまえがいながらそんな違法行為を……っぷおうっ!」
 天を仰ぎ、生徒会副会長兼クラス委員の優等生を咎める竜児の口に、びしゃん! と大河は
ジャンプしビンタを食らわす。何故か春田も同様に引っ叩かれる。
「違う竜児! 北村くんは悪くない! そこのばかちーの奴隷犬がジュースと間違えてどっち
 ゃりお酒買ってきたのが悪いんだ! 奴隷の不始末はあの酒乱女の不始末!……それはそう
 と、あんたこそみのりんに違法行為、やらかしてないでしょうね……」
 春田と一緒に痛がっていた竜児は大河からセクハラ発言を受け、思考停止。痛みなどもどっ
かにすっ飛んでしまう。しかしそこに救いの手を差し伸べる、見た目だけヴィーナスの川嶋亜
美が降臨するのだった。シンプルなカットソーと、スキニーデニムに包んだその八頭身のスタ
イルは今日も絶好調に美人オーラを振りまいている。ヘッ!と、多少やさぐれてはいるが。
「誰が酒乱よ? あんたみたいにお酒でキス魔になるようなやつに言われたくねえっつーの!
 ったく、あんたに舐められて顔中まだ酒くせーし、マジ酒癖悪くてあんたってどんだけトラ
 なのよ……ほらほらそれはそうとみんなチケット貰ってきたからっ。さ、行くよっ」
 踵を返し、亜美は先を歩き出す。竜児と実乃梨はしばらく互いの顔を見合わせ、そうしてや
っと顔を亜美の背を向け、後を追った。

***

 六人を乗せて出航したクルーザーは、皆既日蝕の観測ポイントの島まで約一時間かかるら
しい。その間の時間つぶしにと、船内キャビンのモニターで日蝕の解説ビデオが繰り返し流
れていて六人はなんとなく見入っていたのだが、お酒と船のダブル攻撃に酔いがさらに回っ
てしまった大河が実乃梨と亜美を連れだって屋外の展望デッキへと向うのだった。
152名無しさん@ピンキー:2010/01/17(日) 21:53:53 ID:mmj5NUB/
確かに規制はひどそうな感じだね
>>147
楽しく読ませてもらったよ、次の話も読んでみたいものだ
153みの☆ゴン150/164 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/17(日) 21:55:45 ID:u50kSign
 展望デッキは船尾にある階段を昇り、クルーザーの屋上にあった。オープンエアで開放感
があり、見渡す限りの大海原。わ〜っと、ワンピースの裾を靡かせながら目を輝かせる大河。
何を思うのかサングラスの柄を噛み、無意識のうちにポーズを決め、ファッション雑誌の切
り抜きのように傾国になる亜美。海賊王に俺はな〜るっ!っと叫びながら柵から身を乗り出
し落水しそうになる実乃梨。三人だけで占領している展望デッキで女子高生天使たちはそれ
ぞれの魅力をぶちまけている。その様は無敵の破壊力を誇り、もし他の人間がそこにいたの
なら、心臓を撃ち抜かれ確実に絶命していたであろう。青空に湧きあがる力強い入道雲も、
海を切り裂く船首から迸る、真夏の日差しにキラキラと輝く水しぶきも、彼女らの前では単
なる脇役にしかならない。
「しっかし、風が気持ちいいね〜。大河なるべく遠く観るんだよ」
「うん。心配してくれてありがとっ、みのりん。でも平気。外の空気吸ったらだいぶよくな
 ったみたい」
「あんた猫科のくせに三半規管弱いのね〜っ……それよりさっ実乃梨ちゃんっ! 実際昨日
 の夜、高須くんとどうだったのよ? ねえ、ヤった? ヤっちまった?」
 大きな瞳を窄め、実乃梨を問い詰める亜美。真っ赤になる実乃梨のかわりに虎が吠える。
「コラ、えろちー! みのりんになんてこと聞いてんのよ。デリカシーないわね。みのりん
 はヤったんじゃなくて、ヤられたの。ねっ、みのりん?」
「……大河それじゃあ、あんまり変わんないぜ……いいじゃん別にそんなこと。内緒!」
「あ、否定しない。否定しないよ実乃梨ちゃんってばっ……やっぱヤっちまったんだ〜、
 ウッフー☆」
「だからばかちー! みのりんはヤったんじゃなくて、ヤられ……」
「あーもー! やめてくれよ二人ともっ! 恥ずかしいじゃんかよっ、今度話すから勘弁し
 てよっ! その話題終了!」
と言って、両手で二人の口を、塞そうとする実乃梨なのだが、逆に手を取られ、大河に優し
くさすられながらしみじみと、「よかったじゃん……」と言われちゃうと俯いてしまい、
「何にも言えなくなくなる実乃梨ちゃんなのでしたっ」と亜美にからかわれるとしゃがみ込
んでしまうのだった……。
 だから実乃梨は大河と亜美が見つめ合い、実乃梨を祝福し、愛でるような天使の微笑みを
交わしていた事を見る事はなかったのだ。

***

 観測ポイントの島に近づくにつれ上空に雲が立ち込め、一抹の不安を覚える竜児たちであ
ったが、日頃の善行のおかげか、島へ上陸した午前八時には天候が回復し、地表を焦がすほ
ど沖縄本気の日差しが強烈に降り注いでくれた。
 この島には住民も少なく手付かずの美しい自然が広がり、桟橋から観測ポイントのビーチ
までの道のりは岩場やぬかるみを渡り歩く必要がある。数分かけて辿り付いたビーチには既
に泊り組のテントや、レジャーシートやらが幾つか設営されていて、刻一刻と近づく世紀の
天体ショーを迎えるにあたって、会場の雰囲気は盛り上がっているように見えた。ざわめく
喧騒の中、どうやら春田もその空気に飲まれたようだ。
「も〜すぐ見れるよな〜、怪奇日蝕☆ひょ〜怖えっ! 興奮してくるよねっ、高っちゃ〜ん!」
「その怪奇じゃねえよ。皆既な。春田おまえ、昨日も郵便局で絵葉書出すときに五十円切手
 一枚いくらですかって聞いちゃっただろ? 俺は恥ずかしさを通り越して感心しちまったぞ」
 少し可哀想な親友に竜児は大きく息を吐くのだが、その傍らでTシャツを捲り、肩を露わ
にしている北村がしっかりフォロー。
「はっはっは! 春田の冗談はいつもホームラン級だな! いいぞっ、いい感じだぞ!……
 そうだ高須、沖縄って天の岩戸があるんだぞ。知っているか?」
「伊平屋島のクマヤ洞窟だろ?あれも皆既日蝕の話だからな。なんか偶然っつーか……すげ
 えよな」
 と、男子軍団で気持ち悪く雑談していると、やはり三人で固まっていた女子軍団から、亜
美が呼びかけてきた。
「ねえねえみんな見てっ! もう太陽欠け始めてるよ!」
 その声に集まった六人は、揃って顔面を亜美が指差す天に向ける。そこには太陽が既に形
を変え始めており、いわゆるファーストコンタクトが起こっていた。海岸にいる人々は皆、
竜児たちと同じように空を見上げ、低いどよめき音がビーチ一帯に響きわたる。
154みの☆ゴン151/164 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/17(日) 21:57:06 ID:u50kSign

 竜児の目の前で、額に手を当てていた実乃梨も大河と一緒に、わあ、と歓声を上げ、手を
叩きあって興奮していた。北村はアホと幼馴染みに一生懸命日蝕の蘊蓄を披露していたが、
さらりと聞き流されていたものの、それぞれハイテンションなのは変わりなかったのだ。

 ──そして竜児。竜児はたぶん、みんなと違っていた。竜児はこういうお祭り騒ぎの喧騒
の中で、ひどく孤立感を感じることがある。騒ぎが大きければ大きいほど、興ざめしてしま
い、神経質になってしまうところがあるのだ。
 それは竜児の心の欠損しているところ……だと自覚していた。
 だから、だからこそ、そういう中で純粋に、太陽の核のように光り輝く実乃梨に憧れ、恋
をしたのだ。実乃梨は竜児の欠損しているところを持ち合わしていた。そして憧憬の日々は
過ぎ、彼女に思いをぶつけ、交際し、そして昨晩、結ばれた。竜児にとって彼女はアドレナ
リンだった。ドーパミンだった。そう想っていた。そして今、呼吸をするのにも彼女が必要
だった。
 そしてその、彼女の手を竜児は堅く掴む。「なあに?」と、フラッシュのように眩い視線
が竜児のためだけに注がれる。停止していた呼吸が再開される。体中に酸素が、彼女がドド
ッと送り込まれる。
 ──実乃梨を離さない。この心は、永遠に。そう想いを込めて。そして、
「実乃梨、二人であの高台の上まで昇らねえか?」
 彼女を独り占めするために、彼女をさらった。

***

 十時半頃には日蝕は進み、随分と暗くなってきていた。竜児は実乃梨の手を取り、高台へ
と向かっている。思ったよりも急な坂道。道幅は狭く、たまに木の根に足を取られてしまう。
二人の息が上がってきた。
「あとちょっとだな。実乃梨、平気か?」
「OK牧場! へっへ〜、日頃足腰鍛えてるからね、平気だぜ。竜児くんこそ大丈夫かいな?」
 ああ、っと答え、二人は互いに気遣いながらもややあって高台の上へと到着する。その頃
にはほぼ太陽は陰り、薄暗く、気温も下がってきた。竜児と実乃梨はさらに先にある繁る木
々の間を抜けると、みんながいる美しいビーチが見下ろせる段丘に出た。海を渡ってきた真
っ直ぐな潮風が気持ち良い。
「おー! 絶景かな、絶景かなっ! 夏の白昼は値千両とは、小せえ、小せえ! この実乃
梨の目からは、値万両、万々両!」
 と、実乃梨は息を弾ませながら、五右衛門ばりの見栄を切る、まさにその瞬間だった。赤
い旋光が走り、太陽と月はセカンドコンタクトを迎える。つまり、天空に美しいダイヤモン
ドリングが光り輝いたのだ。目下のビーチからの喧騒もピタリと止む。皆既状態に目を奪わ
れる。淡いさざ波のようなシャドーバンドが現れる。神秘的で幻想的な雰囲気。見渡す限り
の水平線上、遠くの明るい海域だけがくっきり茜色に変わる。

 そうしてやっと、竜児は素直に言葉を紡ぐ。実乃梨と共に生きる……と。
「実乃梨、嫁にこい」
 宇宙へ向けて解き放ったその言葉は、その月と太陽に反射して実乃梨へと届いた。
「うん。今のダイヤモンドリングが……竜児くんからのエンゲージリングなんだね……あり
 がとう」
 大きな瞳が輝く。地上に降りた太陽が燃える。たしかに炎上し、竜児はその猛火に飛び込
む。抱きしめる。しかし竜児は燃え尽きる事なく、その炎を包み込む。溶けあい、一つにな
る。まるで皆既日食のように。
 当たりはさらに薄暗くなり、コロナが観測できた。その散乱する光は、もしかしたら普段
見えない彼女のネガの部分なのかも知れない、とか、地球の反射光で照らされる浮かび上が
る月面の表面を、もしかしたら俺の影の部分を彼女が照らしてくれているのかも知れない、
とか、竜児は実乃梨を擁しながらそういう胸の内なのであった。
155みの☆ゴン152/164 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/17(日) 22:01:38 ID:u50kSign
 自然に二人は唇と唇を重ねていた。そうして数分、一度距離をとり、見つめ合う。無限の、
不滅の愛が、竜児の中で輝く。心が通じ、実乃梨の唇が熱い想いを詠う。
「でもリングはひとつじゃ足らないよね? もうひとつ。……じゃあ今度は私からだね。竜
 児くん、受け取って」
 その刹那。再び天に、眩いダイヤモンドリングが光る。一瞬だったが、実乃梨の誓いと共
に、見事に竜児に届けられた。蓄積していた感情が、涙となって体現する。
「おうっ。離さねえ」
 すると二人を祝福するように、新生した太陽は一気に眩い光を薄い霞にリフレクトさせ、
リング状の虹を、二人の頭上に描いたのだ。それは人間の矮小さを、想像力を遥かにしのぐ
圧倒的な自然現象。そして竜児の中の世界が変わる。実乃梨との永遠を誓う。

 そう、永遠のスタートが今この瞬間なのだ、と。

***

 日蝕の興奮冷めやらぬまま、六人は、クルーザーを下船、那覇市内にワゴン車で送迎しても
らう。少し遅い昼食と、お土産を買うためだったのだが。
「みんな、何食べる? あたしはなんでもいいんだけど?」
 大通りを下僕の春田を引き連れ、先頭を歩いていた亜美がくるりと振り返る。
「なあ亜美。せっかくの沖縄だし、日頃食べられない沖縄料理を食べようじゃないか。みんな
 いいか? いいな? よしっ決定!」
 あわや強引ともとれる北村のリーダーシップに実乃梨が反応。
「第一メディテーション、パイン!……しゃぐしゃぐしゃぐ〜っ! うめえ、パインうめえ〜!
 超あま〜いっ、ジュ〜シ〜ッ! 第二メディテーション、沖縄そば!……ずぞぞぞぞ〜っ! 
 うめえ、そばうめえ〜! 超山盛りっ、ラフティ〜ッ! 第三メディテーション、ブルーシ
 ールアイス!……ぺろぺろぺろ〜っ! うめえ、アイスう」
「グルメ妄想はそのへんでやめとけ実乃梨……てか、そんなに食うつもりなのか? ダイエッ
 ト戦士はどこ行ったんだよ。封印かよ」
「ふっ、笑止──この鋼鉄の筋肉で鎧われし我が肉体の前には、それ如きのカロリー、恐るる
 に足らぬわー!」
 わーっと言った傍から天まで届く大絶叫が上がる。
「やあああああああうぎゃあああああああっっっ!」
 土産屋の店先にぶら下がっている商品に発狂寸前の声を上げて亜美はコンフュージョン。人
事不省の亜美は、傍にいた背の高い春田に寄り掛からなければそのままK.O.されていたかも知
れない。もはや天使の仮面もクソもない。
「な、なによばかちー! いきなり暴走しないでよ、驚いたじゃないっ!……関係ないけど驚
 いた拍子に閃いたわ……お土産はちんすこうにしよう……」
「本当に関係ないな逢坂! すばらしぞっ! それよりなんだ亜美、相変わらずだな。原因は
 これだな? カエルだろ。カエルの財布」
 そこには沖縄名物なのだろうか、まんまカエルを干乾したガマ口の財布が数匹釣られていた
のだ。美少女にあるまじき汁が顔面から垂れている。
「ど〜したの亜美ちゃ〜ん? なになにそれかわいい〜じゃ〜ん☆俺も関係ないけどお土産に
 カイジンTシャツ買おーっと!」
 たぶんそれは海人Tシャツなのだろうが、とりあえずその一番近くにいたアホの影に隠れる
亜美。そんで春田のシャツであるまじき汁を拭った。一瞬シャツの匂いを嗅いでいるように見
えたが、違かったようだ。そしてその傍らには、宿敵である亜美の弱点をひとつ知り得て、カ
エルの財布の購入を決意し、ほくそ笑む大河がいたのだった。

***

「げー。これ、あんまり好きじやない。てか味薄い」
 騒がしくもなんとか沖縄料理の専門店に入った六人。よくわからないまま注文した料理が気
にいらないようで箸を置く大河。
「なんだ逢坂食べないのか? じゃあこっちはどうだ? 肉好きだったな。豚肉だぞ?」
 と、北村が自分の皿からホイホイと大河の皿にラフティーを移送。その一部始終を傍観して
いた亜美もパシッと箸を置く。
156みの☆ゴン153/164 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/17(日) 22:03:19 ID:u50kSign
「ちょっと佑作っ、あんたタイガーの事甘やかし過ぎ。沖縄料理ってヘルシーなんだから。タ
 イガーがいつもハイカロリーなジャンクフードばっか食ってっから悪いのよ。つかあんた好
 き嫌いあるから背も胸もチビすけのまんまなんじゃねーの?」
「……ばかちー、ケンカ売りたいんだったらハッキリそう言いなさいよね。いつでも買ってや
 るし、お釣りも結構よ」
 大河も箸を置き、手元にあったパイナップルジュースの缶をむんずと掴み、投擲態勢。今度
はその一部始終を傍観していた実乃梨がゴーヤを摘んだ箸先を火花を散らす二人に突きつけ、
「ほーらぁっ! 食事中にやめれいっ! いくら友情を育てたいからって、二人とも喧嘩しな
 い! でも大河。慣れたらうめーよ? これ。ほらほらほらほら、見て。ほらほらほらっ、
 ほぐっふぉっ!」
 ……粗相をするのだった。噴霧されたゴーヤらしきものを竜児が手早くナイスお掃除。見事
な連携プレーである。
「あーあーあー、実乃梨よ。いくらなんでも口に入れ過ぎだろ。しかし郷土料理ってのはクセ
 あるから……おうっ! 大河そんなにケチャップかけるな! 食材に対しての冒?だぞ!」
「黙れ、男おばさんジュニア……ていうかちょっとあんた、テーブル拭き終わったのに隣のテ
 ーブルまで拭いてくの恥ずかしいからやめてくんない?」
「おう、すまん、ついクセで……」
 無意識に手持ちのサッサで吹きまくっていた竜児に大河は呆れ顔。席に戻り、落ち着きを取
り戻したようだ。どうやら戦闘回避したらしい亜美は、殺伐とした気配を一掃するように辺り
をキョロキョロ見回し、
「そういえば春田くんは? いないじゃん」
 すると、レジの方からノコノコやってくるパツキンがいた。
「ね〜見て見てくれ〜! おっぱいアイス〜! 買っちゃった!すごくね?」
「すごくねえよ春田。おっぱだろ? 乙羽アイス。まあたしかにひらがな表示だから間違える
 よな……」
 せっかく竜児が、春田の勘違いを指摘するのだが、パツキンのアホは余計なことをのたまう。
「なんだ〜、おっぱか〜……しかしタイガーのおっぱ……じゃなくって胸ってナゾだよな〜、
 水着の時は意外とあるような気がしたのに、着替えると抉れたみたいに平らなのな〜」
 その瞬間。大河の席からグシャッと、鈍い圧搾音。パイナップルジュースの缶が、あり得な
い形に変貌していた。たしかスチール缶だったはずなのだが……
「てめえらっ! やっぱり二人まとめて五ミリに捻り潰す!」
 血の色に裂けた目は狂気に染まった、殺意の色。さながら猛る虎のようで、宙を跳び春田の
頬をバンバン左右に張る。潰すどころか春田の頬は赤く膨れていって、やがて春田の両腕はだ
らりと力なく垂れ下がり、大河の足元にドサッと崩れ落ちる。多分、死んだのだろう……。春
田を仕留めた大河は、亜美にジャンプ。押し倒し覆い被さり、目を細める。「うぎゃあああ!」
……力ずくで亜美の四肢を裂き、
「……く、食ってる……!」
 実乃梨はううっと、口元を押さえる。大河は亜美にガブガブを噛み付き攻撃に出ているのだ
った。そんな惨劇を尻目に竜児と北村は、食事を再開。
「おっ、なかなか風味豊かな喰いもんだな、へえ、ピーナッツ豆腐か。おもしれえ」
「どれどれ、俺にも食わせてくれっ。うむっ、旨い! いやあ、しかしこうして夏休みに親友
 のおまえと沖縄料理を堪能できて俺んあー!」
 最後の力を振り絞り、大河へ反撃に出た亜美の振り回した箸先が、北村の股間にずぼっと突
き刺さっていた。
 ……そんな感じで迷惑な団体客は、さらに騒ぎを大きくするのだった。竜児は思う。もう沖
縄の土は踏めないのではないかと。

***
157みの☆ゴン154/164 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/17(日) 22:05:31 ID:u50kSign

 夕食を済ませた一行は、亜美の発案で免税店でのショッピングに繰り出すことに決定、実乃
梨も竜児と一緒に、お互いの母親用にブランドもののエコバッグを選んだり買ったりしていた
のだが、亜美と大河のエンドレスショッピング地獄に竜児が少々焦燥気味にため息をつくのを
見ると、実乃梨はさり気なく、亜美に明日の飛行機の時間だけを確認して、宿泊先のコテージ
に戻ることにするのだった。
 送迎されたコテージのドアを開け、竜児がその近くにあるスイッチに手を掛けると、部屋の
中はやわらかな光に包まれる。すると陶器で出来たテーブルの上にフルーツが入った篭が置か
れており、ホテルから朝の掃除大会のお礼のカードが一緒に添えられていた。
「おうっ! すげえなっ……返って悪いことしちまったかな……なあ実乃梨。いまさらなんだ
 が……実はおまえも買い物したかったんじゃねえのか?」
 実乃梨はリビングをスルーしてテラスのある窓を開けた。部屋中に波の音と匂いが立ち込め、
そうしてやっと、実乃梨は竜児に振り返る。
「ううん、大丈夫だよ。私ブランドものとかもともと興味ないし、なんてったって高くて買え
 ないって。あいつらみたいにお財布に五万も六万も掛けられねえよ。無理無理っ!……それ
 より沖縄に免税店なんてあったんだね〜。私、外国にしかないのかと思ってた」
 視線の先の竜児は手荷物をベッドへ放り、篭からバナナを抜き取って冷蔵庫からミネラルウ
ォーターを取り出した。
「ギャラリアだろ? 俺は店の名前自体知らなかったんだがな……ていうか、あいつら昨日徹
 夜だって言ってたよな? いくら旅行ったって満喫するにもほどがあるだろ」
 屋外のテラスに出てベンチに腰を降ろす竜児。実乃梨もポーチからハンカチを捲いたミニペ
ットを取り出し、その隣に座った。
「どっこいしょ〜いち〜、っとぉ……まあ沖縄最後の夜だからねっ……」
 と、言いながら竜児を見やるとバナナを口に咥えながらミネラルウォーターの栓を開けてい
た。それを眺めていた実乃梨は、
「……竜児くん行儀悪い。てか、なんかエロい」
「ブフォッツ、え、エロくねえだろ! バナナ咥えただけじゃねえかっ! へんなこというな
 よなっ」
 ポーンと、竜児の口から飛び出すバナナをキャッチ。実乃梨は、真似てみた。
「エロいよ。目線かなぁ? こ〜んな感じ……んふっ……どう?」
 バナナを咥えながら竜児に流し目。竜児の顔が薄明りの中でも赤く染まるのが判る。
「そ、そうだな実乃梨……確かにエロいかもしれねえ……だから頼むから俺がいないところで、
 そんな食い方しないでくれよな……返してくれ」
 食べかけのバナナを竜児に奪われ、食べられてしまう。バナナには明らかに自分の唾が光っ
ていた。間接キスどころのレベルではない。ドキン、と大きく一度、実乃梨の心臓は律儀に高
鳴る。
「し、しないよ。竜児くんのマネだもんよ。竜児くんこそ私がいないところでフェロモン出さ
ないでよね? 私、心配なんだよ。だって竜児くん、かっ、かっ、カッコいいし……」
 跳ねた毛先を指先でいじってみせる。バナナを飲み込む竜児の喉がゴクンとなる。
「カッコ? 俺が?……泰子以外から初めて言われた、なんか……ありがとうな、うれしいぞ」
「私だって、異性からカワいいとか言われたの、竜児くんからが初めてだもんよ。私も……う
 れしかったよ? 大河は言ってくれたけど……」
 親友の名を口にして、実乃梨はふと、思いつく。いや、前から気にはしていた事なのだが……。
「そう、大河……大河って超可愛いじゃん。この際だから、ぶっちゃけ竜児くんに聞いちゃう
 んだけど、あんな可愛い娘が隣に住んでいて、なんとも思わないの? なんかないの? そ
 の、なんかさ……」
 たしかに気になっていた事だった。が、プロポーズまでされた後に、こういうことを聞くの
もなんなんだろうかと後悔する実乃梨。しかし聞いてしまったものはもう仕方ない。
「隣って大河か? なんかってなんだよ? なんもねえし、なんかする予定も計画もねえ。ま
 あ実乃梨と親友だし、可愛いとは思うけど、そんだけだ……てか、おまえこそどうなんだよ。
 北村とか。仲が良いじゃねえか」
 意外な竜児の反撃に実乃梨は目を丸くする。
「へえっ? 北村くん? ないない意味わかんない。おもしろい事言うね、お主。まあ、竜児
 くんの親友だし、同じ部活だし、仲は良いけど、それだけだよ……ありゃ? なんか竜児く
 んと言ってること同じだね、私……」
 と、自分の言葉に納得した実乃梨。考え過ぎだった。少しでも疑念を持った自分に恥ずかし
くなる。
158みの☆ゴン155/164 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/17(日) 22:06:53 ID:u50kSign
「だろ? 同じなんだって……心配なんかすんなよ。でも、ぶっちゃけてくれて、ありがとう。
 嫉妬……してくれたのか? なんかうれしい」
 顔を伏せて竜児の顔が見れない。そんな実乃梨の髪を撫でてくれる竜児。実乃梨のハートが
満ちる。でも彼に謝らなくちゃいけない。
「ゴメン、変な事聞いて……怒ってない?」
 恐る恐る合わせた視線。だが竜児はいつもの実乃梨の大好きな笑顔でいてくれていた。
「怒るかよ。うれしいって。俺は……お、おまえとなんとかなる事しか考えてねえよ……」
「え? 私と?」
 なんとかなるっていう竜児の言葉の意味を実乃梨は理解し、なんとなくモジモジしていたそ
の隣で、竜児はベンチからズレ落ちそうなくらい大きな背伸びをした。
「くくっ……俺、そろそろ風呂入ろっかな」
 ……竜児くんとなんとかなっても良かったのに……そう不退転の決意をしていた実乃梨は、
そんなことをいう竜児につい口を尖らさせてしまう。
「えー私、竜児くんともちっとお話ししたかったんだけどなっ……じゃあ、もう……寝ちゃう
 の?……まあ、いいけどね」
 そんな感じで落ち込んでしまう実乃梨だったのだが、
「……いや違くて……俺もおまえともっと一緒に……最後の夜だし、その……風呂、一緒に入
 らねえか?」

***

「ふあ〜っ、いい気持ち……」
 バスルームで実乃梨は湯舟の中で極楽気分に浸り、背伸びすると、湯気が立つ水面にちゃぷ
んと波紋が広がっていく。無論、実乃梨は全裸であり、広がる波紋の中心には健康そうな双房
がぷかんと浮かんでいて、その房の先端には採れたての果実のような薄桃色がツンと立ってい
るのだった。しかし、実乃梨は、そんな呑気にお風呂の中で寛いでいる状況ではない。これか
ら竜児がバスルームに入ってくる。人生初の混浴になるのだ。
 さっき実乃梨は、竜児と一緒にお風呂に入る条件として、二つの条件を出した。一つは先に
入って身体を洗いたいというのと、もう一つは電気を消す事である。まだ彼女には明るい場所
で裸体を晒す覚悟はできていなかったのだ。緊張してきた実乃梨は、湯舟のお湯に顔の半分を
沈め、ぶくぶく泡を立てたその時、彼の足音がした。
「実乃梨、入っていいか? 電気消すぞ」
「ぶわっはい!……いいぜよ……」
 竜児の声を聞き、実乃梨は湯舟の中で回転して、湯舟の縁を掴む。すると今度はまっ白なま
るいお尻が湯舟に浮かび上がってきた。それはアスリートらしく小振りで引き締まってはいる
が、10代の少女らしい柔らかなもち肌が曲線を描いており、その深い谷間を滑るように、す
るりとお湯が流れ落ちていくのだった。
 実乃梨は、じっと竜児を待つ。少ししてバスルームの灯りが落ち、バスルームの扉が開いた。
脱衣所からの逆光ではっきりとは見えないが、多分自分と同じように全裸の竜児は、濡れた床
に滑らないように足元を気にしながらゆっくりバスルームに忍び入ってくる。
「おうっ、暗えなっ……実乃梨、どこだ?」
「湯舟。窓から海が見えるよっ。ここのお風呂すっごくいいね。いい香りがするし、好きかも」
 初めはキョロキョロしていた竜児の影が、暗闇に目が慣れてきたようでこっちを向いて動
きが止まる。
「へえ。昨夜はシャワーだけだったし、掃除ん時も海が見えるなんて気付かなかったな。俺も
 湯舟に入っていいか?」
 空気が動き、竜児が近寄ってきたのが分かった。しかし実乃梨は首を振る。
「先に身体洗わなきゃだめだよ竜児くん。だって髪の毛とか、潮風でバサバサだったじゃんか」
 実乃梨の言葉に従い、竜児は素直に回れ右。シャワーのノブを回し、身体を洗いだす。じゃ
ばじゃば飛沫が撥ねる音がする。
「なあ実乃梨。やっぱり危ねえから明かりつけねえか?……激しくコケそうな自信が、俺には
 ある」
 そんな訳にはいかない。恥ずかしい上に、竜児のおヌードなんか見たら、鼻血を噴霧する自
信が、実乃梨にはある。
159みの☆ゴン156/164 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/17(日) 22:07:46 ID:u50kSign
「えー! 充分見えるよっ! てか見えてんじゃんかっ……ん〜、竜児くん……つけたい?」
 竜児のシルエットがコクンと頷く。キュッとシャワーのノブを閉める音がする。竜児は覚悟
ができているのであろう。遅かれ早かれ、どうせいつかはそういう日がくるし……実はちょっ
と見てみたい気もするし……実乃梨も覚悟を決めるのだ。
「仕方ないなー……わかった。明かりつけよ。つけていーけど、あんま私のことジロジロ見る
 んじゃねーよ? 私、コケた時の擦り傷跡とか切り傷跡とかいっぱいあるから……本当は明
 るいとこで見られたくないんだよね」
 わかった、と竜児は答え、脱衣所に戻り、灯りをつけた。するといままで輪郭しかわからな
かった自分の裸体が、くっきりと晒されるのである。実乃梨が視線を落とすと、湯船にぷかり
と浮かぶ二つのふくらみ。その奥に揺らいで見える柔毛。あらためて自分の姿を確認する。素
っ裸だ。当然、羞恥心を覚えるわけだ。すごく恥ずかしい。
「うっひー! やっぱムリ! 明るい! 溶ける! 溶けてしまう〜!」
 バシャバシャ湯船の中で慌てふためく実乃梨。竜児は脱衣所から駆け寄ってくる。灯りを消
さずに。
「だ、大丈夫だ! 溶けねえから! おまえ……き、綺麗だから……」
 まるで胎内の新生児のように脚を抱え縮こまっていた実乃梨は顔を上げて、
「本当?」
 と、涙目を向けてみた。そこには全裸の竜児がいて、肉眼で男の部分を直視し、思わず実乃
梨の息が止まる。
「本当だとも……いや、俺も恥ずかしくなってきた……」
 慌てて前を隠す竜児。Uターンして背中を向けた。しかし実乃梨はそいつをバッチリ見ちゃ
ったのだが。覚悟完了している実乃梨は、湯船から上がり竜児の背中に抱きついた。湯舟で熱
くなった生肌を押し付ける。
「竜児くん……くっついたら見えないよ?」
 とは言ってみたものの、抱きついた自分が心臓が破裂するほどドキドキしてしまう。呼吸が
不規則に乱れる。そのまま動けなくなってしまう……ウットリするほど、かぐわしい背中の彼
も、どうやら限界だったようだ。
「そ、そうだな……ただ刺激が強すぎる。おまえが眩しくて、とても見れねえ……や、やっぱ
 り消そう」
 そう言って竜児は実乃梨から離れる。弾力のある実乃梨の胸が、ぷるんと揺れた。
 そしてバスルームは再び暗転し、窓の向こうの海岸線が浮かびあがる。再び湯舟に足を浸か
り、しゃがみ込もうとする実乃梨の背中に、今度は竜児がくっ付いてきた。お尻に当たってい
るのは、さっき目撃した竜児の男の部分だろう。押し付けられたお尻のにくの感覚で、そのカ
タチがわかった。さらに深く食い込まれる同時に、竜児の指先が、実乃梨のまるい乳房を歪ま
せる。薄桃色の尖端が、乳房に埋まる。
「あん……だめ、のぼせちゃう」
 ビクッとして、やがて実乃梨のお腹の中がほんのりと熱を帯び始めた。くすぐったく、疼き、
なんとも切ない気分である。
「のぼせたいんだ、実乃梨……」
 耳元で、いや、耳に口づけしながら彼が甘い声をかけてきた。実乃梨はしゃがみ込みそうに
なりながらも、彼の誘惑に乗るのだった。
「そっか。じゃあ、のぼせちゃおっか……竜児くん……」

***

 マッサージのように腕を往復する彼の指。チャプチャプお湯の音がバスルームに響いている。
温かい湯舟に浸かっているはずなのに、摩られる度、私はゾクゾクとしてしまう。ただ、イヤ
ではなかった。逆に、心地よいと思ってしまう……そして私は、彼のゾクゾクしちゃう魔法の
指タッチにされるがまま、身をまかせる。耳の穴に指入れられたり、背中の窪んだ所を舌で下
から上へじっくりと舐め回されたり……思わずのた打ち回ってしまいそうになって、私はくる
んて半転した。
「竜児くん、キスしっ……んんっ!」
 彼もキスを欲っしていたようだった。頭の中で何かが弾け、私は、むちゃくちゃなキスをす
る。彼の背中をまさぐる。彼の髪をグシャグシャにしちゃう。そして、また、私は強く想う。
彼が欲しい……と。懸命にキスを繰り返し、私の唇は、彼の唇から今度はまぶた、次はおでこ
と、いたるところにキスをした。その間にも彼は、私がそうしたように「実乃梨」と私の名を
呼びながら、私の裸体をまさぐり続ける。もうなにがなんだかわからなくなる。まだ彼のカタ
チを憶えている、お腹の中が、キュンッ、となる。
160みの☆ゴン157/164 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/17(日) 22:10:08 ID:u50kSign
 私たちはひとしきり愛し合い、やがて静かに見つめ合った。
「実乃梨……」
「ん……竜児くん……」
 大好きな人の名を呼び、私はなにげなく彼のうっすら生えた顎ひげを、コチョコチョ触って
みる。すると彼はなにを思ったのか、急に私の指をパクッと、咥えてきた。まるでさっきのバ
ナナのように……思わぬ行動に驚いてしまったんだけれど、
「んふぅん……」
 私の口から変な声が漏れてしまう。気持ち、いいかも……しれない。指から離れた彼の唇か
らも、はぁって、色っぽい声が漏れ、そして……私を招いてくれる。大好きな彼が。
「ベッドへ行こう、実乃梨」
 彼に私はキスで、オッケーの合図してみたんだ……。

***

 彼の指先が、胸の尖端をかすめた。
「はうっ!……くふっ」
 思ったより大きかった声を彼に聞かれ、ものすごく恥ずかしかったけれど、胸の尖端がだん
だんに緊張してきて、痛いくらいに固くなってるのが自分でもわかる。そこをギュッと、こね
られると、うなじがゾワゾワして胸の奥から先端まで、ジーン……っと、悦び……みたいなの
こみ上げてくる。……それを私は、……感じちゃってるんだ……って、そう自覚すると、から
だがぴくっと震えてしまう。もしかしたら私、おっぱい揉まれるの、好き、なのかもしれない
……彼は知っててこんなに、あっ……また、ギュッとこねられる。ぴくっ……てなる。
「んんっ!……竜児くふんっ……」
 そのぴくっ、とした感じが、ドクンドクンしてる心臓を通って私のからだ全体に広がってい
く……ぼやけていく意識の中で、甘く、激しくなる彼の呼吸を生肌で感じながら、心地良さに
身をゆだねる……いっぱい触られて、キスされて、揉まれているうちに、彼のキスが恋しく、
欲しくなる。柔らかくて、温かくて、ぬめりのある彼の舌が恋しくて、切なくなって……私は
吸い付くようにキスをする。と、彼はその両手を私の首の後ろにまわしてきて、壊れちゃうか
と思うほど、ぎゅううっ、と抱きしめてくれた。嬉しい。そう、私はもっと抱きついて、溶け
ちゃって、彼と一つになりたかった……今もこうして、はだかでくっついて、汗で滑るおっぱ
いをムニューって、こすりあわせて、いっぱいエッチなキスをしているのに、もっと彼とくっ
つきたい……そう想って、そう願って……私は少し戸惑ったけれど、彼の緊張したソレをきゅ
うっとしてみた……
 ソレはとっても熱く、とっても堅く、ツルツルしていて不思議な感じ……その触っている感
触が、いたずらしている私の指先から頭の中に達すると、からだ中のうぶ毛が逆立って、神経
が剥き出しになったくらい敏感になっていく。そして……何故だかわからない。わからないけ
ど、次の瞬間、私の指先で弄ばれてる彼の熱いソレに、私は……キスをしていた。
 チュ、チュ、チュッと、先端に三回くらい……最後にぺろっと舐めてみた。
「おうっ……」
 あ、調子に乗っちゃったかも……ちょっと落ち着く。そんでよく見た目の前のソレは、首を
振ってるみたいにぴんぴん跳ねて、少し湿ってして、ほんのり匂いがしていた……なんとなく
と匂いをクンクン嗅いでみて……
「んふっ」
 ぱくりと咥えてしまった。どうすればいいかわからなかったから、夢中になって、いっぱい
舐めて、いっぱい触って、いっぱいヌルヌルにして、いっぱいソレを愛した……恥ずかったけ
ど……なんか……とっても興奮してちゃって……ドキドキしているソレの鼓動と私の心臓の鼓
動が、なんでかたまらなく心地よくって、嬉しくって……がんばっちゃう。とっても恥ずかし
くって言えないけど、彼の漏らすエッチな声が好き、吐息が、大好き……止まらない……竜児
くん大好き……って。くちの中がいっぱいになってたから、心の中で叫ぶ。すると、
「実乃梨っ……くはっ……俺も好きだっ……」
 彼に届いた……みたい。彼のソレに吸い付きながら、愛しながら見上げた彼の顔は汗に濡れ、
真っ赤で酔っぱらってるみたいな感じだった。さっきから絶え間なく彼は、私にかわいい声を
聞かせてくれる。喜んでくれてる。それが私も嬉しい。そんで、ちょっと馴れてきてわかった。
彼はここを、こうすると……
「おおうっ!」
 喜んでくれるんだ。でもだんだんつよくなる彼の匂いに包まれて、私はクラクラしてる……
と、突然彼は、発情した獣のようにからだの向きを変え、私の脚の付け根に舌を這わせてきた
っ、そこはっ!
161みの☆ゴン158/164 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/17(日) 22:12:06 ID:u50kSign
「ぁはあっ! ちょっ……竜……児、くんっ、あん、ああんっ!」
 すごく濡れているんだ、そ、そこは……はっ、恥ずかしい……でも、あっ、そんなに舐めら
れると……体が痙攣しちゃう……やべー、すっげー……気持ちいい。あっ、おっ、おかしくな
っちゃう……
「あっあっあっ、んんっ、やっ、あんっ!……はあっ」
 からだを駆け抜けてく電流に耐えようと、私の太ももはムニュンと彼の頭を挟みこむ。でも
あえなく私は上下する彼の舌の動きにあわせて、腰をくいっ、くいっ、と踊らせてしまう……
「はあっ、はぁっん、あはあっ、んふっ!」
 息がつまって、どこかへ跳んでいってしまいそうな感覚に襲われる。何度もそれが波のよう
に私の身体に押し寄せて、そして……その何倍も大きな波がすぐそこまで来ている……のがわ
かる。迫る。ああっ、波に飲まれちゃう。
「ああっ、はっ、はっ、竜児くんダメっ、ダメェっ! いっ、」
 跳んじゃう……これが、そう。重力の感覚が失せる。いくっ……てことなんだ。
「あはあっ! 竜児くんっ、あはぁっ! いっ、いっちゃうぅっ!」
 せなかを大っきく仰け反らせて、彼の頭を太ももでグニュゥって、ちからいっぱい挟みこん
だ。目の前にまばゆい光の爆発をパチパチ感じて、裸の私が何度も跳ねて……
 そして、ぐったりと力が抜ける。

***

「実乃梨……」
 竜児の腕の中で実乃梨はえへっと照れ隠しに小さく笑い、舌を出した。ピンクの頬に張りつ
く毛先は汗で濡れ、竜児はなるべくやさしく拭ってみた。キスをしたおでこは少ししょっぱか
った。
「私……恥ずかしい」
 恥じるという事は、曝け出してくれたという事なのだろう。竜児はそれがすごく嬉しかった。
「実乃梨……俺、挿れてえ」
 竜児は実乃梨を求めた。それは自然な流れだった。付き合う前から何度も夢見た彼女との情
事。ただしこれは本番だ。彼女のどこへ挿れたいか、竜児は指先でそこに触れる。湿っている。
「あっ……んっ、うん。挿れて……」
 唾液を塗りたくるように舐めまわしたそこは、竜児が思うより、たっぷり濡れていた。その
感触に竜児の下半身が、ビクンと反応する。
「つけるから、ちょっと待ってくれ」
 いくら生理後の安全日でも、二日連続はマズイかな、と思ったのと……たっぷり溜まってい
るのを自覚していたのだ。溜まっている袋が……パンパンだった。
「あれ? 逆かな……」
 開封したゴムに手こずる竜児。うまくつけられない。尖端の、ふくらんだ部分に引っかかる。
「かして」
 もたもたしていてたら、実乃梨が手伝ってくれた。器用に反りあがる竜児の本体にクルクル
巻きつける。ゴムの圧迫する感触に、声を漏らす。
「おうっ!……は、恥ずかしい」
 実乃梨の柔らかい指で巻きつけるときに、反っているものの裏側を触られ、そこが生き物の
ように何度もピクピク跳ねたのだ……やりづらそうだった実乃梨は、跳ねていたものの尖端を
彼女のやわらかい唇ではさみ、押さえつけたのだ。
「……恥ずかしいのは、お互いさまでしょ?……私だって声だしちゃったもん……でも竜児く
 んだから……竜児くんだけ。竜児くん限定」
 けなげな言葉に悩殺される。竜児の背中から、ぞぞっと、何かが押し寄せる。それに侵され、
竜児は……オフェンスになる。劣情がほとばしる。
「実乃梨っ!」
 抱いた。思いきり。無我夢中だった。狂ったように彼女にむしゃぶりついた。しかし彼女は
それを受けとめてくれた。ヌメる汗が、その抱擁を滑らかにする。多量に分泌される汗のわけ
は、真夏の熱さか、情熱か。
「実乃梨っ、実乃梨っ!」
 何度も彼女の名を叫んでいた。
「竜児くん、ああ、竜児くんっ!」
 彼女も答えてくれる。からだをくぬらせ、悶え、たくさん愛しい存在を確かめ続ける。実乃
梨の柔らかい胸、尻、腿をもう指先どころか、からだ中で竜児は揉み始める。実乃梨が欲しい。
すべてが欲しい。そうしているうちに、彼女の腿の間に、からだがするっと滑り落ちる。竜児
の熱い部分が、実乃梨のあそこに接触する。ヘソの下のゾワゾワ落ち着かない自分自身を握り
締める。ゆっくり、だったつもりだったが……
162みの☆ゴン159/164 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/17(日) 22:15:58 ID:u50kSign
「ああっ! ひっ……くふっ!」
 汗なのか違うものか、ニュルリとすべってしまい、一気に根元まで挿れてしまう。ワザとじ
ゃない。しかし……ものすごく気持ちいい。
「はくぅ!……実、乃梨っ」
 結ばれた下腹部の熱。ピンクの唇から沸く息の熱。その熱に竜児はとろける。
「はぁっ、はぁっ、あんんっ、んふっ!」
 いっぱいキスをする。実乃梨のいろんなところにキスをする。強く引きよせる彼女のからだ
をこねるように揺さぶらせる。喘ぐような彼女の甘い吐息に翻弄させられる。腰の奥で高まっ
ていく疼きが、竜児の指を実乃梨の乳房を掴ませる。ありえないほど、彼女のすべてはやわら
かい。
「あんっ、あんっ、あはんっ!」
 目前で揺れる潤んだ瞳、悩ましげな表情の彼女に、さらに高ぶる鼓動。可愛い。愛しい。狂
おしい。激しい感情をぶつける竜児のからだを、実乃梨のしなやかな脚が巻きつかれる。強く。
それが臨界点。白い光が竜児のからだを貫いた。
「おうっ!」
 ……そして竜児は、愛の限りを放出し……やわらかい実乃梨に抱き留められる。
  で、
「ねえ……重いかもっ!」
「もほうっ! ずまねえっ!」
 鼻をつままれ、怒られちゃう竜児。慌てて身を起こす。
「あははっ、竜児く〜んっ、仕返しっ!」
 実乃梨はおりゃあっ!って、竜児を押し倒して、乗っかってきて、絡み合ってくる。今度は
ほっぺたを引っ張られ、首を噛まれ、脇の下をコチョコチョされる。
「やっ、やめろって、おいっ、実乃梨っ!」
「やめな〜い! さっきいっぱいエッチな事されたしっ、痛かったんだモンよっ! とーっ!」
 そんな感じでしばらくじゃれあった後、二人は手をつないで、優しくゆったりと唇や舌を味
わいながら……眠りにつく。

***

 真夜中に独り、浅い眠りから醒めた私は、愛しあった余韻にまどろみながらそっと、彼のほ
ほを撫でていた。窓の外へ目を移すと、雪のように星が降るのを見つける。あ、流星っ!……
ねえ竜っ……っと、彼には内緒にしとこう……だってこんなに気持ち良さそうに寝ているのだ
もの。起こしちゃったら、かわいそう。そっと、見つめるだけにしよう。キスも、我慢。だっ
て、となりにいるだけなのに、ゆったりとした幸福感に包まれるんだもの……。
 17回目の夏。あと何回、私に夏が訪れようと、きっとこの夏がいちばんの宝物……月明かり
を頼りに、眠っている彼の姿を見つめなおす。大好き。そう想ってあわてて言い直す。ジャイ
アント愛してる……ふふっ、なーんてっ……想い出し笑い……。
 昨日、実乃梨は星に願った。この愛情を永遠にと。でも、どうしても、不安になる。今がと
っても幸せだから、だからこそ不安にかられる。私を愛したことを、彼はいつか、後悔しない
のかなって……彼は私を太陽にたとえてくれた……けど違うんだ……彼は私のこと、すっごく
イイもんみたいに思ってる。でも、いつか私のことが全部わかってもきっと──やさしい彼は、
私を受け入れてしまうだろう……それを私はわかっているから、だから私はただ底なしに傲慢
で、──ずるいんだと思う……もちろん私もずっと彼と一緒にいたい。3年になっても、卒業
しても、大学に行っても、社会に出ても、ずっと、ずっと一緒に生きたい。彼をずっと見てい
たい。だから、だからこそ……切なくなる。初まりがあれば、終わりがあって……かならず訪
れる永訣のとき。
「泣いているのか?」
 彼が起きてきた。声色で本気で心配してくれているのがわかる。彼に指摘されるまで、涙な
んて気付かなかった。あんなに愛を確認した後にふっと涙をこぼしたりして、おかしいと思わ
れただろう。
「へへっ変だよね……泣くなんて……私ね。幸せすぎて、こわいの……手にしてしまった幸せ
 が……私、あなたにふさわしいおんなになるから、頑張るから……だから……ずっと」
 やさしく彼が涙を唇で吸ってくれた。私の不安と一緒に。
「実乃梨……安心しろ」
 目が合って、私は彼の言葉の真剣さを知る。その瞳をのぞき込むと、そこには裸の私がいた。
163みの☆ゴン160/164 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/17(日) 22:17:21 ID:u50kSign
「……風と木の詩って知ってる?……読んだことないならネタバレになっちゃうんだけどさ、
 ひどいんだよ?」
 私は時折読み返したりするその話の顛末を彼に伝える。運命的な出会いと、崇高な愛の末、
最後は愛するが故に胸を裂くような悲劇を迎えてしまう……そして、ひととおり喋り終わると、
彼は物語と違う、血のかよった温かな手を重ねてきた。
「ああ、実乃梨。俺にも先の事はわからねえ。だから……」
 だから?……彼がジッと動かなくなる。そんな彼は不器用ながらも言葉を選んでいるみたい
にみえた。沈黙はもどかしく、永遠に感じられる。でも、それが、真剣で実直で純情な彼らし
く、こういうところが好きなんだ、と不意に私の心臓に熱いエネルギーが満ちる。
「その答えが出るまで、とりあえず一緒にいようじゃねえか……答えが出るまで。ずっとな」
「フグッ……泣かないって……グスッ……決めたのにぃ……ウクッ」
 涙が止まらない。今、月だけが唯一の光。彼は月光のように、私をやさしく包みこむ。
もし、このまま世界が闇に包まれ、太陽が昇らなくても、私はその明かりだけでも生きていけ
そうな気がした。ずっとそばにいる。その言葉を彼から贈られた私は、今日も明日もずっと、
何もこわくない。生きていくにはいろんなことがあるだろう。でも彼のためになるのならば、
私は強くなる。もう泣かない。泣いたら愛する彼がぼやけて見えなくなっちゃう。一秒でも永
く、愛する彼を見ていたい。一番近くで……だから泣かない。これで最後。そして頬を流れ、
唇を潤し、最後の涙は温かく……幸せの味がした。

***

 二十五年後、九月。
 高校二年生、想い出の沖縄旅行。思い起こせばあれから二十五年もの月日が流れた。
 齢40年を過ぎ、貫禄ある竜児。若かりし頃には予測だに出来なかったが、周りの奴らを不
覚にも威嚇しまくっていた悪人面も、年輪を重ねていき、ずんぶんと柔和になったものだ。ま
あ実際には三十路らへんまでは色々誤解されたりしたことがあったのだが。
 竜児が全身鏡の前でそう述懐しているこの場所は、とある関東北部のホテルの一室である。
鏡の中の竜児は、光沢のあるブラックの燕尾服を着ていて、さっきから前ボタンが少しほつれ
ているのが気になっていたのだが、残念ながら手元に裁縫道具がなく、どうしてくれようか思
慮していたそんなとき、竜児のケータイが振るったのだった。……メールのようだ。チェック
するとゴッドマザー泰子からのメールで、『竜ちゃんそろそろ時間だから、急いで〜☆』との
こと。……そうか、もうこんな時間か、急がなくては。ちなみに泰子は還暦までのカウントダ
ウンが始まり、あの時と違い、流石に永遠の二十三歳とかは言わなくなったが、最近は祖母の
園子の孫だとか宣う。まあ、泰子らしいのだが……。
「よしっ……あいつ……いや、実乃梨のところに行くかっ」
 彼女をそう呼ぶのは何年ぶりだったろう。最後に口にしたのはたしか、あいつ……いや実乃
梨が現役引退するときだった。あの時も今度は冬季オリンピックに出る〜だのなんだのと、い
い争ったっけ……おっと、そんな想い出に浸っている時間はない。もう一度だけ鏡の前で前髪
だけくゆらせ、竜児は部屋を出た。

***

 ホテルから一番近い、駅前ロータリーに停車している外国製のセダンの重厚なドアが開き、
中から優雅な貴婦人が降り立つ。そのレディーは、いくら祝いの席に招かれているとはいえ、
派手な花柄のビスチェドレスを纏い、首筋から肩、腕のラインを美しく晒し、強調されたバス
トを張って、今日の主役が誰か判らないくらい目立ちまくっていた。残暑厳しい九月の日差し
に、少し不機嫌そうに美しいラインを描く眉をひそめる……ように見えたが、どうやら違うら
しい。まるで彼女が二十五年前に沖縄旅行で日蝕を見た時と同じ姿勢……ただしその訝しげな
面もちも、駅の階段を降りてくるやはり小柄ながら整った蕾のような繊細な顔立ちの淑女を見
つけるやいなや、一気に薔薇のような笑顔を咲かせるのだった。しかし薔薇にはトゲがある。
164みの☆ゴン161/164 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/17(日) 22:20:36 ID:u50kSign
「ひっさしぶりじゃんっタイガー! あれ? ちょっとは背伸びたかな? なわけねーかっ!」
「こっちも久しぶりに殺意を覚えたわよ、ばかちー。これからみのりんたちの祝いの席じゃな
 ければ、今頃貴様をモグッ、モググ」
「ずばりモルグだな、大河。亜美、ご無沙汰だな。元気そうな姿はテレビで確認しているぞ!」
 吃ってしまった大河をそう呼び捨てするのは北村祐作。彼女の旦那だ。スーツの襟を正し、
凛凛しく爽やかに歯をキラリと輝かせ見事に百点満点だ。社会の窓が。
「佑作もご無沙汰ね。ま〜上手くやってるけど、華やかそうに見えて結構大変なのよ? ママ
 が業界人だったから余計よね。七光りだって思われたくないし、今日だって本当は……あっ、
 春田くんこの後のスケジュールは?」
 と、唐突に亜美に呼ばれた春田は運転席から相変わらずのアホ面をニュッと覗かせ、分厚い
手帳をペラペラめくる。
「イエーッスッ、亜美ちゅわ〜んっ、え〜っと、テッペンにギロッポンにマエノリして、アサ
 イチでカメリハで、そのままシーメーをクーイーにイークーって感じ?」
「……なんかすっごい胡散臭い業界用語なんだけど、間違いなく最後のほうは『食ーいーに行
 ーくー』よね……あいかわらずアホで安心したわ」
 髪をアップにしていて、全開のおでこを指で押さえる大河。亜美は複雑な表情のまま腕組み。
「否定はしないけど、あたしのマネージャーをあんましバカにしないでよね、これでも結構……
 てか急がなきゃ! 麻耶も奈々子とかもみんなもう集まってんだからっ! あんたたちが最
 後なのよっ、ほら乗って!」
 と、大河の小さい尻をクラッチバッグで叩き、車に乗せる亜美。春田は慌てて危うく車を逆
車線に入れそうになるが、助手席に乗り込んだ北村がさりげなくハンドルを切り、車が棺桶に
なるのを回避するのであった。
「……どうだろう春田。運転変わらないか?」
「この前まで亜美たんとロ〜マにいたからさ〜、あっちは右側通行なんだよ〜! メ〜ンゴ!
 チョイモ〜だし走り出っちゃえばキ〜へ! だって俺、チューリッヒにクリビツにクリソツ
 だっしー☆」
「それをいうならシューマッハだな? 例えが古くて分かりづらいぞ。そうだ亜美。今日、村
 瀬は来ているのか?」
 バックミラー越しに見た美人は化粧直しをしていた。文字通り虎視眈々とイタズラしようと
しているシルクドレスにボレロを羽織る彼の妻、大河も見えた。
「ちょっとタイガー、マジやめてくんない?化粧がズレる!……えっ何、祐作。村瀬くん?
 ざ〜んねん。村瀬くんは仕事だって。忙しいみたい。最近出生率も上がってるし、産婦人科
 医も大変よね〜。あんたたちはもう作んないの?四人目。って、だからやめろってチビとらっ!」
 なにやら騒々しい後部座席に北村はすらりと答える。
「いや、欲しいのは山々なんだが、なかなかコウノトリも忙しいらしくてな。しかし俺たちも
 そうだったが、我が同窓生たちはみんな村瀬の病院だな。去年能登と木原もそうだったらし
 い。亜美こそどうなんだ? その年で初産だと大変だぞ?」
「っふー! そんな事より祐作! この馬鹿トラなんとかしなさいって! だいたい年のこと
 はお互いタブーでしょ? それに……ガキなんて、相手がいねーと無理じゃん……ねえ春田
 くん?」
 と、亜美から話題を振られてハンドルも振られてしまう春田であった。

***

「俺だ。入るぞ」
 竜児はホテルの同じ階にある実乃梨がいる控え室のドアを開ける。
「あー、やっと来たよこの人は。もうみんな集まってるみたいだよ? さっきみどりが来て教
 えてくれた……って、おおっ、ちょっとあんたカッケーじゃん! ウチだといつもスウェッ
 トだから見違えるようだよ! 馬子にも衣装だねえ」
 惚れてまうがな〜っと、竜児に振り向き、舐めるように見回す実乃梨は、純白のウェディン
グドレスに着飾り、髪はベーリーショート、四十を超えてもなお、一時代を築いたトップアス
リートらしく、精悍で威厳のある引き締まったカラダのラインを描いていて、制服の頃からは
想像も出来ないほど美しく変貌を遂げているのである。
 実乃梨こそ馬子にも衣装だろ、と密かに想う竜児の心を実乃梨は今もなお、過ぎ去った日々
の彼女のままに、ガッチリ魅了し続けているのだ。
「お前も、綺麗だ。いままで出逢ったお前の中で、一番……」
 その言葉は本心だったのだが、ウエディングドレス姿の実乃梨は、なんてことなさそうに顔
の前にかかっているベールをウザったそうに撥ね上げ、腰に手を当てる。
165みの☆ゴン162/164 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/17(日) 22:22:47 ID:u50kSign
「何それいきなり。気持ちわりーって。もう来年お互い44マグナム歳なんだぜ? 今更煽て
 られてもなんにも出ねーっての……てかそういう事、恥ずかしいからみんなの前で言うのや
 めてよね? 特に……あいつらの前で」
 あいつら?……ああ、『あいつらか』……そう竜児が納得すると、コンコンッ! と、ドア
をノックする音。どうやら『あいつら』が来たようだ。ドア越しに元気な声を響かせる。

「パパっ! ママっ! も〜う早くしてよっ! 日蝕になっちゃうっ!」
「なんだよ姉ちゃん慌てんなって! まだそんな急がなくて平気だろ? せっかく結婚15年
 目の水晶婚式なんだからよ。慌てさせんなって! おお、親父、お袋っ! ふたりとも、す
 っげーキマッてんじゃん! 似合ってるぜ☆」
 ドアから入って来たのは、竜児と実乃梨の愛しの息子、娘のふたり。見なれない両親の晴れ
姿に感動し、素直にからだで表現。ピョンピョン飛び跳ねるのだった。
「うわ〜っママ、ちょー綺麗〜。私もそれ着た〜い」
 娘は祈るように手を組み、母親譲りのドングリ眼を輝かせている。息子も照れたのか、シャ
ープな目を細め、前髪をクルクルくゆらせるのだ。
「なははっ、二人とも大袈裟だって。照れるでござるよ。ねぇ? パパ……竜児くんっ!」
 そう言い直す妻の顔は、ほんのり桜色に染まる。まあ、竜児の方が多分赤いのだが。
「おうっ! その呼び方久しぶりだな……実乃梨。じゃあ、行くか。みんな待ってる」
 パンっと手を叩く竜児。実乃梨もにっこり笑顔を満遍なく振りまく。
「そうだねっ、おっしゃあっチビども、待たせたな! 行っくぜ〜」
 子供たちの肩を両脇に抱き、笑顔を並べ、式場へと行進しはじめる。その三つの背中を追い
ながら竜児は想う。あの沖縄での日蝕からいつも竜児のそばには実乃梨がいてくれた。結婚し、
新しい命を授かり、珠玉の日々は過ぎ行くほどそのスピードを加速させていき、二十年以上前
から決めていた今日のアニバーサリーセレモニーも振り返れば瞬く間に迎えるのであった。

 ……沖縄で語り合った二人の未来の結末。まだあの時の答えは出ていない。人生は有限で、
残りの時間は確実に一秒ごと短くなっていく。それまでに答えは出るだろうか。まあ、出なく
ても俺はこのまま……なんてことを。

「……アハハッ! だよね〜、ねえパ……ああっ、パパ遅くれてる! 置いてっちまうよ!」
 そう言ってビシッと指差す母親ソックリに綺麗に成長した娘に苦笑し、竜児は足を早め、
四人で肩を並べて歩いていく。ズンズン進んでいく、八つの瞳の向う先、廊下の突き当たりに
は、チャペルの扉があり、その前で水晶婚式のコーディネーターが待っているのが見える。
 もうすぐだ。また、あの瞬間を迎える。

 今日は2035年9月2日、日曜日。実乃梨と迎える、二回目の皆既日蝕である。

***

 天井まである大きなチャペルの扉の先から、聞き覚えのあるたくさんの話し声が伝導って
くる。コーディネーターから、「右足からですよ」っと再確認され足元を見ると、実乃梨の
手にしているブーケが小刻みに震えていた。
「なっ、なんか緊張して来た。結婚式二回目なのにっ」
 現役時代の健康的な小麦色の肌から一転。透明感のある肌の実乃梨。唾を飲みこむ喉も真っ白だ。
「今日は結婚式じゃねえ水晶婚式だろ。でもまあ、披露宴だけで良かった気もするんだが……」
 安心させようと手を握ろうと差し伸べると、手首を軽く捻られ、実乃梨は口先を尖らせた。
「細けえこたーいいんだよっ。ってか決めたの竜児くんじゃん。二十年前だけどねっ」
 っと言い放ち竜児の手首をペッっと開放する。少し機嫌を損ねたようだったが、とにかく
緊張は解けたようだ。両脇に控えてる子供たちは揃って「へーっ、二十年前!」と唱和する。
「昔のパパって、結構ロマンティックでドラマティックだったんだねっ。オープンエアの
 チャペルなんてよく見つけたよねえ。私も結婚するとき、ここで式したいなっ!」
 と、娘は竜児に小麦色の眩しい笑顔を向ける。すると反対側からわんぱくな声が茶化してきた。
「オメーみてえな跳ねっ返りオンナ、結婚相手が見つかるわけねえよ、な? 親父」
 大丈夫だ息子よ。おまえの母親も相当だったぞ。しかし無愛想な口をきく息子。ったく誰
に似たんだか……それは俺か。
166みの☆ゴン163/164 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/17(日) 22:24:33 ID:u50kSign
「そんなことより自分の事心配しろ。てか、ヴァージンロード歩くとき、コケんじゃねえぞ」
 正面向いたまま答えたので息子の反応はわからないが、実乃梨が頭を撫でたのは横目で見
えた。母親になった実乃梨は、その爆発するような熱血さと、抱擁感あふれる愛情を湯水の
ように注ぎ込み、子供らをまっすぐ健やかに育ててくれた。
「あ、それはそうと二人のどっちでもいいからさ、式の後の披露宴ん時に、裁縫道具持って
 きてよ。パパのボタンほつれてる」
「おうっ鋭でえな! 何故わかったんだっ実乃梨……すげえ」
 驚いて見合わせた顔。実乃梨は呆れたようにピンクの唇を半開きにして、肘で突っついて来た。
「やだよ竜児くん。いったい何年あんたの女房やってると思ってんのよ? 大日本暴猫連合
 なめんなよ」
「暴猫?……何だよそれ……おうっ! 扉が開いたっ」
 開かれていく扉。飛び込む光景。背後からくる追い風。髪が靡く。その匂い。背筋を伸ばす。
 そして、拍手の中に一歩踏み出す。

***

 チャペルの扉が開き、オルガンの音が鼓膜に響く。立会い席の一番手前にいたのは彼の仕事
関連の同僚、上司。私の現役時代に世話になった恩師、後輩たち……いったい彼等の目に私た
ちはどんな風に映っているのか……こわくて聞けない。彼と並んでまた一歩進んだ。
「ちょっとマジもんの結婚式じゃねえかこれ……アリなのか?」
「アリアリアリアリアリーデ……って変なこと言わすなっての」
 もう一歩進む。ゆっくり、じっくり。日蝕で薄暗いヴァージンロードを、私は彼と共に一歩
づつ歩いていく。そして、立会い席の中に、懐かしい大橋高校の同窓生、能登くんと春田くん
がいた。手をブンブン回している。あーみんと奈々子ちゃんと麻耶ちゃんの美女軍団の笑顔も
見えた。ベール越しに覗いてももその色気に悩殺されそうになる。その隣には恩師、ゆりちゃ
ん先生も。元気そうでなにより。結婚式に来てくれた萌香ちゃんと一緒だ。
 ヴァージンロードも半分進んだところで彼が小声で、

「……実は用意したクリスタル。指輪じゃなくて、ネックレスなんだよ。大丈夫かな」
「わーお、衝撃の告白じゃん。まあ結婚指輪すでにあるしね。いんじゃねーの?」
 軽く流して再び立会い席に視線を向けるて、数々の笑顔の中でも一際輝いていた無二の親友、
北村大河がいた。こんな可愛らしいアラフォーどこにもいねーって……その旦那の北村くんの
となりに……なんかすっげーでかい人が狩野先輩と一緒にいた。先輩の妹さんは、旦那がマン
ホールに落ちたとか言って祝電だけ着ていた……そして、立会い席の最前列に控えるは、私た
ちの親族たち。意外にも手を叩いて爆笑していて相変わらず賑やかだ。その母親たちはオレン
ジ色のヘアピンが並んで揺らしていた。その幸福そうな光景は、私の心を捉えて離さない。

 ──と、その時、赤い閃光が走る。ダイヤモンドリング。あの時、高台でキスしたときの彼
の乾いた唇を思い出す。
彼との熱中した、本気だった、笑った、頑張った頃の記憶は、いつでも心に焼き付いている。
皆既日蝕が始まり、上空を見上げる。しばらく忘れていた、温かいものが瞳に溢れそうになる
……けど上を向いていれば、涙は流れない。

「果報者だな……俺たち」
「……っだ、ね……」

 祭壇の手前で視線を戻した私の頬を熱い涙が伝う。
「あ、ママお化粧落ちちゃうっ! 涙拭くからコッチ向いて」
 普段化粧をしない娘はハンカチでゴシゴシ私の顔を拭く。なんて乱暴でガサツなんだ……
いったい誰に似たんだか……それは私か。
167みの☆ゴン164/164 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/17(日) 22:25:24 ID:u50kSign

「んっ、さんきゅ……竜児くんとの約束通り、今まで何があっても泣かなかったのに……
 年取ると涙もろくなるなあ〜。あーやだ」
 グスッと鼻をすすり、正面を向く。
「実乃梨、こういうときは泣いてもいいんじゃねえのか? 」
 やさしい彼の言葉にときめく。デジャブ……ではない。私はずっと彼を大好きなんだ。
「泣いてねーよ。心の鼻血だよ。あーもー竜児くんこんな時にくだらねーこと言うなって」
「おうっ、何だよそれ。なんか愛が感じられねえ……ずっと、見届けるんだろ? 俺たち
 の結末を」
 見届けるもなにも、実は彼との結末なんて私はとっくにわかってるのだ。ちょっと考
えてみれば簡単だった。あんなに感動する必要などなかった。
「まーね。てか私竜児くんの事、愛してるって。マジで。ジャイアント愛してる。恥ずか
 しいからもう二度と言わない。今のが最後」
 二人の愛の結末は……永遠なんだ。私たちのカラダが朽ち果てていても、私たちが育んだ
愛は、数え切れない想いを重ね、結晶となって私のお腹から産まれ、この子たちに宿り、そ
して永遠に引き継がれていくのだ……
 祭壇に立ち、神父が宣誓を求めてくる。「誓います」っと定番の言葉が胸に、染みる。

 そして式は大詰め、誓いのキスを残すのみだ。タイミングは二回目のダイヤモンドリング
の瞬間。日蝕はまだ続いていてその間、私たちはずっと見つめ合っている。
 すると彼がさっきの続きを小声で話しかけてくる。

「最後ってなんだよ実乃梨。ケチんなよな。ジャイアント愛してるって、俺は何度でも……」
「ちょっとおだまり竜児くんっ、祭壇で喋んないでよ。これから誓いのキス、するんだから」
「……一生かけて言わせてみせるからな、実乃梨」

 私は言葉を贈る。天空のダイヤモンドリングと共に、万感の想いを込めて。

「今際の際に言ってやる」


 そして、地上の太陽と月は、永遠に重なりあうのだ。



 おしまい

168 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/17(日) 22:26:15 ID:u50kSign

半年近くお邪魔させて頂きましたが、以上になります。

お読み頂いた方、大変有り難うございました。基本コメ書かないのですが最後
なので一言。某VM様へ。あのあーみんのコメがなければあそこで終了させて
ました。まとめの方と某KA様。開始後2ヶ月目くらいが一番辛かったのですが、
詳しくは書きませんが、お二人がいなかったら完結できませんでした。お三人
様には大変感謝しております。ありがとうございました。またこの時間をお借
りするかもしれません。


失礼致します。
169名無しさん@ピンキー:2010/01/17(日) 23:01:19 ID:k52J42YT
>>168
GJ!
ずっと楽しませていただきました!
無事の完結、大団円、お疲れさまでした!
またどうかいらっしゃってくださいませ
乙!
170名無しさん@ピンキー:2010/01/18(月) 06:16:46 ID:IRs1zMep
もう来るなよ?
いや、ほんと頼むからさ
171名無しさん@ピンキー:2010/01/18(月) 07:11:58 ID:dD4+Q8RI
>>168
GJ&乙
初めて見たときから確実に上手くなってるな、と。
原作読みこんでるだけのことはありますね。
9Vさんの作品見に来ていたようなものですから次回作をやるならまたぜひこのCPでww
172名無しさん@ピンキー:2010/01/18(月) 08:18:32 ID:10z+p2Rz
>>168
乙!!
173名無しさん@ピンキー:2010/01/18(月) 17:25:36 ID:Pa9UTYjr
GJ
174174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:15:05 ID:q++ZHMUr
「ゆりドラっ」の続きを投下
175174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:17:18 ID:q++ZHMUr

「きゃん」

足先に何かが引っかかった感触で目を覚ました。
間を置かずにまだ寝ぼけた頭に降ってきた泰子の、歳に似合わなすぎるのに似合ってしまっている小さな悲鳴。
それと、胴体目掛けて降ってきた泰子本人。
寝起きには中々ヘビーだ。
文字通りの意味で。

「ひっく・・・はれぇ〜、りゅうちゃんだ〜」

眼前に迫る泰子は相当に酔いが回っているようで、香りがキツい安物の香水を掻き消すくらいに酒の臭いをプンプンさせている。
呂律もかなり怪しい。
目元も、眠気も手伝ってるんだろうが潤みを増していて、なにが面白いのかケタケタころころ笑っている。
また飲みすぎたらしいな、この様子だと。

「んふふふ〜りゅ〜う〜ちゃ〜ん」

悪酔いはしていないみたいで、また、昨日晩飯を用意できなかったのを忘れてる模様。
随分とご機嫌だ。
寝転ぶ俺の頭をわしわしぐしゃぐしゃ撫でたりもみくちゃにし、しまいには両手でかき抱いて頬ずりまで。
覚めきってなかった頭が本格的に動き出す。

「そろそろ降りろ、重てぇんだから」

「ん〜ん、やぁだぁ。ていうかやっちゃん重くないもん」

子供か。
いや、子供だったら体重のことをとやかく言われてもなんともないだろうし、こんなデカイ物だって二つもくっ付けてる訳ないから、
やっぱり子供じゃないんだが。
子供がそのまま成長したようなもんだろう、これは。

「分かった、分かったから、とりあえず降りてくれ」

「むり、もう寝ゆ」

時間は───六時を回ったところか。
眠いのも頷ける。
いつもならもう帰ってきて、寝ててもいい頃だ。
多分帰るのを渋ってこんな時間になるまで居座る客でもいたんだろう。
たまにそういうことがあるし、自室までたどり着く前に泰子が力尽きて、居間でいびきを掻いているのもザラだ。
今みたいに気温が低い時期はあんまりしてほしくないが、しょうがない。
仕事で疲れてるんだ、小言は飯の時にでも言えばいい。

「ほら、今作ってくるから、朝飯できるまでこれ使ってろよ」

「あん・・・むぅ〜・・・」

今まで被るようにして掛けていた毛布は、寝てる間に移った体温がまだ篭っていてそれなりに暖かい。
それを、コロンと横へ倒した泰子に掛けてやる。

「え〜いっ」

「うおっ!?」
176174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:18:08 ID:q++ZHMUr

つもりだったが、毛布を掛けようとしたところで仰向けに寝ていた泰子はいきなり飛び上がり、俺はまた泰子を乗っけて床へと寝転んだ。
ドシン、なんていう派手な音と共に。
朝っぱらから近所迷惑なことをしておいて、当の本人は謝りもせず、それどころか俺が手にしていた毛布を手探り寄せるとそれを広げ、
そのまま自分に掛ける。
俺を敷布団にしたまま。
普段はとろくて、しかも酔っ払いのくせに、流れるような機敏な動きだった。

「あ〜これいい〜・・・ぬっくぬくでぇ、ちょっと硬い気もするけど寝心地いいなぁ」

「お前、いい加減に」

本気で押しどけようとした時、近くで何かが軋む音がした。
思わず泰子の脇に回した手が止まる。
じんわり手の平に広がっていく泰子の体温を感じてハッとした。
なんかこれヤベェ。
そう思い、慌てて飛びのこうとした刹那。

「おはようございます・・・? 高須くん、どうかし」

襖が開いた。俺の部屋のだ。
中から誰かが出てくる。
昨晩、ほぼ文無しのガチ宿無しになったところに出くわし、なし崩し的に昨日一晩泊めた先生。
今ので目を覚ましたんだろう。
しかし、様子を見にきたところで固まる。
視線も固定している。
その先にいるのは俺。
対し、俺が見ているのは先生の手元。
添えられた襖の取っ手。それが付いている襖全体が、よくよく目を凝らすと微かに震えている。
地震だ。
震源地は、襖に手を掛けてこちらを凝視している。

「ねぇ竜ちゃん」

「あの、高須くん」

泰子と先生が口を開いたのはピッタリ同時だった。

「だれ?」
「どなた?」

今俺の上に乗っかってる酔っ払いは母親で、俺の部屋から出てきたのは担任の先生だ。
そう説明してすんなり信じてもらえるような感じじゃなかった。
泰子も、先生も心なしか目が据わっている。

「えっと・・・」

そんな二人から視線を逸らしたのがマズかったのかもしれない。
そんな気全然ないが、やましいモノだと勘違いさせるには十分だったんだろう。
泰子がしゃくりあげる。

「りゅうちゃんが知らない女の子連れ込んだぁぁぁぁぁ・・・」

「なんですってええええええええええええええぇぇぇ!?!?」
177174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:19:08 ID:q++ZHMUr

そんな絶叫が隣のマンションから木霊した。
耳にした時には既に行動を開始していた俺は、泰子を無理やり床に降ろすと玄関へと一直線に駆けていく。
外からは一足飛びに階段を駆け上がるけたたましい音が。
クソ、速え。
こんな短時間でどうやってここまで来たんだ。
間一髪どうにか鍵と、もしもの用心にとチェーンを掛けた瞬間。

ガチャン!! ガチャガチャガチャガチャンガチャガチャガチャガチャガチャッ!!

備え付けてある覗き窓の外には耳障りな金属音に合わせて猛烈に揺れ動く、フワフワとした見慣れた長髪があった。
角度の関係もあってその下は窺い知れない。
知れないが、その下を見たら忘れられそうにないだろうから知りたくない。

ガチャガチャガチャガチャン! バンッ!

もうダメかもしれない。
心が折れかけ、諦める寸前まで、ノブどころか錠前をドアごと破壊する気だとしか思えないくらい力任せに抉じ開けようとしていた
薄っぺらいドアの向こうにいたそいつは、しばらくすると最後に蹴りを一発入れて、来た時とは逆に静かに階段を下りていった。

「な、なに、どうしたの高須くん? ていうか、今のって逢さ」

「泰子」

話をぶった切ってしまって先生には悪いが、今はこっちが先決だ。
玄関の施錠はそのままに、俺は居間へと戻る。

「・・・なぁに」

ふて腐れてますって態度全開に毛布に包まり寝転ぶ泰子。
肩を揺すっても顔を向けず、イジケた声を出す。
正しく手のかかる子供そのものだ。

「いいか、ちゃんと聞けよ。この人な、先生だぞ、先生」

「ふーん、へぇ〜、そうなんだ、先生なんだぁ、せんせい。そういうアレなの?」

何のことだ、アレって。

「やっちゃんあんまりこゆこと言いたくないんだけどぉ、ふぇちっていうんだっけ? うん、そうふぇち。
 それでね、あんまりそういうのにこだわってるとね、どうなのかなぁって」

「俺はお前の頭の方がどうかと思うけどな。それと俺にそんな趣味だのフェチだのはねぇ」

気のせいか背後から「ないの!?」って聞こえたような。

「ううん、隠すことじゃないよ? 悪いことでもないし、ただぁ・・・なにか言うことあるんじゃないかなぁ」

ごめんなさいっていうのは悪いことをした時に使うんじゃないのか。
たしかまだガキの頃にそう口を酸っぱくして教えられた覚えがあるんだが、教えたのは誰だったか。

「なんで謝んなきゃいけないんだ」

「だってそうだもん、竜ちゃんがいけないんだもん。やっちゃんも大河ちゃんもいるのに勝手に女の子連れ込んで、うそまで言って」

「俺がいつウソなんて言った」

「言ってたもん、今そのひとのことせんせいって」
178174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:20:09 ID:q++ZHMUr

その説明をしようにも、泰子は矢継ぎ早にぶーぶー文句を垂れているばかりでちっとも耳を貸そうとしない。
泰子の中では完全にそういうことになってしまっているらしく、俺は隠れて女を家に上げて、
しかも現場を押さえられたというの、この期に及んで先生だなんて偽って言い逃れをしようとしている風に捉えられている。
ついでになにやら変な趣味にまで手を染めているという疑惑まで。
誤解も誤解、現実からかけ離れた勘違いだ。
突飛すぎて頭痛がしてくる。

「そんな見え透いたうそなんか言って・・・竜ちゃん・・・うそ・・・」

声色に翳りが見え隠れしてきた。
毛布の中でモゾモゾ身じろぎをしていると、不意にすっぽりと頭まで覆う。
蓑虫よろしく、そのまま泰子は黙りこくってしまった。

「おい」

とりあえず揺さぶってみるものの反応なし。

「おいって」

強引に毛布を引っぺがしにかかるもビクともしない。
頑なに拒否される。

「そうだ、昨日食いたがってたプリンが冷蔵庫にあるぞ」

本当はそんなものすっかり頭から抜けてて買っていないが、この際顔を出してくれそうならなんでもいい、ものは試しと嘯いてみる。
しかし、結果はいやいやと身を捩じらせ、床を擦り這って距離をとられただけだった。
いや、最後に右手だけ毛布から出すとピッと放り出されていたバッグを指す。
その下には押しつぶされたコンビニの袋。
中身はよりにもよってプリンだった。

「なぁ、ちゃんと聞いてくれないか、話」

困り果て、できるだけ落ち着いた声をかけてみても無視。
泰子は一向に被った蓑ならぬ毛布から出てこない。
しばし待ってみるが、それで何かが変わることはなく。

「勝手にしろ」

時間も時間だ。
さしあたって朝食の支度をしなければならないため、これ以上は付き合いきれない。
垂直に立てれば天井に届きそうな深い溜息を残し、立ち上がろうと床に手を着き腰を上げる。

「・・・なんで・・・」

するとようやく泰子がこちらに顔を向ける。
半分だけ頭を出しているのでどんな表情なのかまでは判別できない。

「なんで竜ちゃんが怒るのぉ・・・竜ちゃんがわるいのに・・・」

目尻から珠になった雫がこぼれる。
両の指先で軽く摘まれていた裾をぎゅっと、固く握り締める。

「や、泰子?」

「うそまでつく竜ちゃんがぜんぶわるいのに、なんでやっちゃんのこと怒るのぉ・・・なんで・・・?」

「いや、そんなんじゃ」
179174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:22:06 ID:q++ZHMUr

顔をくしゃくしゃに歪めた泰子に見上げられ、途方にくれる。
焦り、落ち着けようとするも、「ぐず」だの「ふぐ」だのと嗚咽を漏らす泰子は、

「ねぇ、なんでぇ・・・?」

そう繰り返すのみで、何度もそうじゃないと俺が言おうとしても、

「竜ちゃんのはなしなんてききたくない・・・どうせまたうそんこだもん・・・」

というように聞いてもくれず、取り付く島もない。

どうしたものかと思案していると、ふと視界の隅でなにか、動く影のようなものを捕らえた。
具体的にどこら辺かというと、窓の外。
普段なら気のせいか、スズメかなんかだろうとそれ以上気に留めたりはしないだろう。
しかし、だ。
何故だかこの時、俺は自然と玄関に目をやっていた。
距離にしたらおよそ5〜6歩といったところか。
鍵はかかったままだ、さっき俺がかけてそのままにしてある。
その向こう、外からは人の気配はしない。
ぶっ壊しそうな、いやもうぶっ壊すぐらいの勢いで抉じ開けられようとしていたドアは静かにそこに佇んでいる。
勝手に誰かが入ってくるという事態にはならないだろう、チェーンまでしてあるんだから。
安心していいはずだ。
なのに、この胸騒ぎは一体───

コン、コン

背後から二回、窓ガラスをノックする音が。
この家はアパートの二階部分にあって、隣は日光すら遮るほどのバカみたいにデカいマンションが建っている。
ノックされたのは、そのマンション側に面した窓ガラス。
ベランダ越しにやりとりしたことは何度もあったが、まさか、自宅の窓から直接うちのベランダに降りてきやがったのか。
施錠が裏目にでた。
あっちからはこっちが何をするのか丸見えで、俺が玄関まで行って鍵を外してるところを見ようものなら即飛んでくるだろう。

「なぁ、インコちゃん」

「う?」

窓ガラスを叩いたのは多分、というよりもほぼ確定だろう、あいつだ。
だけど、もしかしたら表の通りを歩いていた誰かが蹴飛ばした石なんかが、何かのはずみで二階にあるそこの窓に当たった、
ということもあるかもしれない。
まだ俺は確認してないんだ、可能性は捨てきれない。
一縷の望みを託し、ぐずる泰子のかける声を無視して俺はインコちゃんにこう尋ねた。

「ベランダに誰かいるのかな」

一瞬の沈黙。

「に」

そしてただ一言、『に』。
『に』とは一体なんだろうか。
数字か?
ひょっとしてニワトリでもいるのだろうか。
だったら良いんだが。
雌鳥だったらなお良い、卵代が少しは浮く。
180174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:23:10 ID:q++ZHMUr

「に、にに、にげげっにげ」

当然だが違った。
『に』と『げ』を連呼するインコちゃんはつたなくも必死に何かを伝えようとしている。
切迫したその様子が俺からどんどん希望を削いでいく。

コン、コン、コン

再度鳴り響くノック。
規則正しく一定の間隔を保ってのそれは、むしろ嵐の前の静けさを思わせる。

「にーにに、にげ・・・にげ「竜児」て」

声を震わせるインコちゃんが全てを伝えきる前に、割り込んだそいつは俺を名指しで呼びつける。

「ここを開けてちょうだい」

思いの外落ち着き払った口調でだが、その実とんでもない圧力を込めた命令に、知らず鳥肌が立つ。
開けたらどなるかなんて決まってる。

「聞こえなかったのかしらね、じゃあもう一回言うわね。ねぇ竜児? ここ開けて、おねがい」

今度はちょっと高めの声、明るい口調。
命令っぽさはなりを潜め、お願いというように表面上は下手に出てる。
まるで猫でも被ったようだ。
どこで仕留めてきたのか、床に広げたらインテリアとして飾れそうな立派な猫科の猛獣の毛皮を。
だけど俺は知ってる。

「あれ、変ね、また聞こえなかったのかな」

そんなもん、安物のメッキ加工よりも容易く剥げちまうことを。
そして、その下から現れるものがどれほど凶暴かってことを。

「困ったわね、もう。竜児、聞こえてる?」

届くか届かないか、ギリギリの声。
唇が触れる寸前まで近づき、吐息でガラスが曇る絵が浮かぶようだ。

「・・・ここを開けなさいってぇ、言ぃってんでしょうがぁ!! あんたなに聞こえないフリしてんのよ、ホントは聞こえてんでしょ!?
 いい加減にしとかないと私本気で怒るわよ!? この窓叩き割られたくなかったら今すぐ開けなさいよ、いいわね、竜児ぃぃぃいい!!」

早朝の澄んだ空気を絶叫が掻き消し、伝わる振動だけで窓ガラスが割られそうだ。
もうこの調子ではガラスの一枚や二枚、躊躇なく破って侵入してくるだろうことは想像に難くない。
俺には観念して大河を迎え入れるしか術が残っていなかった。

「よ、よう、大河。早いな」

刺激せぬよう平静さを───そんなことを必死になって自分に言い聞かせている時点で平静さを欠いているのはしょうがないが、
それでもできるだけ装い、ずっと背中を向けていた大河へと向き直る。
勝手に下がっていた目線を徐々に上げていくと、そこには制服に身を包んだ大河。
コートは羽織っておらず、手や首など、外気に晒されている地肌の部分が血管が浮き出て見えるくらい白く透き通っている。
先ほどドアを叩きまくった後、一旦帰ってから今までの間に身支度を済ませていたようだ。
寝癖でところどころ髪の毛が跳ねているのはまぁ、ご愛嬌というか。
額にいくつも張り付いた青筋と激昂して真っ赤になった顔が愛嬌なんてもんを台無しにしてるけどな。
と、ギロリと俺を一睨みした大河が手で顔を覆い隠す。
赤ん坊にやるような、いないいないばぁみたいに。

「おはよっ竜児。ビックリしたでしょ、今朝はね、なんだかひとりでに目が覚めてね、ちょっと驚かしてあげようと思ったの」
181174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:24:08 ID:q++ZHMUr

ああ、ビックリだ。
起こしにいく前に起きてたことでも、言う前に身支度を終えていたことでもなくて、劇的なんて言葉じゃ生温いくらいのビフォーアフターぶりに。
遮る手を取り払うと、そこにははにかんだ笑顔。
血みたいに濃い赤色をしていた皮膚は頬を除いて嘘みたいに落ち着き、頬にしたって桜色といえるくらいになっている。

「そ・・・うか、一人で起きたのか。偉いな、大河」

「やめてよ、もう、子供あつかいして」

言葉とは裏腹にパァッと笑顔を輝かせる大河は、いっそ上機嫌なんじゃないかと俺に錯覚を起こさせる。
そんなはずねぇだろと分かっていながらも、警戒心が薄れていくのが分かる。

「それでね、あのね、竜児」

「お、おぅ、どうした」

両手を腰の後ろに回し、もじもじしながら見上げてくる大河。
少しばかりの恥じらいを含ませたその様子に、続きを促すと、

「あけて」

すぐには二の句が告げられなかった。
小さく小さく放たれたその言葉に金縛りに遭ったかのように動けなくなる。

「あ・・・ああ」

甘えたような大河の、その言うことを素直に聞くことに抵抗がないわけじゃない。
が、これで開けなかったら本気で窓を割りにくるだろう。
それに玄関の時といい今といい、もう十分すぎるほど怒りは買っている。
元より無い選択肢を探していても結果は同じだ、目に見えている。
錆付いたように固まる体を意志の力で動かし、微妙に震える手で窓にかかっていた鍵を外した。
カラカラとサッシが音を立ててスライドしていき、半分程度開いたところで大河が入ってくる。

「悪い、寒かったろ。今温まるもんでも淹れてやるよ」

「ありがと」

感謝の言葉はしっかり腰の入った右拳に乗せられ、俺の胸に突き刺さった。
毎度のことながら手乗りとまでに揶揄される小さな体、相応にしかないはずの体重からは到底信じられない衝撃に襲われ、気が遠のく。
脱力して倒れこみそうになった俺の胸倉を突き出した手で鷲掴み、軽々と持ち上げる大河。
余った方の手を使って後ろ手でピシャリと窓を閉め、それを合図に、

「出しなさい」

何を、と口にすると、大河は続ける。

「とぼけたってだめよ、まだここに居るんでしょう」

「だ、だから、何がだ」

「そう。あくまでシラ切るのね、竜児」

締め上げがキツくなる。

「じゃ、先に誰かだけでも聞いておこうかしら。みのりん?」

どうしてここで櫛枝の名前が。
疑問はしかし、それだけに留まらなかった。
182174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:25:09 ID:q++ZHMUr

「それともばかちーかしらね」

ギリギリと絞められた首の骨が軋む。
だんだんと酸素が行き渡らなくなってきたのか、末端である指先から痺れ始めて感覚が鈍い。
耳元では轟々と、暴風雨みたいな爆音が鳴りまくる。
それでも、

「ありえるわ、なんたって前科があるもの・・・あの時もばかちー、色目使ってたし・・・」

そんなことをブツブツ呟きながら、危うい印象を与えてくる大河は尋問を続ける。

「さっ、今なら怒らないであげるから隠してるのが誰か白状しなさい、駄犬」

「た、い・・・がはっ・・・」

「まぁ、どうせばかちーなんでしょうけど。ついでに当ててあげるわ、やめろって言っても無理やり上がり込んだんでしょ?
 あんのお腹ダルメシアン、ヒトん家の迷惑も考えないで・・・まさか盛りでもついたのかしら・・・これだからイヤね、あにもーは」

厄介事ってのはどうしてこう連鎖反応でも起こすように立て続けにやって来るんだろう。
どうやら泰子の勘違いを真に受けて、俺が誰かを家の中へ連れ込んだと思い込んでいるらしい大河。
それでなんでここまで憤慨しているのか理解できないが、実際大河は烈火の如く怒りを燃やし、居もしない櫛枝と川嶋、というよりも、
完全に川嶋を居たことにしてしまい、掠れた声でどうにか喋りかける俺を無視。
あらん限りの誹謗中傷を、おそらくそこにいるんだと当たりをつけたのだろうか、俺の部屋へ放ちまくる。
仮にもしこの場に川嶋がいたら、何も言わずに身近にある物を手当たりしだいにぶん投げてきそうだ。

「・・・なによ、ずいぶん大人しいじゃない」

挑発に乗ってその身を顕にするだろうと思っていた川嶋が一向に出てこないことを大河が不信に思いはじめた。
当たり前だろ、そこはもぬけの殻だ。
と、急に呼吸が楽になってきた。
大河が俺の首から手を離す。

「ちょっと、ばかちーのやつどこにやったのよ」

四つんばいの姿勢という、犬そのものな格好。
それを気にする余裕もなく、バクバクと暴れる動悸をなだらかなものへと静めている俺の上から大河が言う。

「・・・お前が何でそこまで目の敵にしてんのか知らねぇけど、川嶋がうちに来るわきゃないだろ。櫛枝だってそうだ」

「そっ・・・それは、でも、そうなんだけど」

「だいたい大河、昨日かなり遅くまでここにいたじゃねぇか」

言外に、その後になってからこの家にやって来るような人間なんているのか、と込める。
昨晩、細かい時間までは覚えていないが、日付が変わって大分してから大河はやっと自宅に帰っていった。
余程切羽詰った用でもない限り、あんな夜更けに訪ねてくるような非常識なやつなんて普通はいない。
それこそ、肝心の中身を入れ忘れたことにも気付かないで、空の封筒を獲り返しにくるようなやつとかじゃなきゃあな。
しかもあの時は不法侵入までやってのけていた。
非常識の極みだ。
少なくとも櫛枝も川嶋も、その辺の分別は弁えてるだろ。
目の前で泡食ってる大河と違って。

「だだだ、だけど、だって! 竜児が変な女連れ込んで変なコトしてるってやっちゃんが! ね、そうなんでしょ?」

「大河ちゃん・・・ふぎゅ・・・」
183174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:27:00 ID:q++ZHMUr

知らない女から変な女へ。
また、連れ込んだだけでなく変なコトまで。
泰子の言葉をよりややこしく誤解している大河は、うつ伏せになってふて腐れていた泰子に詰め寄って同意を求める。
垂らした鼻をぐしゅぐしゅ啜り、泰子がコクコク頷く。
その程度は些細なことだとして気にするつもりはないようだ。
大河は大河で同意を得られたことにし、胸を張る。

「ほ、ほら! ごまかそうったってそうはいかないんだから、こっちには証人がいるのよ」

「誰か忘れてんじゃねぇのか」

「ハ?」なんて怪訝そうにしている大河に対し、立てた人差し指を矢印に、ある人物を指す。

「おはよう、逢坂さん。朝から元気ね」

そこには一部始終を一歩下がって眺めていた先生。
大河がますます渋面になる。

「独身がなんだってのよ」

「ふぇ・・・大河ちゃん、そのひと知ってるの」

疑問を上げたのは鳩が豆鉄砲くらったような顔をした泰子。
大河と先生とを交互に見やる。
そんな反応に今度は大河も訳が分からないと? を頭に乗っけている。

「あの、やっちゃん」

しばらくの間腕を組み、一から順序だてて事態を整理していた大河。
考えが纏まったのか泰子に問いかけ、

「やっちゃんが言ってたのって、もしかしてあれ?」

俺と同じく先生を指差す。
泰子はうんうんと、人形みたいに首をふりふり。
盛大なため息を吐いて大河が肩を落とす。

「あれ、あのおばさん。私と竜児の担任なんだけど」

「おばっ・・・」

紹介のされ方にショックを受けるも意義を唱えるのをグッと堪えて咳払いを一つ。

「ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした、高須くんの・・・えぇっと、お姉さんでしょうか」

「いや、親です」

こんなのでもと付け加えそうになったが、寸でのところで飲み込んだ。
冗談が通じなかったら余計に面倒なことになりそうだ。

「そう・・・高須くんのお母さん・・・おかあさんっ!?」

「はひゅっ」

ぽけーっと成り行きを見てんだか見てないんだかの泰子が大声に硬直する。
血走った眼でグリン、なんて不気味に首を回した先生は、そんな泰子に
184174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:28:06 ID:q++ZHMUr

「はじめまして高須くんのお母さん。高須くんと、あと逢坂さんの担任をしております恋ヶ窪、恋ヶ窪ゆりと申します。
 どうぞゆり、とかゆりちゃん、とかゆりゆりとか、親しげに呼んでください。あ、ちなみに担当している教科は英語です。
 一応公務員ですのでそれなりに生活は安定していますし、私に散財癖はありませんし、貯金もそれなりだと思っています。
 教職という仕事にはもちろん拘りはありますけど仕事が最優先〜とか生涯一教師とか、そういうのに固執する方ではありませんので、
 家庭に入ってくれと言われればちゃんと考えますし、そうでなくても仕事との折り合いはしっかりとつけるつもりですからご心配にはおよびません」

「えっと、は、はぁ・・・そう、ですかぁ・・・あのぉ」

「ええ、仰らずともわかります。突然私のような者がお許しもなく、それどころかご相談もなしに上がりこんでいてさぞや驚かれたことでしょう。
 ご不快に思われたのなら心から謝罪します。ですがこれには深い、深ぁ〜い事情がありまして、説明するとちょっと長くなるので要点だけを
 簡潔に申し上げますと、不束者ですが、末永くよろしくお願いしますお義母様」

それはそれは丁寧かつそこまで教える必要があるのだろうかというくらい詳細な自己紹介を行った。
恭しく三つ指までつくというのは古風を通り越して、ちょっと気合が入りすぎていていろいろと外してる気もしないでもないが。
それにしてもこの淀みのなさといい、まるで入念な予行演習でもしてきたかのようだ。
ひょっとしたら半分くらいは使い回ししているテンプレかもしれないが、何をどうアピールしたいんだろうか。

「竜ちゃぁん、このひとなんなのぉ。なんかこわい」

案の定泰子はどう対処したらいいのか分からず、困り果ててしまっている。
助け舟を出したいのはやまやまなのだが、なんなのと言われても俺にはこうとしか答えられない。

「担任の先生だ、さっきも言っただろ。大河だって今そう言ってたじゃねぇか」

「・・・ホントだったの、それ・・・」

未だに疑う泰子に、俺は冗談半分に言った。

「俺が泰子に嘘なんか言ったことあるか」

思い起こせばいくらでも出てくるが、しかし泰子はまたも首をふるふる。

「ううん、ない」

はっきりきっぱり、即座に否定。
こそばゆさと一緒にこみ上げてくるこの罪悪感と、あとよく分からない疲労感はなんなんだろう。
今の今まで俺を疑い、信じようとしなかったのがそれこそ嘘のようだ。

「じゃ、このひとホントに竜ちゃんたちの先生さんだったんだ」

「お、おぅ」

なにはともあれようやく納得してくれたようだ。
これで目下のところ一番の問題は過ぎた。

「でもぉ、なんでその先生さんがうちにいるの?」

そう思っていたが、単に次の問題にすり替わっただけだった。
説明しなけらばならないことが山積みで、まだ一つしか終えてないというのに、多大な時間と労力を消費している気がしてならない。

「ねぇなんでなんでー? ひょっとして家庭訪問とか?
 こんな時間にするなんて今のがっこうってやっちゃんの時よかけっこう変わってるんだねぇ」

なんて若干ボケたことを言っている泰子と、
185174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:29:06 ID:q++ZHMUr

「末永く? そう、そんなによろしくやりたいなら、こっちもよろしくてやるわよ。ええそれはもう す え な が く ね」

「い、いえ、あのあれべつに逢坂さんにじゃなくって、ちょっとキャッチーなつかみっていうかそもそもあなた関係ないじゃ」

「あ? 今なんかいった?」

まるで小姑のようにいびる大河といびられる先生を横目に、俺は無言で立ち上がり、朝飯の支度をするべく台所へと足を進めた。
先送りにしたともいう。

                    ※ ※ ※

「大変だったんだねぇ、先生」

朝食をとっている間、泰子に昨日あったことのあらましを話した。
時間もあまりなく、かなり掻い摘んだおかげで大雑把な説明になってしまったが、とにかく困っているということは伝わったようだ。
相槌を打つこともせず、静かに耳を傾けていた泰子はそう言い、続けざまにこう告げた。

「こんなうちでよかったら、好きなだけいてくれていいよ」

胸を撫で下ろす。
本当のところ、泰子がこう言ってくれなかったらどうしたものかと、少なからず不安があった。
本人の前では口にできないが、どんなに繕っても結局はこの言葉が浮かび、付きまとう。
迷惑───それを一番被ってしまうのは泰子だ。
実際、俺の勝手でどうにかできることじゃない。

「んー? なぁにぃ、竜ちゃん。やっちゃんの顔ジロジロして。あ、おべんとついてる?」

「いや、なんでもねぇんだ」

だから、そんな心配が杞憂に終わってくれて内心ほっとしている。
それと同じくらい、他人に甘くて、お節介やきで、打算で動かない、損得なんて考えてもいない泰子が、俺は嬉しかった。

「へんな竜ちゃん」

「あの」

控えめに、小さく手を挙げたのは先生。

「本当にいいでしょうか、私・・・」

「へんなの、先生まで」

泰子はその手を下げさせ、両手でそっと包み込む。

「遠慮なんかしなくっていいんだよぉ〜、この家にいる間は家族なんだもん」

有無を言わさぬ、なんて堅い表現はしっくりこないが、それより先、先生が言わんとしていることをやんわり制す。
こういう時、普段は子供以上に子供っぽいと思う泰子が、歳相応かそれ以上の大人に見える。
曲がりなりにも一つの店を任されているというのが、少しだけ納得できる気がする。

「いいの、やっちゃん? そんな簡単で」

空気を読まないヤツが一人。
それが本気で、言葉通りの意味でならばだが。

「・・・イイ性格してるわよね、あなたって」

「褒め言葉として受け取っておくわ」
186174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:30:05 ID:q++ZHMUr

感激してるところに水を差されて恨めしげな先生を一瞥し、やれやれ、ハンっといった感じの身振りを交えての大河。
そんな二人を、泰子がくすくす笑っている。
重苦しさが拭い去られ、場が明るいものになる。
憎まれ役を買ってでた大河のおかげで。

「いいのいいの〜。困ったときはおたがい様だしぃ、それに」

「それに?」

先生からの物言いたげな視線を素知らぬ顔して受け流す大河に、

「竜ちゃんたちの先生なら、きっと悪いひとじゃないもん」

だから、いいんだよ───そう、泰子は言った。
大河だけだと思ったら、ここにも空気を読めないヤツがいたとは。
しかも大河のそれとは違い、天然なもんだから自覚がない。

「・・・ま、やっちゃんがいいんならいいけど」

「うん、これでいいのだ〜」

恥ずかしげも、屈託もなくにこにこしている泰子とは対照的な、疲れたような大河が、ジト目で俺を見やる。
なんでだ。

「ホント、そっくりよね」

泰子とだろうか? そりゃ似ていて当然だ、親子だからな。
生憎見てくれは全然似なかったが。

「何だ、それがなんか不満なのか」

「べつに。そうじゃないけど」

ぷいっと顔を巡らせ、大河は心もち膨らました頬を隠す。
なんなんだ一体。

「もぉ、ケンカしないの〜。大河ちゃんもぉ、竜ちゃんもぉ」

「ひゃ」

「お、おい」

後ろから、泰子が大河と俺の首に広げた腕を回して引き寄せる。
コツンと、頭同士が軽い音を立ててぶつかった。
その上に顎を乗っける泰子。

「みぃ〜んなやっちゃんの大事な家族なんだから、ケンカしちゃぁメッ」

よしよしなんて、小さな子供にするように頭を撫でてくる泰子。

「・・・はぁい」

素直に返事する大河は、まるで叱られた子供まんまで。
でも、膨らましていたはずの頬には差した朱だけが残り、その口元も、俺には微笑の形に見えた。

「でっけぇ・・・でっけぇよ高須くんのお母さん・・・」
187174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:31:46 ID:q++ZHMUr

感じ入るものでもあったのだろうか。
先生は眩しいものを見るように目を細めていた。
と、チラリと壁と、掛かっている時計も視界に入ったようだ。

「やだ、もうこんな時間」

ごちそうさまでしたと早口に言い、皿や茶碗を重ね持って立ち上がる。
時刻は、確かにそろそろ登校しないと遅刻になってしまうというところを指している。
俺達も出るか。
が、そこでふとあることに気付く。

「先生、着るもんどうするんですか」

「え・・・あぁっ!?」

昨日身に着けていた物はまだ洗濯機の中だ、少しも乾いてない。
今着ているのは泰子のジャージ。
そんな格好で出歩けないだろう。

「そ、そうだったわ・・・どうしましょう、朝一で校長先生に呼ばれてるのに」

昨日の話だが、俺が大河によって無理やり夢の世界に送られていた時、先生は一応校長にだけは携帯から報告を行っていたそうだ。
だから玄関の外にいたらしく、浮かない様子だったのも、翌日のあれこれを考えると憂鬱だったらしい。
聞かれても突然のことだったとしか言いようがないのに根掘り葉掘り詮索され、しかも知り合いに会う度にそれが繰り返されるのは
なんとなく想像できるし、そんなのがしばらく続くというのは、それが自分でなくても御免願いたい。

「せーんせ、ちょっと・・・・・・で、こんくらいだったかなぁ、それで・・・なんだけど、どう?」

「は、はい、それなら多分・・・」

慌てふためく先生に泰子が耳打ちし、そしてそのままヒソヒソ内緒話。
大河は何やら訳知り顔で俺の耳を塞ぐ。
突っ込まれた指が奥の方まで刺さってきて痛みが走るが、大河は先生を伴った泰子が自室に消えるまで離してくれなかった。
理由を尋ねると

「うるさい、だまれ。そんなに気になるのかこの変態」

訳も分からず罵られた。
意味わかんねぇ。

───あの、さすがにこれは・・・ちょっと際どいかと・・・

───え〜、そうかなぁ、まだ地味だと思うけどなぁ。

───地味とかそういう問題じゃなくて、っていうかこれで地味なんですか。これ、屈んだら絶対に見えるんじゃ・・・

───うーん・・・そうだ、じゃ〜あ〜・・・

襖の向こうではどうなっているんだろう。
そんなやりとりが時たまこっちにまで届く。
その都度大河の機嫌を知らせるように舌打ちが漏れるのもどうしてなんだろう。
188174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:33:04 ID:q++ZHMUr

「・・・ねぇ」

「お、おぅ、どうした」

「あの・・・その・・・あああ、あれってもうちょっと大きく作れたりしない? あれ・・・パ、パッ」

「おまたせぇ〜」

「ッ・・・・・・」

言い終わらぬうち、閉じられていた襖が開けられ、泰子が出てくる。
大河はカッと顔を真っ赤にさせると物凄い速さで俯いてしまった。

「ほぉらぁ、先生もこっちこっち〜」

「い、いえ・・・本当に大丈夫ですかこれ?」

「だいぁいじょうぶ、かわいいってぇ」

中々姿を現さない先生を泰子が褒めちぎる。
遅まきながらそこでやっと分かった。
服を見繕っていたのか。
確かにこんな早くに開いてる店なんてないし、買っている時間も手持ちもない。
泰子の物を貸してやった方がよっぽど早いし金もかからない。
大河の物だとサイズの都合上ムリが生じるだろうし、着れたとしても、あんなフワフワのフリルだらけの服を着た先生は別の意味で無理が生まれる気がする。
なんか、思い描くだけでも憚られ、実際に目にしたわけでもないのに心が痛む。
なにより、大河も絶対に貸しそうにないし、結局これが一番妥当だろう。
泰子の見立てさえ変なものでなければ。

「ど、どうかしら・・・?」

「ケッ」

「ひゅーひゅー、やぁん、せんせぇかっわいぃ〜」

縮こまって出てきた先生。
つまらなさそうな、しかし悔しそうでもある大河。
できもしない指笛はポーズのみで、音色は口から出して盛り上げる泰子。

「高須くん?」

「・・・・・・・・・」

「・・・やっぱり、変?」

伏せがちだった不安げな眼差しに、スっと滲んだ何か。

「いや、そんなんじゃなくて」

「・・・そんなんじゃ、なくて?」

それを目にした途端、否定の言葉を口にしていた。
が、次の瞬間滲んでいたのはさっきとは明らかに違う、淡い期待。

「いいと思いますよ、俺は」

「そ、そう? ほんとう?」
189174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:34:05 ID:q++ZHMUr

変ということはない。
どちらかといえばかなりまともだろう、俺が予想していたのよりは。
黒地に白のストライプのジャケット、同系色のスカート。
インナーは首から胸元にかけてボタンを外してある、光沢のある白のブラウス。
泰子が仕事に行く際着ていくスーツの中では確かに比較的地味目なのかもしれないが、普通に着こなしていればそんなことはなく、
むしろ存在感を際立たせ、ぱっと見仕事のできる女性そのものだ。
教師という職業を鑑みればドラマか映画にいるような、けど現実には決していることのない美人女教師だろう。
メガネでもかければより雰囲気がそれっぽくなる。
微妙にスカート丈が短かったり、バストやヒップが強調されるような仕立てになってるのは、泰子の職業柄仕方のないことだと思うが。
だから、つい目がいってしまいそうになって、そんなにしっかり見ていられない。

「なら、今日はこれで行ってみようかしらね。高須くんもいいって言ってくれてるし」

一転してノリノリにる先生。
今更もう遅いが、発言には責任が伴うというのがよく分かった。
こんなことでもけっこう重大だったのかもしれない。

「ケッ・・・・・・ケッ」

あちらを立てればこちらが立たずとはよく言ったものだが、こんなことですら不機嫌さを顕にするというのはどうなのだろう。
俺はただ、率直な意見を言っただけなのに。

「大河・・・?」

「あによ。あぁ、同情? 悪いわね、そんなに気ぃ遣わせちゃうくらい哀れなもんくっ付けてて」

「な、なんのことだ。さっきからなんか変だぞお前」

「・・・どうせ私は人よかちょっっっとだけ胸が薄いわよ。それにどうせチビだし、どうせあんなの似合いっこないわよ・・・」

ボソボソ小声で呟く大河は、そりゃもう心底口惜しそうに着替えた先生を凝視する。
血走った目が一層危なっかしさを増させている。
どうも、ジャージ姿から変身と呼べるくらい様変わりした先生に羨望か、あるいは嫉妬しているらしく、どんよりとした暗い靄を纏う。

「そ、そんなことないだろ、大河だってその内ドンと背だって伸びるだろうし、胸だって泰子ぐらいになるかもしれないじゃねぇか」

「気休めなんてよしてよ」

チクショウ、その通りすぎて返す言葉もねぇ。
しかし、ここで止める訳にもいかない。

「お前なぁ、俺が何で気休めなんてしなきゃいけないんだ」

「だって・・・私じゃ、あんなのっ・・・」

ともすれば暗黒面に落ちていきそうな大河の肩に手を置き、止めさせる。

「そんなの、あれくらい俺が縫い直してやるよ。そうすりゃ着れんだろ」

「え・・・」

「なんだったら、採寸さえ取らせてくれんなら一から作ってやってもいい。バッチリ似合うのを誂えてやるさ」

それなら寸詰まりがあったり、逆にブカブカになるということにはならない。
適所を絞ったりもできるし、どんな要望だって即対応可能。
思うがままだ。
190174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:36:28 ID:q++ZHMUr

「だから気にすんなよ、大河」

「竜児・・・ほんと?」

「おぅ」

目を閉じた大河は一回大きく深呼吸。
そしてゆっくり吐き出すと、

「まっ、そこまでしてくれるっていうんなら今はいいわ。けどね、独身?」

「あら、なにかしら」

フフンっと鼻で笑う。
先生は余裕綽々に受け流すも、すぐさまその余裕に亀裂が走った。

「あんまり調子に乗ってはしゃいでるとぶっちゃけ惨めよ。あんた、もう若くないんだから」

ピシッ、だろうか。
それともビシィッ! だったか。
なんだっていいが、その時俺は確かに聞いた。
空間にも亀裂が入った音を。

「フ・・・フフ、フ・・・べ、べつに? わたっ、私、調子にノってなんかないしぃ。
 ていうかそりゃあまぁ、確かに若くはないかもしれないかもだけど、私そこまで老けてるって歳でもないもの」

「そうかしらね、だったらなによその濃いぃメイク」

「ここここれは、これくらいした方が良いかもって高須くんのお母さんが、それにそんなに濃くだってないじゃない」

「・・・みっともないわね、そんな言い訳しなくちゃいけないあんたの、張りも潤いも失ったお肌が。
 それと、それで濃くないとかまさかマジで言ってんの?」

グッサァッ!? とよろけた先生は一歩下がる。
すかさず大河は二歩も三歩も埋めて近づく。
ような、そんなイメージで応酬を繰り広げている二人。
191174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:38:08 ID:q++ZHMUr

「くうぅ・・・た、高須くんのおかあさん」

試合終了の鐘はあっけないくらいすぐに鳴った。
先生の情けない声によって。
勝者、大河。
もとより気の弱い先生が口喧嘩とはいえ大河に勝てる訳がない。
当然の結果に、それでも大河はガッツポーズまで決めてやがる。
ウサギを狩るのにも全力を尽くすのは、なにもライオンに限ったことではないのかもしれない。
獅子白兎ならぬ虎白兎なんて喩えは聞いたことないが、あながちそうなのかもと思えてしまう辺りが大河らしいというかなんというか。

「だいじょうぶ〜。先生かわいいんだから、自信もって」

「でも、逢坂さんが・・・やっぱり私みたいな三十路女には、行き過ぎた露出だったんでしょうか・・・」

「もうっ、大河ちゃんったら・・・それじゃあね、先生にはとっておきの魔法教えてあげる」

「とっておきの・・・まほう・・・?」

泰子は居間の隅にあったバッグを漁るとコンパクトを取り出した。
それを開き、先生の横に並ぶと、

「いーい? やっちゃんのあとについてきてね」

「は、はい」

真剣な目つきに変わった。
そんな泰子に、先生も真面目に、泰子が言うところの魔法に集中する。

「やっちゃんはぁ、永遠のにじゅうさんさぁい」

「やっちゃ・・・はぁ?」

こんな事だろうと薄々読めていた。
アホらしくって止める気さえ起きてこない。
大河も同様のようだ。
温くなったお茶を一息に流し込んで、急須から新しく注いだ熱いお茶を啜って、登校直前の最後の一時を味わっている。
192174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:39:12 ID:q++ZHMUr

「もぉ、それじゃあだめだめ、意味ないよぉ先生。そこはちゃあんとぉ、自分の名前じゃなくっちゃ」

「えっ・・・は、はい・・・わ、私は、ゆりは・・・永遠の、にに、に・・・にじゅう・・・にじゅう・・・っ!」

「そう、先生は永遠の?」

「・・・にじゅう・・・・・・さんだよこんちくしょ───!!」

「そうだぁ〜先生はにじゅうさんさいだぁ」

「そうよ、私にじゅうさんですよ! にじゅうさんなのよ!! にじゅうさんで悪いかー!?」

「悪くなぁーい」

「私がにじゅうさんで誰か困るかー!?」

「困んなぁーい、それでも世界は回ってるぅ〜」

「でしょ!? でしょっ!? そうでしょう!? 私は・・・私はぁ・・・私がっ! 永遠のにじゅうさんなのよおおおぉぉぉっっ!」

とうとう何かのタガが外れてしまったらしい。
もしくは超えてはならない一線を超えた。
吹っ切れた先生は一度言葉にすると、以降は何の躊躇いもなく自分は23歳だと、しかも永遠の23歳だと、
鏡の中の自分相手に声高に主張していた。
泰子も永遠の23になったばかりの頃はあんな感じだったのだろうか? ・・・なんかイヤだなそれ。

「うんうん、やっちゃんが教えることはもうなんにもないなぁ」

「最初からねぇし、いらねぇことを教えてんじゃねぇよ」

言いながら、俺はカバンを手探り寄せて立ち上がる。
学校に行かなければならない時間だ。
大河も湯飲みに半分ほど残っていた中身をふーふー冷まし、一気に飲み終えると腰を上げた。
するとコンパクトを・・・いや、コンパクトの向こうにあるどこかを見つめて「テクマク」とか「マヤコン」とか、
なんとも怪しげな呪文を唱えている先生の頭頂部にズビシッ! とチョップを炸裂させる。
痛みから批難の声を上げているのを完全にシカトし、先生の首根っこを掴んだ大河はズルズルとこちらに引きずってきた。

「昼飯は冷蔵庫ん中にあるからな、食う前に温めろよ」

「うん、ありがとう竜ちゃん」

玄関まで見送りについてきた泰子といつも通りのやりとりに加え、しっかり寝ておくようにと釘を刺す。
疲れているだろうに、いろいろとドタバタしてて帰ってきてからも全然休めなかったんだから、せめて昼間くらいはちゃんと体を休めてほしい。
体調でも崩されたら大変だ。

「それじゃ、行ってくる」

「はぁい。気をつけてね、竜ちゃん。大河ちゃんも」

「うん。じゃあね、やっちゃん。行ってきます」

俺と大河に言葉をかけながら、泰子は靴箱からヒールがついたパンプスを取り出すと、

「いってらっしゃい、先生」

「・・・重ね重ねありがとうございます・・・行ってきます」

───先生が階段を下りるのを待ってから、俺達は通学路を歩き出した。
193174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/18(月) 18:41:24 ID:q++ZHMUr
続く。
インコちゃんだってもちろん家族。
194名無しさん@ピンキー:2010/01/18(月) 18:49:25 ID:0lTo4Y0a
4円 ああ174氏の書くキャラのセリフが中の人達に容易に脳内変換できる
195名無しさん@ピンキー:2010/01/18(月) 18:51:55 ID:0lTo4Y0a
申し訳ない4円遅すぎたorz 乙でやんした
196名無しさん@ピンキー:2010/01/18(月) 18:53:11 ID:q3Fjp94T
おつ&GJ!
いいねいいね、面白かったよ!
197名無しさん@ピンキー:2010/01/18(月) 19:02:54 ID:AzI7R6ks
>>193
GJ!
原作の一場面みたいだったよ。
198名無しさん@ピンキー:2010/01/18(月) 20:17:15 ID:/XSTGlRN
>>193
続きキター!GJ!
199名無しさん@ピンキー:2010/01/18(月) 20:27:43 ID:0taz1PrA
GJ!!!

>フワフワのフリルだらけの服を着た先生

でも中の人はww
200名無しさん@ピンキー:2010/01/18(月) 22:49:04 ID:jLIwbVk1
GJ
独身が23歳教にw
面白いなあ
201名無しさん@ピンキー:2010/01/18(月) 23:03:40 ID:4T4V9qMq
ゆりドラは前スレ?
202名無しさん@ピンキー:2010/01/18(月) 23:37:52 ID:/XSTGlRN
>>201
そうだよ。補完庫にもあるね。
203名無しさん@ピンキー:2010/01/19(火) 00:16:33 ID:G4yLsXz7
年長組みのやりとりが面白いなw
久々に独身に萌えたww
204名無しさん@ピンキー:2010/01/19(火) 16:40:05 ID:9oO3yuyF
>>193
続きキテタ──(゚∀゚)──GJ!!面白かった!
三十路シスターズの破壊力と脳内中の人再生率やべえw
205 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/19(火) 20:40:30 ID:m6R5gTHB
規制確認テスト
206 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/19(火) 20:46:34 ID:m6R5gTHB
ようやく規制解除されたので前スレで投下していた狩野すみれのSSの続きを投下させていただきます。

※タイトルが決まりました。『後悔と希望』です。
207『後悔と希望』 10 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/19(火) 20:54:36 ID:m6R5gTHB
パッチリと目が覚めた。これ以上ないほどの目覚めの良さだった。今日はあんなことがあったのに
気だるさや眠気が全くないのだ。しかし、その時が夜だったという事実を除けば大いに喜べたのだが。

「・・・ちぃ。まだ一時かよ」

そう、現在の時刻は真夜中の一時を過ぎたばかりであった。窓に目を向けると、上弦の月が街灯の少ない片田舎に
光をもたらしている様子がうかがえた。今日は色々な意味で最悪な日だった。図書館では何度も呆けていたらしく
勉強が全くと言っていいほど進まなかったり、私のそばにいた友人から私の恋愛話をしつこく迫られたり。
そう言って、そんな状況を作り上げたのが他ならぬ私自身だから余計にこの状況を収拾できないでいる。

「やはり・・・・するべ」

突然ノックする音が聞こえて軽く驚いてしまった。誰だよ、こんな夜中に。

「あの・・すみれ?まだ寝てないのなら、中に入れてくれる?」

・・・あぁ、マリーか。しょうがねえな、今開けるからちょっと待ちな。
溜息をつきながら立ち、木製のドアをゆっくりと開けた。目の前の金髪女が真剣な眼で私を見つめている。
彼女は何も言わないで私のベットに座り、

「一緒に・・・寝ない?」

はぁ・・・高校生にもなって友人と寝ることになろうとは考えてなかったよ。まして今は留学している身であるのにな。
ベットの敷地面積が半分になって落ちそうじゃないか?これでは余計に寝られそうにない。そんなことより、

「マリー、お前、用事はこれだけじゃあないんだろ?他にあるんじゃないか?」

「はは、ばれちゃったか」

こいつはいつも意地悪そうな顔で私をおちょくる癖に、今の相手は本当に申し訳なさそうな顔をしてやがる。
ったく、こいつは・・・。
208『後悔と希望』 11 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/19(火) 20:56:05 ID:m6R5gTHB
「………いいよ。話すわ。ここに来る前の 『半年間』 の話をな」

「い、いいの!?」

「ああ、だがよく覚えておけ。これはお前と私だけの秘密だ。ここの主人はともかく、大学関係の奴らには
何があっても漏らすな」

「大丈夫よ、そんなことするわけないじゃない。私たち、友達でしょ?」

そう言うマリーの顔からは誰もが和みそうな笑顔がほころんだ。
そんなに話を聞きたかったのかよ?全く、変わった奴だよ・・・。

私は以前語った後の内容を丁寧にゆっくりと話してやった。
私が生徒会長となり北村を副生徒会長に推薦し仕事がある度に呼びまわし何度も付き合わせた事、
今年入部してきた(正確には私が入部させた) 不幸な庶務を北村と一緒におちょっくった事、その庶務を
私の過剰なまでの天然で馬鹿な妹を引っ付けるために北村と組んで手助けをした事、その過程でアルバムの写真を
捏造するための合宿にていつ酒を飲んだのか確かな記憶は無いのだが高校のプールで大はしゃぎした事、
そしてそこで生徒会みんなの夢を語った事、文化祭を盛大に盛り上げた事……そして…

「その文化祭の次の日の慰労会で、私は………」

先方の都合で留学する日が早まった事を伝えた。その知らせは私自身にも急なものであったが、早ければ早いほどいい。
そう思い了承した、と。私の妹はもちろんその事実について知っていたし、他の生徒会役員、文化祭実行委員
全員寂しそうな顔をしたが頑張れよだの外国に行っても元気でいてくださいだのエールを送ってくれた。
しかし、その時の北村は私に何も言わなかった。何でもいいから言って欲しかったと心の片隅で密かに私は思った。
それでも、今思えば言えなかったのかもしれない。私の記憶が間違ってなければ、その時の北村は目から生気が
抜け茫然としていた様子だったはずだから。
209名無しさん@ピンキー:2010/01/19(火) 20:56:42 ID:j8kt2VZH
>>200
「教師生活25年 だけど23歳なのよねー」とか言い出すんですね
210『後悔と希望』 12 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/19(火) 20:58:03 ID:m6R5gTHB
その数週間後、北村は…グレた。短髪を金色に染め、部活動には無断で休み、生徒会長立候補は辞め、ついには
学校にさえ来なくなった時があった。それと同時に、私ともその間全く口を利かなくなった。
その時の私は、これ以上ないまでの動揺と自身に対する責任感が大きく私の心を乱れさせた。
何故…お前はこんなところで変な道に行くんだ? お前はそんなことをしている暇はないだろう?
あの川嶋とかいう猛獣女と同じクラスの女が私にチクリと言った。原因に心当たりがあるのではと。無論、あった。
あったというか、原因そのものが私だと分かっていた。しかし、そう思いながらも北村には失望していた。そんなことで
生徒会やその後の人生を台無しにするのならば、もうお前とは関係ないと。
ただ、やはり寂しかった。こいつなら私を分かってくれるかと思ったのに。笑顔で送ってくれると思ったのに。
そういう意味での失望の方が大きかった。

ただ、その後は猛獣女とそれにいつもついている高須という男が、北村のために生徒会を支配するだとか言って立候補して
北村のやる気を出させようとしたのは、途中大いに笑わせてもらったが良い友人を持っているなと感心した。
私はもちろん直接は干渉しなかったが。そのおかげで北村は生徒会長に立候補すると言ったらしいのだが。
…こいつは直前になって迷いが生じたらしい。んで結局辞めるだのと言いやがったのさ。こいつは私に一本釣りにされて
過ごしてきた二年間がどうのこうのとかほざいたり、現実を受け入れられないとか何だとか………。
わたしはもう我慢ならなかった。
そう思った瞬間、私は頭の意思とは勝手に体は北村の方へ動き、口は北村へ罵倒ではなく今の今まで言えなかった
北村の未来へのエールをこれまたマシンガンの如く撃ちまくってやっていた。
私が去ったあと、後ろから急いで駆けだす足音が聞こえた。…ったく、廊下は部活動以外走るのは禁止なんだぜ?
まあ今日だけは注意せずに知らなかったふりをしていてやるよ。早く恋ヶ窪先生のもとに急ぐんだな。
これで安心した。北村がやっと決意してくれた。これで、私は気兼ねなく留学する事が出来る。

しかし、それは間違いだとすぐに気付いた。何かまだもやもやしたものがねっとりと私の中で絡みついて離さない。
そのもやもやしたものが、この後すぐに判明してしまう。

「生徒会長選挙の当日のことだ」

あいつはグレた事なんてなかったみたいに堂々と体育館のステージに立ちやがった。
この時だけはあいつが輝いて見えちまったさ。不意にそう感じた自分が少し恥ずかしい。
211『後悔と希望』 13 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/19(火) 21:00:25 ID:m6R5gTHB
『ただいまご紹介にあずかりました、北村祐作です。私は、――いや俺は』

さあ、言いたい事を全部吐いちまいな。これからはお前の独壇場だ。この学校をどうするのか、どうしたいのか、残さず出せ。
緊張した目つきで一瞬私に目配りをした。気にするな、私はお前を…

『俺は、会長、あなたが、好きだ―――――――――――――――!!』

マイクのボリュームをこれでもかというくらいに大音量で叫び放った。今までの気持ちを全開放する勢いで。
私は開いた口が塞がらなかった。頭の中は真っ白。完全に思考は停止していた。
北村が熱意を込めて演説しているのはわかる。だが、肝心の中身は殆ど聞き取れなかった。
聞き取れたのは、最後のこの言葉だけ。

『…――望みは――ゼロですか!?俺と会長の間には、本当に、特別な縁などないのでしょうか!?』

そして、一礼。
もやもやしたものがまた蠢きだした。しかも、それは今までの比ではないくらいに暴れだしていた。
――お前……自分が何を言っているのか分かってるのか…?
その時に北村に返した内容は、いつものようにそっけなく北村に一票よろしくと宣伝してやった。
これでいい。これでいいのだ。あんな馬鹿な事をあいつは言うのだから、本当は怒鳴ってやりたかったのだが今日は
あいつの晴れ舞台だ。それを汚すのは可哀相だろう。…そう思ったが、もやもやが消えない。
生徒会選挙が終わり、教室に戻ろうと廊下を歩いていたら、北村と同級生の高須という奴が私を呼びとめた。
高須が私を呼びとめた理由は、予想通り北村の事についてだった。昨日私が北村へのエールで前を押した。
なのに、何故あんな回答で 『逃げた』 のか。あんなにも平気に。
212『後悔と希望』 14 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/19(火) 21:02:38 ID:m6R5gTHB
――ズキッ…

『そうやって……また逃げるのかよ……』

『賢くって……あんたみたいにかよ!』

――ドクッ…ドクッ…

痛い…気持ちが悪い……。
告白しろとは言ってないだとか、逃げる事は悪い事ではないとか、自分は器用に賢く生きるために逃げる…とか
言った覚えがある…が気持ち悪い……全部が思い出せない。思い出すと、体内にあるものを全部嘔吐してしまいそうだ。
私の中にいる虫が、早くここから離れろと命令する。それに従って早急に話を切り上げようと
高須に言った最後の一言だけは忘れる事が出来ない。

『……あいつがわたしみたいに賢くて 『悪いヘビ』 に利用されないようにな』

そして、あいつが、猛獣女こと逢坂大河が木刀を持って私のクラスへ殴りこみに来た。
物凄い形相だった。リアルな猛虎よりも殺気立った小さな肉食獣。
あの二年の生徒会の一本釣りの時とは違うものだとわかった。
213『後悔と希望』 15 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/19(火) 21:04:16 ID:m6R5gTHB
ここからは前回マリーに伝えられなかった回想通りだ。もう自分がその時に何を言ったのか詳細を思い出せない。
仮に思いだしてしまえば、そこで私の心は壊れてしまう。そんな恐怖が襲うから。
ただ言える事は、このもやもやした気分はただの感情ではなかった。
元会長を気にしていたこと以上に北村を意識していたのだ。ただ、このまま進めば間違いなくそれぞれ別の道へ
進まねばならないだろうこともわかっていた。
いつも一緒にいた奴がいなくなる。それを、自分自身で早めてしまった。もっとあいつをこき使ってやりたかったのに。
簡単な話だ。私は、あいつが……私の目から離せなくなっていた。
あいつの性格がどうとかではない。あいつのことでできることならば何でもしてやりたい。
これを恋愛心理でないとしたら何なのだろうか?

ここまで話してふと気付くと、布団が水でびっしょり濡れていた。
それと同時に、大量の涙を流していたことにようやく気付いた。

「ありがとう、話してくれて。辛かったでしょう、この間の日々が」

マリーが同情でもなく、憂いでもなく、ただ優しく微笑んでくれて私の中の何かが弾け飛んだ気がした。

「……あぁ」

私はただ、そう返事をした。
214 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/19(火) 21:06:30 ID:m6R5gTHB
投下終了です。
次でひとまず区切りとします。
215名無しさん@ピンキー:2010/01/20(水) 00:00:14 ID:XUUMsdXa
近親相姦ふぇーち(やっちゃん発音)ではないが
やっちゃんは出して欲しいな。


…23にしか見えないよ?
216名無しさん@ピンキー:2010/01/20(水) 00:02:26 ID:z2lfpxn3
>>214
GJ!続きも期待だぜ!
217名無しさん@ピンキー:2010/01/20(水) 03:52:46 ID:Le5X52nG
GJです。こういう感じの作品もよいですね。
これが、どう展開していくのか?楽しみです。

***

勇者の代わりに〜の人も、エンドレス〜の人も待ってるよ〜
218174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/22(金) 18:15:18 ID:FGA1ZcpZ
やっちゃんSS投下

「クリーム」
219174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/22(金) 18:16:12 ID:FGA1ZcpZ
雲ひとつない濃紺の夜空。
見つめていると吸い込まれそうなくらい深くて、澄んでて、静かな海みたいで、
散りばめられた星々は波間にさざめいて光るように暗い空を飾り立てている。
眩く自己主張しているのもあれば、控えめに輝くものも。
降り注ぐ光は月光とは違って、何年も前から今日の今を目指してやってきたメッセージ───なんて、情緒溢れるものでもないけれど。
少なくともチカチカやる気なさげに明滅を繰り返す街灯よりもよっぽど夜道を歩く助けにはなってくれて。
いつもと同じ、ただ家まで歩いているだけの時間を、いつもとは違った気分にさせてくれて。
いつまでも見ていたい気もするけれど、でも残念なのはこの寒さ。
思わず吐いたため息は白くて、空へと上り様に消えていく。
こんなに寒くなければ飽きるまで眺めてられるんだけどなぁ。
でも、そんなことしてると笑われちゃうんだろうな。
それとも怒られちゃうのかな、『なにしてんだ』って。
どっちもやだけど、どっちかっていうと怒られる方がイヤ。
心配させてるだけよりも、笑われてる方がいい。
それなら一緒に笑ってるられるから。
その方がいいや、楽しいもん。

開けた道に出ると、ちょうど終バスからどっと人が降りてくるところに出くわした。
すれ違う人たちの顔はお世辞にも元気ハツラツって感じじゃなくて、むしろその逆。
誰も彼もが背中を丸めて俯いて、吹きすさぶ風をなんとか耐えている。
新聞なんか読まなくても、テレビで知ったか顔した偉そうな人があれこれ薀蓄垂れなくってもわかる。
みんな、疲れてる。
本当ならそういう時こそ来てもらって、お話でも聞いてあげてあげればいいんだろうけど、そんな余裕もないんだろうなぁ。
まばらに歩くおじさんたちは、きっとまっすぐに家路を急いでいる。
それを邪魔するのは気が引けるし、第一───
「っくち」
やっちゃんだって家路を急ぐ一人だし。

煽りをくらうっていうのは、まぁあるだろうなぁって思ってた。
こんなご時勢だからちょっとはしょうがない、って。
それでも足しげく通ってくれる常連さんも多いし、この街ではたった一軒の飲み屋さんだもの。
だから、そんなの気にしてる方がしょうがない。
なんとかなるよ。
そう思ってたんだけど、今日はさすがに参っちゃった。
このー木なんの木気になる木、閑古鳥ーはどこの鳥ー? とか、自分でもおバカなこと考えちゃうくらいヒマで。
店じまいを済ませて、お店を後にしたのはまだ日付も変わっていない時間だった。
足取りが重い。憂鬱。
笑っちゃうよね、愚痴やらなんやらを受け止めてあげるのがお仕事なのに、そのやっちゃんが愚痴りたい気分なんて。
笑っちゃうよ、ほんと。
口をついて出ていくのは笑い声なんかじゃなくて、宙に浮かんでは消えていくだけのため息だけなんだけど。
「はぁー…」
ほら、また。
そういえば、幸せっていうのはため息を吐いた分だけ逃げてくって誰かが言ってたっけ。
だったらため息を吐いてる間は、まだ幸せが残ってるのかな。
そう思うと、胸が少しだけ軽くなった。

                    ***

あれって思ったのは、ようやくアパートの前という所まできた時だった。
窓から明かりがもれ出ている。
まだ起きてたんだ、竜ちゃん。
「おぅ、おかえり」
階段を上っていると、足音からわかったみたい。
竜ちゃんがわざわざドアを開けて出迎えてくれた。
「ただいま。まだ起きてたの」
「ああ、ちょっとな。そうだ、茶飲むか? 今淹れるとこだったんだ」
まるで見計らったようなタイミング。
そんなわけないけど、なんだかずっと待っててくれたように感じて、うれしい。
それに冷え切った体には温かいお茶がとっても魅力的に映る。
「うん、ちょうだい。う〜んとあっついの」
220174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/22(金) 18:17:12 ID:FGA1ZcpZ
そう言うと、竜ちゃんは着替えて待ってろって言って棚からヤカンを手にとり、水を入れる。
沸かすとこから始めるんじゃ、ちょっと時間がかかりそう。

落とすのが面倒なメイクは後回しに、言われた通り部屋着と寝巻きをごっちゃにしてるジャージに着替える。
あと寒いからドテラも一緒に。
うん、これでモモヒキなんかも履いてたらぱーふぇくとおばちゃんるっく・いん・やっちゃん。
お店のお客さんには見せられないなぁ。
「早えんだな、今日は」
竜ちゃんしかいないからべつにいいけど。
「ん〜、ちょっとねぇ」
テーブルに突っ伏すと、伸びをするついでに顔を隠した。
ウソをつくのはイヤ。
イヤだけど、本当のことを話してしまうのは、いらない心配をかける。
簡単に想像がつくから、だから曖昧な返事で濁して逃げた。
気が引けるけれど、ウソをつくよりは、こっちのがまだ。
「そういう竜ちゃんもどうしたの。珍しいよね、こんな時間まで起きてるのって」
「べつに。ただ、テストも近いしよ」
質問を質問で返すと竜ちゃんは凝った肩を回して解しながら教えてくれた。
勉強してたんだ、こんなに遅くになるまで。
「偉いんだね、竜ちゃんは」
「そうか? 普通だろ」
謙遜する竜ちゃんは、やっちゃんからすれば眩しくって誇らしい。
誰でもできることっていうのはいっぱいあるけど、でも必ずしも誰もがやってるわけじゃないよ。
そういうのに限って、あとになってからやっておけばよかったって後悔することばっかり。
「なんだよ、ニヤニヤして」
だから、誰に言われるでもなくきちんとそういうのをやっている竜ちゃんはキラキラ輝いて見える。
いつかの自分ができなかったことに対する憧れも否定しない。
それ以上にうれしいのは、あの時の自分が選んだのは間違っていないって、そう思わせてくれる竜ちゃん。
親ばかって言われてもいい。そんなの、ずぅっと前から知ってる。
「ううん、なんでも」
笑われたと思ってるのかな。
竜ちゃんは少しだけ面白くなさそうに、
「そうかよ」
そう言って立ち上がった。
ほとんど間を置かないで台所から甲高い音が響く。
お湯が沸いたみたい。
「あ、やっちゃん淹れてこよっか。勉強の途中だったんでしょ」
行ってしまわぬうちに、背中に向かってそう言った。
不機嫌にさせるつもりはなかったけど、そうさせちゃったのなら何とか機嫌を直してもらわなくっちゃ。
それにたまにはお母さんらしいことしないと。
「いいよ。泰子、帰ってきたばっかなんだから。あぁ、けど」
けど?
「俺より上手く淹れられるってんなら、淹れてもらってもいいか」
ニヤリ、なんてしたり顔の竜ちゃん。
やっちゃんはぐぅの音も出せない。
そんなのできないってわかってるくせに、そういうこと言うんだから。
いぢわる。
「むぅ〜…じゃ、ちゃんとおいしいの淹れてね、竜ちゃん」
「へいへい、ちょっと待ってろ」
そう言い残して歩いていった竜ちゃん。
じっと待っていると、ふんわり漂ってくる香ばしい香り。
それと、時折台所からする押し殺そうとして、でも抑えきれない含み笑い。
…いぢわる。
221174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/22(金) 18:18:11 ID:FGA1ZcpZ
ほどなくして戻ってきた竜ちゃんは、手にお盆を乗せて持ってきた。
湯飲みが二つと急須と、あとお茶請けのおせんべい。
テーブルにお盆を置くと腰を下ろした竜ちゃんは急須を手に、茶葉の色をした中身を湯飲みに注ぐ。
「ほら、熱いぞ」
両方の湯飲みに注ぎ終えると、かたっぽをやっちゃんの前にそっと置いた。
立ち上る湯気が、なんだか心まで暖めて、落ち着かせるよう。
いい匂い。
「うん、ありがっ…っつ〜…」
誘われるまま手を伸ばした湯飲みは思いの外熱くって。
反射的に離してしまったせいで湯飲みはへにょへにょ踊って、そうなると最後に待っているのは倒れるしかなくって。
当然中身だって盛大にこぼれちゃって。
「言わんこっちゃねぇな、たく」
まるでこうなるだろうってわかってたみたい。
竜ちゃんがお盆の下から台拭きを取って素早くテーブルを拭く。
それを済ませると、
「泰子? どうしたんだよ、火傷でもしたのか」
左手の指先を押さえたまま動かないでいるやっちゃんを気にかける。
「ん…だいじょぶ、ちょっと沁みただけ」
「沁みたって…?」
いつからだったろう。
あの人にそっくりだったはずのあの目が、誰にも似てない光を灯すようになったのは。
竜ちゃんはいきなりやっちゃんの手を握る。
ううん、そんなに強い感じじゃなくって、優しく包み込むように。
振り解こうなんて、頭になかった。
「どうしたんだこれ」
包まれていた手が開かれる。
すると指に走っていった痺れるような痛み。
思わず顔に出てしまった。
けれど、やっちゃんよりも顔に出ていたのが、竜ちゃん。
痛々しそうに眉間に皺をよせて、これじゃどっちがどっちだかわかんなくなりそう。
「どうって、ただのあかぎれだよ」
「ただのってお前、こんな……」
お店に立ってる時はそうでもないけど、準備や片付けはけっこう水仕事が多いし、それに時期的にできやすいのもある。
別段珍しいことじゃないし、わりと毎年なったり治ったりの繰り返し。
ただ、今は、たまたまいくつもがいっぺんにできちゃって、それでいつもより酷くなってるだけ。
それだけ。
それだけなのに、大げさだよ、竜ちゃんは。

所々が裂け切れてしまったガサガサの手に手を添えたまま、竜ちゃんは黙っている。
なんだか、むずがゆい。
チリチリと焼かれるような刺激を感じるあかぎれた手も、もっと別の部分も。
「いつからだ」
口を真横に引き結んだ竜ちゃんは何かを耐えているよう。
自分の責任だって思ってるのかもしれない。
今の今まで気付かなかったことを責めてるのかもしれない。
そんなことないのに。そんなの、気にしなくっていいのに。
「わかんない。いつの間にかっていうか、うん…平気だよ、こんなの?」
安心させたくて、つとめて明るく言ったつもり。
「医者には行ったのか」
でも竜ちゃんはそんなのおかまいなし。
真剣な面差しが、痛いよ。
「大丈夫だってぇ、もぉ、竜ちゃんたら心配性なんだから」
ホント、こういうとこは誰に似たんだろ。
誰かが困ってると放っておけなくって。
お人よしで、面倒見がよくて。
自分でなんでも抱え込んじゃって、我慢して、そのくせ人の痛みには敏感で。
「待ってろ」
優しくって───だいすき。
222174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/22(金) 18:19:09 ID:FGA1ZcpZ
立ち上がった竜ちゃんはタンスからタオルを数枚取り出すと流し台へ。
蛇口を捻ると流れ出てくる水をボウルに溜めて、いっぱいになったら今度はそのボウルにタオルを浸した。
すぐに張った水からタオルを上げると、絞って水気を取る。
そうして濡れタオルになったそれをタッパーに入れると、それをそのままレンジの中に入れちゃった。
低く唸る、大分くたくたになってきた電子レンジ。竜ちゃんが買い換えたいってぼやいてたのを思い出した。
一分ほど経つと加熱が終了したのを知らせるブザーが鳴る。
「ちょっと我慢しろよ」
なにをするのかと思っていると、竜ちゃんは即席の蒸しタオルを作って持ってきた。
一枚広げてみせて、熱すぎないことを確かめるとおもむろにやっちゃんの手をとって、ゆっくりと巻く。
両手に巻かれるとなんだかミイラになったみたい。
じんわり伝わる熱は肌にできた裂け目には刺激が強くて、でもあてがわれた竜ちゃんの手からも伝わってくるぬくもりが、
タオルを取り払いたい衝動をどこかにやる。

薄いタオルはすぐに熱を失って、そのたびにタッパーの中にある新しいタオルを巻かれた。
それも三回目の交換で代えがなくなる。
最後のタオルを巻くと、竜ちゃんはまた台所へ。
大河ちゃんが来るようになってから頻繁に使われるようになった救急箱は、それまでと比べると中身が充実していて、いろいろな薬が入ってる。
その中から手にして戻ってきたのはハンドクリーム。
ついこないだやっちゃんが買っておいて、けどあんまり使わないままどっかに行っちゃったやつ。
探してたんだけどな。気付かなかった、そんな所にあったなんて。
「竜ちゃんが持ってたんだ、それ」
「ああ、居間に転がってたんだ。誰かが片しもせずに使ったまんまだったんだろうな」
誰だろうねぇ。
大河ちゃんかな。それともインコちゃんだったりして。
目を泳がせるやっちゃんに、竜ちゃんは深いため息。

すっかり冷めたタオルを取り払われると乾燥した空気が過敏になった肌を突く。
痛いな。これと、寒すぎるくらい寒いのがなければ、この季節は好きなんだけど。
「んー」
プラプラ振っては具合を確かめてみる。
やっぱり湿らせた分乾いてるままの時よりも痛い。
「痛むのか」
「うーん、ちょっぴり…早くクリームぬっちゃおっと」
そう言うと竜ちゃんは、
「おぅ」
持っていたクリームのフタを開けて、中身を指ですくい取る。
「ほら」
自分でできないことはない。
どっちかっていうと人にやってもらう方が、予期しない時に意図しないところを触られそうで怖くて、
でも折角頼んでもないのにしてくれるって言うんだし。
誰に対してかわかんない言い訳を考えてる間にも、手は勝手に竜ちゃんの前に差し出していた。

重ねた手は記憶にある頃と比べると見間違うくらい大きくなっていた。
柔らかかった掌は今では硬くてごつごつしてて、子供特有の丸みを帯びていた指先も長くなってて、もうしっかりとした大人のそれ。
男の子から男の人へと成長しているのを強く感じる。
昔はこの手を引いて歩いてて、もうそんなのも随分とご無沙汰になった。
もう子供じゃないんだなぁって、無性にうれしいのに、でも悲しくって。
なんか、複雑。
「なんでこんなになるまで放っとくんだよ」
すくったクリームを注意しながら手の甲に広げて、馴染ませるよう丹念に塗り込む。
手首から円を描いて、ゆっくりと伸びて、指の一本一本に至るまで。
何度も往復する内にだんだん痺れも治まってきた。
そんな、軽いマッサージ気分を破ったのは責めるような語調の竜ちゃん。
お説教が始まるなぁ、この分じゃあ絶対。
「だからね、いつの間にかこうなっちゃってて、それで」
「それで放っといたのか」
「そういうんじゃなくって、なんていうか、わかんなかったっていうかぁ」
いろいろしなくちゃいけない事が多くって、つい後回しにしてる間に肌に一つ、また一つ。
亀裂のように裂けたそれを気にする余裕も、あんまりなかったし。
「わかんねぇくらい忙しかったのか」
223174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/22(金) 18:20:07 ID:FGA1ZcpZ
返す言葉が思いつかない。
失敗したなぁ、もう。
そこに食いついてくるなんて、迂闊だった。
竜ちゃんも変なところであざといんだから。
忙しかったのはホント。でも、ウソ。
今日みたいに客足が芳しくない日は少なくなくて、ぜんぜんヒマな日も多い。
売り上げなんて目も当てられないくらい悲惨。
だから、お店だけじゃやってけないし───竜ちゃんの学費だって───だから言えない。
仕事のことはここに持ち込めない。持ち込みたくない。
心配なんてこれ以上かけられない。かけたくなんてない。

本当のことは絶対に言えなくて。
でもウソはもっとつきたくなくて。

時間だけがただ過ぎる。
静かな夜に聞こえてくるのは時計の針が進む音だけ。
外からとり残されたように、重苦しさがただ過ぎていく。
それでも竜ちゃんは離さない。
こんなガサガサになってる手を、ずっと撫でてくれる。
「なぁ」
不意に、竜ちゃんは口を開いた。
「洗剤はもっと肌にやさしいのに変えろ」
「…うん」
ぶっきらぼうでお節介な、だけど心からの心配の言葉。
洗剤、なんていうのがとっても竜ちゃんらしい。
「水仕事したあとは石鹸でよく手を洗え」
「うん」
「そうしたら、きちんと水気を拭ってからこうやって何か塗っとけ」
「うん」
「できるだけ肌に合うやつだぞ。少しくらい高くたっていい」
「うん」
「乾いてたり、痒く感じたらその都度」
「もう、わかってる」
あーしろこーしろって言う竜ちゃんは、まるでお父さんみたい。
子供に言い聞かせるように一々細かく注意して、過保護なお父さんそのまんま。
「本当か?」
「ほんと」
「本当に本当か?」
「ほんとにほんとにほんとにほんと」
子供っぽいやっちゃんから生まれてきたのが信じられないなぁ、ほんと。
「だったら、最後にこれだけは約束しろ」
竜ちゃんはそこで区切ると、やっちゃんの両手を、大きくなった両手でそっと包む。
「体、大事にしろよ」
静かな夜。
いつしか時計の針が進む音も聞こえなくなっていた、とても静かな夜。
とり残された頭でわかるのは、そっと包まれた手に感じる熱と痺れ。
痛みにも似たなにかが、胸の中で駆け巡る。
喉が詰まる。息苦しい。
「……それ、ムリかなぁ」
視界が歪む中、どうにかそれだけ口にすることができた。
「お前なぁ」
「だってね」
叱るような竜ちゃんを制して続けた。
「竜ちゃんが大事にしてくれてるもん」
この裂け目だらけの、お世辞にもキレイなんていえない手だってそう。
竜ちゃんが大事にしてくれてるよ。
やっちゃんよりも、やっちゃんを。
だからやっちゃんがやっちゃんを大事にしなくってもへっちゃら。
一番大事な竜ちゃんが大事にしてくれてる。
それだけでいい。これよりももっと、なんて思ったら罰が当たっちゃう。
224174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/22(金) 18:21:11 ID:FGA1ZcpZ
それからずっと竜ちゃんは黙ってて、やっちゃんも大人しくしてた。
重ね合わせた手はそのままに。
一撫で一撫で、丁寧に肌を滑っていくクリームが馴染むまで、ずっと。

                    ***

「どうしたの、やっちゃん」
翌朝。
並んだ朝ごはんを前に心ここにあらずなやっちゃんを、大河ちゃんが不思議そうに眺めている。
竜ちゃんはまだ台所でお弁当の用意中。
インコちゃんははぐはぐむぐむぐ、すごい勢いでお食事中。
「うん? んー…ちょっとねぇ」
「ふーん。いいことでもあったんだ」
案外鋭いところをついてくる。
「わかる?」
「そりゃ、やっちゃんさっきっからほっぺゆるゆるだし」
そっか、それじゃあ一目瞭然だね。
これっぽっちも気付かなかった。
「なになに? 聞いてもいい?」
これといって気になるってわけでもなさそうだった大河ちゃんは、だけど途端に興味津々という風に身を乗り出す。
そんなに聞いて聞いてーって顔してたのかな、やっちゃん。
それとも大河ちゃんが気のないフリしてたのかも。
「う〜ん、どうしよっかなぁ。竜ちゃんには言わない?」
好奇心からあのぱっちりした吊り目がちな瞳を輝かせ、コクリと首を振る大河ちゃんをチラリ。
視線を外して、今度は自分の手をチラリ。
「…やっぱり、ないしょ」
立てた人差し指を口元にもってくる。
残念がる大河ちゃん。
一瞬教えてあげてもいいかなって思ったけど、でもやめとこ。
ちょっといぢわるだけど、昨日のことは秘密にして、独り占めしていたい。
「なんだよ、朝っぱらから騒がしいな」
大河ちゃんの質問攻撃を右に左に流していると、支度を済ませた竜ちゃんが、お鍋と炊飯器を手にやってくる。
「あ、ちょっと聞いてよ竜児、やっちゃんがね」
すかさず大河ちゃんは包み隠さずに今のやりとりを竜ちゃんに教える。
それを聞いて何のことだか察しがついた竜ちゃんはこっちを一瞥すると、
「そんなにいい事あったのか」
一度、二度と頷きを返して、こう答えた。
「うん、とっても」
昨日の今日でまだ荒れている手は、それでも痛みはビックリするほど感じない。
竜ちゃんのおかげ。
それにキレイだって、褒められたからかな。
ぼそりと、だけど確かに聞こえた呟き声がまだ耳に残っている。
「竜ちゃんも、気になる?」
「いや、べつに。ほら、そんなこと言ってないで飯にするぞ。時間もねぇんだから」
強引にその話を終わらせた竜ちゃん。
大河ちゃんは気にはなってるみたいだけど、おいしそうな湯気をくゆらせるご飯の誘惑には勝てないようで、
それ以上話を伸ばさないで黙ってテーブルに着く。
代わり映えのしない、日常の光景。
だけど一つだけ、いつもよりも違っているのは───
「しっかり食えよ、泰子」
「ありがと、竜ちゃん」
ちょっとだけ縮まったように感じる距離。

───あのクリーム、また塗ってっておねがいしてみようかな。
225174 ◆TNwhNl8TZY :2010/01/22(金) 18:22:09 ID:FGA1ZcpZ
おしまい
226名無しさん@ピンキー:2010/01/22(金) 18:50:55 ID:6KALMQk8
GJ!
読んでると心がぽかぽかしてくるねぇ。
やっちゃんには幸せになって欲しい。
227名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 00:21:51 ID:3XbEAFOP
ええ話や
ほんまええ話や
228 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/23(土) 22:03:46 ID:eA3beNSA
どうも。前回投下した狩野すみれのSSの続きを投下させていただきます。
とりあえず今回でラストです。

タイトル 『後悔と希望』
229『後悔と希望』 16 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/23(土) 22:16:55 ID:eA3beNSA
あれから数週間が過ぎた。

以前講義や図書室などで、勉強で呆けていたり熟睡することもなくなり、
いつものように気を引き締めて勉学に励むことができるようになった。
それもこれも、今では腐れ縁でありホームステイ先の仲間であるマリーのおかげだ。
最初の方こそこいつは口うるさくて余計な事に突っ込んできやがる
お人好しだと思ったが、やはりこいつは今でもそれらのキーワードを外す事が出来ない
ハイな女だと思っている。それでも、そのキーワードの中に『心の恩人』 と付け加えて
やりたいとも思っている。それぐらい、あの時の私はあの猛獣女と対峙した時と同じくらい
いやそれ以上の溜まりに溜まった感情を出したのだなと実感している。……主に目からな。
あの時の私はどれぐらい自分自身を追いこんでいたのか。多分、生徒会選挙の日から私の内の時は
止まっていたままだったのかもしれない。今は前へ進む事に抵抗は全くない。
自身の夢に向かって日々鍛錬あるのみだ。

それでも、あの時とは違う何かが心の片隅に置いたままな気がする。
それが何かは私にもわからないが、それが何かを考えることもしなかった。
ようやく精を出せるくらいに勉学に励めるようになったんだ、今まで教授や
マリーに随分と迷惑をかけた分を返なけらばいけないだろう。考えている暇はないんだ。

しかし、その正体不明な『何か』が意外な場面で、しかも予想外な人物により知ることになる。
発端はやはりマリーだった。
ある日、講義の間の休憩時間の時にマリーがこんな事を言い出した。

「すみれ、貴女今度の日曜日は暇?」

「あぁ?来週の日曜か?」
230『後悔と希望』 17 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/23(土) 22:17:46 ID:eA3beNSA
私とマリーは初めのころはほぼ同じ講義で授業を受け、一緒に図書館で勉強していたが最近は
それぞれ違う科目を受けているため一緒にいる時間がホームステイ先だけになっていた。
そのような状況になってもいつもとマリーと関係は変わらなかったが、少し気になるのは
あいつがここの主人から頼まれて買った食料品の中に、レターセットが混じり込んでいた事だ。
あいつが文通しているなんて話は聞いた事がないし、それを不思議に思って確認しようとしたら
忙しそうなふりをして荷物を持ってさっさとその場を去りやがった。
マリーが私に隠し事をするようになったのは初めてだ。だが、だからといってあいつを嫌いになることはない。
数週間前のあの日まで私の方が隠し事をしていたのだから。何を隠しているのかなんて
聞くのは言うまでもない、愚問だ。だから、私もあいつが話したくなったらいつでも聞いてやるように
待っていてやるのさ。それが、今私ができることなんだよ。

「いいぞ。その日は空いているから久しぶりにどっか遊びに行くか?」

そのようなことがあった数日後にマリーがこのように誘い出したのだ。先程言った通り、最近は一緒の時間が
とれなかったこともありあいつのためでもあるし、私自身の息抜きにもちょうど良い機会かと思ったから快く了承させてやった。

「ありがとう!それでね、行きたいところなんだけど」

「おお、どこでもいいぞ。あまり遠いところ以外はな」

「大丈夫!最近できたばっかりの遊園地だから!チケットももう買ってあるんだよ!」

へ〜遊園地か、あの私たちが住んでいる街と通っている大学の中間あたりにあるところか〜
……あ?遊園地?お前が?
本人に言っては悪いが、とてもそういう娯楽を好んでいるようには思えない。
こいつの趣味は、服やアクセサリ以外は文庫などの読書しか知らなんだぞ?
…待てよ?以前確認したレターセット。もしかして……
231『後悔と希望』 18 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/23(土) 22:20:34 ID:eA3beNSA
「…わかった、それじゃあその日は空けとかないとな」

「お願いね!頼んだわよ!」

そうして、マリーは次の講義があると言って早足で去って行った。
私は今日の講義は全て終わったのであとは図書室で勉強するだけだ。
図書館まで歩いている間、マリーの事について考えてみた。突然行った事のない遊園地に何故私を誘ったのか?
さっき思いついたんだが、あいつもしかしたら誰かと会いたいがために私に頼んだんじゃないのか?
男かどうかは知らないが、やはりあのレターセット、あいつが誰かと連絡を取っていたとしか思えない。
私の考えは間違ってはいないとは思うんだがそれにしてもそれならば私を誘う必要なんてないんじゃないのか?
そこがよくわからないんだが細かい事はこの際気にしないようにした。あいつが楽しんでくれればそれでいいからな。


そして次の週の日曜日。私とマリーは遊園地に着いた。時間は早く出たはずだが、既に12時を過ぎていた。

「おい、マリー。どうするよ、もう昼になっちまったな。どっかでめしにしてから乗り物に乗るか?」

「あ〜いや、その心配は無用だから。もうすぐ彼らが……あ、ヤバ、言っちゃった」

「あぁ?『彼ら』?」

マリーの様子が明らかにおかしい。どことなく落ち着きがなくなっているのがその証拠だ。
やっぱりこいつ、私に何か隠してやがるな。
聞くのは愚問だと前に言ったが、やはり気になるので軽く問いただしてやろうと思った時
大通りの奥から他の一般客よりも派手に騒いでいる客の声が聞こえた。
232『後悔と希望』 19 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/23(土) 22:22:26 ID:eA3beNSA
「おい、もういい加減にしとけよ。ついさっき昼飯食ったばかりじゃないか」

「うるさい馬鹿犬、しょうがないじゃない。さっき食べたハンバーガーも美味しかったけど
あっちのチュロスっていうお菓子とかこっちの二段アイスクリームとか誘惑させる食べ物が悪いんだ。
私が悪いわけじゃない」

「ははは、その逢坂の食べっぷりが俺は好きだぞ? 何なら、俺が買ってきてやろうか?」

「おま、そんなのいいって。あんまり甘やかすなよ」

「あんたはうるさい。……ごめん、ちょっと食い意地はりすぎちゃって…」

「気にするな、逢坂。まーいいじゃないか。みんなで食べようじゃないか」

他の客とは明らかに違う、賑やかな日本人客。…どこかで聞いた事のある声。
それも一人ではない、この個性の塊である三人組。
……逢坂?

「いや、てめえらかよ!?」

思わず大声で叫んでしまった。むしろここで叫ばずにはいられないだろうよ。

――何でてめえらがここにいるんだよ!? ここは日本じゃねえんだぞ。
旅行は結構だが、いち高校生がこんな簡単に観光できるわけねえだろ。
233『後悔と希望』 20 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/23(土) 22:24:06 ID:eA3beNSA
「おぉ!?どこからか怒鳴り声が!? …あ?」

「あ……」

男二人が気付くより早く女の方が人間の動作とは思えない動きで私に接近し、問答無用で飛び蹴りをかましてきた。
もちろん、軽く払ってやった。

「よう、久しぶりだな逢坂。まだまだお前の馬鹿っぷりは健在だな」

「…うっさい。あんたに言われたくない」

逢坂は蹴りから着地すると素っ気なく言い、溜息を一つ吐き男二人の方へゆっくり歩きだした。
その男二人が駆け足で私たちの方へ向かっていた。

「大河!お前よそ様になんて事を…え? 狩野先輩?」

「あ……」

「声でもう分かってはいたが、やはり高須だったか。んでもう一人は…」

あいつは顔の表情が硬くなったまま動かない……か。まあしゃあないな、この状況じゃあな。

「……で、てめえらはここで何をしているんだ?」

「あらら前会長さん、見て分からないわけ?私たちはここの遊園地の美味しい食べ物を制覇しに」

「いや違うから。狩野先輩の留学仲間の人からアメリカの観光に招待されたんだろ?
えっと、もしかして先輩の隣にいる人が…」

「あ、アハハ…。よ、ようこそ…」

私はマリーにどういう事だと説明を求めるよう睨みつけた。
マリーは予想外の展開で相当焦っているのか、ひきつった笑顔のまま固まって動かない。
234『後悔と希望』 21 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/23(土) 22:25:37 ID:eA3beNSA
「え、えっと………すみれさんと北村さん……ごゆっくり楽しんでいってね――!!ごめんなさい〜!!」

ようやくぎこちなく手足を動かしたと思ったら、逢坂と高須の手を引っ張り全速力でこの場から去りやがった。
あのやろう…逃げやがったな。あとで詳しく尋問する必要があるようだな。
それはそうと……。

「…おい、北村。もっとリラックスしろよ。さっきから固まりっぱなしだぞ?」

「あ…いや、すいません」

「しゃあねぇなぁ。とりあえず座れるところに行くか?」

北村は小さな声で「はい…」と呟き、私と並んで歩きだした。まだ北村は緊張が解けていないようだった。
私と北村は、すぐ近くにある四人は座れるベンチに腰を掛けた。
さてどうしたものかと話題になりそうな事を考えていたら、

「…ははは。すいません、突然こっちに来ちゃって」

私よりも先に北村が話を振ってきた事には驚いた。

「私に謝る事は無いよ。私のダチがやりやがっただけだからよ。しっかし、あいつは何でこんなことを…」

「…招待の事ですか?高須が俺にそのことを聞いたので詳しくは知りませんが
この計画をしたのは二週間ぐらい前だそうですよ?」

二週間前?それってあの話をマリーに話した時期じゃないか?…マリー、あいつ何を考えてやがるんだ?
私が考え事をしていると、突然北村が顔を近づけてきた。
さっきまで硬直していた顔が真剣な表情に変わり、目の色が力強く変わった。

「すいません、今の話途中で切らせていただきます。…話があります」
235『後悔と希望』 22 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/23(土) 22:28:42 ID:eA3beNSA
胸の奥が変な感じがした。何か、奇妙で柔らかいものが通り過ぎるようで気持ち悪かった。
――緊張しているのか、私?

「選挙の時は…申し訳ありませんでした!!」

やまびこが返ってきそうなくらいの声で叫び、座ったまま深々と礼をした。
周りの客が何事かと丸い目で私たちを観ている。そんなことはどうでもいいように、今度は私が硬直して動けなくなった。

「会長が、…いや先輩がアメリカで自分の夢を叶えるために留学することを決めたのに
俺の気持ち云々でその夢を迷わせしまって……本当に、申し訳ありませんでした」

「…もういい、もういいよ。北村。お前が言いたい事は分かった。あの時は仕方なかったんだ」

――違う。私が言わなくちゃいけない、言わなければならないことはこんな逃避することじゃあ駄目なんだ。
じゃあ、何を?何を言えばいいんだ?

「先輩…はは、そうですね。いつまでも気にしてるのも気分が滅入りますね。
いつまでもここにいるのもあれなので、乗物にでも乗りませんか?」

――違う…そうじゃないんだ、北村。私が言いたいのは、私がしたいのはそんなことじゃないんだ。
私は……私が言いたいのは…

「それじゃあ、まずはあそこのメリーゴーランドーへ…」

「北村!!!」

私は無我夢中で北村を叫んだ。ここで話題が断たれるのは何が何でも避けなければいけない。
そうでもしなければ、こいつといる機会はほぼないと思ったからだ。

「まだ話は終わっちゃいねぇ。てめえは、北村は、私の事をどう思っているんだ?」
236『後悔と希望』 23 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/23(土) 22:30:40 ID:eA3beNSA
「え? えっと…先輩の…」

「私の事をどう思っているのかを聞いているんだ」

少し戸惑いの表情をしたが、意を決したように口を開いた。

「………好きでした」

「声が小せぇ!もっとはっきり言いやがれ!!」

「貴女が……貴女が大好きでした!!! 初めて出逢ったあの時から、貴女の事が忘れられません!
今この時だってこの気持ちは全く変わっていません!」

目に溜めこんだ涙を流すまいと必死に叫び続ける北村。

「そうか……じゃあお前は、」

「俺の気持ちは言いました! 次は先輩…いやすみれさん! 貴女は俺の事をどうお思いですか!?」

「!?」

まさか私がふった話をそのまま北村にふられるとは想定外だった。
私は思わず北村から目を伏せてしまった。
それを北村はあろうことか、私の腕をつかみ鼻と鼻がぶつかる位に顔を近づけてきた。
絶対にここで離しはしない。北村の目が強く望んでいるように見えた。
顔に火照りに似た熱さが私を襲う。さらに羞恥心が私に追討ちをかける。

「選挙の時に聞き損ねたことをもう一度聞きます! 望みは…ゼロですか!?
俺と貴女との間には本当に特別な縁などなかったのでしょうか!?」

――そんな目で迫らないでくれ……今迫られると…迫られると…
237『後悔と希望』 24 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/23(土) 22:31:49 ID:eA3beNSA
「馬鹿野郎…言わなきゃ分かんねぇのかよ……決まってるじゃねぇか…
いつも、どんな時も、私のそばから離れない、馬鹿みたいに私についてきやがる…
そんな心の支えになっている奴が……嫌いになるわけねぇだろ!?
…選挙の前日にいったはずだ。私はいつもお前を見ているぞ、と。
お前はそんなことも分からないどうしようもない大馬鹿野郎だったのかよ!!?」

何でだろう、もっと大声で叫んでやりたいのにこんなに声が震えてやがるんだ…? 何でヒクヒク言ってやがる…?
……頬が冷てぇ…そうか、感情が昂っているは北村だけじゃないんだな。

「わかんねぇなら何度でも言ってやるよ……私は、お前の事が…………大好きだよ!!!
好きで好きで好きすぎて留学中も悩みまくったよ!でもこうするしかなかったってな!! じゃないとお前が……」

「お前が…色んな物を犠牲にしてしまう……私は夢に向かって何かを得て、お前は何かを失う…
こんなことが許されるとでも思っているのか?それならば……自分の気持ちから逃避した方が
お前にとっても良い選択肢だとそう思っていたよ。今まではな…」

「それはどういう……」

こんな状況にもかかわらず、この時の私はどうしてだか知らないが頭の方はすっきりしていた。
自分でもこんなことを思いついた事に驚いている。

「お前は私の事を好きだと言った。そして私もお前の事が忘れなくて苦労している。
しかし私は自分の夢は諦める事が出来ないし、お前には迷惑をかけたくない…だったらどうすればいいと思う?」

「迷惑だなんて…文通ですか?」

「本当にお前は馬鹿野郎だな、少しは考えろよ。…お前は辛抱強いほうか?」

「…まあ、部活もやってましたので多少は…」
238『後悔と希望』 25 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/23(土) 22:32:46 ID:eA3beNSA
「ならできるな。……私は、将来エンジニアになったときに日本の有名な学者を呼ぶように要請する。
…考古学を専門にしている専門家にな」

「!!…もしかして!?」

簡単なことだった。要は北村が私のために自分を犠牲にするのが嫌なら、北村が自分自身の夢を
目指すために犠牲になってくれればいい事。かなり時を必要とするが、つまりそれだけなのだ。
肩が並ぶまで北村を待てば良いだけだったのだ。
…何故、こんな簡単な事に気がつかなかったのだろうか?

「あぁ。将来、共に仕事ができるように仕組むんだよ。…まさかできないなんて言わないだろうな?
インディ・ジョーンズを目指すんだろ?これくらいどうってこたぁないよなぁ?」

「も、もちろん! 必ずなってみせます!インディ・ジョーンズを…いやそれすらも超える学者に!」

「その意気だ、北村。私はずっとお前の事を見ているからな。…だから、お前も私だけを見ろ。
何年、何十年経っても私は待ち続ける。お前を待ち続ける」

「…はい!」

私と北村は顔をびっしょりと濡らしながらも満面の笑顔で叫びあった。
周りが驚いている奴がいたり、ひそひそしている奴もいるが、そんなのはもはやどうでもよかった。


ようやく、心の片隅にあったもやもやが消えてなくなったのだから。
239『後悔と希望』 26 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/23(土) 22:35:28 ID:eA3beNSA
補足だが、マリーに連れられた高須と逢坂はあの後ジェットコースターや
お化け屋敷、バンジージャンプなどで楽しんだそうだ。何故か絶叫系が多かったのは、逢坂が
どうしても乗りたいと他のアトラクションそっちのけで乗り回していたかららしい。それで逢坂本人は
ケロッとしてやがるのに対して、マリーと高須は気分が悪くなってリタイヤしたそうだ。
ざまぁみろ、私に隠し事をするから罰が当たったんだよ。
高須に至っては可哀相ではあるがな。

後日、マリーに遊園地の件について優しく尋問してやったら、案の定用意してあったレターセットで
高須達とやりとりをしていたらしい。その内容というのは私と仲の良かった奴らにしばらく会っていないから
これから新しい遊園地ができし観光がてらにアメリカに旅行しに来ないか? ということだ。本当は生徒会の
メンバーも行くはずだったが、急用があり行けなくなったらしい。
のちに主催者の意図を読み、空気を読んでの参加拒否だったことはここだけの話だ。
…誰の考えと言われれば、間違いなくそんなことを言う奴らは私の妹と不幸体質の庶務以外だと断言していいだろう。
この二人は特に空気を読まない、いや読めないことで知られているからな。

つまり主催者は、マリーは私と北村をくっつける事が目的だったのだ。
ただ、本来なら私を驚かせるためにサプライズ的に登場させようと、待ち合わせ場所をあらかじめ決めといて
高須達にも伝達をしていたらしいのだがバスが予想以上に遅延してしまったことと逢坂が食べ歩きを目的に
勝手にその場から離れてしまい、結果的に高須達も逢坂を追うために移動してしまった事が予想外だったとか。

「もう…それさえなければ上手くいってたのに」

てめえ…この期に及んで。つーかそうでなくても私に失言を漏らしてバレてただろうが。
お前ほどじゃないが、私も館が良いと留学前はよく言われてたんだよ。
…そんなことはいいからよ、お前は私に何か言わなきゃいけないことがあるんじゃねぇのか?

「うぅ…ごめん。別に悪気があってやったわけじゃないのよ。やっぱり、すみれの力になりたくて。
パパに今回の事を言ったら快く了承してくれて」

いやだから前に、お前に話した件で一件落着したじゃないか。あれ以来、勉強が身に入らない事ということもなくなったしな。

「…そんなことないよ。確かにその時よりは変わったと思う。…でも、それでもなんか浮かない顔だった。
無理に今までの自分を作っているようだったよ」
240『後悔と希望』 27 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/23(土) 22:36:46 ID:eA3beNSA
「……」

――こいつ…まさかとは思うが、私のもやもやしたものをかんじとっていたのか?

だとしたら、やはりこいつ…。
うむ、これからはこいつにだけは嘘をつかないようにしよう。
蛇と酒の次に注意しなければならない人物だという事が良くわかったわ。

…まあ、確かにこいつの言うとおりだし、またもや助けられたようなものだからな。むしろ好意に受け止めておくよ。
ありがとな。

「まあお礼されるものでも…。そういえば、彼、北村君とはその後どうなったの?」

「私とあいつとか? 別に大したことはやってないんだけどな」

その通り、私と北村はその後観覧車に乗ったり、ベンチでアイスクリームを食べたりごく普通楽しんだ。
ただ、あの時、私と逢坂が決闘をした時からこいつの顔を見ると安心してしまう。
こういう関係だとよくドキドキしたり顔や体中が熱くなるとよくいうがそんなのとは断じて違うと言ってもいい。
何故こんな気持ちになるのかはもうわかってんだけどな。



――だって、いつもてめぇは、私の傍にいたからな――



ここまで日記に記して、私は床に就く。
北村との約束を守るために、夢を、未来を繋ぐために。
241 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/23(土) 22:39:12 ID:eA3beNSA
投下終了です。

とりあえずこの話はラストですが、もしかしたら外伝っぽいのをまた書くかも?
242名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 13:26:35 ID:vUt5537/
>>241
GJ! 外伝も期待してまっせ。
243名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 13:47:42 ID:gyvdVYxY

すみれものは貴重だね
244名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 17:01:36 ID:/vLo8HHd
面白かったよ、外伝も期待してます
245名無しさん@ピンキー:2010/01/25(月) 23:57:29 ID:uaNqJFJU
やっと規制解けた。

>>225
GJ!何度も読み返しました。
>「体、大事にしろよ」
>「竜ちゃんが大事にしてくれてるもん」
切なすぎてもう前が見えねえ…いいなぁ、やっちゃん。
二人には幸せになってほしい。

>>241
GJ!&完結乙でした。
甘酸っぱい会長もいい…それにひたむきな北村も。
外伝もですが、新作も楽しみに待ってます。
246 ◆KARsW3gC4M :2010/01/26(火) 20:52:41 ID:jjJPS5BC
皆さんお久しぶりです、新作が書けたので投下させてください。
前作の感想を下さった方々、まとめて下さった管理人さんありがとうございます。
このSSは以前に投下した[Lovers.]および[Lovers.-after days-]の続編でみのドラです。
時系列的には[Lovers.]より前の話です。
※微エロ描写有り 苦手な方はスルーしてやってください。
それでもよろしければ次レスから投下します。
247 ◆KARsW3gC4M :2010/01/26(火) 20:54:03 ID:jjJPS5BC
[Lovers.-How you like me now-(前編)]


『櫛枝……お前の事が好きだっ! 付き合ってくれ』

ある秋の日、薄暮の土手沿いの道を帰る途中……俺は櫛枝に告白をした。
意識しあった、すれ違った、手を取り合った、仲直りした、関係が急接近した、一つ一つの事象は単一ではなく連続で…全てに意味があった。
あの文化祭から二週間が経ち、俺と櫛枝は…………『トモダチ』から『恋人』へと関係が変わった、そう…彼女はすぐに答えてくれた。
悩む様子なんて見せない、短く、ハッキリ、そして頬を綻ばせて
『よろこんでっ!』
と……。
...
..
.
「ん……ふ、は…ふ、あむ…んく」

薄暗い部屋の中に響くのはくぐもった彼女の吐息と唾液と舌が絡み合う音。
俺達は膝立ちになり、互いの肩を掴んで口付けを交わす。それはこの一時間で五度…六度と繰り返されていた。
バイトに部活に忙しい日々を過ごす彼女が都合をつけて逢いに来てくれた、だから触れ合えなかった時間を少しでも埋めようと…どちらからともなく……。

「たきゃしゅきゅん……ふふっ……もう一回チャレンジしてみるかいっ?」

櫛枝はそう言って、何度も唇を寄せてきて…気付けば一時間もこうして…。
頬を赤らめ、照れ笑いしながら彼女は俺を受入れてくれる。
付き合い始めて三ヵ月、手に触れ抱き合ってから二ヵ月、初めて口付けを交わしたのは一ヵ月前、……そして次のステップへ移るのは今日から…。

「きゅ、きゅしえだ、そのだな…アレだ、大切な話がある、……うぅ、怒らずに聞いてくれ」

恋人同士になった、身体に触れた、口付けをした、なら次は解っているよな『アレ』だ。

「何だ…と? このきゅしえださんが怒りそうな話なのかい? うむ、まあ聞くだけ聞いてみようじゃないか、ささ…遠慮なさらず」

そうだよ、俺は健全な男子だ。ソレをしたい、してみたい。興味が無いと言ったら大嘘で、それ以上に彼女ともっと触れ合って色々と知りたい。

「俺達…付き合いだしてそろそろ三ヵ月だよな?」

まずは触りから、切り出すタイミングは櫛枝の反応を見て決めよう。実は念入りに計画していたわけじゃない『衝動的に』欲求が沸き起こったのだ。

「だね、あと二日で三ヵ月目、へへへ……それでそれで?」
だが誤解はしないでくれ、前々から言おうとはしていた。だが時期尚早とグッと堪えていたんだ。
だが今日の『ちょっと濃い触れ合い』で俺は堪らなくなって……。



248 ◆KARsW3gC4M :2010/01/26(火) 20:55:09 ID:jjJPS5BC

「お、おぅ。で、だな…そろそろしてみたいな……って」

幸せそうにはにかむ彼女を見てしまうと俺は急に怖じ気付いてしまう、でも欲求は良心に少しだけ打ち勝つ。だから主語を隠し、濁して伝える。

「………したいって何を、かな?」

彼女は恐らく俺の言わんとしている事を察したのだ、だからか赤面し恥かしそうにモジモジしながら目を逸らしてボソボソ…。

「う…っと、あ、まあ…何だ、って言われたらな……セ、セック……」

この反応なら……イケるっ!

「うおおおぉぉいっっっ!!! 大橋ぃいーっっ……ふぁいとぉおおっっ!!!」

と思ったが、全てを言い切る前に彼女は大声で絶叫し言葉を遮る。
拳を握って天を仰ぎ、力の限り……『誤魔化し』いや『かき消された』

「う……だから、な……セッ」

「う、うはあああっ!! 冬なのに蚊がっ! 蚊がいるよっ!!」

と、櫛枝は両手を振り回しまたしても誤魔化す。髪の毛はボサボサになり、これ以上ないという程に赤面し、目が落ち着きなく泳いでいる…。

「あ、あはは…………………うん、ごめんよぅ。 あれさ、…ねぇ? その覚悟はしてたっていうか…私も……うぅ
高須くんが言いたい事は解る、よ? でも…でも…でもさぁ」

一通り叫んだ後、櫛枝は俺をチラリチラリと見ながら一言、一言紡いでくれる。

「確かに……うん、してみたいんだよね…男の子は"アレ"を。頭では解ってるんだよ。
だからわ、私は…いつでも待ってるって言うのかな、うん…高須くんがしたいなら……って考えていたり。キ、キスもしたし…ハグもしたし、次は何かって"ナニ"だし?
でも…まだ足りないって想うんだ、ラヴパワーが気持ち…微妙に足りぬよ。ゆえに……一つ聞きたい事があるのです」

それは半ば独白で同時に俺への問い掛けでもある、伏し目がちの櫛枝は言いにくそうに何かを紡ごうと口を開いては閉じる。
だがそこで終わる彼女ではない、意を決し緊張した面持ちで一言で問い掛けてくる。

「高須くんは今…さ、私の事をどれくらい好き、なのかなぁ?」

肩に掛けた手にグッと力を込め、鼻先10センチの距離で彼女はそう問う。いつになく真剣な目差しで…静かに。

「私はキミ…高須竜児が好き、大好き、でも"愛してる"にはまだ…ほんの少し届かない、何故だと思う?」

続けて紡ぐ言葉では瞳が揺れて悲しそうに……。

「……俺は好きだ、大好きだぞ、櫛枝のこと。それだけじゃ足らないか?」

249 ◆KARsW3gC4M :2010/01/26(火) 20:56:29 ID:jjJPS5BC

質問の意味は解る、彼女の問い掛けは答も同然、だが曇った彼女の顔は一向に晴れない。

「足らないね。やっぱり高須くんは鈍感だ、私はそのね…セックスがしたくないから"逃げ"ているわけじゃないんだぜ。
櫛枝実乃梨は高須くんに言わせたいことがあるのじゃ、それさえ言ってくれるなら……今日でも明日でも……どんと来い状態…だよ」

「櫛枝が俺に言わせたいこと…か、何だろうな、それは重要な事…俺達二人の関係で必要な事なんだろ?」

俺は櫛枝を大事にしているつもりだ、電話もメールもマメに送り、逢える時は他の用事より優先、弁当をペアで作り…一緒に食べる。
予定が合えばデートも欠かさない、プランもしっかり建てて、少ない小遣いからプレゼントも………それ以上を求めているのだろうか?
忙しい身の櫛枝にしてやれる『精一杯』を学生の身分な俺はしている…筈。

「そうだよ、重要かどうかは置いておいても………うん。高須くんが"したいこと"をする関係になるには、私にとっては重要。
それを考えるのはキミだっ、一時間でも二時間でも待とうじゃないか! ヒントは…あげないよん、頑張れっ!」



櫛枝はニコッと笑って俺から離れる、二人の距離が徐々に離れていく……そして部屋の中心には俺、壁際に彼女。
櫛枝は壁にもたれ掛かってこちらを向いて座りヒラヒラと手を振る。

「おおっとそこから動くんじゃねぇぞ! 一歩でも動いてみろ、こいつの命はねぇからなっ!!」

櫛枝は左手で自身の通学カバンを抱え、右手で拳銃の形を作ってグリグリと押し付ける。
つまりは人質か…意味はまったく無いけど、櫛枝らしいパフォーマンスだ。

「OK OK 解った、動かないからそいつに手出しするなよ?」

なら俺はノッておくのが筋だろう、大袈裟に両手を振って要求を呑む。

「へっへっへっ……賢明な判断だぜ兄ちゃん。よしもう一つの邪魔モノも黙らしておこう、ほれ…こうだ、ほれほれ高須くんもポチッとしな」

と、悪党チックな笑みを浮かべて携帯のフリップを開けて電源を切り床へ放る。
俺も同様に電源を切って床へ置く、ここからは謎解きの時間だ。意識を彼女からの問いに向ける。
櫛枝の方に目を向けても彼女が返すのは『笑み』と『口パク』…私のことは気にせずに考えろ…と伝えているようだ。
だからそれに甘えて俺は目を閉じて思案を始める。


250 ◆KARsW3gC4M :2010/01/26(火) 20:57:44 ID:jjJPS5BC

『ラヴパワーが足らない』 『好きだけど"愛してる"まで到達しない、できない』 『俺に言って欲しい言葉がある』
要約するならこうだろう、この三つのキーワードを纏めて一つの答にしなければいけない。
『ラヴパワー』の意味、彼女が言いたい本当の意味、それは多分…キスだ〜ハグだ〜では無く、先程俺が考えた『精一杯』では無い別の事だろう。
なら『愛してる』にするには『大好き』から発展させろという事か。
そして『言わせたいこと』は…これが一番のネックで彼女からの問いの核の部分。
………行動ではなく態度、気持ち? そういった意味なのか、なら俺には自信がある。
大好きだ、愛してると言わないのは恥かしいからだ、面と向かって言おうとしても……照れるじゃねぇか。
そ、それに櫛枝も急に言われたらビックリするだろ、だから自重している一度も言っていない、それなりに考慮しているんだ。
これは彼女と付き合う前、大河と共に行動するまでの一年間に作った『プラン』に基づいている、完璧
なら……こうはなっていないよな、完璧では無いから櫛枝は問い掛けてきた訳なのだから。


おぅ……て事は、何かが足りないのだ『プラン通り』でも何かが欠けていて櫛枝はストップを掛けている。
解らん、いいや漠然と思い浮かんではいるが霞んで見えない。
何が邪魔して霞んでいるのかは認めたくないが俺が必死になって考えた『プラン』なのだろう。
じゃあこの際だ『プラン』は頭の中から捨ててスッキリ、1から考えてみよう。櫛枝の気持ちになって、だ。
何度も言うが俺達はハグもキスも済ませて『次の段階』へ登ろうとしている、したい。
肉体的にも精神的にも繋がる事で俺達は更に関係が良くなる。
と言うのも俺達は交際して三ヵ月近く経つが、なんだ…『友達気分』が抜けていない気がする。
友達の時に一番気持ちが盛り上がった文化祭の終了した日からの延長線上なのだ、そこから区切りが出来ていない?
でもようそれじゃあハグもキスも出来なかっただろう、彼女はスルリと身を翻しただろう。
中途半端な状態なのだ『友達以上恋人未満』であり『恋人同士』でもある。
半端な関係だから櫛枝は『行為の誘い』に答えてくれない。
それは何故か、ああ…何かスッキリしない、モヤモヤする、あと少しで掴めるのに答は靄の中。

251 ◆KARsW3gC4M :2010/01/26(火) 20:59:38 ID:jjJPS5BC

櫛枝…櫛枝実乃梨……本気で惚れているのに…この気持ちが伝わらないのか? ん、待て…今何かが過ぎったぞ?
おぅ『櫛枝』と頭の中で名前を呼んだら一瞬だけ『何か』が……。
ああ…頑張れ、掴め、俺は忘れている、重要な事だ、キスよりハグよりセックスより大事な事だ、そう直感する。
……名前だ。俺達は互いの呼び方が『友達』のままなんだよ。
そうだ、そうだった、名字で呼び合っていたらおかしいよな。
恋人同士という密な関係になっても名字で呼び合うのは違和感を覚える。今さらだが…。
昨日、今日から付き合い始めてわけじゃない、それくらいの期間なら『友達気分』が抜けずに名前で呼べなくても不思議ではない。
ああ…そうだよな、ハグやキスは彼女なりの妥協だったに違いない。
『ここまでさせたんだから名前で呼んで欲しい』
そう訴えていただろう、だが俺は気付かない…だから鈍感だと言われた。
彼女はより密な関係になろうとしていたのだ、なのに俺ってヤツは…、それが憶測でしか無いのは間違ない。だけどそう考えたらつじつまはあう。
愛情表現の一つなのだ、名前を呼ぶことは。


三つのキーワードがパズルのピースがはまるように一つになる、それが正解か不正解かなんて迷う暇は無い、俺は行動あるのみ。

「うぉいっ…早っ! 何だい、もう答が解ったのかい?」

サッと立ち上がった俺を見て彼女は驚きの声をあげる、その様子を認めて一歩づつ前進する、彼女は微動だにしない。

「お、おぅ…簡単だけど難しい問題だった、そして一番初めに気付くべき部分だったよ。だからまず初めに言っておく、すまん」

彼女と向かい合って腰を下ろした俺は謝罪する、すると彼女は息を呑んだ…気配で解る。

「えっと…いやいや、高須くんが謝る必要が解らないっていうか、ちょ…待った待った……顔を上げてくれい、流石の櫛枝さんもビックリだ」

彼女の一言一言に俺は下げた頭の角度を深くしていく、気遣ってくれているのか側頭部を両手で挟まれ持ち上げられた。
強制的に目を合わせられたわけだ、だから俺は目を逸らさない、ジッと見詰める。

「…どうしたんだよう、どうしたんだよう高須くん。私は意地悪してキミに謝らせたいわけじゃないよう」

弱々しく彼女はそう呟いて俺にグッと顔を近付けて心配そうに覗き込んだ。



252 ◆KARsW3gC4M :2010/01/26(火) 21:01:27 ID:jjJPS5BC

「…実乃梨ぃっ!! 寝ても醒めてもお前の事ばかり考えているぞ!! 恥かしいから言えなかったけど愛している、惚れ込んで、一緒に居るだけで幸せだっ!!
どのくらい好きかだなんて簡単だっ! MAXだ全開だ、ベタ惚れに決まってるだろっ!! この両手の幅×∞っ!!」

俺はそのタイミングを逃さずに答える、彼女からの問いに……。ちょっとふざけた感じに見られるかもしれないが俺は正気だし本気だ。
両手を左右に大きく広げ、指先がプルプル震えるくらい目一杯に腕を伸ばす。
尺度の例え、解りやすく伝えたつもりではあるけど………届けっ!

「な、なにおぅっ!! 負けるかっ! りゅーじきゅんが∞なら私だって∞だっ!!!」

と彼女は叫び、俺の両手に重ねるように腕を伸ばす……目一杯。
名前で呼んだら名前で返してくれる、それもすんなりと。つまり俺の予想は当たったらしい。
眩しい夏の太陽を連想させる満面の笑みを浮かべて彼女は続ける。

「うぬぬ……な、何ぃ……私の想いよりりゅーじきゅんの想いの方が強い、だと?」

そう、彼女の腕の長さだと少しだけ俺と手を重ねる事は出来ない。

「いや∞だから計るのは駄目だろ、出来やしない。だから……俺達は横並び、そうだろ?」

そう言うと彼女は頷いて腕を伸ばすことを止める、その代わり……強く抱き締められる、愛しそうに背中を撫でながら。

「やっと…名前で呼んでくれた。 "実乃梨"って……ずっと待ってたんだよ…鈍感さんめ」

「悪かったよ、気付くのが遅かった。ごめんな……」

肩に顔を埋めた実乃梨の頭を撫でてみる、一回、二回…ピクンと彼女は僅かに震える、だが次第に力を抜いて身を委ねてきた。

「謝らなくて良いよ、私の方が謝らなくちゃ……実はウソをついてたんだ。
本当は名前で呼んでくれるだけで良かったのに、ちょっと困らせてみたくて……色々と付け足して、さ。
私は傲慢だから……竜児くんを試すような真似をした、ごめんなさい」

そこで一旦区切って、実乃梨は呟く、申し訳なさそうに…。

「 "愛してる"に届いてないなんて嘘、もうとっくに届いていて私は…竜児くんしか見えていない、傲慢で欲張りだから…離したくない」

と…、最後に『正解おめでとう&ありがとう』と言って彼女は俺を下から見上げる。
頬を染め、瞳を潤ませて縋るような目差しで俺を見詰めて……甘えた声で囁く。

253 ◆KARsW3gC4M :2010/01/26(火) 21:03:00 ID:jjJPS5BC

「………りゅーじくん、セックス…しよう?」

俺は魅了される、彼女のこの表情に……。
憂い、戸惑い、幸福、羞恥、好奇、照れ……様々な感情を織り交ぜた表情に…。
初めて口付けした時、抱き合った時、そして今。その場面で必ず見せてくれる彼女の表情。

「おぅ……しよう、なぁ…み、実乃梨……こっちに来いよ…もっと…もっとだ」

俺は堪らなくなる、背筋に下から上へゾクゾクとした歓喜の震えが走る。だからか身を委ねた彼女の腕を引いて自身の胸の中へ抱く。
あぐらで座る俺の膝に跨がらせる、ピッタリ密着し抱き合う。制服越しでも暖かくて柔らかい。
余分な脂肪が無く、絞まり、少しだけ筋肉質な身体……、でも肩幅は狭く力を込めたら折れそうな程に華奢で…。
制汗スプレーの匂いと香水の匂い、シャンプーの匂い、そして…甘酸っぱい女の子特有の匂い……。
五感を刺激される『実乃梨』に絆され…俺は動けなくなる。

「重たくな…い? 大丈夫?」

彼女は肩に置いた手をゆっくり首に回し、首筋に顔を埋めて囁く。

「全然大丈夫、実乃梨はオマエが思ってるより重たくなんかねぇよ。軽いぞ……マジで」

「…ふふ、りゅーじきゅんもやっぱり男の子なんだね、力持ちだ…じゃあちょっとだけ甘えてみよう」

彼女は嬉しそうにそう笑い両足を腰に巻き付かせ、柔らかい下腹部が押しつけられて衣擦れの音と共に擦れる。
擦り付けられているってわけじゃない、密着してもなおジリジリと肢体を寄せてくるから、だ。

「りゅーじくん…ん…ほら……ん〜」

彼女は俺にせがむ、瞳を閉じ顔を近付けて口付けをねだる。少し荒い呼吸は興奮しているから、桜色に染まった頬は自身から迫る羞恥から…。
潤った血色の良い唇に目を奪われる、甘く薫る実乃梨の匂いに胸が高鳴り締め付けられて……もう限界だった。

「実乃梨ぃ…っ!」

「んっ! あ、ふ…んぅ…は、あ……はむっ…ふっ」

唇を重ねて彼女の舌に吸い付く、甘噛みと共に啄む……続いて口外で絡ませる。実乃梨は吐息を漏らしてソレを甘受する。
舌先同士が触れ、伝い、絡み合う…彼女は唇で俺を咥えて口内へと誘い入れてくれる。

「は…ふ、あっ…ん、ちゅぱ…」

優しく吸われ、舌で引き寄せられて奥へ奥へと誘われていく。だから俺は彼女の口内で舌を這わして返す。

「んん、む……ちゅく、ちゅっ! んぅう……、んんっ!」




254 ◆KARsW3gC4M :2010/01/26(火) 21:03:47 ID:jjJPS5BC

『今までここまではしなかった』 例えば歯茎、舌の裏、上顎…そんな所まで余すことなく蹂躙する。舌を絡ませるだけじゃない。
実乃梨は艶の混じった甘い声で喘ぐ、微かに震える身体を俺は左手で抱き締めて右手は背中から下方へと滑らせる。

「んむ、ぷは…はっ…んんっ?…。ん…いいよ、触りたい…んだよね?」

口付けを止め、ジッと彼女を見詰めて許可を求める。手は腰の辺りで停止。すると彼女は照れ笑いしながら許容してくれる。

「へへ…何か恥かしいね……あ、ふ…んんっ」

スカートの上から尻を撫でてみる……柔らかい。これだけでも俺は堪らない、大きくも無く小さくも無い手の平で感じる程良い感触に魅了された。
実乃梨はくすぐったそうに身を捩らせ強く抱き付く、再び顔を肩に埋め微かに呻く。甘く甘く…啼く。

「あ…んん、っ…ふ、ふあっ……うぅ、え…え?」

尻と並行して左手でブラウスの端から中へ…腰から背中へ撫でながら滑らせる、困惑した声色を出す実乃梨に聞いてみる。

「そのよぅ…俺、見てみたいんだよ実乃梨の胸というか身体…いいよな?」

自分が焦っているのは解っている、一つ知ったらすぐ次へ……彼女の身体に興味深々なのだ。

「あ、あはは…でもね、うん…ほらまだ明る、い…し。恥かしいよ……そ、それにさ!
りゅーじきゅんにプヨプヨなお腹を見せる訳にはーーっ!!
ちょっと油断してたら少し! マジで少しだけど太っちゃって! とても見せれる状態じゃないから!!」

俺の言葉に実乃梨は顔を上げ慌ててそう口走る、真っ赤な顔でうろたえながら。
俺は彼女の下着の留め具に指を掛ける、願いを黙殺しているわけじゃない…大切に想うからこそ見たいし触りたいから…推し進める。

「あ…ぅ、だ…駄目だって……本当に恥かしいんだよぅ、りゅーじくんに幻滅されたくない…から、っふ…」

実乃梨は俺から目を逸らしてモジモジし始めた、羞恥と戸惑いと興味が見え隠れしている。

「じゃあこうしよう、腹は見ないし触らない…強引な事はしないから、なっ? これなら大丈夫だろ?」

そう提案したのはそれが一番の『落し所』だから、実乃梨は俺に腹を見られる・触られるのが嫌なのだから…。

「う…そう来たか、うーん…うん、おっぱい…とか…も、もちろん"アソコ"は見るよね、どうしようどうしよう。
……どうにもならないなぁ…よ、よし!ガチの裸は…お腹は絶対に見ないって約束出来る?」




255 ◆KARsW3gC4M :2010/01/26(火) 21:04:30 ID:jjJPS5BC

彼女はしばし悩んだ後伏し目がちにそう聞いてくる、実乃梨なりの精一杯だ…俺の答なんて決まっているよな。

「約束する、俺は実乃梨が見られたくない"部分"を見ないし手出ししない、でもいつかは…痩せて元に戻ったら…見せてくれるんだろ?」

と返してみると彼女は少し間を開けて頷く、同時にこう紡ぎ返してくれた。

「 "いつ"になるかは解らないよ、何せりゅーじきゅんが作ってくれるお弁当が美味しいから、ガツガツいっちゃうからさ…おぬしは罪作りな漢よのう」

と…。期待して待っておこう、それに彼女が弁当を残さずに食べてくれる理由…それを再認識出来ただけで…ああっ…幸せだ、主夫冥利に尽きる。

「うん…じゃあおっぱい触る?」

その問いに俺は下着の留め具を外して答える代わりとする。
彼女はクスッと笑ってタイを解き、ブラウスのボタンを上から一つ…二つ…三つ、四つと外して胸元を晒して下着をゆっくり上へずらす。

「お…ぅ……」

プルンと震えるマシュマロもしくはプリン…それが第一印象だった。形が良くて…そこは日焼けしていないから白くて…大きくて…。
ピンク色の乳首が彼女の呼吸と羞恥でモジモジする動きに合わせて微かに揺れる。


川嶋や香椎と比べてはいけない、彼女達は規格外なのだ。同年代の平均からすると実乃梨は充分に大きい。

「ど、どう? 自信は無いんだよね、あーみんみたいに大きくないし…」

両手で下着を持ったまま実乃梨は上目遣い、そして申し訳なさそうに紡ぐ。

「実乃梨、それは違うぞ…俺は大きさなんか気にしねぇよ。それにお前の胸以外に興味なんて無ぇから…」

俺はそう言うとそっと手を胸に伸ばす、包み込むように…。

「ふふ…ありがとう、ちょっと気持ちが楽になったよ。ところで…狼の目付きだねりゅーじきゅん? …狩りの時間かい?」

「おぅ」

俺達は見詰め合う…互いに何も言葉を出さず、照れ笑いし、どちらからともなく一回だけ軽く口付ける。

「んあ…あ、ぅ……。ふ…あ、…うぅ、ん」

その口付けが終わるのを合図にして俺は彼女の胸に十指を埋める、押し返されす弾力、堪らなく柔らかくて吸い付く肌触り…否応なしに興奮していく。

「は…ふっ、ぅ…あ、あ……はあ、んくっ…ひぁんっ!」

優しく絞る、埋めた指で揉みしだく、手の平の中で転がして…。実乃梨は控え目な声で喘いでいて…徐々に硬くなっていく乳首を摘んでみると甲高く啼いた。



256 ◆KARsW3gC4M :2010/01/26(火) 21:05:41 ID:jjJPS5BC

それは今まで聞いた事の無い実乃梨の『女の啼き声』で…ビクッて身体が跳ねて…。

「んぅう〜っ……! あ、あっ…あっ! はっ…あっ、あはぁっ!」

その切なさと艶が混じった啼き声に俺のムスコが目覚める。下着の中でムクムクと大きく、硬く…張り詰めていく。
くの字に曲げた人差し指の第二関節に乳首を乗せて親指で挟んでクリクリと転がしてみる、それはAVだか何かで見た愛撫。

「うぅ…り、りゅーじくん…ん、駄目だ…よぅ…あっ! 変な声出ちゃうから…それ駄目ぇ…あんっ!」

『駄目…駄目…』

瞳をギュッと閉じて、そううわ言のように呟きながらも彼女の顔は蕩けていく…僅かに開いた唇から漏れるのは甘えた声色の喘ぎだけ。
親指の腹で優しく転がして、人差し指で擦って弾いて、再び揉みしだく。不規則に繰り返す、胸を揉みほぐしたら次は乳首、そんな調子だ。

「ふっ! …ふぅ! は…ぅっ! やっ、あっ! あぅ…あっ!! あんっ!!」

実乃梨の喘ぎに熱っぽさが加わり…1オクターブ高く啼き出す。体温も高くなった気がするし…汗ばんでいく様はしっかりと伝わって…。
きめ細かい柔肌がほんのり桜色に染まり、汗ばんだ身体が手の平に吸い付いてくる。


「っ…んう、はっ! くふぅんっ!」

俺の手の平の中で形を変え、元の形に戻ろうと押し返してくる胸…気持ち良い触り心地をある程度、堪能したら次は…やっぱり…。

「や、あっ…ぁ! はふっ!! ん、ふぅ…あっ、あっ!!」

胸は『母性の象徴』で男は『マザコン』な訳で…両手で彼女の腰を引き寄せて密着した身体を引き接がす。
そうして生まれた上半身の僅かな隙間に顔をねじ込んで、ここまで言えばもう解るよな?
俺は吸いたい、舐め回してみたいのだ、このピンピンに硬くなって自己主張をする乳首を…。
俺は一度だけねっとり舌で舐め上げて、むしゃぶりつく…『優しく』とか『徐々に強く』なんてしない、出来ない。

「ひぅっっ!! あ…あ、ん!! はぅっ!?」

強く吸い付いて、唾液を絡ませた舌でねぶり回して…そんな荒々しい愛撫に実乃梨は頭を抱き締めて包んでくれる。
慈しむように頭を撫で、甘えきって発情した艶声で啼いて、胸を押し付けてくる。
下着の中でムスコが跳ね、期待でドキドキ…痛みすら覚えた。俺も彼女と同様に発情していく。

「り、りゅーじきゅんはおっぱいが好きだねぇ、っくふ! 赤ちゃんりゅーじくんだぁ…うりゃっ♪」


実乃梨はそう囁いて更に強く俺の頭を抱き締める…。

続く


257 ◆KARsW3gC4M :2010/01/26(火) 21:08:13 ID:jjJPS5BC
今回は以上です。続きがかけたらまたお邪魔させていただきます。
では
ノシ
258名無しさん@ピンキー:2010/01/26(火) 21:28:58 ID:N5Ru4YaC
きたー

エロが含まれているSSを読むと心が安定する・・・

ブラウスがラブプラスに見えたら末期ですよね。
259名無しさん@ピンキー:2010/01/26(火) 23:11:26 ID:7UFJ30fG
みのドラキター! GJ!
このシリーズもまた最初から読み直すかな。
260名無しさん@ピンキー:2010/01/26(火) 23:35:34 ID:anJ4yP0V
GJです。
毎回思うのですがエロいんですけど、表現が柔らかいので、とても好感持てます。
いきなりエイジプレイとはさすがみのりん。あまえんぼーのりゅうじきゅんへの
お仕置きシーン楽しみです。続きをまったりとお待ちしてます。失礼いたします。
261名無しさん@ピンキー:2010/01/26(火) 23:46:12 ID:xt3FYzsR
KARs様のみのどら最高!
ずっと待ってたんだよ、もう!
今度はしばらくこっちなのかな?だったら嬉しいw
262名無しさん@ピンキー:2010/01/26(火) 23:51:27 ID:rfd6rgPa
櫛枝とか会長とかお前ら・・・
263名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 19:37:48 ID:sMc1CgI3
うっは、最高!
待ってました!
264勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2010/01/27(水) 22:52:03 ID:77c3gAQa
なんでこんな・・・1ヶ月弱も規制になっちゃったのかな









なぁーんて言うとでも思ったかぁーぎゃはははははははぁ〜

規制中は別作品に浮気してたけど、解除されたから戻って参りました。
また、近い内に続き書くので宜しくお願いしまっス
265名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 23:39:41 ID:HCiuENGw
キンタ待つ神田
266名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 23:54:36 ID:KCef0+8g
>>264
貴様、麦のん萌えだったのか。。。

続き待ってますんで。
267名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 00:09:04 ID:AUn5MkT6
>>264
え?バンドの人だったの?
気づかなかったわー
こっちも楽しみにしてるので早々にかきたまへよ
268名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 03:34:12 ID:/tvXdNDz
勇者キター!!\(>▽<)/
待ってましたよ!
あ、でも投稿は数日に一度のほうがいいと思います。
うるさい人に文句言われる元になるんで
269名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 05:04:10 ID:Uj4kuSW8
テスト
270名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 07:57:19 ID:aym6Iz0e
テスト
271名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 10:29:49 ID:gO/m7JTk
>>267
むぎのんはバンドじゃなくて炉心融解の方じゃない?
あーみんがヤンデレ化した背景にはむぎのんがいたんだね。なんか納得した。
272名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 23:29:10 ID:WXY3rgr+
美琴「ビンタなんかして悪かったわよ!でもっ、叩いた私の手の方が痛いの!
もう一回、身投げなんてしようとしてごらん!……絶対、絶対、絶対に……
……絶対!殺してやるから……!
私だって、私はこの世にいない方がいいんじゃない、って思ったことぐらいあるよ!あるよ……何度もあるよ!……っ……
でも、生きてるっ……それは……!それは、あんたが、いるからよ!好きなんだもん!
あんなこと二度と言わないで!あんたがいなきゃダメだもん!
私はあんたが誰を好きでも、あんたが誰とこの先生きていくんでも、それでもいいって思ったのよ!
ここに私がいるのはただ、たった一つ、あんたを上条当麻を見ていたかったから!それだけなのよ!
あんたの近くで、あんたにとって私は何者でもないとしても、それでもいいから生きていたかった…それしかなかった!
でもでもあんたはキスしてくれた、私を、だから、……だから!あんたのそばに、私は、いたいの!
いるって決めた!もう!もう、もう、もう………!わかってよっ!」
273名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 23:47:24 ID:55RJkC5Y
4月にスピンオフが出るそうな
274名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 00:57:53 ID:0h7CasTI
誤爆なのかキャラ入れ替えなのかよーわからん。>>272
275名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 01:25:08 ID:Cp/wNNr0
 ス   レ   チ
276名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 14:50:28 ID:57BU4xsa
レス数300以下なのにもう300KBとかw
このスレ異常wwww
277名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 22:41:05 ID:K+lokAk6
竜児よりも出来る主夫ヴァンプ将軍
278名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 02:27:08 ID:yJmvGn3L
>>276
今更だけどな。
279名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 15:14:31 ID:zoarYiYP
最近、急にかけなくなった。
愛はあるのにな。困った。
280名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 15:24:45 ID:dKfm/tuo
誰とは言わないが、誰かが荒らしてから急激にスレ速度が落ちたね
とはいえ、投下自体はある。
281名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 17:38:45 ID:vWs5dIyp
いや、単に携帯規制があったからじゃないか?
竜児×亜美スレも規制中に落ちてしまったしな
282名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 19:38:23 ID:32/75M+q
複数の携帯キャリアが規制されていたからだよ
ソースは俺
283356FLGR ◆WE/5AamTiE :2010/01/31(日) 22:52:51 ID:mglz3+X6

356FLGRです。
「きすして6」が書き上がりましたので投下させていただきます。

概要
「きすして5」の続編です。「2」「3」「4」「5」の既読を前提としております。
 未読の場合、保管庫の補完庫さんで読んでいただけると嬉しいのですが、相当な物量
なので長いのはダメってかたは華麗にスルーしてくださいな。

 基本設定:原作アフター:竜児×大河

 注意事項:シリーズ全体としてシリアス傾向です。
      奈々子については二次創作補正が強くかかっております。
      本作では奈々子は父親と二人暮らしということになってます。

 次レスから「きすして6」の投下を開始します。
 時期は高校三年の十二月下旬。今回はエロなしです。すんません。

 今回も結構な物量(25レス)になっております。
 規制とかで中断するかもしれません。
284きすして5 01:2010/01/31(日) 22:53:50 ID:mglz3+X6

「ほら、さっさと行け。この駄犬」

 頭を小脇に抱えて走り去るクマを見送った。滑稽を通り越してシュールだった。
 私は素足にフローリングの冷たさを感じながら広大なリビングルームに戻った。薄着
でも暖かいぐらいに暖房のばっちり効いた部屋なのに、さっきまであんなに暖かい場所
だったのに、今はひどく寒々しかった。多分、ひとりぼっちになったせいだ。

 まあ、さっきまで竜児がいたんだしね、どうせ明日になればまた…

『バカだ』

 明日になれば…
 明日になったら…

 竜児はみのりんの恋人に、みのりんは竜児の恋人になる。
 だって、二人は両想い。
 彼の隣はみのりんの場所になる。
 だって、二人は両想い。

『お前は(私は)本当にバカだ』

 だから、もう一緒にはいられない。
 彼の傍にはいられない。
 そこは彼女のものだから。私はそこには居られない。
 
 それが、嫌なんだ…… 

『本当にバカだ! 本当は分かってたくせに。一番大切な人が誰なのか。一番好きなの
が誰なのか。今の自分を誰よりも愛してくれているのは誰なのか』

 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ、嫌だ、嫌だ!
 このまま傍にいられなくなるなんて絶対に嫌だ!
 間に合う。間に合って。
 今ならまだ、今なら引き留められるかもしれない。

 リビングを飛び出した。

 ごめん。みのりん。
 ごめんね、ごめんね、ごめんね。本当にごめんね。
 でも、ダメなんだ! 竜児がいないとダメなんだ!

 だって、私は竜児が好きなんだからっ!

 素足で廊下に飛び出し駆けぬける。
 滲んだ景色が流れていく。
 まるでスローモーションの様に漫然と開く自動ドアを身体を押し込むようにこじ開け
て冷え切ったアスファルトの上に裸足で飛び出した。
285きすして5 02:2010/01/31(日) 22:54:25 ID:mglz3+X6

「竜児っ!」
 
 辺りを見回す。そこは凍てつくような黒と灰色だけの世界。
 いない。もう見えない。行ってしまった。行かせてしまった。
 戻って! 戻ってきて! お願い!

「りゅーーじぃーーーっ」

 お願い! 届いてっ。届けて、神様、お願いだからっ!
 彼の名を呼ぶ。叫ぶ。のどが裂けてしまうほどに、肺がつぶれてしまうほどに。

「りゅーーじぃーーーっ」

 けれど、声は、彼の名は、凍てつく大気に吸い込まれ彼の心に届かない。
 叫んでも、叫んでも、もう彼には届かない。


 ―― とどかない ――


 朦朧とした意識が最初に認識したのはシーリングライトの常夜灯。
 ゆっくりと身体を起こすと冷えた空気に背中を撫でられて肩がぶるっと震えた。常夜
灯の仄かな明かりに照らされた部屋の景色が滲んで見えた。

 大河は怖々とベッドの隣に敷かれている布団に視線を落とし「りゅーじ」と呟く。
 そこに安らかな寝息を立てる竜児の寝顔を見つけて強ばった大河の頬が緩む。

 よかった。やっぱり、夢だ。

 パジャマの袖で涙を拭い、小さくため息をついた。

「竜児が悪いのよ。嫌な予感がしたから添い寝してってお願いしたのに」
 彼を起こさないように小声で抗議。

 そうは言っても大河のベッドは二人が一緒に寝るにはちょっと窮屈だった。掛け布団
も普通のサイズだからぴったりと寄り添わないとちょっと寒いし、かといって寄り添う
と、キスとかしてしまいがちだし、そうなるとだんだん気分が盛り上がって来たりして、
結局してしまったりと、そんなことがあって、セックスしない時はそういう気分になら
ないように竜児は布団を敷いてそこで寝るというスタイルになったのだ。

 しんと静まりかえった部屋の中、聞こえてくるのは目覚まし時計の乾いた動作音と竜
児の寝息だけだった。目覚まし時計を見ると、時刻は午前三時前。

 寝よ…。大河は呟いて横になって目を閉じた。

 けれど眠りは訪れない。

 羽毛の掛け布団とシルクの毛布に包まれて暖かいハズなのに背筋が震えた。
 カタカタと奥歯がなる。
286きすして5 03:2010/01/31(日) 22:55:02 ID:mglz3+X6

 素足を切り裂くような冷え切ったアスファルト。
 のどをひりつかせる凍った空気。 
 モノトーンの世界に命が霧散していくかのような絶望感。
 夢の中で再生された感覚が未だに生々しく残っている。

 布団の中で丸まり、肩を抱いた。それでも震えが止まらない。

 あの夜、思い知らされた。
 自分にとって高須竜児がどれほど大切な存在なのかを。
 自分がどれほど愚かだったのかを。
 自分の心に向き合えない臆病者の末路の悲惨さを。
 本当の失望と孤独を。

 こわい…

 大河は身体を起こしてベッドからおりて竜児の枕元にしゃがんだ。
「りゅーじ。りゅーじ」
 小声で呼びながらぺたぺたと肩を叩くと竜児はゆっくりと薄目を開けた。
「ぅん? たいが、どうした?」
 寝ぼけた声で言われて、大河の心は蕩けそうになる。ちゃんと竜児はここにいる。
「さむい。はいっていい?」
「ん、しょうがねぇな。ほら」
 竜児は布団をまくると少し身体をずらして大河のための場所を作った。大河はそこに
するすると滑り込んで竜児の胸に頭をのせた。
「りゅーじ」
「ん?」
「あったかい」
「じゃあ寝ろよ」
「うん。おやすみ」
 大河は小さく洟をすすって竜児のパジャマにしがみついた。

 大丈夫。絶対に大丈夫。大河は自分に言い聞かせる。
 私達は絶対に負けない。準備は万全。落ち度はない。

 竜児の体温で暖められた布団の中で大河の意識はとろとろと溶けていく。
 ささやき合うような寝息を立てて二人は眠る。

 目覚ましが鳴るまであと三時間。
 大河の母がここを出て行ってからすでに一月半が経っていた。

***
287きすして5 04:2010/01/31(日) 22:55:46 ID:mglz3+X6

「また、その話?」
 ウンザリとした口調で私は亜美ちゃんに言った。
 今年最後の授業を終えた私は亜美ちゃんと一緒に校門を出たところだ。
 担任教師ゆりちゃん独身(31)から雑用を頼まれたせいで私達が学校を出た時間は
いつもより随分遅かった。簡単なことだから、なんて言われて安請け合いしたのがいけ
なかった。ゆりちゃんは私達が三人セットで来ると思っていたらしいのだけれど、でも
摩耶は『ごめん、用事があるから、先帰るね!』と櫛枝のお株を奪うようなダッシュを
見せて帰ってしまったのだ。おかげで二人で三人分の仕事をするはめになった私達は職
員室で不満をたらたらと垂れ流しながら配布物の仕分けを終えて、ようやく解放された
ところだった。

「奈々子、ホントにいいの? このまま卒業しちゃって」
「いいのよ。いいの」
「ふーん。ならいいんだけどさ」
 そう言う亜美ちゃんはちっともそうは思っていないようだった。ちょっと不機嫌そう
な目付きで私をちらりと見ながら言葉を続ける。
「…後悔しても知らないよ」
 冷めた声で彼女は言う。でも、彼女が知らない振りなんか出来ないってことも私は良
く知っている。彼女のお人好しっぷりといったらまるで高須君並かそれ以上なのだ。
「しないわよ。一応、そのつもり」
「あ、っそ」

 亜美ちゃんは私になんとしても告白させたいらしく、ここ二週間ほど二日に一度はこ
の話題だった。そうして高校を卒業するまでに片恋の幕引きをすませてしまった方が私
のためだと力説する。事実、亜美ちゃんは五月に高須君に告白して見事に振られ、そし
て彼と彼の恋人の友人になった。亜美ちゃんは大河と一緒に買い物に出かけたり、時に
は三人で遊んだりもするそうだ。つまり彼女はこんな道もあるんだよ、と言いたいのだ
ろう。
 けれど、私は高須君とそういう関係に落ち着きたいわけじゃない。やっぱり彼には女
として意識して欲しい。今だって友達には違いないけれど、何というか緊張感というか
ある種の危なっかしさみたいなものをキープしたいのだ。だから、私は彼に告白しない。
彼の口から「友達でいよう」なんて言わせない。

 そう思いつつも、私は、……
 逢坂大河が高須竜児と共に紡いでいる物語のファンでもあるのだ。

 そこに世界に背を向けていた逢坂大河という女の子がいた。
 そこに世界に背を向けられていた高須竜児という男の子がいた。
 そんな二人が出会って幸せをつかんでいく。そんな物語。

 書き手は二人、読み手は私。だから、私は介入しない。彼女らの物語の登場人物には
ならないと心に誓った。そんな事を誓わなくても、高須君が大河以外の女を選ぶことな
ど有り得ないけれど、けれど、それでも、私は高須竜児に告白しない。そう決めたのだ。

「そう。しないわ。告白も後悔も」
 もう一度、呟くようにそう言った。本当にややこしい女だと、我ながら思う。高須君
のことは好きだけれど大河には幸せになって欲しいし、それでいて彼には女として意識
して貰いたいのだ。支離滅裂なのはわかってるけどそんな簡単に心の中身を片付けられ
るほど私は単純じゃない。一つ一つの気持ちは全部本物なのだから。
288きすして6 05:2010/01/31(日) 22:56:43 ID:mglz3+X6
「まあ、いいけどね」 
 あまりそう思っていなさそうな表情で亜美ちゃんは言った。心配してくれるのはいい
んだけど亜美ちゃんのはちょっと過剰な気もする。おかげでちょっと気まずい雰囲気に
なって私たちはしばらく無言で歩いた。
 しばらくして、亜美ちゃんが不意に口を開いた。
「ねえ、奈々子。前から聞こうと思ってたんだけどさ、いつ頃なの? 高須君を好きに
なっちゃったのって」
 言われてみればそれを亜美ちゃんに話した事は無かった。些細な秘め事もあったから
私はそれを彼女に言わなかったのだ。
「いつだったかしらね。もう随分前の事だから覚えてないわ」
 嘘をついた。本当はちゃんと覚えてる。冬と春の境界線上で起きたその出来事を私は
ちゃんと覚えている。あの日の記憶とターコイズブルーの紙袋は私の宝物だから、
 
 忘れない。あの日のことはずっと… 

***

 それは大河が私たちの前から消えて一ヶ月ほどが経った三月十八日の事だった。

 薄情なもので一ヶ月もすると教室に彼女がいないのもすっかり当たり前の事になって
いた。あれだけ突出した人材だったのに、みんなの日常から欠落したとたんに彼女は忘
れ去られていった。そのことを非難するつもりはさらさら無く、そもそも人というのは
忘れてしまうものなのだからそれが自然なのだと私は思っていた。

 そんな状況に逆らうように高須君は強く強く、『激しく』と言っても良いぐらいに大
河のことを想い続けていた。その頃の高須君は沈んだ表情でいることが多かった。誰か
と話しているときは平然と、むしろ明るく振る舞ってはいたけれど、やはり心にぽっか
りと穴が開いてしまっている様に私には見えた。

 けれど、その高須君にしたって彼女のことを忘れていくのだろうと私は思っていたし
確信もしていた。所詮、人と人のつながりなどというものはそんなものだ。とても脆く
儚いものだ。それを私は知っている。お父さんとお母さんがそれを教えてくれたのだ。
 
 ―― 離婚という方法で ――

 共に生きると誓って子供までいるというのに罵りあい、憎しみあって二人は別れた。
母が出て行ったその日まで私の家は両親のバトルフィールドだったのだ。時に私は二人
が互いを傷つけるための武器にされ、攻撃から身を守るための盾にされた。

 二人の離婚が決定的になったころ、私は気付いてしまったのだ。
 二人にとって私がもうどうでもいい存在になってしまったという事に。
 母にとっては憎むべき男との間にできてしまった過ちで、
 父にとっても憎むべき女との間にできてしまった過ちで、
 鎹(かすがい)にすらなれなかった愛らしさのかけらもない出来損ないが、

 香椎奈々子であることに気付いてしまった。
289きすして6 06:2010/01/31(日) 22:57:19 ID:mglz3+X6
 その経験で私の心はどこかちょっとだけ壊れてしまったのだ。
 とにかく、出来損ないの娘は、ここに至って本当に欠陥品になってしまった。

 人と人の絆なんて胡散臭くてくだらない、本当にそう思っていた。
 恋愛なんて心の病気みたいなもの、あるいは繁殖のためのメカニズム。
 そうとしか思えなくなってしまっていた。世の中の全部が嘘っぱちに見えたのだ。

 でも、私はそんな正体を隠して普通っぽく生きていた。
 同級生達に言わせると、そんな私は大人っぽいのだそうだ。
 落ち着いていて、控えめで……だそうだ。

 冷めているだけなのに。
 人が怖いだけなのに。信じられないだけなのに。

 ―― それが私だった ――

 その日は亜美ちゃんも摩耶もそれぞれに用事があって私は一人だった。夕暮れの黄金
色にすべてが染まる時刻。私は学校の近くの小さな公園でベンチに座ってぼうっと夕焼
け空を眺める高須竜児を見つけたのだった。それは単なる偶然だったし、そんな彼に私
が歩み寄ったのは気まぐれに過ぎなかった。あの頃の彼と話してハッピーになれる要素
は皆無だったし、私は経験上、無責任に彼を励ますことも出来なかったのだから、彼に
話しかけたのは本当にきまぐれだったのだ。

 ベンチに座っている高須君は本当にぼーっとしていた。ベンチには彼の鞄とターコイ
ズブルーの小さな紙袋が置かれていたけれど、私がそれをこっそり盗んだとしても気が
つかないのではないか、と思うほどに彼はぼんやりとしていた。私は彼の視界の外、斜
め後ろに立って声をかけた。

「高須君。何か面白い物でも見えるのかしら?」
 そんなどうでも良いことを聞いた。
「ん? ああ、香椎か」
 彼は顔だけを私の方に向けて、
「見えねぇな。残念ながら」そう言って、また空を眺めた。
「高須君。それ、誰かにあげるの?」
 私はベンチの上に置かれている紙袋を指さして聞いた。それはどう見たってホワイト
デーのプレゼントだった。
 彼は顔をしかめて、
「いや…まあ、なんつーか、空振りだった」
 そしてため息をついた。
「タイガーに?」
「まあな」
「連絡、無いの?」
「ねぇな」
 大河から何の連絡もない。亜美ちゃんから聞いた話は本当だった。その話を聞いて私
は彼女自身がみんなから忘れさられる事を望んでいるのだと思っていた。駆け落ちまで
しておいて連絡してこないなんて訳が分からなかった。
「バレンタインにチョコ貰っちまったからな。ふらっと現れるんじゃ無いかと思ったん
だけど。ま、大河なりに思うところがあるんだろうよ」
290きすして6 07:2010/01/31(日) 22:58:07 ID:mglz3+X6
 高須君は寂しげではあったけれど、絶望とはほど遠い穏やかな表情でそう言った。
 私はそれが気に入らなかったのかもしれない。
「戻ってくるのかしらね?」
 意地悪く聞いた。意図的に、私は彼女は戻ってこないと思うわよ、というメッセージ
を込めてそう聞いた。そういうニュアンスを込めて彼に言った。
 彼は首を動かさずに視線だけでちらりと私を見た。
「戻ってくるだろ。そのうち」
 当然の事のように彼は言った。
「そうね。でも、今日は無理ね」
「だろうな」
「それ、どうするの?」
 私はベンチの上の紙袋をもう一度指さした。
 その時、彼は一瞬だけ本当につらそうな表情を私に見せた。
「食べる。勿体ない」
 彼はおもむろに紙袋を手にとって、中から巾着のような包みを取りだした。リボンを
ほどき包みを開くとふわっとしたバターとシナモンの香りが広がった。包みの中身は十
枚ほどのクッキーで、それはどう見ても手作りだった。高須君は包みの中からクッキー
を一枚つまんで口に放り込んだ。
「どう?」
「……食うか?」
 そう言って高須君はクッキーの入った包みを乗せた左手を私の前に差し出した。
 私はそれを無邪気にいただけるほど鈍感では無かったけれど、目的を果たせなかった
クッキーは如何にも哀れすぎたし、単純に彼の焼いたクッキーに興味があった。
「頂くわ。隣に座ってもいいかしら」
「ああ。いいよ」
 高須君はいささかぶっきらぼうにそう言った。私はベンチの端に腰掛けて、包みの中
からクッキーを一枚取ってかじった。しっとりとした歯触り、控えめな甘さとシナモン
の香りが素敵だった。
「美味しいわね」美味しすぎてちょっとムカつくけど。
「…そりゃ、なによりだ」
 高須君は二枚目のクッキーをつまんで囓った。こんなに美味しいのに、彼はそれを酷
いしかめっ面で囓っていた。無理もない。恋人のために焼いたクッキーを、ただのクラ
スメイトと一緒に公園のベンチで夕焼けを眺めながら食べているのから。彼がこれを作っ
た時の気持ちを思えばこの状況はそれはもう苦行以外の何物でもないだろう。

「ねぇ、高須君。タイガーはやっぱり戻ってこないんじゃない? 連絡先も伝えてこな
いなんていくら何でもおかしいと思わない?」
「逆だろ。連絡が無いって事は戻ってくるって事さ」
「どういうこと?」
「本当に帰ってくるつもりが無くなったら連絡ぐらいしてくるだろ。大河だってその程
度の常識は装備してるさ」
「そう…。高須君はタイガーを信じてるわけね」
「ああ」
 たった一言で彼は答えた。
「ねぇ。どうしてそんなに信じられるのかしら?
 タイガーは高須君の事を忘れようとしてるのかもしれないわよ」
「ねぇよ」
 またもたった一言だった。
291名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 22:58:11 ID:wMqXHGxU
C
292きすして6 08:2010/01/31(日) 22:58:47 ID:mglz3+X6
 私は食べかけのクッキーを口に放り込んだ。それにしても美味しいクッキーだ。出来
れば紅茶も頂きたいところだったけれど公園のベンチではそうもいかない。

「香椎」
「え?」
「大河が戻ってくると困るのか?」
 静かな口調で彼は聞いてきた。
「そんなことないわよ。ただ信用できないだけよ。
 恋とか、愛とか、そんなものがね。私は信用できないの」
「随分だな…」
「そうかもね。でも、私ってそんな人なのよ。高須君だから言っちゃうけど、親が離婚
した時にいろいろあってね。タイガーも大変だったみたいだけど、私のところも酷い物
だったのよ」
「…そうか。そいつは辛いな」
 言いながら高須君は表情を曇らせていく。
「そんな暗い顔しないでよ。今は平和なものだから。もう一枚貰うわね」
「ああ」
 クッキーをつまんで口に運ぶとほんのりと紅茶のフレーバーが広がった。
「あ、これは紅茶なのね」
 思わず頬がほころぶ。
 大河だってこれを口に運べば蕩けるように微笑んだことだろう。
 
 でも、彼女はいない。それが現実。

「ねぇ、高須君はタイガーのどこがいいわけ?」
「どこ、って言われてもなぁ」
「やっぱり見た目? 最高に綺麗で可愛らしいものね」
「あのな…」
「男の子ってそういうものでしょ」
「偏見が激しくないか?」
 そう言われても私の経験上、男子というのはそういう生き物だ。
「そうかしら? てっきり高須君はマザコンでロリコンなのかと…」半分冗談だけど。
「ひでーな。…ったく。あいつは中身がいいんだよ」
 そう言って高須君はそっぽを向いて、けれどぼそぼそと言葉を続けた。
「俺が本当に苦しかったときに、そばで支えてくれたのは大河だったよ。どうにもなら
ないぐらいに自分で自分が許せなかったときに、俺を救ってくれたのは…」

 大河だったよ。と、彼は大切な物をそっと見せるように言った。
 
 それはつまり、彼女がそうしたくてたまらなくなるほどに彼から沢山の物をもらった
ということなのだろう。

「大河と出会ってなかったら俺はどうなってたんだろうな…」
「どういうこと?」
「…まあ、そうだな」
 高須君は一旦言葉を切って、小さく息を継いでから話を続けた。
「香椎だから言うけどよ、高須家もいろいろと大変だったんだよ。母子家庭じゃありが
ちな経済的な問題とかよ、いろいろあって二人っきりの家族だったのに解散寸前だった
んだ。もし、大河がいなかったら乗り切れなかったろうな」
293きすして6 09:2010/01/31(日) 22:59:18 ID:mglz3+X6
 経済的な問題と言われてはっとした。ウチは父子家庭だから経済的な面では逼迫はし
ていないけれど、母子家庭となると色々と難しいのだろう。
「そんな暗い顔すんなよ。もう経済的な問題の方は見通しが立ってる」
 そう言われて自分が深刻そうな表情になっていることに気付いた。
「そうなの。良かったわね」
「ああ。そうだな…」
 高須君は静かにそう言って寂しそうに微笑んだ。
 確かに経済的な問題については良くなったのだろうけど、けれど、彼の日常にとって
もっとも大切な片割れが欠落したままなのだった。

「早く帰ってくるといいわね」
「ああ」
 高須君は静かにそう言うと、クッキーを口に放り込んでぼりぼりと囓った。
「電話ぐらいしてくればいいのにね。みんな心配してるんだから」
 みんな、と言っても主に高須君と亜美ちゃん、まるおに櫛枝だけれど。
「あいつ、頑固だからな。ドジだし」
 そう言って高須君はほんのちょっとだけ笑った。正面から見ると唯々凶悪な彼の顔も
横顔はそうでもなかった。照れてちょっと緩んだ頬は可愛いと思えるほどだ。もうすぐ
高校三年になる男の子に『可愛い』はどうかと思うけど。私はそんなことを考えている
自分に気がついて、それがおかしくてちょっとだけ笑った。

 すっかり日は傾いて景色は金色からあかね色に変わっていた。なんだかんだと随分と
長話をしたようだった。

 高須君はポケットから携帯電話を取りだしてちらっと眺めた。
「ぼちぼち買い物に行かねぇと」
 高校生主夫、高須竜児は多忙なのだろう。
「わたしもそろそろ帰らなきゃ」
 高校生主婦、香椎奈々子もそれなりに忙しい。

 いつの間にかクッキーは残り四枚だけになっていた。
「高須君。残りのクッキーもらってあげようか?」
「うぉ。なんつー上から目線! まあ、いいけどよ」
 高須君はクッキーの包みを閉じて元通りリボンをかけて紙袋に納めた。
「ほいよ。川嶋には言うなよ」
 そう言いながら紙袋を私の方にさしだした。
 それを受け取り、私は彼に聞いた。
「あら、どうして?」
「めんどくせぇ」
「ふふっ」
 つい笑ってしまった。確かに面倒くさいことになりそうな予感はある。可哀想なので
亜美ちゃんには黙っておいてあげようと思う。

「なあ、香椎」
「うん?」
「俺は大河を好きになってよかったよ。今は逢えなくてちょっとだけ辛いけど、それで
もこんな風に大河のことを想う時間もいいもんだよ」
「あら、お惚気?」
「おぅ。クッキーのおまけだ」
「えーっ。そんなおまけいらない。なーんてね。楽しかったわよ」
294きすして6 10:2010/01/31(日) 22:59:48 ID:mglz3+X6
 本当に楽しかった。不思議とそうだった。
 高須君は立ち上がって鞄を肩にひっかけた。
「ああ。俺も大河の話ができて良かったよ。クラスじゃ話題的に腫れ物扱いになっちまっ
てるから誰も大河の事を話してくれねぇしな。まあ、気を遣ってくれてるってのもわかっ
ちゃいるんだけどよ」
 毎日少しずつ逢坂大河の痕跡は薄れていく。彼女の存在は過ぎていく時間の中に希釈
されていく。三年になればクラスも変わるからそれは加速していくだろう。それも彼に
とってはとても辛いことだろう。
 私も立ち上がって鞄を肩にかけた。それを見計らって高須君は歩き出す。私は彼の後
ろについて歩く。公園を出て最初の交差点で挨拶を交わした。ごく普通の挨拶を、

 ただ、 ―― じゃあね/じゃあな ―― と。

 彼と別れ、暮れなずむ街並みを眺めながら歩いた。
 ふと思う。私たちは意外に似合いの組み合わせなのかもしれない。
 似たり寄ったりの境遇。
 こっちが父子家庭。あっちは母子家庭。父親と娘。母親と息子。
 共に家事をとりしきる主婦と主夫。
 話が合わないハズがない。
 晩ご飯の献立を相談してみたり、
 冬の洗い物のつらさをグチってみたり。

 そんなナカマ。そんなトモダチ。それからコイビト。
 恋人? バカみたい。

 でも、そうだったら… 
 彼は私をあんな風に見守るのだろうか。
 あんな風に想って、思ってくれるのだろうか。
 逢えないことすらも愛おしく思ってくれるのだろうか。

 茜から藍に空は変わっていく。

 彼女は戻るのだろうか。
 彼の想いは届いているのだろうか。
 想いは状況を超えるのか。変えるのか。
 それは静かな戦いなのだろう。
 世界と二人の戦いなのだろう。
 
 二人の戦いの結末は分からない。
 正直に言えば、勝率が高いとは思えない。
 それでも、
 彼等が勝ってくれたなら、
 その勝利は、私の何かを変えるかも知れない。
 そんな気がする。

 首筋を撫でる風はまだ冷たくて、私は肩を震わせる。
 けれどその時、私は胸の奥に確かなぬくもりを感じていた。
 締め付けるような苦しさと暖かいものの存在を感じていた。

***
295きすして6 11:2010/01/31(日) 23:00:12 ID:mglz3+X6

 あれから九ヶ月。明日で二学期も終わりだ。

「……なこ、奈々子ってば!」
「えっ、ああ、ごめんごめん」
「なにボンヤリしちゃってんのよ?」
 亜美ちゃんにすっかり呆れられてしまった。
「ちょっとした考え事よ。で、なあに?」
「ちょっとどこか寄ってかない?」
「そうね、いいわよ」
 本当は勉強しなきゃいけないんだけど。
 推薦が決まっている亜美ちゃんは気楽なものだ。
「スドバ?」 
「そうね。でも、たまには違うところにしてみない?」
「例えば?」
 そう言われるとちょっと困る。
「そうだ、駅前に新しい喫茶店なかった?」
 二週間ほど前に駅前に新しい喫茶店がオープンしたのだ。コーヒーショップというよ
り正統派の喫茶店。確かイチオシはシフォンケーキ。
「あー、なんかあったかも」
「でしょ、そこにしない?」
「まぁ、いいけど」
「決まりね。摩耶にも知らせておくわね」
 私は携帯を取り出して摩耶に電話して駅前の新しい喫茶店に行くことを告げた。
 店の名前は分からないけど駅前で新しい喫茶店といえば一軒しかないから意思疎通に
問題ない。こういう時は大橋の栄えすぎていないところがなんとも便利だ。
 
「摩耶、多分、来れないって」
「へぇ、また祐作とイチャついてんの?」
「そうじゃないみたいよ」
「ふぅん。ま、いっか」

 大方、北村君に送るクリスマスプレゼントを探しに行ったのだろう。この前の日曜日
はそれで酷い目にあったのだ。あちこちの店を引っ張り回され、あれが良いだのこれが
良いだのと散々悩んだあげく何も買わずに帰ってきてしまったのだ。

 そうだ。今日の話のネタはそれにしよう。高須君ネタはもう却下。亜美ちゃんには悪
いけれど私は彼に告白するつもりなんて無いのだから。

***
296きすして6 12:2010/01/31(日) 23:00:41 ID:mglz3+X6

 目の前に座っている小柄な男は私の父親だ。
 数日前、父親は竜児に再会できないかメールしてきたのだ。生死不明、行方不明、音
信不通だった父親はちゃっかり生き延びていて、それは、実のところママの調査によっ
て既知の事実でいつかこんな日が来るんだろうなと私達は思っていた。そして今、私は
自分の父親と一年数ヶ月ぶりに再会している。オープンしたばかりの喫茶店は時間が早
いためか客はまばらで込み入った話をするのには丁度良い具合だった。私の隣には竜児
が座っていて、その表情は完全に戦闘モードだ。

「元気そうですね」
 竜児は落ち着いた口調で言った。もちろん嫌味。
「まあ、なんとかね…」
 陸郎はやつれていて一年で十歳ぐらい老けてしまったような感じだった。髪の毛も整っ
ていないし服装もぱっとしない。あざといぐらいにぱっとしない。
「今まで何やってたのよ? ほんの少しだけ心配してたのよ」
 どんな酷い奴でも私の父親には違いない。
「福岡で暮らしてる。夕のつてでね」
「そう。じゃあ、夕とは仲良くやってるのね」
「まあね。もうすっかり頭が上がらなくなってしまったけれど」
 それはそうだろう。

「大河も元気そうでよかったよ」
「あんたが言っていい台詞じゃねぇよ」
 竜児の言葉に私も頷く。
「この通り、ばっちり元気にやってるけど。竜児の言う通り、あんたにだけは言われ
たくないわ」
「厳しいなぁ」
「娘が住んでいる家を売り払って夜逃げするのは厳しくないわけ?」
「……」
 陸郎は目をそらす。
「お金も勝手に引き出しちゃうし」
「でも、こっちもいろいろと大変だったんだよ」
「ふざけんなよ」
 竜児は低い声で言った。大声ではないけれど力のこもった迫力のある声。
 気圧されたのか陸郎の肩が小さく揺れた。
「大変だった、で済むわけねぇだろ」
「そうだね…」
「大方、竜児のところに転がり込むだろうと思ったんでしょうよ。そうでしょ?」
「う、うん」
 陸郎は聞こえるか聞こえないか、そんな小さな声で言って頷いた。
 分かっていたことだけれど、父親にとって私はそんな程度の存在なのだった。
「…ったく」
 竜児は苦虫をかんだような顔で呟いた。

「それで、その……高須君のところで暮らしているの?」
「まあ、そんなところよ」
 陸郎はやっちゃんのアパートの事を言っているのだろう。そこで暮らしているわけで
はなけれど竜児と一緒に暮らしているのだから『高須君のところで暮らしている』こと
には違いない。
297きすして6 13:2010/01/31(日) 23:01:08 ID:mglz3+X6
 陸郎は竜児の方に顔を向けて、
「すまないね。大河がお世話になってしまって」と。
 まるで他人事のように話す陸郎を竜児は射るように睨んだ。
「あんたが言っていい台詞じゃねぇだろ」
 まったくその通りだと思う。この男は私がどんな風に暮らしているのかまったく知ら
ないのだ。ママに連絡を取ることすらしていない。

「どうして連絡してこなかったんですか?」
 竜児は陸郎の隠遁で一番納得できないのはそれだと言っていた。事業が失敗してしま
うことは不可抗力かもしれなけれど、なんの連絡もなかったことは許せないんだ、とそ
う言っていた。

「本当に大変だったんだよ」
「電話ぐらいできただろ。メールだっていい」
「……」
 陸郎は黙りこくってしまった。竜児は陸郎の弁明を待った。十五秒、三十秒、一分と、
ただ待った。でも陸郎は理由を話さない。話せない。なぜなら…

「時間稼ぎ、だろ?」 竜児は冷ややかに言った。

 陸郎は低く呻きそれを肯定した。
「あんたは逃げる時間を稼ぐためにわざと大河を置いていったんだろ。債権者に余裕が
あるところを見せるために。そうしてあんた達はちゃっかり逃げちまった」

 肯定を意味する沈黙が流れる。 

 しばらくして、陸郎は頬をひくつかせながら顔を上げて竜児を見た。
「いやー。バレちゃってたんだね」
 陸郎は口元に歪な笑みを浮かべて戯けるように言った。

「でも、だったらどうだって言うんだい?」 
 自分の娘を道具にして何が悪いの? とでも言わんがばかりだった。
「罪悪感とか、感じねぇのかよ?」
「そりゃ、大河に悪いことをしたなぁとは思うよ。けど、仕方ないじゃないか。夕と一
緒にいるためにはああするのが一番いいと思ったんだからさ」
「つまり、あんたはそっちを選んだってことだな」
「そりゃそうさ。僕を棄てた女の子供より今の僕を愛してくれる女の方が大切に決まっ
てるだろう」
「……そうですか」
 竜児は呟くように言って息を吐いた。それはまるで自分の中に溜まってしまった怒り
の熱気をゆっくりと吐き出しているようだった。それから自分のクールダウンを確認す
るように小さく一度頷いて口を開いた。

「わかりました。それで、今更大河に何の用ですか?」

「迎えに来たんだ。大河、一緒に暮らすんだ」
298きすして6 14:2010/01/31(日) 23:01:40 ID:mglz3+X6
 陸郎は私にも竜児にも目を合わさずに言った。それがまともな愛情から出た言葉では
ないことは明らかだ。ついさっき、私の事はどうでも良いと、今の妻のためなら生け贄
にすることを何とも思わないと宣言したのだ。にも関わらず、陸郎は私を連れて行くと
いう。きっとこの男は私を何かに利用するつもりなのだ。それが何かは分からなくても
かまわない。

 私の人生をこいつにだけは弄らせない。

 一発ぶん殴ってやりたいところだったけれど、そこはぐっと堪えて最初のカードを切
る。まずはママと仲直りした事実をつきつけてやる。この男は私が高須家の居候になっ
ていると本当に思い込んでいるのだ。

「無理ね。あんたの処になんて絶対に行かない。夕と仲良く二人で暮らせば良いじゃな
い。そうしたくて私を追い出したんでしょ。私の事ならお構いなく。ママと仲直りもし
たし、何にも困ってないし」

「え? そうなの?」
 間抜け面だった。
「そ、そんなバカな。出て行ったのは彼女の方なのに、どうして仲直りなんて…」
「私だって大人だもの。ちゃんと話せば分かるの」
「う、嘘だ。信じられない」
「本当だよ」
 竜児はきっぱりと言い放った。
「とにかく、あんたの出る幕はねぇんだよ」

 陸郎はわなわなと震えだした。
「僕は大河の親権者だぞ。子供の暮らすところは親が決めるんだ」
「あんたに親権なんかあるわけねぇだろ」

 二枚目のカード。陸郎は未だに自分に親権があると思っている。それを前提に私の前
に現れた。それを崩す。

「え?」
「ママが裁判所で手続きしてあんたの親権を止めたの。それも随分前よ」
「当たり前だよな。義務を果たすつもりの無い奴に権利なんてありえねぇよ」
 竜児は声を荒げず、むしろ穏やかに。
「自分の都合で逃げておいて、それでまた自分の都合で一緒に暮らそうなんてどんだけ
いい加減なんだよ。それに、もう大河に親権なんて関係ないんだから、あなたの出る幕
なんてねぇんだよ」
「くっ、君は失礼な男だな。一体何様のつもりだ?」
 陸郎は顔を紅潮させ、テーブルの上に置いた拳を振るわせていた。

「俺ですか?」
 竜児は陸郎を睨み付けた。魔眼の威力を全開にして。
 陸郎は低くうめいて身を竦ませた。生命の危機すら感じているのかもしれない。
 そして私達は最後の、三枚目のカードを切る。

「俺は大河の夫です。配偶者です」
 竜児の声は静かで、けれど力強かった。
「結婚したのよ。私達」
299きすして6 15:2010/01/31(日) 23:02:10 ID:mglz3+X6
「…けっこん?」
 陸郎の顔から血の気が引いて青白く変わっていく。
「そんなバカな。そうだ、未成年が親の同意無しに結婚できるハズがない。僕は同意し
ていない…」
 確かに未成年の婚姻には親の同意が必要だ。けれどそれは片方の親の同意でいいのだ。
「ママがちゃんと同意書を作ってくれたのよ。あんたが音信不通で親としての義務を果
たしてないっていう証拠の書類もつけてね。婚姻届、ちゃんと受理されたわよ」
「そ、そ、そんな…」
 弱々しく情けない声を漏らした。
「もう逢坂大河じゃないの。高須大河なの。彼の、竜児の妻なのよ」
「嘘だろ。そうだ! 証拠は…」
「これでどう?」
 私はコートのポケットから手帳をだして学生証を見せた。
「ちゃんと書類がないと作ってもらえないんだから。十分証拠になるでしょ」
 陸郎は見開いた目でそれを見た。発行してもらったばかりの真新しいそれには新しい
私の名前『高須大河』が記されている。
「あ、ああ……」
 信じられない。そんな表情。宙をさまよう視線。
「もう分かったろ。親権なんて関係ねぇんだよ」
 竜児はきっぱりと言い放った。

 民法に『婚姻による成年擬制』という制度がある。
 ―― 未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす。
 
 つまり、私達は民法の範疇では成年者として扱われるということだ。
 竜児は私達が理不尽な何かに引き裂かれることが無いように、こんな不条理から私の
人生を守るために私と結婚してくれた。

「なんてことだ…」
 陸郎はがっくりと肩を落としていた。多分、私を生活を立て直すための生け贄にでも
するつもりだったのだろう。そのことは腹立たしいけれど、でも深追いするのはやめに
した。私は始まったばかりの竜児との暮らしが守れればそれでよかったし、竜児もそう
思っているはずだから。

 竜児はポケットから携帯を取り出してママに電話をかけた。
 竜児は陸郎との会話の概要を淡々とママに話した。陸郎は会話の内容から竜児と話し
ているのがママだと気付いたらしく酷く落ち着かない様子で目を泳がせている。
「……はい。ちょっと待ってください」
 竜児はそう言うと携帯を陸郎に差し出した。
「義母さんです。あんたと話がしたいそうです」
 陸郎は携帯をうけとって耳にあてた。彼は自分から話すことは無くて、ただ力なく相
づちを打つだけだった。最後に「ああ、わかったよ」と力なく言って電話を切った。
 陸朗は竜児の電話を畳んでテーブルの真ん中に置くと「失礼するよ」と言って席を立
ち、テーブルに置かれている伝票をちらりと眺めた。
 竜児はそれに気付いて「おごりますよ」と言った。
「そうかい。助かるよ」
 それだけ言い残して陸郎は喫茶店を出て行った。
 テーブルに手つかずのブレンドコーヒーを残して、想像通りになんの謝罪も優しさも
なく彼は去っていった。もう二度と会うことはないのかも知れない。そんな気がした。
300名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 23:02:19 ID:wMqXHGxU
C
301きすして6 16:2010/01/31(日) 23:02:56 ID:mglz3+X6

「ありがとね。竜児」
 私が言えるのはそれだけだった。
 竜児は無言で、唯々優しい表情で見つめてくれた。すっと頭を撫でられて、ささくれ
だった胸の中が暖かさと優しさで満たされていく。きっと竜児も今の戦いで傷ついてい
る。それでも竜児は私を癒してくれる。
 その優しさに目の奥がじんと熱くなって涙がこぼれそうになる。私は竜児に泣き顔を
見られないように、頭を彼の胸に預けた。人目のあるところでこんなふうになってしま
うのは抵抗があったけど、そうでもしないと込み上げてくる嗚咽を抑えられなかった。
あの男が吐き出した毒を竜児に浴びせてしまったことが悲しくて、悔しくて堪らなかっ
た。
「……ごめんね、ごめんね」
「いいんだ。もう、済んだんだ」
 言いながら竜児は私の頭を優しく撫でる。それは竜児が竜児自身に言って聞かせ
ているようにも思えた。
「うん…」彼の胸に顔を埋めたまま私は言った。酷いことも言われたけど、私達は一番
守りたかったものを守りきったのだ。それで十分だ。私も自分にそう言い聞かせた。そ
うしてようやく気持ちが落ち着きかけた時、

「高須君…」
 
 不意に掛けられたその声に竜児の手が止まった。
 私は竜児の胸に埋めていた顔をゆっくりと上げた。

「今の話、本当なの?」

 香椎奈々子と川嶋亜美が私達を見下ろしていた。

***

 迂闊にも盗み聞きしていた事を自分からバラしてしまった私は亜美ちゃんと一緒に高
須君と大河が座っている席に移動させられた。

「ったく、空気ってもんを読みなさいよ」
 まずはいきなり毒づかれた。無理もない。確かに声を掛けるタイミングとしては最低
で最悪だったのは事実だ。泣き腫らした目で睨まれてとんでもなく気まずかった。大河
は店の中だというのに白いコートを着たままだった。それは多分、一目でうちの高校だ
と分かってしまう制服を隠すためだろう。

「ったく。どの辺から聞いてたんだよ?」
 腕組みをした高須君はちょっと怒っているようだった。
「えっと…『時間稼ぎ』のあたりから」
 亜美ちゃんは気まずそうに話した。
「そうか…」高須君は言った。

「ねぇ、結婚したのって本当なの?」
 私は我慢できずにそれを聞いた。
 ちょっとした沈黙。
 二人は顔を見合わせる。大河が小さく頷き、高須君が口を開く。
302きすして6 17:2010/01/31(日) 23:03:36 ID:mglz3+X6

「絶対に他言無用だからな。誰にも、家族にも言うなよ」

 声は静かだったけれどすさまじい圧力がこもっていた。それに気圧されるように私と
亜美ちゃんは頷いた。

「本当だ」 
「うっわ、マジ?」
「だから本当だって言ってるだろ」
「いつ? いつの間にそんなことになってたの?」
 私は全然知らなかった。亜美ちゃんも知らなかったようだ。
「十一月一日」
 ぶすっと頬をふくらませたまま大河は言った。
「同棲じゃないんだよね?」
「ちゃんと入籍したわよ。名前も変わったし」
 大河はコートのポケットから手帳を出して開き亜美ちゃんに渡した。亜美ちゃんは
手帳のカバーに入れられている学生証を見た。私も亜美ちゃんの手元をのぞき込んだ。
真新しい学生証に記されている名前は確かに『高須大河』だった。
「これが証拠ってやつ?」
 言いながら亜美ちゃんは手帳を大河に返した。
「そういうこと」
 大河は手帳をポケットにしまった。
「全然、気がつかなかった…」
 呟くように言った亜美ちゃんは少なからずショックを受けている様だった。それは私
も同じだったけど、でも亜美ちゃんは大河とも高須君とも親友みたいなものなのだ。気
がつけなかった事も、教えてもらえなかったこともショックなのだろう。
「まあ、俺たちが隠してたからな」
「なんで?」
 亜美ちゃんは高須君を睨みつけた。
「なんで言ってくれなかったの!」
「言えるかよ。こんなのがバレたら大問題だ。わかるだろ」
「それはそうだけど。私はバラしたりしない」
「お前はな。けどよ、川嶋に言って櫛枝や北村に言わないってのもどうなんだ?」
「それは…」亜美ちゃんは言葉を詰まらせた。
 確かに高須君の言うことも一理ある。
「信用はしてるけどよ、こんな時期にこんな秘密を抱えさせるのも悪いだろ。だから卒
業するまで隠すことにしたのさ。先生たちとも約束したしな」
「ああ、そうか。学生証が出ているんだから先生たちは知っているのよね?」
「ほんの数人だけどね」
 大河は頬杖をついて面倒くさそうに言った。
「そうなの?」
「ああ。知ってるのは恋ヶ窪先生と教頭、校長、それに事務長。それぐらい、ほんの数
人だな。あとは川嶋と香椎。お前らだけ」
「なーんだ。学校に話がついてるなら隠す必要無いじゃん」
「そうもいかねぇよ。俺たちはともかく先生に迷惑がかかっちまう」
「そうなのよ。父母会とかの方が問題なのよね」

 確かにそうかもしれない。生徒同士が結婚していてそれを学校側が容認しているなん
ていうのは格好の標的だろう。しかも、この二人、武勇伝には事欠かない。
303きすして6 18:2010/01/31(日) 23:04:09 ID:mglz3+X6

「なるほどねぇ」
 亜美ちゃんもこれには納得した様子だった。
「でもさ、どうしてそんなにしてまで結婚したの? もうすぐ卒業じゃん。ひょっとし
て出来ちゃったとか?」
「そんなんじゃねぇよ」
 ビシッと言われた。ちょっと怖かった。
「冗談よ」
「亜美ちゃん。趣味が悪いわ」
「…ったく。さっきの話、聞いてたんだろ?」
 高須君はちょっと呆れたような表情で亜美ちゃんを見た。
「うん。聞いてたけど、あれだけじゃわかんないよ。それにさ、あんたのママはどうし
たのよ? こんな時に来ないなんてさ」亜美ちゃんは言った。
 確かにそうだ。ここに高須君と大河しかいないなんて妙な話だ。
「ママは…その…もういないのよ。帰っちゃったの」
 大河は消えそうな声で言った。
「え?」私と亜美ちゃんの声がダブった。
 文化祭の準備のためにお邪魔したときは凄く良い感じだったのに。
「どうして? 何があったの?」
 私は身を乗り出して聞いた。あんなに仲良く暮らしていたのに一体何があったと言う
のだろう。
「まあ、いろいろとな」と高須君は言った。 
 それから高須君はこの四ヶ月ほどの間に何があったのか話してくれた。

 大河が母親の再婚相手の養子になれなかったこと。
 大河が母親と一緒に暮らせなくなったこと。
 破産した実父が逃げたままになっていたこと。
 その実父が大河を連れて行こうとする可能性があったこと。

 聞いているだけで胸が苦しくなった。私は彼等がそんな問題を抱えていたなんて一つ
も知らなかったし、そんな事が起きるなんてことを想像すらしていなかった。
「とにかく、俺たちが一緒にいるために確実な方法は結婚することだったんだ」
 高須君は話を締めくくるようにそう言った。
「なるほどね」
 高須君の説明に亜美ちゃんはすっかり納得した様子だった。
「まあ、そういう事だから、くどいようだけど秘密厳守で頼む」
「大丈夫。私も奈々子も秘密は守るから」
 亜美ちゃんの言葉に私も頷く。
「ホントに頼むわよ。あと、さっきのクソジジィのことは速やかに忘れて」
「分かった分かった。私だってあんなムカつく話、とっとと忘れたいよ」
 肩をすくめて亜美ちゃんは言った。私も同感。
「ホント、酷すぎ。有り得ないわよ。だって…」
「もう、おっさんの話はいいよ」
 高須君は沈んだ表情でそう言って私の言葉を遮った。その隣の大河の表情は高須君の
それよりもさらにズンと沈んでいる。その表情に私は言葉をつなげることが出来なくて
ただ「そうね…」としか言えなかった。
 考えてみれば、二人は確かに勝ったけれど、でもそれは父親との決別だった。大河は
父親からお前を愛していないと宣告されてしまったのだ。たとえそれが想定の範囲内だっ
たとしても、そんなことを二人が望むはずがない。
304きすして6 19:2010/01/31(日) 23:04:34 ID:mglz3+X6

「竜児…。帰ろ。疲れちゃった」
 大河は高須君の顔を見上げて小声で言った。高須君はそれに応えて小さく頷く。
「じゃあ、俺たち先に帰るからよ」
「うぃ。気ぃつけてね。ぼんやりして転ぶんじゃないよ。ちびトラ」と亜美ちゃん。
「ふん……。わかったわよ…」
 二人は席を立って鞄を肩にかけた。高須君はテーブルに置かれていた伝票を手にとっ
てちらりと眺めた。それから私と亜美ちゃんを見て、
「じゃあ、本当にくどいけどよろしくたのむわ」と申し訳なさそうに言った。
「はいはい。ホントくどいわ」と亜美ちゃんはうざったそうに応えた。 
 高須君はそんな亜美ちゃんの口調に苦笑しつつレジに向かう。
「ああ、そうだ。あのさ、高須君」
 亜美ちゃんが高須君を呼び止めた。
「ん? どうかしたか?」
「結婚おめでとう。そんだけ。じゃあね」照れくさそうに亜美ちゃんはそっぽを向いた。
「お、おぅ。ありがとよ…」高須君は照れくさそうに応えた。
「…ありがとね。ばかちー」頬を染めて大河が言った。
「おめでとう。タイガー。高須君もね」私も二人に祝福を送った。
「うん、ありがとね。奈々子」
「二人ともありがとな。で、くどいんだけどよ…」
「マジでくどいから」
 亜美ちゃんが高須君をじとっと睨んだ。高須君は「すまん」とただ一言。
 高須君の気持ちも分かるけど、でもやっぱりくどい。

 二人は「じゃあな」「じゃあね」と言い残してレジで精算をすませて喫茶店を出て行っ
た。亜美ちゃんと二人で並んで座っているのも変だったから私はさっきまで高須君が座っ
ていた席に移動した。

 結婚…か。心の中で呟くと締め付けられるような感覚に胸が痛んだ。
 大河が羨ましかった。高須君にあんなに愛してもらえる彼女が羨ましかった。
 もちろん、私も二人の結婚を祝福してる。これで良かったと思っている。それでも、
やっぱり私は高須君が好きなのだ。好きな人が結婚してしまうのはやっぱり寂しい。

 そんな事を考えていると目頭が熱くなってきた。私は気を紛らすためにすっかり冷め
た紅茶を口に運んだ。
 亜美ちゃんはぼんやりと手元のティーカップを眺めている。彼女も私と同じように寂
しさを感じているのだろうか。
「奈々子…」
「うん…」
「辛いだろうけどさ、出来るだけフォローしてやろうよ」
「そうね。辛くないって言ったら嘘になっちゃうけど、私はあの二人のファンだもの」
「うん。それでさ、卒業したら目一杯お祝いしてあげようよ」
「うん。そうね」
 私は空元気を絞り出して亜美ちゃんに笑顔で応えた。
 でも、そうしている間にも私の気持ちは少しずつ少しずつ沈んでいった。

***
305きすして6 20:2010/01/31(日) 23:06:07 ID:mglz3+X6
 家への道すがら、竜児はやっちゃんに電話して陸郎が来たことと追い返したことを手
短に話した。竜児から電話を渡されて私もやっちゃんと話した。やっちゃんはいつもの
ほんわりとした口調で話してくれて、大丈夫だから心配しなくていいよ、と私が言うと
やっちゃんは『心配するよぉ、だって、やっちゃんは大河ちゃんのお母さんだもん!』
と言ってくれた。多分、おっきなおっぱいをぐんと突き出すみたいにしながら言ったん
だろうなって思ったら少し気持ちが軽くなった。

 帰宅した私達はリビングのソファに寄り添って座っている。私は凍えた足の指をくい
くいと曲げながらファンヒーターから吹き出す温風にあてて暖めている。ここ数日、冷
え込みが厳しい日が続いていたけど今日はこれまでにも増して特別に寒かった。帰り道
の冷えたアスファルトで私の足は凍え、冷たい風に指先はすっかり悴んでしまった。右
手だけは竜児がずっと握ってくれていて無事だった。

 竜児はすっかり冷たくなってしまった私の左手を握っている。そうやって無言で暖め
てくれている。私は竜児の左腕に頭を預けるようにして寄りかかった。私の左手を包ん
でいる彼の手は温かくて優しかったけれど表情は切なげに沈んでいた。

「ごめんね」私は言った。
「ん? お前が謝るようなことじゃねぇだろ」
「そうなんだけどさ…」
 見上げると竜児は私を心配そうに見下ろしていた。
「あんな父親でごめんね。でも、あれでも親なんだよね。私の」
 そう言って私は視線を竜児からそらして俯いた。
「なんて言ったらいいんだろうな。まあ、お互い父親には恵まれねぇな」
「へへ、そうだね。一応、育ててくれた分、竜児のお父さんよりはマシかもね」
「かもな」と応えた竜児の声には少しだけ明るさが戻っていた。

「竜児……」
「ん?」
「ありがとね。結婚してくれて。おかげでジジィも返り討ちにできたし」
「返り討ちって、お前なぁ……」
 呆れたような口調で竜児は言った。
「いいの。あのさ、本当はもっと今日のこと、ちゃんと話さなきゃいけないって思うん
だけどさ、それって今じゃない方がいいと思うのよ。少し時間をおかないと冷静になん
て考えられそうにないし、今日はもう十分。
 暖かいものでも食べてさ、お風呂入って、さっさと寝ちゃおうよ。勉強だって手に着
かないだろうし」
 竜児はちょっと考えて「そうだな」と答えた。
 竜児がそう言ってくれて、私は内心ほっとした。

 今日の出来事を冷静に話すなんて無理だった。血のつながった父親にあそこまで言わ
れてしまうとは正直思っていなかった。甘いと言えば確かに甘いのだろうけど、ママと
やり直せたことで私にはちょっとした自信と淡い期待があったのだ。だから、認めたく
ないけれど私は傷ついてるし凹んでる。

「そうした方がいいと思う。俺も冷静に話す自信がねぇ」
「うん。だよね」

 多分、竜児にも微かな期待はあったんだと思う。竜児はみんなに幸せになって欲しい
人なのだ。私達だけじゃなくて、私達が関係した全部の人、生きているのか死んでいる
のかも分からない自分の父親の幸せすら望んでいる。その人を許せるかどうかは置いて
おいて、とにかく幸せであって欲しいと竜児は思っている。それが子供っぽい願望だと
分かっていながら、でも竜児はそういう感性を大事にしたいんだろうな、と私は思う。

306きすして6 21:2010/01/31(日) 23:06:48 ID:mglz3+X6
 けれど、私達は大人だ。今は自分達のささやかな暮らしが守れればそれでいい。でも、
いつか私にも子供ができて、子供達を守って育てるためにはお金も家も仕事も必要で、
私達が守らなきゃならないものはどんどん増えてしまう。それが大人の幸せなんだろう
けれど、守るために戦わなきゃならないこともあるだろう。その時、私達は誰かの幸せ
を踏みにじってしまうのかもしれない。これから二人で生きていけばそんな事が少なか
らず起きてしまうだろう。竜児もそれを分かっている。

 だから、『私達』は陸郎を簡単に批難できない。もちろん父親としては最悪だ。それ
は間違いない。でも一人の女を愛する男として見たら、私がもし逢坂夕なら陸郎はどう
見えるのだろうか。

 難しい。でも、近いうちにちゃんと二人で話そうと思う。結論はいらないけど、話す
ことが大事なんだと思う。話し合いながら、その時、その時の答えを見つければいいん
だと思う。

 いつの間にか冷え切っていた左手も足の指もすっかり温まっていた。
「竜児。手、ありがと。もう、暖まったからさ」
「ん。そうか」
 竜児は私の手を離した。
「晩飯、何がいい?」
「おでん。シチューもいいかも」
「シチューなら冷蔵庫にあるもので大丈夫だろ。おでんは買い物にいかないとダメだな。
あと、そうだな、ドリアもできるけど?」
「ほんと? じゃあドリアで決まり」
 ついでに作り方も教えてもらおう。
「じゃあ、さっそく」
「あ、ちょっと待って」
 私は立ち上がろうとしていた竜児の腕をつかんでソファーに引き戻した。
「うわ、あぶねぇだろ。なんだよ」
「お願いがあるのよ」
 私はコートを脱いで竜児と向き合う様に彼の太股の上に座った。
「抱きしめてよ。怖かったんだから」
 それは本当。絶対に大丈夫だって思ってたけど。
「大河…」
 私は彼の胸に手をあてて、身体をゆっくりと預けていった。
 唇と唇を触れ合わせる。乾いて、がさがさしていて、でもとても熱い。

 ん、ふぅ ……

 長い、長い、キス。
 そして竜児のがっしりした腕が私の身体を抱きしめる。

 ゆっくりと唇を離す。
「ありがと。ねぇ、ぎゅって、して」
 竜児の耳元で囁いて私は竜児の首を抱くように腕をまわす。
「ん、おぅ」と言って竜児は私を抱きすくめる。
307きすして6 22:2010/01/31(日) 23:07:26 ID:mglz3+X6

 あっ、んん ……

 きつく抱かれて息が漏れる。
 ああ、なんか、このままめちゃくちゃに愛してもらいたいんだけど…… 
 けど、荒んだ気持ちをセックスでうやむやにするのって良くないよね。

「竜児、ありがと。もう、大丈夫」
「なんだ。もういいのか?」
「うん。したくなっちゃうもの」
「だな」
 竜児の腕がゆるむ。
 私は彼に預けていた身体を起こして、もう一度竜児にかるくキスをした。
「今日は添い寝してもらうわよ」
「へ? じゃあ、するのか?」
 竜児はきょとんとして私を見ている。
「しないわよ。だって明日も学校でしょ」
「だよな」
「それに、こんな気持ちでするのって良くないでしょ」
「そりゃそうだな。でも、添い寝はするんだな?」
 私は頷いた。「いいでしょ。お願いだから」
 竜児は「ダメなんて言えねぇよ」と言って私の頭を優しく撫でた。

***

 お父さんからメールが来た。仕事で遅くなるそうだ。夕食は食べて帰るから、と書か
れていた。ちょうど良かった。もう、今日は何もやる気がしない。

 私は部屋着に着替えてベッドに寝転がり天井を眺めている。

 結婚、か……

 いつの日か二人にそんな日が訪れたらいいな、なんて漠然と思っていた。でも、二人
がとっくにそんなことになっているなんて思いもしなかった。

 高須君は大河のもの…って、それは前からか。

 二人にとっては一大転機だったかもしれなけれど私にとっては何が変わったと言うこ
ともない。それなのに、何が変わるわけでもないのに、私の胸は何かにきつく締め付け
られる。息苦しいほどに胸が痛む。

 目を閉じて息を吐く。

 閉じた瞼が見せる暗闇に夏の星空を思い出す。
 輝く夏の大三角。
 隣から聞こえる彼の静かな優しい声。
 触れ合った肩の感触。
 
 あんなにも胸をときめかせてくれた思い出達は、今はこんなにも私を苦しめる。
 固く閉じた瞼の奥が焼けるように熱く痛む。
308きすして6 23:2010/01/31(日) 23:07:57 ID:mglz3+X6

 苦しいよ。高須君。
 苦しくて苦しくて堪らないよ。

 堅く瞑った瞼をこじ開けるようにあふれ出した涙が頬を伝い耳たぶを撫でる。

「たかす、く、ん……」

 胸が震えてのどの奥から嗚咽が漏れ出した。押さえつけていた切なさと寂しさと悲し
さが堰を切ってあふれ出し、それに押し流されるように私はみっともなく声を上げて泣
き出した。

 こういうもんなんだよね。泣くしかないんだよね。

 高須君の言葉を思い出す。
 あれは五月の事だった。振られた亜美ちゃんは高須君の胸を借りて泣いていた。その
時、彼は言ったのだった。

『泣くしかねぇんだよ』

 きっと彼もそうだったのだ。
 亜美ちゃんもやっぱりそうで、そして今の私もそうなのだ。

 私は身体を起こして毛布をかぶった。そして、本当に何年かぶりに感情の高ぶりに全
てを任せて力の限りに泣いた。自分が出来損ないだと気付いてしまったあの日もこんな
風に泣いたのだった。
 どれぐらい泣いて過ごしただろうか。涙も涸れて私は毛布から這い出した。部屋の中
はすっかり暗くなっていた。枕元のリモコンで天井灯をつけて身体を起こした。軽く上
を向いて洟をすすり、机の上に置いてある時計に目をやった。それは七時ちょっと前を
指していて、私が三十分ほども泣いていたことを時刻と一緒に教えてくれた。その時計
の隣にはイーゼルを摸した写真立てが置いてあり、折りたたまれたターコイズブルーの
小さな紙袋がのっている。
 
 それは彼から貰ったクッキーが入っていた紙袋。

 そう……、
 あのクッキーがきっかけだった。
 大河のために高須君が焼いたクッキー。でも高須君はそれを彼女に渡せなかった。
 私はそのクッキーと高須君の気持ちの欠片を受け取った。

 逢えなくても、
 声すら届かなくても、
 こんな風に想うのもいいもんだよ、と彼は言った。
 あんなに辛そうだったのに、彼はそんな風に言ったのだ。

 その日から、三学期が終わるまでの一週間ほどで私は高須君と随分と親しくなったの
だった。みんなが避けていた大河のことを話したり、彼女のことを彼から聞いたり、家
事のことや、家族のことをメールで相談したり愚痴ったり。
309きすして6 24:2010/01/31(日) 23:08:26 ID:mglz3+X6
 彼の事が知りたかった。その気持ちがどこから来たのかなんてことを気にせずに。後
で考えれば、あのころの私は彼の恋人になったような気分だった。後になって考えれば
そうだったのだ。

 でも、そんな日々はあっさり終わった。
 大河が戻ってきた日、私は二人の晴れやかな笑顔を見た。
 亜美ちゃんに、櫛枝に、まるおに、摩耶に、春田君に、能登君に囲まれて照れ笑いを
浮かべる大河を高須君は愛おしそうに、慈しむように見守っていた。その眼差しの優し
さに私は思い知らされた。彼の特別はやっぱり逢坂大河ただ一人だった。

 それでも私は嬉しかった。高須君に笑顔が戻ったことが嬉しかった。

 大河が高須君を苦しめていたことに私は怒りさえ感じていたけれど、まるっきり純粋
な優しさから生み出されたかのようなその光景は、そんな感情をいとも簡単に押し流し
ていった。そして私も彼等を取り囲む祝福の輪に加わったのだった。

 なぜ彼女が連絡を絶たなければならなかったのか、本当のところは分からない。でも、
彼女にとってそれは必要な事だったのだろう。彼女がもう一度、高須君の傍らに立って、
そして一緒に生きていくためにそうしなければならなかったのだ。それはきっと彼女が
自分の力だけで彼の助け無しに成し遂げなければならない闘いだったのだろう。

 自分の人生を闘って切り開く。そんな彼女の姿に私の心は強く惹きつけられた。
 私は高須君に恋をしながら大河にも強く憧れた。だから、私は、

 二人がずっと一緒にいられたらいい。
 二人がずっと微笑んでいられたらいい。

 優しく微笑み合う二人を見て、ただひたすらにそう願っていた。
 そう願わずにはいられなかった。私も高須君を好きになってしまったから。
 そして、逢坂大河には彼を幸せにする力があるから。
 好きな人に幸せでいて欲しいから。

 あの日から私は二人の姿を追い続けた。想い合う姿に胸を熱くときめかせ、まれに
喧嘩してしまう二人をハラハラとしながら見守った。そして、あの日の願いはついに
結婚という契約として結実したのだ。

 涙は止まっていた。胸の苦しさは変わらないけれど、でもその苦しさが愛おしい。
 だってこれは、この苦しさは私が恋していることの証なのだから。私は人を好きにな
ることができる。苦しいくらいに誰かを想うことができる。それは当たり前の事かもし
れないれど、ずっと私が失っていたものだった。

 もう、私は欠陥品なんかじゃない。

 恋に破れてめそめそと泣いてみっともないけれど、今の私は自分の事が結構好きなの
だ。心を割って話せる親友がいて、片恋にときめき、ライバルに嫉妬しながら、でもそ
の娘のことも大好きで、悔しさもあるのに、でも二人が上手くいっていることをとても
嬉しく思っている。
310きすして6 25:2010/01/31(日) 23:09:08 ID:mglz3+X6
 私はすばらしい時間を過ごしてる。素敵な時間を生きている。
 そう思えることが私にとっての宝物。
 そう思えることが二人から私へのかけがえのないプレゼント。

 そうか。私は貰ってばかりだ。

 あの日、高須君に『本当に』出会って私は変わった。変わっていった。胸の奥に点っ
た小さな灯火は少しずつ私の心を柔らかく溶かしていった。そして大河が戻ったあの日、
私は未来は切り開く物なんだという至極当たり前のことを二人から教わったのだ。思え
ば、亜美ちゃんと本当に心を割って付き合えるようになったのもそれからのことだった。

 高須君と出会って大河は変わった。
 そして私も彼と、彼女と出会って人生が変わったのだ。

 時計は七時十五分を指している。今から出れば駅前のデパートの営業時間に間に合う
はずだ。
 私はクローゼットから厚手のスカートとシャツとセーターを出してそれに着替えた。
あまりにも適当なコーディネートでちっともオシャレじゃないけど気にしない。くしゃ
くしゃになった髪の毛を軽くブラシで整え、コートを着てマフラーを巻き、折りたたん
だエコバックをコートのポケットに押し込んで私は家を飛び出した。

 まだ二人の結婚は秘密だけれど、クリスマスプレゼントに祝福の気持ちを込めて贈る
ぐらいならかまわないだろう。それが出来る友人は、今のところ私と亜美ちゃんしかい
ないのだから。

 本当に、本当にささやかで慎ましいプレゼント。
 自分で焼いたクッキーとクリスマスカードを二人に贈ろう。

 届けたいのは気持ちだから、多分それが相応しい。紅茶とココアのクッキーを可愛ら
しくラッピングしてコーラルピンクの紙袋に入れて二人に渡そう。カードは…そうだ、
クマのサンタが描かれている可愛いカードを売っていたはずだ。あれにしよう。
 
 カードに書き込むメッセージは、

『メリー・クリスマス&結婚、おめでとう。
   二人がずっと一緒にいられるように祈ってるよ』

 そして、プレゼントを渡しながら心の中でそっと呟こう。

『ありがとう。大好きだったよ。高須君』と。

 冬の冷たい空気が泣き腫らした目に心地良い。
 息を曇らせながら駅への道を急ぐ私を導くように、東の空にオリオンが輝いている。

(きすして6 おわり)
311356FLGR ◆WE/5AamTiE :2010/01/31(日) 23:10:58 ID:mglz3+X6

以上で「きすして6」の投下を完了します。
支援、ありがとうございました。

01から04までタイトルが「5」になってた。間抜けすぎだ・・・
多分、次が最終話です。

312名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 23:25:44 ID:u0MzoVD6
>>311
きすして続きキタァァァ!
乙です!
いつも最高に楽しませてもらってます
GJ!!!
313名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 23:39:47 ID:wMqXHGxU
>>311
ああ、奈々子様の竜児ラヴ設定あったんだっけ。
すっかり忘れていた。

「高須大河」の生徒証を初めてみた時の大河のもだえ具合を想像してニヤニヤしますた。
次回も楽しみにしています。
314名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 00:18:37 ID:NsGIc/JP
>>311
GJ!
竜児カッコよすぎ! そして、なんて罪な男なんだw
315名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 01:02:53 ID:36kWSUrY
>>311
素晴らしいお話をありがとう…奈々子様辛いのお、いつか幸せになってほしいなあ
316名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 02:20:06 ID:rckYlKpY
キスしての1番はじめの頃はここまで深くえぐる作品とは思ってなかったぜ
奈々子ファンだし独白は可愛いしせつないが、今回はむしろそちらはサブで
結婚についての母親との流れから親父が出てくる今回の一連の流れがたまらんかった
317名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 06:12:34 ID:6c3n1Y1/
GJ!!
朝っぱらからまいった・・・
やられてしもた・・・
もう一度 GJです。
318名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 12:52:14 ID:9xdq+SwL
>>311
GJ
朝から目頭が熱くなった
あなたの作品に触れる度に胸を打たれて心が震える
319名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 17:11:00 ID:yEhOxQvN
竜児×大河とか誰得
320名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 19:11:06 ID:9xdq+SwL
俺得
321名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 20:28:24 ID:hBGzQAVM
少なくとも竜児×北村より需要はある
322名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 21:01:53 ID:y6ARs9xN
保管庫と補完庫合わせても、やっちゃんメインの話ってあんまりないんだな
人気ないのかな、やっちゃん大好きなのに
323名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 21:48:47 ID:OiHshdOT
近親相姦ネタは人を選ぶし
324名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 22:02:23 ID:JSlip+mE
やすドラ?は笑える話だったけど、あれぐらいまでが限度だろうね
325名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 22:05:19 ID:DQPLPlpo
あなたの作品が一番好きだー!
完結しても竜虎書いてほしいねえ・・・
326名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 22:05:34 ID:jDupLPZD
竜児自身が非常に貞操観念強そうだしな
特にその原因であるやっちゃんと……ってのはなあ
やすドラみたくギャグ風味がまあ一番無難でオイシイ気がする
327名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 22:07:16 ID:DQPLPlpo
アンカ忘れた・・・
>>311様へ。
328名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 23:18:02 ID:y6ARs9xN
ああ、いや言葉が足りなくてごめん
そりゃエロは入ってるに越した事はないし、逆に近親相姦ネタを好ましく思わない人が居て当然なんだけど
必ずしもやっちゃんのそういう話が読みたいんでなくて、ほのぼのしたのや日常的なのも読みたいな、って思ってて
なんだかごめんなさい

やすドラは大好き
ていうかざっと調べたら保管庫にあるやっちゃんメインの話ってほぼその作者さんが書いてたんだね
覚えときます
329名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 01:23:00 ID:m3j7nCmf
はじめまして。初書き込みです。

題名:暖かく、甘く、とろける様な感覚は
設定:竜児×奈々子 2年の1月から
量:5レスです
注意:原作忠実度は期待しないでください。性格も含めてです。うる星やつらの原作とBDくらいの違いです。
初めてなので緊張しますがレッツ投函! 
330暖かく、甘く、とろける様な感覚は:2010/02/02(火) 01:26:35 ID:m3j7nCmf

いくよー、おとうさーん

おーし

それー!

おっ、とどいたじゃないかー!!すごいぞ、りゅうじ!

目を閉じて夢うつつになるときに広がるその光景は、現実ではかなわない父とのキャッチボール。
寂しく、悲しい時に眠りにつくと最近見るこの場面。彼は心地よくなる。
だがどうしてなんだ?
どうしてだ?
どうして?・・・・・どうして?・・・・・・・

自分を捨てたあんな父親を・・・・・!




目が覚めた。目の下だけが空気に敏感だ。そこを触ってみると湿っている。
寝ている間泣いていたようだ。馬鹿か、と心の中で自分を嘲笑する。
ベッドからまだ目覚めきっていない体を鬱憤とした心と一緒に起こしてやる。
襖で隔たれた母の部屋からは寝息が聞こえる。
あんな夢を見てしまったと少し申し訳ない気持ちがあるからか、いつも以上に起こさないように配慮して静かに歩く。
窓の傍まで行きカーテンを開ける。眩しい朝日が部屋と少年を照らした。
少し気分が晴れてきて表情が柔らかくなる。もっとも彼、高須竜児の顔からは生まれつきの強面のせいで
悪だくみを閃きニヤニヤとしているようにしか見えないのは言わずもがなである。
お日さまを拝んだら顔を洗いにいく。今日はいつも以上にきちんと洗う。これで気持ちがよりすっきりするものだ。
「おし、飯、つくるかな?」
いつもの調子に戻ってきた。竜児はいつものように朝食を作る支度から始める。予約していた弁当用の白米もちょうど炊けた。
実にいいにおいだ。米の甘くもみずみずしい香りは竜児の心を気持ちよくくすぐる。気分を上々とさせながら竜児は料理を作っていく。
今日はスーパーで安かった食パンを使った料理だ。この食パンに海苔と納豆、そしてチーズを乗せる。こうしてオーブンで焼いたパンは非常にうまいのだ。
そしてサイドメニューにブイヨンスープ、しゃきしゃきレタスと新鮮トマトがついたスクランブルエッグ、ひんやりとした牛乳を用意して支度完了である。

「いただきます。」

一人でこの言葉を言うと少し空しいものだと彼は気づいた。つい最近まではその向こう側に彼女がいた時は想像できなかったこの雰囲気。雀の鳴き声が外からよく聞こえてくる。

朝食を食べ終わった後は母、泰子の昼食と自分の弁当を作る。いつもならまわりを気にならないくらい集中できるものだが今日は静かな空間が彼をもやもやさせる。
頭の中で「彼女」が出てくる。

「大河、どうしているかな・・?」

大河・・・相坂大河は独り身の生活をしているため3食全般にわたって友である高須竜児の家でお世話になっていた。朝と夜は彼女が竜児の家にきて飯を食べる、
それがいつもの風景となりいつしか大河も家族の一員のような存在になっていた。
だが、ある日彼女は言った。「自分一人でやっていく。」と。竜児に頼らず自分のことは自分でやれるようになりたい、と彼女は決心したのだ。
竜児は困惑したが何も言えなかった。頼られているとは感じなかったし迷惑とも思っていなかった。だが「自立」という目的を邪魔することはできなかった。
何も、何も言うことができなかった。
331暖かく、甘く、とろける様な感覚は 2:2010/02/02(火) 01:30:44 ID:m3j7nCmf
それを今、竜児は後悔している・・・・そのことを思い出し彼は溜息をついてしまう。これでよかったのだと思えば思うほどこれでよかったのかという心の反動が大きく返ってくる。
それによりまた悩む・・彼はそういった悪い循環に陥っている。

そのせいか、

「あ!」

やってしまう。
無意識は習慣を出してしまう。
いつものように大河の分の弁当まで作ってしまった。もう必要ないものを作ってしまった。

「弁当、ふたつも食えないだろうが、俺!」

心地自分に憤りをぶつけても虚しいだけ。こういった余計な事が悪循環の遠心力をさらに強める。

「置いていっても・・・泰子は食べないよな。」

十二分な量を作った昼食がある。それに弁当は置いてって後から食べてもまずくなるだけだ。
結局「MOTTAINAI」精神の考えから竜次は学校に二つ弁当を持っていくことにした。「どうせ大河は結局弁当を作れず困っているだろう」と思えばいい。
少なくとも自分は納得する。そう思うことにした。

弁当も作り終わったので学校の支度をする。制服に着替え、教材をバッグにいれて準備完了。そろそろ学校を出るのにいい時間だろうと竜次は時計を確認すると・・

「おい、もうこんな時間かよ!?」

確認するといつもの30分ほど時計の針が進んでいる。いろいろと考え事をしすぎたかトラブルに戸惑っていたせいか、何の所為かまったく分からないが一つだけ分かることは今日の朝が非常に

「最悪だ。」

自宅のドアを荒く開けて竜児は飛び出す。アパートの階段を勢いよく降りて学校まで走り出した。
月は睦月、季節は冬。澄んだ空と葉が枯れた並木、気持ちよく響く雀の鳴き声・・・
こんなときに登校をする学生はよい心地になるのだが今日の高須竜児はそんな気分になれるはずがない。
1500m走のペースで学校に向かう彼はむしろ外の落ち着いた佇まいが邪魔なくらいである。とにかく必死必死必死。
たかだか遅刻でなぜ必死になるのか。竜児自身わからなかったが、彼は何も考えずとにかく走った。

が、心がそうしようとしても体が限界でついていかなくなってきた。目の前に学校が見えてきたところで竜児は疲れて走れなくなってしまう。
あまり運動していない習慣が仇となって出てきたな、と竜児は後悔する。冬なのに自分だけ真夏の太陽の下にいるような熱さを体が帯びていて、汗も土砂降りの雨に滴ったふうに出てきている。
バスを待っている間はしゃいでいる幼稚園児と何気ない会話を楽しんでいるその母親たち、ランニングする老人は良好な天気に後押しされて快走している・・・
そんななかいる彼は非常にその場から浮いていた。

チャイムが高校から鳴っている。竜児はそれを聞いた瞬間自分だけ重力が倍受けるような感覚に陥った。
「くっそ・・・・!」

せっかく遅刻をしないために必死でここまできたのにそれが水の泡・・・・
彼は悔しくて悔しくてたまらなかった。そんな彼の顔はとてつもなく凶悪な顔に見えた。例えるなら

「ヤクザも恐れ、第六天も退き、ベジ○ータも恐怖のあまり涙する」

ような表情である。

そんな顔だからはしゃいでいた園児も、くっちゃべていた親たちも、ランニングしていた老人もみんな泣き、恐れ、命乞いをしていた。
竜児はその場から浮くどころかその場をあきらかに不気味で異質な空間をつくりだしていた。
332暖かく、甘く、とろける様な感覚は 3:2010/02/02(火) 01:34:50 ID:m3j7nCmf
そんな事実など露知らず、竜児は「せめて一時間目には間に合ってやる!」
と言う意地を通そうと、再び歩を進め、歩はいつしか走となって足を動かしていた。
走っていくうちに先ほどとは違い気持ちよくなってきた。気負いしすぎるのを止めたのもあるし、ランナーズ・ハイというやつかもしれない。
朝から起きて初めていい気分になってきた。その瞬間、

「うわぁ!」「きゃあ!」

曲がり角を直進しようとしたとき、左側から衝撃を受けた。その衝撃で地面に倒れこむと今度は右側から衝撃が走る。
砂利つきのコンクリートにすべり込んでしまった。これはたまらなく痛い。
「ぐ、ぐっ・・・」

たまらず竜児は声なき声を出す。じーん・・・と痛みのあまり神経が麻痺してしまったような感覚が襲う。
その感覚がある程度緩和するまで待った後に竜児は立ち上がる。すると、肩を震わせながらうずくまっている一人の女子が目の前にいた。どこかで見たことある。
そして竜児は心当たりがあることに気づく。

うちの高校の制服、紫色のやわらかな長髪、ふとましいが女性らしく美しい体つき・・・
うちのクラスにこうした特徴を持つ女子が一人だけいた。

「お前・・香椎。香椎奈々子!」

思い出したように竜児は彼女の名を呼ぶ。しかし彼女の方はと言うと、
「ひぃ!?」
怯えていた。

「お、おいどうしたんだよ・・・?」
と竜児が問いかけても
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」
と返ってくるだけ。しかしまあ、こういった反応をする原因は大体想像はつく。

「香椎・・・おれは別に怒っちゃいないぞ。」
「・・・へっ?」

やはり予想通り怒っているように見えていたようだ。
心外だ。

「ああ。ちなみに逆恨みで何かしようってわけでもないからな。」
「・・・・本当に?」

怒っているどころか憎しみに満ちた男として見られていたようだ。
実に心外だ。竜児はいつものことだし分かっていたとはいえすこし傷ついた。

「本当だよ。」
「本当に本当?」
「本当に本当だ。」
「本当に本当に本当?」
「本当に本当に本どぶぅ!!?」
同じ言い回しのせいで竜児は舌を噛んでしまった。これでは弁明にはならない。
「ぷっ・・・!」
「ん?」
「ぷふふふふふ・・・・!」
今の噛みが面白かったのか奈々子は思わず笑ってしまう。竜児の間抜けのおかげで奈々子は自分の誤解を理解したようだ。
「な・・・そこまで笑うことはねーだろうが・・。」
「ご・・・ごめんなさい。おかしくてつい・・・悪いことしちゃったね。怪我させちゃったし服だって・・・」
「ああ、たいしたことねーよ。かすり傷程度だし服も別に・・」
心配ないことを竜児は奈々子に言おうとしたが、その時今まで気がつかなかった違和感を感じた。
左足のズボンのところが何だか生温かい。
みてみるとふりかけのかかったご飯、香ばしそうな赤鮭、バター和えほうれん草が汚く混ざった物体がくっついていた。
「うぉっ!?」
どうやら奈々子の弁当が先ほどの衝突で散乱してしまったようだ。
333暖かく、甘く、とろける様な感覚は 4:2010/02/02(火) 01:41:38 ID:m3j7nCmf
「あ・・・これって、香椎の・・・」
「うん、あたしの弁当。ゴメンね・・」
「いや別にいいよ。気にするな。」
「でも・・・・」
「学校までもう少しだ。そこで体操服に着替えれば問題ないだろう?」
「そうだけど・・」
「こんなところで立ち話しててもしょうがねーだろ。遅刻してるんだ、とっとと向かおうぜ。」
そう言うと竜児は学校のほうへ向かいはじめた。
しかしさっき転んだときの所為か足が少々おぼつかない。その姿をみて奈々子はますます心配になる。
「だ、大丈夫?」
「気にするなよ。歩いているうちに大丈夫になるからよ。」
歩みを早くする竜児。
心配を他人に掛けるのは彼にとって大の苦手である。世話になることはなおさらだ。
だが自分がどれだけ大丈夫だとアピールしようとしても、傍から見たら無理をしているのが明らかである。その姿が目立つものだから、
フィールドワークに出ている小学生は本来の目的である自然でなく高須竜児という生物を観察している。
その視線に当然気付き、さらに無理をしようとする。そうなると当然、
「・・っっ!!」
激痛に襲われ立ち止まる。どれだけ体の負担を抑える努力を自力でしようとも本能の警告には逆らうことができない。思わず竜児は痛みの中心である右ひざに手をかける。
あれだけの衝突だから少なくとも青あざ以上になるのは当然であろう。

「高須君・・・やっぱダメじゃない。」
「つつつ・・・・確かに少しきついな。」
「だったら・・」
奈々子は早速手を貸そうとすると
「香椎、先に行っていてくれ。」
予想外の竜児の返事に

「はっ?」

と思わず鋭く刺すような感情で言葉を漏らしてしまう。
「このまま俺に付き合うと一時間目に出れなくなる。それだとお前は困るだろう。だから早く行きな。」
「でも、高須君は・・・」
「俺は大丈夫だ。心配するな。」
「でも・・・」
「大丈夫だって。」
「怪我が・・・!」
「唾つけておけば治る・・」
「もーーー!!」
高須竜児の態度についに奈々子は我慢することができなくなった。これには竜児も驚く。
「か・・香椎?」
「ほら、肩貸すから。」
「へっ?」
「いいから!!」
奈々子の強引な口調。竜児は流れに身を任せるしかなかった。奈々子に自分の腕を預ける。
左腕を彼女の左肩から巻きこみそこから体重の一部を彼女の体に乗せた瞬間、

その時竜児は感じた。
暖かく、甘く、とろける様な感覚が体全体に響いたのだ。
そして顔を預けている肩からはぬくもりが伝わってくる。
とても、とても心地良く、
その感情に彼は支配されていく。
334暖かく、甘く、とろける様な感覚は 5:2010/02/02(火) 01:44:25 ID:m3j7nCmf
「ご・・・ごめん、高須君。さ、さすがに・おも・・・い・・!」
この悲痛の声に竜児は行きかけた道から抜けることができた。
気がつくと彼女が必死になって自分を抱えている姿がそこにあった。
今の不可思議な感覚のせいでつい彼女に全て預けてしまった。
申し訳ない。
とりあえず無事な左足を主に、怪我した右足も少し使って自分の体重を支える。
「わりぃ、香椎!もういいよ。気持ちだけで」
「私なら大丈夫よ。もう平気よ。」
「けど・・・」
「大丈夫だって。」
「重いし・・」
「いいからいいから・・・」
「気持ちだけで・・!」
そのとき、奈々子は彼の右肩をしっかりつかみ、顔を彼女のほうに寄せ一歩歩き始めた。遠慮を主張していた竜児も、無意識に彼女と二人三脚をし始める。歩き出したあと彼女はにこやかに言う。

「無茶しないで。これで貸し借りゼロでしょ?」

「あ・・・・ああ。」

竜児は無意識に同意した。言葉だけではない。
このとき、歩き出した時なんだか気持のようなものが晴れて心から納得した。
感謝の言葉も無意識に出てしまう。
「香椎・・・ありがとな。」
「何言ってるのよ。悪いのはあたしだって。ひどい状況なのも高須君でしょ?あたしは運良く自分のバッグがクッションになってけがなし。あなたはコンクリートに直撃、それに弁当塗れのおまけつきでしょ。」
「まあ・・・な。でもよ。」
「でも?」
「なんだかわからねぇけど俺のほうが得をしているような気がして。」
「え?何で?」
「だからわからないって。」
「ふーん。ふふふ、変なの。」
「変だよなぁ。」
「ふふふ。」
「はは。」

心配を他人に掛けるのは彼にとって大の苦手である。世話になることはなおさらだ。
高須竜児はそういう人間なのである。
だが、この時は彼女に甘えることを望んだ。
それは暖かく、甘く、とろけるようなあの感覚のせいかもしれない。
これに酔いすぎるとまた彼女に負担をかけすぎてしまう。
竜児はそれを肝に銘じながらも、しばらく柔らかく、そして優しい肩の中で心地よい時間を味わうことにした。
335名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 01:47:23 ID:m3j7nCmf
以上です。時間かかって済みませんでした。
限界容量についてまだ未熟だったので綺麗な改行ができずに読みにくいかと思いますが・・・・

次回はもっと読みやすくしたいと思います。

ちなみに続編ですが気分が乗ったら作ります。乗らなかったらこれで完結で。

多分、キャラ崩壊がもっと激しくなりますがね(苦笑)

では、失礼いたします。
336名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 02:49:47 ID:2qoBQYai
>>335
GJ!
次も期待してます。



ところで亜美ちゃんどこ〜?
337名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 08:14:54 ID:SVErIEJW
>>335
GJ!!
竜児……………お前も男だったんだな
続編だがたしか竜児は弁当二つ……あとはわかるな?
まあ無理せずがんばってくれ
338名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 09:44:44 ID:EQqDL9X4
二年の一月ぐらいの時期なら竜児が奈々子を、ぶつかって動揺してたとはいえ、香椎奈々子呼ばわりはしないよな
たぶん呼び方は香椎さんだろうな
339名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 15:10:04 ID:qLKA6wg0
GJ
340名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 22:31:28 ID:4uuLplef
>>355
新しい書き手さん!。 大歓迎です。

時間を掛けて推敲したように見受けられて好感がもてます。
話もこれから広がりそうな雰囲気ですし、次も期待してます。
GJでした。
341名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 22:32:09 ID:4uuLplef
あ、335さんだ
アンカーミスった
342名無しさん@ピンキー:2010/02/03(水) 01:38:41 ID:TNO6Sx/6
GJ
続き読みてー
343名無しさん@ピンキー:2010/02/04(木) 19:18:37 ID:RMXRuqqH
過疎ってるなぁ
344名無しさん@ピンキー:2010/02/04(木) 20:56:57 ID:F0TND/9W
2ちゃんの携帯の締め出しの影響
345名無しさん@ピンキー:2010/02/04(木) 20:57:41 ID:F0TND/9W
特にドコモは悲惨
346名無しさん@ピンキー:2010/02/04(木) 23:05:23 ID:YgasN36w
前スレで感想書きこうとしたSSがあったが、
規制で書き損なった俺が通りますよ
347名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 01:41:53 ID:jueo9yhp
過疎じゃなく、職人さんはバレンタイン物の単発SSを書きはじめてくれてると俺は信じてるよ
348名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 09:44:14 ID:EJNbWgNN
ポニョをみてから先、SSの続きが全部ホラーになってしまう
ポニョぽい、とらドラとはこれ如何に
349名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 11:39:59 ID:ZptIBUZE
そりゃあ、ある日小さな子虎を助けたら人になってきて恩返しみたいな…
350名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 12:52:41 ID:lHPh6q4u
過疎だなんだって言ってるけど、原作完結から一年弱経ってるのにこんなに伸びてるってすごいと思うぞ
351名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 18:38:42 ID:lHPh6q4u
このタイミングなら他の書き手の迷惑にならないよね

今更ながら10皿目の能登主役ものをリメイクしたので投下します
稚拙な文章&微妙なシナリオなので、アドバイスがあれば是非お願いします
352名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 18:39:43 ID:lHPh6q4u
拍手と爆笑に包まれた体育館。
一見すると全てが作られたように見える生徒会長選挙の影で必死に涙を堪える北村に
気づいた人間は何人いるのだろう。
「北村・・・」
能登はかけてやれる言葉が見つからず、肩を組んでやることしか出来なかった。
なにも言わなくていい。泣いたっていいんだぞ。泣くなよ。
・・・今の北村を元気付けられる言葉は見つからない。
傷ついた友人を、ただ見ていることしかできないなんて。
俺はなんて情けない奴なんだろう。
それに
「やっぱり木原は・・・」
能登は見てしまった。北村が会長に告白した直後の木原の顔を。
本人は平静を装ってるつもりなのだろう。だが、内心の驚愕が顔に滲み出ていた。
あれはつまり・・・
北村の事はもちろん気になる。でも木原の事もすごく気になるのだ。
どうすればいい?俺はなにをすればいい?俺に何が出来る?
考え続けていたが結局答えは見つからなかった。

数日後
逢坂大河が停学処分を受け、狩野先輩は留学。
北村は失恋大明神になり多くの生徒から慕われるようになった。
それ以外は全て元通り。みんな新しい一歩を歩みだしているように見える。
だが、違う。
「ん?どうした?俺の顔なんか見て」
「・・・いや、なんでもない。昼の放送頑張れよ」
「おう。ありがとう」
能登は感じ取っていた。北村がなにか悩んでいる事を。
多分、狩野先輩への未練だろう。
北村は・・・いや、北村だけじゃない。
「麻耶、大丈夫?最近顔色悪いよ?」
「・・・うん、大丈夫。ありがと。奈々子」
「気にしないで。相談したい事があったらいつでも言って。
 私に話すだけでも、気が楽になるかもあるかもしれないし」
木原は<笑顔>をしなくなった。いや、まったく笑わないわけではない。
ただ、能登の気に入っているあの屈託の無い、明るい笑顔を彼女はしなくなった。
この2人はまだ歩み出せていないようだった。
「能登っち、どうしたの?早くいかないとパン売り切れちゃうよ?」
「・・・今日はいいや。なんか、気分じゃない」
「どうかした?顔色良くないけど」
「いや大丈夫だ。気にすんな」
友人との会話を終え、能登は普段ほとんど人がいない屋上へと向かった。
立ち止まっている友人をどうすることも出来ない現実から逃げたくなったのだ。
一人でゆったり、持ち込んでいるIPODでも聞いていれば気分転換になるはず。
そう思った。
353名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 18:40:51 ID:lHPh6q4u
しかし、逆に現実に引き戻される事になってしまう。
「き、木原?」
「能登?なんでこんなとこにいんの?タイミング悪」
普段は誰もいないはずのここに、よりにもよって一番会いたくない人がいてしまった。
「俺だって悪気が合ってこのタイミングで来たんじゃねえよ。
 ってかそっちもなんでこんなところにいるんだよ」
「・・・なんでもない。あんたには関係ないじゃん。さっさとどっかいってよ」
いきなりのケンカ腰。
でも、どこか悲しそうにも見える。それにこの表情・・・。
「お前の都合なんて知るかよ。俺はここにいたいんだ。
 ・・・なぁ、やっぱり北村のことなのか?」
「ハァ?なに勝手に妄想しちゃってんの?キモ」
言ってることは敵意剥き出しの怒りに満ちたものだったが口調はどこか弱々しかった。
(やっぱりそうか。こんな姿見せられて、なにも言わずに立ち去れるとでも思ってるのかよ)
「俺に切れるのはいいけど、もっと考えるべきことがあるんじゃないか?」
「・・・うるさい」
木原の心に踏み込んでみる。
もしかしたら、嫌われるかもしれない。でも、
「まあいいけどさ。悩み事って誰かに相談すると結構楽になるもんだぞ?」
「なんであんたなんかに話さなきゃいけないわけ?」
今の木原を放っておくなんて出来なかった。
「別に話す相手が俺じゃなくてもいいんだって。ただ、さっき言ったことは事実。試し
に話してみてもいいんじゃないか?」
「・・・・・・・・・・」
沈黙。
(結局俺なんかじゃ何もしてあげられないのか。
余計な口挟んだんだ。嫌われるよな・・・)
そんな思いから逃げ出しそうになってしまう。
だが逃げ出す前に
「なにがなんだが自分でもわからないよ・・・」
彼女は口を開いた。
「いつから好きになったんだろ・・・気づいたら好きになってた。
 それで、まるおのこともっと知りたいって思ったし、知ろうとしてた。
 でも、今回の事で私は何も知らなかったんだって気づいたの」
「別に何も知らないわけじゃないだろ。
 あいつの鈍感なところとかちょっとずれてるところとか知ってるじゃ・・・」
「ううん。全然分かってないよ。まるおがグレた時、理由が全然わからなかった。
 振られたときだって一番辛いのはまるおなのに、自分のことで精一杯で
 タイガーみたいに会長を問い詰めたり出来なかった。
 まるおを慰めてあげることも。
 タイガーだって実質振られたばっかなのにね。私とは大違い・・・。
 私もそんな風にできるよう頑張ってるつもりなんだけど・・・全然駄目」
自分の言葉を遮る形でそういわれて思った。
木原は優しいんだ。
それに人の優しさにも気づける。
だから自分より優しい人と比較して劣等感を抱いてしまう。
それでも努力できる、前に進もうと出来るのはすごいと思う。
354名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 18:41:52 ID:lHPh6q4u
そう思うと自分はなんて情けないんだろう。
能登は北村に少し劣等感を抱いていた。
なぜ北村が眼鏡を外すとかっこいい、コンタクトにしたほうがいいと言われ自分は何も
言われないんだ、とか。
自分でも気づいてはいるのだ。北村は自分よりも見た目、性格だけじゃない、様々な面
で優れている事を。
後夜祭の時、理由はわからないけどどこか悲しげなタイガーを、励ますように踊りに誘っ
たのを見て強くそう思った。
それでも劣等感を抱くことしか出来ない。
北村のようになろうと努力できたことは・・・ほとんどない。
「こんなやつ、相手にされるわけ無いよね・・・」
だからこれからは北村に近づけるように・・・傷つき、立ち止まった友人を
助けられるように努力してみようと思う。
北村が振られた時、自分は何もしてやれなかった。そのことを思い出して強く思う。
(もう、目の前で傷ついている友人を救えないなんて御免だ。)
「そんなこと無いって。木原がそうやって人のよさに気づけるところ、
 北村はちゃんと分かってるだろうし魅力あると思ってるって」
最大の勇気で言葉を紡ぎ出す。心は痛くなる一方だけど。
「あの鈍感なまるおがそんなこと気づけるとは思えないよ。
 てかさっさと気づけっつーの!まるおのバカ!!」
木原から、少し暗い感情が抜けたような気がした。
そして、元気を取り戻そうとしているように見えた。だから
「そうだな。鈍感すぎるぞ!大先生!」
俺も加勢してやる。
相手が分かるのを待つのもいいが自分から告白したほうがいいのでは?
など、言いたいこともあったが今はいい。
少しでも木原が元気になるなら、それで。

「ありがとう。な〜んか気が楽になったみたい」
「おう。よかった。じゃ、そろそろ教室戻るか。腹も減ったし」
どうやら、少しは役に立てたようだ。
もしかしたら好感度も上がったかもしれない。
などと、喜んでいた矢先
「やっぱりちゃんと想いを伝えてみるよ」
「・・・・・・・・・えっ!?」
驚くべき発言を聞いてしまう。
(今、小声で告白するって・・・)
聞き間違えなんじゃないかというわずかな希望を胸に、木原の顔を見る。
木原は何事もなかったかのように歩いている。
安堵すると共に、ついつい頬が緩んでしまう。だから
「なにニヤニヤしてんの?キモいんだけど」
にやけた顔を見られてしまった。
「な、なんでもねーよ」
(うわぁ・・・最後の最後でやっちまった)
半ばやけくそ気味に走り出す。
だから能登は見ることが出来なかった。木原の顔に<笑顔>が戻っていたことを。
「能登・・・。ありがとう。」

翌日の放課後、昇降口
帰りにCDショップでも寄っていこうかと思った時、珍しい顔を見た。
「・・・大先生?めずらしいじゃん。今から帰り?」
「ん?お、能登か。今日はちょっと調子悪いんで今から帰宅だ。途中まで一緒に帰るか?」
「お、おう。そうしよう」
なんだろう。今日の昼ごろから北村の様子がおかしい。
端から見ればいつも通りなつもりかもしれないが、1年の頃からのクラスメートだからわかる。
あのこととは別に、また何か悩みがあるような、そんな気がした。だから
「帰りにスドバ寄らね?調子悪いみたいだから無理にとは言わないけど」
「うーん。・・・わかった、行こう」
355名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 18:43:00 ID:lHPh6q4u
「そういえばどうだ?昼の放送。なかなか盛り上がってるか?」
「好調な滑り出しだと思うぞ。ただゆりちゃん先生泣かせちゃったのはどうかと思う」
「まあ先生ご自身がいいとおっしゃったんだからいいじゃないか」
(やっぱり何かあるな)
たわいのない会話の中でも能登は違和感を感じ取っていた。
「・・・北村。何かあったのか?・・・・・・今日の昼」
「(!?)ん?どうしてそんな事聞くんだ?特に何もないが。」
一瞬の動揺を能登は見逃さなかった。
間違いない。北村はまた何か悩んでいる。
今度は木原の時みたいに上手くいかないかもしれない。だが、やっぱりなにかしてやりたい。
「嘘つくなって。わかるよ、それぐらい。話してみてくれないか?
 少しは力になれるかも知れない」
「・・・・・・・・・」
沈黙。
昼と同様の状況だがもう能登は逃げようとしない。
決めたのだ。
なにが出来るはわからない。もしかしたら何もしてあげられなくて、辛くなるかもしれない。
でも、一番辛いのは相手なのだ。
そんな相手を放っておくことは、もうしない。
ただ真っ直ぐ北村を見る。
そんな思いが通じたのか北村も口を開いた。
「実は今日の昼、告白されたんだ」
「・・・ゲホッゲホッ」
思わず噴出す。
(まさか、木原が?やっぱり聞き間違いじゃなかったのか?)
「1年生なんだけどな。正直かわいい後輩だとは思っていたが付き合うつもりはなかった」
安堵してしまう自分がいる。
昼は告白するのを勧める様なことを言っていたのに。
「それって大先生・・・北村がそこまで悩むことじゃないと思うんだが」
「振った事に対してどうこう思っている。それもなくはないんだが、そうじゃないんだ・・・」
北村のトーンが下がる。きっとなにかあるんだろう。
北村が話せるようになるまでの能登は言葉を待った。
「そのとき、俺は会長・・・は俺か。すみれ先輩とその子を比べてしまったんだ。
 あの人への想いは、もう断ち切ったつもりだったんだがな」
やっぱり狩野先輩への想いに囚われていたのか。
「こんな姿見られたら、軽蔑されるだろうな・・・」
無理もないと思う
最後の最後でお互いの想いを知ることが出来たとはいえ、あんな形で別れたのだから。
「比べるってことはさ、北村は狩野先輩とその子を同じ[好きになれる人]かどうかを比べたんだよな?」
「?ああ。そうだな」
無理に狩野先輩のことを忘れさせようとすれば傷ついてしまう。
だからといってこのままではずっと囚われたまま、前に進めない。
北村を傷つけず、その上で前に進ませる方法・・・。
能登にはひとつしか考え付かなかった。
「じゃあさ、今度からは好きになれる人かどうかじゃなくて一緒に頑張りたいと思える人
 かどうかを考えれば良いんじゃないか?」
「え?・・・」
「北村にとっての好きな人・・・狩野先輩は一緒に頑張って行きたい人だったんだろ?
 でも北村は狩野先輩には追いつけない、共に進めないって思ったんだよな?
 俺はそう思わないけど。ってことは今は憧れの対象で、目指すべき目標ってことだろ?
 なら、本来の好きな人・・・一緒に頑張りたい人かどうかを考えればもう比べなくても済むんじゃないか?」
「・・・・・・・・・」
自分でも無理なことを言ってるのは分かってる。
北村は今でも狩野先輩を一緒に頑張って生きたい人だと思っているだろう。
だが今の北村を救うためにはこう考えるしかないと思った。
356名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 18:44:32 ID:lHPh6q4u
「・・・・・・・・・そうだな。能登の言うとおりだ。
 よし、お礼に明日の放送にゲストとして出演できるようにしておこう」
北村は笑った。
力になってあげられたかどうかはわからない。
それに、まだ迷いがあるようにも見えた。
だが、前に進もうともしているのは確かだ。
ならそれでいいと思う。
「ゲスト出演っていっても俺、失恋話とかないぞ」
傷ついたまま立ち止まっているよりは全然いい。
それから数日、木原は北村に積極的になっていった。
その後、クリスマスパーティにて。
「いやあ〜、アツアツですなお二人さん」
「よかったな北村。おめでとう」
「からかうなよ春田。高須、ありがとう」
「あらあら。随分嬉しそうね。麻耶、おめでとう」
「ありがとう、奈々子」
2人は付き合い始めた。
歩み始めたのだ。2人一緒に。
能登には2人が輝いて見える。
彼らの背中を押してあげられたことに対する、達成感もある。
本当によかった。本当に。本当に・・・。
「・・・え?」
気づくと能登は涙を流していた。
友人に見られたくなかったので、外に出る。
(なんでだ?あいつらはあんなに幸せそうじゃないか)
(自分の想いなんて、どう、でも・・・いい・・・だろ・・・)
「ちくしょう・・・」
いくら言い聞かせても、溢れ出る涙が止まることは無かった。
せっかく頑張れたのに。
北村への劣等感を頑張る気持ちに変えられたのに。
結局俺は、情けないまま。
あの時から一歩も前へ進めてないって事なのか。
そう思っていた時
「能登」
今、一番会いたくない人がやって来てしまった。
「木原か」
せめて木原の前ではこんな情けない姿を見せたくなかったのに。
「外、寒いでしょ。中入ろうよ」
「いや、今はそんな気分じゃない、んだ」
あぁ、泣き顔を見せないために後ろを向いてるのに、上手く喋れてないから意味無いじゃないか。
俺、かっこ悪いな。
「そう・・・。駄目だね、こうやって逃げてちゃ」
「私がまるおと結ばれたのは・・・それだけじゃないね。私が立ち直れたのは、能登のおかげ。
 ありがとう」
突然どうしたのだろう。
木原が北村と結ばれたのは、木原自身が頑張ったからなのに。
357名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 18:45:00 ID:lHPh6q4u
「いやいや。俺なんてほとんど役に立ってないよ。単に木原が頑張れたからだって」
(俺なんて告白すら出来ない男だしな)
「ううん、そんなことない。能登のおかげ。だから、私は・・・ちゃんと能登の気持ちと向き合おうと思う」
「・・・・・・」
「私、本当は能登の気持ちに気づいてたんだと思う。でも、まるおの事だけ考えようと思って・・・
 そうじゃないか。怖かったんだ。能登の気持ちに答えて、距離を置かれることが。
 私を立ち直らせてくれた能登とずっと良い友達で居たかったんだ」
(良い友達・・・か)
「でも、まるおに言われて気づいたんだ。
 このままじゃ駄目だって。
 能登は私の事・・・ううん、私だけじゃない。まるおの事にだって真剣に向き合ってくれて助けてくれた。
 なのに、そこまでしてもらった私が能登に正面から向き合わないなんてずるいよね」
自分から想いを伝えられなかった俺のために
こうやって影で泣くことしか出来ない俺のために
わざわざ答えを言いに来てくれたってことか。
(北村、木原・・・やっぱりお前らは凄いよ・・・)
「だから、言うね。私は、能登の事が・・・」
「ちょっと、待ってくれ」
「えっ?」
「このままじゃカッコ悪すぎるだろ。だから・・・こっちから言わせてくれ」
気持ちを伝える準備が出来た俺に彼女はあの<笑顔>で言ってくれた
「うん、わかった」
「俺は、木原のことが・・・好きです。2年の最初からずっと、好きでした」
伝えられた。
ずっと伝えられなかった想いが今、ようやく
「うん。・・・ごめんね。
 でも、嬉しい。
 能登みたいな人に好きになってもらえて、私は嬉しい。
 ありがとう」
あぁ、どうしてだろう。
少し前まで、あんなに自分を情けなく思っていたのに。
自分は何も変われてないと思ってたのに。
ただ、自分の想いが実らない事を突きつけられただけなのに。
(無駄じゃなかった)
木原を、そして北村を、元気付けようとしたこと。
北村みたいな良いやつになろうって頑張れたこと。
それら全てが無駄じゃなかった。
そう思える。
「ううう、寒くなってきた。そろそろ戻ろう?」
「あぁ、そうだな」
溢れ出る涙が止まるまで。
木原への未練が無くなるまで。
まだ時間はかかるだろう
でも、その日は決して遠くない。

立ち止まりかけていた彼は、再び歩き出す。
この冬を、大切な思い出にして。

END
358名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 18:52:24 ID:lHPh6q4u
最初に投下する量を伝えておくべきでしたね。申し訳ない
あのラストは投下した自分でもあんまりだと思ったのでラストを変更してみました。
ラストだけ変えて投下するのも申し訳ないので少しでも読みやすいように台詞回しを変えたり、
能登の内心の台詞をカッコで括ってみたりしてみましたが、あんまり読みやすくなってないという・・・

お目汚しすまない
359名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 19:34:12 ID:vuPCck+G
>>358
最初の頃、私もやっちゃってたんですけど、
気になる人は気になる三点リーダ(・・・、…)
くらいしか特に無いですねぇ。 
10皿目もよかったですよ。印象に残ってますもの。
是非、また何か書いて下さい。
360名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 22:07:18 ID:EJNbWgNN
お帰りなさい

でいいのかな?
面白かったです。GJ。
新作も読んでみたくなりました。期待してます。
361名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 23:57:02 ID:tonHwGVS
GJ!久しぶりの投下、乙です。
10皿目のも読み返しました。
にしても切ないなぁ……。
362名無しさん@ピンキー:2010/02/08(月) 01:23:49 ID:g/QC7tXR
>>358
わざとなんだろうけど「笑顔をしなくなった」って表現は非常にひっかかるな。
363名無しさん@ピンキー:2010/02/08(月) 12:56:51 ID:BPuceJDv
能登x麻耶(いや、裸族x麻耶か?)ktkr
GJでした
能登も幸せになってほしい
364名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 20:32:02 ID:VQ37rhoP
初の書き込みで失礼します。

2レスほど投下しますが駄文で申し訳ないです。
365名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 20:33:14 ID:VQ37rhoP
「大河、気持ちいいか?」
「…っ!」
「それと、今さらなんだが「うるさい!今良い所なんだから邪魔すんなっっ!」
「…俺の上で何やってんだよ?」
「見てわからないの?誠に遺憾だわ」
「ってか、お前どこから持ってきたんだよ?」
「みのりんから借りたのよ。」
「櫛枝まだ持ってたのかよ、ゲームギア…」
「で、何よ?」
「今、俺達は何をやってるかわかってるのか?」
「何をってSEXでしょ?」
「そうだ。んで、大河は今どういう状態だ?」
「竜児の上で腰を振ってるわ」
「いわゆる騎乗位だな。それでなんでゲームギアやってんだ?」
「今、ソニックが熱いのよ!」
「もう一時間以上腰を振ってるわけだが…」
「あれっ?そんなに振ってた?」
「ああ、俺はその間に八回イったぞ」
「まあ、竜児はマシンガンタイプだしね」
「大河は何回イったんだよ?」
「…十二回」
「嘘をつくな」
「実はイってないわ」
「…一ヶ月前はすぐにイってたのにな」
「この一ヶ月で1072回戦してれば慣れてくるわよ」
「櫛枝は感度ばつうっ!!…ふぅ、群なんだけどな」
「みのりんもセックス好きだからね」
「まあな。最近はバットを使ったプレーもしてるぞ」
366名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 20:33:55 ID:VQ37rhoP
「へぇ。どんなことしてるの?」
「ケツバットだ。ケツを打つと潮を吹くんだよ」
「あ〜。みのりんはドMだもんねぇ。」
「掃除はたいへんだったけどな。それと、この間はローター入れたまま部活やらせたんだよ」
「そんなんでよく動けるわね、みのりん」
「ゲームギアをしてるお前がそれを言うか…」
「いいじゃない。竜児は気持ちいいんだし」
「まあな。それで部活終わった後体育倉庫で七回戦やったよ」
「…で、みのりんとは何回やったの?」
「この一ヶ月で4008回戦だ」
「あたしより多いよね…りゅ〜じぃ〜」
「し、しょうがねえだろ。」
「まあ、今はいいわ。そういえばばかちーとは?」
「ああ、川嶋か。あいついつも失神するんだよな」
「ばかちー敏感なのね。経験値足りないのかしら?」
「そんなこっ!!・・・ふぅ、とないとおもうぞ。この一ヶ月で3052回戦やってるしな」
「またあたしより多い!!…で、ばかちーとはどんなセックスしてるのよ?」
「いたって普通のセックスだぞ」
「…そこにおいてある濡れたダンボールの中身は?」
「バイブ挿入中の川嶋がギャグホールして八時間ほど入っているが?」
「それは普通とは言わないわ。…ほんとエロ犬だわ」
367名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 20:35:32 ID:VQ37rhoP
以上です。
ダメ出しなどしてもらえる助かります。
368名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 20:40:40 ID:wN9n9x+S
>>367
乙!
俺的には全然アリだが、
間違っても竜児の性格上ハーレムは無料だよねw
何はともあれ純粋にGJ!
369名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 21:21:09 ID:n0bg5Gtv

初投下でエロネタとは。このスレ的にとても正しい姿です!
台詞に個々の口調とか、独自性とかちゃんと入ってるから、キャラ立ってたよ。

で、以下は自分の好み次第なんで、嫌だったら流してね

台本形式のSS自体はありだと思う。特に台詞回しにリズム感があるとかなり楽しい。
なので、その方向に書いて行くのもいいのではと思うけど、

場展とか、3人以上の登場人物を出す、とかの展開が難しい形式なので、
地の文に挑戦してみるのもありだと思う。
地の文の方が状態表現とか、動作とか、心理表現とか書くの楽だし。
このSSは台詞の中で、相手がどんな状態なのか、表現出来てるけどね。

あーみんが入ったダンボールを地の文で、
揺らしてみたり、竜児たちの話に反応させてみたりして、
落ちの前に伏線張るのも面白そうだと思いました。
後、これはいい意味で 竜児の性格破綻が半端無え!。

と言う事で面白かったです。
370名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 21:47:36 ID:UhEkncY/
無料ってなんや
371名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 22:03:42 ID:CrcChYNd
>>367
面白いwwwwGJwww
372名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 22:39:41 ID:wN9n9x+S
>>370
無理、でした書きたかったのは……orz
373名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 18:55:13 ID:Pf+YdLAk
>>372
携帯の予測変換ではよくある事故
374名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 22:57:28 ID:yc9Cc0DM
乙。台本形式だからいいけど地の文でやるならテンプレ通り注意書きしてクレ
375名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 16:20:01 ID:cNULWxF5
やなこった
376名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 22:30:33 ID:PQdL3LLG
注意書きが欲しいって、内容が一般的じゃないてこと?
プレイがマニアックって事か?
ギャグネタだし、こんぐらいはいいんじゃね?
377名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 22:34:53 ID:hlkttH1q
たった2レスのギャグにすら文句を付ける>>374のような奴がスレを衰退させてる
スプーンですくってあげて口の前まで持ってかないと食べない赤ん坊のようだ
378名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 06:39:27 ID:2ffs2SPT
句読点が適切に打てていない変な日本語で、くだらん文句を垂れるお前のような奴が、スレにとって一番有害だってことを理解しろ。
379名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 12:39:25 ID:wXtDXrxd
自己紹介乙
380名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 15:45:55 ID:GrpS0P4G
バレンタインが近いし投下しようとおもいます。


今回はバレンタイン前女編、男編、当日編とあってまずは女編を投下します。


女編は会話文のみで、大河、実乃梨、亜美の3人です。(今回はエロなし)


駄文で申し訳ないですが3レスほどお付き合い下さい。
381名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 15:47:10 ID:GrpS0P4G
「ねえ、みのりん。バレンタインデー竜児にチョコ渡すの?」
「渡すぜぇ〜超渡すぜぇ〜愛情たっぷりバケツプリンならぬバケツチョコさ!」
「えっ…やっぱりみのりん渡すんだ…」
「お?大河は誰に渡すのかい?」
「わ、私は北村くん。…と駄犬に義理でも渡しておくわ」
「ほほう。ではこの不肖櫛枝、たきゃす君に本命のバケツチョコを渡して、あま〜い一夜を過ごしますぜ」
「そ、それはだめよ…」
「おや?どうしてだい?大河は北村くんに渡すんでしょ?」
「そうだけど…そうじゃないの!とにかくその日は竜児とぷよぷよをやる予定なのよ」
「おっ!ぷよぷよかぁ〜なついねぇ、超なついねぇ。私ぷよぷよ得意なんだよね」
「みのりん…もしかして一緒にやるつもりなの?」
「ん?だって高須くんと付き合ったら一緒に居たいしさ」
「ふ、ふた、二人はつ、つきあてるの」
「噛みすぎたよ大河…いやいや、まだだけどもバレンタインをきっかけに確実に付き合うからさ」
「みのりん…妄想具合が尋常じゃないわね」
「え〜だって高須くんって私のこと好きなんでしょ?じゃあ私が告白したら付き合うのは確定〜!」
382名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 15:49:26 ID:GrpS0P4G
「…みのりん、それは過去の話よ。現実に目を向けて。それに竜児は今、ちっちゃくて可愛らしい女の子が好きだからね…多分だけど」
「タイガァ〜嘘はイケナイヨ。高須くんはまだ私の事が好きナンダカラネ…きっと」
「みのりん、なんで片言なの…でも竜児は今、誰が好きなのかしら?」
「そうだねぇ〜言いたくないけど、最近あーみんとも仲がよさげたしね。他には香椎さんとか木原さんとかゆりちゃん先生(独)とかさぁ…」
「うげっ!ばかちーはまだいいとして、あの独身(ゆ)まで参戦するつもりなの?…遺憾だわ」
「おっ?噂をすればあっちにいるのはあーみんじゃないきゃ。お〜い!」
「あらっ?実乃梨ちゃんじゃないの。どうしたの?」
「無視すんな!ばかちーのくせに」
「ちびとらもいたんだぁ〜ミニマムすぎて亜美ちゃん見えなかったぁ〜」
「にゃにを〜!ばかちーなんかモ、モグ、モ「ほらほら大河噛みつかない。この婆の顔にに免じて許してやっておくんなまし。ちょっとあーみんに聞きたいこともあるしね」
「…みのりん、せめて私の名言最後まで言わせてよ。」
「で、実乃梨ちゃんが亜美ちゃんに聞きたいことってなにかなぁ?」
383名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 15:50:30 ID:GrpS0P4G
「うん、あーみんは高須くんにバレンタインあげるのかなぁって」
「亜美ちゃんすっごいのあげちゃうんだから!もう高須くんが亜美ちゃんなしではいられなくなるようなすっごいの」
「えっ…なにをあげるの?」
「実乃梨ちゃん知りたい?実はね………」
「あぁっ!みるみるうちにみのりんの顔が真っ赤になっていくわ!」
「…と、こんな感じ?実乃梨ちゃんも一緒にどうかしら?」
「…あーみんには負けらんないからねっ!その話のったよ!」
「なになに?私もみのりんと一緒にやりたいよ〜」
「ちびとらも混ざりたい?じゃあスドバで作戦会議しよっか?」
「おー!」
「なにをするのかしら…ばかちー発案だからなんか不安だわ…」


続く
384名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 15:54:43 ID:GrpS0P4G
以上です。

次回は今日の夜にでもバレンタイン前男編を投下予定です。

お付き合いいただきありがとうごさいました。
385名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 16:35:44 ID:f35gb+g1
GJ
前男編ってなに
386名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 19:01:44 ID:GrpS0P4G
度々申し訳ない。また投下します。



バレンタイン前男編です。


会話文のみで高須と北村のバレンタイン前の会話って感じですね。


では2レスほどお付き合い下さい。
387名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 19:03:29 ID:GrpS0P4G
「おや?そこにいるのは高須じゃないか。一緒に帰らないか?」
「おうっ!北村か、いいぜ。生徒会の方は大丈夫なのか?」
「ああ。暫くはやることもそんなにあるわけじゃないからな。今日は逢坂と一緒じゃないんだな」
「大河のやつは櫛枝と一緒に帰るらしいからな。なんでも話したいことがあるらしいからよ」
「そうか、相変わらず逢坂と櫛枝は仲がいいな」
「そうだな。それにしても北村と二人で帰るなんていつ振りだろうな」
「なんだ高須、俺じゃ不満か?」
「いや、そんなことはねえけどさ。ほら、いつもは大河や能登、春田辺りもいるじゃねえか」
「それでは今日は高須と男同士の熱い友情をより深めようではないか」
「うぉっ!なんでいきなり腕を組んで来るんだよ?ちょっと離れろ」
「はははっ!照れるなよ、いいじゃないか。それはそうと、もうすぐバレンタインじゃないか」
「照れてないし、よくはないけどな。で、バレンタインがどうかしたか?」
「うむ。去年までの高須の状況は知らないが、今年はかなり期待できるんじゃないかと思ってな」
「北村が何を見てそう思ってるのかわからんが、今年もくれるのは泰子だけだと思うぞ。今までと何も変わんねえよ」

388名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 19:05:07 ID:GrpS0P4G
「そんなことはないと思うが。俺の見立てでは、少なくても3つは貰えると思うぞ」
「3つ?そんな物好きどこにもいねえよ」
「いやいや、それがズバリいるんだよ。確実ではないから誰とは言えないがな」
「…そうか?俺はそんな感じは一切わからないから期待しないでおく。それよりも北村の方が貰えると思うけどな」
「俺か?確かに生徒会の女子やソフト部の女子なんかは義理でもくれそうではあるが…本命は、まあないだろうな」
「いや、北村こそ本命は貰えるだろうよ」
「そうなのか。じゃあ俺は期待して待ってみようかな。はははっ!」
「おうっ!そうしとけ。…おっと、今日はスーパーで鶏肉が安いんだ。買っていかないと」
「おお、主夫も大変だな。」
「そんなことねえよ、好きでやってることだしな!じゃあ、俺はこっちだから」
「そうか。ではまた明日だな」
「おうっ!気を付けて帰れよ。じゃあな」








「ふむ、高須はいままでチョコを貰った事がないのか。これはあいつにメールした方がいいな」



続く
389名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 19:08:25 ID:GrpS0P4G
以上です。次回は規制がなければ14日に当日編を投下しますが、その前に2つくらい投下出来ればいいなぁと思います。
ダメ出しなどいただけると今後に役立てたいです。
お付き合いいただきありがとうございます。
390名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 21:34:00 ID:UPBcc2Ls
GJ 後男編が楽しみだ
391名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 22:01:27 ID:BH03gyYI

ダメ出しは求め無い方がいいと思うぞ。
何度か続けてるうちに、罵詈雑言になる可能性がある。
で、君自身とスレ自体が荒れるかもしれないので

て、このレスがダメ出しジャン
392名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 22:09:27 ID:1SqSY6LE

もうバレンタインなのか…
39398VM ◆/8XdRnPcqA :2010/02/12(金) 23:24:53 ID:1PByHx4g
こんばんは、こんにちは。 98VMです。

>>347
お題が出題されていたのですねー。 見逃しました(><)b
というわけで、落書き投下。

39498VM ◆/8XdRnPcqA :2010/02/12(金) 23:25:47 ID:1PByHx4g

「ねぇ、りゅーじ。 これ、なに?」
「おう。さっき届いたんだが… まだ開けてねぇ。 差出人不明なんで不気味で…よって、おまっ なんで開けてる!!」
「いいじゃない、中身確認しないと…」
「お前には危機意識ってものはないのか。」
「あ、チョコだ。」
「………なに?」
「デコぽっき○だわ。」
「本当だな… な、なんで?」
「そりゃバレンタインだからじゃないの?」
「いや、そうだけどよ。 でも一体誰だよ…。」
「私に聞かれてもわかるわけ無いじゃない。 心当たりないの?」
「いや、高校卒業してから、そんなに懇意にしてる女子はいないな…」
「みのりん…のわけないわよね…」
「川嶋だったらもっと高級な外国製のチョコだろうし…」
「りゅーじ、あんた、チョコくれそうな相手って、みのりんかバカチーしかいないの?」
「自慢じゃないが、居ない。」
「………妻になる身としては良い事なんだろうけど…あんまりもてないってのも、なんか情けないわね。」


     落書き     ルペルカリアの外れくじ


この春、結婚する予定の二人は現在同棲中。
2月14日といえども、それほど特別というわけでもなくなって、大河からは、ごく普通にチョコが手渡された。
そのお返しというわけでもないが、今まさに豪華な夕食が用意されつつある。
高校を卒業し、それぞれの道を歩み始めた今。

「香椎とか、木原ってことは無いよなぁ… 物的には木原っぽいが…」
「こんなに手の込んだ事するわけないでしょ。 っていうか、今頃能登といちゃついてるんじゃないの?」
「うーん。 でも、義理だろ?どうせ。 だったらよ…」
「はぁ、あんたね、義理にこんなに手間かけるわけないでしょ。 これ、めっちゃ時間かかってるわよ。」
「そ、そうなのか? だったら、ますますわからねぇ……」

実乃梨とは時々会っていたが、他の高校時代の友人とはなかなか会えない日々。
こんな時でなければ、香椎や木原の名前は出てこない。

「ま、あんたがわからなくちゃどうしようもないわ。 まったく、気の毒な女よね、こんなアホ犬相手じゃ…。」
「な、なんだよ。 っていうか、お前、これ本命だとしたら、どうなんだよ。」
「べ、べつにどうってことないわ。」
「どうってことないって…」
「しっ、信じてるもの…」
「おっ…… おぅ…。」
「………」
「………」

「あ、あったかいうちに食おうぜ。」
「そ、そうね。 うん。  そ、それにしても、やっちゃん、早出なんて残念よね。」
「ああ。 なんでもバレンタインイベントとかでな。 まぁ、しかたねぇさ。」
「………」
「……テレビでもつけるか。」
「う、うん。 あ、そういえば今日バカチーが生放送出てる筈。」
かつての級友の川嶋亜美は今や人気女優で、卒業以来一度も会ってないし、また、連絡も無かった。
そのせいか、大河がテレビの向こうの彼女を見る時は、ほんの少し、ほんの少しだが、寂しそうな顔になる。

39598VM ◆/8XdRnPcqA :2010/02/12(金) 23:26:29 ID:1PByHx4g

食事が終わったころ、テレビに川嶋亜美の姿が大写しになる。
こういうトーク番組に亜美が出演するのは珍しく、今日のスペシャルゲスト扱いだ。
二人組みのお笑い芸人がインタビューアー。
正直、画面的に亜美とは不釣合いはなはだしい。

『亜美ちゃん、今日はバレンタインデーだけど、亜美ちゃんもチョコとか送ったりするの?』
『えー、あたしですかぁ? うーん。 実は今までチョコって送ったこと無いんですよねー。』
『へー。 義理チョコも?』
『はい。』
『うっは、じゃぁ、もし亜美ちゃんにチョコ貰えたら、それってすっごい事?』
『あはは。 どうなんでしょうね。』
『ちょーだい。』『バーカ、なんで亜美ちゃんがお前なんかにチョコくれるんだよ、鏡みてこい。』
『そんなの、わかんねーだろ。 男は顔じゃないよねー、亜美ちゃん。」
『あははははは。』
『………』

「あいっかわらず、外面は完璧ね。」
「ああ。 こうしてると本当に天使みてぇなんだがなぁ…。」
「まぁ、顔がいいのは認めるわ。」
「顔じゃ、お前だって大差ないと思うけどな…。」
「……どういう意味? ってか、なんで胸を見る。」
「いや、見てねぇし。」
「嘘付け、確かにチラ見した。」
「してねぇって。 っていうか、俺は控えめなの好きだぞ。」
「…っ!  …そ、そう。 なら、いいわ…。」
「やれやれ… …お、そうだ、さっきのチョコでも食うか?」
「……うん。」

『うふふふ。 でも、実は今年初めてチョコ送ったんですよね…』
『な、ナンダッテーーーーーーーーーーー!!』
『マジすかっ!』
『はい。 あ、でも、片思いなんですよ。 っていうより、その人もうすぐ結婚しちゃうんですよね。』
『ええーーーっ 不倫! 略奪愛!!』
『あははは。 違いますよ。 あたしなんて全然相手にされてません。 でも、自分にけじめつけたくって…。』
『うっそでしょー、亜美ちゃんのこと振るなんてありえねー!』
『絶対その男おかしいって!』
『そんな事無いですよ〜。 あたしよりいい女なんていくらでも居ますって。』
『ない。ない。ない。 それは無い。』
『あっ、でも、それって亜美ちゃんはフリーってことだよね。』
『そうですね。 でもしばらくは恋はもう勘弁って感じかな。 あ、この場借りていいですか? 一言。』
『いいですとも、いいですとも。 亜美ちゃんのいう事なら何でも聞いちゃいますって。』

『えっと、突然チョコ送って、ゴメンね♪ …………お幸せに………。』
『………』

「………りゅーじ。」
「お、おぅ…。」
「あんた、そのチョコ絶対残すんじゃないわよ。 必ず、一人で全部食べなさいよね。」
「おう… そう…だな。 きっと、すげー美味いんだろうな。」

                                                              おわり
39698VM ◆/8XdRnPcqA :2010/02/12(金) 23:28:54 ID:1PByHx4g
いじょ。
お粗末さま。 マジ落書きレベルですまそ。

ほぼ会話のみで。
台本形式ってむずいよね。
397名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 23:35:50 ID:GrpS0P4G
GJ!


自分だけ書いてて、あれっ?場違い?俺はいらない子?と思ってました(笑)


文章上手くてうらやましいでした。
398名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 23:49:39 ID:RjLCBPRY
GJ!


亜美ちゃん。
なんか泣ける
399名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 00:44:05 ID:CtfvQKMh
GJです。もともと語彙に溢れ、状況描写の上手い方ですので、
作風を変えても非常に読みやすいのは流石だと存じました。
タイトルのルペルカリア祭とか、普通『アップ』と表現する
所を『大写し』と表現するところとか、婚約した竜児が大河
を上手く飼いならしている描写とか……短いですが濃厚です。
また、例のやつも楽しみにしております。失礼いたしました。
400名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 01:22:57 ID:yNFCSk3l
>>396
GJ!

本当に98VMさんは気持ちを落ち着かせるいい話書くなあ
最小限の情景のひとコマからいろいろ想像できる
あと、ルベルカリア祭の事初めて知ったw

やべ、今までバレンタインと無縁に生きてきた事バレたかな・・・?
40198VM ◆/8XdRnPcqA :2010/02/13(土) 03:07:55 ID:L6MErYSu
こんばんは、こんにちは。 98VMです。

さっきの亜美ちゃんサイド書いちゃったw 
超短いです。
衝動書き、乙。 ということでw
40298VM ◆/8XdRnPcqA :2010/02/13(土) 03:08:42 ID:L6MErYSu

「おつかれっしたー。」
「はーい、おつかれ。」
「っれしたー。」「したー。」

「……」
「おい、亜美。 なんだ、今日のトーク。 最終的には上手くまとめたが… 一歩間違ったら…。」
「間違わなかったんだからいいじゃないですか。」
「…お前、どうしたんだ? いつものお前らしくないぞ。」
「…いつもの私ですか…」
「そうだ。 お前は『女優、川嶋亜美』だ。 他の同い年くらいのタレントとは格が違うんだ。わかってるな?」
「……はい。」
「…わかってるな?」
「はい。プロデューサー…。」

溜息をつくサングラスの男。 30後半の色気のあるいい男。
『降旗』といえば、業界で知らないものの居ない敏腕プロデューサーだ。 その敏腕が今、一番力を入れているのが…
『女優、川嶋亜美』だった。


     落書き   ルペルカリアの外れくじ 裏面


「着替えます。」
出て行ってくれという意思表示。 ここは引くべきだというのは敏腕ならば当然判断できる。
そして、フォローする言葉も、勿論忘れない。
それが、亜美がこの男を嫌いになりきれない所以だった。

「暫く、だれも楽屋には近づかないようにする。 準備が出来たら電話をよこせ。」
「……はい。」

そして、軽く肩に手を置き、そして楽屋を出て行った。

「ふぅ… けじめ、か。」
失敗した。 やるんじゃなかった。
「楽になると、思ったのにな…。」
椅子がひっくり返りそうになるくらい寄りかかる。
長い髪が床につきそうなくらいに。
「お幸せにって…バッカじゃね。 悔しくて仕方ないくせに…。」
涙が溢れてきた。
痛い。
こんなに痛い。
うやむやにして自然に忘れるのを待つべきだった。 今はそう思う。
だって、どうしようもなく胸が痛いから。
だれも、その痛みを分け合ってくれる人はいないから…。
そんな時に、携帯がなる。 メールの着信を知らせるために。
メールは降旗からだった。
『明日も早い。 一人になるな。 誰でも良いから話して、明日は何時もどおりに仕事が出来るようにしろ。
なんでもいい。 誰でもいい。 とにかく一人になるな。』
……やっぱり、嫌いにはなりきれない。

離婚調停中の男の言う事だ、ある意味これ以上ないほど含蓄がある。
そして、それ以上に胸が痛くてしかたなかった。

携帯のアドレスをカチカチと送る。
ふと、目に止まった名前。
特に何も考えずにダイヤルしていた。

40398VM ◆/8XdRnPcqA :2010/02/13(土) 03:09:34 ID:L6MErYSu

『………』
『………』
3回目を待たずに切ろうとして…
『はい、櫛枝です。』
『あ、 み、みのりちゃん……』
『おおおー、あーみんかい! いやーこいつは驚きだぁ!』
『う、うん。 久しぶり。』
『うんうん。 高校卒業以来だねぇ。』
『ごめん、ずっと連絡しなくって…』
『いいってことよ! こうして電話してくれたじゃん。 櫛枝はそんなことは気にしないぜぇ。』
『ふふふ。 みのりちゃん、相変わらずだね。 ありがと。』
『いやいあぁ、当然だよー あーみんは大事な友達だからねぇ。』
『そっか… 友達… か。』
『………』
『………』
『…あ、あのね』
『あーみん、テレビ見たよ。』
『………っ!』
『話したかった。 よかったよ。 電話してくれてさ。 あーみん、携帯番号変えちまったから、かけれなくって。』
『見てたんだ… な、なんか恥ずかしいな…。』
『恥ずかしがる事なんか、何にもない。 よくやった! 感動した!!』
『…あ、ははは。 ほんと変わってないなぁ…』
『あーみんは頑張ったよ。 かっこよかった。 絶対、絶対、高須くんにも伝わったよ。 この櫛枝が保障する。』
『………。』
『でも、痛てぇよなぁ… やっぱ転んだら痛てぇよ。』
『……ぐすっ』
『いいんだよ、あーみん。 泣いちまいな。 おもいっきりわんわん泣いちまいなよ。 私が傍にいるから。 なんて
いっても、高須くんへの失恋にかけちゃ大先輩ですからなぁ、櫛枝さんは。』
『もっとも、傍にいるっても、電話だけどね。 あははは。』
『うっ… うっ… うぁ… うぁああああああ…』
『大丈夫なんだよ… あーみんは一人じゃねーから。 櫛枝も、大河も、高須くんも… ずっと一緒だよ。ずぅっとね。』

……
………
暫くして、亜美はまた女優になる。
涙の跡を隠して、楽屋を出る。 颯爽と。 
「随分遅かったな亜美。」
「すみません、プロデューサー。」
「待たされすぎて、腹が減った。 どうだ、近くに美味いラーメン屋がある。 俺のとっておきだ。」
「こんな時間に食事なんて…」
「たまにはいいだろ。 嫌いな男とで悪いが、付き合え。」
「はぁ…。」
「ん、これってパワハラか?」
「くすっ… いえ、私の意志でお付き合いします。」
「そうか。」

「あ、本当に美味い店だが、替え玉はなしだぞ。 太る。」

胸の痛みは無くならない。 けれど耐えることは出来そうだ。 目を開けば……案外、世の中は愛に溢れているから。
そう思って亜美は、その男に始めて心から微笑んだ。

                                                                おわり。
40498VM ◆/8XdRnPcqA :2010/02/13(土) 03:10:40 ID:L6MErYSu
お粗末さまです。

櫛枝むずかしーw 
やっぱ私にはみのりんは書けないわw
スマソ。
405名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 03:19:08 ID:emd/UrWy
GJ
406名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 03:29:53 ID:gKTxC/DU
GJ!泣いちゃった
407名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 04:07:51 ID:c8ew4d+S
GJ
408名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 06:29:01 ID://KPVSL2
GJ
あなたの作品が好きです。
409名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 19:27:09 ID:hdHToC6A
たびたび失礼します。
バレンタイン当日編と平行してやってるのを投下します。

タイトルは
能登「…女って…怖いよ…」(前編)
です。

前半はエロなしで、若干キャラ崩壊ぎみですが…そこは目を瞑ってくださいまし。


では、7レスほどお付き合い下さい。
410名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 19:28:56 ID:hdHToC6A
期末テストも終わり、テスト休みに入った竜児達はまた亜美の別荘へ旅行に来ていた。
男子は竜児、北村、能登、春田、女子は大河、実乃梨、亜美、奈々子、麻耶と総勢9人の大所帯だ。
夏ではないので海で遊ぶことは出来ないが、近くの観光や別荘内で思い思いに楽しんでいた。ただ春田辺りは「あ〜みちゃん達のせくし〜ビキニが見れなくて残念むね〜ん」等と言っていたが。


「いやあ、高須よ。海水浴が出来ないと何かやることはあるのかと心配していたが、いやはやこれが中々楽しめるものだな!」
「おうっ!北村。都会と違って空気も美味いし、食べ物も料理しがいのあるものばかりだ。おっ、春田そこのキノコ取ってくれ」
竜児ご自慢?の鋭い目利き(物理的にも)によって選りすぐられた野菜達が綺麗に刻まれていく。
今日の夕食担当は、竜児を中心とした男子メンバー。特に竜児は張り切っていて、あれやこれやと指示を出す。そんな時、密かに女子メンバーが集まっていることなど知るよしもない。


さて、なぜ今回海水浴も出来ない季節に別荘に来たかというと、女子達のある陰謀があったからだ。
それを知るには旅行の数日前、スドバで極秘会議が行われていた所まで遡ることになる。



411名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 19:32:32 ID:hdHToC6A
「さてさて、テスト前の忙しい時期にお集まりいただいたのは他でもありません」
集められた女子達に向かって、いつになく真面目な口調で亜美はこう切り出した。
「皆さんにはそれぞれ、好きな男子がいると思います!今の片想いままでいいのですか?私は嫌です!」
「う〜ん…私も出来れば告白したい…かな?」
意外にも菜々子がこう反応した。すると、亜美は
「でしょ?だから私に提案があります!」
「ばかちーの提案?はっ、どうせろくなもんじゃないわ」
「タイガー、文句なら後で受け付けるわ。」
いつもなら大河に噛みつき返す亜美だったが、今回は自信があるのか軽く受け流してこう言った。
「テストが終わったら、私の所の別荘に行かない?そこでみんなで告白するの。ヤって既成事実作っちゃうの。もちろん、誰が選ばれても恨みっこ無しだからね」
その瞬間、周りは水を打ったように静かになった。
文句の1つでも言おうと構えていた大河も
「…北…村くんと、き、既成事じゅ…つ…」
と耳まで真っ赤にしながら呟いていた。
「どう、みんな?決して悪い話じゃないと思うんだけどな」
言った本人も恥ずかしかったのか、軽く頬を染めながら亜美はみんなに訊ねた。

412名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 19:34:46 ID:hdHToC6A
「わ、私は乗るよ!その話!私だって既成事実作っちゃうもん!」
麻耶が顔を真っ赤しながらも賛成を表明した。
「私も、亜美ちゃんや麻耶、みんなと一緒にしよっかな」
「あーみん…それはダイエット戦士たる私に対する宣戦布告だね?受けてたつよ!」
「菜々子も実乃梨ちゃんもオッケーね。で、タイガーはどうするの?」
「…うん。私もヤるわ!ヤってやるわ」
「…大河…なんかその言い方怖いよ」
大河の何か間違ったやる気に、菜々子が若干戸惑っていた。
「よしっ!全員参加ね。それで…」
「あみちゃーん。なんで俺はここにいるのー?」
欲望渦巻き始めた女子達の中に、何故かストローを加えているのんきな春田が混じっていた。
「あ〜春田くんには私達のお手伝いをして欲しいのよ。ほら、春田くん年上の彼女いるじゃない?だから安心して話せるしね」
「あ〜瀬名さんのことねぇ〜確かにオレには瀬名さんいるしぃ〜全然オッケーだよ〜みんなには幸せになってもらいたいからねえ〜」
バカに任せるのは心配もあったが、今は猫の手も借りたい状況な為に選り好みはしていられなかった。
「ありがと〜春田くん。お礼は期待しててね〜」
「うっひょ〜!お礼楽しみだぁ〜」
こうして乙女達の戦いが始まったのだった。
413名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 19:36:33 ID:hdHToC6A
時は戻り、亜美の別荘。
「いやマジで高須は料理上手すぎだろ?俺、今度教えてもらおうかな」
「おうっ!これくらいなんでもねえよ。能登も基本さえ抑えておけばすぐ出来る」
竜児と能登が、夕食後の食器洗いをしながら雑談していると
「ねぇねぇ、2人とも〜今さぁ女子達シャワー浴びてるんだってさぁ〜覗こうよぉ〜」
春田が小声で話しながらやって来た。
「俺は今、三角コーナーの滑り取りに忙しい」
「えぇ〜高っちゃん連れないなぁ〜能登は行くっしょ?麻耶ちゃんの体つききになるっしょ?」
「き、木原の体…い、いや、ダメだ。これ以上嫌われると思うと…」
竜児は三角コーナーに夢中で話などあまり聞いていないし、能登に至っては最初は乗り気だったものの、麻耶に嫌われると思ったからか、徐々に顔から生気を失い最終的にはキッチンの隅でいじけるように座り込んでしまった。
「春田よ、ズバリ個室のシャワーは覗けないと思うが」
「えっ?そうなの〜残念ショ〜」
北村はシャワーを浴びて来たからか、トランクス1枚という女子が見たら顔を赤くしてしまいそうな出で立ちで春田にツッコミを入れていた。
「北村、また女子に裸見せるつもりか?早く着替えてこいよ。風邪引くぞ」


414名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 19:39:01 ID:hdHToC6A
「おお、高須。洗い物やらせて悪かった。では、俺は着替えてくるとしようか」「えぇ!北村、女子に裸見せたのか?」「いや、実は…」
そんな夏の思い出を話していると
「あ、みんないたいた。って祐作は?」
シャワーを浴びてきたからか、薄いピンクのキャミソールに黒の短パンといったラフな格好の亜美が声を掛けてきた。
「…お、おうっ!北村は今着替えしに行ってるぞ」
普段とは違った色っぽい亜美に竜児は目を反らしながら答えた。
「そうなんだぁ。あっれぇ〜高須くんなんで目を反らしちゃうの?もしかして亜美ちゃんのお風呂上がり見て欲情してる?」
「ばっ…そんなことねえよ。それより何か用があるんじゃねえのか?」
亜美のちょっとした誘惑にどぎまぎしつつ竜児は話を反らした。
「あっ、そうそう。みんなシャワー浴びて来たら下のリビングに降りて来てね。ちょっとしたゲームやろうよ」
「ゲームか、いいね。なにやるの?」
「もう、能登くんったら。ハヤい男は嫌われちゃうよ。それはリビング来てからのお・た・の・し・み。じゃあみんな、待ってるね〜」
亜美は人差し指をピコピコさせながらリビングへと去っていった。
「高っちゃん。ゲームたのしみだね〜」
「おうっ!待たせるのも悪いしさっさと浴びるか」
「…ハヤイ…嫌われる…」
415名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 19:40:26 ID:hdHToC6A
「能登なにやってんだ。遅い男も嫌われるぞ」
「…えっ、マジで?」
能登の意識が飛んでいたのを戻しつつ、3人はシャワーへと向かっていった。



「…みんな行ったみたい。よし、さくっと準備しちゃいますか」
「あーみん…こ、こいつはどこに置いたら良いのかねぇ…」
「あ〜実乃梨ちゃんそれは隅の方に…照れちゃってかわい〜」
「そ、そんなことないぜ〜!ただ見るのは初めてでさ」
「私も初めて見たわよ。っていうか奈々子、良くこれ買えたわね」
「うん。サイズがわからないから困ったけど、ネットで買えるからね」


準備が終わった頃、シャワーを浴び終わった男子メンバーがリビングへとやって来た。
「おう、待たせちまったみたいで悪いな…って、このカーテンで仕切られた部分はなんだ?」
竜児はさっきまでなかったカーテンが気になり尋ねると
「今は気にしないで。ほら、みんなこっちに来てるからはやく」
「お、おう…」
奈々子にはぐらかされてしまった。

「じゃあ、みんな集まったし何のゲームしよっか?」
亜美はそう切り出すと、ぐるっと全員の顔を見渡した。その時、春田と一瞬アイコンタクトを取ると
「は〜い〜、俺はお〜さまゲームやりたいなぁ〜」
416名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 19:45:24 ID:hdHToC6A
「「「お、王様ゲーム?」」」
男子メンバーは声を揃えて驚いていた。
「…春田。いくらなんでもそれはねえだろ…」
竜児が呆れながら言うと
「い、いいんじゃない?王様ゲーム」
「き、木原…マジかよ…」
「あら、私もちょっと興味あるわ。せっかくだしやってみましょうよ」
「香椎まで…ホントにいいのかよ…どうする、北村」
「ふむ、俺も興味ないと言ったら嘘になるしな!ここは多数決でもとってみるか。では、王様ゲームをやりたいやつ手を挙げてくれ」






「…おうっ!…マジかよこれ…」
手を挙げなかった竜児が周りを見ると… なんと竜児以外の全員が手を挙げていた。
「ズバリ!王様ゲーム決定だな。高須は嫌かもしれないが、まあ楽しんでくれ」
「いや、俺は構わねえけどよ…マジでわけわかんねえ…」
春田や能登、北村が王様ゲームをやりたいのはわかる。だが女子メンバー、あの大河でさえやると手を挙げていたので、竜児には意味がわからなくなっていた。 「じゃあ、今から割り箸持ってくるね。でさ、ちょっと提案があるんだけど」
「ん?なんだ、亜美」
「王様を紙のクジで決めた後割り箸の番号を男子と女子で分けない?男子の何番と女子の何番でみたいにさ」
「ふむ、確かにこういったのは異性で楽しんだ方が盛り上がるな。みんなもそれで構わないか?」
「「「異議なーし」」」
「了解!じゃあ亜美ちゃん割り箸持ってくるね〜」
こうしてメンバー達の(一部除く)欲望渦巻く王様ゲームがスタートするのだった…


417名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 19:47:05 ID:hdHToC6A
以上です。

後半は明日の夜にでも投下出来ればとおもいます。

418名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 20:24:16 ID:uCwcxfuq
GJ!
続きが楽しみww
419名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 21:02:56 ID:WBJVvyoj
GJ!
420174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/14(日) 00:12:22 ID:FQmdbRD5
やっちゃんSS投下

「バレンタイン」
421174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/14(日) 00:13:17 ID:FQmdbRD5
 静寂な夜を照らす月明かり。
遮る雲一つない夜空から降り注ぐそれは、寝静まった人たちを見守るよう。
その中でただ一軒、爛々と明かりを放つお店があった。
人気がなくても、いつ来るかもわからなくても、それでも誰かを待ち続けて明かりを絶やさない。
こんな風に考えてみると、コンビニってけっこうすごいのかも。
 自動ドアが開くと流れてくるベルの音と、店内に反響するインフォメーション。
凍えそうな体をやさしく纏う暖房。
レジの奥から目を擦りながら出てきた男の子。
あくびはかみ殺した方がいいかな、やっぱり。
こんな夜更けじゃ眠いのも仕方ないけど。
 適当にぶらぶらしながら物色していると、目に付いたのは人目を引くよう設けられた、ある一角。
並んでいるのは見慣れたお菓子。
けれどその日は、その日だけは特別で、大切で、ありったけの想いを託されたお菓子。

───大切なひとに贈りませんか?

可愛らしいキャラクターの吹き出しにはそう添えられていた。
ほんの気まぐれで手を伸ばしたのは、そのイラストの少し奥、一口サイズの小さなチョコレート。
無造作に二つ摘むと、レジへと足を向けた。

                    ***

 漂ってくるお味噌汁のいい匂いは食欲をそそるのには十分すぎて、疲れてても眠くても、勝手に目が覚めた。
温もりが残る布団は魅力的だけど、でももっと魅力的なその香りに釣られるようにずりずり体を引きずる。
立て付けが悪くなってきてるせいか閉じきらない襖は冷たい空気を吸い込むのと一緒に色々なものも吸い込んで教えてくれる。
お味噌の香りに混じってしてくる、炊き立てのご飯のいい匂い。
それと、空気を震わせて耳に届く微かな音。
トントントン。まな板の上で踊る包丁。
ぐつぐつぐつ。沸き立つお鍋。
ぐーぐーぐー…あぁ、大河ちゃんのお腹の虫だ。
食いしん坊さんな大河ちゃんらしいや。
くー…やっちゃんも大河ちゃんのこと言ってられないなぁ、これじゃあ。
「おはよ〜」
 開け放した襖の向こう、最初に見えたのはテーブルに並んだ朝ごはん。
ちょこんと座る大河ちゃんはお箸を両手に今か今かっていただきますを待っている。
でもやっちゃんが顔を出すと手にしていたお箸をきちんと並べてテーブルに置いて、笑顔。
「おはよっ、やっちゃん」
「おはよう」
 腰を下ろすと、今度は台所から。
「なんだ、もう起きたのか」
制服の上から着けていたエプロンを外しながらの竜ちゃん。
それを棚に掛けると、流し台から包んだお弁当を手にして、それを大河ちゃんに渡す。
「うん。あんまりおいしそうな匂いがしてきて起きちゃった」
「眠いんならまだ寝てていいんだぞ、飯ならちゃんと取っといてやるから」
 テーブルに着くと、竜ちゃんがそう言う。
帰ってきたのは暗かった空が白み始めてきた頃。
なるべく音を立てずにしていたつもりだけど、でも竜ちゃんは気付いてたみたい。
やっちゃんを見つめるその目尻は、少し下がり気味。
心配性だなぁ、本当に。
「でもやっちゃんお腹減っちゃったしぃ、それにご飯食べたらまた寝ちゃうからへーきだよ〜」
「お前なぁ」
 そこで区切ると、一拍代わりにため息一つ。
「たく。太っても知らねぇぞ」
 おデブさんになっちゃったら、それでもいいよ。
あんまりなりたくないけど、でも、そうやって少しでも安心してくれるなら、おデブさんでもいい。
ちょっとくらいだったらね。
「うわ、デリカシーないわね」
「ほっとけ。ほら、大盛りでいいんだろ」
 大河ちゃんにぶっきらぼうにお茶碗を差し出す竜ちゃん。
やっちゃんにもご飯をよそって渡すと、そのままいただきますをして、いつも通りの朝食が始まった。
422174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/14(日) 00:14:17 ID:FQmdbRD5

「そういえば」
 そう前置きをしたのは三回目のお代わりを竜ちゃんにお願いした大河ちゃん。
点けていたテレビから流れてくるニュースの中から見つけた話題を、誰ともなしに口にする。
「明日ってバレンタインよね」
「そうだねぇ」
 それじゃあ今日はバレンタイン・イヴになるのかな。
ついこの間クリスマスがあって、お正月もあって、今度はもうバレンタイン。
時間が経つのが早くってビックリ。
「大河ちゃんは誰にあげるの、チョコ」
 気になるっていえばそうだけど、けど聞く必要もなかったかも。
「私はべつに、そんなの」
 チラチラ正面を気にかけて、目と目が合う。
瞬く間に空にしたお茶碗を竜ちゃんに突き出して四回目のお代わりをする大河ちゃんは耳まで真っ赤っか。
竜ちゃんにそれを指摘されるとオロオロしちゃってしどろもどろ。
わかりやすいくらいわかりやすくって、可愛い。
「そ、そういうやっちゃんはどうなの」
 なにがだろう。
強引に話を逸らす大河ちゃんがやっちゃんにそう問いかける。
「誰かいないの、チョコ贈る人」
あ、そういう意味だったんだ。
贈る人、かぁ。
「ん〜、そうだなぁ、やっちゃんはぁよく来てくれるお客さんとかにかなぁ」
大河ちゃんと違って義理もお義理のギリギリチョコだけど。
そう茶化すと大河ちゃんは真っ赤っかな顔をもっと真っ赤っかにさせちゃった。
ちょっとしつこかったかな。
「ごめんねぇ大河ちゃん」
「もうっ、知らない」
プイってそっぽ向かれちゃった。
やっぱりやりすぎちゃったみたい、こうなった大河ちゃんはしばらく口きいてくれないし、何を言っても今は伝わんない。
ほとぼりが冷めたらちゃんと謝らなくちゃ。
それまでは、あんまり触れないようにしよう。
「バレンタインか…」
 竜ちゃんが呟く。
どこそこの有名店のチョコがとか、チョコと一緒に贈るプレゼントとか、告白にもってこいのデートスポットとか。
そんなのを取り上げては詳しく紹介している、テレビが垂れ流すニュースを、竜ちゃんはどこかぼんやり眺めている。
その横顔は、なんだか何かを思い出しているようにも見えた。
 ふいにこんなことを思った。
竜ちゃんは、今までチョコを贈られたことってあるのかな。
もちろん義理チョコでも友チョコっていうのでもなくて、本命のチョコ。
そんな話を聞いたことはないけど、そういうのを誰かに話したがる竜ちゃんじゃないし。
態度でも素振りでも、そんなのでわかっちゃうくらい浮き足立ってたことだって、少なくともやっちゃんが覚えてる限りはないし。
じゃあ貰ったことないのかな。
でもやっちゃんが気付かなかっただけで、もしかしたら……
本当は、どっちなんだろう。
やっちゃんにはわかんない。
竜ちゃんしかわかんないことなんて、竜ちゃんに聞かなくちゃ知りようがないのに。
なのに、聞けない。
知りたいような、だけど知りたくないような。
なんでだろ、なんだか、変な気分。
「バレンタインがどうしたのよ」
 似たようなことを思ったのかもしれない。
大河ちゃんが問いただそうと、キッと細めた目で竜ちゃんを見据えて口を開く。
やっちゃんがそうさせちゃったのもあるけど、放つ言葉にはかなり棘が含まれてる。
「いや、つーか大河、なんでいきなりそんな機嫌悪くなんだよ」
 隠そうともしない苛立ちをぶつけられて、その理由がわかってない竜ちゃんは困惑してる。
「いいから黙って答えなさい」
それが余計に気に障ったのか、プリプリしている大河ちゃん。
竜ちゃんは不思議そうに後頭部の辺りをポリポリ。
「どうしたって、べつに何でもねぇんだけど、泰子が客にチョコ配るって言ってただろ? それのこと考えててよ」
423174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/14(日) 00:15:11 ID:FQmdbRD5
 竜ちゃんの説明は、それだけじゃよくわからなかった。
大河ちゃんもそう、怪訝そうにしてる。
竜ちゃんは咳払いを一つして、ご飯に手をつけながら話を続ける。
「だからよ、どっかの店でチョコ買ってきて客にやるよりも、俺が作った方が安上がりだろ」
「作るって、チョコ? 竜児が?」
「おぅ。手作りだって言っとけば向こうも泰子の手作りだって喜ぶだろうし、手作りなのはウソじゃねぇし。
 買ってくるよりはそっちのがいいかって、そう思ったんだよ」
泰子も手間かかんなくていいだろ、って締めると、ちょっと照れくさそうな竜ちゃんはそれを隠すようにご飯をかき込む。
そんなこと考えてたんだ。
お店のことなんて気にしなくっていいのに。
「そんなのしなくっていいよ〜。竜ちゃん、大変でしょ」
 その気持ちだけで十分。
「遠慮すんなよ、言うほど大変ってこともねぇんだから」
「でもぉ…やっぱり悪いし」
「いいって」
 けれど竜ちゃんは頑なに譲らない。
大河ちゃんに帰りに必要な買い物のお手伝いを頼んで、断りを入れようとするやっちゃんをひらりとかわす。
 本当にいいのかな、このまま頼んじゃっても。
竜ちゃんもそうだけど、大河ちゃんだってやらなくちゃいけないこと、あると思うんだけど。
「いいの? 大河ちゃんはそれで」
一応確認だけとってみた。
大河ちゃんはなんともいえない表情でこう返す。
「う〜ん…作り方教わるって思えば、まぁ」
「そっか」
優しいね、二人とも。
思わず笑みがこぼれた。
すると途端にハッとして目を見開き、大河ちゃんは慌てて顔を伏せる。
そろそろと上目づかいで見上げると、泣いちゃいそうなか細い声でこうこぼす。
「…あっ、ち、ちょっとやっちゃん、今のはその、あにょ」
 人差し指で1を作ると、大河ちゃんの前へと持っていく。
噤ませると、今度はやっちゃんの口元へ。
内緒のしるしと、約束の合図。
ちゃんと伝わったみたい、大河ちゃんは小さな体をもっと縮ませてポツリ。
「…ありがと…」
そう言った大河ちゃんはさっきのこと、もう怒ってないみたい。
よかった、仲直りできて。
 竜ちゃんはなんにもわかってなさそうに、やっちゃんと大河ちゃんを交互に見てた。
鈍ちんだね、ほんとに。

                    ***

 そんなやりとりをした日の夕方。
竜ちゃんと大河ちゃんが学校から帰ってくるなり、台所は戦場さながらの忙しさで、お仕事に出るまで手伝っていたやっちゃんはひーひー目を回して、
何度も竜ちゃんに注意された。
こんなこと言っちゃダメなんだろうけど、大河ちゃんが羨ましい。
だって竜ちゃんたら最初、はじめの内は横で見てればいいって、大河ちゃんにはなんにもさせようとしなかった。
ううん、させたくなかった、かなぁ。
率先してお手伝いを買ってでる大河ちゃんに、そんなに言うならって、竜ちゃんはお手伝いを頼んだんだけど…
「分かるよな、大河? 時間がねぇんだよ、マジで」
「…だって、私だって…」
 まだ溶かす前、市販の板チョコを刻もうとしてうっかり指を切っちゃったのは、一度や二度じゃない。
湯せんをお願いしたらコンロに火を点けて、何を思ったのか火の上に直にボウルを置いて、危うく大変なことになるところだった。
なんとか止めてきちんとしたやり方を教えると、ぎこちないけど、それでも大河ちゃんは一生懸命細かくなったチョコレートを溶けるまで
かき混ぜていた。
次第に慣れてきたみたいで、大河ちゃんの手つきも見ていてハラハラしなくなってくる。
失敗しないようにって肩に力が入りすぎてるけど、丁寧にヘラを動かすその様子は心を篭めているようで、それにとっても楽しそう。
あれならもう大丈夫、これで一安心。
 でも、緊張の糸を切るのは早すぎた。
一生懸命すぎて、溶けたチョコレートを見てもらおうとした瞬間、足を滑らせて転んじゃったのは、もうしょうがないとしか言えないよね。
宙を舞ったチョコレートを頭から被っちゃったのも、しょうがないよ。
424174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/14(日) 00:16:50 ID:FQmdbRD5
わざとやってるんじゃないんだもん。
失敗しちゃったら、またやり直せばいい。
誰だって始めからなんでもかんでもできないんだから、めげることなんてないよ。
やっちゃんだってそう。
失敗して、失敗して、何度も失敗して、今だって失敗することもあるけど、だけど、できるようになったことだっていっぱいあるもの。
なんだってゆっくり覚えていけばいい。
やっちゃんは、そう思ってる。
「頼むからこれ以上面倒を増やすな」
 でも、そういうわけにもいかないみたい。
「だだだだけど、だって!」
 竜ちゃんが大河ちゃんの手を取ると、マジックで大きく平がなの『だ』を書く。
「なによこれ」
「この手は『だって』だ。次だってって言ったらそれが消えるまで皿洗いに風呂洗い、トイレ掃除もだ。
 とにかく他にも色々とさせるからな。それが嫌だったらもうだってって言うんじゃねぇぞ、いいな」
 しげしげと手の甲を見つめる大河ちゃんに、竜ちゃんは無情にもそんな言葉を浴びせた。
大河ちゃんの顔が青ざめて引き攣る。
「そ、そんな!? だっ、じゃなくって! しょうがないでしょ!? 私こういうの慣れてないし、それに」
「言い訳すんな、自分でやるって言ったんだろ」
 ピシャリと大河ちゃんを叱り付けた竜ちゃんはマジックをエプロンのポケットに突っ込むと、大河ちゃんがひっくり返しちゃったボウルを拾い上げ、
まだ残ってて使えそうな分を別のボウルへと移して、壁や床に飛び散っちゃった、もう食べれないチョコを雑巾で拭きはじめる。
そんな竜ちゃんを前にどうしたらいいかわからなくって、立ち竦んでる大河ちゃんはエプロンの裾を握り締めたまま、しょんぼりうな垂れてる。
 すっと、下を向く大河ちゃんの目の前にタオルが差し出された。
「いつまでそうしてんだ、大河」
「…うるさい、邪魔なら邪魔って言いなさいよ」
 剥ぎ取るように受け取ったタオル。
とぼとぼとやっちゃんの横を通り過ぎ様、大河ちゃんの背に竜ちゃんが声をかける。
「早くシャワー浴びてこいよ。出てきたら、今度はちゃんと教えてやるから」
大河ちゃんが振り返るけど、でも竜ちゃんは屈んで、雑巾片手に手早くチョコを拭き取っていく。
「…うん、待ってて」
今度こそ大河ちゃんは浴室へと消えていった。
ほどなくしてタイルを叩く無数の水音がこっちにまで届く。
 残されたやっちゃんはひたすら無心に板チョコをポキポキ砕いて、パキパキ刻んで。
容器がいっぱいになったら別の容器を出して、またポキポキパキパキ。
おかげですっかり茶色くなっちゃった手からも濃厚な甘い匂いがしてきて、これじゃ簡単には落ちそうにないかも。
本当にすごい量のチョコレート。
一体どのくらい買ってきて、どのくらいこうしてるんだろう。
もしかしたら、もうやっちゃんが食べる一生分ぐらいはチョコを粉々にしたのかもしれないけど、数えだすとキリがないし時間はもっとない。
それにそんなの知っちゃったら、一生分のチョコを食べた気になって、もうチョコはいいやってなりそう。
「悪い、一人でやらせてて」
 ようやく納得いくまでキレイに拭き終えたみたい。
しっちゃかめっちゃかになっていた足元は見間違うほどにピカピカで、どれだけ熱中して掃除してたのがよくわかる。
 竜ちゃんはやっちゃんの隣に立つと、いくつかあるボウルを一つ取って、それに砕いたチョコを入れていく。
ふーっと一息、首を回すと間接がチョコを砕くときみたいにポキポキ乾いた音を鳴らす。
歳はとりたくないなぁもう、これじゃあまるでおばあちゃんだ。
「休んでていいぞ。泰子、もうすぐ仕事だろ」
気を遣ってくれる竜ちゃんの言葉に甘えたい。
けど、ここで甘えてちゃ本当のほんとにおばあちゃんみたいで、それはやっぱり23歳としては否定しなくちゃあ。
「だぁいじょうぶ、やっちゃんまだまだがんばれるよ」
 袖を巻くって力こぶを作ってみせる。
これでもまだ赤ちゃんだった竜ちゃんを軽々抱っこしてたんだもん。
赤ちゃんって、見かけよりもずぅっと重いんだよ。
抱き癖がついちゃって、そっちの方が大変だったくらい。
けどそのおかげで、竜ちゃんが大きくなった今も、野球のボールみたいな立派な力こぶなんてできないけど、弛んだ二の腕ってわけじゃない。
ちょっとした、自慢。
「それにね、竜ちゃんにばっかり任せてるのもやだなぁって」
「おい、別に手なんて抜いてないぞ、俺」
 そうじゃないんだけどなぁ。
「ううん、ちがうの。お願いしてやってもらってて、なのにやっちゃんはなんにもしないなんて、って。それがやなの」
「いいんだよ、俺が勝手にやってんだから。そうでなくても泰子、疲れてんだしよ」
425174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/14(日) 00:18:31 ID:FQmdbRD5
 微妙に噛み合ってないのはどうしてなんだろう。
 それにしても頑固だねぇ、竜ちゃんは。
とっても頑固で、すっごく心配性で、いっつも気の遣いすぎで。
そんなんじゃ疲れちゃうよ。
そういうとこが、竜ちゃんらしいけど。
「…じゃ、ちょっとだけいい?」
「おぅ」
 押し問答を先に降りたのはやっちゃん。
これ以上長引いても、竜ちゃんが折れないって知ってるから。
 握っていた包丁を置いてお湯で洗って、エプロンで軽く水気を拭うと背中に手を回す。
邪魔にならないように一纏めにしていた髪。
留めていたシュシュを取ると、パサリと広がる。
「んん〜…んー? なぁに?」
 伸びをしているやっちゃんを、なんでか知らないけど竜ちゃんがじっと見てる。
目線が絡まると、弾かれたような勢いで逸らされる。
心なしかその顔に朱が差したように感じた。
どうしたんだろ。
「どうかしたの、竜ちゃん」
「…なんでもねぇ」
なんか怪しい。
こっち見ようともしてくれないし、覗き込んでも目が泳いでるし、益々赤くなってくし。
へんなの。
 それからしばらくの間は特に何があるでもなく、竜ちゃんは淡々とチョコを刻んでるだけ。
やっちゃんは、隣でそれを眺めてるだけ。
ポキポキ。
パキパキ。
それにシャワーの水音が、狭い家の中、響き渡る。
「ねぇ、そんなに沢山使うの?」
「ああ、大河がな。友チョコにしてみんなに配るって言って」
練習に使って、それで余ったのを、なんだろうね。
こういう時ばっかりは、女の子が建前になってくれて便利。
女の子だからこういうことしなくちゃいけないっていう風潮がそもそも面倒だし、出費もばかになんないんだけど、それはそれ、これはこれ。
「いくらぐらいした?」
「そんなにはしてねぇぞ。明日が明日だから、どこも特売やっててよ。それにほとんど大河持ちだから安くすんだんだ」
まぁ、投売りしてでも余っちゃうよりはいいもんね。
余りもののそのまた余りものだって、食べてもらえる方がいいに決まってる。
「なら、大河ちゃんにお礼しなくっちゃ」
「おぅ。今度、大河の好きそうなもんでも晩飯に出しとくか」
喜びそうだねぇ、それ。
炊飯器の中身を空っぽにしちゃう大河ちゃんがありありと浮かぶ。
「竜ちゃんもするの? 友チョコ」
「ただでさえ目つきで色々言われてんだ、これ以上変な噂がたつのは勘弁してくれ」
かわいいのに。
「今年は、もらえそう?」
「どうだろうな」
これじゃ大変だなぁ、大河ちゃんは。
「…ほしい?」
「…さぁ」
微妙に空いた間に、なぜだか胸がチクリ。
「それじゃ、やっちゃんがあげよっか」
「どうせこの板チョコよりも安いやつだろ」
立てた指でわき腹を押した。
「もぉ、ホントはうれしいくせに」
「嬉しすぎて指から血が出ちまったよ」
蛇口から生える水柱に指を差し込む竜ちゃんに、大河ちゃんにとポケットに入れていた絆創膏を巻いてあげる。
「…痛い?」
「たいしたことねぇよ、このくらい」
真ん中に滲んだ赤い点が痛々しい。
「…ごめんね」
「平気だって。そんなに気にすんなよ、少し刺さっただけなんだから」
426174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/14(日) 00:19:49 ID:FQmdbRD5
するよ。竜ちゃんがどう言ったって、しちゃうものはしちゃう。
「うん…ごめん…」
何も返ってこない、返さない竜ちゃん。
その肩に、頭を預けて寄り添う。
 途切れる会話、訪れた無言。
聞こえるのは、チョコを刻む音と水音。
それに微かな息遣い。
耳を澄ますと、寄りかかった分近づいた鼓動が、呼吸に合わせて聞こえてくる。
重たいかな、鬱陶しいかな…邪魔かな。
言ってくれればすぐにやめるのに、肩を少し動かしてくれれば離れるのに、竜ちゃんは黙々と手元を動かすだけで、
なんにも言ってくれなくて、けど、なんか、嫌がってないように感じるのは、そう思いたいやっちゃんが都合よすぎなせいかな。
それでもいい。
もう少しだけでいいから、こうしてたいのに。
「なぁ」
「…ん」
だめなのかな、やっぱり。
「泰子も、誰かに贈ったことあったりするのか。こうやって、自分で作って」
 思いがけない質問で、息苦しいほど締め付けられる胸に自分でもようやく気付く。
覚られぬよう吐き出した吐息のおかげで、強張っていた体から余計な力が抜ける。
気持ちも、少し楽になった気がする。
 肩越し、見上げた先にはまっすぐに見下ろす竜ちゃんがいて、返答を待っている。
なにを、なんて一々聞かなくてもわかる。
わからないのは、どうしてそんなことを気にするんだろう。
乳白色の明かりを放つ流し元灯で照らされたその顔からは何も読み取れなかった。
「あるよ」
緩慢に、けれど機械的な動作で動いていた包丁が一瞬止まったのを見逃さなかった。
わざと溜めを作ったけど、しなくてもよかったかな。
「竜ちゃんに」
取り戻しかけたリズムがまた乱れて、一際大きな欠片がシンクに転げ落ちていった。
もったいなくって、摘み上げて口の中へ放り込む。
うん、ちょっぴり水が付いちゃったけど食べちゃえば一緒だし、ぜんぜん食べられる。
ね、竜ちゃん?
「いつだよ」
 不服そうに、けれど戻したりしないで、飲み込んでからの竜ちゃん。
「すんごい前、まだ竜ちゃんが幼稚園ぐらいのときかなぁ」
成功した悪戯とこみ上げてきた懐かしさに、自然と笑みが浮かんでた。
竜ちゃんの方はちょっと、ていうか、かなり納得がいかないみたいだけど。
「本当かよそれ。俺、全然記憶にねぇんだけど」
 釈然とせず、疑いの眼差しを向けてくる竜ちゃんに、だけどやっちゃんは答えない。
記憶にないって、そんなの、覚えてない竜ちゃんが悪い。
本当はどうだったか、なんて、竜ちゃんがちゃんと思い出せばいいだけの話だもん。
だから、答えない。
代わりに、空いていた竜ちゃんの腕に両手を絡ませる。
「…揺すったりすんなよな。これ以上指切るのはさすがにイヤだぞ、大河じゃあるまいし」
 でも、やめろとも、離れろとも言わない。
そっけない物言いだけど、それはいつものこと。
相変わらず素直じゃなくって、隠すのもへたっぴで、見た目のことも相まって誤解されちゃうのに、そういう言い回ししかできない。
不器用なんだろうね、きっと。
おかしいよね、こんなになんでもできるんだから絶対器用なはずのに。
けど、不器用なんだろうなぁ。
「うん。それよりも、もういいの?」
「なにがだ」
「さっきのこと」
 竜ちゃんが視線を外した。
「遅いな、大河」
 思い出したようにを装って、取ってつけな話題を振る。
お風呂場からは、シャワーを浴びる音が今もしてる。
たしかに、もうずいぶん長く篭ってる。
手に書かれた『だ』の文字を落とすのに躍起になってるのかもしれない。
竜ちゃんが持ってたのってたしか油性だったから、お湯で流してるだけじゃ中々消えないのに。
427174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/14(日) 00:20:49 ID:FQmdbRD5
 それにしても。
「ふーん」
「なんだよ」
はぐらかしたつもりなんだろうけど、全然はぐらかせてないよ。
竜ちゃん、知りたかったからわざわざ聞いたんじゃないの? チョコのこと。
やっちゃんはべつにそれでもいいんだけど。
ああでも、逆にやっちゃんも知りたくなったかも。
そんなことを知りたくなった理由。
なんだろうなぁ、ひょっとして、
「やきもち?」
「痛って」
 包丁の先っちょが刺さったのは、よりにもよって今切って絆創膏を巻いたばかりの、それもほとんど同じ場所。
見てるだけでこっちまで痛い。
「大丈夫?」
 即座にポケットからもう一枚、新しい絆創膏を巻いてあげる。
「大丈夫だけどよ、揺すんなって言ったばっかだろ」
 あれ、おかしいな。
今度はやっちゃんなんにもしてないよ。
どっちかっていうと竜ちゃんがビクンって動いたような気がするんだけど。
まさか、
「…竜ちゃん、図星だったりして」
 冗談半分にそう言ったけど無視された。
さすがにそれはあんまりだよ、さっきのだって今のだって、半分は本当に冗談のつもりだったのに。
もう半分は……
 パタンとドアが閉じる音がするのと同時に、甘い匂いに混じって石鹸の香りが鼻をくすぐる。
抱いていた腕を解いた。
寄せていた体も離して、人一人分空ける。
「お待たせ。あーさっぱりした」
 大河ちゃんが乾ききっていない髪の毛をバスタオルで拭きながら歩いてきた。
その手が微妙に赤みがかってる。
案の定インクを落とすのに大変だったみたい。
 と、竜ちゃんの顔を見た大河ちゃんが訝しげに眉を顰めた。
「なんかあったの? 竜児、顔赤いわよ」
「…気のせいじゃないのか。それよりも早く用意しろよ、まだやることが山積みなんだからな。手伝うんだろ、大河」
「あ、うん…ねぇ竜児、その」
 少しの間言い難そうにもじもじしていると、大河ちゃんが小さく呟く。
「…作り方、おしえて」
 ほっぺが染まっていたのは、きっと湯上りのせい。

 それから時間の許す限りみんなでチョコを作ってた。
あんまり広くない台所に三人並んで、そりゃもうギュウギュウで狭かったけど、だけどああやって一緒になってなにかをするのがとっても楽しくて、
気が付いたら出なくちゃいけない時間を過ぎちゃってた。
だから、お店にはちょっと遅刻しちゃった。
でも竜ちゃんと大河ちゃんのおかげでいいプレゼントができそう。

                    ***

 バレンタイン当日。
今夜はいつにも増して盛況だった。
もしかしたら貰えるかもって、軽く引っかけるついでにチョコ目当てにお店に来てくれたお客さんが大勢いて、
これだけあったら余っちゃうんじゃないかってくらい用意していたチョコは、お客さんの中の何人かが知り合いを呼んでくれたりもしたおかげで、
あっという間に底をついた。
遅くに来てくれたお客さんにはあげられなかったから、代わりにその分少しだけサービスしたけど、それを差し引いても、
ちょっと早いけどホワイトデーのお返しだってお客さんたちは大盛り上がりで騒いでくれて、お酒もおつまみも飛ぶように売れた。
そんなに喜んでくれると思ってなかったから、逆に申し訳ないな。
 酔い潰れちゃったお客さんを担いで、また来るよって、満足気にそう残して街へと繰り出していったお客さんを見送って。
がんばってくれた娘たちも送り出して。
簡単に後片付けを終えると戸締りを確認してからお店を後にした。
428174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/14(日) 00:21:47 ID:FQmdbRD5

 その途中に立ち寄ったコンビニから一歩踏み出た瞬間、全身に吹き付けられる冷たい風。
袖口や裾から入り込んできて、寒くて鳥肌が立つ。
身震いをどうにか抑えて取り出したケータイ、映る時刻は三時の半分を過ぎていた。
横に表示されている日付は───
 どうりで寒いはず。
一年で一番寒い季節、一番寒い月、しかも一番寒い時間帯。
あと一月もすれば、昼間だったら少しはマシになるのかもしれないけど、それでもやっぱり夜は冷え込んだまま。
こうやってマフラーに顔を埋めて歩かなくってもいいようになるのは、まだまだ先のことになりそう。

───二月十五日。
特別な日は数時間前に終わって、今はもうなんでもないただの今日。

 大河ちゃんはチョコ、どうしたんだろう。
歩きながら、一日中気にかかっていたことをぼんやり考える。
今朝、朝ごはんの時間に遅れてきた大河ちゃんは眠たそうにゴシゴシ擦る目の下に、でっかい隈を作ってた。
大河ちゃん、ご飯食べながら寝ちゃったりもして。
竜ちゃんはそんなになるまで夜更かししてチョコ作ってたのかって呆れてたけど、
自分のためにそんなに頑張ってるって知ったらどんな顔するんだろう。
大河ちゃんも、ちゃんと渡せたのかな。
やっちゃんは朝会ったきりだから、結局どうなったんだろ。
朝だったら大河ちゃんがあの調子だったし、竜ちゃんも至って普段どおりだったから多分まだ渡してなかったろうし、
竜ちゃんたちが学校に行って、帰ってくる前にはやっちゃんもう出かけてたから、その後なにがあったかは知らない。
学校で渡したのかな。
うーん、ないなぁ、人一倍恥ずかしがり屋さんな大河ちゃんのことだから、人がいっぱい居るとこでそういうのしないだろうし。
じゃあやっぱり家で、二人っきりのときに?
それが一番無難で、ありえそうで、大河ちゃんも必要以上に緊張せずに自然に渡せそう。
贈って、贈られて、どっちも真っ赤になった竜ちゃんと大河ちゃんが簡単に想像できる。
だけど想像の中の二人はとっても幸せそうで、それで───……
そんなことを考えているとアパートの前を通り過ぎていた。

 疲れたとか眠いとか、そんなんじゃなくて、言葉では表せない何かで、なんだか気が滅入る。
変なこと考えるんじゃなかったなぁ、なんか、帰りづらい。
こんなことならもっと飲んでおけばよかった。
あとで怒られるのも小言をいぃっぱい言われるのもわかってはいるんだけど、くだらないことで悩むよりはいいのに。
 差し込んだ鍵をゆっくり捻ると、カチャンて小さく音がした。
回したノブがやけに重く感じる。
 当たり前だけど家の中は真っ暗で何も見えない。
もうこのまま寝ちゃいたいけどさすがにこんな寒さの中、居間なんかで寝たんじゃ風邪をひく。
見えない壁に手を這わせて手探りで明かりを点けた。
 一度、二度と頭上で明滅する蛍光灯。
その真下でモゾモゾと不気味に蠢く、大きな影。
いきなりのことに驚いて提げていたバッグを落とした瞬間、その影はあくび交じりにこう言った。
「おぅ、おかえり。今帰ったのか」
 ビックリして損した。
得体の知れない変な影だと思ってたのは丸まって寝ていた竜ちゃんだった。
 竜ちゃんは体を起こすと傍で呆けているやっちゃんに気付いて、
「なにしてんだ泰子、そんなとこでボケっと突っ立って」
って、変なものでも見るような目を向ける。
なにしてるって、それ、やっちゃんのセリフだよ。
なんで自分のお部屋じゃなくて、こんな寒いとこで、それもお布団も敷かないで竜ちゃんが寝てるんだろ。
「四時前か…なら、もう十分だな」
 疑問を口にする前に、竜ちゃんは台所へ。
冷蔵庫を開けると中からなにか取り出して、それをやっちゃんから隠すよう後ろ手に持って戻ってくる。
「ほら。これ、俺と大河から」
「え?」
 差し出されたのはこれ以上なく意外なものだった。
右手には淡いピンクの包装紙に黄色いリボンが十字に巻かれた、ハートの型をした箱。
左手には装飾もなにもない、シンプルな四角い箱。
そっと受け取るとまだひんやり冷たい。
429174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/14(日) 00:22:40 ID:FQmdbRD5
「これって…」
 手の中に納まる二つの贈り物。
バレンタイン・チョコ…なんだよね、もしかしなくても。
それも竜ちゃんと大河ちゃんの、手作りの。
考えてもみなかった。
こういうのは贈るのが当たり前で、実際今夜だってお客さん相手にそうやってて、なのに、まさか贈られることになるなんて。
 いきなりの展開に頭がついていかない。
だって帰ってきたらなんでか竜ちゃんが寝てて、でも起きてすぐこんなことになって。
だめだ、やっちゃんの頭じゃ上手く纏めらんない。
お酒も入ってるし、ひょっとしたらこれって夢なのかも。
本当はやっちゃん、またいつもみたいにだらしないカッコで寝てたりして。
 でも、掌から伝わる冷たさと重さが、確かな現実感を与えてくる。
「帰ってくる途中、大河が急に泰子にもって言い出したんだ。
 俺はまぁそこまでしなくてもいいんじゃねぇかって言ったんだけど、贈るったら贈るってきかなくってよ、あいつ。
 作り方だってろくに知らなかったくせに、それでも」
 竜ちゃんの言うとおりだよ、大河ちゃん。
その気持ちだけでいいのに。
「そうなんだ…大河ちゃんが…」
「…自分で渡すんだってずっと待ってたんだけど、やっぱ疲れてたんだろうな。
 寝不足もあったみたいだし、けっこう前に寝ちまったよ」
 まぁ俺もなんだけどなって、バツが悪そうにため息を吐く。
だから竜ちゃん、そんなところで寝てたんだ。
ベッド、大河ちゃんに貸してあげたんだね。
 自分よりも大河ちゃんを大事にできる竜ちゃんが嬉しくて、けれどそれと同じくらい、もっと早く帰ってくればよかったって後悔した。
眠いのを堪えて待っててくれたのに、こんなに素敵なプレゼントまで作ってくれてたのに、なのに帰りづらいとか思ったりして。
明日会ったらちゃんと謝って、お礼を言おう。
 ああ、そうだ。
忘れていたことを思い出した。
お礼、まだ言ってなかった。
「それとよ、その、なんだ…ありがとうな、泰子」
 だけど、言おうとしたその矢先。
伝えようとした言葉は竜ちゃんに先を越された。
「…竜ちゃん…?」
「…感謝してる。いつもだ。ただ、面と向かってっていうのは恥ずかしいっていうか、こういう時じゃなきゃ…なに言ってんだろうな、俺」
 そうだよ竜ちゃん、なに言ってるの?
感謝してるって、それはやっちゃんの方。
掃除とか洗濯とか、ご飯のことだってそう、お家のことなんでもしてくれて、感謝なんてしてもしきれないのに。
ありがとうを言うのはやっちゃんの方なのに。
「…泰子?」
 俯くやっちゃんに竜ちゃんが不安げに声をかける。
「お、おい」
 顔は上げないまま、声のする方へと一歩、もう一歩。
すぐになにかにぶつかって、それ以上進めなくなった。
 面と向かうのが恥ずかしいって、竜ちゃんは言った。
だからほら、こうすればお互い顔が見えないから恥ずかしくない。
素直な気持ちを言葉にできる。
「…ありがと…チョコ、作ってくれて…待っててくれて…こんなバレンタイン初めて…うれしい」
「…おぅ」
「これ…大切にするね」
「いいんだ、大切になんかしなくても。食ってくれた方が大河も喜ぶぞ? …俺だって…」
「…そっか…うん、そうだよね…大切に食べる」
「おぅ」
「…ねぇ、竜ちゃん」
「ん?」
「あのね…大河ちゃんもだけどね」
「なんだよ、改まって」

「大好き」

                    ***
430174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/14(日) 00:24:04 ID:FQmdbRD5

「もう! どうして先に渡しちゃったのよ! ていうか渡すんなら渡すでなんで起こしてくれなかったの!」
 朝から大きな声で怒っているのは大河ちゃん。
「だからそれはついでのつもりで、大河もよく寝てたし…ちょ、た、大河? お前なにを…っ!?
 わ、悪かった、全部俺が悪かったからインコちゃんのカゴから手を離せ、な?」
 怒られてるのは竜ちゃんで、さっきからずっと大河ちゃんに平謝り。
お腹をさすってるのはお腹が空いてるからじゃなくて、まだ痛むんだろうなぁ。
「知らないわよ、あんたが勝手なことするからいけないんでしょ!? どうしてくれんのよ、竜児のバカ! バカバカバカ!」
「それとこれとは関係ねぇだろ!? インコちゃんに当たんな!」
「うるさいうるさいうるっさぁい! なによこんなブサインコ!」
「…げぽっ…」
「インコちゃん!? お前、いい加減にしろって!」
 冷蔵庫の中から忽然と失くなっていたチョコレートを大騒ぎで探していた大河ちゃんに起こされたのは、まだほんの十分くらい前の話。
 居間にお布団敷いて寝ていたやっちゃんと、一緒に寝ていた竜ちゃん。
余分なお布団はなくて、最初竜ちゃんには遠慮されたけど、風邪なんてひかれたら大変だし、やっちゃんも竜ちゃん一人寒いままにして寝られない。
だから、一緒のお布団に包まって、一緒に寝て。
それだけだけど、懐かしかったなぁ、あーいうのって何年ぶりだろ。
 そうやって寝てた竜ちゃんは、大河ちゃんにお腹を踏んづけられて無理やり起こされてた。
耳元で騒がしくされて、やっちゃんも目を覚ます。
 ぼやけた視界にまず飛び込んできたのは胸元を両手で掴まれて、がっくんがっくん揺すられている竜ちゃんだった。
でもその時はまだ何があったのか知らなかったから、
『どどど、どうしよ竜児…チョコ、ない…』
って、大河ちゃん、泣きそうな顔してた。
咽こんでところどころつっかえちゃってた竜ちゃんに代わって昨日のことを説明すると、
事情を飲み込んだ大河ちゃんは一転して、節分もとっくに終わったっていうのに鬼みたいな形相で竜ちゃんをポカポカ叩き始めたけど。
「たーいーがーちゃん」
「ひゃっ」
 背中に飛びつくと、大河ちゃんの動きが止まる。
その隙に竜ちゃんは引っ張り合っていたインコちゃんのカゴを奪い取った。
「あ…やっちゃん…」
「うん?」
「…あの…」
「おいしかったよ」
 ぎゅっと力を込めて抱きしめると、大河ちゃんが息を飲む。
「…ほんとう?」
「ほんと。ほっぺ落ちちゃうかと思ったくらい」
 あ、いま落ちちゃったかも〜、なんて言いながら大河ちゃんのほっぺにほっぺをくっ付けて、ぐりぐり擦り合わせる。
くすぐったそうにしてるけど、大河ちゃんからもぐりぐりしてくる。 
滑らかで柔らかい大河ちゃんのほっぺ、あったかい。
「ありがとう大河ちゃん、やっちゃんとってもうれしかった」
「…いいの、喜んでもらえたら、それで」
「そうだ、今度は大河ちゃんから直接もらいたいからぁ、今から来年の分、予約しちゃってもいい?」
「え?」
 自分で言っといてなんだけど、あつかましくって図々しいなぁ。
断ったりしないってわかっててやってるんだから余計にたちが悪いっていう自覚もある。
431174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/14(日) 00:25:12 ID:FQmdbRD5
「だめ?」
 ダメ押しまでつけると大河ちゃんがブンブン首を振る。
髪の毛が顔にかかって、今度はやっちゃんの方がくすぐったい。
「じゃ、約束。楽しみにしてるね」
「…うん、期待しててね」
 いい子いい子は子供扱いしすぎたかなぁ。
いっか、大河ちゃんもなにも言わないし。
それに大河ちゃんはもうやっちゃんの可愛い子供だもん。
よしよし、えらいえらい。
「それじゃあ次はぁ、竜ちゃんと仲直りしよっか」
「え、えぇ!? そそそ、それとこれは」
「いいからいいからぁ〜」
 途端にうろたえだす大河ちゃん、その脇の下に手を差し込んでひょいと持ち上げる。
軽いなぁ、ちょっぴりうらやましい。
そのまま成り行きを黙って見守っていた竜ちゃんのとこまで抱えてくと、目の前で降ろした。
「ほぉら、大河ちゃん」
 最後にポン、て背中を押してあげる。
「う…」
 大河ちゃんが目を伏せる。
けど、固く握り締めた手─── 一昨日、竜ちゃんに『だ』を書かれた───を見ると、おずおずと視線を上げていって、
「…ごめんなさい」
 への字に結んだ口を緩めた竜ちゃんは、重そうなため息を一つ吐き出した。
「…俺の方こそ悪かった。大河のやつまで一緒に渡しちまって」
「竜児……」
「だけどな、大河、インコちゃんにはきちんと謝っとけよ。大変だったんだぞ、げーしてて」
 竜ちゃんの言葉に、大河ちゃんがインコちゃんへと体を向ける。
「悪かったわね、ブサコ」
「イィーッ!」
「どっちよ、それ」
「インコちゃんもう怒ってないって」
 インコちゃんへの謝り方は、竜ちゃんにしたような素直なごめんなさいじゃなくて、大河ちゃんらしいものだったけど、
多分そう言ってるんだよね、インコちゃん?
「…これでいいでしょ、竜児」
「まぁ、大河にしては素直だったしな。いいんじゃないのか」
 言って、やっちゃんを横目で見やる。
「うん。仲直りしたんなら、もういいよ」
 そう言うと、竜ちゃんはすぐさま台所へ行こうとする。
「あ、ちょっと待って竜ちゃん」
それを押し留めて、朝ご飯の支度を待ってもらった。
首を捻る竜ちゃんと大河ちゃんを前にして、きっとやっちゃんは隠しきれてないにやけ顔になってたと思う。
「ホワイトデーには三倍にして返すけど、先にこれだけ、ね」
 二人の手に握らせたのは、気まぐれに買った、あの小さなチョコレート。
竜ちゃんと大河ちゃんがケンカしてる時、こっそりポケットに忍ばせていて、渡す機会を窺ってた。
貰ったチョコと比べたらぜんぜん吊り合わないけど、今日はもう特別な日じゃないけど、なにか、なんでもいいからあげたかった。
想いや気持ちを形にして、大切なひとに。
 竜ちゃんはやっぱり安物じゃねぇかって苦笑して、ぽかんとしてた大河ちゃんも竜ちゃんにつられてくすくす笑ってた。
やっちゃんも、なんだか可笑しくって。
 ひとしきり笑いあったあと、竜ちゃんと大河ちゃんが顔を見合わせる。
「ありがと、やっちゃん」
「ありがとな」
 二人は満面の笑顔で、口を揃えてそう言った。

───大切なひとに贈りませんか?

 なんでもないただの今日。
そのはずだったけど、ただの今日から、忘れられない今日になった。
特別で、大切で、かけがえのない思い出がたくさんできた、一日遅れのハッピーバレンタイン。

───贈ったよ、小さなチョコいっぱいに想いを託して
     大切で、大好きなひとたちに
432174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/14(日) 00:26:08 ID:FQmdbRD5
おしまい
433名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 01:36:12 ID:mTkks5lt
GJ。

竜児の大河に対する接し方にほのかに嫉妬する泰子さんを俺の嫁にください><
434名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 10:27:37 ID:D4MoywNj
俺もこんな母ちゃんほしい
ていうかやっちゃんがほしい
435名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 11:27:38 ID:FFVBvuR/
やっちゃんは竜児に彼女が出来たら、彼女にやられる前にムスコの筆卸しをやりそうだから困る
436名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 21:26:43 ID:DWS6+RrB
こんばんは。

前回の続きバレンタイン当日編を投下します。

2レスほどですが、お付き合い下さい。
437名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 21:27:50 ID:DWS6+RrB
2月14日…朝の高須家
「さて、今日は朝から大河も出掛けていねえし、掃除でもやるか」

ピンポーン

「おうっ!朝からなんだ?はい、今開けます」
「すいませー…ひっ!ゆ、ゆうび、んな、んですけどっ、判子いや、血判じゃ、なく、てですね、すいません!殺さないで下さい」
「はあ、じゃあこれで…」
「ありがとうございましたー!」
「また、ヤクザと間違われちまったよ。で、俺宛に指定日配達の郵便か…なんだ?」

ビリビリッ

〜高須竜児様〜

下記の場所へ午後1時にお越しください。指定の場所へ到着次第、連絡の程よろしくお願いします。

「なんだこりゃ?差出人も連絡先も書いてねえじゃねえか…とりあえず、行けば何かわかるかも知れねえな」

・・・・・・・・・

「一応、指定された場所に来てみたが…ここ、川嶋の住んでるとこじゃねえか。なら、川嶋に連絡取りゃあいいのか?」

ピッ プルルルル プルルッ

「は〜い、亜美ちゃんで〜す。高須くん?うちの前に着いた?」
「おう、あの手紙は川嶋だったのか。名前ぐらい書けよ」
「ゴメンねぇ〜でもわかったからいいじゃない。それより早く入って。早く亜美ちゃんの所まで来てね〜バイバーイ」



438名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 21:28:23 ID:DWS6+RrB
ピンポーン コンコン

「…入っていいのか?川嶋がいいって言ってたならいいか」

ガチャ


「お邪魔しまーす…誰もいねえのか?…ん、なんか紙が落ちてるな」
「なになに?リビングに来てね…か」

トントン ガチャ

「高須くん、いらっしゃ〜い。」
「おうっ!って大河に櫛枝、お前らもいたのか」
「ヤッホー高須きゅん」
「遅い!竜児、待たせるんじゃないわよ」
「悪いな。なんで俺は呼ばれたんだ?」
「だって今日はバレンタインじゃない?やさし〜亜美ちゃん達がバレンタインのプレゼントをあげよっかな〜って」
「マジかよ…いままで泰子にしか貰ったことなかったからすげえ嬉しいよ」
「それは祐作から聞いたから知ってるの。それでね高須くんに選んで欲しいのよ」
「選ぶのか?何をだ?」
「たきゃすくんがこの中で付き合いたい子を選ぶの。それはお前だぁ〜ってね」
「大丈夫よ、竜児。ばかちーもみのりんも私も誰が選ばれても恨みっこ無しだからって決めたから」
「お、お前らが大丈夫でも、俺が…」
「ごめんね。私達もう待てないの…ねぇ、高須くん」
「たきゃすくん…」
「り、竜児!」
「「「誰を選ぶの?」」」
「お、おう…」










続く?
439名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 21:31:01 ID:DWS6+RrB
以上、駄文で申し訳ないです。

あと、能登「女って…怖いよ…」の後編も投下しますしようと思ってたのですが、携帯では限界が…また明日にでも。



パソコン早く直さないと(笑)
440 ◆9VH6xuHQDo :2010/02/14(日) 22:41:34 ID:xxYyhAaM
失礼いたします。一応時間取りましたが、投下後のレスになってしまい、
大変申し訳ございません。時期ものですのでご容赦頂きたく存じます。

先月完結させて頂いた。みの☆ゴンのアフターものです。

題名 * M☆Gアフター6(チョコレート篇)
時期 * 二年生の二月。
設定 * 竜×実付き合って八ヶ月。
物量 * 九レスになります。
注意 * 原作とカップリングが違うので、みの☆ゴン未読ですと不快かもしれません。

宜しくお願い申し上げます。

『よし! ソープに行け!』
『……ソー? ……え? 北村くん?』
『深く考えるでない逢坂。みなさんこんにちは。生徒会長の北村佑作です。二月に入ってから
 風は冷たく、空気は乾燥しています。いやですね、インフルエンザにうっかり火災。そんな
 いやなものを吹き飛ばす、本日から始まるランチタイムの新番組。『クイズ香椎奈々子』の
 時間です。アシスタントを務めてくれるのは生徒会庶務のご存知……』
『みなさま、ゴキッ……御機嫌よう。アシスタントの、逢坂です』
『いいぞっ逢坂……そして、本日のゲスト。香椎奈々子さんです。香椎さん本日はお忙しい中、
 お越し頂き誠に有り難うございます。よろしくお願いします!』
『うふふ。みなさんこんにちは、香椎です。……まるおくん、お手柔らかにね』

 週末の金曜日。午前中の授業を終え、昼休みの大橋高校2−Cの教室に設置されているスピ
ーカーからただ漏れされているのは北村祐作率いる生徒会の自主的校内放送。番組紹介が終わ
り、テーマ曲らしき陳腐なインストロメンタルが流れるそんな中、教室の窓際の席を陣取り、
今日も自作の弁当を開けるのは高校生主夫、高須竜児その人である。
「新番組だと? ……『クイズ香椎奈々子』っていったいなんだよそれは。北村はクラスメー
 トに何をやらすつもりなんだよ」
 そのブーイングの矛先である北村祐作は、生徒会長に就任以来、ランチライムにラジオ番組
風の校内放送『大明神の失恋レストラン』を、演劇部のラジオドラマ共々、絶賛放送していた
わけなのだが、遂にネタが尽き果たようで、今日から新番組と表して、クイズ番組を放送しよ
うとしているのであった。しかしなぜ香椎のクイズを……。ローカルネタにもほどがある。な
んて竜児が苦言をポツリと呟くと、真正面から少し鼻にかかるチャーミングな声が聞こえるの
だ。

「北村くんさぁ、先週くらいから、奈々子ちゃんにすっげーお願いしてたもんよ。伝家の宝刀、
 土下寝までしてさ。生徒会長として学校を盛り上げよ〜! って、一生懸命なんだよ。奈々
 子ちゃんもゲストで出てるし、竜児くんここはひとつ、だまって聴いてやろーではないか!」
 そういって強く箸を握り締め、その拳を竜児に突きつける少女は櫛枝実乃梨。突き出した拍
子に実乃梨の箸先にこびり付いていたご飯ツブがテイクオフし、竜児のおデコにビシッ、っと
ディープインパクト。大仏のように白毫を作ってしまう竜児であったが、竜児の衷心は非常に
穏やかになっていく。
 なぜなら竜児と同じ机を囲み、ヘルシー弁当を広げている実乃梨は、竜児のいわゆる彼女だ
からである。そう、恋をしたのは一年生の頃。二年になって、同じクラスで友達になり、春が
終わる頃には、恋人になれた。夏には一緒に旅行に行き、結ばれた。秋には文化祭。冬には修
学旅行などのイベントがあって、駆け抜けた季節の中で二人は恋心を順調に育くみ、そして彼
女は今、竜児の目の前でスピーカーから流れる軽快な音楽に乗り、指揮者のようにお箸を振り
回しながら、楽しそうに笑ってくれている。
 そんな実乃梨を見つめているだけで竜児は堪らなく嬉しく、楽しく、幸せになる。そんな感
じで竜児がニヤニヤ述懐していると、スピーカーから北村のハキハキした音声が鼓膜を揺らし
た。

『えー、それではクイズの前に一曲お聞きください。We love Marines!』
 D.J.北村が曲紹介して流れてきたアップテンポな曲は、「アタック」だの「熱気」だの「王
者」だのと、学校のお昼に流すにしては少々勇ましすぎる内容。不自然に感じた竜児が首をひ
ねっていると実乃梨が竜児に解説してくれた。
「これ千葉ロッテマリーンズの応援歌だよ。あさっての日曜日バレンタインデーだしね。ほら、
 千葉ロッテの元監督、ボビー・バレンタインにかけてるんだよ、きっと。北村くんもトンチ
 が利いてらぁな」
 はたして大橋高校の一般生徒でそんなトンチが利く生徒が一体何人いるのであろう……竜児
はローマにある真実の口のように呆然と開口し、石化してしまうのだが、そんなレリーフ状態
の竜児の肩をポンッと叩く手があるのだった。
「ちょっとちょっと高須〜、なに黙っちゃってんのよ。みんなで大先生のありがたい放送、盛
 り上げてやろうじゃないのよ。放送委員から聞いたんたけど、今から出題されるクイズの解
 答をメールで送るんだってさ。で、これがメアド。答えが分かったら送信っ! みたいな」
 手の主に振り返ると、そこにはケータイとカワウソのような瞑らな瞳(かわいくない)を竜
児に向ける能登久光がウインクをしていた。派手なセルの眼鏡がチャームポイントの能登は、
竜児が1年生の頃からの友人だ。さらに、
「そ〜だよ高っちゃ〜ん! 俺なんてこれからゆりちゃんに職員室呼ばれちゃって、北村を応
 援したくても出来ないんだからさ〜☆てことでヨロシコ〜」
 と言って、もう一人の友人、春田浩次は焼そばパンを頬張りながら、アホっぽいロン毛を振
り乱し、慌しく登場したと思ったら忙しく教室を出て行ってしまった。竜児はそんな残念な友
人、春田を見送ってから、
「春田あいつ恋ケ窪から呼び出しって、まさか留年すんじゃねえだろうな……おうっ、それは
 そうとクイズだよなっ……。あのな能登。クイズの問題って、香椎に関する問題だろ? 俺
 が解答するより、いつも香椎と一緒にツルんでいる、川嶋か木原が答えたのほうがいいだろ」
 すると能登は、目一杯小さな眼を見開き、軽やかにターンを決める。
「そっか。そういえばそうだよね。ナイス高須。ナイスだよ! おーい、木原〜! 解答して
 よクイズ、解答してよ〜!!」
 名指しされた木原麻耶はガタッと立ち上がり、綺麗にカラーリングされた長い髪をプンプン
振り、全力で断るのだった。
「はー、あたし? いいっ、いいってば、そんなの、超緊張しちゃうもんねえ? こういう
 のはさ、男子のほうががいいよねえ? そうだよね亜美ちゃん! ねー!」
 そこであたしに振る? と首だけちょっと捻って、スラリとした八頭身を誇るモデル、宝石
のようなオーラを振りまく完璧美少女、川嶋亜美は華麗に立ち上がり、とりあえず無難に適当
に切り返すのだ。

「そーよね麻耶。あたしたちじゃあ、奈々子と親しすぎるし、フェアーじゃないわよね……っ
 てことで高須く〜ん? お願いね?」
 ほんの少し頬にかかったサラサラの髪をかき上げ、トンボを捉まえる時のように、クルクル
回した指先を竜児に向ける亜美。フェアーとかではなく、亜美は単純に面倒くさいだけだろう
……そのアンフェアーな美しさが故に、竜児の中で亜美への憎たらしさが増殖するのだが、
「へいへい竜児く〜ん。あーみんからそんなふうに頼まれたら漢としてイヤとは言えないじゃ
 んねえっ。及ばずながら私も竜児くんとクイズの答え考えっからよ……あ、もう曲が終わり
 そうだし……一緒にガンバローぜ!」

 亜美は置いといて、実乃梨からそんなふうに言われたら彼氏として竜児はイヤと言えない。
だいたいクイズといっても賞品も景品も無いなんてどうなんだこの企画は……という言葉を飲
み込んで、竜児はケータイと睨めっこしてスタンバイする。するとなんだかいい匂いがするな、
と思ったら、実乃梨が至近距離で竜児のケータイを覗き込んでいた。

『……はい! 景気づけに軽快な曲をお送りしました! ではさっそくクイズを始めましょう!
 皆さんケータイの準備はいいですか? ではアシスタントの逢坂さん! 一問目!』

 ジャカジャン! ジングルが鳴る。

『えっと……第一問。香椎さんのチャームポイントのホクロは、一体何処にあるでしょうか?』
『これはかなりのサービス問題、ものすごく簡単ですねっ。みなさんの解答をメールしてくだ
 さい。早い者勝ちです! ……おっと早い! もう解答が着たようです! やはり簡単すぎ
 たでしょうか?ではアシスタントの逢坂さん、クラス名と答えを読み上げてください!!』
『一番早かったのは、一年B組です。っと……答え、はっ! ……おっ……おおっ、おおおっ』
『おお? ……逢坂、どうした?』
 もともと大河は緊張すると滑舌が悪く、よく舌がもつれてしまうのだが、原因はそれだけで
はないように、竜児には思える……そして大河の震える声。

『おっ……ぱい』


 ザワッ……と、低いどよめきが2ーC中に沸き上がる。ランチをパクつく生徒たちの手が止
まる、あまりに微妙すぎる展開であった。竜児もケータイで変換途中の指先がフリーズしてし
まい、そのまま何秒経過したろうか……本物のラジオなら五秒以上で放送事故だが、

『おっぱ! ……いやあ違います! 残念! 一年B組のみなさん。解答は早かったのですが、
 不正解ですねっ、では次に届いた解答は……』
しかし北村の進行を遮る甘い音声がスピーカーから流れる。
『ねえまるおくん待って? ……それ、正解かもしれない。私、胸にホクロあったかも』
『ほほう! これは意外ですね……。あ、逢坂、確認できるか?』
『え、私が? 確認?……いったいどこにあんのよ。ホクロ』
『ここら辺かなあ……タイガーちゃん見える?』
『ふおおっ……くっ……たっ、谷間にっ……手が埋まるっ!』
『やだあ、タイガーちゃんくすぐった〜いっ!』

 なんとも艶かしい嬌声が、物音一つしない教室にただ響きわたる。竜児が確認出来る範囲の
生徒たちの顔は皆揃って、風呂上がりのように真っ赤になっていた。
『……えー。いま確認していますので……皆さんしばらくお待ちください。ちなみに私は眼鏡
 を外しましましたので、決して何も見えていません……逢坂どうだ?』
『どうって言われてもっ……ムニュムニュしてて……ああっ! 見つかんないっ!』
『ああんっ、そっちじゃないよ。もっと奥っ』
『ったく、こんな凶悪なものぶら下げて恥ずかしくないのかしら……あっ、あった! これで
 しょ? ムニッ!』
『いやあんっ! タイガーちゃん、違〜うっ! そこは黒くないでしょ〜?』

『……手に汗握る展開ですね。ぼんやり見えるのが逆効果です……』
『もう、わかんないっ! あんた面倒だから脱ぎなさいよ! おりゃああっ!』
『きゃあっ! いやあ〜っんっ』
『しっ、しばらくお待ちください! 止めるんだ逢坂! ガガッ!』

 ……そしてスピーカーの網目から再びマリナーズの応援歌が流れ出るのだった。そこで竜児。

「……これ、マズイんじゃねえか? 放送事故レベルだろ」
「そうだね竜児くん。まだ一問目だし大変だのお。大河のやつ大丈夫かいな」
「いや、そうじゃなくて……」
 こんな状態では興奮する魑魅魍魎が湧いて出るのはとっても自然な事。わずかな白眼部分を
血走らせ、粗い息に鼻を膨らませる能登の眼鏡が真っ白に曇る。
「どうしよう高須っ! 奈々子様がっ、タイガーに襲われてる!」
「どうしようかと俺に聞かれてもどうしようもねえよ! あーもう、川嶋! お前がなんとか
 してくれ!」
「だからなんであたしが……てか、これネタなんじゃいのかな? もしかしたら台本読んでる
 だけとか……そうであってほしい気もするけど、もしマジなら奈々子の胸って、柔らかくて、
 面積大きいから、確認するの結構大変よねえ……」

 亜美が奈々子の乳に対しての余計な解説してしまったおかげで、男子生徒たちそれぞれの脳
内では、過激なお色気シーンが上映されてしまい2ーCの教室の気温がわずかに上昇するのだ
が、しばらくしてマリナーズの応援歌がプツリと止まる。


『……お待たせいたしました。いやあ〜、アシスタントの逢坂さんに、ゲストの胸を細部ま
 で確認してもらいましたが、結局不正解でした。番組途中、お聞き苦しい点がありました
 ことをお詫びいたします。それでは仕切り直して、二番目に解答をくださった方の答えっ!
 逢坂さんっ! どうぞ!』
『ふぁいっ! 2年A組からの解答で、はうっ! ……おおおっ! お尻ぃ? ……またぁ?』
『残念! 不正解です! みなさんお願いします! 真面目にお答えくださーい!』
『ねえまるおくん? ……今度こそ、正解かもしれない』
『何? 本当か、香椎っ! ……これは……またもやきましたね……。逢坂……頼んだぞ』

『ええーっ! 北村くん、私も〜やだ〜! さっきからヘンな答えばっかじゃない! だい
 たいあんたも余計なこと言うんじゃないわよ、このエロボディ! もう不正解でいいっ』

『落ち着くんだ逢坂! し、しばらくお待ちくださ〜い!』

 またもや放送は中断、曲が流れてきた。今度はさっきと違い、テクノでポップな曲が流れ、
チョコレイトディスコと、連呼している辺り、どうやらちゃんとしたバレンタインソングのよ
うだ。
「もう無茶苦茶だな。新番組はいきなり初回で打ち切りだろ。エロすぎる」
「ん〜、北村くん着眼点は良かったんだけどね。内容がちょっと深夜向きだよね。お色気
 大賞」
そうこうダベっているうちに、曲が終わる。
『クイズ香椎奈々子、お別れの時間になりました。残念ながら今回が最終回になります。
 来週、月曜日からはクイズ川嶋亜美をお送りします! こう御期待!』
 北村には珍しく、若干粗暴な口ぶり。しかもさりげなく幼馴染みを餌食にする。当然のよう
に猛反対する亜美がスピーカーに向かって怒鳴り散らす。
「ちょっとー、佑作! 勝手に決めんな! やんならクイズ高須竜児にしろっつーの!」
 竜児の名前が飛び出たら、実乃梨も超反応するのだ。
「ダメだって、あーみん! 竜児くんはジルベールみたいな繊細な男の子なんだからっ」
 やいのやいのと次回ゲストのなすり付けあいを繰り広げていると、エンディングの音楽がフ
ェードアウトし、北村が再登場する。
『……みなさん、来週の放送ですが、クイズ川嶋亜美を無期延期にします。代わりにご本人か
 らの強い要望メールが届きまして……クイズ黒マッスルをお送りいたします』
『うえっ……本当? ……ゴメン北村くん、それ私無理かも……』
『……えーっと、それはそうと、あさっての日曜日は、カップルさんはもちろんのこと、恋に
 迷えるキミたちも楽しみにしているセントバレンタインデーですね。ロマンティックな聖な
 る日に願いが成就するよう、大明神こと、私にお祈りしに来てくださいね。お待ちしており
 ます! 生徒会はあなたの恋のサポーター。ではまた来週!』

***

「あのっ、私……高須竜児くんの事、お慕い申し上げております……」
 辿々しく、恭しく、差し出された可愛らしく包装されたチョコレート。バレンタインデー当
日の日曜日の昼過ぎに、須藤コーヒースタンドバー、通称スドバのカウンター席で、竜児は実
乃梨からバレンタインデーのチョコレートを受け取っているのだ。
「おうっ、ありがとう実乃梨。改まってそうやって言ってもらえると、なんか照れるな」
「へっへー。私もちょいとばかし恥ずかしいけど一回こういうのやってみたかったんだよね。
 なけなしの乙女心がそうさせるのだよ。竜児くん、受け取ってくれてありがとう」
 頬をポッと赤らめながら、潤んだ瞳を浴びせる実乃梨。可愛い。竜児の胸は正直に跳ねる。

「ああ、こちらこそ実乃……おうっ? 須藤さん、なんすかこれ? こんなの俺注文してない
 っすよ?」
 二人が張った強固なラブラブ結界をぶち破り、オーナーの須藤氏が、甘い匂いを放つペアカ
ップをそっとテーブルに置く。
「まあまあ、これは熱いアベックに私からの奢りだよ。カフェ・ド・ショコラ。今日はバレン
 タインデーだしね。召し上がれ」
 アベックなどという、太古に絶滅した言葉を浴びせられ、一瞬沈黙してしまう竜児なのであ
ったが、須藤氏の不可解な言動に違和感を感じ得ない。
「あ、ありがとうございます須藤さん……あの、こんなの初めてじゃないっすか……なんか企
 んでませんか?」
 図星だったようで須藤氏は笑顔を保ちつつ、僅かにひるむ。さらに実乃梨。
「……要件を聞こうか」
 ゴルゴ化し、ストローをタバコのようにくわえ、須藤氏を問い詰める。するってーと、
「え? そうそう。そうなんだよ。鋭いねえ二人とも。実は相談あってね? 野球。草野球を
 ね? 高須くんが一緒にやってくれないかな〜って」
 優しい口調で語る須藤氏の面もちは、なんとなく断り辛い雰囲気を醸し出していた。
「野球?」
 竜児がリピート。すると須藤氏は持っていたトレーを胸に抱き、大きく息を吐く。
「そっかー……最近の若い子は野球知らないのか……まずボールとバットをね? ……」
「いや須藤さん、それぐらい知ってますって。なんで俺が須藤さんと野球やらなきゃなんない
 んすか?」
 ぎらつく竜児の懐疑的な視線を受け流し、須藤氏は言葉を紡ぐ。
「いい質問だ。大橋駅あっちの商店街とさ、毎年この時期に草野球大会やるんだよ。高須くん
 野球知っているんなら話が早いなあ。いやあ、実に助かるよ! じゃあ来週の土曜日。土手
 沿いのグラウンドに朝十時に集合! ヨロシクね」
「ヨロシクしないでください。勝手に決めないでくださいって。でもまあ、事情次第では考え
 ますよ。で、なんで俺なんですか?」
「ぶっちゃけ、誰でもいいんだけどね。今朝判明した事なんだけど、酒屋の稲毛さんとか、い
 つものメンバーが仕事の都合でみんな出れないってんで困ってんだよ。負けた方の商店街は
 通例で、勝った方の商店街の宣伝ポスター貼らなきゃいけない事になっててさ。去年の屈辱
 を晴らしたいんだけど、メンバーが八人足りないんだよ。一ヶ月間、コーヒー一日一杯無料
 にするからさ、高須くん頼むよ」
 と、須藤氏は、不動明王の生き写しのような竜児の顔面に合掌してしまい、高須不動尊は渋
々その重い腰を上げる。
「どんだけ他力本願なんすかそれ……事情はわかりました。俺でよければ別にいいっすけど、
 彼女に聞かねえと……なあ実乃梨。来週の土曜なんだけど、須藤さんと野球やっていいか?」
 竜児が実乃梨に視線を戻すと、隣で香しいカフェ・ド・ショコラにも手をつけず傍観してい
た実乃梨は、大きな瞳をスパークさせた。
「いつ私に話振ってくんのか待ってたんだけどさっ! ベースボールと聞いて私が黙って見て
 いると思う? まだメンバー足らないなら私もやるぜよ。まだリトルリーグん時のグローブ
 もあるからよ。やろうやろう、やったろうじゃん!」
 二つ返事で快諾。なんとなく二人はコーヒーカップで乾杯をし、そのまま実乃梨は、エス
プレッソのようにグイッとカフェ・ド・ショコラを飲み干すのだった。
「そっ、そうか実乃梨、サンキューな。……じゃあ須藤さん。俺と彼女、二人で出ます」
「ありがとう! ……迷惑ついでに高須くん。あと六人集めて来てよ」
 そんな言い難い事をサラリと言う須藤氏に、これが大人のズルいとこだよな……とか、竜児
は思いながらも、カフェ・ド・ショコラと共に、その胸中を飲み込むのであった。

***

 バレンタインデーの休日というのに国道沿いの並木道は人もまばらだった。この時期は午後
五時過ぎにもなると太陽はビルの谷間に落ち、雪が舞い落ちてもおかしくないくらいほど肌寒
くなる。たまに通り過ぎる人々は皆、挙って首をコートの襟に引っ込め歩いていて、櫛枝家に
向かう途中の竜児の左腕に絡まる実乃梨もまた、白い息を吐き出しながら、くっ付けている身
体を小刻みに震わすのであった。
「うっぷるるっ! さっびいね竜児くんっ。でもほら、冬って星空が綺麗だよねえ?」
 そう言って夜空と竜児を交互に見上げる実乃梨。竜児の心はそう、耳元で囁かれただけでほ
んのり熱を帯びる。
「おう……本当だ。綺麗だな……」
 足元を見ながら歩いていた竜児は、実乃梨の一言のおかげで綺麗な星空を見つける事ができ
た。そんな常に前向きな彼女に、竜児の焚き付く心は激しさを増し、炎と化すのだ。
「そうだ実乃梨。さっきの草野球のメンバー集めの事なんだけど……結構、安請け合いしちま
 ったよな。大丈夫だろうか?」
「そ〜だね。月曜んなったら一応ソフト部の連中にも声掛けてみるよ。……でもなんか楽しみ
 だな〜。竜児くんと野球出来るなんて、なんか私、嬉しいぜよ」
 ギュウッと、さらに強く身を寄せる実乃梨。熱く上気した竜児が再び空に目をやると、四階
にある櫛枝家の明かりが目に映った。

***

「皆の者っ、控え居ろ〜うっ! 竜ちゃん様のお通りだ〜!!」
「おうっ? ……こ、こんばんは高須です……」
「お母さんっ! 何やってんのさっ! 竜児くんごっめーんっ!」
 櫛枝家の扉を開けた途端、実乃梨の母親の、娘にも負けない太陽のような眩しい笑顔が竜児た
ちの目に飛び込んできた。引き気味の竜児に気付いた母親は、ぺろっと舌を出した。
「お姉ちゃんが久しぶりに竜ちゃん連れて来てくれたから興奮しちゃって〜! ごめ〜んねっ!
 丁度みどりも戻ってきてるのよ?」
 母親の背後から、背の高い実乃梨の弟が坊主頭をカリカリ掻きながら登場する。
「あ、竜児兄さん、お久しぶりっす。みどりっす……」
 坊主頭を小さく下げ、みどりが挨拶する。竜児はギラリとした鋭い目をみどりに向けるが、決
してケンカを売っているのではない。兄と呼ばれ、少し照れているのだ。
「おまえ何しに来たんだよ? いつも盆と正月以外、帰って来ないくせに。しかも竜児くんの前
 だからってかしこまりやがって、不気味なんだよ! レンタルキャットかっつーの!」
「っさいな姉ちゃんはよ! センバツでベンチ入り決まったから、これから地元の奴らが壮行会
 やってくれんだよ。明日の朝一で帰るよ! ああ、竜児兄さん寒いっすから早く上がってくだ
 さい」
 みどりに勧められ、竜児は靴を極力丁寧に脱ぐと、さりげなく実乃梨が揃えてくれた。そこに
ラスボスが現れる。
「竜児くんいらっしゃい。久しぶりだね。私たちもみどりと一緒に壮行会に出掛けてしまうから、
 なんのもてなしもできなくて申し訳ないが、ゆっくりしてってくれ。しかし騒がしい家族で、
 ほんと、すまないな……」
「いや、ぜんぜんお構いなく。家族が泰……母親しかいないので、賑やかで問題ないってか、そ
 の……楽しいっす」
 実乃梨姉弟が、軽く小競り合いを始め、賑やかになる櫛枝家の玄関。さりげなく口にした泰子
の話題に母親が乗っかる。
「あっそーだ、竜ちゃん、泰子さんお元気? 年末にウチのお父さんと一緒に毘沙門天国に遊び
 に行ったんだけど、それっきり、ご無沙汰してるわねえ」
「その節はありがとうございます。母は元気です。母も来てくれて嬉しかったそうです」
話しながら居間へ通される竜児。気付けば竜児の左腕には、母親が絡みついていた。
「本当〜? 実はあの時、泰子さんと『竜ちゃんファンクラブ』発足したんだから! ちなみに
 私、団長! うふっ!」
「このアホ母! そんな事やったの? なななんて失礼なことを!」
「いいじゃんそれくらいお姉ちゃん嫉妬しないの! だってお姉ちゃんは竜ちゃんの事、旦那に
 するんでしょ? いつもウチで言ってるじゃないの」
「ま、また竜児くんの前で、そんな恥ずかしいことを……もう、やめてくれえええっ!」
「実乃梨落ち着け。俺は大丈夫だ。全てを受け止める自信あるから」
「やさしいのね〜、竜ちゃんはっ! ますますファンになっちゃう〜!」
「いー加減にしろよなあああっ、もう早く壮行会でもなんでも、とっとと行ってこい!」
 実乃梨はついにキレ、居間にあったクッションを投げつける。
「ハイハイ、お邪魔虫は消えますよ〜……って竜ちゃん、ごゆっくりっ! ウッフーッ!」

 そのやりとりに、竜児はただ、ペコペコ頭を下げることしか出来なかった。

***

「っはー! だめだ、やっぱ緊張するっ!」
 実乃梨の家族たちは出掛けてしまい、櫛枝家には竜児と実乃梨の二人きりになった。そこで
やっと竜児の緊張が解ける。 
「お疲れさま竜児くん。ってかマジごめんねえ、ウチの家族、竜児くん来るとテンション上が
 っちゃってさあ……悪気は無いんだけどねえ」
「おう、わかってるよ。みんな俺の事認めてくれていて。嬉しい」
 居間であぐらをかいている竜児の元に、紅茶をいれてきた実乃梨が台所から戻ってきた。実
乃梨にことわってから、竜児は実乃梨から貰ったチョコレートの包装を解く。
 そしてぱくんと一つ、口に放り込んだとき、紅茶の香りを楽しみながら、実乃梨が話し出す。 
「ねーえ、竜児くん。今さらなんだけど竜児くん、ウチのソフトボール部に入んない? 仮入
 部って事でもいいからさ? 今度の草野球の練習にもなるし。ウチのソフト部、男女統合し
 たんだけど、メンズどもがイマイチやる気無くってさ〜。刺激にもなるし、あいつらも土曜
 日の草野球やらせっからよ。文句は言わせねえ!」
 と、部長の顔になる実乃梨。少し考え、竜児は答える。
「いや、いい。俺が入部したら……お前の事ばっかり気になって練習どころじゃなくなっちま
 う……と、思う」
 もちろん一緒に居られる時間が増えるのは嬉しいのだが、迷惑を掛けたくないのが本音だっ
た。 
「え? あ、そ、そっか。じゃあ仕方ないね……私も……」
 カップに目を落としたまま実乃梨はそこで言葉を切る。吐き出す言葉を選んでいるようだ。
その間、紅茶の香りが竜児の鼻先をくすぐる。 

「私も……竜児くんが私以外の娘と仲良くしちゃってたりしたら、気になって……練習どころ
 じゃなくなっちゃうかも……ヤバいよね? あははっ……はっ」 
「そ、そんなことねえよ! 俺は、お前だけだっ」
 即答した。竜児は頭の中に浮かんだことをそのまま実乃梨にぶつけた。ガン見していた実乃
梨の顔が一気に、溶けた。 

「私も貴方だけ……です」
 真っ赤な顔を伏せたまま、実乃梨は瞳だけ、竜児に向けた。一番嬉しい、欲しかった返事を
貰った竜児のリビドーが奮い立つ。 

「実乃梨……キスしていいか?」

 ……そして交わした口づけは、チョコレートの甘い味がしたのだ。

***

「ん……竜児、くうん」
 エッチのとき。どうしても私は積極的になる。そうしないと逆に恥ずかしいからだ。頭の中
を彼のことでいっぱいにして、彼の好きなところにいっぱいキスしてあげて、エッチに集中す
る。私たちは、私の部屋のベッドで裸になっている。
「おうっ……んぐっ……っはあ」
 そんな彼の声をBGMに、私の唇は、ゆっくり彼の素肌をなぞる。竜児くんのからだの真ん
中から、脇のほう。そして……下のほうへ。
「ねえ竜児くん、ここ、舐めていい?」
「実乃梨……あおうっ!」
 彼の返事を待たずに私の口の中に、彼の大っきく、熱いモノを頬張る。くちゅん、くちゅん、
と、一定のリズムで舌を絡める。その時、彼と一緒に、エアコンの動作音も唸る。
「んっ! ぐっ……んっ……んはっ」
 私はこの行為が好き。竜児くんが私の中に飲み込まれた感じがして、いっぱいになった気が
して、すごく好き。彼も多分好きなんだと思う。いっぱいエッチな声が聞こえてるし。
 口の中でピクッと動いて、もっと熱くなって、もっと大きくなって、喉の奥に当たると……
いつも彼が上半身を起こし、そこで立場が逆転されちゃう。
「あは、んっ……んんっ!」
 竜児くんも私の下半身を舐めまわす。痙攣しそうなほど感じちゃうけど、意識が跳びそうに
なるのに堪えて、私もまた、彼の熱いモノを舐めるんだ。
「んっ、んくっ……んんんっ……あんっ!」
 アイスクリームの蓋を舐めるように貪るような竜児くんの舌先……私のからだが跳ねる度、
じゅんっ、と溢れてくるものすべてを拭い去るように竜児くんの舌は、激しく動く。そうなっ
ちゃうともう、竜児くんのを舐められなくなって、先っぽをちゅルンと、吸うくらいしかでき
なくなる。
「あんっ! あんっ! あんっ! んやぁっ!」
 おっぱいを握られた。強く。イヤなんじゃなくて、感じちゃうのが、なんか、くやしい……
だから、
「えいっ!」
「おうっ! な、なんだ?」
 彼を仰向けにして押し倒した。そっとキスして、馬乗りになる。
「今日は私が上になる……ね」
 私の唾で、ぬらぬらしていて、そこにゴムをつけるのは簡単だった。そして、それを、私に
ニュルリと挿れたんだ。
「あはっ……ふうっ……んっ」
 ……でも動かさない。動かしたいのをガマンした。そのかわり、大好きな竜児くんに、いっ
ぱいキスをした。彼は二つのおっぱいをムチャクチャに揉んできた。私もガマンできなくなっ
て、ギリギリまで溜めて、思いきり彼の上で、踊った。
「はっ、はあっ、あっ、あっ、あふっ、あんっ!」
 何度もすべり込み、何度も私の奥に当たるたび、どうしても漏れてしまう声。からだ全体が、
火の中に飛び込んだくらい熱い。大きく上下に揺れる私の胸の尖端を竜児くんの指先がグニュ
リとつまんできた。その刺激に彼を飲み込んでいるところが思わずギュンッと、締めつける。
「おうっ! ……実乃梨……! くはぁっ、すげえっ」
「はあんっ、あんっ! ああんっ! 竜児くん! 竜児くん!」
 繋がっている部分の一体感が一気に増して、私の奥から、ゾワゾワした感覚がからだ全体に
広がっていく。すると、彼の熱い舌が欲しくなってくる。
「んんんっ、竜児くん、んふっ」
 腰を打ちつけながら、私は彼と舌を絡めた。麻酔がかかったかのように、たくさんの唾が彼
の口になだれ込んじゃうんだけど、竜児くんは私が出した唾をすべて、飲み込んでしまった。
「いっ、いっ……ちゃう……」
 気持ちいい。びりびりしてきた。動かしている腰が止まらない。それどころか早くなる。夢
中で快感に溺れる。
「あんっ! あんっ! あはっ! くうっ!!」
 いっ……ちゃっ……た。
「実乃梨っ!」
 思いきりギューンッ! て締めつけて、彼も同時だったみたいだ。折れるほど、私を抱きし
めてくれた。

 感じる。まだ私の中で、ツンツン動いている。

***

「あれ? メール。大河から」
 実乃梨は部屋着にしている中学時代のジャージに着替えながら、器用にジャンプしてケータイ
に飛びつく。
「こんな時間にか? 一体なんだろうな」
 まだ上半身裸の竜児は、ベッドサイドにある目覚ましを確認した。時計の針は午後九時を回っ
ている。
 ケータイを開き、メールをチェックする実乃梨。さっき触れた時に柔らかかった実乃梨が、次
第に固まっていった。そしておもむろに着たばかりのジャージを脱ぎ出した。

「私、いまから大河のマンションに行く。北村くんもいるって。竜児くんも来て」

***

「……で、いつなんだ引越し」
「来週の日曜日。いきなりなんだけど、ママの都合でね。実は年始くらいから話はあったの。パ
 ……あいつが失踪してからね」
 辿り着いた大河のマンションは、汗ばむほど暖房が効いていたが、そこにいた大河と北村は、
凍えるように表情を強張らせていた。
「俺は、聞いていたんだがな。まだ確定してなかったからみんなには黙っていた。すまない」
「いや北村くん、それは仕方ないけど、ねえ大河。北村くんと遠距離でしょ? それでいいの?」
 実乃梨は大河の肩をつかみ、一度だけ強く揺さぶる。力なく大河の唇が開く。
「みのりん、もうママには散々お願いしたの。でも、ダメだって……」
 十畳はある、ただっ広いマンションの一室に、グスッと、大河の鼻をすする音が虚しく響く。
壁にもたれ掛かっていた竜児は、北村に歩み寄る。
「…北村もそれで……いいわけねえよな、すまねえ」
 しかし竜児の胸の内は微妙だった。母親の泰子が自分より幼い頃に、竜児を身籠り、家を飛び
出し、女手一つで育ててくれたのを知ってたからだ。でも、その厳しさも知っている。だから、
無理強いは出来ない。自分の無力さに気付き、ギリッと、歯を食いしばる。

「俺たちのために、わざわざ来てくれてありがとう。どうしようもない……よな? だから最後
 にみんなで笑って逢坂を送りたいんだ。引っ越すといっても、逢えなくなるわけじゃないし」
 北村と大河は腹を決めているようだった。竜児は実乃梨と視線を合わせ、互いに頷いた。

「わかった! すっげー寂しいけど、私たちらしく、最後にパアッとクラスのみんな呼んで遊び
 に行くか! じゃあ、来週の土曜日……って、あっ!」

 そして話し合いの結果、大河のお別れ会は、来週の土曜。草野球大会になったのだ。


 ──To be continued……


450 ◆9VH6xuHQDo :2010/02/14(日) 22:46:34 ID:xxYyhAaM

以上になります。お読み頂いた方有り難うございました。
また、まとめの管理人様、更新ご苦労様です。いつも有り難うございます。
次回、スレをお借りさせて頂くときは、職人様のお邪魔にならなければ来月
続き、M☆Gアフター6(マシュマロ篇)を、投下させて頂きたく存じます。
またこの時間帯くらいをお借りするかもしれません。
失礼いたします。

451名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 22:57:31 ID:xxYyhAaM
容量ギリでした、申し訳ありません。
29皿目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1266155715
452名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 23:00:09 ID:mTkks5lt
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

GJ。相変わらずキャラがコロコロ動いていて楽しいなあ。
スドバでのゴルゴ化するみのりんやみのりんちで大歓迎を受ける竜児が脳内アニメ化された。GJ

ところでアフターというのか番外編というのかラベルが付けられないのですが、3と4はどれなんですかね。
453名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 00:09:27 ID:inxMGetv
投下&スレ立て乙
454名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 00:51:17 ID:nNNwAdjV
はいはい埋め埋め
455名無しさん@ピンキー
      ,'    : . : .〃      ハ:. : . : . : .jl       __ __
        {     : . {{    / ∧:. : . : ./:|     '.:´::::::::::::::::::` 丶
      ',     : . ∨ー ":.:..  ∧:. : ./ | /::::::::::::::::::::::::::::::: . :: :: .ヽ
       ゙、      : . ∨:.:.:.:.:.:.:..  ヘ/   |゙. : . :.:::::/ヘ:::::、::::ヽ::::::::'; :: :`、
        \、     : .X:.:.:.:.:.:.;.、‐´    |.:::::::l::::/   ヽ':ヽ::::`、:::::i:::::::::ハ
         `ヾ、ー-- '┴ '''''"´ : . :   |ハ:::W!     ` ,> ヾ::|::l:::::l:::l  
              \ : . : . : . : . :  「7>!、、  ヽイイび゙犲V::::::l:::|
                  ヽ . : . : . : . : ノ|ィ7てカ`     ゞつン 小:!::|:::|       全力で埋めさせてもらおう
                丶. : . : . : ./  ゞ゙‐'"  、         イ::l:::ト}:|
                    `、ー- --:‐'''~   ハ            |:::|:::|;!:|
                 / ̄ ̄_\ ヽ,..、. リ   「7 ̄ ヽ      !:::!:::l:::l
                   〈 .、-''" `く { [∧   {    `,   ,|:::l::::|:::|
                   } _,、-¬-、\〉 ヽ公.、 ゝ _ _ン  .ィ|:|:::|::::!:::!               _____
                   {   _、‐ 、 'く|  ノ::::\> 、  _ <.:{:!:|::::!:::i::::!            _/`{ _,.、- ゝ、
                 ヽ ゙´  ,r-、ン| /⌒ヽ::::Y'" ̄二≧z{;;;」::::{;;:1::1              〈′ :| ,.-‐'' ハ
                  ∨ イ:.:.:.   |′  `、::ヽ、   イ [l |:::::{;;::l:::l             {`ー入{ ,、-‐ ハ
                     V 丿:.:.   |     `,::ヽ >ゝヘ、_|__ {:::::l;;::|:::{               ヽ .::廴{_ z‐ 1
                ,、‐''f´∨{'⌒\ }  i    ゙;::::',    ', `, ';:::::ドi|:::}_            ヽ  :/゙ ̄`ヽ{
                /   ゙,  \、:.:.:.:.ソ  |  :  jハ::i     ', '、 ';::::i, ``ヽ、             丶、ヘ.     |
             , '       ゙、   `"''゙リ  } .:.  ノ ソ     ', ゙、`、::',     ヘ             {´`ヾ、__ __.{、
           _,、イ    .:   丶、:;;_/.: .: ;ハ  . .: .: .: .: :. . .   、 ゙、 ゙;:ハ  、、 ヽ          ,'´\  ``ー' }
          , '"  :/     .:   . . : .: .:.丿.: / .: .: .: .: .: .: .: .: .: .: .: : ', . .゙, j;'リ.  ヾ;  ,〉-、        i    ヽ、 _ _,リ,
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