ここは、キモ姉&キモウトの小説を書いて投稿するためのスレッドです。
○キモ姉&キモウトの小説やネタやプロットは大歓迎です。
愛しいお兄ちゃん又は弟くんに欲情してしまったキモ姉又はキモウトによる
尋常ではない独占欲から・・ライバルの泥棒猫を抹殺するまでの
お兄ちゃん、どいてそいつ殺せない!! とハードなネタまで・・。
主にキモ姉&キモウトの常識外の行動を扱うSSスレです。
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キモ姉&キモウト小説を書こう!part25
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削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。
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SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー!荒らしに構う人も荒らしです!!
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・スレは作品を評価する場ではありません
初2ゲットだぜ!!
三姉妹get!!
>>1 乙です
三つの鎖 9 後編です。
※以下注意
エロなし
血のつながらない自称姉あり
投下します
夏美ちゃんを家まで送った後、僕と春子は梓を探していた。
でたらめに探しても見つかるとは思えないので、春子の犬のシロに梓の匂いをたどらせている。シロが鼻をクンクンさせながら歩く後を僕たちは歩き続けた。
シロは賢いし鼻もきく。以前に僕が落とした携帯を探す事も出来た。もともとお金持ちの番犬としての訓練を受けていたらしい。何の因果か春子の家にいるけど。
脳裏に過去の光景が浮かぶ。まだ幼い僕と春子と梓。先代のシロも含めてかくれんぼをした日々。僕と梓がどれだけうまく隠れても春子はシロに頼んで僕たちを見つけた。
「梓ちゃんどこにいるのかな」
春子はつぶやいた。少し疲れているように見える。朝から探しているのだ。シロが励ますようにワンと鳴いた。
「分からない」
ひとりごとだったのかもしれないが僕は答えた。春子は大きくため息をついて肩を回した。相当疲労しているようだ。シロが心配そうに春子を見上げる。
視界に自販機を確認する。
「春子。ちょっと休憩しよう」
僕は自販機に駆け寄りスポーツドリンクとお茶を購入した。
スポーツドリンクを春子に放る。春子は受け取った。
「ありがとう幸一君」
おいしそうに口にする春子。僕も飲む。
「幸一君」
春子は僕を見た。
「梓ちゃんの事どう思っているの?」
真剣な瞳。
「僕にとって大切な妹だよ」
そう。梓は僕の大切な妹。例え何があっても。
春子は微笑んだ。
「私にとっても大切な妹だよ。そして幸一君は大切な弟」
かすかな頭痛。春子の白い体が脳裏に浮かぶ。僕に覆いかぶさり淫靡に微笑む春子。
「ふふ、そんなににらまないでよ」
春子はおかしそうに笑う。何がおかしいのか。
「そのうち教えてあげるよ。私が幸一君を襲った理由」
春子が僕の頬に手を伸ばす。僕は一歩下がって避けた。
「そのうち、ね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
梓は私を冷たくにらんでいる。突然の事で頭が真っ白になる。
何で梓が私の家にいるのか。鍵がかかっているのにどこから入ったのか。
梓の腕が私に伸びる。反転する視界。背中に衝撃。
「げほっ!」
床に背中から叩きつけられる。痛みに視界がにじむ。
痛い。投げられるのがこんなに痛いなんて。立ち上がることもままならない。
そのまま梓はもがく私を引きずった。
突き飛ばされ私は床を転がった。涙でにじむ視界に映るのは自分の部屋。昨日お兄さんと結ばれた場所。
「気分はどう?」
頭の皮が剥がされたような痛み。梓が私の髪をつかみひっぱる。
「つっ!やめてっ!」
頬に走る鋭い痛み。梓は私の頬を手加減なしに叩いた。
「そんな事聞いてないわ」
梓は私を見下ろす。瞳が暗い光を放つ。込められた壮絶な感情に悪寒が走る。
「私の兄さんと寝たんでしょ」
下腹部を容赦なく蹴られる。
「かはっ!」
痛い。蹴られた場所を抑えうずくまる。
「ねえ。どうなの」
梓の足が私の手を踏みつける。容赦なく体重をかけられている。痛みに声も出ない。
さらに下腹部を蹴られた。鈍い衝撃と鋭い痛みに息もできない。梓は執拗に私の下腹部を蹴った。
「ここに兄さんのを出してもらったの」
私は梓を見上げた。怒りと憎しみに燃える瞳。
「聞いてるの?」
私の手にかかる体重が消える。その次の瞬間、梓に突き飛ばされた。
床を転がる私に梓は馬乗りになった。
「何か言ったらどうなの!?」
梓の怒声に体が震える。
私の顔をつかむ梓の両手。そのまま梓の方に向きを変えさせられる。
「ねえ。どうだった?兄さんに犯されたんでしょ?気持ち良かった?嬉しかった?キスされた?さわられた?抱きしめられた?」
頬をつつむ梓の両手が熱い。瞳は怒りと嫉妬に燃え私を射抜く。
あまりの恐怖に声も出ない。
「何か言ったらどうなの!」
悲鳴ともつかない梓の怒鳴り声が私の部屋に響く。
私は言葉を発した。私の声はどうしようもなく震えていた。
「梓はお兄さんが好きなの?」
唇をかみしめる梓。頬を挟む梓の手が離れ私の頬を容赦なくはたく。頬に鋭い痛みが走る。
「うるさい。そんな事は聞いてない」
私は頭を横にふった。
「何でこんな事をするの?」
再び梓は私の頬を挟んだ。頬をつつむ梓の両手に力がこもる。
「夏美が兄さんを誘惑するからよ。兄さんは私のものなのに」
梓の瞳が暗く輝く。
「夏美に分かる?兄さんはずっと私のそばにいてくれた。ずっと私に優しくしてくれた。一時期そばにいてくれなかったこともあるけど、今はずっとそばにいてくれる。私が望むのはそれだけなの」
そう言って唇をかみしめる梓。
「なのに。夏美は奪うんだ。私の兄さんを奪うんだ」
私の顔をつかむ梓の手が震える。燃えるように熱い梓の両手。まるで梓の怒りの熱さ。
やっぱり、梓はお兄さんが好きなんだ。その気持ちをずっと隠していたんだ。
「梓はすごいよ」
私は自然にそう口にした。梓は虚を突かれたように私を見つめ返した。
「お兄さんの事がずっと好きだったのに、その気持ちをずっと隠すなんて。私にはできないよ」
「黙って」
下腹部に鈍い衝撃と痛みが走る。梓の膝が私の下腹部を蹴り飛ばした。
私はむせながらも言葉を紡いだ。
「私には無理だよ。好きって気持ちを伝えたらお兄さん困ると思った。お兄さんだけじゃなくて、梓やハル先輩とも気まずくなると思った。でも気持ちを抑えられなかったんだよ」
私の初恋。苦しくて切ない毎日。
梓の手が私の頬をはる。鋭い痛み。口の中が切れる感触。それでも私は言葉を紡いだ。
「お兄さんを好きになって毎日が不安で怖かった。今日は私の事を変に思われなかったかな、明日は会えるのかな、お兄さんは好きな人がいるのかな。そんな事ばかり考えていた」
好きな人の事を考えるだけで胸が締め付けられる。
「今も怖いよ。ハル先輩みたいな美人な人が幼馴染で、梓みたいな綺麗な妹と一緒に住んでいて。私なんかすぐに飽きて捨てられるんじゃないかってすごく不安だよ」
お兄さんはそんな人じゃないと分かっていても消えない不安。恋は人を積極的にするなんて嘘だ。私は怖くて仕方が無い。
「なのに梓は我慢して。お兄さんに迷惑をかけないように頑張って」
自分よりも相手を優先する気持ち。
私はお兄さんが好きだ。恋している。
でも、梓はきっとお兄さんを愛しているんだ。
「ごめんね。梓のお兄さんを好きになってごめんね」
私の頬を涙が伝う。
「それでもお兄さんを諦められなくてごめんね」
梓が何かを言おうとして口を開いた。
その時、ドアが開く音。
「梓!夏美ちゃん!」
私の好きな人の声。梓は唇をかみしめ私を放した。
足音が近づく。梓は背を向け私の部屋の窓から出て飛び降りた。
その直後、お兄さんが入ってきた。
「夏美ちゃん!」
お兄さんは私を抱き起こした。
「私は大丈夫ですお」
私は無理やりほほ笑んだ。喋ると口の中の切れた場所が痛む。お兄さんは私の頬にふれた。梓に叩かれた場所。
「梓だね」
違うと言おうとして言えなかった。お兄さんの瞳があまりに悲しそうで下手な嘘はつけなかった。
「ついさっきまで梓はここにいました」
私はお兄さんを見つめた。
「今なら間に合うはずです」
お兄さんは私に頭を下げた。
「ごめん」
私に背を向けお兄さんは部屋を出た。
「春子!シロを借りる!夏美ちゃんを頼む!」
足音が小さくなって、聞こえなくなった。
ハル先輩が入ってきた。心配そうに私を見つめる。
「夏美ちゃん立てる?」
私はうなずいて立ち上がった。お腹の痛みに足がふらつくのをハル先輩は支えてくれた。
梓は私に何て言おうとしたんだろう。それが気がかりだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕はシロを先導に走った。
近くに梓がいるせいか、シロは迷いなく走る。倉庫街に向かっているようだ。大きな倉庫がたくさんあるが、最近はあまり使用されていなくて寂れている。人気は少ない。
角を曲がってついに梓を見つけた。背を向けて走る小さな背中。
走りながら携帯を取り出し春子にメールを送る。倉庫街で梓を見つけたと。
梓は走るのが速いが、僕ほどではない。もうすぐ追いつく。
もう同じ過ちは繰り返さない。
僕は口を開いた。大切な妹の名前。
「梓!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
兄さんが私を呼ぶ声。
足を止め振り向いた。シロと一緒に兄さんがいる。
私を無表情に見つめる兄さんの瞳には苦悩と悲しみが渦巻いている。
兄さんは再び私を追ってくれている。なのに何でだろう。何でこんなに虚しいんだろう。
(梓はすごいね)
夏美の声が脳裏に蘇る。
(お兄さんの事がずっと好きだったのに、その気持ちをずっと隠すなんて。私にはできないよ)
違う。
(私には無理だよ。好きって気持ちを伝えたらお兄さん困ると思った。お兄さんだけじゃなくて、梓やハル先輩とも気まずくなると思った。でも気持ちを抑えられなかったんだよ)
私は単に怖かったんだ。兄さんを好きと言って、断られるのが怖かったんだ。好きなのに、断られるのが怖いから言えなかったんだ。
(お兄さんを好きになって毎日が不安で怖かった。今日は私の事を変に思われなかったかな、明日は会えるのかな、お兄さんは好きな人がいるのかな。そんな事ばかり考えていた)
私も同じ。毎日が不安だった。兄さんの罪悪感に付け込んで従わせても、兄さんの心は私に向いていない。
(今も怖いよ。ハル先輩みたいな美人な人が幼馴染で、梓みたいな綺麗な妹と一緒に住んでいて。私なんかすぐに飽きて捨てられるんじゃないかってすごく不安だよ)
兄さんにひどい事をして嫌われるのが怖かった。それでも兄さんをそばに置きたかった。だから毎日ひどい事をした。
(なのに梓は我慢して。お兄さんに迷惑をかけないように)
違う。我慢できなかった。だから毎日迷惑掛けた。
(ごめんね。梓のお兄さんを好きになってごめんね)
夏美は悪くない。人の気持ちを抑えられないのは私もよく知っている。私もそうだから。
(それでもお兄さんを諦められなくてごめんね)
私も諦められない。でも気持ちを伝える勇気も無い。私は兄さんに断られるのが怖くて、兄さんの勘違いに付け込んで私のそばに縛り付けた。ずっと現状維持を望んだ。
夏美は違った。この虚しくても温かい日常を捨ててでも、自分の気持ちを伝えた。正直な心のうちを兄さんにさらした。未熟でも身勝手でも、等身大の自分を好きな人に伝えた。
私はただ、兄さんの勘違いに付け込んだだけ。そして今、兄さんは勘違いに気がついただけ。
当然の結末。
でも。それでも兄さんを諦められない。
「兄さん」
愛しい兄さん。私をずっと見てくれた優しい兄さん。
兄さんは私の気持ちを何も知らなくて、私は兄さんに私の気持ちを伝えていない。だからこんな歪な関係しか築けなかった。
今さら私の気持ちを伝えても何かが始まるとは思えない。それでも、伝えなければ何も変わらない。
伝いたい。兄さんに私の気持ちを知ってほしい。
私は兄さんを見つめた。兄さんは目をそらさない。
「お願い。私のそばにいて」
兄さんの瞳の色がかすかに揺れる。
「夏美と別れて。私のそばにいて」
ただ兄さんに縋りつき、騙し、傷つけた。私の歪んだ愛を包んでくれた兄さん。私は兄さんのそばにいたい。それだけが私の願い。
「兄さんが望むなら何でもする。もう兄さんが家事をしなくてもいい。兄さんが望むなら抱かれてもいい。兄さんのためなら何でもする」
兄さんは悲しそうに私を見る。哀れな妹を見つめる瞳。
そう。哀れな妹。女ではない。
「だからお願い。私のそばにいて。そばにいさせて。私だけを見て」
私の頬を涙が伝う。分かっていた。今さらだ。今さら遅すぎる。
「好き。兄さんが好き。愛してる。だから」
それ以上、私は言えなかった。私を見つめる兄さんがあまりに悲しそうだったから。
「梓」
私を見つめる兄さん。いつものように困って悲しそうな表情ではなく、悲哀に満ちた瞳。
「僕たちは兄妹だ。例え何があっても」
予想できた当然の結末。
兄さんは優しい。だからこそ、私の歪んだ願いは受け入れない。あるいは、昔からもっと素直になっていれば違っていたかもしれない。
結局、兄さんにとって私は妹でしかない。
すべては後の祭り。
「梓。帰ろう」
兄さんは私に手を差し伸べた。
あの手をつかめば、少なくとも妹として兄さんのそばにいられる。そうすれば昔のような関係に戻れるかもしれない。大好きな兄さんに甘える事の出来た日々。
私以外の女と一緒にいる兄さんを見守ることしかできない日々。
兄さんと夏美が男女の関係でいるのを見続ける日々。
お似合いの二人。誰もが祝福する恋人。
それを見る事しかできない日々。
嫌だ。私には耐えられない。
兄さん。ごめん。
私は兄さんに近づき腕をつかんだ。肘関節を極め、へし折るつもりで投げた。
軽い投げ応え。兄さんは極まった肘が緩む方向に自ら跳び逃げた。大きく転がり私と距離をとる兄さん。
兄さんは跳んだ勢いのまま立ち上がり構える。無表情に私を見つめる瞳が悲しみに染まる。
ごめん。馬鹿な妹でごめん。兄さんが他の女のものになるなんて、私には我慢できない。
私のものにならないなら、誰にも渡さない。
だから。
兄さんを殺して私も死ぬ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
梓は本気だ。
それほど梓の投げは危険だった。自分で跳んで逃げなければ僕の肘はへし折られただろう。
僕を見つめる梓。その顔は涙でぬれている。諦めと絶望が渦巻く瞳。
「梓。やめるんだ」
力なく首を振る梓。
「兄さん。ごめん」
僕の言葉は届かない。
「梓。帰ろう」
それでも僕は繰り返す。
「兄さん。馬鹿な妹でごめん。でもね、私耐えられない。兄さんが他の女と一緒にいるなんて、兄さんが私のものにならないなんてむりだよ」
梓は笑った。悲しい笑顔。
「だから。兄さんを殺して私も死ぬ」
梓は本気だ。
僕は覚悟を決めた。辺りに人気は無い。逃げるにしても今背中を向けるとやられる。携帯を取り出して連絡する暇などない。僕が梓を力ずくで止めるしかない。それ以外に方法は無い。
地面は硬いコンクリート。ガラスの破片が散乱している。古びたトラックの周辺に大量の空き瓶がある。誰かが遊び半分に割ったのだろう。
投げるのは絶対だめだ。コンクリートの地面に叩きつければ例え受け身をとっても怪我をする。ガラスで切る可能性もある。
既に僕の背中はガラスで切れて出血している。決して浅くはない。
地面に押さえつけるのも危険だ。ガラスで切れば怪我する。ガラスの破片は刃物より恐ろしい。
ならば方法は一つしかない。梓を絞め落とす。
梓は制服のカッターシャツだ。襟をつかむのは難しいし、つかんでも破れる可能性がある。
背後に回って腕で絞めるしかない。
頭は梓を取り押さえる方法を冷静に考えつつも、心には強烈な感情が渦巻いていた。
梓。そこまで追い詰められているのか。追い詰めたのは僕なのか。
僕が柔道に夢中だったせいで梓は荒れ、柔道をやめてから梓に柔道を強制され、今その柔道で梓を取り押さえようとしている。
ずっと嫌われていると思っていた妹の僕を求める悲痛な叫び。
何という皮肉。
僕の感情に関係なく梓は踏み込んできた。ガラスを踏みしめる音。
梓の拳が顔に迫る。僕は重心を崩さず避ける。容赦ない当て身。
僕は梓の肩に手を伸ばす。その手を梓は払う。
距離をとる僕と梓。
強い。僕よりもはるかに。
「幸一君!」
「お兄さん!」
僕の名を呼ぶ声。視線を向けない。そんな隙を見せる事は出来ない
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私は一気に踏み込んだ。狙いは鼻。
兄さんの腕が動く。反応は早いが動きが遅い。私の掌底は兄さんの腕に払われつつも鼻の横を打った。
だけど、兄さんは微動だにしない。私の体重と腕力ではこの程度だ。
兄さんはひるまずに踏み込んでくる。しかし踏み込みが浅い。私は難なくさがり、伸びてくる腕を払った。
おかしい。兄さんの反応は早いけど、動くのは腕だけで、体が動いていない。上半身をねじれば避けられるのに。その結果、私の掌底は兄さんの顔を打つけど、急所を外れ効果が無い。兄さんの行動の理由を考え結論が出る。
「そうなの」
これは私への対処法だ。
私の投げる方法は二つしかない。一つは相手の急所を掌底で打ち、姿勢を崩した瞬間を狙う。どんな大の男でも姿勢を崩すことができれば投げられる。
だけど兄さんは私の掌底を必要最小限の動きで避ける。殴れても私の体重と体格だと威力はたいしたことない。結果、姿勢が崩れない。
私の投げるもう一つの方法は、相手の攻める勢いを利用して投げる。攻撃する瞬間が一番無防備。だから兄さんは大きく攻めてこない。私の疲労か隙を待っている。
「ねえ兄さん。私とこうなる事を予想していたの」
兄さんの瞳は揺れるが、動きに揺れは無い。それが何よりも雄弁に語る。
「予想してたんだ。私嬉しいよ」
嘘ではない。兄さんは私と勝負になった時に備え、対処法を考えてくれてたんだ。私の事を考えてくれてたんだ。それが嬉しい。
兄さんは強くなった。
私は本気で攻めているのに、ことごとくさばく。
常に上の者と稽古した結果だろう。自分より強い相手と勝負するのに慣れている。臆することが無い。それに私の体重では当て身に大した威力はでない。結局、素手の戦いは体重がある方が絶対に有利なのだ。
それでも兄さんは私の敵ではない。
わざと隙を見せ、兄さんの攻めを誘う。兄さんは動く。今までにない大きな踏み込み。
つかみにかかる兄さんの腕を抱え、腰を払う。受け身を取れないように抱きしめながら。
そのまま兄さんを頭から地面に叩きつけた。
何かが潰れる音がした。
兄さん。さよなら。
「幸一君!?」
「お兄さん!」
春子と夏美が顔を真っ青にして駆け寄ってくる。
仰向けに横たわる兄さん。頭から血を流しぴくりとも動かない。
「お兄さん、起きてください、お願いです」
夏美が涙で顔をぐちゃぐちゃにして兄さんを揺らす。
春子は真っ青になりながら震える手で携帯を開く。
「いや、いやです、お兄さん、お願いです、死なないで」
夏美の頬を際限なく涙が伝わる。
兄さんの頬を触る。まだ温かい。
これが私の行動の結果。
これが私の望んだ結末。
これで兄さんは誰のものにもならない。
脳裏に兄さんとの思い出が浮かぶ。
甘える私を優しくあやす兄さん。
私に手を差し伸べる兄さん。
私に料理を作ってくれる兄さん。
私の我儘に困る兄さん。
私に優しく微笑んでくれる兄さん。
頬に涙が伝う。もう兄さんは誰のものにもならないんだ。私のものにも。
私はガラスの破片を握った。指が切れ血が流れる。
最後は兄さんのそばで死のう。
そう思ってガラスを喉元に持っていこうとすると、誰かの手が私の腕を抑える。
大きくてごつごつした温かい手。
私の兄さんの手。
「幸一君!?動いちゃだめ!」
春子の叫び。
兄さんは私の指を優しくガラスの破片から離す。私はされるがまま。私の血で濡れたガラスの破片が地面に落ちた。
馬鹿だ。私の兄さんはどこまでお人好しなんだ。私は兄さんを殺そうとしたのに。それなのに。
兄さんの手が私の頬にふれる。温かい。優しく微笑む兄さん。そして眠るように目を閉じた。
兄さんの手が落ちる。
泣き叫ぶ夏美。
春子は兄さんの手首を握り、胸に耳をあてる。
何も触れていない私の手に、兄さんの温もりが残っている。
この温もりもいずれ消える。
当たり前の事実。
分かっていたのに。
それなのに嫌だと思ってしまった。
「やっぱりいやだよ」
私は救い難いばかだ。
兄さんが私を嫌いでもいい。私のそばにいなくてもいい。他の女と一緒にいてもいい。
だから。
死なないで。
救急車の来る音が遠くで聞こえた。
私は何もできずに突っ立っていた。兄さんの手の感触と温もりが頬と指に残っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
兄さんは救急車で病院に運ばれた。
結局、兄さんは無事だった。頭がい骨にひびがはいっただけですんだ。経過を見るため病院に一泊することになっただけ。他はすべて軽傷。
最初は信じられなかった。私は殺すつもりで投げた。それなのにこの程度で済んだのはありえない事だけど、結局はそういう事なのだろう。最初から私に兄さんを殺せるはずがなかったんだ。
私の両親には春子が説明した。なんて説明したのかは知らないけど、両親は何も聞いてこなかった。
病院の廊下で看護師の恰好をした京子さんとすれ違った。私にウインクをする京子さん。そういえばここは京子さんが勤めている病院だ。昔、私が傷つけた春子が入院した病院。今度は兄さんを入院させた。
夏美は兄さんの病室にいる。
春子と私は病院の外の公園のベンチに座った。
「梓ちゃん。お姉ちゃんは怒ってるよ」
春子は静かに言った。
「でも幸一君がゆるしてあげてと言ったから、お姉ちゃんからは怒らない。後で夏美ちゃんに謝って、幸一君とよく話し合う事」
シロは慰めるように私に体を擦り付けた。
春子はシロと帰った。シロは私を見てわんと吠えた。頑張れと励ますように。余計な御世話だ。
私は兄さんのいる病室に入った。夏美は兄さんの手を握りベッドに突っ伏していた。私がひっぱたいた頬が赤い。
兄さんの安らかな寝顔。あれだけの事があってなんでこんなに健やかに眠れるんだろう。
私は自分の手を見た。包帯の巻かれた手。ガラスを素手で握ったからだ。ガラスの破片を握った私の手を優しくほどく兄さんの指の温かい感触が残っている。
お互いの手を握り安らかに眠る兄さんと夏美を見ると、寂しく思うけど、仕方がないとも思う。もし私が兄さんの妹でなくても、兄さんは夏美を選んだとはっきり感じた。
私は二人をそのままにして病室を静かに出た。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
家には春子の料理が用意されていた。置き手紙にはゆっくり休んでよく考えるようにと書いてあった。また春子に迷惑をかけてしまったと思った。
一人で春子の作ったご飯を食べた。面倒くさいから温めなおさなかったのに、温かく感じた。
食後、部屋でずっとぼんやりしていた。兄さんは私の事をどう思っているだろう。
今回の事でさすがに嫌われたかもしれない。私は夏美を傷つけ、兄さんを殺そうとしたのだから。ずっと騙していたのも兄さんは気がついたかもしれない。
部屋にノック。兄さん?
「梓ちゃん。入るよ」
京子さんが入ってきた。
「春子ちゃんから話は聞いたよ」
苦笑いして私の隣に座る京子さん。
「すっきりした顔してるね。憑きものが落ちたみたい」
ずっと疑問に思っていた。私の両親は私の兄さんに対する気持ちに気が付いているのだろうか。特に京子さんは鋭い。
「お父さんは気がついてないけど、私は気がついてたよ」
私の疑問を感じたのか京子さんは言った。
「お父さんは梓の反抗期と思っているけど」
「お母さん知ってたんだ」
「だって梓ちゃん、恋する乙女の眼で幸一君を見ているんだもん。分かっちゃうよ」
京子さんはそう言って笑った。分かっていて放置していたのかこの人は。
「恋って他人に止められると逆に燃え上がっちゃうから」
私には分からない。
「幸一君とよく話し合うんだぞ」
京子さんはそう言って私の部屋を出て行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目が覚めた時、すでに9時を過ぎていた。
下に降りると京子さんの料理が用意されていた。久しぶりの義理の母の料理はおいしかった。
今日は学校に行く気になれなかった。兄さんと話したかった。
何時に帰ってくるんだろう。
そんな事を思いながら朝食を食べてからシャワーを浴びた。
兄さんが帰ってきたら何て言おう。まず謝らなくちゃ。
そんな事を考えながらリビングに戻ると兄さんがいた。
いつの間に。
私はその場に立ち尽くしてしまった。
「梓」
私に気がついた兄さんが声をかけた。いつもと変わらない優しい声。
頭に血が昇る。私は兄さんを無視してキッチンで牛乳を一気飲みした。私はばかだ。逃げちゃだめだ。
深呼吸してリビングに戻る。兄さんは困ったような顔をしていた。いつもの表情。怪我は大丈夫そうだ。
「梓。座って」
兄さんは座っているソファーの横をポンとたたいた。私は黙って従った。緊張して体がこわばる。何を言われるのかが怖い。
あれだけの事をしておいて、私は兄さんに嫌われるのが怖い。
私が座ると兄さんは立ち上がり、私の後ろに回った。
兄さんの手が私の髪にふれる。私はびくっと震えた。
そしてブラシで私の髪をといてくれた。
兄さんの手は優しくて温かい。
私は思い知った。私と兄さんはやっぱり兄妹だ。
兄さんも私とおなじ馬鹿だから。
「梓」
何も変わらない兄さんの声。
「謝らないといけない事がある」
違う。謝らないといけないのは私だ。なのに。そうなのに。声が出ない。
「あの日から、梓と向き合うのが怖くて仕方が無かった」
違う。あれは私がそう仕向けたんだ。
「だから僕はずっと逃げた。梓と向き合わずに家事に逃げたんだ。梓に苦労をかけたくないと自分に言い訳して」
私の髪をすく兄さんの手が温かい。兄さんが今どんな顔をしているのか、怖くて見られない。
「ずっと僕が家の家事をして、時々でいいから梓が手伝ってくれる。いつか梓がもう自分を責めないでと言ってくれる日を待つ。いつか梓がゆるしてくれる日を待っていた」
私は分かっていた。分かっていて付け込んだんだ。
「でも薄々と気がついていた。もしかしたら梓は僕の事を嫌っているわけではないのかもしれないって」
兄さんの手が離れる。温もりが消える。
「でも僕は怖くて梓に確認できなかった。違っていたらと思うと、行動できなかった」
私は振り向いた。兄さんの誠実な瞳。
「でも、僕のその臆病さが梓を苦しめた。結局、僕は自分に言い訳して梓に向き合おうとしなかった」
違う。兄さん違うよ。向き合おうとしなかったのは私も同じ。
「梓。本当にすまない」
兄さんは私に頭を下げた。違うのに。兄さんは何も悪くないのに。
「兄さんは馬鹿よ。悪いのは私なのに」
私は兄さんの頬にふれた。昨日、私がえぐった傷跡。
「なのに何でそんなに私に優しくするの」
頬にあてた私の手に兄さんの手が重なる。
「梓は僕の大切な妹だから」
兄さんは笑った。いつもの困った笑顔ではない。温かくて優しい笑顔。
「私は兄さんにひどい事をした」
気にしないでというかのように無言で首を横に振る兄さん。
兄さんの手が温かい。兄さんの手が私の目元をぬぐう。私は泣いていた。
「ひっく、だけどっ、ひっ、わたし、ぐすっ」
涙がとめどなくあふれる。
「今さら、ひっく、わたし、ぐすっ」
兄さんを好きになって。
兄さんを騙して。
兄さんを傷つけて。
今さら何も無かったように過ごすのは無理だ。兄さんがゆるしてくれても、私は私自身をゆるせない。
兄さんは小さく首をふった。
「梓も」
私の頭を優しくなでる兄さん。温かい手。
「自分をゆるして」
ごめんなさい。
「うわぁぁぁぁああ!」
私は兄さんに抱きついた。
「ひっく、兄さん、ぐすっ、ごめん、ごめんなさい、ひっく、ぐすっ、ううっ、あうっ、ぐすっ」
ごめんなさい。好きになってごめんなさい。諦められなくてごめんなさい。兄さんの妹でごめんなさい。
「ごめん。何も気がつけなくて」
兄さんは私を優しく抱きしめてくれた。温かい。兄さんの腕の中で、私はずっと泣き続けた。
私の願いは叶わなかった。兄さんにとって、私はあくまでも妹だった。
でもいい。
兄さんが望むならそれでいい。
この人の妹として生きよう。
兄さんが妹として愛してくれるのは私だけなんだ。
そのことに満足して生きていこう。
その後、私と兄さんは二人で登校した。
久しぶりに二人で学校までの道のりを歩いた。
誰もいない道を並んで歩いた。
はたから見た私たちはきっと普通の兄妹に見えただろう。
でもいい。それでいい。
それが兄さんの望みだから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
遅れてきた私に奇異の視線が突き刺さる。遅刻したのは初めてだから仕方がないだろう。
夏美が私を見る。ちょっと怒っているように見える。
お昼休み、夏美が近づく。頬と唇には私が傷つけたあと。私は身構えた。
夏美が私に手を差し出す。そこにはお弁当。
「お弁当ないでしょ。一緒に食べよ」
私はまじまじと夏美を見た。そっぽを向いてちょっと恥ずかしそうな夏美。
「お兄さんがゆるしてあげてって言うから、私もゆるすよ」
兄さんが夏美を選んだのも仕方がないと思う。私だったら絶対にゆるせない。
私は弁当を受け取り、ふたを開いた。
おいしそうないい匂い。弁当から漂う匂いは、弁当から出てはいけない匂い。
クラス中の視線が突き刺さる。
「私の得意料理だよ。味わって食べてね」
夏美は誇らしげに胸を張る。
私はスプーンを、そう、スプーンを片手に一口食べた。腹立たしい事においしい。
「おいしいでしょ?」
夏美のカレーは確かにおいしい。
うれしそうににこにこしながら夏美もお弁当を開いた。中身は同じくカレー。夏美はおいしそうに食べる。
「いつもの普通のお弁当でもいいけど、仲直りの証に得意な料理を作ったよ」
私は決意した。夏美に他の料理を教えよう。兄さんにカレーばかり食べさせるわけにはいけない。
そして夏美に感謝した。
兄さんをよろしく。
胸の中で呟いて夏美のカレーを食べた。
辛いのに、少し苦く感じた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕と春子は生徒会準備室でお昼を過ごした。
春子は僕の分のお弁当を作ってくれていた。僕は手をつけず、黙っていた。
「変なものは入れてないから安心して食べて欲しいな」
春子は悲しそうに僕を見た。
「春子には感謝している」
嘘ではない。
小さい時から僕たちを助けてくれた春子。梓の事でも二度迷惑をかけた。
僕は春子を見る。悲しそうな表情。僕の胸に微かな痛みが走る
あの日の事が脳裏に浮かぶ。
「でも、春子が僕にした事を考えると、信用はできない」
春子は立ち上がり僕に手を伸ばす。僕は一歩下がり手を避けた。
「お姉ちゃん悲しいよ」
本当に悲しそうな春子。
「だったら何であんな事をした!」
思わず声が荒れる。
深呼吸して感情を鎮める。
「僕は春子に本当に感謝している。いつも僕と梓を助けてくれた。今回も助けてくれた。家族以外でいちばん身近な女の子は間違いなく春子だ」
でも。それでも。
「今は春子が何を考えているか分からない」
こんなに近くにいるのに、春子を遠く感じる。
物心ついたときからずっと一緒にいたのに。
今も一歩踏み出せば手が届く距離にいるのに、春子がどこにいるのか分からない。
「教えてあげる」
春子は悲しそうに言った。
「今日の夜、私の部屋に来て」
僕は春子をにらんだ。
「大丈夫。家にお母さんもいるから安心して。変な事はしないよ。幸一君も退院したばかりだしね」
行ってはいけない。僕の直感が警鐘を鳴らす。
それでも、逃げるわけにはいけない。
チャイムが鳴る。お昼休みは終わる。
投下終わりです
読んでくださった方に感謝申し上げます
ありがとうございました
次の投下は未定です
GJ!!!! 一時はどうなるかと思ったぜ…今度は vs春子戦が起こるか?
春子さん胡散臭すぎますよ!
gj!
でもすんません…不謹慎ながら大丈夫ですおに吹きました…
>>1 乙
>>16 まさか今日も投下があるとは
GJ
まさか主人公は春子?
自称お姉ちゃんの逆襲が始まる…!
GJ
梓も気持ちの整理がついたようだし、物語も大詰めかな?
GJ!まさかここで死人も出ずに平和?に解決か。予想外だった
しかし油断してはならない。真の黒幕がまだ残っているのだから……
乙りんこ
GJ
しかし春子お姉ちゃんは主人公にもスレ住人にも信用されてないなw
・・・いや、住人からはある意味信用されてると言えるのか
>>20 夏実の台詞なのでミスなのかワザとなのか判別が難しいw
>>26 ある意味、夏美も信用されてないってことだなw
実は本当にいいお姉ちゃん役なんじゃね?あれはただ魔がさしただけ?って段々思えてきてたんが
>>「大丈夫。家にお母さんもいるから安心して。変な事はしないよ。幸一君も退院したばかりだしね」
嘘臭すぎて吹いたwww
>>行ってはいけない。僕の直感が警鐘を鳴らす。
即効否定されてるしw
綺麗になった梓のスイカバーアタックに期待
>>26 まあそれもあるかもしれないけど、「私は大丈夫ですお兄さん」と言いかけていたのでは?
いや口の中ケガして上手く喋れ無いんじゃね??
そういう風に解釈した
投下させていただきます。
今回が初めての投稿になりますので、至らない点はございますが、その時はご指導の方をお願いいたします。
以下注意点
・寝取られ有り 耐性の無い方は中盤以降まで鬱展開が続きます。
・性的表現有り
・ご都合主義のやりたい放題です
まだ残暑の厳しい青空の下を俺は歩いている。
俺こと相川 夕は待ち合わせの場所に向かって歩いている。
今の時間帯は人通りが少なく、問題なく進める。
(まだ待ち合わせの時間までそれなりにあるから大丈夫だな。)
歩いている待ち合わせの場所が見える。
俺はそちらに向かって早足で歩き出すと…
「夕く〜ん。こっちこっち〜!」
一人の女性が俺に向かって声を出して、手を振ってきた。
「もう着いていたのか、もしかして結構待ってたりしたか?」
「そんなこと無いよ、今着いたところだよ。」
女性にそう声をかけると青春のテンプレ通りな言葉を返ってきた。
女性の名前は片倉 春香。
俺の恋人でもあり、同じ高校に通うクラスメイトでもある。
「とか言って、30分くらい待ってそうだな。」
「そんなこと無いって、本当についさっき着いたばかりだよ。」
そういって彼女は俺に向かって笑顔をかけてくれた。
俺は誰が見ても満ち足りた青春を送っているように見えるだろう。
現に、俺は毎日が楽しくてたまらなく、日々満足して過ごしている。
……しかし俺はこんな幸せな毎日を過ごしてもいいのだろうか。
俺は昔に大きな罪を犯している。
それはきっと、決して許されるものではないだろう。
「き……ゆ…ん」
だけど絶対に回りに教えることはしないだろう。
だって、俺は…
「夕くん!!」
「うわっ!」
突然耳元で叫ばれてびっくりしてしまう。
「聞いてる?何度声を掛けてもぴくりとも反応しないから心配したんだよ?」
「あ、ああ、ごめん。少し考え事していてな。」
「もう、折角のデートなんだから、しっかりしてね。」
「ごめんごめん、じゃあ早速行くか。」
今は考え事してる場合じゃないな。
折角、春香とデートしてるんだから楽しまないと失礼だよな。
俺はついさっきまで考えていたことをすっかり忘れ、今日1日、思う存分春香と遊び倒した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
…最近春香の乗りが悪い。
遊びに行こうと誘っても…
「ごめん、夕くん。今日も用事があるから。本当にごめんね…。」
と断られてしまう。
紫煙
しょうがない、今日は部活も何もないし、まっすぐ家に帰って昼寝でもしよう。
しばらく歩くと自分の家が見える。
…平凡な2階建てのどこにでもある家、俺はここに俺と妹、そして引き取ってくれた親戚の夫婦の二人暮しだ。
だが今現在、親戚夫婦は海外に出張しており、実質上は妹と二人暮しである。
ちなみに実の両親はすでに死んでいる。
「ただいま。」
「おかえりなさい、兄さん。」
リビングの方から声が聞こえた。
…めずらしいな、いつもはこの時間帯には帰っていることは少ないのに、丁度俺みたいに用事が何も無かったのだろうか。
「蓮がこんな時間に帰ってるなんて、めずらしいな。」
俺はリビングで雑誌を見ている妹にそう声をかけた。
俺の妹の名前は相川 蓮、学年でもトップクラスの容姿と頭脳を持った、俺とは似ている所を探すのが大変なほどの完璧超人だ。
「そういう兄さんこそ。最近は彼女の方に構って、いつも帰りは遅いですのに。」
「うっ。」
図星だった。
「今日はたまたま春香が用事あって、遊びにいけなかったんだよ。」
「そうだったのですか。」
と、会話が終わってしまう。
俺と妹の仲は他の家庭でも見られる程度で、そこまで仲は良くないが、会話も何も無いほどではない。
だが、ほぼ確実に好かれてはいないだろう。
なぜなら妹にはとあるトラウマがあって、そのせいで極度に男性を避ける気配がある。
「じゃあ、俺は自分の部屋に居るから。」
気まずくなり、そう言ってリビングを退出する。
…それにしても春香は最近本当に忙しいそうだから、早く前にみたいに過ごせるようになればいいな。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
結局あれから数週間が経過したが、相変わらず春香は忙しそうだ。
いつになるんだろうな…
と、メールの着信音が響き、メールを確認すると春香からのメールのようだ。
『夕くんお願い、今から私の家に来てくれないかな。』
…何の用だろうか。
まさか別れ話ではないかと危惧し、急いで春香の家に向かい呼び鈴を押した。
「は〜い。鍵は開いてるよ夕くん、私の部屋に着てね。」
俺は玄関を開け、春香の部屋に向かった。
すると、俺の手足からガチャッと音がした。
「なっ。」
…俺の手足は手錠によって重いタンスい繋がれ拘束されてしまった。
「何のつもりだ!」
そう春香に対し叫ぶと…
「それは俺から説明してやるよ。」
第3者からそんな声が聞こえてきた。
「よう、相川! 久しぶりだな。あの時は世話になったなぁ。」
「お前、佐々部! 何でここに居る!」
声の主は佐々部 晃、こいつもクラスメートであり、こいつと俺には少なくない因縁があり、佐々部は俺を心底嫌っている。
そんな奴が何で、いやな予感がする。
「つれねぇな、相川。今日はお前に見せてぇことがあるんだよ。」
「実はね夕くん。私とご主人様のSEXを見て欲しいの。」
な、ご主人様!SEX!
固まる俺を尻目に二人は全裸になり絡み始めた…。
「春香のマンコは中々いい具合だぜぇ、最近テクも良くなって来たしな。」
「はぁん、ご主人様のおかげですぅ。もっとテクを磨いて立派な性奴隷になりますねぇ。」
あまりのことに思考が止まり、声を出すことも出来ない。
二チャにチャと淫猥な音が響く。
「くくく、これは相川、お前に対する復讐だ。俺の復讐を後押ししてくれる奴もいるようだしなぁ。」
何のことだ、佐々部に手を貸すような奴が居るのか?
「どうだ春香。俺のイチモツの具合は、そこの短小の早漏に比べてよぉ〜。」
「あぁん、夕くんのはご主人様のモノに比べ小さいし短いし、もうご主人様のチンポじゃないと満足できませんっ!夕くんのチンポじゃ入れられてる気がしません!」
春香は俺に向かってはっきりと宣言した。
「そ、そんな春香…。」
…俺の目の前で彼女が寝取れているのを目撃してもあまりのショックに呆然としている。
それから俺は、二人の行為を眺めるしか出来ず、しかも佐々岡に命令された春香に足でいかされ早漏と罵倒された。
…それから俺は解放される。
「春香、いったいどうして…。」
「私はどうもしてないよ。だって夕くんはご主人様みたいに女の喜び教えてくれないし、夕くんみたいな粗悪なチンコじゃ我慢できないもん。夕くんみたいな粗悪なチンコとやってて
本当に最悪。騙されたみたい。もう夕くんは女を作っちゃだめだよ。夕くんみたいな粗悪なチンコに引っかかっちゃう女の子がかわいそうだもん。」
その言葉に頭が真っ白になり、俺は春香の家を飛び出す。
家に着いた俺は自室に入りそのままベットに倒れ泣いた、ひたすら泣いた。
人生でここまで悲しいのは初めてあり、何よりも春香に裏切られたことがあまりにも悲しかった。
俺はそのまま死ぬように眠ってしまった。
「お……に…さ…」
「ん…。」
眠い。
俺の意識はまどろみの中で、ふわふわした感じがひどく心地よい。
「起きて下さい兄さん!」
がんっ!
俺の頭に強い衝撃が走りぬけ、一瞬にして意識が覚醒される。
「何すんだ!」
「何するもどうも、もう朝ですよ。目覚まし掛けないで何をやっているのですか。とりあえずおはようございます。」
「あ、ああ…。おはよう、蓮。」
何で目覚ましを掛けなかったんだ、俺。
そして、昨日のことが、フラッシュバックする
「すまない、今日は学校は行きたくないんだ。だから蓮、連絡しておいてくれないか。」
「何をバカなことを言っているんですか? 大方、片倉先輩に振られたのですか?」
「っ!」
蓮はほぼピンポイントで俺の状態を当ててくる。
「図星ですか。偉い事は言えませんけど、ここで別れたと言うことは近い内に別れることになったと思います。片倉先輩も数多くいる女性の内の一人です。だから兄さんにはもっと相応
しい方がきっといます。ですから頑張りましょう。」
未だに昨日のことが頭にちらつき、行動する気力があまり生まれないが、蓮の言葉で多少だが救われた気がする。
「ありがとう蓮、頑張ってみるよ。」
「どういたしまして、それでは下でご飯を用意しておきますので。」
と、言って背を向けてドアを閉める蓮。
確かに悲しいが、いつまで後ろを向いているわけにはいかないので、学校に行くとするか。
俺は学校に着いたが春香や佐々部には前日のことがあり、全く目を向けることは出来なかった。
今日は無気力状態のせいか、放課後まで終止ぼーっとして後、委員会に出ることにした。
「相川先輩、一体どうしたんですか?」
「どうしたって、何が?」
そう声を掛けてくれたのは自分の所属する委員会の後輩の女の子、冬原 小雪ちゃんだ。
「何がって、世界の終わりみたいな顔してますよ。」
俺、そんな顔をしていたのか?
まあ、昨日が昨日だから、もしかしたらそんな顔していても可笑しくないかもしれないが、あまり心配をかけるわけにはいかない。
「大丈夫、こっちの問題だから気にしないで…」
「気になります!!」
俺の言葉は小雪ちゃんの声に遮られたしまった。
突然のことでびっくりしてしまったが、気を取り直して小雪ちゃんに声を掛ける。
「本当にこれは俺自身の問題だから、気にしないで。」
「…気にしちゃ駄目ですか?私が心配しちゃ駄目ですか?」
俺はそういった様子の小雪ちゃんに困惑してしまい、うまく言葉を投げかけられない。
「…先輩のことが好きです。先輩のことが心配なんです。だから私に話してくれませんか?」
俺は小雪ちゃんの言葉に震えてしまった。
俺にはまだ、俺のことを好きな人が居てくれた事実が、たまらなく嬉しかった。
気づけば今までのことをのことを、春香の付き合いが悪くなったことを、いつの間にか寝取られていたことを、そして春香に散々罵倒されていたことを語っていた。
「なら先輩。私と付き合いませんか? 先輩の心の傷が癒えるまでずっと一緒にいてあげます。」
俺はその小雪ちゃんの言葉に自然と頷いていた。
あれから2週間が経ち、だんだんと俺は立ち直っていった。
本当に小雪ちゃんには感謝しても仕切れない。
ふと、メールの着信音が聞こえた。
見てみると、春香のからのメールで、結構長い動画が添付されていた。
震える手で、まず文章から確認する。
『夕くんて本当にひどいよね。言ったよね、夕くんは女を作っちゃいけないって、付き合った女の子が可愛そうだからって。本当に夕くんのこと監視しておいてよかったよ、夕くんの被害
者が出なかったから。これからも夕くんの粗悪なチンコの被害者が出ないように監視してあげるから。あははっ!』
「な、んだよ。何なんだよ、これは!」
慌てて動画を再生すると、そこには俺にとって絶望となるものが写っていた。
それには1組の男女がSEXをしていた。
それはよく知っている顔、なぜなら佐々部と小雪ちゃんが写っていたのだから。
『せんぱ〜い、見てくれてますかぁ。』
小雪ちゃんは佐々部の腰の部分に乗っかり腰を振って、快楽に満ちた声で俺を呼んでいた。
何が起きているのか理解が出来ない。
『あんっ、ご主人様のおちんちん、おっきくて気持ちがいいです。聞きましたよぉ、せんぱいのおちんちん、春香お姉さまの足でいっちゃう粗悪で最悪なんですってねぇ〜。危うく騙され
るところでした。私はご主人様に処女を捧げられてられてとっても満足ですぅ。』
頭の中がぐるぐる回り、何も考えられなくなり、足元から崩れてしまいそうだ。
それから後の動画は佐々部と小雪ちゃんがSEXして、俺を罵倒する内容が続き、最後にこう締めくくられていた。
『せんぱいは私を騙していたんですね、最低ですぅ。そんな最低なせんぱいは二度とSEXしてはいけませんよ〜。大丈夫です、オナニーしていれば欲求は解消できます
から。きゃはっ♪』
…俺はいつの間にか家に帰っていたようで、人の本能に苦笑してしまう。
もう何がなんだか分からない、俺を癒してくれると言った小雪ちゃんも春香と同じことになって、もう何も分からない…
俺がいけなかったのだろうか、俺の性技が未熟なのがいけないのか、俺のペニスが佐々部より小さいのがいけないのか、何もわからない。
ただ分かっていることは、俺は捨てられたという現実だけだ。
「あ、ああぁ、ああああああぁぁぁぁ!!!」
もうとっくに枯れたと思われていた涙が止め処なく流れていた…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それからの俺は何するにしても、ただ無気力だった。
勉強する気にもならず、部活を止め、学校生活が一気にどん底となった。
一番ひどいのが極度に女性不振症になったことだろうか、酷い時では女性が視界に入っただけで世界が淀んでしまう。
…やはり罪を犯した俺には幸せになる権利がないのだろうかと考えてしまう。
そこから家に引きこもってしまうのは早かった。
「なんでこうなったんだろう…」
苦しかった、もう生きるのに苦しかった。
死ねば楽になるだろうか、といった考えも出てきてしまう。
ふと視界に包丁が目に入る。
もう疲れた、死んでしまおうか…
支援
頼むからこんな所で止まらないでくれ…何かしらないと鬱で死ぬ
死ねよ
投下終了宣言なし?
大変申し訳ありません。
只今、アクセス規制により携帯からご連絡致します。
お待ちの方々には大変申し訳ありませんが、規制が解除するまでお待ち頂けますでしょうか。
あらら
連投規制かな
また誰かが暴れたみたい
俺も規制されてたわ
やっぱりNTRはNTRが好きな人じゃないとキツイな
このまま続きが来ないと俺も欝になりそうだ
ナニがこまい俺からすれば鬱以外の何でもないorz
早く…早く続きを!!!!
俺はふらふらと台所の方に足を向けると、何かが俺の視界を遮った。
「何をしようとしているのですか?」
「蓮、か…。」
「…自殺しようとしているのですか。答えてください兄さん。」
「どうでもいいだろ、別に。」
流石は妹と言うべきか、しっかり俺のやろうとしていることを把握していやがる。
「また裏切られたのですね。」
「…もういいだろ。もう嫌なんだ! 俺が悪いのか! 俺がいけないのか! 2回も寝取られて! しかも同じ男に! もう女なんか信じられるか!」
もう何もかもが嫌だった。もう世界から消えたかった。
そんなことを考えていると、蓮に唇を塞がれた。
「んぅ…くちゅ……んっ」
俺が呆けている間にも着実に時は進み、蓮はその小さな舌を差し入れてきた。
息は荒くなり、舌が絡み合い、ちゅくちゅくと音がなり、なぜか甘い蓮の唾液が流れ込む。
「ぷはぁ! 何のつもりだ蓮!」
「何って、私が兄さんを好きな証明ですよ。もちろん1人の異性としてですけど。」
蓮が何を言っているか理解できない。
蓮が俺のことを異性として好き、愛している?
「お前、それは近親相姦。いや、それはともかく、俺はもう女性なんか信じない。」
「大丈夫ですよ兄さん。私たちはただのカップルでは終わりません。血のつながりという、どんなつながりよりも深いものがあり、それは私達を完璧なつがいにします。」
「だが…」
「佐々部さんでしたっけ、兄さんの彼女さんを寝取った方は。何を思ったのかは知りませんが、私にもあの汚らわしいクズは話を掛けてきました。」
そんな、たった一人の血のつながった家族まで奪おうと言うのか。
俺がそんな絶望に悩んでいることん尻目に、蓮は歌うように俺に告げる。
「ご心配なく。あの汚らわしいクズがあまりにも煩わしかったので、二度と兄さんや私に手を出せないくらい完膚なきまで潰して置きましたから。」
「つ、ぶした…?」
「はい、豚のように鳴いて許しを請いていました。」
蓮の腕っ節はそんじゃそこらの奴じゃ敵わないことは知っているが、そこまで人間離れしているほどなのか?
だか蓮は嘘は決して言わない。おそらく事実なのだろう。
「私の人生は兄さんのおかげで始まりました。あの時、私のために犯してくれた罪で歯車が狂ってしまった兄さんを、世界で一番愛している。」
「…それは、俺に対する罪滅ぼしでもあるのか?」
脳裏に過ぎる、俺の犯した過去の罪。
俺は父親を殺した。尊属殺人である。
たまたまとか偶然ではなく、この手で、確固たる意志で、殺意を持って、妹のために、そして俺のためにも父親を殺した。
「それは確かに多少あります。ですが私は兄さんのためなら死すら厭わない。証明として今ここで片腕を切り落としても構わない。私にとっては兄さんが唯一であり、絶対でもあります。
私はあの時から兄さん以外に触れられると怖気が走ります。だからこそ私の世界は兄さんだけであり、他の有象無象は塵芥に過ぎません。私は兄さん
2人っきりで甘美な世界を創りたい。」
…考える
近親相姦は道徳的にも個人的にも避けるべきであろう。
しかし俺は、もう99%以上の女性を信じられないだろう。
では蓮はどうであるか。
蓮はずっと俺を見てくれていた、ずっと愛してくれていた、ずっと必要としてくれていた、俺のために何でもしてくれると言っだ、佐々木部の奴も再起不能にしたらしい。
蓮ならば信じられると本能が訴える。
ならば近親相姦でも構わない、蓮を愛することが出来る。
「私はずっと寿命が来るまで兄さんと一緒です。だから創りましょう。私と兄さんしか主要の登場人物がいない物語を。」
…そして俺たちは2人だけの世界を紡ぎ出していった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それからのことを少し語る。
次の日、学園に行くと佐々部が入院するとのことであり、たびたび恐慌状態になるくらい危険らしい。
…蓮何をしたのだろうか。
その他にも片桐さんや冬原さんが謝罪してきた。
今更どうでもいいので
「くだらないことで話を掛けないでくれないか。片桐さん(冬原さん)、二度と目の前に現れないでくれませんか。」
といったら青い顔で呆然としていた。いったい何があったのだろう。
そして今、俺は家に帰った後、蓮と性行為をしている。
この記念すべき日にどうしてもとのこと。
「んん…にい、さん……もっとっ」
「ああぁぁ!蓮!」
血のつながった性行為ひ容易に抜け出せないとのことだが、これは抜け出す意思しら浮かばないくらい甘美であった。
「ん! …今日はこの辺にしておきましょう。兄さんも引きこもったのが原因で限界みたいですから。」
情けないことに事実だった。
「ごめん…すこしねるから…」
…意識が沈んでいく。
「ほぼ計画通りに行きましたね。バカとハサミは…ではありませんね。バカとビッチは使いようと言うべきですか。ふふっ、あはははっ!」
END
以上、投下を終了させていただきます。
携帯からなので時間が掛かり、大変ご迷惑をお掛けいたしました。
実は妹視点の裏があるのですが、様子を見て需要が少しでもあれば投下します。
内容として
・妹が兄を攻略するハートフルストーリー
・キモウトに手を出した末路
ですが、こちらは表以上にご都合主義のやりたい放題です。
是非をお願い致します。
>>50 GJ
あると思います
好きに投下すればいいのさ。
あんまり読み手と長くやりとりしてると、投下するタイミング失うよ。
>>50 投下乙
投下すれば良いと思うよ
ところで女二人が突然謝罪したり、青い顔して
呆然としたシーンの所が何か気になる
ただ妹に脅されたにしては態度が変だし……
裏とやら分かるのかな?
>>50 GJっす
バカとビッチがどんな目にあったか知りたいから是非とも裏も投下願いたい
GJです
短編だからNTRも心理描写も薄くてよかった
もしこれが長編でなしていたと思うと……ゴクリ
寝取られの展開は某サイトの疼きに似てるのは気のせい?
恋人が寝取られる、元恋人に監視されたり、好意を持った後輩をまた寝取られるはそっくりだと思うけど
投下いたします。
今回、少々性的表現が存在しますが、濡れ場の描写は初体験ですので読みにくい、おかしい所など多々あると思います。
ご了承ください。
以下本編。
わたし、天野林檎は呪われている。
あの、美しい、女神が浮かべた悪魔のようなほほ笑みに。
*****
わたしには兄がいて、4年前までは姉もいた。
二人は双子で、当時の幼かったわたしにも分かるくらい、何か特別なものでつながっていた。
姉、遥ねえは生来の病気で、その短い人生のほとんどを、病室で過ごした。
だから、余り会えない遥ねえはわたしにとって姉と云うよりも寧ろ遠い親せきの人という感覚が強かった。
それに、両親は遥ねえにつきっきりだったから、お兄ちゃんがわたしの一番身近な家族と言ってもよかった。
お兄ちゃんは、普通ならば両親に構ってもらいたい盛りのわたしを、両親の代わりに面倒見てくれた。
――今思うとそれは、わたしのためではなかったんだろうと思う。
きっと、わたしが両親の手を煩わせることで、延いては遥ねえに迷惑がかかることを、きっとお兄ちゃんは危惧したんじゃないだろうか。
お兄ちゃんは、遥ねえが好きで。遥ねえはお兄ちゃんが好き。
その間に、わたしが入る隙は、微塵もなかった。
ある日、遥ねえのお見舞いに行った時。
「ねえ、私林檎と二人っきりで話したいことがあるんだけど、いいかしら」
突然の遥ねえの言葉に不思議がる両親とお兄ちゃんを上手く丸めこめ、病室にはわたしと遥ねえの二人きりになった。
突然のことに訳も分からず、更にはその時点では嫌いだなと思っていた遥ねえと二人きりになってオドオドしていたわたしに、遥ねえは笑いかけてきた。
遥ねえの笑顔を、たくさんの人がまるで女神のようだと称していたけれど、わたしは相変わらずその笑顔がとても怖く寧ろ悪魔のそれに思えてならなかった。
「林檎は私のことが怖いのね」
そう言って遥ねえは、クスクスと口に手を当てた。
真っ白な部屋に、遥ねえの黒く艶やかな髪が映えて、まるでTVでみたお化けみたいだ、と思った。
「ねえ、林檎は彼方のことが好き?」
彼方。遥ねえはお兄ちゃんのことをそう呼んでいた。
けれど、わたしにとってお兄ちゃんはお兄ちゃんだったから、その彼方がお兄ちゃんのことを指すと気づくのに少し遅れた。
好き?わたしが、お兄ちゃんを?
考えて、わたしは、こくりと頷いた。当時のわたしにとって一番好きな人は、間違いなくお兄ちゃんだった。
遥ねえは、またクスクスと笑う。
「そう、でも残念ね。彼方が好きなのは、私なの」
その言葉にわたしはむっとして、
「りんごのことも好きでいてくれるもん」
「でも一番ではない。そうでしょう?」
「……あぅ」
否定できなかった。お兄ちゃんが誰を一番好きで大切に思っているかなんて、お兄ちゃんを見ていれば誰だって気づくことだったから。
ねえ、林檎。と遥ねえがわたしの顔を覗き込んだ。
わたしやお兄ちゃんと顔のパーツは似ているけれど、何処か人形めいた顔立ち。
外に出て、日の光を一身に浴びながら目一杯遊んだ経験などないであろう、白く透き通った白磁の肌。
黒い宝石に見据えられたわたしは、その場を逃げだすことも、目を反らすこともできず、その場に固まることしかできなかった。
遥ねえは、一生のほとんどを病気と闘いながら、世間と隔絶された病室で生きてきたせいか、わたしはもちろん、双子で同じ年である兄さんと比べても随分大人っぽい人だった。
若くして死と向き合い続けた遥ねえは、他の誰よりも達観し、そして聡明だった。
「彼方の一番に、なりたくはないかしら?」
「お兄ちゃんの、一番」
鸚鵡返しに呟く。今思えば、この時わたしは遥ねえの空気に飲まれ、半ば催眠をかけられているような状態だったのかもしれない。
「そう、林檎は彼方が一番好きなのよね、それなら彼方の一番も林檎になったら、とても素敵な事だと思わない?」
「お兄ちゃんの、一番……なりたい」
「ふふ、そうよね、なりたいわよね。それじゃあ、これから私が林檎を手伝ってあげる。だから林檎は私の言うことをよぉく、聞くのよ。いい?」
ぼんやりと、霞がかったような頭で特に深く考えることもなく素直に肯いたわたしに、遥ねえは満足げに嗤い。
「じゃあ、私と約束しましょう?ほら、林檎も小指を出して」
「うん」
そして、わたしは遥ねえと約束を交わした。
その約束こそが、わたしの人生を大きく変える契約の原初だった。
その契約の日から、遥ねえとわたしは度たび二人きりで話し合った。お兄ちゃんはそのことが不満だったようで少しだけわたしに冷たくなってしまった。
「そう彼方と喧嘩したの。でもね、林檎。彼方は決して貴女のことを嫌っていないわ。寧ろ貴女のことを凄く大切に思っている」
「そんなの、うそだもん。りんご、お兄ちゃんに嫌いだって言われたもん」
「彼方は少し恥ずかしがり屋さんなの、今日だって私に林檎のことで悩んでることを私に相談してきたのよ」
「……何て?」
「林檎と仲直りしたいけど、どうしたらいいかなって。ね、彼方は林檎のこと嫌ってなんかいないわ」
「……」
「林檎は彼方のこと嫌い?彼方の一番にならなくてもういいの?それなら、私が彼方を貰っちゃうけどいい?そうなると林檎は一人ぼっちになっちゃうわね」
「……いや」
「そうよね、林檎は彼方のこと大好きだものね」
当時のわたしのお兄ちゃんへの想いは恋愛感情ではなく、家族に対する親愛感情だった。
遥ねえは二人きりの会話の中で、幼いわたしに舌先三寸でその感情を恋愛感情だと錯覚させすり替えていった。
そんなお兄ちゃんをわたしに意識させるような会話が1年近く続けられ、元々頭がよくなく、人に流されやすいわたしは、物の見事にお兄ちゃんを男として愛するようになってしまった。
その頃には遥ねえの病状も、もう明日を生きれるかどうかと云うところの一歩手前まで来ていた。
そのことを、遥ねえは一番知っていたのだろう。
遥ねえは、最後の仕上げに取り掛かった。
舞台は、夏、遥ねえの最後の仮退院。
照りつける太陽、蝉しぐれ、そして、畳の上に転がった二人の汗のにおい。
*****
遥ねえの仮退院の日、私たちは山間にある祖父母の家に遊びに来ていた。
その日のわたしは、遥ねえに珍しく遊んでもらい、遥ねえの子守唄でうとうとと眠りこけていた。
誰かの声と何かが倒れるような大きな音がして、わたしは目を覚ました。
蝉しぐれに交じり、ひそめたような声が聞こえてきた。
声は、隣の部屋から聞こえた。
お兄ちゃんと遥ねえの声。
気になったわたしはその部屋へ行き、襖の前で耳をそばだてた。
「ね、姉さん、痛いよ。それに大きな音を立てて誰かが来たらどうするのさ」
「ふふ、彼方が余りにも可愛いものだから襲っちゃったわ。でも大丈夫よ、今家にはだれもいない、だって両親は林檎を連れて買い物、
祖父母は今夜私に美味しいものを食べさせるため畑仕事、私は昼間はしゃぎ過ぎて体調を崩し、仕方なくお留守番。彼方はそんなわたしの看病、そうでしょう?」
「う、うん、そうだけど……姉さん、体調は大丈夫なの?」
「只の仮病だから、大丈夫。それに、彼方とこうしていれば直ぐに元気になれるもの」
「……本当?」
「ええ、病気にも負けないくらい元気になれるわ。だから、ほら、彼方、私をもっと気持ちよくさせて?それと二人っきりと時は遥と呼んでって言ったでしょ?」
「……うん、は、遥」
ちゅぱ、ちゅぱと音。
わたしは、何となく、部屋の襖を、そっと開けた。
畳の上で、お兄ちゃんは下半身だけ、遥ねえはワンピースをはだけて下着を着けていない格好でお互いの唇を合っていた。
「彼方、舌を出して」
「うん……ん」
遥ねえの言葉に従ったお兄ちゃんの舌を、遥ねえが自分のソレと絡めた。
「ん、じゅ……ぢゅ、ぢゅ……ちゅ、ず、ぢゅじゅっ!……あふぅ、はぁ…ん、こく、んん……ふふ、彼方の涎、美味しい」
「ん、んむ……ぢゅ、遥……」
ディープキス。
今でこそ、それくらいで赤面することもなくなったが、当時のわたしにはそれはまるで異世界で起きていることのようだった。
お兄ちゃんと遥ねえは、精々数時間くらいしか年も離れていないのに、普段から遥ねえはお兄ちゃんに対してもお姉ちゃん風を字吹かせていた。
でも、目の前の二人はいつもの姉弟という枠を超えて、まるで主従関係にすら見えた。
「はぁ、はぁ、……彼方、いつものように、私が気持ちよくさせてあげる」
遥ねえの病的なまでに白い肌が、赤く火照っていてまるで本当の人間みたいだとぼんやりとそんなことを考えた。
遥ねえは、体をうつ伏せに横たえ、畳の上に座り込んだお兄ちゃんの股の間に潜り込んだ。
お兄ちゃんの股間を細く白い骨ばった指で、愛しげに撫でた。その表情が、少し辛そうに見えたのは錯覚だろうか。
お兄ちゃんの股間は以前一緒にお風呂に入った時に見たものより、大きく長く、進化していた。
遥ねえがお兄ちゃんのモノにふぅーと息を吹きかけると、股間がビクンと反応した。
「は、遥っ」
「……どうしたの彼方?」
ふぅー。ビクン。
「お、俺っ」
「なぁに、どうしてほしいのかしら、彼方?」
ふぅーと三度の吐息。遥ねえは嗜虐的な笑みで、お兄ちゃんを見上げた。
お兄ちゃんは、羞恥に顔を染めながらも、幼いからこそ抗う術もなく欲望に身を委ね、
「舐めて、気持ちよくして、ほしい」
「よくできました。ご褒美をあげなくちゃね」
遥ねえは対照的に喜色に頬を緩め、お兄ちゃんのモノをペロンとアイスキャンデーにするように舐めはじめた。
「はあ、ん、れろ……」
遥ねえの赤い舌が貪欲にお兄ちゃんに絡みついた。
「れろ、ちゅ……ちゅぷ……ちろちろ、ちゅぶ……」
当時は行為の意味すら理解できていなかったけれど。
遥ねえの舌使いはたどたどしさを残した遥ねえの舌使いが、決して初めてのそれではなく、ある程度慣れていたモノであることが今ならば分かる。
「ちゅ……れむ……ん、んー……ちゅる、んんっ……ちゅぷっ」
美味しそうにお兄ちゃんのモノを舐める遥ねえ。
お兄ちゃんは目を知事手快感に耐えていた。
「んん、んー……ちゅぱ……ちゅ、ちゅ、ちゅっ……はあっ、ねえ、彼方。舐めるだけ、いいの?」
「あ……と……」
「ん?なぁに?」
遥ねぇはお兄ちゃんを見上げながら、れろ、と舌舐めずり。お兄ちゃんは俯いて、声を絞り出す。
「く、くわえて……ほしい」
「もちろんいいわよ、彼方にならお姉ちゃん、何だってしてあげるわ」
遥ねえが、再びお兄ちゃんのモノを一度舐めあげて、口の中に咥えた。
「あーん、ん……んぐ、ん!……んむ、ちゅぱっ……ふふ、美味しいわ彼方」
言葉通り、遥ねえは本当においしそうにお兄ちゃんのモノを咥えていた。
遥ねえの顔は、まるで至高の料理を食べているかのようだった。
遥ねえは、お兄ちゃんのモノにキスをひとつ落とし、再び食む。
そして、そのまま、お兄ちゃんのモノを唇でゆっくりと扱きながら吸い始めた。
「あむ、ちゅう……ちゅぷ、んふっ、じゅるる……」
「あ、遥、気持ち、いいよぅ」
「んふふ、うれひい」
「あぅっ、く、くわえたまま……喋らないで」
「んふ、ちゅっ、んちゅぅぅっ……んっ、んぶっ、じゅるるるっ!」
遥ねえの動きがだんだんと激しくなっていき、音もそれに比例して大きく、妖艶になっていく。
遥ねえが口から肉棒を引き抜くたびに、遥ねえの唾液が零れ、夏の日差しにてらてらと輝く。
「じゅるる、じゅぷっ、んむむ……ぢゅるるー、れりゅ、ちゅぱ、ぢゅぢゅじゅるるるっ!!」
「ん、は、遥……で、でそうだよ、もう……」
その時、遥ねえが口を離し体を起こした。
お兄ちゃんが、物足りない不満そうな顔で、
「え、な、なん……で?」
「んふふ、だって射精しちゃったら終わりでしょ。今日は、これで終わりじゃないの」
「え?終わりじゃないって?」
がばっと遥ねえがお兄ちゃんにしなだれかかるように抱きついた。
お兄ちゃんの耳元で、囁く。
「ねぇ、彼方、お姉ちゃんの初めて貰ってくれるかしら」
「は、初めてって、え、ま、まさか」
「そう、そのまさか。今日はお姉ちゃんの処女を彼方が突き破るの」
「そ、んな……女の人の初めてってそんなに簡単に誰かにあげちゃいけない、って」
「あら、お姉ちゃんの初めてを彼方にあげないで、誰にあげろというの?彼方は誰か知らない人にお姉ちゃんとられてもいいの?」
「よくない!……よくない、けど、でも……」
お兄ちゃんが言葉を濁し、俯いた。
「でも?」
「俺たち、姉弟、だから……」
お兄ちゃんが辛そうに呟いた。
遥ねえはそんなお兄ちゃんを愛しそうに見つめ、慈愛の笑みを浮かべた。
そ、とお兄ちゃんの頭をやさしく撫で始めた。
その表情を見てわたしは、ようやく他の人たちみたいに遥ねえを女神のようだ、と思った。
お兄ちゃんは、女神に愛されているんだ。
「彼方、私はね、もう長くは生きられないわ」
「っ!……そんなことない!」
「ううん、そんなことあるの。見て、私の体、やせ細って、骨が浮き出てまるで骸骨みたい」
「そんなことないよ、遥は、姉さんは、綺麗だよ。だから僕は、姉さんが、ずっと一番、大好きなんだ」
お兄ちゃんの拙い言葉。それでも遥ねえは本当にうれしそうな顔をする。
でも、その表情はすぐに曇り、諦めへと。
「多分、この仮退院が最後になるわ。これが終われば、あとはもう、狭く白い匣の中でただ終わりを待つだけ。そしてその終わりは、もう間近まで迫ってる」
「なんで、何でそんなこと言うの?姉さんは俺と一緒にいれば、元気になれるって、病気にも負けないんだってそう言ったじゃないか!」
「そうね、彼方とそばにいて、彼方とこうして愛し合って私は元気を貰った。それは、本当よ、嘘じゃない。だからこそ私はここまで頑張れた。頑張って何とか初潮を迎えることができた」
確かに、この日の1月前くらいにお赤飯を食べた記憶があった。
その時のわたしには、お赤飯の豆が嫌いで何で普通のご飯じゃないの、と駄々をこねたはずだった。
「私はね、彼方。この日のために今まで生きてきたの。文字通り血反吐を吐きながら、みっともなく生にしがみついて」
遥ねえが、ぎゅっと強くお兄ちゃんを抱きしめた。
お兄ちゃんは、既に大粒の涙をこぼし、遥ねえの言葉はきっと正確に届いていなかっただろう。
それでも遥ねえは言葉を紡ぎ続けた。
「彼方、私に、お姉ちゃんに最後の思い出を頂戴?思い出と、彼方と私の愛の結晶をその身に宿して私はようやく生から解放されるの」
「やだよ、ねえさん、しんじゃ、やだよ」
「ごめんね、彼方。私の命はきっとあと1カ月もたせるので精いっぱい。今だって痛くて、苦しくて、もう、終わりにしたくて。でも、まだ死ねないから。だから私は耐え続けてる」
ねえ、彼方。
抱擁を解くと、遥ねえがお兄ちゃんの顔を両手で挟み、語りかけた。
「ねえ、彼方、お姉ちゃんに愛を頂戴?世界に愛されなかった私をせめて彼方は愛してちょうだい。そして彼方の愛で、私の生を赦して……」
「ねえさん、おれ、愛とか死とかまだわかんない、わかんないよ」
「うん、それでいいの、彼方はまだそれでいい。今はただ、ひたすらに私を求めて」
そ、と遥ねえがお兄ちゃんを押して畳の上に倒した。
遥ねえがその上にまたがった。
そして、瞳をうるうるさせてお兄ちゃんの上からキスを降ろす。
お兄ちゃんのモノをつかみ、萎んでしまったソレを再び硬くさせるために、扱きはじめた。
「そこで、見てて」
挿入できるくらいに十分大きく硬くさせると、遥ねえは唐突に呟いた。お兄ちゃんの視線に小さく首を振った。
「彼方、ごめんね、お姉ちゃんを許してね」
そう言って、また、キスをひとつ。啄ばむように。
そして、遥ねえはそっと、お兄ちゃんのモノをつかみ、ゆっくりと腰をおろし始めた。
「んっ……あああぁっ!、くぅっ!……」
遥ねえが苦しそうに、呻く。
無理もない、遥ねえの年ではまだ早すぎたのだ。
姉さん、と心配そうな声でお兄ちゃん。大丈夫だから、と遥ねえは気丈に応えた。
「う、くっ……あぅああっ!」
「あ、あぅぅぅ、いたっ!」
今度はお兄ちゃんも苦しそうな声を出した。
遥ねえがまだそういう行為のために体が成熟していないのなら、それはお兄ちゃんも同様のことだった。
幼い二人が痛みに呻きながら、体を重ねる。
残酷な時に追い立てられ、どうしようもなくなった二人が、未成熟な体で愛を確かめ合っていた。
そこに、官能などは存在しない。
「だいじょうっぶ、彼方?……ほら、力を、抜いて」
「う、んっ、でも、姉さん、血が出てる」
「いいの、この血は私が一生の内に流した血の中で最も愛しい物なのだから」
遥ねえは最奥まで何とかお兄ちゃんを飲み込み、そこで動きを止めた。
ああ、と遥ねえが感嘆の息を吐き、祈るように中空を仰いだ。
そこには天井しかなかったが、遥ねえの目にはきっと、何か尊いものが映っていた。
ありがとう、と小さく遥ねえが呟き、そ、とお兄ちゃんの唇に触れるだけのキス。
「動くわね」
遥ねえはそう宣言すると、一度腰を少し浮かせて、またゆっくりと沈めていった。
その繰り返し。
「あ、ん……っふ……ふぅっ!」
「あ、あぅ……あ、あああっ!」
「ん、くぅ……あふ、あうぅ……ふ、ふふ、彼方気持ちいいのね」
嬉しそうな、遥ねえの声。けれどその目には、苦痛がもたらす涙が溢れていた。
幾度目かの抽迭を経て遥ねえの声はまだ苦しみが強かったけれど、お兄ちゃんの声は快感を感じることができるようになっていた。
それは、お兄ちゃんの体が慣れたからじゃなくて、きっと、遥ねえがお兄ちゃんのために痛みに締め付け過ぎないように微妙な力加減を維持していたからだろう。
献身的な遥ねえの愛情に、今のお兄ちゃんは気づいているだろうけど、当時のお兄ちゃんには分かるはずもない。
だから、遥ねえの苦痛を犠牲にした快感を感じていた自分をお兄ちゃんは今も恨んでいる。
「んくっ……あぁぁ、あぅ、……かなた、彼方」
「ん、ああ、ああぁぁ……ね、えさん」
遥ねえが、お兄ちゃんの名前を呼んでお兄ちゃんの唇を貪った。
「んふーっ、ちゅ……んんっ、ちゅるるっ!」
「んくっ!んうううぅぅ!」
幼い二人の情事。大人になれない遥ねえと、お兄ちゃんの精一杯の背伸び。
それは、とても拙く、どうしようもなく幼くて、見る人によってはきっと滑稽にすら見えたかもしれない。
刹那の生にあがき、ひたすらにお互いを求めあっていた二人の情事はきっと人と云うよりも動物のソレ。
けれど、理性をかなぐり捨て、苦痛を超えて、本能でお互いを貪る二人の姿は、きっと何よりも美しい。
事実、当時の何も知らない、ネンネなわたしでさえも、二人から視線を反らすこともできず、瞬きすら忘れて二人の姿に釘づけになっていた。
ただ、純粋に、羨ましい、とすら思った。お兄ちゃんを迎えるのが遥ねえでなく、りんごだったらと、心の中で呟くわたしがいた。
「ちゅぶっ、れろ……んむー、じゅぢゅじゅっ!」
キスを続けながら、遥ねえが抽迭を続けていた。
上下だけでなく、左右にも腰をひねりくねらせながら、そして大きく円を描くように振りながら、たどたどしい腰つきで。
「んく、くぅ!……ひっ、あぅ……いっぅ……かなた、かなたぁ」
愛おしげに遥ねえは啼く。
遥ねえの目にはお兄ちゃんだけ、そして、お兄ちゃんの目には遥ねえだけ。
その瞬間だけは、世界に二人だけしか存在していなかった。
「うれ、しいよ……んっ、彼方……ひぅ、私、生きていて、良かったよぉ……ひゅ、んぅぅ!」
遥ねえがとうとう大粒の涙をぽろぽろとこぼし始めた。
わたしが、初めて見た遥ねえの涙。幼いながらもわたしは、美しいな、と素直に感じていた。
そ、と遥ねえがお兄ちゃんの手をとって自分の胸にあてさせた。
「ごめん、ね……んっ、本当は大きくて柔らかい胸をもませてあげたかったけど、無理だったね」
「そ、そんなの、関係ないよ。遥の胸暖かくて、柔らかい。それに、トクトクって確かに生きてるよ」
「そう、ね、確かに、私は生きてるわね。ええ、そう、そう」
お兄ちゃんが、愛おしげに遥ねえの胸を揉みつつ、時折淡いピンク色の乳首を転がす。
「あ、あんっ……んぅぅ、あんっ」
気のせいか、しだいに遥ねえの声も苦痛以外のものに色づき始めていた。
「あ、っくぅ、あんぅ……んんんっ!あはぁっ!」
「は、るか、俺、俺、もう……」
「あぁぁぁ!いい、のっ、我慢しないの。んううぅっ、あ、私の中で、気持ちよくなってっ!私の中に、あんっ、全部射精してっ!」
「で、でる、遥、あうぅぅぅ!で、でるよっ!」
「きて、きて彼方、私の、一番奥まで、私が、そして彼方がお互いを忘れないようにっ、ぶちまけってっ!……あはあぁぁぁぁっ!」
瞬間。
二人の体がびくびくっと小刻みに震え、ぺたんと遥ねえがお兄ちゃんの胸に倒れこんだ。
「あっ、あぐぅぅっ!……あっ…………あはぁ…」
「うっ、あっ!…あ…………あぁぁ」
二人の荒い呼吸音が、部屋に満ちた。
思い出したかのように、蝉時雨が降り注ぎ始めた。
暫くして遥ねえが、そっと自分の膣で包み込んだお兄ちゃんを引き抜いた。
どろり、と血と精液がまじりあったものが溢れだした。
遥ねえは、それをひと掬い、まるで自分の愛し子を見つめる母親のような表情で口に含んだ。
そして、襖を、いや、襖の向こうで立ち尽くすわたしをしっかりと見据えた。
にぃ、と遥ねえが嗤った。女神の笑顔が、悪魔のそれへと変貌した。
そして、余韻に浸りぐったりとしたお兄ちゃんを抱き起し、見せつけるように、強く抱きついた。
その目に宿るのはきっと、満足感と執念、そして諦観。
*****
「どうして、あんなことしたの?」
あの情事のすぐ翌日、遥ねえは倒れ、一週間ほど面会謝絶の日が続いた。
お兄ちゃんは、その事を自分のせいだと思い込み、遥ねえの容体がひとまず落ち着くまでの間の落ち着きようと言ったら、それはもうひどいものだった。
そのせいで一週間近くお兄ちゃんとまともに会話すらできなかったわたしは、一人でこっそり病院へと行き、遥ねえに詰め寄った。
遥ねえは、わたしが顔出してからずっと笑みを浮かべたまま、わたしのその言葉を待っているようだった。わたしの剣幕に遥ねえは、笑みを崩さず、ただ、ごめんねと呟いた。
「遥ねえ……?」
わたしは遥ねえの様子に違和感を抱いた。何かが、違う。遥ねえは元々覇気やら、元気やらとは無縁の人だったけれど、今の遥ねえからは生気すら薄くしか感じられなかった。
そう、まるで、この世の未練を断ち切り、あとは、ただ、終わりを待つ抜け殻のようですらあった。
ふふ。弱弱しい声。
「私はね、林檎。産まれてこの方、死を運命づけられた事を恨んだことはなかったわ。寧ろ、私じゃなく彼方が病に臥せっていたらと思うと神様に感謝したいくらい」
遥ねえの言葉は、わたしの詰問の答えではなかった。戸惑うわたしを無視して遥ねえは言葉を続けた。
「愛する人より早く死ねるというのは、きっと、幸せな事。私はきっと彼方の死になんて耐えられないから」
でも、と遥ねえの声に、唐突に怨嗟が満ちた。
「でも、それでも不安はあった。私が死んだあと彼方の隣に私以外のメス犬が立つのかって思うと私の心は乱れた。彼方が笑っていて、その笑顔は私に向けられていなくて、
その笑顔をメス犬から奪うことも、メス犬を駆除することもできないなんて」
そう考えると、悔しくて悔しくて。
声がまた萎み、遥ねえは俯いた。今思うと、その時の遥ねえの状態は情緒不安定だったのだろう。死をもう目に見えるまで直前にして、遥ねえは怖くなったのかもしれなかった。
「その思いに至った時から、私は死を怖がりながら生きなくてはいけなくなった。避けられない死に怯えて、遺されたわずかな時を生きるなんて、考えるだけでもゾッとしたわ」
遥ねえが両腕で自分を抱きしめ、ぶるると震えた。その腕を見てわたしは、遥ねえの腕ってこんなに細かったっけ、と思った。
遥ねえの髪は潤いをなくし、肌の白さも美しいというよりは不気味ですらあった。
お兄ちゃんとの情事の時の遥ねえと比べて、1週間という短い日々の内に人はこうも老いるものなのか、と感じた。
そこでわたしは漸く違和感の正体に気付いた。遥ねえは老成をひと足に飛び越え、枯れていた。
「そんな、辛酸をなめるような日々を過ごしているうちに私は、ある考えに思い至ったわ。林檎を私の代わりにすればいいと。性質は違うけれど林檎は年々私に似ていっていたし、
私と同じ血を流す唯一の存在。彼方のそばに寄り添うのがそんな林檎なら、私の心も幾分落ち着けたわ。でもそのためには林檎に彼方を好きになってもらう必要があったわ」
遥ねえの話にそうか、と納得した。だからこそ遥ねえは、いつもお見舞いのあとの二人きりの会話の中で妙にお兄ちゃんを意識させるような話をわたしにしていたのだ。
わたしのお兄ちゃんを好きな気持ちは、遥ねえの画策によってもたらされたものだった。
「もう彼方のことをどうしようもなく愛してしまっている貴方に、今更、倫理感なんかで想いを諦めることはできないわ。林檎に残された道は、近親相姦の道か、
彼方に捨てられて打ちひしがれるか、それしかない」
遥ねえの骨ばった指がわたしの手をつかんだ。その力は予想以上に弱く、儚かった。
「ああ、哀れな林檎。愚かな姉のせいで、何も知らず無理やり壇上に上げられて、数多の矢の標的にさせられる。林檎が歩む道はきっと、真っ当な道ではあり得ない」
遥ねえの生気のない目から、ほろりと涙がこぼれた。
「林檎、彼方のことをよろしく頼むわ。安心して、彼方はきっと林檎を一番大切に思ってくれる。そのための準備は、ちゃんとしておいたから」
そう言って、遥ねえは許しを請うようにわたしの手を、そっと自らの額にあてた。わたしは何処か遠いところでその様子を眺めていた。
それから、数日後。林檎ねえは静かに引き取った。最後まで自分のお腹を愛しそうに撫でながら。そしてその直ぐ後のことだった。
両親が、交通事故で二人ともこの世を去ったのは。不幸中の幸いか、わたしは遥ねえの死に更にふさぎ込んだお兄ちゃんが心配で、家に残っていた。
そうして、わたしたちは二人きりになった。これが遥ねえの言っていた準備なのかとも思った。それを確かめる術なんて、もうなかったけれど。
以上です。
お目汚し失礼しました。
リアルタイムGJ!
遥姉さんの執念が怖すぎる!
続きを楽しみにしています!
ぎゃあああああああ
サーセンorz
そして10話前編も気になるなw
連レスすまn
皆様いろいろお騒がせしました
三つの鎖 10 前編です
※以下注意
エロなし
血のつながらない自称姉あり
投下します
三つの鎖 10
人でごった返す廊下を私は小走りに進む。
目指すはお兄さんの教室。
さっき梓と一緒に帰ろうとすると蹴飛ばされた。
「私に変な遠慮しないで。兄さんに今日は私が晩御飯作るって伝えて」
そっぽを向く梓が可愛すぎた。
梓。ありがとう。
私はお兄さんの教室をのぞいた。いた。お兄さんは友達としゃべっている。確か耕平さんだっけ。
深呼吸をして教室に入ろうとしたそのとき。
「夏美ちゃん」
絶妙のタイミングで背後から声をかけられ、私は文字通り飛び跳ねた。
「ハハハハハハハル先輩!?」
「こーいちくーん!彼女が来てるよー!」
えええ。
「なんやて!」
驚愕する耕平さん。クラス中の視線がお兄さんに突き刺さる。
お兄さんは苦笑した。
耕平さんは我に帰るとお兄さんの肩をポンとたたいた。
「OKや。幸一。女を待たしたらアカン」
「耕平。すまない」
「落ち着いた時にでも紹介して。明日は遅刻したアカンで」
お兄さんは耕平さんに手を振って私に近づいた。
まずい。恥ずかしすぎてお兄さんを見れない。
「春子」
「あれれ?耕平君にまで隠してたんですか?」
ハル先輩がにやにやする。
「行こう夏美ちゃん」
お兄さんは私の手をつかんで歩きだした。
私の手をつかむお兄さんの手が熱い。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「夏美ちゃん。ごめんね」
帰り道。お兄さんが申し訳なさそうに言う。
私はいまだにうつむいてお兄さんの顔を見れない。
「いえ、恥ずかしいですけど大丈夫です」
いまだに私の手はお兄さんに握られたまま。恥ずかしいけど嬉しい。
お兄さんが手を離そうとするたびに、私は手をつかんでしまう。お兄さんは離さずにいてくれた。
「夏美ちゃん?」
私は顔をあげてお兄さんを見た。お兄さんの顔は無表情だけど微かに赤い。お兄さんも恥ずかしいんだ。
ちょっと悪いことしたかな。
「お兄さん。ちょっと待っててください」
私はお兄さんの手を放しソフトクリーム屋に走った。
「ソフトクリーム二つください!」
私は受け取ったソフトクリームを持ってお兄さんに駆け寄った。
「手をつないでくれたお礼です。どうぞ」
「ありがとう」
二人でベンチに並んで座ってソフトクリームを舐める。
気恥しい沈黙。
「お兄さん。怪我は大丈夫なんですか?」
昨日入院したばかりなのに。
「心配掛けてごめんね。もう大丈夫だよ」
「お兄さんって頑丈ですね」
やっぱり鍛えているからかな。
「梓も手加減してくれていたから」
お兄さんはぽつりと言った。私には分からない。でもお兄さんが言うならそうなんだろう。それに梓はお兄さんの事を嫌っていない。
「あのですね」
お兄さんを横目に見る。
「梓に叱られちゃいました。お弁当にカレーはありえないって」
お兄さんはわずかに微笑んだ気がした。
「お兄さんにカレー弁当を食べさせたら承知しないって」
これは梓なりの応援なんだろう。お兄さんにお弁当を持っていってもいいと。
「夏美ちゃん。ありがとう」
お兄さんは私の方を向いた。
「夏美ちゃんのおかげで梓と仲直りできた」
「そんな事ないです」
これは私の本心だ。
「もともと嫌っていなかったんですから」
私はコーンをかじった。お兄さんもコーンをかじった。かりかりという音。
なんだか少し面白かった。
お兄さんは立ち上がり私に手を差し伸べた。
私はびっくりしてしまった。お兄さんは顔を少し赤くしてそのままの姿勢。
すごく嬉しい。
私はお兄さんの手をつかんで立ち上がった。
お兄さんの手は温かかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夜、僕は春子の家のチャイムを押した。
「はーい」
聞き覚えのある声がして扉が開く。
「あら幸一君」
村田のおばさんが出てきた。春子のお母さん。
「夜分遅くに失礼します」
「春子から聞いているわ。遠慮しないで上がって」
にこにこしながら手招きする。僕は目礼してお邪魔した。
「はるこー。幸一君が来たわよ」
とたとたという階段を下りる音と共に春子が階段を降りてきた。
「幸一君いらっしゃい」
春子は笑った。いつもより嬉しそうな笑顔。
「幸一君が来るのも久しぶりだね」
そうかもしれない。最後に来たのはいつだろうか。
「お母さんもお父さんも寂しがっているから、たまには来てね」
僕は村田の家には昔からお世話になっている。特におばさんには本当にお世話になった。
「はいはい。春子。あんまり幸一君を困らせちゃだめよ」
おばさんがお盆を片手に声をかける。お茶とせんべい。僕の好きな茶菓子。
「ありがとうございます」
僕はおばさんからお盆を受け取った。
「ゆっくりしていってね」
おばさんは笑った。少し歳ととったけど、明るい笑顔は変わらない。春子によく似た笑顔。
僕と春子は二階の春子の部屋に入った。
「適当に座って」
部屋は少し散らかっている。相変わらず変なものが多い。一番目につくのはでっかいコンピューターの乗った机だろう。横長のディスプレイが三枚もある。
昔から春子は変なものを通販で購入するのが好きだった。手首に鈍い痛みが走る。もう傷は完治して跡もない。あの時の手錠も戯れに購入したのだろうか。
春子のお父さんはソフトウェアの会社を経営している。おじさんも現役のSE兼プログラマーで、経営は他の人にまかして今でもソフトウェア作成にかかわっている。春子もその影響を受け、コンピューターには詳しい。
「すごいでしょ?」
僕の視線の先に気がついたか、春子は誇らしげに言う。
「けっこう最新のパーツで組んでいるよ」
僕はお盆をちゃぶ台に置いた。
「それで」
僕はそっけなく言った。夜もけっこう遅い。思い出したくもないが、聞かないわけにはいかない。
あの夜、何で僕を襲ったのか。
「私は幸一君が好き」
春子の言葉。
「何度も聞いた」
昔から耳にたこができるほど言われた言葉。
「私ね、梓ちゃんが羨ましかったんだ」
僕は耳を疑った。
「梓ちゃんが幸一君を手に入れたのが羨ましかった」
春子は。
「私も幸一君が好きなのに」
何を言っている。
「だからね、私も梓ちゃんと同じことをしようと思ったんだ」
春子は笑う。嬉しそうに。
「春子。僕が好きというのはどういう意味だ」
弟としてなのか。男としてなのか。
春子は首をかしげた。
「それね、お姉ちゃんにもよく分からないんだ」
そう言って春子は立ち上がった。
「男として好きなのか、ずっと面倒を見てきた弟として好きなのか。お姉ちゃんにもよく分からないよ」
目を閉じて胸に手を当てる春子。
「ただね、一緒にいたい。どんな形でもいい」
そう言って笑う。いつもの笑顔。
「本当はね、恋人同士が一番いいと思うよ。何の問題もなく一緒にいられるもん」
「だったら何で」
僕にのしかかる裸の春子が脳裏によみがえる。何であんな事を。
「だって幸一君は私の事を女として見てないもん。ずっと一緒にいたから分かるよ」
春子は僕を見て悲しそうに笑った。
「私ね、梓ちゃんの気持ちがよく分かるんだ」
梓。僕の大切な哀れな妹。
「梓ちゃんと私も同じだよ。どれだけ好きでも、その気持ちは絶対に報われない。だって」
春子は寂しそうに笑った。
「梓ちゃんは妹で、私はお姉ちゃん。幸一君はずっとそう思っているもん」
「それでも」
僕は口をはさんだ。
「それでもあんな事をする必要は無い。好きなら、振り向いて欲しいなら、他の方法があるはずだ」
夏美ちゃんが脳裏に浮かぶ。等身大の姿で僕に接してくれた大切な人。
「そんなの無理だよ」
春子は悲しげに首を横に振る。
「だって今の私が何をしても幸一君にとってはいつもの事でしょ。どうしたらいいかなんて分からないよ。幸一君もひどいよ。ずっと私にそっけなくて。梓ちゃんにべったりで」
胸が痛む。僕のせいなのか。
「ずるいよね。私も幸一君と一緒にいたいのに。梓ちゃんは妹なのに。いつも一緒なのに。それなのに幸一君を従わせて」
「春子」
「分かってるよ。ううん。むしろ感謝している。梓ちゃんのおかげで幸一君は立派になったもん」
春子は寂しそうに僕を見た。
「幸一君。好き」
突然の告白。
「恋人でなくてもいい。愛人でもいい。幸一君の都合のいい女でいい。だから私をそばにいさせて」
僕は姿勢を正して春子の顔を見た。
「僕を好きと言ってくれるのは嬉しい。でも、春子の気持ちにはこたえられない。僕には好きな人がいるから」
夏美ちゃんの笑顔が脳裏によぎる。春子は寂しそうに笑った。
「あの夜の事は、僕は忘れる」
「幸一君。一つだけ教えて」
春子が僕を見つめる。悲しさと寂しさがごちゃ混ぜになった表情。
胸が痛い。
「もしだよ、幸一君が夏美ちゃんと付き合っていなくて、あの夜の事が無かったら、お姉ちゃんの告白を受け入れてくれた?」
僕は即答できなかった。
「もしもの話には答えられない」
分かっていた。きっと僕は断っただろう。春子とはずっと一緒にいた。今さら恋人という関係は想像つかない。
今なら春子が僕を振ったのもわかる。結局、僕たちは血がつながっていなくても姉と弟。男と女の関係にはなれない。
「そうだよね」
春子は寂しそうに笑った。
僕は立ち上がった。もう用事はない。寂しかった。春子とはもう今まで通りの関係ではいられない。
昔から僕と梓の世話を焼いてくれた女の子。一番身近にいた幼馴染。何度も助けてくれた大切な人。
血はつながっていなくても、春子は僕にとって姉だった。その関係がこんな風に終わるなんて思わなかった。
「待って」
春子が僕を呼びとめた。
「幸一君の言葉で決意できたよ。私が幸一君を手に入れるにはやっぱりこの方法しかないって」
春子はパソコンに向かった。キーボードを押すとディスプレイがつく。
「お姉ちゃんね、梓ちゃんと同じことをするって言ったでしょ?」
キーボードを操作する春子。メディアプレイヤーを起動する。
「これを見て」
ディスプレイに目を移す。
僕は戦慄した。
全身の血液が沸騰した。
ベッドの上で絡み合う男女。
『ひうっ、ひゃあっ、あんっ、あうっ、んあっ、おにいさっ、ひうっ』
スピーカーから喘ぎ声が漏れる。
映像は鮮明だった。誰が何をしているか、はっきり分かるほどに。
「ふふふっ、幸一君もすごいよね。夏美ちゃんも初めてだったのにあんなに気持ちよさそうにしてるよ」
春子の声が近いのに遠い。
「でも夏美ちゃんを気持ちよくできたのはお姉ちゃんで練習できたからかな」
信じられない。何が何だか分からない。
「ふふふ。すごく大変だったよ。普通のビデオカメラだと画像が粗いからね。覚えてる?昔高性能なカメラを購入したのを。試合とかいっぱい撮影したよね。いちばん大変だったのは設置かな。でも良く撮れているでしょ?」
春子の言うとおり映像は鮮明だった。誰なのかはっきり分かる。僕と夏美ちゃんが一糸まとわぬ姿でベッドで抱き合っている姿。
「春子」
僕は春子を見た。嬉しそうな顔。とっておきの悪戯を仕掛けたような笑顔。
「なんで?なんでこんなことを?」
春子は立ち上がった。
「ふふふ。茫然としている顔も可愛いよ」
春子の白い手が僕に伸びるのを僕は無意識に後ずさり避けた。
「言ったでしょ?お姉ちゃんね、梓ちゃんが羨ましかったんだ。だって梓ちゃんは幸一君を従えてそばに縛り付けたから」
春子は俯いた。唇をかみしめている。
「あれからお姉ちゃんね、すごく寂しかったよ。幸一君はずっと梓ちゃんにつきっきりで、梓ちゃんしか見てなかったから。お姉ちゃんを見てくれなくなったから」
自分を抱きしめ震える春子。切なげなため息。
「どうしたら昔みたいに戻れるかお姉ちゃんね、いっぱい考えたよ。幸一君に女の子を紹介したら幸一君も梓ちゃんから離れるかと思ったけど、幸一君にそんな意志はなかった」
自分んの体を抱きしめ震えながら春子は憑かれたように喋り続けた。
「ただね、幸一君が女の子と話しているのを見た梓ちゃんがすごく苛々しているのは分かったから、もしかしたら何か変化するかもしれないって思っていた。夏美ちゃんを手伝ったのも何か変化を期待してだよ」
夏美ちゃんの太陽のような明るい笑顔が脳裏に浮かぶ。
「夏美ちゃんは梓ちゃんと一番仲がいいお友達だし、梓ちゃんも動揺するかと思っていたよ」
春子は自分を抱きしめて震えた。
「でもね、まさか幸一君が夏美ちゃんと付き合うなんて夢にも思わなかったよ。お姉ちゃん本当にびっくりしたし、すごく焦ったよ」
大きなため息をつく春子。
「でね、お姉ちゃん考えたよ。リビングで幸一君が夏美ちゃんの髪をといている間一生懸命考えた。そして思いついたんだ。幸一君の弱みを握れるって」
春子は嬉しそうにディスプレイを撫でた。
「幸一君は優しくて賢いから。こうすれば幸一君はお姉ちゃんに逆らえないでしょ?」
僕は歯を食いしばった。荒れ狂う感情を抑え春子を睨みつける。
「もし、もし逆らえばどうするつもりだ?」
「分かっているでしょ?これを学校に送れば夏美ちゃんと幸一君は退学だよ。ネットにばらまいてもいいかな。哀れな世界中の童貞君が二人の情事を見て自分を慰めるようになるよ」
想像するだけでおぞましい。僕は体の震えを必死に抑えた。
「ふふっ、ふふふっ。幸一君のその表情可愛いよ。お姉ちゃんぞくぞくするよ」
春子はうっとりと僕を見た。その視線に背筋が寒くなる。
「僕と梓の和解を手伝ってくれたのはこれが目的なのか?」
「もちろんそれもあるよ。でもね、お姉ちゃんは梓ちゃんも好きなんだよ。可愛い妹だもん。だから幸一君と仲良くしてほしかったのも本当だよ」
春子はにっこりと笑った。いつもの明るい笑顔。僕と梓を見守ってくれた笑顔。
知りたくないことを知るなかで、一つ疑問が残った。
「あの日、なんで僕を犯した」
春子の言うことがすべて正しいなら、あの日無理に僕に迫る必要はない。僕を犯す必要も。脅迫の材料を手に入れてからで全てがすむ。
なのに春子は何で。
「分からないの?」
春子は僕を見て恥ずかしそうに微笑んだ。
「幸一君の初めての相手が他の女の子なんて我慢できないよ」
手を伸ばす春子の白い腕を僕は払った。春子は悲しそうに笑った。
「それにね、もしかしたらお姉ちゃんの魅力に幸一君が我慢できなくなるかなって思っていたんだよ」
寂しそうに春子は笑った。
「駄目だったけどね」
春子はそう言って椅子に座った。
「明日この時間に来て。明日はお父さんもお母さんも家にいないから」
僕は何も言わずに春子の部屋を出た。これ以上何も言いたくなかった。口を開けば叫んでしまいそうだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
下でおばさんに会った。
「夜遅くまですいません」
「いいのよ。遠慮しないでね」
おばさんは明るく笑った。
「幸一君。彼女ができたって本当なの?」
「はい」
春子から聞いたのだろう。
「春子が寂しがっていたわ。彼女が嫉妬しない程度にはかまってあげてね。春子は一人っ子だから梓ちゃんと幸一君が可愛くて仕方ないのよ」
面白そうにおばさんは笑った。
「はい」
僕はそう返事するだけで精いっぱいだった。
言えない。僕と春子に何があったのか。春子が何をしたのか。何をしようとしているのか。絶対に言えない。
僕の様子に何か感じたのか、おばさんは心配そうに僕を見た。
「春子と何かあったの?」
「いえ、何も」
「そう。何か困ったことがあったらいつでも相談してね」
できない。絶対に。
「梓ちゃんとご両親によろしくね」
僕は礼を言って家を出た。
村田のおばさん。僕の事を昔から大切にしてくれた。僕にとっては京子さんと同じもう一人の母。春子の事を知るとどれだけ悲しむだろうか。
絶対に気がつかれてはならない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あ…ありのままに今起こった事を話すで!
梓ちゃんは兄を毛嫌いしているかと思っていたらいつの間にかブラコンになっていた。
何を言っとるのか分からへんかもしれへん。俺も分からんわ。
自己紹介がまだやったな。
俺は田中耕平。加原幸一のクラスメイトや。親友と言っても過言でない関係やと俺は思っとる。影が薄いのは仕方がないわ。勘弁してな。
話の始まりは今日の朝や。そっから順に説明するわ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
朝、幸一はなんか元気が無さそうにみえた。
見た目はいつもどおりや。せやけど俺みたいに付き合いが長い人間は何となくわかる。
せやけど幸一が何も言わへん以上、こっちからは何も尋ねへん。俺と幸一はそういう関係や。
こいつは昨日珍しく遅刻して昼前から登校した。それも関係あるかもしれへん。
そんな事を思いながらもお昼休み。
俺はいろんな奴と飯を食う。学食んときもあるし、コンビニのパンの事もある。
幸一はいっつも妹さんにお弁当を届けに行く。どう考えてもシスコンの行動やけど、幸一は梓ちゃんが朝早く弁当を受け取らずに出て行くからと言っとる。中学の時、幸一が柔道部辞めてからもそうやった。
これは俺が昔から疑問に思ってた事や。梓ちゃんはどう考えても兄貴である幸一をきらっとる。せやのに弁当を届けさせるのは納得いかん。まあそれは置いとこ。
今日の幸一は座ったままやった。
「今日はどないしたん」
俺は幸一に声をかけた。いつも妹さんの教室に届けに行くやろ。
「梓がお弁当を届けてくれるから待っている」
正直言うで。俺は耳を疑ったわ。
別に変ちゃうやろ?って思った奴は幸一の妹がどんな奴か知らへんからや。
こいつの妹の梓ちゃんは見た目は細くて長い髪をポニーテールにした美人や。すごく大人しそうで抱きしめたら折れそうな感じ。胸はぺっちゃんこやけど。
せやけど幸一にはめっちゃきつい。口を開けば変態シスコンと罵声が飛ぶ。一時期、俺は幸一が妹に罵倒されて喜ぶ変態かと真剣に考えとった。まあ詳しくは知らへんけど、何か事情があるんやと思っとるわ。
そんな梓ちゃんが兄貴に弁当を持ってくる。わっつ?
「今日はお前が弁当作ったんやないんか」
「今日は梓が作ってくれた」
いっつもお前が梓ちゃんの分も作ってるやろ。
幸一が元気ないように見えるんも、この異変が関係しとるのか。
俺はついとるで。今日はコンビニのパンや。親友として梓ちゃんのお弁当を見るチャンスや。
待つこと数分。パタパタと廊下を走る足音。
「兄さん!」
梓ちゃんが教室に飛び込んできた。
何て言うか、初めて見る梓ちゃんや。いっつもはめっちゃ不機嫌そうやけど、今は輝くような笑顔や。なんて言うか恋する乙女って感じやで。
幸一は立ち上がって梓ちゃんに近づいた。
梓ちゃんは二つの弁当を机に置いて幸一に抱きついた。
そう、梓ちゃんは幸一に抱きついた。ハグ。
俺は目を閉じて天を仰いだ。疲れとるんかな。幻覚が見えるで。
目を開けてクラスを見まわした。クラスメイトは驚愕しとる。幻覚やないみたい。
他の奴らも梓の事は知っとる。一度教室で幸一の事をめっちゃ罵倒したからや。怖かったで。梓ちゃんに声をかけた時は恐怖にちびりそうやったわ。あの日以来、俺のあだ名は勇者や。
その梓ちゃんは嬉しそうに幸一に頬ずりしてる。幸一は固まっていた。驚愕の表情。いつも冷静な幸一にしては珍しいわ。
「にーさん。うきゅー」
梓ちゃんは幸一に頬ずりしながら甘えた声を出す。めっちゃ幸せそう。
「梓。離れて」
我に帰った幸一が声を出した。
「あ。ごめんね兄さん」
梓ちゃん素直に従った。弁当を幸一に渡す。
「はい兄さん。味わって食べてね」
恥ずかしそうにはにかみながら弁当を渡す梓ちゃん。あかん。めっちゃ可愛い。
「ありがとう」
幸一は素直に礼を言って受け取った。
「兄さん!嬉しい!」
梓ちゃんは幸一に抱きついた。固まる幸一。
あかん。ちょっと眼科に行ってくる。
再びパタパタと廊下を走る音が。
「おにーさん!一緒にお昼御飯食べましょう!」
女の子が入ってきた。そして絶句する。
確か夏美ちゃんやな。梓ちゃんと同じクラスの。何度か見たことあるわ。この子はまあ元気系な女の子や。結構可愛い。胸は普通。
昨日、村田が幸一の彼女とか言ってたわ。詳しくは聞いてへんけど。
いや待て。これってまずい状況ちゃう?
「こらー!お兄さんに何してるの!」
顔を真っ赤にして叫ぶ夏美ちゃん。
梓ちゃんは無視して幸一に頬ずりを続ける。
「兄さんあったかい」
訂正。聞いてないみたいや。てかその行動が村田にそっくりやで。
「あーずーさー!」
顔を真っ赤にしてぷりぷり怒る夏美ちゃん。お、可愛いかも。
「梓。お願いだから離れて」
困り果てたように言う幸一。
「あ。ごめんね兄さん」
梓ちゃんは素直に離れた。
「もう梓ったら」
「あ。夏美。ごめんね」
夏美ちゃんに気がついた梓ちゃんが素直に謝る。
「梓ちゃん。人前でべたべたしちゃだめだよ。幸一君も困ってるよ」
村田が梓に注意した。
こいつは村田春子っていうて、幸一の幼馴染やわ。なんでも一日だけ早く生まれたらしく、いっつもお姉さんぶって幸一に接する。
まあ今回の村田の言う事は最もやけど、お前が言える言葉かいな。最近は無いが、村田も幸一にべったりやった。
「ささ。お昼御飯にしよ」
村田が促す。
男一人に女三人。せやけど俺は羨ましくないわ。いや、これはマジで。
俺はクラスを後にしようと思った。事情は気になるけど、あの場はヤバイ。
「耕平。一緒にご飯を食べようよ」
せやのにうちの親友は余計な事をしよる。
断ろうと幸一の方を見ると、アイコンタクト。幸一の眼が切実に訴える。タスケテ。
しゃーない。
「じゃあハーレムにお邪魔するで」
どっちか言うたら牢獄っぽいけど。
机を囲んで五人で座る。
「おにーさん。あの、お弁当作ったんです」
恥ずかしそうにもじもじする夏美ちゃん。初々しい感じがめっちゃ可愛い。
「よかったらどうぞ」
夏美ちゃんはそう言って弁当を幸一に差し出す。
おっと。幸一どないするんや。もう梓ちゃんの弁当あるやろ。
「ありがとう」
受け取るんかい。そういやこいつデカイしな。身長は190近くある。それぐらい食えるか。せやけど気のせいか、幸一が切実そうだ。やっぱ弁当二つはきついんか?
幸一はまず梓ちゃんの弁当を広げた。梓ちゃんの弁当はスタンダートな和風弁当。魚の塩焼きなどのおかずが入っている。普通にうまそうや。
俺は寂しくパンの袋を開けた。
「いただきます」
すごい勢いで食べる幸一。二つあるしな。
「幸一君。のどを詰まらせないでね」
村田が注意するほど。
女子三人も弁当を開いた。
いい匂いが。弁当を開いた時に決してしてはいけないおいしそうな匂い。
クラス中の視線が突き刺さる。
夏美ちゃんの弁当からその匂いは漂う。
「いただきまーす」
夏美ちゃんはスプーンをつかんだ。スプーン?
突っ込みたいがスルーした。この場を乗り切るにはスルーしかない。
無言でお昼が進む。誰一人突っ込まない。あかん。めっちゃ突っ込みたい。
「梓。ごちそうさま」
梓ちゃんの弁当をたいらげた幸一が梓ちゃんに弁当の箱を渡した。
「おいしかったよ」
嬉しそうに梓ちゃんは微笑んだ。すごく素敵な笑顔や。梓ちゃんは綺麗やけど険のある美人やった。今は本当に可愛い輝くような笑顔や。
続いて幸一は夏美ちゃんの弁当を開く。再びいい匂い。
「いただきます」
スプーンをつかみ食べ始める。
「お兄さん。味はどうですか?」
夏美ちゃんは恐る恐る尋ねた。
「おいしいよ夏美ちゃん」
微笑む幸一。いつも通りの笑顔やけど、付き合いの長い俺には心の中で幸一がひきつっているのがはっきり分かる。
「お兄さんお魚が好物って聞いてシーフードカレーにしました」
嬉しそうに夏美ちゃんは言った。
そう。夏美ちゃんの弁当はカレーやねん。弁当にカレーはないやろ。
「夏美。カレー弁当を兄さんに作ったら怒るって言ったでしょ」
「だからお兄さんの好きな魚を入れたシーフードカレーだよ」
思った以上に変な子かもしれへん。幸一も大変やろな。
勇者のあだ名は譲ったるわ。勇者の名は幸一にこそふさわしい。いや、まじで。
昼食が終わってとりとめのない事を話す。
「なあ幸一。夏美ちゃんと付き合ってるんか?」
夏美ちゃんは顔を真っ赤にした。分かりやす過ぎるでこの子。
「うん。耕平には伝えてなかった。僕の恋人だ」
男らしくはっきり言う幸一。
俺は正直驚いた。こいつは昔からそこそこもてたし、村田が何度か紹介してたのも知ってる(村田に女が頼んだらしい)。せやけど男女の関係に発展したことはない。
「そっか。夏美ちゃん」
「はひっ」
どんな返事やねん。
「こいつの事よろしく頼むで。こいつはええ奴やけど、アホな奴やからしっかり見張ってな」
「はい」
澄んだ声。意志の強さを感じさせる。最初は不安定そうに見えたけど、幸一の恋人だけあって芯は強いみたいや。
「幸一。お前には勿体ない子やな」
「耕平の言うとおり」
幸一は苦笑した。
「夏美ちゃん。こいつに関して心配事があったらいつでも言ってな。相談に乗るで」
頷く夏美ちゃん。俺は妙に饒舌やった。幸一に彼女ができたのが素直に嬉しかった。
「梓ちゃんもあんまし幸一に迷惑掛けたらあかんで」
「わかってます」
少し不服そうに答える梓ちゃん。
村田には何も言わなかった。以前みたいに幸一にべたべたするなら問題やけど、今はそんな事もないし注意するこた無いと思ったんや。
ずっと後になって思えば、それは勘違いやった。ホンマに後悔してる。
でもそん時の俺は何も知らなかった。お昼時間は和気あいあいと楽しく終わった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「まったく。梓にはびっくりです」
放課後、私はお兄さんと二人で帰っていた。私の言葉にお兄さんは苦笑した。
「僕も驚いたよ」
確かに今日のお兄さんは梓に抱きつかれ珍しく固まっていた。なんかちょっと腹が立つ。
「でも、小さい時の梓はあんな感じだったから」
うーん。梓は昔からブラコンだったのか。
「でも梓の気持ちもちょっと分かります。お兄さんみたいな素敵な人が小さい時からそばにいたら、私でもブラコンになります」
私の言葉にお兄さんは苦笑した。
「ほめてくれるのは嬉しいけど、昔の僕は最低な男だったよ」
「私は昔のお兄さんを知りませんけど、今のお兄さんは知っています」
私はお兄さんを見た。きれいな瞳。
「今のお兄さんは誠実で、素敵な人です」
お兄さんは苦笑した。あれ?何でだろう。一瞬だけど違和感を感じた。
「ありがとう夏美ちゃん」
私の頭を兄さんの手が優しくなでる。温かくて大きな手。
「むー。高校生の女の子の頭をなでるってなんか子供扱いされているみたいです」
「え。ごめん」
慌ててお兄さんが手を離そうとするのを私は押さえた。
「でもお兄さんなら許しちゃいます」
だって気持ちいいんだもん。
私を見つめるお兄さん。ちょっと恥ずかしい。
やっぱりだ。気のせいかと思ったけど、お兄さん何か悩んでいるのかな。見た目は全然いつも通りだけど、なんとなくそんな気がする。
うーむ。どうしよう。私の勘違いかもしれないし、お兄さんが私に何も言わない以上、私も何も言わない方がいいのかな。
「お兄さん」
でもこれだけは伝えたい。
「私はお兄さんをいつでも信じています」
私の気持ち。
「お兄さんも自分を信じてください」
お兄さんは微笑んだ。
「夏美ちゃん。ありがとう」
私にはその笑顔の裏で何を考えているのか分からなかった。お兄さんを少し遠く感じる。
でもいいや。私たちはまだ付き合い始めて数日だもん。お兄さんとの距離は少しずつ縮めていけばいい。
わたしたち二人の時間はこれからなのだから。
うっひょぅ!来てたぜー
お気に入りの春子のターンが来て俺によし
一番槍GJ!!
マッシュの位置でGJ!
春子黒いよ春子
アイムオルテガ!
GJなんだぜ
春子に投票した
俺のターン! 隠しカメラを発動! 続いて脅迫をしてターンエンドだ!
GJ
何やらえらいことに…
しかしここへ来て梓がブラコンを開放するとはw
GJ! 春子最悪だ……
>>78 >胸はぺっちゃんこやけど。
はっきり言い過ぎw うっかり梓本人の前で口を滑らせないようになw
そういえば春子の視点だけはなかったよね確か
それだけに理解が及ばず実に怖いw
「変な事はしないよ!盗撮はすでにしてたけどね!」
ま さ に 春 子
GJ!!!! 春子…これでも氷山の一角かもしれない所が怖い。
まるでパックフロントの様に何十にも罠が仕掛けられてるんだ…
事態を解決しようと突き進む度に悪化していく訳だ…
嫁にはしたくないタイプだな。
乙、さてパンツは脱いでおくか
前スレの続きを投下します。
SSの属性は以下となります。
※一次・高校生・双子の兄妹・修羅場あまり無し・流血無し・エロ有り
好みの分かれる内容になるかと思いますので、苦手な方は酉でNGお願いします。
それでは投下。
それから何日か経った休日、ヒカルは啓一たちと映画を見に行くことになった。
というのも、真理奈が見たい映画があると急に言い出して、
そのお供に啓一とヒカルを呼び出したのである。
「啓一とうまくやれるように協力してやる」という言葉通り、
真理奈はヒカルと啓一が接する機会を積極的に作ってくれるようだった。
まだ啓一と知り合って日が浅いヒカルとしては、非常にありがたい話だ。
しかし今回行動を共にするのはヒカルと啓一、真理奈だけではなく、
そのことがヒカルにやや複雑な思いを抱かせることとなった。
そう、啓一の双子の妹、水野恵もやってくるのだ。
ヒカルが家で早めの昼食をとり、待ち合わせた駅前へと向かうと、真理奈は既に到着していて、
いつもの勝気な笑みを浮かべてヒカルの服装を褒めてくれた。
「うん、まあまあじゃない。似合ってるわよ」
「どうも、ありがとうございまーす」
パーカーもショートパンツもいつもの普段着で、もっと気合を入れてきた方がよかったかと
多少は後悔していただけに、真理奈の言葉は嬉しかった。
良くも悪くも、真理奈はあまり他人にお世辞を言うような性格ではない。
彼女がそう言うのなら、今の格好がヒカルのイメージにぴったり合っているのだろう。
その真理奈は、胸元が開いた真っ黒なワンピースに、
鼠色のカーディガンを肩にかけるように着流していた。
ヒールの高いブーツもそうだが、高校生としてはかなり派手な格好だ。
だが持ち前の美貌とスタイルの良さ、貫禄でもって
どんな服でも自在に着こなしてしなうのが、加藤真理奈という女であるらしい。
ヒカルは羨望のこもった眼差しを真理奈に向けたが、
自分ではとてもこの先輩のようにはなれそうにないと、思い知らされただけだった。
それから啓一と恵がやってくるまでの間、ヒカルは真理奈と短い打ち合わせをおこなった。
「今日はできるだけあんたと啓一を二人っきりにしたげるわ。
せっかくのチャンスなんだから、頑張ってあいつに自分をアピールすんのよ」
「はいっ、わかりました!」
本日の面子は、ヒカルと真理奈と水野兄妹の四人だけ。
真理奈が啓一の妹、恵の相手をしてくれれば、
必然的にヒカルが啓一と接触する機会が増えることになる。
真理奈に感謝しつつ、今日これからのことに思いを馳せるヒカルの目に、
並んでこちらにやってくる啓一と恵の姿が映った。
恵は啓一と手を繋ぎ、まるで騎士に先導される姫君のように微笑んでいた。
相変わらずの仲の良さだが、それがヒカルの心にちくりと細い棘を刺した。
真理奈はやってきた二人をにらみつけると、怒ったような声で言った。
「あんたたち、遅ーいっ!
可愛い女の子を待たせてるんだから、もうちょい早く来なさいよ !!」
「いや、時間にはきちんと間に合って――」
「言い訳なんて聞きたくないっ! ほら、とっとと行くわよ!」
ひたすら自分のペースで事を進める真理奈に苦笑いし、ヒカルは啓一と恵に挨拶した。
今日の恵は長袖のTシャツとベスト、膝丈のスカートという落ち着いた装いである。
どれも彼女の清楚なイメージにはそれなりに適合しているのだが、
大人っぽい、悪く言えばけばけばしい服装の真理奈と並ぶと、やや地味な印象は否めなかった。
一方の啓一も平凡で目立たないジャケットとデニムパンツだが、
彼が着ているのを見ると、どんな物でもふさわしいような気がしてくるから不思議だった。
一行は電車に乗り込み、市の中心部へと足を運んだ。
繁華街のデパートや映画館、ショッピングモールは多くの人で賑わっており、
油断をすれば人ごみにさらわれて、迷子になってしまいそうだった。
ようやく目的地の映画館に到着した四人は、次の上映が始まる時間まで
さして長くもない待ち時間を、和気藹々として過ごした。
真理奈が小さなバケツほどもありそうな大きさのポップコーンの容器を、
楽しそうにヒカルたちに見せびらかしたり、パンフレットを広げて俳優の批評をしたりと、
和やかな雰囲気を作ってくれたので、ヒカルも啓一と打ち解けて話すことができた。
「でも真理奈センパイ、なんでこの映画なんですか?」
今さらといえば今さらの質問だった。
真理奈が今回選んだのは、情熱的な恋愛映画ではなく、
キャラクターが可愛らしい子供向けアニメでもなく、
ホラーとアクションを足して二で割ったようなSF映画だったのだ。
ヒカルは視覚的な理由からあまりこの手の話は好きではなく、
たまにテレビで放送されていてもほとんど見ないことにしている。
真理奈の見かけからいって派手な爆発や銃撃戦はとにかく、
ホラーシーンには悲鳴をあげて大騒ぎしそうなイメージがあるのだが、
こういう宇宙人だか怪物だかよくわからない不気味な生物が出てくる映画を好むのは、
意外なことのようにヒカルには思えた。
そう指摘すると、真理奈は大きな声で笑った。
「そう? あたしはグロいの、結構好きよ?
ジュルジュルとかグチュグチュとか不気味なのも、あれはあれでいいもんじゃない」
「はあ、ジュルジュル……よくわかんない言い方ですねえ……」
それに、と言って真理奈は声を小さくした。
「こういうのを見るときは、怖い怖いって、隣の男にしがみつくのがパターンでしょ?
せっかくあんた、あいつの横に座ってるんだからさ。しっかりやりなさいよ」
「ああ、そういうことですか」
席は真理奈、ヒカル、啓一、恵の順に並んでいた。
すぐ隣に啓一が座っているというこの状況、確かに利用しない手はない。
ヒカルは、隣席の啓一の顔をちらりとのぞき見た。
「どうかした? ヒカルちゃん」
「いいえ、何でもないです」
映画が始まったら、こっそり啓一と手を繋ごう。
暗闇の中であることだし、いつもよりもっと大胆になってもいいかもしれない。
そんなことを考えている間に上映を告げる放送が流れ、辺りに闇が落ちた。
映画の内容そのものは至極どうでもよく、
映画館を出た頃にはもう記憶の彼方に消し飛ばしてしまっていたが、
啓一と一緒に、隣同士の席で鑑賞できたことに、ヒカルは充分に満足していた。
啓一の手を握って肩を並べ、同じものを見上げていると、すぐ近くにいるはずの
真理奈も恵も消え失せ、まるで二人きりになったような心地よい幸福感を味わえた。
啓一は何も言わなかったが、ヒカルの手を振り払わなかったところを見ると、
どうやら嫌ではなかったようだ。
啓一の手はスポーツマンらしく硬く大きく、しかし温かかった。
この手を自分だけのものにできたら。この手が自分の背中を優しく撫でてくれたら。
いや、それ以上の行為でさえ、今のヒカルなら喜んで受け入れるだろう。
抱きしめられ、押し倒され、花園の中で啓一と契りを交わすヒカル。
暴走を始めたヒカルの妄想は、際限なくエスカレートしていった。
「落ち着け、お前は」と、いつも親友の夏樹に諭される所以である。
映画館を出てからも、幹事役の真理奈はヒカルたちの行動を仕切り続けた。
「せっかく来たんだから、あんたたち、あたしの買い物につき合ってよ」
「はあ、いいですけども」
ブティックに入って品定めをする真理奈の姿は堂々としていて、妙にさまになっていた。
しかもその隣にいるのは学校でも評判の美少女、恵である。
ヒカルもその隣に並んではみたものの、いつも化粧っ気がなく、
あまり流行も意識しない自分の姿が鏡に映るのを見ると、
どうしても場違いな気がしてならなかった。
何となくいたたまれなくなって、ヒカルは辺りを見回して啓一の姿を探した。
「啓一センパ〜イ、どこですかあ?」
啓一は店の外で何をするでもなく大人しく三人を待っていて、
ヒカルがそばに駆け寄ると、優しい顔で笑いかけてきた。
「どうかした? ヒカルちゃん」
「あ、いや、その――」
美人の先輩二人と一緒にいるのに気後れして、逃げてきたなどとはさすがに言えない。
ヒカルはその場の思いつきで、啓一をすぐ近くの本屋に誘い出した。
啓一と腕を組んで本棚の間をうろつき回り、ヒカルは終始ご満悦だった。
あまり勉強に熱心でない彼女のこと、普段から読む本といえば雑誌くらいのものだったが、
啓一と一緒に文庫本や新書の棚を見て回り、戯れに一冊ずつ手にとっては
ひと言ふた言のコメントを添えてまた棚に戻す、という他愛の無い作業を繰り返した。
「なんかこの辺、推理小説ばっかりですねえ。
よくもまあこんなにトリックのネタがあるもんです。考えるの大変でしょうね」
「そうだね。でもやっぱり、いい話はすごく作り込まれてるよ。
俺はトリックより、雰囲気とかキャラクターがよくできてる話の方が好きだけど」
「へー。啓一センパイって普段、こういう本読むんですか?」
学業に優れ思慮深いこの少年は、いつもどんな本に目を通しているのだろう。
その質問に啓一は顎に指をあて、わずかに考えてから答えた。
「んー、俺はけっこう、何でも読むよ。推理ものとか恋愛話とか、あと勉強の本とかも。
古本屋で文庫本を買いあさったり、好きな作家の新作はいつもチェックしてたり。
でも新書より文庫のが好きかな。安いし、かさ張らないから」
「そうなんですか。できる人はやっぱ違いますねえ。尊敬します」
「ヒカルちゃんは普段、何か読まないの?」
「あはは、あたしは活字が苦手なんで……。マンガとかなら読むんですけど……」
ヒカルは恥ずかしさに赤面するしかなかった。
啓一はそばにあった文庫本を一冊手にとり、ヒカルに言った。
「じゃあ、これとかどう? 高校生が主人公の短編集で、けっこう読みやすそうだけど」
「はあ、そうですねえ……。確かに長い話より、サクサク読める短いのの方が……」
「買ってあげるから、試しに読んでごらん。面白くなかったら俺が読むから」
「はあ」
なぜか啓一にその本を買ってもらうことになってしまった。
しかし本というのは、人によって好みがまったく違う。
まして普段ほとんど読書をしないヒカルが、いくら啓一にもらうものとはいえ、
好きでもない本を丸々一冊読み終えることができるものだろうか。
だがヒカルは日常、自分で本を買うことがほとんどないため、
こんな機会でもないとまともに本を読むことはないだろう。
「たまには本くらい読め。そんなだから頭が悪いんだぞ」という
夏樹の無礼千万な台詞が脳裏をよぎった。
だが夏樹の言葉はとにかく、こうして啓一と本屋の棚の間を歩き、
本を買ってもらうというのも、確かに悪くないことかもしれない。
ヒカルはレジから戻ってきた啓一からカバーのついた文庫本を受け取り、丁重に礼を言った。
帰ったら久しぶりに読書をしよう、などと殊勝なことを考えながら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
啓一を連れ出すヒカルの姿は、真理奈と恵の目にもはっきりと映っていた。
商品のペンダントを手でもてあそびながら、真理奈が訊ねる。
「ふふ、ヒカルも頑張ってるじゃない。いちいちあたしが言わなくても、ちゃんと動いてる」
「加藤さん、どういうつもり? ヒカルちゃんをけしかけたりなんかして……」
恵は訝しげな顔だった。
無理もない。今日顔を合わせてから、ヒカルはずっと啓一のことしか見ていなかった。
真理奈もそんな後輩を止めるどころか、そそのかすような態度ばかりとり続けていたのだ。
眉をひそめる恵に、真理奈はけろりとして言った。
「どういうつもりって、あたしはただ後輩のささやかな恋を応援してるだけよ。
いい人よねー、あたし」
「もうやめて、ヒカルちゃんが可哀想よ。あの子、何も知らないのに」
「ヒカルって絶対、走り出したら周りが見えなくなるタイプよね。
よりによって啓一を選んだのは不幸というか、なんというか……」
「わかってるなら、早くやめさせて」
「ていうかあたしは最初、止めたのよ? 啓一は絶対あんたには振り向かないって言ったのに、
なんかヒカル、ムキになっちゃってさ。仕方ないから協力してやってるけど」
仕方が無いとは言いながら、真理奈の顔は楽しげな笑みを形作り、
この喜劇めいたトラブルを歓迎しているようだった。
いつものことだ。常に騒動を起こさないと気が済まない、困った性格の加藤真理奈は、
厄介なトラブルメーカーとして周囲から忌諱されている。
にやにや笑って傍観を決め込む真理奈に、恵は嘆息するしかなかった。
そんな恵を見やる真理奈は、どこまでも満足そうだ。
「あんたヒカルに同情するくらいなら、啓一とあの子がつき合うの許してやったら?
妹のくせに兄貴を独占して、みっともないわよ」
「それはできないわ」
妙にはっきりと言い切る恵の声に、今度は真理奈が息を吐いた。
「はあ……。やっぱりそういう答えになっちゃうのよねえ、あんたってば。
そんなに自分の兄貴を縛りつけておきたいわけ?」
「縛りつけてなんかない。加藤さん、いい加減にして」
強い口調と鋭い眼差しで真理奈をにらみつける恵の姿からは、
普段の彼女にはない意思の強さが感じられた。
真理奈はそれを見て、「怒った怒った、おー怖い」と緊張感のない仕草で肩をすくめた。
「まあ、今はヒカルにいい思いをさせてやりなさい。どーせ今だけなんだから」
「……加藤さんって、ホントにひどい人ね」
「あれ、今さらそんなこと言うの? とっくにわかってると思ってた」
真理奈は舌を出して笑った。
そこへにこにこ顔のヒカルが、啓一を連れて戻ってきた。
「ヒカル、どこ行ってたの?」
「あ、はい。啓一センパイと、ちょっとそこの本屋さんに。
本買ってもらっちゃったんで、頑張って読むつもりです」
「へえ〜、本ねえ。しっかしまあ、色気のないプレゼントだこと……」
そう言った真理奈も、読書とは無縁の人間である。
二人してクスクス笑う啓一と恵を、真理奈は怒鳴りつけた。
「ちょっとそこの二人っ! 何笑ってんのよ!」
「いや、何でもないよ。加藤さん」
「いーや! 今あんたたち、絶対あたしをバカにしてたっ!
兄妹揃ってムカツクやつらね! 罰としてあたしになんか奢りなさい!」
その会話がおかしくて、ヒカルもつい笑ってしまった。
それから四人は、混雑した喫茶店のテーブルを囲んだり、
ゲームセンターに立ち寄ったりと、平和で穏やかな午後を満喫した。
日が沈む頃、一行は駅で解散することにした。
ヒカルは三人の先輩たちに頭を下げ、明るい笑顔で別れを告げた。
「じゃあ、あたし帰ります。今日はホントに楽しかったです。
真理奈センパイ、呼んでくれてどうもありがとうございました。
さよなら啓一センパイ、恵センパイ。また学校で」
「お疲れヒカルー。じゃあ、あたしもこの辺で。じゃね♪」
「うん。じゃあね、ヒカルちゃん。加藤さん」
二人と別れた啓一と恵は、肩を並べて家路についた。
冷たい北風が、闇の落ちた空からひゅうひゅう吹き降りてくる。
「啓一、今日はお疲れ様」白い息を吐きながら、恵が啓一に言った。
「いや、楽しかったよ。加藤さんに振り回された気もするけどな」
「ヒカルちゃんも楽しそうだったね」
「ああ、そうだな」
そこで会話が止まり、二人の息と足音だけが夕闇に響く。
不意に啓一の携帯が震え、メールの着信を知らせてきた。
「メール? 誰から?」
「えーと……なんだ、知らないアドレスだな」
啓一も恵も学校では注目の的であり、
日頃から携帯の番号やメールアドレスの管理には苦労している。
油断していると、知らない人間からの連絡がひっきり無しにやってくるのだ。
ここ最近はご無沙汰だったが、またそれが始まったのかもしれない。
啓一は怪訝な顔で携帯の画面をのぞき込んでいたが、やがて小さくつぶやいた。
「ヒカルちゃんからだった。自分のアドレス、登録しといてくれって」
「そう、ヒカルちゃんが。連絡先、誰から聞いたのかしら」
「そんなの加藤さんに決まってるだろ。他にいないって」
「はあ……。ホントに困ったわね、ヒカルちゃん。これからもっとすごくなりそう」
「優しくしすぎたのかな。でも、突き放すのも難しいしなあ」
「本当にどうしようかしら。困ったわね……」
二人はまったく同じ、憂いを含んだ表情でため息をついた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その夜、ヒカルは上機嫌でベッドに潜り込んでいた。
二人きりではなかったものの、啓一とのデートはとても楽しかった。
さらに真理奈から彼の携帯の番号及びメールアドレスを教えてもらったこともあり、
急に啓一と親密になったようないい気分にひたっていたのだった。
「啓一センパイ……近いうちにきっと、振り向かせてみせますからね」
枕に顔を押しつけて、独り言を漏らす。
出会って以来、啓一はヒカルにとって理想の男性であり続けていた。
もちろん人間である以上、全てが完璧であるはずはないが、啓一は
少なくともヒカルが今まで見てきた中で、一番完璧に近い存在だった。
あえて欠点を挙げるとすれば、あの妹とよく一緒にいることだろうか。
啓一と血を分けた双子の妹、水野恵は、まるで頭の中身まで
全てを二人で平等に分け合ったかのように、何もかもが啓一と似通っていた。
啓一と同等の頭脳を持っていて、啓一に劣らぬ美しい容姿を所有していて、
そして啓一と同じく真面目で温厚、人望も厚い。啓一との違いは性別だけと言っていい。
何よりあの兄妹が身にまとっている、どこか浮世離れした雰囲気は、
他の人間には決して見られないものだった。
啓一と恵に好意を抱く人間は、ひょっとしたら二人の外見や評判にではなく
彼らが放つ神秘的なオーラに魅了されるのかもしれない。
もっともヒカルにとって大事なのは啓一だけで、恵の方は彼のおまけでしかなかったが。
ヒカルは寝床の中で、誰にともなくつぶやいた。
「真理奈センパイはああ言ってたけど……あの二人、ホントにつき合ってるのかなあ。
なんか見た感じ、あんまりラブラブって雰囲気じゃないんだけど……」
実の兄妹でそのような関係にあるということ自体、ヒカルには理解できないことだった。
いくら自分とそっくりの異性といっても、いや自分と似ていれば似ているほど、
ますます相手を恋愛の対象として見れなくなってしまうのではないだろうか。
ヒカルには中学生の妹が一人いるが、男兄弟はいない。
もし自分にも兄か弟がいたら、あの二人の気持ちが少しはわかるのかもしれないが、
いくら空想の兄弟を思い浮かべようとしても、さっぱりイメージが沸いてこなかった。
その代わりにヒカルの頭の中に浮かんできたのは、啓一の姿である。
「センパイ……啓一センパイ……」
ヒカルは啓一の名を呪文のように口ずさみながら
手をパジャマの中に突っ込み、下着の上から自分の局部にそっと触れた。
じんわりと熱を持ち始めた陰部が、布越しの湿り気を指に伝えてくる。
普段は慌て者で子供っぽいヒカルだが、やはり年頃の健康な少女には違いなく、
夜、自分で自分を慰めることがしばしばあった。
特に最近は恋に熱中していることもあって、その頻度は増えつつある。
啓一を想って体を火照らせたヒカルは、のそのそと寝床から這い出すと、
タンスの中から使い古しのタオルを取り出し、ベッドの上に広げた。
そしてパジャマをはだけ、下を脱ぎ、おもむろに行為を始める。
脳裏に思い浮かべた相手は、言うまでもなく啓一だった。
「センパイ……」
「ヒカルちゃん、綺麗だよ」
イメージの中で実物よりもさらに美化された啓一が、半裸のヒカルに囁いた。
仰向けに寝転がったヒカルに覆いかぶさり、彼女を優しく包み込んでくる。
啓一はヒカルのブラジャーの中に指を侵入させ、乳房の手触りに喜んだ。
「脱がしていい? ヒカルちゃん」
「はい、センパイ」
ヒカルはホックを外して布地をずらし、啓一に続きを促した。
もちろん乳首をコリコリと刺激するのは自分の指なのだが、ヒカルの脳内では
自分と二人っきりの時を過ごす啓一の手が、彼女の胸を直に愛撫しているのだ。
ヒカルの顔が耳まで染まり、唇の隙間から吐息が漏れた。
「あっ、ああ……。セ、センパっ……!」
「ヒカルちゃん、恥ずかしがりやなんだね。とっても可愛いよ」
「ああ――そ、そんなこと……」
幻の啓一はヒカルのブラジャーを剥ぎ取って、つんと上向いた乳首に舌を這わせている。
色の薄いつぼみを口に含んで丁寧に吸い上げるさまが、まるで赤子のようだった。
ヒカルは涙目になって喘ぎ、ひたすらに甘い声をあげた。
「センパイ……あたしのおっぱい、そんなに吸わないで……」
「白くて綺麗なおっぱいだね。ミルクは出ないのかな?」
啓一はくすくす笑うと、硬くなったヒカルの乳首を噛んだ。
大して力を入れていないはずなのに、その刺激にヒカルの体が大きく跳ねる。
「やだあ……。センパイ、噛んじゃだめぇ……」
「ふふっ、ごめんよ。ヒカルちゃんがあんまりにも可愛くて、意地悪しちゃった」
普段は決して目にすることのない、悪戯っぽい啓一の表情。
それがヒカルの脳内から網膜を通じ、面前に投影されている。
際限無く繰り広げられるヒカルの妄想は、まだまだ終わりそうにない。
ヒカルは自分だけの啓一と戯れながら、はいていたショーツをずり下ろした。
もはや我慢もろくにできず、中指を陰毛の茂みに沿わせ、激しく割れ目を撫で上げる。
既に濡れ始めていた陰部は自らの愛撫にますます興奮をかきたてられ、
淫らな蜜を次から次へと分泌していった。
「セ、センパイ……! 啓一、さんっ……!」
「ヒカルちゃんのここ、もうびしょびしょだよ。ほら」
啓一はヒカルの秘所から熱い液体をすくい取り、ヒカルに突きつけた。
卑しい汁に濡れて薄闇の中で光る啓一の指は、本物のように生々しい。
「ヒカルちゃんがこんなにエッチな子だったなんて思わなかった。
これはお仕置きしないといけないかな?」
「ひっ、ひいぃ――センパイ、ごめんなさいぃ……!」
「ほら、向き変えて」
啓一はヒカルの細い体をかかえ、うつ伏せの格好にした。
言うまでもなくヒカルが自らの意思でそうしたのであるが、今のヒカルの頭の中は
これから自分がどのように啓一に責めたてられるのかという期待と興奮で一杯だった。
四つんばいの屈辱的な姿勢にされ、ヒカルの尻は啓一に丸見えだ。
啓一は楽しそうに笑い、ヒカルの性器から肛門にかけてゆっくり撫で回していく。
ヒカルの背筋がゾクゾク震え、吐息が唾と共に吐き出された。
「ひゃあんっ! それ、ダメですぅ……!」
愛しい啓一の姿を想像しながら、必死で自分自身を慰めるヒカル。
啓一の声、啓一の手の感触、そしてその息遣いまでもが、
彼女にとっては本物と寸分違わぬものに感じられた。
分厚い壁でよかった。隣の部屋の妹に声を聞かれずに済む。
ヒカルに残された理性の欠片が、思考の隅でそうつぶやいた。
夜の薄明かりの中、啓一はヒカルの下半身に顔を寄せ、白い肉にうずもれた。
クンクンと彼女の匂いを確かめ、汁を垂らした陰部に舌を這わせる。
その一挙動ごとにヒカルは羞恥の声をあげ、涙を流して許しを乞うた。
「ヒカルちゃんのここ、すごいよ。いくらなめても溢れてくる」
「やあ――あっ、あああ……やああ……」
ヒカルは枕に顔を押しつけ、いやいやと首を振ったが、啓一はやめはしない。
それも当然、この啓一はヒカルの思うがままに動き、
ヒカルの望むことしかしない妄想の産物だからだ。
だからヒカルが望む限り、ヒカルの欲望通りに、いくらでも彼女を責めたててくれる。
その幻影の啓一は、今度はヒカルの性器に指を突き入れ、前後に抜き差しし始めた。
ぬぷぬぷと汁の絡む音が部屋に響き、ヒカルの興奮を煽り立てた。
「ヒカルちゃんの中、熱いね。ヤケドしちゃいそうだ」
「んっ、んああっ! あっ、ああっ、あんっ!」
這いつくばったヒカルが自分の股間に指を差し入れ、熱い性器をかき回す。
いまだ生娘ではあるが、じゅるじゅる愛液の滴る膣内は適度にこなれ、
中と外とを往復する指の動きも、実にスムーズなものになっていた。
「ん、締めつけがきつくなったよ。感じてるのかい?」
「はいっ、はいぃっ、すごいですうっ……!」
処女の入口から肉汁が溢れ、指や腿に滴りながら、タオルに落ちて吸い取られていく。
ヒカルは尻を高く持ち上げて、陰部の突起に指を伸ばした。
興奮しきったそこははっきり見て取れるほどに肥大し、肉びらを広げている。
もどかしさとむず痒さに苛まれながらその豆に恐る恐る触れると、体全体が痙攣した。
「ひああっ !! あ、ああっ、ああ――」
性感が高ぶるあまり、自分を抑え切れない。
もう一度姿勢を戻し、ヒカルはまた仰向けになった。
そしてブルブル震える右手を股間に、ブラジャーのずれた乳房に左手を這わせる。
「あっ、セ、センパイっ」
妄想の中で、啓一はヒカルの体に寄り添うように寝転がり、
いつもの優しい笑みを顔に浮かべて、彼女の性器に手を伸ばしていた。
「ヒカルちゃん、ヒカルちゃん……」
「センパイ、センパイぃぃ……!」
啓一の空いた腕がヒカルの上体をかかえ上げ、顔を自分に向けさせる。
どうするつもりかと思う間もなく、そのまま唇を重ねてきた。
もはや思考能力の大部分を失ったヒカルは、啓一のなすがままだ。
啓一の舌がヒカルの唇をこじ開け、誰も侵したことのない彼女の口内を貪っていく。
「んっ、んんっ……! んぶうっ!」
互いの鼻息が混じり合う、これ以上なく近い距離。
初めてのディープキスにヒカルは抗うこともできず、啓一の唾液を味わうしかない。
その間にもヒカルの指は、充血した自身の陰核に絶え間なく刺激を与え続けていた。
鋭角的な痛み、焼けた鉄の棒で突き刺されるような苦痛が、脳に悲鳴をあげさせる。
「はうっ! はあっ、んっ、んああっ! はああぁんっ!」
自分が遠いところに行ってしまい、もう戻ってこれなくなりそうな恐怖さえ覚える。
しかしその恐怖さえ、理性と共に快楽の波にさらわれて消え去ってしまう。
絶頂の高みにたどり着いたヒカルの体は貝のように縮こまり、
啓一の名を呼びながら、何度も何度も全身を引きつらせた。
「ひゃんっ! セ、センパっ、センパイぃっ !!」
「そろそろイっていいよ、ヒカルちゃん」
「あっ、あっ! ああああっ……!」
膣の内部が雄を、啓一を求めて収縮する。それがヒカルの終着点だった。
頭の中に電撃が迸り、理性が焼き切れるほどの快感に覆いつくされる。
極致に到達したヒカルはぐったり横たわって、荒い息を吐き続けた。
「はあ、はあっ、はあ、はああ……」
高圧電流を流されるのにも似た、びりびりした刺激の余韻が体を包み込む。
何も考えられない状態のままヒカルは天井を見上げ、疲労と虚脱感とに酔いしれた。
ベッドに敷いたタオルはぐっしょり濡れており、ヒカルの自慰の激しさを物語っていた。
まるで体内にたまっていた欲望を全て吐き出してしまったかのようだ。
やがて疲労は眠気に変わり、ヒカルを今宵の夢へといざなうのだろう。
ヒカルは火照った体を寝巻きにくるみ、呼吸を整えながら目を閉じた。
「ふう、啓一センパイ……」
現実の啓一は、いつ自分の体を求めてくるのだろうか。
ヒカルはそれを切望しながら霧のかかった頭を枕に預け、霞む思考を手放した。
以上となります。
続きはまた後日投下しますので、よろしくお願いします。
それでは、失礼致しました。
>>101だけじゃなくこのスレに投下してる作者たちみんなGJ!!
なんか大盛況でスレ進むの早くね?これじゃいつパンツ履けばいいのかわかんねーよ!
>>101 Gj!
>>102 ノーパンしゃぶしゃぶにでも繰り出せばいいんじゃないかな。
俺も今から担当の銀行にパンしゃぶで接待受けてくるわ。
NTRかと思ったら泥棒猫の妄想オナニーシーンかよw
でもノリノリだなw
GJ
ところでこの兄妹はあの特殊スキル持ちだったはずだけどどうなってるのやら
パラレルワールドなんかな
投下します。
連休最終日。俺は快適な朝を迎えた。
姉貴はさすがにこれ以上快復が遅れるのはまずいということで、寝袋に押し込めた上で両親の寝室に寝かせられた。
親父とお袋の布団の間に姉貴が置かれたわけで、姉貴もまさかこの歳になって「川の字」になるとは思わなかっただろう。
ともかく、俺は姉貴に襲われる心配なしにぐっすり眠ることができた。
「おはよう」
俺がダイニングに降りていくと、親父もお袋も眠そうな顔をしていた。昨夜はお楽しみでしたね?
「それならよかったんだがな。仁恵が寝袋に入ったまま部屋を這い出ていこうとしたんで、その度に母さんとふたりで取り押さえなければならなかった」
「まるで巨大な芋虫だったわよ」
恐ろしいほどの執念だな。そうまでして弟を手篭めにしなけりゃ気がすまないのか。
なんにしても、両親のおかげで俺は久しぶりに安眠できたわけだ。
「でもまあ、熱は下がってきたみたいだな。今日一日休めば、明日は学校に行けるんじゃないか」
結局姉貴の連休は俺の看病と自分の病気で明け暮れたわけだ。自業自得とはいえ、哀れな気がしなくも……いや、まるでしないな。
親父は有給休暇をとって、明日ゆっくり単身赴任先へ戻るというので、今日は我が家でのんびりするらしい。
俺はどうしようか。姉貴の看病をするべきだろうか。
迷っていると、携帯が鳴った。猿島からだった。あいつから電話がかかるのはこれで2度目だ。普段は全くかかってこないし、こちらからもかけていない。
「もしもし」
「もしもし。桃川君、おはよう」
「おはよう。風邪は治ったのか?」
「おかげさまで。ねえ、今日は暇かしら?」
来た! 思わず歓声をあげそうなところをなんとかこらえる。努めて冷静に答えた。
「ああ、暇だ」
「じゃあ、午後から遊びに行かない?」
デートの誘いだ。けど、デートという単語を使うのが気恥ずかしい。
「いいけど、けいちゃんとして来るのか?」
「ううん、新キャラを作ったの。だから、桃川君に見てもらいたくて」
今度は何だろう? 本音を言えば猿島本人とデートしたいけど、どんな役作りをするのかにも興味がある。
「わかった。待ち合わせ場所は前回と同じか?」
「そうね。それがいいかしら」
時刻も前回と同じく1時と決まった。早めに昼食を摂っておかないとな。
「ひとつお願いがあるの」
「何だ?」
「間違いなく私が先に桃川君を見つけて声をかけるから、『おまえ誰だ?』なんて言わずに、そのまま話を合わせて」
すんなり役に入るためらしい。つまり、それだけ普段の猿島からかけ離れたキャラで俺の前に現れるというわけだ。
前回のけいちゃんもまるで別人だったからな。久しぶりに猿島の芝居が見られるだけでも1日潰す価値はある。
「わかったけど、今日はどういうキャラをやる気だ?」
「それは見てのお楽しみ」
いつもと同じ抑揚のない淡白な話し方なのに、何故か電話の向こうで猿島が笑ったような気がした。
電話を終えて、お袋に午後から出かけることを告げると、勘が働いたのか、ニヤニヤしだした。気持ち悪いな。
「太郎もやるじゃないの。昨日の今日でデート?」
「姉貴には内緒にしてくれよ」
「どっちみち寝込んでいるから、何もできないでしょ」
「いや、姉貴なら這ってでも邪魔しに来そうな気がする」
前回はどうやって出し抜いたんだっけ? そうだ、姉貴がブルーデーだったからだ。
考えてみれば、昨日雉野先輩に会ったのも姉貴に知られるとやばいな。
柄にもなく、着るものを選んでいるうちに昼になり、俺はうきうきしながら家を出た。姉貴の部屋の前を通り過ぎるとき、「どこかへ行くの?」と弱々しい声がドアの向こうから聴こえて、どきりとした。
「ちょっと買物に行くだけだ。すぐ戻る」
そうごまかして足早に去った。「早く戻るのよ」という声が聴こえたような気もするが、あえて記憶に残さないようにする。
前回同様、1時ちょうどにF駅についた。猿島らしき人影は見えない。
できれば、今回は俺が先に猿島を見つけてやりたい。柱を背にして、ホームにつながる階段に目を凝らす。多分ウィッグや化粧で外見は別人みたいになってるだろう。だから背格好で探す。
……さっぱりわからん。背格好だと誰も彼も怪しく見えてしまう。だけど、今のところ猿島と同じ身長の女は全員が俺の前を素通りして、改札を抜けていく。
不意に、目の前に女の子が立った。ぱっと見たところ小学生と中学生の境界線くらい。上はTシャツにパーカー、下はハーフパンツにスニーカーという服装で、ポシェットを腰に提げている。
実にあどけない顔で、女の子が俺に笑いかけてきた。
「お兄ちゃん、待った?」
「は?」
思わず、間の抜けた声を出してしまった。俺に妹なんていたっけ? いや、いないはずだ。全く記憶にない。
それとも親父の隠し子発覚か? そんなことはないだろう。そう信じたい。
するとこの子は……?
「人違いじゃないの?」
「ひっどーい」
女の子は可愛く頬を膨らませる。
「お兄ちゃん、けいのことを忘れたの?」
「え!?」
猿島、と言いかけて、危うくその固有名詞を飲み込んだ。声をかけられたら、そのまま話を合わせるって約束だったっけ。
それにしても、今目の前にいるのが猿島とは信じられない。前回のけいちゃんも普段とは別人だったが、今回のけいはどちらとも違う。
確かに、髪型はいつもと同じだ。眼鏡はしていないが、コンタクトをしているときの目はけいちゃんのときに見たことがある。
だけど、とにかく表情が幼い。とても高校2年生には見えない。前回と違って特に化粧をしているようには見えないのに、どうなってるんだ?
「ねえ、お兄ちゃん。いつまで妹の顔をじろじろ眺めてるの?」
「ああ……すまない」
腕を引っ張られて、俺はようやく我に返った。とにかく、今日はデートだ。相手がけいちゃんだろうがけいだろうが、俺が話を合わせるのがルールだ。
しかし、普通の兄妹って、休日にデートするのか?
「けい……はいつの間に俺に近づいたんだ? ホームの方をずっと見てたんだけどな」
「えへへ……お兄ちゃんを驚かそうと思って、ちょっと早めに来てたんだ」
けいは悪戯っぽく舌を出して笑った。けいちゃんのようなコケティッシュな可愛さではなくて、頭をわしゃわしゃと撫でてやりたくなるような可愛さだ。
だからそうした。
「髪が乱れちゃう! やめてよー」
「驚かした罰だ」
これで打ち解けた気がする。
「それじゃあ、出かけようか。どこへ行きたい?」
結局前回と同じT駅へ向かうことになった。電車の中で、けいは買ってほしいものがあるとねだってきた。
おいおい、本当に買わせる気か? 俺の懐はそんなに暖かくないぞ。
「だってー、カワイイの見つけたんだもん」
「自分で買えよ」
「お兄ちゃんにプレゼントしてほしいの」
そんな他愛もない話をするうちにT駅へついた。
前回同様ショッピングモールでウィンドウショッピングとなったが、今日はファンシーショップに入った。
「あれ買ってー」
可愛くねだる様子は本当に子供っぽい。そういや猿島の部屋にはぬいぐるみが多かったな。
「ねえ、買ってよー」
けいが指差しているのは体長1メートルくらいのウサギのぬいぐるみだが、値札を見ると諭吉さん1枚でカップラーメンを買える程度のおつりが返ってくる数字だ。
……買えるわけないだろ。
「やだやだ欲しいよー」
駄々をこねるけいにちょっと苛っとする。店員が獲物を見つけた鷹の目で近づいてくるのを察知したので、無理矢理けいの腕を取って店から連れ出した。
「わがまま言うと、遊んでやらないぞ」
俺にしかられたけいはしゅんとなった。しょうがないなぁ、安いもので機嫌をとってやるか。
「ほら、おやつにするか」
手近なパティスリーを指すと、けいはすぐに目を輝かせる。そのまま中へ入り、ふたりでケーキと紅茶のセットをいただいた。
すっかり元気になっている。やっぱり女の子は甘いものが好きなんだな。
それからアミューズメントパークへ入場し、けいの要望でカラオケに行った。俺はもっぱら最近の男性アーティストの曲を歌った。けいは女性アーティストの曲を歌ったが、低音の曲が多かった。
……猿島って、歌もわりとうまいのか。ミュージカルとかできるんじゃないか?
1時間ほど歌いまくってタイムアウトとなった。今日は混んでいるということで、延長は断られた。
「ねぇ、観覧車に乗りたい」
けいがそう言うので、俺たちは20分ほど行列に並んでから、観覧車に乗り込んだ。
あれ? このパターンは……
「お疲れ様。今日はイマイチだったわね」
目の前に猿島がいた。べつにウィッグを外したわけでも、眼鏡をかけたわけでもないのに、さっきまでの幼い女の子はもういない。
普段学校で顔を合わせている猿島景以外の誰にも見えない。
「……今日もいい芝居だったと思うけど。かわいかったし」
今気づいた。猿島は服装こそ子供っぽくしていたけど、あとはメイクも扮装もなく、表情の演技だけで実年齢より3、4歳ほど幼い女の子になりきってみせたんだ。
これって凄い演技力じゃないか?
「ダメ。今日は桃川君をうまく引き込めなかったわ。途中で何度か、『前回はどうだった』とか考えていたでしょ」
気づかれたか。
「役者は観客が自分の芝居に夢中になっているかどうか、わりと敏感なのよ」
「やっぱり、妹ってのが無理があったんじゃないか? この年頃の女の子って、兄と遊びたいとは思わないだろ?」
「私の場合は、兄と年が離れていたから、わりと甘えさせてもらえたんだけど、桃川君相手だとちょっと不自然だったかしら」
なるほど、今日の女の子は過去の猿島の姿を投影していたのか。
「それとも姉の方がよかった?」
絶対嫌だ。
「そういえば、お姉さんがいるんだっけ」
頼むから真似してくれるな。
「だけど、こういう芝居の練習みたいなこと、女友達とかにもやるのか?」
「ううん。桃川君だけよ」
どうして俺にだけはこんなことしてくれるんだろう。
「そうね……。自分でもわからないけど、なんか桃川君には運命的なものを感じるの」
それって期待していいのか?
「たぶん、桃川君には役者の創作精神をかきたてるような要素があるんだと思う」
色気のある話にならないなぁ。……でも、前に脚を触らせてくれたことがあったっけ。今、頼んでみようか。
と思ったが、観覧車が1周してしまった。俺たちは係員の手で外へ出される。
今日はお開きとなった。前回同様、T駅で別れた。けいちゃんのときと違って、後姿を思い浮かべようとは思わなかった。あれはおかずにできない。
家の近くまで来たとき、突然何者かが鳩尾にタックルしてきた。
「うげっ!?」
呼吸が止まって尻餅をついた。何だ? 強盗か?
顔面を湿った感触が走り抜ける。舐められていると気づいて、相手が誰だかわかった。
「離れろ!」
突き飛ばすようにして引き剥がした相手は、案の定司だった。
「ご主人様、こんにちは!」
まるで悪びれずに元気な声で挨拶する司は、初めて見る私服姿だった。カットソーにジーンズだ。
「おまえがどうしてここにいるんだよ」
「ご主人様を探しに来たの」
俺本人というより、俺の家だな。誰に聞いたんだ?
「雉さんに教えてもらったの! ご主人様、昨日応援に来てくれたんでしょ? お礼が言いたくて来たんだよ!」
雉野先輩の名前が出て、俺は焦った。まさか、手コキのことまでしゃべってないだろうな。
「ねぇねぇ、ボクが走ってるとこ、カッコよかった?」
司にまとわりつかれながら歩くうちに、俺の家が見えてきた。玄関先に誰か立っている。
「たろーちゃん!」
姉貴だった。パジャマの上にガウンを羽織っている。とりあえず裸でないのはほっとしたが、そんな格好で外に出たらまた風邪がひどくなるぞ。
「姉貴! そんな格好で外に出るな。ちゃんと寝てろよ」
「だって、たろーちゃんが夕方になっても帰ってこないんだもの。心配したのよ」
「だからって外へ出るなよ」
姉貴を早く家へ入れよう。そう思ったのに、俺は腕を引っ張られて足を止めなければならなかった。
司が俺を引き止めたんだとわかる。
「司? どうかしたか?」
司は物凄い形相で睨んでいた。視線の先には姉貴がいる。
「おい、司……」
「たろーちゃん!」
今度は姉貴が叫んだ。姉貴の方を向くと、姉貴も鬼のような顔で司を睨んでいる。
何だ? 何が起きているんだ?
「たろーちゃん、こっちへ来なさい! 早く!」
「ご主人様、行っちゃダメ!」
ふたりが逆方向から全く同じような要求をする。どうしろと言うんだ。
「早くそのバカ犬から離れて!」
「鬼のところへ行っちゃダメ!」
よくわからんが、ふたりとも顔見知りなのか? とりあえず俺は司に注意することにした。
「こらこら、人の姉を鬼呼ばわりするな」
「姉? あの人、ご主人様のお姉さんなの?」
司が驚愕の表情を浮かべる。知らないで鬼呼ばわりしていたのか?
「たろーちゃんから離れろっ!」
目を離した隙に、姉貴が突進してきた。ダッシュから、体重の乗った左ストレートを振りぬく。
「危ねぇっ!」
俺は思わずのけぞった。いや、俺じゃない。狙いは司だ。姉貴が全力で殴りつけたら、司なんかひとたまりもない。マジで死ぬぞ。
だが、司は素早い身のこなしで姉貴の攻撃をかわしていた。バックステップで距離を取る。やっぱり風邪のせいで姉貴も本調子じゃないんだな。
それでも、姉貴は俺から司を引き離す目的は達したので、俺を抱き締めた。
「やめろよ、姉貴。こんな人前で……」
「このバカ犬っ!」
姉貴は俺そっちのけで司を罵る。
「よくも顔を出したわね! ぶち殺してやる!」
おいおい、物騒なことを言うなよ。
「こっちのセリフだよっ! 咽喉笛噛み切ってやる!」
司も何を言ってるんだ。
「落ち着け! ふたりとも路上だぞ!」
「ええ、そうよ! コンクリートに叩きつけてやればすぐに終わるわ!」
「おまえみたいなノロマにボクが捕まるもんか!」
聞いちゃいねぇ。
「どうしたんだよ、ふたりとも。何か俺の知らないうちに喧嘩でもしたのか?」
するとふたりとも俺に向き直ってまくし立てた。
「こいつは千年前に私たちをひどい目に遭わせた仇なのよ!」
「そいつが千年前にご主人様を誑かしたんじゃないか!」
ふたりとも、「忘れたの!?」と俺を責める。いや、忘れたも何も、俺には全く心当たりがない。
……待てよ、千年前? どうしてふたりとも同じ数字をあげるんだ? そういえばふたりとも電波女だったけど、それにしても同じ内容?
最近、似たような話があったぞ。……そうだ、雉野先輩の話と姉貴の話が微妙に符合していた。あれも千年前?
司も生まれ変わりがどうのとかいう話をしていた……。まさか、姉貴の話とリンクしているのか?
いやいや、そんなことがあるわけが……。
「たろーちゃん!」
「ご主人様!」
ふたりに詰め寄られながら、俺は頭が混乱して、足元がぐらつくのを感じた。
「たろーちゃん! 大丈夫!?」
姉貴が俺を肩に担ぎ上げて、家の敷地内に飛び込んだ。俺はなすすべもない。ただされるがままだ。
「ご主人様! 必ず助けてあげるからね!」
司の絶叫が鼓膜を打つのを感じながら、俺はぐるぐると目が回って、意識が遠のいていった。
我に返ってみると、お袋が心配そうに姉貴を介抱していた。俺が気を失ったのはほんの一瞬で、入れ替わりに姉貴がダウンしたらしい。
「無理するなって言っただろうが」
俺はお袋とふたりがかりで姉貴を部屋へ運んでいって寝かせたが、姉貴は上の空で「殺す……ぶっ殺す……」とうめいて、お袋を気味悪がらせた。
いったい、何がどうなっているのか、俺にはさっぱりわからない。
ただひとつ言えることは、姉貴と司を会わせてはいけなかったということだ。そしてそれが起こってしまった以上、事態は確実に悪い方向へ転がり始めている。
投下終了です。ようやく共通ルートというか、大きな前振りが終わりました。
次回から個別ルートに入ります。といっても面倒なので分岐はしません。順繰りに行きます。
それでは、よいお年を。
司ちゃん可愛いぜ
GJ!!!! 「合戦準備」の号令が掛かったな…
殺し合いの予感がビンビンする!
さるさんに萌えた。
GJ! 俺も巨大な芋虫吹いたw
>>112 >あれはおかずにできない。
取り敢えずソッチ方面を考えようとするなw
まさかの妹キャラに盛大に吹いたwwwww
転生恋生GJ!
そしてクリスマス小ネタ来い!全裸に靴下で待ってるぜ!!
足首までしかないソックスしか持ってない俺はニーソックス買ってきて準備万端だ
明日の朝にはこのニーソックスにピッタリあうキモウトが布団の中に入っ
クリスマス・・・ブラコンの姉妹たちを利用しない手はない
枕元に靴下を置いて置けばきっと俺の欲しいものが手に入るはずだ
そこには靴下をセットする様子を確認するいくつかの影が!
それぞれが妄想にふけっていた。
妹1「あの靴下だけ履けば全裸で布団に潜り込む口実になるわね」
妹2「靴下が小さいわね。でも全身が入るものを用意してあるから大丈夫」
姉「サンタの帽子と上着、下は何もなしなら絶対ムラムラして向こうから襲ってくるわ!」
全員「今年のクリスマス、これで勝てる!!」
兄1「妹が男モノの靴下はいてたwwwワロスwww」
兄2「全裸の妹が巨大靴下のなかにいたwwwwwギャグなの?ww」
弟「むしろイライラした件」
全員「そもそも今年のクリスマスは中止のはずですが?」
「隣の男三兄弟が何か騒いでるよ。」
「オナニーのしすぎで発狂でもしたんでしょ。」
「クリスマス中止とか意味不明なこと言ってるし、関わっちゃ駄目よ。」
「ないない。KYなんて問題外だから。」
スレの終わりに何人か埋めの為の書き手いてたのにどこいったんだ?
ソウカンジャーと兄の喉に指突っ込んでオナニーする奴。
きっとどこかにいるさ………
あれどうした、いm(ry
7月からこのスレを見るようになったんだが、世話好きなリアル姉と、半分しか血のつながりのない7つ離れたリアル妹が怖い。
この年末年始こそ彼女を実家に連れてって、挨拶させようと思ってたのに……
あああああ(´;ω;`)
こんなキモい兄貴でごめんよ妹。こんなキモい弟でごめん姉ちゃん……
と言う夢をみた。
7
血
こ
あ
こ
投下します
濡れ場はありますが、相変わらず薄いです。
以下本編
奈々智 箇吾子
両親の通夜が行われた夜。祖父母が身元を引き取ってわたしたちは田舎で暮らす、と云う話が上がった。
もとより、親戚はほとんど居なかったし、立て続けに家族を亡くし、わたしはともかく、お兄ちゃんの精神状況はもう、ぼろぼろだった。
お兄ちゃんはずっと自分の部屋に引きこもり、わたしも、お兄ちゃんのそばから片時も離れようとしない。
そんな哀れな二人の兄妹の姿は、赤の他人の涙を誘うものだったようだ。
そこで兄妹の傷心を癒すためにも田舎の祖父母の家で暮らすのは大人たちにとっても悪くない話だった。
けれど、その案はお兄ちゃんの取り乱しぶりにあえなく廃案となった。
無理もなかね、と祖母は涙をこらえながら言った。
祖父母の家と言えば、遥ねえとの最後の思い出の場所だったから。
遥ねえにべったりだった兄さんがその場所を嫌がるのも、確かにおかしくはない。
だけど、それだけじゃない。もちろんそれもあるけれど、一番はきっとお兄ちゃんの罪の意識だった。
遥ねえは、お兄ちゃんとの情事のあとに目に見えて衰弱していった。
因果関係が本当にあるかどうかはともかく、お兄ちゃんはその事を責め続け、自分が遥ねえを殺したとさえ思っていた。
その情事の場所がまさしく祖父母の家だったのだ。お兄ちゃんがそんな、罪の本源に迫る場所で平穏に過ごせるはずがなかった。
まさか、と思った。
まさか遥ねえは、その事まで考えて祖父母の家でお兄ちゃんとまぐわいを行ったのだろうか。
まさか、ね。
けれど、いくらなんでもそれはないと、きっぱりと否定できないのも事実だった。
そこで祖父母は、次善の策として、田舎の家を売ってこちらに引越してこようとした。
わたしは焦った。せっかく遥ねえが、遺してくれたお兄ちゃんと二人きりになれる機会をみすみす捨てるわけにはいかなかった。
ない頭で一晩中考えて、それでもいい案を考えることができなかったわたしは、結局遥ねえの真似をすることにした。
まだ喪のあけない、葬式の夜。わたしは、お兄ちゃんを、襲うことにした。
*****
お兄ちゃんを襲う計画において邪魔な存在である祖父母には今夜だけお兄ちゃんと二人きりで両親との最後の一夜を過ごしたいと、お願いした。
最初は渋っていた祖父母だったけれど、わたしの熱意にほだされたお隣さんが、祖父母を説得してくれて、祖父母はそのお隣さんの家に一泊することとなった。
普段は余り語彙のないわたしが、その時だけ妙に賢く見えたこともお隣さんの涙腺に引っ掛かったのかもしれない。
お兄ちゃんは、相変わらず自分の部屋に閉じこもっていた。
わたしは、虚ろに中空を眺めるお兄ちゃんを、ベッドに押し倒し、キスをした。
あの日遥ねえが、やっていたことを思い出しながら見様見真似でお兄ちゃんの唇を蹂躙した。
「んん、……んふー、ぴちゃ…………れろ」
「んぐ!……んむむ、むむー!……ぷはっ!……ああ、姉さん」
とろんと虚ろな目でわたしを見据え、しかしお兄ちゃんの声はわたしの名前を呼ばなかった。
途端溢れ、堰を切りそうになった涙をぬぐい、拙いキス。
「ちゅっ……あむ、んんっ……」
「んん、姉さん……ん、ちゅ、れろ……ぴちゃ」
お兄ちゃんが自ら舌を絡めてきた。未経験のわたしから難なく主導権を奪った。
「ちゅる……ちゅ、れるる……お兄ちゃん」
「ん、ちゅ、じゅ……姉さん」
なんて滑稽なのだろうか。それでも、やめたくない、と思った。
「姉さん、どうしたの?いつもより下手だね?」
くすり、とお兄ちゃんが笑った。
ああ、お兄ちゃんの笑顔を見たのは、一体いつ以来だろうか。
「今日は、お兄ちゃんが、りんごをリードして?」
「はは、姉さんは甘えん坊で変態さんだね。じゃあ、まずは、俺のを気持ち良くしてくれよ」
りんご、と態と自分の名前を呼んでみても、お兄ちゃんの目の前にいるのは遥ねえだった。
はは、と嘲笑。いったい誰に対するものかはわたし自身にも分からない。
ベッドに座ったお兄ちゃんの前、床に跪いて、ズボンのチャックを下ろしパンツの隙間から、お兄ちゃんのモノを引き出した。
既に屹立した肉棒を見るのはこれで2回目。
けれどこんなに近くで見るのは初めてだった。
むん、ときつい匂い。臭いはずなのに、何故かすんすんと、自ら嗅いでしまった。頭がくらくらする。
きゅんと胸がうずいたような感覚。
――もしかして、わたしって変態なのかも。
そ、と恐る恐る手を伸ばした。
ぴと。生温かくて、何だか変な形。わたしの手が冷たかったせいか、大きく一度びくりと跳ねた
「わっ!」
驚いた。けれどお兄ちゃんの体の一部だと思うと、それさえも愛しく思えて。
思わず頬ずりしてしまった。
お兄ちゃんに触れるのは随分久しぶりな気がした。わたしの心が満たされていく。
「ちゅっ、ちゅ」
キスの雨を降らせた。そういえば。
お兄ちゃんへのさっきのキスが、わたしのファーストキスだった。
官能にぞくり、と肌が粟立った。
「ちゅっ、れろ……れる、んむ……ぴちゃ、ちゅる」
竿の部分を丹念に舐めていく。遥ねえも確かこうしていた。
う、とお兄ちゃんの気持ちよさそうな声。
よかった、間違っていないみたい。
遥ねえじゃなくても、わたしにだってお兄ちゃんを気持ち良くすることができるんだ!
調子に乗って、ペニスを口に含んだ。
「あむ……んむ、ちゅる…じゅ、えろ、れる……ぐぷ、ちゅぱ、じゅ…じゅ」
噛まないように、慎重に肉棒を口でしごいていく。
「んぶ……ちゅる、ちゅる…ちゅぱ……じゅ、じゅ………れろ……ちゅっ、んふ……」
「くっ……姉さんっ!」
ゆっくりとした動きにお兄ちゃんはもどかしそうな声をあげながら、わたしの頭をぐっと抑え込んだ。
「んんっっ!!……ごぶ、んぐぐ……ぐぽっ、ちゅるっ!」
お兄ちゃんがわたしの喉の奥まで侵入して、暴れまわった。
わたしは噎せ返りそうになりながらも、懸命に舌をペニスに絡ませた。
「んふーっ!じゅ…じゅるるるっ!ちゅー、れろ……ちゅぶぶっ」
吸い込むような動作も加えてみるとお兄ちゃんの気持ちよさそうな反応。
初めてでここまでお兄ちゃんを気持ちよくできるわたしは、きっと天才なんだ、と心中で呟いた。
勉強の才能はなかったけれど、その代わりにお兄ちゃんを悦ばせることができる才能を授かったのだとしたら、寧ろ神様にありがとうと言いたい気分だった。
しかし、今ではこの時のわたしのフェラの技術は然程上手かったわけでもないと云う事を知っている。
結局お兄ちゃんは、“遥ねえのフェラ”だから快感を感じていたのだろう。
「ごほっ!ん、ん、ぐ……じゅぽっ…んふっっ………ぐぼっ!」
ディープフロート。
こみ上げる吐き気と戦いながら、夢中で続けていると。
「あっ!姉さん、で、射精る!」
「む?……ぐぼっっ!!!」
頭を抑えているお兄ちゃんの手の力が強くなった。
「は、遥っ!!」
遥ねえの名前を叫ぶお兄ちゃん。
と、同時にお兄ちゃんのモノから、精液が飛び出しわたしの喉を叩いた。
「んっ、んんむぅぅっ!?」
射精の勢いにさすがに嘔吐感を我慢できず、反射的に精液を吐きだしそうとしたけれど、
お兄ちゃんの手がわたしの頭を相変わらずがっちりと抑えていて許してくれなかった。
「うぅぅっ!……はぁ、はぁ………ふぅ」
射精し終わったお兄ちゃんが、満足して漸くわたしを解放した。
支援
「ご、ごほっ、ごほっ、ごほっ!ぐうぅぅ………はっ、はあっ!はっ、はぁ、はぁ、はぁ」
口に手を当てる暇もなく、こみ上げた嘔吐感のまま床に吐きだした。
しかし、床に落ちたもののほとんどがわたしの唾液で、精液はお兄ちゃんが出した量に比べ少なかった。
殆どを、わたしは飲み込んでしまっていた。
ぽた、ぽたっ、と涙も床に落ちた。
それがわたしの涙だと気づくのに、数秒かかった。哀しくないのに涙も出るんだな、と他人事のように涙の跡を眺めた。
わたしの心の中を占めていたのは、お兄ちゃんをイかせたことへの満足感だった。
わたしは、満ち足りていた。
「ふっ、ふぅぅぅ……」
息を整えながら、暫し充足感へ浸る。
この時すでに、わたしはお兄ちゃんを襲った本来の目的を忘れていた。
もう、今日は、この満ち足りた気持ちのままお兄ちゃんと二人で眠りたい、と思った。
ぼんやりと霞がかかった頭。
床に押し倒された衝撃で、はっと我に返った。
「遥、俺、まだ満足できないよ」
お兄ちゃんが、わたしの体に馬乗りになって、見下ろしていた。
お兄ちゃんの虚ろな目。
それは、わたしを通り抜け何処か遠いところへ向けられて、その瞳の奥に狂気の光を見た。
お兄ちゃんの手が乱暴にわたしの衣服をはぎ取った。
膨らみのほとんどなく、ブラの必要もない硬い胸が露出した。お兄ちゃんが乱雑にその胸をこねくり回し始めた。
更に、もう片方の手で、わたしのパジャマのズボンと下着を同時に下ろして、ぴったりと閉じた秘蕾を無造作に触った。
唐突、ぐ、異物の侵入する感覚。
メリメリと張りついた膣内を剥がしながらお兄ちゃんの指が奥へと進み、処女膜の一歩手前ギリギリで止まった。
「あれ、遥、濡れていないんだね。死にかけの体でセックスしてよがるくらい変態さんなのに」
お兄ちゃんの諧謔に満ちた声。
ひ、とわたしは短い悲鳴を上げていた。その時わたしは、初めてお兄ちゃんを怖いと思った。
発育過程の胸を乱雑に扱われることによる痛みと、膣内を縦横無尽に踊る指がもたらす痛み。
「いたい、いたいよ、おにいちゃん!」
「はは、まだ濡れがあまいけど、もういいよね。変態の遥ならまたあの時みたいにすぐ気持ちよくなっちゃうよね」
わたしの声は届かない。遥、とお兄ちゃんは笑いながら、
「ねえ、なんであの時遥は俺に自分を犯させたの?なんで、俺に自分を殺させたの?」
ねえ、なんで?
お兄ちゃんの声が震えた。
遥ねえじゃないわたしはその問いかけの答えを持っているはずもない。
ある程度の予想はつくけれど、死の恐怖や、別れを目前とした遥ねえの気持ちを体験したことのないわたしが、軽々しく口にできる言葉ではなかった。
それは、遥ねえがお兄ちゃんに打ち込んだ呪いにも似た楔だった。
お兄ちゃんが遥ねえを片時も忘れることがないように打ち付けた、歪んだ愛の楔。
ああ、お兄ちゃんは何て――
「あ、あああああぁぁっ!」
不意に、思考を空前絶後の痛みがぶった切った。
お兄ちゃんが、申し訳程度にしか湿っていない膣に肉棒を無理やりねじ込んでいた。
ぷつり、と体の奥で何かが破れた感触。途端こみ上げるのは破瓜の痛み。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!!
はじめてはお兄ちゃんと愛を囁きあいながら、優しく――などという、甘く、幼い幻想がかくも微塵に打ち砕かれた。
お兄ちゃんは一気にわたしの奥にたどり着くと、休む暇も与えず、腰を激しく動かし始めた。
「いっ、がぁっ!ぎっ、いつっ!………づぅぅ!!!」
痛みに、気を失いそうになり、更なる痛みで現に戻る。
なんで、なんで、とお兄ちゃんは繰り返しながら、わたしの膣内を蹂躙した。
獣のソレよりも低俗で、滑稽な性交。それがわたしの初めてだった。
ぽた、ぱたた、とわたしの頬に温かいものが落ちた。
「うぅっ、うっ、なん、でっ!なんでっ、死んじゃったんだよっ、姉さんっ!?俺を、おれを――」
――ひとりにしないで。
お兄ちゃんの涙がとめどなく溢れては、またわたしの頬に落ちた。
わたしはそっと手を伸ばし、そっと拭う。
両手をお兄ちゃんの頬を包むようにあてたまま、今なお続く痛みに顔を歪めながら、何とか不格好に笑顔を作った。
お兄ちゃん。
目の前の愛しく、尊い存在に、優しく呼びかける。
「おにいちゃん、だいじょうぶ、りんごがいるよ」
お兄ちゃんを慰めるいい言葉が、もっとこの世にはたくさん存在するのだろう。
けれど、馬鹿なわたしにはこのくらいの言葉しか思いつかなかった。
胸の中の多くを占める、お兄ちゃんを思う気持ち。お兄ちゃんのためなら、そう、人を殺すことすら厭わないような強い、気持ち。
この気持ちを最大限に伝える言葉が欲しい、と思った。
でも、そんな素晴らしい言葉、いくら頭の中を探しても見つからなくて。
ただ、おにいちゃん、おにいちゃん、とその言葉以外知らないみたいに呼びかけ続けた。
「林、檎……?」
お兄ちゃんの目が、はっきりとわたしを捉えた。
途端、わたしの中に突き刺さった肉棒がひときわ大きく暴れ、わたしの奥に精を放った。
「あ、え?何で林檎が……」
お兄ちゃんは混乱する頭を整理するように呟き視線をさまよわせ、わたしとお兄ちゃんがつながっている部分を見た。
萎んだお兄ちゃんがわたしの膣内から外に出て、栓がなくなったわたしの膣内から、こぽ、と溢れる精液と、わたしの血。
あれだけ痛く、痛みは今も続いているけれど、お兄ちゃんの剛直がわたしから抜けたことを寂しいと思っている自分に、思わず苦笑した。
「あ、あ、俺、俺――っ」
状況をようやっと理解したお兄ちゃんが、頭を抱えて絶望を叫ぼうとしたところで、その口を強引に自らの唇でふさいだ。
たっぷりと時間をおいて、唇を離し、お兄ちゃんに笑いかけた。
今になってわたしは、元々の目的を思い出していた。
「ねえ、お兄ちゃん」
首をかくんと傾げながら、お兄ちゃんに問いかける。
ばちっと、お兄ちゃんとわたしの目があったことを見計らって、
「お兄ちゃんは、りんごの処女を奪っちゃったよね。痛がるりんごも無視して、欲望のままナカダシまでしちゃったね」
子供ができちゃったらどうしようか、なんてお腹をさすってみた。
お兄ちゃんの顔がさあっと青くなった気がした。
「あ、あ、謝ってすむ問題じゃないよな。お、俺はどうしたら……。林檎、俺はお前に何をしたら償える?」
「そんなの、簡単な事だよ」
ふふ、と何となく遥ねえの笑い声を真似ながら、
「お兄ちゃんが責任を取って、これから一生、りんごのこと守ってくれればいいんだよ」
これで、お兄ちゃんを十字架に縫い付ける楔は二つになった。
遥ねえはわたしを哀れだと、嘆いたけれど。
本当に哀れなのは、わたしなんかじゃなくて。
遥ねえとわたし、倫理から外れた歪んだ愛に引きずられるまま、伴に真っ当な人間の道を滑り落ちたお兄ちゃんこそが哀れな人なのだろう。
けれど、その時のわたしの胸を占めていたのはお兄ちゃんを哀れだと、悲しむ気持ちじゃなくて。
これで漸く、遥ねえと同じ位置に、お兄ちゃんの一番になれたんだという、歓喜の気持ちだけだった。
*****
翌日お兄ちゃんは、わたしの頼みどおりに二人でこれから生活していきたいと祖父母を説得してくれた。
彼らは初めはもちろん反対していたが、お兄ちゃんの昨日までの自殺しかねない様子が頭にあったのか、強く反対することができないでいるようだった。
結局、最後は資金面では両親が遺してくれた遺産で賄い、祖父母はわたし達の家の近くに引っ越してくることに決まった。
立て続けに家族を失ったのはわたしやお兄ちゃんだけでなく、祖父母も同じで、彼らは家族の死に臆病になってしまっていた。
なにはともあれ、全てはわたしと遥ねえが望んだままにおちつき、こうして、わたしとお兄ちゃんの二人きりでの生活が始まった。
以上です。
お目汚し失礼しました。
それではよいお年を。
乙、続き待ってます
141 :
名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 04:01:16 ID:GH+WDXtq
神モテ
三つの鎖 10 後編です
※以下注意
エロなし
血のつながらない自称姉あり
投下します
夏美ちゃんと別れて僕は一人で商店街を歩いた。商店街は多くの人がいて賑やかで活気がある。
しかし僕の心は沈んでいた。
春子は今日の夜に来いと言った。目的は想像がつく。それは夏美ちゃんを裏切る事。
断れば春子は容赦しない。あの夜の僕と夏美ちゃんの映像ばらまくだろう。学校にばれれば僕と夏美ちゃんは恐らく退学。
いや、下手すれば春子は本気であの映像をインターネット上にばらまくかもしれない。春子はインターネットにも詳しい。
そうなれば、不特定多数の者にあの夜の出来事を見られる。永遠に。
気がつけば僕は拳を固く握りしめていた。考えるだけでもおぞましい。
ではどうする。春子の家に侵入してデータを消すのか。不可能だ。春子は僕よりはるかにコンピューターに詳しい。家だけでなく、暗号化してネット上にも隠しているに違いない。
「幸一君」
僕は振り返った。そこには制服姿の春子がいた。
いつもとおり、のんびりとした笑顔で僕を見つめている。
「どうしたの。恐い顔をして」
僕にゆっくり近づく春子。そして耳元に囁く。
「そんな顔だといろんな人に気がつかれちゃうよ」
僕は荒れ狂う感情を必死に抑えた。
「僕に何を望む」
夏美ちゃんと別れろと言うのか。
「勘違いしないで。夏美ちゃんと付き合えばいいよ」
春子の温かい息が吹きかかる。鳥肌が立つ。
「だって幸一君が別れたら、幸一君が我慢する必要がなくなっちゃうもん。幸一君はいい人だから昔の彼女でも見捨てることはできないと思うけど、念のためにね」
春子の話す内容に悪寒が走る。
「安心して。他の人には何も言わない。お姉ちゃんと幸一君だけの秘密。幸一君は今まで通りにすればいい」
頬に熱くて柔らかい感触。
「お姉ちゃん今日の夜を楽しみにしてるよ」
春子は僕から離れた。背を向けて去っていく。振り向き際の流し眼がいつもの春子らしかぬ艶めかしさをはらむ。
歩き去る春子に何も言えなかった。
(お兄さん)
脳裏に夏美ちゃんの声が蘇る。
(私はお兄さんをいつでも信じています)
迷いのない夏美ちゃんの笑顔。
(お兄さんも自分を信じてください)
言葉が胸に突き刺さる。
どうすればいいんだ。一体どうすれば。
答えの出ない悩みに僕の心は沈んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
晩御飯は梓が作った。
季節の魚の刺身。僕の好物なのに、あまり味がしなかった。
それでもいつも通りの量を食べる。
「ごちそうさま」
梓は食器を片づけて僕お茶を淹れてくれた。礼を言って受け取る。熱い緑茶。おいしい。
お茶に口をつけていると、梓は僕の隣に座って体をすりよせて来た。
「ちょっと梓」
「うみゅー。兄さん温かい」
嬉しそうに頬ずりしてくる。
「あのね梓」
言わなくてはいけない。この年になって兄妹でのスキンシップにしては過激すぎる。
「分かってるよ」
梓がぽつんと言う。
「兄さんには夏美がいるって」
先ほどの面影は露ほどなく、ただ寂しそうな梓。胸が締め付けられる。
「でもね、時々でいい。兄妹としてでいい。少しだけでいいから甘えさせてほしいの」
梓は僕の胸に顔をうずめた。数秒そのままで、すぐに顔を離し立ち上がった。
「はい。甘えタイム終了」
梓は笑顔で僕を見た。
「夏美はいい子だから、泣かせちゃだめだよ」
背を向けて歩き出す梓。リビングを出る前に振り向き僕を見る。
「ま、そんな事とは関係なしに私は今まで甘えられなかった分を甘えるけど」
そう言って梓は可愛く舌を出してリビングを出た。
梓も前に歩こうとしている。梓の言うとおり夏美ちゃんはいい子だ。絶対に泣かせない。
そして泣かせない方法は一つしかない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夜。僕は春子の家を訪れた。すでに夜は遅い。
チャイムを押さずにドアを控えめにノックする。しばらくしてドアが静かに開き春子が出迎えた。シャツに短パンの部屋着姿。
お風呂あがりなのか、シャンプーの匂いが暗闇でも分かった。
「来てくれてありがとう」
どこかほっとしたような表情の春子。
「ついて来て」
僕は春子について二階に上がった。昨日も来た春子の部屋。
「私、ピルを飲んでいるから」
だから生でと春子は続けた。
春子はドアを閉め鍵をかけた。
「幸一君。来てくれたってことはいいんだね」
春子の最後の確認。
脳裏に夏美ちゃんの笑顔が浮かぶ。
温かく僕を包んでくれたあの笑顔。
恥ずかしそうに僕の手を握る小さい手。
嬉しそうに僕に話しかけてくる可愛い声。
迷いなく僕を信じ切った言葉。
(私はお兄さんをいつでも信じています)
その気持ちを、僕は裏切ろうとしている。
今ならまだ間に合う。
「迷ってるんだ」
春子が近づき僕に囁く。
「大丈夫だよ。私は何も言わない。幸一君が何も言わなければ、いつも通りだよ」
僕と春子が何も言わなければ、夏美ちゃんは何も知らないまま。
「あれを学校に送りつけることもできるんだよ?そうなれば夏美ちゃんは退学だよ」
きっとそうなる。
「いいの?夏美ちゃんのあられもない姿が世界中に配信されても」
考えるだけでもおぞましい。
「世界中の男が夏美ちゃんが乱れる姿で」
「言わないで」
僕は春子の言葉を遮った。
「それ以上、言わないで」
「じゃあ」
春子が僕の顔を両手で包む。
「分かってるね」
夏美ちゃんを守るために、夏美ちゃんが悲しむ事をする。
その矛盾に胸が張り裂けそうになる。
「幸一君。少しかがんで」
春子の言う通りに僕はかがんだ。
「好きだよ幸一君」
夏美ちゃんごめん。
僕は目を閉じた。春子の唇が僕の唇にふれる。
柔らかくて温かい感触。
夏美ちゃんの笑顔が脳裏に浮かんで消えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕たちはゆっくりと唇を離した。
目を開けた時、春子は泣いていた。
春子は僕に抱きついて体を震わす。
「ひっく、ううっ、ぐすっ」
何で泣くんだろう。僕は春子の背中をなでた。
「春子。何で泣くの」
「ぐすっ、だって、ひっくっ、幸一君にふれるの、うっ、久しぶりなんだもん」
春子は顔をあげた。涙でぬれた顔。嬉しそうに笑う。
「仕方ないって分かっていても、お姉ちゃん寂しかったんだよ」
僕にしがみつく腕に力がこもる。ささやかで弱い力。
「幸一君。お姉ちゃんにキスして」
僕は春子のあごに手をあて、上を向かせた。春子が目を閉じる。唇を唇でふさぐ。
「んっ」
春子は震えた。僕は春子の唇に舌を這わす。
「ちゅっ、んっ、んんっ、あむっ、ちゅっ」
春子は一生懸命僕の舌に絡ませてくる。拙い動き。脳裏に夏美ちゃん笑顔が浮かぶ。思わず僕は唇を離した。
「あっ」
春子が切なそうにつぶやき僕を見た。
「幸一君。お願い」
僕の頬をつつむ春子の白い両手。温かい。
「今だけはお姉ちゃんを見て」
そう言って目を閉じて僕に口づけした。
「んっ、ちゅっ、あむっ、ちゅっ、んんっ」
一生懸命で拙いキス。
「ちゅっ、んっ、ぷはっ、幸一君?」
春子が唇を離す。寂しそうに悔しそうに唇をかみ締める。
「幸一君。夏美ちゃんにするみたいにして」
心に強い感情が渦巻き、爆発する。
僕は春子を強く抱きしめた。
「きゃっ!?」
春子が小さな悲鳴を上げる。あごに手を添え上を向かせる。少しおびえた表情。僕は強引にキスした。
「んんっ!?」
苦しそうにもがく春子。僕は歯を割り口腔に舌をねじりこむ。
「んっ!んっ!んんっ!」
舌を絡め歯茎を舐めまわす。春子の口腔を容赦なく蹂躙する。
「んっ!ちゅっ、じゅるっ、んっ!んっ!」
苦しそうにもがく春子を強く抱きしめ、さらに舌を這わす。
「ちゅ、んっ、はむっ、じゅるっ、ふあっ」
春子は口腔を蹂躙する僕の舌に体を震わせる。僕は唾液を流しこんだ。春子の白いのどがこくこく動く。
「んっ、こくっ、ちゅっ、じゅるっ、こくっ、こくっ」
唾液の合計が多いのか、春子は苦しそうに喉を震わす。
「こくっ、こくっ、んんっ、こくっ、ぷはっ、はあ、はあ」
唇を離すと、春子は苦しそうに息をした。唇の端からよだれが垂れる。頬は赤く染まっている。切なそうな眼で僕を見上げる。
「ふふ、幸一君すごいよ。キスだけでお姉ちゃんイっちゃいそう」
そう言って春子は僕に抱きついた。熱い体。上気した体はしっとりしている。
「幸一君。夏美ちゃんと同じように抱いて」
僕は歯を食いしばった。夏美ちゃんとの思い出を穢された気分だった。
「全部脱いで」
僕は春子に言い、自分の服を脱ぎ始めた。脱がす気にはなれなかった。春子は大人しく従った。
春子は上のシャツを脱いだ。白くて滑らかな肌と豊満な胸が露わになる。ブラジャーは白い清楚で可愛らしいレースがついている。
さらに春子は短パンをゆっくりと恥ずかしそうに脱いだ。思ったより細くて白い太ももがゆっくりと露わになる。下着は白くてこちらも可愛らしい飾りがついている。下着は既に濡れている。
春子の体は綺麗だ。白く滑らかな肌、くびれた腰、大きいけど形のいい胸。僕の気持ちと関係なく見とれてしまう。
「あの、幸一君」
春子が恥ずかしそうに身をよじる。太ももが悩ましげに擦り合わされる。
「その、お姉ちゃんを、ベッドの上で、脱がして欲しいの」
きっと春子は僕が夏美ちゃんを脱がせたのを見ているのだろう。耐え難い怒りと暗い衝動が心に渦巻く。僕は春子を乱暴にベッドに押し倒した。
「きゃっ!」
春子に覆いかぶさり、強引にブラジャーを外す。露わになる春子の胸。乳首はすでに立っている。
僕は両手で包み込むようにふれ、強く揉みほぐした。春子の顔がゆがむ。
「んっ、いたっ、幸一君っ、痛いよっ」
身をよじる春子にのしかかり、胸を揉み続ける。大きくて柔らかい。それなのに張りがある。
「んっ……やだっ……あうっ……ひっ…んっ…あっ、いっ」
春子は苦しそうに身をよじる。しかし、声には疑いようのない艶がある。僕は顔を振る春子の首筋に強く吸いついた。
「ああっ!やあっ!」
声を震わす春子。その間も両手は春子の胸を強く揉む。唇を離すと、薄らと痕が付いている。
「ひうっ……こ、幸一君、痕がつくのはだめっ…ああっ、やんっ」
春子の声を無視して首筋を、胸元を、唇をキスし、舐め、吸う。春子は喘ぎ、震える。
「やあっ!こういちくんっ!ひふっ!ああああっ!!」
僕は春子の乳首に吸いついた。
「きゃあっ!やだっ!だめっ!んっ!ああああっ!」
僕は舌で春子の乳首を転がす。
「んっ…ああっ……やあっ…いやっ……ひふっ……だめっ……転がさないでっ……ひっ……あんっ、あっ」
身をよじる春子を抑えつけ、舐めつくす。春子は声をあげ震える。僕は春子の乳首を軽く噛んだ。
「ひうっ!!!」
春子の背が大きく反る。僕は胸を揉む片手を、春子の下着に当てる。すでに濡れている。張り付く下着に浮かぶ筋を僕は何度も指でなぞった。
「んっ、ああっ、いやっ、んっ、ひいっ、あうっ、あっ、だめぇっ」
春子は激しく身をよじる。僕を見上げる春子の顔には確かな怯えと隠しきれない悦び。僕は春子の下着をつかみ強引に脱がせた。
「きゃう!」
春子の悲鳴を無視して強引に最後まで脱がせた。春子が怯えたように太ももを閉じる。
「こ、幸一君。怖いよ」
荒い息をつきながら上気した顔で僕を見上げる春子。怯えと悦びが見え隠れする。僕は強引に春子の足を開いた。
「きゃっ!」
春子の膣の入り口は既に愛液でびちょびちょだった。僕は人差し指を入り口に添える。春子は怯えたように目を閉じた。ゆっくり指を挿入する。
「ひっ……んっ……ああっ……やっ……だめっ……いやっ」
春子は体を震わせた。春子の膣は熱くてきつい。それでも愛液で濡れているせいでスムーズに動く。
僕は何度も指を往復した。春子が身をよじり喘ぐ。
「こ、幸一君、ひうっ、そんなっ、ひゃっ、ああっ、乱暴しな、きゃうっ!」
春子の声を無視して何度も指を往復させる。夏美ちゃんと同じように舐める気にはなれなかった。
そして春子は体をびくっと震わせた。膣が指を締め付ける。僕は乱暴に指を抜いた。
「ひうっ!」
春子は体を震わせた。そのまま荒い息をつきながら僕を濡れた視線で見つめる。
「幸一君、お願い、夏美ちゃん、みたいに、シて」
僕は歯を食いしばった。まだ言うのか。
春子の足を開きのしかかる。
「こ、幸一君!?」
上から見た春子の体。白い滑らかな肌は上気し、胸はかすかに震える。春子は怯えたように、期待するように僕を見上げた。
「こ、幸一君、お願い、優しくして」
春子のよわよわしい懇願。蹂躙し、滅茶苦茶にしたい衝動がこみ上げる。
「春子」
僕は春子の顔を見た。上気し赤くなった顔。
「あの映像のデータを全て消してほしい」
春子の目が見開く。しばらく無言の後、春子は僕の固くなった剛直を恐る恐るつかみ、先端を膣の入り口に添えた。
「だめだよ。幸一君が今考える事は、お姉ちゃんを抱くこと。余計な事を考えないで」
余計な事。余計な事だと。
春子の一言に全身の血液が沸騰する。
僕は一気に春子を貫いた。
「ひあっ!あああああああああ!!!!!」
悲鳴をあげ身をよじる春子。僕は容赦なく腰をふる。
「ひっ、いやっ!んはっ、ひぐっ、ああっ!やあっ、いやっ、あああ!」
春子の膣は熱く、大量の愛液で滑りがよい。剛直が膣を擦り上げる度、快感が脳髄に走る。結合部からいやらしい水音がぐちゅぐちゅ聞こえる。
「ひゃうっ、あんっ、やあっ!ああっ、んっ、あんっ!ひうっ!んあっ」
春子は僕の背に細い腕をまわしてしがみついてきた。その非力さが嗜虐心をそそる。僕は腰だけを大きく振った。春子の膣を何度も擦り上げる。
「んっ!あうっ!ああっ、いやっ!ああっ、ひぐっ、ひゃうっ、ああっ!ひっ!」
悲鳴とも嬌声ともつかない春子の声。抱きつく春子の両腕を引きはがし、ベッドに押し付けた。春子の膣を何度も擦り上げる。この体勢だと春子の白くて大きい胸が揺れる。
ベッドに押さえつけられた腕を春子は必死に振りほどこうとするが、僕の腕はびくともしない。驚くほど非力な力。
「ああっ、やあっ、ひぐっ、ひっ、うっ、あんっ、ひゃふっ、んあっ」
やがて押さえつけた春子の腕に力がなくなる。春子はとろんとした顔で僕を見上げる。僕の腰の動きに合わせて、春子の白い胸が大きく揺れる。
「ひゃうっ、こういちくん、ひうっ、あんっ、おねえちゃんっ、いいよっ、んあっ」
春子は恥ずかしそうに顔をそむけた。首筋に僕がつけた口づけの痕。僕はそこにキスし、強く吸い上げた。
「ひあっ!あああ!んっ!あうっ!ひぎっ!ひうっ!」
嬌声を上げる春子。激しく身をよじるが、僕の腕はびくともしない。その間も休まずに膣を擦り上げる。結合部からいやらしい水音が響く。
僕の下で激しく身をよじる春子を何度も責めた。春子の胸が大きく揺れる。
突然、春子の膣が強く締め付けてきた。あまりの強さに腰が止まる。
「ひうっ、らめっ、もうらめっ、ひっ、んあ、あああーーーーーーっ!!!」
ひときわ大きな嬌声をあげ身をよじる春子。しかし、僕に押さえつけられた腕のせいでそれもままならない。
「あうっ……ひうっ……んっ……あっ……っ」
目尻に涙を浮かべ、荒い息をつく春子。胸の間には玉のような汗が浮かんでいる。
僕は腰の動きを再開した。
「ひあっ!!!」
春子の体が大きく震える。
「ひうっ!だめっ!まだ、お姉ちゃん、敏感、ひゃうっ!」
春子の悲鳴を無視して何度も膣をこすりつける。白い胸が揺れる。春子の悲鳴がすぐに嬌声に変わる。
「ひゃうっ!んあっ!ひぐっ!んっ、あう!あんっ、あひっ、ふあっ」
だらしなく開いた口から涎が垂れる。夏美ちゃんの姿が脳裏に浮かぶ。夏美ちゃんはキスしながら膣を擦り上げると、膣がキュッと締めあげた。
僕は唇をかみしめ夏美ちゃんの姿を脳裏から追い出す。八つ当たりするかのように腰を奥までズンズンと突き出す。剛直の先端が膣の奥にコツンコツンとぶつかる。
「ひっ、んはっ、ひゃっ、ひぐっ、ひゃうっ、んっ、ああああっ!」
春子が身をよじる。それを抑えつけてさらに責め続けた。お互いの性器がこすれる快楽に身を任せ、春子の膣を何度も突く。
部屋には腰のぶつかる音と、結合部から漏れるいやらしい水音、春子の喘ぎだけが響く。
急速に高まる射精感に、僕は腰の動きをさらに速める。
「ひいっ!ひぐっ!ひゃうっ!んあっ!」
春子の膣の一番奥に剛直を突き出し、精液を吐き出した。快感に頭が真っ白になる。
「ひっ……ああっ……やあっ……ひぐっ……んあっ……」
精液が膣の奥を剛直の先端が叩くたびに春子は身を震わす。
「んっ……あっ……熱いっ」
春子はぐったりとベッドに横たわる。僕は剛直を春子から抜いた。剛直は春子の愛液と精液でぐちゃぐちゃだった。膣の入り口から精液がとろりとこぼれる。
荒い呼吸をする春子。白い胸が大きく揺れる。春子は顔をあげ僕を見た。焦点の定まらない視線が僕の股間に向かう。
「んっ……お姉ちゃんがきれいにしてあげる」
春子は四つん這いになって僕の股間に顔をうずめた。
「はむっ」
剛直の先端に熱い感触。
「ちゅっ、れろっ、んっ、じゅぷっ」
春子の舌が剛直を舐めまわす。ざらざらした舌の感触が心地よい。
僕は春子を見下ろした。白い背中には玉のような汗が浮かぶ。春子の小さい頭が僕の股間で揺れる。黒くて長い髪をなでる。
「んっ、ちゅっ、んぷっ、れろっ」
春子はくすぐったそうに身をよじりながら舐め続ける。ざらざらした刺激に剛直が再び固くなるのを感じる。
「あっ」
春子は驚いたように顔をあげた。そして上目使いに僕を見つめる。
「ふふっ、嬉しいな。お姉ちゃんのそんなに気持いい?」
濡れた視線で僕を見上げる。その姿が夏美ちゃんと重なる。
気がつけば春子を突き飛ばしていた。
「きゃう!」
怯えたように僕を見上げる春子。僕は唇をかみしめた。夏美ちゃんを裏切ったという罪悪感が胸を締め付ける。
「あ、あのね、幸一君」
春子は恐る恐る僕に尋ねた。視線は僕の固くなった剛直に向けられる。
「んっ」
春子は僕に背を向け四つん這いになる。白い足の間の膣の入り口が丸見えだ。壮絶な色気を放つ。
「あのね、お姉ちゃんをね、夏美ちゃんみたいにね、そのっ」
恥ずかしそうに身をくねらす春子。その仕草が艶っぽい。
「幸一君に、後ろから、シて欲しい」
柔らかそうな白いお尻が揺れる。
僕は歯を食いしばった。春子はどこまで僕と夏美ちゃんの記憶を穢すつもりだ。
「夏美ちゃんみたいにシてほしいんだ」
僕の声は驚くほど冷たかった。
「うん」
身をくねらせ答える春子。その声はかすかに震えている。
僕は春子の白いお尻を力いっぱい叩いた。
「きゃんっ!?」
部屋に響く悲鳴。春子の体がびくっと跳ねる。
「盗撮した映像を何度も見たんだろ」
さらに僕は叩く。
「ひっ!」
部屋に響く春子の悲鳴。
「どうなんだ?」
春子の体が震える。
「う、うんっ」
「じゃあ夏美ちゃんが何て言ったか覚えてる?」
赤くはれた春子のお尻を僕は両手でつかみ、強く揉む。
「ひうっ!やあっ!んっ!」
身をくねらす春子。僕は手を離し再び叩いた。
「きゃうっ!」
「なんて言った」
春子は四つん這いのまま僕を見た。その視線にはまぎれもない怯え。
「こ、幸一君、お姉ちゃんで気持ち良くなって。お姉ちゃんのアソコに幸一君の」
僕は春子の言葉を遮ってお尻を叩いた。
「ひうっ!?」
「勝手にかえないで。夏美ちゃんはそんな事は言っていない」
春子を見下ろす。
「一言一句同じに言って」
「そ、そんな、いやだよっ」
春子は激しく首を振る。
「いやっ、そんなの絶対いやっ!幸一君、お願い、今だけはお姉ちゃんを見て!」
目に涙を浮かべ懇願する春子。僕はさらにお尻を叩いた。
「ひあっ!」
「言わないならいい。春子は同じように抱かれたいんだろ。違う事は出来ない」
自分でも言っている事が無茶苦茶だと分かっている。子供じみた言い訳。
いやだった。もういやだった。
春子は泣きながら首をふった。
「ひどいっ……ひどいよっ……」
そう言って春子は体を起こし僕の胸に顔をうずめた。
柔らかくて温かい春子の体の感触。それがたまらなく苛立つ。
「幸一君。分かっているでしょ。お姉ちゃんの言う事を聞いて」
春子を突き飛ばそうとした瞬間に春子が囁く。
僕を見上げる春子。自分の優位を確信した表情。
「お姉ちゃんを、夏美ちゃんと同じように抱いて。断ったら、わかっているでしょ」
僕の頭は沸騰した。負の感情が心を激しく渦巻く。
怒りにまかせて春子を突き飛ばした。
「きゃっ!?」
春子の短い悲鳴。脅えるように僕を見上げる視線。
僕は春子の体の向きを変えて腰を強くつかむ。膣の入り口がひくひく動く。
怒りにまかせて僕は春子を貫いた。
「ひゃうううっ!」
春子の背中が弓なりに反る。僕は腰をつかみ激しく腰をふった。
「ひどいだとっ!?なら春子のしたことは何なんだっ!?」
腰と腰がぶつかり合い、春子のお尻を叩いた時よりも大きな音が部屋に響く。剛直が膣を擦り上げる感覚が気持ちいいのに、嫌悪と怒りを感じる。
「ひゃうっ!こうい、ひうっ!ひあっ!はげし、んあっ!」
激しく身をよじり悲鳴を上げる春子。僕は腰を両手でしっかり固定し、激しく責め立てる。結合部からいやらしい水音が響く。
「僕と夏美ちゃんをっ!隠し撮りして!それで僕を脅迫してっ!」
春子の膣の奥に剛直の先端がぶつかる。そのたびに春子の膣がキュ、キュ、と締め付ける。白い体をよじらせる春子は、腹が立つほど美しい。
「やんっ、ひっ、ふあっ、ああっ、ひぐっ、あっ、うあっ、ひゃう!」
春子の白い体がびくりと震える。僕は怒りのままに春子を後ろから何度も貫いた。
「これが春子の望みかっ!?これで春子は満足なのかっ!?」
春子はシーツを握りしめ体を震わす。僕は剛直を挿入したまま腰の動きを止めた。
「んっ、ひうっ、ああっ!」
もどかしげに腰をふる春子。僕は腰を握る両手に力を込めた。
「いつっ、いたいよぉ」
「答えろ」
僕が欲しかった答えはどっちなのか。
「ひっくっ、お姉ちゃんは、ひうっ、幸一君がっ、好きなのっ」
春子の言葉はどっちの問いの答えか。
僕は腰の動きを再開した。春子の悲鳴と、腰のぶつかる音が部屋に響く。
「ひゃうっ、あっ、あんっ、ひっ、あっ、ひゃうっ、ひぐっ」
春子の声が高くなる。僕も射精感を感じた。さらに春子の膣を擦り上げる。怒りと快感に頭が変になりそうだ。
「ああっ、らめっ、おねえひゃんっ、もうらめっ、あぐっ、ひっ、あっ、……あああーーーーーーっっっっ!!」
春子の膣が一気に締まる。僕も限界を迎えた。春子の腰をつかみ膣の奥に射精する。
「ひうっ……いっ……んあっ……んんっ……」
震えながら身をよじる春子。その膣の奥に何度も精液を吐き出す。快感に頭が白くなる。
「うっ……しゅきっ……おねえひゃんっ……こうひちくんがっ……しゅきっ」
呂律の回らない舌で僕を好きという春子。
僕は剛直を抜いた。白く濁った液がこぼれる。
春子はぐったりとして僕を向いた。その表情は嬉しいのか泣いているのか分からなかった。そのまま僕に抱きつきキスした。何度も唇を押し付けてくる。拙くて一生懸命な動き。
僕は何もしなかった。春子はそれでも僕に一生懸命キスした。
何も考えたくなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あの後、僕らは一緒にシャワーを浴びた。お互いに何も言わなかった。
春子は玄関まで見送ってくれた。
「あの、幸一君」
何も言わずに出ようとした僕を春子が呼ぶ。
「あのね、お姉ちゃんね、ひとつだけお願いしたいの」
ぎこちない春子。うつむいてそわそわしている。こんな春子は今まで見たこと無かった。
「お姉ちゃんをぎゅって抱きしめて欲しい」
僕は春子を見た。春子はびくりと震える。
「抱き締めなければ脅すのか」
春子の眼が見開かれた。両手で口を押さえて震える。目尻に涙が浮かび、ぽろぽろと涙が落ちた。
僕は何も言わずに村田の家を出た。
自宅にこっそり入る。もう既に全員寝静まっている時間だが、僕は足音を殺して自分の部屋まで戻った。
ベッドに入り布団をかぶる。
脳裏に夏美ちゃんの笑顔が浮かんだ。春子の笑顔も浮かんだ。
(お兄さん)
脳裏に夏美ちゃんの声が蘇る。
(私はお兄さんをいつでも信じています)
僕は夏美ちゃんを裏切った。
(お兄さんも自分を信じてください)
裏切ったんだ。
そんな事を考えていると、携帯が光っているのに気がついた。メールが着信している。僕はため息をついて携帯を開いた。
差出人は夏美ちゃん。
僕は震える手でメールを開いた。
『今日はいろいろありがとうございました。明日会えるのを楽しみにしています。おやすみなさい。』
目の裏が熱くなる。涙が止めど無く溢れた。
「うっ……くっ……ううっ……」
僕は枕に顔を押し付け必死に声を押し殺した。
明日が怖かった。夏美ちゃんにどんな顔で会えばいいのか分からなかった。
投下終わりです。
呼んでくださった方に感謝申し上げます。
ありがとうございました。
HPで登場人物の人気投票を行っています。
執筆の参考にしますので、よろしければご協力お願いします。
アドレスは
>>82にあります。
今まで投下した作品をまとめてDLできます。
よろしければご利用ください。
年内の投下はこれで最後です。
皆様、よいお年を。
乙です
春子って文字がゲシュタルト崩壊した
>>142 >エロなし
うそつき!でもGJ
最後に春子→村田になったのがなんとなく切ない
ヤバい…ヒロイン全員可愛すぎてヤバい。
みんないい娘なんや!
バカな!
この状況で春子のヒロインポイントがあがるだとッ
GJ
春子…(´;ω;`)
基本的にグッジョなんだけど
やっぱこのコーイチくんは好きになれないな
春子が余りにも哀れすぎる
GJ!!
ヤバい…春子の最後の抱きしめてらへんで泣きそうになった(/_・、)
春子カワイソス (/_・、)
GJ!
なんだか切ないんだぜ
>エロなし
こんなのはエロの範疇にはないということですね。
GJ!春子。・゜・(ノД`)・゜・。
GJ!春子がマジでいいっす!
ただ幸一の感情の変化がちょっと分からなかった。
梓には過去に大事な姉?が殺されかけたり、現彼女や自分が殺されかけても無条件で許せる優しさをもってるのに
美人の姉から好きだからという1番分かりやすい理由で1回襲われたくらいでそこまで嫌悪できるのが不思議だった。
そこらへんも実は裏でなにか理由があったりするのかな?
ちょうど夏美に惹かれてる時に襲われたからね。
一回フられた過去もあるわけだし、理不尽さを感じたんじゃないかな。
春子への同情の意見が多いな…
幸一への同情の方が強い俺が異端なのかね
あと
>>152の最後の行は無しで
砂場で山をつくる
↓
自分が見てる前でAに壊される
↓
A「代わりにわたしが遊んであげる、砂なんか触らないで」
Aと仲良くできますか?って話だよ
ちょっと違うけど
>>163 いや、その例はちょっと…そんな事言ったら
Bに殺されかけました
↓
それどころか恋人も殺されかけて、過去に家族も殺されかけた前科持ちです
↓
B「一緒にいて欲しい」
Bと仲良くできますか?でもいいわけで
そこら辺は幸一の持ち前の優しさとか、家族だからとかを考慮すべきなんだろう
男は据え膳食わぬは〜という言葉もあるし、美人の女性から痴漢をされたら
武勇伝ぐらいの感覚で友人に語れると思う。それだけ男と女では性的被害に対する感覚が違うわけだけど
幸一は自分や知人が人殺しに会う事以上に自分がそういう事をされるのを許せないっぽいから
なにかあるのかなと思ったんだ。
まあ、意味もわからないまま手錠かけられて強引に犯されたわけだしねぇ
それだけならまだしも、あんな陰湿すぎる脅迫までされてしまったんじゃあ
親愛の情が嫌悪感に転じてしまうのも無理ないとは思うかな
GJですよ
「三つの鎖」というタイトルが生きてくる展開になってきたね
しかし春子…こうなってくると、もはや本当にピルを飲んだのかどうかすら怪しく思えてくるなぁ
夏美が人質になってるから怒ってるんだろ?
さっきの例えの"砂"は夏美だったんだけど
GJ!
まあやってる事だけで言えば陵辱系エロゲでキモオタピザ眼鏡(笑い声はプヒヒ)とか
体中から悪臭ムンムンの中年親父(笑い声はゲヘヘ)とかがやる脅迫と大差ねーからなーw
>>166 あの避妊発言も全く信用できないあたり春子お姉ちゃんへの僕らの信頼感マジパネェ
春子許さん・・・マジで・・・。
と、聖徳太子がおっしゃっています
春子「私の辞書に自分勝手なんて言葉はない!!」
春子「さすがは私が梓ちゃんへの当て馬に選んだ女……露骨に幸一君と付き合ってやがる」
当て馬どころか、とんだダークホースだったな春子お姉ちゃん!
確かに、冷たい仕打ちをしてきた妹に対して菩薩のような対応をしたのに、自称姉に対しては容赦ないよね、主人公。
泥棒猫との情事を逐一録画&脅迫してくるなんて素晴らしい姉じゃないか!!春子こそ姉の中の姉!!!!
・・・まぁ、僕は夏美ちゃん派なんですけどね(笑)
うんざりだが、今まで飽きるほど言ったセリフを繰り返そう
最も危険な賭けなんだよ………
春子が一番楽で手っ取り早いと思っている手段は最も危険な…
春子と幸一のどっちに同情するかで立場がわかるな。
兄「春子かわいそうじゃね? もっと幼馴染を大事にしてやれよ」
妹「それはないんじゃない? 恋人がいるのにレイプされて脅迫されて・・・・・・。
私が幸一でもやっぱり許せないって思うよ」
兄「ずーっと一緒に過ごしてきた女性だぞ? 抱きしめてなんて言われたらオチるだろうよ。
それで拒否られて涙するとか酷すぎるだろ」
妹「だからぁ、それは自業自得なんだってば。
これが男女逆だったらとんでもない性犯罪者だよ」
兄「なあ、お前さっきから幼馴染に厳しくないか?」
妹「お兄ちゃんこそ、甘すぎやしない?」
兄(ヤンデレといえば幼馴染だろJK。キモウトなんて信者絵バインダー!)
妹(お兄ちゃんの体中から幼馴染の匂いがするよ! 私がきれいにしないと・・・・・・)
血がつながった妹と、自称姉に対して
同じ行動を取れと言うほうがどうかしている
幸一君のこと?大好きだよ!盗撮して脅迫しちゃうぐらいにね!
梓ちゃんのこと?大好きだよ!今は幸一君にべったりじゃないからね!
夏見ちゃん?大好きだよ!夏見ちゃんのおかげで幸一君を脅す材料が手に入ったからね!
ま さ に 春 子 !
俺、幸一の春子に対する態度は
い い ぞ も っ と や れ
って感じだけどなあ。
相手が悪いことをしたのに付け込んで
被害者の立場から思いっきり嬲るのってなんでこんなに気持ちいいんだろ。
春子の場合は限りなく姉に近いけど姉にはなれないという立場が暴走の原因かもなー
梓は血の繋がりが最大の障害であると同時に最高の城壁でもあって、だからこそ最終的には(今のところは?)
「妹としての幸せ」を選べた訳だけど、春子は姉としても女性としても中途半端なところまでしかいけないつーか
>>176 何気にスレ内での意見が上手くまとめられてて吹いたww
とりあえずそろそろ自重しないとな
1つの作品だけでこうも長く語ると他の作者にとってよろしくない予感
>>181 自治厨氏ね
182 :
名無しさん@ピンキー:2009/12/30(水) 02:58:25 ID:wKVQut2K
お姉ちゃんが手伝ってくれるってから大丈夫!
妹に手伝ってほしいです
正月のある家庭のキモウトの思考
お正月かあ、お兄ちゃんやっと帰ってこれるね。ああずっとこのまま家にいてくれたら良いのに。
監禁しようかしら…それならずっと…いや、脱走者として憲兵(警務隊)に調べられるかも…
●ちゃんは良いなあ…お兄さんサラリーマンで。家にも押し掛けることが出来るし、耐えきれなくなったら
“身内の不幸”という名目で呼び出せるから…しかも後追い入社したし。
住処は駐屯地内だし、仕事優先だし、しょっちゅう転属で街の中で鉢合わせ作戦が使えないし…
後追い入隊しても同じ所に行けないし…。まさかお兄ちゃんそれを狙って自衛隊に入ったの!
くっ、強襲に失敗したのが大きく響いたか…。あれから進路大変更した所を見ると当たりか…
さ、笑顔で出迎えて、夜に楽しむことにしますか…来た来た。
「おかえりなさい、お兄ちゃん。お仕事お疲れさま。」
「ただいま…目が怖いぞ…(越年歩哨か近親姦かの二択かよ!)」
帰省・正月休暇って怖いね。
>>187 GJ
自衛隊員ってそんなに転属多いのか?
工房の時の公民科の教員が昔朝霞駐屯地所属隊員だったらしいがそんな話はなかった
ずっと下っ端だったから辞めたのかなあ
>>188 幹部(キャリアみたいなもん)なら二年もしない内に全国各地へ飛ばされまくりのたらい回しされまくり
あと長期研修も入りまくり
曹士(ノンキャリみたいなもん)ならあんまり異動はない
キャリア組になって部下と化した兄をこき使う官僚キモウト 後の幕僚長である
幕僚長は自衛官な(幹部ってのは防衛大学校卒ってこと)
防衛省の背広組は自衛官じゃない
幹部候補生には普通の大学卒業からも採用あるから皆防衛大学校卒じゃないけどな
制服組は一般職でそっちのキャリアには他省からの出向も多い
ふぅ‥そろそろスレチじゃないかな
一般公務員って言いたかった
誰かー。
キモ姉&キモウトっぽい歌とか、キモ姉キモウトちっくなマンガor本orゲーム(エロ除く)知らないー?
wikiの作品全部よんだし、そろそろ新しいキモ分を補給しないと死んでしまう……
キモウト作品読む時によく聞いてるのはSound Horizonのark
197 :
名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 23:42:51 ID:dOrMJpdR
雑談はスレが廃退するからここでやれ
クリスマスネタをかいていたら、いつの間にか大晦日になっていた。
キング○リム○ンとか、ス○ープ○チナとか、そんなチャチなレベルじゃねーぞ!?
そんなこんなで、大晦日ネタもとい、大掃除ネタを投下。
タイトルは『いらないものは片づけましょう』。兄妹もので大体9.1KB。
マジで時間ないので、推敲あんまりできてないかも……。
次レスより投下。4レス借ります。投下終了宣言あり。
「それにしてもお兄ちゃん、よくここまで散らかしたよね〜?」
「しょうがないだろ? 1人暮らしだと色々手が回らないんだからさ?」
いつの間にか、今日は大晦日。
だというのに、俺の部屋はいまだに散らかっている。
理由は2つ。1つは最近バイトが忙しくて、片づけられなかったこと。
そしてもう1つは、突然ウチにやってきた、妹の晦(かい)のせいだ。
「ねーお兄ちゃ〜ん? この本はどこに片づけるの〜?」
「あ〜それはあっちの本棚に入れといてくれ」
「んもぅ……。お兄ちゃんはいろんなもの貯めこみ過ぎだよ〜?」
「貧乏性……もとい物持ちがいい、と言ってくれ」
妹が突然ウチにやってきたのは、昨日の夜のことだった。
俺がバイトから帰ると、お約束のように玄関先で待っていたのだ。
事前に連絡くらい寄こせ、と少し叱ったら、ちょっぴりションボリした。
かと思えば、いきなり俺の腕に抱きついてきたり。よく読めないやつだ。
まあしょうがないので、親に連絡して、年明け3日までウチで預かることにした。
なんだかんだで俺も、1人自宅で年越しするのは寂しかったことだし。
「……それにしてもさ、何も31日のギリギリから、急に掃除せんでも――」
「何言ってんのよお兄ちゃん。今年の汚れは今年のうちに、ってよく言うでしょ?
大体お兄ちゃんは、昔っからずぼらで、片づけとかできないんだから――」
「ああ、俺が悪かったですよ。いいから大掃除、最後まで頑張ろうぜ?」
「ふふん♪ 解ればよろしい♪」
4歳年下のくせに、こういうところでちょっと『おねえさん』ぶる妹。
そんな妹に苦笑しながらも、しぶしぶ付き合ってやる兄貴――というか俺。
そのへんの兄妹に比べて、だいぶ仲が良すぎることは自覚している。
「あ、お兄ちゃん今、しょうがないなぁ的なこと、考えてたでしょ!?」
「あ〜いやいや。晦は将来、いいお嫁さんになるなぁ〜って、思ってたんだよ」
「――えぁ、ぅえ、およ、お嫁さんだなんて……♪ えへへ〜♪」
「あ〜こらこら壊れるな〜? なんかこっちも恥ずかしくなるぞ〜」
顔を真っ赤にしてクネクネする妹。そんな妹の頭を撫でてやる俺。
今でこそこんなに元気になったけど、去年はいろいろ大変だった。
俺が大学進学のために家を出る、と言った時には、そりゃあもう落ち込んだ。
急に暴れたと思ったら、今度は部屋に数日引き篭もったり、尋常じゃなかった。
そんな壊れぶりに、ちょっと引いてしまったのは、妹には秘密だ。
いつでも遊びに来ていいからと説得することで、なんとかその問題は片付いたけど。
「……よぅし、お兄ちゃんエネルギー充電完りょ〜♪
さあそれじゃあ、残りの掃除を頑張ろ〜ぜお兄ちゃ〜ん!!」
「へいへい了解。急に元気になったり、大変だなオマエは……」
まあ、見てて飽きないから、別にいいんだけど。
「そういや晦、オマエもそろそろ、彼氏でもできたんじゃないのか?」
「いやだな〜お兄ちゃん。私の彼氏は、お兄ちゃんだけだよ〜♪」
「……あ〜ハイハイ、そういう冗談言うくらいなら、いないんだな〜」
「えへへ〜♪ ――――――ホンキナンダケドナァ」
「ん、何か言ったか?」
「ううん、別に〜。そういうお兄ちゃんは彼女いるの〜?」
「いやいない。気になる女性(ひと)なら、バイト先にいるけどな」
「へぇ〜そうなんだ……」
そんな感じで、軽口を交わしあいながら、てきぱきと掃除を済ませていく。
さすがに2人がかりでやっているだけあって、もう殆ど掃除は終わってしまった。
あとは普段洗濯していない服とかシーツを洗ってしまえば、今日の作業は終わりだ。
今日は本当に助かった。終わったら、妹をどこか外食に連れて行ってやろうか――
――ネェ〜ナゼ〜カワァッテシマ〜ァッタノ〜♪
「っと悪いな晦……ってバイト先か……はいもしもし…………」
『あ〜すまない大海(おおみ)くん、今日これからバイトに出られないかい?』
「え? でも今日のシフトは確か、曽我(そが)さんのはずじゃあ……」
『そうなんだけど、何故か彼女と連絡つかなくてね。申し訳ないが……』
「わかりました。フルは無理ですけど、数時間くらいなら行きます」
『本当にすまない。代わりの人間が用意できるまで、3時間ほど頼むよ』
「はい、それじゃあこれから、そっちに向かいますね――」
通話を切って、携帯を床に置いてから、晦のほうを振り向く。
案の定、晦はなんだか残念そうな、ションボリした表情を見せている。
「ああ、ごめんな晦。これから俺、バイト先のヘルプに入ることになった。
せっかくこれから、ゆっくりできると思ったんだけど――」
「あ、ううん。大丈夫だよ気にしなくて。
それに、今日中にはなんとか、帰って来られるんでしょ?」
「ああ。だから俺が帰ったら、埋め合わせにどっか出かけようか?」
「うんわかった。代わりに残りの洗濯もの、私がやっとくね」
「頼んだよ。よし、それじゃあ行ってきます!」
「気をつけてね〜行ってらっしゃい〜お兄ちゃ〜ん♪」
とりあえず簡単に着替えて、部屋を飛び出す。
もともとバイト先は飲食店だから、年末でも忙しい。
今日は運よく休みだったけど、シフトの問題なら仕方がない。
掃除を手伝ってくれた妹を放ったらかしにするのは、胸が傷むけど。
「よし、仕事が終わって帰ったら、今日1日は晦に付き合ってやるか。
もともと今日は別に、予定とかもないしなぁ……」
財布の中身も充分潤っているし、なにかあいつにプレゼントをあげよう。
なんだかんだで最近、あいつに構ってあげられてないしな。
そうと決めたら、まずは目の前にある仕事を、一生懸命勤め上げるとしますか。
― ※ ― ※ ― ※ ― ※ ― ※ ― ※ ―
「――――よし、お兄ちゃんはもう行っちゃったね♪」
お兄ちゃんが居なくなった部屋で、私は1人ほくそ笑む。
「さあ、それじゃあ私も、もっと掃除を頑張らないと、ね♪」
と言っても、お兄ちゃんの部屋の掃除は、もう粗方終わっている。
これから私が掃除をするのは、お兄ちゃんにしがらみつく、想い出(じゅばく)の品だ。
まずはお兄ちゃんの本棚から、アルバムらしい冊子を取り出す。
それはお兄ちゃんが実家に居たころには持ってなかった、真新しいアルバムだった。
「あ〜あったあった……、憎たらしい泥棒猫の、汚らしい依代――がっ!」
私は数枚の写真を取り出して、特定の人物の顔の部分を引き裂いた。
お兄ちゃんに抱きついて、心から嬉しそうな笑顔をみせている、馬鹿丸出しの女。
確かお兄ちゃんの『彼女』を名乗っていた――身の程知らずの牝だったはずだ。
「ふふん、お兄ちゃんの横に並ぼうなんてするから、いられなくなるんだよ……」
まあこの女はもうどうでもいい。お兄ちゃんに別れを告げさせた後、消えてもらったし。
あとそれから、掃除の際に触らなかった、押入れの奥とかを探る。
お兄ちゃんは大学に入ったあと、何人かの牝に纏わりつかれていた。
私がこっそりと調べた、お兄ちゃんに接触した泥棒猫どもの情報は完璧だ。
もちろん全員、私が手を下して、もうこの街には居なくなっているはずだ。
今回のバイトのヘルプだって、実は私が裏で手を回したせいだし、ね?
「あ〜あったあった……。まさか段ボール箱に、全部入れてるなんて……」
これらは多分、お兄ちゃんに想いを寄せてた、馬鹿な牝どもからの手紙(わな)だ。
お兄ちゃんは几帳面――ではなくずぼらだから、捨てるのを忘れてたんだ。
「だったら私が、代わりに捨てといてあげるね……それがいいよねぇっ!!?」
全部破きながら壊しながら、ゴミ袋に叩きこんでいく。
お兄ちゃんを惑わすモノは、穢すモノは――ゼンブキエチャエバイインダ!!
お兄ちゃんはとても優しい。格好良くて、頭も良くて、なんでもできる最高の男性だ。
言うまでもなく、そんなお兄ちゃんのことを、私は愛してしまっている。
当然だ。あんな男の人が、生まれた時から近くにいて、惚れないほうがおかしい。
世間のゴミクズ達は、私がお兄ちゃんを好きなことを糾弾するけど、知るもんか。
残っていた――私とお兄ちゃんとの間に――要らないモノの処分を完全に終えて。
私はお兄ちゃんの洗濯前の下着を両手に、お兄ちゃんの布団の上に寝そべっていた。
そういえば洗濯ものを頼まれていたけど、もうちょっとくらいなら大丈夫。
今日は比較的天気もいいし、1時間後に洗濯して干しても、充分乾きそうだ。
なので少しくらい、お兄ちゃんを思って自慰に耽っても、問題はなさそうだ。
お兄ちゃんの下着を左手で顔に添えながら、右手は秘部で暴れさせる。
強く息を吸うごとに、お兄ちゃんの匂いが、私の中に流れ込んでくる。
同時に指先で強く陰茎と膣内を擦り、お兄ちゃんに○○される妄想に耽る。
「解ってるんだよ、お兄ちゃん。本当は怖かったんだよね?
私がお兄ちゃんに甘えっ放しだから、独り立ちさせたかったんだよね?
お兄ちゃん自身も私に手を出さないように、自分から離れたんだよね?」
そんな心配は必要ないのに。するだけ無駄だったのに。
だって私はもう、お兄ちゃん以外は全部要らない覚悟を決めているもの。
お兄ちゃんに○○されることだって、ずっとずっと待ち望んでいるもの!!
脳を犯すようなお兄ちゃんの匂いと、記憶上の姿を頼りに、私は指の動きを速める。
それだけで、全部があいまいにふやけて、ぐちゃぐちゃになって、おかしく――
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん……!! 愛してる愛してるぅ……!!
だから……っ、春から一緒に、この部屋で暮らしましょう……!!」
実はもうすでに、この部屋から近い場所にある高校に、推薦で合格している。
そこには寮とかがないので、父さん達を説得するのに、とても苦労したけど。
まあもちろん、お兄ちゃんと一緒に暮らす方向に、話を持っていったけれど。
あとはお兄ちゃんに、この部屋で一緒に暮らすために、許可をもらうだけだ。
「うん、大丈夫だよ。お兄ちゃんは私に優しいから。絶対に我儘を聞いてくれるもん♪」
もし断られても、その時はちょっと悪いなと思いながら、お兄ちゃんを脅してあげるだけだ。
具体的には、お兄ちゃんを○○して、○○されて、その証拠を突き付けるだけだ。
形はどうあれ、お兄ちゃんに認められた瞬間を夢見て、快楽の波を感じとる。
「お兄ちゃんお兄ちゃん……!! 幸せに……なろうねぇぇ!!?」
――数カ月後のお兄ちゃんとの甘い同棲生活を夢見ながら、私は絶頂に達した。
― The cleaning end. ―
以上、投下終了。
レスになっちゃうけど、(作り物の兄妹だけど)Arkは自分も好きです。
それでは、もう今年も10分切ってしまったけれど、よいお年を。
P.S.年明けには、もう1つネタを投下したい、かも。
乙!
今年もキモ姉妹に振り回されますようにナム
あけおめ!
>>203 GJ!九年最後の投下乙でした!
あけおめ!!いっぱつめにいいもんみれたよ!!
あけおめ
投下乙、GJ
去年も職人よくやった
あけおめこ
211 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/02(土) 20:32:29 ID:tWAKrZj/
古武道の跡取り娘、すんごい美人でスタイルも良く、品行方正で人当たりも
良くておっとりしているけど、弟くんのことになると修羅に豹変するキモ姉。
闇討ち奇襲は勿論のこと、暗殺術、暗器、毒、経絡秘孔なんでもありの殺法家。
ちょっかい出した不良を餓●伝やバ●のカマセ犬の様な目にあわせ、
朝起こしに来る幼馴染みを朝のラッシュ時に暗勁で内臓破裂させて入院させたり、
後輩の女の子を秘伝の毒で公衆の面前でおもらしさせて学校にいれなくしたり、
ビッチな弟くんの元カノの関節をすべて外した上で嵌め直して廃人にしたりと、
そんなフィジカルなキモ姉。
で?
そういうキモ姉の作品を投下してくれるの?
パンツ脱いどいた方がいい?
投下させていただきます。
努力はしておりますが誤字脱字など読みにくい点があるかもしれません。
ご了承ください
薄暗く長い板張りの廊下をひたひたと歩く。
春先のまだ冷たさを若干残した夜気が、火照った体に心地よい。
はぁ、と息を吐いてみた。
しかし、吐いた息が白く凍り中空に上ることはなく、何となくそれが残念に感じた。
ふと、立ち止まり、廊下の戸を開け放ち空を仰いだ。
深い藍色の空。
田舎ではないが都会と云うには畏れ多いこの町の、そこそこ澄んだ空のおかげかこの町の夜空もそこそこに美しい。
更に今夜は雲一つなく、視界いっぱいに星が踊っていた。
そして数多の星が無邪気に遊ぶ中、月が一つ空に鎮座ましましていた。
弓張月。
半身を失い、欠けた月は弱く煌めき、失くした自分を夜天に探す。
夜明けは、まだ遠い深夜。
――兄さんは、まだ帰ってこない。
兄さんは、あの日からあまりこの家に帰ってこなくなった。
きっと、私とこの広い屋敷の中で過ごすことを恐れているのだろう。
「兄さん」
愛しい名を呼ぶ。
正確にいえば兄さんの名前ではないけれど、世界で唯一私だけが呼ぶことを許された呼称。
それは、私と兄さんの強固な絆を示すとともに、堅固な壁をも表す。
私は兄さんの妹であるからこそ、誰よりも近く、そして遠い。
兄さんを私がどれだけ愛そうとも私が妹である限り、今のままでは兄さんが私を愛してくれることはない。
そう、今は、まだ。
「兄、さん……」
情報では、兄さんは今夜あの女のところにいる。
近しい男女の二人が、夜を共にするということは、つまりはそういうことだろう。
その姿を思い浮かべるだけで、暗く、どろどろとしたモノに感情の全てが占められる。
でも、と心の中で言い聞かせる。
あの兄さんの隣で恋人面をしている虫を、感情に任せて駆除するのはそう難しくはない。
けれど、それにはかなりのリスクを伴う。
ともすれば、私と兄さんは引き離されてしまうことにもなりかねない。
それに。
そんなことをしなくとも、きっと、兄さんは最後にはわたしを選んでくれるという確信があった。
「にい、さん」
空には月。弓張月。
きりりと弦を張り、私を照らす。
あと暫し。
あと暫しの我慢で、きっと欠けた月は失った片身を取り戻し、あるべき姿に――
†††††
春のうららかな日差しの射す通学路。
周囲には俺と同じように通学中の学生や通勤中の大人たちの姿。
競うものではないだろうが、彼らの中ではきっと俺が一番気分が沈んでいるんじゃないだろうか。
原因は分かっている。昨夜のSEXだ。
恋人とのSEXは、もちろん快感をもたらしてはくれたが、満足できるものではなかった。
彼女のことが嫌いなわけではない。
寧ろ世界で一番愛している。
……我ながら、心中で考えるだけでも鳥肌が立つような臭い言葉ではあるが、間違いのない真実である。
しかし、俺は――
「あーすかっ!」
不意に背中に呼びかけられた声に、思考の海から引き戻された。
振り返るよりも早く、ばふと声の主に抱きつかれた。
抱きついてきた者の体は小柄で軽いが、かなり勢いがついていたのか、予想以上の衝撃に倒れそうになりたたらを踏んだ。
「っとと……。急にどうしたんだよ、都」
「だって、朝起きたら飛鳥がもう居なくなってたんだもん」
ぷくぅーと頬を膨らませて抱きついたまま俺を恨めしげに見上げる少女。
峰松都(みねまつ みやこ)。
俺のクラスメートで、恋人でもある少女。
彼女はむう、と頬を膨らませたままでげしげしと足を蹴ってきた。
「せっかく、久しぶりの二人きりの夜だったのに、淡白だよ飛鳥」
「久しぶりって……5日前もやっただろ」
「5日もしなければ十分久しぶりだもん」
……どうでもいいが、朝っぱらから、それも公衆の通学路で俺たちは何の話をしているんだろうか。
はぁ、とため息をつくと何か勘違いでもしたのか、都が不安げな顔をした。
「あぅ……もしかして私のこと嫌いになった?」
「はあ?なんでそうなるんだよ。嫌いになんてなってないよ」
「じゃあ、好き?」
「ばか、何でこんなトコでそんな事言わなきゃなんないんだよ。恥ずいだろ」
「むぅ……じゃあ嫌いなんだ」
せっかく萎んだ頬が、再び膨れてしまった。
「不貞腐れたって言わないぞ」
俺は彼女を引っぺがして、再び歩き出した。
しかし数歩歩いても、都が後をついてくる気配はなかった。
それどころか、ぐす、と鼻をすする音。
嫌な予感がして振り返ってみると、
「何で、泣いてるんだよ……」
「うぅ……だって、昨日の夜も、好きって言ってくれなかったし」
「……」
ちっ、と思わず舌打ちしそうになるのを堪えた。
そう言えば、SEXの時に何度かそうせがまれていたが、無視していた気がする。
俺が少し不機嫌になったことを悟ったのか、都の嗚咽まで漏れだした。
……ああ、もう。
「――好きだよ」
「……うぇ?」
泣きながら、見つめてくる都。
しかし、その目には僅かながら期待や喜色の色が滲んで見えた。
恐らくちゃんと、聞こえていたのだろう。
わざわざ恥ずかしい言葉を2度も言ってやる必要もないだろうが、これは俺が全面的に悪いことだし、な。
「だから、好きだって言ったんだよ」
「……ほんと?」
「本当だよ。俺が嘘や冗談を言ったことあるか?」
「んー、割と沢山」
「……」
ぷい、と顔をそむけすたすたと歩き出した。
ああ、待ってよぅ、と今度は都もついてくる。満足したようでなによりだ。
――好き。
俺は、彼女――都の事を好きだ。その事に嘘はない。
彼女の肩まで伸ばした少し茶髪がかったポニーテール、大きなくりっとした目に色素の薄い瞳や、小柄だが活動的な溌剌とした性格も全てが好きだった。
けれど。
俺は彼女とのSEXに満足をすることができなくなっていた。
それよりも、甘く、激しく、身を焦がす快感を知ってしまっているから。
あの日、俺は妹である花音に襲われた。
夕食後に眠気を催して、自分の部屋でうとうとしていると、突然部屋に入ってきた花音にベッドに押し倒されそのまま。
……所謂、逆レイプというやつだろうか。
普段は楚々としていて、性格も容姿も大和撫子を地でいくような妹であったために、その時はかなりショックだった。
今も正直彼女が怖く、夜も余り家に帰れないでいる。
否、怖いのは花音が、というわけではない。
もちろん怖くないわけではない。
今も彼女の料理に睡眠薬でも盛られてるんじゃないか、風呂に入っている時、夜寝ている時などに襲われるんじゃないかと正直ビビっていた。
だからこそ、今でも週に家に帰る日の方が少ないくらいだ。
しかし、それよりも怖いことがある。
本当に怖いのは、そう。
妹とのSEXでの時に感じた強烈な悦楽だった。
その、ともすれば溺れてしまいそうな麻薬は、今も俺を抑えつけて離さない。
特に昨夜のように、別の相手とSEXをする時はより妹との時に得た快感と比べてしまっていた。
そして、都を抱きながら心の中では妹の体を求め、その体を想像しながら抱いていた。
しかし、結局最後に得られた快感は、あの時のモノには遠く及ばず、こうして今もそんな自分に嫌悪感を抱き不機嫌になり好きな恋人に不安感を抱かせている。
俺は罪に塗れている。都に真実を告げることも、花音もただ逃げるだけで何もすることもなく、日常を演じている。
恋人として愛しているのは間違いなく都なのに、体だけは花音を求めてやまない。
都とのSEXにこれから先も充足を得ることもできないし、だからといって花音と恋人になるなんて言語道断だ。
そして二人共から距離をおくなんて事ができるほど、俺は優しくなんてなかった。
我がことながら最低な二律背反。
自ら命を絶てば最善ではないとはいえ、ある程度の決着はつくかもしれない。
しかし、自殺なんてそんな勇気、俺にはある訳がなかった。
二人が、勝手に俺のことを嫌ってくれればなんて甘い考えを抱いて、その後に一人取り残された自分のことを考えると寂しさを抱いてしまう。
結局俺は、自分が一番可愛いだけの弱い甘ちゃんなのだ。
「はは……」
「ん?飛鳥、どうしたのん?」
思わず自分に蔑笑を漏らすと、都ががばっと俺の右腕を抱いて顔を覗き込んできた。
くい、と頭を斜め15度に傾ける都の頭を撫でてみた。
「ふぇ?」
滅多にやらないことをやったせいか、都は目を白黒させて撫でたところを確かめるようにぽんぽんと自分の頭に手を置いた。
その様子が、妙におかしくて今度は質の違う笑いをもらしながら歩く。
普通なら、こんな同じ学校の奴らの目がある通学路で、いちゃつくなんて考えるだけで怖気が走るようなことをしているのはもしかしたら罪悪感からだろうか。
……否、ただ都を失うのが怖いだけ、なのだろう。
俺は、二人のどちらかを選ぶこともせず、どちらも選ばないということもできず、ただ今までどおりの日常を望み続ける。
――俺は多分知らなかった。日常と云うものが余りに脆く、まるで卵の殻に覆われた程度のモノだということに。
以上です。
今回はプロローグ的なものなのでかなり短いです。すみません。
出来るだけ早く次も投下したいと思っています。
それでは、スレ消化失礼しました
222 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/05(火) 02:05:36 ID:CYyeVTw5
おつ!
プロローグの時点で犯されてんのかw
おつ
期待
224 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/05(火) 19:03:16 ID:ZdUXV1SP
乙
すごく面白い
乙
続きに期待
あけましておめでとうございます。
三つの鎖11前編です。
※以下注意
エロなし
血のつながっていない自称姉あり
投下します。
三つの鎖 11
「よし」
朝。わたし加原梓はみそ汁の味見をしてガッツポーズ。会心の出来だ。今日の朝ごはんは兄さんの好きな魚を塩焼き。お弁当も家族四人分完成している。
今日は私が食事の担当だ。一週間のうち、三日ずつ兄さんと食事当番を分担することにした。一日交替にしないのは、食料の買付をしてから交替することで献立の組み立てをやりやすくするためだ。日曜だけ一緒に作る。
本当は毎日一緒に料理をしたいけど、いつまでも甘えてはいけない。兄さんには夏美がいるのだから。
「珍しいわね。幸一君が寝坊なんて」
京子さんが食器を並べながらのんびりと言った。確かに珍しい。
「お母さん。兄さんを起こしてくるね」
私はエプロンを外し二階に上がった。兄さんの部屋のドアをノックする。反応なし。
「兄さん。入るよ」
ゆっくりとドアを開け覗き込む。ベッドの布団が盛り上がっている。近づいて覗き込むと兄さんは寝ていた。
「兄さん?」
様子がおかしい。寝苦しそうだ。頬に触れるとびっくりするほど冷たい。兄さんの汗が手を濡らす。
私は思わず兄さんにふれた自分の手を凝視した。手が震える。自然と息が荒くなる。私は兄さんの汗でぬれた手を舐めた。
兄さんの味。頭がくらくらする。
いけない。私は何をやっているんだ。私は頭を振って深呼吸して寝ている兄さんを見下ろした。
「兄さん。起きて」
揺らしても兄さんは寝苦しそうにするだけ。悪い夢でも見ているのだろうか。
「兄さん!」
私は兄さんの頬をぺちぺちと叩いた。突然、兄さんはガバッと起き上がった。びっくりした。
兄さんは胸に手をあて荒い息をつく。大きく上下する肩、震える体、苦しそうな表情、額に浮かぶ汗。
「ど、どうしたの」
私の問いかけに兄さんは答えない。ただ荒い息をつくだけ。
「兄さん。大丈夫?」
私は心配になって兄さんを覗き込んだ。兄さんは深呼吸している。
珍しい。兄さんは人前では常に落ち着いている。こんな風に人前で分かるぐらい深呼吸する事は滅多にない。
「おはよう梓」
兄さんが私にほほ笑む。いつも通りの笑顔なのに、不安を感じさせるのは何でだろう。
「兄さん大丈夫?うなされていたみたいだけど」
「変な夢でも見たのかな。大丈夫だよ」
本当に大丈夫なのかな。とても大丈夫には見えない。
兄さんは布団から出た。足取りはしっかりしている。私の思い過ごしだろうか。
「寝坊しちゃったな。朝ごはんはできている?」
落ち着いた声。さっき感じた不安は勘違いかな。いつも通りの兄さんだ。
「お魚を塩焼きにしたよ」
私はそう言って兄さんと一緒に下に降りた。味噌汁も味わってほしい。今日は会心の出来だから。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「いってきまーす」
私は一足先に一人で家を出た。
ワンっと犬の鳴き声が聞こえる。
「梓ちゃんおはよう」
シロを散歩している春子が挨拶してきた。相変わらず黒い犬だ。
「おはよう春子。シロ」
シロはワンと吠えた。挨拶のつもりだろうか。
「今日は一人なの?」
春子は不思議そうに私を見た。確かにここ数日からは兄さんと一緒に登校しているから不思議に思うのかもしれない。
「今日は日直」
本当なら兄さんと行きたいけど、今日はそうはいかない。ふと違和感を感じた。なんか、春子がいつもより内股っぽい気がする。気のせいだろうか。
「そうなの。いってらっしゃいね」
「いや、春子も学校に行くでしょ」
私がそう言うと春子は笑った。
「そうだね。お姉ちゃんうっかり」
そう言って可愛く舌を出す。春子は美人だから、本当ならきもい仕草も不思議と映える。褒めると調子に乗るから口では逆の事を言うけど。
「じゃあお姉ちゃん幸一君と一緒に登校するよ」
「兄さんをよろしくね」
そう言って私は春子と別れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
梓の朝ごはんは相変わらずおいしかった。
リビングでぼんやりお茶をすすりながら僕は思った。すでにこの家には僕しかいない。父さんと京子さんは出勤し、梓は日直で先に家を出た。
頭が働いていない自覚がある。考えがまとまらない。それでも普段の習慣で既に行く準備はできている。
ぼんやりする理由。昨日の事。春子。
春子の白い裸身が脳裏に浮かぶ。泣きそうな顔も。
夏美ちゃん。今日顔を合わせていつも通り振る舞えるだろうか。結局メールに返信できなかった。
そんな事を考えているとチャイムが鳴った。僕は玄関に行き外をのぞいた。春子だ。すでに制服に着替えている。
開けるべきか迷ったけど、おどおどと不安そうな春子を見てドアを開けた。会いたくはないけど、春子とは話し合わなければならない。
「幸一君。おはよう」
ぎこちない笑顔であいさつする春子。
「おはよう」
僕はそっけなく応じた。まっすぐに春子を見られない。
「あの、あのね、よかったらお姉ちゃんと一緒に学校に行かない?」
春子はおどおどと尋ねた。時間的に登校にはまだ早い。
「いいよ。まだ登校には早いからよかったら上がっていく?お茶ぐらい出すよ」
話しあわなければ。
「本当?ありがとう」
春子はほっとしたように微笑んだ。いつもの明るい春子は見る影もない。
靴を脱ぎ家に上がる時に春子はよろめいた。咄嗟に僕は春子を支えた。
「大丈夫?」
「え、あ、う」
春子はおろおろと慌てた。春子のこんな姿は珍しい。
「どうしたの」
顔を赤くする春子。体調不良かな。
「……昨日幸一君に激しくされてちょっと、ね」
顔が熱くなる。聞くんじゃなかった。
「とりあえず上がって」
僕は春子を離して背を向けた。腕に何かが引っかかる感触。振り向くと春子は僕の袖を握っていた。
春子は何も言わずにうつむいている。僕も春子も何も言わなかった。僕と春子はそのまま歩いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
リビングで春子を座らして、僕はお茶をいれた。ソファーに座る春子にマグカップを渡し、僕は隣に座った。微妙な距離。いつもの春子ならこの距離を無造作に詰めてきたと思う。
「あ、ありがとう」
春子は小さな声で礼を言ってお茶に口をつけた。
昨日はあれほど怒り憎かった春子だけど、今の春子の様子を見るとそんな気持ちはわかなかった。春子はまるで虐待された子供のようにおどおどしている。
見てられなかった。
「春子」
春子はびくっと体を震わせた。上目使いに僕を見る。その瞳に頼りない光が浮かぶ。
「もうやめようよ。春子には脅迫なんて向いてないよ」
春子は湯呑を両手で持ったままうつむいている。
「昔の僕たちの関係に戻ろう」
震える春子。お茶を一気に飲み顔を見上げる。今にも泣きそうな表情。
「やだ」
春子は首を横にふった。
「それだけは絶対にやだ」
そう言って春子は僕にもたれかかる。温かくて柔らかい。春子は僕の胸に顔をうずめ抱きついてきた。春子の震えが伝わる。
「幸一君。お姉ちゃんを抱きしめて」
「春子。お願い」
「幸一君。お姉ちゃんはお願いしてるんじゃないよ」
春子は顔をあげた。唇をかみしめ僕を見上げる。
「分かっているでしょ」
脳裏に夏美ちゃんの笑顔が浮かんで消えた。
「抱きしめて」
僕は春子の背中に腕を回した。思ったより小さな背中。
「お姉ちゃんにキスして」
眼を閉じ唇を突き出してくる春子に、僕は唇を重ねた。ふれ合うだけのキス。
「昨日みたいに強引にしないんだ」
春子は目を開け僕を見た。微かに桜色に染まったした頬。僕が頭を横に振ると、春子は僕の胸に顔をうずめた。
「昨日の幸一君怖かったよ」
僕の腕の中で春子は微かに震えた。
「すごく強引で無理やりで。ちょっと痛かったよ」
昨日の僕。怒りにまかせて春子を蹂躙した。
「お姉ちゃんのお尻なんてまだ痛いよ。首筋にキスの痕も残ってるし」
春子の首筋。バンドエイドが貼られている。キスの痕を隠すためか。
「後ろからされながら幸一君に罵倒されるの、本当に怖かったんだよ」
春子は僕の胸から頭を離し顔をあげた。上気した頬に潤んだ瞳。まぎれもなく怯えた表情。
優しくしたいのを僕は歯をくいしばって耐えた。
「原因は分かっているだろう」
春子を抱きしめる腕に力がこもる。
「春子は僕を脅迫している。夏美ちゃんを裏切る事を強要した」
「んっ。幸一君。痛いよ」
春子は苦しそうに身をよじらせた。僕は自分を抑えた。腕の力を抜く。
「あのね、怒らないで聞いてね」
春子は上目使いに僕を見上げた。怯えているのか期待しているのか分からない表情。
「幸一君と夏美ちゃんがしているの見てね、幸一君すごく優しく見えたの。見てても分かったよ。幸一君が我慢してるって」
夏美ちゃんの小さな体が脳裏に浮かぶ。小柄で力を折れると折れそうな細い体。
「優しくしたかったんだ」
「うん。だからお姉ちゃんにも優しくしてくれると思ってた。でも昨日の幸一君はケダモノみたいだった」
体を震わす春子。確かに昨日の僕はひどかったかもしれない。春子に対する怒りの他に、男としての欲望をぶつけたのかもしれない。
「ごめん」
謝るのもおかしな話だけど、素直に春子に悪いと思った。
「いいよ。幸一君ならどんな事をされてもいい」
恥ずかしそうに僕を見上げて微笑む春子。頬が熱くなるのを自覚した。
「それにね、お姉ちゃんね、幸一君に強引にされるのね、怖かったけどちょっと嬉しくて気持ち良かったの」
春子は再び僕の胸に顔をうずめた。
「お姉ちゃんって変態さんなのかな」
春子の息が熱い。頭がくらくらする。腕の中の春子が柔らかい。
僕は春子をゆっくり引きはがした。
「そろそろ学校に行こう」
「あ。そうだね。もうこんな時間だよ」
春子の笑顔。外見だけはいつも通りの明るい表情。でも付き合いの長い僕には無理しているのがはっきり分かる。やっぱり春子に脅迫なんて向いていない。
僕は立ち上がった。これ以上春子と一緒にいると頭がおかしくなりそうだった。
登校中、僕と春子は何も話さなかった。何も話せなかった。触れ合う事すらなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お昼休み。私は立ち上がって梓に話しかけた。
「あずさー。お兄さんの教室に行かない?」
梓は呆れたように私を見た。
「あのね夏美、私をだいにしないで堂々と行けばいいでしょ」
「いやさ、恥ずかしくて」
「変に気を使わないの」
私の背を梓は押し出した。
「私の作った弁当の感想だけ聞いて来て」
「了解です!」
私はお兄さんのクラスに向かって走り出した。
お兄さんの事を考えるだけで頬が熱くなる。会いたい。昨日寝る前に出したメールに返信は無かった。きっともう寝ていたんだ。今日はまだ一度も会ってない。
お兄さんの教室をこっそりのぞく。お兄さんはいなかった。ちょっと残念。
ハル先輩が私に気がついて近寄ってきた。
「もしかして幸一君?」
「えっと、そうです」
「約束してたの?」
あ。
「いえ、してません」
「幸一君クラスメイトと食べる時は大体食堂で食べるよ」
そうなんだ。考えてみたら私はお兄さんの事あまり知らない。知り合ってそんなに経ってないのもあるし、普段一緒にいることも少ない。
ちょっと寂しいかも。
「今から行く?」
「いえ、お兄さんにもお付き合いがありますし」
お友達といるなら邪魔したくはない。
「じゃあ私と一緒に食べない?」
ハル先輩は弁当を掲げた。
「いいんですか?」
「今日は一人で食べようと思っていたから。一緒に食べてくれたら嬉しいな」
ハル先輩って社交的なイメージだから一人で食べるってのが珍しく感じた。でもいいか。お兄さんの事を教えてもらえるかもしれないし。
「私でよければ喜んで」
「じゃあ静かなところで食べようかな。ついて来て」
私とハル先輩は並んで歩きだした。
「どこで食べるんですか?」
「生徒会準備室。使ってないから静かだよ」
生徒会準備室。聞いたことがない。ハル先輩はどんどん人気のないほうへ歩く。こっちの先には使われる教室が無く、誰もいない。私も来た事がない。
ふとハル先輩の首筋にバンドエイドが貼ってあるのを見つけた。虫にでも刺されたのかな。
「ここだよ」
ハル先輩はドアを開けた。生徒会準備室は意外と綺麗だった。整理され掃除されている。何故かベッドがある。
「使ってないのに綺麗ですね」
「私のお気に入りの場所だから」
「あのベッドは何ですか?」
「ふふふ。私のお昼寝スペース。今日はここでお弁当にしようかな」
ハル先輩はベッドに座った。横をぽんぽんと叩く。私は少し変な気分になりながら並んでベッドに座った。膝の上にお弁当を乗せてふたを開く。
「今日はカレーじゃないんだ」
「いえ、カレーコロッケはあります」
そんな事を話しながらのんびり食事する。
「幸一君とはうまくいってる?」
突然の質問に思わず顔が熱くなる。
「えっと、はい」
どうなんだろう。まだ付き合いだして数日だし。でも、付き合ってすぐにお兄さんとしちゃったんだ。うわー。
ハル先輩はにこにこしている。
「何か悩みとかは無いの?」
悩み。たくさんある。
「もっと一緒にいる時間が欲しいとかは思いますけど、お兄さんの邪魔にはなりたくないです」
「もー。幸一君ったらいけないなー。女の子に寂しい思いさせちゃだめだよ」
ぷりぷり怒るハル先輩。ちょっと可愛い。
「なんなら私から幸一君に言ってあげようか?」
「いえ。それはずるい気がします。今日にでも放課後お誘いしてみます」
うう。言うだけで恥ずかしい。お兄さんと放課後デート。
「ふーん。他に悩みとかは無いの?幸一君は優しすぎて奥手なところがあるからね」
むむむ。ハル先輩の言う通りだ。さすが幼馴染。優しいのか遠慮しているのか分からないけど、お兄さんから私に何かを求めるという事はない。
もう一つの大きな悩み。だめだ。考えるだけで体が熱くなる。
「夏美ちゃん大丈夫?」
気がつけばハル先輩が心配そうに顔を覗き込んでいた。綺麗な顔。ハル先輩は本当に綺麗だと思う。綺麗だけど親しみやすい美人。ある意味、梓とは対極の美人。いいな。
「えっと、ハル先輩、そのですね、笑わないで聞いて欲しいんですけど」
ハル先輩は優しく微笑んだ。この人になら相談してもいいかもしれない。
「そのですね、私変なんです。お兄さんと、その、エッチしたいって思っちゃうんです」
あまりの恥ずかしさにうつむいてしまう。
「すごくはしたないと思いますし、なんだか変態みたいですけど、そう思っちゃうんです。その、お兄さんに私を求めて欲しいって」
お兄さんが欲しいし、お兄さんに求められたい。
「でも、自分で言うのはなんかすごく変態みたいですし、だからと言ってお兄さんは優しいですから、自分ではそんな事言いませんし」
言えない。エッチしてほしいなんて。恥ずかしすぎる。
「私って変なんでしょうか」
頭に柔らかい感触。ハル先輩が私の頭を優しくなでる。
「全然変じゃないよ」
私は顔をあげた。ハル先輩の優しい笑顔が浮かぶ。
「女の子だってエッチは好きだよ。がっつかれるのは嫌だけど、求めてくれなかったら悲しいよね。魅力ないのかなって思っちゃう」
「ハル先輩もそんな風に思うんですか」
「私にも経験あるもん」
私はびっくりしてしまった。どういう意味だろう。
「え、えっと、その、それは」
「他の人には内緒だよ」
ハル先輩は悪戯っぽく笑った。私は思った以上に動揺していた。まさか、その経験の相手って。
「特に幸一君にはね」
私は思わず安堵のため息をついてしまった。慌ててハル先輩に謝る。
「すいません」
ハル先輩はにこにこ笑って何も言わなかった。全部お見通しなんだろうな。
てかハル先輩って男の人とエッチした経験あるんだ。今まで彼氏はいないって聞いたからちょっと意外だ。隠して付き合っていたのかな。
「私ね、別に女の子から求めてもいいと思うよ。相手の男の子が鈍感だったら仕方がないよ」
「でも、はしたないって思われないでしょうか」
「幸一君を信じてあげて。幸一君もきっと反省するよ。寂しい思いをさせたって」
うーむ。でも。
「なんて言って誘えばいいでしょうか。その、え、エッチしたいなんて言えませんし」
さすがに恥ずかしい。
「じゃあね、二人きりになった時にこういえばいいよ」
ハル先輩はゴホンとわざとらしく咳をすると、胸の前で手を組んだ。
「私ってそんなに魅力ないの?二人きりになっても何もしてくれないなんて」
上目づかいに悲しそうに言うハル先輩。上気した肌。薄っすら桜色に染まった頬。潤んだ瞳。うわっ。すごく色っぽい。
「ハル先輩!エロすぎっす!」
「ふふふ。こう言えば幸一君みたいに誠実な男の子は恥をかかせないためにも絶対に求めてくるよ」
なるほど。ん?でも。
「もしですよ。付き合ってない女の子がお兄さんにそう言ったら、お兄さんはどうするのでしょうか」
「今なら僕には恋人がいるって言うだろうし、恋人がいないなら今は誰ともつき合わないと決めているって言うと思うよ。幸一君は誠実だからね。据え膳食わぬは男の恥って発想はないよ」
なるほど。
「ハル先輩!ありがとうございます」
「ふふふ。今日伝授した方法で幸一君をイチコロにしてね」
ハル先輩は悪戯っぽく微笑んだ。うわー。ハル先輩のこの笑顔ってすごく艶がある。女の私でもドキドキしてしまう。
私たちはとりとめのない事を話してお昼を過ごした。私はハル先輩に感謝した。ハル先輩のおかげでお兄さんと恋人になれたし、今も他の人にはできない相談を聞いてもらっている。
今日は頑張ってみようと思った。
投下終わりです。
読んでくださった方に感謝申し上げます。
ありがとうございました。
続きは規制がなければ近いうちに投下します。
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執筆の参考にしますので、よければご協力お願いします。
今まで投下した作品のDLもできますが、最新の作品はスレにしかございません。ご了承ください。
アドレスは
>>82にあります。
>>232 一番槍GJ
お昼にあるとは思わなかったぜ
乙
春子……恐ろしい子っ!
続き楽しみにしています。
ああ、春子の狂気が一番恐ろしい
GJ!
GJ!
sageるのがもったいないぐらいにマッシブだな。
是非これからも頑張ってくれ!
梓に巻き返してほしい
投下させていただきます。
努力はしておりますが誤字脱字など読みにくい点があるかもしれません。
ご了承ください
都と二人、暫く歩くうちに前方に俺たちが通う高校の校舎が見え始めた。
県立伊佐里高校。略して伊高。
生徒数は多くもなく少なくもない人数で 偏差値も普通、強い部活も特にない。
まるで、何の特徴もないこの街と同じような、言葉の通り普通校だ。
俺がこの高校を選んだ理由は、家から徒歩で通える高校はここしかなかったからだ。
それに、運動神経がいいわけでも勉強ができるわけでもない、至って平凡な俺にとっては、この高校が分相応といったところだろう。
しかし、妹の花音にいたれば話は違ってくる。
花音は俺と違って、運動神経も勉強も卓越している。それこそ幼いころは神童なんて呼ばれていたぐらいには。
その、秀でた才は現在となっても全く埋没することなく、寧ろ年を追うごとに磨かれているようにすら感じた。
まあ、幾分身内の色眼鏡がかかっていないとも言い切れないが、その美しい容姿と相まって周囲の人間からは、良くも悪くも一目置かれている存在だった。
その花音が、俺と同じ高校に行くと聞いた時には仰天し、もったいない、お前ならもっといい高校があるだろと散々諭してみたが、全く聞く耳もたず、
結局この平凡な高校に入学してしまった。
これは、周囲の人間にとっても理解不能な事態だったらしく、いまではこの町の七不思議のひとつといってもおかしくなかった。
理由としては俺と同じく歩いて通えるから、そして別に伊高だろうが全国有数の進学校だろうが成績に差異を出すつもりはない、だそうだ。
その言葉の通り、先日会った模擬試験では全国でも2桁以内の順位だったらしい。
閑話休題。
何処にでもあるような校舎を眺めつつ、
「ほら、都、そろそろ離れろ」
「ええー、何で?」
「だから、恥ずいだろって」
「むぅ、別にいいじゃん。伊高で私たちのこと知らない人間なんていないと思うし、今更恥ずかしがらなくったって」
「そういう意味じゃなくてだな……」
そう、都の言うとおり俺たちの関係は全校生徒公認の仲と言ってもいいぐらい、知れ渡っていた。
その原因はおおむねというか全て都のせいだ。
都は、容姿でいえば花音のように全校でも1〜2位を争うような派手さはなく、どのクラスにも何人かいるくらいの容姿だ。
若干、童顔だし、スタイルも迫力に欠ける。……スタイルだけで言えば花音も似たり寄ったりではあるが。
しかし、その誰とでもわけ隔てなく接する天真爛漫な性格や、周囲の人間を明るくする笑顔・雰囲気のお陰か、神秘的すぎて近づきにくい印象の花音よりも
寧ろ人気があるといってもいい。
都と付き合い始めた最初のころは、もう、男子による嫉妬が凄かった。
しかも、都ときたら学校の中だろうが関係なく必要以上にくっついてくるせいで、廊下を歩くだけでも視線が痛いくらいだった。
それは今ではある程度軽くなったが、それでも所構わずいちゃつけば怨嗟の視線で射ぬかれることになる。
俺だって、そんなバカップルを見ればイラッとするだろうし、彼らに文句など言えるはずがなかった。
そのせいで、学校での俺にとっての安住の地は少ないのだ。
「もうここまで来れば満足しただろ。ほら、離れた離れた」
そうこうしているうちに校門を潜り抜け、昇降口が近づいていた。
ああ、周囲の生徒特に男子の視線が痛い、痛いよ……。
離れまいとしがみつく都の頭をぺし、と叩いて彼女の腕を引き剥がした。
そして、靴を上履きに履き替えると、教室とは別方向へと歩き出した。
「ちょ、何処行くのん?」
「同伴出勤とか勘弁してくれ。まだ時間に余裕もあるし、俺はちょっとそこらへんぶらぶらしてから教室行くから」
「えー、一緒に教室行こうよ。私、今日英語の時間で和訳当てられる日なんだから手伝ってよ」
「俺に頼ったって意味ないだろ……真木に聞け、真木に」
「むぅー、一緒にするってことが重要なのに」
じゃあな、とぶらぶらと手を振りつつ、都の恨み節を背に廊下の角を曲がった。
階段を3つ上ると、4〜5畳くらいの踊り場に出た。
そして、金属製の大きめのドアをぐっと押しあけた。
ギギ、と錆びついた音を立ててゆっくりとドアが開いた。
途端視界が開け、一杯に青空が広がった。
平凡な高校にしては珍しく、伊高では屋上に自由に行き来可能になっている。
そして、その中でも俺の一番のお気に入りの場所は屋上の更に高い所。
出入口のドアがある低い建物の上の給水塔の影に入り、あらかじめ隠しておいたレジャーシートを敷いて寝転がった。
始業の予鈴まであと20分もないので寝るわけにはいかないが、春の麗らかな日射しと涼やかな風に思わずうとうとしてしまう。
多少の抵抗も空しく、瞼が重く閉じ出して、まぁ、朝のHRくらいはサボってもいいかなと思いはじめていた矢先、
「あらあら、眠るには少し時間が足りないと思いますよ〜」
更に眠気を誘うようなのんびりとした、たおやかな声が上からかけられた。
「む?」
目をあけると、髪の長い少女が中腰になってこちらを見下ろしていた。
目が合うと彼女は、おはよう、と小さく手を振ってきた。
「あー、吉野先輩か」
目を細めてにこにこしているこの女の子は、吉野佐理(よしの さり)。
俺の一つ上の先輩で、腰まで延びた淡い色の髪はふわふわとしていて、ハの字の柳眉。
眠っているんじゃないかと思うくらいのとろんとした目は、常ににこにこと細められている。
性格ものんびりとしていて、優しいというか俺は彼女が起こっているところを余り見たことがなかった。
吉野先輩を一言で表すならば、そう。
牛、だろうか。
よくいえばのんびり、のほほん、悪く言えば鈍重な性格と、そして、制服の下からでもグイグイ存在をアピールしてくるかなりの重量感を誇る胸。
それらいろいろな点を含めて、牛という言葉は言い得て妙、だと思う。
実際、先輩の話では過去何度か牛とか、ホルスタインだとか呼ばれた事があるという。
その、彼女の容姿とスタイルは男女問わず憧れの的となり、恐らく全校で容姿で花音と1〜2位を争う存在だ。
しかし、花音と違い、誰に対しても温和で優しい陽だまりのような性格のお陰で、吉野先輩の人気は不動のものであるといってよいだろう。
その証拠に、今まで何人もの男たちが吉野先輩に告白し、皆ことごとく散っている。
蔭では、不沈艦だとか、撃墜王女だとか呼ぶものもいるらしい。
「もう、吉野先輩だなんて他人行儀な呼び方はやめて、と言ったはずですよ」
吉野先輩はそういいながら、俺の隣にすとんと座った。
「いや、そうは言いますけどね」
「佐理姉さんとか、お姉ちゃんとかがおススメですよ〜」
「おススメって……俺たちの関係をわざわざ自らひけらかすような呼称で呼べませんよ」
吉野先輩はそう言うが彼女は俺の姉ではない。
俺の祖父の娘、つまりはたった1年しか離れていない叔母さんなのだ。
俺の実家は、この田舎町では間違いなく1番金持ちで古くからこの街の頂点に立ってきた所謂名士の家だ。
人間金が余ると、トチ狂った行動に出やすくなるのか俺の祖父は、自分の娘とほぼ同じ時期にもう一人の子供をこしらえたのだ。
さすがにこれは体面が悪いと親戚一同は思ったのか、吉野先輩は俺の祖父の娘ではなく親戚の子供として育てられた。
この、祖父の奇行があだになったのか、祖父の娘の婿、つまり俺の父親に家を支える才能がなかったのか――恐らくそのどちらでもあろうが、
俺の実家、天ノ井家の実権は吉野先輩の家に奪われ、それが祟ったのか俺の両親は40代の若さで相次いで病死した。
両親を失った俺と花音の兄妹は、以前まで住んでいた家を追い出されることまではなかったが、鼻つまみ者と言ってもよかった。
多分、彼らが俺たちを追い出したりしないのは世間体の問題、そして花音の優秀さ所以だろう。
神童と謳われ、美しく、楚々とした今どき珍しい大和撫子たる花音は、彼らにとって有効な手駒なのだろう。
さて、そんな養子と言えど名家の実質ナンバーワンの家の娘たる吉野先輩と、花音に比べ何の有効利用の手段もない俺が仲よくすることを親族一同はよく思っていない。
彼女の方はどうかは知らないが、俺の方へは直接何度か彼女と馴れ馴れしく接するなと言い含められたことがある。
俺も正直古臭いしきたりに縛られ、何がそんなに偉いのか一般人を見下した態度の親族たちに嫌気がさしていたので、正直彼らの言うとおりにしてもよかったのだが、
どういうわけか、先輩の方から色々と俺にかまってきて、ついには彼女の両親の勧めを袖にして、私立のお嬢様学校ではなくこの平凡な伊高に入学した。
理由を聞くと、彼女は何を当たり前のことを聞くのと云う顔をして、
「だって、飛鳥ちゃんは伊高に入学するんでしょ?だから、私も伊高に入って飛鳥ちゃんを待っててあげるの」
と既に存在感を増し始めていた胸を張った。
何故なのかはさっぱりだが、俺はどうやら吉野先輩に気に入られているようだった。
実際、俺は何度もやめてほしいと頼んでいるのだが、飛鳥ちゃんなんて俺のことを呼で一つしか離れていないのにお姉ちゃん風を吹かせてくる。
だが、俺としては吉野先輩を下の名前で呼んだり、佐里姉さんだとかお姉ちゃんだとか叔母である人を呼ぶのはなんかおかしい感じがして吉野先輩と呼んでいる。
前に一度、叔母さんと呼んだことがあったのだが、その時はひどかった。
いつも細められていた目をカッと見開き、ふわふわの髪の毛を逆立たせ、柳眉を吊り上げて普段は牛っぽい彼女が、まるでミノタウロスのように、烈火のごとく怒られた。
もしかすると、彼女を牛だとかホルスタインだとか呼んだ人間たちも先輩のミノタウロスモードの餌食となったのかもしれない。
それ以来俺は先輩のことを絶対に怒らせないように、決して叔母さん等と呼ばないようにしようと心に決めている。
† † † † †
「で、吉野先輩、どうしたんですかこんな所で」
「もう、飛鳥ちゃんたら意地悪です。ほら、お姉ちゃんって呼んで。さん、はい」
「ああ、もうあんまり時間ないですね。じゃ、俺教室に戻るんで」
何かのたまっている吉野先輩を無視して起き上がった。
飛鳥ちゃんったらイケズです、とわざとらしく頬を膨らませながら、吉野先輩も立ち上がった。
敷いていたレジャーシートを小さくたたみ、給水塔の下に押し込んだ。
そして、架けられた鉄梯子を1〜2段下りてピョンと飛び降りた。
「飛鳥ちゃん、降りるの手伝ってください」
「またですか。だから何度も言ってるように高い所苦手ならこんな所に来なければいいじゃないですか」
というか、2〜3メートルくらいの高さで怖がらないでほしい。
鉄梯子にしがみついている先輩をジト目で見上げた。
ちらちらと、スカートの隙間からパンツが見え隠れしている。
……ふむ、白か。清純派だな。フリフリが目にまぶしい。
「飛鳥ちゃん?ボーっとしてないで早く助けてください〜」
「あ、ああ、わかりました。……ほら掴まってください」
吉野先輩に手を差し伸べると、おずおずと彼女がその手を取った。
「ちゃんと、受け止めてくださいね」
そして、俺に向かってぴょんと飛び込んでくる。
高いところが苦手なくせに、変なところで勇気のある行動にでるなとつくづく思う。
都よりは比べるべくもなく、花音よりも重い体重を何とか支えて下ろした。
……本人にそんな事言うとミノタウロスモードが発動してしまうから、うっかり重いとか、よっこいしょなんて言ってしまわないように注意しながら。
「ありがとうございます、飛鳥ちゃん」
「もう諦めてるけど、一応言っておきます。飛鳥ちゃんと呼ばないでください」
「諦めてるんなら、別にいいじゃないですか〜」
「……」
にこにこ顔の吉野先輩にはあ、とこれ見よがしにため息をついて見せて、さっさと屋上を後にする。
ふふ、と先輩は笑って、俺後に続く。
階段をひとつ降りると3年生の階で、そこで吉野先輩と別れた。
ばいばいと手を振ってくる吉野先輩。
先輩方の視線がグサグサ刺さって痛いが、振り返さなければ吉野先輩の機嫌が悪くなり余計厄介になるので仕方なく振り返す。
吉野先輩が教室に入るのを見届けるや否や、逃げるように もう一つ階段を下りて、自分のクラスの教室に入った。
そして、はぁ、と一息つくのも束の間、一人の男が寄ってきた。
「なんだか、朝からやけに疲れてんな」
「おお、真木。おはよう」
真木和泉(まき いずみ)。女のような名前だが、正真正銘のむさ苦しい男だ。
同じ野球部に所属している縁もあってか、ほぼ毎日顔を合わせ会話を交わしている。
あまり男友達の多くない俺にとって、友人で、言葉にした事はないし多分これからも言うことはないのだろうが、親友と言ってもいいだろう。
また、俺と違って勉強もできるやつで俺や、都もよくお世話になっている。
教室を見渡すと、都が必死に机に向かっている。
恐らく、真木の和訳のノートを書き写しているんだろう。
「おはよう、で、また何かあったのか?」
「またってなんだよ、またって」
「ん、違うのか?毎日のように何か厄介事に絡まれてる気がしたんだけど」
「ちが……くないかもな」
否定しようとしてもできなかった。
確かに、最近よくトラブルに巻き込まれる。
それも殆ど、女性関係。
俺の周りには厄介な事に、容姿のいい女の子が3人もいるせいで気苦労が絶えない。
そんな愚痴をクラスメートの男友達などに吐いたりしたら、血祭りにされそうな気がするが。
実際、真木に男の嫉妬がウザい、とかうっかり愚痴をこぼしたところ思いっきりアッパーカットを貰った。
これは、全男子生徒の共通の思いだ!とか何とか訳の分からないことを言って、更に殴りかかってきたのでレバーブローをたたきこんで黙らせたが。
俺は、武道全般を片っ端からかじっている花音と違い、空手で黒帯どころか茶帯すら取れず早々に辞めてしまったがそこそこ拳には自信があった。
ちなみに、花音は高校では弓道部に入部した。
理由を聞くと、弓道なら私の細い腕でも大丈夫だから、だそうな。
何が大丈夫なのかは分からないが、弓道も弓を引くにはそれなりに腕力を使うものなんじゃないだろうか?
それとも、腕力を使わずに弓を引く極意でもあるのだろうか?
「なあ、天ノ井」
取り留めのないのないことを考えていると、真木が俺の名を呼んだ。
見ると、妙に目をきょろきょろさせて、そわそわと挙動不審だ。
……何だろう、凄い嫌な予感。
「……天ノ井にちょっと、頼みがあるんだけど」
「何だよ、改まって」
「あ、ああ、えっとな……」
「……」
何故か言い淀む真木。変な空気が俺たちの間に流れた。
真木?と呼びかけるも、一向に話を切り出そうとしない。
「話すことがないなら、俺自分の席に鞄おきたいんだけど」
「あ、ああ……そうだよな。直ぐ終わるから、ちょっと待っててくれ」
そして、すう、はあ、と深呼吸。
もしかしたら、何か深刻な話なのだろうか。
というか、待たなくちゃいけないのか?席について話を聞いてもいいような気もするんだが。
「あ、あのな!」
ぐっと、真木が声を裏返らせながらこちらに身を乗り出してきた。
「お、おれ……!実は――」
「――ほらほら、もう予鈴鳴ったぞ。さっさと席に着けー」
何か決心したように告げようとした真木をさえぎるように、担任の教師が教室に顔を出した。
気付かなかったが、いつの間にか予鈴が鳴っていたらしい。
出鼻をくじかれた真木はガクッと肩を落とした。
何だ?情緒不安定だな、コイツ。
「ったく、言いたいことがあるならスパッと言ってしまえばよかったんだよ。ほら、もう席に着くぞ」
「あ、ああ……」
俺が促すと、真木は頷いたがしかし、その場を動こうとしなかった。
さすがに、教室の中で未だ席につかず立ちっぱなしなのは俺たちぐらいになり、訝しげな視線に晒される。
「何してるんだ、真木、天ノ井。さっさと席に着け」
教師が不機嫌な声音で言った。
「あ、はい、すみません……おい、真木?」
真木は、顔を俯けて動こうとしない。
何か具合でも悪いのだろうかと、声をかけると、
「天ノ井!」
ぐあっと顔をあげ、身を乗り出してきた。
「うぉ、またかよ、一体何なんだ……」
「今日の放課後、部活の前に話したい事がある。屋上に来てくれ」
「……へ?」
唐突な誘いに目を白黒させる俺に、用は済んだとばかりに真木は自らの席へと向かった。
生徒の視線が、ちくちくと刺さる。
何だ、この妙な空気。
首をかしげながら、俺も自分の席へと向かう。
「ねえねえ」
席に座り、鞄を机の隣に引っかけていると、前の席の都が声をかけてきた。
「あん?」
「今のってさ……告白フラグ?」
「……」
無言で、都の頬をグイッと引っ張る。
「いひゃい、いひゃい、もー何すんのさー」
「いや、いきなり訳の分からんこと言うから」
「そう?あながち、的外れじゃないと思うんだけど」
「は?やめろよ。男に告白されるなんてそんな、経験したくないぞ」
は、と気付く。
もしかして、さっきの周囲の妙な空気は、周りもこのちんちくりんと同じような事を考えていたのか?
そうだとしたら、厄介事とかトラブルとかいうレベルじゃねーぞ……。
「勘弁してくれ……」
「ん?飛鳥何か勘違いしてるんじゃない?」
「勘違い?」
鸚鵡返しに聞き返した。
自分で考えている以上に動揺しているようだ。
都は、にたーっと人を小馬鹿にしたような笑み。
「何だよ、その顔」
「べっつにー、ただちょっと自意識過剰なんじゃないかなーって」
「ばっ!別にそんなんじゃねー」
「じゃあ、どう思ってたの?」
「……」
ちっ、と聞えよがしに舌打ちして、都から顔をそむけ窓の外を見やった。
見えるのは山とぽつぽつと点在する家ばかり。
別にビル群とかに憧れてるわけではないが、何となく田舎だな―と思う。
まあ、実際はコンビニだってちゃんとあるし、車がなくても十分生活に困らないくらいにはこの町も拓けてはいるんだが。
「あれ、怒っちゃった?」
「怒ってねーよ」
「うそ、怒ってるじゃん。機嫌治してよ」
「だから、怒ってないって。それより真木はどういうつもりなんだ、お前は気づいてるんだろ?」
「んー多分ね。真木君結構分かりやすいし」
「……?」
「にゃは、でも教えてあげない。昨夜何度頼んでも愛してるって言ってくれなかった仕返しだもんねーっだ」
「ばっ!お前、教室でそんな事……!」
にゃはは、と都はいやらしく笑ってみせて姿勢を元に戻した。
そんな都の背中を見ながら、ったく、と呟く。
……放課後、屋上に、ねぇ。
今更だが、何というか、如何にもって場所じゃなかろうか。
「っと、今日の伝達事項はこれだけだな。じゃあ、今日も一日勉強頑張れよ」
教師が毎日同じような事を言うと、クラス委員が見計らったかのように号令をかけ、それに従って俺も、起立、礼。
教室を出ていく小太りな担任を見送りながら今日何度目かのため息。
いつもよりも、憂鬱な一日が、始まった。
以上です。スレ消化失礼しました
GJ!
それにしてもキモウトに加えキモ姉(?)まで出てくるとは……
しかし親友の名前、真木和泉てまたマニアックな……(笑)。まあ彼と同郷の者としては嬉しいちゃ嬉しいですが。
>>93-100の続きを投下します。
SSの属性は以下となります。
※一次・高校生・双子の兄妹・修羅場あまり無し・流血無し・エロ有り
好みの分かれる内容になるかと思いますので、苦手な方は酉でNGお願いします。
それでは投下。
心地よく晴れた冬の朝、顔を赤らめた啓一が自宅のベッドに横たわっていた。
「げほっ! かはっ、ごほん!」
目は熱っぽく焦点がうつろで、ひゅうひゅうと苦しげな呼吸を繰り返す。
傍らでは彼の双子の妹、恵が不安そうな顔で啓一を見下ろしていた。
「啓一、大丈夫……じゃないよね。しんどいよね」
「い、いや、これくらい――げほっ、げほっ!」咳と共に唾が飛び散る。
「八度七分、結構出てるわね。診察券と保険証出してあげるから、
午前中に診てもらってきなさい」
母は啓一の体温計に目を落として、言った。
「ただの風邪ならいいんだけど、インフルエンザだったら大変よ。
ひょっとしたら、恵も学校お休みしないといけなくなるかもしれないし。
あなたは何ともないの? 熱とか咳とか出てない?」
「うん、私は大丈夫みたい」
「それならいいけど……。おかしいと思ったら、すぐに先生に言って早退させてもらうのよ」
「わかった。それでお母さんは今日どうするの? 今日はお婆ちゃんのとこ行く日だよね」
「そうなのよねえ。どうしようかしら」母は困り顔で、軽く首を振った。
少し離れたところに住む祖母は近頃体調が優れず、母が毎週決まった日に
様子を見に行き、掃除や買い物を手伝うことになっていた。
嫁と姑の関係ではあるが、仲はそう悪くない。
だが実の息子であるはずの父が何もせず、祖母の世話を妻に任せっきりにしているので、
恵はしょっちゅう母から愚痴を聞かされていた。
視線を病床の息子から娘に戻して、母が言う。
「まあ、お昼までは家にいるから、それからはまた啓一の様子を見て考えるわ。
大丈夫だったら行ってくるけど、ひどくなるようだったらそうもいかないから」
「俺は大丈夫だから……気にせず行ってきてよ。ごほっ、ごほん!」
そこでまた啓一がゴホゴホと咳き込んで、母にどやされる。
「あんたは大人しく寝てなさい! 本当は何か食べて薬飲まないといけないんだけどねえ」
「啓一、食欲ないみたい……」恵は憂いを声に塗り込めた。
「診察は九時半からだから、それまではとりあえず暖かくして、水分とっておきなさい。
恵はそろそろ学校行きなさい。もうあんまり時間がないわよ」
「そうだ、行ってこい。そんで、皆によろしく言っといてくれ」
こんな最悪の体調でも啓一は取り乱すことなく、いつものように落ち着き払っていた。
しかし、母に心配をかけまいと無理をしているのは明らかだ。
啓一を置いて登校するのは後ろ髪を引かれる思いだったが、
自分は何ともないと言った手前、今さら仮病を使って休むわけにもいかない。
恵は兄の赤ら顔を、浮かない表情で見つめて言った。
「うん、じゃあ……いってくるね」
そうして、母に見送られて自宅を後にする。
礼儀知らずの冷たい師走の風が、恵の頬をつっと撫でていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
周囲の反応は、おおかた予想通りのものだった。
「え、啓一が風邪? 大丈夫なのか?」
「ほえー、啓一君が……。珍しいね、祐ちゃん」
「ああ、ホントだな。大したことなきゃいいんだが」
授業が始まる前のがやがやした教室で、そう言って心配してくれたのは
啓一と親しい友人の中川祐介と、森田瑞希である。
祐介は鋭い目つきをした口数の少ない男だが、情に篤く、
基本的に一人で何でもこなす啓一が頼りにする、数少ない存在だった。
瑞希はその祐介の彼女である。内気で大人しそうな顔をした、小柄な少女だ。
長い黒髪を頭の左右で二つに分ける、いわゆるツインテールの髪型をしている。
童顔なこともあって、実年齢よりもかなり幼く見える。それが一部には好評らしい。
祐介は瑞希と顔を見合わせ、啓一の身を思いやった。
「それじゃ瑞希、帰りに見舞いでも行くか? 美味いもんでも買ってってさ」
「いいね。皆で行ってあげようよ」
「ううん、大丈夫。啓一は丈夫だからすぐに治るわ。だからそんなに心配しないで」
祐介の提案を恵が首を振って遠慮すると、二人とも残念がったが、
その代わりに彼の携帯あてに見舞いのメールを送ってくれた。
きっと啓一も喜ぶだろうと、恵は二人に感謝した。
話を聞いて大騒ぎしたのは、今朝も啓一目当てで恵のもとにやってきたヒカルである。
啓一に憧れる直情径行のヒカルのこと、
その彼が寝込んでいると聞いては、平静でいられるはずもない。
恵の前で飛び跳ねて驚き、ただひたすらに浮き足立っていた。
「えっ、啓一センパイが病気でお休みですかっ !? 大変、お見舞いに行かないとっ!」
「……ヒカルちゃん。今の話、聞いてた?
すぐ治るから、そんなに心配しなくてもいいんだってば」
「わかりました! 学校が終わったらすぐセンパイの家に飛んでいきますねっ!
あ、そうだ買い物もしていかないと。食べ物とか、頭冷やすやつとか、あと薬とか」
「ヒカルちゃん、ちょっとは人の話を聞いて――」
「あ、いけない! 一時間目、視聴覚室なんだった! 急がなきゃっ!
それじゃ恵センパイ、放課後待ってて下さいね! おうちまでお供しますからっ!」
そしてまた、風のように去っていく。
完全にペースを崩された恵は呆然とその場に立ち尽くしていたが、
そばにいた祐介と瑞希の会話を耳にして、やっと我に返った。
「最近は静かになったと思ってたんだけどな、啓一の周り。そうでもなかったか。
それにしてもあの子、今まであんまりいなかったタイプだな」
「はへー、なんかいろいろとすごそうな子だね」
「まあ、ヒカルちゃんも悪気があるわけじゃないと思うんだけど……」
恵は痛む頭を押さえ、ため息をつくしかなかった。
ヒカルは宣言通り、放課後になると恵のもとにすっ飛んできた。
どうしても啓一の見舞いに行かないと、気が済まないらしい。
止めても無駄のように思えたので、恵は仕方なくヒカルを連れて帰ることにした。
冬の太陽は早くも西に傾き、二人の少女を真っ赤に照らしている。
「それじゃあ今、啓一センパイは家に一人なんですか?」
「ええ。うちのお婆ちゃん、最近体の具合があんまり良くなくって……。
お母さんが毎週決まった日に行って、いろいろお世話してあげてるの」
「それが今日ってわけですか。タイミングが悪いですねえ」
途中、恵はスーパーに立ち寄った。
結局、母は啓一を置いて祖母の家に行ってしまったから、
看病や家事は恵がやらないといけない。もちろん買い物もだ。
忙しくはなるだろうが、反面、密かにこの状況を楽しんでいる自分も否定できなかった。
夕方のスーパーマーケットはそこそこに混雑している。
カートを押す主婦や親子連れに混じって、
菓子やアイスの売り場にたむろする小中学生の姿が見受けられた。
何かやましいことでもしていたのか、仲間と騒いでいた一人の少年が恵と目が合い、
こそこそと顔を背けて逃げ出していった。
恵はヒカルと話しながら、買うべき物を一つずつ籠に放り込んでいった。
話題は当然のように、啓一のことばかりだった。
「結局センパイ、インフルエンザじゃなかったんですか?」
「うん、ただの風邪みたい。けっこう熱は出てたけど、すぐ治りそう。
帰ったらおかゆでも作って食べさせるわ。食べれるうちに食べないと、体力つかないから」
「そうですか。あたしも手伝います。啓一センパイのこと、心配なんで」
「ありがとう」ヒカルの言葉に、恵は柔らかな笑顔で微笑んだ。
うどんや果物、清涼飲料水などをたっぷり買い込み、スーパーを後にする。
荷物の半分はヒカルが持ってくれた。
にこにこ顔で「いいですよ、センパイのためですもん」と笑うヒカルを見ていると、
この明るく優しい後輩に対する好感と、そして後ろめたさが芽生えてくる。
素直で裏表のない言動に加えて、振る舞いの端々に幼さを残したヒカルである。
啓一に対するヒカルの想いは、恵にも痛切に伝わってきていた。
しかしそれは、恋心とは少し違うものではないだろうかと恵は思う。
年頃の少女が往々にして抱く、自分より年上の男性に対する漠然とした憧れを、
恋心と錯覚しているのではないだろうか。
だがそうした感情は、思春期の少年少女にとっては当たり前の、健全なものでもあった。
少なくとも恵の胸のうちに潜んでいる狂気よりは、よほどまともと言えるだろう。
啓一に近寄ってくる女性に対して、恵が申し訳なく思うのは、こういう理由からだった。
彼女たちがどれだけ真剣に、一途に想いを寄せたところで、
啓一がその想いに応えることは決してない。
どこの誰が何をどうしようが、啓一の心は繋ぎとめられない。それを恵は知っている。
だが、ヒカルは他の女たちと同じく、そのことを知りはしない。知らないからこそ、
まるでサンタクロースの存在を信じて疑わない子供のように、無邪気でいられるのだろう。
恵がヒカルに対して抱く罪悪感は、大人が子供に隠し事をするときのそれに近い。
優越感と同情、憐憫の入り混じった悲しそうな瞳で、恵は黙ってヒカルを見つめた。
しかしヒカルは、そんな恵の胸中など思いもよらず、彼女と肩を並べて歩きながら、
ただ啓一の見舞いに行けることを純粋に嬉しがっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
家に帰ると啓一は目を覚ましており、ベッドから身を起こして二人を出迎えてくれた。
「おかえり、恵。ヒカルちゃんにも気を遣わせちゃったね。ごめん」
「センパイ、大丈夫ですか !? 熱は、咳とかは !?」
「ああ、だいぶマシになったよ。ありがとう、ヒカルちゃん」
啓一の言葉にヒカルは顔を赤らめ、しどろもどろに見舞いの挨拶を口にした。
そんな啓一を叱りつけたのは恵である。
「ほら啓一、まだ治ったわけじゃないんだから、寝てなくちゃ駄目よ。
熱測って。汗かいただろうからお水も飲んで、あと食欲ある?」
「ん、どうだろう。あるようなないような……」
「センパイ、果物食べませんか? 帰りに買ってきましたけど」
「ありがとう。後で食べるよ」
啓一の顔は全体が朱に染まり、全身じっとりと汗ばんでいた。
とりあえず汗を拭き、着替えた方がいいだろう。
恵はそう指摘し、タオルと着替えを取ってきた。
「ヒカルちゃん。悪いんだけど、ちょっと部屋から出てくれる?
啓一を着替えさせないといけないから」
その言葉は恵にとっては当たり前のことだったが、ヒカルには驚くべき内容だったらしい。
ヒカルは目を見張って、恵に聞き返した。
「えっ、着替え? ひょっとして恵センパイが啓一センパイを脱がして裸にして、
体の隅々までごしごし拭いて、また着せてあげるんですかっ !?」
「ええ。汗だくだし、このままにしておけないでしょ」
「そ、それはいくら兄妹でもヤバいんじゃ――てか羨ましい……。
セ、センパイ。それあたしにやらしてもらえませんでしょうか」
何を考えているのか、よだれを垂らし始めたヒカルを、恵は部屋から追い出した。
「もう、ふざけないで。すぐ終わるからあっちで待っててね。ごめんなさい」
「うう……あたしも手伝いたいですう……」
二人きりになった恵は、啓一のパジャマを脱がせ、汗まみれの体をタオルで拭いていった。
啓一が小さくうめき、苦しげな声で謝意を表す。
「恵、悪いな……」
「何言ってるの、今さら」恵は呆れた声で返した。
乾いたタオルが啓一の胸、腕や脇腹の汗を吸い取っていく。
いくら兄妹でも高校生ともなれば、相手の裸を間近で見て、直に触れるのには
多少なりとも抵抗を感じてもいいはずだったが、恵はそんな様子はつゆほども見せず、
淡々と啓一の体を拭っていった。啓一の方も心地よいのか、満足げな顔だ。
身を起こした兄の背中を一生懸命こすりながら、恵が聞く。
「啓一、気持ちいい?」
「ん? まあ気持ちいい……かな」
その言葉に恵は小さくうなずいて、不意にうすら笑いを浮かべてみせた。
「ふふ、こんなときに何だけど――もっと気持ちよくしてあげよっか?」
「バーカ、悪化するだろ。それにヒカルちゃんがいるじゃん」啓一が首を振る。
「何だったら、私がそっちと代わってあげてもいいよ。どう?」
「だーめ、だめだめ。そっちにまでうつったら、どうするんだよ」
「うつらないわよ、きっと」
恵はそう言って手を伸ばし、啓一の股間を下着越しに撫で回した。
「ほら。ここはもう、こんなになってる」
三角に盛り上がった布地を、うっとりした目で眺める。
啓一は、恵に後ろから抱きつかれた格好で声をしぼり出した。
「やめろって……。今はしんどいんだからまた後で、な?」
「だから、しんどいなら代わってあげるってば。いいでしょ?」
「駄目だっつの。一応俺は男なんだから、こういうときは踏ん張らないと」
「じゃあ男だったら踏ん張って、女の子を喜ばせてよ」
恵の舌が啓一の首筋に這わされた。
先ほどタオルで拭ったところだが、それしきで健康な男子の汗臭さは抜けない。
なめ回した啓一の肌は、かすかに塩の味がした。
「ふふふ、啓一……」
恵はそのまま、啓一の体を優しく愛撫しようとしたが、
彼はそれを拒絶するかのように派手に咳き込み、苦しそうな吐息をついた。
「げほっ! ごほ、ごほっ、ごほん!」
「あら……。うーん、やっぱりまだ無理か。仕方ないわね」
啓一の苦悶の表情に、さすがの恵も引き下がらざるをえない。
結局、恵は彼に新しいパジャマを着せて寝床を整え、再び寝かせることにした。
そうして啓一を安静にさせて、別室で待っていたヒカルを呼ぶ。
「もういいわよ、ヒカルちゃん」
「あ、終わりました?」
ヒカルはベッドの傍らの椅子に座り、心配そうな顔で啓一を見下ろした。
「センパイ……早く良くなって下さいね。そしたら、また一緒に遊びに行きましょう」
「うん、そうだね……ヒカルちゃん」
啓一の赤い笑顔に、ヒカルの頬も同じ色に染まる。
先ほどの痴態の痕跡は全く残さず、恵は平然とした様子で兄に訊ねた。
「啓一、おかゆ作るけど、どう? 食欲ある?」
「ああ、何とか食えそうだ。頼む」
「じゃあ作ってくる。ヒカルちゃん、啓一のことお願い」
「あ、あたしも手伝いましょうか?」
「大丈夫よ、ありがとう」
不器用なこの後輩に協力してもらうよりも、自分一人の方がやりやすい。
恵はヒカルの申し出を婉曲に断り、ひとりエプロンをつけてキッチンへと向かった。
恵が啓一の食事を作っている間、ヒカルはずっと啓一につきっきりで、
彼の病状が悪化しないよう気を遣いつつ、楽しそうに話していた。
啓一も体力が回復しつつあるのか、特に眠気はなく、ヒカルとの会話を楽しんだ。
「そんな感じで、夏樹ってばホントひどいんですよ。もう信じらんないです」
「まあまあ。口ではそう言ってても、きっと心配してくれてるんだよ」
「いやー、あいつに限ってそれはないですねえ。まったく……」
友人の平素の問題点をあげつらうヒカルと、それをなだめる啓一。
恵が粥を持って部屋に戻ってきたとき、二人はそんな調子だった。
「はい、どうぞ」
「すまん」
啓一は身を起こし、恵の手から鍋と茶碗の載った盆を受け取った。
卵の入ったシンプルな粥が湯気をたて、回復しつつある啓一の食欲を刺激した。
それはヒカルも同じだったようで、彼女の健康的な腹の音が部屋じゅうに鳴り響いた。
「あ――す、すいません……。美味しそうだったんで、つい……」
恵は啓一と顔を見合わせ、「多めに作っといてよかった」と言って笑うと、
ヒカルの分の食器を取ってきた。
食事そのものよりも、この和やかな雰囲気の方が効き目があったかもしれない。
啓一は粥を食べ終わると、満足げな顔で再び眠りについた。
その後、恵は辞去するヒカルを見送った。
既に冬の日は落ち、辺りはすっかり暗くなっていたが、
ヒカルはいつもの明るい笑顔でぺこりと恵に頭を下げた。
「どうも、お邪魔しました」
「今日はありがとう。暗いから、気をつけて帰ってね」
「いいえー、こちらこそご馳走になっちゃって。啓一センパイ、早く治るといいですね」
「大丈夫よ、だって啓一だもの。殺したって死なないわ」
恵とヒカルは目と目を合わせ、二人一緒に笑った。
「それじゃあ、また学校で――あ、最後に一個だけ、
恵センパイに聞いておきたいことがあるんですけど」
「あら、何かしら」
ヒカルは恵の漆黒の瞳をじっとのぞき込み、訊ねた。
「恵センパイ……啓一センパイのこと、好きですか?」
「ええ、好きよ」
即答だった。柔和な笑みを浮かべてそう言い放つ恵に、ヒカルは疑念を確信に変えた。
「やっぱりそうなんですか。あたしも啓一センパイのことが大好きです。
だから、あたしと恵センパイは――そうですね、ライバルみたいなもんですか」
「いいえ、それは違うわ」
「違う?」ヒカルが眉をひそめる。
「ヒカルちゃんの『好き』と、私の『好き』は別物よ。
私と啓一の仲は、ヒカルちゃんが考えてるようなのとは全然違うから」
そう言った恵の顔はどこまでも清楚で、凛とした雰囲気を漂わせていた。
誰からも好かれる美しい微笑みでヒカルを見つめ、静かに笑っている。
ヒカルは手に提げたカバンの取っ手をぐっと握りしめて、言った。
「そうですか。じゃあ、そういうことにしておきます。でもあたしは負けませんから」
強い意志を瞳に込めて、恵に告げる。宣戦布告でもするかのような口調だった。
「それじゃまた。さよなら、恵センパイ」
「ええ、さようなら。ヒカルちゃん」
恵は顔色一つ変えずにヒカルを見送り、そっとドアを閉めた。
カギをかける乾いた音が意外に大きく、日没後の通りに響き渡った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
恵が一人だけの夕食を終えた頃、母親から電話がかかってきた。
「恵、啓一の様子はどう?」
「うん、だいぶ良くなったよ。ちゃんとご飯も食べたし、今は薬飲んで眠ってる」
「そう、それならいいんだけど……」
「啓一のことは心配しなくていいわよ。そっちこそ、お婆ちゃんは大丈夫なの?」
恵が問うと母は声を曇らせ、大きく息を吐いた。
「それがねえ。お婆ちゃん、また腰を痛めちゃったのよ。
座ることもできないらしくて、痛い痛いってずっと横になってるわ」
「ええっ、またなの? この間も同じこと言ってたじゃない。大丈夫?」
「あのときはすぐに治ってピンピンしてたから、大したことないって思ってたのよ。
でもやっぱり、ちゃんと病院に連れてった方がいいわよねえ。
まったくもう、啓一が寝込んでるこんなときに……」
それから母の怒りの矛先は、この場にいない父に向けられた。
恵の父は出張で二、三日は帰ってこない。その支度もほとんどが母の仕事だった。
夫と息子と姑と、三者の世話で疲れ果てた母が、ヒステリー気味にぼやくのも無理はない。
だがいくら母が電話口で娘に愚痴をこぼしても、
啓一の風邪が治るわけでもなければ、祖母のぎっくり腰が完治するわけでもない。
恵は何とか母をなだめ、今夜は祖母の家に泊まってくるよう勧めた。
「啓一は私が面倒見とくから、お母さんはそっちに専念してよ。
今のお婆ちゃん、一人じゃ何にもできないんでしょ?」
家のことは自分がやっておくから。恵がそう口にすると、
母は急に声のトーンを落として、やや躊躇ってから言った。
「じゃあそうしようかしら……。なんか悪いわねえ、任せっきりにして」
「いいよ。大丈夫だから、気にしないで」
「ごめんね恵。じゃあ啓一のこと、お願いね」
母は何度も恵への感謝と謝罪の言葉を口にすると、名残惜しげに電話を切った。
これで今夜は、啓一と二人きりで過ごすことになった。
恵は両親のことは決して嫌いではなかったが、
やはり啓一と自分だけという今の状況には、心躍るものがあった。
啓一は食事のあと、薬を飲んでぐっすり眠っている。
病状はだいぶ良くなり、熱も下がった。診てもらった病院でもただの風邪だと
言われていたので、このまま長引くこともなく、じきに治るだろう。
いつも健康そのものの啓一が体調を崩すとは思わなかったが、
昔、小学生くらいの頃は、頻繁に熱を出して学校を休んでいたものだ。
特に二人いっぺんに寝込んでしまったとき、看病をする母は本当に大変だった。
懐かしい記憶を思い起こし、恵は口元にうっすらと笑みを浮かべた。
風呂から上がると、恵は啓一の部屋に向かった。
「啓一……顔色、ちょっと良くなったかな」
まだ少し顔が赤いものの、啓一の呼吸はすっかり落ち着いていた。
恵は無言でベッドに近寄ると、シーツを剥ぎ取り、啓一の寝巻きを脱がせだした。
また汗をかいたので、着替えさせないといけない。それに体も拭いてやらなくては。
汗がにじんだ体を電灯の下にさらけ出され、啓一は目を覚まして小さくうめいた。
「う、ん……」
「啓一、大丈夫?」
その問いかけに、啓一は虚ろな瞳で答えた。
「ああ、なんかマシになった気がする。よく寝たからかな……」
「良くなったのはいいけど、油断したらぶり返しちゃうわ。体、拭いてあげる」
「ん、ああ――また汗かいちまったか。う、気持ち悪い……」啓一の声はややかすれていた。
「また着替え持ってきたわ。それに水分もとらないと」
「すまん。今日は世話になりっぱなしだな」
体調が悪く、いつもより弱気になっているのだろう。
横たわった啓一の言葉に、恵は「何言ってるのよ、もう」と口を尖らせた。
湿気を含んで重くなった寝巻きを脱がせて、湯で濡らしたタオルで肌を拭く。
恵は一連の動作をよどみなく、そしてどこか楽しそうにこなしていった。
兄の世話をできることが嬉しいのだろうか、
今度は乾いたタオルで啓一の胸板をこすって、にっこり笑う。
「はい。上終わったから、パジャマ着て。下もやったげる」
「ああ、頼む」
啓一は上半身だけを新しい寝巻きでくるみ、再びベッドに横になった。
部活のサッカーで鍛えている強靭な脚が、恵の前にさらけ出される。
恵は鼻唄を歌いながらタオルで啓一の両脚をぬぐい、汗と汚れを落としていった。
「……お前、なんか楽しそうだな」啓一がつぶやいた。
「そうね、たまにはこういうのも新鮮でいいかも」
「俺はごめんだ。しんどくてたまんねーし、それにお前に迷惑かけてるから」
「啓一、私たちの間でそういう遠慮は無しだってわかってるでしょ?
私たちは何をするにも平等で対等なんだから。
もしも私が熱出してたら、そっちに思いっきり甘えてたわよ」
何を今さら他人行儀に。恵は呆れた声で言うと、綺麗になった啓一の脚に触れた。
恵の白い指と手のひらが、母が我が子にそうするように、啓一の肌を優しく撫でる。
心地よい感触に、啓一の目が自然と細められた。
「だから今は……ね? 安心して、私にいっぱい啓一の世話をさせて」
「そっか……そうだな。しょうもないこと言って、悪かった」
「いいよ。いっぱいお世話したげるから――ほら、こことかも」
「おい、こら」
股間に触れた指のいやらしい動きに啓一は身を起こし、
先ほどとは別の理由から目を細めて、恵をにらみつけた。
だが恵の手は啓一の下着を焦らすようにゆっくり脱がせつつ、
露出した性器をぐにぐにと指で挟み込んでくる。
「何考えてるんすか、恵さん。病人のそんなとこいじくり回して」
「え? だってここも汗でべたべたじゃない。綺麗にしとかないと」
「タオル使えよ。なんで指でシコシコしてるんだよ」
気持ちいいじゃねーか。最後の言葉を辛うじて飲み込むと、
啓一は自分への愛撫を始めた妹の姿を、赤い顔でじっと見守った。
恵の手は啓一の袋を柔らかく包み込みながら、竿を下から上へと摩擦していく。
その刺激に、すぐに彼の陰茎は上を向いてそそり立って、恵を喜ばせた。
「ホントは夕方も、してあげたかったんだけどね」
へたり込んだ啓一の下半身に覆いかぶさり、ふわりと笑う。
「でもあのときは啓一、とっても苦しそうだったし、それにヒカルちゃんがいたから」
清楚な妹が浮かべる妖艶な微笑みを前にして、啓一はごくりと唾を嚥下し、
諦めたように息を吐いて白い寝床に倒れこんだ。
「うふっ、啓一の……いつもより熱い」
「てか、体中が熱いんだけど」
「じゃあ、もっと熱くしたげるね。お兄ちゃん」
お兄ちゃんはやめろ。そう言おうとした啓一だったが、
勃起した肉棒を恵の口にくわえ込まれ、低くうめくことしかできなかった。
恵は兄の性器を口内に収め、多量の唾液を分泌しながら、舌で亀頭を撫で上げた。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立て、幸せそうな顔で口淫にふける。
兄の弱い部分を知り尽くした恵の奉仕に、啓一は朦朧とした意識で、ただ喘ぐだけだった。
「んん、んふっ――啓一ぃ……」
仰向けに寝転がっている啓一からは妹の顔が見えなかったが、きっと歓喜しているのだろう。
濡れた唇で先端をすすられる感触に、彼の背筋が小さく震えた。
たっぷり寝て汗もかき、容体は随分ましになってはいたが、
それでもこのような行為に及べるほど体力が回復しているわけではない。
しかし恵は、恍惚の表情で啓一の肉棒をしゃぶりながら、
「大丈夫だよ、勃ってるんだからできるって」などと言って、彼を容赦なく責めたてた。
何しろ体が実際に反応してしまっているのだから、啓一に反論の余地はない。
ただ一刻も早く恵が満足して、彼を解放してくれるのを待つだけだ。
唾と先走りの液体が恵の中で混じり合い、汁音をちゅぱちゅぱ響かせた。
その生々しい音を子守唄代わりに聞きながら、啓一は静かに目を閉じた。
確かな快感とかすかな安心感に包まれ、黙って恵の奉仕を受け入れる。
カーテンの隙間からは、星も見えない黒い夜空が二人をじっと見下ろしていた。
恵は袋を揉みしだきながら、唇をうねうね蠢かせ、竿を絶え間なく刺激した。
口内に含んだ先端は舌先でつんつん突つく。いつものやり方だった。
「んんっ、ん、んむっ、んっ」
小さな口いっぱいに啓一の男性器を頬張って艶然と笑う恵の姿を、
普段の清楚な彼女を知る人間が見たら、さぞ開いた口が塞がらないだろう。
しかもその相手が双子の兄、啓一となれば尚更だ。
恵は啓一の体にのしかかり、日頃の大人しさからは想像もできない痴態を披露していた。
じっと寝転がって天井を見上げる啓一が、寒気と快感に苛まれ、熱い息を一つ吐いた。
「あ――なんか、マジでやば……クラクラしてきた……」
荒い吐息は風邪のせいか、それとも口淫のせいか。
啓一は焦点の合わぬ瞳を虚空に向けて、舌を出してハアハア喘いでみせた。
こちらはこちらで、普段の凛々しい彼に憧れる少女たちが目にすれば
その場で卒倒しかねないほど、官能的な表情である。
特にヒカルなどがこの啓一の顔を目にしたら、どうなることか。
互いに他人に見せられない姿をさらけ出しながら、二人はますます高ぶっていく。
「んんっ、ちゅっ、んっ。うふふ、啓一――そろそろだよね?」
「う、うう……」もはや啓一は、うなずくことさえできない。
「今日は飲んであげるから……啓一の熱いの、いっぱいちょうだい」
天使の笑みでそう告げて、恵は思い切り啓一の先端を吸い上げた。
「ううっ、くっ!」
啓一に残された生命が、白い奔流となって爆発した。
浮かせた腰がピクピクと痙攣して、体の熱を股間から吐き出していく。
その灼熱の塊は待ち構えていた口の中に、一滴残らず流し込まれた。
恵は舌の上で啓一の精子を転がして味わい、
小さくうなずいてから、こくんと喉を鳴らして飲み込んだ。
変わらぬ笑顔で口を開き、濃厚な精の臭いを吐いて小さくつぶやく。
「やっぱり美味しいものじゃないわね。体調で味が変わるって聞いたけど」
返事はない。啓一は性器をだらりと萎えさせ、目を閉じて動かない。
気絶してしまったのかもしれない。
「今日はここまでか……おやすみ、啓一。早く治そうね」
恵は再びタオルを手に取り、啓一の股間を綺麗に拭き取ると、
真新しい寝巻きを着せ、その上からシーツをかけてやった。
本当は続きもしたかったが、今の啓一の状態では難しいだろう。
いつもなら、この火照った体にいくらでも注ぎ込んでくれるというのに。
恵は啓一が早く良くなることを心の底から願い、部屋を出て行った。
以上となります。
続きはまた後日投下しますので、よろしくお願いします。
それでは、失礼致しました。
一番槍GJ
続きに期待
GJ!
上の方申し訳ないですが投下させていただきます
三つの鎖 11 後編です
※以下注意
エロあり
血の繋がっていない自称姉あり
僕は耕平と食堂でお昼を食べた後、校庭のベンチに座ってのんびり話していた。
「彼女とはうまくいってるん?」
突然の質問。脳裏に春子の姿が浮かんだ。脳裏に浮かんだその姿を追い出し夏美ちゃんの姿を浮かべる。
「どうだろう。会う事が少ないから」
「幸一。お前から誘う事ってあるんか」
…無い。
「おまえなー、そらアカンで」
「すまない」
「いや、俺に謝ってもしゃあないやろ」
耕平は呆れたように言った。確かにその通りだ。
「今日の放課後にでも誘ったり。夏美ちゃん遠慮しそうな子やから、迷惑かと思って控え目にしか誘ってこうへんで」
正直、誘う気にはなれない。昨日春子と寝た翌日に夏美ちゃんと顔を合わせる勇気は無かった。
「そうするよ」
ただ、耕平のいう事自体はもっともだと思った。耕平は経験が豊富だからアドバイスは的確だ。
「あとな、夏美ちゃんとはもう寝たん?」
ただ、ストレートすぎる事もある。
「その様子やとあるみたいやな」
「ああ。一回だけ」
「それ以降で夏美ちゃんが誘ってきたことはあるん?」
脳裏に屋上での夏美ちゃんが浮かぶ。
「一回それっぽいのがある」
「それ以降は?」
「無い」
耕平はため息をついて天を仰いだ。
「夏美ちゃんも苦労するでホンマ」
耕平は僕にビニール袋を渡した。
「やるわ」
僕は中身を確認した。コンドームだ。
「耕平」
「あのな、何で幸一から誘わへんの」
僕は少し腹を立てていた。まるで尋問に聞こえたからだ。だが、僕が何も言わなくても耕平が言う忠告は必要な事がほとんどだ。だから僕は正直に答えた。
「恥ずかしいというのもあるけど、体だけを求めているようで夏美ちゃんに失礼な気がする。夏美ちゃんは優しいから僕が求めれば応えてくれると思うけど、それに甘えたくはない」
ていうか僕と夏美ちゃんは付き合ってほんの数日だ。
「じゃあ何で夏美ちゃんはそれっぽく誘った事があるんやと思う」
あの時の夏美ちゃん。切なそうに僕を見つめる濡れた視線。春子に重なる。
「…よく分からないけど、僕に気を使ってくれたんだと思う。遠慮しないでいいと」
「なんでやねん」
耕平の突っ込み。
「ええか。女の子からしたらやで、男ががっついて求めてくるんはまあ嫌に思う事もある」
「それはそうだろう。そんな事をすれば体だけが目的に思われても仕方がない」
「せやけどな、全く求めてこないんも苦痛やで。女の子からすればや、魅力が無いんかと悩むねん」
僕は虚をつかれた。その発想は全く無かった。
「幸一からすれば夏美ちゃんを大切にしたいと思うんは当然や。せやけど、女の子って大切にしてほしいって思う以上に好きな人には求められたいって思うもんやで」
「だったら夏美ちゃんがそれ以外にそれっぽく誘ってきたことが無いのは何でだ?」
「一回誘って幸一は応じへんかったんやろ?それで遠慮してるねん。それに誘って応じんかったら自分に自信をなくすで」
夏美ちゃんの行動を思い浮かべる。耕平の言う事は筋が通ってる。
「放課後やなくて今から誘い」
耕平の言うとおりだ。
それなのに脳裏に昨日の夜の出来事が浮かぶ。僕は夏美ちゃんを裏切った。その僕が夏美ちゃんにノコノコ会いに行っていいのか。一瞬の葛藤が永遠に感じる。
それでも、夏美ちゃんに寂しい思いをさせたくない。
僕は立ち上がった。
「耕平」
「なんや」
「ありがとう」
本当に感謝している。
「今から行ってくる」
「いや、メールでもええやろ」
「夏美ちゃんの顔を見たい」
「ええ心がけや。行ってきい」
僕は走り出した。お昼休みの時間は残り少ない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一年生の廊下に見覚えのある小さな背中を見つけた。
「夏美ちゃん!」
驚いたように振り向く夏美ちゃん。僕を見て嬉しそうに笑った。
「お兄さん!」
小さな手を振って駆け寄ってくる。
「びっくりしましたよ!」
「夏美ちゃん。今日の放課後よかったら遊びに行かない」
夏美ちゃんはびっくりしたように僕を見上げた。こうして見ると夏美ちゃんは本当に小柄だ。
「え、あ、その、あの」
口を両手で覆い震える夏美ちゃん。
「ごめん。突然で。用事があるのかな」
夏美ちゃんは激しく首を横にふった。
「ち、違うんです!そ、その、お兄さんから誘ってくれたのが初めてで、嬉しいんです!」
夏美ちゃんは顔を真っ赤にして震えた。目尻に涙が浮かぶ。
僕は罪の意識を感じた。夏美ちゃんに寂しい思いをさせていたんだ。それなのに僕は昨日、脅しに屈したといえ春子と寝た。メールにも返信しなかった。僕は渦巻く感情を表に出さないように微笑んだ。胸が痛い。
「もちろんです。ご一緒させてください」
嬉しそうに笑う夏美ちゃんを見て顔が熱くなる。ここまで嬉しそうにされると、僕も恥ずかしい。
「ありがとう。じゃあまた放課後に迎えに行くよ」
「はい!待っています!」
「またね」
「はい!」
元気よく手を振る夏美ちゃんに後ろ髪をひかれる思いで僕はその場を後にした。
走りながら考えた。夏美ちゃんと別れたほうがいいのかもしれない。
僕は夏美ちゃんにはふさわしくない。昨日、春子と体を重ねたのに、夏美ちゃんと笑顔で接する事ができる自分。
分かっている。感情のまま深刻な表情で接しても余計な心配をかけるだけ。相談できる内容ではない。
夏美ちゃんの笑顔が脳裏に浮かんで消える。僕は頭に浮かぶ悩みを追い払った。今は放課後の事だけを考えようと思った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
授業中に手紙が回ってきた。
『どない?』
差出人もないけど、誰かは分かる。
耕平を見ると視線が合った。僕は軽くうなずいた。耕平も軽くうなずいた。僕たちはそれだけで通じ合った。
しばらくしてまた手紙が回ってきた。
『もうこっそり撮影することはないです。安心してください』
頭を殴られたような衝撃。これも差出人が無いけど、誰かは分かる。
僕は春子を見た。視線が合う。春子は笑ったけど、どこか寂しそうに見えた。
深呼吸をし、僕はルーズリーフにメッセージを書いた。書いたそれを春子に回す。
『何で知っている』
しばらくして返信が帰ってきた。
『今日夏美ちゃんとお昼を一緒に食べました。寂しいと言ってました。お姉ちゃんはもう隠し撮りする気も必要もありません。これだけはお姉ちゃんを信じてください』
信じていい根拠は何もない。春子は僕を脅迫している。その状況で信じろなんて不可能だ。
むしろ信じてはいけない。もしかしたら夏美ちゃんの部屋にビデオカメラが隠されているかもしれない。あるいは他の場所に隠されている可能性もある。
早急に調べる必要がある。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
帰りのホームルームが終わって、僕は席を立った。
耕平と目が合う。耕平は手を掲げた。応援してくれるのは感謝するけど、その手の形は止めて欲しい。
春子と目が合う。にっこり笑う春子。いつも通りの笑顔。
昨日の事を思い出してしまう。夏美ちゃんを裏切った僕が今から夏美ちゃんに会いに行く。罪悪感に思わず足が止まる。
「幸一君」
耳元に小さな囁き。
「昨日の事は幸一君が気にする必要はないよ。幸一君は脅されて仕方が無くやったのだから」
気がつけば春子がすぐ傍にいた。優しげに微笑んでいる。
「行ってらっしゃい。お姉ちゃん応援しているよ」
分からない。春子は何を考えているのか。
僕は教室を出た。春子のそばにいるのが恐ろしかった。
最初は歩いていたけど、気がつけば走っていた。夏美ちゃんの事を考えていると、自然と足が速くなった。
夏美ちゃんの教室をこっそりのぞきこむ。
人がまばらな教室。梓はいないようだ。夏美ちゃんはどこだろう。
いた。向こうも僕に気がついて駆け寄ってきた。
「お兄さん!」
「ごめん。待ったかな」
「いえいえ!お兄さんのためなら一万年と二千年でも待ちます!」
夏美ちゃん何年生きるつもりだろう。
「あ、いえ、すいません。興奮しちゃって」
恥ずかしそうに笑う夏美ちゃん。照れた仕草が可愛い。
「行こうか」
「はい!」
僕たちは並んで歩きだした。小柄な夏美ちゃんに歩幅を合わせてゆっくり歩く。
校門を目指しながら僕らはどこに行くかを話した。
「夏美ちゃんは行きたい所ある?」
「うーん。お兄さんと二人きりになれる場所がいいです」
夏美ちゃんは顔を真っ赤にして言った。
「二人きりか。うーん」
これはどうなのだろう。夏美ちゃんなりのアプローチなのだろうか。
「えっと、お兄さん、そのですね」
恥ずかしそうにもじもじする夏美ちゃん。
耕平が脳裏に浮かび拳を向けた。その手は止めて欲しい。
「夏美ちゃんが良かったら家にお邪魔してもいいかな」
夏美ちゃんは文字通り飛び上がった。
「めっちゃ歓迎です!もうお兄さんの家と思ってください!」
そんなに喜んでくれると、とても恥ずかしい。
「ありがとう」
僕は夏美ちゃんに手を差し伸べた。夏美ちゃんは恥ずかしそうに僕の手をつかむ。小さい手は温かくて柔らかい。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お兄さんが私の部屋に来るのは二回目だ。
私はすごく緊張していた。来る途中にお兄さんと手をつないだのが嬉しくて恥ずかしい。
屋上での続きを期待してしまってドキドキする。いけない。今の私は完璧に変態だ。
「夏美ちゃん」
「はひっ!」
噛んだ。私緊張しすぎ。
「あそこのもの入れは使っているの?」
お兄さんの視線の先には、壁に据え付けの小さな扉の付いたもの入れ。ってえええー。お兄さん、二人きりですよ?私より物入れに興味があるのですか?
「いえ、使ってないです。高くて私だと手が届かないんです」
答えながらも少しへこむ。ハル先輩。お兄さんはやっぱり鈍感です。こうなればハル先輩に教えてもらった方法で誘惑します。
「申し訳ないけど、中を見せてもらっていいかな」
ってそんなに気になるんですか!恋人と二人っきりですよ!
「ご自由にどうぞ」
そっけなく言ってしまう。うーむ。お兄さんすいません。
「ありがとう」
お兄さんは手を伸ばし扉を開けた。お兄さんてすごく身長が高い。私は女子の中でもちょっと低いから羨ましい。
私はため息をついた。今日お兄さんが誘ってくれて私の家に行きたいと言ってくれた時はすごく嬉しかったのに、今はちょっぴり憂鬱だ。私より私の部屋がいいんだ。
お兄さんを恨みがましく見上げる。お兄さんは真剣に奥を調べていた。
「何かあるんですか?」
「ううん。何もないよ」
そうだよ。使った記憶がないもん。私はベッドに座ってため息をついた。今日は屋上の続きはなさそうだ。ううう。私ってそんなに女の魅力が無いのかな。
そりゃハル先輩はほんわかな感じの美人で胸もすごく大きいし、なんていうか大人なナイスバディだし、梓はお人形さんみたいに綺麗で透き通るような肌に艶のある長い髪も素敵だし。
考えれば考えるほどへこんでしまう。お兄さんから見たら私って女の魅力に乏しいのかな。
「夏美ちゃん。隣に座っていいかな」
「どうぞ」
別にがっついて求めて欲しいわけじゃない。だけど、ここまで何もないのも悲しい。
隣にお兄さんが座る。ちょっと動けば触れそうな距離。って近いっす!え?え?いつもお兄さんは微妙な距離をとって座るのに。その距離を詰めるのはいつも私なのに。
お兄さんらしかぬ行動に混乱してしまう。本当にお兄さんなの?
私はすぐ隣のお兄さんを見上げた。目が合う。お兄さんの瞳はいつも通り澄んで綺麗だ。だけど、なんだかつらそうに見える気がする。気のせいだろうか。
お兄さんは私を抱きよせた。お兄さんの腕の中は温かい。積極的なお兄さんにドキドキする。
私はお兄さんの胸に顔をうずめた。恥ずかしくてお兄さんの顔を見られない。
お兄さんの手が私のあごに引っ掛かり、ゆっくりと私の顔を上に向ける。お兄さんの顔が近い。お兄さんの瞳が「いい?」と訴える。
私は目を閉じた。私の答え。
唇に柔らかくて温かい感触。お兄さんの唇。
私たちはしばらくそのままお互いの唇を感じていた。
お兄さんはゆっくり唇を離す。私は目を開けてお兄さんを見上げた。悲しそうな瞳が印象的だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕は夏美ちゃんを上から覗き込んだ。夏美ちゃんの瞳はいつも通り澄んでいる。
夏美ちゃんは変わらない。僕は変わった。
罪悪感が胸を締め付ける。夏美ちゃんの隣にいる資格が僕にあるのだろうか。
「ひっく、うっく」
夏美ちゃんが突然しゃくりあげた。目尻から涙がぽろぽろ落ちる。
「どうしたの」
浅ましくも深い恐怖が僕を包み込む。まさか僕の裏切りを知っているのだろうか。
「ぐすっ、すいません、ひくっ、うれひいんです」
涙を拭いながら夏美ちゃんは僕を見た。うれし泣きの表情。
「わたひっ、みりょふなひのかと、ぐすっ」
私魅力ないのかと。
「うっく、おにひさん、ぐすっ、わたひをもとめへくれなひから」
お兄さん私を求めてくれないから。
「だはらうれひいんです、ぐすっ、おにひさんからもとめへふれて」
だから嬉しいんです。お兄さんから求めてくれて。
夏美ちゃんは泣きながら伝えてくれた。
僕は夏美ちゃんの涙をぬぐい、頬にキスした。
「ごめん」
本当に僕は馬鹿だ。夏美ちゃんにここまで寂しい思いをさせて。
僕の胸の中で泣きながら震える夏美ちゃん。夏美ちゃんの背中に腕を回してそっと抱きしめる。震える小さな背中。
別れると告げたら、夏美ちゃんはどれだけ悲しむだろう。
僕の背中に夏美ちゃんの腕が回される。震える腕が精一杯抱きしめてくる。
言えない。言いたくない。夏美ちゃんが悲しむ姿を見たくない。
僕は静かに決意した。
夏美ちゃんが悲しませないためなら、僕は耐えよう。胸を締め付ける罪悪感も、何もかもを。
僕は夏美ちゃんをゆっくり押し倒した。夏美ちゃんの目を見る。顔を赤くしながら夏美ちゃんはうなずいた。
手を伸ばし、夏美ちゃんの服を一枚一枚脱がしていく。夏美ちゃんの手が伸び、僕の服のボタンを外してくれた。二人とも生まれたままの姿になる。
顔を真っ赤にして恥ずかしそうにうつむく夏美ちゃんの顎に手を添え、上を向かせる。小さい唇に僕はキスした。
「んっ……ちゅっ……あむっ……」
目を閉じ、拙くても一生懸命な動きで応えてくれる夏美ちゃんが愛おしい。
僕は夏美ちゃんの口腔に舌をいれた。ゆっくり舌を絡ませる。
「んんっ…じゅるっ…ちゅっ…んっ」
夏美ちゃんも一生懸命舌を絡ませてくる。僕たちはゆっくりとお互いの舌を舐める。それを何度も繰り返してから、僕は顔をゆっくり離した。夏美ちゃんの唇から糸を引く。
僕は夏美ちゃんの胸を両手で撫でた。滑らかで柔らかい。くすぐったそうに夏美ちゃんが身をよじる。そのままゆっくり揉む。すぐに汗でしっとりしてきた。
「あっ……んっ……やっ……ひうっ」
恥ずかしそうに顔をそむける夏美ちゃんの首筋にキスする。そして強く吸う。
「きゃうっ!ああっ!」
びくりと震える夏美ちゃん。僕はそのまま夏美ちゃんの太ももの付け根に手を伸ばす。ふれるとクチュリと水音がした。
「ひうっ…やあっ…だめです…」
夏美ちゃんのよわよわしい声を無視して僕は夏美ちゃんの膣の入り口の筋をゆっくりなでた。
「ひゃっ…いやっ…あっ…ひふっ…んあっ…ひゃうっ」
体を震わせ熱い吐息を吐く夏美ちゃん。胸を揉む手に顔を近づけ、既に立っている乳首を口にする。
「ひあっ!?」
僕は舌で乳首を転がす。さらに膣の入り口に添えた手の動きを少しずつ速める。
「やっ…だめっ…きゃうっ…んっ…あっ…ひうっ」
夏美ちゃんは必死に身をよじる。その姿が可愛い。
僕は夏美ちゃんの膣に指をゆっくり差し込む。
「ひうっ!?」
夏美ちゃんの膣の中はすでに十分に濡れている。僕は何度も指を往復させる。そのたびに夏美ちゃんは身をよじり震える。
「んあっ、ひあっ、ひゃうっ、ひぐっ、やあっ、きゃうっ」
夏美ちゃんは声を震わせ必死に僕にしがみついてくる。夏美ちゃんにとっては精いっぱいの力なのかもしれないけど、あまりに非力。僕は夏美ちゃんの腕を引き離し、頬にキスする。
僕は夏美ちゃんの膣から指を抜いた。びくりと震える夏美ちゃん。僕の下から切なそうに見上げる。その耳に口を近づけ僕は囁く。
「夏美ちゃん」
びくっと夏美ちゃんは震え、僕の下でもぞもぞ動く。四つん這いになり僕にお尻を向ける。夏美ちゃんはこの姿勢が好きなんだろうか。前に意識がもうろうとしていた時も同じ姿勢をとった。
僕は夏美ちゃんの小ぶりなお尻を少し強めに揉みほぐした。滑らかで柔らかい。
「んっ…あうっ…ひゃっん…あっ」
震える夏美ちゃん。丸見えの膣の入り口から愛液が溢れ出す。僕はコンドームを装着した。初めての動作に少し手間取る。
僕は剛直の先端を膣の入り口の添える。クチュリと水音がした。夏美ちゃんの体がびくっ震える。
「いくよ」
夏美ちゃんはかくかくと首を振った。
僕は両手で夏美ちゃんの腰をつかみ、ゆっくりと腰を押し出した。
「ああっ…んっ…ひっ…やっ…うあっ」
身をよじる夏美ちゃん。夏美ちゃんの膣は相変わらず熱くてきつい。お互いの性器がこすりあう感覚が堪らない。ほどなく膣の奥にたどりつく。子宮の入り口を軽くつつく。
「ひうっ!?」
夏美ちゃんの白い背中が跳ねる。夏美ちゃんはここが弱いらしい。僕はゆっくりと腰を引く。
「ひゃ…あっ…いやっ…ああっ…ひうっ」
じれったいぐらいの速さで剛直を抜く。絡みつく夏美ちゃんの膣が気持いい。僕は夏美ちゃんの膣をゆっくりと何度もかき混ぜた。
夏美ちゃんが切なそうな声をあげ震える。膣の奥をつつくたびに、キュっと剛直を締め付けるのが気持いい。
「んっ…おにいさっ…おねがっ…もっとっ…はやくうっ」
切なそうに懇願する夏美ちゃん。おねだりするかのように小さいお尻がふるふる動く。
僕は腰の動きを少し速めた。結合部からぐちゅぐちゅといやらしい水音が部屋に響く。剛直はスムーズに夏美ちゃんの膣を往復する。
「きゃうっ、やっ、ああっ、ひうっ、いいっ、ひあっ、おにいさっ、んあっ」
悲鳴のような嬌声を上げる夏美ちゃん。白い背中には玉のような汗が浮かぶ。
激しく責めたいのをこらえて僕は何度も夏美ちゃんの膣をすり上げた。ゴム越しでも心地よい感触。柏手を打つようなぱんっ、ぱんっという音が部屋に響く。
「ひぐっ、おにいひゃっ、きゃうっ、なしゅみっ、らめっ、もうらめっ、ひゃうっ」
呂律の回らない舌で必死に訴える夏美ちゃん。僕は少しだけ腰の動きを速めた。夏美ちゃんの喘ぎが少し大きくなる。
「ああっ、ひぎっ、おにいひゃっ、らめっ、やあっ、あっ、あっ、あああっ、あああああああーーーーーっっっっっっっ!!!!!」
夏美ちゃんはひときわ高く嬌声をあげ背中を大きく逸らした。膣が一気に締め付け腰の動きが阻害される。
「ひうっ…あんっ…んっ…あうっ」
ぐったりとして顔を布団に押し付け荒い息をする夏美ちゃん。小さな肩が上下する。
僕はまだイってない。硬いままの剛直で思い切り夏美ちゃんを責めたい衝動を抑え、夏美ちゃんの息が整うのを待つ。
「夏美ちゃん。大丈夫?」
「はいっ…らいじょうぶでしゅ」
あまり大丈夫そうじゃない。
「いいでしゅ…うごいてくだしゃい」
夏美ちゃんは腰をふる。白いお尻がたどたどしく動く。
「んっ……あっ……うあ……」
僕は腰の動きを再開した。とたんに夏美ちゃんは大きく喘ぐ。僕は何度も剛直で膣の一番奥をつついた。剛直の先端にコツンコツンとくる衝撃が気持いい。
しかし、なかなか絶頂を迎えない。ゴム越しなのと、動きを抑えているからだろう。夏美ちゃんを思い切り蹂躙したい男の暗い欲望を必死に抑えた。
「ひあっ!きゃうっ!ひぎっ!ああっ!きゃうっ」
必死に布団を握る小さい手。甲高い嬌声。震える白い背中。全てが僕の嗜虐心を刺激する。必死に我慢し、動きを抑えて何度も夏美ちゃんの膣を往復する。
剛直の先端が子宮の入り口を何度もつつく。その度に膣が剛直を締め付ける。部屋には夏美ちゃんの喘ぎ声と腰のぶつかる音、性器のすれる水音だけが響く。
じわりじわりと腰に射精感がたまってくる。僕は我慢できず腰の動きを少し速めた。
「あああっ!!ひあうっ!!!ひぎっ!!!あああっ!!!」
夏美ちゃんは背中を反らし激しく身をよじらす。僕は両手で腰をがっちり固定した。白い背中はかすかに桜色に染まり、玉のような汗が滑らかな肌の上を滑る。
夏美ちゃんを蹂躙し続け、ついに僕は達した。膣の一番奥でゴム越しに精液を吐き出す。
「ひあっ……んっ……あっ……ああっ……あうっ……ひっ」
荒い息をつきながら震える夏美ちゃん。ぐったりと布団に突っ伏す。小さな背中が小きざみに上下する。
僕は夏美ちゃんの体を返し、仰向けにした。白い胸が大きく上下する。少し激しくしすぎたかもしれない。
うつろに天井を見上げる夏美ちゃんの瞳。疲れ切ったように小さな体をベッドに横たえている。
僕は夏美ちゃんの頬にキスし、シーツをかぶせた。休ませてあげようと思った。夏美ちゃんは幸せそうに眠りについた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
いい匂いにつられて私は目を覚ました。
頭がぼんやりして気だるい。上半身を起こすと掛けられていたシーツが落ちる。
顔を上げると、机の上にコップ一杯の水がある。それを見たとたん、私はのどの渇きを覚えた。
ベッドを下りようとすると足腰がふらつく。股間にすごい違和感を感じる。私は眠る前に何をしていたかを思い出した。
顔に血が昇る。私はコップをつかみ一気に飲みほした。ただの水がとても甘く感じる。 私は下の下着とTシャツだけを着た。
部屋を見渡す。お兄さんはいない。もう帰ったのだろうか。
お兄さんとの情事が脳裏をよぎる。私は胸に手をあてため息をついた。鏡をのぞくと、首筋に口づけの痕が。私はその痕をなぞった。お兄さんの唇の感触が蘇る。
ふと匂いに気がつく。おいしそうな匂い。
私は部屋を出てキッチンに向かった。違和感のせいで歩きにくい。内股気味に歩く。
キッチンではお兄さんが料理をしていた。
「夏美ちゃん。起きた?」
お兄さんは振り返り微笑んだ。笑顔に顔が熱くなる。
「すいません。私だけ寝ちゃって」
お兄さんは笑ってコップに水を入れてくれた。私は礼を言って受け取った。
「勝手にキッチンを借りてごめんね。ご飯を作ったからよかったら食べてね」
お兄さんの手料理。ひゃっほー!テンションが上がるぜ!
「めっちゃ嬉しいです!何を作ってくれたのですか?」
「肉じゃがだよ。冷蔵庫の食材的にそれ以外が浮かばなくて」
「すいません。カレーの材料ばかりですから」
私たちは笑い合った。お兄さんとの距離を近くに感じた。
「夏美ちゃん。名残惜しいけど今日はもう帰るよ」
嬉しさと恥ずかしさに頬が熱くなる。
お兄さんが名残惜しいと言ってくれたことが素直に嬉しい。
「今日はありがとうございました」
玄関まで見送ろうとすると、足腰がふらついた。お兄さんが支えてくれる。
「夏美ちゃん大丈夫?」
「は、はい」
お兄さんのが入っている感触がいまだに残っている。今日のお兄さんもすごく激しかった。
「その、ごめん」
申し訳なさそうに頬をかくお兄さんが可愛い。
「いえ、すごく嬉しかったです」
私の本当の気持ちだ。お兄さんが積極的に求めてくれたのが嬉しかった。
「また明日」
「はい。お気をつけて」
最後に軽くキスをしてお兄さんは帰って行った。
私はシーツを洗濯機に放り込みシャワーを浴びてからお兄さんの手料理を食べた。
いつもは一人で食べる寂しい夕食も不思議と温かかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
外はすでに暗かった。
梓には悪い事をしたかもしれない。夕食は遅れると知らせておいたから一人で夕食を食べたのだろう。
夏美ちゃんの笑顔が脳裏に浮かぶ。炭火のような静かな温かさを持つ女の子。夏美ちゃんの事を考えるだけで胸が温かくなる。
自分でも意外だった。一人の、それも年下の女の子のことを考えるだけでこんなに幸せで温かい気持ちになれるなんて。
そんな事を考えながら歩いていると、前から知っている人間がゆっくりと歩いてきた。幽鬼のような姿に背筋が凍る。
「幸一君」
私服姿の春子が僕の名前を呼んだ。いつもののんびりした笑顔からは想像もできない無表情。
「ついて来て」
春子は冷たい声で僕に告げた。
「春子。僕は」
今日は帰ると続けようとして言えなかった。春子の視線が暗い光を放つ。今まで見たこともない負の感情をぶつけてくる。
「お姉ちゃんはね、お願いしているんじゃないよ。分かっているでしょ」
僕は唇をかみしめた。夏美ちゃんの姿が脳裏に浮かぶ。
春子は僕に近づいてくる。僕の目の前で止まり僕を見上げる。暗い瞳。次の瞬間、迫る春子の手を僕はつかんでいた。
見えていたけど理解できなかった。春子の手が翻り僕の頬を叩こうとしたのを反射的に防いだというのを理解するのに数瞬かかった。
僕は呆然とつかんだ春子の手を見つめていた。白くて綺麗な手。
「ふふふっ。幸一君のショックを受けた表情も可愛いよ」
暗い喜びに満ちた春子の笑顔。
春子の言うとおりショックは大きかった。今まで春子が僕をぶったことはない。春子は僕にとって幼馴染である以上に姉だった。僕にとって一番親しくて身近にいて助けてくれた女の子。
脅迫されている今でも、きっともとの関係に戻れると心のどこかで信じていた。
現実には春子は本気で僕を傷つけようとして喜んでいる。春子に犯されたことよりも、脅迫されたことよりも、はるかに衝撃的だった。
春子は僕に近づき腕をからめた。温かくて柔らかいのに、どこか冷たく感じる。
「お姉ちゃんについて来て」
春子は僕と腕を組んだまま歩きだした。それに引っ張られるように僕も歩いた。
「どこに」
「黙ってついて来て」
僕と春子の歩く方向は夜の暗闇に包まれている。街灯の明かりがあるけど、暗くてよく見えない。
まだ春先なのに、夜の帳は冷たかった。
投下終わりです。
読んでくださった方に感謝申し上げます
ありがとうございました
HPにて登場人物の人気投票を行っています
執筆の参考にしますので、よろしければご協力ください
HPには過去に投下した作品もあり、DLもできますので、よろしければご利用ください
ただし、最新作はスレにしかございません
ご了承ください
続きは規制がなければ来週の週末に投下します
1番槍はいただいたー!
ともあれ実にGJですな。
昼と夜で性格乖離しつつある春子、とても…キモいです。
忘れていました
HPのアドレスは
>>82にあります
GJっす!
もう春子しか見えないw
GJです。キモ姉妹スレの住人は春子お姉ちゃんが好き過ぎるw
自分が加害者で幸一が被害者という状況をあえて作っているのが巧い。そして怖い。
あと夏美ちゃんは四つん這いが好きなんだろうかとやけに冷静に考えてる幸一がなぜか面白かったw
梓のターンはまだでしょうか……
投下させていただきます。
努力はしておりますが誤字脱字など読みにくい点があるかもしれません。
ご了承ください
桜。
桜の木だ。
日本人というものは桜という花がたいそう好きらしく、全国でかなりの数の学校に桜は植えられている。
平凡を地で行くこの伊佐里高校もやはり、桜の木が校門から昇降口にかけての道に数本ずつ両脇に植わっている。
季節は春。
桜の花が日本中で咲き誇る季節だ。
しかし、暦は4月下旬、伊高に植えられた桜は代表的な種である染井吉野で、この時期にはすでに散りきっていた。
代わりに青々とした葉がぽつぽつと開き、陽光に輝いている。
桜の花は咲いている期間がかなり短い。満開になったと思えば、風と戯れるように花弁を舞わせあっという間に散ってしまう。
散ってしまえば、多くの人は1年後再び咲き誇るまで桜から興味をそらしてしまう。
桜は直ぐに散ってしまう儚さがあるからこそ、多くの人に愛されるのだ、なんて誰かが言っていた気がする。
でも私はそうは思わない。
桜は花を散らせても、初夏には青々とした葉を纏い、秋には橙に染まり、そして冬には灰色の体で長い冬に眠る。
「桜は春だけじゃなく、一年中様々な顔を私たちに見せてくれる。そうは思いませんか?」
「……は?何言い出すんだ、いきなり。そんなことよりもさ、俺、君のことが――」
正面に立つ男子生徒が、また何かつらつらと喋り始めた。
もう何度目かわからないその言葉を聞き流しながら、何とはなしに桜の木の枝を一本、手折る。
桜は木を傷つけると、そこから腐っていきやすい。
自分の体の一部が切り離されたことを嘆き、絶望するように。
自らの体を奪った者を呪う感情に侵されるように黒く、黒く染まっていく。
私は、この桜の性質が好きだった。
――私だってそう。
私の隣に、兄さんがいない。それだけで体が腐っていく。
じわり、じわり、と暗澹たる霧が私を支配していく。
逢いたい、逢いたい、逢いたい。
ぎり、と唇をかみしめた。
昼休み、昨夜兄さんと過ごせなかった分、せめて昼食ぐらいは一緒に過ごそうといつもは兄さんが家に帰ってきた時しか作らない弁当箱を持ち、
兄さんを探していた途中に、この男子生徒に呼び止められた。
短い時間で済むから、と言うからついて行ったのに、校舎の影になり殆ど人の通らない場所に一本だけある桜の木の下に着くなり唐突に独り語りを始めた。
桜の木は、日が十分当たらないからか幹が細いように見える。
纏っている緑葉の数も心なしか少なく思えた。
ある程度気付いていた事だけど、男子生徒はどうやら私に告白するつもりらしかった。
今まで曲がりなりにもお嬢様として、蝶よ花よと育てられたせいか余り世間ずれしていない私にだってそれくらい分かる。
ため息をつきそうになって、慌てて堪えた。
……正直今すぐにでも逃げだしたい。逃げだして兄さんの顔を見たい。
例え、この目の前に立つ彼との面識がなく、彼に何の感情も抱いていなくも告白を断るという行為には胸が痛い。
それは、勇気を持って告白してきてくれた人への冒涜にしか過ぎないのだろうけど。
「だからさ、俺たち付きあわねぇ?」
何故か上から目線。
どうやらこの人は先輩のようだから、ある程度年上として接しても別におかしくはないけれど、TPOというものがあると思う。
「付き合う、ですか」
「そう、恋人同士ってやつ。買い物に付き合ってとかじゃないぜ?」
はは、と彼は笑う。
何がおかしいのだろう。首をかしげる。
余りTV等を見ない私には、理解できない笑いどころがあったのだろうか。
ふと、校舎にかけられた時計を見た。
まずい、あと20分ちょっとしか昼休みがない。
多分もう兄さんは学食か購買で、昼食を調達していることだろう。
私の弁当を兄さんに食べてもらうことはもう、適わない。
そう考えた時、私の体はまた少し腐る。
どろどろと澱んだ想いが、胸の中を占めていく。
この想いの前に私の理性は、紙に等しい。
「ごめんなさい」
薄皮一枚の壁で、何とか平静を装いながら頭を下げた。
頭上から、へ、と間の抜けた声。
まさか、告白がうまくいくと本気で思っていたのだろうか。
私が、良く知りもしない男性と付き合うような女だと思われていたのだとすると、甚だ心外だった。
三拍の間をおいて顔をあげた。
男子の顔が、自尊心を傷つけられたように歪む。いつもと同じように真摯な態度で私は見返す。
「はは、冗談だろ?」
「ごめんなさい」
「俺これでも、サッカー部のエースストライカーなんだぜ?」
「ごめんなさい。私サッカーは見ませんので」
私は武道以外のスポーツと言えば野球ぐらいしか詳しくない。
「他に好きなやつでもいるわけ?」
「……」
口を閉ざす。
私としては別に兄さんが好きだと声高に宣誓しても良いのだけど、兄さんに迷惑をかけるようなことをする訳にはいかなかった。
ちっと、舌打ちの音。
「だんまりかよ。お嬢様にとって俺たちみたいな一般人は皆、塵に過ぎませんってか?お高くとまりやがって」
「私はお嬢様じゃありませんよ」
「あぁん!?……はっ、そういうやそうだったな。いくらお前が神童と呼ばれるくらい才能に溢れていても、無能の兄貴のせいで――」
かっと、私の頭に血がのぼった。
地面を滑るように一気に間合いを詰めて、手を思いっきり振りかぶり、男の頬に掌を叩きつけた。
パァンと、小気味よい音。
一瞬何が起こったのか分からず目を白黒させていた男が、やがて訪れた痛みに事態を悟り、かあ、と顔を怒りと羞恥に赤くした。
「ってー」
男が頬を抑えながら、私を睨んだ。
私も目を反らすようなことはせず、じっと見据える。
2〜3歩下がってから、はん、と鼻で笑って見せた。
瞬間、男の顔が面白いくらいに赤く染まっていく。
「お前の方から手ぇ出してきたんだからな。文句言うなよ」
感情のまま間合いを詰めてきた男の手が、勢い良く伸びてくる。
私の右腕が掴まれる。
慌てることなく、男の勢いを利用して足を払った。
同時に手を引くと、行き場をなくしたベクトルが男を回転させた。
男の体が、地面にたたきつけられた。
「かは――」
素人ゆえに、受け身も取れなかった男が息を漏らした。
「お、まえ、っ!!」
何かを叫ぼうとした男の顔すれすれのところに、勢いよく足を踏みつけた。
ひ、と男の悲鳴。
くす、と男の間抜け顔に堪え切れず思わず嘲笑。
お陰で私は幾分冷静さを取り戻していた。
「ねえ」
男子生徒を見下ろす。
彼の目は既に恐怖に染まっている。1歳年下の女を彼は恐れていた。
「貴方、今、何と言いました?」
「……へ?」
「確か、兄さんの事を無能だと言ったように聞こえたのですが。……私の聞き間違いでしたか?」
「あ、あ、」
彼は何を言おうとしたのだろう、もしかしたら否定しようとしたのかもしれない。
しかし、すでに私の意識の中に彼はいなかった。
くるりと踵を返し、兄さんのもとへ急ぐ。
学食か、購買ならば教室にいるはずだ。
確か兄さんは、部活のある日は腹もちが悪いからとパンは食べないはずだから、学食か。
学食へと足を向けて、はたと時計に目がとまった。
昼休みは残すところ10分ほどしか残っていない。
この時間なら、兄さんは既に昼食を摂り終え教室に戻っていることだろう。
方向転換して、兄さんの教室へ。
ここから兄さんの教室まで2〜3分はかかる。
廊下を走るなんてはしたない真似をする訳にもいかないし、授業に遅れるわけにもいかない。
兄さんの教室へ行ったところで、滞在時間は幾分もない。
けれど、一目だけでも兄さんの姿を見ておきたかった。もし贅沢が許されるなら、声も。
「こ、こんな、事して……どうなるのか、わかってるんだろう、な……」
切れ切れの声。
振り返ると男子生徒がよろよろと立ちあがりこちらを睨んでいた。
――面倒ですね。殺してしまいましょうか。
ふと過った考えを、頭を振って追い出した。彼を殺したところで一体何処に得るものがあるというのだろう。
冷静さを取り戻したと思っていたけれど、どうやらまだ燻っていたらしい。ふうと、息を細く深く吐いて気持ちを整えた。
「お前の本性を言いふらしてやるからな!」
「あら、何を言いふらすのでしょうか。貴方が告白を振られた腹いせに襲いかかってきたので、正当防衛としてしかるべき対処をさせて頂いただけなのですが」
それ以上喋らないでほしい、と思った。
もう、これ以上は彼を無傷で帰す自信がなかった。
「な、お前から手ぇ出してきたんだろ!」
「そうですね。ですが、そのような事関係ないでしょう?」
「っ!」
こういう事なら矢張り女性の方が有利であろう。
更に、自分で言うのもなんだが私の言葉と、彼の言葉、人がどちらを信じるかなんて目に見えていた。
「お、俺には仲間が一杯居るんだ……このままで済むと思うなよ」
怨嗟の声。
黙れ下種が、なんて汚い言葉を何とか飲み込んだ。
代わりにため息をつく。これも、余り褒められた行為じゃないけれど。
「どうぞご勝手に。ですがその時は、今回のように生きて帰れると思わないでくださいね」
笑みを浮かべながら告げる。
ひぃ、豚のような声。
男子生徒の顔が死の恐怖に青ざめていく様を十分に堪能する。
「天ノ井は失墜した今でも、ある程度の権力はあります。殺人はさすがに無理でしょうが、傷害くらいならもみ消すなり、改竄するなり出来ると思います」
半分嘘で、半分本当。
実権を握る吉野ならまだしも、私、天ノ井花音にそこまでの力はないだろう。
でも、男子生徒達に無理襲われたなり何なりと言い訳をつけて、正当防衛にするくらいの力ならあるはずだった。
「それと、私、武道が趣味のようなものでして……それなりに強いですよ?」
首を気持ち傾げて告げた。
ひゅ、と男子生徒の口からもはや悲鳴ですらない音が漏れた。
さあ、と春風が吹いて葉桜が揺れた。青々とした葉は、花弁と違い中空に放り出されることはない。
最後に男子生徒に一瞥だけを残し、今度こそ兄さんの元に少しだけ速足で。
1〜2分で兄さんの教室へ、通り抜けるふりをして窓から兄さんの姿を覗こうとして、足が止まった。
兄さんの出来は覚えてる、窓際の一番後ろ。直ぐにその姿は見つかった。
目に映ったのは兄さんと、あの女の姿。
「ったく、お前のせいで昼飯の時間が少なくなっちまったじゃないか」
「ええ、でもそれは飛鳥がいつまでも私のお弁当食べてくれなかったからでしょ」
「だから、教室で手作り弁当とか恥ずいだろ。男子の視線も痛いし。いい加減俺の苦しみを分かってくれ……」
「むぅ、そんなの関係ないもん。それよりも、ね、おいしい?」
「……普通だな、至って」
「うわ、ひどーい」
楽しそうに話す二人。
私は、昨夜から名前を呼んでもらってすらいないのに。
こうやって離れた所から様子を窺う事しかできないのに。
なんだか、自分が凄く惨めに感じた。
ぎり、と歯を噛みしめる音。今すぐ教室の中に飛び込んで、私の作った弁当を渡して、兄さんの持つ弁当箱を窓の外に放り投げたい衝動に駆られた。
「あれ、花音ちゃん?」
背後からかけられた声に、びくりと震えた。
振り返ると、男子生徒が立っていた。確か兄さんの、友人の方。名前は、真木さんだったと思う。
彼はにこり、と微笑みながら
「もしかして、天ノ井――っと飛鳥に用事かな。それなら呼んでくるけど……」
「い、いえ。只通りがかっただけですので……もう授業も始まりますので、失礼します」
早口にまくしたて、逃げるように教室を後にした。
背後から、真木さんが何か言っているようだけど、私の耳には届いていなかった。
「寂しいよ、兄さん」
半ば走るように歩きながら、無意識に呟いた。
† † † † †
放課後。
正直、何度も行くのを辞めようと思ったが、真木と仲がこじれたりして貴重な男友達を失くすことになったら非常に困るので、結局俺は屋上にいた。
まだ、真木は来ていない。呼び出しておいて遅刻か、あの野郎。
あと5分経っても来ないようなら、問答無用で帰ろうと心に誓って――
「で、なんで吉野先輩がここに居るんですか」
「あらあら、私はただ夕焼けが綺麗だから眺めているだけですよ〜」
「それなら、もっとフェンスに近寄ったらどうですか。こんな中央からじゃ見えにくいと思いますが」
「そんなことしたら、フェンスが外れて落ちちゃうかもしれないじゃないですか」
「だから、高いところ怖いなら来るなよ」
吉野先輩の言うとおり、確かに夕焼けはきれいだった。昨日と違って快晴というわけではないが、空に揺蕩う幾許かの雲も夕陽に染まり美しさを助長している。
しかし吉野先輩は、その景色を明らかに見ていなかった。
俺の後に屋上に人が来て、真木だと思って振り返れば何故か吉野先輩だった。
いぶかしげな俺の視線にも構わず、先輩は俺の2歩ほど後方に立ち、さっきから俺をにこにこと眺めている。
「本当、何しに来たんですか……」
「だから、出歯亀だと言ってるじゃないですか〜」
「さっきと言ってること全然ちげーよ!」
あれーそうでしたか?わざとらしく首をかしげる吉野先輩。
「というか、なんで知ってるんですか」
「だって、結構話題になってましたよ?都ちゃんを捨てて真木とくっつくのか――って」
「……はは、またそんな冗談を」
「あははー」
しばらく二人そろってカラカラ笑う。
冗談に決まってる。
今日一日、やけに周囲の視線が生暖かいものだったのも、机の中にいつの間にか男同士が睦みあう本が入れられて応援しています、
なんてメッセージが添えられていたのも、きっと、気のせいだ。
「あれ、飛鳥ちゃん、何で泣いてるんですか?」
「……埃が目に入っただけです」
「誇りがですか?」
「分かりにくいボケっすね」
俺、もう帰ってもいいだろうか。
本格的にそう思っていると、背後から扉の開く音。
振り返ると、今度こそ真木だった。
「来て……くれたんだな」
そう言って真木は照れ臭そうに頭をかいた。
真木の顔が心なしか赤く染まっている。夕陽のせいだ、夕陽のせいだ、と心の中で唱えた。
と、真木が俺のそばにいる吉野先輩の存在に気付いた。
「え、と。何で吉野先輩がここに?」
「出歯亀です」
「へ?」
真木が呆気にとられた顔をした。はっと、気付く。
このままいけば有耶無耶になってくれるんじゃないだろうか。
おお、吉野先輩もたまには役に立つじゃないか。
「俺、天ノ井と二人きりで話したいことがあるんですけど」
「あらあら、私のことは気にしないでいいですよ。通りすがりの牛だと思ってくれれば」
頭の両側に人差し指をくっつけて、もー、と鳴いてみせる吉野先輩。
「はは、しょうがないな、先輩は。真木、吉野先輩がこう言うんじゃ仕方ないさ。話はまた今度――」
「ああ、仕方ないな。本当は二人きりがよかったんだけど」
「そうそう、二人きりのほうがいいに決まって……え?けど?」
真木が、吉野先輩を真面目な顔で見つめた。
吉野先輩は、相変わらずにこにこと女神のような笑み。
「吉野先輩、これからの事は誰にも言わないと誓ってくれますか?」
「ええ、もちろんですよ〜。何なら協力して差し上げてもいいですよ〜。私も彼女とは仲良しですから」
「お見通しですか。敵わないですね、先輩には」
「……え、え?協力?彼女?」
混乱する頭で断片的につぶやく。
真木と吉野先輩は俺の言葉に答えず笑みを交わしあった。
「天ノ井!」
真木が俺を真剣なまなざしで見据えてくる。
猛烈に逃げ出したい気持ちにかられる。
「あらあら、逃げちゃダメ、ですよ」
俺の心を見透かしたかのように、俺の両腕を掴み羽交い絞めにした。
むにむにと、先輩の凶悪なまでの双丘が、背中で変幻自在に形を変えた。
絶対にわざと押しつけているんだろうけれど、もっと楽しみたいという誘惑に勝てず、はは、と誤魔化すように笑った。
しかし、幸福の桃源郷へ足を一歩踏み入れた俺を真木の声が、冷徹にも引き戻した。
「おれ、俺さ……」
だーっ!何頬を染めてるんだよ!
野郎が頬を染めたって萌えねえよ。
むしろ誰得……。
「俺、お前の、お前の」
瞬間的に耳を塞ごうとしたけれど、両腕を拘束されたままでは不可能だった。
恨めしげに吉野先輩をにらんでも、先輩はにこにこと受け流す。
絶対楽しんでるだろ、アンタ。
「お前の妹が好きなんだ!」
とうとう真木が、思いを告げた。
俺の妹が好きだと。
「……え?妹?って、花音の事か?」
「ああ、それで、そのお前に協力してほしいんだ」
ひゅー、と通り抜ける風は春風の割に妙に寒々しい。
妹、妹、ああ、花音ね。
花音との恋愛成就に兄として協力してくれ、と。
なるほどそういうこと、ね。
薄く笑みながら、真木に歩み寄る。
いつの間にか、吉野先輩の拘束は解けていた。少し残念に思ったのは秘密だ。
ぽん、と真木の肩に左手を置いた。
すると、真木が嬉しそうな顔をした。
「協力してくれるか!」
「ああ、協力ぐらいなら何時だってしてやる。でもな……」
ぎゅっと右の拳を固める。右足を一歩後ろに下げて、両膝を少々曲げ腰を落とし、どっしりと構えた。
手加減するのよ〜と背後からかかる場違いな声は無視。
すう、と息を吸って。
「紛らわしいんだよ、お前は!!」
「ひでぶっ!」
渾身のレバーブロー。真木は、今日一日は何も食べられないかもしれない、ざまあみろ。
† † † † †
夕日は完全に沈み、空は星と月の世界だ。
あのあと、真木を保健室に運び俺は部活に精を出した。
妙にすっきりした気分で部活を終わらせたあと学校を出て、人通りも、車さえ通っていない閑静な住宅街を歩きながら考える。
今日は、どこで夜を過ごそう。
いつもは、一人暮らしの真木の家に泊めてもらったり、都の親がいないときには彼女の家に泊まったりしている。
しかし今日は、真木の家には泊まりづらいし、都の家には親がいる。
さすがに、親がいる恋人の家で一夜を過ごせるほど俺は図々しくない。
そしてこの二人のほかに、泊めてもらえるようなアテはなかった。
こういうとき、もっと友人を作っておけばと後悔してしまう。
ホテルに泊まる金もないし、野宿したくなかったなら、自分の家に帰るほかないようだった。
花音の待つ、家に。ぞっと、体が震えた。
あの日の花音の裸が頭をよぎり、今も反芻できるほどのどうしようもない快感が蘇る。
思い出すだけで射精してしまいそうなほどの、悦楽。
血のつながった人間とのSEXは気持ちがいいという話を聞いたことがあるが、強ち都市伝説ではないのかもしれない。
底なしの沼に既に俺は足を取られている。
――あとはじわじわと落ちていくだけ。
「兄さん」
思考を断ち切った声に、びくりとする。聞き覚えのあるすぎる声だった。
前方の闇に目を凝らせば、人影。
まわれ右をして、逆走したい衝動を抑えながらそのままのスピードで人影へと近づいた。
着物姿の、花音が立っていた。
花音は、洋服よりも何かと不便な和服を好み、家の中ではいつも着物姿だ。
花音が俺を、じっと見つめてくる。その瞳に何が宿っているのか、この暗さでは判別付かなかった。
「花音……」
他に何も言えず、ただ名前を呼んだ。
すると、花音は泣きそうな顔で、嬉しい、と呟いた。
「やっと、兄さんが私を呼んでくれました」
「お前……」
何で、と掠れた声でたずねると、
「昨日から、兄さんと話せませんでした、から」
花音が両手を握りしめている。
俯いた花音の目からぽたぽたと二雫、月光に煌めきながらアスファルトを濡らした。
きゅう、と胸が締め付けられるような感覚。腕が、思わず花音の元へ伸びかけていた。
この感情はどこから来るものだろう。
恋情か、親情か、それとも欲情か。
「兄さん、今夜は帰ってきてくれますか?」
不安げな声。
顔をあげて、窺うような上目遣い。その目も不安に揺れている。
答えに窮していると、花音が俺に抱きついてきた。
「兄さん、一人の夜は、もう、嫌、です」
俺の胸に顔を埋め、すがり付いたまま一言一言を区切り、ゆっくりと。
俺の両手が、花音の背中の少し上方を漂う。
「寂しいよ、兄さん」
花音の声が、泣いているように聞こえた。
現在天ノ井家には、俺と花音以外の住人はいない。
ハウスキーパーは居るが、それも昼の間だけ掃除などを済ませてさっさと帰ってしまう。
つまり俺が帰らない夜、花音は一人あの無駄に広い屋敷の中一人ぼっちなのだ。
それでも平気だと思っていた。花音は俺なんかよりも色んな才能にあふれていて、確りしている。
だから、知らなかった。否、知ろうとしなかった。
花音が、一人の夜を寂しいと思っていることに。
俺は花音の兄なのに、両親が死んだ日、花音を俺が守るんだと決めたのに、守るどころか寂しい思いをさせていたなんて。
その間俺が何を考えていたかというと、花音の体のことばかりだったじゃないか。
気がつくと俺は、ギュッと花音を抱きしめていた。
勿論、花音の躰に囚われた心は、今も胸の奥で悦楽を求め怪しく、真紅に燃えている。
正直、何時花音の体を欲望のまま貪ってもおかしくなかった。
でもそれは俺が我慢すればいいだけの事。
花音はきっと、寂しかったからこそあの日あんなことをしたのだ。もう、花音にあんなことを繰り返させるわけにはいかない。
「にいさん、にいさん」
甘えるような声。
脳が痺れてしまいそうな官能の響きを、理性の力で押しつぶす。大丈夫、大丈夫。
「帰ろう」
まだ抱きついている花音の体を、離す。
花音は数秒、残念そうな顔をして、
「はい」と頷いた。
花音の事を愛おしいと思う気持ち。この気持ちはどこから来るものだろう。
恋情か、親情か、それとも欲情か。
花音が、歩き出した俺の手をそっと取りぎゅっと握りしめた。
「ふふ」
花音の笑い声。
「どうした」
「いいえ、なんでもありません」
首を振り、否定しながら、それでも花音は笑う。
僅かな違和感。いつも花音はこんな風に笑っていただろうか。
普段の花音はもっと淑やかに、それこそ撫子のように美しくしかし控え目に笑うのに。
今の花音の笑みは、真っ赤なバラのような印象を抱かせた。
「弓張月が、満ちるのも――」
「え?月がどうかしたのか?」
花音の呟きは、小さくて上手く聞き取れなかった。
いえ、と花音は空を見上げた。
俺もそれを追うように、天を仰ぐ。
「月が、綺麗ですね」
「あ、ああ。そうだな」
産まれてから今まで見てきた月と特に変わらない月は綺麗だ、という感慨を抱かせるものではなかったが、曖昧に肯いた。
花音は月を愛でるように見つめている。
空に浮かぶ半月が満月の時よりも、気持ち弱い月光が、淡く俺たち二人を照らしていた。
俺は、その月を切実な気持ちで見上げている自分に気付き、首を振る。
不思議そうな眼で見上げてくる花音。俺は、誤魔化すように話題を多少慌てて探す。
「なあ、花音」
「はい?」
「真木って知っているよな。真木和泉」
「ええ、兄さんのご友人ですよね」
「そうそう、あいつ、どう思う?」
「どう、とは?」
「えーっと」
何と言えばいいか分からず、口ごもった。
好きか?と聞くのはさすがに直球すぎる。
かといって、中途半端な変化球を投げても下手をすれば真木の気持ちを悟らせてしまうことになるかもしれない。
花音は聡い子だから。
……唐突に真木のことを話し始めた時点で思いっきり不自然だとは思うが。
今更なので、花音が気付いてない事を願うしかない。バレてたらすまん、真木。
幸い、花音は特に気にしてないようだ。それが、真木にとって果してそれが幸か不幸かは、今はまだわからないけれど。
真木には期待している。
真木はいい奴だ。それは自信をもって保証できる。
アイツならきっと花音を幸せにしてやれる。
アイツなら俺のように妹を寂しがらせるような、愚かな事をしない。
――真木、頑張れよ。精一杯俺も手助けするから。
心中で親友にエールを送った。
いつの間にか花音が珍しく、鼻歌を歌っていた。
曲名は、カブトムシ。コイツ、こんなメジャーな歌知ってたんだなとやけに感慨深い。
クラシックとか雅楽くらいしか聞かないと思っていたけれど、そうじゃなかったようだ。
上機嫌な花音の透き通るような声が、夜の空、琥珀の弓張月へと澄み渡っていく。
「兄さん、今日は、兄さんの好きな煮込みハンバーグですよ」
「お、そうなのか。あー腹減った。さっさと帰ろうぜ」
こくりと花音が頷いた。けれど、着物姿で走ることは難しいし、少しだけ速足になったくらい。
春の夜。妹と二人、家路を急ぐ。
どうか、この兄妹の姿が夢の如くならぬようにと、月に祈った。
以上です
スレ消化失礼しました
GJ!
迂闊に帰ったら犯られそうだなw
283 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 15:27:25 ID:yLmZsR0D
乙
期待してます
乙です。
次も待ってますよ。
規制に巻き込まれまくったりバイトが忙しくなりまくったりで超久しぶりの投稿となります。
かなり季節感無視してますが、投下開始します
「あれ?おっかしーな……」
リビングの時計が八時を告げたころ、俺は年代物の冷蔵庫の上段に顔を突っ込んで、まるで大昔の鉱夫のごとく冷凍食品をかき分けていた。
確かこの前買ったはずのが……。と試しに製氷室も開けてはみるが、そもそも製氷室にそれが入るようなスペースは無かった。
あっれ?とか、おいおい。とか呟きながら、俺はひたすらに冷食と保冷剤と冷凍エビしかないような冷凍室をひっくり返す。
「兄さん?」
俺はその声に冷凍室から顔を離すと、俺の背後にはこちらを怪訝そうに眺めるそらの姿があった。
「ああ、そら」いいところに来た。とばかりに俺は口を開く。「俺がこの前買ったアイス知らないか?」
「アイスなら切らしてる」
「本当にか?」
「本当に」
おかしい。昨日見たときはお徳用のソーダ&バニラバーがまだ冷蔵庫の中に数本ほど残っていたはずだ。
「じゃあなんで余ってたのが消えたんだ……」
多分誰かが食ったに違いないだろうが、一体誰が食ったんだ。と、そらの方を振り返る。
案の定、そらは平静を装いながらも視線をそらす。
「…………ちょっと夜に、お腹がすいて……」
なるほど。と俺は頷きながら冷凍室を閉める。
こういう場合、あえて俺はそらを責めない。
だが別に俺は妹を甘やかして責めないのではない。責めればそらのお菓子をちょこちょこつまみ食いしている自分の犯行が責められるからだ。
「仕方ねえなぁ……」
俺はキッチンを後にして、ダイニングの扉を開く。扉一つ隔てた廊下は、これほどまでに寒暖差があるのかと驚きたくなるほどにうすら寒かった。
廊下を駆けるようにして自室へ戻ると、コート掛けから冬用の分厚いジャンパーを取り出し、普段着の上からそれを羽織る。
そのまま無造作に机の引出しをあけると、お菓子の箱を改造した小物入れの中から少しくたびれ気味な鍵を取り出す。
そして通学鞄から財布を抜き取ってジャンパーのポケットに突っ込むと、俺は部屋の隅に転がっていたヘルメットを拾い上げた。
「そらー」再びダイニングの扉をあけると、ダイニングから一間続きのリビングでくつろいでいたそらに向かって叫ぶ。「アイス買いに行くけど何かリクエストあるかー?」
「え?今から買いに行くの?」呆れたような顔でそらは俺の顔を眺めていたが、やがて立ち上がって、こちらの方へと歩いてきた。
「じゃ私も行く」そらはぶっきらぼうな口調で言った。「他にも買いたいお菓子とかあるし。ちょっと待ってて」
そう言ってそらは兄妹共用の部屋に消えると、しばらくして冬用のコートを羽織り、ちょこんとリサイクルショップで買ったヘルメットをかぶった姿で再び現れた。
二人揃って玄関を出て、まるで刑務所か何かのような厳めしいエレベーターで一階まで下りると、そらを玄関で待たせて、俺は駐輪場へと向かう。
それは駐輪場の片隅に止められていた。
ほぼ年式不明のヴィンテージ・ベスパの150ccモデル。父さんが一年前に知り合いから三万で譲り受けた代物である。
俺はスクーターに跨りエンジンを始動させると、無秩序に色とりどりの自転車が並んだ駐輪所を後にして、再び玄関へと向かう。
マンションの薄暗い玄関口で一人立っているそらを見つけると、俺は傍によってスクーターを止める。
「遅い」開口一番、そらは不機嫌な口調で言った。
「遅くは無いさ」
そらは後席に跨り、細い腕がきゅっと俺の体を捕まえる。
よし。と俺はヘッドランプをオンにして、ハンドルを握っている右手首を少しばかり回した。
まだ八時なのに、電車通りはやけに静まり返って、車の量もまばらなほどだった。
すれ違った新緑色の路面電車もまるで櫛の歯を欠いたかのように窓に映る影が少なく、この通りだけ二時間ほど時間が進んでしまったようにも思えていた。
あの電車はすすきの行きだ。時間のあやふやになってしまっている市電通りを通って、時間という感覚を失った街へと、決められた時刻を守って向かうのだろう。
それはそれで酷い矛盾だ。と俺は一人ごちに考える。
不意に、そらがきゅっと、強く俺の体を掴んだ。
俺は、何も言わずに夜の市電通りにスクーターを走らせ続けた。
東急ストアは閑散とした市電通りとは打って変わって、結構な人であふれていた。
アイスの入った籠を脇に会計を済ませているそらを傍目に、俺はレジ前でぼうっと佇んでいた。
一瞬、惣菜を抱えた眼鏡の若い男と眼があったが、すぐに俺は眼を逸らす。
逸らした視線の先には真っ白な再生紙のプリントがいくつも貼られたコルクボードがあった。
近くの小学校の行事予定や学校バザーのお知らせ。見るのも億劫なほど退屈な紙面に、それでも俺は目を通す。
頭上からは歌詞の部分がソプラノサックスの柔らかな音色に置き換わった何年も前の流行歌が降り注ぎ、レジ前のありとあらゆるノイズと混じり合って不協和音に限りなく近い和音を奏で続けていた。
ふと、紙面の罫線で囲まれた部分に目が行く。
「そういや、最近映画見てないなぁ……」
学校での映画の上映会。という文字を追いながら、俺はそう思った。
「兄貴」会計を済ませたらしいそらが俺のそばに戻ってくる。「何見てたの?」
「いや、コレ」俺は小学校の月報を指差す。
「そう……」
そらが包装台の上でアイスを籠からビニール袋へ移し換えてゆくのを眺める。
おお。生意気にダッツまで買ってやがる。
「そら」俺はアイスをあらかた詰め終わったそらに訊く。「お前、最近映画見たっけ?」
「昨日ロードショーでラピュタ見たじゃん」
「本当に映画館で。って意味だ」
ああ。とそらは頷く。
「それなら一年くらい見てない」
そうかい。と答え、俺は台の上のビニール袋を掴むと、入口の方へと歩いていった。
「じゃあさ」外に出ると、俺はそらの方を振り返る。「今度見に行くべ」
ラリホーマの親戚のごとき現代文の授業が終わり、ようやっと訪れた昼休み。俺は弁当を机の上に広げる、とすっと机の下から携帯を取り出した。
授業中からあまりにも退屈な授業を途中から放棄してちまちまと目を通していたその画面には、iモードの映画の上映情報のページがあった。
「どれもこれも微妙なのばっかだなぁ……」俺は携帯画面をスクロールさせる。それが底につくと、俺は電源ボタンを二度連打して、折りたたんでポケットの中へと突っ込む。
「何やってたんだ?千歳」
見上げると、パンを持った健史が自分の席の前に立っていた。
「いや、な。映画でも見に行こうかなって思ったんだけど、何見ようかなーって……」
それを聞いた瞬間、「お前は何を言ってるんだ?」と言わんばかりに健史は呆れた顔をする。
「お前、普通そういうのは見たい映画があって、はじめて映画館に行くんじゃないのか?」
「いいだろ。行きたいんだから行きたいんだ」
健史はまd亜不思議そうな顔で俺を見つめていたが、やがて口を開いた。
「ミニシアターはどうだ?」
「ミニシアター?」はじめて聞く言葉だ。
「昔の映画とか、ちっちゃい映画を上映するトコだよ。中島公園の近くと狸小路に一軒ずつあるはずだ」
それは盲点だった。と俺は再び携帯を取り出し、慣れた手つきで@モードを呼び出す。健史が教えてくれた館名を検索ワードにブチこんでみるとすぐに反応があった。
「中島公園の近くのシアターの土曜日がいい感じだな……古い映画の三本立て」
健史は上映演目を覗き込む、
「劇パト1かぁ……いいなぁ」
「お前も見に行けばいいだろ」俺は再び携帯を閉じると、携帯をポケットに突っ込み、軽く伸びをした。
「お前ほど暇じゃないんだ」
「でさ、うちのバカ兄貴結構成績やばいらしくてさ、この前模試の判定がやばかったとかですっごい嘆いてたワケよ」
昼休みの教室。購買のおにぎりを口に含みながら、千尋はひたすらに喋った。
「そうそう、千歳さんはどうなのよ。千歳さんも結構ヤバかったんじゃないの?」
「あ……うん。ボーダーはぎりぎりだったみたいだけど、結構困ってたみたい」
C判定と言うのがどれほどのものなのかは分からないが、珍しく机に向かって入試問題に頭を抱えていた兄貴の姿だけはよく覚えている。
「じゃあ大丈夫かもね〜」気の抜けた景の声が言う。「ウチのお姉ちゃんも似たような感じで学園受かってたし〜」
「景、あんたのお姉ちゃんとうちの兄貴じゃ比較にならないわよ」千尋はすかさず景に突っ込む。
まぁ、景そっくりの天然かつマイペースで、超がつくほどラッキーガールなお姉さんじゃ何の参考にもならないのは確かだ。
「ねぇ、藍はお兄さんとお姉さんいたよね」そう言って千尋はシマリスのようにサンドイッチをかじっていた眼鏡の少女に話をふる。
藍がこの教室でお昼をとるようになったのは最近になってからだ。
図書室で気のあった私たちはこの数カ月の間にいつのまにかいっちょ前の友達となっていて、私と絡んでたためか自動的に景や千尋とも仲良くなっていったのだった。
ちなみに、ふたりとも藍とあったときにめちゃくちゃ驚いてたのは今も忘れられない。
まぁ、気持ちは分からないでもない。とっくの昔に絶滅したと思われた文学少女だし。
「うん……でもウチは全然参考にならないと思うよ」
「どうして〜?」
「ウチの姉さんはもういろいろ規格外だし、兄さんは大学蹴って就職しちゃったから……」
恥ずかしそうにぽそぽそとつぶやく藍。
「藍のお兄さんって何やってるっけ」
「自衛隊」
へー。と私達は妙な声をあげる。
絶滅危惧種の文学少女と自衛隊員のお兄さんと、彼女曰く規格外のお姉さん。なんとも奇怪な兄弟なんだ。と私は一瞬思ったが、私は失礼だな。とそれを振り払うようにしてちくわの石垣揚げを掴んだ。
休み時間も午後の授業もいつもと同じように退屈なまま終り、掃除当番も無い私はすぐに昇降口に駆け下りる。
靴をローファーに履き替えると、とん、とんと軽く走るようにして電停の方まで向かっていった。
案の定、といえば良いのか。電停にごった返す生徒達の中に、兄貴がいる。私はそばまで駆け寄ると、ぽん。と肩を叩く。
本当は抱きついたりしてみたいんだけど、それは流石に諦めた。
兄貴も私に気づいたのか、ああ。とかおお。とかそんな感じの声をあげる。
「兄貴」私は兄貴のだらんと垂れ下がった手をきゅっと強く握ってみせる。
ついこの前気温がマイナスまで行ったというのに、手袋もつけない兄貴の冷たい手。
「一緒に帰ろ」なら、こうやって温めてあげるのが一番だろう。
兄貴も手があったかくなるし、なにより私が嬉しくなる。
ちょうどその時、お客もまばらな連接車が電停に舞い込んでくる。私は手を握ったままで、兄貴を導くように学生の波に乗って車内の奥へと進んでゆく。
なんとか私は座れそうな席を確保すると、兄貴もその隣りに座る。
学生たちの熱気と座席の下の電気暖房の恩恵を受けた兄貴は、もう私の手を解いていた。
連接車はあれほどいた学生を残らず飲み込むと、いつものごとく轟音を唸らせながら車体を揺らして、徐々に冬へと変わりゆく街を横切っていった。
「なぁ、そら」隣の席の兄貴が口を開く。「今度の土曜日、開いてるか」
開いてるけど。と私は返す。兄貴は少し照れくさそうに、視線をそらしながら言った。
「もしよかったら、映画行かないか」
私はその瞬間、ぼうっと、心の内側から電気暖房で温められるような温かさが広がっていた。
この年になって兄が妹を映画に誘うようなことはまず無い。たとえ妹がそれを望んでいたとしても確率は絶望的だ。
だが、それが実現したのだ。
「なんで私?」私は喜びに顔がほころびそうになりながらも、いつもの表情で、兄貴に返す。
「映画は二人とか三人で見た方が面白いからだ」
連接車がゆっくりと曲線を通過してゆく。眩しいほどの夕日が反対側の窓から入り込み、私と兄貴を照らした。
「それに、一度見た映画は筋を知らないヤツがをいっしょに連れてった方が楽しいからな」
私の返事は、もちろんイェスだった。
しかたないから。とちょっとだけ素直になれないように取り繕って応えた私に、兄貴は「素直になれよ」と案の定言ってくる。
もうとっくの昔に、私は自分の気持に素直になっているっていうのに。
日曜日はすぐにやって来た。
俺は出掛け支度で忙しいそらを家に残して、一人駐輪所へと向かう。
駐輪所の隅の二輪車スペースで他のスクーターに混じって眠っているベスパを始動させ、跨ると、俺はすぐさまマンションの玄関へと戻った。
マンションの玄関口には既にヘルメットを被り、余所行きのためにおめかししたそらが待っていた。
結局散々何を着るか悩んだ挙句落ち着いたらしい、そらのお気に入りの白いフリルのカットソーに、灰色のティアードスカート。その上に冬用のコートを羽織っている。そして口元には慣れない口紅が引いてある。
「今日のお前、案外可愛いかもな」お世辞ではなく、本気でそう思った。
「兄貴もやっと私の魅力に気づいたんだね」
そらは笑いながらくるりと舞う。
半ば呆れた俺は、上機嫌のそらの腕を引っつかむと、強引に自分の方に引き寄せた。
「もう、兄貴ったら大胆♪」
「……なんならこのままベスパ出すぞ」
それは困る。とそらは慌ててベスパの後席にまたがる。
腰にきゅっとそらの手が巻き付いたのを確認すると、俺は右手を軽く回す。
ふたり乗りのスクーターはマンションの前の路肩を眠たそうに駆け出した。
ギアを徐々に変えてゆくと、それに答えるようにベスパの寝ぼけたような走りがどんどんと軽快になってゆく。
ベスパは表通りに躍り出ると、車の群れに混じって落ち葉の混じる直線路を東へと進んだ。
ブルーの表示看板の通りに幾度かの角を曲がると、すぐに中島公園の近くにたどり着いた。
そこから俺は記憶を頼りに、信号機の住所表示をひとつずつ注意深く見ていきながら進む。そのうちに記憶と合致する住所を発見すると、そのまま裏道へと入っていった。
裏道の先には、あたりを商業ビルに囲まれて、一軒だけほかより高いビルぽつんと建っていた。
それがお目当ての映画館だった。
「お」ベスパを停めようと、映画館のすぐ隣の、商業ビルとの共用らしき駐車場に足を踏み入れると、俺は間抜けな声をあげる。
「すげぇ……本物の二代目スカイラインだ」
俺の視線の先には、駐車スペースにちょこんと鎮座した古式ゆかしい車―――二代目日産・プリンススカイラインがあった。
しかもあの側面の赤いエンブレムからして、おそらく2000GT-B。こんなレアな車に出会えるなんて、今日はついてるのかもな。
「ほら、兄貴! 行くよ!」スカイラインにかぶりつく俺はそらに引きずられるようにして映画館の中へと入っていったのだった。
映画館といえばすすきのの東宝公楽や駅ビルのシネコンが思い浮かぶような私にとって、この小さな映画館はそれだけで新鮮だった。
俗っぽいポップコーン売り場や売店も無く、劇場以外にあるのはあるのはパンフレットを一緒に売っている小さなカフェだけ。
すべてがせせこましく、なんとなくかわいい空間だった。
「あ、そらちゃんに千歳さん!」突然私と兄貴は聞き覚えのある声に引き止められる。
振り返ると、そこには普段の彼女では想像できないような可愛らしい姿の藍が、私の見知らぬ男女とともにいた。
女性のほうは年齢は二〇代前半だろうか、藍とよく似た質の黒髪を腰辺りまで伸ばしていて、少しきつめの両眼が鋭い印象をあたえている。
だが決してきつそうな印象は無く、藍ほどではないが柔らかい印象を持った、理想の大人の女性をそのまま具現化したような酷く魅力的な女性だった。
対して男性の方はというと掴みどころが無い、いたって普通といった感じの青年だが、すこしばかり体つきが良いのが目立った。
「よう、里野」兄貴が言う。「そっちの人たちは?」
藍は少し照れくさそうに、兄貴に答えた。
「うちのお姉ちゃんと、お兄ちゃん」
と言うと、どうもこの二人こそが件の自衛隊員のお兄さんと規格外のお姉さんらしい。
同じように頭を書きながら照れくさそうに藍のお兄さんが口を開く。
「どうも妹がお世話になってます。ボクは、里野大(ひろし)です。こっちは姉の育(いく)」
よろしく。とお姉さん――育さんも微笑み混じりに答えると、育さんは大さんと藍の体を押した。
「ほら、ひろくん。早くしないと映画始まっちゃうよ」
ああ、そうだった!と叫ぶ大さんとうちの兄貴。
私も時計を見ると上演時間までもう少ししか無い。私達は急ぎ足で劇場へと向かっていった。
小さな劇場の中はそれなりに人が入っており、もう何度もビデオ化されている古い映画にこれだけの人が集まるのか。と私は変に感心する。
私たちは席に座ると、やがて照明が落ち、しばらくしてスクリーンには夕焼けに照らされた巨大な工場建築が映し出された。
そこからはまるでジェットコースターに乗ったみたいに、私は時間を忘れて食い入るようにスクリーンに釘付けになってしまっていた。
私は登場人物やうさぎの耳のようなアンテナをつけた白いロボットが薄暗い銀幕を縦横無尽に走り回り、戦ってゆく様を一瞬でも逃すまいと凝視し、一つ危ういシーンがある度に私はぎゅっと強くてを握って、更に強くスクリーンへと惹かれていった。
隣で映画をみている兄貴は既に筋がわかっているからか私よりも冷静だったが、それでも肘掛の上で強く手を握っている。
やがて勇ましい音楽と共に上映が終わり、館内照明がついてゆくと、私は兄貴の方を振り返る。
「すっごい面白かった!」
その反応に兄貴はきょとんとした顔で「はぁ……」と答えた。
「久々にすかっとする映画が見れたよ、兄貴、本当にありがとう」これは偽ること無く本当の、率直な感想だった。
「そうか……」兄貴はそういうと、また銀幕の方を振り返る。「俺は実は2のほうが好きなんだけどな」
「あー、2かぁ……」口を挟んできたのは後ろの席に座っていた大さんだった。「オレ、あれもう素直に見れないんだよなぁ」
「どうして?」更に隣の育さんが口を挟んでくる。
「ほら、オレ本人がもう陸自づとめだから……結構複雑な気持ちで見ちゃうワケよ」
「え?お兄さんって陸自だったんですか?」
すかさず食いつく兄貴。
「あ、うん。一応輸送科でトラック乗ってるの」
「え、じゃあ……」
そのまま話がコアな方向へ発展してゆくと、もう見てられない。とばかりに私は顔を伏せた。
そのまましばらくすると、また照明が暗くなる。
今度の映画は先程のやけに動く映画と違い、酷く動きの少ない、淡々としたものだった。
兄貴が言うには同じ監督の映画らしいのだが、妙に哲学的な雰囲気が鼻につく映画で、わけがわからなくなった私は途中で考えるのをやめて、ただぼうっと、何も考えずに画面に映る不気味な少女人形を眺めていた。
三本立ての最後の映画が始まったのは、二時を少し回ってからだった。
からからと映写機の回り始める音が聞こえ始め、少し遅れて、真っ暗だった銀幕にほんのり明かりがともる。
そして次の瞬間、私の眼に飛びこんだのは一面の桜並木だった。
わぁ。とその華麗な画面に嘆声をあげる私。
「ねぇ、秒速5cmなんだって」映画の中の少女が言う。
ふと、兄貴がちらりとこちらの方を向くと、すぐにまた眼を戻す。
その時私はもう、映画の中に吸い込まれていっていた。
きっと他人が私を見れば間抜けなままに口を開けて、ただ呆然と映画を眺めている用にしか見えないだろう。
だが兄貴は、わたしがこの甘酸っぱい恋愛映画に吸い込まれて行っているのがわかってたのか、自身もじっと銀幕を凝視していた。
そして、甘酸っぱいラヴ・ソングとともに物語が終わると、私はちらりと兄貴の方を眺めた。
「兄貴」
「なんだよ、そら」
「今の映画、面白かったね」
「ん、まぁな」
兄貴はがりがりと頭を掻く。
「でも、ちょっと俺には破壊力が強すぎたな」
「へー」私はいたずらっぽく笑って、兄貴の頬を突っつく。「まぁ、恋愛経験の無い兄貴は耳をすませばで死にそうになるからねー」
「なんだよ……その言い方は」
「その通りのことだよ」私は席を立ち上がって、出口の方へと向かってゆく。「なんならわたしが彼女になってあげよーか?」
「お断りだっ!」兄貴は頬を赤くして叫んだ。
その後ろでくすくすと里野兄弟が笑っていたのは言うまでもなかった。
本当は、映画はすごく切なくて、私は泣き出しそうになった。
初恋なんかかなうはずが無い。
それが兄と妹なら、なおさら。
それが悔しくて、映画の主題歌に私を重ねて、もう気を抜いたらすぐに泣いてしまいそうだった。
私たちはその後、里野兄弟と一緒に電車通りのファミレスへと向かい、お兄さんとお姉さんのおごりでちょっとしたスイーツタイムを取ることになった。
「でもあのスカイラインがお兄さんのだって、思っても無かったですよ」
「君こそ高校生であんなベスパ乗ってるなんて、相当渋いよ」
男二人はテーブルの隅で私たちをそっちのけで車の話題や私たちがついていけないような話にまで盛り上がっている。
私はそれを横目に、少し大きめのパフェをつつく。
「でもそらちゃんって本当に思ったとおりの子だったわねぇ」お姉さんはチーズケーキを口に運びながら藍の方を向いて言った。
え?ときょとんとしている藍。
「本当に千歳さんと仲が良いみたいね。って意味」
その言葉に一気に私は、皮膚の温度が上がっていく感覚に襲われた。
「もう遠目で見ると千歳さんの彼女みたいだったわよ」お姉さんは更に追い打ちをかける。
凄い嬉しいのに、なんでだか酷く恥ずかしくて、申し訳ない気がしたのだった。
「……どうしたんだ?そら」最悪のタイミングでこちらを向く兄貴。
「なんでもないわよ! バカァッ!!」
思わず、そう叫んでしまった。
これじゃステレオタイプのツンデレじゃない。私はこころの中で呆れながらも、まだ恥ずかしさに火照っている頬を鎮められなかった。
さっきあんなに感じた切なさは、日常と言う時間の中に吹っ飛んでしまったかのようだった。
以上。投下終了です。
ちなみに蛇足ですがキャラ名の由来について。
北見千歳=JR北見駅、JR千歳駅
北見そら=特急「おおぞら」
北見美幸=JR美幸線(廃線)
定山景=定山渓鉄道(廃線)
藤野健史・千尋=定山渓鉄道藤野駅
里野育・大・藍=JRあいの里教育大駅
GJ! これはいい兄妹
GJ!
余談だが俺の車は2代目日産フェアレディだぜ
GJっす。
余談だが俺は高校の時カブ乗ってたZE
298 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 01:43:51 ID:NX3IkFNy
>>292 GJ
俺もこんな妹を書きたかったぜorz
299 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 01:44:49 ID:NX3IkFNy
まさかのさげ忘れ……すまん
woo...
302 :
失礼します:2010/01/12(火) 10:03:54 ID:EeciTKeL
面白いけどキモくはないね
投下します。
以下本編。
家に帰り、殆ど済ませておいた夕食の調理に直ぐ取り掛かった。
「おーい、花音。飯はまだかー。部活帰りに何も食っちゃ駄目ってのはさすがに応えるんだが」
「あと幾許か待っていてください、今温めているところですから。お風呂が沸いていますから、先に入ってきてはどうですか?」
「風呂入ると更に腹減りそうだから後でいいや。それより、菓子食っていていいか?煎餅と饅頭しかないけど……」
「ダメです、ご飯の前にお菓子なんて」
「ちぇー、じゃあ早くしてくれ―」
兄さんは不満そうにいいながら、ご飯の事に関しては私に逆らえない。
兄さんの料理の腕は壊滅的だし、私が作る料理は兄さんにとって一番美味に感じているはずだから。
それも当然だ。私は兄さんの舌に合うようにと云う事のみを考えて、かれこれ十数年間料理の腕を磨いてきた。
兄さんの好きな食材、調理法、味付け等は当然として、味の濃さや兄さんの口に合う調味料の銘柄に渡るまで全て兄さんの好みは把握している。
今日の昼、あの女の弁当を食べて兄さんが普通だと言うのも、当然の摂理と云うもの。
――兄さんに、あんな栄養も何も考えてないような酷いモノを食べさせるなんて、くびり殺してしまいたい。
どうも、昼のあの男のせいで思考が黒く澱んだまま晴れていない。
心中で沸々と茹で上がっている感情も、上手く冷めてくれない。
私は、周囲から、それこそ兄さんからも理性的な人間だと思われている。
けれど、私は生れてこの方、度々心奥の本能に身を任せてきた。
私が兄さんを愛する理由、それは衝動に他ならない。
兄さんと一つになりたいという衝動、それこそが私の愛の本源だ。
今は亡き私の両親の話では、私は両親よりも兄さんに懐き、いつも兄さんの手を握ったり口にしゃぶったりしていたのだという。
その頃の記憶はさすがにないが、そうすることで兄さんと一つになれた気がして落ち着けたのだろう。
その衝動から来る行為は、次第にエスカレートしていき、手を握ってしゃぶるから、キス、そしてあの日。
煮えたぎるような衝動に破れた私は、兄さんの食事に微量の睡眠薬を混ぜて犯した。
今となっては、正直早まった行動だと思わないでもない。私にだって、初めては兄さんの方からなんて、甘い幻想はあったのだから。
けれど、それ以上にもう一度、もう一度、と求めてしまっている。
兄さんと一つになるという原始の衝動を満たした快感の虜となってしまったのだ。
それでも、つい昨日までは兄さんの事を考えて機が熟すまで行動を控えようと思っていたのだけれど、今日色々あったせいか気持ちに歯止めが利かなくなっている。
兄さんを求めてやまない心奥の私と、普段の私。
どちらも私で、どちらも本当。
手に持った瓶を見つめる。掌にすっぽり納まるくらいの小さく透明な瓶。
その中には、少しとろみのある蜂蜜色の液体。かといって蜂蜜ではなく媚薬だ。
何故こんな物を私が持っているのかと云うと、私の祖父が使っていたものだからだ。
祖父が、この媚薬を相手に使っていたのか、それとも年老いた自分の体に使っていたのかは定かではないし、知りたいとも思わない。
衝動を満たすための行動を起こすにあたって、何か役に立つようなものはないかと屋敷を物色して祖父の部屋で睡眠薬と一緒に大量に見つけたものだった。
他にも祖父の部屋には、性交に使う胡散臭いモノがごろごろあったが、まさか中古のそれらを使う気にもならず、結局睡眠薬とこの媚薬以外はそのままにしている。
リビングを振り返り、兄さんがソファにだらりと転がってTVを見ていることを確認。
普段なら注意する所だけれど、態々こちらに意識を向けさせる必要もないだろう。
それにしても、と思う。
あの日兄さんは、夕飯に睡眠薬が仕込まれていた事に何となく気付いているはずだ。家に殆ど帰らなくなった理由の一つにあげられるだろう。
それなのに、私が涙を見せて頼み込んだだけで、あの日の事を謝り二度としないと誓ったわけでもないのに私を信じてくれている。
もしかしたら兄さんは、私とのまぐわいを求めているのかもしれない。
兄さんの事だから、きっと心の中ではもう二度と私との性交をしないように決心しているのだろう。
けれど、私に寂しい思いをさせないために家に帰ることを決めて、欲情に流されないように自分が我慢すればいいと思っているはずだ。
そう心の表面では思っていても、心の奥ではあの日の快感に囚われているに違いない。
だって、私も同じ。私だって悦楽の沼に足を取られている。
兄さんと違うのは、私がその沼に進んで足を踏み入れた事。否、むしろ、私自身がその沼なのかもしれない。
あの日、初めて兄さんと繋がった感覚を思い出して、ぶるりと体を震わせた。
手に持った瓶のふたを外す。
きゅぽんと少し間抜けな音。
ふわ、と無味無臭のはずの液体から甘い芳香が発されている気がした。
その琥珀色の液体を、少量、煮込みハンバーグの入った兄さんの皿に振りかけた。
この程度なら、正直あまり催淫効果は高くない。これは何度も自分に試したから間違いない。
……もしかしたら、私のこの唐突な行動は、今まで蓄積された媚薬のせいかもしれない。
だとすれば、私の作戦も強ち的外れなものではないかもしれない。
兄さんは、これから毎日家に帰ってきてくれるだろう。
その度に兄さんの料理に、この媚薬を少量ずつ偲ばせて摂取させることで媚薬を摂取した感覚が癖となって、じわじわと兄さんを追い込む事が出来るはずだ。
少量の媚薬は、基本的には1日もたてば殆ど効果を失うけれど、それを毎日蓄積していくとならば話は別だ。
兄さんは、意思が弱いわけではない。
だから、今の時点でまた私と体を交わらせたら罪の意識に潰れてしまうかもしれなかった。
そうなってしまえば、私たちの関係は恋人はおろか兄妹としての関係さえも潰えてしまうだろう。
それだけは何としても避ける必要があった。
媚薬入りのハンバーグの皿をキッチンそばのダイニングのテーブルへと運ぶ。
他にも、サラダやご飯などをテーブルに二人分並べて、
「兄さん、ご飯ができましたよ」
「おお、やっとか……。もう、匂いだけでお腹と背中がくっつきそうだったぞ……」
「すみません……兄さんには温かくて、一番おいしい状態で食べて欲しかったから……」
「いや、俺は花音の料理なら、どんなものでも上手いと思うんだけどな、別に」
そう言いながら兄さんは、さっさと席について箸を取って料理に手をつけ始めた。
「もう、兄さんったらいただきますもせずに食べて……お行儀が悪いですよ」
「はふ、はふ、ああ、そうだな、でも、むぐ、もう食べちゃったし。細かい事を気にするなって」
「もう……あと食べながら喋るのも感心しませんよ」
呆れた声で言うと、兄さんが、かかと笑って再びハンバーグを口に運び始めた。
兄さんの意思を砕く、甘い蜜が入ったハンバーグが兄さんの体内へと運ばれていく。
「……すみません、兄さん」
「へ?どうした、唐突に?」
どうしたというのだろう。私もよく分からない。
これは私が望んでやっている事。それは間違いないのだけれど、心の隅に申し訳ないと思う気持ちがあるのもまた確かだった。
私がやっている事は、結局兄さんの思いを裏切り、兄さんの尊厳を踏みにじる行為に他ならないのだから。
私は首を振って、
「いえ、夕飯の時間が遅くなってしまいましたし、少し調理に失敗してしまいました……味におかしい所はありませんか?」
「ん?んー、いつもと変わらないと思うけどな。まあ、腹減ってる状態なら何でもおいしく感じるってのもあるのかもしれんけど」
「そうですか、それならよかったです」
「心配すんなって、花音が作る料理はまず間違いなく上手いから」
「ふふ、そんな買い被り過ぎですよ。私だって失敗することぐらい、一杯あるのですから」
「そうかー?少なくとも今まで俺は、花音の失敗作に出会ってないけどな」
二人きりの食卓。
実際は3日ぶりなのだけど、それでも凄く久しぶりのような感じがした。
不意に、涙が出そうになる。ぐ、と何とか涙腺の奥で堪えた。
代わりに、精一杯、笑みを浮かべた。
「んぐ、んぐ……どうした、今日は妙に上機嫌だな」
兄さんが、不思議そうな目をした。
「そうですか?いつもと然程変わりませんよ」
「いや、お前の笑ってる所見るのもなんか久しぶりな気が……」
「それはそうかもしれませんね。私は余り外で笑わない方である事は自覚していますから」
ですが、と箸を置いて兄さんを見つめた。
兄さんも食べる手を止めて、こちらを見返してきた。
数秒の間、それだけで二人きりのこの家は、忽ちしんと静まり返る。
「ですが、家の中では割と笑っていると思いますよ?」
「……」
兄さんが気まずそうに、目を反らした。
ふふ、と声に出して笑ってから、
「すみません、少し意地悪でしたね」
「……いや、俺が悪いんだ」
兄さんが一回強く瞼を閉じて、直ぐに開いた。
そして、再びこちらをじっと見返してきた。
その瞳は、真摯な色に染まっている。
見据えられた私は、それだけで頬が紅潮してしまうのが、手に取るように分かった。
花音、兄さんが真剣な声で私を呼んだ。脳髄が蕩けるような、甘い、甘い、感覚。
私は媚薬を摂取していないはずなのに、昂揚に体が火照り、下半身が疼いた。
そんな私の変化に気づかず、兄さんは続ける。
「今まで、寂しい思いをさせてすまなかった。これからはそんな気持ちにさせないように、兄として、頑張るから。一人で悲しむんじゃなくて、俺に何時でも頼ってくれ」
結局、兄さんは最後まであの日の事に言及することはなかった。
兄さんが家に帰ってこなくなったのは、全て私のせいに他ならないのに、それを責めることをしなかった。
それは、私を気遣っての事か、それとも言葉にすることを恐れたのか。
多分、どちらも正解なんだろう。
だからこそ兄さんは、「兄として」の部分をあえて強調して言葉にしたのだろう。
「いいですよ、もう。気にしていませんから。それに」
私は、そっと首を振った。
確かに兄さんがいない夜は寂しくて、それこそ枕を涙で濡らすなんて、どこぞの古典の世界のような事を味わったけれど。
そんなことは、もう、どうでもよかった。
「兄さんが、これからは傍に居てくれるのでしょう?」
「あ、ああ。少なくともお前に好きな男ができて、ソイツがお前を幸せにできる奴だったらな」
「ふふ、そうですか。それならば、安心です」
そう、安心だ。
だって、私が兄さん以外の男の人を好きになることなんて有りえる筈がなくて。
私の根源の衝動を満たして幸せにしてくれるのは、兄さんを措いて他に居ないのだから。
† † † † †
花音と二人きりの夜。
それがここまで辛いものだとは、思ってもいなかった。
体が熱い。
欲求不満だろうか。ふと考えて、否、と自ら否定。
昨日、都とシたばかりなのに、もう欲求不満になるほど盛っているつもりはない。
と云う事は、この昂奮の原因は花音とのSEXを求めているが所以となるのだろうか。
だとすれば、俺は花音の兄として、のっぴきならない所まで来ているのかもしれなかった。
「クソ……!」
心ではたった一人の妹を守らなければならない、という義務感にも似た思いを強くしながらも、花音を求める性欲に満ちた自分の不甲斐なさが情けなかった。
花音と二人きりの夜なんて、今まで数え切れないほど過ごしてきたというのにその時どのように花音と接していたのか、もう分からない。
夕飯の後風呂に入っている時から、妙に体が熱を帯び始めて花音と顔を合わせるだけで襲ってしまいそうになった俺は、逃げるように部屋に閉じこもっている。
クソ、ともう一度自分に毒づき、舌打ち。
今日はもう、さっさと寝てしまった方がいいだろう、と明日の授業の予習などもせずにベッドに潜り込もうとして――
「にいさん」
どきり、と心臓が一拍、大きく跳ねた。
まさか、と思う。
思いながら振り返ると、花音が部屋の入口に立っていて。
愛用の白絹で仕立てた着物の寝間着姿で、じっとこちらを窺っていた。
「な……」
「な……」
みっともなく悲鳴を上げそうになるのを、何とか堪えた。
何で、ここに花音がいるのだろう。俺はドアを開けっ放しにしていたのか……?
そんな馬鹿な。
幾ら、俺がそれどころじゃない状態だったとしても、ドアくらいは閉めたはずだ。
そう思っては見るが、相変わらず思考には靄がかかっていて、完全に閉めたと証明できない。
それに、俺がドアを閉めたのならば、ドアを開けたのは当然花音と云う事になる。
しかし、ドアが開く音なんて聞こえなかった。
俺の部屋は、花音の部屋と違って普通の洋室。
戸も襖じゃなくて、ドアだ。襖のように音を極力立てずにドアを開けるなんて、そう易い事ではない。
音を立てないように、細心の注意を払ってゆっくり、ゆっくり開けて何とか、と言ったところだろう。
それならば。
それならば、花音が俺に気付かれないように細心の注意を以て、ゆっくりと時間をかけてドアを開けたと言うのか?
だとするならば、一体、何のために?
混乱する頭。やがて、花音がゆっくりと口を開いた。
「顔色が悪いようですが、どうかされたのですか?」
「え?……あ、ああ、大丈夫だよ、別に。ただちょっと疲れただけだ。こんなの寝れば直ぐに治る」
「そうですか」
呟いて、花音は顔を伏せた。
そして、何やらもじもじと指を突き合わせて挙動不審な様子。
「か、花音?」
唐突な、花音の様子の変化に戸惑いながら呼びかけた。
すると、花音はがばっと顔をあげて、意を決したように俺を見上げた。
ついでに身を乗り出して来た花音から逃げるように、思わず2〜3歩後退った。
しかし、花音は俺を追いかけるように近づいてくる。
壁に背が当たる。追い詰められた。目前の花音が、そ、と俺のシャツの裾をつまんだ。窺うような上目遣い。
「わ、私も……」
何を言うつもりなのか。
ごくり、と喉が鳴った。
あの日の強烈な快感が、蘇りそうになる。
「私も、一緒に寝てもいいですか?」
「え?」
何だそんな事か、と反射的に言いそうになって口を噤んだ。
一緒に寝る、の何処がそんな事だと言えるんだっつーの。自分で自分につっこんだ。
それにしても珍しい、と思う。
花音は結構古臭い思考の持ち主で、男女7歳にして同衾せず、とでも言うかのような人なのに。
……あの日の事は、まあ、今は置いておくとしても。
とにかく、そう易々と一緒に寝てもいいかなど頼むような人じゃないのは確かだ。
「ど、どうしたんだ、突然」
だからか、俺の声も少し上ずって聞こえた。
花音は再び俯いて、もじもじ。
数秒の後、
「さ、さびしい、から」
と、蚊の鳴くような声で、呟いた。
よく見ると、頬が赤く季節外れの林檎のように染まっている。
「そ、そうか」
ずるい、と思う。その態度は卑怯だ。
普段と清廉、楚々として、けれど何処か凛とした女の子のこんなギャップを見せられたら、男としてはクラッときてしまう。
例え相手が、実の妹であったとしても、だ。
ドクンと、一際鼓動が速くなり、血流が盛んになった感覚。
下半身へと血が溜まっていきそうになるのを、心中で経を唱えて理性の力で何とか抑えこむ。
やってて良かった、武道。
「だめ……です、か?」
「あ、ああーっとな」
正直、困る。妹を守ろうと決めた手前、早速頼られるのは兄として光栄に当たる事なのだが、それよりも自分の理性が心配だった。
自分の理性というものが、あっという間に破れてしまいそうな程薄っぺらい物だという事を知っていれば、尚更。
花音は、俺を兄として頼ってきている。普段は気丈にしていながらも、矢張り一人の夜というものは余程応えていたのだろう。
俺だって、こんな無駄にだだっ広い家の中で一人にされたら、寂しさを感じずにはいられないだろう。
ましてや花音は女の子だ。
だからこそ、こんな珍しく、大胆な行動に出たのだろうし、俺だって兄としてその気持ちを汲んでやりたい、と思う気持ちも勿論ある。
けれど、と心奥で警鐘が鳴る。
いまの状態で、花音と一緒の布団で寝るなんてそれこそ、花音に沸々とした欲求をぶつけてしまいかねない。
何度も言うようだが、俺の理性なんて所詮信用に値するものじゃない。
かといって、折角の親愛なる妹の頼みを無碍に断れるほど冷血にもなれなかった。
は、と思わず嘲りにも似た苦笑を漏らした。
親愛なる妹だって?
その親愛なる妹から逃げ惑ってより寂しい思いをさせたのは、誰なんだっつう話だよ。
「にいさん?」
不安げな声。
俺を見上げてくる花音の瞳が、怯えに揺れている。
うっすらと、涙の膜が張っているようにも見えた。
クソ、と心中で自分を殴りつけた。
妹を守るって改めて誓ったばかりなのに、既にこのザマだ。なんて情けないんだろう。
自分の理性が信じられないからとか何とかぐちぐち理由を付けて、結局また守るべき存在から逃げているだけ。
改めて誓ったところで、俺は何にも変わっていない。
花音の頭に、ポンと手を置いた。ふぁ、と花音が鳴いた。
妹の背は、女では高い方だろうがそれでも俺の肩くらいだ。
こんなにも小さかったっけ、と声に出さず呟いた。
思い返してみれば、俺は今まで花音から何か頼られたような記憶はなかった。
俺なんかの手助けがなくても花音は何でもやり遂げたし、寧ろ俺よりもあらゆることを上手くこなしていた。
こんな小さい体で、今までずっと一人で頑張ってきたんだ。
たまに頼られた時くらい、妹のために行動せずに何が兄か。
一緒に寝る?良いじゃないかそのくらい。
寧ろ、凡庸な俺が、俊才の妹に出来ることなんてそれくらいしかないじゃないか。
「ここじゃ狭いから、一階の座敷にでも布団を敷いて寝るか」
「あ……はい!」
花音が嬉しそうに頷いた。
それを見て、良かった、と心の中で頷く。
まだ躰の昂揚はおさまらない。どころか段々と増していっている気さえする。
それでも、この笑顔は間違いなく俺が浮かべさせたもので。
久しぶりに、花音の兄として妹に何かしてやる事が出来たのだ。
あとは、俺が何とか我慢すればいいだけの話。
出来るだろ?と自分に言い聞かせる。
「それじゃあ、私、布団を敷いてきますね」
「あ、ああ、俺も手伝おうか?」
「いえ、兄さんは疲れてらっしゃるようですし、それには及びません。少しだけ、待っていてくださいね」
そう言って花音は、これまた珍しく廊下を駆けていく。
と言っても相変わらず着物姿なので、あくまで静々とではあるが。
その後姿を眺めながら、はあ、とため息。
大丈夫、大丈夫と念を唱えるように呟きながら、体の熱が冷めてくれることを期待して部屋の窓を開け、夜気に当たる。
冬ほどは冷たくない、けれどひんやりとした空気。
大きく息を吸って、吐きだす。
深呼吸を何度か続けていると、階下から花音のはしゃいだような呼ぶ声。
普段は大声をあげないようなやつなのに、本当に今日の花音は何処か少しおかしい。
それが、果していい意味でなのか、悪い意味でなのかは判別がつかなかった。
窓を閉める。涼やかな風は体の火照りをある程度は冷ましてくれはしたが、それでもまだ根深く欲情は残っている。
「ったく、今日は眠れないかもな……」
意識して軽い口調で呟きながら、部屋を出る。
勝負の時を引き延ばすように、ゆっくりと階段を下りて、花音の待つ座敷へ。
襖をあけると、既に布団に入った花音が半身を起こしこちらに笑みかけてきた。
布団、くっついてるよ……。
頭を抱えたくなるのを、何とか耐えた。今日の花音の様子を見ていれば、ある程度予想はできていた。
花音の隣、ぴったりとくっつけられた布団に入る。
ひんやりとした布団が妙に心地よい。
布団から一度出た花音が、電気を消す。
ぱちり、と乾いた音を立てて、忽ち薄闇に覆われた。
「兄さん」
無言で花音の方に顔を向けた。
暗闇に慣れていない目では、花音がどんな表情をしているのかまでは定かではない。
「おやすみなさい」
そう言って、花音も体を横たえた。
「ああ、おやすみ」
応える俺の声は、果して裏返っていなかっただろうか。
何かを期待するように、座敷に入ってからより強くなった鼓動に気付かないふりをして、目をぎゅっと瞑った。
布団の中、手を組んで神様に祈りながら、夜明けを只待ち続ける。
† † † † †
断られる事はないと思ってはいたけれど、予想よりも兄さんが簡単に同衾を承諾した事に少し拍子抜けしたような気持ち。
兄さんの心の中には、未だに、そう、布団に二人潜り既に30分たった今でも葛藤が続いているのだろう。
兄さんの中にある快楽を求める気持ちと、妹を思う兄の気持ちが戦っているのだろう。
不甲斐ない、と思う人もいるかもしれない。
性欲くらい兄としての気持ちで軽々と粉砕するべきじゃないか、性欲に負けよりにも寄って近親相姦に走るなんて兄として、
否、人として失格だと兄さんを責める人も中に入るかもしれない。
けれど侮ってはいけない。
性欲は、人間の三大欲求の一つ。
誰だって、睡眠なくして生きる事は出来ない。何も食べずに生きる事は出来ない。
それに、近親相姦のもたらす途方もない快感を、知らないからこそそんな事が言えるのだ。
勿論、近親相姦が必ずそんな凶悪な悦楽をもたらすものだとは、私だって思っていない。
きっと、私と兄さんは天文学的な確率なまでに躰の相性があっていたのだろう。
初めてだった私が、あんなにまで快楽に悶えたのだから、間違いない。
あの快感を反芻して、はふ、と色づいたと息が漏れた。
びくり、と隣で兄さんの体が震えた。
そんな兄さんを見て可愛い、と思う。きっと兄さんに言ったら猛烈に否定するんだろうけれど。
ふふ、と布団を口元まで引き上げて頬の緩みを隠した。
「にいさん?」
笑みが消えたのを見計らって、口を布団から出して呼びかける。
数秒の間をおいて、観念したように、
「どうした?」
「明日からも一緒に寝てくれますか?」
「ごほっ、ごほっ!はぁ?花音、お前一体唐突に何言いだすんだ……」
兄さんがこちらを向いた。
薄闇でも、分かるくらい兄さんの顔は赤く染まり、うろたえているのが手に取るように分かった。
「だって、私、一人じゃ寂しいです」
意識して、声を小さく悲哀をこめてぼそぼそと。
うっと、兄さんが声を詰まらせたように呻いた。
がしがし、と頭をかく音。
兄さんの心の中で一体どんな、攻防が繰り広げられているのか、少し覗いてみたい、と思った。
「今まで、ずっと寝るときは別々だっただろ」
「はい、でも……でも、兄さんの優しさに触れてしまいましたから」
「え……?」
兄さんの布団の中に手を忍び込ませて、兄さんの手を探し当て、優しく握った。
びくっと兄さんの体が跳ねた。
私の手を振りほどいて逃げようとした手を、抑えこむ。
力ならば私よりも兄さんの方が強いけれど、力ではない部分で振りほどこうとする兄さんの力を抑えた。
「私、弱くなってしまいました……」
兄さんのせいですよ、と囁く。
花音、と兄さんの掠れるような声。はい?と応える。
「お前、一体どうしたんだ?」
「どうした、とは?」
「最近、否、なんか、お前変だぞ……?」
言葉を探すように、兄さんが声を絞り出した。
最近を否定したのはきっと、あの日の事も含まれているのだろう。
「兄さんは、私を誤解しています」
「誤解?」
兄さんが、鸚鵡返しに呟いた。
「私は兄さんが思うような人間ではないです。自分本位で、ちっぽけで、弱くて、弱くて……」
拙い言葉を吐露しながら、兄さんの手を強く握った。
兄さんの掌から伝わる、優しくて、柔らかな温もり。離さないように。離れないように。
「今までは、兄さんに出来るだけ迷惑をかけないように強がって生きてきました。でも、兄さんは頼ってもいいと言ってくれましたから」
兄さんの呼吸が荒くなってきている。
無理もない、例え微量とはいえ媚薬を体内に取り込んだまま、欲望の捌け口に相応しい私と触れ合っているのだから。
良いんですよ。言葉にせずに呟く。
その欲望のまま私の躰を貪っても、良いんですよ。けれど、言葉にして兄さんに届ける事はしない。
きっと、今のままでは言葉にしても兄さんは強く抵抗するだろう。それこそ自ら舌を噛み切らんとするかのように強く。
ごめんなさい。心の中で謝りながら、追い打ちをかける。
少しだけ兄さんの布団に体を滑りこませる。
兄さんが逃げようとするけれど、固く繋がった手が邪魔をして、身じろぎをした程度にしかならない。
兄さん、と呼びかける。怯えたような視線がわたしを射抜く。ズキンと胸が痛んだ。
ごめんなさい。
「こんな弱い私は嫌いですか」
「そんな事、ない、さ」
兄さんならそう言ってくれると思っていた。兄さんは、兄さんが思っている以上に優しい人だから。
「それなら、頼ってもいいですよね?」
「……」
しばしの間、見つめあう。
兄さんが迷っているのがありありと分かる。
ごめんなさい、ごめんなさい。
やがて、兄さんは諦めたように小さく唸り声をあげて、
「分かった。お前の気がすむまで、一緒に寝てやるよ」
でも、と兄さんは一際大きな声で続けた。
「でも、それは兄として、だ。その一線を越える事は絶対にできないからな」
珍しい、と思った。兄さんが自らあの日の事を口にするのは、初めてだった。
きっと、それは兄さんのどうしても譲れない一線なのだ、そう、今のところは。
「ええ、ええ、分かっています。私たちは、兄妹ですからね」
頷いて、私の方から手を離した。
私は見逃さなかった。薄闇の中、兄さんの瞳が寂しげに揺れた事を。
緩みそうになる頬を、唇を閉じて抑えた。
ふう、と兄さんが深く息を吐いて私に背を向けた。
「ほら、もう満足しただろ。寝ろ、寝ろ」
「はい、おやすみなさい」
再びお休みのあいさつ。
兄さんの背中を暫し見つめて、目を閉じた。
兄さんには悪い事をしたと思う。兄さんの優しさにかこつけるような真似をした。
ごめんなさい、兄さん。口の中で懺悔する。
けれど、これで終わりではない。もう、止まる事は、できない、できないのだ。
ごめんなさい、ごめんなさい。それでも、愛しているのです。どうしようもないくらいに。
以上です。
スレ消化失礼しました。
乙です
>>313 GJ!です!
妹が熱い!
続きを期待しています!
316 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 05:24:29 ID:7QoWVhMm
またやっちまった……
318 :
失礼します:2010/01/13(水) 13:01:08 ID:EN+ymJpK
>>313 乙。
妹さんの過激になるであろう行動に
牛姉さんや恋人がどう対応していくのかも楽しみです。
三つの鎖 12です
※以下注意
血のつながらない自称姉あり
エロあり
投下します
三つの鎖 12
夜でも車が走る国道沿いに春子の目的地があった。
「ここだよ」
派手なライトアップ。国道沿いのお店でこの時間に営業しているのはラーメン屋とコンビニとこの類のお店。
「ちょっと待って」
「今日はお父さんもお母さんも家にいるの」
そう言って春子は僕をひっぱる。ラブホテルに向かって。
「待って」
僕の言葉に春子は苛立ったように僕を見上げた。
荒んだ瞳が僕を睨みつける。僕の腕に春子の指が食い込む。
「幸一君。何度も言わせないで。お姉ちゃんはね、命令しているの」
春子の眼が僕に伝える。分かっているでしょ、と?
僕は従うしかなかった。
建物に入る。僕は内心びくびくしていた。知り合いにあったらどう説明するつもりなんだろう。
でも、知り合いはおろか従業員に会う事もなかった。清算や手続きは無人で行える仕組みになっている様だ。
部屋に入って春子は鍵をかけた。そして僕に抱きついた。
僕の背中に春子の腕がまわされる。
「お姉ちゃんをぎゅってして」
僕は春子の背中に腕を回して抱きしめた。春子がくすぐったそうに身をよじる。春子の温かい体温が悲しく感じた。
春子は僕の胸に顔をすりよせてくる。どんな表情をしているのか見えない。
「春子。こんな事はもうやめよう」
「お姉ちゃんの体はそんなにいやなの」
春子は僕を見上げる。悲しくて寂しそうな表情。
僕は首を横に振った。
「こんな事をしても何にもならない」
春子は僕の顔を両手で包み、キスしてきた。僕は唇を離した。
悲しそうに僕を見上げる春子。
「そんなにお姉ちゃんを怒らせたいんだ」
春子の声は震えていた。怒りか、悲しみかは分からない。
「幸一君。今日夏美ちゃんと寝たんでしょ」
囁く春子の声が怖い。
何で分かったのだろう。調べた限りは夏美ちゃんの部屋にビデオの類は無かった。
「昨日お姉ちゃんをあんなに激しく抱いたのに」
春子は僕を見上げながら言った。春子の瞳が暗い光を放ち、僕を射抜く。
僕は歯を食いしばった。
「脅したのは春子だ」
「ねえ幸一君。夏美ちゃんの体に満足できた?」
春子の言葉が胸に突き刺さった。
「昨日の幸一君すごかったもんね。ケダモノみたいだった。あんな風に夏美ちゃんを滅茶苦茶にしたのかな?」
僕の頬に春子の手が触れる。温かい感触に鳥肌が立つ。
春子は顔をゆがめた。笑っているのだと気がつくのに数瞬かかった。
「できないよね。幸一君は優しいもん」
「僕の目的は夏美ちゃんの体じゃない」
嘘偽りのない気持ち。僕は夏美ちゃんの体が好きなのではない。
「ふふっ。やっぱり幸一君は立派だよ」
僕の頬をゆっくりと撫でる春子。
「もしかしたら幸一君は夏美ちゃんと別れるかもしれないって思ったよ。幸一君はおばかなぐらい誠実だもんね。お姉ちゃんを抱いたうえで平然と恋人と話せるほど悪い子になれないと思ってたのに」
春子は唇をかみ締めて僕を見上げた。
「以前の幸一君だったら夏美ちゃんと別れていたよ。何で今は別れないのかな」
「夏美ちゃんを悲しませたくない」
「違うよ」
春子は首を左右に振った。
「それだけじゃないよ。幸一君は気がついていないの。恋は人を盲目にするって言うけど、幸一君も例外じゃないんだね」
分からない。春子が言おうとしていることが。
「夏美ちゃんのためだけじゃないよ。自分自身のためだよ。幸一くんが夏美ちゃんと別れたくないんだよ」
春子の言葉が胸に突き刺さる。
自分のため?自分のために夏美ちゃんと別れたくない?
「もし幸一くんが夏美ちゃんを大切に思っているだけなら、幸一君は何も言わずに夏美ちゃんと別れたと思う。夏美ちゃんは悲しむと思うけど、本当のことを知ったらもっと悲しむもん。本当のことは言えないもんね。
だったら黙って別れるしかないよ。たとえ夏美ちゃんが悲しんでも、本当のことを知って悲しむよりははるかにましだよ。
でも幸一君は別れなかった。それだけじゃなくて夏美ちゃんを抱いた。幸一君はね、一時的にでも夏美ちゃんを悲しませないためにもっと悪い選択を選んだんだよ。最終的には夏美ちゃんがもっと悲しむ選択だよ。
幸一君はね、それでも夏美ちゃんと離れたくないと思っているんだよ」
春子のつむぐ言葉に強い感情が渦巻く。
屈辱だった。春子にだけは言われたくない。
「僕が夏美ちゃんを大切に思っていないと言いたいのか」
「違うよ。お姉ちゃんの言い方が悪かったかな。幸一君は夏美ちゃんを大切に思っている。お姉ちゃんが嫉妬しちゃうぐらいに大切に思っている。でもね、幸一君はそれ以上に夏美ちゃんが好きなんだよ。離れたくないんだよ」
春子は悲しそうに僕を見上げた。
「大切にしたいって気持ちとそばにいたいって気持ちはまったく別だよ。幸一君は夏美ちゃんを大切にしたいと思っている。それなのに最善の方法を取れなかった。その方法は夏美ちゃんのそばにいられなくなるから」
悔しそうに唇をかみ締める春子。背中に回される腕に力がこもる。
「幸一君はね、夏美ちゃんに恋しているんだよ。甘えているんだよ。おぼれているんだよ。お姉ちゃんね、すごく悔しい。そんな風に女の子に夢中になる幸一君を見た事ないもん」
僕は唇をかみ締めた。春子のいう事は半分当たっている。
確かに僕は夏美ちゃんに夢中になっている。大切に思う気持ち以上に別れたくないという気持ちがあるのは確かだ。
春子の言うとおり、何も言わずに夏美ちゃんと別れるのが一番夏美ちゃんのためになるかもしれない。夏美ちゃんが悲しんでも、本当のことを知るよりいい。
僕がその方法を取れなかったのは、春子の言うとおり夏美ちゃんと別れたくなかったのも確かにある。でも、それだけじゃない。
春子を信じていた。春子を説得できると思っていたから、僕はその方法をとらなかった。夏美ちゃんと別れなかった。
きっと春子は分かってくれると思っていた。今までみたいに優しく見守ってくれると思っていた。
それは僕の勘違いだったのかもしれない。
「春子。お願いだ。もうこんな事は止めよう」
僕は春子の肩をそっと押して距離をとった。
まだ僕は心のどこかで春子を信じている。今までずっと信じていた。ずっと助けてくれた。今、これだけの事をされても、まだ信じている。
「春子だって分かっているだろ。こんな事をしても何にもならない。いつか終わる。僕と梓を見てきたから分かるはずだ。歪な関係は長くは続かない」
僕は春子の目を見た。春子は無表情に僕を見つめる。春子の瞳は僕には理解できない光を放っている。
「お願い。優しい春子に戻って」
春子は何も言わない。僕を悲しそうに見つめる。
僕と春子は無言で向き合った。
しばしの静寂の後、春子は笑った。乾いた笑い。
「幸一君は本当にお人よしさんだね。お姉ちゃんの弟なのに、全然似てないよ」
そう言って春子は僕に抱きついた。
春子は僕の耳に顔を寄せた。
「ねえ。今日お姉ちゃんが授業中に送った手紙を覚えている?」
突然話が変わって僕は戸惑った。僕の頼みの答えを聞かせてと言おうとして、春子と目が合う。春子の瞳は暗い光を放っている。その暗い輝きに押されて僕は答えを促す事ができなかった。
「どの事」
「もう盗撮する気も必要もないって事。理由は分かるかな?」
「もう既に僕を脅す映像を手に入れたからだろう」
「もう一つあるんだよ」
春子の言っている事が咄嗟に理解できなかった。
「幸一君は賢いけどこんな発想はないよね。何で思いつかないのかな」
僕をいたぶるように春子は囁く。僕に無い発想。
「夏美ちゃんの部屋にもうビデオカメラは無かったでしょ?」
確かに無かった。春子に見せられた映像の視点から場所を割り出して調べたけど、無かった。申し訳なく感じたけど、夏美ちゃんが寝ている間に、ビデオカメラを設置できそうな空間は全て調べた。それでも見つからなかった。
「ビデオカメラは回収したよ。けっこう高かったしね」
調べたけど見つからなかったビデオカメラ。
そのビデオカメラは誰が回収したか。
回収した者は、ビデオカメラをどうしたか。
廃棄したか、保管したか。
保管したならどこに。
思いついた可能性に悪寒が走る。
まさか。
「もう気がついているでしょ」
耳にかかる春子の息が熱い。
「春子の部屋に設置したのか」
春子は嬉しそうに僕を見上げた。
「正解だよ」
春子の言葉に戦慄が走る。
設置されたカメラで何を撮影したか。
僕と春子の情事。
「あれを夏美ちゃんが見たらどう思うかな」
僕は春子を離し数歩下がった。足が震えてこけそうになった。そんな僕を見て春子は嬉しそうに笑った。
「会話はまずいから音声は消した方がいいかな」
僕を見て微笑む春子。
春子が目の前のいるはずなのに、遠くに感じる。
「特に後ろからしている映像がいいかな。うんうん、幸一くんがお姉ちゃんを突き飛ばしてからが一番かな。どう見ても幸一くんがお姉ちゃんを無理やりしているようにしか見えないよね」
春子は淡々と語る。その内容に足が震える。
「うんうん、幸一くんがお姉ちゃんのおしりを叩いている所も入れたいよ。うまく編集しないとね」
「何で」
僕は精いっぱいの勇気を振り絞って口を開いた。
「何でそんな事を。脅迫するだけなら僕と夏美ちゃんの映像だけで足りるはずだ」
春子の表情が激変する。
「ふざけないで!」
春子の叫びが空気を震わす。
「あんなの欲しくなかったよ!幸一君と夏美ちゃんのエッチなんか見たくもなかったよ!」
体を激しく震わし荒い息をつく春子。
僕は圧倒されるしかなかった。
「あの映像じゃ脅しの材料にならないって事を幸一君は分かってないね」
そう言って春子は笑った。暗い笑顔。
「あの映像をばらまいたら、幸一君まで害が及ぶでしょ。それじゃ駄目だよ。お姉ちゃんの可愛い幸一君まで退学じゃ可哀そうだよ」
僕には春子の言っている内容が分からない。
春子の僕に対する仕打ちは可哀そうのうちに入らないのか。
「それにね、幸一君と夏美ちゃんが一緒に退学になったら、幸一君は夏美ちゃんと一緒にいる事を選ぶでしょ?夏美ちゃんもきっと幸一君と一緒にいる事を選ぶよ。そうなったら意味がないよ」
春子の言葉に背筋が寒くなる。
「本当は今すぐにでもこの映像を夏美ちゃんに見せてあげたいよ。でもまだ許してあげる。幸一君がお姉ちゃんの言う事を聞いてくれるならね。
今幸一君と夏美ちゃんが別れたら、幸一君を脅す材料が夏美ちゃんとのエッチの映像だけになっちゃうもん。そうなったら幸一君を脅す材料としては使えないもんね」
春子が僕に一歩踏み出す。僕は無意識に一歩下がる。
怖い。春子が。
僕の目の前にいるのは本当に春子なのか。いつもそばにいてくれて助けてくれたあの春子なのか。
嬉しそうに笑う春子が悪魔にしか見えない。
「夏美ちゃんね、お姉ちゃんの事を信頼しているよ。今日も女の子にとって恥ずかしい事を相談してくれたし」
春子が近づく。逃れたくても足が動かない。
「信頼する先輩と大好きな恋人が激しく抱き合っているのを見たら、夏美ちゃんなんて思うかな?」
「春子」
「悲しむし、傷つくだろうね。幸一君の事も嫌いになるかな。あの子いい子だから泣くだろうね」
「止めろ!」
僕は思わず叫んでいた。
「お姉ちゃんにそんな口をきくんだ」
春子が僕の目の前で止まる。嬉しそうに僕を見上げる春子。
夏美ちゃんの笑顔が浮かんで、消えた。
逆らえない事を理解した。
「やめて…ください」
春子は僕に抱きついた。背中に回された春子の腕は震えていた。
「お姉ちゃんをぎゅっとして」
言うとおりにした。春子の温かさだけは昔と変わらない。それが悲しい。
春子は僕の胸に顔をうずめた。
「お姉ちゃんの事を好きって言って」
「好きだ」
僕の腕の中の春子は震えたまま。
春子がどんな表情をしているのか見えない。分からない。
「もっと言って」
「好きだ」
「お姉ちゃんの事愛してる?」
思わず僕は躊躇した。
春子の両腕が僕を強く抱きしめる。
「もしかしたら夏美ちゃんにも言った事ないんだ」
僕を抱きしめる春子の腕に力がこもる。
「言って」
春子が僕を見上げる。今にも泣きそうな表情。
「言いなさい」
そう告げる春子の声は震えていた。
春子の瞳が雄弁に語りかける。夏美ちゃんにばらしてもいいのと。
逆らえない。
「愛してる」
春子の目尻に涙がたまる。春子は悲しそうにうつむき、僕の胸に顔をうずめた。
「もっと言って」
「愛してる」
春子は顔をあげて僕を見た。春子の頬を涙が伝う。
「キスして」
僕は言うとおりにした。悲しいキス。
「お姉ちゃんとしたい?」
夏美ちゃんの笑顔が浮かんで消える。
「答えて」
「したい…です」
「いいよ」
春子の頬が微かに赤い。
「お姉ちゃんを滅茶苦茶にして」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
どれだけの時間こうしているのか。
「ひうっ、ああっ、ひゃうっ、ひぐっ、んんっ」
部屋に春子の喘ぎと柏手を打つような音が響く。
僕は春子を後ろから激しく突き上げる。剛直の先端が春子の一番奥をつつくたびに、膣が締め付ける。
膣の入り口の周りは、春子の愛液と僕の精液でぐちゃぐちゃだった。それらが混ざり合って春子の白い太ももをつたう。
僕は春子の腰をつかむ手に力を込め、さらに激しく腰をふった。膣をすり上げる度に春子が切ない嬌声を上げる。
快感に腰の動きが早くなる。僕は春子の膣の一番奥に射精した。気持ち良かったけどそれ以上に悲しかった。
「ひうっ……あっ……んっ」
体を震わせる春子。背中には玉のような汗が浮かんでいる。
僕は剛直を抜いた。春子の膣の入り口から白濁した液体がこぼれた。
「んっ…こういちくん」
春子は振り向いて僕を見上げた。淫靡な表情。
「お姉ちゃんがきれいにしてあげる」
春子は僕の股間に顔をうずめて剛直を嬉しそうに舐めた。ざらざらした春子の舌が気持いい。
「んっ、ちゅっ、れろっ、じゅるっ、はむっ」
たどたどしくも一生懸命に舌を使う春子。僕は春子の髪をゆっくりなでた。春子は気持ちよさそうに目を細めた。
「んっ、ねえっ、まだできるでしょ」
春子は僕の剛直を握り擦る。少しだけ剛直が固くなる。
僕を見上げる春子。瞳に浮かぶのは鳥肌が立つほどの劣情。
「あと一回だけ、ね?」
僕は春子を押し倒した。白い体に覆いかぶさり、まだ固くなりきっていない剛直を無理やり挿入した。
「ああああっ!」
春子は嬌声を上げる。僕は激しく腰をふった。膣をこする感触に、剛直が固くなる。
「ひうっ、ああっ、やあっ、ひぐっ、きゃうっ」
僕は春子をはげしく揺さぶった。胸が大きく揺れる。その胸を両手でつかんだ。思いきり力を入れる。春子の顔が苦痛と隠しきれない悦びにゆがむ。
「ひうっ、いやっ、いたいよっ」
春子の言葉を無視してさらに腰をふる。胸をはげしく揉み、首筋を吸う。春子ははしたない喘ぎをあげた。
何度も出したせいか、なかなか達する気がしない。僕はさらに激しく春子を責めた。
「ひいっ!ひぐっ!やあっ!ああっ!」
白い体を苦しそうによじる春子。もがく春子を抑えつけ、ぼくはさらに蹂躙した。徐々に射精感がこみ上げてくる。
春子がひときわ大きい嬌声をあげ背中を反らした。膣が締め付ける。僕も達した。
「ひあっ……ああっ……んっ……あっ」
身をよじる春子。白い胸がかすかに揺れる。僕が余りにも力を入れて握ったせいか、微かに赤い痕がついていた。
剛直を抜く。春子は荒い息をついて僕を見上げた。
「んっ……キスして……」
僕は春子の唇をむさぼった。春子は体を震わせ受け入れた。唇を離すと糸が引く。
肩で息をしながら僕たちはベッドの上で抱き合った。
春子は気だるそうに僕を見た。僕の頬にキスして囁く。
「幸一君。シャワー浴びよ」
春子は僕の手を取って立ち上がった。僕はふらつく春子を支えた。
「ありがとう」
春子は顔を赤くして礼を言った。
二人でシャワーを浴びた。お互いの体を洗った。
体をバスタオルで拭いていると、春子が口を開いた。
「幸一君。座って」
僕は黙ってベッドに腰かけた。
春子はバスタオルで僕の頭をわしゃわしゃと拭いた。昔の光景が脳裏に浮かぶ。春子は風呂あがりの僕の頭を拭くのが好きだった。恥ずかしがって嫌がる僕を追いかけまわして頭を拭いた。
「なんだか昔を思い出すね」
春子は懐かしそうに言った。その表情はいつもの春子だった。昔から僕のそばにいてくれた一番身近で親しい女の子。
悲しかったけど、涙は出なかった。
「幸一君、お願いしていい」
春子は僕にブラシを差し出した。僕は受けとって春子の髪をといた。長くて艶のある黒い髪。くすぐったそうにする春子。
梓と僕が仲悪かったころ、梓は僕に髪をとくように命令した。当然、僕はそんな経験が無くてうまくできなかった。梓は不機嫌そうに下手くそと罵倒した。
困り果てた僕は春子に教えを請うた。こんな恥ずかしい事を頼める人など他にいなかった。春子は笑って教えてくれた。練習台として髪をとかせてくれた。
あの時とはもう違う。姉のように身近で助けてくれた春子はもういない。
今は脅し、脅される関係でしかない。
「……うっ……ひっく……」
もう我慢できなかった。涙が溢れた。
「幸一君」
春子が振り返り僕の頭を胸に抱きしめた。柔らかくて温かい。春子の温もりだけは変わらない。それが悲しい。
「お姉ちゃんと二人っきりの時はいくらでも泣いていいよ」
分からない。春子の優しさも、酷い脅迫も。何もかもが分からない。何も考えたくなかった。
夏美ちゃんの笑顔が脳裏に浮かんで消えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕たちはラブホテルを出た。春子が清算した。
二人で並んで家まで帰った。もう遅い時間だった。帰り道、僕たちは一言も話さなかった。ふれあうことも無かった。
春子の家の前で僕たちは足を止めた。
「幸一君。好きだよ」
春子の笑顔はいつも通りだった。見ているだけで明るい気持ちになれる優しくて元気な笑顔。ずっと僕と梓を見守ってくれた笑顔。
僕と春子はしばらく見つめ合った。春子は僕を切なそうに見上げる。
しばらくして、春子は悲しそうに眼を逸らした。
「おやすみ」
春子は背を向けて村田の家に入った。僕は何も言えなかった。
携帯電話で時間を確認した。すでに全員寝ている時間だ。ふとメールの着信を示すアイコンが目に入る。差出人は夏美ちゃん。僕は震える指でメールを開いた。
『今日はありがとうございました。お兄さんの肉じゃがおいしかったです。おやすみなさい』
心臓の鼓動を痛いぐらいに感じる。暑くないのに、全身から冷や汗が出る。視界が歪む。
僕は震える指で返信をうった。
『口に合ってよかったです。おやすみなさい』
夏美ちゃんに返信し、僕は自宅の鍵を取り出した。腕が震えてなかなか鍵が鍵穴に刺さらない。なんとか鍵を開け家に入る。全員寝ていると思ったらリビングに電気がついていた。
「兄さん!」
梓が駆け寄ってきて抱きついてきた。僕は梓を受け止めた。梓をびっくりするぐらい小さく感じた。
「よかった!」
僕の胸に顔をすり合わせる梓。僕の背中に回された梓の手が震えている。
「遅くなってごめん」
「心配したよ。兄さんのばか」
梓は笑って僕を見上げた。その笑顔が曇る。
「どうしたの。何かあったの」
いけない。顔に出ているのか。
「ちょっと疲れちゃって」
必死に笑顔を作る。梓に心配をかけたくない。
「晩ご飯残っているかな。お腹がすいたよ」
本当は全く食欲が無かったけど、ごまかすためにそう言った。
「あるよ。待ってね。すぐ用意するから」
梓はパタパタとキッチンに走った。すぐにいい匂いが漂ってくる。
鳥の照り焼きだ。鳥料理が好きな梓のために春子に教えてもらった最初の料理。
「兄さんできたよ」
梓が料理を並べてくれた。湯気の昇る温かそうでおいしそうな料理。
「いただきます」
僕は鳥の照り焼きを口にした。おいしい。春子の手料理と似た味。当然だ。梓がこの料理を好きなのは、春子の作ったそれを食べてからだ。味付けが似るのは当然だろう。
家事を始めた頃、自分ひとりで作る料理はどれもひどい出来だった。梓はまずいと僕を罵倒した。
僕は退院したばかりの春子に料理を教えて欲しいと頼んだ。春子は笑って教えてくれた。
何を作りたいと聞く春子に、梓の好きな鳥の料理と僕は答えた。春子が教えてくれたのが鳥の照り焼きだった。
初めて作った鳥の照り焼きはいい出来ではなかった。それでも、その日の梓は何も言わずに黙って食べてくれた。
目頭が熱くなる。僕は涙を必死に堪えた。そんな僕を梓は心配そうに見つめた。
「そんな風に見られると食べにくいよ」
僕は笑ってそう言った。梓もぎこちなく笑った。
「ごちそうさま」
食欲はなかったけど残さず食べた。
「お粗末さま」
梓は食器を重ねた。
「私が洗うよ。兄さんは疲れてるみたいだし」
梓の気遣いが嬉しかった。
「そんな事はないけど、そう言ってくれるならお願いするよ。ありがとう」
ここ数日の変化は確かに疲れた。春子に襲われ、夏美ちゃんと恋人になり、妹と仲直りし、そして今春子に脅迫されている。
日常がたやすく崩れるのは知っていたけど、ここまでとは思いもよらなかった。
「もう寝るよ。おやすみ梓」
明日は僕が食事当番だ。
「兄さん」
背を向けた僕に梓は声をかけた。
「何か困った事があったら何でも言ってね」
言えるはずが無かった。
「ありがとう。その時はお願いするよ」
そう言って僕は二階に上がった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
リビングから兄さんは出て行った。階段を昇る足音がかすかに聞こえる。
私は洗い物を済ませると、二階に上がった。兄さんの部屋の扉に耳を当てる。微かな寝息が聞こえた。
兄さんはお風呂に入らずに眠った。その意味は分かっている。
私は部屋に戻りため息をついた。暑い。私は短パンを脱いでベッドに転がった。兄さんがくれた扇子で顔をあおぐ。
さっきの兄さんは元気が無かった。ふるまいはいつも通りだけど、ずっと好きだった人だ。見れば何となく分かる。
夏美と何かあったのだろうか。今日、お昼が終って教室に戻ると、夏美はすごく浮かれていた。見ていて腹が立つほどに。
でも兄さんは帰ってきた時、元気が無かった。普通に考えれば夏美と何かあったのだろう。何があったのかは想像もつかないけど。
私はタオルケットをかぶった。兄さんと仲直りしてから、兄さんの服をこっそり持ってくることはしなくなった。そんな事をしなくても兄さんに甘える事が出来るから。今日も帰ってきた兄さんに抱きついた。たくましい兄さんの背中の感触に私は熱い吐息を吐いた。
今の状況に私はおおむね満足している。兄さんに私の気持ちを告げてから気持ちが楽になった。実の兄に恋するなんて本当はおぞましいはずだけど、兄さんは何も言わない。甘えても軽く注意するだけで私の好きにさせてくれる。
もちろん私はそんな兄さんに甘え過ぎはしない。そんな事をすれば兄さんは私と距離を置くだろう。
人目が無ければちょっと抱きついたり手を握ったり腕を組むぐらいは許してくれる。用事が無ければ一緒に登校もできる。ここ数年はそんな事はほとんどできなかった。
それでも寂しく思うときはある。兄さんの恋人は夏美。今日、兄さんの帰りが遅かったのも夏美と一緒にいたからだろう。
でもいい。少なくとも今はまだ兄さんの一番そばにいられる。
私は汗をぬぐった。眠れない。のども渇いた。私は部屋を出た。キッチンに行き牛乳を飲んだ。
自分の部屋に戻るとき、兄さんの部屋の前を通る。扉をそっと開ける。兄さんの寝息がかすかに聞こえる。
……ちょっとぐらいいいよね。
私は足音を殺して兄さんの部屋に入った。寝ている兄さんの顔を覗き込む。寝顔はかすかに苦しそうだった。汗もかいている。
兄さんの頬に手を伸ばしふれる。汗で冷えている。何か悪い夢でも見ているのだろうか。
そっと頬から手を離す。私はふれた手を見た。兄さんの汗でぬれた手。
いや待て。私は何を考えている。
私は数瞬悩み、結局欲望に従った。自分の指を口に含む。兄さんの味がする。体が熱くなるのを感じる。
兄さんが動く気配。私は思わずびくっと震えた。起きたの。
静かな寝息を立てる兄さんに私は安堵のため息をついた。布団からはみ出た兄さんの手がかすかに震えていた。
私は震える兄さんの手を軽く握り締めた。冷たい兄さんの手。兄さんの顔を近くでのぞく。こころなし安心したように見えた。
シャンプーの匂いが微かにする。夏美のいつもの髪の香りとは違う匂い。夏美の家に兄さん用のでも置いてあるのだろうか。
そのことを考えたとたん、私の心に醜い感情が荒れ狂う。夏美が羨ましい。私も兄さんに抱いて欲しい。
私は深呼吸した。熱い吐息。
いいんだ。家にいる時は兄さんの一番近くにいられる。私はそれで満足なんだ。
私は言い聞かすように何度も心の中でつぶやいた。
兄さんの手の冷たさが心地よかった。私はその手を離せずにいた。
投下終わりです
読んでくださった方に感謝申し上げます
ありがとうございました
>>82のアドレスのHPで登場人物の人気投票を行っています
執筆の参考にしますので、よろしければご協力をお願いします
HPで掲載した作品をDLできますが、最新の作品はスレにしかございません
ご了承ください
次の投下は来週に行います
最近、規制が激しいですので、曜日は不定期になると思います
それでは失礼します
腹黒春子
>>328 じーじぇ!!
梓のターンくるかなwktk
梓かわいい
GJ!!
なんか愛してるとかも録音されてそうだなw
春子最高です
GJ
妹の逆襲に期待
春子が嫌いだ
>>334 なんで?俺は嫌いじゃないけど。
ていうか春子好きだ!怖すぎる!
どこか不安定な春子がいいねえ
梓もいつか絶対爆発する不発弾みたいでドキドキする
これで梓まで「やっぱり普通の妹にはなれませんでした☆」とかなったら幸一の分まで泣いてやろうと思いました
間違いなく大泣きする事態に陥るだろうが
幸一と夏美に死亡フラグが立ってる…
>>337 >>やっぱり普通の妹にはなれませんでした☆
ワロタ
>>337 >やっぱり普通の妹にはなれませんでした☆
上に同じくワロタwwwwwww
不覚にも焼そば吹いた
とりあえず春子は死んどけ
黒髪ロング巨乳幼馴染みと俺の大好物の塊だけど我慢ならん
夏美が一番だったけど、読んでるうちに梓が一番になってた。
やっぱ、ブラコンつええなと思う。
にしても、春子嫌われてんな。
かくいう俺も好きになれんのだが、目が離せないのはなんでだろう…
やっている事が生々しすぎるからじゃない?
セクロス盗撮して脅迫とかどれだけ鬼畜なんだよ…
幸一の説得もどこ吹く風だし
あのさ、仮にも18歳以上だと言ってここに入ってきてるんだから、
嫌いだの死ねだの思考垂れ流しで文句言うなよ、小学生じゃないんだから
自分の言葉で作者や読者に不快感を与えないか、表現の幅を狭めやしないか
ぐらいは考えろよ、ここは商業じゃないんだぞ
でも春子嫌い
>>344 作者批判じゃないんだから、文句じゃなくて感想じゃないか?
これだけ感情的に嫌われたのなら、キャラ作りが上手くできたってことだし、
作者だってニヤリとしているかも知れん
それに煽るような書き込みをしてどうするんだよ
ちょっとした煽りでスレが荒れる可能性があるんだから、考えて書き込んでくれよ
自称であって姉じゃないのが致命傷なんでは
>>347 それもあるかも
考えてみれば幼馴染ってだけでお姉ちゃんじゃないよな
キモ姉ってよりヤンデレって感じかも
でもそんな鬼畜な春子も可愛い
このスレの住民なのに、ヤンデレでもいける事に気が付いてしまった
350 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/17(日) 20:47:26 ID:i7fGBQfR
\ ヽ | / /
\ ヽ | / /
\ ヽ | / /
煽 り 耐 性 の な い ス レ に 鋼 の 救 世 主 が ! !
\ ヽ / / ‐、、 '
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゙、 `ー--<´ /  ̄| | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| | ̄ ゙、 >−一'′ ,'
y' `ヽ/ / | | | | ヽ ヽ '´ イ
ぺかー
目が、目がぁ〜〜〜
投下します。
以下本編。
鳥が鳴いている。
この鳴き声は、鶯だろうか。風流だね、うん。
太陽が黄色い。襖は閉まっていて、此処からじゃ見えないけれど。
つまりは、それだけ疲れきっているという事だ。
「結局、一睡もできなかった……」
呆然とつぶやく。
隣に目をやる。妹が俺の苦労なんてどこ吹く風で、すやすやと心地よさそうに眠っている。
その無防備な姿を見ていると、何だか悪戯してやりたい気持ちになった。
「ったく、コイツめ。俺の苦労も知らないで……」
つんつんと頬を突く。マシュマロのようにぷにぷにと柔らかい。吉野先輩の胸と、どちらが柔らかいのだろう。
……徹夜のせいか、自分の思考が変な気がする
うーん、と花音のむずがる声。
そう言えば、花音の寝顔を見るのなんていつ以来だろう。
いつもは、凛とした印象を受けさせる、きりりとした目元も閉じられていると普段の綺麗ではなく、可愛く見せるから不思議だ。
コイツも寝てる時は、年相応の女の子に見えるな。
はは、と思わず笑みがこぼれた。
もう一度頬を突いて、はたと気付いた。
今、俺の中にある気持ちは、間違いなく兄としてだけのもので、花音に対する仄暗い感情ではなかった。
何だ、俺にでも、兄、できるじゃないか。
相変わらず、眠気は全く取れないけれど何だか嬉しい気持ち。
「ん、んん、んー」
さすがに頬を突き過ぎたのか、花音が一際大きな声をあげた。
唐突に、むくりと体を起こすと、ごしごしと瞼をこする。
まだ半開きの眼で、辺りをきょろきょろ。あ、涎垂れてる。
花音が俺を見つけた。じーっと、俺を見つめてくる。
「花音?」
名前を呼ぶと、花音がにへらと笑った。
途端、がばっと俺に飛びついてきた。
柔らかい花音の体がこの上なくくっ付いてくる。
ドクンと大きく鼓動が跳ねた。
やばい、と心の奥で誰かが叫んだ。
「にいさんー」
俺の膝の上に乗り、首に腕をまわした花音が嬉しそうな顔をして見下ろしてきた。
目が合ったかと思うと、花音が自らの唇を俺の唇に押しつけてきた。
「――む!?」
余りにも突然で、けれど自然な動作に、俺はされるがままに唇を受け止めた。
胸の鼓動は最早、無視する事が出来ないほど激しい。
やっぱり俺は、花音の兄足りえなかった。
数秒の間をおいて、花音が唇を離した。
えへーと花音の無邪気な声。
そんな、普段からは想像もつかない花音の姿に俺の胸に、去来するのは消えたと思った仄暗い感情。
「にいさん、だいすきー」
甘えるような声。幼いころから人並み外れた才能を持った花音に甘えられたことなんて、もう何年振りだろうか。
あの頃はまだ、俺たちは幼かったけれど。
今は、お互い身も心も成長して。いつまでも、子供のままじゃいられない。
――それでも、俺は。
花音は、今まで誰にも頼らず、この小さな体で色々な事に耐えてきた。
今度は俺が、兄として自分の欲望に耐えるだけ。それだけで俺たちは、辛うじてだが兄妹としてやっていける筈だ。
深呼吸して、昂ぶる気持ちを抑えた。
「ほら、花音、寝ぼけてないでしゃんとしろ」
花音の頭を軽く、ぺしぺし叩く
「んにゅー」
何度か繰り返していると、やがて花音の瞳に理性が宿った。
ばっちり視線が合う。
「へ……兄さん」
間の抜けた声で花音が呟いた。
全く、昨日から花音の知らないところを発見してばかりだな、と苦笑しながら、
「おはよう」
「おはよう、ございます……」
花音が周囲を見回す。右見て、左見て、上を見て、下を見て。
そして再び俺を見て、さーっと顔を青ざめさせた。
どうやら、現状把握出来たようだ。
「えーっと、悪いんだが、そろそろ降りてくれないか?」
「い……」
「い?」
「いやーーーーー!!」
花音の叫び声。
さっと、耳に指で線をしたが、少々間に合わず、キーンと耳鳴りがする。
全く、昨日から花音の珍しい所ばかり云々。
ごめんなさい、ごめんなさいとぺこぺこ頭を下げながら、花音が脱兎のごとく部屋から逃げていった。
その後姿を見送って、安堵する。
よかった、正気に戻った花音が、慌てて出ていてくれて。
寝ぼけた花音の過剰な接触に、俺のアソコは朝勃ちとは違う理由でテントを張っていた。
「馬鹿野郎が……」
俺の捨て台詞は、どうしてだろう、やけに寒々しかった。
† † † † †
朝のひと騒動から、三十分ほど。
自分と花音の分の布団を直して、自分の部屋で制服に着替えリビングに出ると、既に着替えた花音がエプロンをしてキッチンに立っていた。
俺に気付いた花音が、
「おはようございます……」
と気まずそうな顔をした。
ああ、おはよう、と俺も気まずい気持ちで本日2度目の朝の挨拶。
「丁度良かったです。朝御飯が、出来ましたよ」
「お、おお、そうか」
言われて、キッチンそばのダイニングへ向かうと、テーブルの上には味噌汁と焼き魚に卵焼きと白いご飯。
何とも花音らしいといえばその通りな、いつも通りの我が家の朝食。
妙に懐かしく感じるが、花音の朝ごはんを最後に食べてから、まだ3日しかたっていない。
それだけ、恋しかったとでも言うのだろうか。
馬鹿馬鹿しい、と鼻で笑う。
確かに花音の料理は美味いのは認める。
こんな料理、都にだって作れない。けれど、嬉しさで言えば昨日の都の朝ごはんの方が上だ。
少なくとも昨日の朝は、間違いなくそう思った。
そう、自分に言い聞かせて、テーブルの前に座る。
頂きます、と小さく手を合わせてもそもそとご飯を箸で口に運んだ。
じっと花音のこちらを窺う視線。
「どうした?寝ぐせでもついてるか?」
「いえ……あの、先ほどはすみませんでした」
「先ほど?ああ、あの事か。知らなかったよ、お前朝弱いんだな」
花音のあんな無防備な姿、今まで見たことなかった。
思い返してみれば、今まで、朝俺が起きた時にはいつも花音は既に起きていた。
俺は、普段は朝に弱くていつもギリギリまで寝ているから。
「いえ、朝に弱いというわけではなくてですね。ただ、ちょっと意識が確りするまでの間、私が私じゃないというか……」
ちゃんと、目を覚ましたら普通なんですよ!と花音。
「だから、それを朝に弱いって言うんだろ」
「あうう……不覚です」
さすがの完璧超人の花音にも、どうやら弱点はあったようだ。
それからは、居心地の悪そうな花音と二言、三言会話を交わしながら朝食を終え、お互い学校へ行く準備を済ませた。
「まだ、時間にはたっぷり余裕がありますが……どうしますか?」
「そうだな……」
花音手製の弁当のはいった弁当箱を受け取りながら、考える。
正直、さっきから眠気がピークだった。
家で少し寝てもいいが、学校の方が落ち着ける気がした。
……昨日まで、学校にも安住の地はないとか思っていたくせにゲンキンなやつだ、と我ながら思う。
「いいや、今日は早目に学校に行くか」
「はい、分かりました」
花音は特に何も言わず、頷いた。
鞄を持って俺が家を出ると、当たり前のように花音もついてきた。
俺もそれに何も言及することなく、二人で学校までの道のりを歩く。
いくら、スタートとゴールが一緒とはいえ、年頃の兄妹が二人で揃ってご登校、なんてあんまりないんじゃなかろうか。
つくづく、自分たち兄弟が普通じゃない事を実感する。
まあ、今更何言ってるんだって感じではあるが。
「あらあら、二人とも今日は早いんですねー?」
後ろからかけられた、どこか間延びした声。
振り返ると、吉野先輩が立っていた。
「ああ、おはようございます」
「おはようございます」
俺はかるく、花音が深く頭を下げると、
「もー」
何故か、吉野先輩が鳴いた。
頭の両側に、人差し指を一本立てた両こぶしをくっ付けた何処かで見たようなポーズ。
吉野先輩の余りに唐突で奇怪な行為に、花音が、首をかしげている。
「そのポーズ……」
あ、花音、突っ込んじゃダメだろ。面倒だから。
「はい、牛さんです、もー」
吉野先輩が、音符を飛ばす。
思いだした。そう言えば、昨日の放課後も、そんなポーズしてた気がする。
「それ、マイブームなんスか……」
「はい、そろそろ私も持ちギャグ欲しいなと思いまして」
「何に使うんですか、何に」
「えー、分からないんですか飛鳥ちゃん」
吉野先輩が呆れたような顔をする。
どうでもいいから、さっさとその両手は下ろしてほしい。イライラするから。
「分かんないですね。……花音は分かるか?」
「私ですか?ええと、今そういうモノが流行しているとか?」
「流行って、持ちギャグがか?」
有りえねーな、と一笑に付す。
そんなモノが流行るようになったら、世も末だと思うのだ。
世界では、今も絶えぬ争いに苦しんでいる人もいるというのに。
「もう、兄妹揃って駄目駄目ですね。特に花音ちゃん!その秀才の頭はお飾りですか!」
「すみません……けれど、佐里先輩も秀才と呼ばれているじゃありませんか」
そう言えば、花音は吉野先輩を佐里先輩と呼んでいる。
理由は知らないが、何か特別な理由でもあるのだろうか。
まあ、大方花音は天ノ井の親戚一同をよく思っていないようだから、それ関連なのだろうとあたりはつけている。
「まあ、私は伊達に飛鳥ちゃんと、花音ちゃんのお姉ちゃんをやっているわけじゃないですからね」
えへんと、その豊満な胸を張る。
どこぞのマンガやアニメみたいに、ぷるんと胸が揺れる事はない。残念だ。
そうなのだ、この先輩、凄く阿呆っぽそうに見えて、というか、阿呆にしか見えないのだけど、花音に負けず劣らずの才媛なのだ。
しかも、俺たちが通う伊高の生徒会長なんてものもやっている。
しかし、普段の言動からかとてもそうは思えない。
まあ、花音とはベクトルの違う天才ということだろうか。
……俺の縁の深い知り合いの中では、都が一番馬鹿ってことか。
今はまだ寝ているのであろう、愛する恋人へ黙祷を捧げる。
凡人は凡人同士、仲睦まじくやっていこうな。
「それで、何で持ちギャグが欲しいと思ったかというとですねー」
あ、その話、まだ続けるんですか?
思うけれど、口には出さない。
過去の経験から言って、怒らせると一番怖いのは都でも、花音でもなく、この先輩だと思うのだ。
吉野先輩は俺の思考を読める筈もなく、
「それは、生徒会会議のためなのです!」
びしっと、人差し指を何故か俺に向けてさしてきた。
理由は聞かない。どうせ気分や、やってみたかった、程度の理由だろうから。
指をさされ、面倒くさそうな顔をしている俺の代わりに花音が、
「会議にですか?」
「そう、ウチの生徒会メンバーはみんな真面目ちゃんばっかりで、会議がすっごく退屈なんです。それで私が生徒会長として盛り上げなければと思いましてー」
うわ、すっげえくだらない理由。
この程度のオチのためにこんなに時間使ったのか、この先輩。
「それは何というか、他の生徒会メンバーの反応が目に浮かぶようですね」
きっと、凄いスベったんだろうなあ。
その時、生徒会室は氷点下を記録したんじゃなかろうか。死人が出てなければいいけど。
「ええ、皆笑ってくれていましたよー」
「それは、それは」
何と云うか、生徒会メンバーも苦労してるんだなあ。
全校生徒は、こんな生徒会長を選挙で選んだ事を彼らに謝るべきだと思う。
ちなみに、俺は吉野先輩の対抗馬に投票した。
……あとで、吉野先輩にしつこく誰に投票したか聞かれて、プライバシーもお構いなく喋らされて、ミノタウロスモードの片鱗を垣間見た。
その時は、帰りに近くの商店街に唯一ある小洒落たケーキショップで滅茶苦茶奢らされて事なきを得た。
先輩の方が、小遣いは一杯持ってるくせに理不尽だ。
「中には、鼻血を出して倒れちゃった子達もいたんですよー」
「……それ、全員、男でしたか?」
「ええ、よくわかりますね、飛鳥ちゃん」
「まあ、彼らの気持ちも分からないでもないですから」
きっと彼らの頭の中では、吉野先輩の服が、布面積の異常に少ないビキニにでも脳内変換されたのだろう。
前言撤回、彼らは彼らで楽しくやっているようだ。
そんな取り留めもない話をしていると、校舎が見えてきた。
「それで二人とも、今日はどうしてこんなに早いんですか?」
と、思い出したように吉野先輩が首を傾げた。
俺と花音は顔を見合わせて、
「今日は朝早く目が覚めたので……それに天気もいいですしねー」
俺が取り繕うように答えると、
「天気……?」
吉野先輩が空を見上げて、クエスチョンマーク。
それもそのはず、空には雲が多いせいで春の暁光も弱弱しく、お世辞にもいい天気とは言えない。
それでも、徹夜の俺には陽の光で灰になってしまいそうな気分なのだが。
「そんな気分ってことで、今日は勘弁してください……」
徹夜の事を思い出すと、更に眠気がどっと押し寄せてきた。
吉野先輩は、大変なんですねー、と妙に訳知り顔で頷いている。
テンションが急に低くなった俺に見切りをつけて、吉野先輩は花音に対して構ってオーラをふりまき始めた。
「ねぇ、ねぇ、花音ちゃん」
「はい?」
花音は、いい子だから嫌な顔一つせず吉野先輩に応える。
二人の会話をBGM感覚で聞き流しながら、校門をくぐった。
背後の二人の会話は、二人とも良いとこのお嬢さんであるせいか、敬語で話していて何だか此処だけ異世界な感じ。
まあ、吉野先輩の敬語は少し崩れている気がしないでもないけど。
下駄箱で靴を履き替えて、階段の前で、一階に教室のある花音と別れて、二階で吉野先輩とも別れた。
まだ1〜2人しかクラスメートが居ない自分の教室に入ると、挨拶もそこそこに自分の席に直行。
机の上に腕枕を作って、一番寝やすいポジションを探す。
……よし、こんなもんだろう。それではおやすみなさい。
そこで、俺の意識は途切れる。
† † † † †
教室に入ると、自分の席の後ろ、私の恋人である飛鳥が爆睡していた。
真木君の家に泊まった時は、いつも遅刻ギリギリなので今日は家に帰ったのだろう。
何故か飛鳥は、家に帰りたがらない人間だった。
それは私たちが出会った頃からそうで、理由を聞いてもはぐらかして教えてくれなかった。
自分の席に座り、飛鳥の髪をいじる。男の癖にすっごくさらさらな髪。
きっと、寝起きに爆発して必死に髪を梳く私の気持ちなんて分からないんだろう。
ちょっと、むっとして手に力が入ってしまう。うーんと飛鳥がうなった。
飛鳥の髪はさらさらだけど、妹の花音ちゃんの髪は飛鳥のそれ以上にさらさらだった。
一度触らせてもらった時は、あまりの手触りのよさに食べてしまいたくなった。
あれは、そう、まるで極上の絹糸のような手触り……極上の絹糸なんて触ったことないけれど。
まったく、あんな長い髪をしておいて、何で髪の毛が痛まないんだろう。
漆黒のカラスの濡れ羽の様な艶やかな花音ちゃんの髪は、私の憧れだった。
――ったく、羨ましい兄妹め。
心の中で、二人に向かってあっかんべー。
当の本人の一人である、飛鳥は以前すやすやと爆睡中だ。
何というか、ZZZなんて漫画のような効果音が聞こえそうなくらい。
飛鳥は、お世辞にも真面目とは言えない生徒で居眠りは珍しくないのだけど、ここまで爆睡してるのは珍しい。
一昨日の夜の睡眠時間が短かった、昨日でさえもここまでではなかった。
……昨日何かあったんだろうか?
「まさかね」
一瞬浮かんだ考えを、自ら一笑に付す。
それこそまさかだ。
まだ真木君は登校してきていないことからも、飛鳥が真木君の家には泊まっていない事は分かる。
また、飛鳥は友達が多い方じゃなく、それこそ一晩泊めてくれるような知り合いは、私と真木君。
幼馴染だと言っていた吉野先輩は……あんなお嬢様の家に泊めてください何て幾ら幼馴染でも無理があるだろう。
天ノ井家の飛鳥もお坊ちゃんなんだろうけれど、まあ、所謂没落貴族のようなものであるという事はこの町全体の共通認識だ。
この町はそれなりに田舎だから、何かあった場合の噂の広がりといったらそれはもう、恐ろしい。
それこそ、天ノ井家なんてこの町随一の歴史と、富と名声を持った家に関わる噂ならそれこそあっという間に町の隅に渡るまで広がってしまう。
かく言う私も、飛鳥に初めに興味を持った理由が、その噂なのだけれど。
――天ノ井家は既に失墜し、今や分家の吉野家にその実権を握られている。
この噂は、既に噂の領域を超えた信憑性を持った、実話と言っても過言ではないだろう。
実際、天ノ井家が今まで支配していた、規模はそこまで大きくはないがコンツェルンと呼べるであろうグループの頂点には、
現在、吉野家の当主が立っていて、TV等でもたまに見かける。
そんな、今やこの町一番の金持ちの座を奪った吉野家の娘である、吉野佐里先輩の家に泊めてもらう何て勇気は飛鳥にはないだろう。
となると、やっぱり飛鳥は昨夜、自分の家に帰った事になる。
飛鳥の両親はもう亡くなっていて、家には飛鳥と花音ちゃんの二人きりだという事を聞いた事があった。
昨夜眠れないような何かがあったとすれば、それは。
「だから、ありえないってば」
飛鳥と花音ちゃん。二人は、兄妹で、その関係は近くて遠い。
私にお兄ちゃんや、弟は居ないけど、他の女友達の話によれば中には2〜3日会話しない日が続く事さえ、ままあるということだ。
「喧嘩しちゃったのかな……」
けれど、飛鳥が喧嘩くらいで眠れなくなるほど悩むなんて考えられないし。
まあ、TVやら何やらで夜更かししたんだろうと、あたりをつける。
「一人でブツブツ喋って、さっきから変だよ、峰松さん……何かあった?」
その時ちょうど、真木君が登校してきて私を怪訝な目で眺めていた。
「ううん、別になんでもないよ」
あはは、と愛想笑い。
確かにさっきまでの自分は、傍から見れば挙動不審な変な人に他ならなかった。
「え、え〜と、そういえば、告白したんでしょ、飛鳥に」
私の露骨な話題反らしに、真木君は特に気にした風もなく照れくさそうな顔をして、
「え、まさか、俺が花音ちゃんが好きなの気付いてた?」
「っていうか、あれで隠してたのって感じなんだけど……」
花音ちゃんを前にした真木君は、なんというか純朴少年みたいに顔を真っ赤にしてやることなす事が空回ってばかりなのだ。
「それにしても、好きな子に告白する前に、その子の家族に打ち明けるなんて大胆だね」
「はは、俺も昨日天ノ井に言った後気付いて、一晩中後悔と遅まきながらの羞恥に襲われたよ」
「それは、それは」
そんな会話をしていると、担任教師がだるそうな顔をして、教室に入ってきた。
相変わらず飛鳥は眠ったまま、いつもと同じ、今日が始まる。
† † † † †
飛鳥がそれから目を覚ましたのは、昼休みがちょうど始まり、教室がにぎやかになり始めた時刻だった。
朝から同じ格好で机に抱きついていた飛鳥は、がばりと体を起こすと、
「腹減った……」
と呟いた。
とりあえず、一発頭を叩いておく。
こっちは、朝からずっと真面目に授業を受けていたのに、と何となくムカついた。
「って、いきなり何すんだよ、都」
「ちょっとムカついたから」
「は?」
「それよりも、お昼ごはん!今日は花音ちゃんのお弁当なんでしょ?」
「あ、ああ、そうだけど……」
それならさ、と私はにやりと笑う。
「それなら、今日は花音ちゃんも呼んで屋上か中庭かどっかで一緒に食べようよっ」
私の突然と言えば突然な提案に、はあ?と飛鳥。
寝起きのせいか、ちょっと機嫌がよろしくないようだ。
「何で、学校でまで妹と一緒に飯食わなきゃならないんだよ」
恥ずいだろ、と飛鳥は続けた。
飛鳥は余り目立つ事を嫌い、周囲から浮くような行為を取らないように心掛けている節があった。
確かこのクラスで初めてのHRでの自己紹介の時に、小市民を目指しています、とか何とか言っていた気がする。
今現在の所、残念ながら上手くいっていないようだけど。
「飛鳥は真木君の恋を応援してあげないのん?」
「は?さっきからお前何が言いたいのか、さっぱり分かんないんだけど……っていうか、お前真木が花音のこと好きなの知ってたのか」
だったら言えよ、と飛鳥が非難がましい目で見てくる。
恐らく昨日、色々と面倒くさい目にあったのだろう。
「というか、あれだけ分かりやすい真木君の態度見てて気づかない方がどうかしてると思う」
「む、それは何か。俺が鈍いとでも言いたいのか?」
「うん」
「うおー、即答されるとイライラが倍、更に倍!」
飛鳥が頭を抱える素振りをした。
途端教室の注目を幾許か集めてしまう。
普段の飛鳥なら、絶対にやらないような行為。
「何か、今日テンション高いねー。授業中はずっと寝てたし、徹夜明け?」
聞くと、飛鳥はぎくりと体を震わせた。
そんなことないぞ、と何故か抑揚のない声。
……分かりやすすぎ!と心の中で軽くつっこんで、
「ね、それより早く花音ちゃんを呼んで御飯食べようよ。真木君も、それでいいよね?」
さっきから少し離れたところで様子を窺うように立っていた真木君の方を向くと、
「お、おう!もちろん……」
と既に緊張気味。
「お前、気持ち悪いぞ。男が顔真っ赤にしてもじもじしてる所なんて需要ないぞ」
とあきれ顔で首を振る飛鳥。
そして、仕方ないなと呟いて、携帯電話を取り出してメールを打ち始めた。
「あれ、花音ちゃんってケータイ持ってたの?」
「ん、ああ。知らなかったのか?」
「まあ、私花音ちゃんと特別仲がいいってわけでもないし……イメージではそういう文明の利器とか使わないって感じだし」
「文明の利器って……お前な、花音にどんなイメージ持ってるんだ」
「だって、だって、時々着物のままで買い物しているところ見かけるんだもん!そんな女子高生、花音ちゃん以外に私見たことないよぅ」
着物なんて私は、今まで七五三の時くらいしか着たことないんじゃなかろうか。
浴衣なら、祭りの時に何度か着た事があるけれど、着付けが面倒だし、着くずれはウザいし、歩きにくいしで正直日常的に着ている人の気がしれない。
飛鳥も、まあそれはな、と頷いている。
「何度か洋服の方がよくないかとか両親が生きていた頃から言ってたんだけどな……なんとなく着物の方が落ち着くらしい」
「ごめん、その気持ち私には全然分かんないよぅ……」
「俺もだ」
私と飛鳥は二人して、うんうん頷きあう。
すると、
「馬鹿!お前ら、花音ちゃんの着物姿の神々しさも分からないなんて!本当に人間なのか!」
と真木君が私たちの会話に割り込んできた。
ウザいって、と飛鳥は真木君の主張を一蹴して、
「あーこいつ花音の事になると、いつもこんなんだったっけ?」
「うん、だから飛鳥はニブチンさんなんだよ」
あと、花音ちゃんもね、と付け加える。
普通なら真木君の態度に自分に向けられた行為を感じ取ってもよいものだろうが、花音ちゃんからはそんな感じは受けなかった。
「これで気付かないとか俺たち兄妹はどんだけ鈍いんだよ……」
飛鳥は地味にショックを受けながら、携帯電話をしまった。
そして鞄から青い巾着を取り出す。中には花音ちゃん手製の弁当箱が入っているのだろう。
「そっか、今日は花音ちゃん特製弁当の日か」
真木君がうらやましそうな眼をして言った。
飛鳥が、やらないぞ、と釘をさして立ち上がる。
「花音はわかりましたってさ。屋上に向かいますって言ってたけど……場所、屋上でよかったよな?」
「え、うん、オーケーオーケー。じゃ、早速、私たちも向かいますか」
私も自分の弁当箱を取り出す。自分で作ったのではなくて、私の母手作りの弁当。
真木君も、自分の鞄からパンの入った袋を取り出した。
真木君は一人暮らしで、昼はいつもパン食だ。
一人暮らしの理由は、直接聞いた事はないが、まあ、高校生で一人暮らしを始めるのはそこまで珍しい事でもないだろう。
今はもう少なくなっただろうけれど、中学を卒業して、高校にいかずに働き始める人だっているのだから。
† † † † †
屋上に行くと、既に花音ちゃんが手持無沙汰そうに立っていた。
私たちに気付くと、薄く笑みを浮かべて、ぺこりとお辞儀。
その動作は洗練されていて、何だか何処かのお姫様か、やんごとない血筋の人みたいな印象を受けた。
……まったく、何から何まで“普通”の女子高生の枠を飛び越えた子だねぇ。
「峰松先輩、真木先輩、こんにちは。今日はお招きありがとうございます」
「こんにちわわー」
「こんにちは、花音ちゃん、今日はいい天気だね」
真木君は、やっぱり緊張している。
今日は結構曇ってるよ、空見て空。
「そうですね、このくらいが過ごしやすくて良いですね」
間違いを指摘するでもなく、さらりと受け流す花音ちゃん。
うう、やっぱり花音ちゃんはいい子だなー。
何処かピントのずれた会話をしている、真木君と花音ちゃんを見て飛鳥が呆れたような溜息をついて、給水塔の下からレジャーシートを引っ張りだした。
「なにそれ?」
「俺の昼寝用」
「うわー。いつも時々授業サボってどこ行ってるのかな、と思ってたけどそんなんまで用意してたんだー。このヤンキーめ」
「この程度で、ヤンキーって……それなら、昼間からゲームセンターに入り浸ったり、コンビニ前でうんこ座りしてたりする輩はチンピラか何かか」
そう言いながら飛鳥は、結構大きめのレジャーシートを広げて自分だけ座って、さっさと弁当箱を巾着袋から取り出して、そのまま、弁当箱を開けて、食べはじめた。
どうでもいいけど、飛鳥の抱いてる不良のイメージは古すぎると思う。
「ちょ、何でもう食べてるの!」
「は?だっへ、もう腹減っへるひ」
もぐもぐさせながら、飛鳥はきょとんとした顔。
「もーこう言うのは皆でいただきますしてからでしょー!?ほら、真木君と花音ちゃんも二人で和んでないで早くご飯食べよう?飛鳥が一人で食べ始めちゃったよ」
「お、おう」
「もう、兄さんったら、御行儀が悪いですよ」
私たち3人も飛鳥の用意したレジャーシートに飛鳥を気中に時計回りで、私、真木君、花音ちゃんの順に座って弁当箱を各々広げた。
真木君だけは、パン袋だけれど。
花音ちゃんと飛鳥の弁当の中身は全く同じで、やっぱり花音ちゃん手製のモノなんだな、と改めて実感。
飛鳥はとてもおいしそうに食べていて、昨日私が作った弁当はそんな風に食べてくれなかったのに、と少しムッとした。
とにかく飛鳥は食べるのに夢中で、真木君は話題を振ることなくパンをちびちび食べながら、時折花音ちゃんに話題を振ろうとして断念しているし、
花音ちゃんは静かに行儀よく弁当を口に運んでいる。
4人の間に沈黙がずっしりと圧し掛かっていて、しかしそんな風に感じているのは私と真木君くらいだった。
この兄妹は、何てニブチンなんだと改めて思い知らされる。
「あー、そうだ花音ちゃんってケータイ持ってたんだっけ」
「?……はい、持っていますが」
何とかあたりさわりのない話題を、と考えて花音ちゃんに尋ねると、ちゃんと口の中のモノを咀嚼、飲み込んで答えてくれた。
「え、えーとさ、じゃあ、ケータイの番号とアドレス交換しない?もちろん、真木君も」
「え、お、俺も!?」
突然の事に驚いたのか、真木君が泡を食ったような顔をした。
当然でしょ、と真木君にだけ聞こえるよう小さくつぶやく。
花音ちゃんは、きょとんとした顔をして私の言葉を咀嚼、そして凛とした大きな瞳でじっと私の目を見つめてきた。
上質の黒曜石をはめ込んだような瞳に見つめられて、私の方が年上なのに気圧されてしまう。
……何か、怒らせちゃったかな?
良く分からないけれど、とにかく謝ろうと口を開こうとしたところで、
「分かりました」
そう言って花音ちゃんが、携帯電話をとりだした。
固まってしまっている私たちを怪訝そうに、どうかなさいましたか?と小首を傾げている。
「あ、ああ、そうだね。じゃあ赤外線で送ってもらえるかな?」
見たところ花音ちゃんの携帯電話はそんなに古いモノじゃないし今時赤外線機能の付いていない携帯電話なんてそうは存在しないだろう。
けれど、やっぱりイメージとしてこういうものに疎そうな感がしたので、私が代わりにやろうか?と携帯電話をいじり始めた花音ちゃんに申し出ると、
「いいえ、大丈夫です。赤外線機能の使い方くらいなら分かりますから」
と、携帯電話を差し出してきた。
見ると、画面は確かに赤外線機能に切り替わっている。
私も慌てて赤外線機能を呼びだし、花音ちゃんの携帯電話に近付けた。
ピロリロリン、と間抜けな音を出して私と花音ちゃんのデータが交換された。
「ありがとー。ほら、真木君も早く!」
「あ、ああ……良いかな、花音ちゃん?」
「ええ、勿論」
真木君が慌てたように携帯電話を取り出して、ピロリロリン。
花音ちゃんの電話番号とアドレスの入った自分の携帯電話を、感極まった表情で眺める真木君。
「よかったな、真木。花音のアドレス知ってる奴なんて、俺と吉野先輩ぐらいしか居なかったぞ」
もう昼ご飯を食べ終えて満足した飛鳥が、にひひと下品に笑った。
「まあ、花音にメールしても半日位返信来ないこともあるし、あんまり意味ない気もするけどな」
「そんなことありません。今日だってきちんと、迅速に返信したじゃないですか」
花音ちゃんが不満げな顔をする。
花音ちゃんは飛鳥に対してだけは、傍目から見ても分かるくらいには表情豊かに接している。
私と花音ちゃんが初めて会ってから、もう2年目なのだけれど私に対しては余り、というか全く心を開いてくれていない気配があった。
寧ろ時々――たとえば先ほどにもあったように――嫌われているのではないか、と思ってしまうこともあるくらいだった。
実際、飛鳥と二人でいるときに花音ちゃんに会った時なんかは、睨むような目で見られたこともあった。
――飛鳥は花音ちゃんにとってたった一人の家族なのだから、そのたった一人の家族を盗られた様な気がしているのかな?
花音ちゃんは、ぱっと見では分からないけれど、兄である飛鳥の事を凄く大切に思っているように感じる。
二年間曲がりなりにも飛鳥の恋人として、花音ちゃんと接してきた私が言うのだから間違いはないだろう。
けれど、私もお兄ちゃんが欲しいと思ったこともあるし、それくらいはおかしい事じゃないだろうと思う。
寧ろ家族の事を大切に思うという事は、とても素敵な事だと思う。
とにかく、恋人のたった一人の家族とくらい、いい関係を築きたいと私は思っているのだ。
ふと、飛鳥の方を見ると、飛鳥の口の周りにご飯粒が付いていた。
私は、ほぼ反射的に、すっと手を伸ばした。
「もう、兄さん。口の周りに――」
「飛鳥、口の周り、ご飯粒ついてる」
「え、あ、マジで?」
飛鳥の口の周りに付いたご飯粒を取って、何とはなしにパクリとそれを口に運んだ。
「ばっ!都、お前、何、恥ずいことやってるんだよ」
瞬間飛鳥が、かあっと顔を赤くした。
「にゃはは、今更、これくらいで赤くなるなんて飛鳥は初心だねん」
「ったく、お前はもう少し、人の目ってのを意識してだな……」
いつものように、飛鳥と軽く言い合っていると、ぞくりと寒気。
その元をたどると、花音ちゃんが表情の抜けおちた顔で私をじっと見つめていた。
その無機質な視線にあてられて、ひ、と思わず小さく悲鳴が漏れてしまった。
花音ちゃんは無表情だってけれど、その視線はまるで刀のように鋭く怪しい光を湛えていた。
もしかしたら、私は何か思い違いをしているのかもしれない。
重大な、それこそ、命にだって関わりかねない大きな思い違いを。
以上です。
スレ消化失礼しました。
イイヨイイヨー
366 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/18(月) 13:47:25 ID:DTdyiw6e
GJ
GJ!!
GJ
さてそろそろ未来のあなた(ry
369 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/18(月) 21:44:12 ID:ydvnfDwY
派手
この妹……イイ
GJ!
この妹…こえぇぇ
んにゅーとかうきゅーとかはJustice
リアル姉にシスコン宣言していちゃいちゃする夢を見ちまった…
>>373 そいつは多分姉ちゃんの念に当てられてるな
注意しないといつの間にか洗脳されるぞ
375 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/19(火) 18:18:43 ID:li8SeVJr
ここは四条学園高等部。西日本有数の伝統とレベルを誇る私立四条学園大学の付属高校として学業・部活動共にとても熱心であり、また生徒総数1500人というマンモス高校としても知られている。
あ、自己紹介が遅れたね、僕は一条守。一応生徒会副会長やってます。
で、話の続きだか、そんな四条高校の生徒会長を務めるのが、三年生の九条香織先輩である。
スラッとしたスタイル、ウェーブのかかった黒髪に眼鏡が特徴で、知的な顔立ちをした美人であり、気立てが良く誰からも慕われ、成績もトップクラスの完璧超人にして、史上初の三年連続生徒会長に選ばれている。ちなみに文芸部。
生徒の自主性を何よりも重視する四条高校では生徒会の仕事はかなり多いが、大抵の事は彼女がいれば事足りてしまう。学校側との総部活予算の折衝、学園祭や体育祭その他行事の運営、
さらには学校側と協力して行う入学希望者対象の説明会などもほとんど彼女が切り盛りしている。
しかし、どんな優秀な学校にも不良はいるもので、唯一彼女をもってしても一筋縄にはいかないのが校内の非行グループである。
非行グループとはいえ、なまじ頭のいい生徒ばかりなので、いじめなども表に出にくい形で行われる上に、ひねくれている彼らは「美人で性格もよい生徒会長」だからといって言うことを聞くような素直さは持ち合わせていない。
そんな彼らと話をまとめて問題を穏便に解決しているのが副会長の僕なわけで。一見どちらかというと優等生タイプ(に見られていると思っている)の僕だが、
ひょんな事から非行グループとの信頼関係を築く事に成功し、学校側へいじめを訴えて大問題になった挙げ句うやむやになっていじめがさらに悪化するよりは、直接生徒会(というより僕)に相談する生徒が多いくらいだ。後は先輩の秘書的立場かな。
とまぁ、大変ながらもやりがい?のある四条生徒会なんだけど、今年になって頭の痛い問題が出てきたんだ…
376 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/19(火) 18:20:53 ID:li8SeVJr
この高校には生徒会とは独立して、すべての部活動の連合組織である部活会があり、各部活の予算配分権は部活会にある。
ちょっと複雑だからもう少し説明すると、学校側に対して全ての部活動に支給される総予算額を交渉して決めるのは生徒会の役割で、
その総予算をどう配分するか決めるのが部活会の役割なわけです。生徒会が学校側へ提示する予算総額は部活会との事前の交渉で決められる。(部活への予算は年二回組まれる)
頭の痛い問題というのは今年の部活会の委員長に姉さんの一条友理が就任した事で…
今までは部活会は各部活の予算請求を抑えて予算請求総額が大きくなりすぎないようにする一方で、生徒会は部活費が少しでも増える様に学校側と交渉する事でお互いに協力してきたんだけど、
姉さんは何故だか九条先輩と犬猿の仲で、今年の部活会は生徒会に対して予算総額の大幅アップを強行に主張している…
377 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/19(火) 18:25:20 ID:li8SeVJr
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「だから何度も言ってるじゃない。今年は各部活で道具の買い替え時期が被ってしまって予算がいつもより必要なの。
うちは大会で優秀な成績を残す部が多いからこれは死活問題なのよ。」
そうそういい忘れてたけど姉さんは吹奏楽部で、凛とした顔立ちにちょっと茶色がかった髪をアップにしている。
弟の僕から見ても美人なんだが、性格はどちらかというと男勝りな感じ。
「あなたの言う事は分かるけど、急に予算を増やすのは無理です。
部活間で道具の買い替えに優先順位をつけるなりしてもらえないかしら?」
「それが出来ればこんな予算案出さないわよ。大体買い替え時期が遅れる事で大会が不本意な結果になったらどうしてくれるのよ。三年生にとっては最後の大会になのに予算がないから諦めろって言うの?
学校の収支報告だとお金には余裕があるんだからこれくらいの増額は何でもないんじゃないの?」
「守くん、学校の去年時点の内部留保はいくらになってる?」
「28億6940万です。ちなみに去年の総部活費は816万ですね。」
対して姉さんたちが提示してきた予算案は1200万だから去年に比べてかなりのアップ要求になる。
「確かに学校全体から見れば大した金額じゃないとも言えなくはないけど、急に予算が増える前例を残すと今後安易な予算アップに繋がらないとも限らないの。
本来必要ないものまで学校のお金で買うなんて事は四条として絶対にあってはいけないのよ。」
「そんなあるかも分からない事を心配するより今現実に差し迫ってる問題を心配しなさいよ。今の言い方だと生徒会が学校側と交渉すればやっぱりこれくらいの予算は通るみたいだけど、だったら結局あなたのやる気次第じゃない。
大会がある部活にとってそれがどれだけ大事か、まぁ文芸部のあなたには分からないでしょうけど。」
「……」
相変わらず九条先輩には容赦ないな姉さんだけど、どうも姉さんは校内でも輝かしい実績を誇る吹奏楽に比べて大会という活躍の場もない文芸部を見下している感があるんだよな。
さすがの九条先輩もちょっとショックだったみたいだし、フォローを入れとくか。
「姉さん、いくらなんでも言い過ぎじゃあ…。九条先輩の言うように、もし予算の使い道に関する不祥事があったらその部活は廃部になるかもしれないんだよ。
四条は自主性重視といってもけじめには厳しい学校だし…」
「あんたは黙ってなさい!何であんたはいつも九条を庇うのよ。
というかあんたも吹奏楽部なんだからこの予算が通らないと次の大会がヤバイのは分かってるでしょ。
楽器は高いから予算が増えなかったら間違いなく吹奏楽部の配分から削られるのよ?少しはあんたも協力しなさいよ。」
378 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/19(火) 18:26:15 ID:li8SeVJr
忘れてたけど僕も吹奏楽部である。がまた同時に文芸部でもあるんだがなぁ。
四条は中等部からあり、部活も中高の結び付きが強いため、中等部に入った時に選んだ部活を6年間続ける場合が多い。
僕が中等部に入った時は姉さんと九条先輩がそれぞれ自分の部活に入る様勧誘してきて、結局両方に入る事になった。…何故かその頃から姉さんが僕をぞんざいに扱う様になった気がするんだが。
「いや、まあ、確かにそうなんだけど―」
「守くんは生徒会副会長として今この場にいるんだからそのつもりでいてくれるよね?」
「あ、はい、勿論です。」
「何よあんた結局九条の味方なわけ?お姉ちゃんや部活のみんなを裏切るの?」
「いや、そうじゃないけど…」
「え?じゃあ守くんはお姉さんの味方なの?」
「いや、そういうわけでもないんですが…というかあまり困らせないで下さいよ…。」
「「あんた(守くん)がはっきりし(てくれ)ないからじゃない!」」
あぁもう、なんでこの二人はいつもこう無理を言うんだ…
結局この日も会議は平行線のまま終わった。
正直姉さんの言い分もわからなくもないが、九条先輩の言う事ももっともなわけで、
僕としては双方が折れるしかないと思うんだが…あの二人はお互いムキになっていてそんな気配はない。ここは僕が調停役になるしかないという事か。
379 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/19(火) 18:33:45 ID:li8SeVJr
「九条先輩」
生徒会室の片付けを終え帰宅する途中、僕はまず先輩を説得しようと話しかけた。
「なぁに?」
「さっきの事なんですけど、先輩の言う事はもっともだと思いますし、姉さんの求める額は大きすぎると思います。でも姉さんもああいう人だから、やっぱり少しは妥協しないとまとまらないと思うんです。
ですから1000万くらいで学校側と交渉してみるという事にしてみてはどうですか?」
50%アップは無理でも25%くらいならギリギリ許容範囲なんじゃないか。道具の買い替えが被ってるのは事実だし。
「確かに守くんの言う通り、友理は折れない人だよね。でもね、今まで100万以上の増額すら前列がないのよ?それを200万近く増やすだなんてやっぱり良くないと思うの。
こんな事は少し考えれば分かる事なのに、友理は私の事が気に入らないから無理を言っているのよ。そういう個人的な事で学校の正規のお金についてあれこれするわけにはいかない。守くんだってそう思わない?」
「えっと、まあそんな感じはしますよね・・」
「大体友理はいつもそうなのよ。私が文芸部の正規の活動として古書店お手伝いに守くんを連れていこうとした時だって、
吹奏楽部の特別練習だと言って行かせないようにしたり、生徒会の仕事で吹奏楽部の練習になかなか出れないのも、
私はなるべく守くんの仕事が多くならないように頑張ってるつもりなのに分かってくれないし――」
380 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/19(火) 18:34:27 ID:li8SeVJr
文芸部は図書委員とほぼ同組織化していて、学校の図書館管理や各種読書会の他に、古書店の手伝いにいって本の流通実態調査なんて事もしている。
まぁ単なる先輩の趣味だろうけど。
そんなんだからついていくのは先輩と仲のいい部員数人と僕くらいなんだけど、姉さんは吹奏楽部の正規の活動日じゃないのに特別練習といって僕を行かせないようにした事があったのだ。
先輩のいう通り、姉さんは何かと先輩を非難するし、それは僕が生徒会に選ばれた去年から一層激しくなった気がする。
先輩は姉さんと違ってあまり気が強い方ではないから、表には見せずとも色々とまいっているのかもしれないな。
「そうですよね。その、すいません…」
「どうして守くんが謝るの?」
「だって自分の姉が先輩に理不尽な事を言って苦しめてるわけですし」
「守くんが謝る事ないよ。守くんはいつも私を助けてくれてるじゃない。」
「いやそんな大げさな事は出来てないですけど…」
「ううん、私には出来ないいじめの解決とかをしてくれるし、友理にあれだけ言われても生徒会の仕事に必要な資料をいつも用意してくれるし、本当に助かってるの。ありがとう。」
「いえ、僕こそ先輩が会長じゃなかったらとても生徒会の仕事なんてやりきれないので」
まぁ僕を副会長にさせたのは先輩なんだけど
「だから守くんからも友理を説得してね?私が言うより守くんから言う方が友理も聞くと思うから。」
しまった、と思った。先輩を説得するつもりが結局先輩の全面支援する流れになってしまっている…
しかし誰あろう九条先輩に頼まれては仕方ない。
「わかりました」
僕は先輩にそう告げてから別れ、姉さんの待つ自宅へと向かった。
381 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/19(火) 18:39:51 ID:li8SeVJr
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
帰宅した私は真っ先に守の部屋に向かう。守は生徒会の片付けをしてから帰ってくるからまだ30分くらいはある。そう、守は九条香織と帰ってくる――
それを考えると胸が苦しい。守を香織に盗られた気がして心が張り裂けそうだ。
だから私はいつものように守のベッドに転がって守の枕の匂いを嗅ぐ。愛しい弟―しかしその気持ちを気づかれてはいけない思い人の匂いが私を満たしていく。体の奥が疼いて熱くなっていく。そうして私は自分を慰め始めるのだ。
「ん…守ぅ…」
既に固くなっている自分の乳首を弄ると思わず声が出てしまう。香織よりやや小ぶりな胸を弟に激しく揉まれ、犯されるのを想像する。
左手を足の間に降ろすと、既に下着には染みができていた。
「ハ…、はふ…、守、やめて…そこは…」
弟に無理矢理責められるのを想像をしながら下着の中に手をいれクリトリスをこすっていく。痺れるような甘美な感覚が脳髄を貫き、意識が遠くなりそうだ。
382 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/19(火) 18:40:17 ID:li8SeVJr
「やめて守、そこはダメなの!あ、あ、ダメ…!ん、んんん!」
早くも絶頂が近い。クリトリスだけで昇り詰めてしまう淫乱な自分という事実さえも今の私には快楽を与えてくれる。
そうしていつものように弟に赦しを請いながら絶頂へと駈け上る。
「あん、あ、あ、ごめんね、こんな淫乱なお姉ちゃんで…!私、守に犯されながら喜んでる変態なのぉっ!
ごめん、ごめんなさい、淫乱でごめんなさい…!でもっ、あ、でも気持ちいいのっ!とまらないのっ!
あ、あ、あ、ごめんなさいイキますっ!淫乱なお姉ちゃんイキますっ!イク、イク、あ、アアァァァーーー!!!」
――全てが白くなる――
心地よい余韻にひたりたいところだがそうもいかない。もう弟が帰る頃だ。私はいつもの私に戻らなければならない。
ベッドと自分の衣服をととのえ、部屋を後にしようとした時、ベッドにほんのわずかな染みができているのに気づいた。明らかにそれは自分の愛液だった。
今日もこのベッドで弟は寝る。その事を考えると体が快楽でふるえてしまう。私は落ち着かない様子で部屋を後にした。
……規制?
携帯からでもいいので返事ください
携帯すら規制という可能性も
桁がおかしい
ジンバブエ$かよ
387 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/19(火) 22:44:05 ID://7scLYS
有る 主人
>>386 生徒数1500人×一人当たりのの年間平均授業料200万と想定した場合、収入は単純に考えて30億となり
更にOBからの寄付金やら株式運用(?)やら外貨取引(?)やら講師による出張講義料やらで賄えば
莫大な維持費と人件費を対処するには十分事足りる…のか?
学校法人は税金を払う必要はあったかな? そもそも学校自体が株や外貨を扱うなんて出来るのか疑問は尽きないな
何にせよ、
>>382GJ!
次からはメール欄にsageも入れると良いぞ
389 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/20(水) 02:53:32 ID:K2w5LU9H
>>388 学校法人でも株などの取り扱いはできるぞ。しかし駒沢大学って大学は経営陣がトレードで大損して一時破綻してるがなwwwしかも担保は大学の資産だから学生大迷惑wwwwww
(´・ω・`)
どうでも良いけど荒らしじゃないなら
sageでお願いします、マジで
すまんこwwwwwwすまんこwwwwww
もしもしからだとすぐ忘れるんだよなwwwwww
携帯でも専ブラ使えよ‥
投下します
と言ってもキモ姉が書きたかったので、短編です
大学受験についての内容を含みますので、受験生の方は不快に思われるかもしれません
ご注意ください
以下本編
カリカリと鉛筆の走る音。ペラペラと紙をめくる音が、俺を焦らせる。
何でだよ。
頭を抱えた。視線を落とした先、薄い冊子に印刷された数式が踊っている。マークシート式の解答用紙はぽつぽつとしか黒点がない。
考えようとしても、頭が働かない。
腹が痛い。ごろごろと腹が鳴る。最初の方は腹が鳴るたびに、周囲の反応が気になったものだが、今となってはもうどうでもよかった。
お腹をさすりながら、問題文を必死に追う。だめだ、腹痛で集中力が散漫になっていて思考に霞がかかっている。
思えば今日は朝から最悪な一日だった。朝食に食べた卵が悪くなっていたのか、朝はずっとトイレに篭っていた。
何とか腸の中すべてを出し切ってセンター試験会場に来たのはいいが、腹痛で思うように問題に集中できない。
今日はセンター試験二日目。理数系科目の試験日で理系学部をねらっている俺にとっては、最も大事な一日。
なのに、この有り様だ。理不尽だ。俺が一体何をしたというのだ。叫び出したい衝動を堪える。
こんな所で叫び出した日には、不審人物としてあっという間に教室から連行されるだろう。
まあ、こうして机にかじりついて悪あがきしてみたところで、出来ることなんて高が知れているのだけれど。
周囲の音が、解けていないのは俺だけじゃないかという焦燥を抱かせる。その焦燥に意識を取られ、問題を解くのに集中できないという、悪循環。
何で、何で、何で、何で、なんで 、なんで―――
ぴぴ、と機械音。
「鉛筆を置いてください」
試験官が無情にも死刑宣告を告げた。終わった。呟く声は小さく、しわがれている。
試験官の指示によって素早く解答用紙が集められ、試験官が出ていく。やがて教室が、にわかに活気づき始めた。
どうだった、まあまあかな、結構簡単じゃなかった、この問題の答え何にした……。
何故か耳が拾うのは、喜びのにじんだ声ばかり。他に居ないのか、俺のように魂の抜けた奴は。はは、と疲れ切った笑みが漏れた。
「終わった」
再び呟く声は、一度目よりも少し大きく。それが、何の救いになるはずもない事が妙に悲しかった。
銀世界でワルツを
ざく、ざく、と雪道を歩く。
雪があまり降らないこの町で、数年ぶりに雪が積もったのは俺に対する皮肉か何かだろうか。
神なんていない。そんな若干ガキ臭い言葉を口の中で転がした。俯いた顔が上がらない。肩もこれ以上下がったら、きっと関節が外れてしまう。
「俯いてたら、いい結果も悪くなるわよ」
そう言って今朝送り出してくれた姉の声が蘇った。悪くなるも何も、最初から最悪だったんですが。
2日間の大学受験の最初の関門、センター試験から一夜明けた今日。何故か高校に登校して、皆で揃って自己採点し予想通り、否、予想以上に酷かった点数を持ち帰る。
足が重い。足の裏が雪にくっ付いて凍ってしまっているんじゃないか、と思うくらいに。
道端に小さな雪だるま。間抜けな顔をして、こちらを見ている。
「何見てんだよこの野郎」
ギスギスした気持ちで、雪だるまを蹴飛ばした。頭がころころと転がっていく。
その拍子に小枝と木の実で出来た目、鼻、口が抜け落ちてのっぺらぼうが俺を恨めしげに睨んでくる。ざまあみろ。
まぁ、俺も転がり落ちたんですけどねー、はは……はぁ。
もうこれ以上は下がらないと思っていた肩がさらに落ちた。
はあ、と吐いた深く、暗く澱んだ息は冬の空気に白く光って、直ぐに霧散した。俺も同じように消え去ってしまいたい。
一日目は良かった。国語は8割取れていたし、英語に至っては9割だった。1日目終わった後は余りの手ごたえの良さに、小躍りしてしまった。
しかし問題は二日目だった。数学はどちらも四割、生物と化学は五割。物理なんか三割、赤点だった。
文系の大学へ行くならば、まあ、高望みしなければ落ちる事はないだろう。しかし理系となれば話は別、というか論外だった。
採点する前からある程度結果は分かっていたが、点数が出たら出たでがっつり凹んだ。
数日後志望校への合格率が出る前に、行けるわけがない事は火を見るより明らかだった。
更に、そんな俺に追い打ちをかけるかのように、中学のころから付き合っている恋人に振られた。
何でも、別々の大学に行きながら付き合い続けるのは無理、なんだそうな。
二次試験は頑張るからとか前期がもし駄目でも後期が、終いには文系の学部に変更するからと説得を試みたのだけれど、受かる訳ないじゃん、と一蹴された。
俺と彼女の志望校は国内有数の大学で、文系であっても理数系の科目がこんなに悪すぎては受かる可能性は限りなく低かった。
それならどこでもいいから近くの大学を受けるよ、と縋ってはみたものの、どうせ直ぐに同じ大学の人と浮気するんでしょ、と何故か睨まれた。
何でだろう、俺ってそんなに信用なかっただろうか。別々の高校に進んでも、俺は恋人一筋だったのに。
かくして、俺は志望校どころか希望していた大学全ての合格が絶望的になり、挙句、恋人すら失った。
俺はたった一日のそれも、腹痛という情けない理由で地獄のどん底にたたき落とされた。もう、面白すぎて笑いも出てこない。代わりに何でだろう、涙が……。
「ぐす、泣いてないもん」
少しでも気分を盛り上げようと呟いて、鳥肌が立った。我ながら今のはキモすぎた。ふらふらと、小さな公園に入り込んだ。真っすぐ家に帰る気分にはなれなかった。
この名もない公園――否、正確には名前はあるんだろうが、俺は知らない――は、俺にとってとても思い出深い場所だった。
俺は母親の顔を知らない。俺を産んで1年後に死んでしまったので、幼かった俺は母親との記憶が一切ないと言ってよかった。
父も俺と姉さんとの生活のため、と妻を亡くした悲しみから逃げるために、仕事に懸りきりになり俺は両親の愛を知らずに育った。
幼い俺は、周囲の子供たちが各々の両親と仲よく過ごしているのを見るたびに、まるで自分が世界で一番不幸であるような、今思えば幼稚な悲しみに暮れた。
そんな俺を支えてくれたのが、たった2つしか年の違わない姉さんだった。
姉さんは俺に優しく、そして時には厳しくまるで母親のように接してくれた。そう、俺にとっての姉さんは姉であり、そしてまた、母でもあった。
しかし、矢張り俺も当時は幼かったのか、姉の愛情に気付けず両親のいない寂しさから反抗し、家を飛び出してしまう事が多々あった。
そんな時は、俺はいつもこの公園の、まさにこのベンチに座ってぐずっていた。
この公園のベンチは、丁度俺たちが住むアパートの窓から見える場所にあってここに居れば、探しに来てくれた姉さんが俺を迎えに来てくれた。
幼いなりの反抗は、やっぱり姉さんに構って欲しい故の行動だった。見慣れた公園も、一面銀世界でまるで違う場所に迷い込んだようだった。
姉さんは、俺の事をいつも第一に考えてくれた。姉さんの大学進学の時も、本当は進学せずに就職するつもりだった姉さんを散々説得して、どうにか説き伏せたのだ。
その時も姉さんは、理由を言わなかったけれど、きっと俺のために就職するつもりだったのだろう。
この田舎町に住みながら通えるような大学は、一つもなく、姉さんは俺を一人にしないために進学をあきらめるつもりだったのだ。
そして姉さんの大学進学から2年がたって、今度は俺の受験の年になった。その年の夏休みに帰省した姉さんは、唐突に、
「半年間、学校休むから」
と宣告した。驚いた父親と俺が理由を尋ねると、
「一理の家庭教師やるから」
と、さも当然といった顔でさらりと言ってのけた。
「文系の姉さんに理系の俺の家庭教師が務まる訳ないじゃん」
と抵抗する俺に対して、
「センターの範囲くらい楽勝よ。というか、もう休校届も出してきたから」
とまったく聞く耳もたなかった。
その日から、姉さんのマンツーマンによる勉強会が始まったのだけれど、超スパルタだった。
問題が解けなければ、手どころか足まで飛んでくるわ、恋人と勉強会に行くと言えば、
「二人きりで勉強しても、どうせイチャイチャするだけで集中できないわよ」
と、許してくれなかった。
何度かこっそり彼女の家に行こうとしたら、悉く見つかってみっちり折檻された。姉さんには第三の目でもあるのだろうか。
まあ、その時は恨み節を心の中で毒づいていたけれど、姉さんのお陰で成績が上がったのは確かだった。
やはりというか理系科目についてはあまり成果が出なかったけれど、苦手な文系科目がぐんと上がったのは姉さんの分かり易い教えがあってこそだった。
理系は元々得意だったから、文系の点数底上げによって志望校が合格圏内にたった半年で近づいたのも事実だった。
センター一日目が終わった時なんて、センター試験が終わったら姉さんに何かお礼をしようと思っていたくらいだ。
それなのに、終わってみればこのザマ、合わせる顔があるはずなかった。
俺のために、わざわざ半年間休校してまで俺に勉強を教えてくれた姉さんに申し訳が立たない。
姉さんは、まだ結果が出ていないんだからウジウジしないの、と昨夜から落ち込んでいる俺を優しく慰めてくれたのに、
「うるさいな!放っといてくれ!」
と、八つ当たりしてしまったのも会いにくい要因の一つだった。それから口も聞こうとしなかった俺を今朝、姉さんは哀しそうな顔をしながら笑って送り出してくれた。
あんな姉さんの顔を見るのは、そう、姉さんが大学進学を機に家を離れるとき以来だったと思う。公園のベンチに積もった雪を払い、腰を下ろす。
ひんやりと尻が残った雪に冷やされる感覚。普段はズボンが濡れるのは最悪だと思うところだけれど、今日はその感覚さえ何処か心地よかった。
雪。
ぱらぱらと雪が降っている。大粒だが綿のような、確か牡丹雪と言っただろうか。
この町は、普段ならば雪は降らない。余り雪が降っている様子を見た事がない俺としては、テンションが上がってもいいものだろうが、
残念ながら、今の俺がそんな気分になれるはずもなかった。寧ろ、絶望の象徴でしかない。次から次へと、舞い落ちる、舞い落ちる、と。
座ったまま、足元に積もった雪を蹴り飛ばす。花びらのように、雪が中空にふわりと舞う。そして落ちる。
せめて。
せめて、雪じゃなくて、雨が降ってくれればよかったのに。
地面に叩きつけるように、強く、強く、降ってくれれば思いきり泣けそうな気がする。思いきり泣けば、このやり様のない気持ちも楽になってくれるかもしれないのに。
只、冷酷に雪だけが降る。それはまるで、絶望にも似た。
たった、一日だ。たった一日で俺の人生は、大きな転換を余儀なくされていた。
「どうすればいいんだよ」
曇天の空に吐き捨てる。浪人や私立に行くようなお金はウチにはない。頼めば許してはくれるだろうけど、今まで男手一人で育ててくれた父親に負担はかけたくなかった。
「どうしたら、いいんだよ……」
俯く。かくんと首が曲がり、暫くは顔を上げる事が出来ないかもしれないと思った。
神様なんていない。
もし居るならば、せめて、これから俺はどうしたらいいのか教えてほしい――
と、制服の胸ポケットでケータイが震えた。どうせメールだろうと思ってしばらく放置しても振動は止まらない。どうやら電話のようだった。
ゆるゆると手を胸ポケットにつっこんで、ケータイをとりだした。
画面には「姉さん」の文字。
電源ボタンを押そうとして、刹那の躊躇の後、通話ボタンを押した。
「もしもし……」
ケータイを耳にあてた。
「……」
けれど、ケータイの向こうに居るはずの姉さんは応えない。ただ、かすかな息遣いのみが聞こえてくる。
「姉さん?」
再度呼びかける。それでも返事はない。
イライラがこみ上げてくる。弟がこんな思いをしてるときに、イタ電かよ。ち、と聞えよがしに舌打ち。
「何だよ、悪戯かよ。何もないなら、もう切るぞ」
イライラを隠さずに告げて、電源ボタンに手をやろうとして――
ぐす、と鼻をすする音が聞こえた。
「な、まさか泣いてるのかよ」
その時の俺の気持ちは、驚愕、といっても良かっただろう。姉さんが泣いてる所なんて、最近見たことなかった。
申し訳ないな、という気持ちが再び胸を過った。姉さんは俺の事を思って勉強を教えてくれて、そして失敗した俺の事を心配してくれている。
それなのに、俺ときたら自分の事ばかりで。姉さんの気持ちなんて、考えようとしなかった。
「姉さん、その……」
ごめん、とどうしても言いにくい一言を絞り出した。小さくて聞き取りにくかっただろうけれど、姉さんまでは確かに届いただろうと思う。
その証拠に姉さんは、
「ずず、へ、何か言った?」
「鼻すすってただけかよ!?」
俺の感動を返せ!利子つけて返せ!
*****
「んで、何の用だよ」
ケータイの向こうに向かって話す俺の声は、すっかり剣呑なものになっていた。
「何よ、不機嫌ね。何かあった?」
対する姉さんは、至って涼しげ。全く気にした風もない。
何かあったって、テメエな……。
「別に何も」
何もなかったわけがないのだが、はっきりと答えるのが癪で意地を張る。
それでも姉さんには、何があったか手に取るように分かったらしい。
「ダメだったのね……」
と、ようやくしおらしい声で呟いた。
まあ、昨夜からあんなに落ち込んでいたんだから結果がどうであったかなんて推して知るべし、だろう。姉さんの献身的な助力空しく、俺は失敗した。
ごめんな、と謝ろうとしたけれど羞恥とかプライドとか、そんなちっぽけな感情が邪魔をして言葉にはならなかった。
無言のままの俺に対し、
「それで、どうするの?」
「どうするって……」
「玉砕覚悟で第一志望受けるの?」
「無理に決まってんだろ」
玉砕覚悟とかの前に、既に砕け散っている。木っ端微塵に。
「じゃあ、ランク落とす?」
「こんな点数で行ける大学なんて、国立にはねえよ」
もしかしたら、私立や片っ端から探せば国立にもあるのかもしれないが、このセンターの点数で行ける所なんて言葉は悪いが高が知れている。
第一志望が、第一志望だっただけに、何というかプライドが許さないのだ。
「でも、それなら、彼女とどうなったの?」
「……振られた」
「そう、それは何と言うか……ご愁傷さま?」
「慰める気あんのか、この野郎」
野郎じゃないわよ?と惚けた事をぬかす姉さん。
志望校が分不相応にレベルが高かったので、姉さんにしつこく理由を聞かれ結局ゲロってしまったのだ。
こんな傷口に塩を塗りこまれるような羽目にあうと知っていたなら、どれだけ暴行にあっても決して口を割ったりしなかったのに。
「浪人するつもり?」
「出来るわけないだろ」
「何で?金銭面の話なら別に1年くらいなら大丈夫だと思うわよ」
「そうかもしれないけどさ……」
父親に負担をかけたくない、とは何となく恥ずかしくて言えない。
俺が口ごもっていると、くすくす、と笑い声が聞こえた。
「一理らしいわね」
「な、何がだよ」
笑い声で姉さんが答えた。どうやらお見通しのようだ。俺の顔が、かあっと赤くなったのが自分でもわかる。
寒さのせい、寒さのせい、と言い聞かせる。首をすくめマフラーに鼻から下を埋めた。
「ねえ」
姉さんの声。何だろう、さっきまでとは声の質が違って聞こえた。
何だか、緊張しているような、少し硬い声。
緊張?姉さんが?一体何に?
「一理はさ、」
姉さんが俺の名を呼ぶ。少し上ずったような声で。
俺は眉をしかめた。何だろう。姉さんのこんな声聞いた事がない。
何だよ、と訝しげに尋ねる。
うんとね、と姉さんは歯切れが悪い。それからお互い無言のまま、5秒くらい間をおいただろうか。
ようやく姉さんが口を開いた。
「私と同じ大学受ける気はない?」
「は?同じって、姉さんの大学でも無理なんだけど……」
姉さんが通う大学は、俺の第一志望ほどではないにしろ、そこそこ偏差値が高い。
国立大学には珍しく、都市部にキャンパスがあるので受験者も多いほうだ。俺のセンターの結果では前期も後期にも受かる芽はなかった。
けれど姉さんは、そうじゃなくて、と少し必死さのにじんだ声色で否定した。
じゃあ何だよ、と答える俺の声はまた剣呑さを増していた。
自分にしか非はないと分かっていたとしても、センターの結果について触れられるとイラついてしまう。
「一理が言っているのは理系の学部に限定しての話でしょ?文系の私と同じ法文学部なら倍率も例年低いし、文系科目のセンターの配点高いし……」
大丈夫、だと、思うん、だけど。
俺の無言をプレッシャーのように感じたのか、姉さんの言葉が尻切れトンボになっていく。
俺はと言えば、姉さんの言葉を咀嚼していた。法文学部ねえ。
「俺、法律とか全く興味ないんだけど」
「そんなの、不純な動機で第一志望選んだ一理には関係ないと思うんだけど」
俺の声ににじんだ迷いに感づいたのか、姉さんの声が直ぐに平常に戻る。
確かに俺は将来の夢もない、ニート予備軍のような人間で、志望校も彼女に合わせただけだが。
それでも、法律を学ぶというのはちょっと腰が引けてしまう。
大体法律を勉強して、どうするというんだろう。将来は弁護士にでもなれっていうのか?
「最初に言っとくけれど、法文学部に言ったからって法律ばっかり勉強するわけじゃないから。まあ、大学によってくるとは思うけど、
少なくとも私が通う大学は、法律科目以外の講義もあるし、何より単位を取るのはそんなに難しくないわよ」
あと、弁護士とか一理には絶対無理だから、と付け加えてきた。
……姉さんは俺の心の中が読めてたりするんだろうか。
「そこなら、私二次試験の勉強についてもアドバイスできると思うし、何より入学した時家賃もかからないし……経済的だと思わない?」
「って、一緒に住むのかよ!」
「別にいいじゃない、どうせ当初はモトカノと住む予定だったんでしょ。それが私になるだけじゃないの」
「恋人と姉じゃ、全然違うと思うんだが……」
「元、恋人、でしょ?」
嫌がらせなのかわざわざ元を強調しやがる。この野郎。心の中で毒づいた。
「父さんに負担をかけたくない一理に、私としても物騒な世の中で女の一人暮らしは何かと不安なの。どう、利害は一致すると思うんだけど?」
「不安って、姉さんがそんなタマかよ」
「あら、自分でも言うのもなんだけど私結構綺麗な方なのよ?」
「本当に自分で言うのもなんだな」
だが、否定はできなかった。確かに姉さんは綺麗だ。
女性の割に背は高く、足がすらっと長く所謂モデル体型。胸は少し小ぶりだが、時に運動もしていないはずなのにウエストはきゅっと引き締まっている。
高校までは、肩までの長さだった黒髪が大学生になって、色は茶色に、長さもさっぱりとショートカットにして印象がガラリと変わっていた。
目は少し切れ長で鼻はすっと筋が通り、唇は小さい。大学生になって何度かスカウトされたこともあるようだ。
その割には男の気配が全くないのは、ちょっぴりSっ気のある性格のせいか、はたまた彼氏はいるが只隠しているだけなのか。
後者だとすると、この半年俺に付きっきりだった姉さんを彼氏として許せるほど、心の広い男と言う事になるが。
「何信じてないの?これでも、何度か痴漢にあった事もあるし、不審者に声かけられたこともあるのよ」
「え、大丈夫だったのか!?」
「大丈夫に決まってるでしょ?そうじゃなかったら今こうして一理と話せていないわよ」
「……それもそうだな」
それにしても、正常な男の俺にとっては、痴漢とかそういうのは漫画とかフィクションの世界のモノでしかなかったが、こんな身近に存在しているモノなのか。
「それで、どう?悪くはない話だと思うんだけど」
確かに悪い話ではない。何度も言うようだがセンター試験1日目、つまり文系科目の手ごたえは良かった。
自己採点による点数も文系に限って言えば8割ちょいで、姉さんが通う普通の大学の文系学部は、基本的にセンターの文系配点が理系よりも高く受かる可能性は高い。
倍率も1〜2年でそうそう上がるものじゃないだろうし、姉さんの言うとおり低いのだろう。
「それなら、別に姉さんと一緒じゃなくても別の大学の文系受けるのも手だと思うんだけど」
姉弟一緒の大学と言うのは、やっぱり気が引けるというかなんというか。けれど、姉さんは、
「あのね、今更別の大学の二次対策として勉強を始めた所で、そうそう上手くいくわけないでしょ」
「そうなのか?二次試験なんてどこも似たり寄ったりじゃ……」
「そんなわけないじゃない。二次試験はセンターよりも難易度は上がるし、正直私に教えられるのなんてウチの学部の二次対策だけよ」
「う〜ん、でも別に赤本とか買って、1か月みっちり勉強すれば……」
「元々、理数系の一理じゃ無理よ。何、浪人したいの?」
「そ、そういうわけじゃ……」
別にどこの大学も国立で似た偏差値ならば、二次試験に大した差はないとは思うのだけど、経験のない俺よりも経験者の姉さんの言葉の方が説得力があった。
もし、自分の考えを信じて姉さんの通う所とは違う大学を受けて失敗したら、それこそ目も当てられない。
それに、こう言う事で姉さんが嘘をつく動機がない。俺と一緒の大学に通いたいと言うならともかく。
浪人・私立は無理、姉さんの言葉を信じるならば、残された道は確かに一つしかないようだった。俺は、深く息を吐いた。相変わらず吐息は、白く光る。
「分かった。そこ目指してみるよ」
「そう、それなら明日から二次対策ね」
素っ気なさを装ったような声はしかし、ほんの少し喜色が滲んでいるように感じたのは俺の錯覚だっただろうか。
それにしても、いつまでたっても姉さんに頼ってばかりだな。
俺だって、姉さんに何かしてあげられるような事があればいいのだけど、今の身分じゃ経済的にも地位的にもできる事は少ない。
「姉さん、あのさ」
「ん、どうしたの?」
「いつも、ありがとう、な」
「……どうしたの急に」
「センターの事もそうだけどさ、俺っていつも姉さんに頼りっぱなしだからさ。それに、これからもきっと頼る事になりそうだからさ」
「ふふ、いいのよ。私がやりたくてやっているんだから」
「うん、でもさ」
手袋に包まれた自分の掌。温かく、柔らかいものに守られている俺の掌には、マメ一つない何の苦労も知らない、掌。
この掌は小さくて、限られたものしか掴めない。凡人である俺に守れるものなんて、そう多くない。
「俺さ、大学に合格したらバイトするから。家事だってやる。姉さんがいない2年間の間に料理できるようになったんだ」
姉さんへ少しでも多く恩返しがしたい。そのためなら、一緒に暮らすというのも悪くない。勿論、恥ずかしいけれども。
「そう、それは今から楽しみね」
姉さんがケータイの向こうで優しく笑う声が、やけに近く聞こえた。
「俺、頑張るよ。今度こそ、絶対上手くやるから」
ええ、と姉さんが耳元で囁いた。ふわ、と体が温かく、柔らかいものに包まれた。
え、と思わず口から声が漏れた。いつの間にか背後にいた姉さんに、抱きすくめられていた。
「良く、頑張ったわね」
姉さんの声が、耳にピッタリと付けたケータイよりも近い所から聞こえる。
目頭が熱くなる。いつもそうだ。姉さんに抱き締められると、とても安心して泣きたくなってしまう。
「まだ、終わってないし」
何とか平然を装ってみせる。けれど、そんな強がりが姉さんに通用するわけもなくて。
「そうね、これからも一緒に頑張りましょ」
ぐす、と鼻が鳴ってしまう。態と体を震わせて、寒いせいだよとアピールする。姉さんは何も言わず、抱きしめる腕の力を強めた。
やっぱり姉さんには敵わない。少なくとも、今はまだ。
「一理は変わらないわね。幼いころから、何か辛い事があったらこの公園のベンチに座って。じっと涙を堪えている姿が、今でも目に浮かぶわ」
ねえ、覚えてる?と姉さんは続ける。お互い厚着なのに、密着した体から熱を伝わってくる。姉さんの吐息が耳にかかって、こそばゆい。
「一理がこの公園に逃げ込んだ時は、いつもここで一緒に踊ったこと」
「『哀しい事を全部ばらまいて、一緒に蹴り飛ばしながら踊りましょう』だろ」
今もしっかりと覚えている。初めての家出でこの公園に迷い込んだ俺をあっという間に見つけた姉さんは、そう言って俺の手を取り一緒に踊りまわったのだ。
踊るというには余りにも拙く、傍から見れば、ただ、足を振り上げながらぐるぐる回ってだけにしか見えなかったのだろうけれど。
それ以来、俺が何か悲しい事があってこの公園に逃げ込んだ時はいつも、姉さんと一緒に踊る事が習慣になったのだ。
「もう、そんな言葉まで覚えていたの、恥ずかしいじゃない。あの頃はまだ私も多感なお年頃だったの」
姉さんが、俺の頬をきゅうと引っ張った。俺が痛てて、と軽く呻くと姉さんは直ぐに手を離した。次いで首にまわした両腕もほどき、俺から離れた。
すうっと冷たい風が、体に吹き付ける。少しだけ、名残惜しい気持ち。うう、俺ってシスコンなのだろうか、なんて。
そんな俺のささやかな苦悩には気付かず、姉さんが俺の目の前に回った。中屈みになって、すっと手を差し出してきた。
白く、細やかな姉さんの手。けれど、その手には手荒れのあとが深く残っている。
感謝と申し訳ない気持ちになって、俺は自分の手から手袋を取った。その手袋を姉さんに渡そうとするけれど、姉さんは軽く首を振って、
「さあ、踊りましょう?」
普段の俺なら、恥ずかしがって手を取ろうとはしなかっただろう。けれど、今日は無意識に姉さんの手を取っていた。
姉さんの手、冬の空気にきんと冷やされている。まだ熱を持っている俺の手で、少しでも温める事が出来たらと思う。
俺の掌より、一回り小さな掌。零れおちないように、そっと力を込めた。姉さんに手をひかれて立ち上がる。
そして、やっぱり拙い足取りで、二人、くるくると回り出す。時折足を蹴り上げて、その拍子に積もった雪が花吹雪のように中空を舞う。
宙に舞った雪が、キラキラと輝く。気がつくと、雲の切れ間から一筋の光がさしていた。
祝福の光の射す銀世界を、疲れて息が上がるまで踊り続けた。
*****
ふむ、と一理が問題文を視線で追っている。私は、愛する弟である一理のすぐ隣に座ってその様子を眺める。
一理が新たに目指す大学の二次試験まで、後1か月弱しかない。マークシート方式のセンターとは違って、二次試験は記述式でそれだけでも難易度は高くなる。
とはいえ、一理のセンター試験の結果は文系科目だけならかなり良い点を取れているのでこのまま行けば、ほぼ合格だろう。
そう、最早、私と一理が姉弟で一緒の大学へ通うだけでなく、一緒に暮らす事は確定事項と言っても良い。
「どうしたんだ、姉さん、にやにやして」
問題を解き終わったのか、一理が訝しげな視線を送ってくる。
いけない、いけない。あまりにも計画が上手くいきすぎて、思わずにやけてしまった。
まずあり得ないだろうけれど、一理に計画の事を悟られるのはまずい。
ふむ、念には念を押して、後で下剤も処理しておいた方がいいかしらね。
あと、ケータイにある一理の元恋人とのメールとメアドも。
……他に、処理しておいた方がいい物はあったかしら。
頭の中で、後始末の手筈を思い浮かべながら首を振る。
「何でもないわよ」
「ふーん?」
一理は特に気にした風もなく、再び参考書に視線を落とした。
「ねえ、一理?」
「ん〜?」
呼びかけると、視線はそのままで一理が生返事。
「楽しみね、これから」
「ん〜、まあ、大学受かってからだな。まずは」
「ふふ、そうだったわね」
そう言いながらも、私は来るべき日々に思いをはせる。
久しぶりにこの町に降った雪もあと数日後には、跡形もなく溶け去ってしまうだろう。
そして、直ぐに桜が咲いて、春が来る。麗らかな日射しの中で、まずは一理と二人散歩をしよう。日当たりの良い公園で、昼寝をするのも良いかもいしれない。
キラキラと輝く、眩しい未来を想起して、私の頬は矢張り緩んだ。
以上です
キモ度は低いかもしれないですが、キモ姉を書けて満足しました
それではスレ消化失礼しました
なかなかタイムリーなお話で。なんか……いいっすね……。
久し振りに爽やかなのを読んだ気がするよ。
ぐっじょ!!
406 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/21(木) 13:34:42 ID:neS5uJsb
非常に和んだ
よかった
GJです!
なんだか和んでしまいました
弓張月の続きも楽しみにしています
三つの鎖 13 前編です。
※以下注意
血のつながらない自称姉あり
エロあり
アナルあり
誰もいない早朝の教室で私はぼんやりしていた。
最近、梓は早朝に登校することはない。いつもお兄さんと登校しているらしい。昔に戻っただけだけど、それでも少し寂しい。
私はため息をついた。霧のように不安がまとわりつく。別に嫌な事があるとか、不安を感じさせる出来事があるわけではない。むしろ逆だ。何もかもが順調なのだ。
お兄さんはすごく優しい。優しいだけではなくて、私の望んでいる事をさりげなく行ってくれる。
最近、私とお兄さんは放課後に一緒にいる事が多い。いつもお兄さんがそれとなく誘ってくれる。本当なら柔道の練習に行ったり家事があったりでお兄さんは忙しいはずだけど、家事は梓と分担するようになり、柔道は頭を強打したのでしばらく休むらしい。
放課後にぶらぶらした後、私の家でエッチするのが最近の日常だった。思い出すと思わず顔が熱くなる。
優しいお兄さんも好きだけど、ベッドで私を求めてくれるお兄さんも好きだ。私の好みに合わせて少し激しくしてくれる。
私は変態なのかもしれない。お兄さんにちょっと乱暴に抱かれるのが好き。必要とされているように感じて嬉しいし気持いい。お兄さんは最初は優しくしてくれたけど、私の好みが分かってくれたのか最近はいつも少し激しくしてくれる。
その後お兄さんは料理を作ってくれる。お兄さんはいつも食べずに帰るので私は一人で食べるけど、寂しいと思ったことは無い。いつも自分で作ったカレーを一人で食べるのに比べたら何とも思わない。
順調なのに不安を感じる。いや、順調すぎるから不安を感じるのだろう。ぜいたくな悩み。
私はため息をついて窓から校門を見た。まだ誰かが登校する時間ではない。早朝の部活に参加する学生だってまだ家にいる時間だ。と思ったら一人歩いている。
誰か一瞬で分かった。お兄さんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「びっくりしましたよ」
夏美ちゃんと僕は屋上のベンチに座って話した。
「こんな早くにお兄さんが来るなんて」
確かに登校には早すぎる時間だ。他に学生は誰もいないだろう。
「今日はどうしたんですか?」
不思議そうに僕に尋ねる夏美ちゃん。まっすぐな視線が突き刺さる。
「教室で本でも読もうと思って」
本当は違う。家にいずらいのだ。最近、梓は何かと僕を心配し気を遣う。何か感づいたのかもしれない。何かと世話を焼き甘えてくる。それがつらい。今は一人でいたい。
あの日以来、僕は春子を幾度となく抱いた。
春子のご両親が留守の時は春子の部屋で、そうでない時はホテルを利用した。いつも春子から誘ってきた。
僕は断らなかった。断われるわけがなかった。脅されているとはいえ、罪の意識は消えない。
春子の誘いに僕は抵抗した。何度も春子にやめるように頼んだ。
それでも春子は聞いてくれなかった。映像の事を持ち出して僕を脅した。そうなると僕は何も言えないし、逆らえない。
夏美ちゃんと一緒にいる今も、強烈な罪悪感が胸を締め付ける。
「夏美ちゃんこそこんな朝早くにどうしたの?」
僕は罪悪感を隠して夏美ちゃんにほほ笑んだ。絶対に知られるわけにはいかない。
夏美ちゃんは何も言わずにじっと僕を見上げた。澄んだ瞳が僕を映す。
瞳に映った僕は何も変わらない穏やかな笑顔だった。笑顔を作るのだけはうまくなった。
突然、夏美ちゃんは僕に抱きついてきた。僕の胸に顔を埋める。
「どうしたの?」
僕は夏美ちゃんの背中に腕をまわし抱きしめた。夏美ちゃんは僕の腕の中で震えている。
「嫌なんです」
夏美ちゃんの言葉に心臓が止まりそうになる。
「あの家にいると、昔を思い出して嫌なんです」
違った。安堵のため息を飲み込む。
「何がだい?」
「私のお母さんとお父さん、今はお仕事で海外に住んでいます。二人とも別の国にです。お父さんもお母さんも一緒に住もうって言ってくれますけど、私選べないんです。だから私一人であのマンションに残ってるんです」
夏美ちゃんの声は震えている。
「お父さんもお母さんも仲はいいです。私、お父さんもお母さんも大好きです。だからどちらか選べって言われたとき、選べませんでした。だから私一人で日本に残ったんです。正直寂しいですし、不安です」
僕にしがみつく夏美ちゃんの腕に力がこもる。とても非力な力。
「今も不安なんです。お兄さんが優しいのが不安なんです。もしかしたら何かあるんじゃないかって。私の事が好きなんじゃなくて他の理由で私に優しくしてくれているんじゃないかって」
胸に渦巻く罪悪感が僕を苛む。今すぐ逃げ出したい衝動を必死で抑えた。
「分かってます。私の被害妄想だって。お兄さんはそんな人じゃないのに」
夏美ちゃんの言葉が僕の心に突き刺さる。
「ごめんなさい。私お兄さんの事を愛しています。でも好きになればなるほど不安に思うんです」
「安心して夏美ちゃん」
僕は夏美ちゃんの頬にキスした。
「僕も愛しているよ」
泣き笑いの表情で夏美ちゃんも僕の頬にキスしてくれた。
僕は最低だ。
今すぐに何もかもをぶちまけたい。でもそんな事をしても何になるのか。
「ひっくっ、好きです、ぐすっ、愛しています」
ぐずりながら僕に愛していると囁く夏美ちゃん。罪悪感が胸を締め付ける。
僕はキスしながら夏美ちゃんの太ももを撫でた。夏美ちゃんがびくりと震える。
「あっ……そんなっ……だめですっ……」
かすかに顔を赤くして身をよじる夏美ちゃん。僕はスカートの上から軽くなぞる。
「ひあっ……こんな場所で……あんっ」
恥ずかしそうに抵抗する夏美ちゃん。
「夏美ちゃん」
僕は囁く。
「忘れさせてあげる」
夏美ちゃんは震えた。期待するかのように僕を見上げる。何度も見た綺麗な瞳。
僕は夏美ちゃんのスカートに手を入れ下着に手をかけた。夏美ちゃんは腰を浮かす。脱がした下着はかすかに濡れていた。
スカートの下から手を差し入れ、夏美ちゃんの膣の入り口をなでる。
「ひうっ……ああっ……んっ……」
僕の腕の中で震える夏美ちゃん。吐きだす息が熱い。僕は指を膣に挿入した。
「ひっ!」
硬直する夏美ちゃん。膣はすでに濡れていた。僕は指を何度も出し入れする。
「ひあっ…あっ…んんっ…きゃふっ」
可愛い声を出して震える夏美ちゃん。僕は指を抜いた。
荒い息をつく夏美ちゃんに僕は囁いた。
「どうする」
夏美ちゃんが泣きそうな顔をする。
「ひぐっ…おにいさん…いじわるしないで…」
「ごめん」
僕は夏美ちゃんの頬にキスした。手早くコンドームをつける。ベンチを降り床に座る。
夏美ちゃんの体を引きよせ僕の膝の上に向かい合って座らせた。夏美ちゃんの腰を浮かせ、膣の入り口に剛直の先端を当てる。夏美ちゃんの体がびくりと震える。
「入れるよ」
僕はゆっくりと夏美ちゃんの体を沈めた。剛直がゆっくりと膣に包まれる。
「ひっ…ああっ…入ってますっ…あうっ…」
僕にしがみついて震える夏美ちゃん。声には隠しきれない快感。
やがて剛直の先端が膣の一番奥をつつく。夏美ちゃんがひときわ大きく震えた。
夏美ちゃんにキスして僕はゆっくりと小さい体を揺さぶった。
「ひあっ…んんっ…きゃうっ…ああっ…」
ゴム越しでも夏美ちゃんの膣をこする感覚が気持いい。僕はゆっくりと揺さぶり続けた。夏美ちゃんの体が震える。
「んっ…おにいさんっ…おねがいです…あっ」
夏美ちゃんは僕の腕の中で切なそう僕を見た。この姿勢だと夏美ちゃんの顔がすぐ目の前にある。
「もっとっ…乱暴にっ…」
目の前の夏美ちゃんの顔が羞恥に染まる。
何度も夏美ちゃんを抱いて分かったけど、夏美ちゃんは少し乱暴にされるのが好きだ。もちろん、本気を出して腰を動かすと夏美ちゃんの体力が持たないし、僕ももたないのでで抑えているけど。
僕は夏美ちゃんに少し乱暴にキスすると、腰の動きを少し速めた。
「ひうっ!?」
夏美ちゃんが嬌声を上げる。少し大きめに腰を動かし、膣の奥を何度もつつく。
「ひあっ、きゃんっ、ああっ、ひっ、やあっ」
嬉しそうに夏美ちゃんが体をよじる。僕はその動きを抱きしめて抑え、さらに夏美ちゃんを責める。
「やあっ、らめっ、ひぐっ、ひあっ、いやっ」
夏美ちゃんの言う事とは逆に膣は締まる。僕は動きを抑えつつも執拗に責めた。
「ひあっ、なしゅみっ、もうらめっ、らめっでふっ、あっ、ああっ、あああああああーーーーーっっっっ!!!!!」
強烈な快感。夏美ちゃんの膣が剛直をきつく締める。僕は腰の動きを止めた。背中を反らし震える夏美ちゃんの首筋を舐める。
「ひうっ…あっ…ああっ…」
とろんとした目で僕の顔を見る夏美ちゃん。僕は耳を甘噛みした。
「ひゃう!?」
「まだいける?」
僕は硬いままの剛直で夏美ちゃんを突き上げた。
「ひうっ!」
震える夏美ちゃん。夏美ちゃんは僕を見てこくこくと頭を縦に振った。
僕は腰の動きを再開した。夏美ちゃんの甘い声と体に僕はおぼれた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
最近兄さんの様子がおかしい。
見た目こそいつも通りだけど、何となく元気がない。いや、苦しんでいるように見える。聞いても何でもないと微笑む。その笑顔も見た目はいつも通りだけど、何か違う。
今日の兄さんは朝食を食べたらすぐに家を出た。今日は私が食事当番だから私は朝食を片付けていた。
片付けが終わると私はすぐに家を出た。兄さんのそばにいたい。
学校に走る途中、学生は誰もいなかった。まだ早い時間だ。
私はまっすぐに兄さんの教室に向かった。教室には誰もいなかった。いったいどこに行ったのだろう。
ふと夏美の事が脳裏に浮かんだ。夏美はいつも朝早くに登校する。もしかしたら夏美と話しているのかもしれない。
邪魔していいのだろうかと一瞬考えたけど、構うものかと思った。本当ならこの時間は家で兄さんと一緒にいる。一緒に登校している。今の兄さんの時間は私のものだ。
しかし私のクラスにも兄さんはいなかった。夏美もいなかった。
誰もいない教室で私は考えた。どこにいるのか。ふと屋上が浮かんだ。屋上は私もよくいく。もしかしたらそこにいるのかもしれない。
私は階段を駆け上り屋上への扉に手をかけた。そこで私は固まった。
かすかに聞こえる喘ぎ声。
私はゆっくりとドアのノブを回し、微かに扉を開いた。隙間から屋上をのぞく。何も見えない。
屋上の間取りを脳裏に浮かべる。ベンチは入り口から死角にある。私は音をたてないようにドアを開き屋上に足を踏み入れた。はっきりと聞こえる。喘ぎ声。夏美の声。
私は壁からベンチのある方向をこっそりのぞきこんだ。
屋上に座った兄さんにまたがる夏美。夏美は兄さんに揺さぶられて嬌声をあげている。兄さんは何度も夏美にキスした。そのたびに夏美は甘い声をあげて震えていた。
目の前の光景が理解できない。頭が真っ白になって何も考えられなかった。
夏美の喘ぎ声が耳に響く。嬉しそうな気持ちよさそうな声。兄さんは腰を大きく動かして夏美を揺さぶる。
分かっていた。兄さんと夏美は恋人同士だからお互いに体を重ねている事も。時々家に帰ってくる兄さんの髪から知らない香りがする事も。兄さんは私の兄さんでしかない事も。
それでも私はどこか幻想を抱いていた。兄さんが一番大切にしてくれるのは私だと。兄さんの妹は私だけなんだと。
足元にしずくが落ちる。涙がとめどなく溢れた。
私は兄さんの妹でしかないんだ。
兄さんの腰の動きが激しくなる。夏美は必死に兄さんにしがみついてる。そして兄さんの動きが止まった。二人はお互いに体を震わせながら唇をむさぼる。
私は二人に背を向けた。屋上を出て扉を閉める。走って学校を飛び出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一時間目の授業は頭に入らなかった。
早朝の夏美ちゃんとの情事を思い出す。自覚すればするほど自分の行動の最低さを思い知る。
あの時、僕は夏美ちゃんに忘れさせてあげると言った。本当は逆だ。僕が忘れたかったのだ。春子に脅迫され夏美ちゃんを裏切っているという現実を忘れたかったのだ。そのためだけに夏美ちゃんを抱いた。
どこまで堕ちればいいのか。
気がつけば一時間目が終わろうとしている。いけない。僕は気持ちを切り替えた。
一時間目終わった後の休憩時間に夏美ちゃんが訪ねてきた。不安そうに僕を見る。
「お兄さん。梓から連絡来ていませんか」
もちろん無い。
聞くと、梓が学校に来ていないらしい。携帯もつながらない。お弁当の入ったカバンが机にかけたままだから一度学校に来たのは間違いないらしい。
夏美ちゃんが帰った後の授業中も考えた。今日の朝はいつも通りの梓だった。いったい何があったのだろうか。
ある事に思いつき背筋が寒くなる。まさか、朝屋上で夏美ちゃんとの情事を目撃されたのではないだろうか。
深呼吸して息を吐き出す。今は情報が少なくて何とも言えない。
次の休み時間に僕は家に電話した。しばらくして誰かが電話に出た。
「梓?」
無言。誰かの呼吸が聞こえる。そして声が聞こえた。
『兄さん』
梓だ。僕はほっとした。
「今日はどうしたの?」
『ごめん。体調不良みたい』
梓の声は沈んでいた。大丈夫だろうか。
「帰ろうか?」
『いいよ。そこまでひどくはないし。私の鞄だけお願い』
「分かった。無理はしないで」
『うん』
そう言って梓は電話を切った。
梓が体調不良なのは心配だけど、とりあえず家にいる事は確認できた。
僕はため息をついた。気持ちを切り替え授業に集中した。
梓と春子と夏美ちゃんの顔が浮かんで消えた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
梓どうしているのかな。
私はため息をついた。三時間目は私の苦手な数学だけど、どちらにしても集中できないだろう。
梓の席を見る。鞄だけかかった机。
お兄さんも知らないって言っているし、どうなっているのだろう。
三時間目が終わった後の休み時間に私は携帯を確認した。お兄さんからメールが来ていた。
『梓は家にいる。体調不良らしい。心配をかけてごめん』
私はほっとした。梓は無事だったんだ。でも体調不良か。大丈夫かな。放課後にお邪魔でなければお見舞いに行ってみよう。
ついでに私はお兄さんをお昼に誘ったけど、先約があると断られた。残念。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お昼休みに春子は僕の手を引いて生徒会準備室に来た。正直、一人でいたかったし、夏美ちゃんにも誘われたけど、春子は強引に僕を連れてきた。
春子は僕にお弁当を差し出した。
「お弁当を交換しよ」
春子のお弁当をずいと突き出して笑顔で言う春子。
僕が答える前に春子は自分のお弁当を開けた。サーモンマリネのあるお弁当。ちょっとおいしそうかも。
春子はお箸でお弁当のおかずをつかみ僕の顔に寄せた。輝くような笑顔を向けてくる。
「あーん」
僕はげんなりした。
「あーん」
笑顔で繰り返す春子。
僕はため息をついて春子に食べさせてもらった。どうせ断っても脅してくるだけだ。
春子のお弁当がとてもおいしいのが腹立たしかった。
最後の一口を食べる。咀嚼する僕を春子は嬉しそうに見つめた。
「今度は幸一君がお願いね」
春子は笑顔で言った。何をお願いなのだろう。
「お姉ちゃんにあーん、ってしてね」
僕は天井を仰いだ。
本気で言っているのか。
「幸一君。分かっているでしょ」
本気だ。
僕はあきらめてお弁当を開いた。梓の作ったお弁当。中身はサーモンの南蛮漬け。といってもタレは染み込む程度でお弁当のおかずとして工夫されている。
「おいしそうだね」
目を輝かせる春子。
僕はサーモンの南蛮漬けを一口サイズに分け春子の口元にお箸で運んだ。
春子は嬉しそうに口を開けて食べた。
もぐもぐと子供のような笑顔で咀嚼する春子。
「うん。おいしいよ。梓ちゃんたら腕を上げたね」
春子は嬉しそうに笑った。その笑顔に複雑な気持ちになる。
「幸一君。もっとあーんしてね」
僕はため息をついてお箸を動かした。春子はもぐもぐと梓のお弁当を食べる。
まるで子供のようにほっぺたを膨らませてもぐもぐ食べる春子。
最後の一口を春子は飲み込んだ。白い喉が小さく動く。
「ご馳走様!」
春子は満足そうに言った。嬉しそうな笑顔。
僕はお弁当を片付けた。
「幸一君。お姉ちゃんのお弁当はどうだった?」
春子は僕にもたれかかった。柔らかい春子の感触。僕を下から見上げる。濡れた視線。
「おいしかったよ」
僕は春子を引き離そうとしたけど、春子は僕の背中に両腕を回して防ぐ。
「幸一君。デザート欲しくない」
春子の吐息が首筋に当たる。熱い吐息。
「いらない」
僕は即答した。
本当にいらない。
「幸一君。分かっているでしょ」
背中に回された春子の腕に力がこもる。
「お姉ちゃんを抱いて」
頬を微かに染めて春子は囁いた。
僕は春子の顔を見た。何かを期待するかのような表情。
「春子。お願いだからやめようよ。こんな事をしても何にもならない」
「幸一君。お姉ちゃんに何度も言わせないで」
春子は僕の胸に頬ずりした。
「分かっているでしょ。お姉ちゃんに逆らっちゃだめ」
僕は唇をかみ締めた。それでも動けない。動きたくない。
春子は僕を上目使いに見上げた。ぞっとするほど濡れた視線。
「幸一君だってお姉ちゃんを激しく抱くじゃない。夏美ちゃんにできないような事をお姉ちゃんにしていいんだよ。別に悩まなくていいよ」
僕に囁く春子。
春子の吐息が熱い。
確かに僕は春子を何度も抱いた。それも乱暴に抱いた。
盗撮した映像の事を持ち出されると、怒りを押さえられなかった。
春子の顔が目の前にある。荒い息。白くて滑らかな肌。淫靡に輝く瞳。微かに桜色に染まった頬。形の良い小さい唇。
僕の唇に春子の唇が重なる。唇を割って春子の舌が入り込む。
反射的に春子の肩を押して引き離した。
春子は苛立たしげに僕を見上げた。
「お姉ちゃんを怒らせないで。いいの?」
どす黒い衝動が湧き上がる。
僕は春子を突き飛ばした。小さい悲鳴を上げて春子はベッドに倒れる。
そんな春子に覆いかぶさり僕は制服の上でも存在感を示す胸を強くつかんだ。
「ひうっ!」
顔をゆがめる春子。僕はそのまま乱暴に張るこの胸を揉みほぐす。
春子の胸は大きくて柔らかい。指がどこまでも食い込む。
「ああっ!幸一くんっ!乱暴だよっ!んっ!痛いよっ!」
春子は息を荒くして僕を見上げた。言葉とは裏腹に嬉しそうな顔で僕を見る。
それが腹立たしい。僕はさらに乱暴に春子の胸を揉んだ。
嬌声をあげる春子のスカートの下に手を伸ばし下着をつかむ。一気に脱がす。春子の膝上で黄色い下着が止まる。下着はすでに濡れていた。
春子は恥ずかしそうに顔を背けた。その頬は桜色に染まっている。
「お姉ちゃんねっ、だめなのっ、幸一君に乱暴されるとねっ、いけない気持ちになっちゃうのっ」
春子は震える手でスカートをゆっくりたくし上げた。春子の膣の入り口はすでに見て分かるほどに濡れていた。
「幸一君のせいだよっ、お姉ちゃんを何度も乱暴に抱いてっ、痛くて怖いのにっ、それなのにね、いけない気持ちになっちゃうのっ」
目尻に光るものを湛えて春子は僕を見上げた。背筋が寒くなるほど淫靡な表情。
僕は春子の膣に指を挿入した。体を震わす春子。すでに春子の膣はびしょびしょに濡れていた。
乱暴に春子の膣の中をかき回す。
「ひうっ、お姉ちゃんねっ、ああっ、幸一君にねっ、変態さんにされちゃったよっ、きゃうっ」
春子の膣を乱暴にかき回しているのに、春子が痛がる様子はまったく無い。それどころか僕の指に春子の膣が絡みつくかのようにうごめく。
僕は春子の膣から指を抜いた。息も荒く切なそうに僕を見上げる春子。僕はズボンを脱いだ。すでに僕の剛直は固くなっている。春子はパンツを完全に脱ぎ自ら足を広げた。
「こ、幸一くんっ、お姉ちゃんねっ、幸一君にねっ、乱暴されると嬉しいのっ」
春子は足を広げたまま恥ずかしそうに僕を見上げた。
「だってね、幸一くんが乱暴に抱くのはね、お姉ちゃんだけでしょ?」
息も荒く淫靡な姿勢で体を震わす春子。
春子の目尻から涙がポロリと落ちた。
「いいよっ、お姉ちゃんをねっ、滅茶苦茶にしてっ、幸一くんになら、何をされてもいいっ」
春子の両膝を押さえて足をベッドに押し付けるように広げる。僕は一気に挿入した。
「ひっ!あああああああああっっっっ!!」
体をよじる春子を押さえつけ僕は乱暴に腰を振った。
「ああっ!ひうっ!やんっ!きゃうっ!」
艶のある喘ぎ声をあげる春子。僕は乱暴に春子の膣に剛直を擦り付けた。
体を震わせ身をよじる春子。
「ひぐっ!だめぇっ!こすり付けないでっ!」
濡れた視線で僕を見上げる春子。口調とは裏腹に嫌がっているようにはまったく見えない。それが腹立たしい。
僕は剛直を抜いた。春子はぐったりと僕を見上げる。
「四つんばいになって」
春子はびくっと震えた。期待するかのように僕を見つめる。
僕は春子の胸を鷲づかみにした。思い切り力を入れた。
「いたっ!いたいよっ!んっ!」
身をよじる春子。
「僕の言ったことを聞いていた。四つんばいになって」
恐れるように、期待するかのように僕を見上げる春子。恐る恐るといったように体を起こし四つんばいになる。
僕はスカートを上げた。白い太ももがむき出しになる。
膣の入り口が期待するかのようにひくひく動く。僕は指を挿入した。
「ひゃうっ!?」
体を震わす春子。僕はそのまま指を往復させた。
「こ、幸一くんっ、指じゃなくてねっ、んっ、いれて欲しいのっ」
切なげな吐息を漏らす春子。
僕は指を膣から抜いてお尻の穴に指を入れた。
「ひっ!?」
体を硬直させる春子。僕は春子の愛液を塗るように指を前後させる。
「や、やだっ!待ってよっ!ひうっ!そっちじゃないよっ!」
悲鳴を上げて体をよじる春子。僕は開いた腕で春子の腰を思い切りつかんだ。
「つっ!こ、幸一くん?」
僕は春子のお尻の穴から指を抜いた。安堵のため息を漏らす春子。
春子の腰をつかみ、膣の入り口に剛直をあてがう。そのまま一気に挿入した。
「きゃうっ!」
震える春子。僕は腰をゆっくりと前後させた。
「んんっ、幸一くんっ、あっ、もっと乱暴にしてっ」
切なそうに言葉を紡ぐ春子。
背中越しに濡れた視線を僕に向ける。
「お姉ちゃんねっ、幸一君にならねっ、何をされてもいいのっ、お願いっ、もっと乱暴にしてっ」
僕は春子の膣から剛直を抜いた。春子の愛液に濡れた剛直の先端をお尻の穴にそえる。
「こ、幸一くん?」
不安そうな春子。
僕は春子の腰をがっちりつかんだ。
「僕になら何をされてもいいんだろ?乱暴にされるのが好きなんだろ?」
僕は春子のお尻の穴に剛直をねじ込んだ。
「ひっ!ああああああああーーーーーーーーーーーーーーっっっ!」
痛々しい悲鳴を上げる春子。
春子のお尻の穴はあまりにきつい。まだ先っぽしか入らない。僕はさらにねじ込もうと力を入れた。
「痛いっ!痛いよっ!やだっ!やめて!いやぁぁぁぁっ!」
きつい。なかなか入らない。僕は体重を思い切りかけて春子のお尻の穴を突き進む。
春子は悲鳴をあげて体を震わせる。痛々しい悲鳴が生徒会準備室に木霊する。
「いやっ!いやっ!痛いっ!やめてっ!お願いっ!抜いてっ!」
いったん腰を止めて休憩する。春子のお尻の穴は僕の剛直を拒むように締めつける。
「ひっくっ、幸一くんっ、やめてぇ、お姉ちゃん、痛いのっ」
春子は泣きながら懇願する。白い体にはびっしりと汗が浮かぶ。
「こんなのやだよぉっ、ひっくっ、お願いっ、やめてっ、やだよっ、これ以上入れないでっ、抜いてっ」
僕は春子の腰を思い切りつかんで固定し、体重を一気にかけた。
剛直がきつい隙間を押し広げる感触とともに一気に奥に進んだ。
「ひあっ!!!!!あああああああーーーーーーーーっっっ!!!!!」
春子は絶叫した。痛みを我慢するかのように背中を丸める。シーツを握る白い手が震える。
熱病にかかったかのように小さく震える春子。
「ひうっ、ぐすっ、いたい、いたいよっ」
泣きながら痛いと繰り返す春子。僕は腰を引いた。剛直が強く擦られる感触。
「ひああっ!やだっ!いたいっ!動かさないでぇっ!」
「抜いてといったのは春子だろ」
体を震わし悲鳴をあげる春子。
春子のお尻の穴は経験したことの無いきつさで締め付けてくる。力を入れて削り取るように剛直を抜いていく。
「いたいっ!やだっ!やだよ!ひああっ!やだっ!動かさないでっ!」
春子の悲鳴を無視して僕は剛直が抜ける寸前まで腰を引いた。お尻の穴から赤い血がこぼれる。
再び腰を前進させて春子のお尻の穴に剛直を進める。
「いやっ!いたいっ!いたいのっ!やめてぇっ!」
体を震わせて叫ぶ春子。その声には喜びも快感は微塵も無い。ただ痛みと苦しみだけ。
僕は強引に腰を前後させた。
「やだっ!やめてぇっ!やっ!いたいっ!やめてぇぇぇ!」
僕は春子の悲鳴を聞き流して強引に腰を動かした。拒むような強烈な締め付け。
締め付けがきつすぎて腰を前後させるだけでも体力を使う。僕はいったん腰を止めて休憩した。
「ひうっ、ぐすっ、お願いっ、やめてっ、お姉ちゃんっ、痛いよっ、こんなのっ、やだよっ」
春子は体を震わせ泣きながら懇願した。痛みのせいか全身に汗をかいている。すでに春子の上半身は汗で濡れてカッターシャツが透けて見える。
僕は後ろから春子の胸をつかんだ。力をこめて握り締める。悲鳴を上げて身をよじる春子。
「僕に何をされてもいいんだろ。乱暴にされるのが好きなんだろ」
「ひうっ、んっ、でもっ、こんなのやだっ」
春子は背中越しに僕に視線を向けた。涙で濡れた顔。
「お願いっ、いたいのっ、やめてっ、お願いだからっ」
僕は春子の腰をつかんだ。
「あの時、僕は何度も止めてってお願いした」
春子の瞳が絶望に染まる。
僕は腰の動きを再開した。春子の直腸を削り取るかのように剛直を動かす。
「いやっ、いやっ、いやぁぁぁぁぁっっ!!!!」
春子の叫びを無視して僕は何度も腰を前後させた。
必死に体をねじる春子を腰をつかんで固定する。春子がつかんだベッドのシーツの場所が皺になる。
きつい締め付けだけど膣とは全く違う感触になかなか達する気がしない。僕はさらに腰の動きを速めた。
「やだっ!やだっ!やめてっ!お願いっ!やめてぇぇぇっ!」
春子の痛々しい声が響くなか、僕は腰を振る。
徐々に射精感が高まってくる。僕は腰の動きをさらに速めた。それにつられるかのように春子の悲鳴も大きくなる。
「ひっ!うっ!ああっ!ひぎっ!うあっ!」
痛みに必死に耐えるかのように背中を丸めシーツを握り締める春子。
僕はついに達した。春子のお尻の穴に精液を吐き出す。
すべて吐き出してから僕は剛直を乱暴に抜いた。春子の体が震える。
「ひっくっ、ぐすっ、ううっ、ぐすっ」
すすり泣く春子。
痛々しい姿。足の間は血にまみれ、汗のせいでシャツは透けて見え、体にぴったりと張り付いている。白い太ももに流れた赤い血がより一層の痛々しさを誘う。
春子は涙でぐちゃぐちゃになった顔を僕に向けた。涙で濡れた顔。
僕と目が合う。春子の目が見開かれる。脅えるようにベッドの上を後ずさり、体を震わせ春子は泣いた。
分からない。春子は僕の目に何を見たのだろうか。
春子の目尻から涙がぽろぽろ溢れ出す。乱れた服もそのままに春子は体を震わせて泣いた。
その姿に胸がざわつく。そのざわつきの意味が分からないまま僕は泣き続ける春子を黙って見続けた。
投下終わりです。
読んでくださった方に感謝いたします。
ありがとうございました。
HPにて登場人物の人気投票を行っています。
もしよろしければご協力お願いいたします。
アドレスは
>>82にあります。
また、今までに投下した作品を掲載しています。
最新作はスレにしかありません。ご了承ください。
続きは新しいスレが立った時にでも投下します。
リアルタイムGJだ
梓のターンまで全裸待機
GJ
あーちょっとこれは・・・見てられなくなってきた・・・
この話相当おもしろいです
けつ掘られて泣いてる春子もえ
てか次スレたてろ雑魚あげ
うめ
424 :
梅:
妹「なんだよお前は、アニキに文句があるのか? アニキの文句は、私に言えっ!!
お、ワタァっ!! たった今、『次スレ』の秘孔を突いた」
男「ゆ、指を抜いてくれぇっ!!」
妹「良いの? 抜いたら死んじゃうよ?」
男「やっぱり抜かないでぇっ!!」
妹「だぁめっ♪」
ピギューン……
男「たわばっ!!」
妹「眠れ、このスレと共に」