【田村くん】竹宮ゆゆこ 27皿目【とらドラ!】

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1名無しさん@ピンキー
竹宮ゆゆこ作品のエロパロ小説のスレです。

◆エロパロスレなので18歳未満の方は速やかにスレを閉じてください。
◆ネタバレはライトノベル板のローカルルールに準じて発売日翌日の0時から。
◆480KBに近づいたら、次スレの準備を。

まとめサイト3
ttp://wiki.livedoor.jp/text_filing/

まとめサイト2
ttp://yuyupo.dousetsu.com/index.htm

まとめサイト1
ttp://yuyupo.web.fc2.com/index.html

エロパロ&文章創作板ガイド
ttp://www9.atwiki.jp/eroparo/

前スレ
【田村くん】竹宮ゆゆこ 26皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1259513408/

過去スレ
[田村くん]竹宮ゆゆこ総合スレ[とらドラ]
http://sakuratan.ddo.jp/uploader/source/date70578.htm
竹宮ゆゆこ作品でエロパロ 2皿目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1180631467/
3皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1205076914/
4皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1225801455/
5皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1227622336/
6皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1229178334/
7皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1230800781/
8皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232123432/
9皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232901605/
10皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1234467038/
11皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1235805194/
12皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1236667320/
13皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1238275938/
14皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1239456129/
15皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1241402077/
16皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1242571375/
17皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1243145281/
18皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1244548067/
19皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1246284729/
20皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1247779543/
21皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1249303889/
22皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1250612425/
23皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1253544282/
24皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1255043678/
25皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1257220313/
2名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 00:50:04 ID:PQBHfpZT
Q投下したSSは基本的に保管庫に転載されるの?
A「基本的にはそうだな。無論、自己申告があれば転載はしない手筈になってるな」

Q次スレのタイミングは?
A「470KBを越えたあたりで一度聞け。投下中なら切りのいいところまでとりあえず投下して、続きは次スレだ」

Q新刊ネタはいつから書いていい?
A「最低でも公式発売日の24時まで待て。私はネタばれが蛇とタマのちいせぇ男の次に嫌いなんだ」

Q1レスあたりに投稿できる容量の最大と目安は?
A「容量は4096Bytes、一行字数は全角で最大120字くらい、最大60行だそうだ。心して書き込みやがれ」

Q見たいキャラのSSが無いんだけど…
A「あぁん? てめぇは自分から書くって事は考えねぇのか?」

Q続き希望orリクエストしていい?
A「節度をもってな。節度の意味が分からん馬鹿は義務教育からやり直して来い」

QこのQ&A普通すぎません?
A「うるせぇ! だいたい北村、テメェ人にこんな役押し付けといて、その言い草は何だ?」

Qいやぁ、こんな役会長にしか任せられません
A「オチもねぇじゃねぇか、てめぇ後で覚えてやがれ・・・」
3名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 00:50:25 ID:PQBHfpZT
813 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2009/01/14(水) 20:10:38 ID:CvZf8rTv
荒れないためにその1
本当はもっと書きたいんだがとりあえず基本だけ箇条書きにしてみた

※以下はそうするのが好ましいというだけで、決して強制するものではありません

・読む人
書き込む前にリロード
過剰な催促はしない
好みに合わない場合は叩く前にスルー
変なのは相手しないでスルー マジレスカッコワルイ
噛み付く前にあぼーん
特定の作品(作者)をマンセーしない
特に理由がなければsageる

・書く人
書きながら投下しない (一度メモ帳などに書いてからコピペするとよい)
連載形式の場合は一区切り分まとめて投下する
投下前に投下宣言、投下後に終了宣言
誘い受けしない (○○って需要ある?的なレスは避ける)
初心者を言い訳にしない
内容が一般的ではないと思われる場合には注意書きを付ける (NGワードを指定して名前欄やメ欄入れておくのもあり)
感想に対してレスを返さない
投下時以外はコテを外す
あまり自分語りしない
特に理由がなければsageる
4勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/15(火) 17:19:28 ID:7SwOH8gI
続きはこちらでよろしいんでしょうか?
次レスから投下しますね。
5勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/15(火) 17:19:58 ID:7SwOH8gI
落ちてから5時間経過。多分、5時間くらい経ったんじゃないかな?多分。よくわからないけど。
何か足が痛くなくなって来た。これなら歩けるかも。でも、何だか眠い。ちょっと寝て…起きたら、また頑張ろう…
と、冬の浪人生みたいな事を考えていたトコまでは覚えているんだが……後の事はもうさっぱりだ。

−25日目−

気がつけばベットの上にいた。あれ?ここはどこ?
「竜児ッ!!良かった。気がついたんだね!?」
大河が心配そうな表情で俺の顔を覗き込んでいる。
「良かった。私…竜児が死んじゃうかと思って……」
大河の顔は涙でクシャクシャだ。誰だ、大河をこんなに泣かせる奴は?……俺か。
しかし、どうやら助かったらしい。皆が助けてくれたんだろう。折れた足には丁寧に添え木までしてくれている。
ひとしきり泣いて落ち着いた大河が話してくれた内容をまとめると、
・落とし穴にハマった俺を救出すべく、皆で隠し階段を捜索
・本気を出した川嶋があっさり見つけた
・奥に進んだら、黄金の爪を後生大事に抱えたボロボロの俺が横たわっていた。
と、いう事らしい。
脱出の際、黄金の爪に掛けられた呪いが厄介だった。文字通り、一歩歩いただけでミイラが数匹出現したらしい。
何でも、黄金の爪は金ではなく変な金属で出来ていて、それが原因なんだとか。
魔物にしかわからない波動を出していたとか。大河自身、川嶋の受け売りらしく良くわかっていないのだろう。その説明はとことん解りにくかった。
あぶねぇ…もし足を痛めていなければ、俺はミイラの皆さんにフクロにされていた訳か。
で、その黄金の爪は俺の枕元に置いてあった。やめろよ。そんな呪われたモン置くなよ。
呪い自体はピラミッドを出た事で効力を失ったらしいが、それでも死者への供物みたいで気分が良くない。
てか、うっかり寝返りうってたら、首が飛んでたじゃねぇか……
聞けば、これをここに置いたのは櫛枝らしい。奴はまだ、怒っているのか。よもや、櫛枝に殺したい程憎まれていようとは……
6勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/15(火) 17:20:24 ID:7SwOH8gI
「こんな陰険な事するなら助けなきゃ良いのに……」
俺がそう言ったら、大河は声を荒げて猛反論。
「バカッ!!冗談でもそんな事言うんじゃないよ。傷付いて動けないアンタをここまで担いできたのはみのりんなんだッ
みのりんがアンタに死んで欲しいって思う訳無いッ。みのりんが一番心配してたんだから!!」
なんと、俺は櫛枝におんぶされてきたのか。意識が無かったのが悔やまれる。しかし、櫛枝が俺を一番心配してくれてた?……マジ?
マジだった。その後、櫛枝と川嶋が部屋を訪ねてきて、櫛枝は俺と顔を合わすなり、飛び付いてきた。
「良かった…良かった…」
と、何度も呟いて顔を俺の胸に押し付けてきた。ああ、生きてて良かった…と思う。櫛枝の髪の良い匂いが俺の鼻孔をくすぐる。
しかし、櫛枝に抱きつかれてる今のこの体勢。ちょっぴり恥ずかしい。俺は、ふと櫛枝から視線を外した。川嶋と目があった。
川嶋はクールを装っているが。ちょっとばかり目が赤くなっているのを俺は見逃さなかった。
怪我した足は痛いが、怪我した心はもう痛くなかった。俺は皆の愛が嬉しかった。
「何格好つけてんだバカ」
小悪魔めいた笑みを浮かべる川嶋に耳さえ引っ張られなきゃ、良い〆だったのにな。残念。

−32日目−

俺の怪我は全治一週間と診察にきた神父に診断された。
あんだけ痛かったのに骨にヒビが入っていただけだった。恥ずかしい……
しかも、そんなしょぼい怪我なのにやくそうでは治らないときた。
「ホイミしてくれませんか?」
と頼んだら、
「覚えておりません。」
と、政治家みたいな事を言われた。(意味は違うが)嘘だ。キアリーやシャナクを始めザオリクまで操る僧侶がホイミを使えない筈がない。
しかし、あくまで神父の助けは呪文では無く神の奇跡だという事になっているから、人前でホイミを唱える訳にもいかないのだろう。
教会での解毒や解呪もホントは呪文を使ってる癖に、やたら長い儀式とそれっぽい祈りでごまかしてる位だし。
−かくて、俺は、一週間の療養生活を余儀なくされた。
しかし、嬉しい事もあった。何と、3人がそれぞれ1日交代で看病に来てくれたのだ。
7勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/15(火) 17:21:53 ID:7SwOH8gI
初日は大河だった。お見舞いにと持って来てくれたのは手作りのおかゆ。何だかリゾットみたいになってたが、味の方はうまかった。
残念ながら大河の料理の腕が上がった訳では無い。大河が露天で買ってきたマンダラふりかけの味がうまかったのだ。
でも、そんなの関係ねぇ。俺は大河の優しさが嬉しかった。
2日目は櫛枝で、お見舞いにバケツいっぱいのプリンを持ってきてくれた。しかも、ア〜ンまでしてくれた。感無量だ。
3日目は川嶋。部屋に入るなり、
「ヒビが入るなんてカルシウム足りて無いんじゃない?飲んでみる?」
とか言い出した。その日に限ってやけに露出度の高い服を着ていた。胸を強調するポーズまで取って。なるほど、そういう意味ね。
ってか出るのか?確かに、デカイが……ゴクリ。俺は聞いてみた。
「右と左どっちの方が出が良いんだ?」
そしたら、顔を真っ赤にした川嶋に思いっきりビンタをお見舞いされた。
自分は冗談好きな癖に他人の冗談はお好きでないらしい。世の中、変わった人種も居るもんだと俺は反省した。
てか少しは怪我人をいたわれ。何しに来たんだお前は。
4日目。俺は度肝を抜かれた。なんとお見舞いにやってきたのはアンナさん(お忍び)だ。
わざわざ女王様がお見舞いに来てくれるなんて、俺も勇者として誉れ高い…
と、思ったがどうやらそうでは無いらしい。アンナさんは完全にオフモードだった。
部屋に入るなりアンナさんは
「ヒビが入るなんてカルシウムが足りて無いんじゃないかしら?飲んでみる?」
とか言い出した。やっぱり妙に露出度の高い服。(砂漠の民族衣装らしい)
ああ、結構ですよ。もう、そのネタはやりましたから。天丼です。
ちなみに、俺の枕元には堂々と黄金の爪が飾られている。(正直、どっかにやって欲しい)
盗っ人猛々しいとはまさにこの事。しかし、アンナさんは全く気にする素振りを見せない。流石、大物である。
「ふ〜ん。自分から誘っておいてビンタなんてまだまだ青いわね。あの子も。」
おや?何か知ってる風ですね。アンナさんと川嶋は面識無い筈だが……
「勿論、よく知ってるわよ。あの子は私の娘だもの。」
8勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/15(火) 17:22:16 ID:7SwOH8gI
は?いきなり何を言い出すんだこの人は。川嶋がアンナさんの娘だって?という事は川嶋は王女様という事になる。
川嶋は見目麗しく。根っからのお姫様気質でもある。………。何だ。ピッタリじゃねぇか。
言われてみれば、妙にイシスのあれやこれやに詳しかったり、ほしふる腕輪が無い事にマジギレしたりと、王家の人間らしき素振りはあった。
正解を聞いた後だから、なんとでも言える。川嶋が頑なに城に入りたがらなかった理由もアンナさんに聞いてわかった。
数ヶ月前に家出したそうだ。親の敷いたレールの上を走りたくないとかなんとか言って。困った奴だ。そりゃあ、家出娘は家に帰りたがらないわな……
しかし、気の毒なのはイシスの国民である。一生懸命に働いて、お上に血税を納めているのに当の王女があんなのだとは。
アンナさんは立派な女王様なのにな。何と支持率100%らしい。今、一丁目一番地で取り組んでる政策は、貯水湖の建造なんだとか。
他にも不要な国有オアシスを民間に払い下げたり、不良債権を見直したりと頑張っているらしい。
その後、俺とアンナさんの共通の話題。あいつは素直じゃない。底意地が悪い。外面だけは良い。バカ舌だ。甘ったれで意気地なし。ホントは気が弱い。
等々、川嶋の悪口大会で大いに盛り上がった。アンナさんは帰り際に
「あの子の素性については知らない振りをしてあげて頂戴。
あ、それからあの子あれで結構純情なのよね。奥手というか…
だから、竜児君がムリヤリ犯っちゃって良いわよ♪」
などと言っていた。前半については承知したと答えた。言いたければ、そのうち自分から言ってくるだろう。後半についてはノーコメントだ。
残る、4.5.6日目は逆ローテーションで川嶋、櫛枝、大河の順に看病に来てくれた。皆、優しくて。俺の傷だらけだった心も十分に癒やして貰った。そして、本日が7日目。
9勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/15(火) 17:23:48 ID:7SwOH8gI
療養生活最終日は豪華3本立てだった。ぶっちゃけた話、5日目くらいで足の痛みは引いている。医者の診断は水増しされてるのが世の常だ。
神父も治療費。もとい、お布施を余分に取りたいのだろう。聖職者と言えども人間である。
もう1人で歩けるのだが、あいつら3人は俺を看病するのが楽しくなってきた様で色々お世話してくれる。
まあ、せっかくの好意…という事で、俺も甘えているのだ。たまにはよかろう。
「明日で完治だね。残念。ねぇ?もう片方の足も折ったげようか?」
川嶋の善意からなるこの発言だけは断固、遠慮させて貰うが。
そうして、俺はゆっくりまったり療養生活最後の日を満喫した。
さて、明日からまた冒険だ。魔法の鍵も手に入れた事だし、次はポルトガでも目指そうかな。
夕食の席で皆に次の目的地を告げた。その時、ポルトガと聞いて大河の耳がピクピクと動いたのを見てしまった。
あれ?まさかな……。お前も家出姫とか勘弁してくれよ?
不安になった俺は、川嶋が席を外した時を狙って大河に聞いてみた。
「なあ、大河。お前、実はどっかの国のお姫様とかだったりしないよな?」
すると、大河は何言ってんだ?お前。的な感じで
「え?何それ?いきなり変な事言うね。どういう意味?」
と答えた。あ、違うなら良いんだ。深い意味は無い。
「きっと大河がお姫様みたいに可愛いって意味だよ。だよね?高須君」
違う。変な勘ぐりしないでくれ櫛枝。いや、確かに大河も見目麗しくはあるが……
「何?私を口説いてんの?竜児の癖に良い度胸だ。
私がお姫様だったら盗賊なんてやってる訳無いじゃんよ。バカだね。」
遊び人やってる姫様だったら居るぞ。それも身近に。
まあ、何にせよ大河はポルトガに確執があるっぽい。先ほどの耳ピクで俺はそう確信した。
旅立つ前から既に不安要素が1つ出来てしまった。もうヤダ。寝よ。
10勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/15(火) 17:24:10 ID:7SwOH8gI
ぼうけんのしょ1 りゅうじ

川嶋の悪癖は、どうやら母親譲りらしい事がわかった。

「竜児君たち、ピラミッド行ったんだって?うちのパパ見なかった?」
お見舞いに来たアンナさんはこんな事を言った。
「アミのパパね、5年前に死んじゃってさ……多分、ピラミッドのどっかに居たと思うんだよね。」
え?そういや何か、川嶋にてつのおので頭を砕かれても、しつこく縋る、やたらしぶといミイラが一体居たような……
「旦那に先立たれて、私も寂しいんだよね。どう?君、婿に来ない?
来てくれたら毎日、竜児君の想像もつかない様なスゴイ事してあげるわよ?」
ゴクリ。非常に魅力的なお誘いだ。でも、この人綺麗だけど、泰子より年上なんだよな……
しかも、もれなく川嶋が娘に付いてくるという…イヤ過ぎる。ペタジーニじゃないんだから。
俺は、勇者としての使命があるので。と無難に断った。
「残念。やっぱり若い子の方が良いのかしら?」
いや、そういう訳じゃないですが…えと、あれですね。女手ひとつで娘を育てるの大変でしょう?
「え?あ〜あれは冗談☆旦那はちゃんと生きてるわよ♪」
わよ♪って……旦那さん泣きますよ?

俺は思った。誰だか知らないが、川嶋と結婚する奴は大変だろうなぁ〜と。
想像だが、実質、尻に敷いているのに対外的には尽くす嫁のフリをしたりするんだろう。
川嶋を野放しにしておく事は世の為にならない気がする。誰かがしっかり面倒見てやる必要があるな。

PS.
オフの間、川嶋は闘技場に通い詰めてた様だが、5日目に1000Gを渡され賭場から追い出されたらしい。事実上の出禁である。
以後はキメラの翼を使ってわざわざロマリアまで遠征に行ってたらしい。ご苦労な事だ。まる
11勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/15(火) 17:25:42 ID:7SwOH8gI
今回分はここまでです。
「、」は自分でも流石に多いと思ったので今回は出来る限り削ってみました。
次回も良かったらミテネ〜
12 ◆ozOtJW9BFA :2009/12/15(火) 19:40:27 ID:HaZCAC0J
どうも、 ◆ozOtJW9BFAです。知ってる人はお久しぶり、知らない人は初めまして。

前スレの狩野すみれSSの続きを投下させていただきます。タイトルは未定です。
リロードして、なければ投下します。それでは
135  ◆ozOtJW9BFA :2009/12/15(火) 19:43:56 ID:HaZCAC0J
「Hey ! A violet ! A violet ! Get up !!!!」

甲高い声で、目が覚めた。いつの間にか寝てしまったようだ。
目の前には、この国で初めて友人となった奴が少し怒ったような顔で私を見ていた。ちなみにこいつの名はマリーという。

「A violet ! 貴女寝過ぎね! さっきから何度も呼んでるのに全然起きないからもう夕方になっちゃったじゃない!? 」

「・・やっべー。いつの間にか寝ちまったか。また勉強進めなかったわ・・・。ま、それは何とかなるからいいんだが。てめえ、いいかげんにその名で呼ぶのはやめろ」

「えー? 別にいいじゃない? 花の名からつけられたんでしょう? 良い名前だと思うわよ?」

今いる場所はアメリカのとある有名な大学の図書館で、私とマリーはいつもここで決まって勉強していた。
この図書館は、州の中でも上位を争うぐらい巨大な仕様になっていて大学生だけでなく一般市民も利用している。
今日も高卒の資格を取るために通信学習をし、それから大学で講義を受けてから図書館で自主学習をしていたのだが・・・。

「それはそうかもしれないが、私は Sumire. と呼んでくれと一番最初にいったはずだがな? それに私は花の良さなんて一欠けらも分からないんだからぶっちゃけどうでもいいんだよ」

「そう、それは残念だわ。素晴らしいと思ったのに。あと言っておくけど、今日はずっとあの窓側の方を見ながらうとうとしていたわよ?最近寝不足じゃないの?」

「ああ、そうなのか・・・。」


――またか。


私は呆れたように胸の内で呟いた。・・何に対してだって?
いや、正直言って本当に自虐的と言っていいほど自分自身を罵りたくなるような内容なのだ。
まだ正式に進学したわけではないのだが、そのような事は言い訳できない。去年の10月から既に一年は経つというのに。

それなのに・・・このありさまは何だ?
146  ◆ozOtJW9BFA :2009/12/15(火) 19:49:10 ID:HaZCAC0J
――狩野すみれ、お前は何をやってるんだ? お前はこんなところまで来て怠惰を貪りに来たわけではないだろう?
エンジニアとしてこの世界で誰も見ることができなかったものを見るために留学したのだろう?

「まあ大体想像つくわ。大方自国で何か後悔した、もしくはとても大好きでやりたかったけど、結局やることができなかった出来事があったんでしょう?」

「・・・」

「例えば・・・恋の病とか・・」

私はペラペラ話すマリーの目をじっと凝視していると、マリーは軽く笑って 「ごめんごめん、冗談よ」 と軽く謝り、申し訳なさそうに「そろそろ私ん家に帰ろうか?」 と話を進めた。

「っち・・勘づかれちまったか。ったく、何でいつもお前は勘だけは鋭いんだよ。白状するよ、その通りだ」

できるのならマリーに見せた自分自身の顔を鏡でも使って見てみたいものだ。

「・・・やっぱり。だって貴女の眺めていた方向、全部『西』の方角だったわよ?」

何で気付かれたかはこの際深くは考えないことにしているが、まさか無意識に行っていることを見抜いている奴がいたことには正直驚いた。
ていうか私だってそのことに最近になって気付いたのにこの女はどこからその発想に至ったのか教えてほしいところだ。
それと同時に、自分のことなのに他人よりも無知だと知らされたことが恥ずかしくなってきた。穴があったら入りたい気持ちだ。
マリー。私はこの女の家でホームステイして生活している。私がはじめてこいつの家に訪れた時から、こいつは無邪気に私と接していた。
そしていまに至り、私とマリーはすっかり友人同士となった。私たちが知り合ってから大分経ちこいつの性格等が大体わかってきたのだが
とにかくこいつは勉強では殆どを私に教えてと聞いてくるのに、勘だけはどこの誰よりも鋭いのだ。
それでも今回勘付かれた件に関して言えば、しょうがないかもしれない。憂鬱感いっぱいの雰囲気を出していたのは私自身痛いほどに自覚していたのだから。

「そういえば貴女がホームステイで私の家に来てから一年近く経つけど、高校生活の事について何にも聞いてなかったわね。よければ貴女の彼氏のことと一緒にエピソードを聞きたいんだけど、」

「はぁ!? 何でそこまで話さなきゃなんないんだよ? 白状したんだからもういいだろ!? 早く帰ろうぜ?あと彼氏なんていねえよ!」

「ふ〜ん、別に話さなくてもいいけど、明日大学に行ったらすみれが恋の病で悩んでいるって言って、どうしたらいいか分からないから助言を与えてくださいって教授に伝えてあげるけど?」
157  ◆ozOtJW9BFA :2009/12/15(火) 19:51:44 ID:HaZCAC0J
「〜〜〜〜〜。・・・あーわかったよ。言えばいいんだろ、言えば」

お前、人の扱い慣れ過ぎじゃないか?さすがにお前のことが恐くなってきたぜ。何か弱みを握られたら逆らう自信がなくなっちまうよ。

「そーそー!それでいいの!貴女の事は全部お見通しなんだから!」

「はいはい、しょうがねえな・・・」

はしゃぐマリーをなだめ、わかったわかったとりあえず外へ出ような、と帰りながら話聞かせるからと身支度を済ませ、数人の司書以外誰もいない図書館を後にした。
実はマリーの家はこの図書館から数十キロ先にあるため、毎日バスを利用して通っている。勿論今回も図書館の近くのバス停で 「早く話せ!」 と急かす女を
「バスの中でな」 と言いつつ、できるならこのまま無かった事にしようと密かに望みつつ、到着した日本の型と大差変わりない大きさのいつものバスに乗り、席を確保した。
ここから一時間ぐらいかかるので、その間に隣に座っている女が眠ってくれれば良かったと思った。だが自分の考えが甘かったみたいで、座った途端に
「さて、話してもらうからね」 と全く諦めている様子など微塵もない様子に、さすがにもう白旗をあげるしかなかった。

「話せば少しは楽になるかもしれないじゃない? 私だって少しは貴女の助けになるんじゃないかと考えているのよ?」

本当にそう思っているのかは疑問だがな。ただ単に他人のそのような話が好きなだけじゃないか?

「はぁーわかったよ・・・乗り気じゃねえけど。・・・えーと、どこから話せばいいか。もー面倒くせえから高校入学から話すか」

大橋高校へ入学当時、入学後に即生徒会に入部したこと、当時の生徒会の連中は一部を除いて歯応えのない奴が多かった事、そんな状況に苛々したために度々私が全体を指揮することが多かったこと
さらに部員の一人がやらかした不祥事を揉み消すために夏休み中に偽装卒業写真を撮る合宿を行ったこと、そして当時の生徒会長を気になり・・・後に自分の気持ちを明かしたことまでを語った。

「ふ〜ん。初めて会った時からこの子は凄いと思ったけど、高校でも相変わらずだったのね」

「ほっとけ」

「ということは、問題の相手はその元会長さん?」

「あ、いや・・・そうじゃないんだが」
168  ◆ozOtJW9BFA :2009/12/15(火) 19:54:43 ID:HaZCAC0J
そう。あいつに自分の気持ちを明かした時は・・・玉砕した。高校を卒業したら獣医になるために遠くの大学に行くからお前の気持ちは受け取れないと、はっきりと断られた。
そしてそれを私は素直に受け取るしかできなかった。卒業式でも最後に話すこともなく、結局あいつは私を副会長に任命したままこの町を出て行ってしまった。
涙の一粒も出てこなかった・・・そう覚えている。

「今思い出しても 「こいつ本当に私か?」 と疑いたくなるぐらい自分の性格が未熟だったと感じているよ。玉砕直後なんてどうしたと思うよ? 甘いものを一日何個も食って、それが一ヶ月もかかったんだぜ?」

「うわ〜それは大変だったこと・・。ん?それじゃあ最近のメランコリーはどこから?」

「まあ、焦るな。まだ続きがある」

今までの話は私が高校一年の話。新学期が始まる頃には一年のころのショックも和らぎ本格的に生徒会を導いていこうと活気をつけていた時だった。
はっきり言ってしまうと、当時の生徒会のメンバーは私以外で積極的に盛り上げていこうとしていこうとする奴はあまりいなかった。
皆楽な方向で運営しようとする輩ばかりで、それが私は面白くなかった。
そういう状況なので、毎年恒例の新入生一本釣りでは何としても見込みのある者を見逃すわけにはいかなかった。 そしてこの視力測定不能の目にかけて探した結果・・・見事に大物を釣り上げたのだ。
こいつならもしかしたら自分の意志を継がせることができる・・・そんな奴だとはっきりと認識したのだ。
ここから先は、前回の回想の通りだ。
その一年後には常時不幸な少年と、自分の過剰な露出に気付かない天然すぎる私の妹という色々な意味で面白い人材が入ってきたことはとりあえずここでは割愛させていただく。

私が前回の話を言い終えると、マリーがクエスチョン・マークが頭上にあるかのような顔で、

「う〜ん。話の内容からすると、貴女がハイスクール時代の二年目の始めに可愛い後輩が出てきました、とても期待しているぞ、これから頑張れよ。・・・て言っているようだけど・・・」

言いながらマリーは私の顔にゆっくりと近づきながら、意地悪そうな顔に変化し、

「・・・まだ、続きあるでしょ。Su・mi・re・さ・ん?」

「んなっ!?」

「だって、綺麗すぎるんじゃない?私は、『恋の病』 について聞いたのよ?確かに今話したことは嘘ではない。本心だというのは実感したわ。ただ、それで終わりなわけはないわよね?」
179  ◆ozOtJW9BFA :2009/12/15(火) 19:58:46 ID:HaZCAC0J
「・・・」

「多分、私の想像だけど、本当の核心はその後の話」

「・・・」

私はただ沈黙するしかなかった。正直言えば、その話で納得していれば良かったと思っていたことをこいつは完全に見破っていたのだ。言葉も出なかった。

「・・恐いの?その時の記憶を掘り返されることが?」

「・・・!?」

本当にこいつは私の内側に手を掛けてくれるな。ギュッと絞られるように苦しい上に、針の様なものでチクチク刺しやがるから苦しいってもんじゃ表現が足りねぇくらいなのによ。
しかし、こいつ、マリーの言う事に反論できないでいる自分が言っても説得力の欠片もないことも十二分に分かっている。強がりなんて誰にだってできることぐらいな。
つまり、私は 『臆病者』 なのだ。そのような体験談を面白おかしく語ることもできず、かといってそれについて悩む自分への解決策などを見つけることが出来ず、周りにも抑え込んで溜めてしまっている。
そういえば・・・あの時もそうだったな。あの誰よりも闘争心むき出しのちび女が私に対して言った言葉。あいつのことは、今でも甘ちゃんだと思っているし、あの正直すぎる性格が私は大嫌いだ。
ただ、それでも思い出さずにはいられない・・・

『なにが、なにが!躾だよ!あんたはただの 『臆病者』 だ!傷つくのも傷つけるのもあんたは怖いんだ!そのあんたの臆病さが、卑怯さが、北村君を傷つけたんだ!許さない!絶対に許さない!』

『臆病者!卑怯者!自分の心に向き合う事も出来ない弱虫!』

『あんたよりはマシだ逃亡犯!言ってみろ!北村くんの気持ちを受け入れないなら、おまえなんか嫌いだって、言ってみろ!』

・・・そうだ。私は『臆病者』だ。『卑怯者』だ。『弱虫』だ。『逃亡犯』だ。こういう風に言われて泣き言しか言えない私は、元会長に振られたときとは比べられないほどに自分の胸にぽっかり穴が空いてしまった。
・・・ということが今改めて思い知らされた、そんな気がした。やはり、後悔していたのだ。

「・・・嫌なら、いいよ。でも、言いたくなったら、少しでもいいから話してみて。・・・力にはなれると思うから」

そこからバス内は沈黙が漂うようになる。憂鬱感と憂い心をのせて。
18 ◆ozOtJW9BFA :2009/12/15(火) 20:00:55 ID:HaZCAC0J
投下終了です。
続きはまた次回で。
19名無しさん@ピンキー:2009/12/16(水) 02:43:44 ID:452HEy0b
>>11
みんな仲直りできて良かったよ
というか川嶋親子のネタいろんな意味でダメだろw

>>18
原作すみれの本音が出たシーンはやばかったな
アニメではより良かった
20名無しさん@ピンキー:2009/12/16(水) 12:41:02 ID:Bg4NsxmK
>>11
>>18
両者GJ
21名無しさん@ピンキー:2009/12/16(水) 21:47:54 ID:VXLAz871
>>11
最初からまとめて読んできた。すげぇ……キャラ設定と世界観の作り込みが半端ないな。ラスボスは静代かな?
ぼうけんのしょが、ほとんど亜美観察日記になってるなwwwあ〜みんフラグ立ち過ぎ
22名無しさん@ピンキー:2009/12/16(水) 23:26:31 ID:c3aOs3hB
元ネタがこれまたかなりしっかり練られていたからねぇw
23名無しさん@ピンキー:2009/12/16(水) 23:51:34 ID:VXLAz871
確かに。元ネタでも黄金の爪の事で武闘家と喧嘩してたもんな。
元ネタと比べると大河がやたら甘やかされてる気がする。何気に瀕死どまりで一回も死んで無いし。
24名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 07:23:34 ID:E8GTWYUd
元ネタの盗賊っぷりは元ネタ以外ムリだろw
彼は不遇っぷりがかなりの人気だったが
25名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 10:40:42 ID:uUzXoXN3
>>23
さすがに元ネタ通りは荒れるじゃ住まないwww
26勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/17(木) 14:07:39 ID:MmrihYKZ
本日分を投下しま〜す。
良かったらミテネ〜
27勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/17(木) 14:08:28 ID:MmrihYKZ
−31日目−

いきなりアクシデント発生。
俺たちはポルトガへと向かうべくイシスからロマリアに飛んだ(キメラの翼で)のだが……
急激な気候の変化で大河が体調を崩してしまった。やはり繊細なのだ。大河は。
一週間、看病して貰った恩を返す時が早くもやってきた。歩くのが辛いなら、俺がポルトガまでおぶって行ってやる。
「ふざけんな。エロ犬。こんな時まで私の身体に触れたいか。バカ。バカ。バカ。最低。変態。大変態。」
俺の献身的な提案はものの見事に罵倒され蹴られた。誤解しないで欲しい。俺は下心なんてなかった。
「フン。どうせアンタは私みたいなちんちくりんには興味ないわよね。
ばかちーみたいな脂肪細胞無駄使い女が良いんだもんね!?」
誤解を解こうとしたら、なんか不機嫌になった。全く、扱い難い奴である。
で、結局櫛枝が大河をおぶって歩く事になった。何か櫛枝ばかりに負担をかけて申し訳ない。本人は
「いやいや。大河をおんぶ出来るなんて光栄至極。
高須君羨ましいでしょ?大河ってやらかくてあったかくて良い匂いがするんだぜ!!」
と、おちゃらけていたが。
「僕が身体を鍛えているのは君をこうするためさ」
などと言って、大河を口説いたりもしていた。まあ、最初から大河は櫛枝にメロメロな訳だが……
そんな2人の禁断の愛を微笑ましく思って見ていたら。
「やだ。高須君キモイ。目がやらしい。」
と、川嶋に一閃された。キモイという3文字に俺はちょっと傷ついた。
皆でそんなバカをやってるうちにポルトガに到着。すると、大河が
「ヤダ。私、街に入りたくない。」
などとゴネ始めた。
「大河。実家がポルトガにあるから帰りづらいとかは無しだぞ?」
そう釘を刺したら大河はしゅんとなった。よしよし。話は宿屋でゆっくり聞いてやるからな。
しかし、うちのパーティーは家庭に問題のある奴ばかりか?後で櫛枝の実家がどこなのかも聞いておく必要があるな。
28勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/17(木) 14:09:18 ID:MmrihYKZ
聞けば聞くほど、大河は可哀想だった。ちなみに、今俺たちが居るのは宿屋ではなく大河宅。
街の一等地にデデンッ!と建つアホみたいにデカイ屋敷が大河宅であった。
ひと部屋がうちの酒場より広いなんてバカげてる……別に嫉妬してる訳じゃない。ホントにバカげてる。こんなに広い屋敷には、他に誰も住んでないのだ。
大河の話をまとめるとこう。
・大河の親父さんはポルトガ随一の大商人
・親父さんの不倫が奥さんにバレて夫婦は離婚
・大河は親父さんに引き取られる
・継母(愛人)との新生活がウマくいかない大河
・そして、この屋敷を買い与えられる
大河は家出娘などではなかった。寧ろ、家族が大河を捨てたのだ。
これは俺の想像だが、不向きな盗賊になったのも自分を捨てた家族への反発、あるいは家族の気を引きたいという思いがあったのかもしれない。
大河の話を聞いて、櫛枝は怒り心頭の様で
「てめえらの血は何色だぁ〜〜!!!」
などと叫びだし、このまま放っておけば、大河の実家に殴り込みに行きそうな雰囲気である。
他人に家族の事を口出しされるのを大河は良しとしないだろう。と、櫛枝をなだめる。
息を荒げる櫛枝だったが、なんとか矛を収めてくれた。良かった。こないだみたいなのはもうゴメンだ。
「ところで、櫛枝の実家はどこなんだ?」
櫛枝も落ち着いた様だし、俺は重くなった空気を換気するべく話題を変えた。
「私んちはカザーブだよ。」
おう。そうなのか。カザーブって言うと櫛枝がてつのつめをねだった村だな。
「そうそう。うちは代々、武闘家の家系でさ。大熊を素手で倒した武闘家ってうちのご先祖なんだ。
へへッ。ちょっとした伝説なんだぜ」
櫛枝は誇らしげにそう言った。ふう。良かった。櫛枝のトコは問題無さそうだ。
「へぇ〜じゃあ実乃梨ちゃんってサラブレットなんだぁ〜。すご〜い。」
油断した。櫛枝の話には続きがあった。
「あ、私は違うよ。サラブレットなんてとんでもない。駄馬も言いトコ。なんせ破門されちゃってるし。テヘヘ☆」
あっけらかんと櫛枝は言い放つ。雲行きが怪しくなってきた。
29勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/17(木) 14:11:28 ID:MmrihYKZ
聞きもしないのに櫛枝は長い長い身の上話を始めた。
長い上に何だか生々しくてグロイ話をまとめるとこう。
・櫛枝の家は代々暗殺拳の家系で、櫛枝は伝承者候補として日夜、修行にあけくれていた。
・暗殺拳の伝承者は1人と決まっており、伝承者になれなかったものは粛正される掟
・そして伝承者決定の日。伝承者は櫛枝の弟に決定。櫛枝は女だというだけの理由で伝承者になれなかった
・まだ死にたくない櫛枝は村を飛び出した
・負けん気の強い櫛枝は自分を選ばなかった師父を見返したい
・いつか拳王と呼ばれる武闘家になるべく修行の旅に出る←今ココ
なんちゅう話だ……ヘビー過ぎる。まさか櫛枝にそんな過去があったとは。
「みのりんはその弟を恨んでる?」
大河が聞く。
「ううん。恨んでないよ。村を出る前に仕返ししたからね。
弟のライバルをそそのかして彼女を寝取らせたり、弟との組み手で仕込み針を使ったり、
あ、弟の名前を名乗りながら近所でイタズラしまわったりもしたなぁ〜」
あの時は楽しかったなぁ〜と、櫛枝は似合わぬニヒルな笑みを浮かべる。
「櫛枝…俺の名を言ってみろ。」
俺も負けじとちょっと凄んでみる。
「いやん。流石、高須君。どこから気付いた?」
「仕返しのくだりからだよ。お前がそんな事する訳ねぇ。」
櫛枝の身の上話はネタだった。櫛枝の事だから、皆を笑わせようとしてくれたんだろうな。
しかし、そんなネタ大河と川嶋に通じる訳はない。お前は英雄譚の読み過ぎだ。
「あはは。ごもっとも。ごめんね皆。半分は嘘なんだ。」
………。って事は半分はホントなのかよ!?怖いから突っ込まないでおこう。
その後は皆でワイワイと終始、和やかなムードで過ごした。友達の家に泊まるという初めての経験に思わずテンションが上がってしまったのだろう。
皆の身の上話を聞く限り、3人とも今まで友達なんか居なかったろうし。俺は、まあ1人居るには居たが……
そいつは一年前に旅に出て行方不明になった。そう、オルテガのとこの奴だ。
全く…奴は今どこで何をしてるんだろうか。お前がグズグズしてるもんだから俺が旅に駆り出されてんだぞ。
30勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/17(木) 14:12:52 ID:MmrihYKZ
まあ、旅に出る事になって、こうして大河や櫛枝や川嶋と出会えた訳だけど。
はっきり言って、3人とも超可愛い女の子だ。端から見れば、誰もが羨むハーレムパーティーに見えるかも知れない。
もしもこの先の旅で奴に会えたなら、思いっきり自慢してやろうと思う。
しかし、何だ。眠れん。どうやら俺もテンションが上がってるようだ。やれやれ。ちょっと夜風にでも当たろかな。
そう思い、俺は部屋を出た。外に出るには居間を通って玄関から出るしかない。
シクシクシクシクシクシク……
居間へさしかかった時、俺の耳に女の噛み殺した嗚咽が聞こえてきた。ひぃ…怪奇現象!?
恐る恐る、居間を覗く。………。!?。居間では大河がうずくまって泣いていた。
「大河!!」
腹でも痛いのか?それで、こんな夜中に1人で泣いてるのか?何故、俺に言わない。頼らない。待ってろ。今、やくそうを煎じてくるから。
急いで部屋にやくそうを取りに戻ろうとした時、後ろから服をグイッと引っ張られた。
「待って。ここに居て。もう、どこにも行かないで……」
大河の方こそ、消えてしまいそうな…そんなか細い声だった。わかった。居てやる。今晩はずっと居てやる。
俺は大河を抱きしめ、頭を優しく撫でてやった。なるほど。櫛枝の言う通り、大河はやらかくてあったかくて良い匂いだ。
「悲しくて、泣いてた訳じゃないのよ。」
しばらくして、落ち着いた大河はこう言った。
「ねぇ竜児。この家どう思う?遠慮なんか要らないから思う様に言ってみて」
そうだな…立派な屋敷だと思う。まるで箱庭だな。恐らく高級な物であろう家具や調度品が、どうにもうら寒い。
「私もそう思う。だから、嬉しかったんだ。今日、皆が泊まってくれて。この家は、初めて家になれたんだよ。
仲間って良いな。ってそう思ったら、嬉しくて泣いちゃった。」
そっか。俺もそう思うよ。仲間って良いな。皆とずっと一緒に居たいな。ってさ。
「バーカ。あんたはそれじゃダメでしょ。あんたは欲しい1人が居るんでしょ?
だったら、いつまでも仲間のままじゃダメだよ。」
けど…今夜だけは…そばに居て欲しい。何もしなくて良い。居てくれるだけで良い。
31勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/17(木) 14:15:06 ID:MmrihYKZ
大河にそう言われちゃ、俺も部屋へ戻る気がしない。
でも、夜中に居間に居ちゃ風邪ひくな。何か手頃な暖房があれば良いんだが……なぁ、大河?

−32日目−

朝食後の会議で驚愕の事実が発覚。
「船ならあるよ。」
ここからの冒険には船が必須。でも船なんか買うお金はない。どうする?
と、言う議題。ちなみに船は一隻100万G位する。川嶋レベルのギャンブラーでも稼ぐには何年かかるやら。
というか個人でどうこうなる金額じゃない。さて、どうしましょ……
すると、前述の通り大河が切り出した訳だ。
「実家が貿易商だからね。船の1隻や2隻。なんとかなるわよ。」
う〜ん。しかしなぁ……。大河の家族には頼りなくない俺が居る。何か癪だ。
でも、船は絶対に必要な訳で。確かに大河の親はポルトガ随一の豪商らしいから、船の一隻くらい余裕だろう。
貿易商…ん?貿易?そうか貿易だ!!何とかなるッ!!何とかなるぞ大河。
「へ?」
貿易だよ。俺たちも貿易で稼ぐんだよ。確かに俺たちには船は無い。でも足はあるじゃないか。海がダメなら歩けば良いのさ。
「貿易ねぇ〜けど、何を仕入れる訳?」
川嶋。ヒントは大河だ。見ろ、大河のコップの持ち方。何か気付かないか?
大河のコップの持ち方は非常にエレガントなスタイル。どことなく気品を感じる持ち方である。頭の良い川嶋は、もう察した様だ。
「な〜るほど。高須君お主も悪よのぉ〜」
ヘッヘッヘ。何を仰います。お姫様にはかないませんよ。
顔を突き合わせてニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる俺と川嶋を大河と櫛枝が不思議そうに見ていた。
さあ。朝飯食べたら早速出発だ。目的地はくろこしょうの産地。バハラタだ。

−33日目−

ホビットの洞窟(開通済み)を抜け、俺たちはバハラタに着いた。
そして、くろこしょう屋にてくろこしょうを持てるだけ購入。
これをポルトガで売りさばけば捨て値で掃いても船の一隻位は楽勝で買える金額になる。
何せ、くろこしょう一粒がそのまま金と交換出来ると言うのだから笑いが止まらない。イッヒッヒ
「こういうの何て言うだっけ?え〜っと、等価交換?」
川嶋。お前は賭事に毒され過ぎだ。
32勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/17(木) 14:15:45 ID:MmrihYKZ
「けど、こんな事良く思いつくね、高須君もあ〜みんも。すげ〜よな〜。感心しちゃう。」
と、櫛枝が尊敬の眼差しで俺を見る。やったね。アピール出来ちゃった。
「大河のおかげだよ。あいつが小指を立ててコップを持ってるのを見てピンと来たのさ。」
ポルトガの貴族の間では、食事中に小指を濡らすのはマナー違反。小指を濡らしては貴重なスパイスを余分に取りすぎてしまうから。
したがって、コップを持つ時は小指を立てるらしい。俺はそんな話を思い出したのだ。
「へぇ〜そうなんだ?知らなかった。」
まあ、当の大河は無意識的にやっていたみたいだが。何にせよ、これで大儲けだ。
「さあ、今日は前祝いだ。何でも好きな物作ってやるぞ。」
「わ〜い」×3
いつもは1に節約2に節約3・4が無くて5に節約の俺だけど、今日は特別だ。3人分のオーダーを受けて、料理人の腕がなる。

−34日目−

ポルトガに戻って船を購入。だが、その前にひとつやっておくべき事が出来た。
ここバハラタの北にはダーマ神殿があるらしい。ついでだから立ち寄っておこうかと思う。え?転職出来るのかって?出来るんだなこれが。
俺たちは魔法が使えないゆえに、結構レベルが高かったりする。やくそうだけでここまで冒険してきたのだ。
そこいらの冒険者とは理想が違う。決意が違う。鍛え方が違う。俺は世界で一番やくそうを愛する冒険家だ。
最近では、やくそうのバター炒め、やくそうカレー、仔羊の塩釜やくそう焼きなどのやくそう料理にも挑戦している。
しかし、ここで川嶋が賢者に転職してしまうと、やくそうの出番も減るんだよな……複雑な心境だ。
そして、川嶋のバニースタイル(網タイツが見所)もこれで見納めか。今のうちにしっかり目に焼き付けておこう。
俺はじぃっと川嶋の脚を見る。すると川嶋が、
「亜美ちゃん、ちょっと疲れちゃった。きゅ〜けい☆きゅ〜けい☆」
と駄々をこね始めた。ええい。ダーマ神殿はすぐそこ、という所まで来てるというのに……
しかし、まあ1分1秒でも長く川嶋の御脚を拝観したい俺としても悪い話ではない。仕方ない、川嶋のわがままを聞いてあげよう。
33勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/17(木) 14:17:35 ID:MmrihYKZ
「〜〜〜♪♪」
わがままを聞いて貰えたからなのか、単純に休憩が取れて嬉しいからなのか、川嶋はご機嫌に口笛なんか吹いている。
こういうちょっとした仕草が可愛い奴だ。俺はのほほんと川嶋(の脚)を眺めていた。その時、
ガサガサガサガサ
川嶋の口笛にでも釣られたのか、奥の草むらからモンスターが飛び出してきた。
って、何だスライムかよ。今更スライムなんて。しかし、良く見れば何かカラダがメタリックな感じにテカテカしてる。
亜種かな?まあ所詮はスライム。やくそうを極めしこの俺の敵ではないわぁ〜〜〜
ガサガサガサガサ
斬りかかろうとしたら、いきなり逃げられた。何しに来たんだ?新手の嫌がらせか?俺はちょっと寂しい気持ちになりながら剣を鞘に納める。
「た〜か〜すぅ〜く〜ん」
グヘェ〜。突然、後ろから川嶋が首を絞めて来た。く、苦しい……ちょっと……川嶋……ヤメ…お…ち……
そして、気が付いたらダーマ神殿に着いていて、川嶋が勝手に賢者に転職していた。
川嶋スリーパーホールド(ガチ)によって、気を失った俺は棺桶に突っ込まれて運ばれたらしい。ヒドイ。
「高須君が悪いんだからね。」
と、川嶋は言う。何の事かはわからないがとりあえず、謝っておいた。俺としては抗議のひとつもしたかったが、ヤメておいた。
川嶋はもとより、大河も櫛枝もこころなしか引いてる気がしたのだ。皆、俺がなにをしたって言うんだ。
「ドンマイだぜ!!高須君☆」
夕食後には許されたらしい。櫛枝がいつものように微笑みかけてくれた。川嶋も大河もいつもの調子に戻っていた。
何だかよくわからないけど救われた気がした。俺は泣いた。安堵の気持ちが涙となって溢れたのだ。
「どしたの?高須君。」
「変な竜児。」
大河と川嶋は、そんな俺を心底不思議そうに見ていた。いいんだ。さっきのはきっと俺の勘違いだったんだ。
「明日はついに船を買って、そんで海を冒険するんだよね?楽しみだなぁ〜」
おう。そうだな。櫛枝。
「あたし面舵いっぱ〜い!ってやりたい。」
おう。やれやれ。どんどんやれ。
「船か。酔い止め買わなきゃ。」
おう。備えあれば嬉しいな。あ、違った、憂いなし。
34名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 14:31:55 ID:+sGRAZrV
35勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/17(木) 14:36:57 ID:MmrihYKZ
sage
36勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/17(木) 14:37:23 ID:MmrihYKZ
皆で好き勝手に海に出たらやりたい事を言いあって、その夜は大いに盛り上がった。
さあ、明日は朝一番にポルトガに飛んで、船をゲットだ。

ぼうけんのしょ1 りゅうじ

賢者の衣装も捨てたもんじゃないな。転職した川嶋を見ての素直な感想だ。
胸は谷間どころか、半乳見えてるし、スカートは超ミニでちらりと覗く白い太腿が非常にけしからん。
全体の雰囲気は清楚なのに川嶋が着ると何故かこうエロくなるんだよな。全く、うれし…あ、いや困った奴だ。
しかし、アレじゃ脚が冷えて大変だろうから、ガーターベルトと網タイツをプレゼントしてやる事にしよう。
ちなみに、遊び人時代の衣装は転職の際に神官に没収されたらしい。やはり聖職者と言えども男か…
くやちい……こっそり俺が貰ってしまおうと思ってたのにぃ

PS.
バハラタで先代勇者の情報を得た。奴のパーティーは戦士♀ 勇者 僧侶♀ 魔法使い♂だったらしい。
なんとバランスの取れた良パーティー。うちはバランス最悪だというのに……
くろこしょう屋の店員によると、僧侶♀と魔法使い♂が終始、ピンクなオーラを辺りに撒き散らしてうざかったとか。
他にもパーティーの実質的なリーダーは戦士♀で勇者は2番手に甘んじていたとか。常に戦士♀が先頭で 村人も最初は彼女が勇者だと思った程らしい。
鬼神の如き強さ、優れた行動力、圧倒的なカリスマを備えた完璧超人に仕える従者が勇者だと知り、ちょっとがっかりしたそうだ。
ああ、あいつも苦労してんだな……うちのパーティーの方が恵まれてるのかも知れない。まる
37勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/17(木) 14:38:18 ID:MmrihYKZ
今回はここまでです。
途中、規制でもたついてしまいました。すみません。
次回も良かったらミテネ〜
38名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 14:40:58 ID:g8Ydek1X
GJ!

まさかパーティーからして先代の勇者って…



ちなみに今、亜美ちゃんスレから跳んでいくと亜美ちゃんもので面白いのやってるぞ!
39名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 15:02:15 ID:k3deOB8I
GJ
北村、出てこないと思ったらそんなところにw
40名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 18:42:36 ID:h16zLNrR
竜児の友達といえば真っ先に浮かぶのは奴しかいないな。
っていうか北村PTメンバーは最初麻耶・奈々子・春田or能登かと思ったら……。
41名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 19:49:04 ID:2T1DQAkR
GJ!
胡椒の件とか、博識だなぁ……。
続きが楽しみです。
4298VM:2009/12/17(木) 20:26:32 ID:pd4BFU01
こんばんは、こんにちは。 98VMです。

98VMの住む街に初雪が降りました。
「雪だから、帰ります〜」という、「なんぞ、それ?」と言われそうな
理由で帰宅する途中、ペロっと思いついたので落としていきますね♪
ショートショート。 落書きです。
43雪   98VM:2009/12/17(木) 20:28:50 ID:pd4BFU01

最近になって、ようやく仕事が戻ってき始めた。
暇モデルとか言われて腹を立てていたが、年が明けるまでは実際仕事は少なかったのだ。
久々に法律ギリギリの時間まで撮影があって。
寒さにかじかむ手を揉み、肩を竦めながら、
撮影スタジオから出た。

そういえば、今日の天気予報はみてなかったっけ…。
どおりで寒いわけだ。
夜空を見上げると、白いものがふわふわと舞い降りてきていた。


             雪                                                98VM


「わぁ…」
微かな感嘆の声をあげ、空を見上げる。
街灯の明かりに照らされて、漆黒の夜空に白い雪が映える。

かじかむ手を差し出す。

ひらり。

舞い降りたそれは、たちまちのうちに溶けて水滴になった。

ひらり、ひらり。

掌が濡れていく。

「ふっ…」
溜息とも、笑いともつかない息を吐く。
掌ばかりではない。 アスファルトの道を、石畳の公園を、濡らしていく冬空の贈り物。

雪は積らないうちから、淡く消え去っていくばかり。

『まるで、あたしの恋みたい。』

……あと2月もすれば、新学期がやってくる。
あたしの頭じゃ、彼と同じクラスには逆立ちしたって行けっこない。
そしたら、後の席から見つめる事さえ出来なくなる。

もともと一つの分岐も無いあみだくじみたいなものだった。
それでも、当たらないのはやっぱり残念だし、悲しいのだと知った。
もうやめにしよう、いつもそう思う。
けれど、ふとしたきっかけで、こうした狭間に落ちることがある。

コートの襟を立て、薄いサングラスをかける。
最後に一つだけ、と思って掌で受けた雪は、直ぐに水滴となって心を濡らした。

街の明かりを鏡のように映し出す道に、舞い降りては溶けていく雪。

降りしきる雪の中を歩き出す。

彼女の頬の雪は ――― まだ 溶けない。
                                                                了

4498VM:2009/12/17(木) 20:30:57 ID:pd4BFU01
お粗末さまです。

よし、今日は一杯寝ようw
45名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 21:01:25 ID:h16zLNrR
前スレを埋めるために思いついたけどすでに埋まっていたので此処に書く何か。


大河のはサイズ的に狭い。その分だけ締め付けは最高。最初は痛がってたけど今は慣れた。
子宮口に簡単に届くので、思う様小突き回してやると喜ぶ。

櫛枝は鍛えているだけあってよく締まる。大河と違って全部収まるし、割と肉付きのいい身体は
抱き心地も抜群だ。締め方を工夫してこっちを悦ばせようとしてくれるのがいじましい。

川嶋は本人が完璧というだけあってここも完璧だ。まるで吸い付いてくるかのようにフィットする。
おっぱいは一番綺麗で生意気、ちくしょうめ。揉みながら突き上げてやるのがお気に入りらしい。

香椎はよく濡れる。俺のをそのデカいもので挟んでるだけでも濡らしてたぐらいだ。俺もだけど。
うねるような暖かい肉のぬかるみは、かき回すだけでも卑猥な音を奏でるいい楽器だ。

木原は飛び抜けて優れた部分はないもののバランスがいい。じっくりと長い時間楽しめる。
ポリネシアンを試してみるとかなり相性が良かった。手間をかければかけるだけ返ってくる。

独神はそれなりに経験があり成熟しているのでためか柔らかい。同年代ならどうしても侵入の際に
それなりの抵抗があるが、こっちはぬるりと包み込まれてしまう。この味はちょっと癖になるかも。
46名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 22:05:12 ID:n6inXxGW
>>37
虎と香辛料?、今回も面白かったよ。GJ

>>44
最近は切ない系なんですね。風邪ひかないで、どうぞガンガン書いてください

>>45
まさにエロパロ版ネタ
この竜児はハーレム完成させとるのかな。
ま、竜児じゃない可能性もあるんだろうけど
47名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 22:37:00 ID:E8GTWYUd
前スレ>>416
百合子みたいなタイプのキャラはいなかったから新鮮で面白い
埋め時以外も読みたいんだぜ

>>37
遊び人と賢者か。難しい選択だ
にしても賢者にガーターベルトや網タイツって素敵

>>44
あーみん切ないよあーみん
悲恋モノ好きだわ

>>45
独神ww
これはうらやましすぎるだろじょうしきでかんがえて
48名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 23:13:11 ID:lT5xXp0G
>>45 GJ!
すみれを忘れてるぜ
49勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/18(金) 02:31:51 ID:qixNg/MU
本日分を投下して行きます〜
内容はちょっとシリアスな展開に
良かったらミテネ〜
50勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/18(金) 02:32:14 ID:qixNg/MU
−35日目−

ポルトガで無事に船を手に入れる事が出来た俺たちは今、東に向けて船を出している。
くろこしょうを売ったお金で船と水と食糧1ヶ月分を購入。それでも、まだまだ余裕があったので、装備も新調。
まほうのよろいやらまほうたてやら珍しい装備を手に入れて戦力大幅うP。
戦力と言えば、賢者に転職した川嶋がホイミやらヒャドやら覚えて、我がパーティーもやっと呪文の恩恵を得る事になった。
海上に現れるマーマンやしびれくらげを片っ端から呪文で殲滅していく川嶋はもう有頂天。川嶋が通った後は塵も残らないといった有り様である。
まあ、頼もしい事は頼もしいのだが……ちょっとはMPを節約しなさいよ。そんなに連打して肝心な時にMP尽きてもしらないぞ?
川嶋の活躍もあって、俺たちは意外と早く目的地に着いた。極東の地。ジパングという国らしい。
さっそく上陸して、色々と探索してみる。そして、がっかりする。
何でもこの国は、やまたのおろちという化け物に支配されていたらしいが、一年程前にやってきた勇者によって国は平和になったんだとか……
つまり、俺たちはこの国では特に何もやる事がないのだ。あんまり悔しいので、宿でヤケ酒を煽る。身体がホカホカした。
あと、どうでも良い情報を1つ得た。先代勇者パーティーの戦士♀と僧侶♀はジパング出身でしかも姉妹だったらしい。
妹の事は誰も触れないが、姉の話はやたらされた。
名をすみれさんと言うらしく、ジパングでは生ける伝説らしい。まあ、そんな生ける伝説も今や行方不明なんだけどな。

−36日目−

ジパング民から得た情報によると、先代勇者はレイアムランドに向かったらしい。
仕方ない。俺たちも行ってみるか。ポルトガで買った世界地図で場所を確認する。
ゲッ……何か白いぞココ。このマークは雪か?あいつは、何だってこんなトコに行ったんだ?わからん。

−37日目−

レイアムランドに到着。寒い。死ぬ。
川嶋が小石をメラで熱し、人数分の即席カイロを作ってくれた。さっそく呪文のありがたみを思い知る。
勿論、川嶋にも感謝してる。ありがとうな。川嶋。
「寒さなんかふっとばせ〜〜ヤイサホ〜♪ヤイサホ〜♪」
櫛枝はこの寒さを気合いで乗り切るつもりらしい。頑張れ櫛枝。お前がNo.1だ。
51勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/18(金) 02:32:36 ID:qixNg/MU
「へくちッ」
大丈夫か?大河。これで鼻をかみなさい。ほら、あそこに祠が見えるぞ。あとちょっとだから頑張りなさい。
祠に着くとそこには6つの台座があってうち5つに炎が灯っていた。そのお陰か、祠の中は暖かい。
「あら、珍しい。旅のお方かしら?」
「こんな寒いトコまでわざわざ何しに来たの?」
「こらこら。そんな言い方は失礼でしょ?ごめんなさいね、旅の人。」
祠の管理人らしき2人が話掛けてきた。彼女らは祠を守護する双子の巫女だと自己紹介した。
ふ〜ん。でも、双子のわりにあまり似ていない気がする。
左の子は緩やかな曲線の癖っ毛でおっとりした顔立ち。口元のホクロがちょっぴり色っぽくて大人びた感じがする。
声もトロンとした感じで、何より胸がデカイ。ひょっとしたら、川嶋よりもデカイかもしれない。
こんなタイプの女の子は結構好きかも。点数にするなら85点かな?
右の子はちょっと派手な感じでストレートヘアー。ハキハキと喋っていて活発そうである。可愛いとは思うけど…苦手なタイプだ。75点。
「かくかく然々という訳だから、後はシルバーを台座に捧げれば、ラーミアは復活すると思うんだよね。」
「宜しくね。あたしたちは勇者様が最後のシルバーオーブを持って来てくれると信じてここで待ってるわ。
あなたにラーミアの加護があります様に……。」
俺たちはいつの間にかおつかいを頼まれてしまっていた。

−50日目−

現在、ノアニール北の海域を航海中。あの日から、頑張ってシルバーオーブを探しているものの…見つからない ……
もう、何日探している事だろう?あの巫女たちには悪いが諦めてしまおうか…
大体、ノーヒントでそんなもん見つかる訳無いんだ。
そんな事を考えていた夜の出来事。なにやら甲板から話し声がする。どうやら、大河と川嶋が言いあっている様だ。
また、くだらない事で喧嘩でもしているのだろう。耳をすませ会話を聞いてみる。
52勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/18(金) 02:34:39 ID:qixNg/MU
「邪魔しないでよ!竜児はみのりんの事が好き。みのりんだって竜児の事が好き。ばかちーだって、それくらい見ればわかるでしょ!?」
「よく言うよ。いっつも高須君に甘えてベタベタしてるのはタイガーの方だよね?あたしが知らないとでも思う?
知ってるんだよ?あんたたちが夜に2人抱き合ったりしてる事。」
「あ…あれは違うッ。あれはそんなんじゃない。私は竜児とヤラシイ事はシてない。」
「ど〜だかね。」
「とにかくッ!!みのりんの前で竜児とベタベタするのは、もうやめてよね!!」
「へいへい。」
凄く…聞いてはならないものを聞いてしまった気がする。
大河は川嶋に一方的に言い捨てて、船室へと帰って行った。
川嶋は甲板に甲板に残り、空を見上げている。ここからでは川嶋の表情は見えない。月…を見てるのか?
「高須君…居るんでしょ?隠れてないで出てきなよ。」
げっ…バレてた…
「おう。」
川嶋と対峙する。気まずい。
「聞いてた?今の話…」
「おう。」
「そう。……もう、忘れても良いから。」
それだけ言って、川嶋は船室へと戻って行った。そして、俺は独り甲板に取り残された。
もしかして、あいつらの喧嘩の原因は…俺なのか?

−51日目−

異変が起きた。船内のどこを探しても川嶋の姿が見当たらない。川嶋の荷物もなくなっていた。
考えなくてもわかる。家出だ。あいつ…良い年して、また家出しやがったのかよ……
原因は明らかに昨日の一件だろうな。あの後、荷物をまとめてルーラでどこかへ飛んだのだろう……
川嶋め。簡単に家出なんてしやがって。残された方の身にもなりやがれ。
ルーラは一度行った場所にしか行けない筈。追うぞ。俺たちも。俺は空高くキメラの翼を放り投げた。

−60日目−

俺たちは今、グリンラッドに居る。
世界中飛び回ったが、ついぞ川嶋の見つける事は出来なかった。それどころか、目撃情報すら得られなかった。
おかしい。あいつは目立つ。街を歩けば、必ず振り向かれる奴なのだ。
となれば、川嶋は俺たちがまだ行った事のない場所へ逃げたと考えるしかない。
考えたくは無い。それは、川嶋の家出が本気だって事になる。
あいつはルーラは一度行った場所にしか行けないという事を逆手に取ったのだ。
つまり、それは本気で俺たちには会いたくないと言う意思表示。
53勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/18(金) 02:35:02 ID:qixNg/MU
だが、残念だったな川嶋。お前が俺たちに会いたくないと思っても俺は違う。俺は川嶋に会いたかった。
グリンラッドの祠には旅人の扉があった。川嶋もココを通って行ったに違いない。よし、行くか。

−61日目−

メロスは激怒した。あ、間違えた。みのりんは激怒した。
川嶋を追ってたどり着いた国はサマンオサといった。で、その国は絶賛恐怖政治中であった。
どんな感じかと言えば、広場に墓がダース単位で並んでる感じ。つい先日も公開処刑があったばかりらしい。
国民はもう諦めているのか、その眼には光が宿ってはいない。そして、大河はその国民たちよりもさらに元気が無かった。
気持ちはわかる。大河は川嶋の家出に責任を感じているのだろう。しかし大河が気に病んだところで仕方がない。元気出せ。
「何か変だよこの国。私たちで調べてみようよ。」
と、櫛枝が言う。バカ言え、そんな見ず知らずの国の事なんか知るもんか。
俺たちには川嶋の方が大事だろう?とは、勿論言えない。
それに川嶋がこの国に潜伏してる可能性だってある。よし、調べてみるか。

−62日目−

昨日集めた情報によると、半年程前に先代勇者がこの国に現れたそうだ。
そして、俺と同じ様に情報を集めた後城に向かい、二度と帰って来なかった……
どうなってる?まさか、あいつ……
櫛枝の集めて来た情報は王様がある日を境に急変したこと。兵士たちもそれに困惑しているらしい。
そして、大河は墓場から夜な夜な声が聞こえてくるという情報を持ってきた。
その情報の審議は置いといて、大河。その手に持っている700Gは何だ?
問い詰めると、大河は闘技場に立ち寄った事を白状した。なる程、闘技場か……
俺も一番に探索したさ。でも、姫様は居なかった。あいつなら闘技場に居ない訳は無いもんな。
しかし、大河が闘技場で勝って来た事が非常に気になる。何か縁起でもないフラグの様な気が……
今が夜なら、北斗七星の脇で輝く星がはっきりと見えそうで怖い。
54勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/18(金) 02:36:27 ID:qixNg/MU
とりあえず、大河の情報の審議を確かめるべく、夜に墓場へ向かった。
確かに、うめき声の様なものが聞こえる、しかし、これは風が鳴く音じゃないか?どこからだ?
音を頼りに辺りを調べてみると、なんとそこには隠し階段があった。とりあえず階段を降りてみる。
階段を降りた先は地下牢の様でそこには何と、やつれた王様の姿があった。そして、王様からこの国で今何が起こっているのかを聞いた。

・ある日魔物に王の座を奪われた事。
・今の王は偽物である事。
・そして、先代勇者はその魔物に敗れ去り人知れず処刑されてしまった事。

恐ろしい事を聞いてしまった。そして、恐ろしい事になった。話を聞いた櫛枝が今から城に乗り込むなどと言い出した。
待てい。乗り込んでどうする気だよ?勝算はあるのか?先代勇者でさえ勝てなかった相手に川嶋抜きで挑むのは無謀だ。
「大丈夫だよ。正義は必ず勝つさ。それにね。私たちがピンチになったら、きっとあ〜みんが助けに来てくれるよ。私は信じてる。」
………。わかった。それなら行こう。

ヤバイ。強い。勝てない。

真実を映すラーの鏡は先代勇者が持ってたらしいが、王様(偽)に没収された挙げ句叩き割られたらしい。(モノホンの王様談)
で、どうする?と、櫛枝に聞いたら、櫛枝は黄金の爪を怪しく光らせ。
「関係ないね。人の姿のまま寝首を掻けばそれでオシマイさぁ〜」
などと怖い事を言い、あまつさえ実行しやがった。
王様(偽)は首を斬られ、明らかに致死量だと思われる血の噴水を吹き上げて……
ここまでは良かったのだ。しかし、今、俺たちは全滅一歩手前だ。どうしてこうなった?
櫛枝も大河も、倒れ伏してピクリとも動かない。そして、俺は、どうやら肋骨が折れて肺に突き刺さったらしい。
目の前では、頭の中までキン肉が詰まってそうな緑色のハゲが、当たったら痛そうな棍棒を振りかざしている。
ああ…もうダメだな……死を覚悟したその瞬間、
ドズッ!!!
緑色のハゲの腹から、銀色の突起が生えていた。いかにも、切れ味の鋭そうな異国風の片刃。
55勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/18(金) 02:37:09 ID:qixNg/MU
朦朧とする意識。ここで気を失う訳にはいかない。まだ、死ぬ訳には…
ぼんやりと浮かぶシルエットは鶴を思わせるスラッとした体型に豊かな長髪。かわ…しま…?
「情けない奴らだ。もうちょっとヤルかと思ったが…まあ、たった3人で乗り込む気になった事は買ってやるか。
後は私に任せな。このハゲは私の大切な奴らの仇だしな。」
川嶋…じゃない!?
良く響く、男らし過ぎる巻き舌ボイス。
「グギャアアアアア〜〜〜!!!」
緑色のハゲの耳障りな絶叫がこだまする。
「うるせぇよ。今頃、叫びやがって。やっぱバカは痛覚まで鈍いのか?」
一閃。謎の剣士は腹に突き刺した刃をそのまま横に滑らせた。
ーつづくー

ぼうけんのしょ1 りゅうじ

あなたがこれを読んでいる時、恐らく俺はこの世に居ないだろう。お前が家出をして俺は一つ気付いた事がある。
俺はお前の事が大切だ。生きてる間にこの想いを伝えたかった。愛して………

ヤメよ。遺書なんて。やっぱり縁起でもねぇ。必ず、生きて。それで自分の口でちゃんと川嶋に言おう。

PS.
−喪中ー
56勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/18(金) 02:40:06 ID:qixNg/MU
今回分はコレでオシマイです。
本編が一段落したらスピンオフー亜美編ーをやる事になると思います。
良かったらミテネ〜
57名無しさん@ピンキー:2009/12/18(金) 11:26:56 ID:B5+6PyM9
喪中www
58Jp+V6Mm ◆jkvTlOgB.E :2009/12/18(金) 19:04:36 ID:fHklp/e3
こんばんわ。 規制がやっと解除されたのでSS投下させ頂きます。
概要は以下です。よろしくお願いします。

題名 : Happy ever after 第6回
方向性 :ちわドラ。


とらドラ!P 亜美ルート100点End後の話、1話完結の連作もの
1話1話は独立した話ですので、今回だけでも読めるかと思います。

連作としての流れとかも考えているつもりなので、
過去のも読んでいただけるとありがたいです。

登場キャラ:竜児、亜美、少しゆり
作中の時期:高校3年の7月
長さ :17レスぐらい
59Happyeverafter-6-1/17:2009/12/18(金) 19:06:58 ID:fHklp/e3

Happy ever after 第6回

「若いって事はそれだけで幸せなんだろう。毎日が希望に満ちているのだろうな」
と恋ヶ窪ゆりは思う。
御歳、三十歳、後一ヶ月で三十一歳。
彼女は三十路の階段登る三十路の靴の独身だった。
幸せは自分で掴むものであると、既に悟っていたが。

若い彼らは陽気であり、楽しそうであり、青春だ。
そして、至って未完成で、未熟で、失礼だ。

恋ヶ窪ゆりは切実に思う。
彼女らは他人の目に負けず凶暴さを発揮したりする。
担任への配慮をせず、学内で木刀を振り回したりする。
仕事に生きる大人の女性に対し、気兼ねなく独身と言って、嫌なあだ名を
定着させたり出来る。

そうな風にさらけ出せるからこそ、そんな自分を理解してもらえるチャンスを
持つのだろうか?。
だが、大人になるとそうも行かない。体面、他人の評価、損得が常について回る。
子供だって、それなりに苦労はしてるだろうが、いくらだって再構築出来る事は、
真っ直ぐな、彼女の誇りである教え子達が証明してくれている。
ただ可愛い教え子は往々にして手を焼く事が多いのだが。

「先生大丈夫ですか。疲れてるみたいですけど」
「ごめんんさいね。進路確認って、生徒も大変だろうけど、先生もね。
 みんな川嶋さんみたいに手が掛からないといいのだけど」

今、ゆりは川嶋亜美との進路確認を行っていた。
高校三年の一学期末、期末考査の結果を経ての進路最終確認である。
大橋高校は実質、進学の進路しか考慮されていない為、主な話題は推薦枠の最終調整、
および、夏休みを利用した夏季補習の希望確認、クラス分けだ。

殺風景な教室。折りたたみ机と椅子が二つ。至ってリーズナブルな作り。
セッティングに数分も掛からない。
教室の窓の向こう側が、仮に正面グランドであれば、
櫛枝実乃梨の力強く、前向きな声が、嫌上でも陽気さを強制してくるのであろうが、
この窓が繋がっているのは日の当たらない裏庭だった。
喧騒など遠い世界。だからこその生徒指導室の配置だ。

「改めて確認するわね、川嶋さんはこのまま女優を続けていくのよね」
「はい、そのつもりです」

目の前の女子高生は既に映画、ドラマ出演を果たした女優。
すでに人生の成功者、そして未来は輝いている。
加えて、手の掛からない教え子でもある。
その上、社会に出ているからか既に大人の会話、大人の笑みを使う術を知ってる。
まさに完璧。
受験生を抱えた高校三年担当の教諭、しかも期末中と、修羅場の真っ只中にある、
ゆりにとって、亜美との面談は一時のオアシスであった。
60Happyeverafter-6-2/17:2009/12/18(金) 19:09:04 ID:fHklp/e3

「…けど、もしかしたらって事もあるんですが」
「え、そうなの。女優辞めちゃうの」

オアシスの泉から間欠泉が噴きあがったような不意打ちを受け、ゆりは声を裏返す。
対面している生徒は至極冷静で、手の平を見せ、かるく左右に振り、否定の意を示すと、
「本当、もしもって話です。100%なんて何事もありえないですから、
 なので、現在の進路は女優でお願いします」
「びっくりした。
 じゃ、もう一度確認するわね。進学希望で、女優業と並行して行うと」
「はい、よろしくお願いします」

ゆりは内申書をかるくチェック。
「川嶋さんなら大丈夫ね。2年生の時よりも忙しいのに、平均点を維持していますしね。
 よくがんばってます。現役の女優で、品行方正、これなら大抵の私大なら推薦でOK。
 内申点満点でいけますね」
「悪い事してるみたいですけど、役得と思っていいんでしょうか」
「そんな事ないわ、それだけ大変な事だし。川嶋さんだから大人の事情を話すけど、
 うちの高校、進学校で売ってるでしょ。だから大学進学率と推薦枠が
 いくつあるかってとても重要なんです。受け入れる私大だって、
 川島さんが在籍するって事でそれなりの宣伝効果を期待出来ますし、
 うちの高校も推薦の実績つくれますから来年度の推薦枠拡大も期待出来ますし。
 私たちの方が感謝しなきゃいけないくらいです」
「どこでも事情ってありますからね。私が出来ることなら、いくらでも利用して下さい」
とニコリと笑う現役女子高生女優。そんな教え子を見て先生は感動しましたと、
ゆりは目に涙を貯める。それに比べると…
今では担任ではないのだが、目つきとは真逆な生真面目な少年の事を考えてしまう。
「川嶋さんは大人で助かるわ。同じいい子でも、なんで高須くんは手のかかる子なんだろ」
「え、高須くんがどうかしたんですか、彼ほど手のかからない人いないとと思うんですけど」
意外という顔で見つめくる亜美。今までとは違った感情の強さを感じ、
ゆりはちょっとした驚きを覚えた。

「成績も優秀、性格もいい。問題を起こさないどころか、よくフォロー役に
 周ってくれてる。出来すぎてるくらいなんだけど……、頑固なんですよね」
と重い息を吐き出す。
川嶋亜美の表情が曇る。真剣さを増した瞳で教師を見つめる。
表情の変化を一つ足りとも見逃すものかという気概が感じ取れる。

そんな少女の姿に、ゆりは「へぇー」と心の中で声を挙げた。
そして、ちょっとした悪戯心と温かみが沸いてくるの感じる。
あえて真剣な表情を作って、一つ質問をしてみる事にした。

「彼の二年時の進路希望なんだと思います?」
「何ですか?、興味ありますけど、それって個人情報ですよね?」
質問された生徒は上手い話すぎてそう簡単には食いつきませんといった感じで
慎重な姿勢を崩さない。それでいて警戒をしている素振りをしながらも、話に乗ってくる。

「そうですね。すごい個人的な情報だと思います。プライバシーまるまるの」
ゆりは真剣な顔の下で笑いを抑えるのに必死だった。とって置きの冗談を今から言うのだ。
自分でも笑ってしまう。
純粋な面白さと、生徒たちを見守る親のような微笑ましい気持ちで話し出す。
61Happyeverafter-6-3/17:2009/12/18(金) 19:11:19 ID:fHklp/e3
「みんな幸せにする事 なんですって。
 進路希望を書いて下さいって言ったはずなんですけどね。
 しかも、そのみんなには私も入るんですよ。なんて言うんですよ」
高須竜児はやはりいい子だと思った。
ああいう子こそ幸せになって欲しいと心のそこから思える。
すると、警戒色がこもった声色が一転。ゆりの心の声に同意するような。
楽しそうな、そして、幸せそうな笑い声が聞こえきた。

「あは、高須くんらしいかも」
ゆりは、教え子が今している歳相応の笑顔を見つめた。
それは転入した時から見せた笑い顔とはまったく違うものだった。
そのことがまた、彼女を明るい気持ちに変えた。
少しだけ早く大人になった少女の笑い方を変えた自分の教え子を誇らしく思った。
そして、またゆりも笑う。指導室は笑い声で溢れた。

しかし、実際のゆりの立場は笑い話どころではなかった。。
進学校を標榜して、生徒を集める大橋高校において、選抜クラスを希望する生徒は多い。
それを望まない生徒を振り分ける余裕はない。
だが、あえて高須竜児を推薦した。他の教師の反対を抑え、説得した。
それは彼の可能性を惜しんだからだ。
その彼が進学を選択しなかった場合、彼女の評価は大きくマイナスに転じる。
人生に頼るべくもない孤独な独身だと言うのに。

だが、そんな自分の事よりも、教え子の将来、迷いを心配してしまうのが
恋ヶ窪ゆりであった。
「ただね、高須くんはみんなの幸せだけじゃなくて、自分の事をもっと
 大事にしてもらいたいと思うの」
「馬鹿ですもんねアイツ。他人の世話ばかり焼いて損ばかり」
心ある教師は、自分の事は解からないものよね と亜美を優しく眺めた。
この娘は自分の口調がよそ行きから変わってる事も気づいてない。
よかったと心から思った。

亜美は笑顔の後、すこし考え込む。そして、真剣な面持ちで
「頂ける推薦の話、希望の私大決めるのは来週でもいいですか?」
「いいですよ。確りと考えてきください」

亜美の考え込む姿に、少しくらいの遅れは学年主任の嫌味ぐらいで何とかなると考え、
了解を伝えた。
大人になれば嫌でも辛い事に対面する。なんて間違ってたなとゆりは思う。
現役女子高生女優とあれば、人生の成功者で怖いものなしだなんて、誤解だと思った。
なればじゃない。大人だから子供だからなんて関係ない。
自分が十代の時だって、子供なりにいろいろあって、
変に大人になろうとして躓いて精一杯に苦しんでたなと思い出した。
ただ、いくら苦しいかった思い出ばかりでも、それは彼女にとって今も黄金の日々だった。


         ******
62Happyeverafter-6-4/17:2009/12/18(金) 19:13:27 ID:fHklp/e3

曇り空を太陽が消し飛ばすような、そんな天気が近頃多い。
鉛色の雲は掃けた。空はこれからの熱い季節を前にウォーミングアップ。
雨の日は数を減らし、暑い日ざしを伴った晴れの日が増えた。
そう、冷たい雨が心を冷やす季節は終わったのだ。

あの夜、ささやかなクリスマスのやり直しを終えた川嶋亜美は
少しだけ相手に寄りかかることを自分に許した。
偶然を装って登校時間を合わせるといった、幸運に頼るばかりではなく、
わずかばかりではあるが、一緒に帰る事を求め、公園などで待ち合わせをしたり、
帰り際、喫茶店などに寄ることを要求しだした。

高須竜児も以前より容易に、普通にその申し出を受け入れるようになっていた。
ちょっとした(亜美にとっては深刻な)用事の時を除いて。
曰く、大河の買い物につきわなきゃなんねぇ。曰く、大河が腹すかせてるから寄り道が出来ねぇ
雨が降ればチビトラの傘の心配、風が吹けば服の心配、結局はトラ!・トラ!・トラ!!
だが、亜美はへこたれない。そう決めのたから。

その日は、「大河は櫛枝と帰るらしいから、別にいいぞ」
と亜美のプライドを打ち壊すような一言を額の毛細血管をいくつか破裂させる程度で
なんとか飲み込み、代償行為とストバでお茶を飲んでいた。

「でさ、高須くん期末どうだった」
期末テストが先週終わった。以前の亜美にとって学業など何の価値も無かった。
彼女が見ている具体的な未来では、学歴というものはさほど意味を持たないように
思えていた。だが、今、彼女が夢見ている未来では学校の成績もいろいろと関わってくる。

女優と学生という二足の草鞋を履いている亜美だが、空き時間を工面し、
今回のテストに備えていた。そして努力家の彼女はそれなりの結果を出すことに
成功していた。
だから、少し褒めてもらいたい気持ちもあったのだが。

「かなり調子よかった。この分なら久々に北村にも勝てそうだ」
「祐作に勝てるって事は学年TOPって事じゃない。なに自慢してるのよ。
 はい、はい。頭いい人はいいよね。楽しそうでさ」
竜児との開きに、自分の成績を言う気など無くなっていた。
そんな事、彼女の誇りが許さない。
彼をすごいと思う気持ちはもちろんあるし、祝福をしてあげたいのだが、
「川嶋はどうだったんだ?」
「別にいいじゃん」
そんな言葉も言えない自分へのイラつきを含め、亜美は自然と不満顔となった。

「お前は仕事もあって大変だからな。赤点になりそうだったら早めに言えよ。教えてやるから」
その一言に、あっさりと不満は掻き消える。
そう高須竜児はこういう奴なのだと。そして、このお節介焼きはちゃんと私の事も心配してくれる。
63Happyeverafter-6-5/17:2009/12/18(金) 19:14:54 ID:fHklp/e3

「じゃあさ、じゃあさ、ちょうっと相談に乗ってくれる。進路の事。
 今週から進路確認始まったでしょ。その事」
竜児は、すこし嫌そうな顔をした。
「わ、私は赤点なんてとってないわよ。今回のテスト結果勝手に想像しないでよね」
「それなら良いんだが」
と心なしか疑うような目を竜児がしているように亜美は感じた。
竜児の凶悪な目つきから、その意思を感じ取れる人間など極僅かでしかないが。

「違うって、高須くんの話。どこの大学行くの?。都内の私大とかどうなのかって…、
 私大だとかなり話は簡単なんだよね。
 ほら私大の推薦枠って、うちの高校結構あるじゃん。高須くんなら取り放題でしょ。
 そしたら進学は確実だし。ついでに今週中にどこの大学行くか教えてくれたら
 キャンパスライフを一緒に過ごす彼女は確定!、
 って言う美味しい話があるだけど、どう?」

難しげな顔がさらに深くなる。諦めはしていた。彼の性格を考えれば当然だろう。
だから勉強に力を入れていているのだ。今日だって、昨日だって、ずっと前から。
「解かってるわよ。家に負担かけない為に国大なんでしょ。そうだとは思ったけど…。
 それでさ、さっきの勉強教えてくれるって話しなんだけど、
 国大の受験勉強とかだと嬉しいかななんて」
「川嶋、俺、大学行く気ないんだ…」
「そ、そうなの?、じゃあ就職?。
 ふーん、高須くんが就きたい職業って何?、興味あるな」
学業の成績が抜群にいい彼の事、進学が当然と考えていた亜美だが、
予想外の答えに驚きを感じた。だが、それは本当に僅かな驚き。
竜児が決めた事、やりたい事なら応援したい気持ちに変わりは無い。
ましてや高須竜児。社会に出る為の十分な能力も、その度量も彼にはあるように
亜美には思えた。
早い話がひいき目たっぷりであった。

「いや、考えて無い。と言うか、雇ってくれるとこならどこでもいい。
 出来ればなるべく給料がいいとこだとありがたい」

それを聞いて、真面目な顔で問い詰める。
納得するにはあまりにも彼女が知っている人物像とは異なっていた。
それを放置する訳にはいかない。
「高須くん本当にそう思ってるの?。どこでも良いって。お金が第一条件だって」
「金は大事だ。そう思ったっていい。……だろ?」
竜児は自分に言い聞かせるように口を開く。

「本当に?」
「たぶん。いや、そうだ。そう思ってる」
64Happyeverafter-6-6/17:2009/12/18(金) 19:16:21 ID:fHklp/e3

亜美は確信を得、竜児は揺るぎをます。だが、亜美は一転、笑顔を浮かべる。
「高須くん悩んでるじゃん。人に話してみると楽になるかもよ」
「悩んでねぇって」
「なら、悩んでないならさ、デートしようよ。就職活動のたまの息抜き。
 それに私、九月までスケジュール空いてるんだ。ママの薦めで仕事入れてないから。
 安売りして変なキャラ立てるより。若手演技派で売り出した方が価値上がるって
 九月から新しいドラマの仕事決まってるから、私も忙しくなるし」

自分への確信を持てなかった竜児は、そんな亜美の、100%悪意の無い言葉に
断る術を持たなかった。


         ******


高須竜児は気分転換にいいだろうと、川嶋亜美からの誘いを受けた。
最近、自分でも煮詰まっている事を感じていたからだ。

たとえば、泰子に隠れての就職活動。
決まらない内定、未曾有の不景気、最大のハンデの人相、現実は厳しかった。
たとえば、進学する気もないのに勉強に費やしている時間。
学ぶ事自体が好きな事もあったが、誰かに見損なって貰いたくない
なんて下らないと思うモチベーションの自覚。
そして、明らかに差が広がっているであろうあいつとの距離。

そんなモヤモヤを忘れるのには丁度いいと思ったからだ。
竜児は、誰かの為に事をなすことに喜びを感じる人間だった。
泰子のため、大河のためと家事に力を尽くし、誰に頼まれたのでもなく掃除をする。
当然、それは亜美のことだって。
彼女の好きなところに付き合う事で喜んでくれるなら、それは彼にとっても楽しい事だった。
だから行き先の事は何も聞かなかった。
「どこ行くか知りたい?」などとも聞かれたが、
「お前が行きたいところならどこでも良いぞ」と答え、
「つまらないの」と落胆はされたが。

なので服飾店に来ても特に疑問を持たなかった。
既に何度か付き合わされることもあり、抵抗感も薄くなっていた事もある。
女性メインの店には、女の客しかいないという偏見があったが、
付き合って男がいる事も少しはいる事を知った。
大抵が荷物持ち、もしくは財布役な事が多いが。

かく言う竜児もそのほとんどの役回りが荷物持ちである。
一日中、亜美の買い物に付き合い、最後は漫画みたいに荷物の山を両手に抱える事になる。
そんな竜児を見て、いつも亜美はケラケラと笑う。
まるで自分の買い物を持ってくれる姿が嬉しいと言ったように…

だが、予想に反して今日の亜美は違った。買い物をする様子があまり見られない。
商品は熱心に見てはいる。たぶんいつも以上に。
普段は荷物を竜児に持たせる事が目的のようにあえて大きなものを選ぶ事が多い
彼女にしては小さいものから大きいものまで順繰りに熱心に見る。
そして、竜児に店員の如く説明をする。
「この服は手縫いなんだって」とか
「既成の服のボタンだけ総取替えしただけなんだけど、雰囲気全然違うね」とか
65Happyeverafter-6-7/17:2009/12/18(金) 19:18:15 ID:fHklp/e3

竜児も好きで裁縫をするので面白く聞けた。そのうち彼の方が熱くなる。
「すげーな、ほとんど手入れてるんだな。なんか自分はこういう感じが好きですってのが
 よくわかるよ。拘ってるな」
「そうでしょ。こういうブッティク、波に乗るまでは採算が大変なんだけど、
 固定客がつくまで頑張れたら、自分の好きなものだせるからね。楽しいと思うな」

「そうだな」と職人たちが苦労の上、立ち上げたであろう店を改めて見回す。
店の作り自体が趣味満載だったが、竜児の好みとあっているのか、
押し付けがましい感じはしない。
むしろ好ましい。店員たちも好きなものを売ってるからか、楽しげに見える。
が、竜児の視線を受けるたび、笑顔を引きつらせている気がした。

「高須くん、目つき、目つき。文化祭で大河の服の説明してる時みたいになってる」
「お、おう。気を付ける。なんか自分の世界に入っちまってたみたいだ」
と努めて、冷静になろとするが、こういう手作りの、誠意がこもったものを見ると中々難しい。
テンションがいつのまにかあがってしまう。

「本当、高須くん、その顔で可愛いもの好きだよね。キショいよ。文祭の時だって、
 麻耶ちゃんも奈々子も、高須くんの熱い語りにドン引きだったの解かってた?」
と、嫌そう表情をする亜美。竜児はその顔が演技だって事は知り抜いているから平然と、
そして、そういやあの時、俺が語り入ってたとき、木原と香椎は怖がってたが、
こいつだけは平静だったなと思いながら、
「好きなものやってると本性がな。お前だって大河のメイクしてる時は
 真剣な顔してたぞ。みんなの前だってモデル面なんかしてなかったじゃねえか」
とやり返す。

「そうだっけ」なんて亜美はとぼけた風を装う。
「高須くんほどじゃないって、それに亜美ちゃんはどんな表情でもかわいいくて、
 モデル顔だもん」
とうそぶいたかとおもうと、手を後ろ手にくみ、竜児から視線を外し、
落ち着けなく足を揺らして、
「それよりタイガーに作ってあげたミスコンの服、今年は亜美ちゃんにも作ってくれるんでしょ」
「どうせミスコン出ないんだろ、去年だって出てないし」
「誰も出ないなんて言ってないじゃない。出るか決めてもないけど」
「そうなのか?、確かに顕示欲の強いお前が参加しないのが不思議ではいたんだが、
 なんかこだわりがあると思ってた」
「そんなの無いけどさ。だださ……。去年はなんか記憶に残るような証って
 残したくなかったんだ。
 でも、今は違うよ。絶対記憶に残して欲しいと思ってる。
 それに私が在学中にチビスケが2連覇なんて有り得ないでしょ」
なんて最後は冗談めかしていたが、少し強めの声が聞こえた。

そういうイベントが似合う奴だよなと、竜児はステージに立つ亜美の姿が想像した。
すぐにイメージ出来た。あの時のボンテージ女王様ルックでミスコンに挑む亜美だ。
その姿は颯爽として、自信満々で、いい女だった。

竜児自身も何故か誇らしげな気持ちになり、それならと
「あぁ、いいぜ。作っても」と返した。
だが、聞いた方は愕然といった程、驚きの表情をして、そこから回復したかと思うと、
「…………嘘。約束。約束だからね!」とこの場での確約を求めてきた。

なんでこんな必死なんだと思いつつ、了解を告る。
そんなに大河に作った服が着たかったのだろうかと思い、あの服に包まれた川嶋亜美を想像した。
………………………全く似合っていた無かった。
66Happyeverafter-6-8/17:2009/12/18(金) 19:21:09 ID:fHklp/e3

その後、亜美の携帯がメールの着信を告げ、それを確認したかと思うと、
「次の場所に行こうか」と竜児に言い出した。
「何にも買ってないが、なんでここに来たんだ?、気に入るものがない訳じゃないんだろ」
「今日は荷物になるものはあんまりと思ったんだけど、こんな長居して買わないのも
 悪いか。じゃ、高須くんにプレゼントしてあげるよ。何がいい?」
「なんかお祝い事でもないのに貰え無えって」
「遊びに付き合ってくれたお礼だって、いいじゃん軽い気持ちでさ」
「ヒモみたいで嫌なんだ。女から貰うだけなんて俺は絶対に許せない。
 だいたい、遊び行く度にプレゼントなんて言ったらお前と何処かにいけねーよ」

最後の言葉に動かされたのか、亜美は「固い奴、そんなんじゃもてないよ」なんて
嫌味を言いつつ、それ以上は竜児用の服を買う事を主張せず、自分の為にシャツを一着買った。


         ******


「川嶋………、ここでどうやって遊ぶんだ」
それはオフィス街の中でも際立って大きなビル。
忙しそうにスーツを着た男たち、女たちが出入りしていた。
そこは竜児も知る大手家具メーカーの自社ビルで、テナントを貸すこともせず、
ビル全てを1社で占めている程の規模を持っていた。

「そう、ちょっと変わった感じで面白そうじゃない」
「仕事してる所に面白そうって入ったらまずいだろう。常識的に考えて。
 だいたいこういう所、IDカードとか無いと入れないだろ」
「ちゃんとアポとってあるから大丈夫だっての。ほら受付行こう」

亜美が受け付けに行き、話をしている間、ロビーの待合用ソファーに座り、一人待つ。
そんなに時間を置かず、亜美が社員らしい男と戻ってきた。
「高須くんお待たせ、こちら、案内して頂ける広報の方」
竜児は紹介された男に挨拶をすると、小声で亜美に話しかける。
「広報の人って、これから仕事なのか?、まさかお前の撮影を見せ付けるとか言うんじゃないよな」、
「それもいいかな?、見たい?、モデルぽい仕事する亜美ちゃん?。
 みんな、すごくチヤホヤしてくれるんだよ。あれ〜、不満そうだね。ふふ。
 大丈夫、言わなかった?、ただの見学。デートコースに企業見学って
 流行ってるんだよ。社会科見学みたいで楽しくね?」
「聞いてねぇて。それより、俺たち邪魔にならないか」
「大丈夫だってそんな難しい顔しなくても、ほら行こうよ」
亜美の強い押しに負け、場違いを感じながらも竜児は大きな企業の中を覗く機会を得た。


いろいろな現場を周って、一番、強い印象を受けた事は
「掃除したい。なぁ川嶋、お礼に掃除をするって言ったら駄目かな」
亜美の睨みで実行される事は無かったが、そう言ってしまう位の散らかり振りだった。
たしかにオフィスは清潔で、整然としている。だが、各自の机、会議室から、雑然さが漏れだいていた。日々の業務の忙しさから手一杯な感が溢れ抱いていた。
特にデザイン部門のそれは、一線を画いていた。資料が多すぎて整理できていなかった。

一通り回った後、お茶を勧められたが、亜美はそれを辞退。その代わり別な部署に行く事を希望。
広報はその場所へ案内をした後、次の仕事があるのでとその場を去った。
67Happyeverafter-6-9/17:2009/12/18(金) 19:23:14 ID:fHklp/e3

「ふっー、緊張するな。知らない人と一緒にいると」
「な〜に?亜美ちゃんと二人きりになって、ホっとした。嬉しい?」
「そ、そんな意味じゃ無って、なんだよそれ。……緊張は未だにするって。
 いや何にも言ってねー。たいした事じゃない。うるせーって。
 そ、それより、相変わらず凄いな、お前のニコニコ顔。卒が無いっていうか」
「愛想笑いの進化版。前、ここのお仕事の話流れちゃったけど、大事なお客様だからね。
 いつ復活するか解からないし。
 って言っても私の仕事を評価してくれた訳じゃない。
 ママの、川嶋安奈の娘だから、母親のイメージ借りての仕事だけどね」
と自嘲ぎみに笑う。
「う〜ん、だけど、それでもお前がある程度の評価されてるからだろ。
 そりゃいくらかお前のお母さんの事もあるだろうが。……やっぱり嫌なのかそういうの?」
亜美の言葉に空白を感じ、、なんとか支えられないかと、言葉を足そうとする竜児。
川嶋亜美は人に厳しいが、自分により厳しい対応をとってる気がしていた。
その辺は替わりに周りがフォローしてもいいだろうと思っての行動。
竜児は少し訂正。何人かには馬鹿みたいに甘い態度をとってるなと。
大河とか、……たぶん俺とかに。

「そんな事ないよ。利用できるものは利用するもの。亜美ちゃん腹黒だし。
 だって生まれつき性格悪りいんだもん。そんなん亜美ちゃんの所為じゃないもん」
だから、そんな事を言う川嶋亜美だからこそ、
「ああ、そうだな」
と、自然と竜児は笑みを浮かべてしまう。そんな態度をお姫様は気に食わない様子。

「なにそのお父さん面。なんか上から視線で超感じ悪いんですけど」
とばつの悪そうな顔をして、話題を変えようとする。
「それよりさ、どうだった見学。つまらなかった?」
亜美は竜児の様子を伺うように言った。単なる会社訪問、知らない人間との時間、
煌びやかな商品が並ぶショーウィンドとは違う舞台裏。興味が持てなければ苦痛だけだろう。

だが竜児はあっさりと
「面白いな、凄く。家具の販売とかデザインとか、ああいう風にやってるんだな。
 大変で、厳しそうだけど楽しそうだ」
無駄なものを購入しない倹約家のわりに、節約して余裕が出来ればインテリアの専門雑誌を
購入する程にそういったものが好きだった。興味が無い訳が無い。

「そう?良かった。白鳥が水面の下で水を掻く姿嫌いな人いるじゃない。
 綺麗な場面しか見たくないんだって、自分が夢見てる姿しか見たくないって…
 現実見て、がっかりしたかと思ったけど、……良かった」
「あの個人売上表の前で青い顔して怒られてる人とか見ると怖かったけどな」
竜児は改めて回りを見渡す。亜美があえて無理を言って、見学を追加してもらった倉庫にいた。
そこには当然の如く、数々のインテリアが置かれていた。だがデザインが国産ではない。
たぶん外国製だ。

「川嶋、ここにあるものって輸入品だよな。イタリア製が多そうだが。あとドイツもあるな」
「やっぱり目利くね。この会社バイヤー部門もあってね。
 ママ、ここのセレクトが好きで実家なんて、ここで買ったイタリア製品だらけ。
 ものを見る目があればこういった仕事もあるんだよね。高須くんやってみれば」
「インテリアは好きだが、好きなだけじゃ出来ねよ」
と並んでいる家具たちを羨望の眼差しで見回す竜児。
手を出せそうに無い程高価なものでも、見るだけならタダだ。
じっくり見つめる。舐るように、絡みつくように、蛇のような目で見回す。
68Happyeverafter-6-10/17:2009/12/18(金) 19:25:34 ID:fHklp/e3

さすがにちょっと怖いなと思いながら亜美は、「そうかな?」 と言って、
竜児を正面に回り、視線を家具から自分の方に強引に奪う。
「これはある本の受け売りなんだけどね。正確な審美眼を育てるには
 二つの事が特に重要なんだって。
 一に本物を沢山見ること、これは経験ね。
 二にどれだけ、物の本質を見ようかとする姿勢、心がけてだって。
 周りの言葉に流されず。表面的な姿に騙されず。常にそう言う姿勢でいる事。
 そういう事が出来る人じゃなくてもいいんだって、そうなろうとする事が大事。
 高須くんは二の才能は持ってると思うよ。凄くあると思う。
 以上、人を見る目にだけには自信がある亜美ちゃんセレクトでした」

とニコリと笑った。
竜児はその笑顔にドキリとした。さっきまで心を奪われていた家具以上に気をとられる。
目の前の相手を何時もやきもきさせる自分に、そんな真実を見抜ける目は無い。
「買いかぶりだ」となんとか言った。
常にもっと解からないといけないと思ってはいるのだが……。


         ******


企業見学に時間を食った為、もう夕刻だった。最後にご飯を食べて終わりにしようと
いう事になり、亜美が選んだ店にむかう。母親とよく訪れる、行き着けの店だとか。
大女優の川嶋安奈がよく行く店だと聞いて、情けなくも財布の中身を竜児は確認。
高級店だと辛いなと心配していた。

と言ってもデートの費用は基本ワリカン。
一回揉めた事もあったが、「私達対等なんでしょ」の一言でであっさり決着していた。
だが、今月は既に予算がなかった。竜児にしては高い買い物をしていた。
見栄を張って高い材料にしなけりゃよかったか、いやあれはケチる訳にいかねと、一人問答。
だから、店に着いた時、ホッとした。

「ここ。これくらいなら高須くんも前みたいに肩肘張ら無くっていいんじゃない」
案内されたのは意外な事に小さなビストロと言ったたたずまいの店だった。
内装は至ってシンプル。壁は飾りも無く、木目を生かした素朴さを売りにしていた。
フロアに飾りもない、重そうな木製テーブルと椅子が配置されているだけ。無骨さで一杯だ。
それだけに机と椅子は念入りに磨きぬかれていて、
その重量感、飾り気の無さから下手な小細工をしないとという主張が感じられる。
それでいて、各テーブルに置かれてる一輪挿しの花。それが清涼さと
笑みを呼び起こす事に成功していた。

そんな簡単な内装だからこそだろう。余計目を引くのが厨房との仕切り。
そこにはカウンター席しかなく厨房が丸まる見える。
まるでラーメン屋や丼もののファーストフード店の様な区切りだ。
パフォーマンスの一部として、問題ない部分、見た目がよい調理部分を
見せるレストランは多いが、雑然としたバックヤード、裏方をそのままみせる事など
早々あるものではない。そのようなスペースは往々にして隠すものだ。
69Happyeverafter-6-11/17:2009/12/18(金) 19:28:48 ID:fHklp/e3

「ここ料理してるとこ、全部見せるんだな」
「料理してる所も含めてエンターテイメントなんだって。ここのオーナー。熊みたいな顔してさ」
「で、あのでかい体を小さくしてデザート作ってる料理がオーナーか。たしかに熊面だな。
 けど、すごく楽しそうだ。本当、料理人とお客さんが近いのっていいな」
厨房の片隅で大きな体を丸め、デザートを皿にそえ、果実で飾る壮年の男がいた。
竜児は感心した風にその男を眺め、亜美は竜児を関心した風で見つめる。

「へー、ママと同じ事言うんだ」
「ああ、食べてくれるお客さんの顔が見えて、それが笑顔だったら最高だろうな」
「高須くんはそういう風に捉えるのか、面白いね」
「お前のお母さんも同じ意見なんだろ?」
「ちょっとね方向性が違うんだよ。ワトソンくん。
 ママはシェフが一生懸命料理を作る姿が見えるから、余計美味しく感じるって。
 だからここに通うんだって言ってた」
「そうか、そういう考え方もあるんだな」
「ここの雰囲気が好きなのは同じだね。そういうのいいと思うよ。すごくいい」
「そりゃ誰だってそうだろう。飯は楽しく、雰囲気のいい所で食べるのが一番だ。
 作る方だって同じだろ」

竜児は『当たり前の事なのに、川嶋は何を感心しているのだろう』と思った。
食べてくれる人がニコニコしてる。
料理が好きな理由。もちろん美味しいものを自分で作れる事。それは楽しい事だ。
だが、その原点は泰子の笑顔だった。人の為に何かする事に喜びを感じる性分なのだ。
往々にして、初対面の人間は自分の顔を怖がる。
だが、初めての人でもそれが美味しければ、自分が出す料理に笑ってくれるなら
それはなんて幸せな事だろう。

そんな竜児の顔を見ながら、亜美は再び口を開く。
「本当、笑顔見ながら食べるご飯って美味しいね」


         ******


食事を終えた後、このまま今日のデートを終わらせるのも、もの寂しいと、
どちらから言い出すでもなく、ただ歩いた。何気ない会話をいつまでも続けた。
いつのまにか辿り着いたのは波止場に作られた散策コース、前回のデートで来た場所だった。
街灯の下、二人はゆっくり歩く。この時ばかりは、互いに歩みを合わせ、肩をならべて。

「高須くん今日どうだった」
「すげー良かった。
 ……で、川嶋なに企らんでやがる?」
「何のことか亜美ちゃん解かんな〜い」、
「まったく。嘘付け。今日行った所、お前の好みとはちょっと違うだろ」
「ふ〜ん、私の好みからそう思ったんだ。ならちょっと嬉しいかな」
言葉通りの表情で花のように笑う。
70Happyeverafter-6-12/17:2009/12/18(金) 19:30:32 ID:fHklp/e3

しばらくして真剣な声色、表情をその内から取り出し、川嶋亜美は続ける。
「じゃ、ここからマジモード、
 高須くん、今日行った所で気に入った所、働きたい所ある?。紹介ぐらいなら出来るけど」
竜児の表情も変わる。硬さをもつ。 
「……自分の事くらい自分でする。紹介なんていらねぇ。協力なんて求めてねぇ」
「なんで?、就職したいんでしょ。気に入らない所行っても仕方ないじゃん」
亜美は表情を変えないまま、柔らかい感じで諭すように言葉を返す。
ただ先ほどよりも強い、決意のような強さが、その一言、一言から垣間見える。

「だから自分の力で俺は探すって言っている」
「高須くん、自分が間違ってるの気づかないの?。そんな訳ないよね。
 気づかない振りしてるだけ」
「俺の事を勝手に決めるな」
「お金を稼ぐ事、その額の多寡に自分の価値を見出しす人、それ自体を悪いなんて思わない。
 そういう価値観はあるし、否定しない。むしろ大変な事だと思う。
 でも高須くんはそういう人じゃない」
少しだけ亜美は語調が強くなっていた。が高須の目を見て。直ぐに声を押さえ、諭すことを続ける。
反して、竜児は自分の押さえが利かなくなってくるのを感じていた。

「お前に何が解かる?。ウチは母子家庭だ。
 親父は勝手にどっか行っちまって、その代わりに泰子が一人で俺を育ててくれた。
 泰子がどれだけ苦労したか。何度も倒れて、そのたびに俺は」
「お母さんに負担を掛けたくない。それだけが理由なの?、じゃこれ貸してあげる」
そう言うと、ハンドバックの中から手帳のようなもの、それに判子を取り出し、
竜児に渡す。

「通帳?。おいこの額なんだ。どういう意味だ…」
「200万。とりあえず、すぐに口座移せた分だけ。モデルの時の収入とか、
 女優のギャラとか。別にすぐ使う予定ないから貸してあげる」

視線を外し、投げ捨てるような口調になって続ける。
「もし、迷ってるんだったらさ。私の、私のおすすめは進学。高須くん
 せっかく頭いいんだからもったいないよ。なんならこのお金以外にもまだ貸せるし」

竜児は頭に血が上るのを感じた。進学と言う言葉に母親が連想された。泰子が被る。
”竜ちゃんは、私と違って頭いいんだから、大学行って、一生懸命勉強して、
 好きなものになればいいんだよ”
もう完全に押さえが利かなくなっていた。
「なんで、俺が進学する事が正しいって言えるんだ!。そんなの泰子が失敗したと
 思ってる人生を俺を使って、取り帰したいと思ってるだけじゃねえか。
 俺は泰子の身代わりじゃねえ、お前の都合のいい人形でもねえ」

強い声に一瞬ハッとした顔を亜美はしてしまうが、すぐに表情を作り直す。、
だが、竜児の言葉につられてか、心配してか、亜美の言動も強くなっていった。
「そんな事言ってないじゃない。むしろ逆、あんたは自分の意思で決めてるように思えない」
「なら口出すな。俺は自分の考えで決めてるつもりだ」
「その自分の考えってあれだよね。自分はどうでもいいから、周りに迷惑掛けたくないってやつ。
 下らない。自分に嘘ついてるだけじゃない。よくないそんな事」
71Happyeverafter-6-13/17:2009/12/18(金) 19:32:42 ID:fHklp/e3

いつのまにか睨みあうように相手の目を凝視する二人。
負けないよう。相手に誤解されないよう、相手が道を間違えないよう。そう思って、
心を震い立たせて、言葉を使う。だがそれは逆の効果だった。
言葉たちは気持ちを十分に乗せる役をはたしていなかった。
「俺は俺なりの考えがある。そのどこが悪い。
 川嶋は俺に自分の考えを強制してるだけだろ。俺は自分の意思で就職するって言ってる」
「それがくらだねーて言ってるの。だからやめない。
 ねぇ、その良い人ぶってるところやめた方がいいよ。誰かの為とか、お母さんの為たどか、
 そうやって他人の為にがんばってる優しい自分はさぞ楽だろうね。
 でもね、そんなの安易な逃げ道でしかないし、その誰かはそんなこと望んでない。
 いつか痛い目みるよ。あんただけじゃなく、その誰かも。
 ナイフみたいな言葉突き刺す事になるんだ」
「俺はみんなに幸せになってもらいたい。がんばってる奴には報われて欲しい。
 その何処が悪い?」
「なんで幸せにする対象に自分が入ってないのよ。
 そんなの、みんなって奴だって幸せになれるはずないじゃない」

互いに声は大きなり、握り締めた手に力が入る。目には強い意思が点る。
「お前がそういう事言うのかよ。いつも自分を優先しないお前が」
「なんで私の話になるのよ。私は高須くんの事を言ってるの。
 頭来た。いい機会だから言ってやる。
 あんたはいつも甘えやかしすぎ。優先しすぎ。あんなんじゃお互いに良くない」
「なんで、ここで大河の事が出てくる。俺とお前の話だろ」
「あたしとあんたの話だからよ」

「意味がわからねぇ。とにかくこれは返す」
竜児は手に持った通帳を亜美に押し付けようとするが、
「いらない。邪魔なら海に捨てなよ」
亜美はその手を払いのける。竜児は手首を取り、無理やりにでも持たせようとして、
「そんな訳にいくか。ほら持てよ」」
「だからいらないって。痛」

亜美の手が震えている事が感じ、そこでやっと声の震えに気づく。
手を離し。竜児は亜美を見た。
泣いていた。人前でいつも仮面をかぶる。あのモデルが表情を崩してまで。
驚愕する。
なんで川嶋は泣いてるんだ?。泣かせたくないとこの前思ったばかりなのに。

竜児が手を離すと、そのまま亜美は背を向け走り去る。
残されたものはその場に立ちすくむ事しか出来なかった。


         ******


高須竜児は学校に来ている。昨日渡された通帳は持って来た。すぐに返さなければならない。
だが、川嶋亜美は学校を休んでいた。急な仕事の為だと学校に連絡があったとの事だった。
嘘だと確信していた。あいつは息をするように嘘を付く。
72Happyeverafter-6-14/17:2009/12/18(金) 19:34:45 ID:fHklp/e3

亜美に会わずに済むことに少しの安堵感も感じていた。
どんな顔で会えばいいか思いつかなかった。
亜美の考えも、言葉も解かる。その性質を思えば、
何を竜児に伝えようとしているか解かるっているるもりだった。
気持ちは解かっていないかもしれないが。

だが、謝る訳にはいかない。大切な人達には幸せになって欲しい。それは竜児の嘘の無い気持ち。
そして、それが楽しいと思ってしまう。偽善なのかもしれないが、そう感じてしまうのだ。
相手の為だけじゃない。自分の為に。好きな事以外にも、好きな人の為に働くという
選択肢があってもいいと思う。相手と自分の幸せの為に働いてもいいのではないかと思う。

情けない事を言えば、謝る事は大切な人達を、自分の手で彼女を幸せに出来ないと
自分で認めてしまっているのはないかという、そんな恐れがあった。
あまりにも距離を開けられているという認識の下では。

ただ、変なプライドや劣等感、いつまでも泰子に無理をさせている自分への不甲斐なさ、
父親への侮蔑で、差し伸ばされた手を、心配する人の手を払いのけるのは
どうかしている気もした。
そんな自分の勝手な都合、自分の中でねじ伏せなくてはけないものだとも言われたし、
そう思う。
そんな事も出来ない結果、亜美が言っていたように、
もう既に大切な人にナイフのような言葉を刺してしまった。
言葉なんてものは無数にあるって言うのに。

あれから、ずっと考えていた。授業中も、休み時間も。竜児はそんな事に時間を費やした。
教師の言葉も、友人の声も頭に入ってこなかった。
けれど、まだ答えは出せていなかった。

ただ、不安はよぎる。思い出してしまうのは今年の一月。急に転校を決めた臆病者の事。
転校直前のデートの時に覚悟はしていた。
あいつとキスまでしたのに、いやだからこそ、今は足りていないからこそ。
そう自分に言い聞かせて、耐えてみようとした。耐えられると思っていた。
川嶋亜美が大橋高校を去る事を。
けれど、そんな覚悟なんて全然足りなかった。想像以上だった。
女々しいと思いながらも何度も後悔し、その度に力ずくで潰した。
無闇に成績を上げてみようとも思ったし、焦燥感に後押しされるままもがいてもみた。
だが、溢れてくる喪失感を止めることはいつまでも出来なかった。

今もその感覚が押し寄せてきていた。時間と共にその不安は次第に大きくなる。
たぶん、今となっては力ずく程度では潰すこと等出来ない事は自分が一番知っている。
弱くなっている。そして、押さえ切れないほど強くなっていた。

そんな気持ちで考えた。自分の将来。就職の事、やりたい事、あいつの事、好きな事。
劣等感なんてものをねじ伏せるまでもなかった。迷いはたくさんあったが、
自分がしたい事なんて初めから解かっていた。学校が終わる頃にはどうすべきか
答えが出ていた。


         ******

73Happyeverafter-6-15/17:2009/12/18(金) 19:36:42 ID:fHklp/e3

電話をしたがまったく出ない。メールをしても返信が無い。それが気持ちを急がせる。
川嶋亜美の家まで無闇に走った。一秒の遅れが転校に繋がってしまう気がした。

駆けつけて直に、インタホーンを鳴らす。呼吸を整える間ももどかしいと。
けれど、なしのつぶて、まったく応答がない。
車庫が空である事から本当に留守であるかもと疑ったが、今から街中を探すなんて
心の余裕は今の竜児には無かった。もう一度亜美の事を逃げ込む場所を想像する。
今日は何度も自販機エリアを覗いた。いなかった。ストバに一人でいれる奴でもねぇ。
だから、逃げ込むとしたらここか、実家か。それなら!

竜児は声を張り上げて叫ぶ。
「川嶋安奈の娘のあ〜み〜さん!、学校の友人が訪ねてきましたよ。
 女優なのに登校拒否は良くないですよ」
「だぁー、ふざけんじゃねえよ。なに言ってくれちゃってるのよ。妙な都市伝説つくるんじゃねえよ」
ガラリと窓がすぐに開き、被害者が顔をだす。
ずっと窓の側に居た事が、それまでカーテン一つ揺れた様子が無い事から
竜児が駆けつける前からずっと窓から様子を見ていた事が明白だった。

竜児の「よう」の一言を聞いて、怒る気をなくしたのか、世間体を気にしたのか、
それとも自分にいい訳が出来たのか。諦めという感じで言葉が返ってきた。
「もういいから入りなよ」



亜美の部屋は二階にあった。清潔で、だが、ちょっとした小物が溢れるお洒落な部屋。
窓は閉めきっている為、室内は昼間から蛍光灯の光が照らしていた。
大きな日当たりのいい窓だと言うのにMOTTAINAIと思ったが、
いまだストーカー被害の忌々しい記憶が払拭出来ないなんて、言ってた事を思い出した。
実家に住んでいた時は住所まで調べられ、窓の近くの木から覗かれたなんて話もしていた。
普段いくら虚勢をはっていても、こいつは強がりの臆病者だ。
他人の視線がない場所にくれば、人並みの女子高生でしかないのだろう。
もっとも最近では、ストーカーに付きまとわれて結果的には良かったかも、亜美ちゃんって運がいい子。
なんて、冗談めかしてたりもするが。
そんな事をあえて考えて、初めての亜美の部屋に入る緊張を竜児が誤魔化していると、
亜美の強めな、硬い声が響き、竜児は意識を戻した

「それで、何しに来たの」
亜美は、瞳に意思を出さず、半開きで、つまらなそうな、気だるそうな、
そんな表情をして声を掛ける。
だが、言葉を発した後の唇は強く噛み締めていた。
竜児はいつもの、想像していた通りの川嶋亜美の顔をみて、決心を再確認し、話しだす。

「俺は……、謝らない」
「はぁ、それをわざわざ言いに来たの。最低、もっとましな事だと期待したのに」
「だが、お前に転校してもらいたくもない」
「何で私が高須くんと喧嘩した程度で転校なんてする必要があるのよ」
亜美は竜児を一べつ、鼻で笑うように嘲る。
74Happyeverafter-6-16/17:2009/12/18(金) 19:38:37 ID:fHklp/e3

そんな態度の裏で竜児の表情を読もうとする。だが、覚悟を決めている事しか読み取れない。
その覚悟が何に対してなのかを恐れた。
決定的な関係の変化。拒絶。それを恐れて学校も行かず考えていたというのに。
登校して、竜児に会って、そんな事態に直面したら…。
大橋高校なんて行けるわけもなかった。
それなのに押しかけられて、逃げ場を失ったこの状態。
再び泣き出したい心情に襲われるが、それを必死で抑える。
そしてまた、竜児の気持ちを読もうと、あえて嘲笑の言葉を続け、相手の感情を引き出そうとした。
「高須竜児如きが私の人生に影響を与えるとで思ってるの?」
「自惚れかもしれねーが」

真正面からの言葉に亜美は勢いを失い、顔を背ける。
「影響なんか、影響なんて……」
仮面が外れかかる。震えていた心に差し伸べられた手は掴もうとしてしまう。

「…………ねぇ、それって機嫌とる為の言葉?」
動揺と期待を少しだけ露にする。少し寄りかかってみようと決めていたから、

「お前がまた消えてなくなっちまう気がした。そんな事は嫌だと思った」
「………なら謝ってよ。そしたら今度だけは許してあげる」
正直、妥協点を見出したいの一心なのだ。今すぐにでも和解したい。
だが、ここで引いてしまっては竜児が自らの手で道を誤るのではないかと思ってしまう。
だから、精一杯の虚勢を張りなおす。仮面を被る。

「自分の意見を否定する気はない。やっぱり俺はみんなに幸せになってもらいたいし、
 そこに自分の幸せがないなんて思えない。
 だがお前がいなくなるのは、俺がしたい事とは全然違う」
「な、なにそれ、高須くんの幸せは私がいないといけないって言ってるの?」
予想外の強い言葉。妥協点うんぬん、駆け引きなんてものはどこかに消し飛んだ。
川嶋亜美は気恥ずかしかった。子供みたいにただ恥ずかしかった。

「そうだ。お前がどこかに逃げちまった場所で俺が楽しいとは思えない」
と勢い任せてに竜児は気持ちを告げた後、急にトーンを落とし、言い難そうに
「幸せになって欲しい奴てのはお前も当然入ってる。…かなり真ん中で」
「え…、だって…、えーと、な、なに、……告白みたいな〜ん…て…」
仮面は粉々に砕けた。冗談にして逃げようとするが失敗。

「だからだ、だからだ川嶋。俺は迷ってるし、自分の将来をまだ決められない優柔不断だ。
 だから考える。中途半端なまま考え続ける。
 今決められないから、逃げになるのは承知の上で進学しようと思う。そこでも考える。
 その上で自分の好き嫌いより、収入の方が大事だと思えば、そっちの職に就く。
 それを踏まえた上で、そんなどっち付かずな目的の為にお前に頼む、お前の金を借して欲しい」
そう一息で言い終えた後、竜児は頭を下げて、

「川嶋亜美、すまないがこのお金を貸してくれ」
「そんな事しなくたってもう貸してるって、そんなの私はいらないって言ったでしょ」
「これはケジメだ」
「なにそれ、男の矜持ってやつ、今時」
亜美はそっぽを向き、小さく「まぁ悪くは無いけどさ」と呟くと、
「いいよ。それでいいって。貸すことも、高須くんの考え方も。でも私も謝らないから。
 考え方を押し付けてるって言われたって説得してやる。それでいい?」
そこまでが彼女の限界だった。虚勢を維持するのも。意地を張るのも。
自分の大切なものへの気持ちも。それを失う怖さに耐える心も。
「ああ、もちろんだ。お前と絶交なんてしたくないからな」
「絶交なんで……、出来るわけないじゃん」
75Happyeverafter-6-17/17:2009/12/18(金) 19:39:58 ID:fHklp/e3


だが、一方的に負けるのは気に食わないと意地張りは思う。
実際はまったく負けていない訳なのだが、惚れた弱みからの被害妄想だったが、
逆襲に出ようと気持ちを固める。
男は古くなっているかもしれないが、女の矜持は違う。
今も時代のハイエンドだ。ツンを示す必要がある。

「じゃ、利子について話そうよ。そんな覚悟した顔しなくていいって、
 体で払えなんて言わないから。あれれ、それもいいかも。
 でも、今回は利子代わりに教えて欲しい事があるんだ」
「教えるくらいなら別にいいが。何についてだ?」
先ほどまでの勢いは何処へやら、竜児は恐る恐る聞き返す。

「高須くんの成績なら希望通りりの推薦取れると思うけど、それこそ奨学金前提とした
 やつも。そもそも取る気ある?。今日じゃなくても今週中で答えは構わないんだけど」
「それは無い。あやふやな気持ちで推薦枠1つ取っちまう訳にはいかない」
「はいはい。予想通りつまらない答え。なんでそんな遠回りするかな。
 まぁ、そんなとこも嫌いじゃないけど。じゃ受験で国大?」
「ああ、それが第一希望だ。普通に受験して、私大で奨学金もらいながら勉強するかもしれないが」
「だったらさ、教えてよ。受験勉強。亜美ちゃんもちょっと頑張っちゃおうかなって」

「それは構わないが」と竜児にとって容易な交換条件に、拍子抜けした。
 頭の良さを悪戯程度にしか使わない姿をみて、常日頃どうにかしたいと思っていた
 彼としては渡りに船だった。教え魔の血が騒ぐ。
 だが、次に帰ってきた言葉を聞いて竜児は後悔した。

「ねぇ、高須くん。プライベートレッスンって映画知ってる?ふふ。
 これからお願いします。竜児先生♪」
竜児の困り顔を見て、亜美は大いに溜飲を下げると共に、女の矜持を満足させた。

END
76Jp+V6Mm ◆jkvTlOgB.E :2009/12/18(金) 19:44:51 ID:fHklp/e3
以上でメインのお話終わりです。
連投ですが、口なおし程度の話を投下させて頂きます。

題名: Happy ever after 第6回 追伸
方向性:主にインタビューネタでちわドラ
長さ :6レス
77名無しさん@ピンキー:2009/12/18(金) 19:45:57 ID:pbzPEo6r
C
78Happyeverafter-6PS-1/6:2009/12/18(金) 19:46:17 ID:fHklp/e3

Happy ever after 第6回 追伸

高須竜児のノート、その質はかなり高かった。
リファレンスとして持ってきたノート。去年の文化祭の戦利品。通称アニキノートと
比べても、まったく劣っていない所からそのレベルの高さが伺いしれるというものである。
内容は対照的なのだが。

アニキノートは烈火苛烈。結論から始まり、枝葉は蹴り飛ばし、纏め上げてある。
無駄の無い情報量。かと思えば過去の出題傾向、各教諭の方向性、性格からのテスト予測等と
言った裏技的な内容も豊富。
そのポイントを限定した情報は、その全てが質が高く、頭に入りやすい。

竜児のノートは、よく整理されていた。
書かれている情報も、要点は基より、その補足、枝葉末節に至るまでけして捨てない。
きっちりと網羅されている。なので正直、効率はよくない。
アニキノートが1ページで済ませる内容を、3ページ以上に渡って消化している事などザラだ。
だが、構成が考えて作られており、重要な箇所、テスト対策としては飛ばしてもいい部分などが
見た目でわかり、読む方としてはアニキノートと比べてもそれほど手間は掛からない。

亜美は高須竜児のノートを眺めながら、終始にやけていた。
(馬鹿みたいな奴、自分の為のノートじゃないよね。誰か使っても大丈夫なように
 書かれている。私はこっちの方がいいかな)

そんな亜美に、教え魔の声が響く。
「ほら、川嶋。ノートばっかり見てないで問題解け。
 あと、お前がさっき間違えた箇所、解かったぞ。最初の所を取り違えてるんだ。
 応用力があるからって、それで何とかしてるから、いつのまにか絡まちまうんだ。」
問題集と睨めっこをしていた、テーブルの向かいの少年、高須竜児の声だ。
さっきから亜美が間違いた箇所をずっと見直していたのだ。

彼らは亜美の部屋にいる。竜児が亜美に勉強を教えるというシチュエーション。
以前の約束の通り、竜児は時間をこまめに作り、教えにやってくる。
時には学校から二人で直行という事もある。
亜美は一緒にいれる時間が増えると喜び、楽しむ。
で、勉強は二の次になっており、一生懸命なのは竜児のみという形。
亜美はそんな竜児をみて笑い、彼のノートを見てにやける。そんな風景が展開されていた。

「聞いてるのか?、川嶋」
亜美は自分の為に懸命に見直しをしていた姿を見て、居ても立ても居られなくなり
じゃれたくなった。

「そう?、大体なんとかなってるからよくない?」
「解けるからって、取りあえずそのままに進んでいくなんて子供だろ。
 基本的な所から確実に解いていく。正攻法の方が結局は早道だ。
 そういうのが大人のやり方なんだからな」
「ふ〜ん、だから女の子溶かすのが得意なのか。エロイね。高須くんえろい、えろい」
亜美は頬杖を立てて、ニコニコと竜児を見つめる。
79Happyeverafter-6PS-2/6:2009/12/18(金) 19:48:14 ID:fHklp/e3

「馬鹿言ってないで、続けるぞ」
「え〜、亜美ちゃん疲れちゃった。そうだお茶しようよ。お気に入りがあるんだ。
 ローズヒップ。蜂蜜金柑にも負けてないと思うよ」
彼になにかしてあげたくなった。可能ならキス一つ。その先だって届けたい。
が、そんなの受け取るはずも無く、だから、飲み物を飲ませてあげる程度で我慢する。
と言っても、これも前から思ってたし、したかった事。
亜美お気に入りの、英国直輸入のローズヒップを味合わせたい。
気疲れの多いであろう彼をこれで元気づかせたいと思っていた。
二人で飲んでみたらどんな気持ちになるのだろうと憧れていた。
だから、これはチャンスだ。亜美は答えを聞かず、軽い足取りで部屋を出て行った。

おのずがら、部屋には竜児一人となった。
前回来た時は、部屋を眺める余裕なんてなかったが、と改めて部屋を見回す。
ちゃんと整理されたクリーンな部屋。女の部屋といえば大河か泰子の部屋しか
入った事がない竜児は心底ホッとした。
全ての女の部屋が汚濁まみれだとしたら、俺は女という生き物に絶望する所だと。

改めて部屋を見直す。
カーテンは薄い青が入ったレースもの、床下ぎりぎりの長さ。
窓が開いてたら差し込む自然光で映えるのにとMOTTAINAI。
いくつかの木製の家具たち、iPot専用ラックとスピーカー、小さなTV棚、
無数のブランドバックをつるす為のツリー。すべて、切り出しの木が使われている。
エトセトラ、エトセトラ。高級そうなもの、可愛いものが満載。
それでいてバランスの取れた配置だからか、雑然さを感じさせない構成。
亜美ぽい感じもするが、こんな部屋になったのは最近だと言っていたから、
ちょっとした驚きだ。そう言えば、

「さすが、川嶋だな。部屋もお洒落だな。勉強机がねぇーが」
「机はこれ、このテーブル。そんなに広くないからね。
 それに部屋いじりだしたのは最近、昔は本当、何も無い部屋」
「そうなのか?、なんかお前らしくないな。そんなシンプルな部屋、今一ピンとこないが」
「そう?。まぁ、いつでも実家にもどれるようにね。居候の身みたいなものだったし。
 でも、改めて長居する事お願いしたんだ。そう思い直したんだ」
なんて、今日最初の会話を思い返していた。

ただ、均衡のとれた部屋だけにちょっとしたものに違和感を感じる。
部屋の上層にある棚にむりやり置かれている紙袋。それがどうしても気になる。
百五十センチもあろうかと思われるもっさりとした、長細い物体が不安定に置かれている。
あれが置かていい場所は違う。正しい場所に置かれていない。
それは雑然の始まりである。汚れの始まり。清潔の敵だ。
竜児が手を伸ばそうとした瞬間、ドアが開いた。

ドアが開いたかと思うと、旋風一閃、白い閃光?、いや今日は赤かった。
逢坂 大河に鍛えられた危機感知が役に立つ。髪一本の間でスゥエーで交わす。
目をつぶっては危険なので、しっかりと見据えて避ける。それがコツ。
なので今回ははっきり見えた。

「超信じらんない。高須くんがそんな変態だと思わなかった。すげーがっかり。
 そんなに亜美ちゃんの下着が欲しかった?」
お盆を片手に一睨み。竜児をたじろかせる。
さっきの蹴りでも、カップを乗せたお盆の中身もこぼしていない。さすがの元モデルだった。
そんなモデルは、たじろいて一歩さがった竜児の間をうめるように、流れるような動きで
竜児と壁の間に割ってはいる。体がぴったりと引っ付く位の至近距離まで詰める。
80Happyeverafter-6PS-3/6:2009/12/18(金) 19:52:00 ID:fHklp/e3

「そんな事してた訳じゃない。ってか棚の上に下着なんておかねーだろ」
「なに言い訳する気?、素直に言えばいいじゃない。下着が欲しいって、男らしくない」
「なんで俺が下着欲しがってる事になってるんだ。大体、男らしさの基準間違ってるぞ」

亜美は静かにじわじわと前進。体がくっつく事を恐れて、竜児をじりじりと後退。
「だってしっかり見てた」
またじわりと前進。
「興味あるでしょ。今だって、目はなさず見てたよね」
妖艶に、誘うように口を動かす。さすがに見てないとも言えず竜児は
「あれは…、不可抗力だ」と弁解するが、そんな言葉も耳に入らないのか、
目の前の女は続ける。
「どうだった。今日は見せていいやつ選んで付けてるんだから。お気に入りなんだ。
 ほら、高須くんならい・い・よ♪」
なにがいいんだよと言いたいところだが、さすがに竜児でも亜美が持っていこうとする
方向は解かる。解かるだけに降参だ。勉強教えに来たのに、さすがにそれは…。
未練はあるが覚悟がない。高須竜児は正真正銘のヘタレだ!。
「川嶋、もういいだろ。俺が悪かったって。
 中途半端に紙袋が出っ張ってたから、整理したくなちまって」
亜美は竜児に座ることを促し、棚から離れさせる事に成功した事である程度満足を
すると、テーブルにお盆を置き自分も座る。

「本当、高須くんっておばさん体質。超うぜー。
 子供出来たら、絶対、部屋勝手に掃除するタイプだよね。まちがいなく」

竜児は自分でもありそうなシチュエーションだと思う。なんとなく想像出来るのだ。
子供たちにガミガミ言っちまうだろな。嫌われてないといいなと。
嫌われない為にも旦那をフォローしてくれる奥さんとか居てくれるとありがたいんだが。
果たして、持てるとして一体どんな家庭なんだろうと。

想像した一家団欒は狭いながらも暖かい家庭、そこには泰子もいる。
もったく容姿が変わってないイメージなのが、息子としてもどうかと思うが。
そして、少し大人になった大河が遊びに来ている。
居間では、元気な男の子と女の子が駆け回る。犬の子ではない。ちゃんとした人間の子供。
青みがかった髪をして。悪戯盛りといった感じだ。
そして、台所からその子供たちに声を掛けるのは俺とそして……
目の前の川嶋を再びみると、何故か照れていた。自分と同じくらいに。

やばい、この雰囲気だと渡すことなんか出来ない。ただでさえ気後れしちまってるんだから、
なんで俺は川嶋にこれが似合うと思ったんだ。と少し反省。しかし最初の確信を信じ。
もうとにかく早めに渡すしか無え と自分を勢い付けて竜児は家から持ってきた紙袋を手に取り、
「そうだ、川嶋。これ。一応、この前のサングラスのお返しって感じなんだが」
「シャネル?、グッチ?、それともプラダ?、亜美ちゃん楽しみ!」
「えーと……、高須製」
「解かってて言ってるけどね。でも手作りていいかなって…、これ本気?」
「お前の部屋見て渡すのやめようかと思ったが、替えもねえし…」

それは犬の縫いぐるみだった、鼻はやや詰まりぎみに小さく、瞳、耳は大きい。
全体に丸みを帯びた、デフォルメされたチワワの縫いぐるみ。
81Happyeverafter-6PS-4/6:2009/12/18(金) 19:53:12 ID:fHklp/e3

「なに、これって皮肉?。チワワなんてタイガーの奴が勝手に呼んでやがる蔑称じゃない。
 て言うか、よく考えるとなんで美の化身の私がそんなあだ名つけられなきゃいけないのよ」
亜美は縫いぐるみを両手でもち、その子と睨めっこという感じで、じっと目をこらす。
だんだんと細くなる目が抗議を示していた。が竜児は、
「いや、あれはすげー当たりだと思うぞ。大河、名前付けの才能あるんじゃねえか」
「なに、高須くんまで、はいはい、そうでしょうよ。
 得になる相手には愛想振りまいて、嫌いな相手はキャンキャン吠え立てる。
 危なくなったら飼い主の所に逃げ込む。そんな女ですよ。私は」
亜美は拗ねたように竜児に顔を向け、言い捨てる。
けれど、チワワのぬいぐるみを置く仕草は丁寧だ。
そんな顔にやさしげな声と言葉が響く。

「川嶋、チワワっていう犬種は、
 頭が良くって、好奇心が旺盛で献身的。誰にでも懐く様に見えるが、そうじゃない。
 愛情を1人の人間に集中させる傾向があって、ヤキモチ焼きだそうだ。
 それでいて自立心が強いから外敵には吠え付く。
 あんな体が小さくって、怖がりで、いつも震えているのにな。
 まぁ、幼少時に甘やかしすぎると、
 すぐに唸って噛み付くような小さな暴君になるらしいのだが」
なんて笑いながら語りかける奴を目の前にしては、
「な、なにそれ、全然、亜美ちゃんと似てないじゃない。高須くん見る目がないんじゃないの」
拗ねた顔を継続しながら、憎まれ口を叩くのが精一杯だった。

亜美は動揺を抑え、なんか負けて気がするんですけどと、逆襲に入る。
数日前から用意していたからかいの言葉を口にする。
「ねぇ、高須くん。ところでさ、占いって信じる?。ほら大橋の母って」
「おう。駅前の占い師な。すげー当たるって有名なんだろ」
「そう。で、この前も占ってもらったんだ。
 お願いした内容は亜美ちゃんに相応しい彼氏についてなんだけど」
亜美はそう言って、高須の様子を、ちょっとした仕草する見逃さないといった風で
じっと見つめてきた。

竜児は身を硬くする。別に自惚れてるつもりは無い。ないつもりなのだが…、
彼女の言葉を予測している自分がいる。
いやそれは期待なのかもしれないし、端に意地悪っ子の言葉に備えているだけなのかもしれない。
自分でもよく解かっていなかった。
ただ、その彼氏に相応しい男の事が告げられるのを待った。

「感性豊か、芸術性に富み、ヴァイオリンの名手。それでいて大企業の息子で凄い
 お金持ち。当然美形。少し人見知りするけど、恋愛対象には一途。
 なにより繊細で相手が何も言わなくても気持ちをわ・か・っ・て・くれる人
 なんだって、どうする?、高須くん」
「どうするって意味がわからん。というか、なんだその完璧超人」
「亜美ちゃんが完璧女神様だからじゃないない?。それぐらいのレベルじゃないと似合わないとか」
「自分の事をそこまで言い切るな。お前のどこが完璧なんだよ」
「む、そんな事言う男、高須くんくらいだっての。私の社会的評価全然わかってないんだから」
「だいたいそんな奴いてたまるか」
「いないと思うの?。甘いよ。うかうかしちゃ駄目だよ。
 その彼氏に相応しい人、具体的な名前まで教えてもらったんだもの」
と竜児を笑いながら意味あり下に流し目。その男の名前を宣言。
82Happyeverafter-6PS-5/6:2009/12/18(金) 19:55:04 ID:fHklp/e3

「花沢類って人。高須くん知ってる?」
「お、おい、そんな奴本当にいるのか、芸能人か?、財界人ってやつなのか?
 お前と既に知り合いだったりするのか?」
と竜児は思わず声を大きくする。話だけ聞くと、そんな人間なんてそうそういるはずがない
と思った。が、亜美は女優なのだ。普通の人間が手のとどかない世界にいる。
普段の亜美と接しているとそういった実感がないのだが、煌びやかな世界にいるのだ。

「う〜ん、私は知ってるけど、彼の方はどうだろう?」
竜児が緊張した趣で唾を野も込む姿を見て、満足した亜美は続けて
「知りたい?。みたいだね。ふふ。教えてあ・げ・る♪
 少女漫画の登場人物。あは。嫉妬してくれた」
「知らねぇよ」
「まぁ、亜美ちゃんには、それぐらいの出来た人間じゃないつり合わないって事だよね。
 少女漫画まではいかないまでも、ちょっとした小説の主人公クラスじゃないとね。
 がんばってね。竜児♪」

竜児はホッとした自分を隠す為に、亜美の軽口に合わせる。
「本当、女って占いとか好きだよな」
「遊びみたいなもんだけどね。悩み相談くらいで使う時とかもあるよ。
 踏ん切りつけたい時とか」

亜美は少し躊躇して
「たとえばね。私、本当は大橋高校に戻って来ようか迷ってたんだ」
「おい、川嶋!」
「実際、戻ってきてるんだから心配しないで。ただ、あの時は最後に高須くんに
 会えたから、それだけでさ、なんか報われた気がして、それも有りかなって。でも、
 それと同じくらい、ならもう少しだけって気持ちもあって。私、結局自分に甘いから。
 だから、偶然でもう一度度会えたなら、我侭してもいいかなとか思って…
 で、未練がましくOFFの時、この街に来たりもした。
 感傷ついてに散歩しようとか理由つけて」
と少し目を伏せて、その頃の気持ちを思い出すように語る。
 
「俺、お前と会った事なんか…」
「そう。いくら大きな街じゃないって言ってもそんな事なかった。
 もしかして、何年も、何十年もの間だったらそんな偶然一回くらいあるかもしれないけど、
 数ヶ月やそこらでそんな事起こるはずも無い。そんなの解かっていた事」 
 
亜美は顔をあげる。そこには難しい、難解な感情や仮面ははない。
少しの覚悟、そして明るさ。

「で、その帰りに占い師さんの所に寄ったんだ。そこで、
 『神様がもう一歩踏み込んでみろ、幸せになってもいいって言ってる』でお告げみたいな
 占いがあって。都合よく解釈した亜美ちゃんは大橋高校に戻ってきたのでした。
 めでたし、めでたし。
 ま、言い訳が欲しかっただけだから、どっちにしろ帰ってきたと思うけどね」

まったく思わせぶりなという感じで、竜児は息を吐くと、
「みんなお前が帰って来て、喜んでるからな。その占い師には感謝だな」
「みんな?、なんでそこで俺って言えないかな。私はみんなじゃなくて良いんだけどな」
そんな竜児に亜美は顔を近づけ、大きな目で見つめて来る。甘えた顔で。
「そりゃ、俺だってお前が帰って来てくれて嬉しかったよ」
「ありがとう♪」
と亜美は弾けるような笑顔をする。キスしてくるんじゃないかと思うような。
したくなるようなそんな笑顔。
83Happyeverafter-6PS-6/6:2009/12/18(金) 19:56:59 ID:fHklp/e3

そして、また一転、こんどは機嫌が悪そうな顔をして、
「でも、占いって言っても怪しいよ。この前も占ってもらったんだけどさ。
 あのさ、亜美ちゃんの一番のチャームポイントって何だと思う?」
「顔か?スタイルか?」
「竜児は、私のつらとか、体つきとか大好きなんだ。うれしいな♪」
「ちがう!、占い師がどう言ったか考えただけだ。俺の意見じゃ無ぇえ」
「………なら高須くんの意見を教えて」
「………黒い性格」
「はぁ?、何でそれがチャームポイントなのよ。人が真剣に聞いてるのに。
 どうせ高須くんにとって私は魅力のない女なんでしょうよ」
「解からん。占い師は何て言ったんだ」
「高須くんの意見と同じくらい突拍子もないこと、なんでもさ、不幸なところ…なんだって!」
「すごいなそれ」
竜児にしては珍しく大きく笑う。そんな彼に不満を感じ、

「何よ、高須くんまで、私は不幸が似合う女だって言いたいの」
「そんな事はない。でも、わかった気がする。やっぱりチャームポイントって性格て事だろ。
 お前のその周りを心配して、自分は後回しにして、悲観的に考えて、
 苦労をいつも高い金払って買ってるところなんか幸せな性格じゃないからな
 だけど、そんな奴を周りは不幸にしたくないと思うし、不幸にしないだろ」

ちょっとした、不意打ちに、素直に喜ぶ事もできず、亜美は視線をあさっての方向に向けた。
「それ、なんて高須くん?。その性格判断、そのまま返すよ」
「おまえがどう意地を張ろうと、お前の魅力はその性格だと思うぞ。
 少なくとも俺は…」
竜児は最後の言葉は力なく、ぼそぼそとした言葉となり聞き取る事が出来なかった。
またもや、逆襲のチャンスと亜美は視線を戻し、ここぞとばかり意地の悪い言葉を
放とうとした。高須くんなんぞに言葉で押し切られるようでは、腹黒、川嶋亜美が
すたるってもんであると。

「やっと落ちてくれた?。竜児は好きなんだ、私の事♪。観念した?」
そして、慌てた後、一生懸命、反論するんでしょ。かわいい高須くんは。
等と竜児のリアクションを想像し、顔を覗き見る。
言い訳したら、それをネタにまた遊んであげると、だがそこには、

意外だった。
驚きの顔があった。何か意識しなかった、気づかなかった怪物にでも出会ったような顔。
その後、亜美の視線に気づき、狼狽した表情をしたが、その表情も亜美の思ったものと違う。
そして抗弁も無く目を逸らす。

だから、予想だにしなかった竜児の態度に慌てた亜美も俯いた。
視線を合わせないようにする。どんな顔をしていいか女優でも解からなかった。

その後、会話という会話もせず。淡々と勉強を続け。竜児は夕刻になると
大河の夕飯の支度があるからと、逃げるように帰って行った。

亜美は部屋の窓から、高須竜児の姿が見えるまで見終えると、
部屋にミスマッチな縫いぐるみを手に取った。
「チワワか。本当、私ってチワワみたいな奴なのかな。君はどう思う?」
そしてじっと大きな目で縫いぐるみを見つめる。
「丁寧に作ってもらてってるね。どう思って作ってくれたのかな?
 ふふ、君は今日からここの住人。
 友達も1匹で寂しがってたから丁度いいかな。2匹の方が良いに決まってるもの」

そうして、そっと部屋の隅にチワワを置くと、つま先を立て、精一杯の背伸びをして、
棚の紙袋を下ろす。紙袋から中身を出すと、チワワの横に置いた。
それは長い枕のような、ドラゴンをデフォルメしたクッションだった。

END
84名無しさん@ピンキー:2009/12/18(金) 19:58:18 ID:fHklp/e3
以上で第6回分、全て投下終了です。お粗末さまでした。
支援ありがとうございました。2ヶ月の規制長かったです。
85名無しさん@ピンキー:2009/12/18(金) 21:17:51 ID:6O5eX/3N
最高です。


きゅんきゅんしました!
86名無しさん@ピンキー:2009/12/18(金) 21:29:31 ID:d65NH//2
GJ GJ
よかった〜
原作よりすきかも。
87名無しさん@ピンキー:2009/12/18(金) 23:41:38 ID:kCxhB6CC
>>56
GJ
あーみん逃亡しちゃったのか
すみれ堂々登場に期待。僧侶は生きてるっぽいし魔法使いも無事でいてくれ

>>84
GJ
面白かった。この竜児にもかっこいい大人になって欲しいわ、それでチワワと共に歩いてたら最高
次のやつもめちゃ期待してます
88名無しさん@ピンキー:2009/12/19(土) 00:50:02 ID:2W3/2EHz
>>84
素敵でした……
料理について心を交わしあう恋人同士の雰囲気に、そして控えめながらもしっかりと
人の背景を表現する力に、感激しました
89名無しさん@ピンキー:2009/12/19(土) 22:01:08 ID:HqC1IpGH
GJです
大学卒業後は亜美ちゃんの専属マネージャーになればいいんじゃね?
90勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/19(土) 23:11:50 ID:nN0wsXbF
次レスから続きを投下したいと思います。
良かったらミテネ〜
91勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/19(土) 23:12:32 ID:nN0wsXbF
異様な風体だった。謎の剣士は全身を黒衣に包み、白い仮面を付けていた。仮面の材質は石の様に見える。重くないのかな?
手には血塗られた片刃の長剣。魂さえ凍り付きそうな冷たい刃。これは……。中ニ病!?
てかあの剣、早く血を拭わないと錆びるぞ…MOTTAINAI。
「ゴプッ」
言葉の代わりに口から吐かれたものは血だった。気泡の様に、胸の奥からこみ上げくる。
もはや、これまでか……ああ、死ぬ前に一目で良いから川嶋に会いたかった……アンナさんの助言に従ってヤっておけば良かった……
「おいおい。何かヤバそうだな?大丈夫か?」
石仮面が俺の方へ歩み寄ってくる。もし、大丈夫そうに見えるならアンタの頭か目はどうかしてるな。
石仮面は俺の頭に手をかざして、何かの呪文を唱え始めた。呪文が使えない俺には何の呪文かわからないが……
ザキとかだったら良いな。後生だから、せめて苦痛を与えぬ有情の術で俺の死を見送って欲しい。
柔らかな光が俺を包んだ。あったかい。あれ?痛くないぞ?ボロボロだった身体がキレイに治ってる。何これ?チート?
「ベホマは初めてか?力抜けよ。」
なんだって!?これがベホマなのか?すげぇ…やくそう何枚分だよ……ハッ!?
俺は石仮面の身体を抱えて、無意識的に左へ跳んだ。むにゅ。なにやら幸せな感触。こいつ、女か。
ゴスンッ!!
俺たちの居た場所には当たったら痛そうな棍棒がめり込んで、小さなクレーターが出来居る。
緑色のハゲが石仮面の死角から、不意打ちかまして来たのだ。腹を薙がれて、あそこまで動けるとは…さすがは化け物。
とっさに避けてなければ、今頃、合い挽きミンチになっていたトコである。
ともあれ、これでベホマをかけてくれた恩は返したぞ。不可抗力で胸を揉んでしまったのは許して欲しい。
「こら。てめぇ。なにしやがる。」
巻き舌で怒鳴られる。許して貰えなかった。
92勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/19(土) 23:13:18 ID:nN0wsXbF
「せっかく、カウンターで真っ二つにしてやろうと思ったのによ。」
どうやら、π揉みの件は気にしてないらしい。てか、不意打ちに気付いてたのか……後ろ向いてた癖に。こいつ、後ろにも目があるんじゃねぇの?
「よくもやってくれたなぁ〜。人間風情がこのワシに傷を。だが、ワシはこの程度の傷では死なんぞ。」
これは緑色のハゲの台詞。何だ。人間の言葉、喋れたんだ。少しは脳みそがあるらしい。
緑色のハゲがフンッ!!とか言って、気合いを入れる。ゲゲゲ…
グニョグニョと完全メタボな腹の肉が怪しく蠢いて、真横にパックリ裂けた刀傷が瞬く間に塞がった。
「グフフ。剣でワシを殺したければ、腹では無く、首を一撃で跳ねる事だな。
トロル族の真価はこの超再生能力よ。例え、この身が2つに裂かれようとも屁でも無いわッ!!」
解説ご苦労様です。何故、こういう悪役は黙ってりゃ良いのに、自分の能力をペラペラ語り出すのだろう?自慢か?
しかし、厄介ではある。櫛枝に首を薙がれた後、何事もなかったかの様に襲いかかってきたのはそういう訳か。
緑色のハゲの首は大の男の胴回り位ある。あんな太いモンを一撃で跳ね飛ばすのはムリだ……
ああ、こんな時に川嶋が居てくれたら、何か良い策でも考えてくれるんだろうな。
「なぁ〜に辛気臭ぇツラしてんだよ。心配すんな。あのハゲはもう殺ッてる。」
え?殺ってる?あれですか?お前の命はあと3秒的な、そーいうアレ?
「ひ、ひぃえぇ〜〜〜」
緑色のハゲが情けない悲鳴をあげる。わ〜お。ありゃ大変だ。
何と、緑色のハゲのよく肥えた腹からは植物のツタらしきものが生えている。
肉も皮膚も突き破ってにょきにょきと身体の内から外に向かって、縦横無尽にツタが伸びる。
「貴様ぁ〜〜〜ッ!!ワシに何をしたぁ〜〜」
ホント…なにしたんだよ……ツタは今もなお伸び続けて、緑色のハゲの肉を食い破っている。その様は、正直見るに耐えない。
「さっき突いた時お前の傷口に、いのちのきのみを突っ込んでやっただけさ。まあ、きのみにベホマかけたりもしたが…
こまけぇこたぁ気にすんなよ。ベホマかけられたきのみが、お前を肥料にして成長してるだけの事さ。
自慢の超再生能力とやらが仇になったな。お前のカラダを喰らい尽くすまで、きのみの成長は止まらんだろうよ。ワハハハハハ」
93勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/19(土) 23:14:54 ID:nN0wsXbF
おっさん臭い高笑いをあげる石仮面。ワハハじゃねぇよ……
川嶋の立てる策も大抵エグかったが、ここまで鬼畜な策はちょっと記憶に無い。鬼かコイツ…
とは言え、緑色のハゲに同情の余地は無いし、石仮面に命を救われてる身としては文句も言えない。
「ぬくく…では、ワシは…ワシは……」
自分でもわかってるのだろう、緑色のハゲの顔色は悪い(あ、元からかw)
「うむ。死ぬしかないな。」
石仮面は冷淡に告げる。
「そんにゃ〜〜死にひゃくない!!ワシはまだ…し…に…たわばッ!!」
愉快な断末魔をあげて緑色のハゲは絶命した。腹から伸びたツルに頭を断ち割られて。
「外道にはそれなりの死に方がある(キリッ」
格好つける石仮面。外道はあんたの方だよ。正直、ドン引き……
「おいおい。私を非難する前にやるべき事があるだろう?良いのか?助けてやらなくて。
私が見たところ、髪の長い方は大丈夫そうだが、あっちの髪の短い方はヤバそうだぞ?」
スッと伸びた指が櫛枝を指す。そうだッ!櫛枝。それに大河も。ハゲ(故)にやられて倒れ伏す2人に俺はやくそうを握りしめて駆け寄った。
大河の方は無事だった。気を失ってるだけで傷自体は軽傷だ。やくそうを貼っておけば大丈夫。
しかし、櫛枝が……。まともに攻撃を受けたのだろう、首がおかしな方向にねじ曲がってしまっている。
惨い。首の骨が折れてるかもしれない。脈はあるが、安定していない。
「櫛枝ッ!!やくそうだ。飲め!!飲みこめるか?」
俺の呼びかけも虚しく、櫛枝はぐったりとしてピクリとも動かない。
「おいおい。ムリを言ってやるなよ。首が折れてるのに、飲みこめる訳無いだろ?こりゃ、ムリヤリ流しこんでやるしかねぇな。」
ムリヤリ流し…こむ?
「ああ。口移しでな。てめぇがやくそうを咀嚼して、この子の口に流しこんでやるしかないだろ。」
俺が…櫛枝に…口移し?
「当たり前だろ。それしかこの子が助かる道はねぇんだから。
口移し位で動揺してんじゃねぇよ。こんなもんただ、唇と唇が触れ合うだけじゃねぇか。
あ、もしかしてお前、童貞か?なるほど、なら仕方ないな。」
94勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/19(土) 23:16:01 ID:nN0wsXbF
なら、私がやってやろう。と、石仮面が櫛枝に手を伸ばした。
「触るなッ!!俺が…やる」
そうさ。櫛枝は俺の大切な仲間なんだ。こんな事、見ず知らずの怪しい奴にやらせない(女っぽいけど)
俺は、意を決して櫛枝の唇を見据える。ドキドキドキドキ…
「………。さっさとやれよ。童貞。」
うるせぇ。今、やるんだよ。やりますよ?ホントにやっちゃいますよ?
………。
初めてのキスはやくそうの味だった。櫛枝の身体が優しい光に包まれる。
「高須…くん?」
良かった。気がついたみたいだ。櫛枝の頬が少し赤みを帯びている。自分じゃ見えないが、俺はもっと赤くなってると思う。
あれ?でも、やくそうって食べたら身体光ったっけ?てか、やくそうで骨折って治ったっけ?
「光らねぇし、治らねぇな。私がベホマを唱えなきゃ。」
………。
「いやぁ〜若いって良いね。イイモン見せて貰ったよ。」
覚えてろよ……。まあ、櫛枝とキス出来ちゃったのは正直、役得だけれども。
その後、さあ、逃げるか。誰かに見られちゃ厄介だしな。と言う石仮面と一緒に俺たちも城を後にした。
気を失った大河を俺が背負い、櫛枝は自分の足で歩けるまで回復していた。ずっと俯いてるのが少し気になるが……
やっぱり、さっきのキスを気にしてるんだろう。許してくれ。俺も石仮面に騙されただけなんだ。
そして、後になって気付いた。逃げなきゃいけないのは変なアサシンスタイルの石仮面だけで、俺たちは別に逃げる必要は無かったと。
「ふぅ。ここまでくりゃ大丈夫だろ。」
今は城を出て、街からも離れた場所に居る。辺りは真っ暗闇。まあ、夜だから当然だ。何度も言うが、俺たちは普通に宿に帰っても良かった。
「そんな冷たい事言うなよ。こうなったら一蓮托生だろ?」
何でそうなる。俺たちは関係ないぞ?
「助けやったじゃないか。」
まあ、結果的にはそうなった。確かに、こいつに命を救われた。しかし、だからと言ってこいつに付き合って一緒に野宿するのは嫌だ。
「言っとくが、助けたのは今回だけじゃないぞ?」
え?それはどういう……
95勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/19(土) 23:17:54 ID:nN0wsXbF
「まず、ロマリア近郊でこうもりおとこ×4に絡まれて、瀕死だったそこのチビを助けてやったろ?
砂漠でじごくのはさみに苦戦してた様だから、先回りしてじごくのはさみを間引きしてやったりもした。他にも……」
石仮面の話はまるで、俺たちの冒険のダイジェストを語っている様だった。
そして、その影にはいつも石仮面の姿があった。俺は知らない。だが、石仮面が嘘をついている訳は無い。
実際に俺たちの旅を傍で見ていなければ、こんな話は出来ないだろう。なら、人知れず助けてくれていたというのも……
「何者なんだ…?あんた…」
実は生き別れた兄さ…いや、姉さんってオチか?
「いや、残念ながら違うな。私の事は、謎の救世主−マスクド・フロンティア−とでも呼んでくれ」
ダサッ……
「うおお〜〜かっけぇ〜マスクド・フロンティアかっけぇ〜〜!!」
ここに来て、塞ぎがちだった櫛枝が急に立ち直った。確かに、英雄譚かぶれの櫛枝が好きそうな展開だけどさ。
「で、ものは相談だが、私をお前たちの仲間にしてくれないか?」
ほら来た…言うと思ってたよ。
「喜んでッ!!よろしく。フロンティア。」
ちょっと待て櫛枝。俺たちには川嶋が居るだろ!?それに、フロロンティアさんも仲間になりたきゃ、せめてその怪しい仮面外せよ。
命の恩人に対して、偉そうなのは承知の上だ。しかし、言う事はしっかり言わなきゃいけない。
今は川嶋が居ないんだ。だから、俺がしっかりしなきゃダメなんだ。
「ふむ。なかなか困った事を言う奴だ。あいにくとこの仮面は、呪いのアイテムでな。死ぬまで外れん。
私の素顔が見たけりゃ、まずは仲間にしていつか訪れるだろう私の死を看取ると良い。
自分で言うのも何だが、私は結構美人だぞ?期待してて良い。まあ、そう簡単に死ぬ気はないが。
で、川嶋というのは遊び人…いや今は賢者だっけか?確か行方をくらましたんだよな?
なら、そいつが復帰するまでという条件付きで仲間にしてくれ。それなら良いだろう?私は代打みたいなもんだ。」
う〜ん…良いのだろうか……
「私って人間は頭が良くて見目もそこそこ、ついでにとっても腕が立って呪文も結構使えるんだ。
仲間にしない手はないだろう?それに手土産もある。」
96勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/19(土) 23:18:34 ID:nN0wsXbF
フロンティアは懐から、なにやら鈍い輝きの宝玉を取り出した。
「シルバーオーブ。お前たちが探していたモンだよ。
私を仲間にしてくれるなら、コレはお前にやろう。私もラーミアに乗ってみたいしな。」
「何が目的なんだ?ただ仲間が欲しいだけなら、別に俺たちにこだわる必要はないだろ?」
確かに緑色のハゲを瞬殺した辺り、本人の言う通り腕は立つ。というか俺たち3人より、フロンティア1人の方が強いんじゃ……
仲間になってくれば、戦略的に俺たちは助かるが、フロンティアにメリットはあるのか?何が狙いなんだ?
「私の目的は1つだよ。かつて果たせなかった夢。魔王バラモスをこの手で討ちたい。それだけだ。」
………。今まで、ふざけていたフロンティアは急に真剣な調子で言った。
ふぅ…仕方ない、仲間にするか。しかし、こいつを連れて街に入る気になれない。ああ…しばらくは野宿か……
幸いにして、野宿にアホ程文句をつけそうな奴は現在家出中。櫛枝はアウトドア派だし、大河もウマイモン食わせとけば文句は言うまい。
で、俺も宿代が浮くならそれはそれで良いとか思っちゃうタイプ……
「こまけぇこたぁ気にすんな。私はヘビとタマの小せぇ男が嫌いなんだ。」
はいはい。そうですか。ワロスワロス。
「よろしくねフロンティア。私の事はスーパーみのりんと呼んでくれ。」
意味のわからんトコで張り合おうとする櫛枝。
「ああ、よろしく。」
フロンティアは櫛の礼に応えて右手を差し出す。
スーパーみのりんとフロンティアの間に結ばれた、ガッチリと力強い契りを見て、
俺はサマンオサの宿に置きっぱなしになっている荷物の回収を諦めた。苦渋の選択である。
その後、目を覚ました大河とフロンティアの間に一悶着あったが、面倒くさいので割愛。
腹が減ったので夜食のチーズやくそうサンドを食べてから寝る事にする。もう、どうにでもなれだ。知るか。
97勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/19(土) 23:19:32 ID:nN0wsXbF
ぼうけんのしょ1(仮) りゅうじ

しばらく、教会に行けないので、冒険の書を仮書きしないといけない。
これというのも、全部フロンティアのせいである。川嶋、早く戻ってきてくれ。
今回、櫛枝と嬉しい接触事故を起こしてしまった訳であるが、以前よりも何かがときめかない。
もう、川嶋でしか満足出来ない身体になってしまったんだろうか……
それにしても、フロンティアの全体像が妙に川嶋に似てる気がする。気のせい…だよな?
ちょっと背の高さも違うし。他人の空似と言うやつだろうか?

PS.
風の噂に聞いたが、偽王の没後サマンオサはちゃんと復興出来たらしい。いやぁ、良かった良かった。
正直、肉片と化した緑色のハゲを掃除した人間に同情を禁じ得ないが……まる
98勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/19(土) 23:22:15 ID:nN0wsXbF
今回分はこれでおしまいです。
次回も良かったらミテネ〜
あと、スレイヤーズファンの方が居ない事を祈ります。ネタ的な意味で。
99名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 00:04:05 ID:v65424lZ
最近、普通の話書く新規職人さんがいないね(´・ω・`)
100名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 00:09:15 ID:1An33zQ/
>>99
そこで貴方がry
101名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 00:31:41 ID:J/T5QY+a
GJ!
にしても次々と投下されていって飽きませんな……次回も楽しみですなぁ。
102名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 01:19:39 ID:T/VVSO++
俺は>>98さんのSSは読んでて楽しくなるから毎回楽しみにしとるし、
>>84さんのSSは雰囲気好きで何回も読んでしまうな〜。
103名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 01:39:08 ID:d0d7mDVU
>>98
おぉなんか仲間増えた、僧侶としてエロい方が仲間になると思っていたがw
つかみのりんとのキスはもう少し喜べ竜児、それから薬草の口移しとかだまされるなww
104名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 11:50:50 ID:8wtXNNUo
あーみんが復帰したらこの世の理が崩壊……あ、代役として一時的な参加なら崩壊しないねw
105名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 12:09:05 ID:MHEURdRa
マスクド・フロンティアってなんだよwww正体バレバレ過ぎでワロス。しかも外道だし。まさかマホイミを使うとは・・・
しかし、すみれとみのりんって案外気が会うのな。性格的にちょっと似てるトコあるし。
てか白仮面ネタってもしかして、ズーマ=セイ○ラム?スレイヤーズ的に考えて。最初はブリーチの破面ネタと思ったんだけど、どっちなんだろう?
106勇者を想って亜美が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/20(日) 14:00:49 ID:OH9j3JIW
前々回に予告した通り、今回は番外編です。
良かったらミテネー。
107勇者を想って亜美が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/20(日) 14:01:28 ID:OH9j3JIW
−家出15日目−

虚しい。全てが虚しい。家出したら、高須君はあたしを追いかけきてくれるかな?そう思って家出してみた。
ただ待ってるのも暇だったから、スー地方でのんびりはぐれメタルを狩ったりしていた。
次、再会した時には、戦力になれる様に。それで、喜んで貰えたら良いと思って。
でも、いつまで経っても迎えに来てくれやしないからカンスト寸前。あたしはもうこれ以上は強くなれないと思う。
仕方ないからこっちから動いてみるか。そう思ったのが失敗だった。
とりあえず、闘技場がある大きな街が良いな。そう思って、まだ行った事のないサマンオサへと向かった。(ついにロマリアまで出禁になっちゃったんだよね)
そしたら、そのサマンオサで妙な噂を聞いてしまった。勇者と呼ぶにはあまりに邪悪な目つきの男がふらりと現れて王様を暗殺して逃亡したらしい。
最初、え!?と思った。何かの間違いでしょ?って。そして、気になって詳しく調べてみたらやっぱりデマだった。
正しくは、一夜のうちに魔物が化けた偽王を討伐し、永らく続いた恐怖政治から民衆を解放した。
そして、当の勇者は風の様に人知れずどこかへ去って行った。と、言う事らしい。
ふ〜ん。英雄譚マニアの実乃梨ちゃんが好きそうな話だよね。
ヒドイ話だ。高須君たちはあたしが抜けても、お構いなしで順調に旅を続けてるらしい。
要するに、あたしはあのパーティーにとっては、そもそも必要の無い異分子だったんだ……
そう思うと、むしょうに悲しくて情けなくて涙がでてくる。
はぐれメタルを絶滅寸前にまで追い込んだ罰が当たったのだろうか……今度はあたしが、はぐれチワワになってしまった。
そして、そんな可哀想なあたしをさらに地獄のどん底に突き落とす様な事が起きた。
とうとう、サマンオサの闘技場まで出禁になってしまった。あたしが居ると賭けが成立しなくなるとか言って追い出されてしまった。
まさか、ギャンブルの世界からも爪弾き者にされるなんて…ここでもあたしは異分子なんだろうか……もうヤダ。

−家出16日目−

自称、プロギャンブラーだったのに、闘技場を追い出されたあたしは無職になってしまった。
賢者というのは職ではあるけど、お金にはならない。だいたい、賢き者なんていう呼称が偉そうで気に入らない。
今後、あたしは大魔道士とでも名乗る事にしようかな……大魔道士アミ。うん、悪くないじゃない。
108勇者を想って亜美が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/20(日) 14:01:58 ID:OH9j3JIW
しかし、履歴書には書けない。面接で「特技はイオナズンです。」などとは言えない。
でも、あたしにも生活がある訳で……さて、どうしたもんだろう。

−家出18日目−

生活費が底を突きかけ、追い詰められたあたしは最終手段を取る事にした。
昔、実家で読んだ古書に載ってた伝説の魔道士。彼女のライフスタイルを真似てみる事に決めた。
彼女の主な収入源は盗賊いじめ。そこら辺の盗賊や野盗をしばき倒して金品を強奪するのだ。
何か、ほとんど強盗と変わらない気もするけど「悪人に人権は無い」らしいし、多分大丈夫だろう。

−家出20日目−

メシウマ。盗賊いじめ。何て良いアルバイトなんだろう。
世の為にならないゴミ共をこの世から駆逐したついでにあたしの財布は潤い、ささくれだったあたしの心も癒やされる。
しかも、サマンオサ地方は治安が悪かった為かやたら盗賊の数が多い。これは良い趣味を見つけてしまった。やったね。
アルバイトで稼いだお金で新武器を購入。バハラタの武器屋の親父にムリ言って造らせた特注品。カスタム仕様のりりょくのつえ。
りりょくのつえっていうのはMP3くらいを打撃力に変換する杖なんだけど、この特注品はリミッターが無いのだ。
つまり、この杖はあたしのMPを限界ギリギリまで吸って打撃力に変換する。
その破壊力は推して知るべし。軽く振ってみたら、凄い衝撃波が起きて大惨事になった。
あたしは思わず、ルーラで飛んで逃げてしまったけど、バハラタ民の皆様には気の毒な事をしてしまったなぁ〜

−家出21日目−

今日、倒した盗賊が妙な事を言っていた。以下、追憶。
「さて、死にたくなけりゃあ、貯め込んだお宝全部出して貰いましょうか?」
あたしは盗賊の親分らしきオッサンの喉元に杖の切っ先を突き付ける。
子分たちが、生意気にも黄金色の鎧なんか着込んでた盗賊集団だし、きっと蓄えもいっぱいあるだろう。ワクワク。
「くくぅ…人の皮を被った悪魔め。鬼!人手なし!!」
はて、何の事やら。鬼なんて呼ばれても、思い当たる節は無い。
誰よりも美人で心優しく、全身からクラス感あるオーラが迸るような上級セレブ清純姫系天然美少女ならここにいるけれど、鬼なら知らない。
109勇者を想って亜美が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/20(日) 14:03:36 ID:OH9j3JIW
「早くしてね?言っとくけど、あたしは変態パンツマスクに容赦する様な女じゃないよ?」
シュボッ!!
杖の先から炎を出した段階で親分はビビりまくり素直に蓄えを差し出した。それで、妙な事を言った。
「わかった。しかし、コレだけは渡せない。他は全部あんたにやる。けど、コレだけは!!な?頼むよ。」
そういって、後生大事に親分が抱えているのは…漬け物石?にしか見えない代物。
それが何だと言うのか?まさか、ホントに漬け物石という訳でも無いだろう。かと言って宝玉という風にも見えない。
「これは、確かにひとつじゃ意味の無いモンだ。だが、七つ集めると空から龍の神様が降りてきて、どんな願いもひとつだけ叶えてくれるらしい。」
………。胡散臭さッ!!何そのアホな伝説。
「それで俺は、息子の病気を治してやりたいんだ。たのむ!!見逃してくれ。」
良い大人があたしみたいな小娘に土下座までして懇願する。
けど、あたしはそんなので思い悩む程、人の心は残っていない。
「あたしにはただの石にしか見えないけど……。まあ、そこまで言うのなら試してあげよう」
ものは試しと、あたしは漬け物石にメラゾーマをかけてみた。
結果は、まあなんと言うか割れた石と消し炭がその場に残っただけ。あ〜あ残念☆やっぱりただの石だった。
でも、もしホントにそんな龍が居たとしたら、あたしは何を願うだろうか……
やはり鉄板の、このあたしを不老不死にしろ。かな?
あたしが永遠の若さと美しさを手に入れたとしたら、彼はあたしに振り向いてくれるだろうか?
そういえば、ママも不死の研究とかやってたっけ?失敗ばかりだったみたいだけど。
研究には痛ましい犠牲が付き物。ピラミッドは王家の墓なんかでは無い。あそこは不死の被験者。命を弄ばれた者が眠る場所。
ママは今も研究を秘密裏にしている様だけど、あたしは知っている。親子だもん。だから、あたしの研究にもママは気づいてただろう。多分。
110勇者を想って亜美が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/20(日) 14:04:19 ID:OH9j3JIW
あたしの研究に協力してくれた人たちには申し訳ないんだけど、あたしは研究の結果、1つの結論を得た。
どんなに頑張っても、人の力では100年〜200年の延命しか出来ない。まして、美しさを保ったままなんて、とてもとても…
でも、もしホントに伝説の龍の神と呼ばれる存在が居るのなら、そいつになら可能かも知れない。雲を掴む様な話だけど、旅の目的には丁度良いかな?
決めた。あたしは永遠の若さと美しさを手に入れて、必ず高須君をモノにしてみせる。

−家出22日目−

いきなり宿が炎上した。もう、笑うしかない。
せっかくの1人旅だし、地球のへそでも探索してみようと思ってランシールに飛んだんだけど…
特に何も無くて宿でふて寝してたら夜襲をかけられた。
そろそろ、盗賊共がお礼参りにでも来たのかな?と思ったがどうやらそういう訳でもないらしい。
現在、ランシールの街は大パニック。あっちにもこっちにもおびただしい数の魔物。
キラーアーマーやらエリミネーターやらネクロマンサーやら魔物のバーゲンセール状態。
何だコレ?何でこんなド田舎をわざわざ選んで襲撃してきたんだろう?
ともあれ、かかる火の粉は振り払わなきゃいけない。ぶっちゃけメンドーだけど、あたしは目につく魔物を片っ端から灰にして回った。
100から先を数えるのが嫌になって、もうイイや。ルーラでどっか飛んじゃえ♪とか思った時、横手の茂みから業火球が飛んできた。
カーン。
小気味良い澄んだ音を立て、業火球は飛んで来た方向に跳ね返る。業火球はそのまま茂みに着弾し火柱を上げた。何だ…メラミか。しょうもない。
「ほう。マホカンタとは、人間にしてはなかなかやるな。」
茂みから、なんか見慣れない緑の奴と黒こげのキラーアーマーが出てきた。
キラーアーマーはメラミなんか使わない。多分、緑の奴がキラーアーマーを跳ね返ったメラミの盾にしたんだろう。ヒドイ奴だ。
「ワシは魔王バラモス様直属の配下。四天王の1人、エビルマージ。賢者アミよ。お前の命、ワシが貰った。」
自己紹介乙。登場するなり、死亡フラグを立てる緑。四天王(笑)どうせあんたが四天王最弱なんでしょ?
大体、メラミ程度しか使えない癖に笑わせてくれる。
111勇者を想って亜美が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/20(日) 14:05:43 ID:OH9j3JIW
「何であたしのトコにきたの?」
わざわざ死にに。そういう意味を込めてあたしは尋ねた。緑の返答は、
「今から死ぬ者に答えても意味はなかろうッ!!」
だった。そして、何か呪文を唱え始めた。詠唱の文句から考えてマヒャドかな?まあ、そこそこ強力な呪文ではある。
またマホカンタで跳ね返しても良いけど、辺りの気温が一気に下がってしまう。それはヤダ。
あたしは寒いのが苦手なのだ。冗談ではない。霜焼けにでもなったらどうしてくれる?
仕方がない。燃費が良くないから、あんまり使いたくないんだけど、とっておきの呪文をお見舞いしてあげよう。
あたしも呪文を詠唱し5本の指それぞれに炎を灯す。呪文を放ったのは同時だった。あたしは後から詠唱を始めたのに追いつかれるエビルマージ(笑)
ボンッ!!
お互いの呪文がぶつかり合って、誘発。大きな爆発音を伴って、濃い水蒸気を生んだ。メラ系とヒャド系の呪文をぶつけると起こる現象である。
あたしが放ったのは、マイフェイバリットである、メラゾーマ。ただし弾数は×5。
メラゾーマを5発同時に撃ち出す、あたしのとっておき。その威力はまさに必殺。多分、魔王相手でも直撃したら死ぬんじゃない?
ただし、燃費が相当悪い。5連打と5発同時撃ちでは、消費MPが桁違い。一発で全MPの3割位削られる。
そして、身体にも負担が掛かるらしく、日に何度も撃つと白髪が増える。この術を開発して、調子に乗って連打した次の日は地獄を見た。
と、いう訳で今のあたしの髪は黒く染めている(涙)
112勇者を想って亜美が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/20(日) 14:06:07 ID:OH9j3JIW
後でキチンとトリートメントしなきゃ……なんて事を考えている間に蒸気は霧散しいく。
「うぐぐ……」
おやまあ。何としぶとい。霧の中から出て来たのはエビルマージ。
跡形残らず消し飛んだかと思ったら、半身を炭にしただけで、まだ生きていた。
マヒャドで若干相殺したとしても、フィンガー・フレア・ボムズ(今、技名考えました^^)の火力なら全身を消し炭と化す位、訳ない筈なんだけど……
タダの5連打とは訳が違う。5発同時撃ちは、その相乗効果でどえらい熱力を持つ。
と、するとあのダサイ緑のローブが高度な対魔性能を持ってるのだろうか?それにしてもヒドイセンスのデザインだけど。
まあ、どっちにしてもエビルマージは戦闘不能。トドメをくれてやろう。顔面にイオラでもぶち込めば死ぬでしょ♪
トドメを刺すべく、あたしは半身を失って苦しげに呻くエビルマージに歩み寄る。
「さて、この超美しくも慈悲深い亜美ちゃんが、特別に遺言を聞いてあげよう。
トドメを刺す前にちゃっちゃと答えな。何であたしのトコに来たの?
あたしさ、自分の質問を無視されるのって嫌いなんだよね。5秒以内に答えなさい。」
………。聞くんじゃなかった。瀕死のエビルマージはとんでもない事をぬかしやがった。

・四天王は自分を含めてサラマンダー、やまたのおろち、ボストロールの4人
・サラマンダーは数年前オルテガに倒され、やまたのおろちが1年前に初代勇者によって討伐された。
そして、今回二代目勇者のせいでボストロールまで欠けてしまった。
・事態を重く見たバラモス直々に、二代目勇者討伐の命を下されたエビルマージ。
・自分は後方タイプなので、まず部下を100匹程けしかけたところ、勇者一味の仮面を被った怪しい剣士1人相手にあっさり壊滅。
・そこで、現在、単身行動中の美人賢者(あたし)を人質にしようと襲撃するも、まさかの返り討ちに…ふ、不覚。←今ココ

と、言う事らしい。
「さあ、殺すなら殺せ。どの道、ここで生き長らえようともバラモス様の役に立てぬワシに待つのは処刑のみよ。
バラモス様は恐ろしいお方。使えぬワシに未来はない。」
113勇者を想って亜美が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/20(日) 14:07:14 ID:OH9j3JIW
あんたの都合なんか知るか。あたしとしてはどうしても納得行かない点がある。
仮面の剣士って誰だよ?あたしは知らねぇよ?そんな奴。
「ねぇ…今の二代目勇者のパーティーって何人居るの?」
当然、答えはあたしを抜いた3人でなければならない。
「4人だ。」
うそ…マジで?
「勇者 武闘家 盗賊 そして、奴の4人。間違いない。ワシがこの目でハッキリと確認した。」
…………………。
そっか、そういう事か。迎えに来ない筈だ。あいつらはあたしの事なんか捨てて、違う奴を仲間にしたんだ……
バカみたい。高須君にとって、あたしなんかそんなもんだったんだ……
……いや、違う。そうじゃない。そんな訳ない。高須君があたしにそんなヒドイ事をする訳ない。
誰かがそそのかしたんだ……高須君に、誰かが囁いたんだ。
誰だ?櫛枝実乃梨か?それとも、逢坂大河?仮面の剣士?許せない……殺してやる。あたしと高須君の仲を割く者は皆、皆、殺してやる。
あたしの邪魔をするのなら、例えそれが誰であれ、この世から消してやる。
あたしは、エビルマージに呪文をかける。イオラではない。気が変わった。喜べ。ベホマをかけてやる。
「ッ!?ワシに情けをかけるつもりかッ!?」
…。そんな訳はない。今日からあんたはあたしのしもべ。あたしの為に身を粉にして働け。
あんたに自由はない。あんた自身の生き死にでさえ。ムダ死には許さない。どうせ、散る命ならあたしの為に。

ぼうけんのしょ2 あみ

モシャスという便利な呪文を覚えた。さっそく高須君に化けてみた。
ほうほう。高須君のはこんなんなってるんだ…か〜わい〜♪皮被ってるぅ〜☆
興味本位で皮を剥いてみる。その時あたしに電流走る。何コレ超気持ちイイ……
他にも色々、試してみよう。ココはどうかな?ちょっと黒ずんだ乳首。いつも自分にする様に摘んだり、引っ張ったり、揉んだりしてみる。
イイ……。やっぱり男でも乳首は気持ちイイんだ……なるほどなるほど。
ヤバイ。楽しい。この身体を使ってもっともっと色々遊んでみよう☆

PS.
どんな願いも1つだけ…って良くあるパターンだけど、このあたしを不老不死にした後に高須君の嫁にしろ。ってお願いしたらどうなるんだろ?機会があれば是非、試してみたい。
114勇者を想って亜美が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/20(日) 14:08:18 ID:OH9j3JIW
番外編はココでお終い。次回は本編に戻ります。
次回も良かったらミテネ〜
115名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 14:34:31 ID:QrF9WTGi
ロバーズキラー!ドラゴンもまたいで通る!
しかし胸は大平原じゃないな
116名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 15:14:20 ID:A8oipDyv
うおっ怖!
亜美ちゃんヤンデレ化乙!
最初は何でここでやってんだろうって思ったけど
今では待ち遠しいな!
117名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 17:37:23 ID:MHEURdRa
正直、フロンティアがラスボスだと思ってたけど、あーみんの可能性も出てきたな。

-ラスボス候補-
本命・フロンティア
対抗・あーみん
ダークホース・静代
大穴・ゾーマ

しっかり複線とか張ってあって読んでて面白いし続きが気になる。今回もGJでした。
118名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 19:20:43 ID:duP02NQ3
エロパロである以上、ラスボスとはベッドの上で決着をつけて欲しい
119 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/20(日) 22:56:47 ID:bt6Y4WM5

『みの☆ゴン』
前スレからの続きを投下させていただきます。9レス分(126〜134)です
スレが変わりましたので、再度注意書きをお読みください。

内容  竜×実です。その分、カップリングが原作と変わっています。虎×裸、亜×春 兄×元会長など。
時期  1年生のホワイトデー 〜 2年生の夏休みまでです。
    今回は6月上旬〜夏休み初日という設定です。
エロ  今回はありません。本番は、次の次回の最終回になります。
補足  内容、文体が独特で、読みにくいかもしれません。
    ご不快になられましたら、スルーしてください。
    また、続き物ですので、ここからお読み頂いきますと、ご不明な点が多いと思います。
    
宜しくお願い申し上げます。
120みの☆ゴン126 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/20(日) 22:57:46 ID:bt6Y4WM5

「竜児くん、ゴメンよ! 今日はあーみんと約束あるんだ」
 木曜日の午後四時。そんな感じで彼女から放課後デートを断わられてしまった高須竜児が、
昇降口で若干凹みながら下駄箱から靴を取り出しているとき、背後から小さな影が忍び寄る。

「竜児。あんた今日ヒマでしょ? ちょっと付き合いなさいよ」
 腰の辺りをチョイチョイ突かれ振り返ると、口をへの字に曲げた手乗りタイガーこと、逢
坂大河が睨みつけていた。
「おう大河、いきなりなんだ? 付き合うって、いったいどこに?」
 説明するのがうざったそうに、大河は長い髪をかきあげ、
「駅ビル。明日のプールの授業で使う水着買うの……去年の水着、腐らしちゃったし、サボ
 ろうとしたけど北村くんに出たくない〜って言ったら、遊びみたいなモンだけど、授業は
 授業だからって叱られちゃって……仕方なくね……はあ、やだな……さ、いくわよ竜児」
 竜児の同意を得る前に、大河は校門の方へ歩き出してしまう。その小さな背中に竜児は、
「なんだよ大河。それなら北村誘えばいいじゃねえか。放課後デートも出来て、一石二鳥だ
 ろ?」
 というと、大河は歩きながら振り返り、竜児に射るような目線を突き刺すのだった。
「……そんなこと出来たんなら最初からあんたなんか誘わないわよ……。ぐたぐた言ってな
 いで、付いてこい、この鈍っ! ふぎゃ!!」
 びたん! と凄まじい音が大河のデコから発せられ、最強のはずの手乗りタイガーはデコ
を押さえて昇降口の床に片膝をついて悶絶。締まりかけた昇降口の鉄枠のガラス扉に激突し
てしまうのだ。
「だ、大丈夫か大河……しょうがねえなあ、ったく……じゃあ行くか。駅ビルに」
 内心逡巡していた竜児だったが、目の前でマンガのようなドジを目の当たりにして、親友
である北村のために、どうしようもなく危なっかしい手乗りタイガーと一緒に駅ビルへ行く
ことに決める。

***

 平日の夕方とはいえ、これでも街で一番のショッピングスポットである四階建での駅ビル。
しかしながらほとんど人気がなく、そんな閑散としたフロアの片隅、お嬢様チックな白いワ
ンピースを抱え、ローファーをパタパタ鳴らしながら試着室へ走っていく川嶋亜美の姿があ
った。

「ねえ、実乃梨ちゃん! これなんかどぉ〜お? スタイルいいから絶対似合うって!」
 亜美に呼ばれ、試着室のカーテンからピョコ、と顔だけを出すのは櫛枝実乃梨。さっき試
着したカジュアルでリゾートな感じの動きやすそうなハイビスカス柄のチュニックを着てい
たが、
「え? あーみんどれ?……ワッ、ワンピースゥ? こんなヒラヒラフワフワで、真っ白な
 の着たことねえっす……か、かわいいけど……すっごく似合わない自信あるんだけど……」
 瞠目し、戸惑う実乃梨だったが亜美はノリノリ。
「そんなことないってえ! 高須くんみたいな男子ってぇ、こういうの好きだと思うよ?
 ウブで、清楚で、お淑やかで、照れ屋で、清純系でさ。それにリゾートっぽくてパッチリ☆」
 そう言われ純白純情ワンピを受け取り、ジーっと刮目する実乃梨は萌え、いや燃えてきた
のか、
「そ、そそそ……そう? かな? かな?」
 いろいろと思案を巡らす。もう一息だ、亜美はダメ押し。
「そうだよー! 実乃梨ちゃん引き締まってるし、肩の辺りなんか筋肉も綺麗についてて、
 超いいかんじー! ほらほらいいから着てみちゃいなよ〜!」
 そ……そだね、と微妙に笑みつつ、実乃梨はワンピースを手に、カーテンをぴっちり閉じ
て、試着室の中に引き籠るのだった。
 実は亜美は、実乃梨から竜児に内緒で沖縄旅行へ着ていく洋服を、プロモデルとしてのア
ドバイスを相談されていたのである。そんな実乃梨の乙女心を汲み、元々コーディネート好
きな亜美は快く承諾したのだった。試着待ちの亜美もせっかくなので、自分の欲しいマスト
アイテムでも物色しようと辺りを見廻すと、偶然エスカレータの方に見なれた二人組を見つ
けちゃうのだ。
121みの☆ゴン127 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/20(日) 22:59:04 ID:bt6Y4WM5

「あれ?タイガーじゃん……高須くんも?」
 亜美の目が、おもしろいものを見つけたみたいに楽しげに細められる。そして亜美は浮気
調査をする探偵のように竜虎の尾行を始めるのだった。
 しばらくして取り残された実乃梨は変身後、試着室から出てくる。

「うわぁ……着ちまったよ……なんか、大河っぽいなあコレ……ねえ、あーみん? あり
 ゃ? ……いねーし……」
 実乃梨は救いを求めるように落ち着きなくウロウロと歩き
回ったところで、ショップの店員さんに捕まり、さんざん営業トークを浴びてしまうのだが、
閑話休題、なんとか連れの行方を聞きだし、そのバカンスなワンピースの格好のまま、亜美
の後を追うようにしてエスカレータに向かっていってしまう。

***


「た、か、す、く〜ん! な〜にしてんのかな?」
「おうっ! 川嶋!」
 観葉植物の影に隠れていた竜児は、ただでさえ女性用水着売り場に迷い込んだ男子高校生
という立場で赤面を禁じえない状況だというのに、まさか知り合いに会ってしまうとは……
さらに重ねて連れが大河だ。浮気現場を発見された間男みたいに固体化する竜児は黙り込ん
でしまい、亜美との間にアロハの伸びきったBGMがむなしく流れていく……のだが、やや
あって亜美は、

「高須くん水着買うんだ? ああそっか、明日もうプール開きだ! 楽しみだねえ! でも
 ここ、レディース売り場だよ? 男子用はあの柱の向こうじゃん。高須くんこんなところ
 にいてなんか怪しくね?」
「べっ、別に怪しくねえよ! たっ……大河に頼まれてついてきただけだ」
「へ〜高須くんが? 実乃梨ちゃんや佑作を差し置いて? なんで? それこそ怪しさ炸裂
 なんですけどっ……てか、高須くんだめだよ、マネキンだからってそんなに激しく揉みし
 だいたら。ポロリしちゃうって」
 竜児は何気ない風を装っていたが、うっかりマネキンの胸部を鷲づかみにしてしまってい
た。変態だからではない。動揺し過ぎたのだ。
「おうっ! 俺としたことが……いや違う、だから川嶋! 俺もわからねえんだよ! なん
 で頼まれたのか俺が聞きてえくれえなんだって!……そ、そういや、大河は?」
 試着室に消えた大河が姿を現さないことに気がついた。試着室は四角いフロアのコーナー
四隅にそれぞれ、計四つあり、そのうちのひとつに,見覚えのあるサイズの小さなストラッ
プシューズが脱いであった。なんだ、ここで大河は試着しているのか、と竜児が思ったその
矢先、

「おーい竜児いるー?……ちょっとこっち来てよ……ちょっと、来〜い」 
 大河の声がした。すると竜児が返事をする前に試着室のカーテンがほんの数センチほどそ
っと開き、顔だけをにゅっと突き出した大河は、キョロキョロどこか不安げに眉を寄せてい
たが、半笑いの亜美の姿が目に飛び込んでくると、
「りゅ……てへ? ばかちー? ちょ、ちょ、ちょ! なな、なんであんたがいんのよ!」
「あっら〜? あんたこそなんで高須くんと水着売り場で一緒にいるのかしら〜?」
 亜美は大河をじー……っと見つめている。底意地の悪さを隠さない目で、まるでレントゲ
ン写真でも見ているような顔をして。大河は生首状態のままわめく。
「う……うるさいうるさいうるさいうるさぁ──いっ!! ばかちーには関係ないっ! な
 んだっていいでしょ? は! 分かった……あんた水着腐らせたのね。なら最初っから……」
「ばっかじゃねーの? 水着腐らせるなんて聞いたことねーし! 違うわよ! あたしは実
 乃梨ちゃんに相談……あっ」
 つい口が滑ってしまいそうになり突然口を噤む亜美だったがそこに……
122みの☆ゴン128 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/20(日) 23:00:34 ID:bt6Y4WM5

「あーみん発見伝! 急にどこ……ぎゃーす! だめだめだめっ! 竜児くん、来ちゃダメ!
 見ちゃダメ! ててていうか、なんでここにいんのさー! うぎゃー!」
 そこには真っ白なワンピースに身を包む実乃梨がいたのであった。店員さんの計らいで、
純白のワンピースに、お揃いの白いヒール、ひまわりをかたどったブローチ……と完全最強
フル装備。まるで夏の朝に咲く百合の花のような清らかさで登場し、竜児の視線をロックオ
ンさせるのだ。見るなというのが無理な話なのである。しかし実乃梨は照れるみたいにして
ストローハットで真っ赤に染まる顔を隠してしまう。それをみてスタイリスト亜美は駆け寄り、
「えーやだやだ、実乃梨ちゃん超かわいいじゃーん! すっごい似合ってるし、もっとよく見
 てもらいなよっ! ほら〜、BANG☆BANG☆バカンスって感じ〜☆」
 大絶賛するのだった。実乃梨の声が聞こえた大河は、うわー、みのり〜んっ! すご〜い!
と試着室からチラ見し、声を漏らす。亜美の抱き着かれて、やっと実乃梨の顔が現れ、その
非日常な可憐な姿を改めて見た竜児は、ここが寂れた駅ビルなんてことなど一瞬にして忘れ、
輝くばかりの純白の少々少女っぽいワンピースから伸びる真っ白な長い足、ほっそりしなや
かな腕、しかし主張するバストライン、幻想のような儚い風情をかもし出す彼女のさまに、
心臓が止まるほど見惚れてしまうのだ。竜児は離れた場所から指をくわえてアブない視線を
輝かせるが、爽やかな夏少女を物陰から狙っているわけではない。思春期特有の自意識と恋
心の狭間で揺れているのだ。男心が。
「ま……まるで96年の映画、ロミオ+ジュリエットでクレア・デインズがまとっていたジ
 ュリエットドレスじゃねえか……ロマンチックの極み……エンパイアシルエット……か、
 か……かわっ……ゅぃ」
「ちょっとぉ高須くん! 声小さい! ちゃんと実乃梨ちゃん褒めてあげなって。あんた彼
 氏でしょ〜? ……で、それはそうとタイガーはなんでここにいるのよ?」

 と、いうわけで、話が元に戻る。

***

「あーはははははははははははー☆ お腹が、お腹がぁ! あははっ、あははは! 死ぬ!
 亜美ちゃん死んじゃう〜!」

 ──スドバで話しようよ、という亜美の誘いに全員乗り、そこでカミングアウトした大河
に目じりに涙まで溜め、両手を小さく叩きながら亜美は笑い続けてしまう。足をパタパタと
動かしてよほどツボに入ったようだ。対面に座っている大河は瞬間沸騰する。

「そんなに死にたかったら死にさらせ! 地獄に……落とおおぉぉぉ────っすっ!!」
 はじけたカンシャク玉みたいに跳ね上がろうとする大河を必死に竜児は背後から押さえ込む。
「落ち着け大河! ……てか、落ちる、じゃねえんだ……おまえが落とすのかよ!」
「るせえ! てか耳いいじゃん……とりあえずばかちぃ! ブっっっっ……殺すっ!!」
「これ! おやめ大河! あーみんも笑い過ぎだよっ!」
 実乃梨に鼻先をつままれる大河は意外なほどあっさりと戦闘解除。亜美もコツンと肩を叩か
れ、舌を出す。実乃梨は見事な仲裁を披露するが、大河はぶつぶつ言いながら竜児の隣にズボ
ーッと、シットダウン。半目で、恨めしそうにアイスミルクティーを飲む。そこで竜児。

「……そんな、気にすることかよ……乳の大きさ程度のこと」
「そうそう、おっぱいなんて飾りです。偉い人にはそれがわからんのですよ……でも大河、去
 年そんなこと言ってなかったじゃん。どうしたのさ? やっぱ北村くん対策?」
「違……くないけど、全部じゃないの。去年は悩んでいなかったというか、気づいていなかっ
 たの。自分が貧乳ってことに。中学のときは水泳の授業なかったし」
123みの☆ゴン129 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/20(日) 23:02:16 ID:bt6Y4WM5

 やっと相談っぽくなってきて、ふむふむと話に聞き入る。約一名笑いを必死に堪えていたが。
「去年は普通に、プールに入ったわ。でも、最後のプール授業の後で、あるモノを見つけてし
 まったの。……他のクラスの男どもが、私の水着姿の写真を盗み撮りして流通させてたのよ。
 で、これが、そのとき押収した写真よ。……うぅぅ……」
 ズイ、と裏返しのままて大河が突き出してきた写真を何の気なしに手に取った。表に返すと、
プールサイドに立っている大河が写っており、胸の部分にはわざわざ油性マジックで矢印が引
いてあり、ごく端的に一言、『哀れ乳』と。
「──おう! ひでえな!」
「大河……あんた……」
「ブー!」
 堪え切れず亜美は変な音を出し吹いてしまう。再び怒り狂う大河をなだめるのに、竜児と
実乃梨は、オーナーの須藤さんも交えて5分もの時間を浪費する。そして大反省した亜美は、
「ごめぇんタイガー! ごめぇ〜ん!……でもさー、タイガー。マジでアドバイスすると、
 ヌーブラ買えばいんじゃね? ただもし擬乳化してもさ、いつかは、佑作にバレちゃう訳
 だし。あいつだって、無乳を哀れむかもしれないけど、それで別れるとか、ないと思うけ
 どねえ」
「無乳じゃねえよ……貧乳だろ? 失言すんなよ川嶋」
「……なんかワザワザ言い直すのが微妙に腹立たしいけど、出入り禁止になると困るしね。ス
 ルーしとくけど、忘れないよ。永遠に。……てゆーかヌーブラなんてどこで売ってるか私
 知らないもん。……うう、いやあ〜……北村くんの前で、この哀れな姿を晒さないといけな
 いんだあ〜今何時? もう五時過ぎだあ〜……あと十六時間でプールだあ〜……いやだあ
 ……いやだよ〜……」
 大河は情けない泣き声を上げ、とうとうテーブルに顔を突っ伏してしまう。初めてみる塞ぎ
こむ大河に何も言えなくなる面々。竜児も両目を刃物のように研ぎ澄まして口をつぐんだ。学
校に忍び込んでプールにセメント流し込んでプール妨害計画を立てているわけではない。静か
に考えていたのだ。好きな人に少しでも良く見られたい。わかる気がする。実乃梨も共感する
ように大きく頷いている。そして、

「あーもー! わかった! 俺がなんとかする! 俺に秘策がある。水着を一晩預けろ、夜な
 べになるかもしれねえけど、なんとか胸張って北村の前に出られるようにしてやる」

 と、ほざいてしまうのだ。

***

「はあっ……竜児くんのほうはどう?」
「ああ、俺の方はもうすぐだ……いま飲み物持ってくから。ミルクでいいよな?」
 実乃梨は高須家の狭い2DKで卓袱台を囲み、大河の水着に装着する、その名も『偽乳パッ
ド』を作る為、竜児と手分けして針仕事をもくもくとこなしている。泰子の着なくなった服か
ら外したパッドを微妙に厚みがグラデーションするよう、ずらしながら切りそろえて重ね、
一針一針、慎重に丁寧に縫い合わせる骨の折れる作業だ。竜児一人だったら朝までかかってし
まうであろうが、『偽乳パッド』は、ほぼ完成の域に達していた。しかし共同作業ながらもす
でに時計の針は九時を回っており、竜児は一服しようとレンジで温めた牛乳に蜂蜜を少々垂ら
して持っていってやろうとしているところなのだ。
124みの☆ゴン130 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/20(日) 23:04:17 ID:bt6Y4WM5
「そう。私ももう少しかな……ありゃ、大河寝ちゃったよ。……うほっ! 可愛いのお……
 ねえ竜児くんタオルケットある?」
 竜児は台所から戻りながら我が家を見回すと、さっきまで起きていた大河が船を漕いでいる
のが見えた。
「俺の部屋の押入れにあるから勝手に出してくれ。……なあ実乃梨。平気なのか? その、
 遅くなっちまってさ」
 竜児の部屋から戻ってきた実乃梨は、大河にタオルケットを掛けつつ、竜児にクルッと瞳だ
け向け、照れたように微笑む。
「おーよ! ちゃんと家に連絡しといたからヘーキだぜ。竜児くんと一緒だ〜って言ったら、
 頑張れよ〜! とか言われた。ったく何頑張るんだか……少しは娘のこと心配しろって感じ
 だよ」
 卓袱台に寝そべっている大河をゆっくり寝つかせて、実乃梨はミルクを一気に飲み干した。
「それだけ信用しているってことだろ? 頑張れってのが、意味不明だが……おしっ! こん
 なもんかな? どうだ実乃梨?」
 偽乳パッドを実乃梨に渡し、竜児も卓袱台の上のミルクを飲む。
「どれ?……おー……すごい。こりゃあまさしく乳だぜよ!……竜児くんいつの間にこんな技を」
 空のカップを卓袱台に置いて、偽乳パッドをプニプニ弄くる実乃梨。竜児は不意に接近した
実乃梨の頬の熱を感じる。あのなんとも言えない匂いも漂う。心臓の鼓動が高鳴る。
「……この前、実乃梨の……触らせてもらったからな……」

 ガタッと、大河が跳ねる。確実に跳ねた。その証拠に大河の足が卓袱台の足にぶつかり、無
音の中、実乃梨が使った空のカップが畳に転がる。
「たたたっ大河? あんた起きてんの?」

 しかし返事はなく、代わりにグーグー……ワザとらしいイビキが、大河から発せられる。起
きてるだろ……確実に。二人は顔を見合わせる。

「ねえ竜児くん、本物のおパイはもっと柔らかいんだぜ? もう一度私の触ってみねーか?」
「グッ……グーグー……」
大河は寝返る。小さな身体が二回転する。
「おうっ!……い、いいのか実乃梨……触っちまっても?」
「大河のためなら、この不肖櫛枝! 乳のひとつやふたつ、差し上げる事をも厭わねえ!
 カモン!竜児!」
「そ、そうか、そんなに気合いれなくても……じゃあ、遠慮しねえよ。実乃梨……脱いでくれ」
「ググッ!……グーグー……」
「御意。好きなだけ揉んどくれい! さあさあさあ!」
「おうっ! いただきます!」
 すると、

「ウキャー!ダメダメダメ!みのりんダメー!」

 大河は飛び跳ねるように起き上がるが、竜児と実乃梨は、二人してもちろん制服を着たまま、
大河を覗き込んでいた。
「やっぱり大河、起きてたんじゃん。ダマしてゴメンよ? ほら、竜児くんの最高傑作『偽乳
 パッド』。完成したよ」
「ん〜! みのりんのいじわる〜! ビックリしたよ〜!」
 大河は実乃梨に抱きつく。そうして翌日の金曜。無事にプールの時間を迎えるのだった。
そのあまりにも超自然な『偽乳パッド』の出来栄えに、感動に頬を赤らめた大河曰く、嫁に行
くときは必ず持っていく……なのだそうだ。

 ちなみにその翌日の土曜日、は、女子ソフトボール関東大会が控えていた。


 そして時は流れ、夏休みになる。


***
125みの☆ゴン131 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/20(日) 23:05:31 ID:bt6Y4WM5

 ──緊張していたのだ。

 自慢の右腕が、疲労で痙攣している。マウンドへ向う前にベンチでアイシングしたが、文字
通り焼け石に水。全く震えが治まらない。

 実乃梨は顎を上げ、蒸し暑い七月の夏空を見上げる。視界には突き抜けるような青が広がっ
ており、空の奥行きは無限に感じられた。その先に必ずあるはずの無数の星々と人工衛星の存
在が信じられないほどに。

「あと一人……」
 視線を正面に戻す。そして意識も現実に戻した。六月の関東大会を制した大橋高校女子ソフ
トボール部は、たった今、夏休み初日、インターハイの初戦を闘っている。試合は既にサドン
デスに入っており、控え投手のいない実乃梨の投球数は、既に三桁の大台を超えていた。
 砂ぼこりの匂いがする風は、熱い。

 シャーっ! と、気合いを入れる相手選手がバッターボックスへ向かう。
 ……負けるもんかっ、と、実乃梨も叫ぶ。
「いっっくぞぉ──────っっ!!」
 実乃梨は、投球態勢に入る。大きく振りかぶり、投げた。

 キンッ!

 鋭い打球を目で追う。ファール。ボールは三塁側の外野席まで飛んだ。一瞬、三塁ベースの
同点のランナーを見つめる。
「ふぅ……」
 あぶなかった。実乃梨は試合前に恋人から貰ったハンカチで汗を拭う。

 息を飲み込む。乾いた喉が痛かった。

***

「ね、ねえ、竜ちゃん! やっちゃん緊張する〜っ! おしっこしたくなっちゃった〜!」
「それぐらいガマンしろ。実乃梨の勝負どころだ」
 握る拳に感覚がなくなる竜児。観客席の竜児でさえ、インターハイの、全国レベルの空気に
呑まれる。実乃梨が、投げる。
「あ!……っぶない……またファール……みのりん……」
大河も緊張で、隣に座る北村の腕に絡めた手に、力が籠もる。

***

 マウンド上の実乃梨は2ストライクと追い込んだが、精神的に追い込められたのは実乃梨。
バッターにコースが読まれている。投球癖を相手は知っているのであろう。
 さっきの一球は、ヒットになってもおかしくなかった。もうどこへ投げればいいのか、
……わからない。

 そこでキャッチャーが球審に声をかけた。
「ターイム!」
 マウンドに全メンバーが集まってきた。無理に作った笑顔が痛々しい。
「櫛枝部長!打たせていきましょう!私たちがバッチリ守りますから!もし同点になっても、
 必ず次の回に打ちまくりますから! なっ、みんな? よしっ! しまっていこー!」
 オーッ! 円陣が解かれ、それぞれがポジションに戻っていく。
「みんな……ありがとう……うん、みんなの、元気玉だねっ」
 尽き果てたはずの力が右腕にみなぎる。湧き出す。しかし実乃梨は分かっていた。

 次が、最後の一球……
126みの☆ゴン132 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/20(日) 23:06:57 ID:bt6Y4WM5

 バラバラになりそうなカラダ。次の回は投げられない。

 渾身の力を、みんなの想いを込め、実乃梨は、ボールを放つ!しかし、


 ───その後の記憶がなかった。

***

「知らない天井……か」

 目を覚ました実乃梨は、白い天井、四角い蛍光灯を見て、今いる場所を理解するのだった。
見回せば、白いシーツ、白いカーテン、何もかもが白く、衛生、清潔という言葉を思い浮か
べてしまうほど、基調が統一されている。
 窓の外で哭く蝉の声をぼんやりと聞く。その音に、女性の声が混じる。

「櫛枝さん、目が覚めました?」
 優しい声のする方へ首を傾けると、若い看護士の女性が、点滴を外していた。もう大丈夫で
すよ、と言いながら。
「はい。あの……試合、どうなりましたか?」
「……負けちゃいましたよ。ここは球場近くの病院です。選手の皆さんは彼氏さんかな? に、
 気を使って、先に宿舎に戻られました。あ、彼氏さん、呼んできますね」

 しばらくして看護士に呼ばれ、竜児が不自然に鼻を弄りながら,病室に入ってきた。よう、
と一言。いますぐ抱きしめて欲しかったが、実乃梨は我慢した。

「ゴメンなさい、竜児くん。……ねえ、どうしたの? 鼻」
 竜児、はベッドサイドにあるスツールに腰掛ける。心配そうだった表情が緩む。
「ああ俺、消毒液の匂い。苦手なんだ。てか実乃梨。もう大丈夫なのか?」
 無意識だったのか、実乃梨に指摘され慌てたように鼻から手を離し、そのかわり髪を優しく
撫でてくれた。
「うん。竜児くん。全然大丈夫……ふぅん、竜児くんこの匂いダメなんだ。あー、でもわかる
 かも。なんかクサイよね?」
 竜児は首を振る。そういうのじゃなくて、という感じに。
「……俺が、ずっと小さい頃、大橋町に引っ越してくるずっと前、泰子が長い間病院に通って
 いたことあるんだ。どんな病気だったのかはいまだに知らねえけど、病院の、この空気を吸
 うと、なんか心臓が妙にドキドキしたり、喉元が熱くなったり、……不安になっちまうんだ。
 あの頃、不安で、怖くて、本当に昔からずっと、ずーっと、怖かった。泰子が死んじまった
 らどうしよう……って。それがすっげー恐怖だったって思い出すんだ……俺んち、母子家庭
 だし、泰子しかいなかったから、もし死んじまったら一人ぼっちだ。そんなふうに思えて、
 ずっと怖くて恐ろしくっ……おうっ! どうした実乃梨? 苦しいのか?」
「違うよ竜児くん!……泣いて、るんだよ……」
 ショックだった。実乃梨はいままで自分の夢のために頑張ってきた。それは竜児にも伝えた。
しかしそれは、自分の夢を笑った中学の担任、リトルリーグの監督、そして親、弟を見返すた
め、悪くいえば復讐のため、自分の意地、プライドのためだった。それに気付いたのだ。
 竜児と付き合ってから、ソフトボールでの成績が良くなった。応援してくれる竜児がいて、
嬉しくって、力が湧いて来て、インターハイ初出場も決めた、が、
 ──もしかしたら私は竜児を利用したのかもしれない。竜児のなんとなく曝け出した現実を、
告白をそう感じて、恥ずかしくなった。罪悪感にかられたのだ。

 感情が溢れて来た。感情が溢れると、……涙も溢れるのだ。
127みの☆ゴン133 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/20(日) 23:07:56 ID:bt6Y4WM5
「なんで俺の話で実乃梨が泣く必要あるんだ? 俺のせいか? すまねえ、実乃梨、頼む、
 泣かないでくれ。おまえが泣くと、俺も辛い……」
 あくまでも優しい竜児。実乃梨は、決めた。決心した。いままでの17年。そして、これか
らのずっとを、私を、実乃梨のすべてを、竜児に捧げたいと。それは不遇な竜児への同情なの
かも知れない。でもいい。よかった。竜児と同じ情を感じたい。苦しみを、恐怖を分かち合い
たい。同じ場所に行きたい。同じ風景を見たい。ずっと、一緒に。私が、私でよければ、竜児
を愛したい……と。

「だって……いい。平気。もう、泣かない。大丈夫。泣いちゃってゴメンなさい……ねえ、
 竜児くん。グラウンドに行かない?ね、行こっ」

 実乃梨は手を差し伸べ、竜児はその手を握る。

***

 ふたりが戻って来たグラウンドは、すでに誰もいなかった。竜児と実乃梨はずっと手を繋い
だままだ。
「甲子園だと砂持って帰るんだけどなっ」
 そういう実乃梨は、砂を集める変わりに、瞳を閉じて、深く風を吸い込み、竜児も真似をす
る。竜児はただ傍にいるしか、今はできなかった。
「実乃梨」
 黄昏が眩しい。視界の中の実乃梨が、そのオレンジ色の光の中に溶けていくように見える。
「……」
 呼びかける実乃梨に反応がない。そうか……泣く……のか、な? そう思った竜児の唇は、
意思を持ったように自然に動く。
「俺は……お前を太陽みたいだと思っていた……いつも、明るくて、輝いていて……いつも
 前向きなおまえに憧れた。今もそう思うんだが、俺は実乃梨と付き合う、ずっと前から、
 一年の時から、おまえに片想いしていたんだ」
「……」
 やはり実乃梨は黙ったまま、竜児の言葉を待つ。
「バカみてえな話なんだが、俺は自分の事を月に例えたんだ。そう思っているんだ」

 ……だから……と継ぐ竜児。逆光で、実乃梨の表情は伺えしれない。
「だから、太陽が沈んじまっている時は、月が頑張んねえといけねえと思うんだ。お前が沈ん
 でいる時には、俺がお前を照らす月になる」
 口べたな竜児からの精一杯の魂を込めた言葉を受け、実乃梨は震えた。繋いだ手の指を絡める。
「竜児くん……私は大丈夫。私なんか……心配しないで。……私が太陽なら、私も、貴方を照ら
 してあげたい。ずっと……キラキラキラ……って。傲慢かもしれないけど……貴方を守って、
 あげたいの」

 竜児も震え、鳥肌が立つ。

 グラウンドの男子と女子、二つの影は、一つに重なる。

***
128みの☆ゴン134 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/20(日) 23:10:33 ID:bt6Y4WM5

「あの……もしかして竜児くんのお母さん、ですか?」
 グラウンドのド真ん中で抱き合う二人を指を咥えて見ていた泰子は、アラフォーと見受けら
れる女性に声をかけられ振り返る。
「ふえっ? そ、そうですけどぉ……え〜っとぉ、ん〜っとぉ……あのぉ……どっかで会いし
 ましたっけぇ?」
 困惑する泰子。すると女性は、太陽のような笑顔を見せ、
「いいええっ、初めましてなんですっ! やっぱりそうっ! ああっそう!……あの、わたく
 し、櫛枝実乃梨の母親です」
 自分の胸をグイグイ指さす実乃梨の母親。泰子は眉はハの字になり、自分のこめかみに指を
当てる。
「くし……み……あああっ! みのりんちゃんのお母さ〜ん! 初めまして〜っ! やっち
 ……泰子ですぅ」
 すぐに気付き、ペコリと何度もお辞儀する泰子なのだが、想定外の実乃梨の母親との遭遇で、
困惑する。とりあえず喉まで出かかった『やっちゃん』は、飲み込んだ。変な事言って、
 竜児に迷惑かけたくなかったのだろう。実乃梨の母親は語り続ける。
「いつもウチの実乃梨が仲良くして頂いてるようで有り難うございまっす〜!……あら、お姉
 ちゃんったら、なかなか竜児くんから離れないわね……」
「うちの竜ちゃんこそ、お世話になってますぅ〜……むぅ〜っ、いつまでチュ〜してんのかな、
 竜ちゃんたらっ……みのりんちゃんのお母さん、ごめんなさ〜いっ」
 抱擁中の二人から視線を戻し、実乃梨の母親は、泰子が吹っ飛ぶほど手を横に振る。
「と〜んでもないっ! うちの実乃梨は、ほ〜んっとに、今まで男っ気なくて。そっちのケが
 あるかと心配したくらいなんですけど、竜児くんのおかげで……やっぱり女の子だったのよ
 ねぇ」
「あの〜っ……あの子達、ず〜っとチューしてますけどぉ……それ以上はまだですよねぇ〜?
 ……ご存知ですかぁ?」
 泰子のストレートな質問に実乃梨の母親は、額に指を当て、
「っん〜、どうなんでしょうか……この前たしか、竜児くんがウチに来られたときはペッティ
 ングしてましたわ。ペッティング」
 そう言いながら、ワシワシと自分の肩を抱くみのママ。
「ペッティングぅ?」
 聞きなれない横文字に頭の上に、ハテナを浮かばせた泰子。するとみのママは鼻息を荒立たせ、
「やだわ泰子さんったら。ペッティングっていったら、Bのことですわ、Bっ!……Bとか20年
 振りに言ったかしら……」
 死語を口にしてしまい複雑な表情になるみのママ。泰子といえば、クネクネ身をよじり、
「え〜っ! てことは、え〜っと、えっと……次はE〜じゃな〜い! E〜気持ち〜☆きゃ〜ん
 竜ちゃ〜んってば……今度キッチリ『きょーいく』しなきゃあ」
「……あながち間違ってないですけど、泰子さん。Bの次はCですわ。C……大丈夫です。先日
 実乃梨の財布におゴムを入れときましたの。おゴム。ご安心くださいませ。おほほほ……それ
 より竜ちゃんっていい呼び方ですね。竜ちゃん……ですか」
 ふ〜む……と、唸るみのママに、泰子はニッコリスマイル。
「みのりんちゃんのお母さんもっ、ぜ〜ひっ、竜〜ちゃ〜んって、呼んであげてくださいよ〜!
 にゃはぁ☆」
「いっ、いいんですか?呼んじゃっても!」
 キラッと、目を輝かせるみのママ。そして、
「もっちろ〜んっ! じゃあ一緒に練習しましょ〜☆せぇのぉっ」
 そんなゆるい保護者たちは声を揃え、
「「竜〜ちゃ〜んっ!」」

 と、叫ぶ声に、答える声があった……

「なんだよ……ったく……」
「ちょっとちょっと!! いつからここにいたのさ!!」
 いつの間にか、二人に発見され慌てふためくママ軍団。盛り上がりすぎて全く気が付かなかっ
たのだ。ひゃー! とか、ふえ〜☆とか、奇声をあげる。
 そのママたちの髪には母の日に贈られたオレンジ色のヘアピンが、それぞれ光り輝きながら、
揺れていたのであった。
129 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/20(日) 23:13:15 ID:bt6Y4WM5

以上になります。

お読み頂いた方、有り難うございました。
次回、スレをお借りさせて頂くときは、最終回(沖縄前編)を投下させて頂きたいと存じております。
半年近くお邪魔させて頂きましたが、あと2投で終わらせて頂きます。
またこの時間帯をお借りするかもしれません。
失礼致します。
130名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 23:21:19 ID:1An33zQ/
よしこのままCだ!Eだ!!

GJ。
みのりん母は安奈以上によくわからんからなあ。
131名無しさん@ピンキー:2009/12/21(月) 00:02:23 ID:mipm2q/0
>>129
GJ
日曜劇場が終わった今日曜の楽しみはこれだけになったが次は最終章か…悲しいのぅ

しかし泰子とみのりん母なんかやべぇなw
132名無しさん@ピンキー:2009/12/21(月) 14:39:44 ID:SFMa0EsH
いやー面白いね、GJだ

外伝も違和感なく楽しめたし、続きも期待

しかし見事にとらドラのキャラとしてよく書けてると思う

量も圧倒的だし、元ネタも敢えて見てないからwktkが止まらないぜ!
133名無しさん@ピンキー:2009/12/21(月) 19:02:59 ID:RFLcr1CU
>>141
GJ。あーみんもそうだけどアンナさん怖すぎるよ。ピラミッドの裏設定が妙に生々しい…
次回はあーみんVSすみれだと思うけど、この2人チート過ぎる気がする。多分、ゾーマ様より強い。勇者なのに魔法も使えない竜児カワイソス。
ところで、マスクド・フロンティアって何か元ネタあるのかな?
134名無しさん@ピンキー:2009/12/21(月) 21:46:48 ID:cVW/k86c
石仮面っていうとどうしてもジョジョを思い出すな。

>>129
GJ!次回も楽しみに待ってます。
135名無しさん@ピンキー:2009/12/21(月) 22:32:14 ID:5BUjOXm2
>>114
あーみんいい感じに壊れてきたな
というかフロンティアチートすぎるw

>>129
竜児もみのりんも幸せそうで何よりだ
やっちゃんはともかくみのママも特殊だわw
136名無しさん@ピンキー:2009/12/21(月) 22:56:04 ID:KcFRM/Tc
痛いママさんだwww
> みのママ
「おゴム」なんて言い方は斬新かもw
137名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 05:28:57 ID:wfaR84Px
日記とエンドレス読みたいよ〜
138名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 08:44:58 ID:HyXxBYUp
KARs様ぁあん(;´Д`)ハァハァ
139名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 09:50:32 ID:bYdGwO9a
日常のヒトコマもいいなー
140名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 14:05:45 ID:BW4iv7Tb
>>129
GJ!次回で最後ですか……残念。
でも楽しみにしてます。
141名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 22:48:08 ID:puUZhhV7
原作読んでなくてアニメしか観ていない
って人でもSS書く資格ってあります?
142名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 22:49:56 ID:HyXxBYUp
あるある
143名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 23:18:58 ID:0YSuyt0R
>>114
GJ。特注のりりょくの杖ってバーン様の武器じゃんww
そんなの作れるバハラタのオヤジすげぇ
>>129
沖縄編楽しみです。GJ
144名無しさん@ピンキー:2009/12/23(水) 03:15:26 ID:msW07BUE
>>141
超ありまくりますから、どーぞ
145勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/23(水) 13:04:18 ID:qT+n2nbc
次レスから続き投下していきます。
良かったらミテネー
146勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/23(水) 13:04:55 ID:qT+n2nbc
−73日目ー

今俺たちはインコちゃんの背に乗り空からネグロゴンド一帯を探している。
ちなみにインコちゃんとは、神鳥ラーミアに俺が付けた愛称である。
ラーミアのニックネームが何故、インコちゃんなのかは、それぞれが各自で考えれば良いと思う。
とにかく、ラーミアはインコちゃんであり、その他のモノではありえない。反論は認めない。
「多分この辺りにバラモス城があると思うんだよな。」
そう言われても、眼下に広がるのは辺り一面毒の沼地。何故、こんな場所を遊覧飛行しているかと言えば……
それは、フロンティアがバラモス城はネグロゴンド付近にある様な気がする。とか、言い出したからである。
そして、その根拠がまたヒドイ。フロンティアの事だから、勘。とか男らしい事を言うかと思えば、占い。ときた。
意外と占いとか運命とか信じている様で、普段の男らしさとは裏腹に変な部分で乙女なのである。
まあ、俺たちもフロンティアの寝言同然の提案にのってる時点で、かなりアレではあるが…
だって仕方無いのだ。フロンティアのせいで街に立ち寄れないから情報収集が出来ない。従って、バラモス城の位置がわからない。
ぶっちゃけ、俺たちは詰んでいた。まさに八方塞がり。どん詰まり。
「わッ!!」
突如、インコちゃんが急旋回。ど、どうしたインコちゃん!?
ゴウッ!!
次の瞬間、ギリギリ当たるか当たらないかの位置を下から巨大な5本の火柱が突き抜けて行った。一体なにごと!?
「よ〜し。掛かった。インコちゃん。目指すは炎が飛んで来た方角だ。」
フロンティアがインコちゃんに指示を出す。インコちゃんは健気に指示通りに羽ばたく。
なるほどね。フロンティアは敵の領空を飛び回り、相手の出方を窺っていた訳か。
良い策だとは思うが、大切なインコちゃんを囮に使うんじゃねぇよ……とも思う、まあ結果良ければ全て良し。なのか?
相変わらず、フロンティアに対して強く出れない自分が情けない。
…そして、俺たちは岩山に囲まれた城を発見した。
147勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/23(水) 13:05:17 ID:qT+n2nbc
「うわ……。こりゃひでぇな。」
同意。城に入るとそこは惨劇と化していた。所々に置かれた魔物の死骸。城には既に火が放たれている。
「やっぱ魔王っていう位だからこ〜いうセンスなんじゃない?」
あのな大河。いくら魔王でも自宅は綺麗にすると思うぞ?少なくとも、俺ならそうする。
どう見たって、誰かが襲撃かました様にしか見えない。でも誰が?先代勇者亡き今、俺たち以外に誰が?
「多分、さっきの奴だろ。そこらじゅう燃えてるし。」
フロンティアが言うさっきの奴とは上空に居る俺たちにメラゾーマをぶっ放してきたアホの事だろう。しかし、さっきの奴?奴ら…じゃ無くて、単数なのか?確か、火球は5発同時に飛んできた様に見えたけど。
「ああ。そうだよ。5発同時に飛んできた。私には1人の姿しか確認出来なかったが……。
てめぇは他に見たのか?ちなみに私が見たのは長い髪の魔道士だ。」
いや、見てないけど……ってアンタ、あの高度から、そんな詳細に見えてたの!?どういう視力だよ……
「私の視力は108式まであるぞ。
………。冗談だよ。笑えよ。面白くない奴だな。ホントは2.0だよ。
で、多分、女だと思うが人間かどうかはわからん。魔族かもしれん。
外見は人間にしか見えなかったが、人間にメラゾーマ5発同時発射なんて芸が出来る訳ないしな。
それこそ、魔王並の魔力があって初めて可能な技だ。
試してみる気にもなれんが、仮に私がそんな事やったら、反動でショック死するだろうよ。」
俺から見れば、アンタも十分、超人なんだが……色々な意味で。
先日も100匹位の魔物の群れをウォーミングアップとか言って、数分で壊滅させた奴がそんな事を言っても説得力がない事甚だしい。
大体、そんなアホみたいに膨大な魔力を持った奴が、何でバラモス城を襲撃してんだよ。
「さぁな。わからん。魔物の世界にも色々あんじゃねぇの?まあ、行ってみりゃ解るって。見ろよ。バラモスのトコまで楽に行けそうだぞ?」
148勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/23(水) 13:06:42 ID:qT+n2nbc
確かに。それがバラモスのトコへ通じてるかどうかはさておいて、先客を追うのは簡単そうだ。
目印のパン切れよろしく、炭化した魔物の死骸が、先客の足取りを物語っている。
しかし、どういう火力だよ……石像が溶けてる。
「もし、これが罠だったらそん時はそん時だ。とりあえず、行くか。」
出た…フロンティアの悪い癖。馬に乗ってみよ病。
この目印がどうにも罠っぽい事はフロンティアも気付いてるんだろう。誘ってる感バリバリだし。
にもかかわらず、フロンティアは大して悩みもせずに、とりあえず行ってみよう。とか楽観的にものを言う。
全く。決断力がある事は良い事かも知れないが……
そして、困った事に俺はそんなフロンティアにホイホイと着いて行ってしまう。
まあ、コイツが言うなら多分大丈夫だろう。とか、安易に考えてしまうのである。
そして、俺たちは城の中庭にある池にたどり着いた。池の中央には階段があり、ここで目印は途絶えている。
先客はこの階段を降りて行ったのだろう。
ちなみに、城の入り口からここまでは真っ直ぐの道だった。
本来、この城は客人を迷わせる様な複雑な造りになっていたんだろう。
しかし、先客は壁をぶち抜き、強引に一本道を作ってここまで来たらしい。全く、横着な事である。
「さて、私の勘ではここを降りたら、戦闘ってパターンだな。てめぇら準備は良いか?」
誰の勘でもそうだっての。ここまでの冒険で養った勘を舐めないで貰いたいもんだ。
「うん。私はいつでもOKだよ。」
櫛枝はガチャリと音を立て、黄金の爪を利き手に装置する。その表情は歴戦の兵といった風情で非常に頼もしい。
大河はコクリと無言で頷いた。………。コイツは緊張しているらしい。まあ、ムリもないか。
そして、俺は荷物袋からやくそうを6枚取り出した。準備は万端である。
149勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/23(水) 13:07:04 ID:qT+n2nbc
我が目を疑った。階段を降りた先には玉座があり…その傍らにはカバの丸焼きが一丁。
もし、あのローストカバが魔王バラモスだったら面白いのに。
「面白くねぇよ。参ったな。どうやら先を越されたみたいだ。あ〜あ。バラモスはこの手で八つ裂きにしてやりたかったのに……」
また、あの手を使うつもりだったのだろう。懐から取り出した命の木の実を弄びながら、フロンティアが言う。
俺としては、後味がよくないヤリ方は勘弁して欲しいところだ。まあ、ベリーウェルダンもどうかと思うが……
ゴウッ!!
突然、火球が飛んできた。玉座の方から。しかし、玉座には誰もいない。!?怪奇現象か?
とか、呑気な事を言ってる場合じゃない。どうすんだ……避けれないぞコレ。オワタ\(^O^)/
………。生きてた。直撃かと思われた火球が2つに裂け、俺たちを避ける様に流れていった。
俺の前に立つのはフロンティア。またこいつに救われたのか。しかし、今のどうやったんだ?
いつの間にか剣を抜いているが、まさか火球を斬った訳でもないだろう。
そんな事しても、剣が火球を素通りするだけで、フロンティアが丸コゲになるだけだろうし……
「ちょっと、やめてよねぇ。今のじゃ、まるであんたが高須君を庇ったみたいじゃん。
始めからあんたを狙って撃ってんだから。あたしが高須君を狙った風に見せかけて……何ソレ?嫌がらせ?」
誰も居ない玉座から懐かしい声が聞こえた。
「さあ?何の事かな?」
ビッ!!
フロンティアが手にした命の木の実を飛礫の様に玉座へと飛ばす。
ボッ!!
が、目標にたどり着く前に命の木の実は燃え、炭となって儚く消えた。ああ、勿体無い。
そして、誰もいなかった筈の玉座に座っている奴が居た。懐かしい姿。ずっと、会いたかった。川嶋がそこに居た。
「ありゃりゃ、もう切れちゃったか。結構、効果時間短いんだよね〜
やっほー高須君。元気してた?」
………。バカッ!!元気してた?じゃねぇよ。お前こそ、今まで、何してたんだよ!?てか、何でこんなトコに居んだよ!?
頭に浮かんだ言葉を口にする事は出来なかった。口が…舌が動かない。いや、それだけじゃない。身体のどの箇所も動かせない。
150勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/23(水) 13:08:37 ID:qT+n2nbc
何だこりゃ?まるで身体が鉄の塊にでもなったかの様に重い。
自分の身体がどうなってしまったのか……確認したいのはやまやまだが、眼球さえ動せないのだから、どうしようもない。
俺の目に映るのは笑顔で呪文を唱える川島の姿とフロンティアの背中のみ。そして……
BOMB!!!
大音響に少し遅れ、部屋全体が炎に包まれた。荒れ狂う炎の波。ホントに身体が鉄化してしまった様で熱くもなんともない。
けど、フロンティアと、俺の後ろに居る櫛枝と大河は無事では済まない筈。
俺は気付いた。(気付くのが遅い様な気もするが)この城に襲撃を仕掛けた先客は川嶋だったのだ。
呪文でバラモスを屠り、消え去り草か何かで姿を消して俺たちを待ち伏せしていたんだろう。
川嶋の声が聞こえる。
「あはははは。燃えろ。皆、燃えちゃえ。この世から消えてなくなれッ!!」
何故?何故こんな事をするんだ?川嶋…やっと会えたのに…何故…
炎の波が収まり、もうそこには何も残ってはいなかった。皆、俺を残して消えてしまった。
と、普通ならそうなるのだろうが、そこは超人フロンティア。普通に生きていた。髪さえ焦がす事なく平然と。
別に最初から心配なんかしちゃいない。コイツならむしろ当然の事。だが、櫛枝と大河は無事なんだろうか……
「安心しろ。あいつら2人は、私がバシルーラで外へ飛ばした。」
ふう。胸をなで下ろす。流石はフロンティア。抜け目がない。
「しかし、あの玉座の奴はてめぇらの元仲間なんだよな?
お前だけはアストロンで守られてるが……あとの2人はお構いなし、か。よっぽど嫌われてたんだな、あいつら。」
そんな事はない。と、思う。多分。確かに大河と川嶋は普段からいがみ合っていたし喧嘩別れした。
櫛枝と川嶋だって仲良さ……いや、イシスで確執が生まれたりしたっけ……
だんだん、自信が無くなってきた。川嶋は俺たちが思ってる程には、仲間じゃなかったのかも知れない……
「残念☆やっぱ今ので殺れる程甘くはないか。1人も消せなかったなんて…亜美ちゃんショック。
でも、良いのかなぁ〜〜♪あの2人を別行動させちゃてさ。ここは魔王城なんだよ?」
どういう意味だ?
「どういう意味だ?」
喋れない俺の代わりにフロンティアが聞いてくれた。
151勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/23(水) 13:09:02 ID:qT+n2nbc
「こ〜いう意味☆」
パチンと川嶋が指を鳴らす。すると、虚空から緑色のダサイ服装の奴が現れた。
「我がしもべエビルマージ。あの2人の首をあたしの前に持って来なさい。」
御意に。とか、なんとか言って、今現れたばかりのエビルマージは虚空へと消えていった。
………。川嶋め。やはり俺たちを殺すつもりなのか?ふつふつと、やるせない怒りが……沸いて来ない。
川嶋は櫛枝と大河を舐めてるんだろうか?いくらなんでもあんなヘボそうな奴に、2人がやられる訳はない。
「あの2人に何か恨みでもあるのか?それに私とお前は初対面だろう?
せめて、理由を聞かせて貰いたいもんだな。でなきゃ死んでも死にきれん。」
フロンティアの至極真っ当な抗議に川嶋は答えた。
「高須君はあたしのもんだ。誰にも渡すものか。」
ここへ来て、まさかのラブコール。これは告白と受け取って良いんだよな?
だったら、なおの事、俺に掛けた呪文を解除して欲しい。俺も川嶋が好きだと言って、川嶋を抱きしめたい。
それでハッピーエンドじゃないか。俺は、もうとっくにお前のものなのに……
「ふぅ〜ん。なるほどねぇ〜〜。渡せんな。私もコイツが気に入ってるからな。コイツも私と共に居たいそうだ。てめぇじゃなくてな。」
おいこら。フロンティア。いい加減な事言うんじゃねぇ!!
「大方、自分の代わりに私がパーティーに入ってる事が気に入らなくてスネてるだけなんだろう?幼稚だな。」
フロンティアは川嶋を挑発する。残念だが、俺の知ってる川嶋はそんな安い挑発に−
ボカンッ!!
火の玉が飛んできた。(鉄だから平気だけど。)
………。どうやら川嶋がキレたらしい。余程、心にゆとりが無いんだろう。まさか図星だったのか?もしかして、それで怒ってんのか?
おいおい。フロンティアは川嶋が復帰するまでの代打だろ?ちゃんと自分で説明しろよ。俺は今、喋れないんだから。マジお願いします。
しかし、フロンティアは俺の期待を裏切ってエライ事をのたまってくれた。
「いいさ。私も獲物を横取りされてイライラしてたトコだ。
その曲がった性根を私が直々に叩き直してやる。躾てやる。」
−かくて、誰も得をしない超絶バトルの幕が開けた。
152勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/23(水) 13:10:32 ID:qT+n2nbc
ぶっちゃけた話、川嶋には申し訳ないんだがフロンティアの鬼神の如き強さを目の当たりにしてきた俺としては、
川嶋がフロンティアにボコボコにされるんじゃないか?などと思っていた。
どうやら懸念だったらしい。信じられない事にフロンティアの方が劣勢である。
「おい。あいつはホントに人間なのか?」
フロンティアが毒づくのもムリは無い。俺が聞きたいくらいだよ。川嶋は元々、遊び人で最近、賢者になったばかりの筈なんだが……
一体、どうやったらそんな事が出来るのかはわからないが、フロンティアが一の動作をする間に川嶋はニの動作をしている。
左右の手から別々の呪文を放ち、そのインターバルがやたらと短い。もしかして、詠唱無しで呪文撃ってんじゃねぇの?とさえ思う。
と、言うのも川嶋の放つ火球はさっきのメラゾーマより一回りコンパクトになっている。
考えられるとすれば、あれはメラミじゃないだろうか?川嶋は呪文のランクを落として、数で勝負しているんだろう。
俺は呪文が使えないので、よくわからないが、多分そうなんだろう。多分。
そして、こちらもどうやってるのかはわからないが、フロンティアは川嶋の放つ火球を斬って回避している。
もしかしたら、フロンティアが異常なんじゃなくて、剣の方に秘密があるのかも知れない。実は伝説の剣でした。とか。
しかし、剣の方はそれで説明がついたとしても、まだ納得いかない点がある。
川嶋が放つ火球(たまに氷球)は2発。フロンティアが斬れるのは1発。つまり、毎回、毎回、フロンティアはその身に火球か氷球のどちらかを直撃させている。
にも関わらず、ダメージを受けている様子が無い。あいつはベホマが使えるが、唱えてる様子もない。と、言うかあいつが自分にベホマを唱えてるのを見た事がない。
これは一体どういう事なんだろう……あいつは不死身なのか?
川嶋もフロンティアの異常性に気付いたらしく、今は呪文の嵐は止んでいる。そして何やら思案顔。
「もう打ち止めか?なら私の勝ちだな。」
確かに、フロンティアが単なるやせ我慢じゃなくてマジで不死身なんだとしたら川嶋が危うい。
今まで、川嶋の張る弾幕の凄まじさに、フロンティアは川嶋に近づく事が出来ずに居た。俺はそれをフロンティアの劣勢だと思っていたが、こいつが不死身なんだとしたら話は違ってくる。
153勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/23(水) 13:10:57 ID:qT+n2nbc
決して相手の攻撃を寄せ付けない川嶋と喰らっても効果の無いフロンティア。
一見互角か、攻めてる分川嶋が有利に見えがちだが、このまま長引けばMPが尽き疲労した川嶋はフロンティアの一撃を貰うハメになる。
加えて、フロンティアには例の即死技がある。そうなれば川嶋は……
「仕方ないなぁ〜。また髪が痛んじゃうからホントはヤダけど、あたしのとっておきを見せてあげよう。」
どうやら川嶋は小技は捨て、一撃必殺の大技に賭ける事にしたらしい。川嶋の綺麗な指。その一本一本に炎が灯る。
「メラゾーマ×5か。普通なら塵も残らねぇな。良いぜ。やってみろ。その呪文が私に通じなかった時がてめぇの最期だ。」
あくまで、強気なフロンティア。身体が鉄化している俺でさえ内心不安だと言うのに、その余裕はどこから来るんだ?
そして、川嶋の指先から5本の炎の矢が放たれた。
ちゅど〜ん☆
大炎上。放たれた火はこれでもかと言わんばかりに勢い良く燃え盛り、天を焦がさんとばかりに巨大な火柱が上がった。
辺りの床が抉れ、剥き出しの地面がオレンジ色に染まっている。あまりの火力に熔岩化したのだろうか……
普通に考えて、火柱の中に居るフロンティアは骨さえ残らず消滅したんじゃないか?
「ワハハハハハ。やはりムダだったな。こんなもの何て事はない。てめぇの負けだ。」
響くおっさん臭い高笑い。
シュボッ!!
燃え盛る炎から脱出したフロンティアは一足飛びに川嶋に斬りかかる。ピンチ。

つづく。

ぼうけんのしょ1(仮) りゅうじ

今回、俺は解説役兼ギャラリーにされて、すっかり蚊帳の外に置かれてしまった感がある。
かと言って、2人の戦闘に巻き込まれたら5秒で死んじゃうだろうから、それも嫌だ。
しかし、この戦闘って意味あるのか?どっちが勝っても何も生まない。何回も言うが俺は川嶋が好きなんだ。
ぶっちゃけ、現在の仲間はフロンティアだが、内心は川嶋を応援したい。
でも、先に必殺技出すのって負けフラグだよな……頑張れ、川嶋。

PS.
俺以上に大河と櫛枝が完全空気だよな……まあ、仕方ないか。まる
154勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/23(水) 13:11:21 ID:qT+n2nbc
今回はここまでです。
次回も良かったらミテネー
155名無しさん@ピンキー:2009/12/23(水) 13:45:40 ID:YIQW4ddr
>>154
>今俺たちはインコちゃんの背に乗り空からネグロゴンド一帯を探している。

あまりにも卑怯すぎる一行目にわろた。
156名無しさん@ピンキー:2009/12/23(水) 20:19:31 ID:MgE+eahk
フロンティアはマジで石仮面で吸血鬼化してるんじゃないだろうなw
157名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 00:26:25 ID:8h2aa9hc
フロンティアもあーみんも別次元すぎるw
竜児がんばれ
158名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 03:04:28 ID:t7DcwkG0
勇者の(ryは別板に専スレ立てるか、ブログ(笑)でやれ
159名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 04:04:26 ID:7MzleK2z
ばかちーがバーン様化してて吹いたw
160名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 05:03:14 ID:VlIRzedg
このシリーズはエロ板のエロパロスレにありながら
エロ描写がほとんどゼロなのが痛い
さすがにこれじゃあエロネタも投下しにくいよ
161名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 05:09:29 ID:VlIRzedg
× エロネタも投下しにくいよ
○ エロを含む作品を書いてる別の書き手にとって今の流れでは投下しにくいよ
162名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 07:03:20 ID:j4WPVGOV
気にせず投下して欲しいな〜
なんだかんだでエロも需要あるんだし。
163名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 07:35:39 ID:85w9ogNv
なんで投下しにくいのかが分からん
別に荒れてるわけでもないのに
164名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 09:19:17 ID:iPrhoIc3
アンチが湧きやすい、ってことだと思ふ。
スレの流れを変えただけで噛みつくやつがいるから。
165名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 11:11:51 ID:fa0ABCkB
>>158とか>>160が必死に叩こうとして苦し紛れなのがワロスw

アンチが付くのは人気がある証拠だな、頑張って欲しいものだ
166名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 11:32:18 ID:iPrhoIc3
逆だよ、逆。
ゲームシナリオもどきの作品じゃなくて、まっとうな小説を投下しづらいってこと。
この種のくせのあるものは、変に肩入れする奴がいるから、困るんだ。
167名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 12:44:22 ID:biEszfWj
>>166
意味不
投下しづらい理由になってない。

ミノごんが投下された時アンチとか湧いたか?あんたの思い過ごしだよ
168名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 13:17:41 ID:Zt4U0DnI
はいはい
>>3を音読してね
169名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 13:52:41 ID:m+OgoNdl
>>167
おもいっきり湧いたじゃん
最近は俺含めみんな読み飛ばしてる様だけど
170名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 14:29:03 ID:mR9fSGl8
一気に投下しないで、毎日小出しされるが
書き手さん達には嫌なんじゃないかな?
171名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 15:04:10 ID:KboGuJch
みのゴンアンチがあったのも
大体は適切な注意書きがなかっただけ
文章や体裁にはさほど関係していないと思う
172名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 16:39:26 ID:2Vf6ccYP
>>169俺は読んでいる
読み飛ばしてるのはお前だけだ。
って言ったらどうする?
173名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 17:10:03 ID:fa0ABCkB
論点ずらしてる奴わざとやってんの?
マンセーしてる奴だけ読んでるから荒れなくなったんだろjk

例えが悪いんだよな、幸せなあーみんの物語が投下された時は誰も騒いでなかったし、
ゲームうんぬんで投下しずらい空気とか言ってる奴は勘違いもいいところだ

って言えば良かったんだよ
174名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 19:41:31 ID:Koa4Tk9X
書き込みテストさせてください
175名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 19:53:26 ID:N60yJUN3
>読み飛ばしてるのはお前だけだ。
>って言ったらどうする?

妄想乙
176Jp+V6Mm ◆jkvTlOgB.E :2009/12/24(木) 20:57:13 ID:Koa4Tk9X
朝規制かかったってのに書けてよかった。
こんばんわ。 時期ネタでクリスマスものを投下させて頂きます。
でもエロは無いです。いつかは投下したいと思うのですが現在修行中。
他の方のエロは勉強になるので是非投下して欲しいです。

題名 : 十二月二十四日の日常
方向性 :ちわドラ!で、ただ甘の展開。
     お話的には薄いかな
     とらドラ!P 亜美ルートを経て、竜児と亜美が付き合ってる事が前提

長さ :6レスぐらい
177十二月二十四日の日常 1/6:2009/12/24(木) 20:59:40 ID:Koa4Tk9X

十二月二十四日の日常

意外に思われるかもしれないがクリスマスという存在が時々、鬱陶しくなる事がある。
川嶋亜美という存在はきっとクリスマスが大好きなんだろうなんてのが、
きっと世間の評価。
たしかにイベント毎は好きだし、きらびやかな事は心が躍る。
けれど時折癇に障るのも事実。

十二月になると街中に溢れかえるクリスマスキャロル。
華やかに飾り付けられたイルミネーション。
それが時折、目に触る。ノイズにしか聞こえない時がある。
十二月の風物詩なんてものが上面だけとりつくろった偽者にしか見えないときがあるのだ。
あんなのセミの命より短命、せいぜい蜻蛉くらい。
二十四日の夜を頂点に最初から無かったかのように消え去っていく。
無性に虫唾が走る。とってつけた様な雰囲気。
それがどうしても嘘ぱちにしか感じられない瞬間がある。

とは言っても、小さいころの私は人並みの子供と同様にクリスマスを楽しみにしていた。
サンタクロースなんてどこにもいない事は物心がついた時には気づいていたが、
やっぱりその日は特別で、パーティに行くことが出来る日で、
その夜は遅くまで起きていても怒られなくって、
なにより仕事で忙しいママが一晩中一緒に居てくれる日だった。

いつも行くパーティは大規模なもので、一流のホテルで行われ、
沢山の人たちが集まり、大騒ぎをした。

高級ホテルに行けるだけで、特別な気分になれた。
大勢の人たちに囲まれてるだけで、一人ではないのだと思えた。
みんなが浮かべる笑顔に楽しくなれた。
参加出来る事で大人の一員になれた気がして誇らしかった。

それでも、それは子供の時だけ。
少しでも大人になれば解かること。

高級ホテルは如何にもテンプレートの高級さ。
形式だけの、申し合わせられた一流で飾られた個性の少ない舞台。
大勢の人たちの大半は、来たくて集まった訳じゃない。仕事がら仕方なく来ている。
沢山の人間が同じ場所にいても、全員が孤独だった。
だから集まった人たちの笑顔は仕事に繋がらないかという愛想を振りまく大人の顔。
その笑顔は私も同じ。きっと同じ表情をしている。
そんなつまらない大人たちと、いつのまにか同じになっている自分へは
嫌悪感しか抱けなかった。

いつのまにかクリスマスイブはお祝い事ではなくなった。
十二月二十四日は大事な仕事の日。
やっぱり仕事だと思うと面倒くさい時もそりゃある。
浮かれた顔をするのも、はしゃぐ振りをするのもやっぱり疲れる。
178十二月二十四日の日常 2/6:2009/12/24(木) 21:01:35 ID:Koa4Tk9X

でも今年は期待していた。
高須竜児と、彼氏と初めて迎えるイブ。
ドラマ等で見る作り物のクリスマスイブ。馬鹿にしていたイベント。
だが、「あの葡萄はすっぱい」と思っていたのも事実。一口試してみたかった。

「どうせ高須くんに任せても、ろくなものになる訳はないしね」と、
それを免罪符に、デートの準備をした。
お気に入りのレストランを予約し、ホテルも押さえた。 
行きたい所も、一緒に歩きたい道も考えておいた。

一番の繁華街じゃ流石にまずいと、ちょっとだけ行き場所をずらして。
歩道橋を越えてジャックモールの小さなツリー。
もうちょい歩けばクィーンズイースト。そこでご飯食べて、今度はパークのツリー見て。
橋を渡れば海までもうすぐ、さらに頑張ればいつもの公園、いつもの道。
その日が寒ければなおいい。少し甘えて、寄り添って。夜は長いんだ。

ママに無理を行って、事務所を巻き込んで、嘘スケジュールを入れてもらった。
今夜の私は夜遊び出来るシンデレラだった。
ガラスの靴でお洒落して、ダンスだって十二時を越えても踊っていられる。
行かないでくれという王子様の要望にでも答えられる。
そんなの軽くOK。それだけじゃない、どんな要求だって応えてみせる。

けど、現実は
「川嶋、これ、そこに並べておいてくれ」なんて言って、
私にチャーシューが綺麗に並べられたお皿を渡してくるのだ。高須竜児という男は。
「違うんだよね」
私が求めてもらいたいのはこれじゃない。

それなのに、高須くんは
「おう。お前が好きなやつも作ってあるぞ。こっちにまだ持ってきてないだけで」
とよく解からない言葉が返ってきた。本当、まったく解かってない。
これくらいでヒステリーを起こすのも癪なので、無言で受け取るとポテトサラダの横に置く。

「ん?、なにか俺、変なこと言ったか?。なんで川嶋は笑ってるんだ?」
といぶかしみながら、台所に戻っていく。
私が笑ってる?、何て勘違い。亜美ちゃんが、そんな、
好みの食べ物を作ってくれた。なんて心使いだけで喜ぶわけないじゃん。
そんな安い女じゃないっての私は。
急いで笑いが出ないように、確りと表情をつくりなおす。
で皿に伸びてきた手から、さっき置いたチャーシューをガードする。
「チビ、みんなが座るまで待ちなって。少しでも早く食べたになら高須くん手伝いなよ」
「ふん、ばかちーだって、座ったまま動こうとしないじゃない。
 いいのよ、私は味見してあげてるんだから」
「出来上がった料理を味見したって修正きかないての」
と、飢えた手乗りドラにステイを命じる。その代わり立ち上がり、配膳の手伝いを
する事にした。とタイガーも面倒臭そうながらこっちに来た。
じゃ、みんなでとっとと準備するか。
179十二月二十四日の日常 3/6:2009/12/24(木) 21:03:24 ID:Koa4Tk9X

料理の皿はまだたくさんあるのだ。並べるだけでももう少し時間が掛かる。
台所にはちゃぶ台が埋まっても、まだお釣がくるくらい料理があるんだもの。
高須くん気合いれすぎ。もっと違う所に気合いれてもらいたいんだけど。

そう、私は豪華なレストランでも、煌びやかなツリーが飾られているカフェに
いる訳でもない。借家二階の高須家にいる。
デート準備中に、あいつに先手を打たれた。
「川嶋、クリスマスイブは仕事ないって言ってたよな。だったら家へ来ないか」と
一瞬、家デート?、イブの間中、ずっと二人きり?。なんて思ったが、
そんな事ある訳もなく。
「おう。高須家クリスマスパーティーをやるんだ。お前も参加しろよ」
と罪のかけらもない言葉。今でも思い出せる。あー、腸が煮えくり返る。空気読んでよ。
そして、今、現在も罪のかけらもないが、生活臭がすごくする言葉が
台所から聞こえてくる。

「大河、もう少し待っとけ。刻み葱と合わせて食べないとそのチャーシューの真価は問えねぇ」
まぁ、それが高須くんなんだろうけど。
でも、今日は付き合って初めてのクリスマス前日の夜で、
私が初めて特別な人とすごすイブなんだけど、
ねぇ、竜児。

とりあえず、憎らしい高須くんの顔を見に、台所に入る。
「川嶋、お前、仕事で疲れてるんだろ。いいから座ってろって」
「いいよ。だってタイガー、飢え飢え虎状態。これ以上いくと人食い虎に化けかねないよ」
諦めてる?。多分、納得してるんだ。こんな心配をしてくれる高須くんの事も。
そんな彼氏にどうしようもなく惚れ込んでる自分にも。


高須家は季節毎のお祝いを目一杯たのしむのだとか。
だから十二月はクリスマスと大晦日はみんなで、家族で祝う。
そこに恋人とか、甘いロマンス的な発想はないらしい。あーあ。
つまりクリスマスも季節毎の節句のようなイベントの一つでしかないらしい。
季節を楽しむ、それが高須家流だって。
そういえば、食べ物も季節ものが一番ってゆずらないものね。
家族パーティという事で部屋も自分達で飾りつける。手作り感が一杯な感じ。
私が現場から貰ってきたもみの木の枝をツリーに見立て。
段ボールで土台をつくり、ちょっと大きいけど学校に仕舞い込んでいたあの星を飾る。
壁には、いろ紙で作った輪のチェーンをいくえも吊るし、
折り紙で鶴やトナカイ、虎や、竜や、チワワをみんなで作った。
私も仕事の合間に折ったやつを持ってきた。

そんなこんなで、タイガーのつまみ食いを牽制しつつ、ちゃぶ台を食べ物で一杯にする。
台所にもまだまだあるが、それは第二段、第三段らしい。
高須くんのお手製料理。タイガーが容易した有名ケーキ店のショートケーキをホールで、
泰子さん特性のお好み焼きもならんでいた。
私はシャンパンを用意したんだけど高須くんに止められた。お堅いな。

だから、タイガーがみんなの分のジュースを注ぎ、
高須くんのとなり、引いてくれた座布団にすわり、
泰子さんからクラッカーを受け取り、準備完了。
「「メリークリスマス!」」
180十二月二十四日の日常 4/6:2009/12/24(木) 21:05:10 ID:Koa4Tk9X

パーティは今まで経験した事がないくらい騒がしかった。
泰子さんも、ひさびさ♪と、お酒を飲み。私たちはジュースでお相伴…のはずが、
いつのまにか持ってきたシャンパンは空になっていて、それどころか焼酎の空瓶が、
料理用の日本酒まで…
気がついた時には高須くんもタイガーも酔い虎の、酔いどれ893。
冗談まかせに高須くんを脱がしても抵抗しないし、私が脱いでも止めないし。
虎が癇癪起こさなければそのまま行けたんだけどな。
でも良い事知った。したくなったら酔わせればいいのか。

それで逆上したタイガーとなんだかんだで勝負事。
タイガーと張り合った末の大食い大会。
これじゃ明日から正月まではほとんど絶食状態で過ごさないとまずい。
お正月も高須くん家で過ごす予定だからちょっと心配。絶対太る。
こんな大騒ぎしたのは久々だ。
というかクリスマスでこんなにはしゃいだのは子供の時以来だった。

タイガーは酔っ払って、腹を一杯にして、そのまま夢の国の住人になってしまった。
そのチビスケを高須くんが運んでいく。
これまた寝てしまった泰子さんと一緒に泰子さんの部屋でぐっすり状態。
それにしてもお姫様だっこって、それ私まだしてもらってない。

それなのに私はというと後片付けの真っ最中。台所でお皿洗い実施中。
本当、なんで私は人の家で皿洗いをしてるのだろう?。
しかも、イブの日に一人で水仕事。これってかなり寂しい話じゃないだろうか。
昔の私がこんな姿をみたらどう言うだろう。
二年前の豪華な、薄っぺらな、業界パーティに出て、作り笑いを浮かべてる私なら、
「最低。そんな事ありえないんですけど。貧乏くさ」と軽蔑を目に浮かべるかもしれない。

去年の私なら、学校の体育館から一人で帰って、部屋の隅で座っていた私なら、
「……そんな事ある訳ない」なんて、暗い目を伏せたまま、否定するのだろうか。

だけど、ほんの少しのボタンの掛け違いから、高須くんとキスしてから、
たどり着けたのがこの場所なら、それはあまり悪い事じゃない気がする。そして少し誇らしい。
そうなのだ。これ以上、求めたら罰があたるのではないかと不安になる
性悪女にはそれ相応の戒めがおりる気がする。
タイガーじゃないが、クリスマスくらいい子にしなければ。

「一人でやらせちまって悪かったな、川嶋。ここからは二人だ。
 とっとと二人でやっちまおう」
なんて、私の横に来て、一緒に後片付けをする男の子がそばに居てくれるのだから。
181十二月二十四日の日常 5/6:2009/12/24(木) 21:06:22 ID:Koa4Tk9X

あれだけあった片付け事もあっという間に終わってしまった。
途中から、自分の方が綺麗に洗えるなんて話になって、高須くんの掃除魂に火をつけて、
どっちが手早く、清潔に洗えるかという競争になった。
そんな事をしながら、ちょっといちゃつけた。
だから、十分だと思う。

片付けてしまった台所。残念に思いながらここにいる理由もなくなった。
さすがにチビトラが寝てるのに泊まって、高須くんにぴったりとひっつく訳にもいないし。
とりあえず、付けていた赤いエプロンを外し、手あれ防止用のゴム手袋を外す。
そして定位置の食器棚の隣、雑貨入れにしまう。
このエプロンは亜美ちゃん専用高須家エプロンだ。ゴム手袋は高須くんからのプレゼント。
来るたびにカバンに入れておく必要がないので楽でいい。
それにこの家に自分のものが増えていく事がなんだか嬉しい。

さていい気分のまま帰りますかと、
「帰りのタクシーを呼ぶね」と一言断りを入れて、携帯を取り出す。
すると高須くんが慌てた顔で、
「川嶋。お前、もしかしてこれから仕事か?」
「ん〜、仕事じゃないよ。言っとくけど、虎曰くのひまちーって訳じゃないんだからね。
 たまたまOFFで明日の午前中まで仕事ないだけだから」
誰かさんと一緒にすごす為のたまたまだったんだけどね。
「じゃあ実家に帰るのか?」
「違うよ。いつもと同じ、おじさんの家」
芸能界の最前線にいる両親は顔つなぎの為のパーティ三昧。
子供のころ意味も解からずついていったパーティ。
意味がわかってから仕事の為に参加したパーティだ。
今年は特別に不参加にしてもらった。
今年のような事が来年もあるならもう参加する事もないかも。
だから、実家に帰る必要もない。今住まわせてもらってるおじさんの家に帰る。
もっとも、おじさん夫婦も仕事がらのクリスマスパーティに参加中。今日は誰も居ない。

帰るのは誰も居ない家だけど、今日はそんな寂しくない。
まだ時間があるのがもったいないが、今夜はとってもいい夢を見れる気がする。
このまま布団に入り、そんな夢見る少女も悪くない。

「だったらそんな遠くないだろ。タクシーなんて頼むなよ。MOTTAINAI」
でたよ。この男の節約根性。でもさ、夜道を一人で帰る彼女の身の心配しないってどういう事?。
かなりカチンと来てしまった。
どう文句を言い返そうかと、睨みながら心の中で一番効果的な言葉をならべていく。
あれがいいか?、いやこっちの台詞の方がもっと効果的か?。
だけど…
182十二月二十四日の日常 6/6:2009/12/24(木) 21:07:38 ID:Koa4Tk9X

「タクシーなんて使うなよ。代わりに俺が送ってやるから」
なんて、視線を外しながら言ってきた。って、え、意味解からないんですけど。
用意していた言葉が吹き飛ぶ。ついでに言語能力も吹っ飛んだ。言葉が出ない。

「今日、クリスマスイブだろ。お前と過ごす初めての」
そんな台詞を続けざまに投げてくるのだ。この凶悪犯版まがいの人相悪は。
だから…
とにかく、吹っ飛んだ言語能力の代わりに、精一杯の力を振り絞って
こくん と頷く。

高須くんはそれを横目で捕らえると、外着になるため、自室へと向った。
なにかもう、一秒でも惜しい。とりあえず。すぐ外に出られるようにコートを羽織る。
いや、羽織ろうとするがなかなか袖が通らない。
なんでこんな時に限ってこんな簡単な事に時間が掛かるのだろう。

無駄に手間どったがコートを着終わる。そしてマフラーを巻く。が、これもなかなか決まらない。
そんな事をしている内に、準備を終えた高須くんが近づいてきて、マフラーを勝手に直す。

余計な事をするなと、頬を膨らまし、上目遣いながらも、非難の目を向ける。
そんな仮面を被る。
そうでもしないと、頬が緩む。目じりが下がる。

そして、彼が一瞬、驚いた隙に前を向く。
顔を見られないように。
既に口元が緩んでしまっているから。

そして、高須くんの手を握ると、足早にドアを開け、外に飛び出す。

やっぱり私は性悪だ。腹黒女はそう簡単にいい子になんかなれない。
こんなに強欲なのだから。したい事がたくさんある。

もっとこの時間をすごしたい。一緒にいたい。クリスマスイブはまだ数時間ある。
そして、クリスマスはこれからだ。


END

以上で全て投下終了です。お粗末さまでした。
183名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 21:07:38 ID:tEASTLem
ドラクエ3やったことないから読み飛ばしてるぜ。
ドラクエみたいなゲームを題材にされると、話に現実味がない。
原作が学園ものでファンタジーでないし。
ドラクエ3知らないからというのもあるけど、
やっぱりクロスものは他スレでやってほしいと思ったよ。
184名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 22:53:05 ID:85w9ogNv
>>183
好きでないなら文句言わずにスルーしなよ

>>182
GJ!!
あーみんはやっぱりかわいいな
185名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 22:54:45 ID:/RyKef6G
ドラクエは7からしか知らないけど、俺は楽しみに読んでる。
ちゃんととらドラキャラらしく仕立てられてるから違和感ないな。
あ〜みんがお姫様とか櫛枝が武闘家とからしいじゃん?大河が盗賊な理由も納得出来たし。
186名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 23:08:06 ID:8SlGLciM
完結は是非ともしてほしいですな!
187名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 23:12:57 ID:N60yJUN3
3とか7とかの問題じゃないだろ。
ドラクエという異質の物とのクロスであることからして、問題があるのだが?
以下は聞き流してくれていいんだが、













とにかく、つまんない!!
188名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 23:15:07 ID:EHBmiS1a
>>187
聞き流してくれてもいいのだが、

死ね。
189名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 23:18:39 ID:N60yJUN3
>>188
こういうキチガイが出るんだよなwww
だから、ダメなんだ、こうしたキワモノは
190名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 23:20:12 ID:bx6+vhsu
誰とは言わないけど、自分よりチヤホヤされる職人さんが出てくるとすぐ
スレで煽って潰しに掛かる人がいるよね
191名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 23:31:58 ID:AS698+sy
サイテーだよな〜。
192名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 23:52:28 ID:v7iCtY43
>>182
エプロン姿のあーみん。
何か新鮮でいいな。
193名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 23:59:27 ID:2Vf6ccYP
>>175意趣返しもわからんのか
194名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 00:02:59 ID:Vu7bW+Cf
>>182
あーみんの内面が良く描かれてて良かったよ!

>>187
この書き込みの方が痛いと気付かないんだな
可哀相に
195名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 00:11:58 ID:uQzGn5G8
クロスとパロディをごっちゃにしてるしね
まぁ書き手同士の潰し合いはほどほどに
196名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 00:21:13 ID:sxtmlqn4
作品を投下し続けてくれてる人がいるだけでも喜ばしい事だというのに
197名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 00:25:43 ID:feF4+nc9
>>182
いいねえいいねえ

ニヤニヤしちゃうね
198名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 00:51:38 ID:68zJrlV8
>>182
エプロン姿で皿洗い……やべ、鼻血出てきた。
199名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 01:13:51 ID:fPeLxTnr
>>182
本当にかわいいなもう。ところで竜児のお泊まり展開はry

せっかくの良作投下なのに振れもしないで文句しか言わないやつはアホ。お前らクリスマスに他にやることないのかと
200名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 02:27:52 ID:tFzkiCuC
でも俺もドラクエとみのドラ読んでないな
ドラクエものはドラクエの設定って時点でなんか興味沸かなくて一から読んでないわ
なんだろイフものは許容出来るけどクロスは厨二臭くて無理だ
みのドラは序盤の変な展開で読まなくなったな
だから最近の他の職人さんの投下が少なくて、読むものがたまにしかないのに
なのにスレはやたら進む展開に寂しいかぎりだ(´・ω・`)
201名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 03:55:42 ID:9oK54avr
大辞林 第二版 (三省堂)

いしゅ-がえし ―がへし 【意趣返し】

仕返しをして恨みを晴らすこと。報復。意趣晴らし。

言った本人が「意趣返し」の意味を理解していないらすいwww
バカ?
202名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 04:26:50 ID:xkNp9UUM
書き手への非難ばかりするスレは投下が何も無くなるの巻き

今回、文句言ってる人たちは普段、我慢してたと思うけど
煽りに釣られか、ここぞとばかり言い出すのもどうだんだろう
もし、書き手の人が発言者なら、自分がこんな事言われたら嫌だよな、書く気なくならない?

ただ、ドラクエの人も少し連日投下、細切れ投下すぎるかな
他の人のSS投下後、自分のSS投下するのに間を空ける事はマナーだし、
そのせいで投下のタイミング逃してる書き手さんもいるかもしれないし、
一部我慢してる読み手さんのフラストレーション溜まるだろうから
ただ俺は好きだぜ、あんたのSS
203名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 07:42:14 ID:1keyYx6L
そんなマナーあったけ?
204名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 08:22:47 ID:QDAc+ZEa
マナー≠ルール
205名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 11:52:30 ID:Q2hUD8kQ
>>183,187,189
別に俺は他作品とのクロスでも受け入れるけどな。
もちろん、全部の人がそうじゃないってこともわかるけど、
それならそれでスル−するのが大人の対応だろ。
自分がクロス嫌いだからって、ちがうスレで書けって、
どんだけわがままなんだ。ただの自己中。子供じゃん。
自分が好きな作品だけ受け入れて、嫌いな作品は拒否って、
ここはあなたら個人の城じゃないからね。
206名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 16:41:04 ID:hWOQ85YO
別に誰も知りたくもないのにどの作品を読んでないかということを書き込む人間は大体が荒らしの類。
仮に本人が荒らしでないつもりで言っていたとしても、駄目な形でしか自己顕示できないタイプなので
どの道この手の輩は放置するしかない。以下この話題にレスひ不要です。
207名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 17:11:21 ID:9g9yXV1p
自分はちゃっかり言いたいこと言って皆にはスルーしろと・・・
せめて誘導ぐらいしなよ、汚すだけじゃなくて
【隔離】場外乱闘専用スレ【施設】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1239770078/
208名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 17:20:21 ID:Fo73Ezk7
ここは日本で最大の匿名掲示板なんだから
万人の意見が書き込まれて当然の場所
そんなに自分の想う理想郷が造りたいなら、自分でサイト立ち上げろよ
209名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 17:42:19 ID:ZHxGs/C1
>>206は市ね!!
ついでに>>205もうざいんで市ね!!

あ、以下この話題にレス不要です。
皆さん続けてください。
210名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 19:11:23 ID:68zJrlV8
>>209
だからそーゆーいらんこと言うから荒れるんだよ。
211名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 20:37:41 ID:yNh63WBt
一週間後には一層盛り上がってますように
212名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 20:59:53 ID:uSr/2qgB
クリスマスなのに臭ヲタは暇だな。
どうでもいいが、>>202が短歌な件。
213名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 00:16:10 ID:1/tHyXeY
まぁあれだ
ドラクエパロとかは短編ネタなら良いが、わざわざ長編で読みたいとは思わないな
ここはとらドラのエロパロだし、とらドラをなんで読んでるかといえば
一応ファンタジーなしのラブコメジャンルで面白かったからだしなぁ
とはいえあぼんでとばせるし、ウケてる読み手もいるなら問題ないだろ
さすがにパロミックス作品しか無ければ寂しいし、スレの方向性がやばいとおもわなくはないが
現状職人さんが減ってるとはいえ、正統派を書いてる人もいるし
色んなジャンルがあっても問題ない
214名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 00:46:50 ID:6fgwt3Z2
個人的にはカプ重視だからファンタジーでもクロスでも読むときは読むし読まない時は
読まないかな。
まあ人それぞれということでイイジャマイカ
215名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 00:48:48 ID:cXa4pUca
「……うっ」
「マンボッ!」
216名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 01:42:53 ID:fdFUN4da
田村乙
217名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 05:09:11 ID:Ho44H/I5
>>182
GJ
クリスマスには最終的にちわドラ二人で幸せそうでこっちまで和んだ
竜児も肝心なとこは外さないのな


みんな熱すぎ
細かいことはあんま気にしなくていいでしょ
218名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 09:52:39 ID:SMcKDiXI
ドラクエパロとか、書くのはいいけど、上手く書けってことだよ。
こうしたものほど設定や世界観をきっちり決めないとダメなのに、
ドラクエっていう他作品の設定を簡単に移植できるって思っているらしいところが大間違い。
だから話が拡散するばっかで、いっこうに進展しない。
219名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 10:40:23 ID:Kj0k9UMN
>>218
誰もてめえの糞みてえな持論なんざ聞いちゃいねえ
場外行けよ、ゴミ
220名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 11:56:12 ID:MkU0erne
荒れる原因になるのは>>219のような乱暴な言葉でもあるし、
評論家ぶって持論を展開するわりに自分じゃ面白いものが書けない>>218でもある

もうじきクライマックスっぽいのに何であと少し我慢出来ないんだろうと思う俺と
もうすぐ終わっちゃうから去る前に文句付けたい人が声を出したのかと思う俺がいる

どちらにしろ読み手としては面白いものが読めれば良い
面白くないと自分が思ったものは投下されてても読まない
叩きたい奴は何なの?ガキなの?嫉妬なの?ぶっちゃけ醜い
まあ、そういう人間模様も生暖かい目で見れるようになったけどな
221名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 11:57:01 ID:tZlxda0I
>>218
ヒント・元ネタ

今回のはドラクエとのリンクじゃなくて、元ネタとのリンクを楽しむ話だろ。
薬草マニアと脳筋とビッチとドジの旅が元々のストーリーだから、それにとらドラキャラをウマく当てはめてるのは見事だと思うんだよね。
まあアンチも良いけど、あんまり見当違いな事言ってるとバカだと思われるぜ?
人気作家に嫉妬した不人気作家乙とかなんとか。
222名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 12:14:25 ID:uy2v9qZ9
読み手は考えてること思ってること色々あるだろうけど。
書き手さんや読み手の気分を損ねるような発言は避ける。
面白いなら読む、そうでないものはスルーすればいいだけの話。
これでもうこの話終いにしようよ。
223215:2009/12/26(土) 12:31:58 ID:cXa4pUca
田村で書こうとしておかしなとこ削ったら
>>215になりました。
224名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 13:05:06 ID:k0P/Wuku
>>223
削りすぎワロタw
いいセンスしてるわ。
225名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 13:19:37 ID:EFNtGXQO
>>223
ほとんど何も残ってないじゃねーかwww
226名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 19:09:26 ID:ftfhRIjT
>>223
それSSなのかよwww
227名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 19:16:49 ID:aKv7MutQ
SSだな。タイトルはどうする?
228名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 19:22:42 ID:Y5/pVA6o
「あの魚を食べる地方があるらしい、というかあれは魚なのか?」で
229名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 20:06:37 ID:6fgwt3Z2
>>228
ウマイ!
230名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 21:22:37 ID:EFNtGXQO
タイトルの方がながry

いかん釣られるところだった
231名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 21:27:22 ID:dHz6heHD
魚だけに釣られた
232名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 01:07:15 ID:GQCjzzqc
ギョッ!
233名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 02:31:41 ID:tOU6y7fU
ギョギョー!この女マグロです!
234勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/27(日) 03:01:23 ID:ohZCkKTg
川嶋の美貌が苦痛に歪み、眉間に深い皺が刻まれる。急所狙いで突き出された凶刃を避けきれ無かったのだろう……
片刃の長剣が川嶋の左肩に深々と突き刺さり、白銀の刃は真っ赤に濡れている。
大丈夫なんだろうか?心配だ。あんなケガしたら、普通は痛い痛いと泣き喚きそうなもんだけど、川嶋は悲鳴ひとつあげやしない。
まさか、川嶋まで不死身の身体……いや、違うみたいだ。良く見れば涙目で、下唇を噛んで必死に痛みをこらえているっぽい。ああ、何か可愛い。
そういえば、川嶋は結構、虚勢を張るタイプなんだよな。きっと、ホントは痛くて痛くて仕方ないのに…そうは見せまいと我慢してるんだろう。健気だ。いじらしい。
「つ〜か〜ま〜え〜た〜☆」
川嶋は無事な方の手を伸ばし、フロンティアの仮面を掴んだ。余裕ぶってるが声は勿論震えている。
「なんのつもりだ?」
「怪しいんだよね、この仮面。どの位、怪しいかって言えばニブチンの高須君でも薄々勘付く位怪しいね。」
確かに。あの仮面は怪しいと思う。絶対、何かある。って、うるせぇよ!!誰がニブチンだよ。
「ほう…で、どうするんだ?私を見て仮面が怪しいなんて、誰だって考えるさ。」
−この仮面は一生取れない呪いのアイテム−
初めて会った時、フロンティアはそんな事を言っていた。
「案外、あんたもニブいんだね。あんな非常識な戦い方をしておいて、まだバレてないと思ってるの?」
ベリベリベリベリ……まるで、生皮を剥ぐ様な嫌な音。
川嶋が強引に仮面を引き剥がした。初めて、露わになるフロンティアの素顔。
その顔には傷ひとつなく、見目麗しい楚々たるジパング風美人。しかし、その表情は浮かない。
「なッ!?」
バキィッ!!
剥がれない筈の仮面を剥がれ、動揺するフロンティアの虚を突き、川嶋は手にした石仮面でその頬を思いきり引っ叩たいた。
あれは…痛い。余程、勢い良く殴りつけたのだろう。石仮面が粉々に砕け散り、フロンティアはその衝撃で大きく吹っ飛ばされた。
恐らくは、バイキルトで強化されたビンタ。しかも石で。川嶋の奴、容赦ないな……
235勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/27(日) 03:01:46 ID:ohZCkKTg
容赦ないのはフロンティアも同じか……川嶋は肩に突き刺さったままの剣を抜こうとして、苦悶の表情を見せている。
刺された時より抜く時の方が痛いらしい。小さく呻いているし、血がドバドバと派手に噴出している。見てらんない。
一方、吹っ飛ばされたフロンティアも先程までの不死身っぷりが嘘の様にダウン。ピクリとも動かない。
「なんで仮面が剥がれたか不思議で仕方ない。信じられない。そんな顔をしてたね。教えあげようか?」
そして、始まる川嶋のスーパー解説タイム。
「そもそも、完全な不死なんてのはあり得ないんだよ。これでもあたしはその分野の専門家だったからね。それ位、わかる。
あんたのバカげた耐久に理由を付けるなら、ニつに一つ。魔法に耐性がある何を装備しているか、仮初めの不死を得ているか……
例えば、あたしに刺さってるこの剣…魔力を秘めた、くさなぎの剣ってやつだよね?あんたが剣で魔法を斬ってみせたのはこの剣のおかげなんでしょ?
普通の剣で火球を斬っても剣が素通りするだけ、でも魔力剣なら魔法で生んだ火球を散らす事が出来る。これが対魔性能。
でも、あんた自身の装備に対魔性能は無い。いくらなんでも、必殺のメラゾーマ×5に耐えれる訳ないからね。
そんな対魔装備がこの世にあったら、魔法使いは商売上がったりだよ。なら、答えはあんたが仮初めの不死を得ている。って事になるよね?
そこで目に付くのは、そのいかにもな石仮面。わざわざ、剥がれないように呪いまで掛けて……
けど、残念だったね。あたしはイシス出身者。その手の呪いにはちょっと詳しくてね。だから解呪なんて楽勝♪
けど、あたしも人の事は言えないけど、あんたも恐ろしい術を使うよね。屍肉呪法。死者に仮初めの命を吹き込む禁術。
あんたがその対価に誰の命を使ったのかは知らないけど…先代さんはそんな事平気でする人たちなんだね……
この世に一本しか、存在しない筈のくさなぎの剣を持ってた事といい、多分、あんたの正体は−ッ!?」
この時、ピクリとも動かなかったフロンティアが動きをみせた。
「私の正体暴きはあの世でしてくれッ!!」
236勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/27(日) 03:03:21 ID:ohZCkKTg
「うぁぁあああ………」
肩の傷口から例のツタが伸び始めた。流石の川嶋も堪えきれずに悲鳴をあげる。
伸びたツタはそのまま身体を引き裂き…はしなかった。ツタは一瞬で炭と化した。川嶋の左腕もろとも。
そのままにしておけば、致命傷を受けると言っても、即、自分の腕ごと火をつけるなんて、川嶋もとんでも無い事をする奴だ。
「くくぅ……屍の分際でぇ〜…今、土に還してやる……。」
もはや、ぶりっ子やってる余裕も無くなったのだろう。ついにブチキレた。
川嶋らしからぬ鬼の様な形相でこちらを睨みつけ、右手には当たったら火傷では済まなさそうな、業火球が渦巻いている。
ああ、なんで俺はこんな事やってるのかな……今、俺はフロンティアを庇う形で川嶋の前に立っていた。
先ほど、術者である川嶋がダメージを受けたせいかどうかは知らないが、俺の硬化が解けたのだ。
「そこをどけ。お前が私の代わりに死ぬ事は無い。」
ヤなこった。俺は別にあんたを庇ってる訳じゃないのさ。ただ、川嶋に手を汚して欲しくないだけ。
怒った顔も可愛いよ。可愛い。やっぱり、川嶋は可愛い。……。火が消えた。綺麗な細い腕から。俺の好きな手から。わかってくれたのか?川嶋……
「そう。庇うんだ?高須君はそっち側に立つんだ?」
…え?いやいやいや、そうじゃなくて。そういうんじゃないから、これ。
「良いよ。言い訳なんか聞きたくない。そうだよね?あたしはもう高須君の仲間じゃなかったもんね……」
川嶋の身体がすぅーっと消えていく。
「さよなら。次に会った時には覚悟してね。あたしはもう覚悟したよ。
力づくでもキミを手に入れる。従属か死か、次回までに答えを出しておいてね。それじゃ。バイバイ♪」
それが最後の言葉だった。ヤな事を宣告して、川嶋は霞の様に消えてしまった。
「あ〜あ。せっかく会えたのにな。お前が早く告っちまわないからだぞ?」
お前……誰のせいだと思ってんだよ……
237勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/27(日) 03:03:42 ID:ohZCkKTg
「そうだな。私のせいだ。それは認める。スマン」
意外にもフロンティアは素直に自分の非を認め頭を下げた。
「責任は取ってやるよ。私を好きにして良い」
は?なんだって?
「てめぇに抱かれてやるって言ってんだよ。あいつの代わりにな。どうせ溜まってんだろ?
なんだよ…私が相手じゃ不服か?屍が相手じゃ勃たねぇか?前に言った通り、私は美人だと思うが…てめぇの好みじゃないか?」
いや、そういう問題じゃねぇだろ?ってか、さっきから屍とか言ってるけど…どういう事なんだ?
どう見ても、お前は元気に生きてるよな?それと、何でそういう話になる?説明を求める。
「それ位察しろよ……まあいい、ニブいお前にも解る様に1から丁寧に説明してやるよ。」
フロンティアは、膝を折り力無くその場に座りこんだ。余程、堪えているらしい。そして始まるハイパー説明タイム。
「まず、私は半年前に一度死んでるんだよ。屍ってのはそのまんまの意味。私は生ける屍。つまりアンデットだ。
つっても、その辺りのリビングデッドとは違う。肉体の滅びは無いし、自我もちゃんとある。
さっきあいつが言ってたろ?屍肉呪法っつってな。生者の生命力を仮面に取り込んで死者を動かす術だ。
但し、生命力を仮面に奪われた人間は死ぬ。故に禁術だ。ちなみに私の場合は妹の命を頂いた。まあ、それも仮面を砕かれてパーになった訳だが……
本来なら仮面を剥がされた時点で、私は物言わぬ屍になる訳だが、そこはもう一つカラクリがあってな。
蘇った私は、まだ動いていた妹の心臓を抜きとって、自分の身体に取り込んだのさ。だから、まだ辛うじて動ける。
ちなみに、妹は僧侶だった…戦士の私が回復呪文を使えるのはそのおかげって訳だ。もっとも、妹はこんな呪文の使い方はしてなかったがな。
さて、ここまで話たんだから、そろそろ私が誰なのか見当が付いたか?」
いや…全然。さらりと話してくれるが、こっちは、はい。そうですか。とは流せんぞ、内容的に。
「軽く流してくれて結構。私たち姉妹の事は他人には解らんよ。私は妹にした事を悔いてもなければ悪いとも思っていない。
まあ、私がもう一度死んだとき、妹と同じ場所には行けないだろうけどな。
それより、お前はどんだけ察しが悪いんだ……
238勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/27(日) 03:05:22 ID:ohZCkKTg
すみれと名乗れば解るか?二代目さんよ。私は初代勇者の無念を晴らす為にお前たちの仲間になったんだよ。
言ったろ?大切な奴らがあのハゲに殺られたってな。あいつらの仇を討ち、悲願だったバラモス討伐をこの手で果たす為に私は蘇ったんだ。
で、それは妹の願いでもある。まあ、結果はお前も知る通り。ざまぁねぇな私も。地獄行きで良かったよ。会わせる顔がねぇもん。
所詮は借り物の心臓だ。私はもう永くない。直に動けなくなる。そうなる前にお前に私を抱いて欲しいんだよ。ダメか?」
………。色々と思う事はある。エライ事を聞いてしまった。しかし、今は考える時じゃない。フロンティアは、俺の事が好きなんだろうか?それとも…
「バーカ。そんなんじゃねぇよ。それに、もうフロンティアじゃなく、すみれと呼んで欲しい。
私がお前を好いてるだと?バカ言え。私はただ、処女のままじゃ死んでも死にきれんと思っただけさ。
……。なんてな……。この身体はもう何も感じない。誰に抱かれても何も感じない。空腹感だけがある。満たされない。寂しいんだよ私は」
俺は、何も言わずにただすみれの口を塞いだ。冷たい…と俺は感じた。熱い…とすみれは呟いた。
なら良い。熱いなら良かった。お前は俺の仲間でもあるんだから。短い間だったけど、確かに仲間だった。
すみれの身体は、どこを触っても冷たかった。ひんやりだとかそういう冷たさでは無い。寒気すらした。身体の外も中もただ冷たい。
少しでも、暖かさを感じて欲しい。俺はそれだけを考えて、触れた。突いた。
今だけは、川嶋の事も他の皆の事も忘れて、考えない様にして……でも、最後まで、すみれがそれらしい反応を見せる事はなかった。

そして、事後。俺は1人で玉座の間を出た。
「わりぃな。良かったよ。ありがとう。それじゃあ、もう行ってくれ。私の身体が朽ちていくのをお前には見られたくない。
私の前に道は無い。あとはもう死に方の問題だけだ。死に方のな。
少しでも私を仲間だと思ってくれているのなら、そのまま振り返えらずに行ってくれ。頼む。
お前たちと一緒に旅が出来て、ホントに楽しかったよ。じゃあな。あの性悪と仲良くやれよ。」
それが、フロンティア。いや、すみれの最後の別れの言葉だった。
239勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/27(日) 03:05:53 ID:ohZCkKTg
胸が痛い。気分が悪い。ムカムカする。救われない話。誰が悪い訳でもない、だからこそ腹が立つ。
中庭に出ると、なんか緑の奴が居た。櫛枝と大河と絶賛死闘中。何だ…ちょうど、いいのが居るじゃないか。
次の瞬間には、目の前が真っ赤になって…その日の俺の記憶はそこで途切れている。

−80日目−

俺は今実家に帰ってきている。何もする気が起きず、皆にはしばらくオフだと伝えておいた。
特に何をするでもなく、部屋でゴロゴロしながら色んな事を考えていた。川嶋の事。すみれの事。
やらなきゃいけない事は目白押し。でも、どうにも体が動かない。動きたくない。
ガッシャーーン!!
下から皿の割れるやたら景気の良い音が聞こえた。これで通算何枚目だろう……
割ったのは大河。あの日、バラモス城から戻ってきて以来、大河は我が家の居候として居着いている。
久しぶりに家に帰ってみたら、家が差し押さえられていたらしい。何でも、俺たちが旅に出ている間に大河の親父さんが破産して夜逃げしたんだとか。
何でも、大きな失敗をしていまい、周りが誰も助けてくれなかったそうだ。余程、汚い商売をやっていたのだろう。まあ、自業自得という奴である。
そんな訳で、いきなり家無き子になってしまった大河をとりあえずウチで面倒を見る事にしたのだが…
大河という奴は妙なトコで義理堅く、一宿一飯の恩とか言って、泰子の仕事を手伝っている。
正直に言えば、大人しくしていて欲しいのだが、頑張っている大河に水を差す様な事は言いたくない。
よって、毎日皿が犠牲になっている訳である。MOTTAINAIとも思うが、必要経費という言葉もある。我慢しよう。
それと、もう1つニュースがある。魔王バラモスを倒したら終わりだと思ったら終わりじゃなかった。
「ワシがいる限り世界は闇に閉ざされるだろう。そなたらの苦しみこそ我が喜び。」
などと、ドS丸出しの声明が大魔王ゾーマを名乗る影から下された。
正直、やってられない。もう…いいだろ?誰もが俺に期待している。バラモスを倒した勇者がゾーマも倒してくれる。
でも、バラモスを倒したのは俺じゃない。川嶋だ。俺はただ見ている事しか出来なかった。
240勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/27(日) 03:07:32 ID:ohZCkKTg
そんな俺にやる気を出せと言うのはムリな相談だ。旅を続けるには色々ありすぎた。俺はもう疲れた。
「ヤッホー。一緒にスゴロクでもやろうぜぇ〜」
ノックも無しに勢いよく扉が開かれた。櫛枝が部屋へと乗り込んできた。櫛枝はオフになってから毎日決まった時間に部屋へ来る。
毎回、毎回、友情破壊系のボードゲームを持参して、遊びに来る。
「旅の続きをしよう。」とか「いつまでも寝てないで動け」とは一切、言わない。気を遣ってくれてるのだろう。
今日も、太陽みたいな笑顔で俺を照らしに来てくれた。でも、俺の心は、もう陽の当たらないどん底まで堕ちてしまった。
櫛枝を見ても気分が晴れないなんて……俺はもう二度と這い上がれない気がした。
自然と涙がこぼれた。別に悲しくて泣いた訳じゃない。とうとう涙腺まで壊れたらしい。心の方はとっくに壊れてしまった気がする。
「…元気だせよ高須君。何があったのか、私は知らない。けど、高須君にそんな顔で居て欲しくないんだ……」
それなら…わざわざ俺の顔を見にくる事も無いだろうに。放っておいてくれたらいい。
「ヤダよッ!!そんなのヤダ。もしも…あーみんの事を考えてるなら、もうヤメなよ。」
櫛枝には関係の無い事。けど、怒鳴りつける気力もない。
「関係なくなんか無い……
好きな人が不幸になろうとしてるのにッ!!放っておくなんて私には出来ない。私は高須君が好きなんだ。
友達として、仲間として、なんて逃げたりしない。ずっと好きだった。私は高須竜児が好き。」
突然の櫛枝の告白にも全く心が動かない。こんな男は櫛枝の為にならない。お前の方こそヤメた方が良い。
好きだった櫛枝に不幸になって欲しくはない。
「………んむぅ………」
唇が熱い。櫛枝は情熱的だな。
「私の事は良いんだよ。高須君が元気になるなら私はなんだってやる。」
なんだって…か、その言葉に冷たい身体のすみれを思いだす。
「勿論、それだって良いよ。高須君が望むなら受け入れる。」
良くはないだろ…お前が傷付くだけじゃないかよ。
「良いんだよ。高須君の気が少しでも紛れるならなんでも良い。」
241勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/27(日) 03:07:56 ID:ohZCkKTg
俺の方が良くねぇ。そんなのはゴメンだ。
「何で?私の身体に魅力が無いなら、変化の杖であーみんに化けたって良い。私は高須君さえ元に戻ってくれればそれで良いんだッ!!」
櫛枝は、勝手に服を脱ぎ始めた。俺も、櫛枝から目を逸らしたりはしない。だが、その豊かな胸も薄い茂みも、俺の心を打つ事は無かった。
櫛枝の献身的な奉仕も虚しく、俺はホントに何かが壊れてしまったんだという自覚を強めるだけの事だった。

−81日目−

朝早く、しばらく振りに外へでた。街の外ではインコちゃんが待っていてくれた。俺は1人で、インコちゃんの背に飛び乗った。
ホントは旅になど出たくないが、もう家には居づらい。櫛枝にも大河にも顔を合わせたくない。
このままだと、きっと2人を不幸にしてしまう。俺はギアガの大穴へと飛んだ。死ぬには良い日だ。

ぼうけんのしょ1 りゅうじ

冒険の書にありのままを書いたら、神父が凄い顔をしていた。でも、ホントの事なんだから仕方がない。
自分の冒険の書を読み返してみれば、最初の辺りからずっと川嶋の事ばかり書いてあった。
俺がもっと早くに気がついていれば、こんな事にはならなかったんだろうな…

PS.
ギアガの大穴から飛び降りたら、別の世界にたどり着くらしい。
天国ではなさそうだし、案外すみれの行くべき世界と同じだったりして…
242勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/27(日) 03:08:35 ID:ohZCkKTg
今回はココでおしまいです
次回も良かったらミテネ
243名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 03:12:39 ID:UGxqLO0c
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

>私は高須君さえ元に戻ってくれればそれで良いんだッ!!」
ああ、相変わらず困った御仁だ・・・
>即、自分の腕ごと火をつけるなんて
亜美ちゃん様・・・おっかねえなあ。

次回も楽しみにしてます。
244名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 03:39:32 ID:FACpBGAS
乙!いろいろな意見があるが、オレは楽しんでるぜ!
245名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 03:48:32 ID:7vKHNHz7
読みたくないものをスルー出来ないお子様はほっとけばいい
てか自己主張とかいらないから
ドラクエ完結目指して頑張ってくれ
246名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 04:14:21 ID:XTG/YGEu
まさかのハード展開 乙でした。
247名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 05:40:02 ID:xkLLckqW
GJ
続きが投下されて良かった。
ありがとう
248名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 06:57:13 ID:72SBnX2y
GJ!
凄くおもしろかったよ。続きを楽しみにしてる。
249名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 08:24:04 ID:sW36xI7V
>>241
みのりん健気だ、すみれもかっこよかった
次は竜児が頑張るべきだろうけど、今でもあーみんを好きなんて理解できんなぁ
250名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 11:51:36 ID:uU9YoxUY
GJ
とらドラ+ドラクエ+スレイヤーズとは……
オレの好きな作品のコラボは嬉しい限りだぜ
上記3つ以外には気づかんかったがまだ元ネタあるやつある?
251名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 14:36:06 ID:FD5cav8h
>>250
北斗の拳とかかな。すみれの↓の台詞とかレイの台詞のパロっぽいし、前にもみのりんの出目がジャギ様だったりしたし。
>それじゃあ、もう行ってくれ。私の身体が朽ちていくのをお前には見られたくない。 あとはもう死に方の問題だけだ。死に方のな。

石仮面はジョジョかスレイヤーズかどっちか判断に迷うとこだ。DIO様かセイグラムかどっちだろう?

>>241
急にハードな展開になってビックリしたけど面白かった。次回も期待してる。GJ。
252名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 20:23:46 ID:7zMtIctl
>>241
GJ!
次も期待してます。
253 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/27(日) 21:29:23 ID:ZdDyZYXv
『みの☆ゴン』

>>129からの続きを投下させていただきます。
13レス分(135〜147)です。

内容  竜×実です。その分、カップリングが原作と変わっています。
    虎×裸、亜×春 など。
時期  1年生のホワイトデー 〜 2年生の夏休みまでです。
    今回は夏休み7月21日という設定です。
エロ  本番あり。竜×実です。
補足  内容、文体が独特で、読みにくいかもしれません。
    ご不快になられましたら、スルーしてください。
    毎週お邪魔させて頂きましたが、来週は事情で投下できませんので次回は早く
    ても、再来週になります。そこでいつも推敲時になるべく短くまとめるように
    改善しているのですが、今回はあえてノーカットにしましたのでいつもより長
    くさせていただきました。
    また、続き物ですので、ここからお読み頂いきますと、ご不明な点が多いと思
    います。
    
宜しくお願い申し上げます。
254みの☆ゴン135 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/27(日) 21:30:34 ID:ZdDyZYXv

 この初恋は、実った。

 苦節17年。長い道のりであった。高須竜児との恋は順風満帆。
 これから櫛枝実乃梨は両想いの竜児との沖縄旅行。他にも約四名いるのだが、めくるめく
二泊三日のドキドキラブラブアバンチュールなのである。しかし実乃梨は当日の朝五時、自
宅の玄関でいきなり出鼻を挫かれるのであった。
「お姉ちゃん、いってらっしゃ〜い! 忘れ物ない? ガッツよ、気合いれてね! 対竜児
 用、悩殺ビキニちゃんと入れた?」
「そんなの持ってねえし、持ってたとしても持ってかねえよ! お母さん朝っぱらからエロ
 いこと言うの禁止!」
「竜児さんはいいひとだ。俺的には義理の弟として毎月教育費払いたいくらいだ!ガンバれ
 よバーニィ! 俺も甲子園からエールを送る!」
「変な電波送るんじゃねえよ、みどり! だいたいおめーはレギュラーじゃないじゃん!
 生意気なこといってんじゃねーよな!」
「竜児くんによろしくな。今日のお前は……とても綺麗だ。うぐっ」
「……ありがとうお父さん。……てか結婚式じゃないんだから、泣かないでおくれよ! も
 〜、みんななんなのさ? おわっ、もう行かなきゃ! じゃあね! アリーヴェデルチ!」

 実乃梨はお節介なファミリーに別れを告げ玄関のドアを開くと、まだひんやりと涼しさの
残る夏の朝の風が実乃梨のまぶたを冷やしてくれた。家の中にいてはわからなかったが、天
気は快晴。遠い空には早くも入道雲が湧きあがり、今日の暑さを予感させる。
 暑くなるころには、多分もう沖縄についているだろう。そんな想いを巡らすだけで口元が
緩むぐらいに楽しみだった実乃梨は、待ち合わせ場所の大橋駅へと急ぐ。まだ集合時間では
ないが、多分一番早く来るであろう竜児に、……『おうっ! 早いな実乃梨』『ううん竜児
くん、今来たとこ?』……が、やりたかったのだ。
 純白のワンピースを纏った実乃梨はその効果によりキャラが豹変、乙女全開になっている
のである。昨晩なんかも鏡の前で独りでファッションショーみたいにクルクル回ってみたり
していたのだ。その浮かれポンチな姿を家族に見られていたというのは、帰宅後に聞かされ
ることになるのだが。
 慣れないヒールに、ロングスカート。せっかくのおめかしもズッこけたら竜児との関係は
進展どころか破局だ。注意深く駆け足でなんとか駅まで辿りつき、思惑通り集合場所
にはまだ誰もいなかった。そこで気を緩めしてしまった実乃梨はヒールを階段で踏み外す。

「あっぶねえ!」 
 バランスを崩し、転びそうになるが、そこに実乃梨の王子さま、竜児が降臨し、腕をしっ
かり掴んでくれていた。
「おはよう実乃梨、怪我なかったか? 沖縄だからって、はりきって慣れねえヒールとか履
 いてくるからだろ……まあすっげえ、似合ってるけどな……おうっ! おまえ靴擦れして
 んじゃねえか……ほら、見せてみろ」
 実乃梨は竜児に肩を借りて駅の構内に設置されたベンチに座らされ、白いハイヒールを脱
がしてもらう。……こんなことを好きな男子にされちゃうと、フツウの女の子はデレてしま
うのだ。

「だってよ〜。ちっとでも竜児くんの前で可愛いくしたかったんだよ〜」
「……」
 竜児は実乃梨の指に絆創膏を貼ってくれているが、うつむいたまま、なぜか耳を赤くした
まま、返事はなくノーリアクション。実乃梨はなんとなくデレ損した感じになり、拗ねるの
であった。つまり竜児に甘えるのだ。
255みの☆ゴン136 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/27(日) 21:32:06 ID:ZdDyZYXv

「も〜……それが好きな子にする態度〜? ……竜児くんのイケズゥ」
「おうっ! なんで急に機嫌悪くなるんだよ? そして足バタバタさせんな。うまく貼れね
 え……」
 竜児が足の甲を掴むと、大人しくなる実乃梨だった、が。
「おうっ!」
「なんだそれは……」
「おうっ!……竜児くんのマネ。おうっ!」
 いきなりモノマネされ、竜児は少し膨れっ面になり、よく見れば、顔全体が赤かった。
「……やめてくれ。ほら、絆創膏貼ったぞ。なんかお前こそなんか態度おかしくないか?
 なんだよ。俺のこと守るって言ったのは一体誰だよ」
 竜児は立ち上がり、実乃梨をジロリと見下ろす。背後には通勤する通行人が数人と通り過
ぎている。
「な! なによ、竜児くんだって……私のこと愛してるって言ったくせに……」
「ばっ!……駅のド真ん中で何言ってんだよ! 照れるじゃねえか!」
 竜児は真っ赤な顔を両手で挟み、身悶える。思いのほか声のボリュームが大きかっかよう
で振り返る通行人もいた。
「ふ〜んだ。駅の中心でも世界の中心でも、愛を叫んでくれなきゃいやだっ!」
「そんなところで叫ばなくても俺はおまえのこと愛してるって! いちいち言わせないでく
 れよな!」
 一般人ならデレデレ過ぎてとても目も当てられない。同じように待ち合わせしているグル
ープの数人が観客化し苦笑いしているのにも気付かない。そんな、どピンク空間を形成して
いるバカップルに語りかける猛者が現れた。

「な〜に朝から痴話喧嘩してるんだ……恥ずかし過ぎて、なんかのドラマの撮影かと思った
 ぞ……」
 北村佑作がお手上げ状態のように首を振っていた。その隣には自分の身体ほどのトランク
を引きずっているミントグリーンのワンピースをお人形さんのように着こなす大河の姿があ
った。
「みなさまおはようございます……ご機嫌うるわしゅう……」
 などと他人行儀なご挨拶。ごんぶと毒蛇を一本飲み下ししようとして喉に詰まらせた虎み
たいな瞳を泳がせ、実乃梨から目線を反らしていた。それを見て、はたと正気に戻る実乃梨
は大河に救命処置を施すのだった。
「た、大河おはよう! お見苦しいとこをお見せしちまった! 今見たことは忘れておくれ!」
 ガクガク大河の肩を揺さぶるが、本物の人形のように大河は微動たりともしなかった。あ
のみのりんが……大河的にはそんな感じなのであろう。すると実乃梨は竜児に振りかえり、
パシパシ竜児の肩を引っ叩き、八つ当たりするのであった。
 引き続き行なわれていくイチャイチャぶりに、やれやれと北村は諦めたように腹の底から
二酸化炭素を絞りだす。
「まあ……それはさておき、まだ集合時間よりだいぶ早いよな? 偉いぞ二人とも。俺は先
 にみんなの分の切符を買ってくるとしよう。逢坂一緒においで」
 ぎくしゃくと北村の号令に従うメカ大河。実乃梨も一緒に切符売り場へ向おうとベンチか
ら立ち上がるのだが、竜児はハッと思い出し、実乃梨の手をつかむ。
「なあ実乃梨。俺たちSuica持ってたよな? 川嶋のストーカー追跡したときのやつ。今日
 持ってきてるか?」
 進めた足をピタッと止め、実乃梨は回れ右。
「おおっ、そうだったね竜児くん。たしかお財布の中に……あれ? なんだこれ?」
 ポーチから取り出した財布の中に、実乃梨はなにやら見慣れない半透明のカラフルな色を
した正方形のパックを見つける。
「おうっ、なんだそりゃ? キャンディー? いや、輪ゴムか何かか?」
 竜児も覗き込み、その謎のパックを見つめる。それには実乃梨の母親の文字で、『ママよ
り』とサインペンで書いてある……しばし二人はシンキングタイムに突入するが、そこに割
り込む声がした。
256みの☆ゴン137 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/27(日) 21:34:18 ID:ZdDyZYXv
「ちょっとちょっと実乃梨ちゃん! そんな恥ずかしいもん早くしまいなって! 早く!」
 たった今到着した亜美が、小さな顔を半分隠すようなサングラスをわずかにずらし、実乃
梨の手のひらの上に鎮座するゴム臭かもし出すパックを見るやいなや両手バタバタの大騒ぎ。
 それに動揺した実乃梨は訳もわからず大至急財布に戻すが、亜美は取り乱したまま、コッ
ソリ実乃梨に耳打ちする。
「ひえぇ、なになにあーみん、おはよう……え? これ? これが? マジで? うおおお!」
 実乃梨が財布の中から取り出したのは、半透明の袋に入った避妊具。つまりコンドームで
あった。ギャーギャー実乃梨も亜美と抱き合って騒ぎまくるが、実乃梨は放棄するつもりは
ないようで、キッチリ財布に閉まったままだ。
 そして、
「ぐっも〜に〜ん☆久しぶりじゃ〜ん! みんな元気だな〜! なに騒いでんの?」
 集合時間ぴったりに来たのに一番遅くなってしまった春田が改札口で回転していた。
「おうっ春田なんだその髪はっ! パツキンじゃねえか!」
「やや? 春田くん、あんたそりゃあ、超サイヤ人かね?」
 混乱状態から完全復帰した実乃梨は、クリリンのことかーっ!!! っとド金髪の春田に
定番のツッコミを入れるのだが、
「そーそー、世界ふしぎ発見! 俺も好きなんだよ〜☆ミステリーハンターin沖縄!」
「まてまて春田。違えよ。スーパーまでしか合ってねえぞ」
 いまだにコンドームの正体を知らない竜児だったが、なんとなく妖しげな空気を読み、話
題を変えるのに成功するのだった。

そんなこんなで、沖縄ツアー御一行は全員集合。仲良く空港へと向うのである。

***

「この鉄の塊が本当に空を飛ぶのか……ズバリ人類の叡智だな」
 空港に到着した六人は無事にチェックインを済ませ、機内に乗り込んでいた。ただ、座
席が三人づつに別れてしまい、こちらは男性陣。北村は窓ガラスにへばりつき暖気運転中
の飛行機のエンジンを興味気に見入っている。おおーっとか言いながら。
「……狩野先輩なんかは、いつかロケットに乗るんだろ? すげえよな……おまえは宇宙
 に行かなくていいのか?」
 ジロリと振り向く北村のおデコは、窓ガラスに張りついていたせいで赤くなっている。
「なんだ高須、意味深な発言だな。俺には逢坂がいてくれる。会長を応援しているがそれ以
 上はない。それより春田はどうなんだ? 俺の幼馴染と」
 前の座席についているディスプレイ画面を動かそうとコントローラーをグニグニしていた
春田は、飛ばないと動かないらしいという情報を北村にもらい、そのままニヤケ面を向ける。
「おりぇ? フヒヒ聞いてくれる〜? 昨日亜美たんから電話あったんだよ〜。で、『わー
 亜美ちゃんじゃーん、明日たのしみだね〜』って俺が言って、亜美たんが『うっふ〜ん、
 春田ちゃんはぁ〜、頼りになるよね〜』とか言って、そんでいきなり『旅行中、お荷物持
 って欲しいの〜、んでぇファンから守るボディーガードにもなってぇ〜ん。カチョイイ春
 田ちゃん、おんねがぁ〜い』って頼まれたからさ〜! もうラブラブって感じなんだよ〜☆」
 竜児はちょっと考えて、
「……なんかおまえの中の川嶋像には妙な補正がかかってんな……てか、川嶋にいいように
 使われているだけじゃねえか? ……まあいい。とりあえず朝飯でも食おうぜ。おにぎり
 持ってきたんだ」
 竜児はテキパキと荷物に詰めてきた風呂敷包みを開き、一人に二つずつほいほいと渡して
いく。
257みの☆ゴン138 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/27(日) 21:35:57 ID:ZdDyZYXv

 一方、女性陣。
「おにぎり? やだ、感激かも! 朝から飲まず食わずだったんだあ!」
 と実乃梨からおにぎりを手渡されて目を輝かせる亜美は、目以外にもシンプルなタンクト
ップとデニムに包んだその八頭身のスタイルで、今日も凄まじく輝きまくっていた。いただ
きま〜す!と、おにぎりに喜んでかぶりつく。
「ふつうにおいしいじゃん! 実乃梨ちゃんってぇ〜。いいお嫁さん、捕まえたよね〜?」
 大きな瞳をくるん、と光らせ、亜美は実乃梨を揶揄するが、
「ばかちー馬鹿なの? 死ぬの? 竜児じゃなくて、みのりんがお嫁さんでしょ? あんた
 本当にどうしようもない馬鹿ね。どうしようもなく馬鹿ばかちーね」
 口をモグモグさせながら大河が、唇に海苔をくっつけたままのチワワに因縁をつける。
「冗談も通じないやつに馬鹿って言われたくないわね! フンッ!……それよりさ〜、実乃
 梨ちゃんさっきのア・レ・だけど。大胆よね〜、ヤル気まんまんね〜! あっは〜?」
 その瞬間、ブッ! と実乃梨の口からなにかが発射された。それはまるで弾丸のように、
真横の大河の額にコツーン! とブチ当たる。撃ち抜かれたでこを押さえて大河は呻き、顔
を伏せ、その股間にぽとりと落ちたのは種だ。実乃梨が噴きだした梅干の種。

「ごっ……ごめん大河! ていうかさあ……あ〜みん!」
 大河に謝り、亜美を叱り、実乃梨の頬は一気に高潮していく。声もひっくり返っている。
「ごめんー」
 と言いつつ、亜美は肩をすくめるが、反省の色は全くない。
「ごめんじゃないよお? 恥ずかしいもん早くしまえっていったのあーみんじゃんよっ!」
「おねがいみのりん、落ち着いてっ……まずはこの種をなんとかして」
「おっと、櫛枝シードデスティニーが」
 大河は股間に落ちた梅干の種を実乃梨に手渡しで返しつつ、実乃梨に誠実な顔を向ける。
「ねえみのりんアレってなあに?なんか持ってきたの?」
「えっ! ……や……それ……は……そ、の……コッ、コッ、コッ……!!」
 実乃梨はニワトリ化し、卵を産み落としそうなほど真っ赤な踏ん張り顔になって、肘掛け
を乗り越え、亜美の膝の上に座り、じたばたと悶えている。尻の下で亜美が苦しそうに「重
い……」と呻くのにも構わず。

「コン……た、大河……な、なんくるないさ〜」
「やだぁ〜実乃梨ちゃんってばあ、タイガーだけ知らないの可哀想でしょ〜」
 にっこり、と微笑み、亜美は実乃梨を見つめたまま、大河に対して甘い声で耳打ちする。
「え? なにばかちー?……ふみゅっ! こ? 今度産む? コンドッ……ぶーっ!!」
 今度は大河の口から何かが発射された。しかし大河のおにぎりはコンブだったので、今度
の凶弾はゴマであった。ペンキで塗ったように赤くなって、むふーっ!っと鼻息一発噴出す
る大河の横には、ゴマのショットガンを食らった亜美が、ワナワナとおしぼりで顔を拭いて
いた。問答無用、斬捨御免。武力衝突寸前と思われたそのとき、不意に、
「おっ──」
 反対側に座っている北村が上げる声が聞こえた。
 窓の外が動きだし、窓際の亜美が、そして大河と実乃梨が顔を外に向けた。飛行機のエン
ジンが出力を上げ、唸りをあげた。テイクオフ。一気に景観をミニチュア化させていく。機
体を旋回して沖縄へと機首を向ける。
 そして実乃梨たちは一気に顔色を取り戻し、これからのバカンスに想いを馳せ、いつもの
ような目を輝かせる。
「う……っわーお! きたきたきましたー! まってろよー、沖縄〜!」
 六人を乗せた旅客機は海上に出て、青銀に輝く翼は太平洋の水平線と共に、きらきらと真
夏の太陽を浴びて輝いている。
 真夏の青空の下、ブルーに光る七月の窓景はどこまても遠く、眩く続く。

***
258みの☆ゴン139 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/27(日) 21:37:09 ID:ZdDyZYXv

「ちょっとどういうこと? 支配人だして」

 空港から1時間。沖縄本島北部のリゾートホテルに送迎してもらった六人は、定員三名の
トリプルルームを2部屋で予約してあるのだが、ホテル側のミスでダブルブッキングされ、
フォースルーム一部屋しか空いてないとのことだった。慌ててフロントマネージャーが急遽
近くのビジネスホテルの二人用の部屋を確保したとのことなのだが、とても亜美的には納得
できるはずもない。せっかく沖縄くんだりまで来てビジネスホテルなんかに泊まれない。そ
んな感じで毅然とフロントマネージャーに突っかかっている。のだが、

「なあ仕方ねえだろ川嶋。フロントマンも代替のホテル探してくれたり頑張ってるし、こん
 なに謝ってるじゃねえか。仕方ねえ。そのビジネスホテルとやらに、俺が北村と一緒に泊
 まって……」
「あいわかった高須! 男同士、ふたりきりで朝まで語り明かそう! 全裸のおまえをガッ
 チリ俺が受け止めようじゃないか! バッチコイ!」
「……と思ったけど、やっぱり春田と……」
「ひゃ〜ん☆高っちぅぁ〜ん、やちゃちくちてぇ〜ん☆」
「……もとい、俺と実乃梨がそっちのホテルに泊まる。それでいいだろ? 実乃梨、行こう」
「おっ竜児くん、駆け落ちかい? かまわんよ、ボクは」
「マジで? ……高須くん実乃梨ちゃんゴメン。ママを通してホテル側にはそれなりの謝罪
 させるから。水着に着替えたらこっちのホテルのプラーベートビーチに戻ってきてね」
 そして竜児と実乃梨はホテルマンたちの最敬礼を受け、代わりのホテルへと向う。

***

「高須さま、櫛枝さま。ごゆっくりお寛ぎください」
 五分ほどで到着したホテルの門をくぐり抜け、レセプションハウスを通り過ぎ、アジアン
テイスト満天の、ただっ広いコテージの前に案内された竜児と実乃梨。
「ホテルっつーか、なんか普通に家……いや城に近いんだが……」
「わ、私たち、ここに泊まるの? 泊まっていいの? ほおおおお……竜児くんとりあえず
 部屋入ろうよ……チャービラサ〜イ……」
 恐る恐るコテージの重厚なドアを開けると、二人の視界に開放的な空間が飛び込んできた。
 室内にはオブジェや絵画が飾られており、上質な調度品がこれでもかとばかりに配置され
ている。前にテレビで芸能人が紹介していた海外高級リゾートのようなオリエンタルで温か
みのあるインテリアは、流れる時間がゆっくりと感じられた。そして正面の壁面は全面窓ガ
ラスになっており、そこから壮大な絵画のようなコバルトブルーの海が臨める。
 さらに庭へ出るオープンエアのテラスには、アカシアのデッキチェア、ガーデンテーブル、
10メートルほどのプライベートプールがあるのだった。

 ──つまりここは、超高級リゾートホテルの超スイートルームなのである。

「……最近の、ビジネスホテルってのは、こんなに豪華絢爛なのかよ……」
「すげー! 竜児くんすげーよ! 映画みたいじゃん! ……なんかの間違いなのかな?
 もしかしてドッキリ? 隠しカメラあったりして……」
 ただただ圧巻し、立ち尽くす場違いな高校生カップルは、さっきからドアをノックされて
いるのになかなか気がつかないでいた。先に気づいた実乃梨は幼な妻のように小走りでコテ
ージのドアへ向う。

「川嶋安奈さまより、お届けものです」
 とバトラーから、巨大な花束を受け取った実乃梨は、リビングに戻ってさっそくクリスタ
ルの花瓶に生けようとするが、そこにメッセージカードが添えられているのを見つける。

『大当たり! 自らビンボークジを引いた良い子へのサプライズプレゼントです。楽しんでね』

 ……そんなことが記してあった。川嶋安奈の直筆で。その芸能人のサインだけでもプレミ
アものだというのに、本当に泊まっちゃっていいのだろうか。しかし娘同様、美人のくせに
意地悪くて、素直じゃなくて……金持ちの考えることはよくわからない。
259みの☆ゴン140 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/27(日) 21:39:06 ID:ZdDyZYXv
 メッセージカードをテーブルに置き、竜児たちがテラスに出ると、見渡す限りオーシャビ
ューの絶景ロケーション。優雅な気分に胸がキラキラときめく。しかしこんなムーディーな
場所に恋人と閉じこめられて、平常心でいられるはずもない。こういうところは、日常から
脱するところなのだ。

 改めて竜児が見た実乃梨の姿は無邪気な天使のように幻想的で、美しかった。コテージに
吹く潮風になびく髪先。純白のワンピースに少し日焼けした柔肌。物憂げな長いまつ毛。採
れたての果実のような唇……太陽のように光り輝く彼女に内燃機関がソーラー発電の竜児は、
理性の針を振りきり、欲望がムラムラ湧き出してしまう……のは少しも変なことではない。
とっても自然なこと。などと自分に言い訳をしたりする。
 そんな恋人のエロッ気も知らずに盆踊りみたいに、わっせろ〜い! とはしゃぎだした実
乃梨を後ろから竜児はガバッと抱き留めてしまうのだった。キスしたい……そう囁き、その
ままスイッチを切ったかのようにフリーズした実乃梨の顎を、そっと竜児は自分の唇の方角
へ……すると、

「ん〜、だ〜めっ! だめだよ竜児くん。竜児くん一回キスしたら長いんだもんよ。とっと
 と水着に着替えてみんなのとこ戻ろ? ね?」
 と、竜児をなだめる。そして少し残念がる竜児に、「……あとで」と間髪入れずに照れな
がらもフォローを入れてあげるのだ。

 キスを窘められた竜児は素直に水着に着替えを始めるが、気分以上に盛り上がってしまっ
た身体の一部をなだめるのに、しばしの時間を要するのであった。

***

「おーい!高須ー! こっちだぞー!」
「みっのりーんっ! こっちこっちー! だっこー!」
 ピヨーンとジャンピングだっこでしがみつかれ、バランスを崩した実乃梨は失敗した雪崩
式スープレックスのように大河を抱えたまま真っ白な砂浜に転がる。
「おうーっふ! よーしよしよしよし! 大河〜! いい子にしてたか〜い?」
 その横で引き締まった肉体を競パン一丁で晒している北村は、沖縄の眩しい景観にいい感
じに溶け込んでいたが、世の中上には上がいるものである。
「待たせてすまねえな北村、春……おうっ春田! ずいぶん派手な水着だな! 布が少な
 いというか、なんというか……」
 裸族の称号を冠する北村を差し置いて、背後から躍り出た春田はハイレグV字ブーメラン。
「いえ〜す!亜美たんのビキニに対抗してブ〜メラ〜ン!あれ?そういえば亜美たんは?」
 辺りを見回すと、ビーチサイドに繁るヤシの実の下にちょっとした人だかりができていた。
そこで「本物だ〜っ」だの、「かわいいー!」とか、「写メとりた〜い」などと大騒ぎする
女子中高生たちに囲まれてしまっているのは亜美であり、亜美は写メは丁寧に断りつつ、
「え〜、よく気付いたねー? 応援してくれて、みんなありがとー?」とうるうるチワワモ
ード、愛想よく握手やサインに応じている。
「川嶋、本当に芸能人なんだな……」
「私も普通にばかちーのこと知ってたしね。本性を知らないって幸せなことよ」
 大人たちはその大騒ぎを不思議そうに首を傾げていたが、中高生にとって、川嶋亜美とい
えば、憧れのド真ん中そのものの存在なのだった。
「あああっ! そーだ俺っ、亜美ちゃん救出しなきゃあっ! ぼでぃ〜が〜ど☆」
 遅ればせながら亜美との約束をピコーンと思い出す春田。ビキニ姿に見蕩れている暇はな
い。緊急出動、春田はゴムひもで結わいたチョンマゲをゆんゆんさせながら亜美に駆け寄っ
ていく。
「ねー、亜美ちゅわ〜ん! 高っちゃんとかとパラセーリングしよ〜よ〜!」
 女子中高生の結構な人数に膨れ上がる人だかりを春田は強引に中央突破。変質者と間違わ
れ、「亜美ちゃんを守れ!」という少女たちに多少過激な歓迎を受けてしまうのだが、亜美
の腕が春田に腕を絡み付くと同時に一気に事態は沈静化し、
「ゴメンなさ〜い。今日はプライベートだし、お友だちと一緒なんだ! またね?」
 なんとか脱出に成功するのだが、春田は亜美にゴツンと叱られてしまう。
「春田くん! お・そ・いっ! ちゃんと約束通り私のガードしてくれるかな〜?……つか
 本当にパラセーリングすんの?」
260みの☆ゴン141 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/27(日) 21:40:29 ID:ZdDyZYXv

***

「私泳げないし怖いからやだ。高い所が好きな者同士行ってくりゃいいじゃん」
「……なんか遠回しに悪口言われた気がするけど。タイガーは行かないのね? 実乃梨ちゃ
 んはどうする? 行く?パラセーリング」
「行く行くー! アイキャン、フラァーイ!」
 と実乃梨は大の字になってジャンプ。真夏の沖縄の太陽にも負けない眩しさで健康的な笑
顔を撒き散らし、竜児の心は一気に熱射病寸前に体温上昇、恍惚とさせてしまうのだった。
親友の実乃梨がパラセーリングに行ってしまうとのことで、しょんぼりする大河に北村は、
「なあ逢坂。よかったら俺とジェットスキーに乗らないか? 今回の旅行のために、おまえ
 と乗りたくて、特殊船舶の免許とったんだ。泳げなくても大丈夫だぞ。一緒に風になろう!」

***

「おーい! みっのり〜ん! こっちこっち〜! うわわっ!」
「すまん逢坂! 波に乗り上げてしまった! 思ったより難しいぞ!」
 波を乗り超え、小さくジャンプするジェットスキー。北村にしっかり抱き着く大河。ふた
りは颯爽と海面を切り裂き、煌めくスプラッシュを撥ね上げるのだった。そいつは竜児たち
のパラセーリングのボートと並走しているのである。はしゃいでいる大河の亜麻色の髪が靡
く。

「うふふ、大河楽しそうだ。でも平気かな〜? ちょっち心配」
「北村がいれば安心だろ。それよりも心配なのは上だ……上」
 ボートから大河に手を振る実乃梨。もう片方の手は竜児と繋がっているのだがその頭上。
先にパラセーリングでテイクオフしている春田・亜美組が空中散歩中にパニック状態に陥っ
ていた。

「あーもー! 春田くんしっかり! 落ちないから大丈夫だって! てか狭い! そんなに
 くっつかない……あんっ!……いやあ! もうっ、へんなとこ触んな!」
「ひょえ〜亜美ちゃ〜ん! ワザとじゃないよ〜! 結構高けーよー! おわわっ! 揺れ
 る〜! お股がひゅうううんってなるう〜!!」
 輝く郡青の空と紺碧の海のコントラストを優雅に楽しむ……余裕なんてのは今の二人には
皆無。悪戯な強風が、今までになく強くパラシュートを傾かせ、座席を揺らしていた。もち
ろんラブラブな雰囲気なんかはもってのほかである。

「あんた橋から飛び降りてくれたでしょ? なんでビビってんのよ!」
「それはそれ! これはこれ! なんだって〜、うひー☆」
「暴れちゃダメだって! 春田くん本当に落ち……ちゃ……った」

 ズバアーン! と盛大な水柱を立て水面にノーロープバンジーを決めたアホは、ドザエモ
ん寸前で北村に救助されるのだった。

***
261みの☆ゴン142 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/27(日) 21:41:10 ID:ZdDyZYXv

「ビーチクまっくろ高っちゃん?」
「違えよ。ビーチフラッグスだ。いろんな意味でひでえ間違いだな」
 そんな死に損ない春田のミラクルな間違いを竜児は受け流し、凶悪な三白眼をギラつかす。
南国のパラダイス気分に自堕落した愚民どもをキングシーサー竜児が地獄の番犬と化し灼熱
の太陽光をプリズムのように跳ね返し、燃えろ燃えろ!地獄の業火に焼かれるがいいわ──!
 っと思っているわけではない。三人はランチ後の運動に、なにかしようと相談していたと
ころなのだ。そんでもってとりあえずビーチフラッグスをやろうと決まったところなのだが。

「ただ争っても面白くないな。高須に春田。いくらか握るか?」
「マジでか?……1000円ぐらいだと燃えるな……」
 しかし、春田からまたもやビコ〜ンと、大変な発言が飛びたした。
「ねー☆俺、勝ったら亜美たんからチューして欲しい〜☆フヒヒ」

「え"? わだす?」
 所在なさげに突っ立っていた亜美だったが、あまりの急展開にチェリー色の唇から訛りが
ポロリ。鳩が豆鉄砲を直撃されると、きっとこんなおもしろい顔をするのだろう。
「ふむ、春田にしては面白い提案だな! よし、勝者には祝福のキッス! その指名権だ!」
 北村の気随で我田引水なリーダーシップに黙ってられない亜美は、慌てて口を挟む。
「ちょっとちょっと待ってよ! そんなこと男子で勝手に決めないでくれる? みんな困っ
 て……困ってないじゃん!」
 亜美の思惑とは裏腹に、同意を求めた実乃梨と大河は亜美の傍らで頬を赤らめつつもウン
ウン頷いていたのだった。ここは日本。民主主義の基本は多数決である。だが亜美は当然そ
んなことでは納得できないのだろう、
「やだやだ、もっと他にすることねえの? ったくよー」
しかし、
「……バスガイドするマイケルジャクソン……」
「ひっ!」
 ぼそ、と大河が呪文のようにそう呟くと、亜美は全面降伏。承諾するのだった。

 多少強引だったがめでたく賞品も決まり、小さい砂山に枝を立て、男子三人は熱い砂浜に
うつ伏せになる。女子三人はゴール地点の先に立ち、スターターを実乃梨が務める。位置に
ついて〜っと叫ぶ。
 緊張する男子たちは言葉で牽制しだすのだ。

「う〜ひょ〜勝つぞ〜☆つっぱりの屁はいらんですよ〜!」
「屁のつっぱりだろ? 俺も負けねえぞ、春田」
「言葉の意味はわからんがとにかくすごい自信だ……いくぞ!」

そして……
「よーい!……ドン! って言ったらスタートしてくれぃ!」
 実乃梨のフェイントに三人は見事に引っ掛かり、顔からズッこけ砂に埋まってしまう。当
然沸き上がるブーイングの嵐。

「すまねえすまねえ! 今度はマジだ。よーい……ズドン!」

 一斉に立ち上がり、ゴールである枝に向かって三人は一直線に猛烈ダッシュする。ズシャ、
ズシャ白い砂を蹴り上げ、スピードをグングン増していく。竜児も決して足は遅くはないの
だが、現役のスポーツマン二人の背中が少しずつ遠くなる。特にエロパワーでフルブースト
の春田は手に負えない。たしかに体育祭のときに、人間ひとつ位は取り柄があるんだな! 
そう言ったのは竜児だった。実際、賞品になってしまった亜美も薄々このレースの大本命は
誰か理解していた節もあった。
「は〜、やっぱり春田く……春田くん? は……春っ! 違っ……うぎゃあああっ!!」
 春田は何を勘違いしたのか、一番早くゴールしたにも関わらず、枝をスルーしてダイレク
トに亜美に突進し飛びついたのてしまう。しかもズシャーン!っと、がっぷり四つのまま押
し倒し、辺りは盛大に真っ白な砂ぼこりが立ち籠めるのであった。他の連中は茫然自失。結
局、ゴールの枝なんかそっちのけで、亜美からじゃん拳グーでブン殴られている春田の哀れ
な姿を見守るのだ。
262みの☆ゴン143 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/27(日) 21:42:01 ID:ZdDyZYXv
 北村はズレた銀縁眼鏡を直しつつ、体育会系らしく潔く負けを認める。
「亜美。そんなに春田をボコボコに殴らないで賞品のキッスをしてあげてくれ。枝は取り損
 なったが、一番早くゴール地点についたのは確かだしな」
 そう打開案を提示するのだったが、
「やだ。だいたい春田くんゴールの枝取ってないじゃん。それに私今襲われたし、バラセー
 リングの時なんかもあり得ないところいっぱい触られたし……ずえ〜〜ったい無理! フ
 ンッ!」
 ノックアウトした春田は、自業自得だとはいえ、ズタボロ状態。すると静観していた大河は、
「やだよばかちー、素直じゃないね。とっととこのアホとキスして召還の儀式終わらせちゃ
 いなよ。意外にあんたたちお似合いよ」
 まるでメイジのようにゴールだった枝を掴み、砂浜に魔法陣を描く大河。……五つの力を
司るペンタゴン。運命に従いし使い魔を召還せよ……とか呟きながら。
「……すまん、実乃梨。大河は何やってんだ? 解説してくれ」
「竜児くんこればっかしはスルーだぜ。知っているけどおしえてあげない」
「ほらほらばかちー。ほらほらー」
 枝先をクルクル回す大河。なんとなく本物のメイジに見えなくもない。
「なっ、なんなのよっ……あんたなんでそんなに違和感ないのよ。しかもいやに説得力ある
 し……わかったわよ。空気読んで、キッスすりゃいいんでしょ? もうっ」
「い〜よ〜、亜美たん、俺、魔法使えないし〜」
 そんなチワワの使い魔に同情する北村は、さらなる打開案を提示するのであった。

「……よーし! 次は女子の部だな! おまえたちスタートラインにつけ!」
 何でだよ! と、北村以外の全員が異義を申し立てるが、結局その強引なプッシュに女子
陣が折れ、渋々やる事になってしまい、順当に実乃梨が優勝し、クソ暑い夏空の下、熱い竜
児の首すじに実乃梨は軽くキスをするのだった。

***

「ただいま〜! 私。おかえり〜! 私」
「おうっ、なんだそりゃ実乃梨……なんか寂しくねえか、それ」
 六人で夕食後、今日は朝早かったし、明日も早くからクルージングの予定をしているので
まだ七時過ぎだったが、コテージに戻ってきた竜児と実乃梨。あの後もビーチバレーやらバ
ナナボートやらのアクティビティを満喫。遊びまくったのだった。

「いや〜! 竜児くん日焼け焼したね〜。日焼け竜児。あ、今の三宅裕司と掛けたのね。肩
 とか真っ赤っ赤じゃん! あーみんからもらった日焼け止め塗らなかったの?」
 やたらと高級そうな日焼け止めを指で摘んでプラプラさせる実乃梨。竜児は、
「なんか女もんって、なんとなく塗るの抵抗あってだな。……おうっ、皮剥けた……日ごろ
 肌焼かねえから、ヒリヒリする」
 すると実乃梨はカバンをゴソゴソとまさぐり、
「マキロンあるぜよ! 塗る? 滲みるぜ〜! 超〜滲みるぜ〜!」
グイッと竜児に差し出した。
「え? 超? ……なんかいやだな……」
 滲みると言われて喜ぶはずもなく、竜児は躊躇するのだった。
「だめだよ塗らなきゃ。明日の朝絶対後悔するって。滲みるのイヤならこれは? やっぱ、
 あーみんからもらったんだけど、ロクシタンのローション塗りなよ。これなら滲みない
 ぜ? ほれほれ、塗ってやっから竜児くん上脱いで!」
 言われるがままに竜児はTシャツを脱ぐ。実乃梨は竜児の日に焼けた生肌を直視し、一瞬
 戸惑うようにピクッと引くが、ベッドに座る竜児の背中に優しく触れる……

***
263名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 21:42:10 ID:SgECqHJ9
日記の人、年末忙しいのかな。
早く続きが読みたいぜ
264みの☆ゴン144 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/27(日) 21:42:46 ID:ZdDyZYXv

 熱い。実乃梨はドキドキした。
「……竜児くんの背中、熱いよ……明日はちゃんと日焼け止め塗んなきゃね」

 そっと、やさしく竜児の背中にローションを塗る実乃梨に、新しい感情が芽生え始める。
……好き……愛しい……違う。もっと……モヤモヤしたもの……はあっ、はあっ……何故
か息が荒くなる……とっくんとっくん、そんな心臓の鼓動に目線もくらっと揺らぐ……

「広い背中……竜児くんってやっぱ……オトコっ……なんだよね」
「どうした実乃梨? おうっ……おまえ……」
 ギュウッと実乃梨は竜児を背後から抱きしめていた。そして、唇を熱い背中に寄せる。
「ちょっとでいいんだ、ちょっとで……このままでいさせて……ねえ……ダーリン」
 ポッと炎が灯る。竜児の匂いを嗅ぐ。世界で一番大好きな匂い。私の一番大切な竜児の。

 暫くその心地よい体温を感じていると、竜児がゆっくり口を開いた。
「なあ、実乃梨……つけるか?」
「へええ? つ、つけ? にっ、妊娠したら困るしっ!! つけてくだされ!」
 実乃梨は竜児の言葉に超反応し、後ろに飛び跳ねる。が、
「いや……テレビのことなんだが……」
 竜児は頭を掻き、体裁わるそうに答える。
「はうっ! テレ!……あ……そう……」
 かなり恥ずかしい早とちりをしてしまった……実乃梨は身体中が熱くなる。顔を両手で
隠すと、自分でもどんなに赤くなっているのか想像できた。
 ……するとダーリンはやさしく呟いたのだ。

「シャワー……浴びてこねえか?」
 それはそういうことなんだろう……実乃梨はコクンと頷いた。

***

 実乃梨は裸だった。バスルームだからあたり前といえばあたり前なのだが、ギリギリまで
水着で入ろうか迷っていたのだ。いくら彼氏とはいえ、扉の向こうにいるのだ。竜児が。な
んとなく気恥ずかしい。とっくに覚悟はしていたはずなのに。
「今日こそ……しちゃうんだろ〜な……私たち」
 頭の天辺から熱いお湯を注ぎ、それから首の周り、肩、胸へ移動、そして一気に股の間へ
ノズルを降ろし、実乃梨は洗った。丹念に、柔毛の下を。
「な、何してんの、私……」
 そう思うのは数秒。再び手を動かす。洗わなくては。女の部分を。実乃梨は思う……

 実乃梨は女に生まれた。その証にバスルームの鏡に映る、シャワーを浴びている自分のシ
ルエットは全体的に曲線を描き、胸の膨らみが性別を決定づけている。

 ──男に生まれたかった。……小さな頃から活発だった実乃梨はそう思っていた。
竜児と出合うまでは。
 ──自分の胸が嫌いだった。……運動するのに邪魔なのだ。腕を振る、廻す度に、
そう思っていた。竜児に触れられるまでは。

しかし、このコンプレックスの塊のようなカラダを、竜児は求めてくれている。そして実乃
梨自身も、触れて欲しかった……うん……実乃梨は自分を納得させるように頷き、バスルー
ムから出て、竜児のいるベッドに向う。

***
265みの☆ゴン145 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/27(日) 21:43:38 ID:ZdDyZYXv

 竜児の視線が向けられた箇所が熱を帯びる。焦げてしまいそう。もしかしたら彼のその鋭
い眼から何かビーム的なものでも出しているんじゃないか?
 ……っと冗談でも思い浮かべていないと、実乃梨はクラクラして気絶してしまいそうな気
がしていた。
 身体全体が心臓になったみたいにドキドキする中で、竜児は何を考えているんだろう? 
裸の私を見て、何を想ってくれているのだろう……そう想っていた。とてもえっちな事なの
かな……うん、きっとそう……今はでも、すごいえっちな事。いっぱい考えて欲しい。私……
私だけの事をもっと想って欲しい……そう考えると、胸の鼓動がさらに高まる……すると竜
児が、「キレイ」と実乃梨を褒めてくた。その言葉に喜んだ身体がひくんと、疼く。

 頭を優しく撫でてくれた。竜児の触れている箇所に、電気がピクッと走る。汗が分泌され
る。渇いていないのにコクンと喉が鳴る。
 やがて彼の手は、腕と肩をなぞるそうにすべらてきた。縦横無尽に動き回る彼の手は、実
乃梨をどんどん変えていく。さっきもそう。知らない感覚だった。なんか、頭の天辺から足
の先までオンナに染まっていくような、不思議な感覚。そっか……これか。実乃梨は思う。
これが、『欲しい』ってことか。そう思う。実乃梨は竜児が、彼を欲しかったのだ。

 そして彼の指は腰のくびれに移動する。ヘソの周りを撫でられ、腰のおにくを揉まれ、そ
して、彼の指先は、乳房へ向うのだ……無防備な乳房に視線が注がれ、そして大きな手で包
み込まれる。すると実乃梨の中でジュワッと沸き上がる。なにか……が。

「んくっ……竜児くん……」
「ああ……」
 彼はそれ以上なにも言わず、ピンク色の先端を執拗に弄くってきた。気持ちがふわふわする。
下の方がもぞもぞ感じる……なんか……人ごとのような、夢のような、私が、こんな……でも、
感じる。感覚が集中する。
 ──と、彼が吸い付いてきた。
「あんっ!」
 キュウウっと、ピンクの先端が縮こまる。意識が揺らぐ。もう一方の先端も彼のなすがまま
に弄ばれる。それが頂点に達したとき、
 きゅーん……
 と、胸が痛くなる。想いが、情熱が破裂しそうだ。だから、その想いを、私の唇が代弁する。
「竜児くん……好きっ」
 しかしそれは本心ではなかった。竜児を好き。それは間違いない。しかし全てではない。私
は彼と一つになりたかったのだ。でも、欲しい……とは言えなかった。
「実乃梨……好きだ。抱きてえ……」
 嬉しかった。どうしようもなく、嬉しかった。その感情に浸る間もなく、彼は強く抱き締め
てきた。強く、強烈にキスをしてきた。いままで何度も交わした熱いキス。それ以上に激しい
キスを。唇はもちろん舌を絡めるのもあたり前。鼻先がつぶれるのもいつも通り。彼はその裸
の身体の全てを駆使して、燃えるようなキスを実乃梨に捧げてきてくれた。それが本当に嬉し
い。しかし息が苦しくなる。でも実乃梨はもっとキスを欲しかった。このキスを、情熱を、彼
と交わしたかった。さっき彼の身体に塗ったローションが汗でヌルヌルする。脳が溶ける。そ
して無意識だったのだろう、実乃梨は彼の、竜児自身を掴んでいた。
「おうっ……」
 熱い息が実乃梨に降りそそぐ。それは硬く、やけどしそうなくらい熱かった。掌からどくど
くと鼓動が伝わってくる。
「ごめっ……触っちゃ、アフッ!」
 実乃梨の身体のいたるところをまさぐっていた彼の指先は、ついに脚の付け根に伸びて来た。
反射的に押さえようとするのを実乃梨はグッと堪えた。しかし嬌声を堪えることは出来なかっ
たのだ。
「あっ、あっ、あくっ!……あっ……ああっ」
 快感にココロが溺れる。ビクッと何度もカラダが跳ねる。

 そしてその、ココロもカラダも彼に預けたい……彼に全てを捧げたい。好……愛する人、
竜児に。

 そう想うのだ。
266みの☆ゴン146 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/27(日) 21:44:24 ID:ZdDyZYXv
「実乃梨……愛してる」
「私も……お願い。もっと愛して」
彼に伝わったであろうか?それは、彼と繋がりたい。一つになりたい……という、実乃梨の願
いだった。彼は実乃梨に軽くキス。そして、彼の右手は、横たわる実乃梨の右ヒザを外側へ向
ける。ヌチャ……さざ波の音に淫美な音が交ざる。恥ずかしくなり、足を閉じようとするが、
彼は許してくれなかった。実乃梨は濡れているところを晒したまま、今度は左手で、実乃梨の
左ヒザは開かれていく。そして、両足は、実乃梨のたいせつな場所が、竜児の目の前に晒しさ
れるのである。
「……挿れ……るぞ」
 わかってる。彼の先端がその辺りをくすぐる。
「ん……ん、ん……こっち……」
 彼の先端を私の指で導く。そして、入ぐちに触れる。
「ああっ……ここっ、かっ……おうっ」
「!」
 ヌルッという感じ。彼の先端がゆっくり私の入ぐちを開く。痛っ……くない。
「はあっ、はあっ……ど、どうしたの?」
 彼は浅いところで止まっている。そして動かない。
「い、痛くしたくねえ……ゆっくり……」
「……うん……んんっ、くっ!」
「おうっ! み、実乃梨……」
 彼を抱きしめ、自ら私は彼を受け入れた。思いのほかなめらかに、彼の熱が私の胎内に飲み
こまれる。お腹の奥まで……でも動かすことができない。
「はあっん! ねぇっ、このまま……」
「だ、大丈夫だ。動かねえから。俺も……ヤバい」
 なにがヤバいかわからなかったが、挿れられた彼の熱は、時折、私のおなかの中で動く。た
だ挿れているだけだけど、むずむずしてきて……どうしても動かしたくなってくる……そして、
そうなってきて、ゆっくり、ゆっくり、浅めに、丁寧に、私は自分で、腰を浮かした。
「んっ!……んっ!……竜児くん」
「おうっ、おっ、ヤバっ、出っ……くっ! 実乃梨っ!」
 彼は私を強く抱き返し、そして、
「出っ……ちまった……すまねえ……」
 一瞬、力んだ彼が私に落ちてきて、ギュッと抱きとめる。汗臭いおデコにキスをすると、彼
は私の唇に吸いついた。私も吸いつく。
 かなりの時間、抱き合ったまま、挿れたまま、たくさんのキスをむさぼった。そして、チュ
パッと、唇が離れると、
「ありがとう」
 と、お礼を言われた。なんかへんな気分になる。
「やだ竜児くん……なんでお礼なんて言うの?……もっと違うこと言って?」
 そう伝え、下から彼を見つめる。
「お、おうっ、そうだな……実乃梨……大愛してる」
「え? なにそれ? 初めて聞いたよ、大? あはっ! うふふ……おかしいのっ!」
 笑ってしまった。ちょっと困ったような顔がかわいい。
「そ、そうかっ……よく大好きとかよく言うから、大愛してるって……おかしかったか?」
「ううん? 嬉しいよ。私も、竜児くん、大愛してるよ? でも……そうだなっジャイアント
 愛してるのほうがいいかな?」
 そういうと彼はイタズラっぽい微笑みをうかべて髪を撫でてくれた。
「おうっ、それいいな。ジャイアント愛してるぞ。実乃梨……」
「うん! 知ってる!」

 そうして私たちは、おでこをくっ付けて、笑い合った。

***
267みの☆ゴン147 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/27(日) 21:45:14 ID:ZdDyZYXv

 コテージに用意されていたコットン地のパスローブは柔らかく、時折したたる汗も、きれ
いに吸い取ってくれる。二人は外に出て、コテージのテラスで夜風に当たりながら寄り添っ
ていた。
「星……キレイだな。たぶん手を伸ばせば届きそうな星空って、こういうことを言うんだな」
 そう呟く竜児は星空を見上げている。実乃梨はその横顔に見惚れ、考えていた。ベッドは
寝るところ。でも今日からは、愛を確認するところ、なのかなって……クスッと声が漏れる。
竜児には聞こえなかったみたいだ。
「だねっ。天の河キレイ。……ねえ知ってる? 沖縄ってもう少し時期が早いと、南十字星
 が見えるんだよ? 豆しばー!」
 実乃梨は軽く、豆を披露した。
「へえ。さすが南国だな……見てみてえな。いつか実乃梨と……」
 空から実乃梨に視線を戻した竜児はキスをせがんできて、実乃梨はそれに応えた。甘いキス。
「……うん、お願いしよっか。星に。たぶん見れるよ」
「おうっ、そうだな」
 ふたりの距離はゼロのまま、こんどは二人で星空を見上げる。本当にキラキラして綺麗だ
った。潮風のアロマと、波音の旋律が、カラダの余熱に再び炎を宿らせる。繰り返す呼吸と
心臓の音。とても彼を見れない。また……欲しくなってしまう。
「あっ」
 星が流れた。そして消えた。
「今見えたな、実乃梨。ちゃんとお願いしたか?」
 目が合ってしまう。自制心で、溶けそうな顔を保つ。もうどんな顔になっているかわから
ない。
「……う、うん。ばっちり」
 なんとか返事ができた。星にお願いもできた。きっと叶えてくれるだろう。流れる星は消
えてしまったが、この愛情はあの星たちのように輝き続けてくれるだろうか……なんてこと
を考えてみた。
「そういえば……つけなかったな……妊娠するかな……」
 突然竜児がそんなことを呟く。実乃梨は思った通りに返す。
「かもね〜……あのさ、私想像したことなるんだ。竜児くんとの赤ちゃんの名前」
 驚いたように竜児は、チャーミングな眼を向け、それを細めた。
「俺もある。実乃梨はなんて名前つけたんだ?」
 実乃梨もつられて笑う。いつものように。
「内緒。ってか、恥ずかしくて言えねーっすよ! 本当に赤ちゃんできたら話すってことで、
 乞うご期待!」
「そうだな。俺もそんとき話すよ」
 すると竜児は実乃梨を抱き、胸を触ってきた。ゆっくり、でも強く。実乃梨は胸の上の竜児
の手の甲を押さえ、首を横に振った。
「ん〜ん……竜児くん続きは明日……本当は私、明日初エッチしたかったんだからっ……でも
 前夜ってのもよかったかもね」
「明日? どうしてだ?」
 竜児は首を傾げる。実乃梨はその愛しい輪郭を撫でた。部屋から漏れる光を頼りに竜児を確
認する。愛するその存在を。

「だって明日はアレじゃん。eclipse……」
 竜児の瞳に映る、実乃梨の髪が夜風に揺れる。心も揺れる。実乃梨は吸い込まれそうになり
ながらもそれを伝えたのだ。奇跡を。
「エクリ……おうっ! そうか、明日はトータルエクリプス……皆既日蝕か」

 そう。竜児は自分を月に、そして実乃梨を太陽に例えてくれた……明日は七月二十二日。

 それは、太陽と月がぴったりと重なり合う……三百年に一度の奇跡の日なのである。


──To be continued……
268 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/27(日) 21:46:08 ID:ZdDyZYXv

以上になります。

お読み頂いた方、有り難うございました。
次回、スレをお借りさせて頂くときは、最終回を投下させて頂きたいと存じております。
半年近くお邪魔させて頂きましたが、あと1投で終わらせて頂きます。
再来週、1月10日のこの時間帯くらいをお借りするかもしれません。
失礼致します。
269名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 21:55:51 ID:SgECqHJ9
やっと終わるのか。
何にせよ、お疲れちゃん!
270名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 22:56:49 ID:+uAAJR20
>>268
GJ
恥ずかしくて何だか顔面崩壊しそうだ。
最終回楽しみにしてます。
271名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 23:41:37 ID:WgxBenZ7
>>268
スポーツ選手目指す者が妊娠したらまずいだろwとツッコミつつもGJ
皆既日食の件は感動したな…しかし都会ってそんな夏休み早いのかよ
272名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 23:53:43 ID:QCcQJiTF
最近奈々子様を見ていないな
273タイトル:敏感すぎる男はかっこ悪い:2009/12/28(月) 18:03:05 ID:lb5oZR6S
放課後の大橋高校。奈々子は「相談したいことあるの」と、同じく帰宅部である竜児を、人気のない場所へ連れて行った。

「あたし、そろそろ出番が欲しいんだけど…?」

上目遣いで竜児の両目に覗き込みながら、さりげなく、自分の巨乳を腕で挟んで主張する。
彼女の経験では、男にお願いする場合、そうすれば要求が通じられる可能性も高くなられる。
確かに、彼女の美貌と豊満な体格の存在は「等価交換」という原則をも破れる。ゆえに錬金術は現実に存在しない。

「俺だって香椎にもっと出て欲しいんだけど、それはやっぱり書き手の都合で決めるもんだ。すまん。」

だが、もう美人には免疫、さらに一度女不信になりかけた竜児は、あくまで冷静だった。

「そうかな。でもね、ここはエロパロでしょう?エッチな表現も許されるってね、逆に考えれば…」

奈々子は一歩進んで、両手を竜児の胸元に置き、さらに胸を竜児に軽く押し付けた。

「お、おう?」

突然の接近に戸惑う竜児。そして奈々子はつま先で立って、竜児の耳元に囁く。

「それは、エッチすればも出番も増えられる、ってことよ?」

清楚な感じの同級生にそう言われると、竜児は動揺せずにいられない。
イヤでも淫らなを想像してしまう、XY染色体によって付けられたその「性」が恨めしかった。

「……うっ」

奈々子はそこから追い討ちをかけた。

「あたし、『初めて』が高須くんとだったらいいなぁって。」

竜児の胸の鼓動は早まってゆく。股間の部分も、何時でも爆発しそうな具合で膨らんでいる。
二人の体が密着しているが故、奈々子は彼の体の変化を確実に感じ取る。彼女は勝ち誇りに微笑み、

「あたし、もう準備オッケーだから、何時押し倒してもいいわよ…」

そして竜児の首に小さいキスをする。

「お、おおおおおおおおう、おうぅ!?」

すると、竜児の体はぞっと固まって、元々無駄に白色が多い両目もさらに白く見えた。
彼が奇妙な声で叫んだあと、その口はパクパク開閉し、体も小刻みに震えだす。
驚かされた奈々子は、困惑そうに「なに?」と問いかかった。竜児は直ぐに答えを出さなかった。
しかし、暫くすると、彼はようやく正常に戻ったようで、長い息を吹き、

「もうすっきりしたんで大丈夫。急に洗濯物も増えたから、家に帰って処理しなくちゃ。」

と、気まずそうに言った。奈々子を押して離させると、「じゃあな」の一言だけ残し、その場を慌てて立ち去った。

「え、ええっ?」

…おわり。これは竜児のせいだ。
274名無しさん@ピンキー:2009/12/28(月) 18:26:37 ID:9s1u2wnz
>急に洗濯物も増えたから
よく見たら竜児の台詞だった。
つか、それだと竜児早すぎるぞwwwww

一瞬奈々子の台詞に見えてハァハァした。
個人的にはそう脳内変換して、寸止めを楽しませていただきますw
GJでした。
275名無しさん@ピンキー:2009/12/28(月) 20:56:11 ID:VWOxhETr
one shot one kill ならぬ
one kiss one shot だなww
276名無しさん@ピンキー:2009/12/29(火) 05:24:09 ID:bNS+ERBl
りゅーじwwwいくらなんでもそれはないぞwww
277名無しさん@ピンキー:2009/12/29(火) 09:11:50 ID:yB3erRe8
竜児「…」ぬぎぬぎ

竜児「櫛e…」シュコ

竜児「うっ………」

竜児「寝よう……」
278名無しさん@ピンキー:2009/12/29(火) 16:06:00 ID:C42sT8JI
手を使わずに射精とな
279名無しさん@ピンキー:2009/12/30(水) 16:05:37 ID:WAQzUGaI
このスレも1月3日までお休みか?それでは皆様、良いお年を〜
来年も良きSSが投下される年でありますように
280174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:10:08 ID:Wg52VKI0
今年最後のSS投下
281174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:11:05 ID:Wg52VKI0

「さぶっ・・・・・・」

吹きつける風のあまりの冷たさに辟易しながら、すっかり暗くなった外を歩く。
街灯が点々と照らす路地には馴染みがない。
いつの間にか家から大分離れた所まで来ていたらしい。
早く帰りてぇってのに。

「ったく・・・」

───放課後、一通りの買い物を済ませて帰ってきた後、晩飯の下準備を粗方終えた時だった。
ボトルの中の油が切れかけていることに気が付いたのは。
買い置きも詰め替え用のパックも見当たらない。
今日のおかずのメインであるトンカツを揚げるには残った油じゃ絶対的に量が足りない。
既に小麦粉も、卵も、パン粉さえも塗した豚ロースは、別の方法で火を通すにはなんだかもったいなくて。
買ってきてくれるよう頼もうにも、泰子は途端に出勤準備に勤しみ始め、大河はめんどくさいの一点張り。
インコちゃんなんてわざとらしく狸寝入りまでかます始末。ある意味すごい。自分もお使いを頼まれるって勘定に入れてる辺りが特に。
そうして結局。

『早くしなさいよ、私お腹減ってるんだから』

『あっ、じゃあね、じゃあね、やっちゃん一緒にプリンもー』

『ぐえっえ』

数の力というよりは女性の力が如実に反映される我が家の、言うなれば高須家ヒエラルキーとでもいったところか。
その末端には自分が位置しているのだと思い知らされる。
頂点が泰子なのは間違いないだろう、これは揺るがない。
その下に食い込む大河と、更に下には我が家のプリンセス、インコちゃん。
一番下にいる俺は、さながら女王様のためにせっせと餌を運ぶ蟻んこみたいだ。
想像すると背筋をイヤな物が駆けて行ったのは寒さのせいだろうか。
それとも現状を抉るくらい正確に指す例えと、覆せない現実にだろうか。

「・・・はぁ・・・」

吐息は嫌になるぐらい白かった。
いいか、もう。
晩飯はトンカツがいいとかいきなり言い出したのは大河じゃねぇかとか、少しくらい手伝ってくれてもバチは当たらねぇだろとか、
言いたいことは山ほどあるが、ここでぶちぶち愚痴っててもしょうがない。
買うもんだけ買ってとっとと帰ろう。
俺は暗い方向へと沈みそうになる頭を切り替えようと、悴んだ手をポケットに突っ込んで折りたたまれたチラシを取り出した。
出掛けに泰子に渡されたこれは、いつも、今日だって買い物してった商店街とは反対の方角にあるあんまり利用したことのないスーパーの広告。
端っこには店名と、デカデカと目立つようこう書いてある。
『年末恒例! 歳末大感謝祭!! 今年最後の閉店セール!!!』───誤魔化そうとしてるのか? ていうか誤魔化せてるのかこれ?
今年もなにも今年で最後になる特売の告知を明るさとビックリマークの多さで隠そうとして、悲壮さを余計に煽っているこのチラシは昼間、
階下の大家から貰ったそうだ。
たかが油とはいえ安く買えるに越したことはないし、距離も家からそう離れていないから、
たまにはとその潰れかけのスーパーで買おうと思っていたんだが。
チラシに載っている簡素な地図と歩いた感覚からしてもこんなに離れてるはずがない。
どうやらどっかで曲がるところを間違えてしまったらしい。
仕方がない、引き返すしかないか。

「あーめんどく・・・くせぇ、な、なんだ?」
282174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:12:05 ID:Wg52VKI0

踵を返そうとした瞬間、強烈な異臭が鼻をついた。
道路ではありえない、物でも焦がしたような臭いが冬独特の乾燥した空気に混ざっている。
なんなんだ一体。
歩を進めていくと、曲がり角の向こうに人だかりができているのを発見した。
みんな一様に首を上に向けている。
視線をそれに合わせると、異臭の正体も人だかりの訳も分かった。
大河ん家ではないにしろそこそこ大きなマンションからもうもうと黒煙が立ち上っている。
煙のその先には夜だっていうのにハッキリと見える橙色の光。
火事だ。
耳を澄ませば遠くから消防車のサイレンが聞こえる。
多分ここに向かってるんだろう。
テレビや新聞なんかでそういうニュースは見るけど、実際に目の当たりにしたのは初めてかもしれない。
どうなってるんだろう、こっからでも小火騒ぎじゃなさそうなのはなんとなく分かるが。

───なにやってんだ、やめろー!?
───死にたいのかあんた!
───消防車はまだか!?

「離してっ! お願いだから離してぇ! 全部燃え・・・いやあああああぁぁぁぁぁあ!! やめてぇぇ・・・・・・」

野次馬の最後尾につくと、火の手の進行具合がよく分かる。
マンションは中ほどの階から出火したらしく、上階は燃え盛る炎と環境に悪影響しか残しそうにない真っ黒な煙に覆われている。
この分じゃ、下の階もタダでは済まないだろう。
そう考えていた時、人垣の中から数人の叫びと、まるでこの世の終わりでも来たような断末魔じみた金切り声が鼓膜を叩いた。
このマンションの住人だろうか。
・・・やめときゃよかった。
軽い気持ちで野次馬に混じったのを後悔した。
早く帰ろう、消防車も近いし、俺に出来る事は何もない。
むしろこんなところで突っ立ってる方が消化の邪魔だ。

───ちょっとそこ空けてくれ。
───ほら、しっかり歩いて。

その場を後にしようとする俺の前を、人の波を掻き分けて男が二人歩いていく。
だが、何故か動きが妙に遅い。
何かを引きずっているみたいだ。
一瞬まさか・・・と、脳裏を過ぎった予感に慌てて目を逸らすが、間に合わなかった。
そんなことする必要もなかったんだが。

「・・・ひっ・・・・・・ひっ・・・ぐす・・・」

手を引かれ、寄り添われて歩いてきたのはコートを頭から引っ被った、おそらく女性。
裾から下はスカートに、伝線したストッキングと女物だと思わしきスリッパ。
多分さっきの人だ。
今なおキャンプファイヤーよろしく燃えているマンションの真向かいにある塀まで連れてかれると、背中を預けて力なく座り込んだ。
膝を抱えて顔を埋め、そして、

「・・・どうして・・・っんな・・・っく・・・わたし・・・なんで・・・」

やめてくれ。
こんな所でそんな生々しいこと吐き出さないでくれ。
言う方も地獄、聞く方も地獄だ。
俺の周りにいる数人も後ろからする啜り泣きが聞こえているのか、苦い顔を浮かべ俯き気味になっている。
居心地が悪いなんてもんじゃない。
なのに、今ここから立ち去るのがなんか、直接してる訳でもないのにあからさまに酷いことをしているような。
とにかく後ろめたくって動くに動けない。
いろんな意味でもう帰りたいのに。
283174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:13:03 ID:Wg52VKI0

「ぅおぅ」

変な声だって自分でも思った。
急に振動したケータイ。
べつにそれにそんなに驚かされたんじゃない。
嫌な予感がする。
むしろ嫌な予感しかしない。
ほら、だってディスプレイには着信と一緒に「大河」って文字が浮かんでいる。
左端に表示されている時刻も、俺が家を出てからけっこう進んでいる。
出たくねぇ・・・いや、出ないなら出ないでいいんだ。
二度と帰らないつもりでいるなら、それで。
そういう訳にもいかない。

「もしも『いぃったいどこほっつき歩いてんのよこの駄犬! あと30秒で帰ってこなかったらエサ抜きよ、いい!?』・・・すまん」

通話ボタンを押した途端に鼓膜を破らんばかりの怒声で大河が捲くし立てる。
大体の反応は予測してはいたが、酷ぇ、酷すぎる。
あんまりじゃねぇのか、いくらなんでも。
お前が言うところのそのエサは誰が丹精込めて毎日用意してると思ってやがんだ。
そんなやるせなさを胸の奥の奥へと追いやり、即座に一言謝罪を述べた。
不機嫌な大河を余計にイラつかせたらそれこそ帰れなくなる。
ひよった考えと染み付いた奴隷根性に気付きつつ、敢えてそれらを無視した。
俺が宥め賺せばそれで済む話だ、それは間違ってないんだから。

『もお・・・遅くなるならなるって言いなさいよ、やっちゃん心配してたわよ・・・わ、私だって、そにょ・・・』

「なんだって? 大河、よく聞こえなくって」

スピーカーを壊すんじゃないかってくらい喚き散らしたのが一転、トーンが低くなっていき、最後は尻すぼみになっていて聞き取れなかった。
耳の中ががまだキンキン鳴ってやがる。
何て言ったんだろう。

『・・・っ! な、なんでもないわよ! 竜児のばか! いいから早く帰ってきなさい!!』

今度こそ本当に鼓膜が破られたかと思った。
これからはいくら聞き取り辛いからってスピーカーを耳に押し当てるのはやめよう。
少なくとも大河相手には絶対に。
言いたいことだけ言うと返事もさせずに切られたケータイを溜め息と一緒にポケットに突っ込む。
人の目が痛い。
設定してある音量をはるかに上回る大河の怒声は俺だけではなく他人の耳にも簡単に届いたらしい。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

背後で座り込んでいた人にも、バッチリと。
大河から電話がかかる前は涙声で愚痴を吐き出していたのに、今はそれもない。
気まずいことこの上ない。
・・・また電話がかかってきたことにして、そのままここから離れようか。

「え・・・?」

そうしようかと迷っている時だった。
突然誰かに腕を掴まれた。
まさかと、目だけを動かし、そーっと掴まれた方の腕を確認してみる。
灰で煤けた細い指とよく手入れされたんだろうネイルがそこにあった。
総毛立つ、なんて感覚を生まれて初めて味わった。
腰まで抜けそうだ。
これってひょっとして・・・ゆ、ゆうれ・・・
284174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:14:03 ID:Wg52VKI0

「・・・・・・やっぱり」

やっぱりってなんだよ。
なにがやっぱりなんだ。
ていうかやっぱりそうなのか、本当にアレなのか。
俺が何かしたわけじゃないだろ、ただ通りがかっただけだろ。

「たか、ぐず・・・たかすくん・・・」

笑っていた膝がピタリと止んだ。
突然誰かに背中から抱きすくめられて、その誰かの体重を支えるために自然、力がこもる。

「うぇ・・・高須くん! 高須くぅぅ──────ん! うわぁぁぁん・・・・・・」

幽霊にも体重があったりするんだろうか。
なんていうくだらない疑問は、周りを見ればあっさりと解けた。
明らかに俺を中心にして人の輪ができている。
目と鼻の先で未だ燃えているマンションに目もくれず、俺と、俺の背中にしがみついている誰かに注目している。
俺と目が合うと反射で逸らすのはいつものことだけど。
他の人間にも見えてるのなら、この誰かは幽霊やそういった類じゃないのだろう。
『やっぱり』という発言や何故だか俺の名前を知っていることからも。

「わた、し、私・・・もうどうしたらいのぉぉぉ・・・だがずぐーん・・・」

背中は背中でえらいことになっている。
感極まって泣きじゃくっているという感じで手がつけられない。
俺はカカシみたいに突っ立ってるしかない。
誰なんだ、今背中で俺の名前を連呼してるのは。
顔を見れば分かるのは間違いないんだが。

「・・・あの、ちょっと」

とりあえず、話はそれからじゃないと始められない。
なるべく刺激しないよう、キツく掴んで離さない手をどうにかしてもらおうと、俺は空いた方の手を煤まみれのそれに翳した。
何かしらの意図は伝わったらしい。
背中に押し付けられていた顔が持ち上がる。

「たかすくん・・・」

振り返ると、そこには見知った顔が間近に迫っていた。
少し崩れてはいるが髪形も、着ている服にもよく覚えがある。
嗚咽交じりだが、今思えば声だって。

「せ・・・んせい・・・?」

消防車が到着するまでの間、リアルタイムで住所不定になった担任が泣き止む事はなかった。
俺が開放される事も、向こうの機嫌の悪さを表すように振動を強くするケータイが鳴り止む事も。
285174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:15:07 ID:Wg52VKI0

                    ※ ※ ※

「なによそれ」

開口一番、ぶすっとむくれた大河が言った。
言いたい事は重々分かる。
ちょっとそこまで、遅くともせいぜい二十分もあれば帰ってこれるような買い物が、まさか三時間以上かかるとは俺だって思ってもみなかった。
空きっ腹を抱えてずっと待っていた大河の気持ちも分かる。
待ちきれず、やむなく仕事に出かけた泰子にも悪いことをしたと思ってる。
けど、他にもっとあるだろう。
おかえりとかお疲れとか。

「ええそうね、おかえりなさい、竜児。お疲れさま、ずいぶん遠くまで行ってたみたいね、ドバイ辺りかしら。
 で、なによそれ。ドバイ土産とか言ったら殴るわよ」

棘をこれでもかと含めて俺の後ろ、縮こまっている人影を指で差す大河。
どうでもいいが、なんだドバイって。
どっからそんなのが出てくる。

「こ、こんばんわ逢坂さん。ごめんなさいね、夜分遅くに」

「竜児、もう一度だけ聞くわ・・・それはなにかしら」

おずおず顔だけ覗かせて、ぎこちなく固い笑顔の先生を無視。
吐きなさい、吐かなきゃ吐かすわよ───そんな意思が伝わってきそうな眼光を放ち、俺を睨む。
ていうか聞いといて本人からの挨拶は無視かよ。
しかもそれ扱いか。

「話すと長いから先に飯だけ作らせてくれよ」

結局コンビニで買った値段の割りに量の大したことのない油の入った袋を流しに置いて、
大河がそれ以上追求してくる前にエプロンに手をかけた。
納得のいく説明を求める大河は、なおも、

「むー・・・」

なんて唸りながら居間からこっちを睨みつけている。
ただ、食欲には勝てないのか、それ以上何もしてこないのが幸いか。

「あの、高須くん」

と、所在無く玄関に棒立ちしていた先生。
俺は少し待っててくれるよう言うと、一旦流しから離れて風呂場へと足を動かした。
脱衣所にあった洗濯カゴの中には泰子の下着や衣類が放り込まれている。
とりあえずその上からバスタオルを敷いて、更に中が空のカゴを乗っけた。
次に浴室。
大河が風呂に入った様子はなかったから、タイルが水で濡れているのは、泰子が入ったんだろう。
一応今日も洗っておいたし、浴槽に張られたお湯も、この程度なら気にするほどでもない。
少しばかり温く感じたんで、沸き直しだけしておく。
あとは勝手にやってくれるだろ。

「・・・なにしてるんですか?」

「あ、た、高須くん、よかった・・・」
286174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:16:17 ID:Wg52VKI0

呼びに行くと、先生は直立の姿勢で首だけ真下に曲げているという奇妙な格好をしていた。
声をかけると弾かれたように寄ってくる。
心底安堵したという風に。
まるでなにかに怯えているような。

「ふんっ」

「ヒッ」

ああ、まるでじゃなくて事実怯えてる。
大河に。

「あー・・・ちょっとこっち来てもらっていいですか」

「え、ええ・・・でも・・・」

案内する必要なんてないが、先生は虎に睨まれたガゼルかなんかの草食動物みたいにチラチラ大河を気にして動こうとしない。
仕方なく手を引いて連れて行く。

「あ、ありがとう高須くん。あのままだったらもうどうしよかと」

この人は本当に教師で、俺と大河の担任なんだろうか。
四月、最初こそ大河と俺に恐れをなしていた他のクラスメートもそこそこ付き合いができるとあまりこういった反応をしなくなったんだが。
それとも、大河の方から何かしらしたのかもしれない。

「いや、そんなに感謝されることじゃ・・・なんかあったんですか? 大河と」

「いいえ、先生ずっと立ってただけで、逢坂さんの気に障ることなんてなにも」

違うらしい。
まあ、今考えても仕方ないか。
単に腹が減って機嫌が悪いってのもなきにしもあらずだろうし。

「それであの、高須くん? 先生になにか・・・」

「ああ、そうだ。うちのヤツが入った後で申し訳ないんですけど、よければ風呂入ってってください」

「おふろ・・・」

俺も多少灰を被っているが、先生ほどじゃあない。
湯につかって洗い流した方がいい、疲れも少しは取れるだろう。

「タオルと着れるもんは後で持ってくるんで、それと今着てるのもすぐ洗濯すれば明日には・・・先生?」

「え・・・あ、ご、ごめんなさい・・・お風呂、もらってもいいのかしら」

「いや、それはぜんぜん」

ぼうっと呆けていたのは何だったんだろうか。
わざわざ尋ねるのもなんだし、ここに立ってると落ち着いて風呂に入れないだろう。
飯の支度もある。
ある物は何でも使ってくれてかまわないと言い残し、俺は台所へと引っ込んだ。
287174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:17:07 ID:Wg52VKI0

「なにしてんだお前」

「べつに」

居間ではどっから持ち込んだのか、大河がアニメ調にデフォルメされたトラの抱き枕相手にマウントを取り、何度も腹部を殴打していた。
インコちゃんがカゴの中でガタガタ震えているのを意にも介さず、ひたすらに。
トラウマにでもならなきゃいいが。

                    ※ ※ ※

鍋の中で十分に揚げられた豚ロースに包丁を入れると、サックリと音がなり、見た目と匂いだけでなく耳からも食欲をそそられる。
火の通りも申し分ない。
絶妙の一言に尽きる。
付け合せのキャベツを添えた皿に盛れば、会心の一皿の完成だ。
米だって十分過ぎるほど炊いてある。
これなら、

「わあ、おいしそう」

「だろ。待たして悪かったな」

しきりに『まだ?』『ねぇまだなの?』と、口じゃなくてぐ〜ぐ〜鳴って聞いてきた大河の腹も満足させられるだろう。
我ながら良い出来だ。

「いいのよそんなの。それより早く食べましょ」

「おぅ」

グングン下がっていた機嫌が上昇補正されてなによりだ。
こうまで喜んで貰えるとこっちも作り甲斐がある。

「あれ?」

ふとした拍子に、大河が首をかしげた。
俺がテーブルに順番に皿だの茶碗だのを並べていると、不思議そうに、

「なんでやっちゃんの分も今出してるのよ、ラップもしないで」

俺からすればえらく頓珍漢な、けど大河からしたら大真面目な疑問なんだろう。
ちょうどそこへ、答えの方がやってくる。

「はぁ・・・ありがとう高須くん、いいお湯でした」

泰子のジャージを着て、頭にターバンのようにタオルを巻いて出てきた先生。
湯上りの肌が心持ち染まっている。
座るよう促すと、先生は自分の分も食事を用意されていることに驚いていた。
ひょっとして済ませていたのかもしれない、そこまで考えが回らなかった。
が、どうも様子がおかしい。
頭に被せていたタオルを取り払うと顔に押し当て、肩を震わせ、声を殺してさめざめと泣き始めた。

(なんで泣いてんのよ、独身)

(さ、さぁ)

聞かれたって、そんなの俺が知りたい。
288174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:18:05 ID:Wg52VKI0

「・・・うれしい・・・」

「は?」

呟き、そして涙で滲んだ双眸を向けられる。
両手で手まで握られた。

「先生・・・先生今までね、それはもういろんな人とお付き合いしてきたわ・・・けど!」

「け、けど・・・?」

「こんな暖かなご飯を作ってくれる男なんて一人もいなかったの! 気を利かせてお風呂まで用意してくれる男なんていなかったのよ!」

風呂は元々入れておいたものだし、飯も作ってる最中だったし、正直先生の分に回したのは泰子のなんだけど。
この際それは黙っておこう。
感激してるとこに水を差すこともない。

「ううん、それだけじゃないわ・・・あの人もあの人も、甘い言葉だけ囁いておいて結局は私を捨てて・・・他の女に乗り換えて・・・」

というよりか、大層熱が篭ってて耳を貸してくれない気がする。
微妙に暗い他人の失恋話なんて聞いていたくもないが、止められそうにもないというのがまた性質が悪い。
とりあえず固く握られたこの手を解いてくれれば話を聞くフリだけして聞き流せるんだが。

「でも、でも・・・高須くんだけは違ったわ」

「ハァ? なんですって?」

「いイぃ?」

文脈がおかしいだろ。
それ、前のセリフから続けられると絶対誤解されるような言い回しじゃねぇか。
大河だってそれくらい分かんだろ、何で俺を睨むんだよ。
インコちゃんも、そんなに首をかしげ・・・きゅ、九十度も曲がるのか。
凄いなぁ、さすがインコちゃんだ。
水平になるまで首を曲げられるなんて中々できることじゃない。
インコちゃんの凄さはよく分かったからそれ以上はやめとこう、な? ポロっともげでもしたらどうするんだ。

「高須くんは、火事で何一つ失くした私にずっとついててくれて・・・傍にいてくれて・・・」

「か、かじぃ?」

あっ気に取られた大河に頷き一つ、返事としておく。
首を横に振り、にわかには信じられないといった感じだが、マジだ。
まさかあれが先生の住んでるマンションとは知らなかったが、火事に見舞われたのは俺がこの目で見ている。
ずっとついててだの傍にだのもあながち間違ってもいない。

あの後はいろいろと大変だった。
消防車が来ると同時にパトカーも駆けつけ、とりあえずの事情をマンションの住人や野次馬に聞いて回っていた。
当然俺にも。
目つきだけで怪しまれるのは容易に予想がついて、しかもその通りになって、先生が取り持ってくれなかったらけっこうヤバかったかもしれない。
住人の火の不始末が原因で起きた火事だって後で教えにきた時の警官のあのいぶかしんだ目はまだ俺を疑っていたようだから、そこは本当に感謝している。
通りがかっただけで放火犯に仕立て上げられたらたまったもんじゃねぇ。
ただ、それ以上に大変だったのが、先生の取り乱し様だった。
なんせ消化活動が始まった途端に、まだ煙を吐き続けるマンションに突っ込もうとしたくらいだ。
取り押さえるこっちが本気になって止めないと、それこそ、文字通り這ってでも。
別の容疑で警察に不審がられたのは言うまでもない。
何かを取りに行きたいようだったが、一体なんでそこまで必死になっていたのか。
289174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:19:05 ID:Wg52VKI0

『残りの人生死ぬまで独りで過ごすくらいだったら今死んだっておんなじでしょう!?』

悲痛な叫びだった。
心の芯にまでズシンと響くような、とてもいたたまれない本音だった。
寸での体でどうにかケータイと財布等が入っていたバッグだけは持ち出せたそうだが、
さすがにそれ以上となると持ち出しようがなく、置いてくるしかなかったそうだ。
だから、溜まったハウトゥー本や優良物件の見合い写真という各種婚活のための資料、合わせて購入した勝負系のブランド品。
他にも北村の母親から今のと転換してみないかと薦められた新たな生命保険『独りで生きる貴女の保険NEXT+』の契約書なんかもだ。
独りで生きていくことに耐えられないとのたまいながらも独りで生きていく場合の展望をしっかりと押さえているあたりがリアルだ。
それらが燃えて失くなる前に何とかするべく、形振りかまわず命がけで火の中に飛び込んでいくのを分かってて一人にさせておけないだろ。
目を離した隙にいなくなっていた、なんて本気で笑えない。
家にたどり着くまでの間、勝手にどこかに行きやしないかと手を繋いでいても気が気じゃなかった。

「はじめはビックリしたわ、人が不幸のどんっ底に叩き込まれた真ん前で平気でペチャクチャお気楽に電話してる能天気がいると思ったら、
 なんだか聞いたことのある声してて、知ってる名前まで出てくるんだもの」

それで『やっぱり』か。
驚いたのはよっぽどこっちだ。
あんな死人が出てもおかしくないような場所でいきなり腕なんか掴まれたら、誰だってビビるだろ。

「それで、先生思わず高須くんに抱きついちゃって」

「へぇ」

確実に室内の温度が下がった。
それか、もしくは俺の体温が。
暖房を強くした方がいいかもしれない。

「高須くんも、先生の手を握り返してくれて」

「ふぅん」

おかしい。
このストーブ、とうとう寿命が来たのかもしれない。
設定温度を上げたはずなのに全然温まらない。
冷えていく一方だ。
変え時かもな、大分くたびれてきてたし。

「・・・抱きしめてくれて・・・」

「そぉ」

今度はけっこう端折ったな。
そこへ行くまでにはそれなりに警官とのやりとりとかもあったんだけどな。
それにあれは抱きしめたって言うのか? 俺は羽交い絞めにしたって言う方がまだしっくりくるんだが。
他の野次馬連中はどう捉えてたんだろう、やっぱりあれは世間では抱きしめる部類に入って、俺の認識がズレてるのか。

「高須くんには本当に感謝してます。行く当てのない私に、こんな・・・感謝してもしきれないわ」

そんなに感謝されるとなんだかむず痒い。
と、珠のように目尻に溜まっていた雫がポロポロこぼれ、拭おうと俺の手を握っていた先生の手が離れる。
よし、今の内になにか暖をとれるものでも買いに行こう。
290174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:20:07 ID:Wg52VKI0

「大変だったのね、独身も。ねぇ竜児、竜児もそう思うでしょ」

爪までガッチリ食い込んだ大河の手が、この場から脱出しようとした俺の首を捕らえて力ずくで座らせた。

「待て、俺の話も少しは聞いてくれ、大河」

「いいわ、五文字以上十文字以内で答えなさい。あんたは今なにをしようとしてたのかしら」

だから俺の話を聞けよ。
あとそれ疑問じゃなくて命令だろ、絶対。
いや、今はそんなことより、ええと五文字以上・・・ムリだ、足りねぇ。

「ちょ、ちょっと暖ぼ」

「はい、あんたの話は聞いてあげたわ。じゃあ次、私の番ね」

どもりも句読点も込みだなんてどれだけ神経質なんだ。
その十分の一でも自室の整理やら、身の回りのことに向けられないのか、こいつは。

「話聞いてると竜児、ただ居合わせただけっぽいけど、それでなんで独身連れて帰ってくんのよ」

成り行きというか、離れてくれなかったというか。
目の届かないところに行かれると何をしでかすか分からないという、一種の強迫観念みたいなヤツのせいもある。

「・・・ほっとけねぇだろ」

ただ、そう思ったのも本当だ。
しかし大河は無常にも、

「ダメよ、返してらっしゃい」

犬猫じゃあるまいしできるか、そんなこと。
返そうにも、その帰る家が失くなっちまったんだよ、きれいさっぱり。
それに本人を前にしてそういうことを言うな。

「・・・やっぱり、迷惑よね」

見ろよ、気を遣いはじめたじゃないか。

「う・・・だ、誰もそんなこと言ってないじゃない」

そんなギクッ、とかしまった、みたいな顔したってもう遅い。
それに今の今返してこいって言ってたのはどこの誰だ。
けっこうあんまりな事言ってたと思うぞ。

「いいのよ逢坂さん、気を遣ってくれなくても。先生は大丈夫ですから」

言って、佇まいを正すと深々とお辞儀。

「ありがとうございました、高須くん」

こういうところは、やはり歳の・・・じ、人生経験の差だろうか。
生徒相手とはいえ、締める時はキッチリと締めた礼儀と所作。

「ちょ、ちょっと・・・竜児、ねえ」
291174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:21:07 ID:Wg52VKI0

いつもの押しの強さが発揮できないのは、自分でも言い過ぎたという自覚と負い目があるんだろうな。
しょうがない、後で文句を垂れられても困る。
それに、このままじゃ俺も後味が悪い。

「先生」

「はい」

身支度に取りかかっている背に話しかけた。
肩が僅かに揺れる。

「さっき言ってたじゃないですか、行く当てがないって」

「幸い現金の持ち合わせはありますし、今時ネットカフェで寝泊りしている女性も多いそうですし、いきつけのファミレスだってありますから。
 これ以上生徒の厄介にはなれません」

大河に怯えていた時とは打って変わって毅然とした態度だ。
微妙に発言が虚しいが。
いや、意固地になっているのかもしれないな。

「ずっとそうやって生活するんですか」

「・・・こだわらなければアパートくらいすぐに見つかるわよ」

こだわらなければ、か。
確かに消し炭同然になってしまったあのマンションと比べたら、その辺の賃貸アパートは大概は見劣りすると思う。
独りで暮らすには贅沢な方に入るだろう。
それに逡巡している様からしても、アパートでもけっこう妥協していそうだ。

「だったら、それまでここに居たらいいじゃないですか」

「それは・・・でも」

揺れてきた。
あともう少しか。

「これ以上迷惑をかけるわけには」

「うちの泰子はそういうのを迷惑がるようなヤツじゃないです」

北村の時も、最後はああなったが、困ってるヤツを見捨てるようなマネはしない。
大河にだってそうだった。
いつしか入り浸るようになっていたのを当たり前みたいにすんなり受け入れていた。
事情さえしっかり説明すれば大丈夫だろう。

「大河だって。な、おい」

「・・・ここは私ん家じゃないんだからどうこう言えないわよ」

そっぽを向いた大河。
だから気にするな、ってことだろう。
素直じゃねぇな、ホント。
それと一つ間違いがあるぞ、ここはお前の家だろ。
292174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:22:06 ID:Wg52VKI0

「インコちゃんはどうかな?」

「いぃ、イいぃいいぃっ・・・イィ───ッ!」

「いいらしいです」

ナイスだインコちゃん。
スーザン・ボイルに負けない美声といい、そのハツラツさといい。
それでこそ我が家の優しくて可愛らしい癒し系エンジェル。
へそ曲がりでワガママばかりの大飯食らいとは大違いだ。

「ほら、誰も迷惑だなんて思ってないですよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

返事が返ってこない。
インコちゃんはやりすぎただろうか。

「高須くんは・・・」

しばらく待つと、今まで背中を向けていた先生がこちらに向き直った。
口を開くものの、そこで詰まる。
言葉を選んでいるように言い淀み、顔を上げては俯けてを繰り返した後。

「迷惑じゃ・・・ない?」

目線は合わせずに、小さな声でそう言った。
迷惑じゃないと言えば嘘になる。
ただでさえ家計がプチ火の車なうちに、更に食費を圧迫してくる大河と、それだけでも断る理由にはなるかもしれない。
なにより俺と泰子で足りちまう狭い家だ。
泰子曰く小っちゃくて省スペースな大河だが、それでも三人でいれば手狭に感じてしまう。
これ以上人を増やせる余裕はない。

「ないですよ、ぜんぜん」

知ったことかと、打算やその他諸々からくる言い訳を頭から追い出す。
今更過ぎだろ、そんなの。
第一それを面と向かって言えるんだったら、ここまで面倒見る前にはお帰り願ってる。
それに───

「・・・冷めちまうし、もう飯にしませんか。今日のはけっこう自信あるんですよ」

なんとかしようともしないで放り出すのだけは、それだけは、何故だか無性に嫌だった。
身近に二人、そういう人間を知っている。
したんじゃない、されたんだ。
勝手な都合で振り回されて、それで・・・それは、この場合とは事情だって何だって違うのも分かってる。

「先生・・・?」

自己満足でもいい。
負い目や引け目を引きずるくらいなら、よっぽどそっちの方がいい。

「どうかしっぶ」
293174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:23:08 ID:Wg52VKI0

次の瞬間、気が付くと目の前が真っ暗だった。
口まで何かに覆われて息苦しい。
なのになんだか暖かくて柔らかくて、それでいていい匂いが鼻腔をくすぐる。
これ、どっかで・・・石鹸?
それにしては、ほのかに甘い匂いが混じっているような。
って、そんなこと考えてる場合じゃない。
本気で苦しくなってきた。

「ぶはっ」

「ふぐ・・・たかすくん! たかすくぅん!」

「ちょ、ま」

どうにか隙間を見つけて無理やりに頭を出すと、今度は天井が映る。
押し倒された。
それが分かったのは、畳の感触を感じてからだった。

「あり、と・・・ありがとおぉ・・・」

覆い被さっている先生を、俺は自分からどうにかしようとしなかった。
どうすればいいのか分からなかった、というのもあるが。
それよりも、俺の注意はこっちからそっちに行っていた。

「で、できればお手柔らかに・・・」

そいつはニッコリ、満面の笑顔を作って立ち上がった。
顔面の筋肉も皮膚もバシバシに引き攣ってるが、笑顔だった。
目がマジだった以外は。

「ざんねん、そのお願いは聞いてあげられないわね」

だろうな。
大河が俺の頼みを聞いてくれた事も、すんなり聞くなんて事も滅多にない。

「その代わり、歯は食いしばっておきなさい」

代わり?
何だ、耐え切れるくらいには加減してくれるってんだろうか。

「思いっきり痛くしてあげるから」

逃げ出そうにも、仰向けに寝転ぶ俺にしがみ付いている先生を跳ね除ける事もできず。
できたとしても玄関との間に隔たる、鬼みたい形相で仁王立ちしている大河をすり抜ける考えも思いつかず。
そもそも、その前には俺はとっ捕まるだろうし、この状態では既に捕まったも同然。
どの道俺が地獄を見るのは必至だ。
いっそこのままでも窓から塀伝いに外に出て体力の続く限り逃げてみるか。

「やめときなさい。そんなことしたら後がヒドいわよ」

おい、ちょっと待て。
なんで俺の考えてることが分かる。
口に出してないだろ、今。

「バカね、竜児のことならなんでもわかるわよ」
294174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:24:05 ID:Wg52VKI0

それって普通はそんな意味じゃないだろ。
もっとこう、ツーカーとか、そういう言葉にしなくても伝わる物や仕草でってことなんじゃないのか。
正直頬なんて染められても、言葉通りダイレクトに考えがお見通しなんて言われた日には血の気の引く思いしかしない。

───え・・・そ、そう? ・・・素敵だったりしない?

いやしねぇって、どっちかっつーと不気味・・・・・・
大河?

───なぁに?

「大河?」

「だから、なぁに?」

かつて味わったことのない、言い様のない感情が全身を駆け回る。
腰の辺りで落ち着いたそれは虫みたいにぞわぞわ這っていて、かと思いきや背骨を通って脳天まで一気に突き抜けた。
ついでに腰も抜けた。

「あ・・・高須くん・・・」

ギュウっとされた。
最後に俺が聞いたのは、本能的に傍にいた誰かに助けを求めてした行為を抱きしめてきたもんだと思って殊更に艶っぽい声を出した先生と。

───なによ・・・なによそれ・・・なにやってんのよそれ・・・竜児のぉ、バカああああああああああああああっ!!!

同じく勘違いし、空気も声帯も、俺の鼓膜さえも震わさずに絶叫した大河だった。

                    ※ ※ ※

───だいじょうぶ?

ああ、別にこのくらいいつものことだから。
ちょっと鼻が曲がった気もしなくもないけど、まあ平気だろ。
骨折も、陥没してる訳でもなさそうだし。
それで、あの・・・誰?

───ぐええぇ

「いつまで寝てんのよ」

「どぅおふ!?」

鳩尾にカカト落としでもされたような鋭い衝撃で飛び起きた。
のだが、上半身が持ち上がらない。
盛大に咽こむ俺を踏んづける足が邪魔をする。

「いい加減起きなさい竜児、ご飯食べらんないじゃない」

「・・・分かったからまずこの足をどけろ」

ふんっと鼻を鳴らすと、最後に一際重く圧しかかった大河は俺の上から足をどけた。
息を整えながら起き上がり、まず時間を確認する。
時計の針は最後に見た時から軽く十分は飛んでいた。
その程度で済んでよかったと思おう、嘆いても時間は巻き戻らない、するだけ時間のムダだ。
次に居間の隅へと目をやる。
295174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:25:06 ID:Wg52VKI0

「・・・・・・ん? んん?」

自分を見つめる俺にインコちゃんが気付いたらしい。
小首をかしげて不思議そうにしている。
夢だとは思うが、さっきのは一体何だったんだろう。

「なによ、ブサコがどうかしたの」

「なんでもねぇ」

俺の胸中の疑問に答えられる訳もなく、インコちゃんはつぶらなおめめをぱちくり瞬かせていた。

「そっ。ところで、私本ッッ当にお腹空いてるんだけど」

「おぅ。ところで大河」

「なによ」

「先生はどうしたんだ」

大河の目つきが変わった。
ギンって感じに。
不機嫌さを隠そうともせず、ピシっと親指で玄関を差す。
外にいるのか。
なんでまた。

「・・・まさか、お前」

「ち、違うわよ! 私じゃないもん!」

俺が夢の世界に片足突っ込んでいる間に───そう早合点しかけたが、どうも違うようだ。
疑われて憤慨した大河が即座に疑惑を否定した。
それと同時、玄関のドアが開く。

「はぁー・・・あっ高須くん!? もういいの、大丈夫?」

「ちょっ、なにすんのよ!」

靴を脱ぐのももどかしそうに、大わらわで駆け寄ってきた先生は、俺の横にいた大河を勢いに任せて押し退ける。
立ち上がり、声を荒げる大河をなおもシカトして、俺をベタベタ触ってくる。

「いや、大丈夫っていうか」

「やっぱりどこか痛むのね!? 待っててね、今救急車を」

「だ・か・らっ、なんべん言ったらわかんのよ!? そんなの呼ばなくたって竜児は平気なの!
 なんっっっにもわかってないんだから口挟まないで!」

救急車ってのは大げさだろ。
現にこうしてなんともないんだから。
しかし、なんべん?

「でもね、逢坂さん? あなたが殴ったのって頭なのよ、頭。後からなにか起こることだってあるかもしれないのよ」

「ないわよ! いつものことだし、竜児、ピンピンしてるじゃない! さっきっからなんなのよ、そんなことばっかり!」
296名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 00:26:52 ID:F3FFDXG2
C
297174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:27:09 ID:Wg52VKI0

どうやら気絶している間中ずっとこんなやりとりをしていたらしい。
大河がうんざりした様子でがなり立てている。
相当フラストレーションが溜まっているのか語気がひたすらに荒い。
よく今まで手を出さなかったもんだ、いつもならとっくにってさっきの蹴りか、あれか。
完全に八つ当たりじゃないか。
いやまあいつものことだし別にいいんだけども。

「私は高須くんが心配で、それで」

先生は先生で怯みもせずに大河に突っかかってる。
年齢と婚期の話を抜けば、こうまで我を通す姿も珍しい。

「あぁもうっ、竜児!」

「お、おぅ、なんだ」

いきなり振られて固まる俺。
大河はズンズン寄ってくると隣に腰を下ろし、おもむろに、

「・・・だいじょうぶよね? なんともないわよね?」

吊りに吊り上った目尻を泣きそうなくらい下げて覗き込んできた。
じんわりと瞳全体が波打つように揺らぎ、さっきまでのがギラギラって感じなら今度はうるうるというように光を放つ。

「あ、ああ」

不覚にも見とれていた俺はそんな曖昧な相槌を打っていた。
水面みたいに目の前の光景を映す大河の瞳の中の俺は、アホみたいに口を開けた間抜け面に点になった目玉をくっ付けて、
そこに川嶋でもいようものなら腹を抱えて爆笑していただろう。
と、不意に間抜け面が消える。
絞り込まれていた焦点が徐々に徐々に広がっていくと、目を瞑った大河が。

「よかった」

そう言い、微笑む。
こぼれて伝い落ちるものが頬で光った気がした。

「ほら見なさいよこの独身、竜児がなんともないって言ってんだからもういいでしょ」

気のせいだな。
胸に広がってくこの虚しさやいたたまれなさも、きっと気のせいだ。
298174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:28:06 ID:Wg52VKI0

「高須くん」

胸を張る大河には何も言わず、先生もまた覗き込んでくる。
探るような、確かめるような。
ただ、その目の奥では案じるような色が光っていた。

「ムリ、してない」

無表情といってもいいぐらいだった。
けど、なんだろう。
叱られている気がした。

「もしそうなら・・・」

いや、それともちょっと違うか。
叱られていると思ったのは、俺がそう感じているだけだ。
先生から伝わる空気は、一貫して心配しているそれだ。

「そう」

首を横に振ると先生は顔を綻ばせた。
肩に入っていた力も抜ける。

「ならいいんです」

しかし、でも、と一息置くと、注意するみたいにこう言った。

「なにかあったらまず先生に言ってください。約束ですよ、高須くん」

無表情から一変、ほんわかと笑顔。
だけどしっかり釘を刺す。
嫌とは言えない迫力に押されて今度は縦に首を振ると、先生も満足気に頷いた。

「それにしてもヒドいのね、逢坂さんって。いつも高須くんにこんなことしてるなんて」

「してないもん。人聞きの悪いこと言わないでよ」

「さっき自分で言ってたじゃない、いつものことって」

「そうだったかしら。それにしてもしつっこいわね、そういう性格してるから行き遅れたんじゃないの」
299174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:30:00 ID:Wg52VKI0

俺を蚊帳の外へと放り出した二人は、一気に険悪な雰囲気へと突入した。
女子同士のケンカにありがちな関係のないことや飛躍した展開、チクチクドロドロと耳を塞ぎたくなるような口論は白熱の一途を辿り、
次第に張り詰めた空気が室内に充満しだす。
そろそろ身を引いてほしい先生はむしろ大河を煽りに煽り、負けじと大河は禁じられた単語をズバズバ浴びせかける。
ここらで収集をつけないとヤバイ。
何がヤバイって俺の胃とかあってないような女性に対する理想とか、あとインコちゃんもそうだ。
優しいインコちゃんは身の回りでいざこざがあると心を痛めてついでに何らかの神経も痛めてしまうのか羽毛が散る散る。
早くなんとかしよう。
俺は一触即発という崖の一歩手前で互いを突き落とそうと押し合っている二人を宥めるべく、ずっと待機させていた炊飯器のフタを開けた。
ピクっと大河が動きを止める。
くりくりとした目で俺の手元、湯気をくゆらせる炊き立ての白米を見る。
つられて先生も大河の視線を追う。
いいぞ、こっちに興味を示した。

「腹減ってたんだろ、大河」

「ううん、すっごくよ。すっごくお腹減ってるの」

「分かったって。ほら」

飯をよそってる内にもう大河は席についていた。
箸まで持ってやがる。
行儀が悪いから両手で持つのはやめろ。

「先生も、どうぞ」

「へ? え、ええ」

大河のあまりの変わり身の早さに目を丸くしている先生もテーブルへ促す。
これで準備完了。

「んじゃ、いただきます」

「いただきます」

「・・・いただきます・・・っ、おいしい」

「おかわりっ!」

「おぅ、たくさん食えよ」

ようやくありつけた晩飯は少しばかり冷めてはいたが、二人には好評のようで、
特に大河はずっと待っていたためか普段と比べても食いまくってる。
この分なら炊飯器の中身をキレイに平らげるだろう。

「すごいわ高須くん、これ本当においしい」

流されたようで釈然としていなかった先生も箸を持つ手を置かず、舌鼓を打っている。
口に合ってよかった。
それ以上に上手くいってよかった。
これで無視されてたら二人を止められそうな手立てが他に思いつかない。
本当によかった、これで心置きなく───

「結婚するならこういう家庭的な旦那様の方がいいわね」

「・・・あ?」

───遅めの晩飯はつつがなく過ぎていった。
300174 ◆TNwhNl8TZY :2009/12/31(木) 00:30:57 ID:Wg52VKI0
タイトル
「ゆりドラっ」

続けたい、その前にずっと終わらせたい方を先に終わらせたい。
とにかく、よいお年を。
301名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 00:43:50 ID:H8TzrfdR
>>300
乙です
面白かったです

よいお年を
302名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 00:45:38 ID:F3FFDXG2
>「結婚するならこういう家庭的な旦那様の方がいいわね」
>「・・・あ?」

まあ、お約束だなw

.>「たか、ぐず・・・たかすくん・・・」
泣いているゆり先生はいいなあ。

エロまだーまだー

>>300
来年もよいSSを。
303名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 01:05:22 ID:GnzQNqLs
>>300
174さん乙した NOETも×××ドラ!も楽しみに気長に待ってますよ〜
304名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 19:47:55 ID:5lxJu5KN
GJです!ゆりちゃんイイ!!

やっぱりタイトルか注意書きは欲しかったです
タイトルをがないから、174さんのどの話の続きとして
読めばいいのかわからず混乱しました・・・
305名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 19:50:36 ID:frr56RZI
>>300
独神キター! 続き楽しみ( ´Д`)ハァハァ
来年も良いお年を。
306 【936円】 !kuji:2010/01/01(金) 00:12:14 ID:c/+piZ1L
おめでとう>>arl
スピンオフ3でますように
307 【大吉】 【265円】 :2010/01/01(金) 00:39:34 ID:0wZ6qsxZ
今年こそななこいが完結しますように
308名無しさん@ピンキー:2010/01/01(金) 00:45:16 ID:7vLn7Nur
あけオメ!
SSを書いているのですが、
・出来上がったら(ひとつの作品として)定期的に分割で投下する
・出来上がり次第投下する(未完の可能性アリ)
どっちがよろしいでしょうか? やはり前者でしょうか?
新年早々申し訳ありません
309名無しさん@ピンキー:2010/01/01(金) 01:22:22 ID:fYge7c7+
書きやすい方でいいと思うが、おおまかなプロットを完成させてから書き始めれば未完になる可能性も減るはず
310名無しさん@ピンキー:2010/01/01(金) 01:29:37 ID:fXSy+I+g
個人的には前者が望ましいな。それが良いSSならば尚更ね。
あなたが言われているように、未完というのは読む立場からすると非常に残念な事だから。
311名無しさん@ピンキー:2010/01/01(金) 01:45:51 ID:RFeLL1cc
>308
ちゃんと書ききってくれるならどっちでもいいよ。
312 【大吉】 【7865円】 :2010/01/01(金) 18:29:02 ID:eieZd9gy
>>308
俺も>>311と同じ意見


今年は幸太にいいことがあります様に
313名無しさん@ピンキー:2010/01/01(金) 22:06:30 ID:mjPMwZHr
規制確認テスト
314 ◆ozOtJW9BFA :2010/01/01(金) 22:08:38 ID:mjPMwZHr
おお!?駄目もとでやったら規制が解除されてたwwwww
よし、投下でき次第続きのSSを投下させていただくぜ!
315 ◆ZMl2jKQNg0m5 :2010/01/01(金) 23:16:34 ID:mGUD+vF7
《夏》 (ちわドラ短編シリーズ第一彈、死ネタ注意)

最高の宝物を与えてくれた神は、また私の手からそれを奪い去った。
家事する途中で転んで、頭をぶつけてコマに入り、そのまま目覚めずに、私を置いて一人で逝った、なんて。
いつかは四六時中誰かに振り回されて、竹刀で叩かれても平気だったのに、なんでこんなに脆くなってきたんだろう。

いつまでも納得できずに、号泣して、泣き止んだら、やがてまた泣き出す、そんな日々は暫く続けていた。

それがようやく打ちとめになって、涙の匂いが漂う狭い空間から出たら、迎えてくれたのはよく晴れた空と、それを薄く綴る白い雲。
雲一つもない蒼空よりも、こんな空の方は高く見え。ベンチチェアに座って眺めるだけで、心を縛る苦しみは漸うと解かれてゆく。
周りの景色に満ち溢れる金色の光を見れば、太陽の下で生きていた昔の自分が恋しくなった。

貴方を失った悲しみはまだ、心拍とともに疼きだす。それ故か、夏の風は妙に肌寒く感じる。
でも、それで逆に穏やかな気持ちになり、意外なほどに落ち着けられる。

……ねぇ、竜児。昨夜ね、貴方は夢に出てきた。何十年前の貴方が。
その夢のお陰で、もう忘れかけていたアノ頃の記憶を、一気に思い出してきちゃった。

あの頃の私は必死だったな。貴方と何時も一緒に居られた誰か。かつての貴方が思いを寄せていた、また別の存在。
最後に、貴方の何でもなかった私。一人だけ蚊帳の外に居たと思って、「私も一から入れてよ」とか、そのような情けない言葉を
口走った気がする。何時も仮面を被って、負の感情だけ一人で抱え込んでいた私が、その寂しさだけ耐えられなかった。

そして、貴方の瞳に突然私の姿が映っていた、あの日。私にとって最高に幸せな一日だった。
必要以上に鋭かった貴方の目に睨まれて、「好きだ」なんて言われて、拳銃に心臓でも打ち抜かれたみたいだ。
なんでかな、その直前と、直ぐ後のことはまったく覚えていない。余程の夢心地だったからだろう。
でも、その場で泣いていた気がする。私は弱い人間だから、喜びの余りに涙を流したかもしれない。
いや、もしかしたら、私が泣き声をだしたこそ、貴方は私のことに気付いて、私の居たところに振り向いていたかな。

まあ、その後の一緒に過ごせた長い時間を考えれば、そんな順番なんてどうでも良かったけど。
ついあいだした後、スキャンダルになるのを恐れずに、過剰なまでにイチャイチャしていた頃。その前の私と、今の私から見ては、
あまりにも馬鹿らしすぎるモノね。
そして結婚一年目、最初の息子を生んだとき、私の手を強く握り締めた貴方。隣の看護婦が貴方を見て震えていたのが
可笑しかった。確か、目が真剣すぎたよね。ご飯を作りながら一生懸命に子守り唄を歌う貴方も、実に愛らしかった。
何年過ごしたあと、子供が親離れしたらまた、つい最近貴方がこの世を去る時まで、普通の夫婦として日常の満喫していた。
こうして数十年貴方とともに過ごすことで、貴方を愛することはもう、思考と同化していた。

久しぶりの新鮮な空気をゆっくり深呼吸しながら、想う。

貴方に出会えて、大人の世界に人生観を捻られた私は、恋というものを信じ始めた。
貴方に恋することで、私は思春期の果てにたどり着いて、本当の成人になりつつあった。
貴方と結婚して子供を篭り、私は芸能界から引退して、母としての人生を歩み始めた。

最後に、貴方の死を辛うじて乗り越えた今、私はようやく「大人」になった気がする。
もう老人になった私に、「成長」することに何の価値があるかは、まったく分からない。
だが、少なくとも、それは私の命、私の身体、私の魂に残した、貴方の足跡で、貴方が生きていた証だった。

瞼を閉じたら、目の前に浮かんだのは、かつての自分がヤンキー面と呼んでいた、懐かしい青い面影。
今、眠りに落ちたら、また夢で貴方に出会えるかな。



ねえ、竜児……

(終)
====
お粗末でした。
あけましておめでとうございます。日本ではもう直ぐ2/1になるでしょうけど。1スレで終わる超短編だが、中々デリケートなところあるので結構苦労しました。
この短編シリーズは、「夏→夏秋→秋→秋冬→冬→冬春→春→春夏→夏」の九連發で構成されたモノ(という予定)です。また、この順位は物語のタイムラインとほぼ無関係です。
実は亜美x竜児の本編再構成長編を考案していたんですが、リアルで割と忙しい私はそれを完成出来ないだろうから、この形で妥協してみました。
あと、数スレ前に、日本語指摘してくれた方、ありがとうございました。「しまったっ!」と、それを肝に銘じて頂きました。
316名無しさん@ピンキー:2010/01/03(日) 13:32:40 ID:tzuK7+he
>頭をぶつけてコマに入り
coma、昏睡したってことかw
317名無しさん@ピンキー:2010/01/03(日) 14:54:46 ID:Va5IMg+s
tesuto
318 ◆mC0yn5S3d6 :2010/01/03(日) 15:07:07 ID:Va5IMg+s
注意
・北村の扱いがかなり酷いです
・まとめには掲載しないで下さい

この男にオフは無い。
30日、大橋高校体育館で行われるイベントのリハーサルに参加していた
失恋大明神が事故によって入院した。
イベントの内容は、抽選で選ばれた108人の一般人が
体育館の天井から吊り下げられた失恋大明神のキンタマに
魂のフルスイングを喰らわせる、その名も「除夜の玉」だ。
今日のリハーサルでは大明神のキンタマの強度を調べるために、
強打が自慢の野手3人が参加し、各々が大明神のキンタマめがけてフルスイング。
当初は大明神も激痛を快感に変えて絶頂していたものの、
襲い来る強打者のスイングを喰らい続け徐々に体調が悪化。
半分を過ぎる頃にはキンタマは大きく膨れあがり、グッタリして動かなくなって
いたという。
そして、女子ソフト部部長がフルスイングを喰らわせると
キンタマはちぎれて右中間方向へ。
平凡なフライと思われた打球だったが、風に乗ってそのままスタンドイン。
タマが二つだったということでツーランホームランと認定された。
なお、始業式には間に合う模様。

「高っちゃん、こんな初夢見たんだけど俺やばいの?」
「春田、それ以上言うな……」
319名無しさん@ピンキー:2010/01/05(火) 00:03:04 ID:QBGF+MgN
年明けてから急に過疎ったな
大規模規制でもしてるのか?
320名無しさん@ピンキー:2010/01/05(火) 01:13:07 ID:Z474230w
といっても1日ないだけなんだがな
321名無しさん@ピンキー:2010/01/05(火) 08:58:57 ID:Jt7ziu8j
>>318
くしえだ何してんだよ
322名無しさん@ピンキー:2010/01/05(火) 10:17:28 ID:cpJbUq83
日記の人も最近来ないな。
一気に読めると思っていたのに。
勇者も続きを早く見たい
323名無しさん@ピンキー:2010/01/05(火) 21:18:24 ID:G5aZOn4/
まとめサイト管理者様方
遅まきながらあけましておめでとうございます。
昨年同様よろしくお願いいたします。

まとめサイトの存在は、読み手の人たちのレス同様。
書き手の大きなモチベーションです。
最近忙しいそうですが、がんばって頂けるとありがたいです。
324名無しさん@ピンキー:2010/01/05(火) 23:51:08 ID:oLCIhekY
テスト
325名無しさん@ピンキー:2010/01/05(火) 23:52:53 ID:oLCIhekY
年末年始の2chはすんごい規制だったよ
俺が持っている携帯はキャリア2つとも規制対象
ISPも2つが規制されてた(1つは今日解除されたっぽいけど)
326名無しさん@ピンキー:2010/01/05(火) 23:54:42 ID:oLCIhekY
ところで>>315、GJ!!
日本語の表現の細かいところ・・・は、まぁ、置いておくとしてw
原作の青春時代から一っ飛びに晩年を描いた作品は新しいですね。
このスレでは初めてかも?それぞれの人生をどう描くか、続きを
楽しみにしています。
327 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 03:52:50 ID:A1pxuRgZ
テスト
328 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 03:54:18 ID:A1pxuRgZ

皆さんお久し振りです。
大変お待たせしてしまいましたが[キミの瞳に恋してる]を書き終えましたので投下させてください。
前回の感想を下さった方々、まとめて下さった管理人さんありがとうございます。
※能登×麻耶で能登視点、エロ有りでキャラが明らかに原作とは違います。
苦手な方はスルーしてやってください、では次レスから投下します。
329 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 03:55:08 ID:A1pxuRgZ

[キミの瞳に恋してる(11)]

『優しくしてくれるなら…いいよ』
彼女はそう言った、確かに言った。顔を赤らめ、恥かしそうに口元を手で隠して目を逸らし甘く囁く。
俺はおもわず生唾を飲み込んでしまう、彼女の口内で果てたムスコはとうに復活し痛い程に勃起してて……、
女の子特有の甘酸っぱさと『発情した女の匂い』にクラクラしてるし、可愛い仕草や言動でムラムラ。
密着した肌が汗ばんでしっとりして吸い付いてきて興奮しているのだ。
そんな理性を保つのがやっとな俺にはトドメの一言という訳で…うわずった声で念の為に問い掛けてみる。
「本当に俺が貰って良いの? 木原は後悔しない?」
ここまで来て聞くのは鬱陶しいかな、いや…聞くべきだよ、だってお互い『一度』しか無いものを捧げるのだから。
正確には俺は『男』で痛くも無いし快感のみ、彼女は『女』で初体験だと痛いに違いない、だから俺が気遣うのは当然。
「後悔するなら好きになんてならないもん……、ばか…ちぶちん…そんな事を聞かないでよ、………能登に貰って欲しいし」
木原は瞳を潤ませて俺の頬を撫でる、声も身体も震えていて…小さく見えた。
330 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 03:55:48 ID:A1pxuRgZ

「うん、ごめん…わかっているけど聞きたかったていうか、…じゃあ…その……挿入るよ?」
身体を起こし両手で彼女を開脚させて腰を割り込ませる、陰毛が薄らと生えてきたとはいえほぼ無毛状態の下腹部に目を奪われた。
愛液で濡れ、濃いピンク色に充血した秘部にムスコを擦り付ける、それは誰に教えられた訳で無く自然に…。
こうしないと挿入る時に引っ掛かりというか抵抗を感じるだろう、だから愛液を絡めて挿入易いように……。
「ふあっ……、んっ…ん……は」
秘部に沿ってムスコの先を擦り付けるといやらしい水音がするし、木原の甘い吐息が漏れて堪らない。
さらに言うならこれだけでも気持ち良い。敏感な粘膜同士が擦れるのだから当然、だがそれ以上に視覚的効果もある。
まだ誰も汚していない無垢な部分に俺の欲望丸出しな部分が触れ、僅かに埋められ、擦っている。雄としてこれ以上の興奮出来る要素は無い筈。
背丈の差が殆ど無いと言っても良い俺と木原だけど、今の彼女は小さくて華奢で可憐で、ものすごく淫美で…。
そんな姿を魅せつけて誘われたら張り詰めたムスコがヒクヒクと跳ねて、もう我慢出来そうに無い。
「いくよ…」
331 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 03:56:26 ID:A1pxuRgZ


「うん…来て? ……あ…んっ!」
ムスコの根元を持って膣口に押し付ける、緊張しているのだろう彼女は強張っていて…なかなか挿入ていかない。
ぬるぬるして捉えどころも無い、だから何回もムスコの先を押し付けてみて焦って…少しテンパる。
『あ、あれ? 挿入らない、え、合っているよな、ここで間違い無いよな?』
と心の中で焦っていた。
「ふあっ!」
だけど急に…今まで感じた事の無い火傷しそうな熱さと…締め付けられる刺激を感じた。
…ヌルンって挿入った……、マ、マジで、こ、これが木原の……ヤバッ!
「く…ふっ…っ…」
「あふっ!」
そのまま一気に彼女の膣内にムスコを埋める、ゆっくり挿入るよりは負担が少ないだろうから。
彼女は甲高く啼いて背中を逸らせる、続いてブルッと大きく身震いした。
「だ、大丈夫? は…痛くな、い?」
「う、うん…少し、だけ…んぅ、そ、その…あんまり痛くないか、も」
だけど予想と違ったのは彼女が痛みを訴えかけてこなかった事。
チラリと繋がった部分を確認すると薄ら血が滲んでいて、それは純潔を奪った証左で…。
だがトロンと熱に浮かれた目付きの木原は気持ち良さそうで……混乱する。


332 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 03:57:26 ID:A1pxuRgZ


彼女が嘘をついてないのは間違い無い、だけど痛がらずむしろ順応しているのは何故か。
そういえば稀に初体験で痛みが無い娘が居るとかって聞いた事がある、つまり木原は……レアケースの一人なわけか?
「あ、ぅ…っは! っんん!」
だがそんな邪推はたちまち霧散してしまう。熱く蕩けそうな木原の膣内の気持ち良さを味わうのに心を奪われて…。
愛液でトロトロに蕩け、かつプリプリで柔らかい膣肉がムスコに絡み付いて、心地よい締め付けで包むんだ。
大きく息を吐きながら彼女の膣内に…より奥へ…挿入ていく。
身体の震えが止まらない…、膝や腰がガクガクしてむず痒くて…グッと腹に力を入れて耐える。そうでもしていないと達してしまいそうだ。
「くぅ……あっ、あ…の、とぉ…はぅ…はぅう」
そのまま身体を倒して木原に覆い被さり、顔を覗き込む。頬を撫で、枕の上で乱れた髪を手櫛しながら…。
甘く啼きながら俺にしがみついてブルブル震え…発情した息遣いで喘いでいて、さ。
俺…まだ突いても無いじゃん? 挿入ただけ…でも凄く気持ち良さそうにしていて…もしかしてだけど木原って…。


333 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 03:58:10 ID:A1pxuRgZ

『好き者なんじゃね?』
とか思ってしまう、すぐさまその考えを捨てようとも思った。けど無理だ…。
だって…俺は『雄』なわけ、愛しい彼女が言葉はアレだけど……実は『淫乱』だとか思っちゃうと……。
まだ童貞と言っても過言では無い俺が木原を『淫れ』させているという事実はそれだけで堪らない。
「へ、変だよぉ…あぅ…あ…あのね……多分キモチイイ…よく解らないけど…トロンってなっちゃう…よぅ……は、ぅ…」
木原が囁く…甘く甘く…雄の本能を揺すぶる媚びた艶声で…誘う。
「んくっ…そ、そうなんだ? うん…じゃあ動いたらもっとキモチイイ…かも? してみる? ね…良いよね?」
俺は生唾を飲み込んで、彼女に問い掛ける…。
いや問うただけ、返答なんて待ってなんかいられない、形だけ、体裁だけ取り繕って…俺は腰をゆっくり引く。
「んあ…あっ…あっ……はっ…はあ」
柔肉に包まれたムスコが擦れる、ピッタリ吸い付いた彼女の膣肉がギュッと絞まる、敏感な部分に…絡み付く。
凄いよ、一気に突いたり引いたりなんて無理、ゆっくりゆっくりと味わうしか出来ない。
334 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 03:59:11 ID:A1pxuRgZ


ムスコの頭が抜け出る寸前まで引き抜く、そして再び彼女の膣内へ挿入ていく…。
狭く…いや『キツい』っていうんだよな、初めてだから解んないけど…熱くほぐれてトロトロな膣内を掻き分けて……。
「んあっ! …あ………はっ! はぅ…はぅ………う、ん…」
押し返されそうな肉厚に埋める感覚は鋭くて、おもわず腰が引けてしまいそうになる。
勢い余って一気に挿入てしまう、するとコリコリした肉の壁にぶつかったような気がする。
すると木原がビクッと身体を跳ねさせて甲高く啼いた、彼女は恥かしそうに口元を両手で隠して俺をジッと上目遣いで見詰める。
キッと猫目と眉を吊り上げて抗議と好奇を含んだ視線で……可愛いヤツ。
「あ、ぅ…やぁあ………はっ! ばかぁ……そんな事…や…め……ひあっ!」
根元まで挿入て彼女の膣内を探ってみる、下腹部同士を密着させて腰を捻る…一回、二回。
「ね…木原、どんな感じ? 痛くないんだよね…は…あ、教えて欲しいんだけど」
俺は彼女の耳元で問う、優しく優しく壊れ物を扱うように慎重に…。
「き、聞かない、でよ……やだ…ぁ………あっ…あ……、言わないも、ん…んっ!」
335名無しさん@ピンキー:2010/01/07(木) 04:43:25 ID:88u/Njlt
支援
まさかここで終わり?
336 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 04:48:18 ID:A1pxuRgZ


問いの返事に木原は身体で反応する。一瞬だけ膣がキュッと締まって、同時に体温が微かに上がる。
つまり…それは俺が聞きたい答そのもの、だけど…俺は直接聞きたい…言葉として。
だから口元を隠す彼女の手を引き剥がして布団に押え付けて、思い切りムスコを叩き込む。
彼女の細い身体が跳ね、背中が反って、頬が紅潮する。白い首筋に吸い付いて求愛しながら何度も突き上げる。
「っあ! んくっ! ひあっ! は…あ…はあ、っん……ぅ…う…」
目尻に涙を溜めた彼女が押し殺した声で喘ぐ、加虐心をくすぐる啼き声に魅了され、甘酸っぱい彼女の匂いを嗅ぎながら蹂躙する。
「言えないんだ? 恥かしい? じゃあ二人で言えば恥かしくないよ、うん…俺はキモチイイ。
凄くキモチイイんだよね、暖かくて柔らかくて…うぁ…ほら…キューッて締められて、さ」
頑に『感想』を拒む彼女に意地悪したくて、羞恥を誘う言葉を囁きながら木原の膣内をムスコで掻き回す。
何だろうね、そうだ『余裕』が生まれたっていうか…うんイジメたくなるんだよ。
可愛さ余ってみたいな…、でも本当に泣かれたら困る、不本意だ。だからか自然と拘束する手を緩めてしまう。
337 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 04:49:27 ID:A1pxuRgZ


『ヘタレの意気地無し』だからね俺は…彼女に対して臆病になる、ここまでなら大丈夫とか、ここからは駄目、そんな線引きがまだ出来ない。
「あ、ぅ…のとぉ…ごめんね。私…は、初めてなのにキモチよくなってる…、うぅ…キモチイイよぅ。えっちな娘でごめんね……」
と、心境が変化するタイミングで木原はしおらしくそう言うんだ、胸が締め付けられるような声で喘ぎながら言う。
「いいよ…これも木原の一面だし、もっと見てみたいし? えっちな木原が嫌いとかじゃないから…むしろ……好きだ」
ギュッと互いの身体を抱き締め、汗ばんだ肢体を絡ませる木原と短い口付けをする。
深まっていく愛情を届けて、贈られて…嬉しくて戯れて…。
「あ、あほ…ばか……全部好きになってよ」
俺は彼女と額を重ねてジッと見詰める。モジモジ照れ照れな木原が目を合わせるまで…。
そして数十秒後…チラリチラリと真っ赤な顔をした木原が俺を盗み見て…呟く。
「つ、続きしないの?」
そう遠回しに催促してくる、だから俺は行為を再開する前にこう返す。
「木原がしがみついてるから動き難いんだって……ちょっとだけでいいから力を抜いてよ」
338 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 04:50:32 ID:A1pxuRgZ

腰に絡み付く足で動けません、なんてのは嘘で…ちょっと意地悪したいだけ。
彼女の可愛い反応が見たいのよ…俺だってしたいけど我慢してる、だって照れ照れな木原にはその価値があるからな。
「こ、このまま……じゃ無理?」
ためらいがちに彼女は聞いてくる、背中に回した両手の力を強めておねだり。
「出来ないことは無いけど…木原はこの姿勢だと腰とか痛くない?」
そう、俺はともかく木原がキツいんじゃないの? 俺が上体を寝かすという事は行為を続けたら彼女の腰に体重が掛かるのだ。
「うん大丈夫、次からは能登がしたいようにしてもいいから……今だけ、今日だけは…このままで……幸せな気持ちを味わせてよ」
その言葉に俺は胸がキュンとときめく、可愛い過ぎだろ!
「あ…ちんちんおっきくなった…あ、は……ねぇ能登……

   大好き
  
        …だよ」
彼女は先の言葉に続けて耳元で紡ぐ、愛しそうに…短く…ハッキリと。
「き、木原…俺もお前の事が好き、マジ大好きだ、から…」
そう返すと彼女は満面の笑みを浮かべて俺の首筋に鼻先を擦り寄せて甘える。
それが一段落つくと彼女は秘部を俺に擦り付けて催促……本当に自分勝手なヤツ。
339 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 04:51:08 ID:A1pxuRgZ

でも、そこが可愛いし俺は大好きなんだよ。
「ん…あ、あう。はう…はう…は…ぁん」
ゆっくり抽送を再開し、彼女の『麻耶』を改めて味わう。もうただ一言しか言えない『キモチイイ』
膣ってまっすぐの筒みたいなイメージがあったんだ、けど実際には全然違う。
複雑に入り組んでいて、ヒダが絡み付いて…吸い付いて…揉まれて。挿入る時と抜く時で違う顔を覗かせる。
ギシッギシッとベッドが軋む音に混じって抽送する時にくちゅくちゅ…と彼女が発情した証の水音が響く。
比喩無しに火傷しそうな熱さで、唾液よりぬるぬる…汗ばんでしっとりした白い肌に朱が差して見たことの無い木原の蕩けた表情。
甘酸っぱい彼女の匂いと『発情した雌』の匂い…それらに雄の本能を呼び覚まされる。
経験済みの友達が『想像していたより大したこと無い』なんて言っていたけど、俺は違うね。
メンタル、体感、それらをこんなに刺激されて時間が経つのを忘れて没頭できる最大の愛情表現……これが『セックス』なんだ……って。
「くふぅっ…! う…んん! あっ…は…はあ! や、やだ…なに……凄、いよぅ!」
340 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 04:51:49 ID:A1pxuRgZ

木原の膣内は挿入ると押し返されそうな程に弾力があって、引き抜くと纏わりついて離してくれない。
敏感なムスコに文字通りピッタリと吸い付き喰い付いて快感を全身に巡らせる。優しく羽毛で撫でられるようなむず痒さに似た震えを伴って…。
フェラチオとは違った快感、自分が気持ち良いように動けるから止まらない。
短い感覚で抽送してみたり、彼女の奥へ力一杯ムスコを叩き込んだり、円掻きするような腰遣いで熱く柔らかい膣肉を掻き回してみて夢中で貪る。
「やぁ…あ、のとぉっ! あ…くっ! い、いいよぅ! あ、ぅ!」
そして木原も俺に合わせて躍る、絡ませた肢体を支えにして腰を振って、捩って、押し付けて…。
ギュッと閉じた瞳から涙を零して、荒い息遣いで甘く喘ぐ。さっきまで無垢だった木原が情愛で淫れていく様に俺は絆される。
打ち付ける腰が止まらない、止めようとしても無駄。時折、小さく切なそうに俺の名前を呼ぶ彼女を抱き締める。
熱くなって蕩け、一つに融けて…二人で身体を震わせて未知の快感を覚えていく。
「きは…らぁ! はあ! はあっ! 木原っ!!」

341 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 04:52:45 ID:A1pxuRgZ

射精の欲求を耐えながら激しく彼女の秘部を蹂躙する、パンパンと強く腰を打ち付けて……。
「はぅ…う! ら…め……きゃふっ! そんなにしたら……やあぁっ…蕩けちゃうよぉ……ああっ!!」
彼女の膣奥へムスコを打ち付け、擦り付けてみるとキュンキュンと強く締められ、緩められて……揉まれる。
熱い愛液が溢れて、ビクビクと腰や肢体を震わせて…更に激しくサカる木原が愛しい。
それが堪らなくて僅かに開いた唇を重ねて舌先を潜らせる、すると彼女はいつもより積極的に舌を絡ませてくる。
「んっくぅ! ふ…くふぅっ! ちゅばっ!」
鼻息荒く強く激しく吸い付いて、啜って…舌を噛んでくる。俺が圧倒されるくらいに…。
そして俺の背中に爪を立てて掻き抱いて、巻き付かせた両足で腰を引き寄せ熱と柔らかさを伝えてくる。
激しい求愛を繰り返す木原の華奢な身体にムスコを叩き込む、何度も何度も…。疲労して腰や膝がガクガク震え始めても止めれない。
それは欲求を解消する為か、それとも情愛の熱に浮かされてなのか。解らない…解らないけど……サカる木原に魅せられ欲情して本能のまま貫く。
「あふぅっ! ら…ぁ、あっ!! ひゃうっ!!」
342 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 04:53:34 ID:A1pxuRgZ


「く…ぁ…あ! も、もう限界か、も……イキ…そう……!」
膣へ小刻みな抽送を繰り返しながら俺は彼女の耳元で呻く、腹に力を入れ続けて耐えるのも限界だ。
「う、うん! いいよっ…ふぅっ! ふっ! いつで、も……あっ!!」
彼女はギュッと抱き締める力を強めて何回も頷いてくれる、だけど…俺は迷っていた。
ほら…避妊してないし、このまま射精すると…。だから理性がほんの少し本能に打ち勝つ。 ヘラヘラ笑って『出来ちゃった』では済まない。
「っ…う! ちょ…木原…マズいって! ヤバいって!!」
そう考えて彼女の膣内からムスコを抜こうとする、だが木原は巻き付かせた両足から力を抜こうとはしない。
むしろ足首を交差させ背中に立てた爪を食い込ませてガッチリ組み付く。そして憂いた表情で一言ポツリと紡ぐ。
「あぅ…"このまま"…だよ?」
これだけは流される訳にはいかない、なら…と抽送を止めようとする。
だけど…やっぱり無理で腰がバカになってて彼女を求める。柔らかくて熱く…締められて揉まれて絡み付かれて…気持ち良くて勝手に身体が動く。
「はっ! はあ…!能登だって…"このまま"がい、いいよね、ねっ? いいんだよ? 一回だけ、なら…っん!」




343 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 04:54:21 ID:A1pxuRgZ

熱に浮かされてトロンと蕩けた目付きの彼女は男が抗えない魅力的な言葉で誘い、甘く喘ぎながら自ら腰を振って俺から再び理性を奪おうとしてくる。
それは何かを『狙って』紡ぐ言葉じゃない、愛情を載せて紡ぐ…想いの発露なんだ。多分。
…確信は……自信は無いよ、それは俺の思い込みかもしれないけど…俺は勇気を出して『迷い』を放棄する。
汗だくで絡み合い、互いの熱を貪って戯れ…後は頂点を目指して本能の赴くまま……乱打するだけ。
「はっ! はっ! のとぉっ…のとぉっ!!」
イヤイヤするように頭を振ってねだる姿は『勢い』を緩めるなと…俺に訴えかけている。
とうに達する一歩手前というか半歩前、腹筋がヒクヒク痙攣して腰を含めた下腹部にむず痒さが走っていて……。
それでも達せずにガツガツと突き続けているのは、この射精直前の総毛立つ快感を少しでも永く味わいたいから。
悦んで涙を零し身体を捩らせて震える木原の可愛い姿をずっと見ていたくて、ちなみに初めての癖に何でこんなに余裕があるのか。
俺が『ヘタレ』で『可愛いくない』からに決まってるじゃん、ヘタレだからこういう時だけでも強気の彼女より優位でいたいとか想っているとか。


344 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 05:17:15 ID:A1pxuRgZ


ごめん…嘘です、強がってみただけです。ただ単に力を込め過ぎていて抜くタイミングが掴めないだけです。
「っう! はっ…きは…ら…!!」
徐々に気持ちだけ先走っていき、焦って彼女の膣内の肉感、愛液の蕩ける熱さ、そういった感覚的なものだけに集中しようとする。
そうしたら……イケそう、なんだかんだ弱いんだ俺は。どういった理由であれ木原の泣顔を見ると……気が引ける。
「っ…はぅっ! あ…はぁ! あふっ! んんっ!」
そんな時だった木原がある行為に移る、そう…彼女が唇と舌を這わしてきた。首筋、頬、鼻、額…下方から上方に向かって。
「んぅうっ! っは! うぅっ!」
『吸い付かれる』とか『舐められる』なら経験がある、何ら変わりない? いや違うのマジ。
別物だよ…たっぷり唾液を含ませたプルプル唇が軌跡を残して這う、たまに軽く吸われて啄まれる。肩より上へ縦横無尽に這う。
ムズムズするし…ああ、でも、でも……堪らなく気持ち良いんだ。背筋から全身へゾクゾクと快感の奔流が巡る。
「あぅ…んっ! はっ…あく……ちゅっ! んん…むっ! はあっはあ……はむっ!!」
木原もこうする事が楽しいんだろうな、夢中で口付けてくる……そして。
345 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 05:23:03 ID:A1pxuRgZ


「うあっ…あ…あ……っふ! うぅっ!」
耳たぶを噛まれた、甘噛み…でさ。何回も何回も唇ではむはむ…って。これがきっかけで全身から力が抜けて俺は達する。
「ん、ふっ…あ……あぅ…うぅんっ」
彼女の最深部でムスコが暴れる、ビクビクと脈動しながら射精する。
少し酸欠状態に陥って耳鳴りがする、熱い…木原の膣内がやたら熱く感じる。
二人して乱れた呼吸で喘ぎながら身体を震わせて甘受する、性の営みを終えた達成感と満足感に溺れる。
押し付けた下腹部がジンジン疼く、動けない…敏感になっていて引くことも進むことも無理。
射精を終えて『敏感』だからか、ヒクヒクと痙攣する膣内がもたらす心地よい刺激ですら鋭くて……。
「能登っ…ふぅ、熱いよ、能登のちんちん熱いよぅ、せーえきも……ヤバいくらい」
木原が俺の耳元で優しく紡ぐ、愛しそうに掻き抱いたまま。
「凄いね…えっち……凄くキモチよかった…んだと思う。うん……」
と、感慨深そうに彼女は続けて……一回ブルッと肩を震わせた。
「う、うん…木原もキモチよかった? 俺……癖になりそ、うだし」
そう漏らすと彼女はグッと俺を抱き直して紡ぎ返してくれる。
346 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 05:23:48 ID:A1pxuRgZ


「私も………。 ねぇっ……大好きだよ、……ばか能登」
.....
....
...
..
.
俺が童貞だった証なんてもう残っていやしない、クシャクシャに丸めた大量のティッシュと共に無くなっちまったよ。
感動はもちろんしたし、自信がついたし。『木原麻耶』はもう俺のだ…なんて自惚れるつもりは無いけど…うん、手放したくなくなる。
ずっと一緒に居たいと願う気持ちが強くなって、結ばれて…ほんの少しだけ残っていた『すれ違い』が埋まって重なった。
「はいはい、ちょっくら失礼しやんす。これは私からの心ばかりのサービスだ。受け取りたまえ」
と…想いに更けるのはこれくらいにして。今の状況をだな。
えっと…今日、俺達は二年生としての一年間を終えました。
さっきまで終業式だった。そしてジョニーズに居るわけ、打ち上げだ。
クラス全員では無い、ほらファミレスは貸し切れない。このシーズンだと予約もいっぱい。
なら仲の良かった奴等で何か所かに分かれて『反省会』というわけ。建前は『反省会』本音は『打ち上げ』
『学校側に迷惑を掛けない程度でね、問題になったら来期の査定に響くんです。先生…マンションのローンが払えなくなります』



347 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 05:25:07 ID:A1pxuRgZ


と、独神ことゆりちゃんに具体的に釘を刺されたら皆従う。
三十路独身が住宅ローンの払いで苦しむ姿を想像したら可哀相だから。
俺と木原に高須、亜美ちゃんに奈々子様、櫛枝、タイガー、春田と北村。このメンツがジョニーズの端二席を陣取っている。
と、言っても櫛枝はバイト中じゃないのにもかかわらず、トレイを持って俺と木原の座る席に来た。
ゴトンと鈍い音をたてて置かれたのはアップルジュースの入ったピッチャー…だ。しかも二つ。何事だよ?
ああ、ちなみに二席の振分けを簡単に言うと
『俺と木原、高須と亜美ちゃん』『他5名』
配慮されている、イチャつくなら別の席で……って言われた。
「え、えっと…櫛枝、これって何?」
当惑する木原が櫛枝に問い掛ける、いや彼女だけでは無くこの席に座る高須カップルも俺も…疑問を込めて櫛枝に視線を投げ掛ける。
「んぅ? 何って私から君達へのプレゼントだよ。へっへっへ……特別だよん」
ニヤニヤ笑いつつ櫛枝はブレザーの内ポケットから何かを取り出し、並んで座る高須達のピッチャーに刺す。
「ちょ…実乃梨ちゃん……これって……マジで存在していたの?」
「お、おぅ……」
348 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 05:25:40 ID:A1pxuRgZ

亜美ちゃんが目を見開いて口を開き、高須は感嘆の声を漏らす。
「あ、あはは…へぇ〜…えっと」
俺は状況に付いていけずに笑って誤魔化す。だってハート形のストローって…ベタじゃん、てより……何処で買ったんだよ。
ああ…ツッコミたい、まずはそこを聞きたい。更に言うなら皆困ってるじゃん。
木原は『あぅあぅ…』と恥かしがり、高須は固まり、亜美ちゃんは…あれ?
何か凄く嬉しそうなんですけどっ!? 指先でストローを突っ突いて高須に目配せしているよっ!
「ねぇえ〜竜児ぃ〜せっかくだしぃ? んふふっ…一緒に飲もうか?」
「お、おぅっ!? いや亜美…人前だぞ? あのなぁ…って!?」
『このアマぁ…俺に恥をかかすな』
と、顔を真っ赤にして高須はキレているわけじゃない、恥かしいのだ。
その姿を見て亜美ちゃんはヤツの頬を両手で撫でながら顔を寄せる。
「じゃあ…口移し? うふっ♪ やだぁ〜竜児ってぇ……ダ・イ・タ・ン☆」
う、うわ………なんちゅう……羨まし……ゴホンッ! けしからんっ! 実にけしからんなっ!!!
人がいっぱい居る、俺達以外にもっ! なのに…なのに…マジでイチャつきおって……くああああっっっっ!!! 羨ましいっ!!


349 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 05:26:08 ID:A1pxuRgZ

ちくしょう! 俺だってしてみたいよ、でも木原は恥かしがり屋だから……しないよ絶対にっ!! 悔しい!!
結局、高須はすぐに折れて言い訳しつつ亜美ちゃんと仲良くストローを咥える。
「亜美が……したいなら仕方無い、仕方無いんだ」
と言いつつ、ニコニコ笑顔の亜美ちゃんと仲良く顔を寄せて………ああああっ!!
おもわず見入ってしまう、ガン見じゃなくチラチラと。うぅ…ガチで悔しいっ!
他のメンツ達もニヤニヤしながら生暖かく見守って祝福、そして俺に目で訴えかける。
『ほら…オマエらもしろよ』
したいよ、出来ないんだよ、俺は指を咥えて見ているだけ。木原は嫌がるし、その前にストローが無い。
いっその事、一気飲みでもしたろうかい? えぇっ! 俺ってヤツはどこまでヘタレなんだよ!
そう自嘲しつつ頭を抱える、燃え尽きて灰になりかける。そういえば木原は…………。
「ふ、ふんっ! 何よ能登は亜美ちゃん達をガン見してさっ! わ、私はしないもん……うぅ……しないもんっ!!」
顔を真っ赤にした彼女はプイッと顔を背けて俺に釘を刺す。恥かしがりの照れ屋だから……ツンツン。悔しいかな可愛い。
ちょっと元気が出た。
350 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 05:26:38 ID:A1pxuRgZ


「っ…そ、そんな目をしたってしないっ! 恥かしいじゃん、あぅあぅ…バ、バカ………能登の癖に……可愛くなんてないんだからっ!」
でも期待しちゃうよ、目で訴えかけてみるとキツい言葉で返される。グサグサと胸に突き刺さる。
「うぅ……だよね、しないよね」
俺はガクッとうなだれてポツリと呟く、付き合えただけで幸せ、これ以上は望むな……とイジイジしてみる。
「うぅ………わ、わかったわよ、死にそうなカワウソみたいな顔をしてっ!
す、少しだけならしてあげる、能登がしたいなら……あぅ………べ、別に私はしたくなんてないしっ!」
彼女はキッと猫目と眉を吊り上げてカバンの中から何かを取り出して素早くピッチャーに刺す。
えぇっ!? 木原も持ってるのかよストロー。しかもハート形………。女子の間で流行ってんの?
俺の心中はドキドキ、ワクワク。何故、彼女がストローを持っているかはともかく、諦めなくて良かったと自分を褒める。
「ほら…早く、私だけじゃ飲めないじゃん、バカみたいじゃん。
あぅ…の、能登ぉ………」
さっきまでの威勢は何処に行ったか、彼女はストローを咥えて不安そうに俺をチラチラ伺う。ああ………。



351 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 05:27:11 ID:A1pxuRgZ


これだ、俺が木原を好きになったのはこの目だ。勝ち気でわがままな感じの猫目、気が強そうに見える木原の目。
けど心の奥底では気付いていたんだ、俺を見ている時は……いつもキラキラしていて愛しそうで、時に不安そうで哀しげで。
修学旅行で言い争った時だって…怒っているようで……哀しげに揺れていた。
俺は気付いていた、彼女の容姿や性格……もちろん大好きだ、でも一番初めに好きになったのは……。
この寂しく揺れる瞳、楽しそうに輝く瞳、不安と幸せを映す大きい瞳。
「うん…、ありがとうな」
俺は木原に頬を寄せてストローに唇を近付けていく。
好きになった? 違うね過去形じゃない、進行形だ。木原にだって言わない俺だけがこの気持ちを独占してやる。
俺は……ずっと、二年になった時から今も


『キミの瞳に恋してる』






終わり!
352 ◆KARsW3gC4M :2010/01/07(木) 05:32:14 ID:A1pxuRgZ
以上で完結です。途中、連投規制されて時間がかかってしまいました。
長い間お待たせしてすいませんでした、また支援ありがとうございました。
また何か書いたらお邪魔させていただきます。
では
ノシ
353名無しさん@ピンキー:2010/01/07(木) 08:46:25 ID:uFVhxQs1
麻耶たん可愛いが、亜美と竜児がゲスト登場でイチャつくのは大変嬉しい誤算だった。二重萌えでGJ!!
354名無しさん@ピンキー:2010/01/07(木) 16:47:11 ID:0ShHLwzb
GJ!!お疲れ様でした〜素晴らしい。
麻耶ものは、なかなか書かれない中、これだけの大作読めて満足です
次回作も期待してます
355名無しさん@ピンキー:2010/01/07(木) 22:44:27 ID:ymXhADew
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
これから読もう。。。

しかしやきもちやきの木原はいいなあ。
ここまで良いとは思わなんだ。

>>323
まとめ人さんですが、そのうち。
356名無しさん@ピンキー:2010/01/08(金) 21:28:37 ID:I0KtQS+8
>>352
完結お疲れ様です。GJ
357名無しさん@ピンキー:2010/01/08(金) 21:34:17 ID:I0KtQS+8
>>355
まとめ、いつも使わせて頂いてます。ありがとうございます。
更新ペースはマイペースでいいんじゃないでしょうか。
これからもがんばってくださいね。

>>352
※前レス、規制で書けないと思ってたので言葉少なかった。ので補足
毎回、完結させるのはさすがですね。
しかもちゃんとエロをしっかり書いている。すごいな。
358名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 14:59:43 ID:XK+5t5XI
1ヶ月近くまとめ更新されてなくね…
まとめからしか基本読まないおれって…(泣
359名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 15:36:22 ID:nbCwZJXT
放棄?
360SL66 ◆5CEH.ajqr6 :2010/01/10(日) 20:29:06 ID:7TPjhBm4
う〜ん、規制が解除されたが…。
ど〜んと一発、160kbの物を投下しようとしたが、容量が足りんではないか…。

次スレまで待つか、分割するか、どうすっか…。
361名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 20:51:09 ID:jkBccVYx
分割で次スレが要るなら立ててくるけど
362SL66 ◆5CEH.ajqr6 :2010/01/10(日) 21:46:34 ID:7TPjhBm4
では、本日23時から、64レス中44レス(110kb程度)を投下します。
投下予定のブツは、「大潮の夜に」の、続編です。
高校卒業から14年後、北村、すみれ、能登、麻耶を交えた高須家のクリスマス・パーティー。
しかし、そこにはリベンジに燃える川島安奈の暗躍が…。

なお、本作は、愛国者に推奨ですが、そうでない反日的な人には向きませんので、かかる場合はNG推奨です。
363 ◆9VH6xuHQDo :2010/01/10(日) 22:14:08 ID:rl4yu/oS
『みの☆ゴン』の続きを投下させていただこうと存じておりましたが、
またの機会にさせていただこうかと存じます。
又、◆KARsW3gC4M様、大変おつかれさまでした。流石でした。
失礼いたします。
364名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 22:15:01 ID:iY92TQMA
>>362
楽しみにしてるよ
365名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 22:24:48 ID:jkBccVYx
110kbなら終わってから立てにいっても十分間に合いそうかな
366名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 22:29:45 ID:C0E50K42
>>362
あと少しだな。期待して待つぜ!
367名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 22:50:14 ID:kASgZHGz
>>362
こりゃまた大作だな。頑張ってくだされ。

>>363
…残念。またの機会楽しみに待ってます。
368SL66 ◆5CEH.ajqr6 :2010/01/10(日) 22:59:31 ID:7TPjhBm4
注意書きというわけではありませんが…
これから投下する作品は、本編から14年後の竜児・亜美夫妻と、その娘である美由紀を軸とするものです。
もはや、完全にオリジナルといっていいでしょう。むしろ、とらドラ! をまったく知らない人でも読めるように書いています。
その点が苦手な方はスルーしてください。
それと、反日的な方は読まない方がいいかも知れません。

では、次レスより投下開始です。
369聖夜の狂詩曲 by SL66 1/64:2010/01/10(日) 23:00:51 ID:7TPjhBm4
 窓辺から差し込む柔らかな冬の日差しが、ちょっと煤けた天井に設けられた蛍光灯の光と交錯し、人工的な光の
白々しさを多少なりとも和らげてくれていた。外は北風が冷たそうだったが、日の光は、それを忘れさせるほどに暖かく、
優しかった。
 天井同様に、いくぶん煤けた壁には、その天井付近に『みんななかよし』と記された手書きの標語が貼られ、その下
には、拙いながらも一生懸命描いたことが窺えそうな水彩画が何点か、更には『美しい心』と記された習字の作品が
何点か貼付されている。これら習字の作品には、『よくできました』という朱筆とともに、俗に言うハナマルが描かれていた。
 高須美由紀は、背後の壁に貼られた水彩画や習字を、肩越しに横目を遣って憂鬱そうに一瞥した。水彩画の並びは、
その一角が、ちょうど絵一枚分がぽっかりと抜け落ちたように不自然な空白となっていた。習字の作品の並びも同様
だった。つい先日まで、そこに作品が貼られていたかのような二つの空白を認めると、美由紀は、きゅっ、と瞑目し、うつ
むき加減でいるために丸くなった背中を微かに震わせた。

「はーい、皆さん、ちゃんと聞いてください」

 教壇から、パンパンという手をはたく音とともに、かん高くて耳障りな声が教室にこだました。
 着席していた児童は、美由紀も含めて、それぞれにちょっと緊張した面持ちで、声のした方を注視する。
 窓辺から差し込む日差しで、糸のように細い陰険そうな吊り目と、妙に張り出したエラを際立たせた女性教諭が、
着席している児童たちを睥睨していた。
 年の頃は三十代前半といったところだろうか。美由紀の母親と同年代らしいが、肌は病的なほど浅黒く、皺だらけで、
恐ろしく老けて見える。白磁のように白く艶やかな肌を未だに維持している母とは大違いだ。
 その女教師は、醜悪に釣り上った目を更に引きつらせて、児童一人一人に対し、咎めるような刺々しい視線を投げ掛
けている。
 暖かな冬の日差しとは裏腹に、一切の口答えや私語を許さない、通夜のように冷たく沈みきった雰囲気が教室を
支配していた。仮に、私語や口答えがあれば、壇上の女性教諭はヒステリー丸出しで怒鳴りまくる。それどころか、児童
が、口をへの字に曲げたり、眉をひそめただけでも反抗的な態度とみなし、その児童を名指しで叱責するのだ。

『なんで、いっつも、あんなにきっついんだろう…』

 心の中でそう呟きながら、美由紀は教壇に立つ女性教諭にぼんやりと視線を向けた。本来なら、しっかりと教師の目
を見据えるべきなのだろうが、そうすると、『高須さん、先生を睨むんじゃありません!』という、あらぬ難癖をつけられる。
 かと言って、目を向けなければ、そのことを叱責されるのだから救いがない。

『恐怖政治…』

 テレビで隣国における少数民族弾圧に関するニュースが報じられた時に、父が教えてくれた言葉だった。本来の
意味は、権力者が逮捕や投獄、暗殺等の暴力的手段によって反対する者を弾圧して強行する政治のことだが、投獄や
逮捕、暗殺はなくとも、威圧的な態度や刺々しい口調で児童を弾圧しているのだから、恐怖政治以外の何物でもない。
 私語厳禁の静まり返った教室で、児童たちは、美由紀同様に、壇上の女性教諭にぼんやりとした視線を向けていた。

『死んだ魚の目にそっくり…。私も、あんな目をしてるんだろうな…』

 いわれのない叱責を免れるための、子供なりの処世術というわけなのだろう。『民は愚かに保て』、そのままである。

『でも、この先生、評判がそんなに悪くないとか…。信じらんない』

 児童が教室内で勝手な行動をして教師の指導に従わず、授業が成立しない、いわゆる学級崩壊が起こりようもない
からなのだろう。そのため、荒れている学級が少なくない昨今では、学校側や教育委員会からは有能な教師と目されて
いるらしい。
 そんなことを、心持ち眉をひそめて考えていたからなのか、壇上の教師が美由紀を睨んでいた。

「高須さん、先生の話をちゃんと聞きなさい!」

370聖夜の狂詩曲 2/64:2010/01/10(日) 23:01:52 ID:7TPjhBm4
 背はさほど高くなく、がりがりに痩せているのに、なんでこんなにもよく通る声が出せるのだろう。しかも、その声は、
美しいとはお世辞にも言えず、強いて言うなら、黒板を爪で引っ掻いた時のような、神経を逆なでする不快さに満ちて
いるのだ。
 美由紀は、ごくりと生唾を飲み込むと、元のように努めて余計なことは考えないようにして、壇上の女教師の話に耳を
傾けた。悪意を伴った圧倒的な威圧感の前には、小学校四年生なぞ無力な存在でしかない。とりわけ、件の女教師の
覚えが目出度くない美由紀であれば、なおさらであった。

「さぁ、さぁ、皆さん、これから通知表を配ります。名前を呼ぶので、呼ばれた人は、先生のところに来なさい。では、まず、
青木くん!」

「は、はい!」

 小太りで気弱そうな男児が、よたよたと教壇に歩み寄っていく。その姿に苛立ったのか、壇上からは、「もたもたしな
い!」という罵声に等しい叱責が飛んだ。

「す、済みません!」

 教壇の前にたどり着き、青ざめて、おどおどしているその男児に、女教師は、仏頂面のまま、「はい」とだけ横柄に言っ
て、通知表を手渡した。

「次、青山くん!」

 青木くんと同じ轍は踏むまいと、青山くんと呼ばれた小柄で敏捷そうな男児は、返事をするやいなや小走りで教壇に
駆け寄って、通知表を受け取った。
 その後の児童も、青山くんに倣って、小走りに教壇へ向かい、女教師の手から通知表を受け取っていく。
 本来、校内は、教室、廊下を問わず、静かに歩くものだが、今この場においては違うらしい。この教室においては、
細い吊り目を陰険そうに光らせた、この女教師こそが、全てを決しているのだ。

『これって、パパやママが何よりも嫌っている人治とかってのと、おんなじ…』

 人治とは、国家におけるすべての決定や判断は国家が定めた法律に基づいて行うとされる法治の対義語であるが、
この女教師の所業を表現するのに、これほどふさわしい言葉は他に見当たらない。
 弁理士として常に法律を意識している両親の影響か、美由紀は、法治主義とは相容れない人治というものを、幼い
ながらも認識していた。

「次、高須さん!」

 おっと、余計なことを考えてちゃいけない、と自分に言い聞かせながら、美由紀は教壇へ慌てて歩み寄った。

「はい、通知表。それと、これも持ち帰りなさい!」

 女教師は、つっけんどんにそう言うと、美由紀に通知表のみならず、美由紀が描いた水彩画と、美由紀が書いた習字
の作品を手渡した。水彩画の裏面には、『よくできました』という朱筆とハナマルが、朱の大きなばってんで打ち消され、
代わりに『ぜんぜんだめです。がんばりましょう』というコメントが、無慈悲にも朱でなぐり書きされていた。
 習字の作品はもっと悲惨だった。こちらも『よくできました』が朱筆で否定されていたのは同じだったが、『なっていま
せん。幼稚園児なみです』と記されていた。

『ひどい…』

 だが、それを言葉にすることは許されない。美由紀は、その場で泣きたいのをぐっと堪え、教壇でふんぞり返っている
女教師に健気にも一礼すると、自分の席に戻っていった。それも、何事もなかったかのように、努めて軽快な足取りを心
がけて、足早にである。
 そんな美由紀に、何人かの女子が、憐れみのこもった視線を投げかけた。
371聖夜の狂詩曲 3/64:2010/01/10(日) 23:03:01 ID:7TPjhBm4
 美由紀も、彼女らに対し、『ありがとう。でも、私は大丈夫』といった意思を伝えるつもりで軽く頷いてみせた。やり取り
は一瞬であった。そうでなければ、女教師に見咎められ、美由紀も、彼女に同情した女子児童も、ただでは済まない。

 自分の席に着いて、美由紀はしばらく、憂鬱そうに無残な朱筆を加えられた水彩画と習字の作品に見入っていたが、
気を取り直して通知表を開いてみることにした。
 今学期になって、ある事件をきっかけに、担任教師の覚えが目出度くなくなったから、評価の欄には辛辣なことが記
されていることは確実だった。だが、今学期中も、テストでは満点やそれに近い点数を各教科とも取り続けてきたから、
成績自体は悪くないはずである。
 聡明で勤勉な父からの遺伝なのか、美由紀は学年トップクラスの成績を長らく維持してきた。返却されてきたテスト
の結果から、今学期もそれ若しくはそれに近い成績であろうという手応えがあった。
 だが…、

『な、何よ、これ…』

 美由紀は、我が目を疑った。そこには考えられない数字の羅列が記載されていた。
 あまりのことに、顔面から血の気が引く思いだった。心臓が激しく脈打ち、こめかみの辺りが、ずきずきしてきた。耳の
奥では、しーん、という耳鳴りまでがしている。

『こ、こんなことって…』

 だが、おっかない女教師の前で、感情的に取り乱すことは許されない。美由紀は自身を落ち着かせるつもりで、一旦、
瞑目し、再度、通知表を見直してみた。

『……ひ、ひどい成績……』

 厳しい現実は変わらなかった。一学期にはオール五に近かった成績が、見るも無残に下降していた。何よりも評価の
欄には、『テストの点もさることながら、道徳において問題があるようです。したがって、その懲罰も兼ねて厳しい評価を
させていただきました』と記されていた。
 『テストの点もさることながら』とは、常に満点かそれに近い点数を取ってきた美由紀に対して、どういうつもりなのだ
ろうか。『道徳』とは、いかなる世界の道徳を意味しているのだろうか。『懲罰』という文言も意味不明だった。こんなに
も『厳しい』評価を受けねばならないほど、悪いことをしたというのだろうか。
 理解を超えた目の前の現実に、美由紀は眩暈がしてきた。
 悔しかった。悲しかった。父母に対して申し訳がなかった。温厚な父は怒りはしないが、ひどく落胆するだろう。気丈な
母は、猛烈に怒り出すことだろう。
 美由紀は、震える手で通知表を閉じた。とてもじゃないが、父母には見せられない。そして、仲の良いクラスメートにも
知られたくないほどの、ひどい評価だった。

「はーい、皆さん! 通知表は受け取りましたね? では、おうちに帰ったら、その通知表を、お父さんや、お母さんに渡し
て、ハンコを押してもらってきなさい。三学期の初日、始業式が終わったら、先生がハンコを押してもらっている皆さんの
通知表を集めますから、忘れないように! 特に、高須さん、いいですね?!」

 教壇では、女教師が口元を歪めて意地悪そうな笑みを浮かべていた。父母に通知表を提出することを逡巡している
美由紀の心を完全に見透かし、あまつさえ、それをクラスの皆の前で指摘して、彼女を晒し者にしたのだ。

『く、悔しい…』

 声を上げて泣きたかったが、それは懸命に耐えた。泣いたりしたら敵の思う壺である。
 女教師は、今にも美由紀が泣き出すだろうと、笑みを浮かべてその瞬間を持ち望んでいたようだったが、その意に反
して美由紀が平然としていることに苛立ち、あからさまに舌打ちして、その醜悪な面相を更に醜く歪めた。

「はい! 皆さん。これで二学期はお仕舞いです。掃除当番の人は、この後、掃除を忘れないように。それと、日直は掃
除が終わったら、学級日誌を職員室に居る先生のところに持ってくるように。いいですね?!」
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 吐き捨てるように、そう言うと、女教師は、出席簿を手に大股で教室から出ていった。
 女教師がドアを後ろ手に閉めて、こつこつと、ことさら大きな足音で遠ざかっていくのがはっきりすると、クラスのほぼ
全員から、大きなため息が一斉に漏れ出した。そして、ざわざわとした「成績が上がった」「下がった…」の言い合いに
紛れて、「あのババァ、嫌い」「感じ悪いし、何かにつけて、あたしらを悪者扱い」「ほんと、早く死んで欲しい」とかの陰口
が、ひそひそと交わされる。

「だ、大丈夫? みーちゃん…」

 美由紀と仲のよい女子児童数人が、着席したままうっすらと涙を浮かべていた彼女の顔を心配そうに覗き込んでいた。

「え? ええ…、だ、大丈夫…」

 滲んできた涙を、手の甲で乱暴に拭い取ると、どうにか笑顔を浮かべようとした。

「でも、顔が真っ青だよ…」

 無理な作り笑いであることは、級友にも簡単に見抜かれてしまった。嘘のツラが出来ないのは、どうやら父親ゆずり
であるらしい。

「う、うん。やっぱ、今学期はいろいろあったから…」

 机の上には、ハナマルが無残にもばってんで蹂躙された水彩画と習字の作品を置いたままだった。それと、理不尽と
いうか、非現実的な数字が並んでいる通知表…。

「ひどいよね…。絵を描いた時とか、習字の授業では、あの先生、みーちゃんの作品を『クラスで一番』とか持ち上げて
いたのに、みーちゃんが先生にちょっと口答えしただけで、こうだもん…。みーちゃんが真っ青になるのは無理ないよ」

「そ、そう?」

「でも、みーちゃん、何だかんだ言っても、お勉強出来るから、今学期だって、オール五なんでしょ? だったら、その絵と
か習字とかのひどい扱いなんか、どうってことないよぉ」

 級友たちは、美由紀の成績が今学期も申し分なしだと思っているらしい。それを、『違うんだ』と言って否定すること
は、元々がナイーブな美由紀には無理だった。

「あ、ありがとう。せ、成績は、ま、まぁ、いつもの通りっていうか…。なんていうか…」

 有体に言えば嘘もいいところなのだが、真実を告げれば自分自身が余計に惨めになるような気がした。美由紀は、
引きつっている頬を騙し騙し、どうにか笑顔をでっち上げ、適当に言葉尻をぼやかして、有耶無耶にした。
 そうしながら、問題の通知表は、いち早くランドセルに仕舞い、水彩画と習字の作品は、重ねてくるくると丸め、これも
ランドセルに突っ込んだ。授業がないことから、ランドセルの中には配布されたプリントと、メモ用の小さなノートと、コン
パクトな筆箱と、誰にも見せられない通知表しかないから、丸めた水彩画も習字の作品も、ぺしゃんこになるおそれはな
いだろう。

「うん、元気出しなよ。みーちゃん、頭よくって、何でも出来ちゃうんだからさ、先生に嫌われていたって、大丈夫だよ」

「う、うん…」

 理不尽な仕打ちというものは、経験しないに限るし、更には知らない方が幸せなのだろう。気遣ってくれているクラス
メートのことを思うと、なおさら事実を告げるのは憚られた。
 それに、人が人を評価するというのは、何と厄介であることか。公平で客観的に、とはいわれるものの、現実はこの通
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りである。結局は、好きか嫌いかが優先し、それがあたかも客観的なものであるかのように、もっともらしい理由付けが
なされているに過ぎないのだ。

『裁判でも、それは同じなんだ』

 父が訴訟代理人として裁判所に赴くという日の朝、朝食を摂りながら、そんなことを言っていた。難しいことは分から
なかったが、何でも、裁判官は、裁かれるべき者が原告、被告のいずれであるかの心証を抱き、その心証を裏付ける法
的な根拠を整理するのだという。法的な根拠があってから、誰が悪いかを決めるわけではないらしい。

 結局は、好きか、嫌いかに、理由は還元されるのだ。聡明であるとされる裁判官ですらそうなのだから、ましてや、一
介の小学校教諭に、私情を交えずに公平で客観的な評価なぞ出来ようはずがない。

「ふぅ…」

「みーちゃん、ため息なんかついて、どうしたの? いいから元気出しなよ。今日は掃除当番じゃないし、日直でもないん
でしょ? だったら、もう帰ろうよ。それに、今日はクリスマス・イブじゃん。いやなことなんか忘れて、ケーキ食べて、
サンタじゃなくて…、パパとかママからのプレゼントを楽しみにしてた方がいいよ」

 絶望的な気分だったが、クラスメートからの慰めが嬉しかった。美由紀が受けた仕打ちの実態を知らないからこその
発言ではあったが、それでも救いになる。

「そうね…。今日はクリスマス・イブなんだし…」

 夜になれば、父母も今年開業したばかりの事務所から仕事を終えて帰ってくるだろう。だが、それまでは、美由紀は
学校から距離にして一キロメートルほど離れたところにある賃貸マンションで、二人の帰りを待たねばならない。
 美由紀は、紺色のダッフルコートに袖を通し、ランドセルを背負い、帰る方角が同じであるクラスメート数人とで教室
を後にした。

「あの先生は居ないよね?」

 一同は、周囲に気を配りながら、緊張した面持ちで廊下を静かに歩いて行った。教師、とりわけ彼女らの担任に、廊下
を走ったり、騒いでいるところを見られたら、後の祟りが恐ろしいからである。
 下駄箱で上履きをスニーカーに履き替え、校門から外に出ると、漸く、一同の顔から緊張感が失せ、子供らしい笑顔
が戻ってきた。皆、二週間だけとはいえ、あの陰険でおっかない担任と顔を合わせなくて済むことを喜んでいるのだ。
 クラスメートたちは、「あたし、算数が三に下がっちゃった…」とか、「でも、国語はよかったんでしょ?」「まぁね、そこそ
こだけど」というようなことを口々に言い合いながら、それでも楽しそうに歩いている。
 その集団の最後を、美由紀は静謐だが能面のように生気がない面持ちで、ぼんやりとついて行った。

「じゃぁ、さようならぁ~」

 自宅近くになって、集団から離れ、ランドセルを揺らせて家路つく子が一人、二人になり、女子児童数人からなる集団
は、美由紀と教室で彼女を励ましてくれた子だけになっていた。
 いくぶんは赤みがかったショートカットの髪が、柔らかな冬の日差しを浴びて、きらきらと輝いている。母親ゆずりの
艶やかな黒髪を長く伸ばし、それをツインテールにしている美由紀とは対照的だ。
 二人はいつしか、都心へと延びる大手私鉄の線路を跨ぐ跨線橋の上を歩いていた。跨線橋の下、掘割のように深く
えぐられた凹地に、複線の鉄路が銀色に輝いている。人が互いにすれ違えるだけの幅しかない、この跨線橋を渡って、
児童公園の前を通り過ぎれば、美由紀とその父母とが住む賃貸マンションはもうじきであった。

「ねぇ、みーちゃん…」

 跨線橋を半分渡ったところで、その子が急に立ち止まった。

「ど、どしたの? ともちゃん…」
374聖夜の狂詩曲 6/64:2010/01/10(日) 23:06:27 ID:7TPjhBm4

 ともちゃん、と呼ばれた子は、振り返り、後からついて来ていた美由紀と向き合った。

「あ、あのさぁ…。みーちゃんは将来何になりたい? やっぱ、お父さんやお母さんみたく、弁護士じゃなかった、う~ん、
何だっけ…?」

 言い淀んでいる、ともちゃんに、美由紀は「弁理士だよ…」と、そっと指摘した。

「そ、そうそう、弁理士かぁ。みーちゃん、お勉強出来るから、成績が悪い私なんかと違って、やっぱ、そっちだよね?」

「う、うん…」

 今度は美由紀の方が口ごもってしまった。二学期の成績に限っていえば、間違いなく、ともちゃんよりも悪いだろう。

「でも、さぁ、みーちゃんって、歌やオルガンが凄く上手だよね。声がとっても綺麗だし…。前、みーちゃんが私んちに来
てくれた時、カラオケやったじゃん。その時に、うちのお父さんも感心して、『初音ミクみたいだな』なんて、言ってたんだよ」

「は、初音ミク? 誰?」

 何かの芸能人かと思ったが、美由紀には心当たりがなかった。ともちゃんも、実のところ、よくは知らないのだろう。
笑顔ではあったが、大きな瞳をきょとんとさせて、小首を傾げている。

「何でも、今から十四、五年前にはやった、歌を歌ってくれるソフトのキャラクターなんだって。そのキャラが、今のみー
ちゃんみたく、髪の毛が長くって、二つ縛りなんだよね」

「そ、そうなの?」

 間抜けな返事ではあったが、知らない以上、そうとしか答えようがない。だが、ともちゃんは、戸惑う美由紀には構わ
ずに、目を輝かせて、美由紀に向って一歩近付いてきた。

「で、さぁ~」

「な、何? と、ともちゃん…」

 迫られた美由紀は後ずさりしたが、ともちゃんは更に迫って美由紀の右手をがっしりと掴んだ。
 冬の柔らかな日差しが、ともちゃんの虹彩を際立たせている。そのともちゃんの目の輝きには、『逃さんぞ!』という気
迫すら感じられた。

「みーちゃん、歌手になんなよ! あたしも、みーちゃんと一緒に歌を歌いたい! それとか、バンドっていうんだっけ? 
ほら、ボーカルっていう歌手の他に、ギターやる人とか、ドラム叩く人とか…。そんな仲間を集めて、音楽やっていこう
よぉ!」

「ほ、ほぇ?」

「あたしは、みーちゃんと違って算数や国語や理科や社会は駄目だけど、音楽だけはクラスで一番だから。それに何より
音楽が好き。仲よしで、歌が上手いみーちゃんとなら、一緒に歌って、演奏出来る気がする。ねぇ、絵とか習字のこととか
で、なんか、元気なさそうだけど、絵や習字が駄目でも、歌があるじゃん!!」

 歌手って、バンドって、芸能界だろ? と美由紀は困惑していた。父母は露骨に芸能界を嫌っている。何でも、虚飾に
まみれたくだらない世界だと思っているようだ。
 そう言う母も、昔はモデルだったらしいが、美由紀にはそのことを話したがらない。もちろん、父も教えてはくれない。
 母方の祖母である川嶋安奈は女優だが、未だに母とは折り合いが宜しくないのか、たまにテレビに出てくると、母は、
375名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 23:07:23 ID:vf0sEw2Z
C
376聖夜の狂詩曲 7/64:2010/01/10(日) 23:07:51 ID:7TPjhBm4
『いい年こいて、派手ね…。趣味悪い…』とか、こき下ろしている。

「ねぇ、ねぇ、みーちゃんのお祖母ちゃんって、有名な役者の川嶋安奈でしょ? お祖母ちゃんを通して、芸能界に
デビューするとか出来るんじゃない?」

 冗談じゃない。芸能界というか、女優である祖母の存在そのものに否定的な美由紀の母が、よりにもよって、川嶋
安奈のつてによる芸能界入りを許すわけがない。

「で、でも、ママは芸能界、嫌いだから…」

 母に芸能界入りを反対されることを明確に伝えたかったのだが、ともちゃんの勢いに気おされ、美由紀は語尾を濁し、
言い淀んでしまった。
 案の定、ともちゃんには効き目がないのか、熱に浮かされたようになっている目の輝きはそのままである。

「え? みーちゃんのママが何だって? ま、いいか…。そんなことより、みーちゃんのお祖母ちゃんがオーケイすれば
いいじゃん! ねぇ、みーちゃんからも、あたしが歌手とか音楽をやりたいってのを、お祖母ちゃんに言っといてよ! 
もうすぐお正月だし、みーちゃんもお祖母ちゃんちに行くんでしょ? ね、その時にでも、お願い!!」

 うわぁ~、こいつ人の話を聞いちゃいねぇ…、と困惑している美由紀にはお構いなしに、ともちゃんは、握っていた
美由紀の手を更に強く握りしめ、それを上下に振り回した。指切りげんまんのつもりらしい。

「ね? この通り約束だよ。みーちゃんは、私と一緒に音楽やるの! で、今度のお正月には、みーちゃんはお祖母ちゃ
んちに行って、私らの芸能界入りを助けてもらうようにお願いするの! オーケイだよね?」

「う、うん…」

 掴まれた腕を、ぶんぶんと勢いよく振り回され、美由紀は、ついつい頷いてしまった。その瞬間、ともちゃんは、心底嬉
しそうににんまりとした。

「やったぁ! 約束だからね、ぜーったいに約束だからねぇ!!」

 ともちゃんは、掴んでいた美由紀の手を離すと、その場で、ぴょんぴょんと兎のように飛び跳ねた。その反動で、鉄骨
で出来ているはずの跨線橋がグラグラと揺れ出してくる。

「と、ともちゃん、や、やめてよぉ! は、橋が、ゆ、揺れちゃうぅ!!」

 美由紀はへっぴり腰で跨線橋の手すりに掴まった。鉄で出来た跨線橋が、その上で子供が飛び跳ねた程度で落ち
るとは思えなかったが、怖いものは怖い。母にも指摘されたことがあったが、美由紀は臆病な小心者だ。これも、どうや
ら父親から受け継いだものらしい。

「みーちゃん、ほんと怖がりなんだから…。でも、さっきのは約束だからね、忘れちゃいやだよ」

 ジャンプをやめた、ともちゃんは、跨線橋の手すりに掴まってへたり込んでいる美由紀に、念を押すように微笑みかけ
た。天真爛漫というか、頑是ない子供らしい表情は、誰に似たのか意地っ張りな美由紀にはないものだ。

「わ、分かった…。分かったよぉ…」

 跨線橋が揺れるのが怖かったからでもあったが、太陽みたいにキラキラしている、ともちゃんの害のない笑顔には、
同意を迫る拘束力があった。

「よーし、約束だからね」

 ともちゃんは、へたり込んでいる美由紀の手を引いて立たせると、手を繋いだまま、美由紀と一緒に跨線橋を渡り
377聖夜の狂詩曲 8/64:2010/01/10(日) 23:09:11 ID:7TPjhBm4
切った。その跨線橋を渡った向こう側は、小路が直進と右と左とに分かれている。

「じゃぁ、私の家はこっちの方だからぁ! さようならぁ!!」

 けろっとした表情でそれだけ言うと、ともちゃんは美由紀と別れて右の道を小走りに急いでいった。我が強くて強引
なところがあるけれど、かわいらしくて何故か憎めない。自分には、ああいうところはないなぁ、と美由紀はちょっと羨ま
しくなった。

「だけど、芸能界かぁ…」

 ともちゃんに比べて引っ込み思案である今の美由紀に、歌手が向いているとは思えなかったが、将来の夢としてなら
ば面白いかも知れない。それに、二学期の成績では、父母のように弁理士とか弁護士になるという今までの目標が、何
だか怪しくなってきていた。

「何よりも、こんな通知表、パパやママには見せられない…」

 逃げたかった…。
 芸能界、それに祖母である川嶋安奈。美由紀の母の実母だが、未だに確執があるのか、母との折り合いは宜しくな
い。その川嶋安奈宅に行けば、少なくとも、冬休みの間ぐらいは、両親から逃げることが出来るかも知れなかった。

「パパやママには悪いけど…」

 その場限りの現実逃避であることは、美由紀にも分かってはいた。だが、それ以上に、不本意な成績をさらけ出すの
が辛かった。
 美由紀は、跨線橋の袂からゆっくりと歩み出すと、自宅の最寄りにある児童公園に入り、ぽつんと一つだけ設置され
ているベンチに腰掛けた。そして、着用していた紺のダッフルコートのポケットから携帯電話機を取り出し、アドレス帳か
ら、『おっきなママ』を選択した。

「お祖母ちゃんだなんて、とんでもない…」

 とても五十代とは思えないほど、祖母である川嶋安奈は若々しく美しい。何よりも、本人の前で『お祖母ちゃん』など
と口走しろうものなら、どんな祟りがあるか分かったものではないのだ。
 美由紀は、『今夜は、おっきなママのおうちでクリスマスを祝いたいです。 美由紀』とタイプし、送信した。

「ふぅ…」

 女優川嶋安奈とメル友な小学生は、この世界でおそらく美由紀一人だろう。
 川嶋安奈は孫である美由紀には優しいが、それでも何か近寄りがたい雰囲気はある。今回のメールだって、内心は
ドキドキものだった。

「それに、動機が動機だから…」

 成績不振なので家出します、なんてのは、川嶋安奈だって却下する。子供らしい、他愛のなさそうな書き込みで誤魔
化すに限るのだ。その上で、母である亜美と川嶋安奈の不仲を利用して、『ママよりも、おっきなママは優しい』とか甘え
れば完璧だろう。

「こういうの、『小賢しい』って言うんだろうなぁ…」

 誰に似たんだか…、多分、母に似たのだろう。一筋縄ではいかない食えないところを、若干だが、母である亜美から
受け継いでいるらしい。父親の竜児は、亜美よりも聡明だが、馬鹿正直で、こうした駆け引きは得意ではない。

「本当は狡いんだよね…。でも、あんな成績じゃ、パパやママには顔向け出来ないし…」

378聖夜の狂詩曲 9/64:2010/01/10(日) 23:10:07 ID:7TPjhBm4
 両親とも、美由紀には「勉強しろ」とか「いい成績をあげろ」といったことは全く言わない。しかし、週末も自宅で判例
等の調べ物をしている両親を見ていると、勉強で怠ける訳にはいかなかった。よい成績をあげることで、尊敬する両親
に報いたいと思ってもいた。
 そのため、予習復習だけはしっかりやってきた。幸いにも、父親の聡明さを受け継いだのか、人並みの勉強だけで、
学年でもトップクラスの成績を維持出来た。
 その成績が、今学期はがた落ちした。原因は、担任教師の個人的な感情だと思う。今月の八日に、ホームルームで
の担任教師の話に、美由紀が異議を申し立てたのが祟っているに違いない。

「でも、結果が全てだから…」

 これも両親がよく口にする台詞だった。高須家では、『努力はしました』という言い訳は好まれない。失敗であれ、
成功であれ、何らかの結果をまずは重視し、次いでその結果がいかなるプロセスでもたらされたかが問われるのだ。
 そうであれば、担任教師との折り合いがよくないというのは、単なる言い訳に過ぎないだろう。

「だから、おっきなママのところに亡命するしかない…」

 博学な両親の下で育ったせいか、美由紀は小学生とは思えないほど語彙が豊富で、色々な概念を理解してきた。
本来は、自国において迫害を受け、または迫害を受ける危険があるために、外国に逃れることである亡命の意味も、
ニュースを見ながら、母が教えてくれた。

「おっきなママの家に行けば、ママもパパも簡単には私を連れ戻したりは出来ないはず…。これは、亡命なんだわ」

 そう思うと、何だかちょっと格好いい。亡命先は、曾祖父である『税理士のお祖父ちゃん』の家という線もあり得たが、
悲しいかなどうやって行ったらよいのか分からなかった。それに、両親と税理士のお祖父ちゃんは不仲ではないから、
簡単に連れ戻されてしまうだろう。その点からも、川嶋安奈宅は亡命先として最適であった。

「とにかく、家に帰ったら、書き置きをして、荷物まとめて、おっきなママの家に行かなきゃ…」

 川嶋安奈の家は、美由紀たちが暮らす町を通る大手私鉄とは別の路線沿いにあった。そのため、私鉄に乗って山手
線との接続駅にまで行って、そこから山手線で何駅か先の駅で、川嶋安奈が住む町を通る別の私鉄に乗り換えなけれ
ばならない。
 小学校四年生程度では道に迷うのが関の山だろう。だが、美由紀は、過去に二度ばかり、両親とともにこのルートで
川嶋安奈宅を訪れたことがあって、その時の記憶に頼れば何とかたどり着けるような気がした。

「やるしかない…」

 本当は、一人では怖かったが、亡命にリスクは付き物である。
 美由紀は、ベンチから立ち上がり、その児童公園の前の小路を足早に歩いた。その猫の額ほどのちっぽけな公園か
ら五十メートルほど行くと、外装がちょっと煤けた七階建ての賃貸マンションに行き着く。
 ロックを備えず、自動ドアですらないエントランスの重いドアを押し開けると、美由紀は、エレベーターに乗り込み、
五階で下りた。4LDKだが、築十数年にもなる、おんぼろマンション。両親は、独立して事務所を構えることを優先して、
贅沢を厳に戒め、仮の住まいと割り切ってここに住んでいる。
 廊下を歩いて、見慣れた我が家のスチール製のドアの前に立った。ドアには、赤いリボンと濃緑色の樅の葉、それに
褐色の球果が印象的なリースが掛っている。近所の交番の脇に生えている樅の木の、剪定で切り落とされた枝と球果
を使って、父である竜児がこしらえたものだった。
 交番の樅の木が剪定されている時に、買い物でその前を通りがかった父は、その場で警官の許可を得て、打ち落と
された枝と球果を貰ってきたらしい。家に帰ると、父はそれらを綺麗な円形に束ね、簡素ながら、樅の葉の濃緑色と
真紅のリボンのコンビネーションが美しいリースに仕立て上げた。
 そして、リビングには、母が美由紀と一緒になって飾り付けた、美由紀の背丈ほどの可愛らしいツリーがあるはずだ。
母は、小さなベルをテグスでいくつも結び、それらをツリーに絡ませていた。

「クリスマスの飾り付けっていうと、ママもパパも、特にママがノリノリな感じだけど、昔なんかあったのかな?」
379聖夜の狂詩曲 10/64:2010/01/10(日) 23:11:15 ID:7TPjhBm4

 おそらく、昔々に、二人きりでツリーの飾り付けでもやったことがあって、それを今でも懐かしんでいるのかも知れない。
 そんなことを思いながら、 美由紀はポケットを探ってマンションの合鍵を取り出すと、それを鍵穴に差し込んで解錠
した。時刻は、午前十一時半。平日のこの時間であれば、両親は都心に構えたばかりの『高須特許商標事務所』で忙
しく働いているはずだ。だが…、ドアを開けると、ほっとするような暖かさが感じられ、次いで、嗅ぎなれた香ばしい匂い
が美由紀の鼻腔をくすぐった。
 母親が日常的に焼いているパンの匂いだった。玄関の土間には、その母親が通勤に使っているローファーが揃えて
あった。

『ママが居る!』

 想定外の状況だった。書き置きしてから家出するなんて悠長なことは出来ない。いっそ、このまま回れ右して、玄関か
ら飛び出そうかと思った矢先、

「あら〜、お帰りなさい」

 キッチンの方から、その声と、次いで近づいてくる足音が聞こえ、玄関からリビングに続く廊下に、黒いエプロン姿の
亜美が姿を現した。

「早かったのね。あ、そうか、今日は終業式だけだっけ?」

 エプロンのポケットに入れていたタオルで手を拭いながら、亜美は玄関に突っ立ったままの美由紀に近づいてきた。
 美由紀は、「う、うん…」とだけ曖昧に頷いて、亜美の表情を窺う。その亜美の鼻の頭には、白っぽい粉のようなもの
が付着していた。

「ママ、お鼻のてっぺんに小麦粉が…」

 亜美が自分に注目するのを逸らそうという苦し紛れの一手だった。亜美は、きょとんとして、鼻の頭に手を遣り、本当

に粉が付いているのを確認すると、「あら、やだ…」と呟いて苦笑した。

「あんたにも言っておいたけど、今晩は、祐作おじちゃんや、すみれおばちゃん、それに能登のおじちゃん、麻耶おばちゃ
んが来て、クリスマス・パーティーをする予定だから、その準備のためにまずはパンを焼いていたのよ」

 しまった…、今夜は、高須特許商標事務所の開業祝いとかで、父母の友人がやって来ることになっていたんだっけ。
そんな大事なことを、悪夢のような成績を取ったせいで、完全に失念していた。

「パーティーのお料理は、パパが下ごしらえしておいてくれたけど、もう一手間が必要なのよね。特に、今回のメイン
ディッシュである牛肉の煮込みは、これからパパ特製のドミグラスソースを加えてじっくり煮なくちゃいけないから、ママ、
お仕事はちょっとお休みしちゃった」

「そ、そうなんだ…」

「あら、何よ、意外そうな顔して…。ちゃんとしたものを出さないと、お客さんに申し訳ないでしょ? だから、事務所のお
仕事はパパに任せて、ママはこうしてパーティーの準備をしてるのよ」

 まずいことになった。これでは家を抜け出して川嶋安奈宅に亡命するのは、ほとんど不可能である。だが、チャンスは
あるかも知れない。美由紀は、気を取り直し、出来るだけ子供らしい笑顔を心掛けて、亜美に向き直った。

「じゃ、じゃぁ、私もママのお手伝いするぅ〜」

 とにかく、勉強とは関係ないことへと亜美の注意を逸らして不本意な成績が発覚するのを少しでも遅らせる。その間
に隙を見て逃げ出せばいい。美由紀は、小学四年生とは思えない小賢しさで、そんなことを考えていた。
380聖夜の狂詩曲 11/64:2010/01/10(日) 23:12:17 ID:7TPjhBm4
 母親の亜美は、我が子の意図を知ってか知らずか、害のなさそうな淡い笑みを浮かべている。そうした笑顔は、娘か
ら見ても美しい。

「それなら、まずはちゃんと手を洗って、うがいして、それからあんた専用のエプロンを着なくちゃ。身支度がちゃんとして
いないと、人様に出す料理なんか作れないわよ。それと、お昼ご飯だけど、賄いっていうのか、パーティーに出す料理の
味見も兼ねて、それをおかずにして適当に食べるけど、それでいいわね?」

「うん、うん」

 美由紀は二つ返事で頷いた。通知表のことを取り敢えず誤魔化せるのなら、何でもオーケイだった。
 とにかく、ランドセルを子供部屋に置いて、コートを脱ぎ、セーターも脱いでブラウス姿になった。そして、洗面所に行き、
うがいをして、手を薬用石鹸で十分に洗浄した。父母、特に父は万事清潔であらねばならぬという信念の持ち主だから、
その娘である美由紀も、自然と綺麗好きになっていた。
 うがいをして手を入念に洗い終え、キッチンに赴くと、母親である亜美が、美由紀専用の空色のエプロンを用意して
待っていてくれた。

「はい、あんたのエプロン…」

 そのエプロンを頭から被り、背後で紐を縛った。既に何度となく着用しているので、手探りででも紐は結べる。
 身支度が完了して、ちょっと落ち着くために、美由紀はキッチンをぐるりと見渡した。コンロの上ではブイヨンで牛肉
の大きなかたまりを煮込んでいるらしい寸胴鍋が湯気を上げていた。別のコンロでは、パーティーの初っ端に出すらし
いスープが煮えている。スープは、美由紀も好きなカボチャのポタージュであるようだ。

「今年は、パパもママも忙しくて、冬至カボチャを食べられなかったから、スープだけど、これでカボチャを戴こうって寸法
よ。あんたも、カボチャのスープは好きでしょ? 生クリームをたっぷり入れて、口当たりをよくするから、きっと美味しい
はずよ」

 亜美はそう言って、悪戯っぽくウインクした。
 今は、カボチャをブイヨンで柔らかく煮ている段階なのだろう。カボチャが十分に柔らかくなったら、フードプロセッサ
で砕いて、更に裏ごしにする。その手順なら、以前、亜美を手伝ったことがあるから、覚えがあった。
 美由紀は、父がアングル材を組み上げて自作したオーブン用のラックに目を向けた。そのラックに乗っているオーブ
ンの庫内は、遠赤外線を含む熱線で、丸く成形された大きなパン生地が赤々と照らされていた。
 温度は二百三十度ぐらいだろうか。亜美のパンのレシピは、高温でしっかりと焼き、表面に歯ごたえのあるクラストを
作るのが特徴だった。噛めば噛むほど味のあるパン。学校給食に出てくるフニャフニャの白パンとは大違いだ。

「ママ、このパンもライ麦入れたぁ?」

 高須家でパンといえば、ライ麦を入れた、ベージュや褐色のパンが普通だった。だから、美由紀は、初めて学校給食
で白パンを見た時は、逆にちょっと驚いたものである。甘いもの、柔らかいものを子供は一般に好むとされるが、パンに
限っては、歯ごたえのない量産品の白パンよりも、固いが旨味が凝縮された自家製パンの方が断然美味しい、と美由
紀は思うのだ。

「ああ、それねぇ。入れてはあるけど、ほんのちょっとだけ…。お客様が食べるんだから、我が家の流儀を押し付ける訳に
はいかないでしょ? ドイツパンじゃなくて、万人向けのフランスパンのレシピで作ってるのよ」

「そうなんだ…」

 庫内では、直径二十センチ強の丸いパンが熱で炙られて膨らみ始めていた。パン・ド・カンパーニュを焼いているらし
い。いつものドイツパンではないけれど、これはこれで美味しいかも知れない。

「さてと…」

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 亜美は寸胴鍋の蓋を開けた。その寸胴鍋では、オーブンで表面を焼かれた牛肉のかたまりが、セロリや、玉ねぎや、
ニンジンやらの野菜と、月桂樹の葉っぱや胡椒、タイム等の香辛料をガーゼにくるんだ『ブーケガルニ』とともに、ブイ
ヨンの中で、ことことと煮られていた。

「どうかな? そろそろ煮えていると思うんだけど…」

 亜美は、竹串をおもむろに牛肉のかたまり突き刺して引き抜き、その引き抜いた竹串の先端を検分している。

「柔らかくなっているし、血みたいな生っぽい汁が付いてこないから、頃合いかしらね…」

 そして、牛肉を煮ているブイヨンを小皿に少し掬って味見をした。

「うん…、いいかも!」

「本当? 私も味見するぅ!」

 亜美は、もう一回、小皿にブイヨンを掬い、それを美由紀に差し出した。

「本当だぁ、美味しい!」

 その一言で、亜美は得意そうな笑みを浮かべた。

「このお料理はねぇ、ちょっと前に、あんたとパパとママとで、事務所開業祝いに、ホテルのレストランでご馳走を食べた
でしょ? その時のメインのお料理を、パパが再現しようとしたものなのよ。全く同じ物は出来ないかも知れないけど、
そこそこ旨く仕上がりそうな感じよね」

「あの時の、お料理なんだぁ…」

 それは、美由紀の記憶にも鮮やかだった。大きな牛肉のかたまりをシチューのように煮て、ステーキのように切り分け
られた料理。ドミグラスソースの濃厚な味わいが、まったりとしていて、本当に美味しかった。

「お昼ご飯は、このブイヨンをスープにして、後はカボチャの煮た奴をちょっと失敬して、それから作りおきしてあるライ
麦パンとハムとチーズで簡単に済ませましょ。今晩は、もの凄いご馳走の連続だから、あんまりお昼でお腹一杯にしちゃ
うと後悔することになるかも知れないわよ」

 肉料理だけでもお腹一杯になりそうだったが、竜児も亜美も、前菜からスープ、魚料理、肉料理とフルで出すつもりら
しい。それを想像すると、生唾が湧いてくるが、諦めなくてはならなかった。ご馳走の誘惑は断ち難かったが、何よりも、
亜美の隙を見て、川嶋安奈宅へ亡命することを優先しなければならない。

「そろそろお昼だから、軽く昼御飯にしましょ…」

 ちょうどオーブンではパンが焼き上がったらしく、亜美はキッチンミトンをはめた手で、オーブンのドアを開け、トング
でアツアツの大きな丸パンを取り出し、ケーキクーラーと呼ばれる平たい金網に置いた。

「え、そのパン、もう食べちゃうの?」

 亜美は、苦笑してかぶりを振った。

「このパンは今夜のお客さん用。だから、ライ麦をあんまり入れなかったのよ。あたしたちは、作り置きしてあるいつもの
ライ麦パンを食べましょ」

 亜美は、冷蔵庫からジップロックで密閉されたゴーダチーズのブロックを取り出すと、チーズ専用のナイフでそれを
薄切りにした。そして、ハムを入れたジップロックも冷蔵庫から取り出し、二枚の平皿に、そのハムを二枚ずつ、先ほど
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薄切にしたチーズとともに載せていった。

「美由紀、悪いけど、テーブルにライ麦パンが載ってるでしょ? それをパン切り包丁で薄く切っておいて頂戴」

「う、うん…」

 母親に命ぜられて、美由紀は刃が細かく波打っているパン切り専用の包丁を手に取った。何でも、結婚前に、デート
も兼ねて行ったらしい浅草近くのプロ用調理器具専門の店で買ったものらしい。以来、十数年以上も毎日のように酷
使されているが、切れ味は未だに新品同様の鋭さがあった。

「その包丁は、一生ものだから、よく切れるのよ。だから、あんたも手を切らないように注意してね」

 実用的な道具や、書籍といったものには金に糸目をつけないのが、美由紀の両親である。『安物買いの銭失い』と
いうようなことは、美由紀の家で愚の骨頂であるらしい。
 その包丁で慎重にパンを切っていく。ライ麦百%の濃褐色のパンはえらく固いが、細かく波打った鋭利な刃先の前に
は無力だった。パンは、およそ四ミリメートル幅で、亜美の分として四枚、美由紀の分として三枚切り分けられた。見た目
は少ないが、ライ麦百%のパンは、みっちりと詰まっていて、少量でも腹もちがよい。

「あら、今回は以前よりも綺麗に切れたじゃない。あんたは器用だから、勉強でも何でも、本当に飲み込みが早いわね」

 母親から誉められたのは正直嬉しかったが、『勉強』という語句で、美由紀は、びくっとした。話題が勉強がらみに
なるのは避けなければならない。

「う、うん…。この前のサンドイッチの時は、ちょっと厚みにムラが出来ちゃったから、今回は厚みを揃えるようにしたんだよ」

 ちょっと頬が引きつっていたような気がしたが、にっ、と白い歯をわざとらしくむき出して、亜美に笑い掛けた。
 その亜美も、優しげな笑みを湛えている。よかった、この場は、なんとか誤魔化すことが出来たようだ。

「それじゃ、スープとパンと、ハムとチーズと、煮たカボチャだけだけど、お昼御飯よ」

 そう言いながら、亜美は寸胴鍋からブイヨンの上澄みを掬って、二つのマグカップに満たした。

「スープは熱いから気を付けてね」

 亜美から受け取ったマグカップには、ちょっと濁った琥珀色のブイヨンが満たされ、それが、ほかほかと暖かな湯気を
上げていた。牛肉の濃厚な匂いと、セロリや玉ねぎ等の香味野菜、それにタイム等のハーブの清々しい香りが食欲を
そそる。

「はい、じゃぁ、戴きます」

「い、戴きます…」

 亜美と二人、ダイニングのテーブルに着席し、「戴きます」を合図に、美由紀はマグカップのブイヨンを一口啜った。
先ほど味見をしたので分かってはいたが、やはり美味しい。カボチャも、ブイヨンで煮たものに、摩り下ろしたパルミ
ジャーノ・レッジャーノをちょっとだけ振り掛けただけだが、カボチャの甘みと、ブイヨンのうま味と、チーズの風味があい
まって、美味しかった。ライ麦パンは食べ慣れたものだが、いつ食べても飽きがこない。この分なら、今夜の晩餐の料理
は、かなり期待が持てそうだ。美由紀は、亡命するのはやめて、成績が下がったことを正直に告げて、両親の許しを請い、
その上で今夜の晩餐を楽しんだ方がいいかも知れない、と思い始めてきた。

「お昼を簡単に済ませたら、牛肉の煮込みにドミグラスソース加えて、とろ火で煮て味をしみ込ませるのよ。ドミグラス
ソースを入れちゃうと、途端に焦げやすくなるから、お鍋につきっきりで居なくちゃいけない。ママは、キッチンでお鍋の
番をしてるから、あんたは、少し休んでていいわよ」
383聖夜の狂詩曲 14/64:2010/01/10(日) 23:15:47 ID:7TPjhBm4

「う、うん…」

 逃げるなら、今のうちかも知れない。ともちゃんの家に行くとか言えば、この家をエスケープ出来るだろう。だが、晩餐
の誘惑を断ち難かったし、パーティーの準備を楽しそうに進める母を見ていると、それを裏切ることが憚られた。

「ママ、洗い物は私がやるぅ」

 せめてもの償いのつもりだったのかも知れない。家出をするのであっても、皿ぐらいは洗ってからにしようと思った。

「そう、じゃぁ、お願いね。正直助かるわ…」

 亜美は嬉しそうにそう言うと、別の鍋で竜児が作っておいた特製のドミグラスソースを、ブイヨンで牛肉の塊を煮てい
る寸胴鍋に加えていった。琥珀色のブイヨンは、たちまち暗褐色を呈し、子牛の大腿骨や脛肉、それに多種の香味野菜
がローストされ、煮出された深い風味を備えていった。
 その濃褐色の煮汁を、亜美は僅かに掬って味見している。

「うん、もの凄く美味しい。やっぱ、パパ特製のソースは秀逸ね」

 そうして、亜美は娘のためにも、うま味がいっぱいの煮汁を掬い、それを小皿に注いで差し出した。
 食器を洗う途中だった美由紀の手は洗剤まみれだったので、亜美は「ほらぁ、あんたも味見」と言って、その小皿を
彼女の口元に持っていった。美由紀もまた、亜美が支える小皿から味見した。

「本当だ、凄く美味しい…」

 以前に一家で外食した時の料理を模倣したということらしいが、それと甲乙つけ難い美味しさが期待出来そうだ。
 やっぱり、亡命は中止するか? 内心ではそんなことを悩みながら、美由紀は皿洗いを終えた。
 リビングで電話のベルが鳴ったのは、その時だった。

「ママ~、電話ぁ~」

 だが、キッチンの亜美は、笑顔ながらも首を左右に軽く振っている。

「ちょっと、手が離せないから、あんたが出て頂戴」

 どちらかと言えば引っ込み思案の美由紀にとって、電話で見知らぬ誰かに応対するのは得意とは言えなかったが、
母の命令とあらば致し方ない。だが、電話機のディスプレイに表示された『パパ携帯』の文言で、美由紀はほっと安堵
した。

「ママ~、パパからだけどどうする?」

 その一言で、亜美は、一瞬、浮足立ったようにも見えた。だが、すぐに、元の落ち着いた態度で鍋の方に注意を向けて
いる。

「う~ん、やっぱあんたが出て頂戴。話によって、ママが出るかどうかするから」

「うん…」

 美由紀は、ハンドセットを持ち上げて、「はい、高須です…」というように、いつぞや亜美に躾けられた通りの応対を
心掛けた。番号通知で相手が父親であることが明白であっても、定石通りのマナーは大切だ。

『おう、美由紀か、パパなんだが、ママはどうしている?』

 聞き慣れた父の声に雑踏らしいノイズが重なっていた。どうやら、父は事務所を出て、どこかの街を歩いているらしい。
384聖夜の狂詩曲 15/64:2010/01/10(日) 23:18:02 ID:7TPjhBm4

「ママは、牛肉の煮込みが焦げないように、お鍋の番をしているよ。どうする? ママと代わる?」

『そうか、忙しそうみたいだが、弁理士の仕事のことで是非ともママに知らせておきたいことがあってね。それも、とびっ
きりのビッグニュースだ。悪いが、ちょっとママと代わってくれないか』

 美由紀は父親に対して、「うん、分かった…」とだけ告げ、次いでハンドセットの送話器を手で塞いでから、

「ママ~、パパが弁理士のお仕事のことでビッグニュースがあるから、電話に出てくれって言ってるよぉ」

と、キッチンの亜美を呼ばわった。
 亜美は、鍋の火を一旦消すと、「しょうがないわねぇ…」と呟きながら、リビングに赴いて、美由紀からハンドセットを
受け取った。

「はい、もしもし、あたしだけどぉ?」

 面倒臭そうにしながらも、本心では夫からの電話が嬉しいのだろう。亜美は、ハンドセットのカールコードを半ば無意
識に指先に巻き付けるようにして弄んでいる。そうした仕草は、おそらく、結婚前からなのだろう、と美由紀は想像した。
 まるで小娘のような風情で夫との電話を楽しんでいた亜美が、いきなり素っ頓狂な声を上げた。

「ええっ! ほ、本当?! あ、あたしたちに、新規ブランド、新製品開発のコンサルティングをやらせてもらえるのぉ!!」

 父親からの音声は、美由紀には全く聞こえないから、会話の詳細は不明だし、何よりも小学四年生に父母のビジネ
スを十分に理解するのは難しかったが、それでも両親に大きな仕事が任されるらしいことは雰囲気で察せられた。

「やった! やったじゃん!!」

 娘が居るにもかかわらず、亜美は子供のようにはしゃいでいる。普段から、笑顔を絶やさない母だったが、こんなにも
喜色満面なのは、見たことがない。

「うん、うん…。これは、祐作とか麻耶とかにも祝ってもらわなくちゃ! だとすれば、ちょっと贅沢だけど、シャンパン開け
ようよ。え? いいじゃん、こんな目出度いニュースなんだからぁ。それに、コンサルティング業務が軌道に乗れば、今回
贅沢に飲み食いしたって、すぐに元は取れるわよ。え、赤ワインと白ワインは、そこそこのもんがあるから、シャンパンは
要らないですって? バカ! もう、本当にバカで頑固でムードないんだからぁ…。と・に・か・く、祝い事にはシャンパン! 
大口ビジネスが獲得出来たんだから、ちょっとぐらいの贅沢でがたがた言わない! いいわね?!」

 夫との電話を終え、ハンドセットを電話機に戻した亜美の顔が上気していた。その自覚があるのか、亜美は、目を潤ま
せて、その頬に両掌を当てている。

「ママ…」

 その亜美の様子から、美由紀にも、大変なニュースであることが理解出来た。

「うん…。ちょっと、ママ取り乱しちゃったけど、本当にもの凄いニュースだったわ…。先月末に、パパとママは、大きな
会社からお仕事を貰えるように、その会社に行ってお願いしてきたんだけど、それがそのまま認められるなんて、本当に
夢じゃないかと思うくらい…」

 成功すれば、両親が経営している特許商標事務所は、大躍進することだろう。今まで以上に両親は忙しくなるだろう
が、その分だけ、裕福な暮らしが約束されるに違いない。

「お仕事、いっぱい来るの?」

 亜美は頷いて、傍らに立つ美由紀の頭を優しく撫でた。
385聖夜の狂詩曲 16/64:2010/01/10(日) 23:19:29 ID:7TPjhBm4

「そうよ、いっぱいっていうか、大きなお仕事が来るのよ。パパとママのお仕事は、その会社の行く末そのものも左右する
ような大切な仕事なの。だから、お金がどうとかってよりも、責任ややりがいがあるお仕事なのよ」

 亜美は、エプロンで目頭をちょっと押さえると、微笑した。

「あらやだ…、お目出度いってのに湿っぽくなっちゃった」

 自嘲するように呟くと、キッチンの片隅にある戸棚の最下層の扉を開けた。そこは、高須家のささやかなワイン保管
庫になっていて、横置きのラックには、暗緑色をした瓶が何本か収められていた。

「う~ん、シャンパンとはいかなくても、カバぐらいだったらあるかと思ったんだけど、ないわね…」

 カバとは、スペイン産のスパークリングワインである。倹約を旨とする高須家では、祝い事でスパークリングワインを
飲む時は、もっぱらこれだ。シャンパンに近い味わいを持ちながら、シャンパンよりもリーズナブルなのが有難い。しかし、
それでも一般のワインよりは割高である。

「ママ、どうするの?」

 ラックに屈み込んだまま、眉をひそめて唸っている亜美が心配になって、思わず美由紀は声を掛けた。
 その呼び掛けで亜美は我に返ったように、はっとして振り返った。

「あっと、ごめんなさい。さっき電話ではパパにシャンパンを買うとか息巻いたけど、やっぱ贅沢は敵かなとか思っちゃった…」

「じゃ、お酒は買わないの?」

 亜美は一瞬瞑目してから、大きな瞳を娘に向けた。

「ストックしているワインでも十分かなとも思ったんだけど、やっぱりそれじゃケチ臭いかなって…。だから、ちょっと悩まし
いけど、ママ、これからお買い物。駅前のお酒の量販店で、シャンパンを、そうね…、お客様は祐作おじちゃんと、すみれ
おばちゃんと、能登のおじちゃんと麻耶おばちゃんだから、二本ぐらい買っておこうかしらね」

 そう言いながらも、ラックから白ワインを三本取り出した。

「正直、シャンパン二本じゃ足りないけど、残りはこっちの白ワインで我慢してもらうとして、赤ワインは十分にあるから、
いいかな…」

 取り出した白ワインを冷蔵庫に仕舞うと、亜美は黒いエプロンを脱いだ。

「ど、どうしたの…」

 不安そうな美由紀に、亜美は微笑むと、電話に出るために一旦消したコンロを再点火し、牛肉の入った寸胴鍋をとろ
火で温め始めた。

「あんたにお願い…。さっきは、ちょっと休んでいてとか言ったけど、申し訳ないけど撤回させて頂戴。ママはこれからお
酒を買いに行くから、その間は、あんたがお鍋の傍に居て、お鍋の中身を木べらでかき混ぜててね。そうしないと、すぐに
焦げちゃうから…。どう? あんただったら出来ると、ママは信じているんだけど」

 亜美は、軽くしゃがみこんで、目線を美由紀の瞳に合わせ、念を押すように淡い笑みを浮かべた。それに、『信じてい
る』とまで言われると、それに抗うことは出来そうもない。

「う、うん…。で、出来るよ…」

386聖夜の狂詩曲 17/64:2010/01/10(日) 23:21:05 ID:7TPjhBm4
 ちょっと、ためらいがちだったが、はっきりとそう告げると、亜美は笑顔で「よかった…」と呟いて、美由紀に木べらを
手渡した。

「とろ火だけど、ドミグラスソースは焦げやすいからね…。その木べらで、あ、そうそう、そんな感じで、時々でいいから、
ゆっくりとかき混ぜていてね」

 意外にしっかりとした美由紀の手つきに亜美は安心したのか、リビングのコートハンガーに掛けてあった紺色のダウ
ンジャケットに袖を通し、ポケットに携帯電話機と財布と合鍵を放り込んで、前のジッパーを上まで閉めた。そして、竜児
手製のエコバッグを手にすると、キッチンの入口から美由紀に声を掛けた。

「じゃぁ、ママは出来るだけ早く戻るけど、その間だけ、お鍋の番を宜しくね。くれぐれも焦がさないこと、それと、火を長
時間止めないこと。この二つをきちんと守って頂戴」

「う、うん…」

 美由紀が、軽く頷くと、亜美も満足そうににっこりとし、そのままリビングのドアを開けて廊下へと出て行った。ほどなく
靴を履くらしいごそごそとした気配があり、玄関のドアを開閉する音と、それを施錠する音とが聞こえてきた。
 その後は、とろ火の上でふつふつと煮える鍋の音だけが静まりかえった室内に響いていた。

「ママ、行っちゃった…」

 川嶋安奈宅に亡命するなら、またとない好機だった。だが、任された仕事を放擲して、家出するなんてのは最低だ。
何よりも、母である亜美は、美由紀に対して『信じている』とまで言ったのだ。それを裏切ることは出来なかった。

「どうしよう…」

 亡命か、このまま家に居て、成績表のことを素直に詫びるか、美由紀は、物憂げに鍋の中身を木べらでゆっくりとかき
混ぜながら懊悩した。
 鍋からは、ドミグラスソースと香味野菜の香りが広がっていた。こってり、まったりした感じの芳醇な香りなのだが、ロリ
エやタイムが効いているのか、意外に爽やかでもある。ボリュームのある料理だが、後味はすっきりしていることだろう。
父母、特に父である竜児が手掛ける料理は、嫌味のないうま味が特徴である。父は、弁理士にならなければ、調理師に
なっていたかも知れない、と以前、祐作おじちゃんが教えてくれたことがあったが、どうやら本当らしい。

「それにしても、美味しそうだなぁ…」

 鍋をもう一回かき回して、中身が焦げ付かないようにすると、美由紀は冷蔵庫を開けてみた。
 そこには、三枚に下ろされた鰯らしいものと、輪切りにされたサーモンの切り身が、それぞれ別々のバットに並べられ
ていた。

「凄い…」

 サーモンはムニエルにでもするのだろうか、だとしたら嬉しい、と美由紀は思わず生唾を飲み込んだ。バターの風味
がする小麦粉の衣は、脂の乗ったサーモンの身と相まって、頬っぺたが落ちそうなほど美味しいことだろう。
 鰯か何かの方は、オリーブオイルで焼いて、バルサミコ酢で味付けするつもりらしい。子供向きとは言えない料理だ
が、これも美由紀は結構好きだ。

「おっと、お鍋、お鍋…」

 冷蔵庫の中身に気をとられて、肝心の鍋を焦がしてしまっては元も子もない。
 美由紀は、先ほど同様に鍋の中身をゆっくりとかき混ぜながら、キッチンの隅々まで改めて見回してみた。
 棚の上の方に目を遣ると、見慣れない赤いケーキが目についた。どうやら、昨夜のうちに、父か母かが焼いておいた
ものらしい。赤いケーキは、クリームの飾り付けもトッピングも何も施されていない。つまり、素のままの状態で臙脂色の
ような赤みを帯びていた。形はクグロフにそっくりだが、生地そのものが赤いことで、別物のようだった。正体不明だが、
387名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 23:23:07 ID:XYBU/brm
ワンパターンすぎて、さすがにもう飽きたな…
388聖夜の狂詩曲 18/64:2010/01/10(日) 23:23:41 ID:7TPjhBm4
旨そうなことは間違いない。

「やっぱ、亡命は、やめとこうか…」

 普段から美味しい物を食べ慣れている美由紀にとっても、今夜の御馳走は素晴らしい物に思えた。
 外食を含めても、こんな御馳走は、そうそうはないかも知れない。
 美由紀は、今晩のメインディッシュである牛肉の煮込みを、ゆっくりとかき混ぜながら、見入ってしまった。少なくとも、
川嶋安奈宅では、ここまで手の込んだ料理は出ないだろう。それだけは確実だった。

「やっぱ、亡命はやめ!」

 美由紀は、鍋が焦げないように十分にかき混ぜると、大急ぎで子供部屋に行き、コートのポケットに入っていた携帯
電話機を手にしてキッチンに戻ってきた。
 木べらで鍋の中身を探るようにかき混ぜて、焦げていないことを確認すると、携帯電話機で川嶋安奈へのメールを
タイプし始めた。

「えーと、『おっきなママ、いろいろあって』、この後の文はどうしようか…」

 自分の方から言い出しておいて、それを撤回するというのは、何であれやりにくい。
 美由紀は、どうすれば祖母である川嶋安奈の心証を害さないかに悩み、携帯電話機を握ったまま、うんうん、と唸っ
ていた。

「ただいまぁ~」

「えっ?」

 メールの文面をどうするかに気を取られていて、リビングに亜美が入って来たことに気付かなかった。慌てた美由紀
は、迂闊にも何かのボタンを押してしまい、そのために書きかけの文面がそのまま安奈へと送信されてしまっていた。

「うわぁ!!」

 完全に後の祭りだった。慌てふためいても、送信したメールは消去出来ない。

「美由紀~、ちゃんとやってるぅ?」

 更には母である亜美がキッチンの方へ近づいてくるようだ。まずい、一時的とはいえ、鍋の番をせずにメールを送信
しようとしていたのだ。美由紀は、携帯電話機をエプロンのポケットに仕舞うと、慌てて鍋の中身を木べらで掬ってあら
ためた。

「よかった…。なんともない」

 時間にして、ほんの二・三分というのが幸いしたようだ。そのまま木べらで鍋の底をくまなくこそげるようにしてかき混
ぜ続け、あたかも、亜美が留守の間にずっとそうしていたかのような振りをした。

「お、ちゃんとやっとるな、感心感心…」

 紺色のダウンジャケットを脱ぎながら、亜美が鼻歌交じりで呟いた。床に置いたエコバッグには、先端を金属箔で覆
われたシャンパンのボトルが二本と、子供向けのスパークリングワインもどきの炭酸飲料が四本ほど入っていた。
 ダウンジャケットを脱いだ亜美は、そのエコバッグを手にキッチンに入ってきた。

「お、お帰りなさい」

 美由紀の返事に、亜美は満足そうに「うん、うん…」と頷いている。
389名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 23:24:06 ID:AXHk33jt
オリキャラだって平気だぜ
支援
390聖夜の狂詩曲 19/64:2010/01/10(日) 23:25:24 ID:7TPjhBm4
 そのまま冷蔵庫のドアを開けて、シャンパン二本と炭酸飲料四本を押し込んだ。

「もう、中はいっぱいだけど、どうにか入ったわね…」

「子供用の飲み物、四本も買ったの?」

 亜美は苦笑している。おそらく、四本全部が美由紀のものだと、美由紀が思っていると勘違いしているのだろう。

「これはねぇ、あんたも含めた、お酒の飲めない人向けなのよ。ほら、すみれおばちゃんは、全然飲めないわけじゃないけ
ど、一口でべろんべろんに酔っぱらうから…」

 そう言って、亜美は悪戯っぽく相好を崩した。たしかに、今年の夏に、北村とすみれの夫妻が遊びに来た時、ビールを
一口飲んだだけで、すみれは完全に酔っぱらい、しばらくはソファーにもたれてひっくり返っていた。宇宙飛行士で、もの
凄く頭がよくて、何でも出来ちゃう北村すみれだったが、思わぬところに弱点があるのだ。こうした、完全無欠ではない
ところが、人間の面白いところなのかも知れない。
 父である竜児も、聡明で、万事をそつなくこなすスーパーマンみたいな人だが、怪談やホラーものが大の苦手という
ことを美由紀は既に見抜いていた。だからこそ、美由紀は父である竜児が大好きだった。
 それに、機転が利くけれど、身内には少々口が悪い、母である亜美のことも大好きだ。

「ママ、うがいと手洗うの、忘れてるよ」

 そのままキッチンに立とうとした亜美に、美由紀はすかさず突っ込んだ。何かの問題点があれば、誰でもが忌憚なく
言える。それが高須家の暗黙のルールである。

「おっと、いけねぇ、いけねぇ…」

 もっともなことを指摘され、亜美はぺろっと舌を出して、洗面所に向かった。
 そんなコミカルな仕草で、美由紀は、ほっとした。亜美なら、本当のことを話せば分かってくれるだろ。そして、父である
竜児も、美由紀の成績がガタ落ちしたことを、感情的に咎めることはないはずだ。
 問題は、川嶋安奈への『そっちには行けない』旨のメールが中途半端な状態で送信されてしまったことが、実の祖母
とはいえ、多忙であるはずの大物女優が、孫の拙いメールのことをいちいち気になどしないだろう。

「さぁてと、もう三時過ぎか…」

 リビングに置いてある時計を見た亜美が呟いた。何でも、パーティーは午後七時には始めるらしいから、それまでに
牛肉の煮込みと、カボチャのスープは完成させ、お客様が来たら、前菜と、サーモンのステーキだかムニエルだかを手
早く作っていくという段取りらしい。
 そして、食後は、美由紀が初めて目にする赤いケーキが、粉砂糖か生クリームの飾り付けをされて、振る舞われること
だろう。

「あんたは、もうちょっと、お鍋の番をしていてね。ママはカボチャのポタージュの仕上げをするから」

 言うなり、ブイヨンで煮られて十分に柔らかくなっているカボチャを、煮汁であるブイヨンごとフードプロセッサに入れ
た。煮汁には玉ねぎと、ご飯粒が少々混じっている。

「前もそうだったけど、何でご飯粒が入ってるの?」

 何かの手違いで、ご飯が混じったんじゃないかと、美由紀は思っていた。
 だが、亜美は、にこにことした笑みを浮かべている。

「そのご飯粒は、スープにとろみをつけるためのものなのよ。一般には小麦粉とバターを混ぜた、ブールマニエっていう
のを使うんだけど、本当はご飯を使った方が、口当たりが滑らかで、美味しいの。これは、大阪で料理が美味しいことで
有名なホテルのレシピに出ていたのね。で、パパがそのレシピ集を昔々に手に入れて、ママも読ませてもらった…、
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というわけ」

「ふ〜ん」

 そういえば、子供部屋の隣にある両親の書斎は本だらけだ。主には数学や化学、デザインや法律の専門書だが、
ずいぶん昔に刊行された料理の本もかなりある。父も母も職業柄、勉強は欠かせないし、古い文献を漁るために神田
の古本屋には時々出向いている。その時に、専門書以外にも、こうした料理の本もついでに買ってきているのだろう。

「料理とは全然関係がないけど、ご本は、買わずに後悔するより、買って後悔しろってね。これは、パパとママの大学の
大先輩で、今は大学の先生になった榊のおじちゃんが教えてくれた言葉。本は借りて読んだだけじゃ駄目ね。自分の
お金で買わなきゃ。そして、読み終わっても、本棚に立てておいて、背表紙が見えるようにしとかないと駄目。背表紙を
見ると、不思議なことに、そのご本に何が書いてあるのかを思い出すことが多いのよね」

 そう、諭すように言いながらも、亜美は手を休めずにカボチャのポタージュ作りをしている。フードプロセッサで、カボ
チャやご飯粒や玉ねぎがこなれたと判断したら、それを今度は裏ごし器でこした。馬の尻尾の毛で構成された黒い網
目の上に残った残滓は、木べらで丁寧に網目に擦り付けて、完全に網目の向こう側に押し出した。

「お正月に、きんとんを作る時と同じだね」

「そうよ、きんとんは甘く煮た白いんげんをこうやって裏ごししてるでしょ? クリスマスが終わったら、また、あんたにも
手伝ってもらうから、頼りにしてるわよ」

 裏ごしで滑らかにしたものを琺瑯引きの鍋にあけ、それを火に掛けた。そこに生クリームを注ぎ、煮立つ寸前に火を弱
めて味見をする。

「うん、もうちょっと塩が欲しいかな? それと、ホワイトペッパーでパンチを利かせよう」

 塩をほんのちょっとだけ加え、ホワイトペッパーを一振りした。

「うん、旨い! あんたもどう?」

 美由紀も小皿に注がれたカボチャのポタージュを味見した。ブイヨンのうま味に、カボチャの甘さ、それに生クリーム
の風味が渾然一体となって、えも言えぬ味わいになっている。

「うん、すっごく美味しい!」

「でしょ?」

 娘のコメントと笑顔が嬉しかったのか、亜美はちょっと誇らしげに胸を張った。
 最初のうちは夫である竜児に教わる一方だったが、徐々にレパートリーを増やし、今では並の専業主婦では及びも
つかないレベルまで到達していた。特に自家製パンの水準はプロ並であり、この分野だけは竜児も全く敵わない。

「さてと、スープはいいとして、後は付け合わせの野菜ね…」

 亜美は、昨晩に仕込んでおいたらしい片手鍋の蓋を開けた。中身は、ニンジンのグラッセだった。

「これ、牛肉に付け合わせるの?」

「そうよ、あんたもニンジンはあんまり好きじゃなさそうだけど、こうしてバターとお塩とお砂糖で煮たグラッセだったら
食べるからね。それに、ニンジンのグラッセは牛肉料理と相性がいいのよ」

「あと、お魚料理とかも出すんでしょ?」

392聖夜の狂詩曲 21/64:2010/01/10(日) 23:28:21 ID:7TPjhBm4
 冷蔵庫を盗み見たのがバレてしまうが、どんな料理が食べられるのかという好奇心が優先した。

「お魚料理は出すわよ。前菜に鰯をオリーブオイルで炒めたものと、キャビアと行きたいところだけど、イクラとトビコで
代用したカナッペ、それにサーモンのステーキかしらね」

 ムニエルではなく、ステーキだったが、焼き立てのサーモンのステーキは、脂が滴ってとろけるように美味しいのだ。
レモンバターか何かが添えてあれば、ムニエルでなくても美由紀は満足だった。

「鰯の付け合わせは茹でたブロッコリーあたりがよさそうね。バルサミコ酢の混じったオリーブオイルとよく合うし。
サーモンの方は、ほうれん草のバター炒めかしらね」

 ほうれん草は美由紀も苦手だったが、バター炒めにすると食べられる。高温で炒めるからだろうか、ほうれん草の
えぐみがなくなり、ほんのりと甘くなるのだ。

「ほうれん草は下茹でして、いつでも炒められるようにしておいて、ブロッコリーは食べる寸前に茹でないと美味しくない
わね。あと、牛肉にはクレソンを合わせたいけど、買っておいたかな…」

 そんなことを呟きながら、亜美は冷蔵庫を物色した。しかし、ほうれん草やブロッコリー、それにグリーンサラダに使う
トマト、パプリカ、レタス、キャベツ、マッシュルーム、アルファルファは十分にあったが、クレソンだけが見当たらない。

「あれぇ? 昨日、買っといたはずなんだけどなぁ〜。もしかして手違いで買いそびれた? だとしたら、さっきシャンパ
ン買いに行った時に何で買って来なかったんだろう…」

 万事に抜け目がない亜美にしては珍しい失態だった。美由紀にとって、クレソンはそんなに好きな野菜ではないから、
むしろない方が有難いのだが、『牛肉の付け合わせにはクレソン』というのが亜美にとっては法規のように厳格なルー
ルであるらしい。実際、今回のメインの料理の原型となった、ホテルのメインディッシュにもクレソンが付いていた。

「ママ、何なら私が買ってこようか?」

 亜美はこれから野菜の下ごしらえをしなければならない。その亜美に代わってやりたいという気持ちがあった。それに、
このまま亜美と一緒にキッチンに居ると、料理関連の話題も底を尽き、今学期の成績について言及されるのは間違い
ない。もう、亡命はしないし、通知表も両親に提出するつもりだったが、成績が成績だけに、披露するのは出来るだけ
先送りにしたかった。

「そう、じゃ、お使いお願いね。クレソンは、駅前の八百屋さんか、スーパーまで行った方がいいかも。ちょっと遠いけど、
小学校の近くだから大丈夫よね」

「うん…」

「そう、じゃぁ、コートを着てらっしゃい。外は結構寒いわよ」

 美由紀は子供部屋に行き、エプロンを脱ぐと、セーターを着て、ハンガーに掛けてあった紺色のダッフルコートに袖を
通し、首にはマフラーを巻く。そして、エプロンのポケットに入れていた携帯電話機は、コートの右ポケットに忍ばせた。
その姿でキッチンに戻ると、先ほどまで着用していたエプロンを亜美に差し出し、亜美からは財布とエコバッグを受け
取った。

「はい、あんたのことを信じているけど、万が一財布を落とすことがないとは言えないから、お金は千円ちょっとしか入れ
てないわ。でも、クレソンを買うだけなんだから、これでも十分でしょ」

 賢明な判断だと美由紀も思った。所詮、自分は、分別のない小学生に過ぎないのだ。まかり間違って何万円も入った
財布を託されたら、扱いに困ってしまうだろう。

「うん、分かった…。それと、クレソンだけでいいの? クレソンはどれくらい買えばいいの?」
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 娘の意外にもしっかりした指摘に、亜美は一瞬だが双眸を丸く見開き、苦笑した。

「そうね…。クレソンだけでいいわ。そのクレソンも、二束もあればいいかしらね。何せ、あんた、クレソン嫌いでしょ?」

 図星を指されて、美由紀は、一瞬、息を飲んだ。さすが、身内に対して遠慮のない亜美だけのことはある。

「ママ…」

「ほら、ぼけっとしてないで…。でも、急がなくてもいいわよ。まだ、四時過ぎだし…」

 そう言いながら、美由紀の襟元を正し、マフラーを巻き直した。

「これでよし。外は寒いから、気を付けてね。それとクルマに注意するのよ」

「う、うん…。い、行ってくる…」

 マフラーを巻き直すために屈み込んできた亜美と目が合い、美由紀はちょっとドキリとした。褐色の大きな瞳はいつ
ものように静謐で、美由紀の心の奥底まで見透かしていそうだったからだ。
 多分、美由紀の成績が思わしくないことを既に察しているのだろう。ただ、その成績がどれほどひどいかまでは把握
していないだけなのだ。

「ママは何でも知っている、か…」

 玄関を出て、美由紀は、ぽつりと呟いた。
 親を欺いたつもりでも、実のところは、概ねは見抜かれているのだ。まして、母親である亜美は、直感に優れている。
端々で図らずも挙動不審になっていた美由紀の様子から、美由紀の成績が芳しくないことはお見通しであろう。

「ママは、パーティーが終わるまで、私を泳がせておくつもりなんだろうなぁ…」

 せっかくのパーティーの前に、美由紀を詰って凹ませてしまうと、パーティーそのものの雰囲気に影響すると思って
いるのだろう。それに、下がったといっても、そう大したことはないと高を括っていて、パーティーが終わった後に、夫と
ワインでも飲みながら、『あははっ! あんた、天狗になってるから、足元すくわれたのよ』とか、ほろ酔いで笑いながら
くさすつもりであるらしい。

「でも、成績は笑えないんだけどね…」

 父も母も、美由紀の成績を見たら、目が点になり、口に含んでいたワインを噴水のように吹き出すかも知れない。
 その時の惨状を想像すると、美由紀は憂鬱になってくる。

「私も、直感はママ、内省的っていうのかな、いろいろ思い悩むのはパパに似たのかなぁ…」

 我ながら小賢しくて、子供らしくないと思う。担任の女教師と、当初から相性が悪いのも道理であった。

「それにしても、三学期がいやだなぁ…」

 美由紀を目の敵にする女教師とは、顔を合わせたくなかった。授業の度にあらぬ言いがかりをつけられ、テストで
高得点を上げても通知表の評価は低いというような不条理な仕打ちを、三学期も受けることは確実だったからだ。

「まじで、あの先生、居なくなってくれないかなぁ…」

 強圧的態度に恫喝を交えた、ある種の暴力で教室を支配している、あの女教師が居なくなれば、クラスの児童は
ほぼ全員が万歳することだろう。だが、学級崩壊を起こさずに担任を努めているということで、学校側や教育委員会
からの評価は高いらしいから、それは望めそうもない。
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「三学期だけ我慢して、クラス替えで別の先生が担任になることを祈るしかないかなぁ…」

 だが、五年生になってもあの女教師が担任かも知れない。そう思うと、美由紀は背筋がそくっとした。

「転校…。とかって無理だよね…」

 転居せずに転校するのは余程の事情がないと認められないらしいことを、美由紀は何かで知っていた。それに、この
成績の悪さの原因が、担任の側にあるということを主張しても、親が納得するとは思えない。それは世間一般の水準
よりも物分かりがよさそうな竜児や亜美であってもそうだろう。溺愛してくれている祖母の川嶋安奈だって、にわかには、
美由紀の主張を信じないはずだ。

「はぁ…、なんか、救いがないなぁ…」

 自殺する子供の気持ちが分かるような気がした。自殺する子供は、結局、真摯に相談出来る相手にも見放され、この
世界に身の置き所ないことに絶望して、死を選ぶのだ。

「せめて、クリスマスのパーティーぐらいは楽しもう…。その後で、成績が悪いことで怒られるのも覚悟する…。そして、
冬休みのせめてもの二週間、あんな嫌な先生のことは忘れよう…」

 自殺する子の気持ちは理解出来たが、自殺する気にはなれななかった。美由紀が死んだりしたら、件の担任は、
『ざまあみろ』ぐらいにしか感じないだろう。それを思うと、むかついて自殺なんか出来るわけがない。

「いじめに負けて死ぬのは、やっぱり負け犬…」

 冷酷だが、それが現実なのだ。死は何も解決してくれない。

 そんなことを、悶々と思いながら、美由紀は小学校の前を通り過ぎ、さらに三百メートルほど進んで駅前のロータリー
に出た。私鉄の急行停車駅にしてはこぢんまりとしたそのロータリーには、中規模のスーパーマーケットと、先刻、亜美
がシャンパンを買ったらしい、酒類と欧州からの輸入食品を扱う量販店、それに、乾物屋や魚屋、八百屋等の、量販店
やスーパーマーケットが出来る前から、この駅前で商いをしてきた、ちょっと古臭い個人商店が並んでいた。
 その個人商店のうちの一軒である八百屋を、美由紀は、立ち並んでいる買い物客の隙間から覗いてみた。
 小さな店だが、規模の大きなスーパーに伍して商売をしているだけのことはあるのだろう。買い物客が引きも切らず、
子供の美由紀では、その買い物客に割って入っていくことは出来そうもない。

「こりゃ、スーパーに行くしかないなぁ」

 こっちの八百屋の方が安くて新鮮らしいが、列に割り込むことすら出来ないのでは致し方ない。
 美由紀は、踵を返してスーパーに向かった。取り敢えず何でも揃うという点では、やはりスーパーマーケットは有り難
いし、売り場が広いから、買い物客で足の踏み場がないほど混雑するというおそれも、小さな八百屋ほどではない。

「えーと、クレソンは…」

 野菜売場の冷蔵棚の上下左右を、美由紀は見渡した。クレソンは、そうそう毎日入り用になる野菜じゃないから、ある
程度の規模のスーパーであっても、扱いはささやかなものである。必然的に、目につきにくい場所に置かれる。それを、
美由紀は目を皿にして探していった。

「あった!」

 野菜売場の冷蔵棚の中段、その右端に、根元の方をテープで束ねられたクレソンが置かれていた。これなら、美由紀
でも背伸びせずに手が届く。いくつか手に取ってみて、一番瑞々しそうなものを二束選んで、スーパーのカゴに放り込んだ。

395聖夜の狂詩曲 24/64:2010/01/10(日) 23:34:12 ID:7TPjhBm4
「さてと、これでよし…」

 他に必要な物はなかったはずだから、後は、レジで会計を済ませればいいだけだ。
 レジに向かう途中、漬物売り場の前を通りかかった。その棚には、沢庵や柴漬、千枚漬、すぐき、壺漬といった日本の
漬物の他に、赤い色が毒々しいキムチが並んでいた。
 その棚の前で、背を丸めてキムチを物色している女の客が居る。女は、キムチのように真っ赤なコートを纏っていたが、
そのコートは煤けたように薄汚れていた。

「あのコートは何? 色が派手だから、汚れが目立っちゃってる…。それに、よく、あんなもの食べる気になるわね」

 美由紀はキムチが嫌いだった。子供にとっては辛すぎるし、何よりも、腐臭と呼ぶべきその臭いが我慢ならなかった。
父母も同様で、父に至っては『キムチは発酵食品じゃない。発酵を通り越して腐敗している』と言い、母も『あれは人間
の食べるものじゃないわね…』とまで断じている。
 それに高須家で漬物といえば、父が子供の頃から管理している糠床で漬けられた糠漬と決まっていた。糠床も悪臭
の温床呼ばわりされるようだが、それは糠床の管理が悪く、乳酸菌以外の雑菌が繁殖しているからである。高須家の
ように、毎日、かき混ぜて、適量の糠を補充していれば、悪臭どころかむしろ良い匂いがするものなのだ。

「キムチって、うちの糠床みたいな衛生的な管理がされてないんだろうね」

 キムチも乳酸発酵と一応は目されているようだが、あの悪臭は、どう見ても雑菌による腐敗であろう。そのことを、
感覚が鋭敏な両親、特に父親から優れた味覚や嗅覚を受け継いだ美由紀は、子供ながらに見抜いていた。だから、
今、目の前でキムチを物色している女の客は、定めし味音痴なのだろう、ぐらいにしか思わなかった。
 だが、目の前の女の客が、振り返った瞬間、美由紀は、「あっ!」と絶句した。

「せ、先生…」

 浅黒い肌に、糸のように細い陰険そうな吊り目、それに張り出したエラ。今、この世で美由紀が一番会いたくない
担任の女教師だった。
 女教師は、陰険な吊り目で美由紀を射すくめ、

「小生意気なチョッパリのガキが」

 とだけ、小声だが、美由紀にはっきり聞こえるように吐き捨てて、レジへと大股で歩いて行った。

「こ、こんなことって…」

 スーパーに向かう途中で、あの女教師のことを悪し様に思ったことがいけなかったのだろうか。それにしても、女教師
の面相、特に目が恐ろしかった。その目に宿るのは憎悪か嫌悪か、それとも侮蔑であろうか。

「それにチョッパリって何?」

 発音からして日本語ではないことは美由紀にも分かった。英語でもない。もちろん辞書にも載っていないだろう。だが、
その言葉が、何かの蔑称であることは、子供である美由紀にも察せられた。
 ぞくぞくと悪寒がしてきた。担任の女教師は、美由紀の想像を超えた、とんでもない存在であるらしい。三学期になっ
ても美由紀には執拗にいやがらせを行うことは間違いない。その嫌がらせは、美由紀が学校から去るまで続くことだろ
う。下手すれば、自殺にまで追い込むかも知れない。一瞬だが、美由紀に向けられた目には、そうした常軌を逸した残虐
性が窺えた。

「ど、どうなっちゃうんだろう、私…」

 美由紀は、その場に凍りついたように立ち尽くしていたが、どうやら女教師がレジでの会計を終えて、スーパーから出
て行った頃合いと見て、自身ものろのろとレジへと向かった。それでも、周囲を警戒しながら、レジで代金を支払い、
購入したクレソンを薄いビニール袋で包んでからエコバッグに入れた。
396名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 23:34:46 ID:jkBccVYx
C
397聖夜の狂詩曲 25/64:2010/01/10(日) 23:36:04 ID:7TPjhBm4

「まだ、あの先生が近くに居るかも知れない…」

 そう思うあまり、バッグを持った手が震え、身体がぎくしゃくと強張ってしまう。美由紀は、いくぶん、おぼつかない足取
りでスーパーを出て、駅の改札口の前を横切った。
 ちょっと前に都心からの急行電車が停車したのか、改札口からは、ざわざわと人の波が吐き出されている。

「美由紀ちゃん、美由紀ちゃんじゃないか!」

 唐突に背後から呼ばわる声に、美由紀はその場で飛び上がりそうなほど驚かされた。だが、聞き覚えのある男性の
声であることに思い当り、恐る恐る、声の主に振り向いた。

「能登のおじちゃん…。それに、おばちゃん…」

 薄暮の中にコート姿の能登久光と麻耶の夫妻が並んで立っていた。能登は、美由紀に伸ばしかけていた手を中途
で止め、眼鏡の奥の目を、鳩が豆鉄砲を食らったかのように、まんまるに見開いている。いつになく、おどおどしている
美由紀に戸惑っているのだろう。

「どうしたんだい、こんな時間に、こんなところで…」

 美由紀は、自分を呼びとめたのが能登夫妻であることに安堵した。だが、青ざめ、強張った表情は、スイッチが切り替
わるように笑顔にはならなかったようだ。

「これ…」

 美由紀は、固い表情のまま、おずおずと買い物用のエコバッグを差し出した。

「お買い物なの? 美由紀ちゃん一人で?」

 心待ち眉をひそめて問うてきた麻耶に、美由紀は黙って頷いた。

「亜美たんは、こんな年端もいかない娘に一人で買い物をさせるのか? ちょっと、意外だな…」

 能登も、合点がいかないのか、口を微かに歪め、首を傾げている。
 二人は、亜美が美由紀に買い物を命じたものと勘違いしているようだ。

「あのぉ、私が自分からお使いに行くってママに無理言って出てきたの…。だから、ママは悪くない…」

 美由紀は、拙いながらも母親の弁明を試みた。
 状況を上手く説明出来ないまま、自分の母親が非難されるのは、誰だってやりきれない。

「そ、そうか、そうだな、子煩悩な亜美たんが、そんなことを命令するはずがないよな。だとしたら、美由紀ちゃんは偉い
ぞぉ。普通の子だったら、美由紀ちゃんみたいに一人で買い物なんて出来ないからね」

 改めて、能登が美由紀に手を差しのべてきた。その大きく温かい掌が、美由紀の右手の甲を優しく包む。
 それでも、先ほどのショックが癒えぬのか、美由紀の身体は悪寒がするように、ぶるぶると震えている。

「ちょっと様子が普通じゃないわよ」

「そうだな…」

 麻耶の指摘に、能登も頷いた。

「何か怖いことでもあったのか? やっぱり一人っきりでの買い物は、おっかないからね。でも、もう大丈夫だ。おじちゃ
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んとおばちゃんが、美由紀ちゃんと一緒におうちまで行くからね」

 能登の問い掛けは嬉しかったが、それでも身体の震えはなかなか治まらない。

「歩きながらでいいから、何があったのか、よかったら、おばちゃんやおじちゃんに話してくれない? ね、話した方がすっ
きりして安心出来るかも知れないし…」

 いくぶん赤みを帯びたセミロングの髪を、ふんわりとまとめた麻耶が美由紀の目線に合わせて屈み込み、美由紀に
向って、害のない笑みを向けた。
 よかった、本物の、いつもの能登のおばちゃんとおじちゃんだ、と美由紀は、漸く気持が落ち着いてきた。
 それが能登のおじちゃんにも分かったのだろう、美由紀の手を引くと、彼女の家に向かって、ゆっくりと歩き出した。
その後ろを守るように、麻耶がつき従っている。

「道々でいいから、何があったのか話してくれないかな? おじちゃんやおばちゃんが見たところ、美由紀ちゃんは、何か
怖いもの、誰か怖い人に出くわしたような感じなんだけど、どうかな?」

 美由紀は、こっくりと頷いた。

「そうか…。もしかしたら、不良とか、いじめっ子とかかな?」

 美由紀は首を左右に振った。

「なるほど…。美由紀ちゃんを怖がらせた人は、子供じゃないんだな? 大人の怖い人というわけか…。で、その人は、
前から美由紀ちゃんを知っている人なのかな?」

 美由紀は、再びこっくりと頷いた。能登のおじちゃんは作家志望の新聞記者だ。さすがに訊き方が上手い。

「そうなると、かなり絞られてくるな…。美由紀ちゃんと顔見知りの大人なんて、パパやママ、おじちゃんやおばちゃんたち
を除けば、あとは学校の先生ぐらいだろう。どうかな、美由紀ちゃんは、おじちゃんやおばちゃんに会うちょっと前に、
学校の先生に出会った。で、その先生に、意地悪なことを言われたか、怖い目に遭わされた。そうなんだな?」

「ちょっと、ちょっと、久光、美由紀ちゃんは優等生でしょ? なんで、その美由紀ちゃんが先生からいじめられるの? 
理屈に合わないじゃない」

「うん、確かにそうなんだけど、実は取材していて、気になる事例があったんだよ。俺の勘だけど、美由紀ちゃんの場合も、
その事例と符合するはずだ」

 相方にそれだけ言うと、能登は、美由紀に再び問い掛けた。

「言いにくいかも知れないが、イエスかノーかででもいいから答えてくれ。美由紀ちゃんは、さっき学校の先生から怖い
目に遭わされた、そうなんだね?」

「う、うん…」

 美由紀はおずおずと返事した。

「やっぱりな…。で、その先生からは、どんな目に遭わされた? または、どんなことを言われたんだい?」

 美由紀の脳裏に、あのスーパーでの光景がよみがえってきた。憎悪とも嫌悪ともつかない表情で、糸のように細い
吊り目を邪悪に光らせ、美由紀に告げたあの言葉。

「せ、先生は、わ、私ことを、『小生意気なチョッパリのガキ』って言ってた…。その時の先生の顔が怖くて…」

399聖夜の狂詩曲 27/64:2010/01/10(日) 23:38:56 ID:7TPjhBm4
「美由紀ちゃんのことをチョッパリって言ったのか? 学校の先生が?」

「う、うん…。たしか、そう聞こえた。何を言ってるのか全然分からないけど、悪口らしいことは感じた…」

 その時を思い出すと、美由紀は背筋が、ぞくっとしてくる。
 一方の能登は、眉を心持ちひそめて、相方に頷いた。

「やっぱりな…。取材した事例とそっくりだよ」

「そっくりって、どういうことなの? それにチョッパリって、朝鮮人による日本人の蔑称なんじゃないの?」

「ああ、朝鮮語で『豚足』を意味するチョッパルから来た言葉なんだ。昔、足袋を履いていた日本人の足元を、二つに
割れた豚の蹄にたとえたものだよ。朝鮮人にしてみれば、我々日本人は、豚野郎ってところなんだろうな」

「で、でも、言ったのは美由紀ちゃんの学校の先生、もしかしたら担任なんでしょ? そんな人が、朝鮮語での悪口を
言うなんて、ちょっと信じらんない」

「取材した事例もそうだったが、美由紀ちゃんの先生も生粋の日本人じゃないな。在日か、帰化しているかは分から
ないが、とにかく出自は朝鮮人だ。それも、日本に住みながら、日本や日本人に仇なす、危険な存在だな…」

「せ、先生、日本人じゃないの?!」

 思いがけない能登の話に、美由紀は仰天した。美由紀が通う学校は、日本の、東京のものではなかったのか?

「でも、日本の学校、それも公立の学校に、朝鮮人が教師として働けるの? 無理でしょ?」

 麻耶が、もっともな疑問を夫にぶつけている。公務員、それも教職に日本を快く思わない外国人が就くという話は
荒唐無稽と言ってよいからだ。
 その問いに、能登は、口をへの字に曲げて、自身も納得がいかぬことを顕わにした。

「取材した俺も信じられないんだが、平成三年から外国籍でも公立の学校の教師になれることになったんだ。以来、
在日、特に北朝鮮系の教師が増加傾向で、あちこちで問題を起こしている」

「具体的にはどんな?」

 能登は、ちょっと周囲を警戒するように辺りを見渡し、人の気配がないことを確認してから、話し始めた。

「大阪では、小学校の児童に朝鮮語でのあいさつを強要し、日本と日本人が残虐で悪辣な存在だと刷り込んでいた
在日教師がいた。神奈川県では北朝鮮系在日教師が日教組を事実上支配し、在日の北朝鮮系教師が年々増えて
いるのは確かだという。横浜では、日本人教師の変死が何件も起きているほどひどい状況だ」

「信じられない…。そんなことが起こっていたなんて…」

 麻耶も、恐ろしくなったのか、能登に倣って周囲を神経質そうに見渡した。既に日はとっぷりと暮れ、薄暗い街灯が
青白い光を頼りなさそうに路上に放っていた。

「その上、日教組の反体制的思想と、この国の破壊活動をもくろむ在日朝鮮人との思惑が合致して、かなり前から、
日教組は朝鮮人の組織も同然になり果てている。その日教組からの突き上げで、学校側も在日の教師を何かと持ち
上げる。日本人教師の評価は二の次さ。在日教師による反日教育も問題だが、本来まともであるはずの日本人教師
までもが、そうした不公平さにやる気を削がれている。結果、公立学校の授業の水準は、俺たちが学生だった頃とは
比較にならないほど劣化していた。これも、在日による日本破壊工作の一環なのかも知れないな」

 そこまで一気に話し切った能登の袖を麻耶は引いた。
400聖夜の狂詩曲 28/64:2010/01/10(日) 23:40:33 ID:7TPjhBm4

「ね、ねぇ、日本破壊工作とか、そんな怖い話、こんな暗い路地で話すなんて物騒よ。どこで誰が聞いているか分かった
もんじゃない…」

 能登も怯え気味の妻の言い分はもっともだと言わんばかりに、首を縦に振った。

「確かにな…、連中は日本のどこにだって潜んでいる。だが、俺が取材した気になる事例を簡単に説明させてくれ」

「ま、まぁ、いいけど、穏便かつ、手短にね」

「ああ…、心掛けるよ」

 そう言ってから、能登は、不安そうに見上げている美由紀と目を合わせた。

「実は、おじちゃんが仕事で調べた事件があったんだが、その事件では、小学生の男の子が、在日、つまり美由紀ちゃん
の担任のように日本人じゃない先生に、『先生が日本や日本人を悪く言うのはおかしい』って言ったんだ、そしたら…」

「そ、そしたら?」

 美由紀は、思わず固唾を飲み込んだ。その子はどんな恐ろしい目に遭わされたというのだろう。

「その子は頭がよくて、学校の成績もよかったんだが、その日以来、何をやっても先生に認めてもらえなくなった。オール
五だった通知表には一と二ばかりが並び、授業では、あらぬ難癖をつけられて、しょっちゅう叱られる…」

「ひどい…」

 だが、翻ってみれば、それは件の担任による美由紀自身への仕打ちと同じだった。

「最後には、その子はいたたまれなくなって、転校していった。そうでもしなければ、最後には自殺でもするしかなかった
かも知れないんだ」

「ちょっと、ちょっと、久光、それ実話なの? にわかには信じられないわよ」

 大人の麻耶でさえ、あまりの不条理さ、理不尽さに驚いている。

「これは、脅かしでも何でもない、事実なんだ。在日は、相手が日本人だと、考えられないほどの非常識な手段や態度
で追い詰めるんだよ」

 美由紀の手を引いていた能登は、ちょっと立ち止まると、腰を屈めて美由紀の顔を覗き込んだ。

「おじちゃんにも、美由紀ちゃんがどんな仕打ちを受けているのかは分からない。辛いことだろうから、言いたくなければ、
おじちゃんやおばちゃんには話さなくてもいい…。でも、パパやママには正直に伝えるんだ。そして、分別あるパパやママ
の判断を仰ぐことだな」

「で、でも…」

 美由紀は思わず口ごもった。こんなひどい成績では、担任に理不尽な仕打ちを受けていることを訴える以前の状態
だと思ったからだ。

「さっきも言ったろ? 何をやっても先生に認めてもらえなくなった、オール五だった通知表には一と二ばかりが並び、
授業では、あらぬ難癖をつけられて、しょっちゅう叱られる、って…。想像だけど、今の美由紀ちゃんにも、それがそっくり
当てはまるんじゃないか? ならば、通知表にはそれを臭わせる何かが書かれているはずだし、頭のいいパパやママは、
それを見逃さない。とにかく、パパやママに、本当のことを隠さずに話すことだ。そうすれば、何とかなるさ」

401聖夜の狂詩曲 29/64:2010/01/10(日) 23:42:39 ID:7TPjhBm4
 『臭わせる何か』で、美由紀ははっとした。『テストの点もさることながら、道徳において問題があるようです。したがっ
て、その懲罰も兼ねて厳しい評価をさせていただきました』という理不尽な評価のコメント。これこそが能登の言う
『臭わせる何か』に他ならない。
 美由紀の表情の変化を読み取ったのか、能登は、ほっとしたように相好を和らげた。

「どうやら、おじちゃんが想像した通りのことだったみたいだが、同時に、パパやママが美由紀ちゃんの味方になってくれ
ることも理解出来たらしい。であれば、何も怖がることはない。正直に、ありのままをパパやママに話すんだ。そうすること
で美由紀ちゃんはきっと救われる」

「う、うん…」

 未だ身体が強張ったような感じがしたが、能登の言葉は美由紀にとって何よりの救いだった。小賢しく嘘で切り抜け
るよりも、真実を告げる。その上で、どうするかを父母とともに決めるのだ。それこそが、互いに何でも言い合える、高須
家の美徳でもあった。

「よっしゃ、おじちゃんからの話はここまでだ。美由紀ちゃんのパパやママは決して分からず屋じゃない。本当のことを話
せば、ちゃんと分かってくれる。だから大丈夫だ」

 三人は、美由紀が暮らす賃貸マンションに行き着いた。行きはよいよい帰りは怖いではないが、小高い丘の上に
あるこのマンションは、ここから駅に行くのは下り坂だから楽だが、駅からは上り坂で、慣れないと結構つらい。

「ふぇ~、いっつもエレベーターばっか乗ってるからかな? 息が切れた…」

 ちょっと小太りになった能登のおじちゃんは、白い息を吐きながら、荒くなった呼吸を整えている。

「久光は運動不足なのよ。そのままだと、メタボ一直線ね」

 麻耶による、辛辣だが、もっともな指摘に、能登はばつが悪そうに苦笑いした。

「さぁてと、時間は五時ちょっと前だから、早く来過ぎたな。亜美たんは居るみたいだし、高須の奴も居るかな?」

 呟きとも、美由紀への問い掛けとも判じ難い能登の一言に、美由紀は首を左右に振った。

「パパは、まだ帰って来ないみたい…」

「おっと、そりゃ残念だ。色々と話したいことがあったんだが…。まぁ、ちょっと早いけど、お邪魔させてもらうか」

 美由紀に先導されるようにして、能登と麻耶はエントランスからエレベーターに乗り込み、五階で降りた。そして、ドア
に飾られている竜児お手製のリースの出来栄えに、「相変わらずマメだねぇ…」という感嘆とも呆れとも受け取れそうな
コメントを添え、美由紀に促されて、その玄関から入っていった。
 その気配に反応して、キッチンからは、「美由紀なの? クレソンは買えた?」という亜美の声が聞こえてきた。

「ママ、クレソンはちゃんと買ってきたよ。それで…」

 その美由紀に続いて、麻耶が、よく通る声でキッチンに居るはずの亜美に呼び掛けた。

「ごめ~ん、亜美ちゃん。駅前で美由紀ちゃんと一緒になっちゃって、それで、ちょっと早いけど、旦那と一緒に来ちゃっ
たぁ」

 キッチンからは「あらやだ奇襲攻撃じゃん。こっちは迎撃準備が整ってねぇのに…」という、おどけた感じの声が返り、
ほどなく、廊下にはエプロン姿の亜美が現れた。

「亜美たん、お久しぶり」
402聖夜の狂詩曲 30/64:2010/01/10(日) 23:44:26 ID:7TPjhBm4

 軽く会釈した能登に、亜美も笑顔で応じた。

「能登くんもお久しぶり。でも、新聞社って忙しいんでしょ? 大丈夫?」

 能登は、苦笑いしながら、右の頬を、ぽりぽりと引っ掻いている。

「いやぁ、ちょっと、取材するって適当に言い訳して、早退しちまった…」

「大丈夫? 上司にばれたら、ただじゃ済まないよ」

「俺のいる社は、記者は結構自由に動けるから、まぁ、こんなもんだよ」

 亜美は、「ふ~ん」とだけ呟いて、能登の言い分を了解したようだった。業界が違えば、しきたりも違ってくる。今や
すっかり弁理士業以外には疎くなった亜美には、マスコミで働く能登の話は、ある種、新鮮なのだろう。

「で、麻耶ちゃんは、女性雑誌の副編集長なんでしょ。その責任者が、こんな時間に我が家に現われていいの?」

 ちょっと、皮肉に聞こえなくもない亜美の指摘にも麻耶は微かに笑っている。お互いに本性は知り尽くしているから、
今さら遠慮も何もないからだ。

「最新号は、昨日で校了だったから、今日はオフにしたの。何せ、昨夜は半徹で、ろくに寝てなかったから…。で、昼近く
になって起き出して、旦那にメールしたら、こいつも社を抜け出すから、どっかで遅い昼飯を食ってから、こっちに行くっ
てことにしたのよ」

 言われてみれば、麻耶の目の下には、うっすらと、くまが出来ている。雑誌の編集、それも最新号の最後の大詰めと
なる校了日は、地獄とも言えるような忙しさらしい。

「昼夜が逆転してんじゃん。それって、かつての泰子さんみたい…。気ぃつけなよぉ、あんま無理すると、ママになる前に、
ババになっちゃうから」

 辛辣だが、おどけた調子の亜美が可笑しかったのか、麻耶は、思わず口元に手を当てて、「ぷっ!」と噴き出してしまった。

「ま、まぁ、私らも、美由紀ちゃんみたいな娘が欲しいけど、なかなか恵まれなくてね」

 いわゆる、Double Income No Kids(共働き収入、子供なし)。互いに忙しくて、出産、子育てへの思い切りが悪いのは、
世相そのものと言えた。

「のっけから、きっついこと言ったけど、まぁ、勘弁。そんなところに突っ立っているのもなんだから、とにかく上がってよ」

 亜美は、能登と麻耶にスリッパを勧めると、美由紀に向き直った。

「それじゃ、ママは能登のおじちゃんとおばちゃんをリビングに案内するから。それと、お財布と、買ってきたクレソンは
ママに預けて頂戴」

 美由紀は、「うん」と頷いて、財布と買ってきたクレソンが入っているエコバッグを差し出した。そのエコバッグの中を
亜美は覗き込む。

「うん、上出来。これで今夜のパーティーの料理に必要なものは全部揃ったわね」

 そう満足そうに呟くと、美由紀に対して、「あんたはコートを脱いで、手洗いとうがいを忘れないこと」と念を押し、その
エコバッグを手に、能登と麻耶をリビングへと案内していった。

403聖夜の狂詩曲 31/64:2010/01/10(日) 23:46:11 ID:7TPjhBm4
「ふぅ…」

 子供部屋でコートとマフラーとセーターを脱ぎ、ポケットに忍ばせておいた携帯電話機を机の上に置くと、美由紀は
気抜けしたようにため息をついた。能登のおじちゃんが言うように、正直に言えば、パパやママは分かってくれるかも
知れない。気は進まないけれど、すべてを打ち明けよう、と思った。
 そう思いながらも、美由紀は、一旦は机に置いた携帯電話機のフリップを開いてみた。

「着信は、特になし…」

 祖母である川嶋安奈から何らかの連絡がないかどうか気にはなる。しかし、兆候は全く認められない。

「おっきなママは忙しいんだもん。私みたいな『チョッパリのガキ』を相手にする暇なんかないんだろうなぁ…」

 おっかない担任から直に言われた時は、びびったが、『チョッパリ』という言葉には、多分に幼児語めいた低レベルな
響きがある。能登のおじちゃんに励まされたというのもあるが、こんな下品な言葉を使う奴は、教師であろうが何だろう
が、所詮はその程度だ、と美由紀は割り切ることにした。

「おっと、ぐずぐずしていると、ママにまた嫌味を言われちゃう…」

 何でも指摘し合えるのはガス抜きにはなるが、言う方も言われる方も、油断も隙もない。美由紀は、携帯電話機を机
の上に再び置くと、洗面所で手を十分に洗い、入念にうがいをした。今年の冬もインフルエンザが流行し始めていた。
昔は、小学校ではインフルエンザワクチンの集団接種があったらしいが、今はそんなものはない。だから、出来るだけ
手洗いやうがいで対処するのが、高須家の不文律となっていた。

「手を洗って、うがいしたよ~」

 リビングへ赴いた美由紀は、キッチンに引っ込んでいるはずの亜美に向ってそう言った。リビングには誰もおらず、
先日、美由紀と亜美とが飾り付けたささやかなツリーが、発光ダイオードを明滅させている。

「ママ~、おじちゃん、おばちゃん、どこぉ?」

 そう言いながら、ダイニングを覗くと、そこにはワイシャツを腕まくりした能登が居て、前菜のカナッペを作ろうとしていた。

「お、美由紀ちゃんもやってみるか?」

 そう言った能登は、クラッカーの上に、スライスしたカマンベールチーズや、イクラ、トビコそれに能登本人が持って
きたらしい真っ黒な魚の卵のような物をスプーンで盛り付けようとしていた。
 キッチンでは、亜美がサラダ用の野菜を切り刻んでいて、麻耶は、中性洗剤で入念に手を洗っている。
 その亜美が振り返った。

「美由紀、おじちゃんからの差し入れで、本物のキャビアよ! あんたの口に合うかどうかは分からないけど、滅多に
手に入らない高級珍味なんだから!」

 言われた能登は、ちょっと恥ずかしそうな、それでいて誇らしいような顔つきで、亜美と美由紀の方を交互に向いた。

「いやぁ、以前、社の広告局に頼まれて、ロシアへの投資を募る広告記事を書いたら、その原稿料代わりに広告局から
貰ったんだよ。何でも、お歳暮として、ロシア当局から新聞社の広告局に届いた物らしい。俺と麻耶だけで食うのはもっ
たいないと思って、持ってきたんだ」

「でも、それって、凄いじゃん。ロシア人も能登くんの文才を評価したってことだよね? さすが、執筆のエキスパート」

「おい、おい、誉め殺しかい? 勘弁してくれよ」
404聖夜の狂詩曲 32/64:2010/01/10(日) 23:48:10 ID:7TPjhBm4

 そんな能登を美由紀はじっと見つめ、それからキッチンの母親に向って言った。

「ね、ねぇ、私はうがいして、手を洗ってきたよ。おじちゃんやおばちゃんは、うがいとかしなくていいのぉ?」

 来客に対して不躾ではあったが、ルール違反は、やはり釈然としなかった。こうした馬鹿正直な潔癖さは父親ゆずり
なのだろう。

「美由紀、おじちゃんやおばちゃんは手はちゃんと洗ったから、細かいことは気にしなくていいの! 外から帰ってきて、
うがいをするのは家族にとっては義務だけど、それをお客様にまで強制する権利はないのよ」

「義務と権利…」

 柳眉を心持ち逆立てた亜美をなだめるつもりなのか、亜美のお古らしいエプロンを着用した麻耶が、「まぁ、まぁ…」
とか言って、亜美のカットソーの裾を軽く引いている。

「義務とか権利とかって、小学生には難しいよね。それよか、美由紀ちゃんの指摘はもっともだから、あたしと久光は、
うがいをしてくるよ」

「俺も、そう思うな…。郷に入っては郷に従うんだから、うがいを怠ったのは、明らかに俺たちに非があるよ」

 亜美は、軽く嘆息して苦笑した。

「そぉ? 悪いわね。どこの誰かさんに似たのか、変なところが杓子定規で、融通が利かないのよ」

「まぁ、高須くんの娘らしくていいじゃん。それに、変に意地っ張りなところは、亜美ちゃんに似たような感じだけどね」

 そう言われて亜美が苦笑すると、麻耶も微笑した。てっきり怒られるかと思っていた美由紀は、ちょっと目を丸くして
二人の大人を眺めていた。

「まぁ、あの二人は、高校生の頃からの友達だからね。て、いうか、おばさんになっても、未だに高校生ぐらいのつもりで
いるらしい。面白いだろ?」

「う、うん…」

 その程度であれば可愛いものだ。何しろ、祖母である川嶋安奈に至っては、決して『お祖母ちゃん』とは呼ばせない
のだから…。

「じゃぁ、美由紀、おじちゃんとおばちゃんを洗面所に案内して。あっと、麻耶ちゃん、コップはこれね」

 そう言って、麻耶に二つのコップを手渡した。

「洗面所は、こっち…」

 リビングから廊下に出て、美由紀は能登と麻耶を先導した。洗面所のドアを開けて電灯を点け、ポビドンヨード入りの
うがい薬を麻耶に手渡す。

「うちではこれを使ってるけど、刺激が強いから、普通のお水でもいいよ」

「大丈夫、おばちゃんもこれ平気だから。有難く使わせてもらうからね」

「うん…」

 美由紀は、二人に軽く頷いて、廊下で待つことにした。うがいをしている人の背後で待つのはさすがに失礼だと思っ
405名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 23:50:04 ID:jkBccVYx
C
406聖夜の狂詩曲 33/64:2010/01/10(日) 23:50:05 ID:7TPjhBm4
たからだ。

「それにしても、私って、気まぐれに大人に逆らったりする…。なんでだろう」

 根は臆病で小賢しいくせに、何か間違っていると思うと、どうしてもそのことを口に出してしまうのだ。

「学校でもそう…。あの時、先生にも、何であんな口答えをしたんだろう…」

 学校の件は、もはや後の祭りだが、妙なところで頑固になるのは今後は気を付けようと思う。こんなのは何かと損だ。
 洗面所からは、「「ガラガラガラ…」」といううがいの二重奏が聞こえていたが、それが止み、ドアが開いた。

「うがいってのは、やっぱりさっぱりするな。今度から、おじちゃんやおばちゃんも毎日の習慣にするよ」

 能登は笑顔で、美由紀に使用済みのコップを差し出した。美由紀は、それを受け取ると、頬を染めてぺこりと軽く
お辞儀した。
 自分の頑固さで、能登と麻耶に面倒を掛けてしまったことを今になって思い知り、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。



 能登が持ち込んだ本物のキャビアで、大幅に豪華になったカナッペが出来上がった頃、美由紀の父が、北村夫妻を
伴って帰宅してきた。

「ただいま」

「お帰りなさい。祐作たちも一緒だったの?」

「ああ、特許庁で審査官と面接してきたが、意外にあっけなく片付いたんで、ついでだから特許庁のすぐ近くにある文科
省に寄って、北村たちを拉致してきたんだ」

「というわけで、高須に引っ張られてきたんだが、ちょっと早く着き過ぎたみたいだな?」

 カシミヤのコート姿の北村は、そう言って、ちょっと申し訳なさそうに、人差し指で側頭部をぽりぽりと引っ掻いている。
 亜美は、微笑してかぶりを振った。

「一足早く、麻耶ちゃんと能登くんも来てるのよ。二人には、前菜作りを手伝ってもらって、そのうちの一つが、今しがた
出来上がったところ。むしろいいタイミングよ」

 亜美は屈み込んで、来客にスリッパを勧めた。

「いい匂いがするな? 高須の料理は楽しみだ。今夜は、ご馳走になるぞ」

 相変わらず口調が男勝りな北村すみれに、亜美は苦笑した。

「先輩もお変わりなく…。ただし、料理の仕上げは、あたしと、娘がやってるんで、過剰な期待は禁物かも知れませんよ」

「細工は流々、仕上げを御覧じろ、ってところだな…。準備はどこら辺までいっている? カナッペが出来ていて、鰯とか
サーモンは焼く寸前になっているってところかな」

 夫の突っ込みに、亜美は、目を眇めて頷いた。

「美由紀が手伝ってくれて、大助り。肉料理はもう完成して、ちょっと温めるだけで配膳出来るわ。サラダも作ってあるし、
残るは、魚料理とその付け合わせね」

407聖夜の狂詩曲 34/64:2010/01/10(日) 23:52:14 ID:7TPjhBm4
「よし、じゃあ、選手交代だな。取り敢えず、スーツを普段着に着替えてくるよ」

「うん、真打ち登場ってことで、宜しくね」

 そのまま竜児は寝室に行き、亜美は、北村とすみれをリビングに案内した。

「コートはあそこのハンガーに掛けて頂戴」

 既に能登と摩耶のコートが掛けられたハンガーに、北村は自身とすみれのコートを掛け、更には二人のマフラーも
引っ掛けた。

「大先生、お久しぶり」

「能登か、それに木原。久しぶりだな」

 北村と能登は、久しぶりの再会を笑顔で喜んでいる。

「木原かぁ…、旧姓で呼ばれるのは久しぶりね」

 懐かしいのか、本当は『能登麻耶』と呼ばれたかったのか、麻耶は苦笑している。その空気を北村は敏感に読んだ
のだろう。

「いや、学生時代はこう呼んでいたからな。かといって、今さら『麻耶さん』ってのも変な感じだし…」

「いいよ、こうして高校卒業してから十四年経って集まったんだから、昔の呼び方でいいんじゃない? だから、私も
『まるお』って呼ばせてもらうし、まるおの奥さんのことも、『狩野先輩』って呼ばせて戴くわね」

「私としては不本意だが、まぁ、いいだろう。であれば、私も、木原に川嶋と呼ばせてもらうことにしよう」

 宇宙服のヘルメットをかぶるために長い髪をバッサリと切ってしまったすみれが、かぶりを振った。首筋までの中途
半端な長さだが、それでも高校時代と同様に、艶やかな黒髪は美しい。
 昔話に花を咲かせている最中、美由紀がカナッペを載せた大皿を持って、しずしずとやって来た。

「お、美由紀ちゃん、お久しぶり」

 一見、日本人形のように美しく、たおやかでありながら、気性・言動などの思い切りがよい北村すみれが、みゆきに屈
み込んできた。美由紀は、そんな輝かしい女傑である、すみれおばちゃんに、「お久しぶりです」と、そつなく答えて、大皿
を慎重にテーブルの上に置いた。
 そこへ、チャコールグレーのデニムに黒いセーター姿の竜児がリビングに入ってきた。
 竜児は大皿に載せられたカナッペを見て、「おっ!」と感嘆した。

「こいつぁ凄い。本物のキャビアが載ってるな…」

 そうして、キッチンに向かって、心持ち大きな声で問うた。

「おい、亜美、シャンパンだけじゃなくて、こんな高い物まで買ったのか? いくら、祝いの席でも贅沢過ぎるぜ」

 竜児に呼ばわれて、亜美が微笑しながら、キッチンから顔を出した。

「そう言うと思った。でも、そのキャビアは、能登くんからの差し入れなのよ。何でも、ロシアへの投資を奨励する広告
記事を書いたら、広告担当の人に誉められて、原稿料代わりにもらえたんですって」

 北村と竜児は、傍らに立つ能登に見入った。能登は、ちょっと得意そうに、それでいて微かに頬を染めて、頷いている。

408聖夜の狂詩曲 35/64:2010/01/10(日) 23:54:09 ID:7TPjhBm4
「凄いじゃないか! さすがは未来の大作家だな」

「弁理士である俺も、文章を書くのが仕事だが、それは形式が決まった事務的なものだからな。人様が読んで感動する
ような文章は到底無理だ。文才のあるお前が羨ましいぜ」

 北村や竜児の誉め言葉に、能登は、右の掌を二人に向けて、ひらひらと左右に振った。

「夢は作家だが、まだまださ…。広告の文章ってのもパターンがあるから、書くのはそんなに難しくないんだよ。それに
社命で書いたんだから、本当なら、俺なんかが貰い物をしちゃいけないんだ。だったら、この場でみんなで食べた方が
いいかなって思ってね」

「お前って、思った以上に謙虚だな…」

 静謐な面持ちでの竜児の呟きに、大橋高校の生徒会長であったすみれは野太い声で、笑い出した。

「お前は、今頃気付いたのか? 私が仕切っていた大橋高校に居たのは、みんないい奴ばかりだ。お前や川嶋も、木原
も、そして…」

 すみれは、自身の伴侶を指差した。

「こいつもだ…」

 その瞬間、すみれの透き通るように白い頬が微かに赤みを帯びたような感じがした。男勝りである彼女なりの、惚気
であるらしい。
 姉さん女房の唐突な振る舞いに当惑しているのか、それとも内心は嬉しいのか、北村もちょっと赤面している。北村
は、その恥じらいを払拭するかのように、こほん、と一つ咳払いをした。

「ま、まぁ、それはさておき…、ここへ来る途中、高須が白状したんだが、何でも、大口のビジネスを獲得出来たそうだな。
それも、亜美、お前が見事なプレゼンをしたおかげだっていうじゃないか」

「ああ、あれ? でも、草稿を書いたのは竜児だから…」

「なら、言い直そう。プレゼンの成功は、お前たち二人の手柄だ。俺たちからも、祝わせてもらうよ」

 そう言って、北村は、手にしていた包みを亜美に手渡した。
 亜美は、「何よ、これ…」とか呟きながら、包みを開封していたが、中身を確認して、目を丸くした。

「ゆ、祐作ぅ! ド、ドン・ペリニヨンじゃないのぉ!」

 包みの中は、シャンパンの中でも高価なことで知られる通称『ドンペリ』だった。

「マジか?! ドンペリなんて、弁理士試験の合格祝賀会で、一杯だけ飲んだきりだぞ」

 その竜児に、亜美はボトルを差し出した。それを竜児は目を丸くして凝視した。間違いない、本物のドン・ペリニヨンだ。

「この酒は、私の実家であるスーパーかのう屋からのものだ。うちでも入り婿の幸太の提案で酒類を扱い出したんだが、
仕入れたものの、高価過ぎて売れなくてな。で、私が、幸太からもらってやったという次第なんだ」

 竜児と亜美は、こともなげに言う北村すみれの顔をまじまじと見てしまった。『もらってやった』と言うには、当然に何ら
の見返りも、幸太というか、かのう屋にはせずに持って来たのだろう。

「うん? 高須に川嶋、私の顔に何か付いているか? まぁ、これは幸太が仕入れをミスったのがいけないのだ。だから、
私は、そのフォローを、何の見返りも幸太には要求せずに、執り行ったというわけだ。分かったかな?」

409聖夜の狂詩曲 36/64:2010/01/10(日) 23:56:10 ID:7TPjhBm4
 何の罪悪感もなく、自信たっぷりに言われてしまっては、反論の余地もない。

「あ、いえ…。な、何でもありません。そ、そうですか、先輩は、義理の弟さんの後始末をされたんですね。ほ、ほほほ…」

 すみれに睨まれて、苦し紛れに亜美は引きつった笑いを浮かべている。
 その亜美に、竜児が耳打ちした。

「お、おい、こ、これって、民法九十六条の強迫じゃないのか?」

「そ、そんなこと分かってるわよ。でも、狩野先輩にそうは言えないから、こうしてるんでしょ。察しなさいよ」

 北村すみれ。元は大橋高校の辣腕生徒会長で、工学博士号を有する宇宙飛行士。そして、文科省の官僚である
北村祐作の妻。しかしながら、有無をも言わさぬ剛腕ぶりは、今もって健在であり、かつ、地獄耳だ。

「法律の専門家であるお前たちは、何か言いたいことがあるようだが、細かいことは気にするな。第一、これは私と幸太
との諾成契約だ。最終的に私と幸太とで文句がなければ、問題はない」

 竜児と亜美は、顔を引きつらせて苦笑した。諾成契約は、当事者の合意だけで成立するが、一方が無理強いをする
強迫の場合には、それが無効となる(民法九十六条)。だが、それを、すみれに言ったところで、何になろう。

「そ、そうすね…。シャンパンは有難く頂戴致します。しかし、冷えてないから、こいつを開けるのは、パーティーの締めに
しましょう。初っ端は、うちで用意した普及クラスのシャンパンで我慢してください」

 万事が杓子定規では、人生は面白くない。楽しめる時には、楽しむべきなのだ。
 だが、そう考えながらも、竜児はあることを思い出して苦笑した。

「おっと、大事なことを忘れていた。キッチンに立つ前に、手洗いとうがいが必要だったな…」

「そうね…。それが我が家のルールだったし」

 そう、竜児に応じた亜美は、北村とすみれに向き直った。

「祐作に狩野先輩。申し訳ないけど、竜児と一緒に手洗いとうがいをお願い出来ませんか? 何せ、インフルエンザの
季節なんで」

「ママ…」

 美由紀は、思わず母親の顔を見上げた。その母である亜美は、美由紀にウインクして微笑した。

「さっき、あんたが能登のおじちゃんやおばちゃんにうがいをするように言ったのは、間違いじゃない。ママは、あんたに
うがいを強制する権利はないって叱ったけど、インフルエンザが流行っているんだから、あんたの言い分が正しかった
ようね」

「え?」

「ほら、何をびっくりしているの。別嬪さんが台無しでしょ。何でも杓子定規にいくのは問題があるけど、例外を全部認め
ていたら、この世の中はおかしくなっちゃうの。だから、間違っていること、おかしいと思うことは、遠慮なく言っていいの
よ。それが、我が家の流儀なんだから」

「う、うん…」

 能登のおじちゃんが言ったように、やっぱり美由紀のママは話の分かる大人だった。美由紀は、ほっとすると同時に、
嬉しくなって、にこにこと子供らしい笑みを亜美に向けた。

410名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 23:57:26 ID:O9OlpNoP

この人の作品は大好きなんだけどな
政治的ルサンチマンは作品に入れてほしくなかったな
素で面白いんだからニュー極的ネトウヨ思想を入れなくてもいいじゃん
411聖夜の狂詩曲 37/64:2010/01/10(日) 23:58:13 ID:7TPjhBm4
「そうそう、あんたは、顔の出来は悪くないんだから、そうやって笑っているのが一番。特に今夜は、パーティーなんだか
ら、楽しまなきゃ、ね?」

 最後に念を押すように、美由紀に対して、にやりとした。『ママは何でも知っている』のだ。美由紀の成績が悪いことも、
能登のおじちゃんとおばちゃんにうがいを強制したことを今になって申し訳なく思っていることも、そして、歌手になろう
ということをクラスメートから誘われていることすら、お見通しかも知れない。

「だったら、リビングでお客様と一緒に居るか、キッチンでお手伝いをするか、とにかく、あんたがしたいこと、楽しみたい
ことをしましょ」

 それだけ言うと、亜美はキッチンに引っ込んでいった。美由紀もその後を追う。

「ブロッコリーは茹でてざるにあけてあるから、これでいいとして、シャンパンで乾杯出来るように、鰯はそろそろ焼き始
めた方がいいわね」

 亜美は、フライパンにオリーブオイルを注ぎ、それを火に掛けようとした。

「なんだ、もう始めちまったのか」

 うがいを終えた竜児が、エプロンの紐を背後で縛りながら、キッチンに入ってきた。

「ええ、お客様を待たせる訳にはいかないから…」

「でもよ、昼間っから、ずっと働き詰めなんだろ? ここは俺に任せて、お前はリビングで北村たちの接待をしててくれ」

「そう? じゃぁ、ちょっと麻耶と一緒に、祐作にちょっかい出してくるからぁ」

 双眸を細めた、お馴染みの性悪笑顔を竜児に向けると、美由紀には「あんたはどうする?」と尋ねた。

「あ、あたし、パパのお手伝いする…」

 そういう返事が返ってくることは想定内だったのだろう。亜美は、「うふふ…」という、一見、毒がありそうな性悪笑顔
のまま、何も言わずにリビングへ戻っていった。

「何も、キッチンで手伝わなくてもいいんだぞ。それよりか、お前の大好きな能登のおじちゃんとか、祐作おじちゃんとか
に可愛がってもらえ」

「うん、でも、私、お手伝いするの好きだから」

 健気さが窺える美由紀の一言に、竜児は微笑した。そして、

「そうか…。なら、大助りだ。助手をしっかり頼むぜ」

 と嬉しそうに言い、オーブンの予熱を開始した。鰯料理が出来上がったら、間髪入れず、サーモンをオーブンに突っ
込んでステーキにするのだろう。
 シャンパンを開け、本物のキャビアが載ったカナッペと、鰯料理で来客をもてなしているうちに、オーブンでサーモン
を焼き上げるという段取りらしい。
 竜児は、亜美がコンロの上に置いたフライパンの中にオリーブオイルが引いてあることを確認すると、コンロを点火し、
フライパンを熱し始めた。

「美由紀、冷蔵庫の中に、ママが三枚に下ろした鰯がバットに並べてあるはずだ。それをパパのところに持ってきてくれ」

 美由紀は二つ返事で応ずると、冷蔵庫を開けて、昼間のうちにその存在を知っていた、鰯を入れたバットを竜児の
412聖夜の狂詩曲 38/64:2010/01/10(日) 23:59:57 ID:7TPjhBm4
ところへ持っていった。

「偉いぞ、バットは、ここに置いてくれ」

 竜児の指示通り、コンロの脇にバットを置いた。竜児は、その鰯に軽く塩とタイムを振った。そして、フライパンが適温
になったと判断したのか、トングでバットから鰯をつまみ出すと、それを熱くなったフライパンの上に並べていった。

「いい匂い…」

 青魚特有の生臭みも微かにあるが、それがタイムやオリーブオイルの風味と相まって、食欲をそそる匂いに変わって
いる。美由紀が苦手なほうれん草も、バターで炒めれば微かな甘味が出てくる。調理というものは、美味しいものを
生み出す化学反応なのだ。

「さてと、鰯は火が通ったみたいだな」

 竜児は、バルサミコ酢を適量垂らして軽く加熱した。キッチンにバルサミコ酢特有の濃厚な香りが漂った。

「美味しそうだね」

 フライパンの中を物欲しそうに覗き込む美由紀の態度が可笑しかったのか、竜児は、引き締まった頬を少し緩めて
微笑した。

「鰯はこれでいいだろう」

 芳ばしく仕上がった鰯を、大皿の上に放射状に並べていく。その大皿の中心には、亜美がついさっき茹でたばかりの
ブロッコリーを、小山のように盛った。

「よし、次はサーモンだ」

 竜児は、オーブンの予熱が完了していることを確かめると、冷蔵庫からサーモンの切り身を取り出した。それに、軽く
塩胡椒をして、予熱が済んでいるオーブンの天板の上に並べていった。

「これでよし。サーモンは、みんなとシャンパンを飲んで、鰯やカナッペをつまんでいるうちに焼き上がるだろう。後は、
かぼちゃのスープをいつでも出せるように、弱火で温め始めるか…」

 竜児は、その言葉通りに、昼間、亜美が作っておいてくれた、かぼちゃのポタージュが入った琺瑯引きの鍋をコンロに
掛け、蓋を開けたままとろ火で温め始めた。

「じゃぁ、美由紀は、この鰯を載せた大皿を、リビングに持っていってくれ」

「うん」

 小学四年生とは思えないほど、確かな足取りで、大皿をしっかりと持った美由紀は、リビングへ歩いていった。
 その後ろを、シャンパンと、ノンアルコールの炭酸飲料と、人数分の取り皿を持った竜児がフォローする。

「こりゃ凄い! いい匂いだし、何よりも旨そうだ」

 カナッペに続いて出てきた鰯料理のバルサミコ酢とタイムの芳しい香りを、北村が瞑目し、鼻の穴を大きく広げて、
くんくんと嗅いでいる。その仕草が可笑しくて、美由紀は、思わずくすりと微笑した。

「あ、竜児、ごめんなさい。話に夢中になってて…。グラスは、あたしが用意するから、美由紀と一緒にリビングでゆっくり
して頂戴」

 入れ替わりに亜美がキッチンへ向かい、ほどなく、盆の上に七本のフルートグラスを載せてきた。
413聖夜の狂詩曲 39/64:2010/01/11(月) 00:01:31 ID:7TPjhBm4
 それを、テーブルの上に並べていった。

「あっと、ナイフとフォークが未だだったわよね」

 すかさず美由紀がキッチンに戻り、籘の細長いバスケットに入っていた魚料理用の角張ったナイフとフォークを、
そのバスケットごと持ってきた。

「偉いぞ、美由紀ちゃん。ちゃんと、魚料理のナイフとフォークを持ってくるなんて」

 能登が感心している。でも、美由紀は、あらかじめ洗って揃えてあったナイフとフォークを持ってきただけなのだ。

「なんやかんやで、ドタバタしちまった。まぁ、兎小屋での素人料理だから、段取りが悪いのは勘弁してくれ」

「テーブルが狭いから、立食形式ね。大皿に載っている料理を、皆さんお好きなだけどうぞ。ナイフも持ってはきたけど、
基本的にフォークだけでも食べられるんじゃないかしら」

 亜美は、各人に取り皿とフォークを渡していった。ナイフの方は、籘のバスケットに入れたままである。オプションで
あり、各人が任意に使用してよいということらしい。
 よく冷えたシャンパンのコルクが抜かれ、それが六つのグラスに注がれた。小学生である美由紀のグラスには、
スパークリングワイン様の炭酸飲料が注がれる。

「本物は微かに緑色を帯びているけど、子供用はいかにもカラメルで着色しましたって感じね…」

 亜美の指摘が、美由紀にはちょっと不満だった。大人と同じフルートグラスに注がれていたが、中身が違うのが明ら
かなのは面白くない。

「はい、あんたの分。あんたが何を考えているのか知らないけど、お酒は二十歳になってからよ。少なくとも、もっと大きく
なってからね」

 亜美は、自分の娘に、にやりとした含みのありそうな笑みを向けながら、グラスを手渡した。

「さて、シャンパンのグラスは行き渡ったかな? それでは、不肖私、北村祐作が乾杯の音頭をとらせて戴きます」

 すみれの次代に大橋高校の生徒会長であった北村は、往時を彷彿とさせるような凛々しさで、声を張り上げた。
それを合図に、居合わせた全員が、グラスを手にして直立した。

「では、高須特許商標事務所の開業並びに高須竜児くん、高須亜美くんの両名の益々のご活躍を祈念して、乾杯!」

「乾杯!!」

 張りのある声がリビングに響き、銘々がグラスを干した。グラスがテーブルに置かれると、ぱらぱらと拍手が起こり、
出席者から、「おめでとう」「頑張ってね」といった祝いの言葉が発せられた。

「さぁ、みなさん、暖かいうちに召し上がって。このオードブルが片付かないと、次のスープとサラダが出せないから」

 亜美が、鰯料理を摘むためのトングを大皿の上に載せた。大皿のまん前に居合わせていた能登が、まずその料理を
賞味した。

「うん、旨い! だがこの味付けは何だろう? イタリアっぽいのは分かるが…」

 首を傾げている能登に、竜児は「バルサミコ酢をちょっぴり使っているんだ」と教えてやった。

「能登と美由紀ちゃんが作ったカナッペもなかなかだぞ。本物のキャビアを使っているせいもあるが、トビコとかイクラ
とかのありふれた材料のやつでも美味しい。何よりシャンパンに凄く合う。トビコって鮨ネタくらいにしかならないと思っ
414聖夜の狂詩曲 40/64:2010/01/11(月) 00:03:00 ID:7TPjhBm4
ていたが、こうした食べ方もあるんだな」

 シャンパンを飲みながら、北村はご満悦だ。その傍らでは、早くも酔ったのか、すみれが顔を真っ赤にしてソファーに
へたり込んでいる。

「狩野先輩、二杯目はシャンパンじゃない方がいいですよね?」

 竜児の問いに、すみれは、「ふにゃー」とか、「ぐにゅあー」とか、意味不明なことを言っている。超人的な思考力も、
鉄のような意志も、何もかもが吹っ飛んでしまっているらしい。竜児は、苦笑すると、すみれのグラスに、美由紀が飲ん
でいるのと同じ、ノンアルコールの炭酸飲料を注いでやった。

 一本目のシャンパンは忽ちなくなり、二本目が開けられた。鰯料理とカナッペがあらかたなくなったのを見計らって、
大きなボウルに入れられたサラダと、カボチャのポタージュが琺瑯引きの鍋ごとテーブールの上に置かれた。

「スープは、銘々が好きなだけ掬っていいわよ。サラダもそう。本当なら、個々に配膳すべきなんだろうけど、テーブルに
全員が着席出来ないから、こうした手抜きで許してね」

 来客たちにサラダ用の新しい皿と、スープ用の椀を手渡しながら亜美が釈明めいたことを言っているうちに、竜児は
キッチンに戻り、オーブンの様子をチェックした。庫内では、サーモンの切り身が炙られて、じくじくと脂を噴き出している。

「あと、三分というところだな…」

 竜児は再びエプロンを纏うと、亜美が下ゆでして灰汁を抜いておいてくれたほうれん草のバター炒めを作り始めた。
 フライパンを熱し、そこにバターを適量放り込む。パターが溶けて、泡立ってきたのを確かめて、灰汁抜きしたほうれん
草をフライパンに入れて炒め始めた。

「パパ、ほうれん草はサーモンの付け合わせ?」

 いつの間にか竜児の背後に美由紀が立っていた。その美由紀が、鮮やかとしか言いようのない竜児のフライパン
捌きをじっと見つめている。

「どうした、せっかくのパーティーなんだ。こんなところに居ないで、楽しんでこい」

 それでも美由紀は、竜児の傍らから離れようとしない。

「ねぇ、パパ…」

「うん?」

「偉い人が居て、でもその人が変なことをしているとか、間違ったことを言っているような時、パパだったらどうする?」

 意味深な質問を唐突に投げ掛けられて、呆気にとられたのか、竜児は、束の間、目を丸くして美由紀を見た。

「偉い人ってのは漠然としてるなぁ。しかし、偉い人が誰であっても、明らかにおかしいことは反論しなくちゃいけない。
少なくとも、パパは、自分が正しいと思ったことを言うだろう」

「う、うん。やっぱそうだよね」

 竜児の一言で、美由紀の表情にも変化があったのだろう。竜児は、フライパンを振りながらも、しばし、娘の意思を
窺うかのように、その顔を凝視した。

「パパはママに比べて、小細工や駆け引きは得意じゃない。だから、反論すべき時には反論する。しかし、反論しても
無駄と分かったら、そういう奴は相手にしない。それだけのことなんだよ」

415聖夜の狂詩曲 41/64:2010/01/11(月) 00:04:53 ID:GitLwFcl
「パパは嘘が嫌いだもんね」

「パパは馬鹿正直なんだよ。要領よく立ち回ることが出来ないんだ。だから色々と損もしてきた。だが、欺く、つまり嘘を
ついてまで上手く立ち回って何になる。そんなずるいやり方は、いずれ失敗するからね」

 諭すように言いながら、竜児はほうれん草のバター炒めを作り上げ、それを大皿の中央に盛った。

「おっと、サーモンも頃合いのようだな」

 キッチンミトンをはめて、オーブンのドアを開けた。芳ばしい匂いがキッチンに充満する。
 そのサーモンのステーキが乗った天板を引きずり出し、シンク脇の鍋敷きの上に置いた。

「うわぁ、美味しそう!」

 竜児は、子供らしくはしゃいでいる美由紀に苦笑すると、焼き立てのサーモンを大皿に並べていった。

「ねぇ、ねぇ、レモンバター載せるんでしょ?」

「ああ、今日ばかりは、ママもダイエットとか言わないからな。たっぷりと載せておくよ」

 竜児は、冷蔵庫からガラスの密閉瓶を取り出すと、その中から、作り置きしてあったレモンバターを、アツアツの
サーモンの上に載せていった。

「これでよし、大皿はパパが持っていくから、お前は冷蔵庫から白ワインを二本ほど出して、持って行ってくれ」

 そう言って美由紀の父は、大皿を両手で支えて、リビングへ向かった。
 美由紀は、言いつけられた通りに、冷蔵庫から冷えた白ワインを二本取り出しながら、呟いた。

「反論すべき時には反論する、か…」

 経緯を話せば、竜児も分かってくれるだろう。それに、今回の件で未だ嘘をついていなくて本当によかった。そう思う
と、美由紀は少しだけ気持ちが楽になってきた。



 宴は滞りなく進み、サーモンのステーキもメインディッシュの牛肉の煮込みも、来客たちには好評だった。

「このソース、もの凄く美味しい!!」

 麻耶は竜児特製のドミグラスソースにご満悦で、食べ終えた皿に残ったソースも、亜美が昼間焼いておいたパンで
綺麗に拭って平らげた。

「おい、おい、意地汚いぞ」

 夫がたしなめたが、麻耶は双眸を半開きにして、うすら笑いを浮かべている。

「何言ってんの、お皿に残ったソースは、こうやってパンで綺麗に拭って食べるのがマナーなのよ。そうすることで、この
お料理が本当に美味しかったんですっていうのが作り手にも伝わるから」

「そ、そうなのか?」

「あんたも試してみなさいよ。亜美ちゃんの手作りパン自体が美味しいし、それにソースが付くと、本当に文句なし」

 言われて、能登も、北村も、すみれも、パンでソースを拭って、料理を余すところなく賞味した。
416聖夜の狂詩曲 42/64:2010/01/11(月) 00:06:04 ID:GitLwFcl

「ふぇ~、こんなにうまい物を食ったのは、久しぶり、いや、初めてかも知れないな」

 腹をさすりながら、すみれが呟いた。アメリカや欧州にも出張することがある北村すみれだったが、それでも今夜の宴
の料理に匹敵する美食にはお目にかかったことがないらしい。

「さぁ、メインのお料理はこれで終わりですけど、後は狩野先輩から戴いたドンぺりを開けて、締めの乾杯をしましょう。
その後は、自家製ケーキがありますので、お楽しみに」

 再び、フルートグラスが用意され、冷蔵庫の中で十分に冷やされたドン・ペリニヨンが開けられた。それを銘々の
グラスに満たしていく。

「私は、そんなに飲めないから、少しでいいぞ」

 そう言う、すみれのグラスにだけは、他の者の三分の一程度の量が注がれた。

「では、改めて、メリークリスマス、そして、来年もよい年でありますように、乾杯!」

 能登の乾杯の音頭で、銘々はグラスの中のシャンパンをじっくりと味わった。

「気のせいかしらね、普及品のシャンパンとは格が違うような感じがする」

 亜美のコメントに竜児も頷いた。

「何ていうか、香りや甘みや酸味の成分が、よりいっそう複雑っていう感じがするんだよな。化学分析を精密にやってみ
たら、普及品にはごく僅かしか含まれていない、若しくは全く含まれていないエステルや有機酸が検出されそうだな」

「高須ぅ~、そんなこたぁ、どうだっていいだろうがぁ!! てめえは理屈が長いんだよ。ぐだぐだ言わずに飲めぇ~」

 人並みの三分の一程度の量だったのだが、北村すみれには致命傷だったらしい。そのまま、へなへなとソファーに
へたり込み、グラスを手にしたまま、大きないびきをかき始めてしまった。
 酒に弱いのは、高校時代からまるっきり変わっていないらしい。

「しょうがないなぁ…。高須、済まなかった。すみれが言ったことは気にせんでくれ」

 北村は、早くも白河夜船になったすみれに、亜美から受け取ったタオルケットを掛けてやった。

「なぁに、これが俺なんだ。今さら変えようったって変えられない。そんなに器用じゃないからな。だったら、不器用なりに
一生懸命やっていくしかないんだ。幸い…」

 竜児は、傍らに居た亜美の手を握り、その身体を軽く引き寄せた。

「機転が利く優秀な同志にも恵まれている」

「竜児…」

 亜美は、夫の顔を見上げるように覗き込んだ。その竜児は、目を北村と能登の方に向けたまま、彫像のように整った
顎を心持ち持ち上げた。

「この同志のおかげで今まで何とかなってきた。そして、これからも俺たちは頑張っていく。それだけなんだ」

 力むつもりもなく、自然体で言い切ったつもりだったが、宴の場には何か厳粛な雰囲気が漂い、誰もが暫し無言と
なった。

417名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 00:06:12 ID:o66KvF03
もしかして次スレいるかこれ
418聖夜の狂詩曲 43/64:2010/01/11(月) 00:07:46 ID:GitLwFcl
 パチ、パチ、パチ…。
 不意に、能登が一人で拍手をした。それにつられるように、麻耶が北村が拍手した。

「高須王国なんだな、ここは…。事務所を構えて独立したっていうのもあるが、高須も亜美たんも、本当に徒手空拳に近
い状態でここまで頑張ってきたんだ。高須が王で、亜美たんが王妃で、そして美由紀ちゃんがお姫様だな。この王国に
栄えあれ。俺は、そう願わずにはいられない」

「俺もだ、高須王国に栄えあれ」

「亜美ちゃんと高須くんに栄えあれ」

 能登に続いて、北村も麻耶も、竜児と亜美を祝福した。思いがけない祝辞に、竜児は驚き、亜美は涙ぐんだ。

「み、みんなありがとう。あ、あら、いやだ、おばさんになると、涙腺が緩くなっちゃうのかしら。でも、パーティーはまだまだ
お仕舞いじゃないから。シャンパンの後は、ケーキと紅茶で締めましょう」

 そう言うと、亜美と竜児はキッチンへ引っ込んだ。二、三分ほどごそごそ何かをやっている気配がしたが、ほどなく
亜美が赤いケーキを載せた盆を、竜児が人数分のティーセットを載せた盆を持って戻ってきた。
 そのポットをテーブルに置くと、極上の紅茶らしい茶葉本来の芳しい香りが、リビングに漂った。

「亜美ちゃん、何? このケーキ、生地自体が臙脂色をしてるよ」

 女性雑誌の副編集長として、いろいろなスイーツを見てきた麻耶も初めて見る物のようだ。

「オーストリアに伝わっている赤ワインを入れたケーキなのよ。夕べ、竜児と一緒に作っておいたの」

「なるほど、臙脂色は、赤ワインの色なんだな」

 そう言った北村に亜美は軽く頷き、手にしたナイフでケーキを切り分け始めた。切り分けたケーキは銘々皿に取り分
ける。
 その傍らで、竜児は、紅茶をボーンチャイナのカップに注いだ。

「こうして、散々に飲み食いした後だから、しつこい味付けはどうかと思って、砂糖はあんまり使ってないんだ。でも、一口
食べてみて物足りないようだったら、オプションでホイップした生クリームを絞り出すけど、どうかな?」

 美由紀も、父母が作った赤いケーキを一口食べてみた。しっとりとして口当たりがよく、甘さも控えめながら十分だった。

「パパ、ママ、凄く美味しいよ。これなら、クリームもお砂糖も要らない」

「そうねぇ、おばちゃんもそう思うわ。第一、これでクリームが載っていたら、デブになっちゃいそう…」

「男にとっちゃ、これでも十分に甘い。それに、高須がいれてくれた紅茶は、砂糖なしでも美味しい。言うことなしだな」

 能登夫妻も満足しているようだった。
 クグロフのような蛇の目型で焼かれているが、クグロフよりも軽くふんわりとしていて、後味がよい。赤ワインの微かな
香りも上品で嫌味がなかった。
 美由紀は、大ぶりのケーキを、ミルクティーと一緒に食べ終え、すっかり満腹になってしまった。

「何だか、ねむ~い…」

 腹の皮が突っ張れば目の皮が弛む、とはよくぞ言ったもので、美由紀は、いつしか、健やかな寝息をたてながら、穏や
かな眠りに落ちていった。

(以降は次スレにて…)
419SL66 ◆5CEH.ajqr6 :2010/01/11(月) 00:10:24 ID:GitLwFcl
以上で、前半は終わりです。
なお、小道具で、きな臭い話が紛れ込んでいますが、困ったことに実話なんですねぇ。

後半は、いつものお約束どおりに、めでたしめでたしですが…、
「安奈さん、ストライクバック!」がしっかりとあります。
420名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 00:11:06 ID:o66KvF03


【田村くん】竹宮ゆゆこ 28皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1263136144/
421名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 00:29:19 ID:CFEU8jC5
>387 嫌なら読まなきゃいいじゃん
42298VM ◆/8XdRnPcqA :2010/01/11(月) 00:36:40 ID:TpY+dEER
えーと…
いっきに埋まってるしw 
ローマ続編、27皿目はムリでした。すんません。
ついでに、トリップというものの実験。
423名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 01:51:05 ID:Zo3dNsF7
SL66氏。。。。
自分ワールドを公開したいならとらドラのキャラクタにくくりつける必要はないよ?
424名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 02:15:34 ID:/+yTPzke
キャラクターの名前を拝借してるだけにしか見えない。
新スレの方で出てた言葉を使うなら愛が感じられない。

とりあえず大量投下乙
425名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 04:24:37 ID:4paDHntN
オリキャラを出すのも度が過ぎなければ別に構いやしないし、どんなネタで書くのかも
作者の自由ではる。でもエロパロスレなのだから究極的にはエロがないとスレ違いに
なるんじゃないかなぁ、とは思う。もちろんエロしか認めないようでは先細るだけだし、
作品はあくまで個人が趣味で書く領域なので、それを強制することもできない。
でもやっぱりエロい物が読みたいんですよ、これが。だからこのスレに居る。

自分がそのキャラにどんなエロいことをしたいか?
それを文章にするだけだって決して無為ではないはず。どうか御一考のほどを。
426名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 06:50:44 ID:4paDHntN
埋め代わりの何か。


大河は引っ掻く癖があるのが困る。その時の締め付けはまさに最高潮なのでつい痛みを忘れがちだが、
何しろ虎の爪は深く食い込むのだ。大河以外のそんな傷がないわけじゃないが、大河のはやはり一味違う。
ちなみに背中だと他の傷よりも低いところにできるので判別は容易だ。あんまり生傷を増やすのも
どうかと思ったので、後ろからしてみると引っ掻かれることもなく具合が良い。調子に乗って連続で
5回ほどしたら俺の背中の代わりに枕が裂けた……困ったものだ。

櫛枝はその時の顔を隠したがる。絶対みっともない顔してるから、とは櫛枝の言だが個人的には
そうは思わないんだがな。手とかで隠そうするからもう少しなのがすぐに分かるのはちょっと便利。
それを無理矢理こじ開けて顔を拝むと滅茶苦茶恥ずかしがってくれるのでかなり燃える。
後で何度も文句を言われてもこれはやめられそうにない。櫛枝もまんざらじゃないみたいだし。
実際どんな顔なのかは……それは俺だけの特権だな。

川嶋は叫ぶ。女優の娘だからかよく通るその声が艶をまとった叫びとなると、俺の安アパートだったら
近隣住民に筒抜けてしまうところだ。その甲高い音色は俺の背筋をゾクゾクさせながら響くし、キスしながら
ラストスパートで突き上げてやって漏れる呻き声も何とも言えない。話は変わるが最近ちょっと
攻撃的になったとか言われる。川嶋の声が枯れる程度まで何度もしたぐらいでそれはないんじゃないか。
後で殴られたの俺だし。仕返しにまた川嶋の声を枯らしてやろうと誓う。

香椎はとにかくキスしたがる。上の口はよだれまみれになって、よく濡れる下の口共々ぐっちゃぐちゃだ。
身体中で繋がったまま俺を感じたいからとのことで、気恥ずかしくはあるがかなり嬉しい。
情が深いって言うのか、そんな香椎に求められるまま可能な限り俺を与えてやりたいと思いつつ注ぎ込む。
他との兼ね合いもあるのでほどほどにお願いしたくはあるのだが、香椎はそう安々と許してはくれないのだった。
口元のホクロのせいか、妖しく笑っておねだりしてくる香椎は反則だと思う。

木原は痙攣癖がついた。ポリネシアンは手間のかかる分だけ半端ない気持ちよさなのだが、女性の方も
それは同様のようで木原は最初気絶していた。目の焦点は合っていないようで、おかしくなったんじゃないかと
心配になるほど激しく身体が跳ねている。奥を突く度にそうなるものだから、なにかそういう空気か何かで
葉ねるおもちゃを連想してしまった。そんな木原を跳ねさせるのを楽しく感じてしまったのは不謹慎だろうか。
おもちゃと明確に違う点は楽しいだけでなく、とても気持ちいいということなのは言うまでもない。

独神はとにかく絡み付いてくる。そんな焦らんでもいいと思うのだが、唯一年齢的にも社会的にも妊娠しても
大丈夫(?)なためか、基本的に中に出すように懇願してくるのだ。必死だなぁと思わないではないが、
なんにせよ求められて悪い気はしない。オスとしての本能に従い、腰にガッチリと絡んだ脚はそのままに
可能な限り奥まで貫く。そうすると何度もありがとうって言われるんだが、なんか申し訳ない気分になるから
不思議だ。返礼代わりに直後で敏感になってる奥をまた突き上げることにする。
427名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 07:03:26 ID:tGhsgNJs
>>426
埋め代わりなんて勿体無い
それぞれについて1レス以上の詳細なところが読みたいです
428名無しさん@ピンキー
>>426 GJ
>>427 禿同