1 :
名無しさん@ピンキー:
1です。スレ立てだけでは寂しいので、小ネタでも一つ。
「申し訳ありません!!本当に、本当にお詫びの言葉もございません!!」
学生寮の食堂の特設舞台に隣接する楽屋でフェルパーが床に額を
こすらんばかりに土下座する。
「..いえ、大丈夫..です..から..全然気にして..ません..から..うっ!!」
言葉とは裏腹に、長椅子に横たわり、全身から脂汗を流しながら、
息も絶え絶えに答えるノーム。その隣では、ヒールの心得がある
エルフがもごもごと呪文を詠唱している。
クロスティーニ学園学生寮恒例のクリスマスパーティーでフェルパーと
ノームが披露した隠し芸はちょっとしたマジックショーであった。錬金術科の
ノームが意外な材料を使って剣を錬成し、剣士科のフェルパーが
その剣を使って樽に入ったノームを串刺しにする、という定番かつ古典的な
マジックだったのだが..。
事前にリハーサルを繰り返し、万全の準備で臨んだ本番。観客の受けも
まずまずで、ショーは成功かと思われたが、舞台の袖まで下がると、ノームが
腹を押さえて倒れこんでしまった。慌てて駆け寄ったフェルパーがノームを
介抱しながら調べてみると、その舞台衣装の胴回りにはきっかり60度ごとに
剣で刺したような穴がくっきりと残されていた。
「ごめんなさい..ごめんなさい..お願いだから死なないで..」
ノームの手を取り涙を流すフェルパー。何事につけつまらなさそうな、
斜に構えたいつもの表情はそこには無く、森で迷子になった少女のように目を
真っ赤にして泣きはらしている。
「今までも..何回か..死んだこと..あります..から、この..くらい..なんでも..」
フェルパーに心配をかけまいと答えるノーム。すると突然その体が光に
包まれた。
「..はい、ヒール完了。クリスマス特別ご奉仕で"メタ"つけておいたわよ。
これで大事に至る事は無いと思うから安心して」
一仕事を終え、安堵感を含んだ笑顔を浮かべるエルフ。
「本当ですか?ありがとうございます..うわああああ!!」
ノームの体に突っ伏して泣き崩れるフェルパー。
「ありがとう、エルフ..いたたた..痛いです、フェルパーさん..」
そしてノームの言葉にはっとして起き上がるフェルパー。そんな二人を見て
呆れたようにエルフが尋ねる。
「..それにしても、どうしてこんなことになったのかしらね?ちゃんと練習したの?」
「 し ま し た !!リハーサルもタネの確認もちゃんとやりました。それとも
何ですか?私がわざとこんなことをするとでも?そんなことする訳無いじゃないですか!!」
エルフの襟首を掴まんばかりに詰め寄り抗議するフェルパー
「..何もそこまで言ってないじゃない。そんなにムキにならなくても..ノームも
痛かったら痛いって言えばいいのに」
「あはは..」
曖昧な笑顔でごまかすノーム。
「やれやれ..後片付けは明日だから、しばらくここで休んで行ったらどう?それじゃね」
困った二人ね、といった顔でそう言い残すと、エルフは楽屋から出て行った。
楽屋に取り残された二人。イベントもあらかた終了し、辺りは静まり返っている。
「..大丈夫ですか?」
「..はい。だいぶ楽になりました」
「..ごめんなさい」
「..いえ、もう気にしてませんから.」
しばらく二人の間に気まずい沈黙が流れる。
「..あの、僕はもう少し休んでいきますけど、フェルパーさんは..」
お先にどうぞ、とノームが続けようとしてフェルパーの方を見ると、彼女は
彼の枕元で両手で顔を覆ってさめざめと泣いていた。
「..ごめんなさい..ごめんなさい..こんなはずじゃなかったのに..」
嗚咽をこらえ、一言一言押し出すように話し出すフェルパー。
「本当に..本当に今日のショーは楽しみにしていたのに..一生懸命
準備して、リハーサルも何回もやって、本番前のチェックだって..
それなのに、どうしてこんなことに..」
「..ええ。あなたの努力は僕もそばで見ていましたから知っています。
今回のことはあなたのせいでは..」
「違うんです..そうじゃないんです..」
首を振り、蚊の泣くような小さな声でノームの返事を遮るフェルパー。
「1週間前、私が誤って舞台セットを壊してしまったとき、みんなが私を取り囲んで
責める中、ノーム様だけはかばってくださいました。それだけでなく、舞台練習の
合間に率先して修理に参加して、今日の舞台に間に合わせてくださいました。
私、本当にドジで要領が悪くて人付き合いが苦手で..だから、あの時はとても
嬉しかったです」
口元を押さえ、時々しゃくりあげながら続けるフェルパー。
「以来、私は少しでもあなたにご恩返しが出来るように心がけて参りました。
でも、やっぱり舞台練習ではご迷惑をお掛けしっぱなしで..。にもかかわらず、
嫌な顔一つ見せず根気強く練習にお付き合いいただいて、丁寧に指導して下さって..。
足手まといになるばかりの私でしたけど、それでもようやく昨日縫い上げた舞台衣装を
お見せしたとき、とても喜んでくださって..これで少しはお役に立てたかと思うととても嬉しくて..」
ふと、自分が着ている舞台衣装に目をやるノーム。素人臭い野暮ったいデザインに、
良く見ると大きさがまちまちの縫い目。しかし、それが手抜きによるものではないことは
縫い目を少し撫でるだけで彼にも理解できた。
「..この一週間、ノーム様の暖かいお心遣いに触れ、私は本当に幸せでした。ショーが終われば、
またそれぞれの学科、パーティの生活に戻ります。でも、舞台では幕が下りる瞬間まで
私とノーム様の二人きり..学園生活最高の思い出になるはずだったのに..それが、この手で
あなたのお腹に剣を突き刺してしまうことになるなんて..うわあああ..あ..あ..あ!!」
再び泣き崩れるフェルパー。
どう声を掛けたらよいものやらと、ノームが思案を巡らせていると、しゃくり声が
落ち着いてきたフェルパーが再び顔を上げた。
「..私、ノーム様のことを心よりお慕い申し上げております。今回の事は決して故意では
無いことだけは信じてください」
正座に直り、両手を床について深々と頭を下げるフェルパー。
「う、うん」
「..ありがとうございます。この度は多大なご迷惑をおかけしました。今日のことは
私にとっては一生忘れられない出来事になるでしょう。本当に申し訳ありませんでした」
「うん、本当に気にしていないから..。あの..君がそんな想いを抱いていたことを、今初めて知りました。
その..こんな時に言い出すのもなんだけど、もし良かったらこれから僕と付き合ってくれませんか?」
ノームが尋ねるとフェルパーはゆっくり立ち上がり、涙に濡れた右目の目頭を人指し指でこすりながら、
微笑を浮かべて答えた。
「お気遣いありがとうございます。でも、しばらくはあなた様のお姿を見るのが辛うございます。
いずれ何らかの形でお返事したいと思いますので、少々お時間を下さいませ」
「う、うん..」
何か気まずいものを感じながら頷くノーム。
「..あの、もしお許し頂ければ私はこれで..」
「あ、うん、僕はもう大丈夫だから」
「それでは失礼します..さようなら」
深々と一礼するとフェルパーは踵を返して楽屋から出て行った。
(何だろう..この漠然とした不安感は..)
楽屋のドアが閉じられた後、ノームはフェルパーの言葉を思い返してみた。
-あなた様のお姿を見るのが辛うございます-
-いずれ何らかの形でお返事したい-
-さようなら-
(いくら剣士だからといって..まさか..まさかね..)
頭の中では半信半疑であったが、体は長椅子から跳ね起き、楽屋から飛び出していた。
楽屋を後にしたフェルパーは、小道具置き場からノームが錬成した剣を
一腰持ち出すと、その足で街道から外れた森の奥へと向かっていた。空気は
深々と冷え込み、寒空には月が蒼白く光っている。眠りを邪魔されたがぶりんちょが
二羽飛び掛ってきたが、白刃一閃で切り捨てたフェルパーは、その辺りが少し開けた
草むらであることに気がついた。
(この辺でいいわよね..)
着ている舞台衣装の上を脱いで草むらの真ん中に敷き、その上に剣を横たえ、
その前に正座する。
(辞世の句、考えてなかったな..)
月を見上げながら暫く頭の中で考えていたフェルパーだが、良い句が思い浮かばなかったのと、
書き留める筆記用具を用意していなかったことに気がつき、諦めることにした。
しばらくの間、目を瞑り気を落ち着ける。気持ちが定まるとゆっくり目を開き、横たえていた剣を取ると、
敷いていた舞台衣装を刃の真ん中あたりに巻きつけた。刃に舞台衣装がしっかりと巻きつけられ、
ずれない事を確認すると、その部分を両手に持ち替え、目をきつく閉じると剣先を下腹部に当てた。
(..!!)
正直な所、死にたくは無い。その思いで体が動かなくなる。しかし、脳裏には先ほどの舞台の様子が
鮮明によみがえる。
ノームが入った樽に剣を差した時の感触。リハーサルの時に比べて多少渋いとは思ったが、そのまま
突き刺してしまった自分。その時既にノームの体を3本の剣が貫いていたのだ。そして激痛に耐えつつ
笑顔すら浮かべて観客の拍手に応え、舞台の袖に下がり観客の目が届かない所までたどり着いた
途端、崩れ落ちるように倒れこんだノーム..。
(..私なんかに生きる資格なんて無い!!)
-私はノームと同じ苦しみを味わって死ぬべきなのだ。ならば、彼が錬成した剣で命を絶てるのは、むしろ
本望ではないか-
「ええいっ!!」
そう決意すると、フェルパーは剣を持つ両腕に力をこめ、その剣を勢い良く自分の下腹部へ向かって突き立てた。
「..フェルパーさん、大丈夫ですか?フェルパーさん」
どれだけ時間が経ったのだろうか?フェルパーは自分を呼ぶ誰かの声に気が付き、草むらにうずくまったまま
固く閉じた目をうっすらと開ける。
(あれ?..痛..くない..)
さらに下腹部からあふれ出て来ているはずの生暖かい感触も無いことを不思議に思ったフェルパーは、
ゆっくりと上体を起こした。
「..よかった..間に合いましたか..」
目の前には胸元に右手を当て、ホッと一息ついて安堵の表情を浮かべるノームの姿があった。
自分の腹に目をやると、両手には自分の舞台衣装だけが残されており、それが堅く巻き付いて
いたはずの剣の刃は一本のひもとなっていた。
「..私..死ねなかったんですね..」
冷え切った草むらに座り込んだまま力無くうなだれて涙を流すフェルパー。ノームは立膝で彼女を迎え、
両腕をその頭の後ろに回して自分の胸元で抱きしめた。
「..うくっ..ノーム様は残酷です。三本もの剣に刺されれば、並の者なら死んでおります。私はあなたを
刺し殺したも同然なのに、あなたは私をこうして優しく赦して下さる。しかし、あなたに優しく
されればされるほど、私は無能な自分を惨めに思うだけ。あなたが私を赦して下さっても、私は自責の念と
羞恥心に耐えられそうもありません。私とてもののふの端くれ。この先ウジウジと自分の感情を
持て余して生きて行くのはとても辛いです。一思いに死なせてくださいませ..お願いです..」
そう言って自分の胸元を濡らすフェルパーの耳元に、ノームは静かにささやいた。
「..あなたに剣で刺されたとき、なぜ僕は我慢していたか、わかりますか?」
ノームの胸元で横に首を振るフェルパー。その感触を確かめると、ノームは続けた。
「あなたのことが、好きだからです」
その言葉にはっとして、顔を上げるフェルパー。穏やかな微笑を浮かべ、目を閉じて回想しつつ
言葉をつなげるノーム。
「いつからあなたのことを意識し始めたのか、僕もよく覚えてはいません。しかし、練習におつきあい
しているうちに、あなたの一挙手一投足に、目を奪われるようになりました。つま先から頭の先まで
すっと芯の通った立ち姿、一切無駄のない所作、練習中の真剣で引き締まった表情と、その合間に
見せる屈託のない笑顔。朗らかで礼儀正しく、何事にも手を抜かない真摯な人柄。鍛え上げられた
華麗な剣技..。いつの間にか、僕はあなたに惹き付けられてしまったのです」
そこで静かに目を開くノーム。煌々と輝く月の光を受けて、湖の水面のように深く青く光る双眸。
「ショーを成功させたかった、という気持ちは僕もあなたと変わりません。舞台のセットが壊れたときに
率先して修理したのは、僕自身があなたが舞台に立つ姿を見たかった、その一心でした。そして今日、
あなたが仕立てた舞台衣装を纏い、並んで舞台に立つことが出来た..僕は充分満足でした」
フェルパーを抱きしめるノームの腕に力が入る。思わず身を固くするフェルパー。
「だから、最初の剣が刺さった瞬間、僕が思ったのは"このショーを壊してはいけない"ということでした。
どうしてマジックが上手く行かなかったのか、僕にも判りません。でもこの土壇場であなたと僕の努力を
無駄にしたくなかった..。幸い僕はノームです。剣の2-3本が刺さっても即死することはありません。
だからショーが終わるまで我慢すればいい..いや、しなければならない、そう思ったんです」
しばらく堅く抱きしめた後、腕を解き、フェルパーの両肩をつかんでその瞳を見つめる。
「..しかし、そこで僕が我慢したことが、却って誇り高き剣士であるあなたを傷つけてしまったようです。
ですから、どうしても腹を切りたいというのでしたら、二度と止めはしません」
ノームがパチンと指を鳴らすと、地面に落ちているひもが再び剣へと姿を変えた。そしてその剣を拾い
上げるとノームは真剣な眼差しをフェルパーへ向けた。
「しかし、ここであなたを死なせてしまったら、今度は僕が後悔と喪失感に悩まされることになるでしょう。
ここであなたを失った先、僕は生きていく自信はありません。ノームはもともと土の精霊です。この場で
あなたと共に土へと還り、その亡骸を抱いて過ごすことになるでしょう」
そう言いながらフェルパーに剣を差し出すノーム。
「..だから、もう一度..お願いします..僕に..もう少しだけ、お付き合いください..。楽屋では、おざなりの言葉に
聞こえたかもしれません..でもこれは僕の本心です。もし、聞き入れられないとき..は、先に..僕を斬ってから..」
と、深く頭を下げるノーム。その頭から光る粒が零れ落ちるのをフェルパーは見た。
-ノームが..泣いてる..-
性格上常に冷静で感情表現に乏しい上に、依代の機能に依存するため、人によっては一生見ることが
無いというノームの涙。それを今、自分の前で、自分のために流してくれている..。
「ノーム..様..」
しばらくの間呆然とその様を眺めていたフェルパーだが、突然ノームが差し出した剣を払いのけると、
ノームに抱きつき、草むらの中へ押し倒した。
「フェ、フェルパーさん!?」
突然のことに驚くノーム。しかしフェルパーはお構い無しにノームにのしかかる。ノームの両腕ごと
抱きかかえ、お互いの頬をすりつぶすような勢いで頬ずりする。そして両腕を解くと今度は手の平で
額を撫で回し、髪をかき混ぜ、頬を両手で包み込むと、潤んだ瞳であっけに取られているノームの
瞳を覗き込む。
「ノーム様..愛しゅうございます..」
そうつぶやくと静かに目を閉じ、自らの唇をノームのそれにそっと重ねた。
フェルパーの胸元から、手のひらから、そして唇から、その暖かさが伝わってくる。とくんとくんという
心臓の鼓動も聞こえてくる。ノームも静かに目を閉じ、両腕を回してフェルパーの体を軽く抱きしめ、
少し首を傾げて合わせた唇を薄く開いた。それに誘い込まれるようにフェルパーの舌がおずおずと
差し込まれてくる。軽く舌先を合わせてやると、それを合図にノームの口腔内をまさぐり始めた。
次第に気持ちが高ぶってきたのか、フェルパーの息遣いが荒くなり、合わせた体の間から汗のにおいが
漂ってくる。
しばらく抱擁と接吻を続けた後、やがてどちらともなく唇を離し、うっすらと目を開けて見つめあう。
二人の間に繋がる白銀の糸がだんだんと細くなり、途切れていく。
「..ノーム様..」
フェルパーがノームにささやく。
「今度は、あなたの"剣"で私を貫いてくださいまし..。そしてその痛みと傷をあなたの愛の証として抱いて
生きていきます..それが私の答えです」
「..ありがとう..フェルパーさん..」
穏やかに微笑みを返しながらノームが応える。
「..しかし僕はこうも思うのです。せっかくの二人のマジックショー..これを失敗のまま思い出にして
しまって良いのか、と」
その言葉に、左の胸の辺りにズキンと痛みを感じるフェルパー。
「僕としてはあなたとの思い出を汚れたままにはしておきたくない..ここまで気分を盛り上げて
おいて言うのもなんですが、来年もう一度二人でマジックショーをやりませんか?そして今度こそきっと成功
させましょう」
一瞬うつむいて考え込んだフェルパーだったが、すぐににっこり笑って大きく頷いた。
「それでは..」ノームも満面の笑みを浮かべて言った。「性交は成功の後に、ということで」
-Merry Christmas-
うまいこと言うなノームw
それはそうと、何か暖かい感じになれるSSだったな。GJ
10 :
7-7:2009/12/26(土) 00:26:07 ID:23hH5WnY
GJ!
フェルパーの武士道に感動する自分。
ノームの男らしさに感動する。
暖かい話ですね。
そして前スレの穴埋めをしてくださった◆BEO9EFkUEQ師にも。
乙です。
ドワーフモフモフドワーフモフモフ。
幸せの呪文ドワーフモフモフ。
では本題に
お久しぶりです。
覚えてる方、いますか?
前スレの7です。
ようやく第一話が描き終わりました。
消費期限を遥かに過ぎたものですが予告通り投下します。
懺悔はあとがきに。
11 :
7-7:2009/12/26(土) 00:28:20 ID:23hH5WnY
「は、ずいぶんと楽な依頼だったな」
そういって黒髪のエルフは騎竜の上で横になった。
両手を頭の後ろで組み、片足を手綱に絡ませている姿が妙に様になっている。
彼は一応クロスティーニ学園の制服を身に着けていたが、着るというより羽織っており、その下は洗いざらしのシャツ一枚。
長い黒髪も後ろで簡単に縛っただけで、さほど手入れはされていない。
このとてもエルフとは思えないエルフがサイファー、学園でも五指に入る騎竜士のエースだ。
「また相棒に負けたな。10体ほど及ばなかったか」
サイファーの右隣から唸り声が聞こえてきた。
生徒手帳を開いて唸っているフェアリーはサイファーの相棒であるピクシー。
他の騎竜士から『片羽の妖精』と呼ばれているエースだ。
「くっくっく、剣と魔法でそれだけしか差が無い方がすごいぞ、ピクシー」
サイファーは彼特有の含み笑いをしてそういった。
確かに剣と魔法では一度に多数の敵を倒せる魔法の方が有利だ。
特に騎竜士同士の戦闘では相手にギリギリまで接近しなければならない剣は圧倒的に不利になる。
しかしピクシーは難なくそれをこなす。故に彼はエースなのだ。
「二人ともおかしいっすよ!何でそんなに倒せるんですか!?」
今度はサイファーの左隣を飛んでいるヒューマンが泣きそうな表情で叫んだ。
「PJ、今日のお前の成績、7体だったぞ。ちなみにドベだ」
「嘘だ!?だって少なくても10体は……」
「キチンと急所を射抜けて無かったんだ。死んでないのが5、6体いたぞ」
ピクシーの言葉にがっくりと肩を落としたこのヒューマンはPJ。
1年生にしてはなかなか良い腕をしているのだが、残念なことに比較対象がサイファーとピクシーの為、本来の実力より不当に低く評価されている。
ちなみにPJとはパトリック・ジェームズの略で、趣味はポロ。あの、馬に乗ってやる奴。
「で、ピクシー。ヒヨコの戦果は?」
サイファーがピクシーにもう一人の戦果を聞いてくる。
ピクシーが口を開く前に、威勢の良い声が飛んだ。
「ヒヨコって呼ぶなぁ!!」
声の主はピクシーの右隣を飛んでいたヒューマンの女子、アシェルだ。
まだ転科したばかりの新米騎竜士で、金髪。ゆえにヒヨコだ。
「ヒヨコはヒヨコだろ。こんな適切な表現他にねぇよ」
サイファーがからかうように言う。
というか実際にからかってる。
「だからヒヨコって呼ぶなぁ!!」
再び威勢のいい声が飛ぶ。
「落ち着け、アシェル。騎竜が怯えてるぞ。騎竜士なら騎竜を気遣え」
「何!?ピクシーまで私をヒヨコって呼ぶの!?」
「呼んでないだろ!」
アシェルは単純で勘違いしやすい。しかも一度突っ走るとなかなか止まらない。
下手に注意すればこちらが被害を受けることをピクシーはよく知っている。
ゆえに言葉には十分注意して落ち着かせる。ピクシーはそのつもりだったが……
「いいから落ち着け!ったく、世話のかかる「ヒヨコだぜ」
12 :
7-7:2009/12/26(土) 00:29:55 ID:23hH5WnY
ピクシーの顔から一気に血の気が引いた。
慌ててサイファーに振り向く。
サイファーは心底楽しそうに含み笑いをしている。
ピクシーはサイファーが自分の声真似をしたと理解した。
同時に、そんなことを考えてる暇が無いことも一瞬で理解した。
「へー、そうなんだ……?」
ピクシーは背後からのぞくりとするような声を聞いた。
彼は一瞬このまま逃げることを考えたが、逃げたところで学園で会う事になる。
下手すれば彼の部屋に向かってナパームやグレネードが投下される可能性もある。
彼は覚悟を決めて振り向いた。
そしてすぐさまなだめにかかる。
「勘違いするなよ、アシェル?今のは俺じゃなくて相ぼ「問答無用!!」
そう叫んで、彼女はナパームを投げた。
「いや、おい、ナパームは洒落にならない!!」
ピクシーは手綱を引き、一気に地表近くまで急降下した。
直後、先ほどまでピクシーの居た空間に巨大な火球が現れる。
安心する間もなく第二波が襲ってきた。今度は一個ではなく十個だ。
今度は速度を上げ、ナパームの雨から抜け出す。
先ほどとは比べ物にならない大きさの火球が空気を焦がす。
ピクシーは騎竜を急上昇させ、アシェルよりも高い位置に逃げた。
その後も再びただ急降下、加速、急上昇を繰り返す。
本来ならこんな単調な動きはしないのだが、幸い彼女は機動に関してはまだ素人だった。
現にアシェルはこんな動きでもピクシーを追いかけたりしてこない。
例え追いかけたとしても、片羽の妖精を追い詰めるような機動は出来はしない。
ピクシーはアシェルが落ち着くまで逃げることを決めた。
結局、彼はそれから10分ほどアシェルから逃げ続ける羽目となった。
10分後、再び隊列を組んだピクシー達は、一番騎の高笑いを聞く羽目になった。
「はーーははははは、は、は、な、なかなか良い逃げっぷりだったぜピクシー、くっくっく」
「相棒、頼むから今度からはこんな事しないでくれ。ただでさえアシェルは勘違いしやすいんだ」
「どーせ私は話に乗せられやすい馬鹿ですよーだ……」
「だからそうじゃなくてだな……」
思わずピクシーは頭を抱えた。
この二人を相手にするのは片方を相手にするよりも2乗疲れる……。
「ははは、分かったよ、ピクシー。善処する」
「いや、お前の善処ほど信用できないものは無い。あとで誓約書にサインしてくれ」
「うわー本格的ですね。でもそうしてもらえると嬉しいっす」
そう言ってきたPJはいつの間にか上着を脱いでいた。
「ん?PJ、お前なんで上着脱いでんだ?」
「ああ、これっすか。さっきのナパームで上着が燃えたんであわてて脱ぎ捨てたんですよ」
「ああ、なるほど……」
さっきのナパームとは初撃の事だろうと、ピクシーは思った。
彼に向かって投げられたナパームは、彼が避けた後爆発した。
あの時は隊列を組んでいたから、騎竜と騎竜の間はかなり狭かった。
そこで起きた爆発だ。
そうなる事を予想していた彼の相棒は彼より速く逃げていたが、PJは反応し切れなかったのだろう。
ただ、位置が離れていたから上着が燃えるぐらいで済んだ。
直撃だったら騎竜ごと黒焦げになってもおかしくないのが騎竜士用のナパームだ。
GJのサインが入ったそれは見た目も威力も通常のものから遠くかけ離れている。
13 :
7-7:2009/12/26(土) 00:30:55 ID:23hH5WnY
「ご、ごめん!PJ!」
「いいんすよアシェル先輩。どうせ学園の上着ですから。いくらでも練成できます」
「で、でも……」
「PJがいいっていたんならそれでいい。そうだろ?ところで相棒、ちょっと聞きたい事があるんだが……」
「ん、なんだピクシー?」
騎竜に寝転がったままサイファーはピクシーを見る。
「最近、どうもモンスター達の活動が活発じゃないか?」
「活発か……確かに最近、多いな」
先ほどの防衛戦のことだ。
「ああ、普通なら2ヶ月に一回くらいが普通だ。それが今月で三回目、しかもあれほどの軍勢だ」
「……でもそれは俺達には分からないな。まぁ、今頃調査依頼が掲示板に張られているだろう」
サイファーとピクシーはお互いの騎竜を近づけて会話していた。
ちなみに完全に話から閉め出されているアシェルとPJは……
「PJはどれぐらい戦闘に出たことがあるの?」
「俺ですか?そうっすね、小さいのも入れれば多分20回以上は出てると思います」
「へぇ、それじゃあ、ああいう大きいのは?」
「さっきのも入れて2回です。めったにあるもんじゃありませんしね。それになかなか二人が連れてってくれませんし」
「ふーん、私だけじゃなくてPJもなんだ」
こちらもこちらでちゃんと会話をしていた。
「まぁ、これでしばらく落ち着くな」
そういってピクシーは大きく息をついた。
あれだけ大量にモンスターを狩れば、流石のモンスターもしばらくは迷宮外に出てこない。
つまりあの規模の戦闘はしばらく発生しない。
そういう意味でピクシーは言ったのだが、サイファーはくつくつと含み笑いで返した。
「ピクシー、それはNGだ」
「相棒?」
ピクシーは首をかしげた。
サイファーに今の言葉の意味が通じないわけが無い。
なのにそんな反応を返した相棒にピクシーは不審の目を向けた。
それを気にも留めず、サイファーは体を起こし、手綱を握った。
「たしかに、妙に活発だ!!」
サイファーの騎竜がいきなり急降下した。
その行動の意味を、相棒であるピクシーは瞬時に読み取る。
「PJ!アシェルを守れ!!」
「へ?」
「馬鹿!お客さんだ!!」
そう言ってピクシーは剣を抜いた。
普段はあまり騒がない騎竜が興奮している。
これで、相手が相当の魔物であることが分かる。
周りに気を配る。
時折、下から爆音と断絶魔が聞こえてくる。
ピクシーたちの遥か下でサイファーが何かと戦闘を繰り広げているのだ。
遠すぎてここからじゃ相手の正体は分からない。だが、必ずここまで来るとピクシーは確信していた。
直感的に、ピクシーは剣を振るった。
確かな手応えが刃先から伝わってくる。
彼は自分が斬ったモノを見て、小さく舌打ちした。
「ゴアデーモンか!!こいつはちょっとまずいな」
彼は騎竜を走らせた。
デーモンが竜に喧嘩を売ってきた。一体だけのはずが無い。
ようやく今の状況に気がついたPJ達も騎竜を寄せ合って敵を探す。
ピクシーはアシェル達の安全を確認しながらデーモン達の襲撃に備えた……。
14 :
7-7:2009/12/26(土) 00:31:31 ID:23hH5WnY
魔女の森―冒険者学校の生徒なら必ず訪れる迷宮の一つ。
比較的簡単な迷宮だが、上級生であっても決して油断できない魔の森。
それは空から近づく者達にとっても同じ事だ。
魔女の森の上空で、一騎の騎竜が小さな機動を描いていた。
その機動を追うように、10体以上のデーモンが空を飛ぶ。
しかもゴアデーモンなどという可愛いものではない。
全て上位悪魔、グレータデーモンだ。
追われる騎竜に乗っているのはサイファーだ。
彼は騎竜を細かく動かし、デーモンの追撃から逃げる。
だが細かく動かすたびに騎竜のスピードが落ち、デーモンとの距離は縮まっていった。
サイファーはすばやく呪文を唱え、シャイガンを後方に飛ばす。
反応のいいデーモン達はそれを簡単に避けたが、そのせいで体勢が崩れる。
そこに、サイファーが杖を振るった。
巨大な炎が辺り一面を焼きつくさんと現れる。デーモン達は突然現れた炎から逃げることが出来ず全身を焼かれた。
しかしそれだけでは致命傷にはならない。炎の中から数体のデーモンが飛び出してくる。
サイファーは騎竜を回転させデーモン達をかわすと、それに向かって再び魔法を唱えた。
デーモンを中心に大爆発が起きる。ビックバムだ。
直撃を食らった一体が黒焦げになって森へと落ちて行く。だが生き残った数体が再びサイファーに攻撃を仕掛ける。
上級悪魔、グレータデーモンの一撃は一流の冒険者であっても即座に死に至るほど強力だ。
数発もくらえばいかに騎竜といえど、まともに飛ぶことは出来ない。
だがそれを見てもサイファーは安全な上空へと逃げず、むしろ低空を低速で飛んだ。
明らかな誘いに、多少なりとも知恵のあるデーモン達は二の足を踏んだが、やがて意を決したようにサイファーに襲い掛かった。
そして
サイファーは笑う。
恐らくデーモン達は驚いたであろう。
彼らがサイファーに殴りかかった瞬間、爆発と共にサイファーの姿が消えたのだから。
そして彼らがサイファーを探す間も無く、彼らは背後から飛んできた火球の直撃を受けた。
前方にいた4体は火球から逃れられた。
しかし他のデーモンは全滅だった。
先ほどの火球は、デーモンの体を灰すら残さずに完全に焼き尽くした。
生き残った4体も、すぐに仲間の後を追う事になった。
デーモン達を焼き尽くした炎から、騎竜が飛び出して来た。
先ほどのような低速ではなく、本来のスピードで。
飛竜の加速に、ビックバムの爆発を利用した、急速加速。
この加速が、サイファーの得意とする技だ。
下手をすれば飛竜ごと自滅しかねない危険な技だが、サイファーは難なくそれをこなした。
竜本来のスピードに、デーモン達は反応する事も出来なかった。
4体のうち2体は騎竜の爪に引き裂かれ、一体は騎竜の口から放たれた火球に焼き尽くされ、
最後の一体はサイファーの杖に目と頭蓋を貫かれ声を上げる間もなく絶命した。
サイファーは自らが突き刺したデーモンを森に放ると、上空の仲間に加勢すべく、上昇した。
15 :
7-7:2009/12/26(土) 00:32:34 ID:23hH5WnY
上空ではピクシーがゴアデーモンの相手をしていた。
しかしかなりの苦戦を強いられていた。
本来ならピクシーにとってゴアデーモンなど敵ではない。
サイファーのような派手さは無くとも、彼の空戦技術と技量を持ってすれば一撃ごとに一体ずつ排除する事など、例え相手がグレータデーモンでも難しい事ではない。
だが今は余計な荷物を二つも背負っている。こうなると話は違ってくる。
何せPJもアシェルもレベルが低い。特にアシェルは騎竜の操作すら満足に出来ないのだ。
そんな2人を守りながら十体を超えるゴアデーモンを相手にするのはいくらピクシーでも苦しいものがあった。
ゴアデーモンも、ピクシーよりも動きの鈍い2騎を優先的に襲っていた。
PJもアシェルも必死に応戦するが、デーモン達には脅しにすらならない。
今もPJの銃が連射した弾の雨を掻い潜り、2体のデーモンがPJを襲いかかっていた。
「うおぉっと!!へへ、そんな攻撃喰らうかよ!」
PJはとっさに回避行動をとりデーモン達から逃げるが、それはデーモン達の誘いだった。
逃げた先には他のゴアデーモンが待ち受けていた。
「え、ちょっと!これはまずい!!」
すぐに回避行動をとろうとするが、デーモン達がそれを許さない。
先ほどの2体がPJの前に立ちふさがった。
PJは銃を乱射したが、2体は軽々とそれを避け、再び襲い掛かってくる。
今度は左右からも2体、ゴアデーモンが突っ込んできた。
PJは一瞬どう避ければいいか分からなかった。
本来なら、その一瞬が命取りとなる。
だがPJには一つの幸運があった。『片羽の妖精』と共にいたことだ。
「PJ!前に逃げろ!!」
PJに襲い掛かったデーモンのうち、前方のデーモンの首が跳ね飛ぶ。
PJは、というよりPJの騎竜はすぐさま前方へと飛翔した。
騎竜の後方で左右から襲ってきたゴアデーモン達がぶつかり合う。
そこに向かってすでに主の言うことを聞いていないアシェルの騎竜がブレスを吐いた。
ブレスを受けた事により、デーモン達の動きが止まった。
その隙を見逃す片羽の妖精ではない。
騎竜を返し動きの止まったデーモン達の横をすり抜ける。
一瞬後、デーモン達の体は二つに裂け、、森に落ちていった。
他のデーモン達も片羽の妖精や騎竜士の意思を無視して動き回る騎竜に次々と落とされ、数を減らしていく。
そこにさらに追い討ちがかかった。サイファーが合流したのだ。
一分も経たないうちに、デーモン達は全滅した。
「よぉ相棒、まだ生きてるか?」
「それはこっちのセリフだピクシー。少しなまったんじゃないか?」
「かもな。学園に戻ったらダンテ先生に指導してもらうか」
「そうしろ。しかし、ヒヨコは仕方ないとしても、PJ。まーた騎竜に助けられたな」
PJは顔を真っ赤にして俯いた。
騎竜士のレベルが低いと騎竜は時々勝手に行動する。
大体は自分自身に危険が迫った時生き延びるために動くのだが騎竜が勝手に動くということは未熟者の証なのだ。
レベルが上がれば例え嵐に突入しようと決して騎竜士の意思に逆らおうとはしない。
中には自我すら捨て、騎竜士に尽くす騎竜も居るほど、騎竜は騎竜士を信頼するものなのだ。
ただし高レベルに限るが。
「騎竜とのコミュニケーションが足らないんじゃないか?もっと世話してやったり、遊んでやった方がいいぞ」
と、ピクシー。
「そうそう、彼女と乳繰り合ってる暇があるんならたまには竜舎に顔出しな」
これはサイファーだ。
「乳繰り合ってなんかいません!!」
PJは先ほどとは違う理由で顔を真っ赤にして叫んだが、サイファーには逆効果だ。
「ほぉー、そりゃNGだな。なんなら色々教えてやろうか?夜のテクニックとか」
「結構です!!」
『……はぁ』
ピクシーとアシェルがほとんど同時に息を吐く。
16 :
7-7:2009/12/26(土) 00:34:50 ID:23hH5WnY
「今日のサイファーは何?」
「多分ソルジャーだな」
アシェルの質問にピクシーが即答する。
サイファーは一日ごとに性格が変わる。
逃げる敵を容赦なく焼き払った次の日に、手負いには興味がないと傷を負った敵を見逃すなんて事がよくある。
サイファーの性格は3つに分けられる。
強さを求める、というか力を振るうのが好きなマーセナリー。
自由に生きる、一番素に近いソルジャー。
仲間と生きる、騎士道精神の塊みたいになるナイト。
この三つだ。これが毎日ランダムで入れ替わる。
ようは毎日ランダムで善、中立、悪が極端に入れ替わるということだ。
「はぁ、ずっとナイトだったら楽なんだけどね」
「それはそれできついぞ。相手を後ろから攻撃するだけでこっちまで攻撃されるからな」
「でも密集してる時にファイガンやビックバムをぶっ放すマーセナリーよりはましでしょ?」
「あれは酷かったな……PJなんか死にかけてたしな」
運悪く、PJはそのとき直撃をくらったのだ。
「結局ソルジャーが一番マシなのかな?」
「マシといえばマシだろう。ただ普通とは遥かにかけ離れたマシだが」
「さっきからなかなか酷い事言ってくれるな、ピクシー?」
いつの間にかサイファーがPJをからかうのをやめていた。
「でも本当の事だろ?」
「まぁな。それはOKだ」
くつくつとサイファーが笑う。
「別に俺はそれを責めようと話しかけたわけじゃないぜ?」
「ならなんだ?」
ピクシーが聞くと再びサイファーが笑った。
「お前ら、気付いてないみたいだな」
「何を?」
「とっくのとうに学園に着いてるぜ?」
「何!!?」
慌てて地上を見たピクシーの目に、学園の青い屋根が映った。
「早く言えよ相棒!」
「くっくっく。さて、それじゃあお先に失礼させてもらうぜ」
「あ、待てコラ!」
「ま、待ってよぅ!!」
一気に高度を下げるサイファーに、それを追うピクシー、なんとか2人について行こうとするアシェル。そして一人置いてかれるPJ。
これが彼らのパーティの日常だった。
全員が騎竜から降りた所でガルム隊は解散した。
アシェルは女友達と共に食堂に、PJは彼女との約束とかですぐに寮へ消えた。
ピクシーは私用があるといって校舎のほうへ走っていった。
サイファーは夜まで特にすることもなかったので、ぶらぶらと校内を歩くことにした。
ちなみに騎竜士のパーティにはパーティ名をつけることが義務付けられている。
これはただの古い風習なのだが、どこのパーティかすぐ分かるため現在でも続けられている。
ぶらぶらと行く当ても無く廊下を歩いていたサイファーは、掲示板に新しく記事が張られているのを見つけた。
特に興味はないが、他にすることも無い。
暇つぶしにと、サイファーはそれを読む。
「ん、ドラゴンオーブ争奪戦の途中経過か。2対2、今のところ引き分けか。まぁ、どっちが勝ってもオリーブとジェラート以外に影響は無いだろうな。
というか、この記事、作ったのはオリーブだな。図書委員の特権こんなところで使うのはあいつぐらいだ。しかもジェラートのクラスに対する敵愾心がよくこめられてる」
やや呆れながら、サイファーは他の記事に目を移した。
「バルタクス校の制服の少女、保健室に運び込まれる、か」
バルタクスは海の向こうの大陸にあるここと同じ冒険者育成学校だ。
ただあまりに遠過ぎるため両校の間に交流は無い。
一人だけこっちから向こうの学校に入りに行った奴も居るとサイファーは聞いていたが、そいつがセレスティナであること以外サイファーは知らない。
その記事にはなぜバルタクスの生徒がここにいるのかという事に対する推測が書かれていたが、サイファーは興味が無いので読まなかった。
他にもめぼしい記事はないかと見ていたが、特に無く、仕方がなくまた校内を歩き始めた。
17 :
7-7:2009/12/26(土) 00:35:52 ID:23hH5WnY
しばらくして、前から校長が歩いてくるのが見えた。
他に歩いている生徒が居なかった為、校長もサイファーを見つけたようだ。
足を止めて、サイファーに声をかけてきた。
「おや、君は確か、サイファー君ですね」
「はい、こんにちわ、校長先生」
いつもの笑顔の校長に、礼儀正しく頭を下げるサイファー。
そうは見えなくともサイファーはエルフである。目上の人に対する礼儀はちゃんとわきまえている。
「こんにちわ。どうしたんですか、こんな所で」
「いえ、空から帰ってきて暇でしたので、散策を」
「ほほ、そうですか。でも校内よりも外を散歩したほうが気持ちいいですよ」
「ええ、確かにそうかもしれませんが、たまには暖かで騒がしい風を感じるのもいいと思いまして」
無論、エルフであるため詩的表現も用いる。ただし相手がエルフの時だけだが。
他の種族に使っても分からないだろうし、サイファー自身何を言ってるか分からなくなるからだ。
「ほ、なるほど。確かに外は冬、凍える静寂より暖かな喧騒ですか。なかなかいい考えです」
校長もそれを用いて返してきた。
「はい、それでは自分は散策に戻りますので」
「ええ、邪魔をしてすいませんでしたね」
「いえ、こちらこそ。校長先生も何か用事がおありでしょうに」
「おお、そうでしたそうでした」
校長は思い出したというようにポンっと手を叩いた。
「ちょっと大事な用事があったんですよ。すいませんね。それでは」
そういって校長は早歩きで去っていった。入れ違えるように、ピクシーが現れた。
「お、ピクシーじゃないか、奇遇だな」
「ん、なんだサイファーか」
ピクシーはサイファーの顔を見ると小さく息を吐いた。
「何だとはひどくないかピクシー」
「パーネ先生を探しているんだ。この前、宿題を出されてな」
「ああ、またか」
そういってサイファーはピクシーの抱えている大きな封筒を見た。
ピクシーは剣の腕や肉弾戦には優れているが、魔法は下手なのだ。
特に聖術はひどく、何度も赤点を取っている。
だからたまにパーネ先生から宿題を出されるのだ。
「職員室にはいなかったのか?」
「いなかった。聖術準備室にもな」
「ふ〜ん、そうか。なら他の先生に預かってもらえばいいじゃないか」
「ん、まぁ先生によるけどなぁ」
「お、ちょうどいいところに」
サイファーは横を通り過ぎようとしていた先生を捕まえた。
「……サイファーにラリーか」
ダンテである。
「ダンテ先生、ピクシーがまた宿題を出されたみたいなんですよ。代わりに預かってやってくれませんか?」
ダンテに対してはサイファーは砕けた話し方をする。
ダンテは騎竜士学科の担任であるため、他の先生よりも近い存在だ。
そのため話し方も自然と砕けたものとなっている。
18 :
7-7:2009/12/26(土) 00:37:21 ID:23hH5WnY
「宿題?」
ダンテはピクシーの方を向いた。
「はい、ダンテ先生になら安心して預けられます」
そういってピクシーは抱えていた封筒をダンテに渡した。
一瞬、ダンテの表情が歪んだが、サイファーはそれを見ていなかった。
「わかった。後で渡しておく」
ダンテはそれを服の内側のポケットにしまい、今度はサイファーの方を向いた。
「所でサイファー、お前、この前休んだ武術の試験、まだやっていなかったな」
サイファーの表情が引きつった。
ピクシーは魔法が苦手だが、その相棒である彼は逆に武術が苦手なのだ。
一応冒険者のためそれなりには強いが、相手が素人ならばの話で、剣士であるピクシーには数段劣る。元アイドルのアシェルにすら劣る。
代わり魔法にかけては同族きっての才能を持っているが。
とにかく、そんなサイファーがすべきことは、今は一つしかない。
「失礼しました!」
そういって、一目散に逃げ出す。その速さ、ダンテが反応しきれない程。
急加速は騎竜に乗っているとき限定の技ではないのだ。
無論、オリジナルの加速呪文を用いてはいるが。
一瞬で最高速まで加速しダッシュ、数秒もしないうちにその姿は曲がり角に消えた。
ダンテはサイファーが消えた角を無言で見つめ、やがて小さく息を吐いた。
「まったく、あいつめ」
「サイファーらしいな。見事な逃げ足だ」
そういってピクシーはダンテを見た。
口では苛立ちげにいったがその顔はかすかに笑っているように見えた。
だがすぐにいつもの表情に戻った。いや、いつもよりもさらに暗い表情だ。
「ダンテ先生……」
ピクシーの表情も堅い。ダンテはゆっくりとピクシーの方を見た。
数秒、二人は無言で向かい合う。
「……お気をつけて」
それだけ言ってピクシーは廊下の向こうに飛び去った。
「……お前もな」
少ししてからダンテはそう呟き、目的の場所に向かって歩きだす。
そこは、今さっき校長が向かった場所でもあった。
ダンテの剣が、チャキン、と小さく音を鳴らした。
――同時刻、グラニータ氷河の西岸に上陸する多くの影があった。
TO THE NEXT MISSON
19 :
7-7:2009/12/26(土) 00:40:03 ID:23hH5WnY
第一話終了です。
クリスマス関係ないので25日は避けました。
クリスマスネタが入っていないのは書き始めが夏だったからです。
……4ヶ月かかりました。
でもしょうがないんです。途中でパソコンが2台もお釈迦になったんです。
……言い訳ですね。本当にすみません。終焉の理とアルマゲドン以外ならなんでも受けます。
しかも時間がかかったわりに内容が……
しかし、なんて動きの遅い手だ。速さが足りない!!
第二話はもっとはやく書きます。
……といって4ヶ月かかったのが第一話。
あの短いプロローグでも一ヶ月。
せめて半分の時間で書けるようにがんばります。
あと、おそらくエロは第4話以降になります。すみません。
それでは
体が 動かない……
獣臭いドワ子とか最高すぎる
スパッツに顔を埋めて思い切り深呼吸したい
21 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/02(土) 22:13:53 ID:gWnLbwvw
あけましておめでとう保守
22 :
ライト:2010/01/06(水) 16:34:12 ID:9pIxdO4a
あのー・・・
23 :
ライト:2010/01/06(水) 16:36:50 ID:9pIxdO4a
↑ミスです。
始めまして、ライトです。
俺のパーティですがヒューマン♂(普通)、フェルパー♂(戦士)、ヒューマン♂(剣士)
ヒューマン♀(普通)、クラッズ♀(レンジャー)、フェアリー♀(魔法使い)でエロパロを作っていいですか?
ヒューマンが3人もいますが・・・。「2」の方ですが
自分のパーティで作っちゃダメとか言ったら職人の大半消えるだろこのスレはw
25 :
ライト:2010/01/06(水) 16:42:49 ID:9pIxdO4a
じゃあいいって事ですか?
26 :
ライト:2010/01/06(水) 17:36:42 ID:9pIxdO4a
重い展開にするのは苦手なので比較的軽いストーリーにしたいと思います
OK、作品が多いことはいいことです。
28 :
ライン:2010/01/08(金) 17:11:33 ID:nc8nYzT0
以前まで書き込めなかったのですが
29 :
ライン:2010/01/08(金) 17:12:29 ID:nc8nYzT0
自分の本当の名前はラインです。
無駄にログを使ってすいません・・・。
現在ワード2007で作成中です
「バカかお前は?なんでそこまで行ってヤっちゃわなかったんだよ?ノーム」
鍊金術科棟から学生食堂へ至る渡り廊下。ノームがクラスメイトに頭を小突かれながら
歩いている。
「..いや、その..予想外の展開で”オプションパーツ”の準備してなくて..」
「Oh my God!!クリスマスだぞ?男と女がペアになったら何が起こるかわからない
ラグナロクな夜にお前は一体何を考えて..」
そういってノームの頭をヘッドロックで固め、容赦なくナックルを叩き込むクラス
メイト。
「痛い痛い痛い!!..だってあれ付けて動き回ると擦れて痛いんだよ」
そう言い訳するノームに向かって、彼は
「ばーか!!この根性無し!!俺なんか相手もいないのに常時装着臨戦態勢だぞ。見ろ!!」
下半身を突き出し、ノームの目の前で制服のズボン越しに股間の”オプションパーツ”を
ひくつかせて見せた。
「俺に一言言ってくれれば、こいつ貸してやっても良かったのに」
「..いや、さすがにそれは遠慮する。それにタイミングもホントギリギリだったし。
わざわざ借りに行ってたら今頃彼女はこの世にいないよ」
クラスメイトの下品さに顔をしかめながら、ノームは食堂へ入る曲がり角を曲がって
いった。
「信じらんない!!そこまで行ってなんにも無かっただなんて!!」
剣士科棟から学生食堂へ至る渡り廊下。フェルパーが「頭大丈夫?」と言わんばかりの
あきれ顔をするクラスメイトと一緒に歩いている。
「..いや、その..まさか追いかけて来てくれるとは思ってなくて..」
「Oh my God!!クリスマスよ?女と男がペアになったら何が起こるかわからない
ラグナロクな夜にあなたは一体何を考えて..」
そう言ってフェルパーの背後から手を回し、胸を揉みしだくクラスメイト。
「いやんいやんいやん..それに死ぬつもりで舞台衣装一つで飛び出しちゃったから、
いざ生きようと思い直したら寒くて寒くて..」
そう言い訳するフェルパーに向かって、彼女は
「ばーか!!この根性無し!!私なんか相手もいないのに来るべき時に備えて毎年元旦の
滝行に参加してるのよ?見て!!」
制服の上を脱ぎ捨て、上半身ブラジャー一丁の姿でヘラクレスのポーズをとってみせた。
「そんなこと言うなら今年は引きずってでも滝行に連れて行く!!」
「..いや、さすがにそれは遠慮するわ。というか、毎年そんな煩悩丸出しで滝に打たれて
たわけ?」
クラスメイトの下品さに顔をしかめながら、フェルパーは食堂へ曲がる曲がり角を
曲がって行った。
「「あ!!」」
食堂の入り口でばったり鉢合わせするノームとフェルパー。瞬時に真っ赤になって
炎上する二人。
「お、お、お食事ですか?」
クラスメイトに脇腹を肘で小突かれたフェルパーが尋ねる。
「..え?あ、まあ、それと舞台の撤収に..」
クラスメイトに後頭部を平手ではたかれたノームが答える。
「「..よろしかったら、ご一緒..」」
と、同時に言いかけて、また真っ赤になって俯いてしまう二人。その後ろでは二人の
クラスメイトが頭を抱えている。
(( 全 く お 似 合 い だ よ 、 お 前 さ ん 達 ))
一時間後
「あーあ、幸せ一杯じゃないの。あんなにしっぽ、ビンビンに立てちゃって」
フェルパーのクラスメイトがぽつりとつぶやく。その視線の先ではノームとフェルパーが
仲良く向かい合って折り畳み机を運んでいる。
「それにしても、もっと上手く行くと思ったんだがなあ。こういうのも”恋は思案の外”
っていうんだろうか?」
そう言って、ノームのクラスメイトが頭を掻く。
「策士が策に溺れたわね。直前にマジックのタネ抜いて剣を刺させるなんてやり過ぎ
なのよ。どうするの?あの二人だったら本当に一年間我慢しちゃうわよ?」
「来年のクリスマスに募り募った一年分の熱い想いをぶつけ合ってもらうしか無いだろうな。
くぁー !!それまでサポートしてやんなきゃならないのか。めんどくさいな」
そう言いつつもどこか楽しそうなノームのクラスメイト。テーブルに片手で頬杖をつき、
細めた横目でその顔を眺めていたフェルパーのクラスメイトが、ぽつりと言った。
「ねえ、めんどくさいついでに、私たちも付き合っちゃわない?」
..というのを12/25に投下しようと思ったら規制されてました..orz。
32 :
ライン:2010/01/09(土) 16:41:13 ID:WEN+1aS6
「あぶないパンツ」ネタにしようかな
>>32 職人ならもうちょっとストイックな気質を持とうや
何か一本書き終えるまでは書き込みを控えるくらいの姿勢で頼むよ
「う〜ん…」
「ん?どうした?ヒュム男」
悩んでいる戦士ヒュム男に精霊使いエル男が話しかける。
本来、ヒューマンとエルフはバハムーン程ではないにしろ、相性は少々悪い。
「エル男か…いや〜、どうしようか迷っててな」
「迷ってる?いつも迷わない君が珍しいな…何を迷ってるんだ?」
「俺と同期のフェア子と同期だけど学校がブルスケッタのフェア子、どっちにしようかと迷っててな〜」
ちなみに、ヒュム男の同期のフェア子はレンジャーで、ブルスケッタのフェア子は賢者である。
「…それって、つまり恋かい?」
「そうだけど?」
ヒュム男が言った事にエル男は質問したが、ヒュム男はあっさりと答えた。
「そうか…それなら僕から言える事はただひとつだけだ」
「お?そりゃなんだ?」
エル男に対してヒュム男は期待するような感じでいる。しかし…
「とりあえず…滅びろ!ビックバム!!」
「ええっ!?なんでーーーっ!?」
エル男が放ったビックバムがヒュム男は避け切れず直撃してしまう。
煙が巻いた後にはヒュム男らしき物体があるだけだった。
「贅沢だ…君の悩みは贅沢なんだよ…僕は…僕はまだ…1人の女性をも導けてないというのに…」
彼は写真を見ながら嘆くように言っていた。移っていたのはガンナーのヒューマンの女の子であった。
>>31 つまり今年のクリスマスは二人の募り募った熱い思いを
ぶつけあう姿が見られるのですねわかります
>>31 来年のクリスマスまで耐えられるかな?
案外夏休みの肝試しであれ、いまなにか光ったような。
>>34 お前ならイけるさ!エル男!
さぁ、エルフの一族に伝わるエロフの秘薬を使ってヒュム子を導くんだ!!
あれ、また空が光っ――
37 :
ライン:2010/01/12(火) 16:58:54 ID:hBk+G8b1
いきなりビッグバム…エル男容赦無い(汗)
ところでいまでもととモノ1ネタはOKなのかい?
もちろんOKで大歓迎だろ。
とんでもない矛盾が無い限りクロスオーバーも許す。
41 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 01:03:09 ID:9za6XfCd
一月は書き手の人は忙しいのかな。保守
42 :
ww:2010/01/24(日) 01:04:33 ID:hAaEKtHZ
>>34の者です。
予告:女アイドルの中で誰が1番可愛いかヒュム次とフェル男とクラ男
で話し合います。エル男も一応登場しますが興味ない様子。
…という感じです、時間かかるかもしれない。
44 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/25(月) 23:18:23 ID:XAwc/Oft
OK、わかった
けど予告はこれくらいにしとけ
ネタを先に言うのはデメリットも多いから。
大丈夫、このスレにはいつでも待っているROMの人がいる。
多少遅くなったぐらいでも読んでくれるさ。
……ただし半年経つとさすがにアウトだからな。
上に失敗例がいるから教訓にしなよ。
45 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/26(火) 23:39:32 ID:frlgg8D1
よし!勇気持って俺もかいてみます。多分半年はかからなそうなので。
だから書いてみますとか○○書くとかいちいち報告せずに、書き上がってからスレに書き込めと
47 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 00:03:43 ID:4ZIF8YhJ
<<45が書きますよ。
ディア男xセレス子
・・俺はこのクロスティーニ学園に来る前、ってか直前には、
「いいパーティに入って彼女作って最高の学園ライフを過ごしてやるっ!」
と思っていた俺がいた。
でも、そううまくいけるわけがない。
そりゃ、
48 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 00:05:30 ID:frlgg8D1
<<45が書きますよ。
ディア男xセレス子
・・俺はこのクロスティーニ学園に来る前、ってか直前には、
「いいパーティに入って彼女作って最高の学園ライフを過ごしてやるっ!」
と思っていた俺がいた。
でも、そううまくいけるわけがない。
そりゃ、
49 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 00:10:45 ID:4ZIF8YhJ
しまったとぎれてしまったナンテコッタイ
次から続きかきます
50 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 01:01:35 ID:4ZIF8YhJ
おれはディアボロスで人が寄りつかないことは自分がよく知っていた。とはいえ、そのうち声がかかるだろうと思い一人だけで冒険に行って帰ったら食堂へ行き、食べ終わったらとっとと寝る。
気がついたら他のやつはすでにパーティを組んででかけていたので、入れてと言っても満員なのでもう遅い。
俺は一人、残り物になってしまったのだった。
だが、この生活も無駄になった訳ではないのだ。
他の奴がパーティを組んでいた間、一人、敵を倒しつづけたのだ、レベルが低い訳がない、基本的な魔法や忍者用のスキル、暗殺を覚えて装備も充実したので声がかかってもおかしく無いと思っていた。
そんなある日食堂にて・・・
「隣の席いいか?」
こえがしたほうを向くと・そこにはバハムーンの男がいた。
「え?あ・・どぞ」
いきなりだったもので思考が遅れてしまう。
でそいつはすぐとなりに座り、
「いきなりだがおまえってまだフリーか?」
「え?」
「まだパーティにはいっていないのか?」
「そうだけど・・・」
「よし・俺のパーティ来ないか?」
キターーーーッ
この嬉しさを心に押し込みながら
「いいけど」
とフツーに答えてみる。でも内心ウレシーすんごく。
「よし!すぐ来い
51 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 01:02:11 ID:4ZIF8YhJ
しまったとぎれてしまったナンテコッタイ
次から続きかきます
とりあえず落ち着いてメモ帳に一度書くべきだな。
それからコピー&貼り付けを利用すれば切れることはないぞ。
あと、途中で切れても動じずもう一度書き直すんだ。
謝るのはあとがきにするとスムーズに読めて読み手からしても楽だし、書き手も何度も謝らずにすむ。
しっかりと最後まで書けば次の力になる。
諦めずにがんばれ、楽しみにしてる。
意外にもNPCキャラの作品て少ないんだな
毎回会えるわけじゃないからキャラ掴みにくいんだと思う。
先生やメインの6人はともかくとして。
翼が折れてるセレスティナの名前、覚えてるかい?
おれは忘れた。
アスティの名を忘れるとは良い度胸だ
オリーブがグロテスクワームの苗床になるSSは絶対誰か書くと思ってたのに未だに見ない
57 :
ライン:2010/02/01(月) 16:55:40 ID:3+Nz+f7j
キャラが死ぬたびに何度も思うけど
あんな可愛らしいキャラが灰になったり首狩りされたりって…慣れんなぁ
>>57そんなハートフルボッコ感がととモノの魅力なんじゃないかな
各々書き手さんによってキャラの口調が違うのが良い意味でおもしろい
大抵セレスティアは敬語だが
でも丁寧語だったり「〜でしてよ」みたいな言い方だったり、やっぱり微妙に差があるよな
個人的に「〜〜でしてよ」系の喋り方はエルフっぽいと思ったり
暴力的なツンデレ嫌いな自分としてはフランは良かったな
ただ一人称が残念だった…アタシならよかったのに
63 :
ライン:2010/02/02(火) 16:43:44 ID:bfkrutc1
ノームって機械的で冷静な種族だと思ってたけどリモンと会って一気にそのイメージが崩れた件
64 :
恵方巻:2010/02/02(火) 21:59:09 ID:52+nR2oP
「あ、エルフ君..」
「やあ、セレスティア。どうしたんだい?」
「あの..今日は何の日か、知ってる?」
「ん?節分..だったっけ?」
「そう。それでね、私の田舎では節分に”恵方巻”っていう習慣があるの」
「“恵方巻”?」
「うん..節分にね、縁起の良い方角を向いて大きな太巻を食べると、
その年はいい事があるんだって」
「太巻..って何?」
「ええとね、ご飯の中にお刺身や玉子やかんぴょうを入れて、海苔という
黒い皮で太い筒状に巻いた食べ物なの」
「へぇ、面白そうだね」
「..実は今日作って来たの..あなたに食べてもらいたくて..」
「本当?嬉しいなあ。どれどれ..あ、これは美味しそうだ」
「で、こっちの方角を向いて、一気に食べてね。ゆっくりでいいから..」
「一気にか..これだけ太いと大変だなwではいただきまー..あ?そういえば
一本しか無いね?セレスティアの分は?」
「わ、わ、私は、お、お夜食でいただきますから..」
そう言って真っ赤になって俯きつつ、その手をエルフの太ももから股間へと
滑らせるセレスティア..
恵方巻
節分の日にその年の無病息災を願って、太巻という黒い皮で包まれた
筒状の食べ物を縁起の良い方角に向かいながら一気に食べる、
セレスティアの出身地に伝わる伝統的な風習..らしい。
66 :
普段はROM専門@誰かニックネーム付けてください:2010/02/07(日) 01:12:55 ID:6xUjITiZ
テスト
今晩は。
普段はROM専です。
過っ疎過疎なのできました。
キャラクターはオリジナルかつ自己パ。
エロ?
まぁどうぞ。
ここはクロスティーニ学園からさほど離れていない所にある、初めの森。
冒険者を目指す若者が最初に訪れる森であり、此処で戦いに慣れない自分を鍛え、仲間との信頼を築く。
これは冒険者の避けては通れない最初の一歩であり、熟練の冒険者達の思い出として刻まれる。
そしてまた、初めの森は新たな冒険者達を生み出そうとしていた――
「うわー、うわー!」
声の主であるフェアリーは毒針ネズミ三匹を相手に、叫びながら逃げ惑っていた。
「えーい!落ち着けフェアリー!」
そう言い放ち、ヒューマンは持っているダガーを大きく振りかぶり毒針ネズミを豪快に切り裂く。
その途端残った毒針ネズミはヒューマンへと目標を変え、襲い掛かる。
だがそのうちの一匹はヒューマンへ攻撃が届くことなく、炎に包まれた。
「まったく、これだから……。あれ程わたくしは『一人で先に行くな』、と忠告したはずですわよ?」
ファイアを放ったエルフはフェアリーに淡々と愚痴を並べる。
「ご、ごめん。少し好奇心が……」
「おい、ちょっと俺の方を見てくんねぇかな?」
毒針ネズミの攻撃をダガーで止めつつ、フェアリーの言葉を遮る。
攻撃を防いでいるのがダガーだけに、今にも毒針ネズミの牙が手に食い込みそうになっている。
「待ってて、今助けるから!ファイ……」
「や、やぁ!」
フェアリーがファイアを唱えようとした時後ろの方で見ていたセレスティアが、持っていたマイクで毒針ネズミを強打した。
強打された衝撃でよろけた毒針ネズミを、ヒューマンが一気にダガーで切り裂く。そしてそのまま振り向き、セレスティアに笑顔を向ける。
「ありがとう、セレスティア。マイクも意外と鈍器になるんだな」
「そ、そうですね」
ヒューマンは冗談混じりに言ったのだが、セレスティアは緊張してか真面目に答える。
「そんなに真面目だと、この先持たないヨー?ほーら、笑顔笑顔」
いきなりかえるの人形を目の前に出され、少し驚くセレスティア。だが少し緊張が解れたように息を吐き、微笑みを浮かべる。
「少し驚きましたけどありがとうございます、クラッズさん。」
「ヒヒヒ、緊張が解れて良かったネー。小生はまだ緊張気味だけどネー」
先程クラッズが言ったように緊張気味なのか、ニヤリとひきつった顔で笑いを浮かべ、セレスティアへと顔を向ける。
その時、フェアリーが何かに気づいたように辺りを見渡す。
「ん、どうした?」
挙動不審になっているフェアリーに流石にヒューマンが気付き、声をかける。
「いや、ね、彼女……。フェルパーがいなくなってるなって……」
ガサッ。
フェアリーがそう口にした途端、近くにあった木から飛び降りてきて――そして謝った。
「ご、ごめんなさい!ゴメンナサイ!僕、どうしたら良いか分からなくって!本当にごめんなさい!」
謝り倒すフェルパー。大丈夫、と宥めるヒューマン。しまいにはフェルパーが泣き出し始め、クラッズとセレスティアを巻き込んでの騒動になった。
やれやれ、と言った表情でエルフはフェアリーに耳打ちする。
「なんであんな――人見知りのフェルパーなんか連れて来たんですの?どうせならノームの方が……」
フェアリーはエルフにされたように耳打ちを返す。
「ど、どうせなら強い子……ノームよりフェルパーの方が良いでしょ?」
「……はーっ。仮にも貴方がリーダー。わたくしには拒否権はありませんものね」
「ご、ごめん」
そう言い終わると、ヒューマン達が半ベソのフェルパーを連れて戻ってきた。
「どうしたノー?二人で話なんかしテ……もしかして、もうそういう関係なのかナー?」
ヒヒヒッ、と笑って二人を茶化すクラッズ。
これに対しエルフが憤怒していたが、フェアリーは俯いていた。
(い、言えない……)
実はノームを探していたこと。
学園内で道に迷っていたフェルパーのこと。
道を教えてあげたら、俯きながらフェルパーがついて来たこと。
――で、仕方なく彼女の了承も得ずに皆に紹介したこと。
(皆に、言えないよなぁ……特にエルフには)
そんなことを考えながら俯いていたら、セレスティアが声をかけてきた。
「どうしました?具合が悪いのですか?」
顔を覗き込みながら聞いてくるセレスティアに、フェアリーは
「いや、大丈夫だよ」
と答えるしかなかった。
このパーティーは、リーダーのフェアリーが魔法使い学科、副リーダーのヒューマンが侍学科、クラッズが人形使い学科、エルフが魔法使い学科、セレスティアがアイドル学科、そしてフェルパーが戦士学科。
バランスは悪くないが連携が取れない、いわば戦い慣れしていないパーティーだった。
初めの森から帰還し、それぞれの荷物を置きに寮へ戻り、反省会をリーダーであるフェアリーの部屋で開いた。
「えー、では反省会を始めます」
フェアリーの締まりの無い声で始まった反省会だった。
「まず始めに副リーダーであるヒューマンからお願いします」
「はい、初めの森ではうまく連携が取れずにいたので、次に初めの森に繰り出す時は陣形を決め、連携に繋げられるよう心掛けたいです」
「はい、次は……」
このような調子で始まった反省会だったが、ヒューマン、エルフ、セレスティア、クラッズまでは何事もなかった。
だが、フェルパーの順になり、言葉が途切れた。
「えーと……あの、その……敵との遭遇時には、その……」
そこまで、話すとエルフが突然立ち上がり叫んだ。
「あーっ、もう!間怠っこしいですわ!フェアリー、なんとかなりませんの!?」
「え、ーっと?」
フェアリーは何がなんだか分からない、と言った顔をしエルフを見る。
するとエルフはまた苛々とした顔をし、怒りの矛先をフェアリーへと向ける。
「貴方が、そのフェルパーを、連れて来たんですわよ!?貴方がなんとかして頂戴!」
そこまで言うと、エルフは部屋の扉を勢いよく開き出て行ってしまった。
「……副リーダーの権限で今回の反省会を解散する。いいな、フェアリー?」
「……自分は、構わないよ」
「では……これをもって反省会を解散する。それぞれの部屋に戻ってくれ」
その発言を境に、それぞれが自分の寮へと戻っていく。
……ヒューマン以外は。
「フェアリーとフェルパーはよく話し合ってくれ」
ヒューマンは立ち上がり、扉へと歩きだす。
フェアリーの隣で歩みを止め、小さく
「そこからどうするかは、リーダーしだいさ」
そう耳打ちする。
その言葉を最後に、ヒューマンも自分の寮へ戻ってしまった。
「にゃ……」
フェルパーが申し訳なさそうに小さく呟く。
「ごめん……なさい、僕、人見知りな上に臆病だから、だから僕このパーティーには」
「勝手に入れたのは自分。それにまだ初日、皆慣れないのは当たり前さ」
フェルパーの発言を遮り、フェアリーが淡々と話し始める。
「それに、リーダーの権限!皆の了承も得なきゃならないし、何より初日。もう少し頑張って欲しい。……君から選んでくれたし、さ」
フェアリーは鼻を擦り、微笑みながら「臭かったかな?」とフェルパーに言う。
フェルパーはというと、伏せていた耳を戻し、尻尾の先をピクピクと動かしながら
「全然、臭い台詞じゃないよ!」
叫んでしまった。
顔が赤く染まっていくのが自分でも分かったが、どうにも止まらない。
「言ってることは正しいし、何より……」
そこで言葉が詰まった。
(そんな小さな優しさに惚れたなんて……言えない!)
「にゃー!」
再度、叫んでしまった。
道に迷った時、人見知り故に誰にも話かけれなかった。
そんな時に向こうから「どうしたの?」と話掛けてくれた。
こちらが言葉を出さずに地図で説明すると、優しく丁寧に道を教えてくれた。
そんな小さな親切に、種族は同じフェルパーではなくても惚れてしまったのである。
「ど、どうし」
「フーッ!」
興奮状態のフェルパーは咄嗟にフェアリーに飛び掛かり、口を塞いだ。
……自分の口で。
フェアリーは唇を奪われたこともあってだが、混乱していた。
だが、一つ言えることができた。それは……
(あぁ……興奮してる猫の喧嘩を止めるのが危険という意味、少し分かった……)
そのままバランスを崩したフェアリーはベッドの足に後頭部を強打する。
フェルパーはそんなことはお構い無しにフェアリーの唇を貪る。
舌を一方的にフェアリーの舌と絡ませ、濃厚なディープキスを味わった所で少し理性を取り戻す。
(これって……強姦なのかなぁ……)
冷静になり、フェアリーの上から離れる。
フェアリーはようやく解放されたといった感じに起き上がり、ぶつけた後頭部をさする。
「だ、大丈夫?」
「自分は、大丈夫……それより落ち着いた?」
フェルパーはこくんと頷く。
どうやら冷静になったと同時に恥ずかしくもなったらしく、顔を赤くしていた。
「じゃあ……ベッドの上で、続き、ね?」
恥ずかしくなったのはフェアリーも一緒だったようで、ほのかに顔が赤く染まっていた。
二人はベッドへと移動すると、どちらから言い出したでもなく軽くキスを交わす。
最初は軽いキスだったが、時間が経つに連れ先程の様なディープキスになっていた。
しかし、さっきと違うのはフェアリーもフェルパーの舌へと自分の舌を絡めていたことだった。
最初はフェルパーの舌のざらざらに動きこそ止めたものの、だんだん積極的に舌を重ね、絡めるようにフェルパーを味わった。
やがて胸に手が伸びた時――突然扉が開いた。
「あー、やっぱりあったネー。心配したヨー」
入ってきた主はクラッズ。
どうやら人形を忘れたようで、こうして取りに来たようだ。
急いでフェアリーとフェルパーは唇を離し、何事もなかったようにする。
「あれ、今頃お楽しみだと思ったんだけどナー」
クラッズはがっかりしたと言いたげに人形を拾い上げる。
「クラッズ、計ったな……」
「ンー、何?小生は何も知らないナー」
クラッズがそう言った時に不意に扉の向こうから声が聞こえた。
「おい、クラッズ……!余計な詮索はしない約束だったろ……!」
「ヒューマン……」
声を押し殺しているが、誰かはわかる声量だった。
どうやらヒューマンはずっと部屋の外で待っていた……もとい、聞き耳を立てていたらしい。
そこで人形を取りに来たクラッズと会い、余計な詮索はしないという約束で突入させたとのことだった。
「いや、話し合いで何か現状解決してくれるかと思ったら、まさか……ねぇ?」
「エッチなのはいけないと思うネー」
「いや、だから自分は……」
(は、恥ずかしい……)
結局一晩中四人で話し合うことになり、フェルパーはフェアリーの事が好きなことと理由、フェアリーはフェルパーに対する最初の気持ちがばれてしまった。
フェルパーはフェアリーの本当の気持ちを知った為、最初こそうなだれていたものの、「今はノームじゃなく、フェルパーを選んで良かった」と言ったことで機嫌を持ち直したのは言うまでもない。
翌日、食事をとる為に食堂へ向かうと既に皆が待っていた。
「皆、どうしたの……?」
「食事を取りに来ただけですわ」
そう言い、優雅にパフェを食べるエルフ。
「何言ってんだよ。お前が言い出しっぺだろ、フェアリーを待とうって。コイツ、フェアリーが遅いからってパフェを三つも……」
「そろそろ、その口を閉じなさい!」
食べていたパフェをヒューマンの顔にぶつける。
「目がぁぁ!」
「……で、昨日の話し合いで何か決まりましたの?」
ヒューマンのことなど気にもとめず、フェアリーへと質問を投げかける。
フェアリーは昨日の一部始終をエルフに話した。
「という訳で、エルフがフェルパーの事を嫌いなのは分かってるけど、フェルパーはもうパーティーの一員だ。抜けさせないよ」
そこまで言うと、エルフが意外そうな顔をしながらフェアリーを見た。
「私情を挟むのは構いませんけど、わたくしは別にフェルパーの事は嫌いではありませんわよ?」
「へ?」
思わず素っ頓狂な声を上げるフェアリーにエルフは続ける。
「わたくしは別に戦闘に参加しないならいらないだけであって、連携云々、強さ云々はこれから磨いて行けば良いだけですわ」
そこまで言うと突然エルフは目を閉じ顔を横へ向ける。
「戦闘に参加しないんでしたら……友情云々も築いて行けませんものね」
そして後ろを向いてしまう。
「エルフはツンデレだな。顔が赤いぞ?」
「うっ、五月蝿いですわ!」
エルフは茶化すヒューマンを杖で殴る。
直撃を受けたヒューマンもさすがに椅子に座ったまま気絶する。
「ほ、ほらっ!今日も初めの森に行きますわよっ!」
ヒューマンを引きずって歩くエルフをフェアリーとフェルパーは笑いながら見送った。
初めの森。
冒険者を目指す若者が最初に訪れる森であり、此処で戦いに慣れない自分を鍛え、仲間との信頼を築く。
これは冒険者の避けては通れない最初の一歩であり、熟練の冒険者達の思い出として刻まれる。
このぎこちないパーティーもやがてこの場所が『思い出』に変わるだろう。
やがて、学園で伝説と言われるほどに強く、絆が深いパーティーなることを、まだこの時の彼等は知らない――
どうも、普段はROM専です。
今回は自分の処女作であり、お目汚し申し訳ございません。
一人称考えるのに小一時間、名前は付けるか小一時間かかりました。
結局、名前は付けずに終わりましたが、その方が愛着が沸きやすいですかね?
今回は一週間書くのに費やしましたが、次はもっと早く書きたいです。
続きを書くかは不明、続きでエロがあるかは不明ですが、また現れた時に親しみやすいニックネームが付くことを楽しみにします。
では……
普段はROM専は逃げ出した!
アウチ!やってしまった……
>>68-73の作品タイトルは【未来の思い出と『絆』】で1/6〜6/6まであります。
では今度こそ……
普段はROM専は逃げ出した!
GJ先生ー。エロい続きも期待してるw
名前はあった方が愛着はわくけど、
ない方が名前を説明する手間がないというか。まあ一長一短だよな。
77 :
二番煎じ:2010/02/07(日) 23:00:58 ID:6xUjITiZ
どうも、元普段はROM専です。
前話の小ネタと名前を引っ提げてきました。
名前は
フェアリー→ラファ
フェルパー→カレン
ヒューマン→ラグナ
エルフ→レミア
クラッズ→ノイル
セレスティア→セレーネ
です。
モロ自己パの名前です。フェアリーだけ偽名です。実名プレイなので……
エロ無しです。
どうぞ。
あれから一週間過ぎた。
まだ少しぎこちないものの、パーティーとしての連携も取れ始めて来ていた。
「ふぅ、疲れたネー。そろそろ寮に戻ろうカー?」
「そうだな。女子は女子で、話しが弾んでるみたいだしな……。おーい、一旦戻るぞー!」
ラグナの叫ぶ声に気付いた様に、少し遠くの木陰でレミアが手を振る。
その隣にはカレンがいた。
「一旦戻るとラグナが言っていましたわ。わたくし達もあちらへ戻りましょうか」
「うん、分かった!」
どうやら二人は仲良くやれているようで、時々、主にカレンのラファに対する相談をレミアにしているようだ。
「で、貴女達は最初の口づけ以来、関係を持っていない訳ね」
「う、うん……」
カレンは今まさにラファの相談をレミアにしていた。
レミアははぁーっと溜息をつき、カレンにダメだしをする。
「駄目ですわよ?貴女は女性としての美しさはあるのですから、積極的にいかなくては……」
「そうだヨー、胸だってこんなに大きいんだかラー」
「う、うにゃあ!?」
いつの間にか後ろにいたノイルに胸をわしづかみにされ、悲鳴にも似た声をあげる。
「フムフム……一般女性の平均値を越えてるネー、このパーティーでは一番大きいんじゃないノー?」
「へぇ……では私は『このパーティー』では、どの位置なのかしら?」
「一般女性よりも小さい位だかラー、このパーティーでは一番小さ」
「このっ……ムッツリスケベ!」
怒り浸透のレミアに気付かずにノイルは素で答え、そしてスタッフでの一撃を受ける。
パーティー二日目にラグナに炸裂した一撃とは、威力もキレも比べ物にならなかった。
ノイルは薄れゆく意識の中で、強くなったネー……、と呟いた。
「どうしました?ラファさんもラグナさんも行ってしまわれますよ?」
三人が遅いため、様子を見に来たセレーネにレミアは
「大丈夫、モンスターをやっつけただけですわ」
と、ノイルを引きずりながら答えた。
いつもの日課になりつつある『反省会』を行うため、皆はラファの寮へと集まった。
ラグナが扉をノックし、それに合わせてラファが「入って来てー」と締まりのない声で受け答える。
ラグナが先に扉をくぐり、残りの四人が入って来る。
皆で円を描くように座り、ようやく反省会が始まる。
「では、反省会を――と言いたいけど……そろそろ反省会を開くのはやめにしない?」
開口一番がこれだったので、流石のラグナも開いた口が塞がっていない。
「お、おい、それどういう」
「だって、もう一週間だよ?」
どうやら始めから一週間、というのは決めていたらしい。
始めこそラグナは渋っていたが、反省会を開かない事で落ち着いた。
「まぁ……リーダーが決めたことだもんな、俺に異論はない。」
「ごめんね、勝手に一人で決めちゃって。だけど、皆を見てみて意思の疎通はできてたから」
敵との遭遇時に不測の事態に陥った時、それぞれが最良の行動、連携をとっていたのを見て、下した決断だった。
「それに最初から、どの敵が現れたらどう動くとか決めるのだって、窮屈でしょ?」
皆はお互いの顔を見合わせ、そして皆一致で頷いた。
「そんな決められた行動は嫌だ。それに自分達はパーティーであり個人、それを自分は大切にしたい。」
ラファは照れた様に鼻を擦る。
「じゃあ、これにて『話し合い』は終わり!皆、自分の寮に戻っても良いよー」
今日はこの発言とともに皆が自分の寮へと戻っていく。
ラファは独り、ボソリと
「これで、良いよね……」
と、呟いた。
カレンはと言うと、レミアの寮へと来ていた。
「リーダーは、普段ヘタレなのに言うときは言うんですわね……」
「うん……惚れ直しちゃった、僕」
先程の事をレミアと語り合っていたようだった。
ふと、レミアはカレンに問い掛ける。
「貴女は、リーダーの……ラファの、どこが良いんですの?」
カレンはというと、目を丸くしてレミアをみたあと、ふっと笑い、語りはじめる。
「普段は頼りなさそうだけど、誰にでも親切で、優しいところかな……。あ、これじゃあ最初に惚れた理由か」
あと、決めるときに決める所かな?と付け足し、ほんわかとした顔を浮かべる。
するとレミアは部屋の天井を見つめ、ポツリと呟く。
「何となく、惚れた理由もわかりますわ」
「え、なんて?」
よく聞こえなかった――そういいたげなカレンにレミアは叫ぶ。
「何でもないですわ!ほら、自分の寮に戻りなさい!」
そう言い、カレンを扉の外へと押し出す。
カレンはうにゃあ、と言うと扉を閉められてしまった。
ガチャリという音からして、鍵をかけられたのだろう、カレンはわからない、といった表情で自分の寮へと歩きだす。
「他の人が好きな殿方を好きになるなんて駄目ね、わたくしも……」
レミアは、誰も居なくなった部屋でポツリと呟いた。
81 :
二番煎じ:2010/02/07(日) 23:10:58 ID:6xUjITiZ
どうも、現二番煎じです。
前作の感覚が短くても、名前のテスト的投稿です。
前作に名前を合わせて、名前有、名前無のどちらが良いか決めて欲しいです……
それと前作、ヒューマンことラグナさんは侍学科ではなく剣士学科です、申し訳ございません。
ではまた。
二番煎じは逃げ出した!
無しの方がいいかな
つかフェアリー♂だったのね
でフェルパーが♀なのね
じゃあ男はヒューマン、フェアリーだけ?
クラッズもかな。
フェア男ってこのスレではまったくといって良いほど出番ないから、是非とも頑張ってほしいw
84 :
二番煎じ:2010/02/15(月) 03:08:11 ID:fTKEUJaS
どうも、二番煎じです。
今回はバレンタインでの小ネタを引っ提げて来ました。
このパーティーは最初は一回ポッキリの予定でしたので、小ネタでしかでないかも……
ではお話をどうぞ。
初めの森から帰還し、夜遅すぎるため食堂が閉まっていたために皆でフェアリーの寮に集まり晩御飯……もとい夜食を食べていた。
「ヤー、今日も疲れたネー」
「魔法壁しか使ってなかったじゃありませんの?」
「魔法壁も意外と疲れるヨー?」
そのような会話をしながら、冒険中に手に入れた食料を皆で思い思いに手にとっては頬張っていく。
そんなとき、セレスティアが口を開いた。
「そういえば、バレンタインデーだったんですね……」
「ん?あぁ、そういえばそうだな……。だけどもう過ぎてるぞ?」
ヒューマンが時計を見ながら話す。
「あーあ、今年もゼロか……」
「しょうがないよ、自分達は朝から初めの森にいたんだから……」
「うにゅう……ねぇ、『ばれんたいんでー』って何?」
フェルパーのびっくり発言に落ち込んでいたヒューマンとフェアリーが光の速さでフェルパーを見る。
「フェルパー、バレンタインを知らないのか?」
「うん、僕は初めて聞いた。……あれ?どうして皆でこっちを見てるの?」
フェルパー以外の皆がフェルパーの方へと視線を集中させていた。
ある者は信じられない、またある者は天然記念物でも見るような目でフェルパーを見ていた。
そこで、再度セレスティアが口を開く。
「フェルパーさん、バレンタインというものはですね、女性が好きな男性にチョコレートを渡す習わしですよ?」
最近は逆チョコ、友チョコというものも流行っていると続けるセレスティア。
しかし、フェルパーの耳には届いていないようで顔を赤くしながら慌てている。
そんなフェルパーを横目にエルフはポツリと呟く。
「わたくしは、用意はしていましたけど……過ぎてしまいましたものね」
「朝がくるまではその日だぞ、エルフ!」
「なんですの、そのいい加減な言い分は!」
ヒューマンにツッコミをいれるエルフ。
やがて目を閉じ、溜息をついた後にヒューマンにチョコを差し出す。
「はい、チョコですわ。言っておきますけど、仲間としての義理チョコですわよ?」
「エー、一人にあげるノー?」
「う、五月蝿いですわね!ニヤニヤしないで下さる!?」
怒るエルフだが、クラッズが笑いを止めないため諦めた顔になる。
「これは、フェアリーの分ですわ。ヒューマンと同じで仲間としての義理チョコですから、勘違いしないで下さる?」
チョコを渡した後に顔を急いで背けるエルフ。
「あれ、なんで顔が赤いんだい?」
「へ、変なことを聞くものではありませんわ!」
フェアリーにエルフの拳が襲い掛かるがフェアリーはひょいとかわし、軌道上にいたクラッズにクリーンヒットした。
「……私はちゃんと皆さんの分を用意してありますから」
セレスティアは一日遅れですいません、と断りをいれ、フェアリーとヒューマンに手渡し、横たわっているクラッズの隣にチョコを置いた。
「ぼ、僕は、チョコなんて……」
オロオロしながらしまいには泣きそうになるフェルパーにヒューマンは何かを耳打ちした。
「行け、フェルパー!今日は恋する乙女の為の日だぞ!」
「リ、リーダー、御免!」
「うぶす!?」
フェルパーがフェアリーに飛び掛かり、唇を奪う。
半ば強制的だがヒューマンにそそのかされたのだから仕方がないといえば仕方がない。
「あーあー、チョコより甘いねー」
「ヒューマン、それはクラッズのチョコですわよ?」
「気にするな。こっちは口寂しいんだよ……」
クラッズが気絶しているのを良いことにクラッズの貰ったチョコを食べるヒューマン。
エルフはやれやれといった表情をし、ヒューマンに軽く口づけをする。
「な、なぁ!?」
「ん、少し甘いですわね……。貴方が口寂しいと言っていたからしてあげただけですわよ?」
髪をさらりとかき上げ、クスリと笑うエルフ。
「い、一瞬びっくりしたぞ……」
「安心なさって、別に貴方に興味はありませんから」
「……泣いても良いか?」
一日遅れても、幸せなバレンタインを過ごすことができたフェアリー達。
朝になるとまた冒険に明け暮れるだろうが、これも思い出の一つに残ることだろう。
この後目を覚ましたクラッズが、チョコを貰っていないことを三日間ほど歎いていたのはまた別のお話。
87 :
二番煎じ:2010/02/15(月) 03:15:38 ID:fTKEUJaS
どうも、二番煎じです。
一日遅れのバレンタインということで、勢いで一時間ほど費やして書きあげました。反省はしてない。
リアルで充実した人は果しているのか!?
ではでは。
二番煎じは倒れた!
あの事件から3ヶ月後…クロスティーニ学園のいつものと変わらない日常に戻った。
そんな日常は今日だけは変わろうとしていた。ここは食堂…
「今日はやけに皆そわそわしてるね…」
教室の様子がおかしい事を疑問するクラッズ男、名前はクラ男。職業:戦士。
「ん?クラ男、お前今日バレンタインデーだぞ?様子を見て気づかないのか?」
クラ男の疑問に答えたヒューマン男。名前はヒュム男。職業:ガンナー。
「バレンタインデー?ああ、そういえば…」
「セレ子もフェア子もダメだったし…エル子やクラ子もダメだろ?今日は探検に行く必要は無いな」
「そうだね…」
会話をしていると
「おはよーさん。」
「おはよう。」
「お、フェル男にエル男か、お前らも一緒にどうだ?」
後からやってきた2人、2人は別パーティーだが同期入学のフェルパーの男のフェル男、職業:剣士と
エルフ男のエル男。職業:精霊使い。
「ええんか?」
「いいって、いいって遠慮なんかするな。」
「それじゃあ、遠慮なく座らせてもらおうかな?」
ヒュム男とクラ男の空いてる席に、フェル男とエル男が座った。
「ん?そういえば、女性陣がいないな、断られたのか?」
「君たちもか、こっちも似たような理由さ」
「それにしてはドワ男もいないようだけど…?」
「ん?ドワ男なら下駄箱にいるんとちゃうんか?」
「下駄箱?なんで?」
「下駄箱にチョコレートが入ってる場合があるのさ」
「ま、無駄やと思うけどな」
「いったい、ドワ男はチョコ何個もらっているんだ?」
ヒュム男の質問にフェル男は…
「0個や」
「あれ?パーティーの女性陣すら貰ってないの?」
「前の学校はわいはドワ男と同じ学校やってんけどな、わいだけも貰てあいつは貰てへんかったで?」
「なんか…1人だけ寂しい話だね…」
「やっぱあいつがチョコ貰えへん原因はやっぱ職業柄とちゃうんか?」
「あと、野蛮な所とかな」
「「ハハハ…」」
フェル男とエル男の会話にヒュム男とクラ男は苦笑した…。
今日もクロスティーニ学園の授業が終わって療に戻ろうとする僕とヒュム男さん
しかし、ヒュム男さんは寄る所があると途中で別れた。
「今日は女性陣の出席率0だったな…ドワ男君も暴れだすし…早く帰ろう…」
帰ろうとする僕に誰かが僕に声をかけた
「クラ男君♪」
「ん?あ、クラ子ちゃん」
僕に話しかけたのは僕と同じ種族で同期入学のクラッズ女のクラ子ちゃん、職業:風水士
「クラ男君、今暇?」
「え?うん、帰ろうとしてた所だし…」
「あのね…今日一緒に行けなくてごめんなさい」
「いや、いいよ。用事があったのなら仕方が無いし」
「今日…何の日か知ってる?」
「ああ、煮干の日でしょ」
「煮干の日?」
「全国煮干協会が制定したんだ「に(2)ぼし(14)」の語呂合せだよ」
「知らなかった…クラ男君物知りなんだね」
「あと、バレンタインデーだね、それで」
このままだと話が別方向にそのまま行ってしまいそうな気がしたので、ボケるのをここで断念し、話をあわせる。
「クラ男君、私からのバレンタインチョコだよ♪」
そういって渡されたのは赤青い包みで黄色いリボンがラッピングされた箱、話の流れからしてチョコが入っているのだろう
「ああ、ありがとう」
「しかも、手作りだよ♪」
僕とクラ子ちゃんが、話をしていると
「あ、いましたわ!」
突然誰かからの声がなった。
「あれ?エル子さん?」
駆け寄ってきたのは、同期入学のエルフ女のエル子さん、職業:精霊使い
でもなんでか、顔がまっかっかなんだろう?
「クラ男君に渡したいものがありますわ!」
「なんで顔が真っ赤なのかな〜?ヒュム男君に向けての予行演習?」
「!何を言ってますの!誰があんな男と!!」
「その割には随分興奮してない?」
「興奮してませんわ!クラ男君、はいチョコですわ!言っておきますけど義理ですからね!」
「じゃあ〜ヒュム男君へのチョコは本命チョコなのかな〜?」
「へ、変な事聞くものじゃありませんわよ!」
「はは…」
その後、セレ子さんとフェア子ちゃんからもチョコを貰って(ヒュム男さんとエル子さんは一騒動あったけど渡せた)
寮でヒュム男さんと一緒に義理チョコ→本命チョコを一緒に食べたのでした。
その頃、エル男とフェル男は…
「うん、やっぱヒュム子の作ってくれたチョコはうまいな」
「お前、その他のチョコ全部断ったもんな…わいなんて本命なしで全部義理やで…」
「もらえるだけマシじゃないのか?アレに比べたら」
「ああ、アレね…」
エル男が向けた方向をフェル男が見ると、片隅でないているドワーフ男ドワ男が泣いていた、職業:狂戦士
「シクシク…なんでだよ…なんで俺は0個なんだよ…俺のどこがいけないって言うんだ…」
「やっぱ職業のせいとちゃうんか?」
「いや、職業柄の以前に性格が問題だな」
「うるせぇーーーーーーー!!!!」
それはまた別の話である…
>>34の者です。
アイドルがなにがいいの話が今詰まってて、外伝(今作)を書いてるうちに
出来上がってしまったのでこちらをあげました。
チョコを貰った記録はというと
クラ男……本命1(クラ子) 義理3
ヒュム男…本命1(エル子) 義理3
エル男……本命1(ヒュム子) 義理0(断った数…8個中8個全部)
フェル男…本命0 義理4(エル男のパーティー以外にクラ男のパーティーのセレ子に貰っている)
ドワ男……本命0 義理0(なし)
という結果です。
アイドルがなにがいいの話の制作頑張りま〜す
では。
お二人ともGJ!やはりバレンタインはいいものだ。
しかし、ここって普段人少ない割にたまに思い出したようにいっぱい来るよなw
こんばんはっと。
うん、凄くお久しぶりになりました、ディモレアさん家のシリーズの俺です。
しばらく見ぬ間に職人様増えてますなw皆様、GJであります!
しかしバレンタインっていいものだなぁと。
今夜は第6話を投下であります。
カガリのお腹がだいぶ膨らみ始めた頃、エドは久しぶりに外の街に出た。
必要な物資の大体はアイザ地下道に潜れば手に入るが、それでも街でなければ手に入らないものというのは少なく無い。
しかし、そこでエドが感じたのは、人の影が少ない事だった。
そう、まるでゴーストタウンと化したかのように。
「…………」
普段にぎわいを見せる市場ですら、閑散としている。店を出す者もいつもの三分の一ぐらいしかいない。
何の冗談だ、と思いつつエドは長い買い物リストを片手に市場を行く。
しかし、目的のものは見つからない。当然である。いつもの三分の一しか店が無いのに探しようが無い。
「……やれやれ」
ため息をつく。だが、ため息をつくのはエドだけではない。
街を歩く数少ない人々は暗い顔のまま、ため息をついては歩いて行く。救いも何も無いかのように。かつての喧噪を忘れたかのように。
エドは知らなかった。
幾多の街に、伝染病が広がっている事を。
墓地に於かれた墓石の数がここ数ヶ月没で異様に増えている事に気付くまで、エドは知らなかった。
「新種の、伝染病……?」
ランツレート学院まで急ぎに急いで来たエドは、ちょうど通りがかったダンテを捕まえ、死者が増えた理由について聞き込んだ。
「発生は数ヶ月前で、有効な治療法も特には。病原体そのものは見つかった、って聞きましたけど」
「で、気がついたら街はゴーストタウンって訳か」
「街だけじゃなくてウチやマシュレニアの生徒にも患者が出てるんですよ……正直、参ってます」
ダンテは疲れた様子で言葉を続ける。感染者が出ている、という中で明確な治療法も見つからないまま同じ場所で暮らしているのだ。
倒れた仲間になす術も無い、というのもあるだろうがいつ自分も倒れるか解らない、という恐怖もあるのだろう。
「医者だけじゃなくて魔術師や錬金術士も色々調べてるみたいなんですけど」
「成果なし、か」
「………エド先輩は、どうなんですか」
ダンテの呟きに、エドは視線を逸らす。目を合わせられなかった。
自分やディモレアが己の研究と行き先に悩んでいた頃に、世界は崩壊の道を歩みつつあった。
「……やれるだけやってはみる」
そうは呟いたが、エドの脳裏に浮かんだのは、紅い秘石の事だった。
あれを手にした時、世界の破滅を限りなく望んでいた事を思い出す。
どっちにしろ、自分がやらずとも世界は破滅するのだったのだろうか。否、そんな筈は無い。
「ダンテ。お前、これからどうするつもりだ?」
「へ?」
「生徒にも患者がいるんだったらうつされるかも知れないだろ。お前も、俺らんとこに逃げてくりゃいい。別に一人ぐらい増えた所で問題ねぇよ」
土地とスペースだけはありあまっているのである。
エドの言葉に、ダンテは首を大きく左右に振る。
「俺に逃げろってんですか」
「……ほとぼりが冷めるまでな」
「バカ言わないでください」
ダンテは言葉を吐き捨てるように呟く。
「先輩やディモ姉は、強引だったけど、それでも前に進んでた。先輩達と一緒にいた時です。バカみたいに喧嘩しようと、何かエド先輩がヤバい事で悩んでいようと、カガリ先輩が頭を抱えていようと、それでも、何であろうとがむしゃらでも前に進もうとしてた」
ほんの一年前。学生だった頃、エドが考えていたのは世界の破滅。
でも、ダンテから見れば何か悩んでいても前に進もうとしていたと見えたのだろうか。
「エド先輩も、ディモ姉も諦めが悪い人だった」
「……まぁ、否定はしねぇ」
「だからですよ。尚更、こっから逃げる訳には行きませんって。で、今の先輩はなんて言いました? ほとぼりが冷めるまで安全な所に逃げろと?
先輩自身はどうするつもりですか? ほとぼりが冷めるまで死ぬ人を眺めてると。ふざけないでください」
「…………なんとかしろ、そう言いたいのか」
「まぁ、柔らかく言えばそうです」
「変わったな、ダンテ」
一年前まではディモレアの尻に敷かれてひぃひぃ言っていたのが嘘のようだ。
エド達と離れた事で、彼もまた成長したのだろう。
「……そりゃ変わりますよ。守ってくれる人がいなきゃ、一人で強くなるっきゃない。守りたい人がいるなら、守ってやるしか無い」
ダンテの言葉に、エドは内心驚く。ここまで変わるものかと。
それに比べて、自分は何をやっていたのだろう。自らの城に引きこもり、ただ自分のあり方について考え続けていた。
ダンテの言うように前だけ見て進んでなどいない。進んでいたのは学生だった頃だ。
今は進んで何かいない。停滞している。まるで、固まった石像のように。
「………………」
壊れつつあるこの世界で、自分の後ろに隠れていた筈の少年は前を見てなんとかしようとしている。
直視出来ない。自分の姿が恥ずかしすぎるから。
「ダンテ」
「……なんですか?」
「俺は馬鹿だ」
「……はい?」
「実はな。カガリが俺の子を身ごもったんだ」
「………え? カガリ先輩と!? ちょ、ちょっと待ってください」
ダンテは頭を抱えて記憶を整理する。
ダンテの記憶が正しければエドワードはダンテの従姉であるディモレアに対して好意を抱いていて、それを学生時代に明言していた。
二人が卒業後に姿を消してどっかの研究所にこもっているのも研究協力しているのも二人が好き合っているからだ、とダンテは理解していた。
それなのに、今、エドワードの口から漏れたのは何だ?
「………ディモ姉は?」
「……一緒に、いる。カガリとも、一緒に、いる」
「………………」
「俺は、二人とも、離れたく無い、だから、どうすればいいのか解らなくて、その事で悩んでた。研究もろくにせずに」
「…………それで?」
「それとな、もう一つ言う。俺が……研究所にこもった、逃げてた本当の理由はな。この世界をぶっ壊そうと考えてたからだ。学生の、時から、ずっと」
エドの言葉を、ダンテは黙って聞いていた。
だが、先ほど迄浮かんでいた惑いは消え、何を浮かべていいのか迷った顔を続けていた。
「だから正直、今の話を聞いた時……俺がどうしようと世界は壊れるのかって思ってた」
「………先輩……先輩は、今は、世界を……」
「今はそうは思っちゃいねぇよ」
「………と、言う前に……」
ダンテが視界から消えた、とエドが思った直後。
強烈なストレートパンチが飛んで来た。
「ほぐはっ!?」
同年代と比べてやはり小さい身体のエドは成長期で伸びつつあるダンテのストレートを受けて見事に吹っ飛んだ。一年前とは段違いだ。
「何を考えてるんですか先輩はッ! て、言うか人の従姉相手に堂々と二股宣言すんなっ!」
「……お前にそんなツッコミが出来るとはぐほぉっ!?」
「茶化すな人の話を聞けーッ!」
やはり人とは変わるものだ、とエドは薄れ行く意識の中でつくづく思っていた。
「……お久しぶりです、エドワード先輩」
ダンテのせいでノックアウトしたエドが保健室へと運ばれた時、出迎えたのはある意味誰よりも付き合いの長い後輩のパーネだった。
相も変わらず大鎌を振り回していた。
「ああ、久しぶりだなパーネ」
「それで。ディモレア先輩との淫らな生活を楽しめてはいないようですね」
「誰が淫らな生活だ」
「まぁ、それはともかく私のエド先輩に何をしたのですか不届きなディアボロスのダンテ君」
「すみませんでした」
保健室の隅では床の上で土下座を続けるダンテの姿があった。
ディモレア卒業後はパーネの尻に敷かれているようだ。
「……まぁ、それはともかくですね」
パーネは困ったように呟く。
「エド先輩。今回の伝染病について……なんとかなりません?」
「……まぁ、努力はするさ」
エドは頭を抱えながら呟く。とは言っても、具体的な手だてがある訳でもない。
病気について調べるにしても、必要なものは多々ある。
「これどうぞ」
「ん? なんだこりゃ」
「患者の血液です。必要ですよね?」
パーネはさも当然のように呟くと、鎌を振りかざす。
「それとですね、エド先輩」
「……なんだ?」
「二股はダメですよ?」
「………お前までいうか」
エドは頭を抱えた。
ダンテはようやく土下座するのをやめると、一度保健室の外へと出て行く。
パーネは近くの椅子を引き寄せて座ると、深く腰掛けて視線を伏せる。
「…………エド先輩」
「……なんだ?」
「私は……実は少し悔しかったんですよ? 卒業後、いなくなった事は。エド先輩がマシュレニアにいた頃から、何か抱えていたのは知ってました。
けど、正直な話、その事がなんであろうとエド先輩なら道は間違えない筈、そう思ってました。
昔から、私が間違えそうな所を正しいのはこうだろとか言ってましたからね。だから、自分で間違いに気付くだろう、と。だから放置してました」
パーネは視線を伏せたまま呟く。普段、パーネはそんな表情を見せたりしなかったから。
エドにとっては少しだけ意外だった。いや、勘に鋭いパーネなら、エドが世界を壊そうとしていた事について、気付いていたもおかしくはない。
それを知っていて止めなかった、というのが不思議ではあったが。
「でも、エド先輩はいつまで経っても間違いに自ら気付かない。不思議でしたよ、私としては」
「……………」
「カガリ先輩や、ディモレア先輩が言う迄は、ね」
「あの頃の俺はどうかしてたさ」
「今でもどうかしていますよ、あなたは」
エドの呟きに、パーネは顔を近づけながら呟く。
「今の貴方は……本当に……」
その唇が動くのが、何故か遠くに見えるな、とエドは思った。
パーネの唇が、エドの唇に触れたのは、ほんの一瞬。
「だからもう、貴方は……私の手の届かない所の、私の人じゃない」
そう囁くパーネ。後輩として、エドの側にいた彼女は、もういない。
ダンテと同じように。また、彼女も変わってしまった。
人は変わる。
そう、時間も、月日も、思想も、行動すらも。
アイザ地下道の先の研究所にエドが戻って来た時、既に夜中になっていた。
元々そう長い時間空けるつもりは無かった。だいぶ時間はかかりはしたものの、一日で戻って来れたのはよくやったと言えるだろう。あくまでもエドから見れば、だが。
「……ただいま」
すっかり変わったダンテやパーネの事を思い出しつつ、通路を通り部屋まで戻る。
灯りの落ちた部屋に、ディモレアがいた。
「うおっ」
あまりの唐突な登場に、エドは思わず声をあげた。
「ん? ああ……お帰りエド」
「ど、どうした。俺の部屋に」
本当に珍しい事である。用がなければディモレアはエドの部屋にいたりしないだろう。
「……まぁね。その……」
ディモレアは喋りにくそうに口を動かしている間、エドはともかく椅子に座り込んだ。
ディモレアを前にしても、考えている事はダンテとパーネの事だった。
「…………ふぅ」
「実はあた……なんか言いたそうね、エド」
ディモレアは口を開きかけた事を止めてエドに視線を向ける。
「お前が先に言え。言おうとしたんだろ」
「後でもいいわよ。何かあったの?」
「………まぁな。俺らが知らない間に、街の方でヤバい事になってる」
「外の世界で? 何か?」
エドは声の調子を落としつつ、未確認の伝染病が広まっている事、学園にも被害が出ている事、錬金術士や魔術師も動員して研究しているが対処法が無い事などを話した。
ディモレアは最初は黙って聞いていたが、研究云々の所で顔をしかめた。
「それ、本当の話?」
「ダンテに言われたんだから間違いない」
「じゃあ間違いないわね」
ディモレアは息を吐くと、言葉を選ぶように口を開いた。
「……アタシらが外の世界を見てない間にそんな事が起こってるのね……。昔と一緒だわ」
ため息をつき、少しだけ頭を抑えたがすぐに首を振る。
「……でも、放ってはおけないわね。何かサンプルとか持って来たの?」
「ああ。パーネからもらった」
「なら、今すぐにでも始めるしかないわね。アタシらが研究生活に入ったのも、そういうのを止める為でしょ?」
「…………」
まだマシュレニアにいた頃。ディモレアがそんな事を言っていたのを、エドは思い出す。
自分と違って、ディモレアはただ日々を無為に過ごしていた訳じゃなかった。
「……そう、だな」
「……酷い顔してるわよ。どうしたの?」
「今まで、こんな場所で何やってたんだろうって思ってな……ダンテとかパーネも結構必死になってなんとかしようとしてたのに」
「………しょうがないでしょ、知らなかったんだから」
ディモレアは呆れた顔で呟く。そう、どうにもならないと言った顔で。
「ここに籠って、研究を続けようとしたのはアタシとあんたの意志。それで外の変化に気付かなかったとしても、アタシ達が外に向けない限り、外の事に気付く事は無い」
「………」
「今からでも遅くは無いわ。まだ、外は手遅れになってないんだから」
ディモレアはそう言い放つと、エドの背中に手を置き、言葉を続ける。
「アタシも手伝う、だから、ね」
知らなかった事。知る事も出来ない事。
外へと、知識を欲し、外へと目を向けない限り、気付かないもの。気付く事が出来ないもの。
そしてエドは知らない。
ディモレアが言いかけた事を。カガリだけでなく、彼の血を宿した子が、彼女の仲にも出来たという事を。
エドはまだ、知らない。聞いていない。
そして、もう一人。
深夜。カガリが目を覚ました理由は、身体の熱さだった。
今の時期、ここまで熱いというのはまず無い。熱でもあるのか、と思いつつカガリはベッドの縁に手を置き、身体を起こそうとする。
崩れる。身体に力が入らない。
「っ……!」
腹を庇うように、近くのサイドテーブルに文字通り頭をぶつけて、どうにか倒れそうになるのを支える。だが、それまでだ。
熱くて、苦しい。
息を吐く。熱い吐息が漏れ、どうにか身体を支える。
「なに……これ……」
ベッドの上へとどうにか身体を戻し、大きく息を吐く。たったそれだけの行為に、信じられない程の体力を使っていた。
何故、と呟く。
身重になってから体調管理はしっかりしようと思っていたのに、これではまるで出来ていない。
「落ち着いて、そう息を吐いて……ゆっくり……」
冷静を保て、私は大丈夫、大丈夫だ。
そう言い聞かせて呼吸を整える。だがしかし、身体は言う事を聞かない。待て、どうする。
扉まで、せめて、急ぐ。身体を動かす。落ちないように、ある力を振り絞る。
そして、カガリは何度も扉を叩き、その後、気を失った。
エドとディモレアが飛んで来たとき、カガリの意識はもう無かった。
「…………」
気まずい空気が、二人の間に流れていた。
エドが外の世界の流行病の話を持ち込んだその日、カガリがその流行病に倒れたという事実に。
今すぐにでもなんとかする、しようにもその手だてが無い。
どうすればいいのか、二人には解らない。
「……どうするのよ」
ディモレアが口を開き、エドは顔を上げて首を振る。
「どうしろって……こんなすぐに」
「被害は出てるんでしょ? あちこちに」
外の世界では拡大している流行病。他の魔導師や錬金術士達が日夜努力しているのだ、エド達がやらなくていい理由は無い。
そして、やろうと決めたその矢先に、だ。
「…………」
だが。
ダンテからその被害の話を聞いた、とはいえ外の世界の事だ、とエドは思っていた。
いや、エドは心の奥底でそう思っていたのだろう。そうでなければ、今、カガリが倒れるという事態に直面して、こんなに焦っているなんて事は無い。
もう少し、落ち着いていた筈だ。
それなのに、今更になって、今この場に直面して。
エドを襲っているのは、強烈な無力感だった。
何かしよう、何をすればいい、何ができる、何もできない。
そんなループが頭の底から全身へと巡って戻って来る。その繰り返し。ディモレアの言葉も実はろくに届いていない。
「…………」
「何か、考えとかないの。カガリが……倒れたのよ」
ディモレアはそう言って少しだけ声の調子を落とす。
「カガリのお腹の中の子も、危ないかも知れないのよ」
「………わかってる。わかってんだけどよ……」
何をすればいいのか、解らない。
「あんたねぇ! 今、自分がすべき事ぐらい―――」
「今、この場で今すぐ取りかかって」
エドは口を開く。
「どこまでできる。俺やお前以外の魔導師や錬金術士が必死こいて探してるのに無いものを、俺たちがどうしてできる」
「…………」
「俺たちだって、限界はある。ついでに言うと、学校卒業したばっかのボンボンだ」
「………けど」
「無茶苦茶言うなよ……!」
エドは、自分の限界がどれほどかを知っている。いや、知ってしまった。
ダンテと再び会った事で、卒業後にろくに成長せず停滞してしまった自分を見て。
だが。
「……アホっ!」
ディモレアが叫び声をあげなければ、エドは更に自虐的なスパイラルを続けていただろう。
「………他の連中が出来ないからアタシ達が出来ないなんて誰が決めたのよ」
「………けど」
「アンタ……あれはまだ持ってるでしょ?」
「あれ?」
「隕石だって呼べるあれよ!」
ディモレアの言葉に、エドは思い出す。一度、世界を壊そうとした時に使ったあれを。
「………あれが、使えるのか?」
「違うわよ。今こそあれを使うときじゃない。何か出来るかもしれない」
ディモレアはエドに視線を合わせる。それは絶望に染まってなどいない、前だけを見て、そして仲間を救う手だてを探す為の。前へと向いた瞳。
エドの、停まってしまった瞳とは違う。
「…………」
そしてエドに、そんな彼女の言葉が届く。
「……よし!」
エドは立ち上がる。やれるだけの事はやってみよう。
後悔するのは、後だって出来る。
二人の日々が始まった。
カガリとその胎児の容態を見る、次に紅い石の効果についての研究、パーネにもらって来た患者の血液から病原体の検出、
そして培養と解析、石が如何なる効果を持ち、そして使えるかどうか。
やるべき事など、山ほどある。だがしかし、カガリの容態が長く保つとは思えなかった。
一人前の冒険者ですら倒す流行病に、身重のカガリが勝てる筈は無い。
「…………やっぱ無理か」
エドはそう呟く。始めてから一週間、カガリはよく保った方だと思う。
「ええ、そうね……」
ディモレアも肩を落とす。どんなカタチであれ、自分は親友を救えなかった。その事実が、ディモレアの気を落とさせた。
カガリはほとんど目を覚まさなかった。熱に冒され、時折うわごとのように呟く事はあっても意志の疎通までは出来ない。
「……………」
「どうする?」
エドは、ディモレアに問う。カガリと、その子供の事である。
カガリが助からないという事に気付いた、ならその子供はどうする?
エドの子供でもあるのだから。
出産には、まだ時期がある。まだ早い。今すぐ出したとしても未熟児として生まれ、抵抗力が低いだろう。
ならば堕ろすか。いいや、時期が経ちすぎている。そして、エドもディモレアも、そんな事は出来ない。カガリも子供も、まとめて死んでしまう。
ならば。
「……出す、しかないか」
エドは呟く。もっとも、出産に立ち会った事など無い。当たり前だ。エドがかつて暮らしていた故郷でも、パーネが生まれて来たときだって立ち会った事は無い。
そりゃそうだ。エドはまだ幼かったから。
「なぁ、ディモレア。お前、赤ん坊取り上げた事って」
「ある訳無いでしょ」
ディモレアもあっさり答える。だが、その瞳に不安が混じっているのは解った。
「……でもやるしか無いでしょうね……カガリにも聞いてみるけど……」
ただ、今のカガリと意思疎通が出来るか解らないけれど。
何が必要か解らないのでとりあえずいっぱしの治療器具といざという時は錬成して作るのが錬金術士なのである程度の素材を集めてカガリの部屋へ向かうと、カガリはちょうど眠っていた。
熱はまだ高いが呼吸は落ち着いている。
「……大丈夫?」
ディモレアがそう声をかける。返事は無い。
「……今から、赤ん坊をなんとかする」
エドが、聞こえるかどうかは解らないが声をかける。
「……ごめん。お前を助けられない」
「………ごめんね、カガリ」
二人はそう言うと、それぞれ道具を手に取り、手袋をはめる。
息を飲む。今から、始める。
それは長時間に渡った。
親友の死を看取るかも知れない、いや、これから看取るその前に。彼女の血をこの世界に残しておく為に。
その間。
カガリが明確に意識を取り戻す事は無く、ただ呻きを繰り返すだけだった。
「……女の子、か?」
「そう、みたいね」
お腹の中にいた子は、まだ外に出るには早そうではあった。だが。
「ここで殺す訳には、いかないんだ」
カガリの子供。エドの子供。仲間の、親友の、大切な、一緒にいたいと願った仲間が残すものを。捨てる訳には。
いかない。
「……いいか、臍の緒……切るぞ」
「ええ」
臍の緒を震える手で切り離し、ディモレアが子供を抱き上げる。
子供は取り出されたばかりだとは思えないほど、まだすやすやと眠っている。
「……ぅ………」
直後、カガリが小さくうめき声をあげた。エドとディモレアは、思わず顔を見合わせる。
「……カガリ」
ディモレアが、口を開く。
「女の子よ。貴方の子供……女の子よ………」
「……テ……ナ……」
カガリの口が、小さく動く。口の形が、何度か動く。
「え? なに?」
「名前、か? 名前か?」
カガリが頷くかのように、身体が少し上下する。
その口の動きを、エドは読み取ろうと目をこらす。
「かて……りーな? カテリーナ、か?」
「………ぅん…………」
彼女の名前なのだろう、腕の中で眠る小さな命の名前。
エドが小さくその名を呟いたとき、カガリの唇が再び動いた。
「………ありがとう……いままで」
「?」
エドもディモレアも、その瞬間を見ていなかった。でも、確かに今。
その声が、聞こえた。
「………カガリ」
ディモレアが、もう一度だけ呟く。手を、そっと腕に置く。
そして腕から首筋へ、そして心臓へ。
彼女の鼓動は、もう聞こえなかった。
投下完了。
やはり一ヶ月以上も間があくのはまずいかも知れない……。
最近になってようやくPSPが復活した。やっぱ1000型は中古で凄く安いね。
101 :
二番煎じ:2010/02/19(金) 23:42:57 ID:5simZKZi
>>100 超GJです!
成る程…参考になりますねー。
自分のペースを崩さないよう、無理しないように頑張るのが吉だと思いますよw
さて…そろそろ何を書こうか試行錯誤して来まするー。
圧縮警報
>>100 GJ!というか、カガリーー!!
…………(黙祷)
やっぱ一度はクリアしないと分からないね。うん。
続きやろうかな。ランツレート奪還からだったかな。
でもディスガイアが……
以前書いた『絆』で、出そうと思ってたけどあまりに使いにくすぎて出せなかったキャラが二組。
そのままほったらかしも何なので、久しぶりに1のネタ。
ただ、長くなってしまったので二度に分けて投下します。
注意としては、前半は百合モノ。構成はバハ子×クラ子、バハ子×ドワ子。
そして後半は♂×♀だけど、♂×♂に見えるような部分があります。
なので苦手そうな方はスルーお願いします。楽しめる方は楽しんでもらえれば幸いです。
あってないようなものの消灯時間が過ぎ、寮に灯る明かりも少しずつ減り始めていた。
地下道探索の疲れで、とっくの昔に寝ている生徒がいれば、まだ地下道に残っている生徒もいる。転科のために夜遅くまで起きて勉強を
続ける生徒もいるし、中には夜通し遊ぶために起きている生徒もいる。
そんな寮の一室。明かりは既に消されているが、中では二つの荒い息遣いが漏れていた。
「んん……あうっ…!」
甲高い喘ぎ声を上げるクラッズの女の子。その表情には、快感とも苦痛とも取れない表情が浮かんでいる。
「やっ……こんな格好、恥ずかしいよぉ…!」
「クラちゃん、可愛い…」
自身も仰向けに転がり、クラッズの小さな体をその上に寝かせ、執拗に攻めるのはバハムーンの女の子である。
ほんのりと膨らんだ胸に手を這わせ、とめどなく蜜を溢れさせる秘部の小さな突起を指で弾く。その度に、クラッズの体はビクンと跳ね、
悲鳴に似た喘ぎ声を上げている。
「ね、ねえ……もう、十分でしょぉ…?三回もなんて、聞いてないよぅ…」
「まだ、聞きたいな。クラちゃんの声…」
「バハちゃん、もうやめてってばあ…!明日も、探索行くんじゃ……ひゃうっ!」
バハムーンが、クラッズの耳を甘く噛む。クラッズの言葉が止まると、指でそっと彼女の秘所を広げる。そこに尻尾を押し当てた瞬間、
クラッズはハッと我に返った。
「だっ、ちょっ、待ってっ!ストップっ!やめて!」
必死にバハムーンの腕を振り払い、足を閉じて抵抗するクラッズ。さすがにそうされては、バハムーンも中断せざるを得ない。
「……ダメ?」
「ダメだっていっつも言ってるでしょ!?そんなの入れられたら、私死んじゃうってば!」
「一回でいいから、してみたいなぁ…」
「バハちゃん……本当に怒るよ?」
その一言で、バハムーンはビクッと身を竦めた。
「や、やだぁ……怒らないでぇ…」
「……うん、いや、怒らないから。しなければ、だけど」
「うん……ごめんね、クラちゃん…」
言いながら、バハムーンはクラッズのうなじをつぅっと舐める。ぞくぞくした快感に、クラッズはピクンと身を震わせる。
「んあ……それ、結構好き……かな…」
「いっぱい、気持ちよくしてあげるね…」
首筋にキスをし、今度は尻尾の代わりに指を押し当てる。そしてクラッズの呼吸に合わせ、ゆっくりと彼女の中へと沈めていく。
「んうっ……うああ……あっ!」
熱い吐息を漏らし、身を震わせるクラッズ。その姿に、バハムーンは何ともいえない嬉しさのようなものを感じる。
「気持ちいい?一気に、イかせてあげるね…」
言うなり、バハムーンは指の角度を変え、腹側を擦るように指を曲げる。さらに、親指で敏感な突起をグリグリと刺激し始めると、途端に
クラッズは体を弓なりに反らせ、全身を強張らせる。
「きゃあっ!?だ、ダメぇ!それっ……ダメっ!強すぎるぅ!うああぁぁっ!」
「二箇所責め、いいでしょ?また、イクときの声、聞かせて…」
「ま、待ってっ……くっ、はぁ……や、ダメ……わ、私、もう……あ、うああぁぁ!!!」
必死の抵抗も虚しく、ガクガクと体を痙攣させるクラッズ。さすがに三回も絶頂を迎えていては、もう彼女の体力は限界だった。
何かバハムーンが言っているのは聞こえるが、それを声として認識できない。やがて、凄まじい快感の中、クラッズの意識はすうっと
暗く沈み込んでいった。
日光が目を直撃し、クラッズは目を覚ました。見ればかなり日は高く、だいぶ寝坊してしまったらしいことは想像がついた。
「んん……バハちゃん…?」
見回しても、バハムーンの姿はない。朝食でも買いに行ったのだろうか。
とりあえず、ベッドから降りる。が、そこで部屋の中に違和感を覚えた。
「……?」
部屋の中をじっくりと見回す。最初は気付かなかったが、徐々に頭が覚醒するにつれ、その正体に気づいた。
バハムーンの荷物が、ない。探索に行く時の消耗品も、消えている。
クラッズの頭が、急速に覚醒を始める。さらに、テーブルの上に紙切れを見つけ、クラッズは大慌てでそれを手に取った。
「うーそーでーしょーっ!?」
クラッズの絶叫が、朝の寮に響き渡った。
それより少し前。同じ寮の一室で、バハムーンの男子が目を覚ましていた。
目を開けると、茶色いふさふさした毛が目に映る。まだ寝ているらしく、気持ちよさそうな寝息と共に、体が規則正しく上下に動いている。
「おい……朝だぞ」
腹の上で寝るドワーフは、バハムーンの声など耳に届いていないようで、実に幸せそうな顔で寝ている。バハムーンとしても、自分の
上で腹ばいになっているドワーフの温もりは心地よかったが、かといっていつまでも、そうしているわけにはいかない。
「朝だぞ、起きろ」
「んん〜…」
軽く肩を揺するも、ドワーフはバハムーンの胸に頭を摺り寄せ、再び寝息を立て始めた。
「おい、起きろ。もう朝だ。飯の時間だぞ」
「んあ……ああ、バハムーン、おはよ…」
飯、という言葉に反応したのか、眠そうな目を何とか開けるドワーフ。次いで、今度は大口を開けて欠伸をする。鋭い歯が並ぶ口内が、
バハムーンの眼前に広がる。
「その歯を見ると、少しゾッとするものがあるな」
「ん、別に噛むわけじゃねえんだし、いいだろー」
ドワーフは少し体を起こしたが、すぐにまたバハムーンの体にしがみついた。
「……おい、何をしている」
「ん〜、その、あんま離れたくねえな、ってさ……へへ」
「やれやれ、朝から何を言ってるんだ」
そう言いつつ、バハムーンの顔も笑っている。バハムーンは体を起こすと、ドワーフを抱き上げてベッドから降りた。
「お、おいおい!何するんだよ!?」
「離れたくないんだろう?だから、こうしてやったまでだ」
「あ、いや、それはその、嬉しいけど……あの、着替えなきゃなんねえから、下ろして…」
「わがままな奴だ」
「それはしょうがねえだろー!できるんだったら、一日中だってああしてたいけどさ…」
ぶつぶつ言いつつ、ドワーフは服を身に着けていく。着替えるとはいえ、二人とも服は着ていない。
「それにしても、お前また筋肉ついたな」
「お、わかる?オレもそろそろ、お前に負けないぐらいにはなったかな、へへ!」
「俺には、まだまだ程遠いぞ。そもそも種族が違うんだ、こればかりは負けられんな」
「ちぇー、絶対いつか抜いてやるからな」
言いながら、ドワーフはパンツを穿き、ズボンに足を通す。続いてシャツを羽織り、上着はまだ着ずに置いておく。
「学科も、僧侶では戦闘向きではないからな。転科を考えてみたらどうだ?戦士とか君主なら、お前には合ってそうだが」
「転科かあ。でも、オレこの学科好きなんだよ」
「ま、そもそも君主になれるかどうか、些かの疑念もあるがな」
バハムーンの言葉に、ドワーフはムッとした顔を向ける。
「……それ、言いっこなしだろー」
「はっはっは、気にするな。何であろうと、お前が俺の彼氏だということは変わらん」
そう言い、バハムーンはまったく反省のない笑顔を向ける。
「ちぇ、いっつもそうやってごまかす」
だが、そう言いつつもドワーフの尻尾はパタパタと振られている。
ともかくも服を着ると、二人は揃ってハニートーストを頬張る。朝は甘い物を、というのがバハムーンのこだわりで、最近はドワーフも
それに倣っている。
「んーで、今日はどこ行くんだ?」
「まだ決めてはいない。最近ずっと探索続きだから、いっそ休みでもいいかと思っているがな」
「何だよ、じゃあ起きなくてよかったじゃねえか」
「まだ決めてはいないと言ってるだろうが。あくまでも、案の一つとしての話だ」
「ん〜、たまには、その……ゆっくり、一緒にいたいけどな…」
少し恥ずかしそうに言うドワーフ。それを見て、バハムーンは楽しげな笑顔を浮かべた。
「その意見には、俺も全面的に賛成だ」
「何だよ!じゃあ最初っからそう言えよな!くそー、いちいち言わせやがって…!」
「お前の意見も、尊重しなきゃならんからな。そう愚痴るな」
絶対嘘だ、と言いたいところだったが、確実にうまくはぐらかされるので黙っていた。
食事を終えると、二人は揃って大きな伸びをする。
「しかし、ずっと部屋に篭っているのも良くない。少し購買にでも行くか?」
「あ、そだなー。明日のパンも買いたいしな」
「ついでに、面白い装備でも入っていればいいんだがな」
部屋を出ると、バハムーンがドワーフの肩を抱き寄せる。が、ドワーフはすぐにその腕を振り払う。
「なんだ、嫌か?」
「いつも言ってんだろ!?外ではやめろよ!」
「部屋の中だろうが外だろうが、大した違いはないだろうに」
「全然違うだろうがっ!いいか、とにかく外ではやめろ!」
部屋で二人きりだと、今では自分から甘えるようになったドワーフ。しかし一歩でも外に出ると、相変わらずいつも通りに振舞っている。
そのため、二人の関係が大きく変化していることに気付く生徒はいない。
廊下を歩き、その端にある階段へ向かう。そして階段に差し掛かった瞬間、階段を飛び降りるように走ってきた影がドワーフにぶつかった。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
よろめいたドワーフをバハムーンが支える。
「ドワーフ、大丈夫か?」
「あ、ああ。オレは平気だけど……えっと、大丈夫か?」
相手は小さなクラッズだった。ドワーフの体に吹っ飛ばされ、尻餅をついている。少し捲れたスカートの下からちらりと白い物が見え、
ドワーフは慌てて視線を逸らした。
「痛たた……ご、ごめんね。だいじょ……ぶ…」
そこまで言った口が、二人の姿を見て止まる。『ああ、またか』と、ドワーフは心の中で悲しいため息をついた。
「え、え〜〜〜っと……ほ、ほんとごめんね、あはは、は……じゃ、じゃあ、その、私はここで〜…」
「大丈夫なようだな。行くぞ、ドワーフ」
「ちょっ、ちょっと待てよ!引っ張んな!」
何とか留まるドワーフに対し、クラッズは引きつった笑顔を向ける。
「わ、私はほんと、平気だからさ!だから、その、えっと、ほんと、大丈夫だから…」
元々、バハムーンは男子連中から非常に恐れられており、今でも二人に近づく者はいない。女子には被害がないはずなのだが、それでも
さすがに心象が悪すぎるため、彼は女子からも恐れられていた。今では公認の彼氏となったドワーフも、その例外ではない。
「いや、でもさ、なんかすっげえ急いでるみたいだし、何かあったのか?」
「急いでる邪魔をしては悪いだろう。さっさと行くぞ」
「だぁから引っ張んなっ!ったく、お前女にはほんと冷たいのな…」
「男でなければ興味はない」
「男でも興味持つなっ!」
二人のやり取りを、クラッズは苦笑いを浮かべて見ていた。少なくとも、ドワーフの方はさほど警戒しなくてもよさそうな人物だと、
心の中でホッと息をつく。
「えっと、じゃああの、ちょっと聞きたいんだけど、バハムーンの女の子見なかった?」
「って言われてもな……どんな子?」
「え〜、こう髪はこのくらいで、無口で内気でポアッとしてて…」
「無口で内気って……そんなバハムーン見たことねえよ…」
「まったくだ。そいつは本当に俺と同じ種族か?」
「だよねぇ……あ〜、じゃあやっぱりもう行っちゃってるんだ〜…!」
そう言い頭を抱えるクラッズ。さすがに、何か大変なことになっているのだと言うことは、二人にも理解できた。
「どうしたんだ?よければ、話聞くぞ?」
「おいドワーフ…」
「うるせえっ!黙ってろ!」
「えっとね、その子私の友達なんだけど、私寝坊しちゃって……それで、一人で地下道行っちゃったみたいなんだ」
「一人で?どこまで?」
「予定通りなら、たぶんトハス」
「トハス!?」
二人が同時に声を上げた。二人でも楽とは言えないところなのに、一人でそんなところに行くとは何を考えているのか。
「で、でも、一人でそこまで行けるって事は、それなりに力はあるんだろ?」
「だけどあの子、たまに勝手に宝箱開けちゃうんだよぉ〜!もし、スタンガスとか死神の鎌とか引っかかったら…!」
「とんでもない女だな。そんな奴、放っておけばいいだろう。一度痛い目に遭えば、嫌でもわかるというものだ」
「それは、そうだけど…!でも、放っておけるわけ、ないじゃない…!」
本気で心配そうな顔をするクラッズに、ドワーフは心の底から同情した。きっと、この性格のせいで苦労しているのだろう。
「でも、君一人じゃ、トハスまで行くのはきついだろ?」
「そう……だけど、でも、逃げ回れば何とかなるし!それに…!」
「いいよ。オレ、一緒に行ってやるよ」
「え?」
「おいおい、ドワーフ…!」
呆れたように話しかけるバハムーンを睨みつけ、ドワーフは続ける。
「一人でも仲間いれば、少しはマシだろ?」
「あの、気持ちは嬉しいけど…」
「いいよ、こいつは。ほっといたって、死にやしねえし」
バハムーンは少し不機嫌そうに、二人のやり取りを聞いている。
「何も初対面の相手に、そこまですることないだろうに」
「じゃあ、お前が俺に会った時はどうだったんだよ!?ったく、お前はいいよ。部屋に戻っててくれ。この子送り届けたら、
すぐ戻るからさ」
「……ほんとに、いいの?」
「いいっていいって。困ったときはお互い様ってね」
クラッズは人懐こい笑顔を浮かべ、頭を下げた。
「ほんと、ありがとう!すっごく助かる!」
「気にするなって。困った女の子放っておくなんて、できねえしな」
そう言い、ドワーフはあてつけがましくバハムーンを睨む。バハムーンは相変わらず不機嫌そうに、二人を見ている。
「じゃ、ちょっと行ってくるから。悪いけど、少し待っててくれな」
バハムーンの脇をすり抜け、二人は階段を降り始める。バハムーンはつまらなそうな顔で、それを見送っていた。
階段を降り、寮のロビーを抜ける。その時、上から大きな声が響いた。
「忘れ物だ!」
二人が見上げた瞬間、巨体が二階の窓から飛び出してきた。そして、着地際に退化した翼を思い切り羽ばたかせ、着地の衝撃を軽減する。
「やっぱ、来てくれたんだな」
そう言い、ドワーフはバハムーンに笑いかけた。が、当のバハムーンはつまらなそうな顔をしている。クラッズの方も、ようやく
離れられたと思った彼が再び現れ、その顔を引きつらせている。
「まったく、何の用意もなしで、どこに行くつもりだったんだ」
装備一式を手渡しながら、バハムーンは実に不機嫌そうな声を出す。
「休んでてもいいんだぜ〜?元々はその予定だったんだし」
「やれやれ、お前を放っておけるわけないだろう。ちっ、休みの予定が、とんだ割を食わされたもんだ」
そうぼやく彼に、ドワーフは笑顔を向ける。
「けど、ついて来てくれるんだろ?お前ならそうしてくれると思ったぜ」
「ふん。期待に沿えて光栄だ」
「つ、ついて、来てくれるん……だぁ…。あはは……は…」
引きつった笑顔を向けるクラッズに、バハムーンは蔑むような視線を送る。
「貴様のような下等種族と、こいつだけをトハスなんぞに送り出せるか」
「こいつ、口は悪いけどさ。そんな悪い奴じゃないから、心配しなくていいぜ」
恋人の証言ほど、信用ならないものもない。今では、クラッズの心の中は友達に対する心配より、自分の身に対する心配でいっぱいに
なっていた。
地下道入り口に着くと、ドワーフは重装備に身を包み、ポジショルを唱えた。
「……ん、もうポストL2にいるみたいだな。すぐ追いかければ間に合うかな」
「さっさと追いつくぞ。こんな奴等のために、無駄な時間を食いたくはない」
「だぁから、そういうこと言うなっての!」
「あの……ほんと、ごめんね。でも、ありがとう」
申し訳なさそうに言うクラッズ。だが、バハムーンは彼女を一瞥しただけで、あとは無視を決め込んだ。
「気にすんなって。さて、早く追いつかなきゃいけないのは確かだし、頑張るかー!」
ドワーフが言うと、バハムーンは何も言わずに先頭に立ち、地下道へと歩き出した。二人もすぐに、その後をついて行く。
正直なところ、クラッズは二人にさほどは期待していなかった。自身もそれなりに実力はあり、何よりいつも一緒にいる相方の実力は
飛び抜けたものである。とにかく探索好きで、戦闘も嬉々としてこなす彼女に比べ、この学校でも有数の問題児である二人が、それほどの
実力を持っているとは、とても思えなかったのだ。
が、最初の戦闘から、クラッズは目を見張った。バハムーンもドワーフも、今まで見た中でも相当な実力者である。ドワーフは重装備で
敵の攻撃を弾き返し、相手によって魔法と物理攻撃とを使い分け、的確に回復もこなす。
バハムーンの方は、軽装に素手ながらも敵を一撃で打ち倒し、相手の攻撃など掠りもしない。まして、彼の吐き出すブレスは、彼女の
相方であるバハムーンのものよりも強力だった。
そんな二人と一緒のため、進行は異常に速い。あっという間に地下道を通り抜け、一行はドゥケット岬の中継点に出た。
「ふう。さてと、君の友達は…」
一息つくと、ドワーフはまたポジショルを唱えた。
「……意外と速えな。ポストR2だ」
「ふん。それなりの実力はあるようだな」
「二人とも、すごく強かったんだね。私、こんなに強い人だって思わなかった」
クラッズが正直に言うと、ドワーフは笑った。
「オレはそうでもないって。こいつにくっついてるおかげだよ」
「背中を預けるに値する相手がいなければ、その実力も出せんがな」
そう言って笑う二人を見て、クラッズは少し羨ましくなった。自分の方は、盗賊と戦士という組み合わせであり、戦闘はバハムーンが、
宝箱や扉の鍵は自分がというように役割分担されている。戦闘も少しはこなせるが、背中を預けられたことなど一度もない。
「二人とも、ほんとに信頼しあってるんだね」
「オレの場合、入学してすぐこいつと一緒になったからなー。……でも出会い自体は最悪だったっけな」
ドワーフがいたずらっぽい笑顔を向けると、バハムーンは曖昧な笑顔を返した。
「結果がよければ、過程などどうでもよかろう。さあ、話はこれぐらいにしてさっさと行くぞ。追いかけるこっちが置いていかれては
たまらんからな」
そしてまた、三人は地下道へと入って行った。この地下道の道のりは長く、仕掛けも複雑なものが多いが、三人ともここに来ることは
多い。そもそも、今回は探索が目的ではないため、大して手間取ることもなく、順調に進行していく。
信じられないほど早く地下道を抜け、一行はポストハスにたどり着いた。そしてまた、ドワーフがポジショルを唱える。
「……よし、追いついてきたぞ!トハスL3だ!」
「結構なことだ。さっさと見つけて、さっさと帰るぞ」
ここまで来ると、さすがに敵も強い。バハムーンもたまには攻撃を受けるようになり、クラッズに至っては一撃でかなりの傷を負うことも
あったが、ドワーフの援護のおかげで進行自体には支障をきたしていない。
フロアを移動するごとに、ドワーフはポジショルを唱える。だんだんと両者の距離は縮まっていき、そしてトハス中央に来た時、
ドワーフが叫んだ。
「……よしっ、追いついたぞ!」
「ほんと!?二人とも、付き合わせちゃってごめんね。それと、ここまで送ってくれてありがとう!あとは私、一人で探せるから…」
そう言いかけるクラッズを遮るように、バハムーンが言葉を重ねた。
「ドワーフ、どうせこいつを一人にさせる気はないんだろう?」
バハムーンの言葉に、ドワーフはニッと笑った。
「さすが、よくわかってるよなあ」
「ちっ、そうくるだろうとは思ったが……乗り掛かった船、ということもあるか」
「い、いいよいいよ!?そこまでお世話にならなくたって…!」
クラッズは慌てて言いかけるが、ドワーフは優しく笑う。
「盗賊の君一人じゃ、ここはきついだろ?それに、手分けすれば早く探し出せるしな」
「手分け、か。なるほど、そうすれば早く帰れるな。それじゃあ、俺は向こうを…」
歩き出したバハムーンの背中に、ドワーフが慌てて声をかけた。
「ちょっと待ってくれよ!お前にはこの子と一緒に行ってほしいんだ」
「は…?」
「えええ!?」
バハムーンとクラッズは同時に声を上げ、同時にお互いを見、同時に顔を逸らした。
「俺より、お前が一緒の方がいいんじゃないのか?大体、俺はこんな奴と二人でなど…」
「お前、ヒーリング使えるだろ?それに、お前強いけど魔法には弱いよな。オレは防具も見ての通りだし、いざとなったらバックドアルが
あるし……何よりさ、俺としてはお前がついててくれる方が、安心できるんだよ」
そう言われると、バハムーンも断りにくくなってしまう。ややあって、バハムーンは渋々といった感じで頷いた。
「……仕方ないな。なら、お前の言うとおりにしてやる」
「そ、そっかぁ……ま、まあ、ドワ君がそう言うなら、しょうがないか。あはは…」
クラッズも相当に気が進まない様子だったが、手伝ってもらっている手前、拒否もできない。結局、クラッズとバハムーンは二人で
探索をすることに決まってしまった。
「一応、お互い何かあるといけない。探している奴が見つかろうと見つかるまいと、10分後に一度この入り口で落ち合うぞ」
「ああ、わかった。んじゃ、お前も無理すんなよー」
「ドワ君も気をつけてね。それと……は、早く見つかるといいよね…」
「それはオレの台詞だろ?まあいいけど、君も気をつけてくれよな」
三人は二手に分かれると、それぞれ別の方向へと歩き出した。
ドワーフは一度周囲を見回し、人影がないのを確認すると近くの小部屋に入っていく。ここは非常に見通しが利くため、ざっと見回して
見当たらないのなら、あとは小部屋か、相当遠くにいるかしか考えられない。
たまに出現する敵は、強敵が多い。しかし幸いなことに、ほとんどが闇属性の敵であるため、僧侶であるドワーフとしては戦いやすい
相手である。
そうしていくつかの小部屋を回り、二重構造になっている小部屋に入った時、ドワーフは足を止めた。
入ってすぐ左の空間、メタライトルの光が辛うじて届く場所に、誰かがうずくまっている。その制服はランツレートの物であり、
背中の翼から、種族はバハムーンだとわかる。恐らく、彼女がクラッズの探していた相手だろう。
念のため、驚かせないようにそっと近寄る。ふと見ると、彼女の前には金の箱が置いてあった。それを、彼女はじっと見つめていたのだ。
「……何してるんだ?」
ドワーフが声をかけると、バハムーンは顔を上げた。どことなく内気そうな、いわゆる一般にイメージされるバハムーンとは、随分と
隔たりのある表情だった。
「……箱」
「いや、そりゃ見ればわかるって。お前、まさかそれ開ける気か?」
「……開けてみようかなって思うけど、罠がわかんないから…」
ドワーフは宝箱に向かってサーチルを唱えた。詠唱が完成すると同時に、宝箱に仕掛けられた罠の情報がドワーフの頭に流れ込む。
「……ボムだ。結構強烈だから、開けるのはやめ…」
ドワーフの言葉を終わりまで待たず、バハムーンは何の躊躇いもなく宝箱を開けた。
直後、辺り一面に凄まじい爆音と爆風が巻き起こった。咄嗟に盾で防いだにも関わらず、ドワーフは爆風で数メートルほど
吹き飛ばされる。一方のバハムーンは、腕で顔を庇っただけで、相変わらず宝箱の前に立っている。
「痛っててて…!てめえー!!!何考えてやがんだぁー!?」
中身を取り出そうとしたバハムーンの体が、ビクッと震えた。そんな彼女に、ドワーフは大股で歩み寄る。
「ボムだっつってんだろうが!?どう考えてもオレ巻き込まれるだろ!?てめえ、オレまで殺す気かよ!?」
「……あ」
「『あ』じゃねえだろ!!!」
これは確実だと、ドワーフは確信した。この口調といい、行動といい、クラッズの証言にぴったり一致している。
「にしても、やっぱりお前か!あのなあ、お前友達置いてここ来ただろ!?あのクラッズの女の子!」
「え……クラちゃん、知ってるの…?」
「知ってるも何も、オレ達はそいつ連れてきたんだよ!ああ、今はお前探すために別行動とってるけど……とにかく来てるんだよ。
お前を追って、あの子一人でここに来ようとしてたんだぞ!?あんないい子に、心配掛けさせんじゃねえよ!」
一気にまくしたてるドワーフを、バハムーンはぼんやりした顔で見つめていた
「……お前、聞いてるか?オレの話…」
「うん」
「ほんとかよ…?とにかく、待ち合わせすることになってるから、お前はオレと一緒に来る!いいな?」
「うん。でも、その前に宝箱…」
バハムーンは改めて、宝箱の中身を漁る。中から出てきたのは、何かの素材とがらくただけだった。
「何だろうね、これ…?」
そう言い、嬉しそうに笑うバハムーン。確かにこれは放っておけないなと、ドワーフは頭の隅でクラッズの言葉に納得していた。
「ったく……まあ、ボムに巻き込んだのは許してやるけど、あの子には心配かけたこと、ちゃんと謝れよ」
ぶつぶつ言いつつ、ドワーフはメタヒーラスを唱え、自分と彼女の傷を治療する。そして彼女の前に立ち、さっさと入口に向かって
歩き出した。その後に続き、バハムーンも歩き始める。
「にしても、こんなとこまで本当に一人で来るとか……実力があるのは認めるけど、もうちょっと周りのことも考えてさぁ…」
説教じみたことを言いつつ歩くドワーフの背中を、バハムーンはじっと見つめている。
「大体、勝手にいなくなるなんて最低じゃねえかよ。置手紙したからって、何でもやっていいわけじゃねえだろ?お前だって、あの子の
性格はよくわかってんだろうにさー」
「……ふかふか……小っちゃい……でも男の子…」
ぼそりと、バハムーンが呟いた。
「なのに……んお?何か言ったか?」
「……ううん」
「そうか?じゃあ空耳か…」
意外と早く見つけてしまったため、まだ合流するまでには時間がある。入口に着いた二人は何をするでもなくボーっとしていたが、
やがてドワーフが妙にそわそわし始めた。最初はバハムーンも気にしていなかったのだが、ドワーフの落ち着きはなくなる一方である。
一体どうしたのか尋ねようとした瞬間、ドワーフが一瞬先に口を開いた。
「悪りい、ちょっとオレ外すからさ、お前はここで待っててくれよ」
「……どうしたの?」
「えっと……その……しょ、小便だよ!だから、いいな!?絶対来るなよ!」
そう言い、近くの小部屋の影に向かおうとするドワーフに、バハムーンが声をかける。
「その辺でしちゃえばいいのに…」
彼女の言葉に、ドワーフはビクリと体を震わせた。
「え、ええっと……い、一応女の子の前で、んな真似できるかよっ!」
「一応って…」
「う、うるせえ!言葉の綾だ!とにかく、来るなよ!ほんとに!」
そう言い残して壁の裏に消えるドワーフを、バハムーンはボーっとした顔で見送っていた。
当然、すぐに戻るだろうと思っていたのだが、思ったよりも時間がかかっている。おまけに、辺りのモンスターの気配も濃い。
少し悩んだ後、バハムーンはのそのそとドワーフの消えた方へ歩き出した。これでも一応は、彼女なりに気を使っているのだ。
ドワーフが消えた壁の向こう側に回ると、比較的近くにドワーフがしゃがみ込んでいるのが見えた。
「……おしっこじゃなかったの?」
「えっ!?わっ!?」
突然話しかけられ、ドワーフは大慌てで顔を上げた。
「てっ、てめえ来んなってっ……ちょっ、おい!こっち来んなってば!!!」
「……あれ?」
その時、バハムーンは気づいた。ドワーフの股間には、男にあるべきものが存在していない。そして用の足し方は、女そのものである。
「てめっ……どうして待ってろって…!くそっ、こっち見んな!」
「もしかして……女の子?」
股間を拭き、がちゃがちゃと慌ただしくズボンと腰の鎧を付け直しつつ、ドワーフは彼女の顔を睨んだ。
「うるせえなっ!オレは女じゃねえ!!男だ!!」
「……でも、女の子…」
「うるっせえなあ!!オレは男だったら男なんだよっ!!女じゃねえんだよ!!」
だが、ドワーフの言葉など、既に彼女の耳には入っていなかった。
目の前にいる、小さくてふかふかの毛を持つ、まるでぬいぐるみのような女の子。
―――すっごく可愛い…。
クラッズがここに来ていると、ドワーフは言った。『オレ達は』とも言っているので、他にも仲間がいるかもしれない。となると、
近々この小さな子とは別れることになるかもしれない。
―――可愛い子……でも、もうすぐお別れ……その前に、一回ぐらい…!
自分を見る目の変化に気付き、ドワーフは思わず後ずさった。
「お……おい、何だよ…?な、何するつもり…」
その言葉が終わるより早く、バハムーンはドワーフを抱きかかえていた。そして、一目散にゲートへと走り出す。
「お、おいっ!?何するんだよっ!?バ、バハムーン!!!助けっ……むぐぅ!?」
叫ぼうとしたドワーフの口を押さえ、彼女はゲートへと飛び込んだ。そして後には、元のようにただ静寂が満ちていた。
ドワーフと別れたバハムーンとクラッズは、黙々と反対側のゲートを目指して歩いていた。クラッズからすれば彼には話しかけ辛く、
バハムーンからすれば彼女とは話したくないのだ。なので、二人の間には非常に気まずい空気が漂っていたが、やがてクラッズが
それに耐えきれなくなった。
「あ、あのぉ〜…」
「……なんだ?」
「あの、さ……バハ君って…」
「バハ君だぁ?」
「あっ!?えっと、そのっ!嫌ならその呼び方やめるけど、別に悪気があったわけじゃっ…!」
大慌てで弁解するクラッズに、バハムーンは面倒臭そうな顔を向けた。
「……別に、呼び方など何でも構わん。で、俺がどうした」
何とか許しを得て、クラッズはホッと息をついた。
「あの、別に大したことじゃないけど……何か、その、悪い噂ばっかり聞いてたんだけど…」
「全てではないにしろ、大半が事実だ。否定はしない」
「でも、今のバハ君って……その〜、思ったより悪い人じゃないような…」
「女に興味はない。それに…」
そこで一度言葉を切ると、バハムーンは微笑を浮かべた。
「今はあいつがいる。男であっても、他の奴にはさほど興味はない」
本当に、噂ほど悪い人ではないのだろうと、クラッズは思った。彼は確かに問題児なのだろうが、少なくとも悪人ではない。
「と、ゲートか。ここまでの小部屋にも人影はなかったな」
「あれ、ほんとだ。じゃあドワ君、合流できてるかな?」
「あるいは、先に進まれたか、だな。いずれにしろ、一旦戻るとするか」
懐に入れてきたフレンチトーストを齧りつつ、バハムーンは元来た方へ歩き出す。クラッズも小腹が減ってはいたが、さすがにまだ
彼から食べ物をたかろうという気にはなれない。
橋のようになった狭い道を抜け、来るときに通ったゲートへと戻る。見たところ、まだドワーフはいないようだった。
「ドワ君、いないね」
「あいつは一人だからな。少し時間がかかっているんだろう」
特に深く考えず、二人はドワーフを待つことに決めた。しかし、いくら待ってもドワーフが来ることはなく、その気配すら感じられない。
時間が経つごとに、バハムーンの顔は険しくなり、クラッズの顔にも不安が募る。やがて、とうとう約束の時間を過ぎた時、バハムーンが
のそりと動いた。
「いくら何でも遅すぎる。探しに行く。お前はここで待っていろ」
「一人じゃ危ないよ!私も…!」
後に続こうとしたクラッズを、バハムーンはギロリと睨みつけた。
「俺は、あいつからお前を任されている。お前を危険に晒すわけにはいかない。わかったらそこにいろ」
「……わ、わかった、ごめん…」
言葉よりも視線に威圧され、クラッズは足を止めた。それを確認して、バハムーンは歩き出した。
「でも、バハちゃんもどうしたんだろ……もし会ってても、ドワ君男の子だから平気だろうけど…」
そんなクラッズの呟きを背中に感じながら、バハムーンはドワーフを探し始めた。もしもモンスターにやられたのであれば、どこかに
死体が残っているはずだ。あるいはバックドアルで逃げたのならば、ここには何の痕跡も残らない。
できることなら後者であってほしいと思いつつ、バハムーンは近くの小部屋の周囲を見回っていく。その時、足元の壁と床に黒い染みが
あるのを見つけた。その臭いから、どうやらここで誰かが用を足したらしいことはすぐにわかった。
―――この染みの付き方……女か。
臭いがあるということは、これはまだ新しいものである。バハムーンはその場にしゃがみ込むと、その染みに軽く触れてみた。
思った通り、まだ僅かに温もりが残っている。となると、ここについ数分前まで誰かがいたのだ。
突然、バハムーンの脳裏にクラッズの呟きが蘇る。直後、バハムーンはゲートへと駆け戻り、驚くクラッズの胸倉を掴み上げた。
「きゃあぁ!?や、やめてぇ!!わわわ、私、女の子だし、バハ君となんかできるわけっ…!」
「答えろ!!貴様、さっきドワーフが男だから平気だと言っていたな!?」
「……へ?」
「なら、もしあいつが女だったらどうなるというんだ!?さっさと答えろ!!」
質問の意図はわからなかったが、彼の目には、はっきりと焦りの色が浮かんでいた。
「え、ええっと……あの子、小さい女の子が好きで……それで、その、その好きっていうのが、バハ君が男の子を好きだっていうのと
同じ意味で……それで、たまに暴走して…」
バハムーンの顔色が、目に見えて変わった。
「そういうことか…!くそ!やっぱりあいつを一人にするんじゃなかった!」
「ちょ、ちょっと待ってバハ君!一体何!?どうしたの!?」
ゲートに飛び込もうとする彼の腕を、クラッズが間一髪で掴んだ。
「貴様の連れにバレたようだ!あいつは男だが女だ!」
「え?な、何それ?どういう意味…?」
「心が男であるだけで、体の方は女だということだ!貴様らにわかりやすく言うなら、あいつは男のふりをした女だ!」
「え……ええええ!?じゃ、じゃあ本当はドワ君じゃなくって、ドワちゃん…!?」
「ここで話してる暇はない!向こうで会わなかった以上、あいつらはこのゲートの先だ!お前はここにいろ!……くそ、ふざけるな…!
あいつに何かあったら、絶対に許さんぞ…!」
「待ってよ!わ、私も行く!バハちゃんのことなら、私にだって責任あるもん!」
ゲートに飛び込むバハムーンの後を追うクラッズ。まったく場違いながら、クラッズはドワーフのためにここまで焦る彼を見て、
ほんの少しだけ、ドワーフが羨ましいと思っていた。
ゲートの先はマップナンバー43番。いくつもの小部屋とダークゾーンの存在するマップである。そんな場所故に、ドワーフをさらった
彼女にとっては好都合だった。ダークゾーンを走り抜け、適当な小部屋に到着すると、バハムーンは部屋の隅にドワーフを下した。
「て、てめえ何しやがるんだよ!?勝手にこんなところまで来やがって…!」
「……君、可愛いから…」
「うるっせえ!可愛いとか言うな!!大体、可愛けりゃ何だって…!」
「……可愛がってあげる」
その目に宿る異様な光に、ドワーフはようやく気付いた。それはかつて、現在の彼氏であるバハムーンに向けられたものと酷似していた。
「お、おい…!ふざけんな…!て、てめえ、それ以上近寄るんじゃねえ!!」
「男の子みたいな言葉遣い……可愛いけど、本当に男の子みたいだよ…?」
「『みたい』じゃなくって、オレは男だっ!女じゃねえっ!」
その言葉に、バハムーンは首を傾げた。
「……でも、女の子だよね?」
「ぐっ……そ、それは、その、体はそうだけど……で、でもオレは男なんだよっ!男だったら男だっ!」
「……女の子なのに?」
「だぁから男だっつってんだろうがっ!体は女でも、男なんだよっ!」
「…………よくわかんないや」
「わかんないで済ませるんじゃねえっ!!!わかれよっ!!!」
しかし、もうバハムーンは考えるのをやめたらしく、ゆっくりとドワーフに迫ってくる。身の危険を感じ、ドワーフはスターダストを
構えた。それでも歩みを止めない彼女に向かい、ドワーフはとうとう本気で攻撃を仕掛けた。
咄嗟に、バハムーンは剣で防ぐ。そして鎖が巻き付いた瞬間、バハムーンは思い切り引っ張った。
「うわっ!?」
ドワーフの手から、スターダストがすっぽ抜ける。それに気を取られた瞬間、バハムーンはあっという間に距離を詰め、ドワーフの
両腕を掴んだ。
「く、くそぉ!放せ!放せよ!!」
「暴れないで。危ないから」
「じゃあやめろって……う、うわあ!」
バハムーンはドワーフの腕を掴んで持ち上げ、片手で器用に腰鎧を剥ぎ取っていく。ドワーフは足をばたつかせて抵抗するものの、
腕だけで吊るされる痛みのため、大した抵抗にならない。
「て、てめえやめろ!もうやめろよ!ふざけんな馬鹿!やめろってば!」
ドワーフの言葉に、バハムーンが耳を貸す気配はない。鎧を剥ぎ取り、さらにズボンを剥ぎ取り、とうとうその手がパンツにかかる。
「よせーっ!やめろ!!やめてくれよ!!もうやめろぉー!!」
「大丈夫、気持ちよくしてあげるから」
「しなくていいからやめろって……うあっ!」
とうとう最後の下着まで剥ぎ取られ、ドワーフは尻尾で股間を隠し、バハムーンを睨みつける。そんなドワーフに構わず、
バハムーンはその尻尾をどかしにかかる。
「よせぇ……み、見るなぁ…!」
「……毛だらけでよくわかんない」
バハムーンは空いている腕でドワーフの片足を上げさせ、ついでに尻尾を掴む。足が上がったおかげで、毛の間に小さな割れ目が
はっきりと見えるようになる。
「畜生…!見るなよぉ…!」
「きれいだね……自分でしたりとか、しないの?」
言いながら、バハムーンは尻尾を放し、そこに指を這わせた。途端に、ドワーフの体がピクッと震える。
「うあっ……やめろ、触るなぁ…!」
そうは言っても、ドワーフの体はバハムーンの刺激に素直に反応し、いくらも触っていないにもかかわらず、そこはじんわりと
湿り気を帯び始める。
「敏感なんだ?思ったより慣れてるみたいだけど……中は、どう?」
全体を優しく撫で、指で割れ目を開かせると、バハムーンはゆっくりと指を入れた。その瞬間、ドワーフの全身がビクンと震えた。
「い、痛ってぇ!やめろっ、もうやめろぉーっ!!」
「きつい……もしかして、初めてなの?」
その感触とドワーフの反応から、まず間違いないようだった。この、ふわふわで小さな女の子が、しかも処女だということに、
バハムーンの胸はいやが上にも高鳴る。
「うう……そこ触るなぁ…!オレは女なんかじゃ…!」
「どうして?気持ちいいのに…」
「だから、さっきから言ってんだろ…!?オレは、女じゃねえ!!」
ドワーフは涙目になりつつ怒鳴るが、バハムーンはやはり首を傾げるだけだった。
「……気持ちいいのに、もったいないよ」
「もったいなくねえからやめろってんだよっ!!いい加減に……あっ!?」
続く言葉を完全に無視し、バハムーンは割れ目に舌を這わせた。
「うああ!やめろぉ!!やめ……んあっ……お、オレは女じゃ……んんっ!」
バハムーンの舌が、優しく秘裂を舐める。襞をなぞり、敏感な突起をつつき、そして中へと侵入する。
「ふあぁっ!?や、やだ……嫌だぁ…!うあっ!も、もうやめて……くれぇ…!」
力なく哀願するも、バハムーンはその声にますます興奮し、舌の動きもそれに従って激しくなる。
「こ、こんな……あうっ!あんっ!……ち、ちくしょぉ…!」
女そのものの喘ぎ声が漏れる。無意識に出た声に、ドワーフは唇を噛む。それと同時に、バハムーンも顔を離した。
「可愛い声……気持ちいいでしょ…?」
「やめ……ろ…!頼むから、もうやめてくれよぉ…!」
言ってから、思わず涙が浮かんだ。これほどまでに自分が女だと思い知らされたことは、今まで一度もない。
「……どうして泣くの?」
「オレは……女じゃ、ねえ…!」
「女の子じゃなかったら、そんなに気持ち良くなれないよ」
彼女としては、特に深く考えずに出た言葉だった。しかしその一言は、ドワーフの心を挫くのに十分な力を持っていた。
「う……うええぇぇ…!」
「……泣かないで。もっと、気持ち良くしてあげるから」
バハムーンは再びドワーフの秘裂を開かせると、そこに舌を這わせる。尖りきった突起を転がすようにつつくと、途端にドワーフの
体が跳ね上がる。
「うああっ!そこは、やめっ…!」
「ここ、好きなんだ…?中の方の気持ちよさも、教えてあげる」
言うなり、バハムーンは敏感な部分にキスをし、ドワーフの中に舌を突き入れた。既にだいぶ昂らされ、さらに体内で舌が動き回るという
未知の快感に、ドワーフの体はガクガクと震えた。
「や、やめろ!!やめろぉ!!うああああ!!!こ、こんなの嫌だぁ!!んあっ……し、舌動かすなぁー!!」
ドワーフは叫び、必死に抵抗しようとするが、強すぎる快感の前にそれも叶わない。
どんどん強くなる、『女』としての快感。恐ろしく不快な快感。自身の秘部から伝わる感覚は、何のごまかしも利かない、純粋な
女としての感覚だった。
頭に白いもやがかかり、体が浮き上がるような感覚を覚える。それが何であるかを悟り、ドワーフは最後の力を振り絞り、叫んだ。
「嫌だぁ!!嫌だぁー!!!こんなのでイきたくねえよぉ!!イきたくない!!やだっ……あ、ああっ!!」
そんなドワーフの顔をちらりと見上げ、バハムーンは笑った。
「無理しないでいいのに……イッちゃえ」
ドワーフの体内でさらに激しく舌を動かし、内側を強く舐め上げる。ドワーフの体が、ビクンと震えた。
「やだ……あ、ぐぅ、あ、ああああぁぁぁぁ!!!!」
一際大きな声で叫び、ドワーフの体が思い切り仰け反る。体は小刻みに震え、しかしその顔には強い絶望の表情が浮かんでいた。
「ああ……あ……ぁ…!」
やがて、その体から力が抜けていく。それと同じくして、堪えきれなくなったかのように、涙が一粒、頬を伝った。
「あぁ……イかされ……たぁ…」
涙声で、ドワーフが呟いた。絶望に打ちひしがれたような、悲しみに満ちた声だった。
そんな様子には微塵も気づかず、バハムーンは顔に付いたドワーフの愛液を舐め、妖艶に笑う。
「ふふ、可愛い……中の気持ちよさ、もっと教えてあげる…。だから、初めて……もらっても、いいよね…?」
ドワーフにとっては、死刑宣告にも等しい言葉。しかしその言葉は、もはやドワーフには届いていなかった。
以上、前半投下終了。
それではこの辺で。
GJ!
お久しぶりです!
氏の作品楽しみにしておりました!
ここにきて男装ドワ子の再登場とか……嬉しすぎて脳内ボイスがわけわかんないことになった
GJ
久しぶりの氏の作品を堪能させていただきました
最近普通科ディアボロスがかわいく見えてきた
……おかしいだろうか
まったくもって正常です
こんばんは。それでは前回の続き投下します。
後半は衆道士バハムーンとドワーフになります。
念のため注意としては、♂×♀ですが♂×♂に見えたりします。
なので脳内変換に自信ない人はご注意を。一応前よりは♂×♀っぽいですが。
それでは、楽しんでもらえれば幸いです。
地下道に戦いの音が響き渡る。モンスターの群れが囲むのは、たった二人の冒険者。
「ぐあっ!」
「バハ君、大丈夫!?」
「くっ……俺のことより、自分を心配していろ!」
一瞬気を抜いたクラッズ目掛け、死霊の戦士が槍を繰り出す。直前に気付いたものの、クラッズはその攻撃を避けきれず、
脇腹に槍が突き刺さった。
「あぐっ……ぁ…!」
「ちっ、これだから下等な種族は…!」
バハムーンが駆け寄り、その槍を蹴り折る。間髪入れず、死霊の戦士にも拳を叩きこみ、急所への一撃で葬り去る。
しかし、バハムーンも決して余裕ではない。既に全身ひどく傷ついており、左目は額からの流血により開けられなくなっている。
「ごめん……私、足引っ張ってる…!」
「今更何を言う。そんなこと、初めからわかっていたことだ」
続いて襲いかかる闘牛の頭の攻撃をかわし、カウンターの貫き手を喉に放つ。
「それより、すぐ治療を…」
「も、もういいよ!このぐらいならまだ戦えるし、バハ君にこれ以上迷惑かけられないよ!」
傷を押さえ、クラッズは何とか立ちあがった。
「もう、8回もヒーリング使ってもらってる!このままじゃ、バハ君がやられちゃうよ!だからお願い、自分の傷を治して!」
その言葉を、バハムーンはつまらなそうに聞いていた。やがて、その顔に不敵な笑みが浮かんだかと思うと、クラッズに手を向けた。
直後、クラッズの傷が見る間に塞がっていった。一瞬何が起こったのかわからなかったが、クラッズはすぐに気付いた。
「バ、バハ君!?どうして私なの!?このままじゃ、バハ君が…!」
「貴様のような下等な種族に心配されるほど、俺は落ちぶれていない。それに…」
次々に襲いかかる敵をカウンターで片づけつつ、バハムーンは言葉を続ける。
「これだけ傷ついていれば、モンスターはひ弱な貴様ではなく、俺を狙う。こっちにとっても好都合だ」
「だからって、そんな…!」
「俺は、あいつに貴様を任された。貴様を守るのが、今の俺の為すべきことだ。あいつの信頼に、俺は応える義務がある」
強い口調で言い切るバハムーンに、クラッズは言葉を失った。
「そして、あいつが今ひどい目に遭っているのなら、俺はあいつを助ける義務がある。それらを放り出して、あいつの恋人が務まるか!」
最後のモンスターを打ち倒し、バハムーンは血に染まった唾を吐き捨てた。
「バハ君…!」
「……だが、もしあいつに何かあったら、貴様も容赦しないぞ…!」
「う……わ、わかってる。と、とにかく早く二人探そ!」
「言われるまでもない!」
戦闘を終えた二人は、戦利品を拾うのもそこそこに、すぐ探索を再開する。ダークゾーンの多いこのフロアは厄介ではあるが、
小部屋によって分けられているため、思ったよりも探索は容易い。
やがて、隅の方にある小部屋の前まで来た時だった。
「嫌だぁ!やめろぉ!それだけは嫌だぁー!!」
中から響く悲鳴。それは明らかにドワーフの声だった。
「ここかぁ!!!」
即座に、バハムーンは扉を蹴破った。直後、二人の目の前に信じられない光景が飛び込んできた。
「バハちゃん!?」
「あ、クラちゃん…!」
ドワーフを押さえつけ、秘裂に指を入れようとしているバハムーンの女の子。ドワーフはもう抵抗する気力もないのか、ぐったりと
して見える。
「ドワーフ…!」
彼の声に、ドワーフは顔を上げた。
「バハムーン……お、オレ、こいつに……う、うええぇぇん…!」
大粒の涙をこぼし始めるドワーフ。その状況から、バハムーンはドワーフの身に何が起こったのかを悟った。
直後、彼の気配が一変した。
「貴様……覚悟はできてるだろうな…!?」
その目はまるでダークドラゴンのような威圧感を放ち、隣にいるクラッズはおろか、同種族であるはずの彼女でさえも怯えさせた。
「こ、来ないで…!それ以上近寄ったら…!」
咄嗟に、彼女はドワーフを抱きあげ、秘裂に尻尾を押し当てた。
「……ほう、そう来るか」
「ちょっとちょっと、バハちゃん!?何考えて…!」
「だがそれは、俺も同じ真似ができるとわかっての行動か?」
「え……きゃああぁぁ!?」
言うなり、隣のクラッズを抱き上げ、同じように尻尾を押し当てて見せる。
「クラちゃん…!」
「嫌ああぁぁ!ちょっとちょっと、バハちゃん!お願いだからやめてよぉ!!」
「ついでに言うと、俺にあるのは尻尾だけじゃない。こいつの腹が裂けてもいいのか?」
「やっ……無理無理無理ぃ!!お尻とか絶対無理ぃ!!」
「クラちゃん!」
ドワーフを抱き上げたまま、彼女はギリッと歯を鳴らした。
「……ひ、卑怯者!」
「それはお前だ!」
「お前がだろ!」
「先にやったのはバハちゃんでしょ!」
「……あ」
三人同時の突っ込みを受け、彼女はようやくその事実に気付いた。
「え、えっと……で、でも、私はただ、気持ちよくさせてあげただけ…!」
「じゃあどうして、そいつは泣いているんだ?そして、そいつは俺の彼氏だ」
「彼氏…?でも、女の子…」
「体はな。だが、そいつは紛れもなく男だ。それを女として扱った貴様は、そいつを苦しめただけだ」
再び濃くなった殺気に、彼女はどんどん委縮してしまう。
「で……でも、その、私…」
「……は〜…」
その時、クラッズが溜め息をついた。そして、なおも言い訳しようとする彼女をキッと睨みつける。
「バ〜ハ〜ちゃ〜ん〜!」
「ひっ…!?」
途端に、様子が変わった。その目は完全に怯え、まるで母親に叱られる子供のような顔になっている。
「あのさあ、バハちゃん。状況わかってる?それと自分が何したかわかってる?ねえ、わかってんの?」
「あ、あ、あのっ……あの、えっと…!」
狼狽する彼女を見つめ、クラッズは一瞬、自分を抱えるバハムーンに視線を送った。
「バハ君、もう大丈夫。ちょっと放して」
「……ああ、わかった」
彼の腕から解放されると、クラッズはずんずん彼女に近づいていく。彼女は彼女で、どんどん後ろに下がっていく。
「あ、あの、ごめんなさい…!この子、放すからぁ…!」
「そんなの、当たり前でしょっ!!」
「ひぅっ!」
ドワーフが解放されても、クラッズはなお詰め寄る。もはや彼女はバハムーンと思えないほどに縮こまっており、その前に仁王立ちする
クラッズの方が大きく見えるほどである。
「一人で勝手にこんなとこまで来て、助けてくれたドワちゃんと…!」
「……『ちゃん』とか言うな…」
ドワーフが、ぼそりと呟いた。
「あ、う……ごめん、ドワ君。とにかくドワ君にも、バハ君にも迷惑かけて、おまけに何、さっきの?バハちゃん、自分が何したか、
ちゃんとわかってる?」
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!も、もうしないよぉ……謝るからぁ…!」
「謝って済む問題じゃないでしょ!!!」
「……貴様等の力関係は、どうにもわからんな…」
後ろで、バハムーンがぼそりと呟いた。
「ごめんなさい……ごめんなさいぃ…!クラちゃん、許してぇ…!」
「……許されると思ってるの?」
吐き捨てるかのような冷たい言葉。クラッズはドワーフを抱き起こすと、彼女を睨みつけた。
「クラちゃんん…!」
すがるように声をかけるが、クラッズは怒りに満ちた目で彼女を睨み返す。
「私だけだったらまだしも、他の人にまで迷惑かけて……バハちゃんがそんな子だったなんて、私思わなかった」
「クラちゃん……お願いだから、許し…」
「バハちゃんなんか、大っ嫌い!」
途端に、彼女は雷に打たれたように立ち竦んだ。やがて、その目には大粒の涙が溢れ、たちまち頬を伝って流れ落ちる。
「う……うええぇぇーん!!」
子供のように泣き出す彼女から視線を逸らし、クラッズは帰還札を取り出した。
「帰ろ、ドワちゃ……ドワ君」
「あ、おい…」
ドワーフが止める間もなく、クラッズは帰還札を使ってしまった。後には、バハムーンの二人組が取り残される。
「あのアマ……俺を忘れて行きやがった…」
もはや怒る気も失せたらしく、呆れたように呟く。そして、今だ泣き続ける彼女に視線を向けた。
「まあ、いい。それより貴様、覚悟はできてるだろうな」
低く、威圧感のある声に、彼女は涙に濡れた顔を上げた。だが、そこに逃げたり抵抗したりしようという意思は感じられない。
「……クラちゃんが……ひっく……あんなに怒ってるの、初めて見た……私、すごく悪い事した…」
まだ涙をこぼしつつ、彼女は続ける。
「ごめんなさい……ぐすっ……君にも、悪い事した……ごめんなさい…!罰は、ちゃんと受ける……ごめんなさい…!」
彼が目の前に迫っても、彼女は動かない。そして、静かに手を振りかざした時、さすがに怖いのか、ギュッと目を瞑った。
だが、来るはずの痛みが来ない。恐る恐る目を開けると、拳が目の前で止まっていた。
「……殴る気も失せた。貴様をここで殺したところで、何が変わるわけでもない」
拳を引くと、彼は軽く息をついた。
「それに、貴様にはまだ謝っていない相手がいるだろう?俺や、貴様の連れには素直に謝れたんだ。あいつに謝れないなんてことは
ないだろう」
その言葉に、彼女は黙って頷く。
「貴様とて、俺と同じバハムーンだ。種族の恥を晒すような真似をしないと、信じている」
何だか狐につままれたような顔の彼女に、彼は手を差し出した。
「帰るぞ。そんな所にへばりついていても、何ができるわけでもない」
彼女はしばらく躊躇っていたが、やがておずおずとその手を掴む。
彼女を引き起こすと、彼は汚いものでも触ったかのように、手をズボンで丁寧に拭った。
「帰還札は持っているか?」
「あ、うん、持ってる……じゃあ、使うね」
光に包まれ、消える二つの影。彼は気づかなかったが、帰還札を使う直前、彼女は隣の彼を、どこかうっとりした目で見つめていた。
中継地点でクラッズとドワーフを探してみたが、二人は既にランツレートまで戻っているらしく、バハムーンの二人組もその後を追う。
寮の入口で彼女と別れ、部屋に戻ってみると、ドアの鍵は開いているようだった。
「ドワーフ、いるか?」
「……ん」
消え入りそうな、小さな声。中に入ってみると、ドワーフはベッドの上に膝を抱えて座り込んでいた。
「……大丈夫か?」
「ん……って、お前こそ大丈夫かよ…?」
言いながら、ドワーフはバハムーンにヒールを使う。普段ならメタヒールを使うところなのだが、今は精神を集中できないのだろう。
隣に座ると、バハムーンは優しくドワーフの肩を抱いた。
「すまなかった。お前を一人にするべきではなかった」
「いいよ……オレが言ったんだから…。お前のせいじゃねえって…」
ドワーフは弱々しくも、何とか笑顔を見せた。だが、その笑顔が余計にバハムーンの胸を痛める。
「……ところで、あの女はどこに行った?俺を置いて帰りやがって」
「あ、ごめん。それ、オレもあの子も交易所で気づいたんだけど、追いつかれたら殺されるって泣いちゃったから、つい…」
「……どうせ、ここに帰れば結果は同じだというのにな。あいつは部屋にいるんだな?今からでも遅くは…」
そう言って立ち上がろうとしたバハムーンの服の裾を、ドワーフがギュッと掴む。
「……行かないでくれよ……お願いだから、一緒にいて…」
普段からは想像もつかないほどに、か細い声。その目には涙が溜まり、今にも零れ落ちそうだった。
「ドワーフ…」
「思い出しちまうんだよ……オレ……女の方で、イかされて…!オレ……オレ…!」
「わかった、もう黙れ。そんなこと、もう口に出す必要もない」
バハムーンはドワーフを抱き寄せると、零れた涙を舐め取るようにキスをする。
「バハムーン…!」
「そんな記憶など、すぐに忘れさせてやる。今は、俺だけを感じていろ」
言うなり、バハムーンは強くドワーフを抱き寄せ、その唇を奪った。さすがに一瞬驚いたものの、ドワーフはそれに抗うこともなく、
無遠慮に侵入する舌へ、甘えるように舌を絡める。
ドワーフの平たく長い舌の感触を楽しみつつ、バハムーンはその服に手を掛けた。片腕はドワーフを強く抱き寄せたまま、もう片方の
手で器用にボタンを外していく。やがて、全てのボタンが外されると、ドワーフは袖から腕を抜き、脱がせるバハムーンを手伝う。
舌を絡ませ、不意に唇を離す。ドワーフが追い縋るように舌を突き出すと、バハムーンはそれを舐めるように舌で触れ、再び唇を重ねる。
いつもより、ずっと長いキス。時に焦らし、時に欲望のままに、二人はその感覚を貪るように味わう。
バハムーンが、ズボンに手を掛ける。ベルトを外し、止め具を外すと、ドワーフは脱がせやすいように尻尾を垂らす。
ズボンを丸めてベッドの下に放ると、バハムーンはすぐに下着へ手を掛ける。それも同じようにして脱がせた時、ドワーフが不意に
胸を押した。それに気付き、バハムーンは唇を離す。
「ん、どうかしたのか?」
「……あ、あのさ…」
ドワーフは一度視線を逸らし、どこか言い辛そうに口を開く。
「前も、似たようなことあっただろ…?あん時も、オレ、初めてだからって狙われて……今回も、初めてだってわかったら狙われて…」
「おい、ドワーフ…」
「だ、だからっ!」
叫ぶように言うと、ドワーフは怯えたような目でバハムーンを見つめる。そして、震える手を伸ばし、自分から秘部を広げて見せた。
「し、知らない奴に、奪われるくらいなら……お、お前に、その、こっちの初めても、もらってほしい…」
そんなドワーフを、バハムーンは何とも言えない表情で見つめる。やがて溜め息をつくと、ドワーフの頭にそっと手を置いた。
「……俺は、女とヤるつもりはないぞ」
その一言に、ドワーフはビクッと耳を垂らした。
「そ、そんな言い方しなくたってっ……だって、だって……オレ…!」
今にも泣きそうな顔になるドワーフの頭を、バハムーンは優しく撫でた。
「お前は、男だろう?」
「え…?」
「聞こえなかったわけではあるまい?お前は、男だろう?」
「……そ、そうだけど、でもっ…」
「体は女でも、お前は男だろう?」
「……うん」
ようやく頷いたドワーフに、バハムーンは微笑みかける。
「だから、俺はお前と付き合っているんだ。俺は女とヤる趣味はない。……だがな」
ドワーフの頭を優しく撫でつつ、バハムーンは続ける。
「もし、お前が本気でそう望むなら、俺はそれに応えよう。しかし俺とて、いきなりそんなことを言われても覚悟が決まらん。
だから、しばらく待て」
「しばらくって……どれくらいだよ…?」
「そうだな、ひと月もあれば十分か。それでもし、ひと月後もお前が今と同じように望むのなら……その時は、俺も覚悟を決める」
少し不服そうではあったが、ドワーフはその言葉に黙って頷いた。
改めて、バハムーンはドワーフを抱き寄せる。そして服を脱ぎ、自身のモノに唾を付けると、ドワーフの耳元に囁く。
「悪いが、少し我慢しろ」
聞き返す間もなく、ドワーフの後ろの穴にバハムーンのモノが押し当てられる。次の瞬間、バハムーンは思い切り腰を突き出した。
「んぐ、あっ…!うあ、あああぁぁっ!!」
抱き締められ、身動きの取れないままに、ドワーフが悲鳴を上げる。いつもならば、ドワーフの愛液を絡めて入れているのだが、
バハムーンはそこに触れようともしない。
「い、痛いっ……痛てえよ、バハムーンっ…!」
「ドワーフ……すまん、我慢してくれ」
「あぐっ!うっ!バハ……んむぅ…!」
ドワーフの口を自身の唇で塞ぎ、バハムーンは腸内を激しく突き上げる。バハムーンが動く度に、滑りの悪い結合部に痛みが走る。
だが、体内を突き上げられる度、鈍い痛みと快感が走り抜ける。そして、重ねられた唇と、絡まり合う舌の感触が、痛みを和らげる。
「ふ、ぁ…!んっ……むぅ…!」
痛みから逃れるように、ドワーフは積極的に舌を絡め、バハムーンの体にしがみつく。それに応えるように、バハムーンもドワーフを
強く抱き締める。全身で感じるお互いの温もりが、二人の快感をさらに強めていく。
快感が高まるにつれ、痛みが消えていく。最初はバハムーンのモノを拒むようにきつく締め付けていたドワーフも、徐々に彼のモノを
優しく受け入れるようになっていく。
「くっ……ドワーフ、もうっ…!」
「んあぁ…!いいよ……お前の、オレの中にっ…!」
ドワーフはバハムーンに全身で抱きつき、彼のモノを強く締め付けた。同時に、バハムーンが低く呻いた。
ビクンと、体の中で彼のモノが跳ねるのを感じる。それを感じる度に、ドワーフの中にえもいわれぬ快感が湧きあがる。
強く腰を押し付けていたバハムーンが、ゆっくりと腰を引く。だが、そのまま引き抜くのかと思っていると、彼は再び強く
突き上げてきた。完全に油断していたドワーフは、予想外の快感に悲鳴を上げる。
「うああっ!?お、お前っ……あぐっ!お、終わったんじゃ…!?」
「生憎と、一度ぐらいで治まりはしないんでな。それに、お前だって足りないだろう?」
「オ、オレはっ……あうっ!バハムーン、もうやめっ……んあっ!!」
出されたばかりの精液が、腸内で激しく掻き混ぜられる。溢れた精液が結合部を伝い、それが潤滑剤となってドワーフの痛みを消し去る。
それによって、ただでさえ強くなっていたドワーフの快感は、一気に跳ね上がった。
「バハムーンっ……ま、待って!!オレ、もうっ……あぐぅ…!い、イっちまうよぉ!!」
だが、彼は動きを止めるどころか、ますます強く突き上げる。ドワーフはベッドのシーツをぎゅっと掴み、必死に耐えていたが、
それもすぐに限界が来た。
「も、もうダメっ……ああっ、ああああぁぁぁ!!!」
ドワーフの体が反り返り、ガクガクと震える。だが、バハムーンは動きを止めたりなどせず、なお激しくドワーフの腸内を突き上げる。
「ああっ!!あっ!!バハっ……ま、待てぇ!!オレ、今イってっ……う、動くなぁぁ!!!」
途切れることのない快感。ただでさえ敏感になっているところをさらに犯され、ドワーフの快感は限界以上に跳ね上がる。
「うあああぁぁ!!!やめっ……ぐぅ、あああぁぁぁ!!!」
再び、ドワーフの叫び声が響く。細かく何度も達してるらしく、ドワーフの体は反り返り、足はピンと伸びてぶるぶる震えている。
腸内はバハムーンのモノをさらに引き込むかのように蠢動し、唯一尻尾だけが、それ以上の動きをやめさせようとするかの如く、
結合部を隠すように閉じられる。
「くっ……ドワーフ、また出すぞ!」
「あぐぅぅ!!も、もうやめっ……これ以上っ……これ以上、イけねえよぉ!!バハ……あああぁぁぁ!!!」
ドワーフが叫ぶと同時に、腸内がギュッとバハムーンのモノを締め付ける。それに促されるように、バハムーンは再びドワーフの体内に
精液を注ぎ込む。
モノが跳ねるのに合わせ、バハムーンはドワーフの奥深くを突き上げる。その度に、大量の精液と空気が腸内で掻き混ぜられ、
ガボガボと大きな音が響く。その音までもが、激しく犯されている事実を認識させ、ドワーフに強すぎるほどの快感を与える。
「はあっ……はあっ……うああぁ、あ…!」
もはや何度目かわからない絶頂を迎えるドワーフ。しかし、さすがにもう叫ぶ元気もないのか、今までと違って力なく呻くだけである。
汗だくになった体からは徐々に力が抜けていき、目は今にも閉じられそうになっている。
「バハムーン……オレ……もぉ……無理ぃ…」
力ない声で言うと、とうとうドワーフの全身から力が抜けていった。バハムーンが突き上げる度に、その口から小さな呻き声が漏れるが、
もう今までのように叫び声をあげたりはしない。呼吸もすっかり浅くなっており、意識は既になくなっているらしかった。
「はぁ……はぁ……ドワーフ…!」
そんなドワーフの体内に、バハムーンは三度目の精を注ぎ込む。さすがにバハムーンも疲れており、これ以上しようという気は
起こらない。
ゆっくりと、ドワーフの中から引き抜く。
「う……ぁ…」
無意識に反応するのか、ドワーフの体がピクンと震える。それとともに、あまりに激しく犯されて、すぐには閉じなくなった肛門から、
精液がどろりと溢れ出た。
それを軽く拭き取ってやると、バハムーンはドワーフの体を抱きしめた。
「……もし、お前の望みが変わらなかったとしても…」
聞こえていないと知りつつ、意識のないドワーフの耳元で、そっと囁く。
「俺はお前を、放しはしない」
そう言い、バハムーンはドワーフをさらに強く抱きしめた。体毛が肌をくすぐり、汗ばんだ体からはいつもより強く匂いが感じられる。
そうして目を瞑っているうち、いつしかバハムーンも眠りに落ちていた。
一方、クラッズの部屋では夜が更けてからも、クラッズの叱責の声が響いていた。
「ほんっと、信じられないよ!どうしてドワちゃんにまで手ぇ出すわけ!?しかも、あの二人は恩人だよ!?」
「ごめんなさいぃ……クラちゃん、もう許してぇ…!」
「そもそも、ドワちゃんにちゃんと謝ったの!?それもしないで、許してとか言ってるんじゃないよね!?」
未だに怒り心頭のクラッズに、泣きそうな顔で謝り続けるバハムーン。
「あ、謝ろうとしたけど……バハ君に、来るなって言われたんだもん〜…!」
「だからって、さっさと引き下がるの!?」
「だ、だって……すっごく怖い顔で言われたんだよぉ…」
「……う〜……それは、まあ、じゃあしょうがないけど……あとで、ちゃんと謝るんだよね?」
若干、クラッズの口調が和らぐ。それを聞いた瞬間、バハムーンの顔にホッとした表情が浮かんだ。
「う、うん。ちゃんと謝る……だから……ゆ、許して、くれる…?」
「……謝ったらね」
溜め息混じりに言うと、クラッズはもう一度彼女を睨んだ。
「ああ、それからちゃんと謝るまで、エッチ禁止ね」
「え……そ、そんなぁ〜…!」
「何?文句があるの?」
和らいだと思った表情が、再び鬼のような形相になっていく。元の目つきが悪いだけに、その迫力も凄まじい。
「ドワちゃんに好き勝手しておいて、色んな人に迷惑かけておいて、許してもらわないうちからやりたいことやるんだバハちゃんは!?」
「ご、ごめんなさいごめんなさい!!わかったよぉ!!言うこと聞くから怒らないでぇ!!ふええぇぇ…!」
泣き出すバハムーンに、再びボルテージを上げていくクラッズ。二人が眠れるのは、まだまだずっと先のことのようだった。
一ヶ月後、ドワーフとバハムーンはいつものように朝食を取っていた。相変わらずハニートーストやアップルパイなど、甘い物中心の
メニューである。
「ふー、ごちそうさまっと」
「速いな。朝食ぐらい、もっとゆっくり食えばいいものを」
「いいだろー別に。それに、これぐらい普通だって」
「……前は俺より遅かったと思うんだがな?早食いは太るぞ?」
「お前はどうなんだお前は。俺は三つだけだけど、お前それで八個目じゃねえかよ。大食いは太るぞ」
「俺はゆっくり食ってるからいいんだ」
「よくねえよ」
いつも通りの会話。いつも通りの日常。いつもと変わらない、当たり前の風景である。
だが、ここ最近は、それにも少しだけ変化が訪れていた。
食事を終えたドワーフは制服を着ると、鍵を持ってドアへと向かう。
「さてと、それじゃあオレ、行ってくるなー」
「また、あの女のところか?お前も飽きないな」
「いいだろー。だって、お前以外ではようやく、初めてできたまともな友達なんだから」
「ま、そうだろうな。別に俺とて、止める気はない。ゆっくり遊んでくるといい」
「安心しろって、ちゃんと夜までには帰るからさ。へへっ」
そう言ってドアに手を掛けるドワーフの背中に、バハムーンが声をかける。
「……夜と言えば、あれからちょうどひと月だな」
「うっ…」
ドワーフの体毛が、ぶわっと逆立つ。
「確か今日の夜には、お前のもう一つの初物がもらえるという話だったが…」
「ううう、うるせえー!!その話はなしだっ!!もう言うなっ!!あああ、あん時は頭ん中ぐちゃぐちゃで、どうかしてたんだよ!!」
全身ぼさぼさにして叫ぶドワーフを、バハムーンはニヤニヤしながら見つめる。
「そうか、それは残念だな。二度目の初物をもらえるというのは、なかなか魅力的だったんだが」
「嘘つけぇー!!お、お前だってそんなん嫌だろ!?だからもう、その話はなしっ!!もう言うな!!いいな!?」
「はっはっは、わかったわかった。今回は諦めておいてやろう」
「次回はもうねえよ!!」
乱暴にドアノブを掴み、捻じ切らんばかりの勢いで回す。そこでふと、ドワーフの動きが止まった。
「……けど、ありがとな。あん時、あのままやっちゃってたら……オレ、きっと一生後悔してた」
「俺は、お前の彼氏だからな。お前のことは、理解しているつもりだ」
そう言うバハムーンに、ドワーフは恥ずかしそうな、それでいて嬉しそうな笑顔を向けた。
「へへっ、お前のそういうとこ……オレ、大好きだぜ!」
返事も待たず、ドワーフはそのままドアをすり抜け、出て行ってしまった。だがその直前、尻尾がぼさぼさになっていたのを、
バハムーンは見逃さなかった。
「……意外と恥ずかしがりなのも、変わらんな」
小さく笑い、九個目のハニートーストを取った瞬間、部屋のドアがノックされる。ドワーフかとも思ったが、それならばわざわざ
ノックする必要がない。
「誰だ」
尋ねるも、返事はない。バハムーンは忌々しげにハニートーストを置くと、勢いよくドアを開けた。
「……おはよう」
そこにいたのは、あのクラッズと一緒にいるバハムーンだった。
「帰れ」
冷たく言い放ち、ドアを閉めようとする。しかし彼女は隙間に足を突っ込み、さらにドアに手を掛けて抵抗する。
「か・え・れ!」
「待って……いきなり、ひどい…!」
怪力の二人に掴まれ、ドアがメリメリと悲鳴を上げる。
「そもそも貴様、俺に何の用だ。いや、何があろうと俺は貴様に用はない。帰れ!」
「待ってってばっ……せ、戦闘訓練……付き合ってほしいなって…!」
それを聞いた瞬間、彼はいきなりドアから手を放した。突然抵抗がなくなり、彼女は勢い余って倒れそうになる。
「なんだ、そういうことか。貴様を叩きのめせるというなら歓迎だ。行くか」
「……負けないもん」
そして、二人は連れ立って体育館へ向かう。その光景を見た者は、とうとう彼が女にまで手を出すようになったと勘違いし、結果として
彼等の行く先は、海を割った聖人の奇跡の如く、人波が避けていくのだった。
体育館に、激しく床を踏み鳴らす音が響く。それに加えて、荒い息遣いと武器のぶつかり合う音。
ガツンと一際大きな音が響き、木剣が床を転がる。直後、これまたゴツンと鈍い音が響いた。
「い……痛い…!」
「ふん、その程度か?手加減してやってるんだ、少しぐらいは手応えがないとつまらんな」
ど真ん中を占拠するバハムーンの二人組。彼女の方は頭を押さえてうずくまっており、彼の方は物干し竿をくるくると回している。
「そんなに長いの使ってるのに、手加減とか…」
「なんだ?素手でやれというのか?やっても構わんが、俺は素手の方が得意だぞ」
とは言いつつ、長大な物干し竿をまるで体の一部のように操る姿は、決して手加減をしているように見えない。
「……君が素手なら、私の方が強いよ…!」
「ほ〜う?貴様、俺を舐めるなよ」
彼女が木剣を拾うと同時に、彼は物干し竿を投げ捨てた。
「素手より武器を持った方が有利だというのは、戦士や侍の…」
「隙あり!」
突然、彼女は不意打ちで木剣を振り下ろした。その速度は、常人なら目で追えないほどに速い。
が、彼はそれを平手で打ち払うと、彼女の腹に蹴りを叩きこんだ。
「ぐっ…!」
たまらず体を折った瞬間、彼は上から彼女の腰を掴み、その巨体を逆向きに軽々と持ち上げた。そして一瞬の間を置き、その体を
思い切り床に叩きつける。止めとばかりに、彼はぐったりした彼女の尻尾を掴むと、片手で放り投げた。
「うぅ……げほっ…!」
「不意打ちしておいてそれか?情けない奴だ」
「……く、悔しいよ…!私だって、自信あったのに…!」
必死に涙を堪える彼女に、彼は溜め息をついた。
「貴様の剣は、確かに速い。だが、攻撃が雑すぎる。その大振りばかりで、今まで生き残ってきた腕は認めるがな」
「……どうすればいいの…?」
「それは自分で考えろ。一言言うなら、牽制ぐらいは覚えておけ」
何だかんだ言いつつ、質問にも答えてくれる彼に、彼女はどこか嬉しそうな目を向ける。
「……君って、優しいし、強いし、すごいよね…」
「褒めても何も出ないぞ」
「私、今まで友達、クラちゃんしかいなかったから……君みたいに、強い人と友達になれて、嬉しいな」
「おい、待て。俺がいつ貴様と友達になった?やめろ、俺は女と付き合う趣味はない」
「大丈夫、私も男の子と付き合う趣味ないから…」
「……その割に、貴様、ドワーフには好き勝手してくれたな」
その言葉に、彼女は首を傾げる。
「だって、あの子って女の子…」
「よし、貴様いい度胸だ。今日は死の淵に辿りつくまで、存分に戦闘訓練をしようじゃないか」
「え、え…?だって、ほんとにあの子……ま、待って待って!!わ、私そういうつもりじゃっ……ゆ、許してぇー!!!」
どちらかというと、彼女に付きまとわれて迷惑そうな彼。とはいえ、彼としても彼女のような存在は珍しく、また同種族でもある。
彼女を心の底から嫌っているわけでは、決してない。
それ故か、本気で逃げ回る彼女を追いかけ回す彼の姿は、どこか楽しげにも見えるのだった。
その頃、ドワーフは寮の屋上でクラッズとお喋りを楽しんでいた。元々、種族的な相性も良かっただけに、二人はもはや無二の親友とも
言える存在になっていた。
「あはは。でも、ちょっと困ることもあってさ…」
「んお?何かあったのか?」
「ん〜〜〜……君と、バハ君と仲良くなってからさ、私の数少ない友達がすごい勢いで逃げてったんだよね…」
「あ〜……それは、なんか、悪りいね。でも、その程度で離れちまう奴なんて、最初っから友達になんてしない方が賢明だよ」
「……なんか、ちょっと納得しかけた。でも、うん、その考えもありかなあ…」
「ま、あいつの受け売りなんだけどさ」
二人は大きな声で笑い、一頻り笑ってから同時に溜め息をついた。
「……バハちゃんも、問題児だからなぁ…。いい子なんだけど……って、そうそう。ドワちゃ……くん、あれからバハちゃんと話した?」
クラッズが尋ねると、ドワーフは不機嫌そうに顔をしかめた。
「……するかよ、話なんて」
「でも、その、ね?バハちゃん、あれはあれで気にしてるんだよ。ドワ……君に謝ろうとしてるけど、いっつも話聞いてもらえないって、
嘆いてるんだよ」
「君には悪いけど、オレ、あいつだけは絶対に許せねえよ」
「許してあげて、なんて言わないし、言えないよ。でも、せめて謝るのを聞いてあげるだけでも、ダメかな…?」
そう言い、クラッズは不安げにドワーフを見上げる。そうされると、さすがのドワーフも少し心が揺らいだ。
「そ、そんな目で見るなよ……オレが悪者みたいじゃねえか…」
「ご、ごめん。そんなつもりはないんだ。でも…」
「……わかったよ。今度会ったら、話ぐらいは聞いてやる。それでいいか?」
「ほんとに!?ドワちゃ……ドワ君、ありがとう!」
何の衒いもない、満面の笑み。その顔を見ると、ドワーフの胸は自然と高鳴った。そして、前から思っていたことを、
ついに尋ねてみようという決心がついた。
「……なあ、ちょっと聞いていいか?」
「あ、うん?なあに?」
「あのさ、もし君が、あいつと会ってなくて……オレも、あいつと会ってなかったとして、もし最初にオレと君が会ってたら……その…」
「……うん、それで?」
言葉に詰まってしまったドワーフに、クラッズは優しい声で問いかける。
「あの……もし、オレと君だけで会ってたらさ、オレと付き合って……くれた、かな…?」
「……ん〜…」
その質問に、クラッズは難しい顔をして考え込んでしまった。そしてたっぷり一分ほど悩み、重い口を開く。
「……私、今でこそバハちゃんと、その、付き合ってるっぽくなってるけど、ほんとはそういう気なかったし……だから、ね、ドワ君が、
体の方は女の子だってわかったら……たぶん、付き合ってなかったと思うな……君には、悪いけど」
今度はドワーフが黙りこむ。だが、こちらは比較的すぐに笑顔を浮かべた。
「そっか……そうだよなー。いや、ありがとな。はっきり言ってもらえて、すっきりした。君って優しいよな」
「ドワ君だって、似たようなものじゃない?ていうか、私達って意外と似てる?」
「言われてみれば、そうかもな。性格も似てるっちゃあ似てるし、その気がなかったのに同じ性別の奴と付き合う羽目になったりな」
二人はまた大きな声で笑い、そしてまた大きな溜め息をついた。
「……な〜んで、こうなったんだろうな…」
「お互い、運がないんだよ……ああ、でもその相手がすっごく強いし、冒険者としての運はあるのかなあ?」
「まあ……それはそうかも。それに、オレは君と会えただけでも、結構運あると思うけどな、へへ」
恥ずかしげに笑うドワーフを、クラッズは笑顔で見つめた。そして、耳にそっと唇を寄せる。
「ね?付き合うのは無理だけど、これぐらいならしてもいいよ」
「へ?」
振り向いたドワーフの首を掻き抱き、唇を重ねる。驚くドワーフの唇を吸い、ちゅっと可愛らしい音を立てて唇を離す。
「……これぐらいなら、浮気にはならないよね?それに、前のお礼してなかったし、君ってその辺の男の子より、
ずっとかっこいいからさ」
そう言い、いたずらっぽく笑うクラッズ。ようやく状況を理解したドワーフは、全身の毛を逆立てつつ尻尾をぶんぶん振り始める。
「い、いきなりそういうことするなよなー!びっくりするじゃねえかよ!」
「えへへ、ごめんごめん。でも、ほら。『体が女の子だってわかったら』付き合わなかったってだけで、それ以外は百点満点なんだよ?」
「……くぅ〜っ、逆にそれ、すっげえ悔しいぞー。でも、ま……いいけどな!」
すっかり上機嫌のドワーフと、ちょっと恥ずかしげに笑うクラッズ。だが、そんなひと時の恋人気分も、一瞬で打ち破られる。
「わぁーん!!やだってばあ!!もうやめてよぉー!!」
「待て貴様ぁ!!言いだしたのは貴様の方だぞ、責任は取れぇ!!」
階下の叫び声に、二人は飛び上がらんばかりに驚いた。慌てて下を見ると、体育館からバハムーン二人組が飛び出してきたところだった。
「バハちゃん!?ちょっ……追い回されてる!?」
「うわっ、あの野郎、素手じゃねえか!?おいこら、バハムーン!!よせって!!殺す気かてめえはー!?」
だが、屋上からの声は届いていないようで、二人はそのまま走っていく。それを見て、ドワーフとクラッズは顔を見合わせた。
「……助けに行くか」
「そうしよ!バハ君の方、お願いね!」
「わかってる!」
そして、二人は大急ぎで階段を駆け下りていく。
「待てぇ!!貴様も戦士なら逃げるなぁ!!」
「うわぁーん!!クラちゃん、助けてぇー!!」
「おいバハムーン、待てってばぁー!!」
「バハちゃん、こっちこっちー!!そっちに逃げないでー!!」
奇縁によって繋がった者同士。普通なら決して繋がることのなかった彼等は、更なる奇縁によって繋がりを持った。
それが幸運なのか、不運なのか、傍目からは判断できない。多少の波風が起こった点に関しては、不運とも言えるだろう。しかし、
新たな仲間となれたことを考えれば、幸運とも言える。周りからすれば、問題児が合流したことで、もはや悪運の領域だろう。
だが、鬱陶しくも、実力のある仲間。可愛らしく、守りたくなる相手。初めて出会った、尊敬できる力を持つ仲間。限りなく理想に近い、
一緒にいたいと思う相手。
そんな、普通ならば探すことすら難しい仲間と、出会うことのできた彼等。多少の不運はあれど、彼等はやはり、幸運なのかもしれない。
以上、投下終了。
こいつらは扱い辛いけど動かしやすいなあ。
どうでもいいけど2を最初からまた初めてみたら、最後の最後でまたもメインのデータに上書きしたorz
それではこの辺で。
お疲れGJ
幸せな終わり方をしたのは解る……が、不完全燃焼なのがもどかしい…!
男は度胸、何でも試してみるもんさで突き抜けて欲しくもなかったりするようなですます
乙です
いまでこそ丸くなったがバハ男もバハちゃんと同じ事やってたなw
色々あったが良い仲間になれてなによりだ
みんな何時までも幸せでいてほしいね・・・
141 :
二番煎じ:2010/03/14(日) 01:05:08 ID:kaS6d/VL
どうも、二番煎じです。
前回投稿から早一ヶ月…投下ネタはホワイトデー。
少し長いので少し時間をかけて投稿します。
ではどうぞ。
-フェアリーPT:男性陣-
「で、だ。前回のバレンタインの時のことは覚えてるな?」
「あぁ、『一日遅れのバレンタイン』でしょ?忘れるはずがないよ」
「小生は忘れたくても忘れられないバレンタインだったけどネー、ヒヒヒ!」
「……俺、今まで生きてきた中でそんな皮肉を込めた笑い、聞いたことねぇよ……」
今日はホワイトデー。
バレンタインデーとは打って変わって恋する青年の為の日……ではなく、チョコレートを貰ったお返しをする日である。(ヒューマン談)
こうしてヒューマン、クラッズ、そしてフェアリーと男三人でフェアリーの寮に集まり、話し合いをしていたのである。
「まぁ、だ。あの出来事を繰り返さない為にだな……フェアリー!ぬかりはないな?」
「耳に胝が出来るほど聞かされたからね……ちゃんとフェルパー達には昨日のうちに言っておいたよ」
「よぅし、よくやったフェアリー!それじゃあ今日の探索は休み!ホワイトデーの作戦を練るぞ!」
「小生は別にお返しはいらないよネー?」
「却下」
その後クラッズとヒューマンの言い争いが続いたが、フェアリーが場を静めクッキーを買わせるべく購買へと向かわせた。
-フェアリーPT:女性陣-
「それにしても……フェアリーにしては珍しいよねぇ?『急遽、明日は探索は休みにするから』なんて」
ワッフルを口に運びながらフェルパーはエルフ達に話しかける。
どうやら女性陣は食堂で話し合っていたようだ。
「それでしたら、きっとホワイトデーだからではないでしょうか?」
ケーキを食べていたセレスティアがフェルパーの疑問の答えを返す。
「ほわいとでー?」
「貴女……本当に何も知らないんですわね」
優雅にパフェを食べていたエルフが食べる手を止め、フェルパーを見る。
「ホワイトデーというのは、殿方が女性にチョコを貰ったお返しをする日ですの。バレンタインの時にチョコをあげてなければ、当然お返しは貰えませんけど」
「へー……僕の暮らしてた所ではそんなことしてなかったからなぁ……。あ!じゃあ僕はお返し貰えないのか……」
食べかけのワッフルを皿に置き、耳を伏せて悲しそうな顔をする。
「チョコはあげてなくても、気持ちはあのキスで届いたはずですよ。元気をだしてください」
セレスティアがニコリとフェルパーに微笑みかける。
「うん……そうだよね!」
フェルパーもセレスティアに笑い返す。
その様子を見ながらエルフは微笑んでいた。
-???PT:女性陣-
「渡せるかな?渡せるかなぁ?うー、緊張してきたぁ〜!」
そう言い落ち着き無くパタパタと歩き回っているのは、見た目よりずっと年下に見えるクラッズだった。
「ふむ、リーダー殿も女の子に戻ることがあるのだな。普段からでは想像もできん」
ディアボロスがクラッズを小馬鹿にするように平然と言い放つ。
「そういうお主が手に持ってるそれはな〜に〜?」
「あっ、こら!返せ!やめて!」
大事そうに抱えていた小袋をクラッズに取られ、顔を真っ赤にしながら取り返そうとする。
「この口調の割には純情乙女め!だからあの男共にドMと罵られるのだぞ!」
ビシッとディアボロスを指差し、そのままほっぺをグリグリする。
「ええい!返せ!」
「あー、わしのチョコレートクッキー返せー!」
「私のだ!そしてどうしてチョコレートクッキーだとわかった!」
「匂いと感だ!レンジャー学科舐めるなぁ!」
「無駄なことにレンジャースキルを発揮するな!罠解除率零のダメレンジャーめ!」
「五月蝿い、お主が解除してみろ!気配バレバレのダメ忍者め!」
寮内に言い争いが虚しく木霊した……
-クラッズPT:男性陣-
パシン
「で?あのドMとダメチビは何をやっているんだ?」
カチャ
「どうやらバレンタインの時にチョコレートを渡せなかったとかでー……」
パシン
「チョコレート関係の物を渡しに行くらしいお」
カチャ
「へー……まさか俺達にじゃないよな?バレンタインの時に貰ってないし」
パシン
「ロン。平和、混全帯口九、二盃口、混一色、ドラ二で三倍満だドワーフ」
「ノームてめぇ、俺に何の恨みがあって三倍満だコラ!」
「早くよこせ、子三倍満で二万四千円だ」
ぐちぐち言いながらもノームに二万四千円を払うドワーフ。
「あーあ、なけなしの金が……」
「勝てば良いんだよ」
「知ってらい!コノヤロー!」
ニヤリと黒い笑みを浮かべるノーム、うっすら涙を浮かべるドワーフ。
バハムーン、フェアリーがやれやれといった表情をし、バハムーンが口を開く。
「ほら、凹むなドワーフ。もう一局やろうぜ」
「うぃ、今度こそ負けねーぞ!」
ジャラジャラと音を立てまた麻雀をやりはじめる。
「よーし、今度はおいらが親だお!」
フェアリーがさっと手牌を見た後に口をあんぐりと開ける。
「て……天和……だと……?」
「「なにぃ!?」」
「まぁいいや、元はドワーフの金だ」
なんだかんだで平和だった。
-フェアリーPT:男性陣-
「な……何で俺らが……」
「力仕事は自分には堪えるよ……」
「小生は今回は見学ということデー……」
「却下」
現在フェアリー達はクッキー生地を練っていた。
何故こうなったかというと、クッキーを買いに購買へ行ったところ、トレネッテに『手作りの方が思いが伝わる』と言われ、手作りせざるをえなくなったからである。
「あーもう!やってられん!」
「モンスターを相手にしてる方がっ!楽だよっ!」
「二人ともエプロン似合ってるヨー、ヒヒヒ!」
「クラッズ!お前も生地作りをしろー!」
ヒューマンの怒号が響いたが結局クラッズがクッキー作りに参加することはなかった。
-小一時間後-
「やっとできた……」
「後は焼けば良いんだよね?」
「あぁ、後はオーブンで」
「ファイヤー!」
クッキー生地を炎が包みこむ。
薄く伸ばされた生地は火力に耐え切れずに灰になってしまった。
「あ……阿呆ー!フェアリー、おま、ゲフンゲフン!お前なんてことを……!」
「お、落ち着いて!焼けば良いっていうから……」
「火力が強すぎだ!」
「一からやり直しだネー、ご愁傷様、ヒヒッ!」
そこでまたヒューマンの怒号が響き、フェアリーが謝り倒していた。
-クラッズPT:女性陣-
二人は罵り合っていた時に(主にクラッズが)散らかした物を片付けながら会話する。
「あの人達、何処にいるかなー?」
「食堂じゃないか?」
「よーし、食堂へ行こー!」
片付ける手を止め、クラッズが扉の方へと走っていきそのまま蹴り飛ばす。
扉は凄い音をたてながら外れんばかりに勢いよく開いた。
「お、おい勘弁してくれ。ここは私の寮であってリーダー殿の寮じゃ」
「細かいことは気にしない!さぁ、出発ー!」
まだまだ散らかっている部屋、若干壊れている扉を見て少し涙目になりながらも先へ行ってしまうクラッズの後を追いかけた。
-フェアリーPT:女性陣-
「やっぱり……毎日の日課が潰れるとやることがありませんわね」
そう言いながらもパフェを食べる手を止めないエルフ。
「エルフは食べ過ぎだよー。食堂のパフェ、制覇しちゃうんじゃない?」
「既に二十六種類目ですからねぇ……」
「う、五月蝿いですわね!量が少ないからですわ!」
エルフにそのように言われ、フェルパーは並べられたパフェの容器を見る。
「これ……結構大きいんじゃない?」
「う……そ、そうですわね……。でもわたくしは食べても太らない体質だから食べてるのですわ!」
「いくら太らないからといって食べ過ぎは毒ですよ」
セレスティアに窘められ、エルフはそっぽを向いた。
「魔法使いは頭の回転を良くするために甘いものが必要でしてよ!……だからあと四種類だけ、ね?」
セレスティアに顔を向け直し、片目を瞑りお願いする。
普段はお願いはしない彼女だが、そうしまで食べたい位パフェが好きなのだろう。
「しょうがないですねぇ……あと四種類だけですよ」
やり取りの一部始終を見て、フェルパーがのほほんとした顔で笑う。
「何か親子みたいだねー。セレスティアがお母さんで、エルフが娘?」
「そうですか?」
「確かに……セレスティアは良いお母さんになれそうですわね」
「エルフさんまでからかわないで下さい!」
言葉こそは怒っていたが、セレスティアは満更でもない顔をしていた。
「……どうしたのかな、あの人達。三回目だよ、ここ通るの」
フェルパーが人を視線で追う。
視線の先にはクラッズどディアボロスの女の子がいた。
「え?あぁ、あの人達、まだ居たんですわね。大方誰かと待ち合わせかしらね?」
「手に小さな袋も持ってますしね……。あれ、探し人が居なかったのですかね?」
三人は諦めた表情をした女の子達が食堂から出ていくのを見届けた。
-クラッズPT:女性陣-
「誰かなー、食堂にいるって言ったのは?」
食堂から出た後、クラッズはディアボロスに抱き着き頭をグリグリしていた。
「痛い痛い、私は『食堂じゃないか』と言っただけで、食堂にいるとは一言も」
「五月蝿いドM!少しは抵抗したらどうだ!」
「えぇ!?そこ怒るとこ!?」
クラッズに怒られ、ようやく抵抗し始めるがクラッズが離れる気配はない。
「そんなんじゃわしは離れんぞぉー!」
変なところで変な力を発揮してしまったクラッズにディアボロスは迷惑極まりないといった表情をする。
不意にクラッズの押さえ付ける手が緩んだ為、ディアボロスは慌てて抜け出した。
「スンスン……何か良い匂いがする。こっちかな?」
「そうか?私には何も匂いなどしないが……」
「レンジャー学科舐めるな!」
「関係ないだろう!」
クラッズが匂いのする(と思われる)方へとドンドン進んで行ってしまうので、ディアボロスはついて行かざるをえなかった。
-フェアリーPT:男性陣-
「出来た……」
「出来たんだねぇ……」
「良い匂いだネー」
フェアリー達はこんがり焼き上がったクッキーを見てやり遂げた表情を浮かべていた(クラッズ以外)。
「後はこのクッキーを袋に詰めて……」
「リボンを巻いて……」
ヒューマンが手際よくクッキーを袋に詰め、フェアリーがそれにリボンを巻いていく。
「小生にも一袋わけて欲しいナー?」
「例の如く却下だ」
ヒューマンとクラッズがまた言い合いをしていたが、フェアリーは違うことを考えていた。
(フェルパー……喜んでくれるかな?)
思わずにやけ顔になるフェアリー。
リボンを巻き終え、ヒューマンに三個、自分で三個持ち、調理室から出た時に不意に声をかけられた。
「あーっ、見つけたーっ!」
「いたーっ!?」
-フェアリー・クラッズPT:男性・女性陣-
不意に叫ばれたため、ヒューマンとフェアリーが驚いたよう目の前のクラッズとディアボロスを見る。
「どうだ、わしの嗅覚は!」
「まさか……本当にいるとは」
クラッズとディアボロスが何やら会話をしているが、ヒューマンがお構いなしに話し掛ける。
「み、見つけたって……君達、俺達を探してたのかい?」
「はい!その……バレンタインの時にどこにもいなくて渡せなかったので、今日チョコレートクッキーを持ってきました!」
バレンタインの時に見つけられなかったのはそれもそのはず、夜遅くまで探索をしてその後はフェアリーの寮に集まっていたからである。
「チョコレートクッキーって、私のと被って……」
「早い者勝ちでしょ?」
「えー……」
「まぁ、そんなわけで……受け取ってください!」
クラッズが小袋を前に差し出す。
だが……
「え、自分?」
「はい!」
クラッズがチョコレートクッキーをあげたのはフェアリーだった。
ヒューマンは自分に来ると思ってたのか何ともいえない表情をしている。
「え、え?あ……有難う」
「そして私のために用意してくれたと思われるクッキーを貰って行きますね!」
そう言うや、 クラッズはフェアリーの持っていた小袋を一つ引ったくり、何やら叫びながら逃げて行った。
「あっ、待って!こ、これは私からのバレンタインプレゼントです……だ!」
ディアボロスはヒューマンに小袋を押し付けるように渡すと、急いでクラッズを追いかけに行ってしまった。
二人はとても速いスピードですぐに見えなくなってしまった。
-フェアリーPT:男性陣-
「ディアボロスか……。苦手な種族に好かれちまったな、俺も」
「恋愛に種族は関係ないヨー?」
「いや、わかってる……と?フェアリー、どうした?」
フェアリーは何かボーゼンと立ち尽くしていた。
「いや、フェルパーへのメッセージカードを入れたのを持って行かれて……」
「あー……それはそれは。立ち尽くしたくなるわな」
「逆にあのクラッズの子が可哀相だヨー、今頃告白したは良いけど実は相手に彼女いましたー、なんてサー」
クラッズがヒヒヒと笑い、フェアリーを見る。
「ん、んー……何か悪いことしたなー……」
「まぁ、持ってかれたからには仕方ねぇよ。さ、エルフ達と合流しようぜ」
ヒューマンがフェアリーの背中を押し、エルフ達を探しに行った。
-フェアリーPT-
「おーい!なんだ、食堂にいたのか」
「うわぁ……なにこれ、パフェの容器?」
食堂へ真っ先に向かい見事にビンゴした。
そしてエルフ達に近付き、フェアリーがまずこの状況の感想を述べる。
「あら、探索を休んでまで今までどこにいましたの?」
「まずこのパフェは誰が食べたのか教えてくれ」
「エルフだよー。今三十種類食べ終わ」
「フェルパー、余計なことを言わないで頂戴!」
「モゴモゴ!」
フェアリーとセレスティアが苦笑いを浮かべる。
そして思い出したようにフェアリーが小袋を二つ取り出しエルフとセレスティアに渡した。
「はい、バレンタインのお返しだよ」
「まぁ、良いんですか?」
セレスティアがニコリと微笑み小袋を受け取る。
「あら……別にお返しなんて大丈夫でしたのに」
エルフは口ではそんなことを言いながら、嬉しそうな顔をしていた。
「俺も用意してるから受け取ってくれ」
「小生は用意してないから悪しからずだヨー」
ヒューマンがエルフ達に小袋を配る。
「わざわざ有難うございます」
セレスティアはやはりニコリと微笑みながらヒューマンを見る。
「意外ですわね、貴方のお返しは期待してませんでしたのに」
「フェアリーのは期待して俺のは期待してなかったのかよ」
「まぁ受け取ってあげますわ」
冷やかしながらも嬉しそうな顔をするエルフ。
そしてフェルパーが嬉しそうな声をあげる。
「わーい、ありがとう!甘いかなー、食べるのが勿体ないよー!」
口の端から涎を少し垂らしながら幸せそうな顔をする。
「フェアリーはフェルパーの分を用意してませんの?」
「あ」
フェアリーはエルフに言われ、思い出したようにこれまでのいきさつを話した。
「……という訳なんだ。」
「うにゅう……」
「だから自分はこれで許してもらおうと思うんだ」
そう言うとフェアリーは周りを見渡し、パーティー意外に誰も見てないことを確認するとそっとフェルパーの唇に自分の唇を重ねた。
「はいはい、お腹一杯ですわ」
「だな」
「ですね」
「だネー」「そんな……しょうがないよ」
「……僕は積極的になってくれて嬉しいよ」
フェルパーが猫独特の顔でニッコリと笑うと、フェアリーの手を握る。
フェルパーの顔はほのかに赤くなっていた。
フェアリーもニコリと笑うとフェルパーの手を握り返した。
-クラッズPT-
「ただいまー」
「……ただいま」
「よぅ、ダメチビとドMか。お帰り」
「……で?何でバハムーンとドワーフはパンツ一枚なの?」
「麻雀やってたら、払うものがなくなってだな……」
「うぃ、同じく……」
「今日はついてるお!」
「確かに、フェアリーはツモ率が高いね」
不審者を見るような目でバハムーンとドワーフを見るクラッズ、言い訳をするバハムーンとドワーフ、ホクホク顔のフェアリー。
ノームは相変わらずのポーカーフェイスだった。
「そ、そんなことよりお前等はどうだったんだ?」
「ふっふー、バッチリ!ちゃんとクッキーも貰ってきたし、メッセージカードも入ってる!」
「ほう、メッセージカードまで?」
「というよりリーダー殿、あれははたして貰ったと……」
「ドMはつべこべ言わない!それではメッセージカードを読み上げます!」
リボンをほどき、袋の中からメッセージカードのみを取り出し読み上げはじめる。
-フェルパーへ
バレンタインから一ヶ月たち、今日はホワイトデーですね。
もうパーティーを組んでから半年たったのに、君と出会ったことを昨日のことのように鮮明に思い出せます。
こんな頼りない自分だけど好きになってくれてありがとう。運命を信じるなら君との出会いは運命と信じます。
フェアリー-
「……」
メッセージカードを読み終わり、クラッズが口をあんぐりと開けたままになる。
「り、リーダー殿」
「……」
「ご愁傷様、だね」
「……」
クラッズの行った行為が、フェアリーとフェルパーの愛を深めたのかは定かではない。
むしろ、どちらでも愛は深まっていただろう。
しかしフェアリーを積極的にしたぶん、クラッズの行為は良い方向へ転がったのだろう。
クラッズの恋は終わってしまったが、ディアボロスの恋はどうなったのか?
それもまた別のお話。
151 :
二番煎じ:2010/03/14(日) 01:28:42 ID:kaS6d/VL
有難うございます、二番煎じです。
バレンタインでは充実しなかったので今日も充実しなそうです。
皆様は楽しい一日を過ごしてください。
今回は二パーティー同時進行してみましたが扱い切れずグダグダに……
複数パーティーを扱い切れる職人さんを私は心より尊敬します。
ではでは、今日はこれにて。
体が動かない……
ホワイトデー…それはバレンタインデーが貰った男性が女性に送り返す日である。
男によっては一番大変な日でもある。ホワイトデーの朝…
「おはよーさん」
「おはよう」
「おはよー」
まあいつものと変わらない日常ではあるが…
「そういや今日はホワイトデーだな」
「ん?そういやそうやったな」
「フェル男。お前はどうするんだ?確かチョコは貰っているはずだろ」
「ああ、ちゃんと用意してあるで」
「ヒュム子とバハ子とノム子…ん?1つ多くないか?」
「ああ、それはセレ子はんの分や」
「セレ子って…ヒュム男のパーティーの女子だな。貰っていたのか」
「まあせやけどな…でもあん時のセレ子はん様子おかしかったしな…」
「?…どういう事だ?」
「ああ、実はな…」
1ヶ月前〜バレンタインデー夕方〜
「あの…フェル男さん」
フェル男に話しかけてきたセレスティアの女子のセレ子(職業:戦士)
「ん?セレ子はんか、何の用や?」
「実は…ちょっと作りすぎてしまいまして…受け取ってもらえませんか?」
「え!?わいにくれるんでっか!?」
「は、はい…良かったら是非…(小声で)本当はフェル男さんのために作った手作り本命チョコ…私からの気持ちです…」
「ん?なんかゆうたか?」
「い、いいえ!何でもありません!」
「セレ子はん…顔真っ赤やで?風邪でもひいたんとちゃうんか?」
そういってフェル男はセレ子のおでこをさわる。
「!!」(顔真っ赤&爆発)
「セレ子はん?」
「い、いいえ!フェル男さん!!私は大丈夫です!熱はありませんから!!」
「なんであわててるんや?」
「そ、それより、お礼はフェル男さんの特製クッキーでいいです!」
「へ?わいの特製クッキー?そんなんでええんでっか?」
「それでいいです!それじゃ失礼します!!」
そういって、大慌てでセレ子は行った
「…セレ子はん?」
「というわけや」
「(フェル男もちゃっかり本命貰ってるじゃないか…)まあ…その何だ、彼女の気持ちは早く答えてやった方がいいぞ」
「は?なんでや?」
「それはだな…」
「シクシク…」
今の声にフェル男とエル男はドワ男のいる方向に向けた、何故か隅っこだが…
「さっきから聞いてりゃ…甘ったるい事言って…俺は羨ましく…羨ましくないからなぁ!!」
「ふっ…ドワ男君、どうやら君と僕は同じ存在…」
突然現れたノームの男、名前はノム男(職業:格闘家)
「ふざけんなぁ!!お前のようなバトルマニアに一緒にするな!!」
「はっ…どこが違う?何故違う…?」
「あいっかわらずむかつく言い方だぜ!!今ここで叩き潰す!!」
「はたして狂戦士の君に僕のスピードについてこれるかな…?」
「うっせえ!勝負だ!!」
「のぞむところ!!」
そう言って、ドワ男VSノム男のバトルが切り落とされた!!
「ほっといたほうがええな…」
「教室に行こう…」
フェル男とエル男はドワ男とノム男を置いて教室へ向かった…
−教室
「よ、おはよーさん」
「おはよう」
フェル男とエル男は教室に入って3人の女子に挨拶した。
「おはようさん2人とも」
「おはよう、エル男君、フェル男君」
「おはようございます…」
挨拶を返した女子軍。順番にバハ子(職業:竜騎士)ヒュム子(職業:人形遣い)ノム子(職業:レンジャー)
「そういえば…ドワ男さんがおられませんが…」
「ドワ男ならノム男と勝負の最中や」
「またかい、あの2人は」
「本当にバトルが好きなんだね2人とも」
「いや、そういうわけじゃないが…」
「そういえばフェル男さん…今日はホワイトデー…」
「わかってるわい。お前らの分のバレンタインのお礼をちゃんと持ってきてるで」
「わざわざ悪いね、急がせるような事して」
「ありがとうございます…」
「フェル男君のクッキー美味しいし、仕方ないよ、それよりエル男君今日は…」
「ああ、わかっているよ」
エル男はそういうと、ヒュム子は嬉しそうに微笑んだ。
「ん?なんや2人ともどっかいくんか?」
「ああ、まあな」
「デートだよ」
「デートですか…羨ましいです」
「そういやフェル男、あんた彼女いないのかい」
「ん?彼女なんておるわけないやろ」
「そうなんですか…?もてそうな感じをしていますが…」
「そういえばクッキーの袋が1つ多いのはなんでだい?」
「ああ、それはヒュム男のパーティーのセレ子はんの分や」
「セレ子さん…ふふ…」
「セレ子ねえ…フェル男…あんたまんざらじゃないのかい?」
「お前らもエル男のような事言うなあ」
フェル男がそういって、辺りをみわたしたら悩んでいるヒュム男パーティー一同がいた
「なんやヒュム男、悩んだような顔して」
「ん?フェル男か…実は俺のパーティーの1人が風邪を引いてな…」
そういえば、セレ子がいないのである。
「セレ子さんが心配なんだけど、今日僕達は探索に出なくちゃならなくて…」
「それで、セレ子の穴とセレ子を見てくれる奴を探してて悩んでいるんだ?」
「セレ子はんが…やっぱ熱があったんやなあん時」
「ん?熱があったって…俺のチョコ渡した時は普通だったぞ?」
「へ?」
「そうだフェル男さん、フェル男さんのパーティーで空いてる人いる?」
「今日はエル男とヒュム子はデートで無理やし、ドワ男は手伝う気ならんやろうしな…」
「あと、フェル男さんも無理…」
「は!?ノム子、なんでわいも無理に入ってるんや!?」
「何故なら…フェル男さんは、セレ子さんを見る役だから…」
「お?フェル男、セレ子を見ててくれるのか?わりぃなー」
「なんでやねん!?わいも空いてるで!!」
「(無視)なので、あいてるのは私か…バハ子さんだけです…」
「ノム子とバハ子か…今日は仕掛けが多いしノム子に頼むかな」
「はい…わかりました…よろしくお願いします…」
「だからわいは…」
「いいじゃないか、どの道渡さなきゃならないんだろう?バレンタインのお礼を」
「そらそやけど…」
ノム子によりフェル男は強制的にセレ子の面倒を見ることになった。
―自由時間
「はぁ…まさかわいがセレ子はんの面倒見るなんてな・・・まどちみち渡さなきゃならんけどな」
保健室や食堂などで体温計や氷(詰め替え用)などを持ちながらセレ子の部屋に向かうフェル男の姿があった
「ノム子も変な事ゆうたしな…」
―自由時間前
「フェル男さん、頑張ってください…」
「何を頑張るんや!?」
「まあ、そんな事ゆうててもしゃーないか」
そうこういってるうちにセレ子の部屋の前まで来ていた。
トントン…ドアをたたいた
「どうぞ…」
ドアの向こうからセレ子の声が聞こえた
「はいらせてもらうで」
ドアを開けると寝込んでいるセレ子がいた。
「あ、フェル男さん…お見舞いに来てくれたんですか…?」
起き上がろうとするが
「あかんでセレ子はん!ちゃんと寝てなきゃ!」
「すみません…フェル男さんにも用事があったでしょう…?」
「暇やったし、別にええで」
「あの…それでヒュム男さんの探索は中止になったんですか?」
「いや、わいのとこのノム子を代理で探索に行ったで」
「そうですか…私だけこんな姿に…」
「いや、風邪はちゃんと治さんなあかんで…バレンタインのときも真っ赤やったし」
「いえ、熱はあったわけじゃありません…あれは…」
「あれは?」
「いいえ、気にしないでください…」
「そっか…セレ子はん、一応バレンタインのお礼を持ってきたんやけど…」
「あの…あの時の私のチョコ…美味しかったですか?」
「おう、美味かったで、義理の中では」
「義理…ですか…」
そういってセレ子の顔を伏せてしまう
「(小声)私のフェル男さんの想いはまだ足りないでしょうか…もっと頑張らなくちゃ…」
「ん?セレ子はんなんかゆうたか?」
セレ子は顔を出しながら
「いいえ、なんでもありません…」
「せやせや、はいわいのクッキー。元気になってから食いや」
「ありがとうございます…(小声)そして、フェル男さん、大好きです…」
「ん…?なんか聞こえたような…」
「気のせいです…」
会話のやり取りも恋への第1歩…フェル男がセレ子はフェル男が好きだと気付くのは、
恋の到来を告げるまで延々と流れる、練習曲(エチュード)の終焉より、先か…後か…。
―同時刻、ヒュム男パーティー
「しまったなー…バハ子連れてくるんだったな…爆裂拳使えねー」
「でも、罠感知はノム子さんはピカイチですわよ」
「本当だよ、ヒュム男お兄ちゃんは罠でメデューサで私たちを石にさせたりとか」
「それゆえその罠に自分は避けたりとかね…」
「頼りなくて悪かったな!それと避けて悪かったな!!」
「本当にクラ子ちゃん達が石になった時大変だったんだよ…重いから…」
「私の所はそんなにありません…あともしもの時の妖精の粉は持っていたほうがいいですよ…」
どうも
>>34の者です。いい加減名前があったほうがいいかな…?
遅くなりましたが、ホワイトデーSS投下です。
ホワイトデーの結果は、バレンタインの時と同じ結果…
しかし、フェルパー♂Xセレスティア♀はめずらしいかな…?
アイドルより、フェルパー♂Xセレスティア♀になる予感…
ないほうがいいだろ。
あってもいいとは思うけど、結局は本人次第じゃないか?
どっちも一長一短だし、自分でいいと思える方にしてほしいな
158 :
二番煎じ:2010/03/23(火) 00:38:46 ID:OIvHrFSO
今晩は、二番煎じです。
最近活気が薄いですね…
自分が投下すれば無言になるように感じてきましたので、少し自重します。
今回はフェアリーPTの小ネタです。
ではどうぞ。
-フェアリー寮-
ヒューマンがフェアリーのことをジロジロと見つめ、クラッズに何かを耳打ちする。
耳打ちされたクラッズはというと、ヒューマンのようにフェアリーを見つめ、何かを発見したような顔になる。
「ん……二人とも、そんなに自分を見てどうしたの?」
「そういえばサー……」
「フェアリーって他の同種族より大きいよな?」
身長も俺くらい(170前後、本人談)あるし、と言いながらヒューマンはおにぎりを頬張る。
それを聞き、フェアリーはポリポリと頭をかく。
「うん……そうなんだよね。生まれた時は同種族と同じ位だったんだけど……成長がヒューマン並だって、親にも気味悪がられたよ」
飛ぶことにはなんら問題もないけどね、とフェアリーは笑う。
「へぇ……」
「そういえば、ジョルジオ先生も大きいよネー……」
あー、とフェアリーとヒューマンが頷く。
「まぁ、色んな人がいるからな!フェアリーはフェアリーさ!」
「そうそう、気にすることないヨー」
「二人共……」
この後、フェアリーが友情を噛み締めながら泣いたことは言うまでもない。
-その頃のジョルジオ先生-
「ばっくしゃい!……誰かが噂してるのかしら?」
-エルフ寮-
「そういえばエルフさん……もうアレは大丈夫なのですか?」
「アレ?」
「はい、バレンタインの時は照れ隠しのようにしてたのに、先日のホワイトデーの時は何ともなかったので……」
「だからアレってなんですの?」
イライラしてきているエルフを見てフェルパーには聞こえないように耳打ちする。
「ほら……エルフさん、フェアリーさんに片想いだったじゃないですか」
「なっ!なんで知ってますの!?」
「エルフさんは態度でバレバレですよ?」
耳まで真っ赤にし冷静さを失うエルフ。
セレスティアはというと、なぜかニコニコしていた。
「にゃぁ?」
フェルパーが不思議そうな表情をしてエルフとセレスティアを見る。
エルフは冷静さを取り戻したのか、フェルパーに悟られないようにセレスティアに耳打ちをする。
「吹っ切れましたわ。他の女性が好きな殿方を盗るなんて出来ませんし、振り向かせることだって……」
それを聞くと今度はセレスティアがエルフに耳打ちをする。
「ジョルジオ先生にメイクしてもらってはどうですか?」
「そういう問題ではありませんわ!」
寮にエルフの怒号が鳴り響いた。
-その頃のジョルジオ先生-
「ぃえっくしょい!あー……風邪かしらん?」
160 :
二番煎じ:2010/03/23(火) 00:42:39 ID:OIvHrFSO
小ネタが書きたくなったので投下しました。
やめて、首飛ばすのだけは勘弁して!
ではでは、昔みたいな活気が戻る事を祈ります…
乙乙
GJ先生はほんといい脇役だよなw
てか単に過疎なだけだから、そこまで気にすることもないと思うぞ
それは困る
むしろじゃんじゃん投下してくれ
163 :
二番煎じ:2010/04/02(金) 00:42:10 ID:6+YHaVEw
ご無沙汰しております、二番煎じです。
エイプリルフールネタは投下が間に合わずに過ぎたので消しました。ので、エイプリルフールネタではありません。
初のエロ有りです。少ないです。
では、どうぞ。
フェアリー一行は魔女の森へ来ていた。
既に初めの森や剣士の山道では物足りなくなっていたからだ。
「ンー……疲れたネー。目眩がしそうだヨー」
クラッズが目を擦りながら溜息を漏らす。
エルフがクラッズのその様子を見て、同じく口を開く。
「クラッズもですのね……。フェアリーが道を盛大に間違えたおかげで、ワープをし過ぎたからですわ!」
エルフがフェアリーをビシッと指差し、怒号を上げる。
フェアリーはというと、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべていた。
「まぁまぁ、マップは大分埋まったんだから……喧嘩しないでー?ほらっ、転移札もあるし、今日は学園に戻ろうよ?」
フェルパーが自分のポーチから転移札を一枚取り出す。
ヒューマンがそれを受け取り、皆に向かって口を開く。
「フェルパーの提案もあるし、何より雨も降ってきた。疲労も溜まってるだろうし、一旦帰ろうか?」
「えっ?あら、本当ですわ……」
「うえー、なんか僕も湿ってきたよ……」
エルフが雨を確認するとフードを深く被る。
フェルパーは顔をゴシゴシと拭っていた。
「じゃあ使うぞ。俺の周りに集まってくれ」
ヒューマンが転移札を掲げると光に包まれ、あっという間に魔法球の前へとワープしていた。
「やっぱりワープは速いなぁ……。さ、帰ろうか?」
フェアリーがいつものようにワープの感想を述べた後全員が魔法球に手を触れ、またもやあっという間に学園の校門前へとワープしていた。
「じゃあ一旦解散!雨に濡れたから風邪を引かないようにね?」
「この服気に入ってましたのに……。乾かしてきますわ」
「私は翼のお手入れをしてきますね」
フェアリーが解散宣言をした後、皆が思い思いの事をするべく散っていった。
「フェルパーは行かなくて良いのかい?」
「僕?これから寮に行ってシャワーを浴びるつもりだよー」
「覗くなよ?」
「覗かないよ!」
「フェアリーじゃなくて……コイツだよ」
「小生はより人間らしく人形を扱うための研究を……」
それからクラッズにムッツリスケベや変態などの罵声を浴びせていると、目の前に一人のヒューマンが現れた。
他の冒険者には目もくれず、明らかに自分達を待っている様子だった。
「あの……ちょっと、良いんだな?」
「うわっ、デ……」
「駄目だよヒューマン!せめてメタボって言わなきゃ……」
「顔が油でテッカテカだネー……」
フェアリー達が小声でヒソヒソと話しているときにも、メタボヒューマンはフェルパーを見ながら息を荒げている。
そんなメタボヒューマンを見ながらフェルパーが口を開いた。
「え?僕……です、か?」
フェルパーは自分を指を向けると、メタボヒューマンはテンションが上がったように鼻の穴を広げる。
「そっ、そそそ!クゥッ、ボクっ娘良いんだな!」
「しかもあれか……ちょっとイタい奴か……」
「イタいと言うか、ヤバいというか……」
「小生も初めて見たヨー……」
少し離れた所でフェアリー達がコソコソと話している内にフェルパー達の話も進んでいく。
「というわけで、魔女の森に来てほしいんだな」
「ここじゃ、駄目……です、か?」
「仲間を待たせてるんだなー……。人見知り萌え!」
さすがに困った様子でフェルパーがフェアリーをちらりと見る。
フェアリーはそれに気付き、フェルパーへと駆け寄った。
「どうしたんだい?」
「僕と話したい人がいるから、魔女の森へ来てくれって言われて……」
「んー……嫌なら断っても良いんだよ?」
「仲間を待たせてるって……」
「えー……それじゃあ僕も行っていいなら」
良いよ、と言おうとしたところで話を聞いていたメタボヒューマンが叫んだ。
「ちょっと待てい、そこのフェアリー!ついて来るのは許さんが、ジェラートタウンまでなら許してやるんだな!」
ビッシィと指を真っ直ぐに指されるフェアリー。
その指を自分の口元に戻し、メタボヒューマンはニヤリと笑う。
「ただし、お前だけなんだな。他の奴らは認めーん!」
フンフンと鼻息を荒げ、いやらしい笑みに変わっていく。
さすがにフェルパーも気持ち悪く思ったのか、フェアリーの後ろに隠れる。
が、メタボヒューマンが先に行ってしまおうとしていたので諦めて後をついて行った。
「……よし、行ってこいフェアリー。あのメタボ野郎に制裁を与えてやるんだ」
あんなヤツと同種だなんて……と呟き、グッと拳を握ってフェアリーに見せる。
「いや、まだ制裁を与えるって決めた訳じゃ……。それに何もやらないだろうしさ?」
「まぁ、行ってきなヨー。小生は来いって言われても行かないだろうしネー?」
「む……まぁ、何もないと信じて俺達は待ってるからな。ただし、三十分たってもフェルパーが帰ってこなかったら突撃しろ」
「了解だよ、ヒューマン」
フェアリーはヒューマンと同じく拳をグッと握り、ヒューマンに見せる。
ヒューマンがニッと笑ってフェアリーの肩を叩き、フェアリーも先に行ってしまったフェルパー達を追いかけた。
「さて、俺も雨に濡れたバッカスの剣とか防具の手入れをしてくるか」
「……小生は初めの森で昼寝でもしてくるヨー」
「初めの森で?まあ、服も乾くからな。気を付けろよ」
クラッズは人形を頷かせ分かったの合図を送り、初めの森へと向かって行った。
「――フロトル!」
詠唱が終わったメタボヒューマンは声高らかに叫ぶ。
初めから浮遊しているフェアリーを除くフェルパーとヒューマンが地面から軽く浮いた。
「我等が大事なお姫様に傷は付けれないんだなー」
「……にゃあ」
明らかに不快そうな顔を浮かべるフェルパーに、フェアリーがボソリと声をかける。
「大丈夫?」
「僕、あの人は生理的に受け付けないよー……」
ただでさえ人見知りな上、相手の気持ち悪い外見に性格と、フェルパーがドン引きする条件は万全だった。
「大丈夫、自分もさ。」
ボソボソと会話をしながらフェアリーはニコッと笑う。
フェルパーの不快そうな顔が解れかけたときメタボヒューマンは叫んだ。
「ジェラートタウンに着いたから、そこのフェアリーには退場を願うんだな!」
「宿を取ってるから。待ってるよ」
フェアリーはそう言うと、フェルパーに手を振り宿へ向かって行った。
「ささ、魔女の森へ行くんだな。目印を付けて進んだ道で仲間を待たせてるんだなー」
メタボヒューマンはフェルパーの背をぐいぐい押し、魔女の森へと連れていった。
「目印を付けて進んだ道か……。先回りして様子を見ようか」
そこに誰かが居たことはまだ誰も知らない――
メタボヒューマンは地図を片手に、誰もが惑わされる樹海をスイスイと進んでいく。
と、そこで雨がまた降ってきた。
「ん?雨なんだな。好都……いや急ぐんだな」
メタボヒューマンがフェルパーの手を掴み、走り出す。
フェルパーが不快そうな顔を浮かべているのを知るはずもなく、例の目印を付けて進んだ道へと移動する。
「いたいた。連れて来たんだなぁー!」
メタボヒューマンは仲間と思わしきバハムーンに向かって走り出す。
バハムーンはこれまたバンダナに眼鏡、そして男なのに制服は男物ではなく女物を着ている異様な風貌で、フェルパーは尻尾を思わず逆立ててしまった。
「おい、お前の言った通り……だな!」
「我が……を間違うはずがないんだな、隊長殿!」
遠くにはいたが、一部の会話が聞こえてきた。
フェルパーは近寄りたくない気持ちを堪え、半ベソをかきながらのたのたと近づいていく。
ある程度近づいたところで、先程の異様なバハムーンがフェルパーに声をかけた。
「君、かわいいね!よかったら我々の猫娘愛好パーティーに入らないかい?」
「へっ……?」
フェルパーは思わず素っ頓狂な声を上げる。
自分の事をなめ回すように見つめる気持ち悪い人に、そのような事を言われたのだ。
フェルパーはそのまま口を半分開けてバハムーンを見る。
「もちろん、君に選択権はない。なぜなら、我々は二年であり、断ったら実力行使するからだ!」
フェルパーはサアッと血の気が引く。
噂でエルフから聞いたことがあったのだ。
『フェルパーの種族を狙って猥褻な行為を繰り返す二年がいて、襲われた人は寮に篭るようになってしまった』、と。
「我々と一緒に来たまえ!楽しいことをしてやろう!」
バハムーンはフェルパーの腕をがっしりと掴む。
「に……にゃあ!嫌ぁ!」
嫌がるフェルパーはというと、必死の抵抗でバハムーンの顔を引っ掻く。
バハムーンは一瞬腕から手を離し、折らんばかりに力を込めてまた腕を掴む。
「てめぇ……しょうがねぇ、野郎共!コイツを黙らせろ!」
明らかに怒りの表情で近くの岩陰に向かって叫ぶが返事も何もない。
「おい、いつまでも隠れてないで出てこい!」
バハムーンがそう叫ぶと、ようやく一人出てくる。
が、出てきたと同時に倒れ込んでしまった。
そしてヒョッコリと岩にもたれかかり、人形を弄っている男が出てきた。
「あれ、ごめんネー?お仲間さんだったノー?」
「クラッズ!?」
フェルパーが驚きの表情をする。
そして、バハムーンが怒号を上げた。
「おい、テメェ!そいつに何した!?」
バハムーンの顔に焦りの表情が浮かぶ。
それを見てニヤリと笑い、他にいた三人を引っ張りだして放り投げる。
「ンー?ちょっと麻痺してもらっただけだヨー?」
そういうと、急にクラッズのおちゃらけた目が鋭くなりメタボヒューマンとバハムーンを見つめる。
するといきなりメタボヒューマンが叫びだした。
「うわっ、敵?隊長殿はどこに行ったんだな!?」
「なっ、敵!?敵なんかどこに……いた!見つけた!殺す!」
メタボヒューマンはパチンコをバハムーンに向かって構え、バハムーンはナックルをメタボヒューマンに向かって構えた。
「サー、行こうカー」
自由になったフェルパーの手を握り逃げようとするクラッズ。
しかし、クラッズは背中に気配を感じ、次の瞬間魔法壁ごと吹き飛ばされた。
フェルパーは振り返ると怒りに満ちた表情のバハムーンと、その後ろに血まみれのメタボヒューマンが横たわっているのを一瞬で把握した。
「幻惑とは小癪な野郎だ……」
クラッズはムクリと起き上がり、バハムーンを睨みつける。
「混乱だったか。麻痺とか石化だったら良かったものの……」
フェルパーは訳が解らないといった様子でクラッズを見る。
そこでフェルパーはいきなり激しい恐怖を感じ、寒気や吐き気等に襲われ意識を失った。
クラッズが異変に気付きメタボヒューマンを見ると、メタボヒューマンはニヤリと笑い、そして力尽きた。
「彼、幅広い魔法を使うね。うちの剣豪気取りの馬鹿ヒューマンとは全く違う」
「当たり前だ。奴は受けれる学科は全て受けた。経験は浅いが幅広く対応出来るからなぁ?」
バハムーンはゴソゴソと鞄を漁り、一枚の札を取り出す。
そしてクラッズに向かってハッと笑い、フェルパーを抱えたまま光に包まれ消えてしまった。
(奴が行きそうな場所は分かっている……が、リーダーへの報告が先だな)
クラッズも鞄から帰還札を取り出し、魔女の森から脱出した。
クラッズは急いで宿に向かい、宿帳を確認した後にフェアリーがいる部屋へと向かった。
「フェアリー!フェルパーが……さらわれた!」
ノックもせずにいきなりドアを開けたため、フェアリーがビックリしてベッドから体を起こす。
「クラッズ!どうしてここに……ていうか、フェルパーが!?」
「詳しい説明は後!いる場所は分かってる!」
クラッズはフェアリーの手を引っつかみ走り出す。
宿から出る際にはフェアリーに金を支払わせ、魔女の森へと向かっていった。
「う……」
フェルパーが目を覚ました時には雨は降っておらず、ここが洞窟というのを理解するのには時間がかからなかった。
「よう、お目覚めかい?」
焚火を焚きながらバハムーンはフェルパーを見る。
フェルパーは言い知れぬ恐怖と寒さで歯をカチカチ鳴らせ、小刻みに震えていた。
「フィアズが抜けきってねぇのか。そっちの方が好都合だけどな」
バハムーンが横たわるフェルパーに手を伸ばし、無理矢理髪を引っ張り上体を起こさせる。
「ふんふん、今回は当たりだな。かわいい顔だし……」
「……!?」
バハムーンはおもむろにフェルパーの胸を掴む。
フェルパーは悲鳴を上げたつもりだったが、声が出なかった。
「胸もでかい。いつぞやとは大違いだな」
乳房を揉みしだきながらバハムーンは笑う。
しかしフェルパーには握り潰されている感覚に近く、苦痛以外の何ものでしかなかった。
「制服が邪魔だな。まぁ、ゆっくり楽しませてくれよ?」
バハムーンは懐からダガーを取り出し制服を下着ごと切り裂いていく。
制服が切り裂かれていくにつれ、あらわになっていく乳房をバハムーンは何の躊躇いもなく握り潰す。
「にゃあっ、ああぁ……」
苦痛と恐怖で体をガタガタと震わせながら、痛みで顔をしかめるフェルパー。
しかしバハムーンが力を緩めることはなく、更に荒々しさを増す。
「さって、いつコイツを慰めて貰おうか?」
制服のスカートとパンツを脱ぎ捨て、バハムーンは既に大きくなっているモノをさする。
痛みで顔をしかめていたフェルパーの顔が絶望の物へと変わった。
「クラッズ、ここからどう進むんだい!?」
「そこを真っ直ぐ行って左!立ち止まらないで!」
フェアリーとクラッズは全速力で迷いし者が集う場所へと向かっていた。
クラッズの魔法壁を駆使しながら無理矢理駆け抜けているため、道中出て来た敵が後ろから迫っていた。
「そこの洞窟!早くー!」
「クラッズも急いでー!」
洞窟に入ったところで、フェアリーが固まった敵の群れにアクアガンを炸裂させ一掃する。
「ハァ……ハァ……で、次は?」
「此処から真っ直ぐに行って……ヒュー、それから道なりに行けば大丈夫だよ……ゲホッ」
よほど疲労していたのであろうフェアリーとクラッズはヒーラスで回復した後、また全速力で目的地へ急ぐ。
「まだ、まだ着かないの!?」
「そこ曲がって曲がって曲がって曲がればもう着くはずだから!」
クラッズに言われた通り、四回角を曲がるとそこには……
「にゃっ、い、ゃぁっ……!」
「もともと雨に濡れてたからなぁ、滑りが良いよ!」
パンッ、パンッと響く音。
パァンッ!と一際大きな音が響くと同時にバハムーンのモノからフェルパーの顔目掛け白濁が飛び出し、顔を白濁でドロドロにする。
「にゃああぁぁ!何、コレ……熱、い……!」
「あ、あぁ……うっ、げっ!」
「あちゃ、遅かった……。じゃあ小生はここで見てるからお姫様を助けて来ると良いよ」
クラッズは外していたシルクハットを見てはいけないモノを見ないよう深く被り、フェアリーを横目で見る。
フェアリーはというと、その光景に耐え切れず嘔吐していた。
やがてフェアリーの顔は怒りの表情へと変わり、叫びだしていた。
「……サマ、貴様あぁぁ!」
フェアリーは素早く詠唱を開始し、詠唱が完成したと同時に叫ぶ。
「ダクネスガン!」
闇の球がバラバラに散らばりながらもバハムーンへと襲い掛かる。
バハムーンはフェアリーの怒号に気付き、フェルパーの乳房から自分のモノを引き抜き、ダクネスガンの範囲外へと逃げる。
「あっ、馬鹿……!」
恐怖で動けないフェルパーの前にクラッズがかろうじて魔法壁を張る。
魔法壁は数発のダクネスガンを飲み込み、そして砕け散った。
冷静になってきたフェアリーはフェルパーの元へと飛んで行き、リフィアをかける。
「あ、ありがとう……僕、怖かったよー!」
フェルパーはフェアリーに抱き着き、声を上げて泣いた。
フェアリーは優しくフェルパーの頭を撫で、声をかける。
「大丈夫?まずその汚らしいモノ、拭いてあげるよ」
汚らしいモノと言われ、バハムーンは顔を歪ませる。
そんなバハムーンなど気にも止めずにフェアリーはフェルパーを一旦離し、高級な布で顔、髪、乳房など、体中についた白濁を丁寧に拭う。
そしていつも着ている服を脱ぎフェルパーに渡す。
「大きさが合わないけどこれを着て、あっちにクラッズがいるからそっちで待ってて……」
やー、制服姿なんて久し振りだな、などと呟きながらフェルパーがクラッズの元へ行ったのを確認する。
そして転移札を取り出し、それを掲げるとフェアリーが光に包まれる。
「転移札……?ハッ!背後に回って襲撃なんて見え見えだ!」
スカートをはき直し、バハムーンは後ろを向く。
すると、先程見ていた方向から声が聞こえた。
「考えすぎ、さ」
バハムーンは背中にグッと手を押し当てられる。
急いで振り返ろうとするが、既に遅かった。
「――サンダガン」
冷たく放たれた言葉と同時にバハムーンの体に電流が流れる。
「アガ、ァガガガガッ、アアアァァ!」
「……終わった、ね。君は雨に濡れた、と言っていたから」
全身がピクピクと痙攣しているバハムーンに向かってニコリと笑うフェアリー。
フェアリーはバハムーンを尻目に、クラッズの方へと飛んでいく。
「……!フェアリー、後ろっ!」
フェルパーが叫び、フェアリーが咄嗟に横へと避ける。
飛んできたダガーはフェアリーの右手の一部をえぐり、飛んでいった。
フェアリーが振り向くとバハムーンが不敵な笑みを浮かべていた。
「……!サンッ……」
サンダガンを詠唱する前にフェルパーが弾丸の如く飛び出していき、次の瞬間にはミスリルソードでバハムーンの首を跳ね飛ばしていた。
「フェル、ぱぁ?」
フェアリーが口をパクパクとしており、クラッズがやれやれといった表情をする。
フェルパーはミスリルソードを鞘に納め、フェアリーの方へと歩き出す。
「……ごめんなさい!僕があんな怪しい奴に付いていったばかりに、こんな目にあわせちゃって……」
「いや、その……いや大丈夫だよ。じゃなくて!フェルパー、あれ……」
フェアリーがバハムーンだった物を指差す。
「どうせ救助されるでショー?あんな変態、放っておいてもいいヨー」
クラッズがへらへら笑いながらフェアリーに近づく。
どうやらいつものクラッズに戻ったようだ。
「そう……だね。じゃあ、学園に戻ろうか!」
フェアリーはそう言うと帰還札を取り出し掲げた。
ジェラートタウンに帰還し、魔女の森の魔法球を使って学園へと戻る。
フェアリー達は心なしかほっとした顔になっていた。
「今度こそ僕はシャワーを浴びたいよ……。まだ髪もべとべとするし……」
「念入りに洗った方が良いよ。せっかくサラサラした綺麗な黒髪なのに……」
「はーい、フェアリーは保健室ネー」
フェアリーはクラッズに連れられ保健室へ、フェルパーは自分の寮へと戻っていった。
そして夜、食堂にはヒューマン、クラッズ、エルフ、セレスティア、フェルパーが揃っていた。
「よう!ようやく来たな。」
「遅いですわ!食事のリズムが狂えば生活のリズムも狂いますわよ!」
「まずお腹ペコペコだよー」
「右に同じく、だネー」
「では報告しながら食べましょうか」
「の前に……どうしたの?皆集まって……」
それからの話を聞くかぎりではクラッズが重要な話があるらしく集まったらしい。
「実は小生……」
「ねー、クラッズ。あの時に使った幻惑って何?」
「話を聞いてれば分かるヨー。実は小生、両親が暗殺専門の忍者だったんだよネー」
「「「「!?」」」」
「にゃ?」
「幻惑も忍者の技の一つでネー。小さいときから忍者の基礎から技まで全部叩きこまれて」
遠い目でほうっと息を吐くクラッズ。
「い、今でもできるの?」
「今はあんまりだネー。情報収集、追跡はお手の物だヨー。」
「じゃあ、あの時に言った『ついて来いって言われても』と『初めの森で昼寝』は……」
「あのメタボ君が例の……フェルパーを性的な意味で襲う二年だって知ってたから、ネー。それと言われても言われなくても『追跡』はするつもりだったからネー」
クラッズの発言に場が凍り付く。
「さ、先に言えー!馬鹿クラッズ!」
「うるさいナー、剣豪気取りの馬鹿ヒューマン」
「な、なぜ忍者学科ではないのですか?」
セレスティアが気をきかせ話題を変える。
「忍者だと見たくない物を見ちゃうからネー、おちゃらけていられる人形使い学科を選んだんだヨー」
クラッズはヒヒヒと笑い、そしてフェアリーへと話題をふる。
「そういえばフェアリーって、怒ると恐いよネー?」
「そうなの?意外ですわね」
「んー、強いて言うなら、自分は大切なモノを守るときには抑制が効かないんだよね」
「僕って物なの?」
「人の意味の者かもしれないヨー?」
「オホン!で、次はフェルパーに質問だよ?フェルパーはどうして」
「フェアリー……右手大丈夫か?」
ヒューマンがフェアリーの右手の包帯を見て心配した表情を浮かべる。
「待って、言いたいことを忘れるから!えーと……そうだ!どうしてミスリルソードを持ってたんだい?」
「そ、それは……クラッズが……くれて……」
どんどんフェアリーから顔を背けていくフェルパー。
「クラッズ、どうやって……」
「麻痺させた奴が持ってたから貰ってきたんだヨー」
フェアリーが頭を押さえてやれやれといった表情で首を振る。
そこでヒューマンが話しかけてきた。
「フェアリー、右手……」
「え、あぁ、大丈夫だよ。自分は左利きだから」
「えぇ!?」
「意外ですわ……」
「それは馬鹿にしてるのかな?」
「気付かないものですね……」
「にゃあ」
「そんな、セレスティアにフェルパーまで……」
嫌な思い出も良い思い出に変えていこう。
きっと懐かしく思えるときが来るから……
そう心に決めたフェアリーとフェルパーだった。
後日、救助された猫娘愛好パーティーの方々は保健室で治療された後、退学処分を受けましたとさ。
173 :
二番煎じ:2010/04/02(金) 00:55:21 ID:6+YHaVEw
ありがとうございます、二番煎じです。
まさかのバハムーンモノになってしまいました。
今だにフェルパーはフェアリーと関係を持たず。南無。
次からはもう少しエロを増やせるよう精進します。
では。
二番煎じは逃げ出した!
乙です
猫娘愛好パーティー……作りたくなる気持ちはよくわかるw
こんばんは、新入生の時期の四月ですね。
新たに色々縛って始めた記録が、やたら劇的な展開になったので長編にしてみました。
願わくば活気の呼び水にでもなることを祈って。
もはや毎度のことながら長いので、お暇なときにでも読んでもらえれば幸いです。
死亡者数、11名。うち、ロスト3名。
この月は死亡者数、ロスト人数ともに少なく、とても平和な月だった。
新入生の訪れる季節。毎年のことながら、この時期は新入生のことが話題となる。この年は、新入生の当たり年だともっぱらの噂だった。
それというのも、イノベーター、あるいは特待生と呼ばれる生徒が、一挙に七人も入学したのだ。年に一人いるかいないかという逸材が、
これほど大量に来ることは珍しく、在学者にしろ教師陣にしろ、彼等にはそれなりの期待というものがあった。
だが程なく、彼等は再び違う話題で盛り上がることとなる。
必ず数人はいる、極端に素行の悪い生徒。もちろん、度が過ぎれば学校側としても何らかの処置は下し、そもそもが血の気の多い生徒の
多い学校である。新入生が粋がったところで、先輩連中の痛烈な洗礼を浴びるのが常である。しかし、この時ばかりは勝手が違った。
その、才能溢れるイノベーターと呼ばれる生徒のうち、三人が恐ろしいほどの問題児だったのだ。
冒険者養成学校という、一般の学校とはまた違った教育を施す場所とはいえ、やはり学校には違いない。そのため、ここにもいくつかの
委員会が設置され、多くの生徒はその中のいずれかに所属している。
そのうちの一つ、風紀委員。そこに与えられた部屋の中で、一人の女子生徒が頭を抱えていた。彼女の前にある机には、いくつかの
書類が重なっている。
「……まったく、本当に…!今回ばかりは、手を焼きますわね…!」
エルフらしい端正な顔を歪め、彼女はそう独りごちる。いくつかの書類を手に取り、パラパラとめくった後、再び頭を抱える。
「新年度早々、こんな問題を……何を考えているんですの、まったく…!」
いくら読み返したところで、問題がなくなるわけでもない。それでも、彼女は書類をめくり、ぶつぶつと独り言を呟いていた。
その時、コンコンと控えめなノックの音が響いた。
「どうぞ、開いてますわ」
「失礼しますよ、委員長」
現れたのは、柔らかな笑みを湛えるセレスティアだった。その腕には新たな書類と、湯気を立てるカップがある。
「紅茶でもいかがですか?働き詰めでは、疲れますよ」
「……できれば、その紅茶だけ頂きたいところですわね」
「すみませんが、こちらも預かっていただかねばなりません」
大きな溜め息をつき、エルフは紅茶と書類を受け取る。
「加害者と被害者の資料です。目を通すのが面倒ならば、わたくしが説明いたしますが」
「しばらく書類は見たくないですわ」
「そうですか、わかりました。では…」
「その前に、ちょっとよろしくて?」
口を開きかけたセレスティアを遮り、エルフが口を開く。
「その堅苦しい喋り方、何とかなりませんの?」
「一応、業務中ですので」
苦笑いを浮かべつつ答えるセレスティアに、エルフはまた溜め息をついた。
「今は、わたくしとあなたの、二人しかいませんわ。どうか、いつもの口調に戻してくださらないかしら?」
その言葉に、セレスティアはどこか軽く見える笑みを浮かべた。
「……それも、そうですね。では、改めまして…」
「おーっと、委員長に副委員長、デートの最中お邪魔するよ」
突然、窓際から響いた声に、二人は驚いて振り返った。するとそこには、一人のフェアリーの男子が座っていた。フェアリーとはいえ、
大きさはクラッズと同程度であり、種族の中では比較的大柄な部類である。
「フェアリー!あなた、また窓から入ってきたんですの!?」
「やれやれ、君も風紀委員だろう?風紀委員が風紀を破るって、どうなんだい?」
それまでと全く違う口調で、セレスティアが尋ねる。口調としては普通なのだが、それまでの言葉遣いと比較すると異様に軽く聞こえる。
「あ〜、魔が差した。で、お二方。それは例の話かい?」
「大体、デートの最中って……わたくしと彼は、風紀委員としての話をしてたんですの!」
「あーそう。悪い悪い、魔が差したんだよ。で、例の話なんだね?風紀委員として、僕もその話を聞く権利があるよね?」
強引に話を捻じ曲げ、フェアリーは当たり前のように席に着いた。
「……まあいいですわ。では、副委員長、お願いしますわ」
「わかった。じゃ、まず最初の件から行こうか。私の持ってきた資料で言うと、一枚目と四枚目から九枚目だよ」
しばらく見たくないと言っていたにもかかわらず、エルフはしっかりと資料に目を通す。
「まず、加害者はバハムーンの男子。戦士学科所属。この間の入学生、イノベーターの一人だね。ヒューマンの男子と口論になり、
そこから乱闘に発展。きっかけは、バハムーンが彼をゴミ呼ばわりしたことらしいね。結局、ヒューマンとそのパーティは、
彼一人の手によって壊滅。全員が保健室送りだって」
「へーえ、六人相手に勝ったんだ。さすが、イノベーターだね」
フェアリーも勝手に資料を取り、エルフと一緒に眺めている。
「次、二枚目と十枚目。加害者はドワーフの女子。学科は戦士で、さっきと同じくイノベーターの一人」
「……野蛮な種族らしいですわね」
エルフが眉をひそめ、呟いた。
「被害者はエルフの男子。きっかけは……面会謝絶だから、まだわかってない」
「面会謝絶だって?すごいな、それ」
「まあ、ねえ?エルフとドワーフは、種族的に気が合わないから……きっと喧嘩の理由は、大したことじゃないんだと思うよ」
「あら?この男子……え、この被害者もイノベーターですの!?」
エルフの声に、フェアリーも驚いて資料を覗き込む。
「そう、イノベーター同士の喧嘩なんだ。彼は私と委員長と同じく、魔法使い学科だったから、肉弾戦では分が悪かっただろうねえ」
「これだから、この種族は嫌いですわ!後衛の学科に、平気で手を上げるなんて…!」
「あ、ちなみに彼女もファイアを撃たれて怪我をしてる。どっちが先に手を出したかはわからないけど、怒るのも無理はないね」
「新入生にファイア…」
それが何を意味するかは、エルフにもよくわかっていた。いくら初歩の魔法とはいえ、ほとんど訓練を受けていない新入生に放てば、
一撃で死に至ることもあるのだ。まして、校内でファイアを詠唱するのは、立派な校則違反である。
「わお、やるねえ。どうだい、委員長?同種族がそんな真似をしたっていうのは、どんな気分だい?」
皮肉っぽく尋ねるフェアリーを、エルフは睨みつけた。
「……う、うるさいですわ。きっと、向こうが先に手出ししたに決まってますわ」
「ま、これはこれでいいだろ?次、最後。三枚目と十一、十二枚目」
「さぁて、今度はどんな化け物かなー」
楽しそうに言うフェアリーを、エルフがギロリと睨みつける。
「加害者、フェルパーの女子。格闘家学科。やっぱりイノベーター。被害者は……私達と同じ学年の二人」
それには、エルフもフェアリーも驚いた。一年もこの学校にいれば、新入生相手など怪我一つせずに勝ててもおかしくはないのだ。
「この子はちょっと特殊で、真剣道部に顔を出したらしいよ。で、稽古を見学していたところ、突然ダガーを抜刀。瞬く間に二人を
切り伏せ、三人目に襲いかかったところで、部員総出で取り押さえたって話」
「ちょっと待って。ダガー?二年の、真剣道部の部員が、ダガーで?」
「そう、ダガー。被害者二人の得物は、日本刀にサーベル。一人は油断してたにしろ、もう一人は実力で負けたってことだね」
説明が終わると、エルフは深い溜め息をついた。そして、疲れた目でセレスティアを見上げる。
「それで……わたくしが一番気になることは、どうしてこの三人が、今も野放しになってるんですの!?」
「そこだよねえ、問題は」
今度はセレスティアも、エルフと共に頭を抱える。
「バハムーンは、相手が多勢に無勢ってことで。ドワーフも、相手がファイアを詠唱したことで。フェルパーも、相手が
真剣道部員であったこと、場所もその道場だったことで、全員が厳重注意で済んでるみたいだよ」
「まして、学校としては貴重な特待生。そう簡単に、手放したくないんだろうさ」
軽い調子で言うフェアリーの言葉は、二人の気をさらに重くさせた。
学校側から処分が下っていれば、それで話は終わりなのだ。しかし、実質ほとんどお咎めなしの状態であり、風紀委員としては、
この危険人物達を野放しにはしたくない。また問題を起こされれば、それはこちらも少なからず責任を問われるからだ。
となると、彼等が再び問題を起こす前に、何とかしなければならない。かといって、こんな相手を何とかできるほどには、
まだ実力がない。
二人が悩んでいると、フェアリーはおかしそうに笑った。
「いいじゃん、僕達で何とかすれば。お目付役がいれば、学校側にも面目は立つしさ。ていうか、あっちもそれを望んでるんだろうし。
そうでもなきゃ、こんな資料は寄越さないだろ?」
「私達がかい?けど、この三人をどうやってまとめるって言うんだい?」
「それは、これから考えることさ。ま、力でまとめるなんて真似、魔法使い二人とレンジャー一人じゃ無理だろうけど」
そう言ってフェアリーは笑うが、その目は本気だった。
「それに、考えてみなよ。人数差を跳ね返す戦士に、同じイノベーターを瀕死に追い込む戦士、そして武器を持った先輩二人相手に、
ダガー一本で勝つ格闘家だぜ?こんな実力者、滅多にいないよ」
「……つまりあなたは、この三人の力を利用しようって言うんですの?」
エルフのなじるような声に、フェアリーは笑顔で答えた。
「いいんじゃん?あいつらの力、利用させてもらおうよ。僕らだって旨みがなきゃ、やってられないって。押し付けられた難役も、
見方を変えりゃチャンスだってこと」
「自己の打算だけで、何かを利用するなんて論外ですわ!わたくし達が為すべきことは、彼等を更生させることでなくって!?」
「ははは、あんな問題児を更生ねえ。鉄拳制裁でもするのかい?返り討ちが関の山だと思うけどねえ。それよりは、僕ならうまく操って
利用するよ。それとも、委員長は規律の名のもとに、力無き正義を信奉し続けるかい?ははは」
エルフは悔しさに歯噛みするが、言い返すに足る案もない。結局、この問題児達を力で従えるなどというのは、到底無理な話なのだ。
「まあまあ、二人とも。あまり熱くなりすぎないように」
そこへ、セレスティアがやんわりと間に入る。
「委員長、私も彼の案には賛成だよ」
「副委員長、あなたまでっ…!」
「いやいや、誤解しないで。私達に大きな権限や力があるなら、彼等を従えることはできると思うよ。でも、力で従えたとしても、
それは永続的なものじゃない。それよりは、彼等に手綱を付けて、それを握ってしまうのがベストだと思うんだ」
「それは……確かに、できるならそれがいいとは思いますわ」
「よしっ、話は決まりだね!」
そう言うと、フェアリーは早速窓から外へと飛び出した。
「だからフェアリー、君も風紀委員なんだから、窓から出入りしないの」
「魔が差した。まあとにかく、そうと決まったら早いとこ、あいつら見つけなきゃね。これ以上、被害が出る前にさ」
フェアリーが飛び去ってしまうと、残ったエルフとセレスティアは軽い溜め息をついた。
「……彼って、きっと悪の実一口齧っただけで、性格『悪』に変貌するよねえ」
「あれで中立的だというのが、信じられませんわ」
「でもまあ、彼みたいな人材も必要だよ。善にしろ悪にしろ、中立的にしろ、一面だけでは風紀なんて守れないし、作れない」
そう語る彼を、エルフは何とも言えない目で見つめる。
「……わたくし、今もあなたが委員長になればよかったのにと思ってますわ」
「私?はは、それはダメだよ。君みたいに、しっかり規律を守ろうという人が、頂点にいなきゃね」
「もう……あの時と同じこと言うんですのね」
僅かに非難の色を込めて、エルフはセレスティアを見つめる。そんな彼女に、セレスティアは優しく微笑みかけた。
「まあ、この話はまた今度にしようよ。今は、私達がやるべきことをしなくっちゃ」
「それもそうですわね。さあ、大仕事が始まりますわ」
そして、二人は揃って風紀委員室を出ていく。外は春らしく、暖かな陽気に満ちていた。
春の陽気に誘われ、外へと出て行くのは、何も虫や草木だけではない。
とある校舎の屋上に、一つの影が現れる。真っ赤な尻尾をゆっくりと揺らめかせ、のんびりした足取りで歩く姿は、人によってはトカゲを
連想させるだろう。あながち遠いわけでもないが、それを本人に言えば、恐らく次の瞬間にはブレスによって灰にされるだろう。
ゆっくりと、バハムーンは屋上を歩く。そして、入り口からちょうど死角になっている部分に来ると、ごろりと寝そべった。
しばらく、彼はそのまま空を見上げていた。やがて、その目がゆっくりと閉じられ、呼吸も小さな寝息となる。
それは実に平和そうな、まさに春の一コマだった。その、僅か数分後までは。
突然、彼は髪を掴まれる痛みに飛び起きた。しかし立ち上がるより早く、そのまま何者かに引きずり起こされる。
「てめえ、誰に断ってここで寝てんだよ」
「ぐっ…!?」
「邪魔だぁ!!」
次の瞬間、バハムーンは床に投げ出された。だが、即座に受け身を取り、突然の襲撃者を睨みつける。
「……なんだぁ、その目?あたしとやる気かよ?」
小柄で、ふさふさした体毛に包まれた、獣のような種族。女ながらにバハムーンの巨体を片手で投げ飛ばす辺り、いかにもドワーフらしい
怪力の持ち主である。
「貴様……死にたいのか」
「てめえがあたしに勝てるつもりか?はっ、てめえの脳みそ、どんだけイカレてんのか、頭カチ割って見てやるよ」
言うが早いか、ドワーフはバハムーンに殴りかかった。だが、バハムーンは彼女の拳が届く前に、その顎を蹴りあげた。
「ぐあっ!?」
「チビの劣等種が、粋がるな!」
彼の拳は、相手が女であろうと容赦はなかった。直後、彼女の鼻面に拳が叩きこまれ、鼻血が噴き出す。
完全に、意識まで断ち切ったはずだった。しかし、次の瞬間。
「何…!?」
不用意に突き出していた腕を、ドワーフはしっかりと捕えた。そして、未だ闘志を失わぬ目でバハムーンを睨むと、思い切り腕を
引っ張る。咄嗟に踏ん張ってそれに耐えた瞬間、彼女はその勢いを利用して拳を突き出した。
「ぶあっ!!」
今度は、バハムーンの鼻面に拳が叩きこまれる。一瞬飛びかけた意識を辛うじて繋ぎ止め、バハムーンは何とか床を踏みしめる。
二人はしばし睨みあった。お互い、必殺の拳を叩きこんだはずなのだが、相手はまだ立っている。
「……へえ、少しゃあやるみてえだな」
「劣等種が……ここで倒れていれば、余計な苦痛もなかったものをな」
二人は同時に距離を詰め、お互い一歩も引かずに殴り合った。
状況は、一見バハムーンが有利だった。さすがに身長差がありすぎ、ドワーフの拳が届かない範囲からも、彼の拳は届いてしまうのだ。
だが、よく見ればバハムーンも決して余裕ではなかった。
どんな攻撃を叩きこもうと、ドワーフは決して倒れなかった。普通の者ならとっくの昔に失神しているような攻撃に、
彼女は耐え抜いてしまうのだ。それどころか、無理矢理耐えることで作り出した隙を突き、逆にバハムーンを殴り返している。
そもそも失神以前に、彼の拳は相手の闘志を砕いてしまうほどの威力がある。しかし、ドワーフの目は決して闘志を失わない。
しばしの殴り合いの後、二人は同時に距離を取った。ドワーフの方がボロボロにはなっているが、バハムーンの方もかなり
息が上がっている。むしろ、精神的には彼の方が追い詰められているようにも見える。
「貴様……なぜ倒れない」
「てめえこそ、いい加減倒れやがれ。うぜえんだよ」
「貴様なぞに、やられるものか」
「やられろよ。さすがに疲れんだよ、うざってえ。それより……って、おい!」
「む…」
二人は同時に、先ほどバハムーンが寝ていた場所に視線を移した。そこではいつの間にか、フェルパーの女の子が丸まっていた。
「てめえ、そこどけよ!そこはあたしの場所だ!」
「いつから貴様の場所になった。俺の場所だ」
二人の声に、フェルパーは耳をピクリと動かし、続いて大儀そうに顔を上げると、大きな大きな欠伸をした。
「ふあ〜〜〜〜ぁぁぁ……んむー?もう喧嘩はやめちゃうの?いいよ、続けてて。面白いもん」
「見せもんじゃねえんだよ!いいからどけぇ!!」
容赦のないドワーフの蹴りが襲う。だが、フェルパーは一瞬の間に身を翻し、それをかわした。
「速えっ…!?」
「あはははっ!遅いよ!当たらないよ!んなーぅ!」
一声、猫そのものの鳴き声を発すると、逆にフェルパーがドワーフに蹴りかかる。直後、パパパン、と小気味良い音が響き、ドワーフが
僅かによろめく。
「あはっ、あははは!私も遊ぶ!強そうだもん!だからね!私も遊ぶの!」
ドワーフから突如狙いを変え、フェルパーはバハムーンに襲いかかる。咄嗟に繰り出された拳を容易くかわし、直後フェルパーは
地を蹴り、空中で体を捻った。
「んなぉ!」
「くっ!」
首めがけて振り下ろされた足を、辛うじて防ぐ。フェルパーは蹴った勢いを利用し、そのままバハムーンと距離を取る。
その後ろに、いつの間にかドワーフが立っていた。
「んにっ!?」
「調子に乗んな、くそ猫が!」
フェルパーの体を掴み、ドワーフは軽々と頭上に持ち上げる。直後、思い切り腕を振り下ろし、地面に叩きつけた。
しかし、フェルパーは空中で身を翻し、両手足で着地してしまう。ドワーフもすぐに気付き、追撃しようとした瞬間、
背中にゾクリと冷たいものが走った。
フェルパーの腕が動く。咄嗟に体を反らした瞬間、ドワーフの頬に鋭い痛みが走った。
「つっ…!?」
思わず距離を取る。頬に触れてみると、手にはべっとりと赤い血がついていた。
「あははっ、すごいすごい!ねっ!すごいねっ、私の攻撃避けたよね!あははっ!そういうの大好き!」
フェルパーが顔を上げた。その目は異様な輝きを放ち、血の滴るダガーをより恐ろしげに見せている。
「だってだって!そういう人殺すのって、すっごく楽しいんだもん!」
「な……んだ、こいつ…!?」
「狂ってやがる…」
さすがのドワーフとバハムーンも、思わずそうこぼす。
「ねっ!あはははっ!殺すよ!いいよねっ、ねっ!?んなーぅ!」
ダガーを振りかざし、フェルパーが襲いかかる。あまりに危険な存在の乱入に、二人の関係は即座に変化した。
目の前で振りまわされる刃物にも臆さず、ドワーフはそれを紙一重で避けていく。その隙に、バハムーンはフェルパーの横に回り込み、
射程に入った瞬間殴りかかった。
その腕目掛けて、ダガーが襲いかかる。咄嗟にバハムーンは腕を引き、体ごとフェルパーにぶつかる。
「あうっ!」
「くっ…!」
吹っ飛ぶ直前、フェルパーはバハムーンの肩を切りつけていた。幸い傷は浅いものの、切られたという事実は思いの外強い衝撃となる。
「あははー!真っ赤真っ赤!血がいっぱい!あっついの、もっといっぱい出してよ!んまぁーお!」
再びバハムーンに襲いかかるフェルパー。切られた痛みが強く感じられ、バハムーンは相手から距離を取る。
「こっちも忘れんな!」
その横から、ドワーフが飛び込んだ。フェルパーはそれに応えるように狙いを変え、ドワーフに襲いかかる。
「んなぅ!!」
顔面を蹴りが襲い、怯んだ瞬間ダガーが突き出される。何とか体を捻ってかわし、ドワーフは大きく息をついた。
「へっ、ちんたらやってるんじゃねえよ。来やがれ!」
構えを完全に解き、ドワーフはフェルパーと正面から向かい合った。そんな彼女に、フェルパーは狂気に満ちた視線を送る。
「あはっ、あはははは!!殺すよ!?殺していいよね!?いいんだよね!?あははぁー!!んなぉーう!!」
楽しそうに叫び、フェルパーは飛びかかり様、ドワーフの首にダガーを振るった。
鋭い刃が首筋を捉える瞬間、ドワーフの手がフェルパーの腕を掴んだ。
「ええっ!?そんなっ!?どうして捕まるのぉ!?」
「怖がんなけりゃ、そんなもん素手と変わりねえんだよ!」
素早く腕を持ち替え、相手の肩を極める。途端に、フェルパーは悲鳴を上げた。
「いっ、痛い痛い痛いよぉー!!痛いのやだぁー!!」
「ああそうかい。その腕、へし折ってやる!!」
肩を極めたまま、ドワーフはもう片方の手を引いた。そして、肘に掌底を叩きこもうとした瞬間、フェルパーは無理矢理体を捻り、
そちらに肘の内側を向けた。
「痛ぁっ!」
「ちっ!」
辛うじて折られずに済んだとはいえ、その痛みにフェルパーはダガーを取り落とした。そこに、バハムーンが走った。
ダガーを拾い上げた瞬間、一瞬早く気付いたドワーフが顔面を蹴り飛ばす。
「ぐうっ!」
フェルパーを突き飛ばし、今度はドワーフがダガーを拾う。しかし、突き飛ばされたフェルパーは地面に手をつき、逆立ちの姿勢から
体を捻ると、ドワーフの腕に足を振り下ろした。
「うあっつ!」
「んなーぁ!渡さないよ!」
「貴様にも渡しはしない!」
フェルパーがダガーに手を掛けた瞬間、バハムーンはその刃を踏みつけた。ただ、あまりに強く踏みつけたため、その刃はぐにゃりと
曲がり、もはや使い物にならなくなってしまった。
凶器がなくなり、瞬時に三人は現状を把握した。そして、動物的直感ともいえる感覚で、次に取るべき行動が決まった。
バハムーンとフェルパーが、最も傷ついているドワーフへ襲いかかる。ドワーフは咄嗟に守りを固め、その攻撃を何とか凌ぐ。
「畜生……やっぱ、そうなるよな…!」
ぼやきつつ、ドワーフは二人の猛攻に何とか耐える。急所を守り、ただただじっと来るべき機会に備え、様子を窺う。
バハムーンの突きを受け止め、フェルパーの蹴りを避ける。さらに飛んできた肘を両手で受けると、がら空きになった脇腹へフェルパーが
蹴りを放つ。
直後、ドワーフは足を上げ、その蹴りを膝で防いだ。
「いったぁーい!!!」
「なめるからだ!」
すぐさま踏み込み、フェルパーの腹へ拳を叩きこむ。それはみぞおちへ直撃し、たまらずフェルパーはその場に崩れ落ちた。
「げほっ……おえぇ…!」
腹を押さえ、嘔吐するフェルパーに追撃を掛ける瞬間、バハムーンが拳を突き出す。ドワーフは咄嗟に向きを変え、攻撃を受け止める。
その後ろで、フェルパーが立ち上がった。だが、ドワーフは振り返りもしない。
「んなおぉーう!!」
興奮した鳴き声を上げ、フェルパーはバハムーンに襲いかかった。まともに攻撃を受け、傷ついた今、元気なバハムーンが残っては
困るのだ。となれば、必然的に次の行動は絞られる。
「ちぃ!劣等種が、使えねえ…」
ますます激化する戦闘。そして、再び三人が拳を交えようとした瞬間、突如その中心に小さな雷が落ちた。
「うお!?」
「わっ!」
「ふぎゃ!?」
三者三様の反応を示し、三人は慌ててその場を飛びのく。振り向くと、そこにはエルフとセレスティアが立っていた。
「そこまでですわ。あなた達、その大騒ぎを今すぐおやめなさい」
「なんだ、てめえ?」
ドワーフが詰め寄ろうとすると、セレスティアがさりげなく間に割って入る。
「彼女は、風紀委員長ですよ。わたくしは同じく、副委員長。風紀委員としては、このような事態を見過ごすことはできないのです」
「風紀委員だか何だか知らねえが、偉そうに」
バハムーンも不快らしく、忌々しげに呟く。
「実際偉いさ。僕等は君等の先輩だし、そっち二人は委員長に副委員長だからねえ」
「ん?」
突然上から響いてきた声に、三人は頭上を見上げた。その視線とすれ違うように、フェアリーは地面に降り立つ。
「虫けらか…」
「チビ妖精かよ…」
「んなーん、飛んでるー。トンボみたいー」
「君等こそ、トカゲに犬に猫じゃないか」
フェアリーの言葉に、ドワーフとバハムーンの眉が吊り上がる。
「貴様…!」
「よし、てめえそこに直れ」
「フェアリー、遊びにきたのなら帰ってくださらない?」
エルフが睨むと、フェアリーは肩を竦めた。
「魔が差したんだよ。わかったわかった、もう黙る」
フェアリーがセレスティアの後ろに隠れると、改めてエルフが口を開く。
「あなた達のしていた行為は、校則ではっきりと懲戒の対象になっていますわ。それはわかっていらして?」
「関係あるか、カスが」
「ぐっ……あ、あなたのような獣には、確かに関係ないし、理解もできないかもしれませんわね…!」
「てめえも喧嘩売ってんのか。やんならあたしは構わねえぞ」
どんどん泥沼化する状況に、セレスティアは苦笑いを浮かべる。
「まあ、まあ。お二方、少し落ち着いてください」
「貴様のその喋り方、何とかならねえのか。聞いててうざってえんだが」
バハムーンが言うと、セレスティアは一瞬きょとんとし、すぐにまた笑顔を浮かべる。
「あ、普通でいいかい?なら普通の喋りにしようか」
「……あ、ああ」
思わぬ変貌ぶりに、バハムーンも少し意外だったらしく、素直に頷いてしまう。
「えーと、まず君達のしてたことは懲戒の項目、7番と8番に当たるね。校内での私闘、決闘の禁止。そして武器類の必然性なき抜刀、
使用の禁止。さらに言うなら、君達は以前も騒ぎを起こしてるから、1番の、性行不良で改善の見込みがない者、にも当てはまるかもね」
「……だったら何だってんだ?退学か?あるいは停学か?」
その質問に、セレスティアは一瞬考え、そして答えた。
「いやいや、私としても君達みたいな新入生に、そんな処分下すのは気が引けるよ」
「ちょっと、副委員長…!」
小声で、エルフが話しかける。
「処分を下すのは、わたくし達でなくて校長…!」
「いいからいいから、ここは私に任せて」
コホンと咳払いをし、セレスティアは続ける。
「ただ、これが続くようなら何らかの処分は必要だよね。このままだと退学はないにしても、停学まではあり得るかな」
「そんなもの、別に怖くもないがな」
「けど、知ってるかい?停学中も寮の使用はできるけど、その間、金銭的な補助は一切なくなるんだよ」
「ちょっと待て。金銭的な補助?それ、どういうことだ?」
ドワーフが尋ねると、セレスティアは僅かに笑った。
「例えば、寮の宿泊は100ゴールドだよね。三食付きで武器の手入れ道具も揃ってる。ところが、この三食及び武器の手入れ物品が、
外部の者と同じく有償化する」
「お……おいおいおい、ちょっと待てよ!!」
それを聞いた瞬間、ドワーフは明らかに慌て始めた。
「たとえば何か!?おにぎり一個作ってもらったら、それだけで30ゴールド取られるのか!?」
「そうなるね」
「じゃ、豪華な弁当と同じだけの夕飯食ったら…!」
「もちろん、1000ゴールドだよ」
「てことは、抑えても年間最低1095000ゴールド取られて、三日にいっぺんアイスクリーム食うだけで1155225ゴールドも
かかるってことか!?」
「え?……え、ええっと、そう……だね……計算速いな…」
「しかも手入れ用具もだろ!?砥石一つ取ったって、毎日じゃあ洒落になんねえ…!それに油も…!」
今までの威勢はどこへやら。ドワーフはすっかり耳も尻尾も垂らし、怯えた子犬のような目つきでセレスティアを見つめる。
「……な、なあ、頼むからそれは勘弁してくれ…。な、何でも一つぐらいは言うこと聞くからさ…」
「さあて、ねえ。口先だけでは、私も学校側も納得させられないし…」
「本当だって!絶対嘘なんかつかねえよ!!反省文でも何でも書くから、頼むからそれだけは勘弁してくれってぇ!!」
これで一つ片付いたと、セレスティアは心の中でほくそ笑む。
「あははー!さっきと大違い!頑張って稼げばいいだけなのに、変なのー!」
その様子を見ていたフェルパーが、おかしそうに笑う。そんな彼女に、フェアリーが話しかける。
「おいおい子猫ちゃん。そう簡単に言うけどね、それだけ稼ぐのは僕等だって大変なんだぞ」
「んにーぅ、ちょっと外でモンスター殺せばさ!遊んでるうちにお金なんか手に入るよ!」
「君は遊びで生き物を殺すんかい」
「そうだよ!だってさ!強い相手殺すと、すっごく気持ちいいよ!ねえねえ!君も強い!?強いの!?」
とんでもない危険人物だと、風紀委員の三人は暗澹たる気持ちになった。こんな人物を御する手段など、思いつくわけもない。
その時、バハムーンが口を開いた。
「そうなったら、こちらから退学でもすればいいだけの話だろう。別に気にするほどのことでもない」
「でも、二度とこの学園に入学できなくなるよ。別に一人で頑張るって言うなら私も止めないけど、学校の支援がないと大変だよ」
「そうだよ、お前は余計なこと言うなよな。あたしまで巻き添え食って退学とか停学になったらどうするんだよ」
ドワーフはセレスティアの脅しに完全に屈したらしく、バハムーンに食ってかかる。
「そんなこと、俺の知ったことじゃない」
「だろうな。お前みてえな脳なしには、一歩先のこと考えるのも一苦労だろうよ」
「……貴様」
バハムーンは大股でドワーフに歩み寄ると、突然その尻尾を捻り上げた。
「あぐっ!?てっ……てめえ、卑怯だろっ……尻尾狙うとかっ…!」
バハムーンが腕を上げると、小柄なドワーフの足が地面から離れる。尻尾だけで吊るされる痛みに、ドワーフの顔が歪む。
「生意気な口をきくな。この尻尾、このまま捻じ切って貴様の口にでも突っ込んでやろうか?あるいは、下の口なんてどうだ」
ドワーフは何とかバハムーンの腕を掴み、痛みから逃れようとしていたが、その言葉を聞くと顔を歪ませつつも、にやりと笑って見せる。
「……へぇ、そりゃあいい考えだ。想像するだけでゾクゾクする。けどさ、あたしは欲張りなんでね」
自分から腕を離すと、ドワーフはバハムーンの尻尾を握り返した。
「ぐっ…!」
「前だけじゃ足りねえから、尻の方にこっちも欲しいところだな」
思わぬ反撃に、バハムーンの力が緩む。足が地面に着いた瞬間、ドワーフは彼に寄り添うように体を寄せた。
「ああ、それにちょっと口寂しいから、こいつを咥えさせてほしいなあ。それなら、あたしは構わないぜ」
もう片方の手で、ドワーフはバハムーンの股間を握りしめた。急所を強く掴まれ、バハムーンの額に脂汗が浮かぶ。
「貴様っ……本当に、捻じ切ってやろうか…!?」
「うあっ…!いいぜ、やれよ……三つ穴責めなんて、すっげえゾクゾクする。なあ、ほら、さっさとやれってば…!」
一体どこまで本気なのか、二人は人目も憚らずに応酬を続ける。その様子を、エルフは顔をしかめて見ており、フェアリーは興味津々と
いった表情で見つめている。セレスティアは、ドワーフがバハムーンの股間を掴んだ辺りから目を背けている。
その背けた先に、フェルパーがいる。その様子がおかしいことに気付いたのは、少し経ってからだった。
顔は真っ赤に染まり、目は真ん丸に見開かれている。耳の内側までもが薄っすらと桃色に染まっており、体は小刻みに震えている。
一体どうしたのかと声をかけようとした瞬間、フェルパーが叫んだ。
「やーっ!!!やぁーっ!!!エッチなのやだーっ!!この人達嫌いーっ!!!」
叫ぶや否や、フェルパーは二人に襲いかかる。突然のことに驚きつつも、二人はすぐさま手を離し、その場を飛びのいた。
「な、何だよてめえ!?」
「ばかぁ!!変態!!あっちいけー!!」
「……なーるほど。この子は意外や意外、純情系か」
そう呟くと、フェアリーはにやりと笑った。そして、後ろからフェルパーに忍び寄る。
「へいへい、子猫ちゃん。そんなに足ガバガバ上げてると、パンツ丸見えだよ」
「え…」
それを聞いた瞬間、フェルパーは顔だけでなく、全身を真っ赤に染めた。
「やだぁーっ!!!もうやだーっ!!!私転科するぅー!!!普通科に転科するぅー!!!わぁーん!!!」
本気で泣きながら、フェルパーはスカートを押さえてぺたんと座りこんでしまった。
「あー、そうそう。君みたいな問題児はさ、先輩なんかに目を付けられると厄介だよ?服全部脱がされて、購買に売られて、有り金全部
巻き上げられるとか、そんなことも珍しくないんだ」
「やだぁーっ!!!そんなのやだぁー!!!何でもするからエッチなことしないでぇー!!!うわぁーん!!!」
「……フェアリー…」
エルフはフェアリーを睨みつける。その目は『適当なことを言うな』と言っているが、フェアリーは無視を決め込んだ。
「もちろん、僕等だってそんな目に遭わせるつもりはないよ。そりゃもはやいじめだからね。でも、君が目を付けられてる可能性は、
結構高いよ。君、真剣道部で暴れただろ?」
「フェアリー」
「まあ見てなって……おほん。だから、君は僕等と共に行動するようにしてほしい。そうすれば、そんな手出しはさせないよ」
「ひっく……ひっく…!ほ、ほんと…?」
「本当だって。これでも僕は風紀委員だぜ?」
「じゃあついてく……ついてくから、エッチなことしないでぇ…」
これで二つ片付いたと、セレスティアとフェアリーはアイコンタクトを送り合う。だが、問題のバハムーンが口を開いた。
「どうやら、貴様等は俺達を従わせたいようだが、貴様等が何を言おうが、俺は従う気はない」
「へーえ。学校全てを敵に回して、やっていくつもりかい?僕達にすら勝てないのに?わざわざ自滅の道を突っ走っていくなんて、
高尚な種族様のお考えは、僕みたいな小妖精には理解できないなあ」
その言葉に、バハムーンの眉が吊り上がる。
「……貴様等如きが、俺に勝てると?」
「僕一人ならまだしも、僕等を相手に勝てると思ってるのかい?君、よくそんなおつむでこの学校に入れたよね」
「ちょっとフェアリー、わたくし達まで巻き込むつもりですの!?」
エルフがなじるように言うが、フェアリーは涼しい顔である。
「ああ、悪いね。魔が差した。まあいいじゃん、結果が良ければさ」
「だからと言って、わざわざ喧嘩を売る必要はないだろ?まったく……私は、君に喧嘩を売るつもりはないよ。できれば、大人しく
従ってくれた方が…」
言いかけるセレスティアを遮り、バハムーンが口を開いた。
「貴様等如きが、俺に意見するな。従わせたきゃねじ伏せてみろ」
既に、バハムーンはやる気である。風紀委員の三人は、お互いの顔を見合わせて溜め息をついた。
「……仕方ないね。やるしかないか」
「副委員長!これは校内での私闘、及び必然性なき武器の抜刀に…!」
「委員長〜、降りかかる火の粉は払わなきゃ。必然性もあるし、僕等は風紀委員だ。相手が暴力で来るなら、少々の暴力は仕方ない。
それに……もう、あちらさんやる気だから、止めらんないよ」
エルフはまだ何か言いたそうだったが、もはや回避は不能と判断したのだろう。大きな溜め息をつくと、仕方なく杖を構えた。
「フェアリー、私達援護はするけど、それ以上は…」
「わかってるよ副委員長。それに、殺しはしないから安心して」
「おい、でけえの。そのうるせえ羽虫ぶっ潰しちまえよー」
ドワーフもフェアリーが相当に嫌いらしく、バハムーンを煽る。
「うるさいなあ、そこの犬。弱い犬ほど……なんて、よく言うよね」
「……おいトカゲ、そいつだけは死んでも潰せ」
「黙れ。貴様の指図など受けるか。それに、言われずともそのつもりだ」
「あー、ちなみに君が負けたら、ちゃ〜んと従ってもらうよ?三対一だから、やっぱなし!なんてのはなしだぜ?」
「ふざけるな!俺がそんな真似をすると思うか!?」
「思うよ。できれば『負けたらちゃんと従います』って、誓約書でも欲しいぐらいだよ」
「誓いを立てればいいんだな?」
言うなり、バハムーンは折れたダガーを拾うと、自分の掌を切りつけた。
「おいおい、何を…!?」
「祖先の血に誓って、俺は嘘をつかん。これで満足か!?」
「……無駄なプライドの高さも、こういうときはありがたいね」
呆れたように呟き、フェアリーは笑った。
「よし、いいだろう。君から来ていいぜ」
「そうか。なら……灰になれ!」
バハムーンがブレスを吐きかける。それが目前に迫っても、フェアリーは動かない。
「二人とも、頼むぜ」
「仕方ありませんね…!副委員長!」
「いつでもいいよ、委員長」
二人は杖をかざすと、同時に叫んだ。
「絶対壁、召喚!」
見えない壁に、ブレスが弾かれる。目の前で消えるブレスを見て、フェアリーは笑う。
「おいおい、これでどうやって灰になればいいんだい?もうちょっとまじめに頼むよ」
「何だと…!?なら、直接潰してやる!」
バハムーンが殴りかかる。だが、拳がフェアリーを捉える瞬間、その姿が消えた。
「速え!?」
「おー!速い!速いねっ!んなーぅ!」
横で見ていたドワーフとフェルパーが、同時に声を上げた。直後、バハムーンの動きが止まる。
「うっ…!」
喉元に、弓が押し当てられる。弦にかけられた矢が、それ以上の行動を封じてしまう。
「動いたら手を離す。もちろん、君が攻撃しても手は離れる。君に許可することは一つだけだ」
「………」
「『参りました』って言えよ。君の負けだ」
ギリッと、弦が軋む。バハムーンは悔しげに歯噛みするが、もはや勝敗は決していた。
「…………ま……参った…」
「……ま、いいだろ。じゃあ誓いは守れよ」
踵を返し、悠々と歩き去るフェアリーを、バハムーンは何も言わずに睨みつけていた。その横で、ドワーフが苛立たしげに溜め息をつく。
「ちっ!あーあ、白けっちまうぜ。そいつぐらい潰せよな、てめえはよぉ」
「……そのつもりだったが、あいつは俺より……くっ…!」
相当に悔しかったらしく、バハムーンは他の者に背を向けると、どっかと座りこんでしまった。
「なっさけねえ。そうやって拗ねてりゃ、てめえは強くなんのかよ」
「敗者に鞭打つような真似をして、あなたは楽しいんですの?」
エルフが、実に苛立たしげな声を出す。
「強い相手には媚びへつらい、自分より弱い相手と見ると、徹底的に潰す。まさしく獣……いえ、『けだもの』ですわね」
「あ〜〜〜〜、うざってえなてめえは…!てめえこそ、権力の傘がねえと何にもできねえ、ひ弱なくそ妖精じゃねえかよ。そもそも、
てめえは委員長らしいけどよ、他の奴の方と違って全っ然仕事してねえよな。てめえみてえのが上にいたんじゃ、他の奴は大変だな」
「何ですって…!?」
「お?どうしたんだよ、そんな顔真っ赤にしてよ?図星突かれて、怒っちまったかぁ?」
「はいはいはいはい、君達そこまで。委員長、少し落ち着いて。それから君は、委員長を挑発しない。あんまりそういうことすると、
私だって怒るよ」
例によってセレスティアが間に入り、二人を窘める。さすがに彼には、二人ともあまり強い態度を取れない。
「ちっ……そんな奴を庇える、お前の気がしれねえよ」
「一緒にいるうち、わかってくれるかもね。それより、君ひどい怪我じゃないか。鼻なんか折れてるのに、よく平然としてられるね」
セレスティアはドワーフにヒールを唱え、折れた鼻を治してやる。しかしドワーフは、それ以上の治療を拒む。
「やめてくれ。情けなんかかけられたくねえ。それにこんな怪我、すぐ治る」
言いながら、ドワーフは絆創膏を取り出し、切られた頬に張り付ける。そんな彼等を尻目に、エルフはバハムーンに近づく。
「あなたも、相当な怪我をしてますわね。わたくしが治して差し上げますわ」
「……いい」
背中を向けたまま、不機嫌に言い放つバハムーン。しかし、エルフは意に介さない。
「そうもいきませんわ。これから共に行動するのですから、わたくしには前衛の状態を万全にする義務がありますわ」
勝手にヒールを唱え、怪我を治す。バハムーンは黙って、されるがままとなっている。
「……礼は言わん」
「別に、そんなものどうでもよくってよ。誓いさえ、守ってくれれば」
「………」
「んにぅー、私は?私は?」
「君、大した怪我してないじゃん」
尻尾をパタパタしながら尋ねるフェルパーに、フェアリーが冷静に突っ込む。
「お腹殴られたよ!あと肩グーってされた!」
「お腹か。じゃ、ちょっと見せてごらん。ほら、遠慮するなよ。思いっきり制服捲ってくれ」
その意味を理解した瞬間、フェルパーの顔が真っ赤に染まる。
「いい!やっぱりいいもん!自分で治すー!」
「そりゃあ残念。気が向いたら、いつでもどうぞ」
「ところで、君達はずいぶん激しい喧嘩してたみたいだけどさ、一体この大騒ぎの原因は何だったんだい?」
セレスティアが尋ねると、ドワーフはバハムーンを一瞥する。
「あいつが、あたしの日向ぼっこの場所盗りやがったんだよ」
「……俺が先に寝ていたんだ。そもそも、あそこは俺の場所だ」
「私もね!寝てたら蹴られそうになったんだよ!でもねでもね!みんな強そうだから私も遊んだの!」
「………」
つまり、日向ぼっこの場所の奪い合いである。フェルパーは少し事情が違うらしいが、そもそもの発端は変わらない。
「やはり、このけだものが仕掛けたんですのね」
「うぜえなてめえは。言いてえことがあるなら…」
「お二方、もうやめよう。とにかく、この件は私達が預かる事にして……三人とも、明日からは私達と一緒に行動してもらうよ。いいね」
セレスティアが言うと、三人は黙って頷いた。
「よし、じゃあそういうことで。三人とも、これからよろしく頼むよ」
後は問題ないだろうと判断し、風紀委員の三人は揃って階段を下りる。フェアリーはさっさと自分の部屋に戻ったが、
エルフはまた風紀委員室に戻ると言う。
「よろしければ、あなたも来てくださらない?」
「私?別にいいよ」
とくに用事もなかったため、セレスティアは二つ返事でそれを受け入れる。部屋に戻ると、エルフはしっかりと戸締りを確認し、叫んだ。
「あの獣どもはまったく…!規則を何だと思ってますの!?信じられませんわ!守るべきものを平気で破るような者達など…!
絶対に許せませんわ!」
「……ストレス溜まってるんだね、委員長。でも、彼等の言うことも、一理はあるよ」
「副委員長!」
エルフがなじるように叫ぶが、セレスティアは続ける。
「どんな正義でも、無力ならばないも同然。力こそが正しいっていうのは、あながち間違いじゃない。私達だって、『校則』という名の
力の元に、従わないものをねじ伏せてる。もっとも、こんなことを風紀委員の私が言ってたなんて、秘密だよ?」
最後に冗談めかして言うと、エルフはしばらくセレスティアを睨んでいたが、やがて小さな溜め息をついた。
「最近の君は、溜め息が多いね」
「多くもなりますわ……特に、今日みたいな日は」
「ん?」
ふと見ると、エルフの顔はどこか悲しげだった。そんな彼女に、セレスティアも表情を改める。
「……わたくしは、どうしてもあのドワーフが嫌いですわ。なのに、あなたは誰とでも平等に振る舞える…」
「ディアボロスは苦手だよ、私だって」
「わたくしは、委員長なのに……誰にでも平等であるべき立場なのに、それができない…。それに先程も……あなたやフェアリーは、
彼等を容易く従わせた。なのに、わたくしはただ衝突するばかりで……何も……な、何もっ……できなかった…!」
唇を噛みしめ、エルフは涙を流す。そんな彼女を、セレスティアは後ろから抱き締めた。
「だから私は、君を委員長に推したんだよ。その理由、わかるかい?」
「……?」
「私もフェアリーもね、彼等を従わせるために、何の躊躇いもなく嘘をついた。それに、喧嘩の仲裁にもサンダーを使ったし、
とにかく規則を破りまくってるんだよ」
「でも……でも、それは仕方のないことで……わたくしは、そういう行動を取れるあなた方が、羨ましい…」
「……委員長、君は委員長だ。頂点に立つ者が規律を守らなくては、誰に規律を守れなんて言える?」
優しく言いながら、セレスティアはエルフの涙を拭ってやる。
「でも、上に立つ者に、欠点があっては…」
「違う、違うんだよ委員長。それは欠点じゃない。それに、あまり完璧すぎる人が頂点に立てば、誰しもそれに寄りかかる。ドワーフや
ディアボロス相手にはつい厳しくなっちゃうとか、その程度の欠点なら、むしろあってくれた方が嬉しいよ。それに…」
一度言葉を切ると、セレスティアはエルフを強く抱きしめた。
「……君が間違いを犯しそうになれば、私がそれを止める。君が辛くて倒れそうなら、私が君を支える」
言うなり、セレスティアはエルフの肩を掴み、自分の方へ向けさせた。そして考える隙を与えず、その唇を奪う。
エルフは一瞬、驚きに目を見開き、しかしすぐそれに応じる。唇を吸い、互いの唾液を交換し、自身の舌で相手の舌を、歯を、
口蓋をなぞる。
セレスティアの手が、肩から腕へと下がっていく。さらに腕から腹をなぞり、腰を通り、前面の大きく開いたスカートの中へと侵入する。
「んんっ…!ん、ふぅ…!」
ピクッと、エルフの耳が震える。セレスティアの指が下着の上から割れ目を擦り、その度にエルフは抗議するように身を捩る。
そんな抗議を無視し、あるいはむしろ楽しんでいるかのように、セレスティアは指での刺激をさらに強める。軽く沈みこませて前後に
擦り、指先で小さく尖る突起を撫で、下着ごと指を中へと沈ませる。さすがに、そこまで来るとエルフも本気で抵抗し、彼の腕を
強く掴んだ。
「機嫌、損ねちゃったかい?」
「ん……もう、相変わらずですわね。そんな意地悪…」
「わかってるよ。これ以上はしない」
「それなら最初から……んぅっ!」
甘く耳を噛むと、エルフは弾かれたように体を震わせる。
「み、耳は、あまり……ふぅ、あっ…!」
噛んだまま舌で撫でれば、たちまち体を強張らせ、その手はギュッとセレスティアの袖を握る。そんな彼女の姿を楽しんでから、
セレスティアは口を離した。
「ふふ、君はやっぱり耳が好きなんだね」
再び、スカートの中へ手を這わせる。そして、ショーツの中に手を差し込むと、微かに水音が響く。
「んあっ…!」
「ここも、もうこんなになってる。……そろそろ、いいかい?」
「もう……少しぐらい、ゆっくりしようとは思いませんの?」
「場所が場所、だからね」
そう言い、セレスティアはいたずらっぽく笑う。それはエルフもわかっているようで、仕方ないというように溜め息をつく。
「……いいですわ」
エルフが答えると、セレスティアは再びキスを迫る。唇を重ね、腰を抱き寄せると同時に体重を掛けた。
抗うこともなく、エルフはそのまま机の上に押し倒される。セレスティアは彼女のショーツに手を掛け、ゆっくりと引き下ろす。
太股を通り、膝まで来ると、セレスティアは手を放した。パサリと、ショーツが足首に落ちる。
「……いくよ」
エルフは答えず、代わりにセレスティアを見つめると、こくんと頷いた。
自身のモノを押し当て、反応を確かめるように、ゆっくりと腰を突き出す。先端に秘唇が開かれ、少しずつ中へと飲み込まれていく。
「んぅっ……ふぅ、あっ…!あくっ……ああっ!」
エルフはギュッと目を瞑り、両手で口を押さえる。声を上げるまいと必死に我慢しているのだが、それでも抑えきれない声が漏れる。
その間にも、セレスティアのモノはどんどん奥へと侵入し、やがて腰と腰がぶつかりあい、パン、と軽い音を立てた。
「くっ……全部、入ったよ…」
「んうぅ…!はぁ……はぁ…」
「……動くよ、委員長」
返事を待たず、セレスティアは腰を動かし始める。部屋の中に、二人の荒い息遣いと、エルフのくぐもった喘ぎ声が響く。
セレスティアが動く度、エルフの下で机がガタガタと音を立て、同時に結合部から水音が響く。
「んん……うあっ…!あっ…!」
エルフの体はじっとりと汗ばみ、蒸れた匂いが鼻孔をくすぐる。そんな彼女の耳を、セレスティアは優しく撫でる。
「はぁ、はぁ…!委員長、気持ちいいよ」
それを聞いた瞬間、エルフは固く閉じていた目を薄っすらと開けた。
「い……やぁ…!その呼び方……んっ…!いつもみたいに……あっ!……んぅ……いつもみたいに、呼んでぇ…!」
なじるような、甘えるような、あるいはその両方を含んだ声。セレスティアは優しく笑い、彼女の頭を撫でる。
「わかったよ……可愛いよ、エルフ…」
「うぁ……セレスティア…!」
二人はどちらからともなく抱きあい、貪るようなキスを交わす。あまりに激しいため、時々カチッと歯の当たる音が響く。
しかし、二人はそれでもキスをやめようとはしない。
突き上げる度、エルフの中は強く彼のモノを締め付ける。熱くぬめった彼女の中はそれだけでも気持ちよく、また彼の動きに
必死に応えようとするエルフの姿は、何とも可愛らしい。
そんな彼女に促されるように、セレスティアの動きは徐々に性急なものとなっていき、エルフを抱く腕にも力が入る。
「くぅ……エルフ、そろそろ、私…!」
「んあぁ…!そのまま……わた……くしの、中に…!中にぃ…!」
縋るような声で言うと、エルフはセレスティアの腰に足を絡め、ぐいぐいと引き寄せる。
「はあっ……エ、エルフっ……エルフ!」
一際大きな声で彼女を呼ぶと、セレスティアは思い切り奥へと突き入れた。同時に、彼のモノがビクンと動く。
「あああっ!!……あぁ……中で……動い、て…!」
陶然とした声で呟くエルフ。体の中で彼のモノが跳ね、その度にじわりとした温かみを感じる。その温かさが、彼女に大きな幸福感を
もたらす。
全てを彼女の中に流し込むと、セレスティアは大きく息をついた。そして、未だ陶然とするエルフの頬を優しく撫でる。
「………」
それに対し、エルフも嬉しそうな微笑みを返す。言葉はなくとも、二人の間にはしっかりと心が通っていた。
どちらからともなく、啄ばむようなキスを交わす。それはお互いの立場など入り込む余地のない、純粋な恋人同士の姿だった。
ショーツを履き直し、最後に乱れたスカートの裾を直す。それを終えると、エルフはセレスティアの方へ向き直る。
「もうよろしくってよ、副委員長」
「案外早いね、委員長」
先程までの光景が嘘のように、二人はいつもの姿に戻っていた。呼び方も戻っているが、それはむしろいつもの関係に戻るため、あえて
そう呼び合ったのだろう。
「ほとんど脱いでいないからですわ。あ、でも背中の方…」
「見た感じ、平気そうだったよ。少なくとも、気になるほどの皺はないよ」
「そう、それは……って、副委員長、見たんですの!?」
「え?あ、あ〜……ははは、ごめんよ委員長。つい、ね」
「……フェアリーみたいに、『魔が差した』って言うんですの?」
「ま、そんなとこかな」
いたずらを見つかった子供のように笑うセレスティア。そんな彼に、エルフは呆れた視線を向ける。
「まあ、いいですわ。そんなことより、明日からのことを考えなくてはいけませんわね」
「大丈夫だよ、委員長なら。それに委員長だけじゃなくて、私達もついてる」
セレスティアがそう軽く言ってのけると、エルフは僅かに表情を変えた。
「……あなたはずるい方ですわ」
「え、何が?」
突然口調が変わり、セレスティアも何事かと表情を改める。
「あなたはわたくしの全てを知るのに、わたくしはあなたの心を知りませんわ」
「知る必要もないよ。私は、委員長のことを信じてる。それに、君のすることは間違いがない」
「だから、ずるいと言うんですわ。あなたはいつもわたくしを、自由という鎖と、期待という首輪で縛りつけますわ」
「でも、君はその首輪をつけない自由もある。それを望んで付けるのは、君。違うかい?」
意地悪く笑うセレスティアに、エルフも呆れた笑顔を浮かべた。
「本当に、ずるい方ですわ」
「ははは。でも、君を信じているのは本当さ。私と違って、君は必ず規律を守る。たとえそれが、君自身を縛るものだとしてもね。
そんな君を支えられるっていうのは、私にとってこの上ない幸せなんだよ?」
「……なら、わたくしはその『期待』に、応えねばなりませんわね」
一種、諦めのような表情が見て取れる笑いを浮かべるエルフ。そんな彼女に、セレスティアは優しく声を掛ける。
「大丈夫。君はうまくやれるよ」
「随分と自信たっぷりに言うんですのね」
「水は低い方に流れるからね」
その言葉に、エルフは首を傾げる。しかしその意味を尋ねても、セレスティアはただ曖昧に笑うばかりで、結局彼の言葉の真意は
分からずじまいだった。
その翌日から、風紀委員の三人と、問題児三人の冒険が始まった。委員長であるエルフが次々に課題や依頼を請け負い、問題児三人は
嫌々ながらも、それらを真面目にこなす日々が続く。
元々の実力は折り紙つきである。彼等が依頼をこなせなかったことは一度もなく、むしろほとんどが役不足と言っていいほどだった。
学校の方でも、問題児を監視し、なおかつその意識を依頼に向けさせる風紀委員のことは評価しており、彼等三人の成績にも
多少色がつくことが増えている。そのおかげで、最近はフェアリーも自身の単位の少なさを心配することは減っている。
六人が共に行動するようになり、数週間が経過した。今、一行は新たな課題を終え、次の課題までの手持無沙汰を解消するため、
初めの森へ来ている。とはいえ、一行はもはやここでは敵なしであり、実質はほぼピクニックである。
「この面子、最初はどうなることかと思ったけど、案外うまくやれてるよね」
地面に座り、おにぎりを頬張りながらフェアリーが言う。
「わたくし、未だにあのドワーフだけは好きになれませんわ。いえ、むしろ知れば知るほど嫌いに…」
「委員長、委員長、その先は言っちゃダメだよ。仮にも仲間なんだから」
苦笑いを浮かべ、エルフを慌てて遮るセレスティア。だが、そんな彼等の会話は、他の三人には聞こえていない。
木漏れ日の当たる草の上、バハムーンが大の字になって寝ている。風にさわさわと揺れる木の葉に混じり、木の上で寝ているフェルパーの
寝息が微かに響く。
そこへ、最後まで食事をしていたドワーフが近づく。しかし、木漏れ日の当たる場所は狭く、バハムーンが寝ているおかげで、
ほぼ占領状態である。
「……あたしの場所ねえな、畜生…」
そう呟くと、バハムーンが薄っすらと目を開けた。
「……隣なら空いてるぞ……寝たきゃそこで寝ろ…」
眠そうな声で言うと、バハムーンは寝返りを打つ要領で体半分ほどの隙間を空けてやる。
「うるせえ、あたしに指図すんな。寝る場所はあたしが決める」
言いながら、ドワーフは彼の隣に寝転ぶと、静かに目を瞑った。程なく、辺りに都合三人の寝息が響く。
そんな彼等の様子を見ながら、エルフがポツリと呟く。
「……最近ようやく、あなたの以前言ったことの意味がわかった気がしますわ」
その言葉に、セレスティアは笑みを浮かべた。
「水は低い方に流れるってことかい?ま、見ての通り、良くも悪くもってことなんだよね」
優しげな笑みで、昼寝する三人を見つめ、セレスティアは続ける。
「君ならわかるかな。一匹狼とはよく言うけど、別に狼だって一匹が好きだからそうしてるんじゃない。ただ、自分がいるべき群れが
見つからないだけなんだよね」
「それが僕等って?ぞっとするねえ」
フェアリーの言葉を、セレスティアは爽やかに無視する。
「彼等は、まさにそれだよ。およそ、仲間なんて望めない。でも、誰しも自分が認められる相手がいれば、心を許すとまでは
いかなくたって、多少なりとも気を緩められる。そうすれば、毒気だって多少は抜けるものだよ」
「認めているというよりは……獣同士、共通の趣味が日向ぼっこだからだっていうだけにも見えましてよ」
「ははは、可愛いじゃない。それに、趣味が共通してるなら、すぐに仲良くなれるものだよ」
フェアリーはおにぎりを食べ終えると、おもむろにフェルパーの寝る木の下へ移動した。そして、下からじっと彼女を見上げる。
「……何してるんだい?」
「いや、パンツでも見えないかなーと」
「そこの風紀委員。今すぐやめないと学校か委員をやめてもらいますわよ」
「わかったわかった、魔が差したんだって。そう怒らないでよ」
「……男子としては、正しい行動だけどねえ…」
「副委員長、何か言いまして!?」
「いえいえ、何も。な〜んにも」
恐らく、先行きは苦難の連続であろう一行。しかし、まとまることそれ自体が大いなる困難であった彼等にとって、先に待ち受ける
苦難など一片の不安にもなり得ない。むしろ、この先にはそれ以上の苦難などないかもしれない。
学園きっての問題児と、学園の秩序を預かる立場の風紀委員。
そんな、歪な一行の旅は、まだまだ始まったばかりである。
以上、投下終了。
序章のレス数間違えてしまって申し訳ないorz なんであんなミス…。
不定期になるかもしれませんが、よろしければお付き合い願います。
それではこの辺で。
GJ。過疎化進んどるなぁ……。
GJ!
やっぱり氏の書くストーリーはいいな
今度のパーティーも楽しみすぎる
個人的には殺人狂なのにカマトトなフェルパー萌え
GJです
今回のパーティーも楽しみに待ってます
だが三角関係パーティーがあれで終わりと思うとさみしいな・・・
うまく繋がって出てきそうな気もするがw
GJ
>>196 PS3で2のリメ?移植?が来るから少しは盛り上がるかも
書き手さんたちは買うつもりなんだろうか?
乙!獲物いたぶる気があるけどおぼことか猫可愛いなw
正直PS3の方にはあんま期待できそうにないけど
氏が居ればこのスレは安心だわ
「にゃあ」
「ん?どうしたフェルパー」
「にゃぅ……ゴロゴロ」
「なんだ、甘えたいのか。ほれ、こっちこい」
「ふにゃー♪」
「ちょ、待て!舌ザラザラしてんだからそんな強く舐めたら……アッー!!」
飼い猫が可愛くてやってしまった。今は反省している。
後、氏は大変GJでございます。
新参者だが初投下します。ダンテ×ディアボロス♀(戦士)
作中のセレスティアの口調が定まってないのはセレスティア本来?の丁寧口調と
親友に対するタメ語がごっちゃになってる、という設定です。
「はい、ミルクティー淹れましたよ〜」
「ありがとう・・・・・・う〜ん、いっぱい買い物したから疲れたぁ」
買ってきたものを床に置き、真っ先にベッドに突っ伏すディアボロス。2〜3回ベッドの上でゴロゴロと転がると、ルームメイトであり、
一番の親友であるセレスティアの淹れてくれた紅茶を啜る。
「ディア、いっぱい買ってたもんね」
紅茶を啜りながら、戦利品をちらりと見やる。
この二人の女子生徒は、つい先程まで買い物に出かけていた。巷で大人気のGJブランドの新作コスメを買いに行ったのである。
「新作コスメも無事ゲットできたし、これはもう決戦は近い!って感じですね」
「?!?!違うから!ただ、ほら、私たちGJブランド気に入ってるでしょ?だから新作も買いに行っただけで、別にダンテ先生に見てほしいとかそんなんじゃないから!」
「うんうん、私は別にそんなことまで言ってないんだけどね。っていうか勝手に口走ってますよディア」
頬を赤く染めて抱き枕を抱きしめているディアボロスを、可愛いなぁと思いながらクスクスと笑う。
「セ・・・・・・セレスはヒュマ君と両想いだから笑っていられるんだっ!私の気持ちなんてわかってくれないんだっ!」
「あ〜!そういうこと言います〜?」
まぁ確かにヒューマンとセレスティアの場合、入学したその日にお互いが一目惚れであって交際しているのだが。
このディアボロス。教室では割りとクールで凛としており、元々整った顔立ちを嫌味のない程度のナチュラルメイクを施し、背筋を伸ばして堂々と教室に入って来る様は、
さながらカリスマモデルのようで、周囲の目を引くのに十分な存在である。
隣を歩くセレスティアが可愛い系統で、ディアボロスは綺麗系統とすら言われており、種族関係なしで二人そろって男女共に人気のある生徒だ。
そんな彼女が唯一持ち前のカリスマ性を発揮できずにいるのが、担任教師のダンテである。
彼を目の前にすると頬を僅かに赤らめ、立ち居スタイルもモデルスタイルから急にしおらしくなり、うまく振舞えない。そんな様子を見れば、誰もがわかってしまうだろう。
実際、彼女に告白しようと思っていた男子生徒も、その様を見て諦めたくらいだ。中には諦めずに逆に燃えている者もいたが。
「もっと自然と先生の傍にいたい・・・・・・ううん、自然じゃなくてもいい。しどろもどろになったっていい。ただ先生の傍にいる時間が、もっと欲しい・・・・・・」
「・・・・・・そうですよね。好きな人とは傍に居たいですよね・・・・・・あっそうだ!」
ディアボロスの打ち明け話を聞き入れていたセレスティアに、ピンと案が浮かぶ。
「放課後に剣術指南を受けてみたらどうですか?」
「剣術指南?」
セレスティアはにっこりと微笑みながら言葉を続ける。
「はい。実はヒュマ君、放課後にダンテ先生に剣術指南を(強制的に)受け(させられ)てるんですよ。何でも、剣の才に恵まれているのにも関わらず、
普通科なのが納得できないらしくて。ディアも戦士科だから、きっとOKもらえますよ」
「へぇ〜・・・・・・そうなの?・・・・・・セレス、なんで今まで黙ってたの?」
「うっ!それは・・・・・そ、そうですよねぇ〜私の付き添いということで一緒に見学してれば・・・・・・気づきませんでした」
実際は、ヒューマンがダンテのことを「鬼人」だの「もう疲れた」だの「身体が保たない」だのとブツブツ文句を言ってるのがあまりにも情けなく、
逆に笑いがこみ上げてくるので、見られたくなかったからである。
コホン、と咳払いをして改めて進める。
「だから早速明日指南していただけるよう、今からお願いしに行きましょう!さっき買った戦利品を使って、ね?」
「・・・・・・うん。そうだ、これ見てセレス」
小さな紙袋の中から、桜色のリップグロスを取り出す。
「わぁ・・・・・・綺麗な色ですね」
「うん。色があんまり濃いと逆にケバイかなと思って。それでね、これ使うと意中の人をメロメロにするという効果があるらしくて・・・・・・」
もちろん、ディアボロスも完全に信じているわけではない。商品に対する、所謂キャッチフレーズでしょと思っている。
だが、作ったのがあのジョルジオ先生だと思うと、本当に何かしらの効果があるんじゃないかと期待してしまうのである。
「あぁなるほど!早速試してみるん、です・・・・・・ね・・・・・・?」
じーっと。
ディアボロスがセレスティアを見る視線が痛い。
「あ・・・・・・あの?」
「セレス、貴女これ使って試してみて頂戴」
「えぇぇぇぇぇ〜?!なんで私が!」
「いいじゃないのよ!親友を助けると思って!ヒュマ君とは両想いなんだから、これ使ってチューの一つもぶちかましてきなさいっ」
「ふ・・・・・・ふぇぇ・・・・・・・」
まだ納得出来てないセレスティアに、テキパキと手際よくメイクを施していき、効果があるかどうかの実践してみることにした。
「お〜いセレス」
「あっヒュマ君!」
リップグロスの実験台の二人が、学生寮の廊下に集まった。ディアボロスは、二人から少し離れた柱に隠れながら様子を見る。
(ごめんねセレス・・・・・・付き合わせちゃって・・・・・・)
胸中で親友に詫びながらも、効果があるかどうかが気になってしまう自分が少し嫌だった。
「それで、用は何かな?」
「うん、あのね・・・・・・」
顔を赤らめながら、セレスティアはヒューマンの前でクルッと一回転し、ポーズを決める。「どう?似合います?」
微笑んでいたヒューマンの顔が、ビシッと引きつった。
(お・・・・・・おばか―――!!!それじゃあ一番何を見て欲しいかわからないでしょぉ―――!!!)
現にヒューマンは、セレスティアの何が変わったのかまったくわからないでいるようだ。帽子か?!服装か?!アクセサリーか?!と、
悩んでいるのがディアボロスの位置からも分かる。
対してセレスティアは、気づいてくれると確信してるかのように期待に満ちた瞳だった。
迂闊だった。セレスティアが少々天然だったことを、忘れていた。ディアボロスがそう思ったとき、ヒューマンがセレスティアの両肩に手を置き、
真剣な瞳で答える。
「うん。よく似合ってるよセレス」
「あ・・・・・・うん・・・・・・えへ・・・・・・嬉しい」
バカップルだ。
気づいていないくせにごまかしたヒューマンはある意味すごいと思ったが。
それでも、似合うと言われて嬉しそうに微笑むセレスティアを見ると、良かったねと言いたくなってしまうディアボロスがいた。
ヒューマンと短く何かのやり取りを終えて別れると、セレスティアはディアボロスの元へと駆け寄ってきた。
「似合うって言われました!」
「そう。良かったわねセレス」
効果があったかどうかの役には、まったく立たなかったけどね。
はぁ、と重いため息をついて顔をしかめる。そんなディアボロスの様子などセレスティアは気にもせずに、
「ディア、別の作戦も立てませんか?」
「?何よ?」
「モンスターに襲われるところを先生に助けてもらうという、古来より伝わるラブイベントです!」
「あ、貴女、何気に楽しんでない?」
「そんなことないですよ。恋愛成就のためですよ。ほら、もうモンスターの準備もしておきました」
ニッコリと微笑み、遠くを指差す。指差す方角には、ヒューマンがモンスターの入ったゲージを運んでいた。
(絶対、楽しんでる。)
今度はセレスティアが柱の陰に隠れる。隣にはゲージを運んだついでに、とヒューマンが居た。
(ディア嬢は何してるんだ?)
元々整っている顔を、嫌味のない程度のナチュラルメイクを施したディアボロスは、さっきから廊下に立ったまま、俯いている。時折、キョロキョロと辺りを見回したりしていた。どこか寂しげなその瞳に、一瞬強く惹かれた。
ヒューマンには目もくれずに、落ち着いたトーンでセレスティアは告げる。
(シッ。恋する乙女は、片手でバハムーンをも嬲り殺せるのです)
恐ろしいな。
そう思った。例え話なんだろうが。そんなことを聞いてしまうと、さっきから辺りを見回す姿が、手頃なバハムーンの生徒を探してるかのように見えてきてしまった。
(てかさ、ダンテ先生学生寮なんかに来んの?)
(それは大丈夫。『ヒュマ君が話がしたいそうなので学生寮に来て欲しいと言ってました』って伝えときましたから)
しれっとセレスティアは答えた。
(おい!俺ダシにされてるよ!!別に話なんかねぇよぉぉ!!!!)
ヒューマンが小声で絶叫してる中、例え話とはいえ、妙な疑惑を着せられた当のディアボロスは、軽く後悔していた。
(何してるんだろ、私・・・・・・)
先生の傍にいたい。それは間違いない。彼に対し、仄かな想いを抱いてるのは、何も自分だけではないのだ。油断していたら、それこそブーケトスを受け取るのは自分になる。それだけは断固拒否したい。
でも。
実際まともに会話ができるのだろうか?最後にまともに会話したのはいつだった?
そんなことを考えていると、視界の端に、件の彼が入ってきた。
ハッと顔を上げた。セレスティア達が隠れている反対側の廊下から、ダンテが歩いてきた。
どうしよう。逃げたい。
今なら不自然にならずに逃げられるだろう。別に学生寮に来て欲しいと直接頼んだわけではない。踵を返し、歩いてしまえばいい。
でも、自分の我侭に振り回され、今でも後ろに控えているセレスティアは?彼の傍にいたいという、本当の自分の気持ちは?
ええい。ままよ。
意中の彼に、声をかけた。
「ダンテ先生!」
「?何だ」
一際高い身長。鋭い眼光ながら、整った顔。ディアボロスの意中の彼が今、彼女の目の前にいる。
足が震える。言葉が出ない。情けなくも、若干涙がこみ上げてきた。
「どうした」
「あっ・・・・・・」
いけない。しっかりしなくては。このままでは彼を困らせてしまう。
一度目を瞑り、深呼吸。
(お願い神様、魔王様、ジョルジオ先生。私に力をください)
パチッと目を開き、ダンテから一歩下がる。両手を後ろで組み、軽く前屈み。上目遣いで彼を見つめて唇に指を立て、言う。
「これ新作のリップグロスなんです。どうです?似合ってますか?」
わっと廊下を行き交う人たちがざわめいた。学園でもトップクラスに入るであろう容姿端麗なディアボロスのこの行動は、まるでドラマの1シーンのようであった。
だが当の本人は、かなり緊張していた。顎に手を置くダンテにマジマジと見つめられ、ものすごく嬉しいが、ものすごく恥ずかしい。
そして口を開いた彼の一言がこれだった。
「お前は前衛だったよな」
「え?はい」
「前衛に立つものが、そこまで身だしなみに気を使うのか?」
甘い返事は最初から期待してなかったが、まさかこんな返事が返ってこようとは。飽きれを通り越して軽く笑いがこみ上げてくる。
ディアボロスはダンテを指差し、若干詰め寄る。
「前衛だからこそ、身だしなみに気を使うんですよ。だったら先生は、私に裸やジャージ姿で戦えとでも?」
「そんなことは言ってない」
ディアボロスの反論に、呆れたようにため息をつく。もう一度彼女を観察すると、あることに気づく。
「そういえば前衛の割には傷がないな」
「はい。有難いことに防具は優先的に私に買っていただいてもらってるんです。それにセレスが念入りにヒールをかけてくれますから」
「そもそも、何故お前が前衛なんだ?」
「あぁ・・・・・・それはですねぇ・・・・・・。入学以来組んでいるパーティがヒュマ君(普通科・前衛)セレス(魔法科・後衛)お兄ちゃん(忍者・後衛)だから、必然的に」
「そうか、必然か」
どうしても回復が間に合わなかったり、戦力不足だと思ったときはスポット参戦としてゲストを呼ぶが、基本的にはこの四人の仲良しメンバーである。また、ゲストが大抵賢者や魔法使いなどの後衛になるので、前衛が足りなくなるのである。
でも・・・・・・と、胸の前で手を組みながら俯いて、打ち明ける。
「私だって、好きで戦士をやっているんじゃないんですよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
俯いたまま、打ち明ける。
「本当は、私だって人形遣いとか、アイドルになりたかった・・・・・・」
「・・・・・・フ・・・・・・」
頭上から笑い声が聞こえた気がして、ハッと顔を上げると、腕組したまま顔を伏せて笑っているダンテがいた。
「・・・・・・先生?・・・・・・笑いましたね?」
「・・・・・・笑ってない」
「い〜え!絶っ対!笑いました!!」
「笑ってない」
表情をいつもの無表情に戻して、きっぱりと断言した
が。
「・・・・・ははははは!!!!!」
普段のダンテからは想像もつかないほど、大笑いされた。結構真面目で、恥ずかしい独白だったのに。
「せっ・・・・・・せ〜ん〜せ〜い〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
顔を真っ赤にして、拳を振るディアボロス。その拳を余裕で手で押さえ回避するダンテ。
「悪い、悪かった。だが・・・・・・」
普段勇ましく剣を振るい、モンスターを一閃する彼女が後衛でウサギのぬいぐるみを振り回してる姿を想像すると。
「・・・・・・・・・・・・」
「ま・・・・・・まだ笑ってる!!!!!もう!何が可笑しいんですかっ!!!!」
先生にだからこそ、打ち明けたことなのに。結構真面目で、恥ずかしい独白だったのに。
でも。
(・・・・・・あ・・・・・・なんかこれって、結構いい感じじゃない?)
現にこのやり取りは、後方に控えているセレスティア達や廊下を行き交う生徒たちからは、じゃれあってるようにしか見えなかった。
ダンテが見てない隙に、後方のセレスティアにジェスチャーで大きく合図する。
(中止!作戦は、中止よ!!)
(・・・・・・あれは、ディアからの作戦中止の合図・・・・・・)
柱の陰に隠れながら、親友の作戦中止の合図にため息をつく。
(んもぅ!!あんなにいい感じだったのに作戦中止ですか・・・・・・折角、モンスター捕まえたの・・・・・・に・・・・・・?ヒュマ君、ゲージの中身は?)
(へ?)
後ろを振り返ると、ゲージの扉が開いており、中身は空っぽだった。
(やべッ!すぐ使うと思って鍵かけなかったんだ!!!てかアレじゃね?ディア嬢に真っ先に向かってるヤツ!!!!)
(きゃぁぁぁぁぁ!!!ディア〜!!気づいて!!!)
が、肝心のディアボロスはダンテの方を向いていたうえに、良い雰囲気に若干浮かれていたので背後にまで気が回らなかった。
なので、笑っていたダンテが急に無表情になり剣を抜いたときは驚いてしまった。
「えっ・・・・・・」
後ろを振り向いたときには、もうすぐ目の前にモンスターはいた。ギュッと目を閉じると、ダンテの振るった剣によって倒されたモンスターの断末魔が聞こえた。
「敵に背後を取られるな!!それで後衛を守れるのか!実戦では言い訳は通用しないぞ」
「はっはい!すみません先生!!」
さっきまでの良い雰囲気から一転してピリピリとした雰囲気になる。後方の位置からは会話が聞こえないが、流石に今のダンテの怒鳴った声はセレスティア達にも聞こえた。D
(どうしよう私たちのせいで・・・・・・)
セレスティアの不安を他所に、ダンテは踵を返して、その場を後にしようとする。
こんな空気のまま、別れたくない!そう強く思ったディアボロスは、この土壇場で持ち前の頭脳とカリスマ性を発揮し、ある案が浮かぶ。
ダンテの背中に、ディアボロスは思い切り抱きついた。
「うわっ!お前・・・・・・!」
「あ〜ら先生。敵に背後は取られちゃいけないんじゃなかったですか?」
「敵・・・・・・って・・・・・・今の場合は」
「『実戦では言い訳は通用しない』です」
ダンテの背中から離れて真正面に向かい合い、先程自分が言われたことを言ってやる。二人はそのまま睨み合う。そして。
「・・・・・・ははは・・・・・・」
「・・・・・・ふふふ・・・・・・」
もう一度、笑いあう。
「どうやら私たちは、まだまだ修行が足りないみたいですね」
「みたいだな」
ディアボロスは前屈みになり、上目遣いで、本題を切り出す。
「では、そんな私に明日の放課後、剣術指南をしていただけますか?」
―――リップグロスの効果があったかどうかは分からなかったけれど、ディアボロスは自然とダンテといる時間を作ることが出来たのであった。
夜の屋上。思いの外、夜風が気持ちいい。
夜風に吹かれながら、ディアボロスは月を見上げる。
―――今日はいろいろあったな
昨日の放課後のやり取り。そのとき交わした約束を、先程果たしてきた。先程というよりは3時間ほど前だが。
残念ながら先約(=ヒューマン・強制)もあったので二人きりではなかったが、時には文字通り手を取り、密着して教えていただいたりもした。いろいろな意味で顔が火照ってしまったので、屋上に来たのである。
「・・・・・・やっと、見つけた・・・・・・」
声の聞こえた方を振り向くと、ディアボロスの男性が屋上の入り口に立っていた。
セミロングの群青色の髪に、ややつり目の赤い瞳。マスクで覆われた顔は、夜ということもあって表情が分かりづらい。首に巻かれたマフラーが、夜風に吹かれてなびいている。
「お兄ちゃん・・・・・・」
兄妹。なるほど、言われなくてもわかったであろう。同種族同士というだけでなく、男と女の違いはあるが、単純に二人はよく似ていた。
「どうしたの?」
「・・・・・・こんな時間になっても部屋に居ないと、セレスが心配してた」
「あ・・・・・・そっか。ごめんね、心配かけちゃったね」
一度ペコリと頭を下げると、両手を広げてくるりと一回転する。
「お兄ちゃん。私、この学園に入ってよかった。お兄ちゃんが家を出て全寮制の学園に入ると聞いたときはすごく心配したのよ。お兄ちゃんは口数が少ないから。だから私がフォローしなきゃ、って思ってついてきたの。けどね・・・・・・」
顔を赤らめて照れながら、けれどもハッキリとした口調で。
「大切な人を見つけたよ、お兄ちゃん」
「・・・・・・・・・・・・」
ニッコリと満面の笑みの妹の頭を優しく撫でて、手を引く。
「・・・・・・戻ろう。夜風の当たり過ぎは良くない」
「あ、待ってお兄ちゃん。私まだここにいたい」
「・・・・・・・・・・・・?」
「大丈夫。あと30分くらいで戻るから」
言われて少し考えた。が、一度言ったら聞かない娘だったと彼は知ってるので、もう一度頭を撫でて屋上を後にした。
去り行く兄の背中を見送り、別段月が好きなわけではないのだが、もう一度月を見上げる。
―――私はいつから先生のことが好きになったんだっけ
ふと、そんなことを思った。入学したその日は、まだ好きじゃなかった。むしろ引いていた覚えすらある。だって自分のクラスの生徒を見て開口一番に言った言葉が「軍隊に入ったつもりでいろ」だかなんだかだったのよ?有り得ない、有り得ない。
好きになる要素0かつマイナス要素100だったハズ。
「・・・・・・絵になるな」
「えっ・・・・・・」
いつの間にか、ダンテが近くに居た。入り口付近とかならまだしも、ディアボロスから近くもないが、遠くもない距離だ。けれどもこの位置なら視界には入っていたはず。
(まったく気づかなかった・・・・・・)
そして思った。今のこの二人の距離が、まるで自分たちの関係の距離のようにも思える。ただの教師と生徒ではなく、けれども恋人でもなく。
ただ他の生徒よりは仲が良いというだけ。この距離を越えて、親密な関係になりたい。
「こんな時間にここで何をしているんだ?」
「えと、月を、見てて」
そういうとディアボロスは慌てて月を指差し、見上げる。ディアボロスの横に立ち、それに倣ってダンテも月を見上げる。
寄り添っている、とまではいかない。若干空間がある。けれどもこの二人の間には誰も入り込めないだろう、という雰囲気がある。
これで間に入ろうと思うものは、空気の読めない馬鹿だけであろう。
―――こんなに近くに居るのに、この見えない距離はなんなの?
不意に、思い出してしまった。
ダンテに想いを寄せている、別の女の子。
彼女は自分が悪いとはいえ、この屋上でダンテに見事に突き放された。
それを目の前で見たディアボロスは、ダンテに対して酷いとも、ましてや彼女に対して突き放されて良かったとも思わなかった。
ただただ、怖かった。
いつか自分も、あんな風に突き放されてしまうのだろうか―――と。
(いつか、私も―――)
自然とディアボロスはダンテの腕に抱きついた。ダンテも一瞬驚いたが、無理に振りほどこうとしなかった。
「先生、今日は剣術指南を教えていただいてありがとうございました」
彼女の言葉に一瞬、目を見開いたが、ダンテは何も言わずに微笑を浮かべた。
―――違う!
確かに、今日のお礼も大事。でも、本当に伝えたいことは、もっと大切なことは、
「・・・・・・先生」
足が、震える。
でもいつかは、伝えなければいけないことなんだから。
顔を、上げて。
「私、は、」
腕を放して、正面に向き合う形になり、
「私は、先生のことが好きです」
気づけばダンテに抱きつき、唇を重ねていた。
「なっ・・・・・・」
突然の告白に動揺しているダンテを余所に、ディアボロスはまるで今まで溜めていた想いが溢れ出るかのように呟く。
「先生、私は先生のことが好きです。何でなのかな。いつからだったのかな。分からない。思い出せない。でも、ずっと、伝えたかったんです。先生、先生・・・・・・」
そのまま事切れたのか、ダンテに抱きついたまま、彼女は気を失い、眠りに付いた。
「・・・・・・なんなんだ、一体・・・・・・」
抱きついたままの彼女を支えながら、ダンテは深い溜息をついた。
「ん・・・・・・」
「あっ目、覚めました?」
セレスティアが少々心配そうな表情でディアボロスを覗き見る。ディアボロスはゆっくりとベッドから起き上がり、周囲を見回す。
(私と、セレスの部屋・・・・・・ええと・・・・・・)
何があったんだっけ?と記憶を探る。確か放課後にヒュマ君と一緒に剣術指南を先生から受けて、屋上に行って、夜風に吹かれて・・・・・・
「ディア!屋上で倒れたらしいですよ!!やっぱり剣術指南って大変でしたか?男子と女子じゃ体力が違いすぎるもんね・・・・・・あぁでも!ここまでダンテ先生が運んでくれたんですよ!
横抱き、所謂お姫様抱っこです!ミニスカートだからパンチラしたかもしれないですが少なくとも先生には見えてな・・・・・・あれ?先生には見えていいのかな?むしろ他の生徒に見られた方がまずい?」
セレスティアがいつもの無意識の天然が発動し、自身の頭の中でぐるぐると答えをめぐっているのを余所に、彼女の発言からディアボロスは先程のことの記憶を甦らす。
(屋上・・・・・・そうだ、私は屋上に行って夜風に吹かれながら先生とお話して)
突然告白をして、勢いでキスをした挙句、気を失った・・・・・・?
「・・・・・・きゃ―――――――!!!!!!!!!!!」
「ひゃっ?!だ、大丈夫だよディア!!パンチラなんて誰も見てないですよきっと!」
「いや、そんなパンチラ話じゃなくって・・・・・・あぁ、私、ダンテ先生のところに行かなきゃ!!今すぐ!!」
「待ってくださいディア!」
今にも部屋から飛び出そうと走りかけたディアボロスの腕を、セレスティアは慌てて掴む。
「セレス!止めないで!」
「行くのはいいんですけどお風呂に入ってから行きましょう。もう九時です。ついでに経緯なんかも聞かせてください」
「・・・・・・・・・・・・」
肩紐と胸元と裾の部分にひらひらのレースを使われた色違いのお揃いのネグリジェ(ちなみにセレスティアがピンクで、ディアボロスは水色)を着て、セレスティアはディアボロスの髪をドライヤーで乾かしながら話を纏める。
「つまり、告白の返事を聞きに行くんですね?」
「・・・・・・うん・・・・・・」
本当は恥ずかしくて会いたくないけれど。それでも明日教室でいきなり会うと、絶対変な行動を取って、授業をサボりそう。クラス中のみんなにも笑われるような気がする。
「ディアは思い立ったらまず行動!ですからね。そんなところも魅力的です。でも・・・・・・」
カチンとドライヤーをOFFにし、時計を指差す。
「何だかんだでもう十時越えてます。今から会いに行くのは警備が面倒というか、先生のいる寮も鍵がかかってるかもしれないし、それにネグリジェだし」
「大丈夫!」
すくっと立ち上がり、余裕に満ちた表情で、
「忍者の妹、嘗めるんじゃないわよっ」
「いえ、でも、ディア兄さんはこの学園に入ってから忍者になったんじゃ・・・・・・」
と言ったが聞こえてないみたいだし、昨日まで消極的だった親友がやる気になってるのだから、いいかな、とセレスティアは思うことにした。
「ただしっ!ちゃんとこの部屋に帰ってきてくださいね?そのまま先生の部屋に、と、泊まるのはナシです!(フラれたショックで)学園を抜け出して森とかに逃げ込むのもナシです!」
「森?・・・・・・うん、わかった。・・・・・・」
鏡で一度身だしなみをチェックする。流石にお風呂上りなのでメイクは落としてしまったが、保湿を保つために桜色のリップグロスだけつける。
「じゃ、行ってくるね」
「うん。行ってらっしゃい」
肩にジャケットを羽織っただけのラフな格好でベッドに腰をかけ、ダンテは武器の手入れをしていた。頭の中では、屋上での突然の告白を思い出しながら。
『私は、先生のことが好きです』
気づいていた。
彼女の自分に対する態度が他の者とは違うことは、気づいていた。けれどもそれは単純に他のクラスメイトよりは信頼を寄せられているというか、
セレスティアを始めとする彼女のグループメンバーへ向ける好意と同等のものだと思っていたのだから。
「・・・・・・・・・・・・」
自分は、どうなのだろう。彼女からの突然の告白。嬉しいかと聞かれたら、・・・・・・嬉しい。それは間違いない。どんな形であれ、好意を向けられるのは嬉しいものだ。
では、彼女の想いに応える事が出来るか?と聞かれたら、・・・・・・分からない。
ダンテはディアボロスとの今までのやり取りを思い出してみて、あぁそうか、と納得した。
自分に対する態度だけしおらしかったのも、放課後に剣術指南を受けたいといったのも、純粋に、好意からだったんだと今にして理解できた。
その時。
ダダダダダダダダ――――ッと廊下を勢いよく走る音が部屋の中まで聞こえてきた。
そしてつい今まで考えていた件のディアボロスがいきなり、アポも取らず、ノックもせず、必死の形相で、しかもネグリジェ姿で部屋に入り込んで、抱きつかれた。
「せっ、先生―――!!!!!!!!」
「な、何だ?!」
ディアボロスはうわーっと涙を流しながら、肩で大きく息をしていた。ブツブツと「ごめんなさい、ごめんなさい。忍者の妹とか言って調子に乗ってました」と呟きながら。
夜で、ネグリジェで、涙を流す女。つまり。
「・・・・・・強姦魔でも出たのか?!」
「うっ・・・・・・はうぅ・・・・・・ち、違います」
荒い息を整えて、ゆっくりと深呼吸をし、言う。
「ダンテ先生のところの行こうと思ったら、意外と広くて、そもそも部屋分からなくて、扉が少し開いてる部屋を覗いたら、ジョルジオ先生が爽やかな汗を流しながらステッキで素振りしてるし、
また別の部屋の扉が少し開いてたから覗いてみたら「この液体を入れれば・・・・・・フフフ、完成です」とか言いながらヴェーゼ先生が怪しげな薬作ってるし・・・・・・なんでみんなちゃんと扉閉めないの?!・・・・・・あ〜怖かった」
一息に感情を捲くし立てたおかげで、ディアボロスは落ち着きを取り戻した。そして慌ててダンテから離れる。
「あっごめんなさい!!えっと、私・・・・・・先生の気持ちが、知りたくて」
自ら本題を切り出すディアボロス。誤魔化してもしょうがないと気持ちを割り切っていたのだ。
「・・・・・・。俺は・・・・・・」
「あっ!待って!私、セフレでもいい!!」
瞬間、ビシッと頭を叩かれた。
「あいたっ!!」
「そういうこと言うな」
うぅ〜と唸り、頭を押さえながらディアボロスはダンテを見つめる。
「女の子叩くの、善くないです。古くから伝わる決まりごとです。ましてや、こっちに悪気がなかったにも関わらず・・・・・・」
「ツッコミだ、ツッコミ」
「うわー!なにその先生らしくない切り返しの仕方!」
うーうーと文句を言うディアボロスを見ていると、自然と笑みがこぼれてくる。・・・・・・彼女とのこういうやり取りは、素直に楽しいと思う。
その時の彼女の反応の一つ一つが、可愛いと思う。・・・・・・愛しいと思う。
(でも、それでも俺は・・・・・・)
人質にされている「大切なあの子」を救わなければ。囚われの身になっているあの子を措いて自分だけが幸せになるなんて、・・・・・・出来ない。
『だから想いに応える事が出来ない』―――だからこのままの関係で十分に嬉しい。こうしてじゃれ合っているだけでダンテは嬉しい。
けれどもディアボロスは違う。その距離を越えたがっている。
考え込んでしまったダンテを見て、ディアボロスは表情を曇らせた。そしてベッドから立ち上がりペコリと頭を下げた。
「先生、ごめんなさい・・・・・・勝手に告白したくせにそのうえ返事を今すぐ出せなんて、図々しいですよね。やっぱりいいです、ごめんなさい。忘れてください」
踵を返してドアに向かうディアボロスの腕を、ダンテは掴む。振り向くディアボロスの瞳には涙が浮かんでいた。
(馬鹿だな、俺は・・・・・・)
ディアボロスの涙を見て思い知らされた。
「あの子」もとても大切だけど、「この娘」もとても大切だ、と。
そのまま、ごく自然な動きでディアボロスは抱きしめられる。
「なっ?えっ、えぇ?な、なになになに?」
「・・・・・・・・・・・・」
「えっとえっとえぇと、あぁ、そっかぁ、油断した敵を窒息死させる練習ですね?いやいやいや、でもこれでは窒息死させるには優しすぎるというか、むしろ相手喜ぶんじゃないかなとか、あ、あはは」
予想してなかった突然の行動に動揺し、しどろもどろに言葉を続ける。
「せっ先生、離してください、でないと、でないと好きっていう意味で捉えちゃいますよ?」
「そう捉えていい」
「えっ・・・・・・」
その言葉と、より強く抱きしめられたことによって、ディアボロスの動きが止まる。
「・・・・・・嬉しいです、先生。同じ気持ちでいてくれるとは、まったく思ってなかったんです。他の生徒よりは近しい関係だとは思っていましたが、どこかお兄ちゃんが私に接するのと同じなような感じにも思えて――」
瞬間、ディアボロスの鼓動がドクンと跳ねた。
「お兄ちゃん」という単語を出したとき、一瞬ダンテの顔が曇った気がして、嫌な予感がして、・・・・・・そんな表情して欲しくなくて、だからディアボロスは動揺を隠し、何か話題がないかと思考をフル回転させていると、今更ながら気づいた。
「うわっうわわ、先生、上半身、何も着てな、」
「お前が飛び込んで抱きついてきてジャケット落ちたんだろ」
「うぅ、すみません。・・・・・・てかそもそも、ちゃんと着てたら落ちなかったんじゃ」
「自分の部屋でどんな格好でいても自分の勝手だ」
「うぅぅ、そう、ですけど、うぅ〜・・・・・・」
「お前もそんな格好で男の部屋に来るな」
言われて改めて自分の格好を見る。淡いブルーの、普通に女の子らしいネグリジェだと思うんだけど・・・・・・確かに丈は短いけど。
「変ですか?このネグリジェ。セレスと色違いのお揃いなんだけどな。レースがひらひらで可愛いのに」
「そうじゃないだろ、この場合」
ベッドに座り無邪気な笑顔を覗かせるディアボロスを見る限り、異性に寝巻きを見られることに何の抵抗もないものと思われる。
「でもね、先生。セレスとお兄ちゃんに見られるのはいいんだけど、他の人、男性は嫌かなぁ。だから迅速にこの部屋に来たんですよ。先生は見られても全然構わないですからね」
あぁ、もう。
この女、男を無意識に誘ってるんじゃないだろうか。
そう思うと、ダンテの腕が自然とディアボロスの身体に伸びる。が、ディアボロスは慌てて回避する。
「わ、わわわ、ダメダメ!」
「それでよくセフレでもいいと言えたもんだな」
「うわー!なんか、なんかムカついた!・・・・・・けど、うん」
自分から回避したくせに、ディアボロスは自らダンテに抱きついてきて、
「初めてはホントに好きな人と、って・・・・・・決めてたから、だから」
ディアボロスはダンテに爆弾を投げてきた。
「先生、しましょ?・・・・・・私の初めて、貰ってくれます?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
何か言って欲しい。そう思った。
自分から誘うという行為がものすごく恥ずかしかった。だから、この、沈黙が辛い。
スッと、ダンテの手がディアボロスの頬に触れる。
「あっ・・・・・・」
「・・・・・・そういえばこの間、聞いてきたよな」
「え?」
「唇」
あぁ・・・・・・と思った。桜色のリップグロス。店先でその色合いとキャッチフレーズに惚れ、効果があるかどうか試してみて、効果があるかどうかという意味では失敗して。でも、それでも、自分的には幸せな結果になって――
「似合ってる」
「・・・・・・こんなときそんなこと言うの、反則です」
そのまま、ごくごく自然な動きでキスをした。最初は軽く、そして徐々に深いキスへと変わる。ディアボロスの口内に、まるでそれ自体が生き物のように動くダンテの舌が唇を割って入ってきた。
「んっ・・・・・・・!」
屋上で自分からしたときもそうだったが、キスといえば唇が触れるだけのソフトなキスしか知らないディアボロスにとって、正直苦しい。が、そう思っていると、不意に銀色の糸を引いて唇が離れる。ディアボロスはキスをしただけで頬を紅潮させ、大きく息を吐いている。
ダンテは彼女のネグリジェの肩紐をずらす。どうにも女子は寝る前はブラジャーを着けないらしく、胸がすぐに露出した。それほどボリューム感はないけど、ウエストが細いのでグラマーに見える。
「率直に聞くと、これ何カップだ?」
「率直過ぎます。反則です。・・・・・・セレスのほうが一つ大きいとだけ言っておきます」
なんだそれ、とダンテは思ったが、無理に聞くこともないと思ったので、彼女をベッドに寝かせてそのまま乳房を揉んでみる。手の中の乳房は柔らかく暖かい。
「ん・・・・・・あぁ・・・・・・はぅ」
乳房にゆっくりと愛撫を加えていくと、いつの間にかピンク色の乳首も少しずつ頭をもたげ始めている。その部分を口に含んで吸ってやると、ディアボロスははしたなく悶えてしまった。乳輪の周りを舌でなぞり、少し焦らしてから乳首を舐め転がし始めた。
敏感な乳首を丹念に舐めていくと、ディアボロスはベッドの上で恥ずかしそうに身を捩じらせたが、ダンテがネグリジェのスカート部分をめくった瞬間、
「わ、わわ、やだっ・・・・・・先生、そこは、怖いです」
ディアボロスの遠回しの拒否の言葉も構わず、ダンテはショーツの端に指を掛けるとそのまま一気に下ろした。見ると、ディアボロスのそこは、うっすらと湿り気を浴びている。
ダンテはそこにむしゃぶりついた。濡れそぼった部分に唇を押し付け、愛液をすする。
「あぁんっ!」
生まれて初めてのその行為の恥ずかしさと快楽がごちゃ混ぜになり、ディアボロスはベッドの上で激しく身をよじらせた。
「はぅ・・・・・・身体が、熱い・・・・・・」
ダンテは舌を縦横無尽に動かしてディアボロスの秘所を舐めまくった。粘り気のある愛液が溢れ出してくる。
「あ・・・・・・はぁん!っああ!・・・・・・先生、私、」
「そろそろお前もこれが欲しいんだろ?」
ダンテはクンニをやめると、反り返ったモノを取り出しディアボロスの濡れそぼった秘所にあてがった。
「ま、待って待って先生――!!」
ガバッと起き上がり、ディアボロスはダンテに抱きつく。
「何だ?今更後戻りは出来な、」
「そうじゃなくってぇ・・・・・・えぇと、その、私、普通の体位は嫌です!」
「は?」
「初めてが正常位ってなんだか普通過ぎるから、別の体位で・・・・・・あっ、この体勢で・・・・・・」
今のこの体勢というと、対面座位である。ディアボロスは「お願いします」と言い、ダンテの膝から退こうとしない。
ディアボロスはそそり立ったダンテのモノを怯えた表情で見つめていた。
(怖い)
単純にそう思った。けれども、これが、ディアボロス自身が越えたがっていた最後の距離。
曖昧な関係だった二人の最後の線。
深呼吸をして、もう一度お願いします、と言う。
「先生、来てください。あ、でも、私がいいって言うまで絶対動かないでくださいね?」
「・・・・・・注文が多いな」
言葉とは裏腹に、ダンテは唇の端を歪めて彼女の頭を撫でる。そして再度、ディアボロスの秘所にモノをあてがい、今度は一気に突き進めていった。かなりの締め付けだったが、愛液が十分に溢れ出しているので挿入は意外とスムーズだった。
「あっ!!んんっ・・・・・・!!」
「大丈夫か?」
ダンテの気遣いに、ディアボロスはこくん、と頷いてダンテの背中に回していた手に力を入れた。
「思ったより、痛くないです。伊達に前衛じゃありません。けど、先生・・・・・・まだ動いちゃダメって言ったじゃないですかぁ・・・・・・!」
ディアボロスがいいと言うまで動くな、という約束を無視し、荒々しいピストン運動を開始していたのである。内部の締め付けに負けないようにしながら、何度も打ち込む。A
「やっ!あぁん!あっ、あっ・・・・・・・」
ディアボロスの秘所は最高だった。腰を引くと秘肉がモノに絡みついてくる。そして思い切り奥まで突くと、ギュッと締まる。
「あんっ、あぁ!す、凄い・・・・・・」
ダンテは腰の動きにさまざまなバリエーションを加えながら彼女の秘所を責め立てた。
ディアボロスは過敏な秘肉をモノでこすりまくられ、もう甘い声を漏らし、彼にしがみついているしかなかった。
ピストン運動のスピードが速まるにつれ、腰が止まらなくなり、ダンテ自身も急激に限界へと追いやられてしまった。
「あああぁ・・・・・・!!私、私もうダメです・・・・・・!あっ、あぁぁ!!!」
ディアボロスはそう絶叫しながら身体を仰け反らせた。ディアボロスが頂点に達した直後に、ダンテも彼女の中にそのまま全てを放出した。
「はぁ・・・・・・あぁ・・・・・・熱いよ先生」
二人は繋がったまま、そっとキスをした。唇が触れるだけの、ソフトなキス。
それは二人が曖昧な距離を越えて恋人同士になり初めて交わす、幸せなキスだった。
行為が終わって。しばらくはベッドの中で抱き合っていたが、ディアボロスは立ち上がりネグリジェを整える。
「戻るのか?」
「一緒にいたいんですけど、部屋で待っている娘がいるので」
部屋の扉を開けると、流石に夜なだけあって暗い。ディアボロスが軽く怯んだのをダンテは見逃さなかった。
「・・・・・・部屋まで送るか?」
「だ、大丈夫です。誰かに見つかったら面倒なことになりそうだし。それにっ」
ビシッと人差し指を立てて、
「忍者の妹嘗めるなよ、です!」
あぁ、そういえばなんか言ってたなーと思った。確かこの部屋に入った瞬間にその肩書きを物凄く懺悔してたような。
「それじゃあ先生、おやすみなさい」
「ああ。・・・・・・」
ディアボロスが、目を瞑り背伸びをして唇を寄せてきた。
少し屈んで、ダンテは唇を重ねた。
「ディ〜〜〜〜ア〜〜〜〜!!!!」
「セレス・・・・・・」
無事に部屋に帰還できたディアボロスを見るなり、セレスティアは怒りに震え、だが夜中なので小声で説教を始めた。
「まったく!心配したんですからねっ?!なかなか帰ってこないし、ホントに森にでも逃げ込んだのかと思って眠れなくて・・・・・・」
「森?でも・・・・・・うん。ごめんね。それから待っててくれてありがとセレス。あのね、私ね・・・・・・」
そのまま手を繋いで一緒のベッドに入り、全てを打ち明ける。
惚気話にしか聞こえないというのにも関わらず、まるで自分のことのようにセレスティアは良かったね、と満面の笑みで話を聞く。そのまま語っている間にいつのまにか二人は眠ってしまった。とても幸せな気分で眠ることが出来たであろう。
――この後、文化祭や実技試験などの学生らしいイベントがあり、ドラゴンオーブ探索の課題を乗り越えた後、結ばれたはずの二人が長い間離れる運命になることは、まだ誰も知らない。
長い上に改稿とか変になっていたら申し訳ない。
次はまたこの設定を引き継いでこの二人かヒューマン×セレスティアをやる予定
GJ!!
GJ!
会話が微笑ましくっていいな。
せっかく新しい書き手さんも現れてくれたのに規制とか…
書き手さんみんながんばってくれ
また規制祭りとか…とりあえず書き込めたら投下します
久しぶりに1をやり直してたので、1のお話。
空への門にある安宿の一室に、一人のディアボロスが住み着いている。彼はパルタクス学園の制服に身を包んではいるが、決して武器をとり地下道に出掛けることはしない。そもそも彼には共に探索に行くべき仲間がいない。
冒険者学校の上位校たるゼイフェア学園が出来て久しいが、未だラーク地下道を踏破できる者は多くない。空への門に辿り着いた者ならば、彼を見付けることは容易だった。
錬金術士である彼は、日がな一日部屋にこもってなにやらしているらしい。彼が姿を見せるのは週に一度ほど、宿の主人に色をつけた宿賃を払うときと、幾つかの武器を適当に売り買いして金を稼ぐときだけである。
彼に用がある者はそのときを待ってつかまえるか、無視されるのを覚悟で部屋まで訪ねていく。パルタクス学園の制服を着たヒューマンの男子生徒は後者であった。
ディアボロスが空への門に留まってどれくらい経ったかわからない。宿の主人さえ寄り付かなくなった部屋のドアを、軽くノックする。その日は機嫌が良かったらしく、返事はすぐに帰ってきた。
「……なんだよ、うるせえな」
立て付けの悪いドアが薄く開き、途端に鼻をつく異臭の中からディアボロスの赤い目がのぞいた。ヒューマンは顔をしかめそうになるのをなんとかこらえ、精一杯の愛想笑いを浮かべる。
充血した真っ赤な目はヒューマンをしばらく眺めたあと、何かを思い出したように「ああ」と言ってドアを開けた。
「お前さん、いつもの……ああ、とりにきたのか。出来てるよ、入りな」
どこか虚ろにそう言って、ディアボロスはドアを開ける。生物が腐ったような異臭は彼自身ではなく、部屋の奥にある机の上からしていた。
魔術魔法の炎に炙られてじわじわと焦げているよくわからない動物のよくわからない中身からは必死に目をそらして、ヒューマンはディアボロスに小さな袋を差し出した。ディアボロスはそれを受け取ると中身も確認せずに適当なところに放った。
棚から薄い桜色の瓶を取り出し、ヒューマンに投げて寄越す。ヒューマンは大事そうにそれを受け取り、ディアボロスにまた愛想笑いを送る。
「へへ、ありがとな」
「しかし、なんでまあ……そんなもんが欲しいかねえ」
「金は払ったんだ、関係無いだろ。……まあ、お前には説明したってわからないかも知れないけどな」
そう言うとヒューマンは瓶を本当に大事そうに懐にしまい、そそくさと部屋を出ていった。部屋の不気味な雰囲気に耐えられなかったのもあるのだろうが、痛い腹を探られる前に帰りたかったのだろう。
「下衆の考えなんてわかりたくもねえよ…」
ディアボロスはため息混じりにぼそりと呟くと、薄く埃の積もっているベッドに寝転んだ。数週間ぶりに横になったベッドは、相変わらずギシギシとうるさかった。
ゆっくり目を閉じて、今しがたディアボロスの薬を手に嬉しそうにほくそ笑んだヒューマンの顔を思い出す。何度かディアボロスのもとを訪ねているが、そのペースが早くなっているように思う。
「ピクシーの秘薬の、二十番目…。何であんなもん作っちまったんだろうなあ」
彼に渡したのは強い幻覚作用と強烈な依存性のある薬だった。少しだけ良心が痛んだが、知ったことではないと必死に否定する。
彼のもとに訪ねる者の多くがそういった薬を求めてくる。何に使うのか想像したくもないが、強い催眠作用のある媚薬も売れ筋商品のひとつだ。
……一体いつからこうなってしまったのか。
ディアボロスは重苦しいため息をひとつついて、ゆっくりと眠りに落ちていった。せめて夢の中でくらいは、ただ幸せだったあの頃が思い出せるような気がしたからだ。
突然のフェルパーの言葉に、ディアボロスはただ目を丸くした。
「何言ってんの、お前」
呆れたようなディアボロスの一言に、恥ずかしそうに尻尾を揺らしていたフェルパーが泣きそうな表情に変わった。ディアボロスはフェルパーの言葉が信じられないと言ったように、首を横に振る。
「え、バハムーン…?無理だろ、無理無理」
「なんでだよっ!そりゃ、俺は彼女よりちょっとひ弱かも知れないけどさあ…」
「仮にも戦士が僧侶よりひ弱って……いや、まあ、それは仕方ないことだけどさ」
そうじゃなくて、とディアボロスは食堂の向こうの机で道具を鑑定しているパーティの女子たちを見る。司祭のノームが淡々と鑑定をし、その結果にドワーフとバハムーンが一喜一憂している。ふとノームの手が止まり、暗い表情でそっぽを向いた。
すると待ってましたとばかりにバハムーンがノームに抱き付く。豊満な胸にノームの頭を抱き、ぐいぐいと押し付ける。
「むぎゅ」
「おー、よしよし。ほぉら、お姉さまの胸でお泣き」
「ちょっ…。バハムーン、苦しいですって…」
普通にリフィアを使えば良いものを、バハムーンはわざわざノームに過剰なスキンシップをしている。それも、今日その場かぎりの冗談ではなく、毎度のことだから始末が悪いというものだ。
ディアボロスはフェルパーに視線を戻し、大袈裟に肩をすくめてみせた。
「なんつーか、百合ってーの?そんな感じするし、相手にもされないんじゃねえか?」
「そ、そんなこと…」
精一杯否定の言葉を呟くが、フェルパーは次第に目を泳がせ、耳を倒し、力なく肩を落としてしょんぼりと項垂れてしまった。ディアボロスが言い過ぎたかなとちょっと良心を痛めていると、それまで黙々とアイスクリームを食べていたフェアリーが口を挟んできた。
「良いじゃないか、とにかく告白しちゃいなよ。当たって砕けろ、ってね」
「え、ちょ、結局砕けるのかよ…」
「それはまあ、言葉のアヤってやつさ。ボクは大穴のうまくいく方に賭けるね」
「じゃあ、俺は無難に玉砕に賭ける。ホットケーキ一週間だからな」
「おい、俺で遊ぶなよっ!……くそ、お前らに相談した俺が馬鹿だった…!!」
ディアボロスとフェアリーは顔を見合わせ、心から楽しそうに笑い合った。フェルパーは怒ったように拳を振りかざしているが、しっかりにやけ顔である。
そんな男子三人を眺めて、バハムーンは呆れたように目を細めた。
「何してんだい、あの馬鹿どもは…」
「あはは、またアホなことで喧嘩にならなきゃ良いけどねー」
「うーん。仲良きことは美しきかな、ですねえ……む、鉄くずです」
女子三人の生ぬるい視線など気付かずに、ディアボロスたちは実に楽しそうにじゃれあっている。
「そんなことがあったんですか」
「ん、つくづくあいつも苦労性だよなあ」
「ふふ、そうでしょうか?」
ノームの鑑定が終わると一行はだらだらと解散し、それぞれ自分の部屋に戻っていった。ディアボロスはノームを部屋に招き、久しぶりに二人きりの時間を過ごしている。この二人が恋仲であることは、パーティの者たちはまだ気付いていないようだった。
ディアボロスは先ほどのフェルパーの独白を暴露しながら、鑑定で疲れたであろうノームに飲み物を用意していた。錬金術の実験用の器具やらに紛れて解りづらいが、ノームのリクエストにより本格的なコーヒーメーカーがある。
ノームにミルクを少しだけ入れたコーヒーを手渡し、自分のにはミルクも砂糖もどっさり入れる。コーヒーにうるさいノームはそれを見て今日もちょっと眉を潜めた。
「そんなにしたら、コーヒーじゃなくなっちゃいますよ」
「良いじゃん、甘いのが好きなんだから。タデ食う虫も好き好きって言うだろ?」
「使い方が違いますー」
ノームは不満そうに唇を尖らせて、自分のコーヒーを一口飲んだ。コーヒーの味は気に入ったのか、拗ねたような顔を僅かに綻ばせる。
ディアボロスはそんなノームに背中を向けて、機材をいくつか引っ張り出して何かを作り始める。
「そういえば、その、タデってあるだろ」
「え?ええ、ありますね」
「あれ、なんか酸っぱいんだぜ」
「食べたんですか…」
「だって気になるじゃん。なんか、渋味と酸味のような……っわ!」
ふたつの無色透明な液体を混ぜると、もふんと勢い良く青色の煙があがった。慌ててもうひとつの液体を注ぐと、煙はすぅっと消え失せる。
ノームはその背中を眺めて、美味しいコーヒーを楽しんでいた。ディアボロスはそんな彼女の視線を愛しく感じながら、楽しそうに何かを作っている。
しばらく何やらやったあと、気が済んだのか突然手を止めてノームに向き直った。出来たばかりの薬が入ったビーカーを軽く振って、ちょっと誇らしそうにノームに見せる。
「それはさておき、今日はこんなのを作ってみましたっ」
「……何ですか?」
「さあ、何でしょうね」
ディアボロスはビーカーに口をつけ、薬を口に含んだ。ノームに歩み寄り、顎をつかんで唇を重ねる。
口移しで薬を半分ほどをノームに飲ませ、残りは自分で飲み込むと唇を離す。ノームは渋い顔で首を傾げ、胡散臭いものでも見るような目でディアボロスを睨んだ。
「味が良くありません」
「そりゃ仕方ない。良薬口に苦し、ってな」
「それで、その良薬の効果は……んむっ」
説明を面倒くさがったディアボロスは、とりあえずノームの唇をふさいだ。舌を絡めると、微かにコーヒーの味がした。
はじめは抵抗するようにディアボロスの舌を押し返していたノームも、次第に積極的にディアボロスの舌に絡み付いてくる。時折こぼすため息のような吐息が、熱を帯びてきた。
やがてノームは甘えるようにディアボロスの首に腕を回し、ねだるような目で見上げてくる。ディアボロスの方も込み上げるノームに触れたいという衝動をなんとか抑えながら、ノームとのキスに専念した。
二人がようやく唇を離した時には、飲みかけのコーヒーはすっかり冷めてしまっていた。ノームはどこかトロンとした目付きで、手を伸ばしてこないディアボロスを批難がましく見上げ唇を尖らせる。
「……意地悪しないでくださいよ」
「いや、俺も我慢してるんだ」
そう言って再び唇を合わせる。次第にノームの様子に落ち着きがなくなり、もどかしそうにディアボロスに身体を密着させてくる。ディアボロスの首に回していた腕が腰におりてきて、熱に浮かされたような目でディアボロスを見ていた。
ディアボロスもノームを抱きしめてそのまま押し倒したい思いをなんとか押し留めている。ノームは鼻にかかったような吐息を漏らして、ディアボロスに身体を擦り寄せた。
遂にノームが我慢の限界を迎えたのか、慣れない手付きでディアボロスの制服の前を開ける。前衛と比べると貧相だがそれなりに筋肉のついた胸板をまさぐり、ゆっくりと手を下におろしていく。
既にテントを張っているそこを軽く撫で、やはり慣れない手付きでベルトを外し、ズボンを下着ごと下ろしたところで唇を離した。ひざまづいてディアボロスのそれを口に含もうとしたノームを、ディアボロスは慌てて止める。
「ストップ。待て。ちょっとかなり惜しいけど、それはまた今度…」
「もうっ、ディアボロスの意地悪!」
「いや、だから俺もかなり我慢してるんだって。ノーム、続きはベッドで、な?」
怒ったように顔をしかめたノームだったが、ディアボロスの言葉に嬉しそうに服を脱いでベッドに入った。普段なら恥ずかしがって絶対にしないであろうノームの態度に、ディアボロスは一人納得したように唸る。
ともあれディアボロスも我慢の限界だったので、服を脱ぎ散らかしてベッドにあがり、横たわっていたノームに覆い被さった。ノームの身体は人に似せて作られた人形らしいのだが、こうして裸になって抱き合っても信じられないほど精巧である。
期待に満ちた目で見上げてくるノームとキスをしながら秘所に指を這わせると、そこは既に蕩けたように粘液で濡れていた。
そこは本来ならばノーム同士での生殖には必要のない器官らしいのだが、他種族と交流を持つようになった長い歴史の中で自然と依り代に備え付けられたらしい。
以前、好奇心から依り代の詳しい仕組みをノームに聞いたのだが、錬金術士であるディアボロスにさえよくわからなかった。
とりあえずノームの身体は依り代といっても他の種族の女の子と何も変わらない。一般的な女の子と同じように乱暴にしてしまえば痛みを感じるため、ディアボロスはノームのそこがしっかり濡れているのを念入りに確かめる。
秘裂を優しく開き、そっと指をあてる。くちゅ、と小さな音と共に、吸い込まれるように指が第一間接まで沈んでいった。その瞬間、ノームの身体がピクンと跳ねる。
「あっ……ディアボロス…」
「すげえ、もうこんなになってる」
「ディアボロスが……変なの、飲ませるから…っ」
「……もう良いよな?」
こくんと頷いたノームの足を大きく開かせ、限界まで張り詰めている自身のモノをあてがう。ノームの期待と不安のない交ぜになった目をのぞきこみながら、ゆっくり腰を突き出した。
先端が埋まったところで、ノームの腰を掴んで一気に根本まで突き入れる。ノームの背中が弓なりに反り、ディアボロスもまたきつく目を閉じて呻き声をあげた。
「あ、ああ……ディアボロス…っ!!」
「ぐっ、ノーム…!動くぞ…!」
ディアボロスは荒い息が整いもしないまま、ノームの返事も待たずに腰を動かす。肌のぶつかり合う音に合わせてベッドがギシギシと音を立て、結合部からは水の弾けるような音が響いた。
ノームの中はディアボロスの動きに合わせるように絡み付いてくる。もとよりディアボロスのそれに対してかなり狭いのだが、更にぎゅうぎゅうと締め付けているので、ディアボロスは絞りとられるような錯覚すらおぼえた。
「はあっ、はあっ……ノームっ、いつもより……締まる…っ」
「ディアボロス……んんっ!ディ……あ、ああっ…!」
自ら調合した媚薬の作用は予想していたよりも強烈で、ディアボロスは頭の芯が痺れるような凄まじい快感に夢中になっていた。ノームもまた青い瞳はどこか虚ろで、唇の端から涎が伝っている。
次第に意識の中心が快感に侵食される。相手を気遣うことも相手への愛しさも彼方に霞んでしまうほどに、その快感を貪った。
既にディアボロスの身体に浮かぶ汗の量は尋常ではなく、ボタボタとノームの上気した肌に落ちていった。発汗機能に乏しいノームは身体を真っ赤に染め上げて、犬のように舌を突き出して荒い息を繰り返している。
「うっく……ノームっ、ノームっ!」
「っあ、ああ、あんっ、ディアっ、ボロス……あっあっあっ!」
どちらからともなく強く抱き合い、言葉にならない声で互いを呼び合う。彼らが強く感じているのは、恋人と身体を交える幸福感よりも身体が溶けてしまいそうなほどの快楽である。
そうしてディアボロスの動きが次第に雑になり、腰を何度もノームに強く叩き付けた。肌のぶつかる音もベッドの軋みも水音も、喘ぎと快感と共に大きくなっていく。
「ノーム、ノームっ!うっ……も、ダメ……うぐっ!!」
ノームを力の限り抱き締め、深くに叩き込むように腰を打ち付ける。その瞬間ディアボロスは痺れるような激しい快感を覚え、ノームの中に熱い精を注ぎ込んだ。
「んああっ!ディ、ディア……ああ、あああああっ…!!」
ノームも身体を仰け反らせて、凄まじい快楽の絶頂に昇りつめた。ガクガクと身体を痙攣させ、限界まで見開いた虚ろな瞳からボロボロと涙を落としていた。
ディアボロスもディアボロスで、そんな恋人を気遣う余裕はない。だらしなく開いた唇の端から泡混じりの涎を垂らして、精を吐き出す陰茎の脈動に身体全体をビクン、ビクンと震わせている。
気が狂いそうなほどに膨大な快楽も、時間と共に少しずつ薄れていく。ノームはそのまま気を失うように眠りにつき、ディアボロスは崩れ落ちるようにノームの隣に寝転んだ。
おびただしい量の汗が冷静になったディアボロスの体温を容赦なく奪っていく。
「寒い……だるい……動けねぇ…」
体温と血圧が急激に下がったためか、強烈な寒気に襲われるディアボロス。だが足元に丸まっている毛布を取るだけの体力も気力ももうない。
後悔と寒気と改良の余地を考えながら、ディアボロスはいつまでもガタガタと震えていた。
太陽が傾いて薄暗くなった埃だらけの部屋で、ディアボロスはぼんやりと目を覚ました。幸せだった夢から醒めてしまえば、彼にのしかかるのは陰鬱で残酷な現実しかない。
「……あのあと、どうしたんだっけ…」
ディアボロスは身体を冷やしすぎたせいで風邪を引いて、ノームは腰が痛くて動けないと怒っていたように思う。そのときのノームの怒った顔も声も、焼き付いたようにディアボロスの記憶から離れない。
それから、ある日突然フェルパーがバハムーンに告白して、バハムーンが照れながらフェルパーを全力で殴り飛ばして、なんだかよくわからないけど二人は付き合うようになって……
寝惚け半分のディアボロスの頭にはかつての楽しかった日々が次から次へと思い出され、ディアボロスは知らず笑いをこぼしていた。
押し殺したような笑い声は次第に抑えきれなくなり、しまいには腹を抱えてケラケラと声をあげて笑った。
「ふ、ははっ、あははっ!はははははっ!」
足をばたつかせれば埃が舞い散る。涙がボロボロと流れ、頭を掻きむしり、ベッドから転がり落ちて、床に適当に置かれている器具をめちゃくちゃに蹴り飛ばす。
ディアボロスの大切だったものは全てこぼれ落ちて砕けていった。親友は容赦なく奪われ、恋人は自らの手で突き放してしまった。彼の掌に残ったものは、汚れた金だけ。
「なんで……なんでだよっ!くそ……ちくしょう、チクショウッ!!」
気が狂わんばかりの自己嫌悪。いっそ本当に狂ってしまえれば楽なのに、幸せな日々の記憶が楔のように彼を正気に繋ぎ止める。
泣き、喚き、笑い、再び泣き、喚き、笑う。部屋の中のありとあらゆるものを壊しながら、ディアボロスはのたうちまわった。
「うあああああ…っ!あ"あ"あ"あ"あ"ああああ…っ!!」
その夜、ディアボロスの慟哭はいつまでも響いていた。その姿はただ、哀れだった。
以上。後編に続く予定です
見切り発車なので書くかどうか未定ですが。
ヴェーゼ先生がお風呂入らなくてアレだったり涎垂らして寝てたりしたんで、もうノームは未来の世界のヒト型ロボットなんだと思ってます。
リアルタイムGJ!
彼に何があったのか、すげえ気になるところだ……過去と現状の落差が何とも言えず切ないな。
GJです
こういうのはすぐに涙腺緩んでしまう・・・
過ちや不幸を嘆いたり悔やんだり、苦悩する姿は一番涙出る・・・(;ω;`
続き楽しみに待ってます!
こんばんは。何やらPS3で2Gが出るとの情報がありますね。
魔法使いドワ子とか見られるなら欲しいけど……微妙なところ。
それでは前回の続き投下します。お相手はドワ子。
気合を入れすぎてまた非常にレス数多くなってしまいました。その分エロい部分も一応は多めですが…。
ともかくも、楽しんでいただければ幸いです。
時はやや遡り、一行が初めてパーティを組んだ時のこと。校長からのお使いを受け、一行は初めの森へと足を踏み入れた。
風紀委員の三人は、既にここも慣れたものだが、新入生である問題児三人は、まともにここを通るのは初めてである。
「名前からして『初めの森』だし、どうせ大したことねえだろ?」
そう言うドワーフに、セレスティアが首を振る。
「いや、そうでもないんだよ。そうやってここを甘く見てかかって、命を落とす新入生が毎年いるよ」
「俺をそんな雑魚と一緒にするな」
バハムーンが言うと、今度はフェアリーが答える。
「君みたいのが一番やばいんだよ。それに、ここで怖いのはモンスターだけじゃない」
「黙れ虫けらが」
「聞きたくないならいいさ。んじゃ、委員長に副委員長、フロトルはしばらくなしで」
「……あまり気は進みませんわ。でも、それもいい経験ですわね」
そんな五人とは別に、フェルパーはここに足を踏み入れた時からひどく機嫌がいい。
「ねえねえ!ここのモンスターってさ!強い!?強いのいる!?」
「……ま、まあ君達ぐらいだと苦戦する相手は多いかな。そこまで強いわけじゃないけど…」
「いる!?いるんだ!?んにーぅ!会いたいね!早く会いたいね!それでねそれでね!絶対ね!私が殺すの!」
「……頑張って」
「んじゃ、尻尾三人組。前衛は任せたよ」
「変なまとめ方するな、チビ妖精」
意志の統一というものは、最初から全員諦めている。ともかくも現在は依頼の達成が最優先であるため、一行は多大なる不安を
抱えつつも、初めの森を歩きだした。
学園の外であるため、そこには当然モンスターが現れるが、それに対する反応も三者三様である。同じイノベーターであり、
また問題児であるとはいえ、三人はそれぞれに大きな違いがあった。
バハムーンは、同種族の中でも輪を掛けて高いプライドを持っている。他の者を完全に見下しており、自分以外は全て虫と同程度にしか
思っていないらしい。しかし接してみると、意外な欠点も見つかった。
カボチャのおばけとの戦いで、相手が身の毛もよだつような雄叫びをあげた。他の者は大きな騒音程度としか思わなかったが、
途端に異変が起きた。
「うぅ…!う、あっ…!」
呼吸は荒くなり、顔色は真っ青になっている。膝が震え、やがてそれが全身に広がる。
「ちっ、またかよ!?てめえ、どんだけ心弱えんだよ!」
恐ろしく精神が弱いのだ。魔封じの光を受ければ即座に沈黙し、恐怖の雄叫びを聞けば恐怖する。
「委員長、彼を後ろに!」
「わかってますわ!フェアリー、前衛の援護を!」
すぐさま隊形を入れ替え、バハムーンを後ろに下げる。代わりにフェアリーが前列に加わり、体勢を整える。
「ったく、でけえ図体して小せえ肝っ玉だな!その様子じゃ、金玉もさぞかし小せえんだろうよ!」
悪態をつきつつ、敵に襲いかかるドワーフ。彼女もまた、周りを見下す傾向があり、しかし周りを低く見るというよりは、自分に大きな
素質があるということを自覚している故らしい。
彼女はバハムーンと逆に、どんな攻撃を受けようと怯むことがなかった。だが、それは冒険者にとっては欠点ともなりうる。
「くっ……さすがに、ちっと効くな…!」
既に、ドワーフは多くの敵から攻撃を受け、ボロボロに傷ついていた。それでも、彼女は先頭に立って戦い続ける。
「はあっ……はあっ……貴様のそれは……勇気ではなく、蛮勇と言うんだっ…!」
何とかそう言い返し、後ろからバハムーンがブレスを吐きかける。ドワーフを襲おうとしていたカボチャのおばけは、たちまち灰も残らず
消えていった。
「弱いのしかいないー。強いのー、もっと強いのがいいー」
不満げな声を出し、ツリークラッカーにダガーを突き立てるフェルパー。敵が動きを止めると、彼女はすぐ興味をなくしたらしく、
さっさとダガーを抜いて鞘へと戻す。
「それで最後だね、お疲れさん。にしても、君格闘家なのにダガー使うんだな」
フェアリーが言うと、フェルパーは尻尾をゆっくりとくねらせる。
「だってだって、切るの好きなんだもん!こうね!柔らかいところに刺してね!グーってすると、ビーって切れてね!気持ちいいの!」
「パンチとかキックはどこに忘れてきたんだい」
「だ、だって……パンツ見るんだもん…!」
そう言うフェルパーの顔は真っ赤になっている。殺しに快感を覚えるという点を除けば、彼女が一番扱いやすく、普通の人物だった。
ただ、その唯一にして最大の欠点が、やはり他の二人よりも危険である。
「でもさ!君も強いよね!攻撃なんかさ!全然当たらないもん!あはは!ねっ!君も強いよね!」
「まあ、避けるだけなら…」
「強い人ってさ!大好き!大好きなんだよっ!あはははっ!んなぅー!」
瞬間、フェアリーは後ろに飛びのいた。鼻先数センチの位置を、ダガーの刃が通り抜けていく。
「あはははぁーっ!避けた避けた!やっぱりすごいねっ!強いねっ!」
「い、いきなり危ないな……おいおい、頼むぜ。僕は君と殺し合う気はないぞ」
「……ち、惜しい…」
ドワーフとバハムーンが、ぼそりと呟く。だが状況が状況ゆえに、フェアリーの耳には届いていない。
「すごいよね!よく避けるよね!ねえねえ、どこまで避けられる!?それでさ、最後はさ!血ぃいっぱい出して死んじゃって!!」
「フェルパー、そこまでにしてくれないかい。それ以上続けるなら、私達も君を庇うことはできなくなるよ」
セレスティアの言葉に、フェルパーの動きが止まる。
「にぅ……だ、ダメ?守ってくれなくなる?」
「うん、ダメ。そりゃ仲間殺しておいて、『守ってくれ』もないもんだろう?」
「んむぅ〜…」
フェルパーの耳が、少しずつ後ろに倒れていく。やがて彼女は、渋々ダガーを収めた。
「あー、全身冷えた…」
「あなたは、フェルパーに近づかない方がいいんじゃなくって?」
バハムーンにリフィアを唱えると、エルフが口を開く。
「わたくしや副委員長ならともかく、あなたは強いと見なされ…」
「んにー?二人も強いよね」
言うなり、フェルパーはセレスティアの前に立ち、その顔をじっと見つめる。
「……な、何だい?」
「……ん〜〜……んんん〜〜〜……強いんだけど、なんか違うー」
何やら基準があるらしく、フェルパーはつまらなそうに言う。
「魔法とかすごいけど、魔法なかったら弱いんだもん。なんか違うのー」
「そ、そうなんだ。まあ、私としてはよかったよ、うん」
そんな会話を、バハムーンとドワーフの二人は険しい顔つきで聞いていた。
「……後ろには絶対したくねえな」
「そればかりは、俺も同感だ」
「てめえなら、尻尾ぐらい切られたってすぐ生えてくんだろ?」
「貴様の毛と一緒にするな。そもそも奴は、尻尾なんて生易しいところは狙わないと思うがな?」
「怖え怖え。背中の毛がざわざわするぜ」
大喧嘩した相手とはいえ、お互いに相手を嫌っているわけではないらしく、二人は早くも打ち解け始めていた。相変わらず、ドワーフが
何かしらの悪態をつき、バハムーンもそれに言い返すという場面は多いが、そこに悪意はあっても敵意は感じられない。
それ故か、初めの森を抜けるまでには、そう長い時間はかからなかった。途中、電撃床を踏みつけて尻尾三人組がひどい目に遭い、
あるのがわかっていて、飛べない種族で唯一それをかわしたエルフが責められたりもしたが、それ以外にはさしたる問題も起きなかった。
ジェラートタウンにたどり着き、想星恋慕を買う。あとはそれを校長に届けるだけだが、それを買ったときからドワーフがひどく
挙動不審になっている。酒瓶をちらちらと見ては首を振り、何かをぶつぶつと呟くその姿は、相当に異様である。
「……い、委員長。彼女、なんて言ってるかわかるかい?」
「わたくしに、あのけだものの声を聞けというんですの?」
エルフはあからさまに嫌そうな顔をしたが、セレスティアは引き下がらない。
「いやー、だってさ、あんまり気になるじゃない。せめてなんて言ってるのかだけでもわかればさ、少しはすっきりするから」
「……わかりましたわ。聞けばいいのでしょう、聞けば」
そう言うと、エルフは少しだけドワーフに近寄り、耳をそちらへ向ける。
「貴重な酒……うぅ、一口くらいなら……いやダメだ。バレたら怒られる……あ、でも味見って言えば……いやダメだっ!
結局変わんねえ……800ゴールドなんて、今のあたしじゃ払えねえし……我慢だ、我慢だっ…!」
「………」
エルフの耳が、呆れたように垂れていく。やがてゆっくりとセレスティアの方へ振り返り、ぽつりと呟いた。
「……戦っているだけですわ…」
「え……何と…?」
「自分と……と言えば聞こえはいいけれど、食欲と、ですわね…」
「ああ、お酒ね…」
結局、ドワーフは強靭な精神力によって酒の誘惑に打ち勝ち、想星恋慕は無事校長の元へ届けられた。
以降の依頼も、彼等は順調にこなしていった。初めの森で一日中戦い続けられる力を付ける頃には、コッパに頼まれた物など簡単に
買えるほどの所持金があった。ダンテとの戦いでは全員があっさりと倒され、特に新入生三人は悔しがり、再戦を固く誓った。
ルオーテ救出のためにヤマタノトカゲと戦ったときは、力を合わせるということを知らない三人のために多少苦労したが、
戦闘自体は危なげなく終わった。ただ、死んだふりをしていた相手の止めを刺せなかったことで、フェルパーがとても悔しがっていた。
そして現在。一行は次の課題までの期間を、ジョルジオとガレノスの依頼をこなすことで埋めていた。
やがて、新たな課題が発表されたらしいと聞くと、たまにはフェアリーがそれを受けたいと言い出した。
「別に構わなくてよ。でも、わたくしが受けるのでは不満ですの?」
「いや、違うよ。ただ、僕だって風紀委員だし、たまには代表ってやってみたいだろ?」
「あなたがそう言うのは意外ですわね。まあ、いいですわ、今回は任せることにしますわ」
エルフの許しを受け、フェアリーは嬉しげに飛んで行った。その様子を後ろで見ていたセレスティアが、そっとエルフに近づく。
「……言っとくけど、彼はオリーブに会いたかっただけだからね」
「ああ、彼女はヒューマンですものね…」
一瞬でも、彼が真面目になったかと思った自分が馬鹿だったと、彼女は後に語った。
そしてフェアリーが戻ってくると、風紀委員の三人は揃って風紀委員室に集まることとなった。
「……で、何か言い訳はありまして?」
「魔が差した」
静かに怒りを燃やすエルフと、例の如くどこ吹く風のフェアリー。とはいえ少しは悪いと思っているらしく、目を合わせようとはしない。
その間では、セレスティアがエルフを宥めている。
「まあまあ、委員長……これも依頼には違いないんだし…」
「そうですわね、依頼ですわね。『図書委員VS風紀委員』という名前の、れっきとした依頼ですわね。オリーブの個人的な」
「……彼女のお願いを、僕が断れるわけないじゃないか」
「わたくしの目を見て言ったらどうですの?」
「そんな怖い顔されて、見られるわけないじゃないか」
今にも掴みかからんばかりのエルフに、セレスティアが天使の笑顔で対抗する。
「う、受けた以上はもう仕方ないよ。ここはもう立場を抜きにして、あくまでいち生徒として頑張ろうよ」
「わたくしは委員長で、あなたは副委員長ですのよ!?それが立場を抜きにしてなど…!」
「い、依頼には違いないよ。受けたのにやっぱりやめた、なんてやっちゃったら、単位だってもらえなくなるかもしれないし、
風紀委員としての立場だって…」
「じゃあ風紀委員が、図書委員側に立って戦うのはどうなんですの!?」
「……あ、でも、三人じゃないとジェラートは戦わないって言ってたし、あの三人に任せ…」
言いかけて、フェアリーはそれがどれほど危険なことかに気付いた。
「何か言いまして…?」
「……いいえ」
「人選も考えなきゃいけないねえ。ま、もう受けた以上はしょうがないって、委員長。あの三人も混ぜて、みんなで話し合おう」
「ああ……本当に、溜め息ばかり増えますわね…」
結局は、依頼の途中破棄などできるはずもなく、エルフも渋々承諾した。しかし、もう二度とフェアリーには任せないと、
エルフはもちろんセレスティアまでもが固く決意した。
その日の夕方、学校の授業が終わると、六人は学食に集合した。
「それで、相手って他に誰がいるんだよ?」
ドワーフの質問に、フェアリーはあまり気のない感じで答える。
「んー、詳しくは聞いてないけど、ジェラートとティラミスとパンナちゃんじゃないかな」
「で、そいつらをまとめて叩き潰せばいいんだな?そんなの、俺一人でも十分だ」
「潰すのはまずいよ潰すのは。それに、三人って言われてるらしいから、三人じゃないとダメだよ」
「ねえねえ!その三人ってさ、強い!?戦ってるの見たことないけど、強いの!?」
「……フェルパーは除外でいいですわね」
エルフが呟くと、フェルパーは心外だという顔で彼女を見る。
「どうしてー!?私が行きたいー!私が行くのー!殺すの私ー!」
「殺しに行くんじゃないんだってば。大体、ジェラートは風紀委員で、どちらかというと私達の仲間だよ」
「……ならあたしが行くか。ティラミスとかいう奴、前から気に食わなかったんだよな」
スペアリブの骨をがりがりと齧りつつ、ドワーフが無感情な声で言う。
「そんなこと言われて連れて行けるわけないじゃないか!」
「じゃあ俺か。俺もあいつは嫌いだ、ちょうどいい」
「どうしてそう君達はティラミスを嫌うんだ!?あんなにいい子なのに!」
言ってから、セレスティアはその理由に気付いた。つまり、性格が合わないのだ。
「んぬー、ドワーフ嫌ーい。性格も嫌いー」
「……わたくしもドワーフは…」
「僕もちょっとなー」
「ちょっと待て!君達全員が敵なのか!?あの子の味方は私だけなのかい!?」
「じゃあいいじゃん、いっそ僕達三人で行こうよ。それで、それぞれの相手…」
「この三人は、その間どこに置いて行くつもりですの?」
横からの声に、フェアリーの言葉が止まった。この問題児三人を放置しては、後がどうなるかわかったものではない。
「……じゃ、じゃあ混成しかないか。まずフェルパーは除外として…」
「行きたいのにぃー!」
「もう一度言うけど除外として、まずこっちは誰が行く?」
三人は顔を見合わせる。さっきまでの会話を考えると、セレスティアは確定のようだった。
「じゃ、私は行くことにしようか」
「僕も行こうか。あとは、フェルパー以外のどっちかを…」
「いや待って。ジェラートがいるとなると、委員長はいてくれた方がいいよ」
「あー、それもそうか。じゃあ僕が残……いや、待て待て待て。じゃあ何か?僕はこの快楽殺人者と、えせ高等種族様か暴力女と一緒に
待ってなきゃいけないのかい?」
フェアリーの言葉に、バハムーンとドワーフの目つきが険しくなる。それを、セレスティアが無言で宥める。
「このけだものを連れて行ってくれるなら、わたくしが残ってもいいですわ」
「うるせえ、無能委員長が」
「っ!……ふ、風紀委員と図書委員の戦いでしたわね…!?」
「委員長、委員長。風紀委員側に回ろうとしないで。今回は私達、図書委員側なんだから」
「それに、ドワーフ連れて行くと大変じゃないのかい。彼女、やるとなったら容赦ないぜ」
それはそれで問題だった。依頼のためとはいえ、不必要な暴力を振るえば問題にもなりうる。
「……わかった。委員長、私が残るよ。だから、委員長とフェアリーと、バハムーンの三人で行ってもらえるかい?」
「大トカゲと一緒か」
「虫と一緒か」
「……胃が痛くなりそうですわ。でも、それが妥当、ですわね。あなた方も、それでよろしくて?」
エルフが尋ねると、フェルパーとセレスティア以外が渋々という感じで頷いた。
「やだー!私も行くー!」
「君は私と留守番で頼むよ。さすがに死者を出すのはまずい」
フェルパーはずっと行きたがっていたが、連れて行ってくれそうもないとわかると、拗ねて部屋に戻ってしまった。
「おい、お前。やるなら完璧に勝ってこいよ」
ドワーフが言うと、バハムーンは不敵に笑う。
「言われるまでもない。貴様は俺を舐めてるのか?」
「いやぁ、なに。肝っ玉の小せえ野郎だからな。あたしがいねえからってビビんじゃねえぞ」
「余計な気を使わない分、貴様等がいるよりは楽なもんだ」
「そうかい、まあ強がりは大概にしときな。それで負けちゃあ目も当てらんねえ」
そう言い、ニヤニヤと笑うドワーフ。さすがに不快だったらしく、バハムーンはムッとした顔を向ける。
「どうも、貴様は俺を舐めてるようだな」
「散々、情けねえかっこ見せつけられてるからな。まあ頑張れよ、応援はしてやるから」
「……これ以上の言い合いは、無駄だな。いいだろう、結果でわからせてやるまでだ」
「お?珍しくかっこつけたこと言うな?でもいいぜ、そういうのは嫌いじゃねえ」
そんな二人の会話を、三人はじっと聞いていた。
「……どうも、この二人は仲がいいんだか悪いんだかわからないねえ」
「似た者同士だとは思うんだけどね。傲慢で、体力馬鹿で、おまけにどっちも僕が嫌いだ」
「あれほど悪態をつかれて、よく平気でいられると思いますわ、彼のことは」
とりあえず、大勢に影響はないだろうと判断し、三人ともそれに対して口出しすることはなかった。
翌日、一行は初めの森を抜け、パンドーロタウンまでやってきた。そこで、セレスティアとドワーフ、フェルパーは宿屋に向かい、
残りの三人は反対側の出口へと向かう。
「それじゃあ、頑張って」
「副委員長、あなたも気を付けて」
「何にだ、馬鹿妖精」
「あなたみたいな乱暴者にですわ、このけだもの」
「二人とも、やめようってば。フェアリー、早いところ委員長連れて行って」
「わかったわかった。委員長、行くよ」
「私も行きたいのにぃ…」
「はいはい、また今度ね。トカゲも行くよ」
「……いつか絶対に殺してやる」
相当な不安を抱えつつも、剣士の山道へと向かう三人。それを見送りながら、セレスティアはなるべく早く戻ってくれるように、
一人祈っていた。
とりあえず宿屋に向かった三人は、部屋を取らずに入口付近の椅子に座って時間を潰していた。危険人物二人と一緒ということで
相当な不安はあったものの、二人とも危害を加えようという意思は見られず、セレスティアはホッと息をついていた。
「でな、あいつらの用事終わったら、あたしパニーニ行きてえんだ」
昨日の骨をまだ咥えつつ、ドワーフは喋っている。妙に器用だなあと、セレスティアは心の中で感心していた。
「パニーニに?何をするんだい?」
「転科だよ、転科。あたしさ、本当は戦士じゃなくて狂戦士がよかったんだ。でも、まずクロスティーニで履修しねえとダメだって
言われて、そんでしょうがねえから戦士になったんだよ」
「なるほどね。あ、フェルパーはどうだい?君も確か、ビースト学科っていうのがあったと思うけど」
水を向けると、フェルパーは耳だけをピクンと動かし、やがてどんよりした目を向ける。やはり、置いて行かれたので拗ねているらしい。
「やー。爪じゃなくてナイフがいいのー」
「じゃあ戦士になりゃいいじゃねえかよ」
「それも、やー。格闘はしたいのー」
「でも、君今ほとんど格闘してないよね?」
セレスティアが言うと、途端にフェルパーの顔が赤くなる。
「だってぇ!蹴ったらパンツ見られるんだもんー!」
「……下に何か履けばいいじゃねえかよ…」
「や!動きにくいの嫌い!」
「じゃあ文句言うなよな」
「見られるのもやなの!」
種族的な相性は良くないというが、思ったより二人の仲は悪くないようだった。それも不安材料の一つだったため、セレスティアは
心の底からホッとしていた。
「お前はどうなんだよ?確か、堕天使とか何とかいうのなかったか?」
「いやぁ、私はいいよ。性格的に、堕天使やるのも向いてなさそうだしさ」
「それもそうだな。変なところ生ぬるいもんなお前」
「でもでも、時々優しいのって好きー」
「はは、ありがとう。私としても、君達みたいに突き抜けた人は退屈しないよ」
敵意さえ向けられなければ、二人ともやはり、同じ生徒である。そんなわけで三人は、他の三人が戻ってくるまでの間、意外と楽しい
お喋りの時間を過ごすのだった。
一方の三人は、剣士の山道の入り口付近で、ジェラート達と対峙していた。予想通り、オリーブがなぜ来ないのか、風紀委員が
なぜ図書委員側についているのかなどと突っ込まれたものの、結局は予定通りに決闘することとなった。
相手はフェアリーの予想した通り、前衛にティラミス、その後ろにパンナ、最後尾にジェラートという構成である。
「……で、誰が誰相手にする?」
「さすがに、パンナちゃんには手を出しにくいですわね…」
「なら、俺がやるか。安心しろ、手加減はしない」
バハムーンが言うと、エルフが大慌てでそれを止める。
「やめなさい!彼女も強いとは聞いてましてよ?でも、さすがにあなたが彼女と戦うのは…」
「うんうん、犯罪の臭いがするね。絵的にやばい。かといって……ティラミス相手じゃ容赦しないだろうし、ジェラート相手は
絶対ダメだし…」
「……誰も相手にさせないのが一番ですわね。でも、そうもいかないのも事実ですわ」
エルフは一度目を瞑り、そして何かを覚悟したように目を開けた。
「フェアリー、あなたはティラミスを頼みますわ。わたくしはパンナちゃんの相手を」
「委員長!ジェラートにあいつぶつけるつもりかい!?そりゃあんまりだ!考え直してくれ!」
大好きなヒューマンが被害に遭うということで、フェアリーは必死に止めようとするが、エルフは首を振る。
「フェアリー……わかってほしいですわ。それに大丈夫、ジェラートはこれぐらいで死ぬ人じゃありませんことよ」
「うぅ……どうしてもダメなのかい…?ひどい、ひどいや委員長…」
「そういうわけで、バハムーン。あなたは……ジェラートの相手を!」
それを聞いた瞬間、バハムーンは気合を入れるように、首をごきりと鳴らした。
「そうか、そりゃありがたいな。手加減の必要がないんだからな」
―――ジェラート、本当にごめん…。
戦いの構えを取りながら、エルフとフェアリーは心の中でジェラートに謝り続けていた。
剣士の山道にいた三人が戻ると、宿屋で待機していた三人はすぐ迎えに出た。
「お帰り。結構早かったね」
「……辛い戦いでしたわ…」
「そうだったのかい?でも、その割にはあんまり怪我してないみたいだけど…」
「……精神的にだよ、副委員長……ジェラートが丈夫で、本当に良かった…」
参った表情の二人の後ろでは、バハムーンがしきりに首を振っている。
「おう、どうだったよ?ちゃんと勝てたか?」
「うーん……確実に葬ったと思ったんだが……なぜあいつはあんなに…」
「何だよ、仕留め損ねたのか?やっぱりお前は…」
「違う。仕留めはした。だが、確実に殺したはずなんだが……真っ先にあいつが起きるとは…」
「んむー。いいなあいいなあ。そんなに強い人いたんだ。私も行きたかったなぁー、んなーん」
その声に、フェアリーが思い出したように顔を向ける。
「ああ、そうだ。フェルパー」
「んにー?」
「これあげるよ。君にはちょうどいいんじゃない?」
フェアリーが何かを手渡すと、フェルパーの目が一瞬輝く。そして急にどこかへと走り去った。
「ちょっとフェアリー、何したんですの!?」
「いやあ別に。ただのプレゼント」
「プレゼント?一体何を…」
その時、走り去ったフェルパーが早くも戻ってきた。妙に嬉しそうな様子に、一体何事かと訝しんでいると、フェルパーは突然クルンと
宙返りをし、両手で着地して逆立ちの姿勢を取った。
「これで見えない!見えないね!んにゃーう!」
スカートの下から覗いたのは、濃紺色のブルマだった。確かにパンツは見えていないものの、それはそれで恥ずかしくないのかと、
全員が疑問に思った。
「……おい」
不意に、バハムーンがフェアリーに向かって手招きする。隣に並ぶと、バハムーンは声をひそめて話し始めた。
「貴様……どこであんな物を」
「いやー、ちょっとね。実はパンナちゃんの私物なんだけど、魔が差した。まあ、勝ったのは僕達だし、決闘は巻き込まれただけだし、
あれぐらいいいかなってさ」
「気付かなかったが、いつの間に」
「勝った直後だよ。気絶してる間にササッとね。レンジャー所属のフェアリーを甘く見ないでほしいな」
「………」
ちらりと、フェルパーを見る。相当に嬉しいらしく、フェルパーはむしろブルマを見せびらかすように跳ね回っている。
少しの沈黙の後、バハムーンは口を開いた。
「今回ばかりは、貴様を褒めざるを得ないようだな。よくやった、本当によくやった…!」
「君と趣味が合うのは気が重いけど、同好の士がいるのは嬉しいね」
「君達、何を話してるんだい」
後ろからの声に、二人はビクッと体を震わせる。
「フェルパーのブルマ姿がどうとか話してる気がしたけど?」
「は、はは、副委員長、別に僕達は…」
だが最後まで言い終えるのを待たず、セレスティアは二人の手をしっかりと握った。
「……たまらないよね、あれ」
「お前もか。お前もやはりそう思うか」
「……副委員長、僕はあなたのことを誤解してたよ。まさか副委員長もこっち側だなんて…!」
「しかもフェルパー、ブルマだと見えても気にしないなんて……ああ神よ、天の国は地上にあったのですね…!」
「しかし、貴様等は後ろなのが羨ましい……前では、ゆっくり見る暇なんて…」
「でも、かぶりつきで見られるよ君は」
「そうか。よし俺は決めたぞ。もっと強くなってやる……戦闘中でもよそ見できるほどになっ…!」
「……副委員長?フェアリー?バハムーンまで、一体何を話してるんですの?」
エルフの声に、思春期の男三人は慌てて解散した。
「ああ、いや、別に」
「そうそう、別に。やー、気にしないで」
「どうせ大した話じゃねえだろうよ。それより、羽三人組」
「こいつと一緒にするな」
「こんなのと一緒にしないでくれよ」
フェアリーとバハムーンが同時に言う。
「間違っちゃいねえだろ?」
「ならお前達は、耳長三人組か」
バハムーンが言うと、今度はエルフとドワーフが同時に口を開いた。
「こんなのと一緒にすんな!」
「こんなけだものと一緒にしないでくれますこと!?」
「んにゃーぅ!尻尾三人とか、耳長三人とか、羽三人とか、まとめ方いっぱいだね!」
「お前ともあんまり一緒にしてほしくねえんだけどな。まあとにかく羽三人、ちょっと聞け。他のも」
今度は何を言い出すのかと、五人はドワーフを見つめる。
「セレスティアとフェルパーには言ったけどな、あたしパニーニで転科してえんだよ。だから、このままパニーニに行っていいか」
「より、野蛮な学科になるんですのね」
「うぜえってんだろ、無能妖精」
「まあ、止める理由もなくってよ。勝手にすればいいですわ」
「俺も別に構わん。どんな学校か、気にはなっていたしな」
「私も行きたいー!強い学校なんだよね!?強い人いっぱいだよね!?んなーぅ!」
全員、特に反対する理由もなく、次の目的地はあっさりと決まった。一度、依頼達成の報告だけしにフェアリーがクロスティーニへ帰り、
彼が戻るとすぐにまたパニーニへ向けて出発する。
途中の剣士の山道では、初めの森よりも強力なモンスターが出現し、主にフェルパーが喜んでいた。その中でも特に、ささくれシャークは
格段に強く、危うく全滅の危機にまで追い込まれたこともあったが、やはり彼等が負けることはなかった。
パニーニに着くとすぐ、ドワーフは職員室へ向かった。他の面子はジャーノやゾーラといった先輩に当たる生徒と話をしたり、
寮の部屋に向かったり自由に過ごしている。ただし、問題児の三人を野放しにはできないため、ドワーフにはセレスティアが、
バハムーンにはエルフが、そしてフェルパーにはフェアリーがそれぞれ付いている。
転科の手続きが終わる頃には、ちょうど夕食時となっていた。そんなわけで六人は学食に集まり、揃って夕飯を食べている。
「転科、できるっつーからやってくる。終わるまで待ってろな」
「確か、転科は結構時間かかるんじゃなかったっけ?」
「ん〜、あたしもよく知んねえけど、一週間かそこらだったと思う」
「じゃ、それまで待つかい。せっかくパニーニに来たんだし、色々見てみようよ」
「強い人!いっぱいだよね!いっぱいいるよね!ね!」
「フェルパー、あなただけは絶対一人にしませんわよ」
「俺はいいんだな?」
「君もダメだよ。ちゃんと誰かと一緒にいてくれな」
そんな会話があり、一行はドワーフの転科までパニーニに滞在することとなった。その間に五人は相談し、ついでなのでここでの依頼も
こなして行こうという話にまとまった。
一週間はあっという間に過ぎ、晴れてドワーフの転科も終わる。一週間ぶりの彼女は、随分と雰囲気が変わっていた。
「野性的、だねえ。これはこれで似合ってるけど」
「その服、ズタボロだけど一体どうしたんだよ?」
フェアリーの質問に、ドワーフはかったるそうに答える。
「訓練が激しかったんでな。いい運動になったけどよ」
「スパッツか……これはこれで…」
「ん?なんか言ったか?」
「いや、別に。しかし……ふん、転科したとなると、また一から修行の積み直しだな」
バハムーンの言葉に、ドワーフは不敵な笑みを浮かべる。
「舐めんなよ?確かに戦い方なんかは全然違うけどよ、お前よりは強えぜ」
「ほーう、どの辺がだ?」
「真・二刀龍、もう覚えてるからな」
言いながら、ドワーフは以前ジェラートタウンで買った大斧を片手で振り回して見せる。
「すごい!すごいねっ!強くなったんだねっ!んなぅー!ねえねえ!殺していい!?いいよねっ!?」
「てめえの頭叩き割っていいならなー」
「二人ともやめなさい。それで早速だけど、私達ここで依頼受けたんだよ」
ダガーを抜こうとするフェルパーを押し留めつつ、セレスティアが言う。
「ヘル・アナコンダの救出なんだけど…」
「救出?退治じゃねえのか?」
「相変わらず野蛮ですわね。退治でなくて、救出。その耳、聞こえないんですの?」
「てめえも相変わらずうざってえなあ。どこの誰が、ヘル・アナコンダを助けろなんて依頼、出すと思うんだよ」
「………」
それは依頼を受けた際に全員が思った事なので、誰一人言い返すことはできなかった。
「と、とにかく救出だって。だから、早速行こうと思ってるんだけど、大丈夫かい?」
「おう!肩慣らしにちょうどいいぜ!さっさと行くぞ!」
「その気合、空回りにならなければいいがな」
一行は早速準備を整え、剣士の山道へと向かった。途中、何度か戦闘があったが、その内容はバハムーンの言葉を裏付けるもの
ばかりだった。
確かに、大斧を片手で振り回すことはできている。しかしそれだけで、ほとんど当たらないのだ。敵がかわすこともあるとはいえ、
止まっている敵にまで攻撃を外した時は、全員が苦笑いを浮かべるしかなかった。
「……少し訓練積んでからにするかい?」
「う、うるせえ!すぐに慣れる、こんなもん!えっと……あ、相手が小さすぎんだよ!ヘル・アナコンダ相手なら、絶対外さねえよ!」
毛をぼさぼさにして叫ぶドワーフに、バハムーンが冷笑を送る。
「無理だな。今のお前は、新入生と全く変わらん」
「うるっせえ!やかましい!絶対あたしが倒してやるからな!」
「無理だ無理だ、諦めろ。お前が倒せたら、俺はお前の奴隷になってやってもいいぞ」
「……てめえ、本気で舐めくさりやがって…!」
相当癇に障ったらしく、ドワーフの体毛は今や怒りで逆立っていた。
「じゃあやってやろうじゃねえか!てめえ約束は守れよな!?」
「祖先の血に誓ってやろうか?そうする必要もないとは思うがな」
それでも、バハムーンはダガーで軽く掌を切り、ドワーフに腕を突き出す。
「お前との約束は、祖先の血に誓って守ろう。これでいいな?だが、俺だけじゃあ不公平だ。お前こそ、仕留められなければ
俺の奴隷になれ」
「ああ上等だてめえ!もしあたしが倒せなきゃ、今日一日てめえの言いなりになってやるよ!」
「一日だけ、か……まあいい。誓いは守れよ?」
「うるせえ!見てやがれ!」
この二人の言い合いも、もはや見慣れたものである。一頻り言い終えたと見ると、エルフは黙ってバハムーンの傷を治す。
「二人とも、白熱するのはいいけど、あまり頭に血を昇らせないようにね」
「うるせえっ!」
バハムーンはニヤニヤとした笑みを絶やさず、ドワーフの眉間には皺が寄りっぱなしである。そんな二人とは別に、フェルパーは
強いモンスターとの戦いに機嫌がいい。
「んにぅー!二人ともやる気だね!でもね!ヘル・アナコンダはね!私が殺すの!」
「殺すな!僕達の受けた依頼は救出なんだから!」
「えぇー!殺したいー!強いの殺したいのー!」
「ダーメ!」
「んむー……でも、強いんだよね!?楽しみだね!」
そして訪れた、ヘル・アナコンダとの戦い。その巨体から繰り出される攻撃や、毒の息吹は多少厄介ではあったが、全体の流れは
悪くない。ただ、毒の息吹が吐き出される度、バハムーンは毎回毒に侵されている。
「ぐおっ!?……げほっ、がはっ!」
「てめえはまた……精神的なもんだけじゃなくて、ありとあらゆるもんに弱えんだな」
「ぐっ……食らわないお前がおかしいんだ…!」
セレスティアがリポイズを唱え、エルフがヒーラスを唱えて態勢を立て直す。既に相手はだいぶ弱っており、決着は近い。
「それよりお前、さっきから一発も攻撃を当てていないようだが?」
「うっ…」
ドワーフの耳と尻尾が、ビクッと垂れる。必死に攻撃を仕掛けてはいるのだが、意外に俊敏なヘル・アナコンダはそれを容易く
かわしてしまうのだ。
「う、うるせえ!止めはあたしが刺してやる!見てやがれ、この野郎!」
ヘル・アナコンダが、フェルパーを丸飲みにしようと迫る。間一髪、飛び上がってかわし、ついでに頭を蹴りつける。完全に体勢が
崩れたところへ、ドワーフが走った。
「そらぁ!!」
裂帛の気合と共に、大斧が振り下ろされる。しかし、ヘル・アナコンダは素早く身をかわした。
「なっ…!?うわ!」
今度は逆に、ヘル・アナコンダがドワーフに襲いかかる。その動きに対処しきれず、ドワーフは咄嗟に大斧で防御した。
しかし、衝撃は来ない。代わりに、ドスッと鈍い音が鳴り、続いて巨大なものが倒れる音が響く。
「……殺してはいないはずだ、安心しろ」
「え…」
いつの間にか、横にバハムーンが立っている。峰打ちを叩きこんだらしく、ヘル・アナコンダは文字通り地面に伸びていた。
「さすが、やるね」
「んにゃーぅ!私が殺す予定だったのにぃー!」
「そんな予定、組んだ覚えはありませんわよ。ともかく、これで依頼達成ですわね」
「え……ええ…!?」
バハムーンがヘル・アナコンダを倒した。その意味を理解し、ドワーフの尻尾は完全に内股へ丸めこまれてしまった。
そんな彼女をあざ笑うかのように、バハムーンがゆっくりと振り返る。
「さて、誓いは守るんだったな?」
「………」
珍しく、ドワーフは何も言い返せない。ややあって、顔を逸らし一度舌打ちをすると、黙って頷いた。
「よし、いい心がけだ。じゃあ今日の夜、俺の部屋に来い」
「なっ…!?」
途端に、ドワーフは目を剥いてバハムーンを睨みつける。彼女だけでなく、セレスティアやエルフやフェアリーも、白昼堂々と
そう言い切る彼を信じられない思いで見つめていた。
「……お盛んだねえ。今は繁殖期だったっけ?」
「黙れ虫。男が女を求めて何が悪い」
「体を代価にするなんて……卑怯だと思いませんの?」
「思わん。約束を破っているわけでもない」
あまりに堂々とした物言いに、もはや周りは何も言えなかった。フェルパーはというと現実逃避気味に、倒れたヘル・アナコンダの体を
つついて遊んでいる。
「……だ、誰がてめえなんかとっ!!そりゃ約束はしたけど……んな要求されるなんて聞いてねえよっ!!くそっ、誰がてめえの
言うことなんか!!」
怒りか恥ずかしさか、全身の毛をいつもの倍ほどに膨らませながら、ドワーフが叫ぶ。そしてフェルパーを突き飛ばし、
倒れているヘル・アナコンダを担ぎ上げると、先頭に立って歩き出した。そんな姿を、バハムーンは黙って見つめている。
「……まあ、しょうがないと思うよ私は。誰だってああなるでしょ」
セレスティアが肩を叩く。しかし、バハムーンはフッと笑う。
「まあこうなるだろうな……この場は、な」
最後にそう呟くと、バハムーンもドワーフの後を追って歩き出す。残った面子はお互いの顔を見合わせ、すぐに二人を追って歩き出した。
結局、戦闘で役に立てなかったショックもあってか、ドワーフはパニーニに戻るとすぐ部屋へ帰ってしまい、夕食にも姿を見せなかった。
当然、その大きな原因と考えられるバハムーンは責められたものの、本人は涼しい顔である。
夕食を終え、全員が部屋に戻る。バハムーンも部屋に戻り、武器の手入れを済ませてからベッドに寝転がった。特にやることもなく、
そのままじっと目を瞑る。傍から見れば眠っているように見えたかもしれないが、寝息はいつまで経っても聞こえなかった。
数時間が経ち、消灯時間も遥かに過ぎた頃。
部屋のドアが、遠慮がちにノックされた。それを聞くと、バハムーンはむくりと体を起こした。
「入れ」
ドアがゆっくりと開かれる。そこにいたのは、紛れもなくドワーフだった。
「よく逃げなかったな。尻尾を巻いていた割には、な」
その言葉に、ドワーフはムッと顔を歪ませる。
「うるせえ!しょうがねえだろ、約束はしちまったんだから…!」
「俺の言うことなど聞かないと、言っていたように聞こえたが?」
「だからうるっせえな!今からでも帰るぞてめえ!」
「誓いを破ってか?」
「くっ……だから、誓った以上は、しょうがねえだろ。ほんとはあたしだって嫌なんだからな」
視線を逸らし、年相応の羞恥心を見せるその姿は、普段からは想像もつかない。そんな彼女の姿を楽しんでから、バハムーンは口を開く。
「こっちに来い」
「っ…」
ドワーフは躊躇いつつも、彼の前まで足を進める。バハムーンはベッドの縁に座ると、にやりとした笑みを浮かべた。
「何でも、言うことは聞くんだな?」
改めて尋ねると、ドワーフは苦りきった顔をしながらも頷いた。
それを見て取ると、バハムーンは不意にズボンのジッパーを下ろし、自身のモノを取り出した。
「とりあえず、舐めろ」
「う……く、来るとは思ったけどよ……この変態が…」
悪態をつきつつも、拒否はできない。ドワーフはバハムーンの前に跪くと、おずおずと顔を近づける。
「変な臭い……くそぉ…」
首を伸ばすようにして、そっと舌先でつつく。特に変な味はないと確認すると、今度は少し丁寧に舐め上げる。
舌先で先端を舐め、裏筋をなぞる。それを繰り返すうち、バハムーンのモノは大きく屹立していく。
「なかなかいいぞ。もう少し丁寧に舐めろ」
「………」
ドワーフは不機嫌そうな顔でバハムーンを睨むが、やがて舌全体を使って丁寧に舐め始めた。
根元に舌を当て、先端までゆっくりと舌を這わせる。かと思えば、彼のモノに舌を巻きつかせるようにして舐め、続いて先端を、
それこそ犬が舐めるようにぺろぺろと舐める。
「んん……ふ、ぅ…」
いつも悪態ばかりつくドワーフが、自分の前に跪き、命令のままに自身のモノを舐めている。それが、バハムーンにとって何より
大きな興奮剤となる。
「うっ……いいぞ、次はしゃぶれ。絶対に歯は立てるなよ」
「……難しい注文つけやがるな」
目の前のモノをじっと見つめ、やがて意を決したように口を開く。まず先端部分を口に咥え、少しずつ喉の奥の方まで飲み込んでいく。
だが、慣れないためにどうしてもえずいてしまい、結局は半ばまでを口に含み、そのまま口の中で舐めるというものに落ち着いた。
「ふっ……はぅ、ん……ぷぁ…」
口内に含んだまま、ゆっくりと頭を動かす。その間も口の中では舌を動かし、彼のモノを舐め続ける。
鈴口を舌の腹で舐め、同時に舌先は裏筋をなぞる。時には舌を巻き付かせたまま頭を動かし、舌で彼のモノを扱く。
「くぅ……そのまま根元まで咥えろ」
「ん……ふー」
文句を言いたそうな顔をしつつも、ドワーフは素直に従う。
「んっ……う、うえぇ…!……げほっ…!」
えずきつつも、ドワーフは必死に彼のモノを飲み込んでいく。やがて、湿った鼻先がバハムーンの下腹部に当たり、動きが止まる。
「んえっ……かはっ…!ん、んぅー…!」
口内の温かい感触と、押し当てられた鼻のひんやりとした感覚。そして、涙ぐんだドワーフの目が、征服欲を心地よく刺激する。
既に高まっていた快感が、それらを受けて一気に跳ね上がる。ドワーフが再び舐め始めようとした瞬間、バハムーンは不意に彼女の
顎を強く掴んだ。
「うあっ!?あ、がっ…!」
痛みに口を開けた瞬間、バハムーンは彼女の口から自身のモノを引き抜いた。それを彼女に突き付け、もう片手で強く扱く。
「くうっ……出すぞ!」
「えあっ……うあぁ!?」
ビクンと彼のモノが跳ね、勢いよく精液が飛び出す。それは彼女の顔にかかり、続いて口の中へと吐き出されていく。
「うえぇ……はあ、え…!」
ドワーフは顔を背けようとするが、顎を掴まれているためそれも叶わない。やがて精液の勢いが弱まり、動きも止まる。
バハムーンはドワーフの舌の上に溜まった白濁を満足げに眺め、ようやく彼女を解放する。
「うえぇ〜、へんなあじ……ひでえにおいふるひ…!」
「吐き出すな、飲め」
「うう……このやろお…!」
悪態をつきつつ、ドワーフはギュッと目を瞑り、口を閉じた。
「う……おぅっ…!う、ぇ……んっ……んっく…!」
何度か吐きそうになりつつも、やがて喉がごくりと大きく動く。ややあって、ドワーフはようやく目を開けた。
「口を開けて見せろ」
「わざわざ確認までするかよ……この変態野郎」
それでもドワーフは大人しく従い、大きく口を開けて見せる。
「ちゃんと飲んだようだな」
「てめえが言ったんだろうが…!」
「顔のそれも、掃除しとけ。ハンカチは使うなよ」
その意味を理解すると、ドワーフは顔をしかめる。
「……最低だな、てめえ」
「何とでも言え」
指で顔にかかった精液を掬い、口元に運ぶ。少し躊躇い、それを舐め取ると、やはり目を瞑ってしっかりと飲み下す。
そんな彼女の様子を、バハムーンは満足げに見守っていた。その視線に気づき、ドワーフはあからさまに不機嫌な顔をする。
「……見んな、変態」
「俺の勝手だ。それより、これで終わりだと思ってないだろうな?」
「言うだろうと思ったよ」
言いながらスパッツを脱ぎかけると、バハムーンがそれを止める。
「待て。まだ俺は何も言ってないぞ」
「はぁ?じゃあ何しろってんだ?」
「そうだな……オナニーでもしてもらおうか」
「はあぁ!?」
それを聞いた瞬間、ドワーフの体毛が一気に膨らむ。
「こ、ここでかよ!?なんでわざわざ、んな事!?」
「感謝してほしいところだがな?濡らさないままやっては痛いだろう?」
「て、てめえが触ればいいじゃねえかよ」
「自分でやった方が濡らしやすいだろう?俺は気を使ってやってるんだ」
「……てめえが見てえだけだろうが、変態」
「ああ、見えないから床には座るな。そこの椅子に座ってもらおうか」
「……やっぱそうじゃねえか…」
指定された椅子に座ると、ドワーフはスパッツに手を掛けた。するとまた、バハムーンが口を開く。
「ああ、完全には脱ぐな。膝の辺りまでにしろ」
「なんでだよ、やりにくいんだよ……こだわりでもあんのか、変態が…」
ぶつぶつ文句を言いつつも、やはりドワーフは大人しく従う。
膝下までスパッツを下げ、許す範囲で軽く足を開く。一度深呼吸をすると、ドワーフはそっと股間に手を伸ばした。
「……んっ…!」
形をなぞるように、全体をそっと撫でる。僅かに呼吸が荒くなり、尻尾がピクンと動く。
割れ目を覆うように手をやり、指先で秘唇をさする。再び呼吸が乱れ、その中に微かな嬌声が混じる。
しばらくその感覚を楽しんでから、ドワーフは親指で少しずつ尖り始めた突起に触れた。
「んあっ……はぁ、ん…!」
普段からは想像もつかない、甘い声。それに加え、普通ならば決して見られない彼女の痴態。それだけでも、バハムーンのモノが
再び勢いを取り戻すのに十分な刺激があった。
少しずつ慣れてきたらしく、ドワーフは突起をぐりぐりと押し潰すようにして刺激し、さらに中指を秘裂へと導く。
「あっ!くぅ……んっ!」
くちゅ、と微かな音が響き、ドワーフの指が中へと沈みこんでいく。その顔に苦痛とも快感とも取れない表情を浮かべ、震える呼吸を
繰り返しながら、中に入れた指をゆっくりと出し入れする。いつしか左手は自身の胸へと添えられ、指先でつんと立った乳首を
弄り始めている。
さらなる刺激を求め、もっと奥まで指を入れようとしたときだった。
「んあぁ……わっ!?」
突然、バハムーンが腋を掴んで持ち上げた。そして再びベッドに座ると、ドワーフを自身の膝に乗せる。
「な、何だよ?」
「もう十分濡れてるだろう?そろそろ本番に移ろうか」
「半端なとこでやめさせやがって……十分っつわれてもな…」
ドワーフは視線を落とし、バハムーンの股間にあるモノを見つめる。
「……こんなでけえの、入るかな…」
「お前は欲張りなんだろう?」
「そりゃ……そうは言ったけどよ!けどっ……あたし、自分でしたことしかねえぞ」
「お前の手は随分でかいが、それが入るなら大丈夫じゃないか?」
「手は入んねえよ!指二本入れるんだって、結構きついんだからな」
だが、今更バハムーンがやめる気はなく、ドワーフもそれについては覚悟を決めていた。
「さて、話はここまでだ。自分で入れてみろ」
「ま、またあたしがかよ……てめえは自分でやる気ねえのか」
「親切で言ってるんだぞ?自分で入れた方が、負担も少ないだろう」
「初めての奴に、自分からさせるか。変態野郎が…」
いい加減に邪魔なスパッツを脱ごうとすると、やはりバハムーンがそれを止める。
「脱ぐな。そのままにしておけ」
「だぁから、てめえは何なんだよ!?何のこだわりがあるんだよ!?」
「黙って言うことを聞け」
「……ちっ、そういう約束だからな、しょうがねえ」
膝辺りにあったスパッツを少しずり上げ、太股辺りに持ってくると、ドワーフはバハムーンの腰を膝で挟むように体を寄せる。
彼のモノを掴み、腰を浮かせて自身の秘部へと押し当てる。やはり不安があるのか、ドワーフの耳はいつもより垂れている。
「……あたしがするんだからな。てめえは動くなよ」
「いいから早くしろ」
「うるせえ、黙ってろ」
先端を何度か秘裂に擦りつけ、愛液を絡める。そうしてある程度絡んだところで、ドワーフはいよいよ腰を落とし始めた。
「んっ……んぅ……あっ、く……つぅっ…!」
秘唇が少しずつ開かれ、つぷつぷと音を立てながら、バハムーンの巨大なモノが入りこんでいく。
先端が埋まり、さらに奥へと入れていくにつれ、ドワーフの顔は次第に苦痛に歪んでいく。
「うぅ……あっ…!く、はっ…!はあっ……はあっ…!つっ…!」
彼のモノを半ばまで受け入れた時、ドワーフの動きが止まった。その顔は苦痛に歪み、呼吸は浅く切れ切れになっている。
「あっつ…!こ、これぐらいでいいだろ…!?これ以上は……つあっ……痛えし、無理だ…!」
「……まあいいだろう。動け」
「痛えっつってんだろっ…!やってやるけどよ、くそ…!」
極めてゆっくりと、ドワーフは腰を動かし始めた。かなり痛むらしく、上下の動きはほとんどせず、前後に動かすことが多い。
バハムーンとしては多少物足りなくも思ったが、それでも快感が無いわけではない。
「はあぁ…!あぅ……くっ、あっ…!んんっ…!」
入らないというだけあり、ドワーフの中はきつく、また彼女自身が痛みで強く締め付ける。そのため腰を動かさずとも、それなりの
快感は伴っていた。まして、痛みを必死に堪えて奉仕する彼女の姿が、何よりも強い快感をもたらす。
だが、それでも多少物足りない。しばらくは彼女に任せていたバハムーンだが、更なる快感の欲求は膨れ上がるばかりだった。
そして、それが限界に達したとき、バハムーンはドワーフの腰をしっかりと掴んだ。
「え?お、おいっ!何すっ…!」
彼女の言葉を終わりまで聞かず、バハムーンはドワーフの体を思い切り押し付け、同時に腰を突き上げた。
「ひぐうぅっ!!!」
大きな悲鳴。硬い肉を無理矢理押し広げ、バハムーンのモノが根元まで彼女の体内に入り込んだ。
ドワーフの体は強張り、食いしばった歯の隙間からは荒い息が漏れる。その目はギュッと固く閉じられ、眦からはとうとう涙がこぼれた。
「……て……てめえぇ〜…!」
涙に濡れた目を開き、ドワーフが弱々しくも非難がましい声を出す。鼻をグスグスと鳴らし、それでも必死にこちらを睨む彼女の姿は、
バハムーンの目には何とも可愛らしく映った。
彼女の体ごと腰を突き上げる。途端に、ドワーフはバハムーンの腕を強く掴んだ。
「うああっ!てめえっ……動くなって言った…!」
「文句を言うな。黙っていろ」
そっけなく言うと、バハムーンは再び腰を動かし始めた。だが、ドワーフは彼の腕から手を放すと、代わりに自分の口を押さえた。
「んんっ!ふぐっ……うぅ〜…!くっ……ふあぁ…!」
痛みに涙を浮かべつつ、必死に声を抑えるドワーフ。バハムーンは彼女を気遣う様子もなく、またそんな余裕もない。
根元まで感じる、ドワーフの体温。無理矢理入れたせいもあり、その中は痛みを感じるほど狭く、それこそバハムーンのモノで
いっぱいになっている。
突き上げれば、小さな悲鳴と共に強く締め付け、腰を引けば不安げな目でこちらを見つめる。そんな彼女の姿に、バハムーンは
あっという間に昇り詰めた。
「ぐぅ……このまま出すぞ!」
「うあぅぅ……は、早くしろおぉ…!」
苦痛から逃れたいためか、ドワーフはより強く彼のモノを締め付けた。それにより、バハムーンはあっさりと限界を迎えた。
ドクンと、彼女の中でバハムーンのモノが跳ねる。みっちりと食い込んでいるそれの動きは、彼女にもはっきりと感じられた。
それが跳ね、その度に腹の奥がじんわりと暖かくなる。それを何度か繰り返すと、動きは小さくなり、やがて止まった。
「はぁ……はぁ…!お……終わった…?」
息も絶え絶えという感じで、ドワーフが尋ねる。バハムーンは答えず、ただ荒い息をついていたが、やがて顔を上げた。
「……まだだ」
言うなり、彼はドワーフの体を持ち上げ、体勢を入れ替えてベッドに押し付けた。
「う、嘘だろ!?だってお前、二回もっ……や、やめろ!もうやめろよぉ!てめえのでかすぎて痛えんだよぉ!」
「それは嬉しい言葉だ。だが、さっきも言っただろ。文句を言うな!」
無理矢理四つん這いの姿勢を取らせると、バハムーンは後ろからドワーフにのしかかる。そして逃げられないように腰を掴むと、
自身のモノを押し当て、一気に貫いた。
「あがっ……かはっ…!」
ドワーフは痛みに全身を仰け反らせ、やがて体から力が抜ける。腰だけを持ち上げられたまま、ドワーフはベッドに突っ伏した。
「いい格好だな。こういうのは嫌いじゃない」
バハムーンが言うと、ドワーフは抗議の意味を込めて、尻尾で彼の手を叩く。
「うるせぇ……はぁ……文句は、言わねえでやるから……はぁ……さっさと、終わらせやがれ…!」
「なら、痛くても文句は言うなよ」
そう言うと、バハムーンは何の遠慮もなしに腰を動かし始めた。体の奥を貫かんばかりに突かれ、あまりの痛みにドワーフは悲鳴すら
上げられなくなる。
「んぐぅぅ〜…!ぐ、ううぅぅ〜……う〜!」
枕を噛み、シーツを握り締め、ドワーフは必死にその痛みを耐える。ギュッと閉じられた目からはポロポロと涙がこぼれ、シーツに
染み込んでいく。それに構わず、バハムーンはただただ、己の欲望を満たすために彼女の体内を突き上げる。
腰を動かす度、先に出された精液が溢れ、結合部からドワーフの太股を伝い、スパッツに染みを作っていく。
「うぅ……ん、ぐっ…………グスッ……んうぅ…!」
パン、パンと規則正しく響く乾いた音に、グチャグチャという湿った音が響く。部屋の中には熱気が充満し、二人の体からはじっとりと
蒸れた汗の匂いが感じられる。
苦痛と疲労でさすがに限界が近いらしく、ドワーフの中はそれまでのように強くは締め付けてこない。それでもきつくはあるのだが、
既にだいぶ慣れてきたらしく、痛いほどのきつさではない。
不意に、バハムーンが片手を腰から放す。代わりに尻尾を掴むと、ドワーフはぎょっとしたように振り返った。
そんな彼女の顔を楽しみつつ、バハムーンはゆっくりと尻尾の付け根へ手を滑らせる。そしてその付け根にある小さな穴に親指を
あてがうと、一気に中へと突き入れた。
「きゃあああぁぁぁ!?」
突然の刺激に、ドワーフは再び全身を仰け反らせ、甲高い悲鳴をあげる。同時に、その指を拒むように穴がギュッと締め付けられ、
同時に彼のモノも強く締め付けられる。
「くっ……よく締まるじゃないか。ほら、もっと締めてみろ」
「お前っ……んあっ!やんっ!い、いきなりそんなっ……ああっ!」
さすがに恥ずかしいのか、ドワーフの全身の毛は普段の倍ほどに膨らみ、耳はすっかり垂れ下がっている。
「随分と女らしい声も出せるんだな。そんな声は初めて聞くぞ」
「う、うるせっ……きゃんっ!」
「女らしいというより……子犬の悲鳴か?」
「だ、黙れ!誰が犬……きゃう!」
実質、それに近い声をあげながらも、ドワーフは必死に否定する。だが、バハムーンにとってそんなことはどうでもよかった。
精液と愛液が入り混じり、熱くぬるぬるとしつつも、強く締め付けてくるドワーフの中。既に二回出しているとはいえ、その刺激は
彼を追い込むのに十分なものだった。
再び、彼の動きが荒くなっていく。子宮を突き上げられ、さらには後ろの穴を指で犯され、ドワーフはその刺激に耐えようと全身を
強張らせる。それによって彼のモノは強く締め付けられ、バハムーンに大きな快感をもたらす。
「うああっ!は……激、しっ…!腹がっ……破、れるっ…!」
「くぅぅ…!また、中に出すぞ!」
「あぐぁっ…!うあ、あああっ!」
最後に一際強く腰を叩きつけると、バハムーンはドワーフの中に三度目の精を放った。その感覚に、ドワーフの中がまるで最後の
一滴まで絞り取ろうとするかのように蠢動する。
「また……中、出てる……いっぱい…」
ドワーフがうわごとのように呟く。それを心地よく聞きながら、バハムーンは指を引き抜く。
「んっ!」
ピクッと尻尾が跳ね、中が一瞬ぎゅっと締め付けられる。その感覚を味わってから、ようやくモノを引き抜く。
「ふあ……あぁ…」
もう限界だったらしく、ドワーフはそのままベッドに突っ伏した。バハムーンはそんな彼女に手を掛けると、ころんと仰向けに寝かせた。
そして、完全には脱がせなかったスパッツに手を掛けると、それをきちんと履き直させる。
じわりと、股間に黒い染みが広がる。やがて秘部がヒクつき、こぽっと小さな音を立てて精液が溢れる。あまりに多いそれは、
スパッツを通り抜けて表面まで溢れ出た。
黒いスパッツに、白濁した精液が強く映える。それを眺め、バハムーンがポツリと呟いた。
「……たまらんな」
そんな彼に、ドワーフは息も絶え絶えになりつつ、呆れた顔を向ける。
「これが……はぁ……はぁ……見たかったのかよ…。はぁ……救いようのねえ……はぁ……変態、野郎め…」
「何とでも言え」
言いながら、バハムーンは彼女の隣に寝転ぶと、ハンカチで溢れた精液を拭ってやる。そして、後ろから彼女をぎゅっと抱きしめた。
「このまま寝ろ」
有無を言わさぬ強い口調。それに対し、ドワーフはうんざりした顔をする。
「はっ……帰ってゆっくり寝ようと……思ってたのによ…。それすら、できねえのかよ…」
「……お前のやりたいようにさせるのも、癪だからな」
「ま……命令じゃ、しょうがねえな…」
そう言うと、ドワーフは目を閉じた。程なく、部屋に小さな寝息が響く。
それを確認してから、バハムーンも静かに目を瞑る。それから間もなく、部屋の寝息は二つになっていた。
ドワーフを抱き締め眠るバハムーンに、彼に抱かれて眠るドワーフ。その姿は、誰がどう見ても、恋人同士にしか見えなかった。
翌日、ドワーフは何事もなかったかのように、仲間と一緒に行動していた。本人たっての希望で、一行は朝から剣士の山道での
戦闘に明け暮れている。
しかし、この日は特にドワーフの動きが悪い。本人はそれを表に出さないよう頑張っているらしいのだが、特に走るのが相当に
辛いようだった。おかげで、戦果は先日よりさらにひどい。
「ドワーフ、大丈夫かい?随分辛そうだよ?」
戦闘が終わって一息つき、セレスティアが尋ねる。すると、ドワーフは悪びれる様子もなく答えた。
「ゆうべバハムーンの野郎に、すっげえ激しくヤられたんでな〜。文句ならそいつに言えよ」
あまりにあっさりとした物言いに、最初は誰も反応できなかった。真っ先に動いたのは、やはりフェルパーである。
「やーっ!この人達大っ嫌いー!なんでエッチなことするのー!?信じられないー!」
「結局行ったんかい、君は……トカゲもよくやるよ…」
顔と耳の内側を真っ赤にするフェルパーに、すっかり呆れ顔のフェアリー。そんな彼等にも、バハムーンは涼しい顔である。
「手頃な女がいて、ヤれる状況だったんだ。ヤらねえ方がおかしい」
「……さすが、けだものですわね。あなたも、なぜそうなるのがわかっていて行くんですの?」
「あぁ?約束はしちまったんだからしょうがねえだろ」
「そんな約束、守る必要がありまして?」
「あたしはてめえとは違うんだ、この無責任委員長が」
今までならば、この時点で激昂していたであろう。しかしエルフも、既にだいぶ相手に慣れてきている。
「言いなりになると約束したとはいえ、限度というものがありますわ。まさか死ねと言われて死ぬわけじゃないですわよね?」
「あたりめえだろ、馬鹿かてめえ」
「ほら見なさい。あなただって守るものと守らないものがある。つまりあなたの体は、その程度の軽さということですわね?」
「いや、そりゃ……違うけどよ……えっと…」
「まして、冒険者は健康管理が最も大切なことですわ。あなたは冒険者としての自覚がありませんの?」
「そ、そういうわけじゃねえよっ!でも、その……し、死ぬわけじゃねえんだ!それなら約束を守るのは当たり前だろ!?」
「まあまあ。委員長もドワーフも、そこまでにしておこうよ」
いつもの如く、セレスティアがやんわりと二人を止める。
「見方を変えれば、こんな状態でも頑張って、戦闘の訓練をしてるんだ。それはとてもすごいことだと思うよ。でも、そんな状態に
なるのがわかってるなら、せめて日を改めるなり何なり、手はあったはずじゃないかい」
「あんな激しくされるなんて聞いてねえし。文句ならあいつに言えって」
ドワーフの言葉に、バハムーンは不敵に笑う。
「そう激しくしたつもりもないがな?お前の中が狭すぎるだけだ」
「てめえのちんこが無駄にでけえんだよ、肝っ玉は小せえ癖に。でかけりゃいいってもんじゃねえぞ」
「お前は欲張りだと聞いたが?現に、昨日は泣いて喜んでたじゃないか」
「な、なっ……てめえ、金玉握り潰すぞ…!」
「泣いて喜ぶモノが消えちまっていいのか?」
「……よぉし、わかった。それはやめてやるから……てめえの頭カチ割らせろぉ!!!」
斧を振り上げるドワーフ。それを慌てて止めるセレスティアと、バハムーンを叱り始めるエルフ。そして、バハムーンとドワーフに
襲いかかろうとするフェルパーを必死に宥めるフェアリー。
相変わらず、統一性もなければ協調性もない問題児。それと裏腹に、連携と絆を深めていく風紀委員。
だが、傍から見れば絶望感漂うこの一行も、実際には少しずつ、お互いを理解し始め、また仲間としての意識を持ち始めていた。
目に見えないほどに、しかし確実に一歩ずつ、一行はお互いに歩み寄っているのだった。
以上、投下終了。容量どっぷり食って申し訳ない。
あ、ちなみに以前書いてたパーティと絡めてしまうと両方の話に齟齬をきたすので、奴等は出てきませんのであしからずw
これはこれでまったく別の話だと思ってください。
それではこの辺で。
乙です
しかしバハムーンがひどいww
マニアック過ぎるだろwww
そして狂戦士の残念っぷりに・・・(;ω;`
あとフェルパーがどんどん可愛くなっていって困ります
乙でした。
ブルマ同好会が誕生しやがったw
英雄色を好むというが、バハムーンはもうちょっと手心というか……なんというか……
クロスティーニ学園のいつものと変わらない日常―
今回はちょっとした日常会話である。
食堂にて―
「う〜ん」
机に向かってうらなせるフェル男、そこに…
「フェル男、どうしたんだ?」
声をかけてきたのはヒュム男とクラ男であった
「ん?ああ、ヒュム男か、この学園ってなんでなれへん職業あるやろうなと思って…」
「なれない職業、そういやそうだな…まあ俺には関係ないが」
「なんでもなれるヒュム男にはわからへん悩みや…クラ男ならわかるはずやわいの気持ちが」
「う〜ん、まぁわからなくもないかな…?でも具体的には…」
「ああ、誰が何になれないのにもしなったらの想像だな」
「せや、まずは、わいは1番初めに想像するのはノームの魔法使いや」
「ノム子?そういや説明書では魔法使いに向いてると書いてあったのになれなかったのはおかしかったな」
「そういえばそうだね、これじゃせっかくの特徴を台無しにしちゃってるよ」
「ノム子からの体験談で、最初は魔法使いになろうとしたんや、ところがなれない事に気づいておちこんどったで」
「そうなんだ…だからノム子さんは必死で盗賊系統の本読んでたんだね…」
「そういうことや、次に想像するのはフェアリーの剣士や」
「フェアリーが剣士〜?スフォリアさんがいるからなの?」
「さすがに考えてみろよ、あんな重い刀をフェアリーはどうやって持つんだよ?」
「そこはフェアリー剣士の師匠のスフォリアはんの頼みで作ってもらうと言う事や」
「なあ、俺からも想像しても言いか?」
「いいで、ヒュム男お前の想像力を見せてもらうで」
「そうだな…俺はクラッズの魔法使いやドワーフの魔法使いなど」
「あれ?でも僕は魔法使い学科で風水士になれるけど…?」
「まあ、ドワーフの精神も意外に高いから選んだんだろうけどな…」
「なんか問題でもあるのか?」
「ドワ子やったら問題ないだろうけど、ドワ男は嫌がるやろ」
「「あー…確かに…」」
「どういう意味だーーーー!!!(遠い声)」
なんか幻聴が聞こえたが気にしない事にする、ちなみにおまけでドワ子の紹介。(職業:アイドル)
「それじゃ次だ、次はバハムーンの魔法使いやフェルパーのレンジャー…」
「あかんあかん、全然想像できんから没。」
「即答!?」
「それじゃあ次は僕がしてもいいかな?」
「ええでクラ男、どんなんや?」
「それじゃあ僕はセレスティアの人形遣い」
「「!!??」」
「セレスティアが人形遣いだと…!?」
「流石のわいも思いつかんかったわ…」
「どんな人形を持ってるんだろうね?」
「天使の人形だろう。にっこり笑ってる」
「セレ子はんの人形遣いねぇ…見てみたい気もするけどなれへんねんな…」
1人考え込むフェル男
「いや、仮になれたとしてもセレ子はんはなってくれるんかいな…無理やろ…」
1人考え込むフェル男を見てたセレ子
「……」
数時間後…ショッピングセンターにて
「お?あれはヒュム子とセレ子じゃないか?」
「何してるんでしょう…?」
「やっぱセレ子ちゃんは天使の人形が似合うと思うんだよ」
「そ、そうですか…帽子も決めないと…」
「恋する乙女同士…ですね…」
「アタイらも負けてられないけど」
どうも
>>34の者です。今回はちょっとgdgdの上、短編となってしまいました。
きっかけは2Gの発売ですかね。種族毎になれる職業が増えてるといいですが、
ノム魔とセレ人は本当に見てみたい気がする。
>>流れ星の英雄のSSの人
拝見させていただきました、すごいですね…これに比べたら
私なんかまだまだです…まだ1つも18禁SSがありませんし(書き方がわからないだけ)
バハと狂戦ドワが酷すぎて逆にギャグキャラになってる感じです。
うちのバハ男はまだ登場してませんが、ギャグキャラにすべきかしないべきか…
見方によっては他の書き手さんこき下ろしてるようにも見えなくもないし
過度の謙遜は不快だからやめたほうがいいよ
>>262 そうですか…すみません
以後気をつけます。
test
>>259 バハムーンが手心を加える話を作りたくなった。
せっかくの学園モノ。なので学生らしい感じの
付き合い始めたばっかりでエロいようなそうでも無いような
でも本人たちはいっぱいいっぱいでカウパーとかなんとかでぱんつ濡らしてるような
甘酸っぱいのでもよろしいか?そうか!わかったありがとう!
「はい、今日の勉強はおしまい。このままがんばれば次かその次にレベルアップしたら転科できそうだね。」
「おぉ!40Lv近くなって基本学科に転科できなかった時はさすがにどうしようかと思ったが
ヒュムのおかげでなんとかなりそうだな。」
「私もいい勉強になってるよ。ラグナロクは全員使えたほうがいいし・・・バハムーンくんと仲良くなれたしね。」
教科書を手際よく鞄にしまいながら、ヒューマンがはにかんだようにほほえんだ。
以前は、勉強中は内容を理解しているかノートを覗くため隣に位置取り(バハムーンの書く字は反対から解読するには個性的すぎた)、
休憩中や雑談時には机を挟んだ対面に移動してたが、ヒューマンの告白を経て一応恋人同士ということになってからは勉強が終わっても
そのままにしている。まだ告白前との変化はないに等しいが、距離が縮まるだけでも結構照れくさい。
「尻尾、いつもは足に絡めてるけどかなり長いんだね。」
「フェルパー程自在には動かせなくて邪魔だからな。その分自分の体重程度なら踏んづけても痛くもないが」
「今日のアレ二人とも痛そうだったよねぇ。」
うっかりフェルパーの尻尾を踏んだフェアリーが報復の鬼人切りをもらうという一幕を思い出してヒューマンは顔をしかめる。
「そんなわけで足に巻いたまま尻に敷いてるやつも多いが座り心地が悪くてな。ヒュムなら試してみてもいいぞ。」
「ことわる。でも自在に動かせないって言う割りに今日はずいぶん・・・」
先ほどから少しうるさく感じるほどに床の上を往復している。
これまでの補習でもバハムーンは時々尻尾をほどいていたが、動くところをみるのは初めてだ。
「うー、ちょっと緊張しているんだ。恋人とかいってもいまひとつ良くわからんからな。」
ふてくされたような表情と口調には不釣り合いに素直な告白に赤面したヒューマンは、二人の間に拳二つほどあいていた距離を詰め、
揺れ動く尻尾を捕まえると自分の膝に挟み込んだ。
「か、かわいいなぁもう!だったらこうだよ。」
「のごっ!」
バハムーンが悲鳴を上げる。
「わ、ごめん!痛かった?」
「いや、大丈夫。」
「ごめんね、ごめんね。」
バハムーンが心なしか涙ぐんでいるように見えて、ヒューマンの目に涙が浮かぶ。
「痛くない、びっくりしただけで。っそうじゃなくて、あの、・・・・・・・」
「あぁっ、まだ持ったままだ!ごめん、気づかなくて」
「違うんだ!あの・・・、うれしいから、・・・もっと・・・して、くれ」
予想外の懇願に、涙目のヒューマンの口がぽかんと開いた。
「え?」
「・・・もう言わせんな。」
バハムーンは消えそうな声でつぶやくと、恥ずかしさが限界にきたのかヒューマンに抱きついて頭頂部に顔を埋めた。
おおらかであっけらかんとした性格の種族に属する彼にしては珍しい反応だ。
ヒューマンは自分のそれよりも二回り大きいバハムーンの手を取り、もう一方の手で先ほどよりは丁寧に拾い上げた尻尾を膝に乗せた。
先ほどの反応を見てしまうと足に挟むのはためらいがある。
(成り行きで愛撫しているのが彼らにとって“そういう”部位だったらどうしよう、今はまだ覚悟が、でもやっぱり)
などと悩んでいるのを察したのか、かすれた声を絞りだすようにつぶやく。
「うぅ、尻尾なんて踏んづけても尻に敷いても平気な鈍感なとこなのに・・・
・・・なんでヒュムが触るとこんなうれしいんだ・・・」
「わ、私も、バハムーンくんに触れると、うれしい、よ?」
ものすごく恥ずかしい逡巡を遮られて、それはそれで恥ずかしい本音が思わず口に出た。しかも声が裏返っている。
バハムーンがヒューマンを抱く指に力が入った。
「もう俺興奮しすぎてブレス吐きそう」
「嘘!」
「嘘じゃない。ヒュムのせいだ」
「やぁん」
「困るか?」
「困るすごく」
「じゃぁ、塞いで」
「・・・・・・ふさぐ?」
バハムーンの言葉の意味を理解して、ヒューマンは耳まで真っ赤になった。
挑発しているのか本当に興奮のせいか半開きになったバハムーンの唇を睨むように見つめた後
眉根にしわが出来るほど硬く目を閉じて、自分の唇を押しつける。
「ぷはっ、これでいい?」
ヒューマンが息苦しさから身を離した瞬間、バハムーンは彼女の唇にちろりと舌を這わせた。
「ひゃん!!」
背中を駆け上がる快感に仔犬のような声が漏れた。目が潤み、膝から力が抜ける。
バハムーンが肩を抱いていなければ長いすから崩れ落ちそうだった。
自分の声が恥ずかしい。蕩けきった顔を見られているのが恥ずかしい。こんなに気持ちよくて恥ずかしい。
それなのにもっとしたいのが一番恥ずかしい。しかもきっとバハムーンにはその気持ちを知られている。
「もうブレス吐いてもいいか?」
甘い羞恥心に身動きがとれないヒューマンをからかうように挑発するバハムーン。ヒューマンは挑発に乗った。
――憎たらしい恋人に同じ気持ちを味合わせてやるために、と自分に言い訳をして。
後日、ブレスについてディアボロスに相談したヒューマンは
『種族が違うから断言は出来ないけど』
『相手をすごく好きになったらそうなるのかも。わたしがそんな気持ちになったことがないだけで』
という優しくも暖かいフォローを受けることになる。
しかも立ち聞きしていたクラッズのせいで尾ひれがつくこともなくほぼ原文のまま噂が広がり
彼女は在学中ことある毎に「脳筋バハムーンの策略にはまった」「ブレスの人」と呼ばれ、身をよじったのだった。
バハムーンの転科は成功した。
噂を聞いたPTメンバーの男たちに「そんな策略を練る頭があるなら魔法を覚えろ」とタコ殴りにされたが本人は全く気にしていない。
GJ!
甘酸っぱくてかわええな
こういうのもいい
すごくいい
GJ!
このニヤニヤ感がたまらんw
歯が溶けるような甘ったるい話は大好物です
GJありがとうございます。
褒めてもらったので違う感じのも出してみる。
とりあえずエロくなる寸前まで。
「ここで良いか?」
「もっと、下・・・たぶん、その辺。」
ドワーフの問いかけにヒューマンが答えた。迷宮内の気温は低いが、ヒューマンは全身から汗を流して荒い息をついている。
「たぶんて、おい」
「だって私もやったことないんだもん。もう少し前、お腹側に角度付けて。」
「よし、せーの、で入れるから暴れるなよ。余計な傷が増えるからな」
「分かってるから、はやく。」
「いくぞ、せー、の!」
「痛っ!いっっったぁあい!」
悲鳴が壁に反響する。幸い四方を壁に囲まれた小部屋なので、物音に反応したモンスターが寄ってくることはないだろう。
「たぶん、はいった。ヒールかけるぞ」
息を止め、ぼろぼろと涙をこぼすヒューマン。
魔法が効き、精神を塗りつぶすような痛みが引いてようやく呼吸が出来るようになった。痛みに青ざめていた顔にに朱がさす。
「ありがとう。・・・動けそう。うん、もう大丈夫。動くよ」
涙をぬぐいながらほほえむヒューマンに、こちらは心配のあまり青ざめていたドワーフも、毛づやを取り戻して笑いかけた。
「脱臼が治ったのはひとまずありがたいですが」
ヒューマンの呼吸が落ち着くのを見計らってノームが切り出した。
「今回はここまでですね。バックドアルで脱出して最寄りの魔法球から帰還しましょう。」
「私はまだ戦える!武器だって、ほら!」
「もちろんヒューマンの為だけに言っているのではありません。未だ迷宮中央にもたどり着かないのに魔力は残り少なく、敗走寸前。
一度の失敗でこの有様です。これ以上続けては仲間を失うことになります。」
前衛ヒューマンは誰でも全身に痣を作っている。
学園の制服から見える肌は広くはないが袖口や襟元、女子であればスカートと靴下の間に青黒い模様が見当たらないことはほとんどない。
バハムーンはつい最近までヒューマンにはもともと“ぶち”があるのだと思っていた。特殊代謝を持つ彼らにはそもそも傷が残るという概念がない。
「増えてる。そんなところ攻撃されてたか?」
先刻まで冒険していた溶岩流れる迷宮の熱が残って暑いのだろう。ヒューマンは肘まで袖を巻き上げていた。露出した部分のちょうど中ほどが縞状に変色している。
最後の戦闘の記憶を反芻する。そのときには模様はなかったはずだ。
付き合いだしてからは、自由時間は学生寮のどちらかの部屋で過ごすことが多くなった。二人並んで座り込み尻尾を玩ばれながら他愛ない雑談をして、時々口付けを交わす。
照れくさい充実感を分かち合う幸福な時間。バハムーン自身はその関係に満足していたが、ヒューマンの中にある別の感情に気づいてもいた。
高い繁殖力に由来するその感情は、目に見えない分、肌に残る模様以上に彼には実感しづらい。
自分の行動で恋人がとろける様を眺めるのは気持ちいいが、食欲や睡眠欲など自分にわかる感情に置き換えて考えるとあまり刺激してはかわいそうだとも思う。
自らの肉体を取り扱うことに関しては随一の種族故、強く求められれば応えることもできる気がしているが、今のところヒューマンにそのつもりはないようだ。
「なんだろう?手形っぽい。ドワーフ君に肩を治してもらった時かな。」
「そんなことでも跡がつくのか」
「結構強く掴まれたからね。気にするといけないからドワーフ君には内緒ね。」
気に入らない、と思った。何が気に入らないのかは良くわからない。わからないことを掘り下げて考える趣味はないのでその苛立ちは放置することにした。
「俺は口が軽いからな。ふさいでおいた方がいいんじゃないか?」
感情を上書きするべくヒューマンと指を絡める。はじめて口付けを交わして以来“口をふさぐ”は二人の合言葉のようなものだ。
ヒューマンはばか、と悪態をつきながらも応じてくれた。時間を重ねれば、こういった合言葉も増えてゆくのだろう。
唇をなぞり、舌を絡めるうちにヒューマンの呼吸に甘いものが混じり始め、バハムーンの膝を強く握る。彼はこの瞬間が好きだ。
前衛を勤め上げ自主トレに励む彼女は、同種族の中で比べれば決して非力ではない。指を立てられたのがヒューマンの体であれば、くっきりと跡が残るのだろう。
上書きしたはずの感情が滲んだ。気に入らない。力を入れすぎて白く変色した指。模様の残る腕。
「バハムーン君てさ、やさしいよね」
口付けの余韻に放心しているように見えたヒューマンが唐突に呟いた。
「どうした、急に?」
「結構近くにいるけど、痛くされたことってないな、と思って」
尻尾を踏まれたフェルパーと怒りをぶつけられたフェアリー、ヒューマンの肩を癒し腕に痛みを残したドワーフ。普通なら、集団生活をしていれば避けられない痛み。
バハムーンたちにとって、他者を傷付けないための努力は呼吸と同じだ。
生命力の高い彼らにはどうという事もない怪我が他種族には致命傷になることを思えば、自分たちにとってすら危険な強い力をうかつに使うわけには行かない。
高位次元の存在を始祖に持つ者の義務。
不意に滲み出る感情が形を持った。ヒューマンの腕に残る赤黒い模様が気に入らない。わざとヒューマンの意図とは違う返答をする。
「俺以外の男に近づいて痛くされたことがあるのか?」
「そんなんじゃないよ。私はそんなにもてませんよーだ」
「もてたら、どうかなるかもしれない?」
「なんでそんな意地悪言うの?」
印を刻み付けたいと思った。体と心、両方に残る刻印。外側ではなく内側に。血ではなく記憶で。それを刻むための鎚にひとつだけ心当たりがあった。
覚悟を決めるために、ヒューマンの顎をつかみ唇を合わせた。反応を楽しむためではない口づけは初めてだ。
違いを感じたらしいヒューマンが身を離そうとするのをさえぎって強く抱きしめた。痛みがあるように。苦痛がないように。
バハムーンの体はガタガタと震えていた。刻み付けることは傷付けることになりうる。怖くてしょうがない。
「ほんとに、今日は、なんで・・・」
本当の気持ちは伝えられる気がしないし、説明するつもりもない。少ない語彙の中から短い言葉を選んだ。
「欲しい。」
腕の中のヒューマンが熱くなった。どうやら伝わったようだ。
「なんで」
「わからない。嫌か?」
「・・・・・・・・・・・嫌じゃない、私も」
欲しい、と小さくささやくのを待たず口をふさぐ。互いを確かめ合うための口付け。心がけ次第でこんなにも感覚が違うものかと驚き、ヒューマンの指を思い出す。
膝を握りしめたくなるわけだ。これまで悪いことをしたな、となぜか思った。
舌を絡めながらリボンをほどき、ファスナーを下ろす。女子の制服に触るのは初めてだが、戦闘中に脱着できる程なので思いのほか簡単に剥がすことが出来た。
下着姿になったヒューマンの体は、案の定痣だらけだったが、その痛みを知らないバハムーンは痛々しいとは思わなかった。
もうふた回りほど乳房が大きければ見たものの多くが乳牛のようだ、と思うだろう。もっとも、誰にも見せるつもりはないが。
「私だけずるい。」
「ヒュムも脱がせればいい。」
同じ条件の方がいいかと思い口付けを交わす。初めのうちはおとなしく詰め襟のホックに手間取るヒューマンの背中をまさぐっていたが、
すぐにまどろっこしくなって自分で脱いだ。
「なんか、手馴れてて嫌かも。」
「したいことをしているだけだが、そう感じるってことはこれでいいみたいだな。」
「ばかぁ。」
嫌な思いをさせたくないので、背骨をなぞり、反応のいい部分を探しながら行動の理由を言うことにする。
「尻尾や羽がない背中はどんな感じかと思ってな。」
「どう?」
「かわいい」
すでに上気していたヒューマンの頬にさらに血が上り、耳の先まで真っ赤になる。その特有の短く丸い耳先を舐めあげる。
「ひぅっ!」
予想以上の反応に気をよくしたバハムーンはヒューマンの耳に舌を這わせたまま床の上に押し倒し、下着を剥ぎ取りだした。
抵抗されることも無くやすやすと脱がせた最後の下着はすでに泡立ち糸を引いていた。
下着を脱ぐ。そうなっているのを彼自身初めて見る鎚は使いたい相手に対して大きすぎるような気がした。
こちらを伺うヒューマンも怯えている様に見える。弱音がこぼれた。
「無理そうか?」
「わからない。でも・・・」
逡巡。続きを聞くのか怖い。むき出しの部分が縮むような思いだが、もちろんそんな都合のいい事は起こらない。
「私に、ちょうだい。大丈夫、赤ちゃんよりは絶対に小さいよ。」
震える声で、ヒューマンも怖いのだとわかった。考えてみれば当然だ。怯えながらも気丈に自分を励まし、求めてくれるやさしいヒュム。
もう一度、口づけを交わして膝を割った。熱く潤んだ中心をなぞるとヒューマンの体が跳ね上がる。
沈めこもうとした指は、その寸前で止められた。
「な、中は、触ったことないの」
「やっぱりだめか?」
「そうじゃなくて、あの、初めてだから、指じゃなくて・・・ね?」
恐怖とは違う震えが体を駆け抜ける。
鶏卵ほどもある先端をあてがい、息を吐くタイミングにあわせてゆっくりと沈めていった。
幸い組織を傷つけた感触はなかったがヒューマンは痛みに息を詰め、身を硬くしている。バハムーン自身も快感より締め上げられる痛みの方が強かった。
ヒューマンの体を抱きしめ、強制的に肺から息を搾り出す。腕を緩めるとあえぐような呼吸を始めたが、全身の強張りは抜けなかった。
答えがわかっているので痛いか、とは聞かなかった。
「どうだ?」
色々な意味をこめた短い問いに思わぬ返答が帰ってきた
「うれ、しい。」
苦しげな笑顔と精一杯の抱擁。バハムーンは腰を打ちつけたい衝動を必死にこらえ、無意識に尻尾をヒューマンの足に巻きつけた。
「やんっ」
短い悲鳴とともに、痛みが消えた。ぬるり、と熱い律動に包み込まれる。快感に跳ね上がった腰を、もうとめることができなかった。
「ヒュム」
気遣う声は口づけでふさがれた。ヒューマンは変わらず苦しげにあえいでいたが、その息は熱く、あいまに甘い悲鳴が混じっていた。それが答えだ。
充足感に蕩けそうなのに歯を食いしばっている自分が可笑しいと思った。覗き込めばヒューマンも同じ表情をしている。
がくがくと震えているのは自分か、彼女か。バハムーンの腕をつかむヒューマンの指に力が込められ、筋肉に爪が食い込む。
二人分の咆哮が溶け合うのを不思議なモノのように聞きながら、バハムーンは欲望のインクをヒューマンの中に吐き出した。
繁殖の欲求とはかけ離れた彼の衝動は彼女に刻むには不純なモノに思えたので、心身が落ち着いた後、バハムーンはヒューマンに謝罪した。
ヒューマンは快く許してくれた。彼らもまた繁殖とは違う衝動に駆られて動いているらしい。
バハムーンは腕に残るの爪あとを見てニヤついた。彼女の刻印。数分後には消えるが、たいした問題ではないと思えた。この腕だって数百年もすれば消える。
ヒューマンの模様はもう神経を逆撫でたりしない。もっと深い印をこれからはふたりで刻んでいけばいいだけだ。
というわけで取説の説明てんこ盛りで異種姦やってみました。ちんこ入ってる時間が短すぎますね。
ヒューマンの寿命が短いも入れるつもりだったけどかわいそう過ぎて書けませんでした。
挿入なしの薄エロのが向いてると思う。
個人的にヒュマ子に尻尾巻きつけはGJ
>>276 自分でもそう思う。挿入すると疲れちゃってだめだ。…創作の話ですよ?
ヒューマンも巨根はめられてひぎぃ要員に作ったはずなのに好物詰め合わせになってしまってお恥ずかしいです。
純情スケベとか青あざ女子(DVとかでなく好きなことを痣だらけになるまでがんばってる娘)とか大好物です。(^q^)
だいぶ間が空いてしまいましたが、続き投下したいと思います。お相手はフェルパー。
注意としては、13・14レス目に暴力的な描写がありますので、ダメな人はご注意を。
それでは、楽しんでもらえれば幸いです。
死亡者数、18名。うち、ロスト6名。
この月は死者がやや多く、一つのパーティがロストするという事態になった。残念な結果である。
ジェラートタウンに近い、魔女の森。その中に、軽い調子の声が響く。
「ははは、委員長もそんなこと、気にしなくてよかったのにさ。責任感があるのはいいけど、余計なもんまで背負い込むのはどうかと
思うよ、僕は。たまには魔が差したっていいじゃん」
「でも……やっぱり、まだ迷いますわ。わたくしが転科したら、あのバハムーンがどう動くか…」
「大丈夫だって。何なら、僕一人で何とかしてみせようか?それに何だかんだで、あいつも馴染んできてるみたいだし」
ふらふらと飛び回りつつ、軽い調子で話すフェアリー。バハムーンはドワーフが持っていたおにぎりを奪って食べてしまい、
怒った彼女に追い回されている。
「そうそう、気にしなくても大丈夫だよ。いざとなったら、私だって少しは役に立てるしさ。委員長だって、たまにはわがまま言っても
いいんだよ?」
「……そう言ってくれると、少しは気が楽になりますわ」
「さっすが副委員長。委員長のためなら何だってするもんな、副委員長は」
「こ、こらフェアリー!」
「ははは。図星だからって怒るなよ。別に悪気はないって、魔が差しただけだよ」
そんな彼を、爛々と光る金色の双眸が見つめていた。真ん丸に見開かれたそれは、フェアリーの一挙一動をじっと見守り、瞬きすら
することはない。
やがて、その目がスッと細くなり、そして再び大きく見開かれた。
「んなぁーう!!!」
興奮した猫の鳴き声。直後、フェアリーは大きく飛び上がった。
足の真下を、毒のナイフが通過していく。続いて胴目掛けて振られたダガーを、フェアリーは後ろに飛んでかわす。
「うわっととと!お、お、おいフェルパー!やめっ…!」
「んなぉ!!」
首に飛んできた回し蹴りを、着地して避ける。脇腹に繰り出されたダガーをさらに下がってかわし、一瞬の隙を突いて距離を離す。
「ちょっ……危ない!危ないって!!刃物は勘弁して…!」
「んまぁーう!!」
離した距離が、一瞬にして詰められる。フェアリーの言葉を全く聞かず、フェルパーは次々に殺意の籠った攻撃を仕掛けていく。
「フェルパー、やめなさい!!」
「おいおい!フェルパーやめなって!」
エルフとセレスティアが慌てて止めに入るも、フェルパーは二人の腕をあっさりとかわし、フェアリーに襲いかかっていく。
バハムーンとドワーフはまったく関心を払っておらず、バハムーンが朝に出たフライドチキンの骨を渡すことで和解が成立していた。
そんなバハムーンの頭上を、フェアリーが飛び抜ける。さすがに彼の巨体は、フェルパーの追撃を一時的にでも止める効果があった。
その隙に、フェアリーは大きく空へと飛び上がる。
「おいおいフェルパー、ふざけるのもいい加減に…!」
「んむぅ〜……んなん!」
フェルパーが走った。そしてバハムーンの前で思い切り跳躍し、つい振り返ったその顔を踏みつける。
「ぶっ!?」
鼻血を噴き、よろめくバハムーン。彼を踏み台に、フェルパーはフェアリーと同じ高さにまで跳び上がった。
「うおっ…!?」
「んなぉー!!!」
毒のナイフとダガーが一閃する。その直前、フェアリーは頭を下にすると、地面に向かって全力で羽ばたいた。間一髪、二つの刃物は
彼のズボンの裾を切り裂くに留まった。
地面すれすれで軌道を変え、フェアリーはエルフとセレスティアの後ろに逃げ込む。それに一瞬遅れて、フェルパーが着地した。
「あっはははーぁ!すごいすごーい!」
満面の笑みを湛え、フェルパーが手を叩く。ただし、その笑顔は狂気に満ち、およそ可愛げとは無縁である。
「すごいね!全部避けちゃった!あんな動き、初めて見たー!んにゃーん!」
「ぼ……僕こそ、地面に飛ぶなんて初めてだった…!怖かったぁ…」
「フェアリー、大丈夫かい?まったく、こらフェルパー…!」
「貴様、何しやがる!?」
セレスティアが叱るより早く、踏み台にされたバハムーンが大股で彼女に歩み寄り、その尻尾を掴んだ。
「ふぎゃーあっ!?馬鹿ぁ!エッチー!!」
文字通り跳びあがって驚き、直後尻尾を掴む手にダガーを振るう。慌ててバハムーンが手を放すと、フェルパーはその場にへたり込んだ。
「尻尾掴むなんて最低ー!馬鹿ぁ!変態ー!うあーん!」
「貴様……俺の顔を踏んでおいて、その言い草か…!」
「二人とも、やめなさい。フェルパー、あなたもいい加減にしてくれないかしら?ただでさえ、問題が起こった直後で、周りの目が
厳しいんですのよ」
エルフがバハムーンにヒールを唱え、フェルパーを睨む。ドワーフは彼等より少し離れたところで、幸せそうに骨を齧っている。
「くすん……それ私のせいじゃないもんー」
「俺のせいでもないぞ」
「あなたのせいですわよ!」
「あの女が悪い。俺は売られた喧嘩を買っただけだ」
一週間ほど前、彼はパニーニで再び喧嘩沙汰を起こしていた。しかも今回は、あろうことか相手を殺してしまったのだ。
そもそもの発端は、彼が一人で勝手に剣士の山道をうろついていたときに、以前喧嘩をした六人組の一人に会ってしまったことだった。
相手はバハムーンの女子で、イノベーターとまではいかずとも才能のある生徒であり、竜騎士に転科していた。
無論、性格が合うはずもなく、しかも恨みのある相手である。学園外でもあり、彼女は武器を抜いて彼に襲いかかったのだ。
だがそれに応戦した直後、二人の前にささくれシャークが現れた。さすがに強敵であるため、二人は『相手を倒すまで』という約束で
共闘し、これを倒した。
が、その後が問題だった。一時的とはいえ、力を合わせてくれた彼に彼女がお礼を言っている間に、彼は後ろから彼女の首を
掻き切ったのだ。
先に仕掛けたのは彼女であり、確かに相手を倒すまでという約束はした。だが礼を言っている相手の首を後ろから切るなど、
それはあまりに卑怯ではないか、というのが大半の意見だった。
当然の如く、これは風紀委員の中でも問題になり、エルフら三人は些か苦しい立場に立たされた。特に善の思考を持つ委員からは
彼の退学を具申するべきだとの意見が出されたが、そこはセレスティアが先に手を打ち、彼を謹慎とすることでその声を抑えた。
それに加え、喧嘩の相手の蘇生が無事に済んだこと、また先に手を出したのは相手だということで、辛うじて最悪の事態を避けることが
できたのだ。
そして、今はようやくその謹慎が解け、クロスティーニからブルスケッタへと向かう途中である。
「みんな、その話はもういいじゃない。とりあえずは解決してるんだしさ。それより、今は目の前の心配事をどうにかしないかい」
セレスティアの声に、一行は空を見上げる。天気の変わりやすいこの地は、非常によく雨が降る。今も、空には厚い灰色の雲が
かかってきている。
「しなくていいだろ、んな心配。どうせあと十五分もすれば雨降るぞ」
「だから不安なんじゃないか!ていうか、君わかるの?」
「ああ、雨の匂いがするからな」
「私も私も!私もわかるよ!あのね!空気がね!じとーってして、水の匂いしてるんだよ!」
「匂いに頼らずとも、風が強くなって空気が冷たくなってきてますわ。雨が近いことは確かですわね」
「耳長三人組は、天気に詳しいんだなあ」
フェアリーの言葉に、エルフとドワーフがムッとした顔をする。フェルパーはあまり気にしておらず、いつもの通りである。
「まあともかく、雨に濡れるのは嫌なものだからね。こんな森、早く抜けよう」
その言葉に、それぞれ休憩を終えて荷物をまとめ、再び魔女の森を歩きだす。とはいえ、複雑に入り組んだ地形とワープゾーン、
加えて度重なるモンスターの出現に、なかなか思うように進めない。十五分ほど経つと、果たしてドワーフの言葉通りぽつぽつと雨が
降り始め、それはやがて視界を遮るほどの土砂降りとなった。
さすがに傘など持っては来られないため、一行はずぶ濡れになりながら探索を続ける。
「うあ〜ん、雨やだぁー!どっかで雨宿りしようよぉ〜!」
フェルパーが泣き声で叫ぶ。やはり祖先が猫だけあり、水に濡れるのは大嫌いらしい。
「僕もそうしたいよ、ほんと……羽が重くてしょうがない」
「君の羽はねえ……私のは水弾くから、問題ないんだけどね」
「ったくてめえらは。雨ぐらいでガタガタ抜かしてんじゃねえよ」
そう言うドワーフは、毛が水を吸ってしまい、全身からボタボタと水を滴らせている。
「……あれ?ドワーフ、君ってそんなに細かったっけ?」
セレスティアの言葉に、ドワーフはちょっと不機嫌そうな顔になった。
「え、細いか?そっか……もうちょっと鍛えねえとダメかな」
「ああ、太い方がいいんだ……いや、細いっていうんじゃないけど、ほら、どうしても君って筋肉質なイメージあるし、おまけに毛が
あるせいで余計に太く見えるんだよね。だから、思ったよりは細いなってさ」
「濡れただけで細く見られるなんて、委員長もそこだけは羨ましいんじゃないかい?」
フェアリーが言うと、エルフはムッとした顔で睨みつける。
「羨ましくも何ともありませんわ。毛だらけで野蛮で……それに、ああ…!」
もう我慢できないというように、エルフは大きく息を吸った。
「大体、この臭い!!いつも臭うけれど、雨に濡れたあなたの臭さは格別ですわね!!ちゃんと体洗ってるんですの!?」
それに対し、ドワーフも声を張り上げる。
「ああ!?てめえこそくっせえんだよ!全身から変な臭いさせやがって!ほんと、てめえのそれ鼻が曲がっちまいそうで、
吐き気がすんだよ!」
「香水のどこが変な臭いですの!?あなたの獣臭さの方がよっぽど臭いですわ!」
「私も臭いの嫌いー」
どうやらフェルパーもドワーフの臭いが気になっていたらしく、あからさまに嫌そうな顔をして見せる。
「てめえは臭い無さ過ぎなんだよ!そんな臭い消して何がしてえんだ!?気持ち悪りい!」
「臭いは無い方がいいんだもんー、んなー」
「そうですわ!そもそもあなたは――!」
言い合いを続ける女三人をよそに、セレスティアは自分の翼の匂いを嗅いでみる。
「……私も臭うのかな?」
「いや、副委員長のはそうでもないんじゃない?水弾いてるし」
「そんなもん、気にすることでもねえだろうに。どうしてあそこまで言い合いするのか、俺には理解できねえな」
「女の子は色々大変なんだよ。と、それより……委員長、ドワーフ、フェルパー、こんなところで喧嘩しないで。君達は熱くなってるから
いいだろうけど、私は風邪ひきそうだよ」
「……ちっ!ほんっといけ好かねえ、あのアマ。こんな天気じゃ昼寝もできねえし、ああぁぁ〜っ、ほんっとイラつく!」
「それはそうだな。昼寝の時間は欲しかったところだが…」
「私も日向ぼっこしたいなー。したいなぁー……でも今はどっかで雨宿りしたいよぉー!」
「ブルスケッタまでは休めないぜ、尻尾三人組。昼寝したかったら、頑張って歩くことだね」
何を言おうと、最終的な決定権は風紀委員の三人にある。結局、彼等はその後、ブルスケッタまで休まず歩く羽目となった。
ブルスケッタに着くと、尻尾三人組はすぐに寮へと向かった。誰かしら監視がいた方がいいかという議論はあったが、あの三人なら
すぐに寝てしまうと判断し、風紀委員の三人は職員室へと向かう。そこでエルフは転科の手続きをし、精霊使いになることが決まった。
「それにしても……ちょっと、悔しいですわね」
「ん?何が?」
セレスティアが尋ねると、エルフは溜め息をついた。
「わたくしは、こうして転科するまでに一年を費やしましたわ。でも、あのドワーフは……入学当初から、狂戦士になれるほどの力を
持っていましたわ…」
「スタートラインからして、あいつらは僕達とは違うんだよね。イノベーターって呼ばれるのも、納得だよ」
軽い口調で言うのはフェアリーである。
「でも、だからって僕達は僕達だ。早いとか遅いとか、負けとか勝ちとか、気にする必要性はないって」
珍しく気遣うような言葉を言うフェアリーに、エルフも珍しく微笑みかける。
「ありがとう……少し、気が楽になりましたわ」
「ほら、あの流行ってる歌でもあるじゃん?後ろだった人に追い越された人、テスト前にきっと大逆転〜ってさ。それ目指そうよ」
「はは。君も意外と優しいところあるんだねえ」
「ああ、魔が差した」
「結局それなんだ」
「ふふふ。でも、その方がフェアリーらしいですわ」
そう言って笑顔を浮かべるエルフに、二人も笑みを返す。
「さあ、それじゃあまた会えるのは一週間後かな。委員長、頑張ってね」
「わたくしがいない間、任せますわね。副委員長、フェアリー、しっかり頼みますわよ」
「だ〜いじょうぶだって。何にも気にしなくっていいから、頑張ってきな委員長」
最後にそれぞれ握手を交わし、三人は別れた。
彼女がいない間、その分までしっかり頑張ろう。そんな思いが、残った二人の胸に湧き上がるのだった。
エルフが転科を初めてから、はや数日。問題児達は魔女の森での憂さ晴らしとでも言わんばかりに怠惰な生活を送っており、
これといった問題が起こる気配もない。このままなら楽だと、セレスティアもフェアリーも思っていたのだが、そう思い通りに
いかないのが世の常である。
六日目の朝、一行は朝食を取りに学食へ向かったが、フェルパーがいつまで経っても来ない。女同士であるドワーフに何か知らないかと
尋ねても、「どうしてあたしがあいつのことを知ってなきゃいけねえんだ」と、にべもなく返された。
人物が人物だけに、行動が把握できないのはかなりの不安がある。仕方なくセレスティアが迎えに行くと、彼を出迎えたフェルパーは
どこか調子が悪そうに見えた。
「フェルパー、どうしたんだい?風邪でも引いたのかい?」
「……違うのー。でも、来ないでほしいな。しばらくほっといてー」
「そうもいかないよ。朝ご飯だって、ちゃんと食べなきゃ体に…」
「いいからほっといてー!お昼は食べに行くからー!」
バタンと、勢いよくドアが閉められる。これ以上は何も話せないだろうと判断し、セレスティアは仕方なく学食へと戻った。
「あれ、副委員長、あの猫は?」
「んー、何だか機嫌悪くってねえ。風邪かとも思ったんだけど、そうでもないっぽいし……しばらくほっといてくれってさ」
「一番ほっときたくない奴なんだけどな……にしても機嫌悪いとか、猫は気紛れだよなあ」
そう言ってドワーフを見つめるフェアリー。ドワーフは幸せそうな顔で骨を齧っていたが、その視線に気づくと不機嫌そうな顔になる。
「何か言いてえことでもあんのかよ、チビ妖精が」
「……骨、好きなんだねえ」
「これが嫌いな方がおかしいんだ。この歯応えもいいし、噛めば噛むだけ味もあるんだぞ」
「……犬」
隣でぼそっと呟いたバハムーンに、ドワーフは容赦なく頭突きをかました。鼻を押さえて震えるバハムーンを無視し、フェアリーは
セレスティアに話しかける。
「とにかく、まさか一日中放っておくわけじゃないよね?」
「ああ、うん。昼は食べに来るって言ってたよ」
「そっか。じゃあ特に問題もないかな」
「……は、話が終わったならヒールを頼む…」
震える声で言うバハムーンに、セレスティアは呆れた顔を向ける。
「それ、自業自得だと思うよ私は」
「うるさい……痛いもんは痛いんだ…」
「お前はほんっと、ありとあらゆるもんに弱えな。それでよく、自分の手ぇ切ったりできるよ」
「それはそれ、だ…!」
「どう違うんだよ」
結局、食卓を鼻血で汚されるのも嫌なので、セレスティアは彼の鼻を治してやる。そして食事を終えると、各自はそれぞれの部屋へと
戻った。エルフがいないため、勝手に動くわけにもいかないのだ。
それぞれに自分の学科の勉強をしたり、武器の手入れをするうち、あっという間に時間が過ぎていく。すぐに昼食の時間となり、一行は
朝と同じ位置に陣取る。
四人にやや遅れて、フェルパーが姿を現した。しかし、その表情は暗く、何やらビクビクと辺りを窺っているように見えた。
「フェルパー、本当に大丈夫かい?どっか悪いんじゃないかい?」
「……いいの!平気なの!ほっといて!」
そうは言うものの、その姿はとても平気なようには見えない。だが、持ってきた料理の量は多く、食欲は旺盛なようだった。
「そうか、ならいいけど……あ、私の隣空いてるよ」
普通なら、大人しく従うはずだった。しかし、今日のフェルパーは違った。
「……嫌!」
不機嫌そうに言うと、いつもは食事中近寄らないはずのドワーフの隣に座る。不調ではないとしても、普段と比べてあまりに奇妙な
行動が多すぎる。
疑問をよそに、フェルパーは黙々と食事を始める。バハムーンとドワーフは我関せずといった様子だが、風紀委員の二人としては
放っておこうという気にはなれない。
「ずいぶんと不機嫌だねえ。ほんとに熱なんかないのかい」
言いながら、フェアリーはフェルパーの額に手を伸ばした。それが触れそうになった瞬間。
「シャッ!!」
「痛っ!?」
威嚇の鳴き声と共に、フェルパーは思い切り引っ掻いた。手の甲がざっくりと切り裂かれ、見る間に血が溢れだす。
「いっててて……副委員長、ヒールお願いするよ」
「大丈夫かいフェアリー!?まったくフェルパー、なんてことするんだ!?」
フェルパーは答えない。代わりに、二人を怒りとも怯えともつかない目で睨むと、再び食事を始める。
「まあまあ、副委員長。彼女を責めないでやって。魔が差すなんてこと、誰にだってあるんだから」
「だからって、こんな怪我させるのはどうかと思うよ私は」
相変わらず、ドワーフとバハムーンは食事に夢中であり、三人と関わろうとする気配はない。が、不意にドワーフが顔を上げ、何やら
ふんふんと匂いを嗅ぎ始めた。そしてフェルパーを見つめ、一度、ふん、と鼻を鳴らすと、にやりとした笑みを浮かべ、再び食事に戻る。
「そりゃ、痛くもない腹を探られるのは不快だっていうのはわかるよ。でも、だからって引っ掻くことはないんじゃないかい」
「……ほっとけほっとけ。しばらくはそいつに触んねえ方がいいぞ」
彼女にとってのメインディッシュであるところの、大きな骨にかぶりつきながら、ドワーフが言う。
「え、どうして?」
「そりゃあ、なあ?」
フェルパーを見つめ、ドワーフは意地の悪そうな笑みを浮かべた。フェルパーの耳がビクッと倒れ、食事の手が止まる。
「そ〜んな状態だもんなあ?そりゃあ触られたくもねえよなあ?」
「………」
「ドワーフ、どういうことだい?フェルパーが不機嫌な理由、知ってるのかい?」
「わっかんねえかなあ。こいつはな、男に触られるのが嫌なんだよ」
「男に?でも、いつもは普通に…」
セレスティアが言いかけると、ドワーフはますます意地の悪い笑みを浮かべる。
「いつもはな。でもなあ、今のこいつは盛…」
バン!と大きな音が響き、周囲の生徒までもが驚いてそちらへ顔を向ける。
テーブルを叩き立ちあがったフェルパーは、大きな声で叫んだ。
「もう嫌!みんな嫌いー!」
止める間もなく、フェルパーは走り去ってしまった。一体何が起こったのかと、セレスティアとフェアリーは呆然とするほかない。
「あーあ、行っちまった。ったく、せっかく面白い反応見られると思ったのによ」
「……あ、あの、ドワーフ?フェルパーは一体…?」
つまらなそうに息をつくと、ドワーフは気のない顔を向ける。
「だから、盛りだよ、盛り。発情期」
「……さ、さらっと言うね…」
「あいつ、エロいの苦手だろ?なのに、あの時期は体が火照って男求めちまうからな。それが許せねえんだろ」
それを聞いた瞬間、バハムーンが横目でドワーフを見つめる。
「……お前は、まだその時期じゃねえのか」
「あたしはまだだなー。生理と一緒で、個人差あるんだよ。てぇか、てめえはそれ聞いて何するつもりだ?」
「楽しみにするつもりだ」
直後、ドワーフは咥えていた骨を掴み、バハムーンの顎を殴りあげた。ガコッと妙にいい音が学食に響く。
「ま、まあそんな時期じゃあ、そっとしておいた方がいいかな。あんまり刺激してもなんだしねえ」
「そっとしておく……ねえ」
気のない感じで、フェアリーが繰り返す。しかしその顔には、彼の言葉に従おうなどとは微塵も考えていないような、そんな表情が
浮かんでいた。
部屋に逃げ帰ったフェルパーは、ベッドの上で膝を抱えて座り込んでいた。カーテンすら閉め切り、暗い部屋の中で眼だけが光っている。
イラつきと怯えの混じった、震える呼吸の音が響く。やがて、尻尾がゆらりと動き、下着の上から自身の秘部へと触れた。
途端に、フェルパーはハッとしたように尻尾を戻し、ただでさえ赤くなった頬をますます紅潮させる。
「うぅ〜…!」
ただ外に出ただけで、こうなってしまう。どんな種族であろうと、『男』の匂いを感じるだけで止めようもないほどに体が疼き、火照る。
普段ならば、関わり合いになりたくないと思う他人にでさえ、そうなってしまう。まして、それが気心知れた仲間であれば余計である。
彼等の匂いを感じてから、動悸が鎮まらない。全身が熱くなり、無意識に自身で慰めようとするほどに、疼いてしまう。
それが、フェルパーはたまらなく嫌だった。そういうことは大嫌いなはずなのに、自身が無意識に求めてしまうなどということは、
どうしても認めたくなかった。
「う〜……こんなのやだ……もうやだぁ…」
涙声で呟くと、フェルパーはベッドに突っ伏し、頭から布団を被った。経験上、こういう時はとにかく寝てしまうのが最善の手段だった。
この状態で寝るのは多少骨が折れるものの、不可能というわけではない。事実、布団を被ってから二十分ほど経つと、部屋の中には
寝息が聞こえ始めていた。
祖先が猫だけに、フェルパーはよく眠る。一時間経ち、二時間経ち、数時間経った頃、布団の中でフェルパーの耳がピクリと動いた。
微かに目を開ける。夢と現の狭間を行き来しつつ、フェルパーはもう一度耳を動かす。
ドアの方から、カチャカチャと微かな物音が聞こえる。それに気付いた瞬間、フェルパーの頭は急激に覚醒を始めた。
ガバッと体を起こす。それと同時にカチャンと軽い音がし、続いてドアが開けられた。
「やあフェルパー、調子はどうだい?……うおぅ、目だけ光ってら」
小さな影。いつもの軽い口調。それは紛れもなくフェアリーだった。
「え……えぇー!?どうして開くのー!?鍵閉めたのにー!?」
「おいおい、僕はレンジャー学科所属だぜ。こんな鍵ぐらい、朝飯前だよ」
「そ、それより、どうして勝手に開けるのー!?なんで来たのー!?ほっといてって言ったのにー!」
「魔が差した。それと、夕飯にも来ないから、さすがに心配…」
部屋の中に、微かながら『男』の匂いが入りこむ。途端に、フェルパーの体はかあっと熱くなり、鼓動が早まる。
「こ、来ないでー!部屋に入んないでー!あっち行ってよー!もうほっといてー!」
「うわっ!?ちょっ……危ない!危ないって!!」
手近にある物を、フェルパーは手当たり次第に投げつける。毒のナイフ、椅子、前日着ていたシャツ、靴、枕など、あらゆる物が
飛んでいく。とはいえ殺意の籠った攻撃ではなく、とにかく投げているだけなので、かわすのは容易だった。
一通り投げてしまい、それ以上投げるものがなくなると、フェルパーは耳をぺったりと寝かせ、ベッドの上を後ずさる。
「来ないで!ほっといてー!」
「いやあ、ほっといてもいいんだけどさあ。それじゃあ何にも根本的な解決にはならないし。問題は根元から断ちたいだろ?」
そう言いながら、ずんずん近づいていくフェアリー。一応、フェルパーが襲いかかってくるかと身構えていたのだが、予想に反して
彼女はただベッドの上で震えているだけだった。
「な……何するのぉ…!?」
「だから、言っただろ?問題は根本から解決したいんだよ」
フェアリーは遠慮なくベッドに上がると、手を伸ばして震えるフェルパーの腕に触れた。
ビクッと、フェルパーの体が震える。その目は完全に怯え、フェアリーをモンスターでも見るかのような目つきで見つめている。
「え……エッチなことしないって言ったぁー…!」
「あ〜、そんなことも言ったね。でも、今は君自身がそれを求めてるんじゃないのかい?」
言いながら、フェアリーは彼女の胸に手を伸ばした。
「んにゃぅ…!」
その手が軽く触れた瞬間、フェルパーは聞いたこともないような甘い鳴き声を出す。だがその直後、彼女はフェアリーの手を思い切り
打ち払った。
「やぁー!!やなのぉ!!こんな声出したくないー!!こんなのやだぁー!!こんなの違うー!!こんなの私じゃないのぉー!!」
叫びながら、フェルパーは本気で泣きだしていた。そんな彼女に、フェアリーは優しく声を掛ける。
「そうは言うけどね、君は君だよ。自分のことを、そう簡単に否定するのはどうかと思うな」
「だってだって……エッチなこと嫌いなのにぃ…!ほんとに嫌いなのぉ…!」
「でも、今はそういうのを求めちゃうんだろ?だったら、今は別にそれでいいじゃん。魔が差したとでも思えばさ」
言いながら、そっと手を伸ばす。しかし触れる直前で、フェルパーが爪をかざして威嚇してきたため、そこで止まる。
「な……なんで、こんなことするのぉ…?ほっといてよぉ……何にもしなくていいよぉ…」
「なんでって、そりゃあ…」
手軽にやれそうだから、という本音を危うく漏らしかけ、フェアリーは慌てて口をつぐむ。
「……魔が差したから。それに、えっと、君は仲間なんだから、仲間が困ってたら助けるのは当然だろ?」
「助けるって、どうするつもり…?」
「求めに応じるつもり」
「やだーっ!エッチなのはやだー!もう帰ってよぉ!これ以上ここいないでよぉ!!」
時間が経つごとに、フェアリーの、言い換えれば男の匂いが強くなり、それに比例してフェルパーの疼きもますます強くなっていた。
フェアリーもそれに気付き、心の中で密かに笑う。
「そこまで毛嫌いしなくってもいいじゃん。それに、エッチなのは恥ずかしいことじゃないぜ」
「う、嘘だぁ…!」
「本当だって。じゃあ何かい?そういう時期のある君の種族は、恥ずかしい種族なのかい?」
「……そんなことないもん…」
「だろ?自然なことなんだよ。別に恥ずかしくもない。それでも、どうしても恥ずかしいって言うなら、そんでもって、
そんなの自分じゃないって言うなら、それでいいじゃん。今の君は、君じゃない。自分じゃないと思って、その時期を楽しんじゃいなよ」
「………」
彼の言葉に、フェルパーは驚いたような、それでいて縋るような目で彼を見つめる。
「エッチなことしたいんだろ?じゃ、思いっきりしてみればいいじゃん。強い相手殺す以外でも、少しは何か楽しみ見付けなよ」
「でも……でも、やっぱり恥ずかしいよぉ…」
「大丈夫だって。こんなの誰にも言わないし、恥ずかしいことでもないって」
「ほ……ほんと?」
「本当だよ。だから、今は湧きあがる気持ちを否定しないで、やりたいようにやればいいさ。魔が差すのも、たまには悪くないってね」
ゆっくりと、手を伸ばす。フェルパーはビクッと耳を伏せたが、その手を打ち払ったりはしなかった。
何もしてこないのを確認し、胸に触れる。途端に、フェルパーは熱い吐息を漏らす。
「はぁっ……は、あ…!」
「柔らかいな……どうだい、平気そうかい?」
初めての感触を楽しみつつ、フェアリーは優しく問いかける。フェルパーは耳を伏せて震えているものの、微かに頷いてみせた。
ゆっくりと、円を描くように揉みしだく。フェルパーの呼吸はますます荒くなり、全身が強張る。
「や……やっぱり、恥ずかしいよぉ……んに…」
「あんまりそういうことは考えないで。ただ今の感覚だけに集中してればいいよ」
「う、うん……わかった……ふ、にぁ…」
熱く震える吐息。その中に怯えの混じった嬌声と、ねだるような鳴き声が響く。その声を聞きながら、フェアリーは彼女の背中に手を回す。
パチッと小さな音がし、直後フェルパーは慌てて胸元を押さえた。
「やっ!?な、なんで外せるのぉ!?」
「おっとー、ビンゴだったか。僕だって、そりゃ少しぐらいは知識あるさ」
その口と同様、彼の手はよく動く。喋りながら、さらにフェルパーの制服のボタンを外し、胸元を押さえる腕の隙間から指を差し込む。
指先に彼女の体温が伝わり、僅かな膨らみを感じる。同時に、フェルパーは大きく息を吐いた。
「あっ!……う、あぁ…!」
「手、どけて。気持ちよくしてあげるから」
「んなぁ……あ、あんまり……変なこと、しないでね…?」
躊躇いながらも、フェルパーはゆっくりと手をどける。その手が完全に離れると、押さえられていたブラジャーがパサリと落ちた。
露わになった胸を、フェアリーはしばらく見つめていた。思ったよりも小ぶりだが、整った形をしている。そして、先端は既に
硬く尖っていた。
「……そんなにじっと見ちゃ、やだ…!」
そう言い、フェルパーが身を捩る。
「ああ、ごめんごめん。魔が差したっていうか、つい見惚れちゃってね」
言いながら、フェアリーは再び手を伸ばす。フェルパーの耳はもはや完全に寝てしまっているが、彼女が抵抗する気配はない。また、
尻尾は何か期待するかのように、くねくねと艶めかしく動いている。
手が触れる。フェルパーはピクッと体を震わせ、固く目を瞑る。そんな彼女を見つめながら、フェアリーはゆっくりと手を動かす。
「はぅ…!はぁ……はっ…!は、あ…!にゃっ…!」
「柔らかいし、温かい。触ってる僕も気持ちいいな」
「やぁ〜……そういうの、言わないでぇ…!」
「褒めてるんだぜ?恥ずかしがる必要ないって」
全体を包み込むように触り、硬くなった先端を指で挟む。フェアリーが指を動かす度に、フェルパーは敏感に反応し、可愛らしい声を
あげる。それだけでも、フェアリーにとっては十分に気持ちを昂らせてくれるものだった。
「どう?気持ちいいかい?」
「あ、あ…!そんなの……い、言いたくな……にゃあっ!?」
片手を放し、フェアリーは彼女の胸に吸いついた。フェルパーの体がビクンと跳ね、その手は彼の頭に当てられる。
だが、押しのけるような気配はない。ただ彼の頭に手を当て、フェルパーは熱い吐息を漏らす。
強く吸いつき、舌先で乳首を転がすように舐める。頭に当てた手に、時々強く力が入る。しかしそれは、
彼を押しのけようとする動きではなく、むしろ彼の頭をより強く押し付けるようなものだった。
「にゃぅぅ……私、君のお母さんじゃないよぅ…!あっ…!」
「ん……いや、誰もそんなの求めちゃいないから。気持ちいいだろ?」
「あう……そ、そんなの、わかんないぃ…!」
「強情だな君も。ま、聞くまでもないことではあるね」
空いている片方の手を、スカートの下に潜り込ませる。途端に、フェルパーはその手を押さえた。
「あっ!やだっ!」
そこは既に、ブルマの上からでもわかるほどに濡れていた。紺色の生地の中心に、じんわりと染みが広がっている。
「ここ、こんなになってるもんな」
「あぁ……言わない、でぇ…!恥ずかしいよぉ…!」
「にしても、君これ気に入ってるんだねえ。あげた僕としても、気に入ってもらえるのは嬉しいよ」
押さえられているとはいえ、彼女の手にはほとんど力が篭っていない。ブルマの上から秘部を擦ると、途端にフェルパーの体が
仰け反った。
「にゃあっ!はーっ、はーっ…!あ、んぅ…!」
快感に翻弄されつつも、フェルパーは必死に声を抑えようとする。そんな彼女をいたぶるように、フェアリーはブルマの中に
手を差し込み、割れ目に直接触れた。
「うあっ!?や、やめ……ぇあ…!」
くちゅ、と、湿った音が響く。フェアリーは大きく指を動かし、わざと大きな音を立てる。
「やだ、ぁ…!音立てちゃ、や……いっ!?」
つぷっと、中指を彼女の中に沈みこませる。さすがに痛かったらしく、フェルパーの体は仰け反ったままぶるぶる震えている。
「痛かったかい?こんなに濡れてるから、大丈夫かと思ったんだけどな」
フェアリーは指を引き抜くと、それを彼女の目の前に突き付けた。指を開くと、その間に愛液がねっとりと糸を引く。
それを見た途端、フェルパーの体がかあっと熱くなり、耳の内側までもがはっきりわかるほどに赤くなった。
「やぁー!そんなの見せないでぇ!」
フェルパーはいやいやをするように首を振り、ギュッと目を瞑ってしまう。危険人物だとはいえ、年相応の女の子の振る舞いをする
彼女は、やはり可愛らしい。
「ま、見ての通りになっちゃってるからさ。そろそろ下も脱ごうか?いい加減、僕も限界きそうだし」
「ぬ……脱ぐの…?」
「脱がなきゃ続きもできないし。君だって、もっと気持ちいい思いしたいだろ?」
「………」
フェルパーは答えない。だがその目には羞恥だけでなく、ある種の期待も混じっているようだった。
ブルマとショーツを一緒に掴み、反応を確かめるようにゆっくりと引き下ろす。フェルパーは抵抗せず、黙って尻尾をまっすぐ下に
下ろした。
秘裂との間に糸を引きながら、ブルマとショーツが引き下げられる。フェアリーはそれをまとめて丸めてしまうと、ベッドの下に
ポンと放り投げた。そして、自身も着ているものを脱ぎ捨てる。
のしかかるように体を寄せると、フェルパーは少し身を引いた。
「逃げるなよ。別に取って食うわけじゃないんだし」
「うぅ〜……や、やっぱり怖いよぉ…」
「さっき痛くしちゃったからかい?大丈夫だって、僕のそんなにでかいわけじゃないし……言ってて悲しくなるけどね」
「……なんで?」
「いや、こっちの話。とにかく、もっと気持ちよくしてあげるからさ。じっとしててくれよ」
そう言い、フェアリーはフェルパーの足に手を掛ける。だがそこで、フェルパーは彼の手を押さえた。
「ほ、ほんとに痛くない?気持ちいいだけ?痛いのやだよ?ほんとに痛くないよね?」
「えーと……少しは痛いかもしれない……けど、最初だけだよ。……たぶんね」
さすがにフェルパーは不安そうだったが、フェアリーが有無を言わさぬ勢いで彼女にのしかかる。そして自身のモノを、彼女の秘裂に
押し当てる。
ゆっくりと、腰を突き出す。少しずつ秘唇が開かれ、彼のモノが飲み込まれていく。
「あっ、あっ!あぁっ!あっ……あああーっ!!」
悲鳴とも嬌声ともつかない声を上げ、フェルパーの体が仰け反る。フェアリーは一瞬躊躇い、しかしすぐにまた腰を突き出していく。
だが、半分も入らないうちに、フェルパーは膝を締め、必死にフェアリーを押し返そうとする。さすがにそこまで抵抗されると、
フェアリーも無理をしようという気にはなれず、一旦動きを止めた。
「フェルパー、大丈夫かい?」
「うぅ〜…!痛い〜……痛いよぉ…!さ、最初気持ちよかったのにぃ…!痛くしないでぇ…!」
「そっか、最初は気持ちよかったのか」
そう聞き返してみるも、フェルパーはあまり余裕がないらしく、ただこくこくと頷くだけである。
「じゃ、痛くない範囲で動くよ。辛くなったら言ってくれ」
思い切り奥まで突き入れたい衝動を何とか抑え、フェアリーはごく浅い部分で腰を動かす。
抜ける直前まで腰を引き、再びゆっくりと突き入れる。ほとんど先端しか入っていないが、その分亀頭部分が擦れてクチュクチュという
湿った音が響き、二人を昂らせる。フェルパーは相変わらず荒い息をついているが、徐々に抵抗はなくなってきていた。
それを見て取ると、フェアリーは少しずつ動きを強めていく。先端しか入らなかったのが、半ばまでを受け入れるようになり、
その先の硬さも消えていく。より強く感じる彼女の体温が、フェアリーに強い快感を与える。
「んっ!あぅっ!う……んなぅ…!んにっ!ふ、にゃぅ…!」
フェルパーの声は、悲鳴から喘ぎへと、そして喘ぎ声といったものから、だんだんと猫の鳴き声に変わっていく。
「フェルパー、どうだい?平気かい?」
「んにゃ……へ、へいき……あっ!で、でも……んんっ!あんまり、強く…」
「じゃ、大丈夫かな」
言うなり、フェアリーはフェルパーの腰を掴むと、思い切り腰を打ちつけた。
「うあぁっ!?いっ……あぁっ…!」
フェルパーの体がビクンと跳ね、口からは明らかな悲鳴が漏れる。しかし、その顔には苦痛というよりも、むしろ快感の表情が
浮かんでいた。
「くぅ……君の中、すごく温かくてきつい…!うあ、あんま動けないな…!」
「んっ……あう!あ、あんまり……強く、しないでぇ…!お、おっきすぎて……お腹、きついよぉ…!」
少しは辛いらしく、荒い呼吸の合間に何とかそう言うフェルパー。途端に、フェアリーの顔に笑みが浮かぶ。
「そっかあ、大きくてきついのかあ……あーっ、君ほんっと大好きだ!」
「んにゃっ!?」
突然、フェアリーはフェルパーを強く強く抱きしめた。フェルパーは状況がよくわかっていないようで、目をパチクリしている。
「可愛いなあ、君はほんと!まあとにかく、気持ちよくさせてあげるから、いっぱい楽しんでくれよ」
「え?う、うん……んっ、あ、あっ!」
ゆっくりと腰を引き、やや強めに腰を突き出す。最初こそ、フェルパーは悲鳴に近い声をあげていたが、数回繰り返す頃には、
既にその声は嬌声へと変わっていた。
「んにゃあっ!あうっ!にゃっ!や、やぁ……うぁっ!は、激しいよぉ!」
「はっ、はっ……でも、気持ちいいだろ…!?」
「うあぁっ!い、痛いってばぁ…!あんまり……あぁっ!激しいのは、やだぁ…!」
嘘ではないのだろう。しかし言葉とは裏腹に、尻尾は彼の腰に巻き付き、ぐいぐいと自分の方へ引きつけている。
「その割には……くっ!この尻尾は、何だい…!?」
「やぁぁ……だ、だって、それは……んにっ!勝手に……なっちゃうんだもん〜…!あんっ!」
パン!パン!と大きな音が響く。秘裂からは愛液が溢れ、フェアリーが動く度、彼の腰とフェルパーの肉付きのいい尻に幾筋もの糸を引く。
それだけに留まらず、結合部から滴り落ちる愛液が、シーツに大きな染みを作っていた。
二人の体はじっとりと汗ばみ、蒸れた匂いが鼻孔をくすぐる。フェアリーの動きは徐々に大きく荒くなり、それに従ってフェルパーの声も
次第に大きくなっていく。
「くぅぅ……君の中、すっごく締め付けてくる…!」
「うああっ!!んにっ!!あうっ!!お、お腹にずんずん来るぅ!!激……しい、よぉ!!」
もはやフェルパーの声に苦痛の色は全く無く、激しい行為にも快感しかないらしい。その声に促されるように、フェアリーはさらに強く
腰を打ちつける。
「うっ……フェルパー、ごめん!もう出そうだ!」
「うあぅ!あっ!で、出るって何……あっ!?うあぁ!?」
ドクンと、フェルパーの中で彼のモノが跳ね、熱いものが体内に注ぎ込まれる。
「んにゃあっ!お、お腹にあっついのがぁ!!お腹ぁ、あ、熱いぃ!!あ、頭ん中真っ白にぃ!!んにぃー!!んに、あああぁぁぁ!!」
叫ぶと同時に、フェルパーの体が弓なりに反り返り、ガクガクと震える。
膣内が精液で満たされる感覚。それはすぐに快感に変わり、全身へと広がっていく。それと同時に、発情期になってから満たされなかった
疼きが、快感で満たされていくのを感じた。
やがて、フェアリーは全てフェルパーの中に注ぎ込み、その余韻に十分浸ってから、ゆっくりと自身のモノを引き抜いた。
「んにぁ…」
小さな鳴き声を上げ、フェルパーの体がピクンと震える。そして、彼女はフェアリーをじっと見つめる。
「はぁ……はぁ……ふぅ。フェルパー、どうだい?気持ちよかったかい?」
「………」
返事はない。疲れているか、快感の余韻に浸っているのだろうと判断し、フェアリーは特に気にしなかった。
だが、改めて彼女の顔を見たとき、フェアリーは背筋がゾクリとするのを感じた。
フェルパーの目は、さっきまでのそれではなかった。その目に満ちているのは、快感の余韻でも恥じらいでもなく、強い狂気だった。
射精後の冷めた頭で、フェアリーはそれまでの状況を思い返した。
彼女は自分の欲求に、限りなく忠実である。今のフェルパーは発情期であり、性的な快感の欲求が殺人の欲求を上回るほどに強まっていた。
だからこそ、彼女は今までのように自分を殺しにかかってきたりは一切しなかった。だが、今その欲求を、自分は満たしてしまった。
ならば、それがなくなった今、今度は何を考えるか。そして、彼女は自分をどう見ているか。
その答えが出るより一瞬早く、フェルパーが跳びかかった。
「うわっ!?」
両腕を足で押さえこみ、フェルパーはフェアリーの腰に座る。イノベーターと呼ばれるだけあり、そこらのバハムーンよりも強靭な
筋力を持つ彼女に、ただのフェアリーである彼が抵抗することは不可能だった。
獲物をいたぶる猛獣の目で、フェルパーは彼をじっと見下ろす。そして、ゆっくりと背中に手をやった。
「な、何するんだ!?おいフェルパー、放…!」
闇の中で、金色の目が爛々と光り、その隣でダガーの刃がぎらりと光った。手当たり次第に物を投げた時も、これだけは
手放さなかったのだ。
「お、おい……何するつもりだよ…!?じょ、冗談きついぜ…!?なあ、おい、よせ……や、やめてくれ!頼むよ!おいフェルパー!」
フェルパーは答えず、代わりにぞっとするような笑みを浮かべた。
ゆっくりと、刃がむき出しの胸に押し当てられる。冷やりとした感触が、フェアリーに強い恐怖感を与える。
「や、やめろ!!やめろぉ!!フェルパーやめてくれ!!助けてくれ!!おいフェル…!」
刃を一層強く押し当てる。それに押され、胸の皮が凹んだ所で、フェルパーはすぅっとダガーを引いた。
「うあっ……ぎゃあああぁぁ!!!」
部屋の中に、フェアリーの絶叫が響く。ダガーが引かれた後には微かな線が入り、やがて血が丸くぷつぷつと浮かび上がり、それらが
繋がって一つの線となっていく。その線はゆっくりと伸びていき、胸を通り、腹へと移っていく。
「うあああぁぁぁ!!!やめろぉ!!!やめてくれえぇぇ!!!ぎゃああぁぁ!!!」
極めてゆっくりと、腹が切り裂かれてく。じわじわと広がる激痛にも、フェアリーは抵抗もできず、ただ叫ぶことしかできない。
その声を聞きながら、フェルパーはますます狂気に満ちた笑みを浮かべる。しかしダガーの動きだけは、変わらずゆっくりと腹を
切り裂き続ける。
臍の上まで刃を進めたところで、フェルパーはようやくダガーを離した。フェアリーの体には真っ赤な血の線が刻まれ、苦痛の脂汗が
全身に浮かんでいる。
「い……たい…!フェルパー……頼むから、もう、やめてくれ…!」
「………」
必死の哀願にも、フェルパーは答えない。代わりに、猫特有の柔らかさでグッと体を屈め、フェアリーの臍の辺りに顔を付けた。
ひたりと、腹に湿った感触。見ればフェルパーが舌を出し、腹につけている。だが、その感触は柔らかいだけでなく、なぜかチクリと
微かな痛みを伴っていた。
その理由を探ろうと、フェルパーの舌を見た瞬間、フェアリーはぞっとした。そこには、猫と同じく真っ白な棘が大量に生えていたのだ。
「な……何をするつもりっ…!?」
言い終える前に、フェルパーは舌全体を使って、ダガーで切り裂いた傷口を強く舐め上げた。
「うあっ……ぐあああぁぁぁ!!!」
再び、フェアリーの絶叫が響く。やすりのような舌で傷口を舐められ、それこそ肉をこそげ落とされる激痛が走る。しかも、
フェルパーは舌で傷口を押し開き、中の肉を削ぐように舐めているのだ。
気絶すら許されない激痛に、フェアリーはただただ悲鳴を上げる。やがて、フェルパーは傷の終わりまで舐め上げると、ゆっくりと
顔を離した。その舌は真っ赤に染まり、棘には削がれた肉片が僅かに付着している。さらに、終始浮かんでいる狂気の笑みは、
彼女が快楽殺人者だと示すのに十分なものだった。
「やめ……て、くれ…!フェルパー……頼むから……助けて…!」
息も絶え絶えになりつつ、フェアリーは何とか口を開く。もはや命乞いをすることに躊躇いなどなく、ただただ助かりたいという
思いだけが彼の心を支配していた。
そんな彼を、フェルパーは笑みを浮かべたまま見下ろしていた。が、不意にその笑みが消え、代わりに唇を尖らせ、頬を膨らませた、
不機嫌な女の子の顔になった。
「……つまんないー。つーまーんーなーいー!」
「……は、はい?」
突然の言葉に、フェアリーは思わず間の抜けた声で聞き返した。
「つまんないのー!つまんないー!」
「な……何、が…?」
「だって!君、強いのにすぐ諦めちゃうんだもんー!抵抗しない相手殺してもつまんないのー!危ないときの方が楽しいのにー!
抵抗しなくなるのダメ―!危ないの楽しもうよー!」
「あ……そ、そう……それは……悪かった、ね…」
抵抗しなかったからこそ助かったのだと思うと、フェアリーは改めて背筋がぞっとした。必死の抵抗をしていれば、恐らくは今頃
これ以上の激痛の中で嬲り殺されていただろう。
その時、ふとフェルパーの目から狂気が消えた。
「……でもね、変な気分なの。君のこと、すっごく殺したいの。でも、殺したら君いなくなっちゃう。だから、殺したいのに、
殺したくないの。すっごくすっごく殺したいのに、君がいなくなるのはすっごく嫌」
そっと、フェルパーが足をどける。そして、フェアリーの顔を両手で優しく包み込んだ。
「だからね、もっともっと強くなって。もっともっと殺したくなるくらい。もっともっと殺せなくなるくらい。それで、
危ないのを楽しめるようになるくらい。ね、約束だよ?」
「……わ、わかったよ」
「ほんとだよ!?だからね、約束の…」
言いかけて、なぜかフェルパーは顔を赤くすると、フェアリーから視線を外す。
「……な、何でもない!あ、でも……えっと、あの……う〜、やっぱり何でもない!」
「な、何だよ?言いかけてやめないでくれよ。気になるだろ?」
少しずついつもの調子を取り戻し、フェアリーが尋ねる。すると、フェルパーは耳を倒し、横目でフェアリーを見つめる。
「あの、だから……んみぅ〜……あの、えっとね?えっと、約束……だからね?」
「いや、それはわかったって…」
「だ、だからっ!約束のっ……えと、約束の……約束っ、だからっ……約束したいの!」
「だからわかったって…」
「や、約束なんだからっ、誓いのことするのーっ!!」
そう叫ぶと同時に、フェルパーはフェアリーに飛び付き、唐突に唇を重ねた。
フェアリーが呆気にとられている間に、フェルパーはささっと離れると、頭から布団に包まってしまった。
「やっちゃったぁー!チューしちゃったよぉー!!んにーぃ!!」
「………」
今更それが恥ずかしいのか、とフェアリーは聞きたかったのだが、もうそんなことをする気力すら失われていた。
「あ、あのねあのね!チューしたのね、今のが初めてなんだよ!」
「……僕もだよ…」
初めてのキスが自分の血の味になったと考えると、フェアリーは非常にやるせない気分になった。しかも、とても強引に唇を奪われ、
雰囲気も何もあったものではない。
「あ、でも、もう帰ってほしいな…!」
「こ、こんな傷作って、好き勝手しておいて、帰れって…!?」
「だってぇー!君が部屋から出てくの見られたら、恥ずかしいんだもんー!だから帰ってー!もう帰ってー!」
「………」
断ってもよかったが、それはそれで危険な臭いがした。それに、自分の部屋でゆっくり休みたいという気持ちも、少なからずある。
仕方なく、フェアリーは傷の痛みを堪え、何とか立ちあがった。流れる血をハンカチで拭い、服を身につけ、部屋のドアを開ける。
そこで、彼はふとフェルパーの方へ振り返った。
「……なあ」
「んー?」
「明日はちゃんと、ご飯食べに来るかい?」
「ん、行くー!うずうずしてたの、もうないもん!だからね!多分もう平気!」
「そっか、ならいいんだ。じゃ、おやすみ」
「おやすみー!」
あながち、無駄なことでもなかったかなと、フェアリーは思った。少なくとも、この危険人物の行動が把握できなくなるようなことは、
しばらくないだろう。発端は自分の欲望を満たしに行っただけだが、収穫らしきものはあった。
おまけに、フェアリーの懐き具合が、良くも悪くもさらに深まってしまった。とはいえ、さっきの態度を見る限り、この先今までのように
命を狙われることは減るかもしれない。
「……やっぱり、魔が差すのも悪くはないよな〜」
そんなことを呟きながら、フェアリーはただ一人、部屋へと向かって飛んで行くのだった。
翌朝、一行は転科の済んだエルフを加え、久々に六人揃っての朝食をとっていた。問題児三人はともかく、風紀委員の二人としては、
やはりエルフがいた方がホッとする。
「いやー、それにしてもその恰好。精霊使いっていうよりは、まるで吟遊詩人みたいだね」
フェアリーが言うと、エルフもまんざらではないらしく、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「まだ、ハープの扱いは練習中ですわ。でも、月夜に湖の畔で弾き語りでもできるようになれれば、最高ですわね」
「ああ、いいねえそれ。私もそれ聞いてみたいよ」
「……下手くそが何やったって、下手くそにゃ変わりねえよ」
せっかくの和やかな雰囲気を、ドワーフがあっさりと破壊する。
「うるさいですわ!第一、まだ聞いてもいないのに下手だなんて…!」
「じゃ、うまく弾けるのかよ」
「それはっ……まだ、練習中ですわ…」
「下手くそ」
「あなたこそ、最初はその斧をまともに扱えなかったのではなくって?それこそ、戦士という割には、下手くそな扱いでしたわ」
「……んだと?」
スペアリブの骨が、ガリっと噛み砕かれる。セレスティアが慌てて間に入ろうとしたが、ドワーフは手を出したりはしなかった。
「言ってくれるじゃねえか、このくそ妖精が。今日はいつにも増して、くっせえ臭いさせてやがるくせによぉ」
「またそれですのね。香水の一体どこが…」
「香水じゃねえよ。さっきから、この辺が精液臭えのに気づいてねえのか」
「なっ、なななっ…!?」
思わずうろたえるエルフ。それと同時に、フェルパーがガタンと音を立てて立ち上がった。
「っ…!」
その顔は真っ赤に染まり、やはり耳の内側まで真っ赤になっている。一行はまた彼女が部屋に逃げ帰るかと思ったが、フェルパーは
しばらくドワーフの顔を見つめ、そのまま静かに席についた。
ドワーフは彼女を見つめていたが、やがて気のない風に視線を逸らした。そして、ぽつりと呟く。
「……しっかり洗わねえからだ」
「ちゃ、ちゃんと洗ったもんー!」
それを聞いた瞬間、ドワーフの顔に意地の悪い笑みが浮かんだ。
「かかりやがった、馬鹿が」
「あ…」
途端に、フェルパーの腕までが真っ赤に染まった。自分から秘密をばらしてしまったという事実に、フェルパーは泣きそうな顔に
なってしまう。
「さっすが、盛ってただけあるなあ?相手は誰だ?セレスティアか?」
ゆっくりと、エルフがセレスティアを睨みつける。
「いや〜、私、口で言うより行動で示す方が好きなんだけど、神に誓って違うよ、ほんとに。だから委員長も、その目やめて」
「……おい、ドワーフ。一体何が『かかった』んだ?」
そう尋ねるのはバハムーンである。彼一人、一体何の話をしているのかわかっていなかったらしい。
「てめえは、ほんっとにおつむの足りねえ野郎だな……てことは、てめえでもないか」
「おい、俺の質問に…」
「わかったわかった。こいつがヤッてなかったら、精液臭えのはしっかり洗ってねえからだって言っても、してないって言うだろ?
なのに、こいつはしっかり洗ったって返したんだ。てことはつまり、ヤッたってことだろ」
「……なぜそうなる?」
「てめえの頭は飾りか!?中身入ってねえのか!?……ちっ、いいか!?説明してやるからよっく聞け!」
誘導尋問の講義を始めたドワーフとバハムーンを無視し、エルフとセレスティアはフェアリーを見つめる。その本人は、誰とも目を
合わさないようにしながら黙々と食事を続けている。
「……フェアリー」
エルフの声に、フェアリーの肩がビクッと震える。
「あなた……何か覚えがあるんですの…?」
「……魔が差した」
「恋の時期を利用するなんて、最低だと思いませんの?」
「……委員長と副委員長だって、することはしてるだろ?そこの二人だってそうだし、僕一人責められるのはどうなのよ」
「でもねえ、君のそれは明らかにずるいでしょ。せめて、正面から堂々といくぐらいはさぁ…」
その時、フェルパーがエルフの袖を引っ張った。
「い、いいの!別にいいのー!だって、その、別に悪いことしてないもん!」
「フェルパー……あなたは、彼に利用されたんですのよ?それを…」
「だ、だから平気なのー!だ、だって、だって…!」
フェルパーはちらりとフェアリーを見つめ、そしてギュッと目を瞑ると、大きな声で言った。
「わ、私!フェアリーのこと好きだもんっ!」
一瞬、学食の中がシンと静まり返った。ややあって、誰かがひゅう、と口笛を吹くのが聞こえた。
「……やりやがった……この子やりやがった……ははは〜、魔が差したんだろうな〜…」
魂が抜けたような顔で呟くフェアリーに、エルフは呆れたような笑みを送る。
「……大変そうですわね。まあ、好かれているというなら問題ありませんわ。ついでに、フェルパーのことはあなたに任せますわね」
「ははは〜、絶対そう来ると思ったよ……あ〜、幸せってどっか落ちてないかな〜…」
セレスティアは慈愛と同情の入り混じった笑みを浮かべ、翼でぱたぱたと自分の顔を煽いでいる。
「お熱いねえ、はは。ま、君なら何とか、うまくやれるでしょ。フェルパーのこと、よろしく頼むよ」
「ははは〜、副委員長にまで頼まれちったぁ。ああみんな、僕強く生きるよ…」
「……んみぅー、フェアリー、大丈夫?」
不安そうなフェルパーの声に、フェアリーは一瞬にして我に返った。
「え?あ、ああ。平気平気。うん、もう大丈夫」
「よかったぁ!だってさ!元気ないの殺してもさ!面白くないもんね!」
「……そうだね、面白くないね。でも、君には絶対殺されないからな」
「私以外にも、絶対ダメだからね!君殺すのは私なの!」
殺伐とした二人の会話に、セレスティアとエルフは顔を見合わせる。
「……これ、本当に大丈夫かな…?フェアリー、クロスティーニで留守番してた方がいいんじゃないかい?」
「今更遅いですわ……自業自得の面もありますし、今以上に強くなってもらえばいいだけの話ですわ」
その時、ようやくバハムーンへの講義を終えたドワーフが、エルフの方へ向き直った。
「おっとー、うやむやで終わらしちまうとこだったけどな。てめえ、昨日一発ヤッてるだろ」
「ぐっ……そ、そんなのあなたには関係ないですわ!このけだもの!」
「へーえ?風紀委員長様が風紀を乱すような真似してるのに、そんな口を利くのかよ」
「うぐっ…!ふ、風紀を乱すような真似ではありませんわ!在学中の結婚は禁じられていても、それ以外は禁じられていませんわ!」
「ほー。さっすが規則を守る委員長様だなあ。規則になけりゃ、何やってもいいわけだ」
「誰もそんなことは言ってなくってよっ!」
相変わらずの喧嘩を始める二人。それを止めるセレスティア。我関せずのバハムーン。そこまでは、いつもの光景である。
だが、今ではフェルパーがフェアリーを見つめる視線に、今までにはない熱が篭っている。それに対するフェアリーも、以前ほどには
軽い態度ではない。
その関係は、ほぼ狩るものと狩られるものに近い。だがそこには確かに、一つの絆が生まれていた。
ぼんやりと、しかし確かにそこにある。ともすれば見失いそうなほどに薄い、だが揺らぐことのないもの。
それぞれ理由は違えども、今の彼等は同じ一つの指標を目指していた。
愛する者のため、自身を高みへと上げるため、身を守るため、獲物を狩るため、ただ、強く。
目指すものが一つとなったこの日以降、彼等は急速に力を付けていく。その飛び抜けた力ゆえに、英雄と呼ばれるほどに。
以上、投下終了。
名前欄は長すぎると弾かれるんですねえ……本当は「満月の夜の〜」だったんですが、ギリギリ入らなかったようで。
後の方のサブタイトル、どうしたものか。ま、後で考えようw
それではこの辺で。
GJです!軽薄かつ誠実なフェアリーがイイ!骨にかじりつくドワ子可愛い!
この話はGWに入って1日目の話
恋愛に疎いフェル男と恋するセレ子の話です。
GWに入ってに1日目の夜―。
フェル男のクラス全員がジェラートタウンにある宿を貸切での大騒動。
食い物を食べ尽くし、飲み物を飲み尽くし、挙句の果てには歌いだすものまでいる
「いよっしゃー!!俺の歌を聴けーー!!」
真っ先に歌いだすのはバハムーン男のバハ男(職業:アイドル)
「なにをーー!!僕だって負けないぞーー!!」
バハ男に負けず歌いだすフェアリー男のフェア男(職業:アイドル)
「いつもの事ですけどいつも以上に騒がしいですね、そう思いませんか?フェル子さん」
フェル子に話しかけているセレスティア男のセレ男(職業:魔法使い)
「そうでござるな…全く少しは落ち着かないものか…」
フェル男と同じ職業のフェルパーの女の子がまるで当たり前のように言う、名はフェル子(職業:剣士)
「これは、ここの主人は哀れになってくる気がするな…」
「せやな…こら明日は廃墟になる恐れがあるで…」
そういいながら、残っていたジュースを飲み干し、おかわりしようとすると…
「おい、大変だ!ディア男とディア子とドワ男とノム男が乱闘を始めたぞ!!」
ヒュム男がそう言って、外を見てみると確かに4人が乱闘している。しかし何故外でやる…
ドワ男の突撃に対してディアボロスの女の子のディア子(職業:人形遣い)の魔法壁で跳ね返される。
ディアボロスの男の子のディア男(職業:死霊使い)の死霊攻撃に対して、ノム男の軽いフットワークでかわす。
「近所迷惑で訴えられそうやな…わいら」
「そうならない事を祈ろう…」
そう言いつつ、さっきの場所まで戻ろうとすると
「あれ?セレ子はん…寝てはるな…」
「ヒュム子まで寝てるな」
セレ子とヒュム子のいるテーブルを見ると、寝息を立てて熟睡しているセレ子とヒュム子の姿があった
「2人とも疲れたんかいな…よー寝てられるわ」
「あれ?セレ子お姉ちゃん寝ちゃってるよ〜?」
「ヒュム子さんまで…2人ともちょうどよかったですわ」
「ん?なんや」「なんだ?」
「お二人を部屋まで運んでくださらないかしら?セレ子さんはフェル男さん、ヒュム子さんはエル男にお願いしますわ」
「わかった」
そういって、エル男はヒュム子を抱いて2階にある部屋に向かっていった
一方フェル男はまだ実行してなく…
「わいがセレ子はんをでっか!?」
「逆というわけにはいかないでしょう?」
「そらそやけど…はいはい、わかりやしたしっかり寝かせてあげへんとな…」
「ついでに襲っちゃえ〜!!」
「なんでそうなるんや!?」
この2人もバハ子やノム子のようにいうなぁと思いつつセレ子をお姫様抱っこの形で2階へと上がっていった。
「これでよし…っと」
宿屋の布団にセレ子を寝かせ、フェル男は肩を回す
下ではまだ宴会騒ぎ。特にバハ男とフェア男の歌声にアンコール!やブーブーが聞こえ
外ではまだ、4人の乱闘が続いている。
「しっかし、あん時はちゃんと見れへんかったけど…」
今のフェル男にとっては、この騒ぎはどうでもいい事だが…
「ちゃんと見ると…わいも春が来たんかなと思ってまうわ…」
そう彼は彼女はいない。これまではずっと一人身だったのだ。
あの事件以降のバレンタインで実は彼女は出来ていた。彼には自覚がないのだが…
しかしフェル男とセレ子の進展はフェル男の恋に関して疎いせいで、あまり進展なし。
あったとすればホワイトデーの彼女の見舞いぐらいか。
しかし、クラ子の先程…
(ついでに襲っちゃえ〜!!)
の無茶苦茶な言葉が、ぐるぐると頭をループする。
(襲うんか…?いやだめやろ…いくらなんでもいきなり襲うってのは…)
正直フェル男も少しセレ子を気になり始めていた。同じ戦士系のせいか?
しかし、フェル男とセレ子のパーティーは別々。別々というのが嘆かわしい。
「くだらん事考えてもた…続きやりますか…」
これ以上変な事考えてると本当にセレ子に襲いかねない…
襲いかねないように、一刻も外に出ようと歩き出そうとするが…
「ん・・・う〜ん」
なのに彼女は絶妙なタイミングで眼を覚ます。
「ん?」
「あれ?フェル男さん…?如何して私布団の上に…」
「よお、起きはったか」
「もしかして…私寝てました?」
「ああ。下じゃまだ宴会や」
そこまで喋ってから、彼は回れ右で振り向く。
眠気眼を向ける彼女は、さらに可愛らしく映った。
「あっと…じゃ、わい戻るから」
「あ、あの、行っちゃうんですか?」
「ん?」
「えと…一人じゃ寂しいんです…」
「……へ?」
引き止められたフェル男は、まだこの部屋にいたが
(えっと、わい…どないしたらええんやろ?)
恋愛に関して疎いフェル男にはどうしたらいいかわからない…
ホワイトデーの時は夕方で看病&バレンタインデーのお返しだったが
今はなにもなく、しかも夜もふけた深夜である。
(多分エル男やったら、ヒュム子を襲ってるんやろな…)
しかしエル男とヒュム子の声は聞こえない、その様子だとエル男もヒュム男と同じ状況だろう
「あの…」
「あ、ああ!なんや!?」
沈黙を破ったのはセレ子の方だった。
「さっき…フェル男さんは何を考えてたのですか…?」
「へ!?(まさか、わいがセレ子はんを襲おうとした事を聞かれてた!?)」
フェル男は一瞬驚きはしたものの
「い、いや何、くだらん事や…気にせんでええ…」
「そうですか…でもこの状況だと…男性は襲うとなんかの本に書いてあったので…」
「い!!??」
「襲われるのは嫌です…でも相手がフェル男さんなら、私襲われてもいいです…」
「い、いや…そんな事せーへんから…という保障はあらへんけど…」
「それじゃあ、私待ってます…いつかあなたに襲いに来る事を…」
「いやいやいやそれじゃあ、わいが変態みたいやで!?」
そういう会話しつつ、夜も更けていく…
フェル男とセレ子の恋まではまだまだ遠い…
一方、宴会場では…
「何も声がない…フェル男さん、失敗しましたね…」
「いやいや、恋はまだ始まったばかり、これからも見守っていこうじゃないか」
「いつのまに、ノム子さんまで加わってるの…?」
そう、今回の企みもノム子。エル子とクラ子まで混じっての計画。
「俺の歌を聴けーーー!!」
「うるさいですわ!!」
「ふごっ!?」
また、別の話…。
どうも
>>38の者です。前回は流石にgdgd過ぎました…
フェル男とセレ子の後の展開はどうするか…
その時はその時でいいや(なげやり気味)
今日はこの辺で失礼します〜。
方言キャラはいいんだけどさ。いろいろ妄想膨らむけどさ。実際新しい扉が開きそうなくらいなんだけど。
伺いたいのだがウプ主(で合ってる?)は一人称が“わい”のフェルパーの絡みを見て胸がときめくのか?
>>297 GJ!フェル子がんにんに言うのがすごくかわいい
それにしても8スレ目終盤にして、とうとうフェア男に春が来たw
>>302 登場人物が多いからなのか、どれが誰のセリフかわかりづらいかも
さあつべこべ言わずに続きを書くんだ!全力で楽しみにしてる
規制のせいで本スレにもキャラスレにも書き込めない
アスティもカテリーナもGJ先生すらも仲間にならない2Gなんて…
305 :
1:2010/05/17(月) 21:39:17 ID:SkZu5BKr
ただいま458kb使ってます。残り50kb切ってしまったようなので、
御用とお急ぎの無い方は、次スレの用意をお願いします。
ちなみに私は「このホストでは云々」でした。
お役に立てず申し訳ありません。
>>38の者です。今回は質問に答えるタイムです。
>>305は質問とは関係ありません。
>>303 うーん?おかしいですかね…?1人称がわいのフェルパーは…?
女フェルパーにやらせてもおかしく感じますし…男フェルパーが適してると思ったんですよ。
なにか変えたほうがいいですかね?
>>304 キャラがわかりにくくてすみません。
ほとんどは出番があまりないキャラなんですが…
登場キャラを絞ったほうがいいですかね?
>>305 ありゃ?もう少ないのか?新しいスレじゃ8スレ
>>38と名乗るか…
立ててみる
>>38さんがイケルんならアリ。俺が悪い。
ただ関西弁はグロンギ語なんかと違って実際に使ってる人のいる言語だって事は伝えたい。
例えば“ウチ”って言う女の子じゃダメなのか?
>>38さんの出身地がどこか知らないけどそこの方言では?
不慣れな言葉使ってそのせいでストーリーの本質と関係ない部分に違和感持たれんのは損だと思う。
エルフはドワーフ語が嫌いって設定あるし
方言ドワーフを「田舎臭い」とか言って罵るエルフとか面白そうかも。
・・・ちょっとほとばしってきた。
>>38がいいって言ってくれたらこれで書いてみたい。
好みは人それぞれだろ
好みに合わなかったらそこだけ脳内変換するのが吉
>>308 乙!
次スレの
>>2です。こちらの埋め立て用に、次スレ2以降の続編を投下します。
初夏のけだるい昼下がり...
ノームはフェルパーとの待ち合わせ場所である食堂へ急いでいた。
(はぁ、はぁ、フェルパーさん、いつも時間前に来てるから急がないと。待たせちゃいけない..)
ところが渡り廊下を抜け、食堂へ曲がる角を回った瞬間何者かに殴られ、気を失ってしまった。
「ぐわ!!」
不意をつかれ、相手を確認する間もなくばったり倒れるノーム。
「..悪いな、ノーム。少しの間だけおねんねしててくれよ...」
目を覚ますと、自分が実験室の柱に縛られていることに気がついた。
「う、うーん..」
「気がつきましたか、ノーム君」
「..ヴェーゼ先生にガレノス先生..それにお前!!」
「すまん、ノーム。これも依頼された仕事なんだ。依頼主が依頼主だから断れなくて..」
目の前にはヴェーゼ先生、ガレノス先生、そして両手を合わせて苦笑いするノームのクラスメイトが
並んでいた。
「何をするつもりですか?僕は何も悪いことはしていない!!」
もがきながら抗議するノーム。
「そう..あなたは何も悪いことはしていない..むしろ良いことをしてくれました。その件で
用があるのです」
ヴェーゼ先生の言葉の意味を今ひとつ飲み込めないノームにガレノス先生が説明する。
「キシシシ..先日治療したフェルパーさんの件です。あれだけの重傷ならば、いくら生命力に優れている
フェルパーと言えど、動けるようになるまで2-3週間はかかります。しかしあの子は1週間で通常の練習に
復帰できるほど回復してしまいました。その原因について、あなたは何か知っているのではありませんか?
キシシシ..」
「その秘密が解明されれば医学の進歩に大きく貢献することになります。さあ、ノーム君..、知っている
ことがあれば話してください。私はこの疑問が気になって夜も眠れないのです」
「そんなこと言われても..僕は特に何も..」
と言いかけたところで、二人きりの保健室でのフェルパーとの秘め事を思い出し、真っ赤になって
言葉を失うノーム。
「..?なにか心当たりがあるようですね。キシシシ..」
「どうしても話してくれないのなら、私たちも相応の手段をとらなければなりません。もし話してくれたのなら
その功績で、次期錬金術科主任教授のポストをお約束しましょう。さあ、ノーム君、早く..」
そのころ、食堂の片隅の待ち合わせ場所では、フェルパーがぽつんとノームを待っていた。
「フェルパー、どうしたアルね?元気無いアルね」
「あ、スフォリアさん..実はノーム様と待ち合わせをしているのですが、約束の時間を過ぎても
いらっしゃらないのです..何かあったのでしょうか?」
「心配なら早速行動すルね。あの男ならきっと自分の部屋か、実験室のどちらかね。私も探すの手伝うね」
スフォリアに引っ張られるようにして実験室を訪れるフェルパー。
フェルパーがドアをノックしようとすると中から悲鳴が聞こえて来た
「うわぁああああ!!」
「ノーム様!?」
スフォリアと一瞬顔を見合わせた後、ドアを蹴破り突入するフェルパー。そこには、柱に縛りつけ
られたノームと、彼の体をまさぐろうと迫るヴェーゼ先生とガレノス先生の姿があった。
「先生!!なんてことをなさ..きゃ!!うぐぐぐ..」
フェルパーが突然背後から何者かに口元を押さえられ羽交い締めにされる。
「悪いわね、フェルパー。これも依頼されたお仕事なのよね」
フェルパーのクラスメイトが耳元でささやいた。
「わわわ!!今ロッシ先生呼んでくルね!!それまで何とか頑張ルね!!」
襲撃者の手をひらひらとかわし、スフォリアは実験室を脱出していった。
しばらくの間激しく抵抗していたフェルパーも、やがてノームの隣に縛り付けられる。
「これはちょうど良かったですね。ヴェーゼ先生..キシシシ..」
「ノーム君がなかなか口を割らないので、直接あなたから話を聞きましょう。ガレノス先生の手術を
受けた後、あなた達は何をしていましたか?」
ヴェーゼ先生の質問の意図を理解しかねたフェルパーはノームの顔を見た。
「先生達、フェルパーさんが一週間で回復してしまった原因を探っているんだ」
「そんなこと言われましても、私、ただ大人しく寝ていただけで..」
ここまで口にしてはっと気がついたような顔をするフェルパー。そしてやはりノームと同じように
真っ赤になって俯いてしまう。
「..やはり。この二人は何かを隠していますね..」
「このままではロッシ先生が来てしまいます。時間がありません。こうなったら直接フェルパーさんの
身体に聞くとしましょう..キシシシ」
十本の指を妖しげにグネグネと蠢かし、フェルパーに迫るガレノス先生。
「いやあああ!!いや!!いや!!ノーム様、ノーム様ぁ!!」
泣き叫びながら必死にもがくフェルパー。
「やめろ!!フェルパーさんには手を出すな!!いくら御恩がある先生でも..」
「では全てを話すのです、ノーム君。フェルパーさんを救えるのはあなただけなのですよ?」
「ううう、卑怯です..先生..」
「おおっと、お楽しみはそこまでだぜぃ!!」
実験室のドアを見ると、そこにはロッシ先生率いる剣士科軍団が刃をギラつかせ押し寄せていた。
「俺の可愛い生徒に手を出すたぁふてぇ野郎どもだ!!退治てくれるから覚悟しやがれ!!」
「キシシシ..剣を振るうしか能のない野蛮人は黙って見ていてくれませんかねぇ..キシシシ..」
ノームの首筋に怪しい液体の入った注射器を突きつけるガレノス先生。
「私たちは崇高な学問の進歩のためにやっているのです。それを止めるのは学園の発展を妨げるもの
と見なします..あなた達、お相手して差し上げなさい」
ヴェーゼ先生の合図で、錬金術科の生徒達がわらわらと現れ、立ちふさがった。
「ちょ、みんなグルだったのか?」
自分以外のクラスメイト達が全員共犯だったことを知り、愕然とするノーム。
「ふ、一騎当千の強者ぞろいの剣士科とはいえ、手数ではこちらはあなた達の10倍。自信があるのなら
かかって来なさい」
不敵に言い放つヴェーゼ先生と、手に手に10個の武器を持ち臨戦態勢の錬金術科軍団。
「なめやがって..野郎ども!!遠慮は要らねぇ、やっちまいな!!」
ロッシ先生の合図と同時に剣士科の生徒達が実験室になだれ込んでいった..。
十分後..
「ヤベェな..やはり手数の差はでけぇ..」
剣技では劣るものの、圧倒的な手数と魔法で剣士科軍団と渡り合う錬金術科軍団。一旦は突入した
剣士科軍団だが、やがてじりじりと錬金術科軍団にドアまで押し戻されてしまった。
傷つき這々の体で実験室から脱出する剣士科の生徒達の頭上から、突然メタヒーラスの光が降り注いだ。
「助太刀するわ、ロッシ先生!!」
ジョルジオ先生率いる賢者科の生徒達がロッドを振るって呪文を詠唱していた。
「二人だけの愛の奇跡を、そして生命の神秘を穢させるわけにはいかないわ。みんな、剣士科の皆さんを
援護して、あの二人を救出するのよ!!」
体力を回復し、勇気百倍で再度突入を図る剣士科軍団。しかしそこに新手が現れた。
「キシシシ..校医という仕事柄、死体とか死霊というものにも縁が深いものでねえ..キシシシ..みなさん、
よろしく頼みますよ」
ガレノス先生がバチンと指を鳴らすと、床下から死霊使い学科のディアボロス達がゾロゾロと
這い出して来た。
事態は学園を真っ二つに割る紛争の様相を帯びて来た。思わぬ展開に困惑するノームとフェルパー。
「..くすんくすん..ノーム様..どうしましょう..」
フェルパーがか細い涙声で尋ねる。
「もう..どうしようもないよ..。ここまで騒ぎが大きくなったら、あの時あんなことしてました、だなんて
とても言えないよ..」
柱に縛り付けられたまま途方にくれ、ため息をついてがっくりとうなだれる二人であった。
二時間後..
「あー、あー..てめぇらは完全に包囲されている!!じたばたしねぇで、人質を放してさっさとお縄をちょうだい
しろぃ!!」
「いくら医学の進歩と学園の発展のためとはいえ、愛し合う二人の生徒を弄ぶことは許されないわ!!いい加減
やめなさい!!」
と、校庭からカーボンマイクで呼びかけるロッシ先生とジョルジオ先生。
「キシシシ..この秘密が解き明かされれば、今までは助からなかった生徒の命を救える可能性があるのです。
この功績は未来永劫語り継がれ、我が校の歴史の中で燦然たる輝きを放つことになるでしょう..キシシシ..」
「そしてこの謎が解き明かされない限り、私に安眠の日々は訪れないのです。うーんなぜかしら..ううーん
なぜかしら..うううーんなぜかしら」
二人の説得に対して、立てこもっている実験室のベランダから応酬するガレノス先生とヴェーゼ先生。
その間では剣士科賢者科連合と錬金術科死霊使い科連合の生徒達がにらみ合い、さらにその周りを大量の野次馬の
生徒や教職員達が取り囲んでいた。
「なあ、キャンティ先生や..」
「何でしょう?ビスコ先生」
「教育実習はうちでやった方がいい。だが就職は他の学校にした方がいい。言ってる意味、わかるな?」
「..はい。肝に銘じておきます」
「なあ、パーネよ..」
「..」
「..おまえ、この世界には征服する価値が本当にあると思うか?」
「...」
ダンテ先生の問いに、攻防戦の火蓋が切って落とされ喧噪と白煙に包まれゆく実験室を無表情で見つめ、沈黙で
答えるパーネ先生であった。
316 :
次スレ28:2010/05/21(金) 21:34:45 ID:34G+iFH/
ここまでのSSでエロい目にあったキャラを大雑把に数えてみました
エロ無しや小ネタは除外、名前が付いていても種族でカウント
種族 男/女で表記してます
ヒューマン 20/10
エルフ 5/13
ドワーフ 8/15
ノーム 5/4
クラッズ 8/11
フェアリー 1/13
フェルパー 10/12
バハムーン 14/15
ディアボロス 12/13
セレスティア 6/17
種族不明 2/1
ジョルー 1
ライナ 1
サラ 1
ディモレア 1
ホムンクルス 1
ダンテ 2
パーネ 2
コッパ 1
ティラミス 1
セラフィム先生 1
魔物 2
モブ(人/魔物) 2/4
その他 1
>>315 GJ先生。何というか、大ごとが起こってる割には永遠に平和そうな学園だなw
>>316 ノム子が少ないのはまあわかるとして、二番目に少ないのがヒュマ子とは意外だな
ヒュマ男の出番は多いというのに……
そしてNPCは軒並み少ねえw
ヒュマ男は自分を投影しやすいからですかね?
とりあえず次スレも立ったので埋めネタ投下。ちょっと足りないかもしれませんが。
意外と出番の少ないらしいヒュマ子とノム子によるモンスター逆レイプモノ。
ただしノム子はモンスターとの濡れ場ありませんが。
注意としては、残虐描写かなり多め。出血やら解体やらと容赦ないので、ダメな人は要注意。
それとノム子×ヒュマ子の百合も若干あり。
それでも大丈夫だという方はどうぞ。
ブルスケッタの学生寮の一室に、鏡を見つめるノームが一人。
彼女は鏡の中の自分を見つめ、かれこれ五分ほどそうしていた。
やがて、右手がゆらりと動き、自身の右目に添えられる。
ずぶりと、眼窩に指がめり込む。表情一つ変えず、彼女は自分の右目を抉り出し、残った左目で取り出した眼球を見つめた。
静かに目を閉じ、意識を集中する。すると、眼球だった物はいくつかの素材と、一つの青い水晶とに分解されていた。
水晶を手に取り、じっと見つめる。次にそれを日にかざし、改めてじっくりと観察する。
「……やっぱり、ちょっと濁ってた」
そう呟くと、ノームは錬金を繰り返す。元々ほんの僅かな濁りだったものがたちまち消え失せ、彼女の手にある物はそれだけで
途方もない値がつくほどの、透き通った青い水晶になっていた。
再び、素材とそれを錬金し、元の目玉に直す。それを右の眼窩に押し込み、しばらく目を瞑ってからゆっくりと開く。
「……うん、よく見える」
無表情な、しかし満足げな声で言うと、ノームは寮を出た。昼時ではあったが、学食には向かわず、購買へと足を運ぶ。
錬金術師である彼女にとって、ここは退屈しない。新たな武器や防具もさることながら、廃品であっても彼女には十分な価値がある。
その時、ブルスケッタには珍しい、バハムーンの男子がいるのが見えた。物珍しさから、彼女は彼に近づき、その顔をじっと見上げた。
「ん…?何だよ、俺がどうかしたのか?」
向き直った彼の目を、ノームはじっと見つめる。そして、彼の顔に手を伸ばした。
「きれいな目。私にも使わせて」
眼窩に指がめり込む瞬間、危険を察知したバハムーンはその腕を捕えた。
「ぐっ…!この、やめろ!」
抉られかけた目を押さえ、バハムーンはノームを睨む。だがノームは悪いことをしたとも思っていないような、むしろ心外だと
言わんばかりの表情で彼を見つめる。
「つっ……俺達の目は、お前達と違って替えは利かないんだ!それぐらいわかれ!」
「代わりの目玉ぐらい、作ってあげるのに」
「だから、それは義眼であって目玉じゃない!俺達の目は、お前達のような作り物とは違う!俺達の体は、依代じゃないんだ!」
怒りを押し殺した声で言うと、バハムーンは購買を出て行った。その後ろ姿を、ノームは複雑な表情で見送っていた。
その顔が、不意に元に戻る。同時に、購買の入り口から小さな女の子が走ってきた。
「ノーム、お待たせ。いっつも早いね」
「うん。体の調整なんか、すぐ終わるから」
彼女は子供のように小さく、声も同年代の者に比べ、かなり高い。一見すれば、クラッズと見紛うような風貌である。
しかし、彼女はれっきとしたヒューマンであり、その証拠に以前は魔法使い学科に所属していた。しかし、今は普通科所属である。
「それじゃ、行こうか。魔女の森でいいかな」
「うん、いいよ。あ、ノームの武器は?」
「ちゃんと持ってるから、大丈夫。ヒュムちゃんのは」
「外だよ。あれ、邪魔なんだもん」
仲良く話しながら、二人は校門を抜け、魔女の森へと入って行く。
二人に、仲間はいない。普通は六人でパーティを組むことが多いのだが、彼女達はたった二人のパーティである。それでも、二人には
十分だったし、もっと多くの仲間を欲しいとも思わなかった。
第一、仮にもし二人が仲間を求めたとしても、その声に応じる者はいないだろう。それというのも、ノームは近づいてくる者すべてに、
購買でのような事件を引き起こすからだ。瞳がきれいと言ってはその目を抉ろうとし、腕が立派だと言ってはその腕を切ろうとする。
声がきれいだと評された者に至っては、危うく喉を切り裂かれかけた。そんな危険人物に、近寄る者の方が珍しい。
そんな彼女の友人は、この小さなヒューマンただ一人である。小さな体に身長を超えるサイズを担ぎ、人懐っこそうな笑みを浮かべる
彼女にだけは、ノームは危害を加えようとしないのだ。
ここ最近の授業の話や、購買に入った装備や、好きな学食の食べ物の話をしながら歩いていると、辺りの気配が変わった。
二人はすぐに気付き、身構える。
二人の前に現れたのは、つちのことゴブリンの群れだった。それを見た瞬間、ヒューマンの表情が変わる。
「ねえ、ノーム…」
袖を引っ張るヒューマンの頭を、ノームは優しく撫でてやった。
「わかった。他は任せて」
言うが早いか、ノームはファイガンを詠唱し、つちのこの群れを灰へと変える。ヒューマンは大鎌を振りかざし、ゴブリンの群れに
切りかかった。
「えい!」
可愛らしい声とは裏腹に、その一撃は目にも留まらぬ速さで襲いかかる。一瞬後、一匹のゴブリンが両足を切断され、悲鳴を上げた。
「ヒュムちゃん、それでいいの」
「うん」
「わかった。あとは掃除だけだね」
相手の攻撃を容易くかわし、二人は再び体勢を整える。今度は魔法を使わず、ノームは背中から釘バットを取り出し、一匹ずつ着実に
頭を砕いていく。ヒューマンの方も、今度は足など狙わずに、容赦なく相手の首を刈り飛ばす。
動く相手がいなくなり、両足を切られて身動きの取れないゴブリン一匹だけが残る。二人はその前に立つと、それぞれの武器を大きく
振りかぶった。
直後、サイズが左腕を地面に縫い付け、釘バットが右腕を砕いた。絶叫を上げるゴブリンに構わず、ヒューマンは嬉しそうな
笑顔を浮かべた。
「ふふっ、できたできた。ノーム、いつもみたいにお願いね」
言いながら、ヒューマンは服を脱ぎ始めた。その間に、ノームはゴブリンの四肢の根元を強く縛り、出血を止める。
すっかり服を脱いでしまうと、ヒューマンはしばらくゴブリンの足元に座り、その姿を眺めていた。
やがて、痺れて痛みが消えてきたのか、ゴブリンの声が小さくなってくると、ヒューマンはゴブリンの股間に手を伸ばした。
思わず呻くゴブリン。ヒューマンはそこに男性器の存在を感じると、パッと弾けるような笑みを浮かべた。
「あったあった!ふふっ、いっぱいいっぱい、してもらうんだから!」
身を屈めると、ヒューマンはゴブリンのそこに舌を這わせた。ゴブリンは思わぬ快感に呻き声をあげるが、動くことはできない。
体を洗うという習慣がないのか、ゴブリンのそれは舐めるなどとは考えたくもないような異臭を放っている。そんなモノを、ヒューマンは
嬉しそうな笑顔を浮かべ、一心に舐めていた。
少しずつ、ゴブリンのモノが硬く大きくなってくる。ヒューマンはそれを口に含んだ。最初、歯が当たってしまい、ゴブリンが小さな
悲鳴を上げると、ヒューマンはそのお詫びというように、当たった部分に優しくキスをし、丁寧に舐めてやった。
「ん……ふぁ……んく…」
口をすぼめて頭を上下させ、さらに口の中で先端をねっとりと舐める。唾液をたっぷりと絡め、鈴口を舌先でつつき、それをほじるように
舌を動かす。それらの刺激を受け、ゴブリンのそこはますます大きくなる。口に収めているのすら困難になり、ヒューマンは仕方なく
口を離すと、代わりに手で強く扱いてやる。
本人の太い四肢と同じく、ゴブリンのモノはヒューマンの腕と同等の太さとなり、その長さも人間ではなく、馬や竜といった生物に
近い長さとなっていた。
「ふふ……そろそろ、いいかな?」
ただ口と手で奉仕しただけにもかかわらず、ヒューマンの秘部は既にすっかり濡れていた。
ゴブリンにまたがり、彼のモノに手を添えると、先端に秘所を擦りつけて愛液を絡める。そして自分で割れ目を広げると、ゆっくりと
体重を掛けた。
「んっ……入って……くるぅ…!」
つぷつぷと小さな音を立て、巨大なモノが小さなヒューマンの中に飲み込まれていく。腹部にはゴブリンのモノの形が浮かびあがり、
秘裂は裂けんばかりに広がっているが、ヒューマンの顔に苦痛の表情はなく、むしろ強い快感が浮かんでいた。
「んあっ……あふ……ん、んん…!これ以上は、無理……かぁ…」
さすがに根元までは入りきらず、ヒューマンはその三分の二ほどを納めたところで動きを止める。
「あぅ、すごっ……お腹の奥まで、いっぱいぃ…!」
陶然とした声で呟くと、ヒューマンは腰を動かし始めた。くちゅくちゅと湿った音が響き、その合間にヒューマンの嬌声と
ゴブリンの呻き声が混じる。
ヒューマンが動く度に、結合部から愛液が伝い落ちる。体の奥を突き上げられる感覚が、ヒューマンにとってたまらない快感となり、
さらにその行為を強めていく。
「うああっ!いい!いいよぉ!私のお腹、もっといっぱいにしてぇ!」
一声叫ぶと、ヒューマンはますます激しく腰を動かす。まるで子供のような外見ながら、とめどなく蜜を溢れさせて更なる快感を
叫ぶヒューマンの痴態は、異種族といえども興奮させるのに十分な魅力があった。
自身の腕ほどもあるモノを咥えこみ、激しく腰を振るヒューマン。すんなり入っているとはいえ、やはりその中はきつく、
また彼女自身がモノをぎゅうぎゅうと強く締め付ける。ぬるぬるとした中の感触に反し、その締め付けは思いの外強く、
痛みと紙一重の強い快感をもたらしていた。
そんな二人の前に、ノームがしゃがみ込む。その無表情な顔からは何も読みとれないが、両手に握った血塗れのダガーが恐怖心を煽る。
「ふふ。どいつもこいつも、みんなおんなじ。どいつもこいつも、どいつもこいつも、何にも違いなんてない」
多少なりとも知能があるのが不幸だった。ゴブリンが周りを見ると、辺りの死体はすべて解体され、内臓や骨が個体ごとに
きれいに並べて置いてあった。その傍らにはそれを写した紙が置かれ、そして今、ノームは目の前にいる。
「あなたも、きっとおんなじだよね。一皮剥けば、他のと全部一緒だよね。おんなじかどうか、私がバラして、見てあげる」
ダガーを持った腕を上げ、ノームは笑った。
「その方が、ヒュムちゃんも喜ぶしね」
直後、ダガーの刃が閃いた。あっという間に肩の骨が露出し、一瞬後には関節からきれいに切り落とされる。
ゴブリンの悲鳴が響き渡る。ノームは表情一つ変えず、もう片方の腕も肩から切り落とし、その腕自体も解体していく。
それが終わると、今度は胸から腹を切り裂く。ゴブリンの悲鳴はますます大きくなるが、ノームも、そしてヒューマンも、
それをまったく気にかける様子がない。
ノームの操るダガーは容赦なかった。皮を切り、腹筋を切り裂き、その下にある内臓が露出すると、ノームはそこに手を突っ込み、
臓器を引きずり出した。
「これが腸。肺はやっぱり二つ、だから一つはいいよね。あと肝臓、腎臓……この出血なら、まだ平気かな」
言いながら、ノームはダガーを振るい、次々に内臓を取り出していく。生きながら解剖され、臓器を切り取られる苦痛に、ゴブリンは
最初こそ凄まじい悲鳴を上げていたが、少しずつその声は小さくなっていった。
同時に、突然ヒューマンの体が震えた。
「あっ!?あっ、ああぁぁっ!!き、きたぁ!!わっ、私のお腹の中、精液いっぱい出てるよぉ!!」
体を弓なりに反らし、未発達な体を快感に震わせるヒューマン。そんな彼女に、ノームは下から笑いかけた。
「どう、もっとほしいかな」
「あぁ、あっ!も、もっとぉ!もっといっぱいぃ!ノーム、まだ殺しちゃダメぇ!」
「ふふ、わかってる。最後の一滴まで、全部絞り取っちゃえ」
「う、うん!うん!そうするぅ!あああ!もっといっぱいぃ!私の子宮の中まで、精液でぐちゃぐちゃにしてぇ!」
狂ったように叫び、ヒューマンは一心に腰を動かす。ゴブリンはもはや呻き声すら上げず、死の危機に瀕して種の保存を為すという
生物の本能に従い、ただただ彼女の中に精液を注ぎ込んでいく。
もはや入りきらないほどに流し込まれ、溢れた精液が愛液と混じり、伝い落ちる。死の淵にいるまま生かされているゴブリンのモノは
萎えることを知らず、まるでそれ自体が生きているかのように脈打ち、なおもヒューマンの子宮を満たそうとしている。
「ああぁ、す、すごいぃ…!こんなにいっぱいっ……こんな、すごいの……う、馬よりすごいよぉ…!」
口をだらしなく開け、唾液を零しながら、はあはあと荒い息をつくヒューマン。未発達な体も、声も、まるで子供のようではあったが、
その顔だけは成熟した女にも劣らない、むしろ雌の顔とも言えるような、何とも淫靡なものだった。
やがて、ゴブリンの動きが小さくなり、ずっと硬さを保っていたモノも、少しずつ柔らかくなり始めた。それに気付くと、ヒューマンは
悲しげな顔で結合部を見つめる。
「んあぅ……もう、おしまい…?」
「みたいだね。じゃあヒュムちゃん、解体するよ」
言うが早いか、ノームは再びダガーを振るい、重要な臓器を次々に切り取り始めた。最後に、まだ微かに拍動する心臓を切り取ると、
とうとうゴブリンはその動きを止めた。
同時に、ヒューマンの体がピクンと震える。
「んやぅ!?ま、まだちょっと残ってたぁ……お腹に、びゅくってきたよぉ…」
陶然と呟き、ヒューマンは腰を上げると、ぱたりと倒れてしまった。そこに、ノームが近づく。
「だいぶこぼれちゃったね。でも安心して。ちゃんと、全部すり込んであげる」
ノームはゴブリンのモノを根元から丁寧に舐め上げ、そこについていた精液をすべて口の中に収めた。そしてヒューマンの足を
広げさせると、ひくひくと震える彼女の秘部に舌を突き入れた。
「うあぁっ!し、舌が入ってくるぅ!うあっ、あっ!そ、そんな奥までぇ!?」
舐め取った精液を舌に乗せ、ヒューマンの膣内に擦り付ける。それが終わると、ノームは舌を抜き、代わりに二本の指を彼女に
突き入れた。
「んっ!」
「全部、子宮の中に入れてあげる」
言うなり、ノームは彼女の中を激しくかき回し始めた。
「きゃああぁぁ!!は、激しいよぉ!!ノームっ、激しいよおぉ!!」
体を弓なりに反らし、ヒューマンは思わずノームの腕を掴む。しかしそれに構わず、ノームはますます激しく指を動かし、子宮口に
精液を塗りこむようにぐりぐりと動かす。
「ああああっ!!ノっ、ノーム!ダメ!!もうダメぇ!!頭がふわってぇ!!やっ!!くるぅ!!もうっ!!あっ、あああぁぁぁ!!!」
ガクガクと体を震わせ、同時に透明な液体がノームの顔にかけられる。しかし、ノームは表情一つ変えずにそれを受け止め、やがて
くたっと脱力してしまったヒューマンの体を抱き起こし、優しく口づけをした。
「ふぁ……ノー……ムぅ…」
「……いいよ、寝ちゃって。ちゃんと連れて帰ってあげる」
「うん……ノーム、ありがとぉ…」
うわごとのように言うと、ヒューマンは目を瞑った。程なく、すうすうと小さな寝息が辺りに響く。
ノームは簡単に彼女の股間を拭いてやると、解体したばかりのゴブリンの横に立ち、懐から紙とペンを取り出した。そして、瞬く間に
解剖図のスケッチを終えると、他の死体のところにある紙も回収する。
「……どいつもこいつも、全部おんなじ」
無表情に呟くと、紙を鞄にしまいこむ。そして、ヒューマンを抱きあげ、彼女の制服をしっかりと持つと、無言で帰還札を使った。
あとには、性の営みがあったとはとても思えないような、惨殺されたモンスターの死体だけが残っていた。
数日後、ノームの部屋にノックの音が飛び込んだ。ドアを開けてやると、そこには不安げな顔をしたヒューマンがいた。
「ヒュムちゃん、どうしたの」
「あ、あのね……今日でね、この前の、ヨダレタラシのね、一ヶ月なの…」
「ああ、そっか。じゃあヒュムちゃん、そこに座って。見てあげるから」
ヒューマンを椅子に座らせると、ノームは彼女のショーツを下ろした。そして、秘裂を優しく開くと、そっと舌を這わせた。
「んんっ…!」
「………」
両手を口に当て、声を押さえるヒューマン。ノームは何度かそこを舐めると、やがて顔を離した。
「ど……どう…?」
不安げに尋ねるヒューマンに、ノームは首を振った。
「……残念だけど、またダメだったみたい」
「……っ……っく…!ひっく…!……ふえ……ふええぇぇ…!」
それを聞いた瞬間、ヒューマンの目に涙が溢れ、やがて彼女は傍目も気にせず泣き始めた。ノームはそんな彼女を優しく抱きしめ、
子供をあやすかのように頭を撫でてやる。
「まだ、いっぱい試したのあるじゃない。ゴブリンだって、まだ試したばっかりなんだから。きっと、合うのが見つかるよ。だから、ね。
泣かないで、またいっぱい試してみようよ」
ヒューマンが未発達なのは、外見だけではなかった。彼女は未だに、生理すら来ていないのだ。
それは同時に、生殖能力のなさをも示していた。繁殖力の強いヒューマンの中にあって、彼女はその機能を持たなかったのだ。
だからなのだろう。彼女は、子供を作ることに固執していた。ありとあらゆる種族と交わり、果ては馬などの家畜と交わり、
それでも子を為すことができず、今ではモンスターにすらそれを求めているのだ。
そしてノームは、生身でありながら他と違う彼女に興味を持った。
自身が生身を持たず、子を為すこともできない。生身を持つ種族を羨みながらも、それを屈折した形で表すことしかできない。
無理とわかっていながら、腕や目など相手の体を求めた。自身が他の種族と違うとわかっているからこそ、全ての生き物を解剖して
どれもこれも一緒だということを確認し、同時に自身が他種族と違うことを痛感し続けていた。
腕を切ろうと、血は出ない。胸に手を当てようと、鼓動はない。体を解体しようと、臓器もない。首を切ろうと、死にはしない。
そんな中で出会ったヒューマンは、ノームにはまるで本当の仲間のように思えた。生身を持っているはずなのに、子を為すことができず、
悲しみに打ちひしがれつつも子を求める彼女の苦しみは、ノームには痛いほどわかった。むしろ、彼女は自分以上の辛さを
持っているだろうと、ノームはわかっていた。ヒューマンもまた、彼女を否定せず、むしろ自分に協力してくれるノームを唯一の
友人と思い、ノームにだけは心を許していた。
欠けたものを持つ同士、不思議と心が通った。欠けたものがあるからこそ、二人は強く繋がった。
同じなのが分かっているからこそ、解体してみたかった。違うのがわかっているからこそ、解体したくなかった。
その屈折した思いを理解できるのは、少なくともこの学園にはヒューマンただ一人である。自身が周囲と違うというのは、
周りが思う以上に辛いことだった。彼女達の心を、簡単に壊してしまえるほどに。
「ヒュムちゃんだって、いつかきっと子供作れるよ。だって、こんなに頑張ってるんだから。私も協力するから、ね。また頑張ろ」
「うええぇぇん…!赤ちゃん、ほしいよぉ…!わ、私……私だって、赤ちゃん作れるもんん……うわああぁぁん!」
恐らく、彼女が子供を作れることは、この先ないだろうと、ノームは思う。しかしそれでも、もしかしたら、という思いは
捨てきれなかった。それは打算などではなく、ただただ純粋に、ヒューマンの悲願が叶えばいいという思いゆえだった。
その、あまりに人間じみた思いが芽生えていることに、ノームはまだ気づいていない。それに気付けば、まだ救いもあるというのに。
そして彼女達は今日も、人間とは程遠い、残虐な凶行に手を染めていく。いつかその凶行が、自分達の心を癒すと信じながら。
以上、投下終了。
それではこの辺で。
GJ!その種族にしかわからない苦悩って良いね
乙。 でもチンコしぼんだw
無茶してると余計遠ざかりそうな気がするが
本人は必死だから思い至らないんだろうなぁ……
ヒューマンの実年齢が気になるところ
>>316 保管庫眺めてて気づいたんだが、ドワ子書いてるのって二人だけなのな
にも関わらず同数二位とか、ある意味すごいなw
330 :
316:2010/05/29(土) 06:13:14 ID:W/5hZq2F
>>329 書き忘れたけど男装ドワ子はドワ男としてカウントしたので、
彼をドワ子で数えると単独一位になるw
個人的にはバハ、ディアが男女共に結構多いことに驚き