「あはははははははははは。ひ〜〜ひ〜〜げほげほげほ!!ひ〜ひ〜。」
ちゃっかりと、一人、公園の隅に設置されたベンチに避難していた亜美は、笑い過ぎて、蒸せていた。
「死ぬ。亜美ちゃん、笑い過ぎで死んじゃう。苦しー。ひ〜〜ひ〜〜。」
「…笑い過ぎでしょ。」
「だって、だってだって、猫に嫉妬とか、ありえねぇ〜マジありえねぇ〜よ。
さすが、手乗りタイガー、あたしたちに出来ない事を平然とやってのける。
そこに憧れないけどマジ笑える〜〜」
なら、笑い死んでしまえ。竜児は思う。
こっちは笑い事じゃねぇんだ。大河を鎮めるのに、竜児が受けた精神的ダメージは計り知れない。
「だって、だって、猫でも、私以外の女に竜児があんな顔するのは許せないもんッ!!」
「ぶっ。女?ひ〜〜ひ〜〜ヤバイ。マジウケるんですけど〜〜
私以外の女に竜児があんな顔するのは許せないもんッ!!(キリッ
ぶふぅ〜〜ありえねぇ〜〜マジ最高。あの猫オスだったじゃん。」
「へ?」
「だって、付いてたじゃん、アレ。」
「オス?ホント?」
「え?俺は見てないけど。」
「マジだよ。オスだよ、オス。ば、ばかだ。猫ってだけでも笑えるのに、オスだし。
高須君、オス猫と浮気…ぶふぅ〜マジぱねぇ、マジぱねぇっすよ、タイガーさんマジぱねぇ。」
「その…竜児、ごめんね。私の勘違いだったみたい。」
いや、謝られても…。オス猫だったから謝る。素直に謝るのは良い事だ。
でも、もしメス猫だったらどうなってたの?
よもや、自分は生涯、メス猫を可愛いがってはならないのか?
いや、猫だけではない、全てのメスを愛でてはならないのか?
インコちゃんって性別どっちだっけ?
インコちゃん焼き鳥化の危機に竜児に戦慄が走る。
そして、その時、竜児達の横を小さな影とそれを追う3つの影も同時に走った。
「今のって、あの猫だよな?」
「うん。なんか逃げてた?」
「てか、犬が3匹追いかけてた?」
何という、薄幸な猫なのだろう。コワーイ虎に凄まれ、逃げた先では、犬に追われ…
「私、ちょっと見てくる。」
そういって、大河は駆け出した。
「おい。ちょっと待てって。…って早ッ!!」
竜児の制止も聞かず大河は猛スピードで駆けていった。
「追うぞ、川嶋。」
「はぁ!?何で?」
「いいから。早く。」
「えぇ〜〜〜。」
大河は義理固い女だ。恐らく、さっきの仔猫を救出に向かったのだろう。
先ほどの己の不備を詫びる為に。仔猫を虐める不届きな犬共を追い払うつもりなのだ。
野犬でもあるまいし、飼い主の目を盗んで、ちょっとハメを外した飼い犬如き、
虎が後れを取る筈はない。ないが、やっぱり、大切な彼女。
竜児は、駆けずにはいられなかった。
そして、苦笑しつつも、結局、後を追う、亜美。お人好し癖は治ってない様だ。
その頃、現場は既に緊張状態だった。
大河の背には、怯える仔猫(♂)。前面には、犬3匹。大河は身をかがめ、威嚇体勢。
犬3匹も低く唸り、もはや、いつ殺し合いが始まってもおかしくない雰囲気。
先に動いた方が殺られる…
駆けつけた、竜児と亜美も、殺伐とした雰囲気に呑まれ、動けずにいた。
一瞬とも永遠とも、もはや時間の概念などない獣の世界。
均衡を破ったのは、…どこからか、聞こえる、他の犬の遠吠えだった。
−ワォ〜〜〜〜ン
ビクッ。犬達の様子がおかしい。
−ワォ〜〜〜〜ン
ビクッ。ビクッ。明らかに怯え、萎縮している。
ザサァッ!!奥の茂みから、黒い巨大な影が飛び出した。
それだけ、たったそれだけで、3匹の犬は蜘蛛の子を散らす様に、四散した。
−ワォ〜〜〜〜ン
威風堂々と、天高く、勝ち名乗りをあげる。
筋骨隆々、猛犬注意、真中にむっちむちのダブルコートの被毛も頼もしい巨大なハスキー犬。
「あ、あれはチーコちゃん!?」
「!?知ってるの?高須君。」
「ああ、横綱チーコ。奴は、大河にさえ力勝ちした、この公園の帝王だ。」
「ええ!?あのタイガーが負けた?」
「ああ。大河自身が負けを認めた。」
般若そっくりの容貌が、大河をじっと睨み付ける。
よう。久しぶりだな。その目が語る。あんた弱くなったな。ふん、まあ、女は幸せだけ求めりゃイイのさ。
そして、チラッと竜児に一瞥をくれ、チーコちゃんは、元居た茂みへと帰って行った。
「チーコは大変なものを盗んで行きました。それはタイガーの心です。」
「えっ!?嘘?」
「…何、間に受けてんのよ。正気?」
動物相手に嫉妬ってバカップルっレベルじゃね〜ぞ。
あ〜あ、休日返上して、何バカな事やってんだろ、あたし。やってらんねぇ〜〜と、亜美は愚痴る。
「いや、まあそりゃそうだ。何を焦ってんだ俺は。犬相手に。」
ふぅ。溜め息ついて、大河の方を見てみれば、それは素晴らしい絵があった。
怖かったね?大丈夫、大丈夫。もう大丈夫だよ。ヨシヨシ。
聖母の如く、仔猫を慈しむ大河の姿がそこにはあった。
(完)
何かトリップが大変な事に…今後、これでいきます。ご迷惑掛けて申し訳ないです。
(完)って付けたのこれが初めてじゃないかしら?
って読み切りは他に幾つか書いてますけどね、未完が多い事は反省してます。すみません。
貴重なアドバイスを頂きつつも、途中まで書いてる作品に反映させる事が難しく、心苦しく思っていた次第でして、
この短編に力の限り、反映させてみました。
原作っぽく書いたつもりですが、やはり地の文が目立っちゃってます。
ゆゆぽ先生マジぱねぇって感じです。これが、きっとプロと落書きの差なんでしょうね。
比較する事自体、おこがましいというか、何言ってんの?って感じですよね。
「エンドレスあーみん」も半分位、執筆中。では、また次回、宜しくです。
(前略)
「何だか、飴と鞭って感じだな…」
竜児のぼやきに、亜美は苦笑した。
「あんた、飴と鞭を誤用してない? 飴と鞭ってのは、譲歩と弾圧とを併用して行う支配または指導の方法でしょ。でも、あたしたちは同志なんだから、
一方が支配とか指導する関係なんかじゃない。相方が苦しければ、助けてやって、相方が怖気づいているときは叱咤してでも励ましてやる。
それをお互いがする。そういうものなんだわ。それに…」
「それに?」
亜美は、ちょっとだけ躊躇うようにうつむいて、言葉を継いだ。
「ママとの確執は決定的だけど、パパともそうなったと決まったわけじゃない。さっき、あんたは、憂鬱そうに自分のことを“悪い虫”とかって卑下したけど、
ママよりも分別がありそうなパパなら、竜児のことを、適切に評価してくれるんじゃないかって気もするのよ」
そう言って、亜美は、遠く、沖合いの方に目を向けた。
竜児も、亜美に倣うようにして、視線を海へと向けてみた。絵に描いたような真夏の青い空と紺碧の海原がそこにあった。海原は折からの陽光を
受けて、水面がきらきらと輝いている。
シビアではあったが、亜美の言うことはもっともだ、と竜児は納得した。際限なく甘え、甘やかすといった関係は、結局は長続きしないのだろう。相互
に尊重し合うがこそ、時にはシビアに接することも必要なのだ。
それに、亜美の父親とは、いずれ相まみえることになる。自己を卑下して、それに怯えるよりも、避けがたい現実として堂々と受け止めなければならない。
「わぁ、風、風よ…」
午後になり、照りつける強い日差しで陸地の方が海面よりも温度が高くなったのか、海からは心地よい浜風が吹くようになっていた。
(中略)
竜児の手を引いて歩を進めていた亜美は、水位が膝頭に達したところで立ち止まった。
「ここで、いいかしらね…」
水深は子供の水遊び程度の深さだったが、夜間となれば、これ以上深みに嵌まるのは得策ではないと亜美も思ったのかも知れない。
それでも、遠浅のせいで、波打ち際からはかなり離れ、穏やかな入江の中に、竜児と亜美だけが、ぽつんと取り残されたような錯覚に襲われる。
「月の輝きがもの凄いな…」
二人の真上には、真夏の満月が、青白く輝いていた。その光は、水面を貫き、水底の竜児と亜美の足元まで明るく照らし出していた。
穏やかな波が二人の脚を、ちゃぷ、ちゃぷ、と洗っている。その音と、浜辺に打ち寄せる波の音以外には、何も聞こえなかった。
亜美は、他のものの気配を確かめるように、周囲をぐるりと見渡してから、天空に輝く満月に暫し見入っていた。
「この入江に存在しているのは、あんたとあたしだけ…。そのあたしたちを、この海と、空と、月が見守ってくれているんだわ…」
(中略)
竜児は、改めて川嶋安奈からの手紙に目を通した。
「お袋さんは、俺たちのことを許した訳じゃねぇが、認めるつもりはあるらしい…。しかし、美人だけど傲慢で陰険なだけのオバサンかと思ったが、
意外に思慮深いんだな。おみそれしたよ…」
「結局、あたしたちは、ママの手の中で踊らされていただけだったのかもね…。その点は、ちょっとムカつくけど、あたしたちの夢の実現を願って
くれていることは分かったわ…」
亜美は、川嶋安奈は完全に善意からバラの花束と手紙を送ってきたと思っているらしい。だが、竜児は、川嶋安奈の真意に気付いていた。
それを言うべきか否か、一瞬、竜児は躊躇したが、二人の間に隠し事は宜しくないと思い、率直に告げた。
「だがな…、これはお袋さんからの挑戦状でもあるんだぜ」
(後略:本編は次レスにてトータル80レスにて、濃厚エロありで投下予定)
585 :
訂正:2009/11/28(土) 08:17:39 ID:n9E5w2dt
(後略:本編は次『スレ』にてトータル80レスにて、濃厚エロありで投下予定)
作品も予告編も乙です
シリアスな感じのあみドラに久々期待
にしても臼井さんの件は悲しすぎる
> くれよん
全角!全角!
元ネタは知りませんが面白かったです。
エンドレスあーみん待ってますよ〜
日記 徒然に・・・っの続きマダー?
589 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/28(土) 13:30:35 ID:JB0Hkg2Z
「大潮の夜に」って、前にあった「指環」の続きですか?
指輪の続きっぽいね。
以前にも予告?っぽいのなかったかな。どこかで見た気がする。亜美と杏奈のやりとりの場面。
C/カードだと……
592 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/28(土) 18:02:20 ID:JB0Hkg2Z
「指環」の続きも楽しみですが、
以前あった竜児と亜美が修学旅行に行かないってssの続きも気になります。
次スレが待ち遠しい。
ななこいって、
保管庫に1〜4まであったんですが、
続きはまだ投下されてないんでしょうか?
ないです。
煮豆が食べ・・・読みたい
>>583 GJ。原作の雰囲気はちゃんと出てたよ。炬燵を囲む高須家のほのぼの感とか、相変わらず可哀想なあーみんとか。
本編より、スピンオフ2の虎肥ゆる秋みたいな感じでサクッと読めました。
>>584 ゴ、ゴクリ…
インテリあーみんキターーー
僕は、このシリーズの賢いあーみんが好きです。
次スレが楽しみだこりゃ。
次スレ立てるにはまだ早いかな
まだちょっと早いかも。
書き手さんが次スレ待機してる中でまだ30KB以上あるしね。
まったり雑談しつつ・・・VMさんの埋めネタ期待。
実は竜児と奈々子様は幼い頃一緒に何度も遊んだ事があって竜児の特性ホットミルクを
お医者さんごっこの薬と称して「おくしゅりおいしい」と何度も飲んでた、でもいつの間にか疎遠に。
その事を夢に見て昔を思い出す竜児と奈々子様。で、とある日にスーパーに行こうと自転車に
乗ってたら雨に降られて濡れてしまう奈々子様、これまたスーパーにいた竜児といろいろ話して
その後竜児が相合傘で送っていくことに。若干奈々子様は濡れたせいで寒気を感じるそうなので竜児はその場で
風邪をひいちゃ悪いと特性ホットミルクを作成、それを飲んだ奈々子様はこんな感じの味をどこかで・・・と思い
確かめに高須家へ赴く。やっぱりこの味だ!と奈々子様、その後色々あって仲良くなって・・・
こんないろいろ無理のある話の骨組みが頭に浮かんだ。
思いつくのは結構だが、それを第三者が読んで感動する文章に昇華できるかってのは、別問題。
オリジナル展開や、突飛な設定は、それだけ物語を構成することが困難になる。
その困難を乗り越えて、物語を完結できるか否かが問われることをお忘れなく。
すみれと竜児が幼なじみって設定で良作品を書いてらっしゃる作者さんも居るんだし、オリジナル設定はアリだと思いますよ〜
そもそも、竜×虎以外はオリジナル設定と言えなくも無い訳ですし。
あんまり突飛な設定は難しいと思うけど、頑張って頂きたい。
>>602 そんな事書かなくてもよくないか?
見たくなかったらスルーしたらどうよ?
俺も竜児×すみれのパターン
大好きだし、オリジナルの大抵は歓迎するぞ。作者さん達、頑張って!!!
完結しなくても面白いならいいや
結局そうだよな
偉そうに語っちゃってる恥ずかしい奴が一人いただけ
雑音を気にせずに書けるなら書いて欲しいものだ
そういえば、数日前に日記作者とサミット作者が同一人物とか言って騒いでたアホが一人居たね。
昔から居る人は解ってるだろうけど、2人の作者さんの作風が似てるのは当たり前なんだよね。
日記作者さんが投下の時に言ってた、参考にした作品ってのがサミット作者さんの作品なんだから。
確か7皿目か8皿目の『香椎奈々子の憂鬱』がそうだった様に思う。
なんにしても、以前の静かなスレに戻っておくれ。
ま、まただ。またヤツが来た。
凶悪犯のような顔面を持ち、三白眼の奥を光らせ、不気味な笑みを浮かべ、平然と仲間達の命をさらっていった死神。
手には僕の仲間達を死に追いやった奇妙な棒を持っている。
マスクの下の口端はきっとおかしいくらい上がっていることだろうことは容易に想像できる。
なんとか難を逃れてきた僕もとうとうこの男の手にかかるらしい。
うっ。み、見つかった!?
くそぉ。不気味に光ったヤツの眼はさらに輝きを増し、僕を見つけた喜びに満ちているようだ。
ん?
いや、ヤツの視線の先に僕はいなかった。
端に隠れていた仲間が見つかったのかもしれない。
……やっぱり。
やっぱり物陰の奥に隠れていた仲間が見つかってしまった。
ヤツは小刻みに不穏な動きを繰り返す。
「や、やめてくれ―――っ!!」
耳を塞ぎたくなるような仲間のいたたまれない悲鳴が聞えてきた。
「さ、斉藤―――――っ!!」
僕は無意識の内に叫んでしまう。
その声が聞こえたのか斉藤の息の根を止めたヤツは僕の方へ身体を向ける。
……近づいてきた。
さっきよりもずっと凶悪な笑みを浮かべて。
次は僕の番らしい。
僕を倒しにやってきた。
時間稼ぎをできるはずもなく、されるがまま蹂躙されるしかない。
身体が動かない僕が必死に生きてきたこの場所。
ヤツはそこから追い出そうとするわけではなく、僕という存在を闇へと葬ろうとしている。
同情の余地くらいないのか?
僕はヤツに何もしていないというのに!
なんだ?
なんなんだ、この理不尽な暴力は!
四月にヤツがこの家にやって来るまでここは僕らにとって楽園だった。
それなのに――ヤツが現れた瞬間、ここは地獄と化した。
早々に忘れたい記憶だったが、簡単には忘れることはできなかった。
僕達の縄張りにズカズカと入って来たと思ったら部屋の中を見渡した瞬間、嬉々とした表情をし、どこからか出してきた凶器で僕達を排除しにかかる。
薬を捲き、窒息させた。
ガザガザの布で拭い、水の中に溺れさせた。
機械を使い、次々に飲み込ませていった。
僕らは突然訪れた地獄に飲まれ、パニックに陥り、何も出来なかった。
残ったのは僕と一握りの仲間達。
その仲間達も次々に葬られていった……。
なんとか今までヤツの手から逃れてきた僕の命も残りわずからしい。
悔いはあるがそれが僕の運命なんだろう。
それを受け入れるしかない残酷な運命。
僕は今ほど自分の無力さを呪ったことはない。
ぐあっ!
気が付いたら僕の身体が削り取られていた。
僕の顔が苦痛で歪むほど、ヤツの顔は狂喜で歪んでいく。
どうやら僕の命はここまでらしい。
ただ僕は生き……たかっただけ…なのに……。
な…んで………。
僕が最後に見たものは、ヤ…ツの歪んだ……笑みだった―――。
「ふう、これで最後か。今回の敵は結構なもんだったが、終わっちまうと少し虚しいな」
竜児はかつてない程の大掃除に歓喜し、頼まれもしないうちに大河の家を綺麗に掃除してしまった。
満足したのか、綺麗になった家に興味がなくなったのか、掃除道具を持って早々に立ち去っていった。
おわり。
さっさと埋めて
>>584さんのSSを読みたかったんやけど、ネタがこんなんしか思いつかなかった……。
なんかせつない気持ちになりました
『みの☆ゴン』
>>252からの続きを投下させていただきます。
(初見の方は、前回の注意書きもお読みください)
9レス分(101〜109)です
エロ 今回もありません。本番は、本編ラスト付近になります。
補足 内容、文体が独特で、読みにくいかもしれません。
ご不快になられましたら、スルーしてください。
また、続き物ですので、ここからお読み頂いきますと、ご不明な点が多いと思います。
エロシーン(妄想シーン)は、本編より独立して投下しております。
スレ容量で中断するかもしれませんが、宜しくお願い申し上げます。
「ねえ、タイガー。今日の放課後。ちょっといい?」
と、昼休みに川嶋亜美からそう言われた逢坂大河は、夕暮れのファミレス、禁煙席のソファ
に、ちょこんとおとなしく座っていた。てっきり亜美がセメントマッチでも挑んできたのかと
思いきや、終始ニコニコしている亜美に、拍子抜けしてしまった大河。
ここは櫛枝実乃梨のバイト先でもあって、さらに雨上がりの金曜日は客も疎らで、それをい
いことにウェイトレス姿の実乃梨を含めた3人娘は、客席でギャルトークを展開し始めたのだ。
話題はもちろん……先日の、
「キスッ、キスッ?! キ〜スッ!!! 竜児とキスしたの? みのりん! ひゃー!」
「ぎゃー! ななに大声でいってんのよっ! 違う違う! キス、え〜アジ。そうだアジだよ!
アジの開き!! い、いや〜、竜児くんのキス……じゃなくて、アジ美味しかったな〜。キ
スの味じゃねえよ? 食べ物の味。もとい、アジの味っ! てか大河っ!! そんな事大声
で叫ぶんじゃねえよ!! ここって私のバイト先なんだってばよ!! 壁に耳ありクロード
チアリッ!!」
「テンパり過ぎだって実乃梨ちゃん。いいじゃな〜い、キッスぐら〜い? キッスの次は……
ウフフ?よね〜、あははっ! いやーん、あーん、乙女のピンチ〜〜〜っ! たぁいへん!」
いまさらカミングアウトして後悔する実乃梨。耳まで赤い。薔薇より赤い。しかし他のテー
ブルから『注文良いですかー』と声がかかって、バイト中である実乃梨は慌てて小走りでそち
らへ向っていくのであった。
「……あー、びっくらして、ばかちーの事、思わずブン殴るところだったわ……せっかくだか
ら一発殴っとくか……」
「なんでそうなんのよ、ド暴れ性格ブス! この前は春田くんに犠牲になってもらったからい
〜けど……まあ、そんな生意気なこと言えるのも今のうちなんだからね!……しかし、おっ
そいわね。あのバカトリオ。もうここのおごり決定ね〜」
実はこのファミレスの会合には他にも竜児、北村、春田の3人が呼ばれている。なんでも先
日のストーカー騒ぎで、解決に関わってくれた全員に、負け犬検死官・夕月玲子が、旅行に招
待してくれるというのだ。しかも沖縄。もちろん飛行機代も夕月玲子こと、川嶋安奈、つまり
は亜美の母親が負担してくれるというのである。
遅れている3人に待ちくたびれた亜美が、退屈しのぎにケータイのスケジュール帳をチェッ
クしだした時、店内にチャイムが鳴り響く。するとむさ苦しい高校生3人が現れキョロキョロ
と辺りを見回し、大河と亜美を見つけるやいなや、駆け寄ってくるのだった。
「いやー、遅れてすまん! おっ、ずいぶんと待たせてしまったみたいだな。申し訳ない」
空になった大河のグラスを見て、北村が頭を掻いた。「ううん、ヘーキ」っと、おとなしい
対処をする大河の代わりに亜美は北村に苦言を呈す。
「ちょっと、も〜佑作ぅ? ちびすけはいいとして、っこ〜んなに可愛い亜美ちゃん待たせる
なんて、百万年早いっつ〜の! ドリンクバー代よろ〜」
「……いや、俺が仮装行列につかう衣装の素材にこだわっちまって……すまねえ」
そう申し訳なさそうに頭を低くする竜児の背後にいる、箱やら紙袋で顔が見えない人物は、
どうやら春田らしい。
「ちょっとみんな〜!早く着席してくれよ〜!だいたい俺に荷物持たせすぎだって〜」
「お前がジャンケンに負けたんだろ? てか、荷物持ちの言い出しっぺは、お前じゃねえか春
田。しょうがねえな、ほらっ、先に座れ」
ふ〜助かった〜☆と、言ってさり気なく亜美の隣に座る春田。席を詰めてもらい竜児も同じ
ソファーに腰を降ろす。そんな訳で大河の隣に、北村が腰を降ろすのだが、その緊張を誤魔化
すためなのか、大河は竜児たちが買って来た紙袋をガサガサあさり、竜児に問い掛ける。
「っへ〜竜児。結構本格的じゃない。あんたそんなに優勝してバ会長んところの割引券が欲し
い訳?」
まあな、と竜児はうなずくが、今日集まったのはその話ではない。亜美はテーブルに身を
乗り出し、パチンと手を叩いた後、本題を切り出した。
「あのね、実はストーカー騒ぎに関わってくれたみんなに、ママが夏休みに沖縄旅行に招待し
て御礼したいって提案してくれたの。まだ先の話なんだけど、みんな予定もあるだろうし、
早めにと思って集まってもらったのよ。あたしは、そこまでする必要ないって言ったん……」
だけど。っと、亜美が話が終わる前に北村が立ち上がる。
「行き先は沖縄か! ちなみに俺は初飛行機! 否が応でも高なる期待はもはやレッドゾーン!
吹け! 琉球の風! もちろんみんな、行くんだよな?」
「もっちろ〜ん! 沖縄だろ? 沖縄! ハブっ! コトーっ! の沖縄だよー! 青空の下で
亜美ちゃんのビキニだよー! タダでいけるんだ〜☆撃ちてえ〜、銃! バキュ〜ン☆」
「おまえは沖縄を根本的に勘違いしてないか? 俺は……実乃梨が行くなら行こうかな……。
そこんとこどうなんだ?大河」
「ずいぶん主体性がないのね、竜児。みのりんは行くって言ってたわよ。沖縄……か……。ねえ
北村くんっ、沖縄って、もしかして、泳ぐ……の?」
「そりゃあ逢坂、沖縄って言ったら泳ぐだろう。どうしたんだ?暗い顔して。いつもの逢坂ら
しくないぞ! あっはっはっは!」
「ちょっとあんたたち最後まで話し聞きなさいよ! それにストーカー騒ぎに関係ない佑作は、
タイガーのオマケなんだから勝手に話し進めないでくれる?」
それぞれ言いたい事言い始めてしまい、騒がしくなるテーブルに、実乃梨が戻ってくる。
「やぁやぁ、皆の衆ぅ〜、ご注文は決まりましたかね?」
オーダーを取りにきた実乃梨に、バタバタとメニューと睨めっこし始める五人。その時、亜
美は、実乃梨にチョイチョイと制服の裾を引っ張られる。
「……ん?何、実乃梨ちゃん?」
何やら神妙な面持ちの実乃梨に、亜美の耳は周囲の雑音をシャットダウンする。
「後であーみんのメアド教えてくんないかな? ちょいと相談あるんだけど……」
「相談? いいけど、なあに?」
「なんでもねーっす、あひゃひゃひゃ〜!」
別にからかうつもりはなかったのだが、実乃梨は何故か両手をバタつかせ焦り出す。そんな
ひそひそ話がなんとなく聞こえてしまった竜児は、気になってしまい、
「ちょっと、それやめてよ! ガタガタすんの! 貧乏ゆすりっ! 気が散ってメニュー決め
られないじゃない!……みのりん私、いちごパフェがいい……」
「高っちゃん、貧乏な人を強請ったらダメじゃ〜ん! 俺、バニラアイス〜」
「違う。貧乏強請りじゃねえ。貧乏揺すりだ。まあ、気をつける……俺はドリンクバーにする」
「俺はコーラだ! よし! というわけで次はスケジュール決めな。終業式が7月18日だっ
たな? まず俺はここが生徒会の合宿で、ここがソフト部の試合で、合宿で……よしっ、逢
坂の予定はどうなんだ?」
リーダーシップを発揮する北村は、楽しげに眼鏡を押し上け、ルーズリーフにフリーハンド
で線を引いただけのお手製カレンダーを作り、テーブルに広げる。
「私は特にないかな。家族旅行なんて死んでもいかないし、そもそもそんな予定はないわ」
「うむっ、櫛枝のスケジュールはどうだ?」
「お! どれどれ!? ええとねー、北村くんと一緒にここは部活、ここも部活で、この辺
ずーっとバイトのシフト入れてるから、この辺がベストかなー」
「だな。春田はどうなんだ?」
「おりぇも部活あるけど〜……亜美タン最優先すっからいつでもイ〜ンダヨ〜☆」
「いや……春田は、補習あるんじゃねえか。定期考査落とすなよな? マジで。俺は特になに
もねえな。もしかしたらちょこっと墓参りぐらいは行くかもしれねえけど、いくらでも予定
はずらせるし」
「なるほどっ!ってことは、この週の……」
「ちょっ、ちょっ、ちょっと! 祐作! だから仕切らないでよね? なんで勝手に決めち
ゃうのよー!」
北村は心底嬉しそうに笑い、「亜美、この夏は楽しくなりそうだな」と小さく囁くが、亜美
は聞こえなかったのか聞こえないふりなのか、とにかく返事はしなかった。フフッと穏やかな
顔になる北村は、少し不貞腐れたような幼馴染みからカレンダーに目を移し、「よし! じゃ
あ旅行はこの日に決定!」
北村の声に同意の拍手がパラパラと上がるのだった。
***
「竜児くん、おまたせ〜っ! 帰ろうぜいっ」
七時過ぎの街並みに吹く夜風は、実乃梨の髪を颯爽と揺らし、彼女のやわらかな香りを竜児
に運んでくる。薄いオレンジ色のウェイトレス姿もいいのだが、見なれた制服姿に着替えた実
乃梨もやはり可愛らしかった。そういえば6月になれば衣替えになり、薄着の夏服になる。非
常に楽しみ……なんて、不埒な妄想を展開し始めた竜児は、これから櫛枝家にて体育祭で仮装
する『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』のDVDを観賞する事になっている。
さっきのファミレスで、その事をみんなに話すと……
『あっら〜?DVDとかいって、違うもの鑑賞しちゃうんじゃな〜い?……でも高須くんってぇ、
そ〜ゆ〜のにガッついてないってか、淡白? もしくは、草食系、だよね? せぇっかく実
乃梨ちゃんち行っても、結局何にもしなさそうなのよねぇ〜。実乃梨ちゃん、可哀想〜っ』
『たしかに竜児って、なんか本当に結婚するまで何もしなさそう……遺憾、でもないかっ、プ』
……そんな感じに、ひやかされたのかバカにされたのか、さんざん言われてしまった竜児なの
であったが、健康な男子高校生が、好きな女子とのホニャララな事に全く興味がないはずはなく、
いつも以上にグリグリと前髪をくゆらせているのである。
そんな竜児の下心に実乃梨は気付く事なく、普段と変わらない屈託のない笑顔を振りまきな
がら、喋り続けてくるのだ。
「……ってな感じでさ〜。私、爆発しそうでカップラーメンの『かやく』にお湯注ぐときって、
超〜っ緊張するんだよね〜……ありゃ? 竜児くん、聞いてる?」
「お、おうっ! そ、そうだな……え〜……犯人はヤス……だっけ?」
「あはは! そうそう! って、違っがぁ〜う!! もう竜児くん、ちゃんと聞いてよね〜!
でもそれウケるかもっ!」
そんな取り留めのない会話を交わしつつ、ふたりは無事に櫛枝家のある団地に到着する。
実乃梨はエレベータの中で4階のボタンを押し、ポケットから家の鍵を取りだす。チンっと、
到着の合図が響き、ふたりは玄関までの外廊下を通り玄関前に辿り着く、と。
「竜児くん、いらっしゃ〜〜い!! 元気そうねぇ!? ゆっくりしていってね!!!」
二人を待ち伏せしていたかのように、実乃梨の母親は玄関の扉をフルオープン。娘に負けな
い100万ワットの笑顔で竜児たちを迎え入れる。実乃梨は鍵を用意したまま呆然。サングラ
スを持ち合わせていない竜児は、その笑顔の眩しさにおうっ! と、三白眼が焼け焦げたほど
圧倒されるのだが、
「おうっ! ……こんばん……わわっ! ……ええっと、あ、あなたは、この前の!」
「いらっしゃい。竜児くん。ちゃんと会うのは初めてだね……実乃梨の父です。改めてよろし
く」
そこには、実乃梨の父親もいた。竜児の驚きは、倍率ドンッ! さらに倍っ! てな感じだ。
「え? なんで? お父さん、竜児くん知ってんの? 何故上?」
大きな瞳をパチクリさせる実乃梨に、ちょっとな、と実乃梨の父親は答えて、竜児にアイコ
ンタクト。竜児も素早く状況を理解し、恥ずかしそうに苦笑いした。
「ん〜……なんかわかんないけど、自己紹介の手間が掛からなくってよかったわよね、お姉ち
ゃん。お母さんたちこれから駅前に用事あるから、2時間くらいお留守番ヨロシクね〜!」
と、ウインクし、実乃梨の両親は竜児たちが歩いて来た外廊下に消えていった。
***
竜児が通されたのはテレビがある櫛枝家のリビング。ラバーウッドのローテーブルに、寝っ
転がれそうなベージュのソファー。シンプルで機能性の高い、ツボを押さえた家具で統一され、
インテリア好きの竜児は密かに及第点をつけるのであった。
「竜〜児くん、なんか飲むけ?カフェ?オァ、ティー?」
居心地悪そうにソファーに座っていた竜児が振り返ると、バイトとは違う、フランクな接待
をするウェイトレス実乃梨が、オーダーを取りにきた。制服のブレザーを脱いできた実乃梨の
ボディラインに視線をロックしてしまい、竜児は罪悪感に囚われる。何エロい事考えてんだ俺
……と。
「さっきファミレスで北村に付き合ってコーラすげえ飲んだし。そうだな、カフェ、プリーズ」
ラジャー、ブラジャー! と、何かのパロディーなのであろう、微妙なフレーズを残し、実
乃梨は、キッチンへ消えていった。それを見送り、ふうっと竜児はため息をつき、反省する。
竜児は、これから実乃梨とずっと一緒なのだ。そう誓ったのだ。大河や亜美に、あーだこー
だ言われたからといって、実乃梨とのホニャララな関係をなにもそう焦る必要はない……そう
いうのは、いつか自然にそうなるんだろう……そう、自分に言い聞かせる。
コーヒーをガッツリ飲んで、カフェインのリラックス効果に期待しよう。と、ひとり納得す
る竜児であったが、コーヒーのアロマによる欲情効果に関しては、特に気にしなかったようだ。
***
「ジャジャ〜ン! これが例のDVDでござるよ」
自慢気に実乃梨が突き出したのはもちろん仮装行列でやるDVDのソフトである。コーヒー
をテーブルに置き、テレビとプレーヤーの電源を入れ、ディスクをプレーヤーに吸い込ませた。
「おっと、茶請けがないね? 竜児くんがバイトしたアルプスのタルトタタンがあるでよ!」
持ってくるねっ!っと、立ち上がった実乃梨は、テレビとプレーヤーのリモコンを二丁拳銃
のように構え、ピピッと操作。急いでキッチンへ戻る、その時だった。
「おうっ! こ、これはっ!!」
テレビの前で突然エキサイトする竜児。実乃梨は怪訝に思い振り返る。
「え? 何? 竜児く……はあああっ!! なななんだぁこりゃぁぁぁぁっつ!! ストップ、
ストッープ!!! うおおっ! ……見た? 竜児くん、今見ちゃいましたか?」
松田優作ばりのなんだこりゃを披露した実乃梨と、氷像のように凍り固まる竜児。さっき一瞬、
テレビのモニターに浮かんだものは、ディズニーの人形劇とはほど遠い、素っ裸の男女が抱き合
っている、あられもない姿。しかも生々しい「あっは〜ん!」という艶かしい声もけっこうな音
量で再生されてしまったのであった。つまり簡単に言うと、こいつはアダルトDVDなのである。
「ひえぇ……なんでなんで〜? 竜児くんゴメン! ゴメンよっ!」
慌てふためく実乃梨は、DVDを取り出し、ディスクのラベルを確認する。
「間違ったかな〜、え〜っと……ナ、ナ、ナイトメイト・ビフォア・クリスマス〜?
ナイトメイトって、なんなのさっ? 夜の仲間? 笑えねーっての!! そっか! ヤツかっ!
みどりだな? く〜っ! あのドスケベニンゲンぐぁ〜!」
顔を真っ赤なして、ジタンダを踏む実乃梨。負けずに真っ赤っ赤になっている竜児は氷解する。
「いや……みどりは悪くねえよ。こういうの興味持つのって普通……だと思うぞ。年頃だしな」
もしかしたら義理の弟になるかもしれないみどりを懸命にフォロー。それに対し思わずエロ
DVDをへし折りそうになっていた実乃梨は、
「りゅ……竜児くんも?」
と、問いただすのだが、聞いた後で後悔しているようだ。このタイミングでそんな事聞いて、
いったい竜児にどんな返事を期待するのであろう……気まずい。非常にまずい。
「ま、まあ、な……俺も年頃だし……」
と、思わず本音を洩らす竜児にドキッと実乃梨が跳ねた。そしてモジモジし、シュンっと恥
ずかしそうに縮こまる。
「そ……そうなの?」
「実乃梨……」
竜児に名を呼ばれた実乃梨の瞳は、心なしか潤んでいた。視線がぶつかると脳天から湯気が出
てしまうほど上気する。
「ふあ〜……わ、私DVD取り替えてくるねっ!! 竜児くん、しばし待たれよ!」
ピンク色の空気に負けた実乃梨は、その場から逃げ出した。リビングに残された竜児は、急激
に干上がった喉にコーヒーを流し込むが、せっかくの味や匂いやらは全く感じることが出来なか
ったのだ。
***
たぶん実乃梨の自室なのであろう、奥の方からガサゴソする音が止み、暫くして実乃梨がD
VDを、さっき運んでこれなかったタルトタタンと一緒に持ってきた。
「はいっ! 今度は間違いないっす〜! さっきのは忘れてくれぃ!!」
「おうっ! 忘れた忘れた! 仕切り直しだ! 早く観ようぜっ!」
無理矢理さっきのピンク色の空気を一掃しようと、ふたりは取り繕うのであったが、そんな
簡単に忘れる事など出来るはずはないのだ。どことなくぎこちない会話が始まる。
「へえ、綺麗な映像だな……これってアニメじゃないのか? CG?」
「竜児くんストップモーションって知ってる? これって全部人形なんだぜ〜」
「そうなんだ、ってか今更なんだが、ハロウィン……って何する日だっけ?」
「いや〜、この監督、ティムバートンらしい個性的なキャラがいいよね〜!」
「しかしこの衣装上手く作れるかな。みんなの袖丈くらい採寸しないといけねえな」
「あはっ、気持ちわる〜っ! でもカワイ〜のぉ……おおっ! ジャックキタ───ッ!」
……と、だんだん話が噛み合わなくなってくるのだ。お互い、さっきの本番シーンが忘れられ
ず、心ここに有らず状態なのだ。そのことに気付き、ふたりはいつの間にかDVDなど上の空。
そして流し見状態の均衡を破るのは、さっきは逃げてしまった乙女、実乃梨であった。
「あのさ……竜児くん、やっぱ、気になるよね……その……さっきのDVD……年頃だもん、
ね……」
「そ……そうだな……衝撃的だったからな……」
竜児の三白眼が泳ぐ。ソファのすぐ隣に座っている実乃梨の顔を見ることが出来ない。しかし
視界ギリギリの実乃梨が竜児の方に振り向くのは分った。
「りゅ、竜児くんも、あんな事し、したい?……はあっ!? へぇっ、変な意味じゃなくてさ!
あれ? えっと……どんな意味なんだ、まあ…その……何言ってんだ私……」
竜児の体温が急上昇する。もしサーモグラフィーで計測したら、部屋中真っ白で何も映らな
いであろう。
「し、してえ。してえよ。してえけどよ……い、いつかは……な」
乾いた唇を噛む。竜児は限界だった。
「そ、そう、だよね竜児くん……いつか……はぁっ!!」
突然竜児は飛び込むように実乃梨に抱きつく。不意をつかれた実乃梨は、たじろぐのだが、
なんとか竜児に乞う。
「くっ、苦しいよ、竜児くん……私、逃げないから……ありゃ?」
抱きついたはいいが、竜児は、その後のことを考えていなかったようで、シューシュー脳ミ
ソがオーバーヒート。なんとか生きているみたいだが、人間、慣れない事はするもんじゃない。
「うわはっ! 竜児くんが壊れた! お、お〜い……んもうっ! 竜児くん、そのまま動くで
ないぞ……」
そ〜っと抱きついて固まっている竜児を引きはがし、実乃梨は一度、距離をとる。しばらく
竜児を観察してから、チュッと、燃えるように熱い頬に、キッスした。しかし照れてしまった
のか、実乃梨は溶けた顔が見えないように、竜児のおデコに自分のおデコをコツンとくっつけ
るのだ。まるで熱を計るように。
「み、実乃、梨……」
リブートした竜児。おデコがくっついているゼロの距離では、竜児が呟く度、その唇が実乃
梨の唇に軽く触れる。息をするほど、実乃梨のなんとも言えない体臭が、肺の中へ送り込まれ
る。……これがフェロモンというものだろうか……そんな考えが心臓へガソリンを送り込む。
竜児は破裂しそうになる心臓の音が、実乃梨に聞こえてしまわないか、急に恥ずかしくなっ
てくる。実乃梨の肩を握る手が、小刻みに震えだす。情熱で窒息しそうになる。そして、
欲望が理性を、超える。
新スレ立てさせて頂きます。
Please wait 4 a while.
規制で新スレ立てられませんでした。申し訳ございません。
容量ギリギリですので、今回はここで中断いたします。
失礼致します
スレ立て乙
622 :
98VM:2009/12/02(水) 01:15:26 ID:56nDvvPI
こんばんは、こんにちは。 98VMです。
埋めネタ行きます。 容量が微妙なので、もし入りきらなかったら再投稿します。
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624 :
98VM:2009/12/02(水) 01:16:10 ID:56nDvvPI
あぎゃw 再投稿しますわw
トランクス一枚で床に座る竜児。
身体を壁に寄りかか
汗
その手にある何か。
ヴヴヴヴヴヴヴ……
手が滑ったスマン
じゃあ普通に埋め
亜美「高須くん…タイガーを追いかけるの?」
竜児「…お、おう!」
亜美「じゃあ、亜美ちゃんが勇気あげるよ………ごめん。タイガー」
……チュっ。
この日、俺は大河のことを追い掛けるのも忘れるくらい川嶋亜美が気になって仕方なかった。
埋め
梅
肩に掛からないくらいの黒髪には艶があり、よく手入れされている。
制服のスカートは膝上辺りだが、わざわざスカートを短くして脚を強調しなくてもすらりと綺麗なのが容易に想像できた。
整った顔立ちの中でも目立つのは大きな黒い瞳。
長い睫毛がより女性らしく彼女を演出してくれている。
気弱な性格が出ているのか竜児を眺める彼女の瞳は少し震えているようだった。
光井百合子。
彼女が竜児を知ったのは大橋高校の有名なヤンキーとしてだった。
一年の百合子と二年の竜児が関わることはない。
しかし、百合子がたまに見かける竜児の姿は噂とは違い、おかしなものだった。
文句を言いながらも大橋高校の問題児として知られる大河の世話をしている姿。
余計なお世話をしたのか、なぜか大河に追いかけ回されてもいた。
モデルで人気者の亜美にちょっかい出されるが、媚びることもなびくこともなく、単純にからかわれている。
快活な実乃梨に話しかけられ、おどおどしている場面も見た。
生徒会副会長の北村と仲良く一緒に笑っている姿はよく目にした。
ヤンキーというには外見以外ピンとこない。
極めて温厚で、怒っている姿や人を脅している姿を見たことは一度もなかった。
百合子が母親に頼まれ夕食のおかずをスーパーに買いに行った時には、目の奥が光っているように思えるほど鋭い眼光で食材を見極めようとしている姿を見た。
気になって隠れながら遠目から竜児の姿を眺めているとレジを通った後、持っていたエコバックに買ったものをまとめていた。
そういう姿を見てしまった為か、百合子の目に竜児が問題児に映ることはなかった。
百合子自身も出場した文化祭のミスコンでは何があったのかは理解できなかったが、体育館が静寂に包まれた時に竜児が大河のために拍手を送っていたのがわかった。
その姿は痛く、自分を責めているように見えてしまった。
その時からだろうか、
百合子が竜児のことを気になっていたと明確に意識したのは。
文化祭が終わり、通常授業に戻ってもついつい竜児を探してしまう。
友人と話をしていても、視界の端で竜児の姿を追いかけてしまう。
知り合ってもいない。
ただの同じ高校に通う高校生。
接点はなく、すれ違ったとしても話すことはない。
二人の関係はそれだけだった。
自分の想いに気がついた百合子だったが、臆病な性格がわざわいし、自分から行動する勇気はない。
この想いは泡のように消えてなくなるはずだった。
転機は十二月二十四日。
生徒会長となった北村の提案で開催されることになったクリスマスパーティ。
親しい友人に誘われた百合子もそのパーティに参加していた。
特に何事もなく、友人と楽しく過ごした数時間。
パーティが終了し、友人と別れ、帰宅してから体育館に忘れ物をしたことに気が付いた。
急いで取りに戻りに行く途中、苦しそうな表情で走り去って行く実乃梨を見た。
しばらく歩いていると校門の前に熊の着ぐるみを着た人が倒れている。
もしかして何かあったの!?と思い、急いで駆け寄ると気を失っているその人は竜児だった。
ここから二人は親しくなっていくことになる。