【田村くん】竹宮ゆゆこ 26皿目【とらドラ!】

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1名無しさん@ピンキー
竹宮ゆゆこ作品のエロパロ小説のスレです。

◆エロパロスレなので18歳未満の方は速やかにスレを閉じてください。
◆ネタバレはライトノベル板のローカルルールに準じて発売日翌日の0時から。
◆480KBに近づいたら、次スレの準備を。

まとめサイト3
ttp://wiki.livedoor.jp/text_filing/

まとめサイト2
ttp://yuyupo.dousetsu.com/index.htm

まとめサイト1
ttp://yuyupo.web.fc2.com/index.html

エロパロ&文章創作板ガイド
ttp://www9.atwiki.jp/eroparo/

前スレ
【田村くん】竹宮ゆゆこ 25皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1257220313/

過去スレ
[田村くん]竹宮ゆゆこ総合スレ[とらドラ]
http://sakuratan.ddo.jp/uploader/source/date70578.htm
竹宮ゆゆこ作品でエロパロ 2皿目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1180631467/
3皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1205076914/
4皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1225801455/
5皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1227622336/
6皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1229178334/
7皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1230800781/
8皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232123432/
9皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232901605/
10皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1234467038/
11皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1235805194/
12皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1236667320/
13皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1238275938/
14皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1239456129/
15皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1241402077/
16皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1242571375/
17皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1243145281/
18皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1244548067/
19皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1246284729/
20皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1247779543/
21皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1249303889/
22皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1250612425/
23皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1253544282/
24皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1255043678/
2名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 01:51:05 ID:f0uyNwyF
3名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 01:51:05 ID:BVmtmEL0
Q投下したSSは基本的に保管庫に転載されるの?
A「基本的にはそうだな。無論、自己申告があれば転載はしない手筈になってるな」

Q次スレのタイミングは?
A「470KBを越えたあたりで一度聞け。投下中なら切りのいいところまでとりあえず投下して、続きは次スレだ」

Q新刊ネタはいつから書いていい?
A「最低でも公式発売日の24時まで待て。私はネタばれが蛇とタマのちいせぇ男の次に嫌いなんだ」

Q1レスあたりに投稿できる容量の最大と目安は?
A「容量は4096Bytes、一行字数は全角で最大120字くらい、最大60行だそうだ。心して書き込みやがれ」

Q見たいキャラのSSが無いんだけど…
A「あぁん? てめぇは自分から書くって事は考えねぇのか?」

Q続き希望orリクエストしていい?
A「節度をもってな。節度の意味が分からん馬鹿は義務教育からやり直して来い」

QこのQ&A普通すぎません?
A「うるせぇ! だいたい北村、テメェ人にこんな役押し付けといて、その言い草は何だ?」

Qいやぁ、こんな役会長にしか任せられません
A「オチもねぇじゃねぇか、てめぇ後で覚えてやがれ・・・」
4名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 01:51:26 ID:BVmtmEL0
813 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2009/01/14(水) 20:10:38 ID:CvZf8rTv
荒れないためにその1
本当はもっと書きたいんだがとりあえず基本だけ箇条書きにしてみた

※以下はそうするのが好ましいというだけで、決して強制するものではありません

・読む人
書き込む前にリロード
過剰な催促はしない
好みに合わない場合は叩く前にスルー
変なのは相手しないでスルー マジレスカッコワルイ
噛み付く前にあぼーん
特定の作品(作者)をマンセーしない
特に理由がなければsageる

・書く人
書きながら投下しない (一度メモ帳などに書いてからコピペするとよい)
連載形式の場合は一区切り分まとめて投下する
投下前に投下宣言、投下後に終了宣言
誘い受けしない (○○って需要ある?的なレスは避ける)
初心者を言い訳にしない
内容が一般的ではないと思われる場合には注意書きを付ける (NGワードを指定して名前欄やメ欄入れておくのもあり)
感想に対してレスを返さない
投下時以外はコテを外す
あまり自分語りしない
特に理由がなければsageる
5名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 01:53:49 ID:BVmtmEL0
         /: : : : : : : : : : ヽ !: : : : : : : : : : : : : : : :\: : : : : : : :.!
          /: : : : : : : : : : : : : : : : :!: : : : : : : : : : : : : : ヽ: : : : : : :|
       /: : : : : : : : !: : |M∨M: :|: : !: :ヽ: : : ::!: : : : : : :!: :! : : : :|
       /: : : : : : : : :!: :!:|     !ハ: :!ヽ: !: : : :|: : : : : : :!: :|: : : : |
      ,: : : : : : : : !: !: :!:|    | |: :| !ハ:: : ハ: :!: : : : : : |: : : : |
      ,': : : : : : : : :|: |: :! !    ! ⊥」 」__レ! V: : : : : : :|穴!: :.!
      i: : : : : : : : :.|斗十ト、  /  |/ __  |./  |: : : : : : :| ノ |: :.!
      |: : : !: : : : : |ハ|ヽ!  ヽ     れ尓うト、 从: : : : : :! ,八: ', このスレは亜美ちゃんが監視しています
      |: : : !: : : : :∧            { !:::::::! } 〉 |: : :/ ::|,ノ: : : :ハ  
      |:ハ: :|: : : : : :ハ z≠=ミ       ヽこ少  ハ: /: : |: : 八: :.∧
      !  Vヽ: :ヽ: : :ハ           ー‐ '  イ: :/: : :,': :/ : : : : ∧
         \: : : : : :.ハ :::::   、     :::::  厶イ: : : ハ f: : : : >-、\
          \: :\ 込              /: : :./|: :|ー-彳/ ̄ ̄¨ヽ、
        / ̄ >r‐': :>、   v―‐ァ   / ,: : : /∧___/:::::::::::::::::::::::∧
       /::::ヽ:::::::::::|: : : : : |::> 、     /  / : :.///::::::::::/:::::::::::::::::::::::::::::!
       |:::::::: !:::::::::|: : : : : |::::::∧ ` ー く   /: : :/〃:::::::/::::::::::::::::::::::::::::::::::|
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6 ◆9VH6xuHQDo :2009/11/30(月) 02:06:13 ID:qAfrixPR
>>1
おつかれさまです。

再開させて頂きます。宜しくお願いいたします。
7みの☆ゴン106 ◆9VH6xuHQDo :2009/11/30(月) 02:07:12 ID:qAfrixPR

「……お……俺……さ、触っ……りてえ」
 緊張し、血の色に染まる竜児の唇からは、それ以上の言葉は途切れ、荒い呼吸に変わる。そ
して意を決した竜児の右手は、ピクッと動くと同時に、震えながらも少しづつ実乃梨の肩から
下方へ降りていく。
「……」
 実乃梨は抵抗する事なく黙っていた。ただその息遣いは竜児同様、荒くなってくる。やがて
竜児の指先は、やわらかく、まるい実乃梨の乳房に埋まる。最初は躊躇いがちな竜児の指先だ
ったが、次第にやさしく撫でるように上下に動きだす。ブラウス越しとはいえ、伝わる感触、
熱、恥ずかしさがこみ上げる。ゴクッ……竜児は、唾を飲む。くっつけているおデコに汗が滴
る。実乃梨の乳房は、竜児の予想を、期待を遥かに超えるモノであった。が、

 無意識なのか本能なのか、竜児の指は、大胆にも実乃梨のブラウスのボタンを外しはじめた。
ひとつ、ふたつ……
 もっと、直接、触れたい。竜児のリビドーが膨れ上がる。

「やんっ!」
 実乃梨の唇から漏れたそのオンナっぽい声に、彼女自身、ハッと驚いたような表情になる。
竜児といえば、敏感に反応し、最後のボタンから素早く手を引くのだった。
「す、すまねえっ……俺……調子に乗っちまって……」
 竜児の手のひらには、ふくよかで弾力がある乳房の余韻が、罪悪感と一緒にジンジン残って
いる……思えば実乃梨は竜児にとって、付き合うだけでも夢のような高嶺の花。その実乃梨に
なんて事を……もしかしたら嫌われたかもしれない……そんな不安も頭の中をよぎるのだ。

「あっ……いやっ! 違うのだよ竜児くんっ。い、嫌じゃないんだ! 嫌じゃない、けど……
 で、でも……なんかっ、なんかさ…………私、怖……くて……さ」
 ゴメンよ……と、言ったきり実乃梨は両手で顔を覆ってしまう。よく見れば竜児と同じく、
肌はうっすら汗ばみ、震えていた。それを見た竜児は魔法が解けたかのように意識がクリアに
なる。
「俺こそ、悪かった……すまねえ。焦っちまって……いくらなんでも、まだ早いよな」
 実乃梨が怖がった訳が、それで正しいか竜児には分らなかった。しかし実乃梨は、しばらく
沈黙の後、外されたブラウスのボタンを嵌めつつ、ジーッと竜児の顔を見つめ……いつもの眩
しい笑顔を作る。

「えっへ〜、竜児くん! どっ……どうだった? 私のおパイの感触?」
 予想外の質問に言葉が詰まる竜児。しかし健気に和ませようとしているのであろう、そんな
実乃梨の想いを汲み取り、言葉を振り絞るように目一杯、明るく紡ぐ。
「おうっ!……きっ、緊張してよくわからなかったが……や、やわらかくて、むむ、ムニッと
 して……気持ちよかった」
 そうかいそうかい阿藤快! っと、実乃梨は何事もなかったかのように言葉を返し、

「んねえ、DVD。もいっかい最初から見ようよ」
 テーブルの上にあるDVDプレーヤーのリモコンを拾い、巻き戻しボタンを押す。テレビには
最初のシーンが映し出される。すると実乃梨は、ソファーの上で、あぐらをかいていた竜児の
股の間に、スットーンっと入ってきて、そのまま抱きかかえられるように座るのだった。
「おうっ! 実乃梨っ、なんでここに座るんだ? 俺は……嬉しいんだが」
「さっきは竜児くんのターンだったから、今度は私のターンよねっ。この体勢で見たいんだっ」
 実乃梨は竜児の胸を背もたれ代わりに体重を預けているが、彼女の後ろ髪が鼻先に触れ、く
すぐったい。竜児は実乃梨のやわらかい髪を掻きあげると、目の前に彼女の旋毛が現れた。
 思わず匂いをクンクン嗅いでしまう竜児であった。
8みの☆ゴン107 ◆9VH6xuHQDo :2009/11/30(月) 02:08:03 ID:qAfrixPR

「なんか……安心するな。この体勢」
「……何だか竜児くんに包まれているような気分だよ……んふ〜っ……脱力しちゃ〜う」
 さらに体重を乗せてくる実乃梨。その重さ自体はたいした事なかったのだが、もっと重い、
実乃梨の想いがズッシリと預けられたように感じる竜児。心地よい重さだった。その
全てを預けて欲しいと願った。実乃梨がどうしようもなく愛おしくて堪らなくなった。
 やがて実乃梨は、独り言のように語り始める。
「……私、竜児くん大好き。……でもさ、今まで私って、ソフト馬鹿だったでしょ? ……ソ
 フト馬鹿からソフト取ったら只の馬鹿じゃない?……だから私、必死に頑張ってきたんだ」
 声は微かで震えていた。その声に竜児は無言で聞き入る。
「さっき、怖いって言ったのは……怖いのは、竜児くんがソフトより大切な存在になっちまっ
 て……それは、すっごい嬉しいんだけど……でも、なんか、怖くなっちまったんだ……」
 そんな実乃梨のいじらしい告白に、竜児は後ろからギュッと抱き竦めた。胸板に彼女の鼓動
が、熱がジンワリ伝わってくる。
「俺もお前のこと、何よりも大切だ。だから、上手く言えねえけど、幸せにしたい」
 嬉しい……と、返事をしたきり、実乃梨は黙り込んだ。背後からはその表情は伺え知れない
が、今はこの熱に浸るだけで充分だった。満たされた気分になった竜児の中では、既に実乃梨
への恋心は、愛情に変わっている。そしてこれは、絶対実乃梨には言えないことなのだが、求
めればきっと実乃梨は、その純潔を捧げてくれるのであろう……という確信を、竜児は得るの
だった。
 そう、だから今はこれで充分なのだ。

 そのまま、静かな部屋の中で時は過ぎ、テレビの中に、エンドロールが流れていく。

***

 ピンポ〜ン
 櫛枝家にチャイムの音が鳴り響く。実乃梨は竜児の匂いが残るリビングを離れ、板張りの廊
下をバタバタと足音を立て、玄関の端っこにあった適当なつっかけを履き、チェーンロックを
外した。
「お姉ちゃん、ただいま〜!竜児くん帰ったの?」
 実乃梨の両親がご帰還された。ドアの外にいる父親は、感傷深げに夜景を見下ろしている。
「おかえり。帰った。ついさっき」
 と、実乃梨は最低限の返事だけを残しリビングへ踵を返す。その娘の背中に靴を脱ぎながら、
母親は呟いた。

「お姉ちゃん……火遊びは、ホ・ド・ホ・ド・に・ね?」

 そう忠告し、母親は、実乃梨が着ているブラウスのボタンが掛け違えられていた事を見なか
った事にして、玄関の扉をゆっくり閉じる。

***
9みの☆ゴン108 ◆9VH6xuHQDo :2009/11/30(月) 02:09:04 ID:qAfrixPR

 翌週の体育祭前日。大橋高校のグラウンドでは、実乃梨が部長を務める女子ソフトボール部
が、シートノックの練習を行っていた。再来週の関東大会、平たく言うとインターハイの前
哨戦が開催される為、グラウンドでは、かなり激しい檄が飛んでいるのであった。
 女ソ部公認、伝説の応援団長である竜児は、バンカラなのはフェイスだけで、必死に実乃梨
の一挙手一投足にいちいちクネクネ反応しながら、憧れの先輩を覗きにきた乙女のように、フ
ェンスにへばりついているのである。
 その姿をチラ見し、ヒソヒソ話を始める部員が湧いたのだ。
「部長の彼氏さ〜、また来てるよ〜。もう風景化してるわよねぇ。あそこにいて普通って感じ」
「うっふ〜ん、ラブラブねえ……あのふたり、どこまでススんでるのかしら。あはっ?」
「どこまで……とな? どことは、いずこの事でござるか? 」
「やだよぉ、この子は。お天道さんが高いうちからお止しよ。ふぉ、ふぉ、ふ……ンギャア!」
 そんなニヤニヤしている部員の間を、シュン!と、白球が横切った。

「ゴォルァ〜ッ、そこ〜〜!! よそ見すんな〜! 怪我すっぞ〜!」
 噂の部長、実乃梨がバットの先端を部員に向け、吠えるのであった。
「すっすいませ〜ん、部長!……あちゃ〜、聞こえたかなぁ……」
「……みのりんレーダーで捕捉されたかも。でも、平気っしょ? 悪い事じゃないし……よっ
 しゃあ〜〜!! バッチこ〜い!!」
 と、気合を入れ直し、練習を続ける実乃梨たちがいるグラウンドの脇を、ガタガタ通り過ぎ
る一台の軽トラックが現れる。
 その軽トラックは、体育館の入り口脇に横付けし、車内からスーパーかのう屋の店主、つま
りすみれの父親が降りてきたのだった。彼を待ち受けていたのは、2ーCの生徒たち。その先
頭にいた北村は、すみれの父親に頭を一度下げ、二言三言、挨拶を交わす。
 トラックに積まれて届けられたのは亜美が仕事のコネで手に入れたクリスマスツリーで、所
属事務所の倉庫から運んでくれる役を、すみれの父親が買って出てくれたのであった。

「会長のお父さま有り難うございます! ズバリ助かりました!」
「いや……学校についでの用事もあったし。全然かまわないよ。じゃあ後でね」
 そう言い残し、すみれの父親はそのまま校長室の方へ歩いていった。見送る北村の目の前に
積まれている季節外れのツリーは、2ーCの仮装行列『ナイトメアビフォアクリスマス』に使
う予定で、当日デコレーションしたリヤカーに乗せ、行列のメインを務めるのである。

「いよーし! 手分けして運ぶぞーっ!」
 北村の体育会系丸出しの大声に、お〜う! と、体育祭実行委員の春田をはじめ、男子数人
が拳を突き上げた。授業をこなした後の放課後だというのにハイテンション。トラックの荷台
によじ登り、荷紐を解いていく。バラされたこれらのパーツから想像する限り、完成後はおそ
らく2メートルほどの大きさだが、凝った造りになっているようで、めちゃくちゃゴージャス
になるであろうと容易に予想できた。

***
10みの☆ゴン109 ◆9VH6xuHQDo :2009/11/30(月) 02:10:09 ID:qAfrixPR

「……うーわ、結構でかっ!」
「マジすげー! 超〜いい感じじゃん!」
 2メートル以上はあるだろうか、人海戦術が功を奏し、ものの15分程度でクリスマスツリ
ーは出来上がった。ツヤのあるホワイトパールに輝くツリーは、オーナメントやリボン、ベル
が巻き付かれている。
「北村くーん! これ、家から持ってきたの! うちのツリーの! てっぺんにつけて!」
「あっ、こらこら! 投げるな投げるな! 取りに降りるから!」
 脚立の上にいた北村はするすると降りてきて、大河が手にしていたダンボールの中を覗き込
んだ。そして、
「……いいのか? こんな綺麗な……なんていうか、高価そうな……」
 と。目を丸くして上げた声に、大河は嬉しそうに頷いてみせる。
「いいの。私ね、クリスマス、大っっっっ……好き! 実家から持ってきたんだけど、まだ半
 年使わないし、それにちょっと大きすぎて、今のマンションのツリーには飾れないから」
 恭しい手つきで北村が取り出したのは、大河の顔よりもよほど大きな、硬質の光を帯びて透
き通る。複雑な立体をした星の飾りだった。わあ……! と、女子たちがその美しさに声を上
げる。わあ……! に北村もさりげなく混じり、女子と並んで眼鏡をギラつかせる。
「クリスタルでできてるんだ。私の、一番好きな飾り。使えないとかえってもったいないし、
 いいの。飾ってくれる?」
「……よし! 大切に飾らせてもらうからな! おまえの一番好きなこの星を、ツリーのてっ
 ぺんに!」
 再び脚立を上り、そしてしっかりと、北村は大河の星をツリーの頂点に据えつけた。安定し
たかを確かめるみたいにそっと両手を離し、ちょん、と指先で突いてみて、それで納得したの
か「……OK!」と眼鏡を押し上げて頷く。「へへ〜」と大河は照れたみたいに顔をくしゃく
しゃにしてみせる。嬉しげに身体もくねらせて。そりゃもうOKなのであろう。

***

「あー! しくった! ファ──────ッ!!!」
 一方グラウンドでは、女ソ部の部長が間抜けにも、すっぽ抜けの大ファールを打ち上げてし
まう。そのボールは大きく放物線を描き、ツリーが運び込まれた体育館の方へすっ飛んでいっ
たのだ。
「いーよ、実乃梨っ!! 俺が取りに行くから!  鶏肉、じゃねえ、取りに行くから!」
……と、分りにくいジョークが面白いかどうかは別にして、日々、笑いに精進する竜児。走っ
て落下地点と思われる体育館へ向っていく。

 そして体育館が近づくにつれ、なんとなく嫌な予感が沸々と湧いてくる竜児なのであった。



───To be Continued……
11 ◆9VH6xuHQDo :2009/11/30(月) 02:12:13 ID:qAfrixPR

以上になります。
お読み頂いた方、有り難うございました。
投下途中、スレ立て出来ずに大変失礼いたしました。

またこの時間帯をお借りするかもしれません。
失礼致します。
12名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 03:00:03 ID:wMiLIn5P
乙です。

大体の容量はわかるだろうから、予告だけして新スレに全部投下って方がスマートな気がする。
13名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 06:24:34 ID:2MMOLXOO
>>10
続き気になるなぁ
GJでした
14名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 15:57:33 ID:E2IiEiqF
>>11
GJ
甘甘で微笑ましいかぎり
でもこの展開は次回鬱になりそうだ
15名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 16:03:29 ID:vzAphxS8
みの☆ごんの人GJですw

甘甘でたまりませぬ(*´Д`)
16名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 21:48:56 ID:MXPeYmNb
SL66氏の新作期待。
シリーズ初作よりずっと読ませて頂いています。
あーみんと竜児の軽快な掛け合いや
心理描写の秀逸さに毎回引き込まれています。
今回の「大潮の夜に」の投下楽しみに待っています。
17名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 23:51:44 ID:QLVB6sUi
哲学的というか、妙に頭が固い気がするけど、あーみんはやっぱり可愛いでござる。
18名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 14:48:17 ID:w0Vp06/C
か……KARs様……ままま麻耶麻耶麻耶をををを……ッ
お待ちしておりまsガクリ
19名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 15:53:08 ID:M3kk1zYb
麻耶「高須君、裏であたしの事、可愛いくないとか77点とか言ってるらしいじゃん?」
高須「いやいやいや、可愛いくないとか、そんな事は……」
麻耶「うっそだぁ。能登から聞いたし。ギャルは論外とか頭悪そうとか言ったらしいじゃん?」
高須「いや、だから苦手ってだけで論外とは言ってないって」
麻耶「でも奈々子は85点なんでしょ?奈々子だってギャルじゃん。
悔しい。悔しい、悔しい、悔しい。犯してやる。ヤってやる。
77点の身体で何度もイカせてやる。それで、恥ずかしい写真撮ってタイガーにチクってやる〜〜〜」 高須「アッーーーー」

みたいなSS誰か書いておながいします。
20名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 15:58:37 ID:Woa2E9bk
奈々子「ねぇ高須君、わたしが85点で亜美ちゃんが89点ってどうゆうこと!?」
高須「ちょっと待ってくれ香椎!」
奈々子「バストのサイズだったら逆なんですけど」
高須「わかったから押し付けないでくれ〜」
21名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 16:24:58 ID:3U9fNrHT
竜児は逆レイプが似合うな
22名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 16:58:53 ID:M3kk1zYb
亜美「で、実乃梨ちゃんが100点満点なんだよね〜?高須君は。
でもホントはあたしでも良いんでしょ?だっていっつもあたしの胸見てんじゃん?
あたしがそれに気づいてないと思った?
ほらほらぁ〜触っても良いんだぞぉ?うりうりうり。
麻耶ちゃんも奈々子も日頃のうっぷんを高須君で解消しちゃおうよ〜。高須君って結構、イジメ甲斐あるんだから。」


こうですか?わかりません(>_<)
23名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 17:03:57 ID:HTmEnJrw
日記やっと復習終わった
虎のうざさは異常だな
完結目指して頑張ってくれ
24名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 17:06:37 ID:Woa2E9bk
日記まだぁあああああああああああ







うっ
25名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 18:36:30 ID:/SY9asSo
>>22
高須棒姉妹を思い出したぞ
26名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 20:19:55 ID:de8eXNJq
×××ドラの続きが気になってしょうがない
早く読みたいな
27名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 22:58:06 ID:M3kk1zYb
タイトル忘れたけど、北村が自分が使えなかったコンドームを竜児に託す話があった様な気がする。
あれをもう一度読みたいです。
あと、会長がアメリカで開発したゲームを5人でやる話。あれも読みたい。
自分の中で名作だったのにタイトル忘れちゃうなんてバカバカバカ。
28名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 23:45:53 ID:T01sRyfT
test
29SL66:2009/12/02(水) 00:04:20 ID:SDh3BMay
30分後に、「大潮の夜に」を投下します。
全81レス(190KB)の長編なので、可能であれば、全部、
そうでなければ一部、
というように、柔軟に対処致します。

では、しばしお待ちを。
30名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 00:16:24 ID:33TlDY1M
全裸待機北。
31名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 00:27:57 ID:bkk7QLPm
きたー!

楽しみだ!
32SL66:2009/12/02(水) 00:31:08 ID:SDh3BMay
さて、時間になりましたので投下を開始します。
長編かつ濃厚エロ含有ですので、お楽しみに。
では、次レスからスタートです。
33大潮の夜に 1/81 by SL66:2009/12/02(水) 00:33:09 ID:SDh3BMay
 天頂付近に位置した真夏の太陽からの灼けつくような日差しが、砂浜を白く輝かせ、木立の下に黒々とした陰を形
づくっていた。正午前だというのに、もう浜辺の砂は、素足では火傷をしそうなほど熱くなっているに違いない。
 風はそよとも吹かず、よく言えば磯の匂い、悪く言えば浜辺に打ち上げられた海藻だか、魚の死骸だかの腐臭が、
左右を岬に囲まれて入江となっている浜辺の空気を淀ませていた。入江の波は穏やかで、眠気を催すような単調な
潮騒を奏でている。
 その潮騒に加え、浜辺の背後と、左右の岬に鬱蒼と繁っている椎だか樫だかの原生林からは、アブラゼミやミンミン
ゼミの大合唱が聞こえてくるのだ。
 やさしげな潮騒と、じりじりという油炒めのような蝉しぐれの合奏。それが、真夏の気だるさを、いやが上にも強調して
いた。

「ちょ、ちょっとぉ、どういうことぉ?! 話が違うじゃない!!」

 気だるい潮騒と蝉しぐれは、携帯電話機を左耳にあてがった亜美の金切り声で打ち破られた。
 亜美は、柳眉を逆立て、口惜しそうに歯噛みし、携帯電話機を握った左手を、怒りからか、わなわなと震わせている。
目元は黒眼鏡で覆っているので、傍目には分からないが、双眸を血走らせながら、くわっ! とばかりに大きく見開い
ていることだろう。そのことを、相方の竜児は誰よりも分かっていた。
 その亜美が、竜児に手招きをし、次いで、自身が左耳にあてがっている携帯電話機を、とんとん、と右手の人差し指
で突くように指差した。
 その部分、亜美の携帯電話機のスピーカー部分の背面に竜児も耳を押し当てて、通話を聞き届けてくれというの
だろう。亜美と揃いのサングラスをかけた竜児は、軽く頷くと、亜美の仰せのとおりにした。

『あら、あら…、ずいぶんと、ご機嫌斜めだわねぇ』

 テレビや映画で、竜児にも聞き覚えのある女の声が聞こえてきた。その声の主とは、高校三年生の夏に大橋高校で、
一度だけだが言葉を交わしたことがあった。誰あろう、亜美の実母にして女優の、川嶋安奈である。

「ご機嫌斜めですってぇ?! あったりまえじゃない! この鍵は何よぉ!! 別荘の鍵なんかじゃないじゃない!! 
形はそれらしかったけど、ドアの鍵穴には全然入らなかったわよぉ!! どうなってんのよぉ!!」

 怒り心頭、それに切羽詰まった焦りからか、亜美はパニック寸前の興奮状態であるらしい。無理もない、遠路はるば
る別荘に来てみたら、そこの鍵だといって渡されたものが、まったく使い物にならなかったのだ。

『う〜ん、もしかしたら、ママ、うっかりして、別荘とは別の鍵を渡しちゃったかもしれないわねぇ。ほらぁ、ママって天然
だからぁ、こういうボケをかますことは、稀にだけど、あるのよねぇ』

 声の主は、『ほほほほ…』と、鈴を転がすような笑い声を上げた。よく通る、美しい声質だが、しっかりと悪意が込めら
れている。こういう食えないところは、まさしく親子だ、と今更ながらに竜児は思った。
 一方の亜美は、こめかみに青筋を浮かべて、携帯電話機に噛みつかんばかりの勢いで吠えている。

「ママ、あんたって、偽物をあたしに掴ませたのね?! 卑怯よ! 汚いわ!!」

『卑怯とか、汚いとか、ずいぶんと人聞きが悪いわね。まったく…、我が娘ながら、本当に躾がなってない…』

 むきになっている亜美を軽くあしらうつもりなのか、電話の川嶋安奈は、聞こえよがしに、大きく嘆息した。

「躾がなってないのは、親であるママの責任よ。それが何だっていうのよ!」

 電話からは、更なるため息と、『あ〜あ、本当に、どうしてこんなバカ娘になっちゃったんだか…』という、嫌味以外の
何ものでもない川嶋安奈の愚痴めいた呟きが流れてきた。

34大潮の夜に 2/81:2009/12/02(水) 00:34:10 ID:SDh3BMay
「悪かったわねぇ、バカ娘で! ママが無学でバカなんだから、その娘がバカなのは当然でしょ?! 
何、世迷い言ほざいてんのよぉ!!」

『おやまぁ…、来年は二十歳になるというのに、本当に聞き分けのない…。確かにママは高卒で無学だわ。でも、先日
のあなたのように、お見合いの相手をさんざんにバカにして破談にするような無作法なことはしないわよ。あれが、どれ
だけ先様へ失礼な行為であったかなんて、バカで想像力の乏しいあなたには理解出来ていないようね…』

「ちょ、ちょっとぉ、何言ってんのよぉ!! 冗談じゃないわよ。あのお見合いもどきの茶番は、ママが勝手に、パパの
了解も得ずにやったことじゃないのぉ!! それも、私の気持なんか完全に無視して!!」

 亜美は、心底憤慨したのだろう。耳をつんざくような甲高い声で、まくしてている。傍らに寄り添っている竜児は鼓膜
がどうにかなりそうなほどだ。

『それでも、あなたのやったことは、社会通念上のマナーに反するのよ。ある程度、格式ばった席で、それなりの地位
が保証されている人に恥をかかせてはいけないわ。これは、相手方に失礼というのもあるけれど、結局は回りまわって、
自分に災いが降りかかってくるの。逆に、うまく利用出来れば、こっちの利益につながる。あなたも、もう子供じゃない
んだから、分別のある行動をとりなさい』

「分別って…、それに利益って何なのよぉ! 結局は、ママだけの利益じゃないのぉ!! パパも言ってたけど、
あんたって本当に母親失格!! もう、嫌い! 嫌い! 大っ嫌いぃぃぃ!!」

 興奮ゆえか悲嘆ゆえなのか、亜美の頬を涙が滴った。
 亜美は、川嶋安奈には完全に愛想を尽かし、もはやどうでもいい存在と切り捨てたはずであったが、偽の鍵を掴まさ
れるという悪辣な仕打ちによって、安奈への憎悪が再燃したらしい。

『本当にかっかして、怒鳴り散らして、大人げないわねぇ…。それだからバカ娘なんだわ。それにいいこと?
あれはママ独自の判断だったけど、今でも、その時のママの判断に狂いはないのよ』

「本気で言ってるの?! 冗談じゃないわよ!!」

 見合いの相手は、財閥の御曹司だったが、あてがわれている自分の身分に胡坐をかき、飲酒運転等の法を犯して
も、もみ消せると息巻いていた屑だった。何よりも、亜美を『煮て食おうが、焼いて食おうが、それは川嶋安奈も了解し
ている』とほざいた、とんでもない下衆である。

『そうよ、少なくとも、あなたの相手にふさわしい人だったんじゃないかしら。一流大学を出ていて、家柄もいい。あなた
という女は、そうした家にも嫁げる付加価値をもっているのよ。それをちゃんと理解して、その付加価値にふさわしい
行動をとりなさい』

 携帯電話機からは、『川嶋さぁ~ん、そろそろカメラいきまぁ~す』という若い男性の声が微かに聞こえてきた。テレビ
局か映画のスタジオかは分からないが、そろそろ通話を打ち切られそうな雰囲気であることは確かなようだ。

「ふさわしい相手ですってぇ?! あの屑はとんでもない愚か者だったわよ!! 法学部出身だって自慢してたけど、
法律のことなんかからっきし。それに、罪を犯しても、金と権力があればもみ消せるとか平気で言っているとんでもない
奴だったわ。そんな奴のどこがいいっていうのよぉ!! そんな奴よりも、はるかにまっとうな人は、いくらでも居るわ
よぉ!!」

 腹の底から絞り出すような、怒りと怨嗟が込められた叫びだった。
 だが、携帯電話機からは、そんな必死の亜美を見下すかのように、鼻にかかったような微かな笑みが返ってきた。

『あなたの言う、まっとうな人とやらは、高須竜児くんとかいったかしらねぇ…。今もあなたの傍らに居るはずの…。高校
35大潮の夜に 3/81:2009/12/02(水) 00:35:12 ID:SDh3BMay
時代のあだ名は“エロ犬”、顔つきだけはアウトロー顔負けだけど、中身は臆病な小心者。あなたと同じ大学の学生で、
そこそこ優秀な成績だけど、男のくせに家事全般が得意で大好きという変態…。そして、家柄にも金にも縁がない。
こんな男のどこがいいの? いい加減、目を覚ましなさい。一緒にいる高須くんとやらとの、別荘での同棲なんか、
ママ許しませんからね!!』

 最後の一言だけは、ヤクザの姐御そのまんまの迫力だった。

「ふざけんな! ママがどうあろうと関係ないわよ!! あたしは竜児と何があっても結婚する! 何があっても、
あたしは竜児について行く! これは、あたしと竜児の問題なのよ! あんたなんかの指図は受けないわよぉ!!」

『ションベン臭い小娘が、何を生意気な! 別荘の鍵もないのにどうするつもりなの?! くっだらない意地張ってない
で、さっさと東京に戻って来ることね。そして、今までのことをママに謝罪するのなら、まぁ、許してあげなくもないわね』

 尊大で傲慢な態度、これが噂に聞く川嶋安奈の素の姿なのだろう。亜美も性悪だが、性悪さの桁が段違いだ。
やはり芸能界で一目おかれる存在になるには、相当に根性がねじ曲がっていないといけないらしい。
 事実…、再び、『あのぉ~、川嶋さん、そろそろ…』というADらしい若い男の声がしたが、『うるさい! 空気読
め!!』という安奈の罵声で、その声の主は『す、すいません…』と消え入るように詫びていた。
 だが、その性悪安奈に、亜美は気丈にも噛みついた。

「鍵ならあるわ! 庭に埋まってるじゃない! その非常用の鍵を使わせて貰うからね!」

『そんな勝手、ママは許しませんからね。ママの許しなく庭から鍵を掘り出したら、それは別荘への不法侵入とみなし、
警察に通報する。それでもいいのね?』

「はぁ?! 何言ってんのぉ? 元を正せば、あんたが詐欺同然に偽物の鍵をあたしに掴ましたんじゃない。あんたが
約束を守っていれば、こんなことにはならなかった。だから、本来、あたしはこの別荘の鍵を持つ正当な権利を有する
者なんだわ。そのあたしが鍵を掘り出したって何も問題はないのよ!!」

『そこまで言うなら勝手になさい。あなたの高校時代のあだ名は“バカチワワ”だったらしいわね。だったら、エロ犬くん
と仲良く、ここ掘れワンワンで頑張りなさい』

「言われなくったって、そうするわよぉ!!」

 電話での川嶋安奈は、亜美を小馬鹿にするように笑っている。

『おやおや、それはそれは…。でも、シャベルも何もないのに、どうやって鍵を掘り出すのかしら? シャベルとか重機
は納屋にあるけど、納屋の鍵は渡してなかったわよねぇ?』

 痛いところを突かれたのか、一瞬だが、亜美がむせるように息を詰まらせた。

「何とかなるわよぉ! 板切れでも、棒でも拾ってきて、鍵を掘り出してみせるんだからぁ!!」

『あら、そうなのぉ? でも、あなただって鍵が埋まっているところは知ってるでしょ? 一抱えもある石の下に埋まって
いるのよ。板切れや棒切れで掘り返すのはさぞかし大変でしょうね。あなたは女だし、高須くんはひ弱な優等生じゃな
い。そんなあなたたちに出来るわけがないでしょ?』

「あたしや竜児の行動力を甘く見ない方がいいわよ。特に、竜児のことを“エロ犬”とか“ひ弱”とか“変態”とか罵ったこ
とは絶対に許さな…、あ、ちょ、ちょっと待てぇ!!」

 亜美の反論が終わらないうちに、通話は川嶋安奈から一方的に打ち切られた。
36大潮の夜に 4/81:2009/12/02(水) 00:36:20 ID:SDh3BMay

「畜生、切りやがったぁ!!」

 亜美は、声を震わせて絶叫し、怒りのあまり手にした携帯電話機をウッドデッキの床に叩きつけようかと左手を振り上
げた。
 その亜美の左手首を、竜児は咄嗟に掴んでいた。

「よせ! お前の怒りはもっともだが、一時の感情で、物に八つ当たりするな」

「で、でも、悔しいじゃない! せっかく、ここまで来たっていうのに、鍵が偽物だったなんてあんまりだわ!!」

 亜美の頬を涙が幾筋か滴っていた。竜児は、怒り、悲嘆している亜美を、背後からそっと抱いてやった。

「気持は分かるが、とにかく落ち着くんだ。短気は損気って昔から言うじゃねぇか。何よりも未だ俺たちは別荘に入れな
いと決まったわけじゃない。さっき、お前がお袋さんに啖呵を切ったように、鍵が地面に埋まっているんなら、そいつを
掘り返すまでのことさ」

「う、うん…、でもぉ…」

 それでも亜美は、手にした携帯電話機を投げつけたい衝動がくすぶっているのだろう。竜児に押さえつけられた左
手を、小刻みに震わせている。それに、鍵は、一抱えもある石の下に埋まっているのだから、道具無しに掘り返すのは
至難の技であることが、亜美の表情から読み取れた。
 その怒りと不安で震えている亜美の肩を、竜児は心持ち力を込めて抱き締めた。

「確かに、こうも裏切られるとは、本当にひどい話だ…。だが、鍵を掘り出しちまえばこっちのもんさ。後は、堂々とこの
別荘で合宿が出来る。であれば、携帯電話は、この辺鄙な土地での大切な通信手段になる。大事にしようぜ」

 そう言いながら、亜美の左手から携帯電話機をさりげなく奪うと、フリップを折りたたんで、亜美がここまで引きずって
きた大きなキャリーバッグの中に押し込んだ。

「あ、か、勝手に、そんなことしないでよぉ!」

「気に障ったとは思うが、携帯電話は大事な通信手段であるとともに、壊したらMOTTAINAI。どうだ? こう言えば、
お前も納得出来るだろう」

 その竜児の言葉で、亜美は怒りと悲嘆で曇らせていた表情を、ほんの少しだけ和らげたようだった。一緒に勉強しな
がら、または台所で、笑いながらも、二人で呪文のように唱えることがあるその言葉。

「MOTTAINAI…。そう、そうだったわよね…」

「そう、MOTTAINAI。徒手空拳で戦っていかなくちゃならねぇ俺たちは、理由なく物を壊すなんてのは出来ないのさ」

「う、うん…、MOTTAINAI、MOTTAINAI。そう、これはあたしたちのポリシーの一つ。それを、忘れるところだったわね」

「そうだな…」

 頬に涙を滴らせたままであったが、亜美は微かな笑みを浮かべている。
 どうにか落ち着きを取り戻した亜美を、竜児はその場に座らせ、自身もその亜美の左隣に腰掛けた。
 瀟洒な別荘の軒下は強烈な直射日光を遮ってくれたが、風がそよとも吹かないのだから、あまり快適とはいえなかっ
た。竜児と亜美は、耳を聾する蝉しぐれ中で、額や腕部等、むき出しの部分に汗を噴き出させながら、しばし無言でそ
37大潮の夜に 5/81:2009/12/02(水) 00:37:30 ID:SDh3BMay
の場に佇んでいた。

「しかし…、夜までに何とかしねえと…。軒先での野宿はごめんだな」

 呟くような竜児の問い掛けに、亜美は、無言で頷いた。夕方近くになれば、蚊や蚋その他の毒虫がわんさと襲ってく
ることだろう。それまでに、別荘の中に入り込まねばならない。
 ふと、竜児は立ち上がった。

「ど、どうしたのよ? いきなり…」

 不安げに眉をひそめた亜美も、つられて立ち上がった。

「いや、お前はここで、もう少し休んでいてくれ。おれはちょっと、鍵を掘り出すための得物を探してくる」

「え、得物って?」

「本当なら、シャベルとかがあればいいんだろうが、それが望めない以上、さっき電話でお前が言ったように、棒切れ
でも板切れでも、とにかく土を掘り返すのに使えそうなものを探してくるよ。うまくいけば、何打ち際には、使い物になり
そうな流木とかがあるかも知れねえ」

「あ、あたしも行くから…」

 竜児は、亜美とお揃いの指輪を左手の薬指から抜き取ると、浮き足立っている亜美に手渡した。大事な指輪を汚損
でもしたらMOTTAINAIからだ。それと、元は祖父の物だった機械式の腕時計を外し、これも亜美に手渡した。

「お世辞にも綺麗とは言えない流木をかき集めて来るんだ。そうした汚れ仕事は俺に任せとけ。お前は、俺の指輪と時計を持ってここで待っていてくれ」

「でも、それじゃ…」

「今の時間は紫外線が強烈だ。リゾート気分で、ノースリーブの服を着ている無防備なお前を、その紫外線に晒すわ
けにはいかねぇ。ここは、じっと我慢していてくれ。何よりも…」

「何よりも…って、何よ、変に勿体をつけて」

 竜児は、口元を軽く歪めるようにして、ニヤリとした。

「お前が、まずしなければならないのは、涙を拭き取ることだ。そのまんまじゃ、美人が台無しだからな…」

 その一言で、亜美の頬が微かな薔薇色に染まった。

「ばかぁ! 朴念仁が生意気なこと言ってんじゃない!!」

 そう叫ぶように言うと、亜美はぷいっとそっぽを向いた。その素振りを見て、竜児は安心したように苦笑した。
 怒りではない、照れなのだ。性悪で、一筋縄ではいかない女だが、妙なところで恥じらう。きっと、恥じらいとか照れ
とかの基準が、世間一般の尺度とは、若干だがズレているのだろう。だが、そうしたズレも、川嶋亜美という女の魅力の
一つではある。とにかく、竜児にとって、一緒にいて飽きない女であることは確かだ。

「しかし…、強烈な日差しだな…」

38大潮の夜に 6/81:2009/12/02(水) 00:38:35 ID:SDh3BMay
 軒先から一歩踏み出した竜児は、強烈な直射日光に眩暈を覚えそうになった。
 紫外線や赤外線を、ほぼ完全にカットしてくれるミラーグラスがなかったら、眼球が、本当に目玉焼きになってしまい
そうだ。
 その直射日光で炙られた砂浜は熱く、スニーカーを通して熱気が伝わってくる。
 生卵を埋めておいたら、黄身は半熟で白身が微かに固まった、温泉卵のようなものが出来るかも知れない。

「この浜に来るのは、二年ぶりか…」

 高校二年の夏以来のことだった。その時のことを思い出しながら歩むうちに、寄せる波で洗われている波打ち際に
たどり着いた。焼けた砂浜とは打って変わって、湿った砂がひんやりと心地よい。
 その波打ち際を、得物を求めて竜児は端から端まで歩いてみた。

「しかし、めぼしいもんが見当たらねぇ…」

 流木はあるにはあるのだが、長らく海水に漬かっていたためか、腐朽が進み、重いだけで妙に脆い。
 それらのいくつかを手に取って、波打ち際の湿った砂を掘ってみたが、ちょっと力を入れただけで、割れたり折れて
しまうようなものがほとんどだった。

「まいったな…」

 それでも、比較的強度がありそうな流木を三本と、木造船の甲板か何からしい板切れを何枚かを拾うことが出来た。
 板切れは、難破船のものかな? とも思ったが、遺棄された漁船か何かのものだと、努めて思い込むことにした。
 癪な話だが、川嶋安奈の指摘どおり、竜児は、オカルトめいた話が苦手な小心者だ。
 それらの出自不明な板切れや流木を携えて、竜児は亜美が待つ別荘の軒下に戻った。

「どうだった?」

 亜美の問い掛けに、竜児は、手にした得物をウッドデッキ下の地面に、どさりと置いて、かぶりを振った。

「まともな得物はこれくらいだった。思ったよりも流木自体が少なかったし、そのほとんどが海水を吸って脆くなっている。
でも、なんとか使えそうな奴を見繕って来たよ」

「そう…」

「とにかく、出来るだけやってみるよ。もし、日没までに掘り起こせなかったら、駅前まで戻って宿を探そう。そこで、一
泊して翌日、鍵を掘り返す作業を再開すればいいだろう。何なら、宿の人に事情を説明して、シャベルとかを借りられ
るかも知れねぇ」

「そうねぇ…」

 出来得ることなら、今日中に別荘に入りたいが、それが困難であるのなら、民宿とかに緊急避難するのも止む無しだ。
とにかく、竜児も亜美も、ここを撤退するつもりは全くない。

「で、肝心の鍵が埋まっている場所はどこなんだ?」

 亜美は、無言で別荘の庭先を指差した。

「あの石の下なんだな?」

 電話で川嶋安奈が言ったように、一抱えもあるような石が、半ば地面に埋まっていた。
39大潮の夜に 7/81:2009/12/02(水) 00:39:32 ID:SDh3BMay
 ちゃんとしたシャベルがあっても、掘り起こすのは簡単ではないだろう。

「どう? こんな板切れとかで掘れそう?」

 亜美が不安気に問い掛けてきた。
 正直なところ、かなり難しい。だが、それを馬鹿正直に告げれば、亜美を更に不安にさせるだけである。

「大丈夫だ、任せとけ。ところで、鍵は石の真下に埋まっているのか?」

「う、うん。もう、だいぶ昔のことだから、はっきりしないけど、未だ若かったパパが、今も納屋にあるはずの重機を使って
穴掘って、石を載せていたわ」

 てっきり、誰か人を雇って埋めたものだと思っていたが、鍵を埋めたのが亜美の父親であると聞いて、竜児はちょっと
意外な感じがした。

「親父さんが埋めたのか? セレブなのにやるなぁ…」

「うん…。パパって、いい意味で子供っぽいところがあるからねぇ。あそこに鍵を埋めたのも、海賊の宝探しのノリでやっ
たみたい。それに、別荘の鍵を埋めた場所を、家族以外の者に知られたくなかったんじゃないかしら」

「なるほど…。コンフィデンシャルってことなら、親父さん自らがやらざるを得ないだろうな…」

 それに、『いい意味で子供っぽい』というキャラクターから、そう悪い人ではないのかも知れないと、竜児は、亜美の父
親のことをイメージした。だが、そんな亜美の父親にとっても、竜児は、大事な娘を奪った憎むべき敵に他ならない。
それを思うと、鬱になってくる。

「でも、さっきは、お袋さんに散々に言われ、今度は親父さんか…。まぁ、俺は、二人の愛娘を傷物にした“悪い虫”以
外の何者でもねぇからなぁ…」

 その内罰的な発言に、亜美は一瞬、表情を曇らせて、軽く嘆息した。

「ほら、あんたの悪い癖がまた出た…。ほんと…、バカは死ななきゃ治んないのと同じで、あんたが内罰的なのは、死
ぬまで変りゃしないんでしょうね…。それに、あんたが自虐的になっても、あたしは、あんたにお優しくなんてしてやら
ねぇよぉ~」

 言うなり、亜美は、竜児に「あっかんべ~」をした。

「こうしたところは、相変わらず冷てぇな…」

「クールと言って欲しいわね。あたしたちは、相互に支え合う同志ではあるけど、お互いに気弱からくる甘えは許さない。
それがあたしたちに共通のルールだったはずでしょ?」

「まぁ、そうだな…」

 不承不承、頷いた竜児に、亜美が性悪そうな笑みを向けている。実害がない程度に竜児をへこますことも、亜美に
とってはお楽しみの一つであるらしい。

「なんか、話が脱線しちゃったわね…。で、鍵を埋めた時のことだけど、パパは、深めに穴を掘って鍵を入れた金属の
箱を納めて、その箱の上に軽く土を掛けてから、重石のようにあの石を載せていたわ」

40大潮の夜に 8/81:2009/12/02(水) 00:41:18 ID:SDh3BMay
 今度は竜児の方が軽く嘆息した。鍵を取り出すには、石を取り除かなければならない。石の周囲を、ちまちま'掘って
も、鍵を取り出すことは出来ないだろう。

「そうなると…、手順としては、石の周囲をくまなく掘り下げて、地面にめり込んでいる石をほじくり出す。それと、一方向
に石が入るだけの幅の溝を掘ることになるだろう。そうすれば、石をその溝に横倒しにして取り除くことが出来そうだ」

 竜児は、改めて鍵が埋められている場所を観察した。その場所は完全に平坦ではなく、浜辺に向かって心持ち下り
勾配で傾斜している。だから、倒した石を納める溝は、浜辺に向けて掘ればいいだろう。

「じゃぁ、ひとまず亜美は、日陰で休んでいてくれ。俺一人で出来だけのことはやってみるよ」

 亜美は、手伝えないことが不満なのか、心持ち眉をひそめていたが、「分かったわよ…」とだけ、答えてきた。
 その亜美に軽く頷くと、竜児は板切れと流木を手に、庭先の石へ向かった。

「こりゃ、埋められてから、だいぶ経ってるな」

 石は地面にめり込むように置かれていて、石の周囲の土は、うっすらとした苔を伴い、その苔は石と地面との境界線
を曖昧にしていた。

「こいつは手強そうだ…」

 そんな愚痴めいた呟きとともに、竜児は元は木造船の甲板らしい板切れを、石と地面の間へ、楔を打ち込むようにし
て、差し込んだ。
 ガツン、という思った以上の手応えが掌に感じられた。浜辺だから、基本的には砂地なのだろうが、埋められてから
時間が経っているから、砂といえども固く締まっているのだ。

「板切れがもつかな…」

 少しばかり地面に突き刺さった板切れを、シャベルと同じ要領で、梃子のように動かして、土砂を掬い上げようとした。
しかし…、

「畜生! 折れそうだ」

 海水に浸って脆くなっていた板切れに、折り曲げるような力を加えるのは禁物だった。

「こりゃ、作戦変更が必要だな…」

 竜児は、板切れで固いままの土砂を掬い上げるのは断念し、その代わりに、石の周囲の土砂を、先端が尖った流木
でまんべんなく突くことにした。石の周囲の土を十分に突き崩してから、板切れや素手で崩した土砂を掬うのだ。

「何だか、土木工事というよりも、農作業みたいだ…」

 ざくざく、と石の周囲に流木を突き刺しながら、竜児は苦笑した。流木で土を突く様は、鍬か何かで畑を耕しているよ
うな感じがしたからだ。
 地方都市とはいえ、街中で育った竜児に、畑仕事の経験はない。しかし、機会があれば、ハーブやスパイスを栽培
してみたいという欲求はある。
 最近は、『かのう屋』とかでも新鮮なハーブが手に入るようにはなったが、一束いくらで売られており、ごく少量しか必
要でないときには無駄が多い。

「自家栽培なら、好きな時に好きなだけ使えるから、そうした無駄がないはずだ…」
41大潮の夜に 9/81:2009/12/02(水) 00:42:25 ID:SDh3BMay

 また、スパイスは、そのほとんどが輸入品だから、安全性に問題がある。特に、唐辛子は、その多くが中国産だから、
どう仕様もない。国内産らしい物もあるにはあるが、産地偽装で、実際は中国産ということがあり得るから厄介だ。
 通常の唐辛子に代えて、竜児はハバネロ唐辛子を使うようになったが、これも、ハバネロ唐辛子は未だに中国では
栽培されていないから、間違っても中国産を掴まされる心配がないためである。

「亜美と所帯を持って、日当たりのいい場所に住むことが出来たら、ベランダでも庭先でもいい、プランターを並べて
バジルやタイムとかのハーブや、唐辛子を栽培したいもんだな」

 休みなく体を動かしながらも、竜児はそんなことを夢想した。だが、現実を思い知って苦笑した。

「あんまり先のことを考えると、鬼が笑い死ぬか…」

 亜美と結ばれるためには、竜児も亜美も弁理士試験に合格することが絶対条件である。
 数ある国家試験の中でも最難関級の弁理士試験に合格するには、生半可な努力では足りない。本当に全力を挙げ
ての頑張りが必要だ。その弁理士試験対策の合宿のために、竜児と亜美は、この別荘にやって来た。だから、別荘の
鍵は何としても掘り出さねばならなかった。

「ひとまずは、こんなところか…」

 未だ浅くではあったが、一通り、石の周囲を突き崩したことに軽い達成感を覚えながら、竜児は、額に浮き出た汗を
パイル地のハンカチで拭った。
 暑いことは暑いが、先日、十日間だけとはいえ、蒸し暑い室内にこもって頑張ったマンションの内装工事のバイトに
比べれば大したことはない。

「おーい、今は何時だ?」

「一時を回ったところよ。ちょっと、休んだ方がいいんじゃない?」

 軒下の亜美が手を振って応えてきた。
 昼食抜きで肉体労働をしたのだから、ここらで小休止してもバチは当たらないだろう。
 竜児は、汗を拭きながら、軒下の亜美のところへ戻っていった。

「あんた、顔や腕が真っ赤よ」

 着くなり、そう言われて、竜児も自分の腕を見た。確かに、日焼けで赤くなっている。小一時間の作業だというのに、
こんなにも焼けるとは、照りつける日差しは容赦がない。

「このままだと、まずいわね…」

 そう言いながら、亜美はキャリーバッグから二酸化チタンが配合された日焼け止めを取り出した。

「ちょっと、じっとしててね」

 そう言って、竜児の顔面と碗の汗をタオルで拭うと、その日焼け止めを塗り始めた。

「そんなもん、もういいよ」

「だめよ。実際、ちょっと手遅れだけど、このまま何もしなかったら、もっと大変なことになるわ。だからじっとしてなさい」

42大潮の夜に 10/81:2009/12/02(水) 00:44:16 ID:SDh3BMay
 亜美の仰せのとおりなのだろう。化粧とか肌のケアでは亜美は元プロだ。プロの言うことには素直に従った方が賢明
ではある。

「はい、これでオーケイ」

 日焼け止めを塗り終えた亜美は、ポットとビスケットををキャリーバッグから取り出し、竜児に差し出した。

「まさか、こんなことになるとは思わなかったから、食べ物はこのビスケットだけだし、飲み物はポットに入ったアイス
ティーだけ…。大事にしなくちゃいけないけど、まずはあんたが好きなだけ飲み食いしていいわ」

 そう言って、カップに入れたお茶と、ビスケットを差し出した。

「いや、そいつは済まねぇが、ちょっと手を海水で洗ってくるよ」

 竜児の両手は泥だらけだ。この手でビスケットをつまみ、綺麗なカップに触れるのは憚られた。

「わざわざ、そんなことをしなくてもいいでしょ…」

 言うなり、亜美は手にしたカップを、竜児の口元に持っていった。

「はい、あーん」

「お、おぅ…」

 予想外の展開に、竜児は少々狼狽したが、亜美の手ずからお茶を飲み、ビスケットを食べた方が、浜辺まで行って
手を洗うよりも手っ取り早い。気恥ずかしかったが、ありがたく亜美の手からお茶とビスケットを頂戴した。

「なんだかな…」

 喉を潤し、ビスケットを食べ終えた竜児は、代わってお茶を啜っている亜美に、苦笑した。

「何? その笑い…」

「いやさ、こうして甘えさせてもらったってのは、本当に久しぶりだなぁ、ってな…」

 働き詰めの泰子に気兼ねして、小学校の低学年の頃には、泰子に子供らしく甘えるということを自ら封印してきた。
その後は、むしろ泰子の世話を竜児がするようになって、現在に至っている。
 母親に限らず、誰かの世話になる、という経験は竜児にとって、ほとんど縁のないものであった。
 そんな竜児の心が亜美には分かるのだろう。瞑目して、うふふ…、という謎めいた、それでいて害のない笑みを浮か
べている。

「あんたは、今まで、誰かに甘えるどころか、誰かに相談すらせずに、たった独りで頑張ってきた。それはそれで天晴
れだけど、もう、無理はしなくていいのよ。本当に苦しかったら、あたしを呼べばいい。本当に辛かったら、あたしに甘
えればいい。責任も、苦労も、何もかも、あんた一人が背負い込むことはないのよ」

「お、おぅ…。だが、さっきは、“気弱からくる甘えは許さない”って言ってなかったか?」

 竜児としては、亜美の主張の矛盾を突いたつもりだった。だが、当の亜美は、相変わらず瞑目したまま、淡い笑みを
浮かべている。

43大潮の夜に 11/81:2009/12/02(水) 00:45:45 ID:SDh3BMay
「言ったわよ。でも、それは、理由もなく弱気になったり、自分を過剰に卑下したりすることを許さない、ってことなのよ」

「お、おぅ…、よく分からねぇが、そ、そうなのか?」

「あんたが、本当に苦しい時には、いたわってあげることが大事だから、甘えさせてあげるのよ。だけど、本当は出来る
のに、何もしないうちから尻込みしているような時は、甘やかさずに叱咤する。その違いね」

「何だか、飴と鞭って感じだな…」

 竜児のぼやきに、亜美は苦笑した。

「あんた、飴と鞭を誤用してない? 飴と鞭ってのは、譲歩と弾圧とを併用して行う支配または指導の方法でしょ。でも、
あたしたちは同志なんだから、一方が支配とか指導する関係なんかじゃない。相方が苦しければ、助けてやって、
相方が怖気づいているときは叱咤してでも励ましてやる。それをお互いがする。そういうものなんだわ。それに…」

「それに?」

 亜美は、ちょっとだけ躊躇うようにうつむいて、言葉を継いだ。

「ママとの確執は決定的だけど、パパともそうなったと決まったわけじゃない。さっき、あんたは、憂鬱そうに自分のこと
を“悪い虫”とかって卑下したけど、ママよりも分別がありそうなパパなら、竜児のことを、適切に評価してくれるんじゃ
ないかって気もするのよ」

 そう言って、亜美は、遠く、沖合いの方に目を向けた。
 竜児も、亜美に倣うようにして、視線を海へと向けてみた。絵に描いたような真夏の青い空と紺碧の海原がそこに
あった。海原は折からの陽光を受けて、水面がきらきらと輝いている。
 シビアではあったが、亜美の言うことはもっともだ、と竜児は納得した。際限なく甘え、甘やかすといった関係は、
結局は長続きしないのだろう。相互に尊重し合うがこそ、時にはシビアに接することも必要なのだ。
 それに、亜美の父親とは、いずれ相まみえることになる。自己を卑下して、それに怯えるよりも、避けがたい現実と
して堂々と受け止めなければならない。

「わぁ、風、風よ…」

 午後になり、照りつける強い日差しで陸地の方が海面よりも温度が高くなったのか、海からは心地よい浜風が吹くよう
になっていた。
 その心地よい浜風に身を委ね、単調な潮騒と蝉しぐれに聞き惚れていると、つい、うとうとと居眠りをしたくなる。

「おっと、いけねぇ…」

 穴掘りの途中で昼寝をするわけにはいかなかった。竜児は、眠気を覚ますために手の甲で目頭を擦ると、亜美が
バックパック背面の、本来はピッケル等を取り付ける為のループに掛けてくれた腕時計で時刻を確認した。
時刻は午後二時近くになろうとしている。

「ちょっと長く休み過ぎたみたいだ。俺は、穴掘りを再開するよ」

 そう告げて、ウッドデッキから立ち上がろうとした竜児に、亜美は頷いた。

「そうね、あたしは、竜児が頑張っている間に、ちょっと駅の方まで戻って、ペットボトル入りの飲み物とかを買ってくる」

 言うが早いか、日傘を差して歩き出そうとする亜美に対して竜児は右手を伸ばし、慌てて押し止めようとした。
44名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 00:46:01 ID:33TlDY1M
C
45名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 00:46:04 ID:D2i6LLeE
支援
46大潮の夜に 12/81:2009/12/02(水) 00:47:13 ID:SDh3BMay

「いいよ、そんなことしなくたって!」

「よくないわよ。炎天下で作業するには十分な水分が必要よ。でも、お茶は、さっきの休憩で飲み干しちゃったから、
買いに行くしかないの」

「だからって、この炎天下を無理するな。お前は、俺と違って肌は弱いんだろ?」

 もっともな理屈をつけてみたが、亜美もまた正論で返してきた。

「水なしで、この暑さの中、穴掘りをしている竜児の方こそ大変よ。下手すれば熱中症でしょうね。あたしは、そんな
あんたの苦しみは見たくない。だから、飲み物を買いに行く。お分かり?」

 普段でも口論では敵わない亜美に、諭すように言われてしまっては、どう仕様もない。

「わ、分かった。それなら、済まねぇが宜しく頼む。俺は俺で、穴掘りを頑張ることにするよ」

 参りました、とばかりに渋い表情の竜児に、亜美はサングラス越しにいつもの性悪笑顔を覗かせると、日傘を差して、
別荘の前にある小径を上っていった。

「こっちも作業開始といくか…」

 竜児は、休憩前にほぐしておいた、石の周りの土を板切れで掬って取り除き始めた。
 尖った流木で耕すようにして土砂をほぐしておいたのは正解だったようだ。海水を吸って脆くなった板切れでも
難なく土砂を掬い取れる。
 石の周囲からは、深さ約十五センチ分の土を取り除くことが出来た。しかし、石は、まだまだ深く埋まっている。

「前途は多難だな…」

 ぼやくよりも、行動である。竜児は、再び尖った流木を手にすると、石の周囲をそれで突いて回った。時折、埋もれて
いる小石にぶつかるが、お構いなしに突きまくった。

「意外とストレス解消にいいかも知れねぇな」

 相手が地面とはいえ、棒切れを突き刺すという行為は攻撃的だ。竜児のように温厚な者であっても、闘争本能はある
のだ。物事が思い通りにならない苛立ちや焦りのはけ口は、何かを作るという建設的な行為よりも、何かを壊すという
破壊的な行為の方かしっくりくる。

「携帯電話機を投げ捨てようとした、あいつのことを責められねぇな…」

 亜美の実母である川嶋安奈は、もはや竜児にとっても敵である。その敵から、偽の鍵を掴まされるという仕打ちを
受け、その結果、竜児はこんな穴掘りをしなければならない。
 川嶋安奈が憎いというよりも、こんな理不尽な展開が、許せなかった。

「だが、負けねぇ。俺も、あいつも、こんなことには負けられねぇんだ」

 竜児は、「畜生!」「畜生!」と、怨嗟の呟きを漏らしながら、地面を突きまくった。
 流木の切っ先が鈍くなったと感じたら、その先端を踏み付け、ねじ曲げてへし折る。そうして、新たに生じた鋭い切っ
先を、掘り進んでいる地面に突き刺していった。
 石の周囲を一通り耕すように突き刺したら、ほぐれた土砂を板切れで掬い上げる。それが終われば、再び、尖った
47大潮の夜に 13/81:2009/12/02(水) 00:48:38 ID:SDh3BMay
流木で石の周囲を突き刺していく。ひたすら、これの繰り返しである。

「都合、三十センチは掘り下げたか…」

 竜児は石を蹴ってみた。これで、ぐらついてくれればしめたものだったが、石はびくともしなかった。

「まだまだ、かよ…」

 竜児は嘆息してかぶりを振った。本当に先が思い遣られる。
 だが、竜児は、気を取り直して、石を横倒しに納めるための溝を掘り始めた。石の周囲ばかりを掘るのに飽いてきた
からだが、そろそろ溝も掘り進めないと、作業進捗のバランスが悪いからだ。石を完全に掘り起こしてから溝を掘るとな
ると、石を掘り起こした上に、溝まで掘るのか、というげんなりした気分になることは間違いない。

「こっちの方は、土が柔らかくて助かるぜ」

 溝掘りは予想外に捗り、ものの二十分ほどで、石の周囲と同じだけの深さの溝を掘ることが出来た。

「ねぇ〜、調子はどぉ?」

 声のする方に目を遣ると、右手に日傘、左手にコンビニのレジ袋を下げた亜美が軒下に立っていた。

「おう、ぼちぼち、ってところだな」

 少々手こずっていることを婉曲に表現したが、亜美にはお見通しだろう。

「そう、じゃ、きりの良いところで小休止した方がいいんじゃなぁい? こうして、水とか、お茶とか、お握りとかを買って
きたから、一緒に食べましょうよ」

 亜美は手にしたレジ袋を、ちょっと持ち上げてみせた。レジ袋は特大で、ミネラルウォーターか、お茶だかの大きな
ペットボトルが覗いている。

「済まねぇな。ほんじゃ、待ってろよ」

 亜美にそう告げるや否や、竜児は、「あっ!」という亜美の短い叫びを背に、脱兎のごとく浜辺へ駆け出し、波打ち際
で手を洗った。また亜美の手から食べさせてもらうのは、さすがに気恥ずかしかったからだ。

「あんたって、ほんと、可愛くない…」

 軒下では、ぶすっと、不満げに頬を膨らませた亜美が、ミネラルウォーターを入れたカップと握り飯を用意して竜児を
待っていた。

「まぁ、いいじゃねぇか。俺の世話をしていると、お前自身は飲み食い出来ねぇ。この方が合理的なんだよ」

 何か、反論があるかな? と思ったが、亜美は諦観したかのように軽くため息をついて、苦笑した。

「お握りや水の他にもいろいろ買ってきたのよ。例えば、今晩食べる分として、スパゲッティとパスタソースとか…」

 袋がやたら大きかったのは、そのせいだった。

「パスタにソースに粉チーズ。それに、ソーセージに野菜ジュースか…」
48大潮の夜に 14/81:2009/12/02(水) 00:49:40 ID:SDh3BMay

「別荘に入り込めたとしても、夕方になるでしょ? それから中を掃除することを考えると、夕食の買出しに行く時間は
ないと思って…。それで、今夜と、明日の朝の食料を買って来たのよ」

「重かったろう、これじゃ…」

「だから、ズルして、駅前まで行かずに、途中のコンビニで買って来ちゃった。大したものは買えなかったけど、
非常事態ということで、まぁ妥協してよ」

 そのコンビニまでだって結構な距離があるのだ。

「妥協も何も、お前の機転がなかったら、大変なことになるところだった…。ありがとうよ」

 竜児に礼を言われたことが嬉しかったのか、サングラスを外した亜美は、双眸を細めて微笑している。
 そのまま二人は、海を見ながら、黙々と握り飯を平らげ、ミネラルウォーターと麦茶で喉を潤した。

「もう、三時半だな…」

 握り飯を食べながら、バックパックのループに引っ掛けていた腕時計を見た竜児は、物憂げに呟いた。

「なんか、蚊が出てきたわ」

 目の前を煩わしく飛び回る蚊を叩こうと、亜美は両掌を構え、ぱちんと打ち合わせた。
 あと、二時間程度で切り上げないと、薮蚊やら何やらの集中攻撃を受けてしまいそうだ。竜児は、亜美も握り飯を
食べ終えたことを確かめて、バックパックから虫除けを取り出した。

「こいつを使わざる得なくなったな」

 そう言いながら、竜児は、腕や首筋等の無防備な部分にその虫除けをスプレーした。

「肌にとっては、あんまりよくないけど、蚊に食われるよりはマシよね…」

 亜美も竜児に倣って、虫除けを素肌に塗っている。

「さてと…、とにかく頑張るしかねぇな」

 竜児は、作業に戻るべく、軒下から石の傍まで来て、別荘の屋根越しに山側を見た。

「お、おい! やばいぞ、あれを見ろ!!」

 竜児のただならぬ素振りに、亜美もつられて山側の空を仰ぎ見た。

「何、あの入道雲は?!」

 二人の視線の先には、中天まで覆い尽くさんとする勢いで湧き上がる鼠色の積乱雲があった。

「午後から浜風が吹いたと思ったら、あの風は、こいつが成長する上昇気流によるものだったんだな」

 鼠色の雲は、むくむくと勢い良く湧き上がっている。激しい雷雨に襲われるのは時間の問題だった。

49大潮の夜に 15/81:2009/12/02(水) 00:50:57 ID:SDh3BMay
「どうするの?」

 不安気に眉をひそめる亜美に、竜児は肩をいからせて宣った。

「どうもこうもあるか。こうなりゃ、意地でも鍵を掘り起こさなきゃならねぇ。今すぐ、ここを引き払って、駅前まで行こうと
しても、確実に降られるだろう。下手すれば、落雷のおそれだってある。だから、何が何でも、鍵は掘り起こす」

「あ、あたしも手伝おうか?!」

 亜美の申し出はうれしかったが、それを拒否するつもりで、竜児は右手を左右に振った。

「得物が一人分しかねぇんだ。それに、力仕事は男の領分だ。済まねぇが、もうちょっと待っていてくれ」

 不安気に眉をひそめ、「で、でも…」と何か言いたげな亜美に掛けていたサングラスを手渡すと、竜児は回れ右を
するように亜美に背を向け、掘りかけの石の前に立った。
 先が尖った流木を手にした竜児は、あらためて空を仰ぎ見た。鼠色というよりも、最早、黒と表現すべき雷雲が中天
を覆い、更に成長しつつあった。日は翳り、もうサングラスは要らなかった。
それどころか、じきに、黄昏かと見紛うばかりの薄闇が訪れることだろう。

「くそ! まさに泣きっ面に蜂だな」

 ぼやいても、呪っても、事態は好転しない。ただ、ひたすら穴を掘り続けるまでである。
 更に十センチほど掘り進み、竜児は石を再び蹴ってみた。微かだが、石が動いたような気がした。もしかしたらいける
かもしれない。
 だが、黒い雲に覆われた空からは、無情にも大粒の雨が落ちてきた。

「あ、ああっ! 雨、雨が降ってきたわよぉ!!」

 軒下から亜美が叫んでいる。だが、ずぶ濡れになるのは覚悟の上だ。
 ぽつぽつ、と散発的に滴っていた雨は、やにわに勢いを増し、バケツをひっくり返したような豪雨となった。

「りゅ、竜児ぃ! やめて、もうやめてよぉ!! この雨じゃ、どう仕様もないわよ。もう、鍵を掘るのはやめにして、携帯
でタクシー呼んで、どっかの民宿にでも逃げ込んだ方がいいわよぉ!!」

 ゴロゴロという雷鳴が剣呑だった。もたもたしていたら、雷に打たれるかも知れない。
 だが、竜児は、掘り続けた。

「やばいのは分かってる。だがなぁ、雨が幸いしていることも確かなんだ。おかげで、土が柔らかくなって、掘り易くなっ
ている。鍵を掘り出すには今しかねぇ!!」

 掘った穴には早くも雨水が溜まっていた、そのおかげでドロドロになった土砂を板切れでせっせと掬い上げる。
 そして、もう一度、石を蹴ってみた。一抱えもある大きな石は、その一撃で、ぐらりと傾いだ。

「もう一発!」

 竜児はライダーキック宜しく、助走をつけて、件の石にドロップキックを見舞った。反動で、竜児は泥んこの地面に
転がったが、石もまた、竜児の一撃に耐えかねて、目に見えて傾いている。

「いけるぞ! こいつぁ、いける!!」

50大潮の夜に 16/81:2009/12/02(水) 00:52:56 ID:SDh3BMay
 ずぶ濡れで、泥まみれになりながらも、竜児は、軒下で不安そうに待っている亜美に笑いながら手を振った。
 豪雨の中、下手すれば雷に打たれるかも知れない状況だった。だが、あとちょっとで、鍵を掘り出せそうなことから、
竜児は不思議と高揚していた。

「これで仕舞いだぁ!!」

 先ほどよりも、更に勢いをつけて傾いた石へとドロップキックをお見舞いした。前回同様に、竜児はもんどり打って
ひっくり返ったが、その甲斐あってか、石もまた、竜児が掘った溝の中へと横倒しになった。

「やったか?!」

 石が埋まっていた箇所は、泥水で満たされ、深い水たまりになっていた。その泥水に肘まで浸して、鍵のありかを探
る。指先に触れるのは、泥やら小石やらだったが、不意にすべすべした箱らしいものを探り当てた。

「こいつだ…」

 その箱のようなものを、慎重に掴んで、泥の中から引きずり出す。
 泥水の中から顔を出したそれは、車軸を流すような豪雨に洗われ、錆一つない銀色の輝きを放った。

「おーい! 見つけたぞぉ!!」

 その箱を亜美にも見えるように顔の辺りに掲げ、竜児は軒下へ向かって走った。

「竜児ぃ!! 早く、早くぅ!!」

 刹那、真っ暗な空と大地に紫色の稲妻が光り、その二、三秒後、どーん、という爆発音にも似た雷鳴が轟いた。
 岬の原生林に雷が落ちたのだ。

「間一髪だったな…」

 あとちょっと軒下に避難するのが遅かったら、金属の箱を持った竜児は、雷に打たれていたかも知れない。

「ばかぁ! もう、はらはらさせないでよぉ!!」

 鍵の入った箱を掘り出せたということよりも、ずぶ濡れの泥まみれでも竜児が無事に戻ってきたことに安堵したのか、
亜美は、嗚咽を漏らしながら、へなへなとウッドデッキにへたり込んだ。

「心配かけて済まなかった…。だが、箱はこの通りだ」

 その箱を亜美に差し出した。箱はステンレス製の弁当箱らしく、本体と蓋がバックルで固定されていた。

「多分、この中に別荘の鍵があるはずよ」

 竜児は頷いて、元は弁当箱だったらしい箱のバックルを外した。
 蓋の内側にシリコンゴムらしいパッキンが嵌まっていたためか、箱の中には、泥はもちろん、水も入り込んでいなかっ
た。箱の内部には発泡スチロールの屑が詰めてあり、その中に一個の鍵が納められていた。

「この鍵なんだな?」

「うん、一昨年、あたしが借りた鍵とタイプはそっくり…」
51大潮の夜に 17/81:2009/12/02(水) 00:54:03 ID:SDh3BMay

「とにかく、こいつで早いところ玄関を解錠してくれ」

 鍵を手渡された亜美は、小走りで別荘の玄関に向かう。竜児も二人分の荷物を持って、亜美の後を追った。
 見た目は本物の鍵のようだが、実際に使えるかどうか、竜児も亜美も不安だった。玄関の錠が変わっている可能性も
あるし、土中に埋まっている間に鍵の一部が腐食しているとかで正常に機能しないことだって考えられる。
 実際に使ってみて解錠出来ればオーケイ、出来なければ不運を呪いつつ、タクシーでも呼んで、ここを引き払うしか
ない。

「やってみるね…」

 亜美は玄関の鍵穴に、竜児が掘り出した鍵を差し込み、慎重に回した。
 果たせるかな、鍵はカチリという微かな金属音を残して、半回転した。

「よかった…。開いたわ…」

 そのままドアノブを引いて、玄関を開け、二人は逃げるように中へ入り込んだ。昨年の夏以降、誰も使っていない
別荘の内部は、埃臭くて、ちょっとカビっぽい臭いもした。
 不意に青白い電光が瞬いて別荘の内部を眩く照らし出し、次の瞬間には、さっきよりも大きな雷鳴が轟いた。

「近いわね…」

 両耳を押えて、不安げに首をすくめた亜美が呟いた。

「今、俺たちは雷雲の直下に居るんだな…。でも、この別荘に避雷針はあるんだろ?」

「うん、確かあったはず…。屋根のてっぺんに尖った旗竿みたいなものがあったから…」

「なら、大丈夫だ。この中に居れば、もう安全だよ」

 再び電光が煌めき、別荘の内部を明るく照らし出した。見たところ、内部はきちんと片付いているようだったが、
一年間もほったらかしだったことを考えると、徹底的な掃除が必要だろう。

「さて、まずは掃除だな…」

「そうね、でも、別荘よりも、あんたを掃除する方が先決なんじゃないかしら?」

 亜美が顔をしかめて、竜児の頭のてっぺんから爪先までを眺めていた。

「お、おぅ、た、確かにドロドロで、ずぶ濡れだな…」

「でしょう? そのままの状態で中に入ったら、別荘の中を汚して回るだけだわ」

 そう言いながら、亜美はキャリーバッグからスポーツタオルを取り出して竜児に手渡した。

「これで身体を拭きなよ。それと、その状態じゃ、ここを掃除する前に、お風呂に入ってすっきりした方がいいでしょ?」

「お、おぅ…」

「だったら、あんたはここで身体に付いた泥を拭いていてちょうだい。あたしは、その間に別荘の電源を確認して、
52大潮の夜に 18/81:2009/12/02(水) 00:55:05 ID:SDh3BMay
それから二階のお風呂が使えるかどうか見てくるから」

 そのまま亜美は小走りでブレーカーが設置してある台所の裏手に回った。

「よかったぁ。電源は生きてるみたい」

 ほっとしたような亜美の声とともに、薄暗かった別荘の室内に照明が灯った。落雷で停電するかも知れなかったが、
その時はその時である。

「この分なら、多分、お風呂も大丈夫。とにかく、濡れた身体を拭いて、ちょっと待ってなよ」

 玄関に置き去りにされたような竜児は、のろのろと泥まみれの頭髪と顔と手を拭った。それでも、Tシャツとジーンズ
は泥水まみれだから、ぽたぽたと汚い雫が滴ってくる。

「脱いだ方がいいんだろうな…」

 まずはTシャツを脱ぎ、むき出しの上半身を亜美のタオルで拭う。だが、ジーンズを脱ぐことは躊躇われた。

「こいつを脱いで、パンツ一丁で玄関から入るなんてのは勘弁してもらいたいからな」

 下半身は、泥まみれのジーンズの上からスポーツタオルで拭って、お茶を濁すことにした。

「オッケイ! お風呂は大丈夫だよ。カビ臭いけど、何とか我慢出来そうなレベルだと思う」

 浴室の様子を確認してきた亜美が玄関に戻ってきた。
 その亜美は、竜児が未だに泥まみれのジーンズ姿なのを見咎め、ムッとした。

「ほらぁ、下も脱いで! ソックスも脱ぐ! いつまでも濡れた服着てちゃダメでしょ」

「え、げ、玄関で、下も脱ぐのか?!」

 竜児は、ぎょっとして、思わずジーンズのベルトのあたりを押さえた。まさかとは思ったが、亜美は竜児をパンツ一丁
にするつもりらしい。

「当然でしょ。第一、そんな泥んこまみれで上がったら、床とか階段までドロドロになっちゃう。それは人一倍潔癖な、
あんただって本意ではないはずよね?」

「お、おぅ…」

 もっともなことを指摘され、不承不承ながら竜児は泥まみれのジーンズとソックスを脱いで、下着姿になった。
そのブリーフもぐっしょり濡れていて、裾の方から泥水がぽたぽたと滴っている。

「何やってんのぉ、パンツも脱ぎなさいよ。泥水が垂れているのに、穿いてちゃダメでしょ!」

 うへぇ、とばかりに、竜児は反射的に股間をすぼめてへっぴり腰になってしまった。いやだ、いくら亜美の前とはいえ、
それだけは勘弁してもらいたかった。

「もう、何やってんだか…」

 尻込みしている竜児に業を煮やしたのか、亜美は竜児の背後に歩みより、竜児の下着のゴム部分の左右を両手で
53名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 00:57:21 ID:33TlDY1M
54大潮の夜に 19/81:2009/12/02(水) 00:58:14 ID:SDh3BMay
掴み、引きずり下ろそうとした。

「あ、ちょ、ちょっと待ったぁ!!」

 亜美による強制執行を免れようと、竜児は、下着ごと股間の前を抑えて抵抗する。

「ダメ、待ったなし! いい加減に観念なさい」

 股間を押さえていた腕を亜美に思いっきりつねられた。ぞの痛みで気を逸らされた隙に、亜美の両手は、竜児の
下着を、その足首まで引きずり下ろしていた。

「うわぁ、か、勘弁してくれぇ!!」

 更に、むき出しの臀部と陰部がタオルで拭われた。竜児のペニスも陰嚢も、情け容赦のない亜美の手で、ぐりぐりと
翻弄され、しごかれている。

「今さら何を恥ずかしがっているんだか…。それに、ちょっとタオルで拭いただけで、こんなに固くなっちゃうなんて、
いやらしい…。こんなおちんちんには、お仕置きが必要ね」

 どさくさ紛れというか、いつの間にか亜美のしなやかな指が、竜児の極太ペニスを、その根元から先端まで、
絞り上げるように往復している。

「あ、亜美、や、やめてくれぇ! こ、このままじゃ、げ、玄関で出しちまう…」

 亜美は、それには答えず、「うふふ…」という意地悪いが妖艶な笑みを浮かべ、左手の指先でしごいていた竜児の
亀頭を右の人差し指で強く弾いた。

「うわっ! い、いてぇじゃねぇか」

「この程度の刺激で射精しそうだなんて、どんだけ溜まってんだか。まぁ、ここで出しちゃったりしたら、
後々まで語り継ぐネタになるんだけど、それも、ちょっと、かわいそうよね…」

 そう言いながらも竜児のペニスには左手を添え、その左手で敏感な部分を、ぐにぐにと弄んでいる。

「あ、亜美、そ、それヤバ過ぎる…」

 痛む寸前の絶妙な指遣いが剣呑だった。ちょっと前までは処女だったというのに、この愛撫の巧みさは何なんだ、
と快楽で陶然としながら竜児は訝しんだ。おそらく、ネットとかでエロ動画を見て、亜美なりに研究したのだろう。
勉強よりも、こうしたことには異様に熱心なのが、竜児の相方である。

「はい、亜美ちゃんのマッサージは、ひとまずお終い…」

 亜美は、亀頭の先端に滲み出てきたカウパー氏腺液を指先で拭い取り、それをしゃぶりながら、ニヤリとした。

「う〜ん、苦くてしょっぱいわ…。でも、あんたが健康な男子であることが、これで証明されたわね」

 哀れな竜児は、固く勃起したペニスを押さえ、へっぴり腰で恨めしそうに亜美を睨んでいる。

「このまま、俺をどうしようってんだ?」

55大潮の夜に 20/81:2009/12/02(水) 00:59:35 ID:SDh3BMay
 亜美は意地悪く、それでいて妖艶な笑みを相変わらず浮かべている。

「このまま玄関で一発って展開も萌えるかしら、って思ったけど、さすがにそれは、えぐいかしらね」

「当然だろ! お前は、節操がなさ過ぎるんだよ」

 詰られても、亜美は妖艶な笑みを崩さない。色恋沙汰には本当に貪欲な女なのだ。ただし、対象は竜児限定では
あるのだが。

「続きは今夜のお楽しみってことで…。この調子だと、一晩中、何回でも楽しめそうじゃん。その時に、思いっきりいく
から、宜しくね」

「お、おう…」

 最悪の事態は避けられたが、ちょっと勿体なかったかな? という思いが竜児の脳裏をかすめた。
 同時に、そんな自分が、情けなかった。

「そういうことで、さっさとお風呂に入って来なさいよ。お風呂場は、徹底的な掃除が必要だけど、とにかく、泥だらけの
あんたが、さっぱりすることの方が先決だわ」

 そう言いながら、真新しいタオルをキャリーバッグから取り出して、竜児に手渡した。せめてもの武士の情けというか、
これで前を隠せ、というのだろう。

「タオルだけじゃなくて着替えも要るんだが…」

 相変わらずへっぴり腰のまま陰部にタオルを当てた竜児が、ぼやくように訴えた。

「着替えなら、あんたがお風呂に入っている間に、あんたの荷物から適当に見繕って脱衣所に持っていくから、
大丈夫」

「お、おぅ…」

 川嶋家の別荘という、亜美にとってはホームゲーム、竜児にとってはアウェイということもあって、主導権は完全に
亜美にあった。いや、下手したら、女房の尻に敷かれる情けない亭主という役回りが、既に竜児には充てがわれて
いるのかも知れない。


「しかし、参ったぜ…」

 素っ裸で連れて来られた浴室で、頭から爪先までを温水でざっと洗いながら竜児はため息をついた。
 ちょっとシャワーで濯いだだけで、竜児の身体、特に頭髪からは、泥水が流れ出し、それが浴室の床に溜まっている。
 鍵を埋めた場所を塞いでいた石にドロップキックを見舞った際に、泥濘んだ地面に転げたのだから仕方がないが、
こうまでしつこく泥がこびりついているとは思わなかった。

「こりゃ、いきなりシャンプー付けても綺麗にはならねぇな…」

 もう一度、温水だけで頭髪から爪先までを洗ってみた。これで、どうにか泥汚れはあらかた落とせたのか、先ほどより
は濁りのない雫が竜児の身体からは滴った。
 だが、竜児の身体から流れ出た泥は、浴室のタイルの目地にしつこく残っている。竜児はタイルの目地にシャワーを
かけてみたが、詰まった泥は流れなかった。
56大潮の夜に 21/81:2009/12/02(水) 01:00:35 ID:SDh3BMay

「う〜ん、困ったもんだな…」

 風呂掃除をする前なのだから、このままでも問題はない。それに、竜児ほど神経質ではない亜美であれば、多少、
浴室の床を竜児が汚したところで、文句は言わないだろう。だが、本来、清潔であるべき浴室が、カビ臭く、それに泥
で汚れているのは、竜児の美意識が許さなかった。

「風呂に入れ、とは言われたが、浴室を洗うな、とは言われてねぇ…」

 確かにそうではあったが、詭弁っぽい。亜美の命令にも等しかった口調には、『風呂だけに入ってこい』という
ニュアンスが込められていたに違いないからだ。

「しかし、このままにはしておけねぇ…」

 竜児は、浴室備え付けの掃除専用と思しきスポンジを手にすると、それに洗剤を染み込ませた。

「文句を言われたって構うもんか。俺は、俺で、よかれと思ったことをやるだけだ」

 そのスポンジで浴室の壁をくまなく拭って、生えかかっていた黒カビをこそげ落とした。
 竜児は、壁を一通り拭うと、手にしたスポンジを軽く濯ぎ、新たに洗剤を染み込ませ、中腰になって床を拭い始めた。
 雑巾がけの要領で、ごしごしと床を擦ってカビやら泥やらをこそげ落とす。その動きにつれて、竜児のペニスや陰嚢
も、ぶらぶらとユーモラスに揺れていた。

「しかし、こんなところをあいつには見せられねぇな…」

 全裸だから仕方がないとはいえ、亜美の加虐寸前の愛撫による先ほどの興奮が覚めやらない竜児のペニスは、
半ば勃起したまま揺れ、亀頭が時折、太股に当たっている。
 こんな様を亜美に見られたら、少なくとも合宿の間は、これをネタに、からかわれ続けることだろう。
 そう思った次の瞬間、シャワーカーテンから、その亜美が顔を出していた。

「あ、あんたって…」

 実に気まずい状況だった。折悪しく、シャワーカーテンに向かって、つまり亜美と向き合った状態で、竜児は中腰に
なって床を掃除している。
 突然の亜美の出現に、竜児は、ペニスを半ば勃起させたまま凍りつき、亜美は亜美で、目を点にして竜児の顔を
一瞥し、それから視線を竜児の股間へと這わせていった。
 無情にも、竜児のペニスは、凝固している竜児にはお構いなしに、それまでの動きの余韻を示すが如く、暫しぶらぶ
らと振り子のように振動し、おもむろに停止した。

「ぷっ!」

 目を点にして、竜児を凝視していた亜美が、爆発するように吹き出した。

「きゃーはははははははははははーっ!」

 一方の竜児は、腹を抱え、涙さえ浮かべながら哄笑する亜美にあっけをとられ、半ば勃起した陰部を隠そうともせず
に、呆然としている。

「ひーっ! おかしい!! あんたの着替えを持ってきたら、あんた、おちんちんぶらぶらさせて、お風呂掃除してるん
だもん」
57大潮の夜に 22/81:2009/12/02(水) 01:01:33 ID:SDh3BMay

 その指摘で、竜児はようやく我に返り、遅まきながら亜美に対して背を向けてうずくまった。
 予測され得る最悪の事態だった。いや、亜美のことだから、竜児が風呂に入りながらも風呂場を掃除することに目星
をつけて、こっそりと忍び込んだのだろう。単に、掃除の現場を押さえて、それに対して嫌味の一つでも言うつもりだっ
たのだろうが、亜美にとって喜ばしいことに(竜児にとっては不幸なことこの上ないが)、竜児のフルチンをもろに目撃
することが出来てしまった。

「く、くそっ、いつまでも人の裸見て笑ってんじゃねぇ!! お前は俺の着替えを持ってきただけなんだろう? だった
ら、もう、カーテンは閉めてくれ。いくら、お前が相手でも、は、恥ずかしいじゃねぇか!」

 何だか負け犬の遠吠えみたいな惨めな気分だった。亜美は、そんな竜児に、軽い口調で、「はい、はい」とだけ答え、
なおも、「くっ、くっ、くっ…」と小鳩が鳴くような、押し殺した笑い声を発しながら、カーテンを閉めてくれた。

「それじゃぁ、おちんちんぶらぶらの、我らが同志さん。着替えはここに置いとくから。それと、泥だらけの服は、簡単に
下洗いだけしといたから、後は、この別荘にあるリネンとかと一緒に洗うことが出来るわね」

 それだけを告げられた後、脱衣所のドアを開閉する音がして、亜美が脱衣所から出て、階段を下りていく気配が感じ
られた。

「やれやれ…」

 裸のまま浴室の床にうずくまっていた竜児は、安堵するように大きくため息をついた。本当に、この合宿での先行き
が思い遣られる。
 よく言えば、亜美とは以心伝心、悪く言えば、亜美には竜児の思うところは見え見えなのだろう。
 亜美は相思相愛の似合いの相手だが、性悪で、捉え所がなく、竜児にとっても油断も隙もない相手なのだ。

「ま、そういった一筋縄じゃいかねぇところが、あいつの面白いところなんだがな…」

 亜美に出し抜かれるのは今に始まったことではない。それに亜美が竜児に仕掛けてくる悪戯は、ほんの些細なこと
に過ぎないのだ。
 そう思いながら、竜児はシャワーの水圧を強めにして、洗剤で拭った壁と床を濯いだ。
 浴室のカビやら泥やらが、綺麗さっぱり洗い流されたことを確認して、竜児は漸く自分の身体をボディシャンプーで
洗い始めた。

「今は、何時なんだろうな…」

 身体の泡を濯いだ後、頭髪をシャンプーで洗いながら呟いた。
 雷雨は一段落したのか、微かな遠雷しか聞こえてこない。

「だいぶ時間が経っちまったようだな」

 もう一回、シャンプーし、シャワーで入念に濯ぐ。
 既に夕方だから、今日中に別荘の内部をくまなく掃除することは不可能だったが、出来るだけのことはしておきた
かった。
 シャワーを終えて、カーテンを開けると、洗濯済みのTシャツとハーフパンツそれに下着が脱衣所に設けられている
棚に置いてあるのが目についた。亜美が持ってきてくれた竜児の着替えである。

「性悪だが、こうした点は抜かりがねぇんだよな、あいつは」

 これも、亜美が持ってきてくれたバスタオルで濡れた身体を拭い、下着を着用する。
58大潮の夜に 23/81:2009/12/02(水) 01:02:27 ID:SDh3BMay
 下着を穿くために軽く屈んだ拍子に、洗濯機の前に置いてあるバケツが目に止まった。バケツの中身は、竜児が泥
まみれにした衣類やハンカチそれにスポーツタオルだった。
 それらは、一応は下洗いされて、泥が洗い流されている。

「参ったな…」

 泥だらけの衣類をどこで洗ったのかは気になったが、下洗いの状態自体は、洗濯にうるさい潔癖症の竜児から見て
も、万全であった。
 エロで性悪な女だが、こんなふうに物事をそつなくこなすから、憎めない。
 竜児は、瞑目して嘆息すると、ハーフパンツとTシャツも着用した。身体を拭ったバスタオルは、洗濯物を入れる籠
に放り込んで、脱衣所を出た。

 リビングに降りると、テーブルには竜児と亜美の指輪が重ねて置かれていた。奥のキッチンからは、ごそごそという
物音と、時折、水を流す音が聞こえてくる。

「あら? 泥付きの大根も綺麗になったようね」

 エプロン姿の亜美が、キッチンから、ひょいと顔を出した。手には、シンクを掃除でもしていたのか、スポンジが握られ
ている。

「まあな…。さっき見られたように、浴室も綺麗にしといたよ…」

 そのコメントに、亜美は鼻筋にシワを寄せて、けらけらと笑った。

「あんたの行動パターンなんてのは、もうお見通し。あんたって、本当に分かり易いんだからぁ」

「性悪なお前に比べて、俺は根が素直なんだよ」

 不貞腐れたような竜児に対し、亜美は「はい、はい、そういうことにしときましょ…」と、相変わらず笑っている。
 そうした笑顔を見ていると、やはり憎めない。何だかんだ言っても、美人は得である。

「それはそうと、お前、キッチンの掃除をしてたのか?」

「そうよ、もうあらかた終わっちゃったから、次は、リビングとか床掃除をしようかと思って…」

 竜児は、リビングの時計で、時刻が午後五時過ぎであることを確認した。都合、一時間、竜児は浴室を掃除し、自身
の身体を洗っていたことになる。それだけの時間があれば、亜美であってもキッチンの隅々まで掃除が出来たかも
知れない。

「あんまり俺の楽しみを奪うな。それに、俺の服も下洗いしてくれたんだな。参ったぜ…」

「あんたの楽しみを奪うつもりはないんだけど、やっぱ、キッチンとかは綺麗になった方が気持ちがいいじゃん。まぁ、
あんたの掃除に比べれば、あたしのなんか詰めが甘いだろうけど、一応は頑張ったつもり。
それと、あんたの服は、ドロドロだったから、下洗いはどうしても必要よね?」

「ま、まぁ、確かにそうだな」

「でしょ? でも、あんたの服は、キッチンのシンクで洗っちゃった。この点だけは、ちょっといただけなかったかしらね。
本来なら、外で洗うべきだったんだろうけど」

59大潮の夜に 24/81:2009/12/02(水) 01:03:31 ID:SDh3BMay
 亜美はバツが悪そうに笑うと、ペロッと舌を出した。意図的なのか天然なのか不明だが、そうした仕草は本当に可愛
らしい。

「まぁ、この豪雨だから、外で洗うのは無理だろう。それに、台所では泥付きの野菜を洗うことだってあるんだ。
別段問題はないな…」

「よかったぁ、潔癖なあんたに怒られるかも、ってちょっと心配だったんだぁ。でも、あんたの服を下洗いした後、シンク
はきっちり洗ったから、オーケイよね?」

 竜児は苦笑した。亜美がキッチンを掃除したのは、泥だらけの服を洗ったという証拠を隠滅するためでもあったようだ
が、本人がぺろっと自白してしまっている。竜児の顔色を窺った上でのものだろうが、都合の悪いことも、結局は正直
に言う亜美もまた、竜児同様に根は善人なのだ。

「ああ、汚したら、その後はきっちり掃除すればいいだけの話さ。それはそうと、キッチンの掃除は終わったんだろ? 
だったら、今度はお前が風呂に入ってくれ。その間に俺は一階の掃除をやっとくよ」

「うん、じゃあ、これ置いてくるから」

 亜美は手にしていたスポンジを、キッチンのシンクの下に置くと、キッチンの入り口に立つ竜児の左手に軽くタッチした。

「じゃぁ、選手交代ってことで、後はよろしくぅ」

 笑みを浮かべて楽しそうに言うと、リビングに置いてあるキャリーバックから着替えを取り出し、二階の浴室へと小走り
に上がっていった。
 亜美と入れ替わりにキッチンに立った竜児は、その隅々までチェックしてみた。

「まずまず、というか、俺の出る幕がねぇな…」

 亜美本人は『詰めが甘い』と言っていたが、竜児の目から見ても掃除の具合は完璧だった。

「門前の小僧習わぬ経を読む、だな…」

 亜美には高須流家事術の掃除を直接教えたことはなかったが、竜児が掃除している様を観察して、その極意を会得
したらしい。
 これ以上、キッチンを掃除する必要がないことを確認すると、竜児は、雑巾と住居用洗剤のスプレーボトルを手にし
て、リビングの床掃除を始めることにした。
 先日、内装業のアルバイト最終日にやったように、四つん這いになって、住居用洗剤をスプレーしながら雑巾がけし
ていく。床には微かに埃が溜まっていたが、この程度であれば、掃除機をかけるよりも、こっちの方が確実で手っ取り
早かった。
 床全体を洗剤で拭ったら、今度は水拭きである。竜児は、洗剤で床を拭って汚れた雑巾をバケツの水で洗った。
雑巾は結構な汚れ方をしていたから、都合、三回、バケツの水を取り替えなければならなかった。
 その雑巾で、リビングの床を、洗剤の滑りが感じられなくなるまで丁寧に拭いて、リビングの床掃除は完了した。

「あら、もう、床掃除が終わったみたいね」

 二階から風呂上りの亜美が優雅な足取りで降りてきて、未だ中腰でいた竜児の前に立った。
 濡れた髪からはシャンプーが微かに香り、肌は薔薇色に上気して瑞々しい。
 何よりも、パンツルックを普段は好むはずなのに、珍しくノーズリーブの黒っぽいワンピースを着用している。

「お、おぅ、後は、ソファーとかテーブルとかを、綺麗にすれば大体はいいかなと思ってな…」
60大潮の夜に 25/81:2009/12/02(水) 01:04:44 ID:SDh3BMay

 見慣れないワンピース姿が妙に眩しくて、竜児は伏し目がちにして亜美に応じた。そのワンピースは、アンダーバスト
の部分が亜美のスレンダーな体型に合わせて絞られ、胸元が大きく開いていたから、否が応にも亜美の美乳を強調し
ていた。

「ふぅ〜ん…」

 ワンピース姿の亜美を直視出来ない竜児への、ちょっとした悪戯のつもりなのか、亜美は両腕で胸元をきゅっと締め、
竜児に向かって、腰を折って屈み込んだ。
 左右の二の腕で圧迫されて盛り上がった胸元が、屈み込んだ時の反動で、ゆさゆさと大きく揺れている。
 間違いなくノーブラだ…。よく見れば、乳首の部分が、小さく尖ってさえいる。

「そ、それはそうと…、お、お前がスカートなんて、珍しいな」

 努めて平静を装ったつもりだったが、亜美が目を細めた性悪そうな笑みを浮かべていることから、無駄な努力であっ
たらしい。

「そ、パンツルックは暑苦しいからね。その点、ワンピとかスカートは、下が、がら空きだから涼しくってぇ〜」

 そう言いながら、亜美はワンピースの腰の部分をつまんで、裾を少しだけ持ち上げて、扇ぐようにはためかせた。

「お前、何やってんだよ」

 だが、亜美は悪意のこもった妖艶な笑みのまま、するすると少しずつワンピースの裾を持ち上げていく。

「暑苦しいから、亜美ちゃん、ブラしてないの…。それに、下の方も、通気をよくしないといけないからぁ…」

 それはノーパンであることを暗に仄めかしているようなものだった。

「お、お前、は、穿いてないのかよ!」

 亜美の陰部なら、既に幾度となく目にし、あまっさえ、それをしゃぶり、自身の指や極太ペニスを挿入してきた。だが、
何の前触れもなく、この様に不意打ちに等しい形で見せつけられるのは、性欲がどちらかといえば薄い竜児に対する
ハラスメントでしかない。

「さぁ、どうかしらね…」

 亜美は、そう物憂げに告げると、なおもワンピースの裾をたくし上げる。裾は、ニーソックスを履いていたのなら絶対
領域に相当する部分まで上がり、後ちょっとで亜美の秘所が丸見えになってしまいそうだった。

「お、おい、もう止めろ!」

 竜児だって、亜美とはセックスしたい。だが、今は掃除の真っ最中だ。この場で亜美と抱き合って、掃除や、食事の
用意、その他諸々の作業を蔑ろにするわけにはいかなかった。

「じゃ〜ん!!」

 狼狽する竜児には構わず、亜美はワンピースの裾を一気にたくし上げた。その瞬間、竜児は反射的に目を閉じて、
亜美の秘所を直視することを避けていた。
 その竜児の耳に、先ほど、浴室で聞かされたものと同じ、亜美の無慈悲な哄笑が飛び込んできた。
61名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 01:05:42 ID:33TlDY1M
C
62大潮の夜に 26/81:2009/12/02(水) 01:05:54 ID:SDh3BMay

「きゃーははははははははははっ!! け、傑作ぅ!」

 その声で、竜児が恐る恐る目を開けると、そこにはワンピースの下をホットパンツでプロテクトした亜美が、さも楽しそ
うに腰を左右に振りながら笑い転げていた。

「あ、亜美、て、てめぇ!」

 ものの見事に一杯食わされた。竜児は忌々しそうに歯噛みしたが、そうすればするほど、亜美は有頂天になって、
はしゃいでいる。

「へ〜んだ、何を純情ぶってるのよ、このスケベ! 未だ宵の口だっつぅのに、エッチするわけないじゃん。エッチは、
掃除が終わって、食事が終わってからよ。それまでは、エッチはお・あ・ず・け。お分かり?」

 そう言いながら、亜美はワンピースの裾に両手を差し込み、ホットパンツをずり下ろした。

「お、お前、結局何だよ、パンツ脱いでるじゃねぇか!」

「あら、勘違いしないでよ。生憎だけど、ホットパンツの下には、ちゃんとパンツ穿いているんですけどぉ。
だから、ホットパンツまで穿いてると蒸れるのよ」

 亜美は、いつもの性悪笑顔で、秘所の温もりが残っているであろうホットパンツを右手でひらひらと振っている。

「だからって、わざわざここで脱ぐこたぁねぇだろ!」

 一杯食わされて悔しそうに顔を歪めている竜児に、悪びれることもなく、亜美は、うふふ…と妖艶に微笑んだ。

「あんたの反応が面白いから。だからここで脱いだの。それも、これも、あんたが可愛らしいから。
可愛らしくて、純粋だから、お姉さん、ついついいじめたくなっちゃうのぉ〜」

「お姉さんって、俺たちは同学年じゃねぇか。それに、お前にからかわれながら可愛いって言われても嬉しくねぇよ」

 竜児は不貞腐れて、そっぽを向いた。

「あらまぁ、拗ねちゃって。でも、いいじゃん。今日やるべきことが終わったら、後はこの前みたく、一晩中、エッチ出来
るんだからさぁ。あんたも期待してるだろうから、今夜のエッチは一段と激しいものになりそうで、楽しみよね」

「べ、別に、お、俺は、そ、そんなこと考えてもいねぇよ…」

 その一言で、亜美が、ムッと、不満げに頬を膨らませた。

「あらそう? それが、あんたの本心だとしたら、つまんない男ね。でも、あたしはあんたとエッチしたいの。
そこんとこ宜しく」

 柳眉を逆立てた不機嫌丸出しの面相でそう言い放つと、亜美は手にしていたホットパンツをキャリーバッグに仕舞い、
二階へ行こうとした。

「お、おい…」

 竜児は、亜美を呼び止めたが、亜美は振り返りもしない。
63大潮の夜に 27/81:2009/12/02(水) 01:06:53 ID:SDh3BMay

「お、おい! どこへ行く」

 亜美の悪戯は少々悪質だったが、竜児の対応も誉められたものではない。竜児は、亜美が気分を害してその場を
立ち去るものだと思い込み、慌てて立ち上がった。
 その竜児に、亜美は、ニヤリと性悪笑顔で応えてきた。

「見れば分かるでしょ? 二階よ。二階の廊下とか、あたしたちの寝室は掃除してなかったでしょ? 
一階の掃除はあんたに任せて、あたしは二階の掃除をするってわけ」

「お、おぅ…」

 けろっとした亜美の態度に、竜児は毒気を抜かれる思いだった。

「何、その顔は? 亜美ちゃんと離れ離れになるのがさみしい? 不安? いやぁねぇ〜、とんだ甘えん坊さんだわ」

 阿呆のように口をぽかんと開けたまま、脱力している竜児を指差して、亜美は、先ほどのように腰を振りながら、鈴を
転がすような笑い声を上げている。
 タフな奴だ、と今更ながら竜児は呆れるよりも、むしろ感服した。簡単には怯まないし、凹まない。仮に怯んだり、
凹んだりしても、何かの切っ掛けで立ち直る。そうでなければ、有名女優である実母を敵に回して突っ張るなんて真似
は出来そうもない。
 その亜美が階段を上がっていくのを見送りながら、竜児は瞑目してため息をついた。

「俺も、強くならなくちゃいけねぇな…」

 精神的にタフな亜美の相方を務めるには、竜児もまた、強くなければならなかった。
 自分を卑下するような弱さは以ての外だし、亜美のちょっとした悪戯で、取り乱すようなことも宜しくない。
 もっとも、竜児が亜美の悪戯に対する免疫がつき、何があっても動じなくなったら、それはそれで、亜美は不満に思う
だろう。だが、現状のように、過剰に反応するヘタレっぷりは論外だ。

「ヘタレな俺は、本当に亜美にとってふさわしい相手なんだろうか?」

 そう思うことこそが、弱さであることに気付き、竜児は苦笑した。この弱さは、生半可なことでは克服出来そうもない。
 竜児は、のろのろと立ち上がると、応接セットや、天井からぶら下がっている照明器具の掃除に取り掛かることにした。


 二人で手分けしての掃除は意外にはかどり、午後八時前には、あらかた終了した。
 亜美はキッチンで別荘にどれだけの食材が残されているのかをチェックし、竜児は持参したノートパソコンでインター
ネットへの接続を試みていた。

「う〜ん、危惧した通り、本当にすっからかんで何もないわ…」

 黒いエプロン姿の亜美は、可能な限りかき集めた食材を前にため息をついていた。
 別荘にあったのは、ほんの三合ほどの米と、酸化して黒く濁った醤油、都合三百グラムほどの塩、開封していない
米酢、封を切らないままの砂糖一キログラムだった。

「お米は一年以上前のものだから、もう食べられないかも…。醤油は、何だかコールタールみたいに真っ黒になってて
気持ち悪い…」

「醤油はカビてなけりゃ、一応は使えるよ。ただし風味はガタ落ちだから、結局は黒い塩水とさして変わらねぇ。まぁ、
64大潮の夜に 28/81:2009/12/02(水) 01:07:54 ID:SDh3BMay
MOTTAINAIが、捨てちまって、真新しい奴を買った方が無難だな…」

「お米はどう? やっぱり捨てちゃう?」

 亜美の手には、輪ゴムで封じられた『越後コシヒカリ』と記されたポリ袋が下げられていた。

「いや、リゾットにすればいいだろう。リゾットはむしろ新米よりも古米の方が美味しいっていうからな。それに、本場新潟
のコシヒカリは、高級ブランド米じゃねぇか。捨てたりしたらMOTTAINAI」

 竜児が呪文のように唱える例の言葉を耳にして、亜美は、反射的に相好を崩し、ぷっ! とばかりに吹き出した。

「でも、そうなると、一食分はお米で何とかなるとしても、あとはパスタで凌ぐしかないのね…」

 亜美は、今日の午後、最寄りの(といっても、別荘からはかなり遠い)コンビニで購入した五百グラム入りの
スパゲッティの袋と、パスタソースを四袋取り出した。竜児と亜美とで、ぎりぎり二食分というところだろう。

「そうなると、今夜と明日の朝はパスタにして、お昼はリゾットに出来るけど、その後は、食べる物が何にもないわ…」

「リゾットにしても、俺が言ったのは、古米で出来る、って程度の意味だよ。今の状況じゃ、別荘にはリゾットの具になる
ようなもんが何もない。リゾットの具は、茸とか鶏肉が適しているんだが、生憎、そんなものはねぇからなぁ」

「そうねぇ…」

「とにかく、お前の機転で、今夜と明日の朝の食料はあるんだ。明日は明日で、改めて駅前のスーパーに行くか、
ちょっと遠出して最寄りの魚市場に行くとか、野菜を直売している農家とかをあたってみてもいいかもな」

 亜美は、竜児の提案めいた問い掛けに一旦は頷いたが、すぐに何かを思い出したように、双眸を大きく見開いた。

「ねぇ、インターネットの具合はどぉ?」

「おぅ、ここのルーターは、無線LANがあって、DHCPも機能しているんだな。特に細かな設定をしなくても、大概の
ノートパソコンは、この屋内でインターネットに接続出来る」

「だったらさぁ、お米とかはインターネットの通販で賄おうよぉ」

「インターネットでか?」

 食料品は、直接確かめて購入することを旨とする竜児にとって、通信販売で食材を調達するというのは違和感が
あった。Amazonとかで書籍を買うのとは訳が違う。日々の糧となるものは、その正体を見極めるべく、見て、
手に取って確かめてから買うべきなのだ。

「あ〜っ、その顔は、猜疑心満々って感じぃ」

 亜美にとっては、竜児の本音が顔に書いてある、といったところなのだろう。

「いや、まぁ、何だ…、どうにも直に確認出来ねぇのは、気が進まなくてな…」

「そう言うと思った。でも、安心して、お米やパン用の小麦粉や生イーストを通販しているお店は、あたしが実際の店舗
で買い物をしたことがある所だから、大丈夫。試しに買ってみた国産小麦粉とか、ライ麦粉とか、生イーストとか、どれも
高品質で安かったから、通販もちゃんとしたものを送ってくれるわよ」
65大潮の夜に 29/81:2009/12/02(水) 01:09:11 ID:SDh3BMay

 亜美は、竜児を安心させるつもりでもあるのか、にっこりと毒のない笑みを浮かべている。

「お、おぅ、お前が大丈夫って言うんなら、それをあてにさせて貰うか…」

 いくぶんは躊躇いがちな竜児に、亜美は、「大丈夫、任せておいて」と、軽く胸を張って見せた。

「じゃぁ、さぁ、善は急げということで、あんたが起動しているパソコンでお米とか、粉とかを発注しちゃいましょうよ」

「え? このノートでか? こいつはMac OSじゃねぇぞ」

 パソコンといえばMacしか知らない亜美に対する不信が僅かばかりは込められていたせいか、亜美は一瞬だけ、
ムッ、と膨れっ面をした。だが、すぐに元の笑みを取り戻して、竜児の傍らに寄り添った。

「キャリーバッグからMacBookを引っ張り出すのがめんどいし、起動するまでの時間が惜しいのよ。それに、OSが
違ったって、インストールされているブラウザが同じなら、インターネット通販の発注操作自体は同じよね。竜児の
パソコンに入っているのは、Firefoxだし、あたしのMacBookにもFirefoxはインストールされているからねぇ」

 言うなり、亜美は竜児を押しのけるようにしてパソコンの前に座り、トラックポイントに右手の人差し指を乗せた。

「お、おい、IMEをオンにするやり方は分かってるのか?」

 半ば強引に割り込んできた亜美をたしなめるつもりで、ちょっと邪険に言ってみた。しかし、亜美は、お馴染みの
性悪笑顔全開で、切り返してきた。

「そんなの、あんたのキー操作を見ていたから、もう、知ってるわよ。こうでしょ?」

 亜美は、[Ctrl]キーとスペースバーを同時に打鍵した。

「ほら、日本語入力が出来るようになった」

 竜児は苦笑した。本当に油断も隙もない。亜美は、竜児の一挙手一投足をつぶさに見ているのだろう。亜美は亜美
で、竜児の伴侶にふさわしい存在になろうと努力しているのだ。

「お、おぅ、ほんじゃ、後は大丈夫だな?」

「当然でしょ?」

 Googleで目当てのショップ名を検索し、その検索結果から目当てのショップの情報を選び、アクセスする。

「ほら、このお店なんだけどね」

 インターネットでの食材調達には否定的な竜児には馴染みのないサイトだった。しかし、サイトマップには、大橋では
入手困難なアイテムも記載されていて、竜児の好奇心が疼いてくる。

「何か、本格的だな」

 亜美は、してやったり、の笑みを竜児に向けた。

「でしょ? まずは、お米ね」
66大潮の夜に 30/81:2009/12/02(水) 01:10:13 ID:SDh3BMay

 米の在庫リストが表示された。
 そのリストを眺めていた竜児が、「おっ!」と短く叫んだ。

「宮城県産のササニシキがあるんだな…」

「ササニシキって、最近は聞かないわね。美味しいの?」

「まぁ、好みによるけど、コシヒカリは粘りがあるのに対し、ササニシキは、それほど粘りがない」

「そんなんで、本当に美味しいの?」

「ササニシキは冷めても美味しいんだ。それで寿司に向く。今では、主に高級寿司店で使われている米だよ。おそらく、
アミノ酸とかの旨味成分が、他の米よりも多いんだろう。それに、過剰に粘らないから、ピラフとかの洋風の料理にも向く」

 亜美は、うふふ、と嬉しそうに笑った。

「じゃぁ、決まりね。値段もバカ高くないし、お米はこれでいいんでしょ?」

「おぅ、ササニシキが食えるなんて、本当に久しぶりだな。何なら、二十キロほど買っとくか」

「多過ぎない?」

「盆休みには、木原や香椎も来るんだろ? それに北村も来るかも知れないし、場合によっては能登もひょっこり来る
かも知れねぇんだ」

 能登の名を耳にした亜美が、豆鉄砲を食らった鳩みたいに目を丸くした。

「能登も呼んだの? 別にあたしはいいけど…」

「いや、俺じゃなくて、北村が呼んだみたいだぞ。能登は、仮面浪人を止めて、本気で受験勉強に身を入れるらしい。
それで文系の北村に色々とアドバイスを受けていたようなんだ。で、北村は、根を詰めている能登に気分転換を勧め
る意味で、この別荘に連れて来るみたいだな」

「何だ、祐作の仕業なんだぁ」

 亜美は、表情を和らげると、ちょっと意味ありげに微笑した。

「どうした? 変ににやにやして…」

「うん…、ちょっとね。能登ってね、祐作だけじゃなくて、奈々子からも英語の勉強を見てもらっていたんだって。
で、その時に、能登の口から、未だに麻耶に未練がありそうなことを言わせたのよ。で、問題は麻耶だけど、これも
奈々子とあたしが見た限りでは、本人が言うほど能登を憎くは思っていない感じなんだよね」

「ど、どういうことだよ?」

 人一倍、色恋沙汰には鈍感な竜児に麻耶と能登の関係は、弁理士試験の問題よりも難しかったのかも知れない。

「危なっかしいけど、麻耶と能登との関係に、何かの化学変化が起きそうな気がするのよね。結合っていうか、化合っ
ていうか…」
67名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 01:11:31 ID:0Oq3k3g0
紫煙
68大潮の夜に 31/81:2009/12/02(水) 01:12:43 ID:SDh3BMay

「お、おい、まさか? でも、木原は、この前のピクニックの時、蛇蝎のように能登を嫌っていたぞ」

 亜美は、持ち前の大きな瞳を輝かせながらも、口元を意味ありげに歪めて、シニカルな笑みを浮かべている。

「そのまさか、が起こり得るかも知れないわね。朴念仁のあんたには理解不能かも知れないけど、男女の間柄、女心の
機微は微妙なの。何かの切っ掛けで、大きく変化するもんなのよ」

 竜児は、理解不能であることを示すが如く、渋面で瞑目した。

「まぁ、何だ、能登と木原の化学変化が化合であることを願いたいもんだな。分解とかは見たくないし、ましてや爆発な
んてのは、マジでご免だ」

 心配そうな竜児をあやすかのように、亜美は竜児にそっと寄り添った。

「大丈夫よ、あたしや奈々子様がついているんだから。麻耶と能登の化学変化が暴走しないように、ちゃんと制御す
るって」

「本当に大丈夫か?」

「しつこいなぁ、大丈夫だって…」

 膨れっ面なのか、悪戯っぽい笑顔なのか判じがたい表情で、亜美が竜児を見詰めていた。
 対する竜児は、ほんのちょっとだけ苦笑した。大人びているようでいて、こうした仕草には、少女らしい愛らしさがある。
つくづく、不思議な女だと思う。

「まぁ、話が横道に逸れちまったけどよ。米みたいな重たいもんは、こうして通販で買った方がいいかもな」

「そうよね。この別荘は辺鄙なところにあるから、買い物には本当に不便だわ。一応、バイクはあるけど、あたしもあんたも自動二輪の免許持ってないし…」

「一昨年は、北村が居たから助かったけど、今回はそうはいかねぇ。俺たちだけで何とかしなくちゃな」

 買い物は、徒歩で行くことになるから、通販を最大限に利用することになるだろう。だが、通販にも問題がない訳では
ない。

「米は重いから、送料が結構かかるな。送料を含めたら、良心的な価格設定も台無しだ」

「そうねぇ、送料は重い物相応にかかるから…。でも、このお店、一万円以上お買い物をすると、送料が只になるって、
書いてあるわよ」

 亜美は、ディスプレイの右上端を指差した。
 そこには、『当サイトの通販は、購入金額が一万円以上の場合、送料は無料となります』という記載があった。

「ほんとだ…」

 刹那、竜児は三白眼を、ぎらり、と輝かせた。

「よ、よし、それなら、この一月に必要となりそうな食料で、乾物とか、瓶詰め、缶詰とかの保存が利くやつを片っ端から
買っちまおう。俺は、カレーとか、エスニック料理に必要な香辛料やバルサミコやナンプラーのような調味料とか、
69大潮の夜に 32/81:2009/12/02(水) 01:13:43 ID:SDh3BMay
ホールトマトの缶詰の大量買いとか、菓子作りに必要なバニラとか、シナモンとか、製菓用の薄力粉とか、グラニュー
糖とかを、きっちり買っておきてぇ」

「あたしは、向こう一箇月のパン作りに必要な強力粉と、かライ麦粉とか、生イーストとか、無塩バターとか、発酵バター
とか、モルトシロップ、ていうか、これは日本の水飴の方がいいか…、とかをまとめ買い」

「おい、生イーストとかバターは要冷蔵だぞ。大丈夫か?」

 不用意とも言えたその一言に、亜美は性悪笑顔を浮かべた。

「それ、冷静なあんたらしくもない失言よ。ここに、“クール便を使用”って書いてあるんですけどぉ〜」

「うへぇ…」

 川嶋家の別荘で、亜美と二人きりということが、少なからず竜児に緊張を強いているらしい。
 普段と変わらない態度の亜美に比べて、やはり竜児はヘタレなのだ。それに、男と女では、いざとなると、女の方が
肝が据わっているのかも知れない。
 落ち着くつもりで、竜児は、軽く咳払いをした。

「おほん! まぁ、何だ、てんでんバラバラに、あれが欲しいとか、これが欲しいとか、ってんじゃ、余計な物を買い込ん
だり、必要な物を買いそびれるかも知れねぇ。ここは落ち着いて、買い物のリストを作って、それからショップのサイトに
発注した方がよかねぇか?」

 竜児のもっともな提案に亜美が頷いたのを確認して、竜児はバックパックからメモ帳とシャープペンシルを取り出した。

「これで、一旦、必要な物を洗い出してから、インターネットで発注するのね?」

「そういうことだ…」

 竜児は、米、香辛料、調味料、缶詰、瓶詰それに製菓材料を、亜美は、製パン材料をそれぞれリストアップした。
 書き上がった竜児のリストは亜美が、亜美のリストは竜児が一応は目を通し、問題がないことを確認してから、
インターネットで発注した。

「何だかんだで、合計金額は三万円以上になってるな…」

「でも、これで、向こう一月分の主食やお菓子の材料は確保出来たわ。祐作や麻耶たちが押し掛けてきても、十分に
賄えるくらいの…。調味料や香辛料もいい物があったし、通販も捨てたもんじゃないでしょ?」

「そうだな、ちょっと、考えを改めたよ」

 亜美がにこやかに笑っている。常に合理的な判断を心掛け、自己の判断や見識に問題があれば、それを素直に
認めて正す。それが竜児の美点であると、亜美は思っているのかも知れない。
 竜児は、画面上の時計を見た。時刻は午後十時を回っていた。二人とも、二時間以上も時間を意識せずに、
インターネットでのショッピングに夢中になっていたことになる。

「だいぶ遅くなっちまったが、夕飯にしよう」

 そう言っても、亜美が買ってきたスパゲッティを茹で、湯煎にして温めたパスタソースをかけて、お好みで粉チーズを
振るだけのことである。

70大潮の夜に 33/81:2009/12/02(水) 01:14:45 ID:SDh3BMay
「初めて別荘で二人きりになれたのに、ちょっとあんまりな晩餐ね」

 少しでも栄養バランスを考えてか、これも亜美が買ってきた野菜ジュースを飲みながら、亜美が苦笑した。

「まさか、鍵を掘り出さなきゃならなかったなんて、想定外だったからな。おかげで、初日の予定は完全に狂っちまった。
本当なら、今日中にしとくべきだったが、明日は、食料の買出しだな。通販の荷物が届くのは明後日だし、何よりも
生鮮食料品が欲しい」

「そうよね…。今日、あたしが買ったスパゲッティとかも、明日の朝の分でお終いだから、嫌でも買出しに行かなくちゃ」

「それと、今日中に、寝室のマットレスも外して、天日干しにしたかった。一年間も風や日光に当ててないから、ダニと
かカビとかが気になるな。まぁ、今夜だけはちょっとカビ臭そうなマットレスで我慢するか…」

 亜美は、その竜児の一言に表情をいくぶんは曇らせて軽く頷いていたが、やにわに、ニヤリとした。

「ねぇ、何なら、今夜は、寝室じゃなくて、リビングで寝ちゃいましょうよ」

「え、あそこでか?」

 竜児は、視線をリビングのソファーに走らせた。確かに、あのソファーであれば、寝心地はそう悪くないかも知れない。

「そう、あのソファーに、さっき洗濯が終わって、今は乾燥中のシーツを敷けば、問題ないわよ。それに、どうせ、今夜
は、二人でくんずほぐれつの一大イベントが控えているんだからさぁ。それだったら、ベッドの上とかよりも、ソファーの
方が非日常的で萌えるわよ」

「お前って、アブノーマルなのが好きだなぁ」

「あら、失礼ね。合理的な判断と言って欲しいわ。カビ臭いベッドじゃ、雰囲気が台無しだし、第一、不健康じゃない。
その点、あそこのソファーなら、狭苦しい寝室に缶詰になっていたマットレスよりかはカビとかダニとかの問題は少ない
でしょ?」

「まぁ、そうだな…」

 亜美の本心は、手を替え品を替えてエッチを楽しみたいということなのだが、それにもっともな理由をつけられては、
あからさまに反対出来ない。

「じゃぁ、決まりね。今夜は、ソファーでエンドレスなエッチをするのよ」

 そう言って、亜美は双眸を大きく開き、瞳を輝かせた。性欲が高まったときの亜美は、瞳の輝きが妙に瑞々しく、
それでいて、白目の部分が少々血走っているのが常である。今夜がまさにその状態だった。

「な、なんか、いつも以上に、興奮してねぇか?」

 この別荘に来る前の数日間も、二人は、毎晩、抱き合っていた。だが、それらは、キスから始めて、軽く前戯を楽しん
だ後、挿入して、亜美は一度アクメに達し、竜児は亜美に一回中出しして、それで、互いに満足するという、
比較的淡白なセックスである。
 だが、今夜に限っては、亜美の性的な興奮の度合いが桁違いだ。強いて言えば、亜美が実家に戻らざるを得なく
なった日の前夜、一晩中、互いに求め合った、あの時に似ている。

「そう? う〜ん、でも、そうかも知れないわね」
71大潮の夜に 34/81:2009/12/02(水) 01:16:08 ID:SDh3BMay

 一応は自覚があるらしい。

「な、何かさ、お前の性欲がすげぇな、って思ったのは、お前が実家に行く前の晩とかだよな。大体、今から二週間前
か…。その前は、膣痙攣になっちまったけど、お前との初エッチ…。これは、それから更に二週間くらい前か…。
なんか、周期性があるのか?」

「そんなことまでは知らないわよ。あたしに分かっているのはさぁ…」

 食べ終えたスパゲッティの皿を脇に押し遣ると、亜美はテーブル越しに身を乗り出してきた。

「お、おぅ…」

 ちょっと血走った双眸をてらてらと輝かせ、竜児に迫る様は、発情チワワというよりも、肉欲に飢えた雌狼といった
ところだろう。

「あたしは今宵、あんたと気絶するまで抱き合っていたい。それだけなんだからさぁ」

 亜美は、舌なめずりのように、ぺろっとピンク色の舌先を覗かせた。
 理屈なんかどうでもいい。ただ、本能的な衝動に身を任せ、快楽を貪りたいのだ。
 それは、竜児にとっても異論はない。亜美が望むなら、気力と体力が許す限り、何度でも、その華奢な身体を貫いて、
その胎内へ白く熱い精を注ぎ込んでやるまでだ。

 竜児と亜美は、食器やグラスを手早く洗うと、室内の照明を全て消した。
 暗闇に慣れていない目は、しばらく視力がままならなかったが、窓辺から差し込む月光で、仄暗いながらも部屋の
様子が分かるようになってきた。

「雷や風や雨の音が全然しなくなったから、多分そうだとは思ってたが、静かな月夜だな」

 数時間前まで耳を聾する程に轟いていた雷鳴に代わり、やさしげな潮騒が微かに聞こえてくる。
 窓から差し込む月明かりは思いのほか明るく、リビングの窓辺近くの床を青白く照らし、竜児と並んでソファーに座っ
ている亜美を漆黒のシルエットとして際立たせた。

「まずはキスよ…」

 シルエット姿の亜美が、長い髪を物憂げになびかせると、竜児の方にゆっくりと顔を近づけてきた。
 近づくにつれ、漆黒のシルエットからは、うっとりと閉じた両の眼、整った鼻筋そして竜児との接吻を持ち焦がれて
微かに開かれた薔薇色の口唇が、ぼんやりと現われてきた。

「亜美…」

 竜児も顔を亜美にゆっくりと近づけ、薄く引き締まった口唇を、瑞々しい亜美の口唇にそっと合わせた。
 亜美の滑らかな舌が、彼女とは別個の意思を持った生き物のように、妖しく蠢きながら竜児の口腔に侵入してきた。
それと入れ替わるように竜児の舌もまた、亜美の口中の奥深くに入り込み、その頬の内側や、歯茎をそっと撫で回す。

「う…、う〜ん」

 亜美は心持ち眉をひそめて、くぐもった呻き声を上げている。一見、苦しそうな感じだが、キスで陶然となった時、
亜美がよくやる仕草だった。そんな亜美が愛おしくて、竜児は亜美の身体をしっかりと抱き締める。竜児の胸板に、
勃起した亜美の乳首が感じられた。
72大潮の夜に 35/81:2009/12/02(水) 01:17:04 ID:SDh3BMay
 竜児は、亜美の背中に回していた手を、亜美が纏っているワンピースのファスナーに遣ると、それをするすると下げ
ていく。

「う!」

 一瞬、亜美は抵抗するかのように身を捩ったが、竜児がファスナーに遣った手を止めて、亜美の身体を更に強く抱き
締めると、亜美はそれに納得したのか、再び竜児とのディープキスに意を注いだ。
 竜児も亜美とのキスを堪能しながら、再びワンピースのファスナーをゆっくりと下ろし始め、ほどなく下ろし切った。
 その直後…、

「あっ! あ、ああっ!!」

 竜児とのディープキスで感極まったのか、亜美は、顔を仰け反らせるようにして、口唇を竜児のそれから引き離し、
はぁ、はぁ、と切なげに息を整えている。

「亜美…」

 竜児の微かな呟きに、亜美は恍惚としながらも、微かに首を縦に振って応答した。
 その亜美の首筋から胸元へ、竜児は舌と口唇をゆっくりと這わせていく。

「あ、ああっ! そ、そこぉ!」

 竜児は、亜美が纏っているワンピースの胸元をはだけ、まずは胸の谷間に頬擦りした。花のように香る、いつもの
トワレは付けていないらしい。その代わりに、竜児を昂らせる亜美自身の体臭が芳しかった。

「いい匂いだ…」

「う、うん…」

 竜児が何気なく発した言葉が嬉しかったのか、亜美は、首を仰け反らせたまま、微かに頷いている。
 それを確認して、竜児は、亜美の右の乳首を舌先で軽く弄んでから、それを口に含み、軽く歯を当てた。

「あうっ! い、いきなり噛んじゃだめぇ」

 上目遣いに見ると、亜美が、早くも頬を上気させ、双眸を潤ませていた。

「すまねぇ。痛かったか?」

 分かってはいたが、念のため訊いてみた。

「う、ううん…。あ、亜美ちゃんの、ち、乳首、今日は何だかすっごく敏感で…、りゅ、竜児に舐められたりしただけで
ゾクゾクしちゃう…」

 乳首は、女性にとって、クリトリスに次いで敏感な性感帯であることを、竜児もインターネットや医学関連の文献から
最近になって知った。
 亜美は乳房を啜ってもらうと、時に竜児が驚くほどに身悶えるが、それは亜美に限ったことではなく、性的な興奮状
態にある女性なら、ほとんどがそうなのかも知れない。だが、それを割り引いても、今の亜美はいつにも増して反応が
激しかった。

「じゃ、ゆっくりいくよ…」
73大潮の夜に 36/81:2009/12/02(水) 01:18:00 ID:SDh3BMay

 竜児は、再び亜美の右の乳首に薄い口唇をあてがい、歯を立てずに吸った。刹那、亜美の口から色っぽい吐息が
漏れ、竜児の背中に回していた亜美の両腕に力が込められた。
 早くも亜美は快楽の虜になりつつある。やはり、今夜は、二週間に一度の頻度で彼女に訪れる特別な夜なのかも知
れない。

「あぅ…、も、もっと強く啜っていいからぁ…」

 亜美の甘えるような訴えに竜児は軽く頷くと、右の乳首を徐々に強く吸った。それにつれて、亜美の呼吸が、
「はっ! はっ!」とばかりに荒くなっていく。
 それを確かめて、そろそろ左の乳首を啜ろうかと、竜児は視線をちょっと右に向けた。だが、亜美の左の乳首は、
亜美自身の指で摘まれ、揉みしだかれていた。
 もう一度、上目遣いで亜美を窺うと、亜美は瞑目して、涎を垂らしながら、「あぅ…、あぅ…」、と嗚咽のような呟きを切れ
切れに漏らしている。早くも忘我の心地らしい。

 竜児は、ちょっと苦笑すると、右手をするすると亜美の腰に這わせ、ワンピースの裾から突っ込んで、大腿部の内側
から亜美の秘所を撫で回した。

「おぅ?!」

 竜児は、啜っていた亜美の乳首を思わず離してしまった。

「は、穿いてねぇ…」

 亜美の太股の内側は、秘所から漏れ出る雫で、既にぬるりとしていた。

「う? うん…。亜美ちゃんノーパン…。どうせエッチすんだから、穿いてるのがめんどいし…」

 竜児にこれ見よがしにホットパンツを脱いで見せた時には、もう、ノーパンだったらしい。珍しくパンツルックじゃないと
思えば、これである。本当に油断も隙もない、とんでもない淫乱娘だ。

「じゃぁ、ノーパン淫乱娘のあそこを弄ってやるか…」

 竜児は、先ほどまで亜美が摘んでいた彼女の左の乳首に口唇をあてがい、徐々に強く吸った。

「あぅ! お、おっぱい気持ちいいよぉ」

 乳首に走る快感に亜美が気を取られている隙に、竜児は、既にじっとりと潤っている亜美の秘所に人差し指と中指を
挿入し、親指で茂みの中から勃起しているクリトリスを撫で回した。

「ひっ!」

 まるで感電でもしたかのように、亜美の身体が、びくんと硬直した。竜児は、秘所に挿入している二本の指を捻るよう
に回しながら往復させ、親指の腹で薄皮を剥くようにクリトリスを撫で回した。

「あ…、そ、そこぉ…」

 先ほどまで右の乳首を弄くっていた右手をだらりとさせて、亜美は苦しげに仰け反った。竜児は、亜美が愛撫を放棄
したその右の乳首を軽く噛み、これまで以上に強く吸引してやる。

74大潮の夜に 37/81:2009/12/02(水) 01:18:55 ID:SDh3BMay
「あぅ、か、噛んじゃらめぇ!! き、気持ちよ過ぎて、い、いっちゃうぅ〜」

 亜美は涙目で髪を振り乱して訴えたが、竜児は構わず、今度は左の乳首も軽く噛み、強く啜ってやった。

「う、ううううううっ〜!」

 竜児の愛撫に堪えかねてか、亜美の秘所も充血したかのように火照り、じくじくと甘い粘液を滴らせていた。竜児は、
挿入していた二本の指を一旦引き抜くと、人差し指と中指に薬指も添え、亜美の秘所に挿入し直した。

「あぅ!!」

 指三本が唐突に膣を押し広げる感触に、亜美は絶句するように短い悲鳴を上げ、双眸を大きく見開いて、背筋を
強張らせた。竜児の指にも、亜美の膣の内壁が、侵入してくる異物に抗うように怪しく蠢いているのが感じ取れた。

「済まねぇ…。痛かったか?」

 いくら何でも指三本はやり過ぎだったのかも知れない。だが、亜美は、はぁ〜っ、大きく息を吐くと、背筋の緊張を
解き、上気した頬を緩めるようにして微笑んだ。

「痛くないけど、なんか、ごりごりする…。でもぉ、そ、それがいいのぉ〜」

「よ、よし、じゃ、続けるぞ」

「う、うん…」

 竜児の三本の指が、亜美の膣の奥深くまで挿入された。その状態から、竜児は、先ほどの指二本の時と同じように、
三本の指を捻りながら膣内を往復させる。

「あぅ! いい、いいわぁ!!」

 亜美が美乳をぶるぶると震わせて仰け反っている。竜児は、その胸の谷間に顔を埋めて、亜美の芳しい匂いを深々
と吸い込むと、谷間の両隣で踊っている左右の乳房の先端を、交互に噛んで啜りまくった。

「あぅ! い、いっちゃうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 亜美の絶叫と呼応して、秘所が痙攣するように締まり、愛液が噴射と呼べるほどに激しく吹き出した。
 亜美は背中を強張らせたまま、「あ…、あ…、あ…」と、嗚咽のような声を切れ切れに発し続け、やがてぐったりと脱力
した。
 亜美の秘所は、本人がぐったりしても、それにはお構いなしに妖しく蠢いて、飲み込んでいる竜児の指先を締め付け
ていたが、やがてそれも、腫れが引くように、鎮まっていった。

「ふぅ…」

 亜美の秘所が落ち着いたことを確認して、竜児は指をゆっくりと引き抜いた。詰まっていた栓が抜かれたかのように、
膣口からは、トロトロと愛液が滴ってくる。それと、先ほどの潮吹きで、竜児の右腕は二の腕まで亜美の粘液が飛び
散っていた。
 芳しい愛液は、竜児の太股やハーフパンツにも滴っており、亜美のワンピースのスカート部分は、どろどろだった。

「ワンピース、脱がすぞ」

75名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 01:19:16 ID:33TlDY1M
C
76大潮の夜に 38/81:2009/12/02(水) 01:20:14 ID:SDh3BMay
「う、う〜ん」

 快楽にあてられて、ぐったりとしている亜美の身体から、黒いワンピースを抜き取る。身に纏っていた唯一の衣類を
取り去られた亜美の肢体が、窓辺から差し込む月光で青白く輝いていた。

「俺も脱がなきゃ、不公平だよな…」

 竜児も、Tシャツを脱ぎ、ハーフパンツとブリーフをずり下ろした。
 股間を覆っていた布地の戒めが解かれた竜児のペニスは、雄々しく勃起し、先端からは、透明なカウパー氏腺液を
しみ出させている。

「亜美、大丈夫か?」

 絶頂に達した余韻からか、亜美は焦点の定まらない目で、ソファーにもたれ掛かり、ぼんやりと竜児を見ている。

「う、うん。大丈夫…。でも、前戯だけでいっちゃった…」

 タオルを用意してなかったことを今になって気付き、竜児は柄にもなく小さく舌打ちしたが、ソファーに広げたシーツ
で、愛液が付着した亜美の股間と自分の右手を軽く拭った。

「な、なんか…、あそこを拭かれているだけでも気持ちいいのぉ…」

 目を潤ませて、切なそうにため息を吐きながら、亜美は竜児の為すがままである。

「少し休むか?」

 一応は訊いてみた。だが、亜美は、頬を弛緩させた淫靡とも表現出来そうな笑みを浮かべて、首を左右に振った。

「う、ううん…、平気よ、このくらい」

 亜美は、一回目のアクメでかなり消耗したような印象だったが、この程度のことで彼女は参らない。むしろ、セックスに
対して、より積極的になりさえする。事実、二週間前の彼女は、何度絶頂に達しても、竜児を激しく求めてきたのだ。

「でもぉ…、亜美ちゃん、ちょっと疲れちゃったのも事実…」

 亜美の弛緩した笑みが微かに揺らめいた。
 双眸が細められ、口元が微かに開いている。よく言えば悪戯そうな、有り体に言えば、竜児にはお馴染みの性悪
笑顔だった。

「だったら、少し休んだ方がいい。夜は長いんだ」

 その提案を、一笑に付すかのように、亜美は鼻先であしらった。

「休んでなんかいられないわ。あたしは、今夜は竜児と徹底的にエッチしたいの。休むと、そのテンションが下がっちゃ
うのよ。だからぁ〜」

 そう言って、亜美はピンク色の可愛らしい舌先で、下唇を、ぺろっと潤した。

「じゃ、ど、どうしたいんだよ?」

77大潮の夜に 39/81:2009/12/02(水) 01:21:14 ID:SDh3BMay
 亜美が所望することは、竜児にも薄々は分かっていた。

「亜美ちゃんのエッチなテンションを下げずに、亜美ちゃんの体力を回復出来て、それでいて竜児も気持ちよくなれる
方法があるじゃない?」

 言い終わらないうちに、亜美は白魚のような指を竜児の勃起したペニスに添えてきた。

「お、お前、フェラか?!」

 亜美が悪戯っぽい笑みを浮かべている。

「そうよぉ。ここをこんなにカチカチにして、溜まったもんを出さないと身体に悪いでしょ? それに、竜児のミルクを
飲めば、亜美ちゃんも元気になれそうだしぃ」

「お、お前、あんなもん、旨くねぇだろ?」

「あら、生卵みたいでオツなもんよぉ。それよりか、あんただって亜美ちゃんのお汁とか啜ってるじゃん。それこそ、
あんなもの、よく啜れるわね」

「お、男と女じゃ、味覚が、ち、違うんだろ?」

 たしかに亜美の愛液だって旨いものではない。しかし、雄としての本能なのだろう。竜児も、衝動的に、亜美の陰部
に顔を埋め、滴る汁を啜ることは少なからずあった。

「そうかも知れないわね。まぁ、ここまで来て無粋な詮索は野暮ってもんだわ…」

 亜美は、竜児の股間に小作りな面相を近づけると、猛々しく屹立している竜児のペニスの先端を咥え込んだ。
そのまま、いつものように、ソフトクリームを舐め回すようなつもりで、口に含んだ竜児の亀頭に舌を這わせ、軽く歯を
当ててきた。

「うっ! 毎度のことだけど、お、お前のフェラ、き、効くぜ…」

 そのコメントが嬉しかったのか、亜美は竜児のペニスを咥えたまま、色っぽく、「うふ…」と呟いた。
 そして、これもいつものように、竜児の陰嚢と、ペニスの棹の部分を、心持ち強く、ちょっとばかり加虐するつもりで、
揉んでくる。

「どふぉ? きもひ、ひいでしょ? あんふぁ、いふぁいくらひのほふが、よろこふからぁ」

 もごもごと言いながらも、亜美は竜児への愛撫を止めない。
 いつにも増して、亜美の愛撫は変幻自在だった。亀頭を舐め回すかと思えば、舌先を棹の部分にも這わせたり、軽く噛んだりした挙句、すっぽりと亀頭を口に含み、亜美自らが首を前後に動かし、それから不意に亀頭の先端を強く
啜ったりするのだ。

「うへ、い、いつになく、きょ、強烈だぜ。お前のフェラは…」

 亜美はニヤリと意地悪そうに相好を崩すと、竜児の亀頭の右側を強く吸い、反対側を白磁のように白く繊細な指先で、
擦るようにして弄んだ。

「うっ! なんか、びりっ、っときた」

78大潮の夜に 40/81:2009/12/02(水) 01:22:06 ID:SDh3BMay
 竜児のペニスが一段と大きく怒張し、先端から分泌されるカウパー氏腺液が顕著になってきた。その苦い汁を美味し
そうに舐め取ってから、亜美は再び、竜児のペニスをすっぽりと咥え込み、歯を軽く当てながら、強く吸引した。

「う、うわぁ! げ、限界だぁ!!」

 絶叫とともに竜児は身を震わせ、竜児の分身は亜美の口腔でドクドクと脈動しながら、濃厚な精液を吐き出した。

「ふ、ふぐっ…」

 咳き込むような声を一瞬発したが、亜美は気丈にも口中にほとばしった奔流を喉を鳴らして飲み込んだ。
 更には、未だ、痙攣するように脈動している竜児の亀頭を慈しむように舐め、軽く啜ってフィニッシュとした。

「う〜ん、一番しぼり、ごちそうさまぁ」

 これもいつものように、口元から垂れそうになった竜児の精液を手の甲で受け、それも旨そうに舐め取ると、亜美は
満足して、にっこりと笑った。

「そ、そりゃ、お粗末様…」

 本日第一回目の射精だというのに、精力の全てを放出させられたような倦怠感を覚え、竜児は、ソファーにもたれて
一息ついた。

「うん、濃くて美味しかったよ。やっぱ、フェラすんなら一発目に限るねぇ」

 亜美は未だに舌なめずりして、口の回りに付いた竜児の精液を味わっている。
 男の竜児には信じられないことだが、女の亜美にとって、竜児の精液は美味なるものであるらしい。
 その亜美が再び竜児の股間に屈み込み、未だに勃起している竜児のペニスを、ぱっくりと咥えた。

「うわぁ、お、お前、またフェラすんのか?!」

「違うわよぉ~、あんたのおちんちんのメンテナンス。さっき濃いのを出しちゃったばっかだから、これからすぐに亜美
ちゃんのお腹の中で暴れさせるのはかわいそうじゃん…」

 そう言いながらも亜美は、竜児の亀頭を柔らかな口唇で優しく包み込み、ピンク色の舌先でそれをまさぐっている。

「お、おぅ、なんか、いい感じだ…」

 同じフェラでも、先ほどのものが炎のように激しかったとすると、今の愛撫は、春のそよ風のように優しく暖かい。

「でひょう? あみひゃん、おちんちんのめんてなんふ、うまふなったんだから」

 亜美による献身的な愛撫によって、竜児のペニスは、射精前の大きさと固さを取り戻しつつあった。だが、自分だけ
気持よくなっているのが、亜美に対して申し訳なかった。

「なぁ、亜美。ちょと、いいかなぁ…」

 呼び止められた亜美は、ソフトなフェラを中断して、竜児の表情を窺った。

「ど、どうしたのよ、急に…」

79大潮の夜に 41/81:2009/12/02(水) 01:23:04 ID:SDh3BMay
「い、いやさぁ…、これじゃ、俺ばっかが気持よくなるだけで、お前はつまらねぇと思ってさ。だから、お前が俺のを
メンテナンスするだけじゃなくて、俺もお前のをメンテナンスしてやりたいんだよ」

 亜美が、頬を上気させて妖艶な笑みを浮かべている。

「つまり、あんたは亜美ちゃんの大事なあそこを舐めたいって言うのね?」

「お、おぅ…。お前さえよければ、俺にもお前をメンテナンスさせてくれ」

 亜美は竜児のペニスを、竜児は亜美の秘所を、それぞれ舐め合うことで、互いの存在を確かめ、気持ちを高めたい
のだ。いわゆる『シックス・ナイン』である。

「ふふっ、朴念仁のあんたにしちゃ、殊勝な心掛けじゃない。いいわよ、あんたは、そこに仰向けになってよ。
あたしは、そのあんたの上に乗っかるから」

 言われるままに竜児はソファーに横たわった。その仰向けの竜児に、亜美が陰部を竜児の顔に向けて、うつ伏せで
覆い被さってきた。

「でも、優しく舐めるだけよ。さっきみたいに指を入れるのは絶対禁止。あんなことされたら、亜美ちゃん、またおかしく
なっちゃう…」

 じくじくと愛液を滴らせている亜美の陰部は、むっと息が詰まるほど、女の匂いで芳しかった。
 竜児は、滴り落ちる甘美な雫を舌先で受けながら、本能に誘われるように、そっと亜美のクリトリスに口づけした。

「うっ!」

 竜児の亀頭を口に含んでいた亜美が、くぐもった声とともに背筋を硬直させた。女体で最も敏感な部分は伊達では
ない。
 竜児は、固く勃起したクリトリスの包皮を舌先で剥くようにして、亜美に歓喜の嬌声を上げさせると、その舌先をクリ
トリスから陰裂へと這わせていく。その竜児の舌先には、ぬるぬるして、しょっぱくて、ちょっとアンモニア臭い、亜美の
味が感じられた。字面で表現すると、やはり旨そうな代物ではない。それでも敢えて啜りたくなるのは、雄としての本能
の性なのだろう。

『性欲が薄いったって、結局、俺も男なんだな…』

 竜児は、自嘲するかのように苦笑すると、目の前でぷっくりと盛り上がっている大陰唇の左右を軽く引っ張った。

「あぅ、ゆ、指入れるのは、反則だって言ったじゃない!!」

 膣に挿入されると勘違いした亜美が、口に含んでいた竜児のペニスを吐き出して、抗議の叫びを上げてきた。

「い、いや、指なんか入れねぇよ。ただ…」

「ただ? 何よ。もう、変に勿体をつけない! これも、あんたの悪い癖なんだからぁ」

「お、おぅ、気ぃ悪くしたら済まねぇ。お前のここがさ、あんまりにも綺麗だから、もっと見たくて、もっと、く、口づけしたく
て…」

 最後の方は、気恥ずかしさからか、語尾がかすれて不明瞭になってしまったが、その方が却って竜児の本心を亜美
に伝えることが出来たのだろう。亜美もまた、恥ずかしそうに、
80大潮の夜に 42/81:2009/12/02(水) 01:24:23 ID:SDh3BMay

「ばか…」

とだけ、微かに呟いた。
 それを亜美の許し受け取った竜児は、左右に広げた亜美の陰裂にしばし見入った。ベージュ色の大陰唇の内側に
は、桜色の襞が、竜児の愛撫を待ち焦がれるかのように、ふるふると艶かしく震え、芳しい愛液を滴らせている。

「綺麗だ、本当に、綺麗だよ…」

「う、うふぅ〜ん」

 照れなのか、竜児への奉仕を中断したくなかったのか、亜美は、竜児のペニスを咥えたまま、くぐもった生返事をした。
 そんな、亜美が愛おしくて、竜児は、震える襞に、そっと接吻し、クリトリスの根本から陰裂の終端まで、ゆっくりと舐め
上げた。

「あ、あふぅ! いひ、きもひ、いひよほぉ〜」

 更に、二度、三度、亜美の陰裂を舌先で探り、固く突き出たクリトリスを啜った。

「あ、あひゅいぃ! そ、そんひゃに、す、すっひゃ、らめぇ~」

 亜美の歓喜の叫びとともに、膣口から滴る愛液が顕著になってきた。亜美のメンテナンスはこれで十分だろう。だが、
竜児は、ちょっとばかり、悪戯をしてやりたくなった。

「指は入れるな、って約束だったよな?」

 亜美にも聞こえるように、心持ち声を大きくして呟いた。それに対する返事はなかったが、竜児は構わず、舌先を
尖らせて、亜美の膣口にあてがい、そのまま中へと侵入させた。

「あ、あああぅっ! ゆ、指じゃないけどぉ、舌を入れるなんて反則だよぉ〜」

 亜美は、身をよじり、尻を振って抗議したが、それが却って色っぽい。竜児は、その亜美の尻を両手で押さえて、
舌先を更に奥へと押し込んだ。
 亜美の膣内は、再び興奮状態にあるのか、肉の壁や襞が腫れたように熱を持ち、竜児の舌を締め付けてくる。

「ばかぁ! そ、そんなことしたら、あ、亜美ちゃん、い、いっちゃうよぉ!!」

 亜美の訴えは、もはや涙声だ。これ以上やったら、亜美は本当にいってしまうだろう。それでは、メンテナンスの趣旨
に反する。竜児は、挿入していた舌先をゆっくりと引き抜いて、亜美のクンニを締めくくった。

「うっ! い、いてててっ!!」

 やれやれと思い、油断したのがいけなかった。その隙を突いて、亜美が竜児の亀頭を軽く噛み、更には指先で一番
敏感な亀頭の上面を強く弾いていた。

「も、もう、この変態ぃ! 指を入れちゃいけないのに、舌なんか入れやがってぇ!!」

 亜美が、身体を捻じ曲げて、柳眉を逆立てた面相を竜児に向けている。かんかんに怒っているかのようだが、彼女
の内心はそうでもないことを、竜児は分かっていた。

81大潮の夜に 43/81:2009/12/02(水) 01:25:11 ID:SDh3BMay
「ま、まぁ、正直やり過ぎたことは確かだな。でも、これで、俺も、お前もメンテナンスは完了、本番の準備は万端だろ?」

「万端って…。もう、あとちょっとで、本当にいっちゃう寸前! 本当にもう~!」

 膨れっ面をしていたが、本心では、気持よかったはずなのだ。案外、アクメ寸前の寸止め状態であることが、亜美の
怒りの原因の一つなのかも知れない。

「まぁ、そんなに怒るな。それよか、テンション高いうちに、本番といこうぜ」

 竜児のもっともな指摘に、亜美は、膨れっ面をリセットするかのように大きくため息を吐いた。代わりに、ちょっと
意地悪そうな笑みを肩越しに竜児へ向けると、その竜児の身体の上で、自身の身体の向きを百八十度変え、
固く屹立する竜児のペニスを跨るようにして、ソファーの上に膝立ちになった。

「あ、あたしが、う、上になる…」

 そう言いながら、亜美は竜児の極太ペニスを左手で握り、その亀頭を陰裂に擦り付けた。
 ぬるり、として、熱く火照った感触が竜児の敏感な部分に伝わってくる。それは、亜美も同様であるらしい。

「あぅ! いい、いいわぁ~。あんたのおちんちん、昨夜よりも、おっきくてぇ、熱くてぇ、固くてぇ、も、もう、最高ぉ~」

 髪を振り乱し、顔をのけぞらせた亜美は、そのまま腰を落として、竜児のペニスを飲み込んでいった。
 亜美の異常な性的興奮が伝染したのだろうか。竜児のペニスもまた、かつてないほどに太くて固くなっている。
その固く反り返った肉棒が、軟弱な侵入物は押し潰さんとばかりに締め付けてくる肉襞を掻き分けて、亜美の秘所を、
ずぶすぶと貫いていった。

「うはっ、中は熱くて、ど、どろどろだ」

 芳しい愛液で十分に潤滑されてはいたが、亜美の膣内は腫れぼったく熱を持っていた。襞や疣のような突起が
妖しく蠕動して竜児のペニスを誘いながらも、尋常ではない圧力で締め付けてくる。
 勃起不全のやわなペニスでは侵入出来ない堅固な砦。しかしながら、迫り来る肉襞の圧迫に抗うことが出来る者に
は、無上の快楽をもたらす、秘密の花園でもあった。
 その秘密の花園で締め付けられれば締め付けられるほど、竜児のペニスは、肉の花弁を押し退けるように、更に
大きく、固く、熱くなっていく。

「あ、あうううううぅ!! おっきぃ! あんたのおちんちん、これまでにないくらいおっきぃよぉ~」

 断末魔のような絶叫とともに亜美は身震いしたが、なおも腰を沈めて、竜児のペニスを自身の膣内へ完全に挿入した。

「だ、大丈夫か?」

 亜美は、それには答えず、眉をひそめ、歯を食いしばるような苦悶の表情で、もう完全に飲み込んでいるはずの
竜児のペニスを、胎内のより奥深くへ誘うが如く、力を込めて自身の股間を竜児のそれに押し付けてきた。

「うわっ! こ、こいつぁ、き、効くぜ」

 挿入されている竜児のペニスにも、亜美の膣がゴムのように引き伸ばされたのが感じられた。固く大きく膨れ上がっ
た亀頭は、亜美の子宮を激しく突き上げている。

「き、気持いいでしょ? あ、亜美ちゃんも、こ、こんなに気持ちいいのは、は、初めて…。なんか、今夜のあたしたちっ
て、変…。あたしは、い、異常に感じ易くなってるし、あんたのおちんちんだって、ものすごく、おっきくなってる…」
82名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 01:25:34 ID:D2i6LLeE
支援
83大潮の夜に 44/81:2009/12/02(水) 01:26:19 ID:SDh3BMay

 息は苦しげであったが、亜美は健気にも微かな笑みを浮かべていた。

「お、おぅ、お前の中って、熱くて、腫れているみたいで、締め付けがマジできつい…。俺は、気持いいけどよ、お前、
本当は、ものすごく痛いんじゃねぇのか?」

「な、なんか、痛みと紙一重の快感って言う感じ…。亜美ちゃんのあそこ、竜児のおちんちんでお腹一杯」

「じゃ、じゃあ、あんまり無理すんな。このまま、お前が壊れちまったら大変だ」

 竜児なりの気遣いに、亜美は一瞬、呆然として、腰の動きを止めた。だが、すぐに、相貌を細め、口元をちょっと歪に
半開きにした例の性悪笑顔で竜児の向き直った。

「あんたって、バカ? 何度も言ってるけどぉ、女のあそこって、すっごく伸びるんだよね。だから、こ、このくらいどうって
こたぁ、な、ないわよ…」

「そ、そうか? そ、それにしちゃ、な、なんか苦しそうなんだが…」

 亜美は余裕でいるようだったが、語尾の震えや、微かに引きつった表情で、それが彼女のやせ我慢であることが、
竜児にも分かった。
 だが、亜美は、そんな竜児の心配をよそに、あくまでも強気だった。

「だいたいが、女ってのは、子供を産むんだよ。三キロ以上の肉の塊が、今、あんたのおちんちんを飲み込んでいる
亜美ちゃんの膣を通るんだ。それを考えれば、ちょっとおっき過ぎる程度の、あんたのおちんちんなんか、平気
よぉ!」

 そう言って、無理に作り上げた性悪笑顔を一瞬引き締めると、亜美は、やにわに腰を上げ、その腰を勢いよく落とした。

「あああああああああ~っ!」

 亜美の絶叫がリビングに響き渡り、再び亜美の胎内がゴムのように変形する感触が竜児の亀頭に伝わってきた。

「お、おい! 本当は痛いんじゃねぇのか? だったら無茶はするな!」

 だが、亜美は息を弾ませながらも、自ら両の乳房を揉みしだき、竜児に妖艶な笑みを投げ掛けた。

「痛みと紙一重だけど、苦しくないわよ。ただ、ものすごく気持ちがよくって、亜美ちゃんのあそこが、じんじん、痺れる
くらいに感じちゃってる…。それで、あたし、もう、何だか…」

 亜美の言葉に見栄や強がりや偽りはなさそうだ。亜美は先ほどまでひそめていた眉の緊張をちょっと解き、頬を弛緩
させ、今にも意識を失いそうなほど朦朧としている。

「い、いきそうなのか?」

 心配そうな竜児の問い掛けに、亜美は、だるそうに瞑目したまま、首を左右に振った。

「う、ううん…、ま、まだ、大丈夫…。普段だったら、これでアクメなんだろうけど、きょ、今日は違うのぉ。も、もう、十分に
気持ちいいんだけど、これよりももの凄い快感が、何だか、ど〜んと来るみたいな気がする…」

 亜美は、時折、「うっ!」と顔をしかめながらも、竜児に跨がったまま、華奢な体を上下させ、極太の竜児のペニスで、
84名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 01:27:41 ID:A+iVhnhv
私怨
85大潮の夜に 45/81:2009/12/02(水) 01:27:52 ID:SDh3BMay
自身の秘所を貫き、襲い来る快楽に陶然となっていた。

「はぁ、はぁ、はぁ…、き、気持ちいい…、気持ちいいよぉ!!」

 いつもなら絶頂に達するほどの快楽が入力されているはずなのに、亜美は上下動を止めようとしない。
 その快楽故か、上下運動の激しさからか、亜美の呼吸が一段と苦しげになった。

「お、おぃ、無茶するな! も、もう、お前も限界なんだろ?!」

 尋常ではない亜美の狂態に、竜児はたまらず亜美の尻を両手で押さえた。だが、亜美は、なおも、二度、三度と腰を
上下させて、竜児のペニスで自身の胎内を貫くと、そのまま前のめりに倒れて、竜児の胸板にのし掛かった。

「亜美!」

 事態の異常さに驚いている竜児をよそに、亜美は頬を弛めた淫靡な笑みを浮かべている。

「だ、大丈夫…。あ、亜美ちゃん、すっごく気持ちいい〜」

 美乳を竜児の胸板に預けたまま、それでも亜美は腰を上下させて、なおも自ら積極的に快楽を貪っていた。

「お、お前…、ふらふらじゃねぇか」

 心配そうな竜児に、亜美はとろんとした焦点の合ってないような双眸を向けて微笑した。

「う、うん…。あ、亜美ちゃん、どんどん気持ちよくなっていくんだけど、未だ、アクメじゃないの…。もう、疲れてふらふら
なのに、もっともっと気持ちよくなりたい…」

「そ、そうは言ってもよ…」

 苦悶とも歓喜とも判じがたい風情で、竜児のペニスを飲み込んだまま、なおも腰を上下に動かし続ける亜美の体調
が気掛かりだった。

「う…ん、亜美ちゃん、体力は限界っぽい。でも、もっと、もっと気持ちよくなりたいの…。だから…」

「分かった、もう、それ以上、無理をするな。もう、お前は自分から動かなくていい。後は、俺がお前を気持ちよくして
やるぜ」

 その一言に、亜美は軽くため息をつくようにして、微かに苦笑した。

「あ、あたしだけが気持ちよくなるんじゃないでしょ? あんたも気持ちよくなるのよ。あんたにも分かるはずよ。亜美
ちゃんのあそこが、いつも以上に熱くて、きつくて、ぬるぬるしているのが…。その亜美ちゃんの中を突いて、突いて、
突きまくって、あんたも気持よくなるんだわ…」

 苦しげな微笑には、儚げな美しさがある。竜児は、もたれ掛かっていた亜美を抱えながら、二人が結合したまま上体
を起こし、一旦は対面座位で向き合った。

「こ、このまま、やるの?」

 竜児は、首をゆっくりと左右に振った。

86大潮の夜に 46/81:2009/12/02(水) 01:28:49 ID:SDh3BMay
「この体位も、結局は、上になっているお前の負担が大きいんだ。だから、さっきの俺と入れ違いに、お前が横になっ
た方がいいだろう」

 竜児は、亜美の身体を抱きかかえるようにして支え、そっと、ソファーの上に横たえた。

「さ、さっきとは、逆ね…」

「まぁな…。肉体労働は男の仕事なのさ。それはそうと、動くけど、大丈夫か?」

 亜美は、瞑目し、上気した頬を微かに揺らして頷いた。
 青白い月光で仄かに浮かび上がる亜美の姿は、脆く、儚げではあったが、それが掛け値なしの美しさを漂わせていた。

「じゃぁ、いくぜ…」

 正常位で亜美と向き合った竜児は、挿入したままだったペニスを引き抜く寸前まで後退させ、それを再び亜美の膣
の奥深くへと突き込んだ。

「あぅ! い、いい、いいわぁ! や、やっぱ、お、男の力で突いてもらった方が、き、気持ちいい…」

 亜美は双眸をとろんと半開きにしたまま、右手の人差し指と中指を半開きの口の下顎に引っ掛けるようにして、その
指をしゃぶりながら、上体をくねくねと色っぽく揺らしている。
 口元からは涎が垂れ放題で、それがソファーに敷いたシーツを濡らしていた。

「亜美、すげえぞ、いつもよりも、ぐちゅぐちゅの、ぬるぬるだ」

 愛液の分泌も、いつになく激しかった。それは絶えることなく、とろとろと湧き出てきて、竜児のペニスが引き抜かれる
寸前まで後退する度に、飛び散るように外へと溢れ出てくる。

「な、何でだろう…。も、もう、亜美ちゃん、わけ分かんないのに、もっと、もっと、気持ちよくなっていくような気がするの」

「そ、それは俺も同じだ。もう、身体中の血が、どくどく、もの凄く脈打って、もの凄く気持ちいいってのに、未だ、
射精できねぇんだ」

 今こうして行われている交合が、二人にとって物足りないわけではない。それどころか、竜児も亜美も、先ほどから
爆発寸前の強烈な快感に襲われ続けている。二人とも、前戯では軽く一回いってしまった。にもかかわらず、
本番では、こんなに激しく求め合っても、未だに限界が来ていないのが奇妙だった。

「あ、亜美、体位を変えよう。ちょ、ちょっと、どぎついことをやって、一気にけりをつけようぜ」

 性的な欲望は未だ限界知らずの二人だったが、筋力的には亜美は先ほど限界に達した。入れ替わりに竜児が
頑張っているが、このままでは、アクメに達する前に、竜児の全身の筋肉も悲鳴を上げるに違いない。

「う、うん、あ、あんたに任せるよぉ〜」

 竜児に突かれるたびに、ぶるぶると美乳を揺らして喘いでいた亜美が、苦しそうな息の下から、答えてきた。
 それを待ってか、竜児は、正常位で結合したまま亜美を支え、ソファーに敷いてあるシーツごと抱えて、床上に転が
り込んだ。
 床上で、改めて亜美とは正常位の状態であることを確かめると、竜児は自身の胸を上に反らし、両手を後ろ手に
ついて踏ん張った。反動で、亜美の膣に挿入されている竜児のペニスが更に深く亜美の胎内へと押し込まれ、膣壁
の上端をこじ開けるように、その肉襞を圧迫した。
87大潮の夜に 47/81:2009/12/02(水) 01:29:35 ID:SDh3BMay

「ああっ!! あ、亜美ちゃんのあそこのお肉が、竜児のおちんちんで、ぎゅーって、上に引っ張られてるよぉ~」

「お、俺もだ。俺のペニスも、お前の膣に押さえられて、ひ、ひん曲げられてる」

 下手したら、ペニスがもげてしまうんじゃないかという痛みと、その痛みを打ち消すほどの快感が竜児の下腹部から
発せられていた。
 その痛みと快楽の板挟みを押して、竜児はその体勢のまま、二度、三度と自身の極太ペニスを亜美の膣内で往復
させた。

「あぅ! い、いやぁん! あ、亜美ちゃんのあそこがぁ、ぐにゅ~ぅ、っていって、滅茶苦茶になってるぅ~」

「お、俺もだ。お前の膣の襞が、俺のに纏わりついて、と、とにかく気持ちがいいぜ…」

 亜美の膣内が更に熱を帯び、じわじわときつく締まって竜児の亀頭を翻弄する。

「そ、そんなこと…、あ、あたしだって、りゅ、竜児のおちんちん、その先っぽが、もの凄くおっきくて、か、固くてぇ、あ、
熱くてぇ、あ、亜美ちゃんのお腹の中をかき回してるぅ」

 肉体の変化は竜児にも生じているらしい。
 理系の竜児は、自然法則に反するような超自然的なものは信じない。だが、今宵に限っては、竜児と亜美に、何らか
の外的な力が作用しているようにも思えてきた。

「と、とにかく…、俺も、お前と同じように、なんか、普段と感じが違うんだ。も、もう、脳味噌がおかしくなりそうなほど
気持ちがいいのに、未だ、射精までちょっとある感じだ。お、お前は、いけそうか?」

 亜美は、涙目でかぶりを左右に振っている。

「あ、あと、ちょ、ちょっとぉ~」

 更なる強烈な刺激が、二人には必要であるらしい。
 そう判断した竜児は、亜美と結合したまま、互いの脚を交差させ、その状態で、固いペニスを往復させた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! こ、壊れるぅ、亜美ちゃんのあそこが、き、気持よすぎて、こ、壊れちゃうよぉ!!」

 いわゆる『松葉崩し』。内装業のアルバイト最終日に、作業現場だったマンションの一室で、人目を忍んで亜美と
やった体位である。その時、亜美は乱れに乱れ、そのまま身体を更に捻って、バックで二、三回突いただけで昇天し
てしまった。その、気絶した亜美に、竜児も夥しい量の射精をしたものだ。
 以来、松葉崩しからバックに至る体位は、二人にとって、禁忌に近い必殺技となっている。
 竜児は、松葉崩しで三回ほど亜美の秘所を突くと、挿入したまま、身体を更に九十度捻った。

「うっ! ふ、深いよぉ~」

 バックになって、この日で一番深いところまで突かれた亜美が、おねだりするように腰を振っている。その色っぽい
仕草が竜児にはたまらない。最後の力を振り絞るようにして、竜児は、極太ペニスを、粘液が滴る亜美の秘所へと叩き
込んだ。

「も、もう、一回、松葉崩しだ」

 亜美の身体が更にひねり込まれた。先ほどの松葉崩しとは違い、亜美の膣の右側の肉襞が、竜児の極太ペニスで
88大潮の夜に 48/81:2009/12/02(水) 01:30:25 ID:SDh3BMay
引き攣るように擦過されている。

「も、もう、亜美ちゃんのお腹の中、ぐちょぐちょ…」

 その言葉とは裏腹に、亜美の膣が痙攣するように収縮し始めた。フィニッシュが近い。

「あ、亜美、俺も、そろそろやばそうだ…。締めは、お前の顔を見ながらいきてぇ」

 亜美が、「う、うん…」と、恥ずかしそうに頷いたのを認めて、竜児は、亜美の身体を捻って、正常位になった。その
正常位に戻る際の、ペニスでの擦過が効いたのか、亜美は一瞬目を剥き、酸欠の金魚のように口を大きく開いている。
 竜児も限界間近だった。股間直下の前立腺からペニスの先端にかけて、マグマのようにほとばしりそうになる激情を
必死に抑えつけながら、亜美の膣を突いて、突いて、突きまくった。
 そして、クライマックスは、唐突だった。

「あぅ!!」

 面相を歪めて、竜児のペニスの突撃に耐えていた亜美は、双眸を大きく見開きながら、一声、短く、悲鳴を発した。
 それが号令であったかのように、亜美の全身がぶるぶると震え、膣の肉襞が、うねうねと不規則に激しく蠕動し、咥え
込んでいる竜児のペニスをしごくように圧迫する。

「うっ、こ、こいつぁ、たまんねぇ!」

 次の瞬間、竜児は本能的に腰を亜美へと突き出し、下半身を震わせて、純白の熱きパトスを、亜美の膣の奥深くへ
放出していた。
 どくどく、と、かなりの勢いで放出されたそれは、竜児のペニスを一杯に頬張っている亜美の膣内の隙間という隙間
を瞬く間に満たしていく。

「あ、熱い、あそこが熱いよぉ~」

 かろうじて意識を失わなかった亜美が、焦点の定まらない双眸を天井に向けて呟いた。
 それでも、快楽を求め続ける本能故なのか、なおも腰を揺すって、竜児のペニスを膣の奥深くへ誘おうとしている。

「お前のあそこ、痙攣しているみたいに震えているぞ。大丈夫か?」

 心配そうな竜児の問い掛けに、亜美は朦朧としながらも応答した。

「だ、大丈夫。いつもより、凄いことになってるけど、いつぞやの膣痙攣とかじゃないから…。亜美ちゃんのあそこは、
気持よくって悶えてるだけ。だから、あんたさえよかったら、もうちょっと、このままで、入れたままで、あたしを抱いて…」

「亜美…」

 竜児と亜美は、互いに結びついたまま、しっかりと抱き合った。二人の息遣いを別にすれば、聞こえてくるのは
微かな潮騒だけだった。
 寄せては返す波の音に耳を傾けていると、凪のように心が安らいでくる。そう言えば、子宮内の胎児には、母親の
心音が潮騒のように聞こえているといった話を何かの文献で読んだことがあった。

「あ…」

 竜児に抱かれながら窓辺からの月光に視線を彷徨わせた亜美が、唐突に何かを言いかけた。

89大潮の夜に 49/81:2009/12/02(水) 01:31:23 ID:SDh3BMay
「どうした?」

「う、うん…。月の光を見て、何か分かったような気がしたの…。さっきのエッチが何であんなに激しかったのかって…」

「月の光がどうかしたのか? 確かに、今夜の月光は、だいぶ明るいな」

「こっからじゃ月その物は見えないけど、きっと今夜は満月でしょうね」

「ああ、そんな感じだな。満月か、それに近い状態でなきゃ、こんなにも明るくならねぇ…」

 『月』。亜美は、彼女と竜児は月のような存在だとかねがね主張してきた。それは、上辺は華やかでも、内面は地味
で堅実だということを控えめに表現したものであり、更には、竜児と亜美は同じタイプの人間であることの暗喩でもあった。

「月の満ち欠けって、人間の体調やメンタリティに影響があるっていうのは本当かも知れない。狼男じゃないけど、満月
の夜、人は普段とは違ってくる。あたしたちのセックスが激しかったのも、今夜が満月だったのが関係してるかも知れな
いわね」

「どうなんだろうなぁ…。お前は俺たち二人を月に例えるのが好きだし、それについては俺も異論はねぇけど…。月の
満ち欠けと人間の情緒や体調との関係は、しっかりとした科学的な根拠がないから、正直、何とも言えねぇな」

 理系らしいドライなコメントに雰囲気を害され、亜美は頬を不機嫌そうに膨らませた。だが、こうした馬鹿正直さが
竜児の持ち前であることを思い出したのか、軽く嘆息して、苦笑した。

「本当に、あんたって理詰めで融通が利かないんだからぁ。でも、まぁいいわ…」

「バカで、頑固で、ムードがねぇのは、一応は自覚してるよ」

 不覚にも拗ねたような表情だったのだろう。竜児には珍しい、そんな子供っぽい仕草が可笑しかったのか、それとも
可愛らしいと思ったのか、亜美は、微かに笑っている。

「まぁ、いいわ…。理系のあんたには、自然法則に反するようなものは受けつけないかも知れないけど、今夜のあたし
たちのセックスが、いつもと違うのは事実なんだわ。だって、ほら…」

 亜美は、腰を艶かしく左右に動かした。

「お、おぅ、そんなに動かすと、ま、また、出しちまう」

 竜児のペニスは、大量の精液を吐き出したばかりだというのに、萎えることなく亜美の秘所を貫いたままであった。

「あんたのおちんちん、こんなに元気…。そして、あたしのあそこも、まだまだ竜児のミルクを飲みたがっているのよ」

 そう言って、亜美は、また腰を妖しく振った。亜美の膣は、竜児の極太ペニスを咥え込んだまま、ぬるぬると蠕動して
いる。

「わ、分かったよ…。俺も、お前も、今夜は特別だってことが…」

「うふ…。そうよ、あたしたちは、何かの外的なもので、絶倫になっちゃってる感じかしらね…。その外的なものは今夜
が満月だっていうこと、あと一つは…」

「何だよ、満月だけじゃなかったのかよ」
90大潮の夜に 50/81:2009/12/02(水) 01:33:04 ID:SDh3BMay

「人の話の腰を折らない! まぁ、もう一つは、実際に確かめてみてもいいんじゃないかしら…。どう?」

「ど、どう、って…」

「今夜が満月であることと関係があることなんだけど、そのことが、一番、あたしたちに影響したのかも知れない…」

 思わせぶりな亜美の語り口が気になって、竜児はじっと彼女の顔に見入ってしまった。

「あらやだ…、あたしの顔をまじまじと見るなんて…」

「い、いやぁ…、そ、そんな言い方されたら、お前の言う“もう一つ”ってのが、どうしても気になってくるからさ…」

「うふふ…、人並み以上に知的好奇心がある竜児なら、そうくると思った。まぁ、それが何なのか、知りたいでしょ? 
だったら、百聞は一見にしかずよね?」

 薄闇の中で、亜美の瞳が妖艶に輝いていた。先ほどのアクメでの消耗が回復し、性欲が漲ってきたのだろう。

「そ、そりゃぁ、見たいが、エッチの最中だぞ…」

 亜美は、エッチモードになったら、容易なことでは中断しない。飽くことなく竜児を求め、自らも竜児に奉仕するように、
その身をくねらすのだ。

「でも、大事なことなのよ、ちょ、ちょっと惜しいけど、エッチは一時中断。だから、おちんちん抜いていいわ…」

「お、おぅ…。で、でも、おれのが、また固くなってるんだぜ…」

 うふ、と亜美が呟き、頬を淫靡に緩めている。

「あんたも、亜美ちゃんとのエッチが好きなのね…。でも、そっちの方も解決できるから、エッチは一時中断…」

「な、何だか、よく分からねぇが、そうするよ」

 竜児は、言われるままにペニスを亜美の膣から引き抜いた。

「あぅ、おちんちん、気持ちいい…」

 ペニスが膣内を擦過する刺激に亜美は一瞬身震いした。
 竜児のペニスで押し広げられ、一時的だが洞のように、ぽっかりと口を開けた膣口からは、こぽ…、という鈍い音
とともに、亜美の愛液と竜児の精液が流れ出てくる。

「や~ん、せっかくの竜児のザーメン、出てきちゃったぁ~」

「しょうがねぇだろ、俺もお前もあれだけ出したんだ。溢れてくるのは止めようがない」

 それを、竜児はシーツで拭き取ってやる。

「で、お前の言う『もう一つ』ってのは、どうやって確かめるんだ?」

 亜美は、竜児に陰部を拭われて、切なげな吐息をついていたが、気持ちを切り替えるように、物憂げにかぶりを
91名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 01:34:16 ID:33TlDY1M
C
92大潮の夜に 51/81:2009/12/02(水) 01:34:24 ID:SDh3BMay
振って長い髪をなびかせた。

「ビーチへ行きましょ…」

「ビーチ? こんな時間にか?」

 竜児は、リビングの時計を見た。時刻は、間もなく午前零時である。

「そうよ、二人でビーチに行きましょ。このままの格好でね。そうすれば、あたしたちが求めるものが見つかるわ」

「このまま、って、素っ裸でか?!」

 驚く竜児に、亜美は、にっこりと毒のない笑みを向けてきた。

「満月の夜、全裸でビーチに佇むなんて、ロマンチックじゃない? それに、裸でないと、あたしたちが絶倫になった
理由を解明できないわ」

「そ、それは、ビーチでセックスするってことなのか? おい、おい、正気かよ…」

 別荘の前の海岸は、川嶋家のプライベートビーチだし、別荘の周囲に人家はない。それでも、誰かと出食わす
おそれは皆無ではないし、何よりも夜の海は危険だ。それに波打ち際に行くまでに薮蚊の集中攻撃を食らうだろう。

「何よ、そのシケたツラは…。大方、誰かに見られることとか、夜の海は危険とか、薮蚊に刺されるとか、ネガティブな
ことばっか考えていたんでしょ?」

「お、おぅ…」

 竜児の、ちょっとした表情の変化も見逃さない亜美が相手では、分が悪い。

「誰かと出くわしたら、あたしたちの愛の営みでも見せつけてやりましょうよ。それに、いざとなれば、あんたが一睨み
すれば、退散してくれるでしょ。夜の海ったって、波の穏やかな遠浅の砂浜よ。波打ち際付近で、水浴くらいだったら、
何も問題はないでしょうね。それに…」

 亜美は、やおら立ち上がり、リビングに置いてあった竜児のバックパックから虫除けを取り出した。

「薮蚊だったら、これで防げるでしょ?」

 そう言いながら、手にした虫除けを全身にスプレーする。

「ほらぁ、あんたも早く塗りなよ」

 竜児に虫除けスプレーを差し出している亜美の目が爛々と輝いている。有無を言わせず、竜児を何かに引きずり
込むときに特有の目の輝き。その『何か』とは、多くの場合、ガチでのエッチに他ならない。
 竜児は、参りました、とばかりにため息をついて苦笑した。本気モードの亜美を押し止めることなぞ、竜児には不可能
だ。亜美の手から、おとなしく虫除けを受け取り、それを亜美に倣って、全身にスプレーした。

「準備オッケイ? じゃ、行きましょ」

「ま、待てよ、これでも被っていったほうがよくねぇか?」

93大潮の夜に 52/81:2009/12/02(水) 01:35:20 ID:SDh3BMay
 何の屈託も恥じらいもなく、天衣無縫の面持ちで外に出ようとする亜美を、竜児は慌てて呼び止めた。
 そして、先ほどまで床に敷いていたシーツを手に亜美の左に寄り添うと、手にしたシーツを亜美と自身の肩に掛けた。

「こうすれば、多少は薮蚊を防げるかも知れないし、誰かに出くわしても、咄嗟に肌を隠すことが出来るだろう」

 すっぽりと二人を覆うシーツの中で、亜美は、竜児の広い背中に左手を回して、ニヤリとした。

「バカで、頑固で、ムードがないとか言ってる割には、粋な計らいじゃない?」

 竜児も亜美につられるように淡い笑みを浮かべた。

「微妙な誉め言葉だな。だが、嬉しいよ…」

 素足で玄関から外に出た。外はむっとする熱帯夜だが、足裏にはウッドデッキがひんやりと心地よい。
 シーツにくるまり、身を寄せ合った竜児と亜美は、慎重にウッドデッキの階段を下りて行った。

「二人三脚みたいだよね…」

 互いを気遣いながら、二人は、一歩、一歩、波打ち際へと歩んでいった。
 空には雲一つなく、中天に満月が煌々と輝いている。その月光で青白く輝く水面が、大きく広がっていた。

「満潮だったのか…」

 ゆったりとしたうねりを伴った海面は、昼間、竜児が流木を物色した砂浜を飲み込み、ウッドデッキの階段を下りた、
護岸の間近まで迫っていた。

「今夜は大潮だったのね…。新月や満月の頃には、月と太陽と地球とが一直線に並ぶ。それで、満潮の時は、いつも
よりも大きく潮が満ちて来るんだわ」

 竜児は、思わず中天に浮かぶ月と、目の前に迫る海面とを見比べた。

「お前の言っていた、もう一つってのは、この大潮のことなんだな?」

 竜児に寄り添う亜美が微かに微笑んだ。

「そう…、海に棲む生き物たちは、大潮、特に満月の時に産卵するらしいわね。海から生まれた生物の末裔である
あたしたちも、そうした摂理から無縁ではないんだわ…」

「哺乳類と海棲生物じゃ、事情が違うだろ?」

 理系としての本音が、無粋にも出てしまった。それでも亜美は、にこやかな表情のまま、竜児の顔を見上げている。

「そうね…。陸に上がった哺乳類は、母なる海の記憶なんて、もう曖昧なんでしょう。でも、時に、大潮の夜のことを
懐かしむのか、いつもより劣情が激しくなることも考えられなくはないわね」

 亜美は、二人でマントのように羽織っていたシーツから抜け出ると、スレンダーな裸身を露わにした。

「お、おい…」

 戸惑う竜児に、全裸の亜美は妖しく微笑み、かぶりを振って艶やかな髪をなびかせた。
94大潮の夜に 53/81:2009/12/02(水) 01:36:33 ID:SDh3BMay

「理屈じゃないのよ…。何よりも、あたしがあんたを欲している。そして、あんたもあたしのことを欲している。その気持ち
が、押さえ切れないだけ…。今夜が大潮だっていうのも、今まで、激しいエッチをしてきた晩が、どうやら大潮の夜だっ
たらしいことも、本当はどうだっていいんだわ…」

「亜美…」

「今、こうして、あたしたちはここに居る。そして、互いに愛し合っている…」

 亜美は、竜児の肩に掛かっているシーツを跳ね除けて、それを取り除いた。

「お、おい…」

 戸惑い、咎めるような竜児に妖艶な笑みを向けながら、その右手を優しく掴んだ

「行きましょ、あたしたちの海へ…。大潮の夜に、その海で沐浴する…。そして、海に抱かれて、あたしたちは一つにな
るのよ」

「よ、夜の海はやばいって! 何が出てくるか分かったもんじゃねぇ」

 浅瀬だから、まさか鮫とかが襲ってくることはなさそうだが、ミノカサゴとかのヒレに毒がある魚、イモガイ等の猛毒の
矢を放つ貝だって居ないとは限らない。
 だが、亜美は、怖がっている竜児をあやすかのように、微笑んだ。

「大丈夫よ…。このビーチは、あたしが子供の頃から遊んできたところだから。鮫とか、毒のある生き物は見たことがな
いわね。だから、安心して、あたしについてきて…」

 月光に照らされた亜美の面相は母親のような慈愛に満ちて麗しかった。
 亜美が言う『大丈夫』には、科学的な根拠もなければ、理屈も何もない。しかし、理屈抜きで安心感を与える頼もしさ
があった。

「お前…、泰子みたいだな…」

 半ば無意識に発せられた竜児の言葉に、亜美は、双眸を大きく見開いて、にんまりとした。

「あら、ずいぶんと嬉しいことを言ってくれるじゃない。前にも、こんなやりとりがあったような気がするけど、あんたの
母親と同視されるなんて、女冥利に尽きるわね…」

「ま、まぁ、ちょっとだけ、そ、そんな感じがしたんだよ…」

 亜美は、竜児の手を引いた。

「だったら、あたしを信じて…。あたしと一緒に海に行きましょ…」

 麗しい笑みには、抗い難い無言の拘束力が伴っていた。竜児は、亜美に手を引かれ、恐る恐る、寄せ来る波に足を
浸していった。

「意外に暖かいんだな…。それに、透明度が高いから、月の光で底までがはっきりと分かる」

「でしょ? 怖くないわよ。これだけ明るくて、波も穏やかなんですもの。何かが来ても、気配がするわよ」
95大潮の夜に 54/81:2009/12/02(水) 01:37:18 ID:SDh3BMay

「何かって…。そもそも、そんなのが来ちまったらヤバいだろ?」

 未だにビクついている竜児に、亜美は、双眸を半開きにして、口元をちょっと歪めた性悪そうな笑顔を向けてきた。

「まぁ、その時は運命だと思いましょ…」

「おい、おい…、俺たちには未来があるんじゃなかったのか? ここに、この別荘に来たのも、俺たちの未来を切り拓く
弁理士試験の勉強のためだろうが」

 不安気な竜児を落ち着かせるつもりなのか、亜美は、竜児と向かい合い、その頬を優しく撫でた。

「大丈夫…、あたしを信じて。運命って言ったけど、この海で、あんたと結ばれることがあたしの運命。そして、あんたと
一つになることを、この海、子供の頃から慣れ親しんだ、あたしの大好きな海に祝福してもらうの…。その神聖な行為
は、何ものにも、人にも、海に棲む生き物たちにも邪魔させない…。だから、来て…」

 艶然とした笑みを浮かべている亜美の双眸が、月光を受けて褐色の虹彩を際立たせた。きらりと光るその瞳に、
竜児は亜美の決意や強さを垣間見る思いだった。

「強いんだな…、亜美は…」

 呟くような竜児の一言に、亜美は、ちょっと苦笑した。

「あは…、前にも言ったけど、亜美ちゃんは真っ黒で、歪んじゃった子。でも、その全てを受け止めてくれる人がいる
から、あたしは強くなれるのよ」

「全てを受け止めてくれる人って、俺のことなのか?」

 内罰的で馬鹿正直な性格が恨めしい。言ったところで亜美の気分を害するのが関の山なのだろうに、それでも訊い
てしまう我が身が愚かしかった。
 だが、亜美は、褐色の瞳を輝かせて、優しく微笑んでいる。

「そう言うと思ったわ…。でも、あんた以外に誰が居るっていうの? 今日だってそうよ。ママとの電話でヒスを起こした
あたしを諫めてくれて、炎天下、汗みどろになって穴を掘って、雷に打たれるかもしれなかったのに鍵を掘り出してくれ
た。そして、さっきあたしを受け入れてくれて、これからも、あたしを受け止めてくれる人…」

「でも、それは止むに止まれなかったからさ。お前も知っての通り、本当の俺はへたれで、臆病なんだ…」

「そんなことないよ…。誰だって炎天下にあんなきつい穴掘りはしたくない。でも、あんたはちゃんとやってのけた…。
誰だって、雷は怖い。でも、あんたはそれをものともせずに鍵を掘り当てた…。あんたはへたれでも、臆病者でもない…。
いざという時は、思い切って一歩前に踏み出せる、本当に強い子なんだわ…」

「そうなのか…?」

 なおも懐疑的な竜児に艶然とした笑みを向けながら、亜美は竜児の手を引いた。

「もう、行きましょ…。今、こうして、一緒に夜の海に入ろうとしている…。それも、これも、あんたが居るからこそなのよ…」

 竜児の手を引いて歩を進めていた亜美は、水位が膝頭に達したところで立ち止まった。

96大潮の夜に 55/81:2009/12/02(水) 01:38:32 ID:SDh3BMay
「ここで、いいかしらね…」

 水深は子供の水遊び程度の深さだったが、夜間となれば、これ以上深みに嵌まるのは得策ではないと亜美も思った
のかも知れない。それでも、遠浅のせいで、波打ち際からはかなり離れ、穏やかな入江の中に、竜児と亜美だけが、
ぽつんと取り残されたような錯覚に襲われる。

「月の輝きがもの凄いな…」

 二人の真上には、真夏の満月が、青白く輝いていた。その光は、水面を貫き、水底の竜児と亜美の足元まで明るく
照らし出していた。
 穏やかな波が二人の脚を、ちゃぷ、ちゃぷ、と洗っている。その音と、浜辺に打ち寄せる波の音以外には、
何も聞こえなかった。
 亜美は、他のものの気配を確かめるように、周囲をぐるりと見渡してから、天空に輝く満月に暫し見入っていた。

「この入江に存在しているのは、あんたとあたしだけ…。そのあたしたちを、この海と、空と、月が見守ってくれているん
だわ…」

「そうだな…。この空の下、この海に佇むのは、生まれたまんまの姿の俺たちだけだ…」

 それでも不安そうに空を見上げている竜児に、亜美はそっと寄り添った。

「いよいよ、結ばれる時が来たわ…。この海と、空と、月に、あたしたちは永遠の愛を誓う…。その月と空に見守られな
がら、この海に抱かれて、あたしたちは一つになるのよ…」

 竜児の胸板にその身を預け、亜美は囁くように訴えた。

「亜美…、お前…」

 竜児に抱き付いてきた亜美の身体が微かに震えていた。

「ほんと言うとね、やっぱり、あたしも夜の海は怖いんだ。でも、何でだろう…、今夜が満月で、そのせいで大潮の夜
だって分かったら、どうしても、この海で、この月に見守られながら、あんたと一つになりたいって気持ちが抑えられなく
なっちゃった…」

 竜児は、亜美の華奢な身体を抱き締めた。既に勃起している亜美の乳首が、竜児の胸板を突くように、その存在を
主張する。

「無茶しやがって…。だがよ、お前の気持ち、俺は受け止めるぜ」

「う、うん…、受け止めて、あたしの全てを…。そして、二人で、もっと、もっと強くなろう…。瀬川みたいな悪辣な上級生
とか、陰険な女子、キモいオタッキーな男子とか…」

 亜美は、ためらうように一瞬俯いてから、再び言葉を紡いだ。

「あたしたちの結婚を快く思っていないママ、川嶋安奈とか、これから立ち向かう弁理士試験とか、そして、何よりも、
運命とかに翻弄されない強さを持ちたい…」

「ああ、俺も、お前と一緒に、もっと、もっと強くなりてぇ。もっと、もっと、強くなって、お前を守ってやりたい」

「竜児…」
97大潮の夜に 56/81:2009/12/02(水) 01:39:30 ID:SDh3BMay

 青白い満月が眩く照らす中、穏やかな波に包まれての誓いのキス。
 互いの舌が妖しく絡み合い、その官能に二人は暫し忘我となり、海中に佇んだまま、ひたすら互いを求め合った。

「あふぅ、も、もう、息が続かない…」

 竜児との誓いの接吻を十分に堪能した亜美が、息を切しながら、上体を仰け反らせて竜児の口唇から自身のそれを
引き離した。

「相変わらず、お前とのキスは、ディープだぜ…」

 竜児も、息を切らしながら、亜美の背中に回した手で、その背筋を上から下へと、優しく撫でてやった。

「うふ、そうね…。あんたのおちんちんも、さっきのキスで元気になったみたいだし…。あたしのあそこも、涎が垂れてき
ちゃってる…」

 亜美は、自身の下腹部に突き当たっている竜児のペニスを、互いの下腹部でサンドイッチになるように圧迫し、更に
は、自身の秘所を竜児の太股に擦り付けて、そこが芳しい愛液で潤っていることをアピールした。

「お互いに準備完了ってことだな…」

 その言葉に軽く頷いた亜美は、右手を竜児の左肩に乗せて自らの上体を支えると、左脚をゆっくりと持ち上げ、右足
一本で立った。更には、持ち上げた左脚の膝を折り、それを左手で胸元へと引き寄せた。
 月光の下、愛液で濡れそぼった茂みが露わになり、ぱっくりと開いているであろう陰裂から、甘美な雫が、ぽつぽつ
と滴っている。

「お、お願い…、このまま入れて。竜児のおちんちんで、亜美ちゃんを貫いて。この空に、あの月に、そして、この海に、
亜美ちゃんがあんたの女であることを、知らしめてよ」

「お、おぅ…。じゃぁ、いくぜ…」

 竜児は、軽く膝を曲げ、怒張した肉塊に右手を添えて亜美の陰裂にあてがった。亀頭の先端に、ぬるりとした暖かさ
が伝わってくる。
 そのまま右手を使ってペニスの先で亜美の陰裂をまさぐる。既に、目隠しでもどこに何があるかを熟知している竜児
のペニスは、息遣いをするように愛液を分泌し続けている膣口を、惑うことなく探り当てた。

「そ、そこよ…、き、来て…、は、早くぅ」

 焦らされたと思い込んでいる亜美が、腰を振っておねだりしている。竜児は、その腰の動きも利用しながら、亜美の
秘所へ極太ペニスを、ずぶずぶと送り込んだ。

「あうっ、は、入ってくるよぉ〜」

「う、こ、この姿勢…、けっこう効くな…」

 立ったままの挿入は竜児も亜美も初めてだった。それだけに、慣れない部位を刺激されているのか、今までにない、
痛みとも快楽とも知れない感覚に襲われた。

「ひ、左脚だけしか持ち上げていないから、あ、亜美ちゃんのあそこも十分に開かないんだわ。だから、きつ、きつ…」

98大潮の夜に 57/81:2009/12/02(水) 01:40:21 ID:SDh3BMay
 竜児の肩に掛けた右手に力がこもり、亜美は眉をひそめて苦悶している。

「お、俺は何とかなるが、お前は、い、痛いのか?」

 亜美は眉をひそめて瞑目したまま、かぶりを振った。

「だ、大丈夫…。ちょ、ちょっときついけど、それが却って、き、気持ちいい…。で、でも、未だ、あんたのおちんちんが
半分くらいしか入ってないわ…」

 それに対する焦りなのか、亜美は、片足で立ったまま腰を竜児の股間に擦り付けるように揺らしてきた。その弾みで、
竜児の極太ペニスが、完全に開ききっていない亜美の肉襞を押し退けて、一センチほど、ずるり、と奥へと入り込んだ。

「あぅ…、き、気持ちいい…」

 挿入された竜児のペニスがGスポットか何かにツボったのか、亜美は妖艶に呻きながら、片足立ちしたまま背筋を
硬直させて仰け反った。

「お、おいっ! 不安定な体勢で無理すんな! ひ、ひっくり返るぞ」

 竜児の警告で、亜美は一瞬はっとしたが、時既に遅し。亜美は、「あ、あ、あ、あ〜〜〜〜〜っ!!」という悲鳴ととも
に、背中から海面へ、竜児を巻き添えにして転倒した。

『う、うぐぅ…、ごぼ、ごぼ、ごぼ…』

 水位は膝頭までだったが、ひっくり返れば、竜児も亜美も、完全に頭まで水没する深さである。
 二人は、一つになったまま、数秒間ほど、水中で転げ、もがきまくった。

「う、うぇええええ〜〜〜〜っ!!」

 ようやくのことで、起き上がり、ひとしきり、ごほごほ、と咳き込んだ後、竜児と亜美は、はぁ、はぁ、と息を荒げて酸素を貪った。

「し、死ぬかと思ったぜ…。お前の方は大丈夫か? 海水を飲んだりしてねぇか?」

 亜美は荒い息のまま、かぶりを振った。

「だ、大丈夫。水は飲んでないわ…。でも、ちょ、調子に乗って、この有様…。あたしが悪かったわね。でも…」

 亜美は、ちょっと口ごもって、目の前の竜児の顔を見詰め、それから自らの下腹部に目を遣った。

「お、奥まで、入っちゃってる…」

 水中で亜美は、蛙のように脚を開いて尻餅をついていて、上半身は、後ろ手にした両手で支えていた。その亜美に
竜児が被さり、竜児の極太ペニスは亜美の膣の奥深くまで貫通していた。

「う…、す、済まねぇ。倒れたショックで、ぶっすり、入っちまったらしい…」

 濡れてはいたが、かなり勢いよく突っ込んだことから、竜児の亀頭が亜美の膣の中で疼いていた。

「で、お前は、痛くねぇか? 今までにないくらい、無茶な突っ込み方だったからな…」

99大潮の夜に 58/81:2009/12/02(水) 01:41:39 ID:SDh3BMay
 心配そうな竜児に、亜美は、双眸を半開きにした、性悪笑顔を向けてきた。

「ばか…、そんなこと一々気にしないの! 何度も言わせないでよ。亜美ちゃんのあそこは、頑丈に出来ているの。
ちょっとやそっとじゃ、壊れたりしない…。それに、亜美ちゃんのは、もう竜児専用のオートクチュールなんだからね。
あんたのおちんちんが、すっぽり納まるようになっちゃってるのよ」

「お、おぅ…。そ、そうなのか?」

「あったり前でしょう? 亜美ちゃんの大事なところは、竜児のおちんちんで、ずん、ずん、突かれて、あんた専用に
変形しちゃったんだからさぁ。責任取りなさいよ!」

「責任…ね」

 脱力したような竜児のコメントが、お気に召さなかったのか、亜美は、柳眉を心持ちひそめて、ぐいっ! と腰を突き
出してきた。

「ほら、あんたもぼやっとしてないで、腰を動かしなさいよっ! 亜美ちゃんは、もう、あんたのおちんちんじゃないとダメ
なんだからね!!」

 先ほどまでの、神秘的で厳かなムードはどこへやら。結局は、いつもの竜児と亜美に戻っていた。
 竜児は、ほっとしたように苦笑した。そうとも、これが普段着の俺たちなんだ、と。

「はい、はい…、仰せに従いますよ。若奥様」

 竜児には稀な揶揄に、亜美はちょっとムッとしたようだったが、すぐに、ニヤリとした性悪笑顔を取り戻した。どうやら、
『お嬢様』と呼ばなかったことは正解だったらしい。
 その亜美の膣に、極太ペニスを叩き込むように更に奥へと挿入し、腰を『の』の字を描くように擦り付ける。

「う…。そ、その腰の動き、や、やっぱ、いい…」

「お、俺も、お前の中が、い、いつも以上に気持ちいいぜ…」

 下半身が水中にある状態でのセックスだからなのだろうか。ピストン運動をする度に、二人の身体の周囲にまとわり
つく水の抵抗が、普段とは違う感覚をもたらしていた。

「ね、ねぇ、なんか、あ、あんたに突かれる度に、亜美ちゃんのお腹にも水圧がかかって、お臍の辺りが、ぎゅーって
押されるのぉ」

「お、俺もだ…。だが、水の抵抗が大きくて、えらくしんどい…。この状態じゃ、いく前に、俺たちの方がバテちまう…」

 竜児は、ピストン運動を中断し、膣に挿入したまま、腰をぐりぐりとグラインドさせた。

「うっ! ずんずん突かれるのもいいけど…、そうやって、ぐりぐりされると、竜児のもじゃもじゃが、亜美ちゃんのお豆を
ざらざら擦っているよぉ〜」

「そうか…。ついでに、これだ」

 竜児は亜美の背中に右手を回して彼女の上半身を支えると、つんと持ち上がっている左の乳首を強く啜った。

「あうっ! そ、そんなに強く吸ったら、き、気持ちよすぎて、あ、亜美ちゃん、お、おかしくなっちゃうよぉ!!」
100名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 01:41:46 ID:bkk7QLPm
支援
101大潮の夜に 59/81:2009/12/02(水) 01:42:45 ID:SDh3BMay

 亜美は、首を仰け反らせて襲い来る快楽に耐えたが、後ろ手に突いている両腕が震え、今にも海中に背中から倒れ
込みそうになった。

「危ねぇ!」

 竜児は、左手でも亜美の上半身を支え、亜美の身体を持ち上げた。

「亜美、両脚を俺の腰に絡ませて、両腕で俺の首筋に、しっかりとつかまってくれ」

「う、うん…」

 快楽にあてられて陶然とした面持ちで、亜美は頷いた。
 それを見届けた竜児は、「いくぞ…」と亜美の耳元で囁き、やおら立ち上がった。

「あ、ああああああっ〜〜!! 亜美ちゃんの身体がぁ、りゅ、竜児のおちんちんで刺されたまま、だ、抱っこされてい
るよぉ!!」

「す、済まねぇ…。痛いか?」

 亜美は、涙で面相をぐしゃぐしゃにしながら、引き攣ったような笑みを竜児に向けた。

「い、痛くなんかない、痛くなんかないよぉ〜。き、気持ちいいけど、な、なんか、すごい感じ。亜美ちゃんのあそこが、
ぐにゅーって広がって、ぶ、ぶるぶるしてるよぉ!」

「そ、そうか…。痛くないなら、こ、このままで、浅瀬まで歩くぞ。済まねぇが、ちょ、ちょっとの間、辛抱してくれ」

 『浅瀬』というのが不満なのか、亜美が、いやいやをするように、首を左右に振ってむずかった。

「や〜ん、亜美ちゃん、海の中でアクメしたいよぉ。海にいる時に、竜児の精液を亜美ちゃんの中に出してよぉ〜」

「き、気持ちは分かるけどよ…」

 亜美は、大潮の夜に海に棲む生き物は産卵する、と言っていた。その映像は、竜児もテレビの科学番組で見た記憶
がある。魚類の産卵と受精だったが、雄と雌が身体を擦り付けあって、雌は産卵し、雄は、生み出されたばかりの卵に
白い精子を振りまいていた。
 亜美は、そんな海棲生物にも似た行為を、この大潮の海で、執り行いたかったのだろう。

「あの深さじゃ、いっちまって気絶した時に、溺れる心配があるからな。だから、波打ち際近くまで戻るんだ」

 竜児は、ちょっと不満そうな亜美を、立位で抱きかかえたまま、岸へと一歩踏み出した。

「あううっ…、お、お願い、ゆ、ゆっくり行ってぇ〜」

 亜美が、柳眉をひそめ瞑目した、苦悶とも陶然とも判じがたい表情で竜児にしがみついてきた。歩行のショックで、
竜児のペニスが奥深くを突いてしまったらしい。

「お、俺も、き、きついぜ…」

 亜美の身体は決して重くはなかったが、その荷重のいくばくかが竜児のペニスに集中していた。ゆっくりと歩を進め
102大潮の夜に 60/81:2009/12/02(水) 01:44:05 ID:SDh3BMay
るだけでも、勃起したペニスを折り曲げ、強く締め付けようとする力が働き、それが竜児にも苦痛と紙一重とでも表現す
べき強烈な快感をもたらしていた。
 二人は、竜児が歩を進める度に襲い来る、内臓を直撃するような激しいショックに、悶絶しながらも耐え、のろのろと
時間を掛けて、ようやく波打ち際の手前までたどり着いた。

「も、もう、ダメだ…」

 亜美の重さよりも、苦痛寸前の激しい快楽に眩暈がしていた。

「あ、あああっ、あたしもぉ〜」

 亜美も、苦しい息の下、最後の力を振り絞るかのように、竜児の首筋に抱き付き、脚をより強く竜児の腰に絡めて、
秘所を竜児の股間に擦り付けている。

「と、とにかく…。このまましゃがむぞ…」

 竜児は、しがみ付いている亜美にできるだけ鋭いショックがいかないように留意しながら、そろそろと膝を曲げて、
腰を下ろしていった。
 亜美を抱えているため、その重さで膝が今にも笑い出しそうだった。竜児は、『強くなりてぇ、強くなって、俺はこいつ
を守ってやりてぇ』と、心の裡で唱えながら、辛うじて、亜美を腰の上に乗せたまま、波打ち際の少し手前に腰を下ろした。

「あぅ…。な、波が…」

 波が引いた時の水位は、脚でいえば、くるぶしのちょっと上あたりといったところだろう。波が寄せてくると、竜児の
腰に乗った亜美の下腹部までが洗われた。

「ここなら、ひっくり返っても溺れる心配は少ないだろう…。それに、一応は海の中だよ」

 歩行による激しい突き上げがなくなったことでほっとしたのか、逆になくなったことが物足りないのか、亜美はちょっと
ため息を吐いていた。

「う、うん…、こ、ここでもいいよ…。でも、こ、ここに来るまで、竜児のおちんちんが、亜美ちゃんの中で暴れて、も、もう、
大変…」

「も、もう、いきそうか?」

 亜美は、頬を緩めて瞑目したまま、微かに頷いた。

「りゅ、竜児にも分かるでしょ? あ、亜美ちゃんの大事なところが、熱を持って、ぱんぱんに腫れたみたいになっ
ちゃってる…」

「お、おぅ…、な、なんか、襞とか疣みたいなのが、にゅるにゅる蠢いて締め付けてきやがる。こ、このままだと、で、
出ちまうな…」

「だ、だったら、フィニッシュよ…。あたしを突いて、突きまくってちょうだい。今も亜美ちゃんのお腹の中に入っている、
あんたの極太おちんちんで、亜美ちゃんを滅茶苦茶にして…」

 言うなり、亜美は、背中から倒れ込むようにして横たわり、肘を突っ張って上体を支えた。白い泡を伴った穏やかな
波が、横になっている彼女の顎の下すれすれを洗っていく。

103大潮の夜に 61/81:2009/12/02(水) 01:45:50 ID:SDh3BMay
「あ、亜美! 無茶だ、もっと顔を上げろ! お、溺れちまうぞぉ!!」

 だが、亜美は、寄せ来る波で面相が海水で覆われると瞑目して耐え、波が引くと、頑是ない笑顔を竜児に向けた。

「大丈夫よ、あたし、水泳は得意だから、この程度のことは平気…。あんたは、あたしに気にせず、こうして寝ている
あたしを突いて、突いて、突きまくってちょうだい。あたしとあんたのこのセックス。この海に抱かれて成就させたいの。
だから、お願いよ…」

 そう言い終えた亜美の顔を、再び海水が洗った。

『本当に、強い奴だな…』

 もう、亜美の願うようにしてやるしかない。それが、竜児にとって精一杯だった。
 竜児は、亜美の両脚を両手で支えると、挿入しているペニスを更に奥深くまで押し込み、腰を擦り付けるように
グラインドさせた。それから、ペニスを引き抜く寸前まで腰を引き、次いで、その怒張したペニスを、勢いよく亜美の
膣へと叩き込んだ。
 亀頭の先端が、膣壁の途中にあるGスポットらしき器官を捉え、更には蛸の吸盤のような子宮口をかすめて、亜美の
膣を、大きく、ゴムのように伸ばし、変形させる。

「あ、あうううううううううっ〜〜〜〜っ!!」

 その瞬間、夜のしじまを、亜美の絶叫がつんざいた。竜児は、絶叫する亜美を、波間から慌てて抱きかかえ、彼女が
海水を飲み込むのを辛うじて避けた。

「う、こ、こっちも、き、きつい…」

 竜児のペニスを飲み込んでいる亜美の膣が、尋常でない強さで収縮してきた。襞という襞、それに疣のような突起が、
ぬるぬると竜児のペニスをしごくように蠕動し、竜児の精を貪欲に貪り尽くそうとしている。

「う…、で、出るぞ!」

 呟きとも、亜美へ向けたものとも判然としない呻きとともに、竜児は熱く濃密な精を、亜美の膣、その奥深くにある
胎内めがけて放出していた。


 朝日が差し込むリビングのソファーで、竜児とシーツに包まった亜美は目を覚ました。
 置時計で時刻を確認すると、午前七時近くだった。寝坊というほどではないが、六時には起きるつもりだったから、
今日も初っ端から予定が狂い出している。

「それにしても、だる~い…」

 昨夜は、浜辺でアクメに達したことまでは憶えているのだが、それから先の記憶が曖昧だった。
 竜児に抱えられて、別荘に戻ったこと、リビングで抱き合ったことまでは、うっすらと思い出せるのだが、そこから先の
記憶が、ものの見事に欠落している。

「竜児は…、未だ、眠ってんだぁ…」

 亜美の右隣には、亜美と同じようにシーツに包まった竜児が、すやすやと寝息を立てていた。
 第三者からあらぬ誤解を受けることがある三白眼は、二重の瞼で閉ざされており、そのおかげで、整った鼻筋と、
端麗ながら引き締まった面相が強調されていた。
104大潮の夜に 62/81:2009/12/02(水) 01:48:03 ID:SDh3BMay

「こうして見ると、結構、男前なのよね…」

 竜児の魅力が一般に理解されにくいのは、亜美にとって有難いことかも知れない。高校時代のように、手ごわい恋敵
に出現されても困るからだ。

「何の夢を見ているのかしらね…」

 亜美は、竜児も起こそうかと思ったが、やめておいた。頑是ない風情で眠っている竜児を起こすのは酷だと思ったし、
何よりも、その寝顔が可愛らしかった。

「いつまでも、こうして寝顔を眺めていたいけど、そうも、いかないわね…」

 亜美は竜児を起こさないように、そっとシーツから抜け出した。
 全裸でリビングに立ち、身体の凝りをほぐすつもりで、大きく伸びをした。

「う~ん、やっぱ、昨夜は張り切りすぎたみたい…」

 激しい行為による筋肉痛もあったが、何よりも、脳髄を麻痺させるような強烈な快感が、いく度もいく度も入力され
続けたことで、身体中の神経系統が、過負荷になっているような感じだった。

「許容範囲を超えた強烈な信号が入力された、ってところかしらね…」

 それに、亜美の陰部が微かに疼いていた。
 亜美は、竜児の傍らにそっと腰掛けて、秘所を人差し指でまさぐった。クリトリスから始まって、小陰唇を尿道口、膣口
へとなぞっていく。そして、昨夜の情事の余韻が残る膣に指を入れた。

「ちょっと、痛いかも…」

 もう濡れていないせいもあったが、膣壁が腫れて熱をもっていた。それでも、親指でクリトリスを押すように揉むと、
愛液がじくじくと滴り、痛みが和らいでくる。

「や、やっぱ、あたしって、エッチな子なんだなぁ…」

 このままだとオナニーを始めてしまいそうだったから、亜美は、膣から人差し指を引き抜いた。
 指先は分泌したばかりの愛液で濡れていたが、血は付いてこなかった。臭いを嗅いでみたが、血が混じっている
ような感じはしない。

「亜美ちゃんのあそこは、淫乱だけど、やっぱ頑丈なのね…」

 セックスで尻込みしている竜児を叱咤する時に、半ば強がって言う台詞だったが、実際にそうであるようだ。これなら、
今夜も、竜児さえよければ、楽しい夜になるかも知れない。

「それはいいとしても、髪や肌がごわごわ…」

 昨夜は海中でセックスしたまま、シャワーも浴びないで寝てしまったらしい。髪や肌には砂が付着していたし、
髪の一部には、塩が白く吹き出ていた。
 亜美は、指先の愛液をシーツで拭うと、未だ、リビングに置きっぱなしのキャリーバッグから替えの下着と、
タンクトップ、それに昨日、ワンピースの下に穿いていたホットパンツを取り出した。
 それらの着替えを持って、二階の浴室へ上がる。全裸の亜美が階段を一歩上がるごとに、美乳がぶるぶると震え、
105大潮の夜に 63/81:2009/12/02(水) 01:49:13 ID:SDh3BMay
形よく張り出した臀部がぷりぷりと揺れるが、ここには亜美と竜児しか居らず、その竜児は目下、白河夜船だから、
お構いなしである。

 まずは、温水だけで頭頂部から爪先まで軽く洗った。海水だか、汗だか、愛液だか、精液だかのぬるぬるは完全に
は取れないが、ちょっとだけさっぱりする。

「う~ん、ちょっと引き締まったかな?」

 浴室の鏡に自分の姿を映し出し、アンダーバストから下腹部にかけて、掌でそっとなぞってみた。元々、スレンダー
な体つきだが、昨夜の激しい行為で、更に体脂肪が落ちたような気がする。

「こりゃ、シェイプアップには一番効くかも…。しかも、滅茶苦茶気持ちよかったし」

 だが、滅茶苦茶に苦しかったのも確かだった。もし、毎日、昨夜のような調子でセックスを続けたら、竜児も亜美も、
身が持たないだろう。

「バカ言ってないで、さっさと洗おう…」

 もう、あんなに激しいセックスは、そうは出来ないだろう。苦労して鍵を掘り当て、別荘での初めての二人きりの夜、
そして満月と大潮…。こうした非日常的なことが連続して起こったからこそ、昨夜は、あんなにも激しく求め合ったのだ。
 亜美は、そんなことを思いながら、ボディシャンプーで、情事の余韻を完全に洗い流し、シャンプーで長い髪を入念
に洗った。

「髪、もうちょっと伸ばしてみようかなぁ…」

 今は腰の上辺りまでだが、腰の下辺りまで伸ばしたくなった。根拠はないが、その方が竜児は喜んでくれそうな気が
したからだ。
 その長い髪をリンスで濯ぎ、亜美は入浴を終えた。
 脱衣所で身体と髪の水分を丁寧に拭う。そして、愛用しているトワレをちょっと付けて、洗濯済みの下着とタンクトップ
それにホットパンツを身に着けた。

 手にしたタオルで髪を拭きながら階下に行くと、リビングでは竜児が、シーツで陰部を隠しただけの姿で、だるそうに
欠伸していた。

「あら、ようやくお目覚めね」

 亜美は、内心、してやったり、とほくそ笑んだ。今日は、寝坊をネタに、竜児をちくちくといたぶってあげられる。

「な、なんだぁ? もう、風呂入っていたのか?」

 ぼさぼさの髪に、寝不足丸出しの充血した眼を半開きにして、竜児はソファーにへたり込んでいた。

「そうよぉ、まぁ、昨夜はあんたと、あんたのおちんちんは、だいぶご活躍だったしぃ~、お疲れでしょうね」

 照れなのか、海水に浸ったことで痒いのか、竜児は、ぼりぼりと頭を掻いた。

「まぁ…、昨夜は確かにものすごかったな…。あんなすげぇのは、今後、そうは出来ねぇだろう。それよか、お前、最後
にいった時、危うく溺れるところだったんだぞ。間一髪、水の中からお前を引きずり出して、何とかなったけど、全く、
無茶しやがって…」

106大潮の夜に 64/81:2009/12/02(水) 01:50:32 ID:SDh3BMay
 それについて亜美の記憶は曖昧だが、アクメで意識が朦朧としている時に、竜児の逞しい腕と胸に抱かれたこと
だけは、自身の身体に感触としてしっかり残っていた。

「無茶した点は、済まなかったと思うわ。でも、あたしが無茶するのは、あんたという頼れる存在が傍に居るからよ。
あんたが居れば、何にだって立ち向かっていける。あたしはそう信じているから…」

「お、おぅ…」

 意外にもしおらしい亜美の態度に毒気を抜かれたのか、竜児が目を丸くして言葉を詰まらせている。未だに、竜児
の中には、『亜美=性悪』という公式が不動のようだ。この公式は、いずれ正す必要があるだろう。

「ほらぁ、きょとんとしてないで、さっさとシャワーでも浴びてきなさいよ。そのままだと、海水で肌が傷むわよ」

 そう言いながら、昨日のうちに洗っておいた竜児の下着とTシャツとジーンズを手渡した。

「す、済まねぇな…」

 竜児は、ソファーに敷いていたシーツで前を隠して、浴室に行こうとした。

「ぷっ! 今更、何を恥ずかしがっているんだか…。あんたの裸なんて、飽きるほど見ちゃって、あんたの背中のほくろ
の位置まで分かってるんだから…」

「お前なぁ、恥じらいってのは大事だぞ…」

 竜児は、そこまで言い掛けたが、不意に苦笑した。

「何よ、その笑いは!」

 竜児が苦笑している理由は亜美にも分かっていた。亜美にとっては少々業腹だが、竜児の前で恥じらいがないのは、
今に始まったことではないから、つける薬はない、ぐらいに思っているのだろう。
 それを揶揄するつもりなのか、竜児は、ちょっとはにかみながら、

「別に…。若奥様には逆らわねぇ方が得策だと思ってさ…」

 と、呟くように小声で言った。
 昨夜も聞いた陳腐な文言だが、悪くない。亜美も、竜児につられるようにして、にやりと笑った。

「じゃぁ、旦那であるあんたは、さっさとシャワー浴びてきなさいよ。そうしないと、今日一日、何も始りゃしないでしょ」

 別荘での合宿、というか同棲二日目。初日がトラブル続きだったから、やるべきことは山ほどあった。それを二人で
手分けして片付けなければならない。

「さてと、あいつがお風呂に入っている間に、朝ご飯の支度でもするか…」

 そうは言っても、パスタを茹でて、湯煎にしたパスタソースを絡めるだけだ。それと、昨日はソーセージを買ってきた
から、それも用意することにした。
 コンロは三口あったから、ソーセージも湯煎にしようかと思ったが、趣向を変えてオーブンで炙ることにした。こうした
方が余分な脂肪が抜けるし、味わいが濃くなる。それに、マスタードを買うのを忘れていた。マスタードなしでも美味し
く食べるには、水っぽくなる湯煎よりも、炙った方がいい。

107大潮の夜に 65/81:2009/12/02(水) 01:51:31 ID:SDh3BMay
「ああ、さっぱりした…」

 濡れた髪をタオルで拭きながら、竜児がキッチンに入ってきた。
 その竜児の顔を一瞥して、亜美が辛辣に宣った。

「あたしもだけど、あんた目が充血してるわよ。日中、外に出るときは、絶対にサングラスを忘れないでね」

 小姑みたいな口調だな、と思ったが、他ならぬ竜児に感化されたらしいことを思い出し、亜美は可笑しくなった。
 波長が合っているから、こうした些細なところまで似てしまうのだろう。

「何か、にやにやして気持ち悪いな…。また、俺をいたぶるネタでも考えていたのか?」

「ばーか、あんた、内罰的な上に、被害妄想が過ぎるわよ。そんな面倒くさいこと、考えてねぇって。そんなことよりも、
ご飯にしましょ。食べたら、その後、やることがあるし…」

 食事は、量自体も少なかったから、あっという間に完食である。食器を洗った後、本来なら食後のお茶を堪能した
かったが、あいにく、お茶っ葉もコーヒー豆も何もなかった。

「う〜ん、大失敗。昨日、インターネットで買い物する時、お茶やコーヒーも買っておけばよかった…」

 水道の水を一口飲んで、亜美はため息をついていた。

「まぁ、そう言うな、どのみち、生鮮食料品を買いに行かなきゃならねぇんだ。お茶とかコーヒーとかもその時に買って
くるよ。それに、この水だが、本当に水道水なのか? ミネラルウォーターみたいに美味しいぞ」

 確かに、都会の水道水のようにカルキ臭くない。透き通った水本来の旨さが感じられた。

「あ、そうそう…、思い出した。ここの地区の水道は、湧水を引いているのよ。それも、日本名水百選クラスの…。厚い
地層で何十年もかけて濾過されたから、細菌もなくて消毒の必要性がない。ミネラル分も適度に含まれてるから、美味
しいのよね」

 亜美の説明を聞いて、竜児が目を輝かせている。

「そいつぁいい! きっと、お茶やコーヒーが一味違うぞ。取り敢えず、駅前のスーパーで紅茶の葉とコーヒー豆は買っ
てくるが、これならいつも俺たちが大橋で飲んでいるセイロン島の高地で栽培されている特別な紅茶を飲んでみたくな
るな」

「あの紅茶ね? 人工的な香料を使っていないのに、頭がすっきりする香りが特徴的な…」

「お、おぅ、あのお茶は東京の紅茶専門店やその大橋の支店で買っているんだが、多分、インターネットでの通販も
やっているだろう。あとでサイトを検索して、もし通販をやっているようなら、即オーダーするぜ」

 もうすっかりインターネットでの通販に抵抗感がなくなったらしい竜児を、亜美は微笑ましい思いで見詰めた。一見、
頑固そうだけど、より合理的なものがあれば、旧来のものや方法には固執せずに改める。そうした合理性や柔軟性が、
竜児の個性であり、強さなのだろう。

「さてと…、食器を洗っちまったし、俺は、ちょっと買出しに行ってくるよ」

「あたしも行くから…」

108大潮の夜に 66/81:2009/12/02(水) 01:52:32 ID:SDh3BMay
 すかさず亜美も反応したが、竜児は首を左右に振って苦笑している。

「いや、お前は昨日買出しに行ってくれたから、今度は俺一人で行ってくるよ。それに、もう太陽がかなり高く昇って
いる。肌の弱いお前が、炎天下を長時間歩くのは、ちょっと賛成できねぇ」

「で、でも、それじゃぁ、あたし、何にもしないでこの別荘に居るだけじゃないのぉ!」

 亜美のコメントに竜児は一瞬眉を軽くひそめたが、気持ちを入れ替えるように、ちょっと嘆息して、淡い笑顔を取り戻
した。

「なら、こうしようぜ。俺は食料の買出しに行く。お前は、この別荘に残って、昨日汚したシーツやら衣服やらの洗濯と、
室内の清掃、それに、昨日のうちにやっておきたかったマットレスの虫干しをやる…。どうだ、これなら公平だろ?」

「う、うん…」

 それならば亜美も、自身が定めたルールに照らして納得できる。
 勤勉な竜児の伴侶であるには、自らも勤勉でなければならない。それが、竜児と一緒になると決めた亜美にとっての
ルールだった。

「異存がなさそうなようだから、俺はこのまま出発するよ。歩いていくから結構時間はかかると思うけど、昼飯には間に
合わせるつもりだ」

 お手製のエコバッグに財布と携帯電話機を放り込み、サングラスを掛けた竜児は、そのまま玄関に向かおうとしていた。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 昨日も注意したけど、日焼け止めを忘れないで」

「お、おぅ、そ、そうなのか…」

 亜美の鋭い一声に、竜児はばつが悪そうに硬直した。その竜児の肌に亜美は二酸化チタンが配合された日焼け止
めを、「まったくもう…」と舌打ちしながら塗っていく。

「はい、これでオッケイ。これでしばらくはもつわ。でも、帽子なしってのは、まずいわね。あたしの日傘でも使う?」

 それには竜児は笑いながら首を左右に振った。

「男で日傘を差している奴は居ないからな…。申し出はありがてぇが、そいつはちょっと勘弁してくれ」

「でもねぇ…」

 なおも難色を示す亜美に竜児は、微かな笑みを向けている。

「なぁに、駅前にいく途中にコンビニがあったろ? 昨日お前が買い物をした…。あそこなら麦藁帽子とかも売っている
じゃねぇかな? そいつを買うつもりだから、心配は無用だ」

 そう言い放って玄関から出て行く竜児を亜美は、ため息ついて苦笑しながら見送った。べったり依存し合わない、
傍目にはちょっとドライに見えるくらいの方が、二人にはふさわしいのだ。

「さてと…、とにかく汚れ物を洗わないと…」

 亜美は、昨夜の情事で汚してしまった服やシーツ、タオル等をかき集めると、二階の脱衣所に持って行った。更に、
109大潮の夜に 67/81:2009/12/02(水) 01:53:27 ID:SDh3BMay
二人が今夜から使うことになる寝室から、寝具やカーテン等の洗えるものは全て外して、これらも脱衣所に持って行く。

「衣服とは別々に洗った方がよさそうね…」

 特に寝室に吊りっぱなしだったカーテンは、カビやらダニやらで、ちょっと鼻を近づけただけで、くしゃみが出そうな
感じがした。
 まずは、カーテンとかを洗濯機に放り込んで洗い始める。それを横目で見ながら、自身のワンピースや下着を手洗
いした。

「こんな風に洗濯するなんて、思いも寄らなかったなぁ…」

 もし、竜児と出会わなかったら、今も、美貌を鼻にかけた鼻持ちならない嫌な女だったことだろう。上げ膳据え膳が
当然と思っていて、常に誰かの世話になっているような、どうしようもない女のままだったかも知れない。

「でも、あたしは変わったんだ…。そして、これからも変わっていくんだわ」

 そんなことを呟きながら、亜美は、手洗いした衣服をハンガーに掛けて形を整える。こうした細々とした作業も、竜児
の振る舞いから見よう見まねで会得した。

「さてと、これは、ウッドデッキの軒下に陰干しした方がいいわね」

 黒いワンピースを直射日光に晒して干すと、たちまち色が褪せてしまう。
 そのワンピースを手に、玄関へ向かおうとした時、インターホンが鳴った。
 竜児でないことは明白だった。竜児であれば、インターホンなど使わずに、亜美を呼ばわるか、勝手にドアを開けて
入ってくるからだ。それに、駅前のスーパーまで往復するのであれば、まだまだ時間が掛かるはずである。

「誰だろう…」

 亜美は、手にしていた洗濯物を一旦籠に戻すと、足音を立てないようにして階下に向かった。
 川嶋安奈が亜美を連れ戻すために、彼女のマネージャーか、事務所のスタッフを差し向けたのかも知れないし、
よもやとは思うが、川嶋安奈本人が、やって来た可能性だって否定できない。

「まさかね…」

 竜児と入れ替わるように誰かが来たというのが気になる。もし、亜美をこの場から連れ去るのであれば、竜児が出掛
けるのを確認してから行動を起こすのが好都合であるからだ。
 そんな不安な気持ちのまま、亜美はドキドキしながらキッチンのモニターで、玄関に佇む誰かを観察した。
 白黒のモニターには、フィールドキャップを目深にかぶった三十過ぎらしい男性の姿があった。顔を隠すように帽子
を深くかぶっているのが怪しかった。
 その人物が、もう一度、インターホンのボタンを押した。『ピンポーン!』という甲高い音に、亜美は思わず「ひっ!」と
短い悲鳴を上げて、首をすくめた。インターホンのよく響く無機的な音には、それへの応答を強いるような威圧がある。
 その威圧に屈した亜美は、反射的に応答ボタンを押してしまっていた。

「は、はい、どちらさんでしょうか?」

 失態だと思ったが、どう仕様もない。それに、玄関には鍵を掛けてなかったから、相手にその気があれば踏み込まれ
てしまう。
 亜美は、そんなことを思いながら、緊張して相手の反応を待った。心臓がドキドキして、こめかみの辺りでも動脈が
疼くようにずきずきする。
 だが、インターホンの相手は、間延びした害のない口調で、事務的なことを言ってきた。
110大潮の夜に 68/81:2009/12/02(水) 01:55:22 ID:SDh3BMay

「ちわーっ、宅配便でぇ~す。川嶋亜美様に川嶋安奈様からのお荷物が届いていま~す」

「ママから?!」

 一瞬、受け取りを拒否しようかと思ったが、何を送ってきたのかが気になるという興味が、川嶋安奈への嫌悪感を
押さえ、亜美は玄関のドアを開けていた。

「はい、荷物はこちらです。ここに印鑑かサインをお願いします」

 ちょっと戸惑っている亜美に、配達員は書面を差し出した。印鑑はキャリーバッグの奥の方にあり、咄嗟に取り出せ
ないから、配達員からボールペンを借り、それでサインした。

「しかし、何、この大きな箱は…」

 配達員が引き上げた後には、一抱えもあるくせに大して重くない段ボール箱が残された。箱には荷受人である亜美
と荷送人である川嶋安奈の名前の他に『花卉類』と記載された伝票が貼られていた。

「花卉って、花か何かかしらね…」

 そう重くないことから大したものは入っていないと勝手に判断し、亜美はキッチンから万能鋏を取り出して、段ボール
箱を封じている透明で接着力の強そうなテープを切り開いていった。テープは想像以上にしっかりと段ボールに固着
していて、なかなか鋏が進まない。それが亜美を苛立たせる。

「花か何だか知らないけど、こんな物を今更送ってくるなんて、どういう了見かしら」

 そんな悪態を吐きながら、亜美は漸くテープを切り終え、箱を開けてみた。どうせ、バラの花か何かだろう。それも、
赤だか白だか黄色だかの陳腐な色合いのもの。成り上がりセレブに過ぎない川嶋安奈の趣味はその程度だろう、と高
を括った。

「何よ、これ…」

 箱の中身は確かにバラの花だった。しかし、亜美の意に反して、そのバラの花は薄い青紫色をした希少価値のある
青バラである。それが、一抱えもある段ボール箱の中にぎっしりと詰まっていた。
 そして、バラの花束の挟間には、『娘へ』とだけ記された白い封筒が収められていた。
 震える手でその封筒を開封し、封入されていた便箋を取り出した。そして、気持を落ち着かせるために、一回だけ
深呼吸してから読み始めた。

『亜美へ
 あなたが、この手紙を読んでいるということは、庭先に深く埋まっていた鍵を掘り起こしたということね。
 道具もなしに、よくやったと思います。鍵を掘り出したのは高須くんなのかしらね。だとしたら、あなたが愛している
高須竜児くんのことを、“ひ弱な優等生”と罵ったことは謝罪し、撤回しましょう。
 そのお詫びのしるしというわけではないけれど、バラの花束を贈ります。希少価値、ってこんな言い方は嫌味かしら
ね。でも、未だに珍しい青バラの花束です。それも、最近になって作出された、今までのものよりも青味が美しい新品
種だとのことです(ママは無学なのでわかりませんが…)。
 花言葉は、“夢かなう”だそうです。あなたや高須くんが何を夢見ているのかママには分かりませんが、夢を抱くので
あれば、その夢をかなえるように全力で努力なさい。
 そして、何があっても、あなたは高須くんを裏切らないこと。たとえ、高須くんがあなたを裏切ったと思うような時でも、
彼を信じてあげなさい。
 ママが言いたかったことは以上です。あなたたちのことを許したわけではないけれど、あなたたちの行動力や意気込
111大潮の夜に 69/81:2009/12/02(水) 01:56:46 ID:SDh3BMay
みは認めます。後は、あなたたちが努力し、夢をかなえてください。
                                        あなたの母より』

「ママ…」

 読み終えた亜美は、毒気を抜かれて呆然とし、へなへなとその場にへたり込んだ。
 涙が滴ってきて、それが便箋に記されていた青インクの文字を滲ませた。

「参ったわ…。こんな手紙貰ったら、憎み切れないじゃない…」

 結局、亜美も竜児も、川嶋安奈の掌の中で暴れていた哀れな孫悟空のようなものだったのだ。
 亜美の側から川嶋安奈を敵視し、憎悪しても、それは母親である川嶋安奈にとって想定の範囲内だったらしい。
 いがみ合っても、確執があっても、所詮、亜美と川嶋安奈は実の親子なのだ。安奈にしてみれば手に負えない
親不孝娘であっても、その行く末を案じずにはいられないのだろう。

「ママ、あんた…、立派な母親だったわ。あたしも、母親失格と詰ったことは謝罪して、撤回する…」

 亜美は、涙を拭いて立ち上がった。しなければならないことがあった。一つはバラの花束を花瓶に生けること。後は、
やりかけだった洗濯と掃除、マットレスの天日干しをすること等だった。
 それらを一つ一つやり遂げた亜美は、キャリーバッグからMacBookを取り出して起動させ、インターネットに接続で
きることを確認した。

「これでよし…。後は竜児が帰ってくるのを待つだけだわ」

 亜美はMacBookの画面にあるデジタル時計で時刻を確認した。そろそろ十一時になろうとしている。昼食に間に
合わせると言った竜児が戻ってくる頃合いだった。


 アスファルトからの照り返しがきつい中、竜児は、ぱんぱんに膨れたエコバッグを抱えて、別荘へ急いでいた。駅前
のスーパーの品揃えは高が知れていると侮っていたのは、誤謬だったらしい。午前中だというのが幸いしたのか、
近隣の漁港で水揚げされたばかりの新鮮な地魚が売られていた。
 鯵や鰯のようなポピュラーなものから、カサゴ、メバル、黒鯛、石鯛、鱧、鱸、トビウオ等、内陸である大橋では滅多に
お目にかかれない珍しいものが揃っていた。これなら、徒歩で往復1時間にも及ぶ行程も苦にならない。
 今回は、取り敢えずというわけではないが、トビウオを買ってきた。これは手早く塩焼きにする。トビウオは足が早いの
が難点だが、鮮魚売り場の店員が気を利かして、トビウオを入れたビニール袋に氷をしこたま入れてくれた。
 また、スーパーの周囲には干物の専門店が何軒かあり、天日干しの旨そうなものが揃っていた。店では試食もさせて
くれたので、その中でも特に気に入ったムロアジの干物を六食分ほど買ってきた。都会で売っている干物よりも塩辛い
が、そのおかげである程度は保存が効くはずだ。

「それと、素麺も安かったんだよな…」

 この地方特産というわけではないが、近くに製麺所があり、そこが良質そうな素麺を作っていた。主食は米が三合分
しかなく、通販で買った米や小麦粉が届くのは明日の昼以降だから、それまではこの素麺で食いつなぐことになる。
 野菜は駅前のスーパーにも置いてあったが、駅前に行く途中、農家の無人販売所を見つけ、帰りがけに新鮮なオク
ラやトマト、獅子唐辛子、キュウリを入手できた。
 田舎のバス停のような小さな小屋掛けに、野菜が無造作に置かれていて、その傍らに『お金はここへ』とだけ記され
た木でできた不細工な箱が置いてあった。箱には、貯金箱のような、硬貨を入れるスリットがあって、そこへ代金を投入
することになっているらしい。もっとも、野菜がいくらなのか何の断り書もない。仕方がないので、竜児は、財布を探って
目についた五百円玉一個をその箱に放り込んだ。新鮮な野菜をこれだけ貰ったのに、五百円では安いかな? とも
思ったが、この土地での野菜の相場が分からないのだから、これでよしとした。
112大潮の夜に 70/81:2009/12/02(水) 01:58:09 ID:SDh3BMay
 値段も含めて買い手の善意を信頼しているのだろう。何かと、ぎすぎすしたトラブルに見舞われ続けてきた竜児は、
ほっと心が和むような気がした。

「もう、十一時近いな…」

 エコバッグから携帯電話機を取り出して時刻を確認する。別荘は間もなくのはずだ。
 別荘への小路を下っていくと、ベランダに白いマットレスを干してあるのが目についた。

「亜美の奴、やるな…」

 公約通りに洗濯し、室内を清掃したらしい。マットレスはかなり重いはずだが、何とか頑張ってベランダに広げたようだ。
 小路を下りてウッドデッキに回り込むと、昨晩、亜美が着ていたワンピースが陰干しになっていた。洗濯機を使わず
に手洗いし、ちゃんと形を整えた上で、色が褪せるのを防ぐために陰干しにしていることが竜児には分かった。

「基本的に、あいつには学習能力があるからなぁ…」

 亜美以外に比較の対象となるサンプルがそうは多くないというのもあるが、竜児が知る女子の中ではダントツに学習
能力や順応性が高い。また、そうでなくては、これから先、弁理士試験を一緒に戦い抜くことはできないだろう。
 竜児にとって同志である亜美は、可憐な姿の中に、一筋縄ではいかないしたたかさや、逆境にも負けない強さを隠
し持っているのだ。
 そんなことを思いながら、竜児は別荘の玄関を開けた。

「済まねぇ、ちょっと遅くなっちまった。だが、やっぱ、海の近くなんだな。魚は結構いいものがあったよ…」

 そう言い掛けた竜児は、リビングのテーブルに、大きな花瓶一杯に生けられたバラの花束に気付き、息を飲んだ。

「な、何だこりゃ?! こんなにたくさんのバラは、一体全体どうしたんだ? しかも、青バラだぞ」

 ダイニングのテーブルに目を遣ると、亜美がMacBookを前に座っていた。そのMacBookの傍らには、バラの花束
に同封されていた川嶋安奈からの手紙が置かれている。

「何だ、そんなところに居たのか。居たら居たで返事くらいしてくれよ。それに、このバラの花束は何なんだ? いつ、
どっからこんなもんが届いたんだ?」

「ごめんなさい、掃除やら洗濯やらが一段落したら、気が抜けたのか、ちょっとぼんやりしてて…」

「い、いや、それならいいんだけどよ…。それにしても、このバラの花束は何事だ? こんなもの、別荘にあった
のか?」

 竜児のもっともな疑問に答えるべく、亜美は、川嶋安奈からの手紙を手に、リビングのテーブルの前で怪訝そうに
バラの花を見詰めている竜児に歩み寄った。

「これ…」

 それだけ言って、その手紙を竜児に差し出した。竜児は、咄嗟に亜美の真意を掴みあぐねたが、「お、おぅ…」と、
だけ答えて件の手紙を読み始めた。

「お、おぃ! こ、これって…」

 読み終えた竜児の声が上ずっていた。その竜児に、亜美は能面のように無表情だが、厳粛な面持ちで頷いた。
113大潮の夜に 71/81:2009/12/02(水) 02:00:19 ID:SDh3BMay

「そう、ママからの手紙。その手紙と一緒に、そこのバラの花が送られてきたんだわ…」

 竜児は、改めて川嶋安奈からの手紙に目を通した。

「お袋さんは、俺たちのことを許した訳じゃねぇが、認めるつもりはあるらしい…。しかし、美人だけど傲慢で陰険なだけ
のオバサンかと思ったが、意外に思慮深いんだな。おみそれしたよ…」

「結局、あたしたちは、ママの手の中で踊らされていただけだったのかもね…。その点は、ちょっとムカつくけど、あたし
たちの夢の実現を願ってくれていることは分かったわ…」

 亜美は、川嶋安奈は完全に善意からバラの花束と手紙を送ってきたと思っているらしい。だが、竜児は、川嶋安奈の
真意に気付いていた。
 それを言うべきか否か、竜児は躊躇したが、二人の間に隠し事は宜しくないと思い、率直に告げた。

「だがな…、これはお袋さんからの挑戦状でもあるんだぜ」

「どういうことよ?」

 竜児の意外な一言に、亜美は一瞬眉をひそめた。

「何でそう思うかっていうと、花言葉さ。今でこそ、青いバラの花言葉は“夢かなう”だが、一昔前までは、“不可能”だっ
たんだからな」

「ええっ! そうなの?!」

 驚く亜美に、竜児は念を押すように軽く頷いてみせた。

「青いバラってのは、最近は比較的目にすることが多くはなったが、一昔前までは、作出出来なかった花なんだ。それ
で、花言葉が“不可能”だったというわけだ」

「そんな意味があったなんて…」

「お袋さんは、俺たちが挑戦する弁理士試験や俺たちの結婚を内心は不可能なものと捉えているんだろう。表向きは
俺たちの夢がかなうように願っているようでいて、本心は、“やれるものなら、やってみろ”ってとこだな。さすが、芸能界
でしたたかに生き抜いてきた大物女優だけはある…」

 それを聞いた亜美が、うふふ…、と笑い出した。
 てっきり、川嶋安奈に対する敵意をむき出しにするものだと思っていた竜児は、呆気にとられて亜美の顔をまじまじと
見てしまった。

「ど、どうしたんだ? 急に笑い出して…」

「だって…、それでこそママだなぁって…。変に物分かりのいいオバサンなんてのはキャラじゃないから…。こんな風に
毒を隠し持っていてこそ、芸能界屈指の食えない女、川嶋安奈なんだわ」

 今度は、竜児が思わず苦笑してしまった。

「あら、あんたまで笑い出すなんて。亜美ちゃんの笑いが伝染したのかしらね」

114名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 02:01:00 ID:D2i6LLeE
支援
115大潮の夜に 72/81:2009/12/02(水) 02:01:30 ID:SDh3BMay
 竜児は、瞑目して苦笑しながら、かぶりを振った。

「いや、まさしく親子だなぁ、って思ったんだよ。お前の一筋縄ではいかない性悪なところは、おふくろさんからの遺伝
なんだってことを痛感させられたからなぁ…」

 亜美は柳眉を逆立て、頬を河豚のように膨らませた。

「ずいぶんな言い草じゃない? まぁ、親子だから似てるのはしょうがないとしても、性悪、性悪って、いい加減、亜美
ちゃんをステレオタイプみたいに表現するのはやめてよね」

「お、おぅ…。だがな、性悪ってのは、別に貶しているつもりじゃないんだぜ。一筋縄じゃいかない、したたかなところは、
むしろお前の魅力の一つだって思っている」

「な、何よ、その微妙な物言いは…」

 性悪と言われたことが、よほど心外だったらしく、亜美は腕組みをして竜児を睨み付けている。適切な弁明をしないと、
肘鉄あたりを食らうかも知れない。

「まぁ、隠し味って言ってもいいかも知れねぇな。綺麗なだけじゃない、可愛いだけじゃない。ピリッとした辛辣なところ
があるからいいんだ。お汁粉とかなんか、砂糖だけで甘くするんじゃなくて、ほんのちょっぴり塩を加えるのと似ている
かな? これが、味わいに深みをもたらすんだ」

「また、料理の話?」

「単に分かり易く例えただけだよ。人間だっておんなじさ。ただ可愛いだけってんじゃ、人間として薄っぺらい。辛辣な
部分が隠し味としてあるから、人間性に深みが出るんだよ」

 亜美は、渋面とも膨れっ面とも判じ難い微妙な表情だったが、最後には、ふぅ~っ、と大きなため息をついて、微笑した。

「説得力全然ないけど、まぁ、いいわ…。あんたが肯定的に受け取っているんなら、それで、いいでしょ…」

「お、おぅ…」

「で、隠し味からの語呂合わせじゃないけど、あたしの方は、隠し球っていうか、ちょっとした秘密兵器を用意してきた
の。あんたにも見てもらいたくてね」

 亜美は、すぅ〜っ、と優雅に舞うようにダイニングのテーブルに戻ると、起動させていたMacBookの画面を竜児にも
見えるように向きを変えた。

「いや、秘密兵器って、これか? これって、お前がずっと使ってるMacBookじゃねぇか…」

 首を傾げている竜児に、亜美は、双眸を細め、口元をちょっと歪めた、お馴染みの性悪笑顔を向けている。

「うふふ、こんなのはただの箱よ。問題は、ここに表示される情報なの。いいから、ちょっとこっち来て、亜美ちゃんと並
んで、この画面を見て欲しいのよ」

「いや、それはいいけどよ…」

 口ごもりながら竜児は、食材で重くなったエコバッグを、目の高さまで持ち上げてみせた。

116大潮の夜に 73/81:2009/12/02(水) 02:02:39 ID:SDh3BMay
「昼飯はどうすんだ? 新鮮なトビウオが手に入ったから、こいつは塩焼きにしようかと思っているんだが…」

 トビウオのような青魚は足が早いから、とっとと焼いて食べてしまいたいし、竜児自身、初めて扱う生のトビウオがどん
なものなのか楽しみであったからだ。
 一方の亜美は、『昼飯』の一言で、空腹であることを思い出したのか、ちょっと物欲しげにぽかんと口を開けたが、
すぐに閉じ、瞑目して、おほん、と軽く咳払いをした。

「食事よりも優先したいことなのよ。そりゃ、トビウオなんて、大橋や東京ではまず食べられない魚だし、きっと美味しい
んでしょうけど、それ以上に、あたしたちにとって大切なことがあるから…。その食材は冷蔵庫にでも仕舞って、今は
こっちを優先したいのよ」

「まぁ、お前がそこまで言うならいいけどよ…」

 ちょっと不満そうな竜児が、買ってきたばかりの食材を冷蔵庫に仕舞い、ダイニングに戻ってきたのを見計らって、
亜美はブラウザを起動させ、ブックマークからとあるサイトを選択して表示した。
 そのサイトは、弁理士試験対策の講座がある、竜児も知っている予備校のサイトだった。

「俺たちは独学で頑張るのが原則だったんじゃねぇのか? 第一、こんな辺鄙なところに引き籠っているんじゃ、
予備校なんて関係ねぇよな?」

 竜児のもっともな指摘に、亜美はウザそうに柳眉を微かに逆立てたが、すぐに淡い笑みを浮かべ、

「まぁ、見てなさいよ」

と言いながら、『ネットゼミ』と表示されたリンクをクリックした。

「えーと、アカウントとパスワードは…」

 Gmailで予備校から届けられたアカウント名とパスワードを、亜美は画面の所定の欄に入力した。
 ユーザの認証を行っているのか、画面が暫くフリーズしたように固まったが、すぐに回復した。そして、ブラウザの
ウィンドウが、一見、動画サイトのようなものに切り替わった。

「ネットゼミって、講義のストリーミング配信だったんだな?」

「そうよ、今年になって始まったサービスなんですって。何でも、この予備校の人気講師を起用した、かなり質の良い
講義だって噂よ」

「で、でもよ、独学で頑張るっていうポリシーは、もう止めなのか?」

 急な方針転換に竜児は戸惑った。それに、時間も資金も限られている竜児に、予備校は高嶺の花でもあった。
 だが、そんな風に難色を示す竜児の本音は、亜美には筒抜けである。

「ネット配信は、生の講義と違って、好きな時に視聴できるから、時間に拘束されないわよ。しかも、バックナンバーも
視聴できるし…。何よりも、実際に生の講義を受講するよりも格安の料金で利用できるってのがいいわね」

 亜美は、MacBookの前にもう一つ椅子を並べ、竜児に座るように促した。

「それに料金は月謝制なのよ。とりあえず、一箇月試用してみて、いけるようなら継続すればいいかと思って…。だから、
独学で頑張るっていう原則は放棄したわけじゃないのよ。独学でやっていくのが基本だけど、勉強のペースメーカーと
してネットゼミを活用するというわけ」
117大潮の夜に 74/81:2009/12/02(水) 02:03:52 ID:SDh3BMay

 亜美は、なおも、「でもよぉ」と、合点がいかないらしい竜児の肩を押さえて無理やり座らせると、iPod用イヤホンの
片側を差し出し、自身ももう片側を左耳に装着した。

「四の五言ってないで、とにかく見てみましょうよ。このネットゼミは、アカウントを持ってるユーザには、通信添削の
サービスもあるから、講義を聞いて、いけると思ったら、あんたもアカウントを取った方がいいわよ」

 亜美は、画面の再生ボタンをクリックした。
 画面に動画が再生され始め、竜児が右耳に嵌めたイヤホンから講義の音声が流れてきた。
 画面には、ベージュのスーツ姿の女性講師が映し出されている。

『初めまして、今回から、このネットゼミの専任講師を務めさせて戴きます、私、弁理士の日枝と申します。このネット
ゼミでは、弁理士試験の勉強を始めたばかりの方々を対象に、特許法をはじめとする産業財産権法についての講義
を進めて参ります』

 際立った美人というわけではないが、上品で知的な感じがする女性だった。スレンダーな体つきは、ちょっと亜美に
似ていなくもない。

「いかにも有能そうな感じだな。正直、講義の語り口も、俺たちの大学の教授よりかは断然いい…」

 竜児の右隣に腰掛けている亜美も、同感なのだろう。目を画面に向けたまま、微かに頷いた。

「この人って、この予備校の看板講師らしいわよ。何でも、“女神降臨”なんですって」

「なるほど、勝利の女神か…」

『技術革新の成果を知的財産として保護することのみならず、そうした知的財産の十分な活用、更には、権利を取得
することにより、知的財産を適切に保護する必要があるわけです。そのために、特許制度等の制度があり、これによっ
て、発明した者や特許出願をした者の権利が守られるわけです…』

 イヤホンから淀みなく流れる勝利の女神の声に、竜児も亜美も、時間を忘れて聞き惚れていた。


***
「以上、申しましたように、私どもの事務所と致しましては、一般の特許商標事務所において主要な業務であります、
特許などの出願に関する特許庁への手続についての代理、知的財産権に関する仲裁事件の手続についての代理、
特許や著作物に関する権利、技術上の秘密の売買契約、ライセンスなどの契約交渉や契約締結の代理、特許法等
に規定する訴訟に関する訴訟代理等に加えて、顧客である法人のブランド、営業秘密、著作権等のコンサルティング
業務にも注力して参ります。例えば、新規に製品を開発する場合、製品のブランドイメージである商標の選択、製品の
外観である意匠の決定、それに、製品の根幹に関わる技術を特許として権利化することを視野に入れ、製品開発の
初期段階から、弁理士である私どもが適切なコンサルティングを展開して参ります」

 円卓の会議室でスーツ姿の老若男女が、壇上で熱弁をふるう女性弁理士の一挙手一投足を注視していた。
 チャコールグレーのスーツをスレンダーな身に纏い、長い髪を一本の三つ編みにしたその女性弁理士は、プレゼン
テーションソフトウェアで表示される画像をレーザーポインターで適宜示しながら、凛とした口調で説明を続けた。

「今までの知的財産権の代理業務は、お客様からの指示通りに処理をするものでした。しかしながら、今後ますます
厳しくなる他社との競争、それに特に諸外国での権利侵害等を鑑みますと、お客様である企業の皆様も、より早い
時期から、法的な事項にも、技術的な事項にも通暁した専門家、すなわち私どものような弁理士にご相談されることが
望ましいと申せましょう。一方で、私ども弁理士も、お客様の指示を待つのではなく、製品開発やブランドイメージの
118大潮の夜に 75/81:2009/12/02(水) 02:04:47 ID:SDh3BMay
構築の初期段階から、専門家としての立場でコンサルティングを行い、他社に先んじた、更には権利侵害を効果的に
排除し得る、包括的で漏れのない権利取得のお手伝いをさせて戴きます」

 壇上の女性弁理士は、ここでレーザーポインターの電源を切り、改めて円卓に居る面々の顔を見て回った。
 懐疑的な顔をした者もいるようだが、総じて反応は悪くなさそうだった。中でも、年の頃は三十代半ばといった感じの
女性管理職が、にこやかに、害のなさそうな淡い笑みを浮かべている。

「私ども高須特許商標事務所は、設立間もない事務所ではありますが、所長である高須竜児は、在学中に弁理士試
験に合格し、大学卒業後十年以上にわたり、特許関連の弁理士業に従事して参りました」

 そう言って、傍らに座って、ノートパソコンでプレゼンテーションソフトウェアを操作していた男性弁理士を指差した。
壇上の女性弁理士と同じようにチャコールグレーのスーツを着て、黒縁眼鏡を掛けたその男性弁理士は、指差された
瞬間、軽く会釈をするように、頭を垂れた。

「また、副所長である私、高須亜美も、在学中に弁理士試験に合格した後、意匠、商標の実務に従事し、いくつかの
お客様の新規ブランド構築のお手伝いをさせて戴きました。年齢的には両名とも若輩者ではありますが、相応の経験
を積んで参りました。何とぞ、最初はトライアルで結構ですので、私ども高須特許商標事務所を宜しくお願い致します」

 最後にもう一度、会議に列席している人々を見比べるように、一人一人、その面相を窺って、亜美はプレゼンテー
ションを終えた。


「ね、ねぇ、ど、どうだった? あたしのプレゼン」

 大きなショルダーバッグを肩に掛けた亜美は、プレゼンテーションをした企業のビルを出て、そのビルからある程度
離れた頃、出し抜けに竜児に問うてきた。
 その竜児は、パソコンやらプロジェクターやらが入っているキャリーバッグを引きながら、にこやかに笑っている。

「よかったよ…。弁理士高須亜美、渾身のプレゼンテーションだったな。何しろ、俺にはあんな風に聴衆を引き込むよう
な緩急自在な話っぷりは到底出来ない…。お前、やっぱり大した奴だよ」

 竜児は、切れ長の双眸を、黒縁眼鏡の奥で柔和そうに細めていた。亜美の渾身のプレゼンテーションは成功したと
いう手応えを感じているらしい。

「うん、ありがと…。でも、知財の本部長に加えて、常務取締役の事業本部長までお出ましとは、ちょっと驚きね。プレ
ゼンもやりがいがあったけど、ものすごく緊張した。だけど、肝心の知財本部長が、ちょっと首を傾げていたのが気にな
るわね」

 どこの事務所に仕事を出すかを最終的に決定するのは、知財本部長である。その本部長に気に入られなかったら、
プレゼンは成功とは言えない。それが、亜美には不安だった。

「確かにな…、ちょっと知財本部長の反応が芳しくなかったが、もっと偉い事業本部長は、何だか我が意を得たように
頷いていたがな…。それに、知財本部の実力者で、大きな発言権を持っていそうな知財課長が終始にこやかに俺た
ちを見ていた。根拠はないが、あの女性の知財課長が居るおかげで、今回のプレゼンテーションは、何もかもうまくい
くような気がするよ」

 眼鏡の奥から覗く竜児の優しげな眼差しを受けて、亜美はほっとしたような笑みを浮かべた。

「そうね…、あの女の課長さんが鍵だとすると、あたしのプレゼンもまんざらではなかったのかも知れないわね」

119大潮の夜に 76/81:2009/12/02(水) 02:06:02 ID:SDh3BMay
「そうとも、内罰的に悩むよりも、過ぎちまったことはくよくよせずに前向きに生きる。俺は、これを他ならぬ、亜美、お前
から教わったんだからな」

 竜児の指摘に、亜美は、「そうだったわね…」と苦笑した。悪い気はしなかった。互いに遠慮なく、ものが言える関係。
これは、学生時代から今に至るも変わらない。

「それはそうと…、あの女の課長さん、どっかで会ったことがあるような気がするんだけどぉ、気のせいかしらね」

 亜美が思い出したように竜児に尋ねてきた。三十路を越えたというのに、肌は白磁のように滑らかで艶やかだ。小首
を傾げてきょとんとした表情は、十代の頃とさほど変わらない。

「お前もそう思ったのか? 実は俺もなんだよ。遠い昔、どっかで会ったような気がするんだが…、思い出せない…」

 相方の竜児も、長身で引き締まった体つきは、学生時代そのままだった。ただし、黒縁眼鏡で覆われた切れ長の
双眸は、絶えずにこにこと笑みを湛えており、昔のような鋭い三白眼とは勝手が違っていた。

「う〜ん、あんたも見覚えがあるんだ…。そうなると、あんたとあたしが一緒に居るときに会ったことがある人かしらね」

 それから、亜美はちょっと口をへの字に曲げて、暫く記憶をたぐってみたが、結局は何も思い出せなかったのか。
大きくため息をついて、苦笑した。

「やっぱ、分かんない…。でも、あの女の課長さんが味方だったら、何とかなるかも知れないわね」

「おぅ、そうだな…、プラス思考で行こうじゃないか」

 にこやかに笑う竜児、その目元を亜美はじっと見た。フレームが太めの黒縁眼鏡。度が強そうな印象を見る者に与え
るが、実は伊達眼鏡だ。

「ねぇ、あんた、その眼鏡いい加減にやめときなさいよ」

「そうか、似合わないかな?」

「いや、悪くはないけど、その眼鏡、あんた未だに自分の目つきが悪いって思い込んでるから掛けてんでしょ? もう、
誰もあんたの目つきが悪いなんて思ってないわよ。うちのちび…、美由紀のお友達があんたを見て、怖がったことがあ
る? 一度もないでしょ? もう、あんたの目つきは穏やかになっているのよ、そんな眼鏡に頼っているのは、依然とし
て内罰的な悪い癖が治ってない何よりの証拠だわ」

 ずけずけと言う亜美に閉口したのか、竜児は、苦笑していた。

「相変わらず、遠慮がねぇな…」

「何を今更…。あたしたちは同志なんだから、相方が苦しければ、助けてやって、相方が怖気づいているときは叱咤し
てでも励ましてやる。それをお互いがする。そういうものなんだわ…」

「うん…。確かに、そうだったな…」

 並んで歩いている亜美が、ちょっと背伸びして、竜児の顔を覗き込んでいる。

「ねぇ、あんたの眼鏡が似合うかどうかは別として、そろそろお昼ご飯にしましょうよ。今日はあたしが当番だから、
自家製パンのサンドイッチを作ってきたんだけど、どう?」
120大潮の夜に 77/81:2009/12/02(水) 02:06:55 ID:SDh3BMay

「どうって、言われてもなぁ…、手弁当は、俺たちにとって長年の習慣だからな。食うしかないだろ?」

 傍目にはぶっきらぼうな感じだったが、互いに遠慮がない間柄ならではの忌憚なきコメントでもあった。
 対する亜美は、双眸を細めて、にやりとしている。

「相変わらず可愛くないわね、その態度…。でも、まぁ、いいわ…。結婚して十年ですもの。もう、慣れちゃった…」

「そりゃ、どうも…。へぇ、へぇ、恐れ入りますよ、若奥様」

 含みを持たせた亜美の性悪笑顔に、竜児も、口元をちょっと歪めた苦笑いで応じた。

「そういう憎まれ口も可愛くないわよ。でも、まぁ、バカ話もいいけど、あそこに大きな公園があるわね。お弁当はあそこ
で食べるってことでどう?」

 都内でも有数の広さを誇るその公園には、すっかり色づいた楡の大木が何本もあり、その木陰には居心地がよさそう
な木のベンチがあった。

「いいんじゃないか? 木漏れ日の下で、ピクニック気分が味わえそうだしな」

 亜美の提案に、竜児は切れ長の目を細めて、にっこりと頷いた。そういえば、麻耶と北村祐作のデートを偽装した
ピクニックから、既に十四年が経っていた。


−−−−−−−
「ところで、えらく若い弁理士の先生方だったが、使いものになりそうかね?」

 亜美が熱弁をふるっていた会議室で、年嵩の男性が、渋面丸出しで傍らの女性社員に尋ねていた。
 プレゼンを聞いていた面々の中で、唯一、首を傾げていた知財本部の本部長である。
 その、竜児や亜美に対してお世辞にも好意的とは言えない問い掛けを、傍らの女性社員は、軍人のような謹厳さと、
女性らしい柔和な笑みとが渾然一体となった面持ちで聞き、自身の見解を述べ始めた。

「僭越ですが、私は大丈夫だと思います。所長の高須竜児先生は、最近まで大手事務所で活躍されており、お若い
ながらその事務所のエースとも呼べる存在でした。副所長の高須亜美先生は、実務能力の高さに加え、美的センスが
非常に高いとの定評があり、これも独立される前に、いくつかの新規ブランドの立ち上げに成功されています」

 否定的な見解を期待していたらしい本部長は、女性社員の発言に、不愉快そうに眉をひそめている。

「しかし、単に実務が出来るというのは、どの弁理士だって同じではないかね? ギリギリの法的判断が要求される
場面で、彼らのような若い弁理士が対応出来るのか…。私は少々懐疑的だよ」

 何が気に入らなかったのか、本部長は、顔をしかめたまま、背を丸めて椅子から立ち上がり、会議室の円卓のまわり
をイライラとした感じで徘徊した。会議室には、この本部長と、知財課長の肩書きを持つ女性社員だけが残っていた。

「法的判断につきましても、高須先生は並の弁理士以上の能力をお持ちだと思われます。高須竜児先生は、母校の
法学部で非常勤ですが、特許法をはじめとする産業財産権法の講義をされていますし、高須亜美先生も、実務の傍
ら、大手予備校で弁理士試験対策の講座で教鞭を執られています。ですので、法的なセンスは非常に高いはずです」

 知財課長の落ち着き払ってはいたが、凛とした発言に、本部長はそれでも不満そうに鼻を慣らして、肩をすくめた。

121大潮の夜に 78/81:2009/12/02(水) 02:07:51 ID:SDh3BMay
「ふむ、そうかね…。まぁ、知財生え抜きの君が、そこまで言うのであれば、多分そうなんだろう。私は、製造から知財に
来た人間だから、正直、分からなくてね…」

「恐れ入ります…。では、早速、高須先生には、まずは何件か特許明細書の作成をしていただき、その結果が良好で
あれば、近く当社が取り掛かる新規事業のコンサルティングをお願いしようかと存じます」

「うん、君に任せる。宜しくたのむよ」

「はい、有り難うございます」

 知財課長の返事に、本部長は鷹揚に頷くと、背を丸め腰の後ろで手を組んで、会議室を出て行った。
 それを見送った知財課長は、大きくため息を吐いて、そびやかしていた肩の力を抜いた。

「ふぅ…。悪い人じゃないんだけど、頑固で知財に無知なのは困ったものね…」

 扱いにくい上司から一時的だが開放された知財課長は、肩の凝りをほぐすためか、瞑目して首をぐるりと巡らせた。
 そして、亜美がプレゼンテーションを行っていた壇上に目を遣り、おもむろに微笑した。

「でも、世間って、本当に狭いのね…。あの子たち、弁理士になって結婚していたなんて…」

 知財課長の脳裏に、新人研修での記憶がよみがえってきた。新卒で入社した年の夏、彼女はグループ企業が経営
する銀座のビアホールで接客の研修を受けていたのだ。

「あの時、どう見ても未成年って感じで、お酒の飲み方もなってなくて…。女の子の方はぐでんぐでんになっちゃって、
男の子の方はおろおろしちゃって、可愛かったけど…、そんな子たちが今は立派な弁理士…。時が経つのは本当に
早いものね…」

 それは取りも直さず、彼女自身も年を取ったということでもある。知財課長は、それにうんざりしたのか、苦笑すると、
目の前の電話機から受話器を取り上げ、知財本部に内線電話した。

「あ、もしもし、小泉ですけど、川端君ね? あなたも高須先生のプレゼンは聞いたわよね。そう、なかなか有能な先生
方だから、さっそくお仕事を手配してちょうだい。これは、本部長も了承されているから、遠慮なくどーんと出していい
わ。手始めには特許明細書の仕事だけど、意匠や商標の仕事があったら、それも優先的に回してちょうだい。よろしくね」

 部下に用件を告げて、受話器を置き、知財課長は、窓の外に目を遣った。初冬の空は澄み渡り、一片の雲もなく、
目に痛いほどの青さで広がっていた。


−−−−−−−
「こうして木陰で弁当を食ってると、十四年前に北村と木原のデートをお膳立てした時のことを思い出すな」

「そうね…。あの時も、こうして木陰でお弁当を食べていたわね。ただし、麻耶と祐作の様子を監視しながらの落ち着か
ないものだったけど」

 思い出し笑いなのか、亜美はちょっと微笑しながらサンドイッチを摘んで、それを口に運んだ。亜美自身が自宅で
焼いた小麦粉にライ麦粉を三割ほど混ぜた、ベージュ色のパンだった。高須家では、パンといえばライ麦を使うのが
常識となっている。

「今日のパンの出来も悪くないようだな。微かにライ麦のサワー種らしい酸味があって、美味しいよ」

122大潮の夜に 79/81:2009/12/02(水) 02:09:00 ID:SDh3BMay
 料理にはうるさい竜児も、亜美が焼くパンには文句を言わない。十四年前の夏休みに、一箇月以上も別荘で暮らし
た時、二人が食べるパンを自家製で賄うようになって以来、竜児も亜美も市販のパンは買わずに済ませてきた。

「まあねぇ、あたし程度でも十四年間も続けていれば、そこそこの腕前にはなるからねぇ…」

 謙遜なのか、照れているのか、亜美は瞑目して、ちょっと苦笑している。

「まぁ、お前は飲み込みが早いっていうのか、十四年前に、別荘で初めてお前が焼いたパンを食べさせてもらったが、
もう、あの時点で、かなりの完成度だったからな…。今や、どこに出しても恥ずかしくない出来栄えだ」

「そんなにあたしを礼賛するなんて珍しいわね。何か、企んでるの? 言っとくけど、事務所構えたばっかで、うちは
貧乏なんだから、当分、贅沢は出来ないわよ」

 今度は、竜児の方が目を細めて苦笑した。

「相変わらず、ずけずけ言うなぁ…。別段、何かを買おうって欲はない。それに、可愛くねぇって言葉は、そっくり
そのままお返ししたいぜ」

 亜美もまた、背筋を伸ばして瞑目したまま、性悪そうな苦笑いを浮かべている。

「あら、お互い隠し事をせずに正直に言い合っていたからこそ、不満が溜まらずに、十年間一緒に居られたんじゃない
かしらね。それに、可愛いだけじゃ人間が薄っぺらい。辛辣な部分があってこそ、人間性に深みが出てくるって言った
のは、どこの誰かさんかしらね…」

 それは、他ならぬ竜児であった。竜児は、亜美の辛辣な突っ込みに、一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに元の苦笑い
を取り戻した。

「参った…、さっきのプレゼンでもそうだが、臨機応変で言葉巧みなお前にゃ、敵わん」

「プレゼンの草稿はあんたが書いたんじゃない。あたしは、あんたが書いた草稿を効果的に読み上げただけ…。
どっちが優れているとかの話は不毛よ。お互いが補完しあって、頑張っている。そういうことでいいじゃない」

「そうだな…」

 とりとめのない話をしながら、サンドイッチを摘んでいたが、それも残り少なくなってきた。
 亜美は、ポットから注いだお茶をのんびりと啜っていたが、何かを思い出したように、顎を上げ、竜児の顔を覗き込んだ。

「ねぇ、今日のサンドイッチだけど、何か変わったところはなかった?」

 言われて竜児は、手にしていたサンドイッチを改めて凝視した。
 ライ麦の混じったベージュ色の薄切りパンに、辛子バターを塗り、ハムと、ザワークラウトと、青唐辛子のピクルスと、
蒸した鶏肉と、ゴーダチーズのスライスを挟んだ、高須家ではポピュラーなサンドイッチだった。

「いや、いつもの我が家のサンドイッチだが? 強いて言えば、多少、パンの厚みにムラがあるし、具もちょっと偏って
詰まっているような感じがしないでもない…」

「まぁ、正直に言えば、ちょっと不細工な出来かもしれないわよね?」

 亜美が、双眸を細めた性悪笑顔で、念を押すように訊いてきた。

123大潮の夜に 80/81:2009/12/02(水) 02:10:19 ID:SDh3BMay
「う…、まぁ、それはどうかな…」

 竜児は、言葉を詰まらせて、お茶を濁そうとしている。亜美が作ったものだと思っているから、それをあからさまに
貶すのは後が怖いと思っているのだろう。それが亜美には可笑しかった。

「正直に言いなさいよ。別に言っても怒んないから。第一、それ、あたしが作ったんじゃないからね」

 竜児は、「えっ?」と絶句して、手にしたサンドイッチをもう一度凝視した。

「てぇことは、まさか…。うちのちびが作ったのか?」

「そうよ、美由紀がどうしてもお手伝いするって言ってね。パンを焼いたのはあたしだけど、それを切って、
バター塗って、具を挟んだのは、あの子なのよ」

「驚いたな…。美由紀は未だ小四だろ? それでこれだけ出来りゃ、大したもんだ」

 目を丸くする竜児の傍らで、亜美は、事もなげに澄まし顔でお茶を啜った。

「あの子は、誰かさんにそっくりで、生真面目で、何でもそつなくこなすのよね…。それに、小四っていったら、あんた
だってその頃は泰子さんに代わって台所に立っていたんでしょ? 別に驚くには当たらないわよ」

「確かにな…。あの子は、ちょっと意地っ張りなところがあるが、よく出来た子だ。しかし、意地っ張りなところは、
別の誰かさんに似たような気もするけどな…」

 竜児にしては珍しい、皮肉めいたささやかな反論に、亜美は瞑目した澄まし顔に淡い笑みを浮かべた。

「まぁ、あたしたちの子供なんだから、両方に似るのは当然よね。でも、あの子のおかげで、助かってもいるのよ。
あたしたちの結婚を、やっぱりママは快く思ってはいなかったけど、美由紀が生まれたら、だいぶ風向きが変わった
から…」

「そうだな、孫が出来ると嫁の親はびっくりするくらい喜ぶってのは、本当だったんだな。お袋さんも、その点は、世間
並の女親だったってわけだ」

 亜美と結婚してからも、何かと竜児に対しては厳しい目を向けてきた川嶋安奈であったが、結婚してすぐ亜美が
身ごもり、美由紀が生まれると、何だか急に機嫌がよくなった。

「そうね、それに、あの子、隔世遺伝っていうのかしら…。あたし以上に、ママに似ているみたいなのよ。おそらく、ママ
のことだから、ママにとっての失敗作だったあたしに代えて、あの子を歌手か女優にでもするつもりなのかしらね」

 それだけ言うと、亜美は憂鬱そうにちょっと眉をひそめた。自身もモデルをやったことがあったから、芸能界で生き抜
くことの難しさを痛感している。出来れば、そんな世界に自分の娘は首を突っ込ませたくなかった。

「まぁ、気持ちは分かるよ…。俺も、正直、芸能界とかに行くのは賛成できない。しかし…」

 亜美は、褐色の大きな瞳を見開いた静謐な面持ちで、竜児の言葉を待った。
 夫の言わんとすることは、分かっていた。妻であり母である亜美もまた同意見だが、それを言い出しにくかったのだ。

「結局は、あの子が決めることだ。あの子が、芸能界に興味を持っていて、お袋さんの下で稽古に励む気があるのなら、
それを叶えてやるべきなんだろうな」

124大潮の夜に 81/81:2009/12/02(水) 02:11:09 ID:SDh3BMay
「うん…」

「何になりたいとか、どんな人生を送るのかは、あの子次第なんだ。俺たちが、お袋さんの思惑から外れた生き方を
選択したように、あの子も、俺たちの意に添わない道を選ぶかも知れない。でも、それでいいんだと、俺は思って
いるよ…」

「そうね…。そうなんだわ…。ママに逆らって、好き勝手な道を選んだあたしが、自分の娘の行く末を束縛する権利
なんてない。主権は、あの子にあるんだわ。それを、うっかり忘れちゃうところだったわね…。そして、あの子が、あたし
のようなどうしようもない親不孝娘になったとしても、それでも、親であるあたしたちは、あの子の行く末を案じ、
見守ってやらなければいけないわ」

「そうだな…」

 亜美は、憂鬱そうな表情を払拭し、晴れやかな笑みを湛えると、夫に向き直った。

「あたしたちもそう…。これから、どんな人生を送るのかは、あたしたちの意思によるのね。それは誰の責任でもない。
あたしたちが決めることなのよ」

「ああ、俺たちは、独立して事務所を開設した。しかし、成功するか否かは全くの未知数だ。仮に失敗したとしても、
それは誰の責任でもない。俺たちの自己責任だ。だが、俺たちは…」

「うん…。今はもう、あたしたちだけじゃない。美由紀がいるんですもの。私たちが失敗すれば、あの子を不幸にする。
それは、絶対に許されないことなんだわ」

 言い淀んでいた竜児に代わって亜美が会話を継いだ。
 機先を制された竜児は、それでも悪い気はしないのか、柔和な笑みを浮かべている。

「俺たち以外の者も含めて幸せになるには、もっと、もっと俺たちは頑張らなくちゃいけないな…」

「そうね、あたしたちの戦いは未だ終わった訳じゃない。無限の可能性を求めて、まだまだ一生懸命にならなきゃいけ
ないんだわ」

 そう言って、亜美は、抜けるように青い空を、梢の隙間から仰ぎ見た。
 その空は、二人の行く末を見守るが如く、無限に青く、深く、広がっていた。
(完)
125SL66:2009/12/02(水) 02:12:34 ID:SDh3BMay
以上です。
途中支援してくださった諸兄に改めて御礼申し上げます。
126名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 02:18:21 ID:A+iVhnhv
>>125
それにしてもすごい量だw
とにかくGJ


明日朝にでもじっくり読ませていただきます
127名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 02:18:50 ID:33TlDY1M
完結お疲れさんです。

・・・ああ、楽しみにしていた作品が完結した。

青バラの花言葉ってそういうもんなんだね。
上手い小道具だと感心。

それにつけても亜美ちゃん様の焼いたライ麦パンを食べてみたいなぁ・・・


次回作も楽しみにしています(催促
128名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 02:20:12 ID:1UgDiSq7
GJ GJ GJ
おもしろかったです。
このシリーズは終わりなんすか・・・
是非とも、外伝などの形でもこの世界のお話が読みたいですぜ。
予告から楽しみにしてたけど、期待以上でした。ありがとう。
129名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 02:23:17 ID:56nDvvPI
>>125
お疲れ様でした。 完結、おめでとうございます。
とりあえず、斜め読みさせていただきました。
楽しみにしていたシリーズが完結し、喜ばしいと同時に残念でもあります。
私も頑張って書き上げないと…
安奈さんの去就も定まりましたので、そのうちあみママ!も続き書きたい…
(埋め書いてる場合じゃない罠w)
130名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 02:38:51 ID:9zp1It9F
本当にお疲れさまです。

感動しました。

一番好きだった話が完結……。
嬉しいけど悲しい。

次回作待ってますよ!

僕も頑張ります。
この話を読んで勇気づけられました。



大学受かってやる!!!


131名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 03:10:09 ID:pl5z9nls
>>125


>>129
あんたの産め種も待ってますよ
132名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 04:35:09 ID:gRL/duw+
>125
お疲れ様です。きっちり作品を完結させるというのは意外に大変なもので、
やり遂げられた苦労を一読者ながら敬意を表させていただきます。

そしてこの作品にあえて苦言を申し上げるなら、亜美ちゃんの「〜だわ」という台詞回しが
やや不自然であったことでしょうか。亜美ちゃんが完全に使わないこともないでしょうけど、
少々多すぎかと。言い回しとして不適切な場面が多々見られたのも残念。

より洗練された次回作に期待いたします。
133 ◆Ye9TnXLFgwt6 :2009/12/02(水) 04:58:03 ID:wrVIs0JX
>>125

GJです。完結お疲れ様です。
相変わらずの圧倒的ボリュームに感動しました。細かい描写も素敵。
ぶっちゃけた話、パクッてしまいたい。色々、見習うべき点が多すぎて。
でも、私の技量ではムリなんですよね、そんなの。

と、言う訳で、私も『エンドレスあーみん』完結目指して続き、投下して行きます。
134 ◆Ye9TnXLFgwt6 :2009/12/02(水) 04:59:02 ID:wrVIs0JX

11 甘口

「あんたら…何してんの?」
何してんの?と聞かれても……困る。
端的に言えば、あたしは高須君の顔を敷いている。あたしの服装はTシャツに下はパンイチ。
薄い布切れ一枚越しで高須君の鼻が、あたしのアレに当たってるんだよね…
なぁ〜んでこんな事になったのかなぁ?Aコースのつもりだったのに。
故意では無くて、あくまで事故。超自然的な力によって、こうなった。
そう、いうなれば、ToーLOVEる。あたしと高須君はToーLOVEってしまったのだ。
そしたら、間の悪い事に海水浴ご一行が帰ってきた。ToーLOVEるなら仕方ない。
「はぁ、毎度発情ご苦労様。」
「いやいや、だからこれは違うんだってば。」
「良いのよ、別に。言い訳なんかしなくても。
お尻の匂いを嗅ぐなんて、ホント犬みたいだな〜
とか、思ってないし。変態共。」
「いやいやいや、だからね、これはアレなんだってば。」
「あーみん。流石に、これは言い訳出来ないでしょ……
いや、別に良いんだよ。お二人の問題だから。
ただ…お楽しみだったみたいですね。イヒヒヒヒ。」
「まあまあ、2人とも、違法でもない限り、趣味嗜好は個人の自由だぞ。
そう、露骨に引いてやるな。」
異議ありッ!!弁解の余地を求め……たいが、ムリだろ〜な、きっと。
「はいはい、解りましたよ。どうせ、変態ですよ。犬ですよ。悪かったわね。
それより、あんたら、砂塗れじゃん…部屋が汚れるから、順番にシャワー浴びてきな。」
「ニヤニヤ。あーみんがそう仰るならば、仰せのままに。
じゃ、大河、一緒にシャワー浴びようか?」
「え、別に良いけど。2人もいっぺんに入れるの?」
「大丈夫、大丈夫。大河、ちんまいから。
洗いっこしようぜ〜、アワアワで〜キャアキュアしようぜ〜」
「なんだろう……何か身の危険を感じる……」
「良いから。良いから。」
「あ、みのりんそんなに強く引っ張ら……
ちょ、誰かみのりん、止め…アッ〜〜〜〜」
135 ◆Ye9TnXLFgwt6 :2009/12/02(水) 04:59:39 ID:wrVIs0JX
人間が部屋吸い込まれていく。そんな事があり得るのだろうか?
あたしの別荘は人を喰らう恐怖の館だったんだ……
なんて、実際は、凄い勢いで実乃梨ちゃんがタイガーを引っ張っていったんだろうけど、
その勢いたるや、タイガーは真横になってピューーっと部屋から部屋へ消えていった様に見えた。
「凄いなぁ、実乃梨ちゃん。タイガーって見た目は軽そうだけど、ホントは結構重いのに、
軽々、引っ張って行っちゃったよ。力持ちさんだなぁ〜」
ッ!?その、瞬間、あたしの背筋に電気が走った。下から、上へ、ゾクゾクと未知の感覚があたしを襲った。
プロ根性でなんとか堪えたけど、危うく、みっともない声をあげるトコだった。
急に、動きやがったのだ。ずっと微動だにしなかった、座布団が、ピクッと動きやがった。
それが、良い具合に、アレに擦れて、一歩、間違えれば大惨事。
あたしとしては、そういう展開を望むところではある。
しかし、祐作なんかに見せてやるには惜しいと思う。
祐作を追い出したら、思う存分楽しもうよ、ちょっと待っててね。座布団さん。
「おいコラ、いつまで見てやがる、出歯亀野郎。
さっさと、どっか行きやがれ。シッシッ」
「あ、ああ、すまんすまん。それじゃごゆっくり。」
これで、邪魔者は消えた。
な〜んか、眼鏡の奥がイヤらしい感じだったけど……まぁ、良いや。
さて、座布団さん、お待たせ〜〜
あたしは腰を少し浮かせて、座布団さんを覗きこんだ。
さぞや、羞恥と快感に顔を歪ませて、あたしを楽しませてくれる、事だろう。
…期待に反し、青く染まった座布団は瀕死だった。
136 ◆Ye9TnXLFgwt6 :2009/12/02(水) 05:01:05 ID:wrVIs0JX
「お〜い。大丈夫ぅ?」
へんじがない。ただのしかばねのようだ。高須君はぐでーんとしてピクリとも動かない。
先程のは、最期の力を振り絞った、末期の足掻きだったのだろう。
「刺激が強すぎたのかなぁ〜?なんだかんだ言っても、童貞君なんて所詮こんなもんよね。」
…とか、いいながら、実は、あたしもかなり興奮している。
お腹の奥が、まるでマグマが煮えてるみたいに熱くって、ギューッて何かに締め付けられてる気分。
下着も、ちょっと汚れちゃったかも…。さっきお風呂入って、着替えたばっかりだと言うのに。
もう…どうしてくれんのよ。責任取ってよ。
「これで、起きなきゃ襲っちゃうぞ〜」
ペチン。ペチン。蒼白な頬に往復ビンタをお見舞いしてやる。
……。起きる気配なし。どうする?ホントに襲っちゃおうかな?
でも、大丈夫、かな?やっぱりマズイかな?
女から男への性的暴行、強姦罪は立証が難しい。多分、このパターンなら、仮に高須君に訴えられてもセーフ。
祐作をはじめ、タイガー、実乃梨ちゃんの証言もあたしを有利にするだろう。
双方、合意の元でした、と。
いや、法的な事はこの際、問題じゃない。
問題なのは、このまま、意識のない高須君をムリヤリ襲ってしまって、高須君が目を覚ました時。
その時、拒絶されたりしないだろうか?嫌がらたら?避けられたら?
そしたら、今の微妙な関係さえ危うい事になって、取り返しのつかない事に、なるんじゃ…
あたしには、それが一番恐ろしい。ムリヤリな一線の越え方して、それで全部パーになったりしたら…
重すぎるリスクに、千載一遇のチャンスを前にして、あたしは二の足を踏んでいた。
137 ◆Ye9TnXLFgwt6 :2009/12/02(水) 05:01:28 ID:wrVIs0JX
臆病者。情けない……
かつてあたしは、同じく臆病だった実乃梨ちゃんに腹をたて、大喧嘩した。
なのに、あたしは、自分が同じ立場に立たされた時、動けないでいる。
逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ
動け動け動け動け動け動け動け動いてよッ!!
なんて思ってみたって足が竦んで動けやしない。あたしって、結構、本番に弱いタイプなんだよな〜
変に考えたりせずに勢いでヤっちゃえば楽だったのに……今更、遅い。
ああ、今にして思えば、あの時の実乃梨ちゃんの気持ちも解る気がする。
実乃梨ちゃんは、高須君をタイガーに譲るだの、譲らないだの、タイガーに対する罪悪感だとかそんなのじゃなくて、
きっと、怖かったんだ。友達っていう安全な関係を壊すのが怖かったんだ。
解る。解るよ。あたしなんか、ずっと高須君とそうなりたいと思ってたのに、ここへ来て、急に臆病風に吹かれてるんだもん。
高須君がこんなに近くに居るのに…高須君が…高須君が…
あたしは、高須君の頬にそっと手を添えた。
やっぱり、あたしには勇気がない。だから、今はこれだけ。

………。

ぐにぃ〜〜。
「ひゃひぃ!?」
高須君のほっぺは、面白い位、よく伸びる。
「ひぃひゃい。ひぃひゃいって。」
ほっぺ引っ張られて、苦痛に表情を歪め、ひっどい面になってる。
「ひふ。ひふひふ。ひゃめて。」
愉快な悲鳴を上げて、あたしを楽しませてくれる。
おらおら。ポッケ村の村長かよ、てめぇは。もっと苦しみやがれ。
あたしが、こんなに悩んでんのに、ぐーすか寝やがってよぉ。
なんて事は、ちょっとしか思ってないから、これ位で勘弁してあげるか、仕方ない。
「おはよ〜。良い夢見れた?」
あたしは高須君のほっぺから手を離し、にっこりと微笑みかけた。
「お、おう。俺はいったい!?」
「やだ、覚えてないの?」
「おう。風呂から出た後の記憶がスッパリだ。
何か、臭くて息苦しい夢を見たよ。何があったんだ?俺に。」
く、臭い!?今、こいつ臭いって言った?言うに事欠いて臭い?
このあたしが、パーフェクト美少女たるこのあたしが臭い?
いくら、デリケートな部位とは言え、そんな匂いなんかある筈が……
いや、嗅いだ事ないけどさ。でも、きっと、フローラルな香りの筈。多分。
138 ◆Ye9TnXLFgwt6 :2009/12/02(水) 05:03:00 ID:wrVIs0JX
「いやいやいや。臭いなんて事無いでしょ。
てか失礼じゃん?それ。いくら高須君だってぶっとばすよ?」
あたしは、怒りをグーに握りしめ、ぷるぷると震えている。
「いや、だから、夢の話だから…
何を怒って……って、お前、なんだよ!?その格好。」
格好?ショーツはちゃんと穿いてますけど?
「え?何?」
「何?じゃねぇよ!!
あ〜〜っ。思い出したぞ、確か、入浴中に、襲撃されたんだ。
背中流したげる〜☆とか言って。で、その時、脱いだんだろ?ズボン。濡れるから。
俺は、見ない様にずっと後ろ向いて耐えたのに、何でまだ、下着姿でうろついてんだよ!?」
「え〜〜っ?だってその後、お疲れの高須君を癒やす為にマッサージしてあげたじゃん?
まあ、ヘタレの高須君はずっとうつ伏せになって、こっち見ようとはしなかったけど。」
「え!?そうだっけ?」
「んもう。そこは思い出さないの?」
「全然。とにかく、ズボン穿いて来なさい。」
「えっ〜〜。別にイイじゃん。下着も水着も一緒じゃん。」
「ダメ。俺が目のやり場に困るからダメ。」
「そんなの、亜美ちゃん知らねぇし。
ねぇ、せっかく起きたんだし、あたしとイイ事しようよ。
チャンスだよ?今なら、ふ た り き り」
「イイ事?……ってダメダメダメ!!お前が着替えないなら、俺が部屋出る。」
……なによ。そんな拒否しなくたってイイじゃん。
ノリは冗談っぽく言ってるけど、あたしだって恥ずかしいのにさ…ヘコむじゃん ……
「…はいはい、わかりましたよ。着替えりゃ良いんでしょ、着替えりゃ。
イイですよ〜だ。ふ〜んだ。」
「ゴメン。いや、俺も、その、怒鳴ったりして悪かった。
別に、お前の事が憎くて、怒鳴ったりした訳じゃなくて…
むしろ逆、あ、いや違くて、そうじゃなくて、え〜と……」
はぁ……。あたしは溜め息つきながら部屋を後にした。
高須君が、まだ国境がどうとか歩哨が何だとか言ってたけど、放っておいた。
139 ◆Ye9TnXLFgwt6 :2009/12/02(水) 05:03:49 ID:wrVIs0JX
やっぱりズレてるんだよね……
あたしが傷ついた事に気付いてくれる様になった事は嬉しい。素直に嬉しい。めちゃくちゃ嬉しい。
けど、何で傷ついてるのかって言うのが、高須君にいまいち理解されてない気がするなぁ…
今も、怒鳴られた事より、恥かかされた事にヘコんでるんだけど……はぁ。
よもや、自分の女としての尊厳が危機に立たされる事があろうとは……
川嶋亜美としてこの世に生を受けてより17年、一度たりとも考えなかったわ。
ムリに襲ったりしなくて正解だった。まだ、好感度足りないのかなぁ、やっぱ。
あたしも勇気が無いのに高須君に勇気を持てと言うのが、そもそもムリな相談なのかなぁ?……
とぼとぼと廊下を歩くあたしに、掛かる声が一つ。
「よう。お早いお帰りで。」
………。
「何だ、祐作かよ。消えてろ。
てか、あたしを見るな。眼鏡叩き割るぞ、ドスケベ野郎。」
あたしの美脚はお前が見てイイもんじゃねぇ。とっとと失せな。
「心外だな。俺は、お前や櫛枝では勃たん。神に誓っても良い。
仮に、もしこれが逢坂だったら、俺の自制心は脆くも崩れ去るだろう。これも神に誓っても良い。」
「よし。歯を食い縛れ。お祈りは済んだか?部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする準備はおK?」
一応、拳を固める振りだけするが、はっきり言って、今、こんな奴相手にする気はない。
手が穢れる。疲れたし、もう部屋で寝たい。そこどけよ、ちくしょう。
「まあまあ、八つ当たりは良くないぞ。その様子だと、失敗したんだろ?
まあ、ムリも無い。相手は高須だしな。」
祐作はあたしにやる気がない事に気付いてるらしく、やたら絡んで来る。
キモイ。てか、こいつがあたしと以心伝心でどうすんだよ?誰得だよ!?
「はぁ?」
「亜美、お前は鏡を見た事があるか?ズバリ、答えはそこにある。」
ど〜ゆ〜意味!?鏡なら毎日見てるっつうの。
今朝も世界で一番美しいのは、このあたしだと告げられたよ。
おにょれ。ホント覚えてろよ、祐作。
「………」
「まあ、俺の言葉の意味は後でゆっくり考えてみてくれ。
それよりも、だ。」
「………。何よ?」
140 ◆Ye9TnXLFgwt6 :2009/12/02(水) 05:04:59 ID:wrVIs0JX
「いや、買い出しの件だ。そろそろ行かないと晩飯に間に合わん。近くにスーパーとかあるか?」
「ない。てか別にイイじゃん。あたし、食欲無いし。」
「バカ。お前は無くても、俺らはあるの。逢坂や櫛枝だって、遊び疲れて腹空かしてるだろうし。
大体、明日の分も買わなきゃならないんだぞ!?まさか丸2日何も食わない気か?
それにお前の事だから変な時間に、お腹空いた〜とか言うに決まってる。」
祐作の癖に正論だ。腹立つ。確かにこのまま寝て、起きたらお腹空いてると思う。
…だから、なんで祐作なんだよ。祐作にあたしを理解されてても、嬉しくもなんともない。むしろ、うざい。
「はぁ、わかったわよ。ちょっと降りたら、スーパーあるから、買い出し行って来て。
あんた、免許持ってたっけ?車庫のスクーター出して行って来てよ。鍵は玄関の小物入れ。
カゴとか無いから、荷物持ちに誰か誘った方が良いかもね。
ちなみに、あたしは今から寝るし、実乃梨ちゃんとタイガーは揃って入浴中。1人、居間にフリーな奴が居るわ。
あんた1人でも死ぬ気で頑張ればなんたかなるかもね。ま、ご自由に。
あと、夕飯をカレーにする気なら、甘口のレトルトを1袋買う事。
ま、あたしは別に辛口で良いんけど、舌までお子様な奴が一人居るからね。
以上、質問は?」
「おお、凄い仕切りっぷりだ。流石、亜美。
よし、では任せて貰おう。何、大船に乗ったつもりで居てくれ。じゃ。ハッハッハ。」
とか言って、得意気に高笑いをあげながら祐作は去って行った。
何が、大船だよ…たかが買い出しで。
あ…あいつが下敷きになる事、言い忘れた……けど、ま、いっか。祐作だし。

この時のあたしは、とにかく眠くて頭が回っていなかった。
この後、この買い出しをきっかけに、大変な事が起こるのだけれど、
この時はまだ、そんな事を考えもしなかった。
悔しいのは、あたしより祐作の方が頭が回るという事実。そして、祐作に感謝なぞ、しなきゃならなくなったという結果。
あたしが、寝てる間に祐作がしでかしてくれたGJとは何か。
141名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 05:24:52 ID:33TlDY1M
4
142 ◆Ye9TnXLFgwt6 :2009/12/02(水) 05:28:15 ID:wrVIs0JX
その辺を考えながら、あたしの次の話を待てば良いんじゃない?
次回のカレーは『辛口』
てか、あたし、さっきから誰に話してるんだろう……
誰かとお話してるのか、それとも独り言なのか、良く解らない。
祐作が買い出しに出ている間、良く解らない夢を見ている。そんなトコかな?
とりあえず、もう少し眠れる筈。まだ、あと約1時間、あたしの心地よい睡眠は続く。
そして、この後、あたしは生涯でも屈指の素敵な目覚めを体験する事になるのだ。
143 ◆Ye9TnXLFgwt6 :2009/12/02(水) 05:29:21 ID:wrVIs0JX
C有り難うございましたーー

今回はここで終わりです。
こんな引きでなんですが、次回『辛口』の前に読み切りを一つ挟もうかな〜と、思ってます。
短編『虎の威を借る』3年になった麻耶ちゃんのお話です〜お楽しみに。
144名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 08:44:36 ID:A+iVhnhv
>>143
GJ
竜児×あーみんの良作が立て続けにきて満足、満足
にしてもここから原作とかなり変わってくる予感
短編含め期待です
145名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 12:05:57 ID:I5WZpPXh
>>143
GJ
やんちゃなあーみんでホホエマスィ

そして麻耶待ち( ゜∀゜)o彡゜
146 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/02(水) 23:21:53 ID:NRPpRj+q
チョッと待って他に投下なければ、落させてもらいます。
147 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/02(水) 23:27:28 ID:NRPpRj+q
それでは次レスより「日記。徒然に。。」投下始めます。
よろしくです。
148日記。徒然に。。 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/02(水) 23:28:00 ID:NRPpRj+q

北村祐作の日記より抜粋。
1月20日。
いよいよ明日は修学旅行だな。
去年は正月に北海道で、今年は年明けに長野か。
うん。やはり冬と言えばスキーだろう。これはこれで良い旅行だ。
どうも高須は滑れないらしいから、出来れば普通に下りて来れる程度には教えてあげたいな。
聞けば逢坂もだと云う。
まぁ逢坂には櫛枝が居るからな。アイツはそこら辺は万能だろうが・・・どうかな?
少し、逢坂に教えようか?と言いそうになる自分が居た。
これは親切なのだろうか?それとも俺は……今はわからん。
でもお前と一緒に楽しい旅行にしたいな、逢坂。


高須泰子の日記より抜粋。
1月20日。
もう、早く寝ないと明日起きれないよ〜、竜ちゃん。大河ちゃん。
二人共、明日からの修学旅行の予定を話し合ってるみたいだけど、もう4時だよ?大丈夫?
でも真剣なんだもん。やっちゃんも止めれないよ。
バスの席の配置とか、休憩時間のとり方やお土産を選ぶ時の話とか。
気が早過ぎだと思うんだけど、二人とも怖い位に真剣。
そんなに楽しみなんだね?
うん。楽しい旅行になるといいね。
竜ちゃん。大河ちゃん。


1月21日。
だから言ったのに。
二人は思いっきり寝坊した。竜ちゃんが寝坊なんて珍しいね。
「もう学校に向かっても間に合わん!特急で長野に直行する!」って北村君に電話してた。
「なんで寝坊するのよ竜児!バスでの計画がパーじゃない!」って大河ちゃんてば泣きそうだった。
大丈夫だよ。まだ旅行はこれからなんだから。
バタバタと慌しくお家を飛び出してったけど、でもちゃんと言ってってくれたもんね。
「じゃ、行ってくるな、泰子」
「やっちゃん。行ってきま〜す」
ご免ね〜。やっちゃんも起きれれば良かったんだけど、竜ちゃんも大河ちゃんもそんな事、一言も責めないんだもん。
嬉しいな。
今頃はみんなで枕投げでもしてるのかな?
楽しんで、一杯お土産話、聞かせてね。二人とも。
149名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 23:28:14 ID:t8GiFgQO
おぅ
150日記。徒然に。。 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/02(水) 23:28:24 ID:NRPpRj+q

恋ヶ窪ゆりの日記より抜粋。
1月21日。
もういやーーー!!
どうしてあの二人は普通に高校生活を送れないの?
せっかくの修学旅行に爆睡の特大寝坊って、どうして!!
そりゃあ楽しくてワクワク〜なんで眠れない〜なんて有るでしょうけど、そこまで遅刻した生徒なんて今まで知りませんよ。
ああ見えて高須君ってばしっかりしてるから、バスは無理と判断して現地に直接行くっていう判断をすばやく決断したのは良いでしょう。
貴方はこうゆう非常時には強い生徒だと私だって認識してるわ。
で?どうしてココに逢坂さんしか居ないのかしら?高須君!
逢坂さんも警官と揉めたおかげで夕方にこっちに到着するし、高須君は深夜バスで明日ってどうなってるのよ!
高須君。貴方って生徒は私にとって本当に初めての生徒ね。
もちろん、アノ夜みたいな事になる生徒なんて貴方以外には居なかったし、これからだって居ないと思うわよ?
そして貴方達以上に私を困らせてくれる生徒は居ないでしょうね。
あ……また何かが壊れた音がした。
高須君。どうやったら寝ぼけた逢坂さんを抑えられるの?
もう4時よ…お願いだから眠らせて〜〜〜!!!


北村祐作の日記より抜粋。
1月21日。
なんて事になったんだ。開始早々に驚かされる修学旅行だな。
よりにもよって寝坊とは。
高須に逢坂。修学旅行は2泊3日の予定だぞ?1日は無駄になったじゃないか。
まぁ逢坂は夕方から参加出来たからまだ良いが、高須よ。
どうしてお前は長崎なんかに行ってしまうんだ?逢坂はキチンと着いているのに。
何があったのか皆目わからん。
逢坂によれば「あれ?竜児は私の2本前の奴に乗ったのに。着いてないの?」と首を傾げるばかりだ。
俺達にはどうにも理解出来ないが、お前に一体何があったのやら。
電話もメールも通じないと思ったら逢坂が高須のバックを持ってたしな。
鉄道警察が電話に出た時は事故かと思ったぞ。まぁ事件だった訳だが。
逢坂の身元が保障出来たのが幸いだったな。被害者の人も逢坂の無実を証明してくれた様だし。
どうでも良いが、人助けも程ほどにな。
ん?……どうやらまた逢坂が何かを破壊した様だな。
なぁ高須。何を与えれば逢坂は熟睡出来るんだ?
それだけで良いから教えてほしい。もう3時だ。皆……眠れないぞ。
151日記。徒然に。。 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/02(水) 23:28:47 ID:NRPpRj+q

川嶋亜美の日記より抜粋。
1月21日。
あぁウザイ!
もう何とかしてよこのチビトラ!
遅れてくるのは勝手だけどなんで一人なの?高須君はどうしたのよ?
聞いても「?なんで居ないの?」ってこっちが聞いてるっつうの。
はぁ。折角の修学旅行が色褪せる。
そりゃスキーも楽しいけど、それだけじゃないでしょう?
それにタイガーは寝ぼける。ぐずる。暴れる。
お……麻耶の敷布団が無理ヤリ取られた。うわぁ、クルクルと回ったわね麻耶。大丈夫?
もう5時なんですけど……高須君、どうして新幹線で来てくれないの。
バスでのんびり寝てたら承知しないからね!


香椎奈々子の日記より抜粋。
1月21日。
助けて高須君。
大河が私の顔を舐め回すの。それも30分おき位に。
これはどういう儀式なの?この子の取り扱い説明書はどこで貰えるの?高須君!
でもなんか違うみたいで、散々なめた後で「んみゅぅぅぅ、ちがぁう!」って突き飛ばすの。
どうして高須君は大河を一人で来させたのかな。一緒に来てよ!お願いだから!
なんか駅で引ったくり犯を追っかけて、挙句に引ったくり犯に間違われて追われたって事は聞いたよ。
なんでそうなの?アナタ達は。
「だって竜児が犯人に返事して一緒に逃げちゃうんだもん。私も着いてったら私も追っかけられた」って。
だからってどうしてお巡りさんを殴っちゃうのかな?大河。
「逃げるよりは倒した方が早いかなって思ったんだけどさ。いやぁ。数が多いわ。えへ」
えへって……大河。16人もお巡りさん倒しちゃったら、そりゃ増援も沢山呼ばれちゃうでしょ。
「だから竜児を先に逃がして私が囮になったんだもん。ま、捕まっちゃったけどね」だって。
どうやら連行された直後に先生が、大河が持ってた高須君の携帯に電話を掛けたらしくて、被害者の人も居て大河の濡れ衣を晴らしてくれたみたい。
真犯人は大河が倒した人の中に混じってたみたいで簡単に御用。
大河は警官への暴力を厳重に注意されはしたみたいだけど、元々は引ったくり犯を捕まえようとした事だからってお咎め無し。
夕方にはこっちに着いたけど……高須君。早く長野に来てよね。
あ……また大河がこっちに来そうな気配。
私ね、高須君。この状況で爆睡出来る櫛枝さんの事、本当に尊敬するわ。
152日記。徒然に。。 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/02(水) 23:29:55 ID:NRPpRj+q

逢坂大河の日記より抜粋。
1月21日。
もう!せっかくの修学旅行だってのに最悪よ!
昨日の夜に立てた【タイガー&ドラゴン。冬の長野でラブラブGOー】計画も半分が破綻した。
大体寝坊しただけでもがっくりなのに、どうして駅で捕まんなきゃなんないのよ!
「きゃー!引ったくりよーーー!」って悲鳴が聞こえたから見たら、なんか怪しい男が二人して走ってくるじゃない?
もう速攻でぶん殴ってやったら吹っ飛んでったわね。竜児も「静かにしろ!」って一人を抑えてたんだけど、なんで?
「もういい!行くぞリュウジ」って言われて「「オウ!」」って竜児が走り出した。
あれ?なんで犯人と一緒に返事してるの?
思わず私も着いて走ったけど、よく考えたらそんな必要ないじゃん。竜児の前を走ってる馬鹿を一人ぶっ叩けば済むじゃない。
て思ったんだけど「待てーーー!!」て聞こえるから振り向いたら警官が追いかけて来た。なんでよ!
なんか巻き添えくいそうだから、竜児に其処を左よ竜児って言って、引ったくり犯とは別れた筈なのに……警官の殆どがこっちに来た。
「なんで追われてるんだ?俺達わーーー!」って竜児が言うから、逃げるからでしょうが!て答えたら「!そ言えばそっか」って止まった。
そうよね。誤解なんだし話せば分かるのよ………だって怖かったんだもん。
警官ってすごい形相で沢山走ってくるし。だから思わず迎え撃っちゃっても私の所為じゃないもん。
途中で竜児が私を抱えてまた逃げ出したけど。なんで?道の先から引ったくり犯が逃げて来た。で、また合流。
いつの間にか警官も増えるし、「そこの3人止まれー」とかって既に三人組み扱いだし。
【長野行き】って書いた新幹線見つけたから、竜児を其処まで蹴り飛ばした。
あんたは先に行ってなさいよね。竜児。
ま、私が手を出したのが切欠みたいなもんだし、仕方ないよね。
其処からは竜児を追わせない為に乱闘して、捕まったらゆりちゃんから電話が来た。
時間は掛かったけどお咎めは無しだ。うん。人助けはするもんだね、みのりん。
夕方にはコッチに着いたんだけど…?竜児はなんで居ないの??
ま、よく分かんないけど明日には竜児も合流出来るみたいだし、いっか。
でも少しは山で遊べたし、皆でお風呂に入って楽しかった。
まだ10時だけどもう眠いや。起きる頃には竜児も着いてるって北村君が言ってたし。
お休み。竜児。
153日記。徒然に。。 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/02(水) 23:30:19 ID:NRPpRj+q

櫛枝実乃利の日記より抜粋。
1月21日。
はぁ〜。間に合ってよかったね、大河。高須君は残念だったけどさ。
それにしてもまさか高須君が長野行きと長崎行きを間違って乗るなんてね〜。
おっちょこちょいさんだねベイビー。
取り合えず長距離バスのチケット取れたからそれでコッチに向かうらしい。今頃はバスの中かな。
少ししか遊べなかったけど、明日はしっかり楽しもうね、大河。
でも少し、てかかなり驚いた。
ねぇ高須君。高須君は知ってるの?
あーみんも木原さんも香椎さんも。三人とも高須君のことが好きだって。
私はどうなのって聞かれたけど……本当に分かんないんだよ、自分でも。ごめんね、あーみん。
嫌いじゃない。これは確か。でもね?私にはやっぱり夢を捨てられない。
どっちもなんて、そんな器用じゃない。だから嫌いじゃないけど特別でも無い。そう言った答えに嘘は無いよ。
「でももしかしたら高須君は特別かも知れないよ」
あーみんの言葉が私に残る。
本当なの?高須君。
……駄目だ。私はどこかで高須君に結論を求めようとしてる。そんなのは卑怯だ。
自分自身の答えを出すよ。高須君。
責任を押し付けたりしない、私だけの答えを。
その答え次第では、三人とも?私だって負けないよ。
高須君。狩野先輩もだって……ほんと、今日はかなり驚いた。
お休みだね、大河。
154日記。徒然に。。 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/02(水) 23:31:20 ID:NRPpRj+q

香椎奈々子(父)の日記より抜粋。
1月21日。
おのれ高須竜児め。
やはり悪魔の化身たる貴様には効かんのか!
通信販売で買った呪いの人形に貴様の名前と写真を埋め込んで鬼門の方角に逆さまに埋めてやったのに、夜には人形が砕けていた。
呪いを掛けた相手に不幸を招き寄せるって説明書にはあったのだが。
説明書通りにやったのに。くぅ!きっと人形が負けたのだろう。恐るべし高須竜児!
だがまだ手は有るぞ!
魅羅乃ちゃんに聞いたところによると名前を書かれた人間が死んでしまうデスノートと云う物が有るらしい。
ふっふっふふふ。貴様の顔はしっかりと脳裏に焼きついておるわ高須竜児!
さっそくデスノートを買いに行かねば。どこに有るのだろう…紀伊国屋か?文教堂か?流石にBOOKOFFには…古本でも効果は有るものか?
まあいい。さっそく明日手に入れて見せよう!
待ってろよ奈々……待ってろよ我が娘よ!父はへそくり3万下ろしてでも買ってみせるぞ!


狩野すみれの日記より抜粋。
1月21日。
修学旅行はどうだ?竜児。
やはり2年が丸ごと居ない校舎と云うのも味気ないモノだな。
精々羽を伸ばして楽しんで来い。
私も今では楽しい思い出だしな。高校の修学旅行というモノは生涯の思い出だ。気が付けば楽しかった事しか覚えていない。
土産は必要ないぞ。私が欲しいのは土産話だ。
よもやとも思うがな?それでも何らかの事は有るのだろうし、あいつ等とお前も何か動きがあるかも知れんしな。
それにしても長野は電波が通じないのか?知らなかった。
ま、北村に連絡ってのも良いんだが、まぁ修学旅行の時くらい、私も我慢するさ。
お休み。竜児。
とは言っても、どうせ夜も眠らず皆で騒いでるんだろうけどな。
155日記。徒然に。。 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/02(水) 23:31:40 ID:NRPpRj+q

高須竜児の日記より抜粋。
1月21日。
くっ。深夜バスと云うのはこれほど眠れないのか。腰が痛い、バスが揺れる、人の気配が気になる!
あぁ…俺って奴は前世でどれ程の不埒な悪行三昧をやらかして桃から生まれたお侍さんに成敗されたんだ?
それともこれは何かの呪いなのか?まるで不幸のドミノ倒しだ!ほとんど冗談じゃねぇか!
寝坊したのは良い。いや、良くは無いが自業自得だ。これに関して一切の弁明も無い。
だが問題はその後だ。
学校には間に合わないし、皆の予定を狂わす訳にも行かないから皆にはそのまま出発してもらった。俺達は現地で集合だ。
折角のバイト代が早々に旅立たれた。畜生。だから長野は嫌いなんだ。
いや、しかしどんなに嫌な事があったって、そこに許せない事が有れば立ち向かわずしてなんの男か!
しかも弱いお婆ちゃんのバックを引ったくる無頼漢など成敗するしかあるまい!征け!戦闘民族大河人!
流石だな。人間て空も飛べるんだ。って位にぶっ飛ばしてた。月が出てなくてホッとしたぜ。
倒された一人がしっかりバックを握ってたからな。取り返してお婆ちゃんに帰そうとしたんだが「行くぞ竜児」って言うから、オウ、と答えたんだが…お前もリュウジ?
しかも馬鹿野郎ときたら警官から逃げようとして叫びやがったもんだから「止まれ貴様らーー」って、【ら】って何だよ!
いかん。どうにも俺の人生経験の上において、あの国民の生命と財産を守る為に日夜お勤めご苦労さんな方々からは好意的な対応を取っていただいた事が無い。
俺の脳細胞から体細胞に至るまで、待てと叫ぶ警官からは逃げるべし!と云う至上命令が下されてしまっているようだ。まさに体が勝手に逃げてしまった。
俺はどんな呪いを受けてるんだ!子供の頃にでも交番に立ちションでもしたのか俺は。
気が付けば大河も来てるし、元凶と別れても数は減らん。だが大河よ。お前に対し言いたい事が二つ在る。
一つ。良い事言った!
お前の言う通りだな。まるで犯人の様に逃げるから追われるのだ。俺達は正義の使徒なのだから堂々と構えていればいいんだよな。人間。話せば分かる。
どれ程必死で憤怒の表情で大挙して押し寄せようと、俺達は無実だ!彼等にも話は通じるさ。
人を信じると云う事を教えられたな、お前には。
で、二つ……お前につける薬はもう無い……
いや、確かに「かんねんしろーーーー!」とか叫びながら彼等は来たさ。でもな?
俺が、俺の話を聞いてく「うおおぉぉぉーー!!」って途中で何でお前は迎え撃っちまうんだ!
あぁ。なぜ神はこの様な引けば押し押せば押すみたいな狂った津波に力を与えてしまわれたのだ。千切っては投げってリアルで見たぞ。
頼むからあまり気軽にお手軽に、我々人類の戦闘能力を拡大解釈しないでくれないか?お前はどこの地上最強生物・おぉ河だ!
ただぶん殴るだけで警官を吹き飛ばすんじゃない!
156日記。徒然に。。 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/02(水) 23:32:00 ID:NRPpRj+q

結局また逃げる羽目になっちまった。おまけに犯人とも合流しちまうし、もう凶悪犯ご一行様だぞ俺達は。どうしますボス。
しかし子分Rはさっさと切り捨てられたな。聞くが竜の尻尾は切っても生えてくるのかな?
お前に蹴り飛ばされて新幹線の中に。思い切り頭を打ったな。まだ痛てぇぞ。
俺だって気を失っちゃヤバイ事ぐらい分かってたのさ。
寝るな!寝たらおしまいだ!!って念じてたんだけど世界は薄らいできやがった。
気が付いたらもう新幹線は御機嫌に走り出してたな。確認したが…見間違いじゃなかった。
【長崎行き】……一瞬、逝きに見えたのは気の所為に違いない。
当然と言うか当たり前と云うか俺にチケット購入の時間も意思も無く、会いたくない人物NO.2の車掌さんに会ってしまったのは直後の事だ。
NO.1は大河だな。今の俺に殺意を抑える自信は無い。
無論、彼は常識人だ。
引ったくり犯を捕まえようとして警官に追われ、馬鹿な相棒が馬鹿な反撃をして馬鹿にならない損害を与えた上にこの新幹線に蹴り飛ばされて気絶してました。
なんて馬鹿話を信じてくれる訳は無い。自分でも信じられない。
だが驚いたな。「あぁ、その子は私の連れだから。ごめんなさい」と聞き覚えのある声とシチュエーション。
あの長野のお姉さんが居た。
いや、驚いたね。地獄に仏って言うが、まさか仏様とは女神だったのか。新説だったな。
一体なんの仕事をしてるのか皆目見当も付かないが、また車掌は素直に引き下がった。つか笑顔で引き下がった。
長崎までの道中はお姉さんの個室で過ごした。おいおい始めて乗ったぜ!列車に個室ってすっげーーー!
お姉、じゃない。名前を聞いてみたら安奈さんと教えてくれた。貴方は女神だ。俺が将来娘を持ったら安奈と名付けよう。「それはどうかなぁ」と言われた。なんでだ?
安奈さんの部屋では随分とお世話になった。まぁ色々とご馳走してもらったって事だ。
安奈さんも暇だったんだろう。俺の今日の話や普段の学校の話なんかを聞きたがったから話してやったのさ。聞かれたら答えましょう。なんせ救いの神だしな。
髄分と笑ってくれた。そんなに面白いか?俺の生活は。
長崎に着いて別れたは良いが今度は長野。俺はどんな旅人だ。オマケに新幹線も特急もどれも満席、満員御礼。GWじゃあるまいし、んな馬鹿な。
ようやく取れたのがこの深夜バスの券のみ。
もう好きにしてくれ。明日…もう今日か。9時には長野に着くらしい。せめて1泊2日の修学旅行を満喫してや……?
………高速道路が事故で渋滞。
すまん北村。到着は昼過ぎらしい。
157日記。徒然に。。 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/02(水) 23:32:34 ID:NRPpRj+q

川嶋安奈の日記より抜粋。
1月21日。
ふふふ。相変わらず私を楽しませてくれる子ね、貴方は。
でもびっくりしたわ。亜美と一緒に修学旅行の筈の彼が、長崎行きの新幹線に居るんだもの。
面白そうだから拾ってあげたけど、正解だった。ほんと、面白かった。
前の時もそうだったけど、どうして彼はそんな喜劇を体験出来るのかしら?ココまで来ると羨ましいわね。
色々な話を聞かせてもらった。
彼から聞く亜美の話は新鮮で、私の知らない所であの子も楽しく暮らしてる事が分った。
貴方のおかげね、高須君。ありがと。
でも、やっぱり春に聞いた手乗りの虎さん。逢坂さんって言ったっけ?
会って見たいわね、その子にも。
例の好きな子とはどうなったの?と聞いたら「んが!……その、ふられたと云うか他の奴に目が行ってるというか」
あらあら。それじゃあ失恋?でも彼は諦めないと言っていた。諦める必要がないと。
まぁ、「その為にも大河の恋を成就させて見せます!」って云う彼の意気込みは少しばかり的を外してると思うんだけど、面白そうだからそっとしておこう。
ホントに彼は変ってる。
それだけの事をされて、それでも尚、彼にとって逢坂さんの立ち位置は変らない。
そりゃその子も居心地良い訳だ。女の子の我が侭を受け止めるには、彼は少しばかり大きすぎる。ズルイ位にね。
でもソレは微妙。自分に都合の良い大きさじゃ0点よ。だから長崎で別れる時に少し確認。
もしかしたら、その子だってその人と恋をして結ばれて、幸せになるかも知れないでしょ?その時、君はどうする?
「?いや、だって幸せなんですよね?だったら良いじゃないですか。彼女が幸せなら、俺は納得出来ますよ。その相手が俺じゃなくても別に良い。
まぁ出来れば俺でありたいっすけどね」
その時は精々、アイツに負けない位に俺も幸せになってやりますよ。か。
OK。君はやっぱり変ってない。
だからココは私のオゴリ。
行ってらっしゃい、修学旅行。貴方、私の知ってる中で、一番面白い修学旅行、やってるのかもね。
ふふふ。亜美、貴女きっと彼を好きよね?親娘だもの、趣味は似てる。でも気を付けて。
彼は難しい。私に難しいと思わせる男なんてそう居ないんだもの。頑張りなさいね、亜美。


香椎奈々子(父)の日記より抜粋。
1月22日。
TUTAYAで探しても見つからず店員に聞いてみたら「デスノートですか?こちらに御座います」と言われたが…漫画にしか見えん。
これで本当に人が死ぬのか聞いたのだが……クスクスと笑われた。
「そうですね。コレでは、死ぬ事になってますね」……あぁ、娘さん。そんな可哀相な人を見る様な目で見ないでくれ!!
おのれ高須竜児!これも貴様の仕掛けた呪詛返しか!!
………面白いな。明日、続きを買って来よう。
158ユートピア  ◆QBh/FCi6tI :2009/12/02(水) 23:33:13 ID:0/C/Nj4D
SL66さん、完結お疲れ様です。とてもよい作品でした。
とらドラ!の二次創作を作ろうとしたきっかけがSL66さんの最初の作品だったので、終わってしまうのは悲しいです。
自分もSL66さんみたいな素晴らしい作品を創りたいと思います。
最後にもう一度。
完結、本当にお疲れ様でした。

ところで質問なんですが、「ピクニック・パニック」での奈々子と能登のその後はどうなったのですか?
結構気になってます。
159 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/02(水) 23:33:35 ID:NRPpRj+q
今夜はココまでとさせていただきます。

それではまた。

160名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 23:47:54 ID:LucyiYlo
面白かった!GJ!
ただ一つだけ突っ込ませてくれ
我が故郷の長崎には新幹線通ってないんだぜ・・・
161名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 01:00:42 ID:zKxaAU1z
数年後の長崎新幹線開通を先取りしたと考えるんだw
162名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 02:21:08 ID:TZVAwtPo
おぉ河てw
163名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 03:08:04 ID:SnFQfCQk
あれ
いつの間にか大河が竜児にデレてるな
どっか読み飛ばしたようだ
164名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 05:05:45 ID:biArtdEB
ん?別に竜児にはデレてないんじゃ?
【タイガー&ドラゴン。冬の長野でラブラブGOー】計画の事を言ってるなら
これは別に大河と竜児の二人のって事じゃなくて
寝坊する位まで二人で練ってたそれぞれの相手との計画のことでしょ
165名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 10:11:15 ID:wnZhlKiF
GJなのだが>>164のいう計画名については紛らわしというかなんというか
166名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 10:14:36 ID:wnZhlKiF
おっと>>166の文では>>164にイチャモンつけてるようだがそうではない
失礼した
何が言いたいかというと>>163に胴衣
167名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 16:07:27 ID:JoRydNcA
ヒロイン達の陰毛の濃さについて考えてみた

亜美>>ゆり>麻耶>泰子>実乃梨>奈々子>>>大河

多分、こう。異論はある程度認める。
168名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 16:13:00 ID:JoRydNcA
入れ忘れてた……

亜美>>ゆり>瀬奈>麻耶>泰子>さくら>実乃梨>奈々子>すみれ>>>大河

うん。これでバッチリ。
169名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 16:35:28 ID:8aZDFZXE
亜美>その他>>>>大河 だろう
170名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 17:56:11 ID:uF03FfaC
おいやめろ
171名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 18:13:06 ID:qUuubWVr
あーみんの無駄毛処理は竜児の仕事
172名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 19:39:09 ID:JoRydNcA
ふわふわあみあみですね。わかります。
173SL66 ◆5CEH.ajqr6 :2009/12/03(木) 21:21:18 ID:eUeY2Syz
>>158
例のエピソードは、書きたいのですが、難しいでしょうね。
この世界観(大学から社会人)で、北村とか、すみれとか、能登とか、麻耶とかを掘り下げるのは面白そうですが、
これも、書く易し、投下は難しでしょう。
当方のシリーズを指示する方々が居られる反面、快く思わない層も存在しますので、彼らを無用に刺激するおそれが
あるからです。
今暫くは模様眺めですかね。
174SL66 ◆5CEH.ajqr6 :2009/12/03(木) 21:23:04 ID:eUeY2Syz
おっと、
×書く易し
○書くは易し
でした。
175名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 22:48:40 ID:JoRydNcA
俺みたいな変態が言うのもなんだけど、『合わないと思ったら読まなきゃいい』が出来ない困ったちゃんの配慮までしなくても良いと思うのん。
好きな作品を好きな時に好きなだけ投下していって欲しいの。
176名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 22:54:01 ID:SnFQfCQk
スレの様子を見て投下を考えるのも「好きなだけ」に含めてやれよ
お前は荒れても平気かもしれないけどSLさんはそういうのが嫌なんだろうよ
177名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 23:04:55 ID:uF03FfaC
アンチの人たちは、このシリーズ一本だけじゃなくって、もっといろんな作品を
彼に書いて欲しかったんじゃないかな
178名無しさん@ピンキー:2009/12/04(金) 03:38:14 ID:BFgwc1bv
>>175
問題なのはキチ〇イちゃんはファビョッて荒らすことなの。結果的に読む人も書く人も減るし。
179名無しさん@ピンキー:2009/12/04(金) 22:08:52 ID:MPIOyIRR
とらドラ×遊戯王が読みたいです。
動画は既にあるけど活字で読みたいのです。
ゆゆぽも遊戯王好きみたいだし誰か頼むよ〜お願いだよ〜
180名無しさん@ピンキー:2009/12/04(金) 22:44:03 ID:qTUJ+ZTU
はあ?
181名無しさん@ピンキー:2009/12/04(金) 23:10:52 ID:P+UNmB8l
アニキャラ総合にクロススレでも立ててそっちでやれ
人が集まるかは知らんが
182名無しさん@ピンキー:2009/12/05(土) 18:40:24 ID:Pz2ulPMR
日記の人GJ
183名無しさん@ピンキー:2009/12/05(土) 20:13:13 ID:bxY7iXBc
久しぶりに原作読んでみたら気になる一文があったんだけど、

「麻耶やら奈々子やら北村親衛隊の女子たち」
「いじりがいがあるけど、本当は結構本命なまるおくん」

もしかして、奈々子様も北村狙いなのか?そうなのか?
な、奈々子ぉーーーッ!!
184名無しさん@ピンキー:2009/12/05(土) 20:21:45 ID:e5yS1sMi
奈々子は麻耶の付き合い以上のものはないだろう正直
185名無しさん@ピンキー:2009/12/05(土) 20:33:33 ID:uWBThhwa
いやわからんぞ
186名無しさん@ピンキー:2009/12/05(土) 23:16:40 ID:8Z4xNdL9
>>183
「もう暴力」って発言から、どちらかというとアウトかな。
漠然と「悪くないかなぁー」と思ったことあるだけで、本気で付き合いたいって思っていないとか。
そもそも俺らの妄想があるからこそ、このスレの奈々子様は居るんだから、原作はどっちでもいいだろう。

奈々子様大好きだ。

ななこいも
腹黒様も
ななどらも
日記も
恋の相手はおばさん男子も
お弁当も
奈々子エッスも
高須棒姉妹も
とらドラP奈々子√も
98VMさまの埋めネタシリーズ
彼氏はおっぱい星人も
日常のヒトコマ2も
キス中も
全部大好きなんだから、原作の設定なんて気にしない。
187名無しさん@ピンキー:2009/12/05(土) 23:26:01 ID:YZ+HtaKK
>>183-185
人の数だけ己のジャスティスがあるわけだから
己の正しい萌え奈々子様SSを書けばいいと思うんだよ。
188名無しさん@ピンキー:2009/12/05(土) 23:56:09 ID:kvGkaFIu
もうここは奈々子様とあーみんのSSスレと言っても過言じゃないな。
189名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 00:15:55 ID:0EiQ5xWO
大河、竜児はエロ無し物ならキャラスレがあるしな
190名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 00:37:05 ID:CRA/MgSj
現スレのトップはみのりんSSだったじゃないか。
竜×虎(あ〜みんも出てたけど)も前スレのラストにあったじゃないか。

確かにあ〜みんと奈々子様が過半数占めてるけど、他のが無いって事はないよ〜むしろアル
191名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 00:51:15 ID:IXCekJvB
日記はオールキャラですし、能登×麻耶だってありますしね。
192名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 01:21:54 ID:gI6VUpXx
>>188 >>189
こういうバカがいるから書き手が減るんだ
それ以外キャラを書いてる書き手がそれを見てどう思うか考えた事があるか?

>>190とか>>191のように遠回りに言ってもらえてるのは恵まれてると思った方がいい
おまえらの書き込みは貴重な書き手のモチベを下げるだけの屑コメだ
193名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 01:46:22 ID:XE8fbnLO
>>192
言いたいことはわかるが、読み手を煽るのもダメだぞ。
基本スルー、場合によりやんわり注意。
194名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 06:26:35 ID:KY6c+Uc+
ふぅ…

まあ落ち着けよ…
195名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 11:43:45 ID:CRA/MgSj
逆に考えるんだ。今、あ〜みん、奈々子様は充実しているから、大河、みのりん、麻耶、すみれは貴重であると。そう考えるんだ。
196名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 13:04:45 ID:BS24CZHU
何度読んでも独身の名がない
197名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 13:07:33 ID:u2Z2OeVL
グンタマセンセーに期待
198名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 19:51:37 ID:YbZCv/9a
前スレ最後の埋めネタは続きあるのか?
199名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 20:07:30 ID:zfeISq9b
前スレ629乙
オリジナルに期待
200 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/06(日) 22:51:23 ID:F354Lzgi
『みの☆ゴン』
>>10
からの続きを投下させていただきます。

7レス分(110〜116)です

エロ  今回もありません。本番は、本編ラスト付近になります。
補足  内容、文体が独特で、読みにくいかもしれません。
    ご不快になられましたら、スルーしてください。
    また、前回途中で終わらせてしまったので、ここからお読み頂いきますと、
    ご不明な点が多いと思います。
    エロシーン(妄想シーン)は、本編より独立して投下しております。(次回)


宜しくお願い申し上げます。
201みの☆ゴン110 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/06(日) 22:52:48 ID:F354Lzgi

「あれ?くそっ、どこだ……」
 体育館沿いにある、ちょっとした草むらの中で、実乃梨がかっ飛ばしたボールを探す竜児。
確かにここらへんで間違いないはずだったが、落下した形跡が見当たらない。目的のボール
の代わりに空き缶やら古雑誌といったゴミがいくつも発見され、竜児は暴れそうな掃除魂を
グッと押さえ込みながら、しばらくウロウロしていると、天から神の声が降ってくるのだった。

「高須。もしかしてお前が探しているモノは、ボールか?」
 全くその通りである。さすがは神様。しかし神の声が聞こえるなんて、日頃の行ないを神様
は天から見守ってくれているのであろう。もしかしたら、このサクラの木の精なのかもしれな
い。竜児は木に向かって、ペコリと頭を下げるのだった。
「……どんだけ天然なんだ高須。不思議ちゃんかてめえは。上だ上。わたしだ」
「おうっ! 兄……じゃねえ、狩野、先輩……先輩の方が不思議ですって! なんで木の上に
 いるんですか!」
 見上げた、ひとしきり大きく、見事な枝振りを魅せるサクラの木の上……太い枝の間には、
全校生徒の心の兄貴にして生ける伝説、女生徒会長・狩野すみれの姿があった。それはまるで
生まれる時代を間違えたくノ一と見間違えるほど黒髪を颯爽と靡かせ、凛とした表情で竜児を
まっすぐ見下ろしているのである。幸いにもすみれの背後で輝く夕焼けのおかげで、チラチラ
見える太ももの奥、スカートの中身は見えない。そんなすみれは文字通り上から目線で物申す。

「物事ってのには全て理由があってだな……わたしが此処にいるのには、ふたつの理由がある。
 まあ、そいつはともかくとして、てめえが探しているボールはここにある。こいつは、グラ
 ウンドの方から飛んできて、そこの体育館の窓ガラスにぶち当たって、わたしの所に跳ね返
 ってきたんだ」
 ボールを握りしめたまま、すみれは腕を組み、少し上の体育館の窓ガラスを睨むのだ。
「窓ガラスに? 危ねえ……よく割れなかったな……」
 すみれにつられ、竜児も体育館の窓ガラスを見上げる。すると、
「あのなぁ高須。んな簡単に学校のガラスが割れる訳ねえだろうが。体育館や教室のガラスっ
 てのは、2枚以上の合わせガラスか、少なくとも強化ガラスで出来ているんだぞ? 一般的
 なガラスより3倍以上の強度を持っているんだ。てめえ、それぐらいも知らねえのか?」
 そういうすみれも本当は、先日繰り広げられた大河との、バトルロワイアルで破損したガラ
スを弁償した時に得た知識だったのだが……その説明を聞いて、へえっ、と感心する竜児に、
すみれはボールをお手玉のようにポンポンもて遊びながら語りだす。

「ほお……興味あるのか高須。てめえは物理好きか? ふん、このボール。直径10センチ、
 重量は200gくらいか……例えばだな。200gの物体Bをバットで打つとしよう。飛距離
 が、うむ……だいたいグラウンドから20メートルくれえだから、バットの反発係数をαと
 仮定して計算、インパクト後の初速をv、バットの加速度をS。するってえと、運動量yに対
 し、衝撃力xを判別する計算式は、x= -α( v - B) + v' + (ΔxB/b)*(S-x' )……」
 すみれは、呪文のようによくわからない計算式を暗算し始めてしまう。
「なんでいきなりアカデミックな授業始めるんすか……狩野先輩が物理や数学が得意なのは分
 りました! 解説してくれるなら、もっと分りやすく言って下さいって!」
 そう竜児が嘆願すると、すみれは急につまらなそうな顔になり、
「なんだ、つれねえヤツだな……分りやすく言うとだな、もしグラウンドどころか、至近距離
 からこいつをフルスイングで思い切りブチ当てても割れねえんだよ。あのガラスはな……。
 割れねえ代わりにおもいっきりリバウンドして、わたしの脳天にでっけえコブを作っちまう
 って寸法だ……という訳で高須。こいつを打った犯人は誰だ?」
 目を眇め、すみれは竜児を尋問する。しかし竜児は、
「……知らないです」
 と、真犯人を擁護するのだった。するとすみれは口をへの字に曲げ、
「知らねえ? んな訳ねえだろ。いいか高須。別に取って食おうって訳じゃねえんだ。わたし
 だったからいいが、もし他の生徒だったらどうする?危険を未然に防ぐのも、わたしの役目
 だ」
 ズバッと吐き捨て竜児の出方を見るすみれ。
「……この件は俺が責任持って対処しますから、狩野先輩は他の仕事してください。いつもお
 忙しそうですし」
 あくまで実乃梨の名を噤む竜児に、すみれは呆れたような表情に変わる。
202みの☆ゴン111 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/06(日) 22:53:54 ID:F354Lzgi

「高須。あんまり私を見くびるなよ? 私はどんなに忙しくても、てめえの事はてめえでやる。
 勉強にしても得意なのは物理や数学だけじゃねえんだ。……そういえばこの前、ある英語の
 テスト受けてな……TOEFLってヤツなんだが120点。SATってのは、全科目800点だったぞ」
 驚愕のスコアに竜児は血の気が引く。人並みはずれた天才とは聞いていたが、まさかそこま
でとは……世界中のどこの大学でも入れる超ハイレベル。竜児は耳を疑う。
「はあ? それって満点……フルマークじゃないですか! アメリカ人の大学生だってそんな
 の無理っすよ! 向こうで教授や、連邦公務員にでもなるんですかっ!……っていうか……
 SATって、アメリカの大学適性試験ですよね。狩野先輩……もしかして留学するんすか?」

 ふっ……と笑みを浮かべたすみれの視線は、体育館を超え、その遥か上空。まるで宇宙空間
を見据えている……ように見えなくもない。そして、
「frontier」
 そう、すみれは呟くのであった。その時、「うお〜いっ! 竜児く〜〜んっ!」と竜児を呼
ぶ天使の声がこだまする。
「あー、いたいた! 竜児くん遅いから心配しちまったよ〜! れれ? うおーっ! 木の上
 にいらっしゃるのは狩野先輩ではないですかっ!! 先輩、おパンツ丸見えっすよ〜!」
 竜児を心配してやってきた実乃梨は、すみれに気付くなりクルクル回ってビシッとすみれの
下半身を指差すのであった。
「櫛枝実乃梨か。この斜陽角だと、パンツは見えねえはずだが」
 バレたか〜っと、実乃梨はおつむをコチンと叩き、舌をだす。そんなお茶目な実乃梨から、
すみれの目線は再び竜児へ戻す。
「ああ、高須。さっきの話だが、今は内緒にしておいてくれ。その事でウチの父親が今、校長
 先生と打ち合わせしている。私はな……私は行くんだ。宇宙に。誰も見たことのない、誰も
 行ったことのない、『限界』に。この私が、飛んでやる。超えてやる。私にならそれができ
 るって、認めてもらえたらしいよ。とりあえず留学……それが宇宙への、第一歩」
 新世界の開拓者という、すみれの途方もなくでっかい夢を告白され呆然とする竜児だったが、
この人ならできる。きっとどこでもどこへでも飛べる……と全力で納得してしまうのだ。
「マジっすか?……でも狩野先輩なら可能ですよ……おうっ! 不覚にも駄洒落に……」
「あはっ! 竜児くん0点! でも狩野先輩なら可能ですよ!」
 なんだそりゃ、俺の使い回しかよ! 実乃梨0点! っと、実乃梨に突っ込む竜児。そんな、
中睦まじいふたりの様子をしばし眺めてから、すみれは体育館の窓を見やる。そこにはさっき
からクリスマスツリーを囲んで大河とはしゃいでいる、北村の姿が写し出されているのだった。
203みの☆ゴン112 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/06(日) 22:55:29 ID:F354Lzgi

「あの……俺たちグラウンドに戻りますけど。狩野先輩、そっから降りてこないんですか?」
「降りないんじゃねえ……降りられねえんだ」
 えっ?……完全無欠であるはずのすみれの以外な発言に声を詰まらす竜児。
「あの……もっと高い宇宙を飛ぼうとしてる人がなに言ってんすか……まあ、そっからだと結
 構な高さありますよね」
 こんな時でも強気なすみれは真っ赤になって否定する。
「馬っ鹿やろう! これっくらいの高さから飛び降りるのなんざ、余裕過ぎて問題にもなんね
 えんだよ! だいたい無重力の宇宙には関係ねえだろーが!……あのな、そこいらに『アレ』
 が……『アレ』だ『アレ』……いただろ? 『アレ』がいたんだ……どっ、どうだお前ら?」
 初めて見る全校生徒の心の兄貴にして完壁超人生徒会長・すみれの怯える顔。尋常ではない。
豪放磊落なみんなの親分が、名前も言えないほど怖がる『アレ』とは……。ヴォルデモードで
もいたのだろうか。竜児と実乃梨は顔をしかめると、すみれは空中に大きく文字を書き始める。
「先輩『アレ』ってなん……え? 『エッチ』?……次は『イー』っすか?……それ『ビー』
 すよね……で、『アイ』合ってますか? 以上? 終わりすか?……てことは、『H』『E』
 『B』『I』……へっ」
 ヘビ? っと『アレ』の正体を見破り、大至急足元を調べ出す竜児。靴の裏側までも確信し
たりするのだが、『アレ』らしきは見当たらない。すると、いつの間にか草むらに移動してい
た実乃梨が何かを持って飛び出してきた。
「『アレ』ってヘビの事かいな。この子じゃねえの? 蛇拳!」
 なんと実乃梨は長さ10センチほどのヘビを素手で掴んでいた。一瞬竜児はたじろぐが、実
乃梨の逞しさに感動を覚え、唐突に惚れ直してしまう、その時だった。
「だああああああああああああああ!!!! くくっ櫛枝ぁ! はっ、早く『ソレ』を退治し
 ろっ! 退治してくれっ!! 頼むから!! 頼む! どわあああっ!!!」  
 身も蓋もない悲鳴を上げて、慌てふためくすみれは木の幹にしがみつく。折角の美貌は歪み、
シュープで切れ長の瞳には涙。その唐突なすみれの恐慌状態に、実乃梨も動転、掴んでいたヘ
ビを引っ張ってしまうほどである。
「あわわわわっ、すっすいませ〜ん!! ってか先輩!! 今度はマジ、パンツ全開っすよっ!
 サッ、サルベージ!」
 慌ててヘビを草むらの向こうへグルグル廻しウインドミル投法。激しく回転しながら、ヘビ
は遥か彼方へ消えていった……。
「狩野先輩、もう大丈夫ですよ! ヘビはもういませんからっ! 降りてきてくださ〜い」
 大量の冷や汗と涙で、頬にべたべたと貼り付いた黒髪を整え、今更体裁を整えるすみれ。手
遅れだろ……とポツリと漏らす竜児に対し、コホンと咳払いし、
「……ついでに私は、暫くここで校内の監視をするとしよう。ご苦労だったな、櫛枝。ありが
 とう。これに免じて今回の件はスルーしてやる。ほら、受け取れ」
 すみれが投げたボールを実乃梨はパシッとキャッチ。一礼後、竜児と並んでグラウンドへ駆
け足で戻っていく。

そして竜児が、

「……白か……痛ってえ!」
 すみれのパンツの色を呟いてしまって、実乃梨から思い切り
耳たぶを思い切り引っ張られてしまうのであった……。

***
204みの☆ゴン113 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/06(日) 22:56:29 ID:F354Lzgi


 体育祭当日。開催を知らせる花火の音が、パンッと響く空はどこまでも高く蒼く澄んでいる。
 その青空の下、すで大橋高校のトラックでは、午前中最初の注目競技である男子100メー
トル走の決勝が始まろうとしていた。プログラムに沿い、会場にアナウンスが流れる。
『わ、私が言うの?……えっと……ちゅ……次は〜……だっ男子100メートル決勝でしゅぅ
……ふおお……! ガガガ!』
 期待通りにセリフを噛んでしまった大河の代わりに、慌てて投げ出されたマイクを拾い、北
村が決勝まで勝ち残った生徒の名を読み上げた。
『……選手〜。第五コース、2ーC、春田選手〜……』

 その一方、2ーCの応援席に座っている竜児の隣から低い声が聞こえる。
「ほお……わが軍は、春田殿が出陣でござるか……お手並み拝見といこうかの。ふぉっふおっ
 ふおっ」
 武将化した実乃梨は望遠鏡のように丸めたプログラムで、春田がいるスタート地点を覗き込
んでいた。そこでアップしている春田は応援席に向け、アホ面全開で手をブンブン振るのだった。
「亜美ちょわ〜ん! 俺ガンバる〜☆」
 いきなり名指しされてしまった亜美は周囲の注目を浴てしまい、微妙に引き攣りながらもニ
ッコリ笑顔。春田に答える右手はぎこちなく揺れていた。
そして、レディー……。

パンッ!
 ピストルの音と共に、発射された弾丸のようにスタートを切る春田。「ツイ〜ンツイ〜ン、
カムカムタァーボだぜ〜♪」と口ずさむに春田の身体は、一蹴りごと猛烈に加速していく。
そこに『春田選手〜! 早い早い〜! ダントツだっ〜! おら行け〜アホ毛〜!!』と、
大河の絶叫アナウンスが場内の大声援と共に鳴り響くのだ。
「おおうっ! 春田早っえ〜! 人間ひとつ位は取り柄があるんだな! 頑張れ〜!」
 と、珍しく春田を褒め讃える竜児の近くにいた亜美は思わず立ち上がり、一言。
「へえっ……やるじゃん」
 すると丁度竜児たちの反対側の応援席から蛮声が上がった。
「おい、バカ宮! 抜かないと次の試合ださねえぞ! 抜かせ抜かせ!!」
 ぶっちぎりと思われた春田の後方、1ーB若宮京太郎、バスケ部のホープが、後半もの凄
い追い上げをみせる。春田も気が付き、アゴをひいてトラックを蹴り上げる脚に力を込める。
残り30メートル、ゴオオオオッと、若宮の猛チャージをかける風切り音が、春田に迫る。し
かし2ーCの体育祭実行委員、その責任感と、亜美の前での晴れ舞台という、春田的必勝シチ
ュエーションに身体が反応、分厚い大気を切り裂き、一陣の風と同化した春田の身体は、ゴー
ルラインへ最初に飛び込むのであった。

「はあっ、はあっ! やたっ……一等! はあっ、はあっ、おめ〜早えなっ〜☆バスケやめて
 陸上部来いよ〜っ! オヒョ☆」
 いままで陸上部だろうが何だろうが負けた事はなかった脚が自慢の若宮は、地べたにへたり
こんでいたが、へらっと手を伸ばして来た春田の腕をガッシリ掴み、持ち前の明るい笑顔をみ
せるのだった。
 そうして非公式ながら10秒台のハイレベルな闘いに幕を閉じる。

***

 これからムカデレース女子が始まる。体育着姿の控え選手の中には、長いロープで大河、
亜美、実乃梨の順で足首を結ばれている三人娘の姿があった。三者三様に髪をアップにして
おり、三つの白い首すじが露わになる。こういうのも体育祭の醍醐味だと、竜児は密かに思
うのだ。

「あれ? ねえ、みのりーん、イチが左で、ニで右だよね?」
「逆だよ大河ぁ! 右からだよ右っ!」
「ちょっとタイガー、あんた平気? 足引っ張んないでよね〜? あ、そろそろよ!」
 さっきの春田の激走に感化された亜美は、柄にもなく本気モードになっている。出場チーム
たちはスタートラインに一列に並び、勝負の時をじっと待つのだった。
205みの☆ゴン114 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/06(日) 22:58:44 ID:F354Lzgi
 そして、タイムイズカム。スタートを切る。出場チームが一斉に足を前に出す。土埃が一面
に湧き立つのであった。

「イッチニ! イッチニ! ちょっ、ちょっ、ちょっとぉ! け、結構、歩幅が違うじゃん!
 すっげー走りにくいんですけどっ!」
「なにすんだ、ばかちー! そ、そこっ! 私のワキに触るなっ! ううっ、寒気がするぅ!」
「触んないと、走れないじゃん、ガマンしな!……結構敏感なのねぇ、ちびすけ。あっは〜?」
「あひゃひゃっくくくくっ! くすぐったい! もう限界!……あほちー! 放せ! こら!」
「大河! 暴れちゃ駄目だっ! 転ぶ! 転ぶって! あーみんもワキワキじゃなくって大河の
 肩持って、肩! うおおおっ危ねえ!」

 先頭の大河は見事にずっこけ、覆いかぶさるように亜美は大河の上に倒れてしまい、当然実
乃梨も仲良く崩れ落ちる。
「イッチニ! イッチニ! あ、亜美ちゃ〜んおっ先っ〜! がんばって〜!!」
 派手にクラッシュした三人娘の横を、2ーCからもう1組出場している麻耶たちが通り過ぎ
る。そのしんがりを務める奈々子は、聖母のような優しい眼差しを三人に向け、そのままトッ
プでテープを切るのであった。

***

 午前中、最後で最大のイベント。騎馬戦男子が始まろうとしている。ルール的にはピコピコ
ハンマーで、ヘルメットにくっついてる紙風船を割るのだが、
「北村くん! これ使って!」
「おお、逢坂! ありがとう!……しかし大丈夫だ。気持ちだけ頂くとしよう!」
 北村に提案を遠慮され、少しシュンとする大河は、その隣にいた竜児にクイッと向き直り、
「じゃあ竜児……せっかくだからこれ、あんた使いなさいよ。ほれほれ」
「あのなあ、大河。木刀なんぞ使ったら相手が命を落としちまうじゃねえか……だいたい失格
になっちまうだろ。俺も結構だ。そんな物騒なモンとっとと背中にでも隠せ」 
 そんなこんなで、各騎馬どもは、ゾロゾロと出陣し、トラック沿いに円を描き、決戦の時を
迎えるのだ。すみれがホイッスルを吹く。ピーッ! 各馬一斉に乱れ交わる。

「てめーら決闘だ! 無礼講じゃあ! やったる!」「ただで済むと思うなよ! おらああっ」
「あっ! 後輩のくせにこの野郎! 覚えてろ!」「忘れた!」「うわわわん!お母さ〜ん!」
 怒号と絶叫の中、あちらこちらで勇ましくも若干滑稽な闘いが繰り広げられていく。因みに
一番早く撃沈した騎馬は、1ーAのいかにも不幸なツラをした男子が騎手を務める騎馬であった。
 竜児といえば、なかなかの善戦を魅せている。これでも一応元運動部、中学三年問はバドミン
トン部なのだ。

「よし! 次! あ、おい春田!気持ちは分かるがお前は手を出すんじゃねえ! こういうの
 は正々堂々とだな……」
 と、先頭の騎馬を務める少々興奮気味の春田を静める竜児。しかし正々堂々と言いながらも
竜児は、正面からピコピコやり合っている騎手だけ狙って、後ろから近寄り、ピコッと、紙風
船を仕留め続けている。ちょっとズルいが、効率的で、確実な戦法だ。2ーCのポイントゲッ
ターとして、竜児を含め春田以下、馬になっている3人も、身長の高さで選ばれていた。高い
方が叩かれにくいし、叩きやすい。しかも、最大の武器は竜児の奇面フラッシュ。ここぞとば
かり大活躍だ。
「こぇぇぇぇぇぇ────っっ! 顔がこぇぇ!」応援席からも「ぎゃー!」と悲鴨が上がる。
 その横から竜児を狙う騎馬がそろそろ近寄って来る。
「竜児く〜ん! 右右〜! 志村〜、後ろ後ろ〜!」
 はっと右を向き、ギリギリでハンマーを避ける竜児。相手の騎馬は、その後ろにいた北村に
紙風船をぶっ叩かれてしまう。
「危っねえ〜……北村、サンキュー! 実乃梨もサンキューなっ!……でも変なギャグを取り
 込まないでくれ。紛らわしいぞ……」
 竜児たちの助太刀をした後、戦場の中央に向き直り、北村は吠える。
「やあやあ我こそは北村佑作にござる! いざ勝負〜!」
 争っている数十騎の中心へ、見事な一騎駆けを魅せるのであった。
206みの☆ゴン115 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/06(日) 23:00:09 ID:F354Lzgi
……そして数分後。一騎打ちになる。竜児の正面には北村の姿があった。誰もいなくなった戦
場に一陣の風が横切る……。
「流石だな高須……まさか親友のお前と争う事になろうとは」
「いや待て、北村……同じ組だし、争う必要全くないだろ? おうっ! っぶねえ! ……や、
 やりやがったな〜? とおおっ!」
 既に勝利が確定している2ーC同士の闘いに会場は盛り上がる。いつも仲が良い実乃梨と大
河は、この時ばかりは、違う騎馬に黄色い声援を送るのであった。

***

「ていうか北村。その荷物なんだよ?」
 体育祭は昼食タイムになり、弁当を広げる竜児は、正面に座る北村が抱えている大きな包み
を指差す。
「弁当。今日はみんなでこいつを食べたかったんだよ」
 ドン、と応援席のド真ん中に置かれた包みの結び目が解かれた。あまりにも立派な三段お重
が現れ、覗き込んでいた春田がブー! と、焼きそばパンを盛大に吹き出す。
「ブハハなにそれ〜? マジで弁当〜? そんな弁当持ってきてんの茶魔か面倒ぐらいだよ〜!
 ギャハハ!」
「うむ……ば、ばあちゃんがさ……中もすごいぞ、みんな見てくれ!」
「うむじゃないよ北村! 漫画じゃん! 漫画弁当! うわっ!……て、て、てゆっか、あん
 た、さ、39って、なによ?」
 春田の爆笑を聞きつけた能登も手を叩いて受けまくりながら、ご開帳された漫画弁当に海苔
で描かれた数字を問う。
「さ、さく……祐作の、さく……っ」
 佑39は答える。その答えで、「ぶほぉっ!」竜児の口は決壊した。北村を中心に笑い続け
ている竜児たちの周りには、なになに? とクラスメートたちが覗きにくる。
「伊勢海老? はあ? ブハハ!」「なにそれ? なんで? 北村の弁当なんでそうなちゃっ
たの?」「まるおが一人でご馳走食ってる〜! ぎゃはは!」
 覗いた傍から爆笑の渦に巻き込まれ、そこへトイレにツレしてきた実乃梨と大河が戻ってきた。
「なんだこの騒ぎは、みんなして何見てんの? おじさんにも見せてごらん」
 実乃梨は、その大きな瞳に飛び込んできた御馳走爆弾を被弾。爆発したかのように笑い転げる。
「なに? みのりん。どうしたの?」
「見てみ大河! あれが異次元弁当だよ! 北村くん、異次元弁当持ってきよったわ……」
 大河は少し眉をひそめ、大ヒットを飛ばしている北村の弁当、爆心地に目を向ける。
「え? 北村くんが? 異次元弁当? それって一体なん……ふへぇっ?」
 わざとらしく目を擦り二度見し、大河も四つん這いになって爆笑する。「ふぎゃーはははは
……ご、ごめんっ、き、北……ぷっ……あひゃーははははは!」
 しかし北村はそれで気を悪くした風でもなく、
「いいんだ、笑え笑え、逢坂もみんなも笑ってくれ!」
 北村自身、笑いすぎて涙目になってはあはあ肩を揺らせている。その背後からひょいっと顔
を出す幼馴染みの美少女は、
「あーはーはーはー! 祐作? まーたやられてんだあ! 昔っからそうだよね〜、おばあち
 ゃん弁当! 孫だ〜〜い好きだもんね、祐作んちのおばあちゃま。巳代ちゃん! ってか
……伊勢海老って! ありえなさすぎでしょ? 触覚なっが!」
 本物の兄弟みたいに北村の肩を背後から掴み、グリグリふざけて揉む。あ! ばかちーがセ
クハラを! えろちー! と目敏く喚くのは軽やかにスルー。
「まあ、とにかくだ。みんな手伝ってくれないか? 食ってくれ。頼む。残して帰ったりした
 らばあちゃんがかわいそうだからさ。煮物、唐揚げ、ハンバーグ、玉子焼き、ウインナー、
 枝豆、サイコロステーキ、しょうが焼、ミニグラタン、ナポリタン、ちらし寿司……」
 ゆうに五、六人分はあるだろうか……改めておかずを読み上げられ、そのボリュームと、一
口頂戴した唐揚げの旨さに、すみれが聞いたら卒倒するであろう、その名も巳代ちゃん(ヘビ
年・主婦歴推定80年)の孫ラブ?超溺愛さを竜児は垣間見るのであった。

「ね〜、ゆりちゃんも、いっしょにまるおのお弁当食べよ〜よっ!」
 生徒たちの輪から少し離れ、出前のうま煮そばをふうふうしていた独身でおなじみ担任の
恋ヶ窪ゆり(29)はビクッ! と肩を震わせ、年を重ねてなにやら一層丸みを帯びた顔を向ける。
「……えっ!?……い、いいの?」
「は〜い、ゆりちゃん29歳だからおニク食べなよ〜☆あ〜ん」
「春田くん……ふっ……ふふふふっ……食ったろうじゃないのおおっっっ! キイィィィ!!」
207みの☆ゴン116 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/06(日) 23:01:30 ID:F354Lzgi
 ゆりは春田から割り箸をぶん取り、脂身たっぷりの角切りステーキに喰らい付いた。呆然と
する生徒たちが見守る中、うま煮そばの汁もゴクゴク飲み干してしまう。既にゆりの脳内では、
メタボやら、コレステロールや、中性脂肪というワードは消し飛んでしまったようだ。ヤケ食
いの仔細は決して齢の事を、春田に指摘されただけではなく、最後の競技……というか種目で
ある仮装行列に出演することにしてしまったからであろう。一度は断固謝絶したのだが、クラ
ス全員に頭を下げられ、さすがの独身も、勝手にテーマを決めてしまった負い目があって承諾
してしまうのであった。
 ただ竜児から「これ、先生の衣装ですっ」と渡されたそのコスチュームを見て絶句。うなだ
れつつも、なんとかゆりの唇は……これを私が着るのかよ……と漏らすのであった。

***

 午前中の競技で、総合得点一位で折り返した2ーCのボルテージは最高潮。午後の競技が始
まっても、その勢いは衰えず、先ほど終わった綱引きでも決勝まで勝ち進み、準優勝するのだ
った。だがこの時点で相手の女将軍すみれがいる理系国立選抜クラスにトップを奪われてしま
い、2ーCは僅差で追う展開になる。
 次はプログラム的には最後の種目である仮装行列。実際にはサプライズ競技が残っているの
だが、それはさておき気合を入れ直す竜児たちであった。2ーCの仮装行列のテーマは『ナイ
トメア・ビフォア・クリスマス』……のはずだったが、

「叩け……叩け……叩けぇー! ゆーあーきんごーぶきーん……」
「前から思っていたんだが……実乃梨の役はなんの役なんだ?」
「えっ!? あ、これ!? い、いや、その……自分でもよくわからねぇんだ」
 グラウンドで靴のひもを結んでいた実乃梨は、テーマとなんの関係もない、ハゲヅラ、アイ
パッチ、出っ歯、そして腹巻──で完全武装していた。
「なんか、春田くんが『おばけ屋敷できなかったおわび』っていって、特別いい役をくれたみ
 たい。春田くんって、わりといい奴だよね」
「そうか。……そうかあ?」
 実乃梨は、話し辛そうな出っ歯をかぽっと外し、アイパッチとハゲヅラのままで眩い笑顔を
竜児にまっすぐ向けてくれる。いつもの、真夏の太陽そっくりに輝く黄金色の満点笑顔だ。ど
こもかしこもピカピカでツルツルで……いや、ハゲヅラが眩しいということではなくて、竜児
は実乃梨から視線を外すことができない。

「あのさー、竜児くん。あーみん、なんか最近、変わったよね」
「まあ……そう言われてみれば、そう……かな?」
 一応頷き、同意の言葉を返す。行列の先頭で、ヒロイン役に抜擢され、主人公役の春田のネ
クタイを直している亜美にちらりと視線をやる。美貌とぶりっこ鉄仮面で人気者なのは転校
当初から変わらないが、
「変わった、っていうか……なんか、振り切れった感じだよな。……なんでだろ」
 亜美は作りあげた外面を崩さないように、誰にでもフランクに接しつつも、ある一線を超え
ることは回避していたように竜児は感じていた。
「もう、動かないでってば! うーん、春田くんって、もしかしてえ……ちょっと、おばかさ
 んなのかもしれないなあ……かわいそうだなあ〜……」
「う〜ん、俺ばかかも〜☆ ハッ! 俺がばか? 泣いているのは私? あ、これ綾波ね!」
 春田とじゃれつつ意地悪に笑っている亜美は、鉄仮面が多少ズレようとも、他人にどう見ら
れようとも、素直にしたいようにしているように思える。一体なにが奴をそうさせたのかはわ
からないが。そんな述懐を漏らすのをやめ、その代わりにちょっと意地悪に亜美を見やり、
「ったく、どんな裏があるんだかな。あの腹黒娘」
 逸らしてみると、 実乃梨は竜児の腕のあたりを軽く叩いてくる。
「こーら、そういうこと言わないの! あーみんはさ、変わったんだよ。私たちみたいに」
「……俺たちみたいに?」
「そうだよ。私たちみたいに。いい風に」
 竜児は視界に踊る春田の不抜けたツラを眺める。俺たちみたいにって、まさか……まさかな。
 竜児はもどかしく実乃梨をただ見下ろす。そんな二人を羨ましそうに見ているトナカイ犬役
の大河にも気づかずに……。
208 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/06(日) 23:02:31 ID:F354Lzgi

以上になります。
お読み頂いた方、有り難うございました。
まとめの方、ご苦労様です。いつも有り難うございます。
またこの時間帯をお借りするかもしれません。
失礼致します。
209名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 23:19:15 ID:mPObXd+A
>>208
GJ
いや、しかしあれだな。改めて思ったがツリー破壊したみのりんの球の威力はヤバかったと
210名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 11:08:59 ID:RH3wyic2
GJ
211 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:39:33 ID:GqlSIsQo
皆さんお久し振りです。
[キミの瞳に恋してる]の続きが書けたので投下させて貰います。
前回の感想を下さった方々、まとめて下さった管理人さんありがとうございます。
今回は麻耶視点、エロ分あり、苦手な方はスルーしてやってください。
では次レスから投下します。
212 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:40:42 ID:GqlSIsQo
[キミの瞳に恋してる(10)]

「俺、今凄くドキドキ…してる」
「うん…私も、だよ」
狭いベッドの上で私達は正座して向き合う。
膝同士が触れ、ほんの少し手を伸ばせば彼に届く距離。でも私は待ち続けていた。
能登からギューッてしてくれなきゃイヤ、ちゅーも能登から、全部…能登からして欲しいの。
私は受け身、彼に全てを委ねるつもり。お腹の中で燻る欲求を知って欲しくてフトモモをモジモジ擦り合わせてアピール。
「木原……」
「ん…ぅ」
そして能登は行動を開始する、ベッドの上で見詰め合って照れる事十五分、とうとう…。
身を乗り出した彼の顔が眼前に迫ってきて、私は瞳を閉じて受け入れる。
カサカサの唇が触れる、重なる、密着する…一段階づつ踏んで戯れる。啄ばむように甘噛みされる、私は唾液を含ませた唇で優しく返す。
彼の乾いた唇を私が潤おす、そして彼の口付けが私を溶かしていく。
「あ…、ん、ふ…」
頭を抱き抱えられ、閉じた唇を舌で抉開けられて侵入し、探すの…『遊ぼう』って。
「ん、ん………あ、ぴちゃ…」
怖々と彼に舌を絡ませると押し返され、舌先がツツッ…と口内をなぞる。意地悪された…。


213 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:41:49 ID:GqlSIsQo
私は意地になって彼を追おうとした、追いたい…でも無理なの。
「ひあ…ぅ、ぴちゃ…ぅ…ん、は…ぅ」
焦らすように口内を這う能登の舌に封じられる、くすぐったいけど気持ち良いの…身体から力が抜けていく。
「ちゅっ…、はぅ…はう…あ、ちゅぱ…」
背中に回した両手で彼にしがみつき、肩を震わせて愛情に絆され甘受して…酔わされる。
贈られる唾液を啜り、しっかり舌を絡ませて奥へ奥へと誘い込む、焦れる気持ちを抑えれなくなる。
「は……あ、はぁ…、んんっ!」
でもそこで能登は口を離してしまう、ちょっと物足りない、そう目で訴えかける。
すると今度は能登は私の首筋に唇をつけて強く吸ってくる、首の右側…耳の下…場所を変えて短く…何回も。
「くふぅ…ぅ…んっ! んあ…だめ……」
そして…舐められる、胸元のリボンを解き、ブラウスのボタンを外して鎖骨から首へゆっくりゆっくり…。
ゾクゾク…しちゃう、イヤじゃないんだ、だんだん気持ち良くなって…背中に回した手で掻き抱いて声を震わせる。
お腹の奥がジンジンって熱くなっていって……エッチな気分になってくる。だから甘く啼いちゃう、恥かしいよぅ…。



214 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:42:47 ID:GqlSIsQo
「あ…ぅ」
酔わされトロンと蕩けていく私は彼に押し倒される、ギシッ…と鈍い軋み音を残して…興奮した能登に組み伏される。
「木原……脱がすよ?」
「う、うん…」
そう一言づつ交わして見詰め逢う、私は庇護を受けたくて身体を震わせてみせる。
「さ、寒い…よね? あはは…ごめん気付かなかった、えっと…布団を…」
それを能登は勘違いして掛布団を手繰り寄せようとする、私は手を重ねて制して紡ぐ。
「いい……気付けバカ、…………布団を被ったら見れないでしょ私のは、裸…。
見たい癖に…無理すんな、ヘタレ」
あ…えっと…可愛くない……私のバカ、もっと言い方があるじゃん。でも恥かしいもん。
「あー、えっとだな木原、そのさ…可愛いよ」
でも能登は気にしていないみたい、そう言われた私は嬉しくて顔が熱くなっていくのを感じた、照れちゃう。
「あ…う……アホ………恥かしいし」
彼から目を逸らしてボソボソと呟く、愛情を紡がれて嬉しいのに…素直になれない。
ブレザーはとうに剥れている、ブラウスのボタンが一つづつ外され、左右に開かれて…能登がじっと見てるの…下着。
今日は『勝負下着』なの、ちょっと大人っぽいシルクの白い下着。

215 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:43:49 ID:GqlSIsQo
「あ……」
カップの端に指が差し入れられて下着を押し上げられる…、ほんの少し冷たい指先が乳首に触れ、甘い声が出てしまう。
「ん…あ、はぅ……う」
胸を覆う能登の手の平は大きくて…ドキドキが止まんない…、本当に触れただけなのに…ピクンてなっちゃう。
私は興奮して呼吸が荒くなっていく、何にもされてないじゃん、でも……。
「ん、ん…ぅ。…能登、早く…」
期待と羞恥が心中で躍り、身体が熱くなって…徐々に下着に違和感を覚え始めた。
ジワリと………その…暖かく湿って……濡れちゃう……濡れちゃっている。
それを認識する前に私の唇は……勝手に口走る。能登に『愛して』と紡ぐ、甘く媚びた艶声で…。
「んっ! …ふ…っ……っ」
胸に五指が埋まり、ゆっくり優しく揉まれる。やっぱり慣れないな、ムズムズする…けどちょっぴり気持ち良い。
彼に身を委ね、捩らせ、胸から伝わる微弱な電流に喘ぐ。淡く融けていく視界…それに比例して感覚は鋭くなっていく。
「乳首…硬くなってる」
彼は肌触りを味わうように手の平を滑らせ、押し返す感触を楽しむように指を埋ませた後、ポツリと呟く。


216 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:44:37 ID:GqlSIsQo
「能登の手が気持ち良いも…ん、ふ……っ、気持ち良いから……勃っちゃう…、あ…ふ」
私はそんな言葉で素直に返す、心地よい刺激を貰い、恋人が身体に触れてくれて嬉しい…と遠回しに伝える。
すると能登は嬉しそうに照れ笑いし、乳首を親指の腹で転がし始める、ゆっくり…強く。
「あ…、待っ……てぇ、んんっ…だめ……だ、め…だよ…ふあ」
それだけじゃない、彼の顔が胸に近付いて…弱い部分を一舐め、二舐め、指で絞るように摘んでクリクリ。
そこで燻り続けていた欲求に火がつく、能登のちんちんを舐めていた時から焦がれていた気持ちを抑えれなくなる。
『能登にキモチイイことをして貰いたい』
あのね…もう隠さないけど、実はちんちんをぺろぺろしていて…ちょっと興奮していたの。
能登の気持ち良さそうな声や反応を感じて、羨ましいな…『欲しい』な…って…フトモモをギューッて合わせてモジモジしてたの…。
あぅう…ア、アソコがうずうずして我慢出来なくてギューッてしたら気持ち良いから、ちょっとだけ…ちょっとだけだよ 一人で『気持ち良くなっちゃった』


217 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:45:52 ID:GqlSIsQo
あの時から『発情』しちゃってる、能登に触られてなかったのに……えっちぃ気持ちなの。
「はっうぅ…、は…あ…、あっ!」
右胸に吸い付かれて唇ではむはむ…甘噛みしてくる、ねっとりと舌が這って背中がゾクゾク。
左胸は揉みしだかれ人差し指と親指で乳首を摘んで優しく転がされる、弾かれる、爪先で擦られて…身体が震える。
気持ち良いよぅ、でも物足りなくなって切なくなる…これより『もっとキモチイイ事』を覚えちゃってるから。
男の子って好きだよね、おっぱい。夢中でちゅぱちゅぱもみもみ、能登だって例外じゃない。
大好きな彼にそんな事をされたら私も嬉しいわけ『可愛いな、よしよし』って想うんだ、だから頭を両手で抱き抱えて撫でてあげる。
不安、怖れ、羞恥、好奇、そして愛情と熱情、ドキドキとソワソワ、入れ替わり立ち代わりに感情が切り替わる。
でもギューッて能登を抱き締めていたら心の中はポカポカ、不安が治まって頑張れるよ。
それを例えるなら抽象的だけど…真っ白い空間でピンク色のハートがたくさんフワフワ…そんな感じ。
「んくっ…、ばかぁ…噛むなぁあ、…ひあっ!」


218 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:46:55 ID:GqlSIsQo
能登が小刻みに乳首を舐め回し、不意に噛んでくる、優しく噛み噛み…痛いし、でも気持ち良い…のかな、解んないや。
そんな事されたらピクンて反応して背中が反っちゃう…。なに、何だろ…癖になっちゃうんですけど。
「んあっ! や、やめ…ひぅうっ…やあぁ…やぁ…やだよぅ」
痛いのに気持ち良いの、変態じゃん、初めてなのに…こんな事…うぅ…認めたくない。
でもぜっったい離してあげない、やめないで…もっとして?
呼吸が荒く、浅くなって…頭を振ってイヤイヤしながら…両足で彼を引き寄せておねだり。
甘えん坊になっちゃう…いいかな、いいのかなぁ?
「あっ! くぅ…う…ん、はっ…あぅ」
そう考えていると彼が左胸に吸い付く、そして右手が…フトモモを撫で…えっ? え…ま、待って…。
バレちゃう…そのまま大事な所を触られたらくちゅくちゅにしているのがバレちゃうよぅ…やだ。
「はっ…はぁは…あ…の、のとぉ…あぅ…そっちは恥かしい…し、んんっ」
そう言うと能登が一回強く乳首を吸った後にこう返す。
「あ…そっか、まだ生えてないよね…なんだ…あの毛、だ、大丈夫だって恥かしくなんて無くね」


219 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:47:51 ID:GqlSIsQo
違う、違うしっ! そ、それもそうだけど…違うんだって!
「くふっ…! あっ! あっ!」
だけどそんな事を言う余裕なんて無い、また彼が胸へ愛撫し始めたから…。
布団を掛けてくれたのは能登なりの優しさ、同時進行でジワリジワリとスカートの中に手が伸びていくのはマジでヤバい。
ああ…どうしよう、うぅ…嫌われちゃう、えっちな娘だって思われちゃう。
「んん…やぁあ……やだよぅ、は…、あふっ」
触られたいけど触られたくもないから『やだやだ』と駄々をこねてみても伝わらない。
だから彼の背中に巻き付かせた両足に力を入れて身動き出来ないようにしてみる。
でも…男の子の…能登の力には敵わない、身体を捩って出来た僅かな隙間から手が差し込まれて……。
「あ…」
抵抗も虚しく下着に触れた彼が気付く、バレちゃった…うぅ。
「だから…"やだ"って言ったのに……ばか…あほ」
猛烈に恥かしくて両手で顔を覆い、弱々しくそう呟く。
濡らしてしまうのは自然な事で、大好きな彼に愛されて発情したのだから当然。解っていても……やだ。
やだやだってわがままを言っても悦び、せがんで可愛くない事を言ってしまう。そんな複雑な乙女心。


220 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:48:55 ID:GqlSIsQo
「べ、別に変な事じゃないじゃん、気持ち良かったらこうなるし、…木原は気持ち良いんだよね?」
能登がそう言って下着の上から秘部を擦る、ゆっくりゆっくり…指先で押しながら。
「っう……はっ……あぅ、はぅ…」
足を閉じて逃れようとした、でも出来ない…彼が膝で動きを封じるから…。
グリグリと膣口に指を押え付けてくる、上下に擦られる、下着を食い込ませてくる…ちょーしのりすぎ。
私は頑なに問いを黙殺…ううん誤魔化そうとする、恥かしいから言いたくない…でも愛撫はして欲しい…だから聞こえないフリをする。
「ねぇ木原、そうなんだよね、解ってるから、誰にも言わないから俺にだけ言ってみなよ…ほら」
やっぱり変態、言う事がオッサンみたい…そしてちょっと強引、必死、興味深々…。
えっちぃ指遣いでイジメてくるの、お腹の中がムズムズしちゃう、トロトロに蕩けていく、弛緩して…熱く熱く…ふっとーしていく。
「き、気持ち良くなんて無いもん…ふ、ふん……っん、まあ…あふっ…。
ちょっとくらいは気持ち良いけど…ぜ、全然よゆーてか…あっ、ちょっ!」
私は強がる、憎まれ口を叩いて…虚勢を張る。


221 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:49:44 ID:GqlSIsQo
目なんか合わせられない、だから顔を手で覆ったまま一息に言う。
すると能登が敏感な部分を摘む、ちょっぴり強く…お腹の中から腰、背中の順に痺れを伴った電流が走り息が詰まる。
「あっ! あっ…の、とぉ…ばかっっばかっ!! くふぅんっっ!!!」
能登がそのまま転がす、クリクリ…コリコリ…掻いたり弾いたり…何処で覚えたの…?
身体をトロトロに蕩けさせる痺れに翻弄されつつも咄嗟に彼の手を両手で掴む、強い刺激に身悶えしながら…。
「あっ! はっ! はあ…はっ…あ……! ひあっ……あ!」
彼の手が下着の中に侵入してくる、それを阻む術を私は持ち得ない。
いや…あるね、後ろに下がればいいだけ、でもしない…出来ない、本当は望んでいるから。
意地悪になった能登に焦らされ、イジメられて、それすらも気持ち良くなってきている。
身体から力が抜けていく、熱くて熱くて堪らないの…お腹の奥がジンジン疼いて…。
気が付いたら彼と右手を重ねて左手で布団を掴んでいる自分が居た。
言う事とは裏腹に『麻耶』は甘えん坊ですぐに無抵抗になる、甘く喘ぎ『女の部分』を泣かせて…彼に愛されて悶える。


222 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:50:35 ID:GqlSIsQo
「んんっ! あはぁ…あっ!! のとぉ…うぅ……はぅ、ウソをついてたよ…ごめ、ん。
くふぅ…キモチイイ、…恥かしいから言いにくい…す、素直になれないよぅ、ぁ…あっ! ごめんねごめんね…」
でもね快感だけじゃ寂しいもん、ツンツンしたりデレデレしたりどっちつかずだから能登も意地悪するんだ。
素直に…可愛い彼女になりたい、だから勇気を出して強がりを止める『もっと愛して』と彼におねだり。
彼の首に両腕を回して抱き付いて『ごめんなさい』する、もっと甘えん坊になりたいし、ラブラブしたいから…。
「謝るなよ、俺はそんな木原が好きだっ! 素直じゃないところもマジ…可愛いんだよ」
その願いは届いた、能登もギュッて抱き締めて優しく紡いでくれる。
ほっっっんとうに素直じゃないよねお互い、可愛くない、ふふっ♪
けど能登はそんな私が好きなんだって……へぇー?
「うん、私は能登の全てが大好き…ふふ…」
嬉しいよ、照れるよ、愛撫より『キモチイイ』愛の言葉で私はデレデレ、彼に頬擦りして甘える。
飼い主に戯れる猫みたいに身体をスリスリ、私の匂いを彼に擦り付ける。


223 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:51:39 ID:GqlSIsQo
それは自然に…私の中の本能がそうさせる、考える前にしてしまう『マーキング』
「ねっ…能登、私…"可愛い彼女"になれるように頑張るしっ…。
照れ隠し…しちゃう時もあるけど怒ってるんじゃなくて……んくっ、もう…」
私は大真面目な話をしているのに…能登は我慢出来ずに指で擦ってくる、男の子って仕方が無いね。
「あ、わざとじゃ…勝手に俺の手がさ…」
「ふぅ〜ん、ま…そういう事にしといてあげる、てか…服をちゃんと脱いで…その…続きしたいなとか私も思ったり…」
それを咎めたりはしない、紡ぐ機会はこれから山程ある、今は…彼と愛し合う事に専念しよう。
私は彼に服を脱がせて貰う、ブラウスの残りのボタンを外し、スカートを脱がされ、靴下も…下着も………。
そして私も彼の制服を一枚づつ剥いでいく、カッターシャツ、Tシャツ、靴下…下着。全部…だよ。
寝転がったまま、一秒でも惜しいと焦りながら互いに顔を真っ赤にしてハアハア…一枚も残さずに…生まれたままの姿になる。

無言のまま私達は見詰め合う、私を組み伏せる彼の下でドキドキ、胸を腕で…下腹部を手で隠し足を閉じてモジモジ。


224 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:53:03 ID:GqlSIsQo
彼の右手が恥じらう私の覆いを取り除いていく、胸を隠す腕を…そして『恥かしい場所』も…。
確かに一度晒してる、堂々とすれば良いじゃん、そうだよ、でも…やっぱり…恥かしいもん。
それでも『やだやだ』をしないのは見てみたいものがあるから。
恐る恐る彼の右手を取って自身の下腹部に誘う、あてがう…じゃなく触って貰うの。
たった一度しかあげれない『モノ』をあげて喜ぶ彼が見てみたい、たったそれだけ…それだけだよ、でも一番重要な事。
私だって能登の初めてを貰うし…より強い愛情を貰えて、さ。強く結ばれて離れられなくなる、そう信じている。
「続き…しよっ?」
「き、木原っ!」
その一言を合図に能登が私の唇を奪う、秘部を探る…蹂躙する…愛してくれる。
「んくっ…はっ…、はぅっ! んぅ…のとぉ…の、とぉっ!」
荒々しく私をまさぐる彼に啼いて、唇を重ねたまま名を紡ぐ。熱くなった身体が汗ばむ。
唾液を含ませ、啜り、何回も啄み、融和して融けて蕩けて…戯れ合う。
『麻耶』から愛液を絡め取り指を埋めて擦る、敏感な部分に触れて私は痺れて腰が跳ね、スッ…と秘部に沿って優しく撫でられ融解する。


225 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:54:32 ID:GqlSIsQo
「ふあっ…! あ…くちゅ、ちゅっぱ…ひあっ! あ、あふっ!」
口内で絡め合う舌を優しく一度吸って次に強く吸い付く、縦横無尽に這う舌を捕まえて奥へ誘う。
敏感な部分を摘まれたまま転がされてお腹の奥から快感の奔流が湧き上がる、全身を巡って思考が霞む。
足の指で敷き布団を掴み、引き寄せる、踏ん張る…甲高く啼いて。
「んあ…ぁ、ひあぁっ…あっ! はっ…はふっ! んむっ!」
彼から贈られる求愛の口付けの雨は嵐になり、羽毛で撫でられるようなむず痒さは強い痺れに変わって欲情した身体から自由を奪う。
唇を離し汗ばんだ彼の匂いを嗅ぎ、繋いだ左手を何度も繋ぎ直す。男の子の硬い胸板で胸を潰され我慢出来なくて擦り付ける。
乳首をね…クリクリ…って重ね合う、もっともっと気持ち良くなりたくて…発情した麻耶が求める。
能登の腰をフトモモの間で挟んで、触れる指先に秘部を押し付けてお尻をフリフリ。
えっちな事を覚えたての私は彼にサカって求愛し続ける、本能が理性を抑えつけて…ピンク色の靄で覆い隠す。
「はっ…はぁうぅっ! だぁ……めっ…ひゃうっ!?」
能登が指先で敏感な部分ばかりイジメるの、ピンピンって弾いたり…。


226 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:55:46 ID:GqlSIsQo
その毎に私は腰が砕けそうな電流でビクッと跳ねる、一瞬息が出来なくなってトロンと蕩ける。
『蕩ける感覚』それは飛行機が離発着する時にも似たゾワゾワ感を何倍も強くしたようなイメージ、フワフワもするね。
お腹の中が熱くなって…大事な所がぬるぬるに……自分の身体のことだからちゃんと解るもん。
凄く興奮して…ほてって、切なくて、疼いて…能登とのえっちなスキンシップで感じる悦びしか考えれなくなる。
「の、能登? え…あ…あ、あぅ…あ。やっ……」
快感に酔い痴れ、蕩けた身体に新たな刺激、ちょっぴり怖くて…凄くドキドキな愛撫が始まる。
両手で口元を隠して…視線が自身の下腹部に釘付けになる。彼が挿入ようとしてるの、指…中指を…。
てか挿入ってる、挿入ってくる……変な感覚、異物感…そして蕩ける甘い甘い痺れが秘部の中へ拡がる。
「どう痛くない、かな? 大丈夫?」
「うん…何かへ、変な感じ……、はふ…やだ…何だろムズムズするよぅ」
心配そうに問う彼にそう返し、ゆっくり挿入てくる指がもたらす甘い電流に腰が引け…吐息を漏らしてしまう。
能登に聞かれちゃった…よね、今の声……気持ち良さそうな私の啼き声。


227 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:57:07 ID:GqlSIsQo
そう考えると全身がカッと熱くなる、初めて指を挿入られたのに痛がりもしないでキモチヨクなっている…やらしい。
い、今さらだしっ……だって気持ち良いんだし仕方無いよ! 能登がしてくれる事は気持ち良いんだもん…仕方無いじゃん。
彼は左肘で身体を支え…慎重に膣内に指を埋めていく、甘い痺れに足が開いていく…受入れ易いように…。
節張った男の子らしい指を何も受入れた事の無い場所で呑み込んで…る。
「は、あ…あ…っん…、ふっ…ふ…」
全部受入れて秘部がジンジン…熱くて堪らない、発情した私は身悶えする…。
「…身体の力は抜いておいたほうが良いらしいよ、ん…動かすから…ね、痛かったら止めるし」
誰かから助言して貰ったのか知識として知っていたのか…彼はそう紡いで私の顔色を伺う。
男の子は『えっちな事のお勉強』が好きだから後者が答かな、多分。
綺麗な女の人の裸とか…実際にしているところを本やDVDで見てハアハアして…………うぅ能登のばかぁ。
そんな事しちゃヤダ、今日からは私だけ見て欲しいもん。
『そういう物』にもヤキモチ嫉いちゃうんだから…『お勉強』なら一緒にすれば良いってか…する。


228 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:57:56 ID:GqlSIsQo
それを言葉としては紡がない、余所見をさせないように頑張るしっ!
少し間を開けて彼に対して頷き返して私は瞳を閉じ…身体の力を抜く。
「はふっ…はっ……あ…ん」
指が躍る…優しく前後に膣壁を押す、擦る…撫でる。緩慢な動きで…抽送される。
ピリピリと痺れる、敏感な部分の愛撫より淡い刺激に私はウットリする、このくらいが一番気持ち良いかも…。
ほら刺激が強過ぎて腰が引けちゃうもん、これなら…彼を目一杯に感じれて心地よいし…。
甘えた声が少しだけ出ちゃう、トロトロに蕩けてフワフワ翔んでいるような気持ち。自身の切なさが満たされていくのを感じた。
「凄い、暖かいし柔らかい…えっと……こ、こうで良いんだよね? 大丈夫だろ?」
能登がそうポツリと呟き、続いて私を気遣ってくれた。
夢見心地な私はブルッと一回身震いして薄目を開き、彼の耳元まで顔を寄せる。両手を頬に添えて…。
「気持ち良いよ、あ…は…能登が優しくしてくれるから…凄く気持ち良い……ふあ」
照れを隠さず能登に愛情を紡ぐ、より溶かされたいと甘えて…淡く、白く融けていき、漏れる喘ぎを聞かせてあげる。


229 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:58:59 ID:GqlSIsQo
『トロントロンに蕩けて堪らないよぅ』
そう紡ぎたい…でもそこまで至ってない。…だから教えて? もっと色んな事を教えてよ。
「あふっ、はぁっ…う、うん…ん。は、ぅっ…はぅっ」
膣内を優しく掻き回されると視界がトロンと蕩けて脳内がピンク一色に染まる。
暖かいお湯の中で漂うような心地よい刺激。快感の波が低く、長く、押し寄せて引いて呼吸が荒くなっていく。
「んん…、んっ! ら…め、ひぅっ! あんっ!」
根元まで挿入られて掻き回す速度が徐々に早まる、膣の奥がキュンキュン…しちゃう。
な、何だろ、アソコがヒクヒクしてる。切なくなって…ヤバッ…震えが止まらない。
「俺っ…指を挿入るのは初めてだから良く解らないんだけど、これって"凄く濡れて"いるんだよね?」
不意に彼は期待に満ちた声で私に問う、我慢…出来なくなったのかな、挿入たいのかなぁ?
「しっ、知らないし…くふぅ…っ! こんな風になったのは私も初めてだからっ、んんっ…わかんないよぅっ!」
恥かしいから顔を背けて返事をする、最後の方は叫びに近い発情した声になってしまう。
彼が鳴らす『麻耶の泣き声』…それが濡れている証拠なんだよ多分、…知らないもん、言わせないで。


230 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 11:59:48 ID:GqlSIsQo
くちゅくちゅってえっちな音が出て恥かしいの、だからお願い意地悪な事を聞いてイジメないで?
媚びた上目遣いで彼を見詰めて震える肢体を寄せる、背中に手を回して抱き付いて腰に足を巻き付かせる。
「う…、そうなの? もう少し続けてみるよ、俺…早く木原としたくて…。
あはは…ごめん焦ってる…がっついてる、でも無茶はしないし」
能登は照れ、緊張した笑みを浮かべて私の額に口付けをしてくれる。
緊張しているのはお互い様、不安と期待でドキドキし高まる興奮は止まる事を知らなくて…。
でも大丈夫、能登となら怖くない、痛くても頑張れる。
「あっ…うぅんっ! あ…ひっ、ぅ! あっ! あっ!」
彼は指で抽送を繰り返し、掻き回し、探って、抉って、膣壁をほぐしていく。
アソコがトロトロになって熱く疼いて、一番奥がジンジンと物欲しそうに痙攣している、初めての感覚に戸惑いつつも私は融けてしまう。
…やっぱりしたいんだよね。ちんちんを挿入たくて仕方無いんだ。もう…良いよね、してみようか?
「はっ…う。は…あはぁ…。の、とぉ…してみる? もう大丈夫だよ多分……優しくしてくれるなら…いいよ」


続く


231 ◆KARsW3gC4M :2009/12/07(月) 12:01:34 ID:GqlSIsQo
今回は以上。投下が遅れてすいませんでした、次回で終わりですが時間が掛かるかもしれませんご了承ください。
では
ノシ
232名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 12:47:59 ID:5SXCa8ic
(;゚∀゚)=3
233名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 13:29:31 ID:anJ5St1v
待ってましたKARs様ああああ!!!
萌えたよ!燃えたよ!たまんねーっ!!
234名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 18:31:01 ID:nZTm0by4
あ あ あ あ あ あ あ あ あ ゴロゴロゴロゴロゴロゴロドカーン
235名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 20:34:52 ID:xGRGpO6g
KARs様GJ超GJ(;´Д`)ハァハァ
236勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/07(月) 23:00:25 ID:+5dvNcGp
「勇者の代わりにバラモス倒しに行くことになった」
#xLM.氏さん、勝手にパロってゴメンね。許してね。
237勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/07(月) 23:01:12 ID:+5dvNcGp
「おお、勇者よ。よく参られた−以下略。」
気がつけば、俺の手には50ゴールドが握り締められていた。
てか、ゴールドってなんなんだよ……どこの国の通貨なんだよ……
A,アリアハン
そう、俺は今、アリアハンに居た。
皆さんは、アリアハンをご存知であろうか?俺は知ってる。あのゲームのあの街だ。もう、間違いない。これは夢だ。
気がついたら、ゲームの世界でした。夢以外の何物でもない。そして、こんな夢を見てしまっている理由は一つ。
逃げたいのだ、俺は。辛い辛い現実から、逃げ出したいのだ。
振られた…振られた振られた振られた。一年以上片思いした女に振られた。俺は振られた。
失恋したんだ、あっさり。告白すらさせて貰えずに拒否された。
『告白しないで。』
そんな風に、頭っから否定された。傷付いた。だから、こんな夢を見てるのだ。
さて、夢だと解った事だし、慌てず騒がす、そろそろ起きようと思う。
……起きれない。何故だ?嘘?なんで!?ちょ……
定番だが、軽くほっぺをつねって見る。痛い…でも、あんまり痛くない。
良くわからないけど、いつもより痛くない。今度は思いっきり引っ張ってみる。
…それほど、痛くない。でも、痛くない事もない。
は?……頭がどうにかなりそうだった。
夢なのに痛い。けど、現実だとしたらそんなに痛くない。
ほっぺを思いっきりつねって感じる痛みは、何か痛い様な気がする。そんな微々たる痛みだった。
痛い事は痛いんだけど、果たして現実ならこの程度の痛みで済むだろうか?
A,済まない。
ならこれは?
A,痛い夢。
そう、これは色んな意味で痛い夢。俺はそうFAを出した。
だったら良いや。起きれないのは疲れてるからで、起きる時間になったら身体の方で勝手に起きてくれるだろう。
別に、早起きしなきゃならない事もない。と、いうか、ホントは起きたくない。起きても辛いだけだし…
と、いう訳で、俺は夢の続きを見る事にした。
238勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/07(月) 23:01:40 ID:+5dvNcGp
俺がよそ事考えてるのも、お構いなしで王様は説明に勤しんでいた。
全く、聞く気などないのに、内容がちゃんと頭に入っているのはやはり夢だからだろう。ちなみに話をまとめるとこう。

・この国の勇者オルテガが魔王バラモス討伐の旅に出たが、現在行方不明
・一年前、その息子が父を追って旅に出たが、彼も行方不明
・このままでは世界がバラモスによって滅ぼされてしまう
・何か策は無いものか…
・そうだ、書物庫の伝記とかその辺漁って考えよう
・お、何かいわくありげな古書発見
・なになに?異界の悪魔の召還術?
・こりゃ良いや、そいつにバラモス倒して貰おう、そうしよう

で、呼ばれたのが俺らしい。なんという浅はかさ…
出てきたのが、俺で良かったな。違う悪魔呼んでたら、エライ事になってたぞ。
まあ、その話はまた違うナンバリングの話なんだけど。
「そなたのその魔眼。まさに伝説の悪魔に相違ない。
悪魔よ。契約に従い、魔王バラモスを打つのじゃ。ゆけッ勇者よ!(キリッ」
うるせぇよ。何が悪魔だ。余計なお世話だ。悪魔なのか勇者なのかどっちなんだよ。
こっちは失恋して傷心中だと言うのに、この身勝手な言い草。毒づきたくもなる。
それにしても、何という厨ニ設定。俺の深層心理には勇者願望があるという事なのか?
なら3代目とか言わないで、初代勇者をやればいいのに、夢なんだから。
ああ、我ながら、悲しくなる程の小心者だ。俺って、結局こういう奴なんだよな。
控え目で表に出れない引っ込み思案なタイプ。その癖、顔だけは恐いもんだから、皆に誤解されて……
だから、櫛枝にも相手にされないんだ……
失恋直後という事も手伝って、滅茶苦茶鬱入ってる俺がいる。
239勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/07(月) 23:03:09 ID:+5dvNcGp
と、言う訳で、全くやる気が出ないが、とりあえず。

−1日目−

正直、1日目とか言ってるが何日続くかわからない。目が醒めたらそこで終了。だってこれ夢だし。
けど、まあせっかくだから、見れるとこまで見てやろうと思う。
クドいようだけど、起きた所で、俺には辛い現実しか待ってないのだ。
勇者りゅうじ。つまり、俺の冒険は概ね順調だった。
王様から貰った支度金で購入した、こんぼうと旅人の服の序ユニクロセットに身をやつし、薬草を貪りながらカラスやウサギイジメに精を出している。
幼気な動物を虐げる趣味は持ち合わせてないが、こんなデカいカラスや角生えたウサギが居てたまるか。
なので、別に問題ない。これはどう見てもモンスター。自分の良心にそう言い聞かせる。
そして、仲間は居ない。酒場で仲間と出会える事は当然知ってる。
けど、正直、今は誰とも会いたくない。誰とも話たくない。そんな気分なのだ。
俺は孤独な勇者。ロンリージョー。仲間なんて要らない。必要ない。
独りで狩ってるだけあって、レベルも順調に上がっている。なんせ経験値は4倍。
もうレベル7だ…と思う。はっきり断言は出来ない。多分7くらい。多分。
そして、ちょっと調子に乗ってしまった。次に気づいた時、俺は王様の前で正座させられ説教されていた。
「おお、りゅうじよ。しんでしまうとは情けない。」
お前を召還するのに、どんだけG掛かった思う?だの、蛇のスープと蛙の干物じゃ不満か?だの、
ネチネチクドクド説教された。うるせぇよ。知るか。不満に決まってるだろ、そんなの。
しかしながら、俺にも反省すべき点はある様に思う。
レベル7だし、いっかくウサギ位楽勝と思ったのが良くなかった。夜暗くて良く見えてなかったのがもっと良くなかった。
今にして思えば、奴はアルミラージだったんじゃ?奴の赤い目を見た瞬間、急に眠くなって、気がついたら、このザマだ。
何で、夢の中で眠くなるんだ?理不尽だ。1対3でラリホーなんて理不尽だ。
240勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/07(月) 23:03:33 ID:+5dvNcGp
やっぱり1人旅は辛い。明日、酒場で仲間作ろう。
格好つけて、ロンリージョーとか言ったけど、ごめん。アレは忘れて欲しい。
王様の愚痴を右から左に流しつつ、俺はそんな事を考えていた。
しかし、聞く気は無いのに、内容はしっかりと頭に入ってくる。くそ。何て嫌なシステムなんだ。

−2日目−

「出会いと別れの静代の酒場へようこそ。」
仲間を求めて、酒場へと入った俺を迎えてくれたのは静代と名乗るママだった。
あれ?ルイーダの酒場じゃないの?
静代に聞いてみるとルイーダはオーナーの意向で新オープンしたお好み焼き店に転勤になったらしい。
この世界にお好み焼きがあるのか?とか思ったが、考えたら負けかな?とも思う。気にしない事にした。
「あの、仲間が欲しいんですけど…」
「あ、はいはい。出会いをお求めですね?じゃあ、この中から気に入った子指名してちょうだい。
あ、3人までね。それ以上はダメよ?」
静代が差し出したリストにはこう記されていた。

・うおのめ おとこ けんじゃ
・もりそば おとこ ぶとうか
・かをる おとこ せんし
・たいが おんな とうぞく
・みのり おんな ぶとうか
・あみ おんな あそびにん
「……………」
うおのめ、いきなり賢者かよ。チート乙。
いやいやいや、そこじゃない。そこじゃなくて、女子3人の名前が非常に気になる。
…だよな?これはそうだよな?本人か?本人なのか?
いやいや、これは俺の夢の筈。だったらそれは俺の中のあいつらじゃないか?
もしかしたら、同名の別人という可能性もある。会いたくない。あいつら2人は良い。別に良い。
ただ、女武闘家の顔は見たくない。本人なら見たくない。どんな顔すれば良いかわからない。気まずい。
でも、本人じゃないなら。あくまで、夢の中の櫛枝なら、会いたい。顔を見たい。
現実の世界じゃ、きっともうあの笑顔は二度と見れないと思う。だから、せめて、夢の中でくらい櫛枝の笑顔がみたい。
241勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/07(月) 23:05:15 ID:+5dvNcGp
俺は静代に3人の名を告げた。
「うふふ。女の子3人ね。欲張りさん☆皆、可愛い娘だわよ。
呼んでくるから、ちょっと待っててくれるかしら?」
期待して待っててね〜〜
静代はそう言い残して、店の二階へと消えていった。
鬼が出るか蛇が出るか。
待つこと少々。あ〜不安だ。もし、櫛枝が会うなり俺を避けたらどうしよう…
そんな事されたら、俺はきっと立ち直れない。きっと、冒険の書がお気の毒な事になるだろう。
ああ、不安だ、心配だ、億劫だ。
「うるさいんだ、ばかちーは。ばーか。ばーか。」
「ふざけんなよ、チビとら。ばーか。ばーか。」
「まあまあ、2人とも、いいじゃん。こまけぇこたぁいいんだよ。」
「「細かくない!!」」
階段から聞こえてくるのは、普段の聞き慣れた声。そして会話。
ああ、櫛枝だ。あれは以前の櫛枝だ。大河と川嶋のアホな喧嘩を健気に仲裁する櫛枝だ、ああ櫛枝だ、櫛枝だ。
夢の中だって良い。俺は、以前と変わらぬマイスウィートエンジェルを見る事が出来て嬉しかった。
ホントに嬉しかった。感無量だ。
「はーい。おまたせ。女の子3人連れて来たわよ〜」
静代+見知った3名が階段を降りてきた。
「両手に花でも1人空いちゃうわね。幸せものだねお兄さん」
静代は下世話な事を言ってカウンターへと戻って行った。
「おお、高須君が勇者様かい?よろしくね。わたしは実乃梨、見た通りの武闘家だ。」
さっと差し出される櫛枝の左手。え?握手?良いの?うわ〜い。櫛枝の手だぁ〜や〜らか〜いなぁ〜
でも夢…なんだよな、これ。ああ、現実でも櫛枝の手を握ってみたかった。
「大河。てか竜児相手に今更、自己紹介も無いでしょ。」
「亜美。バラモス倒すとか、冗談きっついわ〜。そんなアホな旅にあたしを呼ばないでくれる?」
「「ふん」」
2人は息ぴったりのタイミングで、お互い背を向ける形にそっぽを向いた。
………。失敗した。どうせなら櫛枝との2人旅にすりゃ良かった。
やっぱ、2人っきりは気マズイかな〜とか思っちゃった俺のバカバカ。夢なら何とでもなったろうに……
242勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/07(月) 23:05:58 ID:+5dvNcGp
ゆ 武 盗 遊
戦力的にバランスがよろしくないパーティーは、チームワークまで最悪だった。
まず、盗賊は不機嫌がデフォ。理由はこうだ。
「何で私が盗賊なんだ。」
何でも、寝てたら滝の夢を見て、滝の質問に答えたら、
『あなたはおっちょこちょいな盗賊です。』
と、一方的に言い渡されたらしい。滝に職業選択の自由を侵害された、と大河はえらく憤慨している。
そして、遊び人も不機嫌。一応、理由を聞いてみたところ、
「ハワイを貸切って休暇を満喫していたと思ったら、いきなり酒場に連行された。
あ、ちなみに高須君はあたしの召使いだったよ。」
と、意味の解らん事を言われた。
そして、武闘家。櫛枝はいつも通りに笑顔で、俺の唯一のオアシス。
だと思ってた。思ってたんだけど、櫛枝まで意味の解らん事を言い出した。
「私は、これから香港で開催される櫛枝リサイタルのツアーに行く筈だったんだけど…
あ、夢の話ね。コレ。そんな夢見てたと思ったら、気づいたら酒場に居てさー
多分、これって夢の続きなんだろうけど…
で、大河とあーみんが対立してるのは、これは誰の夢?って事でさ。
お互いに、これは自分の夢だ。お前なんか呼んだ覚えはない。私の夢から出てけ!!…ってさ。
謙らない訳よ。私は別に誰の夢だって構わないと思うんだよね。
細かい事は気にしないで、皆で仲良く楽しめばさ。」
いや…細かくは無いだろ。え?てか、これって俺の夢じゃないの?
「なんだい高須君まで。誰の夢だって良いじゃん。」
いや、そこは結構大事だろ……だいたい、もしこれが、他人の夢だとしたら、俺の思考及び人格、ひいては存在そのものが問われてくる。
それに、俺は俺しか知りえない俺の情報を知っている。だから、これが他人の中の俺だとは思えない。
「いや、それなら私だって。私だって私しか知らない事知ってるよ?
他人が私のこんな事やあんな事まで知ってるとは思わない。」
243勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/07(月) 23:07:40 ID:+5dvNcGp
櫛枝のあんな事やこんな事?ゴクリ……いやいや、スケベ心出してる場合じゃない。
これはかなり重要な話だ。己のアイデンティティーに関わってくる超重大事項。
なるほど…奴ら譲らない筈だ。どうせ、またしょうもない小競り合いしてるんだろうと思ったが、
こんなスケールのデカイ争いをしていたとは……こりゃバラモスどころじゃねぇぞ。
だって、これが誰かの夢だとしたら、本物の俺は別に居る訳だ。つまり俺は偽物の俺。
夢見てる誰かさんが目覚めちまったら、偽物の俺はどうなる?
A,消えるね、100%。
流石、櫛枝は大物だよな。櫛枝だってその事に気づいてない訳じゃないだろうに。
「大物?別にそんな事ないよ。それに私はこれが高須君の夢なら、それで構わんよ。」
なんで?
「そりゃ君が勇者だからさ。」
櫛枝の悩殺ウインクが俺の心に突き刺さった。きゅうしょにあたった。こうかはばつぐんだ。

かくて、己の存在という壮大なテーマを個々に抱えた新生パーティーの冒険は始まった。
俺だけレベル7という事で、皆よりちょっと強い。パーティーの反応はそれぞれ違った。
「おお!!やるな高須君。私もあやかりたいぜ〜」
「竜児だけズルイ。私にも強い武器買って」
「高須君に戦闘は任せた。てか、亜美ちゃん戦わないよ?
この美肌に傷でもついたら、どうしてくれんのさ?責任。取ってくれんの?
あ、でも戦わないけど装備は買ってね☆」
どれが誰のコメントか、いちいち言うのも億劫だ。
ロマリアに着く頃には、パーティーの戦力がハッキリした。
結論、俺と櫛枝しか戦えない。
川嶋の奴は、前述の通り、身を守るか、ようすを見るか。とにかく戦わない。
そして、大河は強い事は強いのだが、やたら転ける。とにかく転ける。そして、ターンを無駄遣いし、やたらピンチを招く。
おかげで、薬草が尽きてしまった。でも、ほっとくと死んじゃうだろうし。流石に、大河を見殺しにする訳にはいかない。
言うまでもなく、大河>>>薬草だから、俺だって薬草が惜しいとは思わない。
ただ、薬草を戦闘中に使用するターン消費がMOTTAINAI。端的に言えば、川嶋が薬草係してくれりゃ、話は早いのに……
244勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/07(月) 23:08:09 ID:+5dvNcGp
はぁ……。レベル上げよ。もうちょっとレベル上げなきゃ話にならない。
ただ、もう今日は日が暮れそうだ。夜の狩りは危険だ。苦い思い出が、トラウマが蘇る。
と、いう訳で、今日は冒険の書に記録してから休む事にする。

・ぼうけんのしょ1 りゅうじ

え?これって今日あった事、全部、洗いざらい書かなきゃダメなの?
神に隠し事はなりませんよ……たって……いや、わかりました。わかりましたよ。書きます。書きますから。
教会のサービス停止とか恐ろしい事言わんで下さい。
えぇと、今日は実は、川嶋の身体に16回みとれてしまいました。あのスタイルでバニースーツは反則だと思います。
川嶋+網タイツが最強だという公式が俺の中で確立しました。
正直、賢者に転職させる気になれません。
いや、櫛枝の事ももちろん好きです。彼女の武闘着姿も、そそるものがありました。
神よ、こんな罪深い私をお許し下さい。まる。

PS。ナジミの塔の盗賊の鍵。先代勇者が持って行ってて無かった(涙)
先着100名様の卵が買えなかった時と同じ位悲しかった。(大泣き)
245勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/07(月) 23:10:05 ID:+5dvNcGp
オワリダヨー
バラモス倒せるかどうか解らないけど、良かったら見てあげて下さいね。
ドラクエなんて知らないって人は勘弁してね。
正直、3は名作だからぜひプレイして欲しい。
246名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 00:26:16 ID:PD8nrlRL
>>245
GJ
面白いw
世界観も文体も良い味出してます
ドラクエ3は未プレイだけど普通に読める
247名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 00:39:05 ID:apTp1BwA
ということは、ま・・・まさかインコちゃんが、ラ、ラ、ラー ・・・                ラーノカガミ?
248名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 03:28:33 ID:mc7ma0B7
9が発売したんだしドラクエ4コマ漫画劇場復活しねえかな。
249名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 03:53:14 ID:AMy6f7Mx
勇者のかわりryを知ってると結構笑えるなw

塔の上からこっちをみるのは独身で類似は幸太ってとこか
250名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 04:44:56 ID:4dkGsGs5
ばかちーのバニースーツに網タイツがエロいのは認める
だが女賢者の格好もそれに匹敵するぐらいのエロさだと思うのだよ
251名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 05:58:42 ID:mc7ma0B7
つまり遊び人だろうと賢者だろうとあぶないみずぎをを装備させれば大体の問題は解決する。
252名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 06:17:37 ID:EEGZ7efm
あぶないみずぎより賢者のデフォ服のがエロスだろJK
でもバニーは捨て難い…
253名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 17:51:02 ID:vHQIJ6QR
規制が解除・・・
254 ◆ozOtJW9BFA :2009/12/08(火) 17:55:50 ID:vHQIJ6QR
されてた!駄目もとだったのにw

…というわけで、とらドラ!でSSを初投稿します。
タイトルは未定、キャラは川嶋亜美と高須のみ登場です。
ダーク傾向?かもなので、苦手な方はスルー願います。
ちなみに短編構成です。

それでは他の方の投下がなければ投下します。
255名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 17:58:17 ID:Yeqa9B9T
+   +
  ∧_∧  +
 (0゜・∀・) sageてね!!
 (0゜∪ ∪ +  
 と__)__) +
256 ◆ozOtJW9BFA :2009/12/08(火) 17:59:20 ID:vHQIJ6QR
この世界には人はおろか、生物など存在しません

代わりに複数の色が世界を支配しています

その中でも黒色と赤色は忌み嫌われていました

赤色は気に入らない事があると相手を威嚇し

黒色は黒いというただそれだけの理由で周りを恐れられていました

ある日、黒色が白色に羨望と恋心を抱き

またある時は赤色が青色に恋心を抱き始めました

二つは相反する色ながらも、目標に向かって協力していきました

結果は・・・散々でした

そして二つの恋が打ち砕かれてから、世界が混沌と化してしまいました

互いの色が憎しみ合うように

何故こうなってしまったのかは分かりません

誰にも・・・ね




さて、最後に質問…
この様子を語っているのはだ〜れ?
257 ◆ozOtJW9BFA :2009/12/08(火) 18:01:01 ID:vHQIJ6QR




「ふぅ・・・」

最後の一文を書き終え、一息つく。
自販機と自販機のスペース。いつものこの場所で体育座りをしている。

「何書いてるんだろう、私」

最近になって始めたポエム。何故始めたのかははっきりとわからない。
ただ、書かずにはいられなかったのかもしれない。
書き終えてすぐに誰かの足音が聞こえてきたので持っていた手帳をお尻の後ろに隠す。

「お? 川嶋じゃないか?・・・相変わらずそんな狭いとこに」

自販機の前に現れたのは高須君。何故かここにいるといつも彼と会う。
他の知り合いとも会わないように抜け出してきたのに。

「いいの。ここは私の場所なんだから」

できれば誰とも会いたくはなかった。特に彼とは。しかも、彼がそれについて全くの無自覚なのが余計に私の傷を抉る。
なんて罪深い性格なのだろう。そんなことだから ゛本命の゛相手だけでなく、自分までも壊してしまうんだ。
そう、これから、絶対にね・・・。

「お?もう行くのか?なんかさっき作業していたみたいだったけどいいのか?」

「別に〜。ていうかさ、プライバシーを覗くのは犯罪だと思うんだけど?」

「なんでそうなるんだよ・・・まあいいや、そこ座らせてもらうぞ?」

「ご自由に。私、先に行ってるわ」

私は後ろに隠していた手帳を素早くポケットにしまい、立ち上がりそのままその場を去ろうとした。
258 ◆ozOtJW9BFA :2009/12/08(火) 18:01:58 ID:vHQIJ6QR
・・したのだが、少し進んだところで自分の足が私の意思に反するかのように止まってしまった。

「ん?どうしたんだ、川嶋?」

「・・・あ〜高須君に聞きたいことがあるんだけど、」

「ああ、何だ?」

「私は周りから見て何色だと思う?」

「は?」

彼が何を言ってるんだと困った顔をしているのを見ながら、私は再び歩き出す。

「お、おい川嶋! 俺はまだ何も答えて、」

「ごめん、やっぱり何でもない。無かった事にして」

その後も、後ろから彼が私に何か叫んでいたが気にせず立ち去った。
歩きながら廊下の天井を見上げながら溜息を吐く。なんだろう、このやりきれない気持ちは。

そのまま教室には戻らず女子トイレに早足で駆け込む。勿論誰もいないことを確認しながら。
洗面台の鏡。その前に立ち、鏡に写りこんでいる自分を見つめる。

そして鏡の中の子に笑顔で質問した。

「アナタハイッタイナニモノデスカ?」

終わり
259 ◆ozOtJW9BFA :2009/12/08(火) 18:05:09 ID:vHQIJ6QR
これで終了です。sageて…るよ…ね?
見て頂いた方ありがとうございました(_ _)
260名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 20:34:04 ID:u6kCdL5C
>>249
類似役は静代じゃないか?て事はルイーダ=やっちゃん?
俺も元ネタ知ってるけど、配役ピッタリ過ぎワロタwww
確かドジな盗賊と脳筋な武闘家と素直じゃない賢者の話だよなコレ。

>>259
幻想ホラーは良く解らないジャンルだけど、GJ。
261名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 20:46:59 ID:70mkjUg3
>>259
専ブラ使えよ
262名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 21:13:09 ID:PD8nrlRL
>>259
GJ
色にたとえるのは面白いですね
竜児からあーみんが何色に見えるのかすごい気になる
というか竜児とみのりんの色のイメージに納得
外見と中身という違いはあるにせよ
263 ◆ozOtJW9BFA :2009/12/08(火) 21:19:58 ID:vHQIJ6QR
>>262
ありがとうございます。
ポエムと色を用いて川嶋が竜児や大河、櫛枝の間に
入りたいけど入れなくて葛藤している様を書きたかったのですが
うまく表現できてればいいんですが…

>>261
専ブラとは何でしょうか?すいません、分からなくて
264名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 23:07:48 ID:M/M1lb+N
ググれ
265名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 00:10:48 ID:kU2OvMMk
>>259
「たいがのゆううつ」というブログを拝見しました。
そちらの管理人さまでしょうか?
折角ですので、ぜひ新作の投下をお待ちしてます。
266名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 00:19:29 ID:73tTiYws
>>263
2ch初心者か

これ使え
http://janesoft.net/janestyle/
267 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/09(水) 01:06:30 ID:oIv1OySG
少し待って投下なければ、次レスより落します。
「日記。徒然に。。」です。

268 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/09(水) 01:10:37 ID:oIv1OySG

逢坂大河の日記より抜粋。
1月22日。
いや〜、今日はくたびれた。
昼過ぎに竜児が来た。何やってんのよアンタ。折角の計画がパーじゃない!って怒ったら「お蔭様でな!」って笑われた。なんで?
でも折角着いたっていうのに竜児ったら寝てばっかりいたのよ?信じらんない!
なんか深夜バスって眠れなかったんだって。ま、仕方ないから寝かせといた。
良いもん!今日は北村君達と雪だるま作ったりソリで遊んだりして楽しかったんだから。
でもさぁ、ふと思い出したのよ!コレだけの雪があればアレが出来るじゃない!
カマクラ!
それもとびっきりでっかいデッカイ奴!
でぇ、作り易い雪とか、丁度良い場所とか探したら、まさに最適な場所を見つけたの!
ふっふふ。製作時間約四時間!もう最高の出来栄えよ!
写メも撮ったし、デジカメも撮ったし、帰ったらやっちゃんに見せてやるんだ。あとで竜児も入れてあげよう。
中はすごく温かくて、なんか外は雪が降ってるのにココだけポカポカ。
カイロも沢山、ランタンも簡易燃料も。いや〜、快適だわ〜。って思ってたら眠たくなった。
ズドン!って音で目が覚めたら、外は結構な雪で、なんでか目の前に竜児が突き刺さってた。
何してんの?あんた。
少しカマクラで竜児と温まってたら、なんか私が遭難してるって騒いでるって言うじゃない。ビックリしたわ。
まぁ、みのりんやバカチーや麻耶や奈々子も心配してくれてるみたいだし、北村君ってば私を探しに来てくれてたみたいだし。
早く帰るわよ、竜児!
こんな雪の中歩くのなんてヤダから竜児の背中に乗った。だってこうした方が温かいでしょ?竜児も。最初はブツブツ言ってたけどね
「ったく。帰ったら皆に謝れよ。心配掛けたんだから」だって。なんか釈然としない。言ってることは分るけど、さ。
「いいから。俺も一緒に謝ってやる。な?大河」って言うから、だったら……謝る。
みのりんは抱き付いてきた。バカチーは小突いてきた。奈々子も麻耶も泣いてくれた。
他の皆も喜んでくれて……ねぇ竜児。私ね……
明日はもう帰るんだ。楽しい修学旅行だったよ、やっちゃん。お土産話が沢山あるの。
一番はね……すっごく良い奴らと一緒に旅行してきたんだよ!やっちゃん!
269 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/09(水) 01:11:58 ID:oIv1OySG

木原麻耶の日記より抜粋。
1月22日。
よっかた〜。もう今日はこれ以上に書く事が無い。
大河が無事で本当に良かったよ。それに他の皆も。
夜になっても大河が帰ってないって大騒ぎ。だって外ってば猛吹雪で捜索隊も出せないって言われてるし。
しかも、まるおや櫛枝、それに春田に能登まで一緒に大河を探しに外に出ちゃったって言うし、もうゆりちゃんはワンワン泣くし大変だった。
で、イキナリ高須君が飛び出してっちゃった……もう貴方まで!って大騒ぎ。
でもソコからの高須君は凄かった。
疲れて倒れてた春田を連れ戻して、足を痛めた能登を担ぎ込んで。
まるおと櫛枝が戻って来た時には、櫛枝は取り乱してたよ高須君。櫛枝を助ける為に高須君が谷に落ちてったなんて。
皆がどうしようもなく沈んで、絶望してた2時間後、高須君は大河を背負って帰って来た。
危ないから吹雪がおさまるの待とうよ!って言ったのに「心配するな」って言って、結局その通りに。
もう。どうして貴方はそうなの、高須君。ちょっと格好良過ぎるじゃない!貴方は何処のスクリーンから飛び出してきたのよ!
でも格好良いだけじゃない。おっちょこちょいで、女に弱くて、なにより大河に弱い。
そんな貴方も知ってるから、好きになって良かったって素直に思える。
ぐっすりだね、高須君。きっと目が覚めたら驚くと思うけど、今はそっとしとくよ、私達も。
お疲れさま。高須君。


春田浩次の日記より抜粋。
1月22日。
いやぁ、今日は助かった〜。ありがとね高っちゃ〜ん。
でもさぁ、皆とはぐれちゃうし疲れちゃうしでホントに死ぬかと思ったよ〜。
でも高っちゃん。ホテルって何処に有るんだっけ?って聞いてる途中で「多分あっちだ!」って簡単に言うよね。流石だよ。
連れてってって足を掴んだら俺に肩貸してくれてホテルまで連れて来てくれた。ホントにありがと高っちゃん。
俺を置いてまた外に行こうとするから、今度ジョニーズ奢るね〜って言ったら笑って「おう!」って言ったよね。任してよ高っちゃん。
でもなんか女子の何人かも一緒にジョニーズ行きたいって言って来てるからOKしといたから。
女子が居る方が高っちゃんも楽しいっしょ〜。一緒にハッピーしようぜ〜、高っちゃ〜ん。
270 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/09(水) 01:12:32 ID:oIv1OySG

高須竜児の日記より抜粋。
1月22日。
修学旅行とはこれ程ハードなモノなのか?良い思い出など残る余地が何処に在る?中学と高校ではこれ程の違いが有るのか、知らなかった。
2時にホテルに辿り着き、もうそのままバタンキュ〜だ。どうかそっとしておいてくれ。ただただ布団が恋しい俺様だった。
起きてみればもう夜も9時過ぎ……確認したね。明日帰るそうだ。楽しいなぁ修学旅行!!
取り敢えずロビーでコーヒーでも飲みながらせめてホテルに泊まった雰囲気だけでも味わおうと思ったんだが、なにやらえらい騒ぎだった。
しかしなんだね。何事かと聞いてみれば何の事は無い。
「大変なのよ高須君!大河がまだ戻ってないの!!」
……まぁまぁ香椎、落ち着けよ。コーヒー飲むか?
どうせ大河の事だ。この小雪ちらつく雪山で小粋に意気揚々とカマクラでも作って遊んでるんだろうさ。
その内飽きて帰ってくる。そう心配するな。
我が家の小ランボーはトラウトマン大佐もビックリの生命力をお持ちだ。お腹が空けば戻ってくるさ。
そんな事よりも俺には露天風呂の男子の時間が気に掛かるんだが、はたして22時からでは就寝時間に被るのでは無いか?
これではおちおち長風呂も…なんだ?川嶋。お前もか。
「でも裕作達もタイガーを探しに行ったまま帰って来ないのよ。ったくあの馬鹿。だから無理するなって言ったのに」
……だから川嶋、落ち着けよ。紅茶なんてどうだ?
北村達も子供じゃないんだ。自分達では無理だと思えば帰ってくるさ。少し雪も降ってるしな。
高校生にもなってそんなお約束をかます奴じゃないだろ?北村は。心配は要らないさ。
それより俺は今夜の男部屋トークについて考えねばならんのだがな。やっぱりアレか?こここ恋バナとか出るのかな?
お前達は昨日どうだった?いやぁ、やはりこう云う話は男も女もそう変らな…どうした木原、お前まで
「でも本当に大丈夫かなぁ。大河は帰ってこないし、探しに行った四人も帰ってこないなんて」
相変わらず優しい奴だな木原は。もう頭を撫でてやろう。ま、大河はともかく北村含めた四人はな
「ホントに大丈夫かな、まるお。櫛枝や能登、春田も…皆早くかえ」ちょっと待ってくれ。
確認したね。逢坂大河捜索隊の編成を。
北村祐作OK。能登久光行ってらっしゃい。春田浩次いっそ逝け。櫛枝実乃梨……NGNGNGNGNG
おいおいおいおいおいおい!!!!ちょっと待て!
くくくくくくくくくくくく櫛枝が大河を探しに外に出た?しかも戻らないぃぃぃぃぃぃ??
じーーーーーーーーざす!!!じーーさん黒いスウェット!!
信じられない。櫛枝、どうして君まで…いや、大河の事を気に掛ける櫛枝がこの状況で動かない訳が無い。どうして気付かない俺!!
外は?と見れば…くぅ!まさに超吹雪じゃないですか!白熊だって自宅待機してもおかしくない。こんなコキュートスに櫛枝が…あぁ、意識が遠のく。
271 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/09(水) 01:13:04 ID:oIv1OySG
否!そんな場合ではない!捜索隊はどうした?救助隊は!
吹雪で無理?馬鹿な。この国難に際し何故自衛隊は動かない!くぅ、なんの為の政権交代だ!
ココで言っても始まらない。取り敢えず…行こう。行かねば。征かんでどうする!!!
止めるな川嶋!たとえお前が止めても俺は行くぞ!
で飛び出した俺が15分後に見つけた雪に倒れる人影。もう血の気が引いたね。
櫛枝!!…って春田だった。
「たかっちゃ〜ん。ホテルって」たぶんアッチだ。と曖昧に指差して先を急ごうとしたんだが、ええい!纏わりつくな!!
止むを得ず春田をホテルに回収だ。とんでもなく無駄な時間を過ごしたが…いかん!!
今、櫛枝は北村と能登と一緒に…駄目だ。あんな欲望むき出しの男子高校生と雪山で孤立するなど。あぁ、お前達を雪に埋めたい。
言うな木原!と再び飛び出した俺が20分後に見つけた足を引きずる人影。もう心臓が止まったかと思ったね。
櫛枝ーーーー!!!…って能登でした。
「雪で北村達とはぐれて足を」そうか、頑張れ!と励まして先を急ごうとしたんだが。ちぃぃ!その手をはなせぇ!!
致し方なく能登をホテルに連行。恐ろしく無駄な時間を費やしたが…ちょっと待て!!
今、櫛枝は大橋高校のフラグマスター北村と二人っきりぃぃぃ…あぁ。唯でさえ櫛枝にとって奴は気になるアイツであるのによりにもよっての吊り橋効果!
非常事態に見せる勇気に魅せられる乙女心。くぅ!まるでギャルゲーの主人公の如きフラグマスターが櫛枝に迫るとは!
聞くな香椎。理由なんか言えねぇだろう?お前もフラグ被害者だろうに。早く行かなければ北村が櫛枝の幻想をぶち壊しちまう!
そうして飛び出した25分後。北村の傍で足を踏み外した櫛枝を見た時。もう時が止まったね。
取り敢えず櫛枝の下へ神速で駆けつけ腕をひっつかんで引っ張った。
代わりに俺の体が谷に落ちる形になるが知ったことか!思い切り櫛枝を放り投げた。受け取れよ北村ぁ!
多分北村の所まで届いたと思う。そう、見えた。
櫛枝が俺に向かって手を伸ばしてくれた気がしたのは俺の妄想か?願望か?
そんなに驚くなよ櫛枝。
お前が落ちるより、コレは何千倍も良い結末だぞ?
「いやああああああ!!!!」って聞こえたのは気の所為かな。
多分、そうなんだろうな。さもなくば北村!貴様櫛枝に何をした!!
で、いいだけ雪に覆われた断崖を転げ落ちてみれば貴様はボケッと話し掛けるわけだ。
「何してんの?あんた」俺の台詞だな。
いいから帰るぞ、大河。て言って大河を連れ帰ったのは夜の12時。いや、もう眠いし疲れた。
何故だ?いい加減寝かせてくれよ。なにやら大河が暴れてるらしい。んな事で起すなよ。
取り敢えず奴を黙らそう。
もう修学旅行なんて散々だ。お休み、櫛枝。
272 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/09(水) 01:13:41 ID:oIv1OySG

川嶋亜美の日記より抜粋。
1月22日。
もう今日は大変だった。はぁ。居なければ居ないで騒ぎを起す人だけど、居たら居たでどうして貴方はそうなの?高須君。
さっき迄は大河が帰って来ないって大騒ぎだったのに、もう今は別の騒ぎになってる。
結局大河も探しに行った4人も高須君も全員無事。これは良かった。
色々はっきりさせようとしてたのに、もうこれ以上無い位にはっきりさせてくれるじゃない。
高須君が行ったってまた遭難者が増えるだけだって言ったのは間違いじゃない。間違ってたのは私じゃない。
でも結果は全員無事。春田も能登もタイガーも高須君が連れ帰った。裕作とみのりちゃんは自力で帰って来たけど…
ねぇ高須君。みのりちゃん、もしかしたらスイッチ入っちゃったよ?身代わりなんて、それはちょっと卑怯だよ高須君。
それに止めた私に言ったよね。
「たとえお前がでも俺は行く」って。
ねぇ高須君。私は貴方にとってその他大勢なの?それとも特別なの?吹雪なんだよ?危ないんだよ?
殴ってでも止めたかった。でも出来る訳無い。だって…そんな高須君だから好きになったんだもん。
やっぱりずるいよ、高須君。
でも亜美ちゃんってばちょっと憂鬱なんですけど…高須君。ああ云う格好良い真似は出来れば私の前でだけにしてくれない?
なんかアチコチで「高須君ってイイよね」って声が出て来てるんだけど。
奈々子、麻耶、それに狩野先輩。もしかしたらみのりちゃん。コレだけでも結構なレベルで強敵揃いなのに、これ以上ライバル増やさないでよ!
いっその事タイガーと二人で不参加の方が助かったのに。
でも凄いね高須君。2時に寝ぼけるタイガーはせんべいで黙らせるんだね。知らなかった。
で、3時に寝ぼけるタイガーにはそうする訳ね。まぁタイガーだしね。文句は言わないけどさ。朝、びっくりするのは貴方だと思うよ?高須君。
「むにゅ……んぁあ。枕が替わってるからだろ……んりゃ!…黙ってねやがぁりぇ…」
て高須君にしがみ付かせて大河を寝かすのも良いんだけど、ココ、私達の部屋なんだよ?
……まいったなぁ。これじゃあ私達今夜も眠れないよ。だって高須君の右側、空いてるんだもん。


能登久光の日記より抜粋。
1月22日。
お前の親友で良かったよ高須。ホントに助かった。
あの雪の中で足を痛めた時にはどうしようかと思ったぜ。
北村達とははぐれちまうし、タイガーも春田も居ないでメチャクチャ不安だったな。思わず泣きたくなった。
お前が来てくれるなんて思いもしなかったな。
でも無理し過ぎだろ?肩借りてホテルに戻ったら春田もホテルに居た。お前が連れ帰ったって言うじゃないか。どんだけよ。
しかもまた出てくなんてな。
結局、北村と櫛枝も戻ってタイガーをおぶってお前は戻ったな。不死身か?お前は。
いや、すまん。助けてもらっておいて何なんだがな……背中を思い切り叩いたのは俺だ。俺達だ!
くぅ、お前を見る女子の視線が憎らしい!格差社会には物申すが、独裁社会には言葉も無いぞ!
いっそお前の恥ずかしい寝姿でも流出させてやろうかとも思ったが、タイガーが暴れてると呼びに来た木原に連れてかれたな。
で、2度目に亜美ちゃんに連れ出されてから一向に帰ってこないのは何故だ?
お前が帰ってくるまで眠らんぞ高須ぅ!!
273日記。徒然に。。 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/09(水) 01:14:40 ID:oIv1OySG

香椎奈々子の日記より抜粋。
1月22日。
どうしよう……あぁ、どうしよう。
もう本当に困った人ね高須君。あの吹雪でどうしてそんなに無茶しちゃうの?待ってる人の身にもなってよ。
でも凄い。凄かった。
疲れ切った春田君を連れ帰って、足を痛めた能登君を担ぎこんで、櫛枝さんを助けて大河を連れ帰った。
ねぇ高須君。それで貴方は満足なの?どうして何も求めないの?
私には分らない。正当な評価を得て当然な行為には正当な対価を求めてもいい筈なのに。貴方は何も求めない。
昨日あんな事が有って、二人も人を助けて、それでも尚行こうとする貴方を止めようとした自分を私は恥じない。
大河は大事。北村君も櫛枝さんももちろん大事。でも、私にとっては高須君の方がもっと大事だった。
どうして高須君がそこまでするの?酷い女と思われても構わなかった。ただ失いたくなかった。
「理由なんかいらねぇだろう?」
……変らないね高須君。呆れる位、貴方は変らない。私が好きになった時のままの高須君、そのまま。
分ってる?高須君。きっとそれは有り得ない話なんだよ。ドラマみたいな絵に描いた餅。
心配するなと麻耶の頭を撫でて、それがお前でも俺は行くと亜美ちゃんに微笑んで、理由は要らないと背を向けて踏み出す。
オマケに櫛枝さん取り乱してたよ?彼女を助けて谷に落ちたなんて。ちょっと腰抜けた。麻耶は呆然としてた。亜美ちゃんは怒ってたよ。
どれだけの人が見てたと思うのかしら高須君。
だから帰って来た時の手荒い歓迎は勘弁してよね。
男子はちょっとマジに力入ってたわね。無理も無い。
多分あの時ホテルのロビーには、嫉妬に狂う男と恋する乙女しか居なかったわね。大河と高須君以外は。
ちょっと洒落になんない数よね。ギャグ?一体貴方はココに何しに来たのか聞きたくなるわ。
まぁそれも含めて高須君なんだろうけどさ。
でも助かったわ。今夜は大河に顔を舐められなくて済んだ。そっか。大河はせんべいを探してたのか。教えといてよ高須君。
でも高須君も寝ぼけてるよね?大河を大人しくさせてくれるのは良いんだけど、そのまま高須君も私達の部屋で寝ちゃった。
疲れてるんだよね。お疲れ様、高須君。折角だから私が癒してあげ……そうよね。皆一緒の部屋だったよね。
今夜も眠れそうに無いよ、高須君。
274日記。徒然に。。 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/09(水) 01:15:11 ID:oIv1OySG

北村裕作の日記より抜粋。
1月23日。
ふぅ。ようやく帰って来たか。いや、楽しい修学旅行だった。
ま、楽しいだけじゃなくて大変でもあったが、まぁそれも思い出だ。結構思い出深い修学旅行だったな。
逢坂の遭難騒ぎはホントに肝を冷やしたが、高須のおかげで事無きを得たしな。感謝してるぞ高須。
ま、お前は一日遅れてくるはあの騒ぎで疲れきって最終日もぐったりしてたしな。散々だったかな。
でもお前が居ると雰囲気が変るな。今日は皆も生き生きしてたぞ?お前は大変そうだったが、まぁ堪えてくれ。
お前はお土産を買う暇も無かったと思ったが、逢坂がお前の分も買ってあると言ってたしな。今日はゆっくり休んでくれ。
明後日、また学校でな、高須。


高須泰子の日記より抜粋。
1月23日。
おかえり二人共。
なんか分んないけど凄く楽しかったって事は伝わってくるよ、大河ちゃん。
可愛い携帯ストラップありがとね。やっちゃんは大事にするよ。
竜ちゃんはなんかお疲れ様な感じだけど、でも楽しかったんだよね?
「もう何が楽しいかも思い出せない位にな」だって。よっぽどなんだね竜ちゃん。
ふふ。明日は休養日らしいし、今夜は朝まで大河ちゃんに付き合うよ。沢山聞かせてね?大河ちゃん。


香椎奈々子(父)の日記より抜粋。
1月23日。
お帰り…娘よ…くぅ……いや、奈々子と呼んでも良いそうだ。
「?娘だなんて、変なお父さん」良いのか?奈々子。奈々奈々奈々奈々奈々子子子子!
修学旅行は楽しかったかい奈々子。あぁ、親子の会話に心が和む。
なんだなんだ。随分と眠そうじゃないか?奈々子。さては皆と夜更かしでもしたんだろ?はははは
「はぁ……高須君寝かせてくれないんだもん……もう寝るわ。お休み、お父さん」
はははは。オヤスミナナコサン………はは…は破歯刃覇波!奈々子ーーーーーーー!!!!
どうして寝かせて貰えなかったんだい奈々子ーーーー!!苦ぅぅぅ…おのれ、おのれオノレONOREおの〜〜〜れぇ〜〜え!
見てろよ高須竜児!
早速あの通販の『呪殺入門・呪(10)点セット』を購入しなければ!私を舐めるなよ高須竜児!
それにしても……くそ!なんで6巻が売り切れなのだ!さてはコレも奴の陰謀か?甘い奴め。ヤフオクを見くびったな高須竜児!
なんでも手に入る世の中なのさ。貴様の様なお子ちゃまには想像も出来まい。
それにしても送料が1500円とは……日本郵政もまだまだ改革の余地があるな。
275日記。徒然に。。 ◆ByjrvOSAtY :2009/12/09(水) 01:16:38 ID:oIv1OySG
以上です。

途中までタイトル入れるの忘れていました。
すいません。
では、失礼します。
276名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 01:24:35 ID:zZXqpNMi
ジージェイ
277名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 01:31:54 ID:06PTGEmu
GJ
つづきがたのしみでぇ〜
278名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 03:59:20 ID:c5qbhtc2
GJ

とにかくGJ
279名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 08:19:28 ID:8E9mGL02
毎度毎度こんなにすれ違い勘違い聞き間違いが起きてるのになんでしっかり
話が成り立ってるのwwwランボーネタとかもうねww
いやー、満員電車で読むもんじゃないね、ヤバいw
280勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/09(水) 12:34:27 ID:3SyYDnsr
ドラクエ知らない人も楽しめて頂けている様で幸いです。
元ネタ知ってる人は、この作品のヒロインが誰か解っちゃいますね。
勿論、本家に倣って彼女は離反離脱しますしね。
では、続き〜
281勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/09(水) 12:34:51 ID:3SyYDnsr
−9日目−

ゆ13 武10 盗11 遊9

一週間位、頑張ってロマリア付近でレベルを上げた。
皆、順調に強くなり、デスフラッターやらポイズントードやら安定して狩れる様になっていた。
経験値の他、Gも結構たまって来たので装備も新調する事に。
例に漏れず、防具屋の前で大河と川嶋が喧嘩を始めたりしたが、概ね、順調である。
そして、今日はオフ。皆(特に俺と櫛枝)、よく頑張ったので、「頑張った自分へのご褒美☆」と言う事で、今日1日は冒険とか忘れて街で骨休めをする事になった。
装備を新調して薬草を補充しても500G程余ったので、それぞれに100Gずつおこずかいをあげた。残りは宿代だ。
「えぇ〜たったの100G!?今時、小学生でも月に2000Gはもらってるよ〜。けちんぼ。守銭奴。ハゲ。」
とか、文句を垂れる奴が2名程居たが、当然、無視した。2000G欲しければ、そこのウチの子になりなさい。ウチは100Gです。
「やた。ありがと〜。すっげぇ、嬉しいよ。ホントにありがとう。」
と、ほくほく顔で喜んでくれた子だけには増額を考えても良いと思ってる。
「暗くなったら宿に戻ってくる様に。それじゃあ解散。」
まだ、文句言ってる2人を無視して、俺は街へと繰り出した。
それから、2時間位、俺は、1人で街をぶらぶらと探索した。
…暇だ。めっちゃ暇。特に何も無い。あぁ〜こんな事なら櫛枝にデートの申し込みでもすれば良かった。
今、「出来るのかよ?ヘタレの癖に。」と思った奴は正直に手を挙げろ。
はい、素直でよろしい。出来るよ。出来ますよ。
俺だって、夢の中で位、出来るし。嘘じゃねぇよ。マジだからな。
デートどころじゃねぇ。脳内櫛枝となら、あんな事やこんな事までした事あるんだ。
………。何か、虚しくなってきた。はぁ、もう宿に帰ろうかな。部屋で武具を磨いたり研いだりしようかな。
282勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/09(水) 12:35:19 ID:3SyYDnsr
そんな事考えながら、とぼとぼ歩いてたら、向こうの方から人が近づいてきた。
スラッとした長い脚に目を奪われ……って、なんだ、川嶋か。
「おう。川嶋。どうした?」
「ん〜。な〜んか暇そうにしてる奴が居るなぁ〜と思ってさ。」
悪かったな。なんだよ、コイツ。わざわざ、からかいに来たのか?
「ねぇ、暇なら、あたしとイイトコ行かない?」
俺の返事も聞かずに川嶋は、こっちこっち。と俺の裾を引っ張り歩く。仕方ないからついて行く俺。
イイトコ…ってドコだよ!?ま、まさかラブ宿屋か?ラブ宿屋なのか?ご休憩ですか?
おたのしみでしたね。確かにドラクエにはそういうイベントがあるが……
か、川嶋と?いや、俺には櫛枝が。でも…川嶋の脚。脚。脚。網タイツ。網タイツ。亜美タイツ。ダジャレ?
ドキドキドキドキドキドキ。
「着いたよ〜☆」
脳内で川嶋の網タイツをビリビリと破り、さあ、いただきます。と、いうトコで、ハッとした。
いかん、いかん。危ない危ない。
冷静になるんだ、俺。よく考えろ。素数を数えて落ちつくんだ。1 3 5 7 11 13 17 19……
だいたい、川嶋が俺にそんな事ヤらせてくれる筈が無いんだ。
だって、いっつもコイツは俺をからかって楽しんでるだけ。男の純情を踏みにじる悪魔みたいな女なんだ。
俺だって、いつまでもそんな餌には釣られないクマーッ!!
ほらね。現に川嶋が俺を連れてきた場所はラブ宿屋なんかでは無かった。道具屋だった。
「なんだよ。買い物か?」
川嶋の奴は、俺を荷物持ちかなんかに使うつもりなんだろう。別にガッカリなんてしてない。嘘じゃない。ホントだって。
「え?違うよ。あたしが用があるのは〜ここの地下だもん☆」
俺の予想に反して川嶋はニコニコ笑顔で地下と続く階段を指差した。はあ、地下。地下ね。ああ、闘技場か。
283勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/09(水) 12:36:48 ID:3SyYDnsr
すっかり忘れてたけど、ここロマリアには闘技場があるのだ。
ちなみに、闘技場とはモンスター同士を戦わせて、その勝敗にGを賭ける場所。言わば賭場である。
「闘技場なぁ……うーん。」
俺はギャンブルはあんまり好きじゃない。だって、こんなのどう考えても胴元が勝つように出来てる訳だし。
「ねぇ。ついて来てよ。お願い。あたしには、もう高須君しか居ないんだよ。」
珍しく、川嶋が泣きついてくる。あの川嶋が、お願いと来たか。
川嶋は闘技場で遊びたいが、一人で入るのが怖いとの事。
それで、最初は櫛枝を誘ったが、闘技場をモンスターと自分が戦って、勝てば賞金が貰える施設だと勘違いした櫛枝は、
モンスター同士の出来レースだと知って意気消沈し、寂しそうに去って行ったらしい。
そして、大河にお願いするのは死んでも嫌だから、俺に声を掛けて来たのだろう。多分。
う〜ん。まあ、たまには良いか。川嶋に付き合ってやる事にしよう。
一応言っておくが、俺は川嶋のうるうるチワワ目に陥落した訳じゃない。
あくまで、あくまで、こいつが一人で可哀想だと思ったのと、俺がたまたま暇だったから。だから、
「ホント?やった。ありがとう高須君。愛してるよぉ〜♪」
とか言われて、抱きつかれたって、ちっとも嬉しくなんかない。…嫌な気もしないけど。

川嶋の奴は賭事の才能があるらしく、瞬く間におこずかいを500Gまで増やした。
観戦にもかなり熱が入っている様で、ギリギリまで身を乗り出して贔屓のいっかくウサギを応援している。
と、言うか、脅迫している。勝たなきゃ鍋にぶち込むぞゴルァ!!とかなんとか。
あ〜あ。さっきはあんなに可愛いかったのに。綺麗な口から吐き出される川嶋節は今日も絶好調。
まあ、こっちの方が川嶋らしいと言えばらしいか。やれやれ。
そして、俺はと言えば、まほうつかいが参戦した時にしか賭けない安定したヘタレ。
まあ、そんなんでもちょっとは儲かってるんだから良いじゃないか。
284勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/09(水) 12:37:09 ID:3SyYDnsr
なんだかんだ言いながら、俺は結構楽しんでいた。少額ではあるものの、おこずかいは増えてるし、まあ、何だ。
横で、川嶋が嬉しそうに笑ってるのが、ちょっと良いなぁ〜とか思うのだ。ぶりっこ笑顔も良いが、こういう素の笑顔に弱いんだよな、俺は。
それに、やっぱりコイツって美人なんだ。それは、もうごまかしようがない。川嶋は可愛い。
それからしばらくして、大河が姿を現した。大河も隙を持て余してたのだろうか。何か、イラついている様に見える。あんまり刺激しないでおこう。
「こんなトコに居たんだ。へぇ、知らなかった。あんたとばかちーってそんなに仲良かったんだ?
別に言い訳なんかする事は無いよ。私、見ちゃったし。あんたらがイチャイチャしてたの。」
大河が見ちゃったのは、多分あれだ。俺の一世一代の賭け。キャタピラーC様が勝ち残った瞬間。
熱くなった俺は、つい横に居た川嶋を抱き締めて、喜びを分かち合ってしまった。
多分、その瞬間を見ちゃったのだろう。ああ……なんて間の悪い。
「竜児は脈の無いみのりんからばかちーに乗り換えるんだね。あんたがそういう奴だって事を私は覚えておこう。」
大河は言外に、この事を櫛枝にチクるぞと匂わせる。別に構いやしない。どうせ夢なんだし。
「何しに来たんだよ。ここは闘技場だぞ?冷やかしなら迷惑だから帰りなさい。」
下手に出た所で、大河の口に戸は立てられない事は承知している。だから、俺は大河にちょっと冷たく言ってみた。
そしたら大河が、何よ。私だって、ちょっとは遊ぶもん。邪魔なの?私が居ると邪魔なの?
とか言って、遊技に参加して来た。何か、嫌な予感がする。
285勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/09(水) 12:38:42 ID:3SyYDnsr
大河は俺と同じまほうつかいに賭けるらしい。不安だ。念のため、予想屋に聞いてみたら、
「ズバリ、まほうつかいで決まりだね」
との事。不安が倍増する。ちなみに、川嶋はいっかくウサギに賭けた。
…結論から言おう。結果はいっかくウサギの1人勝ちだ。
まほうつかいは、スライム、おおがらす、いっかくウサギの集中攻撃をこれでもかと浴び、スライムを道連れに落ちた。
不安を感じながらも、鉄板を外せない性格が裏目に出てしまった。そして、川嶋は賭事の才能は本物だった。
同じ、犬と呼ばれた仲なのに、血統書付きの川嶋と駄犬の俺では、その嗅覚に差があるらしい。くやちい。
大河を睨みつけ…は怖くて出来ないが、せめて恨みがましい視線を送ってやろうと、俺は大河を探す。
あれ?居ない。大河め。さては、逃げたな。盗賊だけあって逃げ足は早い。
仕方ないので、予想屋を睨み付ける。ウインクで返された。流石、この道のプロ。
帰り際、川嶋が「今日付き合ってくれたお礼だよ☆」と、上の武器屋で、鉄の槍を買ってくれた。
「良いのか?こんな高いの。」と、聞いたら、「イイよ。コレであたしの事しっかり守ってよね。」
と、ちょっとだけ頬を赤く染めて、目線を逸らして返された。
可愛い。めっちゃ可愛い。例え、演技でやっているのだとしても可愛い。俺は、川嶋の事をちょっと好きになってしまった。

そして、夜。晩飯の時間になっても大河が宿に戻って来ない。日暮れには、宿に戻ってくる様にと言ったのに…大河の奴。
さっきの事気にしてるのかな?まさかな、あいつはそんなタマじゃないだうろう。
大河の身に何か、あったんだろうか…… 心配だ。あいつドジだし。心配だ。
俺だけじゃない。櫛枝はもとより、川嶋さえも、心配そうにしている。
「あと5分。あと5分待って、戻って来なかったら、皆で大河を探しに行こう?ね?」
286勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/09(水) 12:39:10 ID:3SyYDnsr
いや、櫛枝の提案ももっともだが、皆で探しに行くのはマズイ。
もし、大河が戻ってきたら入れ違いになる恐れがある。川嶋。悪いが、留守番頼めるか?
そう言おうとした瞬間、ガチャリと部屋のドアが開いた。
大河が戻ってきたのか?……しかし、扉は開いたまま。誰も部屋へ入ってこない。
?。不審に思いつつも、俺は確認の為、廊下へと出た。
ッ!?
なんてこった。…そこには、血塗れの大河がぐったりと横たわっていた。
「た、た、大河ッーーーーー!!!」

その後、薬草3枚に命を救われた大河の供述によると、
賭けに負けてムシャクシャしていた大河は、その鬱憤を晴らすべく、近隣で修行をしたらしい。
修行と言えば、聞こえは良いが、要は、モンスターイジメである。
憂さ晴らしについ夢中になっていたら、日が暮れてしまいすっかり夜になってしまっていた。
お腹も空いたし、そろそろ帰ろうと思ったら、辺りを徘徊し始めた こうもりおとこ×4に絡まれて、後の事は覚えていないそうだ。
このバカッ!!すごく心配したんだぞッ!!
と、怒鳴りたかったが、やめておいた。櫛枝が、目を覚ました大河にすがりついて、
「良かった。ホントに良かった。心配かけんなよ…もう。」
と大河の髪をクシャクシャ撫でながら泣いている(様に見える)し、
大河自身、怖い目に逢い、十分、懲りているだろう。
晩飯を三杯もおかわりする食欲もある様だし、まあ、無事なら良いさ。

その後、「明日はガザーブの町へ向かおう」と、簡単な会議を開いて、各自就寝、という事になった。
しかし、俺は眠れそうにない。1つ気がかりな事がある。
大河はどうやって、宿へ帰ってきたのだろう?本人に聞いても、
「気を失ってたから解らない。きっと日頃の行いよね。」
と言う。確かに、大河は気を失っていた。
しかし、大河が戻ってきた時、俺は確かに人の気配を感じたのだ。
287勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/09(水) 12:40:14 ID:3SyYDnsr
誰かが瀕死の大河を宿まで、運んでくれたのは確定的に明らかだが…
何故、そいつは姿を見せない?大河の恩人だ。礼くらい言いたい。
何か、俺たちから隠れなきゃならない理由でもあるのか?だが、それは何故だ?一体、誰だ?
見当も付かない。大河を助けてくれたところから、敵ではないと思うが……
なぜだか、妙な胸騒ぎがして、俺はなかなか眠る事が出来なかった。

ぼうけんのしょ1 りゅうじ

この冒険の書には嘘が書けない。という事で、もうぶっちゃけてしまおうと思う。
正直に言う。俺は、川嶋でヌいた事がある。だって、あいつ可愛いんだもん。
いや、もちろん櫛枝でもヌくけど…まあ、7:3位の割合かな?あと、極稀に大河で。
なんて言うのかな、櫛枝とは正常位でゆっくりヤりたいんだけど、
川嶋とは、後背位や騎乗位でパンパンしたい。そんな感じ。わかってくれるだろうか?
性欲っつーか、肉欲っつーか、飢えてる時程、川嶋を求めがちだ。
あいつは、何かもうエロイんだよな、体付きも肉付きも。
ああ、川嶋を喰ってみたい。夢ならイケるだろうか?
闘技場で不意に抱き締めてしまった時のあいつは、まんざらでも無さそうだったし。
俺はてっきり、突き飛ばされるか、殴られるかすると思ったのに、
あいつ、目を丸くして、されるがままって感じだったな。
もしかして、経験無かったりして……って、それは無いか。あいつモテるだろうし。
今後、イイ雰囲気になったら押し倒してやろうか?
……なんてな。そんな度胸があったら、とっくにヤってますよ。ハァ…。

PS.
エライ事が発覚した。呪文が使えない。
もうそろそろ、メラやらホイミやら使える筈なのだが、火の粉すら出やしない。
まさか、俺がパチモン勇者だからか?薬草とは末永いお付き合いになりそうだ。まる。
288名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 16:22:22 ID:36XgfCS/
>>275
GJ!
毎回まじで楽しみにしてますw
いや、ホントに好きだわ、このシリーズ

>>280
GJ。
ドラクエ知らないけど、面白いww
目を開けると、そこに竜児の顔があった。
私の頭は竜児の腕に乗っかってる。痺れないんだろうか。たまに心配になるけど、この距離が私は好きだった。
頭が少しずつ動き出す。
――そうか、昨日も私、竜児の家に泊まったんだ。
やっちゃんはお好み焼き屋の社員旅行。
竜児と私も誘ってくれたんだけど、二人きりになれる機会だから、行かなかった。
やっちゃん笑ってたけど、二人で何をしてるかはきっと知ってる。
だってやっちゃん行く時、
「竜ちゃん、ちゃんと大河ちゃんに優しくね」
って言ってたもん。
「お、おぅ」
って竜児はなんか赤くなってたけど。今さらなのにねぇ、なにアンタ顔赤くしてんのよ。
そういう私まで赤くなってたと思うけどさ。

一人のときより暖かい布団の中で、竜児にもっと身体を寄せる。
竜児が気にしてる怖い目も、今は静かに閉じられてて、やっちゃん譲りの整った顔が、目も前にある。
竜児の胸に、耳を当てる。
心臓の鼓動。
暖かい身体。
一瞬昨夜がフラッシュバック。
顔が赤くなってることを自覚する。
そう言えば服を着た記憶がなかった。きっと竜児が着せたんだろう。
「ありがとうね、竜児」
私は小声で言う。感謝の気持ちを込めて、竜児にキス。
昨夜も何度もしたことなのに、
数え切れないほどしたことなのに、
私の胸は震えて、私の心は幸せで満たされる。
もう一度キスをする。ちょっと深めのやつ。
起きるかと思ったけど、竜児は起きない。
ちょっとつまらなかったけど、私は十分幸せだった。

******

目を覚ますと大河の顔。
長い睫毛が、小振りな口が、白い肌が、長い髪が、すべてがすべてで大河だった。
――まったく、幸せそうな顔だ。
俺は思わず小さく笑う。
大河の口から少し垂れてるよだれを、パジャマの袖でふく。
むにゃむにゃ言ってる大河も、もうそろそろ起きるだろう。
こいつのために、今朝も美味しい飯を作らなくてはならない。
名残り惜しいが、布団から出る。
ふと気づいて、俺の口も軽くぬぐった。
それが大河のつけたものとも、知らないで。
290勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/09(水) 17:20:18 ID:3SyYDnsr
書き込めるかな?
連投規制なんてあったのね……
今回はこれでオワリダヨー
また見てねー
291名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 18:58:15 ID:ju7v25nD
>>289、290
GJ!
292名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 19:19:15 ID:8E9mGL02
2人ともGJ
>>289
幸せ過ぎて読んでるこっちが恥ずかしくなってきたw
>>290
DQ世界の竜児は性欲旺盛なのねw
ルイー○さんの配役が気になる
今後の展開に期待(; ゚∀゚)=3
293名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 19:41:26 ID:+f33i7Hs
>>289久々の竜虎もので嬉しいぞ!!
294 ◆ozOtJW9BFA :2009/12/09(水) 19:50:14 ID:vA8Qmamh
>>264
>>266
ググってみたらわかりました。申し訳ない、2ch初めてだからもう少し調べるべきでしたね

>>265
あわわ、わざわざブログまで拝見して頂きありがとうございますm(_ _)m
現在執筆中のとらドラ!SSがもう少しで完成しますので書き終わり次第
こちらにも投下予定でございます。
295名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 20:30:12 ID:VwM/m+ua
>>275
GJ
奈々子パパかわいいわw
にしても竜児の就寝状況うらやましすぎる


>>287
GJ
闘技場で遊び人あーみんとデートとか超いいわ
みのりん影薄いよみのりん

>>289
GJ
あまーい
ラブラブ過ぎて短文なのにお腹一杯ですw
296勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/09(水) 23:09:19 ID:3SyYDnsr
自分がパロらせて頂いてる#xLM氏のまとめサイト様、ここに載せても良いのかな?
めちゃくちゃ面白いので、是非見て下さいです。オススメです。
自分も続きの方、明日にはまた投下出来ると思いますので、良かったら読んであげて下さい。では〜




http://www.geocities.jp/yuushano/
297名無しさん@ピンキー:2009/12/10(木) 09:52:42 ID:BLq9hLcK
すごい裏技発見した
早朝6時から今の時間帯にハゼマップ行くだけで、経験値三倍になるぞ
298名無しさん@ピンキー:2009/12/10(木) 10:09:29 ID:BLq9hLcK
ゴメン。誤爆…
299名無しさん@ピンキー:2009/12/10(木) 10:25:17 ID:qBO1c0DU
それなんてテイルズウィーバー?
300289:2009/12/10(木) 23:31:44 ID:Ex7FHw7j
初SSでしたが、怒られなくてよかったw

>>296
割り込みした形になってしまい、すみませんでした

竜虎に需要があるなら、またいつか書きます
ではでは
301名無しさん@ピンキー:2009/12/11(金) 10:53:31 ID:dah8zJv+
>>300
楽しみに待ってるお(^ω^)
302勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/11(金) 11:18:58 ID:B0Kmgfvk
−10日目−

出発早々、いきなりピンチだ。新天地ロマリアを舐めてた。
俺たちは今、一体のさまようよろいに足止めを食らっている。
俺が槍で突いて10ダメージ、櫛枝が殴って4ダメージしか与えられないのに、向こうの攻撃は20ダメージ近く喰らう。
硬いし痛い。恐ろしい敵だ。闘技場のおっさんはどうやって奴を捕獲したんだろうか……
大河は例によって、派手に転んでもがいてるし、川嶋に至っては、いつの間にか、ちゃっかり遠くの方に非難している。
こりゃ勝てないかも。俺も逃げたい。
でも、大河を見捨てて逃げる訳には行かないし、何か櫛枝が、
「へへ。ピンチだってのに、わくわくしてきたぞ」
とか言って、めっちゃ興奮してる。
多分、櫛枝に逃走は無い。退かないし、媚びないし、省みないつもりなんだろうな。
逃げられないなら、腹をくくって、倒すしかない。
「うりゃあ。雷光一閃突きぃ〜〜ッ!!」
とか、叫びながら、俺は手にした槍を思い切り突き出した。
ミス。ダメージを与えられない。
うげ。最悪だ。さまようよろいの奴、盾の丸みを利用して、俺の突きを捌きやがった。
たかが、鎧の癖に何という技術。中の人など居ないと言うのに……
そしてヤバイ。さまようよろいは、大きく剣を振りかぶり、俺を見据える。
空洞の筈の兜の中に赤い光が見える。無い筈の目が光ってる。うは。こぇぇ。てか、当たったら死ぬな。
ここで、問題だ!
突きを弾かれ、体勢を崩してる今、どうやってあの攻撃をかわすか?

3択−ひとつだけ選びなさい

答え(1)頭の良い俺は突如反撃のアイデアがひらめく
答え(2)川嶋がきて助けてくれる
答え(3)かわせない 現実は非情である

俺は(3)に倍プッシュだ。さよなら皆……

ガシャーーーーン!!

何かの砕ける音がする。
俺は、俺は……て、あれ?痛くない。俺は生きてる。
303勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/11(金) 11:19:38 ID:B0Kmgfvk
どうやら、俺は本当に賭事の才能が無いらしい。
答えは(2)川嶋が助けてくれた。砕ける音はガラスの割れる音だった。
川嶋がさまようよろいめがけて聖水入りの瓶を投げつけたのだ。一応、言っておくが、聖水と言ってもアレじゃないからな。
昨日、道具屋で買った、れっきとした聖なる水だ。神の祝福を受けた水だ。くれぐれも変な勘違いはしないで頂きたい。
しかし、これは反撃のチャンス。川嶋に礼を言うのは後だ。
さまようよろいはもがき苦しんでいる。飛来物を剣で叩き落とそうとしたのが運の尽き。
結果、瓶は割れ、さまようよろいはその体に、聖水をもろに浴びるハメになり、俺は無傷だ。
「てぇ〜い☆」
今度こそ、俺の渾身の突きは、さまようよろいの装甲を貫いた。
ギギギギギ……金属の軋む音。なっ!?まだ、動けるのか?
しかし、さまようよろいが反撃してくる様子はない。
ギギギギギ…ギギギギギ…己の体を軋ませ、嫌な音を立て……ハッ!!
マズイ。確かこいつは傷付くとホイミスライムを呼ぶ習性があった筈。
冗談じゃない。回復なんてされてたまるか。もうこっちもギリギリなんだ。
しかし、気付くのが遅かった。青いクラゲがフヨフヨと彼方からやってきた。
クソ。ホイミなぞ、唱えさせてなるものか。俺はホイミスライムに向かって駆け出す。
なんとしても、呪文の詠唱を中断しなければ。
ギギギ…しかし、さまようよろいも必死だ。残る力を振り絞り、俺の行く手を遮る。
クソッ。どけよ。どうする?コイツを先に倒すか?
ホイミスライムがホイミを唱え終える前にトドメを刺す事が出来るか?
ドズッ!!
鈍い音がした。俺がやったんじゃない。さまようよろいも生きている。
異変があったのはホイミスライム。眉間から銀の角を生やしていた。そして、次の瞬間、
ザバァッ!!
その体は青いゲル状のゼリーとなり四散した。
ホイミスライムが居た場所には、聖なるナイフを握りしめた川嶋が立っていて、
地面で泡立つ液体に冷ややかな一瞥をくれていた。
304勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/11(金) 11:21:17 ID:B0Kmgfvk
その後、命綱を絶たれ、茫然自失とするさまようよろいに大河と櫛枝が、ダブルパンチでトドメを刺し、
強敵、さまようよろいとの戦闘は無事、幕を閉じた。
「あ、ありがとうな川嶋。危ない所を助けてくれて。皆もよく無事だった。お疲れ様。」
「仲間を助けるのは当然でしょ。高須君に倒れられたら、次は亜美ちゃんの番なんだし。
お互い様だよ。ありがとうなんて言わなくて良いよ☆」
うふふ。と、川嶋はいつもの可愛いらしい笑みを浮かべる。
「タイガーと実乃梨ちゃんこそ、凄いよね。あんな強そうな敵を倒しちゃうんだから。」
「え〜。あれはもう高須君が相当追い詰めてたからだよ。私らは良いとこドリップしただけさ。ね、大河?」
「フフン。これが私の実力よッ!!」
「…もう、大河ったら。」
煽てる川嶋。謙遜する櫛枝。ふんぞり返る大河。
いつもの調子だ。やはり、俺の見間違いだろうか。さっきの川嶋に貼り付けられた凍る様な笑み。
ホイミスライムの脳漿を後ろから刺し貫き、その死骸をゴミを見る目で見下ろしていた。
さまようよろいも、川嶋の姿に恐怖し、竦んでいた様に見えたが……
今、川嶋は、大河と櫛枝の傷口に薬草を塗っている。
激戦を終えてリラックスしているのか、女子3人は楽しげに談笑している。
そんな微笑ましい光景を見ていると、やはりさっきの恐ろしい川嶋は目の錯覚、気のせいなのだと思えてきた。

一休憩を挟み、再び、俺たちは山道を進んだ。以降は、さしたる障害も無く、
日が暮れる前に、カザーブの村へと到着する事が出来た。
(ガザーブの町だと思ってた。クソ。ロマリアの宿屋のオヤジめ。嘘教えやがって。)
そして、俺たちは宿を取り、晩飯まで、各自自由行動と言う事になった。
ちなみに、俺は部屋で寝ている。正直、めちゃくちゃ疲れた。
キッツイ。あいつだけ明らかに強すぎるだろ。出る地域考えろよな。
心の中で亡き強敵を愚痴る。アルミラージに続きトラウマ決定だ。
305勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/11(金) 11:21:49 ID:B0Kmgfvk
何か、身体の節々が痛い。 薬草で傷は治せても筋肉痛とかは治せないらしい。
こんな事なら日頃からちゃんと身体を動かしておけば良かった。
と、いうかこれは本当に夢なんだろうな?大丈夫だよな?マジで。
最近、実は俺が知ってる現実が夢でこっちが現実なんじゃないか?
とか、危ない事を考え始めている。まあ、危ないって事を自覚してるんだから、大丈夫だろうとは思うが…
危ないと思わなくなった時、既に現実と夢は入れ替わって…って、おいおい、怖すぎる。
あんまり、考えない様にしよう。考えれば考えるだけドツボだ。
ンッーー。ベッドに横になって疲れた身体を伸ばす。粗末なベッドはそれだけでギシギシ軋む。
あ〜。この音、あんまり好きじゃないなぁ〜。俺はやっぱり布団派だなぁ。
とか、なんとかちょっとホームシック的にしんみりしていると、
トントントン。
これまた粗末な造りの扉がノックされた。ん?なんだろ?
「はいはい。なんだ、大河か?どうかした……」
扉を半分開けた所で俺は硬直した。相手も硬直してた。
「あ…いや、ゴメ…大河じゃなくて。私で。」
俺の部屋を訪ねてきたのは櫛枝だった。
「ちょっと…なんていうかお話したい事があってさ。今、暇?よかったら、その……」
と、言う櫛枝の提案で、俺と櫛枝は部屋を出て、2人で散歩している。
何だ?これはデートか?俺は今、櫛枝とデートしてるのか?そして、櫛枝の様子がなにやらおかしい。
いつも、元気いっぱいに顔を上げて、大きく手を振って歩く櫛枝が、今は、俯いて、ちょこちょこと控え目に俺の後をついてくる。
何か、俺に話しがあるとか言ってたけど……もしかして、その告白的な、その手のアレ?
ついに。ついに、櫛枝の好感度を満たし、イベントが発生したのか?そうなのか?
もし、もし櫛枝とここで結ばれる事が出来たなら、もう、夢だろうが、なんだろうが関係ねぇ。
一生、櫛枝を幸せにしてやるッ!!俺は覚悟が出来た。あとはお前だ。後は勇気だけだ。こいッ。櫛枝。
306勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/11(金) 11:23:21 ID:B0Kmgfvk
「た、たきゃすきゅん!!」
「お、おう。何だ、きゅしえだ!!」
きたきたきた。お互い、緊張して噛んじゃったけど…
櫛枝と俺はお互いに見つめ合い、熱い視線を交わし合う。
「は、話があるんだ…その、とっても言いにくい事なんだけど…聞いてくれるかい?」
是も非も無い。受け入れよう。全てを。
「私に…私に…てつのつめを買ってくれぇ〜〜〜〜!!」
………。こんなオチか。まあ、なんとなく読めてた。ホントだって。別に泣いてなんか無いやい。
「ああッ。やっぱりダメだよね。あんな高いのダメだよね。
ゴメン。やっぱ、今の忘れて。私、ちゃんとバイトして、自分で買うよ。」
俺が返事しないのをNOだと受け取った櫛枝は、ちょっとだけ悲しそうにそう言った。
「いや、待て待て待て。待てって。良いよ。買うよ。てつのつめ。
てか、買う気だったんだよ、最初から。だから、バイトなんかしなくて良いから。」
「え?」
「だって、てつのつめは武闘家の櫛枝が装備出来る数少ない武器じゃないか。
それで、櫛枝がパワーアップするんなら、買うべきだ。櫛枝はウチのエースだからな。
だから、明日出発の前に買おうと思ってたんだけどな……」
ポン。俺は櫛枝の手にGの入った袋を置いてやる。
「櫛枝がそんなに欲しがってるなんて思わなかったから。悪かったな。気づいてやれなくて。
多分、足りてると思うから、そのGで買って良いよ。」
「えっ?いいの?」
「うん。良いよ。」
「うわ〜い。やったぁ〜ありがとー高須君。ホント嬉しいよ。あんまり嬉しいから、武器屋まで全力ダッシュッ!!」
うおぉ〜〜〜!!明日から、私めっちゃ頑張っちゃうからね〜〜見ててね〜〜
とか、叫びながら、櫛枝はホントに全力ダッシュで走り去ってしまった。
ハァ…まあ、こっちの方が櫛枝らしいよな。あんなに喜んでくれてるんだし、ま、良いか。
307勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/11(金) 11:23:53 ID:B0Kmgfvk
「ありゃりゃ〜実乃梨ちゃん、行っちゃったね〜ちょっと残念?高須君も色々、期待してたんじゃない?」
「おう。そりゃ……って、何だよ。お前、どっから涌いてきた!?」
後ろから話しかけてきたのは川嶋だった。多分、物陰にでも隠れて見物してたんだろう。
なんなんだよ…櫛枝に振り回されてる俺を笑いに来たのか?
「失礼だなぁ。人を虫みたいに言わないでくれる?」
「はいはい。ごめんごめん。」
「な〜んか、ぞんざいに扱われてる気がするなぁ〜。亜美ちゃん、傷付くな〜。ねぇ……」
じっと、川嶋が俺を見つめる。宝石みたいな瞳。ヤバイ、本能的に目を逸らしたくなる。
でも、逸らせない。釘付けにされた。だって、綺麗なんだもん…
「あたしにも何か買って欲しいなぁ〜
さっき、うさぎのしっぽみたいな可愛いアクセサリー見つけたんだけどさ、あれ、欲しいなぁ〜。」
ポーズ付きでおねだりされちゃった…はて、こいつは俺より金持ちだった筈だが?闘技場で、しこたま稼いでたろ。
まあ、てつのやりの恩があるのでアクセサリー位、買ってあげるのはやぶさかでは無いが。
「高須君に買って貰う事に意味があるんだも〜ん。ね?良いでしょ?」
なかなか、可愛い事を言う。こいつは、巧みに男心をくすぐってくるんだよな。
「良いよ。わかった。」
「やった♪じゃ、一緒にお店まで行こっか。
買ってくれるお礼に、高須君には一番に 装備したトコみせてあげるね☆」
川嶋は嬉しそうに、俺の手を引いた。
鼻歌なんか歌っちゃってさ。なんだよ。俺まで良い気分になっちゃうじゃないか。
しかし、2人にプレゼントしたら、大河にも何か買ってやるべきだろうか?また、拗ねて不機嫌になられてもヤだしな。
大河には食べ物の方が良いだろうか?確か、武器屋の隣の店でラディッシュソードが売られた様な……
それで、鰤大根なんか作ってやったら喜ぶかな?
308勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/11(金) 11:25:09 ID:B0Kmgfvk
ぼうけんのしょ1 りゅうじ

ふっかつのじゅもんよりはマシだが、ぼうけんのしょも不便なもんだ。
嘘偽りなく記入しなきゃならないし、たまに紛失したりするし。念の為にコピー取った方が良いのかな?
まあ、そんな訳だから今回もぶっちゃけてしまおう。
川嶋がうさぎのしっぽを装備したとき、俺は不覚にも反応してしまった。
下品な言い方になるが、その、勃起してしまった。
あいつは目の前で、尻尾をふりふりして見せてくれたんだけど、それって、目の前でケツふってる事になるよね?
川嶋の肉感も張りもボリュームも全てが完璧なお尻を前にして、
「欲しいの…」
なんていう、おねだりボイスが脳内再生されちゃって、もうエライ事ですよ。
なんかもう、川嶋に筆を下ろして貰いたくなった。
まあ、俺にもプライドと言うものがあるし、ここまで硬派ぶって守り通した童貞キャラをそう易々とは捨てないけど……
でも、もし川嶋の方から誘ってきたりしたら……俺は断りきれないかも知れない。
とは、思うものの、いざ川嶋の身体を前にしたら、気後れしちゃうかも…
どこまでも、ヘタレな自分がちょっと情けない。

PS.
ついに、抜かれてしまった。てつのつめを装備した櫛枝の方が俺より強い。(涙)
パーティーリーダーとしての、なけなしの威厳が損なわれた気がする。(泣)まる。
309勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/11(金) 11:26:32 ID:B0Kmgfvk
今回はここでオシマイダヨー
投下、予告より一日遅れてすみません。
また、続き書きますんで良かったらミテネー
310 ◆ozOtJW9BFA :2009/12/11(金) 18:27:11 ID:YL/xnpNg
すいません、投下予告させていただきます。といっても今日ですが…

タイトル:未定
内容:狩野すみれアフター的な話。長編…かも
時間:今日の8:30予定
レス:6ほど
311名無しさん@ピンキー:2009/12/11(金) 18:53:49 ID:otOfyiUZ
>>309
GJ
もう竜児の視線があーみんにしか向いてないw
みのりんとあーみんに対して大河には料理包丁で料理を振る舞うとかもうねwwww

>>310
wktk
312 ◆ozOtJW9BFA :2009/12/11(金) 20:38:02 ID:YL/xnpNg
すいません、少し遅れましたが投下させていただきます。

それではリロードして投下がなければ開始です。
3131  ◆ozOtJW9BFA :2009/12/11(金) 20:40:45 ID:YL/xnpNg
私は愚かだ。何をやってるんだとずっと己に問いかけた。
そんな時が高校時代、たった一度だけあった。
初めて自分の中でもやもやした気持ち悪い何かが渦巻き、自らを苛立たせた。
今でも忘れられないあの日のことだ。


後悔は・・・・していないつもりだった。


始まりは、高校二年の春。鮮やかに咲き始めた桜を祝うかの如く澄み切った青天のあの日だ。
私は毎年恒例の新入生一本釣りを行うために、校内をウロウロしていた。すると、階段の踊り場の方から勇ましい男子の叫び声が聞こえた。隠れてその様子を見てみると、眼鏡をかけた見かけない男子と一般女子よりも一回りも二回りも小さい女子がいた。多分新入生だろう。

「いい! 噂どおりだ! そのストレートな所に惚れた!」

その様子から察するに、眼鏡の男子の告白といったところか。
男子の方が叫んだ途端、西洋人形の如く小柄な女子は鬱陶しそうな表情をしながら男子に右フックをかました。その容姿に似合わぬ腕っ節をもって相手を屈服させ、猛々しくその場を去っていった。
男子はしばらく苦しそうにうごめいていたが、やがて溜息混じりの、憂鬱感の浮かぶ顔で一段目の階段に腰を掛けた。
――こいつは真性の 『馬鹿』 だな・・・私ははっきりそう思った。そりゃあ近づいたら殺すよ? と焦燥感が高まりまくっている奴に変に行動を起こしたらあのような結果になるわな。
だが、しかし面白い奴でもあると思った。今まで今年入学した一年次どもを見てきたが、ここまで威勢がよく、ここまで 『馬鹿』 になれる野郎は初めて見た。まあ先程告白した女の方が勇ましかったことは伏せておくが。
私は迷わなかった。今年度の有望な人材だと、確信をもって生徒会の上級生にも自慢できるくらい。

「おい、そこの新入生!」

男子は振り向き、阿呆みたいに口を開けたまま私を見つめている。私は言葉を続ける。

「先程の一部始終を見させてもらったぞ。ふられたみたいだな? 大丈夫、長い高校生活色々な事がある。そう、まだ始まったばかりだ! 私について来い! どっさりとある事務仕事で多忙にさせお前を立ち直らせてやる! 言っとくが、お前に拒否権はないからな!」

呆然として動かない一年男子の左腕を引っ張りながら生徒会に連行させた。男子の方は未だ何が何やらよく分からないような顔をして、流れるままに入部届けの印を押していた。


これが、北村祐作との初めての出会いだった。
3142  ◆ozOtJW9BFA :2009/12/11(金) 20:44:04 ID:YL/xnpNg
その年で入部させた一年は限りなく少なかったが、北村は同学年は勿論、上級生にも劣らぬ事務処理能力を持って庶務の仕事をこなし、かつソフトボール部の活動も兼ねていた。やはり私の目に狂いはなかった。こいつはできる奴だったのだ。ただ、一つ気になる部分を除いては。

これは夏休みのある日の生徒会の集まりの話だ。
この日は本来午前中に集まるつもりだったが、北村がソフトボール部で練習があるので午後に日程をスライドされた。
北村が私たちと合流した後、暑さの和らぐ時刻でのこと。

「副会長すみません、この部分はどうすればよろしいでしょうか?」

「ふむ、どれみせて・・・っくせえ! てめえ、北村妙に汗臭えじゃねえか!? その状態で生徒会室にいるとはいい度胸してんじゃねえか?」

「え・・あ、すみません、部活を途中で抜けてきたもんで」

「いい訳は聞きたくねえ。さっさとシャワー浴びてきやがれ! 臭くて鼻が折れそうなんだよ!」

「わ、分かりました!今すぐ浴びてきます!」

「さっさと行ってきやがれ! ・・・てここで脱ぐな!」

「え、でもその方がシャワー浴びるときに楽で」

「てめえは・・・ほんとに真性の 『馬鹿』 だな!」

言葉どおりの意味だ。北村は、本当に馬鹿・・というよりもむしろ天然に近いと言ってもよいかもしれない。
暑くなると、生徒会室で女子がいても気にせずYシャツを脱いで半裸状態になるし、6月にあった生徒会会議では
三年の女子の先輩に 「すいません、先輩がトイレに行きたそうなので中断したほうが良いのでは?」 と
色んな意味で空気の読めない発言をしたり、とにかくこいつは正直すぎるのだ。


それが私は快く思わなかった。
北村は・・・そのままではいけないのだ
3153  ◆ozOtJW9BFA :2009/12/11(金) 20:48:09 ID:YL/xnpNg
しばらくして、北村は非常に爽やかな表情をして戻ってきた。先程の自らの汗でベトベトになっていた体が嘘のように涼しげになっている。

「あれ、他の人たちは?」

「他の同級生や上級生は私が少しばかり席を外してもらうように頼んでおいた。北村、お前に話がある」

「俺に・・ですか?」

「ああ、知っていると思うが10月には生徒会長立候補選挙があってな。私はそれに立候補する予定だ。その際に副会長は生徒会長が任命することができるのだが、」

「副会長には、お前を任命しようと思っている」

「え・・・?」

北村は丸い目を見開いて、小さく口を開けたまま呆然としていた。その顔で思わず笑ってしまいそうになるのを必死に抑える。

「言っとくが、一切の反論は認めないぞ? 副会長の業務内容なら教えてやってもいいがな」

「本当に・・・俺でよろしいのですか?」

「しつこい奴だな!お前は黙って私の後についてくればいいんだよ!」

北村は呆然とした顔から最近咲き始めたひまわりの様に満面の笑みを浮かべて、起立、上半身をほぼ正確に45度前方に傾倒させる最敬礼を行い、 「ありがとうございます!」 と相変わらず威勢のいい声を発した。

私の話を聞いていた時の北村の瞳にはこれからの希望に胸を躍らせるような輝きが見えた気がして、私はそれがとても喜ばしいことだった。
何故なら、彼の表情が拒絶等の反応を示すことに、自分自身で恐怖を感じていたからだ。何故恐怖を感じたのか分からなかった。
多分、有望な人材が年々減っている中で見つけた宝を無くすことがそういう感情を植え付けたのだ、と思った。


その時までは、そう自分に言い聞かせていた。
3164  ◆ozOtJW9BFA :2009/12/11(金) 20:53:50 ID:YL/xnpNg
「その話はとりあえず置いとこうか。もう一つ私がお前に物申したいことがある」

「・・・」

返事がない。もう一度呼んだがやはり返事がない。まるで時間が止まったかのように45度のお辞儀を保ったままピクリとも動かない。
・・こいつまさか最敬礼しながら本当に死んでいるわけじゃないよな? いや、北村なら有り得ることだから余計に怖い。少々手荒だが
ずっとこのままだとこっちが困るからこの方法で起こしてやろうか。

「北村・・・おい、北村・・・・・いい加減に起 ・ き ・ ろ!!!!!!!」

「・・・うぐっ!!!」

腹部目掛けてアッパーカットを容赦なく思い切り打ちこんでやった。
北村は綺麗に円を描きながら吹き飛んで勢いよくそのまま床に落ちていった。

「いたた・・・・ っは !! 俺は一体何を !?」

「いいからさっさと起きやがれ!話を先に進めなくてイライラしてんだよ!」

打ち込まれて立ち上がれない北村を尻目に
私は先程から言いたくてうずうずしていたことをマシンガンの如く標的に撃ちまくってやった。

「てめえの耳をよくかっぽじって聞けよ? お前は自分の性格に対して一度でも考えた事があるか? ・・・無いようだから教えてやる。
お前は正直言って行動 ・ 言動ともにバカなんだよ!バカすぎるんだ!それのせいでどれだけ仕事に支障をきたしてんだ?
もっと冷静沈着にあらゆる角度から物事を捉えることを考えろ! それができねえんだったらお前は絶対将来後悔するぞ!?」

私流マシンガントークを乱れ打ちしたためか、北村は再び小さく開いた口が塞がらない呆然とした状態で聞いていた。
そんな状態にも気にも留めず、私は北村にこう付け加えた。

「それだけだ。私が言ったことをもっと冷静に、賢くなって考えてみろ。私のように・・・な」

それだけ言って、私はあらかじめ教科書や筆箱、生徒会の書類を詰めておいた鞄を手に取り、席を立つ。

「今の話。忘れんじゃないぞ? 私は、お前の事を信じてるからな」

いまだに呆然としている北村に 「じゃあな。残りの仕事頑張れよ」 と一言つけて、生徒会室を後にした。
――北村は、もっと高みを目指さなくてはならない。こいつは何処までもいけると思った。
ならば、こいつの馬鹿で、正直な部分を私が改善して導いてやろう。
でなければ、上級生が認めることもないし、同級生や下級生がついていくことは殆どない。
周りが認めないのならば、私がどんな手を使ってでもこいつを周りから認められるぐらいにこきを使ってやろう。
私は、北村をあの人に胸を張って自慢できるような存在になってほしい。私たちの英雄みたいに。会長立候補は以前から決めていたが、副会長任命はあいつが、北村が入部したときに決めたのだから。
さて、もう少し使い物になってあいつの性格が改善されてきたら、私の夢でも語ってやろうかな。あれは今のところ家族、先生の他にはあの人しか教えていないからな。


それまで・・・私が納得できるぐらいにはなれよ。
北村。
317 ◆ozOtJW9BFA :2009/12/11(金) 20:56:46 ID:YL/xnpNg
今日はこれで終了です。

続きは日程が確定してから投下しようかと思います。
どうもありがとうございました。
318名無しさん@ピンキー:2009/12/11(金) 22:23:24 ID:nFV8RLXa
>>309
あーみんフラグ立ちまくりだw
元ネタだと遊び人以外は男だったから正直展開が予想つきません

>>317
すみれかっこいいよすみれ
319勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/12(土) 03:30:09 ID:giZIJUpC
本日分を投下します。
連投規制を恐れて、ちょっと少な目です。
良かったらミテネ〜
320勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/12(土) 03:30:30 ID:giZIJUpC
−11日目−

昨晩、今後の方針を考える会(大河は途中で寝て、川嶋は終始爪を磨いていた)において、
前回のさまようよろいの事を考え、しばらくの間、ここカザーブ付近で修行をしようと言う事で、話はまとまった。
そんな訳で、今日から修行開始。
大河はいつも通り、櫛枝は新武器の試し斬りも兼ねているので、気合い3割増し。そして、川嶋は棺桶の中に居る。
死んだ訳では無い。ただ、ちょっと色々あったのだ…
まあ、何と言うか、喧嘩したんだ。今朝。俺と川嶋が。
それで、川嶋はヘソを曲げて、ふてくされて棺桶の中に閉じ籠もり、修行をサボってるという訳だ。
喧嘩の原因は、下らない事で、朝食の目玉焼きに川嶋がアホ程マヨネーズをかけたのが、発端だ。
いや、アレはマヨネーズをかけたとかそういうレベルじゃなかった。
アレはマヨネーズの下に目玉焼きが敷いてあると言った方が正しい。
「こんだけ、ハードな旅してるんだから、平気だってば。太ったりしないって。」
などと、川嶋は言っていたが、そういう問題では無い。
食べ物に対する気持ち。すなわち、料理を作ってくれた人に対する感謝の気持ち。
要はそこだろう?と、俺は言いたい。アレは食べ物に対する冒涜だ。
俺と川嶋の議論は平行線を辿り、お互いに段々、口調もキツくなって、とうとう喧嘩になってしまったのだ。
しかし、俺は悪くないと思う。川嶋が悪いのだ。全面的に。
そして、修行の方は、川嶋抜きにも関わらず、順調だった。
まあ、あいつは普段から、あまり積極的に戦闘に参加しないからな。
抜けてもそんなに気にならない。(とは言ってもピンチの時には良く動くので、内心、頼りにしてたりするのだが…)
加えて、今日は櫛枝の調子がすこぶる良い。絶好調だ。新しく装備したてつのつめが、馴染むのか、ほとんど櫛枝武双。
そんな訳で、この日は川嶋の出番はついに無かった。
今更、出るに出れなくなったのだろう。もう日暮れだと言うのに、未だに棺桶の中に引きこもっている。
321勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/12(土) 03:30:57 ID:giZIJUpC
「ねぇ、竜児。いい加減許してあげなよ。ばかちーのバカ舌は竜児も知ってるでしょ?」
もうそろそろ村へ帰ろうか?と、いう時になって大河がこんな事を言い出した。
珍しいな大河。お前が川嶋の肩を持つなんて。
「そういう事じゃないの。あんたさ、気付いてないの?
今日のあんた、そわそわしたり、ぼーっとしたり、すっごく危なっかしかったよ?」
はて、何の事やら。今日は櫛枝武双だったじゃないか。つい見とれちまったんだよ。櫛枝に。
「そか。あーみんに悪い事しちゃったな。私が、調子に乗り過ぎたから、出てくるタイミング逃したのかも……」
櫛枝が気に病む事は無いさ。あいつが悪いんだから。
「そんなに川嶋が気になるなら、大河。お前が、なんとかすりゃ良い−−
まで言った所で、大河がキレた。
「ふっざっけんな!!あんたの問題でしょ!?
もういい。みのりん。こんな奴、放っておいて、私達は先に帰ろ。私、お腹減った。
竜児!!あんたは帰ってくんじゃないよ?ばかちーと仲直りするまで、顔見せんなッ!!」
行こ。みのりん。
そう言って、大河は櫛枝の手を引いて、大股で歩き出した。
ちょ…ちょちょちょ…待ってよ大河。そんなに強く引っ張ったら、痛いってば〜〜
櫛枝は、俺に何かを言いたいのか、一度だけこちらを振り返ったが、
大河に手を引かれ、そのまま、一緒に去って行った。
ハァ。大河の奴……
ありがとうよ。辛辣な口調だったが、きっと、大河なりの思いやりなんだろうな。
俺が川嶋と仲直りし易い様に、櫛枝を先に帰してくれたのだろう。多分。
仕方ない。大河に免じて、許してやるか。
わがままお姫様も、ちょっとは反省したろうし、まあ、俺も大人気なく、強く言い過ぎてしまったかも知れない。
仲直りしたいのは俺の方…とか、そんな事は無いよ。無いから。無いってば。
322勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/12(土) 03:32:31 ID:giZIJUpC
「おーい。もう帰るぞ。ったく。いつまでもそんな縁起でも無いトコで寝てんなよ。」
川嶋の眠る棺を開ける。ギギギ…。て、蓋、重ッ
「帰るぞ。起きろって。」
………。無言。
「無視すんなよな。」
………。うつ伏せに寝たままで、顔も見せやしない。
「悪かったよ。俺も、もうちょっと優しく言えたと思う。ごめんな。キツく言って。」
………。処置無し。どうしたもんかね。
俺が、半ば諦めかけた時、ようやく川嶋が口を聞いてくれた。
「タイガーと実乃梨ちゃんは?」
「ん?先に帰ったよ。」
何で、そんな事を聞くんだ?答えは、すぐに解った。
「そう。2人は帰ったんだ?だったら、どうにでもなるよね?」
川嶋はとんでもない事を言いだした。
「あたしを起こしたいなら、ムリヤリ起こせば良いじゃん。
あたしは抵抗しないから、高須君の好きにすると良いよ。」
川嶋はうつ伏せの状態から仰向けになる。目は閉じたまま、瞼から横向きに涙の跡がくっきりと付いていた。
欠伸でもしたのかな?なんて思う程、鈍感では無い。泣いたんだろう。
反則だ。そんなの。俺が、悪いみたいじゃないか。悪かったよ。ごめん。
俺は、棺桶から川嶋を起こす為、その身体を抱き上げた。俗に言う、お姫様抱っこという奴だ。
身長は俺と同じ位なのに、川嶋の身体は軽かった。すっぽりと俺の両腕に収まった。
しばらくは、大人しく抱かれていた川嶋だったが、急に、ガバッと身を起こし、俺の首に手を回してきて……
「ごめん。ごめん。ごめんね……」
川嶋が初めて謝った。蚊の鳴く様な細い声で。
「良いよ。」
俺は、川嶋の背中を優しく叩いてやった。
寂しかった…嫌われたかなって思って…そしたら辛くて…
川嶋は、俺の胸の中で、そんな事を言っていた様に思う。小さな声で、よく聞きとれなかったが、
それでも、俺はずっと、川嶋を撫でる事を止めなかった。
323勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/12(土) 03:32:57 ID:giZIJUpC
−20日目−

毎日修行を続け、俺たち一行はそこそこ強くなった。一時間位ならソロ狩りも出来ちゃう。
ついに、はがねのつるぎ買っちゃた〜デヘヘ。…コホンッ
あと、変わった事と言えば、あの日から宿の朝食のメニューにマヨオムレツが追加された事かな?
「おじさんは可愛い子の注文には逆らえないんだよ。」
などと亭主は言っていた。まあ、それがれっきとしたメニューであるのなら、俺としても文句はない。
料理人が喜んで作った料理を客が喜んで食べている。何も問題は無い。
そして、もう1つ変わった事がある。こっちは、見過ごせない由々しき問題だ。
知らないうちに大河の装備が変わっていた。盗賊にはお似合いの暗器、どくばりだ。
そして、風の噂に聞いた事だが、先日、この村の道具屋から、どくばりが盗まれたらしい。
どうやら、夜に何者かが忍び込んで盗んだらしいのだが……
大河にそれとなく聞いてみると、
「まあ、遺憾よね。物騒な世の中だわ。戸締まりはちゃんとしないと。」
との事。
「大河は大変なものを盗んで行きました……」
「てか、それが盗賊ってモンだしね。
ちなみに、このパーティーの責任者は、勿論、リーダーである高須君だよ☆」
2人の貴重なアドバイスを受け、俺は、長らくお世話になったカザーブの村を発つ決心をした。
おにょれ、大河め。やるなら、やると一言、相談して欲しい。
おかげで、やくそうの補充が出来なかったではないか。
強くなったとは言え、やくそうの補充はキッチリしておきたかったのに……
しかし、これはホイミも使えないダメ勇者な俺にも責任があるので、不満を漏らす事はしなかった。
さて、そんな訳で、俺達は今、北を目指している。
何でも、北には、昔、エルフに呪いをかけられた不幸な村があるらしい。
もっとも、エルフと村人の確執は先代勇者が解決済みで今は平和らしいが……
ちょっと、くやちい。でも、おかげで、やくそうの補充は、その村で出来るだろう。
やくそうを求めて北へ!!俺以外のメンバーのモチベーションはやや下がり気味だった。
324勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/12(土) 03:33:54 ID:giZIJUpC
そして、不幸な村(ノアニールと言うらしい)に、あっさり着いてしまった。
道中、マジで何も無かった。完全に散歩しただけだ。
まあ、久しぶりにパーティーでのんびり会話などしながら、ゆっくり出来たので、別に良いのだが…
正直、拍子抜けだ。やくそうも一枚たりとも減ってない。
それでも、一応、道具屋へ向かった。やはり、道具ぶくろは無駄なく美しくが基本だ。
使いたい物を使いたい時に使いたい分量だけ。これが、整理整頓というものだ。ああ、気持ちが良い。
ついでに、この村の名物らしい、まだらくもいと(35G)も数個買ってみた。何かの役に立つかな?かな?
ふぅ。想像以上に何も無い村だ……仕方ないから武具でも磨いて、もう今日は寝よう。
あ、寝る前にぼうけんのしょをつけなきゃな。

ぼうけんのしょ1 りゅうじ

皆と道具屋で買い物した時、若い女性店員に
「誰があなたの彼女なの?」
と、からかわれてしまった。
「蒼い髪の子かな?」
と、言われた時に一番、動揺してしまって……
いや、俺は櫛枝の事が好きなんだってば。
周りに誤解を生む様な、心臓に悪い冗談は止めて頂きたい。
それはそれとして、次の目的地、アッサラームには、夜にしか開いてないお店があるらしい。
ちょっと楽しみだな〜なんて思うけど、よく考えたら俺は女子3人に見張られてるんだった……
どうにかして、宿から抜け出したい。今から、作戦を考えておかなければ。
まだ、大河なら、そういう男の浪漫を……
やっぱりムリだろうな、エロ犬呼ばわりされて罵倒されるのがオチだ。
櫛枝と川嶋には、絶対に知られたく無い。何か良い手は無いものか。

PS.
もう呪文が使えない事で悩むのは止めた。
これからはエコの時代だ。やくそうこそが世界を救うのだ。
俺は魔王と環境破壊を心から憎む者である。
そういうものにわたしはなりたい。
325勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/12(土) 03:36:36 ID:giZIJUpC
前回、全然、話が進まかったので、今回は巻きました。
ゲームでもノアニールって実は無視してもストーリー上大丈夫だったりするんですよね。(笑)
次も良かったらミテネー
326名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 03:47:20 ID:ytnQi7bW
次はアッサラームか…
ぱふぱふが楽しみだw
327名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 04:28:48 ID:VDqLeViZ
キーアイテムの「どくばり」と「棺桶」がやっと出てきましたね。
少々ちわドラ展開が早過ぎるかなという気もしますが…
しかし、3人娘があまりにもぴったりな配役だw 
そして、もう400k越えてるしw
328名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 08:21:33 ID:3K1MteF5
GJだけど「、」が多すぎるかな
329名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 12:51:53 ID:OfUknhbW
>>325
GJ
次はぱふぱふだと
竜児には隠れて抜け出すことを大変強く提案したい
330名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 20:22:15 ID:CFExv1cl
抜けだすのに失敗して正座させられて最終的に亜美ちゃんにぱふぱふされる、これね!
331名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 20:43:31 ID:5+24U9we
ぱふぱふ屋がやっちゃんと高須父という電波をなぜか受信した
332勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/13(日) 02:28:30 ID:w34k53wN
続きを投下したいと思うのですが、予告込みで合計10レスになってしまいました。
時間も時間ですので、ちょっと待ってC支援して下さる方がいらっしゃらなければ、明日の朝10時頃に投下したいと思います。
333名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 02:32:07 ID:mIkuFkIQ
いるよ
334勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/13(日) 02:37:44 ID:w34k53wN
−21日目−

アッサラームに到着。
嬉しい事が起きた。道中、キャットフライとかいう化け猫に襲撃されたんだけど

キャットフライAはマホトーンを唱えた。
りゅうじは呪文を封じ込められた。

ん?呪文?元々使えませんが何か?フヒヒ、サーセン^^
効きやしないマホトーンを連発するキャットフライを苦もなく撃破し、俺は呪文が使えない事で初めて得した。
それが、嬉しい事。マホトーン涙目。ざまぁ。やくそうは封じようが無いもんね。
まあ、そのやくそうも毎度、大河がドジを踏むのでその都度無駄に消費されてるのが、困りものと言えば困りもの。
一度、ゆっくりとやくそうの大切さ及び感謝について話し合う機会を設ける必要があるな。
どうせ言ったって、聞きやしないんだろうけど。だったら、何か防具でも買ってやるか。
と、いう訳で俺は今、大河と櫛枝と3人でアッサラームの防具屋に来ている。
川嶋はいつの間にか姿を消していた。先に宿でも取りに行ってくれてるのだろうか?
「で、大河はどんな防具を装備出来るんだ?」
「さあ?」
さあ?じゃねぇよ。自分の事だろ!?
「別に何でも良いよ、防具なんて。」
ホントだろうな?ホントに何でも良いんだな?じゃあ、このあぶない水着でも…って高ッ!?軽く家が建つぞ?
仕方ないのでとりあえず大河には、うろこのよろいとうろこのたてを買ってあげた。
これで、もう少し防御というものを学んで欲しいと思う。攻め過ぎなんだよお前は。力任せ過ぎる。しかも転けるしさ。
「おーい。居た居た。皆、こっちだよ〜」
そろそろ川嶋を探しに行こうかと、とりあえず街の真ん中の方へ行ってみたら、向こうの方からやってきた。
探す手間が省けたな。川嶋は、お〜い。と、こちらに向かってブンブン手を振っている。
って、アレ?遠くて最初は気付かなかったが、川嶋が装備してるアレは、まさかマジカルスカート?
335勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/13(日) 02:38:08 ID:w34k53wN
「え?これぇ〜?フッフゥーン。良いでしょ〜貰っちゃったぁ☆」
川嶋は上機嫌に、どう?似合うでしょ?とスカートの裾を摘んでクルクルと回ってみせた。
川嶋の話によると、この街の闇商人から善意で贈与されたらしい。
ほら、あたしって可愛いから♪おじさんも、ついあげたくなっちゃたんじゃない?うん。わかる。わかる。
とか、言っていたが怪しい。川嶋の事だから、何かエグイ商談を持ち掛けたんだろうな。多分。
櫛枝も、そんな川嶋を見て
「あーみん、あんたすっげえなー!」
と、目を剥いている。
大河は大河で、盗賊たる自分の面目を潰された感があるのか、面白くもなさそうに
「ふん。どうでも良いわよ。さっさと宿取りに行こうよ。」
と、不機嫌そうだ。
で、俺は…と言うと……ひらひらと舞うスカートに、あ、パンツ見えそう…とか思いながら目を奪われていた。

その後は一旦宿に荷物を置いて、アッサラーム近辺で戦闘訓練。
日が暮れて、辺りにギズモが徘徊し出した所で訓練終了。
宿へ戻って、皆で夕飯食べて、後は自由時間。
さあ、お待ちかね。アッサラームの夜がやってきましたよ。
さて、どうやって宿から抜け出すか…俺は考えた。部屋の窓から飛び降りよう。
ここは2階だし、飛び降りても大丈夫だろう。ホントは一階の部屋が良かったんだが、空いて無かったんだから仕方ない。
ちょっと怖いが、男の浪漫の為だ。我慢しよう。俺は窓を開き、決死の覚悟でダイブする。あいきゃんふら〜〜〜い!!!
スボズボズボンォォオオッ
「のわぁぁあああ〜〜〜」
スタッと、格好良く着地出来たと思った次の瞬間。突如、地面が陥没し、俺の半身は腰の辺りまで地面に埋まってしまった。
「きゃはははは。バカだ〜バカが居る〜♪あはははは。引っかかってやんの〜☆」
俺を嘲笑う悪魔の様な声は木陰から聞こえた。
336勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/13(日) 02:39:43 ID:w34k53wN
「ばかちーの言う通り、ここに張ってて正解だったね。
まさか窓から飛び降りるなんて、あんたの性欲には呆れて物も言えないわ。
おっそろしい奴だ。このエロ犬。変態。」
別の影から、違う声が聞こえる。
「ごめんね。まさかホントに飛び降りてくるとは思なくてさ。今、引き上げてあげるからね。」
…最悪。櫛枝まで居るのか…。俺、オワタ\(^O^)/
そして、櫛枝に引っ張り出された俺は、その場で正座。
別に命じられた訳では無いが、前に立つ3人のオーラに気圧され、なんとなくという奴だ。
3人の説明によると、こういう事らしい。

・この街には夜の顔がある。竜児の事だから、絶対抜け出す筈。
・いやいや、高須君はそんな事しないよ。
・う〜ん。どっちにしても、正面から堂々とは出ないでしょうね。
そうだ、高須君の部屋の下に落とし穴掘ってみよっか。
・お、ばかちーにしてはナイスなアイデア。
・え〜やめなよ2人とも……

で、俺は見事に引っかかった訳である。スマン櫛枝。
てか、3人ともここに居たなら、玄関から堂々と出れたんじゃないか……
それはないと川嶋に見透かされてた訳だが…クソ。川嶋の奴、恐ろしいな。
「まあまあ、タイガーも実乃梨ちゃんも、わかってあげなよ。
高須君も年頃の男の子なんだから、ちょっと遊びたくなるのは当たり前だって。
むしろ、健全な行動なんだよ、これは。ね?」
なんと、川嶋がフォローに回ってくれた。ありがとう川嶋。やっぱりお前はイイ奴だよ。
「竜児も所詮は、下らないタダの男って訳ね。まあ、良いわよ。私は心の広い出来た女だからね。
例え、竜児がどうしようも無い変態だったとしても、これまでと変わらず接してあげるわ。」
感謝しなさいよ。と、大河。ありがたいが、他に言いようがあるだろ……
この場合、こっちに非があるので、黙っておくが。
337勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/13(日) 02:40:06 ID:w34k53wN
「私は女だけど、そういう男の人の気持ちもわからなくは無いんだよ。
浪漫って奴だよね?ただ、高須君にはそういうの似合わないって私が勝手に思ってただけ。何か、ごめんね。引き留めちゃってさ。
高須君が行きたいなら、行っても良いよ?大河は私が説得するからさ。」
うう……。櫛枝のマジで申し訳無さそうな表情に、罪悪感で胸がいっぱいになる。
………。俺は正座のまま動けない。空気も、心なしか重く感じる。にっちもさっちもいかなくなってしまった。
そんな時、また川嶋が助け舟を出してくれた。
「ねぇ。高須君が行こうとしてるのって、パフパフ屋でしょ?
行くかどうかは高須君の自由だけど、あたしはオススメしないな。
だって、パフパフ娘なんて、どうせ大した女じゃないよ。絶対。若作りしたおばさんが関の山ね。
それよりも、あたしたちと飲みに行こうよ。こんなに可愛い女の子を3人も侍らせてお酒飲むのも、浪漫あるんじゃない?」
確かに。非常に魅力的な提案である。
「お、良いじゃん。行こう。行こう。皆で行こう。」
「私は夜食食べるだけだからね。ちょっとでも私の身体に触れたら殺す。」
2人とも賛成の様だ。なら、俺も乗らない手は無い。
「わかった。皆で飲みに行こう。」
俺は、ようやく正座から解き放たれ、皆と一緒に酒場を目指した。
道すがら、川嶋に助けてくれてありがとう。と言おうとしたら先手を打たれ、
助けてあげたんだから、支払いは高須君の奢りね☆
と、耳打ちされた。全く、礼くらい言わせろよな。それが本心って訳でも無いだろうに。

「かんぱ〜い」×4
俺たちがやってきた酒場の真ん中にはステージがあって、そこでは踊り子たちが、この街の名物ベリーダンスを踊っていた。
なるべく、ステージを見ない様にする。櫛枝の手前、硬派を気取りたいのだ。もう手遅れな感は否め無いが……
皆で談笑しながらの酒は楽しい(大河は一滴も飲んでないが。)
そして、その時俺はふと疑問に思った事を口にした。
「なあ。俺たち確か未成年だよな?酒なんか飲んで良いのか?」
「え?何でダメなの?」
川嶋が、不思議そうな顔をする。
「何でってそりゃ…法律で禁止されてるじゃねぇか。」
338名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 02:40:29 ID:oERt8Xcc
C
339勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/13(日) 02:41:35 ID:w34k53wN
今度は3人が不思議そうな顔をした。
「法律って…どこの法律よ。聞いた事無いよ?あたしは。」
何?どこの法律かって、そりゃお前……
あ、夢だ。俺の夢の話だった。
「何それ?もしかして、高須君もう酔ってんの?」
…かもな。良く見る夢で、ニホンって国なんだが……
すると、櫛枝が妙な事を言いだした。
「え!?ニホン?その国の夢なら私も見た事ある。」
なんだって?
「その夢には、高須君も大河もあーみんも居てさ。」
へぇ。奇遇なもんだ。俺の夢にも皆出てくるんだ。確か…
「あたしたちは、コウコウセイで、くらすめーと…とか言わないでよ?」
そうそう。てか何で知ってるんだ?川嶋。俺の夢の話だぞ?
「何それこわい。私も似た様な夢見た事ある。夢では私と竜児が隣同士に住んでて…それで……」
!?なんだって?大河、お前も?
「ヤダ。4人揃って、おんなじ夢見ちゃってんの?気味悪い……」
確かに。川嶋の言う通り、おかしな話だ。
いつかの戦闘で掛けられたラリホーかマヌーサが変な風に作用したとかか?
「良いじゃん。皆、揃って同じ夢をみた事があるなんて、なんだか運命的じゃない?
私たちは出会うべくして出会った最高の仲間なのかもね。」
そうかもな。櫛枝の言う通り、俺たちには何か運命的なものがあるのかもしれない。
願わくば、その運命が俺と櫛枝の個人的なモノだと最高なんだが。
「運命的な出会いを祝してかんぱ〜い♪
ほらほら、大河も飲んじゃいなよ。お酒、美味しいよ?」
いや、待て。待てよ。何か変だぞ?
そうだ。確か、俺は魔王を討つべく異界から召還された悪魔では無かったか?
俺は異界の人間の筈である。だが、俺には、この世界で生まれた記憶がある。
俺はアリアハンの酒場を女手一つで切り盛りする女将の一人息子な筈だが……
アリアハンに居る母の名は泰子。源氏名はミラノ=ルイーダ
しかし、アリアハンの酒場でコイツらを仲間にした時、女将は静代では無かったか?
泰子がお好み焼き屋に転勤になった話など、俺は知らない。
何故だ?記憶の辻褄が合わない。おかしい…何かが……
340勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/13(日) 02:41:57 ID:w34k53wN
その時、大河が突然飛びかかってきた。
「りゅ〜うじぃ〜〜〜ゴロニャン♪ゴロニャン♪」
な、何事!?大河の顔を見る。真っ赤。こいつ酔ってんのか?
さっき櫛枝に勧められてちょっと飲んだだけだろ?どんだけ弱いんだよ。
酔った大河は、猫が飼い主にそうするみたいにスリスリと頬と頬とを擦り付ける。
そして−ガブッ!!残念ながら、その日の俺の記憶はそこで途切れている。

−22日目−

俺は今、アリアハンに居る。
起きてすぐ(と言っても昼過ぎだが)キメラの翼で飛んで来た。
他のメンバーには今日はオフだと告げてある。どの道、大河は酷い2日酔いらしく冒険は無理だろうしな。
そして、その足で実家である酒場の扉を潜る。
「あ、ごめんなさ〜い。まだ準備中なのぉ〜。って、あれぇ?竜ちゃんだぁ〜」
泰子が居た。良かった。ほっと胸をなで下ろす。
「どうしたのぉ?あ、もしかしてぇ〜やっちゃんに会いに来てくれたの?
ふふ。甘えんぼさんだね。竜ちゃんは。やっちゃんも竜ちゃんに会いたかったよ。」
「おう。久しぶりだもんな。元気だったか?」
その後、冒険の話などして、俺は泰子に静代について訪ねてみたが「え?そんな人、やっちゃん知らないよぉ〜」との事。
「竜ちゃん、お酒くさ〜い。そういう時はお顔洗ったらスッキリするよ〜」と、酔っ払い扱いされてしまった。
念の為、王様にも旅の報告ついでに悪魔について訪ねてみたが「なに、悪魔とな?わはは。寝ぼけおるな。」と言われてしまった。
何故だ?何故俺には2つの異なる記憶がある?これはどういう事だ?
水でも飲んで落ち着こう。そう思って、井戸へ向かった。
すると、井戸のそばに女が1人立っていた。静代だ。
341勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/13(日) 02:43:28 ID:w34k53wN
「あら。竜児君じゃない。そろそろ来る頃だと思ってたわ。」
会うなり、静代はそう言った。
「何者なんだ…あんた。どうして、泰子が転勤なんて嘘をついてまで、女将のふりをした?」
俺は、警戒しつつ、静代に問うた。なんせ、相手は正体不明の謎の女。
いきなり襲われでもしたら事だ。ただでさえ、昨日の酒が残ってて不利だと言うのに。
「ふふ。私が何者かは秘密。女将のふりをしたのには理由があるわ。」
「何?」
「竜児君の元へ逢坂さん、櫛枝さん、川嶋さんを導く為よ。と、言えば解るかしら?」
わかるか。そんなもん。
「考えてもみてよ。逢坂さんや櫛枝さん、川嶋さんが、都合良く一堂に会するかのように登場するかしら?
私が、彼女達を異世界から召還したのよ。もっとも、彼女達は気付いてないでしょうね。
皆、自分がこの世界の住人だと疑ってない筈よ。そういう風に記憶を操作したから。
そして、あなたも。ノコノコ一人で私に会いに来てしまったのは良くないわ。」
次の瞬間、カッと何かが光った。強い光の奔流に、意識が流されそうになる。
−これはあなたの望みでもあるの。
強い光の中で、そんな声が聞こえた様な気がした。

はて。俺はこんなトコで何をしてるんだろう?
気が付いたら、井戸のそばに立っていた。夢遊病の恐れがある。
「あら、旅人さん。お水を飲みに来たんじゃないのかしら?」
見知らぬ女の人が、わざわざ井戸から水を汲み、渡してくれた。
「あ、どうも。って、俺はここの生まれですよ?」
女性はニコッと微笑んで
「あら、ごめんなさい。てっきり旅の方かと。」
お?俺もすっかり旅人らしくなったって事かな?
「では、私は用事がありますので、失礼しますね。」
「あ、お水。わざわざ、ありがとうございました。」
ふふ。ごきげんよう。と、女性は会釈をして城の方へと去って行った。さて、俺も家に帰るかな。
342名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 02:43:45 ID:cke63TT+
試演
343勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/13(日) 02:44:16 ID:w34k53wN
家へ帰るなり、泰子がおかしな事を聞く。
「あ、おかえりぃ〜。静代さんって人には会えた?」
誰だ?静代って。泰子の知り合いか?
「変な竜ちゃん。きっと旅で疲れてるんだね。今夜はウチに泊まってくと良いよ。」
宿に置いてきた皆(特に大河)の事が、気になるが、久しぶりにウチに泊まるのも良いかな?
泰子には心配や苦労ばかりかけているし、たまには肩くらい揉んでもバチはあたるまい。
明日の朝一番にキメラの翼でアッサラームに飛んで帰れば大丈夫だろう。
今晩は実家に泊まって、せいぜい親孝行でもする事にした。

ぼうけんのしょ1 りゅうじ

ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。
久しぶりに自分の布団で寝たらエライ事になった。
朝目が覚めたら、なんかベトベトするなと思ったんだよな。
夢精…なんていつ以来だよ。これは絶対、川嶋のせいだ。
あいつが夢に出てきて、その…俺のアレに色々、悪戯しやがったんだ。
一生懸命にアレをしゃぶる川嶋はちょっと…いや、かなり可愛いかったな。
そういえば、一昨日は大河が邪魔しなけりゃ、そういう展開になってたかも知れないんだよな……
川嶋のぱふぱふか…男の浪漫って言うか、もしシてくれたら死んでも良いな。
って、俺は、櫛枝が好きなんじゃ無かったのか!?
にも関わらず、川嶋に若干の興味がある俺ってどうよ?
しかし、この服の染みが全てを物語っている気がする……
口で何を言っても身体は正直だよな、と。

PS.
全然、報告してないけど、パーティーのレベルは着々と上がってます^^
そろそろ、砂漠も越えられるんじゃないかな?次の目的地はイシスだ。
噂によれば、イシスの女王は絶世の美女だとか。楽しみだなぁ〜川嶋よりも美人なんだろうか?まる
344勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/13(日) 02:45:31 ID:w34k53wN
C支援ありがとうございました。
このスレの皆様ならわざわざ説明する必要は無いと思いますが、静代はオリキャラじゃないですよ。
れっきとした、原作キャラです(名前のみ登場したキャラですけどね)
さて、物語もちょっとオリジナル要素を入れてみたんですが、ドラクエの世界での記憶。(竜児なら、ルイーダ(泰子)の息子)が、みのりんだけ考えてません。
誰か、みのりんに良い設定考えてくれないかな〜
ちなみに、大河とあーみんはちゃんと考えてます。
そういう訳ですので次回も良かったらミテネー

>>328
おっしゃる通りでございます。今回は出来るだけ減らしてみたつもりです。ご指摘ありがとうございました。
345名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 02:46:30 ID:cke63TT+
346名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 02:55:10 ID:O9XDMQsA
>>344
GJ
347名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 05:55:43 ID:VLN4dVEO
>>344
GJ
みのりんの記憶は大変でも作者さん自身が考えたほうがいいですよ
348名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 19:43:07 ID:DDOY9K8K
あーみんか奈々子様のまだ〜?
349 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/13(日) 22:16:04 ID:Lt/bjPBO
『まいっちんぐ独身先生』 『みの☆ゴン』

2本投下させて頂きます。
『みの☆ゴン』はしばらくエロシーンがございませんので、代わりとして独身ものを
投下させて頂きます。

先に『まいっちんぐ独身先生』です。2レスです。注意書きは特にございません。

終了後、『みの☆ゴン』を続けて投下させて頂きます。
宜しくお願い申し上げます。
350『まいっちんぐ独身先生』 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/13(日) 22:17:05 ID:Lt/bjPBO


 ……おじゃましま〜す……えっ? 変? ああ、変でしたね。ここ、ホテルでしたものね、
そうですよね、ええ……あ、このドア、オートロックなんだ。ふぅん……あ、先生ね、こうい
う場所、ひさしぶりなんです。あ〜思い出しちゃった。先生始めてホテルに連れて来られた時
ね、お酒飲み過ぎちゃって……、え? どうでもいい?……そう、ですか……ですよ、ね……
わぁ、見てください、結構キレイですよ〜。照明とかも落ち着いていて、お洒落なんですね〜。
ベッドも大きいんだなぁ、へぇ〜……ああっ、ごめんなさいっ。放っておいてしまいましたね。
ごめんなさいねっ……でも、いやがおうにも、エッチな気分……盛り上がっちゃいますよね、
ウフフ……えっと……じゃあ早速なんですけど、個人授業……始めませんか?……ええ、始め
ましょうね……な、なんですか? これ? 脱ぐんですか? いきなり? あ、そう……ブラ
ウスですね。はい、ちょっと待ってね……やだ、肉が食い込ん……あ、なんでもないです……
はい、とりあえずブラウスだけ脱いでみましたよ……はい? ブラも取った方が良かったです
か? あっ、はいはい大丈夫です。すぐです。ちょっと待ってくださいねっ……すぐおっぱい
出しますからねっ……やだー、あまりガン見しないでくださいよ〜……しょっ……と……お、
おっぱい出しましたけど〜……あ、手、ジャマ? 私ったら、なんか癖で……はい……ど、ど
うかしら? 先生のおっぱい。どう?……え? 意外?……それって、あの……褒めてくれた
のかしら……えっと……そうそう、こういうの初めてなんですよね? やだそんな、気にしな
いでくださ〜い。私なんか、女子校だったから、初エッチなんてズーッと年取ってからだった
んです。なつかしいなあ、そうあれは大学に入って……え? どうでもいい? あ、はい……
そうですか……そうですね……とりあえず、その……キス、しますか……しちゃいますか……
ええっ? キスも初めてなんですか? わ、私でよかったのかしら? なんか申し訳ないわ〜
……じゃあ、もしかして……緊張してます、よね?……だ、大丈夫ですっ! せ、先生にまか
せてください……目瞑って下さい……んっ……。

 ……んふぅ……ありがとうございます……え? お礼なんて変ですか? いいんです。気に
しないで下さい。じゃあ次は……もっと舌を入れて、恋人同士のようなキス、してみましょう
ね。いいですか? あ、そう。舌出して下さい。舌ね。うん……濃厚でいやらしい感じで……
いきますよ……んちゅっ……レロレロレロ……ちゅぱっ……んんっ……。

 はああっ……ごちそうさまです……え? また変ですか? 本当、気にしないで下さいね。
じゃあ、ええっと……恋人同士のようなキスですから、先生のからだの触りたい所をおもいっ
きり揉じゃって下さいね。ええそうです。おっぱいでもお尻でもいいんですよ。あんっ!……
んんっ……もっと乱暴に……強く……そう……んあっ! んそう、そうですぅ……じょ、上手
ですよ? はあああっ……そ、そのまま、さっきみたいにいやらしいエッチなキ……キスする
んです……し、してくっ! んんんっ! はっ……はあっ、あんっ……だ、だめでしたか? 
チンチンしこしこしながらキスしたら、ダメでしたか? こう……こんな感じで勃起したチン
チン濡らした指でヌコヌコしたら嫌でしたか? ほら、こんな感じです、ほら、ほらほら……
気持ち良さそうですよ?……あふん。もっとおっぱいモミモミしていいんですよ。おっぱい。
でも、すっごい堅いですねチンチン……逞しいですね……もう服、全部脱いじゃいましょう。
そうしましょう。そうしたいんです……。
351『まいっちんぐ独身先生』 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/13(日) 22:18:32 ID:Lt/bjPBO


 チュ、ルルルル……あ〜ん、キス上手〜。先生とろけそうです……あんっ! そ、そんなに
メチャクチャにおっぱい揉まないで下さいよっ……え? さっきと言っている事違う? おっ
ぱいモミモミしたり、チュウチュウするのはいいんですけど……先生、できたらチンチンしゃ
ぶりたいんです。チンチンの皮をヌコヌコしながら、ヨダレいっぱい出してグチュングチュン
しゃぶりたいんです……だめですか?……え? うわっ!……い、いいんですかぁ? うふっ。
やった!……じゃあ、このチンチンを……クンクン……先生、臭いチンチン好きです……クン
クン……ん……あんっ!……もうっ、乳首キュウウっと摘まないで下さい、ビンビンのチンチ
ンしゃぶらせてくださいってばぁっ……じゃあ、失礼して……ンチュ……先っちょの汁だけ吸
ってみましたよ? あ、早くジュボジュボして欲しかったですか? このピクピクしたチンチ
ンを? わ、わかりました……んっ、行きますよ? んんんっ……おいし〜……クチュ……ん
〜〜〜っ、グチュ、ブキュ……ほふひのはふぁ、んんん〜〜、ジュブッ……ジュブッ……ひん
ひんほっひプぉッ……ジュブッ、ズチュン……んっ……んぱあっ……先生、すっごいデロデロ
にしゃぶりついちゃいました。はあっ、はあっ。ジュる……チュパンッ……素敵……握っ……
ギュッ……硬〜い……ぺろっ……,裏側も……ルルルル……ん〜……ほっ……欲しい〜ん……
あ、あのっあのね? 先生。実はもうグショグショなんです……いけない事ですけど、先生の
ビショビショのアソコにそのピクピクしたおチンチン突っ込んで欲しいのです……え? ああ
っ、もちろん! もちろんです。ヌチョヌチョのアソコに、生で突っ込みたいんですよね? 
わかります。それなら、それで結構です……でもそのかわり……好きっ……とか、愛してるっ
……とか言ってくれませんか? ええ、ええ、嘘でもいいのです。平気です。あと、ゆりって
呼び捨てにしてください……はっ……早くぅ……ここに、このクパァっと広げたアソコに挿入
れて下さい〜……。うんっ……そこ、そこですぅ……挿入れ、挿入れてぇ〜。んっ!

 んあっ、あはぁぁぁっ!! いいんっ! わ、わたしのアソコに、おチンチンがああっ! 
き、気持ちイイですうっ! あんっ、あんっ! いいっ、いいっ、いいですぅっ! 抱いて!
抱いてぇ!はあっ、はあっ、あっはあっん……ん……うんっ好きっ! わたしもっ、すっ、好
きぃぃ! はあっ、ああん! 突いて! 突いて! もっとぉ! あはああっん! 凄っ……
気持ちいいっ! んあっ、あっ、愛してるぅっ! あはっ!う、うれしい〜っ!んんんっ……
んちゅ……キス……もっとぉ……んんんっ! んはああっ! はあっ、はあっ、あっはあっ〜
ん! おっぱい揉んでぇっ! 揉んでくださ〜いっ! あきゃぁん! いいっ! ああっ! 
うんっ、もっと! うんっ! うれしいっ! 好きっ、好きよおおっ! もっと激しくっ!
はあっ! へぇっ、変な、ううんっ、続けてっ! ああんっ、はあッ、来るっ、来ちゃううっ!
I'm coming! Oh yeah! 好き好き好き好き好きぃい! ああん、あんあんあんっ! はあっは
あっ! はんはんはんっ、チュッ、んんんっ、 んはっ! イクっ! 一緒にっ、あはぁっ!
まだっ、うんうん! いやあぁぁ、きてっ、出してぇっ! あんっ、うふっ、うふふ……めち
ゃくちゃに、そうっ! あんっ!いくっ、いくぅっ! 愛してるっ、んふっ、チュ、ちゅルルっ、
ああんっ、イク! イクイクッ! イクイクイクイグぅぅうううっ!!!!!!! あはぁっ!


 ドクッ! ドクンドクン……独……独……



落ち無しです。おしまい。
352 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/13(日) 22:20:06 ID:Lt/bjPBO

以上になります。続いて


『みの☆ゴン』
>>208
からの続きを投下させていただきます。

9レス分(117〜125)です

エロ  今回もありません。本番は、本編ラスト付近になります。
補足  内容、文体が独特で、読みにくいかもしれません。
    ご不快になられましたら、スルーしてください。
    また、前回途中で終わらせてしまったので、ここからお読み頂いきますと、
    ご不明な点が多いと思います。
    エロシーン(妄想シーン)は、本編より独立して投下しております。

宜しくお願い申し上げます。
353みの☆ゴン117 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/13(日) 22:21:31 ID:Lt/bjPBO

 独身でおなじみ恋ケ窪ゆり(29)は疲れ果てたように片膝をついてグラウンドにしゃがみ
込んでいた。その哀愁漂うゆりの背中を、生徒たちは温かい目でただ見守っているのである。
 ゆりは今し方終わった仮装行列でサンタクロース役に扮し、肌色の多い開放感あふれる足
出しヘソ出し・ミニスカサンタ?……姿を全校生徒に披露してしまった。ごく一部の熱狂的
マニアどもは狂喜乱舞の大喝采だったが、ゆりはそんな信者のオベーションを受けつつも、
自分の中の大切に育んできたなにか失った気がして、取り囲む教え子たちのことも忘れ、肩
を震わせ息も絶え絶え、もしかしたら泣いているのかもしれなかった。
そこにそっと歩み寄り、手を貸してやったのは亜美だ。
「先生しっかり、気を確かに。ミニスカサンタ、素敵でしたよ?……先生ってスタイルいい
から、これからももっと身体のラインを出さなくちゃ。武器ですよ、ぶ・き。独身なんだか
ら、ラブもおしゃれももっと貪欲に楽しみましょうよ?」
「か、川嶋さん……」
 体育着姿に戻った天使は、ゆりに抱きしめられる。ありがとう、ありがとう……何度も繰
り返すそのとき、

『──さあ諸君、ラストゲームの時間だ』
 仮装行列の余韻の残る大橋高校のグラウンドに、おっさん臭い、しかし凛と張った女の声
が拡声器を通して響き渡る。グラウンドの中央に現れたのは生徒会メンバー総勢六名。その
中央でハンドスピーカーを抱えて楽しげに呵呵大笑するは全生徒の心の兄貴・頼れる親分こ
と生徒会長、狩野すみれである。

『それではこれよりサプライズ競技『借り物競走』を開催する』
 ほおおっ……と、わざとらしい喚声があがる。すみれはそれをまあまあと、手で抑える。
『あー、ルールは簡単だ。スタートして設置されたネットの下をくぐり抜けたら、白いボッ
 クスの中から1枚紙を引く。その紙に書いてあるお題を持って、ゴールを目指す。得点は
 一着が100点、つまりほとんどのクラスが優勝のチャンスがある!この競技は自由参加
 だ。参加希望クラスは代表者を選び今すぐスタート地点に集合せよ!』
 ときっぱり言い切るや否や、
「いままでの競技はなんだったんだよ!」「お約束過ぎるだろ!」「あほくさっ!」
 歓声よりは、野次の方が大きく響いた。それはブーイングとなり、グラウンド上の生徒会
に向けられる。しかしすみれはあくまで冷静、文句を包容力たっぷりの笑顔で受けとめる。

『私たちのクラスが520点でトップなんだぞ? 510点で追い上げる2ーCが文句言う
 なら分るが、3位のクラスでさえ、たったの460点じゃねえか。それとまだ説明は終わ
 ってねえ、最後まで聞け。この競技に出場して、優勝を逃した全クラスにはペナルティが
 ある。総合優勝したクラスが免除になる共用部分の清掃。さらに毎月町内掃除大会も強制
 参加を交代で担当してもらう。もう一度言うが、この競技は自由参加だからな。出たくな
 いクラスは出なくてもいい』
 じゃあ誰も出ねえよ、しゅーりょー、と観客のボルテージは下がる一方。しかし、
354みの☆ゴン118 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/13(日) 22:22:41 ID:Lt/bjPBO

『おっと、言い忘れるところだった。この競技で優勝した者個人に二つの賞品を進呈する。
 ──まず第一に、スーパーかのう屋の特製ショッピングバッグ。中身はこの私の三年間。
 一年生の四月からの各教科ノート、全定期試験の答案、解答……すべての教科できちん
 と残してあって、そこいらにある参考書以上にミッチリした内容の濃いモノなんだが……
 私は全て暗記しちまって、いらんもんなんだが、捨てちまうのもなんだしな。それと第二
 に……おい、さくら。こっちに来い』

「え? なあに? お姉ちゃん」
 『狩野姉妹』の存在を、校内で知らない者はいない。すみれに呼ばれてグラウンドの中央
にむちむち歩み寄るさくらは、不安げに唇をいじりながら、ほんわかとした優しい空気を振
りまきつつ、すみれの元へたどり着く。ぽえん、というか、とろん、としながらもこの女子
は『あの兄貴』の妹なのだ。お姉ちゃんと呼んじゃった事をすみれにポカッと注意され、大
きな二つのふくらみがぷるんと揺れた。はっきり言って、エロい。
『この競技の後にやるフォークダンスで、うちの妹のパートナーになってもらう権利だ。賞
 品としてどうかと思うが、まあ、予算の関係でな。ちなみにさくらに彼氏はいない』
「ふああ〜んっ!お姉ち……会長〜っ!そんなの優勝した方に失礼だよ〜……ですよ〜……」

 もじもじするさくらは、全男子生徒の注目を浴びる。さくらが湿って肌に貼り付く髪をか
きあげた拍子に、なめらかなミルククリームみたいに無垢なわき腹が覗き、甘いオーラを匂
い立たせていた。
 それまでのブーイングが、じわじわと波紋が広がるように、その温度を変えていく。
「入学以来三年間成績トップ独走の狩野兄貴の、ノート……?」
「満点マークも当たり前の、『あの』生徒会長の全試験の答案? 勉学の、足跡?」
 ざわめきはやがて、熱狂を帯び始める。特に、成績がやばそうな連中やそろそろぎりぎりが
けっぷちの三年生が、こぞって顔を突きあわせて「出るか?」と相談を開始する。天才・狩野
すみれの勉強グッズ、それはあまりに魅力的な景品であった。
 そしてすみれの思惑通り、一部の男子は、
「え、出る奴いんの!? マジ!? ……じゃ、じゃあ、狩野姉妹の妹と、踊っちゃったりするって
 のもマジ?」
「……仲良く、なっちゃったりして……」
「……ありえ……たりして……」
 眉をハの字にしてクネクネしているさくらの姿をチラチラと見上げ始め、
「……決めた! 俺は出る!」「うそ! マジで!?」「おっしゃ!俺も出る、めざせ優勝!」
「あたしも兄貴ノート欲しい!」
 名乗りを上げる奴らが出始める。盛り上がりを見せる生徒たちを、すみれはニヤリとほくそ
笑み、

『おら、心が決まった奴らは全員、グラウンドのトラックに集合───────っっっ!』
 という号令に、うぉーいっ! と大多数の野太い声と、女子の甲高い歓声も混じるのだった。

 ──そしてぞろぞろと移動を始める奴らの中に、北村の姿もあった。

 北村は別に、兄貴ノートなんか必要なかった。さくらとのダンスだって、別にどうでもよか
ったのだ。しかし、
「よし!」
気合を入れ、北村はアップを始める。その眼差しは、大河に告白された時。その答えを保留し、
決心した時の真摯なもの……それであった。この想いに決着をつける、その最大のチャンス。

つまりそういう事だ。

***
355みの☆ゴン119 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/13(日) 22:23:52 ID:Lt/bjPBO

「位置について! ──用意っ!」
 ──パンッ! とピストルが弾けた。結局ほぼ全部のクラスが出場し、スタートラインでは
ルール無用の悪党どもが後ろからシャツを引っ張ったり、浮いた足を払ったり、土を掴んで目
を狙ってブチまけたり、醜い争いが火花を散らす。その混乱の中を、全力疾走でトップで抜け
出すのは北村祐作。誰よりも早くネットの前に到着、腹這いになり匍匐前進でズイズイ進んで
いく。

 そんな北村の奮闘を一顧だにせず、グラウンドから生徒会席に戻ったすみれは、折りイスに
ドカッと腰を下ろし、騎馬戦の傷も痛々しい生徒会庶務・富家幸太に質問を浴びせる。
「おい幸太。借り物競走のお題を作るのは、てめえの庶務として一発目の大仕事だったわけだ
 が……いったい何てお題書いたんだ?」
 幸太はポケットの中をまさぐり、差し出された生暖かい薄っぺらな紙切れを取り出した。
「そんなこと言われるんだろうなと思ってリストにしてあります。え〜っと……はいこれ」
 すみれはそれを引っこ抜くように受け取り読み上げる。
「えー、なになに?……自転車に轢かれて川にダイブした事がある人……うむ……入試前日に
 車に轢かれた事がある人……ほお……入学式前日に盲腸になった事がある人……人……人……
 幸太てめえ! 『借り物レース』っだっつーのに、『人』かよ! てか、これ全部、てめえ
 の事じゃねえか、このバカタレが!」
 スパーンと幸太の傷あとを豪快に平手で引っ叩き、生徒会席周辺に悲鳴が轟く。
「痛ったぁ! 会長っ、ヒドい! 『物』もありますって、よく見て下さいよ。下です、下!」
 涙目の幸太の説明に、疑わしい目を送り再び一覧表に目を落とすと、グラウンドの選手たち
から悲痛な叫び声が飛び交う。

「すいませーん!誰かクロエのパディントンバッグ〜! 持ってたら貸してくれ〜」
「どなたか、おしりかじり虫のCD持ってませんか〜!!」
「タスポ持ってる生徒いますか〜……くっそ〜! いる訳ねえっ!」

「……おい幸太。てめえふざけてるのか? こんなの誰もゴール出来ねえじゃねえか! 例え
 ば革靴とか、携帯電話とかっ! もっと普通のお題ねえのかよっ!」
 ドン! と、テーブルにすみれの拳が振り下ろされ、その迫力にビビる幸太だが、
「ありきたりのお題にするなと言ったのは、会長じゃないですか〜。 そんな事言うなら俺に
 やらせないでくださいよ!」
「おっ、てめえ口答えしやがって……しかしだな、物事には程度ってもんが……お?……
 なんだ北村、真面目くさったツラしやがって。やばいことでも企んでんのか?」

 幸太の胸ぐらを掴んでいるすみれの目の前に、北村が現れる。息を切らし、肩が上下に揺れ、
何かを決意したような、真剣な眼差しをすみれにぶつけている。
「会長……俺と一緒にゴールへ行って下さい。俺のお題は……俺は、」
 ただでさえ真面目な外面の北村が紡ぐその緊迫した言葉尻に、周囲の空気はシリアスさを一
層増していく。対するすみれは苦虫を噛み潰したような顔になり、幸太の渡したリストは、す
みれの拳の中で、パチンコ球ほどに小さく丸め込まれ、堅くなる。──そして、

「北村くん……」
 それを敏感に察知したすみれの背後にいる小さな影がふるえた。理解した。そういう顔をした。
見たく無い。そんな感じに大河は突然席を立つのだった。

***
356みの☆ゴン120 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/13(日) 22:25:12 ID:Lt/bjPBO

「大河?」
 2−Cの応援席にいる実乃梨は、ふと眺めた近くの生徒会席で、逃げ出すように後退りする
大河を見つけてしまう。その動きを見て、おかしい……大河に何かが起きている……そう感知
する。実乃梨の表情が険しくなり、そして、気付けば身体は動き出していた。

「どうした実乃梨? おうっ待てっ! どこ行くんだよ!」
 突然走り出す実乃梨の後を追う竜児。速い。突き放される。置いていかれる。しかし数メー
トル先にいた大河に抱きついた。その実乃梨が抱きしめる大河の白い肌は、だんだん蒼みを帯
びていく。

「お題は……俺がゴールラインへ連れていくお題は、『好きな人』です。俺は会長が……あな
 たの事がっ、好きだっ!」
 北村の声に竜児の心臓が凍り付く。同時に生徒会席にいた周りの生徒たちがササッと引き、
ぽっかり空間が出来る。騒がしい会場で、この一帯だけに静寂が訪れる。震える北村の真っ赤
な唇は続きの言葉を吐いた。

「……俺のせいで迷わせている大切な人がいて。ただ俺もまだブスブスした想いで迷っていて。
 でもやっぱり、どうしても、伝えたかった! 訊きたいんです! 会長の気持ちを……望み
 はゼロですか? 俺と会長の間には、特別な縁などないのでしょうか?」
 竜児も含め、ギリギリ会話が聞き取れる範囲内に大河を抱く実乃梨の姿がある。さらに声が
届く範囲の生徒たちは揃って、ぽかんと口半開きになっている。唐突な告白についていけてい
る奴は誰もいない。そして次第に辺りがざわつき始めた。
「告白……?」「告白、だよなあ、今の!」「なにどういうこと? 兄貴に告白? 熱っ!」
 北村の耳の先まで血の色に染まる。すみれの顔色は、しかし変わらない。いつもどおりすみ
れは立ち上がり、腕を組み、閉じていた眼をゆっくり開く。と同時に口もゆっくり開くのだ。

「北村。生徒会の記録アルバムに書いた『将来の夢』。前会長が何書いたか。憶えているか?」
 想定外の質問にたじろぐ北村。混乱しつつも、質問に答える。
「はい。……『世界一早い馬と走る』……です。しかし会長っ!」
 叫び続けようとする北村の言葉を遮るようにすみれはゆるやかな口調で語り出す。

「私はな、前会長の事が好きだった。二年間想い続けてた。ただな、去年の夏休みにその夢を
 聞いて、私とは違う大きな夢を知って……きっぱり諦めようって決意した。そして誰よりも
 まっすぐに心の底から会長を応援しよう! と決めたんだ。そして……」

 すみれは一息つく。北村のレンズの奥は見えない。
「私も……運命は決まった。動き出した。アメリカの宇宙工学の教授に直々に大学に招かれて、
 夢物語ではなしに、本当に、シャトル開発の勉強を始めるんだ。エンジニアとして、人類が
 いまだ到達していない世界を見てみたいんだ……だから北村、てめえとは違うんだ。ゴール
 ラインが。私が走るトラック上に、交わる事はあっても、共に走る事はねえ。違うんだよ。
 それは好きとか嫌いとか、そういうレベルの話じゃねえんだ……だいたいてめえでも分って
 いるんだろう? 一緒に誰とゴールへ向うべきかを。そのためにこんな面倒くせえことして
 んだろ? 手を差し伸べる相手は、私ではない。その『困らしてる大切な人』なんだろうが。
 ……おい北村。その紙切れを貸せ」

 瞬間、北村は強張る。眼鏡越しの目が揺れる。かまわずすみれは紙切れを奪い取る。
「くっ、やっぱりな。この紙白紙じゃねえか……幸太のリストにそんなお題書いてねえからな。
 本来なら失格だが……ほらよっ」

 渡されたその紙切れに書かれた文字を見て、北村はすみれに深く頭を下げる。

「……心から、あなたが好きでした! 出会えてよかった! 好きになれて……恋をして、本
 当によかった! 後悔は、ないです! ……ありがとうございました!」
「うるせえこの大馬鹿野郎! 紙に書いている奴取っ捕まえて、とっととゴールしやがれっ!」
 ドスの利いた低い声で放たれた、すみれの言葉には少しの淀みもない。竜児の耳にはちゃん
と聞こえている。きっと北村にも通じている。そして主役を入れ替えるようにすみれは踵を返し、
実乃梨と大河との距離を詰める。が、何もせず、その横を通り過ぎる。実乃梨の肩にポンッと
手を置いたくらいだ。
357みの☆ゴン121 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/13(日) 22:27:31 ID:Lt/bjPBO

 すると、大河の視界には北村の姿しか映らなくなる。北村は全てを目撃した大河に語りかけ
る。許しを乞う、子供のように。

「なあ、逢坂。俺は逢坂をゴールへ誘う権利はあるのだろうか」
 驚いたように、大河は目を見開き、大河は、想い人の顔を静かに見つめた。揺れる。滲む。
震える……北村はちょっと笑い、実乃梨に抱きついたままの大河の前に接近する。
「それは……そういうのは北村くんが、決めるんでしょ」
ぎくしゃくと動きを固くする大河の前に、北村はその手を迷わずまっすぐ差し出した。それ
を指差して、誰かが驚いたように声を上げる。おもしろがってヒュー! と口笛を鳴らす奴
もいる。だけど北村はそんなことではビクともしない。
「逢坂が決めるんだよ。イエスか、ノーか。……逢坂大河。俺と、走ってくれますか?」
 大河は下を向いたまま、実乃梨から離れ、北村に近づき、その手をギュッと握るのだった。
「……イエス」
 想い人の顔を見上げる二つの眼球は、銀色の光を帯びて、わずかに揺れ、彼の全てを受け
とめる決心の色を、強さを浮かび出していた。竜児は思う。大河は北村が好きだ。憧れの時
が過ぎ、意識過剰の時が過ぎ、誰も知らない混乱があって……他の女を想っていたとしても、
気持ちが消えることなどないのだろう。
 大河は笑った。顔を見合せた。北村は頷いた。そのまま、走り出す。

「よし逢坂! 行こう、一緒に!ゴールへ!」

 ふたりは手を繋いだまま、ゴールラインへ走っていく。相変わらず混乱しているグラウン
ドを突き抜け、そして誰よりも最初にゴールラインを駆け抜けたのだ。繋いだ手の間にある
紙切れはクシャクシャになっている。それにはくっきりした文字で、『手乗りタイガー』と
書いてあるのだ。

***

「やったー! やったー! やったよー! 俺はやった俺はやった俺はやったよー!」
 実行委員、春田は歓喜の小躍りを続けていた。よほど嬉しかったのだろう、最後のサプライ
ズ競技『借り物競走』を2−Cは制し、ついに総合優勝を果たしたのだ。
 レースの興奮を引きずったまま、春田の両手は誇らしげに天に掲げられていた。ジ
ャージ姿の亜美も春田の傍らでクネクネとぶりっこ鉄仮面装着、
「や〜ん、もう、ほんっとにうれしいよぉ〜! やだな、なんか涙が出ちゃいそう……」
 嘘泣きオプションも装備。2−Cの面々は、口々に「亜美
ちゃんお疲れさま〜!」「亜美ちゃん泣かないで〜!」「あたしも感動してきちゃったよ〜!」
「みんな頑張ったよね〜!」「春田も春田のくせによく頑張った!」──根っから揃って人が
いいのだ。女子の中にはチラホラと本当に涙を浮かべている者もいる。そんな感動の坩堝のど
真ん中、春田は、したり顔で頷き、
「それで俺、思ったんだけどさ。今回のMVPって……ゆりちゃんじゃないかな」
「……えっ?」
一斉に振り返る生徒たちの目はなるほど、と頷き交わしながらキラキラと純粋に輝き、
「……そういえばそうだよな……」
「そもそもゆりちゃんがThe nightmare before Christmasを提案してくれたんだし」
「みんな頑張ったけど、やっぱりゆりちゃんのミニスカサンタも強力だったし」
「同感。MVPはゆりちゃんだ!」
「ゆりちゃん、ありがとう! ……ゆりちゃん、どうしたの?」
 不意の注目を浴びて、ゆり(29)は苦悶の表情でフラフラと足元を怪しくした。
「ん、ちょ、ちょっとね……自分の器の小ささが嫌になっただけだよ……いやだね、大人っ
 て、本当に……あなたたちみたいにハイティーンじゃないし……私……ハイトゥエンティー
 だし もうすぐドモホルンリンクルッ! 注文できちゃうしっ! うわ〜〜〜んっ」
 ゆり(30ー1)の目に、ぶわっと涙が溢れる。あらゆる感情が入り混じった、それは一番ダシ
並に濃厚な涙だ。
 なんて麗しい……光景なのだろう──ゆりを囲んで2−Cの生徒たちは感動の拍手喝采。春
田はゆりの肩を抱き、さりげなく亜美の肩も抱く。
「……あ? 音楽だ」
358みの☆ゴン122 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/13(日) 22:28:47 ID:Lt/bjPBO

 スピーカーから流れ始めたのは、ちょっと伸びたテープの、オクラホマミキサー。体育祭の
締め。フォークダンスだ。
「ねえ、竜児くん!踊ろーよっ!」
「おおうっ! いいけどよ……誰も踊ってねえぞ?」
 いーの、いーのっ!っと、誰も踊ろうとしないグラウンドへ実乃梨は竜児をいざなう。優勝
の興奮覚めやらぬ2−Cの面々は、竜児と実乃梨の無茶苦茶だけど陽気で楽しげなフォークダ
ンスに手拍子を打ち始めた。やがて曲は最初に戻り、グラウンドに流れ続けるが、誰も見てい
るだけで踊ろうとする奴などいない。生徒たちはみんな地面に座ったり、立ったまま誰かと向
きあったりしている。そしてグラウンドをふたりじめしている姿を儚げにひとり息をする大河
の前には、いつしか眼鏡の男が歩み寄っていた。

「逢坂。俺たちも踊ろう」
「ふふ。北村くん……ダンスって、どうやるんだろう?」
「手を取りあって、見つめあって、飽きるまで回り続ければいいんだ。きっと」
 北村にエスコートされ、大河は優雅に長い髪をを揺らし、クルクルと踊り始めるのである。

 すると2組のダンスに刺激され、またはうらやましくなったのか、ペアがあちらこちらで出
来あがりはじめる。のだが、

「高っっちゃぁ〜んっ! つれないな〜、みんなで楽しもうぜ〜☆なんたって俺たち最強クラ
 スだっし〜☆」
「おう?」
「うーわあびっくりしたあー? なにをするだー!」
 春田は亜美とゆりを引き連れ、竜児と実乃梨に合流。五人で強制的に輪を作らされる。続い
てキヨミズダイブ級の勇気を振り絞って、麻耶を誘った能登も輪に加わる。そこに、
「はっはっは! せっかくの体育祭のラストイベント、みんなで踊ろうじゃないか!」
 いつの間にか近くにいた北村と大河の手は、それぞれ竜児と実乃梨を捕まえ、北村がさらに
輪を広げていく。
「うひゃひゃ、はずかしいよー! こんなの踊りと違うじゃーん!」
 実乃梨はしかし楽しげに大笑い、 一方竜児は大河の耳元に呪詛にも似た言葉を吹き込む。
「せ、せ、せっかくいい雰囲気だったのに! 邪魔しやがって!」
「やあねぇ、楽しい思い出作りじゃない。……っていうか、私だって、せっかくせっかくせっ
 かく、北村くんと二人で踊れるって思ったのにぃぃぃぃぃ〜っ」
「フォーゥ、美人は手まで柔らかくてあらせられるぜぇ〜?」
「いやあー! 実乃梨ちゃん、指の股責めてくる〜!」
 輪の構成員に無理やりさせられた亜美は、しゃがんでしまおうとしても引き上げられ、
「諦めろ諦めろ、俺たち幼馴染じゃないか。大人しくお友達ごっこするべきだぞ」
「ぎゃあ〜! 春田くん、なんか手が湿ってるぅぅ〜!」
「ぎゃあ、って亜美たん……体質なんだよ〜」
 そうして最強クラスの面々は、グラウンドの中央で、くるくると回りだす。大笑いして、大
騒ぎして、怒って、怒鳴って、やっぱり笑って。周りの奴らにも「ガキみてえ」と笑われなが
らも。
359みの☆ゴン123 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/13(日) 22:30:08 ID:Lt/bjPBO

「……」
 すみれは生徒会席からその様子を眺めていた。さらにそんなすみれを観察していた幸太は、
なんとなく話しかけるのだった。

「体育祭大成功ですね、会長。やっぱり俺のおかげじゃないですかね?」
「どの口がそんな生意気な事いってやがるんだ。この口か? あ?」
 幸太なりに気を使ったにも関わらず不幸にも、すみれの逆鱗に触れてしまい、ほっぺたを
吊り上げられてしまう幸太だが、そこに、
「おっ、お姉ちゃん……あたし、」
 狩野姉妹の妹、さくらが申し訳なさそうに薄桃色にプルプルしながら近寄って来た。
「優勝した北村先輩が、逢坂先輩たちと踊っちゃって〜……あたしどうしよ〜」
 すみれの視線は、さくらと幸太の間を二往復し、
「おい幸太。すまんがウチの妹の相手してやってくれないか」
 そう、不幸な後輩に恩赦をかけるのだった。
「え?俺でいいんすか?」
「ああ。行ってこい」
 涼しげな瞳をそっと細め、すみれは方頬だけで男っぽく微笑んでみせる。そうして、幸太
とさくらは、グラウンドに向かって走っていく。走る途中に見事に幸太はずっこけるのだが。

「ああっ、いいっ、いいよ狩野さーん!」
「んああ、富家くぅん、ふあああーっ!」
「……はうっ!」
「……ふぁっ!」
 無事に一年生二人はうっとりと身悶え、踊り始めた。 

 そして──。

 そうやって、馬鹿騒ぎの体育祭は、幕を閉じる。

 すみれは深く、風を吸う。
 その風は、来たるべき夏の匂いがしたのだった。



***
360みの☆ゴン124 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/13(日) 22:31:23 ID:Lt/bjPBO

 数日後、すみれはボーイング747のシートに沈んでいた。その巨大な飛行機は33000フィー
ト……メートルに直すと、約10キロメートルの上空を時速900キロの速度でミネソタ州、セン
トポール空港を目指し順調にフライトを続けている。
 その飛行航路の遥か上……100キロメートル先まで続く大気圏を突破し、宇宙へ飛び立つ夢
を馳せ、すみれは機上の人となっているであった。今回の訪米は留学先であるマサチューセッ
ツ工科大学の教授との打ち合わせと、その下準備が主な目的である。
 成田国際空港から飛び立ち4時間弱、丁度日付変更線を超えカレンダーが1日戻った所だっ
た。すみれの目的地であるボストンへは日本から直行便はなく、セントポール空港をハブ空港
として経由し、米国内線にトランスファーしなくてはならない。そのハブ空港まででも、あと
5時間。結構長い空の旅だ。
 前の座席に埋め込まれたディスプレイから目をそらし、すみれは独り言を漏らす。
「ふう……まだ時間あるな……おっ」
 と、足元のシートポケットから英語まみれの機内誌を取り出した。パラパラ捲っていると、
機内のオーディオプログラムに『J-POP』という単語を見つける。わずか3日間の予定とはい
え、しばらくサヨナラする母国語に触れたい。そう、思ったのかもしれない。すみれはシート
ポケットからイヤフォンを取りだし、長い黒髪をかき上げ、装着するのだった。
 流れてきた鼓膜を揺らす音楽は、すみれが聞いたことない昭和の歌謡曲。イントロが始まる。

 ♪それは九月だった。
 あやしい季節だった。

 昔見たシネマのように
 恋に人生賭けてみようか?

「なんだこれは……『すみれ September Love』?……ふっ、ずいぶん皮肉だな」
 すみれといったら春だろうに、なぜ九月? 大胆な歌詞だが、すみれの花言葉は、忍ぶ恋……
すみれは、苦笑する、が。──まあ、歌謡曲だし、いちいち考察するのも無粋なのかも知れな
い。と考えを改め、すみれは機内誌をシートポケットに戻し少し眠ることにした。ただ、イヤ
フォンからその曲が流れ続けている。

 September……九月。
 それはすみれが留学をはじめる大学の新学期である。

***

 セントポール空港に降り立つすみれは、入国審査を終え、マサチューセッツ工科大学のある、
ボストン・ローガン空港行きの国内線のに乗り継ぐため、到着ロビーから出た。6月上旬とい
うのは、アメリカ国内では卒業式シーズン。帰省する学生、パーティに呼ばれた家族、学校関
係者らでロビーは多くの外国人で混雑していた。インフォメーションスクリーンを見上げると、
ボストン行きの便にはDelayedの文字が表示されている。出発までまだ2時間以上あり、すみ
れは空港近くのショッピングモールにでも暇つぶしに寄って見ようかと思い、人垣を掻き分け
ターミナルの中央に出たそのときだった。

「うっ!」
 すみれはカメラのフラッシュをバシバシ浴びてしまう。瞳に残像が焼き付き、しばらく何も
見えなくなってしまったのだった。一部報道で、現役の公立高校生がマサチューセッツ工科大
学に正規生として入学する見通しであるという情報が流れていたが、今回は非公開での訪米で
あり、取材があるとも聞いていなかった。くそっ……なんなんだよ……不快指数が急上昇した
すみれのゆっくりと開かれていく視界の中央。そこには見覚えのある大口を開けて笑う、なん
だか大柄でラグビーでもやっていそうに健康的な……悪く言えば暑苦しい風貌をしている2メ
ートルを超える大男が現れたのだ。
361みの☆ゴン125 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/13(日) 22:33:18 ID:Lt/bjPBO

「だぁーはっはっはっはっは! 本当に来やがった! すみれっ! 久しぶりだな!」
 フラッシュの主はすみれの前の生徒会長であった。趣味のカメラを連写しながらすみれに駆
け寄ってくる。
「か、会長! どうしてここにっ! 貴方は北海道大学の獣医学部にいらっしゃるんじゃない
 ですか? なんでミネソタなんかにっ、いっ……」
 余りの驚きですみれはあまり舌が回らない。元会長の男は、大橋駅で見送ってから3ヶ月ぶ
りだというのに、まるで昨日会ったように、気軽に喋り出すのだった。
「会長……か。そんな呼ばれ方も久しぶりだな。俺もボストンに行くんだよ。てめえの学校の
 近……くねえけど、マサチューセッツ大学。そこのアマースト校は、ウチの大学の国際交流
 協定校なんだ。……北大の初代教頭くらい知ってんだろ?」
 すみれはウィリアム・スミス・クラークの名と、この男と話すと首が痛くなる事
を思い出す。
「ええ。『Boys, be ambitious』のクラーク博士……なるほど、そういえばクラーク博士は、
 アマースト校の元学長でしたね。そうですか……会長もボストンに行かれるんですか」
 すみれの表情は、だんだん驚きの色から、ほんのり桜色に変わっていた。
「なんだ不服か? しかしすみれ、元気そうでなによりだ。相変わらずバカみてぇに頭いい
 らしいじゃねえか。ふむ……ちっとはキレイになった、かな。恋でもしたか?」
 50cm上にあった顔を息のかかる位置までかがみ、元会長はすみれが溶けるほどジロジロ
視線を向ける。
「ばっ……ばかな事いわないでください会長……私にそんなヒマありませんから」
 完全無欠の生徒会長すみれの頬は桜色から真っ赤になり乙女化。体温が上がるのを自覚して
いた。ここが外国でよかったと心底思う。しかし、
「ぬぁーっはっはっはっは! てめえに限って、んなわけねえかっ! あー笑った笑った!
 なあ、すみれ。まだ時間あるし、そこのカフェで話そうぜ。そうそう、レッドソックスの試
 合見たくねえか? 明日ファンウェイパークいくぞ。これは強制だからな」
そう言い切り元会長はサムズアップ。大いに破顔し、白い歯を輝かせるのだった。かわらない
そのテキトー振りに、すみれはただ呆れたように開口するが、
「あいかわらず……ですね、会長。分りました、お伴します」
 すみれの瞳は憂いを帯び、パッと、ひかえめなすみれの花びらような笑顔に変わっていく。
ぽんっと軽く触れられたすみれの髪型はあの頃と違い、もうおさげではないが、すみれはまだ
18歳。ただの女の子なのである。

 ──そしてふたりはカフェに入り、フランスの凱旋門賞を日本のサラブレッドで優勝するや
ら、北大のOB、日本人で初めてシャトルに乗った毛利衛氏の話やら……それぞれ想い描く未
来について、話に花を咲かせていく……。ふと、すみれの頭の片隅に、さっきの曲が流れた。

 You-You-You夢が花咲く
 すみれSeptember Love
 踊ろうSeptember Dancing
 ゆらゆらゆられてライライライ……
362 ◆9VH6xuHQDo :2009/12/13(日) 22:34:51 ID:Lt/bjPBO

以上になります。
お読み頂いた方、有り難うございました。
まとめ補完庫の方、大変ご苦労様です。いつも有り難うございます。
またこの時間帯をお借りするかもしれません。
失礼致します。
363名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 22:46:45 ID:iKCBTpS2
おお、前会長の前にも会長はいるんだよな。
これは盲点だ。

図体のでかい,おおざっぱな元会長かこいいな。
364名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 23:29:13 ID:ZTqarX1K
>>362
ん?前会長設定はオリジナルだよな?
すんなり入ってたから普通に受け入れられた
GJ!
365名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 23:52:19 ID:LQrfJsQP
オリジナルじゃないぞ
366名無しさん@ピンキー:2009/12/14(月) 00:06:20 ID:xpHd1NrB
スピンオフで写真登場してたような
すみれは気を持っていた描写があったと思う
367名無しさん@ピンキー:2009/12/14(月) 00:11:54 ID:eVH8JcSp
>>365-366
まじか?無知スマソww
368勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/14(月) 23:23:16 ID:kHrYO2tE
今から、続きを投下します。
内容はちょっと多目の13レスになります。
良かったら見てあげて下さい。
369勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/14(月) 23:26:47 ID:kHrYO2tE
−22日目−

「朝帰りなんて良い度胸してるじゃない。竜児。あんた何様?」
遅かったか。大河が起きる前に戻ればセーフだと思ったのに。
見つかったらまた何かチクチク言われるだろうと覚悟してたけど、まさか宿の前で仁王立ちして待ってるとは…
コイツ、もしかして俺の事好きなんじゃねぇの?
「何でこんな早起きなんだよ?いつもは俺が起こしてやってもなかなか起きない癖に。」
「フン。昨日、寝過ぎちゃって勝手に目が覚めちゃったのよ。」
何故かふんぞり返って偉そうに宣言する。別に自慢する事でも無いだろ。
「で、どこ行ってたの?」
言え。正直に。死にたくなければ。と、言わんばかりに大河がズイズイと詰め寄ってくる。
俺としても、別にやましい事がある訳では無いので、正直に話す事にする。
「へぇ。あんたやっちゃんの息子だったんだ。そう言われれば、ちょっと似てるかもね。顔とか。」
意外にも大河は俺の話を信じてくれた。
「似てるか?俺は父親似だと聞いてるぞ。特に目つきとかな。」
「案外、似てるもんよ。顔のベースは…まあ、あれだけどね。」
悪かったな。それにしても、大河と泰子が知り合いとはな。知らなかったよ。
「うん。知り合いって程でも無いよ。やっちゃんはあたしが空腹で倒れてた時にご飯ご馳走してくれて、酒場においてくれたんだ。
そしたら、しばらくしてあんたが来て、私を仲間にして今に至るって訳よ。」
良い人だよね。やっちゃん。
大河はちょっと嬉しそうに呟きながら去って行った。ふぅ…良かった。平穏無事に事が済んで。
それからしばらくして川嶋が降りて来て、その後櫛枝が朝のランニングから戻って来てパーティー全員が揃った。
川嶋が、あれぇ?な〜んかイカ臭いなぁ〜とか言ってドキリとさせてくれた事以外は、普通に皆で朝飯食べて、楽しく卓を囲んだ。
おかしい。ちゃんと綺麗に拭いてきた。匂いなんかする筈は無いんだが……奴はホントに犬なのか?
何はともあれ、さあ、冒険するぜッ!!目指せイシス。
370勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/14(月) 23:27:14 ID:kHrYO2tE
砂漠のかえんムカデやだいおうガマに苦戦しつつも着実にイシスへと近づいていた俺たちに、悪夢の様な敵が立ち塞がった。
じ ご く の は さ み
只でさえ硬い甲殻をスクルトの重ね掛けでさらに硬化させてやがる。しかも、集団で。
奴らの甲殻は今、地獄鋏の重殻という感じだ。間違いなくG級。トラウマその3確定だ。
斬ろうが突こうが殴ろうが、弾かれまくる事山の如し。
さまようよろいの時と違って、戦っているというワクワク感が得られないのか、櫛枝も目を輝かせてはいなかった。
と、言うか心なしかうんざりしている様だ。こりゃ逃げるが勝ちかもな……
俺が、戦略的撤退を提案しようとした時、川嶋がこんな事を言い出した。
「ねぇ、ダイガー。あいつらの胸部にちっこい傷があるの見える?」
ん?確かに良く見れば、4匹とも胸部に小さな×字型の傷が付いてる。
「あそこって、あいつらの急所の位置なの。だから、あそこにダイガーのどくばりを刺す事が出来れば、勝機はあるわ。
ダイガーは急所を刺す事だけに専念して。あたしたちはダイガーの援護。これでいきましょ。」
川嶋の目論見は大当たりだった様で、あれだけ鬼畜だったじごくのはさみたちが嘘の様にあっけなく沈んだ。
「すげぇな川嶋!!これならもう砂漠は楽勝だ。」
もう、イシスに着いたも同然と舞い上がる俺。しかし、川嶋の表情はどこか暗い。
これ見て。と、言わんばかりに川嶋が装備していた聖なるナイフを俺に向けた。
げぇ〜〜〜〜。そりゃ超人風に驚きもしようというもんだ。
「こんなんなっちゃった☆」
川嶋の笑顔もやや引きつり気味。聖なるナイフは刃こぼれ…どころじゃなく、完全に折れ曲がってひしゃげていた。
流石の俺もこのナイフでリンゴを剥けと言われたら、ムリと即答する。
「あいつら硬すぎだよね。何回も斬ってちっちゃな傷付けるのが精一杯だもん。ダイガーが居てくれて良かったね。」
いや、俺としては、その作戦を思いついたお前の方こそ、居てくれて良かった。だが…照れくさいので、口にはしない。
371勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/14(月) 23:28:41 ID:kHrYO2tE
しかし、という事はもう同じ手は使えないのか。俺には急所の位置なんて見抜けないし、櫛枝も多分ムリ。大河は言うに及ばず。
俺らは適当に攻撃してただけだしな。同じ箇所を責め続けて…なんて、やっぱり川嶋は頭が良く回る。
「だね。同じ手は使えない。次、また出てきたらどうする?ふふっ、白旗でも揚げちゃう?」
何でちょっと楽しそうなんだ?実は余裕あるのか?
「全然♪てか、あたしはこれで武器無しだから、どっちにしても戦闘不能だしね。守ってくれるよね?あたしの事。」
そりゃ勿論、望むところだが、本音を言うと、じごくのはさみさんには自重して頂きたい。
てか、聖なるナイフでじごくのはさみの重殻に傷を付けた川嶋って実は凄い兵(つわもの)なんじゃ……
なんて言ったら、多分不機嫌になるだろうから黙っておく事にしよう。

そして、俺たちは何とかイシスに到着する事が出来た。
運の良い事にあれ以降の蟹さんのおかわりは無かった。日頃の善行の賜物だろう。
しかし、かえんムカデやだいおうガマはちょくちょく姿を見せた。
じごくのはさみに比べたらだいぶマシだが、それでもこちらの戦力は実質3人。正直キツかったぜ。
でも、川嶋にはかすり傷一つ負わせちゃいない。頑張った俺。良くやった俺。偉いぞ俺。
だから、そんな俺はご褒美として、今から噂の超絶美人な女王様に謁見に行くのだ。
街の探索もそこそこに、さあ今から女王様に会いに行くぞ〜と言うところで、
「ヤダ。あたし城に入りたくない。」
と、川嶋が駄々をこね出した。理由はわかってる。こいつは 街の闘技場へ行きたいのだ。
最初は一人で行くのも怖がってた癖に今ではすっかりいっぱしのギャンブラーらしく、賭場では妖星のアミと恐れられる存在らしい。
あまり、感心はしないが、トータルで黒字なのだから文句を言えた義理でもない。
「絶対、行かないから。3人で行けば良いじゃん。」
372勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/14(月) 23:29:06 ID:kHrYO2tE
川嶋はテコでも動かないといった感じだ。ハア。仕方ない。3人で行くか。
と、言う訳で、俺たち3人は女王様にご挨拶へ向かった訳であるが……
やばいやばい女王様めっちゃ美人ありえねえ。うわうわマジかよ。何を話したか全然記憶に無いぜ。
しかもしかもしかも、俺にだけ特に話を聞きたいという事で、俺一人女王様の寝室へと通された。
マジで?やばい。やばいよ。何かドキドキしてきた……何を話せば良いんだ?
こんな綺麗な女王様を前にして、舞い上がるなという方がムリである。
「竜児君…だったかしら?本来なら、勇者様とお呼びするのが筋なのでしょうが、
私は女王としてではなく、私個人としてあなたのお話を伺いたいのです。失礼を許して下さいますね?」
「あ、は、はい。勿論です。僕…あ、いや俺としても助かります。」
「ありがとう。私の事は女王様ではなく、アンナと名前で呼んでくれて結構ですよ。それでね、竜児君。私があなたに聞きたいのは……」
女王様。もとい、アンナさんは意外に気さくな口調で話す人だった。
さっきまでは、事務的な女王様口調だったから余計にそう思う。
もっと近寄り難い存在だと思っていたが、結構馴れ馴れしい感じだ。お陰で俺の緊張も少しほぐれた。
そうだ。タイプで言えば川嶋に似てるかも。あいつも綺麗なのに愛嬌がある。
何故、ふと川嶋が頭の中に浮かんだか。それは、アンナさんが川嶋の事を話題に上げたからだ。
「竜児君の仲間はもう一人居るんですってね?その子は今どうしてるの?」
ギクッ。流石に、女王様への挨拶をすっぽかして賭場で遊んでますとは言えない。
「へ?えぇ〜と。旅の疲れが思ったより溜まっていたみたいで……今、宿で休ませてます。
すみません。挨拶に来るのに一人欠けてしまって。」
俺の答えを聞いたアンナさんは、唇をニィと釣り上げ、脅すような口調で言った
「あら?それはホントかしら?
あ、そうそう。この国ではの嘘吐きがもっとも重い罪だとされてるのよ。
いかなる場合も正直者が咎められる事はない。とも、言えるかしらね。」
373勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/14(月) 23:30:41 ID:kHrYO2tE
「真実の口っていう便利なモノがあってね?ふふふん♪」
と、なにやら怖い名称が挙がった段階で俺は誠心誠意、心を込めて謝った。
「すみません。ホントは賭場で遊んでます。申し訳ございません。」
打ち首をも覚悟した瞬間だった。しかし、アンナさんは何故か嬉しげで……
「へぇ〜そうなんだぁ〜ふ〜ん。な〜るほどねぇ。」
と、なにやら満足そうに頷いていた。
「面白いわね、その子。その子の事、もっと私に教えてよ。
竜児君から見たその子を、飾らず隠さず、ありのままに話してくれないかしら?」
俺の首が胴体から離れるのでなければ、何だって自白します。
俺は川嶋という人間について、一枚のオブラートにも包む事なく全てをアンナさんに話した。
あいつの人間性。これまでの事。可愛いところ。厄介なところ。困ったところ。腹立たつところ。好きなところ。全部全部、話し尽くした。
アンナさんはウンウンと頷くだけで、最後までずっと俺が喋り続けてた。最後の最後に、
「竜児君。その子の事よろしくね。ややこしいでしょうけど面倒みてあげて頂戴。」
と、良くわからない事を仰ったのみである。
そんな感じで俺とアンナさんの会合は終わった。
謁見の間で俺の帰りを待っていた大河と櫛枝がそれぞれ、殺気と悲哀に満ちた視線を送りつけてきたが……
首と胴体がくっついている事のしあわせを思えば、どうと言う事もない。(櫛枝の視線にだけは若干、心が痛むが)
さて、川嶋の奴を迎えに行こうか。あのアホは闘技場に居るに違いないんだ。
お前のせいで死ぬトコだったんだぞ!!と、一言文句を言ってやらなきゃ、気が収まらない。
たまにはきっちり説教して、ギャフンと言わせてやる。
………。結論から言うと、ギャフンと言わされたのは俺だった。
川嶋の手口はこうだ。あいつはやっぱり闘技場で遊んでいて俺は怒りを露わにし、川嶋に詰め寄った。
374勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/14(月) 23:31:03 ID:kHrYO2tE
そしたらあいつは白々しく、
「あ、もう女王様に会ってきたの?お疲れ様〜☆もっと、ゆっくりしてこれば良かったのにぃ〜」
と、のたまった。そしたら大河が、
「ゆっくりしてこれば良かった?冗談じゃない。これ以上待たされちゃ、たまんないわよ。
このバカ。2時間も話し込んでたのよ?2時間も。女王様と。2人っきりの部屋で。」
と、今にも爆発寸前。いつもは大河をなだめてくれる櫛枝もこの時ばかりは大河と同意見だったらしく、何も言わずに俺に避難がましい視線を送るのみ。
そりゃ、長い時間待たせた事は悪かった。ごめん。俺が全面的に悪い。だから、そんな目で見ないで。心が折れちゃう。
それに、聞いてくれ。長話になった原因の大半は川嶋にあるんだ。ほとんどコイツの話題オンリーだったんだから。
しかし、俺に弁明の余地などあろう筈はない。
「あらら…きっと高須君の事だから、女王様の前で緊張したり舞い上がったりしたんじゃない?
あの人綺麗だもんねぇ〜あたし程じゃないけど☆」
コラ。大河の怒りに油を注ぐ様な事を言うんじゃありません。てか、川嶋。お前わざとだろ?わざとやってんだろ?
ほら、言わんこっちゃない。大河は、獰猛な呼吸音を発し今にも飛びかかってきそう……って、ミギャアアアアアーーー!!
その後は、怒り狂う大河を川嶋が言葉巧み(食べ物で釣った)になだめて、なんとか俺の命は救われた。
川嶋よ…お前が煽った大河をお前がなだめてって…そりゃ、自作自演ってもんじゃないかい?
とは言え、助けられた事に変わりは無いから、俺はもう川嶋に強く出れない。くしょ…何か、またハメられた気がする。
しかし、もう怒る闘志もわかない。
「あの人アレで、もうすぐ四十路だよ?高須君のお母さんとそんなに変わらないよ〜ププッ、必死に若作りしてやがんの☆」
頼みもしないのに、川嶋がこっそり、耳打ちしてくれた情報は、俺の残り少ないガッツを萎えさせるには十分だった。
嘘だろぉ?うちの泰子も大概なもんだが、それにしたって年齢詐欺過ぎる……
姉だと言っても通用するだろうあの見た目で、よもや親の年代だったなんて……鬱だ。もう、今日は寝よう。
375勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/14(月) 23:32:30 ID:kHrYO2tE
−23日目−

朝食の席で、俺と櫛枝の間にちょっとした論争が起きた。
議題は、果たしてピラミッドに黄金の爪はあるのかどうか!?
と、いうのも、これまで報告こそしなかったが(キリがないので)俺たちは先達の冒険者に散々、煮え湯を飲まされてきた。
盗賊の鍵から始まって、行く先々に放置された空の宝箱、既に解決済みの問題。酷い時はダンジョンにマーキングまでされてたりして…
そして、ここイシスに眠る王家の秘宝−ほしふるうでわ−が入っていたと思しき、
やたら豪華な空箱を発見した時は、流石に殺意さえおぼえた。てか、川嶋はマジでキレてた。
となれば、当然黄金の爪も先代の勇者あたりが既に持ち去っているに違いない。
誰だってそう思う。俺だってそう思う。しかし、櫛枝は
「FCとSFCでは階段の場所が違うから」
など、と訳のわからない事を言って、俺の意見に真っ向から対立した。
まあ、気持ちは分かる。黄金の爪は武闘家の最強武器だ。頭に血が登るのもムリはない。次第に激しくなる論争。強くなる口調。
「結果は見えてる。がっかりして終わるだけだ。俺は櫛枝のがっかりした顔なんて見たくないんだよ。」
「高須君には関係ない。がっかりするかどうかなんて事は、私が自分で決めるんだ。
私の事は私が自分で決めるんだ。勝手に決めるんじゃねぇ!!」
なんだよ。そんな言い方ねぇだろ!?俺はお前の事を考えて……そう叫ぼうとした時、
「みのりん!!竜児!!」
大河が櫛枝と俺の間に割って入ってきた。非常に焦った様子で飛んできた。
さっきまで川嶋と一緒に我関せずと、朝食のWチーズピラミッドサンドを頬張っていた癖に、
今まで見せた事の無い表情で。不安に押しつぶされそうに目を揺らし、口元だけはムリに笑おうと必死に唇で笑みを作って。
これは、冗談。全て水に流そうよ。ね?と、言わんばかりに
「握手〜〜」
俺と櫛枝の手を持って、おどけてそう言った。
376勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/14(月) 23:33:20 ID:kHrYO2tE
大河には悪いが、俺は拳を握った。そしたら櫛枝の握り拳とぶつかった。
その時の大河の表情を見てしまった俺は、いたたまれなくなって、大河の手を振り切って食堂を飛び出した。

ああ。最悪だ…死にてぇ。

もはや、部屋まで戻る気力さえない。俺は廊下の隅にへたり込んだうなだれていた。
「お ば か さ ん ☆」
頭上から声が聞こえる。何だ川嶋か。
「何だとは何よ。心配しておっかけて来てやったのに。まだ、朝ご飯の途中なのにさ。」
別に頼んでねぇ。
「うん。頼まれてない。バカだね高須君。好きな子相手に怒鳴ったりして。好きなんでしょ?実乃梨ちゃんの事。」
関係ねぇよ。それを言うならお前とも喧嘩しただろ?マヨネーズの件で。
「…え?それって……どういう…」
………。忘れてくれ、ただの妄言だ。
「………。良いこと教えたげる。最近、王家の使いがピラミッドに新しい魔法の鍵を安置したらしいよ?
欲しいなら、早く取りに行かなきゃね。誰かに先を越される前に。」
どこでそんな話を?てか、それって墓荒らし……
「知らないの?ピラミッドの宝は取ったもん勝ちだよ?」
え?そうなの?
「うん。マジで。その代わり罠とかモンスターがわんさかだけどね。
取れるもんなら取ってみな。って感じで、まあ冒険者に対する王家の挑戦。みたいな?」
何でそんなに詳しいんだ?
「え!?それは、そのぅ〜。………。良いじゃん別に、そんな事はさ。
あたしの話はこれでオシマイ。あたしはご飯食べに戻る。高須君がこの後どうするかは、自分で考えな。」
そう言って、川嶋は食堂へと戻って行った。一度だけ振り返って、
「あたしは高須君についてくよ。どうするにしてもね。」
と、珍しく真顔で宣言して行った。
おいおい。そういう事こそ笑顔で言えよ。変な意味に勘違いしちまうぞ?
その後、俺は少し頭を冷やしてから食堂へ戻った。
377勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/14(月) 23:34:52 ID:kHrYO2tE
まずは魔法の鍵を取る為にピラミッドへ向かおう。そのついでに、あるかどうかはわからないが黄金の爪も探してみよう。
俺が提示した妥協案に櫛枝も一応は納得してくれた。けれども、仲直り出来た訳ではない。
その証拠に口も聞いてくれやしない。話題もないし俺から話を振るのもなんだかな〜とか思って渋ってる内に、ピラミッドに着いてしまった。
微妙にギスギスした今のパーティーでピラミッドを攻略出来るかどうか、甚だ疑問である。
A.ムリでした。
ピラミッドに入って曲がってすぐの角に宝箱が3つもあった。これはどう考えても罠でしょ……と、考える暇もあればこそ
「どれかに黄金の爪入ってるかも!?」
と、うちの盗賊様が光の速さで真ん中の箱を開けた。
次の瞬間には大河が血まみれになってて、やくそうで瀕死の大河を救うべく、慌てて駆け寄ったトコで俺の記憶は途切れている。
気が付けば、俺たちはイシス城謁見の間でアンナさんに説教されていた。
横を見る。正座してる櫛枝と大河。良かった。無事みたいだ。ってアレ?川嶋は?
「報告では、あなた方3人だけだそうですが……
まあ、あの子。コホン。もう1人の仲間の方ならきっと無事でしょう。」
アンナさんは事務的な女王様の口調で、きっと大丈夫。などと呑気な事を言っていた。
そして、本当に大丈夫だった。城から出てすぐのトコで川嶋はひょっこりと姿を見せた。心配したのに……
聞けば、ピラミッドの罠モンスター(ひとくい箱と言うらしい)に、けちょんけちょんにされた俺たちを見捨て逃げたらしい。
ヒドイじゃないか。とも思ったが、逃げた川嶋が、街に戻って人を呼んでくれたおかげで、俺たちは命を落とさずに済んだらしい。
救助隊の派遣料及び、俺たちの治療費に全財産の半分が飛んだが、命あっての物種。
ここは、川嶋の英断に感謝すべきだろう。
378勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/14(月) 23:35:39 ID:kHrYO2tE
そして宿屋に戻ってすぐ反省会が開かれた。
今朝からの重い空気に加えての全滅(実質)でパーティー内の空気はさらに重い。
普段、こういう会議に真剣に参加しない川嶋でさえ、今日は真面目に席に座っている。大河に至ってはもう半泣き。
別に責任を追求する場ではない。しかし、原因を究明する必要はあるのだ。俺は心を鬼にして、大河に聞いた。
「大河。お前、罠かどうか判別出来ないのか?責めてる訳じゃないが、盗賊ってそういうの得意なんだろ?
ほら、よく宝の匂いを嗅ぎ分けるとか言うじゃないか。」
俺の問いに大河はもはや泣き出す寸前。もう見てらんない。
「私、鼻炎持ちなの……だから、ああいう埃っぽいトコだとダメなの。」
………。埃っぽくないダンジョンがどこにある?これで大河の鼻はあてにならない事が露呈した。
いや、決して責めてる訳ではない。ただ、大河ってドジだし盗賊には向いてないんじゃ……とか思っただけ。
今更遅いが、なにゆえ盗賊の職を修めようと考えたのやら。
「私が体張ってでも皆を守るべきだった。ごめん。あーみんが逃げてくれて助かった。ありがとう。」
と、櫛枝は責任を感じている様だ。責任感の強いトコがまた素敵…などと言ってる場合では無い。
本来はパーティーリーダーの俺が感じるべき責任である。
「皆を置いて、1人で逃げてごめん。あたし、怖かったんだ。足が竦んであいつに向かっていけなかった。ごめん。」
川嶋は川嶋で、1人逃げた事を悔いている様だ。しかし、あの時の川嶋の判断は正しい。
あのまま川嶋も戦って、4人仲良くミイラの仲間入りなんていう展開は正直ゴメンだ。
「いや、俺こそ、リーダーなのに気を失ってしまって。すまん。申し訳ない。」
反省会は4人で謝り倒し、解決に向けての発展を何も見せぬまま、なし崩し的にお開きとなった。
今日はもう休んで。また、明日から頑張ろう。過ぎた事は過ぎた事だ。
最後にそうまとめて、各自それぞれの部屋へ戻った。
379勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/14(月) 23:37:13 ID:kHrYO2tE
−24日目−

朝食後、櫛枝にキレられる。
「べっつに話題なんかなかったからじゃん!それとも楽しい話題を私が提供してやんなきゃシカトしたって言われんのかよ!?」
余計な事を言ったのは川嶋だ。なのに、櫛枝の目は俺しか見てない。(←このフレーズ。違う意味で使いたかったな。)
まあ俺も正直、一晩経ったんだから、そろそろ口聞いてくれたっていいんじゃね?とは思ったが……
それを口に出しちゃう川嶋はすげぇな〜としみじみ思う。
この一件で川嶋と櫛枝の間にも見えない亀裂が生じた様だ。
ちなみに俺と櫛枝の関係は、もはや修復不可能っぽい。はは、もうどうとでもなれだ。知らね。
一番、可哀想なのは大河で、今日もパーティー内のギスギスとした空気に押しつぶされそうになっている。
涙目なのに口元だけは必死に笑顔を作ろうとする。なんとも言えない表情だった。
もう、痛々し過ぎて、直視出来ない。しかし、こうなった責任は俺にもある。
せめてもの償いと思い、露天で買って来たキャンディーを口の中に放り込んでやった。
そんなモンが慰めになるとはとても思えないが…大河の存在が今のパーティーを支えていると言っても過言ではない。
櫛枝もその事は察しているらしく、いつも以上に大河を気にかけている。大河を大切に思う気持ちだけは変わらないらしい。
そんな状況で挑むピラミッド(二回目)。ちなみに反省会で得られたものは、ひとくいばこには近づかない。というアバウトな策のみ。
こんなんで攻略出来るとは思えないが、命綱のやくそうだけはきっちり補充してからピラミッドへ向かう。

4F

で、あっさり4階に着いた。迫り来るモンスターには皆、等しく滅びて貰っている。下手人は川嶋。
よほど苛立っているのだろう。いつの間に購入したのかは知らないが、てつのおのなど装備してむちゃくちゃに暴れ回っている。
その細い腕でよくそんな重そうなモン振り回せるな。とかは、言わない方が身の為だって事くらい俺でも解る。
380勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/14(月) 23:37:38 ID:kHrYO2tE
まんまるボタンとかいうふざけた仕掛けも解除して、魔法の鍵も無事にゲット。
パーティー内の会話が0な事以外は、万事順調である。
さあ、後は黄金の爪のみを探すのみ。この期に及んで無かった(^^;)では済まされない。
何が何でも見つけ出す。万が一、それらしき空箱を発見した日には、その場で死ぬしかない。俺はその位追い詰められている。
「地下に隠し階段があるらしいわよ。」
川嶋のまるでNPCみたいな台詞が、ピラミッドに入ってから初の言葉だった。マジ泣ける。

B1

川嶋の情報に従って、皆で隠し階段を探す。埃っぽいとか汚いとか言ってる場合じゃない。もう必死だ。俺は床に這いつくばって血眼である。
鼻炎持ちの大河にムリはさせられない。川嶋は、服を汚したくないらしく明らかに手を抜いている様子。
ある程度、予想はしていたが、結局、必死になって探しているのは俺と櫛枝のみ。
櫛枝と肩を合わせて共同作業。本来ならこんなオイシイイベントは無いが、今の重い空気じゃはっきり言って責め苦以外の何物でもない。
ありゃ?何か怪しい場所発見。そこだけ何か埃に線が入ってる。他の奴ならいざ知らず。埃の積もり方で俺の目はごまかせねぇ
もしかして、隠し階段発見かな?ちょっと調べてみよぉおおぉぉ〜〜〜〜〜〜

B2

イテテテ……。床が抜けた。どうやら落とし穴だったらしい。落ちた時、何か硬いものにぶつかった。何コレ?棺?
ぶつかった時にズレたのだろうか?蓋が半分開いている。
棺って、確かミイラとか入ってるんだよな……ヤダな怖いな。祟られたりしたら。
1人と言う事も手伝って心細い。よし。閉めよう。それで許して下さい。お願いします。
俺はぶつぶつと何事か(俺が考えた破魔の呪文)を唱えつつ棺に近付いた。
蓋を閉じようとした時、キラッと突き刺すような光が俺を襲った。目がぁ〜目がぁ〜。俺は思わず棺の中をのぞき込む。

りゅうじはおうごんのつめをみつけた!

え?マジで?やった。や〜ったやったぁ〜。思わず小躍りする。その瞬間
381勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/14(月) 23:38:35 ID:kHrYO2tE
ズキッ!!!
「みぎゃあああああぁぁぁ〜〜〜〜!!」
脛を襲う激痛。俺は思わず絶叫し、のたうち回る。
イタイイタイイタイイタイイタイ。折れてる。これは絶対、イっちゃってる。
カルマか…罰があったのだろうか?墓荒らしの報いだろうか?それとも、櫛枝と喧嘩した報い?大河を哀しませた報い?川嶋を巻き込んだ報い?
しかし、これは参った。痛くて一歩も歩けない。これは、皆が救出に来てくれるのを待つしかない。
来てくれるだろうか……いやダメだ。ここで弱気になっちゃダメだ。信じよう。仲間を信じるんだ。
今、俺の手持ちはやくそうが5枚にせいすいが2瓶。信じよう。きっと、餓えて死ぬ前に助けに来てくれると。そう、信じるんだ。

ぼうけんのしょ1(予定) りゅうじ

待ってる間暇だから、ぼうけんのしょに書く事でも考えとくか。
イシスに着いてから川嶋が急に綺麗になった。あ、いや、元々、綺麗なんだけど、磨きが掛かったと言うのが正解か。何にせよ、超美人だ。
聞けば、化粧(下地のみの薄い化粧しかしてないみたいだが)を変えたらしい。イシスの化粧がよく肌に馴染むんだとか言ってた。
世界一の美人と言われるイシスの女王様(アンナさん)を間近で見た俺が断言する。
世界一の美人は川嶋だと。まあ、あいつの場合、人格に色々問題があるので、それでバランス取ってるんだろうな。
なんて事を思ってるのが知れたら、砂漠に埋められる恐れがある。
………。暇だ。早く助けにに来てくれ。
382勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2009/12/14(月) 23:39:49 ID:kHrYO2tE
今回はここまでです。
こんなに長く投下したのは初めてだから、ちゃんと出来たか心配。
次回も良かったらミテネ〜
383名無しさん@ピンキー:2009/12/14(月) 23:55:03 ID:EKfnSH0T
待ってました!
今日も面白かった。
何だろ、文字の量は多いのにこれは読みやすいんだよな
「、」は相変わらず多いかもだが、気にならなくなってきた。
384名無しさん@ピンキー:2009/12/14(月) 23:57:34 ID:OYliJ14L
>>382
GJ
安奈さんは予想通りだったが、その場合、あーみんが王女様だということには
思い至らなかった私w
385名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 00:08:54 ID:tPfUJir/
黄金の爪取って仲間とはぐれるとかやばくね?
確かあれ取ると一歩歩くごとにモンスターが出てきたような
386名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 00:33:02 ID:HKDvBtHN
この程度の使用頻度で「、」が多いと感じるって、普段ラノベくらいしか本を読まないんだろうか。
387名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 00:36:21 ID:PQBHfpZT
ぼちぼち新スレの季節
誰もいかないなら立ててくる
388名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 00:53:53 ID:PQBHfpZT


【田村くん】竹宮ゆゆこ 27皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1260805784/
389名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 00:57:43 ID:QiNX615/

早いなぁ
39098VM:2009/12/15(火) 01:12:05 ID:CTljArRq
こんばんは、こんにちは。 98VMです。

恒例の? 梅いきます。
実は、この埋めネタシリーズ、数行先を考えながら書いてるって感じで、
先の展開とか全然考えていません。
行き当たりばったりw でも、基本時間は巻き戻さない方向なので、前回
急遽タイガーにしたせいで、奈々子様のターンがぶっとんでしまいますた。

梅ネタ共通時系列 3レス です。
391奈々子様のちょっぴり?な昼下がり 1/3:2009/12/15(火) 01:13:15 ID:CTljArRq

結論から言うと。
危なくマジでヤっちゃう所でした。

――― 高須君の鉄壁の意思と、意気地なさに、乾杯。

もう少しであたしは亜美ちゃんの友達で居られなくなるところだった。
……本当に危なかった。
タイガーはなんだか自業自得な感じがするから、『ま、いっかぁ』位に思ってしまったけれど。
流石に亜美ちゃんはいたたまれな過ぎる。
あんなに高須君にモーションかけてたのに、ほとんど相手にされてなかったもんなぁ。
それが、あたしが一夜にして最後までいっちゃったら、あまりにも哀れじゃない? 亜美ちゃんが。

とはいえ、高須くんと上手くいかなかったのは亜美ちゃんが悪い。 と、あたしは思ってる。
本気なら本気で、正々堂々、直球勝負すれば、十分勝ち目あった筈だから。
もっとも、亜美ちゃんは色々と恵まれ過ぎな気がするから、あのくらい意気地なしで丁度いいのかもしれないけれど。
…それに。
亜美ちゃんが弱ってるの見てると、なんか……
……すごく、ゾクゾクしちゃう。

くすっ。

やっぱり、あたし、どこか壊れちゃったのかなぁ…。

ううん、きっと普通よ。 普通。 
亜美ちゃんがあんまり綺麗で、可愛くて、エロい体してるからいけないんだと思うなぁ。 ねぇ、そうだよね?


     埋めネタ   〜奈々子様のちょっぴり?な昼下がり〜


その夜、高須君に送ってもらった自宅には明かりはついていなかった。
過保護な父は、あたしが帰ってくる前に眠ることなんてない。
つまり、そういう事。
あたしは、誰かと一緒に帰ってくる可能性を最初から考慮して日程を組んだ。 ただそれだけ。

言葉巧みに高須君を家に上げるのはそう難しくなかった。
あとは普通にビールとおつまみなんか出して、高須君を質問詰め。
うやむやにして帰るわけにはいかなくて、でも答えにくい質問なら山ほどあった。
亜美ちゃんと、櫛枝と、それと、タイガー。
複雑な関係だけに、ちょっと気をつかうし、慎重になったけど、正直な高須君は誤魔化すのが下手で。
思わず説明を始めて時間を浪費する。
緊張して喉が渇いて、ビールを飲む。
……面白いように罠に嵌っていく。

上着を脱いで、部屋があったまってきたなら、もう一枚、薄着になる。
高須君は、あたしの胸元を見ないように見ないように…
本当に、可愛い。
きっと、タイガーにお預けくらって、その上、亜美ちゃんの色気に当てられて、これ以上無いくらいガードが緩くなっている。
「もったいないなぁ……高須君さえその気なら、亜美ちゃん、一晩限りでも体許してくれると思うなぁ……。」
「なっ、な、なに言ってんだよ! んなこと出来るか!」
「でも、亜美ちゃんはそれでも幸せな気持ちになれるんじゃないかな… 初めての人が高須君になるんだもの。」
実際にそうなったら亜美ちゃんはタイガーとの関係で深く傷つく。 だからこれは艶話に持ち込むためのネタふり。 
亜美ちゃんをダシにしたのが上手く作用して、話がだんだんエスカレートし、次第に怪しい雰囲気になってくる。
やがて、堪えきれず、逃げ出すように帰ろうとした高須君に、あたしは容赦なく体を寄せた……。

392奈々子様のちょっぴり?な昼下がり 2/3:2009/12/15(火) 01:14:13 ID:CTljArRq

至近距離で、唾を飲み込む音が聞こえた。
スマートに見えるのに、意外と筋肉質な胸板。 少しづつあたしの胸の鼓動も高鳴る。
三白眼を白黒させて、高須君は喉に詰まったようにあたしの苗字を呼ぶ。

……もしも、『奈々子』と呼ばれていたら、あたしはその場で崩れてしまったかもしれない。

高須君は女を突き飛ばすなんて出来ない。
必死で男の本能と戦っている。
もう、十分に酔って、理性のタガが外れているはずなのに、それでも堪えていた。
その目の前で少しづつ薄着になるあたし。
すぐにあたしは下着姿になって、女の匂いを高須君の鼻腔に押し込む。
そしてあたしの唇は、淫靡な声で彼の名前を囁く。

本当は、あたしを引き剥がすためだったんだろう。
虚ろに伸びた手があたしの胸に触れて、体を押しのけるように……動かなかった。
その後はダムの決壊のように。
あたしの苗字を呼んで、高須君はあたしの体にかぶりついた。

……もしも、『奈々子』と呼ばれていたら、あたしはその場から逃げようとしたかもしれない。

ひとしきりあたしの体をその手で、唇で、まさぐった彼を伴って、ゆっくりと床に倒れこむ。
彼の一物は既に固く腫れあがって、準備は万全になっていた。
指を滑らせ、その形をなぞっていく。
ベルトを外し、その生の姿を露にしようとした、その時だった。

「香椎…、お前、どうしたんだ? 何があったんだよ……。 何で、お前はそんなに辛そうな顔してるんだよ……。」

反則よね? こういうの。

「そうよ。 …辛いの。 …痛いの。 …苦しいの。 …寂しいの。 …死ぬほど寒いの。 だから。 誰でもいい…暖めてよ…。」

それであたしは、その瞬間だけ、正直者になってしまった。
そして高須君の手が止まって、沈黙が上下に重なった男女を覆う。

「俺は… 香椎の力になりたい。 友達だと思ってるから…な…。 だが……」
「なら、抱いてよ。 あたしを暖めて、くれないかな……」
「……………本当に、それしか無いのか?」
「ええ。 それしか無いと思うわ。」

それから… 
久しぶりで男に抱かれる体は、敏感に快楽を貪る。
胸の先端が弾かれる度に、上半身が焼け付くように熱くなり、股を高須君の手が通り過ぎる度に、背骨が痺れる。
自ら体を激しくよじって、快感を味わいつくそうとするあたし。
やがて、もう誰でもよくなる。
あるのはただの性的興奮と動物じみた快感だけ。
愛情も、友愛もなく、ただの本能だけの行為に没頭していく。
それはもう、多分、男と女ではなくて、雄と雌。
激しく、いや、あるいは淡白に、その行為は繰り返された。
………
393名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 01:14:23 ID:IY1cu0WK
乙。
今までの最短記録って、何スレくらいで満杯なってる?
レス数<容量になることはたまにあると思ったが、ここまで短いのは記憶にない。
394奈々子様のちょっぴり?な昼下がり 3/3:2009/12/15(火) 01:15:04 ID:CTljArRq

「はぁ……」
自分の溜息に、ドッキリした。
相当長いこと物思いに耽っていたみたい。

結局、高須君は、最後の最後でビビッて入れなかった。
避妊具がなかったってのもきっと理由ね。
高須君はそこには超敏感に反応するみたいだし。 父親の事がトラウマになってるのね、きっと。
まぁ、何はともあれ。
とりあえず、高須君が鉄壁でないことは判ったわね。
それと、本当にバカみたいに優しいってことも。 過ぎたるは及ばざるが如しって、まさにこの事だわ。
かえってその優しさが相手を傷つける事だってあるのに…。
やっぱり、亜美ちゃんをけしかけるのは止めにしよう。
なんとなく、あたしじゃなくて亜美ちゃんだったら、高須君も止まれなかったんじゃないかな、って思う。
そうなったら、亜美ちゃんとタイガー、それに高須君、皆が皆、しゃれになんないくらい傷ついちゃいそうだし…。
そこに櫛枝が武力介入してきたら、しっちゃかめっちゃかになりそうだし。

それにしても…
高須君。
やばいなぁ…。 絶対、後悔しまくってるよね。 
多分に酒の勢いが混じってたし、っていうか、そもそも全部あたしの謀略だけど。 
本当に、なんであんな事しちゃったかな… あたしも思ったより酔ってたのかしら?
なんか、こんな事でタイガーとおかしくなったら嫌だわ。
かといって相談できる人も居ない。
どうやってフォローしたらいいんだろ。
それに…

超弩級の鈍感だって思ってたのに ……見抜かれてしまった。

今回の出来心は本当に、大失敗だったかも。
やっぱり、ちゃんと計画練って行動しないとだめよね。
ああ、憂鬱。
亜美ちゃん攻略の手立ても、もう一度考えないといけないし。

それにしても…この哲学概論の講義も相変わらず超退屈ね。 …出席カードは最初に配って欲しいわ。
仕方ない。
とりあえず、メールだけでも送っておこう。 高須君に。

……
…………
人も疎らな、離れの小講堂。
エコ対策なのか殆ど効いてない冷房の音のほうが、教授の声より耳に障る。
うだるような暑さの中、いかにもやる気無さそうに、机に突っ伏す学生たち。
その一番後ろの方の座席で、奈々子は何度も何度も携帯を閉じたり開いたりしている。
決心したはずなのに、なかなか文章が浮かばず、ただ携帯をもてあそんでいた。
講義も終わりに近づいた頃、ようやく文字を打ち始める奈々子。
当たり障りの無い言葉を選んでキーを押す指が、僅かに震える。

その指が震えてしまう訳を……

奈々子は、努めて考えないようにしていた……。

                                                                   おわり。
39598VM:2009/12/15(火) 01:16:52 ID:CTljArRq
以上です。 お粗末さまでしたー。

できれば27皿目には例のブツを投下したいです。
今回はちょっと長めの予定です。
396名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 01:40:09 ID:v6sMIqWo
乙GJ埋め
397名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 02:46:16 ID:Ig+59xb8
98VM様ぐっじょー!(;゚∀゚)=3
398名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 05:34:45 ID:bGUePkMU
VMさんグッジョーッブ!


何より「例のブツ」楽しみにしてます!
399名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 05:36:29 ID:qpDvprwD
>382
とりあえず亜美ちゃんのセリフで大河の呼称が「ダイガー」になってるのはどうかと。
400名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 15:00:24 ID:glkN3qR3
>>382
GJ
すごいピリピリしたパーティーが少し悲しいけど面白かった
ただ竜児とみのりんがたったそれだけのことに怒ったことに違和感が

>>395
GJ
いきなりやってないとあったにも関わらず、途中、最後まで致したのかと思った
というかもう梅の時期か
401名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 21:35:03 ID:DmSuAA/R
>>382
なんか伏線も多いですね。読み物として面白いです。GJ

>>395
しっとりとしてて良かったです。
梅ネタシリーズはこれでいったん完結なんでしょうか、GJでした。

という事で俺も生めネタ一つ投下させて下さい。
かなり前に作ったんですけど、
規制とか、タイミング外しでネタが賞味期限切れですが
40226皿目の埋めネタ2:2009/12/15(火) 21:36:45 ID:DmSuAA/R
それはどこでもありそうな、高校の昼休み風景
高須竜児は、級友の春田浩次と無駄話をしていた。

「春田、お前に進められた映画見てきたが、すげー良かった。
 あれ、俺たちが幼稚園ぐらいのアニメなんだろう、吃驚したぞ」
「そうしょ。よかったしょ。う〜ん、高っちゃん、まだ余韻引きずってる感じで俺うれしいよ。
 でも、話の内容がまったく解からなかったんだけど、解かった?カヲルくんは何なの?
 瀬奈さんに聞いても、春田くんは仕方ないよ としか言ってくれないんだよ〜」
「春田なら仕方ない」

その二人を教室の後ろの席から、じっと眺める視線が一つ。川嶋亜美のものだった。
彼女は正直、高須との会話に入りたかったが、話題がテリトリーの範囲外すぎた。
だから、話題が切り替わるまで、一人寂しく眺めるしかなかった。なのだが…
一向に変わらない話題に業を煮やし、無理やりにでも話しに入ろうと席を立つ。
憎まれ口しか叩けなくても、それが自分の損だとしても、本当は甘い会話をしたいのだが…

「なに、高校生にもなってアニメ映画の話、なんかキショい。高須くんってやっぱりバカ?」
「あれは馬鹿にしたもんじゃねーぞって。川嶋は俺の事いつも馬鹿よばわりだな」
「だって実際、大馬鹿の鈍感男じゃない。ば〜か、ば〜か、ば〜〜か!」
「お前な、お、おう?、なあ、馬鹿って言ってもいいが、前にあんたって付けてくれないか」
「はぁ、なにそれ、気持ち悪い…
 解かったわよ。そんなじっと見ないで……
 あ、あ…、あんた、バカぁ!?」
その言葉を聞いたかと思うと、竜児はおもむろに立ち上がり、両手を広げると亜美を抱きしめた。
「お前は不幸になっちゃ駄目だ!」
「へ、え、え!ちょっと、なに急に、いや…じゃないけど、い、意味わかんねーし。

                              ……………嬉しいけど…」

そんな二人を所在無く見つめるしかない春田は一言
「高っちゃん。あの娘と亜美ちゃんのイメージカラーが同じだからってイメージ無理やり重ねすぎ」

こうして、高須竜児と川嶋亜美は末永く幸せに暮らしました。
ギシ・ギシ・アン・アン

END
403名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 22:28:37 ID:dGF2R5PE
>>402


404名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 23:43:19 ID:jfAeejr3
もう次スレか、早いな
405名無しさん@ピンキー:2009/12/16(水) 00:43:18 ID:DTpYv80M
>>402
クソわろた
GJ
406名無しさん@ピンキー:2009/12/16(水) 02:18:13 ID:452HEy0b
>>402
ギシギシアンアンww
すごい面白かった。ショートも捨てたもんじゃないな
407名無しさん@ピンキー:2009/12/16(水) 07:42:20 ID:FKXK4HaQ
a
408名無しさん@ピンキー:2009/12/16(水) 08:43:43 ID:LMRlJmh1
もみもみ

「あん♪ あたしのおっぱいになにが?た・か・す・くん」
「いや、香椎のおっぱい柔らかいなぁと思いだしただけ。」
もみもみ

「まあ確かに、亜美ちゃんよりは柔らかいよね。」
「柔らかさなら同じさ。香椎ほどじゃないけど、川嶋も十分大きいだろう。」
もみもみ

「ヤん、乳首は反則なのっ。
 ……もう、亜美ちゃんより良いっていったら、
 毎日揉ませてあげてもいいと思ったのに」
「それって、今とは何が違うって言うんだ?」
もみもみ

「ふん、怒った。続きは亜美ちゃんにでもして貰ってよ。」
「今日は香椎が欲しい。いいな?」
もみもみ もみもみ … ちゅる

「きゃんっ♪ もう、私がいいって答える前に入れないの!」

ギシギシアンアン

おわり。こんな竜児はイヤだ。
409名無しさん@ピンキー:2009/12/16(水) 17:08:59 ID:C/D3wo88
ギーシギシアンアン
410名無しさん@ピンキー:2009/12/16(水) 23:21:35 ID:c3aOs3hB
>>408
GJだがギシアン部分を官能的にkwsk
411名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 07:21:06 ID:E8GTWYUd
ギシアンいいよギシアン
412名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 09:37:21 ID:Z6vW39qC
なかなか埋めないな…

Take 1

「香椎って母さんみたいだ」
「おっぱい見ながら言わないの」

パシッ

Take 2

「標をセンターに入れて…スイッチ。

Take 3

「」
413名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 09:48:50 ID:Z6vW39qC
畜生また滑った…すまん。一スレで終わると思って油断した。
梅ネタだから多少寒いでもいいよね?

Take 1

「香椎ってなんかお母さんという感じがした」
「おっぱい見ながら言わないの」

パシッ

Take 2

「目標をセンターに入れて…スイッチ。
 目標をセンターに入れて…スイッチ。
 目標をセンターに入れ(ry」

「早くしろ童貞」

Take 3

「私の場合、胸だけ暖めれば、少しはオッパイが大きくなるのかな。」
「ゼロはどう掛け算してもゼロだけどな、大河。」

-Dead End-

Take 4

「高須くん…あんたって不能?」
「息子よ!裏切ったな!僕の気持ちを裏切ったな!父さんと同じに裏切ったんだ!」

Take 5

「高須君、あたしとひとつになりたい?心も体もひとつになりたい?それはとてもとても気持ちのいいことなのよ」
「川嶋はいい人だが…ごめん。」
414名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 10:53:12 ID:7xTDE6rt
415前スレ>>629の続き:2009/12/17(木) 16:04:03 ID:zpy762nl
熊のぬいぐるみを着て倒れている竜児を見つけた百合子は救急車を呼び、病院まで付き添った。
インフルエンザと診断され、目に見えてわかるほど衰弱していた竜児は入院することになる。
百合子は竜児について質問され、そこから調べて連絡したのだろうか、一時間もしない内に派手な衣装を着た女性に出会った。
その女性は、今にも泣きそうな表情で必死に走ってきたようで竜児を心配してやってきたことがよくわかる。
意識を失ったままの竜児を見てより顔が歪んだが、慌ててやってきた看護師に容態を説明されると一応落ち着いたようだ。
百合子が驚いた表情で自分のことを見ていることに気が付いた女性は涙を拭ったあとに笑顔で口を開いた。

「ありがと〜〜〜、竜ちゃんを助けてくれて〜〜」
「いっ、いえ。たまたま道端で倒れている高須先輩を見つけただけで……。ビックリして救急車呼んじゃって……」
「ううん、あなたが救急車呼んでくれたおかげで竜ちゃんすぐに治るってお医者さんが言ってたよ。
 もし見つけてなかったら危なかったかもしれないって」
「そ、そんなことは………」
「それにこんな寒い夜に気絶したまま一晩過ごしたらどうなってたかわからなかったって」

目に涙を溜めながら話す女性に抱き締められた百合子は驚いてビクッと背筋を伸ばして緊張するが、女性の暖かさを感じるとなぜか力が抜けた。
高校生になっても初対面の相手と話すのは億劫な百合子だったが、その女性に対しては心が開けるような気がする。
それはその女性の持っている魅力の一つなのだろうか。それとも裏表のない表情に惹かれたのだろうか。
ベッドで眠っている竜児を眺めながら、会話を続けていると知らず知らず自分の想いを吐き出していた。
女性は突然自分の思いを口にした百合子に驚いていたが、何も言わずにただ聞いてくれた。
百合子自身も自分からそんな話をしたことに驚いたが、自分の中で成長した秘めた想いを誰かに聞いてほしかったのかもしれない。
想いを話してしまった後、ふと自己紹介をしていないことに気が付く。
百合子はまだ名前も知らない相手に自分の心情を吐露したのは失敗だったと思ったが、後悔はしなかった。
改めて自分の思いを確認し、頑張ってみようと思うことが出来たからだ。
百合子は姿勢を正して目の前にいる女性を見る。
急いで病院へやってきたからか、まだ髪の毛が乱れていた。整った顔立ちをしているが、愛らしく思いやりのある印象を受ける。
その柔和な表情で全てを包んでくれるようなふんわりした雰囲気は女性らしく、眺めているだけで心が和んでいく。
急に黙ったからか「どうしたの?」と優しい口調で話しかけてくれる女性に挨拶をした。
416前スレ>>629の続き 泰子の口調がわからない…
「あ、あの、自己紹介が遅れました。光井百合子です。大橋高校の一年生です」
「ゆりこちゃんだね〜〜。わたしのことは、やっちゃん、って呼んでね」
「は、はいっ。あの、た、高須先輩のお姉さんですか?」
「ううん、やっちゃんはね〜〜、竜ちゃんのお母さんなの〜」

お世辞にも人付き合いが上手いとは言えない百合子には、初対面でしかも年上の相手をちゃん付けして呼ぶには抵抗がある。
けれど頼まれたら呼ばないわけにはいかない。
ちゃんとした名前さえ教えてもらっていないから『やっちゃん』ってことしか知らないし……、と言い訳をするように頭の中で泰子の名前の呼ぶ練習をした。
やっちゃん。やっちゃんは高須先輩のお母さん……。お母さん……。お母さんっ!?
緊張していたからか耳に入ってきた言葉を理解するまでに時間が掛かったようだ。

「お、お母さんっ、ですかっ!?」

思わず声が裏返ってしまった恥ずかしさで百合子は顔を真っ赤に染めて俯いた。
泰子はその仕草が可愛かったのか、百合子の身体を引き寄せ、抱き締める。

「うん、そうだよ〜。ゆりこちゃん、かわい〜ね〜。なでなで、なでなで」

泰子は百合子の緊張を解きほぐすように優しく背中と頭を撫でる。
先程と同じように次第に力が抜けて身体を預けるように百合子は泰子に凭れ掛かった。
何の香りかはわからなかったが、いい香りがする。柔らかい泰子の身体に包まれている内に心地良くなっていった。
愛情をたっぷり注がれ、身体の中から温かくなるような感覚。今日一日の疲れもあったのだろう。
泰子の胸の中で百合子はいつの間にか眠っていた。
すぅすぅと寝息が聞こえてくるのを優しい目で眺めた泰子は、様子を見に来た看護婦に百合子の親に連絡するように頼んでおいた。
娘が事故に巻き込まれたとでも勘違いしたのだろう、百合子の両親は慌ててやってきたようで、病室に駆け込んできた。
泰子は二人を落ち着かせ、簡潔に説明をした後、丁寧にお礼を言って深く頭を下げる。
両親に起こされた百合子は寝ぼけ眼を擦り、重い目蓋を上げた。
両親の顔がすぐ傍にあったから家に帰ってきたとでも思ったのか、大きな欠伸をし両手を上げて伸びをする。
そして気の抜けた「あぁぁ〜〜〜」という声を上げている途中に泰子の姿が目に入ると一瞬固まってから、再び俯いて顔を真っ赤に染めた。
百合子が顔を上げるのを待っているといつまで掛かるかわからないと判断した両親は、百合子の手を引いて立たせ泰子に挨拶をする。
泰子はもう一度丁寧にお礼を言い、頭を下げた。
百合子は両親に連れられ、去って行く。
百合子は思い出したように泰子の下へトコトコと駆けてきた。

「あのっ、や、やっちゃんっ! 私、お見舞いに来てもいいですか?」
「うん、もちろんだよ〜。ゆりこちゃんみたいな可愛い女の子がお見舞いに来てくれたら竜ちゃんも嬉しいだろうしぃ〜」
「あ、ありがとうございますっ。また明日来ますっ」

なんとかやっちゃんと呼ぶことが出来た。
また声は裏返ったが、一度呼べたことで少しだけ緊張が解ける。
明日来ることを約束し、一度竜児の方を見ると苦しそうにうなされていた。
近寄り、手を握ってから竜児の頭を触る。竜児の額は熱かった。
さっきまでの和んだ空気でついつい忘れていたが、百合子が今ここにいる理由は竜児が倒れたからだった。
驚いて息を呑んだ百合子はもう一度竜児の額にそっと触れ、数度撫でる。
慈しむような優しい顔を竜児に向けた。
百合子は病室には泰子もいたことを思い出し、また顔を赤く染めてペコッと泰子に頭を下げ、慌てて病室から出て行った。
泰子は「またね〜」と手を振って、百合子の後姿を笑顔で見送った。