277 :
イカマタです:
エデンの門番:舞の字版
「パパ、ちゃんと靴下は入れた? シェービングクリームも出しっぱなしにしてあったわよ」
私は思わず苦笑する。
一人暮らしの男性なんてこんなものかしら。
母が生きていたときなら、もう少し整理されていたんでしょうけどね。
「スーツケースの中身、もう一度確認してくれないか? お前に任せるよ」
明日は出発だというのに、父は机に向かって資料の確認。
本当に大丈夫なの?
我が父のことながら心配になる。
「コーニッグ博士、おはようございます。お迎えにあがりました」
玄関にミス・コーネリア・マクモリスが現れた。
スーツをきちんと着こなし、短めのブロンドの髪にメガネをかけた知的な人。
自動車の免許も持っているなんてすごいよね。
「今行く」
書斎から父の声がする。
おそらく資料に見入っているはず。
ああなると今が十分後ぐらいになりかねない。
私は仕方ないのでミス・マクモリスに声をかける。
「おはようございます、マクモリスさん。朝食はお済みですか? トーストぐらいなら用意できますけど」
「おはようございます、マリアンさん。朝は食べてきましたのでお構いなく」
にっこりと微笑み、私の招きに応じてテーブルについてくれるミス・マクモリス。
私はとりあえずコーヒーをお出しして、少し待ってもらうよう告げる。
「いつものことですからご心配なく。それよりもマリアンさんのほうの支度はできているのですか?」
コーヒーを一口飲んでミス・マクモリスはそう言う。
私のほうの支度はほぼ問題ないはず。
スーツケース二つにまとめていつでも持ち出せるようになっている。
「私の方は大丈夫です。いつでも出発できます」
私の返事にミス・マクモリスがうなずいた。
「今回の探検行は一ヶ月以上の長丁場になるはずです。本当に行かれるおつもりなんですか?」
「もちろんです。今回の探検は父同様私にも楽しみなことなんです」
これは本当のこと。
父に倣って自然科学を学ぶ私にとっては、南米の密林地帯の実態を調査するまたとない機会なのだ。
「途中で帰りたいと思っても帰れませんですよ」
「大丈夫です」
幼い頃から父を見て育ってきた私は、学者って実は体力だということを知っているつもり。
研究対象に密着するには、どうしても現地調査は欠かせない。
そのときにモノを言うのは体力なの。
一般の人は博士というと研究室に閉じこもってというイメージがあるかもしれないけど、それは一部の博士に過ぎない。
特に父のような自然科学を相手にする人は、あちこち出歩くのだから体力は必須。
私もそのあたりは訓練してきたつもりよ。
「クスッ・・・コーニッグ博士がご自慢しつつ肩をすくめるのもわかりますわ。よろしくお願いしますね、マリアンさん」
ミス・マクモリスが小さく笑う。
うふふ・・・父には女だてらに森歩き山歩きなんてといつも言われたからね。
「いやぁ、すまんすまん。待たせたね」
書斎から父が出てくる。
「いいえ、コーニッグ博士、お気になさらず」
スッと立ち上がるミス・マクモリス。
すぐに手袋をはめ、車の用意をしに向かう。
「マリアンはどうする? 後から来るかね?」
「はい。私はここの後片付けをしてから向かいます」
私は父にそういい、スーツケースを玄関に運び出す。
出発は明日だが、荷物はもう大学に運んでおかねばならないのだ。
外では車のエンジンがかかる音が聞こえ、ミス・マクモリスが戻ってくる。
「博士、お荷物は?」
「あ、そこの三つです」
私はスーツケースを指し示し、そのうち一つを持って外に出る。
父は残りの二つを持ち、玄関先に留めてあるミス・マクモリスの車に積み込んだ。
「それじゃ父をお願いします。私は後から行きますので」
「わかりました。それでは博士、どうぞ」
ミス・マクモリスに促され、車に乗り込む父。
私は二人を見送ったあと父の家に戻り、後片付けをしてから大学へと向かうのだった。
あわただしい一日を終えて私は家に戻る。
もうすっかり日も暮れ、私は夕食も簡単に済ませると明日に備えて早めに寝ることにする。
今日はほんとに忙しかった。
大学のホールでは出発式が行なわれ、探検隊の面々が一人一人紹介されたけど、壇上にいた自分はあがってしまって名前を呼ばれたのもわからなかったし、カメラマンのフラッシュがまぶしくて眼を開けてられなかったし・・・
市長や学長が何か言ってたけどよくわからなかったし・・・
でも、明日の夜はもう船の中なんだなぁ。
なんだかワクワクする。
南米ってどんなところなのかしら。
まだ白人が行った事のない場所がいっぱいあるというわ。
そこにはどんな植物や動物がいて、どんな人たちがいるのだろう。
楽しみだわ。
私はそんなことを思いながら眠れない夜を過ごしたのだった。
******
今日は朝からいい天気。
出発にはふさわしい天気だわ。
目の前には朝九時のボストン行き普通列車。
アーカムからはまずこの列車でボストンへ行き、そこから船で南米へ向かう。
今回の探検行は、ミスカトニック大学が全面的にバックアップしてくれており、人員も大学関係者がほとんどだ。
私も今回父のコネもあったけど、大学の学生として参加を許可されたのだ。
未知の世界へ赴く探検隊は総勢十二人。
それぞれが荷物を手に列車に乗り込んでいく。
今日は鉄道会社も配慮してくれているようで、荷物車を一両増設してくれており、学生たちが探検隊の荷物を積んでくれている。
私もスーツケース二つを手に列車に乗り込んだ。
列車は程なくボストンに到着し、ボストンからは海路となる。
荷物は船倉に追いやられ、スーツケースだけを持って船室へと案内された。
父は今回の南米密林探検隊の隊長を務めており、船室も一人であてがわれている。
ほかには、植物学のオクストン・ハンレー博士、動物学のダンカン・ラフェイ博士、考古学のブリジット・オバノン博士のそれぞれが一人の船室をあてがわれ、ほかの八人は二人部屋というわけ。
私は、女性ということもあってミス・マクモリスといっしょの部屋。
今回の探検行には彼女も同行しているの。
彼女は父の助手を務めているので、きっと父がお願いしてきてもらったのかもしれない。
残りの六人のうち四人は大学の学生。
いろいろな作業の助手を務めるのが役目。
もちろん私もその一人。
残り二人は元軍人さん。
ロバート・ハリガン元少佐とアンドルー・フット元軍曹。
ハリガン元少佐は穏やかな表情を常に浮かべた中年男性で、なんだか英国貴族のような雰囲気を持っている。
今回は探検隊のガードを引き受けてくれたというわけ。
六年前の欧州の大戦争ではあまり活躍できなかったそうだけど、ライフルの射撃の腕は抜群らしい。
戦後の軍縮で退役したけど、アーカム在郷軍人会ではそこそこ顔が利くとのこと。
フット元軍曹はハリガン元少佐の片腕だった人。
まるで元少佐の従卒のようにしたがっている。
筋肉隆々の肉体で常に短剣をぶら下げ、油断のない目で辺りをうかがっている。
現地ではこういう人が頼りになるのかもしれない。
こうして私たち総勢十二人はボストンから南米のカラカスへと向かった。
そこからは小型の貨物船でシグナヤへ渡り、そこからまた河船でアヤドラ河をさかのぼる。
現地に行くだけでも十日もかかってしまうのだ。
道のりは遠いわ。
船旅はそれなりに快適だった。
豪華客船での旅とは行かないまでも、カラカス行きの貨客船はそこそこの設備を整えていたし、食事も悪くなかった。
夕食を終えたあとには、たいてい四人の博士の誰かしらが興味深い話をしてくれたし、勉強になった。
初老の紳士という感じのハンレー博士は、メガネの奥の神経質そうな目をきょろきょろさせながら、ジャングルの毒性植物の危険性について教えてくれたし、まだ若いラフェイ博士は、引き締まった肉体で身振りを交えて南米の動物のことを教えてくれた。
また、大学内でも美人教授の誉れ高いオバノン博士も、にこやかに南米考古学の講義をしてくれ、船内はさながらゼミナールの様相を呈していたのだった。
ミス・マクモリスとの同室も楽しかった。
今までちょっと固い人かなと思っていたけど、全然そんなことがない。
むしろ優しいお姉さんという感じで、いろいろと世話を焼いてくれたのがうれしかった。
きっとあの身の回りの気を使わない父をサポートしてくれてたのだろう。
お互いのことも名前で呼び合おうということになり、私も彼女のことをコーネリアさんと呼ぶことにした。
私はこの船旅をとても楽しむことができたのだった。
一週間後、私たちはカラカスに到着した。
もう、ここは南米ベネズエラ。
ここからは荷物を小型の貨物船に移し、大陸沿いに南下してシグナヤへ。
肌の浅黒い南米の原住民たちが、私たちの荷物を移してくれる。
さびが浮いて魚の腐ったようなにおいのする貨物船だが、ここから先はこれに乗るしか仕方がない。
私もズボンとシャツに着替えて髪を後ろにまとめ暑さ対策をする。
ここからはさらに赤道に近づくのだ。
二日ほどしてシグナヤに着く。
小さな港町だが、結構な賑わいだわ。
ここはアヤドラ河の河口にあたり、川沿いの産物の集散地となっている。
今回私たちはここを拠点にして、アヤドラ河を河船でさかのぼり、上流の密林地帯に分け入ることになっていた。
父はミス・マクモリスをつれて現地のミスカトニック大学の代理人と会い、河船やその他の手配の確認をしている。
私は早くもこの不快をもよおす湿気の多さと暑さに額に汗を浮かべていた。
ぎらぎらと照りつける太陽。
町の周囲に広がる密林と蒸し暑い風。
ここは赤道直下に近い場所。
防暑帽が無ければ日射病で倒れてしまうわね。
アヤドラ河をさかのぼる船は二艘。
それぞれに六人ずつが分乗し、ゆっくりと河をさかのぼっていく。
アヤドラ河はアマゾン河ほどではないにせよ大きな河。
広い河幅で流れはゆったり。
河面を吹く風は涼しく、私たちは少しだけ暑さをしのぐことができた。
先頭の船には父と私とミス・マクモリスが乗り、それにライフルを持ったハリガン元少佐とフット元軍曹が危険に備えて乗り込んだ。
防暑帽にシャツとズボンという野暮ったい服装でも人目を引くオバノン博士も、女性一人で別な船に乗りたくはないとのことで、私たちの船に乗り込んでいた。
そうなると残りの船にはハンレー博士にラフェイ博士、それと四人の男子学生が乗り、荷物を二艘に振り分けての出発だった。
******
河のぼりを始めた当初、私たちは楽しく過ごしていた。
ここでは見るもの全てが目新しく、私にとっては驚きの連続だったのだ。
日中の日差しは耐え難いほどのものではあったし、蒸し暑さも相当なものだったけど、それ以上に河の両岸に広がる景色は私の目を楽しませてくれた。
色とりどりの羽根を持つ奇妙な鳥が飛び、尻尾の長い猿が樹木の間を動き回る。
とても太くて長いヘビが枝から鎌首をもたげている。
大きな魚が水面を飛び跳ねる。
獰猛なワニが興味なさそうに私たちの船を眺めている。
そんな光景が一日中続いていた。
夜になっても陸に上がることは無い。
陸上は何が起こるかわからないのだ。
進める所までは船で進み、いよいよとなったら陸に上がる。
このあたりはまだ現地の人も暮らしているので、ときどき小船が行き交ったりする。
網で魚を取ったりしているのだ。
どんな魚が取れるのだろう。
どうもグロテスクな魚しか想像が付かないわ。
二日目の夕方、私たちは河辺の村に行きついた。
ここで一泊させてもらい、さらに河をさかのぼる。
ここから先は未知の世界と言ってもいいらしい。
何があるのか楽しみでもあり、少しだけ恐ろしくもあった。
父が何か村長らしき人と話している。
言い合いをしているようであまりいい感じの様子じゃない。
何かあったのかしら?
「どうかしたんですか?」
私は父のそばにいたミス・マクモリスに尋ねてみた。
「よくわからないわ。でも、最近空から来たモノたちが飛び回っているから森の奥には入らないほうがいいって言っているみたい」
「空から来たモノたち?」
何のことだろう?
「ええ、よくわからないんだけど、空から来たモノに見つかると、青い女が生まれるとか・・・」
「青い女?」
なんだかさっぱりわからないわ。
私とミス・マクモリスがひそひそ話をしていると、父がいらだたしげに話を打ち切った様子が見える。
きっとこの辺りの人たちは迷信深いんでしょうね。
大きな鳥かなんかをきっと神様の使いのようにあがめていたりするんだわ。
私たちはその晩をその村で過ごし、翌朝には船で出発した。
村人には持ってきたガラス玉やこまごましたものを渡して食料をいくらか分けてもらった。
大して価値のないものだけど、未開の彼らには物珍しいだろう。
二十世紀になってもう二十年以上経つというのに、いまだに彼らは紀元前を生きているみたいだわ。
私たちはどんどん密林の奥へと進んでいく。
河幅もじょじょに狭くなり、両側の木々の枝が河の上にまで広がってくる。
相変わらず鳥や獣の鳴き声がうるさいぐらいで、奇妙な虫もぶんぶんと飛びまわっている。
毒虫じゃないらしいけど、あまり気分のいいものじゃない。
ミス・マクモリスもオバノン博士も昆虫類は気味が悪いようだった。
「あれは何だ?」
突然空を指差すハリガン元少佐。
思わず私たちもその指差す方向に眼をやる。
すると、樹木の間から覗く空に何かが飛んでいるのが見えた。
それはなんとも奇妙なもの。
本来空を飛ぶとは思えないもの。
全身が真っ青で、四肢の先だけが真っ白に色分けされている。
紫色の頭部を持ち、背中の黄色い翅が激しく上下して宙に浮かんでいた。
「女? 女なのか? あれは?」
隣の船から双眼鏡を構えたラフェイ博士の声がする。
そう・・・
あれはどう見ても人間の女性。
青い女性が空を飛んでいるのだった。
「あんなのは見たことが無い。なんなんだ、あれは?」
「新種かも知れん。船をそっちへ」
二艘の船は青い女性に向かって進路を変える。
とはいえ、河に沿ってなので、樹木の間から見え隠れする青い女性を見失わないようにするのが精いっぱい。
「いっそのこと撃ち落しましょうか?」
ハリガン元少佐がライフルを手に、父のほうをうかがった。
「うむ。見失うよりはいいかも知れん。少佐、お願いする」
「了解した」
父のうなずきにハリガン元少佐はライフルを構えなおす。
耳をつんざく銃声がとどろき、青い女性が空中でバランスを失うのが目に入る。
さすが射撃には自信があるという元軍人さんだわ。
だが、ふらついて一度は墜落しかけた青い女性は、すぐに態勢を立て直した。
そして私たちの方を見て、私たちの存在に気が付いたらしい。
「なにっ? なんともないのか?」
「バカなっ! 手ごたえはあった!」
父もハリガン元少佐も驚いている。
ライフルの一撃を食らえば、猛獣だってただではすまない。
それなのに、あの青い女性は傷を負ったような感じが無い。
顔には大きな複眼のようなものがあり、胸はまるで蜂のお尻のように黒と黄色の縞模様になっている。
あの女性はいったい何なのだろう・・・
「くそっ」
ハリガン元少佐がボルトを操作してライフルを再装填する。
もう一度あの青い女性を撃つらしい。
だが、青い女性はピクッと頭を動かすと、何かに呼ばれでもしたかのように飛び去っていく。
ハリガン元少佐が二三発撃ちこんだものの、その姿は密林の樹木の間に消えて行ってしまった。
「いったいあれはなんだったのだ・・・」
父が小さくつぶやく。
青い女性が消え、しばらく私たちは放心状態となっていた。
あのような奇妙な生き物の存在は想像も付かなかった。
しかも、あんなに人間の女性に似た容姿をしているなんて・・・
「カメラは? 写真は撮ったのか?」
「二三枚撮りましたが、うまく写っているかどうか・・・」
「あれは人か? それとも鳥なのか?」
「私が見た感じではむしろ昆虫のような気がしましたな」
「どちらにしても大発見だ。もう少し奥へ進めばまたいるかも知れん」
父のつぶやきがきっかけになったかのように、皆がいっせいにしゃべりだす。
実際のところ私も少し興奮していた。
あれはどう見ても新種の生き物。
私たちは早くも大発見を行なうことができたのだ。
「待て! 何か聞こえないか?」
ハリガン元少佐がみなのおしゃべりを手で制する。
一瞬にして静まり返る二艘の船。
だが、何も聞こえない。
「私には何も聞こえないけど・・・」
オバノン博士が怪訝そうな顔をする。
でも、確かに変だ。
何も聞こえなさ過ぎる。
鳥や獣の鳴き声が聞こえなくなっているわ。
私がそのことを言おうとしたときだった。
ワーンという虫の羽音とも飛行機のエンジン音とも付かないような音がして、突然密林のあちこちから奇妙なものが空に飛び立ったのだ。
それは今までみたこともないほどの奇妙なもので、一番似ているものを上げろと言われれば、巨大なトンボに似ていたかもしれない。
でも、トンボとはまるっきり違うものであり、生き物かどうかすらわからなかった。
全体がピンク色がかっており、頭と思われるところにはうねうねと小さな触手のようなものが固まり生えている。
胴にあたる部分は甲殻類のような外骨格らしきものが覆い、そこからまた小さなはさみを持つ脚が五六本生えていた。
背中と思われるあたりからはコウモリの翼のような皮膜が広がっていて、ゆっくりと上下しながらそのものたちの躰を宙に浮かせている。
胴から連なる尾のようなものは、先がくるっと丸まって先になにやらトゲのようなものが付いていた。
そして、その奇妙な空飛ぶものたちは、いっせいに私たちへと向かってきたのだった。
「ば、化け物め!」
ハリガン元少佐のライフル銃が火を吹く。
隣ではフット元軍曹がギャング御用達のマシンガンを撃っている。
銃声が当たりに響き渡り、私たちの悲鳴がさらに輪をかけた。
「うわぁーっ!」
突然隣の船から一人の学生の叫び声がする。
何匹もいる奇妙なものたちの一体が、フット元軍曹の射撃も意に介さずに学生を掴みあげたのだ。
「た、助けて、助けてぇー!」
宙に吊り上げられ手足をばたばたさせる学生。
彼の名前はなんていったかしらなんて私が妙なことを考えているうちに、彼はその奇妙なものたちに取り囲まれていた。
そして、数体の奇妙なものに囲まれたまま急速に上空高く連れて行かれ、そこから密林の中へと放り投げられる。
「うわぁーーー」
だんだんと小さくなっていく彼の悲鳴に、私は背筋が凍りついた。
「いや、いやぁっ! 来ないでぇっ!」
「来るなっ!化け物め!」
悲鳴と銃声が交錯するなか、次に宙に持ち上げられたのはフット元軍曹だった。
マシンガンの弾が彼らの胴体を貫くが、彼らは痛みすら感じないらしい。
ドロッとした体液を流しつつも、フット元軍曹を吊り上げ、これまた高いところから放り出す。
フット元軍曹の断末魔の悲鳴がとどろいた。
「早く、早く船を出せ!」
父がエンジンのそばにいるハリガン元少佐に声をかける。
だが、ハリガン元少佐も彼らに応戦するので手一杯だ。
すぐにミス・マクモリスがエンジンに取り付こうとしたが、次の瞬間、彼女の躰は宙に浮いていた。
「いやぁっ!」
「コーネリアさん!」
「マクモリス君!」
私と父の声とミス・マクモリスの悲鳴が重なり合う。
ミス・マクモリスの躰は急速に空高くへと持ち上げられ、手を伸ばしてもどうしようもない。
彼女と他の二人が違ったのは、空中から彼女は放り出されることはなかった。
その代わり、彼らのうちの何体かとともに、彼女はどこかへ連れ去られて行ってしまったのだ。
もっとも、私にはそれを見ている余裕など無かった。
奇妙なものたちは私も空へと持ち上げたのだ。
背中を掴まれ、先の丸まった尾のようなものが胴に巻きつき、そのまま空へと吊り上げられる。
「ヒーッ! いやぁっ! 助けてぇっ!」
必死に手足をじたばたさせて叫び声を上げるが、どうすることもできない。
「マリアン! マリアーン!」
父が手を伸ばして叫んでいるが、その姿も急速に遠ざかる。
私の躰は密林の上空高くに持ち上げられてしまったのだ。
「た、助けて! 助けてくれ!」
私の隣では、私と同じように持ち上げられたハンレー博士がじたばたしている。
私の周囲と、ハンレー博士の周囲には奇妙なものたちが集まって、頭の部分の触手を震わせながら耳障りなワーンという音を出していた。
「うわぁーーーー」
やがてハンレー博士の躰が密林へと放り投げられる。
密林へ向かってだんだん小さくなっていくハンレー博士の姿を見て、私はふっと意識が遠くなるのを感じていた。
******
「マリアンさん・・・マリアンさん」
耳元で声がする。
「マリアンさん・・・しっかりして、マリアンさん」
意識がだんだんはっきりしてくる。
ここはどこ?
私はいったい?
「はっ」
私は気が付いて目を開けた。
「よかった、気が付いたわね」
目の前にミス・マクモリスの顔がある。
私が気が付いたのでホッとしたような表情を浮かべていた。
「コーネリアさん・・・無事だったんですね?」
私は上半身を起こして体勢を整える。
何か草のようなものが敷かれた動物の寝床のような感じだ。
「ええ、今のところは・・・あなたも大丈夫?」
「はい。どうやら大丈夫のようです」
私は自分の躰を確かめた。
服は多少乱れているが、痛いところや怪我したところは無いみたい。
「よかった。私たちはどうやら拉致されてしまったようだわ」
「拉致ですか?」
私はとりあえず周りを見る。
どうやら岩をくり抜いたような部屋になっているようで、入り口らしいところは薄い黄色の膜が張ったようになっていた。
「オバノン博士」
私は部屋の隅にうずくまっているもう一人の女性に気付く。
「博士も無事だったんですね? 父は、父はどうなりましたか?」
私は思わず私の後からさらわれたであろうオバノン博士に詰め寄った。
「・・・古代マヤ文明は四世紀ごろにはそのきざしが見えはじめ、五世紀に至って・・・」
ひざを抱えうつむいたままでぶつぶつとつぶやいているオバノン博士。
目もうつろでどこか焦点があってない。
「オバノン博士・・・」
「だめよ・・・現実逃避をしてしまっているわ。ミスカトニック大学で講義でも行なっているつもりなんでしょう・・・」
ミス・マクモリスが首を振る。
私はそっとオバノン博士から距離をとった。
「どうやら連れて来られたのは私たち女性だけかもしれないわね。男性は別の場所にいることも考えられるけど・・・」
歯切れが悪くなるミス・マクモリス。
私とオバノン博士だけがここにいて、空中から放り出されたハンレー博士やフット元軍曹の姿を見ていれば、男性が他の場所にいる可能性は低いことがわかっているはず。
父は・・・父は無事なのだろうか・・・
それに、私たちはこれからどうなるのだろう・・・
「ねえ、コーネリアさん。あそこの入り口から抜け出せないでしょうか? なんか黄色い膜のようなもので覆っているだけみたいだから、破けそうなんですけど」
私はミス・マクモリスに入り口の黄色い膜を指差した。
だが、ミス・マクモリスは首を振る。
「だめよ。私も最初そう思ったので破こうとしてみたんだけど、触れたとたんにビリッと電気が走ったみたいで、とても破ることはできないわ」
「そうですか・・・」
私はため息をついた。
どうにかしてここを抜け出したいけど、いったいどうすればいいのだろう・・・
「それよりもあれをみて」
ミス・マクモリスが明り取りの隙間を指差す。
そこは細いスリットが縦に何本か走っており、外からの明かりと外気が入ってくるところだった。
私はミス・マクモリスに言われたとおりにそこへ行って外を見る。
そして思わず息を飲んだ。
そこにはあの青い女性たちがいたのだ。
以前は遠くから見ただけだったけど、今は隙間から見える向かい側の壁のようなものに何人もの青い女性がへばりついているのだ。
彼女たちは背中の黄色い翅を震わせ、壁から染み出ている何かを舐めている。
そして時折左右を見渡し、どこかへと飛んでいく。
それを入れ代わり立ち代り繰り返しているようだった。
「青い女性たち・・・」
私はなんだか恐ろしくなってあと退る。
そして壁に背中を付け座り込んだ。
「見たことも無い生き物たちだわ。姿は人間に似ているけど、いったいどういう生き物なのかしら」
ミス・マクモリスもあまり見たくないのか、隙間が目に入らない位置に腰を下ろしている。
「なんだか、蜂の巣に群れる蜂みたい・・・」
私はなんとなく感じたことをつぶやいた。
あの青い女性たちの目が大きな複眼のようになっていることや、胸のふくらみが黄色と黒の同心円状になっていて、蜂のお尻のようにも見えたからかもしれない。
「ああ、なんだかわかるような気がするわね。さしずめ蜂女ってところかしら」
ミス・マクモリスがチラッと隙間から外を見る。
きっと壁にへばりつく蜂女たちを見たのだろう。
「これからどうしましょう。助けを待つしかないのかな・・・」
ひざを抱えてうずくまる。
視界の端では相変わらずオバノン教授が何かつぶやいていた。
「それしかないかもしれないけど・・・でも難しいかもしれないわ。ここはアヤドラ河からはかなり離れているようだし、まわりは険しい岩山みたいだから、見つけてもらえないかもしれないもの」
ミス・マクモリスがきびしい表情をする。
でも、彼女がいてくれてよかった。
私だけならきっとパニックになっていたに違いない。
「とにかくいつでも逃げ出せるように体力は温存しておいたほうがいいわ。食べられるものがあればいいんだけど・・・」
「“ハーシーのチョコバー”ならありますよ。暑さで溶けかけですけど」
私はシャツの胸ポケットからチョコバーを取り出す。
だいぶ柔らかくなって甘い香りがぷんぷんするけど、何かあったときのためにと胸ポケットに入れておいたのだ。
「いいわね。食べておきましょう」
ミス・マクモリスが手を伸ばす。
「オバノン博士には?」
私がそう言うと、彼女は黙って首を振った。
「オバノン博士はもうだめだと思う・・・正気を失っているわ・・・」
私は苦い思いを感じながらも、それを認めざるを得なかった。
それでも私とミス・マクモリスがチョコバーを分け合って食べた後、溶けてべとべとになったチョコバーの包み紙に残ったチョコをオバノン博士にも舐めさせてあげた。
偽善かもしれないけど、彼女にもできるだけチャンスがあるほうがいい。
みんなが助かって、病院に入ることができれば、オバノン博士だって正気に戻るかもしれないのだから。
でもその願いはかなわなかった。
それからすぐに黄色の膜が消え、あの奇妙な連中が入ってきたのだ。
やつらは頭部らしきところの群れ成す短い触手を蠢かせ、ワーンという耳障りな音を立てている。
皮膜は折りたたまれ、胴体の下についているはさみの付いた脚でしゃかしゃかと動いてくる。
私たちが恐怖に動けないでいると、入ってきたやつらはうずくまっていたオバノン博士を掴み、外へと引きずり出していく。
「いやぁーっ! いやよぉーっ! 私何もしてないのにー!」
恐ろしさに正気に返ったのか、泣き叫び悲鳴を上げるオバノン博士。
私は彼女を助けたかったけど、どうしても躰が言うことを聞いてくれなかった。
奇妙な連中が出て行くと同時に黄色い膜が元通りになり、オバノン博士の悲鳴も小さくなっていく。
私はただ恐ろしくて、ミス・マクモリスと抱き合って泣くことしかできなかった。
「えっ?」
私は聞こえてきた音に驚いた。
「オバノン博士の悲鳴?」
ミス・マクモリスも気が付いたようだ。
私は急いで外が見える隙間に行く。
そしてそこから外を眺めてみた。
「あれは・・・」
「オバノン博士?」
私とミス・マクモリスが同時に声を上げる。
隙間から見えた向かい側の壁には、相変わらず青い女性たちがへばりついて何かを舐めている。
その壁の一部に、あの奇妙な連中がオバノン博士を貼り付けにしているのだ。
しかも、オバノン博士は何も身にまとわぬ裸にされている。
やつらはこれからいったい何をするつもりなの?
「いやよぉ・・・助けてぇ・・・お願いよぉ・・・」
両手両脚を壁に固定されたオバノン博士が首を振る。
泣き叫び疲れたのか、その声は弱弱しい。
私の中では、なにかがここから先は見てはいけないと必死に訴えかけている。
でも、私は目をそらすことができなかった。
やがて奇妙な連中が飛び去ると、蜂女たちがオバノン博士に近寄っていく。
そして貼り付けにされた彼女を眺めたり、額の触覚のようなもので触れたりしているようだった。
すると、蜂女の一人がおもむろにオバノン博士に口付けをする。
それをきっかけに、次々と蜂女たちはオバノン博士の躰を舐め始めた。
やがて、何かを手にした一人の蜂女がやってきて、オバノン博士の腰の辺りの空中で静止する。
そしてその手にした太目の棒のようなものを・・・オバノン博士の女性器に差し込んだ。
「いやぁっ!」
その叫びが誰のものだったかわからない。
オバノン博士だったかもしれないし、私だったかもしれない。
もしかしたら、ミス・マクモリスだったかも。
まさか・・・蜂女にレイプされてしまうだなんて・・・
「あ・・・ああ・・・ん・・・はぁん・・・」
でも、すぐに様子が変わってきた。
オバノン博士の声が艶めいてきたのだ。
まさか・・・
あんなことされて感じているの?
ニュプニュプと出し入れを繰り返される太い棒。
その棒を手にした蜂女は上下動を繰り返している。
その回りでは、オバノン博士の躰をほかの蜂女たちが舐め回す。
まるで何かの不気味で妖しい儀式のようだ。
「ああっ・・・ああーーん」
躰を震わせ、つま先を丸めて絶頂に達してしまうオバノン博士。
すると彼女の躰に変化が起こり始める。
肌が青く染まり始めたのだ。
「ええっ?」
「あれは?」
私もミス・マクモリスも一瞬にして何が行なわれたのかを理解した。
あれはやはり儀式だったのだ。
それも恐ろしい儀式だ。
オバノン博士はあの蜂女にされようとしていたのだ。
オバノン博士の躰はみるみるうちに変化していった。
肌は真っ青になり、両手と両足は白い手袋や白いブーツを履いたように変わっていく。
つま先は指が無くなり、かかとが尖ってまるでハイヒールでも履いているかのようになる。
男性教授陣のあこがれの的であったであろう大きな胸は、黒と黄色の同心円状に染まり、蜂のお尻のように先端が尖っていく。
ブロンドの綺麗な髪は紫色に染まり、目は巨大化して複眼を形成する。
額からは触角が伸び、頭頂部にかけて蜂の胴のようなものが形作られる。
壁に密着した背中からは黄色い翅が伸び、棒を引き抜かれた股間は青く染まり、つるんとしてひくひくといやらしく蠢いていた。
わずか数分で、オバノン博士はあの蜂女の仲間になってしまったのだ。
蜂女たちが両手両脚の枷をはずす。
すぐに新たな蜂女となったオバノン博士は翅を広げて飛び立つと、壁にへばりついて何かを舐め始めた。
そして、ほかの蜂女たちに混じってしまい、いつの間にか見分けがつかなくなっていた。
「あれが・・・私たちの未来というわけね・・・」
ミス・マクモリスがストンと床に腰を落とす。
私も何を言っていいのか言葉がでなかった。
「ふふ・・・うふふ・・・」
「コーネリアさん・・・」
「なにやってるんだろう私・・・こんなところへ来て化け物にされてしまうなんて・・・」
うつむき顔を覆ってしまうミス・マクモリス。
「まだ決まったわけじゃないですよ。あきらめないで・・・」
「無理よ。私もあなたもあの蜂女にされてしまうんだわ・・・」
「そんなこと・・・」
無いと言えるはずが無い。
ああ・・・
誰か・・・
誰か助けて・・・
******
それから何時間かが経ち、ミス・マクモリスが連れ出されて行った。
必死に抵抗していた彼女だったけど、彼らには無意味だった。
最後の時には死んで抵抗すると言っていた彼女だったけど、死ぬことすらできなかった。
なぜなら、私も死んでしまいたいと思っているのに、どうしても死ぬことができないのだ。
おそらく自殺を思いとどまらせるような何か仕掛けがあるのかもしれない。
ミス・マクモリスがどうなったのか私は知らない。
おそらくオバノン博士と同じように蜂女にされてしまったのではないだろうか。
外から聞こえてきた悲鳴は、いつしか快感によがる女の声になっていたのだから。
次は私の番。
お願い・・・
誰か私を殺して・・・
黄色い膜が消える。
ワーンという耳障りな音を立てながら奇妙なやつらが現れる。
あの音は彼らの会話のようなものなのかもしれない。
短い触手をうねうねとうねらせる様は、見ているだけで気色悪い。
抵抗は無意味だ。
どうせ私の力ではかなわない。
だったらおとなしくしていたほうがいい。
やつらはおとなしくしている私に戸惑っている。
前の二人は必死に暴れたから、無理やり連れて行かなくてはならなかった。
でも、私は騒がない。
だからどうしていいのかわからないのかもしれない。
私は押し出されるようにして部屋を出る。
自らの足で部屋を出たのは私だけかもしれない。
これからおそらくあの壁に貼り付けにされるのだろう。
奇妙なやつらは相変わらず耳障りな音を出しながら、私の後をついてくる。
通路は部屋と同じように岩壁。
やつらが通りやすいようにか、両側が結構幅広い。
先は薄暗く、どこへ通じているのかわからない。
やつらと少し距離が開く。
人間の歩行速度と、やつらのはさみの付いた脚とでは、速度がやや違うのだ。
思ったとおりだわ。
私はここで走り出す。
この狭い通路ならやつらは飛べないはず。
外へ出れば飛べる奴らのほうが有利だけど、とにかくできるだけ逃げるのよ。
私は通路を走り、明かりの方へと突き進む。
後ろから追ってくる気配は無い。
やつらはこの狭い通路では人間が走る速度に追いつけないんだ。
早くここを抜け出して・・・
私は目の前に広がる明かりの中に駆け出して行った。
「嘘・・・」
私の足は止まってしまう。
すぐそこは確かに外。
でも、足元には地面が無いのだ。
断崖の切り立った崖の中腹に開いた横穴。
私がいるのはまさにそういう場所だった。
切り立った崖の下は岩だらけの谷。
そこらへんにはあの奇妙なものたちが皮膜を広げて飛んでいる。
そしてもちろん蜂女も。
ここは飛べるものの世界。
やつらが私を追わなかったのは追う必要が無かったから。
ここから抜け出すことができない場所だったからなんだわ。
私の正面にやってくる奇妙なものたち。
背後からも耳障りな音が聞こえてくる。
私の足は動かない。
一歩踏み出せば死ねるはずなのに、一歩を踏み出すことすらできないのだ。
私はただ泣くしかなかった。
私は服を脱がされる。
というよりも、妙な光を当てられ、服がチリのように粉々になってしまう。
裸になった私は、抵抗もむなしくやつらによって吊るされ、あの壁に連れて行かれてしまった。
両手両脚を冷たい金属のようなもので固定され、大の字にさせられる。
私を固定したあと、ワーンという耳障りな音を残し、やつらは私を置いて立ち去ってしまった。
足元は谷底。
風が私の躰を撫でていく。
裸でこんなところに貼り付けられ、先ほどから涙が止まらない。
やがて何体かの蜂女がやってくる。
みな一様にその大きな複眼で私を眺め、じょじょに私に近づいてくる。
青いなめし皮のような皮膚。
ブーツを履いたような足。
蜂のお尻のような黒と黄色の二つの胸。
ここにいる蜂女全てが元は人間だったのだろうか・・・
「ひゃ」
思わず声がでてしまう。
一体の蜂女が、私の胸に触角を当ててきたのだ。
微細な毛が敏感になっていた私の肌を刺激したため、思わず声をあげてしまったのだった。
それをきっかけにしたかのように、周囲の蜂女たちがいっせいに私の回りに群がってくる。
そして私の躰をところかまわず舐め始めた。
腕も、指先も、太ももも、つま先も、胸も、股間もすべて。
与えられる舌の感触に、私は気味悪さとくすぐったさ、それにいやなことにかすかな気持ちよさを感じてしまう。
私の正面に現れる一体の蜂女。
手にはあのオバノン博士に差し込んだ太くて短い棒を持っている。
ただの棒ではない。
それは男性の性器そっくりだった。
あれを私に入れようというのか?
私だって処女ではない。
セックスの経験だって一度や二度じゃないわ。
でも・・・
あんなのを入れられるなんていや。
いやよぉ・・・
男性器を模した棒を持って近づいてくる蜂女。
私はその顔を見て愕然とする。
大きな複眼をしているが、笑みを浮かべたその顔はミス・マクモリスのものだったのだ。
ああ・・・
そんな・・・
こんなことって・・・
「キチキチキチ・・・」
カチカチと歯を打ち鳴らしながら私に近づく蜂女。
「いやっ! やめてぇっ!」
私は必死で身をよじる。
いやだいやだいやだ。
こんなのっていやよぉ!
ずるっと蜂女の持つ棒が私の内膣に入り込む。
蜂女たちに舐められほぐされていた私の躰は、苦も無くそれを受け入れてしまう。
「はあうっ」
突き上げられる衝撃に私の躰が跳ね上がる。
そして激しいピストン運動が私の内膣で始まった。
「あぐっ、はぐっ」
上下する棒が私の中をかき混ぜる。
お腹を突き上げる衝撃がだんだん気持ちよくなってくる。
私の中の女が喜んでいるのがわかる。
こんなの初めて。
今までのどのセックスよりも激しく私の躰を燃え上がらせる。
「ああん・・・ああ・・・ん・・・」
いつしか私はよがり声を上げていた。
でもかまわない。
気持ちいい。
とても気持ちいい。
もっと・・・
もっと突き上げてほしい・・・
もっと激しく私をめちゃくちゃにしてほしい。
「ああ・・・あああ・・・ああ・・・」
もう何を言っているのかわからない。
ただただ気持ちいい。
躰が浮く。
頭の中が白くなる。
意識が飛んでしまいそう。
イく・・・
イく・・・
イッちゃう・・・
私の躰がはじけると同時に、内膣に何かが注がれる。
それは一瞬にして私の躰を駆け巡り、私を中から変えていく。
ああ・・・
なんて幸せ。
これこそが最高の喜び。
私は生まれ変わるんだわ・・・
******
「キチキチキチ・・・」
私は歯を打ち鳴らして了解の合図をする。
女王様の命令が私の中に伝わったのだ。
“侵入者を確認せよ”
私はこの命令に従い、手近な仲間と壁を飛び立つ。
美味しい蜜はまたあとで。
女王様に従って私は私に与えられた仕事をこなす。
この“エデン”を邪魔するものを私は赦さない。
ここは女王様のテリトリー。
女王様と空から来た者たちの世界。
邪魔するものは私たちが排除する。
私は門番。
エデンの門番なの。
私は侵入者を確認するため、密林の中へと向かって行った。
END