ヤンデレの小説を書こう!Part27

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1名無しさん@ピンキー
ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。

○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。

■ヤンデレとは?
 ・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
  →(別名:黒化、黒姫化など)
 ・転じて、病ん(ヤン)だ愛情表現(デレ)、またそれを行うヒロイン全般も含みます。

■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫 @ ウィキ
http://www42.atwiki.jp/i_am_a_yandere/

■前スレ
ヤンデレの小説を書こう!Part26
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1252641766/

■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。

■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
 ・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
 ・版権モノは専用スレでお願いします。
 ・男のヤンデレは基本的にNGです。
2名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 07:53:13 ID:+rD4rcDl
1乙
そして2ゲト

前スレは作品の途中で落ちたからな、
あの作品は気にいっていたし、作者さん、こちらに移転出来ればいいのだが・・・
久しぶりにヤン成分なくても楽しめそうな作品だしな
3名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 09:32:17 ID:YXLFw5Vj
続きを載せてくれますように
4名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 12:41:47 ID:fUrDKpvr
もちっと早くスレ立てるべきだったね
ともあれ>>1
5名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 14:08:39 ID:1PcnhD+u
やっとみっけた

続き待つ
6名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 14:40:45 ID:3vCvehK2
>>1
7名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 17:32:05 ID:NJ0XIknz
 義足を外し、その内側を拭ったあと、本田克(ほんだまさる)は何やらアンケートに記録をし始める。
 外芝高校二年一組、10時を過ぎている今の時間は、他の生徒たちは体育の授業を受けているはずだ。克は一人教室内での作業を終えると、義足を再度装着に掛かった。
 「あっ…。」
「よう、篠原か。ん、体育は…まさかお前ふけて来たのかぁ。いいのかねぇ、生徒会入ってる人がそんな所業を。」
「え、違うよ。」
 どこまで本気なのか、困ったような顔で笑う少女。彼女の名前は篠原佑子(しのはらゆうこ)、克と同じクラス、つまりこの教室の生徒だ。そのはずが、佑子は少し挙動不審気味に、室内に覚束ない足取りで入りこんで来る。
 克は少し顔色を翳らせながらも、努めて明るくふるまう。
 「あ、あー、悪かったな、近くで見ると結構怖いだろ。実は俺からして、まだ慣れてないからな。よっと、じゃあ俺、図書館にでもいるから。篠原も教室出るときは、鍵が教卓にあるから、戸締りだけ頼むな。」
 克は特に歩行に困難な素振りも見せずに、足音高く教室を後にしようとした。
 「待って。」
 佑子はそれを授業中には適さない音量で呼び止めた。慌てたように、それでも気を使ったように、速やかに、かつ静かに扉を締め直す、克。
 「ちょっと、不味いって、他のクラス授業中だから。」
 「ごめん。」
 佑子は顔を赤らめながら、しょんぼりとした様子で謝る。彼女はこういうところからして人気があった。
 「で、何か用。」
 克は近くの椅子に腰かけると、鼻から息を漏らす。佑子はおずおずとしながらも、着実に近づいて来る。普段が快活なだけに、こんな風に近づかれると少し威圧感がある。克はのけ反りそうになりながらも、なんとか彼女がすぐ隣の席に座ったのを、後ろに倒れずに確認し終えた。
 「…実は、私も同じなんだ、本田と。」
「同じ、同じって、病欠見学か。まさか、風邪か。…悪いけど、今日はそっちの方角が鬼門だから。…そういうことで。」
 そういうと、克は後ろを向く。背後から、佑子とは思えないよな台詞が返ってくる。
 「うん、そのままでいいから、もう少しここに居てくれないかなぁ。」
「あ、どうしたんだお前、何か変だぞ。」
 克は首だけで佑子の方に、振り返る。
 「ヒッ。」
 佑子の口から、かすれた様な悲鳴が漏れる。佑子は制服の裾を少しまくりあげていた。手には、黄色いペンの様なものが握られている。瞬時にそれだけ確認すると、克は勢いよく首を戻した。
 「悪い、篠原。」
「い、いいの、ごめん、もうすぐ終わるから…。」
 いいと言うその声は、どこか引きつっていた。克はその場を繕おうとしたのかも知れない。動悸に無理に重ねるように、克が佑子に同意を求める。
 「篠原…さっきお前の言ってたこと、…お前、糖尿病だったんだな。」
「…うん。」
 佑子はポツリと呟くように答えた。校庭では、見知った顔達がソフトボールをしている。空は白く、曇っていた。
8名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 17:34:09 ID:NJ0XIknz
 「えっと、どうも注射するとき、近くに誰か居ないと不安で…だから…もう、いいから。」
「ああ。」
 努めて明るく振舞い合う二人。だが睨めっこしてるわけではないので、残る違和感はきっちりあった。
 そんなぎこちなさの中で、克はペン型注射器からインスリンのカートリッチを取り出す佑子の姿に見入る。セミロングの黒髪、白い肌、二重まぶたに形のいい瞳。
 (近くでこうまじまじと見ると、やっぱ美人だな、篠原は。)
 「どうしたの。」
 見とれる克に、佑子がずるそうに、しかしどこか不安そうに尋ねた。克は事もなげに答える。
 「篠原って美人だよなぁ。…とりあえず、そんなこと考えてた。」
「何、本田ってやっぱりそういう奴なの、もったいないよ、せっかく頭良いのに、軽そうなキャラは。」
 「なんで篠原が、もう少し視点を下げた場所のことを褒めてくれないのかは追及しない。で、やっぱりって…俺のことを篠原に捻じ曲げて伝えたのは…情報ソースは誰なのかなぁ…イニシャルだけでいいから教えてくれるか。」
 克は楽しげな顔で、おどけた口調を廻す。佑子もようやく寛げたようだ。しかし、彼女には言わなければならないことがある。
 「えっと、本田…。私の病気のこと、みんなには黙っておいて欲しいんだけど。」
佑子が柔らかい笑顔を作りながらも、少し困ったように切り出した。克も佑子を出来るだけ追い詰めないように、笑顔を作る。こういう反応は、お手の物だった…。
 「解ったよ。もともと話の種にする気は無かったけど、篠原がそういうなら、墓まで持ってくことにするよ。」
「ありがとう。本当は本田に、こんなこと頼むのは失礼だって思うんだけど。」
 佑子の花のような笑顔が、再びしぼむ。克は優しげな声で彼女の言わんとすることを引き出してやる。
 「失礼、どんなことがかな。聞かせてくれ、事と次第によっては怒るかも知れないから。」
「うん…。その本田にも障害があるのに、私だけ秘密にして…しかも、本田を利用してって…怒るかな。」
 心底不安そうに尋ねる、佑子。本田は机に突っ伏しながら、顔を綻ばしてみせる。
 「怒んないよ。」
「本当。」
「ああ、そういう気持ちは俺にもあるからな。」
「…」
 じっと克を見つめながら佑子は黙っている。その真剣な目を受け止め、克が話し出した。
 「俺の今の義足。これ大学で研究中の最新型で…ああ、親戚にコネがあってな…で、バイトついでにモニターやってるんだ。
そういう、境遇を利用するときとか…そうだな、脳に障害を持つ人を見たときとか…あるんだよな、何か。
自己嫌悪でも、罪悪感でもないけど…少なくとも義足つけ始めたころにはもう感じてたかな…って、かなり昔のことだから、義足が理由かは解らないけどな。
まぁ、篠原と同じように考える気持ちは俺の中にもあるから、少なくとも俺に気に病む必要はないよ。」
 「でも、本田は足が…。」
 佑子はまだ納得しない。克はなかなか面倒見のいい性質なのか、説明を続けた。
 「えーとちょっと回りくどかったか、何せ、俺視点だしな。あー、あ、そうだ、篠原、お前可愛いだろ。」
 「え、何、いきなり。いや、それは私としては、すぐ同意するのは。」
ハッとしたり、赤くなったり、佑子も克に負けず劣らず忙しい。克もそんな様子を楽しそうに見つめている。
9名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 17:34:49 ID:NJ0XIknz
 「そうなんだよ。俺の眼は確かだ。で、篠原は平均的女生徒から抜きんでた美貌の持ち主ってわけだけど。化粧してるだろ。」
「え、してるけど。」
「なんでだ。」
「何でって…しないと人前に出れないし。」
「スッピンでもお前は篠原だろ。」
 「…私の負けかな。」
 佑子が楽しそうに、降参を宣言する。
 「おい、おい、話の途中で撤退はひどいんじゃないか。」
「いいよ、私聞いててあげるから、好きに話したら。」
 佑子は机に頬杖つくと、余裕の目線を克に送った。どうやら、彼女が何かを得たのは確からし。
 「そんじゃあ、失礼して…って、何か俺の言いた事解ってくれたようね。化粧だって、中年女みたいに何の脈絡もなくゴテゴテと塗り固めるようなのもあれば、もとが美人の篠原みたいにナチャラルなのもある。
だがどっちにしたって、化粧する本人の都合に合っているって範囲では化粧であるし、本人の顔ってことだな…って、聞いてる。」
 佑子は笑顔で手をあげて応じた。克は苦笑いでその様子を見る。
 「でも…それは、本田に褒めてもらえれば嬉しいけど、私ってそんな美人かな。」
「どうやら俺の眼力に関しては、信用してもらえているらしいな。にしても、ここには俺達しか居ないんだから、そんな謙遜してみなくても。」
 佑子が、呆れ顔の克に、味の濃い笑顔を送る。
 「違うわよ。本田、ちょっとひねくれすぎじゃない。…私、子供のころから病気のこと隠してきたからか…なんか自分の欠点ばかり目について。
だから、人の忠告よりも、自分の粗をなくすことばかり考えるようになっちゃたみたいなんだ。本田が褒めてくれたこと嬉しかったよ、でも…。」
 「お前のことは信じられんから、お前の秘密を教えろと、そういう訳か。…ふっふっふ、そこまで言うならば仕方無い、見せてやろう。篠原が美人だってことを証明するのにも、一石二鳥だからな。着いてきた前、明智君。」
「へ、あんた何言ってんの、ちょっとどこ行くのよ。」
 佑子の声を遮った克は、妙に用意の整った論理を吐き出すと、急に廊下に出る。
その後を佑子が、不自然に見えないながらも、どこか頼りない足取りの克を庇う様に、後ろからついて行った。
好きなことをいって、好きに行動する克は当然として、佑子もどこか幸せそうだ。だから…もう、どうにも成らなかったのであろう。
10名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 17:35:15 ID:NJ0XIknz
 二人は図書室に慎重に入り込む。授業中のこと、どうやら先客は居なかったらしい。そして、克はさらに奥に突き進む。
 「ねぇ、どこまで行くの。」
 辺りをはばかる様に、少し身を低くして、佑子が小声で尋ねた。克は一向にお構いなしに、ズカズカと奥の書庫の扉まで歩み寄る。
 「ここだ。」
「え、だってそこは、先生方しか…。」
「いいんだよ。開いている部屋には入って、ほら。」
 克がノブを回すと、あっさりと書庫が口を開く。辺りに、日焼けした紙の匂いが漂う。
 克は唖然とする佑子を尻目に、奥の棚から一冊のアルバムのようなハードカバーの本を取り出す。そして、それをテーブルの上に置くと…柏手を打ち始めた。
 「何してるのかな。」
困った人を目の前にしているような、不安そうな表情で、佑子が聞いた。克がその様子を、手を合わせながら一瞥する。
 「こら、何してる。篠原もこっちに来てやれ。」
「え、だって…。」
「早く。」
「あ、…うん。」
佑子は言われるままに、ドアを閉めてテーブルに近づくと、手を叩いた。そして、
「で、これは何なわけ。」
とやや責め気味な口調で尋ねた。今度は、明らかに克の立場が弱くなる。
 「あ、えーと、オホンッ、これはだね、我が外芝高校創立以来のその年度年度における、ミス学園コンテストの覇者の生写真が収められたアルバムなんだ。」
「ミスコン。…そんなことうちの学校でやってたっけ。」
「あーっと、…男子だけで代々…粛々と…受け継いで来たんです。」
 ジロリと克を睨む、現生徒会書記。克はアルバムを、佑子との間に少し間隔を設ける様にずらす。
 「えっと、…言わないよね。墓まで持っててくれるよね。」
「解ったわよ。で、それがどうしたの。」
 呆れ果てたように、面倒くさそうに先を促す、佑子。克は器用にパラパラをページをめくると、一枚の写真を指差した。
 「あった、あった。ほらこれ、去年のミスコン優勝者。」
「え、こ、これ、私じゃない。てか、いつこんな写真撮ったのよ。」
 本当に予想していなかったのか、佑子は大いに驚く。写真の佑子は、カメラに向かって笑いかけているとしか思えない、朗らかな表情をしていた。
 「それは、その…教師の中にも協力者がいるんで…。」
「くっ。何なのよこの手際の良さは…。」
 佑子の不穏な目の色を見てとって、克がまとめにかかる。
 「まぁ、人の眼なんて自分では絶対にコントロール出来ないものだから、気にするだけ無駄ってことだな。それに、自分が美人だって確認できたろ…めでたしめでたしってことで…。」
「本当に、その積りでこれを見せたの。」
 佑子が意地悪そうな眼で、ドギマギする克を見据えるた。克は乾いた笑いを立てたあと、呟いた。
 「あー、その、実は…それを見た篠原の反応が見てみたかった…という部分も無きにしも非ず…。」
 それを聞いた佑子は、溜息を一つ。そして、
「もういい。…でも、この写真は私が処分するから。」
と言って、おもむろに写真をアルバムから剥がしにかかった。
 「やめてー、それだけは。堪忍してー。それがなくなると、今後の俺たちの活動がー。」
 必死で止めに掛かる克の不可解なセリフ。それを聞いて、また佑子の顔が嫌そうな感情を湛える。
 「活動…なにそれ。」
「えっと…夢工場…かな。」
 二人の間に流れる痛い沈黙。佑子が作業を続行する。
 「あー駄目、マジに剥がれるから。なー頼むよ、俺と篠原の仲だろ。」
 その言葉を聞いた瞬間、佑子の動きが止まった。そして平坦な顔で、克を見詰める。
 「本田と私の…。それって、具体的にはどんな関係なのかな。」
抑揚がついた、だがどこか不自然な音。しかし今の克に、それに気づく余裕は無かったらしい。
 「関係。そんなものは、あれだ、クラスメイトで…えーと、それに秘密の関係ってやつ。ほら、バーネットだっけ。あれ見たいな。アハハッ。」
 半ば意味不明な言葉を引用しながら、克が説得を試みる。…佑子が彼に顔を向けた。
 「解った。じゃあこの写真は本田にあげる。だから、きっちり、貴方の責任で処分しなさいよ。解ったわね、貴方のものだからね。」
 「…あ、ああ。…そうするよ。」
 佑子は先に立って、書庫を出て行った。克はアルバムを片づけながら考える。
 (なんだったんだ…あの眼は…粘っこい視線…。)
 心なしか、アルバムを棚に返し終えた克の肘は、細かく痙攣したようだ。外では、すこし楽しげな顔で、佑子が待っている。
11名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 17:37:55 ID:NJ0XIknz
 図書館から教室へと戻った、克と佑子。二人は何食わぬ顔で、昼休みに入っていた他のクラスメイトの中に混じる。
 「え、違うよ。ただ図書館で会ったから、一緒に教室に来ただけ。…そうのなの。確かに、本田って口は上手いよね。」
 克が席に着いたころには、佑子はすでに、弁当箱を広げてクラスの女子の談笑の輪に入り込んでいた。
 (はぁー、要領いいよなぁ。さすがと言おうか、何と言おうか…。)
 そんな佑子の姿を横目で捉えながら、克は購買のコロッケパン齧った。そこに、なかなか整った顔をニヤつかせながら、一人の男子生徒が近づいたきた。
 「克〜。上手くやったみたいだな。」
 「何がだ。」
 克はコロッケパンを口に含んだまま、言葉をもごつかせながら、聞き返した。男子生徒は克の前の席に座る。
 「何って、さっきの授業中、篠原と一緒に過ごしたんだろ。たく、お前はあれこれ手際が良すぎなんだよ。」
 克の机に突っ伏しながら、さも羨ましそうに話す、男子生徒。克はその頭を机の端の方に、手で追いやった。
 「偶然図書館であっただけだ。それに、俺はずっと書庫の方に居たから…。」
「書庫…。ま、まさかお前、あれを…。」
 克の言葉を聞き咎めて、男子生徒が蒼白な顔面を克に向けた。そして、嫌そうに体をのけ反らせる克に、さらに言葉を継ぐ。
 「お、お前…。あれが俺たちにとって、どんなものか…。」
「解ってるよ。…夢だろ。」
「そ、そうだよな。いやー悪いな、つい取り乱して。そうだよな、まさか俺達を管理する立場にいる克が、裏切るわけないもんなー。すまん、すまん。」
 (ゆるせ、寺町…。俺は夢より、現実に生きる。) 
 安心したように、克の背を叩く男子生徒に、克は生暖かい笑顔で応じた。
 「まぁ、そういうわけで、俺は一人で書庫に居たわけで…お前の考えてるようなことは、ないから。」
 克はペットっボトルに口を付けながら、寺町と呼ばれた男子生徒に、嘘情報をリークする。
 この男子生徒、本名を寺町豊(てらまちゆたか)と言う。学内でも情報通で、口が軽いことで有名。克とは同じクラスで、克が所属しているある組織の…その下っ端であるという縁から、こうしてつるむことも少なくない。
 しかし、いつもなら、こうして情報を供給してやれば、乾いたスポンジの様に委細構わずあること無いこと吸収していく彼が、一向にニヤついた顔を改めようとしない。そんな級友の態度に、冷汗をかきながら、克は喉を鳴らす。そんな、克の態度に豊がさらに口元を歪ませる。
 「嘘はいかんね、嘘は。俺知ってんだぜ…。」
(まじぃ…まさか、俺が篠原にアルバムを見せたのが、バレてる…。)
 嫌な笑い声を混じえながら、克を見る、豊。そして、緊張がピークに達したころ、遂に…。
 「お前、さっき購買に昼飯買いに出てただろ、その時に、俺、篠原に聞かれたんだよねー、お前のこと。」
 「…そ、そうか。」
 ようやく口元で止まっていた息を吐き出して、克はどうにか答える。
 (…どうにか、停学だけ回避できたか。)
 心底安堵する、克。…いったい何の組織に所属しているのやら…。
 「んで、聞かれたお前はどうしたわけ。」
 克は机の上に残っていたカレーパンに手を伸ばしながら、努めて何気なく問う。豊も聞いて欲しかったのか、満面の笑みで応えた。
 「もちろん、話したよ。」
「…知ってること、全部か。」
「ああ、一秒でも長くお話ししたかったからな、我らの姫と。」
「寺町…お前なぁ。」
 歯形のくっきりと付いたパンを口から外すと、苦笑いで睨む、克。その顔を見て、楽しそうに笑い返す、豊。
 「あ、なんだ、不味かったか。」
「たりめーだろ、篠原がせっかく俺を驚かそうと考えた、その好意を、お前が台無しにしたんだぜ。まぁでも、心配すんな、俺からちゃんと謝っといてやるから。」
 「うわ、ムカつく。お前、本当に月の無い夜は、背後に気をつけた方がいいぞ。篠原、性別に関係なく、誰かれ構わずモテるから…善意の第三者に、何かされるかもよ。」
 そうやって、軽口を交えながら、昼休みは過ぎている。それは、何てことのない風景…ただ一つ、気遣わしそにこちらを窺う、佑子の視線を除いては…。
12名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 17:39:35 ID:NJ0XIknz
 (篠原が俺のことをねぇ…。期待しても、良かったりするのかね。)
 放課後、多くの生徒と同じく、克も部活に出る。
 克の所属しているのは、読書部という名ばかりの文化部で、たいていの生徒は、内申点稼ぎを兼ねた放課後の居場所探しに入部する。克もそんな一人であった。
 部室兼活動場所となっている図書室に入ると、克はぼんやりとさっきの豊の言葉を思い出しながら、今日読む本を探す。
部員らしき何名かの生徒は、すでにマンガやカードゲームに熱中し、三つ編み、眼鏡という典型的な文学少女の部長は、パソコンで貸出記録をもくもくと整理している。
 隆弘は書庫の近くにある、新書を集めた棚の前に来た。どうしても克の視線は、扉の奥…あの部屋での出来事を見ようとしてしまう。
 篠原佑子、確かに克の目から見ても美しい少女だった。そして、彼女の麗しさを反芻する度に、克は思い出してしまう。
 (何だったんだ…何のつもりで、篠原は…あんな眼で、俺を…。)
 克は今見ているように佑子の瞳を回想する。そして改めて、慄然とした。
 克は適当な本を棚から見つくろうと、近くの机に掛けた。そして、納得する。
 (やっぱ、あのとき感じたのは、悪寒か…。美人にビビるとは、まだまだだね、俺も。)
 克は軽く唇を歪ませると、ページに意識を向けた。夕日にすっぽりと包まれた書庫の扉は、足もとの影よりも、遠くに見える。

13名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 17:40:08 ID:NJ0XIknz
 「へぇー、読書家ってのは、本当なんだ。」
 本に意識を向けて、それ以外のことには頭空っぽにしていた克が、急に呼びかけられて、勢いよく頭を上げる。
 「篠原か…。」
 ようやく追い付いてきた心臓の鼓動を誤魔化す様に、克は素気なく佑子の名を呼ぶ。
 佑子は克と対面する席に座ると、印象的な黒い瞳で舐め上げるような視線を克の顔に向けた。克は息を一度吐き出すと、視線を本の方に戻した。
 「あら、私には構ってくれないの。」
 その様子を見て、佑子はからかう様な言葉を投げかける。克は文字に焦点が定まらなくなった目を、それでも本の方に向けたまま、尋ねた。
 「篠原は、部活終わったのか。」
「うん、ミーティングだけだったから。私の入ってるの、アウトドア部って言って、休日の活動がメインだから。本田の入ってる読書部とは、えらい違いでしょ。」
 克の視線が向かないのも気にせずに、楽しげに話す、佑子。しかし、その笑顔も克の次の質問を聞くまでの事だった。
 「…そんなことまで、寺町に聞いてたのか。」
 本から目を動かさずに言った、克の呆れた様な一言。そんな克の他愛無い言葉への返答は、
 「…ごめんなさい。」
と、克も思わず声の主の顔色を、確かめざるを得ない様なものだった。
 「ごめんて…。どうした、篠原。」
 佑子の顔は、柔和さを留めたものだった。しかしその表情は夕日に照らしだされ、お世辞にも良好とは言えない、そんな苦しそうな顔だった。克の驚いた顔と、問いに、佑子が呟いた。
 「ごめん、本田のこと他人から探るようなまねして…やっぱ、気分悪いよね。」
「気にすんなよ。そりゃあ、あんなもん見せられたら誰でも不安になるだろ…謝んなよ。むしろ、篠原は謝罪を要求していい立場にいるんだから。たく、そんなこと気に病んでたのか、几帳面だなぁ、篠原は。」
 克は書庫の方を軽く指で突くように示して、さらにそれに笑顔を重ねた。
 「ひど、人が真剣に謝ってるのに、本田はそれを几帳面で済ましちゃうんだ。何か損した気分だな。」
 克の声に勇気を得てか、子犬のような不安そうな目線を彷徨わせていた佑子に、いつもの調子が戻る。克は満足そうな笑顔を口の端に浮かべて、立ち上がった。
 「どこ行くの。」
「あんまり騒ぎすぎるのも何だし、この本返して、帰ろうと思ってな。」
 少し咎めるような、佑子の口調。克は気にした様子も見せずに、本棚に乱暴に本を押し込んで居る。
 「で、篠原はどうすんだ。」
「え、私。私は、えーっと…。」
 テーブルの上の鞄を片付けていた克に尋ねられ、佑子は慌てた様な素振りを見せる。
 「えっと、私も帰るよ。帰り道、本田が転けたりしないか心配だし…。」
「そいつは、ご親切に。でも、お前の用事はいいのか。何かしに、ここに来たんだろ。」
「いいの、いいの。何か本田の顔見てたら、面倒くさくなって来たから。私も今日は帰ることにする。」
 「…人の言い草に難癖付けておいて、その舌の根も乾かないうちに言う言葉が、それですか…。いいけどね。じゃあ、俺、部長に挨拶してくるから、篠原は…まぁ、好きにしてて。」
 克は佑子の笑顔の敬礼に見送られながら、図書室の前の方に居る部長の元へと向かった。
 「ん、本田君、もう帰るの。読書感想文の提出は、来週までだから。…これ、欲しいの。」
「帰ります。提出は、間に合わせる積りです。それ、要りません。」
 克は鯛焼きを食べながら、パソコンに向かう部長に、要点だけ答えて返した。そんな克に、部長は加えていた鯛焼きを、少し手でちぎると、ニッコリと笑い、いきなり克の口に切れ端を突っ込んだ。
 「遠慮しないで、美味しいから。…あ、間接キスじゃない、これ。」
「…先輩、三つ編みと、そのキャラさえ無くなれば、結構モテると思いますよ。…ん、確かに美味しいですね。それじゃあ、ご馳走様でした。また、明日。」
 克はもうパソコンの画面しか見ていない部長に、挨拶を済ませる。部長は鯛焼きを加えたまま、軽く手を上げて応じて見せた。克は開きっぱなしの図書室の出入り口に、足早に向かった。
14名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 17:40:50 ID:NJ0XIknz
 図書室の内外に、佑子の姿が見つけられず。克は諦めて下足箱に向かった。
 (帰ったかな。まぁ、気まぐれっぽい奴だからな。)
 しかし、その予想に反して佑子は正面玄関のところで待って居た。
 「ん、待ってたのか。」
「好きにして待ってろって言ったのは、そっちでしょ。」
 そういうと、佑子は校門へと歩き出した。克は苦笑交じりに、その後を追う。
 しばらく家路を進んだとき、佑子が話しかけた。
 「本田って、髪の長い女に弱いわけ。」
 また、いつものからかう様な口調。克も何気なく返答する。
 「そうだな…そうかもなぁ。…何だよ。」
 そして気付く、自分の顔色を覗き込むように窺う佑子に…。佑子は、内心を隠すように咎めるような口調をする克に、なおも質問を続ける。
 「でも、三つ編みはしちゃダメなんだよね。」
 「篠原、まさか…さっきの聞いてた。」
 克はいつしか、佑子の独特の視線に居心地の悪さを覚える様になっていた。そしてどうも、下手に出てしまう。
 そんな克のひきつる様な表情を見てか、佑子がまたいつもの可愛らしい笑顔に戻る。
 「さぁ、どうかな。それより、本田って一人暮しなんでしょ。じゃあ、当然これから押しかけてもいい訳だよね。」
 「い、いい訳無いだろ。そういうことは、せめて三日前に言えよな。」
 突然、歩き出した、佑子。その背中を追いかけながら、克は努めて落ち着こうとした。
 (なんか、情けないな、俺。まぁ、経験不足は否めないけどさ…。)
 佑子は立ち止まると、拗ねたような口調で尚も交渉を試みる。
 「えー、いいじゃん。別に、汚くても構わないしさぁ。なんなら、私も掃除、手伝うからさぁ。」
「俺は構うの。それに、今日はもう疲れたから、一人でゆっくりしたいんだよ。三日経ったら、また言って。」
 「それって、三日後に聞いたら、また三日後って言うつもりなんでしょ。ねぇ、いいじゃん。そうだ、じゃあどこに住んでるかだけでいいから。部屋の前までいいから、連れてって、お願い。この通り。」
「まぁ、それくらいなら。…てか、それって何か意味あるのか。」
 手を合わせて、半笑いに頼む佑子に、克が遂に折れた。
 そして二人は、長く伸びた影を引きずりながら向う…。
15名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 17:41:17 ID:NJ0XIknz
 事件は、克が住むアパートの前に来た時に起きた。克がここが自分の部屋だと、アパートの一室を指示した瞬間、佑子の声とともに彼女の左手がゆっくりと持ち上がった。
 「あの、本田。…ごめん。」
「お前、それどうしたんだ。」
 持ち上げられた佑子の左手の甲から、ダラダラと赤い血が流れていた。克は驚愕しながらも、息を飲んで何とか己を保つ。
 「お前、確か、傷って…。」
「うん、私、糖尿病だから。…下手したら、化膿するかも。」
 克は暗い顔で俯く佑子の右手を取って、自分の部屋に引っ張って行った。
 「あ、あの、入っても、いいのかな。」
「悪いい訳あるか。ほら、もたもたするな、さっさと手当てするぞ。」
 克は振り返らず、ひたすら佑子を先導することに専念する。あるいは克は無意識的に、傷口を見るのを避けようとしたのかもしれない。

しかし、嬉しそうにする佑子の、朗らか過ぎる笑顔には眼を向けておくべきだっただろう。
二人を飲み込んで、頑丈そうな扉が独りでにしまった。
16名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 17:41:48 ID:NJ0XIknz
 「おい、ガーゼがずれるから、あんまり触るなよ。」
 克はベッドに座りこむと、台が透明な小さなテーブルの前で、嬉しそうに包帯の巻かれた手を撫でている、佑子に忠告した。佑子が手を止めて、笑顔を返す。
 傷口は血の割には深いものでは、無かった。しかし、相応に気疲れしたのか、克はベッドに体を投げ出すように、仰向けになる。
 しばらくすると、部屋をあさる音が聞こえてきた。
 「…何してんだよ、人さまの部屋だぞ。」
「そっか、家主に聞けばいいんだよね。えっと、いかがわしい本とかは、どこにあるんですか。」
 悪びれる様子など欠片もない、佑子の質問。克は溜息を吐くと…観念した。
 「好きに探して下さい。…でも、くれぐれも怪我が悪化しないように気を付けろよ。」
 克の気使いに、弾むような佑子の返事。そして、克がウトウトし始めたころ、それは突きつけられた。
 「んー、戦果は雑誌だけか、なかなか巧妙に隠してるようね。にしても、これ、ね、これ見てよ。ハァー、世の中にはこんな度胸ある人がいるんだねぇ。」
 克はいきなり顔の眼の前に現れた、水着姿のグラビアアイドルのアップに目を見張る。そして、克は自分の今の状態が、さらに非常なものであることを知った。
 「ちょっ、悪いけど、どいて頂けません。」
「へぇー、私たちと同い年だって…え、はいはい…にしても、いい体してるわぁ。」
 克に言われて、初めて気付いたとばかりに、克の上に覆いかぶさる様にしていた佑子が飛び退く。佑子はまだ雑誌を見たまま、オヤジ臭いセリフを吐いた。
 (こいつ、…まさか、これ程危機感の欠如した奴だったなんて…。)
 人さまに、到底言える立場に無いことを考えながら、克は本日何度目になるかも忘れた様な、心臓の拍動の音に耳を傾ける。すると、そんな克に、雑誌を見比べていた佑子が、また質問した。
 「ねぇ、やっぱり本田も、女の子のスリーサイズとか気になる。」
 笑いの混じった佑子の声…だが、その眼は…。克はそれに天井を仰いだまま答えた。
 「んー、どうかな、サイズを言われても、はっきり言ってピンとこないしな。でも、篠原のは、知りたいな。」
「えー、ちょっと、それどういう意味。いろいろ、身の危険を感じるんだけど。」
「いい勘だ。篠原の情報は、何でも学校の連中に高く売れるからな。」
 それに答えは返って来なかった。代わりに冷蔵庫の開く音が響く。
 「おい、ちょっと、何勝手に開けてんだよ。」
「いいの、いいの。私、料理得意だから、何か作って上げるよ。手当てしてくれたお礼も兼ねてね。」
 本当に楽しそうな、佑子の声。さすがに克もそれには起き出して、止めに入ろうとする。
 「いや、せっかくだけど…。」
 そしてまたこの眼に射すくめられる。佑子は言葉を継げずにいる克を見て、微笑んだ。
 「ねぇ、ご飯とかある。」
「あ、ああ、冷や飯なら…。」
「ん、じゃあチャーハンにしようかな。」
 そういうと、佑子は冷蔵庫あさりを続行する。克は二、三歩後ずさった。そして、
「あの…俺、トイレ。」
と、わざとらしく弁解すると、トイレに逃げ込んだ。
 便座の上に腰を下ろし、深いため息を吐いた克は、自問自答し始める。
 (疲れる…。女を部屋に連れ込むのって、ここまで居心地悪くなるものなのか…。それに、あの眼…。そう、あの眼だよ。あの眼が…解らん。)
 克はトイレでがっくり肩を落とした。遠くの方で、炒めものをする音が響いていた。
17名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 17:42:22 ID:NJ0XIknz
 「あれ、オムライス。」
「うん、急に思い立って。…ネギ無かったし。あ、ご免。ケチャップ使い切っちゃったから。」
「いや、それはいいんだけど…。お前、包帯。」
「料理してる時にずれちゃって、勝手に替えさせて、もら、おう、と。」
「…それも、いいんだけど…。とにかく、包帯貸せ、そんな手つきじゃ、悪化しかねない。」
 克は、テーブルのオムライスを前に、片手で包帯を付けようと悪戦苦闘している佑子から、包帯を奪い取る。近くのゴミ箱には、何故か血まみれの包帯が捨ててあった。
 「さぁ、どうぞ、食べて下さい。」
佑子の声に誘われるように、いよいよ試食タイムに入る。ケチャップで描かれたハートマークが、なんだか目に痛い。克がスプーンを手に取った。
 「それじゃあ、頂きます。」
 克は軽くお辞儀をして見せてから、記念すべき一口目を迎え入れた。
 「どう…。」
 期待の眼で待つ、佑子。克は完全に飲み込んだあと、評価を下した。
 「美味しいな。半信半疑だったけど、料理得意ってのは本当だったんだな。さすがミスコン覇者。確かに、覇道に生きてるわ。」
 笑顔でブイサインを克の鼻っ柱に突き付ける、佑子。克は二口目を食べながら、本心に思いを巡らす。
 (美味しい。美味しいは、美味しいけど…何だろう、この味付けの足りない焼きナスみたいな後味は…いや、美味しいけどね。)
 もくもくと、克はオムライスを食べ続けた。佑子はそんな様子を、優しげな笑みを浮かべて見つめていた。
 「どうかしたのか。」
 佑子のあまりにうっとりとした様子に、思わず克が訪ねた。佑子は陶然とした面持で、それに答える。
 「うん、嬉しくって。」
「嬉しい…むしろ、喜ぶべきは俺なんじゃないか。」
「そう思うのはきっと、私の思いが貴方にも分けられたからだよ。」
「なんのこっちゃ。」
 遂に克が食べきった…。克は佑子に笑顔で礼を述べる。
 「サンキューな、篠原。思わぬ、優良イベントだったな。で、腹も満たされたし、そろそろ帰る。」
 克の指さす先には、時計が18時30分を示していた。克の言葉を聞いて、佑子がよよと泣き崩れる真似をして見せた。
 「うう、しょせん私は飯炊き女なのね…本田、送ってくれるよね。」
「当たり前だろ。右手まで怪我されたら、堪らないからな。」
「そ、じゃあ、私の左手を握って歩いてもらおうかな。」
「え…左手。右手じゃなくてか。」
「いいの、いいの。ほら、行こう。」
 さっさと鞄を持った佑子が、今度は逆に手を引いて外へと導いた。街灯の光が、夜を濃くする。
18名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 17:43:03 ID:NJ0XIknz
 手こそ握っていないものの、二人は仲好く歩調を合わせて歩いているようだ。点々と続く、丸い光を通りながら、二人はまた他愛無い会話を重ねていた。
 「なぁ、お前の家、どの辺なの。結構、学校に距離あるんだな。」
「そうかな、もう少しだから、我慢してよ。あ、寂しいなら手を握って上げようか。」
 克が終始明るい佑子に、苦笑する。佑子が時計を見て、わざとらしく嘆いて見せた。
 「ああ、もう、七時か…。これは、怒られるかもなぁ。…本田、彼氏役、一時間800円でやらない。」
「えーと、俺はこの辺で…。」
「待て、せめて玄関まで…解ったわよ。門の前まででいいから付き合え。」
 引き返そうとする克を、佑子がその襟首を掴んで、捕まえた。
 「解ったよ。でも、説教を聞く人員が欲しいなら、俺をあてにしないで、本物の彼氏でも何でも呼べよ。」
 佑子はその言葉をキョトンとした顔で聞いてから、呆れたように溜息を吐いた。
 「何、馬鹿言ってのよ。そんなの居るくらいなら。こんな状態になってるわけないでしょ。」
 「失敬。俺もまさかとは思ったんだが…万が一ってこともあるから。」
「…今から、親に電話しようかしら。内容はそうね、彼氏を連れてくから…。」
「失礼しました…勘弁して。」
 楽しそうに笑い合いながら、ひたすら歩き続ける、二人。克が気になっていたことを、ポツリっと吐いた。
 「にしても、なぁ、篠原。お前あれだけ人気あって、何で彼氏いないんだ。やっぱ、敷居が高いって、告って来る奴がいないのか。」
 佑子は少し困った顔をしたが、それでも丁寧な口調で応えた。
 「告白されたことは、その…何度か、あったよ。でも、全部断ってしまったから。…私、なんか…好きってことが良く解らなくて。あ、き、気になる人は…いるんだよ。」
 じっと克を見つめて、佑子は語りかけた。克は興味が有るのかないのか、ただ、
「そっか、でも、みんなそんなもんだと思うけどな。」
と、同意でも否定でもないような言葉を返した。
 佑子は少し歩調を速めて前に出ると、かなり大きめの家の門を指差して示して見せた。
 「あそこが、家の門。ありがとう、ここまででいいから。」
佑子は克に慈愛に満ちた笑みを掛ける。
 「今日はご馳走になって悪かったな。時間も大分、遅くまで付き合わせたし。」
「うんうん、こっちこそ…。それより、また本田の部屋に行っていいかな。」
 「ああ、もう恥も外聞も掘り下げられたしな。いいよ、いつでも来てくれ。」
「ん、じゃあね、お休み。」
 そういうと、佑子は克の言葉を待たずに門の中へ消えて言った。
 克は首をぐるぐると回した後、家路につき始める。見上げる新月の夜は、はるか高い。
 (もしかし、俺…何かされたのかもな…。)
 克はどこまでも遠い空を、見上げ続けた。
19名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 17:43:39 ID:NJ0XIknz
 携帯電話のバイブレーション。克は今日もその音で目を覚ました。携帯電話の液晶画面には、篠原佑子の文字。
 克はのっそりと蒲団から起き出すと、振動し続ける携帯電話を無視して、外芝高校指定の制服に着替え始めた。
 このような事態が始まったのは、克が佑子を初めて部屋に上げた日の翌日だった。
 朝七時ぴったり、朝食を作るかどうかをベッドの中で、まどろみながら考えていた克を、玄関に取り付けられたチャイムが強制的に起こす。
 不意の出来事に心臓を高鳴らせて、少しおっかなびっくりドアに取り付けられた除き穴から外を確認した、克の目に飛び込んできたのは…。
 「篠原…何で。」
 驚きを露わにして、インターフォンで呼びかける克に、佑子は少しはにかむ様にして、後ろ髪を撫でながら答えた。
 「学校、一緒に行こうと思って…。」
 それが最初だった、そして徐々に佑子の迎えに来る時間は早くなっていった。
 近所の外聞をはばかって、克が携帯電話の番号と、メールアドレスを教えたころには、佑子は朝五時には克の部屋の前に現れる様になっていた。
 その後の克の説得もあって、佑子はインターフォンを使わずに、携帯電話で到来を知らせる様になった。それに時間も何とか、六時前に来るようなことはしなくなった。現在の時間、朝六時二分。
 克は振動を続ける携帯電話の単調な音を耳にしながら、考える。
 (…好かれてはいるんじゃないかな、向こうに嫌がらせしている気がなければだけど…。いや、嫌がれせじゃ、ここまで続かないか…。これは、俺から告れっていう、意思表示なのか。…そういや、自分で自分のこと、奥手だみたいなこと言ってたっけ。…でもなぁ。)
 克はシャツの手首の裾のボタンを閉めながら、さらに思いを巡らす。
 それは、佑子の態度のことだ。朝押しかけて、そして帰りも一緒に下校するようになった、佑子。しかし、人前での佑子の克への接し方は、どこか余所余所しいものになっていた。
 授業中に限らず、休み時間も、下校途中も、果ては登校中も、佑子は他人の眼を意識すると、克にはっきりと解るほどの距離を作って見せた。そして、それは少なくとも、克の為を思っての行動ではない。
 克のその思考を裏付けるように、待ちきれなくなったのか佑子がドアを叩き始めた。
 そう、克がいちいち悩むまでもなく、彼が告白に至らない理由は明白だった。佑子は克の許容の範囲を超えたのだ。
 そして着替え終わった克は今日も、佑子がまき散らす騒音を止めるために、携帯電話の通話ボタンを押した。
20名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 17:44:35 ID:NJ0XIknz
 「たく、起きんの遅すぎよ。まさかそのガタイで低血圧なの。」
 佑子が二人分の朝食を用意しながら、本当に解っていないのか愚痴をこぼした。
少し伸びた髪を揺らしながら、エプロン持参で押し掛ける姿も、克には望むと望まざるに関わらず、馴染み深いものに成っていた。
 「あのなぁ、篠原。頼むから、ドア叩かないでくれって言ったろ。本気で、俺、このアパートから追い出されるから。」
 そして克は、効果の期待できないことを骨身し染みて知っている願いを、今日もまた虚しく空に放つ。
佑子はテキパキとトーストとスクランブルエッグにベーコンを添えた皿を、テーブルに並べると、クッションの上に膝をついてエプロンを外し始めた。
 「なぁ、篠原。毎日迎えに来てもらって、しかもこうして朝飯まで用意してくれるのは、非常に有難いんだけど…。
やっぱり、篠原の親御さんの気持ちとかを考えると、その…心苦しくもあるし。だから、明日からは…。」
 「明日からは…何…。」
 また、この眼だ…。ようやく、克にも解ってきた。なぜ自分がこれほど佑子のこの黒い瞳に、翻弄されるのかを。そう、それは、
 (すでに何かを決めてしまっている奴の眼だ。だから、このままじゃ、俺は…。)
 克は心の中で意志を固くすると、初めて佑子の、その先へと踏み出した。
 「明日からは、もう来ないでくれるか…。」
 辺りを包む静寂、克は自分の心臓の音に視界を狭められていくの感じながら、佑子の次の返答を待つ。
 「…んー、まぁ、本田がそう言うなら、仕方無いかな。あーあ、私、オママゴトみたいで結構気に入ってたんだけどなぁ。…解ったわよ、もう来ません。ほら、冷めないうちに食べよ。」
 拍子抜けするほど簡単に承諾した、佑子。克は驚きととも、安堵感を抱く。
 (これで、篠原との接点は無くなるかも知れないと思うと、確かにもったいない気もするけど、これ以上篠原の事を煙たく思わずに済むのは、良かったかな。
…ハァー、今さら考えると、何か、かっこ悪いな、俺。やっぱ、睡眠不足かな。)

 克は久しぶりの屈託の無い笑みを佑子に向けて、気分良く食事を始めた。


確かに、睡眠不足だろう。克は、さっきから佑子がピクリとも動いていないのに、気付いていない。
21名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 17:45:26 ID:NJ0XIknz
 その少女は放課後、突然訪れた。
 「一年三組、猪山稔(いのやまみのり)です。篠原先輩と同じ、アウトドア部に入ってます。」
 「猪山さんね。で、例のアルバムのことは、誰から聞いたの。」
 他に誰も居ない二年一組の教室で、克と稔は面談を行っていた。克は自分の机の上に座り、携帯電話を弄びながら、稔に質問した。それに、硬い表情の稔が尋ね返す。
 「あの、それは口止めされていることだから…。それより、私絶対に他言しませんから…。」
「しないから、俺に何かを要求すると…。学校で恐喝は良くないんじゃないかな、猪山さん。生徒の和って大切だと思うな、俺は。で、寺町は他に何か、君に教えたわけ。」
 「はい、自分の知る限りでは、篠原先輩と一番親しいのは本田先輩だって…あっ。」
 淀みのない克の弁舌に、しっかりと乗ってしまった、稔。慌てて口に手をあてるが、もう遅い。克はニヤリと笑う。
 「やっぱりそうか…あ、いいんだ、いいんだ、気にしなくても。バラした、寺町が全面的に悪いから。えーと、ちょっと、電話掛けたいんで、少し時間もらえる。すぐ済むから。」
 克は稔が頷いたのを確認した後、廊下に出た。そして、誰かに電話を始める。稔にも、それが克の意図かは解らないが、その不穏な会話が聞こえてきた。
 「ああ、やっぱり、寺町の奴が裏切ってった。…確かに、あいつは俺のクラスの生徒だが…そのことに関しては、俺が始末を…。
ああ。寺町の処遇だが、階級を二級工作員から、愚民に落としてくれ。
それと、『片道切符の中央階段、プロレス研究会名物、リアル死亡遊戯の刑』に処してくれ…そうだな、まぁ、初犯だし、三階の踊り場まで持ったら解放してやってくれ。それじゃ、よろしく。」
 折りたたみ式の携帯電話を閉じて、神妙な顔で教室に戻る、克。そんな彼を出迎えたのは…。
 「あれ、猪山さん…何してんの。」
 窓際で震えながら自分を見る、稔の姿だった。
 「あ、あの、もしかして私も…殺されちゃうでしょうか。」
「…何の話ですか。」
 克は溜息を吐くことも忘れて、疑問を呟いた。
22名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 17:46:20 ID:NJ0XIknz
 暮れ始めた味の濃い光に照らし出され、机に頬杖付きながら稔の演説を聞く、克の横顔にも影がさす。
稔は自分の要求を早口で伝え終わると、克の返答を待っている。克は半眼で問い返した。
 「えーっと、つまり、猪山さんは…篠原とより親密に成りたいから、俺に手を貸せと…。
ついては、今週の日曜日のアウトドア部の野外活動に、俺も出席して、その時に篠原に、猪山が俺の前からの知り合いで、だから『親しくしてやって、欲しい』みたいなことを言って欲しいと…。
そしたら、例のアルバムに関しては、黙っといてやるからと…そう言いたい、訳。」
 稔は首を縦に振り振り回して、嬉しそうに肯定した。克は面倒臭そうな溜息を吐きだすと、さらに確認を続ける。
 「なるほど、あのさぁ、猪山。まず、これだけは理解しておいて貰いたいんだけど。寺町がどんな風に説明したのかまでは、俺には分からないけど。
俺、多分猪山が思ってるほど、篠原と親しい訳じゃないよ(どうせ、人前じゃ、あいつ素っ気無いし。)。むしろ、同じ部活に所属している、猪山の方が親しいんじゃないか。」
 ある種、もっともと言える克の忠告。その疑問を受けて、稔が今度は首を横に強く振り回す。割とリアクション過多な、後輩さんだ。
 「そ、そんなことないです。…篠原先輩って、美人で人当たりもいいから、確かにみんなと、私とも仲良くはしてくれます。
でも、ある所より近づこうとすると、何だか敷居が高くなるというか…妙な疎外感があるんです。
だから、私、もっと篠原先輩と仲良くなって、他の人じゃ手が届かないような場所の、お手伝いもして上げたいんです。…それで、同じクラスで性別の違う、本田先輩に違う形で紹介してもらえれば…。」
 「と、寺町から得た情報から、篠原の受ける印象に対して、より効率的だと計算して、導き出したか…。猪山、お主も悪よのう。」
「そ、そんな…。」
 ハッとしたような驚きの顔を作って、たじろぐ、稔。克はその様子を生暖かい目で、眺めた。
 (へぇー、なかなか頭の回ること。つか、やっぱそこまで篠原のことに思い詰めるってことは、絶対猪山の方が俺より、篠原と親しいだろ…。それにしても、性別に関わらずモテるっていうあの触れ込み、本当だったんだな。)
 克は未だ唇の端を噛みしめる様に言葉を探す稔に、今朝同じ人物に対しての悩みのハードルが下がった先達として、妙に優しげな笑顔を送った。…日常って偉大だ。
 「いいよ、効果の方は期待されても困るけど、俺を通じて猪山の新しい一面を、篠原に紹介するっていうのは、手伝うよ。何か、面白そうだし。」
「ほ、本当ですか。」
 胸元で握りしめられていた二つの手はそのままに、稔が希望に満ち溢れた顔を、克に突き付けて来る。そんな、様子に全く臆することなく、克は目の前に現れた顔面に、余裕の笑顔で応じる。…克の肝は、強くなっていた。
 「でも、何でわざわざアウトドア部の活動でなんだ、別に今日今から篠原に紹介してやっても、俺は構わないけど。やっぱり、演出の一環ですか、監督。」
「それもあるんですけど…学校に居る時に、行き成り紹介してもらったら…なんだか、篠原先輩に、変に思われるんじゃないかなって。ごめんなさい、本田先輩をこんな回りくどいことに、突き合わせてしまって。」
 照れたように笑う、稔の頬が赤く染まっているのは、夕陽のせいばかりでは無いだろう。克も大がかりな悪戯を準備する、子供のような誇らしげな微笑みを返す。
 「よし、そうとなったら、打ち合わせだな。やるからには、完璧にやらんと面白みがないからな。じゃあ、決行日はもう明後日出し、キャンプに参加するのに必要な荷物とか、教えてもらっとこうかな。」
「はい、えーっと、このプリントに…あ、後でコピーしますね。で、とりあえず、参加費が一人、2000円です。もちろん、先輩の分も私が出しますから。」
 「いや、費用に関しては、気にしなくていいから。でも、プリントあるなら、持ち物の件はこれで解決だな。じゃあ、俺たちの関係だけど…幼馴染にでもしとくか。」
 夕暮れの教室の中、当初の目的を覚えているのか、二人のはしゃいだよな声が響く。そうして克と稔は、地雷原の周りを踏み鳴らしに向かった。
23名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 17:47:44 ID:NJ0XIknz
 辺りは薄暗く、校内の電灯の明かりが、深く、どこか頼りなく感じられ始める。
 克は稔との相談に一段落ついて、一人教室の机に突っ伏して眼を閉じていた。すると、そんな克の左の耳に、ピチャリという音と共に、生暖かい何かが触れた。
 「なっ。」
 不意の感触に、跳ね起きた克の眼の前に、可笑しそうに笑う佑子の顔があった。
 佑子は、まだ眼を見開いている克に、水滴の浮かんだ冷たそうな缶ジュースを差し出した。
「はい、本田の分。」
「お、おう、サンキュな…。」
 克は驚きの収まらない心臓を抱えて、何とか缶を受け取る。佑子は自分の分のジュースに口を付けていた。
 「どうしたんだ、こんな時間に…。」
克は素気なく装って、缶を開けながら、佑子に尋ねた。佑子は喉を鳴らして、缶を高く掲げると、豪快な感嘆の声を上げた。
 「プハァー、上手い。やっぱ、このマットな食感が…。え、それは本田と帰ろうと思って…。さっきまで図書館で待ってたんだけど、なかなか来ないんだもん、まさかお休み中だったとはね。
ということで、明日からはご用済みの私が最後の、目覚ましとしてのお仕事を全うさせた貰った次第であります。」
 佑子は黒板の隣にあるゴミ箱に、缶を捨てながら、克を振り返らずに平坦な声で説明した。克は缶に口を付けながら、大分遠のいたその背中をぼんやりと眺めていた。
佑子の首が動く度に、あった頃よりもずいぶん長くなった髪が、小刻みに揺れる。
 「本田先輩、お待たせしました。これコピーした…わわわ、し、篠原先輩ぃ。」
 二人の趣深い時間は、新たなる登場人物によって、突き破られた。稔は教室の後ろの出入り口から、一歩踏み出した位置に固まって動かない。
 佑子が、呆れ顔にその様子を伺っている克の傍に、寄り添うように近づいてから口を開く。
 「猪山さん、どしたの…。そういえば、今日のミーティングには顔を出して無かったけど。…えっと、二人は知り合いなの。」
 稔はしっかりと自分に向けられた佑子の目線を意識して、応答しようにも、完全にしどろもどろに成っていた。
 「あ、あの、その、えっと…ですね。それは、知り会ったのは…あっ。いや、そうじゃなくて。」
 克は稔が使い物に成らないことを察して、深いため息を嫌そうな顔で吐き出した。そして、克は差し出した右手で、稔においでおいでとボディーラングエッジで伝えた。稔はギョッとした顔をしたが、何とかひょこひょこと二人の元に歩み寄ってくる。
 克は佑子を意識しまくって萎縮している稔からコピーを引っ手繰ると、突然不自然なほどの満面の笑みを稔に向けた。
24名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 17:48:23 ID:NJ0XIknz
 「ん、ありがとうな、稔。にしても、悪かったな、まさか部活のミーティングサボらせてるとは思わなかったから。この埋め合わせは、当日バッチリ働いて返すから、それで勘弁な。
という訳だ、篠原。こいつが今日のアウトドア部のミーティングを欠席したのは、俺のせいだから…まぁ、悪く思わんでやってくれ。」
 「え…。うんうん、それは、大丈夫なの。うちの部のミーティングは、もともと出席は自由だから。ただ、猪山さんはいつも出席しているから、今日に限ってどうしたのかなって、気に成っただけなの。…それで、二人は知り合いなの。」
 克はいつもより少し丁寧な口調の佑子と、顔を真っ赤にして押し黙る稔を見比べて考える。
 (…猪山。これは完全に恋する乙女ってやつか…。俺は先輩として、後輩が修羅の道に進むのを止めるべき何だろうか…。まぁ、いいか、面白いし。)
 「あ、あの、ですね、先輩。その…わ、私は…むぐっ。」
 夢見るような表情稔の未来の失言を、克のゴッドハンドが封じ込める。
「ん、俺たちか、ああ、母親どうしが知り合いでな。その縁で、こいつがおむつ穿きはじめてた時には、もう遊んでたらしい。所謂、幼馴染ってやつだな。
それより、篠原、我が幼馴染を褒めてやってくれ。こいつ、今度のお前んとこの部活の、日帰りキャンプでやるバーベキューの荷物運びとして、身銭切って俺を雇ったんだぜ。
うん、なかなか、出来ることじゃないだろ。俺も幸せ、引いては世界が幸せ。いい話だ。さ、篠原、そんなとこでぼぉっと突っ立ってないで、こいつの空っぽの頭を、その白い手で一つ撫でまわしてやってくれ。」
 「ひっ。」
 いきなり克に、佑子の前に頭を突き出されて、短い悲鳴を漏らして固まる、稔。
 「…幼馴染…。あっ、そうだね、ありがとう、猪山さん。」
 佑子は、克と稔の間の虚空を瞬きせずに見つめた後、急に気付いたように、からかいの混じった笑顔を稔に向けた。
 「へ、へぁ、あ、ああ、あ。あ、お、お疲れ様でした。」
稔は佑子の手が自分の頭に近づいたのを感じて、口を開けっ放しにして妙な言語を口走った後、勢いよく頭を下げてから二年一組の教室を走り出て行った。その様子を、心底不安そうに見つめる、克。
 (うわー、猪山の奴、マジで逃げやがった。こりゃ、本気だな…。なんか、嫌な予感がしてきた。軽率に承諾するんじゃなかったな。)
 克は自分が煽りに煽ったことを忘れたのか、面倒そうな顔を提げたまま、机の横に引っ掛けてあった通学用鞄を手にした。
 「んじゃ、俺たちも帰ろうか、篠原。」
「…そうだね。」
 克に誘われて、まつ毛を伏せていた佑子が寂しそうに応じた。
 二人が後にした教室の窓に、紺色に染まった空が、くっきりと分たれていた。
25名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 17:49:14 ID:NJ0XIknz
 「あれ…帰んないの…。」
 克の部屋の前に来た時、佑子が疑問を口にした。責めている様子はない、だがからかいからのものであるとも到底思えなかった。
 「ああ、送ってくよ。結構暗くなってるしな。」
 暗がりの中に沈む佑子の面に、克が柔和な顔つきで返す。佑子はそれを、どんな風に思ったのだろうか。
 「…ありがとう。」
佑子はそう言うと、歩き始めた。その足取りは雲を踏みように、淡い。
 「ねぇ、本田と猪山さんて、幼馴染なんだよね。それって、どんなことなの。」
「どんなって、そうだな。年の差はあるけど、クラスメイトみたいな感じか。まぁ、頭の程度が大体知れてる位の付き合いってことだな。」
 念を押すような、佑子の声。本当は幼馴染などいない克には、とりあえず想像で補って話すより他はない。そんなこと知るはずない佑子が、質問を続けた。
 「そっか…。ねぇ、幼馴染って、やっぱり、特別なことなの。」
「特別っ。いやそれは…考えたことも無かったからな。そう言うのを、特別と言うのならば、そうなのかもね。…えーっと、それにしても、二人で校門を抜けたのって、久しぶりだったな。」
 いい加減、耐えきれないと判断を下した克が、話を逸らした。佑子はただ前を向いたままで、その声に耳を傾けていた。
 「なんだかんだで、登下校は一緒にしてたようなものだけど、下校はいつも学校近くの公園で合流していたからな…。」
 昔を懐かしむ様に話す、克。
 そんな帰り道での落ち合い方は、最初に佑子が克を起こしに行った日から始まっていた。克がその日家路を進んでいると、公園の前で急に誰かに声を掛けられた。
首だけ傾けて声の主を確認しようとした克の眼に、ブランコに座っていた佑子の笑顔が飛び込んで来た。
 それが、最初。その日から、佑子は放課後に必ずそこに居た。別にそのことを克に否む理由もなく、結果、どちらかともなく、そこで待ち合わせて帰る様になって行った。…だが。
 克は何も答えずに、徐々に夜に沈んでいく佑子の横顔を見つめる。なびく光沢のある黒々とした長髪。
克に何度も言葉を失わせたその瞳も、誰憚ることなく言える、奇麗だと…。そんな佑子の美貌に飲み込まれる様に、克はずっと気になっていたことを尋ねてみる気になった。
 「なぁ、篠原。お前、なんで人前では、俺のこと避けていたんだ。」
 あまりにも呆気なく口を離れた、命題。佑子は顔を伏せたままで、小さく呟くように答えた。
 「私、避けてなんていなかたよ。…ただ、普通にしていただけ。」
 その言葉で、克は自分の目の前が明るくなったように感じた。
 (そっか、それもそうだな。そもそも、俺たちはまったく話さないのが、普通だった。そうだよな、それを俺が、朝の時に比べて…その、物足りないみたいに感じてたのか。解ってしまえば、馬鹿らしいよな、俺が。)
 克は過去の自分を嘲る様に、口元を歪ませた。
 「それじゃあ、ありがとう、送ってくれて…。」
「いいって、なんか俺が待たせてたみたいだからな。」
 切なそうに頬を震わせる佑子に反して、克は重荷の無くなった体を伸ばす様に笑って答える。そんな克に、佑子が消え入りそうな小声で話しかけた。
 「本田には、その…クラスメイトで…ミスコンの優勝者じゃ…特別には…。ごめんなさい、また、明日ね。」
 「ああ、じゃあ、明日な。」
 なんとも心細くなりそうな笑顔を向ける佑子に、克は一抹の不安を覚えた。しかし、やはりその深刻さには、思い至らなかったのだろう。滑る様に、玄関に向かう佑子の後姿に、克が声を掛けることは無かった。
 そして、次の日の朝、約束通り、佑子は来なかった…。
26名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 18:03:52 ID:3vCvehK2
>>25
リアルタイムgj
良作の香りがするぜ

ただ投下前と投下終了の書き込むはしてもらいたい
27 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/21(土) 18:47:52 ID:hmkhUe3/

容量を使い切ってしまい申し訳ありませんでした。
そこで質問なのですが、
この場合は続きを投稿するのか、初めから投稿するのか、
どちらが良いのでしょうか?
28名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 21:12:46 ID:o8DtI6KK
>>25

楽しみにしてます
29名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 21:40:14 ID:913b+iWU
初めからがベターだと思う。
頭のなかで話がうまく繋がらないだろうし。
30 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/21(土) 22:00:45 ID:hmkhUe3/

ご返答ありがとうございました。
それでは再度初めから投稿させて頂きます。
31群青が染まる 02 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/21(土) 22:04:29 ID:hmkhUe3/

「なんで、こんなことに…」
 なったんだろうか…。
 ただ最後にあの景色を見て、それから…。

 人にどれぐらいぶつかったかわからない。
 それほど頭が混乱していた。
 どういう道を歩いたか覚えていない。

 思い出すのは彼女の言葉だった。
「…そうか」そう言った女。
 あそこで待つつもりなのだろう、それ以上何も言わなかった。
 
 断られると思っていた。
 だけど何も言わなかった。
 それは、逃げることのできないことの現われだったのかもしれない。

 荷物を纏めた―勿論、準備は既に出来ていた―俺は、丘へと急いだ。

「……」
 予想より早く辿りついたせいなのだろうか、女が少しだけ驚いた表情を
作る。
 どうやら、いかに人間離れした彼女でも、俺が今日旅に出ようとしてい
たことは知らなかったと見える。

 だから、聞かずにはいられなかった。
「逃げたら…どうなって「殺した」」
 静寂に負けない澄んだ声が響いた。

 既に、日は沈んでいた…これが、俺と彼女の旅の始まりだった。
 終わりはどこなのだろう。
 早く終わりたいという気持ちが強く心を支配していた。
32群青が染まる 02 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/21(土) 22:08:05 ID:hmkhUe3/

 ……

 馬の歪めの音が響く。女と荷馬車に乗っている。
 勿論、馬の手綱は俺が握っている。
 女は、黙って遠くを見ている。

 …そろそろ日が昇る。
 昨日が終わり、今日が始まった。
 
 ………
 ……
 …

「…これは?」
 女が問う。
「馬車、だよ」
 どうやら、荷馬車を知らないらしい。
 馬は流石に知っているのかもしれないが。

「え、っと、荷物や…人を載せて移動するための物だよ」
 お節介かとも思ったが、付け加えた。

 女はただ馬をそして荷車を見ていた。
 馬は静かに震えていた…騒ぎ立てることもなく。
 それとも、何かに気づいていたのだろうか。

 女が、柵に手をかけた。
「え!いや、それは…」
 他人のもの…。
 その目がこちらに向いた。
33群青が染まる 02 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/21(土) 22:11:50 ID:hmkhUe3/

 それだけで、体が竦む。
「他の人の…持ち物だから」
「……」

 女が軽く握った(ように見えた)だけで柵が音を立てて砕ける。
 実際にどれぐらい力がこもっていたのか。
 疑うわけではなかった…彼女は人知を超えた何かかもしれないと。


 俺は見られないように溜息をついた。

 ………
 ……
 …

 後ろを振り返ると女がいる。
 …どこかをボーっと明後日の方向を見つめたままの女が。
 そんな彼女が人ではないとは、やはり思えなかった。
「…何用だ?」
 脳が一瞬で沸騰したかと思った。
 こちらを向いた女のどこか爬虫類を連想しそうになるその瞳に吸い込まれ
てしまう、そんな感覚に陥りそうになる。

「あ、な、名前を聞いてない」
「…好きに呼べ」
 それだけだった。
 また女が興味をなくしたように視線をそらす。
 なぜ他の竜を探すのか、なぜ元の姿で探さないのか…聞きたいことはたく
さんあった。
34名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 22:14:20 ID:ee9HBLWO
4\
35群青が染まる 02 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/21(土) 22:15:35 ID:hmkhUe3/

 彼女が何者なのかは俺には全くわからない。
 だけど、もし彼女が自分で言ったとおりだとしたら…そこで頭を振った。
 彼女は命を助けると言った。
 今はそれを信じるしかない。

「マリン」
 安直だったが、空を連想させる青いその瞳からつけた。
 興味がなさそうに、そっぽを向いていたまま何も言わない女。
 どうでもよかったのだろう彼女にとっては。

 それでも、嬉しかった…独りじゃないことに。
 だからだろう…こんなに心が暖かくなるのは。

 今思えば無謀だった。
 そして、彼女が俺に興味がないことはよく知っている。


 荷馬車についた車輪がゆっくりと音を立てて回る。
 街道を馬が歩いてゆく。
 その日は、陽は見えるものの生憎の曇り空だった。
 元々商人が多く来るブリードには、人や馬がよく通るため道も整備され
ている。
 それでも、次の街までまだ遠かった。


 陽が昇ってから、陽が沈みかけるまで会話らしい会話はなかった。
 それは、俺にとってありがたいといえばそうだったし、寂しいといえば
そうとも言えた。

 自分で考えておきながら、我侭だなと苦笑した。
36群青が染まる 02 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/21(土) 22:19:05 ID:hmkhUe3/

 ――

「…あれはなんだ?」
 初めて見るものばかりだった。
 世界はこんなにも広く。
「ああ、あれは風車っていうんだ。粉引きのための施設だよ」
 …風車…頭の中ですぐに浮かんでくる。
 知識はある…それは受け継ぐ知識。

 こんなにも狭い。

 だが、実物はやはり違う。
 そうだな、人間で言えば、これが楽しいということなんだろうな。

 わざわざ人間で言う必要はなかった…それでもそう直した。
 人間というものに感化されたわけではない。

 ただ、言葉を分ち合いたかっただけなのだろう。
 それとも…。

 陽が沈む。
 獣の気配が少しずつ増えていく。
 だが、その気配も遠い。

 この道周辺に近寄る気はないという事か。
 なのに火を焚いては、辺りを見回している…そんな人間を視線の端に
捉えながら、空を眺めた。

 目を瞑ると感じるのは、世界そのもの。
37群青が染まる 02 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/21(土) 22:22:43 ID:hmkhUe3/

 ――
 
 時折来る質問に答えながら、旅は順調に進んでいく。
 勿論、荷馬車を盗んだ件で誰かが追ってくるというのはなかった。
 何度も振り返ったのを彼女にはばれていたのかもしれないが。
 …きっとばれているだろう。

 目指す方向から、また行商人とすれ違った。

 そうだな、そろそろ街が見えてもいいころだ。
 すぐにそれが正しかったことがわかる。
 前方の大きな街が視界に写りこんだ。

 ここが一番近い街。
 街の名をタウリオという。
 中継地点にとても適した場所のため、色んな品物が一度ここに集められ、
運送されていく。
 とても大きな街だ。

 大きな街ゆえに…出入口には門兵が配備されている。

 どうかばれていませんように!
 頭の中に祈りがひしめく。
 
「よし、そこで止まれ!」
 調べるための行為…ただそれだけ。
 だけど、嫌な予感が湧き上がる。
 どうかばれていませんように!
 もう一度、強く唱えた。
38群青が染まる 02 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/21(土) 22:26:42 ID:hmkhUe3/

「荷馬車を調べさせてもらう」
 緊張で心臓が破裂しそうだ。

 どうしていいかわからない俺とは対照的に、彼女はいつものように
無表情だった。

「おい、これ」
「…ああ」
 その声に心臓が跳ねた。
 何か見つかったのだろうか…?
 何か目印でもあったのかもしれない。

 どうしたらいい?!
 額から汗が落ちるのが、嫌でもわかる。

「お前達、ちょっと来、待て!」
 その言葉にいち早く反応したのがマリンだった。

 地面を蹴り、高く飛び跳ねた。
「おい、追え!!」
 音だけは軽快に聞こえた…音だけは。
「逃がすな!!」
 門兵が慌てて、壁を軽々飛び越えたマリンを追って、街の中に入る。

 マリンが蹴ったと思われる地面が見事に抉れていた。

 …人とは思えない力。

「……」
 その人離れした力に口を閉じることも忘れていた。
「兄さん、今のうちや」
 いつのまにか隣に立っていた男に言われて、気付いた。
 そうだ、今なら門兵もいない!!と。
 急いで荷馬車から必要なものを漁り、街の中へと走った。

 兵が皆、マリンを追いかけていったのは不幸中の幸いというべきか…。
39群青が染まる 02 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/21(土) 22:30:38 ID:hmkhUe3/

「いやー、兄さんついてるね」
 声に振り向く。
 わかっていた…さっきの男がついて来ていたことは。
「…何か用ですか?」
 その追ってくる男に問いかける。
「そうやで、聞きたいことがあるんや」
 男は何も隠そうとせず、笑った。

 そんな彼に言われるがままに、食事処へと入った。
 席について気づいた…何も考えずに無謀だったのはないかと。

「そ、それで用って…?」
 本当に何も考えていなかった。
「そんなに、警戒せんといてな。あ、わいの名前はハル。よろしくな!
兄さんは?」
「え、あ、トモヤ」
 つい流れのまま口をついてでた。
 何をやってるんだ俺は!!

 そんなハルと名乗った男は自分より若くみえた。

「トモヤはんか、いい名や…。それで、あの姉ちゃんは何者や?」
 急に真顔になった男が顔を近づける。
「な、何者って…?」
 人ではない…と言っても信じてもらえないだろう。
 下手すると頭がおかしい人になってしまう。

 それに、自分自身で信じ切れていない…彼女が人ではないと。

「そう、警戒せんといてな。ただわいは興味が沸いたんや、あの姉ちゃんに」
 少しでも落ち着けば、嫌でも警戒したくなる。
「…なぜ?」
 ゴクリと喉がなった。

 まさか、マリンを…。
40群青が染まる 02 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/21(土) 22:34:24 ID:hmkhUe3/

「惚れた!一目惚れや!」
「…は?」
 男が…ハルが拳を硬く握り締め声を強めた。
「あんなべっぴんさん初めて見たわ!それで御近づきになりたいと君を
誘ったわけや!」
「はあ」
 …としか答えようがなかった。

「ついでに言えば紹介してもらいたいなと!ここの飯は奢ったるから!
な、ええやろ?」


 結局、押し切られる形で店を出た。
 白状しよう、強引に会計を済ませられたと。
「といっても、マリンがどこにいるか俺は知りませんよ?」
「マリンっていうのかあの姉ちゃんは!」
 ハルはあれほどの力を見て怖くないのだろうか?
「大丈夫や。あんなべっぴんさんなんやし、すぐ見つかるわ」
 この大勢の人の中を簡単に見つけれるとは思えな…
 
『あ』

 ハルと同時に声がでた。
 すぐ先を悠々と歩く目当ての女を見て。
「…な?言ったとおりやろ?」
 そう言うハルの声も上ずっていた。

 …マリンは狙ってやっているのか?
41 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/21(土) 22:38:20 ID:hmkhUe3/

以上で投稿を終了します。
42名無しさん@ピンキー:2009/11/22(日) 09:52:12 ID:mPENyJjy
GJです
43名無しさん@ピンキー:2009/11/22(日) 13:08:31 ID:xgWpGDRY
44名無しさん@ピンキー:2009/11/22(日) 14:32:54 ID:anELyi16
なぜ携帯版を
45名無しさん@ピンキー:2009/11/22(日) 17:35:25 ID:VS4J0FU/
投下が無断転載(パクリ含め)か作者本人の投下か気になるがまあどうでもいいか
んなことよりアレはまだ来ないのかねえ。アレだよアレ、ずっと楽しみに待ってんだよ
46名探偵物語 2:2009/11/22(日) 18:24:06 ID:lulnS+cQ
空気を読まず投稿します。なお、似たような小説の話を
前回ご指摘いただきましたが、正直サッパリです。すいません。
47名探偵物語 2:2009/11/22(日) 18:25:57 ID:lulnS+cQ
鍋の中が白で満たされている。橙の人参、緑のブロッコリー、玉ねぎは少し溶け込む
程度にして、肉は懐具合を考え鶏肉。
中火から弱火へ火加減を調節した後、小林は息をついた。
木製スプーンを取り出して少し味見。…味加減よーし。
「先生…今日も小林の作った料理食べてくれますよね?」
うん大丈夫。明智先生は優しいからきっと完食して『美味しかった』と言ってくれる。
胸のどこかで不安がる自分の弱さにそう言い聞かせ、小林は再び鍋を覗いた。
この量ならばれないだろう。
そう判断した小林は冷蔵庫をあけると、まるで隠すかのように一番下の隅に置いてあった
ホワイトチョコの薄いボードと、チョコペンを取り出した。
そして、ボードにチョコペンで文字を書いていく。
『明智先生 愛しています。』
素早くチョコを冷蔵庫の元の場所に押し込んだ小林は、そのチョコボードを
シチューの中に投下した。
しばらくかき混ぜると、チョコボードは完全にシチューと一体化し見えなくなる。
木製スプーンを取り出してまた味見。多分大丈夫…かな?
「カレーだったらうまく誤魔化せるんだけど…。」
それでも小林は満足げに火を止めて、シチューを寝かしこむ。
事務所が閉まるのは七時。そのころには丁度よくおいしいシチューになっているだろう。
後片付けをした小林は、明智の元へ戻っていった。

「あれ…?先生どこ行ったんですか?」
そこには明智の姿はなく、テーブルの上に一枚のメモが残されているだけだった。
『急用あり。事務所は閉じておいてくれ。晩飯ありがとう。明智』
メモを読み返し、ため息をつく。
「先生…。」
待ってみよう。小林は事務所のドアに『閉』のカードをかけた後、
夕日が差し込み始めた事務所の中で、膝を抱えて座り込んだ。


件名 お元気ですか?
差出人 怪人20面相
内容 助けて。風邪ひいちゃった。住所知っているよね?待ってます。

「ふざけやがって…。」
悪態をつきながら、明智はとあるアパートの階段を上っていた。
「お前とは敵同士のはずなのに…全く。」
目的のドアの前にたどり着いた明智は、インターホンを押す…その瞬間!
「わっはっはっは!ゴホ!ようこそ明智君…ケホッ。」
ドアが勢い良く開き、中から手が一本飛び出してきて明智を室内に引きずり込んだ。
あまり広くない玄関口で、その手の持ち主はドアに鍵をかけチェーンまでしてしまう。
「てめえ…元気そうじゃないか。」
「いやいや。そうでもない。」
その人影は明智の皮肉に満ちた質問を軽くいなすと、明智の手元に目をとめた。
「ああああああお見舞いの品!何かな?メロンかな!?」
「バカ者ミカンだ。事務所の懐も厳しいんだ。」
「ミカンか!さすがは明智君!僕の親愛なるライ…コホッ。」
「寝ていろ病人。あと四半世紀ほど。」
軽口の応酬ののち、人影はベッドルームへと明智を連れて行きベッドに横たわった。
若草色のパジャマ、肌の色素は全体的に薄く、黒髪を伸ばした見かけ明智と同程度の
年齢の女性…美人ということは言うまでもない。桜色の唇はほんのりと色付き、
一見するとどこかのお嬢様にも見えるであろう容姿の持ち主だ。
ただ、口を開けば『僕』という一人称に。付き合ってみればそのあまりの変人ぶりと
裏稼業として怪人をやっているという馬鹿さ加減に多くの人間はそのあまりのギャップに
ついていけなくなるのは自明の理だ。もっとも、本人は猫を被り正体を隠しているが。
48名探偵物語 2:2009/11/22(日) 18:28:00 ID:lulnS+cQ
彼女の名前は…誰も知らない。怪人20面相としての名があるだけだ。
彼女のアパートの名札に『金田一』とかかっているのも突っ込んではいけない。
前に明智が彼女のことを金田一と呼んだら、真っ赤になって
『どどどどういうことだい!?何故明智君が僕の本名を知っているのだ!?』
と慌てふためき大変なことになってしまうのでお勧めできないのだ。
自分の正体をわざわざばらしていることにも気付かない彼女のような人物が、
少し前まで日本の美術界を震え上がらせた怪人、20面相であるなんて
世の中本当に不思議なものである。

一年前の夏、明智は怪人20面相を捕まえた…いや、捕まった。
うだるような暑さの中、事務所に可愛い女の子が助手としていてくれたらなと
今の自分から見れば馬鹿な事を考えていた明智の下に依頼人として現れたのが
怪人20面相だったのだ。
「僕の兄さんを探し出して欲しい!」
彼女は開口一番そう言って、明智の目を白黒させた。
彼女の兄は高名な探偵だったらしい。その兄が依頼としてイギリスの
名門ドッグゴッド家へ旅立って以来消息不明…事件の内容はざっとこんなものだ。
明智はイギリスに留学していた友人に頼み込み、現地で調査してもらった。
そして、日本で待つ彼女へ届いた知らせは…兄の死だった。
彼女の兄はどうやらドッグゴッド家の遺産相続中の事件の捜査にあたっていたが、
その家の長女…とある大学の若き数学教授に一目ぼれされてしまったらしい。
詳しい事は省くが、愛情はもつれにもつれて最終的にその長女は
日本から来た探偵とともに無理心中を図り、二人はもみ合いながら滝壺に
落ちて行ったそうだ。
その知らせを聞いた彼女…20面相はショックを受け気絶してしまった。
これが、今に続く明智と20面相の関係の発端である。


「さあ明智君。あの時のように私を看病してくれたまえ!…ケホケホ。」
熱で真っ赤な顔をしながらも、ピースサインをして明智に20面相がねだる。
その顔に冷たい濡れタオルを強引に押し付けた明智は、部屋の隅から椅子を引きずって
来るとベッドの傍らに置き、自分の荷物の中からみかんをひとつ取り出して
皮を剥き始めた。
「あ〜ん。」
事情を察知した20面相は、笑みを浮かべ口をあける。その中に明智がみかんを
一気に二つ三つほど押し込んでやると、彼女は満足そうに咀嚼し始めた。
「お前、本当に悪事から足を洗っただろうな?」
明智は疑わしそうに尋ねてみる。
「もちろんだ。ちゃんと持ち主に謝罪もしたぞ?」
明智と出会った後、20面相は自分のコレクションを全部持ち主の下に
返却し、弁護士を通して賠償も済ませた…極秘裏に。
被害者も表ざたにしなかった理由としては、実は盗品だったりとか、
いわくつきの品だったとか、政治家の黒い金の流れに使われていたもの
ばかりだったので、公表できなかったということがあったりする。
49名探偵物語 2:2009/11/22(日) 18:29:31 ID:lulnS+cQ
「兄さんの件は僕にとって残念だが、いつまでも落ち込んでいられない。
兄さんが天国で安心できるように、もっとクリーンな怪人になるよう努力する。」
「いつも言っていることだが、根本的な部分が間違っている。」
明智はため息をつくと、台所へと向かった。
「卵粥でいいよな?俺はそれぐらいしか作れないぞ?」
………。
明智の問いかけに、20面相はなにも答えない。明智はいぶかしんで彼女の方を見た。
「…なあ明智君。君は今までの言動から察するに、僕に怪人を辞めてほしいのだな?」
「当たり前だバカ者。知りあいに怪人なぞいたら俺の社会的信用は…。」
不意にいたずらっ子のような表情になった20面相は、よたよたとした足取りで明智に
近づき、寄りかかった。
「仮に君がそう望むのなら…僕を君のお嫁さんにすればいい!」
………ハア?
「いやなに。他人である君の命令で怪人の職を辞するのは不本意極まりないことだが、
君が僕の旦那様になってくれるというのなら話は別だ。良妻たるもの、旦那様に
怪人の夫などという汚名を着せるのはいかがなものかと僕も思うのでな。」
「オイ、話が全然見えないぞ。」
「ちなみに、Hは週二回。キスは朝と晩での日課。子供は三人程度で
男の子が一人、女の子が二人がベターかな?長男より長女の方が年上なら
なおのこと良し。マイホームは絶対だ…ゴホ。これについては僕も協力しよう。
今の相場なら、ルネッサンス期の中堅画家の絵を七、八ほど盗み出して売りさばけば…。
明智君?何故ごみ箱を漁る?何だそのミカンの皮は。…まさかとは思うが、
君は僕の眼球にそのミカンの皮から汁を飛ばす気か!?
やめてくれ明智君!僕は病人なんだぞ…ホントに病人なんだぞ…。
ぐわああああああああ!目がァ!僕の目…ガクッ。」
「寝てろ。」
ベッドに動かなくなった20面相を抑え込み、明智は再び台所に向かった。
ふと時計を見ると五時を少し回ったところだ。もう小林は帰っているだろう。
あいつの将来について、少し相談に乗ってやらないといけないな。
明智はそう漏らすと、金ザルに米をあけて洗い始めた。


「ごちそうさま。明智君。」
卵粥はすっかり平らげられ、満足げにお腹をさする20面相の姿があった。
「美味しかったよ明智君。君に料理の才能があるとは思わなかった。」
「そんなに美味しかったのか?料理の方は小林に任せっきりで、
腕はとうに落ちたと思っていたけど…。」
明智は少し照れたような笑みを浮かべる。そして食卓の上の食器をまとめて
台所に運ぼうとした。
50名探偵物語 2:2009/11/22(日) 18:30:59 ID:lulnS+cQ
「…ちょっと待ってくれ。明智君。」
ガシッ!背後からのばされた手、それが明智の肩に指を食い込ませる。
その制止は口調こそ穏やかなものの、冷ややかで、それでいて煮えたぎるような
何かを孕んでいて、明智の心臓を大きく揺さぶるには十分だった。
「小林?誰の名前だい?察するに君の食事の支度をしているようだが?」
…少し怖い。明智は一瞬自分の中にわきあがった感情に身震いをしたくなった。
すこしあわてたように早口で小林の説明を明智はし始める。もちろん、パニック障害
などの件は極力暈した表現を使い、ストレートに伝わらないようにして。
一通り説明を終えたころ、20面相はしばらく何か言いたげな目を伏せた後
急にさばさばした様な口調とともに明智へ目線を向けた。
「明智君が優しい人物だということは分かった。」
そして、何も言わずに寝室の方に歩きだす。多分疲れたので寝るのだろうと明智は
推測し、自分も後かたづけの手を進めた。
「あ、おい20面相。」
ふと思い出したように20面相に切り出す明智。ポケットをまさぐったその手には
シルバーカラーの携帯電話が握られている。
「パソコンへのメールだと俺は開かない時があるからな。何かあったら
俺の携帯に連絡しろよ。アドレス教えておくから。」
のたのたと寝室に移動していた20面相の足が止まる。振り向いた20面相の
顔が真っ赤に染まっているのは、たぶん熱のせいだけではないだろう。
病の身体を弾ませて、うれしそうに携帯電話を充電機から外す20面相が
何よりの証明となっているはずだ。
「うれしいなぁ。明智君は月一で僕の所に通ってくるにも関わらず、僕の
携帯番号を聞こうとさえしてくれなかったから、果たして君は僕たち二人の
将来を真剣に考えてくれているのか不安になっていたんだよ…ヘックシ。」
相手の意味不明の発言に渋い顔をしている明智の手から器用に携帯を奪い
赤外線通信でアドレスをあっという間に登録した20面相は、自分の携帯を
胸元に寄せて宝物のように抱きすくめると、ニコリと微笑んだ。
「明智君。僕の名前は金田一 二十(きんだいち ふとう)だ。
これからは…その…名前で呼んでくれるかい?」
「…20面相って言いにくいからな。いいよ。」
女には相変わらず素直になれないんだよな…心の中でそう独りごちながら
明智は洗い物を開始した。
51名探偵物語 2:2009/11/22(日) 18:32:12 ID:lulnS+cQ
結局、事務所に帰るのは八時にだいぶ近づいたころだった。空を見上げると
どんよりとした厚い雲が夜目にも関わらず見える。この時間になると
風は肌を切り裂くナイフへと変わり、明智は外套をしっかりと体に巻きつけるように
固定した。
耳が寒さで痛かったが、今となっては麻痺してそれすら感じとれない。
ふと、小林がつくってくれているであろうシチューが頭に浮かんだ。
すると無性に事務所が懐かしくなってくる。
買い置きのフランスパンの在庫はまだあっただろうか?適度に焼いたフランスパンを
シチューに浸し、昨日借りてきたミュージカル作品のDVDでも鑑賞しながら今日の残りを過ごそう。労働の代償としてのささやかな贅沢に思いをはせた明智は、事務所のドアノブに手をかけた。
「…?」
事務所の電気は消えているのに、鍵がかかっていない。目の前にはちゃんと「閉」の
カードがかけられているのに。
「小林のやつ…。」
小林が大方鍵をかけ忘れたのだろう。そう判断した明智は構わず事務所内に
足を踏み入れた。
カランカラン。
ドアベルが真っ暗な事務所に鳴り響く。手探りで証明のスイッチを探し当てた
明智は、照明に浮かび上がった事務所の光景に目を疑った。
「なっ…なんじゃこりゃーっ!?」
事務所の真ん中に置かれていた少し年代物のテーブルの上には花瓶がぶちまけられ、
飾られていた花は見るも無残な姿に。
椅子の足は折られ、生木の白さが痛々しいほどに傷口からこぼれている。
今日明智の楽しみを上演するはずだった事務所のテレビのディスプレイも
粉々に砕け散っていた。
破壊の限りが尽くされた事務所。呆然と立ちすくむ明智の頭で最悪の想像が
鎌首をもたげた。
「小林…?ひょっとして巻き込まれたんじゃ…!?」
最後に小林はキッチンに入っていったはずだ。この惨劇が小林が事務所を出た
後のものであってほしい。明智は床に散乱するガラスや陶器の破片を
踏み越えて奥のキッチンへと駈け出した。
「小林ぃ!」
キッチンの照明をつけ、明智は再び息をのんだ。
キッチンも事務所同様、もはや被災地という表現もできるほどの惨状が
広がっていた。
ただひとつ事務所と違う点は、キッチンの床に小林が料理鍋を抱え
うずくまっていたことだ。
衣服は所々に赤い飛沫が飛んでおり、ところどころ破けている。
それを身にまとった小林は、目を真っ赤に充血させうわ言のように何やら
ぶつぶつと呟いている。
明智が小林に駆け寄ろうと足を踏み出した瞬間、足もとの破片が音を立てて割れた。
そこから放たれた音が小林の鼓膜を揺さぶり、その焦点の定まらない目が
スローモーションのようにゆっくりと明智へと向けられる。
彼女の眼が明智の姿をとらえた次の瞬間!
52名探偵物語 2:2009/11/22(日) 18:33:53 ID:lulnS+cQ
「いやあああああああ!帰して!帰してよぉ!」
その口から絶叫とともに放たれた聞く者の心にチクリと突き刺さる切ない哀願に
明智の踏み出した足は動きを止めた。
「帰りたいよぉ!ここは何処!?嫌だよ帰して!明智探偵事務所!
明智探偵事務所に帰りたいよぉ!」
料理鍋を握る手に血管がくっきりと浮かび上がるほど小林は強く抱きすくめ、
そのまま息も切れ切れに叫び続け、泣き続ける。
…パニック障害か!
そう判断した明智の行動は素早いものだった。事務所の厚手のカーテンの生地を
滑車から強引に引きちぎり、小林を後ろから抱き締めるようにカーテンで
身体を覆い、彼女の両手をそっと、しかし力強く握る。
「しっかりしろ小林!明智探偵事務所はここだ!」
無理に拘束を振りほどこうとする小林の身体をカーテンで周りの破片から保護しながら、
明智は辛抱強く小林に呼びかけた。
「小林!息を大きく吸え。明智探偵事務所はここだ。お前が今座っている…。」
「違う!ここは違う!明智先生がいない事務所は明智探偵事務所じゃない!」
そうか…。孤独だった小林のパニック障害の引き金となった原因に気づいた明智は…。
「ただいま。小林。」
耳元で優しく囁いた。
「俺の帰りを待っていてくれたのか?ありがとう。やっぱりお前は
俺の自慢の助手だよ。」
小林の叫びがだんだんトーンダウンしていき、焦点の定まらなかった目が
徐々に光を再び宿しながら明智を今度こそはっきりととらえた。
「あけちせんせい…?」
恐る恐る…まさにその表現がふさわしく感じられるほど怯えと安堵の
混ざった声色で小林は明智に問いかける。
「あけちせんせい…明智せんせいだ…じゃあ、ここは明智探偵事務所…。
帰ってきた…私の居場所に…帰ってこれた…あけちせんせい!」
振り向いて明智に向かい合った小林は、そのまま凍りついた。
「先生…その怪我一体どうしたの…?」
小林を守った時にできた傷が明智の手と腕に真っ赤な筋を走らせたのを見た小林に、
明智は何でもないと静かに答えた。この様子だと、たぶん事務所をやったのも…。
「なにこれ…事務所が…。先生の怪我も、事務所もひょっとして…?」
ワタシガヤッタノ…?魂を亡くしたように呟く小林の肩をつかんだ明智は
そのまま自分の胸に強引に抱きよせる。
「大丈夫だ。俺も、この事務所も結構丈夫だからな。」
それから小林の力の抜けた腕から料理鍋を取った明智は、ふと中を見てみる。
蓋をあけた中には、見知った白に色とりどりの野菜が浮かぶシチューが
美味しそうにその色鮮やかさを誇っていた。
明智は小林の顔を見て、少し笑うと新聞紙でその鍋を包み、傍らに置いた。
「明日までよく寝かそう。せっかく小林がつくってくれたシチューだからな。
最高に旨みが引き立った時に頂こう。」
53名探偵物語 2:2009/11/22(日) 18:35:28 ID:lulnS+cQ
「…せんせい。」
細い指先、小林の指先が何度か空を切った後明智をとらえた。
そしてその手はするすると明智の腕へと移行し、小林の方へ腕を
手繰り寄せる。
「私…くび?」
泣き出しそうな、困ったような、そしてどうしようもなく破滅的な笑みを浮かべ
小林は静かに切り出した。明智の腕の血が小林の指先を少しづつ染めていく。
明智はしばらくそれを眺めた後…。
「…小林、人生そう甘えは許されないんだ。」
小林の肩がビクッとふるえる。
「そうなんだ…そうですよね。…でも…でもわたしさみ」
「金銭的被害は甚大だ。当分ただ働きしてもらうからな。元が取れるまで
この事務所を辞めることは許さない。」
小林は驚いた顔をして…そして彼女は今までにない勢いで明智に抱きついてきた。
「うん!うん!小林…小林頑張ります!明智先生の為にいっぱい頑張ります!
なんでも言ってくださいね明智先生!先生の望むこと…小林喜んでなんでもします!
先生、小林は…私は…はぁうぅ…。」
様子がおかしい。腕の中の小林の様子を見ると…気絶していた。
明智の下半身に不意に寒気が走る。多分極度の緊張状態が続いていたのが
急に解けたので小林が粗相でもしでかしたのだろう。
今日は仕方ないか。
明智が渋い顔をしたのも一瞬のこと。柔らかい眼差しを腕の中に体を投げ出す
少女に向けた明智は、しばらくそのまま動かなかった。



                               続く。
54名探偵物語 2:2009/11/22(日) 18:36:50 ID:lulnS+cQ
以上です。ども
55名無しさん@ピンキー:2009/11/22(日) 19:01:07 ID:hezbYP5X
GJ!
56名無しさん@ピンキー:2009/11/22(日) 20:07:49 ID:VS4J0FU/
DOG GOD家があるならYATSUHAKA村とかSUKEKIYO!とかも出てきそうな…乙!
57名無しさん@ピンキー:2009/11/22(日) 20:30:14 ID:WCgseG26
ヤンデレ家族の連載が中断している間に彼女が出ていった。オレはヤンデレ家族の作者に苛立った。

ヤンデレ家族が再び投下された…彼女が戻ってきた。なんでだよ(笑)
58 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/22(日) 21:06:07 ID:WKud1Fxl

昨日は投稿をし直しましたので、
投稿できなかった回を投稿させて頂きます。
59群青が染まる 03 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/22(日) 21:09:41 ID:WKud1Fxl

 人が溢れる通りから外れたところで、人から外れたものが今か今かと、言
葉を待つ。
 仕方なく問うた…「何用か」と。
「いやー、マリンはんに惚れしてしまってな!」
 おどける人外。
 その仮面がわからないほど間抜けではない。
「わいも一緒に連れていってくれへんか?!」
 幾分か離れた位置で佇む人間を見た。

 確かに、先の人間よりは使えるのだろう…が、
「どうや?わいは役に立つで!それにな「何を目論んでいる?」」
 言葉を割り入れた。
 …企みは何なのかと。

「そ、そんなわいは!」
 答える気のない人外に、考えるのは終着点のこと。

 そうだな、後のことを考えるなら…。

 ――

 喉が唾液を飲み込む音がここまで聞こえてきた。
 少し離れた位置にいる俺にまで背中を這う何かが伝わってくる。
 
「…好きにしろ」
 その言葉と同時に圧力が和らいだ。
「ほ、ほな!」
 足に力が入らないのか、前にでようとしたハルが膝をついた。
「おおきにおおきに!」
 膝を地面につけながら何度も礼を言うハルに、彼女は何もいわなかった。

 …ハルがいるなら俺は…?
60群青が染まる 03 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/22(日) 21:13:23 ID:WKud1Fxl

 ……

「それでな」
 …なんで俺はここにいるんだ?
「トモヤはん聞いてるか?」
「あ、ああ…」
 どうしても、俺は別の道を行くとは言えなかった。
 マリンが怖くて。
 だけど、要らないと言われないことがまた嬉しかったのは事実だった。

「まずはここからやで!」
 酒場を指差す。
 情報を集めることを命じられたハルは嬉々として俺を連れて路地裏を飛
び出した。

「なんで、ハルはそんなにマリンに付いていこうと?」
 長く続く話の腰を折る。
 一目惚れが嘘ということくらいは俺でもわかる。
「それはトモヤはんにも内緒や!それより、早くせな日が暮れるで」
 答える気のないハルに、諦めて背中を追いかけた。


 日が暮れるのがあっという間だった。
 ほとんどハルの話に付き合っていたような気がする。
 これが、友達というのだろうか?

 いまいち実感できない言葉に頭を悩ませる。
「もがが、海に面した…んぐ、街セイクルに竜がいるねん」
 宿の食事場には人が多く、うるさいぐらいだった。
「他には?」
 口に食べ物を入れながら喋るハルに問いかける。
 俺は最初から最後までハルと一緒にいただけ。
「ぷはっ…よくぞ聞いてくれた!一番の本命はブリードっちゅう町やねん!」
 胸を張って言う彼に、口を挟むことにした。
 …悪いとは思ったが。
61群青が染まる 03 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/22(日) 21:16:57 ID:WKud1Fxl

「俺とマリンはその町から来たんだ…」
「あ、そうなんでっか…」
 さっきまでの勢いはどこへやら、落ち込むハルになんとか言葉を
かけようとした時だった。
「ご苦労だった」
 黙っていたマリンが口を開く。
 そんな彼女の顔はとても綺麗で、時間が進むことを忘れたように、彼女
を見続けた。

 だけど、ささくれが刺さったのはどうしてだろうか。

 ……

「惚れた!」
 部屋に入るとハルが叫んだ。

 ハルに視線を移す。
「わいは、惚れたで!マリンはんのためならなんでもできる!」
 言葉を宙に放り投げたまま、ハルが勢いよく寝床に飛びこむ。
 それに何かいう気になれなかった。
「はぁ…」
 今日はいつもに増して溜息ばかりだな。


「わいは、やるでぇ……むにゃ」
 すぐにハルの寝言が聞こえてくる。
 俺はというと、なかなか寝付けなかった。
 また1つため息をついて、部屋の扉を開ける。
 …ハル起こさないように足音に気を使って。
62群青が染まる 03 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/22(日) 21:21:13 ID:WKud1Fxl

 風が過ぎる。
 外は肌寒かった。
 それでも寒すぎるほどではない。
 とても、月が綺麗な夜。
 満月には足りず、かといって半月よりかは大きい。
 そんな中途半端な月。
 …まるで自分みたいだな。
 
 そんな月の光を霞ませるように灯りが乱立している。
「こんな夜中でも明りは灯っているんだな…」
 生まれてこのかたブリードだけしか知らない俺には初めての光景だった。

 ―― 

 確かにそこに月はあった。
 伸ばせば届くだろう月が。
 触れれば壊れてしまいそうな月が。

 同じように何かを感じたというのか?
 同じように空を見上げた人間に、
「月が綺麗だな」
 言葉を投げかける。

 もしかすると、今にも泣きそうな表情のこの人間と分かち合いたかった
のかもしれない。
 …己の境遇を。
「……」
 何も言わない事を無粋だとは全く感じなかった。
 種族が違えど月はそこにある、か…。

 矮小と思っていた人間が隣に並んだような気がした。
63群青が染まる 03 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/22(日) 21:25:03 ID:WKud1Fxl
 
「なぜ、探すんだ?」
 そんな人間が、口を開いた。
「…なんとなくだ」
 それは己には似つかわしくない言葉。
 納得はしなかっただろう…それでも、それ以上は何も言わなかった。

 だから、代わりに問いかける。
「人間、どこへ行く?」
 案内がいる以上を縛り付けている理由はない。
 いや、理由ならある。
 首にある痣がその理由。
 出会ったのは“必然”ということだ。

 だが敢て問おう、どの道を選ぶのかと。
 選択は無限にありえる。
 そして、それを羨ましくも思う。

 ――

 どこへ…。

 屋根を見上げた。
 視界に写った彼女はもっと遠くを見上げていた。
 …俺など眼中にないように。

 俺はどこへ行きたかったんだろうか。
 問いかけても、どこにも答えはなかった。
「…わからない」
 言葉を上へと放った。

 どこにいるかわからない。
 生きているのかさえ。
 …本当はいたのかさえ…。
 そんな姉を探したかったのか?
64群青が染まる 03 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/22(日) 21:28:38 ID:WKud1Fxl

 自分が何をしたいのかわからない。
 それでも怖かった。

「…そうか」
 一言だけ、それだけ残してマリンの姿は既にどこにもなかった。
 合間に見せた彼女の表情と、ほんの一握りの後悔を残して。

 独りになるのが怖かった。
 たったの数日でここまで臆病になってしまった。

 ……

「いやー、無事抜けれてよかったわ!」
 門兵を無事やり過ごした俺達は海の街セイクルへ…西へ向かうこととした。
 言い直そう、マリンとハルの後について行くと。
 それについて彼女が何か言うことはなかった。
 ついて行こうと決めたとき、心が安らいだのは…。
 …もうわかっている。

 ハルが馬の手綱を引いた。
 ブリードから乗ってきたものより幾分か広い荷車の車輪が音を立てて回る。
 いつもとは違う位置に座る俺。
 それがどこか落ち着かない。

 …本当に落ち着かないのはマリンが近くにいるから?
 マリンと視線を合わせないように遠くを眺めながら考えていた。
 人知を超えた彼女のことを。

 竜に近いと言われていた町で…故郷で、竜というものが本当にいたと聞いた
事がない。
 だから、セイクルに竜がいるとはどうしても思えなかった。
65群青が染まる 03 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/22(日) 21:32:34 ID:WKud1Fxl

 だとしたら、セイクルにいるのは一体なんだ?
 恐ろしい場所に向かっているのではないか?
 それともただの噂で、当てにならないのだろうか?
 それとも…。

 疑問でたちまち一杯になった頭を掻き毟る。

 当のマリンは、いつもと同じようにボーっと眺めては時々あれは何かと質問
を繰り返す。
 彼女は一体何者なのだろう。
 なぜ竜を探しているのだろうか。
 そして、昨夜の彼女の顔が俺の頭を支配する。

 あれほど早く終わって欲しいと思った旅に自ら飛び乗った。
 …旅の終点はセイクルなのだろうか?
66 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/22(日) 21:36:28 ID:WKud1Fxl

以上で投稿を終了します。
67名無しさん@ピンキー:2009/11/22(日) 22:40:06 ID:+r1umE2o
>>66
乙りんこ
68名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 06:51:52 ID:wPzpBP3W
>>57
ワラタ
69Cinderella & Cendrillon 7:2009/11/23(月) 08:55:58 ID:9AbmaJRf
a
70Cinderella & Cendrillon 7:2009/11/23(月) 08:59:09 ID:9AbmaJRf
規制終わったー!!!
書き込むぞー!!
新キャラも出てくるぞー!

と、いうわけで7話です。
暇つぶし程度に読んでくれれば幸いです。
それでわ、ごゆるりと。
71Cinderella & Cendrillon 7:2009/11/23(月) 08:59:47 ID:9AbmaJRf
〜依音side〜

「ひ、ひめねぇ…違うんだ、これは、その…ちょ、さきねぇも離れ……」
「えねちゃんから離れなさい、妃乃」
「どうして? えねの恋人でもない姉さんの言うことを、なんで私が聞かなくちゃならないの?」
オレの目の前でひめねぇとさきねぇがたがいに鋭い視線を交錯させる。
「一つだけ聞くわね? 何故あなたと依音ちゃんはキスをしていたの?」
「そんなの決まってるじゃない、私とえねが愛し合っているからよ」
あれ? 何時の間にオレはさきねぇに愛の告白をしたのだろう……?
って、まてまて! ひめねぇが怖い! 体から尋常じゃないオーラが出てる!
「そんな戯言でえねちゃんの唇を奪ったの?」
「ええ、えねの唇、熱くて、柔らかくて……とっても美味しかったわ」
「万死に値するわ」
やばいっす、無理っす、もう「尋常じゃない」なんて言葉じゃ表わしきれないほどのオーラが出てますって。
今のひめねぇならそこらの機動兵器なんて目じゃねぇ、実はGNドライヴ搭載してますって言われても信じる。
ひめねぇが手を振り上げたその瞬間、病室の扉のドアが開いた。
「貴方たち、なにしてるの?」
それは両親と共に海外に住んでいるはずの奏家の長姉「奏 灰乃」だった。
72Cinderella & Cendrillon 7:2009/11/23(月) 09:00:35 ID:9AbmaJRf
奏家の構成は父、母、長女、二女、三女、そしてオレの5人家族だ。
両親は科学者をしており、現在ははドイツの研究室に雇われている、確か医療機器の研究だと言っていた気がする。
長女は現在22歳、両親がドイツへ行くと決まった時、一緒に付いて行った。
二女、三女はこれまで説明したとおり、もちろんオレも。
だが、我が家で唯一の異端、それが長女「灰乃」である。
小学生になる前に完璧なイギリス英語をマスター、幼稚園では円周率の計算ばかりやっていたらしい。
小学三年生になる頃に、高校までのありとあらゆる学問を修め、小学校卒業と同時に複数の大学から熱烈なラヴコールを受けた。
中学の三年間では外国語に興味を持ったらしく、米語、仏語、独語、西語、伊語、中国語、韓国語等のいくつもの言語を覚える。
高校に上がると、ついに大学レベルの学問を次々と取り込んでいき、世界的に注目されるような論文を発表するまでになった。
だが、彼女が有名になればなるほど、自分は劣等感を抱くことも少なくはなかった。
「あの人の弟君?」「君は何ができるの?」「やっぱり兄弟でも違うんだね…」「姉のほうはあんなに優秀なのにな」
一時期は心的ストレスが酷く、他人が信じられなくなることもあった。
それでも姉の所為にしなかったのは心のどこかで姉を尊敬していたからだろう。
だからその姉が両親とともにドイツへ行くと言った時、少し寂しくもあり、少しくらいは嬉しくもあったかもしれない。
そしてその姉が外国で飛び級をし、さらに博士号まで得たことを聞いた時や両親の研究チームに呼ばれたことを聞いた時。
周りの対応が変わらないことに、自分は解放されたと感じることもあった。
そしてもう完全に忘れていたころ、彼女は再びオレの前に現れた。
73Cinderella & Cendrillon 7:2009/11/23(月) 09:01:56 ID:9AbmaJRf
「貴方たち、なにしてるの?」
一瞬、自分の目の前に現れた人物が誰かわからなかった。
「灰乃……ねえ…さん……?」
「久しぶりね、依音、大怪我だって聞いたから心配したけど…元気そうね?」
名前の通りの艶のある灰色の髪が揺れる、それだけで灰乃姉さんから目が離せなくなる。
「依音?」
「えっ! あぁ、うん、元気だよ、この通り」
「考え事でもしてたの? そんな間抜けな声をあげて」
「い、いや、なんでもないよ」
まさか「あなたに見惚れてました」なんて言えない。
少しウェーヴのかかった艶のある灰色の髪、優しさと美しさを称えた二重の眼、そしてひめねぇやさきねぇ以上の豊かな胸。
いや……反則です、確実に。
「灰乃姉さん、今海外に住んでるんじゃないの?」
「あん、依音ったら、昔みたいに『はいねぇ』って呼んで♪」
「え? あ、うん、じゃあはいねぇ」
「はい♪ なんですか?」
「えと、わざわざお見舞いのために飛行機で日本まで来たの?」
「うん♪」
別にこんなに急いでくることなかったのに、年末あたりにでも来てくれたらよかったのに。
と、今まで静観していたひめねぇが話しかけた。
「灰乃姉さん、本当に用事はそれだけですか?」
……一瞬の間、はいねぇが隠し事をしているのが3人にも読み取れた。
「まだ他に、何かあるんですね?」
「えと……うん……」
はいねぇは1分くらい考えた後、その言葉を紡ぎだした、いつもの日常を破壊する、その言葉を。
「依音を、ドイツに、私の家に連れて行きます。」
74Cinderella & Cendrillon 7:2009/11/23(月) 09:02:26 ID:9AbmaJRf
以上で今回は終了です。
楽しんでいただけたでしょうか?
また次回をお楽しみにしていただけると幸いです。
それでわ、ごきげんよう。

ps:猫? 今オレの隣で寝てるよ
75名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 09:59:14 ID:nXI76rIS
GJ!
ところで以前言ってた猫ヤンデレの話はいつ投下してくれるんだい?
76名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 12:48:51 ID:1tDdPJe/
GJ
新しい姉登場で姉属性の俺歓喜
新しい姉さんもどんな病みになるのかwktk待機してます。
77名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 15:23:20 ID:9AbmaJRf
猫って擬人化してもおk?
78名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 15:31:09 ID:YS6xCFUH
ダメに決まってるだろ。
79名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 18:01:13 ID:p6VvqEVZ
俺はヤンデレだったら擬人化してもいいと思うんだけどなぁ・・・
80名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 20:12:50 ID:5Ae/wm83
普通にありだろ
81名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 20:31:48 ID:/53KLab+
金田一二十面相もマリンもさきねえもGJ
82名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 21:56:47 ID:5bgJfRLF
灰かあ…、だからタイトルがCinderellaなんですね。
三人のイジワルな姉か…。ゾクゾクしますな。
GJでした。
83名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 23:12:30 ID:E5DMIhTn
皆さんGJ!

突然ですがキレた人々投下します
84名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 23:30:40 ID:7dhG4ap5
>>83
続け給へ
85キレた人々2.5:2009/11/23(月) 23:42:39 ID:E5DMIhTn
―神無視点―

彼に惹かれ出したのはいつからだったか。
高校の入学式で何をするでもなく頬杖をついている姿を見て、
何故か同類のような雰囲気とニオイがした。
話しかけることに躊躇いは無かった。
彼の机の前に立つ。
しばらく見上げるが、特に何も面白いことはないといった様子で
再び視線を下げる。
その時の瞳が、自分と似ていた。
周りの奴らとは何かが決定的に違う。
奥の奥まで、真っ暗なわけではなく、中途半端に濁っていて、
どこか、何かを諦めた時の様な色。
その瞳を見たとき、その瞳に見つめられたとき、

彼が欲しいと思った。
86キレた人々2.5:2009/11/24(火) 00:11:15 ID:uEzENCHu


彼は常人から見て近づき難い雰囲気を放っていた。
その視線、その仕草、その言動、全てが普通のものだったにも関わらず。
多分その全てが失敗に終わったような感じのものが混ざっているのが
原因なんだろう。
彼に積極的に関わろうとする輩は出てこなかった。
きっと、ボクだけが彼を見ていただろう。
ボクはそれで好かったし、それしかなかった。
ボクは彼が欲しい。彼の全てを知り、彼の全てを何処かに仕舞って
ずっと戯れていたかった。

だけど何時からだろう。

同時に彼のものでありたい、と思ったのは。

彼だけがボクの全てを知り、彼だけがボクの全てを蹂躙する。
それがとても甘美なことに思えて身悶えてしまったのは何時からだろう。
その思いは段々と膨らんでいき、遂には自分のたった一つの願望になってしまった。

きっかけは、彼に近寄る女が出てきたことだった。
その女は彼を愛しもせず、体を売って金を巻き上げようとした屑だった。
そんな雌豚に彼を触れさせるわけにはいかない。

その日の夜、雌豚と取り巻きの雄どもを焼き殺した。
調査はされているが解るはずもない。
発火能力じゃあ証拠もなにも残らない。
あの枯れた叫び声は実に醜かった。

ボクのただ一つの願いなんだ。
何人たりとも、邪魔はさせない。
87キレた人々2.5:2009/11/24(火) 00:30:15 ID:uEzENCHu


そして今に至る。
彼のアパートの隣に住み、毎朝彼と登校し、ずっと彼をみている。
休日には彼が家を出たらそのまま追いかけて無理矢理合流する。

そして日曜日。

「…誰だ、あの女…?」

今日彼のアパートに引っ越してきた女が彼を訪ねた。
彼は驚いた顔をしている。
女はそのまま彼の部屋に入っていった。

ふざけるな!
あの女は彼の何だ?
あの女…障害になるようなら灰にしないと…
こうやって考えている今この時にも彼に何かが…

待ってて、すぐに愛するキミのところにいくよ。
88名無しさん@ピンキー:2009/11/24(火) 00:31:43 ID:uEzENCHu
とりあえず終了

三話目も厨な展開になりそうです
89名無しさん@ピンキー:2009/11/24(火) 05:49:21 ID:Axa7mMZq
>>88
90名無しさん@ピンキー:2009/11/24(火) 20:29:54 ID:3a0KzAPy
>>74
6人家族じゃね?
91名無しさん@ピンキー:2009/11/24(火) 20:32:45 ID:xhmCd8wf
>>88
しっかり改行して文章をもっと1レスに詰めた方がいいよ。
92名無しさん@ピンキー:2009/11/24(火) 20:56:51 ID:1Qfk6sfu
国産みのヤンデレノミコト
93 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/24(火) 21:42:48 ID:Nxy1x577

それでは投稿します。
94群青が染まる 04 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/24(火) 21:46:31 ID:Nxy1x577

 生まれてから独りだった。
 それは命の始まりから今まで。
 この世に生まれて早数十年。
 だが、連鎖はもっと長い。

 竜の生まれは己が命を若きに転じ生を成す。
 肉体の滅びは終わりではなく、ただの始まり。
 それは生から生への連鎖。
 命の終わりに代を代え新しい命を成す。

 だが我は他の連鎖に会ったことは一度としてない。
 あの戦いが…闘争が起こって以来は連鎖の数も少なくなった。
 もしかすると…。

 それほどに竜は孤独を生きる。
 それほどに我は孤独を生きる。

 それが毒のように己を蝕んでいく。
 そんな孤独という毒が回ったせいかもしれない。
 連鎖の分かれた可能性を探してみようとしたのは。

 もしかすると、もう我以外にいないのかもしれない。
 世界の孤独…考えて何かが跳ねた。

 …。

 そこで思考を一度閉じた。 

 既に意識はそこになかった。
 次に考えたのは人間のことだった。
 人間というのは変わったものだと。
 1人1人が全く違う考えをしている。
95群青が染まる 04 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/24(火) 21:50:02 ID:Nxy1x577

 他人を利用して、自己の利益を貪りつくす。
 それでいて、孤独を怖がる臆病な生き物。
 そして…絶望する。
 そう貪欲だ。
 どこまでも自らの欲を満たそうとする。
 なのに、正義を好む。
 つくづく変わった生き物だ。
 
 そんな人間は我を敵としている。
 認知すれば、あの一族が狙いに来るだろう。
 それは避けねばならない。
 我の代で終わらせるわけにはいかないのだから。

 代が違えば思考も若干の変化を見せる。
 だが我は我なのだ。
 我でしかない。

 だが、何の為に生きる?
 まだ生きたいというのか?
 それとも代を己で締め括る屈辱が許せないのか?
 何十、何百、何千と生を連鎖させようと、わからないことはある。

 我もまた世界に縛られる身なのだろうから。
 …ふと、泣きそうな人間の表情が蘇る。
 同じようにあの人間も縛られた身なのだから。
 
 少しだけ…本当に少しだけ、分かち合えた気がした。

 ――
96群青が染まる 04 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/24(火) 21:53:45 ID:Nxy1x577

「ここら一帯は最果ての森と言われてるんやで」
 最果て?
「10年程前からそう呼ばれてるんや」
 …こんな大陸の内側なのに?
「所有者は誰やったっけ…」
 これから進むとでも言わんばかりに、森について語る。
「ああ、そうそう、とある探求者や。ごっつい金持ちやったって聞いたで」
 森は木々がねじれて、行き先さえ見えない。
 何が出てもおかしくない、そんな風にさえ思える。

「ま、もう生きてへんけどな」
「えっ?!」
「当たり前やないか、じゃないとここが最果てなんて呼ばれへんわ」
「じゃあ…こ、ここって…」
「そうやで!入ったら帰ってこれへんって噂や!う・わ・さ」

 そんなハルが目的地への近道はこの森を抜けることだと言う。
「…迂回しよう」
 この森を迂回した道があるんだし、そっちを使うべきだ。

 当然の要求だった。
 こんな森をわざわざ通る必要がない。
 特に急ぎではないこの旅では。

「森を抜ける」
 提案を打ち消すかのように声が響いた。
 その一言に何も言えなかった。
 拒否権はない、そんな口調だったから。
「マリンはんならそう言うと思ったで」
 なぜか喜ぶハルを横目に肩が下がった。

 そんな俺を他所に馬が蹄を上下に揺らし始めた…森へ向けて。
97群青が染まる 04 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/24(火) 21:57:24 ID:Nxy1x577

 森を抜けたくなかったのは俺だけなのだろう。
「なぜ、わざわざこんな場所を?!」そう言いたかった。
 何も言えなかったのは、マリンが怖いから?
 それとも、森を見つめる彼女の表情が気になったから?

 森に入った瞬間にわかった…何かが違うと。
 這うような違和感が俺にそう告げる。

 鬱蒼と茂った木々に囲まれている。
 陽は遮られ、生命の営みが本当にあるのかすらわからない。
 森は外とは隔離された孤島とでもいうのだろうか。

「…弱さは罪なんや…」
 自分に言い聞かせるかのような、小さな呟き。

 …確かにここは最果てなのかもしれない。
 
 ……

「この霧はなんやー?!」
 声は確かに聞こえる。
 だけど、姿が見えない。

 異常を感知したのは濃い霧が覆ってからだった。
 そう、霧が覆うまで気づけなかった。
「ハル、馬を止めよう!」
 この中で馬を走らせるのは無理だ。
 どんな道を進んでいるかもわからない。

 それに、寒い…。
 手と手そして身体にこすりながら、暖を取る。
「一度、止まったほうがいい…」
 …そこで気づいた誰の反応もないことに。
 言葉が届いていない…?
「っ!」
 それどころか、荷台にすら乗っていない?!
98群青が染まる 04 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/24(火) 22:01:20 ID:Nxy1x577

「ハル?!マリン!どこにいるの?!!」
 堪えきれなくなった言葉が飛び出す。
 声だけが、霧の中に吸い込まれていくようで怖かった。

「やあ」
 突然の声に悲鳴が喉から零れ落ちそうになった。
 喉まで出かかった悲鳴をなんとか飲み込む。
 目の前には、いつのまにか現れた“影”。

 その影が何なのかすぐにわかった…影は自分。
 何を言おうともそれは自分だ。 
 そうとしか思えない。

「こんな時に随分落ち着いてるんだね?」
「お、驚きすぎて声もでないんだ…」
「知ってるよ」
 クスクスと影が笑う…自分の声で、自分の口調で。
 
 違うところといえばどこか間延びしているところ。
 不思議と夢でも見ているような心地だった。

「き、君は?」
「ふぅ、君は鈍いんだね」
 また馬鹿にしたように影が笑った。
「ははっ、苛立っても仕方ないさ」
 まさか自分に馬鹿にされる日が来るなんて…。

「怒ったのかい?」
「…ハルとマリンは?」
 これ以上は付き合いきれない。
「さあ…わからない」
 おどけたように、影が掌を上げる。
 影は動いていない…だけどわかるんだ。

「まあ、話を聞いてよ」
 その間延びした声が今は腹立たしい。
「言いたいのは、なぜ僕はここにいる?彼女にはハルがいれば、僕は
必要ないんじゃないのか?」
「っ…」
 図星を指されて、何も言えなかった。
 自分が自分の本心を言う。
 ああ、何て怖いんだろう。
99群青が染まる 04 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/24(火) 22:05:07 ID:Nxy1x577

「人間とは思えない彼女が怖い。それが僕だ。そうだろ?」
 さらに俺がおよそ考えていることを続ける。
「1人が寂しいのか?1人が嫌なのかい?だから、怖い彼女について行く
のか?」
「ち、違う!」
「違わないさ」
 それは自分の弱さ。

 ふいに影がため息をついた。
「そんなことはどうでもいい。逃げないか?」
「…なぜ…?」
「おいおい勘弁してくれよ。自分を守るために伝えるんじゃないか」
 困ったように肩をすくめるのは自分。
「……」
「何も言わないってことは、わかってくれたようだね」
 
 彼女が怖い。
 会ったときから、見たときから体が震えるぐらい。
 その目に捉えられると体が竦むぐらいに。
「僕は君なんだよ?なんでも知っている」
 
 脳裏を過ぎるのは夜の街で独り空を見上げる彼女。
 …どこか物悲しい表情の彼女。
「…わかったよ」
 人知を超えた彼女が怖くないわけがない。
 でも彼女も、マリンも生きているんだと。

「わかってくれたか」
 どの道を選んでも、きっと後悔しただろう。
 それでも、ここで自分の気持ちを確かめれるとは、人生何があるかわか
らない。

 ――
100群青が染まる 04 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/24(火) 22:08:39 ID:Nxy1x577

「ああ、俺はマリンとハルと一緒に行く」
 眠りながら言葉を発している人間の方を見る。
 内なるものを映す、か…。
 今聞いてるのはきっとこの人間の想いなのだろう。

 同様に眠りこける“ふり”をする人外。
 
「俺はマリンを仲間と思っている!!だから!だから、一緒に行くのは
当然だろ!」
「…仲間…」
 掛け違えたように、しっくり来ないその言葉。

「だが、我はそう思っていない。だとしたら…どうする?」
 これが無意味な問いかけだとは知っていた。
 だが言葉に出すことで、いや、出さないといけないような気がした。

 …いつもより穏やかな己の内を霧に見られぬように。

 ――

 透き通った声が聞こえる。

 意識が1つまた1つと繋がっていく。
 重い瞼をこすりながら、辺りを見回した。
 何か夢を見た気がする…。
「…ここは?」
 わかるのは荷台の上と言うことだけ。

 尋ねても返ってこない答えに、
「ハル起きて、ハル!」
 仕方なく、まだ起きていないハルを揺さぶる。
101群青が染まる 04 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/24(火) 22:12:14 ID:Nxy1x577

 マリンはいつものように無表情でどこかを眺めている。
「あ、あれ?トモヤはん…?」
 視点が合っていない。
 まだ起ききっていないのだろう。

「ああっ!!!」
「ど、どうしたの?!」
 そんなハルが突然に声を上げた。
「ええ夢やったんやけど…思いだせん…」
 
 …一気に全身の力が抜けた。

 ――

 この霧はただの入口…肉体と精神を分けるための。
 だが、なぜ誰も来ない?

 そのために森へ呼んだのではないのか?
 それとも…。
 そこで、思考が閉じていく。
 …近くの存在に気付いた。
 まるで手招きでもするようなその存在に。

「マリン!どこ行くの?!」
「マリンはんについて行けば大丈夫やって!」

 我が内を覗き見ようとした罪、その無礼さ……万死に値する。
102 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/24(火) 22:15:30 ID:Nxy1x577

以上で投稿を終わります。
103名無しさん@ピンキー:2009/11/24(火) 22:38:58 ID:Axa7mMZq
>>102
104名無しさん@ピンキー:2009/11/24(火) 23:04:35 ID:dwsJgLCQ
>>102
面白いです。
頑張って下さい。
105名無しさん@ピンキー:2009/11/24(火) 23:05:17 ID:dwsJgLCQ
>>102
面白いです。
頑張って下さい。
106名無しさん@ピンキー:2009/11/24(火) 23:49:43 ID:WTWvZBZO
二回言わなくても
107名無しさん@ピンキー:2009/11/25(水) 07:05:12 ID:itBM6q0c
大事な事なので二回言いました的ノリか?www

なにはともあれGJ!
108名無しさん@ピンキー:2009/11/25(水) 11:23:33 ID:VHbOrDWz
ヤンデレ捜査官山手礼子

「雌猫、分かっちゃいました」

「私ならこう監禁するね」
「人の横で計画建てないてください」

「彼を殺して私も死ぬ!」
「やめなさい。彼氏は飼い殺すものよ!」
「それも違う!」

「…私のこと愛してる?」
「わかった、わかったから拳銃突き付けるな!」


(元?)ヤンデレの立場からヤンデレ事件を解決していく刑事を思いついた。




つくづくヤンデレ世界の警察は無能だな。
109名無しさん@ピンキー:2009/11/25(水) 16:15:21 ID:tvgcbKxR
>>102
投下乙
GJはヤンデレが来るまで取って置くぜ

>>108
警察はあくまで常識的思考に基づいて捜査するから
常識はずれのヤンデレには通用しないのではないだろうか
逆にその捜査官。ヤンデレ絡みの事件じゃないと役立たなそうだし
110名無しさん@ピンキー:2009/11/25(水) 20:22:23 ID:NCaFHB8f
ならヤンデレ専門の探偵なんてどうだ?
111名無しさん@ピンキー:2009/11/25(水) 20:27:33 ID:o/x/2bPZ
>>88
続きはまだかね?
112名無しさん@ピンキー:2009/11/25(水) 22:02:35 ID:r3a3HSLX
>>111
本人乙
113名無しさん@ピンキー:2009/11/25(水) 23:31:52 ID:LlxspePu
そんなこと言うもんじゃない
114名無しさん@ピンキー:2009/11/26(木) 00:14:23 ID:FK75Lqud
>>110
「セブン」のジョン・ドゥを可愛い娘に脳内変換するんだ
115名無しさん@ピンキー:2009/11/26(木) 10:02:34 ID:3owH39o5
ロックなヤンデレの小ネタを書き上げてさあ投下、って所で停電。ハードディスクごとデストローイ
ヤンデレ怖い
116名無しさん@ピンキー:2009/11/26(木) 14:29:05 ID:+su4jXXf
>>108
ふと疑問に思ったんだけど(元?)ヤンデレってのはどういう事?
117名無しさん@ピンキー:2009/11/26(木) 16:52:07 ID:pXmUHueY
病んじゃった彼女が妊娠した。
生まれてくる子供の為に親父がしてやれる事って何だろう。
・旦那>子供という状態にならないようにする。
・一家心中させないように頑張る。
・情操教育に良くない会話は極力避ける。

それくらいしか考えつかん。  
118名無しさん@ピンキー:2009/11/27(金) 00:28:11 ID:8AOU0S1x
>>117
男の子だったら大丈夫だと思うが
そういう場合に限って、女の子なんだよな
119名無しさん@ピンキー:2009/11/27(金) 00:31:45 ID:aNSl1uNy
今まで失ったヤンデレ小説

手軽に携帯電話で書いた→水にポチャしてデータ消失
パソコンで書いた→ウイルスでHDDクラッシュ
原稿用紙に書いた→まとめたバインダーごと紛失
頭の中で構築した文章→飲み過ぎで記憶飛ぶ
120名無しさん@ピンキー:2009/11/27(金) 01:53:36 ID:N0XRd6Ye
>>118
そんで男の趣味も嫁にそっくりなのな
嫁の好み=全人類で夫のみな訳だから……あれ?
121名無しさん@ピンキー:2009/11/27(金) 07:36:05 ID:uHjZn2Cm
>>119
そんなものに構ってないで私を見てという暗示ですな
122名無しさん@ピンキー:2009/11/29(日) 13:21:01 ID:InqDvUZR
事故、事件の心的外傷から依存、被害妄想に苛まれ病んじゃうのはスレ違いなんでしょうか?
123名無しさん@ピンキー:2009/11/29(日) 13:28:50 ID:zLJxV3Vj
とりあえず投下してみて
124名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 09:31:05 ID:7+G0+m9G
125名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 09:31:45 ID:7+G0+m9G
ストーカーに愛されたい
126名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 11:27:38 ID:XKxDWa6O
誰か

お兄ちゃん←妹(ヤンデレ)←お兄ちゃんの友達(ヤンデレ)


のヤンデレSS書いて下さいお願いします。
127名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 12:15:13 ID:ryPU96gb
>>126
お兄ちゃんの友達ってのは男?
このスレは男のヤンデレは無しだよ
女の子だったらいいんだけど
128名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 15:09:58 ID:3V21TgcJ
とりあえず妹(ヤンデレ)系のみたいならキモウトスレ行くんだ
129 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/11/30(月) 20:20:47 ID:IaP3RpEy
ぽけもん 黒  18話投下します
130ぽけもん 黒  18話 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/11/30(月) 20:21:50 ID:IaP3RpEy
「で、話って何?」
 香草さんが、淡々と切り出した。
 雰囲気からして、婉曲を使える場面ではないと判断した僕は、ずばり核心から告げる。
「契約解除を……取りやめてほしい」
 香草さんの目をじっと見つめる。
「いいわよ」
「そこをなんとか……って、え?」
「だから、いいわよ」
 なんというか、お約束みたいになってしまった。
 まさかこんなすんなり話が運ぶとは思わなかった。しかしあっさりしすぎている気もする。
 そうか、もしかしてこれは「(アンタとの旅はもう)いいわよ」という意味のいいわよかも知れない!
 一応確認してみよう。
「そ、それは契約解除を無かったことにっていう意味でのいいわよでいいんだよね?」
「そうよ、しつこいわね」
 どうやら間違いないようだ。
「よかった! ありがとう香草さん!」
「ただし、条件があるわ」
「条件? 条件って?」
 条件か。どうも嫌な予感が……
「簡単なことよ。あの鳥と契約を解除しなさい」
「契約解除って……え?」
 な……香草さんは一体何を言っているんだ?
「何? 一度聞いただけじゃ理解できないの? あの鳥と、契約を解除しなさいって言っているのよ」
 僕は彼女が言っていることが信じられず、無駄な確認を行う。
「あの鳥って……ポポのことだよね?」
 それに対する彼女の返答は、澱みのないものだった。
「そうよ。それと、今後新しいパートナーを迎えることも禁止よ」
「それって……やどりさんも?」
「当然じゃない!」
「そんな! 一体どうして?」
 僕の質問に、香草さんは目を伏せる。
「どうしてって……そんなの……ただ私が気に入らないからよ」
「そ、そんな理由で……」
「それ以上、理由が必要かしら」
 信じられなかった。たったそれだけの理由で、ここまでの横暴を行おうとするなんて。
「確かに仲はよくなかったかもしれないけど、でも、一緒に旅をしてきた仲間じゃないか!」
 彼女の眉がピクリと持ち上がった。
「仲間? 笑わせないでよ。勝手についてきただけでしょ」
 そう言われたら、僕も口調が荒くなる。
「香草さん、ポポに契約を申し込んだのは僕だ。勝手についてきたわけじゃない。それに、勝手に契約を持ちかけたのに、勝手に契約を解除するなんて、滅茶苦茶だ」
「申し込んだって、そもそもあなたを襲おうとしたのよ? どうしてそんなのとパートナーになれるのか、あなたの神経を疑うわ」
「それは……ポポだって自分で選んでそういう生き方をしていたわけじゃない。それしか選択肢が無かっただけだよ」
 自分でも、自分の言葉に自信がもてなかった。
 ずっと、僕はポポのことを無垢な子供だと決め付けていた。
 でも、それは、ただ僕がそう思い込みたかっただけなのかもしれないのだから。
131ぽけもん 黒  18話 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/11/30(月) 20:22:15 ID:IaP3RpEy
 僕の弁明に、香草さんは呆れたように溜息を一つ漏らすと、僕を睨んで言った。
「何それ。性善説?」
 何もいえない僕を尻目に、彼女は続ける。
「いい? お人よしのあなたには分からないみたいだから私が言ってあげるわ」
「香草さん……」
「……アレは、悪よ」
「香草さん!」
 僕は耐え切れずに、部屋の中央のテーブルを叩いた。
「ご……ごめん」
 すぐに我を取り戻した僕は、先ほどの振る舞いを恥ずかしく思って彼女に謝った。
 ちょっと厳しい言葉を使われたからって、すぐに激昂しては、それが図星だったみたいじゃないか。
 僕を射抜く彼女の冷たい目は、僕の浅い考えを見透かすようだった。
「いいわよ、あなたが私を選んでくれるなら。すべて水に流してあげる」
 僕の背筋に悪寒が走った。彼女の口調は静かな、淡々としたもので、決して恐怖を覚えるようなものではないはずなのに。
「私を……選ぶ?」
「あなた、一体何を聞いていたの? 私が言ったのは、つまりそういうことよ」
 そういうこと。
 香草さんの提案した条件。
 契約解除はしない。ただしポポと契約を解除し、今後新たに契約はしない。
 つまり裏を返せば、そうしなければ契約を解除する、ということなのだろう、彼女の言葉からして。
 頭に、一つの言葉が浮かぶ。
「……脅迫?」
「そう思う?」
 彼女は相変わらず、こちらを測るような目をしている。
「ごめん、忘れて」
 愚問だった。彼女の態度が正しいとは言わないけど、彼女にはそれを言うだけの正当な権利がある。パートナーなのだから。
 パートナーが一方的な主張を行った場合、それを守る義務はない。しかし……
 僕は何を被害者面しているのだろうか。最悪だ。
 パーティーでの致命的な不和。これは契約を解除する理由としては十分だというのに。
 僕はそれに対して、気配りが足りなかったんだろうか。それとも、この不和の原因は僕の過失によるものなのだろうか。
 自らを責めても、現状の解決には繋がらない。
「そう。それで、答えは?」
 立場がまるで逆になっている。
 僕が彼女にお願いをする、つまり彼女に選択を求めるはずが、僕が選択を迫られている。
「どうしたの? まさか迷っているの? 迷うことなんて無いじゃない。そうでしょ?」
 彼女の口調にわずかな変化が見られた。相変わらず淡々としたものだが、先ほどまでとは少し調子が変わっている。
「最初に契約したのは私でしょ? 最初は、あなたと私の二人だけだったじゃない。元に戻るだけよ」
132ぽけもん 黒  18話 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/11/30(月) 20:22:50 ID:IaP3RpEy
 元に戻る。その言葉を聞いて、調子を崩していく香草さんと対照的に、僕は少し調子を取り戻した。
「香草さん、時間は流れていくものなんだ。元に戻るなんてことは、無いんだよ」
 苦い過去の記憶を思い出す。どんなに悲しんでも悔やんでも、もう元には戻れない。
 前に進むというより、進まされている。それはどうすることもできない。
 僕の言葉は、単にそういうものであって、それ以上の意味はなかったんだけど、確かに、誤解を招きそうなものだったと思う。
 でも、それを考慮したとしても、彼女のリアクションは異常だった。
「ど、どういうことよ! まさか、私じゃなくてあいつらを選ぶつもりなの!? なんで! どうしてよ!」
 先ほどまでの冷静さが嘘のようだ。
 彼女は突然泣き出さんばかりの勢いで叫び始めた。
「か、香草さん!?」
「私があいつらより劣っているところなんて何一つ無いじゃない! おかしいわよ!」
「落ち着いて!」
「何で!? やっぱり私一人じゃ不安なの!? 私の強さ、まだ信じてないの!?」
 確かに強さは大事だけど、今の論点は強いとか弱いとか、そういうことじゃないはずだ。
 訳が分からない。一体何がここまで彼女の不興を買ったのだろうか。
 苛立ちが強く滲む声で彼女は言った。
「……だったらいいわよ、分からせてあげる。隠れてないで出てきなさい」
 香草さんはそう言ってドアのほうを見た。
 え、何? 忍者?
 僕は人の気配をさっぱり感じなかったのだが、ドアの向こうにはポポとやどりさんがいた。
「え、もしかして話聞いてたの? というか香草さん気づいてたならどうして何も言わなかったのさ」
「あえて聞かせて、身の程を弁えさせてやろうと思ったのよ。それなのにあなたときたら優柔不断で……」
 あれ? 今僕責められるべきシーンじゃなくない?
「ポポも盗み聞きなんて! やどりさんも人が悪いですよ! いたならいたと言って下さい」
「ごめんなさいです……」
「……ごめん……なさい」
「で、でも、これで分かったです? チコの本性が! ポポ、ずっといじめられていたですよ!」
「黙りなさい!」
「きゃあー。怖いですー。ゴールド助けてですー」
 ポポは黄色い悲鳴をあげ、羽をパタパタと動かしながら僕の後ろに隠れようとする。
 当然、香草さんの怒りに燃料を注ぐことにしかならない。
「今ここでぶち殺してあげましょうか」
「ちょ、落ち着いて!」
 全員の視線が僕を向く。とりあえず場を収めること以外に何も考えてなかった僕は、当然無言である。
 その沈黙は、香草さんの溜息によって破られた。
「そうね、畜生と言い争うなんて愚の骨頂だったわ。さっさと本題に入りましょう」
 畜生、という言葉はスルーして話を促す。
「本題って何さ」
「戦うのよ。それで勝てば文句ないでしょ?」
 いや、あります。
 そもそもどうしてそういう発想になるのかが分かりません。
 理解できないのは僕が馬鹿なせいでしょうか。違うと思います。
「見せてあげるわ、私の力を。二対一だろうが六対一だろうが、何の問題もないってことを」
 六対一は一先ず置いておいて、香草さんはどうやら自分の力を証明するためにポポとやどりさんの二人を相手取って戦うつもりらしい。
「望むところですよ。身の程を弁えるのはどっちかはっきりさせてやるです」
「二人とも! ……ってやどりさんまで! いいの!? こんなことに巻き込まれて!」
「話は……全部……聞いた……、そう……しなけれ……ば……パートナーに……なれない……ならば……私は……倒す」
 ああ、もうダメだ。
133ぽけもん 黒  18話 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/11/30(月) 20:23:12 ID:IaP3RpEy
 何で皆さんそんなに好戦的なのですか。僕は胃が痛いです。
「こ、こんなところで争ったら旅を続けられなくなっちゃうよ!」
「分かっているわよ。この街にはバトルの練習場があったはずよ。そこでやりましょう」
 ああ、なんで貴女はそんなことを覚えているのですか。

 向かう道中、僕は必死に皆を説得した。だが、僕がどちらかを選ばない以上、他に選択の余地は無いようだ。
 三人の意思は固かった。無駄に。
 練習場のフィールドがすべて埋まっているように願ったが、待つ必要も無くすぐにフィールドに入れる状態だった。この世に神はいないらしい。
 少なくとも、僕の願いを聞き届けてくれる神は。
 標準的な土のフィールドを選び、僕たちは入場した。

 フィールドを挟んで、香草さんがポポとやどりさんに向き合っている。
 通常のバトルでは二対一なんて認められないが、練習とあれば話は別。誰にも咎められない。
 職員の人に事情を説明すれば戦いを止められないこともなかったが、そんなことをすれば皆になんらかの処分が下る。最悪、旅の参加資格を剥奪されてしまうなんてことにもなりかねない。
 僕一人の過失で処理できればいいけど、皆が嘘をついてくれない限り、むしろ僕は責任を問われず、三人だけが罰せられるということになりかねない。
 今の僕に出来ることはもはや、皆怪我も無く無事戦いが終わってくれることを願うだけだった。
「……じゃあルールを確認するよ。ルールは公式戦のルールに則るけど、ポポやどりさんチームは二人とも戦闘不能または気絶または場外にならない限り戦いは続行というルールを追加。……これでいいね?」
「いいわよ。そもそも、私はルールなんてどうだっていいもの」
 僕はどうだってよくありません。
「いいです!」
「……いい」
「……皆、止めるなら今だよ。こんなことしたって何の意味も無いんだから」
「ゴールド、これ以上あなたが寝ぼけたこというなら、合図なしで試合開始するわよ」
 はあ、と僕は溜息をついた。
 不意打ちで誰かが大怪我するくらいなら、僕が試合開始の合図をしたほうがまだマシだ。
「……分かりました。……試合、開始」
 僕が呟くと、弾かれたように香草さんは両腕を伸ばし、数十の蔦を繰り出した。
 傷ついているどころか、ここまでの本数は今まで見たことがない。
 彼女の回復力の高さと、能力の高さに驚かされる。
 数が多い分、速度は若干遅めに感じる。
 しかし素早いポポを相手にするうえに二対一であるこの状況、数で攻めるのは決して悪くない策だ。
 ただ、少し香草さんらしくないとは思った。
 普段の彼女なら、こんな小細工は弄さず、速度も力も乗った研ぎ澄まされた一撃で片方を不意打ち気味に沈め、その後残りの一人を相手にすると思う。
 結局、その判断は正解だったのだろう。ポポもやどりさんも、いくら先を突こうと、戦略性の無いただの一撃で沈められるような凡庸な人たちではなかった。そういうことだ。
 香草さんの行動は、二人の実力を正確に読みきっていた結果だったのだろうか。

 広げられた蔦に覆われるより早く、ポポは空中に飛翔した。
 しかし香草さんは迷うことなく、その蔦の群れをやどりさん目掛けて振り下ろす。
 蔦は地面を強く叩き、衝撃で床が揺れた。
 轟音と共に濛々と土埃が舞い上がり、フィールドに立ち込める。
 やどりさんは土埃のうちに一瞬で隠された。
 蔦の落下の直前、隙が生じることを予想したのだろう、ポポは香草さん目掛けて急降下を開始した。
 蔦が地面に打ちつけられたときには、香草さんはすでにポポの射程内に入っていた。
 翼で相手を打ち据えようと、ポポが体勢を整える。
 飾り気の無い、しかし強力な攻撃。
 そのとき、カウンターのように、香草さんから葉っぱカッターが放たれた。
 避けきれない!
 僕の目には、回避するにはポポは近付きすぎていたように見えた。
 しかし僕の予想に反してポポが不自然な軌道を描き、鋭利な葉っぱの群れを回避する。
134ぽけもん 黒  18話 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/11/30(月) 20:23:52 ID:IaP3RpEy
 間を空けずに、立ち込める土埃を切り裂いて、土埃の中から水球がすさまじい勢いで香草さん目掛けて飛び出した。
 切り裂かれた土煙の向こうに見えたやどりさんは、蔦による攻撃などなかったかのように、右手を前方に突き出して直立していた。
 砲弾のようなそれが、香草さんに迫る。
 それを彼女は咄嗟に蔦を引き寄せることで防ごうとした。
 彼女の思惑通り、水球と蔦の一本が交差する。
 しかし水球の速度は殆ど減損されず、そのまま香草さんの右上腕部に直撃した。
 肩が後方に流され、香草さんは大きく体勢を崩した。
 その隙目掛けて、ポポが再び強襲する。
 しかし香草さんに迫るポポの目前に、突然、無色半透明の板が現れた。
 それを確認したポポは軌道を変え、再び高度を取る。
 その隙に、香草さんは両手の蔦を引き戻した。

 わずかの間にあまりにも多くのことが起こりすぎて、何が起こっているのかよく分からない。
 おそらく、やどりさんは蔦が打ち付けられる瞬間に念力によって蔦の軌道をそらして回避した。そして土埃にまぎれて、ポポの軌道を念力で変えることで葉っぱカッターを回避させ、さらに水鉄砲で香草さんを狙った。
 体勢を崩した香草さんに迫るポポの前に表れたのは香草さんが張ったリフレクター――物理攻撃の威力を半減させる障壁である――
で、それにより自身の攻撃の威力が減損し、そのせいで攻撃後、香草さんの蔓に捕らえられることを恐れたポポは強襲を中止した、と後になって考えることくらいしかできない。
 それは今まで目の前で見たことのないようなレベルの戦いだった。
 近接型のポポと遠距離型のやどりさんの相性がいいということも一因にあるのだろう。だけど、それだけじゃない。
 すべては、彼女達の卓越した能力にあった。
 皆、こんなに強かったのか。
 僕は彼女達は皆優秀だと評価していたつもりだったけど、その評価は随分と甘いものだったらしい。
 唖然と香草さんを見ていると、彼女もこちらに視線をよこした。
 わずか数瞬。僕と、香草さんの視線が絡み合う。
 その目は、先ほどまで相対する二人に向けていたものとは違うもののような気がした。

 再び激しい戦闘が再開される。
 やどりさんが、緩慢に、しかしどこか禍々しいものすら感じさせる確かさで、左腕を前方に突き出した。
 身構える香草さんを無機質に見つめ、その左腕を振り下ろした。
 瞬間、香草さんの体が下向きに沈んだ。彼女の周囲を舞っていた薄い砂埃が地面に吸い寄せられるように動き、彼女の周囲が鮮明に晴れた。
 香草さんの顔には怪訝そうな表情が浮かんでいる。
 上方向から押しつぶすように念力を働かせたようだ。
 やどりさんを止めようと香草さんは葉を飛ばすが、葉っぱはやどりさんをかわすように動き、あたらない。
 蔦を飛ばそうと手を伸ばすが、その動きは上空から急降下してくるポポによって妨害される。
 一先ずポポに向き直りリフレクターを張るとポポは急転換し、再び上空を位置取る。
 残った左手をやどりさんに向け、蔓を伸ばすが、その手は蔦ごと空中で停止した。
 困惑の色を浮かべる香草さん目掛けて、やどりさんの水鉄砲の連射が襲い掛かる。
 香草さんの左手の動きを止めたのはおそらくやどりさんの金縛りだろう。念力は未だ解かれていない。
 念力に金縛り、それに水鉄砲の連射まで。
 トリッキーな搦め手から直接的な打撃まで、やどりさんは自分の力を完全に使いこなしている。

 水鉄砲が迫り来る香草さんの前方に、今度は淡く輝く半透明のもやのようなものが発生した。多分これは香草さんの光の壁だ。
 今まで香草さんが防御系の技なんて遣うことが無かったから知らなかったけど、リフレクターによる物理防御に光の壁による特殊防御と、香草さんの防御手段はかなり充実している。これに蔦による防御も加えれば、鉄壁と言ってもいい。
 香草さんが二人同時に相手どることにしたのは、この防御力に対する自信からだろうか。
135ぽけもん 黒  18話 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/11/30(月) 20:24:28 ID:IaP3RpEy

 光の壁で弱められるからと言って、水鉄砲が消滅するわけではない。
 水鉄砲は光の壁をすり抜け、容赦なく香草さんに降り注ぐ。
 しかし香草さんはやどりさんではなくポポを見据えた。
 香草さんは草タイプなので水タイプの攻撃に対しては耐性が高い。
 やどりさんも優れた力を持つとはいえ、さすがに三つもの力を同時に使うことの負荷は高いはずだ。事実、顔は苦しそうに歪んでいる。おそらく、力を使い続けたまま移動するのは不可能なのだろう。
 となると攻撃がくる位置が決まってしまうので、光の壁で威力を減損し続けられる。
 対するポポは空中を自在に飛び回り、攻撃方向を予測することは難しい。
 リフレクターがあっても、回り込まれてリフレクターの無いところを突かれれば危険だ。
 香草さんは嵩み続ける、毒のようではあるが微弱であるダメージを無視し、自分に大きなダメージを与えかねないポポに狙いを絞ったようだ。

 封じられていない右手を宙に掲げると、一斉に蔦を伸ばす。
 ポポは蔓を縫うように器用に避け、羽ばたきで複数の旋風を起こす。
 旋風が香草さんに到達する前に、動かぬ左手から伸びた蔦を引き摺りながら位置を変え、回避する。
 旋風を放つと同時に、ポポ自身も急降下を開始した。
 地面とぶつかった幾つもの旋風は再び風を起こし、フィールドに強風を起こした。
 土埃が舞い上がり、水鉄砲が揺れて崩れ、香草さんのスカートの裾が翻る。
 土埃のせいで対応が遅れたのだろう、香草さんはポポを回避しきれず、腹部を翼で強かに打ちつけられた。
 数メートル後退し、そのまま崩れ落ちる。
 リフレクターは発動していたが、正面からの攻撃を緩和するには至らなかったのだろう。
 香草さんは苦痛に顔を歪めている。
 そんな香草さんに容赦なく念力の重圧と水鉄砲が降り注ぐ。
 しかしやどりさんを迎え撃つことは出来ない。少しでも気をそられば、ポポの餌食だ。
 いよいよ追い詰められた。
 光の壁があるとはいえ、香草さんの体力はジリジリと削られ続けていく。
 一方のポポとやどりさんは後は香草さんの動きを抑制しているだけでいい。

 勝負あったか、と思われたそのとき。
 香草さんが叫びながら体を起こした。
 ガラスの窓がビリビリと揺れる。
 封じられていて動かないはずの左腕が持ち上がっていく。
 やどりさんが呻き声を漏らし、両手で頭を抱え、その場に蹲った。
 まさか、信じられない。
 力で、無理矢理念動力を破るなんて!
 力自慢の格闘タイプですら破ることは難しいのに。
 彼女の、プライド――執念の力なのか。

 金縛りを破り、やどりさんが反動で動けなくなったことで、香草さんは念力による押さえつけや水鉄砲からも解放された。
 彼女は両腕を上に伸ばすと、両腕から蔦を放った。
 それぞれの蔦が、まるで槍のように伸びていく。
 動きは直線的だが、早さと数で、回避するのは不可能に思われた。
 咄嗟に天井付近まで退いたポポに、数本の蔦が次々と突き当たる。
 即座に周囲の蔓も向きを変え、ポポを捕らえんと伸びた。
 ダメージを受けたポポは、それでも素晴らしい反応で翼により蔦を次々と切り払っていく。
 しかし数が数だ、すべてを打ち落とすことは不可能だった。
 ついに、蔦の一本がポポの左足を捕らえた。
 そしてポポが払うより早く、蔦はポポの足を強く握りつぶした。
 乾いた、嫌な音と、ポポの絶叫が場内に響き渡る。
 それでもポポはそのままポポを絡めとらんとする蔦を切り払い、急降下するときの速度を利用して蔓の囲いから脱け出した。
 ポポの左足の脛から先は制御を失い、地面に向かって垂れ下がっていた。
 香草さんは、蔓でポポの足を砕き折ったのだった。
 僕は、まるで喉に何かつまったかのような錯覚を覚えた。
 まさか、香草さんがここまでやるなんて。
 そんなことを考えている場合ではない。戦いを止めないと。
 ……いや、そんなことは不可能だ。
 医療の発達した現代、足の骨折程度では戦闘不能の要綱には認められない。
 となると戦闘を止めるには僕が止めるかポポが自分からリタイアしてくれるしかない。
 しかしこの場合、僕が戦闘を止めることは出来ないだろうし、ポポが自分からリタイアするなんて考えられない。
 それにもし万が一、僕が声をかけたことでポポの意識が反れ、それによって取り返しのつかない結果を招いてしまったら……
 僕は声を出すことすらも出来なかった。
136ぽけもん 黒  18話 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/11/30(月) 20:24:51 ID:IaP3RpEy

 放たれた蔦はポポを追う様に折れ曲がり、低空飛行をするポポを上空から射抜くように次々と地面に突き刺さる。
 ポポはかろうじて回避できていたが、折れた足のせいで高度を下げ切れていない。高くも無く低くも無い、中途半端な位置をふらふらと飛んでいるポポは攻撃も防御も行えない。
 香草さんの格好の的だった。
 香草さんは使い終えた右腕の蔦を一旦引き戻すと、今度は右腕を地面に対してほぼ水平に構えた。
 左腕の上空から打ち下ろす蔦と右腕のまっすぐ射抜く蔦。
 この二つを回避しきるのは、おそらく、不可能だ。
 僕は何も出来ない自分のふがいなさに、両手を強く握り締めた。

 香草さんの動きに気づいたのだろう、ポポは香草さんに向けて向き直った。
 狙いは、正面突破だろうか。
 確かに、この状況で、残された手はそれしかないように思えた。
 しかしそれはあまりにも無謀な賭けだ。
 向き合った二人は、そのまま暫し静止した。
 お互いを見つめる二人の目には、一体何が見えているのだろう。
 僕に、それを知る術はない。

 静寂は、ポポによって破られた。
 激しく羽ばたき、幾つもの旋風を巻き起こした。
 香草さんを狙うには距離がありすぎる。タイミング的に蔦をかき乱すこともできない。
 案の定、それはただ地面へとぶつかった。
 しかしそのことにより、土煙が舞い起きフィールドの半ばが土埃で覆われた。
 元々狙いはこれか。
 この煙幕で、香草さんを撹乱しようというのか。
 しかし、それはあまりにも浅はかに思われた。
 そもそも、ポポの羽ばたきはそれだけで大きく風を起こす。いくら土埃が立ち込めていても、ポポの位置は筒抜けだ。
 すぐに、土埃の一部が大きく揺らぐ。
 香草さんはそこ目掛けて十本近い蔦を突き刺した。
 しかもまだ手元に数本の蔦を残してある。
 すべての蔦を使わないところが、計算高い香草さんらしいと思った。
 しかし蔦が物を打ち据える鈍い音も、蔦によって強打されたポポの悲鳴も聞こえてこない。
 僕が疑問に思う前に、香草さんは右腕の蔦を横薙ぎに振るった。
 聞こえるのは空気を切り裂くのみ。
 空振り?
 はずしようが無い。それに香草さんが容赦したわけでもない。それなのに、あたらないとは一体どういうことなのだろうか。
 そのとき突然、あらぬ方向で土埃が大きく揺らいだ。
 土埃を突き抜けて、ポポが香草さん目掛けて突進する。
 香草さんは咄嗟のことにもかかわらず、素早く残りの蔦を差し向けてポポを迎え撃つ。
 しかし蔦はポポにあたる直前で、軌道が反れていく。
 もちろん、香草さんが逸らしているわけでも、ポポが不思議な力に守られているわけでもない。
 やどりさんの念力だ。
 やどりさんはいつの間にか金縛りを破られた反動から復帰していたのだろう。
 そうか! ポポが砂埃を巻き上げたのもそのためか!
 砂埃を巻き上げたのは、最初から自分の身を隠すためではなく、やどりさんの動きを悟らせないようにするためだったんだ。ポポは何時の間にか、やどりさんが戦える状態になったのを気づいていたのだろう。やどりさんが念力か何かで合図したのかもしれない。
 土埃の最初の揺らぎは念力によって起こされた罠。本物のポポは念力の力によって羽ばたくことなく砂埃の中を運ばれていた。
 これなら、香草さんに気取られるほど大きく空気をかき混ぜなくても移動できる。
 すごい奇策だ。
137ぽけもん 黒  18話 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/11/30(月) 20:25:36 ID:IaP3RpEy

 香草さんが次いで放った葉っぱカッターも念力でそらされ、ポポを浅く切り裂くのみだった。
 しかしいくら撹乱されたからと言って、軌道が直線的なのには代わりは無い。かわされる。
 香草さんも回避行動に入った。が、なぜか大きく体勢を崩す。
 驚いて地面を見れば、地面はすっかりぬかるんで泥上になっていた。
 そのせいで足を滑らせたらしい。
 地面は最初は乾燥していて、泥なんかとは程遠いものだったのに。
 僕は再び驚かされた。
 やどりさんの水鉄砲は香草さんを倒すというより、最初からその水分で地面をぬかるませることが目的だったのか!
 やどりさんも、自分の力では決定打が与えられないことが分かっていたのだろう。だから、ポポが決定打を与えられるような環境を整えた。
 信じられない。なんて先見性、そしてチームワークなんだ。今日会ったばかりで、碌に会話も交していないのに。すごい。言葉も出ない。

 香草さんが、リフレクターを使ってポポを受け止めることより、回避を選んだのが運のつきだった。
 いや、そもそも回避を選んだのだって今までのダメージの蓄積により、最初から受け止めるだけの体力が残っていなかったための、苦渋の選択だったのかもしれない。
 とにかく、香草さんはリフレクターを張る間もなく、突進してきたポポに跳ね飛ばされた。
 中空に浮き上がった、翼を持たない香草さんの体は、羽ばたくことなくそのまま地面に墜落した。
 一転、二転、三転。
 三回ほど転がり、ようやくそこで香草さんの体は停止した。
 立ち上がる気配は、無い。

 文句なしの決着だった。
 二人を雑魚と嘲った香草さんが、その二人に、敗北した瞬間だった。
138 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/11/30(月) 20:26:17 ID:IaP3RpEy
投下終了です
139名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 20:31:25 ID:jHY0uYRZ
>>138
おお! リアルタイムだ。
140名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 20:32:41 ID:qaDDppze
>>138 GJです!
141名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 20:35:26 ID:m9F3lYr8
>>138
シリアスすぐる・・・GJ!!
142名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 20:36:26 ID:3V21TgcJ
>>138
GJ!待ってたぜ!
143名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 21:10:23 ID:yXzU+GbY
>>137
GJ
香草さんが負けた・・・だと
これは次回で病み香草さん発動フラグか!
144名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 21:44:45 ID:z4nfFZs3
次が楽しみだ
145名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 22:31:08 ID:dOi562JZ
>>138
GJ!
香草さんがまけるとこなんて想像できなかったが……
チコとヤドリさんのチームーワーク恐るべし
146名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 22:40:44 ID:9cS1AAcQ
>>138
GJ

展開が気になる
147名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 23:05:58 ID:ijALVWqX
GJ!
寒いのとは別にチキン肌が立つぜ
次回に期待
148名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 01:26:07 ID:FVBJIH+3
GJ
面白いなあ
ハッピーエンドを願いたい気持ちもあるけどこの三人じゃ難しいかな
149名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 03:19:33 ID:ZesOxW9J
面白かったGJ!!
いつの間にポポとやどりさんが結託をしたんだ
150名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 05:42:37 ID:n3JiwB0x
GJ
やっぱ2対1は卑怯だよな…
つかポポめっさ頭良くなってる…当初のアホの子はどこに…
151名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 07:09:24 ID:nPCMdkW1
GJ!
俺は香草さん派だが、今回のポポの「いじめられた」発言にはゾクゾクきたね、もちろん良い意味で
152 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/01(火) 12:50:40 ID:Nx73eYUW

規制に巻き込まれていました。
それでは投稿します。
153群青が染まる 05 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/01(火) 12:51:50 ID:Nx73eYUW

 離されていく。
 マリンの背中が遠い。

 …遠い。
「…はっ…はっ…」
 どれぐらい走っただろう。
 ぬかるんだ地面が足を疲れさせる。
 息が苦しい。

 もうだめだと思った時だった…急に視界が開けたのは。
「なんや…ここは」
 木々もなくぽっかりと開いた空間。
 その奥に大きな屋敷がそびえ立つ。
 それがまた不気味だった。

 玄関の扉を開けようとする彼女が見える。
「はっ…はっ…ま、待って!!」
 慌ててマリンを追った。
 何も知らずに。
 いつもなら考えた…こんなところに屋敷があるのはおかしいと。
 だけど疲れていた。
 
 なによりも置いていかれるのが怖かった。
 この森が怖くて。
 背中が遠くて。

 なんとか中に滑り込む。
 と同時に重々しい音と共に扉が閉まった。
「おお、暖かいわ!」
 ハルの言う事はもっともだった。
 凍えるように寒かった外とは違い、中は暖かい。
 光に溢れる屋敷。
 確かに明るいはずなのに、どこか薄暗い。
154群青が染まる 05 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/01(火) 12:53:12 ID:Nx73eYUW

 視線の先にいる―エントランスの二階に繋がる階段の先を伺うマリンに―
彼女に声をかけるかどうか迷う。

 …ふいにシャンデリアの灯りが瞬いた。
「ようこそ我が屋敷へ」
「っ?!」
 ハルのとも、マリンのとも、そして自分のとも違う声。

「それで、どうされました?客人よ」
 高そうな服に身を包み、髭を生やした男が見下ろしている。
「……」
 言葉が喉につかえる。
 何て言ったら…。
「いやー、道に迷ってしまってな。泊めてくれへんか?」
 一歩前に出たハルに一息ついた…助かったと。

「それはそれは、大変でしたね。わかりました。客人を…客人を案内なさい」
 男が手を数度叩くと、数名のメイドが部屋から出て来た。
 どのメイドも覇気…いや生気がない。
「お、なかなかのべっぴんさんやな」
「え…?」
 思いがけない言葉にハルの顔を凝視する。
「おおっと、心配せんでええで!わいはマリンはん一筋やからな!!」
 それが言いたかったのだろうか、一層大きく笑った。

 そんなハルに気を取られていたから、
「あなた様はこちらになります」
 メイドに話しかけられたときは声が飛び出そうになった。

「ち、違う部屋?!…ハルとも…?」
「トモヤはん怖いんか?」
「こ、怖くないけど、マリン、どう…」
 する?と聞きたくて振り向いた。
 既に彼女の姿はなく、メイドの後ろを歩く背中だけが見えた。
 
155群青が染まる 05 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/01(火) 12:54:25 ID:Nx73eYUW

 ……

「それではお食事の準備が出来次第お伺いします。それまでごゆっくり
おくつろぎ下さい」
 メイドが踵を返し、部屋を出て行く。
 それにまた一息ついた。
 中は広く、とても一人部屋とは思えない。
「……」
 せわしくなく部屋の中を歩き回るほどに、落ち着かない。

「怖いんか?」そんな、ハルの言葉が浮かんでくる。
 慌てて頭を振った。
 怖くはない!というと嘘になる。
 それでも、何か腑に落ちない…違和感があった。
 マリンは何か考えがあってここに来たのだろうか?
 森を抜けると言った彼女の表情が今になって頭を過ぎる。
 彼女は何か知っているのだろうか?

 なによりなぜ、マリンはあれほど急いだのだろうか?
 今更ながら屋敷に入ったことへの後悔が湧き上がってきた。

 ここに入ったときから感じる違和感。
 探そう…手がかりさえあればきっと、マリンもハルもわかってくれる。
 そうに違いない!

 部屋を飛び出た…何の当てもなく。
 幸い扉の近くにメイドは居なかった。

 ――
156群青が染まる 05 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/01(火) 12:55:41 ID:Nx73eYUW

 赤い廊下を歩くたびに不快な音が耳に障る。
「…おかしい」
 元来一人で喋る癖はない。
 だが、この時ばかりはそう言わざるをえなかった。
 ここは現ではない。
 それはわかっている。

 我も引き込まれたか?
 いや、その可能性は低い。
 あの人外の行動を考えればそれはわかる。
 何より、己の肉体はここにある。

 それでも、心地の悪さがずっと内でひしめきあっている。
 ここを出るのは簡単だ。
 壊せばいいだけなのだから。
 とはいえ、人間が入ってきた今ではその手段は使いづらい。

 …何を迷っている?

 取れない不快を払うようにまた一歩足を進めた。
「…仲間、か…」
 本当の心地悪さはもっと別のところにあったのではないだろうか?
 苛立ちはもっと別のところにあったのではないだろうか?

 …ただ、せわしなく走る人間を視界に捉えていた。

 ――

 ここはどこだ?
 思うままに選んだ扉…本だらけの部屋。
 …図書室?
 随分埃まみれだな。
 あのメイド達は掃除をしないのだろうか?
 そんな疑問と共に手がかりを探し本を漁る。
157群青が染まる 05 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/01(火) 12:57:18 ID:Nx73eYUW

 カツンと、
 自己を主張するかのような足音。
「っ…」
 …手から滑り落ちる本。
 重力と共に本が舞った。

 息を軽く飲み込み、息を殺した。
 同時に本が床に音を立てて落ちた。
 外を歩く誰かが気づかないように祈る。
 頼む…気づかないでくれ。

 そんな祈りは虚しく届かなかった。
 軋むような音を立てて扉が開く。
 必死に抑えている口から息が漏れる。

 一歩一歩踏みしめるように真っ直ぐ向かって来る足音に、今度は
見つからないように祈った。
 …心臓が痛い。
 叫び出したかった。
「…出てこないのか?」

 声に驚きと共に、息を深く吐いた。
「…マリン…?」
 …足に力が入らない。

 俺は驚かされたのだろうか?
 怒りは浮かばなかった。
 それよりも、彼女がそんな一面持っていることへの驚きのほうが
強かった。
「…どうしてここに来た?」
「…え?あ、いや、つい入ってしまって…」
 まさかここが図書室だなんてわかるわけもないし…。
158群青が染まる 05 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/01(火) 12:58:41 ID:Nx73eYUW

「ならば、すぐに去れ」
「え…?」
「…もう一人を連れてここを出ろ」
 彼女が言っているのはこの屋敷のこと…?
「ど、どうやって?」
 聞きたいことはいくらでもあった。

 質問に答える代わりに、マリンがこちらへ何かを投げた。

「…鍵…?」
 それは鍵だった…赤黒く錆びた鍵。
「エントランスは無理だ」
 そう言うとまた背中を向ける。

 聞きたいことはいくらでもあった…確かにあった。
 だけど、その背中が拒絶しているようで声を出せなかった。

 だから、声の代わりに走った。
 …役に立とうと。
 だけど、気づかなかった。
 ハルの案内された部屋がどこなのか知らないことに。

 …。

 探し回ってやっと見つけたのは、上階を歩くハル…とマリン。
「……」
 メイドに案内される二人。

 …俺は逃げるように背を向けた。

 ――
159群青が染まる 05 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/01(火) 12:59:58 ID:Nx73eYUW

「御一人足りないようですが…」
「全く、トモヤはんは何をしてるねん!ええから、始めましょうや!」
 どうやら、間に合わなかった、か。
 それとも一人で逃げたか…?

 やっと気付いたのか、ここがまともではないと。
 故に保身に走ったか…人間よ。

 あの時の言葉は…きっと、その程度なのだろう。
「わかりました。お連れの方はこちらで責任を持ってお探しします」
 特に大したことではない。
 人間とはそんなものだ。

「おや、フォークが…代わりを、彼女に」
 だが、なんだろうか、これは…。
「マリンはん?」
 小さな棘のような痛みを忘れるように目の前の食事に手をつけた。

 毒を口に入れる。
 喉が焼ける。
 胃が荒れる。
 …痛みでかき消すように。

 ――

「…はっ…はっ…」
 走ってばかりだ。
 足が痛い。
 呼吸が苦しい。
 追いかけてくるのは飾りだと思っていたはずの金属の鎧。
160群青が染まる 05 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/01(火) 13:03:33 ID:Nx73eYUW

 走る。走る。
 何かが呼ぶ声をなぞるかのように。
 背後から響きあう金属の音が足を急がせる。
 ハルは大丈夫…マリンがいるんだから。
 彼女が置いて行こうとしたのは、きっと俺達に気を使ったんだ。

 だから、せめて…。
 探すんだこの鍵を使える場所を。
 それから戻ればいいマリンとハルのところへ。

「ぐっ!!」
 考えに気を取られていた。
 だから気づけなかった段差に…そして行き止まりに。
 転んだ衝撃で、地面に身体を打ちつけた衝撃で痛みが走る。

 すぐに身体を起こす。
 痛みもそのままに身体を起こして、
「……?」
 気付いた。
 …誰も近寄ろうとしないことに。
 段差から先に進めない…?

 まるで見えない壁があるかのように鎧達がうごめいている。
「…どういう、ことだ…?」
 こっち側には部屋が1つだけ。
 まさか…ここが…?

 吸い寄せられるように錆びた鍵を突っ込んだ。

「あれ…」
 鍵が軋む音を立てて止まる。
 仕方なく、鍵を引き抜いて取っ手を回した。
 すんなり扉が開く。
 鍵は必要なかったということか…。
 だとしたらこの鍵は?
161群青が染まる 05 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/01(火) 13:04:52 ID:Nx73eYUW

 使えない鍵をしまい、部屋へと足を踏み入れた。
 捻ったおかげで痛む足を動かして。

 部屋の中にあるのは机と積み重なった本。
 辺り一面に散乱している何かの紙切れ。
 机の上にも何枚もの用紙が散乱していた。


 ○月×日
 出来ない…一向に成功の兆しを見せない。
 何が間違っているかすらわからない。

「…日記?」
 この部屋の主のだろうか?

 △月○×日
 実験の一つで不思議な反応が現れた。

 1枚1枚捲っていく。

 □月○日
 実験は成功した。妻が!息子が!!
 こんな嬉しいことがこの世であるのだろうか!!!
 私は実験を成功させた。
 また家族で過ごせる!!
 ああ、神様…。

「……」
 ここでなにがあった?
 
 □月×○日
 何かがおかしい。あの日から全てが上手くできる。
 まるで、失敗という概念が消えうせたように。
 …それがおかしい。
 私は夢でも見ているのだろうか?

 日付不明
 私はこの世界に終止符を打つ…この薬で。
 全て上手くできるのだから作るのは簡単だった。
 …妻よ、君の下に今息子を連れて行く。

 次を見ようと用紙を捲ろうとした時だった。
「その必要はありません」
 しゃがれた声が聞こえたのは。
 その声に振り向く。

 …そこには老人がいるだけだった。

「…あなたは?」
 老人が悲しそうに笑った。
 不思議と恐怖はなかった。
162 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/01(火) 13:06:12 ID:Nx73eYUW

以上で投稿を終わります。
163名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 20:32:01 ID:oPcLXC3r
規制解除おめ&投下乙ー
病み来るの待ってるze
164 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/01(火) 22:00:02 ID:Nx73eYUW

このまま放置を、とも思ったのですが、
それではあまりにも無責任なので書き込むことにしました。

自身が投稿している「群青が染まる」についてですが、
病みが遅いという住人の皆様には退屈なものであり、さらに、
それを補う腕がないという致命的なことに、皆様の反応で、
実感しました。

よって、誠に勝手ながらこれ以上の投稿は無理だと判断しました。

ないとは思いますが、まとめる時は当作品を省いてお願いします。
また当作品についてですが、完成はしておりますので、より適切な場所が
あれば投稿したいと思っています。
それを見かけたとしても、下手の横好きと思って見逃してください。

最後に
>>163
暖かいお言葉ありがとうございます。

それでは皆様、短い間でしたが、ありがとうございました。
165名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 22:02:59 ID:I+d6og9f
>>162
GJ!!

って待って!!待ってよ!!
166名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 22:05:41 ID:Fc1WPtPz
溜めは長ければ長いほど炸裂したときの破壊力が凄いんだぜ‥?
167名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 22:10:34 ID:4PBA/VGN
いや、俺待てるよ
是非とも諦めず追加投下して欲しい
168名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 22:30:14 ID:n4+bTKCU
もったいない…実にもったいない
169名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 22:42:25 ID:r22n82Al
諦めんなよ・・・・諦めんなお前!
どうしてそこでやめるんだそこで!
もう少し頑張ってみろよ!
170名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 23:41:56 ID:mDVivtTY
>>164
続きを期待しているので、ぜひ続けてほしいです。
171名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 00:17:48 ID:cBdOXhe3
待てぃ!>>163だけども焦る必要ないぜ。
完結してるなら尚更。投下しきらんときもちわりーっしょ
idかわってるかもorz
172名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 00:44:22 ID:zjrUQgd8
>>164
GJ!!

せっかくおもしろい展開になってきたと思ったのに…

続き期待してます。
173名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 01:22:08 ID:6dOxLM23
おいおい…
久々にwktkしてたのによォ…

続き書いてくれ頼む…!
174名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 02:25:35 ID:8Y1gK0kg
【うpろだ】専用スレのないSS その2【代わり】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1240477403/

投下先に迷ってんならこっちとかどうよ
175名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 07:59:23 ID:YUxmaEIb
>>138
GJ
176名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 13:57:17 ID:rRCHGHSS
ま、いいんじゃねーの?
どうせここのやつらはぽけ黒さえあればいいみたいだし
ぽけ黒と比べてスルーっぷりがもうね・・・
そら嫌になるわ
過疎ってんのもそのせいだろ
177名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 15:50:29 ID:ohIDDvRL
投下されたら必ず読まないといけない
読んだら感謝して意見を書き込まないといけない

なんて強要されていないからね
あと、別に誰も読んでいない訳ではないよ
黒ぽけは投下しはじめて長いし、安定感があるからさ
って反応してはいけなかったのか?
178名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 16:32:15 ID:ucQEj4ZK
>>1でも読んで落ち着け
179名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 20:23:23 ID:rdpQsI+8
>>176-177
ネタスレの宿命だな
180名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 21:06:32 ID:UGEAJeuT
>>176
どうでもよかったら引き止めたりしないべ
少なくとも俺は単にスレ来るのが投下からかなり時間経ってただけだし
181名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 21:50:49 ID:lZl0kWlR
ヤンデレから9億円の違法献金を貰った。
政治家辞めろってか分かったよ
182名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 23:20:10 ID:mF+T5XD6
投下します。
183相反する2人:2009/12/02(水) 23:24:06 ID:mF+T5XD6
5月になった。
約束の日か・・・。 さーて、一体何を頼まれるのだろうか。

奈々枝には、メシだけではなく家事も世話になっている。
なんつーかなぁ。 アイツには、頭が上がんないね。
よし、地獄の宿題でもなんでも来い。
おじさんがんばっちゃうよ〜。
と、アホな事を考えていると、奈々枝が部屋にやって来た。

「また、ボーっとしている。 早くご飯食べて学校行こーよ。」
「うぃ。」

奈々枝は、約束のことを一切口にはしなかった。 部活は、何に入る?などや晩ご飯何がいい?など。

もしかして言いにくいのかなと思って登校中に聞いてみた。「あのな・・・。」 「うん?」
その時、曲がり角から声が聞こえてきた。

「これは、試練だ。 不細工に負けてはならぬという試練と俺は受け取った。
えっ、お前もそう思うだろう? 天宮 奈々枝。」
「やかましいわ。」何だか、失礼なことを言われたので右ストレートをお見舞いしてやった。
「痛いじゃないか。ほんのちょっとした挨拶ジャマイカ。」
うるせー。人が結構気にしてることを言いやがって。
「それは、悪かった。悪気があって言ったんだ。許してくれ。」
尚更、ムカつくわ。

184相反する2人:2009/12/02(水) 23:28:44 ID:mF+T5XD6
こいつは、保坂 一(ほさか はじめ) 成績優秀、スポーツ万能、髪が長ければボーイッシュな美人にも見えないことはないぐらい顔は整っている。
「保坂君、 おはよー」
「天宮さん。O・HA・YO!」
言動は、おかしいがルックスがかなりいいから、女子のファンは非常に多い。
非公認のファンクラブが出来ているぐらいだからな。

昼食中に俺ら三人で一緒にいたとき周りの奴らが「うわぁ、あの2人絵になるね。」 「うん、美男美女だね。」

という感じで、噂が噂を呼び、わずか1ヶ月たらすでベストカップルに認定された。

俺が奈々枝と2人でメシを食っていたときは、あの2人がカップル?ありえん(笑)とか言われてたのに。

やっぱり、人間は顔ですか。そうですか。
まぁ、保坂はバカだけどいい奴だしな。
俺から見ても2人はお似合いだし、良いんじゃないかなとは思っている。
俺は、奈々枝とは釣り合わないしね。
そして、俺は2人の邪魔にならように距離をとって歩く。

人の恋を邪魔して馬に蹴られる予定は、俺の人生スケジュール表には入っていないんでね。

少し、2人から距離を取りつつ、部活何に入ろうかなぁと考えながら歩いた。
奈々枝が、おれの方を見ていたような気がするが、俺の自意識過剰だろう。
185名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 23:34:28 ID:mF+T5XD6
あっ、4話と入れるのを忘れちゃいました。
すいません。

後、誤字脱字が多いのは、自分がゆとりだからです。申し訳ない。
186名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 06:23:17 ID:NGp15q0E
>>185
続きをとっとと投下したまえ
187名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 07:28:31 ID:eDMoqven
すいません。

投下終わります
188名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 07:30:06 ID:NGp15q0E
         ナ ゝ   ナ ゝ /    十_"    ー;=‐         |! |!
          cト    cト /^、_ノ  | 、.__ つ  (.__    ̄ ̄ ̄ ̄   ・ ・
ミミ:::;,!      u       `゙"~´   ヾ彡::l/VvVw、 ,yvヾNヽ  ゞヾ  ,. ,. ,. 、、ヾゝヽr=ヾ
ミ::::;/   ゙̄`ー-.、     u  ;,,;   j   ヾk'! ' l / 'レ ^ヽヘ\   ,r゙ゞ゙-"、ノ / l! !ヽ 、、 |
ミ/    J   ゙`ー、   " ;, ;;; ,;; ゙  u ヾi    ,,./ , ,、ヾヾ   | '-- 、..,,ヽ  j  ! | Nヾ|
'"       _,,.. -─ゝ.、   ;, " ;;   _,,..._ゞイ__//〃 i.! ilヾゞヽ  | 、  .r. ヾ-、;;ノ,.:-一'"i
  j    /   ,.- 、  ヾヽ、 ;; ;; _,-<  //_,,\' "' !| :l ゙i !_,,ヽ.l `ー─--  エィ' (. 7 /
      :    ' ・丿   ̄≠Ξイ´,-、 ヽ /イ´ r. `ー-'メ ,.-´、  i     u  ヾ``ー' イ
       \_    _,,......::   ´゙i、 `¨ / i ヽ.__,,... '  u ゙l´.i・j.冫,イ゙l  / ``-、..- ノ :u l
   u      ̄ ̄  彡"   、ヾ ̄``ミ::.l  u   j  i、`ー' .i / /、._    `'y   /
              u      `ヽ  ゙:l   ,.::- 、,, ,. ノ ゙ u ! /_   ̄ ー/ u /
           _,,..,,_    ,.ィ、  /   |  /__   ``- 、_    l l  ``ーt、_ /  /
  ゙   u  ,./´ "  ``- 、_J r'´  u 丿 .l,... `ー一''/   ノ  ト 、,,_____ ゙/ /
        ./__        ー7    /、 l   '゙ ヽ/  ,. '"  \`ー--- ",.::く、
       /;;;''"  ̄ ̄ ───/  ゙  ,::'  \ヾニ==='"/ `- 、   ゙ー┬ '´ / \..,,__
、      .i:⌒`─-、_,....    l   /     `ー┬一'      ヽ    :l  /  , ' `ソヽ
ヾヽ     l      `  `ヽ、 l  ./  ヽ      l         )  ,; /   ,'    '^i
189名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 14:31:58 ID:yD8lSZog
短いお。もっと読みたいお
190名探偵物語 3:2009/12/03(木) 18:37:59 ID:a+l4zIei
投下します。狂犬注意!
つーか竜の人正直また書いて欲しい。
191名探偵物語 3:2009/12/03(木) 18:39:23 ID:a+l4zIei
「本格的な治療が必要になる。」
雨の降る昼過ぎ、明智はひとり馴染みの医者の所に来ていた。
頭にだいぶ白い物の混ざった初老の男は、明智の様子をしばらく眺めた後
溜息をつきながら、手元のカルテをポンと診療台に無造作に投げる。
「…そんなに悪いのか?和杜尊(わとそん)先生。」
ああ。明智から視線をそらし、和杜尊医師はそっけなく答えた。
「お前さんのとこにいるお嬢さんは、多分単純なパニック障害だけじゃない。
パニック障害の発症とともに、ストレス性障害などが併発している恐れがある。
私が診てきた患者の中でも相当重症だよこりゃ。」
明智は何も答えられない。ただ黙って目の前の医師の話を待つしかない
自分に苛立ちながらも、明智は医師の次の言葉を待った。
「入院だね、こりゃ。」


「明智せんせ?」
いましがた和杜尊医師と話していた部屋と廊下を隔てたところにある部屋、
そこで小林は小さな子供たちと戯れていた。
入室した明智の所に、侵入者に気がついた小さな怪獣たちが襲いかかってくる。
「がおー!ぼくはウルトラマンだぞー!」
「きしゃー!ぼくもウルトラマンだぞー!
「フォッフォッフォッフォッ!ぼくらはウルトラマンだぞー!」
そしてその中で
「あけちせんせ…?」
今までにない明智の目線に動揺したのか、小林は遊びの手を止め
明智の前に頭を垂れていた。
「あああああ!僕らの小林ね〜ちゃんを泣かせたぞこの卑劣漢!」
「小林ね〜ちゃんが何をしたっていうんだ!この幼女趣味!」
「最低ね。しょせん男なんてみんなこうなんだわ。」
俺がいったい何をしたというのか?初対面の、それも年端もいかぬ少年少女達に
年齢にふさわしからぬ言葉のナイフで切りつけられた明智がそう思うのも
至極当然の結果だろう。
しかし…明智は素直に小林の隠された能力に感心していた。
ここは、国と民間が共同で運営している医療第三セクター。さまざまな
心に障害を持った患者を集め、治療と研究を両立させる専門機関…
それがここ『みんなの里』。
当然、今明智の目の前で騒いでいる子供たちも何らかの心に障害を持って
いるはずなのだ。その輪に小林は見事に溶け込み遊んでいる。
小林にはきっと何か鋭い感受性みたいなものが存在するのだろう。
言われたくないこと、一人にしてほしい時、誰かに黙って話を聞いてもらいたいとき。
彼女はそういった子供たちの心の声を敏感に察知して、適度なコミュニケーションを図る。
ふと、そこまで思考を働かせた明智は自分自身に問いただしてみる。
今小林を入院させるのは本当に正解だろうか?国の管理があるとはいえ、完全な
病院ではない『みんなの里』は強制入院措置が取られることはなく、基本
本人と家族の希望により行われる。
小林にこの話を持ちかけても、たぶん小林は明智に従うだろう。
それが本人の意思でないとしても。
正直な話、明智としては入院する方が良いと思っている。小林にストレス障害の
症状が現れ始めた以上、彼女は日常に何かフラストレーションを抱いていることは明白だ。
しかし、医者にも明智にもその理由が特定できずにいる。
ならば環境を少しでも変えられるなら、それで彼女が少しでも楽になるのなら…。
目の前にいる壊れそうな涙目の少女を前に、明智は少し切ない想いを感じている自分に
つい自嘲的な笑みを浮かべた。
192名探偵物語 3:2009/12/03(木) 18:40:37 ID:a+l4zIei
「入院…ですか?」
面談室を開けてもらい、明智は小林に打ち上げた。
「私は…。」
小林は表情を暗くしながらも、無理に笑顔を作ろうとする。
明智にはそれが痛々しく、辛い。
「私は…明智先生に従います。」
しばらくの沈黙の後、小林が選択した道はやはりそれだった。最初から決まっていたのだ。

事務所を滅茶苦茶にした後、小林は学校を休まなくなった。明智の言うことを
きちんと守るようになっていた。ただし、それは病的ともとれるくらいに。
放課後、真っ先に事務所にやってきて明智の下で仕事。以前はあれほど嫌がり、
真夜中を過ぎることもあった帰宅も八時前には帰るようになった。
変わったのは小林の生活だけではない。明智に対する態度も変わった。
年頃の少女らしい反発や今までのキャラクターはなりを潜め、もはや主従関係
ともとれるようなそれになりつつあったのだ。
「はい、明智先生。」
いつの間にか、それが彼女の口癖になっていた。
そんな彼女に明智も危機感を抱いている。明智が望んだのはこんな現状ではないのだ。
とはいえそれを注意してまたパニック障害で事務所を破壊されるにもいかず、
明智のとった策が今日の通院となったのだ。

「小林。これは結論を急ぐ話じゃない。過去の例でも自宅療法で症状が
改善したケースは少なからずあるんだ。」
明智は言葉を発するとともに、心にもないことを平然と口にする自分に
途方もない怒りを感じた。
小林が自分に逆らえないのは明白なのに、なぜあたかも選択肢があるかのような
発言を自分は言えるのか?自分は卑怯者だ…。
「せんせ。」
小林が口を開く。
「大丈夫ですよ。私は…小林は自分の意思で入院します。
だから私に気を使わないでください。私の為に苦しまないでください。
私は明智先生の助手。先生の為に存在する助手の小林ですから。」
そうだった。明智は目の前の少女を見て、彼女には相手の心を感じとれる
洞察眼があったことを改めて思い出した。
今の発言は、入院させたい明智の心情を察していたわったものなのだろう。
「先生は何も自分を責めることはありません。小林が自分で決めたことなのです。」
大きく息をついて、明智は小林をもう一度…それこそ今までにないくらい
まじまじと見つめた。
小林 兎凪…彼女は、俺にとってはあまりにも過ぎた助手なのかもしれない。

「もういいかね?そろそろ時間なのだが…。」
和杜尊医師が面談室のドアから顔を出し、明智達に声をかけた。
少しいらだっているような、何かそわそわしているような気がするが
それは明智の思い過ごしなのだろうか?
「ありがとう、和杜尊先生。それと…ウチの小林をしばらくお願いしてもいいですか?」
「ああ、喜んで。」
和杜尊医師は満面の笑みを浮かべて明智の要望に応じた。
「じゃあ、手続きを進めよう。おい君!」
呼び止められたナースに連れられ、明智達は面談室をあとにした。
193名探偵物語 3:2009/12/03(木) 18:42:22 ID:a+l4zIei
只でさえ外気は冷え込んでいるというのに、いつの間にか雨は本降りになっていた。
日も落ちた病院の門の隣のバス停に、ふたつの影がぽつりと浮かんでいる。
「小林。十日間で退院予定だからな。あせらず、ゆっくりと、お前らしく
あればいい。」
背の高い人影が、もう片方の人影の肩に手をのせる。もう片方の影は
うれしそうに乗せられた手を取ると、少し自分の頬にすりよせた。
「明智先生…私、また探偵事務所に戻ってきてもいいんですよね?
私の居場所…とっておいてくれますか…?」
二人の人影が眩しいバスライトで明らかになる。明智の表情に笑みが浮かんでいた。
「約束するよ。小林、お前は明智探偵事務所のたった一人の助手だ。」
ようやく、小林の顔にこの日初めての真実の笑みが浮かんだ。


薄暗い面談室の窓からは、外の風景が一望できた。
二人の人影の内一つがバスに乗り込み遠ざかっていくのを見て、それを眺める
和杜尊医師の顔には安堵と苛立ち、そして寂しそうな表情が浮かんでいる。
これは一体どういうことなのだろうか?
その問いに答えるかのように、和杜尊医師は白衣のポケットから鍵を取り出し
面談室の奥にある扉…『立ち入り禁止』の張り紙がしてある…の鍵穴にはめて
カチャリとドアを開けた。
ズルリ…ドアの開閉とほぼ同時に、何やら重量感のあるものがゆっくりと倒れこんできて
そのまま地面に崩れ落ちる。
白衣と白髪、初老といった表現に適合する地面に倒れこんでいるその物体…男は
まぎれもなく和杜尊医師その人だった。

「フ…フフフフフ。これで明智君の家から妙な小汚い猫を抓み出せたってわけだ。」
ああ、この光景をどう表現したらよいものだろうか?横たわる医師の傍らで
佇む和杜尊医師が不意に自分の顔に手を当てたかと思うと…なんと
自らの面の皮を思いっきり引きはがしたのだ。
ふわりと舞い上がる役目を終えた仮面が地に落ちる。
そこに立っていたのは、初老でもなければ男ですらない。
怪人二十面相…金田一 二十が氷の微笑を携え存在していたのだ。
「和杜尊…申し訳ないが、偽の診断であの小娘を明智君から隔離するためにあなたを
使わせてもらったよ。ああ、薬のせいで昨日から…そしてあと半日は寝ているのか。
本来なら口封じのためどこかに監禁でもしておくのがいいが…まあ、やめておこう。
あなたには兄さんも…家家(ほーむず)兄さんも世話になっていたからな。」
着替えるために二十面相は白衣とともに衣装を脱ぎ棄てて一糸まとわぬ姿になる。
抜群のプロポーション。なめらかなその素肌は、絹といってもいいくらいにきめ細かく
限られた光源の中でも輝いているそれは今や魔性の物とでも言わんばかりに
妖しく異性だろうが同性だろうが誘い込もうとしていた。
「君がいけないんだよ。」
生まれたままの姿の二十面相は、虚空に向かってぼんやりと呟く。
「君が兄さんの事件で淋しがっていた僕にあんなに親切にしなければ…
月一で僕のことを気遣って訪問してこなければ…
本気で僕に恋させなければ…
僕は君に手出しをしなかった。」
ぼんやりしていた眼に急にはっきりと、そして妖しい輝きを帯び始めた。
「さあ名探偵明智 乱歩君!
いよいよ二十一世紀最大にして最高の怪人、この二十面相との勝負だ!
そして二十面相最後にして最大の戦いの獲物は…明智君、君自身だ!
さあ、僕を食い止められるものなら食い止めてみたまえ!
たとえ君が如何なる策をめぐらそうとも!いかに助手風情を気にかけようとも!
最後に笑うのはこの僕だ!
フフフフフ…アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
妙な叫び声を聞きつけたナース達がその直後面談室に踏み込むと、
そこには眠り続ける和杜尊医師がいるだけだった…。
194名探偵物語 3:2009/12/03(木) 18:47:34 ID:a+l4zIei
事務所は暗く、当然のことながら誰もいない。
一人でいる事務所はやけに広いな。帰った明智はそう思った。
今日一日の出来事を振り返り、少し明智は考えてみる。
今日の明智の小林への対応は明らかに雇用者と助手のそれではない。
知らず知らずのうちに明智は小林を肉親同様にみなしていたのだ。
「まったく…小林に汚染されてきたのか?」
だけど不思議と悪い気持はしない。願わくば小林が元に戻り
またいつものような他愛ない毎日が過ごしたい。
あれほど忌み嫌っていた小林のキャラが、今では宝物のように思えてくる。
「まあ、和杜尊先生に任せれば大丈夫だろ。」
ふと風が吹く。
そのこの世のものとは思えないほどの寒さに身震いした明智は
はてと首をかしげることとなった。
窓もドアも完全に閉じられているこの状態で、いったい風など吹くのだろうか?
後ろのドアを振り返り…たぶんこれが明智の生涯で最も肝を冷やした状態だろう。
流れるような金髪、ブルーの目はサファイアの透明度。
窓からの街灯ぐらいしか灯りのない中ではっきりと見えるその全容。
青白く光り、宙に静止しているその姿は西洋人形にそっくりだった。
幽霊だー!
「聞く。ここは探偵事務所に相違ないか?」
姿を現すだけでは飽き足らず、こともあろうに幽霊は明智に話しかけてきた。
あまりことにさすがの明智も口をパクパクさせるだけしかできない。
「そこの者、無礼であるぞ。」
女の幽霊の後ろに、今度は小柄な男の霊が現れた。
「お嬢様の問いかけに無言を通すとは身の程知らずめ。この方は大英帝国の頃よりの
名門ゴッドドッグ家ゆかりの由緒あるお方ノノーミア様であるぞ。」
「よい、サルゾー。下がっておれ。」
女は男を数歩引かせて侍らせる。どうやら主従関係が完全になりたっているようだ。
しかし、この頃には明智にも若干の心の余裕ができている。
二三度深呼吸をして明智は女の幽霊に向き合った。
「仮にここが探偵事務所だとして…何の用だ?ノックもせずに。」
「仕事を依頼したいのじゃ。もの探しくらい探偵なればできるのであろう?」
ずいぶんと高圧的な態度をとる幽霊は、明智の不服そうな顔を見て少し口元を上げた。
「まあ、名ぐらいは聞かせてやろう。わらわはノノーミア・セイシ・タマヨ。
生前名門ゴッドドッグ家の財宝の鍵の番人としてここに控えるサルゾーとともに
勤めを果たしておった。」
「で?そんな偉い方がなぜここに?」
明智の口調のぞんざいさを咎めようとするサルゾーを制し、タマヨは言った。
「ゴッドドッグ家に伝わる三種の神器の内二つが消えた。探し出せ。」
195名探偵物語 3:2009/12/03(木) 18:49:36 ID:a+l4zIei

「ゴッドドッグ家に伝わる神器…『犬神剣(いぬがみけん)』『佐清面(すけきよめん)』
『水之逆足(みずのさかあし)』。いずれも国宝級の代物だ。」
タマヨは明智をまっすぐ見据え、言葉を紡いでいく。
「けれど少し前、遺産をめぐってお家騒動がおきたのじゃ。日本から来た家家(ほーむず)
という探偵の機転で、三種の神器を日本の博物館に騒動終焉まで一時保護してもらう手筈が整っていたのだが…
その探偵本人がゴッドドッグ家三姉妹の長女モリアーティ様に
よってスイスの某滝で無理心中させられてしまったのじゃ。」
男女の仲は理屈抜きなのか…?
かつてちょっとだけ事件に関わった明智は少しため息をついた。
「そして、手違いが重なり日本に運ばれた『佐清面』『水之逆足』が行方不明に
なってしまったのじゃ。わらわたちもお家騒動の火の粉が降りかかっての…
何者かの手にかかり、死した今こうして現世にとどまっているのじゃ。」
「…誰が殺したのかも分からないのか?」
「そのようなことは問題ではない。」
タマヨはきっぱりと打ち消した。
「生死も番人の運命のうちじゃ。今大事なことは二つの神器を見つけ出すこと。
あの神器にはとんでもない力が秘められているからのう…。」
「…とんでもない力?」
明智はいよいよ胡散臭くなってきたぞと心の中で舌打ちする。
かつての小林に付き合わされていなくては、こんな電波な話二分ともつまい。
「『佐清面』はなりたい人間の顔を完全に模倣する面。『水之逆足』は
音色を聴かせたものの自由を奪うハープ。どちらもこの辺りにいる
家家の親族あてに最初に送られたはずなのだが…。」
明智の脳内検索に該当者が一名。
「とにかく、悪用すれば危険な物じゃ。お主はそれを探し出せばよい。
下々の者ならわらわの靴を舐めても欲しがるほどの礼はしようぞ。」
「嫌だ。」
明智はきっぱりと断った。
同じ電波でも、小林のものとは比べ物にならないくらいの悪質性を感じる。
この話が事実にせよ冗談にせよ、かかわればろくなことにならないだろう。
「わらわの申し出を断るのなら…お主のその貧相な○○○に×××をたっぷりと
塗りたくり、あまつさえそれを△△△した■■■で☆☆☆するぞ?」
選択権は完全に失われた。
明智は選択権のない自分の状況に絶望しながらも、別のことも考えていた。
選択肢のない人生はこうもつらいものか。そしてその中で小林は今日俺に
気を使ってくれていたのか。
退院したら、どこか旅行にでも連れて行ってやろう。伊豆辺りがいいかな?
196名探偵物語 3:2009/12/03(木) 18:51:58 ID:a+l4zIei

「…分かった。引き受けよう。だから帰ってくれ。」
明智はどんよりと曇りがかかった顔で承諾した。
「うむ。サルゾー。本国へと帰り、家を見張るのじゃ。」
「御意。」
サルゾーの姿がさっと消える。
「…いや、お前も帰るんだよお嬢様。何で平然とここに居座っているんだ。」
「お主が仕事をさぼらぬか、わらわがこれから見張っておこうと思ってな。」
「ここに居座る気か冗談じゃない!幽霊と同居なんて言うのは
手塚治虫の時代から延々と繰り返されているマンネリ化の激しいネタだぞ!
この物語をこれ以上壊すな!」
「愚か者。厳しい批判と繰り返しあってこそ人は向上するものじゃ。」
「それこれからの物語を三流幽霊電波一色で染め抜くという意味なのか!?」
「ええい!煩わしいやつじゃのう!ならば、幽霊でなければよいのじゃろう!?」
タマヨは衣服のをはだけ、その胸元から少し短めの剣を取り出した。
「わらわが預かる神器のひとつ『犬神剣』。その効果は…。」
犬神剣から閃光が走り、明智の視界が完全に白く染まる。
だんだん視力が戻ってきた明智の眼に映ったものは…白い犬だった。
犬については素人程度の知識しか持たない明智だが…たぶんゴールデン・レトリバーだ。
真っ白な体毛はイギリス種でしか見られない。ふかふかした体毛と垂れ下がった耳、
アーモンド形の目がきょろきょろ動いている。
…まさか?
「なあ、犬。お前まさかとは思うが…さっきのタマヨって奴じゃないよな…?」
「…わん!」
そう。神器犬神剣は持ち主を犬に変えることができる剣。
持ち主が幽霊だろうが魑魅魍魎だろうが関係ないのだ。
「…普通の生活に戻りたい。」
明智は力なく倒れこむと…。
「小林!頼むから早く帰ってきてくれぇ!」
小林が帰るまで、あと十日…。
197名探偵物語 3:2009/12/03(木) 18:55:43 ID:a+l4zIei
以上です。正直探偵といったらこれぐらいしか思いつかず…。
そもそも、世界的探偵って他にいましたっけ?
とりあえず、読んでくれた方サンキューです。
198名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 19:12:51 ID:3b66oCnq
>>197 GJです!
新キャラ幽霊犬に期待。
199名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 19:13:38 ID:WXbXTZ6M
>>197
リアルタイムGJです!
200名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 19:43:37 ID:EFN5ZGhu
ポアロは?

悪い奴だなあ二十面相、悪い奴だ
201名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 20:05:27 ID:NGp15q0E
乙りんこ
202名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 21:46:05 ID:pJUCYm9l
>>185

GJだすよ
続き待ってます
203名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 23:00:21 ID:qyERvxBr
>>7>>25の作品の続きが非常に気になるのだが・・・
もう作者さん投稿止めちゃった?
ぜひとも続きを
204名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 23:21:36 ID:Ro8LSbl0
>>138 GJ
香草さんが負けたなんて
205名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 23:56:24 ID:JvKr4Txi
206名無しさん@ピンキー:2009/12/04(金) 12:42:35 ID:KiGz4rfw
         _.,., --''." ̄゛゛゛- 、
       , -'´           ゙ー- 、
   ,,//// /,//        ゙ヽ
  ,イ ///// /ソソ// ィ/ ゙|,,,,..,、  ノ゙、
 イノ从/,/ / イ//リ// //゛゛゛'ヾ.,lii トヽy'从゙、
 !ハ从! l! i! i! il i li il! / リ     l l 从ヾil lk i
  iハi l! il! lilハl>k从 イ, _,,..ィチ 从i li il! ll!リ
     ゙ミ il!从(( ::: )ハl <( ::: ) Yイ l / i! il リ
    ,,,彡爪ハ ミ -'" _____  `"-イノ /リ////リ
  ////从从ミ  [  ̄カ  彡ノノ/イ///
./////////ハ从ヽ、`ー-'_,,彡彳/リ///リ
: ' //イ iハリ´リ   ___゛77' "/////ソリ
  lリ lソリ   _∠派、  / ///ィ"/从
 ハノ リ   ,/  ヽトミ、__lミイ // /ソ< ̄ト,  
      /_____ l,ゝ<゛<イノハノ リ  ゛i l l.    「嘘だッ!!!」」 
     /,.==、>" ゝ /" /-- 、   ノ/ l   
     k"ァ-y".:  /l /ァ==ミヽ / /  l  
     lイ 〔ミ::" ,,ノ |(/⌒ヾ、ミV" ト-"
     |  ヾミ彡"//    ! /  !


207名無しさん@ピンキー:2009/12/04(金) 18:05:07 ID:vLeLed7f
>>203
釣りかどうか知らんが>>43見れ。第一部終了で未完放置中だがな。誤字脱字マジパネェよ

つかなんの説明もないまま投下されたそんなもんを投下してほしいってのはいかがなものかと思うんだぜ
タイトル名も投下前後の予告も無しで別サイトからの転載理由も無しでマナーの欠片もないだろ

結論・書き手本人だろうとなりすましだろうと愉快犯だろうと礼儀を覚えてから一昨日きやがれ
208名無しさん@ピンキー:2009/12/04(金) 18:06:22 ID:pafQs6rN
騒ぐなよ。
209名無しさん@ピンキー:2009/12/04(金) 19:51:42 ID:5OhTdrKO
>>207
言いたいことはわかるんだが、結論のところだけ一言余分
荒れる原因にしかならん
210名無しさん@ピンキー:2009/12/04(金) 22:34:01 ID:uRkx0JF4
モテる
211名無しさん@ピンキー:2009/12/04(金) 23:27:29 ID:s8WqyboZ
>>197
バーローの単行本巻末を読みまくるんだ

しかし明智先生は普通に格好良いなw
前回のなんじゃこりゃーっはシリアスな場面なのに笑っちゃったけどw
212名無しさん@ピンキー:2009/12/05(土) 22:57:34 ID:nHIwepvq
泥b…三毛猫ホームズとかはどうかね。
まあ、猫なんで飼い主の片山君が推理するわけなんだが…
明智先生…変なのに好かれるなあ…
213名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 00:19:31 ID:4OXh4Lu3
誕生日プレゼントにお手製の人形を貰ったんですが、明らかに人形の髪が人の毛でしたよ……
214名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 00:32:19 ID:zV7OALOy
古い製法を真似たんだな
きっとニカワから自作されたんだろう
215名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 00:37:23 ID:4OXh4Lu3
ニカワだけにニワカに非ず、ですか
216名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 00:59:48 ID:pW7T6oi4
ミステリーなら・・・
・怪しげな古書店を経営
・飄々としているようで実は根に持つタイプ
なヤンデレ京極堂(無論♀)
217名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 22:40:50 ID:NNuG5DoC
香草さんが負けた・・・だと・・・
218名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 23:31:41 ID:Wb8VyI0/
>>212
そういえば片山は主人公体質だよなw
219 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/12/07(月) 02:09:34 ID:RT3H1gnW
ぽけもん黒 19話 投下します
220ぽけもん 黒  19話 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/12/07(月) 02:10:45 ID:RT3H1gnW
 その後、意識の無い香草さんと、歩くことの出来ないポポをやどりさんに手伝ってもらって、練習場内の医務室に運んだ。
 ポポの足は粉砕骨折、香草さんは内臓損傷という重症だった。
 医療が発達していても、重度の骨折ともなるとさすがに一日は絶対安静、三日はバトルを禁じられた。今日は集中療養室で一人でお泊りだ。
 面会禁止でよかった。もし面会が可能だったりしたら、ポポはごねて僕についてこようとするか僕を帰れないようにしたに違いない。
 治療時間としては香草さんのほうが短く、香草さんは数時間で意識を取り戻した。
 こちらは今日一日は安静を推奨されたが、特に行動の制限は無い。
 状況が理解できなかったのだろうか、香草さんは目を覚ますなり暴れだした。
 僕とやどりさんと看護師さんの三人がかりで抑え、香草さんの両手両足を拘束具で固定し、ベッドに据えた。
 両手両足の拘束を解こうともがいていたが、しばらくするとおとなしくなった。
 蔦も葉も出さなかったことから考えるに、ただパニックになっていただけで、本気で拘束具を引きちぎろうとしていたわけではないらしい。
 固定された香草さんは、青ざめた顔をして震えている。この震えは、寒さによるものではなさそうだ。
「私が負けたなんて……そんな……そんな……」
 そんな感じのことを、うわごとのようにブツブツと呟いている。
 彼女のプライドの高さからいったら無理も無い。
 おそらく、同年代との戦いでは今まで負けたことなど無かったに違いない。
 それなのに、二対一とはいえ、場外などのルール上の問題じゃなくて、文句なしの敗北を喫してしまったのだ、彼女のショックは計り知れない。
 逆鱗に触れる結果になりかねないとも思ったが、僕は彼女に慰めの言葉をかける。
「げ、元気出してよ香草さん。香草さんもすごかったよ!」
 突如、拘束された香草さんの手がピクリと動いた。手を伸ばそうとしたようだけど、拘束のせいで持ち上がらなかった。
 びっくりした。てっきり首でも絞められるかと思った。
「……ぁ」
 香草さんの口から、呻き声のような、涙声のようなものが零れ落ちる。
「ごーるどぉ」
 名前を呼ばれた。
 いつもの香草さんからは想像もつかない、不安げな、か弱い声で。
 胸が締め付けられるのを感じる。物理的にじゃなく。
 何だろう、香草さんがとても可愛く見える。
 こ、これがギャップ萌えというやつか!
 ……って僕は何を考えているんだ!
「な、何?」
「お願い……お願いします。もう二度と負けたりしないから……」
 呆気に取られて言葉も出ない。一体何の話だ?
「見捨てないでぇ。いなくならないでぇ。ごーるど、ごーるどぉ」
 子猫の鳴き声のような、か細く、聞くものに庇護欲を喚起させる声。
「な、何を言ってるのさ。そもそも、負けたら契約解除だなんて一言も言ってないじゃないか」
「いや、いやぁ。ごーるどぉ」
 彼女はついに泣き出してしまった。
 まともな会話にならない。
 彼女の拘束された手は、何かを掴もうとするように、必死に伸ばされていた。
 白く、細く、怪力を発揮するとはとても思えない繊細で綺麗な手を。
 僕が掴むことはなかった。
221ぽけもん 黒  19話 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/12/07(月) 02:11:46 ID:RT3H1gnW
「……ごーるど?」
 不意に彼女の瞳孔がすっと細くなるのが見えた。
 同時に、彼女の両の袖から、数十の、ボロボロの蔦が這い出し、鎌首をもたげる。
 それはやどりさんが念力で押さえつけるよりも早く、僕の手首に伸びた。
「いや、いや。行かないで。行かないでよぉ」
 駄々をこねる子供のように僕に呼びかける。
 僕の手を掴む蔦が、僕の手首をギチギチと絞めた。
 やどりさんの念力によって、蔦を含む彼女の全身が下方向に強く押し付けられる。
 しかし、僕の手首に巻きつけられた、一本の蔦だけはそれに抗っていた。
「ごーるど、ごーるど、ごぉるど、ごぉるどぉ」
 最初は甘く、徐々に激しく、彼女は僕の名を呼び続ける。
 蔦は、もはや万力のような力で僕の手首をギリギリと締め付けていた。
 あ、あ、あ。
「う、うわああああああああああ」
 病室中に、僕の悲鳴が溢れかえる。
 怖かった。腕の痛みよりなりより、香草さんが、まるで。
 ――まるで……
 看護師が慌てて駆け寄り、香草さんの細い、白い腕を剥き出して、何かを注射した。
 すうっと、まるで水が引いていくように、滑らかに、急激に僕の手首を掴む力は引いていった。
「いや、こんな、ごぉるど、私、わたし……」
 彼女の言葉からも急激に力が抜けていく。
 下がる瞼を必死に止めながら、彼女は何か言葉を作ろうと口をモゴモゴと動かしていたが、それも長くはもたず、すぐに沈黙した。
 僕は病室の白い床に尻餅をついた。
 彼女の蔦につかまれていた手首には、真っ赤な蚯蚓腫れが浮かび上がっていた。
 そのとき初めて、僕は自分が全力疾走をした後のような荒い呼吸をしていることに気づいた。


「……ごめんね、おかしなことに巻き込んじゃって」
「……いい」
 練習場からポケモンセンターに戻る帰り道。
 さすが都会というだけあって、夜も更けつつあるこの時間でも街頭やネオン、建造物からの光で街は明るく、人々によって騒がしい。
 賑やかな街と対照的に、僕はとてもいたたまれない気持ちに包まれていた。
 一体何が香草さんをあのようになるまで追い詰めるのだろうか。
 先ほどのことが思い出されて、少し震えた。
 やどりさんからすればいい災難だろうな。
 自分に落ち度があるわけでもないのに、こんなよく分からないことに巻き込まれて。
 旅をしてきた僕ですらよく分かっていないんだ、今日会ったばかりのやどりさんなんてさっぱりだろう。
「今日はもう遅いし、とりあえずポケモンセンターに戻ろうか。きっと、ポケモンセンターでもそのくらいの融通は利くよ」
 陰鬱な気持ちを吹き飛ばすように、努めて明るく言った。
 きっと今回の騒動をみて、やどりさんはパートナーになってくれる気なんてなくしたはずだ。
 だからポケモンセンター本来の目的からすれば、パートナーでもなく、パートナーになることも無いやどりさんが宿泊するのは無理なんだろうけど、一日くらいなんとかなる……はずだ。
 やどりさんは黙って僕を見つめている。どうしたのだろうか。やっぱり、僕と同室なんて嫌なのだろうか。
 となると、他に宿をとってあげるしかないか。幸いにもここは都会、宿探しには困らないだろう。バトルで一度も負けてないから資金も一応はある。……ホントは店めぐりをして道具を買い込みたかったんだけども。
「どうしたの?」
「私……と……あなた……は……パート……ナー。だから……ポケモンセンター……に……泊まるのは……当然」
 彼女は相変わらずの無表情でそう答える。僕は一瞬呆気に取られた。
「え、いいの?」
「どう……して? ……ダメ……なの?」
「そ、そんなこと無いよ! ただ、今日の騒動で、僕とパートナーになるのが嫌になっちゃったんじゃないかって思って」
「そんなこと……ない」
「そうなんだ! それならよかった」

 部屋に戻り、手早く寝支度を終えた僕はベッドに潜る。
 やどりさんが照明を消したのだろう、すぐに部屋は暗闇に包まれた。
 人の動く気配がする。やどりさんがベッドに向かう気配だ。
 そう思っていたのに、その気配は僕のほうに近付き、僕の寝ているベッドの前で止まった。
222ぽけもん 黒  19話 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/12/07(月) 02:12:11 ID:RT3H1gnW
「どうしたのやどりさん」
 僕がそう聞くと、彼女は無言でもそもそと僕のベッドにもぐりこもうとする。
「や、やどりさん、何やってるの?」
「何……って……寝ようと……」
「な、何で僕のベッドで寝ようとしてるのさ!」
「何で……って……」
 外の明かりに照らされて、彼女の表情が見えた。
 いつものどこか間の抜けた表情だけど、今の彼女の感情ははっきり分かる。彼女は明らかに不思議そうな顔をしていた。
「私……と……あなた……は……パート……ナー。だから……一緒……に……寝るのは……当然……」
「当然じゃないよ!」
 思わず声が大きくなる。一体彼女はどういう思考回路をしてるんだ。
 いや、もしかしてそれは当然のことなのかな。ポポだっていつも僕と一緒に寝たがるし……って違う! 当然なんかじゃない!
 何だろうこれは。やどりさんの催眠術にでもかかってるんだろうか。
 僕は邪念を振り払うためにやどりさんに背を向け、壁のほうを向く。
 しかし、壁のほうを向くと今度は途端に香草さんの姿が白い壁に描かきだされる。
 彼女のあの様子、とても正気には見えなかった。
 彼女の自信、プライド。
 そういったものが打ち砕かれた衝撃は僕が思うよりもはるかに大きかったようだ。
 これから、彼女は一体どうなってしまうんだろう。
 そして、彼女に対して僕は一体どうしたらいいのだろう。
 次第に、思考は袋小路へと陥っていく。
 そのまま、いつのまにか僕は眠りに落ちていた。


「……いい……の?」
「うん。約束だしね」
 翌日。僕とやどりさんは役所にいた。
 もちろん、やどりさんと正式に契約を結ぶためだ。
 本当は香草さんに確認を取ってからにしたかった。
 練習場の医務室を訪れたのだが、彼女は未だ深い眠りの中だった。
 酷い怪我をした上に、精神も酷く磨耗したのだから当然といえば当然なのだけど。
 今回、香草さんが受けたショックの大きさを再認識させられる。
 ちなみにポポは骨折が思った以上に酷かったようで、相変わらず面会謝絶だった。といっても、治療は伸びても半日程度だそうだ。科学の進歩ってすげー。
 正直、やどりさんと契約を結ぶのもどこか後ろめたい。
 トレーナーと契約を結ぶパートナー、双方の同意があるのだから何も問題は無い。
 とはいえ、あれほど強情に自分以外のパートナーを認めなかった香草さんを無視する形になってしまうのには、抵抗を覚えてしまう。
 それに……僕が今新たに契約を結ぶということは、新たに契約を結ぶ相手を騙すことと同じだ。
 やどりさんの問いかけに努めて明るい口調で答えたのも、そういった自分の負の感情を誤魔化したかったからだ。
 卑怯者。
 香草さんに、そう言われた気がした。

「これで僕とやどりさんは正式にパートナーだ。これからよろしくね」
「……こちら……こそ」
 契約の手続きそのものは何の滞りも無く終わった。
 やどりさんは元々住民登録してあったから、本当に何の手間も時間もかからなかった。
 時間がかからなすぎて、香草さんやポポの様子を再び見に行くにも早すぎる。
 そういえば、やどりさんが新たにパーティーに加わることになったんだ、ささやかでも歓迎式なんか開いてあげたい。その準備に時間を使ってもいいな。
 ……でもきっと香草さんが許さないだろうから無理か。
「僕は今からジムの下見に行ってくるよ」
 僕は結局、自分の目的を優先させることにした。
「……私も……いく」
「そう? じゃあ一緒に行こうか」
 やどりさんもついてきてくれるようだ。
 相変わらず、感情は読み取りにくいけど、少なくとも不機嫌そうではなさそうで安心した。

 ジムに向かっている最中。意外なことに、やどりさんは本当に私とパートナーになってよかったのかと尋ねてきた。
 あんな横暴な振る舞いをされても、それでも香草さんのことを気遣っているのか。
 ……いや、単に僕が自分勝手なだけなのかもしれない。
「今回のことで香草さんもチームプレーの重要性がわかったと思う。きっと分かってくれるはずさ」
223ぽけもん 黒  19話 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/12/07(月) 02:12:46 ID:RT3H1gnW
 そう、今回の敗北が、彼女にとってよい作用を持たせばいいんだけど。
 自己すら見失い、狂乱状態にあった昨晩の彼女。
 頭をよぎった昨晩の情景をすぐにかき消す。
 あれはただ、強いショックを受け止め切れなかっただけさ。
 時間がたち、落ち着けば、上手く消化して、自分の身の一部にできる。
 そう、信じたい。
 若干苦い感情を覚えながらもそう考えていると、やどりさんは、
「……そうじゃ……なくて」
 となにやらモニョモニョ言っていた。
 僕はまた何か意図を図り間違えたのかな。
 しかしジムに着いたので会話は一旦中断された。
 僕たちは正面玄関に近付くことなく、ジムの脇に回る。
 今はジム戦を挑みに来たわけではない。偵察しにきただけだからね。
 このジムは主にノーマルタイプのポケモンを使うということは分かっているけど、上手いこと他のトレーナーが戦っていてくれていればもっと詳しいことが分かる。
 ノーマルタイプは格闘系の技が弱点だけど、ジムリーダーともなれば対策がしてないとは思えない。
 香草さんが格闘タイプだから僕たちは有利か……あ、いや、香草さんは草タイプだった。いつもの印象でつい。

 予想通り、ジムの側面には少し高い位置にだけど大きな窓がいくつも取り付けられていて、中の様子を伺うことはそれほど難しくなさそうだった。
「やどりさん、念力で僕を持ち上げることってできる?」
 やどりさんがいなければ他の手段を講じていただろうけど、折角やどりさんがいるんだから頼ってみる。
「……簡……単」
「それじゃ、申し訳ないんだけど、あの窓から中がのぞけるように僕を持ち上げてくれないかな? それで、僕が左手を開いたら僕を降ろして欲しい」
「……分かっ……た」
 覗いていることがばれるとよくないだろうから、見つかったときの対策をちゃんと考えておく。
 やどりさんは両腕を前に差し出すと、そのままトテトテと歩いて、僕に抱きついた。
「や、やどりさん?」
「……ちゃん……と……捕まっ……て」
 言われるがままに抱き返す。すると僕たちの体がするすると浮き上がり始めた。
「じ、自分の体も持ち上げられるの!?」
 まさか、念力でここまで出来るなんて。
 つまりやどりさんは空を飛ぶことが出来るということだ。
 いや、少しこれは大げさかな。
 でも宙に浮くことが出来るというのは間違いない。
 それくらい、やどりさんの力は強いものらしい。
 やどりさんは僕を見て、僅かにだけど微笑んだ。
 いつも表情が分かりにくいやどりさんにしては珍しいことだ。

 窓の辺りまで浮上した僕は窓から中を覗き込む。
 しかしバトルはやっていなかった。
 まあそこまで都合よくはいかないよね。
 自然物を使っていた今までのジムとはうって変わって、床面は人工的で無機質な素材で出来ている。遮蔽も無く、酷く無機質な造りだ。構造だけ見れば。
 しかし床の色がピンク色のせいでまったく無機質さを感じられない。
 というか悪趣味以外の何物でもない。
 ジムリーダーは一体何を考えているんだ。
 遮蔽物無しか……今までのジムよりも戦いやすいように思える。
 でも、きっとこれが相手にとって一番有利な地形のはずだから、油断は出来ない。
「やどりさん、ありがとう。降ろして」
 僕がそういうと、今度はゆるゆると降りていき、地面についた。
 やどりさんはいつものぼんやりとした表情で僕を見ている。
 僕に抱きついたまま、離れる様子は無い。
「……あの、やどりさん?」
「……何?」
「そろそろ離してくれないかな」
「…………やだ」
 やだと言われるとは思わなかった。
 でもずっと抱きついているわけにもいかないので、やどりさんを押して離れる。
 やどりさんは相変わらずの表情だ。
 本当に、ポポや香草さんとは違った意味で、やどりさんは何を考えているのか分からない。
 そもそも、僕を浮かすのにわざわざ抱きつく必要はあったのかな。
 まずそこを疑問に思うべきだった。
224ぽけもん 黒  19話 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/12/07(月) 02:13:12 ID:RT3H1gnW

 次に僕たちは古賀根百貨店に向かうことにした。
 古賀根市に来たからには是非一度は寄っておきたかった場所だ。
 道中の連戦連勝で大分お金も溜まっているし、思う存分道具が買える。
 店に入った僕は、圧倒されて息を呑む。
 久々に来たけど、やっぱりすごい品揃えだ。

 あ、これ新製品だ。便利そうだなー。欲しいなあ。でも今の手持ちの道具と機能が被るよなー。どうしようか……
 お、こっちは技マシンのコーナーだ。旅に出るまでは実感が湧かなかったけど、こうしてみると魅力的だよなー。
 ええっ、こんなものまで売っていたっけ? う、でも高いなあ……これを買うと他の道具が……いや、でも……

 不意にやどりさんに服をつかまれて、ようやく正気に返った。
 しまった、つい商品選びに夢中になり過ぎてしまった。やどりさんを意識するのをすっかり忘れてしまっていた。
 彼女を見ると、いつもの表情で僕を見ていた。
 お……怒ってる?
 表情の変化が無いから感情が分かり辛い。というか少し、怖い。
「ごめん、つい夢中になっちゃって」
 弁明するように僕は言う。
 そういえば、この旅の……というか香草さんのせいで、僕は謝り癖のようなものがついてしまったように思う。
 僕は昔から自己主張が強いタイプではなかったけれど、何かあったらとりあえず謝って場を濁すようなタイプの人間でもなかったと思うんだけどなあ。
 ふと、そんなことを思う。
「……人、多い。はぐ……れそう」
 多いといっても一緒にいる人を見失うほど混んでいる訳ではない。
 でも僕が上の空であっちへふらふらこっちへふらふらしていたらはぐれても何の不思議も無い。
 まったく、僕には気遣いが足りていない。
 あと、やどりさんが、はぐ、で言葉を区切るから、てっきりまた抱きつかれるかと思ったのはスルーしておこう。
「そうだね。手、繋いでもいい?」
「……うん」
 僕が差し出した手にやどりさんが手――正確には着ぐるみ――を重ねた。
 滑らかで柔らかい手触りが、僕の手に伝わってきた。

「……あ」
 とある棚の前でやどりさんが小さな声を上げた。
 今までずっと無言だったから、何事だろうとやどりさんを見たら、彼女は誤魔化すようにすぐに――といっても、彼女の動きだからゆっくりなんだけど――視線を僕に向けてきた。
 でも、一瞬だけどやどりさんは確かに棚の陳列物を見ていた気がする。
「ラピスアクアかー」
 その棚にあったのは、淡い青色を湛えた、透明度の高い石だった。
 この石――ラピスアクア、直訳すれば水の石――には世界各地で水の力が宿っているという言い伝えがあり、別名水の結晶とも呼ばれている石だ。
 確かに、その澄んだ青は見るものに不思議な力を感じさせる。
 持つものには水の力が与えられるといった話や、水の加護を得る、なんて話がいくつもあるのも納得だ。
 特に水を操るポケモンと関わりが深く、全員がこの石を持っている種族があるほどだ。
 また、綺麗な見た目から宝石としての価値もある。
「そういえば、やどりさんはラピスアクア持っているの?」
 やどりさんは水タイプだ。ラピスアクアを持っていても何の不思議も無い。
 しかしやどりさんはゆっくりと首を横に振った。
225ぽけもん 黒  19話 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/12/07(月) 02:13:48 ID:RT3H1gnW
 そうなのか。最近はアクセサリーとして持つ人も増えていると聞くけど。
 実際、その棚に並んでいるものも、原石はごく一部で、殆どはアクセサリーとして加工されているものだ。
 そして何よりも……高い。
 なんだこれは。
 なんだこれは!
 少し大げさに驚いてみた。
 しかし高いことは事実だ。
 具体的に言うと、未加工の小さな原石一つで傷薬が十個は買える。
 一番高い、凝ったテザインのティアラに至っては、傷薬が一、十、百、千、……傷薬の限界を感じる。
 とにかく、ものすごく高いってことだ。
 でもやどりさんがパーティー加入したのに、特に祝って上げることも出来ない。ならば、プレゼントの一つくらいはしたほうがいいんじゃないだろうか……
「あの……ゴールド?」
「こ、このネックレスなんかやどりさんに似合いそうだよね!」
 僕は震える指で陳列棚に並べられている商品の一つを指差した。
 値段はティアラに比べれば体当たりみたいなものだけど、僕の財布には破壊光線だ。
 自分でも頭が少しおかしくなっていることは分かってる。
 当のやどりさんは少し首を傾げている。
 こ、この反応は……何だ?
「……そう……かな」
 ようやく口を開いた。よく分からないけど、多分、まんざらでもなさそうだ。よし!
「じゃあやどりさんにプレゼントするよ。パーティー入隊祝いでさ」
「……いい……の?」
 やどりさんの眼がネックレス……いや、値札に向いた。
 まるで僕の心を見透かされているようだ。
 ……見透かされてないよね?
「うん! せっかく仲間になったっていうのに、皆あんまり歓迎してくれそうにないし……あ、それはやどりさんが悪いんじゃなくて、誰に対してもそうだっていうか……」
 あたふたと弁明をする僕を見て、やどりさんはかすかに微笑んだ。
 その微笑はかすかではあるけれど、殆ど表情に変化というものがないやどりさんにとっては大きなものだ。
 僕は店員さんに代金を支払うと、ネックレスをやどりさんの首につけてあげた。

「あり……がとう」
 デパートからの帰り道、僕はやどりさんの何度目か分からないお礼を聞いていた。
 ネックレスをプレゼントして以来、ことあるごとにありがとうと言ってくる。
 喜んでもらえたのは嬉しいけど、ここまで感謝されると少し照れくさい。
「そんなに気にしなくてもいいんだよ。やどりさんもパートナーになったんだから」
 何度目か分からない、その照れ隠しの言葉を返したとき、とても意外なことが起こった。
 やどりさんの体が突然光に包まれたのだ。
 その光の発信源は彼女自身だった。
 数十秒の後、光は消え、その中からやどりさんが現れた。
 進化だ。
 久々に見たから驚いてしまった。
 着ぐるみを着ていることもあって、変化が分かり辛いけど、確かに進化したんだよね?
 半ば呆然として眺めていると、やどりさんは滑らかな動作で僕に抱きついてきた。
「ゴールド!」
 初めて聞く、嬉しさが滲んだ彼女の声だった。
「や、やどりさん!?」
 少し離して、彼女の顔を見る。
 その顔にははにかんだような笑みが浮かんでいた。
226ぽけもん 黒  19話 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/12/07(月) 02:14:45 ID:RT3H1gnW
 今までは変化に乏しかったけど、進化したことによって感情を出しやすくなったのかな。
「私……進化できた。ゴールドのお陰」
 進化してもやどりさんはやどりさんだ。前ほどではないけど、少しのんびりとした話し方だった。
「ぼ、僕のお陰だなんて、そんな……」
 ラピスアクアのような石が進化のきっかけになることもあるという。
 きっとやどりさんはラピスアクアを身に着けたことで石からの特殊な波動というかなんというか、そういうものを受容して、それが進化に繋がったに違いない。
 つまり進化できたのは石のお陰で……石をプレゼントしたのは僕だから、これも一応僕のお陰ということになるのかな。
「と、とにかくよかったね!」
「うん!」
 やどりさんは元気に笑った。

 ほどなくポケモンセンターの近くまで来た。
 ふと、ポケモンセンターの前に立っている人影に気づく。
 キョロキョロと落ち着きのないその影は、僕を見つけるなり、一直線に飛んできた。
「ゴールドー!」
「ポポ!」
 驚いた。一日は絶対安静だといわれていたのに。
「足はもう大丈夫なの? 確か絶対安静とか言われたんだけど」
 ポポを抱きとめながらそう質問する。
「平気です! 愛の力です!」
 誇らしげにそう言う。
 あはは、と僕は苦笑いだ。
 ポポは力強く僕に抱きついていたが、はっと思い出したように僕から離れた。
「そうです、た、大変なんです!」
「何が大変なのさ」
「あの女が、チコが眼を覚ますですよ!」
 その言葉に僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
 パートナーに恐怖心を抱くなんてありえない話だし、パートナーの快気を嬉しく思わないなんて間違っていることも分かっている。
 でも、僕がそれを聞いて初めに抱いた感情は、やはり恐怖だった。
 香草さんに会うのが怖い。
 はっきりとそう思う。
「そ、それのどこが大変なのさ」
 僕はやっとのことでその言葉を吐き出した。
 自分でも、大変だとアピールするような声色になっているのが分かる。
「……やっぱり、ゴールドも分かってくれたんですね! チコは危ないです! ポポはゴールドに危ない目に会って欲しくないです!」
 そういえば、ポポは以前から香草さんの危険性を主張し続けていたっけ。
 ポポの言っていたことは……間違いではなかったのかな。

「だから、ゴールド。契約を解除しちゃえばいいんです」

「え?」
 その言葉は僕にとって不意打ち気味に発せられた。
「チコと、パートナーじゃなくなればいいんです。そうすれば、ゴールドは危ない目に会わなくてすむです」
「そ、そんなこと……」
「パートナーに対する暴力。これは契約を解除する理由になるですよね?」 それは事実だ。しかし僕はそれよりも、ポポはそこまで物事を理解し、考えていることに驚いた。
「大丈夫です。ゴールドにはポポがいるです」
「私も」
 彼女達の強さは織り込み済みだ。この状況で、無理に香草さんとパートナーである理由がない。
「で、でも、僕は……」
「ゴールド!」
 背後から、大声量で名前を呼ばれた。
 馴染みのある、その声。
 ポポとやどりさんが一瞬のうちに体をこわばらせたのが分かった。
 僕は、ゆっくりと、呼ばれたほうを振り返った。
「ゴールド」
 僕の視線の先には、患者衣のままの香草さんがいた。
227 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/12/07(月) 02:18:14 ID:RT3H1gnW
投下終了です
228名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 02:26:05 ID:dDHxy5VI
>>227 GJです!
ついに香草さんの病みが全開に…。
229名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 02:39:15 ID:oSX66R2y
萌えもんで脳内補完っと

>>227
GJでした
続き期待してます!!1!
230名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 02:55:04 ID:LE+IYSug
>>227
GJ 

なんか数十のボロボロの蔦ってグロいね
231名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 03:40:47 ID:ChUXIXBQ
投下が早いといつもの三倍うれしい
232名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 04:24:02 ID:qNKx1PPO
>>227
おはようございます。
とても面白いです。
233名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 04:39:15 ID:45v12U7K
>>227
GJ!次は本格的に香草さんの病みがみれるのかw楽しみwww
234名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 06:46:20 ID:EQ+zPT7W
GJ、いいよいいよー
技マシンで思い出したけど香草さんがフラッシュしてた頃が懐かしいw
235名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 07:48:31 ID:LWMfyVSQ
あの頃はまだただのツンデレだったね〜
236名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 08:55:05 ID:YfHvFTT+
237名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 10:04:31 ID:sEhrDwiH
GJ
ポポがいつのまにか良い策士になってますねw
香草さんが取り乱すのに期待
238名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 12:30:20 ID:Nc4cW16o
やどりさんは何に進化したんだろう
239 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/12/07(月) 12:37:27 ID:RT3H1gnW
すみません、補足入れようと思ってたのに入れるの忘れてました
ヤドンは水の石では進化しません
今回も、水の石で進化したというのはゴールドの勘違いで、経験値が一定に達したためヤドランに進化したという考えです
まあこれはぽけもんなのでその辺はあまりどうでもいいのかもしれませんが
補足忘れすみませんでした
240名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 18:32:57 ID:ptTvv1+7
無理してティアラ買ったらヤドキング(クイン?)になってたのかな
ともあれGoodJob
241名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 20:02:18 ID:mx/jLvzf
ティアラとか出てきてたからヤドキングかと思った
242名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 19:28:29 ID:+hxSI+FE
ヤンデレの基準は男なら誰にも又を開いて、イケメンなら3秒で心を許すような女の子か
好きになった人を一途に愛し続けて、想いが溢れて監禁してしまう女の子


どっちがヤンデレに相応しい?
243名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 19:32:32 ID:AMmw5T+8
文章は人に伝わるように書くもんだ。
244名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 19:41:05 ID:iBKQ2d50
>>227
GJ
来月が楽しみだ
245名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 22:53:47 ID:FWrSRX+7
>>241
前者はただのスイーツ女じゃねーか
246名探偵物語 4:2009/12/09(水) 00:53:02 ID:GtTFdY6v
投下します。ネタに若干専門知識が必要です。
なお、前回『ドッグゴッド家』を『ゴッドドッグ家』と
間違えて表記していました。すいません。
247名探偵物語 4:2009/12/09(水) 00:54:12 ID:GtTFdY6v
ゴールデン・レトリバー
『信頼できる性格』『飼い主とともに働くことを喜びとする』犬種なので、{賢い、温和
知的、親しげ、確実}などと表現される。まさにその通りで人間に危害を加えるといった
攻撃性はない。この犬種の最大の魅力は、人に合わせる力を持っていることである。
家族が静かにしているときは静かにし、遊ぶ時は大いにはしゃいで一緒になって遊ぶ。
主人が願っていることを察知し、いつも主人に気に入られようと努力をする。
常に主人と一緒であることを望み、孤独を嫌う。忍耐力も非常に高く、細かな
気配りができ、楽天的。
                        By Wikipedia

「うむ、見事なものじゃ。」
犬神剣の力によって白い犬となったタマヨは満足げに心の中でうなずいた。
彼女自身どんな犬になるかなぞとんと見当もつかなかったが、犬神剣が
タマヨに合った犬を適当に選びだしてくれたのだろう。
「賢そうな眼、純白の気高き体毛、そして何より剣の力で再びこの現世に
実体化できたのは幸いじゃ。」
しかし…とタマヨは疑問にも思う。
自分の役目は神器の番人。となれば犬となった姿もそれにふさわしいものに…
例えるならシェパードやドーベルマンといった番犬系だと思っていたのだ。
そうはいっても、タマヨはこの結果には満足していた。
タマヨは幼い頃よりドッグゴッド家の影として神器を守る任についていた。
護衛といえど名門に仕える身のタマヨは、身だしなみとプライドは
常に高くあれと躾けられてきたのだ。
しかし、いくら着飾ったところで護衛風情を褒めてくれる相手はいない。
本当は、自分には番人の仕事は向いていないのかもしれない…。
幼いころからのさみしさゆえに抱く自己存在への葛藤に、プライドと職務への
没頭で蓋をして、死してなお今日まで番人としての任務をこなしてきたのだ。
しかし今、自分の姿はドーベルマンでなくゴールデン・レトリバー。
映画とかのワンシーンでありがちな、小さな女の子が戯れる優しそうで
可愛くて誰からも愛される大型犬…ゴールデン・レトリバーになっているのだ。
「おいコラ犬。お前の寝床作ったぞ。」
目の前の男…探偵明智が声をかけてくる。
彼が指さす先には、ふわふわの毛布で小さな山が築かれている。
「早く寝ろよ…おやすみ。」
そう言って明智は事務所の奥…明智の寝るスペースへと移動していった。
壁で仕切られたその空間は明智の居住エリア。ベッドもぐりこみ目を閉じる
明智を追いかけ、眺めていたタマヨは小さく唸った。
「下賤の者の分際で…。わらわの寝床より豪華な寝床で眠るじゃと?」
ものすごい声で吠えまくり嫌がらせをしてやろう…。ニヤリと心の中で意地悪く
笑ったタマヨは大きく息を吸い込み…。
「…えっ!?」
タマヨは自分の中にわき上がってくる感覚に戸惑った。
何となく、邪魔してはいけないような気がする。特に理由もないのに。
「ぬぬぅ…。」
なんだか、吠えて眠りを妨げるのも悪い気がしてきたので仕方なく
タマヨは用意された自分の寝床へとすごすご戻っていった。
248名探偵物語 4:2009/12/09(水) 00:55:09 ID:GtTFdY6v
三十分経過。
「眠れぬ…。」
タマヨはそう独りごちていた。犬は基本一日十時間の睡眠を必要とする動物だ。
このままでは明日の行動に差しさわりがでる。
そもそも、犬は眠りこそ浅いものの入眠スピードは比較的早いはず。
ではなぜ眠れないのだろう。
毛布の山から抜け出したタマヨは、もう一度明智の下に行く。
ベッドの上で寝息を立てている明智を見ていると、タマヨの中で
さっきとはまったく異なる感情がふつふつと湧いてきた。
…独りはさみしいな。一緒に寝たいな。
「なっ!?何を馬鹿な事をッ!!!!」
自分の中の思いに戸惑うというより恐れを抱いたタマヨは、その場で
しばらくうろうろした後に、『おお』とひらめいた。
「考えても見たら、わらわがあのような粗末な寝床で寝ることの方があっては
ならぬことじゃ。それにこの男…よく見れば随分と暖かそうな男ではないか。
喜べ下賤の者。このわらわが抱き枕として使ってやろうぞ。」
のそりとベッドの上にあがったタマヨはそのまま毛布の中に潜り込み、
眠る明智の体の上で身体を丸めると、今度は五分と立たず眠りに落ちて行った…。


「な…なんじゃこりゃ…?」
明智が目を覚ますと、眼下の掛け布団…明智の股間があるであろう辺りが
バスケットボール数個分ほどに膨らんでいた。
生理現象…とでもいい表わせればいいが、何せ眼下のそれは人外のサイズ。
一瞬、泌尿器科に行くか?と明智は真剣に考え却下した。
こんなものをぶら下げて外を出歩けない上に、運よく誰にも見つからずに
通院できても、このような状況は普通の病院では対処できないだろう。
大学の医療専門機関…下手をすれば黒スーツ&グラサンの男たちに拉致されて、
残りの余生をNASAの生体研究のサンプルにされてしまうかもしれない。
モゾモゾ。ワウ〜。
明智を悩ます眼下のそれが、今度は勝手に動き始めた。
ほれみろ。明智は心の中で毒づく。
やっぱり何か地球上では起こってはならないことが俺の体内で起きたんだ。
そうでなくては勝手に人体の一部が巨大化して動きだしたり、それだけでは飽き足らず
犬のような声を上げたりするはずがない。
ああ良かった早まらないで。今あわてて病院へ向かったら、間違いなく俺は
宇宙人の疑いをかけられてNASA に…。
「…って、出てきやがれ犬ゥ!!!!!」
ツッコミと共に明智が掛け布団を傍らに放り投げると、体をくるりと丸めた白い犬が
明智の上で寝ぼけていた。
「わう?」
「『わう?』じゃねえよお前。素でビビらせやがって。」
「う〜。」
「ったく…。飯作るから降りろ。」
「う〜。」
249名探偵物語 4:2009/12/09(水) 00:56:39 ID:GtTFdY6v
自分と犬の朝食を終えた明智は、今日が休日であることを思い出した。
いつもなら、小林の勉強をみてやったりバッティングセンターで汗をかいたり
するものだが、如何せん今日はする気が起きない。というのも…。
「う〜。」
「…あの、すいません。ひょっとして怒ってる?」
先ほどから白犬がずっと明智の方を見て唸っているのだ。
さぼるなとでも言っているのだろうか?
「しかし、言葉がしゃべれないというのも難儀なことだよな。
もっとも、犬がしゃべったらそれこそ俺の中ではアウトなんだが…。」
第一、 しゃべるようになったとしたらまたあの気に障るお嬢様口調を聞かされるに
決まっているのだ。疲れるのは目に見えている。
「昨日の今日で少し疲れてるんだよ。小林のこともあるしさ。
悪いんだけど、今日は少し休ませてくれ。」
軽く欠伸をしながら明智は犬にそうつぶやいた。
しばらく睨んでいた犬は…急におとなしくなると明智の傍らに座り込み
ころりと横になった。
「悪いな。」
犬が気を使ってくれたのだろう。好意的にとらえた明智は軽く犬の頭をなでる。
窓の外は昨日とは一転、すきとおった冬空だった。

「わはははは!おはよう明智君!」
不意に事務所のドアがバタンと開かれ、高笑いとともに二十が現れた。
「お前…何の用だよ。今日はウチは休みだぞ。」
来客用のソファに体を投げ出し、完全オフモードの明智は億劫そうに応対する。
「なに、遊びに来たのだよ。ん?何だねその犬は。」
二十が指し示したのは明智の膝の上。見るとそこには気持ちよさそうに
くつろいでいる白い犬の姿があった。
「これ?」
明智は答えようとして…まてよ、と思いとどまった。
本当のことなんてよくよく考えたら言えないじゃないか。
あ…ありのまま起こったことを話すぜ…。
帰ってきたら西洋美人の幽霊に出会い、それが秘宝で犬の姿に実体化したんだ!
…我ながら心底馬鹿な回答になってしまう。
「昨日捨てられていたのを拾ったんだよ。」
苦し紛れの一言。正直なところ、これが明智の限界だった。
「わん!?(ぶっ…無礼者っ!このわらわが捨てられたじゃと!?)」
犬が何かと吠えているが、犬語を理解できる明智ではない。
「ほほう…僕の予想通り、明智君はやはり優しい人なのだな。
で…名前は?」
「名前?」
「この犬の名前だよ明智君。」
二十はさも当然といった表情で微笑んでいる。明智はそこで初めて
自分がこの犬の本名を忘れていることに気がついた。
昨日は何かとあわただしく、さらに幽霊との会合ということも手伝い
名前まで気が回っていなかったのだ。
明智はしばらく思い出してみる。
…シ…セイ…セ…イ…セイ…セイシ…精子?
イカンイカンイカンイカンイカン!何故こんな微妙な部分しか思い出せない俺の頭脳!
大体脳内変換した漢字が横溝正史ファンから斧で頭を砕かれかねないものになっている!
250名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 00:57:31 ID:W6z0zrya
>>242 どう考えても後者という分かりきったことを聞くでない。
どうせ聞くなら…
留学先にて娘と恋仲になってしまうが帰国の時が来た。「私」は縋る彼女を置いて帰国した。
彼女は「私」に依存していたのだ。この後の展開を選ぶならどちらが好みか?

・祖国に帰った「私」の帰りを待ち続けて異国の娘は病んだ。
・祖国に帰った「私」の帰りは期待できぬと異国から来日し自宅に押し掛けてきた。
251名探偵物語 4:2009/12/09(水) 00:58:07 ID:GtTFdY6v
「ま…まだ決まっていないんだ。」
苦し紛れの一言。正直なところ、これが明智の限界だった。
「そうか。ならば僕と共に名前をつけようではないか!」
二十はそんな明智を前にやけにうれしそうに答える。
「そうだな…ゲレゲレなんて言うのはどうだい?」
「却下。お前その名前は動物虐待の範疇だぞ。」
「白い犬…ケルブはどうだろう?」
「どうあがいても、却下。…まあ、発想は悪くないが犬に死亡フラグが…。」
「ううん…ならば…そうだホームズ!僕の兄さんの名前をとってホームズさ!」
「三毛猫じゃあるまいし。」
明智は苦笑いを浮かべるが、二十はいたって真剣な眼差しで明智を見つめた。
「この犬がホームズなら…うん、僕は今日からこの家に明智君とともに住もう!」
「おいちょっ待てよ!何で!?」
予想斜め上の二十の発言に、明智は思わず身を乗り出した。
「だってホームズが居るでしょ。それでいい年になっても結婚していなく、
美人の女性に対して勇気が持てない…もとい恐怖症気味の明智君。
ならばそこに美人で活発な妹がいるのは当然のことじゃないの。お兄さん。」
二十の声色がだんだん別人のものに変わっていく。
明智はこれが彼女を怪人と言わしめた妙義『声真似』かと感心するとともに
二十代前半の自分が『いい年』に当てはまるのかしらと悩んだ。
二十はそんな明智の前で、完全に別人になりきり悩ましげな溜息を洩らす。
「お兄さんがいつまでたっても結婚できないと、私も結婚できないじゃない。
全く…肝心なところで男っていつもこうなんだから!ねえ、ホームズ。」
「フニャン。」
知らぬ存ぜぬとでも言いたげなホームズは、ゆっくりと目をつぶる。
「ちょ…ちょっと待て!今あの犬自然界の常識を冒涜するような声で鳴いたぞ!」
「そんなことより自分の心配よ。」
明智の意見はすがすがしいほどに放置された。
「結論から言うと…。私は一応お兄さんの妹ですから、お兄さんの幸せを祈って
いるわ。でも、このままじゃお兄さんは一生結婚できないに違いないわ!」
明智の背景が黒く染まり、ピシャッと稲妻が走る。
何の意味もないはずのままごと遊びなのに、いつの間にか明智の顔は
暗殺される寸前、暗殺者の一団に混じる無二の親友の顔を見た時のジュリアス・シーザー
になっていた。おおブルータス、お前もか!
「お兄さんの妻ということは、私の親族になるということですからね。
私くらい性格がよく、美人で、器量の良い人じゃないと…。」
唇に軽く指を当て、二十は憂いを帯びた眼で宙を眺めた。
「やっぱり、ここは私がお兄さんのために一肌脱いであげないとね。」
「話がややこしくなるだけじゃないか?」
「いつ私が話をややこしくしたことがあったのよ!」
ここで二十は軽く息をつく。そして眼に強い光を宿すと…。
「方法はただひとつね…。お兄さん、結婚しましょう。」
「はあ!?」
252名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 00:58:20 ID:4tPiW+YE
独断と偏見によるおまんこの匂いを嗅ぎたい度

天野香織(ことのはぐるま) ★★★★★←大食だから臭いがきついと思いきや、激しい代謝により汗のムレ具合とマッチして極上の匂い
石田さくら(桜の幹) ★★←一途な恋路に騙されるな、幹也に使い込まれて真っ黒かもしれないぞ!
鈴(しろとすず)★★★★←神様だけに神聖で汚れない一本筋が拝めるかも
大河内桜(あなたと握手を)★★★★★←練習後の袴の中で少しムレたピンク色のおまんこは芸術品の域に達する
榛原よづり(真夜中のよづり)★★★←恐らく陰毛生え放題かと思われ、激しく興奮しそう舐めたい
瀬戸山サキ(『コウヘイッ、タイマンじゃあ!!』) ★★★★★←ド本命つるつる無臭おまんこ舐めたいちゅっちゅ! 
神坂真奈美(夫が隣りに住んでいます)★★←人妻なので異臭はなさそうだがあまり興味なし
薫(おにいたんだいすき!) ★←親父の虐待で相当ヤリこんでるのでビョーキもってそう
菊川かなこ(ことのはぐるま)★★★←おまんこ吸って吸って吸いまくってプライドをずたずたにしてしまいたい
三神光(もう何も信じない)★★←あまり興味が湧かないが一応嗅いでおこうというレベル
西又囲炉裏(ワイヤード) ★★←余力があれば是非クンニしておきたい
香草さん(ぽけもん黒)★★←異種間はきつい・・・
253名探偵物語 4:2009/12/09(水) 01:01:35 ID:GtTFdY6v
「仕方ないじゃないの。お兄さんこのままじゃ一生独身のままでしょう?
そうなると私も一生結婚できずに終わるじゃない。だからと言ってお兄さんに
中途半端な人と結婚させるわけにもいかないわ。私の親族にふさわしい人じゃないと。
私くらい性格がよく、美人で、器量の良い人…この条件には当然私も含まれているわ!」
何…だと…?
「いや…だからって。」
「いいアイデアじゃない!私もお兄さんも同時に結婚できて、叔母さんから
お見合い写真持ち込まれることもなくなるし。私もお兄さんの面倒を
見ていられるでしょ?」
なるほど、それは盲点だった。明智は納得し…ない!!
「式場は石津さんに調べてもらいましょ。石津さん最近熱心にそういった
案内状を調べていたから、きっといい所を知っているに違いないわ!
仲人は課長さんにお願いすれば完璧ね。ふう…これで天国のお父さんも
きっと安心できるはずだわ。」
逃げなくては。明智はいそいでその場から離れようと飛び上り…
その拍子に勢いよく転んでしまった。
畜生!どうしていつも俺はこうなんだ!
なあホームズ。お前はこんな俺を笑うかい?
「逃げること無いじゃない。お兄さん。」
二十がゆっくりと明智に背後から覆いかぶさり、首筋に唇をそっとつける。
「お兄さん。今まで夫婦と変わらない生活を送ってきたじゃない。
『嘘』が『本当』に変わるだけよ。…こら!逃げるな!
全くもう…。私がいないとお兄さんはてんで駄目ね。
これからは私が面倒みてあげるわよ…それこそ一生ね。
だって私…お兄さんのこと…。」

カーット!お疲れ様でしたー!


「疲れた…。」
結構長く続いたコントの後、明智はソファにひっくり返る。
そんな明智を二十面相はケラケラ笑いながら楽しそうに眺めていた。
「…ホームズ案は却下。いちいちこんなコントを繰り広げていたら体力的にまいる。」
「う〜ん。名案だと僕は思ったのだが…。」
結局、迷った挙句に導き出された名前は『ポアロ』になった。

「時に明智君。君の助手の小林君が入院したそうだね。」
コント後の二人の茶席で、ふと二十は口にした。
「…?お前がなんでそれを知っているんだ?」
「いいじゃないかそんなこと。それより…。」
二十が明智の顔に自分の顔を近づけた。その凄味のある迫力に
明智は一瞬たじろいでしまう。
「明智君。小林君から自立したまえ。」
254名探偵物語 4:2009/12/09(水) 01:02:25 ID:GtTFdY6v
「な…何を急に。」
「君は小林君に生活全般を頼り切ってきた。しかし、それは君にとっても
なにより小林君にとってもプラスにならない。今頃小林君はどう思っているだろうか?
卵粥以外作れないという明智君がきちんとした生活を送っているか気がかりで
治療に専念できなかったらどうするのだ!それがパニック障害とストレス障害の
悪化になったらどうするのだ!」
「ううっ…。」
明智もこれには返事に詰まる。というのもそれは明智も気にしていたことなのだ。
「退院までの時間に、料理くらいはマスターしておきたまえ。大丈夫。
私が二人っきりで、つきっきりでレクチャーしてあげよう。」
「大丈夫なのかお前の腕は…?」
「帝国ホテルにシェフとして潜入してもばれなかった腕前だ。問題はない。」
それならば問題ないだろう。むしろ十分すぎると言っていい。
明智は少し考えた末…。
「お願いできるか二十?」
「僕に任せておきたまえ!明日から毎日夕方になったら君に指導にくるよ。」
「ありがとう。」
俺が料理できるようになったら小林の負担を減らしてやることができる。
一歩一歩進んでいこう。明智は手をギュッと握り誓った。
「あ、そうそう二十。」
帰りかける二十の背中。それに明智は声をかけた。
「お前さ、最近何か兄さんから荷物を受け取らなかったか?
お面とハープだったかな…?」
ドアノブに手をかけていた二十の手がぴたりと止まった。
まるで時が止まってしまったかのような、耳の痛くなるような沈黙の後
二十は振り返ることなく、知らないと呟いた。
「そうか。悪いな、変なことを聞いて。」
二十は振り返ると笑みを浮かべ…
「また明日、明智君。」
冬の風の中に出て行った。
255名探偵物語 4:2009/12/09(水) 01:07:31 ID:GtTFdY6v

明智と二十のやりとりを眺めていたタマヨ…ポアロはむすっとしていた。
なんだか気に食わぬ。
明智…あのわらわ専用抱き枕が女と話しているのが気に食わぬ。
さらには楽しそうだったのが無性に気に食わぬ。
挙句わらわの依頼の件を事のついでの如く扱いおって…。
噛みついてやろうか?でもそんなことしたら嫌われちゃう…。
何か気持ちを伝える方法はないかな?明智ならきっとわらわのさみしい気持を察して
一日中遊んでくれるかもしれぬ。
散歩にも連れて行ってくれるかもしれない。一緒にお散歩だ♪
思いっきり遠くまで散歩に行って、思いっきり泥だらけになって疲れて
帰ったら二人でお風呂に入って身体をきれいにしてから
抱きしめてもらいながらゆっくり寝…
「何を考えているのじゃわらわはぁーっ!」
ここにきて、タマヨ…ポアロに焦りの色が浮かんだ。
どうやら、思考がゴールデン・レトリバーのそれに近づいているらしい。
くそっ!ならばドーベルマンやシェパードの方が…。
いや。タマヨはここでふと考え込む。
古くより人のパートナーとして犬がいた理由はその忠誠心。
忠誠心において犬の中でも群を抜くのがシェパードだ。
しかし、介護から麻薬探知まで広く活躍するシェパードにも弱点がある。
忠誠心があまりにも強く、元の飼い主から離されてしまうとストレス障害を引き起こすのだ。
そんな犬にでもなろうものなら、あっという間に明智から離れられなくなるだろう。
とにかく今は高貴な家柄としてのプライドと自覚を強く持ち、明智に心動かされぬよう…。
「ポアロ、昼飯だぞ。」
「わん♪」
…意識せぬ間に反応した自分は手遅れなのかもしれぬ…。
まあ、シェパードよりはましだろう。
シェパードだったら主人と三日離れただけでひどく落ち着かなくなる。
一週間以上離れていたら、きっとストレス障害で参ってしまうだろう…。
ふと、理由は分からないがタマヨの脳裏に見も知らぬはかなげな少女が一瞬浮かんだ。

                                   続く。
256名探偵物語 4:2009/12/09(水) 01:09:46 ID:GtTFdY6v
以上です。ホームズワールド全開のネタでした。
…いや、全壊だろどう見てもこれ。
見てくださった方、サンキューです。
257名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 01:15:41 ID:4tPiW+YE
>>255
乙です


独断と偏見によるおまんこの匂いを嗅ぎたい度

天野香織(ことのはぐるま) ★★★★★←大食だから臭いがきついと思いきや、激しい代謝により汗のムレ具合とマッチして極上の匂い
石田さくら(桜の幹) ★★←一途な恋路に騙されるな、幹也に使い込まれて真っ黒かもしれないぞ!
鈴(しろとすず)★★★★←神様だけに神聖で汚れない一本筋が拝めるかも
大河内桜(あなたと握手を)★★★★★←練習後の袴の中で少しムレたピンク色のおまんこは芸術品の域に達する
榛原よづり(真夜中のよづり)★★★←恐らく陰毛生え放題かと思われ、激しく興奮しそう舐めたい
瀬戸山サキ(『コウヘイッ、タイマンじゃあ!!』) ★★★★★←ド本命つるつる無臭おまんこ舐めたいちゅっちゅ! 
神坂真奈美(夫が隣りに住んでいます)★★←人妻なので異臭はなさそうだがあまり興味なし
薫(おにいたんだいすき!) ★←親父の虐待で相当ヤリこんでるのでビョーキもってそう
菊川かなこ(ことのはぐるま)★★★←おまんこ吸って吸って吸いまくってプライドをずたずたにしてしまいたい
三神光(もう何も信じない)★★←あまり興味が湧かないが一応嗅いでおこうというレベル
西又囲炉裏(ワイヤード) ★★←余力があれば是非クンニしておきたい
香草さん(ぽけもん黒)★★←異種間はきつい・・・
258名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 01:16:35 ID:fuPcBHX/
>>256
GJ!
普通に面白かったです
259250:2009/12/09(水) 01:17:50 ID:W6z0zrya
GJ!!!!
マジでホームズネタ来るとは思わんかったww
晴美の演技にかなりワロタ。


校正作業のせいで割り込みかましてしまいました済みません。
260名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 01:52:56 ID:DpPXP3nk
>>256
おもしろかった!
あちこちからデレられそうで大変だな明智くん。
小林くんは飼い主から離されて逆に心が壊れて行ってるころだろうか。
261名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 09:27:33 ID:X+OAfJ3Z
二十面相がかわいすぎる
262名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 12:32:22 ID:DRzr7orl
GJ
タマヨ・・・ポアロカワユス

ところでタマヨ・・・ポアロが明智くんとセクロスするばあい人間の姿だと実態が無くて出来ないから、犬の姿で獣姦するしかないんです?
263 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/09(水) 13:00:25 ID:O9UzhNvy

 あのような事を書いておきながらまた書き込むことをまずは謝罪
致します。
 申し訳ございません。
 また書いて欲しいという書込みもあり大変嬉しく思ったのですが、
反面悩みました。といいますのも、私の書いたものが面白いか否か
という点です。
 そこで他の作者様の書いたものを何度も見直したり、書き方を見
直して、改善点を考えました。

 ・無駄な改行。
 ・話のテンポを早くしようしすぎて短い内容。
 ・テンポが速すぎて展開がうやむやな箇所。
 ・また短いために描写が足りない点。
 ・話の中で視点が変わる点。
 ・作り手として才能がない→この場合は直しようがありません。

 結果、物語に肉付けをし、もう一度書き直しました。また、視点
の変更はどうしても描きたいという我侭からそのままです。
 しかし、そこで問題が発生しました。
 恥ずかしながら私はそれなりに面白いのでは、という事を以前の
で思っていました。お分かりの通り、私自身の評価は当てにできな
いという事です。
 そこで皆様のお力を借りたいと書き込みました。

 スレ違い、ここは評価する場所じゃないというのも重々承知して
います。他のスレに投稿をと迷いました。が、私はここにもう一度
投稿したいと強く思いました。
 ですので、この一度だけお力を貸してください。
 今から私なりに改善した第一話を投稿しますので、問題点をお聞
きしたいのです。
 それでは投稿します。
264群青が染まる 01 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/09(水) 13:02:11 ID:O9UzhNvy

「伝説の竜を倒した英雄…始まり始まり!」
 わぁっ!と子供から歓声が上がった。歓声を受けて手書きの絵本を一枚捲る。
もう何度こうやってこの本を読むのだろうか。壊れた町並み。今尚、残る大きな
傷跡。
 以前は港街として栄えていたこの街はもうかつての面影はなかった。倒壊した
建物、瓦礫が至るところに置かれたまま。病室から溢れた怪我人。怪我をしてま
でも工事を手伝い人々によって復興作業は未だに行われている。そんな働く人の
ために、子供達のお守りをしている。
 よれよれの絵本をもう一枚捲った。
「昔々、あるところに悪い竜がいました…」
 子供は無邪気に目を輝かせて絵本を見ている。絵本の始まりはいつも突然で…
そして嘘で始まる。彼女と出会ったのは小さな丘だった。
 今日もいい天気だ。作業を後押しするかのごとく晴れた何でもない一日。ここ
最近降ってない雨に感謝しつつもまた一枚捲った。
 …暑くなりそうだな。まるであの日のように。始まりのあの日のように。
 
 ………
 ……
 …

 空が青く眩しかった。今日も晴れそうだな。陽の下に出た瞬間に照りつける光。
眩しい陽の光に目を細める。その中に紛れ込む弾んだ声達。
 明日はお祭り…皆喜んでいるのだろう。祭りの準備でいつもにまして活気付い
た町。そんな町で考えるは、彼方(かなた)のこと。まだ見たことのない遠く遠
く山の向こう側。

 ここブリードはあたり一面を山に囲まれた町。商人が多く訪れる町でもある。
 なぜこんな山に囲まれた町でと思うかもしれない。理由は…この山の何処かに
竜が住んでいると言われているからだろう。いや、住んでいるとは言えないかも
しれない。誰も見た事はないのだから。それでも、竜がいると信じられている…
多くの者が竜の森から帰ってこないから。それは竜と会ったため帰れなかったと、
多くの者が口を揃えて言う。それを子供達は毎日のように聞かされる。森には絶
対に入ってはいけないと。
 だから、この町では特に竜と言う存在は恐れられている。

 おかげでここは名誉のために訪れる騎士、力試しに訪れる傭兵等、様々な人が
多く訪れる。その人達を狙って、商売が盛んに行われている。時には武器が、食
料が、酒が。こんな山の中なのにそれなりに人で溢れている。
 そんな賑わいの中で俺は独りだった。
265群青が染まる 01 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/09(水) 13:04:00 ID:O9UzhNvy

 この町では、他の町とは違い竜を神として崇めている。商業発展の神としてだ。
いつからそうなったかもわからないが、今でも脈々と崇められている。なぜ恐怖
の対象をと思うかもしれない。それでも恐怖の対象であり、同時に富と繁栄をも
たらす者でもあった。
 だから、この町だけでは畏怖と敬意を込めて竜を神として崇める。いや、竜を
神として崇める町は他にもあるかもしれない。それは俺にはわからない。竜を殺
すほどの特別な力を持った一族もいるということも耳にしたことがある。
 ただ、自分が生きてきた間には竜に会ったことも、会えたということも聞いた
ことがない。ましてや、他の町にいるなどと聞いたことがない。
 …まだわずか21年だが。
 
 竜がいるのかどうかに疑問を持ったことはない。世界は広い。だからどこかに
は存在するだろう。この町から出たことがない自分にとっては、知る術はないが、
いつか、世界の全てを見たいと思っている。
 …約束したから。姉さんと約束した、もう一度会おうと。名前も顔も思い出せ
ない姉さんと。

 俺はこの町ブリードの近くに捨てられていた孤児だ。そのため親の顔も知らな
い。勿論兄も姉も弟も妹もいない。そんな俺を拾ってくれたのは、ドウィヤとい
うこの町1番の商人。勿論息子としてではなく、小間使いとしてだ。
 そのため、必要最低限の旅の知識、商売の知識は叩き込まれている。そんな養
父からつけられたトモヤという名は今ではもう馴染んでいる。
 幼い頃はこの町で生きて、この町で死ぬだろうと考えていた…皆と同じように。
 すっかり祭りの雰囲気となった町を抜けるように足を速めた。何かに背中を押
されるように。

 ……
 
「おい、これ」
 そう言って、大きな届け荷を渡される。この荷物を指定されたところまで届け
る。単純な仕事だが、重い荷物を持って何度も往復するのは大変だ。特に祭りの
今日は大変だ。
 …これが俺の主な仕事。
 もうずっとやっている仕事を今日も、同じように繰り返す。給料は端金。それ
も日々最低限の生活をすると枯渇してしまうほどの端金。娯楽も何もできないほ
どの端金。
 それを雇い主であるドウィヤに話すと、
「お前は拾ってやった恩を忘れたのか!」
と返されたきり、2度と話すなと言われた。それを特に憎いとは思わなかった。
命あるだけましだ…そう昔から割り切ってきた。そうじゃないと、悲しいから。
266群青が染まる 01 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/09(水) 13:05:47 ID:O9UzhNvy
 
「おつかれさん」
「おう、おつかれ」
「明日の祭りに誰と行く?」
「勿論、あいつとだよ」
「相変わらず仲がいいねぇ…」
「へっへっへ。うらやましいだろ」
「ああ、俺も女欲しいな」

 祭りのせいか、どこか気が抜けている人々を横目に黙々と働き続ける。明日は
一年に一度の竜のための祭典。町中の仕事が休みとなる。ただ、俺にとってはほ
とんど関係ないことだ。どうせ一緒に行く人もいないのだから。昔は姉さんと回
っていたのだろうか。曖昧な記憶から何も思い浮かんでは来なかった。

「…ただいま」
 出たときと変わらない静かな家。中からは何も返事はない。辛い仕事でもたま
に終わらないほうがいいと思う事もある。家に帰るとどうしても一人を意識して
しまうから。そんな殺風景な部屋の寝床に腰をかける。家具は必要最低限…いや、
必要最低限にすら足りないぐらいだ。
「生きているだけ幸せか…」
 今日も疲れたな。知らず知らずのうちに溜息が漏れていた。
 手が無意識のうちに受け取ったお金を取り出す。やっぱり端金…。増えもしな
いお金に溜息をついて立ち上がり、戸棚の上にある瓶を揺すると、中のお金が跳
ね返って音を立てる。少しだけ幸せな気分になれた。
 
 また、お金が音を立てて瓶の中で跳ね返る…今度は小銭が入った音で。こうや
って瓶の中にお金を貯めている。大分溜まってきたな。勿論、娯楽に使うわけじ
ゃない。
 もう十分かな…このお金は町を出るためのお金。
 もう十分かな…拾ってもらった恩は返しただろう。
 いつまでも一人の俺なんだから、この町に留まらなくてもいいだろう。窓から
見える月は何も答えず輝いている。
 そうだな、明日の祭りを最後に町を出よう。そう考えると、祭りの日というの
はいい区切りだったのかもしれない。
 …心が軽くなるのを感じる。明日晴れるといいな。
 軽くなった心とは違い、いつもと同じように布団は固く冷たかった。

 ………
 ……
 …
267群青が染まる 01 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/09(水) 13:07:22 ID:O9UzhNvy

「おまえ、親にすてられたんだってな」
「すーてごすーてご」
 子供達が甲高い声で囃し立てる。周りには僕を苛める子供達だらけ。その中心
に僕がいた…その子供達と同じぐらいの歳の僕が。
 …やめてくれ…。

「おい、なんとか言えよ!」
「…」
「おい!」
 容赦なく蹴りが飛んでくる。体のいいサンドバック。もう、うんざりだ。捨て
子だから、苛められるのか?僕が弱いから苛められるのか?

「そんな汚い格好で歩き回らないで欲しいものだ。私達の評判まで落ちる」
「全く、親の顔が見たい」
「はは、親がいないのに可哀相ですよ」

 笑いながら話す大人達。仕事場で待っているのは、嫌味だった。大人達が聞こ
えるように吐く。ドウィヤは、便利な道具として拾っただけだ。愛情などない。
 わかっていた。子供心ながらわかってはいた。それでも悲しかった。
 その日、部屋で泣きながら決めた…この町を出ることを。
 涙で濡れた枕の冷たさは、今でも覚えている。

 ………
 ……
 …

 嫌な夢を見た気がする。そんな重たい頭を払うように、顔を洗う。
「…はぁっ…」
 思わず声が漏れる…少しだけましになった。最後までいい思い出がなかったな。
 本当に…?姉さんは…?いつも耐えてきた。いつか姉さんが迎えに来てくれる
と。だけど…本当はいないのではないか?俺を必要としている人などいないので
はないか?
 胸がジクリと痛む。やっぱり俺は要らない人間…。わかっていたことだけに余
計に悲しかった。

 もう一度冷たい水を顔に浴びてから両頬を一度叩いた。もう何度見ただろう、
この鏡に映る痣を。いつもは服で隠れている首筋の奇妙な痣を一撫でして、顔を
今にも破けそうな布で拭いた。

 外は昨日にもまして活気に満ちていた。それとは対照的に足取りは重かった。
この活気が憎らしくて、羨ましくて。余計に独りだと自覚してしまうから。
 そうだな…こんな日ばかりは、戦士達も戦いを忘れているのかもしれない。い
つも眉間に皺が寄っている顔とは違い、笑顔が零れている戦士達。その隣には同
じようにように笑う仲間達。そんな人波は小山まで…竜の祠がある小山まで続い
ている。山道には出店が立ち並んでいた。
 あの先には竜を祭った本堂がある。彼等は竜を倒すために竜に祈るのだろうか。

 本末転倒で、少し笑えた。
268群青が染まる 01 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/09(水) 13:09:03 ID:O9UzhNvy

 ぶらぶらと人波を見ながら、人波とは逆方向に歩き始めた…見たい場所を探索
しながら。何度も見た町並み…だけど、これで見納めかと思うと、どの景色も新
鮮に感じられた。
 …ここで俺は育ったんだよな…。
 最後に、人がいない小さな丘まで辿りつくと、腰を下ろした。ここは家屋もな
く眺めがいい、人もほとんど通らない。だから、子供の頃はいつもここで泣いて
いた。悲しいことがあるといつもここに来ていた。
 向こうには竜を祭ったあの小山がある。それも一望できる場所…秘密の場所み
たいなものだ。灯りが一つの曲線のように連なっていて綺麗だった。小さく見え
る人影…あれなら俺でも勝てるかもしれない。
 そんな考えを浮かべては消した。

 もう少しすれば陽も落ちる。ここからが祭りの本番。きっと賑わっているのだ
ろうな。誰かと一緒に回っている自分を想像して、慌ててかぶり振った。幸せな
ことは考えない。もし、幸せが来なかったら絶望してしまうから。
 息が零れる。そんなことはこの町を出てから考えればいいと。きっと色んなこ
とがあるはずだ。不思議と今まで持っていたもやが晴れる気がした。
 真っ青だった空は…既に朱に染まっていた。

 それはとても綺麗な空だった。故郷にいながら望郷の想いに駆られる。思わず
目をつむりたくなるような…思わずこのまま自分がいなくなるような、そんな気
持ち。このまま目を瞑れば、俺はいなくなるのかな?
 強い風が吹いた。自分がいなくなるかと思うほど強い風。丘を山を撫でるよう
に草花を掻き分けて吹き抜ける。草が花が風に気持ち良さそうに凪いでいる。そ
れが合図だった。

 強く強く目を閉じた。

 風は強かった。思わず、自分が飛んでしまったのではと思うほど強かった。そ
れでも、とても気持ちいい風だった。
 ああ、この風が吹き抜けたら町を出ようと、荷物を持って町を出ようと。そう
決めた。
「…いい眺めだ」
 誰もいなかったはずの場所から、自分の背中から、聞こえた声に慌てて振り向
いた。

 …時が止まったようにも思えた。

 その瞳は、はっきりしていた。その瞳の色は、過ぎ去った空の青を俺に思い起
こさせた。その女が何かをしたわけでもないが…ないが、体を蠢くものがあった。
 …これは…恐怖…?
「い、いいいいいなが、がめ、だね」
 喉が焼けたように、上手く喋れない。喉の奥に何かがつっかえている。
 そんな俺に、興味を失くしたように女の視線が外れる。途端にかかっていた重
圧が軽くなった。
 慌てて深く息を吸う俺とは違って、女はただただ、向こうを眺めていた。その
女の横顔はとても美しかった…人とは思えないほどに。その髪は風にたなびいて
揺れた。まるで世界を覆うように。俺の目は彼女を捉えて離さなかった。
 それは恐怖?それは見惚れてた?
269群青が染まる 01 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/09(水) 13:10:34 ID:O9UzhNvy

 どれぐらい時間が過ぎただろう。数秒…数分?長くて短く、短くて長い時間だ
った。
 ふいに、女が指を向けた…光が灯る小山に向けて。
 女の指の先には夕日に隠れて色が見づらい、赤い灯篭が人波と一緒に走ってい
る。ふと、祭りのことを聞いているのだと理解した。
「き、今日は祭りなんだ」
 まだ舌が痺れているように回らない。
「竜にかかか、感謝する日と言ったほうがいいのかな」
 それを知らないということはこの町の人間ではないのだろう。
 いや、この違和感、人ではないのかもしれない。そんな現実離れした事ですら
受け入れられた。

 ――

「我を祭るとは…おかしなことだな」
 本当におかしなことだった。一方的に敵としているのは人間の側なのに。いつ
でも我らを敵として戦いを挑むは人間。我らはそれら全てを受け入れてそれに応
じるだけ。
「え…?」
 人間の顔が驚きに満ちる。信じる信じないはどうでもよかった。ここにこの人
間がいて、此方(こなた)に降り立った…ただそれだけだ。

 朱に染まった空は既に夜の帳を迎えようとしている。
「…そなたに案内を頼もう。報酬は命だ」
「い、命?!」
「…そうだ」
 人間、それも命をとして戦う人間ではない人間。だが、人間よ。汝(うぬ)ら
は特に己が命が惜しいのだろう?古来からそうであったように。

「ど、どこに…?」
 どこに、か…。答えに少しだけ言い淀む。
「…我ではない我がいる場所までだ」
「もし、もし見つからなかったら…?」
「その時は手間賃として、そなたの命を助けようぞ」
 瞳が人間を捉えるたびに、人間は竦みあがる。人間は矮小だと、決め付けてい
た。それは圧倒的な力の差、それが生んだ結果だとはこの時からわかっていた。

 そうわかっていた。それでも、人間を矮小と思い己を過大評価した。己が自身
の脆さに気付かずに。
 …もしかすると、誇りの高さ故に気付いてながら見ない振りをしていたのかも
しれない。だが、確かに我は求めた…この孤独を埋める何かを。そして、それは
得ようと考えればいくらでも得れるものと、力ある我なら他愛ないことだと勘違
いしていた。
 例え、それを知っていたとしても、もはや、動き出した想いを止める術は既に
なかった。
270 ◆ci6GRnf0Mo :2009/12/09(水) 13:12:26 ID:O9UzhNvy

以上で投稿を終わります。
また、このことで他の作者様にも大変ご迷惑をおかけしているこ
とを申し訳なく思っています。
271名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 13:42:46 ID:POMaxtGv
申し訳なく思うだけで自分の都合を前面に出したら一緒じゃないでしょうか。
272名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 13:44:11 ID:TsqLrqWF
別に好きにすればいい。
273名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 14:18:29 ID:uMlo+VMY
>>270
誰に遠慮することなく自分の好きなように書いていこうぜ
表現なんて後からついてくるさ。エンジョイアンドエキサイティングで行こうぜ!
274名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 15:15:39 ID:X+OAfJ3Z
どんどん続けていって欲しい
275名無しさん@ピンキー:2009/12/10(木) 08:27:44 ID:8TrAiRGC
また、始めから…?
276名無しさん@ピンキー:2009/12/10(木) 13:29:30 ID:80WxWSp/
>>270
GJ!!
これからもっと頑張ってほしい、期待してます。
277名無しさん@ピンキー:2009/12/10(木) 22:59:37 ID:FmJQxIDD
質問があるのですが、相反する2人はもう少しテンポ良く進めた方がいいでしょうか?

278名無しさん@ピンキー:2009/12/10(木) 23:05:30 ID:gtgEfboo
>>270
乙、頑張って
279名無しさん@ピンキー:2009/12/11(金) 01:08:25 ID:gAZLou+/
>>277
好きにするといいよ


でも個人的には焦らされた方が(ry
280名無しさん@ピンキー:2009/12/11(金) 01:49:15 ID:cWkNvRq3
>>277
構って乙
281名無しさん@ピンキー:2009/12/11(金) 02:02:28 ID:vetAh//p
投下する・しない、そして書き直す・しないは作者次第。俺たち読み手はただ読むだけ何だから好きにすると良いと思うよ。
282名無しさん@ピンキー:2009/12/11(金) 07:49:55 ID:BBSVf/9w
読み手に出来るのは全裸ネクタイ靴下で座して待つことのみ
病んだ精神在らば冬とて問題無い
283名無しさん@ピンキー:2009/12/11(金) 10:52:30 ID:hZD9xceB
書き手あっての読み手。
逆を言えば読み手あっての書き手。
284名無しさん@ピンキー:2009/12/11(金) 12:41:47 ID:2jnqp/Yk
ようするに味王が悪いと
285名無しさん@ピンキー:2009/12/11(金) 16:23:30 ID:eLHmOvrl
>>277
ペース上げろ
じゃないと風邪引く
286名無しさん@ピンキー:2009/12/11(金) 22:55:34 ID:ckREgm4w
せめてコタツ入れw凍死されてもかなわんw
独身の男が真冬の夜中
自宅に帰ったら部屋の暖房付いてて、危ないなぁでもあったけぇなあと思いつつコタツに入ったら…
いきなりフェラチオされた!布団をめくるとそこには顔見知りの女の子が!
心あたたma…いや…ホラーだな。
287名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 00:09:12 ID:uasjhLwR
>>286
さ、その妄想をSSにする作業に戻るんだ
まだ雪積もっていないとは言えこっちは寒さがこたえるんだ
288名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 00:13:50 ID:XbdPmZjg
サブマシンガンを二挺もちして突撃するスタイルにしてようやく少しは見られる成績になってきた
でもこのスタイルで一番脳汁が出る瞬間は敵を倒す瞬間じゃなくて
敵に弾幕を張りながら必死に撤退している時
どうやらレイプされすぎてどうにかなってしまったようだ
289名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 00:14:10 ID:XbdPmZjg
ひどい誤爆だ・・・面目ない
290名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 17:52:01 ID:QJTnyDqg
サブマシンガン二挺で雌猫を始末する
金髪長身のヤンデレ軍人が浮かんだ
291名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 22:29:02 ID:zh5p8LnI
雨合羽と機関銃
292名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 23:03:56 ID:SnwoV/AE
キリストの誕生祭が今年もやって来る
今年こそヤンデレな妹をサンタさんにもらわないとな
293名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 00:39:48 ID:Cg9KvGpL
もし美少女サンタをヤンデレ化させたらどうなるか
サタンになるのである
294名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 02:10:43 ID:AVGKy4Ts
>>288 で妄想した。

「命中率25.2%。射撃は並以下か、ダメダメだなこりゃ…」
「ごめんなさい、次からがんばります…」

-本土決戦につき教育部隊は実戦と並立して課程を履修させよ-
「おい、最初で最後の出撃になるなよお前等。授業で教えた通りやれ。」
「教官、私、数でカバーすることにしました!重機関銃は重いからサブマシンガン使います。」
「他の奴も一発撃つところを必ず二発撃て、新兵はよく外すからな。」
西区6〜中央区3戦区撤退戦終了後
「せんせーほめてほめて!私ね今日の撤退戦で三十人しとめたんだよ。」
「よくやったな…戦区イチのエースだ。(依存してきているなこりゃ、転戦手続きとるか…)」
四日後
「ということだから、卒業まで南区2〜5戦区の教育部隊に転属だ。」
「上層部はエースによる独立部隊を作るつもりらしい。卒業したらたぶんそこの隊長任されるは…」
「イヤだ!先生じゃなきゃイヤだ!お願いだから私を捨てないで!」
深夜、教員寮
「先生が私のモノにならないならこんな世界いらない。」
「落ち着け、銃を下ろせ…待ってくれ…」
タタタタタタタタタタタタ        
295名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 02:32:14 ID:qE8911Q8
なぜか微笑みデブを思い出した
296名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 14:01:28 ID:nz2cJf4V
病国のイージス

「盗られる前に消す。それがヤンデレ恋愛の鉄則です。
それが出来ないヤンデレに男を守る資格はなく、
それが認めない日本に国家を名乗る資格はない」
297名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 17:28:03 ID:6ERlRzmA
ヤンデレコマンドー

男とのラブラブ生活に過去、蹴落としてきた雌猫共が襲来。

「お前は殺したはずじゃ…」「残念ね。トリックよ」
「男君は私が可愛がってあげるから」「面白い豚ね、気に入ったわ。殺すのは最後にしてあげる」
「(男に)良いトコ見せましょ」
「ターゲットは緑のTシャツ、鉈を持った眼が腐ったドロドロヘドロの雌豚だ」
298名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 18:17:29 ID:AVGKy4Ts
生首抱えたヨットの娘を助け、旅客機墜落事故の生存者達を救出したあたりから異変は始まる。
海士と先任伍長が艦を取り戻すために戦うが…強い男好みの女戦闘員に監禁される。
そして彼女達は自分達を追いやった泥棒猫とその周りの世界に対して復讐を開始するのだった…

《ギリシャ神話に登場する、どんな攻撃も跳ね返す楯。それがイージスの語源だ。
しかし現状ではイージス艦を始めとする自衛隊装備は防御する国家を失ってしまっている。
亡国の楯だ。》

「本艦は現時刻をもって自衛艦隊からの脱退を宣言する。」
護衛艦いそかぜはどこに向かうのか…
「本艦所有ミサイルの弾頭は通常に非ず。」
果たして日本政府はどう決断するのか…

亡国のイージス《病み成分添加版》劇場版 
次週地上波初登場!乞うご期待
(※一発ネタです本編ありません)                
299名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 19:35:37 ID:+kbLL4sI
ロボットものにヤンデレ少女はありかね?
300名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 19:47:00 ID:qxmJnPlE
>>299
ぜひともハッピーエンドにしてほしいなぁ
301名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 19:48:26 ID:qxmJnPlE
sage忘れてた><
ごめん
302名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 20:01:57 ID:0I2bvOJ3
許さないよ……!
sage兄さんの気持ちを無視してageさんとあんなことするなんて……!
それでsage兄さんの方がいいと思ったら、謝ってsage兄さんの方に来るなんて、絶対許さない。
私の、私のsage兄さんがどれほど傷ついたと思ってるのよ!




ヤンデレの発する「許さない」という言葉はいいな
303名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 20:21:43 ID:8NhZgfmF
>>302
最後のENDは実妹にウェディングドレスを着せるというマニアプレイでした
304名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 20:50:34 ID:5+kZnyNI
メイン
305名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 22:08:54 ID:w5eY9dqi
306名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 23:03:22 ID:uJs1YfE0
test
307 ◆AW8HpW0FVA :2009/12/13(日) 23:24:15 ID:uJs1YfE0
規制が解けましたので投稿します。
忘れてるでしょうが、変歴伝ではないほうです。
第六話『シグナム・ファーヴニルの喪失』

シグナムの手に入れた聖剣は、どちらかといえば魔剣みたいだった。
柄は黄金で、見たこともない文字が刻まれており、
鍔には銀のヤドリギが巻き付き、刀身は血の様に赤い。
そんな聖剣を前に、朝からシグナムは悩んでいた。剣の名前が分からないのである。
別にこのまま聖剣で押し通してもいいのだが、それではあまりにも味気なさ過ぎる。
ここはかっこいい名前を付けた方がこの剣も幸せであろう、とシグナムは考えたのだ。
「ふぁ…、朝からなにをしているんですか、シグナム様?」
そんなシグナムに、起きたばかりのイリスは、眠気を孕んだ眼を向けた。
「あぁ、実はこの剣に名前を付け様と思ったんだが、いいのが思い付かなくてな…」
一瞬、イリスの意見も聞いてみようかとシグナムは思ったが、すぐに止めた。
イリスの頭の悪さは折り紙付だ。とんでもなくアホそうな名前を言いそうである。
しかし、それを聞いたイリスは目を輝かせ、
「面白そうですね。私も剣の名前を考えますよ」
と、言って、シグナムの傍に勝手に座り、考え込み始めた。
しばらく唸っていたイリスだったが、なにか思い付いたらしく、シグナムの肩を叩き、
「シグナム様、いい名前が思い付きましたよ」
と、目を輝かせて言った。まったく期待出来ないシグナムだが、聞く体裁だけは整えた。
「エクスカリバーっていうのはどうですか?」
イリスの口から放たれたのは、思いの外まともなものだった。
「まともなことも言えるんだな…。だが、ありきたりすぎるから却下」
半ば感心しつつも、シグナムはその提案を取り下げた。
「むぅ…、じゃあ、ミスティルレヴィティンってのはどうですか?」
「なんだか、人も魔物も神も世界も、全部壊して自分も死にそうな名前だな…。…却下」
「あぅ…、じゃあ、シグラムでどうですか?」
「かっこ悪いし、なんか軽そうだから却下」
次から次へと提案を取り下げられ、イリスは涙目になってきた。
これらのことがしばらく続き、最後の最後にイリスは、
「うぅ…、じゃあ、シグナム様のご先祖様の名前から取って、シグルドでどうですか!?」
と、怒鳴り声とも泣き声ともいえない口調で、シグナムに言った。
最後の提案は、シグナムの心を打ったらしく、しばらく黙考した結果、
「おぉ、それが一番しっくり来るな。それで決定だ」
と、満足そうに言った。
聖剣の名前がやっと決まり、シグナムは嬉しそうだったが、
イリスは疲れてベッドに倒れ込み、そのまま眠ってしまった。
しかし、その眠りもそう長くは続かなかった。
「服を買いに行くぞ」
叩き起こして早々、シグナムはそう言った。
イリスが二度寝してから、まだ四時間しか経っていなかった。
「シグナム様、私、服だったらこれで十分ですよ」
イリスは着ている黄色の服の縁を摘んで見せた。
「駄目だ」
そんなイリスを尻目に、シグナムはイリスの目の前を早足に歩いている。
「大体な、そんなアホな服を着ているから戦闘中に奇行が止まらなくなるんだ。
病は気から、奇行は服装からっていう言葉もある。
つまり、普通の服を着れば、奇行は治まるし、見てくれもよくなるって訳だ。
べっ…別に、その服を見てると殺意が湧くとか、そんなことは思ってないからな!」
「シグナム様、それはツンデレじゃないですよ…」
イリスのつっこみを無視し、シグナムはさらに歩く速度を上げ、店に向かった。
この世界では、服を買う所は防具屋と決まっている。
魔物がいるのだから当然といえば当然だが、やはり、普通の服に混じって、
鎖帷子や鎧が混じっているのには違和感を覚えざるを得ない。
そんな雑然とした中から、シグナムは強化服を取り出した。
特殊繊維を織り込んだそれは、服の中では最強の防御力と機能を兼ね備えた逸品だ。
早速イリスにそれを着せてみたが、試着室から出てきたイリスの一言は、
「チクチクして気持ち悪い」
と、いうものだった。
我慢しろというシグナムの言に、イリスは子供の様に駄々をこねて抵抗した。
結局、この抵抗に負けて、ワンピースで妥協することとなった。
ここから先は妥協の連続だった。
重いとの理由で皮のドレスはエプロンドレスとなり、
それと同様の理由で皮の盾はお盆、ダガーはお玉となり、
可愛くないとの理由でスチールブーツは皮のブーツとなった。
妥協に妥協を重ねた結果、そこにいたのはメイドだった。
ご丁寧にカチューシャを付け、どこで見付けたのかニーソックスを身に付けている。
イリスもその格好が気に入ったのか、その場でくるりと一回転して見せた。
「お前はどこかの金持ちの家に仕えるつもりか!」
シグナムは思わずつっこんでしまった。
宿に帰ったシグナムは、聖剣シグルドの刀身を再び見つめていた。
真っ赤な刀身に光が当たり、反射して出来た日溜りが、まるで血溜りの様に見えた。
剣には作った者の魂が宿るという。
聖剣シグルドの見た目は、禍々しい魔剣のそれであるが、
握ってみると、これといってなにか邪悪な気が流れ込む感じがしなかった。
だからといって、聖なる気が流れ込む感じもしなかった。
これはいったいどういうことであろう。
まさか偽者でも掴まされたのではないかと思ったが、すぐに考え直した。
あれほど痛い目に遭ってやっと手に入れた聖剣なのだ。
きっとなにか隠された力が宿っているに違いない。
そうと決まれば、とシグナムは立ち上がった。
「シグナム様、どこに行くんですか?」
急に立ち上がったシグナムに、イリスは声を掛けた。
「剣の性能を確かめに行くだけだ」
手短にシグナムは用件を伝えたが、イリスはなにを勘違いしたのか、
「辻斬でもするんですか?」
と、とんでもないことを言ってのけた。
シグナムは咄嗟に作った灰のハリセンで、思いっきりイリスの頭をぶっ叩いた。
スパーン…、といい音が響いた。
「いっ……たぁあああああい!なにするんですか!」
「お前が阿呆なこと言うからだろ!魔物と戦って性能を確かめるんだよ、この馬鹿!」
再教育のためにもう一発叩き込んでやろうかと思ったが、さすがにそれは止めた。
シグナムは灰のハリセンを消し、さっさと部屋から出て行こうとした。
「あっ、シグナム様、私も一緒に行きます」
右手にお盆、左手にお玉を装備し、やる気に満ちた表情をイリスは見せたが、
シグナムは露骨に嫌な顔をした。
正直、イリスと一緒に戦うのはうんざりだった。
イリスは、寒い、役に立たない、敵を呼ぶ、の三拍子揃ったマイナス三割打者である。
そんなのと魔物のテリトリーである町の外に出れば、今度こそ共倒れ確実である。
仲間を庇って死ぬ、という自己犠牲は美しいものだろうが、
訳の分からない踊りや歌を歌っている奴を庇って死ぬ、というのは幾らなんでも嫌過ぎる。
なので、シグナムが、
「お前はここで留守番してろ」
と、言うのは当然のことであった。
「えぇ〜、せっかく新しいポーズを考えたのに…」
ポーズが一体なんの役に立つのか、とシグナムは聞きたくなったが、
阿呆らしいので口には出さなかった。
「とにかく、日暮れまでには帰ってくるから、それまでは大人しくしてろ。いいな」
シグナムはそうイリスに釘を刺すと、部屋から出て行ってしまった。
シグナムは、ニプルヘイムの南にあるアンブロシア山に来ていた。
出てくる魔物は、大体今までのと同じだった。
集団で襲い掛かっては来るが、今のシグナムの敵ではなかった。
しかし、シグナムは不満顔だった。
「やっぱり、この剣にはこれといった力は感じられないな…」
シグナムの振るっている聖剣シグルド。
戦っていればなにかが起こるのではないかと思ったが、実際はなにも起こらなかった。
属性攻撃が出来るとか、衝撃波が出るとか、空間を切り裂けるなど、
そんなことを期待していただけに、シグナムの失望は深かった。
唯一救いがあるとすれば、刃毀れせず、折れず、切れ味が凄まじいということだが、
それだったら、武器屋に売っている剣で十分に間に合う。
「所詮、伝説は伝説…か…」
ふとそう呟き、シグナムは近くの木の下に腰を下ろした。
六ヶ月も掛けてここに来た意味はなかったと思うと、シグナムはやるせなくなった。
さらに幾度か死に掛けたことを換算すると、最早やるせない所の話ではなかった。
「魔王討伐…止めようかな…」
思わずそんな弱音も飛び出したが、シグナムは自分の頬を強く引っ叩いた。
自分らしくもない。以前のなんにもない時に比べれば、
今は十分すぎるくらい恵まれているではないか。
この様なことでへこたれている場合ではない。
シグナムはネガティブ思考を振り払い、再び立ち上がった。
「差し当たって、新技の研究でもするか」
シグナムは聖剣シグルドを握り締めると、新たに現れた魔物に向かって走り出した。
とりあえず、何個か新技を間に挟みつつ、堅実に敵を倒していった。
その中に、前に使用した灰で自分の姿を消すという技を使ってみたが、
魔物はまったく怯むことなくシグナムのいる場所に攻撃を仕掛けてきた。
どうやら、魔物は目だけではなく、鼻や耳などで気配を察知することが出来るみたいだ。
この技は対人間用だな、とシグナムは見極めた。
戦闘は、あっという間に終わった。
シグナムは地面に剣を突き刺すと、杖の様に凭れ掛かった。
「あぁああああ〜、シグナム様ぁ〜」
休憩中のシグナムに、今最も聞きたくない声が聞こえた。
走ってやって来たのは、見間違えるはずもない。イリスだった。
「馬鹿…、部屋で留守番してろと、あれほ…」
シグナムがイリスの方に振り向いた瞬間、
殺したはずだった魔物が、シグナムに襲い掛かってきた。
殺気を感じたシグナムは、すぐさま回避行動を取ったが間に合わず、
シグナムの右腕は、魔物によって食い千切られてしまった。
312 ◆AW8HpW0FVA :2009/12/13(日) 23:29:24 ID:uJs1YfE0
投稿終了です。
313名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 23:34:02 ID:5+kZnyNI
目立つ
314名無しさん@ピンキー:2009/12/14(月) 00:01:29 ID:nyhApx33
GJ!
315名無しさん@ピンキー:2009/12/14(月) 02:46:15 ID:CdW/UQqq
GJ
焦らす展開たまりません





P.S.
さきねぇ、ひめねぇを全裸待機してます
316名無しさん@ピンキー:2009/12/14(月) 03:49:55 ID:dXDqhqKh
日曜愛憎劇場
〜魔法使い人妻サリーさん〜
魔法使いサリーさん(新婚若奥様22歳)は魔法のコンパクトを使っていろいろとできたりするのだ!
(用途・主に変身したり変身させたり撲殺したり刺し殺したり)

結婚した旦那さんと逃げるように引っ越してきた町には危険な敵がいっぱいです。
刺激に飢えた隣の若奥様、三軒隣の美人未亡人、男に飢えた女子大生、旦那の上司の娘、追っ手、警察などなど。
安息の日々を手に入れるため、今日もサリーさんは大忙しです。

「テクマクマヤコンテクマクマヤコン、醜い雌豚にな〜れ!」
キラキラキラーン!
「テクマクマヤコンテクマクマヤコン、薄汚い泥棒猫にな〜れ!」
キラキラキラーン!
「テクマクマヤコンテクマクマヤコン……フンッ、フンッ、オラァッ!!」
ゴッ、バキッ、グシャリッ―――
「テクマクマヤコンテクマクマ……死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね―――」
ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ―――

サリーさんは大忙し。旦那さんに近づいてくる雌共を畜生に変えたり屠殺したり撲殺したりハプニングの連続です。
エプロンを返り血に染めながらサリーさんは溜め息を吐きます。マリッジブルーというやつです。
サリーさんに平穏な日々は訪れるのか? 行方不明のサリーさんパパはどうなったのか? 旦那さんは昇進できるのか―――?
今宵もサリーさんの右腕が唸り、包丁が闇夜に輝く。必殺のシャイニングウィザードが泥棒猫に突き刺さる!!

新番組『魔法使い人妻サリー』日曜午後9時放送開始!!(一部地域によって放送規制あり)


こんなネタを思いついて数時間後の仕事に備えて眠る日々です。変歴伝読みてぇなあ。
317名無しさん@ピンキー:2009/12/14(月) 23:39:40 ID:z8YK0QYD
コンパクトで人を刺し殺すあたり
なかなかマッチョなご婦人のようですね
318名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 05:16:50 ID:SEm1B8l1
>>312
GJ
319名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 05:53:55 ID:koSg+qlm
>>316
赤塚不二夫と横山光輝を混ぜるとは剛毅な・・・
らみぱす、らみぱす、るるるる
320名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 21:20:31 ID:Mosm6vLT
「・・・うう、ここはヤン子の部屋。どうしてこんなところに」
「私が薬で眠らせて連れてきたのよ」
「何故?どうしてそんなことを」
「あんたがいけないのよ。幼馴染の私を差し置いてあんな女とイヴを過ごそうとするから」
「ああ、もうこんな時間かよ。大遅刻じゃないか!」
「行っても無駄よ。あいつはデレ男の奴隷として調教してやったから。今頃、あいつの上で喜んで腰を振ってるわ」
「・・・」
「そんなことよりプレゼント頂戴よ」
「お、お前になんか用意してねーよ」
「大丈夫。今から準備すればいいんだもの。私、10ヶ月なら余裕で待てるから」
聖なる夜にも浄化できないものがある。
321クリスマス+夜の外出=サンタ:2009/12/15(火) 23:18:16 ID:emJSZcVy
ウチの姉貴が最近夜に出かけていく。
何処に行くのか聞いても「オニイサンの部屋に行くの」としか答えてくれない。
ウチは両親、俺、姉貴の四人だけだ。親戚は女ばっかりだし、幼なじみが居る訳でもない。
親父の隠し子…姉貴が知っているならみんな知ってる筈だからそれは無い。
なによりバレた時点で母さんにブチ殺される。…比喩抜きで。
つー事はアレか?彼氏でも出来たか?しかも結婚前提か?伊藤さんちの誠くんみたいな女殺しが来て
「HAHAHA!!!君が弟君か!よろしくな!今度行き付けの店に連れて行ってやるYO!!」
とか言っちゃうクチか! 義理の弟と風俗って…マズイだろ主に俺の生命が。
ん?伊藤?どっかでこの状況見た気がしてたが…だとしたら姉貴、言葉ポジじゃないか!
飛ばれんのも、鮮血の結末も勘弁してくれ!俺、グロ耐性皆無なんだよ! 
…いかん、暴走していた。俺は何つー事を考えていたんだ。ウチの姉貴が鋸使えるか?無理だな。
技術の実技点皆無の姉貴が首やれるわけがない。
ほら、帰ってきた。サンタコス以外は普通だ。血も付いてない。
小道具…いや大道具?の袋まで用意しちゃって…こだわるなあ…
322名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 23:20:01 ID:5XKYngLP
惨多
323名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 23:55:55 ID:edt0eXqX
>>320
大好物ですワッフルワッフル
324名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 03:20:41 ID:a+v26GGe
キモ姉妹スレの糞つまらないSSもどき垂れ流す奴が本格的に流れてきたのか
325名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 09:37:35 ID:GFJlgQyw
>>324
このスレも似たり寄ったりだろ。
326名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 15:09:30 ID:kerxxyEY
内容どうこう以前に、>>1に書かれてるルールを守らない奴が増えてきたのが気になる
327名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 16:05:54 ID:EHgZj2lK
■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。
328名無しさん@ピンキー:2009/12/18(金) 21:32:39 ID:K9NzIrNl
派手 目立つ
329名無しさん@ピンキー:2009/12/19(土) 02:41:30 ID:Vo71M3hP
「不安なマリア」はどうなったんだろうか。
作者さん規制に巻き込まれてなければいいけど
330名無しさん@ピンキー:2009/12/19(土) 03:35:05 ID:Oe4tBYmT
大粛清の様な規制の嵐が吹き荒れていたからなあ…何処のスレも減速・停止気味だなぁ。
見たとこ、ここも規制によるスレ停止の際、保守代わり?の小ネタで繋いでいたっぽいし
331名無しさん@ピンキー:2009/12/19(土) 12:02:28 ID:2H2djxzV
全部鳩が悪い
332名無しさん@ピンキー:2009/12/19(土) 15:50:23 ID:ZM3hR3q2
「不安なマリア」は盛り上がってきた所で音信不通だから気になるな。
で、大規模規制ってまだ続いてんの?
333名無しさん@ピンキー:2009/12/19(土) 23:45:29 ID:XcUUMSx5
メイン
334名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 00:10:09 ID:19S8AU3u
前に言っていたロボットもの
投下してみたいと思います
335ニーベルンゲンの歌 第一話:2009/12/20(日) 01:36:58 ID:19S8AU3u

西暦20XX年
人類は、異世界からの襲撃を受けた。
それは秘密裏に、世界各国の政府によって水面下で処理される筈だった。
しかし、異世界の軍隊の所有する人型兵器は人類の兵器を圧倒し、蹂躙した。
人々は事態を理解する間もなく滅亡するかに思えた。が、異世界にも味方はいた。
異世界の軍勢が所有する人型兵器、通称『シグルス』
それを手に入れた地球の軍と異世界軍は均衡状態にあった。
これは、その戦火を駆けた少年少女の、狂愛の物語

* * * * *

「…眠いなぁ」
帰り道の坂を下っている少年。彼の名前は貴志堂 生(きしどう いきる)。今年高校二年になったばかりだ。
坂を下りた先の桜並木は桃色の吹雪を散らしている。生はその道の端を歩きながら、大きな欠伸をしてそう言った。
部活にも入らずにフラフラとしているが、毎晩のランニングと腹筋だけは欠かさない。
中一の時からの癖のようなものだ。
更に今日が土曜日ということも手伝って、彼の眠気は並々ならぬものとなっていた。
今日も変わらず、そんなことをするのだろう、と心の奥底で安心している。
それは、日常に隠れた確かな平穏。しかし。
少年の平穏は、音を立てて呆気なく終わりを迎えることになる。

* * * * *

突然轟く爆発音。閃光。爆風。小さな振動。
「な、何だよ一体…え!?」
少年の目に映ったのは、崩れ落ち、燃え盛る民家。その後ろには、巨大な人型のロボット。
「な、んだよアレ…化け物、いや…ロボット?」
片手にグレネードランチャーのようなものを構えている。
(い、急いで逃げないと!!)
少年の体を恐怖が支配した。生は脱兎の如く我が家のある方へ走り出した。
(あの曲がり角、あそこを曲がれば…)
そこで少年が見た物は、他の家と何ら変わりなく燃える家だった。

「……………は?」
その一言、いや、一音を紡ぎだすのに何秒もかかってしまった。
今日は土曜日、今は昼食時、家族は恐らく全員…
「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァ!!!!!」
生は訳もわからず駆け出した。
元自分の家、今はただの瓦礫と化したものを取り去っていく。
その奥から、細い腕が現れた。左腕、指輪をしているので母さんだろう。
「母さん、今助けるから!」
埋まっている体の上から瓦礫をどかす。
しかし、そこには何も見えなかった。
「…え?」
そこに転がっていたのは、指輪をはめて、根元から千切れた左腕。

「そ、んな、は、ははは」
生はその場に膝をつく。
そこに大きな影ができた。さっきの巨大なロボットだ。
そいつは生にハンドガンの銃口を向けた。
(俺、ここで死ぬのかよ…こんなわけわかんねぇ状況で…)
(いや、嫌だ、死ぬのは、嫌だ!父さんも母さんも雫も、テメェらが殺したのに!
テメェらが死なねぇのは納得いかねえ)
(死にたくない…殺したい、奴らを、この手で、殺したい!!)
バァン!!
響く銃声。巨大な薬莢の落ちる音。そこには、舞い散る筈の鮮血はなかった。
変わりに、生を守るように手を翳す、巨大なロボットの姿があった。
336ニーベルンゲンの歌 第一話:2009/12/20(日) 02:45:05 ID:19S8AU3u

「あ?何だよ、お前」
突然現れたもう一体のロボット。漆黒の騎士のような外見をしていた。
そいつは銃を向けたロボットを突き飛ばした。
胸部から、おそらくロボットのコックピットと思われる部分が飛び出した。ロボットは生にその巨大な手を差し出した。
「俺に、乗れってか…ははっ、いいぜ、乗ってやるよ」
生を乗せた巨大な手は、彼をそのままコックピットへ乗せる。
生は、真ん中の球体に手を翳した。何故かそうしないといけないと思った。
球体に触れた途端、生の腕に痛みが走った。
「ぐ、ああああぁぁぁぁぁぁ!!」
咄嗟に手を離そうとするがかなわない。数秒間痛みに耐え、ようやく手を離すことが出来た。
生は自分の手を見た。指先から肘の辺りまで、機械の回路のような模様が刻まれていた。
端から見れば不気味なものに見えるが、生は何も嫌悪感のようなものは感じなかった。
そのまま両端にあるレバーのようなものを握る。一瞬で、手に取るように操縦の仕方が解った。
と、いうよりも寧ろ、生自身がこの巨大なロボットになった感覚だ。
目の前にこの世界の文字が映る。余談だが、翻訳機能が付いていたりする。
「ジーク、フリート…それがお前の名前か。…よし、行くぜ!」
既に突き飛ばしたロボットは立ち上がっている。それどころか他のロボットまでこっちに注目している。
数は三。どれも同じ外見をしている。つまり定石でいえば奴らは量産機。
「さあ行くぜジークフリート!!」
生は一番近いロボット、さっき突き飛ばしたものに突っ込んだ。
ジークフリートは絶えずホバリングしてるため、かなり素早く動ける。
敵が動く暇もなくその頭部を左腕で掴まれる。右腕は胴に翳されていた。
そして次の瞬間には、その頭は吹き飛び、胴は上半身と下半身に真っ二つに分断されていた。
ジークフリートの両腕からは杭のようなものが伸びている。パイルバンカーという兵器だ。
「次!!」
他の二体は警戒してグレネードを構えている。
生はジークフリートのサイドアーマーから、バヨネット付のサブマシンガンを二挺取り出し両手に構えた。
躊躇うことなく引き金を引く。敵のロボットの装甲に着弾する。
しかし後退する気配はない。生は撃ちながら一歩、また一歩と前進していく。
ある程度近づいたところで一気に駆け出した。両方の胴の部分に銃剣を突き刺す。そのまま撃ち続けた。
ベルト給弾式のサブマシンガンの弾丸が切れる頃には、一機目と同じ様な有様になっていた。
「はぁ、はぁ、はぁっ、ふぅ…」
呼吸を整えてから周りを見る。何度見ても変わらない赤く染まる街だった。

* * * * *

ジークフリートから下りた途端、何処かへ消えてしまった。
もう一度腕を見る。薄らとではあるが、まだ回路のような模様は消えてはいなかった。
(何だったんだよ、一体…それより)

これからどうなるのかな

誰かに問いかけるように、天涯孤独となった少年は言う。
そこにはただ、小さな小さな戦争の残り火しかなかった。


その残り火の中に立ち尽くす少年を見る影。
「ようやく見つけた…私のナイト…フフフッ」
337名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 02:47:24 ID:19S8AU3u
とまぁ、こんな具合に進むかな
病みはしばらく後になりますかねぇ…
338名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 04:11:34 ID:g1FK0n4Y
厨二病という名の病みも悪くはないな…
339名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 07:20:21 ID:CqwM996X
わーw読んでるとニヤけがとまんねぇw
GJ!!
340名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 07:25:46 ID:7RHwasgx
厨ニ過ぎてなんかムズムズする
341名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 11:27:19 ID:6oYeP5cm
昔、似たような妄想をしてた自分を思い出したわ
342名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 11:42:42 ID:MX8nQ2dK
GJ
学校帰りに突然ロボに襲われるor不思議な女の子と出会うは定番だな
343名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 13:24:57 ID:O9HeNfRc
厨二病は突き抜ければ逆にすごいからな
期待してるぜ
344名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 14:05:59 ID:hRHu5nWj
>>343
突き抜けた中二病か
なんか冲方丁思い出すな
マルドゥックシリーズにヤンデレ登場だとハマりすぎてつまらんかな
345名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 17:56:56 ID:e0scYkpU
派手
346名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 19:43:59 ID:8nvCpkHd
>>336のタイトル名と房二病で数ヶ月前に打ち切り終了した佐木飛郎斗原作漫画を思い出したわ
347名無しさん@ピンキー:2009/12/21(月) 01:38:57 ID:ntb50a2r
厨二すぎてワロタ

バルムンクやらミョルニルやらが出てきそうな予感
348名無しさん@ピンキー:2009/12/21(月) 02:47:22 ID:1qdVa67T
自分の厨二妄想をそのまま書いたので…
まあ、妥当っちゃ妥当な感想が出てますね

ちなみに、人型兵器のデザインはラ○ンバレル風
349名無しさん@ピンキー:2009/12/21(月) 07:32:54 ID:xVdueKd9
まさにそのラインバレルで脳内再生されたw
さあつづきを書く作業に戻るんだ!
350名無しさん@ピンキー:2009/12/21(月) 15:17:29 ID:nRDTF5AI
>>336
これは間違いなく痛々しいw
351名無しさん@ピンキー:2009/12/21(月) 21:52:06 ID:1qdVa67T
痛々しいですかそうですか

しかし続きを投下…
352名無しさん@ピンキー:2009/12/21(月) 21:54:21 ID:ntb50a2r
いや、この場合の厨二と痛々しいは褒め言葉でしょ

投下期待
353ニーベルンゲンの歌 第二話:2009/12/21(月) 22:53:06 ID:1qdVa67T

翌日。
急設避難所で一夜を過ごした生はもう一度、瓦礫の山と化した我が家の前にいた。
あの時、無我夢中で戦った所為で母の腕はどこかへ消えてしまった。
恐らく両親は生きてはいない。そして妹も…多分、瓦礫の下敷きだろう。
あの三機のロボットの部品は昨夜の内に撤去された。自衛隊まで出張っていた。
しかし行動が迅速すぎる。この近くに自衛隊の駐屯地は無いにも関わらず、ジークフリートを降りて数分で駆けつけてきた。
もしかしたら、これは予測されていた事態なのかもしれない。それを隠蔽して…
「生…?」
突然名前を呼ばれた生は声のした方を向いた。
「可奈?」
声の主は、俗に言う幼馴染という関係にある葛城可奈(かつらぎ かな)だ。避難所では見かけなかったがどうやら無事だったようだ。
が、その服には真っ赤な血糊が大量についており、本人の足取りも覚束ない様子だった。
「お、おい可奈!大丈夫かよ!」
生は可奈に駆け寄り倒れかけたその体を支える。特に目立った外傷は見られない。
「生ぅ…お母さんがね、お母さんがね…あ、いや、イヤ、イヤァァァァァァァァァァァ!!」
可奈はその場に座り込んで、狂ったように叫びだした。かと思うと直ぐに黙り込んで倒れてしまった。
「何だってんだよ、一体…」

* * * * *

とりあえず可奈を背負って避難所へ運んだ生は、医者にさっきの出来事を話した。
「恐らく、この『事故』―今はそう定義しましょう―の中の何かがフラッシュバックしたんでしょう」
医者はそう短く告げると次の患者の下へ行ってしまった。
(フラッシュバック…確か、『お母さんが』と言っていたから、もしかしたらおばさんに何かあったのか!?)
と、薄々何が起こったのかを予想して可奈の眠る簡易ベッドに戻った。
可奈の目はまだ覚めていない。生は椅子を探したが、どうにも見当たらないので諦めて立っていることにした。
(多分、おばさんも、もう…)
可奈には父親がいない。可奈が小さいころに離婚したのだそうだ。そして隣に引っ越してきた可奈の面倒をよく家で見ていたので、自然と仲良くなった。
生も可奈も祖父母は既に死去しているので、今すぐあてになる人はいない。
今この状況で一人はまずいし、何より可奈を一人にしてはいけないと生は思った。
(今日は可奈の側にいよう)
目を覚ます様子も無いので、生はその場に腰を下ろした。
354ニーベルンゲンの歌 第二話:2009/12/21(月) 23:37:44 ID:1qdVa67T

* * * * *

可奈が目を覚ましたのは、その日の夕方だった。
「いきる…?」
「ああ、起きたか可奈」
可奈の目は酷く虚ろだった。焦点は定まってなく、何が見えているのか解らない。
「いきる、あのね、おかあさんがね…」
「いいから!何も言うな」
「…しんじゃったんだ。おかあさん、しんじゃったんだァ…」
言いながら、可奈は涙を流していた。ゆっくりと、しかし鮮明におばさんの死に様を語った。
生はそれを止めることが出来なかった。
「わたし…もうひとりぼっちなんだぁ…いきるぅ」
「な、何だ?」
「いきるは、ずぅっと、わたしのそばにいてくれる?」
可奈は、壊れてしまいそうな笑顔でそう言った。
「ねぇ、いきる?」
「……ああ、俺はお前の側にいるよ」
「そうだよね…わたしにはもう、いきるしかいないんだもん」
そう言って、可奈は再び目を閉じた。

* * * * *
可奈side

目が覚めたら、ベッドの上にいた。隣には生がいる。
私は生に母の死を話した。私の目の前で跡形もなくなってしまった母のことを。
父親の顔は覚えていない。頼れる親戚なんかもいない。
私には、もう生しかいない。

生、どこにも行かないで。
私を見捨てないで。一人にしないで。独りにしないで。
生、生、生、生、イキル、いきる、いきる―――
ずっと一緒にいてね、生。今までだってずっと私と一緒にいてくれたんだから。
大好きだよいきる。あなたがいるところに、私もいるから。
あなたが行くところに、わたしも行くから。
ねぇ、生。
ずっと一緒だよ。
誰も私の周りからいなくなっても、生はずっと一緒にいてね。
355ニーベルンゲンの歌 第二話:2009/12/22(火) 00:34:32 ID:rnF2FE2J

* * * * *

可奈が眠ったのを確認してから生は避難所の外へ出た。
俺の通っている高校に設置されていて、幸いにもこの辺りへの被害は少なかったらしい。
爆風などで窓ガラスの割れた校舎の中に入り屋上を目指す。校舎の中は多少散らかってはいるが大きな損傷はなかった。
屋上に出て辺りを見下ろす。主に被害が出ているのは住宅街から繁華街にかけてのようだった。
海沿いに見えるビル、この街に本社を構える○ONYと並ぶ技術力を誇る会社『ネーデル』。あの辺りにも多少の被害が出ているようだ。
生は、そんな街の様子を眺めながら、再びあの時のことについて考えだした。
突然現れて街を襲撃したロボット。突然現れて俺を守ったロボット。
生は自分の腕を見る。未だに消えていない回路のような模様。
(俺は何でアレを操縦出来たんだ?あんな、ゲームとは違う本物のロボットを)
「…ああーーーイライラする!んなもん考えても分かるかよ!」
生は手摺に拳を叩きつける。いつもはそんなことは滅多にしないのだが、事が事なだけに落ち着いてはいられなかった。
そこで鈍い痛みが走る…筈なのだが。
「…………は?」
手摺が凹んでいた。生は目を瞬かせる。そんな吃驚腕力は持ち合わせてはいない。
「いやぁ、やっと見つけたよ」
突然背後から声がする。振り返ると、スーツを着た長身の中年男が立っていた。
「君、昨日あのロボットを倒したロボットの乗っていたね?」
「…何のことですか?」
そんなことに答えられるわけがない。何か色々とまずそうだ。
「いやいや、別にとって食おうってわけじゃないからさ、正直に答えてくれてかまわないよ」
「いや、何のことだかさっぱり」
そう言うと、その男は少し考え込むような仕草をして言った。
「あのロボットのこと、知りたいかい?」
「…何?」
生がやっと反応したので、男は嬉しそうに話し出した。
「君の乗ったあのロボットは『シグルス』といって、この世界のものではない」
のっけから信じられるような話ではなかったがとりあえず聞き続けた。
街を壊したのはその『シグルス』というロボットをもとにしてつくられた量産機で、侵略のためにつくられたものらしい。
そしてジークフリートに乗ったときに出来た回路のようなものは、異世界の技術でシグルスとシンクロするためにつける本物の回路。
シグルスは最初に回路を刻んだ者を搭乗者に選び、その人意外はシグルスを操縦出来ないらしい。
「で、それを俺に話してどうするんですか?」
男はそれを聞いてにやりと笑う。
「私たちと一緒に戦ってくれないかい?」
と、男はこんなふざけたことを言った。
「君はあの機体の操縦者だ。もう隠すことはないさ」
「……俺は護身のために戦っただけです。もう乗る気はありません」
もうあんな目には会わないだろう。だったら、あんな危険なこと二度とごめんだ。
「…まあ、また来るから、前向きに考えておいてくれ」
そう言って男は屋上から去って行った。
生は、最近よく使ってしまう言葉を吐いて、校門からこっちに手を振る男を見送った。
「何だってんだよ、一体…」

356名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 00:35:10 ID:xdXyXfn7
半年ROMるかテンプレを見るか
357名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 00:37:33 ID:rnF2FE2J
とまあ、第二話終了
だいぶラインバレルを参考にしてるのでそれっぽくなっちゃってます(笑)
あれにもヤンデレってかメンヘラ?なキャラいますよね
358名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 00:48:16 ID:rnF2FE2J
ちなみに私はあのキャラ大好きですw
359名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 01:01:54 ID:Bg5is3oD
このまま頑張って厨二展開で突き抜けてくれ
ただ、投下する時は予め文章をメモ帳とかに書いといて、そこからコピーしながら投下する方がオススメ
文章をその場で書きながら投下すると、投下に時間が掛かって色々と不都合な場合があるんで
360名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 02:02:30 ID:SyPnYWC1
面白かったよー
361名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 02:59:01 ID:KDqYy60w
中傷とかある程度気にしないで頑張って簡潔させてほしい
362名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 06:09:46 ID:Y90J/Vnr
手に模様…ッ たまらんw
GJ!
363名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 15:13:11 ID:gHLoTYHe
GJ!
すごく面白い!!

ただロボットの名前がジークフリートってとこでトラウマが・・・
364名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 22:55:11 ID:rnF2FE2J
>>359
わかりました
ありがとうございます
365名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 23:22:43 ID:IiA4vNgY
見え隠れしてるんじゃなくて、ここまで吹っ切れてるなら逆に初々しいw
366名無しさん@ピンキー:2009/12/23(水) 02:25:52 ID:aTdGHGig


投下した後もずるずるレスする辺り
このスレをヤンデレ好きと仲良くなるスレと勘違いしてそうですね
367名無しさん@ピンキー:2009/12/23(水) 08:50:40 ID:HuGD3HFb
>>348
遅ればせながらも乙ー。
続きに期待。
368名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 05:35:52 ID:Pcite+8Q
サンタさん、クリスマスプレゼントに
僕のことが好きな可愛いヤンデレ少女を下さい



もしくはヤンデレなサンタ少女を
369名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 10:39:55 ID:/CaoVqAQ
ヤンデレがサンタコスでお目覚めフェラは基本
370名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 14:13:04 ID:buNNGtmg
プレゼントは(見知らぬ女性の)子供だろう…

「ハイハイ…どちらさん?」
「二ヶ月前にあなたに子供、貰ったものですが…」
「は?私一人身でして子供も居ないですよ?」
「安心して下さい。ちゃんと●●さんの子ですよ…」
「ふざけないで下さい!俺はあなたとお付き合いした事もない!」
「寝ている間に頂きました。と言う事で結婚して下さい。」  
371名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 17:13:42 ID:f4nbRN5X
>>370
ただし、条件がある

私と離婚することが前提条件です!!!!!
372名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 01:11:41 ID:aoNPnrQ7
>>368
俺もそんなヤンデレ少女、欲しいです
そして、寂しい身を癒やして欲しいです



と言うか、何でこんな日まで深夜まで残業せにゃならなんのだ!
373名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 12:01:32 ID:BSwxOYkg
バイト先のコンビニにて
大学の先輩に換金されて犯される夢を見たわ…
バイト中に居眠りは駄目だな…
374名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 17:28:11 ID:rOM14Ba2

12月25日。
世間一般ではYES様の生まれた日でありクリスマスと呼ばれている。人々は前日の24日と続けてこの日を家族や恋人と楽しむ。
しかし、そんなの俺には関係のないことだ。友人達は彼女とデートするやつばかり。
どこか適当に飲みにいくか、と考えていたが、彼女のいない俺に目をつけた上司が残業をまわしてきやがった。
まったくついてない。そう思うしかないのが少し悲しかった。
やっと片付いたときには既に11時。もう今年のクリスマスも終わる。
「○○くん、残業ご苦労様」
「あれ、ヤン美さん?どうしたの?」
「いやぁ、財布忘れちゃってさ。ところで○○くん、これから暇?飲んでかない?」
社内の美人ランキング上位に位置するヤン美さんの、そんな誘いを断るはずもなく。
どこに行こうかと尋ねたら、半ば強引にヤン美さんの家に連れてこられた。
女の子の、それも美人の家に入るのは初めてだったので緊張した。しかしそれも酒を飲んでいるうちに段々と気にならなくなった。
もうクリスマスも終わってしまった時間、突然眠気が襲ってきた。おいとましようと思ったが体が動かない。
「やっと薬が効いてきた。ふふっ、1日遅れだけど、最高のプレゼントね」
薄れ行く意識の中でヤン美さんの笑い声が頭の中に響いた。


ついカッとなってやった。後悔はしていない。
375名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 18:26:59 ID:ZGLI+Pfv
>>374


君は続きを書く義務がある
376名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 23:36:10 ID:JMaea7yi
【偽ヤンデレ】 ヤンデレ「恋敵を×したり、不正な手段を用いたわけではない」「別れろと言うなら…元々そこまで付き合いたい訳ではない」
http://tsushima.2ch.net/test/read.cgi/newsplus/1261652343/
377名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 03:47:42 ID:0+UMCkH/
ヤンデレなツンデレっていいよね
378名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 14:36:50 ID:ca1RkkcU
時はクリスマス、ここに一人の男がいた。
彼の職業はサンタ。子供に夢を与える職業だ。

本来の仕事は子供にプレゼントを上げる事なのだが、それに加えて彼にはもう一つの仕事がある。
それは心の綺麗な大人にもプレゼントをくばることだ。
サンタの世界でそれを嫌うものもいる。
だけど、彼はそれを続けている。
理由はただ一つ…純粋に喜ぶ人の顔が好きだからだ。

「よっ…と、失礼しますよ。」
家が立ち並ぶ住宅街でただ一つしかない赤い屋根の一軒家、そこに男はいた。
プレゼントは大人にも配り終えた、ただ一つこの家を除いては。
お得意の魔法を使い窓の鍵を開けた男はプレゼント袋を片手に室内へと侵入した。

目指す場所は寝室、かれこれ4年もプレゼントをここに運んでいるので道筋は完璧だ。
音を立てないように気を付け、主の部屋へと入った男は枕元へと移動した。「さーて…今回のプレゼントは何がいいかなぁ…っと。」

袋に手を突っ込み、中身を漁る男。
巨大なぬいぐるみは去年あげたしなぁ…まだ大事に部屋に置いてあるし、どうするべきかと男は迷った。
すると男は主の近くにサンタへ、という手紙があることに気づいた。

興味が沸いた男はそれを見ることにした、プレゼントの希望が書かれてるかもしれないからだ。
そして手紙に書いてあった言葉を見て男はギョッとした。

「…お、俺の…子種が…欲しい…だと?」

何度目を擦ってみても書いてある言葉は同じだ。
すると突然、頭に鋭い痛みが襲った。
堪らず男は床に倒れふした。

「…メリークリスマス、サンタさん…私ね、書いてある通りに貴方の子種がほしいの」

混濁する意識の中で聞いた言葉の人物…それはたったいままで寝てると思われていた家の主だった。
379名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 03:01:00 ID:GH+WDXtq
目立つ 派手
380名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 03:13:11 ID:Gu3KqIIT
>>377
内側に本音をどんどん溜め込んでいくのが危うい雰囲気を醸し出すな
381名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 05:56:29 ID:xzgQTMEO
冬厨死ね
382名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 13:00:00 ID:oKLtdkuB
サンタキラーだな。
神でも殴れるんじゃないか?
383トライデント ◆J7GMgIOEyA :2009/12/27(日) 16:04:57 ID:7jm16xMQ
では投下します
384お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2009/12/27(日) 16:07:49 ID:7jm16xMQ
第9話『闇』
店長扇誠が空気も読まずに叫んだ一言がスタッフの間で小さなざわめきが起きる。
 いつもの出勤時間よりも集められた彼らにとっては、一緒に働いてきた仲間の解雇通告に驚きを
 隠せずにはいられなかった。むしろ、嬉々たる表情を浮かべ、自慢げに語ろうとしている男に嫌悪感を抱いていた。
 そんなスタッフ全員の冷たい視線など気にすることなく、扇誠店長はポケットから写真を取り出した。

「お前が相沢瑞希と仲良く帰っているところを写真で撮影した。周防よ。てめえは俺が作ったルールをしらねぇの?」
「さあ? 全く知りません」
「フン。ならば、教えてやろう。この店はアルバイト同士の恋愛はご法度だ。
 仕事中でイチャイチャしたら仕事にならねぇんだよ!!」
 仕事を全くしていないお前が言えることか!?
「だからよ。前から怪しかったお前と瑞希ちゃんの後を追いかけて、この写真を撮った。
 ちゃんとした証拠じゃないと下手な言い訳してお茶を濁らしたら、俺様の鉄拳が飛ぶからよぉ。
 優しい俺様がこんな証拠を提出しているんだよ」

 扇誠は乱暴にその証拠と言う写真を投げ付けた。俺はその写真を拾うと思わず絶句した。
 その写真は昨日、俺と相沢さんが一緒に帰っている後ろ姿を撮られた写真だったからだ。
 あのストーカーの正体はこいつだと言うのか?

 待て。
 相沢さんの女の勘が300M範囲内ならば把握できるとか言ってなかったけ? 
 相沢さんはストーカーが現れたとか言っている前よりもこの写真は撮られている。
 アテにならない勘だったな。あれ。
 だとすると、あのフラッシュはこいつが撮ったのか?

「一緒に仲良く帰っているんだ。まさか、これで恋人同士じゃあないって言ってみろ。
 俺はバイトの女の子を誑かした貴様に懲罰的な制裁をする必要があるなぁ」
「相沢さんとは付き合っていませんし、すでに仕事の時間が終了しているのにストーカーのように写真を撮っている時点で
 非難されるべきなのは、扇店長じゃないでしょうか?」
「あん? 俺様に向かって意見するつもりか? 俺様は厳重に社内に関する掟を守っているんだ。
 バイト同士の恋愛はご法度であり、それを守れないって言うんだったら。てめえはクビだよ。いらねぇよ」

「そうですか」
 俺は冷淡な声で間抜け面の扇誠の会話に渋々と応答していた。
 どういう理由であれ、適当な理由を付けて、俺をこの場でクビにしたいらしい。
 この男は自らの権力で気に入らない店員を次々と解雇を告げている。
 今回はついに俺の番がやってきたのだ。突然の解雇に抗議した元店員は弁護士を連れて、
 労働基準法違反をしているので訴えますと殴りこんだことがあった。だが、弁護士と元店員は扇誠に弱みを
 握られたのかは知らないが、あっさりと告訴を取り下げた。

 元総理の血筋で、あらゆる闇社会と財閥関連にコネと人脈を持っているこの男にとっては一般市民の告訴なんて
 蝿がたかる程度にしか思っていないであろう。
 そんな相手に敵対的な態度を取るのはほぼ無意味に等しい行為だ。
 あえて、反抗はせずに俺は冷めた態度で店長の口から出てくる汚い言葉を聞き流していた。

「ただし、瑞希ちゃんは別だぞ。てめえみたいな陰気臭い男の口車に乗せられただけだからな。
 寛大にも俺様が許してやる。まあ、当然。瑞希ちゃんには恩返しをたっぷりとしてもらうけどな。それから、」
「じゃあ、もう今日は帰らせていただきます。今まで長い間お世話になりました」
 クソが付く店長の長い話を聞くことなく、俺はさっさと自分のロッカーへ戻っていた。
385お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2009/12/27(日) 16:10:30 ID:7jm16xMQ
 私物を整理した後、俺は乱暴に着替えた制服をロッカーの中に投げた。
 もう二度と着ることのない制服を洗わずに返すという俺のささやかな復讐を果たしてから、
 クビになったアルバイト先から立ち去った。
 両親が亡くなってから、生活費を稼ぐためにこのケーキ&喫茶店に働き出した。
 初めてアルバイトした俺は仕事の大変さと厳しさを知り、今まで自分が両親にいかに甘えていることを思い知った。
 この店で働いている時は色んな出来事はあったが、周囲の人々に支え合ってもらったおかげで今の俺がいる。

 しかし、お世話になった人たちはあの男のせいで皆いなくなってしまった。今まで働いてきた人間を
 自分達の都合で容赦なく切るような職場なんて自然と人は離れていく。
 だから、俺がこのバイト先を辞めるのは必然的なことだったんだよ。
 遅かれ早かれ、こういう結果になったのだから。胸を張って次の職場を探そう。

 今まで自宅と職場を歩いてきた帰路を辿りながら、もう二度とこの道を歩くことがない
ことに心のどこかに寂しさを感じていた。
 途中、書店に寄って無料の求人情報雑誌をあるだけ取って、中身を読みながら街道を歩いていた。
 この時間帯に誰もいないからぶつかる心配はなかったが、その中身は愕然とさせた。

「ないな」
 悠然と歩きながら独り言を呟く。
 その求人情報雑誌の中身は裏社会に繋がる求人ばっかりであった。
 世の中は100年に一度の大不況で非正規雇用の職種は全て大量解雇されている。
 この最悪な時期に仕事を探すこと自体が無理に等しい。
 自分の手を汚さないと、明日の生計を立てるのも難しい世の中になっていた。
 ともあれ、職がないことを悩んでいると気が付けば空腹になっていた。

 お腹が空いて、全く力が入らずに意識が朦朧と霞んできた。
 そういえば、彩さんに作ってもらった大トロの料理とか美味しかったな。
 あの絶品な味は近所のスーパーではきっと味わうことができない至高の一品だった。

 究極を遥かに越えた食材はどこかの海に行って仕入れているんだろうか。
 もし、マグロ漁船に乗れば、マグロをたらふく食べられるかもしれない。
 これはいける。

 マグロ食べ放題の夢を叶えるためにマグロ漁船に乗る。職を失ったばかりだし、
 次の職場も決まり一石二鳥じゃないか。都市伝説ではマグロ漁船の高収入バイトだと聞く。
 七つの海を駆け巡ってやろうじゃないか。体力的にきつい仕事だとしても、前のバイト先もケーキに釣られた男。

 やれる。やってやろう。

 そう決意すると俺は振り返って来た道を逆走する。目指す場所は、どこだ?
 とりあえず、港辺りで聞き込みを開始するぜ。

 その日、なんと漁船を乗ることが決まり、2年に及ぶ漁生活が始まる。

 きつい仕事は誰もやりたがらないってことで常時人手不足だった漁師の仕事はすんなりと決まり、
 俺は晴れて漁船に乗ることが決定した。至高のマグロを追い求めるには長期の漁生活が当たり前なので、

 2-3年はこの地に踏み入れることはできないと言う。その間の家賃を払うのもアホらしいので、
 さっさと自分の荷物を引っ越しセンターとかに運び出して新しい住居に運ぶように依頼した。
 引っ越しは1週間後先。漁船に乗るのは荷物を片付けてすぐにでも出発するらしい。

 家に帰れば、自分の荷物を整理して引っ越す準備をせねば。

 その前に。

 この場所で最もお世話になった人にお別れを告げねばならなかった。
386お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2009/12/27(日) 16:13:04 ID:7jm16xMQ
 すでに陽は傾けている頃。
 もうすぐこの地を離れる敷地の高い外壁を見上げながら、俺はどこか緊張していた。
 なぜか、よくわからない。この事を言えば、何かが起きる。そんな嫌な予感がするのだ。
 やがて、自分の身長よりも二回りも大きい外門に辿り着くとそこに見知った人が心配そうな表情を浮かべて待っていた。
「お帰りなさいですぅ。周防さん」
「ただいま」
「あの女と一緒じゃないんですね。だったら、この後は私が作った料理を召し上がってくださいよ。
 今日はたっぷりと腕を奮った夕食を楽しみにしてください」
「うん。ありがとう」
「じゃあ、ちょっと待っててくださいね。すぐに温めますから」
「その前に……桜井さんに話しておきたいことがあるんだ」
「は、はい。なんでしょうか。お話って」
「俺は引っ越すことになったんだ」

 その言葉と共に彩さんの表情が歪み、足元がよろついた。
 それは普段知っている彼女とは違う様子なのだが、俺は気にすることなく用件を喋っていた。

「前に勤めていたバイト先が急に解雇されたからさ。新しい職場を探したんだ。
 次の職場はマグロ漁船に乗って、ひたすらモリとかで至高のマグロを突き刺したりする漁の仕事なんだ」
「そ、そ、そ、そんなの嘘ですよね?」
「えっ?」
「私は嫌ですよ。周防さんがここからいなくなるなんて」
「ごめんな。桜井さんとはようやく親しい仲になれたと思ったのに」
「そんなことを言うのだったら、ここに居てください。私は周防さんと過ごす時間が楽しくて幸せなんです」

「俺も桜井さんと一緒にいるのは楽しいよ」
「だったら」
「でもな。仕事を失ったら、ここに居られない。
 新しい職場を探して、次の仕事のためなら、住み心地が良かった場所から離れなければならないんだよ」

 彩さんがこのアパートに引っ越してきてからは衣食住の内、食だけは完璧に保障されていたような気がする。

 
387お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2009/12/27(日) 16:14:06 ID:7jm16xMQ
 彼女が作った料理のおかげでどれだけ俺の心を癒されたことだろうか。
 そんな彼女のお別れはとても寂しく思えていたが。
 彼女は違っていた。
 顔色が蒼白になっていき、瞳孔が開きっぱなしになり、絶望に満ちていた。
 明らかに普通とは思えない状態に俺は少しだけ怯えを隠せずにいた。

「い、一緒にいてください」
「仕事なんかどうでもいいじゃないですか」
「私と忍さんがいれば、世界なんてどうでもいい!!」
「二人で死ねるなら、こんな幸せなことはないですよ」
「どうせ、こんな汚れている世界は裏切りますよ!! ゴミのように利用して、いらなくなった捨てられる。だけど」
「この世で愛し合った二人は違うっ!! ずっとずっと一緒にいられるの!!」
「それはとても尊いことで、素晴らしいことなのよ。ねえ、忍さん」
「お、お願いだから。わ、私を、一人にしないで……」


 怒涛に彩さんの口から出てくる言葉。いつの間にか、涙目になっている彼女に何も言い返すことはできない。
 俺は普段の彼女とは違う何かに恐れていた。
 いつも通りの笑みを浮かべていた彩さんしか知らなかったから、突然豹変した彼女に驚きを隠せずにはいられない。
 金縛りにあったかのように俺の足は全く動かなかった。
「桜井さん……?」
「わ、私ったら、なんてことを。ごめんなさい。忘れてぇ」
 我を取り戻した彩さんは自分の失態にこの場に居辛くなったのか。
 顔を全身に紅潮させて、脱兎のごとく逃げ去った。豹変していた時は威圧感を感じたが、

 今は元通りのいつもの彩さんに戻っていた。特に深く考える必要はない。
 多分、さっきのは彩さんが少しだけ動揺したのであって、ヤンデレ症候群感染者ではない。大丈夫のはずだ。




 てか、今日の夕飯はご馳走して貰えないんだろうか。
388お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2009/12/27(日) 16:16:16 ID:7jm16xMQ
「はい。もしもし、今日の昼頃にやってくるんですね。
ええ、もう昨日の内に荷物はダンボールとかにまとめていますし。
すぐに運べると思います。はい。では今日はよろしくお願いします。それでは」

 引っ越しセンターの業者さんと軽く打ち合わせの電話を切ると嘆息した。
周囲の部屋はダンボールの箱だらけで、長年住み続けた部屋は荷物で一杯であった。

 あれから、一週間。

 お隣の彩さんと言葉を交わすこともなく、俺は引越しする当日を迎えていた。
あれから、ちゃんとしたお別れを告げようと何度もインターホンを押したが、何の反応も返ってこなかった。
居留守を使われているのかはわからないが、彩さんは俺を避けていると考えてもいいだろう。
お別れの挨拶なんて、俺ごときなんてあれだけで充分と遠回りに言っているのに違いない。

 後、前バイト先の相沢さんにもメールや携帯にかけても、返事は返ってこなかった。
ようやく、ストーカーの犯人はあの店長と教えようとしたが。こっちも解雇されてから音信不通になっていた。
 まあ、仕方ない。
 どうせ、2-3年も会う機会がないならば、自然と人が離れることは必然なのだ。

「さてと業者が来るまで何をしようかな」

 現在の時刻は午前10時頃。引っ越しセンターの業者が来るまで時間を潰すものがない。
テレビとか娯楽の品は全て片付けて、今は部屋に言いようがない空白が広がっていた。
 ぼんやりと待つしかないらしい。
 その時に、俺の携帯に着信音が鳴り響いた。
 着信相手は……何も書かれていない。
 一体、誰が俺の携帯にかけてきたんだ? 
 本来ならそんな携帯に出ることはないのだが、あまりにも暇だったので出てみた。

「もしもし」
「あっ、周防さん」
「えっ? 桜井さん?」
「そうですよ。私です」
「あれ。俺、桜井さんに携帯の電話番号とか教えた?」
「そんな細かいはどうでもいいじゃないですか。ねえ、周防さん」
「んっ?」
「今はお暇ですか?」
「暇じゃないけど、少しだけ時間に余裕があるよ」
「そうですか。良かった。ねえ、周防さん。今から私の部屋に来ませんか?」
「うん?」
「最後のお別れを告げてませんから。それに私は感情に任せて周防さんにメチャクチャな事を言ってしまいました。
どうしても謝りたくて」
「わかった。じゃあ、今すぐに桜井さんの家に行くからな」
「待ってください。ちょっと、携帯は切らずにお願いします」
「どうしてだ?」
389お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2009/12/27(日) 16:17:55 ID:7jm16xMQ
「とりあえず、周防さんの家を出て、玄関の前で10秒ぐらい待ってください。今、私はちょっと着替えている最中ですから」
「それなら。わかったよ」
 俺は彩さんの言葉を疑うことなく、右手に携帯を耳に当てながら玄関のドアを開けた。
彩さんの指示通りにその前で待っていればいい。彩さんの着替えを覗くという最悪な出来事に遭遇せずに済んで良かった。
「あの、周防さん。いますか?」
「桜井さんのもう着替えたのかな」
「終わりましたよ。何もかもが……。真上を見てください」
「真上?」

 真上を見た瞬間。

 落ちてきた。

 何が。

 茶色をした物体が。

 あれは。

 そう。

 よく病んでしまった女性が殺る手口。

 なんだ?
 思い出せ。

 思い出せよ。
 思い出してくれ。

 あれを避けないと……。

 俺の人生は。
 最後に俺の耳から不気味な笑い声が聞こえてきた。

「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ
 くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ
 くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ
 くけけけけけけごほ ごほっ。 ごほっ。うにゃ?」

 それは……。
 彩さん、むせているし。

 てか、そんなことに突っ込んでいる余裕は。
 刹那。 
 容赦なく落下物は俺の頭に直撃した。

「ぐぎゃー!!」
 声にならない悲痛の叫びが周囲に響き渡った。

 まさか、上から植木鉢が落ちてくるなんて誰が予想できるか?


 薄れゆく意識の中、世界の全てが音を立てて崩れ去った。
390トライデント ◆J7GMgIOEyA :2009/12/27(日) 16:19:53 ID:7jm16xMQ
以上で投下終了します

植木鉢が落ちてきて、狂気のルートに突入するのは今でもトラウマです。
それでは。
391名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 19:48:17 ID:daMIZtne
>>390トライデントさん久しぶりの投下ですね
次回が楽しみです!!
392名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 20:20:26 ID:S+ADQPFc
トラさん来てたw
GJ!
彩さんかわe
393名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 20:26:32 ID:oKLtdkuB
…アレはエグいなあ。
何回死んだことか…
ドアノブが照れている…爆発!的な攻撃じゃなくてよかったな。

つーかマグロ漁船に乗ったってマグロは食えんぞ…売り物だからな。
あと、はえなわ漁だ…銛では突かない。
よくそれで乗ろうとしたな… 
394名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 21:57:58 ID:GH+WDXtq
特殊
395名探偵物語 5:2009/12/28(月) 00:27:17 ID:f0knnXhc
投下します。
396名探偵物語 5:2009/12/28(月) 00:28:22 ID:f0knnXhc
小林が事務所に戻るまであと五日となった日のこと。
風の弱く比較的暖かい休日の朝、河川敷にはポアロの散歩をする明智の姿があった。
明智の手には最近買った青いフリスビーがあり、時々ひょいと飛ばすと
ポアロは巨体に似合わぬ俊敏さでキャッチし、明智のところに咥えてくる。
…勘違いしてもらっては困る。
ポアロは心の中でつぶやいた。
明智はわらわをペット同然とみなしているらしいが、とんでもない。
わらわはお主の監視役。お主より上位の家柄であるからして、服従など絶対にせぬのじゃ。
このフリスビーにしたってそう。わらわはお主が投げたので取りに行くのではない。
わらわはこれを取ってきて、お主に頭を撫でてもらって『よくやったぞ』と
言ってもらいたいがためにやっているのじゃ!
つまり、これはお前の意思でわらわが動いているのではなく、わらわ自身の意思で以て
わらわが動いているという何よりの証し。よってわらわはお主のペットではない!
…あれ?理路整然としているはずのこの理論に今一瞬違和があったが?
まあ、気のせいじゃろう。

「よくやったぞポアロ。」
明智がポアロが差し出した頭を優しく撫でる。ポアロの目がすうと細くなり
喉から甘えたような声を上げた。
…褒められた。
ポアロの尻尾がふわふわ左右に揺れる。
…褒めてくれた褒めてくれた褒めてくれたよぉ!あたまなでなでしてくれてるよ!
二十年と少しの間ずっと望んでいた優しさを今このご主人様が私に…むひゅ〜。
ポアロうれしいですぅ…。

………
…………オイ。
貴様じゃ貴様。今この瞬間この文章を読んでいる貴様のことじゃ。
まさか、あるまじきことじゃが…今の言葉、聞いたのではあるまいな?
わらわも理解ある方じゃ。正直に申せば命だけで許してやろう。
…言っておくが、わらわは明智のことを主人と認めてなどおらぬ!
ご主人様?あ、あれはその…ほら、『明智』というよりも『ご主人様』の方が
言いやすいじゃろう!?字数も少ないし…アレ?字数が…多い?

……
………そ、そうじゃ!
わが故郷英国読みならば『ミスター・アケチ』と『マスター』で『ご主人様』の方が
字数が少なく、とっさに発音しやすいのじゃ!
何じゃその小馬鹿にしたような目線は。貴様の穴という穴に隙間なく
エビフライ刺し込んでやろうか?

「…お〜い、ポアロ?」
突然虚空をにらみつけ唸りだしたポアロを見て、明智はポアロに呼びかけてみる。
俺には何も見えないが、ポアロには何か見えているのだろうか?
悪いものでも食べたのかもしれない。
食べるといえば…。
懐を弄り黒い手帳を取り出した明智はざっと今日の予定に目を通す。
今日は昼過ぎに二十がやってきて料理の手ほどきをしてくれる。小林が帰ってくるまで
あと五日。それまでに俺も進歩したのだということを小林に見せてやろう。
あいつは何の料理が好きなのだろうか?…まあ、なんでも食べるだろう。
小林がうれしそうに自分の料理を食べる姿を想像すると、自然と顔がほころんでくる。
ふと、小林の退院予定日の欄がマーカーペンで縁どられているのを見て
明智はやはり自分には小林が必要なのだなということを改めて心に浮かべた。
依存しているのは自分も同じなのだろう。
あの無邪気な明るさにひかれ、甲斐甲斐しく行ってくれる家事に助けられ、
あの料理に心と体が満たされていたからこそ今の自分はここにいる。
ならば、今度は俺があいつの力になろう。
「帰るぞ。ポアロ。」
明智は、探偵事務所へと歩き出した。
397名探偵物語 5:2009/12/28(月) 00:30:10 ID:f0knnXhc

「…警察に突き出してやる。」
明智探偵事務所に戻った明智の第一声はそれだった。
「何でお前が事務所の内部に!しかも割烹着で!存在しているんだぁ!」
事務所に戻った明智を待っていたのは、何者かに開けられた本来鍵がかかっているはずの
ドアと、姉さんかぶりの手ぬぐいと割烹着で武装した二十。
「おかえりなさいませ。明智君様(ハート)」
これに続く応答が今明智が放った一言だった。
「不法侵入という文字を知らぬお前ではないだろ!大体鍵は…」
「だってしょうがないではないか!」
二十が可愛らしく唇を尖らせる。
「今日は休日だから明智君の家に朝から出向いてレクチャーしようと思っていたのに
その明智君がどこかに出かけているのだからな。外で待っていたのだがこれまた寒くて。
それで明智君の事務所にお邪魔というわけだ。」
「おい、鍵…」
「まあ、細かい事は気にするな。今日はスペシャルメニュー『二十面相パイシチュー』
が課題料理だ。柔らかく広がる野菜たっぷりのシチューをアツアツの内に
さくりと香ばしいシチューに詰めて…愛しい人に捧げるため…フフフ。」
「鍵…」
「しかし誠に遺憾ながら、この家に残っている材料では若干素材が足りない。
そこで明智君。今から僕と二人だけの買い物に付き合ってくれたまえ。」
「かg…」
「ポアロちゃんは留守番頼むよ。では明智君!新鮮な野菜を求めていざ農協へ!」
引きずられ、再び寒空の中に駆り出された明智は叫ぶ。
「スーパーマーケットで十分だろぉォォ…!」

「ズビ…(鼻をすする音)。」
「二十?お前本当は馬鹿じゃないか?」
「うるさい…ズビ。」
いくらなんでも季節は冬。いくら前日に比べ暖かいといえど、寒いのはいたしかたない。
二十の恰好はそんな寒空の中ではちょっと堪える保温性だった。
やっぱり、割烹着だけでは寒さがしみるのだ。何を勘違いしているのか足元は朱塗りの下駄。明智の馬鹿という言葉にも納得がいくというものである。
「てぶくろ…。」
「ん?」
「手袋をくれないか明智君…。」
明智はここでちょっと困った顔をしてみる。というのも明智も手袋を持っていないのだ。
「じゃあ…。」
いきなり二十面相は後ろから明智に抱きつくと、明智の外套のポケットに
後ろから明智を抱え込むように手を入れた。
「手が暖かい。うん。」
明智は顔をかあっと赤らめる。しばらくあたふたして周りの目線の有無を確かめた
明智は、二三いかにもわざとらしい咳払いの後…。
「おい!分かった。俺の外套を貸してやるから…。」
「いやいや明智君。僕はむしろこれの方が気に入った。」
「駄目。大体これじゃ身動きがとれん。」
「小林君の時は自分から抱きしめるくせに…。」
怨みがましいジト目で二十は明智を見つめる。
「あ…いや。それはええと…あれ?」
何でこいつは俺と小林のことをここまで知っているのだろう。
疑問を胸に歩いていると、近所のスーパーについた。
398名探偵物語 5:2009/12/28(月) 00:31:20 ID:f0knnXhc
「人参、玉ねぎ、ジャガイモは事務所にある。あとはパセリパセリ…。」
二十が主婦モードとなっている。明智はそれを後ろから感心して眺めた。
二十の過去については深く聞いたことがない。明智は商売柄、他人の過去を聞くことは
あまりよくないことを引き起こすだけだということを知っている。
そんな明智が二十について知っているごく僅かなこと、それは彼女の演技力だ。
声真似に代表されるように、彼女はその時々で完全に役になりきることができる。
現に今目の前にいる彼女は、割烹着が驚くべきほど似合う初々しい若妻ルックだ。
いや、ひょっとしたら今は心まで明智の若妻になっているのかもしれない。
…それ以前の問題として、今どき割烹着なんて珍しいのだが。
これで顔までも完全に模倣できたら、きっと彼女は完全に別人になりきれることだろう。
「あれ?なんだかそんなアイテムの話をこの前聞いたような…?」
「あれ?お前何しているんだ?」
全く別の方向から少しハスキーな女性の声がした。
「木剣納刑事!」
「刑事はやめてくれ。今日は非番なんだ。」
覚えているだろうか?初回で登場した木剣納刑事である。
改めて紹介すると…いや、ここは通りすがりの小学生に紹介してもらおう。
「ねえねえママ。何であの女の人胸が無いの?」
「しっ!見ちゃいけません!」
…要は、このような人だ。
「…明智。あの親子万引きするつもりだ。私の感が告げている。市民の安全と
治安維持のため今すぐこの『モーセが海を切り裂いたとされる木刀』で一刀両断に…。」
「早くきてOMAWARISAN!この人頭おかしいです!」
「私が警察だ!」

〜不毛なやりとりを省略〜

「…時に、相談がある。」
明智を見て木剣納は話しかける。明智にとって意外だったのは、彼女からいつも
感じられる何か職業人としての気迫みたいなものがさっぱり感じられないのだ。
となると、仕事関係の話ではないのだろうか。
胸がないとはいえ、目の前にいる木剣納はまぎれもなく女性。顔だけ見れば
かなりの上玉だ。
そんな彼女からプライベートな相談を受けるなんて、俺も相当信頼されてきたかな?
…いや、待てよ。
「実はお前にこの壺を買ってほしい。…一千万円で。」
じゃ洒落にならないし…。
「急進派の私としては、この物語のぐだぐだ感が我慢できない。
この状況の打開のため、お前を殺して小林 兎凪の出方をうかがう!」
マズイ。どうしてこんな状況が想像できるのかは全く分からないにせよ、
いくら俺でもこいつと戦って勝てるとは思えない!
「おい、何をひとりでぶつくさ言っているんだ?」
とうとう気でも違ったか?とでも言いたげな目で、頭を抱える明智の顔を
木剣納がのぞきこんでくる。構わないから続けて。そう明智は言った。
「実は…鍋が食べたい。」
へ?
399名探偵物語 5:2009/12/28(月) 00:32:43 ID:f0knnXhc
「いや、年末も近づくにつれて署に泊まり込みの仕事の日も増えたんだがな。
当然食事もコンビニ弁当とかに限られてしまう。この寒い季節、体の中から
温まるにはやっぱり鍋だなって思ったんだ。」
「食えばいいじゃん。」
ガシッ!絞め殺さんばかりの力で木剣納が明智の首根っこをつかむ。
「一人鍋はあまり美味しくないんだ!最低でも二人!同僚もみんな忙しいし、
頼めるのはお前だけ!」
ガシッ!今度は木剣納の両手が明智の肩をしっかりホールドした。
「頼むお前…。私に鍋を…うまい鍋を食わせてくれ…。寒い中安月給で
世のため人のために働くこの私に、一杯の鍋ぐらいの慈悲はかけてくれても
いいだろ…?」
逃げ場なんて、無いよ。鍋にかける執念が握力という形で実体化し
明智にそう囁いてくる。
これはOKしておかないと命にかかわるかもしれない。
長い付き合いの友人の頼みということもあり、明智は承諾しようとした。
まあ、今晩一日こいつに付き合うのもいいだろう。
「失礼ですが、どちらさまでしょう?」
明智と木剣納、二人の目線が声の主の方に行く。
そこには二十が微笑みを湛え立っていた。
「ああ失礼。私は木剣納。近くの署で刑事をやっています。」
「まあそうですか。私は二十と申しまして、こちらにいる明智の家内です。」
はあ?はああああああああああああああああああああ?
「明智!結婚していたのか!知らなかった…。それにしても何と言う別嬪さんを…。」
「つい先日です。まだ式も挙げていないのですが…。」
いけしゃあしゃあと嘘を並べ連ねる二十の横で明智は呆然と成り行きを見守るしかない。
「いや、これはすみません。新婚のご主人を借りようとするとは…
知らなかったこととはいえ、少し配慮に欠けておりました。」
「ふふ。あなたのような素敵な方に一夜とはいえ主人を借りられてしまうとなると
不安でおちおち眠れませんから。」
「ははは…とんでもないです。ご主人もきっとあなたに夢中でしょう。」
末永くお幸せに。木剣納は二人にそう言い残すとその場を去っていった。
後に残された明智はふと我に返り、二十はそんな明智を見て少し妖しく微笑む。
「さあ、帰りましょう。あ・な・た。」
全ては演技。他愛も無い悪戯のはずなのに、明智はその言葉に少しどぎまぎしていた。



「鍋…。」
その後警察署の雑務に追われながら、木剣納は自分の目の前に置かれている完食された
カップラーメンを恨めしげに見た。
きっと明智は今頃、あの別嬪の新妻と二人でアツアツの鍋を囲んでいるに違いない。
「僕たちの愛と同じで、この鍋もアツアツだね…ハニー。」
「そうね。この鍋のように味深く、熱く、素晴らしい一夜を過ごしましょう…ダーリン。」
もはや鍋なんて関係ない勝手な妄想が火に油を注ぎ、木剣納の不愉快度が
最高潮になろうとしていた。こっちはカップ麺なのに!
「しかし…あの女性はどこかで見たような気が…。」
そう。木剣納の頭に何か引っかかるのだ。
「…ええい!考えたって仕方がない。シゴトダシゴト。」
カップラーメンの容器を無造作にごみ箱の中に放り、パソコンを強引に引き寄せた
彼女は今日の仕事である過去の事件のデータ整理にとりかかる。
今日の整理するノルマは二つ。
『盗難事件』と『売春事件』の二つだ。
「盗みはいいとして…こんなもん女の私に任せるか普通?…女として見られてないのか?」
ファイルをクリックして、関係者の顔写真とデータを照合していく。
木剣納の長い夜が始まった。
400名探偵物語 5:2009/12/28(月) 00:34:16 ID:f0knnXhc
一方、明智の事務所では…。
「出来た!」
見事なまでのパイシチュー。パイ生地は焦げ目も丁度よく、ひとたびスプーンを入れると
とろりとした乳白色のシチューがアツアツのまま流れ出ることだろう。
香りにひかれポアロは明智の足もとにじゃれ付いてくる…いや、これはいつもそうだ。
ここ数日で、ポアロは完全に明智になついている様子だ。
「うん。見事なものだ明智君。しかし、これもすべて僕の教育力によるもの。
存分に感謝したまえ明智君。」
「サンキュー、二十。っと、悪いな。こんなに遅くなっちまって。」
時計は七時をとうに過ぎている。朝から二十はいたわけだから、そうとう長く
付き合ってもらったわけだ。
「いいんだ明智君。今日はいろいろ教えることもいっぱいあったのだから。
今日教えた事は料理の基礎の全て。ほかの料理にも簡単に応用できる。」
鍋に残ったシチューの残りを皿に取り、ポアロの前に差し出す二十は
むしろ何故かうれしそうといった表情で明智に応じた。
明智は食器棚から皿を取り出し、テーブルの上に敷かれたナプキンの上に
二人分配置していく。
結局、料理を教えた二十は今日明智とともに夕食ということになったのだ。
一人で食べるより、大勢の方が料理はおいしい。
科学的な解説をこの理論について聞いたことのない明智も、こればかりは
絶対であると考えている。
一人だった晩飯。最初は小林の手料理に進化し、次に一人きりの食卓に
ポアロが加わった。そして今日、二十とテーブルを囲む。
明智は、ささやかな楽しみを存分に噛みしめていた。
そこに二十が二つのパイシチューを運んでくる。
彼女は右手に持っていたそれをまるで何かを確かめるように確認した後、明智側の
食卓に置き、左手のパイシチューを自分の方に置いた。
これで食卓の準備は完成。さあ、楽しい夕食だ!
生地の中のシチューを野菜ごと掬いあげ、口に運ぼうとする明智。
その様子をにこやかに、黙ってじっと見つめ続ける二十。
向かい合う二人。その中に一筋の影が躍り出た。

「わん!」
ポアロがものすごいスピードで駆け寄ってきたかと思うと、明智の今まさに
シチューを口に運ぼうとしていた手に噛みつき、さらに食卓の皿を吹き飛ばしてしまった。
手に握られていたスプーンからシチューがはね、ポアロの口に少し入ってしまう。
それが熱かったのだろう。ポアロは甲高い声で鳴くと、事務所の奥…明智の就寝スペース
の方へと逃げて行ってしまった。
401名探偵物語 5:2009/12/28(月) 00:35:44 ID:f0knnXhc
「ポアロ!」
せっかくの料理をめちゃくちゃにされたことへの怒りも無くはなかったが、
それよりも今までおとなしかったポアロの豹変ぶりに唖然とする明智。
ようやく気を取り直した明智は、ポアロが逃げて行った方へと追いかけてみる。
足音荒く、ついたそこにはポアロの姿はなかった。
ベッドの下など隠れられそうなスペースを探してみたが、いない。
まるでそう、この世から消えてしまったかのように。
その後もしばらく探したが結局見つからないので、明智は二十の所に戻ることにした。
あいつは怒っているだろうか?多分そうだろう。
さっきまでの賑やかさが一転、明智の耳には静寂しか聞こえてこなかった…。

二十はうつむき、何も言わない。
無理もない。今日一日頑張った結果が、こんなにも無残な状態になっているのだから。
しばらくお互い何も言わない時間が続く。やがてギリッという歯ぎしりの音が
二十の口から洩れた後、彼女は何も言わず事務所を去っていった。
明智は追わなかった。ただ、静かに見つめていた。
二人と一匹がいた食卓も、今は一人。
今まで当たり前だった一人に戻った明智の心は、どうしようもないほど空っぽだった。
―どうして、こんなことになってしまったのだろう?



電気のついていない明智のベッドの上、それも空中に彼女はいた。
幽霊である彼女は今姿を完全に隠している。生きているものには見えないだろう。
そして今ポアロから元の幽霊の姿に一時的に戻ったタマヨは、
下半身から湧き上がってくる猛烈な衝動により、整った顔に汗を浮かべていた。
…彼女が異変に気づいたのは、二十がシチューを明智の前に置いた時。
明智のパイ生地の中から、変な匂いがポアロの鼻をついたのだ。
人間のそれとは比べようもない犬の嗅覚は、それがあまり良くないものだと
本能的に察知していた。
―よもや、毒!?
402名探偵物語 5:2009/12/28(月) 00:37:20 ID:f0knnXhc
探偵という職業上、暗殺の恐れは一般人よりはるかに高い。
さらには金田一とかいうこの女、正体の掴めないところがある。
明智がそれを口にしようとしたので、ポアロはゴールデン・レトリバーらしからぬ
行動をもってして阻止しようとしたのだ。
彼女の行動は正しく、明智はそれを口にしなかった、ただひとつの誤算は
彼女の口に誤ってそれが入ってしまったことだ。
効果はすぐに現れた。明智のベッドのそばに逃げ込んだポアロの体内から
マグマのような衝動が起こり、犬神剣の効果が霧消した。
霊体に戻ったタマヨにすらも、体内に入ったそれはなお効力を及ぼしている。
「あの小娘ッ…媚薬とはやりおるわ…!」
体中が燃えているようだ。タマヨはそう感じた。明智に飲ませるつもりだったのだろう。
別に今なら自分の身体を慰めて、この衝動を消してもいい。今は誰にも見えないのだから。
ただ、そうできない理由が今の彼女にはある。
「あ…明智っ…。」
切ない声が彼女の唇から洩れる。
どうしても、どうしても今の自分の頭に明智が再生されてしまうのだ。
下賤の者のはずなのに、任務の監視というだけのはずなのに、
この極限の状況の中で浮かんでくるのは家柄の誇りよりも、幼い頃よりの
訓練よりも、たかが数日の付き合いの明智だった、
明智で頭も心もいっぱいの今、自分を慰めでもしたら…。
「出来ぬ…わらわはそんな…あんな者になどッ…!」
暗闇の中、しばらくの間音無き声が苦悶の色を顕わにして響き渡ったあと…。
「…んっ…はぁっ…明智…あけちぃ…。」
不意に、声の様子が変わり始めた。何かを求めるように切なく、か細く。
そして…
「…んんんんんっ!…ごしゅ…ご主人…ご主人様っ…。明智…様。
ご主人様ご主人様っ…!!!!」
誰にも聞こえないその声は、誰にも知られること無く、しかして確実に
それを放つ者の内側と一緒に変化していった…。
403名探偵物語 5:2009/12/28(月) 00:39:47 ID:f0knnXhc
以上です。小林復帰までちょっとかかりそうです。
一応ヒロインのつもりでしたが…。
読んで頂き感謝です!
404名無しさん@ピンキー:2009/12/28(月) 06:28:16 ID:iYa9Aqgi
>>403
405名無しさん@ピンキー:2009/12/28(月) 12:02:54 ID:zZ+uEFze
>>403
乙!これからどうなるか楽しみです
406名無しさん@ピンキー:2009/12/28(月) 15:06:16 ID:97b8ZENt
彩さんキター
めちゃめちゃ待ってました。次も待ってます。


さきねぇとひめねぇはもうこないのかorz
407小指:2009/12/28(月) 17:18:50 ID:+t80Ce3B
投下しますね。
408小指:2009/12/28(月) 18:10:07 ID:+t80Ce3B
「今日はなんの日か知ってる?」

「今日は貴方とあの子の結婚記念日だっけ」

「今貴方は幸せ?」

「私は幸せ。」

「そろそろ答えて?自問自答って悲しくなる」

「今日はなんの日か知ってる?」

「今日は貴方とあの子の命日だっけ」

「今貴方は幸せ?」

「私は幸せ。」

「あの子が小指につけてた指輪」

「欲しかったなぁ」

「貴方とあの子はもういないから」

「私が指輪、貰っちゃった」

「この指輪があの子の指についていた事が憎かった」

「この指輪が私の指についてない事が悲しかった」

「今日は何の日か知ってる?」

「今日は貴方とあの子の命日だっけ」

「今貴方は幸せ?」

「私は幸せ。」

「そろそろお墓参りに行くからね」

「小指とお線香を持って、貴方のところに」



終わり
409名無しさん@ピンキー:2009/12/28(月) 20:24:54 ID:DFjqJXWi
派手
410名無しさん@ピンキー:2009/12/28(月) 21:54:56 ID:l7OI0jlW
彩さん来とる!
待っててよかった
411名無しさん@ピンキー:2009/12/30(水) 21:54:08 ID:p0shPJkQ
メインキャラは高校生。

問題起こしてヤンデレが警察に補導される→主人公が迎えに行く って法的におかしいかな?
普通は親が迎えにいくと思うのですが、警察関連に詳しい方はいらっしゃいませんか?
412名無しさん@ピンキー:2009/12/30(水) 23:46:47 ID:v4f52mPw
あまり細かいことを考えずに
親がのっぴきならない理由でいけないから頼まれたとかでいいよ
413名無しさん@ピンキー:2009/12/30(水) 23:54:34 ID:cP2kjMSf
1:主人公とヤンデレの両親が親友
2:ヤンデレの両親が事故等で死亡して天涯孤独の身に(←病む原因?
3:主人公の家でヤンデレを引き取る
4:主人公の両親、仕事の都合等で長期不在

3’:引き取る際にあえてヤンデレを養女にしない(←両親の悪だくみ

法的な事はよく分からんからどうとも言えないが、
主人公を身元引受人にするためのシチュはこんなもんしか思いつかん
もしどれだけ遠方にいようと両親が帰ってこないとダメってのなら破綻するなぁ
414名無しさん@ピンキー:2009/12/30(水) 23:55:50 ID:88kd3dQH
もしくは親が子に無関心とか
それが原因で主人公に依存したりね
415名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 00:44:43 ID:uU22u57i
そんなに細かく気にしなくてもいいと思うけどな
あまりにも「ありえないだろ」って破綻してるならアレだけど
親が来れない理由と代わりに行くのが主人公である理由がそれなりにちゃんとしてれば
現実では無理でもそんなに気にならないし
416名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 02:09:32 ID:ysU3Nk8p
>>403
ポアロかわいいいいいいいいい
犬派のおれにはご馳走だ
417cinderella & cendrillon:2009/12/31(木) 02:55:34 ID:PpKc7WuG
オレ……明日中に……二話投下するんだ……
418名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 04:32:29 ID:VUfgjBoO
>>413 気になったので調べてみた。近そうなのを挙げてみる。

警察官職務執行法第三条【保護】の2
その者の家族、知人その他の関係者にこれを通知し、その者の引取方について…

とあった。
しかし犯罪の場合は…

犯罪捜査規範二〇七条【保護者等との連絡】
少年の被疑者の呼出し又は取調べを行うに当たっては、当該少年の保護者又はこれに代わるべき者に連絡するものとする。
ただし、連絡することが当該少年の福祉上不適切であると認められるときはこの限りでない。

保護も連絡も対象年齢の表記は無かったが…

同級生が事件にかかわるのは福祉上不利益とされないだろうか…その辺は本職じゃないからよく分からん。
  
419名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 04:52:27 ID:dOrMJpdR
なんでガキの尻拭いしてんの?
420名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 07:39:09 ID:k+CY2+Bg
地方の交番とか割と管理ずさんだから万引き程度の軽犯罪なら調書とらん時もある
だもんで面倒くせーから誰でもいいから来た人に引渡しするよ
421名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 12:40:58 ID:QtwhC401
12 名前: ◆ AW8HpW0FVA 2009/12/31(木) 05:19:51 ID:pH2rzef20

規制されました
422名無しさん@ピンキー:2010/01/01(金) 02:49:02 ID:cVL/Siue
>>417
1日に投下するって事だったか
その時間まだ起きてたせいで「明日」って31日の事かと思ってたぜ
423名無しさん@ピンキー:2010/01/01(金) 03:31:13 ID:5KyllOUX
「あなたのことが好きです。」
「以前は、別の子と付き合っていましたが、今は完全に切れています。周りの人たちは僕たちを妬んでありもしないことを言いますが、気にしないで下さい。」
「俺は君に、生涯の全てを捧げるから、君も俺に、全てを捧げて欲しい。二人で一緒に、幸せになろう。」
「………新しい財布。」
「変な猫のキーホルダー。趣味の合わないアロマオイル。演劇の先輩に借りたという、趣味違いの音楽テープ。………先輩の付き合いで断れなくて。急にバイトが入っちゃって。ダチの電話が長くてなかなか切れなくって。」

作り過ぎたカレー。
増えた演劇の稽古。
キッチンペーパーの畳み方。
もう食べてきたから。
化粧道具に詳しくなった。
ごめん、寝てた。
便座の蓋が閉じていた。
舞台仲間のところで泊り掛け。
演劇仲間とここで飲み会してさ。誰かの忘れ物だよ。
綺麗になった排水溝と三角コーナー。
行動圏外のレシート、ポイントカード。

靴底の泥は雨天の日曜日に外出した証拠。カレンダーの謎の記号との合致。あなたの演劇仲間にこの長さの髪の毛の人間は存在しません。誘導尋問。どうしてまだ見てない映画の筋書きを?
証拠、証拠、状況証拠。観察、監視、追跡、尾行。採取、盗聴、聞き込み、問い詰め。

私があなたを愛した、たくさんの証拠が見つかった。
あなたが私を愛した、たくさんの証拠が見つかった。
あなたが浮気をしてない証拠だけ、見つけられない。

いい加減にしろよ、俺のこと愛してんなら信じろよ。
それが出来ないなら、お前はもう俺のことを愛してないんだよ。
そんなやつ、俺だって愛せるわけねえだろ。
お前を一生大事にするし、演劇も同じくらい頑張りたいんだよ。
お前は演劇やってる俺が好きだって言ったろ。
そのお前が何で演劇やめろなんて言い出すんだよ。
どうしてお前と演劇のどっちかなんてことになるんだよ。
お前、変だよ、疲れてんだろマジで。
あのさ、お互いの顔見て喧嘩しかしないんなら、お互い少し冷却期間を置かね?
 俺も次の舞台まで集中したいし。
先輩のとこの女の子、急に出れないとか言い出してさ。
脚本、明日までに書き換えなくちゃならないんだよ。
こうしてる時間も惜しいわけ。

つかさ、そこまで俺が信用できないんなら、もう俺たちは終わってんだよ。
来んなよ、帰れよブス、お前なんかもう愛してねぇよ。
泣くなよウゼェな、キメェんだよ死ねよ。
近所迷惑だろ喚くんじゃねぇよクソブタ。
マジうぜえ消えろ二度と来ンな。
424名無しさん@ピンキー:2010/01/01(金) 23:40:24 ID:4Pyp9X5a
425名無しさん@ピンキー:2010/01/02(土) 01:15:03 ID:AfFvMtC8
>>423
うみねこかよ
つーかヤンデレでもないからスレチにもほどがある
426名無しさん@ピンキー:2010/01/03(日) 12:12:32 ID:DwQtE3uk
>>425
うみねこにこんな場面あったっけ?
427名無しさん@ピンキー:2010/01/04(月) 01:03:08 ID:qeBtKT1z
過疎化が始まった
428名無しさん@ピンキー:2010/01/04(月) 09:24:32 ID:IsCng6m5
>>427
年末年始は書き手だって忙しかったり
帰省してる人はいるだろうし後数日くらい待とうぜ
429名無しさん@ピンキー:2010/01/04(月) 15:42:28 ID:ESmIe+cW
携帯もPCも規制されまくりだしな
430cinderella & cendrillon 8:2010/01/04(月) 17:42:10 ID:3za97h+/
ヤン猫クラッシュ再び

どうぞごゆるりと
431cinderella & cendrillon 8:2010/01/04(月) 17:42:33 ID:3za97h+/
〜灰乃side〜

「……ごめんね、えねちゃん」
「え?」
「私の所為で向こうへ連れて行くことになって……」
私は自嘲気味に言葉を紡ぎだす。
ここは空港、あの日から2日ほどたった後……
「別に気にしてないよ、向こうに行けば…腕、なんとかなるかもしれないんでしょ?」
「えぇ、ドイツは医療技術では世界でもトップレベルよ、と言っても恐らくは義手をつけることになるでしょうけどね」
これは本当だ、実際ドイツは医療の最先端を行く国だ、えねちゃんの腕も何とかなるだろう。
でも本当なら義手くらい日本でもつけられるし、リハビリだってできる。
この子をドイツへ連れて行くのは私のワガママ。
「また腕が2本に戻るならどこだって行くよ、それにちゃんと動かせるようになってから帰ってくればいいんだしね」
その言葉に私の胸がつらくなる、だって『もう一度』は無いもの。
この子が事故に遭ったと聞いた時、そのうえ左手を失ったと聞いた時、私は目の前が真っ暗になった。
それと同時にものすごい後悔が込み上げて来たことも覚えている。
私がドイツに行くことを決めたとき、本当はこの子も一緒に連れて行こうとした。
でもこの子のことを考えればと思ってそれは諦めることにした……でも。
やはりあの時連れて行けばよかった、私の手元に置いておけばよかった、束縛してしまえばよかった。
だからもう同じ過ちは繰り返さない、この子は絶対私のものにする。
「ごめんね、えねちゃん」
「だから気にしてないって」
……あなたの未来を奪ってしまって……
432cinderella & cendrillon 8:2010/01/04(月) 17:42:55 ID:3za97h+/
「そろそろ時間よ、行きましょう」
「あ、うん」
目の前にあるゲート、これをくぐればもう後戻りはできない……いいえ、させない。
もう覚悟はできている、えねちゃんに嫌われることも、あの二人を敵に回すことも。
それでも……それでも私は、えねちゃんが欲しいから。
「依音!」
急に後ろから誰かの大声、振り返るとそこにはよく知った瓜二つの女。
私の代わりに何年もの間えねちゃんと一緒にいた妹たち。
「ひめねぇ、さきねぇ」
「絶対! 絶対帰ってくるのよ!?」
「わかってるよ! ちゃんと戻ってくる! それまでまってて!」
果されることのない約束、その原因は私。
「えねちゃん時間よ、行きましょう?」
「うん、行こうはいねぇ」
そして私たちは、ゲートをくぐった。
433cinderella & cendrillon 8:2010/01/04(月) 17:43:27 ID:3za97h+/
〜依音side〜

日本から約12時間、オレはドイツにいる。
初めての外国がこんなことで来ることになるなんて予想外もいいとこだ。
「はいねぇ、家はここからどのくらいなの?」
「そうね、だいたい1時間ってとこかしら。」
遠いなぁ……合計約13時間の旅とか本気無理。
『本気』と書いて『マジ』と読むくらい本気で無理。
飛行機の離陸の時のグワッとくる感じで酔ったし、車酔いするし……
……まぁここで愚痴っても仕方ないんですけどね……

〜1時間後〜

……もう……飛行機の後に車には乗らない……
「大丈夫、えねちゃん?」
「あ、うん……大丈夫……」
結論から言うと、酔いました。
『飛行機+車=とてつもなく酔う』という悪魔の方程式が完成しましたとさ。
「ここが…はいねぇの家?」
「そうよ、なかなかいい感じでしょ?」
「一軒家……ですか?」
目の前にあるのは2階建て庭付き大きめの一戸建て。
恐らく都心で建てたら億はするんじゃないかっていう位の大きさだ。
「うん、1ヶ月くらい前からここに住んでるの」
「今の仕事、そんなに給料いいの?」
「そうね、なかなかの額をもらっております」
ニコッという効果音とともに素晴らしい微笑みを向けてくるはいねぇ。
何年も会ってなかったせいか妙にドキドキする。
「ささ、入って頂戴♪」
「うん、おじゃましま〜す」

〜更に1時間後〜

「ふぅ、やっと準備終わったよ」
「ごめんね、普段使ってない部屋だったから」
「いいよ、オレが使わせてもらうんだから」
到着から1時間後、オレはずっと使わせてもらう部屋の掃除をしていた。
「飲み物入れるわね、紅茶とコーヒーどっちがいい?」
「じゃあ紅茶ちょうだい」
「ん、じゃあ淹れてくるわね」

434cinderella & cendrillon 8:2010/01/04(月) 17:46:03 ID:3za97h+/
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

もう一度、遅れてごめんなさい

p.s.オレ……猫と付き合っていく自信がなくなってきた……
435名無しさん@ピンキー:2010/01/04(月) 18:02:18 ID:Ca2Mc8h/
誰か俺に現実と空想の違いを教えてくれないか?
436名無しさん@ピンキー:2010/01/04(月) 18:03:57 ID:Ca2Mc8h/
因みに、友人(男)の頭がよくて、ヤンデレと裏で張り合うのが好きです
437名無しさん@ピンキー:2010/01/04(月) 21:30:00 ID:YKwqS6B2
Gj
438名無しさん@ピンキー:2010/01/05(火) 16:14:52 ID:7p17aWIb
test
439 ◆AW8HpW0FVA :2010/01/05(火) 16:15:48 ID:7p17aWIb
思いの外、規制が早く解けたので投稿します。
440変歴伝 22 ◆AW8HpW0FVA :2010/01/05(火) 16:18:10 ID:7p17aWIb
「ちっ…」
朝の澄んだ空気の中、舌打ちの音が部屋に響いた。出所は彩奈である。
せっかく業盛と一緒に寝れたと思ったのに、
まるで自分達の仲を裂くかの様に、水城が寝ているのである。
舌打ちをしたくなるのも当然であった。
このまま、だらしない寝顔を晒している水城の首を絞めてやろうかと思ったが、
さすがにそれは思い止まった。
首を絞めている所を業盛に見られたら、言い訳の仕様もないからだ。
他の奴に嫌われようとも、業盛だけには絶対に嫌われたくない。
その思いは水城と同じなのだが、そのことを彩奈が知るはずもない。
彩奈は水城を一瞥した後、業盛に目を向けた。
顔が緩んだ。
業盛の寝顔を見ていると、先程までの殺意が薄らいでいくのが分かる。
もっと近くで業盛の寝顔を見たくなった彩奈は、
音を立てない様に四つん這いになり、業盛の近くに行こうとした。
「こんな朝早くから雌牛の真似事かしら、彩奈?」
ちょうど水城の枕元を通り掛った所で、冷たい声音で水城が声を掛けてきた。
彩奈は少し驚いたが、すぐに水城に冷眼を向けた。
「雌犬…、起きていたんですか…」
「さっきからミッシミッシうるさいのよ、雌牛。
勝手に人様の家に上がりこむだけでもおこがましいというのに、
あまつさえ三郎と一緒に寝ようだなんて、厚顔無恥にも程があるわ。
雌牛は雌牛らしく、牛舎で雄牛と盛っていればいいのよ」
「自分にないものだからって、私に八つ当たりするの、止めてくれません。
悔しかったらもっと大きくする努力をすればいいじゃないですか。
……あぁ…、歳が歳だからもう無理ですよね」
口論は熱を帯び、今にもどちらかが掴みかかりそうな雰囲気になった。
事実、水城は腰を少し浮かせ、いつでも飛び掛かれる様にしていた。
取っ組み合いになるのは、時間の問題だった。
441変歴伝 22 ◆AW8HpW0FVA :2010/01/05(火) 16:18:43 ID:7p17aWIb
「ふぁ…、二人共、朝からなに話してるんだ?」
そんな険悪な空気の中、業盛の欠伸混じりの声が、二人の背後から聞こえた。
睨み合っていた二人は、さっと業盛の方に顔を向けた。
「なんでもないわよ」
「なんでもありませんわ、兄様」
まるで示し合せていたかの様に、二人の声が重なった。
幸いなことに、先ほどの会話を業盛は聞いていなかったらしく、
業盛は深く追求してこなかった。
「それよりも三郎、あんた仕事があるんだから、さっさと着替えなさいよ」
彩奈がほっとしたのも束の間、水城が身を乗り出して業盛に言った。
水城のその言葉を聞いた業盛の表情が、一瞬強張った。
それはすぐに元に戻ったが、その一瞬の出来事を彩奈は見逃さなかった。
どうしたのかと業盛に聞こうとしたが、口を開く前に水城に腕を引っ張られ、
部屋の外に出されてしまった。
「なにするんですか!」
彩奈は水城に抗議の声を上げたが、当の本人は、
「三郎が服を着替えるのよ。私達がいたら邪魔でしょ」
と、苦虫を噛み潰した様な表情で答えると、壁に寄りかかって黙ってしまった。
「兄様の…、着替え…」
その魅力的な言葉に、彩奈は戸一枚隔てられた先で繰り広げられているであろう、
業盛の生着替えを無性に覗きたく、出来れば着替えさせてあげたくなった。
しかし、すぐ横で水城がこちらを睨み付けているので、
覗くことも着替えさせることも不可能だった。
「ちっ…」
再び舌打ちの音が響いた。
442変歴伝 22 ◆AW8HpW0FVA :2010/01/05(火) 16:19:33 ID:7p17aWIb
久々に一人で服を着替えた業盛は、昨日水城から渡された赤黒い餌を鯉に与えていた。
思いの外美味いらしく、食いつきがとてもよかった。
そんな鯉達を見つめながら、業盛は考え事に耽っていた。
服を着替えて外に出た時の、水城の悔恨混じりの視線。
今回の着替えの件は、自重ではなく我慢であるというのが、あの視線だけで分かる。
我慢は、溜まればいつかは爆発し、周りに被害を及ぼす。
それは分かっているのだが、今回はそれのお陰で着替えさせられずに済んだのである。
業盛は、向後の災難を取るか、今の安寧を取るか、非常に苦しい立場に立たされていた。
「ここは、水城の不満を少しずつ解消してやるのが最善か…」
しばらく唸った末に答えを出した業盛は、朝食を食べるべく部屋に戻った。
部屋に戻る途中、業盛は久しぶりに弥太郎を見掛けた。
隣には若い女が侍っており、それが業盛を余計驚かせた。
ふと悪戯心が湧いた業盛は、音を立てない様にゆっくりと弥太郎に近付いた。
「やあやあ、弥太郎じゃあないか。久々に見かけたと思ったら、
いったいどこでそんな美人さんを連れてきたんだ?」
普段であれば絶対に使わない言葉を言いながら、にこやかに弥太郎に近付いた。
業盛の声に気付いた弥太郎は、ゆっくりとこちらに振り向いた。
「あぁ…、三郎か…」
弥太郎の声には活気がなく、目の下に隈があった。
「どっ…どうしたんだ、弥太!顔色が悪いぞ!」
思わず業盛は、心配の言葉を掛けてしまった。
弥太郎はなにか言おうとしたが、それを遮る様に女が前に出てきた。
「あなたが業盛様ですね。私は義家(弥太郎の諱)様の妻、鈴鹿(すずか)と申します。
これからも、どうぞよろしくお願いします」
妻と名乗った女、鈴鹿は形式的な挨拶を述べると、
弥太郎の手を引いて、その場から立ち去ってしまった。
随分と気の強い女を嫁にしたな、と業盛は引っ張られている弥太郎を見ながら思った。
弥太郎の顔色が悪かったのも、
きっとあの女に毎日怒鳴られているからだろうと考えると納得がいった。
「南無…」
業盛は、弥太郎のこれからの前途の多難さを思い、合掌して見送った。
443変歴伝 22 ◆AW8HpW0FVA :2010/01/05(火) 16:20:12 ID:7p17aWIb
業盛が餌やりに行っているころ、水城と彩奈の二人はお互いに睨み合っていた。
「分からない奴ね。朝食は私が作るって言ってるでしょ!雌牛はすっこんでなさい!」
「妹が兄のご飯を作ってなにが悪いんですか?雌犬こそ手を出さないでください!」
口論の内容は、誰が業盛の朝食を作るか、というものだった。
二人共、自分が作るといって譲らず、場の雰囲気は先ほど以上に険悪になっていた。
「ねぇ、彩奈さん。そろそろ自重しないと、その目障りな肉の塊をそぎ落とすわよ?」
「そうですか。やれるものならやってみればいいじゃないですか。
その貧弱極まりない身体で、私の身体に傷を付けられればの話ですけど…」
彩奈の暴言を聞いた瞬間、水城は手に持った包丁を彩奈に向かって投付けていた。
だが彩奈は、飛んできた包丁を首を傾けるだけで回避してしまった。
包丁は、戸にぶつかり、床に落ちた。
「危ないですね、水城さん。当たったら死んじゃいますよ」
彩奈は蔑んだ笑みを浮かべながら、余裕を持って水城に言った。
それに対して、水城は感情をまったく表に出していないが、内心では驚いていた。
「そのつもりで投げたんだけど……、あんた、何者…?」
「私は業盛様の妹。それ以上でもそれ以下でもない女ですわ…」
彩奈の発言は、完全に水城を舐めきったものだった。
それが分かるだけに、水城は再び手に包丁を持ち、彩奈に投げ付けようとした。
しかし、投げる直前で、水城の動きが止まった。
彩奈の背後の戸が、少しだけ動いたのが見えたからである。
きっと業盛だろうと思った水城は、投げる動作を止め、包丁を脇に置いた。
「水城、今日の朝食はなんだ?」
案の定、入ってきたのは業盛だった。
「まだ出来てないわ」
水城はそう言って、業盛を外に追い出すべく立ち上がった。
立ち上がり際、水城はふと彩奈の顔に目をやった。
彩奈の表情は、まるでなにかを失敗した様な苦々しいものになっていた。
ここに来て水城は、彩奈が自分のことを嵌めようとしていたのだということを理解した。
前日の業盛の話で、彩奈はずっと山で暮しており、文字も読めないと聞いた。
そんな無学な女が、曲がり形にも孫子の兵法を使ったのだ。
それを思うと、水城の背筋に冷たい汗が流れた。
本能的に、この女に正攻法は駄目だ、と水城は悟った。
水城は彩奈を一瞥した後、なにか声を掛けるでもなく、
そのまま横を通り過ぎ、業盛を外に追い出した。
444 ◆AW8HpW0FVA :2010/01/05(火) 16:21:55 ID:7p17aWIb
投稿終了です。
忙しいのと規制で遅れました。
あと、変歴伝 15に大きなミスがあったので修正しました。
ご了承ください。
445名無しさん@ピンキー:2010/01/05(火) 16:33:19 ID:QPDVC9vF
ガイアでGJ
ひんにゅうかわいい
446らいど。:2010/01/06(水) 00:02:49 ID:mpfunB+Z
乙。
447名無しさん@ピンキー:2010/01/06(水) 00:47:56 ID:6BAZwFpN
GJ
448名無しさん@ピンキー:2010/01/06(水) 01:32:53 ID:Q7JEvnE5
はいねぇきたーーーー!!
また焦らしですか(ビクンッ
首を長くして待ってます
変歴伝の方もGJです
断然彩奈派でござる

てか携帯規制されたから数ヶ月ぶりのMAC起動書き込み余裕でした。
449らいど。:2010/01/06(水) 06:43:28 ID:mpfunB+Z
乙。
450名無しさん@ピンキー:2010/01/06(水) 07:07:54 ID:9NNGj2CB
>>449
死ね
451名無しさん@ピンキー:2010/01/07(木) 00:17:58 ID:0StueC2P
長編職人も短編職人もGJ!

今年もwktkして待ってます
452名無しさん@ピンキー:2010/01/07(木) 00:25:15 ID:G1KrplP+
題名のない長編その七が、途中から読めなくなってるんですけど、どうしてでしょか?
453名無しさん@ピンキー:2010/01/07(木) 12:45:30 ID:2TFoBxZH
まだ保管途中だから(^_^;)
次いつ保管作業できるか分からんのでやる気がある人はガンガンWiki編集して下さい
修正とか訂正はこっちでやるので
454名無しさん@ピンキー:2010/01/07(木) 14:23:39 ID:qpyv3+x4
>>452
文句あるなら自分でやれwikiなんだから
455名無しさん@ピンキー:2010/01/07(木) 22:56:23 ID:zI01DZ7o
文句言ってるようには見えないが。ただの質問に過剰反応すんなよ。
保管庫の掲示板で聞けば良い内容ではあるけど
456名無しさん@ピンキー:2010/01/08(金) 12:43:18 ID:RbnrxMAg
最近ここ見つけてwiki見てるんだが完結してないとなんか悲しい気分になるな
457名無しさん@ピンキー:2010/01/08(金) 15:15:46 ID:vrYx0nqF
作者はヤンデレに監禁されてしまったからしょうがないよ
458名無しさん@ピンキー:2010/01/08(金) 15:39:26 ID:8dic2z0q
(完結)ってついてない作品を避けるといいよ
459名無しさん@ピンキー:2010/01/08(金) 18:14:16 ID:pl9A0qQ0
千石撫子みたいなキャラはヤンデレに向いてると思うか?
460名無しさん@ピンキー:2010/01/09(土) 02:37:02 ID:6u3QWRF3
全てのおなごの中に
ヤンデレは住んでおる
461名無しさん@ピンキー:2010/01/09(土) 21:09:25 ID:IFuT3aUH
良い事言った
462名無しさん@ピンキー:2010/01/09(土) 23:07:38 ID:CKTTYYpp
同感
うわぁ、今年一番の名言だ
463名無しさん@ピンキー:2010/01/09(土) 23:11:54 ID:FVtJkrg7
今年は始まったばかりで褒めてる感じがしないの
464名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 00:28:28 ID:69Nfz9/q
すまん、言葉が足りなんだ

今年「一番」オレの中で絶対普遍の定位置に収まった名言です
465名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 01:33:44 ID:egY1DQgf
雑談多いなここ
466名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 02:40:21 ID:oTlRE5Lk
投下
467魔王様との日常:2010/01/10(日) 03:19:47 ID:oTlRE5Lk
目が覚めると、いつも通りの見慣れた天井が目に入った。
体を起こして隣を見る。誰もいないし誰かがいた形跡もない。ようやく言いつけを守ってくれたようだ。
無駄にでかいベッドからおりて、これまた無駄にでかいある城の部屋に立つ。
外はもう既に明るい。ルシファーはちゃんと仕事をしているようだ。
服を着替え部屋の外に出る。
「陛下、もう起きていらっしゃったのですか」
部屋の直ぐそこにいた女性がそう言った。
彼女の名前はメアリー・A・オニキス。代々侍女…つまりはメイド…の家系で、今代のメイド長だ。
「朝食の準備が出来ましたので、急いで参りましょう」
彼女はそう言って俺の手を引いた。メイドとしてはそういうのはどうかと思うのだが、気にしてはいない。
それよりも気をつけなければならないのは彼女の料理だ。
メイド長を勤めているだけあって腕はかなりのものなのだが、俺が少しでも残そうものなら生気の無い顔で責めよってくる。
さらに残してしまった翌日の夕食には、人間が使うものとは比較にならない程の強力な媚薬と痺薬を入れられた。
幸いにも、悪魔の中でも際立って凄い先祖譲りの身体のお陰で効力はすぐに無くなり事なきを得た。
最近は残すという行為自体を禁忌としたのでそんなこともあの時は危なかった。
全く、残したのは悪かったが、何であんなことをしたのか皆目検討がつかない。
他の奴にしたってそうだ。何故俺の周りには過激な女が多いのだろうか。

****

朝食の場には既に六人が集まっていた。
「遅ぇよ!何暢気に寝てんだよ!お前が来ないと飯食えねぇだろぉが!」
朝っぱらからやけに!マークの多い喋り方をするこの赤髪の女はコロン・A・グラントン。簡潔に説明してしまえば戦闘狂だ。

468魔王様との日常:2010/01/10(日) 03:51:41 ID:oTlRE5Lk
まあその戦闘狂も最近は戦争もないのでおとなしいものだ。
しょっちゅう俺のところにやって来ては喧嘩吹っ掛けて俺が負かして満足気に帰っていったのだが、今では俺の部屋で雑談でもして帰っていく。
しかし彼女は…いや、これは全員に言えることなのだが、彼女が最も酷い…話の途中に誰かが(割り込んでくるとそいつを肉片になるまでボコる。特にそれが女性となるとさらに酷い。別の女性の話題を出しただけでその娘は命の危険に晒される。
「別に彼を無視して食べていればいいじゃないの。ねぇ?」
そう問いかけてきたのはレイラ・B・レミントン。癖の無い真っ直ぐな金髪が特徴だ。
彼女もまともとは言えない。
一度彼女の所為で交友関係にあった国が無残なまでに壊滅した。理由はその国の代表が俺の悪口を言ったから、だそうだ。その後普段クールな彼女が一変、「ほめてほめて!」と嬉しそうに言ってくるのである。
あの時はもう呆然とするしかなかった。
「…早く、食べようよ」
俺の方をじっと見つめてそう言ったのはニコラ・B・ヴァードラント。
足が悪い訳でもないのに常に全自動の車椅子に乗っている。極度の面倒臭がりだ。
しかし、その怠慢を覗けば彼女はまともな女性だ。
だが仕事の忙しい時に彼女のことを構わずにいるときだけ異常な視線を感じるのは気のせいだろうか?
そんなことを考えているうちにコロンとレイラが本気の喧嘩を始めそうだ。
ルシファーを含めた三人が止めに入ろうとしている。
そろそろ朝食を食べてしまおう。今日も彼女たちを構わないといけないのだから。
469魔王様との日常:2010/01/10(日) 03:52:36 ID:oTlRE5Lk
のりで書いただけ
続き書くかも解らない…
470名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 12:34:15 ID:lJwS76Ox
>>469
是非続きを。これは面白いと思う。
471名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 23:53:05 ID:Zo5/ncSb
書かなくていいよ
最初から書かないほうがもっと良かったけど
472名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 01:38:36 ID:QEmJQJQC
ハーレムスレ向けのような気がしないでもない。
473名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 02:20:17 ID:byVSRgPj
つかハーレムスレに同じような設定のあったよな
474名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 18:33:01 ID:sfshPUjh
規制解除されてたとは!もういろいろとGJ!!
475名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 19:47:45 ID:uTKQXuTm
>>473
パクリなのか作者が同じなのかはわからないがあったね。
476名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 22:10:14 ID:Kmja8occ
GJ
メアリ&オニキスと聞くと漆黒のシャルノスしか出てこないorz
477名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 22:16:20 ID:Kmja8occ
>476
すいません
sageし忘れた
478名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 22:17:29 ID:VitRJCoE
エロゲ厨はカエレ!
479名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 23:48:35 ID:DL6Rugdv
派手 目立つ
480名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 00:56:37 ID:O/LXejqR
どーでもいい
481名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 22:44:06 ID:COmURCKO
>>469
何でハーレムスレのOUT氏のSSパクったの?
482名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 23:50:17 ID:Nh+HJntL
復活
483名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 17:47:04 ID:+ycRTyZP
ageとか(藁ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
484名無しさん@ピンキー:2010/01/13(水) 22:35:52 ID:EkQs8ogf
1レス小ネタ。元ネタありだが一部にしか分からんと思う。

「ほら、これが俺の娘だ。双子なんだ。」
そう言ってデカ長は私に携帯の画面を見せた。
よれよれの上着のポケットから取り出された携帯の画面は少し汚れている。
うっすらと香る男性特有の脂の臭いには、かすかに彼の匂いも混じっていた。
画面を覗き込むと、なるほど、よく似た猿が二匹ならんでフレームに収まっている。
そしてその後ろには、彼と、前列の猿に良く似たババァ猿が立っていて。
(気持ち悪い・・・。)
私は早々に画面から視線をはずす。
ずらした先には、いつものようにだらしなく開いたシャツの襟と、彼の肌。
そこから目線を上げて、上目遣いに彼を見た私は、心にもないお世辞を一言発した。
「へぇ〜、ほんとだ、双子なんですね。可愛い〜」
「はは、そうだろ?」
そう言われて相好を崩す彼の不器用な笑みに、心が沸き立つ。
(嘘だ。嘘嘘嘘嘘。あんな猿供が可愛いわけがない。私とつくればちゃんと人間の子供が。)
「でも、良かったですね?」
そう言って、私はいたずらっぽく笑いかける。
ついでに彼のたくましい腕をとるのも忘れない。これで今日も私の匂いがついた。
「なにが?」
主語のない私の言葉に思わず問い返すデカ長。
嗚呼、怪訝そうな顔がすこし可愛く見える。
「娘さんがデカ長に似ないで良かったですね!」
そう、本当に良かった。彼の子供みたいじゃなくて。
「うんうん。って、それどういう意味だよ?」
そう言い返して、彼は苦笑いを浮かべた。
(そのままの意味ですよ、デカ長。)
(あなたの本当の子供は私が産むんですから。)
(アレらは違います。似てませんし、そもそも人間ですらありません。)
「だ・か・ら。そのままですよ、そ・の・ま・ま。」
そう言って、微笑んだ私はすぐに彼から視線をそらした。でないとバレそうで。
私のなかに湧いた、紛れもない殺意を。
(あなたのぜーんぶ、絶対に手に入れるからね。)
485名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 00:00:05 ID:av6e/fmv
社会人が主人公のSSってあんまりないよね。
もっと見たい。
486名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 00:03:09 ID:8sUihVzw
>>484
読み直すとぜんぜん状況が分からんね
ケーザイ刑事でググれば雰囲気は分かるとおもう
487名無しさん@ピンキー:2010/01/15(金) 21:41:12 ID:i/eiIFAO
前の奴に影響された小ネタ

よれよれのスーツの中年男は上司にも部下にも965と呼ばれている。もちろん彼の妻や子供は彼の名で呼ぶ。
「ナカ○一よりナカ○三へ、監視対象(サブジェクト)が帰宅した。犬小屋に入れ。」
「了解、犬小屋に入り602に引き継ぐ。そういや305はどうなった?最近見ないが。」
犬小屋と言うのは駐車したバンのことである。そして交代要員の控え室的な役割を果たしている。
「ああ、その件だが、死体で浮いた。射殺らしい。“貿易会社”の仕業だとしたら次は我々だな。」
男は冗談にしては笑えないなと思いつつ犬小屋の後部座席の若い女を起こした。
「602、時間だ。858がお前のペアだ、拉致られ無いようにしろよ。」この時、監視対象の運命は決まった。
965はスーツの中身を車内に置くと会社帰りの二児の父親となった。602の表情にも気づかずに……
「あの人は気づいてくれない…こんなに近くに居るのに…そうだ、この機会にやっちゃおう…」
858が消失(ロスト)し、602が監視対象を失尾(しつび)した事が情報本部に伝えられた。
数日後…全裸の女の死体が上がった。858だった。
488名無しさん@ピンキー:2010/01/15(金) 22:15:41 ID:i/eiIFAO
監視対象の消失により特別防衛機密漏洩事件の真相は闇に消え、
イージスシステム搭載護衛艦「うらかぜ」の海曹の逮捕によって表向きは幕を閉じた。

602と呼ばれた女は、都内のマンションの一室に帰宅した。
今まで、市ヶ谷に泊まり込みで何日も帰らなかった部屋に出来る限り毎日帰るようになった。
そこには男がいた。監視対象の元、二曹の男だった。
「あなた、お寿司買ってきたわよ。好きなんでしょお寿司。」
縛られている男が苦虫を噛み潰した様な顔で問う。
「何で知ってる……俺をどうする気だ……拷問でもする気か?」
女は平然と答えながら男の腰掛けるベッドの前のテーブルに寿司を置く。
「ずーっとあなたを見ていたんですもの。それぐらい分かりますわ。」
恥ずかしがる乙女の様な表情で続けてこう言った。
「あなたを愛してるからこうせずには居られなかった。このまま二人で暮らしましょう。」
男が何か言う前に女は寿司を食べさせる。男は素直に食べる。
もしも女が泊まり込みの場合二日間何も食べられなくなるからである。
男の口に寿司を運びながら彼女は言った。
「ほとぼりが冷めるまでここに隠れていたら安全ですわ。」
男は陥落した。
         
489名無しさん@ピンキー:2010/01/15(金) 22:20:32 ID:i/eiIFAO
元ネタとかは特にありません。護衛艦の名前を亡国のイージスからパクった位なもんです。
当たり前ですが全てフィクションです。
490名無しさん@ピンキー:2010/01/15(金) 22:43:10 ID:i/eiIFAO
補足。
貿易会社…某国の武装偵察局のダミー会社。
市ヶ谷…防衛省のこと。
失尾…見失うこと。
うらかぜ…架空の護衛艦。亡国〜世界とは違い22DDの一番艦。つまり最新型。
491トライデント ◆J7GMgIOEyA :2010/01/16(土) 21:57:12 ID:Sp5ca6bt
では投下します
492お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2010/01/16(土) 22:00:04 ID:Sp5ca6bt
第10話『絶対監禁』
 ババアは当主である女性に連絡を取り合っていた。
今後の展開次第では自分が任務を遂行するために戦場を赴く必要があったからだ。
 当主。

 あの敷地の支配者であり、政界にもいろいろと顔が利く大物。
声はマイク音で偽装しているが、喋り方の口調からすると女性だ。
だが、それ以上の正体はババアも恐ろしくて口を出すことはできない。

ともあれ、当主が存在しているおかげで警察の方では事件を握りつぶしてもらい、
ババアは安心して殺人を実行することができる。

『予想通りの展開です』
「しかし、彼が仕事を解雇されるなんて想定外なことがあったのだが」
『問題ないです。依頼主様が監禁すれば、それで契約は達成されたことになります。
彼の周囲に何が起きようがこちら側に責任はありません』
「そうですかのぅ」
『問題は邪魔者の方です』
「人間のクズに襲わせるように工作を仕掛ける以前に邪魔者は人間のクズに拘束されているのじゃ」
『それはちょっと困ったことになりましたね』
「はい?」
『依頼主が内容の変更を申し出た。邪魔者に確固たるイチャイチャな交際を付き付け、
絶対的な敗北を味あわせて欲しいようです。本来の内容は邪魔者がいれば即刻排除のはずでしたが、
仕方ありません。依頼主の要望が最優先となりました』

「ならば、邪魔者を殺さなくてよいと?」
『そうですね。依頼主や彼に危害を加えない以上は殺さなくてもいいかもしれません。
とはいえ、情報によると人間のクズが邪魔者に対して性的行為をしそうです。
そんなことになれば、依頼主が望む惨めな敗北を味あわせることはできません』

「ならば、その人間のクズに殺害許可を」
「許可致します。なお、装備は金に物を言わせて、最高の武装を用意させて頂きましたよ。
ババア。久々に大暴れしても構いません。相手は政敵の関係者です。肉片を残らないぐらいにやってください。それでは」
「うむ」

 当主の連絡を途絶えるとババアは嘆息した。仕事の依頼の内容は状況によって変わることもがあるが、
久々の人間狩りに血肉が湧き踊りそうだ。

「久しぶりに大暴れしてやろうかのぅ」
 以前の依頼から3年以上は人を殺すような仕事は舞い降りて来なかった。
 管理人としてあの敷地の管理をする退屈な仕事をやってきたが。

 彼があのアパートを借りた時から、ババアはこういう時が訪れることを心待ちしていた。
 当主の望み。

 当主の裏商売。

 それらが全て成就することを意味している。

 この自分もそのために全身全霊で任務を達成しなければ。
493お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2010/01/16(土) 22:01:59 ID:Sp5ca6bt
 ふと、目が覚める。
 頭上から植木鉢が落ちて来るという漫画みたいなオチのような夢を見てしまった。

 その夢の影響だろうか、さっきから俺の頭に鋭い痛みが襲ってくる。
 目を開けると、俺は愕然とした。
 見知らぬ部屋のベットで俺は寝かされていた。部屋は真っ暗で何も見えないが、ここは俺の部屋ではない。
 少しぼんやりしているようだが、俺の記憶が確かならば、

 自分の部屋は引っ越しするための準備とかで生活用品類は片付けたはずだからだ。
 ということは?
 隣から俺ではない体温の温もりを感じられた。
 心地良い暖かさと柔らかい感触に心のどこかが癒されそうになる。
 そう。

 ある程度の暗闇に目が慣れ始めるとその温もりの正体はあっさりと判明した。
 幸せそうに寝息を立てながら、俺の隣に枕を置いて寝ていたのは彩さんであった。
 俺の右腕をしっかりと掴んで、自分の胸元に押し付けるように腕を絡めていた。

「桜井さん?」
 隣に寝ているのが彼女だとわかると違う意味で俺は驚きを隠せずにはいられない。
 気を失うまでの記憶ははっきりと覚えているが、彼女が俺の隣に寝ているまでの過程がすっかりとわからない。
 もしや、俺が血迷って彩さんと一夜を過ごした可能性も否定できない。
 どうすればいい?

「ふにゃ……忍さん。起きたんですねぇ」
「何で桜井さんが隣で寝ているんだよ」
「それはですね。私が忍さんを監禁しちゃったからですよっ!」
「へぇ?」
 眠たそうに目を手で擦って起き上がった彩さんが組んでいた俺の腕を離して、
 俺の身体を押し倒していた。甘えるように俺のほっぺたに彼女の頬が触れ合った。

「さ、桜井さんっっっ……」
「もう、離しません。絶対に。忍さんは今日から私だけのものなんですからね」
「ちょっと待て。さっぱりとわからないぞ」
「言ったじゃないですか。忍さんを監禁したって」
「監禁?」
「そうですよ。忍さんを監禁しました。今日から私の許可無くこの敷地に出ることは絶対に許しません。
 ずっと、ずっと、私の傍にいてください」

 却下する。
 と、本人の目の前ではっきりと断言したら俺は度胸のある男として、近所の皆様から噂されることに間違いないのだが。
 うんうん。世の中にはケンカを売ってはいけない人種と言うか、モンスターと言いますか。
 過去のご先祖様は名言を残してくれました。地震、雷、火事、親父。そして、ヤンデレには手を出すなと。

 そう、今の彩さんは精神的に病んでいる状態、『ヤンデレ』という生物に生まれ変わっていました。
 ヤンデレ症候群感染者の症状は愛しいあの人を独占したい。自分だけを見て欲しいという欲求に忠実で、
 消極的だったあの子が超積極的になってしまうぐらい変貌してしまう。
 特に重傷者の女性は愛しい人を恋する乙女のパワーとかで自宅内で監禁してしまう事例がある。
 そう。

 今の俺がまさにその監禁に現在進行中で遭ってます。助けてください。ヘルプミー。
494お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2010/01/16(土) 22:04:05 ID:Sp5ca6bt
「断る。拙者は自分より強い奴に会いに行きます!!」
「うにゃ?」
「じ、冗談です。俺が桜井さんのことを拒むはずないじゃないですか。(時と場合によるけど)」
「むむむっ……」
「どうしたの?」
「忍さん。桜井さんなんて他人行儀な呼び方なんてやめてください。私のことを、その、ちゃんと名前でお願いしますよ」
「へぇ?」
 自分の視点では桜井さんのことを彩さんと名前で語っている。
 それほどの親密な仲でもないし、馴れ馴れしく名前で呼ぶのは個人的にどうかと思う。
 友人ではなくて、隣人の距離はマリアナ海溝より深く、サバンナのような熱帯長草草原地帯よりも弱肉強食が激しい。

 昔の日本のような密接した隣人関係は存在してないのだ。仮に俺が彩さんと仲良くなるためにフラグを立てるだけで、
 彼女は警察へストーカーに遭っているという被害を相談するだろう。
 そして、張り込んでいる警察官にストーカーの現行犯で逮捕されるという現実が待っている。
 この年齢で留置所になんて入りたくもないし、刑務所も悟りを開きに行くようなもんさ。

 とはいえ。
 女の子の名前を呼ぶのは気恥ずかしい。

 しかし、彩さんが呼んでくれることを期待した瞳で俺を見つめている。
 その期待を裏切るのはさすがに罪悪感を感じる。
 仕方なく俺は……彼女の名前を言った。

「彩さん」
「はい!!」
 無垢なる笑顔で彩さんは微笑んでいた。今まで見たこともない表情に俺の鼓動は少しだけ高鳴りが抑えられずにいた。
「えへへ。忍さん。好き。好き。大好きですよ」
 子猫が親猫に甘えるように俺の首筋に彩さんの頬が擦り寄ってきた。
「あ、あ、彩さんっ。ちょっと」
「いいじゃないですか。今日からは私が忍さんのご主人様ですよ。えっへん」
「すでに主従関係が決まっているのか!?」
「その、忍さんは監禁されたんですから。監禁した女の子の言うことを聞くべきだと思います」
「俺の新たな生活はマグロ漁船でマグロ食べ放題ではなくて、彩さんと監禁生活かよ!!」
「それが運命です」
「そんな運命はいらん!!」

 正直、天然の獲れたばかりのマグロと彩さんの監禁生活を天秤にかけると
 どちらの選択肢を選べばいいかわからない。ただ、わかっていることは
 彩さんの監禁生活に待っているのは果てしない苦渋の日々だということだ。
495お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2010/01/16(土) 22:07:45 ID:Sp5ca6bt
「さてと忍さんも目を覚ましたことですし。朝ごはんにしましょうか」
「朝御飯を食べている場合じゃあないだろ」
「今、電気を点けますけど。あの何があってもひかないでくださいね」
「うん?」
 押し倒していた柔らかな体の感触が離れて、彩さんはベットから降りる。
 真っ暗な部屋をただ足音だけが聞こえるのみ。しばらくしてから、何かのスイッチを押す音がした。
 電球が眩く周囲を照らした。
 そして、この部屋の実態に息を呑んだ。

「これは……何?」
「忍さんが見たとおりです」
 自分が居る場所はベットの上であったが、その部屋は引越しを手伝った時の彩さんの部屋ではなかった。
 大体、彼女の部屋の広さとは全く違う。この部屋の広さは俺と彩さんの部屋を繋げ合わせたぐらいの広さだ。
 それに壁の模様は異常であった。壁全体に俺の写真が、隙間なく張られていた。その写真には全く見覚えもないし、

 撮った記憶もなかった。
 更に、薄暗く映るモニターが大量に置いてあった。そのモニターの中の風景は引っ越しで荷物がなくなった
 俺の部屋のあらゆる視点や角度が映されている。死角がないようにモニターで監視できるようになっていた。

 そして、この部屋の入り口にある部屋のドアは金属製の鉄格子でその奥には上に上がる階段らしきものが見えていた。
 さすがの俺もこの状況ではボケの一つも浮かび上がってこない。
 彩さんは確かに俺を監禁すると言った。
 好きでもない男性を監禁する女の子はいない。

 監禁するような女の子はその人が好きでたまらないんだけど。
 内気な性格のおかげで告白する勇気が持てず、ひたすら相手のことを想って、
 想っている最中に他の異性と仲良くしている光景を見ただけで頭のネジの一本や二本が飛ぶと言う。
 彩さんの場合はどうであろうか。

 初めて会った時は誰も信じられないような冷たい目をしていたが、
 俺が引越しの手伝いをきっかけに彩さんは笑うようになった。
 毎日、俺のために弁当を差し入れてくれるようになった。その彼女の気持ちを俺は……まるでわかっていなかった。
 鈍感でヘタレな男はよく女の子に監禁されると言うが、まさに自分がそのヘタレとは同じ人種だったとは。

496お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2010/01/16(土) 22:09:38 ID:Sp5ca6bt
「こんなのまるでストーカーみたいじゃないか」
「ストーカーってのは恋する乙女のことを言うんですよ」
「俺の写真とか無闇に張りすぎて何が面白いんだよ。てか、俺のプライバシーの無視ですか? オイ?」
「恋する女の子はいつだって大好きな人のことを知りたいと思うのは自然だと思いますけどね」
「知る権利の乱用に異を唱えるぜ」
「でも、忍さんを盗撮したり、盗聴器で盗み聞きする必要はもうないんです。だって、これからはずっと一緒なんだもん」
 そう。病んでしまった女の子からは逃れる術はない。
 抗うことは愚かなことであり、どのような手段を使ったとしても、
 ヤンデレ症候群に感染した彩さんに勝つことは不可能に近いのだ。
 
読んでいる。
 ヤンデレ化した女の子の頭の回転の速さに驚かせる。
 俺が引っ越しセンターで引っ越しの依頼をしたので、すでに荷物は指定した場所に運ばれている手筈だろう。
 だけど、俺は彼らが来る前に彩さんの謀略により気絶させられている。

 その間に彼らと彩さんが接触して、引っ越しする荷物を廃棄している可能性がある。
 予定通りに仕事に来なかった俺を、今頃の若いもんはすぐにバックレするからなぁ程度で済まされていることであろう。
 そうなると俺の行く先は誰も知らず、両親や知人や友人がいないので誰も俺を行く先を探す人間はいない。

 誰かが気付いたとしても、俺はその時は行方不明者扱いになっているだろう。
 7年後には法律的に死亡者扱いにすることもできる。
 彩さんは誰も俺を探すことができない状況を作り出して、

 この場所で監禁してイチャイチャな生活を送ることが目的だったのだ。

「そういうことで朝ごはんを食べたら、監禁生活におけるルールとか決めましょうね」
 と、彩さんが天使のような微笑みを浮かべた。その笑みを見るだけで
 俺はこの異常な状況すらも容認できてしまいそうだ。そう、この少女の笑顔にとことん弱いのだ。

 鉄格子のドアを開けた場所から彩さんは美味しいそうな匂いがする朝食を持ってきた。
この繋げ合わせた部屋では調理をするためのキッチンが見当たらないので食事を作る時は基本的に上の方で作っているようだ。
 彼女が心を込めて作ったであろう朝食を簡易テーブルの上に置いた。箸を持って、二人とも行儀よく食事の挨拶をする。
「いただきます」
「いただきます」
 独り暮らしの時には全く感じることができなかった温かさを、彩さんが作ってくれた料理には感じ取れた。
美味を通り過ぎた味は時間を体感させることなく、気が付けば皿の中身は綺麗さっぱりと消えていた。

「そ、その。私が作った料理はどうでしたか?」
「どうもこうもないよ。とっても美味しかったよ」
「うにゃ。ありがとう」

 病んだ彩さんが嬉しそうに頬を染めて弾んだ声で言う。
普段から差し入れしている料理よりも味は格段に上手い。
だが、何よりも違うのは一人で食べたのではなくて、二人で一緒に仲良く食べたことではないだろうか。
寂しいという気持ちを抱くことはなく、心の安らぎを得ていたからだ。
 それゆえに彩さんの謀略には気を気をつけねばならない。何気ない天使の顔をしていても、
中身は狼だって裸足で逃げ出す悪魔なのだから。

「で、これからの生活方針について話し合いましょうね」

 監禁された俺に対する今後の扱い方など彩さんは熱心に説明するが、
俺の頭の中ではこの監禁生活から抜け出す方法を考えていた。
497お隣の彩さん ◆J7GMgIOEyA :2010/01/16(土) 22:11:47 ID:Sp5ca6bt
 一人の男が狼のような叫びを上げていた。
拘束された女性は彼を汚物のような視線でずっと見ていた。
彼に変な薬で眠らされた時から幾つの時間で流れたのか定かではない。
ただ、わかっているのは自分を襲おうとする男はこの世で最も殺してやりたいランキングで常に
トップを取っているぐらいに嫌悪している男だ。

 名は、扇誠と言う。

 とあるケーキ店の店長をやっているが、
その実体は自分とこの従業員やお客の女性達を手篭めにしてきた最悪な性癖の持ち主だ。
その最低な男にこうして拘束されているということはその被害に遭った女性達と同じ道を歩むことになるのであろう。

 女の子は大好きな人に自分の初めてを貰うことに固執する。
それが人生で生涯で唯一で後戻りができない大切な物だからこそ。

最初は愛しい彼に捧げたいと思うのだ。どこぞの最低最悪な男に奪われていいものではない。
 しかし、現実はそう甘くない。

「さあ、始めるぜ!!!!」
 扇誠は上半身を裸にして、たゆんでいる脂肪の腹を露出する。
視認するだけで吐き気をしてしまうような肉体に、魂の奥底から彼女は拒絶する。
「いいぜ。そういう嫌がる女を暴力で支配するからこそやめられねぇんだよな。
まあ、あの周防忍にはてめえが俺様にしっかりとヤラれている画像を送りつけてやるから。うふはははは」
「い、いやぁ。やめてぇぇぇぇ!!!!」
 扇誠が彼女を襲おうと服に手をかけた時であった。
 部屋にはおぞましい程の殺気に支配され、そこにはいなかった人物の姿がいた。

 老婆。
 介護の世話になってもおかしくない高年齢の女性が不気味に笑っていた。
 突然の来訪者に扇誠は行為を途中で中断し、不法侵入してきた相手に驚きながら訪ねた。
「てめえ、誰だ!!」

「ババア」
498トライデント ◆J7GMgIOEyA :2010/01/16(土) 22:14:01 ID:Sp5ca6bt
以上で投下終了です

次回予告は『ババア無双』です。
それでは。
499名無しさん@ピンキー:2010/01/16(土) 22:55:40 ID:pTW1Pcjh
ババア無双wwwwwww
500名無しさん@ピンキー:2010/01/17(日) 01:54:56 ID:0fT9ONUR
激しく吹いたwwババア…ただ人じゃなかったんだな。
501魔王様との日常:2010/01/17(日) 03:18:27 ID:5H6BeG8n
扇はどんなグロ画像を曝すのだろうwwwww
GJ!!
502名無しさん@ピンキー:2010/01/17(日) 03:21:21 ID:9201uDYW
名前欄に注目してみよう
503名無しさん@ピンキー:2010/01/17(日) 04:00:08 ID:tJ28a63f
彩さんに監禁されたら喜んで受け入れるって言ってたのに!うそつき!
「ババア」ってもしかしてコードネームっすか

ところで過去話を読み返したら途中から瑞葵が瑞希になってたりするわけだが
504名無しさん@ピンキー:2010/01/17(日) 15:21:54 ID:Rf/3f196
>>501
おーい名前名前!
505名無しさん@ピンキー:2010/01/17(日) 19:27:25 ID:bKMhDSe9
14:Nice@名無し :2010/01/16 22:08:31 ID:PufJeocY0
「動き出す時」を書いてる者です。すみません、規制中です。
規制が解除されるまで大人しく待っていようと思っていたのですけど
あまりにも規制が長いので生存報告を・・・
506名無しさん@ピンキー:2010/01/17(日) 20:05:59 ID:TyNa2JH6
メイン
507名無しさん@ピンキー:2010/01/21(木) 14:58:09 ID:e1t1k/WP
誰もいないのかなぁ……
508名無しさん@ピンキー:2010/01/21(木) 15:01:35 ID:2Pkfo6Fh
呼んだ?(^_^;)
509名無しさん@ピンキー:2010/01/21(木) 16:18:29 ID:G8A/J+AE
ワレ、キセイヨリ脱出セリ。
510名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 02:55:26 ID:rhKdjbG6
ふと思いついた小ネタ。

黒いパッケージのゲームをやると、やった者は一ヶ月以内に失踪する。
これはネット上のとある掲示板に書かれている都市伝説である。
その掲示板には、そのゲームをやっている奴を見たことがある、という目撃談もあり、
それらをまとめると、そのゲームをやった人は、なにかに怯える様になり、
逃げられない、あいつが来る、などと訳の分からないことを言って、
翌日には失踪してしまう、とのことらしい。
「あほくさ……」
掲示板を見つめながら、思わずそう呟いてしまった。
実際はこんな掲示板を見ながら、あほくさ、と言う方があほくさいのだが、
思わずそう言わずにはいられなかった。
「こんなものに、そんな呪いみたいなものがあるはずないだろ」
彼の手には、黒いパッケージのゲームが握られていた。
実は、暇に耐えかねて、先ほどゲーム屋でそれを買ったのだ。
なぜそれを買ったのかは分からない。
ゲーム屋に入った時、吸い寄せられる様にそれを手にし、買ってしまったのだ。
「あるはずない……よな……」
手に入れた経緯がおかしすぎる。
本当にこのゲームをやって、失踪してしまうのだろうか。
なんだか不安になってきた。
「いや……、そんなはずはない」
呪いや妖怪などの類は全てまやかしだ、
どんな現象も科学で証明することが出来る、とどこかの偉い学者が言っていたではないか。
恐れることなどなにもないのだ。
ただ、ゲーム機にこれをセットし、電源を入れて遊べばいいだけなのだ。
噂のこのゲームをやり、一ヶ月以上生存する。
そして掲示板に、
「俺、そのゲーム持っててやったけど、なんともなかったよ」
と、書き込んでやればいいのだ。
そう決心すると、ゲーム機にそのゲームをセットし、電源を入れた。

こうして、一人孤独な戦いが始まった。

511名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 13:44:37 ID:AE7JMG/4
それでお勧めの小説はどれだね?
512名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 23:57:20 ID:bRNmlC0E
期待age
513名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 13:07:45 ID:I/ewK7ZJ
今でも「死にたい」メールが来るけど
優しい文面返すと落ち着くらしく以降はしばらく空く。
直で言われていた時は心中とか考える程精神的にやられたわ…。
取り敢えず、別れた時の開放感とトラウマで
付き合う付き合わないくらいの関係性になっても
それが怖くて結局付き合えない…orz
514名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 15:19:27 ID:6hn2c/ix
>>513
別に怖がることも無いんじゃね?
女の死にたいなんて10000%かまってちゃんだから
家の嫁も生理ん時は二言目には死にたいって言ってたべ
結婚して落ち着いてきたがね。
あんま気負うなよ あとスレチ
515名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 20:43:35 ID:y3t2O71Z
それはヤンじゃなくてメン
516名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 22:37:20 ID:iKGzq63t
濃い
517けいとりあん:2010/01/25(月) 09:51:04 ID:slggwA1E
>>138
めっちゃおもろいです!
応援してます(*^^*)
518名無しさん@ピンキー:2010/01/25(月) 21:38:21 ID:IwIMPiKG
>>517
うるせえ、死ね
519名無しさん@ピンキー:2010/01/25(月) 23:53:40 ID:W9ubSOo8
派手 ある
520名無しさん@ピンキー:2010/01/25(月) 23:55:05 ID:5FAT08nh
・・・。
521非常事態ネタ:2010/01/26(火) 17:03:13 ID:pKrifJqN
なあ、突然ヘリから女の子が落ちてきたらどうする?しかも何故か空挺部隊仕様の迷彩服。
そもそもあの軍用輸送ヘリ陸自の奴じゃないよな。黒いし、日の丸ないし。ここ市街地だし。
そんな怪しさ満点の女の子は俺の前に着地すると落下傘を畳み、こっちに歩いてきた。
「あなたは私の命の恩人です、私の名前は…」戦闘服少女(仮)は何故か敬礼しながら名乗り始めた。
…つまり、誘拐される→俺が車にはねられた→誘拐犯運転ミス→事故って犯人逮捕ということですな。
なにこのご都合主義万歳。どっかのエロゲか。あれはもっとバカっぽい助け方だったなぁ。
「貴方を探すのは大変でした。無人偵察ヘリやら、捜索隊をお父さまにお借りして…」
はいはいエロゲ的ブルジョワ乙…てっなんですとー!俺はビンラデ●ンの様に監視されていたのか!
「お父さまは同志を見つけたとご機嫌でしたわ。だからお迎えに上がった次第です。」
昨晩、友人二名と萌えるコスチュームの話になった時に俺は軍服萌えだ!と力説した。
その前は落下系ヒロインネタの時に空挺部隊っ子萌えと力説した気がする。
この父娘俺を探ってたな!CIAの様な所行に俺はため息を吐いた。

某エロゲやってて思いついたネタ 
522名無しさん@ピンキー:2010/01/26(火) 17:48:08 ID:5qZUb1rg
つまらん
523名無しさん@ピンキー:2010/01/26(火) 18:48:50 ID:cePvIbnN
トライデントや赤いパパみたいに、
つまらない文を長々と書く奴よりかはマシ
524名無しさん@ピンキー:2010/01/26(火) 20:00:42 ID:HLsEqiNx
>>522
なんか某FPSを思い出すね。
ステンバァイ・・・,ステンバァイ・・・,ゴゥッ
とか呟きながら家宅侵入して
グゥゥナァィッ・・・
とか呟きながら眠るターゲットにキス、あるいは雌猫を排除するヤンデレ
525名無しさん@ピンキー:2010/01/26(火) 20:58:42 ID:HMMyS0pP
>>524
「ソープ」はいただけないな…
526名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 02:18:52 ID:/NWUzG2P
昔=一途
今=ヤンデレ
527名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 16:09:21 ID:xxNeSaTL
ヤンデレ家族と傍観者の続きまだ〜?
528名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 17:27:55 ID:PRlkw5v4
もし兄さんの人格がグラハム・エーカーだったらと言うような事を
妄想して楽しんでおります。武器は日本刀です。でも殺したら萌えないから
峰打ちです
529名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 20:36:14 ID:/DQm+swS
へぇ〜
530 ◆AW8HpW0FVA :2010/01/27(水) 21:01:52 ID:xOTG8Ul9
投稿します。変歴伝ではないほうです。
第七話『トラウマ』

シグナムは懐かしい場所にいた。
ファーヴニル城の中庭。
無駄に広かったことから、通称『ゼノンの中庭』と呼ばれていた場所だ。
そんな場所に、シグナムは立っていた。
「あぁ……、これは夢だな」
シグナムはすぐにそう断定した。
先程まで自分はニプルヘイムのアンブロシア山にいたはずである。
一瞬でそこからファーヴニル城に戻れるはずもない。
「確か、シグルドの性能を確かめた後、新技の研究をして、それから……」
なにかとんでもない目にあった様な気もするが、そこから先は思い出せなかった。
ふと、背後で硬いものが打ち合う音が聞こえたので、シグナムは振り返った。
そこにいたのは、二人の小さな少年と少女だった。
少年は薄い金髪に青い瞳をした、どことなく自分の幼い頃にそっくりの子供だった。
もう一人の少女は、真っ白な長い髪をたなびかせた美少女だった。
傍から見れば、二人の子供が遊んでいるほのぼのとした光景だったが、実際は違った。
二人は模擬刀を構えており、少年の顔や服は血と砂で汚れていた。
先に動いたのは少年の方だった。
少年は速度を緩めることなく、少女に近付き、模擬刀で斬り付けた。
しかし、少年が模擬刀を振り切った時、そこに少女はいなかった。
少女は素早く少年の後ろに回り込み、なんの躊躇もなく模擬刀を振り下ろした。
模擬刀は少年の肩に直撃し、少年はその場に倒れた。
「まったく、直線攻撃は単調で躱し易いからしないでくださいと言ったのに、
まだ理解出来てなかったんですか?」
少女は呆れた様に言いながら、倒れている少年の脇腹を蹴りを入れた。
「うげっ……」
少年は呻き声を上げ、強かに嘔吐した。
しかし、そんなことに見向きもせず、少女は少年の髪を掴み上げた。
「この様では、誰と戦っても死にますよ。人間でも、動物でも、魔物でも……」
少女はそう言うと、少年の髪を掴んだまま、地面に叩き付けた。
「さぁ、鍛錬を続けましょう。時間はたっぷりとありますから……。
ねぇ……、シグナム様」
必死で起き上がろうとする少年を見ながら、少女は嘲りを含んだ笑みを浮かべ、
なんの躊躇もなく模擬刀を少年の脳天目掛けて振り下ろした。
目が覚めると、シグナムはベッドの上にいた。
夢のせいもあり、服は汗でぐっしょりと濡れている。
しばらく起き抜けでぼうっとしていたが、
ふと右腕を触ろうとして手応えがないこと知り、シグナムは目が覚めた。
「あぁ……、そうか、あの時……」
シグナムはアンブロシア山の出来事を思い出した。
イリスに気を取られた瞬間、殺し損ねた魔物に右腕を食い千切られたのだ。
その後はあまり憶えていない。
イリスを庇いながら、次から次へと出てくる魔物を切り伏せ、
山を下りた辺りで気を失ったのだ。
「それにしても……、イリスの奴、よくここまで俺を引っ張ってこれたな……。
山ほどではないにしても、魔物はいるはずなのに……」
どうでもいいことで感心していると、部屋にイリスが入ってきた。
「シグナム様!」
イリスは手に持っていたタオルを落として、
シグナムの元に走り寄り、シグナムに抱き着いた。
「ごめんなさい……、私がシグナム様の言い付けを守らなかったばっかりに……、
こんなことに……、こんな……ことに……」
よっぽど自分のやったことを悔いているのだろう、イリスの声は震えていた。
見ていてシグナムは、イリスがいとおしくなってきた。
シグナムはイリスの頭を撫でながら、
「過ぎたことは仕方がないさ。俺だって、気を抜いたのがいけなかったんだ。
お前だけの責任じゃないよ」
と、言いながらイリスを慰めた。
緊張が解けたのか、イリスはついにしゃくり上げてしまった。
完全に以前慰められた時とは立場が逆になったな、とシグナムは思った。
しばらくイリスは泣きっぱなしだったが、シグナムに慰められやっと落ち着いた。
話せる状態になったイリスは、聞かれるよりも先に、シグナムの気絶後の話をし始めた。
しかし、内容は大したものではなかった。
腕の手術のことは見れば分かるし、
身体中の傷は逃げている時に付けられたことも自覚している。
唯一驚いたことといえば、自分が三日も眠っていたということぐらいだった。
「まぁ、義手は付けられそうだな。幸い関節は無事みたいだし。
それと、左手を使えるように矯正しなければな……」
シグナムの当面の目標はそれで決まった。
「イリス、取り合えず医者を呼んでくれ。それと、なにか飲むものを」
「はっ……はいっ!」
シグナムの指示で、イリスが慌しく動き出した。
とにかく、シグナムは義手に様々なギミックを施すことを考えていた。
ただぶら下げているよりは、そちらの方がよっぽど有意義である。
イリスに渡された水を飲みながら、シグナムはそう思った。
腕の傷が塞がるまで、シグナムはベッドで横になりっぱなしだった。
その間、シグナムは左手の矯正に終始していた。
最初の内は手が悴んで物を落としたりしてしまったが、
呑み込みが早かったので、二月もするとかなり様になるようになった。
その頃辺りには傷は完治し、シグナムは左腕だけで武器を使う練習をした。
さすがに武器に関してはうまくいかず、
剣を振るとシグナムの身体がそっちに持っていかれた。
左腕だけでまともに剣が使えるようになったのは、それから三月も掛かり、
気付いてみれば既に年が明けていた。
シグナムは、雨でぐちゃぐちゃになっている外を暗い表情で見つめていた。
年を越してしまった理由である右腕には、
既に医者と鍛冶屋の技術の粋を集めて作った義手がはめられていた。
シグナムには、もうこの町にいる理由はなくなったのだが、
この雨の中を歩くというのは億劫であった。
「雨……、止みませんね……」
外を眺めるイリスの表情は暗い。
雨は人の気持ちを暗くさせる。
こういう日は、これ以上気持ちが暗くなる様なことは起きて欲しくないものである。
シグナムはそんなことを考えていた。
ノックの音が聞こえた。
振り返ってみると、宿の亭主が入ってきた。
「なんだ、宿代ならちゃんと払ったはずだが」
以前の宿で、宿代をすっぽかしたことのあるシグナムは、
真っ先にそんな言葉が口から出てきた。
しかし、どうやらそれは違うらしく、亭主は首を横に振った。
「いえ、そうではなく、あなた様に会いたいという方がやって来ましたので、
部屋にご案内しただけでございます。……さぁ、どうぞ」
亭主はそう言うと、一人の女を部屋の中に招き入れた。
シグナムは目を見開いた。
腰まで伸びる白い髪、それとは対照的に全身を覆う黒い鎧、
そして、全てを見透かすかの様な銀眼、間違いなかった。
「ブリュン……ヒルド……」
シグナムは、夢の中で自分を打ち据えていた少女の名前を口にした。
シグナムとブリュンヒルドの関係は、浅からぬものではなかった。
シグナムは今から十三年前、ちょうど五歳の頃、
ファーヴニルの東を治めるアーフリード家の長男、プレヴェザから稽古を受けた時、
プレヴェザがシグナムの稽古相手として連れてきたのが、末妹のブリュンヒルドだった。
シグナムより二歳年上のブリュンヒルドは、どういう訳か女らしいことをするのを嫌い、
毎日の様に武芸に励む奇妙な少女だった。
天性のものもあったらしく、家中でブリュンヒルドに敵う者は、
大人を入れても誰一人としていなかった。
王太子の武芸指南という大任を任されたプレヴェザは、
それに目を付け、ブリュンヒルドを連れて来たという訳である。
シグナムはプレヴェザの稽古を受け終わると、
強制的にブリュンヒルドの個人稽古を受けさせられる様になった。
稽古の内容は、夢で行われていたことだけでなく、
稽古以外の時にいきなり打ち据えられ、就寝中に腕を折られたこともあった。
酷い時は、拷問の苦しみも知っておくべきだなどと言って、鞭や棒で打ったり、
焼き鏝を突き付けたり、長針で身体を刺してきたこともあった。
子供ゆえに手加減を知らなかったのだろうが、それでも度を越していた。
さらに始末が悪いことに、このことは兄に話すな、とブリュンヒルドに脅され、
逆らえないシグナムは、プレヴェザに密告することも叶わず、この拷問にも似た稽古を、
十二歳で終了するまで続けることとなったのだ。
この経験のせいか、シグナムはブリュンヒルドに対し、異常に怯えるようになった。
シグナムはブリュンヒルドを見かけても出来るだけ話し掛けず、
あちらから話し掛けてきても、極力聞いていないかの様に素通りするようにした。
全てはブリュンヒルドを恐れての行為であった。しかし、
「御久し振りです、王太子殿下」
そのブリュンヒルドが、今目の前で跪いていた。
最早知らないふりをするのは不可能だった。
「久し振りだな。今は確か、王衛軍二番隊の隊長だったな。
忙しいはずなのに、なぜこの様な辺鄙な場所に?」
怯えてはいたが、その分ブリュンヒルドの情報は耳に入ってきた。
ブリュンヒルドはシグナムの稽古終了後、軍隊に入り、
僅か三年で王衛軍二番隊の五番手となった。
それ以降も累進を重ね、遂には二番隊の隊長になったのだ。
そんな軍の大物が、自分になんの用なのか。
伝言ならば、下々の者にやらせればよく、
わざわざ重責ある身分の者がやることではない。
もしや、自分を誅殺しに来たというものではないのかと思った。
ブリュンヒルドに対して悪感情を抱いているシグナムは、真っ先にそれが浮かび、
そしてそうに違いないと勝手に断定した。
シグナムは密かに剣を握り締め、誅殺の言葉が出たらすぐに斬り掛かれる様にした。
しかし、ブリュンヒルドから告げられたのは、誅殺ではなく、
シグナムの父、ファーヴニル王が崩御した、という訃報であった。
シグナムにとって、父の急死は考えられないものだった。
これまで重病を患ったこともなく、年もまだ五十代半ばの男盛りである。
死んだと信じる方がおかしかった。
「父上は、いつ崩御したのだ!?」
シグナムはブリュンヒルドに疑いの目を向けたが、目を伏せているため、
シグナムはブリュンヒルドの表情を伺うことは出来なかった。
「去年の六の月頃に風邪を患い、翌月に発作を起こし、そのまま……」
ただ、ブリュンヒルドは淡々とそう答えた。
ブリュンヒルドの説明に、怪しい所など一つもなかった。
次にシグナムは、今の王宮の状況について聞いた。
「現在は弟君のレギン殿下が即位し、玉座に着いております」
再びブリュンヒルドの感情のない答えが返ってきた。
しかし、シグナムはレギンの名前を聞き、
「馬鹿な、兄であるこの私を差し置いて即位だと!?
それに、レギンはまだ七歳だぞ!政治など出来るはずもない!」
と、思わず声を荒げてしまった。
シグナムの怒号を受けたというのに、ブリュンヒルドは相変わらず泰然としており、
「殿下が帰国するまでの、代わりの王にございます。
それに、レギン殿下の傅役であるガロンヌ卿が摂政としてお傍に付いており、
文武百官がレギン殿下を守り立てると誓詞を交わしましたゆえ、
政治に関してはご心配ないと思われます」
と、シグナムとは対照的に冷静な声で答えた。
シグナムは、頭に血が上っていることに気付き、一度大きく息を吐いた。
一度冷静になり、シグナムは改めて自分の立場を考えてみた。
火急のこととはいえ、レギンは王位に就いたということであり、
自分が任務を終え、レギンに王位を譲るように言っても聞き入れないであろう。
仮にレギンが王位を譲ると言っても、
摂政のガロンヌがそれを認めるはずがないからである。
シグナムはガロンヌの出自を知っている。
貧民街の出身で、ごみを漁って生活していたという、所謂最下層の出身である。
それがなんの因果か、ガロンヌは先代の王、つまりはシグナムの父に拾われ、厚遇された。
シグナムは一度、なぜガロンヌを厚遇するのかと聞いたことがあった。
王の答えは明瞭であった。
「ガロンヌは弁舌に優れ、無学ではあるが、まるで真綿が水を吸い込むかの様に、
あらゆる知識を貪欲に取り入れ自分のものにしている。これは賢人である」
と、いうのが王の答えだった。
その後、ガロンヌは傅役としてレギンに仕える様になり、その存在感を強めていった。
シグナムは、ガロンヌに嫌悪感を抱いていた。
所詮は最下層の出身であり、いかに美服で着飾ろうが、その素地は薄汚れている。
そんな奴が政権を握れば、どうなるか、子供でも分かる。
一族の者を高位に就かせ、それぞれを各地に封建し、殖財を行うのだ。
そこで行われるのは、重税という名の火付け強盗と同じ行為である。
その様なこと、シグナムは断固として許す訳にはいかなかった。
シグナムに、確固たる決意が出来た。
しかし、それは口にせず、心に留めておいた。
最後に、シグナムは最大の疑問を口にした。
それはブリュンヒルドをわざわざ伝令にした理由である。
父の崩御と、弟の即位だけを伝えるだけに来たとは思えない。
だから、真っ先に賜死の使者であるとシグナムは思ったのである。
ブリュンヒルドは伏せていた目を上げ、シグナムを見つめた。
「殿下の魔王討伐の手助けをせよとの、摂政閣下のご命令です」
そう言うと、ブリュンヒルドは再び目を伏せた。
「そうか」
シグナムはあっさりと答えたが、内心はガロンヌに対する怒りで煮え滾っていた。
よりにもよって、自分がもっとも苦手とする人物を送り付けてきたのだ。
これがもしも確信犯であれば、ガロンヌは処刑ものであるが、
シグナムは、幼少時代の出来事を回りに漏らすことなく生きてきたのだ。
途中参加のガロンヌが、その様なことを知るはずもない、と冷静に考え直すことにした。
だが、油断は出来なかった。
自分がガロンヌに対して嫌悪感を抱いているのと同じ様に、
ガロンヌも自分に対して嫌悪感を抱いている可能性がある。
援軍か刺客か、どちらにしてもブリュンヒルドに心を許す訳にはいかない。
むしろ、自らの意思で斬り掛かってくる可能性もあり、それの方が恐ろしかった。
「分かった。では、『ファーヴニル国のため』にその身を使ってもらおう」
シグナムはあえて、ファーヴニル国のために、と強調して言った。
そこには、お前のことなど信用していない、という意味が隠されている。
「御意にございます」
ブリュンヒルドは相変わらず目を伏せたままで、声の波は平坦だった。
537 ◆AW8HpW0FVA :2010/01/27(水) 21:08:27 ID:xOTG8Ul9
投稿終了です。
展開を少し早めたつもりです。
538名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 21:13:15 ID:wVtu32bw
GJ!!
急展開ですね
539名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 10:40:14 ID:KDVkGFW4
GJ!!
540名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 16:17:13 ID:jmqGWSc6
GJ! 新キャラがどんな活躍を見せてくれるのか楽しみにしてます!
541名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 18:21:25 ID:R7pkHg8z
GJ
542名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 22:58:01 ID:y3yc1zPu
長い長い規制が遂に解除となったので投下します。
543動き出す時 3話:2010/01/29(金) 22:59:07 ID:y3yc1zPu
夏休みも最終日となった日の夜、俺、廣野祐樹は明日から再開される学校生活の為に忘れ物が無いかのチェックをしていた。
今年の夏休みも色々とあったなぁ。特に美月ちゃん、及川美月との出会いがこの夏一番の出来事だっただろう。
初めてのリアル人命救助だったし、何というかその、命の為とはいえ女の子の胸元に手をやったり口付けまでしちゃったし・・・
あの後、彼女から何度か連絡があった。連絡先を交換し合った時に言われた様にお礼がしたいとの事で
初めは「お礼なんてされる事の程じゃ・・・」と遠慮していたのだが、彼女も「それでは私の気が治まりません」と引かず
結局、食事をご馳走になったりした。しかし、何故かその後も「命を助けて頂いたのに一回でお礼し切れる訳がありません」と
再三のお誘いがあり、そう何度もご馳走になるのも悪いと思った俺は、その旨を伝えたのだが、彼女の方も一歩も引かなかった。
仕方ないので、せめて彼女だけにお金を支払わせる状況を脱しようと「じゃ、じゃあお礼としてじゃなくてデートとして出掛けよう」と
かなり苦し紛れの提案をしたところ「で、デートですか・・・///」と、この提案の是非を考えているのか少し間が空いた後
それまでの引き下がらなさが噓の様にやけにアッサリと引き下がってくれた。そういった経緯で夏休み中に結局数回
美月ちゃんと出掛けたのだが、その時一番苦労したのだが綾菜だった。俺が何も告げずに数日間いなくなったりした為
俺を監視するようになったのである。可能な限り俺と一緒に居ようとし、俺が何処かに出掛けようとすると必ず行き先を聞いてきて
あまつさえ着いて来ようとするのである。綾菜は何故か俺が女泣かせの気があると思い込んでいるらしく
「祐樹と関わるとその子が可哀想だから」と俺が女の子と接するのを快く思っていない。
そんな綾菜が俺と美月ちゃんの接触を知ったら一体どんな目に遭わされるか・・・
仕方ないので俺は親友の塁(るい)と武彦(たけひこ)に協力要請をして、口裏を合わせてもらう事にした。
この二人とは高校に入学してからと短い付き合いではあるが、お互いにかなり信頼し合える仲と言える相手だ。
その二人に簡単に事情を説明し(流石に美月ちゃんの事は伏せたが)協力を頼むと二人とも快くOKをしてくれた。
よし、忘れている物も無さそうだしそろそろ寝るか。そう思い、俺は寝床に着いた。
544動き出す時 3話:2010/01/29(金) 22:59:54 ID:y3yc1zPu
翌朝、新学期になり、また一学期の時のように綾菜と二人で登校して来ると、塁が声を掛けてきた。
「おはよう、二人とも。一緒に登校して来るなんて相変わらず仲が良いね」
そう声を掛けてきた塁に俺と綾菜は挨拶を返し、俺は改めて塁の事を見た。
三祥寺(みしょうじ)塁、俺や綾菜のクラスメイトで俺の親友である。
一応男であるハズなのだが、声・容姿が女の子みたいで名前も「るい」と女の子にありそうな名前の為か
なんだか男子の制服を着た女子という感じのする奴である。と、そこで何故か塁が顔を赤らめた。
「ゆ、祐樹。そんなに見つめられたら恥ずかしいよ///」
「あ、いや、ごめん・・・」
「ううん、謝らなくていいよ。祐樹になら、その・・・///」
いやいや待つんだ。そこで更に顔を赤らめるんじゃない!
塁は冗談なのか何なのか分からないが、俺に気があるような素振りを度々見せてくる。
いくら「こいつは男なんだ!」と言い聞かせても見た目が女の子。それも美少女に分類される容姿な為
どうしても、たじろいでしまう。というか、こいつは本当に男なんだろうか? ついそんな疑問さえ浮かんでしまう。
うちの学校はプールが無い為、水泳の授業も無いし、更に体育の着替えの時なんかも
いつもいつの間にか塁は着替え終わっている。着替えの最中にずっと塁を見ていた事もあったが
先ほどの様に顔を赤らめながら「恥ずかしい」と言われ、つい「悪い」と目を逸らしたら、その間に着替えを完了された事もあった。
つまり俺はこいつが男だという確たる物を見たことが無く、この容姿や声のせいもあってこんな疑問が浮かんでしまうのである。
と、そこで何やら物凄い殺気を感じ、とっさにそちらを向くと、綾菜さんがとても素敵な笑顔でこちらをご覧になっておられた。
「・・・祐樹?」
「・・・はい」
「相変わらず三祥寺くんと仲が良いみたいね・・・?」
ま、まずい! 塁の見た目が女の子みたいな事もあってか綾菜は俺が塁と
この様に一定以上の接触をすると非常に怖い状態になる。
俺は慌てて辺りを見回し、もう一人の親友が来ていないのを確認すると
「そ、そういえば武彦は?」
と、何とか話を逸らそうとしてみた。
「まだ来てないみたい」
そう塁が答えたところでタイミング良く件の人物が教室に入ってきた。
「おーす! 祐樹、宿題を写させてくれ! 実はまだやってないんだ!」
いきなりそんな挨拶をかましてくれた。
「新学期早々の挨拶がそれかよ・・・」
「まあ、武彦だし」
「ちょっと笛吹(うすい)くん!」
俺達はそれぞれの反応を返した。笛吹武彦、塁と同じくクラスメイトで俺の親友である。
パッと見はこんな感じでいい加減な奴に見えるが、いざという時は頼りになる奴である。
「なんだよ羽柴。どうせお前だって祐樹に手伝ってもらったんだろ?」
「確かに分からない所は祐樹に聞いたりしたけど基本的には自分でやったわよ!」
綾菜と武彦がぎゃーぎゃー言い争いを始める。その隙に俺は塁に小声で話しかけた。
「頼んでた口裏合わせの件、大丈夫か?」
「うん、祐樹の頼みだもの。僕が断る訳ないじゃない」
頼むから顔を赤らめながら恥ずかしそうにクネクネしないでくれ。
「でも、どうしたの? 監視の目を潜り抜けて出掛けたい用事って・・・」
「あ、うん・・・悪い。あまり詳しい事は・・・」
あまり勝手に美月ちゃんの事を言い触らすのは彼女に悪い気がして、つい言い淀んでしまう。
「言いたくないなら無理に言わなくてもいいよ。祐樹なら悪い事はしてないだろうし」
「スマン、助かる。」
話の分かる親友で本当に良かった。と、そこで先生が来た為、俺達はそれぞれ自分の席に着いた。
545動き出す時 3話:2010/01/29(金) 23:01:01 ID:y3yc1zPu
今日は始業式とHRだけだったので早く帰れるのだが、今日の帰路は俺一人だった。
普段は綾菜や塁、武彦なんかと一緒に帰っているのだが偶然にも今日はみんな用事があるらしく
珍しく一人での帰宅となった。このまま真っ直ぐ帰っても良いのだが折角なので駅前の本屋に寄る事にした。

駅前の近くまでやって来た時
「やめて下さい!」
いきなりそんな叫び声が聞こえた。そちらの方を見ると、いかにも軽そうな感じの男が
何処かにムリヤリ連れて行こうとでもしているのか嫌がる女の子の手を掴んでいた。
「いいじゃない。ほら、ちょっとお茶するだけだから」
「離して下さい!」
流石にこんな場面に出くわして見過ごす訳にもいかないので俺は止めに入ることにした。
「おい、その子嫌がってるだろ。離してやれよ」
「あ? なんだお前?」
案の定こちらを睨みつけてくる男。ただ、こう言っては何だが全然怖くない。
喧嘩慣れしてる訳でもスポーツをやってたり体を鍛えたりしてる訳でもなく本当にただ若い男だということだけをアドバンテージに
か弱い人達を相手に好き勝手やっているだけの人物だというのは体つきや物腰を見れば分かる。
「女の子と遊びたいならそんなムリヤリじゃなくて・・・」
「うるせえ! 痛い目に遭いてえのか!?」
適当に話をしながら時間稼ぎをする。男の方も散々脅しをしてくるものの、なかなか手を出さないのは恐らく腕に自信が無いからだ。
女の子や小さい子ども、ご老人等ならともかく、こちらも高校一年生の健康な男子である。戦いたくない、だから脅しで追い払おうとしてるのだろう。
そうやって俺が男と話している間に女の子に逃げて貰おうと、男から目を離さないまま男の死角から女の子の居る方向に向かって
逃げるようにジェスチャーで伝えた。まあ、そんな事をしなくても時間的にそろそろだと思うが・・・
と、辺りの人通り増えてきた。これでは先程から散々乱暴な口調で脅しをし続けている男は此処に居づらいだろう。
実際、周りの人達も何事かとこちらを見ている。男は自分の状況が不利だと判断したらしく舌打ちをして去って行った。
さて、女の子の気配が去っていないから、まだそこに居るハズだけど・・・いた。
「大丈夫だった?」
そう女の子に声を掛けて、その時になって初めてその子の顔を見ると何と知ってる顔だった。
「はい、ありがとうございます。祐樹さん」
俺が助けた女の子は美月ちゃんだった・・・
546動き出す時 3話:2010/01/29(金) 23:03:03 ID:y3yc1zPu
夏休みも最終日となった日の夜、私、羽柴綾菜はベッドの上でこの夏休みを思い返していた。
この夏も色々な事があり、祐樹との思い出がまた沢山できた事が嬉しかった。
ただ、祐樹が何も知らせてくれず何日間も居なくなったのは、この夏で一番の最悪な出来事ではあったが・・・
あと、祐樹が友達と遊ぶとかで何処かに行ってしまう日。男の子同士じゃないと遊べない、話せないというような事もあるだろうし
私もその辺りは理解しているつもりである。今までも時々あった事だし今後もあるんだろうけど何回経験しても慣れない辛い日である。
そんな嫌な事も含めてこの夏の出来事を思い出しながら私は寝床に着いた。

次の日、祐樹といつもの様に一緒に登校するのを嬉しく思いながら教室に入ると。
「おはよう、二人とも。一緒に登校して来るなんて相変わらず仲が良いね」
クラスメイトの三祥寺くんが声を掛けてきた。三祥寺くんは祐樹の友達でよく一緒に居るが
女の子みたいで、しかもとっても可愛いので私としては彼が祐樹とよく一緒に居るのは非常に面白くない。
しかも祐樹の事を「愛してる」なんて平気で言うし、上手く言えないけど祐樹の事を見る目が
何か本当に友達以上の感情が篭っている時があるような気がして祐樹が彼と関わる時は気になってしまう。
「ゆ、祐樹。そんなに見つめられたら恥ずかしいよ///」
「あ、いや、ごめん・・・」
「ううん、謝らなくていいよ。祐樹になら、その・・・///」
言った傍から・・・(怒) 込み上げてくる怒りを堪えながら私は祐樹に釘を刺しておく。
祐樹に女の子が近付かないように私は度々祐樹に言い聞かせている。本当は私以外の女の子は信用できないとか吹き込みたいのだが
祐樹のお人好しぶりでは、いくら言い聞かせても信用してしまいそうなので、本当は祐樹は自分を過小評価しがちなのでもっと自身を持って貰いたいのだが
泣く泣く祐樹に自分自身の評価を落として貰い、あまり祐樹が自ら積極的に女の子に近付かないように仕向けている。
まあ、これもどの程度の効果があるか分からないが私以外の女の子は信用できないと吹き込むよりは効果的だろう。
それに「祐樹と関わるとその子が可哀想だから」というのも、あながち噓ではない。なにせその子がどんなに祐樹の事を思おうと
私以外の子が祐樹と結ばれる事は無いからである。祐樹の存在を知りながら結ばれない。それほど不幸な事は無いと思う。
そうこうしている内に、もう一人の祐樹の友達である笛吹くんが教室に入ってきた。笛吹くんは祐樹が三祥寺くんと二人きりになるのを防いでくれている為
そういう意味で非常に助かっている。もし彼が居なければ私は祐樹の男友達との付き合いにまで口出しをしていたかも知れない。
547動き出す時 3話:2010/01/29(金) 23:03:37 ID:y3yc1zPu
会話をしているうちに時間となり、始業式とHRを終え、祐樹と一緒に帰ろうとした時、机の中に入っていた手紙によって私は呼び出しを受けた。
呼び出された場所が屋上という事や、呼び出した相手が手紙から察するに男子だという事から用件は簡単に想像できたが無視する訳にもいかなかった。
一度、その手の呼び出しを無視したところ、後で余計に面倒な事態になった事があり、それ以来、嫌々ながらもきちんと呼び出しは受けるようにしているのである。
告白に対する私の返事は勿論これまで全て「NO」だった訳だけど。この呼び出しについては「仕方ない」と若干諦めが入ってはいるものの
やはり祐樹と一緒に居る時間が削られるというのは激しい怒りを感じる。そんな怒りを感じつつも屋上に出ると一人の男が立っていた。
「やあ、待ってたよ」
男はそう言うとゆっくりとこちらに近付いてくる。女受けしそうな、いかにも女子に人気がありそうな顔立ちであるが私にはどうでもいい
こいつは私と祐樹の時間を削ったいわば敵なのだ。憎しみ以外の感情は抱けそうにない。
「・・・誰?」
素直な感想がつい声となって出てしまった。男は何やらショックを受けたような顔をしたがすぐに立ち直って続けた。
「や、やだなぁ、僕を知らないなんて羽柴さんは冗談も得意なんだね」
「冗談とかじゃなくて本当に誰?」
またショックを受けたような顔をしたが、またすぐに立ち直った。顔芸の忙しい男だ。
「お、奥村悟(おくむらさとる)だよ羽柴さん。本当に知らない? 女子の間じゃ結構名は知れてると思ってるんだけどなぁ」
「奥村悟・・・?」
ああ、思い出した。ミーハーな子達に人気のある男子だ。私からすれば女の子の関心を祐樹から逸らしてくれているので
防虫剤としての価値は認めているが、裏を返せばそれ以外の価値は全く無い存在である。
「思い出してくれたかい? 実は僕、以前から羽柴さんの事が気になっててね。僕と付き合って欲しいんd「ごめんなさい」
完全に言い終わるかどうかの内に返事を返した。答えは最初から決まっているのだから。
「ど、どうしてか聞いてもいいかな?」
「他に好きな人が居るから」
「廣野くんの事かい?」
分かっているのなら聞くな! そして初めから呼び出すんじゃない!
「で、でも彼と君では釣り合わないんじゃないかな?」
「そうね、だから祐樹に相応しい女になる為に色々と頑張ってるの」
料理とか家事全般は勿論の事、その、え、エッチな事だって祐樹の為なら・・・///
「いやいや、逆だよ。彼なんかに君は勿体ないって言ってるんだよ」
「・・・なんか?」
もしかしてこの男は今、祐樹の事を「なんか」呼ばわりしたのだろうか。これまで以上の怒りが込み上げてくる。
「確かに彼は成績は良いみたいだけど言ってしまえばそれだけだろ? そんな彼なんかよりも僕の方が・・・」
そう言いながら近付いてくる男に私は微笑みかけた。
548動き出す時 3話:2010/01/29(金) 23:04:21 ID:y3yc1zPu
私は階段を降りているところだった。あの後私は奥村悟を適当に痛めつけて脅しておいた。
これであの男が祐樹や私にちょっかいを出す事もなければ、余計な事も言わないだろう。
奥村悟が優男だった事と完全に油断をしていたので不意を突けた事が勝因だと思う。
あっ、あと手を洗っとかないと。攻撃する為とはいえあんな男に触ってしまったのだ。念入りに洗っておこう。
この手の呼び出しは祐樹には適当に用事と言って誤魔化している。
実際には断るとはいえ、もし祐樹の頭の中で私と祐樹以外の誰かが付き合ったらと想像されたりしたら
それだけでも私にとっては鬱になりそうなほど落ち込む事だからである。
はあ、折角の新学期なのに、あんな男に祐樹との時間を削られてしまい今日はもう最悪とさえ思えてしまう。既に日も暮れてしまっている。
しかしそこで、ふとある事を思い出す。そういえば今日は祐樹の家にお邪魔して料理のお手伝いをする約束をしていたハズである。
その事を思い出した私はそれまでの鬱屈した気持ちが一気に晴れた気がした。
そうだ、今日は最悪の一日なんかじゃない。だってこの後は幸せな時間が待っているのだから。
すっかりウキウキとした気分になった私は足取りも軽く帰っていった。
549動き出す時 3話:2010/01/29(金) 23:04:48 ID:y3yc1zPu
今日は始業式という事もあり学校を早く終えた私、及川美月は参考書を買いに駅前の書店に向かっていた。
どういった物を買おうか考えながら書店に向かっている途中、いかにも軟派な軽い感じの男が私に声を掛けてきた。
「やあ、君可愛いねぇ。ここで会ったのも何かの縁だし、ちょっとそこの喫茶店でお茶でも飲まない? 勿論お代は俺が出すからさ」
なんという分かりやすいナンパなんだろう。しかもただの通行人同士だったのを自分から近付いてきて「何かの縁」というのもおかしな話である。
男の目を見ると、案の定私の嫌いな下卑た欲望の色をしていた。私は男を無視して書店に向かう事にしたが男はしつこく付き纏って来て
「ほら、ちょっとだけだから」
と言いながら私の手を掴んだきた。その事に流石に私も抵抗をする。
「やめて下さい!」
「いいじゃない。ほら、ちょっとお茶するだけだから」
「離して下さい!」
一刻も早く男の手を振り払おうと抵抗していると
「おい、その子嫌がってるだろ。離してやれよ」
そんな声が聞こえた。そちらを見て私は驚いた。だってそこには祐樹さんが居たのだから
「あ? なんだお前?」
それまでとは打って変わって乱暴な口調で祐樹さんを睨みつける男
「女の子と遊びたいならそんなムリヤリじゃなくて・・・」
「うるせえ! 痛い目に遭いてえのか!?」
二人がそんな言い合いをしていると祐樹さんが男の死角から、手で私に今のうちに逃げるよう伝えてくる。
でも、そんな祐樹さんを置いて一人で逃げるだなんて・・・。そう思っていると周囲に人が増え始めた。
一体どういう事なのかは分からないけど、男はそれで状況が自分に悪いと判断したらしく去っていった。
「大丈夫だった?」
そう声を掛けて下さった祐樹さんの目には驚きの色が浮かんでいる。どうやら今になって初めて私の顔を確認したらしい。
それくらい必死になって私を助けて下さったんですね。そう嬉しく思いつつ
「はい、ありがとうございます。祐樹さん」
私は返事を返した。その後、ゆっくり話をしたいと言い、近くの喫茶店に一緒に入った。
祐樹さんとならば、一緒に喫茶店に入ってお茶をするのは、むしろこちらからお願いしたい事である。
「祐樹さん、一度ならず二度までも助けて下さってありがとうございます」
やはり祐樹さんは私にとって救世主です。
「あ、いや、そんなにかしこまられると何か逆に悪いよ」
相変わらず祐樹さんは奥ゆかしいです。そして私は気になっている事を聞いてみた。
「あの、さっきはどうして人通りがいきなり増えたのでしょうか?」
「ああ、あの近くにスーパーがあってね、毎月1日のあのくらいの時間にセールがあるんだよ」
それで納得がいった。今日は9月1日、そして思い返してみれば、あそこに居た人達はいかにも主婦といった感じの人がほとんどだった。
疑問が解けたところで私は本題に入る事にした。
「あの、祐樹さん二度も助けて頂きましたし、是非お礼をしたいのですが」
「いやいや、本当に大丈夫だよ。それほどの事をした訳でもないのに」
「でも・・・」
すると祐樹さんは少し考え込むような仕草をした後
「美月ちゃん、この後の予定って何かある?」
そう聞いてきました。私は素直に
「いえ、特には。この後は書店に行こうかと思っていたくらいです」
そう答えると、祐樹さんが
「じゃあ一緒に行こうか。それがお礼って事で」
「そんな、それじゃお礼になりません!」
そういう私に祐樹さんは
「いや、充分お礼になるよ。美月ちゃんと一緒に居ると楽しいし」
そう言ってくれました。その言葉が嬉しくて仕方なく、私は了承をし
結局、日が暮れるまで本を選ぶという名目で祐樹さんと談笑をして幸せなひと時を過ごした。
550名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 23:07:45 ID:y3yc1zPu
投下終了です。規制ばかりで申し訳ありません。
前回は解除から2日くらいで再び規制になって泣きそうになりました。
こんな規制だらけの私ですがよろしくお願い致します。
551名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 23:33:05 ID:Y79ZmAV8
GJです!
552名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 23:33:22 ID:dRxzL6lp
      ,.=-''' ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄` -、
    /               \
   ./                 .\
   {                   }
   .|   / ̄""''-=,,,,_,,,,,,==-'''"\  |
   .l,  .(  ,. - ' .、     ,. - ,  .} |
   l   > ,=ニ\ ゛ | ''゛_,=ヘ、 r' {_
  /~''i //_\_..`7| l、{''″/__`>ヽ |r`i
  l .{`|./ ヽ二・ニゝチ、 ! .ゝrニ・二r  } ! i l
  { {(l {      ノ | | ヽ   ::  }| ソ/  把握した
  ヽヽ|.{    /  | |  \    i.|//
   \|.i   /  ,,.. | l._,, . \  i !/
    乂i  /    - (__,)-゛   ' {丿
    .l .!、.      ,. !.,  .,   / |
    人 \   .!''''" ̄~ ̄`''!  / 人
   ./ | .\ ,\  '-"" ゛-'  / / | .ヽ
  ノ  .{  \ .ヽ,.,   .:   ,イ /  }  ヽ
-'″  l    `' 、`.───″    .}    ヽ
553名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 23:46:57 ID:9EgbLurD
不安なマリアはどうなったんだろう
554名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 23:49:14 ID:gQT0Pe0d
主に
555名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 23:49:51 ID:2a3mVyTL
GJ! 規制にめげずに頑張ってください!
556名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 00:03:53 ID:eeYwl+zO
職人のみなさんいつも楽しみにしてるぜ!!

wktkしながら待ってます
557名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 00:19:04 ID:qNBXAXxu
>>550
gj!!しかし「サトル」という名前の俺は泣いたw
558名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 11:19:08 ID:1cYuTDF3
>>550
GJ!
塁タン萌えす(;´Д`)ハァハァ
559名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 11:42:57 ID:4EqROp/k
面白かった。次も楽しみです。
560名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 13:01:51 ID:RL9Hbbi/
久しぶりに投下します。
561名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 13:04:18 ID:RL9Hbbi/
「おい、そこのお前。」 「オゥフ、自分ですか?」 「今日も残業だ。 理由は・・・分かるな? お前だけ仕事が遅いんだ。」 「ウッフゥ、申し訳ござ・・・申し、申し訳ありません。」
今、叱られている拙者は入社2年目でござるが、仕事はそんなに出来ないので、「あ、おい。」 デュクシ。 まだ拙者に用があるでござるか。 もう、仕事は終わったんだし余計なことを言われる前に帰宅でござる。
「す、すいません。 ん、ンウフゥ。自分は用事があるので、お先に失礼します。」
「そ、そうか。わかった。 お疲れ。」
「お、お疲れ様です。」は、早く家に帰るでござる。デュフフフフ。
562名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 13:08:38 ID:6UAkTflB
!?
563名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 13:10:27 ID:RL9Hbbi/
・・・はぁ、今日も断られちゃったなぁ。 もしかして嫌われてるのかなぁ。
毎回、彼に多くの仕事を出し残業をさせて、2人で一緒に残って終わった後、どっかに少しだけでもいいから遊びに行きたいのに・・・。
いつも、断られているなぁ。
彼は、私の事は覚えていないだろうけど私はあの事を鮮明に覚えている。
中学の時、私は根暗で友達もいなく1人ぼっちだった。
そんな私が、いじめの的になるのは必然だったといえよう。
最初は、机に落書きや上履きなどが無くなったりと軽いことしかされてはいなかった
しかし、いじめはエスカレートしていき、殴る、蹴るなどの暴力が毎日のようにあった。
放課後には呼び出され、人目のつかない所で男子に殴られていた。
「お前、暗くて何考えてるかわかんねーだよ。 早く死ねよー。」
「マジ学校に来て欲しくないよねー。」
こんな幼稚なことをしていて何が楽しいんだろうかと思う。
・・・でも、こんな幼稚なことがこんなにもつらいとは思わなかった。
一体、私何の為に生きているんだろう・・・。
毎日、学校では女子からは陰口や嫌がらせ、男子からは暴力。
家に帰っても、両親は仕事でいない。
話を聞いてくれる人は誰もいないし、助けてくれる人もいない。
今日という日が終わったら、・・・・・・死のう。
殴られているなか、何もかもを諦めて目をつぶった。
・・・? 急に静かになった。 いつもだったらまだ殴られるのに。
564名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 13:13:03 ID:RL9Hbbi/
・・・はぁ、今日も断られちゃったなぁ。 もしかして嫌われてるのかなぁ。
毎回、彼に多くの仕事を出し残業をさせて、2人で一緒に残って終わった後、どっかに少しだけでもいいから遊びに行きたいのに・・・。
いつも、断られているなぁ。
彼は、私の事は覚えていないだろうけど私はあの事を鮮明に覚えている。
中学の時、私は根暗で友達もいなく1人ぼっちだった。
そんな私が、いじめの的になるのは必然だったといえよう。
最初は、机に落書きや上履きなどが無くなったりと軽いことしかされてはいなかった
しかし、いじめはエスカレートしていき、殴る、蹴るなどの暴力が毎日のようにあった。
放課後には呼び出され、人目のつかない所で男子に殴られていた。
「お前、暗くて何考えてるかわかんねーだよ。 早く死ねよー。」
「マジ学校に来て欲しくないよねー。」
こんな幼稚なことをしていて何が楽しいんだろうかと思う。
・・・でも、こんな幼稚なことがこんなにもつらいとは思わなかった。
一体、私何の為に生きているんだろう・・・。
毎日、学校では女子からは陰口や嫌がらせ、男子からは暴力。
家に帰っても、両親は仕事でいない。
話を聞いてくれる人は誰もいないし、家に帰っても、両親は仕事でいない。
助けてくれる人もいない。
今日という日が終わったら、・・・・・・死のう。
殴られているなか、何もかもを諦めて目をつぶった。
・・・? 急に静かになった。 いつもだったらまだ殴られるのに。
565名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 13:18:05 ID:RL9Hbbi/
そう思ってつぶっていた目をあけた。
そこには、同じクラスの男子が立っていた。
彼も、私ほどでもないがいじめを受けていた。 ・・・何で彼がここに?
「うっわ、キモい奴がまたきたよ。 えっ、何? お前も殴られたいの?」
「う、う、うるさぁい! 女の子を殴るなんて最低だ!!」
「げー、なにコイツキモーい。 コイツもやっちゃえよ。」
彼は、殴られながらも抵抗していたが、男四人には勝てるはずもなく、いつもの私の倍以上に殴らていた。
「うっわ、コイツキモー。 次からはコイツいじめようぜー。」
566名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 13:30:54 ID:RL9Hbbi/
「いいよー。 コイツにも飽きてきたし。 このキモオタいじめようよ。」
「いいね。 それさんせー。」
最後に彼の顔を殴って、あいつらは帰っていった。
「・・・どうして?」 「・・・・・・ウッフゥ?」
「どうして、私を助けたの?」
「だ、だって・・・その・・・前から朝比奈さんがいじめられてたのは、わかっていたんだけど・・・・・・、あんなにもヒドいことをされてるとは、思わなかったんだ。」
「・・・あなたには、関係ないでしょ。 どっか行ってよ。」 私は、未だにあの時のことを後悔している。
もっと、優しい言葉をかければ・・・、素直にありがとうと言えていたら・・・。
「私だって、あなたみたいな人とは関わりたくないの。 早くどっか行ってよ。」
「・・・うん、わかった、ごめんね。」
彼は、そういって去っていった。
私は、彼の顔を覚えておくようにした。
こんな私を助けてくれた彼を・・・。
驚くことに次の日から、いじめがなくなった。 相変わらず友達はいなかったが、前よりは幾分かマシだった。
代わりに彼がいじめられるようになった。
私は、彼のことを助けたいと思ったが、いざ助けようと思ったら、足が竦んで動けなかった
そうやっているうちに、彼とは一言も話さずに卒業してしまい、中学は終わった。
私は、私のことを庇ってくれた彼が好きだった。
他の人たちは、見てみぬフリをして、私のことは気にかけなかったのに、あなたは、助けてくれた。
567名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 13:32:01 ID:RL9Hbbi/
嬉しかった。 なのに、私はあなたを助けれなかった。
・・・だから、もしもう一度、会った時はあなたの彼女になってあなたの隣にいたい。
あなたの傷を癒やしてあげたい。
あなたの優しさに見合うような女になるから・・・。
それまでは、さようなら・・・

高校生になってからは、あのいじめメンバーもいなく、自分を磨くことに必死だった。
彼のために・・・。彼だけのために・・・。
成績も常にトップをとり、部活にも入り、交遊関係も結び、見た目や服も変えた。
そして、中学校の時とは考えられないぐらい男子に言い寄られた。
告白も数えきれないぐらいされた。
でも、告白してきた彼らの多くは、私の体などしか見ていなかった。 まぁ、そんなのはどうでも良かった。
相手の印象が悪くならない程度には断ったが。
見た目や中身にも自信がついてきた私は、1年ぶりに彼に会いたくなった。
568名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 13:38:15 ID:RL9Hbbi/
彼に会わなかったのは、彼の優しさに見合うような女になるまでは、彼には会えないと思ったから・・・・・・。
でも、今なら会える・・・!!
中学の時に貰った連絡網で彼の家に電話を掛けてみた。
心臓の音がスゴい。緊張する。なんて言おう。 付き合って下さい!とか、色んな考えが頭の中にあったが、電話が繋がらなかった。
よし、電話じゃなくて、彼の家に行って直接告白しよう!と思い、中学校の担任に電話して彼の住所を聞いたが、彼は卒業と同時に引っ越ししてしまったらしい。
行き先は、担任もわからないと言っていた。
・・・・・・・・・・嘘でしょ? 彼に会えない? ううん、嘘だよ。 そんなの。 だって、私は彼に何もしていない。
お礼も言ってない。あの時ありがとうって。
あの時、ヒドいこと言ってごめんねって。
・・・・・何も・・・・・言ってない。
それから、1週間程放心状態だった。
もう、彼に会えない・・・。 その事実が心に大きく響いた。
でも、いつかはきっと彼に会える。
そう信じて自分を磨こう。 彼の傍にいても彼が自慢出来るような女になるために・・・!
私は、自分を磨くたびにまた色んな男の人が寄ってくる。
彼に会いたいのに、どうでもいい人達が寄ってくる。
私が好きなのは、彼だけ・・・。 私の見た目だけしか見てない奴らは、本当にどうでも良かった。
彼以外に触れられると気持ちが悪い。
私に触れていいのは、彼だけだ。
そうやって、高校も終わり、一縷の望みをかけて大学にも行ったが、彼は居なかった。
もう、彼には会えないのかな…そう想うと胸が苦しくなり、涙が出てくる。
結局、大学でも彼を見つけきれないまま、就職の時期が近づいてきた。 私は、進路もまだ決まっておらず何となく小企業の所に研修に行った。 私は、この時ほど『運命』というものを感じるものはなかった。
彼がいた。彼に会えた。
569名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 13:44:16 ID:RL9Hbbi/
何年越しに会う彼は、中学の時と変わっていなくて、なぜかとても安心した。
彼に話かけたりしたが、彼は私のことなんて、覚えていなかった。
・・・・・・仕方ないよね。 中学の時助けられたあの時だけしか、喋らなかったし、覚えてなくても仕方ないよね。
でも、これからは二人で色々な場所に行ったり、二人でお喋りしたり、そ、そ、その、あなたともしたくて、ずっと我慢してたの・・・。
これからは楽しみだなぁ。 ウフ、ウフフフフフ・・・・・・。
570名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 13:47:22 ID:RL9Hbbi/
投下終わります

規制中に書いた練習用のものですので、続きは書いてないです。

見てくださった方、お疲れ様です。
571名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 14:23:55 ID:4EqROp/k
え?続きないの?面白かったよ!!
572名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 15:26:03 ID:6ayAMb2M
続かないのか…
面白いのに
573名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 15:42:22 ID:qNBXAXxu
いや、続きを書いていないというだけで続かないとは言っていない。
つまり続く可能性だってゼロじゃない・・・・・・って期待してもいいですか?
574名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 22:13:55 ID:Bi+jSzhO
GJ

期待
575名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 00:03:58 ID:RL9Hbbi/
>>561を書いたものですが、読み直したらちょっと抜けている部分があるので、もう一度再投下させても、よろしいでしょうか?
576名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 00:13:35 ID:hf7fVhu7
>>575
いきなり不躾なこと言うので先に謝罪を。すみません。
 
『抜け』よりまず、もう少し改行をしたほうがいいかと。
特にセリフ部分と地の部分が混じり過ぎると、ちょっと読みづらいです。
 
続きはだいぶ気になるので、投下はゆっくり落ち着いて、していってね!
577名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 00:28:52 ID:/987lIXE
ありがとうございます。
では、申し訳ないですが、もう一度投下します
578名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 00:32:53 ID:OudM8iJf
続ききて
579名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 00:34:03 ID:/987lIXE
「おい、そこのお前。」
「オゥフ、自分ですか?」
「今日も残業だ。 理由は・・・分かるな? お前だけ仕事が遅いんだ。」 「ウッフゥ、申し訳ござ・・・申し、申し訳ありません。」
今、叱られている拙者は入社2年目でござるが、仕事はそんなに出来ないので、毎日毎日上司に怒られ、残業させられてアニメやフィギュアも愛でる暇が無いでござる。 ドゥフ。
「おい、私の話を聞いているのか!?」
「アヒィ!?き、聞いています。」
今、拙者に怒っているのが上司の朝比奈 美鈴(あさひな みすず)さんでござる。
身長は165センチの拙者より10センチも大きく、容姿は黒髪のロングで目鼻立ちは整っていて、性格は温厚・・・のはずが拙者にだけはこの態度。
所詮、三次元の女なんてこんなもんでござる。
早く、家に帰ってゆのっちをみたいでござる。
「・・・私も一緒に残って、仕事を手伝うから早くやるぞ。」
「グゥゥフ、す、すいません。」
いつも、こうやって一緒に残業をしてくれるだけで有り難いでござる。 なんだかんだ言っても、優しいでござるなぁ。 ウッフゥ。


「よし、終わったか・・・。」 「あ、ありがとう御座います。」 早く家に帰ってゲームやアニメを見なければ!
「あ、おい。」
デュクシ。 まだ拙者に用があるでござるか。 もう、仕事は終わったんだし余計なことを言われる前に帰宅でござる。
「す、すいません。 ん、ンウフゥ。自分は用事があるので、お先に失礼します。」
「そ、そうか。わかった。 お疲れ。」
「お、お疲れ様です。」
は、早く家に帰るでござる。デュフフフフ。
580名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 00:36:54 ID:/987lIXE
・・・はぁ、今日も断られちゃったなぁ。 もしかして嫌われてるのかなぁ。
毎回、彼に多くの仕事を出し残業をさせて、2人で一緒に残って終わった後、どっかに少しだけでもいいから遊びに行きたいのに・・・。
いつも、断られているなぁ。
彼は、私の事は覚えていないだろうけど私はあの事を鮮明に覚えている。
中学の時、私は根暗で友達もいなく1人ぼっちだった。
そんな私が、いじめの的になるのは必然だったといえよう。
最初は、机に落書きや上履きなどが無くなったりと軽いことしかされてはいなかった
しかし、いじめはエスカレートしていき、殴る、蹴るなどの暴力が毎日のようにあった。
放課後には呼び出され、人目のつかない所で男子に殴られていた。
「お前、暗くて何考えてるかわかんねーだよ。 早く死ねよー。」
「マジ学校に来て欲しくないよねー。」
こんな幼稚なことをしていて何が楽しいんだろうかと思う。
・・・でも、こんな幼稚なことがこんなにもつらいとは思わなかった。
一体、私何の為に生きているんだろう・・・。
毎日、学校では女子からは陰口や嫌がらせ、男子からは暴力。
家に帰っても、両親は仕事でいない。
話を聞いてくれる人は誰もいないし、助けてくれる人もいない。
今日という日が終わったら、・・・・・・死のう。
殴られているなか、何もかもを諦めて目をつぶった。
・・・? 急に静かになった。 いつもだったらまだ殴られるのに。
そう思ってつぶっていた目をあけた。
そこには、同じクラスの男子が立っていた。
彼も、私ほどでもないがいじめを受けていた。 ・・・何で彼がここに?
「うっわ、キモい奴がまたきたよ。 えっ、何? お前も殴られたいの?」
「う、う、うるさぁい! 女の子を殴るなんて最低だ!!」
「げー、なにコイツキモーい。 コイツもやっちゃえよ。」
彼は、殴られながらも抵抗していたが、男四人には勝てるはずもなく、いつもの私の倍以上に殴らていた。
「うっわ、コイツキモー。 次からはコイツいじめようぜー。」
581名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 00:43:36 ID:/987lIXE
「いいよー。 コイツにも飽きてきたし。 このキモオタいじめようよ。」
「いいね。 それさんせー。」
最後に彼の顔を殴って、あいつらは帰っていった。
「・・・どうして?」
「・・・・・・ウッフゥ?」
「どうして、私を助けたの?」
「だ、だって・・・その・・・前から朝比奈さんがいじめられてたのは、わかっていたんだけど・・・・・・、あんなにもヒドいことをされてるとは、思わなかったんだ。」
「・・・貴方には、関係ないでしょ。 どっか行ってよ。」
私は、未だにあの時のことを後悔している。
もっと、優しい言葉をかければ・・・、素直にありがとうと言えていたら・・・。
「私だって、あなたみたいな人とは関わりたくないの。 早くどっか行ってよ。」
「・・・うん、わかった、ごめんね。」
彼は、そういって去っていった。
私は、彼の顔を覚えておくようにした。
こんな私を助けてくれた彼を・・・。
驚くことに次の日から、いじめがなくなった。 相変わらず友達はいなかったが、前よりは幾分かマシだった。
代わりに彼がいじめられるようになった。
私は、彼のことを助けたいと思ったが、いざ助けようと思ったら、足が竦んで動けなかった。
そうやっているうちに、彼とは一言も話さずに卒業してしまい、中学は終わった。
私は、私のことを庇ってくれた彼が好きだった。
他の人たちは、見てみぬフリをして、私のことは気にかけなかったのに、あなたは、助けてくれた。
嬉しかった。 なのに、私はあなたを助けれなかった。

・・・だから、もしもう一度、会った時はあなたの彼女になってあなたの隣にいたい。
あなたの傷を癒やしてあげたい。
あなたの優しさに見合うような女になるから・・・。
それまでは、さようなら・・・

高校生になってからは、あのいじめメンバーもいなく、自分を磨くことに必死だった。
彼のために・・・。彼だけのために・・・。
成績も常にトップをとり、部活にも入り、交遊関係も結び、見た目や服も変えた。
そして、中学校の時とは考えられないぐらい男子に言い寄られた。
告白も数えきれないぐらいされた。
でも、告白してきた彼らの多くは、私の体などしか見ていなかった。 まぁ、そんなのはどうでも良かった。
相手の印象が悪くならない程度には断ったが。
見た目や中身にも自信がついてきた私は、1年ぶりに彼に会いたくなった
582名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 00:48:25 ID:/987lIXE
彼に会わなかったのは、彼の優しさに見合うような女になるまでは、彼には会えないと思ったから・・・・・・。
でも、今なら会える・・・!!
中学の時に貰った連絡網で彼の家に電話を掛けてみた。
心臓の音がスゴい。緊張する。なんて言おう。 付き合って下さい!とか、色んな考えが頭の中にあったが、電話が繋がらなかった。
よし、電話じゃなくて、彼の家に行って直接告白しよう!と思い、中学校の担任に電話して彼の住所を聞いたが、彼は卒業と同時に引っ越ししてしまったらしい。
行き先は、担任もわからないと言っていた。



・・・・・・・・・・嘘でしょ? 彼に会えない? ううん、嘘だよ。 そんなの。
だって、私は彼に何もしていない。
お礼も言ってない。あの時ありがとうって。
あの時、ヒドいこと言ってごめんねって。

・・・・・何も・・・・・言ってない。
それから、1週間程放心状態だった。
もう、彼に会えない・・・。 その事実が心に大きく響いた。
でも、いつかはきっと彼に会える。
そう信じて自分を磨こう。 彼の傍にいても彼が自慢出来るような女になるために・・・!
私は、自分を磨くたびにまた色んな男の人が寄ってくる。
彼に会いたいのに、どうでもいい人達が寄ってくる。
583名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 00:53:33 ID:/987lIXE
私が好きなのは、彼だけ・・・。
私の見た目だけしか見てない奴らは、本当にどうでも良かった。
彼以外に触れられると気持ちが悪い。
私に触れていいのは、彼だけだ。
そうやって、高校も終わり、一縷の望みをかけて大学にも行ったが、彼は居なかった。
もう、彼には会えないのかな…そう想うと胸が苦しくなり、涙が出てくる。
結局、大学でも彼を見つけきれないまま、就職の時期が近づいてきた。 私は、進路もまだ決まっておらず何となく小企業の所に研修に行った。 私は、この時ほど『運命』というものを感じるものはなかった。
彼がいた。彼に会えた。
何年越しに会う彼は、中学の時と変わっていなくて、なぜかとても安心した。
彼に話かけたりしたが、彼は私のことなんて、覚えていなかった。

・・・・・・仕方ないよね。 中学の時助けられたあの時だけしか、喋らなかったし、覚えてなくても仕方ないよね。
でも、これからは二人で色々な場所に行ったり、二人でお喋りしたり、そ、そ、その、あなたともしたくて、ずっと我慢してたの・・・。
これからは楽しみだなぁ。 ウフ、ウフフフフフ・・・・・・。
584名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 00:55:25 ID:/987lIXE
投下終わります。

アドバイスしてくださった方、ありがとうございます。
585名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 01:11:50 ID:X4L7soNm
もう一度って改訂版って事か。てっきり続編かと思った。
ともかく面白いんで続き期待してるよ
586名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 02:02:55 ID:jHAqJUp5
大分読み易くなった
期待
587名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 02:12:32 ID:Kg6V6l3R
GJ
続きに期待

そして自分も投下
588愛の亡者と金の亡者:2010/01/31(日) 02:26:17 ID:Kg6V6l3R

俺の青春ってなんだろう

身寄りもなく、元々経営難だったが遂に限界を迎え、高校に通う前に潰れた孤児院にも、当然ながら戻れない。
孤児院の友人は皆何処かの家に引き取られ、残ったのは院長が俺の将来の為に遺してくれていたほんの僅かな親の財産だけ。
高校は、必死になって猛勉強して奨学金で通えるようになった。
が、それだけでは何にもならない。
毎日毎日アルバイトに明け暮れる日々。
一時は高校も辞めようかとも考えたが、将来的な事も考えて踏み留まっている状態が一年と半年間も続くと、
青春なんて、そんな疑問も薄れてくる。

金、金、金、金、金。
金を求めて何が悪い。
一時は荒れた時期もあったが、それも虚しいだけだった。
暴力を振るい、誰かを傷つけ地に伏せさせたところで、何の解決にもならないどころか
むしろ損をしている。そんな事をしている暇が有ったら働け。

求めるものは良い仕事と金、
そんな俺に彼女なんて出来る筈もなく…


久しぶりに思う、
俺の青春って、なんだろう……
589愛の亡者と金の亡者 第一話:2010/01/31(日) 02:46:12 ID:Kg6V6l3R
「いらっしゃいませー」
土曜日の午後三時。
普段は人の流れが皆無なこの時間。
別段、コンビニに来る人が全くいないというわけではない。何の疑問も持つことなく何時も通りの作り笑顔で、半ば流れ作業のように客を迎え入れる。
しかし、その客は少々挙動不審だった。
周りを見回し、監視カメラの位置を確認するとその死角に隠れる。
一目見ただけで解る。万引きする気満々だ。
今は自分一人しかいない、こんな時の対処法は教えてもらってない。
出来れば未遂で終わって欲しい、その伸ばした手を止めて、寸でのところで踏み留まって欲しい。
しかし、現実はそう甘くなく、人間もフィクションほど善人ではない。
願い虚しく、彼女は掴んだ菓子パンをバッグの中に数個突っ込む。
…やっちゃったよ。面倒事にはしたくないのにな…
俺は観念して、そのまま何事もなかったかのように出て行こうとする少女の手を掴む。
「…何だよいきなり、離せよ!」
そう言って少女は腕に力を込めるが、如何せん男の腕力には敵わない。
よく見ると綺麗な少女だった。赤い髪に整った顔立ち、スタイルは並だが全体的に見てそこらの芸能人に引けをとらない。
が、綺麗だろうとなかろうと、犯罪は犯罪、結果は結果。
「万引き、よくない」
「はぁ?何言ってんだよ!離せよッ!」
「とりあえず奥まで来ようか」
「ふざけんなよ!いいから離せよ!」
聞いてくれる様子でもなさそうなので、力任せに店舗の奥へと連行した。
590愛の亡者と金の亡者 第一話:2010/01/31(日) 03:09:42 ID:Kg6V6l3R
事務所のパイプ椅子に座る彼女は黙りを決め込んだままだ。
黙秘権を最大限に利用しているが、物的証拠が目に前にあるにもかかわらずそれは無いだろう。
「あのさ、とりあえず名前、教えてくれる?」
「…………」
あくまでも何も喋らないつもりか。しかめっ面で俺から目を逸らしこっちを見ようともしない。
「…じゃあ、住所と年齢、血液型と誕生日、動物占いの結果とスリーサイズを教えてくれる?」
「何でスリーサイズ教えなくちゃなんないんだよ!」
「よし、やっと喋ったな」
「…………」
この子、結構扱い易い子だな。
「ちなみに俺は因幡白兎(いなば はくと)。住所と年齢はヒ・ミ・ツ。血液型はAB型のRH−、誕生日は四月一日、動物占いの結果は海月、スリーサイズは…」
「何で自分のスリーサイズ知ってんだよ!」
「ナイスツッコミ!きっとこのタイミングでツッコむと信じてたよ。さっきのツッコミで確信した。あ、ちなみに血液型は本当だよ」
「…プッ」
お、笑った。なんだ、笑顔は可愛いじゃないか。
「で、名前は?それだけ教えてくれればいい」
落ち着いた口調で言う。
すると彼女も観念したのか、呆れたような表情で言った。
「天海火那美(あまみ かなみ)……これでいいんだろ!」
「ん、天海火那美さん、ね。いい名前じゃないか」
「う、うるさい!じゃあこれで帰るからな!」
「ちょっと待った」
「何だよ!…っと」
俺は事務所から出て行こうとする彼女にメロンパンを一つ投げた。
「…何だよこれ?」
「俺の奢りだ。もう万引きなんかするなよ。特に俺の働いてるところではな」
彼女はしばらく呆けた顔をしていたが、俺に向かって微笑んでこう言った。
「…お前、変な奴だな」
「そうでもない。普通に学生やってるよ。青春してるかはともかく、ね」



これが、彼女との出会いだった。
591名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 03:11:57 ID:Kg6V6l3R
最初のレスに何話かを入れるのを忘れてました
申し訳ございません
とりあえずは投下終了です
592名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 03:42:25 ID:iHEMCgx0
GJ!!続きが楽しみです。
593名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 04:37:52 ID:mdUqnOVU
期待

続きが楽しみです!!
594名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 16:47:40 ID:3gIw95Y5
続き楽しみにしてます
595名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 18:17:58 ID:y9LBuReH
明るい 陽
596名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 19:07:23 ID:y9LBuReH
派手
597名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 20:34:01 ID:QUxldlmr
新連載が二本も…お二人ともGJです。
続きも楽しみです。頑張ってください。
598名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 02:01:39 ID:6yGH8urJ
GJ続きが楽しみ
599名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 23:41:30 ID:vx4219Fg
調子に乗って連投
600愛の亡者と金の亡者 第二話:2010/02/02(火) 00:08:29 ID:LXAX6lBS
月曜日。
それは俺、因幡白兎が最も調子の良い日である。
丸々一週間働き詰めというのは学生にとっては十分なハードスケジュールだ。仕事に支障が出るくらいには。
バイトだけならまだしも、奨学金で学校に通う為には成績も維持しなければならない。
その為俺の日々の睡眠時間は絶望的なものだ。働き出した頃にはよく体調を崩したりしたものだった。
故に、日曜日は俺にとっての爆睡デイとなっている。
閑話休題。

奨学金制度は有るには有るが、それで他の生徒と特に区別されるということもない。
奨学金で通っている奴があまりいないという現状がそうさせている。だから俺のクラスも特別頭の良い奴が多い、真面目過ぎる、なんてこともなく。
そんな普通のクラスの扉を開けると、中学からの友人が声をかけてきた。
「お早う、ハク。君との朝の清々しい時間を削るのは非常に残念なのだが、課題をみせてくれないかい!」
と、朝一番に聞いた言葉がこんなだったら少々気が滅入るような台詞を吐きやがったのは、友人の花水木水華(はなみずき すいか)という。
中学一年からの親友で、学ランを着ていなければ名前と相まって男とは思えないくらいの容姿をしている。
お前本当は女なんじゃないか?と聞いたことがあるが、『さあ、どうだろうね?』とはぐらかされた。体育の時も予め服を着ているし、中学もこの高校も水泳の授業がない。
まあそれは置いといて。
時々こうやって課題を見せてくれとせがまれたり、一緒にテスト対策を打ったりしている。
「別に構わないが、学食奢れよ」
「ぬ・・・しかたない。良いだろう」
メロンパンという出費が出たから取り戻す気でいたが、まさかこうも早く取り戻せるとは。
「で、課題ってなんだっけかな・・・」
「数学なんだが」
「ちょっと待てよ・・・あったあった、これか」
鞄に入っていたノートを取り出しそれに該当するページを出す。
「合ってるかどうかはわからんけどな」
「そう言って大抵いつも合ってるじゃないか。じゃ、早速写させてもらうよ」
そう言って席に着く。隣なので直ぐに返してもらえることだろう。
普段は水華や他の奴らと話しているが、あいつらはまだ来ていないし水華も写しに必死だ。俺は朝のホームルームまで、机に突っ伏してそのまま眠りについた。
601愛の亡者と金の亡者 第二話:2010/02/02(火) 00:23:37 ID:LXAX6lBS
朝のホームルームが終わり、一限目の授業に入る。
月曜の最初の授業は、生徒のモチベーションを上げる為、というわけではないのだろうが、俺たちのクラスは体育だ。
つい先日、期末考査が終わったばかりなので、クラスメイトは思いっきり身体を動かしている。
ちなみに、今やっているのはサッカーだ。
「ゴッドハンドォォォォォォ!」
そんな掛け声と共にボールをキャッチしたキーパー。そのうちにゴッドの部分が魔人に変わりそうだ。
「水華ッ、パス!」
水華にパスを渡し走る。
「OK、君からの愛のこもったボール、確かに受け取ったよ!」
容姿が完全に女の子なだけに、そんな台詞を言われるとドキリとするだろうが。
「行くぞ、疾風ダッシュ!」
驚くことに、迫り来る相手選手をどんどんと抜いていく。さっきのキーパーといい、まるで某超次元サッカーではないか。
まあ、かく言う俺も、それに相手チームも言えた事ではないのだが。


激しい接戦の末、最後のロスタイムで水華が、まるで炎を纏ったかのようなシュートを空中でグルグル回りながら決め、試合は終了。
最後はお互いの健闘を称えあい、月曜日の最初の授業からクライマックスな熱気を放っていた。
602愛の亡者と金の亡者 第二話:2010/02/02(火) 00:47:20 ID:LXAX6lBS


その後の授業は特筆することもなく、平和に時間が過ぎて行った。
ちなみに俺が食堂で奢ってもらったものは特に高くもない、無難な牛丼だったが、なんか癪なのでキムチもつけた。まあ値段はさして変らなかったが。

「じゃあね、ハク」
そう言って俺のアパートの前で別れる。
俺の住むアパートは学校に程近く、少々ボロいが風呂、トイレ完備で家賃二万五千円という家計に優しいお値段だ。
そんなアパートの奥の部屋に入り、洗濯物を取り込んで素早く畳んでから着替えを済ませ、鍵を掛けて外に出る。
今日のバイト先はネットカフェだ。朝の四時までは帰れない。
「おーい、はーくとー!」
バイト先への道を歩く俺を、そんな間の抜けた声が呼び止めた。
振り返ると、この近くの小中一環の学校の制服を着た少女がこっちに駆けてくる。
彼女の名前は木上瑪瑙(きのうえ めのう)。
彼女は孤児院からの付き合いで、運良く近くの家に引き取られた数少ない旧知の仲だ。
「あれれ、白兎今日もアルバイト?」
「ああ、お前は今帰りか?」
「ん、今日は部活がないからね」
「そうか。確か・・・テニス、だったよな。頑張れよ」
そう言うと、瑪瑙は笑顔で頷いた。
「あ、そう言や、珊瑚(さんご)は元気か?お前が小五だから・・・あいつは今は中三か」
「珊瑚お姉ちゃん?」
珊瑚とは、瑪瑙の実の姉貴だ。家庭の事情で預けられたっきり、両親からは一切の連絡が来なくなった。
まあ今はそんなことはいい。
何故か、その珊瑚の話題を出すと、少し表情が陰った気がした。
「うん、元気だよ・・・」
「そうか。・・・ってヤバイ、じゃあ俺はもう行くぞ。また今度な」
「あ、うん、またね・・・」
そう言って別れ、俺はバイト先へと走った。



「また今度、絶対・・・ね」
603名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 00:48:47 ID:LXAX6lBS
第二話終了です
604名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 00:56:39 ID:O0yWJ9gj
GJ
605名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 01:33:44 ID:QV2Kruvc
GJ
606名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 03:09:48 ID:K8XLECNc
gj!
しかし動き出す時といい「今、男の娘がキテる!」って感じだなw
607名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 08:00:42 ID:8IAlwe3e
GJ!
疾風ダッシュwww
決めたのは爆熱ストームか?
608名無しさん@ピンキー:2010/02/03(水) 23:49:34 ID:IiTKfjFt
派手
609名無しさん@ピンキー:2010/02/04(木) 12:12:57 ID:rM6Q7HTy
610名無しさん@ピンキー:2010/02/04(木) 14:47:20 ID:4nwNkWEP
611名無しさん@ピンキー:2010/02/04(木) 14:52:41 ID:K0DikMRp
612名無しさん@ピンキー:2010/02/04(木) 14:57:57 ID:zOmKWGZU
惨敗
613名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 02:15:12 ID:MAQRiYnC
目が覚めた?
ここ?うちの別荘だよ。君も何回か招待したことある、あの山荘だよ。
…どういうつもりかって?……君が悪いんだよ?
僕というものがありながら…あんな女狐なんかにデレデレしてさ。
昨日なんか、されるがままにキスまでされちゃってさ、しかも君ったらふやけた間抜けヅラして。
バカにしてるの?
僕は君の事がこんなに好きなの知ってるくせに。

君はいつもそうだ。
僕はいつも君だけを見てるのに、君はすぐ僕以外のものを見ようとする。
どんなに尽くしても、どんなに我慢しても、どんなに待っても、君は僕だけのものにはなってくれない。
だから、もう我慢なんかしないよ?
あのメスネコには然るべき罰を与えてきたし、今度は君の番だ。

……え?彼女をどうしたかって?
あんなのをまだ人扱いするなんて君は優しいね。
まあ、聞かない方が良いと思うよ?
言うのもおぞましいし、あの畜生の名前を僕の口から出させないで欲しいな。

安心して。
僕は君の恋人だよ?
これから一生添い遂げる大事なパートナーを、ひどい目になんか会わせないよ。絶対に。
ただ、僕の事しか見えなくなるようにしてあげるだけさ。
だってこの別荘には僕と君の二人だけ。
近くに民家はないし、この山は今僕達二人しかいない。
だから、焦らずじっくりと愛を確かめあっていこうね?
時間はたっぷりあるんだから。

愛してるよ、〇〇君。



ボクっ子で試しに書いてみたがヤンデレ成分不足で何か違うものになった
ヘタレ文章ですまん
614名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 14:00:17 ID:yoijfoIe
そう思うなら書き込むな
615名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 18:54:22 ID:RhTx0U9c
>>613
GJ!!
616名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 21:34:16 ID:tXOsmkMs
>>613
ヒロインかわええ
ここに至る描写書いてほしい
617名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 00:49:25 ID:7M/FndvU
>>613
GJ!!
618わたしは私、私はわたし1/1:2010/02/06(土) 01:17:32 ID:uSEnUj+Y
六月十七日 晴れ
私はこの度告白を受けました。人生初の経験でありました。
相手はとてつもなく凡庸凡骨、自然界で言うと石ころのような、凡人でありました。
だが、彼は私にとっては限りなく非凡な存在でした。
彼はわたしを愛していると耳元でほざくのです。私は彼を、いいえ、彼という人間性が該当するカテゴリィを内心馬鹿にしておりましたから、私は何時ものように内心馬鹿にして、わたしは笑いながら拒否を意味する言葉を見繕っておりました。
ですが彼は、私の耳元でまたも囁くのです。
君の、本当の姿を知っているのだ、と。
嗚呼、私への、初めての告白でありました。
誰も彼も、わたしを知れど私を知らず。私の片側すら見れぬ賎しい屑でありました。
ですが彼は違うのです。そうであるのです。
わたしは困惑し、私は当惑しておりました。
彼は、私の耳元で猶も甘言を紡ぐのです。それからのわたしの言葉はよく覚えていませんが、私は彼に愛し合う許可を出しました。
嗚呼、なんという運命。
彼が私と出会ったのは神のお導きに違いない。
彼は私を見てくれているのだ!私を愛しているのだ!
私は、もう一人ではないのだ!

七月三十一日 雨
嗚呼、私は孤独だ。
結論を言うと、私は彼を殺しました。
彼の血液の生温かさも生臭さもこの脳に刻まれているのに、彼が死んだという実感が沸きません。
それにしても、人間を包丁なんて前時代的な凶器で一突きしただけで、血液はあんなに噴き出てくるのですね。後学に活かせそうです。
彼は私にとって路傍の賎しき石ころに過ぎなくなりました。
彼に未練がないか、と言えば答えはノーです。私にとって彼は、永遠なる「初恋の君」なのですから。
私も乙女として、初恋の人と永久に添い遂げたいというロマンティックでメルヘンティックな夢物語を胸に抱いていたのです。
彼は、私の純情を踏みにじり、凌辱しました。
ええ、思えばあの夜更けの行為は肉体的凌辱であったのかしら。
彼は私の純潔を散らし、純情を踏みにじり、嘘の純愛で私を満たしたのです。
彼は、私を愛してくれませんでした。
わたしの体と、その偽物の心を、薄っぺらい“ラヴ”で凌辱したのです。
嗚呼憎らしい。彼は私を玩んだのです。いいえ今も玩んでいる。私は玩ばれている。
閑話休題。彼は、私のこころを理解せずに、私に甘言を囁いたのです。
嗚呼嗚呼憎らしい。だがそれ故に愛おしい。嘘つき男でも、未練はしゃくしゃく。私はなんという、馬鹿女なのでしょうか。
そろそろ彼を殺した状況について、説明をしましょう。
私は彼が私を騙した事を知り、焼けつくような、いいえ妬けつくような痛み憎しみ怒りに襲われました。
ですが、私は正気でした、いいえ、おそらくわたしと私が生まれた時から、私は最初から最後まで狂気を纏っていたのです。
私は、彼が私を騙していないという方向に賭け、彼の元へと急ぎました。
ところで貴方は、何かを書く若しくは描く時、消しゴムが手に無いと不安にならないでしょうか。
私は、どうしようもなく、恐ろしいです。
間違いは、過ちは、消せるのだと。
紙に穢い痕が残れど私は、彼が間違いならば、消してしまいたかったのです。
結局彼は間違った存在でした。
だから消しました。

私も、わたしの周りの女共のように、醜かったのです。
いいえ、醜くなったのです。私はわたしと言う外壁により純で美しい、指紋の付いていないこころを持っていたのに。
彼などに、わたしは私への道を開けたのです。
わたしは、私は、どうしようもなく、愚かなのです。
わたしは、私は、どうすべきなのでしょうか。
私は孤独だ。
私の穢れた心は、孤独を知ってしまった。わたしは成り立たなくなるのでしょう。
嗚呼孤独。それに付随する、絶望。
彼を殺した感触はあれど、彼が死んだ実感は無いのです。
が、彼が消えてしまったこと、それは理解できるのです。
絶望。絶望。只ひたすらに。絶望は死に至る病であると、キェルケゴールはかく語りき。
今の私ならば、そのお言葉の三分の一までは、理解できます。
嗚呼、私は、過ちなのでしょうか。
私は、消されるべきなのでしょうか?

少女の独白(日記)調で書いてみた。小説書く機会あまり無いから文が稚拙だろうがヤンデレへの愛だけは感じ取ってくれ
619名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 12:14:05 ID:yERGTivB
いいね!
こういうの大好き。
620名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 22:07:03 ID:DBbkyD1P
個人的には好きだけど
これはヤンデレとは言わないと思う
621名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 00:33:22 ID:g1/Xl6cY
>>620
まーた荒れそうな話題を・・・
622名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 04:18:27 ID:ZJFCR4bb
荒らし乙
623名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 07:48:07 ID:H5KQRxvI
ヤンデレ家族と傍観者まあだ?
624名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 12:49:06 ID:mPYC4VFy
2,3回読み返したときは澄子(何故か”ちょうこ”で変換できない)ちゃん
以外眼中になかったんだけど。最近また読み返したら、兄さん、弟、葉月さん、花火の事も
気に入ってきました。皆さん感情を表現するのが上手ですね。
特に女性は男性と脳のつくりが違っていて感情を増幅させたり細かいところまで表現しやすいそうですが
欠点として、制御できなくて暴走しがちだそうです。
そう言う時(怒ってる時とか)は、ストレスホルモンと言って気持ちを静める働きをする物が
脳内で出ていますから、同調してあげましょう。甘いもの(ブドウ糖)をあげても脳が休まるので
効果的かと思います。溜め込んじゃってあまり感情を表現しないヤンデレの娘は心配。
625 ◆AW8HpW0FVA :2010/02/07(日) 19:14:07 ID:kyvwQ+TK
test
626 ◆AW8HpW0FVA :2010/02/07(日) 19:15:18 ID:kyvwQ+TK
投稿します。
627変歴伝 23 ◆AW8HpW0FVA :2010/02/07(日) 19:16:31 ID:kyvwQ+TK
「だから三郎のご飯は私が作るって言ってるでしょ!
あんたもぜんぜん分からないわね」
「水城さんだってぜんぜん分かってないじゃないですか!
兄様のご飯を作るのは、妹である私じゃなきゃいけないんです!」
業盛の頭に痛みが走った。
いつまで経っても呼び出しが来ないのと、彩奈が帰ってこないので、
もしかしたら、と思い部屋に行ったら、案の定、二人は口喧嘩をしていた。
昨日、あれほど注意したのだから大丈夫だろうと思っていたのだが、
どうやら、まったく駄目だった様だ。
ここでなにか言うべきなのだろうが、反論されるのは目に見えていたので、
業盛は二人の口論が終息するまで待つことにした。
一刻、一時と時間が過ぎていき、
「……………………………………」
そして日が中天に昇った時、業盛は大いに後悔した。
業盛の料理を誰が作るという口論から、
胸が小さいだ肌が黒いだなんだという誹謗中傷に成り下がっていたからである。
「はいはい、二人共静まって〜」
このままでは埒が明かないので、業盛は二人の口論に割り込むことにした。
一斉に二人の視線が業盛に集中した。
「三郎、邪魔しないで!」
「兄様、これは私達の問題なんです!」
二人の反論は、本当は仲が良いのではないか、と思うほど息が合っていた。
だが、空腹の業盛は引き下がらなかった。目に力を込め、二人をまっすぐ見据えた。
「これ以上不毛な論争を続けるなら、勝手に飯を作らせてもらうぞ」
そう言って、業盛は立ち上がった。
ずん、と両手が重くなった。両手に水城と彩奈がしがみ付いていたのだ。
「だっ……駄目!それだけは、駄目!」
「兄様がお手を煩わせる必要なんてありません!」
二人共、目に涙を溜めながら、必死に業盛に翻意を促した。
しかし、業盛の決意は変わらない。
「お前達の口論の決着を待っていたら、いつまで経っても飯が食えないだろ」
業盛はそう言って、二人を引き離そうとしたが、
二人は必死に腕にしがみ付き、離れようとしなかった。
ついには二人共泣き出してしまい、呂律の回らない口で、
ひたすら、ごめんなさい、許してください、と言い出す始末だった。
この惨状を見て、余計面倒なことになってしまった、と業盛は思った。
「あぁ〜、分かった、分かったから!じゃあ、これでどうだ!
俺はご飯と汁物を作るから、お前達は自慢の一品を作ってくる。これでいいだろ!
これ以上は譲れんからな!」
結局、業盛は妥協せざるを得なかった。
業盛の言葉を聞いた二人は、余程嬉しかったらしく、業盛に抱き着いてきた。
業盛は、つくづく自分は甘いな、と溜息が出てしまった。
628変歴伝 23 ◆AW8HpW0FVA :2010/02/07(日) 19:17:16 ID:kyvwQ+TK
業盛はすぐにご飯と汁物を作るつもりだったのだが、再び水城に部屋を追い出され、
仕様がないので隣の部屋に行ってみると、先に彩奈に占領されていた。
そんなに自慢の一品を作る所を他人に見せたくないのだろうか、と業盛は思った。
少し考えて、業盛は他の部屋でご飯と汁物を作ることにした。
戸前で、隣の部屋で料理を作る、と二人に伝えた後、
業盛は部屋に上がりこんだ。
その部屋の主は心が狭く、業盛がその部屋を使うことに難癖を付けてきたが、
業盛に睨まれ、黙ってしまった。
「初めちょろちょろ……、中パッパ……、赤子泣いても蓋取るな……っと」
なんとなくそう口ずさみながら、ご飯を炊き上げ、手際よく汁物を作った。
汁物の具は野草である。出汁には鰹節と味噌を使った。
「よし、出来たぞ。後はあいつ等だけか……」
いっそのこと、ご飯と汁物だけでもいいので腹になにか入れておきたいのだが、
そんなことをすれば、あの二人が怒鳴り散らすのは目に見えている。
出来立ての暖かいご飯と汁物を目の前に、業盛はじっと待つことになった。
「俺は待てを食らった犬か」
思わずそんなことを呟いてしまった。
しばらくすると、どたどたという音がこちらに近付いてきた。
「三郎、出来たわよ!」
「兄様、出来ましたわ!」
戸を蹴破って入ってきた二人は、息もぴったりに同じ様なことを言って、
業盛の目の前に自慢の一品を差し出した。
水城のは相も変わらずひじきの和え物で、彩奈のは黒いたれの掛かった猪肉だった。
やっとおかずが出来上がったので、業盛は早速食べようと箸を手に取った。
しかし、水城と彩奈は箸に手を付けず、部屋の主に顔を向けていた。
どうしたのかと思い、業盛は二人に声を掛けようとすると、
いきなり主が悲鳴を上げ、外に逃げ出してしまった。
なにがなんだか分からない業盛に対して、振り返った二人の表情は笑顔だった。
「さぁ〜てと、ご飯にしましょ、三郎」
「兄様、早く私の作った料理を食べてください」
逃げていった主のことなどまったく気にしない二人を見つめながら、
いったいあいつはなにを見たんだ、と業盛は思った。
629変歴伝 23 ◆AW8HpW0FVA :2010/02/07(日) 19:17:53 ID:kyvwQ+TK
朝食の段になり、業盛は再び彩奈がいることによる恩恵を受けた。
今まで業盛は箸を握ることが許されず、水城に食べさせられていたのだが、
彩奈のいる手前、水城はそれをすることが出来なくなったのだ。
久し振りに自分の手で箸を握る感触に、業盛は甚く感動した。
それと同時に、水城から食べさせられる生活に慣れてしまったことに冷や汗が出た。
気を取り直した業盛は、最初に水城のひじきの和え物に手を付けた。
別にこれといった理由はなく、いつも水城の料理を食べていたので、
今回もそれから食べようと思っただけである。
だというのに、その時の水城はなぜか勝ち誇った表情をしており、
彩奈は悔しそうな表情を浮かべていた。
どちらの料理から先に手を付けるのか、という賭けでもしていたのだろうか。
そんなことを業盛は考えたが、大したことではないと思い、食事に専念することにした。
今日の和え物には、いつもと違い、白っぽい粉が掛かっていた。
食べてみると、相変わらずごりごりとした食感は変わりなかったが、
その白っぽい粉のせいか、少ししょっぱかった。
たぶん塩なのだろうと思ったが、塩にしては粉っぽく、
そしてうっすらと黄ばんでいたのが気になった。
そのことを水城に聞いてみると、水城は少し困った様な表情になった。
どうやら水城にも分からないらしい。
ただ、美味かったことには変わりなかったので、あまり気にしないことにした。
業盛は次に、彩奈の猪肉を食べることにした。
黒いたれが掛かっているのが気になったが、食べてみるとその考えは覆された。
肉が口の中でとろけ、黒いたれの酸味が肉の旨味をいい具合に引き出している。
あまりにも美味かったので、業盛は彩奈にこのたれがなんなのかを聞いた。
彩奈は大きな胸を張って、
「それは猪の血に、香草とかを混ぜて作った特製の秘伝のたれです」
と、自信満々の表情で言った。
猪の血を使うというのは、業盛の考えにはなかったもので、
さすがは山で暮していたことはあるなと素直に感心してしまった。
遅い朝食も恙なく終わり、業盛は満腹感から来る眠気を楽しんでいたが、
その楽しみをぶち壊したのが、水城の家の家人だった。
なんでも、水城にやってもらいたいことがあるらしく、
一日ほど水城を返して欲しいと言うのだ。
業盛は別によかったのだが、当の水城が難色を示した。
散々面倒臭いから嫌だ、と駄々を捏ねていたが、家人の必死の説得に水城も折れた。
ぶつぶつと愚痴をこぼしながら仕度を終え、部屋から出て行く間際に水城は、
「三郎、私は出掛けるけど、絶対に彩奈に変なことはしちゃ駄目だからね」
と、業盛に一言だけ言って出発した。
喧嘩したかと思えば、息が合っていたり、さらには気をくばったりなど、
業盛は水城と彩奈が仲が良いのか悪いのか分からなくなった。
これも女ゆえか、と簡単に結論を付けた業盛は、
再び横たわり、惰眠を貪ることにした。
630変歴伝 23 ◆AW8HpW0FVA :2010/02/07(日) 19:18:39 ID:kyvwQ+TK
目を閉じてしばらくすると、業盛はなにかが頭に当たっていることに気付いた。
それは暖かく、程よい柔らかさで、なにより甘い香りがした。
「彩奈……、なにをしてるんだ?」
「ひざまくらですわ、兄様」
案の定、甘い香りの正体は彩奈だった。
「なんでひざまくらを……?」
「兄様の寝顔がとても可愛かったので、つい……」
業盛の問い掛けに、彩奈はまったく悪びれた様子はなかった。
「義理の兄妹とはいえ、流石にこれはまずいだろ……」
そう言って業盛は、彩奈から離れようとしたが、彩奈に押さえ付けられた。
「確かに兄様の言う通り、私達は義理の兄妹です。
でも、だからこそ血の繋がりのない私達は、もっとたくさん触れ合って、
血の繋がりに代わる関係を築くべきなんだと私は思うんです!
兄様は、そこの所はどの様な考えをお持ちですか!?」
自分の考えを述べる彩奈の表情には鬼気迫るものがあった。
その気迫に押されて、業盛は首を縦に振らざるを得なかった。
それに彩奈は満足したらしく、押え付けていた手を業盛の頭に置き、優しく撫で始めた。
壊れ物でも扱うかの様なその手付きは、とても心地よかった。
再びうとうとしてきた業盛は、再び眠ろうと思ったが、
あるものが目に入り、眠気が吹き飛んでしまった。
それは彩奈の胸だった。
水城のそれよりも圧倒的に大きい彩奈の胸が、業盛の目の前でたゆんと揺れている。
下から見るその光景は、あまりにも刺激的で、業盛は思わず息を呑んだ。
「兄様……、どうかしましたか?」
視線に気付いた彩奈が、業盛に声を掛けた。
「いっ……いや……、なんでもない……」
慌てて業盛は目を逸らしたが、彩奈は業盛がどこを見ていたのか気付いたらしく、
「兄様、私の胸を見ていたんですか?」
と、一発で見破ってしまった。
「みっ……見ていない!」
このままでは変態扱いされてしまう。それを避けるために言い訳を考えたが、
この時ばかりは、業盛の頭はいい回答を見つけ出すことが出来なかった。
「やっぱり……、見ていたんですね、私の胸を……」
どういう訳か、彩奈は笑顔だった。
業盛には、その笑顔がとても恐ろしいものに感じられた。
「あぁ……、見たよ……」
以前、笑いながら怒る人がいる、と聞いたことがあり、
胸を見られて笑っている彩奈を、その手の人である、と業盛は断定した。
これ以上の言い訳は身の危険であると感じ、業盛は足早に白状した。
しかし、一向に侮蔑の言葉も手も足も出てこなかった。
「兄様……、私の胸……、触りたいですか……」
代わりに聞こえてきたのは、甘ったるい彩奈の声だった。
631変歴伝 23 ◆AW8HpW0FVA :2010/02/07(日) 19:19:21 ID:kyvwQ+TK
業盛は、彩奈がなにを言っているのか訳が分からなかった。
罵倒するでも、蔑むでもなく、むしろとても嬉しそうにしているのだ。
業盛が混乱するのは当然だった。
混乱している業盛を尻目に、彩奈は蟲惑的な笑みを浮かべていた。
「私……、嬉しいんです」
彩奈はそう言って、業盛の右腕を優しく掴んだ。
「兄様が私のことを妹ではなく、一人の女として見てくれたことが……」
業盛の右腕は、彩奈に導かれて彩奈の胸に当てられた。
「私……、兄様のことが……、好きです。……心の底から」
彩奈が腕に力を入れると、業盛の手は彩奈の胸にゆっくりと埋まっていった。
むにゅり、とした感触と、じんわりとした温もりが業盛の理性の糸を断ち切っていった。
ただでさえ業盛の理性が危ない時に、彩奈は止めとばかりに、
「兄様……、私に、この先のこと……、してください……」
と、恥じらいと熱の籠もった言葉を業盛の耳元で囁いた。
業盛は、自分の頭の中の太くて長いなにかが、凄まじい音を立てて切れたことを感じた。
「……っ……、はぁああああああああああああああああ〜……」
業盛は、今までにないほど長いため息を吐いた。
そして、全ての息を吐き終えると、おもむろに立ち上がった。
業盛の思いも寄らない行動に、今度は彩奈が混乱し、思わず業盛に声を掛けた。
業盛は、戸の前で彩奈の方を振り返った。
どことなく、その目はギラギラしていて、まるで獣の様だった。
「ちょっとそこらで善行を積んでくるだけだ。すぐに戻る……」
業盛はそう言うと、外に出て行ってしまった。
部屋に残されたのは、なにが起こったのか呑み込めない彩奈一人だけだった。

それからしばらくして、都の路地裏で屯していたごろつき達の輪の中に、
血達磨になったごろつきが投げ込まれた。
「うっ……うわぁあああああ〜……!!!」
「なっ……なんだ、テメェは!!!」
悲鳴が上がる中、ごろつきの一人が仲間を血達磨にした男に向けて声を張り上げた。
男はまったくしゃべらず、荒い息をしながら鋭い目で他のごろつきを睨み付けていた。
ごろつき達はこの殺気に押されたが、相手が一人であることに気付き、再び息巻いた。
「俺達に手を出すたぁ、いい度胸だ!どこのシマの野郎か知らねぇが、
たった一人で乗り込んできたことを、精々後悔するんだな!!!」
ごろつきのカシラらしき男が号令を下すと、ごろつき達がいっせいに襲い掛かってきた。
男は、それを見てもまったく動ぜず、にやり、と笑っただけだった。
「こんなに身体が熱いから……」
なにか型を構えるのでもなく、右手を前に出し、ゆっくりと握り締めた。
「死なない様に気を付けるんだな、虫けら共」
男はごろつき達の集団に飲み込まれた。

その日、都のごろつきの集団が、また一つ消えた。
632 ◆AW8HpW0FVA :2010/02/07(日) 19:20:18 ID:kyvwQ+TK
投稿終了です。
最後のやつは、時代劇を見てなんとなく書きました。
633名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 20:09:54 ID:psoIdj+u
GJ!
ギャグな修羅場大好きですw
そして鎮める為に潰されるごろつきカワイソス
634名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 22:43:59 ID:8JYlJXg1
業盛強いなーw
やつあたりでゴロツキ半殺しにする所がいいね
GJ
635名無しさん@ピンキー:2010/02/08(月) 02:48:14 ID:QrVSa8Tn
変歴伝キタ━━━(゚∀゚)━━━━━━
636名無しさん@ピンキー:2010/02/08(月) 23:32:49 ID:ZRVHmdPa
gj! 黄ばんでる白い粉や秘伝のたれとやらの材料の「とか」の部分なんかが気になるw
637 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 17:44:25 ID:/cgU9SAg
以前、題名の無い長編9を書いた者です。
投稿します。
638少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 17:48:41 ID:/cgU9SAg
夏もとうに終わりを告げ、肌寒い空気が徐々に浸透してくる10月の終わり。世間では今宵お化け(の仮装)の行列が街中を横行するらしいが、
僕は新しい本を探しに駅前のショッピング街を訪れていた。
街中を見渡すと、見慣れた顔がちらほらと目につく。カジュアルな装いであったり、はたまた全身黒を基調にしたいわゆるV系に身を包んでいたり、
キャバ嬢よろしく派手に着飾ったりと…その一部が、僕の通う高校の同学年の生徒だったりするわけで。やはり休日は羽目を外したいのだろうか。
かくいう僕はジーンズにTシャツ、パーカーと手抜きな恰好をしている。どうせ誰にも会わないんだし、構わないだろうと思ったのだ。
だがそういう日に限って、顔見知りにエンカウントしてしまうというのはありがちな話だ。

「やっ、今日も本漁りかい?」

いきなり後ろから声をかけてきたのは、茶髪のサイドポニーが特徴的な、やたら姦しい女子。というかクラスメイトの水城 歌音(みなき かのん)だ。

「そういうアンタだって、どうせ似たような目的だろう。しかし、休日に毎度毎度遭遇するなんて、不気味だな」
「失礼ねー。そこは"運命の赤い糸で結ばれてるんだね"とか言ってよね? 文学少年らしくさ」
「僕は読書が趣味なだけで、文学少年なわけじゃない。他の人が空いた時間にゲームをするような感覚で読書してるだけだ」
「わ、暗いわねー」水城はわざとらしくドン引きするジェスチャーをとりながら言った。
「ねぇ、私もついてっていいかな? あの本屋さんって、CDショップも入ってるじゃない?」
「断ったってどうせ付いてくるんだろ。好きにしろ」
「決まりね♪」

水城はそう言うとやや早足で本屋に向けて歩き出した。だが僕は面倒なので、今の歩調を保つ。

「真司ぃー、早くしなよー」
「CDは逃げないだろ。急かすな。僕は体力が少ないんだ」
「運動しないで本ばっかり読んでるからだよー。こないだだって体育のバスケで、試合途中でへばっちゃって。バスケ部員のディフェンスを抜くくらい運動神経はいいのに…もったいない」

…嫌なことを思い出させる。
先週の体育の時間、僕はいつも得点板を引き受けて観戦してるだけなのだが、あの忌ま忌ましい体育教師が「一回でいいから試合に出ろ。でなきゃ単位はやらん」
などと言い出したもんだから仕方なく参加したんだ。
毎時間観察してたせいか、バスケ部員の動きやクセを見切るのは難しくなかった。こうなりゃやるだけやってやる、と張り切ったはいいが、
途中ガス欠になり、試合が終わった瞬間、無意識のうちに保健室に運ばれてたというわけだ。
しかも僕を運んだのが保健委員の女子二人で、うち一人が水城だったらしい。…一生の不覚だ。
639少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 17:50:18 ID:/cgU9SAg
「次その事を言ったら、広辞苑をアンタの後頭部めがけて投げつけてやる」
「それなんていう藤林…こほん、か弱い女子に暴力はいけないんだぞー」
「ほう、そのか弱い女子ってのは、どこにいるんだ?」
「こぉらっ!」

…などとくだらない会話を続けているうちに、本屋に到着した。
水城はつい先日発売されたアニソンのCDを購入し、僕はラノベを一冊試しに買ってみた。タイトルは…嘘つきなんたらと壊れたなんたら?
それぞれ目的を果たした僕達は、本屋の入口で落ち合った。

「さて、目的のブツは手に入ったし…マックにでm」
「アンタはあっちか。僕はこっちだ、じゃあな」

水城が何かを言いかけたのに無理矢理割りこんて言ってやった。

「行 か せ ね え よ ? 真司はこれから私とお昼ご飯食べに行くんだもんね?」
「勝手に決めるな。それに僕はあと400円と少ししか持ち合わせがない。家には昨日のカレーの残りがあるからそれを昼飯にする」
「青春まっ盛り…ヤりたい盛りの高校生が家で一人でカレーをつつく…枯れてる、真司枯れてるよ。カレーだけに」

水城は首を横に振りながらやれやれ、と言いたげな表情をした。

「変なことを言うな。…まあ一人で食うのもつまらんから、付き合ってやってもいいが」
「決まりぃ♪」
「………はぁ。」

こいつとエンカウントするといつもこうだ。相手のペースに乗せられ、半ば強引に、時折痛いところを突き…結局僕が水城と別れる頃には、とっくに日が暮れていた。
640少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 17:51:34 ID:/cgU9SAg
「…はぁ、定期入れの中に千円忍ばせといてよかった」

月が出始めた夜道を、僕は一人歩いていた。駅前から自宅まで徒歩25分。遠いようにも感じるが、僕にしてみればそうでもない。
頭の中で今までに読んだ本の考察をしながら歩いていれば、すぐだ。
と、適当に本の記憶を呼び覚まそうとすると、頭の上に何か冷たいものが降ってきた。

「冷てっ…おい、マジかよ…」

冷たいものの正体は雪だった。…まさか、今はまだ11月手前だぞ? だが空を見上げると、まるで真冬のように雪が降っているではないか。なんたってこんな急に?
…くそ、寒い。僕は歩くペースを早めた。
すると今度は…歩道で人が倒れているのが目についた。

「ったく…酔っ払いか? 凍え死ぬぞ…って、おい。」

近づいて様子を窺ってみた。なんと倒れていたのは、中学生ほどの女子だった。
しかもこの季節にしては(雪は想定外だとしても)長袖のシャツにスウェットと薄着(とツインテール)でリュックを背負い、まるで家出した挙げ句行き倒れたとしか見えない。放っておけば間違いなく凍死コースだ。
僕はとりあえず行き倒れの少女の近くに屈み込み、声をかけてみた。

「おい、大丈夫か。しっかりしろ」

返事はない、ただの…やめよう、冗談に聞こえない。
反応は…ありだ。少女の肩がぴくん、と動いた。
少女はしんどそうに顔をこちらに向けた。唇が青ざめ、見るからに顔色が悪い。…救急車を呼ぶべきか? 僕は携帯電話を取り出し、119にかけようとした。
641少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 17:52:24 ID:/cgU9SAg
「………まって」少女のか細い声が、それを制す。
「病院は…いろいろ面倒…お腹すいただけだから…」
「何言ってる。死ぬぞ」
「大丈夫…私、死ねないから…」
「………はぁ?」
「とにかく…〜っ、病院は、だめ…っ、寒い…」

なぜか頑なに病院を拒否しつづける少女。しかしこのままにもしておけない。

「ったく…あとで説明しろよ?」

僕はそう言うと少女を抱き起こし、おんぶしてやった。…抱き起こすとき握った手は氷のように冷えている。それに、嫌に軽い。

「あと10分もすれば僕の家だ。ひとまず僕ん家で休ませてやる。説明は、落ち着いたらでいい」
「は、はい………」

さて、あとは知り合いに見つからないことを祈るだけだな。僕は見つかったときの言い訳をいくつかシミュレートしながら早足で家に向かった。
しかし雪はどんどん量を増し、それにつれて寒さも厳しくなっていく。…ホントに10月かよ? 早く家に帰ろう。

祈りが通じたのか、幸いにも誰かに見つかることなく家に辿り着けた。
ただ…少女を背負いながら早歩きをしたせいで、肺が痛いし息は絶え絶え、汗かくわで正直…疲れた。

「おい、着いたぞ。しっかりしろ」
「ふぇ……はぃ」
「こら、靴脱げ」

少女は僕の背中から降り、ふらつきながらも靴を脱いで…そこで再び床に倒れた。
642少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 17:53:18 ID:/cgU9SAg
「大丈夫か!?」
「あ、あは…さすがに…きついです…。一週間、なにも食べてなかったから……」そこまでやつれたようには見えないが、顔色は確かにすこぶる悪い。
「馬鹿か!? ああもう!」
「えっ…ひゃ!」

とても見ていられたもんじゃない。僕は疲労感漂う身体に鞭打ち、少女を抱き起こして寝室まで運び、ベッドに寝かしつけた。

「ずっと食ってないなら、お粥かなんかの方がいいだろ。すぐ用意してやる。食ったら風呂入ってあったまってこい」
「は、はい」

返事を待たず僕は台所に向かう。手を洗い、米を研ぎながらやかんに湯を沸かし、炊飯器にセットしたら風呂場に行って浴槽の湯の張替え。
たまるのを待つ間に着替えを一式とバスタオルを洗面台に置き、ちょうどやかんの湯が沸いたのでポットに入れて…と、目まぐるしく動き回る。
浴槽に湯を張り終えたころにちょうどお粥が炊けた。ひとまず炊飯器ごと寝室に運ぶことにした。ついでに梅干しと食器も。

「ふう…できたぞ。食え」お粥を碗に軽くよそい、梅干しをつけて少女に手渡す。

「う、梅干し…梅干しはきらいです」
「黙って食え。でなきゃ無理矢理口の中に詰めこますぞ」
「う〜」少女はしぶしぶとお粥に手を付けはじめた。
「はふはふ…もぐもぐ。〜っ、すっぱい」

お粥を頬張る姿はまるで小動物のようだ。梅干しをちびちびとかじり、口に含む度に涙目になっている。うさぎか、おまえは。
しかし食欲はしっかりあるようで、結局お粥を炊いた分全て平らげやがった。

「はふぅ…ごちそうさまでした」
「もう平気か?」
「はい、ひとまずは」
「すぐまた腹が減るだろう。そしたら声をかけろ。何か適当に作ってやる」
「ありがとうございますっ」

…本当に腹が減っていただけのようだ。飯を食い、腹が膨れて身体があったまるだけでここまで顔色がよくなるとは。
しかし…さっきは顔色が悪かったせいかよくわからなかったが、かなり綺麗な顔立ちをしている。大きな瞳に長い睫毛、さっきまで青白かったが今は血色のよい唇…美少女といっても謙遜ないほどだ。
643少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 17:54:16 ID:/cgU9SAg
「あ、申し遅れました。私はのえるって言います。平仮名で"のえる"です」不意に少女が自己紹介をし始めた。
「苗字は?」
「あ〜…ただの"のえる"です。苗字ないんです、私」
「ふぅん…」

妙な話だ。苗字がないだなんて、聞いたことがない。…単に言いたくないだけか、ならいい。

「なんたってあんな所で倒れてたんだ」
「それがですね…」

のえるは何とも奇妙なことを喋りだした。

「こないだバイト先のコンビニが潰れちゃいまして…こんな見た目なもんだからネットカフェにも泊めてもらえなくて、仕方ないから当てもなくさ迷ってたんですね。
…でもさすがにごみ漁りまでする気にはなれなくて。財布のお金も底をついて、気がついたら一週間、公園の水しか飲んでませんでした」
「おい待て。バイト先だと?」
「はい。このあたりからならだいたい10キロほど先にあったんですけど」
「そんなことはいい。あんた、まだ中学生かそこらじゃないのか?」
「はい。…身体は、ですけどね。私、1982年10月30日生まれなんです。まあ、14歳と156ヶ月ってところです」
「よしわかった。明日お兄さんが病院に連れてってあげよう。ちゃんと頭を検査してもらえ」
「本当ですよ! なんなら、証拠見せますから!」

のえるはポケッから定期入れらしき物を取り出し、その中から学生証とおぼしき、やけに擦り切れた紙切れを出した。
見てみると、"○○高等学校 有効期限2000年3月31日"と書かれている。写真には9年前のものと思われるのえるが写っているが、ぶっちゃけ今と大差ない。
というか、なぜそんなもんが定期入れに入れっぱなしなんだ。まさか、このためだけに持ち歩いているのか?

「信じてもらえましたか?」
「ああ、よくできた紙切れだな」
「う〜! 本物ですよぉ! …はぁ、仕方ないか」

のえるはため息をつくとベッドからはい出た。まだ足元がふらついている。
644少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 17:55:32 ID:/cgU9SAg
「無理するなよ。何も出てけってんじゃないぞ」
「いえ…ハサミ貸してくれませんか」
「? 構わないが」

僕は勉強机の引き出しからハサミを取り出し、のえるに手渡してやった。
何を思ったか、のえるはハサミを受け取ると、自らのツインテールの片方にハサミをあて、一思いにじょきっ、といった。

「いきなり何してんだ!?」
「見ててください」

切り離された髪の毛はばさばさっ、と床に散った。長いからかき集めるのには苦労しないだろうが、いきなりなんなんだ?
と、僕はとある違和感に気付いた。
たった今髪を切ったはずなのに、のえるの髪は量が減ってないように見える。よく近づいて、切断箇所を見てみた。…気のせいではない。切った痕跡が見当たらない。

「よくできた手品だな。宴会で使えそうだ」
「……………っ!」

僕は率直な感想を述べただけなのに、のえるは思いっ切り不服そうな顔をして、何を思ったかスウェットを膝下まで下ろし、ハサミを振りかぶった。…え?
ざくり。なんて鋭い音はしなかった。ただ、ハサミの刃はのえるの太股に大きな傷を作った。

「何考えてるんだ馬鹿野郎!?」僕はのえるからハサミを奪い取り、部屋の隅へ投げ飛ばした。
「痛っ…いいから、よく見ててください!」
「えっ…?」

のえるが指差した傷口は、僕の目の前で徐々に塞がっていき…しまいには傷があったのがわからないほどにまで治ってしまっていた。30秒もかかっていない。

「これも、手品だと思いますか?」
「…いや」
「だから病院はだめ、って言ったんです。行ったら最後、そのままどこかの施設に連れてかれて一生帰ってこれなくなりそうで…。
私年取らないし、傷もすぐ治るんですよ。昔の知り合いが、"格爆弾で自爆するか火山口に飛び込まないと死ねないな"って言ってましたけど、まさにそんな感じです。
あ、でもそのおかげでお風呂はあんまり入んなくても平気なんですよ? そこだけは助かってますね」

にわかには信じがたい話だ。ラノベにだってそんな設定は滅多にないだろう。だがあんなものを見せられては…
645少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 17:56:10 ID:/cgU9SAg
「…悪かった、信じるよ」
「ほんとですか!?」のえるは嬉々とした表情を見せた。
「ああ、ただし…もうこんな事するな。髪を切ったり太股を刺したり…いくら治るからって、もっと自分を大切にしろ」
「……そんなこと言われたの、初めてですよ。昔の友達だって、言ってくれませんでした。けど…わかりました」
「わかればいい。あと…いつまでその恰好でいる気だ? 僕は子供のパンツを見て喜ぶような性癖はないぞ」
「わっ! み、見ちゃダメですっ!」のえるは顔を真っ赤にしてスウェットをたくし上げた。

子供の、とは言ったが…紐パンはないだろおい。色気づいたって、ませたガキにしか見えん。さっきの太股の傷さえなければ、そう決め付けられたものを…あれで27歳か?
僕は頭の中を一旦整理すべく、のえるにこう促した。

「とりあえず、風呂入ってこい」

#####

「ふぅ…さっぱりしました。お湯って贅沢ですねぇ」
「あんたの生活が異常だっただけだ。風邪引くから早くドライヤーで髪乾かせ」
「大丈夫ですよ、風邪なんてひいたことありませんから」
「さっきまで寒がってぶるぶる震えてただろうが…」

風呂から上がったのえるは、用意しておいた着替えを身に纏いリビングに出てきた。やはりその小柄な体型には僕のシャツは大きすぎたようで、かなりだぼついている。
台所で洗い物をしながら遠目で見てもわかるくらいだ。

「あの…いろいろありがとうございました。それで、お願いがあるんですが…」
「なんだ」

のえるは台所にいる僕のもとへ来て、こう言った。

「あの…一晩泊めてくれませんか? 床でもいいので。明日になったら出ていきますから」
「でもあんた、一週間さ迷ってたって…」
「はい。両親はもう死にましたから。今まではバイト先の店長の家でお世話になってたんですけど、お店潰れちゃったしご迷惑かけると思って出てきたんです。
 明日からまた家賃の安い物件探して回るので、せめて今日だけ…だめですか?」
646少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 17:57:26 ID:/cgU9SAg
…なんとも理解しがたい複雑な事情だ。だが、それに対し僕はこう返した。

「阿呆」
「…?」
「事情はうまく飲みこめんが、あんたみたいなちんちくりんに家を貸す奴なんかいないぞ。僕ですら、太股の傷を見るまでは…正直今も半信半疑なんだからな。
 不動産屋にいちいちあれをやるのか? その前に門前払いを喰らうのが関の山だ。第一、あんたみたいな子供を放り出したら保護責任者遺棄といってな、
 僕が役人の世話になっちまうよ」
「えっと、つまり……」
「…一晩とは言わん、好きなだけうちに居ろ」
「!! ありがとうございますっ」

のえるは心底ほっとしたような表情と、歓喜の折り混じった顔をした。…やはりどう見てもガキだ。
まあ父さんにも電話でうまく説明したからいいか。

「でも私、子供じゃないですよ」
「体は子供だろうが…」

#####

30分前―――

Prrrr…Pi

「父さん…今大丈夫?」
『ああ、少しならな。珍しいな、真司から電話してくるなんて』

電話先は、会社にいる父さんだ。

「頼みたいことがあってな。…家出少女が行き倒れてたから拾った。しばらくうちに泊めたいんだけど」
『…また突拍子もない話だな。だか真司は昔から率直にものを言う子だったからな、かえって信じやすい』
「ごまかすのが面倒なだけだよ。で、いいかな?」
『ああ、かまわんよ。家のことは全て真司に任せてあるからな』

仕事で忙しい父さんは、昔から滅多に家に帰って来ない。母さんは…五年前に死んだ。だからこの家には僕一人なのだ。
別に不自由はしていない。無駄遣いしなければ十分足りるほどの生活費を僕の口座に送ってくれるし、社会勉強の一環と思えばいい。

『昔からお前には寂しい思いばかりさせてるな…すまん』
「僕なら大丈夫だ。父さんは、仕事はどうなの?」
『最近また忙しくなってきたな。まあそれだけ稼ぎは増えるが…。今度、アメリカの企業の社長との会食も控えてるし…またしばらくは帰れそうにない。
 その娘がいい話し相手になってくれればいいな』
「まだわからないよ。…父さん、無理するなよ。雪も降ってるし、体に気をつけて」
『ありがとう。…真司も、気をつけてな』
「ああ」
647少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 18:00:32 ID:/cgU9SAg
#####

現在―――昨日のカレーから作ったカレーうどんをのえると二人で食べ、そのまま部屋に戻ってきていた。

「はぁー、暖房って贅沢ですぅ」

のえるは暖房の効いた僕の部屋で、かれこれ1時間はにへらにへらと幸せそうな顔でカーペットの上をごろごろしている。
外の雪はさらに激しく降り、窓から見てもかなり積もっているのがわかる。6時のニュースでも「一足早く冬到来!?」と、どこも同じ話題で持ち切りだったくらいだ。

「しかし今日は本当に寒いな…」
「ええ。でも雨じゃないだけましでしたね。雨なら服がびしょびしょになっちやいますし、雪と違ってシロップつけて食べることもできませんから」
「………今のは冗談か?」
「実体験ですよ?」
「よくそんなもん食う気になれたな。酸性雨からできた雪なんざ、僕ならごめんだが」
「女は度胸、何でも試してみるもんです」

この娘は一体今までどれだけ薄幸な生活を送ってきたのだろうか? 聞いてて不敏になってきた。

「あ…そういえば、まだお名前伺ってなかったです」
「―――そういやそうだった。僕の名前は、桐島 真司だ。真司と呼んでくれて構わない」
「真司さん………逃げちゃだめだ逃げちゃだm」
「はいストップ。それ以上は色々まずい」

意外とアニオタなのか? …水城と話が合いそうだな。今度会わせてみるか…いや、そのうち嫌でもエンカウントするだろう。そのときは…いとこを預かったとでも言い訳をしておけばいいか。
648少年 桐島 真司の場合 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 18:01:43 ID:/cgU9SAg
「ちょっと隣の物置部屋から布団をとってくる」僕はのえるにそう声をかけ、部屋を出ようとした。
「私、床でも平気ですよ? カーペット敷いてありますし」
「僕が気が気でないんだ。悪いが無理にでも使わせるからな」

まったく、今日は体をよく動かす日だな。さすがに疲れた。布団を敷いたらさっさと寝よう。明日は日曜だし、のんびりできる。

布団はしばらく使ってなくて少し埃っぽいが、僕が使う分には困らない程度だ。僕は軽くはたいてから布団を持って自室に戻り、床に敷いた。
疲労困憊な僕はそのまま布団に潜り、寝の体制に入ろうとした。

「あ、あんたはベッド使って寝てくれ。シーツはさっき替えといた」
「そんな、悪いですよ! 私が下で寝ますよ」
「はいはい、おやすみ」

無理にでも布団を占領してしまえば、のえるはベッドで寝るしかないだろう。僕はそのまま寝たふりを決め込むことにした。

「zzz…」
「あ、もう……じゃあ、ありがたく使わせていただきますよ…」

のえるは渋々ベッドに潜ったようだ。

「電気、消したほうがいいですよね…よし。おやすみなさい、真司さん」

電気は消え、すぐにすやすやと寝息が聞こえはじめた。それを確認した僕も、本当に寝ることにした。
今日は疲れた。おかげでぐっすり眠れそうだ。
しかし、明日から一体僕はどうなるのやら。季節外れの雪といい、突如現れた27歳(自称)で不老不死(自称)の少女…次はなにかとんでもないものが来そうだ。
杞憂に終わるといいが………はぁ。
649 ◆BaopYMYofQ :2010/02/09(火) 18:02:36 ID:/cgU9SAg
投稿終わります。

続きます。
650名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 18:52:42 ID:/fVwCP2G
GJ
続き楽しみにしてます
651名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 23:06:32 ID:2+WtJtMe
規制抜け後初書き込みGJ



ひめねぇはまだかまだなのか!
652名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 23:34:51 ID:E93lh80y
GJ! 期待してます
653名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 18:42:14 ID:JLwN3SA8
題名のない長編その七が読めないよぅ・・・
面白いのに
654名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 22:10:29 ID:WTZPwMpw
職人達いつも楽しみにしてますぜ

続き待ってます
655名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 08:18:47 ID:oqE6dwwL
さて、バレンタインが近づいてきたけど
この機に行動を起こすヤンデレはやはり多いのだろうか
656名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 15:55:57 ID:BVePd92j
まぁ、貰えない俺にとっては普通の日と変わらないけどな…(´・ω・`)
657名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 16:09:16 ID:kqe9oHQO
実家住みなら最低2つはもらえるだろ
おかあと姉ちゃん
658名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 17:16:35 ID:w5J45Wfo
3つじゃね?
妹からのも含めて
659名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 20:43:57 ID:BxXaGKZ4
いやいや4つだろ?
ツンケンしてる幼なじみからも
660名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 21:39:51 ID:q7U5xvmc
いやいや、各々がそれぞれ雌豚製品を処分するだろうから巡りめぐって0個だろ
661名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 22:01:51 ID:GOpZj+lr
昨年は朝に校門で貰って恥ずかったな
同じ奴に9個貰って持ちきれ無かったよ
662名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 22:08:07 ID:iOG07yX/
> そういえば、あの女の子をよく見る。
> なんだか白い感じの女の子だ。
> いつもひとりでいる。
>
> -------------
>
> 例の女の子。
> 今日はその子と目があった。
> どうしていいかわからず、思わず笑顔で返す。
> その子はちょっと戸惑ったような顔をして、すぐ目をそらした。
>
> -------------
>
> 死にゆくネコの絵が面白いので、ときどき描いている。
>
> -------------
>
> 例の女の子の話。
> 入巣京子というらしい。
> いつもひとりでいる。
> いつもひとりでいるところを、ぼくがよく眺めている。
>
> -------------
>
> 入巣京子がぼくのノートを覗いている。堂々と。
>
>
> まだ誰もいない教室に入って、
> ノートを置いたままトイレにいって、
> 再び教室に入ったら、まあそんな感じの光景が広がっていた。
>
> 思わず身を隠して、そんな入巣京子を物陰から眺めていた。
> 人のノートを勝手に見るなんて。
> なんて素敵な子なんだろう。
>
> ……
>
> しばし待つ。
> 改めて教室に入ると。
> 入巣京子は、何事もなかったように自分の席にちょこんと座ってた。
>
> -------------
>
> 入巣京子の話。
> なんと表現すればいいんだろう。
> 眺めていると楽しくなる子だ。
> あんな子に殺されてみたいなと思った。
>
> -------------
>
> ここのところ、入巣京子はいつもぼくの近くの席に座る。
> 気がする。
> 考えすぎだろうか。
> 近くといっても、間に空席を4つほどあける。
> このすき間になんの意味があるというのだろう。
> もっと近くに座ってくれればいいのに。

この男が捻くれてなければハッピーエンドだっただろうに
663名無しさん@ピンキー:2010/02/12(金) 22:09:56 ID:iOG07yX/
ごめん
ごばく
664 ◆BAPV5D72zs :2010/02/13(土) 00:45:59 ID:mHMjV5ak
四夜連続投下です。バレンタイン関係ないですが投下します。
665 ◆BAPV5D72zs :2010/02/13(土) 00:48:11 ID:mHMjV5ak
くーびちょんぱ♪ くーびちょんぱ♪ なーたをつかーってくーびちょんぱ♪
くーびちょんぱ♪ くーびちょんぱ♪ にーくをえぐーってくーびちょんぱ♪
かーわはいで〜♪ もーつかーきまわしってぐっちゃぐっちゃぐっちゃぐっちゃ♪
めーだまーがおーちたーらとーろけーるのーみっそ♪
(オーゥイェー! 今夜はボクの大好きなビーフストロガノフだね♪ 愛してるよマイハニー!)

くーびちょんぱ♪ くーびちょんぱ♪ ちっしぶーきふっかせってくーびちょんぱ♪ くーびちょんぱ♪ くーびちょんぱ♪ ばーらばーらしたいのなーいぞううまい♪
(ぎゃー! なぜ殺しやがったー!)

 おーぅいぇー。なんて邪悪な歌を口ずさみながら尻を振って料理をしてやがりますかこの女は。そして何故に裸エプロン?
 甘ったるいスウィートボイスでスパイシーな電波猟奇ソングを歌う女の尻を眺めながら、俺はどうしたもんかと考え続けていた。
 鼻腔をくすぐるカレーの美味そうな匂いを嗅ぎながら思うが、電波ソングの歌詞と作ってる料理が関係ねえ。
 しかしなんだ、これは。もうあれだ。うんあれだ。
 わけが分からん。
 桃のような形の良いぷるりとした尻。まな板の上からゴリゴリと聞こえる音。そして立てかけられている血まみれの凶器。
 深く考えたくない不思議空間。その中にどうして俺は縛られて転がっているのだろうか。なんか後頭部が激しく痛い気がするし。
 手足を結ばれて芋虫のような状態で女の尻を眺めること数分。いい加減股間がはちきれそうである。

 いやはやしかし、これはなんとも言えぬ光景である。まさか裸エプロンで料理している女の後ろ姿がこれほど素晴らしいとは……ッ!!
 シミ一つ無い白い肌。余分な脂肪の無い肢体。腰のくびれから尻、そして太ももまでの素晴らしいライン。
 太すぎず細すぎない魅惑的な太ももから、ふくらはぎからキュッと締まる足首までの脚線美。女体とは芸術である。脚フェチにはたまらん。
 動く度にぷるんと揺れる桃尻を凝視しながら、俺の頭脳は今まさにフル回転している。
 ――ええ尻しとるやないかい。……じゃなくって、なんなんだ?
666 ◆BAPV5D72zs :2010/02/13(土) 00:50:15 ID:mHMjV5ak
 これはあれか? 最近話題の肉食系女子か? 肉食系は男を拉致(?)って裸エプロンで料理して男を墜とすのが流行りなのか?
 いやいや、もしかしたらこれは尻……じゃなく料理が美味くなるためのおまじないやもしれぬ。油使う時は気をつけろ。
 料理を食べさせてあげるから代わりに君を(性的な意味で)食べさせてね! だったらありがたい。顔が見えないが尻で判断すると美女に間違いない。
 尻が……いやいや、そろそろ本気で考えよう。真面目に考えないと状況が状況だけに危険かもしれん。縛られてるし。
 縛られている俺と裸エプロンで料理をしている桃尻女。そして見知らぬファンシーな女の子の部屋。
 シックなデザイン家具に甘い香りのする清潔な空間。(カレーの匂いも混じって微妙であるが)そして可愛らしいぬいぐるみと金属バット。
 結論――わかるわきゃない。コ○ンも金田○もわからないだろう。
 つーか本人に聞けば良いのだが、電波ソングが危うい内容になってきて正直怖い。なんでママの首がないんだ?
 それにしても血まみれの凶器が気になる。無造作に部屋の壁に立てかけてある金属バットに血がべったり。
 これは見てはいけないものを見てしまったのだろうか。犯罪に使った凶器を知るということは探偵ものでは死亡フラグなんだけどなあ。
 いやいや、きっと勘違いだ。バットは甲子園を目指していた兄の形見なのだ。不慮の事故で亡くなり、そのとき血がついたままなのだ。
 なんか後頭部が激しく痛い気がするけど、これも気のせいだろう。
 ……うん、このままではいかん。尻……じゃなく時の流れに身を任せて尻を見続けるのも悪くないが、俺とて肉食系日本男児。ええ、やるときゃやりますよ!!

 起きましたよーと気付かせるために咳払いを一つ。見知らぬ女性に背後から声をかけるのはどうかと思ったわけである。
 すると、ぴたりと歌が止み、女がくるりと振り返った。思ったより小さな咳払いだったが女は気付いてくれた。おお、かなり美人だ。
 ……どこかで見た覚えがあるような気がするなあ。でもまったく見覚えがない。変な感覚である。なんぞこれ?
「あ、起きた? もうすぐ食事ができるからね。辰巳君はカレー好きよね?」
「ああ、うん」
「もう少し待っててね」
「うん」
 ……なんと気の抜けた短い返事だと思うことなかれ。質問に質問で返してはいけない。だからこれはしょうがないのだ。

667 ◆BAPV5D72zs :2010/02/13(土) 00:52:13 ID:mHMjV5ak
 それに待っててくれと言われたら待つしかない。だからこれは俺が情けないわけでは決してないのである。しょうがないのだ。
 そんなわけで、料理ができあがるまで俺はもうしばらく美女の尻を眺めることにした。
 それにしても、どうして姓が変わる前の俺の名前で呼ぶのだろうか? 今の姓は遠見(とおみ)なんだがね。



「味はどう?」
「うん、美味いよ」
 そう褒めると、彼女は嬉しそうに顔を赤らめて微笑んだ。初々しい少女のようで可愛い。抱きしめたい。でも縛られてるから無理だ。
 正直な感想を言えば、味はよく分からなかった。なにせ赤ん坊のように「あ〜ん」と食べさせられていて嬉し恥ずかしいからだ。
 しかし裸エプロンの美女が作ってくれて、あまつさえあ〜んされて食べる料理が不味いはずがない。
 辛さが足りないとかイモが大きいとかという文句など決してない。でもニンジンが多いのは……いや、文句など断じてない。
 彼女は親鳥が雛に餌を与えるかのごとくスプーンを口に運んでくる。二十歳になって雛鳥の気分になるとは思わなかった。
「ごちそうさまでした」
「いいえ、こっちこそ。辰巳君に食べてもらって嬉しかったわ」
 おお、なんということだろうか。こんな美女が俺に、俺に……ッ! 幸せすぎて夢の如きかな! いや、マジで夢じゃなかろうか?
 ……しかし、無情にも現実は厳しい。夢のような現実とはいえ、夢は覚めるものだし現実は直視しなければいかん。
 この突如起きた非日常タイムも目の前の裸エプロンも、深くく考えないとそろそろ縛られた手が痛いのだ。
「あのさ、ところでなんだけど」
「ん、なに?」
 食器を片づけて立ち上がろうとした裸エプロン(命名)に話しかける。屈んだ時に乳首が見えて興奮したが、それは不可抗力なのだから俺に罪はない。
「そろそろ縄を解いてくれないかな。別に逃げたりしないし」
「うん、いいよ」
 ……あれ? あるぇー? 即答ですか?
 断られると思ってたのにあっさりすぎない? んじゃなんで縛られてたのさ? 縛ってた意味なくね?
 彼女が背後に回り込み、もぞもぞと縄を解いていく。よほど固く縛ってたのか少し時間がかかった。
 ようやく縄が解かれると、肩と肘の関節が少し痛んだ。足首の縄は自分で解き、やっと自由になる。今度縄抜けの練習をしよう。

668 ◆BAPV5D72zs :2010/02/13(土) 00:54:14 ID:mHMjV5ak
 肩を解しながら胡座で座り直し、食器をキッチンに置いて戻ってきた彼女とテーブル越しに向かい合う。食器を水に浸すのは基本だ。
 う〜む、しかし分からない。こんな良い女は知り合いにいないぞ。大学も人が多いとはいえ、これだけの顔なら目立つし記憶に残る。
 魅惑的な瞳は色気を醸し出しているし睫が長い二重瞼。鼻もすっと通っていて形がいい。唇も形良く厚すぎず薄すぎず。
 小さな顔は輪郭が良い。顔全体のバランスが見事なまでに良いのだ。そこいらのアイドルや女優に負けない可愛さだろう。
 おまけに胸は大きいし乳首は見事なまでにピンク。尻も素晴らしいし色気たっぷりの美脚だ。完璧超人やないかい。
 ……知らん。こんな美女なんてまったく知らんぞ。知ってたら十年前のパソコンの容量に劣る俺の脳みそでも覚えているはずだ。
 俺の人生に関ったこともない女だ。いや、現在進行形では関わってるけど。それでも――
「まだ思い出さない?」
 彼女は少し拗ねたような表情でそんなことを言ってきた。美女のうえに読心術? まさか忍者? はっ、実は俺はサトラレだったとか――
「うん、まあその……」
「仕方ないわよね。でも辰巳君には自分で思い出してほしいの。だからヒントをあげる」
「ヒント?」
 なにを仰りますか奥さん。思わず質問口調で返してしまう。奥さん?
「五年前と六年前、二回隣の席に座っていたわ」
 五年前と六年前といえば中学2年と3年の時だ。思い出したくもない記憶である。……あの頃の自分は中二病だった。

 脳みその奥深くに押し込んで深く埋めていた記憶をほじくり返してみる。嗚呼、思い出したくない懐かしき日々。セニョール、懐かしき暗黒の日々よ。
 過去の記憶を検索する。中2と中3の時に隣に座っていた女子――うーむ、ヒットしない。二十年前のパソコンよりは脳の容量は良いはずだが。
 目の前の美女と過去の同級生の女を照らし合わせみる。中学の頃にこんなダイヤの原石があっただろうか?
 彼女はじれったそうに、そして期待と不安と苛立ちの混じった顔で俺を見つめる。よせやい、そんなに見つめられると照れるじゃないか。
 照れるのだが――それにしても彼女の瞳の奥が少し怖い気がするのは気のせいだろうか。
 なんというか、例えるならば、濁っているというかどこを見ているか分からないというか、深く暗い海の底のような瞳に少し背筋が寒くなる。

669 ◆BAPV5D72zs :2010/02/13(土) 00:55:48 ID:mHMjV5ak
「それじゃ、中学二年の秋と三年の春よ。まだ思い出せない?」
 大盤振る舞いだなおい。どうやらよほど思い出してほしいみたいだ。これは是非とも思い出さなければなるまい。彼女の瞳と視界の端に見えるバットが怖いし。
 普段使っていない脳みそよ、小宇宙(コスモ)よ、今こそ燃え上がらないでどうする。二十年前のパソコンに負けるな俺! 頑張れ俺ッ!!
 ウィーン、カタカタと音がしそうな頭の中をスコップで掘り返しまくる。なんせ美女が凝視してくるのだから時は一刻を争う。
 中学生の頃を思い出す。あの頃の俺は妙に尖っていた。尾崎でもあるまいにバイクに乗って走っていた懐かしき日々。
 男子にも女子にも全員に嫌われ、友達といえばペットのチャーリー(雑種犬・5歳)と幼なじみの将臣(まさおみ・隣の中学)だけだった日々。
 そう、思い出せ。なにも前世を思い出せってわけじゃないんだ。たった5、6年前のことじゃないか。思い出したくねえけど思い出せ!
 脳みそフル回転。シナプスよ今こそ燃えろ! キーワードはあるんだ!
 中2の秋と中3の春。中2の秋と中3の春。中2の秋と中3の春。中2の秋と中3の春。
「あとドロップキック」
 なんじゃそりゃ? 俺は仮面ライダーか。ドロップキックがなんの関係が…うんん!?
「中2の秋と中3の春、ドロップキック。中2の秋、ドロップキッ…………あっ」
「思い出してくれた?」
 テーブルの上に身を乗り出して期待に満ちた彼女を見つめたまま、俺は口を開いて呆然とした。
 6年前の秋――確か記憶が確かなら正確には十月頃だったと思う。
 隣に座っていた女子の記憶と、目の前に座っている美女が脳内で交差して混じり合う。まったく面影がない。思い出せるわけがない。
 いや、まさか、そんな――

「お前……平坂、なのか……?」
「そうよ。やっと思い出してくれたわね、辰巳君」

 目の前の女――平坂睦美(ひらさか むつみ)は、とても嬉しそうに笑った。



670 ◆BAPV5D72zs :2010/02/13(土) 00:57:32 ID:mHMjV5ak
投下終了です。レス数考えたら2日で済みそうですが連投規制が怖いので4日です。もしかしたら3日になります
671名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 11:05:38 ID:pU1x8Tlj
GJ
672名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 12:44:59 ID:U3qgQ5/h
GJ!!
673 ◆BAPV5D72zs :2010/02/13(土) 14:03:16 ID:mHMjV5ak
投下します。スレ容量ギリギリなんで入りきらずアウトになったら勘弁してください。
>>665->>669のタイトル忘れてましたが『起』承転結です。で、今回が起『承』転結です。
674起『承』転結 ◆BAPV5D72zs :2010/02/13(土) 14:06:00 ID:mHMjV5ak
「思い出してくれて嬉しいわ。あの頃から五年も経って私も随分変わったし、驚いて当然よね。でも辰巳君も変わったわね」

 金魚のごとくパクパクと口を開いては閉じている俺に、平坂睦美は懐かしそうにそう言った。
 目の前の裸エプロンの美女こと平坂は少し複雑な表情に変わる。きっと俺はもっと複雑で変な、ピカソの絵画的な顔になっているだろう。
「ずっと会いたかった。転校したあの日から今日まで、一日も辰巳君のことを考えなかった日はなかったわ……」
 おお、なんと嬉しいことを言ってくれる。美女にこんなこと言われるなんて。
 でもなあ……過去の平坂を思い出してしまっては素直に喜べない。
 だってあの平坂睦美だぞ。過去の面影なんて微塵もない。別人すぎるにも程がある。つーか別人だろお前。
 過去と現在の平坂が交差して入り混じり、ソフトクリームのように重なって螺旋を描く。チョコとバニラのダブルソフトは反則だよな。まさにそんな感じ。
「今でもはっきりとあの時の事は覚えてるわ。びっくりしたなぁ……だって、あんなの初めて見たから」
 過去の記憶がじわじわと蘇る。ああ嫌だ、思い出したくないのに俺の脳みそってば勝手に過去をリプレイしやがって……。

 ここで中学生時代について少し説明をしなければならない。したくもないが平坂と俺の話なのでしなければならないのだ。
 あの頃の平坂は平凡で地味で暗く、少し太っていて、おまけにイジメられていた。友達はいなかったようだ。
 地味で地味でそして暗い平坂は、いつも本と向き合っているか勉強をしているかだった。
 思い出してみれば、平坂はどんな時でもずっと席に座っていた。そしてひたすら本と向き合いながら自分の世界に没頭しているようだった。
 中2になって同じクラスになり、隣の席になるまで俺は平坂の存在に気付かなかった。確かその時は夏休み明けだったはずだ。
 その頃の俺はというと思春期真っ盛りで、両親の離婚問題に祖父の他界、さらに夏休みに覚えた夜遊びでアホになっていた。
 部活を辞めて勉強もせず、意味不明な苛立ちを持て余していた中2の頃。思い出すだけで恥ずかしい。完全な中二病だ。だって中二だったしなあ。
 そんな時に隣の席になった平坂はというと、早速夏休み明けからクラスの女子数人にイジメられていた。
 イジメられやすい空気を身に纏っていたのだろう。そしてイジメられる者にはそういう体質みたいなものがある。

675起『承』転結 ◆BAPV5D72zs :2010/02/13(土) 14:08:02 ID:mHMjV5ak
 イジメとは風邪のようなもので空気感染する。イジメは周囲に“移る”のだ。
 最初は数人だったイジメもだんだん人数が増え、あからさまにクラスの女子全員を巻き込んだ。あと男子数人も混じっていた。
 俺は関わらなかった。面倒で関わるのが煩わしかった。だから無視して放っておいた。大体1ヶ月くらいか。助ける気なんて微塵もなかった。

 ――で。

 机をぶん投げて椅子を振り回して、止めに入った担任にドロップキックをかましたのには深い理由がある。マリアナ海溝よりは深くなく、昔掘った落とし穴よりは深い。
 だってそりゃあ隣の席は近い。手を伸ばせば届く距離だ。そこで毎日うんざりするほどうるさくイジメがあれば近所迷惑というものだ。無関心でも鬱陶しい。
 日々エスカレートしていくイジメに耐える平坂。それと比例して日々苛立ちがジェンガのように積もる俺。俺に対する嫌がらせにしか思えなかった。
 なので「うるさいからやめろ」と言ったらば、翌日にはクラス中に俺と平坂ができているという話が広まっていた。
 朝教室に入ると、俺と平坂に向けられる奇異と侮蔑の視線。そして丸聞こえの俺に対する中傷。黒板に書かれた――

 そこで、俺の中のジェンガが崩れた。こう、ギリギリの一本を勢い良く引っこ抜いた感じでがっしゃーんと。
 近くで笑っていた男子(加害者)に自分の机を投げつけた。次に近くにいた男子(加害者)に椅子を投げつけた。
 女子(主犯格)が何かを言っていたので近くの椅子をぶん投げた。後は手当たり次第に机と椅子を振り回し、窓ガラスが全部割れた。
 ドロップキックの理由は担任もイジメを知りながら黙認していたのと、あと元々嫌いだったからだ。
 その後の記憶はしこたま親父に殴られて痛かったという記憶だけだ。もうフルボッコでしたよ。
 で、その日を境に俺に話しかけてくる者はいなくなり、平坂へのイジメもパッタリと止んだ。そして、俺は平坂と並んで暗い学校生活を送ることになったのだ。
 そして三年生になってクラスが変わり、奇遇にも平坂も同じクラスになった。そして何の因果か再び席が隣になり、少しだけ平坂と話すようになったのだ。
 相変わらず平坂に友達はいなかったようだ。ひたすら本と向き合うだけの地味で暗いふくよか貞子だった。
 それからしばらくして平坂は家庭の事情で転校した。そして俺の両親も離婚して、俺もすぐに転校したのだ。



676名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 14:09:45 ID:mLRIIA2p
test
677起『承』転結 ◆BAPV5D72zs :2010/02/13(土) 14:09:59 ID:mHMjV5ak
「どう、思い出した?」
「うん、できることなら忘れたままでいたかったけどな……」
 おお、チャーリーよ、将臣よ。彼らは元気に過ごしているだろうか? 将臣は去年彼女ができたらしいから死ねばいい。ホント死ねばいい。
 よくもまああの事件の原因である平坂を忘れていたもんだ。中2といえばその事件、その事件といえば平坂なのだ。
 あれから俺の人生は山あり谷ありおむすびころりんである。まあ大学にもなんとか入れたし今のところは無難な人生まで軌道修正された。
 相変わらず彼女ができない寂しい人生だが、友達がいるだけで良しとしよう。うん、女友達がいるだけ勝ち組だ。
 そして現在、平坂がここまで変わって再会するとは夢にも思うまい。いやあ変わったねえ君。まさか裸エプロンの美女に変身するとはな。
「って変わり過ぎだろ!?」
「ふふっ、その反応が見たかったの」
 なんだそれ? 本当に嬉しそうに笑うね平坂。ちくしょう可愛いなぁおい。
 目の前の平坂は全くの別人になっている。そりゃあ記憶に該当する人物なんて浮かばないわけだ。
 裸エプロンこと平坂睦美は(それにしてもなぜ裸エプロンなのだろう?)何か遠くを見ているかのような表情で言葉を紡いだ。
「イジメられていたあの時、自殺しようと悩んでいたわたしを辰巳君が助けてくれたのよ。あの時辰巳君がいてくれたから、今のわたしは生きているの」
 聞いてるだけで恥ずかしくなるから止めてくれ。それ以上仰天告白をしないでくれ。顔で茶を沸かせそうだ。
「あの時はどうしてイジメられているのか分からなかったわ。ただ、きっとこれからもずっと続くんだろうなって思ってた。
両親は毎日喧嘩してたし学校ではイジメられるし、友達なんていなかったから誰にも相談なんてできなかった。どこにも居場所なんてなかった」
 平坂の独白は不思議と懐かしそうに聞こえる。そんな辛い過去を笑って話すのは今が幸せだからなのだろうか?
 いや、辛い過去は思いだしたくもないもんだ。蓋を閉めて厳重保管で記憶の海に沈めるのが一番だろう。俺だってそうだったし。

「どうして笑って話してるか不思議? だって、あのイジメがあったおかげで辰巳君のことを知れたんだもの。
わたしにとっては辰巳君との“出逢い”のきっかけになったんだよ。だから今では良い思い出なの」
 疑問が顔に出ていたのだろうか、平坂は俺の表情を見て微笑みながら俺の疑問に答えてくれた。

678起『承』転結 ◆BAPV5D72zs :2010/02/13(土) 14:12:07 ID:mHMjV5ak
 なんとまあ、あんな陰湿なイジメを受けておいて良い思い出とは豪胆ですなあ。俺にとっては最悪のメモリー(思い出)ですよ。
「でも、あの頃の辰巳君は恐かったなあ。目つきも鋭かったしいつも怒ってるみたいで。人が吼えるのなんて初めて見たし。
でも、わたしには救いだった。だって助けてくれたのは辰巳君だけだったんだもの。
親が離婚して転校して、遠くに離れてもずっと辰巳君のことを考えてた。ねえ辰巳君、わたしが転校する前に話したこと覚えてる?」
「話したこと? 悪いけど、俺は平坂と違って記憶力には自信がないんだ」
「もう、覚えててほしかったのに!」
 頬を膨らませて怒る顔も可愛いぜ! でもな、んな昔の話した内容まで覚えてる程記憶力が良けりゃもっと良い大学入ってるんだぜ!
 いや、実は覚えてるんだけどな。なんせ例の事件以降は平坂しか会話する相手いなかったし。
 そう、思い出せば次々と記憶が蘇ってくるが、平坂と会話をした人間って実は俺しかいないんじゃなかろうか?
「どうしてあの時助けてくれたの? って聞いたら「ムカついたから」って答えたのよ。おまけに「お前もやればスッキリしたのに」って言ったの。
ムッスリした顔で言うのよ。あれはどう答えればいいか分からなかったなぁ……」
 楽しそうに笑って平坂が両手の細く白い指を重ね、その上に顎を乗せる。その仕草すら様になるから美女とは得である。
 6年前の俺よ。まさか平坂がこんな美人になるとは思うまい。隣のふくよか貞子はシンデレラに化けるぜ!

 しかし、記憶の中の平坂と目の前の平坂は重なりそうで重ならない。どうしても過去の姿をダブらせようとするのは何故だろう?
 きっと記憶を繋げたいのだ。過去と現在のギャップとブランクを埋めようとしているのだ。それが無意味と分かっているのに。
「そこまでは覚えてないな。そんなこと言ったか?」
「言ったわよ。わたし辰巳君と会話したことは全部覚えてるんだから!」
 真面目な顔でそんなこと言われたら恥ずかしいじゃないか。どんな顔でどう答えればいいというのだ。
「親が離婚して転校するって話したら「お前もかよ」って言ったのよ。それ聞いてまたビックリしたわ」
「俺の両親も離婚する寸前だったからな。あん時は妙な親近感が湧いたよ」
「わたしは運命を感じたわ」
「おいおい、運命って……」
 随分と乙女だなあ平坂よ。こいつの発言は聞いてるだけで恥ずかしくなる。つーか離婚で運命て。
679起『承』転結 ◆BAPV5D72zs :2010/02/13(土) 14:15:27 ID:mHMjV5ak
「それでね、思ったの。転校したら生まれ変わって可愛くなって、辰巳君と必ずまた会おうって。ふり向かせようって誓ったの」
 おーじーざす。平坂の衝撃告白は俺を驚かせてばかりであります。まさか俺の知らぬところでそんな乙女の誓いがあったとは。
 この美貌は努力の結晶なのだな。シンデレラも真っ青な生まれ変わりっぷりではないか。きっと血の滲むような努力をしたのだろう。
 まさか一人の女性の人生にいつの間にか俺が深く関わっていたとはなあ。
「そうだったのか」
「捜して見つけるのは大変だったのよ。辰巳君も離婚して引っ越したし、大学に進学してまた引っ越したでしょ。
高校を卒業してから自力で調べたの。再婚した義父さんはお金持ちだったけど、誰にも頼らずに自分だけで探したわ」
 すげー、すげーよ平坂。なんて無駄な努力してんだよ。俺なんか捜す暇があるなら良い男見つけて幸せになれよ。
 今の平坂ならよりどりみどりだぞ、もったいねえなあ。その気になれば芸能界入りも夢じゃないだろ。
「4年ぶりにようやく見つけた時は嬉しかったわ。でもどうやって話しかけようか悩んだ。
運命的な再会って素敵な出逢いにしたかったの」
「4年前? だって中3から5年経ってるだろ?」
 平坂の説明は疑問が残る。一年の空白はなんなのだろうか。
「ええ、だから辰巳君を見つけたのが去年なの。でも……」
「でも?」
「自信がなかったの。久しぶりに会ってどう話せば良いんだろう、どんな反応をするんだろうって考えちゃって恐かった。まだ勇気がなかったのよ……」
 あと一歩のところで踏み出せなかったってわけか。無駄に行動力あるくせにそこんとこ抜けてんのな、お前。
「で、一年経ってようやくの再会か。そこまでは分かった。それでやっと今の現状について質問できそうなんだけど」
「その前に聞きたいんだけど、ねえ辰巳君、あの女って辰巳君にとってなんなの?」
 ……あの女?
 なんだろう、いきなりのこの質問は。そして平坂の顔から笑顔が消えたのはどうしてだろう?
 顔から感情が抜けたような、無表情というのとは違う、何か寒気を感じさせる。うん、なんかヤバイ気がします。

 ――どうやら現状について聞けるのはまだ先になりそうである。



680 ◆BAPV5D72zs :2010/02/13(土) 14:18:10 ID:mHMjV5ak
投下終了です。四夜連続とか言っといて真っ昼間です。嘘つきです。
681名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 14:19:16 ID:YGGwq/vb
GJ
実にいい
682名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 20:34:00 ID:6U8ausFK
GJ!
683名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 21:54:43 ID:uwgitNay
これは凄いな。続きも楽しみ。
684名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 22:39:15 ID:8Bppvfne
ヤンデレの小説を書こう!Part28
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1266068286/

スレ立てるの久しぶりだ
685名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 22:45:41 ID:Us4TdLHs
なんかすでにあるお

ヤンデレの小説を書こう!Part28
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1266038427/
686名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 22:54:15 ID:yYD9KWdr
684と685どっち使うよ?
687名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 23:15:07 ID:+/dr8AKd
早く立ってた方でいいんじゃない?
688名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 00:45:08 ID:uTOesi0l
684で。
689名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 01:56:10 ID:6ZMHYmyA
684に投下しちゃった
690名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 02:49:41 ID:6ZMHYmyA
二月十四日。
それは圧制の影で密かに愛し合う者たちの結婚式を挙げたというセント・バレヌンティウスが処刑された日である。
今日この日は、その素晴らしきバレヌンティウス様の死を悼む日であるべきなのだ。
そう、決して女子がモテル特定の男子にチョコレイトなどをあげる日であるはずがないのだ。
まったく今日という日に本命だの義理だの友だのとまったく日本は商魂逞しい国だな呆れるぜ。
おいそこの男子。そわそわしてんじゃねぇよ。何一抹の望みを待ってるんだよ。
いや、もういいや。どうせ俺には関係ねぇ。

朝起きて真っ先に思い浮かんだものがこれじゃあ、今日一日憂鬱になってもおかしくないな。
まあいい。それよりも今日は日曜だというのに登校しなければならない。
半ドンらしいが、なんでも新型インフルエンザの影響で学校閉鎖になった分授業が遅れているそうだ。
せっかくの日曜なのに。仮面ライダーが見れないじゃないか。
最近の、平成ライダーシリーズだっけ?あれはいいよな。昔のものはバトルばっかりだったけど今のライダーはストーリーが深い。
まあ最後は結局暴力で解決するのは変わってないが。
閑話休題。
何時もより早く高校に着いた俺は、ありえないものを発見してしまった。
俺の上靴の上に、綺麗に包装された何かが置かれているのだ。
いや、そんなにありえないことじゃないのか。何せ今日はバレンタインディなのだから。

まったく、誰だ?こんな悪戯をしたのは。中学の頃からそうだったが、人間を精神的にいたぶるのはそんなに楽しいのか?今度俺もやってみようか。
しかし残念だったな。この手はなれてる。今の俺の心の壁はルガーランスでも壊せはしない。
ふと、赤いリボンの間に紙が挟まっているのに気付いた。
二つ折りになっているそれを開いて見る。
『今日の放課後、一時に屋上で待ってます』
おお、なんてベタな。しかしこれで確信した。これはドッキリだ。

放課後。
恐らく待っているだろう女子になんて言おうかを考える。
ドッキリは引っかかった方がいいのだ。以前ドッキリ企画を真っ向から否定したら訳もなくボコにされた。
なんというジャイアニズムだろうか、と当時は思ったが、それもしょうがない。ああいう人種には既に真っ当な思考をすることは願っていない。
そうだ!新しいリアクションを試してみようか。
罰ゲームかなんかでしょ、とか言えば否定したことにもならないし、一応は騙されたことにはなるだろう。うん、一度これでいってみよう。どうせ後二年同じことが続くんだろうし。
対処法を決めて屋上のドアを開ける。
そこには案の定クラスメイトの女子の顔が・・・って、え?
そこにいたのは女子でなく、いや女子だけど生徒じゃなくて、何故か担任の教師が立っていた。
常日頃から黒いパンツスーツで艶やかな黒髪を後ろで纏めて、所謂ポニーテールにしている。切れ長の鋭い視線の所為で生徒からは少々距離を置かれている。
「先生、どうしたんですか、こんなところで」
もしかして、ドッキリを企てた生徒を追っ払ったのだろうか。それはマズイ。あいつらの報復は恐いんだよな。
「ああ、来てくれたのか。時間より十分も早い。流石は○○」
何を言ってるんだろうこの人は?
「私の気持ちは受け取ってくれたか?一応手作りなんだぞ。カカオから作ったわけではないがな」
先生が頬を緩める。笑っているんだろうが、何故だろう、敵の幹部にしか見えない。
しかし何故に先生がここに・・・。追い払ったような雰囲気でもないし、先生自身がドッキリ的なものを企てるとも思えない。ましてや
生徒のドッキリに手を貸すような下種な教師でもない、いたって真面目な先生の筈・・・。考える程に分からなくなる。
691名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 03:02:44 ID:oqdFYgvw
支援
692名無しさん@ピンキー
そう思って先生を見つめていると、何故か先生は顔を赤くした。
「おい、そんなに見つめるな・・・照れるだろう」
何故照れる。こんなことで照れていたら教団にたって話なんか出来ないだろうに。
「そうやって見つめられるのも悪くはないが・・・そろそろ本題に入るとしよう」
本題?だからそれは何なんだろうか。まさかこんなところで指導ですか。あ、でもさっきみたいなのよりはそっちの可能性の方が高いのかな。しかし、
「あの、先生。僕最近何か問題になるようなことしましたっけ?」
そう、ここ最近、というよりこの高校に入学してからは何の問題行動も起こしていない。無遅刻無欠席、さらには成績も学年では上位に入っているし。
何の問題もないだろう。対人関係も、最近はあいつらもなりを潜めていた。まあ今日久々にアクションがあったわけだけど。
「問題?そんなこと○○は起こしてないだろう。優秀な生徒だよ君は。ただ優秀すぎて構えないのは難点だな」
さっきから何を言ってるのかさっぱり分からない。指導でもないんなら一体なんなんだ。
「本題というのはな、実は私な、○○のことが、その・・・す、好き、なんだ・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・はい?
え、ナにこれ?え、あ、最近何もないと思ったら、今日この日のための布石だったわけか!流石にあいつらもマンネリじゃ駄目だと思ったのか。うん、下種にしては中々の進歩じゃないか。見直した。
しかし教師を使ってドッキリとは。斬新だなあ。もうこの学校に自分の頼れるものはないという絶望感を味わわせ、しかももっともこういうことをしなさそうな人を投入するとは。
うん、残酷だなあ。前述のジャイアニズムというのは撤回しよう。あいつは一応友達思いのいい奴だからな、何気に。
しっかし何だ、ん?ここまで来ると笑うしかないよな本当に。下種とかそんなの通り越して感心するよ。なんなら尊敬してもいいな、教師まで引き込めるそのコミュニケーション能力には感服だよ。脱帽ものだね。
「そ、その、返事をくれないか?いや、教師と生徒というのが嫌なら、私は教師を辞めてもいいし、君が卒業するまで待ち続けるから・・・」
ハハ、ヤバイ、本当に笑えてきた。何これ、先生メチャクチャ可愛いんだけど。これがドッキリじゃなかったらどれほど良かったことか。学校を辞める、卒業するまで待つなんていう人に惚れないわけないじゃないか。
ああ、くそ、なんて返そうな。ドッキリでしょう、か?罰ゲームでしょうか?それともかかったフリでもするか?


「ああ、そうだ。ドッキリでも罰ゲームでもないぞ。これは、その、私の正直な気持ちだ。
○○を直接嘲笑の対象にしていた奴なら今年留年するぞ。丁度成績も、君と違って悪かったからな。もう君の傍にあんな出来の悪い屑は置かないから。
すまなかったな。今まで野放しにしていて。君を観察し出してから気付いたんだ。脅しておいたしもう何もないだろう。君が望むなら屠殺してきてもいいぞ」

満面の笑みでそう言う先生。
俺は言葉が出なかった。
「さあ、返事を聞かせてくれ。今日という日を楽しみにしていたんだ。さあ、早く・・・」
「あ、えっと・・・」
「どうした?・・・そうか、私が担任だから答え辛いんだな?そんなことは気にするな。さあ、さあ、さあ・・・」
にじり寄ってくる先生。ヤバイ。目がヤバイ。
「言葉が出ないのか?案外恥ずかしがり屋なんだな。そんなところも可愛くて好きだぞ。ならこうしよう。
下駄箱にチョコが入っていただろう?それを今ここで食べてくれ。さあほら早く。頑張って作ったんだぞ。これでも料理はうまいんだ」
俺が断るなんてことは微塵も思ってないらしい。
俺は黙ってチョコの包みを取り出し開封した。中にはハート型の可愛らしい小さなチョコが幾つか入っていた。
その中の一つを齧る。・・・あれ、なんかフラフラしてきた。苦しいてか、何か暑いな、まだ二月なのに。
「ふふふっ、半信半疑だったが本当に効くものだな。さあ、私の家に行こうか。今すぐ結ばれようじゃないか」
その言葉を最後に俺の意識は途切れた。不思議と、満足感があった。シアワセナキブンニナッタ。


ノリでかいた
駄文でスマン