【田村くん】竹宮ゆゆこ 24皿目【とらドラ!】

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418174 ◆TNwhNl8TZY :2009/11/02(月) 10:47:06 ID:qapUpQRf
───竜児も、ドキドキしてる・・・
ドクン、と一際大きく胸が跳ねる。
大河自身のそれか、それとも竜児の物か。
いつしか体を拭くのも忘れ、目の前に背中に抱きついていた大河には、それすらも分からなくなっていた。
触れ合った部分から竜児の体温が移り、頭がぼんやりとしてくる。
荒くなっていく呼吸を鎮めようと深く息を吸うと、肺一杯に竜児の臭いが充満する錯覚に襲われる。
何がなんだか分からなくなり、自分の中を蝕む得体の知れない感情から逃げるように大河は更にしがみつく。
その手に、そっと竜児の手が重ねられた。
ただ重ねられていただけの手が、やがて指の一本一本を絡めながら握られる。
そして───

「・・・そうだ、タオル用意しとかなくっちゃ・・・一枚で足りるかしら・・・か、替えの下着とかも、あった方がいいわよね・・・」

ゆうに十分はその場に立ち尽くしていたかと思うと、大河はパタパタと居間へと歩いていった。
これから昼食からこっち、ひたすら横になっている竜児が目を覚ますまで手なんかを握り締めながら付き添い、
起きたらすかさず寝汗がどうこう言って竜児を剥くだろう。
それができなくても、他にもいろいろと手を変え品を変え竜児に『看病』と言ってはベッタリ張り付いて離れないに決まっている。
メンドクサイ相手はとりあえずは帰したのだ、焦る必要はない。
時間はまだたっぷりとあるのだから。


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「要塞かよ」

難攻不落的な意味では要塞と喩えても差し支えないだろう。
見た目は古臭い、どこにでも在りそうなただのアパートなのだが。

「いや、俺には虎の穴に思えてきた。あそこは近づく奴は何人も襲いかかって食い殺す凶暴でおっかない虎の住処だ、絶対」

虎穴にいらずんば虎児を得ずならぬ、虎穴にいらずんば竜児を得ず、と言ったところか。
その内本当に子虎でもできそうな予感がしてより生々しい。

「あー、なんかそのものずばりな気がする・・・そんで高っちゃんは哀れな生贄みたいな」

「生贄かどうかはともかくとして、まぁ、哀れだろうなぁ高須は・・・さて、と」

ポケットからケータイを取り出した能登。
御座をかいた膝の上には、毎度の事ながらあのノートが鎮座している。
竜児と竜児の行動、周りにいる女性、女性がしかけたアプローチやらが微に入り細に入り克明に記されている、
他人には絶対に見られてはならないストーキング日誌。
しかしながら、それまで使っていた物と比べると真新しい。
先日とうとう一冊丸まる使いきり、晴れて二冊目に突入したのである。
キリもいいしそろそろ・・・と、手垢と汚れで少々よれてしまった前のノートを手渡した時に持ちかけてはみたのだが、笑顔で却下。
奈々子は待ち構えていたように今能登の膝に乗っかっている新しいノートを差し出してきた。
受け取った能登も笑顔だった。目以外は。

「何してんだ?」

「ん? あぁ、いつこっちに来んのか一応聞いとこうかと思って」
419174 ◆TNwhNl8TZY :2009/11/02(月) 10:48:55 ID:qapUpQRf

聞いてくる春田に答えながら、能登はケータイを操作する。
追いかけるよう命じられてはいたが、現実的に能登と春田の二人では教室から出て行った全員の動向を全て把握しきれないので、
向こうからやって来るのを待ってる方が効率的だとずっと張り込んでいるのだ。
思惑通り午前中にはいの一番にゆりが、時間を空けて昼には実乃梨と亜美が。
しかしいつ来るのか分からないと言うのはけっこう神経を遣うもので、春田にしろ能登にしろ既に疲労が見え隠れしている。
昼食だって摂っていないし、用を足しに行くにも満足に動けない。
あと姿を現していないのは麻耶と奈々子の二人だけなのだから、せめて片方だけでもいつ訪れるのか知っている方がまだ気が楽だ。
そういう考えの下、今までの報告を兼ねて、能登は奈々子へとメールを送った。

「・・・高っちゃん、早く良くなるといいよな」

「そうだな、本当に・・・」

ふと、春田の口からこぼれたセリフに能登が同意する。
これは心からの心配である。
こんなのが何日も続いたらこっちの身が持たねぇ、といった思いも無い訳ではないが・・・

「「 大変だろうな、あれじゃあ・・・ 」」

それを差し引いても、あんな監禁紛いどころかギリギリ監禁じゃない程度の扱いを受けている竜児が甚だ忍びない。
こっちもそうだが、あっちの方がよっぽど身が持ちそうにない。
今日だけでも身を崩してしまうのではないだろうか?
そもそもの原因が身を崩したために舞い降りた悲劇に、能登も、普段は羨ましがる春田でさえも竜児に本気で同情する。
自宅に居ることからも、面会謝絶なほど病状が深刻なはずがない。
だが、大河は見舞いに訪れた者の悉くを決して竜児に合わせなかった。
やって来た者達のやり方もいささか常識外れだったのも否めないが、それにしたって常軌を逸した徹底ぶりである。
いくらなんでも、まさか肉体言語で実乃梨と亜美を追い返すだなんて思いもよらなかった。
ただの風邪を引いただけでこの有様。
素敵に過激すぎる。
正確には分からないが、あの様子では竜児自身、相当過剰な看病を受けているに違いない。
しかも回復するまでそれは続く。
口にはしないながらも、同時に「竜児が全快するのと入院するののどちらが先か」という考えに行き着き、薄ら寒い物を感じた二人。

「俺、今度高っちゃんに手袋とかマフラーとか渡しとくわ」

「あぁ、これからもっと冷えるもんな。また風邪なんて引かないように、俺もなんか贈っとこう」

こんな辛い目に二度も遭う必要はないだろうと、後日二人は無い袖を振って竜児に防寒用の手袋とマフラー、市販のサプリ等を渡した。
突然のプレゼントをいぶかしんでいた竜児だったが、ささやかながら快気祝いだと言うと、
そんな理由でここまで気を遣ってくれたなんて考えもしなかったと、何度も何度も二人に感謝していた。
そこまではよかったのだが、更に後日、竜児がしていたマフラーを勝手に拝借していた大河が目撃された事で奈々子に説明を要求され、
余計な気を遣った事を後悔するハメになる。
予め知ってさえいれば回避できる事なのだが、それができたら三時間も正座させられるなんてことには決してならないだろう。
後悔とは、いつだって未来で手ぐすねを引いて待っているのだから。

ム゛ーム゛ーム゛ー

そうこうしている間に、奈々子から返信が来た。
内容は放課後に麻耶と一緒に行くという簡潔な物で、能登は返信せずにケータイを閉じる。

「なぁ、木原も朝っぱらから出てったよな。なのに一緒?」

横で画面を覗いていた春田が疑問を上げる。

「多分一緒に行った方がいいんじゃないかっていう連絡でも入れたんだろ。木原も一人よりも二人の方が気が楽だろうし」

「・・・どっちがとは言わねぇけど、最終的には出し抜くつもりなのにか?」

「それはそれ、これはこれ、あれはあれ、彼は私のものってやつなんだろうよ、きっと」
420174 ◆TNwhNl8TZY :2009/11/02(月) 10:50:10 ID:qapUpQRf

能登の予想は寸分違わず的中している。
タイミングを計ってすぐには竜児の下へ行かないだろうと踏んだ奈々子が時間を置いてから電話をかけると、
案の定麻耶はまだ土産選びの最中であり、いつ頃見舞いに行こうかというのを決めかねていた様子だった。
ならば放課後なら自分も時間が取れるし、二人だったら行きやすいだろうと、
あくまで付き添いであるというスタンスで奈々子が持ちかけた提案を二つ返事で了承した麻耶。
内心一人でというのは抵抗があったようだ。
あの手乗りタイガーの相手を一人でしなければいけないのだから、腰が引けるというのも仕方ないのかもしれない。
それに正直に言ってしまうと麻耶には荷が重い。
事実大河は親友の体育会系天然、悪友の腹黒、担任の三十路を単身撃破している。
麻耶にこの中の一人分でも大河を丸め込める力があるかと問われれば疑問が残る。
言ってしまえば普通の女の子なのだから。
そしてそれは奈々子も同じ。
体力では実乃梨に遠く及ばず、あざとさや狡猾さでは亜美にリードを許し、粘着さでは担任の独身に引けを取らないかもしれないが、
あんな恥も外聞もない姿を表には晒せない。仮に晒すとしたら余程の切羽詰った時だけだろう。
だから人の手が必要なのだ、お互い。
奈々子をダシにしようとしている麻耶にとっても、そして奈々子にとっても麻耶は貴重な戦力だ。
しかし裏でそういった考えが張り巡らされているとはこれっぽっちも思っていない麻耶は、
ダシにしようとしている奈々子に手綱を引っ張られていることに全く気付かない。
良く言えば素直な、悪く言えば実に操りやすい性格をしている。
ある意味一番の安牌かもしれない。

「そんなもんかねぇ・・・つーか課後かー、まだすっげー時間あんじゃん。飯でも行かね?」

まぁそんなドロドロとした内情には心底興味がないのだろう。
それよりも二人いっぺんに時間を空けて来るというのなら、その間に済ませておけることは済ませたい。
せめて何か腹に入れねばと、春田が誘う。

「制服のままどっか入ったら目立つだろ、ガマンしろよ」

「でもよー、飯時なんだしコンビニくらいならいいだろ。俺もう腹へって腹へって」

突っぱねる能登に、大袈裟に身振り手振りを交えて空腹をアピールする春田。
気持ちは大いに分かるし、極力そういったことを考えないようにしていたが自分も腹ペコだ。
能登はしょうがないと溜め息を一つ、行くのなら制服の上を脱いで、ついでに何か適当に買ってきてくれと小銭を渡す。

「寄り道しないで早く帰ってこいよ。あと見つかるようなヘマするなよ」

「へーい」

気の抜けた返事をすると、春田は最寄のコンビニを目指して、高須家のアパートの敷地からコソコソと出て行った。
二人が張り込むために陣取っていたのは、大胆にも竜児の自宅であるアパートの、人目につかない裏手側。
気配から階下の住人が留守なのを知ると、勝手に腰を落ち着けているのである。
しかもこの場所、中々に覗きに適しているというか、道路に面している方向からは絶対に見えないし、
上階の高須家を訪問する者はもちろん高須家の住人からも完全に死角になっている。
会話を盗み聞きするためにある程度近づいても全くバレない。
春田なんてそれをいい事に亜美のスカートの中を覗こうとしたりもした。
結果はそう上手くはいかず、位置的に見えるか見えないかのヤキモキした焦らしを味あわされたが、それなりに良い思いはしたようである。

「・・・・・・ふぅ」

春田を見送ると軽く背筋を伸ばし、脱力と共に肺から空気が抜ける。
まさかこんな場所で人心地つけるほど図太い神経をしているとは思っていなかった能登は苦笑する。
それだけ慣れてしまったのか、それとも人として落っことしてきた物があるためか。
しばらく放心したように呆けていた能登だが、それも飽きると手持ち無沙汰を感じ始める。
お使いに行ったアホが帰ってくるまでどうしていようかと思案しかけるが
421174 ◆TNwhNl8TZY :2009/11/02(月) 10:51:26 ID:qapUpQRf

「そんなに汗まみれじゃ体によくないわよ、竜児。だからわ、わた、私がふふふ、ふき、ふき・・・」

「いや、別にそれくらい自分でできるから・・・お、おい、お前どこに手ぇかけて、やめ・・・誰かー!?」

「もう! なんで邪魔すんのよ! そのままじゃ拭けないでしょ! 拭いてあげるって言ってんだから脱ぎなさい!」

頭上から降ってきた悲鳴と怒鳴り声に、あぁ、やっぱ行かないでよかったとしみじみ思う能登。
何か手を出す事はできないが、知らぬ間に竜児が手篭めにされていたらそれこそ事だ。
それに自分が焦らずとも、悲鳴を聞きつけてあの母親がなんとかするだろう。
不謹慎にも暇潰しにもってこいだと能登は気楽に構え、とりあえずはノートに今しがたの悲鳴とおそらくの経緯を書き記し始める。

「だめ〜、それやっちゃんがしてあげるの〜」

「誰かー!?!?」

そっちもかよ。
能登が手にしていたシャーペンが、パキンと乾いた音を立てて折れた。
芯ではなく、ペンそのものが。

(・・・うわぁ・・・)

ちょうど同じ頃。
買い物に出かけ、高須家からそう遠くない所にあるコンビニの手前まで来ている春田は、嫌な場面に遭遇してしまった。

「そうなのよ、逢坂さんったらお見舞いに来たっていうのにお家に上げてもくれなくって・・・内申、ボロックソに書いてやろうかしら」

「そんなんじゃだめだって。大河、卒業したら即お嫁さんー、みたいなこと平気でしそうだからあんま意味ないと思うよ。
 それにお土産とか一応渡してこれたんでしょ? ゆりちゃんセンセーのがまだいいよ。
 私らなんてぶっ飛ばされに行ってきたようなもんっていう・・・」

「いたたた・・・あぁったく、あんのくそったれのドチビ、マジでやりやがって・・・
 亜美ちゃんの体に傷でも付いたらどう責任取るんだっつーの、高須くんが心配しちゃうじゃん」

「そう・・・ほとほと厄介ね、逢坂さんって・・・マジウゼー・・・それはそうと、高須くんってお姉さんとかいるの?
 今朝伺ったら当然のように逢坂さんが出てきて、あと年上っぽい女の人もいたんだけど、あれ誰だか知ってる?
 なんかやたらケバくてね、あーいうのって男とっかえひっかえしてそうで、いい歳こいてそんなのとかもう人生詰んでんじゃないのって
 先生思うんだけど、そういう人と一緒に住んでて高須くん大丈夫なのかしら・・・心配だわ」

「いやいやお客さん、それ多分高須くんのお母さんっすよ、マジで。そんで未来の私のお義母さんだから悪く言わないでほしいなー」

「そういえば高須くんのお母さんって、確かゆりちゃんと大して歳変わんないってタイガーが言ってたような・・・
 人生詰んでんのってゆりちゃんの方じゃない? 三十路で独身ってだけでも笑えないってのに」

「えぇっ、そうなの!? ・・・歳の近い人をお義母さんって、ハードル高いわね・・・同居とかになったらすっごくやりづらいんだけど」

「その心配はいらないんじゃないかなー」

「そうそう、気にするだけムダよねー」

「・・・? ・・・よければ理由を教えてもらえない?」

「「 だってそういう心配をしなくちゃいけないのって私(あたし)だし 」」

「そっ。よ〜くわかりました。あなた達、今学期の成績は期待しないでいいから。進級できるとも思わないでね、させいから」
422174 ◆TNwhNl8TZY :2009/11/02(月) 10:53:06 ID:qapUpQRf

「きったねー!? なんしてー!? なんしてそうなっとやー!?」

「ちょっと、あんたそれでも教育者なの!? 職権乱用よ職権乱用!」

「それが嫌だったら大人しく高須くんから手を」

「「 あんま調子くれてっと後でどうなるかわかってる? 」」

「・・・ど、どうやったら逢坂さんを高須くんから遠ざけられるのかしらね。
 櫛枝さん、一番逢坂さんと仲良かったんでしょ。なにか知らない? 弱みっていうか、そういうの」

「・・・知らなくはないけど、あれはいくらなんでも大河が可哀想なんだよねぇ、高須くんも本気で怒りそうだし・・・
 ふ〜む・・・ん〜、他だと難しいな〜・・・あーみんはどーよ、なんかないの? 腹黒代表として思わず引いちゃうようなやつとかさ」

「実乃梨ちゃんがなに言ってんのか亜美ちゃんわっかんなぁい。てかさー、それこそゆりちゃんの力でなんとかなんないの?」

コンビニの中に設けられている休憩コーナーでたむろしている三人の女性。
二人は近隣の高校に通う女子高生で、一人はその担任である。
大河に追い返された後、今更学校に戻れず、近所の目を気にして自宅に帰ることもできずにここで自棄酒を煽りながら時間を潰していた
ゆりと、湿布やらを買い求めにたまたま立ち寄った実乃梨と亜美。
顔を合わせた三人は誰ともなしに愚痴を言い始めた。
やれ、大河が竜児を独占しているだの。
やれ、あそこまでいくとシャレじゃ済まないだの。
女三人寄れば姦しいとも言うが、少なからず人の出入りがある場所で、向けられる奇異や白い目を気にも留めずに
ひたすら喋りまくっている三人。
遠巻きにそれを見てしまった春田はそそくさと今来た道を引き返して、別のコンビニを探しに行った。
春田の存在など小指の先ほども気付かなかった三人はというと

「できなくもないけど、成績なんかいじっちゃったらやったの私だってすぐわかっちゃうじゃない。
 普通にお礼参りとかしてきそうで本気で恐いのよ、逢坂さんって・・・」

「私らはいいんかい」

「チッ、つっかえねぇ」

その後も日が暮れるまでコンビニに居座って、実も蓋もない会話に華を咲かせていた。


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時刻は夕方───
日が傾き、肌に当たる風が冷たくなってきた頃、高須家のインターホンが来客を告げた。
大河が玄関まで来るが、すぐには開けない。
居留守を使って帰ってくれるなら無駄な手間が省けていいと、ドアの前にいる誰かが去るのを待ってみる。
が、再度鳴り響くインターホン。
大河はうんざりしながら、竜児にも引けを取らないほど悪くさせた目つきでドアを開けた。

「よう、逢坂。高須の具合はどうだ?」

「ふぇ?」

吊り上がっていた目が一気に丸くなる。

「北村くん?」
423174 ◆TNwhNl8TZY :2009/11/02(月) 10:54:20 ID:qapUpQRf

ドアの外には北村が立っていた。
てっきり見舞いを建前に竜児目当てでやって来た誰かが居るものだと思っていたため、意表を突かれた大河。
予想していた心配が杞憂に終わったからか、肩の力が抜ける。

「大変だな、逢坂も。授業を休んでまで看病なんて、中々できる事じゃあないぞ」

「そ、そんなこと・・・これくらい当然よ、とーぜん。竜児、私がいなくっちゃなんにもできないんだから」

「ハハハ、そうだな。おっとそうだった、これ」

思い出したように北村が手から提げていた袋を持ち上げる。
中身は桃缶と、他にゼリーや胃に優しそうな物をいくつか。
風邪にはこれだろうと、行きがけに買ってきたのだ。

「あ、ありがと・・・ぁ、ご、ごめんなさい、今開けるね」

受け取ろうとして、ドアにしっかりとかけられたチェーンに気付く。
いくらなんでも北村なら上げても問題ないだろう、他の連中同様に追い返したりしたら失礼だし、竜児に知られたら怒られる。
大河は一度ドアを閉めると、手早くチェーンを外し、またドアを開ける。

「はい、今だったら竜児、起きてるか」

「おっじゃまっしまーっす」

「おじゃまします」

瞬間、スーっと北村の横をすり抜けて、あれだけ鉄壁を誇っていた高須家に麻耶と奈々子が難なく入ってきた。
続いて北村も入ってくる。

「ら・・・・・・ッ!? ちょ、ちょっと待って!」

───奈々子が放課後まで待っていたのは、なにも授業を優先していたからではない。
一人で行ったところで、竜児の看病をしている大河が入れてくれる訳がない。
麻耶が一緒でもそれは変わらない。
その程度、容易に想像できる。
では、誰なら大河は入れてくれるのか。

「ん? どうかしたのか、逢坂」

「き、北村くんじゃなくって・・・!」

それは北村の他にはいない。
女子も男子も、教師でさえも関係なく、誰が来ようと大河は追っ払うだろう。
だけど相手が北村なら邪険にはしないはずだ。
竜児の手前もある。
だから、奈々子は待った。
実乃梨と亜美に踏みつけにされてしまった北村を介抱してやり、放課後になったら竜児の下を訪れるつもりだと言う北村に
さり気なく自分と麻耶の同行の許可を貰い、退屈な授業が終わるまで待った。
呼び戻した麻耶にもみんなで行った方が高須くんも喜ぶんじゃない? などと言い包め、
渋々頷いた麻耶と一緒に見舞いの品を吟味して購入。
アパートへと来た時もわざと北村と麻耶との間に立ち、階段の途中で止まるとそれ以上前に出ず、
ドアの中からは見つからないように息を潜めていた。
思った通り、大河は北村相手には何の疑いもなくドアを開けて迎え入れる。
その一瞬を逃さず、「行こ」と目配せし、麻耶に先陣を切らせ、奈々子は悠々と高須家へと入ることに成功した。
用意周到の一言に尽きる。
424174 ◆TNwhNl8TZY :2009/11/02(月) 10:55:42 ID:qapUpQRf

「いやー、それにしてもまるで高須の奥さんみたいだな、逢坂」

呼び止められた北村が振り返ると、ワナワナと体を震わせている大河の姿が。
何か忘れていたのか、それとも知らずに気に障る事でもしていたのかと考えていた北村が、何を思ったのか「あぁ」と頷くと、
全身から怒りを露にする大河にそんなことをのたまう。
期せずして一度は言われてみたかった事を言われた大河が瞬時に般若のような表情を引っ込めて頬を染めた。

「え・・・そ、そかな・・・」

もじもじ、そわそわ。
奥さんという言葉に、人差し指同士を突っつき合わせて照れる大河。
頭の中では大体2〜3年後に設定した竜児との妄想が始まる。
『木原? 香椎? あぁ、学生時代にいたわね、そんなの。
 それよりも聞いて、私ね、二人目ができたのよ。
 今度は女の子だったらいいんだけど・・・うぅん、元気に生まれてくれるんなら、それが一番よね、竜児』
という風に、もう頭の中は竜児一色に染まっている。
そんなドが付くまでにピンク色をした脳に、続く北村の言葉が電流となって駆け抜ける。

「ああ、これなら心配なさそうだ。高須を頼んだぞ、逢坂。いや、ミセス高須」

「・・・・・・・・・っ!」

社交辞令やお世辞というと聞こえが悪いが、北村はそこまで本気で言った訳ではない。
流れというか、ノリというか、ほんの冗談というか。
だから

「・・・逢坂?」

「・・・ごめんね、少しボーっとしちゃってて・・・さ、立ち話もなんだからどうぞ上がってって。
 ちょっと狭苦しいけど、今お茶出すからゆっくりしてってね、北村くん。あの人・・・竜児も喜ぶわ」

「そうか。それじゃあお言葉に甘えさせてもらうとしよう」

軽い気持ちで言ったセリフを、大河が本気にするとは思ってもいなかっただろう。
今だって、お嫁さんっぽく振舞う大河に気付く素振りもない。
素直に家の中へと上がり、竜児の部屋へと入っていった。
パタンと、音を立てないよう静かにドアを閉じた大河は、早る心を抑えて落ち着き払った動作で台所に立つ。
来客にお茶を出しておもてなしをする、よく出来た嫁としては当たり前だ。
よく出来た、嫁。

「・・・えへへ・・・お嫁さん、だって・・・あっ、ちがうちがう、奥さんだった・・・竜児の奥さん・・・えへ・・・えへへへ・・・」

戸棚から盆と急須、茶筒を取り出すと、優雅な仕草で茶葉を一回、もう一回。
茶漉しがいっぱいになるまで入れると、ポッドからお湯を注ぐ。
お湯が並々と急須を満たすまで注ぐとしばし置いておく。
竜児がお茶を淹れる際によくこうやっていたのを、寝ながら見ていた大河は知っていた。
そんな事をすれば、ただでさえ大量に入れられた茶葉が必要以上にお湯に溶けてしまい、飲めたものではないほどに渋っ濃くなってしまうのだが、
これはこうするのだ、という程度の知識しかない大河は全く気付かずに、ふふんと胸を張る。
あれだけ失敗したと思っていたお粥を、竜児はおいしいと、喜んで食べてくれた。
このお茶だってこれだけ茶葉を入れたのだ、上手くできているに違いない。
持っていけば、きっと竜児は褒めてくれるだろう。
そして淑やかに湯飲みを置き、北村と談笑している竜児の隣に自然に寄り添う。
本当に、お嫁さんのように。
いけないいけない、と頬をピシャリ。
緩みきった顔ではお茶を持って行けない、よく出来た嫁は旦那に恥をかかせるマネなんて絶対にしないのだ。
425174 ◆TNwhNl8TZY :2009/11/02(月) 10:56:49 ID:qapUpQRf

「そろそろいいかしら・・・ん? これ・・・」

と、湯飲みを出そうとして棚の前に立った大河が止まる。
目線の先には普段竜児がかけているエプロン。
こういうのをしていった方がそれらしいかもしれないと、逡巡し、物は試しとかけてみる。
竜児に合わせた丈のため、当然だが、ぶかぶか。
動きづらいし、ちょっと不恰好かもしれない。

「・・・竜児のにおいがする」

が、それらは一切考慮せずに大河の脳内がGOサインを出した。

「よし! 早く持ってってあげよ」

気合を入れ直し、大河は人数分の湯飲みをテキパキと手に取る。
竜児の分と、自分の分と、北村の分とあと・・・
あと?
そこではたと手が止まる。
あとは誰の分だ?
もう一度数え直してみる。
竜児の分。大丈夫、ちゃんと専用の湯飲みを取っている。
自分の分。これも大丈夫、竜児とお揃いの、ちょっと小ぶりな湯飲みがある。
北村の分。問題ない、客用の物がいくつかある。
なら、残りの二つの湯飲みは誰の物にする気だったのか。

「っ!? っ、っ!! ───〜〜〜〜ッ!!!」

思い出した瞬間、大河がその場で頭を掻き毟り始めた。
北村のおだてに気を良くし、あの二人の存在をすっかり忘れてしまっていた自分を今頃になって責めている。
後悔の念が際限なく渦巻く。
せっかく今日は一日中一緒だったのに。
この後だって、夕食を終え、何気ない時間を穏やかに過ごすつもりだったのに。
それをよりにもよって、あんな・・・

「竜児っ!」

こうしてはおれない。
後悔しても遅い、するだけ時間の無駄だ。
今は一刻も早く部外者二人を追い出さなければ。
大河は用意したお茶もほっぽって、竜児の部屋に飛び込む。

「だいじょうぶ、高須くん? 熱とか平気? ご飯、ちゃんと食べてる?
 そうだ、寒かったりするんなら、あたしが暖めてあげよっか。人肌ってすごくあったまるんだって」

「・・・麻耶? 高須くんまだ調子悪いんだから・・・ごめんね高須くん、連絡もなしに来ちゃって」

するとそこにはベッドの上で上半身を起こす竜児と、ベッドに腰かけ竜児の傍に寄り添っている麻耶。
奈々子は北村の隣に座っている。
大河が小さく舌打ちを漏らした。
既に和気藹々とした空気が出来上がってしまっている。
だから嫌だったのだ、他人を家に上げてしまうのは。
ここから追い出すことなどできるはずがない。
あの三人は、竜児の目に触れないところだったから形振り構わず本気の全力で追い返すことができた。
だが、今は状況が全然違う。
何をするにも必ず竜児に知られてしまう。
426174 ◆TNwhNl8TZY :2009/11/02(月) 10:58:17 ID:qapUpQRf

「なんかあったのか、大河? 大声出したりして」

今のように。

「え? え? ぁ・・・あ、ああ、あの、あのあの・・・お、お茶・・・よ、よくできたお嫁さんはお茶を、その・・・」

図々しくも断りもなしに上がりこんだ上に竜児に馴れ馴れしくしている不法侵入者共をどうにかしようと考えに没頭していた大河が、
かけられた声にしどろもどろになって返事をする。
そこへ、精一杯空気を読んだつもりの北村がフォローを入れる。

「おお、そうだ。逢坂がお茶を淹れてくれたそうだぞ、高須」

「あぁなんだ、そうなのか。大河が・・・なんも持ってねぇみてぇだけど」

珍しく、率先して気の利いた事をしている大河に感心する竜児だが、見た感じ大河は何も持っていない。
何故か愛用のエプロンはしているが。

「そ、それは・・・い、今持ってくるから待ってて」

そう言い残し、不思議そうな顔をしている竜児から逃れるように、大河はその場を後にした。
急いで台所に戻ると、慌てて急須の中身を湯飲みに注いでいく。
竜児と北村、自分の分を注ぎ終えたところで、あの二人の分はどうするべきか迷う。

「・・・・・・あぁ、もうっ!」

躊躇はしたが、結局大河は麻耶と奈々子にも振舞うことにした。
もてなす気なんて毛ほどもありはしないが、こうなっては致し方ない。
大河は計五つの湯飲みを乗せた盆を両手で持つと、中身をこぼしてしまわないよう細心の注意を払いながら歩き出す。
手元ばかりに気が行っているせいで、見ている方がそわそわせずにはいられない、おっかない足取りだ。
それでもなんとかいつものようなドジをせず、竜児の部屋まで運ぶ事ができた。

「はい、熱いから気をつけて、あ、あああな、あな、あにゃ・・・っ竜児、北村くん」

お盆から湯飲みを取ってもらおうとするどさくさに紛れて「あなた」と呼ぼうとするものの、どもりすぎてしまい断念。
受け取る二人は目を合わせて首をかしげる。

「・・・なに見てんのよ、早く取りなさいよ、お茶。要らないんなら言って、すぐ下げるから」

麻耶と奈々子には打って変わって、どうでもよさげにお茶を取らせる。
それだけで早速麻耶が萎縮する。
奈々子も表面上は軽く怯えているように取り繕っており、麻耶と自分に出されたお茶を震える手で受け取る。
と、手の中で波紋を立てる液体を見た奈々子が目の色を変えた。
瞬時にこの後の展開を予想する。
ミリ単位で上がった口角に、大河はおろか奈々子からお茶を受け取った麻耶でさえも気付かなかった───・・・

「濃っ! なにこれ、濃すぎにもほどがあんじゃん!」

「う・・・ん、これは・・・すまん逢坂、俺にはムリだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

大河が持ってきたお茶を一くち口に含んだ瞬間、全員が一斉にしかめっ面になった。
やはり渋いのだ、これ以上ないほど。
麻耶と北村の率直な評価を最初こそ認められずにいた大河も、ちびりと舐めてみて愕然とする。
二人の言う通り、とてもじゃないが飲み干せそうにない。
それほど酷い味をしている。
427174 ◆TNwhNl8TZY :2009/11/02(月) 11:08:27 ID:qapUpQRf

「・・・ちょ、ちょっと入れすぎちまったんだな、お茶っ葉・・・気にすんなよ大河、次から間違えなけりゃいいんだからよ」

竜児だけはショックを受けている大河を気遣い、味に関しては触れないでおいた。
しかし、言わずとも分かる。
両手で握り締められた湯飲みを、それ以降竜児は口元に近づけようとしない。
それだけで、伸びすぎた大河の鼻っ柱を叩き折るには十分だった。

「・・・そうね・・・ちょっとだけお茶っ葉入れすぎちゃったみたい・・・ちょっと・・・ちょっとでこんにゃんにならにゃいわよ・・・」

段々と涙目になっていく大河を見た竜児が腰を上げかけるも、それより先に立ち上がる者が。

「あの、迷惑じゃなかったらお台所借りてもいいかしら、高須くん。あたしお茶淹れ直してくるわね」

ここで出なければいつ出るのか。
今まで控えめに控えめに、麻耶のように目立とうとせず、大人しくしていた奈々子がついに前に出る。
切り出すタイミングは申し分ない。
言葉遣いも気取りすぎず、大河のように噛んでもいない。
言いつつも座ったまま、なんていうやる気のない態度でもない。
なにより、そうするのが当たり前のように自然に言い切ることができた。
声がひっくり返りそうなくらい緊張していた奈々子が内心ガッツポーズを取る。
あとは竜児の了解さえ得られればいいのだが。

「いいのか、香椎」

意外にも、竜児は奈々子の申し出を遠慮しない。
申し訳無さそうではあるが。
良い意味で予想を超えた反応に、奈々子は笑みを浮かべた。

「えぇ、お菓子も沢山あるし・・・ていうか、お菓子ばっかりで飲み物がないのもちょっと、ね?」

「・・・悪かったわね、こんな飲めもしないくそまっずいお茶出したりして・・・」

ふて腐れる大河に、そういうつもりで言ったんじゃないのだけれど、と奈々子は困り顔になった。
本当にそんな気はなかったのだが、言い方がそう聞こえてしまったのならそうなのだろう。
事が上手く運びすぎていることに、少々気が緩んでしまっていたかもしれない。
外よりも内に原因を作り、気を引き締め直せと自分自身に言い聞かせ、その問題をとりあえず処理する。
鬱憤が溜まるのは良くはないが、そんな些細なことよりも今は竜児に集中しなければ。

「・・・頼んでいいか? 急須だのなんだのなら、多分流しに出しっぱなしだと思うから」

任された。
抑えようとしても抑えきれない歓喜は、はにかんだ笑顔から少しばかりこぼれ落ちる。
本当は、遠慮されてしまうんじゃないかと思うとビクビクしていた。
しつこい女。
そう思われたくはなかったから、申し出を断られたら素直に下がろうと思っていた。
そうやって、逃げ道を作ろうとしていた。

「うん」

けれどそこで引いてしまったら、たとえそれが小さな一歩であっても容易には埋めることができなくなる。
想いにばかり身を馳せていても、それは前進にはならない。
遅れは誰よりもとってしまっている。
だから
428174 ◆TNwhNl8TZY :2009/11/02(月) 11:09:43 ID:qapUpQRf

(・・・やった・・・)

ほんの、一歩。
小さな小さな一歩の、籠められた勇気を、その重さを。
進んだことを。
早鐘を打つ胸に手を添え、奈々子は噛みしめていた。

自宅で淹れるそれよりも、ちょっとだけ丁寧に要れたお茶は、甘みがきいていたように思えた。


                              ・
                              ・
                              ・


あれから数時間が経ち、辺りはすっかり暗くなっている。
街灯が照らす道を、どんよりとした影を纏わりつかせて歩いている男が二人。

「やっと帰ってったなー、みんな。どんだけ居座ってんだよ、見舞いで」

「しょうがないだろ。木原が帰りたくないって駄々こねるし、しかもゆりちゃん達までもっかい来るんだもんよ・・・」

北村を始め、全員が帰ったのを影から見ていた能登と春田は、間隔を開けてから帰路についた。
表であれば言い逃れはいくらでもできそうなものだが、まぁ、会わないに越したことはない。
気温がぐんと下がり、早く暖房のきいた自室で泥のように寝てしまいたいが、仕方ないだろう。
白く色づいた溜め息を吐き、肩を落としながら、二人は自宅への道を歩いていく。

「まあなー・・・タイガー超キレてたし、その後だって酷かったし・・・」

「あれがなけりゃあ、もうちょっとは早くお開きになってたんだろうけどな・・・」

二人が疲れているのは、長時間による張り込み活動によるものであるが、
その中でもとりわけ強く感じている疲労の元は、ラスト一時間の間に起こった出来事が関係している。
話に出ている通り、結託したゆり、実乃梨、亜美が、高須家への強行突入を図ったのである。
最初三人は玄関のドアをブチ破らんばかりの勢いでいたが、何故かドアには錠もチェーンもかかっていなかった。
ミセス高須という言葉に浮かれ、更によく出来た嫁になろうと茶を淹れる事しか頭になかった大河は戸締りを怠ったのだ。
強行突入は割かしすんなりと成功したが、これにはもしや罠でも張っているのか? と怪しいものを感じとり、
勘ぐってしまったゆり達。
しかしそれならそれで、囮と盾なら二人もいるではないかと、自分以外を潰すいい機会とも言える。
白々しい仲間意識をお互い煽りつつ、三人が足音もなく家の中へと忍び込むと、そこには談笑している竜児と北村。
麻耶は相変わらず竜児の隣であれやこれと世話を焼きたがり、奈々子はそんな麻耶を時折窘めたり、竜児を気遣うようにしながら、
近づきすぎない距離で腰を落ち着けている。
大河が待ち伏せしていると思っており、恐々としていた三人が和やかな空気に拍子抜けした一瞬気を取られた隙に、
よく出来た嫁ポジションを完全に奈々子に奪われてしまい、
輪に入らずに一人でふて腐れていた大河が新たな侵入者三人の存在に気が付いた。
一度追い払ったにも関わらずまたもややって来た事、のみならず勝手に上がりこんでいる事、なにより溜まっていたストレスを爆発させて
激昂する大河にたじろぐものの、竜児が間を取り持つとすかさず昼間の事で三人は泣き付いた。
『せっかくお見舞いに来たのに、なのに逢坂さん、帰れって・・・あんまりだわ。先生、本当に高須くんが心配だっただけなのに』
『私も・・・大河、入れてくれないばかりか暴力まで・・・うぅ・・・親友だと思ってたのって、私だけなのかな、高須くん・・・高須くぅん!』
『亜美ちゃんと高須くんの赤ちゃんができる大切な場所を、あいつ本気で殴りやがったのよ・・・信じらんない・・・』
と言った具合に。
今度は大河がたじろぐ。
三人の口から出てくるのは、説明の仕方はともかく誇張や脚色の類はされていない、誤魔化しようのない事実だからだ。
してきた事が詳らかになるにつれ、誰の目にもやりすぎだと映っている。
だが、開き直った大河は看病という大義名分を振りかざし、事情を聞こうとする竜児を無視し、この場をもって全員に帰るよう言い渡す。
これには女性陣全員が断固として反対、逆に大河の過剰な独占を弾劾することで一致。
429174 ◆TNwhNl8TZY :2009/11/02(月) 11:11:12 ID:qapUpQRf
女性特有のネチネチとした妬み嫉みに次第に追い込まれていった大河は、それでも自分はただただ竜児の身を案じただけ、
看病のためにそうしたのだ、何ら咎められる謂れはない、ばかばかばかと、自己の正当性を主張し続けた。
と、それまで急に咳をしだした竜児の背中を撫で摩っていた奈々子がポツリと呟いた。
『タイガーの言い分だと高須くんの看病をしてる人の言う事は聞かなくちゃいけないみたいだけど、
 それって高須くんを看病してれば誰でもそうしていいって事かしら』と。
沈黙、一拍置いて大河以外の全員が賛成と声を上げる。
そこからは一気に竜児の看病権を巡っての大争奪戦へと発展した。
いつしか勝者は竜児の嫁の権利までも得られるという物にすり替わり、それを耳にした途端に独神、覚醒。
はだけさせた胸元、強引に引き裂いて作ったスリットから覗く脚など、歳も教師らしさもかなぐり捨てて「オンナ」をフルに使い、
重ねた年齢と共に培った経験でもって、あの亜美を以ってして赤面するほどのアプローチを見せた。
そして手段を選ばなくなった者が一人でも出れば、感染するように全員が手段を選ばなくなる。
お見舞いで看病という冠のついたお祭り騒ぎは、奈々子の他には唯一冷静さを保っていると思われていた北村がキャストオフするまで続いた。

「北村のヤツ、マジでなにしようとしてたんだろ。あそこで脱ぐって何狙いだよ・・・ひょっとして、本当に高っちゃんねら」

「余計な事は考えんな。考えると恐い事しか浮かんでこないぞ」

熱か何かに当てられたことにしておこう。
断じて他に理由を見出してはならない。

「ぶぇっくしょん!」

「きたな・・・お前、するんならあっち向いてしろよ」

不意に、盛大なくしゃみをした春田。
隣を歩く能登が注意するが、春田のくしゃみは中々止まらない。
どうやら風邪を引いてしまったようだ。
丸半日もの間、こんなに暗くなるまで寒空の下にいたのだから、無理もない。

「ずず・・・うー、さみぃ・・・あ〜、明日休みてーな〜もう」

「それは春田の勝手だけど、お前が休んでも誰も見舞いに来ないと思うよ」

辛辣な言葉にちょっとだけ傷付くが、春田はそれ以上不愉快な感情を感じない。
辛いが、現実とはそういうものだ。
それは春田だって十二分に承知している。
異常なのはあっちの方、こっちの方が正常だ。
しかし、人恋しさはまた別。

「そんなのわかってっけどさー・・・能登くらいは来てくれるよな? な?」

「まぁ、ヒマがあれば」

なんだよーと、鼻水を垂らしながらボヤく春田。
それでも、あれよりはマシかと思い直す。
竜児のように女性陣に揉みくちゃにされるというのも魅力的ではあるが、当の竜児は死神の鎌を首にあてがわれたような顔をしていた。
ならば一人で静かに寝ている方がいいじゃないかと、頷く。
結局はその日の内に春田の風邪は治まるので、翌日にはピンピンして登校するのだが。

「んじゃ、おみやは亜美ちゃんの写真集かなんかで頼むなー」

「だからヒマがあればな、あれば・・・それにしても、今日はずいぶんと頑張ってたよな」

「え? 俺、なんかしたっけ」

「アホ、春田じゃなくて奈々子様だよ」

「あぁ〜、確かに」
430174 ◆TNwhNl8TZY :2009/11/02(月) 11:12:20 ID:qapUpQRf

声と物音だけしか分からなかったが、それでも今日の奈々子は積極的に動いた方だというのが分かる。
以前は偶然隣に座れただけでもう満足していたのが、見舞いとはいえ家にまで来れたのだ。
地味ながら、竜児の好感度を上げようと自分から前にも出れた。
他の面々と比較すると亀のような遅さではあるが、それでも一歩進めたことに違いはない。

「・・・けどよ、俺らがこれやんなくなるまでってなると、まだまだ遠そうだよな・・・」

「・・・ただでさえキビシイんだから、ガンバってもらわないとな、もっと・・・」

大っぴらに何かをする事ができない能登と春田の二人には、せめて奈々子の奮闘と善戦と、
手にするノートの数字がこれ以上大きな物にならないように願うだけだった。


                              ・
                              ・
                              ・


──────奈々子の自室──────
残業で遅くなるという父親のために、レンジで温めるだけで食べられるよう夕食を用意し終えると、奈々子は自室に篭った。
机に向かうと、またも間が空いてしまった手帳を広げる。
いつもなら読み返してばかりの手帳。
書きたいことは、色々とある。
だが、日付を書いたところで、何故か手が止まった。

───『うまい』

「・・・ふふ」

それも束の間。
今日を思い返すその顔は、時折微笑を浮かべ、紙面を滑るペンは止まることを知らないように動き続ける。
家まで行けた。部屋にも入れた。
それは小さな一歩かもしれないけど、奈々子からしたら大きな一歩。

「おいしい、かぁ・・・」

大河の淹れた物よりも酷いお茶を出す事の方が難しいだろうが、やはりおいしい、と。
その一言は、嬉しい。
そう言ってくれたのが竜児なら、なおさら。
また、奈々子の手が止まる。

「・・・おいしい、だって・・・」

───今度はもう少し、凝ってみようかな。

その今度は、いつだろうか。
できれば近い内がいい。
明日も竜児が学校を休むようなら、また見舞いに行こう。
次は紅茶にしようか。
それとも、知識はないけど、勉強して中国茶でも挑戦してみようか。
やっぱり日本茶の方が落ち着くかも。
そこで、気が付く。
なにもお茶にこだわる必要はなかった。
なんだかおかしくなり、つい吹き出してしまう。
ひとしきり笑うと、何を持っていけば喜んでもらえるのか、奈々子は考えに耽る。
大抵の品は今日だけで持ち込まれてしまっていたし、あまり奇を衒った物は避けたい。
印象に残るだけでは意味がない、良い印象じゃなければなおのこと。
431174 ◆TNwhNl8TZY :2009/11/02(月) 11:15:48 ID:qapUpQRf

───・・・手作りの物じゃ、重いかな。

そこで、また気が付く。

「・・・だめね、もぅ・・・これじゃ、なんだか高須くんにずっと風邪引いててほしいみたい」

ふっと、それまでの自分を少し離れて見ていたような、冷めた部分が顔を覗かせる。
高揚としていた気分が一転した。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

紙の上に浮かぶ文字を指でなぞる。
綴られた文字の中では、竜児、竜児、竜児。
目に見える距離ではなく、目に見えない距離を詰められた今日の、竜児との思い出。
浅はかな考えに囚われていた心が、少しだけ晴れた気がした。


                              ・
                              ・
                              ・


「はい竜児、あ〜ん」

「・・・ぅ・・・ご、ごっそさん・・・うまかった・・・」

「もういいの? 足りないようなら、おかわり作ってこようって思ってたんだけど・・・」

「いや、いい・・・もう十分だ、腹いっぱいだよ」

「そう・・・まだ調子悪いんならちゃんと言いなさいよ。竜児、そういうのいっつも言わないんだから。
 だから今朝だって、あんなになるまで・・・」

「・・・大丈夫だって、熱だって大分引いたしよ。何からなにまでありがとうな、大河」

「・・・うん・・・早く良くなってね、竜児・・・あ、そうそう、すぐ戻ってくるけど、私一旦帰るわね」

「・・・? 何でだ?」

「なんでって・・・だって、着替え取ってこなくっちゃいけないでしょ。このまんまじゃ寝れないじゃない」

「待て。お前、泊まってくつもりなのかよ。別にそこまでしなくったって」
432174 ◆TNwhNl8TZY :2009/11/02(月) 11:17:35 ID:qapUpQRf

「いいのよ、私がいいって言ってるんだから、いいの。それに・・・竜児のこと、心配なんだもん・・・」

「・・・大河・・・」

「・・・すぐ帰ってくるから、そんな寂しそうな顔しないでよ、もぅ・・・じゃ、行ってくるね」

「あ、おい・・・はぁー・・・」

「お待たせ〜竜ちゃん、ご飯できたよー。今度はね、栄養つくようにってね、卵のお粥にしたの。
 えっへん、やっちゃん気配り名人」

「・・・悪いな、店まで休ませちまって」

「うぅん、竜ちゃんはそんなの気にしなくってい〜いのぉ〜。早く風邪治してくれるのが一番なんだから。
 それよりもぉ、大河ちゃん帰っちゃったみたいだけど」

「あぁ、着替え取りに行ってくるってよ。すぐに帰ってくるんじゃないか」

「そうなんだぁ・・・なら、早くこれ食べちゃお。
 朝もお昼も、さっきもそうなんだけどね、やっちゃんがお粥作ってるとなんだか大河ちゃんすっごく嫌そうな顔するんだもん」

「俺がそれ食ってる間なんてもっと酷かったぞ、足まで抓られたし・・・なんなんだろうな、あれ」

「ねぇー。ふ〜、ふ〜、はぁい竜ちゃん、あ〜ん」

「・・・うめぇ・・・ホントにうめぇ・・・」

「喜んでもらえてよかったぁ。どんどん食べてね、竜ちゃん。ふ〜、ふ〜、あ〜ん。
 ・・・あ、そういえば・・・さっきね、大家さんに変な話聞いたの。今日不審者さんが出たんだって、この辺り」

「へー・・・どうせ空き巣かなんかだろ。うちには関係ねぇな、盗られて困るのなんてインコちゃんぐらいだし」

「ふ〜、ふ〜・・・その不審者さん、ずっとこのアパートの裏にいたんだって・・・あ〜ん」

「・・・マジかよ」

「まじまじ。お隣さんがね、ずーっと話し声がするから変だなーって見てみたら、男の人が二人いて、コソコソなんかしてたんだって。
 さっき大家さんがお巡りさんと一緒に注意するようにって言いに来てぇ、それで教えてもらったの」

「そいつら、捕まったのか」

「うぅん、まだみたい・・・ふ〜、ふ〜・・・やだなぁ、なにしてたんだろ・・・気持ち悪いなぁ、もう・・・」
433174 ◆TNwhNl8TZY :2009/11/02(月) 11:19:43 ID:qapUpQRf

「・・・戸締りだけはちゃんとしとけよ。昼間なんて、泰子一人で寝てんだから」

「うん・・・ね、それでなんだけどぉ・・・今日ね、一緒に寝てもいい・・・? なんだか恐くなってきちゃった・・・はい、あ〜ん・・・だめぇ?」

「・・・それは、ちょっと」

「そうよ、だめよやっちゃん。私が一緒に寝るんだから」

「それもさすが・・・に・・・───っ!?!? ・・・お前、い、いつからそこに・・・」

「・・・ねぇ竜児? 私言ったわよね、おかわり作ってあげようかって・・・そしたら竜児、お腹いっぱいって言ってたわよね。
 あぁ、きっとそのすぐ後にお腹空いちゃったのね。そうなんだ、なら仕方ないわね。うん、そういうの私もよくあるし、それはもういいわ。
 ウソ吐いただなんてぜ〜んぜん、これっぽっちも思ってないから、だから竜児も気にしないでいいのよ。
 それだけ良くなってきてるってことなんだろうから、良いことじゃない。でも・・・・・・」

「た、大河・・・? ・・・あの、俺の話を・・・」

「・・・ほんとにおいしいって・・・あれ、どういう意味よ・・・まるで私のお粥は本当はおいしくなかったみたいに聞こえてしょうがないんだけど・・・
 それになんでやっちゃんにあ〜んしてもらってるの・・・ふ〜ふ〜まで・・・ふ〜ふ〜・・・・・・」

「・・・お、落ち着け、大河。これは・・・なんていうか・・・慣れっていうか、もうどうでもよくなったっていうか」

「それはそうと、竜児? あんたもう眠いわよね」

「・・・な、なんだよいきなり・・・」

「だから、もう眠いでしょ? ご飯もお腹い・っ・ぱ・い! 食べたものねぇ。それならちょっと早いけど、今夜はもう寝ましょ」

「いや、ちょっとって・・・まだ九時にもなってねぇし、俺一日中寝てたからそんなに眠くもねぇんだけど・・・」

「そんなはずないわ、竜児は眠いの、眠いに決まってる。だから私が寝かしつけてあげる。ついでに私も寝るわ、一緒に。
 今日はずーっと竜児の看病してたから疲れちゃった。あー眠い眠い。ほら、さっさと寝るわよ、竜児。
 ・・・さっきの事は、ぴろーとーくでゆっくり聞くことにしたから。今夜は寝られると思わないことね」

「寝んのか寝ないのかどっちだよ!? しかもお前それ絶対使い所間違ってるぞ!? ・・・や、泰子、なんとかしてくれ!」

「えっとぉ〜玄関の鍵はかけたしぃ、雨戸も閉じたしぃ、ガスの元栓も切ったしぃ・・・」

「イー! いぃ、いいいいぃ・・・いぃ〜んぅ〜・・・・・・ぽっ」

「あ、インコちゃんのカゴにシートしてあげてー・・・はぁい、おやすみぃ〜インコちゃん。
 戸締りはこれでいいしぃ・・・うん、だいじょぶ。それじゃ寝よっか、竜ちゃん。
 あっ、大河ちゃんはやっちゃんのお部屋とお布団使っていいよぉ〜。やっちゃんは竜ちゃんと寝るから」

「・・・竜児、私頭が痛くなってきたわ。それに寒いし、きっとあんたの風邪がうつったのよ。
 責任取ってしっかり暖めなさい、キツく抱きしめてね」

「頭痛ぇのは俺の方なんだよ、いろんな意味で・・・なんか熱までぶり返してきたかも」

「たぁいへ〜ん。竜ちゃん、もう寝よ寝よっ」

「あっ、ちょっとやっちゃん!? 待っ・・・脱ぐなぁぁぁあ!」

「ぐぇっえ・・・いい、いぃぃいいい・・・いんぽ、いんぽ・・・いんぽ・・・?」

                              〜おわり〜
434174 ◆TNwhNl8TZY :2009/11/02(月) 11:20:18 ID:qapUpQRf
おしまい
435名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 14:16:08 ID:1TFwYES3
やばい
本当におもしろい
436名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 14:53:19 ID:mSRJkBt7
(・∀・)イイ
437名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 15:28:39 ID:0G+mOeTr
俺の腹筋を返せwwwwwwww
438名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 16:32:26 ID:TqndGjjt
>>394
台詞は竜児だけど、語りが、涼宮の前の席の奴っぽいな。
腹黒様の方も続きお願いしますよ。待ってますよ。
>>405
麻雀はルール解らないからアカギ見て覚えます。やっぱり、ルール知ってた方が面白いよね。
ルール解らないなりに楽しく読めました。GJ
>>434
新しい路線の可能性を見た気がする。ギャグドラも良いなぁ〜
439名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 16:35:35 ID:TqndGjjt
下げ忘れた…皆、ゴメン。フライング土下寝で許して欲しい。⊥〇
440名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 19:24:51 ID:cOMbQMXR
>>394
修学旅行前に剃っちゃうなんてすげーな。
合宿前にキスマーク付けたら本気で怒られたのを思い出した……。

>>434
本気で競う櫛枝が面白くて好きやな。
これの前の話も竜児のフラグの立てっぷりが面白かったし
今回も面白かったです。
441 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:31:12 ID:Re00zl7f
皆さんこんばんは。
[キミの瞳に恋してる]の続きが書けたので投下させてください。
前回の感想を下さった方々、まとめて下さった管理人さんありがとうございます。

今回は麻耶視点、性的描写があります、苦手な方はスルーしてやってください。
スレの残り容量的に途中で投下が出来なくなった場合は次スレで改めて投下します。
それでもよろしければ読んでやってください、では次レスから投下します。
442 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:32:05 ID:Re00zl7f
[キミの瞳に恋してる(8)]

予定はあくまで予定、先行する事も遅滞することもある。
本来なら週末に『スキンシップ』したかった、タイミングが合わず今日まで事前準備ができなくて焦った、それが真実。
それに加えて奈々子から届いたメールで不安に駆られたのも予定を前倒しした要因。
『チェリーは美味しい』
何の前触れも無く届いたメール、それが何を意味しているのかくらいは私にもわかる。
チェリーって……『ど、どーてー』って意味じゃん、それが美味しいって…つまり……。
「ねぇ、ベロを出して…」
能登は誰にも渡さないもん、全部…私が貰うもん。
奈々子が私をからかうためにメールしてきたのは解っている、けど…やっぱり不安になっちゃう。
「こ…うでいい? ……っふ」
だから能登が余所見しないように……私の存在…『女の木原麻耶』を刻む、目一杯に背伸びして…。
唇を僅かに開き、突出した彼の舌に私はしゃぶりつく。
「っ…ん、ん、ふ…んむ。ちゅっ! ちゅ…くっ」
唾液を含ませた唇で甘噛みし、舌先を絡めて優しく吸い付く……何回も何回も…。
抱き抱えた彼の頭を何度も抱き直して顔の位置をずらし、深く深く口内へ受入れていく。

443 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:33:06 ID:Re00zl7f
「ふ…っ! ふっ…っ! んんぅ、は…ふ、ちゅぷちゅぷ」
ただ夢中で舌を絡め、唇で締めながらゆっくり抽送し、彼を淫らに貪る。
本当は『こういうキス』をするのは顔から火が出るくらい恥かしい、でもしてみたい、能登が悦んでくれるならしてあげたいの。
能登の手が背中を擦り、一方の手がお尻を撫でる。ムズムズする…くすぐったいし、ゾワゾワしちゃう。
「は……。ん…、ふ、あ…っ…ちゅぷ」
彼の手が、舌が、唇が私を蹂躙し始める。フトモモを撫でられて揉まれる、重なった唇が私を捉えて舌が口内を探る。
恍惚しながら彼の舌を絡め取り、更に奥へと引き寄せてみる。
互いの淫れた喘ぎ、浅く荒い鼻息……熱に絆されて汗ばむ。
未経験の熱で融け、フトモモで引き寄せた彼の腰に密着し下腹部同士を擦り合わせ……発情していく。
「っふ! あ…だめ、まだ…足りないよぅ……んんっ」
能登の舌を優しく噛んだ後、離れていく唇が名残惜しくて…息継ぎの間も無しに今度は自分の舌を彼の口内へ…。
わがままな私を能登は可愛がってくれる。
なんて…言ってみる、実は二人共いっぱいいっぱいなの。


444 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:33:46 ID:Re00zl7f
キス…する毎に……ビクッビクッてなっちゃう、そして身体を触れ合って戯れるから相乗して…余裕が無い。
弾かれ、吸われ、酔わされ…目の前に霞みが掛かって強張った身体が緩けていく…。
なんだかんだ能登は男の子…で、私は虚勢を張ったところで弱くて…。怖々と堅持していた守を解かされる。
「っは…木原…ねぇ木原…、胸を…さ、触ってもいいよね、見たいし、他にも……っ痛ぇ!」
そんな甘く蕩けた感覚が不意に終り、興奮した能登が私を組み伏せるの……獰猛な雄になっちゃった。
求められる羞恥の照れ隠しに、私は彼の背中に爪を立てて紡ぐ、目なんか合わせらんない、よ。
「必死…、鼻息が荒い、わ、私は逃げないんだから……焦らないで、いちいち聞かなくて、もいいよ。
んん…何でもさせてあげるし、し、しし…"してあげる"から…がっつくなっ……エロ能登…」
嬉しいけどツンツンしちゃう…戯れるのは初めてで不安だから…。
視線は彼の右耳、注意は彼の全身に向けて……虚勢を張る『フーッ!!』って猫みたいに威嚇する。してしまう。
でもこのままじゃ…また能登を不安にさせてしまう、なら自爆する前に……頑張ってさらけ出す。


445 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:34:41 ID:Re00zl7f
「………がっつかれたら怖いよ…優しく…して」
ツンツンした後はデレデレ。
『私はキミから逃げないよ、離さない…』
そう紡ぐ代わりに大好きな能登へ口付けを贈る、唇より…もっと印を刻みやすい首筋に…。
強く…強く、内出血するくらい吸い付いて…素直じゃない『麻耶』のマークを残す。
誰が見ても解る部位に私の痕跡を刻む、男女の契の証を…。
「木原、俺…優しくするから怖がらないで……」
証を能登も私の首筋に残してくれる、私に負けないくらい吸ってくれる、押し付けられた唇の柔らかさに……融解される。
薄暗く寒い部屋の中で私達は互いを抱いて熱くなって……汗ばんで溶け合う。
「んん、もうちょっと…左、う…行き過ぎ、戻って…。うん…そ、そこを持ってグッて寄せて…」
能登の手が背中をまさぐる、下着を外そうと探るんだ……。私は身を捩らせ、場所を伝える。
外しやすいように身体を起こそうか、とも思ったけどやめた。だって能登にくっついていたいもん。
「ふ…、あ……ん」
四苦八苦しながらホックを外し、彼の手は私の胸元へ……下着を取ろうとして指が当たって……くすぐったい。


446 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:35:24 ID:Re00zl7f
「っん! ん…は、は…はっ」
そして…ほんの少し身体を起こした能登の手が胸に触れ、五指が埋められ、ぎこちなく動き始める。
痛気持ち良い…って言うのかな? 自分でも揉んだりしないから…ちょっぴり痛い、けど…肩が震えるくらい気持ち良いの。
「あ…、あぅ…は……、んくっ…んん……のと…ぉ」
彼の手の平で私は沸き上がっていく…熱情にチリチリ…と理性を端から燻られる。
痒い所に届かないようなもどかしさ、彼の興味深々な指遣いが堪らなく愛しい。
「ふ…あっ! くふぅ…はぅ…はうっ!」
彼の唇が乳首に触れ、舌先で転がされ私は焦がされる。断続的にちゅぱちゅぱ…と優しく吸われ媚びて甘えた声が漏れる。
美味しそうに能登がしゃぶりつく、その姿が可愛いとさえ感じる。
彼の頭を抱いて、心地よい疼きを瞼を閉じて甘受する。不安、怖れ、それらは快感の波間へと沈んでいく…。
「ふっ! ふぅ…っ! ふあぁっ!!」
強く吸い付かれ、唇で圧迫されて引っ張られ…、舌で蹂躙される。
乳首がジンジンしちゃう…淡い刺激と電流に痺れ絆されて蕩ける。
「はふっ…! んっ! あうぅ…」


447 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:36:04 ID:Re00zl7f
両方の胸を能登に悪戯される…右胸は強く揉まれ、左胸は赤ちゃんみたいに吸われる。…蕩けそう。
「あっ! の、とぉ…っ……ひあぁっ! 」
背筋を駆け抜ける電流に私は虜になる、強く吸われて舐められ…噛まれて切なくなっちゃうの…。
お腹の中がだんだん熱くなっていって、息があがる…初めての経験で、自分がどうなってしまうのか不安…怖い、けど興奮してる。
「の、の…能登ぉ……は…ぅ私…怖いよぅ、気持ち良くて……怖い」
その入り交じった感情を彼に紡ぐのは庇護が欲しいから…。
どこまで墜とされるか不安で、怖いけど見て見たくて…そして彼に護られたくて右手で引き寄せる。
「だっ…大丈夫、俺が居るから…」
返された言葉の優しさ…短くても想いは深い、安心させようと左手を繋いでくれる、強く深く…。
「木原がまだ無理だって思うなら…止めよう? 無理してたら…イヤだし」
そう言ってくれる能登の顔はここからでは見えない、けどね私は強くなるもん。ここで逃げたら何回だって言い訳して逃げちゃう。
「す、るもん…能登と…したい。無理なんてしてない」
繋いだ手をギュッと握り返し、彼の身体の下で身を捩らせる。


448 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:36:45 ID:Re00zl7f
「へ、変な声とか出ちゃうし…確かにそ、その…色々と恥かしいの、お腹の中がキュンッてなっちゃう、けどね……全部見て欲しい…。
能登に…全部見て貰いたい…って想ってて…あの……うぅ…好きだから……大好きなの、だから…恥かしいけど頑張る」
私は彼の身体の下から抜け出しベッドの上で相対する。
逸らしてしまいそうになる視線を合わせて、身を隠す最後の下着に指を掛ける。
でも掛けただけで止まる…、実は昨日…お風呂で『失敗』しちゃって…見せるには勇気が居るの。
「やっぱり見たいよね? 能登は見てみたいよ、ね…わ、私も見てみたいかな…って想うし…。
一緒に脱いだら……恥かしくないよ多分、あぅ…能登のちんちん…見せて?」
何故こんな事を言っているのか自分でもよく解らない、私は……能登を知りたい、から…それだけしか解らないけど…。
ああ…言い訳してる、うん…正直…『いいかな』って想っている自分が居るんだ。
『最後まで』しても能登は幻滅しないし、私に優しくしてくれる。
根拠は無いけど…そう感じている、心の奥底で想っている。
戯れ合うだけなら身を任せれば済む、けど私は…自身からも動いて彼に抱かれたい。


449 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:37:41 ID:Re00zl7f
想いの発露、焦がれた相手に『女』にして貰いたいと願うのは自然な事だよね?
『私は貴方の色に染められたい』
今日は無理だとしても…これを布石にして繋げて、次の機会に…。
「うぅう…お、落ち着けぇえ…俺落ち着けよ。あ…あああ…ちょっと心の準備が…」
能登が頭を抱えて苦悩し、そう言う。勇気が…出ない? 恥かしい? そっか私も、だよ?
「ん……ドキドキしてるね」
私は彼の胸板に頬を寄せ、耳をつけて高鳴った心音を確かめてみる。
トクントクン……彼の背中に両手を回して鼓動を聞く、強く速く…逞しい。
「私も…ドキドキ……しちぇ……してるし。一緒だ…ね」
二人で一緒に進めば怖くない、能登が勇気を出せないなら私が引っ張ってあげる。
能登の身体から離れて今度は私の胸の中に彼を誘う。ギュッて…頭を抱き抱えて…ドキドキを聞かせてあげるの。
「ねっ? ドキドキしてるでしょ、能登も私も……。怖くない…怖くない」
私は彼の頭を撫でる、優しく…しっかり…。不安なのはお互い様、助け合おう。
「き、木原…っ! そ、その俺…あー自分のモノに自信が無くてっ!
って何言ってるんだ、あれ? あ…うぁ、えっと…」



450 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:38:40 ID:Re00zl7f
能登はガッチガチに緊張、私の胸の中で暴走する、可愛いなぁ…。
ちょっと余裕ってか…緊張がほぐれたかな? うん…今なら大丈夫。頑張れ私っ!
「う…私は気にしない…てか他の男子のなんて…知らないし、比べようがないし…。
私は……能登のだけ知りたい…、能登以外を知りたくないから……。
私が知っているい、一番おっきい…のは能登の………ち、ちんちんだ…けになるしぃ」
何回、能登と言ってんだ私、あう…恥かしい。け、けど! こう言えば…伝わるよね? 『私は能登だけ見てる』って!
「そ、そう…か、うん、俺も……木原だけを知りたいし、見たい…わ。見せて…くれよ」
彼は嬉しそうに照れつつ返してくれた、胸がキュンッてなる…堪らなく愛しい。
『この人になら全部任せれるよ…』
そう想える、私は強くなれる。
「脱ぐ前に言っとくけど実は……私、昨日…お風呂で失敗しちゃって…ぜん、ぶ…剃っちゃって……。
無駄毛を整えようとしたら形が左右で変になっちゃったから……また整えようとして…失敗して…。
気付いた時にはツルツル……になっちゃってア、アソコの毛が…………無い、の」



451 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:39:41 ID:Re00zl7f
そう、『失敗した』とはそういう事。陰毛を整えようとして…間違って…ムキになって剃り続けたら…無くなってしまった。
「マ、マジっすか? お…おお、いや…それはむしろ…ぎ…う倖」
相対した彼はブツブツとそう言う、何を言っているかまでは聞き取れないけど、まあ反応は悪くなさそうで胸を撫で下ろす。
「あはは…マジ、で…さぁ…能登」
私は彼の手を引きつつ仰向けに寝転がる、どうせ『見せたり』『愛し合う』なら…一緒に。
能登の手を下着まで持っていっておねだりする、目一杯に甘えた声で…。
「…脱がせて?」
彼が生唾を飲み込んだ音が聞こえ、続けて素早く頷く。鼻が触れるくらいに近付けた顔は真っ赤で…多分私も同じ、赤くなっている。
「くす…能登の顔真っ赤だし」
「木原だって…」
そう言った後はジッと見詰め合う、身動ぎ出来ず…ただ彼に身を任せる。
「ん…」
そして下着がゆっくり脱がされていく、端に差し込まれた指が徐々に下がって…フトモモに触れる。
少しお尻を上げて手助けしつつ、私は亜美ちゃんからの『アドバイス』をいつ実行しようか考える。
奈々子のメールと入れ替わりに届いた『アドバイス』を……。


452 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:40:46 ID:Re00zl7f
それは『二人一緒にしか』出来なくて、気分的にも良いらしい。
そして凄く恥かしくて…エッチな行為というか体位? じゃなく体制というか…。ともかく私はそれに誘おうと思っている。
亜美ちゃん曰く『甘えん坊さん』になれるらしい。
「ねぇ…能登も……」
それを私から促すのは恥かしい、でもね…気付くまで待っている、受け身、そういうのはもう止めると誓った。
だから……私から能登に紡ぐ『して欲しい事』 『してあげたい事』それらをしっかり伝える。
「あ…ごめん、今脱ぐから」
そう言って彼が自身の下着に手を伸ばす、そして私はそれを止どめて囁く。
「私が脱がしてあげる、ねっ?」
私の言葉に彼は震える、恥かしそうに…。
半端に脱がされ、左足首に掛かった下着を抜いた後、彼の下着に………。
端から指を差し込みゆっくり脱がす、慎重に…丁寧に。
「ん、ちんちん…引っ掛かっている…し、ん…ん? 脱がしにくいや」
そう言ったのも実はわざとなの…、望む行為へ自然に移行する為の『ウソ』 ごめんね。
私は身体を動かして彼の横に移り、下半身の方へ頭を向けて寝転がる。
『シックスナイン』というらしい、亜美ちゃんが教えてくれた。


453 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:41:55 ID:Re00zl7f
「き、木原っ! ヤバいって、この格好はヤバいって!」
能登は気付いたみたい…『今から』何が起きようとしているか。
うわずって…ほんの少し期待に満ちた声、当惑じゃなく『期待』なのだ、なら私は……。彼のお尻を持って仰向けから横向きに身体を動かす。
続いて下着を一気にずらして初めてのご対面、え………あう、うん、え、あ…うわ…これが…能登の…。
私は羞恥で固まる、…ちんちん…って結構大きいんだ、ね? おヘソに付きそうなくらい上を向いててヒクヒク…してる。
ほんの数センチ先の未確認生物…それが第一印象だ、能登に言ったら怒るかなぁ?
あ、でも! か、かわいいかも! えっと…えっと…ピンク色で、あれ…オットセイみたいで、あはは! あ…う。
「能登ぉ…あ、あのね…ぺ、ぺぺ……ぺろぺろしてあげよっか? うぅ…その私だけ気持ち良くして貰うのもあれだし。
い、一緒に……はう…"気持ち良い事"……しよっ?」
私はそう言ってちんちんの根元を両手で支えて…。
「え!? あ…ちょ……待っ…っ!?」
舌先をゆっくり近付けて…第一歩を踏み出す、大好きな能登にしてあげる初めての『スキンシップ』だ。


454 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:43:13 ID:Re00zl7f
勇気を出して先っちょを一舐め…二舐め…彼の腰が震える…ビクッビクッ…て。
「ん…ふ、ぅ、ふっ…」
『亀さんの頭』だっけ、そこを私は舌で舐め続ける……ミルクを飲む子猫のように。
こ、こうで良いんだよね? ねっ?
凄く気持ち良さそうな能登の喘ぎを聞いて私は嬉しくなる、だから彼の形を確かめるように舐め回す。
「ふ…あ、ぴちゃ、んん、ぴちゃ」
突出した舌先でちんちんに唾液の軌跡を残していく、優しく…ゆっくり。
「能登も…んぅ……して?」
フトモモで彼の頭を引き寄せ、未知の世界へ誘う。一緒に溶けようと…。
「んあ…あ、ふっ…ぅう。ん…くちゅ」
能登の鼻息が秘部をくすぐる、それだけ顔が近くに『在る』んだと実感すると恥かしい。
そして…下腹部から沸き上がる蕩けそうな快感、彼の唇が『麻耶』に触れて舌で抉開けてくる。
ぬるぬるした暖かい舌が私をなぞる、一瞬フワリと翔ぶ…続いてジンジンと痺れる。
「ふあっ!? あ…う…ぅ、ちゅぱ…はっ!」
身体が熱を帯びて疼く…痺れと甘い霞を伴って…思考を止めさせる。
私に出来る事は眼前の彼に熱情を込めて尽くし、施される愛情に震える事だけ。


455 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:44:19 ID:Re00zl7f
それ以上の事は出来ないし、それ以上は存在し得ない、私達が今行える最大限のスキンシップで契り、気持ちを深める。
能登の指が秘部を拡げ、自身でも慰めた事の無い部分を擦る。私はちんちんの筋に沿って唾液を刷り込んで返す。
「はっうぅ…。ちゅっ! はふっ…! ぴちゅ…っ」
ヤダ…見ないで、そんな所は見ないでよ恥かしいからエ、エロ能登…。でもお互い様、能登が興味深々なら私も同様だから。
ちんちんの先に唇を押し付けて舌先で小刻みに舐めてみる、『一番先っちょ』ここが気持ち良いみたいだから…。
甘く吸い付いてちょっと強めにクリクリ…抉ってあげるとちんちんがお辞儀するの、ピクンピクンって…快感の強さに比例して変化する。
秘部を蹂躙され蕩ける快感に本能が呼び覚まされ、研ぎ澄まされる。敏感な部分から膣口まで這う舌が私を淫れさせる。
気付いた時には引き寄せた能登の頭をギュッと挟み込み、彼の…鼻に唇に『麻耶』を押し付ける自分が居た。
「んっ! んっ! あはっ…っくふぅ…! ちゅぷ…」
形容しがたい痺れと電流、視界も思考も霞み掛かって…身体中を羽毛で撫でられるようなむず痒さに襲われる。

456 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:45:27 ID:Re00zl7f
膣やその奥…はムズムズを通り越して熱を伴って疼き、止む事なく私を切なくさせる。
胸への愛撫より強く、切なく、総毛立つ電流に逃げ腰になる私を能登が掴む。
お尻をね…掴まれてグイッ…て寄せられちゃうの……。
堪らない熱情に燃されて私は啼く。甘く媚びた艶声で…。
「んあっ! く…んんっ、はっ…は…あむ…」
トロンと蕩け頭を振って『イヤイヤ』して媚びる、無垢な身体に覚えさせられる『性』に悦び身体を跳ねさせる。
だから私も彼に覚えさせたくなる『キモチイイこと』を…。喘ぎながら口を目一杯開けてちんちんをパクッて食べてあげる。
「ちゅぷ…ふ…あ、くちゅっ! んっ! ちゅっぷ」
「っうあ!! き、きは…らぁ!」
全部は呑めないけどちんちんの頭を含めて全体の三分の一までは大丈夫…それ以上は喉に当たりそうで無理…かな?
唇を窄めて口内で舐め回す、飴玉をしゃぶるように舌で転がす。すると能登が私の名前を呼んで啼く。
「ちゅぷっちゅぷっ…ちゅ…ぷ、んう、んっ? んんっ…」
断続的に吸い上げ唾液と舌を絡ませる、ゆっくり抽送して唇で締めると、私の口の中でちんちんがおっきくなっていく…。


457 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:46:56 ID:Re00zl7f
「んむ…んっ! ちゅぶ! ちゅっ…ぷ、んは…あっ!」
彼の唇が敏感な部分に触れて…強く吸われる、そして舌先が躍る、弾いて、抉って、転がされる。
強烈な電撃が私の身体を巡り、快感という名の痺れを残し、刻んで、果てること無く続く。
背中が反って、息があがる…ううん出来なくなる、甘い甘い霞の中で迷い、捕まり抜け出せなくなる。
ゾクゾクとした震えが下腹部から背中を伝って思考を曇らせ本能を揺する、トロトロに蕩けてしまう。
だからか私は強く能登を求める、経験なんて無いのに彼を本能で欲している。
「ちゅぷちゅぷ…ちゅっ! ちゅっ! んは…あむ…っ!」
『サカリのついた雌』になって求愛し、口内で彼を発情させようとねぶり回し…唾液と共に溢れ出た精を啜る。
苦くて…青い能登の体液、それが精液では無く先走った体液だと…生き物として知っている、本能で解っていて…。
蕩けた思考で彼が興奮していると察し息継ぎの時間すら惜しい、と…しゃぶりついて…強く激しく抽送する。
エッチな気分…なんて通り越して私は『スケベな娘』になっている、舌で頬で上顎で彼を貪る。


458 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:48:10 ID:Re00zl7f
熱く疼く秘部を彼に擦り付け、覚えたての快楽を…欲求を自ら慰めてしまう。
そして『もっと愛して…』と媚びる、大好きな彼と互いの熱を共有し果てるまで戯れる。
「のとぉ…。っはぁ…はあ…んん…」
私は彼の顔に跨がり、腰砕けになった身体を震わせてサカる、もっと『キモチイイことをして』と行動で訴える。
そう、私は甘えん坊になってしまう…。亜美ちゃんが教えてくれた通りな『甘々のフニャフニャ』になっちゃった。
秘部に沿って舌がねっとり一往復二往復、敏感な部分を転がされる…強く吸われて唇で甘噛みされる。
「はうっ! んあぁ…あ…の、ひょぉ……蕩けちゃうよぅう…ひあぁっ!!」
そう啼いて腰をフリフリして求愛する、本能で覚えている『雄に庇護を求める術』を自然と行ってしまう。
脳味噌が…『ふっとー』しちゃうよぅ…。
お尻をモミモミ…アソコをちゅぱちゅぱ…能登がエッチな音を立てて私を貪る。
能登のちんちんを頬張り、唇で敏感なカメさんを甘噛み…舌をねっとり使ってしゃぶしゃぶ…。
口内でビクッビクッて暴れている、凄くキモチイイんだ? ちょっと嬉しいかも……。
と更に情熱を込めて愛撫する。


459 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:49:27 ID:Re00zl7f
「うあ! で、射…ちまうよぅ! あ、ああ…木原ごめんっ!!」
それは突然だった、能登が身を捩らせ始めて落ち着きが無くなっていく。
荒々しく私を貪り、堪らない刺激に絆されて私も強く返す…そのやり取りを繰り返していたら…能登がそう叫んで腰を私に押し付ける。
「んっ!? ん…くっ! けほっ!!」
その瞬間、口内でちんちんが跳ねて…喉に熱く勢いのある飛沫が当たり噎せてしまう…。
ビックリしておもわず口から離すとその飛沫は私の顔面を直撃、粘っこい熱い液体……あ、これって……能登の……。
慌てて口内へ咥え直して、舌で彼の迸りを受け止める…そうしてあげると悦んでくれるんだよね?
そう、能登が射精したのだ…我慢出来なくなったからかな…?
ともかく…私は彼と戯れ合って……擬似性交をして………お、おくしゅり…じゃなくて射精に導いた。
他でもないこの『私』が、だ。
大好きな彼を満足させてあげれたのだ、なら亜美ちゃんや奈々子の言っていた台詞を言えばパーフェクトになるんじゃ?
全てを吐き出して痙攣するちんちんから口を離して私は起き上がる。


460 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:50:30 ID:Re00zl7f
彼の顔から降りて少し振り返って様子を見てみる、恍惚の表情というか蕩けた顔? をして肩で息をしている。
うん大丈夫だ、今なら効果抜群に違いない。私は口元を右手で押さえて左手で彼に手招きする。
「あ…木原? ご、ごめん俺…我慢出来なくて、驚いたよな?」

我に返り慌てふためきながら能登が身体を起こして私に謝罪する、けど私はジッと見詰めるしかしない、出来ない。
口の中はせーえき…があるし…ね、喋れないじゃん、てか…その…ええいままよっ!
ネバネバだし苦いし青臭いしっ! マジこれを飲むの!? って感じじゃん………うぅ、でも飲まなきゃ言えないしぃ! 行ったれ!
「んくっ…んぅ……う」
意を決して口内に溜まった唾液と共に能登のせーえきを飲み込んでいく…苦しい。
喉に絡み付くし、苦いし……噎せそう、だが数回に分けて私は咀嚼する。
「んふっ…う……お、おく……」
額に掛かった精液を人差し指で絡めとり、しゃぶりってみる。やっぱり苦い…ごめん、不味いです。
でも、能登の……だから大丈夫、いつか好きになるかも…ね?
指しゃぶりしたまま熱っぽく、上目遣いで彼を見詰めて私は紡ぐ、魔法の言葉を……。



461 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:51:14 ID:Re00zl7f
「おくしゅり……おいしいでしゅ」
そう聞いて唖然とした彼、ピタッて固まっちゃうの……ひ、引かれたかな?
と思ったのも束の間、徐々に能登の顔は真っ赤になっていき…ボンッ! と効果音が聞こえてきそうな勢いでショートした。
..
.
「ごめんって…マジ嬉しかったからテンパっただけだって……」
それから十分ばかり後、私は羞恥で顔を真っ赤にし涙ぐみつつ彼に背を向けていじけていた。
能登が暴走して恥かしい事ばかり言ったから……だ、ぜーんぶ能登のせいだ。
『ヤッベェ! ヤベェよ! マ、マジ? おくしゅりっ!? もう一回言って!』
だの
『お、俺も木原の愛え……ぐはっ!』
とか叫んで……二つ目は最後まで言わせなかったけど…。
ミゾオチを手刀で突いてしまったのは不可抗力、そうしないと彼は暴走し続けるだろうから。
てか…これじゃ『ラブラブ』じゃなく『変態』じゃん、うぅ…痴女だよ。
ま、毎回…飲んで、おくしゅり〜って言わなきゃ駄目になるから…。
私は友人達と浮かれていた自分を呪っていた。後悔ともいう。
腹いせに能登のTシャツで顔に飛んだ精液を拭いても私の心は晴れない。



462 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:52:46 ID:Re00zl7f
………ううん、また『ウソ』を言ってしまった。
なんだかんだ言いつつ私は照れているだけなのだ、大好きな彼が暴走してしまうくらい悦んでくれた事が嬉しいの。
大きな一歩を踏み出して成功し、仲良しになれたのが幸せで…見てみたかった未来の関係を垣間見て照れまくっているだけ。
素直じゃない私はフテたフリをして彼の気を惹こうとしているだけ。
不機嫌そうにツンツンしてみせて彼を困らせているだけ…。
「お、お昼寝っ! 私が起きるまでギュッてして、離さなかったら……許してあげるっ!!」
私は背を向けたまま彼にそう言って被った掛布団の中でモジモジ…。
自分でも言うのはアレだけど可愛くない、わがまま…。
でも…それしか出来ないもん、これしか考えが浮かばないもん。
「わかった…、ん、後ろから抱き締めてで良い? それとも…」
そっと背後から抱き締めてくれた能登、やっぱり優しい…私のわがままを許容してくれる。
「真正面からに決まってるじゃん、気付け………にぶちん」
私はいそいそと身体を反転させて、そう呟いて彼の胸の中に収まる。
「う…悪かったね、どうせ俺はヘタレの鈍感で可愛くない奴さ」
彼は自嘲しつつも私を包んでくれる…。
一つの枕を共有し、彼の胸板に頬を寄せて収まりの良い場所を探る。
「ウソ……能登はカッコいいよ」
最後にそう言って私は意識を手放す、心強い彼の温もりに触れ、充足感に包まれながら………。



続く
463 ◆KARsW3gC4M :2009/11/02(月) 22:54:12 ID:Re00zl7f
今回は以上。エロ分が少なめで申し訳無いです、次回からは濃ゆくしますので勘弁してやってください。
では
ノシ
464名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 23:34:51 ID:/vtK+xDV
乙乙

容量>レスとか昨今稀に見るスレだ
465名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 23:41:02 ID:nLJgF3oP
、、
466名無しさん@ピンキー:2009/11/03(火) 00:05:43 ID:G73E14ly
川嶋安奈が不法薬物所持で逮捕
って電波を受信したんだけど、流石に不謹慎かな?
竜児の親父は確実としてやっちゃんも若い頃は…いやいやそんな訳ないな
467名無しさん@ピンキー
それはあーみんが苦しむのが見えてるからなあ…個人的にはあまり読みたいと思わないが、書きたいのなら別に止めはしない