Q投下したSSは基本的に保管庫に転載されるの?
A「基本的にはそうだな。無論、自己申告があれば転載はしない手筈になってるな」
Q次スレのタイミングは?
A「470KBを越えたあたりで一度聞け。投下中なら切りのいいところまでとりあえず投下して、続きは次スレだ」
Q新刊ネタはいつから書いていい?
A「最低でも公式発売日の24時まで待て。私はネタばれが蛇とタマのちいせぇ男の次に嫌いなんだ」
Q1レスあたりに投稿できる容量の最大と目安は?
A「容量は4096Bytes、一行字数は全角で最大120字くらい、最大60行だそうだ。心して書き込みやがれ」
Q見たいキャラのSSが無いんだけど…
A「あぁん? てめぇは自分から書くって事は考えねぇのか?」
Q続き希望orリクエストしていい?
A「節度をもってな。節度の意味が分からん馬鹿は義務教育からやり直して来い」
QこのQ&A普通すぎません?
A「うるせぇ! だいたい北村、テメェ人にこんな役押し付けといて、その言い草は何だ?」
Qいやぁ、こんな役会長にしか任せられません
A「オチもねぇじゃねぇか、てめぇ後で覚えてやがれ・・・」
813 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2009/01/14(水) 20:10:38 ID:CvZf8rTv
荒れないためにその1
本当はもっと書きたいんだがとりあえず基本だけ箇条書きにしてみた
※以下はそうするのが好ましいというだけで、決して強制するものではありません
・読む人
書き込む前にリロード
過剰な催促はしない
好みに合わない場合は叩く前にスルー
変なのは相手しないでスルー マジレスカッコワルイ
噛み付く前にあぼーん
特定の作品(作者)をマンセーしない
特に理由がなければsageる
・書く人
書きながら投下しない (一度メモ帳などに書いてからコピペするとよい)
連載形式の場合は一区切り分まとめて投下する
投下前に投下宣言、投下後に終了宣言
誘い受けしない (○○って需要ある?的なレスは避ける)
初心者を言い訳にしない
内容が一般的ではないと思われる場合には注意書きを付ける (NGワードを指定して名前欄やメ欄入れておくのもあり)
感想に対してレスを返さない
投下時以外はコテを外す
あまり自分語りしない
特に理由がなければsageる
4 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 13:35:00 ID:m8qmAo2v
新スレおめ
いちおつ
>>1乙でーす!
前スレの埋めネタ超GJ
おくしゅりネタからまさかこんな展開をみせるとはw
つか、おくしゅりとつながっているとは言われるまで気が付かなかったなあ
先にバックグラウンドを作って書くのは楽な作業なんだけど
VMさんの場合、おくすりおいしいでしゅのネタからきっちり
骨組み作ってここまで書いてるのがすげぇ。
毎度の埋めネタ乙っす。長編期待してます。
感動するくらい綺麗に埋まりましたな。
ホントの意味でよい仕事。GJでした。
>>1乙
前スレ、半月ちょいで500も行かずに埋まるとか本当に凄いな
勢いが半端じゃない
埋めネタも質が高いのの連続で素晴らしい
今スレも楽しみだ
皆さんこんばんは。
[キミの瞳に恋してる]の続きが書けたので投下されて頂きます。
前回の感想を下さった方々、まとめて下さった管理人さんありがとうございます。
※微エロ? な描写があります(本番じゃないし、能登は関わらない)
麻耶視点です。
苦手な方はスルーしてやってください。
では次レスから投下します。
[キミの瞳に恋してる(6)]
キス…ってキモチイイんだ。
能登の唇はカサカサして、ちょっぴりささくれていて…でも柔らかくて暖かくて…。
口の中は熱くて、舌はプニプニ…してて……だんだん目の前がトロンって溶けちゃう。
直前にコケたから、血の味がした。鼻血? それとも口の中を切ったのかな? わかんないや。
頭の中がトロトロになって、すごくキモチイイの…そしてエッチな気持ちになる、ギュッて抱き締められると背中がゾワゾワする。
それが私のファーストキスの感想、大好きなアイツと『男女』を本当の意味で意識した瞬間だった。
見えない壁が取り除かれて遠かった距離が一気に縮まる……。
初恋の彼の身体は大きくて…暖かかった。
....
...
..
.
私は浮かれている、何をしても頬が緩みフワフワした気持ちのまま。
アイツへの気持ちを小出ししなくていい、顔色を伺う必要も無い、存分に甘えて、戯れて、気持ちを確かめれる。
それがどれだけ幸せか…言い表せないよ。
人前では自重しようとする、でも少しだけしたくなる。
恥かしくて、まだ素直になりきれなくてツンツンしてしまうのは愛嬌。それでも良いよ、って能登は言ってくれた。
何回もキスした、ギュッて抱き締めてくれた、頭を撫でて、背中を擦ってくれた。
でもそこまで、だってまだ『カレカノ』じゃないから……。
けどギリギリまでは良いよね? スキンシップ。
したいな、私はしてあげたいな。能登はしてくれるかな…『し て み た い ?』
恥かしくて言えないし聞けないよ…昨日の今日だし。
見た目をどれだけ『ぽく見せて』いても私は……恥かしがり屋だから照れちゃう、ツンツンした後にデレッてなっちゃう。
だけど勇気は出す、頑張るもん。私からも…するもん、まだ魅せきれてないから。
震える子猫じゃいられない、能登と別れを惜しみながら離れた後に決意を更に固めた。
そして迎えた翌日、月曜日。今は四限目の授業を終えたところだ。
お昼休み……お弁当を食べたり、さ…おしゃべりしたり……するの、能登と…。
昨日、能登に『明日はお弁当持って来ちゃ駄目』なんて言った、だから頑張った…朝の五時から…いつもより早く起きて。
でも料理は苦手、普段はしないもん…でもいっぱい頑張ったんだよ?
心臓がドキドキ、机に突っ伏して爆睡中のアイツの背後に近付く。
右手に小さなランチボックス、震える左手で彼の背中を揺する。
「能登…、能登ぉ…、ねぇ…起きてよぅ」
何回揺すっても起きないの…アイツ、見られてるし…クラスの子達に。
ザワザワしていた教室内が静寂に包まれ、私と能登に視線が集中する。
亜美ちゃんも奈々子も高須くんやまるお…みんな驚いた顔で固まっている。
転校騒ぎ(未遂)を起こしたばかりで憂鬱気味なタイガーですら目を点にして凝視していて…。
『…木原が能登に話し掛けて、いる…だと?』
なんて感じに見られている、櫛枝以外には…。
あの娘は…もうね、楽しそうにニヤニヤしながら…見てる。
「っ! …の、とぉっ! 起きてって言ってるじゃん! お・き・ろぉおっっ!!!」
注目されて恥かしい…私は能登の耳元でそう叫ぶ。すると彼は身体をビクッと震わせて飛び起きる。
「ひ、ひゃい! す、すいません、俺は居眠りなんかしてないっすよ!!」
「も、もう授業は終わってるし、てか寝てるとかありえない!」
寝ぼけた能登と羞恥でキツい口調になってしまう私、教室内に何ともいえない空気が漂う。
一人を覗いて、みんな状況を把握出来ずに困惑し、何事かと不安に思っているからだ…多分。
「あ、木原……か。…おはよう」
「お、おはよう、あう…こ、これ作って来たんだけど…た、たた食べよ…?」
私は能登の鼻面までランチボックスを近付けて…プイッと顔を横に背けて紡ぐ。
ざわ…ざわ…。
そんな擬音がピッタリだろう、クラスの中が再び喧騒を取り戻す。喧騒? …いや囁きあっている。
「あ、だから昨日…うん、食べようか、じゃなくて……た、食べようよ…一緒に」
そんな彼の言葉に周りから驚きの声すらあがる。ざわっ! って…。
「う、うん。行こっ? 今日は晴れてるし屋上とか…どう、かなぁ?」
うわ…はずっ! 何か恥かしいよ…。
「だね! うん、お、屋上…あはは! いいんじゃない? 行こう! 今すぐ行こうっ!」
能登も恥かしいんだ…ほっぺた真っ赤にしちゃって…慌てていて…あ、いいね、こういうの。
『仲良し』になるのってこういう事を積み重ねていって…みたいな、もちろん……別の『方法』もあるし、したい。
けど、それとこれとは別。人前で出来る事と『二人の時』にする事、そこらへんは弁えなきゃ好奇の目で見られる。
でも能登が『どうしても』って言うなら……なんちゃって。んふふふ♪
私は能登の手を引いて屋上へと急ぐ、浮ついた考えに頬を緩ませながら…。
…この気持ちはバレてないよね?
バンッ! と勢い良く鉄製の扉を開ける、昨日の雨で水溜まりが所々あるけど二人で座るぶんには問題なさそう。
晴れ渡った春空で陽射が暖かくても少し肌寒い風が吹いている、だからか誰も居ない、邪魔されずにふ…二人きりで……。
「そこ座ろっか?」
と、私が指差したのは給水塔の土台の壁際、水溜まりが無く日陰にもならない。
壁に背を預けれるし、何より…見えないのだ、唯一の入口からは絶妙な死角…ココなら邪魔者が来ても大丈夫。
いそいそと目的地に移動した私達は壁を背にして腰を下ろす。
遠慮しているのか少しだけ距離を離した能登と差を詰めてみる、肩と肩をギュッと寄せて密着だ。
「能登ぉ…寒いよぅ…くっつかないと寒いんですけど」
なんて甘えてもみる、内心ドキドキしながら。土曜日みたいに言い訳せずに言えた。
「う…じ、じゃあ暖まる? そ、その俺に名案がっ!」
彼はそう言って私に抱き付いてくる…戯れてくるの、直球で…イヤじゃない。
「が、がっつくな! エロ能登っ! バカッ!」
初めに甘えたのは私、でも…まだ恥かしい、能登にギュッてされて嬉しいのに…『可愛くない反応』をしてしまう。
彼の身体をほんの少しだけ手で押し返す、こういうのは…雰囲気が大事なの、そんな急にしたら…ヤダ。
そんな相反する二つの気持ちが入り交じる。
そして『いやいや!』って…可愛くない反応をしてしまう。
「え、えぇ? ち、違った? てっきりそういう事かなって…」
「そ、そういうのは…もっと人目が来ない…所で、能登の部屋とか…私の部屋で、とか…じゃね、普通。バカ…」
ジッと上目遣いで見詰めて彼を諭す、でも本当は少し残念。臆病な私の不甲斐なさも…強引じゃない能登にも…。
「ご、ごめん。ちょっと浮かれていた、わ。嫌がる事して悪かったよ」
そう申し訳なさそうに言う彼の言葉に偽りは無い、目を見てたら解るもん。
「…んっ」
これじゃアイツが『悪者』になっちゃう。
だから私も『ゴメンナサイ』をする、斜め下から彼に顔を近付けて一瞬だけ口付け。
「今は…これだけ。つ、続きは学校が終わってから…」
これでおあいこ、嬉しそうな能登を見て私も照れつつ、ランチボックスを開ける。
頑張った成果を能登に褒めて貰いたい、ドキドキする、ねぇどうかなぁ?
「おぉ〜サンド…イッチ………だよな?」
「へ?」
そうサンドイッチ、でも何で疑問系なのか? 確かに私は奈々子や高須くんみたいに料理が上手じゃないけど…出来が酷いわけない。
タマゴサンド、ハムレタスサンド、ツナサンド…その三種類しか無いから見間違えるわけ無いよ、ね………って!!??
異変に気付いた私は慌ててランチボックスを閉じる、作った時にはちゃんと出来ていたのに! なんでこうなってるのよ!?
半分は原型が辛うじて残り、もう半分は『サンドイッチのような物』に変身していた。
な、なんでよ! あまりの出来に写メまで撮ったのに、だ、誰かのいたず…ああっ!
私はある事を思い出して、身体から力が抜ける。
『えへへー♪ 私もやれば出来るじゃん? てかマジ上手じゃね、これなら能登も喜んでくれるよ☆』
登校中に自分の撮った『作品』の写メを見つつ、ルンルン気分で右手に持ったカバンとランチボックスをブ、ブンブン…。
あああ…バカ、私のバカッ! ど、どうしよう? こんなの食べさせられない。私も能登も午後からお腹を空かせて………ありえない!
『あーあ…木原ぁ…マジお前にはガッカリだよ、ほんの少しだけ期待してたのに…これって何かの罰ゲーム?』
冷ややかな口調で能登がそんな台詞を言う姿が瞬時に脳裏に浮かぶ。
どうしようどうしよう…。
必死に考えても『嫌な結果』しか浮かばず涙が込み上げてくる…、どうしよう新・仲良し関係二日目から…こんなヘマを…しちゃったよ。
「……木原、俺さ腹がペコペコなんだよね。早く食べようよ」
でも予想とは違い能登は優しくそう言ってくれる。それが堪らなく嬉しくて…悔しい。
「っ…ヤダ、あんただって見たでしょ? あ、あんなの…あんなグチャグチャになっているのに食べさせられないじゃん」
私は唇を噛んで…そう言ってしまう、失敗した事を彼に同情されたのが…ううん違う、自分の頑張りが空振りに終わったのが悔しくて。
「…でも食べたいよ、見た目とかじゃなく…"気持ち"だから…木原は俺の為に……作ってくれたんだよね?」
その言葉は、能登が問い掛けてくれた言葉は事実。だから迷いつつも僅かに頷いて肯定する。
「うん、なら食べさせて欲しいんだけど、良いよね。食べてみたいな木原の作ったサンドイッチ」
その言葉は私の卑屈になりかけた心を融解させ、素直な気持ちを引き出させる。
再び頷いて彼の横顔を見詰め、いや…魅入られる。ワクワク、楽しそうな横顔に…魅せられていく。
私の手を優しく引き剥がし、彼はゆっくりランチボックスの蓋を開ける…。
「よし、まずはツナサンド…っと」
形の崩れたサンドイッチを摘み上げて私に示すように目で合図し、一口…二口。
「大丈夫、美味いよ…木原も食べてみ?」
彼はそう言うと、開いた左手でハムレタスサンドを取って私の口元へ運んでくれた。意識せず…。
ドキッとしてしまうのは仕方無い事、思わず赤面してしまい、能登は不思議そうに瞬く。
「ほら、あーん…」
「あ、あーん…」
意を決して一口…確かに見た目が歪になってても味は変わらない。
鮮度が落ちてもシャキシャキなレタス、ほんのり塩気の薄切りハム、それらにワンアクセントなマヨネーズ。
うん…本当だ。美味しい…かな。
でも興味は彼の反応や味から『されている事』に移っていて…あんまり解らないんだ…。
「た、食べさせて貰っちゃった……」
だからじゃないけど、胸の内で止どめておきたかった『気持ち』が声に出てしまった…。
わざわざ口に出して言うとわざとらしい…、素直になるべきところと、言わなくても伝わるところ、なんか…いやらしいよね。
「ね、狙ってしたわけじゃないし…そ、その俺の手が勝手に動いて…」
私の漏らした一言でアイツは照れる、やっぱり意識せずにしてたんだ…言い訳はしなくても良いんだよ?
「こ、これとかマジにオススメッ! 自信作なんだから食べてみてよっ!」
なら私が能登より『照れること』をしてあげる、そうしたら格好つけなくても良いじゃん。
ちょっとやり過ぎかなって思うけど、はい…これでおあいこ。イーブン…。
私の食べ掛け…なのはイヤかもだけど『あーん』してあげる。
今さら…そう、今さら…照れることないし。間接も直接でもキスしたし…。
ああ…私も自分に言い訳してる、正直に言うとしたいの、こういうの。ラブラブなカップルがしている事を…。
「あ、あーんだよ? あう…の、能登ぉ…」
なんて言いながら…口元まで運ぶ。
他人が見たら『焦れったい! ムズムズするわ!』みたいな? け、けど仕方無いから。
「じ、じゃあ…あ…あ〜ん」
能登は照れまくり、でも嬉しそう。それは私も…かな?
幸せ…。
..
.
「え〜"第一回木原麻耶査問委員会"を開廷? だっけぇ? あーわかんね、…開きますでいいわ」
そう亜美ちゃんに言われたのは放課後、誰も居ない自販機の前…。
「あ、亜美ちゃん? えっと…な、何の? てか…」
「私は異議無し、はい賛成が二人ね。ふふっ…多数決って便利。
さあ麻耶、さっさと白状したほうが良いんじゃないかしら?」
『あらあらまあまあ』と、ニヤニヤ楽しそうな笑みを浮かべて奈々子が問い掛ける。
私は自販機を背にしてジリジリと追い詰められていく。
真剣な眼差しの亜美ちゃん、恋バナに期待している奈々子…二人が私との距離を詰める。
私はチラリと亜美ちゃんを盗み見る、怒っているかな…って。でも解らないの、目が合うとニコッて笑うから…。
彼女達に誤魔化しは効かない、話さなければ開放してくれそうにない。
けど…恐い、言ってしまえばハブられそう。私が今までしてきた事は、非常識で酷い事ばかり…。
彼女達は同年代より『賢い』 『大人』
…だから恐いんだ、でもでも…今さら隠せない、……じゃあ話すしか選択肢はない。
二人は親友だと信じているから……話す。
「………素直になって…仲直り…したよ、能登と…」
『おぉ〜』と二人共、ニヤニヤしながら感嘆の声をあげる。
「でもぉ〜、仲直りより関係は上ってか……ふふっ…こ・い・び・と みたいだしぃ
麻耶ちゃんと能登くんは、もしかしてあれ? もう…ラブラブぅ?」
と亜美ちゃんが言えば奈々子が
「亜美、麻耶達は多分まだ……手を繋ぐのが精一杯な感じじゃないかしら?」
と返し、瞳をキラキラさせて私を見返す。
奈々子は大好物なの、恋バナ……初々しくてもどかしい男女が好きらしい。
「ち、ちゅーもしたもんっ!」
子供っぽく思われるのがイヤで、おもわず拳を握って力説してしまう。
「「きゃ〜っ!」」
でも逆効果…二人は楽しそうに笑いながら、更に詰め寄ってくる。
「え、何々? 何をしたってぇ? 亜美ちゃん、聞こえ無かったよぉ〜」
「うふふ♪ ほら亜美が聞こえ無かったって。もう一回、ちゃんと大きな声で…」
私は羞恥で顔も身体も熱くなる、からかわれている…絶対に。
「い、言わないっ! 二回も言わないしっ…う…、て、てか一つ聞いて良い?」
だから…本格的な話の前に彼女達に聞いておきたい。
それは…
「あ、亜美ちゃんは怒ってないの? そ、そのね…二人共、私がウザいって思わない?」
そう、それが気になる。先週まで亜美ちゃんは怒ってたじゃん、奈々子だって私を煽りつつ何気に嘲笑っていた。
なのに、どうして今は…。
「ああ、ほら…麻耶が""素直"になれなかったのにイライラはしてたけど、別に亜美ちゃんは怒ってなんかない、麻耶ちゃんの勘違いよ」
「そ、そうなの?」
亜美ちゃんがニコニコ顔で笑い、続いて奈々子が頷きながらポンッと私の肩を叩く。
「"ウザい"……んじゃなくて、私は楽しんでたのよ。麻耶がいつ能登くんに謝るか、
二人の寂しそうな姿を見ていると、もうゾクゾクして仕方無かったわ、もどかしくて…ああ。
それに麻耶って反応が可愛いから…ついつい、ねぇ?」
恍惚の表情を浮かべ、頬を両手で押さえてウットリしている。
「で、でも…ずっと亜美ちゃんは怒ってた、よね? 私が素直になれないの、だって…怖かったし」
つまり、私の思い過ごし? でも一番の疑問は解決していない。
亜美ちゃんの冷ややかな眼差しは『ホンモノ』だった、彼女の言う事が解せないのだ。
「知りたい? さっきも言ったけど勘違いだって…素直になった姿を見てホッとしたのはマジ、けど他にも理由があるんだ………」
そう言うと…続けて亜美ちゃんは私の耳元でこう囁いた。
「竜児と口喧嘩しちゃってイライラ + "アレ"の二日目だったの……。
それでさ、ちょっと八つ当たりしちゃった。ゴメンね」
ああ…そういう事? つまり殆ど私の勘違い、考えすぎ、見えない何かにビクビクしてただけ…ね。
そう理解するとガクッと肩から力が抜けた。
「そうだったんだ……あはは」
私は乾いた笑いが込み上げてくる、が…自分のアホさ具合を振り返る暇は無い、私は知りたい事がある。
能登の気持ちを更に引き寄せる『スキンシップ』…それはちょっとだけ知ってはいる、けどやり方が解らない。
「能登が好き…、アイツも私の事が好きだって…ギュッて抱き締めてくれた。
けど…まだ付き合ってない、ちょっとづつお互いの気持ちを確認しよう…って決めたの。
で、でも私は…能登といっぱい仲良くなりたい、から…二人に教えて貰いたい事があるんだ…」
私は彼女達に現状を簡潔に説明する。協力…いや、知恵を貸して貰う為に。
二人は頷きながら、続けろ、と促す。エッチな事を今から聞く、だから…恥かしい。
「ふ…ふぇっ! ふぇふっ……フェラチオのやり方を教えてっっ!!!」
私は羞恥を必死に堪えて、噛みながら聞いてしまう。恥かしい気持ちの照れ隠しに…大きな声で。
「……」
う、うわ…亜美ちゃんも奈々子もドン引き…したかなぁ? いきなりだし…ご、誤魔化そうかな。
ダメダメ! 能登にしてあげたい! 大まかには解る、雑誌でチラ見したから! でも細かいのは解んないんだもん!
どうせなら初めから『キモチヨク』させてあげたい。だから…恥かしいのを我慢して聞いてみた。
「ま、また…凄い事から聞いてくるね麻耶ちゃんは…」
予想外にも亜美ちゃんは食い付いてくれた、面白そうにニヤリと笑って…。
「これは予想外ね、あ…でも。亜美、ちょっと……」
奈々子も同じ、亜美ちゃんの耳元で何かを囁き始め、私をチラチラ見ながらニヤニヤ。
「あー…それ良いかも、ふふっ…け、けどさ…どうせなら」
亜美ちゃんが笑いを堪えながら奈々子に囁き返す。そのやり取りが数回続き、その間、私は取り残される。
羞恥と興味でドキドキ…。俯いてモジモジしながら待つしか出来ない。
この分なら教えてくれそうだ、嫌な予感はするけど………。
「よしっ! 麻耶ちゃん任せなよ"私達"が教えてあげる……ぷぷっ!」
亜美ちゃんがそう言って素早く横まで来る、そして…私の右腕を掴んできた。
「そうそう。"私達"がキッチリ教えてあげるわよ、能登くんをメロメロにする方法…くすくす」
奈々子は私の左腕をブロック。途中で逃げ出さないように……捕獲された。
この感じだと……やっぱり嫌な予感しかしない、だけど聞かないと出来ないし…。と、私は腹を括って頷く。
「ふふっ…じゃあ、まずはムードを作らないと…、麻耶ちゃんだって"そういう気分"にならないと…キスとか嫌でしょ?」
亜美ちゃんが胸を腕に押し付けて耳元で囁く。
「うん…だよね…うん」
彼女が言う事はもっとも、確かに気分が高揚していないと…能登もムラムラしないよね?
「難しいことじゃないわ、適当な理由を作って"触りっこ"をすれば良いのよ、それくらいは頑張れる?」
続いて奈々子が腕に絡ませた手で私の肩を撫でる。
さ、触りっこ……それってつまり……手くらいじゃ済まないって事だよね、お…おっぱいとかお尻…もっと大事なところとか。
「は、はずっ!けど…が、頑張る」
私はスカートの裾を握り締めて決意表明。
「うん…そうしたらエッチぃ気分になってくるから…二人共」
「そうね、それまで麻耶は能登くんに手を出したらダメよ、ずっっと触って貰いなさいな。試しに可愛い声を出してみて?」
奈々子がそう囁き、うなじに人差し指を滑らせていく。そして亜美ちゃんは耳にフーッと吐息を吹き掛けてくる。
「っあ…、く、くすぐったぁ、い…ひゃう」
私は親友達のペースに呑まれていく、ゾクゾクした未知の気持ち良さに…身体が震える。
「くすくす…、まぁいいんじゃない? 可愛い可愛い…、そうやって啼いてあげると男の子は喜ぶから。ふふ、次は前準備、ね」
と、言って亜美ちゃんが私の右手を取る。
「いい? 初めは勇気いるけどぉ…能登くんの"アソコ"を手でね…優しく優しぃ〜く…モミモミしてあげてぇ」
撫でるよりは強く、揉むよりは力は入れず、そう示すように…彼女が私の右手を撫で、揉み…人差し指で甲をなぞる。
「ふ…、うぅ…、優しくだよね? んん…」
「恥かしいなら、ズボンとかパンツの上からでも良いから…、あと…ちゃんと目を見ながら…上目遣いでよ? …してあげるの」
奈々子が悪戯っぽい上目遣いで…甘く囁く。
『能登ぉ…キモチイイ? ココがキモチイイのぉ?』
って聞いてあげてね、と付け加えて…。
私は一回身震いする、奈々子……言い方がエロいんですけど…。
「で、でも…能登がエッチな気分になっているか解らないし…。う…い、いつから始めたらいいか…」
そう、経験済みの彼女達ならともかく…私は解らない。
「そんなの簡単、ムラムラしていたら男の子はモジモジするから。
ハアハア…って麻耶ちゃんの耳元で…興奮しているよ、あとは…嫌でもわかるってぇ」
亜美ちゃんが楽しそうに忍び笑いし、胸に埋めた私の腕をギュッと寄せる。
「焦らしちゃだめだから、頃合を見てズボンとパンツを脱がせてあげて…"舐めてあげる"って言うだけ。
"おっきい"とか"かったぁ〜い"とか言いながら……もしかしたら"被ってる"かもしれないから皮を…剥いて」
なんて…奈々子が耳元で言うの……、か、被ってる? い、意味が解らないし!
「奈々子ぉ…麻耶ちゃんにはまだ解らないって、…見ればわかるから、さ。あは…どうしたのぉ、麻耶ちゃん…顔が真っ赤だよぉ?」
亜美ちゃんがからかうの…解っているくせにイジワルする。
「ふ、二人が…言う事が生々しいから…ひあっ!」
私の左の耳たぶに暖かい軌跡が走る。
い、今、奈々子に…舐められたっ! 耳っ…舐めたよねっ!?
「でも麻耶が言い出したんじゃない、私達も恥かしいけど…我慢してるんだから…ほら続けるよ、こうやって先っちょを…」
『ぺろぺろ』
なんて囁く、小刻みに舐める真似をする。
今度は流石に舐めてはこない、けど…されている気分になる、不思議と。
「ベロでねっとり舐めてあげて、わかる? 全体よ、アソコって亀みたいなもんだから、そうね…"頭"とか、胴体? に当たる部分を…」
『ちろちろ…ちゅぱちゅぱ』
亜美ちゃんも行為で生じる擬音を真似て囁く。てか……亀、アソコって亀にソックリなんだ、ふ、ふ〜ん。
「麻耶のだぁ〜い好きな"ちゅー"もしてあげれば良いよ、全部…出来る場所には全部ね」
「え…え、あう。ちゅー? の、の能登のちんちんにちゅー?」
私の頭の中で『能登』『ちんちん』『ちゅー』『ぺろぺろ』『ちゅぱちゅぱ』と名称や擬音が飛び交う。
ウソ…やだ、す、するの? いやするんですけど、そこまでするんだ?
「そうよ、するの。ってか"しなさい" で…能登くんのアソコを口の中へ"ぱくっ"よ。
亀さんの頭をお口の中でしゃぶるの…歯は当てたら痛がるからしちゃダメ、コツを掴めばラクショーよ」
子供に言い聞かせるみたいに優しく優しく……でもエロい事を亜美ちゃんが言うんだ。
歯は立てない、歯は立てない…。
「最初は入る所までで良いの、無理したらキツいから。
よだれでぬるぬるにしてあげて強めにしゃぶって。
……くすくす、頑張ったら能登くんの可愛い声が聞けるわよ」
マジッ!? うぅう…経験者の意見は大事だ、咥えるだけじゃないんだ。
ゴクリッ! とおもわず生唾を飲み込んでしまう。するとその音を聞いた亜美ちゃんが加虐心をそそられたのか楽しそうに笑う。
「そのまま吸ってあげると…能登くんも堪らないかも。難しいけど、歯を立てずに優しく吸って、強めに"しゃぶしゃぶ"してさ。
唇で締めてあげたりぃ……あ・ま・が・み」
二人の話を聞いている内に私はだんだんエッチな気分になってくる、胸はドキドキ、呼吸が荒くなって、お腹の中が……熱くてキュンッてなる。
切ない気持ち…みたいになって…もどかしくて、気付いたらフトモモを擦り合わせてモジモジしていた。
手の平が汗ばみ、全身が熱くて…震えが止まんない。
「それと口で上下に……それくらいは解るよね? ゆっくりで良いわ、先っちょから根元まで出し入れ」
う、うん…それくらいは解るもん、子供じゃないんだから。それがフェラチオだもん。
奈々子の……イジワル。
「慣れたら速くしてみたり、あ…そうそう、苦しかったら一旦は口から出しても大丈夫。
またぺろぺろしてあげていれば良いし、一休みしたら、また"食べて"…ってこれを繰り返すの」
続けて奈々子が言った後は亜美ちゃんの番、私の頭…ふっとーしちゃいそう、オーバーヒート一歩手前。
「そうしていたら、だんだん能登くんのアソコがビクビクし始めるよ、それが我慢出来なくなってきた合図。
射ちゃう一歩手前、顔とか言っている事でも解るから。
で、……射ちゃったら口の中で受け止めてあげて、ぺろぺろしたりちゅぱちゅぱしながら。
全部出し切れたら、口を離して…ああ無理して飲まなくても良いからさ、見せてあげたりして…。
今から言う事はちゃんと能登くんに言いなよ?」
囁く一言一言がエッチくて、生々しくて、やっぱり高須くんにもしてあげているのか、なぁ?
てか…み、せる? 何を? っ!?
ま、まさか……せ、せせせせー……。
でもそれしか無いじゃん、待て待て…亜美ちゃんは『飲む』って言ったよ! マジなの!?
「そうよ、恥かしくても絶対に言うの。必ず言わないと効果半減。
麻耶…良い? 一度しか言わないわよ……」
奈々子がそう言って亜美ちゃんに頷き、彼女が頷き返したのが解る。
私は何を言われるか好奇心と怖さ、それらでドキドキしながらモジモジ。
そして一拍を置いて彼女達は同時に…左右同時に……口を開く。
「「おくしゅりおいしいでしゅ」」
一瞬…何を言われたのか理解出来ずにいた。
えっと…『おくしゅりおいしいでしゅ?』
何の事……えっと………うん?
何かの喩え? 比喩かな、うーん…おくしゅり、おくしゅり………あっ!?
「お、おおっ! おくっ…おくしゅりぃっっっ!!??」
おくしゅり = せーえき
て事だ。ただでさえ熱くなっている身体が更に数度上昇した感覚を覚えた。
いくらなんでもエロすぎっ! む、無理だよ! てか言ったらアイツもドン引きじゃん!!
「ぷっ! くくっ…くぅっ!! ………あはははははっっっ!!!!」
「くすくすっ!! ふっ! は…ふふふふふふっっっっ!!!!!」
笑いを堪えている二人、お腹を押さえてプルプルしていて…。
亜美ちゃんは大声で笑いながら自販機を手でバンバン叩いている。
奈々子は私に背を向けて亜美ちゃんよりは大人しめに、でもツボだったのか自販機に手をついて大笑い。
私は……やっぱり恥かしいし、からわれた事もだが、行為の仕方を知って……恥かしいし。
「ふ、二人共っひどいよぉっ!! マ、マジ笑いする事ないじゃんっ…はずっ…めちゃ恥かしいんですけど!!!」
私は二人を交互に見ながら…言い訳、てか照れ隠し。
カッと熱くなった身体を震わせて両手をブンブン振って誤魔化そうとする。
「だ、ってぇ…麻耶ちゃんの反応が可愛いしぃっ! くっ……ふふっ!! ご、ごめんってぇ!」
でも必死な私に行動は二人には逆効果。
亜美ちゃんが謝ってくれるが、笑い声は止まない。
「嘘は…言ってな、いからっ!! あはっ! お、お腹が痛い…!」
奈々子はそう言って私の肩を何度も叩く。
そうして二人は笑い続けていた、が、暫くすると目尻の涙を拭きつつ復活した。
「麻耶ちゃんは本気だもんね、ごめんごめん。ま、ともかく背伸びしなくても…ぎこちなくても頑張れば喜んでくれるよ」
亜美ちゃんがそう言って二回頷く。
「ほ、本当? 能登が…喜んでくれるかな」
「当たり前よ"御奉仕"されて嬉しくない男の子なんて居ない筈。
亜美の言った通り、頑張りは伝わるから心配しなくても良いんじゃない?
あ、それと一つアドバイスを…」
奈々子も亜美ちゃんも言葉に妙な説得力があり、私もそう思えてきた。
と、ここで奈々子が携帯を弄りつつ…こんな事を言う。
「三日に一回とか…ちゃんとしてあげないと男の子って"溜まる"から。
我慢させると…能登くんは"悪い事"をしたくなっちゃうわ、男の子特有の"病気"になる。
そうしたら別の誘惑に負けて………なんちゃって」
と奈々子が意地悪な笑みを浮かべて私に笑い掛ける。
意味深な……こ、これが『悪い予感』かな?
『いい加減な事をしていると私が能登くんを食べちゃうわよ』
って事かな? ぜっったいヤダ! 能登は私のだもん、誰にも渡さない!
「そんなこと能登はしないもん、他の娘のところになんか行かせないし」
私は奈々子を牽制してみる、よく言うじゃない
『恋は戦争』
と…うかうかしていたら横取りされちゃう。
わ、私は誰にも能登を触らせないもん! ずっと引き寄せて離してあげないんだから!
「ふふっ…惚気? くすくす」
奈々子のそう言う姿の中に本心は見えない、まあ…冗談に違いない。
もし本気なら誰にも言わずに行動している、彼女はそういう娘なのだ。
「奈々子…からかいすぎ。まあ頑張りな、あ…それと"ほうれんそう"を待ってるから」
亜美ちゃんが手を振りつつ教室の方へ戻っていく…。
「ふぇ?」
「報告、連絡、相談よ。手助けはしないけど、アドバイスならしてあげる」
と言って彼女は帰っていき、奈々子も続く。
颯爽と…カッコいい。私もああなりたい。
ともかく…やり方は解った、あとは実践あるのみ。
明日…いや今日から能登と積極的に触れ合ってみよう。
そして…今度の週末に………。
続く
今回は以上。
普段より少し長くてすみません。
続きが書けたらまた来ます。
では
ノシ
41 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 21:05:07 ID:cI+cG/Os
期待してまってるぜ
KARs様GJ!
どうも。
前スレで、竜児×奈々子のおっぱい星人を書いた者です。
また次レスより投下させていただきます。
・題名:キス中
・CP:竜児×奈々子
・エロ:エロくない
・レス数:3レス
・方向性:やっぱりバカップル(奈々子視点)
またもバカップルです。
とある休日。
竜児くんの家の居間で、ただ一緒にTVを見ていた…はずだったんだけど。
気付いたら肩に寄りかかってて、手を繋いでて、手の甲を指でスリスリしてるうちに
竜児くんの膝の上に座り、空いてる手を竜児くんの首に回し、額を合わせ、キスをしていた。
まあ、要は、いつも通りな展開になってしまったわけで…。
〜〜 キス中 〜〜
「………んっ」
もう何度目だろう。
竜児くんに唇を寄せ、キスをする。
竜児くんが唇を寄せ、キスをする。
柔らかくて。竜児くんの息が少しこそばゆいけど暖かくて。
ただ口を合わせるだけの軽いキスなのに、こんなにも胸が熱くなる。
竜児くんの首に顔を埋め、額をスリスリして甘えていると、
それに合わせて私の髪を撫でていた竜児くんが口を開いた。
「奈々子は本当にキスが好きだよな」
「…キスは嫌?」
「いや、その、するのは全然良いんだけどな」
前髪をいじりながら、ちょっと目をそらす。
「やっぱり回数がかなり多いから、キスそんなに好きなのかなって」
「…そうかしら?」
「おう。さっきもそうだし、しょっちゅうしてるだろ」
そんなに言われるほどキスしただろうか?
先週を振り返ってみる。
…いっぱいしてた気がする。
朝昼晩はもちろん、隙あれば暇あればしてた気がする。
学校自宅関係なく、最低一時間に一回はしてた気がする。
「…どうりで麻耶や亜美ちゃんが最近妙に距離を取るわけね」
「気付いてなかったのかよ」
最近は竜児くんを中心に見て考えて行動してしゃべってたから、
周りとの関係を少しおざなりにしてしまったようだ。
「あそこまでくると、アル中ならぬキス中かと思うぞ」
「…中毒患者扱い?」
「しかも自覚症状ない患者、だ」
う〜ん、と俯き加減で私に言葉を投げかけてくる。
「でも、川嶋たちと疎遠になるのも問題だな。…治療の一環としてキス断ちでもしてみるか?」
「本当に病気扱いなのね…。そんなことしたら余計に悪化すると思うわ」
「…確かに反動というか、奈々子の禁断症状は凄そうだな」
「深刻そうに言わないで」
治すなんて冗談じゃない。
どれだけ私が竜児くんのことが好きか。
どれだけ私が竜児くんに甘えたがっているか。
その二つを同時に表現するのにキスが一番適しているから。
だから、キスをするのだ。いっぱい。
竜児くんが心配してくれるのは分かるけど、麻耶たちはどちらかというと
生暖かい見守り方をしているだけな気もするし。
ふくれてプイっと顔を背けると、机の上にオレンジジュースの入ったコップが見えた。
…そちらが病気扱いするなら、こちらにも考えがある。
「治療法ならあるわ」
「ん?キス中のか??」
「これが薬」
「…どうみてもオレンジジュースなんだが」
私が指差した先を見つめ、頭に?を三つくらい浮かべている竜児くん。
「そう。これを患者に経口投与することで症状が緩和されるかもしれないわ」
「…かもしれない、のかよ。まあ要は飲ませろってことだろ」
やれやれとばかりにコップを手に取り、私の口に寄せてくる。
でも私はそれを指で押し留めた。そんな簡単には終わらせない。
もっと甘えてやるのだ。
「実は投与の方法が特殊なの」
「やり方まであるのかよ」
「ええ。口移しよ」
「…は?」
ポカンと口を空け、事態が飲み込めていない竜児くんを尻目に、
私は彼に唇を向け目を閉じた。
「おい」
「……」
「…なんか、すでに症状悪化しないか?」
「………」
「………もしも〜し」
「…………」
強引すぎた?
ちょっと間が空いたことで、不安に思ってしまう。
でも杞憂だった。
密着してるから、スッと竜児くんの腕が動いたのを感じる。
そしてカランと氷が鳴り、コップを置いた竜児くんの手が私の頬を撫でる。
ちょっと爪を立てて擦るのは、子供じみた仕返しをする私を
あやす親のようで。そんな仕草から竜児くんの暖かさ優しさが
伝わってきて、これだけで蕩けてしまいそう。
「んっ…」
竜児くんの唇の感触。
そして、彼が口に含んだジュースがゆっくり送り込まれる。
「……んっ、…んくっ、ん、ちゅっ…」
竜児くんの口の中で温まったジュースが、
より彼の体温を感じられて、頭がしびれそう。
背中から首にかけて、ゾクゾクとした震えが駆け巡る。
顎に手を当て飲みやすいよう誘導してくれる竜児くんの優しさがたまらない。
飲み終わった私の口元から一筋垂れているのを見逃さず、
丁寧にキスで拭き取ってくれる。
「…ん、ふ…ぁ」
頭がボーっとして何も考えられない。
身体の中まで竜児くん温かさが伝わっていくかのよう。
さすがに恥ずかしかったのか、竜児くんが顔を赤くしながら、
でも私の目を見つめて優しくたずねてくる。
「…症状はどうだ?」
「……えと、ね。…まだ、お薬足りないかも…」
「はいはい。お望みのままに…」
おかわりを求める私に苦笑しながら、
竜児くんはまたコップに手を伸ばした。
〜〜 終 〜〜
その後、おなかいっぱいお薬飲ませてもらって。
返杯とばかりに飲ませてあげて。
治すどころか症状はますます悪化するばかり。
「……おくしゅり、おいしいでしゅ」
以上です。
前スレで見かけた「おくしゅり」ネタを、元々書いてた
口移しネタとを合わせてみたらこうなりました。
なんでこうなったのか、自分でもよく分かりません。
> KARs様
毎回楽しく拝見しています。
なんという甘々カップル…!
勉強になります。
またネタが浮かんだら書くかもしれません。
でわでわ。
48 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 02:03:43 ID:jKKISqVb
まさかおくしゅりがでてくるとはおもわなんだ…でもGJ!
おくしゅりネタは偉大
KARsさんあんた天才だwwwそこでおくしゅりを引っ張り出してくるとは
思わなかったwwwwwww
奈 々 子 様 の エ ロ さ は 異 常
『みの☆ゴン』
前スレからの続きを投下させていただきます。13レス分(60〜72)です
スレが変わりましたので、再度注意書きをお読みください。
内容 最終的には竜×実ですが、竜が他のキャラと絡む描写有り。
時期 1年生のホワイトデー 〜 2年生の夏休みまでです。
エロ 妄想シーンです。いわゆる本番は、竜×実がくっついてから
になります。
補足 内容、文体が独特で、読みにくいかもしれません。
ご不快になられましたら、スルーしてください。
また、続き物ですので、ここからお読み頂いきますと、
ご不明な点が多いと思います。
前回レス頂いた方、ありがとうございました。
宜しくお願い申し上げます。
そう、それはまさに悪夢。こんな夢━━
……先生と、高須くんは、干支が一緒ですよね?……
いや、俺は、今年17才ですから、先生は、今年30ですよね? 13年違いますけど。
……そう……ですよね……高須くんは、どうなんでしょうか、その……
……もし恋人にするとして、何才までなら、平気なのですか?……
そうっすね……って、何ですか、その質問は? 俺は同い年がいいです。
……そうですか……逢坂くん(仮)でさえ、5年の差。もう死んじゃおうかしら……
お葬式には参列します。でも先生。考え直して下さい。男運がないだけだと思います。
先生は魅力的です。春田だって先生に告白されたら付き合うって言ってましたし。
……春田くんですか……考えておきますね……でも高須くん達は平成生まれだものね……
……いくら何でも離れ過ぎですよね……先生の生まれた昭和ってね。激動の時代……
……生々しくって、混沌としていて……今みたいに洗練されてないの……
……知りたくありませんか? 高須くん……私がどんなセックスするか興味ないですか?……
ありません。おうっ、先生! ありませんって! なんで脱ぐんですか! おおうっ!
ゆりは、その熟した肢体を雰囲気を出してゆっくり晒していく。気分は……踊り子。
踊り子のように慣れた手つきでゆっくりと。ハラリ……シャツがゆりの手を離れる。
くるりとターン。背中を向け、次はタイトスカートのファスナーをおろした。
ゆりは、その実が詰まっているような、丸い尻をつきだし、足元にスカートを落とす。
先生……何度も言いますけど、俺は、その……無理っすから。
……ええ、高須くん。観てるだけでいいんです。課外授業ですから……
突然、下着姿のゆりに、後ろから抱きつき、乱暴に乳房を揉む男が現れる。
……はあっ……逢坂くん(仮)……
妖しい表情で逢坂くん(仮)に微笑み掛け、白魚のような指で、彼の顔の輪郭をなぞる。
……早く、しましょう。したいんです……
そうゆりが口走ると、逢坂くん(仮)は、ゆりのショーツとブラを手荒く剥ぎ取り、
そのまま押し倒し、ギュっと、体を重ね、裸身を抱き止めた。
ゆりは片足を立て、太ももを逢坂くん(仮)の股間にグイグイ食い込ます。
すると逢坂くん(仮)はその仕返しとばかりに、ゆりの尻を強く揉み始める。
互いに互いの身躯の感触を悦しむ。むさぼるように、あらゆる箇所に吸い付く。
ゆりは、逢坂くん(仮)の体を撥ね除け、入れ替わり、股間に顔を埋め、彼の亀頭を吸いだす。
……チュウウ……チュウウウウウ、チュパ……
四つん這いで、尻を高く突き出しているので、竜児の目の前には、ゆりの秘部が全開に広がる。
尻を小刻みにプリプリ揺っていて、どうやら、ワザと竜児に秘部を見せつけているようだ。
そこは、ゆりの粘液が、プクンプクン溢れ出ていた。ゴクリ、息を飲む。
逢坂くん(仮)は、亀頭に絡まるゆりの舌の動きに、我慢ができなくなり、
ゆりに挿入を懇願。体位を反転、ゆりに覆いかぶさり、両足をかつぎ、大股開きにさせる。
そして、汗臭いゆりの尻を持ち上げるようにして、グチョグチョのゆりの中に入り込んだ。
……あはぁん!……
まるでポルノ映画のような喘ぎ声を上げて、ゆりは、弓のように、のけぞる。
ムチのようにゆりの髪が弧を描く。口に入り込んだ髪先が妖艶さをかもしだす。
ゆりはオーバーに激しく腰を振り、その潤んだ瞳で、竜児に目線を移した。
ちゃんと観てる?大人のセックス……過激な課外授業。そう竜児に訴えるように。
逢坂くん(仮)の腰使いは、荒々しく、自分勝手に快楽を貪り食っていた。
ゆりの尻を掴む指が、深く食い込み、激しく突き続ける。
……はぁっ、あはぁんっ、いいっ! ああんっ……
ゆりは、逢坂くん(仮)の顔を両手で挟み、キスをせがみ、逢坂くん(仮)は、
さらに深く挿入し、ゆりの口に吸い付いきながら、乳房をグニュリと揉みだした。
乳肉が、指の間から盛り上がるほど、餅のように柔らかい乳房を責める。
本能のまま、欲望のまま、絡み、求め合っている間、ゆりは何度か、ビクっ! と、
カラダを痙攣させてた。激しく奥まで突かれている間その度に、ゆりは何度もイっていたのだ。
汗だくでスベる肌。ゆりは逢坂くん(仮)に強く抱きつき、腰を静止させた。
すると突き刺さったまま、ゆりは上体を起こし、逢坂くん(仮)に馬乗りになる。
長く、イヤラしいキスをして、ゆりの腰は、グリグリと八の字を描き始める。
さっきの逢坂くん(仮)より過激なストローク。容赦なく抜き刺しするゆり。
上下に揺れる乳首を逢坂くん(仮)はキュウウウっと摘む。
……はあん、はあん、いやあっ、あはあっ!……
怒濤のエクスタシー。ゆりの溢す声は悲鳴に近かった。
ゆりが竜児に背中を向けているので、でかいゆりの尻に、逢坂くん(仮)自身が、
抜き差しされる光景が三白眼に映り込む。そこは、ぐしょぐしょに、濡れ、
ブシュンブシュンという艶音を絶え間なく出し続けていた。
思わず竜児は、粘液がしたたっている秘部に手が伸び、ゆりの愛液を指ですくいとる。
ぎゅっ、と菊門が締まる。今度はその菊門にタッチ。
……はぁあああん、イクっ、イっちゃうううっ……
一気にのぼり詰めるゆり。腰はさらに狂ったような動きだす。……臨界。
……いやああああああっっっ……
━━その場面で竜児は起きた。絶句。言葉も出ない。まさに悪夢。
『人生、おもいどおりにはなんねーぞ!!!』という、謎の言葉が竜児の脳裏によぎる。
今夜は、そんな悪夢を見てはいけなかったのだ。それどころではなかったのだ。
まあ、だからこそ、悪夢なんだろうが━━
実はリアルに事件が2つ起きた。 悪い事件と、良い事件。
その発端は、実乃梨がデコ電を作っていた12時間前まで、さかのぼる。
***
「……そ、そんな鋭い目でわたしを見ないで。小皺、気にしてるんだから……」
「いや、そんなモン見てません……例の件は墓場まで持っていきますから、俺も忘れたいんで」
そ、う……です、ね……活動限界に達しそうなゆりは、静かに退場……教室が明るくなった気がした。
「……あ、櫛枝っ、こんな感じ。ど〜かな?」
ゆりの奇行に唖然としていた麻耶だったが、書き上げたデコ電のデザインを、実乃梨に手渡す。
「へいへい分りやんしたっ! 今日はちょっと時間無いから、今度でいーかな?」
「ぜ〜んぜんオッケーだってぇ! 空いたら声掛けてよねっ」
「そうだ、みのりん。今日、竜児とお食事会じゃない? 時間どうしよっか」
「ん? え? 何? 櫛枝っ、高須くんと、お食事会するの?」
「そーだよ。そーだよそーだよソースだよ。今回で三回目なんだ。なっ、竜児くん」
名前を呼ばれた竜児はコクリと肯定する。ただそんな事バラしたら、また噂されてしまう。
あの、『櫛枝ー!!事件』がやっと沈静化したというのに。案の定、麻耶が食い付いた。
「え! マジマジ? やっぱりそーなの、そーゆーことなの? ねねっ奈々子気になるよねえ?」
「……詳しく!」
ふたりの美少女はニヤリと笑みを浮かべるが、亜美は、亜美(黒)の存在を知っている竜児に助け舟を出す。
「麻耶ちゃん、奈々子ちゃんっ、なんかアヤしーから、聞くのやめてあげよーよ?
それよりさっ、わたしたちも、帰りにどっか寄っていかない? いい所知ってる?」
「なら亜美ちゃん、スドバってお店教えてあげる。いい雰囲気のお店なんだよ」
っと、キャイキャイ盛り上がりながら3人はランチを食べに屋上に向うのだが、
それと入れ替わるように、今度は能登と春田が近づいてきた、
「ねえ、高須、今日帰りにカラオケ行かない?超いい話あるんだけど!」
「いい話? 誘ってくれてすまねえが、約束があるんだ。今度な」
「ま〜じ〜で〜っ! 高っちゃ〜んっ! 陸上部の一年の女子三人とゴーコンなんだよ!
ゴーコン☆ コーフン☆ トーコン☆ これ以上優先する用事なんてありえなくな〜い?」
「それこそ、俺が行ったらマズいだろ。無意味に怖がらせるだけだ。やっぱパスだ」
「そっか〜、しょうがないか〜。残念。他当たるよっ」
合コンを蹴るような用事が気になる能登と春田だったが、諦めて引き下がる。
竜児は、ふいに振り向いて、なんとなく目があった実乃梨の瞳に、安堵の色が見えた気がした。
「あっ、みのりん時間時間。待ち合わせしないと。みのりんは5時まで部活でしょ?
わたしも放課後、用事出来ちゃったの。生徒会室にいくんだ。生徒会の庶務になったの」
「ウソ!大河、そのウソホントの真実なの? 賛成の反対の賛成なのだ。これでいいのだ!」
「話が脱線してるぞ……マジだ大マジ。実乃梨も部活だし、俺ひとりで買い出しにいくよ」
「ヤックデカルチャー!! そうなんだ! ねーえっ! 北村くん、知ってた?」
「もちろんだ。ズバリ今朝、会長から聞いているぞ。逢坂が庶務になってくれたからには、
我らが生徒会も、鬼……もとい、虎に木刀だな! いやあ、頼もしいぞ! ははははは」
北村は、腰に手をやり、永遠に高らかに笑い続ける。
「……大河っ。ガンバッ」
実乃梨は、小さく呟く。返事のかわりに大河は拳を、ぎゅっと握る。
その意味は、庶務をガンバるのではない事くらいは、ニブい竜児にも理解出来た。
放課後。お食事会のメニューを優柔不断になかなか決められなかった大河が、
ちょっとだけ遅れて、旧校舎の3階生徒会室の扉をガラリと開けた。
「やあ逢坂! 本当に来たんだな、嬉しいぞ! 歓迎する!」
眼鏡をキラリ、爽やかに、朗らかに、副会長の北村は大河を迎え入れる。
「き、北村くん……わたし、ききき、田村くんのお手伝いさせて頂きます」
「逢坂。なんだ田村くんって。誰だ? どっかで聞いた事あるような気もするが、まあいい。
じゃあ、来てもらって早速だが、逢坂、てめえは来月の体育祭のスローガンを考えてくれ。
過去の生徒会活動誌を参考にしてもいい。おい北村。逢坂に教えてやれ。次に村瀬と幸太。
てめえらは職員室に行って昨日決めた、体育祭スケジュールを提出してこい」
そう、すみれが指示を出し終わる前に、北村は書棚に向かい、村瀬はファイルを取り出し、テキパキ動きだす。大河はその様子を見て、生徒会での権力の均衡状態を理解した。
「逢坂、これが去年の資料だ。ちなみに去年のスローガンは『一致団結』だ。
まあ、過去にとらわれず、逢坂が自分で思いついたスローガンを書き出そう」
「う、うん! わたし頑張るね!」
すみれに命令され、イラっとした大河だが、北村が隣に座った事で、猫化し、おとなしくなる。
そしてガバッと机にかじりつき、レポート用紙に次々とスローガンを書き出していった。
「ものすごいペースだな逢坂! どれどれ、俺に見せてくれ」
北村は身体を乗り出し、レポート用紙を覗き込む。そのとき北村の腕が、大河に軽く触れる。
ドキッとして大河はシャーペンの動きを止めると同時に、心臓が止まった。息の根も止まる気がした。
そんな大河のビンカンな変化にも気付かず、北村は大河の考えたスローガンを声に出して読む。
『肉を切らせて骨を断つ。ここは貴様の墓場だ』
『絶対に負けられない闘いがそこにはある』
『ハッスルDynamiteクライマックスやれんのか』
『今日からお前は富士山だ』
……とか。
「さすが逢坂! 予想を遥かに超える出来じゃないか! スローガンだけで闘志がみなぎる!
特にこれ。『OHASHI BOM-BA-YE』とか、男汁MAXで、すばらしいぞ!」
そ、そうなか……と、照れる大河だったが、すみれがイエローカード。
「てめえら、悪ノリするんじゃねえ。スローガンっていってんだろ? 暴走するな。
ふむ。そうだな……去年といっしょで、四字熟語にしろ。いいな? おおそうだ、
あしたの町内掃除大会の打ち合わせに校長室に行くんだった。逢坂に北村。
わたしが戻ってくるまで考えとけよ。書記。てめえも一緒にくるんだ」
わたし? と、自分を指差す、最近バンド活動に気を取られ気味の二年生書記女史。
バンドスコアを閉じ、すみれに連れられ、いそいそと生徒会室を去った。
……そして北村と大河は生徒会室にふたりぼっちになる。
「叱られてしまったな、逢坂。いやあ、すまんすまん。少し調子に乗ってしまったぞ。
しかし逢坂がここに居るのは不思議な感じだな。庶務になるって、いつ決めたんだ?」
「うん。竜児がね。そうしろって……迷惑、かな?」
北村は、首を横にふる。大河は初めて北村を近くで見つめる。はっきりした顔立ち。
くっきりした彫りの深い二重まぶた。澄んだ瞳。数秒、大河は見蕩れてしまった。
「迷惑なんて、そんなわけあるかっ! 俺は逢坂と一緒に働けて最高にハッピーだ!」
好きな男子からの口撃に、大河は胸がキュンキュン、萌え死にしそうになってる。
しかしいつまでもイチャイチャできない。すみれが戻るまでにスローガンを考えなくては。
思いついた四字熟語を、手当り次第にレポート用紙に埋めていく。北村は見守っている。
『真剣勝負』『正々堂々』『元気溌剌』『勇猛果敢』『不屈不絆』……とか。
「なんか、北村くんのこと書いちゃってるみたい……真面目で、頼もしくて」
「ん? これが俺のこと? そんなこと逢坂に言われると、なんか光栄だな。ありがとう。
それじゃあ……そうだな。逢坂はズバリ『純情可憐』だな! お前にぴったりだぞ」
「わ、わたしが可憐? ほんと?」
「そうだ。お前は、綺麗だし、正直だし……光風霽月、閉月羞花っていうのも合うかな」
「えへっ、照れちゃう……あんま意味判んないけど……」
シャーペンをクルクル廻す大河。デレデレして顔がトロけている。もちろん、可愛らしい。
さすがの北村も心臓を射抜かれ、ふたりの関係の核心に、話題を移した。
「……この前のことなんだが、逢坂……今月は、体育祭や、一年のバスハイクやら、
結構、生徒会は多事多端でな。あの続きなんだが、もう少し、待っててくれないか。
俺が頑迷固陋な奴で、狐疑逡巡な感じで申し訳ない」
「……うん。でも四字熟語はもういいかな、北村くん。ふふ」
「すまん。ははっ」
お互い柔らかい気持ちになり、心が解け合っていく。ふたりでゲラゲラ笑った。
大河はその時、ほんとうに楽しかった。北村もほんとうに嬉しかった。
涙まで出てくる。何で笑っているのか判らなくなるほど、笑い声は止まらなかった。
***
ちなみに校長室のすみれは、用件を済ませたにもかかわらず、
いつも以上に校長に饒舌になり、いつも以上に校長室に居座っている。
***
「お〜い竜児くんっ、こっちだぜよっ」
お食事会の買い出しを終え、竜児は、実乃梨と大河が待つ、いつもの通学路に到着した。
荷物いっこ貸しなっ! と、実乃梨は竜児が両手に持っていた荷物の片方拾い上げる。
「いや〜、竜児くんの手料理、久しぶりだよねぇ」
「今日は鮭、焼くの?」
「うーん……ムニエルにするかな。塩コショウして粉振って、
バターで揚げ焼きとか。ケチャップで食うとうまいんだよな」
「それいい! おいしそう!そうだ、私サラダ作ろうかな」
「「え?」」
竜児の手から、荷物が滑り落ちそうになるが、地べたスレスレで実乃梨がキャッチ。
「うおおっ! どうしたの大河! 料理すんの? スゲーじゃん!」
「そ、そうかな? みのりん……えへっ」
「……い、いや……無理しなくていいぞ。実乃梨もいるし……」
「なによ! 私だってサラダぐらい作れるもん! 簡単! まず、葉っぱむしるでしょ?
ちぎるでしょ?お皿に乗せるでしょ? マヨネーズかけるでしょ? ……ほらできた」
「だめだな。レタスは冷水で締めないと食えたもんじゃねえ。ドレッシングはどうした」
竜児は断固、首を横に振る。しかし、実乃梨が大河に加勢する。
「竜児く〜ん、せっかく大河がヤル気だしてるんだから、尊重しようぜ」
やがて三人は最後の曲がり角。大河のマンションの前までたどり着く。だがその時、
「やっと追いついたあっ!」
背後から声がした途端、竜児と実乃梨の間にいた大河が、そいつと入れ替わる。
「さっき見かけて、走って追いかけてきたの! お願い……友達のふりして!」
「……あ……え? 川嶋?」
「……どうしたの川嶋さん?」
息を切らし、白い顔を曇らせる川嶋亜美だった。
「あいつ……」
汗ばみ細かく震えてもいで、尋常な事態ではなさそうだ。慌てて亜美の目線の先を追ってみると、
「……なんだ、あれ」
少し先の曲がり角、電柱の影。不自然に佇む男の姿があった。思わず顔も引きつる。
この辺ではまったく見ない奴で割とスラリとした体格、こざっぱりした服装は一見して大学生風。
それにしては荷物が多い。じっと隠れて立っている様子はどう考えても普通ではなく、
それが逆に奇妙な雰囲気となってその男を周囲から浮き立たせている。
「川嶋さん……あの人、もしかして……」
「普通の知り合い……じゃあなさそうだな……」
男は見ていることがバレても構わないのか、亜美を凝視することを一向にやめようとはしない。
「そうね、そろそろ……決着、つけましょうか……」
そんな中、さらに怖いものがその背後にはスタンバイしていた。
おそらくは、飛び込んできた亜美に吹っ飛ばされて、
道の端に転がっていたのだろう大河が、ゆっくりと身体を起こし……
「このバカチワワ……潰してやるぁあああっっっっ!!」
傍らのゴミバケツを驚異的な脚力で蹴り上げた。
重いはずのそいつはドォォン! と宙で回転し、三人の頭上を越えて不審人物へ一直線、
数メートル吹っ飛んで轟音とともにその足元に叩きつけられる。
「……!」
ワールドクラスの壁越えフリーキックにビビった男は、数歩後ずさり、
そのまま方向転換。猛然と走って逃げ去った。
「ん? ……なに、あいつ!?」
大河もようやくその存在に気がついたらしい。膨れ上がった殺気は瞬時に散って、
「変態くさっ!」
嫌悪感てんこ盛り、身も蓋もない呟きがその唇から放たれた。
亜美はようやく息を継ぐ。だがその足元はふらふらと頼りない。
「ねえ、川嶋さん大丈夫?」
「あ、うん櫛枝さん……久しぶりに、超本気で走ったから……やだ、膝が笑っちゃった」
冗談めかして笑って見せるが、その笑顔も硬く強張っている。
「……なんなんだよ、あの男は。川嶋、よかったら聞かせてくれよ」
手を貸してやりながら尋ねるが、亜美は曖昧に肩をすくめ、
「その……ええと……放課後、麻耶ちゃんと奈々子ちゃんと……スドバに行ってて、
そこでふたりと別れて、それでなんか、絡まれて……多分、変なファンの奴……
ね、お願い。ここから一人で帰るの怖いの……家に匿ってくれない? お願い!」
亜美は、仮面チワワ顔ではなく、あくまで本気の表情。竜児は一瞬考えて、
「……いまから大河のマンションでお食事会するんだ。川嶋も一緒にどうだ?」
「大河、いいよね? 川嶋さん、なんか、かなりヤバそうだし」
「……うん。川嶋さんも来なさいよ。緊急事態だし。しばらく隠れてた方がいいと思う」
「え……あんたのマンション?……いいの?」
亜美は犬猿の仲である大河に警戒したが、そんな状況ではないのは明白。
「ええもちろんよ。川嶋さん、私たちいろいろあったけど、今は一時休戦よ」
亜美はそれでも少々躊躇っているような様子ではあったが、
四人はマンションのエントランスへ足を進めた。
***
「竜ちゃんのお友達、ひとり増えてるぅ〜☆や〜ん、またまた可愛い娘でやっちゃん嬉しいかも〜☆」
「やだあ、高須くんのお母様ったら!お上手ですねっ! わたしなんか普通ですって!」
さっきの切迫した表情はどこへやら。亜美は、泰子と亜美はぶりっこ仮面装着で歓談中。
こういう亜美は安心して傍観できる。さすがオトナの中で仕事しているだけはある。
そして竜児は実乃梨とメインディッシュとスープを料理中、大河は、思案中であった。
「ドレッシングって、これと……これを、掻き混ぜて。そんで……閃いた! こいつだっ!」
「大河、ストーップ!! なんで牛乳混ぜるのさっ!」
「ええっ? みのりん、おしょう油入れすぎて、真っ黒になっちゃったのっ。だから……」
「だから白い牛乳を入れて中和? ブモー! ドレッシングは絵の具じゃねえよっ大河!」
「……大河。お前はよくやった。あとは俺にまかせろ」
ポンッと肩を叩く竜児。大河は負け惜しみを吐く。
「チッ……気安く触るなセクハラ野郎。慣れない事したから疲れた。特別に代わってやるわ」
「じゃあ大河ぁ。テーブルに飲み物持っていってよ。重要な任務だぜっ、健闘を祈る」
そういって敬礼し、実乃梨はティーセットを大河に渡す。大河は素直に言う事を聞いた。
「へ〜、亜美ちゃん雑誌のモデルさんなんだ〜。お肌もちょ〜ツルツル〜っ! 触っていい〜?」
「そんな〜っ。恥ずかしいですよお。ぜんぜんそんな事ないのに! 泰子さんもお若いですよね?
もしかして23歳くらい? あたり? やったあ、なんか亜美ちゃん、今日はツイてるみたい!」
相変わらず、仮面装着で笑ってみせる亜美の隣に、キッチンを追い出された大河がやってきた。
「やっちゃんっ、これ食べて。おいしーのっ……ほれ、バカチーも食っていいぞ」
器用に声色を変える大河。クッキーが目一杯詰まったピンクの缶を持って来た。
「誰がバ……あれ? うっそ? ちょっとこれマジやばい。村上開新堂のクッキーじゃん。
あんた、どうしたのこれ? 普通買えないじゃん……まあ……親が金持ちってことね。親が」
「なによ。そーよ、親が送って来たの……そんな事どうでもいい。あんた、なんか芸できないの?」
「芸? 出来る訳ないじゃん。わたしはモデルなの。芸能人。芸NO人」
「きゃはははっ☆亜美ちゃん、おもしろ〜〜いっ」
「へぇ、そう。二重人格なあんたは、モノマネとか、上手そうなんだけどねえ。プププ……」
何かを企んでいるような含み笑いをする大河。その背後にあるキッチンでは、
まるで新婚さんのように、仲良くサラダをつくる竜児と実乃梨の姿があった。
「♪アッアッアッア〜スパラにっ、タッタッタッタマ〜ネギギッ! ふふふふ〜ん♪
旬の食材をきっちりチョイスするところなんて、さすがだよね〜、竜児シェフ」
「いやいやなんのなんの。こいつは微塵切りにして、ポタージュにする」
「ほう、微塵切りとな? 一説によると竜児くん、このタマネギ、10秒で粉砕する、
噂のスタープラチナのスタンド使いだと耳にしたのだが、そいつぁ、本当かね?」
「10秒は無理だな……でも、15秒あればなんとか」
おっ、言うねえ言うねえ! と、驚く実乃梨が声を皮切りに、竜児はタマネギの皮を剥き、
スタタタタタタタタタタッとリズミカルに包丁を入れる。その間実乃梨は竜児を、
オラオラオラオラッ!無駄無駄無駄無駄っ!オラオラオラオラッ!っと、応援する。
あっという間に微塵切り完了。タイムは10秒フラット。レコード更新。
「……やれやれだぜ」
「くぅ〜、決めてくれたぜ! 竜児くんっ」
「またね〜☆」
泰子は同伴出勤で少し早く出掛けていった。それを見越してなのか、実乃梨が口火を切る。
「あーみんよおっ……さっきのあれって……ストーカー、だよねぇ?」
亜美の顔から血の気が引き、明らかに動揺しているのが分る。
「え? ああっ……だから熱狂的な……ファンっていうか……その……」
ファンというあたりに違和感を感じる。ストーカー。間違いないのだろう。
「あんた、このメンツに今更取り繕っても意味ないじゃない。だいたい匿ってもらって、
夕食も食べさせてもらったんだから、訳くらい話しな。……わたしは興味ないけど」
大河にしてはもっともな意見だ。亜美は溜息と共に重い口を開く。
「私がこっちに引っ越してきたの、あいつのせいなんだ。うち、ママも芸能人でしょ?
ママの事務所から、自宅付近を変な男にウロつかせるのは困るって言われちゃって
……私だけこっちの親戚の家にお世話になることにしたの。パパも仕事が忙しくて、
都心の事務所離れられないし。でも……まさか、引越し先まで突き止められるなんて」
「そう、だったのか……」
ハードな現実に一同黙り込む。この際、亜美はこいつらに悩みをぶちまける事に決めた。
「うん。引越してきたことは仕方ないって思うんだけど、でも……怖いんだよね。
親とも離れちゃったし、ほとぼりが冷めるまでモデルの仕事も休むことにして、
事務所もいったん休むことにしちゃった。だから、守ってくれる人がいないの。
前はマネージャーがいたから車で送り迎えもしてもらえたんだけど……ああもう、
信じられない……こっちに来てまであいつに追いかけられるなんて……」
そりゃ怖いだろう。男の竜児でさえ寒気がするほど怖いのだから、
亜美は憂鬱すぎる事態を話し終え、なんとなく気まずそうに白い顔を俯ける。
「とにかく……とにかく、一度警察に……」
「もう相談してあるってば……。他の事務所の子で、被害届を出した子もいるらしいんだけど、
あの男ってずる賢くて、身元の手がかりになるような証拠は残さないんだもん……
この程度のことじゃ、警察だって本格的には捜査してくれないし……」
人差し指を突き上げ、唐突に声を上げたのは実乃梨。大きく瞳を見開き、これしかない、と語りだす。
「警察がそいつを捕まえられないのは、身元がわからないからなんだね?ならさ、
こっちが逆にそいつをストーキングしてやるってどう? あーみんのあとを、
スト〜クスト〜クしてるところを、写真とかビデオとかで証拠として押さえてやるの。
それを警察に持ち込んで、人物特定させて、捕まえてもらおうよ。それならいいよね?」
竜児は割って入らずにはいられない。……いや、自分も手を合わせたいわけではなくて。
「お、俺も微力ながら協力するぞ。おい大河。北村の幼馴染みが困っている。意味分るな?」
「くっ……そうね。いいわよ。ただわたし、変態野郎なんかに手加減する自信ないわよ……」
しかし亜美は憂いに沈んだ顔のまま、声もなく唇を噛んでいる。それに気がついて、
「大丈夫か?」
思わず問いかけた竜児の声に、亜美は弾かれたように顔を上げた。そして素早く笑顔を取り繕い、
「……え、うん! みんなが助けてくれるんなら、あたしも元気百倍だよ! ありがとう!」
妙に軽いその言葉が、広い室内にむなしく響いた。
***
「あーみん、まだ大河んちにいるのかい?わたしたち帰っちまうけどよ」
実乃梨はカバンを持って立ち上がっていた。竜児も帰る準備が済んでいる。
「まだ、8時でしょ? もし伯父さまの家がバレたらまずいし。もう少し匿ってもらうわ」
「そうしたほうがいいわ、川嶋さん。 もし間違いがあったら私も寝付きが悪いものね」
「お前……いいやつだなあ」
「こんなときだもの。わたしだって鬼畜ではないわ。遠慮しなくて結構よ。おほほほほほ」
必要以上に鷹揚に笑う大河に一抹の不安を感じたのだが、実乃梨を伴い、竜児は玄関を出る。
「あ」
大理石のエントランスから外に出ると、マンション前の公園のベンチに、男が俯いて座っていた。
夜の公園に照明に照らされ、不気味度が増している。その男は、例のストーカーだった。
ケータイをパチンと閉じ、ストーカーは大橋駅の方向へ歩いて行く。
たぶん8時を廻り、諦めて帰るのであろうだ。
「ねえ、竜児くん。わたし尾行する。ストーカーのアジト、突き止めるよ」
「……ひとりでか? 尾行ってのは、二人でするもんだろ? 俺もいくからな。
ただし、危険だから、気付かれたら諦めよう。それでいいよな?」
「うん。深追いはしねえよ、相棒っ! なんてな」
即席の刑事コンビは、捜査開始する。
「あーみんの実家は東京でしょ?どんなに遠くてもそれ位でしょ。ほら、360円だって」
駅に着き、実乃梨はストーカーが買ったキップの料金を表示されたディスプレイで確認。
竜児と実乃梨は駅に着いてすぐ買った、Suicaを手に、ストーカーを追い改札を抜ける。
「ねえ、竜児くん。刑事ドラマとか好き?」
「ドラマ? あまり見ないからなぁ。好きか別にして、コロンボとか? 実乃梨は?」
「わたし? ギャバンかな」
「ギャ……外国人?」
「ううん。宇宙人。宇宙刑事。今度教えてあげるよ。竜児くん、電車着たよ」
尾行中というのに、マイペースの実乃梨。実乃梨は怖くないのか?
平然を装ってはいるが、情けない事に、竜児は怖かった。実乃梨の器の大きさに感動。
実乃梨も実は、結構怖かったのだが。
***
竜児と実乃梨は、都内の環状線のホームにいた。
少し先に、ストーカーがケータイをチェックしながら電車を待っている。
「すごい人だな。これ全員、電車に乗れるのか?」
「さすが都内だねえ。同じパンフ持ってる人もいるし、なんかイベントでも、
あったんじゃないかな。竜児くん、はぐれないように気をつけようぜっ」
駅のアナウンスが響き、電車がホームに入ってきた。
竜児は、思わず実乃梨の手を握った。もちろん、はぐれない為だったのだが、
よく考えたら大胆な行動。慌てて手を緩めるが、実乃梨はその手を強く握りかえしてきた。
「み、実乃梨。俺、手汗すごくねえか? 悪りい……」
「え、そう? わかんないや。わたしも手に豆が出来てるけど、気にしないくれい」
という実乃梨の手が、微妙に震えているのだが、竜児は気付くほどの余裕がなかった。
電車の扉が開き、車内の熱気といっしょに、次々と人が、吐き出されていく。
そしてカラッポの車内に、吐き出された以上の人数が、車内に吸い込まれていった。
ストーカーも電車内に入る。続いて、竜児と実乃梨も乗車するのだが、
人波に揉まれ、繋いだ手が離れてしまった。おうっ、と漏らし、竜児は、実乃梨を探す。
すると正面の人の壁を掻き分け、実乃梨が竜児の胸に飛び込んできた。
「ふあっ、すごいラッシュだねえ……ぐはっ!」
プシューっと、電車の扉が一旦閉まりかけた時、扉の方から、強く押され、潰されそうになる。
竜児は、守るように実乃梨を両腕で囲う。つまり、抱きしめる体勢になる。電車は発進した。
「み、実乃梨、すまねえ……混んでて……苦しくないか」
「ヘーキだよ、竜児くん、でもラッシュってスゲーよね? さすがTOKIO、鉄腕DASH」
そう話す実乃梨の吐息が、竜児の首にかかる。さらにアゴに触れる髪先。
つまり実乃梨との距離は0cm。ピッタリくっ付いたカラダ。
ドキドキして、全身が心臓のようになってしまうのだ。
……いつか、もしかしたら、実乃梨と生肌で抱きしめる時がくるかもしれない……
そんな邪念が湧き出すと、17才の下半身は素直に反応してしまう。慌てて邪念を振り払う竜児。
「し、色即是空、空即是色……」
「おおっ、BY 錯乱坊(チェリー)……」
なんとなく竜児の身体の変化に気付いてしまう実乃梨。それ以上ツッコミできない。
「……こんな時に俺って奴は……修行が足らねえ」
「え? なに? ごめん聞いてなかった」
実乃梨は、竜児に抱かれ何を思うのか。
「駅に着いたね。ちっとは空くかな」
電車の扉が開き、数人がホームに降り、少しは余裕ができる。
それでも密集しているのには変わりなく、実乃梨との距離が0センチから1センチになったくらいだ。
電車が走り出すと、隙間ができた分、バランスが取り辛くなってしまい、グラついてしまう。
「あいたっ! あ、ヘーキヘーキ……」
電車の揺れで、実乃梨の鼻が、竜児の肩に当たった。
さらに電車は、急ブレーキで大きく揺れる。キ━━━━━━ッッツ
「!!っ ふぐおっ! 実乃梨すまねえ!!」
「うわあっ! ぶねえっ!」
アナウンスで、電車が赤信号で急停車した旨を伝える。
そして、そのせいで、竜児は倒れかけて、実乃梨の腰に抱きついてしまった。
あろうことか実乃梨の胸に般若顔を押し付けたまま、竜児は動く事が出来ないのだった。
「ああああっ! ……す、すまん……俺は自分がなさけない……!」
「おぅふっ! いいんだぜ……気にすんなよ!」
謝れども謝れども無様度はアップするばかり。恥ずかしいことこの上無し。
「すまん、すまん、ごめん、ああ……申し訳ねえ……っ!」
でもって、焦れば焦るほどグリグリ押し付けるばかり。魅惑の感触を悦しむほどの余裕はなかった。
「……高須くん、あのー、本当の本当に気にしなくていいんだけどね。あせらなくていいし」
「いやいやいや、すすすすすまん! 今すぐに立つから!、ちょっと待ってくれ!」
竜児はとにかく起き上がろうと必死に手足を動かす。しかし状況は悪化するばかりだ。
「……実は、竜児くんが手を動かすたびに、私のケツが捲られて、パンツが晒されてしまうのだ」
「俺はなんということを……! こんなに恥ずかしいことを……もうだめだ、生きてはいられない!」
「恥ずかしいのは私の方なんだけど? まあいいからとりあえず落ち着けや。な」
「ああ……実乃梨にこんな辱めを……俺、責任取るからな、埋め合わせするからな」
実乃梨は、自分の尻の危険より、周囲の乗客の目線が気になってきた。
「そ、そうかい? 竜児くん見えてないだろうけど、只今大注目を浴びております……」
満員電車の中、とんでもない態勢の二人を、周囲にニヤニヤ見られてしまう。
わざわざ読んでいた雑誌を閉じ注目する人もいる。
「実乃梨! こうなっちまったらもう、俺……そうだ、俺と一緒のお墓に入ってくれ」
「ちょちょっとおっ…… 。お墓ってなんぞ? だから……恥ずかしいっての!」
「恥ずかしくなんかねえ! お墓だ。一緒の墓って事は、お前をお嫁にしたいって事で、つまり……」
「ギャーオ!! 竜児くん! 急にこの前の続き? フオオッ!ふたりきりの時にしよーぜ?
てか、お嫁さんになる前に彼女にして欲しいんだけどさっ」
そんな、目も当てられないやりとりを始めた二人に、乗客たちは、
混雑しているなかでも、空間を作ってくれた。
やっと上体を起こせた竜児が今度は、乗車たちの視線を集める。
車内にいる乗客全員が、竜児に顔を向けている。ストーカーもだ。これは恥ずかしい。
実乃梨にそんな思いをさせたと、今更ながら反省。
実乃梨は、よっぽどだったのだろう、竜児の胸におデコをくっ付けている。
ここで決めなかったら、それこそ死ぬしかない。やったる。
「責任とるからじゃねえ。実乃梨。お前が好きだ。だから、彼女になってくれ」
「も〜、こんなところで…… うん、わかった!……ふつつか者ですが、ヨロシクなっ」
ブワッと、竜児を睨むように見上げる実乃梨は、真っ赤になっている。
『おい、若いの。幸せにしてやれ』
『よかったわねえ、おめでとう!あーん、羨ましい』
『カワイイ彼女、泣かせんなよ。ガンバってな』
狭い車内で、歓声、拍手まで聞こえた。突然始まったプロポーズを祝福してくれている。
どさくさに紛れて、告白してしまった。写メまで撮られる。ストーカーも、笑顔を見せている……
これで、こんなんで良かったのだろうか。そう呟く竜児に実乃梨が締めてくれた。
「これでいいのだ! でしょ?竜児くん!」
という訳で、尾行は失敗に終わった。
***
「ただいMA〜X。お母さん、風呂空いてる?」
「お姉ちゃん、お帰り。お風呂、あんたが最後だからね……今日は遅かったのね」
櫛枝家。テレビを見ていた母親が無地帰宅した娘、実乃梨を迎える。時間は夜10時。
「大河んちで飯食ってくるって、メールしたっぺよ? あたしゃあ風呂風呂〜っと」
タオルをブンブン振り回し、実乃梨は浴室へ向う。しかし毎日、部活やらバイトやらで、
色っぽい話がない愛娘……ルックスは良いんだけどね……わたしに似て。うふふ。
「あら、カバン出しっ放しじゃない。もう、お姉ちゃんはっ」
っと、母親が娘のカバンに手を伸ばしたその時、カバンからケータイの着信音。
無視していたのだが、なかなか鳴り止まない。もしかして緊急事態? カバンを開ける。
ケータイのサブディスプレイに『りゅうじくん』の文字。あららあの娘ったら、いつの間に。
「もっしもーし、誰だい?」
実の母親には娘のモノマネなど楽勝なのだ。バレるまで、ちょっと話してしまえ。
『おうっ、実乃梨……いま電話大丈夫なのか? なかなか出なかったけど』
呼び捨て……これは……面白い。笑いを堪え、母親はモノマネを続行する。
「いま風呂出たところでさ、もう大丈夫だぜっ。なあに、りゅうじくん」
『まあ、用事ってほどじゃないんだが……声、聞きたくって』
きゃ〜っ、いいじゃんいいじゃんっ! 母親は忘れかけていたドキドキ感を想い出す。
「も〜っりゅうじくんてばっ。でも嬉しいぜっ」
『そ、そうか、よかった……あのさ、さっきのことなんだけど……俺、本気だから』
なになになにそれ? 聞いてないぞっ。当たり前だけど。
「さっきの事って?」
『え? ああ、その……告白ってか、プロポーズってか……』
そうですか、ああ、そんな事があったのですか。いったいどんな彼氏なのかしら?
「わたしもりゅうじくん、だ〜いスキだぜよ。ねえ、今度さ、ウチにおいでよ」
『実乃梨の家? またお食事会か? いいけど、迷惑じゃねえか? ご両親に』
へえっ、お食事会ってのは本当だったんだ……この前絶賛していたのは、彼の料理なのか?
「お母さんに話したら、竜児くんの料理食べてみたいって、しつこいんだよ。どーかな?」
『そうなのか? そうか……わかった。大河も呼ぶか?』
「大河には悪いけど、りゅうじくんだけ来て欲しいって。今週末は? 家デートしよーよ」
『お、おうっ、初デートが家でいいなら、わかった。でもご両親に逢うのって、緊張するな……』
そうそう。緊張するんだよね〜……ふはは。安心しな。お母様はりゅうじくんの味方だ!
「ちゃんと紹介するから安心して。特にお母さん、りゅうじくん気に入っちゃってさっ」
「……何が気に入ったって? マーマ」
母親が振り返ると、お風呂から出て来た実乃梨が仁王立ちしていた。
「わあ! お姉ちゃん早っ! ちゃ、ちゃ、ちゃんと洗ったの?」
「シャンプー切れていたから、取りに来たんだけど……わたしも、キレそうなんだけどね……」
バシッとケータイを奪い取る実乃梨。むおおおおおっっ! 機嫌悪い。そりゃそうだ。
「竜児くん? ごめん、今のお母さん。なにか余計な事言ってなかった?」
『は? な、なんだ? 状況がつかめないんだが……週末、実乃梨んちでお食事会するって』
ジロリと実乃梨は母親を睨みつける。ペロっと舌を出す。この母親は……
「ご、ごめんね、お母さんシメておくから。今日は遅いし、また明日ね? じゃあねっ」
「お姉ちゃん、タオル一枚で風邪引くわよ?……あははは、ごめんなさ〜い」
ゴゴゴゴゴゴゴ……娘のカラダから何かが出てる。何かが。
「くおらあああっ! 娘にやっとこさ彼氏出来たんだから、邪魔すんなって!!」
「謝ってんじゃない。それに邪魔してないわよ。うわ〜楽しみ〜! お赤飯炊かなきゃ!」
ルンルンの母親。こんな母親に逢わせても竜児に嫌われないだろうか……
余計な心配が増えてしまった実乃梨であった。
以上になります。
お読み頂いた方、有り難うございました。
様子を見させて頂き、判断させて頂こうと存じます。
またこの時間帯をお借りするかもしれません。
失礼致します。
しえん?
おっと失礼
読みましたよ
文章も丁寧だし、ネタも沢山あるし、ニヤリとする箇所も多い。だけど…
ちょっと量が多いだけに読みにくいかな、このスレだと、68とか、71が特に
改行、空行を効果的に入れると読みやすいかと、面白いだけに勿体無い感じがします
後で、エディタに貼り付けて、もう一回読んでみます
定期的に、この量を仕上げるのは凄いです。お疲れ様でした
おもしれEEEEEE!
毎週日曜の楽しみです
節々にちりばめられたネタと、原作中のネタとの組み合わせがナイス!
>>69 概ね同意。よく書けているだけに惜しいです。貴重な竜×実ものですし。
ところで、描写はとてもアニメ的で文章としてどうかな、という所がチラホラ。
また、周囲のキャラ(特に大河や亜美)がよく喋る割りに感情が見えない。
こういう書き方したいなら、一人称の方があってると思います。
このあたり、SL66さんや、KARsさん、ななこいの作者さん、356FLGRさん等
すごく上手に処理されてますので、参考にされては?
うむ、だが面白いSSには違いない。何気に楽しみだったりするw
俺は実乃梨主役ものはなぜか苦手で、麻耶は好きだが麻耶×能登はあまりな人なので
最近、長文、長編成分が不足して寂しい(´・ω・`)
>>73 亜美もの楽しみにしてるよ。自分で書いて頑張れー。
いややはり独身と竜児の甘甘と思ったが、それこそ長編は無理だな(´・ω・`)
>>75 君次第だ
甘甘エロ事後→ゆりちゃん実家に竜児が嫁に下さい宣言→両親号泣感謝感激の流れで頼むw
独神だと三人娘のいづれからの寝取りしか思いつかんw
つまり魔女の条件w
>71
スパッと短く纏めてくる、高須クリニックの人もありでね?
あの人を手本にすると大河が倒れるw
81 :
噛んだ、すみだ:2009/10/13(火) 10:35:27 ID:vqTHQ90H
竜児を北村のもとへ向かわせた大河は、木刀を掴んですみれがいる教室に向かった。
小柄ながら凄まじい気迫で周囲を圧倒しつつ、大河は叫んだ。
「かのう、すみだぁーーーーーーーーーーーーーーーーー! あ。」
なんと、噛んだ。このタイミングで。
「すみだ?」
鬼の形相で見返すすみれ。
「いま、スミダと言ったな。触れてはならんことを」
「え、えっ? どど、どういうこと」
さっきまでの気迫はどこへやら。
さらに睨みつけるすみれの口から、不思議な音が漏れる。
「<丶`Д´>スミダ!」
「え???」
「<丶`Д´>ウリの正体を知ったからには、生かしてかえさないニダ!」
気がつくと、周りの生徒たちが、エラの張った顔で取り囲んでいる。
「<丶`Д´>ニダー」
「<丶`Д´>スミダ!」
「<丶`Д´>ニダー」
「<丶`Д´>……」
「`Д´>……」
「うわあああああああああああ!!!」
叫び声とともに、大河はその場にぶったおれた。
――二時間後――
「やれやれ、やっと気がついたか」
「りゅーじ?」
大河は保健室にいた。
「狩野会長のはなしだと、えらい剣幕で現れたかと思ったら、興奮して倒れたそうだ」
「ああ、そうだったんだ」
夢か、とほっと胸をなでおろす。
「じゃあ、帰るか」
保健室を出る二人。
たまたますれ違った三年生のエラが妙に張っていたのには、二人は気がつかなかった。
ど、どうすんだよコレ・・・
新しいなww
このスレにまでニダーが現れる時代になったのだな…
こんばんわ。 SS投下させ頂きます。
概要は以下です。よろしくお願いします。
題名 : Happy ever after 第5回
方向性 :ちわドラにあまりなりませんでした。
とらドラ!P 亜美ルート100点End後の話、1話完結の連作もの
1話1話は独立した話ですので、今回だけでも読めるかと思います。
ただ、連作としての流れとか考えているつもりなので、
過去のも読んでいただけるとありがたいです。
登場キャラ:竜児、麻耶、大河、亜美
作中の時期:高校3年の6月
長さ :15レスぐらい
Happy ever after 第5回
「……そう、こんな事お願い出来るのは麻耶ちゃんくらい。
だから、高須くんと付き合って欲しい」
川嶋亜美は、言いづらそうにしながらも、最後まで言葉を繋いだ。
高須竜児を任せるとしたら木原麻耶に頼むのが一番だと自分に言い聞かせて。
「うん、解かった。亜美ちゃんのお願いなら」
必死の気持ちが通じたのか、言葉少なに、だが、力強い了解の言葉が返ってきた。
亜美は電話を切ると、肩の荷が下りたと、深い息を吐く。
同時に、まったく何でこんな事になったのかと、あて所の無い不満が沸いてくる。
それは数日前の出来事が原因だった。
******
ドラマの撮影の合間、出番待ちの間、亜美は台本の読み返しに余念がなかった。
台詞を憶えているわけで無い。そんなものとっくに終わっていた。
ただ、演じる役のイメージを沸騰寸前まで煮詰める。重要なのはそれだけだ。
「亜美ちゃんお疲れさま」
疎ましいとしか識別出来ない声色が現実に引き戻す。
現れたのは同じ年だが、ベテランと言っていいキャリアをもつ、
今回のドラマで競演する子役あがりの役者、Cだった。
「Cちゃんお疲れ様、この前は本当にごめんね」
亜美は天使のような笑顔を作る。
心の中では、以前に大河がCを恫喝した事を思い浮かべていたので、本当に気持ちよく笑えた。
そういうものは何となく伝わるもので、
相手も「この前」と言うキーワードだけで大河の事を思い浮かべて、
「本当、なにあのちびっ子猛獣女、超ありえないんですけど」
と心底嫌そうな顔をする。
「いつもはあんな事言わないんだけどね、たまたま機嫌悪かったみたいなの。
本当にごめんね」
と、逢坂大河の生態について大嘘をついた。猛獣はどうしたって、猛獣である。
「まぁ、亜美ちゃんの所為じゃないけど」
と嫌なイメージを急いで消し去ろうかとするようにCは軽く頭を振り、
「でもさ、謝ってくれなくていいからさ、ちょっとしたお願い聞いてくれる?」
とニタリと尋ねてきた。
亜美は正直面倒臭いなと思ったが、相手は共演者だ。話を聞かないまま断るわけにも行かず、
私に出来る事なら何でも言って と話の続きを促した。もちろん、100%断る事が前提。
「え〜とね、あの時一緒にいた男の中に、目つきの悪い男いたでしょ。
あの子紹介してくれない?」
その言葉に完全に不意を撃たれ、亜美は仮面が取れかける。そして次の言葉を誘う事になる。
「亜美ちゃんがこれだけ反応するんだもん。おもしろそうな男だよね」
しまったと自分の過失を悟る。これでは向こうが優勢だ。
断るにしても適切な理由が求められる。
「すごく意外だったから吃驚しちゃっただけだよ。でも、面白くなんてないよ。
むしろ逆、高須くんって悪人面だし、貧乏だし、いい家の子って訳でもないよ」
と不本意ながら、竜児の欠点をあげつらってみた。
確かに社会的なスペックとしてセールスポイントが無いかもと、
が、それなのに惹かれてる自分を少し嬉しくも思いつつも。
そして、トドメとばかりに
「Cちゃん高い系が好きだから、もっと高スペックが好みなのかなっと思って
それとも、ああいう男の子が好きなのかな」
自分だったらここで否定するはず、これでこの件を終わらせる と勝算をもって放つ一撃、なのだが
「好きだよ」
迷いの無い言葉のカウンターに、へっと、またも仮面を一瞬外してしまう。
「それでも、亜美ちゃんが友達付き合いする価値があると思ってるんでしょ。
余計興味出るって。あ、ごめん、本当に亜美ちゃんの彼氏じゃなければの話だけど」
こいつは相手を攻撃する為なら、自分がダメージを受けても構わないと思うような自爆系だったのか、
と別な手をさぐる。ならばこれ以上、竜児と自分の接点を見せてはいけない。
そして搦め手から打って出てみる。暗闘は続く。
「えーと、彼氏じゃないけど、そう、付き合ってる人いるんだよ。私の友達。
だからね、ちょっ〜と無理だと思うんだ。ごめんね」
両手をあわせ、謝罪ポーズをとり、片目をつぶり拝む倒してみたが、
「そうなんだ、でも亜美ちゃんがライバルじゃなきゃ、私に勝ち目あると思うんだよね」
まったく通用していなかった。
******
Cは高須が付き合ってる事を自分の目で確かめないと気がすまないと言い出し、
結局、亜美はその意見を受け入れた。
ただし条件つき、それぐらいの譲歩は引き出せた。
交際している事実を確認したら引き下がってもらうというものだ。
それからの亜美は女優業の傍ら、デート計画を立案、偽装作業に奔走した。
一番の難題、竜児の偽彼女の配役は済んだ。下手な相手ならCの略奪熱に火を付ける
可能性があるが、木原麻耶なら、そのルックス、性格ともにハイレベル、その心配は無いだろう。
お詫びに北村祐作への援護とフォローを約束。あと能登久光へのフォローも少々。
デートコースも準備完了。亜美のレパートリーから最適なお洒落コースをチョイス。
予約、チケット準備も済んだ。
後残るは一つ。なんとなく最後に回してしまった件を解決すればそれで準備完了だ。
難題では無い。助けを求めた手を跳ね除ける奴では無い事は痛いほど解かっていた。
すぐに取り掛かれなかったのはただ、亜美だけの問題だった。
「と言うわけで、亜美ちゃんからのプレゼント、可愛い女の子と一日お洒落なデートだよ。
デート代はもちろんこっち持ち。準備も既に完了。高須くんは楽しむだけ。
すごーい、超絶ラッキーボーイだね」
と楽しげな口調で高須竜児に話しかける。それは真面目な相談をする時のものではなかった。
強いおちゃらけ風味が加えられていたのだ。演技過剰という程に。
「あいかわらずな、お前は。人に頼み事をするってのに」
で、その俺と同じくらい可愛そうな可愛い女の子って、一体誰なんだ」
と当の竜児は呆れた口調のあきらめ顔。
「私から見ても、とってもキュートな子」
すっと流れような動きで、亜美はそんな竜児の後ろに回る。
そのまま首に手を絡みつけ、顔を近づけ、後ろから抱きつくように、
「公認で浮気出来るんだよ。え〜、そんな寛大な彼女いないよ。亜美ちゃん優しすぎ」
とうそぶいた。
手を回された朴念仁は、反射的にといった感じで、とっさに距離を開ける。
「なんでお前は自分の事をそこまで褒められるんだ。大体、浮気って、お前彼女でも何でもないだろ」
そこで、目の前の瞳が僅かに揺れてる事に気が付き、
「わ、わりぃ。ただ俺は、まだ」と続けるが、
亜美は視線を避ける様に後ろを向き
「続きはいいよ。解かってるから」 と静かに言った。
******
宇宙の蜉蝣姐さんが言うように、不測の事態は起こるもの。
デート計画の前日、亜美の携帯に麻耶からの電話があった。
麻耶のあいさつの声を聞いた時点で、大体の経緯は理解出来た。
声がガラついていた。時折、咳き込んでいる。
「麻耶ちゃん、風邪?」
「そうなんだ……。今日までに何とか直そうと思ったんだけど、やっぱ無理みたいで」
「大丈夫だよ。無理しないでいいから、取りあえず奈々子に代役をお願いしてみる」
「無理だと思う。私が風邪もらったの奈々子だから」
ここ3日ほど香椎 奈々子は体調不良で学校を休んでいた。
「でも心配しないで、勝手だけど、私が代役確保したから、その報告の電話なんだ。
本当は私がやれればよかったんだけど」
「ううん、体調不良のままデートなんて説得力無いからしょうがないよ。
それより代役って?」
「私より適役だと思う。恋人同士って感じの、すごく説得力ある子にお願いしたんだ」
亜美は警告音を聞いた気がした。危惧が姿を現す。一人の女の子の姿で脳裏に浮かぶ。
「実乃梨ちゃんは駄目!」
「え、櫛枝?、なんで?」
「えーと、実乃梨ちゃん、体育大の受験準備で急がしそうだから。
急にお願いしても迷惑だろうし」
「そう言う意味じゃないんだけど、でも櫛枝なら迷惑とは思わなそうだけど?
多分、即答で協力してくれると思うよ。
亜美ちゃんが何を心配してるのかピンと来ないけど、でも、代役の子の方が
もっとお似合いだと思う。 だって、私、あの二人好きあってると思ってたもの」
再び警告音を聞いたが、今度はそれが形づくる前に必死でかき消す。
考えてはいけない。けして私は邪魔してるわけではない。
だが、それは単に答えを引き伸ばしただけだった。
「じゃーん、タイガーに代役頼んだんだ。あの二人で結構お似合いな感じしない?
ご、ごめん、今は誤解だと解かってるから。亜美ちゃんの事だって」
「そう、そうじゃなくて…、ううん、違う、でも」
何を否定してるか自分でも解からなかった。だが、自分の考えを打ち消したかった。
麻耶は体調不良からか、そういった亜美の思いには気づかず先を続ける。
「説得にちょっと苦労したんだけどね。この前、撮影所で暴れた事、
タイガーも気にしてたみたいだったのと、高須くんがタイガーにどうしても
頼みたいって言ってた事にしたら、
「竜児がそう言うなら仕方ない」って、しぶしぶ受けてくれたんだ。
だから、亜美ちゃんから、高須くんに口裏合わせてくれるように言っといてくれないかな?」
そこで、再び咳き込み始める麻耶。
亜美はこれ以上無理をさせたくない事と、混乱する自分を制する事、それだけで一杯になり、
これ以上会話は出来ないと断念して、
「麻耶ちゃん。無理しないで。後は任せて。ありがとう」
と電話を切った。
そうは言ったものの、思い悩み、結局、竜児に連絡し、口裏を合わせるどころか、
デートの相手が逢坂大河だとすら伝えられなかった。
******
デート当日、事前にCと合流、尾行の体制を整える。
竜児達のスケジュールは亜美自身が作成したものだ。場所、時間はもとより、
どこから監視出来るのかもチェック済み。
後は彼らを眺めるだけだった。彼女が当日に出来る事はただそれだけだ。
待ち合わせ場所となった喫茶店には竜児が一人先におり、そわそわと回りを見渡していた。
ボトムが白のコットンパンツ、アップスは薄い青地のリネンシャツ。
シンプルで、飾り気が無いがスッキリとした服装。
普段より、ちょっとだけいい服を着た高須竜児。
亜美は、へぇー と感嘆を漏らす。
高須くんには、レストランを予約したからそれなりの服装を着て来てねと
伝えたが、それにしても…
もちろん贔屓という加点により水増しされた点をつけていたが、亜美は高得点を付けていた。
実際、運動部に所属してもいないのに、2年にして大橋高校の福男を勝ち取った、
その身体能力を秘めた体躯は、モデルであった亜美から見てもバランスのとれた
魅力的なものだった。
ただな、あの目つきが台無しにしてるよな。私は割りと好きだけど、
なんてうすく微笑み、そのまま竜児を見つめ続けた。無事にレストランに入れるか心配しながら。
その為、高須より亜美の表情に注目しているCの視線を気づくことは無かった。
当の竜児はかなり緊張した様子で、凶眼を仕切に周りへ視線を走らしていた。
喫茶店に来る客、特に女性は、その死線を受けると短い悲鳴を上げ足早に立ち去る。
その為、店内の人口密度は急激に落ちていく。営業妨害だ と店員の忍耐が尽きる直前、
逢坂 大河が現れた。
「なに、あの男の恋人って、あの猛獣女なの!」Cが呻く。
大河はいつものように、いや何時もより可愛らしい服装で現れた。
上は小花模様のサマーワンピース、ワンピースのボタンは途中から外れ、
フリル一杯のアンダースカートが上品に足元に伸びる。
その服は一見して最高級の布を使って仕立てられた事が解かる。
布地より上質さが伺える大河の髪は緩やかなウェーブを描き、フワっと広がり、煌く。
その髪を恥ずかしげながら、そっと自己主張をするように、小さいなリボンが点在し、飾っていた。
亜美の目からもそれは美しく、そして、いつもより気合が入ってるように見えた。
今度はCが感嘆を漏らす番だった。
「なにあれ、どこの国のお姫様って格好だけど、……似合いすぎ」
その姿は芸能人である彼女たちにとっても、高次元のものだった。
(タイガー、黙ってれば、高級フランス人形もかくや って位の美人なんだよね。
あの凶暴な性格は外に出ないからな)
と亜美は、上手く思考のバランスを取る事が出来るが、Cはただ驚愕するのみ。
で高須くんの反応は、と視線を向ける。
「やっぱ、昨日高須くんに言っとけば良かった。相手がちびトラだって。
あんな顔見るくらいなら」
高須竜児は逢坂大河を見つけて、心底ホッとした表情をしていた。
******
「なんだよ、デートの相手って大河の事か、すげードキドキしたが助かった。今日はよろしくな」
竜児は今までの重圧から開放された反動で陽気に告げる。が、大河は
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします。高須くん」
とカチコチと音が鳴るように、頭を下げた。
「なんだ、どうしたんだお前、なんか悪いもんでも食ったのか」
と茶化すも、着飾った娘は無反応。
とりあえずと、彼の大事な被保護者が座りやすいように向かいの椅子を引き、促す。
大河は無言で椅子に座るが、かなりぎこちない。それは椅子ですら
転げ落ちるのではないかという硬い動き。
やっと座ったかと思えば、そのまま硬直、動作しなくなった。
「なんか飲むか、大河はオレンジジュースでいいよな」とドリンクを注文。
そしてまた、無言真空状態が続く。だが、別段、竜児は困った様子は無かった。
無言であることに気まずさはない。大河が喋るまいが、騒ごうが、一緒にいる事は変わらない。
彼女といる事、それは日常、苦痛など何も無い竜児の普段の生活なのだから。
ただ、今日の逢坂大河は少しテンパっていただけ。
そして高須竜児は女の思考回路についてかなり鈍感なだけ。
その二人の様子を監視している、非日常的な傍観者が二人。
「なに、あの猛獣女でも、しおらしい顔するんだ。超うける」
とCが笑い。亜美はそうね と寂しそうに笑っていた。
しおらしいと評価された大河だが、竜児はそんな事に気づきもしなければ、動揺しなかった。
だが心配はしていた。鈍感たる所以だが、それが彼の人の良さの現われでもあった。
「なんだ、調子悪いのか、ジュース来たら来たで、一気に飲み干すし、
調子悪いなら、この芝居中止しても…」
「大丈夫!、デ、デートの続き出来る」
「そうか?、本当に大丈夫か? とにかく、ここは落ち着かなさそうだから、
とりあえず次の場所に移るか。えーと、川嶋の予定表だと、次はボーリングと」
彼らがデートをしている街は、港町として始まり、今はその呼び方をベイサイドエリアと変え、
観光都市化した場所だった。
観光向けに再開発されただけに、娯楽施設には事欠かない。
その分、物価も上がっており、倹約家の良妻、高須竜児としては遠い場所だ。
そんな場所にあるボーリング場は竜児達がいきつけのボーリング場とは別の施設。
その外観はちょっとしたホテル然とした立たずまい。場内はより一層、その態が高かった。
自然光を完全に排し、ブルーのライトのみが店内をそっと照らしている。
その為、かなり薄暗い。となりの人間が僅かに見える程度。
点在する大き目の液晶ディスプレイでは、洋楽のミュージックビデオがサイレントで流れている。
サイレントで流す意味がどれくらいあるのだろうか などと竜児は素朴な疑問をうかべる。
レーンとレーンの間は小さなパープルホワイトの光が並び、真夜中の高速道路の車列のように
ピンまで伸びる。ピン自体は蛍光塗料が塗っているのか、ぼんやりと闇の中浮かび上がっていた。
装飾物は多くないが、それぞれが高級感がありで、ハイソな雰囲気を作っている。
ただしボーリングする雰囲気でもなければ、競技環境を後押しするものではない、
むしろ、足を引っ張っていた。
二人はもの珍しさで、最初は回りにきょろきょろと目線を走らせていたが、
左のカップルが熱烈なキスを耐久レースのように繰り返すのを発見し、いそいで逆側に目をうつし、
右のカップルが何やら、下半身をまさぐりあってるのを見て、目を逸らす。
気づけば、見ていいのは正面だけ。目の前をただ見つづける事しか出来なくなっていた。
しかし、左右からのステレオ音響で嬌声が二人を押しつぶす。
金縛りにあった二人は、並んでレーンを見つめる。どれくらい時間がたったか、
大河が上ずった声で竜児に話しかけた。
「あ、あんた、何て場所に私をつれこんでるのよ」
「俺だって吃驚だ。ここは日本なのか」
「……発情チワワが選んだんだっけ」
途方に暮れる二人だが、竜児は責務を思い出した。
亜美の知り合いが納得する程度の、デートをしなければならない。
そうでもしないと、アイツが何て顔して罵倒するか、そして困り顔になるか…
気合を入れなおすと一歩踏み出した。
「とりあえず、受付をすませてくる。
お前は自分の分のシューズと、ボールを用意して、先に待っていてくれ」
早く戻ってきなさいよ。駄犬 との声を受けつつ、足早に受け付けに向かう。
だが、相方はまだ途方に暮れたままだった。借りてきた手乗りタイガーだった。
手乗り虎は言われた通り、遅い動作ながらも、いそいそと準備を行う。
その後、時間を持て余し、好奇心に負け、観察を再開してしまう。
そうして、チラチラと周りを見始め、自らを追い詰めていく。
竜児が戻ってきた時には、逆毛を立てて、完全に警戒モード。
「大河。待たせたな」と竜児が声を掛けた時の返事は
「ぐるるるるるる」うなり声だった。
******
「ボーリングのルール解かってるな。ボールを転がして、ピンを倒した数を競うんだぞ。
おい、上手で投げちゃ駄目だぞ。それは砲丸投げだ。
人様のレーンにも投げちゃ駄目だ。レーンの番号言ったろ。
だからカップル相手に投げようとするな」
竜児は冷や汗を流し続けた。この小型アトミックボム娘を抑えるのは自分しかいないのだ。
ボーリング場の平和は俺が守る!、と決意を新たにする。だが、
「うるさい。解かってる!」との言葉ですべての回答が返ってくるのだ、
どこまでわかってるのか不安になり、ボーリング場を戦乱から守る自信が無くなって来ていた。
「おかしい!!、ボールが横の溝に吸い込まれる。両端に細工があるわ」
案の定、基本からよく解かっていなかった。
「細工もなにもそういうものなんだ。
いいか、とりあえずゆっくり、真っ直ぐ投げてみろ。話はそれからだ」
「てぇい!」
「何も聞いてねーじゃねーか。力一杯投げる前に、真っ直ぐ投げるようとしてみろ。
いいか、基本から俺が教えてやる」
竜児の世話焼き体質に火がついた。目がギラギラと輝きだす。周りの客が恐怖に怯える。
彼らのレーンは人外魔境と化していた。ある意味、二人の世界だ。
「本当、一々煩いわね。遊びくらい自由にやらせなさいよ」
と大河は竜児に苦情。だが、それも彼女らの日常。それが二人のマイペース。自分を取り戻していく。
「運動神経がいい割に、お前は適当なんだから。まったくMOTAINAI。
川嶋との水泳勝負の時みたいに、簡単な事から教えていくぞ」
と竜児も手取り足取りと、小まめに面倒を見る。それが彼らの関係なのだ。
「私と竜児で特訓して、ばかちーと勝負したっけ。ふふ、いいわ。教わってやろうじゃないの」
だから、いつの間にか二人は騒がしげに、自然な感じになっていた。
そして、二人の特訓が始まった。
大河は持ち前の運動神経と、パワーで、あっという間にスコアを上げていった。
女の子が使うとは思えないほど重いボールを猛スピードで投げるのである。
一つでもピンにあたれば、そのピンは高速スピンし、他のピンをなぎ倒す。
ビキナーズラックもあってか、高い確率でストライクを量産した。
「へー、ボーリングも面白いじゃない」
機嫌が目に見えてよくなる大河、竜児も一安心。
俺も負けてらんねーな とカーブボールを器用に使い、こちらもスコアを上げていく。
そんな二人は、お洒落がメイン、二番目がいちゃつき、ボーリングは三の次のお客様の中で
かなり浮いていた。
ファミリー中心のボーリング場に、突如、マイボウル、マイグローブ等、フル装備の人が
スロットル全開で投球を始めたみたいなものだった。
二人を監視してる亜美たちも、なにあのスターボーリング?状態で傍観する。
そして、人のデート見るなんて、なにも楽しくないっての と亜美は冷めた顔。
時折欠伸を噛み殺し、その奥で本当の気持ちを押し殺していた。
ふと、横から熱心な気配が感じられた。
「……すげー」
亜美が横を向くと、連れがオペラグラスのような道具で竜児たちを見ている不審者に
なっている事を発見した。視線に気づいたCはその道具を差し出してくる。
「暗視スコープ、夜のクライマックス用に役立つかなって持ってきたんだけど、
もう役にたつとはね。ちょっとエロいよ、亜美ちゃんも見てみ」
どうでもいいんですけど と呟きながら、スコープを素早く受け取り、目に当てる。
スコープの先には体を密着している竜児と大河の姿があった。
******
亜美が嫉妬を溜める、その少し前。
「ねぇ、竜児。店側がとうとう細工始めたらしいわ、やつらヤル気よ」
「何だ今度は遠隔操作か、それともセンサーでチューリップが開かなくなったか」
竜児の視線の先にはボールを持って仁王立ちする大河。さらにその先には
両脇に1本づつ立つピン。そしてスコアを写すディスプレイの大河の行は
数字の周りを○で囲まれたスコアが並んでいた。
「これはスプリットと言ってだな、真正直に正面の角度からボールをぶつけるとなりやすい。
まっすぐ投げれるようになった証拠みたいなもんだ。
球速が速いとピンが真後ろに飛ぶから余計にな。
お前、球速むちゃくちゃ早いからな、……俺よりも」
「じゃあ、どうしろって言うのよ!上手くなったのにスコア下がるって
仕組み事態がおかしいじゃない。なに、このくそゲー」
竜児が説明するが、いままで調子よかっただけに、突然あらわれた壁の存在に大河は納得できない様子。
「じゃあ次の段階だな。さっき教えたカーブ、試してみろよ」
「あんな面倒くさい投げ方、私に出来るわけないじゃない」
「コツ掴めばそんな難しいもんじゃねえぞ。だが口で教えてもお前はわからなそうだからな…、
よし、とりあえず投げてみろ」
「なんで、あんた私の後ろに立つのよ」
「俺が補正してやる、名付けて、高須式プロボーラ養成ギブス」
そう言って竜児は、大河の後ろに立ち、利き手を添える形で重ねる。
「このエロ犬!、あんた、変な下心あるんじゃないの」
「憎まれ口叩いてないで、ほらやるぞ」
わかったわよ。と大河は竜児への絶対的な信頼からその練習方法を受け入れた。
それと結果が伴うかは別で、何ゲームも練習に費やしたが大河がカーブも覚えることはなく、
私は私の道を行く とスピードボーラーを目指す大河と、それを見守る高須 一徹 竜児。
ピンが壊れる事と、常連客が減ることを心配し、マンマークを始める店員。
その三人が異様な雰囲気をかもし出していた。
別なところでも、異様な雰囲気をかもし出す二人組みが存在していた。
それなりの美人二人だが、デートスポットで暗視スコープを使い、
じっとカップルをピーピングトム。まったく色気が無かった。
流石に店としても見逃すわけにいかず、彼女たちの動向チェック専門の店員を配置した。
二人組みは店公認の変態となり、また今日シフトに入ったバイトたちは人手不足に
己の不幸を呪っていた。
「亜美ちゃん、あいつら他のカップルよりも超エロかったよ。あんな長時間、
覆いかぶさるみたいにピッタリくっついて、腰と腰なんか隙間もないくらい密着してさ。
それに高須くんの指とか、よく動くし、それでいて、優しげで、
なんか…、股間に来る。すげー卑猥」
暗視スコープを覗き、解説を続けるCに対し、亜美はうんと一言返し、
シルエットしか見えない薄闇をただ見つめていた。
******
二人は、かれこれ5ゲームを消化していた。竜児は、久々に結構投げたなと思い。
「どうするまだ続けるか」と尋ねる。
「何よ。あんた、これくらいで疲れたって。ハァ、本当、ハァ、あんた駄犬ね」
と息を乱しながら罵倒する返答があったので、竜児は柔らかく返した。
「そうだな。俺は疲れた。止めようぜ」
大河はベンチに座り、足を所在無さ実に揺らしながら、後片付けをする整理好きを見つめていた。
「それで、次、ばかちーはどこに行けって」
テキパキとボールを戻し、二人分のシューズを返しに行き、椅子まで綺麗に拭きながら
竜児が言葉を返す。
「次は映画らしいな。ミニシアターってやつか」
「映画?アクションものとかなら観てやってもいいけど」
「川嶋が選んだんだ。それはないだろう。知らない映画だが、恋愛ものとか、芸術ものとか
そういう系統じゃねぇか?」
「パスパス、そんな面倒くさそうなの、私確実に寝るわ」
「そうだな。飛ばしちまうか。映画館で寝ちまっても、まったく説得力無ぇし。
だいたい、このリザーブシートの時間過ぎちまってるから、問題無いだろう」
「で、その次は」
「レストランで夕飯。これで最後らしいな」
「それいいわ。お腹へったし、決まり決まり。さぁ行くわよ」
シュタッと、ベンチから飛んで離れると、大河は行き先を示した。
亜美は二人がボーリング場を出て、映画館の方向に向かわないのをいぶかしんだ。
「え、あれ、なんでそっちの方向。何勝手して」
Cに後を追う事を促され、渋々と足を向ける。
「今日の楽しみ、あれだけだったのに」
******
予定表に記されたレストランは、今まで竜児たちが居た繁華街から少し離れた所にあった。
昔は船舶の基地として使われ、今はこの街の観光の代名詞となっている公園を抜ける。
その先にはポートエリアと名前を変えた本来の機能を停止した港の跡地が広がっていた。
高級感を売り物にする店舗が並ぶ。
その仲でも際立って立地条件のよい場所。
海辺に向けての広いテラス席を持ち、そこからは、これから沈むであろう夕日が
海との境界線に溶け込むような一番美しいレイアウトが約束されている。そんなレストラン。
それが川嶋亜美が指定した場所だった。
「大河、なんかすげー敷居が高いだが、ここに入らなきゃいけないのか?」
「なにビビッてるのよ。あんたがキョドってると目つきの悪辣さが増すわ。
たたでさえ極悪な顔が、殺人的な、いえ、殺人中な凶悪犯ぐらいになってるわよ」
「現在進行形かよ。だいたい、ここ一食分で高須家何日分の食費が賄えるんだ」
「なに貧乏臭い事いってるのよ。別にばかちーの持分なんだから気にすることないじゃない。
あくまで私たちは協力してあげてるんだから。
店の前で突っ立てるなんて恥ずかしいから、さっさと行くわよ」
竜児は二の足を踏んでいたが、まったく躊躇せず、引かぬ。媚びぬ。省みぬの大河は
そのまま進んでいく。それにつられ竜児も歩き出し、デート相手の前に出る。
女にドアを開かせるわけには行かない。
店の扉を開くと、よく訓練されたという感のボーイがすぐさま、竜児達の前にやってきた。
「いらっしゃいませ。お客様。失礼ですがご予約の方は」
「えーと、川嶋亜美から予約が入ってるかと思うのですが」
「失礼致しました。高須竜児様でいらっしゃいますね。ご利用下さりありがとうございます。
川嶋様にはお母様からも懇意にして頂いております。よろしくお伝え下さい」
一連の流れをスムーズにこなしながら、深々と礼をするボーイに釣られ、竜児も深いお辞儀を返す。
大河はこなれたもので堂々とそれを受ける。
ボーイは礼を失しない程度に竜児に視線を向けると
「失礼ですが、私どもの店ではネクタイ着用がルールとなっています。
こちらでお貸しする事も出来ますが」と言った。
一応、用意してます と竜児が自前のネクタイを取り出し、苦労して巻く。
先ほどまでプロの対応を行っていたボーイが目を剥く!大河さえ一歩引いた。
高須竜児はネクタイを装備した。ジョブが完全にシティー893に変わっていた。
しかもかなり冷酷そうな、弱みを握られたら、裸になるまで剥かれるような
容赦の無い雰囲気をまとっていた。
「ひでーよな、あのボーイさん。…解かってはいたが、改めて思い知った。
はぁー、俺は一生、この人相と付き合っていかなきゃいけないんだよな」
席に着き、二人になると開口一番の独白。
「呪われた宿命なんだから仕方ないじゃない。だけど、あんた、正装ぽい恰好すると余計、
凄みがますわね。普段の服装よりよっぽとヤバイわ」
竜児はしょげた自分を隠さず呟く。
「なんとかなんねーかな」
「ならないわね。なにその情けない顔は。どうしてもって言うなら、そうね。
目つきは一生ものの傷だけど、修正できるとしたら…、その無骨なネクタイ。
巻き方からして無粋なのよね。スーツの時はまだよかったけど、
シャツだけだと余計、ネクタイが強調されて、怖わ!ネクタイ上の目つきが気になる」
追い討ちをかけられ、溜息をつく竜児。不器用な大河は励ます言葉を捜すが、
気の利いた言葉を見つけられない。なので、
「竜児、ちょっと顔寄せなさい」
なんだ藪から棒に と虚を突かれた竜児に続けざまに
「いいから、ネクタイ結んであげる」
と手を伸ばす。
「お前不器用なのに大丈夫なのか」と言いながら、竜児も背の低い大河が結びやすいように、
席を離れ近づく。結びやすいように、腰をかがめ、なるべく胸元を近づ、首を伸ばす。
大河はなれた手つきで、ネクタイを結びだした。意外と上手いなという言葉に対し
「小さい頃は結構やってたのよね。あのくそ親父に。寒気がするけど」
と満更でもない風に続ける。指先の動きが軽やかだった。
その光景は部外者達からもしっかりと見えていた。
「へぇーなにあれ。彼氏のネクタイ、一生懸命結んであげてるよ。新婚ごっこかな?、亜美ちゃん」
とやけくそ気味にニヤニヤ笑いで続けるC。
「うん。そうだね」と
仮面を被り続ける亜美も笑う。今日の彼女は昔と同じ傍観者。
「本当、オママゴトみたいで微笑ましいね」
という言葉に、耳をふさぐ両手すら持ち合わせていなかった。
******
高須竜児は困っていた。
目の前のテーブルの半分には食器が並ぶ、卵の上を半分切り取ったような器に
水を満たしたものもある。
それ全てが高級品でそろえられている。膝に置くナプキンですら、
汚すことを躊躇う程の見事なつくり。
「TVでよく見る光景だが、いざ、自分がとなると。
おい、大河、どういう風に食器使っていくか解かるか。たしかフォークは外側に
並べてあるものを使えばいいんだっけ。もしかして内側?解からなくなってきた。
こいつはフィンガーボールって言うんだろ、たしか」
待ち合わせ時のように挙動不信な竜児。フォークを触る姿は通報されるギリギリだった。
「あんた、フィンガーボールの水飲むなんてボケかましたら、ナイフ刺すわよ」
にこやかにナイフを握る大河、傍からは悪戯にナイフを手に取る女の子でしかないが、
本人は半分以上、凶器として使用する気があった。実際はこっちの方が通報されるべきだった。
竜児はデート相手の気持ちを察し。
「気をつける」と大河と自分に誓った。
「いい竜児、ご主人様の真似をしなさい。さっきから動きが怪しいから」
「お前だって根っからのドジっこ特性もってるんだが、大丈夫か」
「なに私を不治の病持ちみたいに言ってるのよ。あんたの三白眼とは違うんだから。
だいたい、竜児からはそう見えないかもしれないけど、私はいい家のお嬢様なんだから
ちゃんとレディ出来るのよ」
と大河はにかんだ。
改めて見ると、大河は着ているものも一流で固め、それを着こなしている。
他の客にもまったく負けていない。
それどころか、服の中身は他の女性客を遥かに凌駕していた。
その上品な作りの顔、有り得ないほど精巧に作られた唇、目、鼻。芸術品と思えるほど。
一緒にいる事が日常である大河だが、改めて見ると美少女という言葉を体言する存在だった。
そして、店内を飾る光が、彼女の髪の色をさらに映えさせ……、竜児は言葉を失った。
「なにアホみたいな顔してるのよ、馬鹿犬。 一応、デートなんだから確りしなさいよ」
との声で竜児はわれに返り、
「そうだな。川嶋に頼まれたデートの途中だったな。相手が北村じゃなくて悪いが、がんばろうぜ」
「あんたに北村くんの代わりが出来るわけ無いじゃない。逆立ちしたってあんたはあんたなんだから…、
ほら、最後まであんた流でエスコートしなさいよ」
「へいへい」
その後、ペースを取り戻した竜児と、若干ハイペースの大河は
食事を自分たちなりに楽しむことが出来た。
その平穏な食事風景を覗き見るだけの外野、駆け出し女優たちには、
カップルが楽しげな程、惨めさが押し寄せていた。
空腹への緊急対策として、近くのコンビ二で調達したアンパンと牛乳がさらに気持ちに拍車を掛ける。
Cは心からの悲鳴という感じで告げる。
「もういいや。見てる方がバカみたい。終了、終了と私帰っていい?
今夜、彼氏との約束もあるし」
そのいい加減な言動に怒りを覚える亜美だったが、もっと根幹的な問題に気づいた。
「え、彼氏いるの?高須くん彼氏にしたかったんじゃないの?」
「うん、何人かいるよ。ヤンキーくんも付き合ってみても面白いと思ったけどね。
だって亜美ちゃんの反応面白いから」
と亜美に表情を楽しそうに観察しながら、Cは続ける。
「でも、亜美ちゃん慌てさせる役は既に割り当て済みみたいだし、
それに、あんま洒落になってないみたいだしね」
亜美は反論したかったが、今日の計画を自分から壊すことになる事を思い出し、
口の中で言葉を呟くのに留めた。
「そう、その反応、私だけじゃ、なかなか引き出せないから惜しいんだけどね。
亜美ちゃんの相手は強敵みたいだし、引いてあげる。一応私、味方のつもりだし。
そうだ。さっきポロっと言ったけど私が男いるって黙っててね。
亜美ちゃんが彼氏作っても黙ってあげるから、って事で」
とCは言い放つと、後ろを振り返らずに じゃあね と言って立ち去った。
「なんなのよ、もう。ワザと言ってるだろ」
亜美はぶつけどころのない鬱屈を一人抱え呻いた。そして、自然と視線をレストランの方に戻す。
楽しそうな恋人たちが居た。
直ぐに目を逸らす。
ふと、マッチ一本する事が出来れば、楽しい幻を見ることが出来る気がした。
が、今日の運勢から言って、確実に放火魔と間違えれる気がして寸前で辞める。
「もう見なくてもいいんだし」
それだけを救いとして、亜美は一人帰ることを決めた。
******
竜児と大河は食事を終え、彼らも帰宅していた。もうすぐ自宅近くだ。
亜美のデートコースはレストランまでで、それ以上は書かれていなかった。
竜児と大河もその先が書かれていたらとどうしたろうと、それぞれが変な想像をしていた。
「なぁ、大河。うちよってお茶していかないか、なんか肩こっちまった」
一仕事終わったんで飲み行かない?という感じで大河を誘う竜児だったが、
「いい。だってこれはデートでしょ。
家まで送って行くのがデートですって習わなかった?
だから、今日は竜児の家には行かない。やっちゃんには会いたいけど」
と大河がふざける。
「別に俺のアパートだって、お前の家みたいなもんだろう。疲れてるだろうから泊まっていったて…」
「デートの後、泊まれなんて台詞は竜児にはまだ早いわ」
とふざけた態度を継続、そして、二コリと笑って大河は竜児の台詞をふさいだ。
僅かに顔が赤み掛かっていた。
それを隠すように、「おやすみ。竜児」
後ろを向き、足早にマンションへ走っていった。
竜児はいつもと違う大河の態度に、困惑と戸惑いと熱。
そして自分が取ろうしている次の行動に対する少しの迷いを感じた。
だが、「これは昼間からずっと考えていた事、やらない訳にはいかない」
と携帯を取り出した。今日の偽装デートの締めだ。
******
一人での帰り道、否応にも寂しさが増していた。そんな道の途中、亜美の携帯が電話着信を告げる。
ネーミングだけで選んだ着信曲、とある竜と恋の歌だった。
瞬間的に、無視しようと決めたが、
いつまでも切れない着信に、我慢しきれずに出てしまう。
「川嶋、俺だ」
「高須くんお疲れ様。協力ありがとう。なんか納得してくれたみたいだから目的達成。以上、じゃあね」と一方的にまくし立て、切断ボタンを押そうとした。だが、
「ちょっと待て、川嶋」との声で言われたままに電話を切るのをやめる。
言うことなんか聞く必要ないのに、何を期待してるのだろう。と思いつつ。
「何?私は用無いんですけど、て言うか、早く電話切りたいのだけど」
胸のイライラを隠さずに答える。
「1つだけ教えてくれ。お前、ちゃんとしたデートって1回しかした事なかったよな」
その言葉に対し、とっさに、だがいつも通り嘘をつこうと思った。
違うよ。高須くんの知らない間にたくさんしてるんだよ と、
だが、その言葉を信じられたらと怖くなり言えなかった。
「そうよ。高須くんとしかした事ないわよ。なによ。馬鹿にしてるの」
「で、だとしたら
今日回ったとこ、実際使ったデートコースって事じゃないよな。
俺、昔、もし彼女が出来たらって、MD作ったり、こんなデートコースを回ろうなんて
無駄に計画だけ立ててた事があるんだが……」
「なにそれ、なんで高須くんの妄想計画聞かなきゃいけないの?キモ」
「今日行ったところって、お前が行きたかった所じゃないのか?」
「!!」
川嶋亜美は、自分の事を
ある誰かとのデートを、いつも夢見てるようなバカ女だと言われた気がした。
恥ずかしさで一杯になる。早く電話を切りたかった。
ただ会話を終わらせる言葉が思いつかない。会話もなく一方的に電話を切る勇気はもっと無い。
「だからって言うわけじゃないが、趣味悪いと言われても仕方ないが、
このコースで俺とデートしないか」
川嶋亜美は、ただ電話を切りたい。その一心で、仕方なく。
そう自分に言い聞かせて
「うん」
と言って、電話を切ったのだった。
END
以上でメインのお話終わりです。後日談的な話も作ったのですが、
ちょっとメインと合わせて投下すると、冗長になってしまう気がしたので
後日、日を改めて投下させて下さい。
ですので、本日はこれで失礼します。お粗末さまでした。
まとめサイト様、急に二つに分けるとか面倒くさい事してすみません。
やり易いように処理願います。
>>100 私は90%エンドの方が好きなのですが、こうして見ると100%も
面白い展開できそうですねぇ。
負け犬が染み付いてるっぽいあーみん、可愛いです。GJ。
PS.ローマシリーズ続編、着手しました。なんかちょっと長くなるかも…
今しばらくお待ちください。
亜美と大河、両方楽しめたよ
しかしあらためて大河はかわいいなぁ
主役は亜美だと分かってても、
亜美に電話する前に、大河が部屋に入るまでに留守電に
礼というか楽しかったって電話しろよフラグ男、と思ってしまった
>>100 GJ
冒頭の麻耶の疑似アベック化の展開が無くなったのは残念でしたが
元サヤ的な龍虎のデートには2828でした
後日談にも期待
最近麻耶ブーム?
久しぶりに日記読んだ
続き…orz
大河がでてこない摩耶菜々子竜児が仲良いSSタイトルなんでしたっけ?
最近本編を読み直してて、まとめサイトが俺の知ってる頃とほとんど変わってなかったから「寂れちゃったのかな」とちょっと残念だったんだが、なんかまとめサイト分裂してるのな
まだ投下されてるようでよかった。職人様達&まとめサイトの中の人GJです。
日常のヒトコマ2の麻耶があまりに生き生きとしていてマジで惚れた
作者様 続き たのむ
ななこいまだかよ
一つ質問させてもらってもよろしいでしょうか。
麻耶の家事のスキルってどれくらい?
いつやったかの書き込みで『サンドイッチは上手く作れる』って
書いてあったのを見た覚えはあるんやけど……。
昨日作ってくれたハンバーグは美味しかったぞ
レールガンをとらドラの延長で見てしまう件
マジで続き物みたいだ
>>111 確かめてないので確実ではないですが、原作では麻耶の家事スキルについて書かれてる事はたぶんないです
ここでは料理ができる感がある奈々子でさえ家事スキルは実は不明
だからゆゆぽの裏設定では、麻耶が料理得意で奈々子は苦手っていう可能性すらある
だからなにか書くつもりなら
>>111の妄想次第だし、上手い下手の納得できる理由があればいいと思います
原作に描写がなかったんですね。
自分は七巻以降しか読んでないもんで、それまでに何かあったのかと思っていました。
全部書く人次第ってことか。
ありがとうございました。
>>113 すまん。乃木坂さんを延長で見てしまう俺が居る。
麻耶のサンドイッチネタは先日のKARsさんの「キミの瞳に恋してる」のイメージでしょうか
こんばんわ。 雑談の流れに割り込んじゃいますが、
先日投下させて頂いた続きのSS行かせて頂きます。
概要は以下です。よろしくお願いします。
題名 : Happy ever after 第5回 追伸
方向性 :やっぱり、ちわドラが好き
とらドラ!P 亜美ルート100点End後の話、1話完結の連作もの
今回はメインと後日談を別々に投下させて頂きました。今回分を読んでくださる前に
メインを読んでいただけると有難いです。
メイン
>>86 登場キャラ:竜児、亜美
作中の時期:高校3年の6月
長さ :14レスぐらい
Happy ever after 第5回 追伸
高須竜児がデートの待ち合わせ場所である喫茶店に着いたのは、約束の時刻の20分前だった。
「まったく、結局いつもの服になっちまった。結果が同じなら直ぐに来ればよかったか」
息を切らしながら、喫茶店の前まで駆けつける。
そこで立ち止まり、深呼吸、息と整え、汗をふき取る。
改めてデートを意識すると、胃の中からと緊張感がせり上げてきて、背筋を伝い、体中を縛る。
大河とのデートの時はこんな事なかったのだが、あれが偽装デートだったからだろうかと
自分に疑問を感じながら、服装のチェック。髪型のチェックを再度行う。
「元モデル様がお相手だ。出来る限りの事はしなくちゃな。出来ることは少ないが……」
竜児の今日の服装は、コットンのカットシャツ、うす茶のシノパン。
普段着とあまり変わらなかった。
一応、竜児が持っている服の中で、2番目にいい夏服なのだが。高須家の経済状況から
ベストドレスとの格差は明らか。だか仕方ないのだ。これも貧乏が悪い。
メッセージプリントがされたTシャツよりいくらかましだ。
自分との折り合いを付けて、喫茶店を覗く、
入り口から見つけやすい席で川嶋を待つことにしようと、手ごろな席を探す。
と、目を付けた席に、既に彼女がいる事を発見した。
そで無しの白ブラウス、その上に薄い青のカーデガン。
下はミニまではいかないが、短めなスカート
滑らかな肩から先の白い手、スラリとのびた足が服以上に存在を主張していた。
あの川嶋亜美にしては意外とシンプルな恰好だな。と竜児は一瞬、疑問を持つ。
何かに合わせて服装を決めたみたいだが。デートコースか、はたまた今日の陽気か
もっとも、時間を掛けても、鈍感な彼には答えは出せなかっただろうが。
だが、それでも私服というだけで、普段の制服とはちがうだけでこうも印象が違うのかよ とも思う。
初めて会った時、そして2度目の初対面ではっきりと思った、
”見つめられるだけで恋に落ちかねない”そんな女がそこにいた。
再び、軽く深呼吸。遊ばれないように、呆れられないように、緊張感をねじ伏せて、
「よぉ」
そう声を掛け、ゆっくりと近寄る。
「高須くん、なんか遅くない?」
「遅くない?って言われてもな、まだ待ち合わせ時刻前だぞ」
「そうかもしれないけど、結果的に待たせてるわけだし」
と言葉につまりつつも、不満げな表情を向けてくる。この顔をみるとさすがに……
竜児の悪戯心が目を覚ました。普段は眠ってるこの趣向、亜美に対してはよく騒ぎ出す。
それは彼女が対等であるからか、それとも彼と同類であるからか。
女の子に奥手の彼にしては本当にめずらしい行動。
いずれにしても、意地の悪い言い方で竜児は声に応える。
「そりゃ悪かった。で、どれくらい待ったんだ?」
亜美は少し思案顔。かと思えば空中を睨み、ため息を付き、腕時計をチェック、再び空を睨んで
「ついさっき」
とお姫様はのたまわりました。
「なら、ちょうどよかった」
そう言うと、亜美は目を寄らせ、口をまげる。
竜児にとって、意地悪亜美ちゃんと並んで、定番の表情、挨拶みたいなものだ。
もっとも、モデル、女優、そして、大橋高校での、みんなの亜美ちゃんは
けしてそんな表情をする事はない。
竜児が席に付くと、待ってましたとばかりにウェイターがやって来たので、
とりあえずコーヒーを頼む。
そして、テーブルに目をやり、亜美の前にある小さいカップに入ったコーヒーが
冷めてしまっている事を見つける。 お前は? と聞くが、
「いらない。喉渇いてないから」との返事。
竜児はその言葉に、前のデートの事を連想し、コーヒーをキャンセルして、
そっとアイスティーと頼んだ。
「高須くんさぁー、なんかいつも亜美ちゃんばっかり扱い悪くね」
お姫様の不満は継続、ちょっとからかい過ぎたかとも竜児は思ったが、
それも俺と川嶋らしいかと、取りあえずの謝罪等するでもなく、
「どういう意味だ?」
「他の女の子と扱い違うんですけど。ぞんざいって言うかさ。
亜美ちゃんだよ。学校一、日本一の美少女だよ。酷くない?。
海遊び行った時だってそうだし、肝試しの時だって。
高須くんってやっぱりサド?、いじめっ子?
うわー、なんかすげーイジメしそうなんですけど。
下駄箱とかから私の靴取り出してさ、超投げそう。ガンガン投げそう」
「なんで、急に話が飛ぶ。お前の靴投げるとか、なんか変に具体的だが」
と言いつつ想像が出来た。亜美が頑なに意地を張り、竜児は心を開かない事に腹を立て…、
ストーンと投げた。思い切り、オーバーハンドで投げれる自分が目に浮かぶ。
あー、川嶋の靴は良く飛ぶ。
竜児が想像の世界の住人になっているのを引き戻す声が上がる。非難だ。怨嗟の声だ。
「あんた、明確に想像出来たでしょ。あー、やだやだ。なんて酷い男。女の子相手に」
「なに人の脳内の絵まで決め付けるんだ。想像出来たが…
いや、現実で女の子相手にそんな事を俺はしない……と思う」
「そうだよね、出来るのは私にだけだよね。そんな酷い事」
「いや、そんな事は」
「じゃ、実乃梨ちゃんや、タイガーでも想像出来る?そういうシチュエーション」
「想像くらい!、…出来ねぇ…」
竜児は頭を抱えた。亜美の事は確かに想像出来た。イメージ出来た。
まるでそんなIFの世界があるかの様に。だが、実乃梨や大河となるとまったく想像出来ない。
「やっぱり、なんて男。でも……、それは亜美ちゃんが特別って事?なんで?」
「なんでだろう?、……お前を見てると構いたくというか。仮面を剥がしたくなるというか」
竜児は自分に尋ねるようと言葉を搾り出す。そして、自分の一面に気づく
「悪い、なんかお前の前だと、悪い高須竜児やっちまってるな。
あまり良くないなこういうの」
「いいんんじゃないの。私だって高須くんの前で黒いとこ隠してないしさ。
……私は、川嶋亜美は、高須くんの前では結構、素を出してると思うよ。
そんな姿、肉親意外には見せたことないのに」
ドキリとした。唾を飲み込む。もしかしたら素の川嶋の前では素の高須竜児が出てきているのだろうか。
「ふーん。赤くした顔を答えとおっておくかな、そうか私は特別か」
竜児は抗議をしたかった。抗議をしたかったが、自分に尋ねても反論の言葉は出てこなかった。
一息付いたのか、お姫様の機嫌はいつのまにか直っており、改めて竜児に目をやりながら言った。
「それにしても素朴な格好だね。
高須くん、スタイルいいんだからもっとお洒落しないとMOTTAINAIよ」
「MOTAINAI!そりゃ大変だが。お洒落ってピンとこないんだよな」
「今度、服見立ててあげるって。
…でも、飾り気の無い格好も、高須くんらしくって私は嫌いじゃないけど…」
最後の言葉はか細く、竜児は聞き取れなかった。亜美に聞き返したが、
ウェイターが飲み物を持ってきた為、話は中断。
竜児の前に冷たい紅茶で満たされたグラスが置かれようとする。
「すみません。それ、彼女に」と言いながら、亜美の前のカップを取り、
「川嶋、間違えて紅茶頼んじまったから、そのコーヒーと交換してくれ」
「はぁ、何言ってるの、ちょっと」
亜美はすぐに反論するが、その言葉も聞かず、コーヒーに口を付ける。
ぬるま湯になっていたコーヒーはやけに攻撃的な味をしていた。
「苦いなこれ」
「何強引な事してるのよ」と言いつつ悪戯の種を見つけ、すぐに飛びつき、
「何?高須くんって子供舌?、エスプレソの味も楽しめないの?」
とニヤリと皮肉を言って、亜美はアイスティーに、美味しそうに口をつけた。
******
その後、ちょっとした雑談をしながら
アイスティーが無くなるの(相変わらず、結構早い)を待って、席を立つ。
スケジュールはわりと一杯だった。
「高須くん、私、タイガーみたいに無駄体力ないからね。ボーリングは触りだけよ、触りだけ。
何ゲームもやって、映画パスなんて有り得ねーから、そこの所、よ・ろ・し・く」
二人はボーリング場の前に立っていた。さっそく亜美が釘をさしてきた。
「なぁ、川嶋、ここボーリングする場所じゃないよな」
「何言ってるの?、れっきとしたボーリング場だよ。高須くん字も読めなくなった?」
「しかし、すげーやり難い環境だったぞ。ボーリングしたいなら別な場所でした方が良くないか」
亜美はアメリカン人のボディランゲージのように、両肘を脇に当て、手のひら天に向け
「高須くんは解かってないな。単なるボーリング場じゃなくて、
ここはお洒落にボーリング場を楽しむ場所。さぁ行こう」
そう言って、天にあげた手を下げ、その勢いで、思い切りよくといった感じで、
竜児の手を取ると、亜美は歩き出した。
店に入る。相変わらず薄暗い店内。竜児はつい最近来ただけに要領は解かっていた。
手早くカウンターに向かい、受付を済ませる。今回は亜美をリードすると決めていた。
なぜなら、亜美は喫茶店と同じように済ました顔をしていたが、
時折きょろきょろと左右を見回し、他の客を見てはいそいで目を伏せる。
明らかに緊張してる事がわかるし、前回の竜児よろしく周りのカップルたちの行動に
動揺してるようだったから。
「川嶋、三番レーンだってよ。とりあえずシューズ借りにいくか」と促し、
「ボールも軽めなものでいいか」
と竜児がセッティング、「子供あつかいしないでよ」の抗議もどこ吹く風で、
「しょうがねーだろ、お前子供なんだから」
と言葉をふさぎ、手早く準備完了となった。
「じゃ、軽く練習がてら1ゲームやってみようぜ」
「練習がてらって、1ゲームしかする気ないよ」
「それじゃ、シューズのレンタル代とかMOTTAINAIだろ」
「だって、亜美ちゃん疲れちゃうもん」
「お前、ボーリングしたくてスケジュールしたんじゃないのか」
「別に、高須くん達が慣れないデートで緊張してるかと思って、
最初は体動かすものにしただけだし〜。亜美ちゃん、疲れる事なんかしたくないもん」
と背伸びしながら、ものダルげな態勢を取る。だが、顔はまだ強張っている。
「だったら、ちょうどいいじゃねえか、お前緊張してるし」
「緊張なんかしてないって」
言うまでもなく嘘だった。いまだに回り見回して。仮面を中途半端に被ってるまま。
「川嶋、やっぱり俺たちにあった場所がよかったんじゃないか」
「それって、ゲーセンとか、スドバとか?
それって…。それも悪いとは言わないけど、楽しかったけど。、
でもお洒落な場所とか、高級な場所が、自分を成長させる事もあるんだよ。
私、もう17歳で、女優だから、ゆっくりしてられないし、ママが17の時はもう…、
それに今日は私が行きたい所でいいんでしょ」
竜児はその言葉に、彼女なりの、彼女らしい考えを感じ取り、
「そうだな、悪かった。もう文句は言わねぇよ」
「そうそう、女の子の言うことはきくもんだよ。じゃボーリングやろ」
と亜美は軽く笑って答えた。
亜美は疲れることなんかしたくない、と言ったわりに上手かった。
ストライクを取る事はあまりないが、確実にスペアを取っていく。
スプリットにしても大河みたいに、2兎を追うような事はしない。
取り易い方を捕っていき、あわよくば二つを狙う。無理はしないで積み重ねていく。
「ボーリング上手いな。よくやるのか」
「そんな事ないよ。でも大体の事ならある程度はこなせるし、ほら私、器用だから」
「そうだな。大河みたいに教えないといけないかと思ってたが、その必要がないから楽だ」
「……そう。私、器用なんだよね…」
という感じで、あっという間に1ゲーム終了。
後半から、亜美は妙に凡ミスが増え、取りこぼしがあった為、辛くも竜児が追い抜いた。
川嶋には負けられないと必死だっただけに竜児はホッとしていた。
「どうする?、もうやめるか?、俺は体暖まってきたから、もう少しやりたいんだが」
「……高須くん。
やっぱさ!やっぱり、高須くんの方が上手いみたいだから、だから、教えてもらおうかな
カーブの掛け方とか……」
そう言ったかと思うと、亜美はそっぽを向く。
「お前だって綺麗なカーブ掛けれるじゃねえか」と喉まで出かけたが、
意地っぱりの頬が紅潮してるのを見つけ、止めた。
「おう、じゃ、高須式プロボーラ養成ギブスで教えてやる。あれで能登にも教えたし。
春田でさえマスターしたんだからな」
「ありがとう、じゃやろうか」
そうは言ったものの、竜児は目の前の現実に直面した。まずい。これって。
「えーと、川嶋さん、後ろに立って良いか?」
「……いいよ」
「覆いかぶさっちまうが、構わないよな」
「……うん」
高須式プロボーラ養成ギブスは自分の体をギブス代わりに見立ててフォームを調整する。つまり、
(おい、どうすんだよ。体密着しなけりゃいけないよな。
これ女相手にやるのって、犯罪じゃね?。俺、どうすんだよ)
竜児は心の中で悲鳴を上げた。
「高須くん、もっと体つけていいよ。そいいうやり方なんでしょ……、腰とか」
「えーと、悪い」
と覚悟を決めて、いつもどおりの態勢をとる。と亜美から強い吐息が漏れた。
反射的に体を離す。
「悪い。やっぱ悪い」
「……いいよ。だってこれ、教えてくれる為なんでしょ」
「そうだが。そうなんだか」
ほらと言って、亜美が竜児の手を取る。竜児は握られた手の体温が上がっている事を知った。
火傷するくらい熱い。感じた熱は掴んだ手か、それとも上気した自分の顔か。
そして心臓の鼓動はとても早い。密着した腰から、後ろから抱くようにして密着した背中からも
感じた。そして自分の心も。
それから、かなり効率の悪いカーブの掛け方教室が3ゲームにわたって行われ、
亜美は凡ミスがかなり増えたが、ストライクの数がいくらか増えた。
******
映画館に早足で向かう。軽くすませる予定だったボーリング、二人はかなり時間を使っていた。
それは、やめるタイミングを失っていたから。どちらとも止めようと言わなかったから。
竜児は、川嶋がやけに映画に拘っていたから、さすがに遅れる訳には行かないと先導して急く。
この分なら間に合うだろうと目処が立ち、連れを観察する様子を得る。
亜美はボーリング場からずっと無言。鉄面皮を被っていた。
竜児は対応に困っていた。ボーリング場の出来事、その後、どう行動すればいいのか。
だから受身に回る。亜美がなにか反応してくれれば、それに合わせればいい。
だが変化はない。竜児から伺いしれない。
頼むから、と、なにか情報が手に入らないかと様子を見る。
だが亜美の表情は動作不良を起こしたように、フリーズしたかのように変化を見せなかった。
滑り込むようにして、ミニシアターに飛び込む。
時間的には余裕があったが、逃げ込みたかったのだ。映画をみている間は余計な事を考えなくてすむ。
それは二人とも……。
竜児は亜美チョイスと言うことでお洒落なミニシアターをイメージしたいたのだが、
特別お洒落なものではなかった。
カップルシート満載とか、独特なという表現でいいのか、ミニシアターにありがちな奇異な仕掛けはない。
普通に映画館を小さくしたような作り。彼にとっては意外だった。
さらに意外だったのが映画の内容。
ジャンルはたしかに、恋愛映画と言えなくもなかった。
古いフランスの映画だった。
ハイスクールで会った男の子と女の子が付き合って、波乱もないまま結婚して、
子供が生まれ、そういった平和で平凡な生活が描かれていた。
娯楽性も豊富でなければ、洒落た感じもしない。淡々とした映画だった。
後で感想を求められてたらと必死に印象を残そうと必死に観た。だが無理だった。
横にいた亜美が涙ぐんでいたのが印象に残りすぎた。
なんで泣いてたのか、寂しかったのか、悲しかったのか、嬉しかったのか、
その理由が聞きたかった。だが、どんな聞き方をすればいいか解からず、
「そんなにこの映画を観たかったのか?」
なんてどうでもいい事しか聞けなかった。
「うん、観れて良かった。一人で見る勇気なかったから」
と答えた顔が心に残った。
******
「信じられない。信じられない。信じられないーい!」
海沿いのレストランの入り口で亜美が悲鳴のように声を上げる。
竜児が突然、路上で亜美のブラジャーを強奪した……訳ではない。
ただ、亜美に同様のダメージを与えるくらいの失態をしてしまった。
「申し訳ありませんが、本日はご予約がないお客様はお断りをさせて頂いております」
いつもの乗りで予約なんてものが必須な店である事を忘れていた。
竜児が日常で利用している飲食店と同じ調子で、
店にいけばなんとかなるだろう、最悪、待つことになるかもしれないが。
と彼は簡単に思っていた。貧乏が憎い。
竜児が貧乏に抱いている感情以上に、亜美が憎憎しげに睨んでいた。
気づかない振りをした。
気まず過ぎて、怖すぎて、彼にはそうとしかする事が出来なかった。
コンクリートで固められた波止場を二人で歩く、デートスポットを意識して作られている為、
一定感覚で常夜灯が点り、波の音と相まって、雰囲気を作る。
そう男女で歩くには、最適といってもいいシチュエーションのはずなのだが、
「サイテー」
お姫様のご機嫌は最悪だった。
竜児は自覚があるだけに、返す言葉も無く…、いい訳のしようもなく…。
これが7回目の「サイテー」だった。
「なにか言うことないの」
ここに来て初めてサイテー意外の言葉を聞いた。とりあえず機嫌を直してもらおうとするが、
機転の利いた台詞が見つからず、とりあえずと様子を見る。
「川嶋さん?」
「あーあ、最低」
カタカナから漢字になっただけだった。
竜児の発言を求めた割に機嫌を直すチャンスも頂けない。
もしかしたら不機嫌で通す事を決めてるのかもしれない。
たしかに俺が悪い訳だが、そこまで悪い事したかと今日一日を反芻する。
喫茶店 → 意地の悪い事を言う
ボーリング → エロ男
映画館 → 感想の一つも言えない
レストラン → 問題外
最悪だった。
高須竜児という存在そのものが最悪だと自分自身の説明文が書ける気がした。
デートに誘っておいて、これって、
今、裁判が行われたら、裁判官どころか、陪審員の方々も全員一致で有罪の表決をするだろう。
そう思い。竜児自身も控訴しない事に決めた。
C
せめて、反省の気持ちをと、さっき、隙を見て買ってきた食べ物を亜美に差し出す。
人間、空腹の時は余計、怒りやすいものだ。
「……なんで牛乳とアンパンな訳。
そう、タイガーはレストランのディナーで、私はこんなもんがお似合いって事だ。
そう言うことなんだ」
竜児のささやかなお詫びは、亜美の背中を思い切り押し、
余裕で最後の一線を越えさせる事に成功した。
「大体、あそこのディナーの値段知ってるの?
仮に入れたとして、支払い出来ないって落ちだったんじゃない?」
怒りの表情を表に出し、亜美は攻撃口調となっていた。
「それは無い。一応、前回の時チェックして来た。たしかに高いが払える。」
「あそこの食事代を、一般庶民の高須くんが?
その上でデート代を自分が持つって?
あーそうか、だから、私たちには不相応なデートだって言ってたんだ。
たかがデートにMOTTAINAIよね」
「勿体無く無い!」
少しばかりカチンと来て、竜児は強い口調になるが。攻められるべきなのは自分だと
悪ぃと謝罪する。それ態度を見て、亜美の態度が変わった。諌めるように。
「ねぇ、高須くん。私の今のギャラ知ってる?。モデルの時とは桁違いなんだよ。文字通り。
私が持つって、せめて割り勘でいいじゃん」
「俺が誘ったデートだから、俺が払う」
「男のプライド?つまらないよ高須くん。格好悪い、」
「別にいいだろ」
竜児は意地を張る。そこは引き下がれない領分だと。たとえ喧嘩になっても。
だが予想外に亜美の機嫌はよくなり、
「そっか、じゃあ格好悪い高須くんに合わせますか」
と言って、偽者怒りんぼは牛乳を啜った。
「格好と言えばさ…、悪いとまでは言わないけど、今日の服装ってタイガーとデートした時より、
グレード低いよね。やっぱりタイガーと亜美ちゃんで差付けてる?」
「付けてる訳ないだろう。ただ前回来た服が、役者を納得させないといけないデートだって事だから、
俺が持っている中で一番いい服だったてだけで。
あのデートと同じ服着てくるのってなんか違うだろ」
「ふーん、気は使ってくれてるんだ。
でも、その服じゃレストラン入れないと思わなかった。やっぱり計画的犯行?」
とからかい口調になりながらも、まだ亜美は竜児を攻め立てる。
「一応、これとは別な服の用意はしてあった。近くのコインロッカーに
ほら、お前も観たことあるだろう、クリパで着たスーツ。
服以外の理由であまり着たくないんだが」
「クリパ、クリパ、クリパと」
目を上目使いで宙に向け、何も無い空間を見つめる。口を少しだけ空け、考え事、それに数秒。
なにかイメージ出来た様子で、目を悪戯ぽく輝かす。
そして、亜美は少しだけ勇気を振り絞って
「じゃあ、じゃあさ。その服着て来てよ。一時間?ううん、二時間待ってあげるから」
「着たってレストランには入れないから意味ないんじゃないか」
「着てきて!高須くんやっぱり悪いと思ってないんだ。亜美ちゃんがこんなに頼んでるのに」
より強い口調で続ける。言葉は冗談ぽい物を選んでいたが、その声の響きは真剣だった。
その意味を理解し、竜児は了解する。
「解かったよ。近くのコインロッカーだから三十分もあれば戻ってくる。待ってろ」
「二時間って言ったでしょ。私だって都合があるの。ほら行って来て」
******
スーツに着替え、待ち合わせの場所に竜児は一人居た。
彼自身が告げた通り、三十分もしないで着替え終わり、
万が一にも彼女より遅く到着する訳にはいかないと、用意が出来ると直ぐに元の場所に戻った。
あれから、約束の二時間が過ぎ、三時間が過ぎ、既に四時間に成ろうかとしている。
もう直ぐ二十三時を回る。
「これは罰ゲームだよな、やっぱり」
波頭に一人、高そうなスーツを着た男が回りに鋭い視線を走らし、何時間もただ立っている。
時折、深い溜息と、己を侮蔑するように首を振る。
周りの人間は身の危険を感じ、遠ざかっていった。今や竜児一人を残し人影は消えていた。
今日一日の事を思えば、罰を受けるのは仕方ないと思った。が、それにしても、
「暗い夜に一人きりって応えるな。寂しいっていうか、心寒いというか」
竜児は真の意味で、一人ぼっちになった事はなかった。
母の泰子が竜児の事を思ってくれている事はいつも解かっていたし、
今では新たな家族とも言っていい、大河と過ごす事が多い。
だが、その怖さは知っていた。母子家庭の彼は小さい頃、いつも取り残されることを恐れていた。
だからか、そんな人間をほっておけない所があった。
いつしか川嶋亜美の事を思い浮かべる。寂しそうな横顔をしていた。
イメージした彼女は何故か一人だった。
竜児は被りを振る。そうじゃない。そんな事はさせないと決めたはずだった。
あいつはそう言うのが人一倍嫌いなはずだ。
せめて想像の中ぐらい。
「怒ってるのかな、あいつ」
寂しい顔より、怒ってる顔の方がましと、亜美が怒ってる顔を思い浮かべようと、
今日一日を振り返る。不満そうな顔だらけだが、緊張した顔、楽しそうな顔、恥ずかしげな顔
百面相のように浮かんでくる。
改めて考えると、思っていたよりましな一日に思えてくるから不思議だった。
そして、最後まで行き着く。別れ際に見た亜美の姿は
なにか面白い事を思いついた自称、悪戯っ子亜美ちゃん の顔だった。
寂しそうな顔が無くて安心した。この罰ゲームがあいつが思いついた悪戯なら、
あの表情を引き出せるなら甘んじて受けよう と気持ちを固め。
すこし楽になった心で、一人でいる夜を楽しむことを決めた時、
ハイヒールで、コンクリートを蹴りつける危なかしい足音を聞いた。
そちらに目が行く。
目に入ったのは精一杯の高さを強いるハイヒール、そして、少し透けた黒のストッキング。
スラリとした足をより艶かしく見せ、目を奪われる。
その長いい足は、漆黒のドレスに吸い込まれる。
シンプルなドレスは体のラインを浮き彫りにし、自分を着こなす主人を称える。
そして…、前髪を斜めに止め、タイトにアップした髪は、
額、いたずらぽい瞳、小さい唇、なにより走って来たその上気した表情を
隠す事なく、宝石のように輝かせて見せていた。
それは去年の十二月二十四日、学校の体育館で見た川嶋亜美の姿だった。
「よっ」
亜美は照れ笑いを浮かべ、おどける様に右手を上げると声をかけて来た。
「高須くん、お待たせ。待ち遠しかったでしょ」
「おぅ、お帰り」
「遅かったとか、いつまで待たせるんだ、とか言わないんだ」
「そりゃ、俺が待ってろて言ったからな」
「ずっと私の事待っててくれた?」
「限界はあるぞ。朝まで待って、そしたら帰ろうと思ってた。学校もあるしな」
「朝まで待っててくれる気だったんだ。そうか、そうか。褒めて上げる」
そう答えた亜美は、あの日、あの歌の感想を言われた時のような笑みを浮かべた。
そして、自分の表情を隠すように、背を向けると
「言い訳なんだけどさ、どうしてもクリパの時みたいな髪をセットしてくれる美容院が無くて、
行き着けの店に着いたときはみんな閉まっててさ。
無理やりお願いして、セットしたから時間立っちゃって」
「そんなにあの時の髪型が気に入ってたのか、その割には一回しか見た事なかったが」
「にぶちん、そうじゃなきゃ意味ないてのに、亜美ちゃんばっかり気合入れて馬鹿みたい」
「いいや高須くんだもんね。それよりさ、なんか無いの」
背を向けていた黒いドレスの少女は、そこで1回転半。スカートの裾が小さく、ふわっと傘を作る。
そして、あの先ほどと同じ、竜児に全てをあずけるような、そんな笑顔を浮かべる。
見つめられるだけで恋に落ちちまいそうな女の無防備な笑顔は、
先ほど思い浮かべた亜美の表情の中でも一番輝いていて、だから竜児は…
「綺麗だ」
「え、高須くん、何か言った?」
「何も言ってない!」
「綺麗って聞こえたよ。ねぇねぇ、誰の事」
「さぁ、誰の事だろうな」
「私?それともあたし?」
「おい、それお前しかいないじゃないか」
「そうか、そうか。僕にはお前しかいないって
そうだよね。綺麗な人は私しかいないよね。と・う・ぜ・ん♪みたいな?」
顔を熱くさせて竜児は言葉を失う。だから、海風が強さを増してきた事は幸いだった。
そうでもなきゃ、血潮の熱さで体が燃え出すじゃないかと思った。
「くしゅん」
小さなくしゃみが聞こえた。そむけた顔を戻し、お姫様をみるが知らん顔。
だが、また一陣の風と共に、くしゃみが一つ。
きらびやかに体を飾る服は、不意に吹く海風にすらその身を守る力は持っていなかった。
「川嶋それ寒そうだな。六月でも夜の海じゃ厳しいか。朝まで雨ふってたし。
それにしても、その服、よく十二月に着る気になったな」
「解かってないな。女の子の服の選択で一番大事なのは、見・た・目。
勝負の時は保温性とかは2の次だって、どうでもいい時はそれなりだけど♪」
「本当、女って大変だよな」
としんみりと竜児。
「高須くんは。もう少し苦労をした方がいいと思うな。女の子についての苦労。
きっと、今後の対応も変わってくるはずだから。
って無し無し。女関係の苦労なんてしなくていいから、私も疲れそう」
と取り乱す。
「お前はどうしてほしんだ」
「なんだろうな〜なんだろうね〜。この鈍感」
と不満そうな台詞、そして続けて、
「もう、今日はやり直しの日なんだって。高須くんと話してると本当、調子崩す」
と後ろ手に持っていた箱を差し出した。
「まあいいや、これ、あげる。開けてみて」
「サングラス?なんでだ、これから夏だからか」
「亜美ちゃんと週刊誌にツーショットが載るとき用よ。素顔が出るよりマシでしょ?」
「お前危険な事を…」
「ふふっ、冗談よ。あらてめて、お近づきの印ってヤツ?」
「川嶋、俺何も持ってないし、一方的に受け取る訳には」
「いいじゃん。高須くんにあげようと思って買っておいたんだけど。なかなか機会がなくてさ。
亜美ちゃんこれ持ってるのうんざり、かれこれ半年も立つし」
「半年? 十二月…、クリスマスか…」
竜児は口に出す前に言葉を飲み込む。プライドの高いお姫様の気分を害さないように。
そして、自分の机の上で寂しそうにしている。届くことの無いヘアピンの事を思い出し、
「ああ、そういうことなら……、ありがたく頂くよ」
「かけてみて」
「ここでか、だいたい夜じゃ意味ないだろ」
「すご〜く意味あるよ。大事だよ。だ・あ・って、私がみたいから♪」
「まったくガキみたいな言い草だな。わかったよ。……サングラスなんて初めてだが」
「うん、うん。似合ってると思うよ。本職みたい。
ちょっとサングラス越しにうっすらと透ける白眼が尋常じゃないけど……」
「最後の言葉が腑に落ちないが、だいたい本職ってなんだよ」
竜児の文句に、プレゼントに対する不満に、亜美はちょっとだけ慌てて言い訳をする。
「でも、高須くんの目つき隠れるよ、これで。見慣れた人はサングラスの方が
怖いかもしれないけど、知らない人が見たら、普通の範疇だって」
「はいはい、俺の目はどうせ鋭すぎるよ。その上、三白眼だよ」
「言っとくけど別に私は高須くんの顔が怖くて、それプレゼントした訳じゃないんだからね。
コンプレックスもってるのかなと思ったから用意したけど、
個人的には、高須くんのいつもの眼差しって、ポイントだったりするし……
で何言ってるんだろ。もうさ、いいから貰っておいてよ」
そんな必死さに可笑しさを感じつつ、プレゼントの受け取り主は簡単に、だが心からの感謝を言葉にする。
「お、おぅ、ありがとうな。川嶋」
「う、うん」送り手は顔を赤くし、照れ隠しとばかりに反転、
軽い足取りで歩き出し、、
「なんかすっきりしちゃった。中途半端だった事とか溶けてく感じ。これであの日は全部いい思い出」
心なしか声を明るい。
その明るさにつられて、竜児はクリスマスの事を思い出していた。
まず思い出すのは未だに針を刺すような痛い記憶。だが、ゆっくり忘れていく事を誓った出来事。
初めは倒れる程の、巨大な金槌で頭を殴られるくらい、意識を失うくらいの痛み。
今では心臓に細い金属がねじまれる程度の鋭いが耐えられる痛みに変わった。
それは今一緒にいる、もう一人のおかげもある訳で……
準備からみんな団結して、盛り上がって、
当日なんか、みんな笑顔でキラキラ輝いて。
クリスマスパーティーは準備から縁の下に居たのは川嶋だった。
もちろん、美味しい所はちゃんと顔を出す。
そう、川嶋と大河が歌をうたってたけ。
よくもまあ、あの場に大河を引っ張り出せたもんだ。
主役にしたかったんだろうな、なんだかんだで大河の世話焼きたがる奴だ。
まったく川嶋らしい。
あの後、大河は帰っちまったが、本当に馬鹿なやつだよな。
Lonely Christmas じゃつまらないって歌ってやがったのに。
クリスマスはみんなが幸せでなきゃいけないんだろ……
幸せでなきゃ?孤独なクリスマスじゃつまらない?
ちょっと待て。
あの夜、みんな幸せがったのか?
川嶋に会って、歌どうだったて聞かれて、それで、俺は大河の事心配して。
川嶋はその事で俺を怒って?、その事?
川嶋の忠告を聞かなかったから?
いや俺が解かってなかったからだ。大河の孤独も。川嶋の気持ちも。
春田が言ってた。川嶋がその後、すぐに帰ったって、泣いてたって…
パーティを盛り上げる為一番頑張ってたのは誰だ?
大河をフォローしてやったのは誰だ?、俺じゃない、俺は当日まで一杯一杯で、
だがクリパの後は大河を一人ぼっちにはさせなかった。俺はあいつの家に駆けつけた。
それはあの夜はみんなが幸せにならないといけないって思ってたからで。そう思って。
けど、それはたぶん、川嶋も同じで。だから準備だって一生懸命盛り上げて。
それなのに一人で泣きながら帰って、たぶん、一人で夜を過ごして…
俺は大河と馬鹿さわぎして、気づきもしないで…
「川嶋!」
川嶋亜美は振り替ええると
「どうしたの?」といつも通りの笑顔をしていた。
「クリスマスの事でお前に謝らないといけない」
「何?高須くん何かやっちゃった?罪の告白?」
「…お前を泣かせた」
お姫様は反転、再び前を向き、歩くのを再開。
C
「なにそれ、亜美ちゃん泣いてなんかいねーし」
「クリパ出て行くときだ。見た奴がいた」
「何かの見間違いじゃない。
そうだとしても、そんな昔の事別にいいよ。高須くん空気読めないかな。
今は楽しいデート中なんだよ」
お姫様は歩く歩幅を、速度を早める。
「それに罪の告白をしなけりゃいけないのは本当は私、
私の願いの所為で高須くんはクリスマスにインフルエンザにかかったんだから」
「なんだそれ、全然関係ないぞ」
「私はそう思ってる。高須くんはそう思ってない。クリパの話と逆だね。
だから、お互い様、この件は無しでいいじゃん」
「川嶋!!」
お姫様は歩くのを止めた。そして笑顔で振り返る。
「私は今、とってもいい気持ちなんだ。そんなのに水を差すなんて洒落てないよ。
私はね、自分がどう思ってるかちゃんと考えてる。
考えた上で、今楽しいって思ってる。高須くんは今日のデート楽しくなかった?」
「そりゃ、俺だってデートは楽しかった。だが」
「じゃいいでしょ。このままでさ♪」
今度はハイヒールだと言うのに、軽やかな動きでダンスを踊る。
そして、新たに習ったステップだと、軽快に回る。
竜児はそのはしゃぎ振りに危うさを感じた。
「川嶋あぶないぞ」
「だって、楽しいんだもん。高須くんの前では子供みたいでいられるから」
亜美は聞きもしない事を返答する。案の定、バランスを崩すが、それでも揺れる。回る。
そんな光景を見ていられなくなり、竜児は強引に手を取ると、胸に引き寄せた。
「見てて危なかしいんだって、お前は」
川嶋亜美は震えていた。
亜美は抵抗も無く、そのまま竜児の胸に収まり、震えていた。
いくらか時間がたった。海風がさらに強くなる。
「……やっぱり寒かった」
竜児が腕に力をいれる。亜美は続ける。
「自分が…寂しいかどうかって考えるのって……、やっぱり辛いよ」
「…じゃあ、真っ直ぐ表現しろよ。対等なんだから」
亜美がしがみ付く。
「…とっても寒かった」
竜児は亜美の剥きだしの肩に、素肌に手を掛ける。風から守るように抱き込む。
亜美の素肌はボーリング場で感じたように、とても熱く。けれど、か弱く。
それでも華奢な体を、壊してしまいそうなくらい強く。たが、もっと脆いその内側を守るようにしっかりと
お互いの気が済むまで、ただ抱き合った。
END
以上で第5回分、全て投下終了です。お粗末さまでした。
支援下さった方ありがとうございました。
VM様、亜美派としてローマ楽しみにしてます。
>>135 竜児を着替えさせたくだりからの展開が好きだなあ。
4時間待たされたとしても、
>いたずらぽい瞳、小さい唇、なにより走って来たその上気した表情を
>隠す事なく、宝石のように輝かせて見せていた。
こんな亜美ちゃん様のご尊顔を見られたのならば勝てると思うよ、何にかはわからないが。
138 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 04:57:43 ID:F+saC2QS
>>135 毎回クオリティの高いSSをありがとうございます。
もし次を書くのでしたら、夏祭りでの二人のデート
なんてものを見てみたいです、そこで彼氏同伴のC
と遭遇なんてなったら面白いですね。
亜美ちゃんせつない…
140 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 22:13:56 ID:wKCK4k4f
以前あった、すみれと竜児が幼なじみのssと、
亜美と竜児が修学旅行に行かないssが気になる。
「すみれ姉ちゃん」と「二人だけの修学旅行」かな
私も続きを読みたい
いいな、この亜美SS
クリパのやり直しで竜児があの時の亜美の気持ちに気付いて謝罪から告白とか
あの時、悲しい思いさせたのをやり直す感じで演技したりするかと思いきや
謝罪させないってのが、この職人さんの今までの亜美の行動だなって納得させられた
どうも。今から4スレ分の短編を投下いたします。
お題は「気まぐれ」です。地味ながら。
厳密的に言うと、亜美→竜児というテーマになりますが、自分の中では亜美x竜児なのです。エロなし。
一応、ドメイン規制に巻き込まれない道を確保したので、これからも暫くお邪魔させていただきます。
なので、今回からtripつけて投下します。ちなみに、以前投下したものは「無題」独身と、奈々子エッス!の二作品です。
これは春で起きた、ささやかな出来事。
数ヶ月前、高須竜児と逢坂大河は、共に現実からの逃避行を行った。
それは一般的な「駆け落ち」ともいえるモノであったが、結果的にはそうとは呼べない。なぜなら、二人は恋人同士に成らなかったのだ。
自分の家庭の問題から逃げ出そうとした二人は、改めて「家族」なる存在を求めるように、「恋愛関係」の斜め上へとその道をそらした。
二人は、お互いの間の「恋愛」と思い込んだモノに、破綻を見つけた。そうして、「成熟」へと長く長く続く階段を、やっとの力で一歩を進めた。
その一歩のお陰で、その逃避行も失敗で終わった。彼らは家の人間とある程度和解し、色んな人の努力と寛容のお陰で日常に戻ることを許された。
その後、竜児と大河は相変わらずなフランクでな関係を保つまま、それ以上の感情を示せず、その関係にも劣化する徴兆は見られない。
そして桜が満開する先月、彼らはその級友たちと共に三年生になった。二年から三年に上るのは、一線越えるだけのこと。
だが、それも二年生としての一年間の成長を清算する瞬間であって、「三年生」という肩書きを持ってようやく実感する変化もある。
それぞれの道に気付くことに。前に進めなければならないということに。あと一年で、何もかもが変わるということに。
その故、「恋」というものに分かつ時間こそ少ないものの、だからこそ恋に意識してしまう、という人も少なからず居る。
亜美もその一人である。
櫛枝みのりが一度身を引き、逢坂大河と竜児もお互いを恋愛対象から外した現在、川嶋亜美の存在は前より少し目立つことになった。
とはいえ、亜美と竜児の関係に重大な変化があったのではない。親友として認められるのも精一杯だった亜美にハードルが高かった。
「高須くぅん〜」
一時間目後の休み時間に、亜美が猫撫で声で竜児を呼びつけた。
「おう、川嶋。」
「午休のことだけどぉ、亜美ちゃんと一緒にご飯食べなぁい?ふ・た・り・で」
「ん…いいぞ。大河に弁当渡しとく。」
「えっ?」
亜美は戸惑いを隠せなかった。普段「からかうな」とその類の返事しか出さない竜児が、何故か素直に亜美の誘いを受けた。
「なんだ?もしかして、またからかうつもりだった?」
「ううん、じゃあ一緒に食べよう。ふーん。なんか機嫌良さそうね。」
竜児が亜美に優しくするのは、彼女自身を意識しているからではない、と亜美は察している。
「おう。分かるのか?いやー。
こないだな、間違いでちょっと高かった清潔剤をうっかり買ったんだが。今までMOTTAINAIって、
切り札としてとって置いてたんだ。昨日はいよいよ出番でな。なんか凄かったぞ。普段何回も
擦らなければならない油の跡は一振りだけあっさり解決するなんて。ウチは貧乏で高い物を使う
機会なかったから、びっくりした。でもあまりにも凶暴すぎるから、また封印してやったんだぜ。」
彼は舌滑りよく自分の好機嫌の原因を解説し、「ハンデをつけて素人に仕掛けたがる武術の達人の気持ちはよく分かったぜ」
というどうでもいい感想を、爽やか(?)な笑顔で発表した。工具に溺れず、常に魂を鍛え続けることを忘れるまいとかなんとか。
「それで今朝――――」
「そこで止めて、キモイ。もういい。午休、約束忘れないでね。」
亜美は竜児の熱弁を中断し、ぷいっと一転身してその場を後にした。
確か、オバサン男子のマニアックな話に面白みはなかったが、それが原因だというワケではない。
自分の悲観的な予想が正確に現実を捉えたため、腹立っているのだ。
「うん…おう。」
離れてゆく不機嫌な背影へ、空気読めるオトコなる竜児は、とりあえず最低限の返事をした。
…そして午休。
教室では他のクラスメートの目を引くからと、亜美は屋上で昼飯を提案した。
そして竜児も納得した。二人は屋上に行って、日当たりが割と強くないところに座る。
「珍しい。ここまで付いてくるなんて、何時も亜美ちゃんに意地悪しちゃう高須くんには見えないな。」
「まあ、たまにはそういうのもいいかなって。っていうか、お前のほうが俺に意地悪していた気がするけど。からかうとか。」
「亜美ちゃんは何時も本気だっつーの。あたしの極上の色気をマジスルーするなんて、ちょーありえねぇですけど。」
何時も気さくて自分との接近を拒み続けた竜児と、こうして二人でいるの時間はかなり貴重。
だが、そんな貴重なときにも、憎たれ口叩き合うのがデフォルト。これは二人なりの親切であり、二人の距離を示すことでもある。
「ヒルメシってその学食パンだけか?カロリーはともかく、栄養は足りないぞ。」
亜美は自分の昼飯を持ち出した。そして、竜児は余計なおせっかいをしながら、自分の弁当を開け、亜美に見せ付ける。
食材こそ豪華なものではないが、竜児は色んなものをバランスよく混ぜて並べて、その色香を限界まで引き出している。
亜美は竜児の弁当から目を逸らし、生唾を飲み、パンを口に放り込んだ。干魚の香りで米を食う貧乏人のような感性で。
「高須くんが弁当作ってくんないから。
学校じゃあロクな物ないし、亜美ちゃんご飯なんか作らないよ。」
「俺のせいかよ。どうせ作ってやっても、怪しまれるからって怒るだろう。」
「…怒らないなら作ってくれる?」
「食費さえ出してくれれば、大丈夫だな。」
亜美の中に何かがはじけた。
「ちょっと味見させてくんない?」
「じゃあ、ちょっともってけ。」
「わーい。高須クンやさしー。あーん。」
「ああ?」
「高須くん、早くぅ。あーん。」
「お前なあ…」
「あーん。あーーん。」
亜美は戸惑う竜児に容赦しなかった。
「わかったわかった、お前の勝ちだ。えっと、この春巻きでいいな?ほれ」
「あむ。ん、美味しい。」
竜児は涼しい口調を保っているが、顔はすこし赤くなっている。それで亜美は満足した。
亜美はずっと、このような行為で、自分が女性として意識されていることを確認していた。
「おう。」
「でも手馴れてるー。流石バカトラの保護者。あたしも高須くんみたいな家政婦が欲しいな。」
「さり気なく酷いこと言ってるな。」
「まあ、これから弁当頼んでいい?食費は五百円ぐらいでオッケ?」
亜美の家は裕福で、食事なら軽く数千円以上まで使えるが、竜児自身は弁当にそんなに金を使わない。
だから、亜美は「五百円」という適当な低額を申しだした。さもなくば、竜児はきっと提案を受け取らない。
「いや、その半分ぐらいもねぇよ。」
「そう?じゃ、余るぐらいなら、もっとマトモな食材を買えばいいじゃん。この亜美ちゃんの美容をショボイもので壊したくないんでしょ。」
その為に特別なメニューを立たなければならないと、亜美は言えなかった。これは彼女のせめてもの謀り。
「おう。じゃあ、五百円にするか。」
そう言って、竜児はニヤっと微笑んだ。
「キモイ顔。」
亜美は竜児の笑顔に少し時めいたが、不機嫌そうに顔を背けた。無論、それは照れ隠しであった。
「ほっとけ。ってか感謝は?」
「…ありがと。弁当、楽しみにするよ。」
「おう。」
これで、亜美はまた一歩を進めた。
そして食事は続く。二人は黙りこんだまま、それを済ませた。
当然のように、昼飯を終えた今も、二人の間に沈黙しかない。
亜美は、今でも竜児に自分をさらけ出す勇気を持てない。
もし、亜美が前に一歩進めて「そういう関係」になれたら、心に詰めた本心と、その本心からしか出せない色々の話もできたのだろう。
竜児の話をしても、どこから始まるかも分からない。だが、自分の話では、仕事やおしゃれぐらいしか話題はない。
竜児はきっと聞いてくれるが、「ああ」や「そうか」しか答えられないだろう。普通なゴシップや世間話もできるが、なぜか今は他の人間の話をしたくない亜美だった。
「ふん、ふふ〜ん♪」
にもかかわらず、ただ竜児の隣に居るだけでこんなに心が温かくなるからと、当面は話題の問題も忘れられる亜美であった。
大事なひと時の中、微風に乗る時間の流れを肌で感じ、彼女は鼻歌しながら、パンのパッケージを弄っていた。
しかしやはり退屈だったか、暫くすると、亜美は竜児に適当なことで話掛ける。
「…昼ってあったかいな。」
「おう。」
次の会話まで、少し時間がかかっていた。
「もう直ぐ春が終わるよね。そしたら熱くなって、このちょうどいい温度でなくなるかな。」
「そうだろうな。」
数十秒の間。
「夏になったら、またあたしの別荘に行く?」
「おう。考えとく。」
また、数十秒の間。
「嬉しい。」
「………………」
「……ねえ、皆で行く?それとも、あたしと二人だけ…」
「………………」
何十秒たっても、竜児は亜美の問いに答えなかった。
「…高須くん?」
竜児の無言に、亜美が一瞬、恐怖を覚えた。
だが、振り向いたら、竜児が何時の間にかぐっすりと眠っていることを視認し、納得した。
竜児の家の家計は厳しいが、彼は進学を目指している。だから奨学金を確保するのは重要。
彼は奨学金のために、毎晩怠けず試験生として猛勉強していた。そうしながらも、毎日一人で家事もこなしていた。
そのゆえ疲れが溜まっていたのだろう。教室に居ればきっとこうして休めなかったと、亜美は彼を屋上に連れた功績を主張する気分だった。
「なんか、可愛くみえるな。」
ともかく、こんな無防備な竜児が、亜美には新鮮である。
彼女は竜児に寄り添って、呆然と竜児の横顔を眺めながら、これから一周間の仕事スケジュールを考える。
下校したら直ぐに撮影工作へ向かう毎日と、そして今後女優としてデビューするための準備。
現場で嫌味ばっかりする同期のモデル。何時もいやらしい目で見てくる、テレビドラマのプロデューサー。
漠然と「面倒くせぇー」という感想を呟く同時、こうして心も体も休める時間を頂けた幸運への感謝の言葉を心のなかで囁く。
その幸運はまた、竜児の気まぐれの結果であった。
亜美はふと思い直した。
後一年過ごすと、彼の傍に居られなくなる可能性がある。
ましてや、自分がその前に転校することもありえる。
亜美は手を伸ばし、竜児の腕に触れる。
恥ずかしげに躊躇いながらも、指を竜児の手の平に滑り込ませ、軽く彼の手を握る。
何時ものように振り払われたら傷つく、でもまったく反応されないのも虚しい、といった複雑な心境だが、
家事に荒られたであろう、ざらざらとした肌の硬さが心地よかった。
亜美はその硬さから、すこし強く手を握り締める勇気を得た。
そして亜美の顔は竜児の顔に迫る。
彼女は数センチ離れたところで、目を閉じて、ゆっくりと前進する。
普段の亜美にはあり得ない行動だが、これも、気まぐれである。
亜美は竜児の唇を盗んむ────その寸前、彼女の体が固まった。つい先味見していた、弁当の香りのせいで。
「…ご飯の匂い。こんなのでファーストキスを済ますって、ヤぁねー。」
彼女は観念して、とりあえず竜児の傍らにくっつけたまま、退屈そうに膝を抱え、顔を空に向かせた。
やがて、亜美も眠りに落ちる。
柔らかく吹き続ける風と、その薄い暑さの中に近づいてくる、初夏の足音。
その温和な雰囲気を浴び、竜児は気持ち良くゆっくり寝息している。
そんな竜児の肩に頭を預けた亜美は、近い未来に訪れるであろう幸せを夢見る。
以上です。
かなり乙女チックな話だったかもしれません。
ごちそうさまでした
確かに乙女ちっくだけど良かったよ
でも、もう少し誤字脱字は減らせるといいな
356FLGRです。
「きすして4」が書き上がりましたので投下させていただきます。
概要
「きすして3 Thread-A」の続編です。前作の読了を前提としています。
基本設定:原作アフター、竜児×大河
物量:16レス
エロ:一応ある
注意事項:ひたすらシリアスです。
規制など中断するかもしれません。
152 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/17(土) 23:32:47 ID:U+c9sTx9
手乗りうんたらが最萌優勝したんだって
心底どうでもいいけど、意外ではある
今日、娘の恋人が来ました。今日、というのも変ですね。彼は殆ど毎日来るのです。
そして私達はまるで家族の様に一緒に食事をしています。ほとんど毎日そうです。そう
してみんなで彼の作った料理や、私の作った料理、そして最近は娘の作った料理を食べ
るのです。娘の料理はまだまだへたくそで見た目も味もまったく冴えない物なのですが、
それでも子供が一生懸命作ってくれたお料理を頂けると言うのは本当に嬉しいものなの
ですね。恥ずかしい事ですが、私は本当に最近までそれを知らなかったのです。
いつもの様に楽しい食事を終えて、そしていつもの様に私達はお茶を楽しみました。
一杯目のお茶を飲み終えるころに彼は言いました。
「大河と結婚したいんです」
ついにこの日が来たのです。私が断罪される日が訪れたのだと思いました。
「あなた、まだ十八でしょ。早すぎるわ」と私は彼に言いました。
「ええ。俺はまだ十八で、学生で、収入もなくて、けど大河が大好きで。だから一緒に
いたいんです」
「就職してからでいいでしょう。それからでも遅くはないわ」
彼は私を睨みつけました。理由は簡単です。彼は知っているのです。もうすぐ私が娘を
『また』棄てると言う事を知っているのです。
―――
一度目は随分前のことです。私は大河の父親と離婚しました。大河を彼の下に残して
私は家を出ました。その後、彼は再婚し、私も再婚しました。主人との間に子供も出来
ました。とても幸せで、私は娘のことをさほど気にしていなかったのです。
冬の事です。大河の学校から連絡があって、修学旅行先で怪我をしたから迎えに来て
欲しいとのことでした。どうにも保護者と連絡が取れないと言うのです。勿論、私も知
る限りの連絡先を当たってみましたが全てダメでした。その時、すでに彼は隠遁してい
ましたから連絡などつく筈がなかったのです。そして私は彼が手ひどく失敗して破産し
たこと、娘を家から放り出して一人暮らしをさせていた事、そして娘が暮している家も
すでに人手に渡ってしまっている事を知ったのです。
私は娘を迎えにいきました。そして手ひどく拒絶されたのです。私は娘がなぜそこま
で頑に私を拒絶するのか最初は分りませんでした。ですが、数日後、娘は私の前に姿を
現し、一緒に暮す、と言いました。それから二週間程の時間をかけて娘は自分がどんな
風に生きてきたのかを語ったのです。それは正直言って聞くに堪えない内容でした。
前夫の再婚後、娘を待っていたのは愛されず顧みられない日々でした。と言うと多少
文芸的な言い回しですが、実際はただの放棄だったのです。娘は後妻と衝突し、それを
疎ましく思った夫婦はよりによって娘を本当に放り出してしまったのです。考えてみれ
ば、最初に彼女を棄てたのは私でした。そこから娘の悲劇は始まりました。娘から酷く
拒絶されたのも道理だったのです。
なのに、大河は私に言ったのです。
『それは竜児と出会うために必要な事だったから、今はもう全部許せる』
『彼の傍らで生きる為に、自分に誇りを持つ為に、私はママを許さなきゃならない』
『自分の親を憎んだままで、
自分で自分の存在を汚したままでは竜児の傍に立てないから』
彼女は私に言ったのです。
その時、私は真剣に彼女と向き合おうと、そうしなければ、生まれてくる命にきちん
と向き合う事ができないと、そう思ったのです。そうして、やっと私達は母と娘らしい
関係になっていったのです。
けれど、やはり無理だったのです。既に私には新しい家族があり、そこに大河が収ま
るべき場所はありませんでした。そして、私はそれを作る事もできなかったのです。夫
は優しい人です。大河の事も理解してくれて、一緒に暮すことも受け入れてくれたので
す。けれど、主人の実家はそれを良しとはしませんでした。旧家の長男というのは不自
由なものです。私がバツイチであることも快くは思われていないのですが、それでも結
婚を許されたのは連れ子がいなかったからなのです。なのに、いない筈の子供が現れて
しまったのです。
私は選択を迫られました。
娘をとるか、主人と息子をとるか、その二者択一を迫られたのです。
そして、私は愛した男との暮らしと、その男との間に出来た無垢な命を選びました。
結局、私は娘をもう一度棄てる事を自分で選びました。
ひどい話しです。
でも、そんな酷い事を、仕方の無い事だと、そう片付けてしまえる自分もいるのです。
―――
「いいえ。それじゃダメなんです。大河はお母さんのところから俺のところに来なきゃ
いけないんです」
「どういうことかしら?」
「大河から聞きました。もうすぐ、あなたと暮せなくなるって」
「そう。知ってたのね」
「ええ」
「それで、結婚したい、と? 大河が独りぼっちになってしまうから」
「いいえ。俺は…」
竜児君は私を射る様に見ながら話します。
「ただ、大河のことが好きなんです。ずっと一緒にいたい。それはずっと前から思って
いた事だし、もう、半年も前に大河と約束した事でもあるんです。それに…」
彼はふっと隣に座っている大河に視線を送りました。
「あなたが居なくなっても大河はもうひとりぼっちになりませんし、させません。それ
はそれ、これはこれです」
大河の手は彼の膝に乗っています。彼を本当に信頼しているのです。
「なら、慌てる必要はないんじゃない?」
無責任な発言です。私には罰が必要でした。それを彼に期待しました。断罪して欲し
かったのです。あなたはまた娘を棄てるのだろう、と、罵ってもらいたかったのです。
「先延ばしにする必要もないとおもいます」
「あるわ。世間体が悪いもの。高校生が結婚なんて」
「未婚の高校生が同棲してる方が世間体は悪いと思いますけど」
「同棲するの? ここで」
「生活のペースを変えるつもりはないですけど、今までだって見ようによっては半分同
棲みたいなもんですよ」
苦笑しました。上手い事を言ってくれます。
「たしかにそうね」
竜児君は、もういいでしょう。結論を出しましょう。そういう顔をしています。良い
顔つきです。闘う男の顔です。
「では、大河を俺にください」
「二十歳になったら好きにできるでしょ」
「それじゃだめなんです」
「ママ…」
血の気の失せた、青白い顔で娘が私を見ています。酷く緊張しているのでしょう。
「ママ、あたし、竜児のところに行きたい」
「寂しいから?」
「ううん」
娘は首を左右に小さく振りました。
「竜児が好きだから。一緒にいたいから。だから、結婚したい」
「まだ、結婚は早いわ」
「わかってる。でもね、ママ。あたしはママの娘として竜児のお嫁さんになりたいの」
胸が詰まって言葉が出てきません。
「ママに見送ってもらいたいの。お願い。あたし達が自分たちだけじゃ暮していけない
のはわかってるけど、でも、あたしはママに見届けてもらいたいの」
「それから、ママを…見送りたいの」
「我侭だけど、許して。お願い…。ママ…。お願い」
もう十分でした。私は竜児君が憐憫で娘と結婚するなんて言っていないことを、大河
が寂しさから逃れるために結婚するなんて考えていないことを確かめられればそれで良
かったのです。もう、何ヶ月も、ほとんど毎日彼と話しをして時には一緒に台所に立ち、
食事をして家族の様に暮して来たのです。二人がどれほどの覚悟で付き合っているのか
はとっくに分っていた事です。
「わかったわ。あなた達の結婚を認めます。細かいことはまた今度にしましょう」
「ありがとうございます」
竜児君は静かに頭を下げました。
「ありがとう。ママ」
娘は、泣いていました。
この子は口では強がりばかり言うくせに本当に泣き虫なんです。
きっと、私に似たのです。
「一人にしてくれる?」
私は二人にお願いしました。
「うん」
寂しそうに言って、大河は立ち上がりました。竜児君も立ち上がりました。
「竜児君」
「はい」
「朝まで、大河と一緒にいてあげて。お願い」 それはもう彼の役割です。
「わかりました」
「泰子さんには私から電話しておくから」
「はい」と静かに返事をして彼はリビングから出て行きました。
私は立ち上がりベビーベッドを覗き込みました。息子は何も知らずに安らかに眠って
います。視界が滲んでゆきます。娘に一緒に暮らせなくなったことを告げたときのこと
が思い出されます。
大河は言いました。
『ありがとう。ママ』と。
私は何度も謝りました。何度も、何度も、許されることなどないと分っていて、それ
でも何度も謝ったのです。
『もう、いいんだよ』
『あたしがママだったら、やっぱりママと同じ選択をすると思うから』
『弟には、あたしみたいな思いをさせないで。そんなことになったら本当に許さない』
その時も私は、今と同じ様に泣き崩れていたのです。
恥の多い生涯を送って来たものです。
人間失格ならぬ母親失格です。
少しも母親らしいことを出来ないまま、私はもう一度、娘を棄てます。
でも、娘は、棄てられるのではなく自らの幸せのために私の下を去るのだと、そう
言ってくれたのです。
そして娘の恋人は、俺のために貰うのだ、俺がお前の娘を奪うのだと、そう言ってく
れているのです。
優しさに切なくなります。
嬉しさもあるのです。喜びもあるのです。けれど、どうにも切ないのです。
ただただ、ひたすらに、本当にひたすらに、せつないのです。
切なくて、切なくて、私は泣くばかりです。
私は二人の優しさに甘えようと思います。
大河を嫁がせます。娘を棄てます。
竜児君に嫁がせます。娘を押し付けます。
そして、妻として、母として生きてゆこうと思います。
それまでは、もう少しだけ彼女の母親らしいことをするつもりです。
もう、八月も終わりです。
冬が来る前に、私はここを出て行くのです。
娘を置いて、出て行くのです。
***
やっぱり竜ちゃんは帰ってきていなかった。竜ちゃんに泊まっていってもらうから、
と大河ちゃんのお母さんから電話があったから、それは驚く様な事ではなかったけれど。
ただ、その時の彼女の声は普通じゃなくて、それで私は竜ちゃんが大河ちゃんのお母さん
に大事なお願いをしたのだということが分った。
―――
お盆に私達はお墓参りに行ってきた。それは私にとっては二十年ぶりのお墓参りで、
竜ちゃんにとっては生まれて初めてのお墓参りだった。大河ちゃんも一緒に来てくれて、
それは賑やかでお父さんもお母さんも喜んでくれた。お父さんは嫁入り前の大河ちゃん
を泊まりがけで連れ回すのは感心しない、なんて言ってたけど、そう言いながらお父さん
だって竜ちゃんと大河ちゃんを見て目を細めてたんだから、本当は嬉しかったんだろう。
その日の夜、皆で晩ご飯を食べた後、竜ちゃんはお父さんに凄い事をお願いした。
「高校を卒業したら、大河と一緒にここに住まわせて欲しい」
お父さんもお母さんも私も驚いた。竜ちゃんはお父さんと同じ仕事、税理士になるん
だと言った。だから、大学に通いながらお父さんの仕事を手伝って、税理士試験の勉強
もして、できれば大学を卒業するまでに資格を取りたいと言った。
大河ちゃんは竜ちゃんと一緒に大学に通って竜ちゃんの勉強を手伝いながら家事を
お母さんに教えてもらいたいと言った。
竜ちゃんは五月の連休に実家に行った時に、お父さんの事務所を見せてもらって、仕
事について教えてもらって、それからずっと考えていたんだと、私達に言った。
お父さんは嫁入り前の女の子を一緒に住まわせるなんて出来ない、と言った。
竜ちゃんが居候する事も、仕事を手伝うのも良いけれど、大河ちゃんと一緒に暮すの
はダメだと言った。竜ちゃんはそう言われるのが最初から分っていた様だった。
竜ちゃんは…
「大河と結婚する。俺はこいつと一緒じゃないとやっていけないから」と言った。
お父さんは怒った。怒鳴る様な事はなかったけれど、あれは怒っていたんだと思う。
とにかく、早すぎるだろうと、竜ちゃんを諭した。でも、竜ちゃんは引かなかった。頑
として譲らなかった。すっかり頑固者同士の押し問答の様になって、本当に喧嘩になり
そうだった。それは三十分近く続いて、私もお母さんもオロオロするばかりだった。
お父さんは「急ぐ必要は無いだろう」と竜ちゃんに言った。でも、竜ちゃんは「時間
が無いんだ」とお父さんに言った。そして、竜ちゃんは思い詰めた様に、
「もうすぐ、大河と一緒にいられるのは俺だけになるから、だからその時までに俺は大
河を貰わなきゃならないんだ」と、言った。
大河ちゃんは、何が起きているのかを私達に教えてくれた。
優しくて切ない決断を私達に聞かせてくれた。
せっかく繋いだお母さんとの絆が切れない様に、そのためにお母さんと家族になるこ
とを諦めるの、と大河ちゃんは言った。だから、近い将来、一緒になることを約束した
竜ちゃんと、早すぎる事は分っているけどすぐに結婚したいと、竜ちゃんのことが大好
きだからずっと一緒にいさせて欲しいと、大河ちゃんは言った。
私も、お母さんも、お父さんも、竜ちゃんと大河ちゃんの真剣さに何も言えなかった。
二人は、二人の現実に立ち向かっていく為に一緒に生きるんだと、そのために結婚す
るんだと、私達に言った。
結局、お父さんは、大河ちゃんのお母さんに結婚を許してもらえたなら、竜ちゃんの
望む通りにしても良い、と言ってくれた。ちゃんと夫婦になって、竜児が稼げる様にな
るまでここで暮せばいい。そう言ってくれた。
―――
携帯電話が鳴った。大河ちゃんのお母さんから。
一度、深く呼吸して、私は電話を開いて着信ボタンを押した。
「高須です」
『泰子さん。夜分遅くすみません』
「いいえ。今、丁度帰ってきたところですから」
『そうですか…。泰子さん』
「はい」
『竜児君が…大河と結婚したいって…』
「許していただけますか?」
『…はい、お願いします』
「はい」
こちらこそ、とは言えなかった。
『ごめんなさい。こんな事になってしまって』
「そんな風に言わないで…。私は嬉しいんですよ。大河ちゃんが竜ちゃんのお嫁さんに
来てくれて、本当に嬉しいんです」
『…ありがとう、泰子さん』
「今度、ご挨拶に伺いますね」
『いえ、私の方から』
「いいえ、こういうのは貰う方が行かないとダメですよ」
『そうですね。では、細かい事はその時にでも』
「ええ、お願いします」
『…失礼します』
「おやすみなさい」
細かい傷が沢山ついている卓袱台に携帯電話を置いた。
すごく、格好いいよ。男前だよ。竜ちゃん…
これで、竜ちゃんはお父さんの出した条件をクリアした。
竜ちゃんは大河ちゃんと結婚する。
春が来たらこの街を出る。
竜ちゃん…
もう、やっちゃんの竜ちゃんじゃないんだよね…
いつかはそうなると思っていたし、そうなればいいなと思っていた。でも、こんなに
早くそうなるとは思ってなかった。
もうすぐ終わるんだね…
もうすぐ終わる。竜ちゃんが結婚して、大河ちゃんがお嫁さんになって、それで三人
で暮すんだって勝手に思ってた。でも…
『竜児がね、言ってたの。やっちゃんも、普通に恋して結婚して欲しいって』
ごめんね、竜ちゃん。心配ばっかりさせて。
やっちゃんはあんまり良いお母さんじゃなかったよ。
もっと上手にやりたかったのに、出来なかったよ。
ごめんね…
竜ちゃんが幸せだったと思ってくれていたのか分らないけど…
でもね、竜ちゃん…
やっちゃんは最高に幸せだったよ
竜ちゃんと、一緒にいられて、本当に、最高に幸せだったよ
ありがと、ありがとう、竜ちゃん…
ほんとに… ほんとに… いっぱい ありがとう…
二人で過ごした日々が刻まれた卓袱台に温い雫がこぼれ落ちていく。
ぱたぱたと、降り始めの雨の様な音をたてて。
***
「ぷはぁ〜っ。やーっぱ、これよ、これっ」
恋ヶ窪ゆりはアルミ缶をあおってビールを胃袋に流し込んだ。九月中旬。夜になれば
過ごしやすくなるとはいえ、それでもまだまだビールの美味い季節である。喉を撫でて
いく炭酸の感触とホップの苦みがたまらない。それに明日は日曜日。多少飲み過ぎたっ
て構いはしない。どうせ予定なんかないのだし、こんな酷い気分なのだから、飲み過ぎ
たって二日酔いになったって構わない。なんなら、明日の朝、迎え酒に発泡酒でも飲ん
でやろうってぐらいの勢いだ。
ゆりはコンビニで買って来た焼き鳥をつまんで、そしてまたビールを飲む。あっとい
う間に三五〇ミリリットル缶を飲み干して、もう一本をコンビニ袋から取り出す。片手
でプルタブを開けて、ぐっと一口あおり、
そして「はぁああああああ」と、それはそれは深いため息をついた。
―――
水曜日の放課後、職員室で日誌をつけていた時のことだ。逢坂さんが職員室に来て、
私に手紙を渡していった。それは彼女の母親からのもので、封筒の表には万年筆で書い
たであろう奇麗な字で「恋ヶ窪ゆり様」と書かれていた。私は帰宅後にその手紙を読ん
だ。内容は娘の事で内密の相談があるので自宅に来て欲しいというものだった。手紙に
は住所と電話番号、簡単な地図も添えられていた。日時は私に任せると書かれていたが、
土曜日の夕方が最も都合が良いということも書かれていた。
逢坂大河。去年、やたらと問題を起こしてくれたこの生徒は、しかし今年は一転、実
に素直な優等生に化けたのだった。授業態度も真面目で成績優秀。それはもう、言って
は悪いが気持ち悪いぐらいの変貌ぶりだった。
そして、今日、私は彼女、逢坂大河の母親からの内密の相談を受けて来た。そのせい
で、こんなにもグダグダな気分になっている。
学校での仕事を終えた私は、手紙に添えられた地図を片手に彼女の家を目指した。た
どり着いたのはかなり豪勢なマンションだった。エントランスの造りからしてちょっと
モノが違うって感じだった。エントランスのインターホンのボタンを押してしばらく待
つと、ちょっと高圧的な感じのするあの声がエントランスに響いた。
「恋ヶ窪です」
インターホンに告げると「お待ちしていました」という声がして、自動ドアが開いた。
私はエレベータを降りて目的の部屋の前に立った。身なりを確かめて玄関横のインター
ホンのボタンを押すとドアの向こう側で鍵が外れる音がしてドアが開いた。
私達は「お久しぶりです」「その節はどうも」などと、ちょっとぎこちなく挨拶を交
わした。私は広いリビングに通されて、彼女に勧められるままにソファーに腰掛けた。
「紅茶で良いかしら?」
「あの、おかまいなく」
「まあ、そう仰らず」と言われて、私は「では紅茶を」と言った。
以前会ったときとは随分と印象が違っていた。大きかったお腹はすっかり平になって
いた。それに以前はもっと攻撃的な印象だったのに、今はとても穏やかな人に見えた。
そう、彼女は…
前に会ったときは、その頃の逢坂さんの様であり、
そして今は、今の逢坂さんの様だった。
彼女は私の前にティーカップを置いて「どうぞ」と言った。カップにはミルクティー
が注がれていて、とても良い香りをたてていた。
「いただきます」
カップに口をつけるとふわりとした香りが鼻をぬけていった。こんなに香りのいい紅
茶は初めてだった。彼女もカップに口をつけて一口のみ「やっぱり、竜児君の方が上手
に入れるわね」と、とんでもなく気になる言葉をさらっと言った。
「大河さんは?」
生徒本人がいないなんてちょっと変だった。
「いないわ。今日は高須君の部屋に泊まるように言っておいたから」
「高須君の部屋に泊まる?」
一瞬、耳を疑った。そんなことを告白されても困る。
「私も、高須君のお母さんもそれを認めてるのよ。高須竜児君、先生も良くご存知で
しょ」
「え、ええ。二年の時は私が受け持っていましたから」
私にはこの人の意図がさっぱり分からなかった。
「…あの、今日はいったいどういうご用件なのでしょう?」
「娘を高須君と結婚させます」
今度こそ、本当に耳を疑った。
「あ、あの。まさか、妊娠した…とか」
彼女は私の反応を確かめる様に私の顔を眺めた。
「いいえ。それは無いわ」
私は溜息をついた。
「彼がそんなバカな子じゃないことは知ってるでしょ」
「え、ええ」
私は胸を撫で下ろしながら、じゃあなぜ? と思わずにはいられなかった。子供がで
きちゃいました、とか言うならともかく、そうでないのなら慌てて結婚する必要なんか
無い。
「では、すぐに、という事ではないんですね? 卒業後であれば私どもがどうこう言う
事も無いと思いますが」
「いいえ。在学中に結婚させるから、そのために先生に来ていただいたんです」
「在学中って、三年のこの時期に? そんな無茶な」
「そうね。無茶だわ。だから、わざわざ来ていただいたんです。こんな話、誰かに聞か
れてしまったらややこしい事になるだけだから」
そこまで言われて、私はやっとここに呼び出された理由が分ってきた。
彼女はティーカップを手に取って口を付けた。私も少しだけ冷めてきた紅茶を飲んだ。
これは、まだ今日の話しの序の口、プロローグに過ぎないのだろう。
「なぜ、この時期に?」
「大河の保護者が私に変わった理由はご存知ですか?」
「あの、経済的な理由としか…」
「実はね、私の前の夫、逢坂陸郎は破産してあの子を置いて逃げてしまったの。あの子
にはなにも知らせずにね」
「破産…。それで、貴方が」
「最終的にはそうなったわ。けどね、私も知らなかったのよ。なにも、知らなかった…。
修学旅行の時、私の連絡先を先生に教えたのは大河でしょ」
「はい」
確かに、嫌がる逢坂さんを説き伏せて、半ば無理矢理、母親の連絡先を聞き出したの
は私だった。そうするしか無かった。あの時、逢坂家にはまるで連絡がつかなかったか
ら、私は彼女に連絡して病院まで迎えにきてもらったのだった。
「私もね、あの時まで何がどうなっているのか知らなかったのよ。母親なのにね」
彼女は微かに笑った。それは自虐の表情だった。
「まさかね、あの子が家を追い出されて、一人暮らししてるなんて思いもしなかったし、
偶々隣に住んでいた同級生に養ってもらってたなんて信じられなかったわ」
私は知っていた。気付いていた。逢坂さんが高須君に依存した生活を送っていること
に気付いていた。
「陸郎は知ってたのね。だから、大河をほったらかしにして逃げたのよ。いざとなれば、
隣のお人好し親子が助けるだろうって、そう思ったんでしょうね」
「そんな…」
「酷い話しよね。でも、あなた、気付いてたでしょ。あれはネグレクトよね?」
胸を抉られるようだった。
ネグレクト:neglect。無視する事。保護者が果たすべき義務と責任を放棄すること。
つまり…、虐待。
それに気付きながら見て見ぬ振りをしていたんでしょ? 担任の恋ヶ窪先生。
そう言われている様な気がした。
「高校生の一人暮らしも、無いわけじゃ無いですから」
無様な言い訳だった。
「いいのよ。別に責めちゃいないわ」
「え?」
拍子抜けだった。私はその事で糾弾されるものだと思っていたから。
「私も似た様なものだし」
とても冷たい口調で彼女はそう言った。
「あと二月もしたら、私はあの子の養育を放棄するわ。あの子をほっぽり出すの」
「放棄って、そんな勝手な事!」
「そんなことわかってるわ。でもね、私も再婚して主人も子供もいるのよ。大河を引き
取って籍を入れる事も考えたけど、主人の実家に猛反対されて諦めたわ。勝手なのはわ
かってる。けどね、今の私にはどうにもならないの。はっきり言ってあの子が…」
邪魔なのよ…
「邪魔ですって」
私は彼女を睨みつけた。そうせずにはいられなかった。
「そうよ。私の家族に大河の居場所はないの。もう、あの子の居場所は高須君のところ
しかないのよ。だから、結婚させるの」
「あなた達の都合で二人を結婚させると?」
「いいえ。結婚は本人達の意思よ。でもタイミングは私の都合ね。元々、高校を卒業し
たら結婚するつもりだったみたいだから」
「なんとかならないんですか?」
「なるならしてるわ。もし大河を選んだら…、私はその子を棄てる事になるのよ」
彼女はリビングの端に置かれているベビーベッドを見た。そこにはまだ一歳にもなら
ない彼女の子供が寝ていた。
「せめて、卒業まで待てないんですか?」
「待てないのよ。私は十一月になったら、ここを出て主人のところに戻らなきゃならな
い。それに…」
彼女はそれを言うのをちょっと躊躇っているようだった。
「いつまでも大河を逢坂の籍に入れておくわけにもいかないのよ。危険ですらあるわ。
さっきも言ったけど逢坂はもう破産してるのに逃げているのよ。どういう事かわからな
いわけじゃないでしょう」
恐ろしくて、何も言えなかった。具体的ではない漠然とした恐ろしさ。
真綿で首を絞めるという言葉があるけれど、本当にそんな感じだった。
「それで、私にどうしろと?」
「二人の結婚に余計な詮索をしないで速やかに事務的に手続きを進めてくれたら言う事
はないわ。騒ぎにならない様に、こっそりとね」
私はすっかり冷めてしまったミルクティーを眺めながら「わかりました」と小声で呟
くのが精一杯だった。
―――
私は彼女の、逢坂さんの家を後にしてコンビニで買い物をして逃げ帰って来た。
そして、酒にたよって気分を回復中…
「回復なんてしねーって」
一人暮らしの部屋にむなしく響く独り言。
打開策は無い物かと思索した物の無駄だった。
確かに、高須君と逢坂さんを結婚させてしまうのは次善の策なのかもしれないけれど、
それを認めて、それに乗っかってしまっていいのだろうか。他に、彼女を、逢坂さんを
救う方法はないのだろうか…
けれど、出るのは溜息とゲップだけだった。
結局、三十路の女教師にできることは無いのかもしれない。実際のところ、生徒の経
済的な問題について教師がどうこうできる事は殆どない。借金にすぎない貸与奨学金を
紹介するのが関の山だ。家族の事もそう。あくまでも外野からアドバイスというか、お
願いをするぐらいしかできないのが現実だ。もっとも、逢坂さんの場合、経済面だけは
責任を持つと母親が言ってくれているからそれは問題にはならないのだろうし、問題は
逢坂さんの心と失踪したままの父親だろう。法的には逢坂さんに債務は無いけれど、だ
からといって何も起きないなんて私には保証できない。そして心は…やはり高須君にし
か支えられないのだろう。
仕方ない。そう思うしかない。
仕方の無い物は、やっぱり仕方ないのだと、そう思うより仕方ない。
そうやって生徒の家庭の問題を諦めるのも初めての事じゃない。受け持った子が経済
的な問題で学校を去っていくのも何度か見てきた。受け持った子の両親が離婚したこと
だってある。その事を教職の先輩や同僚と話す事もあるけれど、けれどいつだって結論
は、仕方が無い。それだけだった。
月曜日なんか来なきゃ良いのに。
小学生みたいなことを考えている自分がおかしくて、それでちょっとだけ笑えた。
三本目のビールを開けて一口飲んだ。
今日のビールはいつもより苦かった。
***
C
「りゅーじ…きす、して」
キスを強請る。唇を塞がれる。
竜児に貫かれて、身体の内側に彼を感じながら、そのまま抱かれている。
ベッドの上に座っている彼の腰に跨がって、一番深い部分まで繋がって、そこから湧
き上がってくる悦びに身体を震わせている。竜児が動く度に、強い刺激が背中を駆け上
がってきて快感に変わっていく。灼ける様な熱さを身体の中に感じながら、溺れる様に
あたしは喘ぐ。
あたしの口から漏れるのは、あたしが悦んでいることを彼に伝えるための音だけ。
あたしはそれを耳で聞いて、ああ、あたしはこんなに悦んでいるんだって知る。
竜児を受け入れている部分がとろとろと溶けているのが分る。
そういう音が聞こえてくる。
そういう匂いがする。
そんな自分が恥ずかしくて、こわくて、でも、この時間がとても愛おしい。
「だいて…りゅーじ」
竜児はいつもの様に応えてあたしを抱き締める。
「もっと、つよく。ぎゅって、して」
竜児の腕に力がこもってあたしの身体を抱き竦める。息が苦しくなるぐらい抱き締め
ても貰うのが好き。彼が力を込める度に、あたしの中の彼もひくひくと動く。こうやっ
て、動かないで彼を感じるのも好き。ふつふつと湧き上がってくる気持ち良さがピーク
に達すると、痙攣するみたいにあたしの身体はひくんと震える。その時に竜児も小さく
呻いたりするから、きっとあたしの中も震えているんだろう。竜児のが急に大きくなる
のかと思ったけど、そうじゃなくてあたしの中が『きゅんっ』とするんだって竜児は言
う。
あたしはこんなふうにしてもらうのが大好きなんだけど、竜児には物足りないみたい。
「りゅーじ…きて」
竜児はあたしをベッドに仰向けに寝かせて、あたしの中に入ってくる。浅いところを
かき回されて焦らされる。焦れったくて、でも気持ち良くて、でもやっぱり焦れったい。
「もっと…」
喘ぎながらお願いすると、竜児は私の奥に入ってくる。一番奥を叩かれるたびに意識
が飛びそうになる。意識がいってしまわない様に、滲んだ視界で竜児を眺める。けれど、
一秒にも満たない瞬間だけれど、何度も何度も意識が途切れる。
狭い部屋はベッドの軋む音とあたしの喘ぎ声、竜児の荒い息、繋がっている部分から
漏れる淫らな音と匂い、そんなもので満たされている。竜児の固いモノで貫かれる度に
あたしの中身はとろとろと蕩け出して、あたし達の肌を湿らせていく。
身体の全ての感覚で、彼を感じていたい。
彼の全部を独り占めにしていることを感じていたい。
「いいよ…きて…」
竜児の動きが激しくなっていく。熱く蕩けたあたしの中身は竜児にぐずぐずにかき混
ぜられて、溢れ出したぬるい液体がおしりを伝っていく。
竜児が更に深くまで入ってきて、私の中で弾ける様に震える。ああ、だめ…
いくっ…いっ…ちゃう… … … … … … …
そこから戻ってくるといつもあたしは竜児に抱き竦められている。
やさしくキスしてくれる。
やさしく丁寧に恥ずかしいところを拭いてくれる。
優しい肌触りの布で私の身体を包んでくれる。
優しく抱いてくれる。
彼の胸を枕にする。微かに鼓動が聞こえる。
「りゅーじ」
「おぅ」いつもの声で応えてくれる。
もうすぐ、あたし達は結婚する。
もの凄く重い約束だと思う。その約束を守りぬきたい。
今は竜児に手を引かれるみたいに生きてるけど…
大変だと思うけど、重たい女だと思うけど、絶対に並んで歩ける様になるから…
「りゅーじ。大丈夫?」
「ん? ああ、どうして?」
「うん… いろいろあって大変かなって」
「そうだな。ちょっとだけ疲れてるのかもな」
「だよね…」
「でもよ、こうしてりゃ、すぐ良くなる」
竜児はあたしの頭を撫でながらそう言った。
「そう」
嬉しかった。あたしも同じだから。
「お前はどうなんだよ?」
「同じよ。竜児が抱いててくれれば、良くなるから。だから…」
きすして…
***
恋ヶ窪先生には悪い事をしました。半ば脅しのような事まで言ってしまいましたが
ビジネスの世界では良く有ることですから大目に見ていただきたいところです。きっと
恋ヶ窪先生は上手にやってくれるでしょう。二人は私の都合でこのタイミングで結婚し
なければならない、となればあれこれ言う人もいないでしょう。逢坂の隠遁の件でも脅
しを入れておきましたから首を突っ込みたいなんて物好きな教師もいないでしょう。
それにしても、聞くに堪えない話しです。自分の子供が邪魔だなんて聞いていて反吐
が出ます。でも、それは本当の事です。私は大河を愛していますが邪魔なのです。そん
な私に「仕方ないよ」と、そう言えるくらいにあの子はもう大人です。
私は大河と約束しました。息子にはあなたの様な思いはさせないと。
息子の顔を見ていると安らぎます。思えば大河が赤ん坊の頃、私と陸郎は蕩ける様な
顔をして大河の寝顔を飽きもしないで眺めていたのです。それなのに、私達は大河をお
互いを傷つけるための道具にして、大河の心を深く傷つけてしまったのです。その傷の
深さが、陸郎の後妻との確執を生んだのかもしれません。
随分と夜も更けてきました。
大河は今頃、竜児君に抱かれているのでしょう。
まだ、可愛がってもらっている最中なのかもしれません。
軋むベッドの上で…
ふと、若い頃、よく聞いていたラブソングを思い出しました。
尾崎豊の I LOVE YOU …
でも、この歌は今の二人を思うと切なすぎます。
だから、今夜、口ずさむのは OH MY LITTLE GIRL …
肩を寄せ合う二人の為に、
いつまでも、離れないと誓った二人の為に。
すっかり忘れていた歌なのにスラスラと歌詞が出てきます。
優しい歌です。
胸の奥がくすぐったくなる様な、そんな甘い恋の歌です。
(きすして4 おわり)
***
以上で「きすして4」の投下を終了します。
重い話しを集約したらめちゃくちゃ重くなっちゃいました。
最後に出てくる「I LOVE YOU」「OH MY LITTLE GIRL」はいずれも尾崎豊の
アルバム「十七才の地図」に収録されている楽曲です。
「5」も書いてますがもうちょっとかかりそうです。
正しい学園コメディになる予定なんだが…
支援、ありがとうございます。
大河ママ…キタコレ
今度「PTAなトラどら」とかどうですか?w
大河ママと先生のやりとり描写が原作後の雰囲気もあってかgood!
何気に大河ママが出てくるSS読んだの初かも。
是非この続きも読みたいです。
きすしてシリーズ大好きです!
次回も楽しみにして待ってます
清潔剤 洗剤
好機嫌 上機嫌
一周間 一週間
背影 背景
午休 昼休み
この辺りの単語を間違えなければよりネイティブっぽくなるよ。
もちろんGJですし次も期待してますぜ。
夏になったらあたしの別荘編はきっとエロ有なんだよね(期待の目
>>148
「きすして4」を公式アフターとして脳にインプリンティングしますた
俺の非公式アフターは
SL66さんの亜美×竜児のやつです。
『みの☆ゴン』
>>65 の続きを投下させていただきます。10レス分(73〜82)です
続き物ですので、ここからお読み頂いきますと、ご不明な点が多いと思います。
前回レス頂いた方、ありがとうございました。
宜しくお願い申し上げます。
全宇宙にその名を轟かす強大な宇宙犯罪組織マクー 。
異次元虚空に存在する魔空城を本拠地に構え、数々の惑星を支配下においている。
━━そして次の標的、地球。
マクーは地球を植民地化する手始めに世界中に秘密基地を築きつつあった。
その情報を傍受した銀河連邦警察より特命を受け、地球を目指しひとりの宇宙刑事が
銀河連邦警察の本拠地、バード星を飛び立った。宇宙刑事の名はギャバン。
そしてギャバンに好意を持ち、助手としてサポートするコム長官の娘が、
ペンダント型映像転換装置レーザービジョンを駆使し、インコに姿を変えた……
という話を、ストーカー追跡の帰りに竜児は実乃梨から電車の中で聞いたのだ。
***
「イ……インコちゃん……」
高須インコは自分の名を唱えた。簡単な事だ。しかし、竜児。彼の前では、言わない。
言ってしまったら、毎晩、名前を言わそうとする彼との大切なコミュニケーション時間が、
無くなってしまうからだ。だから言わない。インコちゃんはその時間が好きだった。
大切な時間だった。そう、竜児が好きだった。生まれて6年。もう立派なオンナだった。
午前2時。丑三つ時。、自室のベッドで眠っている竜児はうなされていて、どうやら悪
夢を見ているようだ。ここ最近、そんな夜が続いている。そんなこと今までなかったのに。
心配でインコちゃんは鳥カゴから抜け出した。竜児が眠りにつくと、彼の寝顔を拝むため、
ちょくちょく鳥カゴを抜け出すのだが、もちろんそれも、彼には内緒なのである。ベッド
で眠っている竜児は大量の汗をかいて胸を押さえている。インコちゃんの小さな胸も痛んだ。
「リュ、リュウ、」
クチバシでは上手く話す事ができない。その、もどかしさが彼女、インコちゃんを悩ます。
インコちゃんは、決心した。苦しんでいる竜児を介抱したい、その名を呼びたい、その体内
に同化したペンダントの力を解放して……
「レーザービジョンッ!」
ピキーン、ピキーン、ピキーン……掛け声と同時に鋭い金属音。インコちゃんは光に包ま
れ、その光が人の形に変わる。眩しいが一瞬。正確には0,05秒。竜児が気付く間もない。
そしてインコちゃんのいた場所には、ひとりの美少女が片ヒザをつき、全裸で佇んでいた。
ゆっくりと目蓋を開けると、サファイアのような瞳が輝き出す。小さいが、すっと通る鼻。
薄く、花びらのような唇が、真っ白な小顔の、一番美しい位置に配置されている。清純で、
透明感のある神秘的な体には、細く、華奢な手では隠しきれない豊かな胸の膨らみが存在し
ていた。彼女が呼吸するだけで、蕩けるように揺れ動くほど、柔らかい。そしてインコちゃ
んの面影を強く残す、エメラルドグリーンのふわっとした長髪が、体を包んでいた。
「竜児……」
クチバシではなく、薄い紅色のクチビルから、彼の名を呼ぶ。もし竜児が変身後のイン
コちゃんに出合ってしまったら、目を疑うであろう。信じられないであろう。なぜなら、
こんなに美しい女性は実際には存在しないからだ。理想の美少女、いや理想を遥かに超え
た、超美少女。
ただ、彼女、インコちゃんには、その美貌の自覚は無いのだが。
「かわいそう……竜児」
枕元にあったタオルで、インコちゃんは竜児の額に滴る汗を、そっと拭う。竜児は、
おうっ、ううっと、悪夢に魘されている。いったいどんな夢魔に襲われているのだろう。
インコちゃんはバード星人特有のテレパシーで、竜児の思念に潜り込んだ……
「はああっ! 何? いまの……妖怪?」
実際には恋ケ窪ゆり(29)独身だったのだが、インコちゃんは知る由もない。わたし
の夢も見てほしいな……せめて、夢で。竜児と。見つめるインコちゃんの穏やかな表情。
汗を拭ったタオルは、竜児の匂いがする。インコちゃんはタオルを鼻にあてがい、吸った。
「実乃梨……」
「!」
オンナの名前。最近竜児がよく寝言で呟く名前だ。実乃梨。いったいどんなオンナだろう。
そのオンナが竜児を悩ましているのか? 許さない。そして、……悔しかった。
「わたしが……わたしが地球人だったら……竜児の事……」
インコちゃんは竜児の手を握る。そして手の甲に『チュッ』っと、短いバードキス。
胸が熱くなる。キスしたクチビルが手の甲から離せない。秘めていた情熱が、押し寄せる。
「好き……竜児、好きなの……はあうっ!」
そっと、軽く触れていたピンク色の先端。インコちゃんは無意識に刺激していたのだ。
燃える。手に取っていた竜児の指で、ピンクの先端の周囲を輪のようになぞってみた。ゾク
ゾクする。ギュンっと股を閉じる。恥ずかしい液体が、白い太ももをツーっと一筋、流れる。
「竜児、もっと、強く……」
ふんわり、もっちりとした、やわらかな乳房を、竜児の手のひらに握らせた。竜児の指
の形に、真っ白な乳房がプニュリと歪む。体に電気が走る。竜児との情事を想像しながら、
インコちゃんは、そうやって慰めはじめた。カノジョの肌は、汗ばみ、桃色に染まる。
「んっ……んふっ……んんっ」
起こさないように、声を押し殺していたのだが、快楽に甘く切ない声が漏れてしまった。
今度は立ちあがり、竜児の手を、下腹部へ。人差し指で、芽の部分を滑らせた。くちゅり。
「んくっ……」
甘酸っぱい匂いが、微かに立ちこめはじめた竜児の部屋に、嬌声が小さく響く。まだ誰
のモノでもない、インコちゃんの秘部。すごく、白濁液でグショグショだ。竜児の指は、
インコちゃんの指にエスコートされ、芽の奥に潜む、秘部に挿入った。にゅるん。ぬぽ。
「あ、はぁあんっ」
感覚がトロける、全身が痺れる。竜児の指は、生暖かい粘液にまみれた芽を強く擦り、
くちゅん、くちゅんと卑猥な調べを奏でる狭孔をまさぐるらされる。インコちゃんの膣壁
は、竜児の指にぬっぽり絡みつき、締めつけるが、溢れる天然ローションで往復運動は滑
らか。インコちゃんはその動きを早めた。快感に芽、乳首が痛いほど、ビンビン勃っている。
「あっ、あはぁっ……イ、イク……竜児っ、竜児っ……ああん」
竜児の腕を取り、前後に動かす腰の動きは最高潮、歓喜の声。絶頂を迎える。
「くううっ……あはぁっ!」
インコちゃんは、天に昇る。その姿は、まるで名画のように、美しく、神々しい……
しかし、オーガズムの瞬間、握っていた竜児の手を強く握ってしまった。
眠っていた竜児の手に力がこもり、竜児が眼を覚ますのを、察知する。
「おうっ……インコちゃん? どうやって外に……」
悪夢から覚めた竜児は、虚ろな中でも、手を握られた感触、一瞬まばゆい光を感じていた。
そして弾かれたように上体を起こすと、ベッドサイドにはインコちゃんが羽を休めていたのだ。
何故かインコちゃんはまるで普通のインコのように、『チチチ』としか鳴かなかった。
竜児はインコちゃんを鳥カゴに戻し、布を掛け、自室のベッドに戻る。そして再び深い眠
りにつく。その竜児の指は、甘酸っぱい妖艶な匂いが染み付いていた、かもしれない。
いったいどこまでが現実で、どこまでが虚構なのか……
もしかしたらあったかもしれないし、なかったかもしれない、初夏のファンタジー。
そして朝に、なる。
***
「おはよー竜児! 爽やかな曇り空ねっ!」
「おうっ、大河、ずいぶんご機嫌……えっ!」
竜児は慄き、思わず仰け反った。大河に背後霊が取り憑いて……いるように見えたからだ。
「おはよう、高須くん……昨日はありがとう」
そのスピリチュアルな人影は、亜美であった。いつものキラキラ無駄に輝いている彼女が、
まるで今日の曇天のように暗く、妙にげっそりと、疲れ果てたようにやつれて見えるのだ。
「川嶋……大河のマンションに泊まったのか……なんか……お疲れのようで……」
「……そう見える……? きっと、昨日の疲れが抜けなかったんだ」
はあ、と彼女らしくない素の表情で情けない息をつき、憂鬱そうに眉間に皺を寄せ、トボ
トボと歩き出した。対照的に大河はプレゼントをもらった子供のように興奮気味で、上機嫌。
「昨日は、最高に盛り上がったわ! ね、ばかちー!」
「……あんたはいいわよ、いつの間にかグーグー寝てるし……外に放り出すって脅されて……
真夜中まで……物まねメドレー・百五十連発……亜美ちゃん精神汚染で眠れなかったわ……」
「……惨い……!」
やはり昨晩、大河のエンジェル振りに違和感を感じたことは正しかったのだ。現在進行中で
ご機嫌の大河を見て、竜児はゾクゾクと心が冷える。しかし大河は、亜美に言い返した。
「ばかちー、人のこと悪者にすんな! なんだかんだ言って百発目くらいから、あんたも一緒
にネタ考えたでしょーが! しかも、わたしが寝てるベッドの中に潜り込んできたじゃない。
朝起きた時驚いたわよ。ウザいったらありゃしない。ウザさを通り越して、殺そうとさえ思ったわ」
売り言葉に買い言葉。大河を睨みつける亜美はブラック化していく。
「ちょっと誤解されるような言い方しないでよ! あんな広いベッドだし、あんた隅っこに寝て
たじゃん? あ〜、わかった。あんた、わたしのこと誘ってたのね? 一緒に寝たかったんだ。
わかる。だって亜美ちゃん、こ〜んなに可愛いんだもん。あ〜わたしもわたしと、寝てみたいな〜」
「はぁ? ばばばかちー、いくらバカだからって何言っちゃてくれてんの? あんたこそわたし
が寝てる間、何もしなかったでしょうね? そういえば百二十発目くらいから、わたしの事、
とろ〜んとしたイヤラシい眼で……あれって乙女のピンチ? うっわー油断も隙もないっ。ゲーッ!」
「ゲーッは、こっちだっつーの! 朝起きた時に、抱きついていたのは誰よ? 叩いても寝ぼけ
てなかなか起きねーし、わたしから離れねーし! 初めてベッドで一緒に朝を迎えたのがあんた
だなんて、キモくて記憶からデリートしたんだから思い出させんなっつーの!!」
何やら聞いちゃマズいような内容の言い争いになってきた。まるで痴話喧嘩のようだ。という
か、心無しか亜美が元気になってきたように見える。
「……お前たち、なに急に漫才始めてんだよ。そうとう恥ずかしいぞ……」
そうツッコんだ途端、ふたりの冷たい視線を一身に集め、竜児は凍り付く。
「よく口が裂けないわね。人の事言えるの? あんた昨日、最っ高ーに、恥ずかしい状況で告白し
たんでしょうが。昨日、みのりんからメール着て、知ってんだからね……再確認するけど竜児。
もしみのりん泣かしたら、捻り潰して、家畜のエサにして、肥料にして、畑耕してやるわ」
「満員電車で告白? うわっ、はっずかし〜のっ! 超バカップルじゃん。有り得なくね? もしか
してそういうプレイなの? そういう娯楽? 拷問?……まっ亜美ちゃん、どーでもいいけどっ」
竜児は30cm下方と、ほぼ真正面からの二方向から罵詈雑言を浴びてしまう。他人からどうの
こうの言われることに慣れていたはずの竜児だったが、毒舌女の奇跡のタッグ攻撃。竜児は更に凍りつく。
そして、竜児が凍死する寸前。3人はいつもの交差点に辿り着いた。そこには、竜児の愛しい彼女
さま、実乃梨が待っていた。竜児は一気に氷塊、ヒートアップ。死を免れる。
「やっほーい! 皆の衆お揃いで! 今日も元気に、オーハー!」
おはガール化した実乃梨は、胸元で作った2つのオッケーマークを、ピシッと開いて前に突き出す。
「おっはー! みのり〜ん! みのりんが、誰と付き合ったとしても、大っ好きだ〜」
「うおおっ、大河っ。みのりんも大河、大っっ好きだぜ〜」
大河は実乃梨にガバッと飛びつき、顔面をモフモフ擦り付ける。クンクンしている……。
「朝っぱらから暑っ苦しいな! 他所でやってくんない!? ちょっと高須くん。あんな風に、
実乃梨ちゃんと人前で抱き合ったりしないでよね〜。ってか、変質者で警察に通報されるから」
「そ、そんなことしねえよ!……川嶋!……おまえって……黒いよな」
からかわれる竜児。亜美には口喧嘩では太刀打ち出来ない。それが、精一杯の反撃だった。
「な〜にそれ〜? あんたたちが、このメンツで気を遣ってもしょうがねえって言ったんじゃない。
教室に着いたらビシッと、カワイイ、良い娘の亜美ちゃんで決めるわよ。プロだもの。ヘマしな
いわ。そうだ高須くん、教室で話し掛けてこないでね。同類と思われるちゃうから!」
うなだれる竜児。ふっふーんっと完全復活した亜美。その傍らで大河と熱い抱擁を交わしてい
た実乃梨は、思い出したかのようにスチャッと、亜美に敬礼する。
「あーみん先生! 今日も可愛らしいでありますっ! オ〜モーレツ〜!!」
「あらぁ〜、実乃梨ちゃんったら、うふっ、正直ね〜っ!! そ〜だ、実乃梨ちゃん! 高須くん
と、お付き合い始めたんだって? やったじゃん! おめでと〜! 亜美ちゃん、うらやまし〜」
「独り身で寂しいばかちー。あんたにプレゼントあんのよ。今日の放課後、町内掃除大会に参加
させてやる。もうエントリーしてあるからね。ちなみに行かないとサボりとみなされて課外活
動から減点になるから。お礼は結構よ」
「なにそれ! 聞いてねーし! 勝手に人のスケジュール決めてんじゃねえよ!」
「北村くんの提案よ。もしかしたら素敵なロマンスがあるかもしれないじゃない……ないけどプッ」
亜美は、大河とビシビシ、ローキックの応酬を繰り広げる。まさか本当にロマンスが訪れるとは
知らずに。
***
終礼直後の教室。北村と大河は並んで教壇に立ち、クラスメートに呼び掛ける。
「みんな! 本日これより、毎月恒例・生徒会主催ボランティア町内清掃大会が行われることは、
ご存知かと思う! 実は今回、主力である三年生が明日校内模試を控えているため、参加者が
非常に少ない! みなさん、お誘い合わせの上、ぜひぜひご参加いただきたい!」
大きく、クリアな北村の声に、帰り支度を始めた奴らがピタリと止まり、耳を傾けてくれたの
だが、すぐさま聞かなかったことにして帰り支度を再開させる。北村の隣にちょこんっと突っ立
ていた大河であったが、誰も参加しないのは仕方ないと思うつつも、あまりの見事なスルーぶり
に、一喝しようと息を吸ったその時だった。右手を高く挙げて、にっこり笑顔の天使が降臨する。
「あたしこれ、参加する! 転校してきたばっかりだし、学校の行事に早く慣れたくて!」
あくまで自らの意志で参加したと主張する亜美。なんの得にもならない無料奉仕を買って出る
亜美の姿に、教室中から、わあっと感嘆の声が湧きだした。『亜美ちゃん偉〜いっ!なんでそん
なにいい娘なの?』『すっごぉぉいカワイイのに亜美ちゃんはいい娘すぎるよお〜!』『以下同
文〜!』亜美を中心に人の輪ができ、てへ♪と、恥じる亜美に「カワイ━━━ぃっ」と大合唱。
そんな天使の笑顔に釣られたアホが、学ランの下に無理矢理着込んだフリースのパーカー揺ら
し、ピシーっと右手をまっすぐ挙げ、宣言した。
「んは〜〜いッ☆亜美タンがやるなら、俺もボ━━ランティアやる〜〜」
「え? 春田、もしかしてヤケになってないか? で、ボ━━って伸ばす必要なくね?」
友達のあまりにストレートな行動に驚く能登。ちなみに能登と春田は昨日の一年生女子とのお
見合いで、散々おごらされた挙句、『ごちそうさまー!』の一言で結局メルアドさえも教えても
らえなかったと言う……亜美の色香に誘われた春田に、竜児はそんないいモンじゃないと、本気
のアドバイスしてやろうとしたその瞬間。チョチョイ、と学ランの背中をつつかれる。そこには
竜児の彼女1日目の実乃梨が立っていた。その手には鞄とジャージ。なんとなく申し訳なさそ
うに頭を掻いている。
「あのさ〜竜児くん、実は今回、女子ソフト部に強制参加の順番回ってきちゃってさ……部長の
私がやらされることになってさー。今日は一緒に帰れないかも……あのっ、そのっ、いやっ、わ
たしは、竜児くんと一緒に帰りたいんだけれども……ええっと、……いっかな?」
実乃梨は竜児をキュン死させるつもりなのか? 竜児の心は実乃梨に燦々に照らされ体温上昇、
恍惚となる竜児は即答する。
「俺も、参加するかな……夕飯は昨日の鮭の残りがあるし、泰子にはメールしておけばいいか」
「え? 本当? そうなの? 嬉しい!! いやー、竜児くんは偉いよっ、感動した!」
実乃梨は、真っ赤にのぼせてしまいそうな頬を向け、竜児を見つめている。可愛い。デレデレ
しているふたりを、教壇からニヤニヤ見下ろしている北村が、パシン! と手を叩き、
「よし、お前達待っているぞ。ジャージに着替えて校門前に集合だ! いやぁ、我が2ーCから
は、俺含めて6人か! ズバリ素晴しいっ。じゃあ、逢坂、生徒会室に行こう」
「うんっ。じゃあ、みのり〜んっ、あとでね」
大河は実乃梨に手を振り、北村の後を追い教室を出て生徒会室へ向う。
「んじゃ〜、あーみん、一緒に着替えにいこ! 迷わず行けよ、行けばわかるさ!」
「うん、実乃梨ちゃん。いこっ、高須くんと春田くんもっ、頑張ろうねっ!」
るんるん♪っと実乃梨は亜美と一緒には女子更衣室へと向かっていく。亜美は本当は掃除なん
てイヤでイヤで堪らないだろうに。さすが女優の娘……そう変に感心しながら見送る竜児の隣に、
亜美に肩を叩かれただけで、ホワホワと鼻の下を伸ばしている盟友、春田がいた。苦笑する竜児。
「春田、マジでやんのか? まあ、もうやるしかねえんだが。わかりやすい奴……」
「イェッ! 高っちゃんっ! そーだ、なんだっけ? ボ━━は? 高っちゃん棒使うの?」
「高須棒だ。使わねえよ。てか、高っちゃん棒って変だろ。正直どっちでもいいがな……いくぞ」
イエース☆バキュ〜ンと、ピストルを撃つマネをする春田。竜児は撃たれたこめかみを押える。
***
『ぅおーし野郎ども! 覚悟はできてるんだろうなあ! 今月も恒例の町内清掃活動を行う。
サボる野郎がいたら承知しねえぞコノヤロー!根性据えて行くぞてめえらあ!』
朝から一向に快方に向かわない曇天の下。薄暗い大橋高校校門前では、一段高いところでがな
りたてる生徒会長すみれをを見上げ、覇気の感じられない20人ほどの生徒が集合していた。
「今日も胸に染みるお言葉です。さすが会長!」
副会長の北村はパチパチと拍手する。つられてか細い拍手をする数人……帰宅の途につく幸せ
な生徒たちはだらだらと歩きながら、またやってるよ、とおもしろそうにこちらを見ている。
「へえ……この人が、噂の生徒会長なんだ……」
「噂?」
「祐作が前にちょっと言ってたんだ。すばらしい先輩がいるから、生徒会に入ることにしたって」
竜児の傍らで声を潜める亜美は、ギャップのすごすぎる兄貴の姿から目が離せないようだ。す
みれは、拡声器の音量を調整し直し、熱血スピーチを続ける。
『軍手ははめたかー! ゴミ袋は持ったかー! 清掃範囲の確認は済んだかー! 気合入れろぃ!』
漢、の一字を魂に刻む、統率力抜群の女将軍……いや、もっと端的に、兄貴か親方。
「うおおおおおお━━━━っ!」
『うるせ━━━━っ! ……というわけで、学校外の人々にだらしない姿見せるなよ。おめえら
のボランティア精神を世間様に曝け出してやれ! これより一時間! 集合時間には絶対に遅
れるなよ! 全員揃うまでは解散せんからな! よし、逢坂! 笛!』
ピッ、ピッ、大河は上手く吹けない……見兼ねた北村がホイッスルを代わりに手に取りピーッと
吹く。その音と共に、二十数名の生徒たちがぞろぞろと校門から外の世界へ、ゴミを求めて繰り
出す。大河は暫く、北村が口を付けたホイッスルを見つめていた。
「手乗りタイガー……あの娘、やっぱ、まるおのこと……」
その姿を、遠巻きにガン見している瞑らな瞳が一人分。栗色の髪が風に揺れていた。
「あれー? 木原、何してんの?」
威嚇するネコのように、その栗色の髪が逆立つほどビックリする麻耶。振り向くと、眼鏡がキラリ。
「なんだ、能登かよ! ちょっと、ビ、ビビらせないでくれる?」
「な、なによそれ? 聞いただけじゃん。……ヒマならCD屋いかね? ったく、春田のやろー
が約束してたのにブッチギられちゃってさ〜。ヒマなの?」
「あたしが春田くんの代わり? てか、なんで能登と、一緒に行かなきゃなんね〜のよ?」
「たまたま誘っただけじゃん!! いーよ別に。ひとりで行くし。じゃ〜ねっ」
能登からプイッと首を振ると、麻耶の正面に大和撫子の姿をした日本男児がドンッと立っていた。
「なんだてめえらは。ヒマそうだなぁ……ここに軍手とゴミ袋がある。手伝わねえか?」
ズイッと、軍手、ゴミ袋、掃除範囲表と、掃除の三種の神器を突き出すすみれ。麻耶は全力で否定。
「え? 兄……狩野先輩! ヒヒヒマじゃないです! こいつとCD買いに行くんです! いくよ!」
「はあ? ちょっ、木原!! ひっぱるなよおっ! ひとりで歩けるってぇぇ!!」
そんなきっかけで、能登と木原の不思議な関係はスタートしたのだった。
***
「ノー!」
学校の壁際に古雑誌を見つけ屈んだ竜児に叱咤。振り返ると、険しい顔で背後に立っているの
は実乃梨。チッチッチ、と人差し指を振って見せ、
「ノーよ、竜児くん。学校の周りは三年生の縄張りなの。私ら下級生は面倒なとこまで遠征する、
それが伝統なんだよ。さあ、二年坊主はもうちょっと歩こ」
今度はクルリとにっこり笑顔を見せる。実乃梨の笑顔は太陽のよう、眩くて輝かしくてまっすぐ
で、竜児はうっとりと見入ってしまう。両頬のえくぼもちょっと陽に焼けた鼻の頭も、健康的で
本当に素敵だ。この明るさに惹かれているのだと、今、改めて竜児は思った。
新緑の木立の下をゆったりした速度でそぞろ歩いている。前後にいる揃いのジャージの有象無
象を見なかったことにしてしまえば、完全にデートの光景だろう。
そんな二人の様子を見てなにか感じたのか、春田は「ねえねえ」と亜美に問いかけてくる。
「亜美ちゃんさ〜、高っちゃんっと櫛枝って、けっこ〜、イ〜感じなんじゃないかな〜?
な〜んか見てると、幸せハッピー♪ ホルモンむんむ〜ん♪ って感じでさ〜☆ヒョ〜!」
コントみたいな、よくわからない動きをする春田。自分を抱きしめたり、天に向かってキスし
たり。あまりのアホさに亜美は、あははっと笑い、ひそかに思う。本物だ。もちろん『天然』。
「どうなんだろ〜ねえ、春田くんっ。直接本人達に聞いてみたら?」
「亜美ちゃん、あったま良い〜!! おっほ〜い! 高っちゃわぁ! んむごぉぉっ!」
脳ミソ直結の素直に過ぎる春田の行動を、亜美が慌てて手で口を塞いで制した。
「何だ春田呼んだか? あれ? 何絡み合ってるんだ、お前ら……」
「なんでもないわ! そうだ春田くん、土手の方行ってみようか。あそこも掃除の範囲だったし!」
眩い天使の笑顔で春田を見上げ、しなやかな手で、春田の指を捉まえる。生まれて初めて女子、
しかも超美少女と手を繋いでもらい、カーっと春田の顔面が血色に染まる。
「うひょ〜っ! 亜美ちゃんとなら土手でも、トランシルバニアでも、水星でも、第3新東京市
でもどこでもついて行く〜! れっつ☆ごー!」
身長の高い二人は、まるで映画のワンシーンのように、小走りで土手へ向うのであった。
***
んっててれってれ〜!
んっててれってれ〜!
♯は・は・はるたの大ハッピ〜! 亜美ちゃんといっしょにおそ〜じだ〜! とっても美人で
カワイイな! とって〜もドキドキしちゃうんだ! とって〜もドキドキし・ちゃ・う・ん・だ〜
っててれってれ〜! んててれってれ〜!(♯からループ)
「もう春田くんったら! おもしろ〜い! ねえ、今度はあっち行こうよ」
「は〜い! イクイクゥ〜!」
ビシッと、Vサイン。ここは町の境を流れる一級河川。土手の上の遊歩道でゴミ探しをしてい
た春田と亜美だったが、めぼしいゴミがなかったので、向こう岸へ渡ろうと橋へ向った。
「くはーっ! でもキンチョーするっ! 女子とこうやって二人で歩くのって、初めてだし!
しかも亜美ちゃんとだなんて、いいのかなーって……あれ? これって、死亡フラグ?」
「そうなんだ〜、でも春田くん、モテそうじゃない?」
「さすが亜美ちゃん見る目あるな〜! でもそれがさ〜、そうでもないんだよね〜……前にさ〜、
お〜いって俺の方向いて叫ぶ女子がいてさ〜、え〜?ナニナニ〜って、その女子に近づいたら、
俺じゃなくって、俺の後ろにいた奴呼んでて、超〜恥かいたりさ、あと、部活で校庭ランニン
グしていたらさ、俺の方向いて、手を振っている女子がいるから、またまた何〜ってその女子
に近づいたら、窓吹いてただけだったんだよね〜! ハルタの憂鬱って感じ〜☆」
「やだ〜っ、春田くんったら! おもしろ〜い! でもそれってぇ。もしかしたら長髪だからじ
ゃないかな? ほら、一般的にロン毛って、軽薄そうに見えるじゃない? 春田くんなんで髪
の毛伸ばしてるのかな?」
髪先をクルクル指に巻き付け、以外だが、的確な指摘にホエ〜っとする春田。
「だってさ〜、ロン毛って、クラスに1人くらい必要じゃん? キャラ的に? 成分的に?
……んーっ、いや〜、本当はぁ、俺……男のくせに体毛が薄くってさ〜。頭髪くらい長くした
いな〜、なん〜て、思ってたりして……あ、ねえ、毛って言えば、そういえば俺んちナイソー
屋なんだけど、ペンキ塗るのにハケいるじゃん。漢字で刷毛。この前、剛毛と間違えてさ〜。
ゴーモー☆親父に息子としてど〜よ? って怒られちゃったんだよね〜。アハハハハハ」
「……でも、あんまりモジャモジャよりいいんじゃないかな? お手入れ楽だし。おほほ……ほ!」
亜美の笑い声が、唐突に止んだ。まるで魔法でもかけられたみたいに。硬化した亜美の視線は
春田を通り過ぎてその背後に向けられ、その表情はまさしく石像のようになっていく。
「ど〜したの亜美ちゃん!? ……ちょっと〜、お〜い!!」
春田の声に答えもせず、亜美は橋へ向わず、突然土手から、川岸へと降りていく。亜美は止め
るのも聞かず、生い茂る草むらに身を隠すように身体を屈めて小走り、どんどん離れて行ってし
まう。わけがわからないが追いかけないわけにもいかず、
「待ってよ〜!亜美ちゃ〜ん、プリィ〜〜ズ」
春田も川岸へ走り降りる。そして亜美が飛び込んだボロ駐輪スペースの中に駆け込む。一応ト
タンの屋根はついているが、ほとんど吹きさらしと変わらないうえに座るところもなく、傍らに
は錆びた自転車が雑然と積み上げられているありさまだ。
「亜美ちゃん、なんでこんなところに? どうせならもっとウヒヒなところに……」
「しっ!」
「ふがっ!」
冷たい手が春田の首筋に伸びた。その冷たさと、至近距離の亜美の香りに春田は声も出ない、
息もできない。そのまま体重をかけるように、亜美は春田にしがみつくのだ。そして押し倒す
勢いで荒っぽく、その場にもつれ込むようにしゃがみ込まされてしまう。
「お……っ、ちょ……っ、……俺っ、勃っ」
「……しー、だってば!」
ぴったり触れた身体は異様なほどむにゅむにゅと柔らかく、しかし儚いほどにほっそりとし
て、くっつきあった皮膚の部分からじわりと溶けて混ざっていってしまいそうなほどに亜美の
肌はなめらかだ。
「……しばらくここで、こうやって……隠れてて……」
わずかにかすれた囁き声。そして亜美は身体を小さく丸めてしゃがみ、春田の身体を盾にす
るようにその胸の中にすっぽりと納まってしまう。
「な、な、な、……何事?……」
「……あそこ……」
か細い声で囁いて、亜美は小さく指差して見せる。
「……え? 誰、なの?……」
元いた橋の上に、無表情な男が辺りを見回している。学生風の一見普通な佇まいの男だった
が、手にしている重厚なデジタル一眼レフ。異様さを際立たせている。
「なんか、変態っぽい感じ?。なんで亜美ちゃんを追いかけ……ハッ!」
ピコ〜ン☆その男の生理的気持ちの悪さに、春田は状況を理解する。奇跡だ。亜美は、排泄物に例えた。
「……くそっ」
「あのさ〜、亜美ちゃん……あいつ、ストーカー……なんだよね? 多分」
「うん……結構ヤバい奴、なの……あいつ……学校で待ち伏せして、つけてきてたんだ……春
田くん、私たちのことあいつが諦めて行っちゃうまで、ここに隠れてよ」
男の春田でさえ不気味なのだから、ターゲットになっている亜美の恐怖は計り知れない。思
わず亜美を抱えた腕に力がこもり、名残り惜しいが、亜美の体から離れ、春田は立ち上がる。
「ねえ亜美ちゃん。俺、ストーカーくん、ぶっとばしてくる。俺、亜美ちゃん超LOVEだけど、
困らせるなんて、ちょっと有り得ないってか、まあ、そういう訳で、春田緊急出動しま〜す」
「ええ? なっ……ちょっ……春田くん! 危ないよ! 止めて!」
突然降り始めたゲリラ雨。濡れた春田のアホ面が、一瞬キッと引き締まる。その顔を見た亜美の
胸が、認めたくないが、一度だけドキッと高鳴った。そして、
「違うよ、亜美ちゃ〜ん。危ないのは、ストーカーくんなんだよ〜☆」
橋の中央に移動したストーカーは、傘をさし、川原辺りをカメラでキョロキョロしていた。
「ど〜も〜、ストーカーく〜ん」
声を掛けられたストーカーは、ファインダーから目を離す。
「なんだお前? 亜美ちゃんの彼氏……な訳ないか、アホっぽいし……死にたくなかったら失せろ」
チャキンっと、鋭い抜刀音。ナイフだ。
「な〜にそれ? 危なくね?」
へら、と春田は笑ってみせる。女には弱いが、男には強気な春田は、ストーカーが構えているナイ
フの刃先が震えているのを見逃さない。ゆっくり、距離を詰めていく。
「ち、近づくな!! こ、怖いくせに」
「別っに〜? 俺、亜美ちゃんの為なら死ねるも〜ん!」
イーッだっ! と、ストーカーにイーッする春田。そこに雨の中飛び出して来た亜美。
「ちょっと何言って……キャッ、ナイフ! やめて春田くん! 危ないから相手にしないで!」
「死ねるだと? 嘘つけ! じゃあ、じゃあここから川に飛び込んでみろ! そしたら諦めてやる!」
「え? マジ? いーよ」
春田は橋の欄干を身軽にヒョイっと跳び越え、それくらい何ともない〜って感じで川へダイブした。
「うわあああっつ!! ちょっち後悔☆」
ガキのときはよく飛び込んでいたが、なんせ10年振り。思ったより長い滞空時間と、バランスを
崩し、頭が下向いてしまった。この川は浅いのだ。このまま着水すると非常に危険だ。で、
バッシャン!!
「春田くん!」
欄干に飛びつき、川を覗き込む亜美。着水した春田は、犬神家の一族のように、水面から足が突き
出ている。非常に最悪なダイビングフォーム。間違いなく頭を強打している。
「ちょっと、あんた!! ケータイ持ってるなら救急車呼んで! 呼べって!」
ストーカーは震えながらも、ケータイで緊急事態の春田を撮影する。
「てんめぇぇぇっ! 何やってんだ! 死んじまうだろーがっ! 早く!!」
亜美はストーカーを突っぱね、ケータイを奪おうとする。ストーカーはケータイを離さなかったが。
「痛いっ! 親父にも殴られた事ないのにぃ……お、俺、関係ないから! 勝手に飛び込んだんだ!
俺、悪くない、知らない! っていうか、あ亜美ちゃん怖え! 萎え萎えだよぉ! 性格悪すぎ
るよおっ! 天使なんかじゃないっ! 嘘つきだ! 鬼だっ!……うわああああっー!」
ストーカーは言いたい事を言って、一目散に逃げてしまった。酷え! と、吐き捨て、ストーカ
ー追跡を諦め、再び亜美は欄から川面を覗く。春田の状況は変わらない。まさか……死……
「春田くん! 待ってて!」
亜美は、脚が絡まりそうになるくらい走り、橋の下、河原まで降り立つ。迷いはない。お世辞に
もキレイではない川に飛び込み、叫びながら、濁った水の中を飛沫を蹴上げて進んでいく。すぐに
スニーカーは靴下ごと泥に取られて、裸足になってしまう。バシャバシャ水柱を立て、春田の両
足に辿り着いた。
「このぉっ! ええいっ!」
ズボッと川底から引っこ抜いた春田の口から、ピューっと噴水のように水が流れ出る。思いっき
りペシペシ頬を引っ叩いても反応がない。泳ぎに自信がある亜美だったが、着衣で人を抱えて泳ぐ
のは初めて。それでもなんとか岸辺まで漕ぎ付け、自分でも驚くほどの力で、陸の上に担ぎ上げた。
「ぐほおっ!」
反応があった。春田は生きている。良かった。しかし息をしていない。顔に付着した泥を拭って
やり、亜美は、決断する。自分に言い聞かせる。
「……これはキスなんかじゃない。人工呼吸……人命救助」
そう自分に言い聞かせるが、口が触れることには代わりはない。春田の体を横に向け、残りの水
を吐き出させ、鼻をつまみ、気道を確保させる。そして、亜美は、髪を掻き上げ、花びらのような
くちびるを、春田のくちびるに近付けていった。
「ありゃりゃりゃりゃん、大変、大変」
偶然、買い物に行く途中に、土手を歩いていた泰子が、亜美の春田救助現場を目撃する。
***
「うわ〜☆亜美ちゃんカワイ〜! さすがモデルさん、なんでも似合っちゃうんだ〜☆」
「泰子さん、ありがとうございます! 後でクリーニング出してお返ししますね?」
高須家の風呂を借り、泰子の部屋で着替えた亜美。髪をアップして、泰子のラメ入りキ
ャミソールと、尻肉はみ出しそうな、す〜ぱ〜☆ホットパンツを装着。裸体よりエロい。
春田といえば、竜児のベッドで就寝中。ゲリラ雨は止んでいたが、タクシー呼んで、二人
掛かりで高須家に運びこんで、風呂場に直行。素っ裸にして、ゴシゴシ洗って、竜児のス
ウェットを着させて、ベッドに投げ込んだ。もちろん亜美は、お風呂は泰子に任せた。
「亜美ちゃ〜ん、やっちゃんお買い物の途中だったから、ちょっとだけお留守番い〜い?」
「わかりました、泰子さん! いってらっしゃい!」
バタンっと、鉄製の重いドアの音が響き、その後に、高須家は静寂に包まれる。はあっと、
亜美は、畳に寝転んだ。さっきの事で、ストーカーは、もう付き纏うことはないだろう。ず
っと気になっていた不安が解消され、しばらく忘れていた安堵感が、心の中にじわり広がる。
「亜〜美〜たぁ〜ん……大丈夫くぁ〜?」
「はっ春田くん? 気がついた?」
春田の声に飛び起き、竜児の部屋にいる春田に駆け寄る亜美。ベッドサイドに両膝を着く。
「ストーカーから、ぐか〜……おりぐわぁ〜、守りゅ〜……ぐかか〜☆」
寝言かよ! しかも未だにストーカーから亜美を守ろうとしている。撃退できたことも知
らずに……いったい何処まで記憶があるんだろうか? 亜美はじ〜っと、春田の半開きの
くちびるを見た。ヨダレが垂れていて、見事にアホっぽい。残念ながら、亜美は、そこにく
ちびるを重ねたのだ。熱を測るように額に手をやる亜美。
「春田くんねえ……まあ、仕方ねーかっ」
春田は、亜美の為に、ナイフを恐れず、体を張って川に飛び込んでくれた。死ぬかもし
れないのに、躊躇なく。結局亜美に助けられてしまうオチがついたが、おかげでストーカ
ーを撃退できた。マネージャーでも出来なかったことをしてくれた。そんなことされたら、
普通の女の子は、そんなことされたら……
「それぐらいじゃあ、まだまだ……ねえ。でも、見直したよ、春田くんっ」
亜美は、アホ面全開の春田の頬に、キスをした。
「大丈夫か、春田!って、おうっ!」
よりによって、そのタイミングで、『春田くん死亡☆高須家』という説明不足甚だしいメ
ールを泰子から受信した竜児が、実乃梨を引き連れ帰宅してきてしまった……とっても気ま
ずい。見られるより見た方が恥ずかしい事もあるのだと、この時初めて知った竜児と実乃梨。
いったいどうすれば、何故こうなったんだ? コペルニクスにでも聞けば判るのだろうか……
「……見た?」
「見た……すまねえ……」
「亜美た〜ん、チュ〜……ぐか〜っ☆」
春田の寝言はそんな時でも絶好調だった。
以上になります。
お読み頂いた方、有り難うございました。
様子を見させて頂き、判断させて頂こうと存じます。
失礼致します。
>>188 これは初のカップリングが誕生したのか?
ここまでオリジナルだと違和感を超越して面白さしかないな。GJ
あ、亜美ちゃん…
春田と…
川ダイブ前の春田のかっこよさは、スピンオフの時の対決を思い出しました。
何気にこの時期にカップリングされていて今後が非常に楽しみです!黒間×ゆりとかありそうな。ないかな…
192 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 02:49:43 ID:VDN3Vi9b
その傾向には抗議しないんですが、警告ぐらいが欲しかった。
春田よくやった! 感動した!
mataaresoudana
カップリングなら自由で良いんじゃない
どういうのが人に不快感与えるか客観的に見れないと無理だろ。
俺は注意書きなしに近親ネタ書いてきたときに切った。
ある程度は自分の書きたいように書いてはいいだろうが、ここまで客観性ないのは書き手として致命的。
そう思ったらよまないだけさ〜
スレが過疎るだけだな…
作者は、不快感を催す書き込みを、だらだら続けているけど、何がしたいの?
自分の脳内に出来上がっているカップリング以外は認められないってこと?
カップリング以外でも不快感を催す作品だと受け止めたなら読み飛ばせばいいと思うがどうか
なんか夏と同じ流れだなあ
こういう流れがヒートアップして、良作が未完のまま潰されるのか。
今度は何をやらかしたのかと思ってNG解除したら獣姦と亜美派へ喧嘩売ったのか
そりゃ荒れるは
誰も春田とくっつけなかった理由を考えれば分かるはずなのにな
ま、分からないのがこいつだけどな
つーか、まだこの作者を信じてる人がいたことの方が驚きだ
何書いても自由だろうし俺的にはどうでも良いんだが
毎回同じ様な不穏な流れになるなら読み手よりむしろ作者に問題アリだろ
>>197、199
読んですらないよ。
カップリングは自由でいいのは間違いないんだが。
前に竜×実だって注意書き見て、読んだら竜×虎(ガチエロ)があったりしたからまたかって思っただけ。
それだけかと思ったら獣姦まで書いてたとは恐れ入ったわ。
>>203 上の作者さんには悪いが、
>>203と全く同じ理由で俺も読んでないんだよ。
NGしてる。何のための酉かと。
ただ、話の内容や、レスを読む限り原作の取り入れ方などの作風を好む読み手もいるよね。
お近づきにはなりたくないけど獣姦が好きな人もいるかもしれない。
とりあえず自作自演かどうかは置いておく。
とにかく読み物の好みは人それぞれなんだし性的趣向なんてそれが特に顕著だと思う。
危惧するのは読み手の趣味に合わないからと言って作者を攻め立てて他の作者さんまで
投稿しにくい場を作ってしまうこと。
>>204 全面同意 投稿しやすい雰囲気を大事にしてほしい
投下型の荒らしと思えばよいじゃないか。
週一な分、マシだろう。
荒らしはスルー。が鉄則さ。
自分にとっての駄作は他人にとっての良作
特殊、かつ一般受けしない作品で注意書きが無かったのは致命的だが、嗜好にまで言及するのは間違いだぞ
嫌ならスルー
気に入ったならGJ
これが板のマナーだと思う
まあ、あっしは単発ネタ専門っすから〜
>>204 わざわざ、俺は嫌いだから読まないって力説しなくても良いのに。
うん、擬人化ヒロインネタはともかくとして、
近親相姦ネタには私も注意書きが欲しかった。
逆に言えば、ちゃんと注意書きさえしてくれれば全然文句ないよ。
楽しんでる人もいるんだしね。
どうせ注意書きをいくらぶ厚く書こうが、気に食わんと思っている人は、いろいろないちゃもんを付けて
とことん追い出しにかかるだろうから、作者氏は気にせず書けばよいよ。
それでも、注意書きさえあれば文句ないっていう、私みたいなのもいるんだよ?
私ひとりってわけじゃないと思うし。
極論に走って中間的な意見を無視されるのは悲しいな。
注意書きもしないのは作家が悪い
NGしないで文句言うのは読み手が悪い
両方出来てないなら両方悪い
>>214 昔注意書きと実内容のカプの違いについて意見を言ったけど、スルーされたこともあったりで、NGにはもうした。
重ねて言うが、内容については見てないしどうこう言うつもりはない。
でも、ここまで未だに反応があるのは改善されてないからとしか思えないよ。
作品読めないからスレの流れでしか判断できないのは許せ。
でも、
>>211の言うように、最低でも近親相姦ネタには注意書き欲しかった。
特定の描写には激しく嫌悪感覚える人も居るってことも忘れないで欲しい。
>>213 > 極論に走って中間的な意見を無視されるのは悲しいな。
だって2ちゃん(pink)だもの
いや、もう止めにしようぜ?この話。
このままだと投下もされにくいと思うのですよ。
先週、先々週と上手にスルー出来たんだし、また出来るでしょう。
まぁ、スルーってのもそれなりにストレスになるから爆発しちゃったんだろうし。
ガス抜きも済んだと思うので、良いではないか。
って、俺も投下出来ればいいんだが、まだ書き終えてない。
すまん。
アップローダに揚げて、読みたい人だけ読めるようにすればいいんじゃないか?
>>213 それでも、注意書きなくても別に構わない(やべぇと思ったら即NG)という、
私みたいなのもいるんだよ?
私ひとりってわけじゃないと思うし。
つか、あれこれ求めておきながら中間的な意見とはな
腐ってる
投下型のアラシ以外の何ものでもないよね。
こんな奴の存在がスレを過疎化させる。
無視が一番だし、保管庫からもこいつの落書きは抹消すべし。
>>220は最悪だなあ。せっかくいい勢いで投下が続いているのに一体何様のつもりで俺様正義を振りかざしているのだろう・・・
>>221は最低だな
スレ過疎化の原因は、投下型アラシの存在だというのに
それを私に責任転嫁している。
もしかして、本人の自演か?(嘲笑
おまいら本当に学ばないのな
触ったら荒れるんだから触るなって誰か前にも言ってなかったっけ?
どうせ投下は止まらないだろうし、気持ち悪いと受け取れる描写が続くのは確定的に明らか
だからもうさ、この人の作品に対する感想、GJ、反論、クレームその他全て
つまりこの作者に関わる全てのコメントの最初に9VH6xuHQDoって付けない?
そしたら日曜から今までのコメント全てあぼーんできて平和なんだけど
ついでに言うと、それを守らない奴は
>>204とかが心配するような事態を招きかねない危険行為って事で荒らし認定な
正直言って作品がどうこうより、おまいらが仲悪くしてるのが辛いよ。。。
賞賛は賞賛、批判は批判でいいんでないかい。
どんな作品でも面白いと思う人も居れば不快に思う人も居るんだしねぇ。
賞賛したい人は最大級の賞賛を!
批判したい人は言葉を選んでの批判を
作者さんもこのスレに投下してる時点で今までどんな作品が荒れたか分かってるはずなんだから賞賛も批判も受け止めるんじゃないかい。
「高須くんって、おかあさんにしろ、タイガーにしろ
本当に大切な人って、どちらかと言うとほっとけない隙が多い人よね」
「おぅっ、とっ、突然どうしたんだ香椎」
「ほら、私達二人とも片親じゃない?それに高須くんは顔にコンプレックスがあって
私も小さい頃から胸の大きさで常に好奇の目で見られてきたの」
「え、えっと、話が見えないんだが…」
「私達結構似た境遇を生きてきた割に、大切に思う人のタイプがだいぶ違うなって話よ
私はどちらかというとぱっと見しっかりしてる人がたまに見せる隙が良いの」
「はぁ…って、なんだ香椎っ、距離が近いぞっ」
「だからこれは高須くんが悪いのよ、タイガーの口の汚れを優しく拭いてあげながら
自分もそんな風にしちゃってるから」
「(ぺろっ)」
「「「「「っ」」」」」
新人でもないし全レスに酉ついてるんだからNGで済む話だろ
今問題なのは投下に反応してる荒らしがアンカーつけないから連鎖あぼーんできないってことだ
>>226 GJ!
いま殺伐としてるから癒しになるわ〜
こんな投下をする奴が元凶だよ
>>224の言うように、こいつを擁護するやつも、共通の符号をつけるべきだ
連鎖あぼーんで飯がうまい
233 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 14:59:59 ID:7hQL4eqQ
なんか批評家気取りで他人の作品に文句つけてるが、
おまえら何様ですか?
あらゆるジャンルの作品があるのなんて当たり前だし、
それが受け入れられないならもうどっか消えて。
いちいち荒らさられてたら、作品が投下されんだろーが。
ホント、気持ちわりーよ。シロートの分際で人さまの作品によくそんな
偉そうな批評ができるもんだ。
自演乙
だから、アップローダを使えば解決するだろうに。
>あらゆるジャンルの作品があるのなんて当たり前
輪姦とか改造とかどうするんだよ。
たまに感想書き込んでるだけの、俺が言うことではないかもしれんが
昨日ぐらいに場外乱闘へ場を変えるべきだったと思う
スレをあまり汚すべきではないよ、ここぞとばかり変なの沸くしな
しかしそれでもまだKBの方が多いのなw
感服するよ、見習いたいものだ
>ホント、気持ちわりーよ。シロートの分際で人さまの作品によくそんな
偉そうな批評ができるもんだ。
>>233よ、これはギャグか?
>>226 いい感じで力抜けたわw
「高須くんになら、コンプレックスだったこの胸も許せると思うの」みたいな展開を想像してしまった。
とらドラにはおっぱい分が足りないと思う。
>>239 やっちゃんやらばかちーがいるじゃないかw
大河?哀れ乳はイソノボンボンでも取ってろ
っ生理食塩水
243 :
98VM:2009/10/20(火) 20:10:02 ID:uobaW18b
こんばんは、こんにちは。 98VMです。
ちょっと伏せっておりまして、対応が遅れました。
本来は奈々子様のターンを予定していたのですが、緊急措置。
「亜美ちゃんは〜、超絶いい子だからぁ? 春田くんでも有りかなぁ〜っ、なーんて
言えなくも無い事も無い様な気がしないでも無いかもしれない訳でもないかな〜っ。
だからぁ、全国56億7千万人の亜美ちゃんファンの皆はぁ、これでも読んで…
って、あたしの出番これだけかよ!!」
…………………え?w
埋めネタ共通時系列 4レス。
光に溢れる小洒落た店の中。
高須竜児と川嶋亜美が肩の触れ合いそうな距離で仲良く座っている。
名前も知らない観葉植物に囲まれて周囲は緑にぼやけ、彼らの背後もまた、逆光気味ではっきりと判別できない。
観察者に背を向け、不思議な光の中に浮かんだ二人の男女。
顔は見えない。
声も聞こえない。
ただ、背格好も雰囲気もとても自然で、落ち着いているように見えた。
男の背中から安らぎを感じる。
その男のそんな姿を見たのは初めてのような気がした。
女の方は………
優しげで、包み込むような佇まい。
いつも喧嘩ばかりしてしまうが、その実、大好きな友人がそんな女であることは知っていた。
しかし、そういう姿を人前で見せることは無いはずだし、実際、見たことも無い。
いつの間にか、その二人は立ち上がっていた。
相変わらず、顔は見えない。
そしてまた、声も聞こえない。
ただ、背格好も雰囲気もとても自然で、似合いの二人に見える。
そして、二人は去っていく。
周囲の景色は、いつの間にか街路樹の木漏れ日が降りしきるレンガ通りになっていた。
幻想的に美しい一本の道を、二人は肩を並べて遠ざかっていった。
やがて男の手がゆっくりと伸びて、女の華奢で美しい肩を抱き寄せる。
喉がカラカラになり、何事か叫ぼうとするが、声はでない。
二人を追いかけようと思ったが、走っても走っても、一向に距離は縮まらない。
もう一度叫ぶ。 声は出ない。
もう一度。 そして気付く。
この世界には音が無い。
それでも、もう一度声の限り、届く筈も無い手を思い切り伸ばして、叫んだ。
埋めネタつづき 〜手乗りタイガーのちょっと穏やかな昼下がり〜
「ほにゃっ!」
叫んだ筈が、口から出たのはそんな音だった。
衝撃と真っ白な視界。 何が起きたのか理解できず、もがく。
やがて、いい香りがすることに気がつき、ようやく、少しだけ頭がクリアになった。
視界が真っ白だったのは、シーツにくるまっていたからだ。
そして、いい香りはそのシーツが発している。
なんとなく、その香りには覚えがあった。
もそもそとシーツから這い出ながら、『なんだっけ?』と考えを巡らす。
思い出せそうで、思い出せない、そんな歯がゆさも、しかし、シーツから脱出を果たした瞬間に吹き飛んだ。
そこには全く見覚えの無い風景があった。
シンプルだが、そこかしこに住人のセンスを感じさせる部屋。
どことなく自身の部屋に似ているが、違う。
何気なく頭に遣った手が、パジャマらしき服の袖から出ないことに気付いたのと同時だった。
大河が、その場所が何処であるかを思い出したのは。
慌てて立ち上がって、辺りを見回す。
窓の外には数本の庭木に遮られて、灰色に曇った高層ビルがちらちらと姿を覗かせている。
日は既に高く、外の景色は今にも陽炎を映し出しそうだ。
そうだった。 昨夜、車の中で気分が悪くなり、そのままなし崩し的に彼女の実家に泊まったのだ。
しかし、今、部屋の主の姿は無く、大河は少しだけほっとする。
あんな夢を見た後では、部屋の主と顔を合わせるには心の準備が必要だったからだ。
「すー、はーーー。 スー、ハーーー。」
ベッドに腰掛け、大きく深呼吸をしながら、大河は部屋の主を待つことにした。
程なくして、川嶋亜美は部屋に戻ってきた。
「…やっと起きたんだ。 おはよ。 って、もう昼だけどな。」
「おはよ、ばかちー。」
「早く、着替えて。 急がないとあたし、遅刻しちゃうから。 あ、あんたの下着、もう乾いてるから。 サニタリーはあっちの
つきあたり。 ほら、さっさと動く! Move! Move!」
「え? え?」
まくし立てる亜美の迫力に、一瞬思考が追いつかなかった大河は、言われるままに歩き出していた。
昨夜のことで、亜美に対して気後れしている部分もある。 さらにはあの夢。
そうだ… 夢。 あれは夢だ。
夢なんて、起きたと同時に忘れてしまうことが多い。 しかし、どういうわけか、忘れたい夢ほど鮮明に覚えているものだ。
……酷く不吉な夢だった。
突き当たり、それらしいドアが開いていて、可愛らしい下着が床に放り出してある。 大河のものだ。
今見につけている、とてもいい匂いがするパジャマは亜美のものだろう。
手も足もハデにあまっていて歩きにくいことこの上なかった。
とりあえず、パジャマを脱いで下着を着ける。
サニタリーからひょいと顔を出すと、先ほどの廊下に丁度同時くらいに亜美が顔を出した。
「ほらっ、タイガー、早く着替えなよ。 あー、もう! あんたの服持ってくるから下にいってて! そこ曲がって階段!」
やたらと急いでいる亜美に、いつもなら毒づくところだが、どうにも調子が出なかった。
言われたとおり、階段をおりて、一階のリビングルームと思われる、やたらと広いフロアに出た。
バカでかいプラズマTVと、わりと本格的なバーカウンターが目を引く。 壁のうち一面は自然石を組んであり、重厚だ。
そして、その広いフロアではちょこんと置いてあるように見えるソファーで、大河の視線は止まった。
人がいる。
「あ。」
その人物はすこし伸びをして、斜に振り返った。
「あら。 いらっしゃい。」
「お、お、おじゃましょと…」
「ぷくっ」
その年齢不詳の女は噛んだ大河を見て、失礼にも吹きだした。
だが、大河はすぐに気付く。 それはTVでおなじみの顔だ。 彼女は『川嶋安奈』。 亜美の母親である。
「おじゃましてます…」 改めて言い直す。
そのとき、背後からドンドンドンと荒っぽい足音を響かせつつ、亜美が階段を下りて来た。
「ほらっ、タイガー。 さっさときがえ……… あれっ! ママ!! な、なんで居るの!?」
「居ちゃ悪い? っていうか、ここ、私の家よ?」
「ってか、そうじゃなくて! 今日は朝からリハだって… またばっくれたの? 国営放送の看板ドラマでしょ?」
「誰も私がリハーサルに来るなんて思ってないから、問題ないわ。 …それより、この子が逢坂さんね?」
急に名前を呼ばれて、動転する大河。
「そ…「ひゃい!」 ……そうだけど。 なに?」 亜美はいきなり緊張している大河を呆れたように一瞥しながら答える。
「『お友達』なんでしょ?」安奈は意地悪顔で言う。
亜美は大股でいっきに部屋を押し渡ると、母親のすぐ傍までいって、小さな声でまくし立てた。
「ママ、絶対、絶対、余計なこと言わないでよ! っていうか、あんなちんちくりんはどうでもいいけど、どっかであたしの私生活
とかアイツが喋っちゃったりして、変な噂が立ったら嫌だからね! だから、変な事言わないでよ、絶対!!」
大河からは亜美が母親に何を言っているのかは聞こえなかったが、亜美の話を聞いているときの安奈の意地悪顔を見てこう
思っていた。
なんつーそっくりな親子なんだ、と。
「それより亜美、あなたこそ、午後一番で入りじゃなかったの?」
「あっ、いけない! いかなきゃ!」
「逢坂さんの面倒は見てあげるから、いってらっしゃーい。」 ひらひらと手を振る安奈は一目見ただけで判る企み顔。
「ママ、絶対だよ!いい?」「車、貸してあげましょうか? 今からタクシー呼んだら時間ヤバイわよ?」
「え、いいの? じゃ、フィアット貸して!」
「チンクエちゃんは入院中。」「へ、まだ修理終わってないの?」「何言ってるの、ぶつけたのはア・ナ・タ♪」「くっ…。」
「エリーゼと599、どっちにする?」「エリーゼ!」「外、暑いわよ〜。」「エリーゼってクーラー…」「無いわよ。」「くっ…。」
はい、じゃこれ、と言って鍵を放り投げる安奈。 複雑な表情でそれをキャッチして部屋から走り出る亜美の後ろ姿に…
「ぶつけたら、弁償ね〜♪ 599は高いわよ〜。」 …なんとも楽しそうだ。 そして…
「冗談!!」 ……姿が消えた亜美の声だけが返ってきた。
親子のやり取りに圧倒される大河。
この親にして、この子有り。 そんな言葉が大河の頭の中をぐるんぐるん絶賛大回転中。
「さて、逢坂さん。 お昼、一緒しましょ。 ほら、さっさと着替えてね。」
言葉は優しげだが、その目には有無を言わせぬ迫力があった。
「あの、でも…」「一緒しましょ?」「……ハイ。」
さしものタイガーもT. rex の前には無力だった。
着替えて、ダイニングルームに移動すると、すでに昼食の用意がされていた。
いかにも高級そうな食事が出てくるのかと思いきや、ごくありきたりの家庭料理。
食事をしながら、先ずはやはりありきたりに時候の話題。
川嶋安奈は大河がTVからイメージしていた印象とは違って、案外親しみやすかった。
徐々に、大河も口を開き始める。
そして、安奈はそれを待っていたのか、ようやく本題に入れるとばかりに、大河自身のことを問うた。
「逢坂さん、たしかお名前、タイガだったかしら? どんな字を書くの?」
大河は内心、顔をしかめた。 自分の名前はあまり好きではない。 出来れば自分も水星戦士のような名前がよかった。
「そのままです。 大きな河と書いて、タイガ。」
「へぇ〜。 すっごい素敵な名前。 うらやましいわ〜。 家のももっといい名前つけてあげればよかった。」
「へ?」 安奈の意外な反応。 そしてその表情も言葉の調子もお世辞を言っているのではなさそうだった。
「? ふ〜ん…」 見慣れた顔。 やっぱり親子だ。 意地悪顔がそっくりである。
「タイガちゃん、自分の名前、嫌いなんだ。 素敵な名前なのに。」
「…でも…「大河。 大きな河の傍に文明は生まれた。 どうしてかしらね?」
大河は息を呑む。
「時には全てを押し流してしまう荒々しさ。 けれど、氾濫の後には沢山の生命が宿る。 実りが有る。 恐ろしいけど、でも、
何よりも優しい、偉大な母。 猛々しいけれど、全てを覆い尽くして抱きしめる母の優しさ。 貴女の名前はそんな名前よ。」
初対面の相手に、こんな風に言われるとは思っても見なかった。
「う…あぅ…。」 だから、なにも言い返せない。 ましてや『嫌いだ』なんて言えなくなってしまった。
「うふ。 実はね、亜美が友達を家に連れてきたのはこれが初めてなの。 昔っから、あんまり友達出来ない子だったから…
だから、私、嬉しくって。」
「え? 友達出来ないって… ばかちーが?」
昔から亜美に友達が居ないというのは、にわかには信じられない話で、それゆえに大河は失策を犯してしまった。
人様の子供を捕まえて、よりによって『バカ』呼ばわりとは…。
「ばかちー? それって、亜美のあだ名か何かなのかしら? もしそうなら、是非由来が知りたいわ。」
「あっ、その… ……ごめんなさい!」 言える訳が無い。 第一、あだ名ですらない。 そう呼んでいるのは大河だけなのだ。
「是非。」 しかし、安奈の押しは強かった。 「うっ…。」 「是非、是非。」 悪戯っぽく安奈の目が爛々と輝く。
マジで怖い。
ついに根負けした大河は、恐る恐る、その由来を口にした…。
「あははははははは。 サイコー。 チョーうける。 言いえて妙とはこの事ね!! うんうん。 見える見える。 逢坂さん、
貴女天才よ。 あはははははは。 もう、早速使わせてもらうわね。 ……ばかちー…… ぷっ。 くっくっくっくっ。」
なんなんだろう、この『親』は。 大河は悩んでいた。 あまりにも大河の知る『親』という生き物と違う。
「本当、やっと、亜美もいい友達に出会えたようね。 おばさんは超嬉しいゾ♪」
そうなのだろうか?
「いえ、そんな事は… すみません、人様の子供をバカとか言って…。」
「いいのよ、逢坂さん。 そんな事より、これからも亜美の事、見捨てないでやってね?」
とんでもない。 見捨てられないようにするのはこっちだ。 そう大河は思う。
「そんな、私の方こそ、その… 今までも沢山助けてもらってて…」「そうなの? 横恋慕して邪魔してたんじゃないの?」
「え?」 「ほら、亜美の恋敵って貴女でしょ? もっとも勝負にもならないくらいの負けっぷりだったみたいだけど。」
「あの子、器用で何でもそこそこ出来るから、あんまり負けたことないのよ。 だから、いい薬だったわぁ〜。 亜美の事、
コテンパンにしてくれちゃったみたいで。 いえね、私もあの子の親だから、泣いてるの見るのは辛かったけど。」
亜美が泣いていた…。 そりゃそうか…。 竜児が亜美と仲良くしている夢ですら、私はあれほど動揺したのだから。
それをずっと目の前で見せ付けられて、亜美はどんな気持ちだったのだろう。
それなのに、それでも私と竜児の事を応援してくれた彼女に、昨夜私はあんな事を言ってしまったのだ。
挙句の果てには、先に亜美に謝らせる始末。
自分の未熟さ加減に、怒りを通り越してあきれ果てた。
俯き加減になった大河の目に、悔し涙が浮かぶ。
もちろん、それを見逃す安奈ではないし、安奈にその涙の意味が見透かせない筈も無い。
「ふ〜ん。 がきんちょも色々大変なのね。」
「がきんちょ…」 真剣に悩んでいるのを馬鹿にされた気がして、カチンときた。 大河は挑発的な顔を安奈に向ける。
「ま、人生長いのだから、ちょっとの失敗なんて、案外平気なものよ。 逢坂さんはそういう些細な失敗も気にしちゃうタイプ?
それだと色々辛いわよね。 でもね、それって優しさの裏返しだし、ちゃんと通じるべき相手には通じているものよ。 大丈夫。
急がなくていいの。 逢坂さんは、逢坂さんの足で歩いていけばいいんじゃない?」
あまりに大雑把で大河はどう捉えていいのか分からなかった。
「でも、私、まわりに迷惑かけてばっかりで、竜…その、大切な人にも、いっつも世話焼いてもらうばっかりで、私の方は
なにもしてやれなくて…。 それで、いらいらしちゃって、心配してくれたば…亜美さんにも凄く酷いこといっちゃって…。
なんで私、こんなにガキなんだろうって…。 みんな、みんな先にいっちゃって、私だけ取り残されて…。」
そして、どういうわけか悩みを打ち明けてしまっていた。
「とりあえず…… ばかちーでいいわよ。 いいにくそうだから。」
だが、あくまで安奈は余裕綽綽。
「図星だったのかな? 逢坂さんは何か後悔するような失敗しちゃったわけね。 で、それの何がいけなかったのかも大体
判ってる、と。 で、亜美もちょっと絡んでる。」
コクリと頷く大河。
「なら、答えは簡単。 『今のままでいい。』わよ。 もっと自分の失敗、噛み締めなさい。 そしてね、機会があったら少しづつ
直していくのよ。 少しづつ、少しづつ。 大丈夫よ。 貴女を大切に思っている人は、必ず待っていてくれるから。 そしてね、
いつか肩を並べて歩くの。 ふふふ……何時になるかしらね〜。 そんな自分を想像してみて。 ほら、楽しいでしょ?」
それから一時間後。
大河は川嶋家を後にした。
どうしたらいいのか分からなくなっていた。 ここに来るまでは。
だが、どうせ分らないなら、安奈の言葉を信じてみてもいいかもしれない。
うだるような暑さの夏空を見上げる。
とりあえず、次に亜美に会ったなら。
『ありがとう。』 と、伝えよう。
そしてもしも、もしも、勇気があったなら。
―――『大好きだ。』――― そう、伝えてみよう。
おわり。
248 :
98VM:2009/10/20(火) 20:14:29 ID:uobaW18b
お粗末さまでした。
まぁ、勢いだけで書いた。 だが反省はしていない。
川嶋原理主義者乙w って事で、ひとつ。
うーん、いいなぁ。
あーみんも年を重ねたら、この母親みたいになりそうだw
勢いでよくここまで書けますねwww
GJ!!
奈々子様編もwktk
皆さんこんばんは。
[キミの瞳に恋してる]の続きが書けたので投下させて頂きます。
前回の感想を下さった方々、まとめて下さった管理人さんありがとうございます。
※能登視点です、キャラ設定は自分の自己曲解で違うかもしれません。
今回も微エロです。次回への導入という形を取らせて貰いました。
苦手な方はスルーしてやってください。
では次レスから投下します。
[キミの瞳に恋してる(7)]
木原ってマジ可愛いヤバい。
見た目はもちろん、何が可愛いかといえば…行動と言動が可愛い、クラクラするくらい可愛い。
俺の言う事、する事に素直に反応して照れたり怒ったり…いや怒ったフリか?
本人は誤魔化しきれていると思っているんだろうけどバレバレ、もう…胸がキュンキュンして堪らない。
まあ…そう気付いたのは日曜日だ。それまでの俺ならある意味で『素直』に、ないし、『穿った見方』で返していたが、今ではすぐに解る。
お互いに素直になろうと努力しているからだ。
木原が俺に好意を抱いていて、俺も木原が好きで…両想いじゃん。
毎日が天国です、目が合えば恥かしそうにはにかんでくれるし、授業中にこっそりメールしてみたり…ヴァルハラッ!
一緒に昼飯を食って、まどろんで、他愛の無い話しをして…放課後は……なあ?
デート? 的なアレですよ。駅前をブラブラ、スドバでダベって、公園でまたダベって……。
なんてね…実は微妙に違う。
スドバで〜からが違う、つまりあれだ………ごめんなさいイチャイチャしています。控え目にだけど。
月曜日から数えて四日間、今日は木曜日。
今日も今日とてイチャイチャチュッチュッするだろう、ハグしたりキス止まりだけど、それがいい。
それより関係が進むのはまだ先だ多分…と悠長に構えていたのは学校が終わるまで。
……どうも今日は何かが起こる予感がする、木原の様子が変なのだ。いつもより微妙にソワソワ、落ち着きがない。
一緒にスドバに居るんだが、誰かにメールして顔を真っ赤にしたり真っ青にしたり、携帯に向かって頷いたと思ったら僅かに頭を横に振って否定…ポチポチと返信っと。
「木原って面白いよな」
俺は頬杖をつき紙コップのアイスティーをストローで啜って、彼女に語りかける。
「え、あ…あはは! うん、何が?」
メールに意識が集中していたのだろう、彼女はビクッと身体を震わせた後、慌てて顔を上げて聞き返す。
「いやぁ…何っつうか反応が解りやすいみたいな? メールを見て何を考えているか行動に現われているよ」
あ、ちなみに相手をしてくれないからイジケて愚痴っているわけじゃない。
見ているだけで飽きないし、一緒に居るだけでも楽しい。
でもまあ…なんだ、やっぱり眺めているだけだとちょっと俺も暇なわけで…。
「マ、マジ? ウソだぁ…わ、解っちゃったわけ? 私の考えていること…」
携帯のフリップを閉じて顔を真っ赤にした木原が俺を見返す。
「うんうん解るよ、何となくだけど」
実は何も解らん、けど…からかい半分でニヤニヤ笑いながら返す。
すると彼女は落ち着きなくティースプーンでカップの中をカチャカチャ掻き混ぜつつ、俺をチラリチラリ見てソワソワし始める。
な、何だ? 何か言いたそうにしている、デジャヴ? この前もこんな事が………。
「あ、あのね………能登の家に………行ってみたいな…」
意を決したのか、はたまた仕方無くか…それは彼女しか知りようが無い。
だが俺にはそんなの関係ねぇ、事実は一つ、シンプルにたった一つだ!
木原が恥かしそうに俯きつつモジモジしながら『おねだり』している、なら俺は断る理由も無いし、むしろ大歓迎だ。
「うん…じゃあ今から来る? ちょっと散らかっているけど…」
予想外なのは毎度の事、もう慣れた。散らかっている、と言ったのは社交儀礼だ、良かった部屋を片付けておいて…。
「行く…、行きたい、な。うん…」
彼女は自分に言い聞かせるように頷く、そして俺をジッと見詰めてくる。
「ん。よし出ようか? あ…何かお菓子とか買って行く? 多分、何も無いんだわ」
そう言いつつ俺は立ち上がる、もちろん彼女がアップルティーを飲み終えたのを確認してだ。
「ううん、大丈夫。ほら…あまり食べると…う、えっと……とっちゃうから」
木原は最後の方を小さな声でゴニョゴニョ呟く、まあ…聞かれたくない事なのだろう。
俺だって人並みにはデリカシーがあるつもり、だから聞き返したりしない。
手早く店を出て、先を急ぐ。どちらからとも無く指を絡ませて繋いだ手、ああ…やっぱり良いわ、こういうの。
まだ付き合ってはいないけど…、ねぇ? 全まで言わなくても解るよね?
いつもなら、あれこれ言いつつ歩くのだけど木原はガチガチに緊張しているみたいだ。
繋いだ掌が汗ばみ、心なしか力強く握られている、俯き唇を真一文字に噛み締め、右手と右足が同時に出ている。
俺も緊張…しているにはしている。けど彼女程では無い、かといって余裕ってわけでも無い。
ただ『何をして過ごそうか?』なんて事を考えつつ、木原をエスコート。
気分的には『彼氏』になってしまう、直になるんだけどな、ん? てか待てよ。
そういえば、いつ頃までこういう関係でいれば良いんだ?
気持ちはお互いに解っているのに『宙ぶらりん』な友達以上恋人未満な関係を…。
俺は木原が望むなら今すぐにでも……なんて想うんだけど。互いの理解を深めるのに『線引き』はしているのか?
………してなくね? あ、だよな。
二人して重要な事を忘れていた、しないといけないのか、それも解らないけど…一応はしとくべきだ。
例えばの話だけど俺が『ちゃんと木原を大切にするから…』なんて言って、付き合う前から……SEXをしたい、とか伝えたら?
彼女は受け入れてくれるのだろうか? あくまで仮定の話だけど。
付き合う事を『前提』になんて言ったら線引きなんて無意味、俺としてはしっかりしておきたい。
木原が大切だからこそ、誠意を持って接したいのよ。
だけど…わざわざ聞くのは良い事なのか、それとも空気を読むべきか?
すぐすぐ答なんか出るわけない、と言っちまえばそれまでだが…。スパスパ決めれるかよ。
うぅ…態度、おおっ! 態度で示そう『行き過ぎ』なら諫める勇気も必要だ、ヘタレた姿ばかり見せれるか!
男らしさも見せないと…うんそうしよう。
そう出来るのがベスト、一応は保険として言っておく。毅然とした態度を示しつつ『空気』を読もう。
「あ…ここが俺ん家、っと…オフクロが居るけど大丈夫?」
心の中で決意表明をして間も無く自宅に到着、玄関脇のカーポートを横目で見てそう聞いてみる。
「だ、だだ…大丈夫、挨拶…"おかあさん"にも挨拶したいしっ!」
オフクロの部分だけ妙に強調して話す彼女、……まあツッコミは無しにしておこう。
.
「「………」」
木原がオフクロに『挨拶』をした部分は省略しとくよ、まあ…なんだ予想通りだ。
顔を真っ赤にして言う事はカミカミ、ぺこぺこと何回もお辞儀して…と。
彼女の名誉の為に言っておく、オフクロは大喜びだ。
『まあまあまあ! うちのバカ息子にこんな可愛い彼女がっ!』
とか宣いやがった、何を言ってるんだ、まだ付き合っていない。
説明するのは面倒なので黙っておいた。
で、大喜びのオフクロが用意してくれたのは某有名モロゾフのチョコ、美味しいと評判な洋菓子類、
何やら難しい名前な茶葉の紅茶。ガチに値段が高いとか。
『とっておき』みたいよ、わざわざ言ったりはしなかったけど…。
ちなみに俺の部屋の中で二人してガチガチに緊張して固まっているのは何故か?
緊張…とは違うか、まあ…気まずいというか、木原に見られたのだ…隠し忘れた『エロ本』をね。
ガラステーブル越しに彼女と対面して座って、その下にあるブツを発見されたわけよ。
『の、能登は男の子だしぃ、こういうのを読んでたっておかしくない!!』
と力説、いやフォローされて落ち込む。ちなみに表紙はメイドさん、入手先は高須氏から。
『もう必要ない』
だって…。高須の言った感じは嫌味ではなく『お裾分け感覚』だった。
高須は『いいやつ』だからね。
木原は気になるのかブツをチラリチラリと何回も盗み見ている、俺としては隠したら負けのような気がする。
「能登ぉ…わ、たし……眠たくなってきちゃった…んだけど」
永い沈黙を破ったのは木原だった、頬を赤く染めて途切れ途切れに呟く。
「へ?」
「あーえっと…ち、ちょうどベッドがあるし…お、お…お昼寝とか? したいなって!」
おもわず呆けた声で返してしまい、彼女は慌ててベッドを指差して…テーブルから身を乗り出して俺と顔を突合わせる。
グッと寄せられた木原の顔は紅潮し、僅かに潤んだ瞳の奥で戸惑う俺の姿が揺れる。
「いっ、一緒に"お昼寝"…しよっ?」
そう誘われ、ジッと上目遣いで見詰められると俺には拒否する事は出来ない。
いくら俺でもこれは解る、つまり…色々な意味で木原に『誘われている』のだ。
「しちゃおうかっ!」
先程の決意なんてあっさり覆してしまう、いや…大丈夫。
これは『 お 昼 寝 』なのだ、見誤らなければどうという事は無い。
『たまたま偶然』に手が彼女の身体に触れてしまうかもしれない、だが狭いシングルベッドに二人、これは不可抗力だ。
へへへへ…おっといかん、いいか俺は誠実でありたいの、わかる?
彼女に俺の想いをしっかり伝えたいわけ、その過程でよろしくない事態が発生するかもしれないが、調子に乗らなければ大丈夫。
ちょっと浮かれているだけなのだ、木原だって解ってくれるさ。
そう自分を理論武装し、二人してモジモジ…言ったきりで行動に移せない。
恐らく木原は俺の行動待ち、そして俺はだな…やっぱり期待しちゃうわけで……『前屈みにならないとバレる』状態なのです。
だって男の子だもん。
簡単に言うなら立ち上がれば彼女に見られてしまうのだ、邪な考えを抱いているのを…。
それを許容してくれるか、それはさっきも散々考えた事で今さら。
早い話、俺は揺れている。
『手を出すか否か』
やたら自身の中でテンションが上がっていて、同時に冷静で倫理を思考していて…。
だが答は数秒もしない内にまとまる。お手付き一歩手前、今の関係では背伸びだが許容範囲内。
『ギリギリの一線は越えない』
これなら……いける!
「あ、…昼寝するなら制服は脱いだ方が良いよ。シワになるし…」
名案だ、前屈み的な問題は彼女が制服に気を取られている内に移動すれば解決。
「え、も…もう脱ぐ、の? う……マジ?」
「は? だってシワになるし寝にくいっしょ、普通じゃね?」
あれ? …何か会話が噛み合ってないような。
「さ、最低…ちょーがっつきまくり…エロ野郎。あ…ぅ、わ、わかった…わよ。その代わり能登も脱いで?」
「? …もちろん」
木原は怒ったような声色をしつつ、熱っぽく俺を見詰めてそう言う。
やっぱり会話が噛み合っていない、俺はブレザーを脱いだ方が良いよ、と…言っているんだけど。
「さ、先にベッドの中に居て。見ちゃ……絶対に振り向かないで?」
ああわかった、可愛い奴め……照れ隠しだな。毎度の事だ、可愛い可愛いよ木原。
「うん、じゃあ…お先に」
こうなったら仕方無い、前屈みでベッドまで進もう。木原は俺が行くまで目を逸らさないだろうし…。
極力バレないように微妙に背を向けていそいそとベッドの上に乗り、彼女の指示通り学ランを脱ぎ捨てる。
「ぜ、全部…脱いでよ。は、早くっ!」
そのまま布団の中に潜ろうとすると後ろからそんな声が掛けられる。
「え、全部って、……っ!?」
そこまで言って俺は致命的な間違いに気付く、噛み合わない会話の意味、説明不足な自分の言動に気付く。
学ランを脱いで、なお……残っている物。カッターシャツ、ズボン、靴下………そして下着だ。
俺は『制服』を脱げ…と確かに木原に言った、もしかして木原は意味を取り違えて……全部脱ごうとしているのか?
「あ、あはは…制服だけで良いよね?」
俺は理解したフリをして、当たり障り無いように聞いてみる。
「う…パ、パンツまで脱いじゃ……、って何を言わせるわけ?」
ああ…正解、間違いない。木原は俺の言葉を勘違いしている。
久々の暴走モードだ、今さら覆す事は出来ない。何故なら今になって正せば、彼女の勇気を無駄にしてしまう。
恥をかく、彼女にしてみれば『穴があったら入りたい』状況になる。
それが…原因でようやく融解してきた『ギクシャク』がまた復活するのは…嫌だっ!
だけどそれで良いのか俺。今ならどうにかなる、このまま進めば木原に無理を強いるんじゃないか?
「だ、だよねー」
だが俺は失言を正すまでには至れなかった…。どんなに頭で考えても本能では欲しているのだ。
性交まで辿り着かなくても、好きな異性の温もりを欲している。
迷いつつも手は勝手に動く、シャツを脱ぎベルトのバックルを外しズボンを脱ぐ。
靴下もインナーのロングTシャツも脱いで下着一枚に…。
「目を閉じて、振り向かないで、いいって言うまで…見ないで」
布団の中に潜り、彼女に背を向けるとそう言われ、彼女が立ち上がる音がした。
部屋を歩く気配がして、カチャ…と金属音、ドアの鍵を閉めた音だろう。
数秒するとカーテンが閉められた音がして、その後は無音になる。
間も無く衣擦れの音が聞こえ始めた…、スッ…スッ…と布同士が擦れる音で、それは木原が脱いでいる証だ。
ブレザーのボタンが机か何かに触れたのか、高く短い音を立てて響く。
ジッパーを下げる音……そして数秒を置いてパサッ…と床に落ちる音がして…否応にも興奮が高まっていく…。
こんな一連の流れ、…たかが衣擦れの音、視覚を封じ、聴覚のみだからか堪らなく艶めかしくて…。
「まだ……まだ駄目だから…」
俺の背後で木原がそう呟き、掛布団に手を伸ばしたのを気配で感じ取る。そして…数秒…いや数十秒の後…動き始める。
キシッ……。ベッドが二人分の重みで軋む、半裸の背中が外気に触れて身震いする。それは木原が掛布団を捲ったから…。
俺の胸は期待で高鳴る、巡る血流の音が聞こえてくるような錯覚すら覚える。
恐らく彼女は片膝をベッドの端に載せて、片手で掛布団を捲って俺を覗き込んでいる。
それが何故解るか、簡単だ……彼女が愛用している香水の匂いを強く感じるからだ。
香水ってのは一般的に血管が太い場所、つまり血流の強い場所につける。
首筋、手首、耳の裏、人によっては胸元……彼女は首筋と手首につける癖がある。
それを知ったのは抱き締めた時、頬を寄せた時と同じ濃さの甘ったるいベビードールの匂いが……鼻をくすぐる。
自身の数十センチ後ろで彼女が寄り添うように寝転び、背中を指でつつく。
「いいよ…。こっち向いても……」
待ちに待った言葉、それはどこか強張っていて同時に甘い、初めて見る生の異性の身体…期待と不安が入り交じって胸が締め付けられそうだ。
ゆっくり身体ごと彼女の方に向き、目に入ったのは紅潮した顔を布団の端から覗かせている姿。
鼻から下は布団の中、それより下は見せまいと掛布団を両手で内から握り締め、指先がちょこんと覗いている。
落ち着き無く揺れる大きな猫目が俺を見詰め、青いストライプの敷布団に散った長い髪が艶っぽい。
「ね、寝るのにメガネは必要無いよね?」
魅入られて…息を呑む俺にそう言って木原は右手でメガネを外す。
ベッドの木枠の上にソレを置き、またジッと熱っぽく俺を見詰める。
僅かに見える白く華奢な肩、オレンジ色の下着の肩紐、ぼやけて鮮明には見えない。
けど…正真正銘、彼女が『制服』を脱いだんだと実感出来る。
「きは…木原、寝るなら、さ…もっと近くにおいでよ、その…枕を一緒に使おう」
ここからは俺が勇気を出す番だ、自身の頭を横たえていた枕を彼女と半分ずつ分けて使う。
それと同時に両手で彼女を引き寄せる、ビクッと身体を震わせて瞼をギュッと閉じたまま…身を任せてくる。
服の上からでは感じられないきめ細かい肌は暖かくて…柔らかくて…手の平に吸い付いてくる。
息遣いに合わせて彼女の身体は震え、時折目を開けて不安そうに俺を伺う。
「能登…もっとギュッてしてよ寒く…て寝れないんですけど、ん……もっと」
でも勇気を出して彼女は俺におねだり、強く抱き付いて頬を寄せて密着。
だから俺は願い通りに抱き締める。もちろん下半身も当たるから彼女に断りを入れる。
「ご、ごめん。……あの、俺…こういう事は初めてだから…う…シモ系の話だけど…興奮してて…悪気は無いか、らっ……うぅっ!」
異性との触れ合いに興奮し、痛い程に張り詰めたムスコに淡い刺激が加わる。
「気にしてないから、仕方無いもん男の子なんだし。てか……わ…わわ……すごっ」
木原が背中から右手を外して下着の上から…形を確かめるように撫でている…んだ。
「う、硬ぁ…お父さんのはこんなのじゃ無かった……、んぅ、え…え? ピクピクして…る」
興味深そうに握ったり、揉んだり……てか……すげぇいい。自分で触るより……気持ち良い。
「ふ、…んん。お、俺も触ってもいい…よね? 昼寝の前に……そのさ…うあ、ちょ…」
そして興味があるのは俺も同じ、だから彼女に聞いてみる。けど…全てを言い終わる前に木原がムスコをギュッと握る。
「ん、…してみたいの? エ…あぅ、エッチな事をしたい?
奇遇だぁ……私もしてみたい…かな? 能登の……事を知りたいな」
照れた顔をして上目遣い、彼女は肢体を擦り寄せて紡ぐ。多分、木原は初めから『コレ』がしたくて…俺の家に。
そうとしか思えない、今日の行動を思い返すと合点できる。
彼女の精一杯の勇気、女子から誘うなんて恥かしいだろうに……。
他人が見れば『駆け足』なのだろう、けど…俺達は『俺達』だ。遅かれ早かれ男女の関係になる。
『こうなりたい』と前からずっと想っていたんだ、二人共。互いの気持ちを知って四日目…早いのか遅いのか考えるのは愚問。
互いに惹かれて一緒に居れば自然とする行為なんだ。
まだ越えれない一線は確実にある、だけど気持ちは繋げれる。その為に必要な契なんだよ。
俺は確かに圧倒されている、彼女の新たな一面を見て……揺すぶられている。
男として彼女と更に進んだ関係を見たくて紡ぎ返す。
「俺は木原が好きだからしたいよ、疚しい気持ちが無いだなんて言ったらウソになるけど……あ、く…
マ、マジだし…軽いノリとかじゃなく…て、大切にしたいから知りたい、だから…出来るところまでしてみたい」
「うん…わかったよ、私は能登を信じる。は、初めては…まだあげれない、けど…ギリギリまで…なら"いいよ"
"大人のスキンシップ"を二人で試そ?」
照れた微笑み彼女は瞼を閉じてゆっくり顔を寄せてくる。
甘い彼女の吐息が俺を酔わせ、紡がれる言葉に背中がゾクゾクする。
頑張ってリードしてくれる姿はいじらしくて、甘える姿が愛しい。
愛情は言葉では表現出来ないししたくない、だから行動で伝える。
頬を撫で、亜麻色の長い髪を手櫛して耳を撫でる。
優しく瑞々しく柔らかい唇を啄む、何回も何回も口付けの雨を降らせる、彼女の緊張を和らげたくて…。
「ん…ふ、は…ぅう。ちゅ…く、の…とぉっ…はふ」
木原が両腕で俺の頭を抱き締めてそれを甘受する、嬉しそうに、熱っぽく、啄み返してくる。
「っん、ふ、あ…、は……んんっ」
優しく唇を口付けし一度だけ力強く重ねる。ブルッと彼女が歓喜で震え、寄せた肢体で掻き抱く。
長い爪が少しだけ頭皮に食い込む、柔らかいフトモモが俺の腰を引き寄せる。
「ねっ…、もう一回…しよっ」
唇を離すと木原は額をコツンと当てて呟く、熱に浮かされた笑みを浮かべ、甘えた声でおねだりしてくる。
それだけでも堪らないのに、きめ細かいすべすべのフトモモが、手が、腹が、胸が…ギュッと密着し絡み付く。
俺は彼女の背中を背骨に沿って左手の指先でなぞる。右手は…もっと下へと伸びていく。
「次は木原からして欲しいな、どんな風にしたらいいのか教えてくれよ」
「んあ…、ふ…、くすぐったい…し…んんっ。ふふっ…私はこういうキスがしたいの」
彼女は舌舐めずりをして真っ赤な顔で悪戯っぽく見詰め……ゆっくりと唇を寄せる。
続く
今回は以上です、またお邪魔させてもらいます。
では
ノシ
リアルタイムで投下を追っていたがここで切るとは・・・!
とにかくGJ
271 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 23:40:06 ID:s3BxvC5H
キタッ
うわぁあぁああああああああああああKARs様ぁああああ
なんというっ、なんというラブラブな能登x麻耶なんだぁああああああああああ
今までそれなりに麻耶の同人を探してきたがここまでキャッキャウフフな春真っ盛りの能登x麻耶作品は読んだことがないいいぃいんぁああああまぁあああああぁあいいぃいいいいいぃいいいゴロゴロゴロゴロガシャーンキャーァァァピーポーピーポー
落ち着けw
落ち着けよw
はっ?よくわからんがなぜか取り乱したようだ
なんだこの血は
おっKARsさんの新作だ!どれどれ今回は・・・
うわ(ry
落ち着けwwwwwwwww
277 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 01:07:19 ID:YcK3OYBq
/\⌒ヽペタン
/ /⌒)ノ ペタン
∧_∧ \ (( ∧_∧
(; ´Д`))' ))(・∀・ ;)
/ ⌒ノ ( ⌒ヽ⊂⌒ヽ
.(O ノ ) ̄ ̄ ̄()__ )
)_)_) (;;;;;;;;;;;;;;;;;;;)(_(
KARs様GJ!!
今回の麻耶は前シリーズのあーみん以上に強力なツンデレでハンパないわw
読者に負傷者が出るのも仕方ないかwww
>>269 KARsW3gC4M 彼は後の世にこう呼ばれることになる。
『寸止め王』と。
私は次回の投下で悶絶死するかもしれん・・・
衛生兵!
衛生兵ーーっ!!!……バタン
今晩辺り無駄に時間掛かった何かを投下するかも。
川嶋亜美は思った。
櫛枝実乃梨も思った。
「ほら大河、ほっぺたに飯粒がついてるぞ」
「また破いたのか。ほら、縫ってやるから貸せよ」
あれは決してラブラブカッポーなどではない、と。
親子である。もっと言えば、母と子だ。
何が竜虎は並び立つだ。保護されてんじゃねーか。
ならば。ならばならば。
川嶋亜美は考えた。
櫛枝実乃梨も考えた。
自らが高須竜児の横に並び立つには、どうすれば良いのかを――
「タイガー、最近学校はどうだ? 友達と仲よくやってるか? そろそろカレシとか出来たんじゃないか?」
「ちょっとチビトラ、こないだテストはなんなのよ? あんた最近、たるんでない? このままなら塾行かせるわよ、塾」
二人が高須竜児に「かーさん、タイガーの奴がワシをウザいって!! ウザいってェェ!!」「チビトラがもう一緒にお風呂入らないなんて言うのよ!!」等と泣き付きに行くのは、その13分24秒後の事であった。
ウチのパパンはこんな感じ。
大好きだけど。
2行だけ書いてたポータブルの亜美ちゃん100点END後設定の作がひとまず完成したので次スレより投下。
やたらめったら遅くなったのにドラクエ9のプレイタイム210時間弱はなんら関係ありませんよ?
容量45kbぐらい。
諸注意
・竜児×亜美モノ
・とらドラPのネタバレがある気がします。
・この作品には性的な表現が含まれます。
・(性的な意味で)ファンタジーが含まれます。実戦への転用は自己責任でお願いします。
・深紅っていい歌ですよね。
289 :
花丸の後で:2009/10/22(木) 21:08:25 ID:3HMozTmH
川嶋亜美が高須竜児を『落とす』と公言してから二週間。その影響は高須家の夕食風景にまで及んでいた。
「……ちょっとエロちー、あんた食べてる時ぐらい発情すんのやめなさいよ。」
「えー? タイガーには関係ないでしょー?」
「わー竜ちゃんモテモテー。」
女が3人寄れば姦しいのは文字の通り。亜美が加わることで、より賑やかしくなっていた。亜美は隙あらば1ミリでも
竜児との距離を詰めようとするし、大河はさせじと箸と口の動きを止めずに目を光らせる。
「……お前らはもうちょっと静かに食え。いいから泰子はさっさと食って準備しちまえ。」
そう言いながらも悪い気分ではないのか、竜児も寄り添ってくる亜美との距離を必要以上に取ろうとしない。
亜美が学校を去ったあの日―――唇にほんの僅かな熱だけが残ったあの日から、なんだかんだで二人の気持ちは
一致しているのだろう。それが大河にも分かるからこそ、不機嫌になるのである。
「ふん! せいぜい犬同士励んでなさいよ。」
何に? とは聞き返さない竜児。亜美の告白同然の発言を受けた竜児がはっきりと返答したわけではないが、
既にややもすればバカップルにしか見えないこの二人。そこまでの既成事実もまだない。ないのだが
「あーハイハイ、長く頑張りたいからタイガーはご飯食べたら早く帰ってねー。」
「うっさい、私がいつまで居ようと勝手じゃボケチワワ。」
どうも亜美の方はそれを今すぐにでも作りたいようで、かつては虎のみが入れた竜の領域へ平然と踏み込んでくる。
縄張り荒らしのチワワに対し、敵意を剥き出しにしている。そんなところだろうと竜児は大河の不機嫌を分析していた。
純粋に亜美の分が増えたというのもあるが、不満のはけ口を求めるようにいっそう食べるようになった大河が
高須家の家計を若干圧迫し始めていることも含め、ともあれ竜児はため息をつくしかないのである。
話は竜児たちが三年生に進級して少し経った頃にさかのぼる。亜美が何の前触れもなく帰ってきた日から始まった
竜児攻略作戦は苛烈を極めた。以前は「高須君」だった竜児への呼称が「竜児」と呼び捨てになったのは小手調べ。
人目もはばからず手を握ったり抱きついたり、椅子に腰掛ける竜児の膝に座るような肉体的接触は当たり前で、
止める者がいなければ唇以外の場所―――主に頬や額や耳、手や指先から首筋にまでも口付けるのさえ茶飯事である。
唇に直接しないのは本人曰く
「それは二人きりの時に、ね?」
と、亜美なりの乙女心が境界線を引いているようであった。このような光景が一般的な共学の高校の教室内で
繰り広げられた場合、どのような事態が起こり得るであろうか?
「何故だー!」
「……あ、悪夢だ……。」
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
「亜美ちゃんってば大胆……。」
「やだ…なにこれ…。」
「見事なバカップルだと関心はするがどこもおかしくはない。」
答えは『地獄絵図』である。かつての大橋高校のアイドルが今や名実共に本物のアイドルとなって帰還した初日、
特に男子生徒を中心にテンションの上がりようは常軌を逸していたが、そこまで高ぶってしまったが故に
『落とす』公言は多大な落差となって大橋高生徒を襲ったのである。余りのことに精神に異常をきたした者が
多数出たため、二桁を超える早退者と二台の救急車が出動する惨事となった。特にアホの春田などは間接キスが
どうのこうの言いながら竜児に迫ってきたので、虎の手により物理的な重症を負って搬送されていたのは余談である。
「彼女いたんじゃなかったかあのアホは……?」
「大変そうだな高須。亜美は普段猫かぶりだが、その分本気になると凄いから注意しろ。」
そう忠告してくるのは竜児のクラスメイトで親友であり、亜美の幼馴染でもある生徒会長兼クラス委員兼
失恋大明神兼裸王の北村祐作その人である。
290 :
花丸の後で:2009/10/22(木) 21:12:15 ID:3HMozTmH
「北村……うん、そういうことはもうちょっと早く聞きたかった。」
「もー竜児ったら、恥ずかしがらなくてもいいのに〜。」
「川嶋、お前はもうちょっと周りを見ろ周りを!」
忠告は的確だったが、椅子に座る竜児の膝の上に対面するように乗ろうとする亜美をどうにか制している状況では、
遅きに失したと言わざるを得ない。自分を椅子のように見立てて座られる形になるのはどうにかまだ耐えられる。
というか先ほどまで不意討ち気味に「座っていい?」という問いに何気なく「おう」と答えてしまったら、
座るのは隣の席とかじゃなくて俺の膝でしたぁーッ! という感じにキングクリムゾンであった。(教室内の時間が
吹っ飛んだ的な意味で) ともあれ、さしもの竜児も流石に人前で『対面に座る位置』はまずいし恥ずいのだ。
キングクリムゾンでもう既にいっぱいいっぱいだったけど。
「なにしとんじゃエロチワワがー!」
「大…ごふぁっ!?」
アホをモルグに葬った虎が今度はその牙をチワワに向けたが華麗に回避され、それは代わりに竜に突き刺さる。
「見事なドロップキックだ逢坂! ますます磨きがかかったな!」
「北村……お前実は楽しんでるだろ?」
「人生は常に楽しんだもの勝ちだぞ。そうは思わないか、高須。」
倒れ伏した竜児にそう北村が笑いかけた。アニキに似てきたな、と心中でつぶやきながらその手を借りて竜児は
立ち上がり廊下へと足を向ける。その背中に「どこへ行くのか」と声がかかれば「飲み物でも買ってくる」とだけ返し、
後ろのチワワと虎の追いかけっこは見ないようにして教室を後にするのであった。
これまた余談であるが、この件をきっかけに失恋大明神に帰依する者が多数現れ、その規模は全校生徒の
三分の一を超えることになる。特に半数以上がその庇護を受けることとなった竜児のクラスメイト連中は、
一週間もするとこのバカップルたちを見ても動じることなく何かを悟ったような趣で過ごすようになったという。
これは後世、世界を変革する政治家と呼ばれた北村祐作総理の若き日の逸話のひとつとして語られることとなる。
「やれやれ……。」
ため息をつきながら銀色と茶色の硬貨を細長い穴へと投入する。赤いランプが無数に灯った自動販売機を前に、
どのボタンを押そうか逡巡していると、その僅かな間に横から手が伸びてきてミルクティーのボタンを
押されてしまう。竜児がここに来た時、周囲に人は居なかったのでかなり驚いた。
「うおっ!?」
「へへー、もーらいっ。」
「川嶋、って俺の120円ッ!?」
「半分こにする?」
「俺の金だろ……あぁもういい、奢ってやるよ。喉が渇いてたわけじゃないしな。」
異様な熱気に包まれた教室を脱出したのは、雰囲気に茹った頭を冷やすためである。戦略的撤退とも言うが。
「ごめんごめん、竜児の分は私が出すから。」
コーヒーでよかったよね、と確認するまでもなく亜美は硬貨を投入していく。美しい指先の例えとして
『白魚のような』という表現があるが、竜児にはボタンを押す亜美の指先は白魚なんかよりも美しいように思えた。
「はい。どうぞ。」
「……おう。」
ミルクティーと一緒に取り出されたコーヒーが手渡される時に、その指先が竜児のそれと触れ合う。
尻すぼみ気味に小声で返してしまう竜児に対し、狙って竜児に触れていた亜美は確かな手応えを感じ、
心の中でガッツポーズ。堂々と接触するのもひとつの手段だが、こうした何気ない触れ合いが男心をくすぐることを
女優の母から演技と共に伝授されていたのである。川嶋亜美という少女は、モデルとして実績を重ねる中で
自分の美しさがどのようなものかを自覚し、それを表に出す手段を身に着けていった。元々素材がよかったのもあるが、
女優の娘でモデルという環境が亜美の美しさを形成したのには疑う余地がない。その美が今、無数のファンではなく
やけに目つきの悪い一人の男だけに向けられていた。
291 :
花丸の後で:2009/10/22(木) 21:14:35 ID:3HMozTmH
「そういや大河はどうした?」
「……はぁ? あんな短足チビ虎にこのなっがーい足の亜美ちゃんが追いつかれるわけないっての。」
「そ、そうか。」
だというのに、この男は二人きりにも関わらず別の女のことなど聞くものだから、思わず刺々しい言葉が出てしまう。
またしても余談だが、逢坂大河は瞬発力こそ素晴らしいものの体格的にどうしても歩幅が狭いため、中距離以上を
走るとなると平均以下の成績しか出ない。手乗りタイガーを怒らせたら距離を保ち逃げるのが正解である。
走ってると勝手にコケてくれることも多いし。もっとも竜児の場合、コケた時点で心配になって助け起こしに
自分から戻り、その牙にかかってしまうのだが……。
「あーその、なんだ、向こうでは何してた。」
「映画の撮影ばっかり、かな。学校も少し行ったけど、友達とかあんまり深く関わらないようにしてた。」
ここに戻り辛くなりたくなかったし、と続けながら亜美はかつての定位置である自販機の隙間に納まって座ると、
それに合わせて竜児も対面に座り込む。
「やっぱ大変だったか?」
「そうね、辛いことがないわけじゃなかったけど……楽しかった。」
親の七光りで役を取ったも同然の新人が、誰かの嫉妬なんかを買ったりするのは想像に難くないし、それを避けるには
その役に見合うだけの努力と結果を求められるだろうに、なんでもないように亜美は笑った。実際、女優の母から
薫陶を受けた分以上に亜美は努力したのだ。結果を出すことで望みを叶えるため―――竜児の元に戻ってくるために。
「芸能ニュースとかCMとか色々出てたよな。」
「可愛く映ってたでしょ。」
「まぁ……な。」
有名女優の娘が銀幕にデビューするというのは話題性があり、映画も数ヶ月の撮影期間を経て完成する大作となれば、
格好の宣伝材料である。そのような作品で助演とはいえ台詞もそれなりにある役をデビューの舞台に持ってこれる辺り、
女優としての亜美の母の地位が窺えよう。それを差し引いても亜美自身が相当にレベルが高いので、自然と画面に
映る機会は増えていった。映画の公開頃に放送される何本かの番組にもゲスト出演し、既に収録を終えている。
「当然よ、だって亜美ちゃんなんだから。」
以前から亜美にはナルシストの気があったが、世間の反応を見る分にそれは正しい自己評価だったと言えるかもしれない。
ナルシストには違いないが、竜児もまたその美しさは認めざるを得ないのだ。
「で、クランクアップしたから戻ってきたの。試写会のチケット押さえられると思うから、一緒にいこ?」
「おう……予定も特にないしな。」
「うん♪」
そんな美少女にデートに誘われたら嬉しくならないわけではないのだが、心中を表に出すまいと思わず仕方ないから
行くというような体で答えたが、その心の機微が亜美にはバレているのに竜児は気付いているだろうか。
「亜美ちゃんが居ない間、竜児の方は何してた? 寂しかった?」
「……そうだな。」
竜児は亜美が居なくなった後のことを少しづつ話し始めた。記憶はほぼ完璧に戻ったこと。修学旅行が沖縄じゃなくて
雪山でスキーになったこと。櫛枝実乃梨には好きだったと過去形で告げ、今度こそキチンと振られたこと。
泰子と進路のことで揉めて祖父母と会ったこと。一時は就職して料理人にでもなろうかと思ったが、結局は進学して
もっと稼げる仕事に就いてから母親を支えようと親子で話し合って決めたこと。三年になって進学クラスになると
2-C連中とはバラけてしまったが、北村と何故か大河も同じクラスで二人とは今まで通りなこと。
「私も行きたかったな〜、修学旅行。」
「雪山になっちまったけどな。まぁそれなりには楽しかったぜ。」
少し特別な高校二年生の思い出は今も鮮明に思い出せる。ちなみに誰かが遭難しかけたとかそういうのはなかった。
「その後、実乃梨ちゃんに……振られたんだ。」
「ああ、というか振ってもらったんだ。」
「そっか……。」
確かに実乃梨には好意を持っていたが、あの後で竜児の心はもう別の存在に占められていた。振ってもらうために
改めて気持ちを伝えたのは、竜児なりのけじめである。亜美の見た感じでは実乃梨も脈なしではなかったように
思うのだが、自分にとっては好都合であるし、何より一度はなかったことにしようとした臆病者にかける情けなど
ないとばかりに何も言わずにいた。心の中で実乃梨に対して少しだけ舌を出して、少しだけ謝りながら。
292 :
花丸の後で:2009/10/22(木) 21:17:17 ID:3HMozTmH
「……んで、泰子の実家行く時に大河が着いてきてな。少し慰められたりした。」
「ふーん、タイガーと一緒だったんだ……へー、そう。」
「なんだよ? 大河は割といい奴だぞ? ドジでわがままだけど。」
「知ってる。ドジでわがままだけど。」
教室での反応といい、大河が竜児に本気になったのはこの辺に何かがあったのは間違いないと亜美は踏んでいた。
ともあれ自分がいなかった時に起きたことである。それはそれとして、相手が実乃梨から大河に代わろうとも
元より引く気などない。自分も真っ向から受けて立つ覚悟を固めていた。
「にしても料理人かぁ……イタリアンとか?」
「特にどれをってわけじゃなかったけどな。もしかしたら本場に修行に行ったりしたかもしれん。」
「それもいいけど、亜美ちゃんのマネージャーになってみたりしない? 強面なのも使い方次第で武器になるわよ。」
「はは、それもいいかもな。」
竜児は冗談として受け取ったが、亜美は半ば本気である。きっと竜児ならば自分のために全力を尽くして
マネージャーをしてくれるだろうという、確信めいた予感がある。おまけに仕事中でも一緒にいられるし、
何よりもこの業界、マネージャーと結婚することはそう珍しくないのだ。そんな皮算用的な打算が亜美にはあった。
「給料弾んじゃうから考えといてね? …で、まだあのチビ虎の世話焼いてんの?」
「ああ、相変わらず……いや、ちょっと違うか。あいつもお袋さんが再婚した相手との間に産まれた弟と最近会ってな、
随分な可愛がりようだったぜ。」
竜児はソフトな表現を用いていたが、実際のところ猫可愛がりという表現では生ぬるい虎可愛がりとでも言うべき
溺愛振りであったという。
「あのタイガーが、ねぇ。」
「今も時々会いに行ってる。その度に写メ送りまくってくるんだあいつ。」
赤ん坊の(しかもほぼ無関係の)写真で携帯ン中がパンパンだぜ、な高校生男子というのもそうはいないだろう。
それほどまでに大河の愛顧は深い。妙な母性本能に目覚めて離乳食まで作ろうとしていたがそれは周囲が引き止めた。
そんな感じで今まで通り、特に大河の父親が事業で失敗とかもしなかったので、竜児にとっては今でも隣の家に
住んでいる家族といった間柄である。大河の方はそれだけに留まりたくないようだが。
「それで、大学行くんだ? どこ? まさか東大とか?」
「まさか。具体的には決めてねぇけど、国公立のどこかには行きたいな。浪人なんかして泰子や祖父さんにも
必要以上に負担をかけたくねぇしよ。現役で入れそうなところを狙うつもりだ。」
「私は本格的に女優やるつもりだけど……再編入だし、文系でクラス別になっちゃったのは残念かな。
……タイガーも文系じゃなかったっけ?」
「ああ、大河は一刻も早く父親の庇護から抜け出たいみたいだったけどよ、急がば回れだからとか言って急に理系に
変えやがったんだ。元々成績は悪い方じゃなかったし、ちょっと勉強教えてやったら北村や俺と同じクラスに
入っちまうほどになったよ。」
「理系に変えたのって……もしかして竜児がお祖父さんたちに会ってから?」
「ん? 確かそうだが何で分かったんだ?」
「勘よ。」
主に女のそれが、推測を確信に変える。これが川島亜美が逢坂大河を明確に敵として認識した瞬間であったという。
離れていた時のことをお互いに一通り話し終え、沈黙が訪れる。視線を外すでもなく、言葉を交わすでもなく、
代わりに手の中にある程よく温まった液体で喉を潤す。悪い気分ではない。またこんな日が来るとは竜児は
思っていなかったし、密かにこの日の再来を願っていた亜美にしても確信があったわけではなかった。
少なくとも別れのあの日には。そして今、その日が訪れたのだから。
「あの日も、そこの間に挟まってたよな。」
「……うん。」
何かあるとよく彼女を見かけた隙間。ここに来る度に誰かいないか確かめるのが、少し前にできた竜児の新しい癖。
「私が竜児を本当に好きになった日ね。」
「おう!? ……変わらねぇな、そういう物言いは。」
「ううん……私、変わったと思う。ねえ覚えてる? 人の言葉には嘘が含まれてるって話。」
「ああ、そんな話も……したな。」
竜児はその話の後のことまでも鮮明に覚えている。忘れようはずもない、自分が覚えている限りで生まれて初めて
感じた熱のこと。言葉を紡ぐ亜美の唇を見ていると、あの時に感じられた熱が再び甦ってくるような気がして、
視線を少しだけ逸らし頬をかいた。
293 :
花丸の後で:2009/10/22(木) 21:21:23 ID:3HMozTmH
「ね、今から3分だけ、私の言うことを全部信じてくれる?」
「3分? ……おう、分かった。」
亜美が瞳を閉じる。それも数秒のこと、開かれた眼差しは真っ直ぐに竜児を射抜く。
「私ね、これから竜児には、竜児にだけは絶対嘘は言わないから。」
「川嶋……。」
「秘密、ならちょっとは持つかもしれないけど……もう竜児への言葉に嘘は混ぜない。それと好きよ。大好き。」
「おう……っておいっ!?」
まるでついでのように告白された竜児の理解は3秒ほど遅れた。その遅れを亜美は待たない。
「私のことをそのまま受け入れてくれたのは竜児だけ。私のことをストーキングするぐらいのファンだって、
本当の私を見せたら逃げちゃった。……多分、あの後からずっと好きだった。」
「う、んん……。」
呻くようにしか竜児は返せない。単純に照れくさいのである。
「竜児は……本当の私だったら、好きになる?」
「俺は……。」
「っていうかこんな可愛い亜美ちゃんが好きだっつってんだから、答えなんかひとつしかないと思うけど?
決まってるよね? 答えもう決まってるよね!?」
「お、おい川嶋……ちょっと落ち着け。」
異常なテンションで迫ってくる亜美を改めて見れば、湯気が出るのではないかと思うほど赤面していた。きっと自分も
そうだろうと顔面の熱さから竜児は推測する。事実そうだったが。
「しょうがないじゃん! 本当に好きなんだから!」
二人きりで剥き出しの自分をぶつけた結果、年相応の少女がそこにいた。
「少なくとも、嫌いじゃねぇよ。上っ面だけのお前よりずっといいと思う。……それと俺もちゃんと言わなきゃな。」
竜児の間近にまで迫っていた亜美の顔が思わず強張る。夢にまで見たその言葉が竜児の口から
「お帰り、川嶋。」
「うん、ただいま…って、なにそれ!? なんでこの流れでそれなのよ!」
出なかった。流石の竜児とてこの状況で選ぶべき選択肢が分からないわけではないのだが。
「す、すまん川嶋! だけどもうちょっと待って欲しいんだ。今の俺じゃまだお前の気持ちを受け取れねぇ。」
「大河のこと?」
「……それもある。でも必ず本当のお前に答えてみせる。だからそれまで、その気持ちは預からせてくれ。」
「ふぅ〜ん……まぁいいわ。預けてあげる。この亜美ちゃんが待つなんて、本当に特別なんだから。」
もしかしたら拒否されるかもしれない。ほんの僅かではあったが亜美の内心にその疑念がなかったわけではない。
もしもそのようなことになれば、きっと自分は竜児の胸を借りて泣けるだけ泣くだろうことが容易に想像できる。
ひょっとしたら形振り構わず凶行に走ったかもしれない。それだけ亜美の心根は臆病であったと言えよう。
だが竜児は答えてみせると言った。今はその言葉をもらえただけで亜美は満足、とはいかないまでも十分。
「だから、早く答えをちょうだい。」
「……分かった。そろそろ戻るか……ん?」
壁を背に立ち上がりかけた竜児の前で亜美が左右を確認していた。次の瞬間には竜児の視界はほぼ塞がり、
唇に覚えのある熱と柔らかさを感じる。数秒の後、視界が開けた先に亜美の笑顔が現れた。
「ただいま、竜児。」
周りに誰もいないことを確認した亜美が仕掛けた不意討ちは見事に成功。竜児は壁に背を擦りながら再び
座り込んでしまった。思わず唇を指でなぞり、今あった感触を反芻してしまう。
「まったく……敵わねぇよ、お前には。」
「そんなこと、ないよ。」
亜美の差し出した手を掴んで立ち上がると、缶コーヒーの残りを一気に飲み干しリサイクルボックスに放り込む。
ここに来る直前まで走っていた亜美はもう既にミルクティーを空にしており、同じように投げ込んだ。
「行こっか。」
「おう。」
手を繋いだまま教室に戻ってしまった二人が、もう一悶着起こすのは別の話。
294 :
花丸の後で:2009/10/22(木) 21:27:01 ID:3HMozTmH
川嶋亜美は大橋高校に戻ってくる際、本人の強い希望で一人暮らしを始めている。家賃は別として、希望としては
オートロックでセキュリティがしっかりしており、家具付きで広く通学に不便のない所というものであったが、
手頃な物件はすぐに見つかった。っていうか知ってた。
「なんであんたが引っ越してくんのよ……。」
「そんなの亜美ちゃんの勝手だしー。あ、これ引越し蕎麦ね。」
逢坂大河の住むマンションの上階が、現在の亜美の住居である。亜美が挨拶代わりに大河に持ってきたのは、
インスタントのカップ蕎麦であったという。そして人一倍お人好しで掃除好きな高須竜児が、この機会に際して
何もしないわけはない。強硬に断られでもしない限り、頼まれなくても手伝いにやってくる。そういう人間なのだ。
そのこともあって竜児には出前で取った本格的な蕎麦が振舞われたが、怒った虎によって大部分を略奪されたのは
言うまでもない。そのようにして近所に居を構えた亜美は、高須家に頻繁に出入りするようになったのである。
「いらっしゃいこの泥棒チワワ。」
「お構いなく、負けタイガー。」
「なんなんだお前らのその挨拶は……。」
先に高須家に上がり込んでいた大河が家主の代わりに亜美を出迎え、ようやく話は冒頭まで戻る。
食事も終わり泰子を仕事に送り出した後、ゆっくり過ごしたいと思うのはこの部屋の住人の共通意見である。
少し前ならインコちゃんを愛でたり、竜虎が共に遊戯に興じたり、虎が傍若無人な我侭で竜に牙を剥くといった
光景が見られたが、今はもっぱら修羅場一歩手前であった。
「ちょっと、いい加減帰りなさいよタイガー。」
「私が家族の家に居るのは私の勝手でしょ。」
竜児と亜美の仲はこの二週間で大分緊密なものになっていた。過度に公共の場でイチャついて不純異性交遊で
停学になりかかったり、担任の独神が二人をかばった後で血の涙を流したり、大河が竜児にとっては家族であって
妹みたいなものでしかないことを告げられたり。そのような段階を踏んで今に至る。竜児にも大河を異性として
見る目がなかったわけではないが、二人はきっと近過ぎたのだ。そして機会が足りなかった。竜児の心に空いた
櫛枝実乃梨の形の穴を塞ぐように、そこに亜美が入り込まなければこうはならなかったのかも知れない。
二人が恋人同然になっても、大河は竜児との距離を変えようとはしなかった。今も弁当は作ってもらうし、
平然と高須家に来ては夕食を馳走になる。それは半ば竜児に対する意地と気遣いであり、自分の領域であった場所に
踏み込んできた亜美を、竜児と二人きりにさせまいとする半ば嫌がらせでもあった。亜美は亜美で大河の心情を
知りつつ竜児の傷心に付け込んだ負い目があり、そんな大河を無碍にできずにいる。とは言え、自分がいない間に
竜児にフラグを立てられなかったのは大河の落ち度であり、過剰に塩を送ってやる義理もない。
「もう竜児と亜美ちゃんとの甘い夜が始まるんで、お子様タイガーはさっさと寝たらいいと思うんですけどー?」
「あーはいはい分かったわよ。耳栓して寝るから好きなだけ盛ってなさいよエロチワワ。」
「はーいおやすみなさーい、振られタイ……うっ!」
虎の眼光がチワワを射抜く。思わず固まった亜美をそのままに、事態を静観していた洗い物中の竜児に一瞥をくれると
大河は玄関から出て行った。手放しで二人を祝福できるようになるには、まだ時間が必要なのだろう。最終的には
自分の立場を弁えて本修羅場になる前に大河が引くのだが、こうした衝突は学校などでもしょっちゅうあった。
「………ほどほどにしとけよ。」
口を開いた竜児はそれだけ言うと、皿を一枚水切りかごに置いた。未だ消化しきれぬものを抱えながら。
夕食を終えて一通り家事も済ませると、残り少なくなった一日で竜児がやることと言えば受験生としての勉強、
入浴、そして寝るぐらいのものである。それも急ぐほどのものではなくのんびりできる、要は暇になったのだ。
それは亜美にとっても待ち望んでいた、ようやく訪れた二人の時間である。そこで亜美がすることはひとつ。
「りゅ・う・じ♪」
竜児の背中に柔らかい感触。当ててんのよと言わんがばかりの密着振り。流石に二人だけともなれば竜児もそれを
制止しようとはしない。自惚れでなければ、自分の想いは相手と通じ合っていると確信するが故の接触。
「………。」
「なんか言ってよ。」
だというのに手応えは今ひとつ。亜美は未だに竜児から恋人として囁かれるべきあの言葉を聞けていなかった。
295 :
花丸の後で:2009/10/22(木) 21:30:11 ID:3HMozTmH
「……おう、なんつーか柔らかい。」
「それだけ?」
「他に何言えってんだよ……。」
「したくならない? 私と。」
「………。」
「私はしたいよ。竜児とひとつになりたい。」
再び黙り込んだ竜児に、今日こそはという決意を込めた言葉が響く。
「川嶋、もうちょっと自分を大切にというか考えてだな……。」
「考えてるわよ!」
焦れた亜美が竜児を身体ごと振り向かせる。
「竜児しか考えられない。竜児以外何もいらない。それじゃ駄目なの?」
「……俺には、そんな価値は……。」
目を伏せた竜児を見て亜美は悟った。『極めて低い自己評価』、それが最後の障害であることを。
高須竜児という少年は己の出自を知った際に「ああ、やっぱり」という感想を抱いた。それは幼少の頃より
他人から疎んじられていた原因である禍々しい外見が、母と自分を捨てた父親より受け継がれたものであったから。
自分は汚れている。その思いを抱えつつも竜児が非行に走らなかったのは奇跡的とも言えよう。その代わり、
偏執的なまでに掃除を行い汚れを許さない性質が育まれたのには、このような根幹が存在したためである。
そしてそのような父親と同じにはなるまいとして、高須竜児という人格は禁欲的に構築されているのだ。
「……ざけんな……。」
「え?」
「ふざけんなって言ってんのよこのダメ犬がぁ!」
亜美の怒りと悲しみが炸裂した。大河が何故未だに竜児を犬呼ばわりしているかが今なら分かる。自分が惚れた
相手だからこそ奮い立って欲しい。犬なんかではなく竜だと立ち上がって欲しいのだ。そしてこの気持ちを
真っ向から受け止めて貰いたい、そう思うからこその不器用な叱咤激励だった。
「私も! 大河も! そんなあんたに惚れたっての!? これ以上くっだらねーこと抜かすとブン殴るわよ!」
「お、落ち着け川「落ち着けるかぁぁー!!」
襟首を掴んで引き寄せる亜美の手は、さながら万力のごとき感触を竜児に錯覚させた。間近に迫るは憤怒の形相。
なまじ美人が怒ると恐ろしいが、亜美のそれは竜児の凶眼もかくやという勢いである。
「あんたがどう思おうと! 私が好きなのはあんただけ! だからしたい! 文句ある!? それとも竜児は
見栄っ張りな私なんかとはしたくないって思うわけ!?」
「んなわけねぇだろ! お前は本当に、その……可愛いし。したくないなんてむしろ……あ。」
竜児が細々と釈明をしていると、眼前の憤怒の形相はいつの間にか和らいでいた。
「ね? 自分を否定なんかしたらあんたを好きだって想ってくれる人に失礼だって思わない? こんなのは結局、
お互いを好きだって想う同士であれば他に何もいらないんじゃないかな。私はそう思う。」
「……俺の親父のことは知ってるよな。今子供ができたら、お前にまで泰子みたいな苦労させちまう。」
ここで堕胎という選択肢が浮かばない辺り、この少年の純真さがうかがえよう。
「きっとそれは望んでした苦労なんじゃないかな……? それにその苦労は父親がいなかったからでしょ?
竜児はそうなったら私と子供を置いてどっか行っちゃうんだ?」
「い、一緒にすんなよ……そんなことはしねぇ。一緒に育てるに決まってる!」
「なら大丈夫じゃない? 竜児は、私が好きになった男はあんたの親父とは違う。」
「そんな汚れたろくでなしの血が俺にも流れてる……それでもいいのかよ?」
「……いいよ。汚れてるならそれも全部受け止めてあげる。竜児になら……ううん、竜児に汚されたい。」
こうまで自分の全てを受け止めようとしてくれる相手を母以外に知らなかった。そんな相手にめぐり逢えたこと自体、
奇跡と言えるのかもしれない。そしてその言葉には一片の嘘も含まれていないのだ。今は竜児自身がそれを信じたい
気持ちになっている。気が付けば竜児は亜美を抱き締めていた。視界が歪み、頬を伝った涙が亜美の髪を濡らす。
「いいんだな? 本当に俺でいいんだな!?」
「いいに決まってるじゃない!」
「じゃあ言うぞ川嶋! 好きだッ! 俺と、俺と結婚してくれー!!」
「……うん、する! 結婚する!」
夢見た言葉をついに聞き、愛する男の胸元に顔を埋めて亜美も泣いた。やがてお互いに涙が溢れる瞳で見詰め合うと、
どちらからでもなく唇を合わせる。最初は長めに、次いで息継ぎを挟んで短く、何度も、何度も、互いに伴侶と決めた
相手と抱き合いながら。合わせた胸から激しく伝わる二つの鼓動が融け合い、生きる意味がそっと変わる瞬間。
296 :
花丸の後で:2009/10/22(木) 21:31:27 ID:3HMozTmH
「んっ……!」
不意に竜児の口内に侵入したのは亜美の舌。驚いて開いた歯を潜り抜け、竜児のそれを絡め取ろうとする。
思わず舌を引っ込めようとする竜児だが、狭い口内にそのような逃げ場はなくすぐに捕まってしまい、亜美の
唾液まみれにされてしまう。そうなると負けじと自分からも亜美の舌に絡み付こうとする。唇とはまた違った
柔らかさを持つ器官同士が絡み合い、擦れ合う感覚は今までとは明らかに一線を画す感覚を二人にもたらした。
そこで唐突に亜美が離れる。
「ぶはっ……はあっ、はあっ……。」
夢中になりすぎて呼吸を忘れるほどの充足感であった。それを感じていたのは竜児もであり、亜美の呼吸が
落ち着いたのを確かめると、もう一度それを感じたくて今度は自分から亜美の領域へと舌を伸ばす。
「ん……んんっ、んふ……。」
舌先同士が触れる。お互いの舌の味は脳を蕩かすように甘く感じられ、擦れる度に背筋を『気持ちいい』何かが
通り抜けていく。互いに技巧など持ち合わせず、自分がしたいように、それでも相手を知りたくて、相手に自分を
伝えたくて、触れ合う。竜児が意図的に唾液を流し込んでみると、亜美の舌を伝って喉が鳴る感触が伝わってくる。
本当に全てを受け入れてくれるのだということを亜美に身体で示され、竜児は感激に打ち震えていた。
続いて亜美の舌もお返しとばかりに唾液を運んでくる。当然それを受け入れるのには何のためらいもない。
相手の内側に踏み込んで体液を交換しようとするそれは、浅い段階にせよ性行為であると言ってもよい。
お互いに他人から『気持ちいい』を与えられるのは初めてであり、それを止めるものもなければ自然と
貪るように求め合ってしまう。そして若さが故の愛欲はこの程度で満たされはしない。
(……硬くなってる……。)
気付けば亜美は下腹に硬質な感触を覚えていた。愛する相手が自分を求めてくれている確かな証に、
乙女は歓喜と不安の混じった感情で震えたが、求める意思が一歩を踏み出させる。
「……竜児の部屋、行こ?」
「じゃあ俺は風呂に……」
「そのままでいいよ。私は来る前に家で浴びて来たし、それに竜児を今すぐそのまま受け入れたいから……。」
入浴していないことを思うところがないわけではないが、竜児はそれにうなずくと亜美の手を引いて自分の
部屋の戸を開く。自らを戒めていた全てから解き放たれた今、年齢相応の性欲が竜児を突き動かしていた。
押入れから敷布団だけを乱暴に広げて、思い出したように居間の電気を消しに部屋に戻り、後ろ手に部屋の
戸を閉める。らしからぬ段取りの悪さは本人も気付かぬ緊張によるものか。
「もういいから……しようよ。」
「お……おう。」
薄暗い部屋にカーテンを引こうとしたところで呼び止められた。呼び止めた当人は布団の上に座ってワンピースを
脱ぎ始めており、慌てて竜児も部屋着のスウェットを脱ぎ始める。ほどなく二人とも下着のみの姿になった。
「来て……。」
布団に身体を横たえて亜美が誘う。暗がりに浮かび上がる純白の下着は色こそ平凡であったが、そのデザインは
精緻であり、相当気合を入れて身に付けたであろうことが伺える。泰子の下着を普段から扱っている竜児にも、
それがかなりの代物であることは理解できた。しかし、竜児がより注目するのはそれに包まれた肢体である。
他人に見せるために磨き上げられたそれは、本人が自画自賛したくなるのが納得の出来映えであった。
滑らかな肌には傷はおろか無駄毛の一本すら許されず、彫刻のように美しい腹部のくびれには控えめなくぼみが
顔を覗かせ、それでいて手足の肉付きは細過ぎず太過ぎない絶妙のバランスを保ち、白布に包まれた女の象徴たる
二つの山は男の本能を刺激しっぱなし。はちきれそうなブツを抱えている竜児がそれに抗えるはずもない。
「川島っ!」
「きゃんっ……もう、名前で呼んでよ。」
「ああ、悪い……亜美。」
「竜児……ん……。」
思わず覆い被さってしまったところでたしなめられ、少し冷静になった。見詰め合って手を握って、
まずは確かめるように唇を合わせる。軽く舌を絡めてから頬に、目蓋に、耳に、思いつく場所に口付けていく。
「……んっ。」
首筋にした時、明らかに今までとは違う反応。嫌がってる風ではなかったので舌先で舐めてみる。
「んっ、んふっ……くすぐったいよ……。」
なんとなく悔しくなったので、再び首筋を舐めながら右手を脇腹に這わせる。手に吸い付いてくるような感触を
心地良く思いながら、少しづつ上を目指す。やがて肌とは違う感触、それに沿って背中に手を潜り込ませる。
297 :
花丸の後で:2009/10/22(木) 21:36:12 ID:3HMozTmH
「脱がすぞ?」
亜美は協力的に身体を転がし横寝になる。それを同意と受け取った竜児も同じように向かい合わせに横寝になり、
背に回された右手が淀みない手つきでホックを外す。洗濯で泰子の下着に触れる経験の多かったことが活きた。
少し身体を起こした亜美の腕を通し、乙女を守る最後から二番目の防壁が抜き取られる。
「おお……!」
思わず声が出る。亜美から渡された自身のアイドルDVDはその身体の美しさを十二分に収めていたが、それでも
ある領域以上を観るのは想像に頼るしかない。その領域が今、竜児の目の前に拓かれた。その手の雑誌や
ネット上の画像、一応(事故的な偶然であったが)実物を見たこともあったが、今まで見たどんなそれよりも
綺麗で、可愛くて、エロい。そう思えた。惚れた贔屓目だとしても、偽らざる竜児の本心である。
「見てるだけじゃなくて触って……いいよ。」
「おう……。」
恐る恐る触れたそれは、つきたての餅のような弾力と吸い付いてくるような感触でその手を受け止める。
かと思えば崩れることもなく、さながらプリンのように緩やかに揺れるのだ。プリンの頂点に飾り付けられた
さくらんぼも慎ましく震え、明るい場所であったなら淡く艶めいた姿で食べて欲しそうに踊ったことだろう。
窓からのわずかな明かりは、竜児の手の中にある二つの球体をはっきりと見せはしないが、それ故に感触を
より正確に伝えると共に劣情を煽り立てる。
(やわらけー……ここはちょっと硬いな。)
そう思いながらつまんださくらんぼを優しくこねると、指の間でみるみる硬さを増していく。
「んぁっ……あっ!」
その様があまりにも可愛らしかったので、思わず竜児は吸い付いてしまう。赤ん坊の頃したように。
そうしていると頭にそっと腕が回されて抱き締められる。竜児がおしゃぶりに夢中になっている一方で、
亜美は痺れるように湧き上がる感覚を抑えられずにいた。それは別の感覚によって阻害される。
「ぃたっ!?」
「すっ、すまん川……亜美。大丈夫か?」
「ん……平気。ちょっと歯が当たっただけだから。」
痛みはあったがそれだけではない痺れが増しているのも確かで、亜美は続きをうながす。歯を立てないように、
痛みを和らげるつもりで再び口付けられたそこは甘い痺れを増し、痺れは全身へと広がっていく。
「はあぁぁ〜……ふふっ。」
ため息ともあえぎともつかない吐息と笑顔が漏れる。亜美は離れている間、竜児を想って何度か自分で自分を
慰めたこともあったが、竜児に『される』ことがこんなにも嬉しいなどとは想像できなかった。全部をあげたくて
全部を欲しいと想う相手に、こうまで求められ夢中にさせられる自分が誇らしくすら思える。
「んんっ! ……んふぅ。」
竜児の頭を抱きながら身体を震わせ、亜美は小さな波を乗り越えた。
「今度は、私にさせて。」
額に汗をにじませながら亜美は身体を起こす。その視線の先には、下着では隠しようもない隆起がある。
「うわ、すご……。」
トランクス越しにそっと触れたそれから、布地の上からでも硬さと熱さが伝わってくる。しかもより鮮明に
雌を求める若い雄の血潮が脈打つのが分かるのだ。そして狂おしいほど相手を求めているのは竜児だけではない。
亜美が手ずからトランクスを脱がそうとするが、突起に引っかかったりでうまくはいかない。
「自分で脱ぐって。」
「う、うん……。」
身体を起こした竜児が最後の一枚を脱ぎ捨てる。流石に気恥ずかしい。
「そんな近くでまじまじと見んなよ……おうっ!?」
というのも、完全に直立している一物を亜美に至近距離で観察されているからに他ならない。ほどなく美しい指が
優しく包み込むように、そそり立つ剛直に絡みついた。が、それきりである。
「ビ、ビクビクしてる……ちょっと大き過ぎない?」
「そうでもない……と思う。比べたわけじゃねえけど平均ぐらいじゃねえかな?」
「どうしたらいいのこれ……?」
「えっと、そうだな……まずは……で、指で輪を作る感じに……」
男を悦ばすための方法は心得ていないらしく、竜児は自分のやり方をかいつまんで説明した。それを聞いた亜美は
まず唾液を鈴口に垂らすと、それを潤滑油代わりにして両手を上下させ始める。
298 :
花丸の後で:2009/10/22(木) 21:38:30 ID:3HMozTmH
「こう?」
「ああ、そんな感じ……もうちょっと強くてもいい。」
禁欲的だったこともあって、回数自体は同年代の少年に比べかなり少なかった竜児の自慰は、もっぱら唾液を
潤滑油代わりとしていた。こんにゃくなどの食材を用いるのはMOTTAINAIの精神に反するし、高須家の経済状況では
ローションなどを買う余裕もない。厳密にはないわけでもないが、そんな余裕があれば業務用洗剤を買ってしまうのが
高須竜児という高校生主夫なのであった。結果として自慰ですら身近なものを活用することになる。
「うっく……!」
「い、痛かった?」
「いや大丈夫だ。割とすぐ乾いちまうからな。」
回数が少なかったのには、唾液が潤滑油として使いにくいという側面があったせいもある。幸か不幸か竜児は
包茎でなかったため、包皮を自慰に用いることができないでいた。代わりに清潔さを保ててはいたのだが。
唾液を付け直す亜美だが、竜児を気持ちよくしようと摩擦すればすぐに乾いてしまうため、その度に付け直すのは
効率的とは言いがたく、いまひとつ手応えを感じられない。
「あ……こうすればどうかな。」
「お? おおおッ!?」
それは純粋なひらめきであった。いちいち唾液を付け直すのが面倒なら、常に唾液塗れの状態にすればいいし、
指で輪を作って摩擦するのも唇と舌でやればいい。亜美の今の行為を一言で表すなら、『フェラチオ』がもっとも
適切であろうことは疑いようがない。その名称すら知らぬまま亜美は口腔で奉仕する。
「風呂入ってないってのに……うおっ!」
人体の中でもっとも柔らかいとされる部位が粘膜を摩擦する。本来、食事のために使われる部位を用いた奉仕は、
竜児をどこかいけないことをしているような気分にさせると同時に、性器を直に舐めてまでしてくれることへの
ある種の感動を巻き起こしていた。禁欲的ではあったが興味がないわけでもない竜児は、この行為の存在を
知ってはいたが、それを求めるには入浴していないというはばかりがある。そんなものを一足飛びにして亜美は
竜児を咥え込んでしまう。汗を流していない性器はむせ返りそうな雄の匂いを伴っていたが、むしろ亜美はまたひとつ
竜児を知れたことに喜びを見出していたし、男性自身を口に含むことさえ、それが竜児のものであるというだけで
嫌悪感はない。むしろ妙な愛らしさを亀の頭のような形状の器官に覚えていた。
「ぷはっ……どう? 気持ちいい?」
「いいけど……亜美お前、ほんとエロいな。」
「嫌?」
「嫌じゃねえけど……好きだ。」
それに対しての答えはこれだとばかりに亜美は再び竜児を咥え込む。大味に吸い付いたり舐め回したりする程度の
単調な愛撫ではあったが、同じく経験のない竜児にはちょうどよい。そうしている内に亜美の舌先は未知の味を覚えた。
鈴口から漏れる先走りの味、それが竜児の味であると理解すると、鈴口ばかりを舌で攻める。それを味わって飲み込み、
自分に取り込む度に胸の奥が熱くなる気がした。
「うっ、そろそろいいぞ? ……でないと出ちまう。」
自分でするのとは違って緩やかに、しかし確実に射精へ至る階段を登りつつある竜児は、亜美の頭を撫でながら
そう促したが、亜美の方はやめようとはしない。男が持つ精子、自分の中にある卵子と結びついて新しい命を
誕生させるそれがどんなものか、なんとなく興味があった。
「おっ、おい! ほんとに口に出ちまうぞ!?」
思わず腰を引こうとした竜児だが、その腰には亜美の両腕が回され逃げることを許さない。形のいい胸が潰れて
竜児の太ももに押し付けられる。亜美は鼻息も荒いまま離れようとせず、激しく頭を上下させてラストスパート。
背中を丸めながら布団をきつく握り締め堪えていた竜児に限界が訪れた。
「でっ……うぅーッッ!!」
「んんッ!? ……んっ……ぷあっ!」
糊のような精液が弾ける。竜児は歯を食い縛り堪えようとしたが、一度決壊したそれを止めることはできず、
他人によって与えられる初めての射精の快感に脳をかき回されていく。そのあまりの勢いに亜美は口内で射撃中の
砲塔の固定に失敗、発射された白い砲弾は容赦なく亜美の顔面や胸に降り注ぐ。熱いほとばしりを可能な限り
その身で受け止めて少し咳き込み、それから喉を鳴らす。
「はぁ……はぁ……だ、大丈夫か?」
「けほっ……うあ、にっが! 勢いもそうだけど味も凄いのね、これ……赤ちゃんできるのも納得かも。」
「なんだそりゃ……確かに美味いもんじゃないとは思うが、って飲むのかよ……。」
「いいの、竜児のだから。」
299 :
花丸の後で:2009/10/22(木) 21:40:52 ID:3HMozTmH
率直な感想を述べながらも亜美は身体についた精液を手で拭い、舐め取っては飲み込んでいく。脱力感を伴う余韻に
包まれながらも、竜児もティッシュを何枚か抜き取って自分の吐き出した欲望を拭き取るのを手伝う。
「あとは……ここね。」
仕上げにまだ硬さを失わずにいる肉の大樹に亜美は口付ける。先端から垂れた樹液を裏筋を辿って丁寧に舐め上げ、
尿道に残るものさえ吸い出されると、達した直後の敏感な場所を触れられる快感に呻きながら、竜児の大樹は完全に
硬度を取り戻す。
「気持ちよかった?」
「ああ、すま……いや、ありがとな。」
詫びかけて止め、代わりに礼を言って亜美を抱き締める竜児。亜美は自分の意思で竜児を受け止めてくれたのだ。
唾液以上に『汚い』体液を受け入れてくれた感激もあるし、それに対し詫びるのは不敬であろう。だから感謝を
身体全体で伝えた。抱き締めて唇を合わし、自分の精液の味が残っているのも構わずに舌を絡ませ、亜美をゆっくりと
押し倒しながら。
「ん……いいよ。」
亜美のこの一言だけでお互いが求めていることは伝わる。竜児が乙女を守る最後の防壁に手をかければ、亜美の方は
腰を浮かせてその侵攻に応じてしまう。なんの抵抗なく亜美の両足から湿り気を帯びたそれが抜き取られると、
ついに二人を隔てるものはなくなった。暴かれたのは整えられている薄い茂み。そこを焼き尽くさんがばかりの
凶悪な視線が注がれているのを亜美は感じる。もちろんそれはただの勘違いであり、単に年相応の興味でもって
目の前の少年が裸の自分―――その最も秘すべき場所を見つめているのを理解していた。羞恥は今までで最大。
だがそれ以上に自分の全てをこの愛すべき目つきの悪くも心優しい少年に捧げたいと思う気持ちが勝る。
「………!」
自分は今、ひっくり返ったカエルみたいな格好をしているに違いないと亜美は思う。足を大きく広げて全てを竜児に
さらけ出しているのだが、なんとなく自分の腕で目隠しをしているからだ。それは自分が見えていないから相手も
見えないと思い込みたくなる心理による逃避であったが、当然そのようなことで竜児の視線を遮ることはできない。
暗がりに目が慣れてきたこともあって、汗ばんだ亜美の身体は余すことなく竜児に見られていた。特に開かれた
足の根元であり、亜美の身体の中心からは視線を外すことができない。実際に見るのは初めてのそこに顔を近づけ
観察すると、汗とも違う液体で濡れているのが分かる。汗でない匂いがするのもそのためだろうかと推測し、
濡れた花弁にそっと触れる。亜美の身体が一瞬震えたが構わず、しかし慎重に二本の親指で花弁が割り開かれていく。
「すげえ……綺麗だ。」
「……バカ……。」
恥ずかしさのあまりこぼれた憎まれ口は、小さ過ぎて竜児の耳には届かなかった。まだ直に触れられてもいないのに
蜜を溢れさせ始めていた花、それしか見えなくなるほど集中していたという方が正確だろうか。開かれて姿を現した
『ひだ』は慎ましく上品に花を飾り立てる。空気にさらされてひくついた粘膜から立ち昇る雌の匂いに、
誘われるように顔を寄せる。
「痛かったら言えよ。」
「ん……ぃひっ……ひゃぁあっ!」
前置きから指で触られるのかと亜美は予想していたが、実際は口付けであった。舌が優しくも執拗に最も敏感な
場所を這い回り、塗りたくられる唾液と湧き出す蜜で花はますます潤っていく。蜜は決して甘くはない。
だが男を惹きつける成分をふんだんに含んでいるかのように竜児の舌を痺れさせ、虜にしていた。その勢い、
砂漠を歩いた旅人が渇きを潤さんと水を欲するがごとく。
「い…!」
「い?」
「いい、よぉ……! 気持ちいいのぉ……!」
自分で慰めた時には想像もできなかった舌での愛撫は、確実に亜美の下半身を蕩かしていく。気持ちいいのであれば
竜児に止まる要素はない。今はただ亜美の『女』にむしゃぶりつき、全てを味わいたかった。
「はぁ…あぁっ、いぃ……んひぃッ!?」
蜜の湧き出す辺りを舌で味わいねぶる。その中心にもすぼめた舌先で少しだけ入り込むと、より濃厚な味に舌先が痺れる。
聞こえる息遣いに悦びの声が混じる頃、竜児はその標的を変更する。普段包皮に包まれていて、男の持ち物と類似した
突起に舌先を滑らせる。
300 :
花丸の後で:2009/10/22(木) 21:43:32 ID:3HMozTmH
「それッ……ダメ! すぐにっ、ダメなのぉッ!」
亜美がしてくれたように竜児も吸い付く。自分の時もやめてもらえなかったので、半ばその意趣返しに突起自体を
潰そうとするように舌は動き続ける。限界はすぐに来た。
「ふぐッ……ん〜〜〜〜ッッ!!」
仰け反った背中が頭を布団に押し付ける。亜美が歯を食いしばって耐えると波はすぐに引いていった。その快感は
男の刹那的なそれに似てはいたが、それでも女は幾分か余韻が長い。正座から開放された時にも似た甘い痺れが
濡れそぼった中心から竜児が離れても続いた。空気に触れた秘芯が気化熱で冷える。それも数秒のことであり、
冷えた分を補って余りある熱量を持った物質が花弁にあてがわれる。
「ほんとに、できちまうぞ?」
それは竜児からの本当に最後の問いかけ。この期に及んでやめるなどという選択はお互いに存在しなかった。
亜美はそれにうなずくと、自分からも問い返す。
「一応、安全日だから……だけど、あのね? 『アレ』ならワンピのポケットに入ってるから。」
代名詞が何を指しているかは竜児にも察しはつく。一般的に避妊に用いられるゴムないしポリウレタン製品をあらかじめ
用意する辺り、亜美の本気と周到さがうかがえる。竜児は内心で舌を巻きながら脱ぎ捨てられた服に手を伸ばした。
が、その手を止めたのもまた亜美の声であった。
「できれば……つけてほしくないな。」
「……? なんでだ?」
「初めてだから……初めてぐらい、竜児をそのまま受け入れたい……そのままひとつになりたい。ダメ?」
それは初体験を夢想しながら自分を慰めた際、漠然とあった願望。
「………。」
「私の希望、っていうか単なるわがままだって分かってる……だから使うかは竜児が決めて。」
伸ばした手は服まで届かず、亜美の膝の裏へと添えられる。
「名前考えといた方がいいか?」
「バカ……ごめんね、でも……ありがとう。」
「いいさ、俺だってそのままで亜美と繋がりたいって思っちまったし。」
理性的な愛が故に隔たりを持とうとする一方で、本能的な愛が故に隔たりを除こうとする。今回は本能的な愛が
竜児の中で勝った。あとはひとつになるだけ。
「いくぞ。」
「来て……。」
深呼吸してから狙いを定める。口での愛撫で場所が確認できていたので迷いはない。そのまま腰を沈めると、
抵抗を受けながらも未だ誰も触れたことのない場所へと竜児は入り込んでいく。
「いっ! たぁぁッッ! へ、平気ッだからそのまま……!」
「お、おう。」
文字通り身を裂かれる痛みが亜美を襲うが、歯を食いしばってそれを堪えて竜児を促す。竜児は懸命に痛みに耐える
亜美を心苦しく思いながらも、健気に全霊を持って自分を受け入れてくれる恋人に応えるべく侵入を続ける。
そうして粘膜の間を割り進んでいくと、ついに先端に今までと違う感触を覚えた。亜美の最奥まで全てが
竜児の『男』によって『女』に塗り変えられた証。
「大丈夫か?」
「はぁっ……はぁーっ……うん、大丈夫。なんだか嬉しいし……ねえ、抱き締めて。」
「おう。」
涙を零しながらの求めに竜児は応えると、その背中にも亜美の腕が回され抱き締め合う。自然と唇は重なり、
少しでも痛みを紛らわせられればと竜児の方から舌を絡めていく。ひとつになれた相手への愛しさを込めて。
「んくっ……はぁ……んんっ!」
竜児は気遣ってなるべく腰を動かないままでいるがそれも限界はある。亜美の膣内で竜児自身が少し跳ねるだけで
痛みが走り、背中に爪を立てさせる。それは軽く血が滲むほどのものであったが、竜児には痛みに気を回す余裕はない。
それよりも今は亜美にこれ以上の痛みを強いたくはないという思いが半分、そして残りは初めての『女』の味に
酔いしれてしまいそうになるのを堪えるのが半分であった。
「……くあっ、すまねぇけど亜美の中……なんて言うかすげーいい……! 入ってるだけでこんな……くっ!」
「嬉しい、竜児……竜児! 好き……!」
「亜美! んっ……亜美……!」
名前を呼び合いながら唾液を交換していく。初めて『男』を受け入れたばかりの亜美の『女』も鼓動に合わせて
締め上げては絡みつく。全身でひとつに溶け合おうとするように。亜美の脇腹から吹き出た汗が肌から滑り落ちて
布団に染みる。汗が布団を軽く湿らせたほどになる頃、痛みは静まりだしていた。
301 :
花丸の後で:2009/10/22(木) 21:47:53 ID:3HMozTmH
「ぅん、はぁ……もうそんな痛くないから……竜児の好きに動いて。」
「分かった……ゆっくり、するから。」
おもむろに腰を動かすと、途端に悪寒にも似た快感が背筋を伝い竜児の脳を溶かし出す。とても好きに
動ける気などしなかった。濡れた粘膜同士が擦れるだけで、すぐにでも登りつめてしまいそうになる。
『女』の器官は『男』の精を受け入れ子を産むためのものであり、よりそれを効率的に行える者が子孫を残すよう
進化したとすれば、男が進んで精を注ぎたくなるような傾向を持つのではないだろうか。だとすれば
この気持ちよさはむしろ納得するところ―――と、どうでもいいことを考えて紛らわすのにも限界があった。
「うわもう……出ちまいそうだ。すまん。」
「うんっ、いいから……そのまま、お願い……んっ!」
亜美は亜美でまだ残る痛みとは別に、自分の中に受け入れている竜児がうごめく度、鈍く痺れるような何かが
湧き上がってくるのを感じていた。愛する人に間違いなく初めてを捧げることができた証である痛みですら喜びとして
受け入れた亜美は、その痺れを受け入れることにも抵抗はない。むしろもっと求めようと両脚でも竜児の身体を
抱き締めてしまう。亜美に包まれた竜児は一段と膨らみ、今にも弾けようとしていた。
「竜児ぃ! 来てぇ! 竜児ぃ……!!」
「亜美! 亜美ッ! あみいいッッ!!」
愛しい名前を叫びながら竜児の背中が弓なりに反り返る。一瞬の後、子宮目掛けて精が放たれた。
「出てるよ……! 竜児の熱いの……中に……ッ!!」
「〜〜〜ッッッ!!!!」
竜児は声にならない叫びと共に、白く濁ったマグマを六度か七度ほど亜美の中で爆発させる。
「―――ぅッ! はぁ……はぁ……あぁー……。」
疲労と脱力を伴ったため息が漏れた。それに混じったわずかな涙は亜美には気付かれていないだろうか。
「竜児の、いっぱい出たね……無理言ってごめんね。」
「謝んなよ。今、割と―――いやかなり幸せなんだ。」
「うん……しばらくこのままでいていい?」
亜美の問いにうなずいてから、竜児はそっと目の前の唇に自分のそれを重ねる。受け入れてもらえた幸せと、
受け入れることのできた幸せを互いに噛み締めながら。
「ん……ふふっ。」
先ほどまでの性急なそれとは比べるべくもない緩やかな触れ合い。繋がったままの性器から伝わる脈動さえも
穏やかな心地よさを感じる。亜美が指で竜児の髪を撫で梳くと、竜児も亜美の髪に指を通す。そうしながら
鼻同士を擦り合わせるのが嬉しい。自然と笑みがこぼれた。
「んじゃそろそろ……ああ、風呂入ってくか? 俺は後でいいからさ。」
一通りじゃれあって離れようとした際、自分たちが汗などの体液に塗れていることに気付いた竜児の提案である。
「一緒に入らないの?」
「一緒って……いいのか?」
「もっと凄いことなら今したじゃない。ね? 入ろ?」
「お、おう。」
一緒に入浴することに対する竜児の懸念は、倫理的なものよりも浴室が狭いということの方が大きかったのだが、
亜美の積極性に押し切られてしまった。竜児としても大変魅力的な提案であったのも確かなのだが。
そうこうしてようやく竜児は亜美から離れる。
「まだ何か入ってるみたいで……変な感じ。でも嬉しい。」
「………。」
気恥ずかしさからか、何とはなしに竜児は脱ぎっ放しの服に手を伸ばしたが
「ほら、どうせ脱ぐんだし服なんかいいから。」
その手は亜美に取られる。そのまま暗がりの中を手を繋いで浴室へと歩き出した。生まれた姿のままで。
そして向かいの建物の窓から二枚のカーテンの隙間を縫い、居間を覗く猫科動物の如く拡大した瞳孔が
連れ立った男女の肌を確認してしまったことに、未だ二人は気付かずにいるのである。
続?
乙
自分の唾液をローション代わりにしてオナる男の話なんて初見かもしれんw
GJ
アフターとしてとても自然で、とても丁寧に描かれていて感心しましたさ
GJ
これは虎の反撃があるのかな?続き書く気があるなら期待して待つぞ
双方引かない展開のちわとらって新鮮だなあ。
頑張れ竜児、負けるな作者。
そしてとらとのエロ展開も希望だ、GJ
亜美100点END後の展開に激しく期待してたので楽しく読ませて頂きました
夢中になって一気に読んでしまった、作者さんGJ!
GJ
竜児の性癖に意外な一面を見た気がするw
GJ
引き込まれた(*´Д`*)/ヽァ/ヽァ
309 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 07:30:04 ID:zMWjL2dl
竜児「支払いは任せろー」バリバリ
亜美「やめてー!」
何wwwwwww
一番マジックテープ式を持ってそうなのは大河か北村だと思う。
北村「ハハハハ、支払いは任せろー」バリバリ
亜美「やめてー!!」
北村ものすごく持ってそうwwwww
大河は海外ブランドのとか使ってるんじゃない?
一応そういうのの中にもあるみたいだが
実乃梨「ハハハハ、支払いは任せろー」バリバリ
亜美「やめてー!!」
逢坂くん「支払いマシーンに任せろ!」
バリバリ
独神「やめて!」
竜児が大河とかに本命が固まってても、実乃梨や亜美とか
別の女の子にボディタッチする場面ってどんなのがあるかね
落ち込んでる頭に手を置く、または撫でる
体調悪そうな時にデコを触る
疲れて眠ってしまったのに肩を貸す、くらいかな
調子が悪くて倒れそうなの運ぶのは竜児より北村が颯爽と現れそうなんだよな
本命なら大河を保健室運んだ時みたいに反応しそうなんだけど…
何か物を渡す時に手が触れても本命じゃなきゃ竜児は反応しなさそうだよな
衣装作りの採寸
学園祭でも受験がある三年は劇とか時間とられるのはしないだろうし
採寸なんてする機会が大河くらいしかないような…
お祭りとかライブとか、人ごみの多い場所でハグレないように手をつなぐ位か?
小さなライブハウスやクラブなんかいつでも超絶暗いし
どんだけ無名バンドでも混むからなあ
Pのお祭りでは大河とは手をつながなかったけど(おぶったけどw)、
上記みたいな場面ならアリかと
あーもーネタ作成を住人に任せるなよー
レイプ目竜児とツヤテカ3人娘は黄金カルテットやー
投下ないのう
『みの☆ゴン』
>>187 の続きを投下させていただきます。7レス分(83〜89)です。
前回は大変ご迷惑をおかけいたしました。
注意書きにつきましては前回、油断しておりました。申し訳ございません。
再度御注意書きを明記させて頂きます。
内容 基本的には竜×実です。原作に出ていないキャラが登場します。(実乃梨の父)
時期 今回は2年生の5月です。
エロ 冒頭シーンです。さくらと思われるキャラと絡む描写有り。苦手な方は飛ばして下さい。
補足 内容、文体が独特で、読みにくいかもしれません。
ご不快になられましたら、スルーしてください。
続き物ですので、ここからお読み頂いきますと、ご不明な点が多いと思います。
宜しくお願い申し上げます。
通りがかりに、偶然川に落ちて溺れている女子を見つけてしまい、華麗に助けて、ぶ
ちゅっと人工呼吸。彼女は気がついて、俺に一目惚れして、助けてくれたお礼にウチに
来て下さい、って言って、家に上げてもらって、で、濡れちゃったので着替えますね、
とか言って、スルスルっと……その先はフヒヒ!
……というのが春田の理想の出会いだったらしい。ドラマティックさ、運命っぽさ、そ
してスピード感あふれる運命的な出会い。今日、春田にそれに近いことが起こったのだ。
ただ、違かったが、助けたのが亜美だったのと、上がった家が、高須家であった事。
竜児だって妄想したことはあった。今はめでたく、実乃梨という理想の彼女がいるわ
けで、もうどうでもいいことなんだが。思い出してみると、
たしか、こんな感じ━━━
竜児がよく行くスーパーのレジの近くに生け花が売っている。あまり買う人もいなくて、
レジの近くってこともあり、荷物をぶつけられたりして、花から首から折れて床に落ちて
ることがある。竜児は、そう言う可哀想な花を見かけると、店員さんに一声掛けて頂いて
しまうのだが、
……きゃあああっ、ごめんなさいごめんなさいー! お花! どうぞ、どうぞっ!……
スッテーン!! と、水色のおパンツ全開の女子が突然現れた。スッ転んだ女子は、見
事なスライディングで、屈んだ竜児とクロスプレー。起き上がる時に二の腕に絡まりつい
てきて、恐ろしいほど盛り上がり、二つのなにやら柔らかなものが押し付けられている。
おうっ!、いや、俺のじゃねえし……ど、どうぞ
……あ、ありがとうございます! よく、落ちちゃうんですよね、お花……
……あのぉ……お花、好きなんですか?……
まあ、それほど詳しくないんだが、好きかといえば、好きだな。
実は、落ちた花、お店の人に話して、よく頂いていてるんだ。
……ああっ、従業員さんに聞いた事あります!……
……わたしと同じ高校の男子で、そんな人がいるって……
ウチの店? 君、かのう屋でバイトしてるのか?
……えへっ、違いますよぉ、ここ、わたしん家なんです! あっ、良かったら……
……わたしのお部屋上がりませんか? お花のお話、いっぱい聞きたいです!……
そうして、その女子のお部屋にあがってしまうのだった。
ここ、が、女子のお部屋……か……いい匂いだな
……お待たせしました〜! うちに新茶が入荷したんです! はい! どうぞっ……
おうっ!
その女子は、着替えて来たのだが、なんとVネックのカットソーに、やわらかな巻きス
カートという無防備すぎる眩い私服姿であった。なんにせよ、布の面積が少ない。晒した
太もも、胸の谷間も、どこもかしこもトロけるような白さだ。ヨレヨレなVゾーンに、な
んとか隠されている二つのふくらみは、動く度に深い谷間が広くなったり、狭くなったり、
プリンのようにプルプル震え、落ち着かないのだ。竜児もイロイロ落ち着かなくなる。
……わたしの名前も、お花の名前なんです。だから大好きなんです!……
そうなのか、名前が。そういえば、君、なんて名前なんだ?
……はい! わたしは、1年B組の……
その、淡く滲む水彩で描いたような薄紅の頬。甘いシロップに浸した果実みたいにふっ
くら輝くさくら色の唇から、花の名前を口にする。細い指先が、顔の輪郭にかかる栗色
の髪をかきあげた。晒された薄い朱色の耳朶には、まるでピアスホールのような小さな
ほくろ。竜児の心臓をまっすぐに突く、見てはいけない艶めかしさである。
そして、小一時間過ぎ……
……うぅん ……う、んん……っ……んうぅ……
その、少しも変な事ではないんだ。男子のおしべと、女子のめしべが、
……あぁあ〜……あっ、あっ、そこっ! いやんっ……あぁぁ……っ!……
熱く、悩ましくもピンク色に、むんむんねちねちとふたりは花の話を続けるのであった……
***
平日の朝というのはどこの家庭もバタバタ忙しいもので、高須家もその例外に漏れず、竜
児は狭いがきっちり整理されている台所でせわしく動き続けていた。昨日とは打って変わっ
て、雲ひとつない日本晴れ。関東では5月が一番日照時間が長いという豆知識がテレビから
流れており、それを耳にしながら、竜児は小さな窓から差す光の熱を頬に感じつつ、朝食と
弁当と泰子の昼食を作っている。
「おうっ、洗い終わったか」
ベランダの洗濯機が電子音を鳴らし、完了の合図を知らせてくれる。竜児は朝食を卓袱台
に運び、弁当を詰め、昼食をラップに包み、朝飯前に洗濯物を干すために、ベランダへ向う。
「春田臭が取れねえ……ヨダレ出し過ぎだろ、それとも変な液体出しているんじゃねえか?」
竜児は洗ったシーツの臭いを確認。2度洗いしようかと自問自答するが、洗濯する前処理を
自らが怠ったのと、なんといっても洗剤や水がMOTTAINAIので、さっき知った5月の日照時
間の長さに期待、太陽の紫外線による殺菌作用に望みを託す事にしたのだった。
「竜児」
パンッと、ベランダでシーツのしわを伸ばす竜児に、斜め上から声が降って来た。見上げた
窓には、太陽の光に心を浄化されて欲しい候補ナンバー1。大河が見下ろしていた。腕を組み
ふんぞり返っている。よく見るポーズなのだが、服装がパジャマだった。
「ねえ竜児。今度、みのりんの家に行くんでしょ? あんた、どんな服着てくつもり?」
「おうっ! 何故それを! ……お前には、情報筒抜けなんだな、別に構わねえが。着ていく
服なんて、何も考えてない。なんでだ?」
「やっぱりね。そんな事だろうと思ったわ……よっしょっと……ゴソゴソ……ほい!」
大河は一抱えもある黒い箱を竜児めがけて放って来た。とっさに両手を出して受け止める。
しかし受け止めたのは竜児の両手ではなく、鼻だった。見た目ほど箱は軽くないのだが、どん
なに軽くても、角っていうのは硬いのだ。平和だった朝の惨劇。竜児の鼻血は赤かった。
「ってーよ! なんなんだよこれ? うわわっ、シーツに血が付いたじゃねえか!」
垂れ流れる鼻血に構わず、竜児は箱を御神輿のようにワッショイワッショイしながら猛抗議。
しかし大河の耳には野良犬がキャンキャン鳴いているほどにしか聴こえていないようだ。遺憾
よね、とまるで人ごとのようにさらりと言い除けてしまうのだ。そんだけかよ! 竜児は叫ぶ。
「うっさいわねえ……近所迷惑でしょ? それ、スーツだから。みのりんちに行く時に、それ
着て出掛けるのよ。みのりんのパパとママに、ちゃんとした格好をして、誠意を見せるの。
あんたただでさえ、顔面にハンディキャップもってるんだから、最低限のマナーよ。マナー」
大河は、これはみのりんのためなのっと付け加え、竜児にご教授くださる。若干悪口も混ざ
っていたような気もするが、箱に刻まれた文字を見て、竜児は反論どころか動揺してしまう。
「ここここれ、グググッチじゃねえか!ここんなの……いいのか? かかか、借りちゃっても!
どどど、どもりが止まらねえ……」
「貸すんじゃない。プレゼント。貰いもんだけどね。わたしが実家出る時に、業者が間違って
持って来ちゃったんだけど、どうせ実家に返しても、サイズブカブカで直すの面倒くさくっ
て誰も着ないし。みのりんとの交際記念よ。プレゼント」
「プレゼントだとぉ!? そんな訳いかねえ! クリーニング出して返す」
「いらないわよ、有難く受取りなさい。だいたい返してもらっても処分しちゃうだけだし。そ
れにわたしの部屋のクローゼットが空いて助かるわ」
あんな広いウォークインクローゼットが、スーツ一着分空いたからといって、どうって事な
いだろうと思うが……しかし処分なんてMOTTAINAI! その上、竜児と実乃梨の交際記念な
んて大河にここまで言われて、その好意を無にするのもどうなんだと竜児は自問自答。
「わかった。ありがとうな、大河……」
「これは、みのりんの為でもあるんだから。しっかりやんな」
ぴしゃっと窓が締まる。竜児は鉄サビの臭いがする鼻をすすった。
***
同時間。櫛枝家では、ちょっとした押し問答が繰り広げられている。
「いやだ。会いたくない」
「だめよぉ。もう約束しちゃったんだからぁ。ちゃんと会ってくださいよね、お父さん」
「大体、実乃梨はまだ高校生だろ? 勉強や部活で、男を作るなんてまだ早い」
「お父さん、今年のバレンタインデーに、お姉ちゃんからチョコレート貰って、他にあげる奴
いないのかーって、言っていたじゃないですか。忘れちゃったんですか?」
「そ、それはだな、あいつが恋愛なんか、幽霊や、UFOみたいに、現実味がないって変な事
言うから言ってみただけで……本意じゃない」
「そんな事言わないでお姉ちゃんの恋愛をちゃんと応援してあげてよ、お父さん。そうそう、
今日、帰りに理容室に行ってよ? そんな頭じゃあ、お姉ちゃんに叱られちゃうわよ」
「知るか! とにかく俺はその何処の馬の骨か判らない奴なんかに会わない。勝手にやってろ!」
そうヘソを曲げて実乃梨の父親はバタンと玄関を出て行ってしまった。
「あらあら、娘の彼氏に嫉妬しちゃって……ってか、お姉ちゃん遅いわねえ。……心配ない、か」
いつもならコンビニの早朝バイトからとっくに戻って来ている時間。母親はテーブルの上に投
げ捨てられた新聞を拾い上げ、毎日楽しみにしている4コマ漫画に目をやったその時だった。
「どわああああっ! 遅くなった遅くなった!! 午前シフトのおばちゃんが遅刻してさ〜!
まいっちまったよっ! お母さん、今何時! そーね、だいたいね〜♪」
「おかえり、お姉ちゃん。余裕ねえ……え〜っと……はっ、八時だよ!」
「全員集合〜! なななんて余裕なんかねーよ! ヤベーヤベー!! 遅刻じゃああああっ!」
実乃梨は自室に入るなり、ドタドタ、ガタガタ、宇宙的に軟弱な奴……! ぎゃびり〜ん!
……と、騒がしく慌ただしく学生の聖衣(クロス)であるブレザーを装着。まるでマンガのよ
うに食パンを口にくわえて、遅刻遅刻!っと、実乃梨は大慌てで家を飛び出ていったのだった。
「食パン少女もギャグよねえ……お姉ちゃんこんな時まで……いったい誰に似たのかしら?」
と、学生時代の自分そっくりな自慢の娘から、4コマ漫画に視線を戻す母親。新聞によると、
竜児が来る5月の第2日曜日はマザーズ・デイ。母の日らしい。
***
「あーっ! 竜児くん待っててくれたの? ごっめーん!」
「おうっ実乃梨! いいから! まだ間に合うぞ!」
いつもの交差点で、実乃梨の彼氏様、竜児は鬼コーチのような眼をギラつかせて待っていて
くれていた。怒っているのではない。めずらしく時間に遅れた実乃梨を心配していたのだった。
信号が丁度、ブルーに光る。竜児はバトンリレーのように、実乃梨が追いつくと同時に走り
出した。しかし竜児が強く握りしめたのはバトンではなく、実乃梨の右手だった。竜児は左手
から伝わる安心感、充実感で、心が満たされて行く。同様にコンビニから走りっぱなしの実乃
梨も、疲労がすっ飛び、気合いが入るのが自分で判る。大地を蹴る脚に力がみなぎる。
「はあ、はあ、竜児くんって……まるでユンケルだよね? Powered by RYUJI、はあ、はあ」
「なんだっ、はっ、そりゃあ、はっ、意味、わかんねえよ、はっ」
結局ふたりは始業時間にギリギリに教室に飛び込んで、間に合ったのだが、担任のゆりは既
に教壇に立っており、
「おはよう……ございま……す……、高須くん、櫛枝さん……だっ大丈夫ですか?」
すでに着席していたクラスメート達に、ふたりはダブル鼻血を披露してしまったのであった。
***
大橋駅周辺は、この辺りでは一番の繁華街で、駅ビルを中心に若い連中が好みそうな店舗が
立ち並ぶ商店街があり、近くに住む奴らはとりあえず駅前を目指してノコノコやってくるのだ。
定時に仕事を終えた実乃梨の父親は、娘の彼氏とやらには会うつもりは毛の先ほどもなかっ
たが、若干伸びて来た毛の先を整えてもらおうと、商店街にある馴染みの理容室に向っていた。
これはあくまでも、娘の為であって、決して娘の彼氏の為ではないのだ。そう良い聞かせながら。
赤と青がくるくる回る伝統的なポールが店先で迎えてくれる昔ながらの理容室には、平日だと
いうのに、おじいさん、おじさん、おにいさん、ガキンチョまで、老若分け隔てりなく、男だら
け、男まみれ状態。おっさん向けのゴシップ雑誌をめくってたり、ゴルゴを読んでたり、ケータ
イ弄ってたりと、それぞれが全力で時間つぶしをしている。実乃梨の父親はどこかで見覚えある
気がする学生服を着て、参考書にかじり付いている高校生の隣、ソファの端っこに、浅く座った。
ピ〜ンポ〜ン、パ〜ンポ〜ン
ウエストミンスターの鐘の音と一緒に、いかにも中年っ! という小太りの男が入店する。で、
「おお、魅羅乃ちゃんトコのお坊っちゃん! また奇遇だねえ。そぉ〜だ、いつかのお花見の時
は付き合わしちゃってすまなかったねっ。魅羅乃ちゃんに、キツ〜く、お灸を据えられたよ」
「どうもこんばんは、稲毛さん。いつも母がお世話になっております。お花見の件は、俺の中で
無かった事になってますから。平気っす……それより、その呼び方やめてくれませんか……」
「じゃあ、竜ちゃんでいいやな。そんなに伸びてないのに、髪の毛切るのかい?」
頭頂部の毛根が絶滅してしまっている中年に言われるのもどうかと思うが、学生はオトナの対応。
「いえ、今度彼女の家にお呼ばれしてるんで、髪先だけ整えようと」
前髪をクイクイ引っぱっているこの学生さんも、彼女の家に行くのか……ウチと一緒だな……
どれどれ……と、ちょっと、興味を持つ実乃梨の父親。
「竜ちゃん、奥……彼女出来たのかい? やったなあ、おめでとう! 今度お祝いしなきゃぁな。
そうそう、全然話し変わるけどさ、この前俺の誕生日に、朝まで魅羅乃ちゃんに愚痴聞いて貰
ったちゃってさ、お礼になにか、プレゼントしたいんだけど、何が良いかな〜……ちなみに竜
ちゃんは最近、お母さんになにかプレゼントしたりしたのかい?」
聞けば竜ちゃんと呼ばれている学生さんは、どうやら彼女が出来たばっかりらしい……ますます
ウチと一緒だ。今の実乃梨の父親の聴覚は、三里先に落ちた針の音さえ聞き分けられるだろう……。
学生は、少しだけ悩んだ素振りを見せるのだが、ハゲ中年に答えた。
「俺っすか? ……そっすね、これからプレゼントするんですけど、今度の母の日に、100
円ショップで買ったヘアピンに、彼女がデコ電作った時に余ったスワロを散りばめて送る予
定なんです。俺、バイトとかしてないから、安上がりで、母には悪いですけど……」
「何言ってんだい竜ちゃん! すごいじゃねえか。手作りのヘアピンとか魅羅乃ちゃん、最高
に喜ぶって。竜ちゃん手先器用だからなぁ。竜ちゃんなら彼女の両親に気にいられるよ」
ふうっ、ハゲ中年はやっと話が一段落し、実乃梨の父親らが座っているソファーの右隣にあ
るスツールに腰を下ろす。ハゲ中年の逆側、左側には、母の日に手作りのプレゼントを贈る、
感心な学生さんが、参考書を再び開く……気の迷いだったのだろう。実乃梨の父親は、せめて
この学生さんに現実の厳しさを教えてあげよう。そんな、超おせっかいを思い立ってしまい、
思わず声をかけてしまった。
「……君、彼女の父親に会うのかね?」
「ええ? ……はい。そうっすけど」
「ウチの娘も、今度彼氏連れてくるんだが、君。期待しないほうがいいぞ。どんなイケ面だろ
うが、金持ちだろうが、家事ができようが、父親ってのは娘を誰にもやりたくないんだ。俺
だって、娘の彼氏とは会わないつもりだし、会っても仲良くする気はない。わかるか?」
……何を言っているんだろう俺……たかが彼氏だし、別に結婚する訳ではないし、しかもこ
の学生さんは無関係だし……でももう言っちまった。覆水盆に返らず。
「はあ……はい。想像でしかないですけど、父親ってそれだけ娘のこと、大切なんですよね」
目を合わせた学生さんをよく見たら、凶悪ヤンキー面だった。ハゲ中年との話の内容からも
っと、真面目っぽいイメージだったのだが、この学生さんはそうとう第一印象で損するのでは
ないか……もし、実乃梨の父親でも、聴覚ではなく視覚から入っていたら、怖くてこの学生さ
んに、声を掛けなかったであろう……
その学生さんの表情が、興味の色を示す。彼も父親の立場からの意見を聞いてみたいのだろう。前のめりになっている。実乃梨の父は、ここぞとばかりに娘の前ではとても言えない胸の
内を曝け出した。
「そうなんだよ! 俺は娘が大切なんだ。世界で一番愛している。誰にも負けんっ」
「は、はい!……俺も、相手の父親の次に、彼女を、あっ……愛せるようにするつもりっす!」
暴走した父親につられたとはいえ、こんな公衆の面前で真っ赤になって愛を叫ぶ学生さん。
見た目は、ヤンキーだが、なかなかの純情ナイスガイなんじゃないかな?と、実乃梨の父親は
勘ぐりはじめる。もしかしたら、彼とは結構話が合うかも知れない。
「父親の次っていうのがいいな。超えられない壁ってのはある。がんばれよ……君、父親は?」
「いないです。うちは母子家庭なんで」
「す、すまない、初対面で込み入った話してしまって」
若い学生に、クドクド話をするのは、オヤジ的には気持ち良いもので、つい調子に乗ってし
まった実乃梨の父親。一気にクールダウン。口調も自然にかしこまる。しかし学生さんは、
「平気です。全然気にしないでください。おうっ、順番みたいですよ。行きましょう」
さらりと流し、理容室のおじさんに呼ばれ、電動チェアーへ向う。ちょうど同時に席が空いた
ので、実乃梨の父親と学生さんは隣同士に座るのである。
「はい、前髪カットするから動かないで。聞こえちゃったけど、彼女の家に行くんだって?
若さっていいねえ〜。おし、まかして。誠実で、清潔っぽくしようね、きっと似合うから」
「おうっ!」
ぱつん! と真横、一直線。端で見ていた実乃梨の父親も息を飲むほど、見事な直線で眉のラ
イン、学生さんの前髪は切り揃えられていた。目撃したハゲ中年、稲毛氏も、タバコを落とす。
それは決して、『失敗カット』というわけではなかったらしい。理容師のおじさんはご機嫌で、
学生さんの前髪をどんどん短く、まっすぐに揃えていく。学生さんはなにも言えないまま、切
られていくのに大人しく身を委ねている。思考停止状態で固まっているのかもしれない。
その間にも鼻先に、ちょきちょき髪の束は落ちていく。
「おいおいちょっと! ストーップ!! 大丈夫かい、竜ちゃん! 気を確かに!!」
見かねたハゲ中年が割って入り、はさみの動きを止める。理容師のおじさんは目を丸くする。
「もう21世紀なんだからさ〜、オカッパはネエよなあ。こんなダサダサヘアーじゃあ、彼女
の両親に会えねえよなあっ! そうだ竜ちゃん、俺の髪の毛を少し分けてやろう」
「おうっ! そんな大切なもの! 稲毛のおじさんの気持ちはスッゲー分りました。全く問題
無いっす。理容師のおじさんも、ワザとじゃないようですし……」
そっかあ、ごめんよお? と、理容師のおじさんは、学生さんの前髪にはそれ以上手を付け
ず、周りの毛先だけキレイに揃えていく。そして出来上がった姿を見た、実乃梨の父親は、昔
テレビで見たスタートレックに出て来たバルカン人のハーフを思い出す。これは惨い。
「平気です。俺の彼女は、こんな髪型になっても、俺の事、嫌いにならないだろうし、たぶん
そのご両親も、外見では人の事、判断しない方だと思いますから。会った事ねえけど……」
「ほんとうにごめんなあ。じゃあ、今日のお代は奢らせてくれないか? 彼女によろしくね」
学生さんが帰った10分後に店を出た実乃梨の父親は、外見で判断してしまう自分について、
いろいろ考えながら、家路に着くのであった。
***
「……なんで、オメーまでいんだよ。見せモンじゃねえから!」
「姉ちゃんの彼氏だろ? 紹介してよ俺、兄貴欲しかったし、あとどんな物好きか見たいじゃん」
「竜児くんが、ウチに来るなんて超嬉しーのに……超ブルーな気分なのはナゼ……オメーのせい
だ、みどり! マジ竜児くんに嫌われるような事すんなよな! ぶっ殺して生き返らせて、
もう一回ぶっ殺してやるから! ダブルジョパティー、完全犯罪……」
竜児が来る日曜日。久しぶりの姉弟の仲良いケンカにテンション上がりまくる母親。ノリノリだ。
「いやああ、なんかお見合いみたい? 結納の挨拶? わたしも緊張する〜!」
「かか彼氏なんだから、へんにギクシャクすんの嫌だからよ! 話を広げるんじゃねえよ!」
「だって姉ちゃん、わたしが付き合う彼氏は、旦那になる事が絶対条件〜!! って言ってたじゃん!」
「っ!! オメー竜児くんの前でそんな事言うなよな! 死ぬから。わたし顔から血ぃ噴くよ!!」
「まあ、お姉ちゃんったら大袈裟ねえ……あれ? そういえばお父さんいないわね……逃げたな」
ワザとらしくオーバーに額に手を当て探すそぶり。みどりは調子づく。
「こういうのって、昼ドラでよくあるよね? 娘の彼氏と父親との直接対決!」
「対決させんなって! みどり、後でヒドイからね! てか、マジお父さん失踪したのかな」
「時間が解決してくれるさ。な? 姉ちゃん」
「なにが、な? だ! 偉そうに……あっ、竜児くんかな?」
玄関から呼び鈴の音。扉の向こうには、ブラックのスーツに不釣り合いなエコバッグに食材を
タンマリ詰め込んだ、緊張で鋭い目つきをさらにギンギンさせた男が突っ立っていた。
***
実乃梨の父親は、土手が見える橋の上にいた。そろそろ娘の彼氏とやらが家に着いた頃だ。
全寮制の私立に進学させた息子、みどりが戻って来ているのもあり、家で息子と色々話がした
かったのだが、娘の彼氏とバッティングする覚悟を決める事が出来なかった……
理容室で会った学生さんに、現実を教えてやると、偉そうに言った割に、現実から逃げ回っ
ているのは、蓋を開ければ、自分自身なのであった。
どれくらい時間が過ぎたのだろう、いつの間にか辺りは暗闇に包まれ、外灯が点灯し始める。
橋の上に中年男性が独りで川面を見つめている……そんな自殺でもしそうな不審な姿の実乃梨
の父親に声をかけるブラックのスーツを纏った、その筋の若頭に見えなくもない男が現れた。
「あ、どうも、こんばんは。先日はありがとうございました」
「おわっ! なんだ君か、脅かさないでくれ。今日は決めているじゃないか。そんな格好して
るってことは、彼女の家の帰りだな? どうだった、相手のご両親に気にいって貰えたのか?」
そう訪ねると学生さんは俯き、苦笑いした。どんな感じだったのか察しがつく。
「ええ……ただ、お父さんに嫌われているみたいで……残念です。あなたはどうでしたか?」
「ははっ、俺も一緒だよ。だから言ったろ? 期待すんなって。まあ、気を落とすな。君の気
持ちが変わらなければ、いつかは理解してもらえるさ。俺が今の妻を娶る時も、簡単にはい
かなかったからな。もう帰るのか?」
「母がそろそろ仕事なもんで、母の日のプレゼント渡したいんです」
「ヘアピンだったっけ? よかったら見せてくれないか?」
はい。っと、学生さんは、内ポケットから、小さな箱を取り出し、キラリとオレンジに光るヘ
アピンを取り出した。
「綺麗だな……悪いヤツにはこんな繊細なもん作れないよ。君ならきっと……まあ、いい。俺
も帰るよ。母親大切にしろよ。あばよ」
と、実乃梨の父親は、踵を返し、スイートホームへ向かう。
「お父さん、どこ行ってたんですか? 竜児くん帰っちゃいましたよ?」
「竜児くん?……ああ、ヤツの事か」
「ヤツとか言わないの! 竜児くんのお料理、すっごい美味しいの! お父さん、食べてみてよ」
ほれほれっと、竜児の手料理を差し出す。実乃梨の父親は煙たそうに手を振る。
「いらん。ビールだけでいい。みどりは?」
「お姉ちゃんとバッティングセンターに行ったわよ。みどりも竜児くんと、仲良くなってくれた
わ〜。竜児くん、とってもいい子よ〜。お姉ちゃんには勿体無いくらい。我が娘ながら、男見
る目あるわねっ。竜児くん将来、お婿に来て欲しいわ〜!」
「バカらしい!……あれ?」
そういう妻の髪に、見慣れないアクセサリーがオレンジ色に揺れている。
「お、お前……そっ、そのヘアピンどうしたんだ?」
「いいでしょ? お姉ちゃんがくれたのよ? 母の日! うふ! オレンジって、若いかしらね?」
実乃梨の父親は、凍り付く。まさか、あの学生さんが……。
背中から押し寄せる。後悔と、罪悪感。そして……ゆっくりと、竜児の料理に手を伸ばした。
「……これが、竜児くんの……手料理か」
父親は一口、口に入れた。じっくり、奥歯が軋むほど、万感の想いとともに、噛み締める。
「竜児くんの料理。旨いが……しょっぱいな……」
「しょっぱ?……あれ? ちょっとお、……もう……お父さん、泣かないのっ」
━━17年前の4月。実乃梨が、生まれた日。
病院で父親は初めて自分の子供。娘の手を握った。
生まれたてのその手は、ほんとうにちいさく、脆く、熱かった。
生命の神秘を、力強さを目の当たりにし、心が震え、涙が流れた。
こんな激情が自分にあったのかと驚くほどに。
太陽のような笑顔を見せたわが子は、可愛らしくて、愛しくて……
幸せを噛み締め、この娘のために生きようと思った。
幸せになれ。と願った。
病院の帰り道。5枚の白い花びらを広げ、ナシの木が、咲いていた。
それを見て、父親は、わが娘の名前を『実乃梨』と決めたのだ。
ナシの花言葉は、 『愛情』 である━━
「竜児くん……逢わなきゃならんな……」
「そうね……はい、ビール。今日はわたしも付き合うわ」
「ああ、乾杯しよう……あいつらの……未来に……」
実乃梨の父親と母親は、それ以上何も語らずグラスを掲げ、静かなリビングに、
チンッ、というグラスが当たる音だけが響く。
幸せになれ。
以上になります。
前回投下後の様子を拝見させて頂きました。
ご不快な思いされていた方、大変申し訳ございませんでした。
又、毎週お読み頂いた方、大変、大変、有り難うございました。
みの☆ゴンは、2年生の夏休みで完結させる予定でしたが、
投下方法、場所、時期、内容を再度考慮させて頂きます。
いつかまた、この時間帯をおかりするかもしれません。
失礼致しました。
GJ
続きが気になる。
乙。
いい話じゃないか。
いい話だ゚(゚´Д`゚)゜
GJ
よくつくられてるな。オリジナル要素もよく納得できる
大河といい、みのりんといい最近は結婚ラッシュだな
職人の方々、次は誰か分かってるよな………
そう!!、独身の結婚だ!(´・ω・`)ん?
>>336 奈々子さまですね、わかります( ゚∀゚)
奈々子さま!奈々子さま!(゚∀゚)
馬鹿どもがッ!!飼いならされやがって
竜児と独身が結婚したら、独身はホームルームの時間とか聞いてないのに
ひたすらのろけ話をする駄目教師になりそうだな
かなり久しぶりにのぞいたら、
佳作が沢山投下されてて嬉しかった。
中でも「Happy ever after」、素晴らしかった。
センスもあって、熱もある。
GJ!
埋めネタというには余りにクオリティが高い98VMさんのシリーズが最近の楽しみ
結構な時間投稿が止まっているので、この間に出来た物を投稿したいと思います。
題名は「雪原に咲く一輪の花」で、カップリングはみのドラ!です。
時系列でいうと、今回はクリスマスの夜のエピソードです。
では、次スレから連投します。
雪原に咲く一輪の花 〜1st〜
辺りにはビュービューと風が吹いていた。冷たい冷たい、身体の芯まで冷えてしまいそうになる冷たい風が。
吐く息は白い残滓を空中に残し、露出している顔や耳などの部分は寒風により痛くなってくる。
それもその筈。今日は12月24日。冬真っ盛りな季節だ。
それと同時に、今日は聖なる夜だ。ある人は恋人と幸せな時間を堪能し、またある人はクリスマスなんて無くなっちゃえ、と呪いの呪文を呟いている。
人それぞれ感じるものはあるかもしれないが、世間一般的に見れば、クリスマスとは一種のお祭り行事なのだ。
街中はイルミネーションによって綺麗にライトアップされるし、お店も色々な趣向を凝らしてくる。
楽しい雰囲気に包まれる、年に一回だけのイベントなのだ。
「……」
そんな日の夜に、ある一人の少女が歩いていた。
未だ多くの人通りがある道を、たった一人で。
その目線は常に下、道路に向いており、それに加えて瞳には負の感情しか読み取れない。少女は周りの楽しい空気から完全に浮いている。
そんな少女が向かっているのは、とある高級マンション。
理由は、親友の真意を確かめること。親友の本音を聞きだして、聞き出した内容によっては自分の気持ちを押し殺そうと思っている。
ある男子への、恋慕を。
少女は確信している。少女の親友は、自分と同じ男子を好きになっている、と。
それと同時に、その男子が本当に必要なのは、自分ではなく親友の方だと思っている。
そして、
「……竜児ぃぃぃぃぃーーーーーーーーっっっ!!」
その考えは、少女の親友によって、『予想』から『確定』に変わった。
道路を挟んだ反対側の歩道、そこに少女の親友がいた。
涙により歪んだ顔を隠すために覆われている、小さい手。しかし、顔は隠せても、声は隠すことが出来なかったし、ましてや溢れ出る想いをせき止めることも押し留めることも出来なかった。
心の底からの、魂の叫び。自身の半身が無くなったかのような、悲痛な嘆き。顔を覆っている手から零れ落ちる、冷たい冷たい涙。
その声が、姿が、如実に少女の親友―――大河の気持ちを代弁していた。
少女は、「やっぱり、そうか……」と呟いて、クルリ、と回れ右をしてもと来た道を戻っていった。
そして少女は、学校前である男子に会う。少女の好きな男子であり、大河の好きな男子でもある高須竜児に。
何故か熊の着ぐるみの格好をして脇に着ぐるみの頭部を抱えていたが、少女には関係ない。
話し始めた少年の口を塞ぎ、用件を言う。
「ねえ高須くん、あーみんの別荘でした話、覚えてるかな?」
夏休みを利用して友達である川嶋亜美の別荘に遊びに行った。
そしてその夜、竜児に自分の胸の内を吐露した。今まで誰にも、大河にさえ話さなかったことを話した。
笑われると思った。そんな小さいことを気にしているのか、と大笑いされると思っていた。
しかし、少女の予想とは裏腹に竜児は笑わずに真剣に聞いてくれた。意見も言ってくれた。
それが、少女には堪らなく嬉しかった。
思えばその時からだった。竜児のことが、ただのクラスメイトじゃなくなったのは。見ていると胸がドキドキしてくるし、話していると甘い感覚が胸から全身に広がっていった。
好きになるまで、そう時間はかからなかった。
「幽霊がどうのこうの、UFOがどうのこうのって話。覚えてるよね?」
「……」
口を塞がれている竜児は喋れないので、首を縦に振ることで肯定の意を示す。
そんな竜児に、少女は悲しげな笑みを浮かべた。
「それのことなんだけどさ、色々考えて、やっぱ私には幽霊もUFOも見えなくていいって、見えない方がいいんだって思った。私は、それを高須くんに言いたくて来たんだ」
そう言って、竜児の口から手を離した。
「言いたいことはそれだけ。それでは、櫛枝は帰ります」
頭に被ったニットキャップを更に深く被って目元を隠し、片手だけの簡素な敬礼をして、少女―――櫛枝実乃梨は竜児に背を向けて歩き出す。竜児から速く離れるように、いつもより速く歩き、いつもより歩幅を大きく歩いていく。
何か言ってくると実乃梨は思っていたが、背後から声が放たれることは無かった。
そして一度も振り返ることなく、実乃梨は竜児の前から去っていった。
◇ ◇ ◇
竜児の前から去って歩き続けた実乃梨。今は自宅に向かうでもなく、夜の大橋の町を歩いていた。
未だにニットキャップは目深に被り、目元は見えない。
「……」
だが、いかに目元をニットキャップで隠そうと、その目から流れ出る涙を隠すことは出来なかった。
声も出さず、嗚咽も漏らさず、ただただひたすらに涙を流す。
「何で、涙なんて……」
自分が泣く権利なんか無いのに、と独り言を零しながら歩く。
だが、そんな言葉とは裏腹に涙は止まるどころか更に溢れる量を増やしていく。
その涙が、実乃梨の心のダメージを如実に示していた。
自分から竜児の想いを遮り、自身の本当の気持ちを押し殺す。
言葉にすれば至極単純だ。
だが、『言うは安し、行うは難し』である。
実際にそのようにしてみると、想像していたものとは比べ物にならないほどダメージがあった。
心が苦しく、胸が痛い。涙が止まらないほどに悲しい。
それ程、実乃梨は竜児に恋をしていたのだ。
好きだった。大好きだった。ずっと一緒にいたいと思った。
だが、それは出来ない。
実乃梨は自分以上に竜児のことが必要な人物を知っている。
大河。
実乃梨にとっての無二の親友のことを思って、実乃梨は身を引いたのだ。
後悔していない。
自分は、絶対に後悔などしていない。
実乃梨はそう思っていた。
だが。
「っ……!くっ、う、うぅ……」
どんなに自分の心に嘘をつこうが、身体は正直に反応する。
今まで我慢に我慢を重ねてきたが、ここにきて限界がきた。
溢れる勢いを増す涙。
遂に口から漏れる嗚咽。
心の中で渦巻く悲しみの負の感情。
嘘だった。
真っ赤な大嘘だった。
後悔している。
死ぬほど後悔している。
今すぐに竜児のもとに駆け戻って、泣きながらさっきのは嘘だと訂正したいと実乃梨は願う。
だが、それは出来ない。
大河には竜児が必要だ。
大河の深い孤独と悲しみを包み込んで癒してくれるのは竜児以外に有り得ない。
実乃梨はそう信じている。故に自分の想いを押し殺した。
「―――いいよね……?」
嗚咽を漏らす実乃梨の口から、言葉が漏れる。
「―――ぐらいなら、いいよね……?」
涙で顔を濡らしながら、周りには聞こえない、自分だけに向けた言葉を漏らす。
「言うぐらいなら、いいよね……?」
その口調は、教会で神父に懺悔を聞いてもらっている信徒のソレに似ていた。
少し間をおいて、実乃梨の口が再び開く。
「好きだよ、高須くん。大好きだよ……」
それは、どんな思いで口にしたのか。
それには、どれ程の想いが込められていたのか。
誰にも聞かれず、誰にも知られず、涙が混じった実乃梨の悲しい独白は冬の空気の中に消えていった。
今回はここまでです。
導入部分になりますので、量的には少なめです。
物語の構想は大体出来ているのですが、ラストをどうしようか迷っているので、続きは遅くなりそうです。
では、今回はこの辺で。自分の拙作を見てくれてありがとうございました。
GJ!
七巻最後の竜児とのニットキャップのやりとりを思い出して切なくなりました
個人的にはあのシーンは好きなシーンなので補完していただき嬉しかったです
どう話を展開させるのか楽しみにお待ちしています
あれ?なんだこれは……あぁ、心の鼻血か……GJ
GJ
これは良いみのドラだな!
切なくて泣けてきた、続き待ってるよ!
そろそろ日記かななこいか腹黒様が帰ってきてもいい頃かなとか
修学旅行の続きも楽しみだったり。
ななこいの人はデータが一度消えたとか言ってたな
357 :
◆??? :2009/10/28(水) 17:07:58 ID:PtfxYpM7
トリップと云うものを付けてみました。(失敗してたらすいません)
久しぶりに、ちょこちょこと書いてます。
今度は完結してから投下させてもらおうと思ってます。
際には前日にでも申告します。
今度は迷惑掛けないよう心掛けます。
それでは失礼します。
日記でした。
なん・・だと・・!?日記復活とか俺歓喜すぎる
うはwww
超期待してるぜー!!
日記復活!?
まじかよ……
362 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 20:48:41 ID:5QvwcEOx
363 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 20:57:34 ID:+Bl4Kg4c
これは嬉しい知らせだな
最近活気が戻ってきつつあるね
やっぱり和気藹々と楽しいのが一番だよな
トリップは失敗したんだね。
まぁ、完結してからとなると大分先の話だろうな。
あの話がそうそう完結できるとも思えんし・・・
気長に待ちましょう。
>>357 日記の人?マジ……マジか!?待ってましたー!!
鳥肌が立ったわ!
ところで何その酉www
366 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 21:43:08 ID:1My+tb3M
やったー!まじで日記復活リアルタイムまつわ
オカエリナサイと言ってあげるわ
……しかしどーやって出すんだそんなトリ
いや、トリって失敗したらアレになるんでないの?
>>368 そーなのか
俺はてっきり、無効の場合は#の後に打ち込んだ文字列がそのまま表示されるもんだと思ってたわ
370 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 22:46:21 ID:1My+tb3M
今夜来るかな?
>>370 完結させたらと言ってるんだから今夜は無しだろ?
というか暫くは無いんでないかい。
前日に申告するとも言ってるし、まぁ落ち着こうぜ
一日千秋の思いで待つ
ほす
このスレで保守とか珍しいのぅ
岡田規制の影響か
昨日まとめサイトの日記1〜20まで全部読んで寝る時間が…
なんか規制の成果、酷いことになってるなあ。
うーん…
規制てどこかのサーバーとかの話ですか?
新聞やニュース見てるか?
新聞は見てない。
見てる内のニュースでは思い当たらない
すまん。理解した。
忘れてくれ
383 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/31(土) 16:27:27 ID:merHXGRJ
>>379 分かりやすい時系列
@事の発端は岡田による「天皇陛下への注文」、これでプチ祭り、様々な憶測
↓
A誰かが「岡田の天皇植木発言」という真偽不明の記事を書く
B岡田事務所よりAの記事の削除と書いた人物の特定の要請、法律云々を出して脅し
↓
C削除要請板の当該スレがプチ祭り、批判中心に議論カキコもあるが煽りが大半
↓
D削除人登場、まずは岡田事務所に文書で来いと注文つけてBの問題を実質クローズ
↓
Eあまりにスレが荒れて鬱陶しいので「削除に関係ない書き込みやったら規制するよ」と警告
↓
F警告無視で書き込み続ける奴らが数名
↓
GFの連中の使用プロバイダーを全サーバ規制、だがなおも無関係な書き込みがチラホラ
↓
H自動焼き★など数名がVIPなどにAのスレの誘導コピペ、一気に祭りとなる
↓
I大量に書き込めば規制されないと思い込んだか200以上のプロバイダーから書き込まれる祭り
社会や政治のあおりを食らった格好
興味ないといって無視したら周りから取り残される罠
385 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/31(土) 19:02:42 ID:Ya/VaCes
煽りを食らったというより無関係のやつらが勝手に騒いで巻き込まれたって感じなんだがな
うゆー(´・ω・`)
さて話は繋がるような繋がらないような流れだが
大河、亜美、実乃梨、他脇キャラも含めて竜児が馬鹿にされたりした時
どう反応するか、バラバラには色んなSSで出てるが、まとめて出てくるSSをお願いします
トリップ忘れちゃいました。
久しぶりに投下してみます。
「その、そういう風にされると、非常に恥ずかしいだが…」
「そう?でも、今更そんな事言っても聞かない。」
シたい様にする。と宣言した亜美は、仰向けに寝る俺のスネを尻に敷き、一言
「見せて」と言い放った。何をか。亜美によれば、
「だって、興味あるんだもん。あたしには付いてないモノだし。
漫画や動画で見た事はあるけど、生で見たいの。」
と、いう事らしい。
それで、俺から衣類を剥ぎ取り、爛々とした好奇の目をこちらに向けている訳である。
「そんな目で見る様なモンじゃねぇだろ?」
「確かにね。モノ自体は確かに汚物だよ。グロイ。」
「う…それはそれで傷つくな。」
「でもね、好きな人の、竜児のモノだったら…不思議と愛着っていうのかな?
可愛いとか、愛おしいとか、そんな風に思えるのよ。」
サラリと嬉しい事を言ってくれる。だが、だからと言って、俺の羞恥心が消えるかといえば、それはまた別の話であって。
良いじゃない。見せたって減るモンじゃないんだし。と、言われようとも、
俺の人としての大切な何かは、確実に喪失されている訳で…
「ココとかどうなってんの?」
「‐ッ!?」
「あはははは。ピクッてなったぁ〜面白〜い。」
裏側の筋を、亜美の長く細い指先が這えば、もはや俺の意志等は関係なく…
「もしかしてぇ〜弱点発見?もっともっと、色んな反応が見たいなぁ〜
ココはどうかな?あぁ〜ホントに二個あるんだぁ〜へぇ〜あれ?何かパンパンに膨らんできたよ?
あはは。先っちょから何か出てるよ?どれどれ。あ、にっがぁ〜い。
マズイ。もう一杯!!絞れば出るかな?あはははは。出る出る。何か、すっげえ楽しいかも。」
「うう…ぐ……う」
気が付けば…俺は泣いていた。
悔しかったのだ。男というよりは、モノ扱いされている様な感じがして。
そして、それでも気持ち良くなってしまう自分が情けなくなって、泣いてしまった。
自然と涙が出てきて、必死に止めようと思ったんだけど、そう思うと、余計、泣けた。
止めないと、と思えば思う程、涙が溢れて零れた。
そうして…次に気が付いた時…俺は亜美の腕の中にいた。顔を胸に埋めていた。
「ごめん。ごめんね。調子乗りすぎた。あたしが悪かったから。もう、シないから。大丈夫だから。」
よしよし。先程、散々俺を虐めた魔手が、俺の後頭部を優しく撫でていた。
「その…スマン。何で泣いたのか、自分でもよく解らねぇんだ。スマン…」
気マズイ。ただただ気マズイ。
亜美に慰められて、どうにか立ち直ったが、冷静にさっきの事を考えると、情けなくて。
「ごめん。」
その上、彼女に謝られると、余計情けなくなるって言うか…
「いや、別に嫌って訳じゃ無かったんだ。気持ち良かった。
ただ、勝手に涙の奴が出てきて。亜美のせいじゃないんだ。」
「…きっと、向いてなかったんだよ。あたしも、もっと上手く出来たハズなんだ。
ねぇ?あたしにも同じ事してみて?泣いちゃう位…ムチャクチャに。」
「な、何言って…何を言ってるんだ。そんな事、出来る訳ねぇ。
俺はお前にそんなヒドイ事したくねぇ。」
「ううん。シて。もしかしたら、あたしにはその方が、あってるかもしれないから。
意外とあたし、そっちのが良いのかも…責めは向いてないや。」
「普通にするっていう選択肢はねぇのかよ?」
ヤバイ。亜美の奴、何かとんでもない方向に爆進しようとしてる。
なんとか、軌道修正しないと、こいつには思い詰めるっていう悪い癖が…
「ダメ。もう竜児にヒドイ事しちゃったもん。だから、罰は受けなきゃ。
それに、もしかしたら、ご褒美になるかもしれないんだし。
あたしが泣いても喚いても、竜児は気にしないで…最後までシてくれたら良いの。」
俺が亜美を虐めて気持ち良いかどうか…それを、全く考えてないトコが何とも亜美らしい。
相変わらず、俺の都合は無視かよ。…もう慣れたけど。
はぁ…まあ良いか。例え、亜美を傷つけてしまっても…慰めてやれば良い。さっき俺がして貰ったみたいに。
とはいえ、俺に亜美を泣かせる事が出来るかどうか…その点は大いに疑問だが。
ともかく、精一杯、虐めてみるよ。それで、良いか?亜美。
俺の選択は、お前の恋人として間違えていないか?
ちゃんと、お前を理解出来ているか?
「おう。わかった。それで、亜美の気が済むなら良いよ。」
「うん。ごめんね。手間かけさせて。」
「手間って言うか…本当はオイシイんだけどな。ヤラセて貰えるんだから。
ただ、ちょっとした葛藤があるだけで。」
「葛藤?」
「お前が亜美じゃなかったら、こんなに悩まず、飛びついたかもしれねぇ。」
「どういう…意味?」
「好きだから。大事に思うから、二の足を踏むんだろうな。」
「竜児は優しいね。けど、今だけはダメ。優しくするの厳禁。
それに…初めてじゃないんだから、そんなに気を遣わなくても良いじゃん?」
「おう。そだな。よし俺も男だ。
せっかくだから楽しませて貰う。覚悟は良いな?」
「うん。」
まず俺は仰向けに寝る亜美のジーンズを脱がせた。
今更なんだが…足長ぇ…身長は同じか、もしくはちょっと勝ってると思うんだが、
足の長さは絶対負けてるな。流石、モデル…地味に…悔しい。
全くの余談ではあるが、俺は亜美の私服の中でこのタイトなジーンズが一番好きだ。
すらっと長く、しなやかに伸びる脚の付け根にしっかりと肉のついたヒップラインが…
いや、やめておこう。この事についてはまた今度にしておこう。
ともかく、コレにちょっと高めのヒールがついたブーツを履いてくれれば、きっと最高だ。
ただ、並んだ時にただでさえ微妙な身長差が、完全に逆転するのが難点なのだが…
………違った。そういう事じゃなく。いや、コレも結構、重要な要件だが、今は違う。
「…お前。何で、下履いて無いんだ?」
「ん?健康法。」
「嘘付け。」
「嘘じゃないよ。ノーパン健康法ってホントにあるんだよ?
…まあ、嘘なんだけど。」
「…意味が解らん。」
「つまり、ノーパン健康法は確かにあるけど、あたしがノーパンなのは違う理由があるって事。
ほら、シやすいでしょ?こっちのが。
それにこうなった以上履いてなくて良かったんだよ。」
「何で?」
「だって、こういう時は下着破るのがお約束でしょ?ビリビリって。
その方が気分出るじゃん?もしくは、丸めて口に押し込むとかさ。
けど、竜児の事だから、絶対MOTTAINAIとか言って破る訳無いし
いきなり口に押し込むのは、ハードル高いって言うか…ね。だから、最初から無い方がイイかな?って。」
「ああ…そう。」
前から思ってたけど、コイツってかなりどうしようもないレベルの変態なんじゃ…
ていうか下着って素手で破れるのか?ビリビリいくのはタイツだろ…MOTTAINAIから絶対やらねぇけど。
「そういう訳で履いてないの。」
「けど、直接ジーンズなんか穿いたら、肌が擦れて痛くないか?」
「うん。実は内股がヒリヒリして痛い。次からは、スウェットにしとく。」
「おう。なるほど。謎が解けた。」
「は?謎?」
「その剛毛は肌が擦れるのを守る役割があったんだな。ふんふん、なるほど。」
初めて拝観した日から思っていたが、亜美は意外にも毛深い。
以前、大河が言っていた『ぶぅおおん』は、この事だったのだろう。
俺としては、特に気になるトコロではないのだが…亜美的には気にしていたらしく
「な…!?どこ見て言ってんのよ?こんなの個人差があって当然だし。
てか、亜美ちゃん別に毛深くねーし。標準だもーん。これで標準なの。
今は冬だから、そんなに気合い入れて手入れしてないだけ。
てか、見た事あるの?あたし以外の女の子のを見た事があって、それで、あたしの方が毛深いっていうの?
」
どうせ無いでしょ? フフン。あんたはあたしのしか知らないんでしょ?
的な視線と口調に、ちょっと悔しさを覚え
「おう。ある。」
と、答えてやった。
「は?マジで?え、誰の?ま、まさか…タ…タイ…」
「待て。今、何を口走ろとしやがった?
違う。俺だって『肌色の多い雑誌』位見た事あるっていう意味で言ったんだ。」
「…えぇ〜〜〜。そんなの見た事ないのと一緒じゃん。
それに、あの人たちは撮影前にちゃんと手入れしてるんだから、それと一緒にしないでよ。
所詮、作りモノじゃん。偽物じゃん。フェイクじゃん。オーバーボディじゃん。」
「おう。お前が言うかよ?てかオーバーボディは違うだろ。
それなら、お前の手入れは俺がしてやろうか?」
「げ。それって、亜美ちゃんの毛を剃りたいって事?うわ。変態じゃん。」
変態……。変態…ね。何を言う男は皆、変態だろう。
「おう。変態じゃねぇよ。仮に俺が変態だったとしても、それは、陰毛の濃い女好きという名の紳士だ。」
「つまり…変態じゃん?」
「…。ま、それよりもだ。剃毛だっけ?良いぜ。やってやろうか?」
「え……マジ?」
「マジ」
「毛の濃い女が好きって言ったじゃん。今。」
「言った。でも剃毛にも興味ある。」
「……女の子の毛を剃りたがる男ってさぁ〜独占欲強いらしいよ?
竜児はさぁ、亜美ちゃんを独占したいの?」
「おう。当然だ。」
「###。そ、そこまで言うなら…剃らせてあげても…良いよ。」
なんて、営業用の甘ったるい声で言いつつも、亜美の頬はしっかりと紅潮していた。
俺がこの時どんな顔をしていたのかは…亜美曰わく
「ふふ。竜児ってば顔真っ赤。自分で言って照れてんの?」
だ、そうだが。生憎手鏡は持ち合わせていなかった。
「結構、恥ずかしいなぁ〜。これ、丸見えじゃん?」
毛を剃りやすい体勢になってもらえば、当然ながら、色々な穴が丸見えになる。
「っと。剃ってる時は危ないから、動くなよ?」
良く考えて見れば、映像以外で女性自身を直視するのは、これが初めてなんだっけ?
先ほどの亜美ではないが、自分に無いものだし、ちょっと…いや、かなり気になる。
開かれた亜美自身は、例えるなら、肉の花だった。
スーパーの精肉コーナーで売られている焼き肉セット。一パック1480円。
その中心に咲き誇る上モモ肉の花。肉牡丹。
「ひっ。変なトコ引っ張んないでよ。」
ブニブニとしか感触が、なんとも心地良く
「変なトコってドコだよ」
なんて意地悪も自然と俺の口から漏れていた。
「ドコ…って…その…ビラビラ摘まないで。」
恥ずかしさに消え入りそうな亜美の声が、俺の加虐心に火種を落とす。
その火種が炎となって燃え上がるのに、時間はそれほど必要なかった。
つづく。
別の話で亜美ちゃんが不幸まっしぐらなので、亜美ちゃんが幸せな話も平行させないと、亜美派の私は死んでしまうのです。
いつも投下が遅いのは許して下さい。
ここで寸止めかよ!
続きを早く書いてくれないとやっぱり亜美派の俺は死ぬ
楽しみに待ってます
同じですよ。久しぶりに投下しようと思ったら、トリップ忘れてしまいまして。
これからも度々、投下させて頂くと思います。どうぞ宜しく。
おお、わかりました。
題名『ドラドラ!(みの☆ゴン外伝)』です。
結局、今週もおじゃまする事にしました。みの☆ゴンのエロパートで没
にしたエピソードを再
構築して作っております。タイトル通り、麻雀ものですが、正直詳しく
ないので間違っていて
大きく不自然な箇所があるかもしれません。またエロパート=妄想モー
ドでしたので、例えば
変身したり、憑依したり、現実的には有り得ない描写があります。そし
て竜×実ものですので、
すきじゃない方はスルーしてください。現在、投下を自粛中していま
す、みの☆ゴンともども、
ネタとして気軽にお読み頂けたらと存じます。ちなみに5レスになりま
す。
時は夏休み。場所は川嶋家別荘。
竜児は彼女である実乃梨との初めてのお泊まり旅行で、超興奮。いつ胸が爆発してもおか
しくはなかったのだが、幸か不幸か、そこには当然、別荘オーナーの娘、亜美がいて、つい
でに大河と北村が一緒だったので、なんとか竜児は爆死しないで済むのであった。
そして初日の夜。五人は竜児の作った激辛カレーで撃沈後、リビングでテレビを鑑賞しな
がら、ガリガリ君でヒリヒリしている舌を癒していた……その時、歴史が動いた。
「麻雀で勝負よ!」
「「「「はあ?」」」」
と、大河の突然の発言に4人は唖然。なぜ大河がそんな事言ったのかは察しがつく。5人
が見ていたテレビでは映画『麻雀放浪記』がやっていたからであろう。とはいえ、思いつき
にもほどがある。しかし、たまたま麻雀道具一式があったのと、なぜかルールを全員知って
いたので、折角の旅行で、だらだら黙りこくって麻雀映画観てるいるより良いだろうと、5
人は卓を囲むのであった。
***
「竜児くん! ガンバ!」
グッと拳を握り竜児を応援する実乃梨。竜児は頑張らないわけにはいかない。何故なら、
特別ルールを採用し、脱衣麻雀になってしまったからである。−5000点につき一枚脱ぐ。
どうしてそうなってしまったかは5人とも覚えていないし、そんな事はもうどうでもよか
った。これは勝負なのだ。ちなみに竜児のかわりに実乃梨が脱ぐことになってしまった。
彼女なんだから仕方ない。らしい。
「ツモ! ああっ、しまった! チョンボしてしまったぞ! 仕方ない、脱ぐか!」
「待て北村。ワザとだな。お前の場合は脱がないで着るんだ。着ろ」
東1局。北村は全くの面子が揃っていないのに、牌を晒した。あえていうなら二対子。
七対子に対子が五つも足らない。わざと負けて、全裸になりたいのであろう。このナルキ
ッソスの申し子は。露出狂。つまりは変態である。
「なんで俺だけ着るんだ! 差別じゃないか。よくないぞ高須! ズバリ抗議する」
「よくないのはお前の嗜好だろうが! 脱ぎたかったらアガれ!」
***
それから時計の長針が半回転。部屋は、誰も煙草を吸わないのに、煙たさで空気が淀んで
いるような雰囲気。その中でひとり、大河はハッスルしていたのだった。東3局8本場。大
河の連チャンが続いていた。他の対戦相手が肌色が多くなっていく中、大河は、シャツを数
枚重ね着していった。−5000点ごとに脱ぐのだが、+5000点ごとに服を着れるのだ。
「ローン! タンピンイーペーコー、5800ぅ! きょほほっ!」
「どわああっ! マジかよ大河! み、実乃梨すまねえっ!」
「ひええ……あたしゃあ、下着オンリーになっちまったよ……ありゃ、大河何食ってんの?」
「え? みのりん。タコ……タコスだじぇ。あれ? 『だじぇ』ってわたし何言ってるのだ?」
そういえば大河のキャラがオカシイ……さっきからソッコーだじょっ! とかいくじぇーい!
とか……なにかが取り憑いている。麻雀に関わりある何かが……実乃梨がなぜか右目をつむり、
「それかあ!! 大河悪いけどタコス頂くぜ!……竜児くん大丈夫、道を作ってあげる……」
開眼して実乃梨は、大河から強引にタコスを奪い取る。しかも食ってしまった。ゴックン。
「あああっ! わたしのタコスが〜!!」
タコスパワーを失う大河は、一気に勢いがなくなり、北村に振り込んでしまう。あやうく
8連荘になるところであった。満貫8000点で、大河と北村は、一枚づつ脱ぐのだが、竜児は
意気揚々と上半身裸になる北村を眺め、はあっと深いため息をついた。
***
「よし! ロンだ。親ッパネ18000。これで俺は全裸か。いやまいったな! はっはっは!」
「……ズカーン」
さっきから亜美はツカなかった。打ち方には問題ないのだが、なんせ裏目に出る。例えば
面子の選択も、両面と、嵌張なら当然セオリー通りに両面を選んで切るのだが、次のツモは
ずっぽし嵌張が来てしまう。今もちゃんと捨て牌を読んで切ったのに跳満を被弾。3枚も脱
がなくてはいけない亜美。まったくツカンのである。
「ね〜祐作ぅ〜。3枚も脱いだらわたし、おっぱいかお尻、どっちか出さなきゃならないん
だよ? 幼馴染みのそんなあられもない姿、見たくないよね〜。チャイして? チャイっ」
「チャイ? インドのお茶か? なに? 無かった事にだと? そんな不正できん!」
とか言いながら、北村はブリーフを脱ぎ始めてしまう。しかし捨牌を覗き込んだ実乃梨が、
「ありゃ? 北村くん。これってフリテンじゃん。ほら見てっ。だよね? 途中から大きな
手を狙って、無理に染めっからだよ〜。北村くん残念っ! マジちょん4000オ〜ル!」
「うわあああ! 俺とした事があああ!!」
そんなに脱ぎたかったのか? ショックのあまり塞ぎ込む北村。あの秀才が染め手に切り
替えて多面張だっととはいえ、念願の全裸直前の痛恨のフリテン。興奮し過ぎだろと、竜児。
とりあえずそんな感じでポロリを回避した亜美だったのだが、その幸運が、新たな幸運を
呼び込む。亜美も、何かが取り憑き、ゴッドハンド化する。
「あ! 亜美ちゃん……降りて来た……きちゃったよ……リィーチ!」
タダでさえ美少女オーラを出しまくっている亜美が、よりに神々しく見える。
「へえ? ちょっと、ばかちー、まさか、あんた……やめなよっ、きゃああっ!」
ピカッ!……ズド━━━━ン!!!
「稲妻ヅモ!」
説明しよう!! 稲妻ヅモとは、素早く高速にジグザグに手を動かすことによって、暖か
い空気と冷たい空気の摩擦を起こさせ、1.21ギガワットの電気が生じさて稲妻を起こさせる、
とても危険な技である。
そして一発ヅモを誘発するのだが、なぜそうなるかは解明されていない……
「リーヅモ一発、ドラドラドラドラ! 3000/6000!」
「強えええっ! そんな地獄単騎をっ! てかドラ乗り過ぎだろ!」
現在の状況。
トップ 大河 すっ裸まであと10枚
2着 北村 7枚
3着 竜児(実乃梨) 5枚
ビリ 亜美 4枚
しばらく、神の手を持つ亜美の猛チャージが始まるのであった。
***
「竜巻ヅモォォ! リ一チイッパツメンピンジュンチャンリャンペーチンイツ!!」
「ちょっと、ばかちー! なによその長い名前の役はっ!! キモッ!」
「すげええ! 俺の当たり牌見逃して一発ツモかよ! しんじらんねえ!!」
4連荘で亜美にアガり続けられた挙句、数え役満。16000オール。ブラとショーツのみの
実乃梨は全裸が確定してしまった……竜児は恐る恐る実乃梨を見ると、何故か天使のような
温かい微笑みを浮かべている……と思ったら急に凛々しい表情になり、ふっふっふっふっと
不敵な笑い。
……すっくと立ち上がる。
「実乃梨?」
実乃梨は突然、リーチ棒を口にくわえ、手をクロスし……叫んだ。
「スーティー・フラッ〜シュ!!」
T字に両手をパッと広げると、キラキラと光を放ち始め、素肌に赤いコスチュームがカシン☆
カシン☆と装着され、肘まで伸びる白いロンググローブが現れ、そして、ピンクのヘッドセット
を最後にビシッと武装。くるりとターンして、決めのポーズ。キラン☆
「アイドル雀士スーティーパイ! 見参!!」
は? 突然の恋人の変身についていけない竜児。おっといかん、そんな事では恋人失格。
瞬時に理解を示し、実乃梨の奥深さに感銘する。っていうか、とてもかわいい。似合っている。
「爆裂! ファイヤーせっか〜ん!!!」
ズゴ━━ン!! 巨大化したリーチ棒で、亜美のツモ牌を破壊。イカサマどころの所業ではない。
なんでもありだ。
「ちょっとおお!! 実乃梨ちゃん、わたしの数え役満に、なにすんのよおお!!」
「ちょっくら破壊しただけだぜっ! はい、これが本当のあーみんのツモ牌っ!」
実乃梨が手渡した牌を、唖然とした亜美はぽろりと落とした。無理も無い。
「あ、それロンだ……すまねえ。対々和ドラドラ……」
「満貫直撃……亜美、飛んじゃう……」
亜美はせっかく着たTシャツを1枚脱いだ。しかし亜美は現在トップ。すっ裸までまだ9枚。
大河は残り3枚。北村はすっ裸にはほど遠く、たぶん15枚は着ている。らっきょのようだ。
「みのりんってば、ずるい……竜児ばっかり……わたしもピンチなんだけど……」
ずるいと言われて平気な実乃梨ではない。
「いよーし分かった大河! たしかにフェアプレーってかスポーツマンシップに反してたね?
公明正大にいかないとね? 大河にはこれだあっ! スペシャル召還っ発動!!」
公明正大とイカサマするのもどうかと思うのだが、実乃梨はその能力を発動。配牌を操作する。
「すっごおおい、テンパッてる! ダブルリーチっ!」
「テンパってる、だと?……それに比べてなんだこの俺の配牌は……俺は違う意味でテンパり
そうなんだが」
半分が公九牌の竜児。中途半端すぎてとても流し満貫をも狙う気になれない。竜児は字牌を
捨てると、とーし、とーし、とーしっと透視ではなく、後の二人も通し能力を発揮し、大河は
……当たり牌を引く。もう勝手にしてくれ。
「きゃああ! 本当に来た! ダブリー一発! みのりん、大好き〜!!」
きゃあきゃあ抱き合って大喜びする。竜児は箱寸前なのだが、脱衣役の実乃梨が大河サイド
についてしまった。仕方ねーな……ついに脱衣麻雀のルールに基づき竜児も脱ぎ出した。彼は
真面目なのである。すると、ゴッドハンドから見放された亜美も、実乃梨におねだりする。
「実乃梨ちゃ〜ん、わたしには〜?」
亜美にウインクし、実乃梨は亜美の傍らに移動。ジャンプ一番、
「いくぜ、あーみん! 必殺☆スーチー・スティッーック!! いっぱあああっっつう!」
今度はリーチ棒を手裏剣のように雀卓めがけて投げつける。ズドーン! 当たり牌が現れた。
「実乃梨ちゃんすっご〜い! ありがとー!」
「またかよっイカサマじゃねえかっ!」
ぶつぶつ言う竜児であったが、南4局、オーラスを迎えた。ラス親は竜児。裸を見たい訳
では決して無いのだが、勝ちたかった。納得出来ないのだ。しかし、麻雀は運もある。どう
しようもない事もある。なぜならこんな事になってしまった。まだ2巡目だというのに、
「うーむ……リーチしようか、それともダマでいくか……」
「……聞こえているぞ北村……そこまで言うなら何狙ってんだ。言ってみろ」
「役の名前は教えられないが、高須……ヒントだ。13面待ち」
ピクッと竜児の手が止まる。今手放そうとした牌は、西だった。絶体絶命。やはりこのまま
ぶっ飛んで終了なのか……西を戻し、中張牌を握る。弱い。相手の心理作戦かもしれないのに……
アガらなくては負けるのに、そんな弱腰で良いのかっ!! 竜児は自分を奮い立たせる。
「通ってくれ! うおおっ!」
覚悟を決めた竜児は手配の中から西を放出。もし国士無双なら放銃なのだが、北村はスルー。
何故なら、らっきょう状態で捨牌が見えないからだ。北村は盲牌で戦っていたのだった。命拾
いする。強運だ。そして、その強運が、竜児に最強の男を憑依させた。
「あンた、背中が煤けてるぜ……ポン」
「!! 竜児……まさかあんた……哭きの……」
「悪いナ。それロンだ」
もう何人たりとも竜をとめられなかった。
***
「え〜…マジ全裸になんの? ……高須くんの眼、変質者っぽくて、超キモいんですけど」
「高須エロ児っ! なにジロジロ見てんだド変態! この全身生殖器がっ!!」
勝負に勝って、酷い言われようだが、ゲームはルールが全て。恋人の実乃梨がいるとはいえ、
竜児も男の子。空前の美少女タイプの違う2人のフルヌードが見たく無いといえば、ウソになる。
くっそ〜仕方ないな〜と、大河と亜美が、着衣に手を掛けたその時。
「ハイパーせっか〜〜ん!!」
バキィッ!!!
……またもや巨大化したリーチ棒を、アイドル雀士実乃梨は、竜児の脳天に叩き込んだ。
***
「……おうっ…ここはどこだ?」
「わたしは誰?……竜児くん起きた? ぶっ叩いちまってゴメンよ?」
目が覚めた竜児を、心配そうな面もちで実乃梨が覗き込んでいた。
「二人のおヌード見せたくなくてよ……なんか、その……」
「いいさ、実乃梨……おお俺が見ていたいのは……実乃梨だけだ」
「ふぉっ、本当? じゃ、じゃあ、か、代わりにさ、その…わわわたしの…んんっ」
よく動く柔らかい蕾のような実乃梨の唇を、竜児は唇で塞いだ。実乃梨への愛情が欲情に
変わっていく。
「実乃梨……」
顔を真っ赤にさせた実乃梨は黙り込む。竜児は小さく鼻から息をすい、俯いている実乃梨
の顎に指をかけクイッと上げ、軽くキス。
「その、コスチューム、大胆だな さっき俺、かなりヤバかったぞ」
「ヤバいって何が?……あんっ、りゅっ……クスぐったいってばっ」
竜児の唇と舌が、実乃梨の頬を、鼻先をくすぐる。指は顎から、首筋を丁寧になぞり、
実乃梨は恥ずかしくなっていく。恥ずかしいのはそれだけ、モヤモヤした欲望が心の中
を満たしていくからだ。
竜児と、くっつきたい、強く抱きたい、竜児が欲しい……と。
チャイナドレスにも似たそのコスチュームは、数個のホックで留まっているだけで、簡単に
乳房はまろびでる。竜児はピンク色の先端に吸いつき、背中をのけぞらせる実乃梨を押し倒す。
「りゅ、竜児くっ……ふぅん……」
実乃梨はされるがままに、そのまま後ろに倒れこんだ。ポフッと、ベッドに沈むやわらかい音。
竜児の首筋に腕が巻き付かれ、抱き寄せられる。そしてキス。竜児の重みを感じながら、キスを
何度も、その甘い感触に溺れる。昼間遊んだ海で、シャワーを浴びても塩辛さが残る肌。日焼け
した肌の熱さ。そして、実乃梨の太腿には、さらに熱く、脈打っているモノ……押し付けられる
竜児を感じていた。お腹の奥がギュウっと疼く。竜児が欲しい。
恥ずかしさで実乃梨は顔を手で覆ってしまい、それを見た竜児は部屋の灯を落とした。薄暗
いが、変わりに月の明かりが実乃梨の優しい身体の輪郭を産毛がわかるほど際立たしてくれる。
竜児は自らのシャツに手を掛けた。そして、実乃梨が指の間から覗き見た竜児は、シャツが首
に引っかかっていて、しどろもどろしていた。
「くくっ……あれ?脱げねえ」
「あははっ、なーにやってんのっ 竜児くんっ。あンた、背中が煤けてるぜっ」
「な、なにを、をうっ!」
身動きが取れない竜児を、今度は実乃梨が押し倒し、黒レーズンを責める。そこは、とても
敏感だった。実乃梨の舌の動きに感電したようにピクピク動くのだ。実乃梨のいたずら心が少
しだけくすぐられていたのだ。
「うふっ、竜児くん……感じやすいんだ、ね」
「み、実乃梨を感じたいんだ……もっと」
「くすっ、うれしーなっ。竜児くん大好き」
実乃梨は竜児の黒レーズンにキスしたあと、シャツを一緒に脱がす。そして実乃梨も、最後の
布切れを剥ぎ取り、竜児の前に裸身を晒した。片腕で隠そうと、やんわりと押さえつけられた胸。
月明かりを頼りに三白眼は、日焼けの境界線、性別で決定的に異なる部分を視姦する。実乃梨は
皮膚にちりちり刺さる視線のむず痒さと、悦びを感じる。竜児くんは、わたしを、欲しがっている
……と。
「俺も……実乃梨に負けないくらい大好きだ」
竜児は実乃梨に飛び込む。それを受け取め、どうしようもない愛しいさに駆られていく。野性
になり、本能の赴くまま互いの肉体を貪り合う。
「実乃梨……リーチ……」
その意味を理解した実乃梨。
「ん。来て……」
盲パイをしていた竜児の指が、先端を濡らしたリーチ棒を握り、ニュルリと実乃梨に入り込む。
「ああんっ……」
そこは、狭いが豊かな蜜に塗れ、竜児を飲み込む。結合部は熱く、感覚が麻痺する。
「くはぁっ……実乃梨っ……」
「りゅ……はあっ……竜児くんっ……んはっ」
二つの肉体は、一つになろうと悶え続ける。決してそれは不可能なのだが、求め続ける。
「あっ、あっ、ああっ、んんっ
竜児の舌は実乃梨の口内をも占領し、一体になろうともがく。それは実乃梨も同じだった。
ムチュ、ちゅルンというもどかしいベーゼの音、ブシュン、ブシュンという淫靡な音が、
共鳴し、二人の激情は、頂点へ駆け上っていく。
「はんっ、あはんっ……いい……い、く……」
「はあっ、はあっ、一緒に、はあっ、くおっ」
互いの唇を、胸を、局部を、愛情を絡ませ確かめあう。やがて実乃梨の指が、竜児の汗ばむ
背中に深く食い込んだ。それが合図だった。
「竜児くんっ! あはぁっ!」
緊張していた裸体たちは、緩やかに一つになった。
***
「ねえ竜児くんっ!起きてる?」
「おうっ……起きてるぞ、実乃梨っ、それ、くすぐったいな」
クスクスしながら実乃梨は竜児の胸の真ん中らへんを指先で円を描いている。好き、とか
呟きながら……
その頃、別荘の1階では、2階のラブラブ・の二人を放っておいて、大河、亜美、北村の
3人は、朝まで1000点100cc……または100チロルの高レートで、熱くサンマ(3
人麻雀)を繰り広げるのであった……
━━という、もしものお話、でした。
おしまい
以上になります
お読みいただいたかたありがとうございます。
失礼いたします
kita-
またきたー
エロがあると小躍りするおいらはクンフーが足りないですね。GJ
SS投下
「NOET 3ページ目」
「あら? 逢坂さん、今日は来てないの?」
───早朝。
HRの最中、出席を取り始めた直後にゆりが意外そうに呟く。
「珍しいこともあるのね、あの元気以外は何の取り得もないような逢坂さんが休むなんて。
ひょっとして風邪でも引いたのかしら? 最近は季節なんて関係なしにインフルエンザが流行ってるくらいだし」
皆も気をつけてねー、と軽く締めると、ゆりは続けて出席簿に記帳されている生徒の氏名を、淡々と読み上げていく。
あの小さな体のどこにあんな体力が貯められているのか、それぐらい健康優良児な大河が休むくらいだから気にはなるが、
まぁ、こんな事もたまにはあるだろうと、取り立てて心配はしていなかった。
だが
「たっかっすっくーん・・・?」
意気揚々と竜児の名前を呼んだゆりの動きが止まる。
教卓に広げていた出席簿から目を離し、席に着いている竜児を確認しようとするが、どこにも見当たらない。
右手側を見てもいない。
左手側にも、やっぱりいない。
「もぉ、遅刻? しょうがないわね・・・いいわ、出席ってことにしときましょ」
あからさまなえこ贔屓に他の生徒から抗議の声が上がるも、完全に無視。
ゆりは蚊ほども気にせず、むしろ
(高須くんがやって来たら、まず言い訳を聞く前に遅刻したのを叱るでしょ? で、シュンとうな垂れちゃってる高須くんに
『でもね、先生高須くんはちゃんと来るって信じてたから、遅刻扱いにはしないであげたのよ。
今日だけ特別よ? わかったら、もう遅刻なんてしないでね。約束ですよ、高須くん』って優しく言ってあげて、それから)
そんな算段を頭の中の算盤でバシバシ弾いている。
(遅刻かー。なら高っちゃんが来るまではゆっくりしてられんな〜)
(だったらいいんだけどな。いやホントマジで)
今日も今日とて竜児を追いかけ回すつもりでいた春田と能登。
二人は束の間気を緩めた。
竜児が来なければ、自分達がやる事など何もない。
せめてゆっくり来てくれと、心から願うばかりである。
(いっそ今日ぐらい休んでくれてもいいんだけどなー、ハハッ)
(またお前そんなこと言って)
勿論本心からではないが、張り詰めていた神経が切れ、ほんの少し春田を調子付かせる。
諌める能登も、学校の中では久々に訪れた突然の休息を味わっている。
と、その時突然教室の戸がノックされた。
叱りつけた後、なんやかんやで部屋に上げた竜児とのあれやそれを朝っぱらから妄想していた三十歳独身(恋ヶ窪ゆり:雌)が
現実へと引き戻される。
何故か内股で戸へと近づいていったゆりは、戸の前で立っていた用務員と二言三言やり取りをすると、途端に肩を落とした。
用件を伝え終えた用務員を見送り、戸を閉め教卓へと戻ってきたゆりが溜め息を一つ、しかしすぐに手をポンと叩く。
「北村くん、悪いんだけど、先生突然用事ができちゃったんであとお願いね」
手短にそう言うが早いか、ゆりは教室を後にしてしまった。
任された北村は慣れた様子で号令を済ませると、先ほどのゆりと用務員の会話を聞いていたのか、
「どうやら高須の方が風邪を引いてしまったらしい。逢坂が来ないのも、その看病をしているそうだ。
そこで、放課後に代表として俺が見舞いに行こうと思うがど」
そこで北村の口が止まる。
提案をしようと教卓の辺り、それも戸の近くに立っていたのだが、間が悪かったとしか言いようがない。
雪崩のような勢いで教室から走り抜けていった実乃梨と亜美に轢かれてしまった。
「あーみん、なんか出席ヤバげなこと言ってたよね!? ここは私に任しちゃーもらえない!?」
「実乃梨ちゃんこそ部活があんでしょ!? それが終わってからゆっくり来たら!? まぁその頃には全部終わらせてっけど!」
廊下の向こうから響く絶叫。
壮絶な徒競走はバリバリ体育会系の実乃梨有利かと思われたが、中々どうして亜美も食らいついている。
二人の頭を占めているのは、『病気で弱っている高須くんの看病』という、またとないイベント。
ベタだが、ベタだからこそ安定した好感度のアップが見込めるというもの。
それをみすみす逃す手はない。
「アハハー、全部ってなんのこっちゃいー? ───させるかぁぁぁぁぁ!」
「そりゃー全部っつったら・・・キャアッ!? こんなろ、よくも!」
おんにゃの子的にそれって正直どうなのよ? と思わずにはいられない熱いデッドヒートと醜い足の引っ張り合いを校庭で繰り広げている
実乃梨と亜美を、2-Cのみならず他の教室、果ては一限目から外で体育だった生徒達が眺めている。
訳が分からないが、たまたま担当だった黒間が二人の仲裁に入ろうとするものの、亜美の足払いに躓いたところを
狙っていた実乃梨のアックスボンバーに刈られ、受身も取れずに頭から地面に叩きつけられてあっさりと撃沈。
痙攣する黒間には一欠片の興味も示さず、二人は再び足の引っ張り合いをしながらエスケープしていった。
「うへぇー・・・黒マッスルのヤツ、けっこうヤベーんじゃね? 動かなくなったんだけど」
「まぁ一応は鍛えてるし、大事には・・・あ、やっぱダメかも。なんか失禁してるっぽいぞ」
断続的にヒクついていた体が弛緩するのとほぼ同時、黒間に近寄っていた数名の生徒がバッと後ずさる。
女子からはキャーという、黄色い物ではなくマジで生理的な嫌悪感からくる悲鳴が上る。
この分では命は助かっても、職は失ってしまうかもしれない。
あまりにも不憫で同情を禁じえない、彼はただサボろうとする女子生徒二名を職務から注意しようとしただけだというのに。
「まるおー? ごめん、あたし女の子の日になっちゃったから早退していい?」
そしてここにも不憫すぎる者が。
実乃梨と亜美の二人によって物言わぬメガネと化してしまった北村に、ようやくかけられた声。
だがそれは友達としての心配や同情という物ではなく、あくまでこの場を預けられた者に対して放っただけ。
大体本当に女の子の日になってしまった、それも花も恥らう女子高生が、こんな大っぴらに打ち明けたりしないだろう。
よっぽど重くもなければ帰るはずもない。
抜け出す名目にしているのは明白だ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ありがとっ、じゃあね〜」
言うまでもないが、北村は一言も口をきいていない。沈黙を保ったままだ。
これもまた言うまでもないが、麻耶は北村に顔すら向けていない以前に、立ち止まってすらいない。
そして振り返りもせずに出て行ってしまった。
初めから返事などどうでもよかったのだ、どの道何か理由を見つけては抜け出すつもりでいたのだから。
これで、主だった女性陣が教室内から消える。
(さ、それじゃあなた達もお願いね)
奈々子以外は。
(じょ、冗談だろ・・・?)
まさか欠席している竜児を、そして今しがた教室から去っていった女子達をつけろだなんて仰せつかるとは思っていなかった春田。
気分はすっかり休みのそれ、授業はあれども暢気に過ごせると完全に思っていた。
だというのに、奈々子からの理不尽な『お願い』。
簡単には聞く訳にはいかない。ていうか聞きたくない。
(つってもさ、ほら・・・あれだあれ、俺らも授業とかあるし)
(お・ね・が・い)
(い、いや・・・けど・・・・・・)
(・・・・・・おねがい・・・・・・)
(あの・・・・・・)
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
何とか無理難題の撤回を求めるものの、奈々子は一歩も譲らない。
それどころかどんどん悲しそうに顔を歪め、拒否する度に暗く沈んでいく。
この手に何度騙されてきただろうと、弱腰になりかけている春田は己に言い聞かせようとするものの
「・・・・・・ヂィィ」
(あぁっ!? やめて! 行く、高っちゃんとこ行くから、だからここでそれはやめてぇ〜〜・・・)
所詮弱みを握られている者に選択の余地も、ましてや拒否権などありはしないのだ。
(ありがとう、春田くんならきっとそう言ってくれると思ったわ)
満面の笑みを浮かべ、感謝の意を表す奈々子。
対する春田は滂沱の如く涙を流している
涙がこぼれないように上を向いているのに、これでは何の意味もない。
ちなみに能登はというと
「北村? 俺と春田な、男の子の日だから早退するわ」
既に荷物をまとめ、相変わらず沈黙を貫き通す北村に早退の旨を伝えていた。
『男の子の日』という単語に色めき立つ極少数の女子がいたことを、教室を後にした能登と、
慌ててカバンを引っ掴んで能登の後を追った春田は知る由もない。
残りのクラスメートは、それを否定しなくてはならないはずの本人達が今しがた連れ立って教室から出て行くのを見てしまったがために、
まさかなと笑い飛ばしつつも、アホとメガネの同性愛疑惑を更に深い物へとしてしまった。
・
・
・
「ぁ・・・来ちゃった」
「あっそ。それじゃ」
インターホンを鳴らしたのに中々開かないドアに焦らされ、控えめにノックすること三回。
もう一度鳴らそうかと思案している時に、ようやく開いたドア。
若干の緊張と恥じらいを含ませ、とても生徒の見舞いに訪れたとは思えない艶っぽい声を出したゆりを、
出迎えた大河は素っ気無く追い返した。
「待って、先生は高須くんのことが心配で」
「ありがた迷惑だから帰んなさいよ、本っ当に空気読めないわね。だから婚期を逃しまくってんのよ、この三十路」
チェーンまでしっかりとかけて家の中には上がらせまいとする大河に、ゆりも形振り構わず、セールスマンがするように
ドアの隙間に足を突っ込んで閉めさせまいとしている。
挟まれ、大河の力で万力の如く締め上げられる足の骨が悲鳴を上げ、のた打ち回りたい衝動が全身を駆け回り、
勝手なことを並べ立てるその口を縫い付けてから力いっぱい引き裂いてやりたい程の怒りが湧くが、表には露ほども出さない。
「そんな事言わないでここを開けて、逢坂さん。高須くんの具合を確かめたらすぐに帰るから、ね?」
それどころか心底竜児を心配し、あくまでも教育者の立場としてここまできたと言う風に取り繕う。
相当な演技力だ。教師よりも、女優にでもなっていれば今よりも稼げていたかもしれない。
幸せになれるなれないはまた別の問題として。
「イヤよ。大体なんでこんな時間から来んのよ、まだ授業中でしょ。おかしいじゃない」
だが、怪しむ大河は疑いの眼差しを解かない。
野性の勘か女の勘か、ともかくゆりの言動から何かきな臭い物を感じ取り、頑なにドアにかける手から力を抜かないでいる。
「どうしたの〜、大河ちゃん」
と、そこへやってきた泰子。
隙間からできるだけ家の中の様子を窺っていたゆりに衝撃が走る。
(え? 誰? だれあの人、なんかすんごい女の匂いがするんだけど)
肩ヒモがずれたタンクトップに短パンというラフな格好で、気だるげに壁に寄りかかっている泰子。
(う・・・でっか・・・)
とても高校生の子供がいるとは思えない色気と、そしてなんといってもその胸。
竜児お手製のイソノボンボンがたっぷり入った豆乳の効果か、睡眠時間の割には張りを保っているそれが、
腕を胸の前で組んだために持ち上げられ、今にもタンクトップからこぼれ落ちそうになっている。
思わず自身のモノと見比べた。
(ま、負け・・・い、いいえ、負けてないわ! 女の価値はもっと別の部分が大切なんだから。
それにこの人に比べれば慎ましやかかもしれないけど、私だって十分に母性は育ってるし、逢坂さんにだったらヨユーで・・・)
今度は大河のと比較してみる。
しかし、いくらやろうとしても胸部に焦点が定まらない。
ストンと視線が落ちて、お腹まで一緒に視界に入ってしまう。
「・・・・・・なによ、ヒトのことジロジロ見たりして」
「あ、ご、ごめ・・・本当にごめんなさい、逢坂さん。
・・・大丈夫よ、そういうのが好きな男だって、先生死にたくなるくらい見てきたから。自信をもって」
「はぁ?」
女に生まれたなら誰もが第二次成長前後に経験する悩みを、この娘は一生抱えていくのかと考えると、
優越感よりも余程可哀想になってしまった。
そんなゆりの考えが、我知らず哀れさを滲ませていた目から伝わったのだろうか。
「よくわかんないけど、なんかムカつくわね・・・絶対に開けてやんないから、いい加減諦めて帰りなさいよ」
「いたぁっ!? 痛たたた、ああ逢坂さん! ちょっとホントに痛いってこれ足抜けないんだけど!?」
両腕により一層力を込めると、大河が思いっきりドアを引っ張る。
食い千切られそうな痛みにとうとうゆりが悲鳴を上げた。
「ほ〜ら、早く帰るって言いなさい、三十路。足が潰れない内に」
獰猛な笑みを浮かべる大河。おそらく半ば以上本気だろう。
だが、ゆりとて何の準備もなく手ぶらで来た訳ではない。
「わ、わかったわ。帰る、帰るから、せめてこれだけでも受け取ってちょうだい」
悶絶寸前の体でどうにか足元から拾い上げたのは、お見舞いの定番、フルーツの篭盛。
それもどこで買ってきたのか、漫画やアニメにでも出てきそうな大きな篭一杯に色とりどり、種々様々な果物が所狭しと入っている。
バナナにリンゴ、季節はずれのパイナップル、更にはなんとメロンまで。
竜児はたかが風邪を引いて寝ているだけだというのに、物凄い気合の入れようだ。
「わ〜、やっちゃんそんなの見たのって初めてぇ。本当に貰っちゃってもいいの?」
「え、えぇ。どうぞ召し上がってください、遠慮なんていりませんから」
(いやそれ高須くんのために持ってきたんだけど・・・本当に誰なのかしら、この人)
見た目のインパクトも凄まじく、ゆりの狙い通りに興味をそそられた泰子が寄ってくる。
ここぞとばかりに取り入り、崩そうとかかる。
「じゃ、それはそこに置いといてね。ご苦労さま」
しかし大河という壁はまだ厚い。
絶壁か大平原のように真っ平らで薄っぺらい胸とはえらい違いだ。
普通土産持参で、それも仕事まで放棄してきた見舞い人をここまで徹底してあしらわない。
「・・・逢坂さん? 先生になにか怨みでもあるのかしら、さっきから悪意しか感じないのは気のせい?」
「なに言ってんの、怨みとか・・・むしろ怨まれたくなかったら早々にこっから立ち去りなさいよ、ババァ」
いよいよゆりの堪忍袋の緒がプチプチと音を立てて千切れだした。
この篭盛は見た目を裏切らない値段がしたのだ。
学校にだって事後承諾という形で無理やり休みをもらった。
というよりも電話で連絡をし、一方的に捲くし立てて、返事を聞く前に切った。
社会人、ひいては聖職者にあるまじき行為だ。
それでも、信用やら評価やらを下げるのを覚悟で馳せ参じたというのに、肝心の竜児には挨拶もさせてもらえないどころか門前払い。
しかも竜児本人にならいざ知らず、何故か我が物顔で竜児の家に居座る大河と、あと何かよくわからないぽわんとした女に。
好印象を与えようと大人しくしていたが、そろそろ我慢の限界だ。
ゆりが反撃に移る。
「そういえば何で逢坂さんが高須くんの家にいるのかしら? あなただって授業があるはずよ」
「そんなの、竜児を看病するために決まってんじゃない。いいから、話ズラそうとしてないで早く帰んなさいよ」
「待って。だって、逢坂さんがそこまでする必要なんてないでしょう? お家の方だっていらっしゃるんだから」
「そうよ〜大河ちゃん、やっちゃんがいるんだから心配ないよ」
割って入ってきた泰子にゆりが一瞬目をやる。
頭の天辺から爪先までを見ても、外見からは自分とそう歳に開きがあるようには思えない。
一体この家の、竜児とどういった関係なのだろう。
母子家庭というのは知っていたが、姉がいるとは聞き及んでいない。
(・・・・・・ひょっとして、この人がおか)
「やっちゃんと二人っきりにさせるのが心配なのよ!
待っても待っても起こしに来ないと思って来てみたら竜児のベッドで一緒に寝てるし!」
さり気なく起こしに来るのを起きてスタンバイしていたのを暴露しているが、幸運にも誰もそこには気付かなかった。
(───じゃないわね、うん。母子でとか、もう過ちなんてもんじゃ・・・ってなによそれ!?)
「だって・・・竜ちゃん中々起きてこないから、どうしたのかなーって見に行ったら何だか苦しそうにしてて、それでぇ」
それでどうして添い寝という選択肢に辿り着くのか。
「そ、それはいくらなんでも・・・・・・」
マズイのではないか、と無言の中に込めるゆり。
正直に言ってそんな甘々な事を平気でやってしまえるのが羨ましいが、教師としてはそういった生徒の爛れた関係は見過ごせない。
まぁ自分がやってしまったら全力で言い逃れするのだろうが、それはそれ、これはこれ。
世の中ではそれを棚上げという。
「なに言ってんのよやっちゃん! 熱だって高いのに、余計に酷くなっちゃったらどうすんの!?
もし竜児になにかあたったら・・・私・・・・・・」
本気で竜児を心配しているらしい大河に、ゆりは少し感心した。
なにも独占欲のままに弱っている竜児を監禁していると思っていた訳でもないが、こんなに真剣になっているのを目の当たりにすると、
下心が多分にあった自身がちょっとだけ情けなくなってくる。
「でもぉ、大河ちゃんが作ったお粥よりは全然いいと思うんだけど」
ピタッと、「だから竜児の看病は自分がしないといけない」と主張していた大河が止まる。
「・・・やっちゃん、それどういう意味?」
「そのまんまだよ? あとね、イヤがる竜ちゃんに無理やりあ〜んってさせてたのもどうなのかなぁ・・・」
「そそ、そんなことないもん! 竜児、嫌がってたりしてないもん! お粥だって、おいしいって褒めてくれたもん!」
真剣な中にしっかりと下心もあったらしい大河に、あぁ、やっぱりという物を感じたゆり。
焦りようを見ても分かる、図星だ。
おまけに何だか不穏な空気になってきた。
このまま放っておいたらいつまで続くか分からない。
「あの、お取り込み中のところすいませんが」
そう止めに入るものの
「そうだね〜。けどやっちゃんが作った方のお粥はおかわりまでしてたよねぇ、竜ちゃん」
「それはきっと私の作ったお粥がおいしくって、ちょっとは調子よくなったからよ」
無視。スイッチが入ってしまった二人はゆりを放って言い合いを始めてしまった。
ちなみに二人の作ったお粥が竜児の下へと運ばれるまでには開きがある。
理由は単純に手間の違い。
トロイながらも出汁までとっていた泰子と、研ぐどころか水洗いもせずに直に鍋に張った水に生米を突っ込んだ大河なら、
当然先に出来上がるのは大河の方だ。
火加減が分からずにとにかく強火で煮立たせていたのも時短に一役買っている。
「・・・一応聞くけどぉ・・・大河ちゃん、あのお粥、ちゃんと味見した?」
「してないけど・・・でも、竜児はおいしいって言ってたわよ。
あんまり自信なかったんだけど、私が思ってたよりは上手にできてたみたい」
おこげというよりも完全に鍋底に焦げ付いた部分からの深すぎる苦味と、ジャリジャリと芯の残った米粒が織り成す奇跡のハーモニー。
ハッキリ言わずとも失敗している。
そんな物を食えという、風邪を引いて弱る体にはあまりにもな仕打ちを、何故竜児は拒否しなかったのか。
『こ、これ・・・ちょっと失敗しちゃったけど、でも、あの・・・少しは食べた方が体にも・・・うぅ〜・・・・・・』
おずおずと自信無さ気に差し出されたお椀。
ただ米を煮ればいいだけの簡単な料理ですら満足いく出来にならなかった事に落ち込む大河。
心配してわざわざ作ってくれたそれを、まさか気持ちだけで十分だなんて言えずに、
『待って、その・・・辛いでしょ? 辛いわよね、風邪なんだから・・・だだだだから、私がたた、食べ・・・ぁ、あ〜んして、竜児』
竜児はひたすら無心に、大河お手製のお粥っぽい米を煮込んだ何かを手ずから口に入れられ、嚥下していった。
風邪のためかいつもよりも舌が鈍くなっていたのが不幸中の幸いと言える。
うまい───搾り出すように吐いた大河を傷付けないための嘘は、正確に味が分からなかった分だけ軽くなっていたから。
「そ、そう・・・かなぁ・・・」
「そうよ、そうそう。私のお粥があったから、だから竜児、やっちゃんのお粥だって全部食べられたのよ」
竜児の身を削った嘘を、冗談ではなく本当の本気にしている様子の大河に泰子は内心引く。
誰が見ても一目瞭然、竜児はそりゃもう相当嫌がっていたのだが、恋は盲目とも言う。
大河もご他聞に漏れない。大河以外の面々もご他聞に漏れない。
「だからね? やっちゃんは余計なことしないでいいから寝てて、私が看てれば十分なんだから」
得意満面、胸まで張っている。
竜児に褒められたことで要らぬ自信をつけてしまったようだ。
「それ、そっくりそのまま大河ちゃんに返すよ」
時間がかかりながらも、出来上がった自分のお粥を泰子が持っていくと、そこには食前よりも顔色を悪くしている竜児。
隣に座って照れ笑いを浮かべる大河はそんな竜児に気付かないのか、かいがいしく世話を焼いている。
あぁ、余計なお世話ってこんなのを言うのかなぁ、と思いながらもテーブルに鍋を置くと、漂ってくる香りに竜児が反応した。
お椀によそって渡せば、最初こそ怯えるように震えて手を付けられなかった竜児。
しかし意を決して一口食べれば、そこからは猛烈な勢いでお椀と、そのまま鍋の中身を一気に平らげてしまった。
大河の時とは大違いだ。
「さっきのモノだけでは回復など到底見込めない、むしろ・・・と、とにかく何でもいいから栄養をつけろ」と、
体が自然に求めたのかもしれない。
だが、ナイチンゲール大河はそういう部分は都合よく、それも大きく曲解している。
このまま任せてしまえば、竜児を余計に苦しませる結果になるのは目に見えている。
なので泰子も譲らない。
大河も、滅多にない竜児との二人きりのチャンスを全力で確保しようと躍起になる。
二人は玄関先にも関わらず、昼になるまで熱い口論を繰り広げていた。
「・・・あ、このバナナおいし・・・高須くんに持ってきた、高須くんの・・・ふふ、ふふふふふふふふ・・・・・・」
足を挟まれているため、帰るに帰れなくなってしまったゆりを置き去りにして。
・
・
・
「大河ー! 居んのはわかってんだから出てこぉーい! いっつもいっつもズルいってばー!」
「高須くんのお見舞いに来ただけっつってんでしょ!? ドチビはカンケーなんだいんだからさっさと開けなさいよこの××××!!」
本気で病人の見舞いに来たのか? と疑わずにはいられない騒々しさでアパートのドアを叩きまくっている実乃梨と亜美。
既に時刻は正午過ぎ、竜児が二度目の地獄を文字通り舌で味わった後になってから、ようやく二人はやってきた。
「うるさいわね、たく・・・ていうか、二人ともなによその格好。ボロボロじゃない」
「あ、これ? 聞いてよ大河、これさぁあーみんが」
「はぁ? 亜美ちゃんに責任なすり付けないでよ」
適当な時に追い返したゆりの時同様、チェーンをかけたドア越しの大河の指摘通り、二人の格好は酷い物だ。
髪型やメイクはキレイなままであるため、おそらくどこかで直してきたのだろうが、着ている制服は埃まみれ。
解れてしまった部分も見受けられる。
「・・・帰った方がいいんじゃない」
「やだ」
「あんたが帰りなさいよ、邪魔なだけなんだから」
そんな装いで他所様の、それも見舞いに訪れた二人を見た大河は思う。
常識、ないのかしら? と。
この面子では一番一般常識が欠如している大河をしてそう思わせるのだから、かなり酷いナリをしている。
しかし二人は一歩も引かない。
数時間にも及ぶ足の引っ張り合いの末、「このままでは見舞いどころではない、ここは一先ず収めよう」と、
ようやっと不毛な争いを一旦止め、癪だが互いのやりたかった事等を妥協しあい、
既に起こしているであろう大河のアクションも踏まえながらの綿密なシュミレーションを行ってきていた。
相手が腹に一物置いているのをお互い感知しながらも、表面上はガッチリと協定を結んでいる。
手を組むときは組む、出し抜くときは出し抜く、それが女の子のジャスティス。
そしてそんな女の子に気付かないのが男のファンタジー。
「だって二人とも、そんなんで竜児の前に出るつもり?」
字面だけならば、割りと心配している。
ニュアンスもそう聞こえるだろう、その顔面に貼り付けたにやけっ面さえなければ。
大河は竜児の名前を出し、暗にこう言ってるのだ「引かれるかもよ」と。
「平気平気ー、上だけ脱ぎゃ余裕だって」
「心配してくれんの? だったらエプロン貸してよ、それだけあればなんとかなるから」
だがそんな遠回しな脅しもなんのその。
服? なにそれ食えんの? とでも言うように、二人は己の格好に無頓着だ。
それでいいのか女子高生。
(今日シャツしてないから、多分線くらいは見えてるはず・・・
恥ずかしいけど、こういう時に女の子って意識させとかないと・・・あ、なら髪とかも結っといた方が・・・高須くん、気付いてくれるかな)
(問題はどこまで、よね。さすがにいきなし全部脱いだらガチで引かれるだろうし、かといって制服の上に普通に着けただけじゃ意味ねーし・・・
ここは『上ブラ、下スカート』の変則? ・・・いんじゃね、それ。うん、それでいこっと)
本当にそれでいいのか女子高生。
「・・・帰ってくれない、マジで」
二人から漂う不穏な気配を察知したのか。
大河が不機嫌さを隠そうともしないで、返事も聞かずにドアを閉めようとする。
だが、そうは問屋が卸さない。
大河のやる事なんてお見通しだよーと言うように、実乃梨がゆりと同じくドアの中へと足を突っ込む。
中途半端に閉じられ、張っていたチェーンが緩んだのを確認すると、どうせこんな事だろうと思ったわよ、アホチビと口に出しながら、
亜美が腕を差し込んでチェーンを外す。
抜け目のない、それでいて流れるような巧みなコンビネーション。
開け放たれたドアの存在を知覚した実乃梨と亜美はアイコンタクトする。
交わり、刹那に解かれた視線からは、他人からはようとして知れないやり取りがあったのかもしれないが、
きっと短く纏めればこういうものであろう。
じゃ、もういいよね?
手を組むときは組む、出し抜くときは出し抜く、それが女の子のジャスティス。
仲良しこよしで手を繋いでいられるのは子供の内だけなのだ。
二人はもう子供ではない、れっきとした年頃の女の子。
用さえ済めばスッパリ切る。
本当に繋ぎたい手は、もうすぐそこ。
実乃梨と亜美は、唖然としている大河を尻目に高須家へと───・・・
「甘いのよ、みのりん、ばかちー」
結論から言えば、二人は高須家への侵入を果たすことはできた。
もっと詳しく言えば、高須家の土間までは入ることができた。
しかし、そこまで。
そこから先へは一歩たりとも進むことは叶わなかった。
何故か。
「た、い・・・が・・・」
「・・・ちょ、っと・・・さすがにガチでやるなんてありえねぇだろ・・・」
それはシンプルかつ一番手っ取り早く、そして最も有効的な手段を大河が用いたため。
実力行使。
檻という物は何も中の猛獣を拘束しているだけではない。
檻の外の安全も守っているのだ。
高須家と言う一種の檻の中へと安易に足を踏み入れてしまった非力な・・・とは言いづらいが、ともかくただの女子高生に、
縄張りと縄張りの中に大事に大事に監禁している竜児を守ろうとする虎に敵う訳がない。
「・・・さ、二人とも気が済んだでしょ。あんまりうるさくすると竜児が起きちゃうからもう帰ってちょうだい。
私がしっっっかり看てればすぐ治るんだから、それまで邪魔しないでね」
振りぬき、見事に実乃梨と亜美のどてっ腹に命中させた拳を引っ込める大河。
情け容赦ない本気の一撃をお見舞いされた二人は、蹲ることも出来ずに激痛で硬直している。
しかし、徐々に遠のいていく意識と共に膝が震えだす。
最早転倒は免れない。
「くぅ・・・た、高須くん・・・」
「ちくしょう、ここまで来て・・・」
満身創痍。
それでも尚、己が望んだ未来へと道を切り開き、突き進むべく前へと出ようとするのは淡い恋心と、やはり意地だろうか。
倒れるかよ、倒れるとしても前のめりだ。
せめてその心だけでも置いていこうと、正面から倒れこむように二人はふっと体から力を抜く。
「じゃあね、みのりん、ばかちー。多分明後日ぐらいには学校行くから」
それすらも許されず、瞬時にドアの向こうへと放り出されてしまうのだが。
天岩戸さながらに固く閉じられたドアの前では、兵共が夢のあと、屍同然に横たわる、
足の引っ張り合いの末に迎えた結末に涙を滲ませる女が二人。
そんな彼女たちを誰が笑えようか。
「・・・ふふ・・・ふふふふ・・・・・・」
ここに居た。
咽び泣く実乃梨と亜美を隔てたドアの向こうから見据え、一人ほくそ笑む大河。
今この時ほどこの言葉が似合う場面もないだろう、勝てば官軍。
そう、大河は勝った。
一番の脅威である実乃梨と亜美の二人をいっぺんに自慢の拳で叩き伏せ、粘着質な担任の独女も追い返すことに成功した。
他はさすがにここまでやって来ないだろうし、やって来たとしても、せいぜい名前が付いただけのモブ程度。
今の二人に比べれば一睨みで追い返す自信がある。造作もない。
しかも時刻はまだ正午過ぎ。
時間はいくらでもあるのだ。
「・・・これで・・・」
───床に臥せる竜児。
熱のせいか、赤くなった顔から汗が流れている。
それを優しく拭き取ってやる大河。
たどたどしい手つきでも、労わりを籠めて、何度も手にしたタオルで肌の上を滑らせる。
それでも竜児の熱は中々引かず、流れる汗も止まらない。
当然竜児が身に纏っている衣服は濡れてしまう。
このままでは体が冷えてしまい、風邪を拗らせてしまうかもしれない。
着替えるしかない。
だが、その前にまず体を拭く必要がある。
熱で朦朧とする頭、だるさで体が鉛のように重く感じる今の竜児には一苦労だろう。
ならば、今していたように大河が背中を始め、体を拭いてやるしかない。
しばしの沈黙。
なんだかんだ言いながらも、肌をさらけ出すというのはやはり異性として意識してしまう。
見るなよ、見ないわよというお約束の言葉をかけ合いながら、ドキドキと高鳴る胸を悟られないよう押さえる。
背中を向けた竜児がシャツを脱ごうと裾に手をかけるが、汗を吸ったタオルは肌に張り付き、思うように脱げない。
見かねた大河が手を貸してやり、シャツを脱がせる。
すると微かに鼻孔をくすぐる、独特な臭い。
竜児の、汗の臭い。
竜児と竜児が着ていたシャツから漂うその臭いに、上半身に何も纏っていない竜児に、大河は頬を染める。
言いようのない何かを頭の中から必死に追い出そうとしていると、竜児が咳き込んだ。
ハッとして、大河は慌てて背中をさする。
段々と呼吸を落ち着けていく竜児に安心しながら、大河は小さく謝罪し、頬を軽く張った。
今、竜児が頼れるのは自分だけ。
妙な考えに囚われていないで、今はただ竜児の身を案じ、真摯に接しなければ、と。
そう気を取り直して、できるだけ丁寧に竜児の体を拭う。
ゆっくりと、時間をかけて。
背中全体を拭き終えると今度は腕へ、次に胸板へ。
そこで気が付く。
まるで甘えるように、もしくは縋るように、または求めているように、背中から抱きついている格好の自分。
カァっとさっきよりも頬が赤くなり、耳まで染まる。
そんな時、回した腕、タオル越しに手の平へと伝わってくる鼓動。
それが、大河に知らせる。
───竜児も、ドキドキしてる・・・
ドクン、と一際大きく胸が跳ねる。
大河自身のそれか、それとも竜児の物か。
いつしか体を拭くのも忘れ、目の前に背中に抱きついていた大河には、それすらも分からなくなっていた。
触れ合った部分から竜児の体温が移り、頭がぼんやりとしてくる。
荒くなっていく呼吸を鎮めようと深く息を吸うと、肺一杯に竜児の臭いが充満する錯覚に襲われる。
何がなんだか分からなくなり、自分の中を蝕む得体の知れない感情から逃げるように大河は更にしがみつく。
その手に、そっと竜児の手が重ねられた。
ただ重ねられていただけの手が、やがて指の一本一本を絡めながら握られる。
そして───
「・・・そうだ、タオル用意しとかなくっちゃ・・・一枚で足りるかしら・・・か、替えの下着とかも、あった方がいいわよね・・・」
ゆうに十分はその場に立ち尽くしていたかと思うと、大河はパタパタと居間へと歩いていった。
これから昼食からこっち、ひたすら横になっている竜児が目を覚ますまで手なんかを握り締めながら付き添い、
起きたらすかさず寝汗がどうこう言って竜児を剥くだろう。
それができなくても、他にもいろいろと手を変え品を変え竜児に『看病』と言ってはベッタリ張り付いて離れないに決まっている。
メンドクサイ相手はとりあえずは帰したのだ、焦る必要はない。
時間はまだたっぷりとあるのだから。
・
・
・
「要塞かよ」
難攻不落的な意味では要塞と喩えても差し支えないだろう。
見た目は古臭い、どこにでも在りそうなただのアパートなのだが。
「いや、俺には虎の穴に思えてきた。あそこは近づく奴は何人も襲いかかって食い殺す凶暴でおっかない虎の住処だ、絶対」
虎穴にいらずんば虎児を得ずならぬ、虎穴にいらずんば竜児を得ず、と言ったところか。
その内本当に子虎でもできそうな予感がしてより生々しい。
「あー、なんかそのものずばりな気がする・・・そんで高っちゃんは哀れな生贄みたいな」
「生贄かどうかはともかくとして、まぁ、哀れだろうなぁ高須は・・・さて、と」
ポケットからケータイを取り出した能登。
御座をかいた膝の上には、毎度の事ながらあのノートが鎮座している。
竜児と竜児の行動、周りにいる女性、女性がしかけたアプローチやらが微に入り細に入り克明に記されている、
他人には絶対に見られてはならないストーキング日誌。
しかしながら、それまで使っていた物と比べると真新しい。
先日とうとう一冊丸まる使いきり、晴れて二冊目に突入したのである。
キリもいいしそろそろ・・・と、手垢と汚れで少々よれてしまった前のノートを手渡した時に持ちかけてはみたのだが、笑顔で却下。
奈々子は待ち構えていたように今能登の膝に乗っかっている新しいノートを差し出してきた。
受け取った能登も笑顔だった。目以外は。
「何してんだ?」
「ん? あぁ、いつこっちに来んのか一応聞いとこうかと思って」
聞いてくる春田に答えながら、能登はケータイを操作する。
追いかけるよう命じられてはいたが、現実的に能登と春田の二人では教室から出て行った全員の動向を全て把握しきれないので、
向こうからやって来るのを待ってる方が効率的だとずっと張り込んでいるのだ。
思惑通り午前中にはいの一番にゆりが、時間を空けて昼には実乃梨と亜美が。
しかしいつ来るのか分からないと言うのはけっこう神経を遣うもので、春田にしろ能登にしろ既に疲労が見え隠れしている。
昼食だって摂っていないし、用を足しに行くにも満足に動けない。
あと姿を現していないのは麻耶と奈々子の二人だけなのだから、せめて片方だけでもいつ訪れるのか知っている方がまだ気が楽だ。
そういう考えの下、今までの報告を兼ねて、能登は奈々子へとメールを送った。
「・・・高っちゃん、早く良くなるといいよな」
「そうだな、本当に・・・」
ふと、春田の口からこぼれたセリフに能登が同意する。
これは心からの心配である。
こんなのが何日も続いたらこっちの身が持たねぇ、といった思いも無い訳ではないが・・・
「「 大変だろうな、あれじゃあ・・・ 」」
それを差し引いても、あんな監禁紛いどころかギリギリ監禁じゃない程度の扱いを受けている竜児が甚だ忍びない。
こっちもそうだが、あっちの方がよっぽど身が持ちそうにない。
今日だけでも身を崩してしまうのではないだろうか?
そもそもの原因が身を崩したために舞い降りた悲劇に、能登も、普段は羨ましがる春田でさえも竜児に本気で同情する。
自宅に居ることからも、面会謝絶なほど病状が深刻なはずがない。
だが、大河は見舞いに訪れた者の悉くを決して竜児に合わせなかった。
やって来た者達のやり方もいささか常識外れだったのも否めないが、それにしたって常軌を逸した徹底ぶりである。
いくらなんでも、まさか肉体言語で実乃梨と亜美を追い返すだなんて思いもよらなかった。
ただの風邪を引いただけでこの有様。
素敵に過激すぎる。
正確には分からないが、あの様子では竜児自身、相当過剰な看病を受けているに違いない。
しかも回復するまでそれは続く。
口にはしないながらも、同時に「竜児が全快するのと入院するののどちらが先か」という考えに行き着き、薄ら寒い物を感じた二人。
「俺、今度高っちゃんに手袋とかマフラーとか渡しとくわ」
「あぁ、これからもっと冷えるもんな。また風邪なんて引かないように、俺もなんか贈っとこう」
こんな辛い目に二度も遭う必要はないだろうと、後日二人は無い袖を振って竜児に防寒用の手袋とマフラー、市販のサプリ等を渡した。
突然のプレゼントをいぶかしんでいた竜児だったが、ささやかながら快気祝いだと言うと、
そんな理由でここまで気を遣ってくれたなんて考えもしなかったと、何度も何度も二人に感謝していた。
そこまではよかったのだが、更に後日、竜児がしていたマフラーを勝手に拝借していた大河が目撃された事で奈々子に説明を要求され、
余計な気を遣った事を後悔するハメになる。
予め知ってさえいれば回避できる事なのだが、それができたら三時間も正座させられるなんてことには決してならないだろう。
後悔とは、いつだって未来で手ぐすねを引いて待っているのだから。
ム゛ーム゛ーム゛ー
そうこうしている間に、奈々子から返信が来た。
内容は放課後に麻耶と一緒に行くという簡潔な物で、能登は返信せずにケータイを閉じる。
「なぁ、木原も朝っぱらから出てったよな。なのに一緒?」
横で画面を覗いていた春田が疑問を上げる。
「多分一緒に行った方がいいんじゃないかっていう連絡でも入れたんだろ。木原も一人よりも二人の方が気が楽だろうし」
「・・・どっちがとは言わねぇけど、最終的には出し抜くつもりなのにか?」
「それはそれ、これはこれ、あれはあれ、彼は私のものってやつなんだろうよ、きっと」
能登の予想は寸分違わず的中している。
タイミングを計ってすぐには竜児の下へ行かないだろうと踏んだ奈々子が時間を置いてから電話をかけると、
案の定麻耶はまだ土産選びの最中であり、いつ頃見舞いに行こうかというのを決めかねていた様子だった。
ならば放課後なら自分も時間が取れるし、二人だったら行きやすいだろうと、
あくまで付き添いであるというスタンスで奈々子が持ちかけた提案を二つ返事で了承した麻耶。
内心一人でというのは抵抗があったようだ。
あの手乗りタイガーの相手を一人でしなければいけないのだから、腰が引けるというのも仕方ないのかもしれない。
それに正直に言ってしまうと麻耶には荷が重い。
事実大河は親友の体育会系天然、悪友の腹黒、担任の三十路を単身撃破している。
麻耶にこの中の一人分でも大河を丸め込める力があるかと問われれば疑問が残る。
言ってしまえば普通の女の子なのだから。
そしてそれは奈々子も同じ。
体力では実乃梨に遠く及ばず、あざとさや狡猾さでは亜美にリードを許し、粘着さでは担任の独身に引けを取らないかもしれないが、
あんな恥も外聞もない姿を表には晒せない。仮に晒すとしたら余程の切羽詰った時だけだろう。
だから人の手が必要なのだ、お互い。
奈々子をダシにしようとしている麻耶にとっても、そして奈々子にとっても麻耶は貴重な戦力だ。
しかし裏でそういった考えが張り巡らされているとはこれっぽっちも思っていない麻耶は、
ダシにしようとしている奈々子に手綱を引っ張られていることに全く気付かない。
良く言えば素直な、悪く言えば実に操りやすい性格をしている。
ある意味一番の安牌かもしれない。
「そんなもんかねぇ・・・つーか課後かー、まだすっげー時間あんじゃん。飯でも行かね?」
まぁそんなドロドロとした内情には心底興味がないのだろう。
それよりも二人いっぺんに時間を空けて来るというのなら、その間に済ませておけることは済ませたい。
せめて何か腹に入れねばと、春田が誘う。
「制服のままどっか入ったら目立つだろ、ガマンしろよ」
「でもよー、飯時なんだしコンビニくらいならいいだろ。俺もう腹へって腹へって」
突っぱねる能登に、大袈裟に身振り手振りを交えて空腹をアピールする春田。
気持ちは大いに分かるし、極力そういったことを考えないようにしていたが自分も腹ペコだ。
能登はしょうがないと溜め息を一つ、行くのなら制服の上を脱いで、ついでに何か適当に買ってきてくれと小銭を渡す。
「寄り道しないで早く帰ってこいよ。あと見つかるようなヘマするなよ」
「へーい」
気の抜けた返事をすると、春田は最寄のコンビニを目指して、高須家のアパートの敷地からコソコソと出て行った。
二人が張り込むために陣取っていたのは、大胆にも竜児の自宅であるアパートの、人目につかない裏手側。
気配から階下の住人が留守なのを知ると、勝手に腰を落ち着けているのである。
しかもこの場所、中々に覗きに適しているというか、道路に面している方向からは絶対に見えないし、
上階の高須家を訪問する者はもちろん高須家の住人からも完全に死角になっている。
会話を盗み聞きするためにある程度近づいても全くバレない。
春田なんてそれをいい事に亜美のスカートの中を覗こうとしたりもした。
結果はそう上手くはいかず、位置的に見えるか見えないかのヤキモキした焦らしを味あわされたが、それなりに良い思いはしたようである。
「・・・・・・ふぅ」
春田を見送ると軽く背筋を伸ばし、脱力と共に肺から空気が抜ける。
まさかこんな場所で人心地つけるほど図太い神経をしているとは思っていなかった能登は苦笑する。
それだけ慣れてしまったのか、それとも人として落っことしてきた物があるためか。
しばらく放心したように呆けていた能登だが、それも飽きると手持ち無沙汰を感じ始める。
お使いに行ったアホが帰ってくるまでどうしていようかと思案しかけるが
「そんなに汗まみれじゃ体によくないわよ、竜児。だからわ、わた、私がふふふ、ふき、ふき・・・」
「いや、別にそれくらい自分でできるから・・・お、おい、お前どこに手ぇかけて、やめ・・・誰かー!?」
「もう! なんで邪魔すんのよ! そのままじゃ拭けないでしょ! 拭いてあげるって言ってんだから脱ぎなさい!」
頭上から降ってきた悲鳴と怒鳴り声に、あぁ、やっぱ行かないでよかったとしみじみ思う能登。
何か手を出す事はできないが、知らぬ間に竜児が手篭めにされていたらそれこそ事だ。
それに自分が焦らずとも、悲鳴を聞きつけてあの母親がなんとかするだろう。
不謹慎にも暇潰しにもってこいだと能登は気楽に構え、とりあえずはノートに今しがたの悲鳴とおそらくの経緯を書き記し始める。
「だめ〜、それやっちゃんがしてあげるの〜」
「誰かー!?!?」
そっちもかよ。
能登が手にしていたシャーペンが、パキンと乾いた音を立てて折れた。
芯ではなく、ペンそのものが。
(・・・うわぁ・・・)
ちょうど同じ頃。
買い物に出かけ、高須家からそう遠くない所にあるコンビニの手前まで来ている春田は、嫌な場面に遭遇してしまった。
「そうなのよ、逢坂さんったらお見舞いに来たっていうのにお家に上げてもくれなくって・・・内申、ボロックソに書いてやろうかしら」
「そんなんじゃだめだって。大河、卒業したら即お嫁さんー、みたいなこと平気でしそうだからあんま意味ないと思うよ。
それにお土産とか一応渡してこれたんでしょ? ゆりちゃんセンセーのがまだいいよ。
私らなんてぶっ飛ばされに行ってきたようなもんっていう・・・」
「いたたた・・・あぁったく、あんのくそったれのドチビ、マジでやりやがって・・・
亜美ちゃんの体に傷でも付いたらどう責任取るんだっつーの、高須くんが心配しちゃうじゃん」
「そう・・・ほとほと厄介ね、逢坂さんって・・・マジウゼー・・・それはそうと、高須くんってお姉さんとかいるの?
今朝伺ったら当然のように逢坂さんが出てきて、あと年上っぽい女の人もいたんだけど、あれ誰だか知ってる?
なんかやたらケバくてね、あーいうのって男とっかえひっかえしてそうで、いい歳こいてそんなのとかもう人生詰んでんじゃないのって
先生思うんだけど、そういう人と一緒に住んでて高須くん大丈夫なのかしら・・・心配だわ」
「いやいやお客さん、それ多分高須くんのお母さんっすよ、マジで。そんで未来の私のお義母さんだから悪く言わないでほしいなー」
「そういえば高須くんのお母さんって、確かゆりちゃんと大して歳変わんないってタイガーが言ってたような・・・
人生詰んでんのってゆりちゃんの方じゃない? 三十路で独身ってだけでも笑えないってのに」
「えぇっ、そうなの!? ・・・歳の近い人をお義母さんって、ハードル高いわね・・・同居とかになったらすっごくやりづらいんだけど」
「その心配はいらないんじゃないかなー」
「そうそう、気にするだけムダよねー」
「・・・? ・・・よければ理由を教えてもらえない?」
「「 だってそういう心配をしなくちゃいけないのって私(あたし)だし 」」
「そっ。よ〜くわかりました。あなた達、今学期の成績は期待しないでいいから。進級できるとも思わないでね、させいから」
「きったねー!? なんしてー!? なんしてそうなっとやー!?」
「ちょっと、あんたそれでも教育者なの!? 職権乱用よ職権乱用!」
「それが嫌だったら大人しく高須くんから手を」
「「 あんま調子くれてっと後でどうなるかわかってる? 」」
「・・・ど、どうやったら逢坂さんを高須くんから遠ざけられるのかしらね。
櫛枝さん、一番逢坂さんと仲良かったんでしょ。なにか知らない? 弱みっていうか、そういうの」
「・・・知らなくはないけど、あれはいくらなんでも大河が可哀想なんだよねぇ、高須くんも本気で怒りそうだし・・・
ふ〜む・・・ん〜、他だと難しいな〜・・・あーみんはどーよ、なんかないの? 腹黒代表として思わず引いちゃうようなやつとかさ」
「実乃梨ちゃんがなに言ってんのか亜美ちゃんわっかんなぁい。てかさー、それこそゆりちゃんの力でなんとかなんないの?」
コンビニの中に設けられている休憩コーナーでたむろしている三人の女性。
二人は近隣の高校に通う女子高生で、一人はその担任である。
大河に追い返された後、今更学校に戻れず、近所の目を気にして自宅に帰ることもできずにここで自棄酒を煽りながら時間を潰していた
ゆりと、湿布やらを買い求めにたまたま立ち寄った実乃梨と亜美。
顔を合わせた三人は誰ともなしに愚痴を言い始めた。
やれ、大河が竜児を独占しているだの。
やれ、あそこまでいくとシャレじゃ済まないだの。
女三人寄れば姦しいとも言うが、少なからず人の出入りがある場所で、向けられる奇異や白い目を気にも留めずに
ひたすら喋りまくっている三人。
遠巻きにそれを見てしまった春田はそそくさと今来た道を引き返して、別のコンビニを探しに行った。
春田の存在など小指の先ほども気付かなかった三人はというと
「できなくもないけど、成績なんかいじっちゃったらやったの私だってすぐわかっちゃうじゃない。
普通にお礼参りとかしてきそうで本気で恐いのよ、逢坂さんって・・・」
「私らはいいんかい」
「チッ、つっかえねぇ」
その後も日が暮れるまでコンビニに居座って、実も蓋もない会話に華を咲かせていた。
・
・
・
時刻は夕方───
日が傾き、肌に当たる風が冷たくなってきた頃、高須家のインターホンが来客を告げた。
大河が玄関まで来るが、すぐには開けない。
居留守を使って帰ってくれるなら無駄な手間が省けていいと、ドアの前にいる誰かが去るのを待ってみる。
が、再度鳴り響くインターホン。
大河はうんざりしながら、竜児にも引けを取らないほど悪くさせた目つきでドアを開けた。
「よう、逢坂。高須の具合はどうだ?」
「ふぇ?」
吊り上がっていた目が一気に丸くなる。
「北村くん?」
ドアの外には北村が立っていた。
てっきり見舞いを建前に竜児目当てでやって来た誰かが居るものだと思っていたため、意表を突かれた大河。
予想していた心配が杞憂に終わったからか、肩の力が抜ける。
「大変だな、逢坂も。授業を休んでまで看病なんて、中々できる事じゃあないぞ」
「そ、そんなこと・・・これくらい当然よ、とーぜん。竜児、私がいなくっちゃなんにもできないんだから」
「ハハハ、そうだな。おっとそうだった、これ」
思い出したように北村が手から提げていた袋を持ち上げる。
中身は桃缶と、他にゼリーや胃に優しそうな物をいくつか。
風邪にはこれだろうと、行きがけに買ってきたのだ。
「あ、ありがと・・・ぁ、ご、ごめんなさい、今開けるね」
受け取ろうとして、ドアにしっかりとかけられたチェーンに気付く。
いくらなんでも北村なら上げても問題ないだろう、他の連中同様に追い返したりしたら失礼だし、竜児に知られたら怒られる。
大河は一度ドアを閉めると、手早くチェーンを外し、またドアを開ける。
「はい、今だったら竜児、起きてるか」
「おっじゃまっしまーっす」
「おじゃまします」
瞬間、スーっと北村の横をすり抜けて、あれだけ鉄壁を誇っていた高須家に麻耶と奈々子が難なく入ってきた。
続いて北村も入ってくる。
「ら・・・・・・ッ!? ちょ、ちょっと待って!」
───奈々子が放課後まで待っていたのは、なにも授業を優先していたからではない。
一人で行ったところで、竜児の看病をしている大河が入れてくれる訳がない。
麻耶が一緒でもそれは変わらない。
その程度、容易に想像できる。
では、誰なら大河は入れてくれるのか。
「ん? どうかしたのか、逢坂」
「き、北村くんじゃなくって・・・!」
それは北村の他にはいない。
女子も男子も、教師でさえも関係なく、誰が来ようと大河は追っ払うだろう。
だけど相手が北村なら邪険にはしないはずだ。
竜児の手前もある。
だから、奈々子は待った。
実乃梨と亜美に踏みつけにされてしまった北村を介抱してやり、放課後になったら竜児の下を訪れるつもりだと言う北村に
さり気なく自分と麻耶の同行の許可を貰い、退屈な授業が終わるまで待った。
呼び戻した麻耶にもみんなで行った方が高須くんも喜ぶんじゃない? などと言い包め、
渋々頷いた麻耶と一緒に見舞いの品を吟味して購入。
アパートへと来た時もわざと北村と麻耶との間に立ち、階段の途中で止まるとそれ以上前に出ず、
ドアの中からは見つからないように息を潜めていた。
思った通り、大河は北村相手には何の疑いもなくドアを開けて迎え入れる。
その一瞬を逃さず、「行こ」と目配せし、麻耶に先陣を切らせ、奈々子は悠々と高須家へと入ることに成功した。
用意周到の一言に尽きる。
「いやー、それにしてもまるで高須の奥さんみたいだな、逢坂」
呼び止められた北村が振り返ると、ワナワナと体を震わせている大河の姿が。
何か忘れていたのか、それとも知らずに気に障る事でもしていたのかと考えていた北村が、何を思ったのか「あぁ」と頷くと、
全身から怒りを露にする大河にそんなことをのたまう。
期せずして一度は言われてみたかった事を言われた大河が瞬時に般若のような表情を引っ込めて頬を染めた。
「え・・・そ、そかな・・・」
もじもじ、そわそわ。
奥さんという言葉に、人差し指同士を突っつき合わせて照れる大河。
頭の中では大体2〜3年後に設定した竜児との妄想が始まる。
『木原? 香椎? あぁ、学生時代にいたわね、そんなの。
それよりも聞いて、私ね、二人目ができたのよ。
今度は女の子だったらいいんだけど・・・うぅん、元気に生まれてくれるんなら、それが一番よね、竜児』
という風に、もう頭の中は竜児一色に染まっている。
そんなドが付くまでにピンク色をした脳に、続く北村の言葉が電流となって駆け抜ける。
「ああ、これなら心配なさそうだ。高須を頼んだぞ、逢坂。いや、ミセス高須」
「・・・・・・・・・っ!」
社交辞令やお世辞というと聞こえが悪いが、北村はそこまで本気で言った訳ではない。
流れというか、ノリというか、ほんの冗談というか。
だから
「・・・逢坂?」
「・・・ごめんね、少しボーっとしちゃってて・・・さ、立ち話もなんだからどうぞ上がってって。
ちょっと狭苦しいけど、今お茶出すからゆっくりしてってね、北村くん。あの人・・・竜児も喜ぶわ」
「そうか。それじゃあお言葉に甘えさせてもらうとしよう」
軽い気持ちで言ったセリフを、大河が本気にするとは思ってもいなかっただろう。
今だって、お嫁さんっぽく振舞う大河に気付く素振りもない。
素直に家の中へと上がり、竜児の部屋へと入っていった。
パタンと、音を立てないよう静かにドアを閉じた大河は、早る心を抑えて落ち着き払った動作で台所に立つ。
来客にお茶を出しておもてなしをする、よく出来た嫁としては当たり前だ。
よく出来た、嫁。
「・・・えへへ・・・お嫁さん、だって・・・あっ、ちがうちがう、奥さんだった・・・竜児の奥さん・・・えへ・・・えへへへ・・・」
戸棚から盆と急須、茶筒を取り出すと、優雅な仕草で茶葉を一回、もう一回。
茶漉しがいっぱいになるまで入れると、ポッドからお湯を注ぐ。
お湯が並々と急須を満たすまで注ぐとしばし置いておく。
竜児がお茶を淹れる際によくこうやっていたのを、寝ながら見ていた大河は知っていた。
そんな事をすれば、ただでさえ大量に入れられた茶葉が必要以上にお湯に溶けてしまい、飲めたものではないほどに渋っ濃くなってしまうのだが、
これはこうするのだ、という程度の知識しかない大河は全く気付かずに、ふふんと胸を張る。
あれだけ失敗したと思っていたお粥を、竜児はおいしいと、喜んで食べてくれた。
このお茶だってこれだけ茶葉を入れたのだ、上手くできているに違いない。
持っていけば、きっと竜児は褒めてくれるだろう。
そして淑やかに湯飲みを置き、北村と談笑している竜児の隣に自然に寄り添う。
本当に、お嫁さんのように。
いけないいけない、と頬をピシャリ。
緩みきった顔ではお茶を持って行けない、よく出来た嫁は旦那に恥をかかせるマネなんて絶対にしないのだ。
「そろそろいいかしら・・・ん? これ・・・」
と、湯飲みを出そうとして棚の前に立った大河が止まる。
目線の先には普段竜児がかけているエプロン。
こういうのをしていった方がそれらしいかもしれないと、逡巡し、物は試しとかけてみる。
竜児に合わせた丈のため、当然だが、ぶかぶか。
動きづらいし、ちょっと不恰好かもしれない。
「・・・竜児のにおいがする」
が、それらは一切考慮せずに大河の脳内がGOサインを出した。
「よし! 早く持ってってあげよ」
気合を入れ直し、大河は人数分の湯飲みをテキパキと手に取る。
竜児の分と、自分の分と、北村の分とあと・・・
あと?
そこではたと手が止まる。
あとは誰の分だ?
もう一度数え直してみる。
竜児の分。大丈夫、ちゃんと専用の湯飲みを取っている。
自分の分。これも大丈夫、竜児とお揃いの、ちょっと小ぶりな湯飲みがある。
北村の分。問題ない、客用の物がいくつかある。
なら、残りの二つの湯飲みは誰の物にする気だったのか。
「っ!? っ、っ!! ───〜〜〜〜ッ!!!」
思い出した瞬間、大河がその場で頭を掻き毟り始めた。
北村のおだてに気を良くし、あの二人の存在をすっかり忘れてしまっていた自分を今頃になって責めている。
後悔の念が際限なく渦巻く。
せっかく今日は一日中一緒だったのに。
この後だって、夕食を終え、何気ない時間を穏やかに過ごすつもりだったのに。
それをよりにもよって、あんな・・・
「竜児っ!」
こうしてはおれない。
後悔しても遅い、するだけ時間の無駄だ。
今は一刻も早く部外者二人を追い出さなければ。
大河は用意したお茶もほっぽって、竜児の部屋に飛び込む。
「だいじょうぶ、高須くん? 熱とか平気? ご飯、ちゃんと食べてる?
そうだ、寒かったりするんなら、あたしが暖めてあげよっか。人肌ってすごくあったまるんだって」
「・・・麻耶? 高須くんまだ調子悪いんだから・・・ごめんね高須くん、連絡もなしに来ちゃって」
するとそこにはベッドの上で上半身を起こす竜児と、ベッドに腰かけ竜児の傍に寄り添っている麻耶。
奈々子は北村の隣に座っている。
大河が小さく舌打ちを漏らした。
既に和気藹々とした空気が出来上がってしまっている。
だから嫌だったのだ、他人を家に上げてしまうのは。
ここから追い出すことなどできるはずがない。
あの三人は、竜児の目に触れないところだったから形振り構わず本気の全力で追い返すことができた。
だが、今は状況が全然違う。
何をするにも必ず竜児に知られてしまう。
「なんかあったのか、大河? 大声出したりして」
今のように。
「え? え? ぁ・・・あ、ああ、あの、あのあの・・・お、お茶・・・よ、よくできたお嫁さんはお茶を、その・・・」
図々しくも断りもなしに上がりこんだ上に竜児に馴れ馴れしくしている不法侵入者共をどうにかしようと考えに没頭していた大河が、
かけられた声にしどろもどろになって返事をする。
そこへ、精一杯空気を読んだつもりの北村がフォローを入れる。
「おお、そうだ。逢坂がお茶を淹れてくれたそうだぞ、高須」
「あぁなんだ、そうなのか。大河が・・・なんも持ってねぇみてぇだけど」
珍しく、率先して気の利いた事をしている大河に感心する竜児だが、見た感じ大河は何も持っていない。
何故か愛用のエプロンはしているが。
「そ、それは・・・い、今持ってくるから待ってて」
そう言い残し、不思議そうな顔をしている竜児から逃れるように、大河はその場を後にした。
急いで台所に戻ると、慌てて急須の中身を湯飲みに注いでいく。
竜児と北村、自分の分を注ぎ終えたところで、あの二人の分はどうするべきか迷う。
「・・・・・・あぁ、もうっ!」
躊躇はしたが、結局大河は麻耶と奈々子にも振舞うことにした。
もてなす気なんて毛ほどもありはしないが、こうなっては致し方ない。
大河は計五つの湯飲みを乗せた盆を両手で持つと、中身をこぼしてしまわないよう細心の注意を払いながら歩き出す。
手元ばかりに気が行っているせいで、見ている方がそわそわせずにはいられない、おっかない足取りだ。
それでもなんとかいつものようなドジをせず、竜児の部屋まで運ぶ事ができた。
「はい、熱いから気をつけて、あ、あああな、あな、あにゃ・・・っ竜児、北村くん」
お盆から湯飲みを取ってもらおうとするどさくさに紛れて「あなた」と呼ぼうとするものの、どもりすぎてしまい断念。
受け取る二人は目を合わせて首をかしげる。
「・・・なに見てんのよ、早く取りなさいよ、お茶。要らないんなら言って、すぐ下げるから」
麻耶と奈々子には打って変わって、どうでもよさげにお茶を取らせる。
それだけで早速麻耶が萎縮する。
奈々子も表面上は軽く怯えているように取り繕っており、麻耶と自分に出されたお茶を震える手で受け取る。
と、手の中で波紋を立てる液体を見た奈々子が目の色を変えた。
瞬時にこの後の展開を予想する。
ミリ単位で上がった口角に、大河はおろか奈々子からお茶を受け取った麻耶でさえも気付かなかった───・・・
「濃っ! なにこれ、濃すぎにもほどがあんじゃん!」
「う・・・ん、これは・・・すまん逢坂、俺にはムリだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
大河が持ってきたお茶を一くち口に含んだ瞬間、全員が一斉にしかめっ面になった。
やはり渋いのだ、これ以上ないほど。
麻耶と北村の率直な評価を最初こそ認められずにいた大河も、ちびりと舐めてみて愕然とする。
二人の言う通り、とてもじゃないが飲み干せそうにない。
それほど酷い味をしている。
「・・・ちょ、ちょっと入れすぎちまったんだな、お茶っ葉・・・気にすんなよ大河、次から間違えなけりゃいいんだからよ」
竜児だけはショックを受けている大河を気遣い、味に関しては触れないでおいた。
しかし、言わずとも分かる。
両手で握り締められた湯飲みを、それ以降竜児は口元に近づけようとしない。
それだけで、伸びすぎた大河の鼻っ柱を叩き折るには十分だった。
「・・・そうね・・・ちょっとだけお茶っ葉入れすぎちゃったみたい・・・ちょっと・・・ちょっとでこんにゃんにならにゃいわよ・・・」
段々と涙目になっていく大河を見た竜児が腰を上げかけるも、それより先に立ち上がる者が。
「あの、迷惑じゃなかったらお台所借りてもいいかしら、高須くん。あたしお茶淹れ直してくるわね」
ここで出なければいつ出るのか。
今まで控えめに控えめに、麻耶のように目立とうとせず、大人しくしていた奈々子がついに前に出る。
切り出すタイミングは申し分ない。
言葉遣いも気取りすぎず、大河のように噛んでもいない。
言いつつも座ったまま、なんていうやる気のない態度でもない。
なにより、そうするのが当たり前のように自然に言い切ることができた。
声がひっくり返りそうなくらい緊張していた奈々子が内心ガッツポーズを取る。
あとは竜児の了解さえ得られればいいのだが。
「いいのか、香椎」
意外にも、竜児は奈々子の申し出を遠慮しない。
申し訳無さそうではあるが。
良い意味で予想を超えた反応に、奈々子は笑みを浮かべた。
「えぇ、お菓子も沢山あるし・・・ていうか、お菓子ばっかりで飲み物がないのもちょっと、ね?」
「・・・悪かったわね、こんな飲めもしないくそまっずいお茶出したりして・・・」
ふて腐れる大河に、そういうつもりで言ったんじゃないのだけれど、と奈々子は困り顔になった。
本当にそんな気はなかったのだが、言い方がそう聞こえてしまったのならそうなのだろう。
事が上手く運びすぎていることに、少々気が緩んでしまっていたかもしれない。
外よりも内に原因を作り、気を引き締め直せと自分自身に言い聞かせ、その問題をとりあえず処理する。
鬱憤が溜まるのは良くはないが、そんな些細なことよりも今は竜児に集中しなければ。
「・・・頼んでいいか? 急須だのなんだのなら、多分流しに出しっぱなしだと思うから」
任された。
抑えようとしても抑えきれない歓喜は、はにかんだ笑顔から少しばかりこぼれ落ちる。
本当は、遠慮されてしまうんじゃないかと思うとビクビクしていた。
しつこい女。
そう思われたくはなかったから、申し出を断られたら素直に下がろうと思っていた。
そうやって、逃げ道を作ろうとしていた。
「うん」
けれどそこで引いてしまったら、たとえそれが小さな一歩であっても容易には埋めることができなくなる。
想いにばかり身を馳せていても、それは前進にはならない。
遅れは誰よりもとってしまっている。
だから
(・・・やった・・・)
ほんの、一歩。
小さな小さな一歩の、籠められた勇気を、その重さを。
進んだことを。
早鐘を打つ胸に手を添え、奈々子は噛みしめていた。
自宅で淹れるそれよりも、ちょっとだけ丁寧に要れたお茶は、甘みがきいていたように思えた。
・
・
・
あれから数時間が経ち、辺りはすっかり暗くなっている。
街灯が照らす道を、どんよりとした影を纏わりつかせて歩いている男が二人。
「やっと帰ってったなー、みんな。どんだけ居座ってんだよ、見舞いで」
「しょうがないだろ。木原が帰りたくないって駄々こねるし、しかもゆりちゃん達までもっかい来るんだもんよ・・・」
北村を始め、全員が帰ったのを影から見ていた能登と春田は、間隔を開けてから帰路についた。
表であれば言い逃れはいくらでもできそうなものだが、まぁ、会わないに越したことはない。
気温がぐんと下がり、早く暖房のきいた自室で泥のように寝てしまいたいが、仕方ないだろう。
白く色づいた溜め息を吐き、肩を落としながら、二人は自宅への道を歩いていく。
「まあなー・・・タイガー超キレてたし、その後だって酷かったし・・・」
「あれがなけりゃあ、もうちょっとは早くお開きになってたんだろうけどな・・・」
二人が疲れているのは、長時間による張り込み活動によるものであるが、
その中でもとりわけ強く感じている疲労の元は、ラスト一時間の間に起こった出来事が関係している。
話に出ている通り、結託したゆり、実乃梨、亜美が、高須家への強行突入を図ったのである。
最初三人は玄関のドアをブチ破らんばかりの勢いでいたが、何故かドアには錠もチェーンもかかっていなかった。
ミセス高須という言葉に浮かれ、更によく出来た嫁になろうと茶を淹れる事しか頭になかった大河は戸締りを怠ったのだ。
強行突入は割かしすんなりと成功したが、これにはもしや罠でも張っているのか? と怪しいものを感じとり、
勘ぐってしまったゆり達。
しかしそれならそれで、囮と盾なら二人もいるではないかと、自分以外を潰すいい機会とも言える。
白々しい仲間意識をお互い煽りつつ、三人が足音もなく家の中へと忍び込むと、そこには談笑している竜児と北村。
麻耶は相変わらず竜児の隣であれやこれと世話を焼きたがり、奈々子はそんな麻耶を時折窘めたり、竜児を気遣うようにしながら、
近づきすぎない距離で腰を落ち着けている。
大河が待ち伏せしていると思っており、恐々としていた三人が和やかな空気に拍子抜けした一瞬気を取られた隙に、
よく出来た嫁ポジションを完全に奈々子に奪われてしまい、
輪に入らずに一人でふて腐れていた大河が新たな侵入者三人の存在に気が付いた。
一度追い払ったにも関わらずまたもややって来た事、のみならず勝手に上がりこんでいる事、なにより溜まっていたストレスを爆発させて
激昂する大河にたじろぐものの、竜児が間を取り持つとすかさず昼間の事で三人は泣き付いた。
『せっかくお見舞いに来たのに、なのに逢坂さん、帰れって・・・あんまりだわ。先生、本当に高須くんが心配だっただけなのに』
『私も・・・大河、入れてくれないばかりか暴力まで・・・うぅ・・・親友だと思ってたのって、私だけなのかな、高須くん・・・高須くぅん!』
『亜美ちゃんと高須くんの赤ちゃんができる大切な場所を、あいつ本気で殴りやがったのよ・・・信じらんない・・・』
と言った具合に。
今度は大河がたじろぐ。
三人の口から出てくるのは、説明の仕方はともかく誇張や脚色の類はされていない、誤魔化しようのない事実だからだ。
してきた事が詳らかになるにつれ、誰の目にもやりすぎだと映っている。
だが、開き直った大河は看病という大義名分を振りかざし、事情を聞こうとする竜児を無視し、この場をもって全員に帰るよう言い渡す。
これには女性陣全員が断固として反対、逆に大河の過剰な独占を弾劾することで一致。
女性特有のネチネチとした妬み嫉みに次第に追い込まれていった大河は、それでも自分はただただ竜児の身を案じただけ、
看病のためにそうしたのだ、何ら咎められる謂れはない、ばかばかばかと、自己の正当性を主張し続けた。
と、それまで急に咳をしだした竜児の背中を撫で摩っていた奈々子がポツリと呟いた。
『タイガーの言い分だと高須くんの看病をしてる人の言う事は聞かなくちゃいけないみたいだけど、
それって高須くんを看病してれば誰でもそうしていいって事かしら』と。
沈黙、一拍置いて大河以外の全員が賛成と声を上げる。
そこからは一気に竜児の看病権を巡っての大争奪戦へと発展した。
いつしか勝者は竜児の嫁の権利までも得られるという物にすり替わり、それを耳にした途端に独神、覚醒。
はだけさせた胸元、強引に引き裂いて作ったスリットから覗く脚など、歳も教師らしさもかなぐり捨てて「オンナ」をフルに使い、
重ねた年齢と共に培った経験でもって、あの亜美を以ってして赤面するほどのアプローチを見せた。
そして手段を選ばなくなった者が一人でも出れば、感染するように全員が手段を選ばなくなる。
お見舞いで看病という冠のついたお祭り騒ぎは、奈々子の他には唯一冷静さを保っていると思われていた北村がキャストオフするまで続いた。
「北村のヤツ、マジでなにしようとしてたんだろ。あそこで脱ぐって何狙いだよ・・・ひょっとして、本当に高っちゃんねら」
「余計な事は考えんな。考えると恐い事しか浮かんでこないぞ」
熱か何かに当てられたことにしておこう。
断じて他に理由を見出してはならない。
「ぶぇっくしょん!」
「きたな・・・お前、するんならあっち向いてしろよ」
不意に、盛大なくしゃみをした春田。
隣を歩く能登が注意するが、春田のくしゃみは中々止まらない。
どうやら風邪を引いてしまったようだ。
丸半日もの間、こんなに暗くなるまで寒空の下にいたのだから、無理もない。
「ずず・・・うー、さみぃ・・・あ〜、明日休みてーな〜もう」
「それは春田の勝手だけど、お前が休んでも誰も見舞いに来ないと思うよ」
辛辣な言葉にちょっとだけ傷付くが、春田はそれ以上不愉快な感情を感じない。
辛いが、現実とはそういうものだ。
それは春田だって十二分に承知している。
異常なのはあっちの方、こっちの方が正常だ。
しかし、人恋しさはまた別。
「そんなのわかってっけどさー・・・能登くらいは来てくれるよな? な?」
「まぁ、ヒマがあれば」
なんだよーと、鼻水を垂らしながらボヤく春田。
それでも、あれよりはマシかと思い直す。
竜児のように女性陣に揉みくちゃにされるというのも魅力的ではあるが、当の竜児は死神の鎌を首にあてがわれたような顔をしていた。
ならば一人で静かに寝ている方がいいじゃないかと、頷く。
結局はその日の内に春田の風邪は治まるので、翌日にはピンピンして登校するのだが。
「んじゃ、おみやは亜美ちゃんの写真集かなんかで頼むなー」
「だからヒマがあればな、あれば・・・それにしても、今日はずいぶんと頑張ってたよな」
「え? 俺、なんかしたっけ」
「アホ、春田じゃなくて奈々子様だよ」
「あぁ〜、確かに」
声と物音だけしか分からなかったが、それでも今日の奈々子は積極的に動いた方だというのが分かる。
以前は偶然隣に座れただけでもう満足していたのが、見舞いとはいえ家にまで来れたのだ。
地味ながら、竜児の好感度を上げようと自分から前にも出れた。
他の面々と比較すると亀のような遅さではあるが、それでも一歩進めたことに違いはない。
「・・・けどよ、俺らがこれやんなくなるまでってなると、まだまだ遠そうだよな・・・」
「・・・ただでさえキビシイんだから、ガンバってもらわないとな、もっと・・・」
大っぴらに何かをする事ができない能登と春田の二人には、せめて奈々子の奮闘と善戦と、
手にするノートの数字がこれ以上大きな物にならないように願うだけだった。
・
・
・
──────奈々子の自室──────
残業で遅くなるという父親のために、レンジで温めるだけで食べられるよう夕食を用意し終えると、奈々子は自室に篭った。
机に向かうと、またも間が空いてしまった手帳を広げる。
いつもなら読み返してばかりの手帳。
書きたいことは、色々とある。
だが、日付を書いたところで、何故か手が止まった。
───『うまい』
「・・・ふふ」
それも束の間。
今日を思い返すその顔は、時折微笑を浮かべ、紙面を滑るペンは止まることを知らないように動き続ける。
家まで行けた。部屋にも入れた。
それは小さな一歩かもしれないけど、奈々子からしたら大きな一歩。
「おいしい、かぁ・・・」
大河の淹れた物よりも酷いお茶を出す事の方が難しいだろうが、やはりおいしい、と。
その一言は、嬉しい。
そう言ってくれたのが竜児なら、なおさら。
また、奈々子の手が止まる。
「・・・おいしい、だって・・・」
───今度はもう少し、凝ってみようかな。
その今度は、いつだろうか。
できれば近い内がいい。
明日も竜児が学校を休むようなら、また見舞いに行こう。
次は紅茶にしようか。
それとも、知識はないけど、勉強して中国茶でも挑戦してみようか。
やっぱり日本茶の方が落ち着くかも。
そこで、気が付く。
なにもお茶にこだわる必要はなかった。
なんだかおかしくなり、つい吹き出してしまう。
ひとしきり笑うと、何を持っていけば喜んでもらえるのか、奈々子は考えに耽る。
大抵の品は今日だけで持ち込まれてしまっていたし、あまり奇を衒った物は避けたい。
印象に残るだけでは意味がない、良い印象じゃなければなおのこと。
───・・・手作りの物じゃ、重いかな。
そこで、また気が付く。
「・・・だめね、もぅ・・・これじゃ、なんだか高須くんにずっと風邪引いててほしいみたい」
ふっと、それまでの自分を少し離れて見ていたような、冷めた部分が顔を覗かせる。
高揚としていた気分が一転した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
紙の上に浮かぶ文字を指でなぞる。
綴られた文字の中では、竜児、竜児、竜児。
目に見える距離ではなく、目に見えない距離を詰められた今日の、竜児との思い出。
浅はかな考えに囚われていた心が、少しだけ晴れた気がした。
・
・
・
「はい竜児、あ〜ん」
「・・・ぅ・・・ご、ごっそさん・・・うまかった・・・」
「もういいの? 足りないようなら、おかわり作ってこようって思ってたんだけど・・・」
「いや、いい・・・もう十分だ、腹いっぱいだよ」
「そう・・・まだ調子悪いんならちゃんと言いなさいよ。竜児、そういうのいっつも言わないんだから。
だから今朝だって、あんなになるまで・・・」
「・・・大丈夫だって、熱だって大分引いたしよ。何からなにまでありがとうな、大河」
「・・・うん・・・早く良くなってね、竜児・・・あ、そうそう、すぐ戻ってくるけど、私一旦帰るわね」
「・・・? 何でだ?」
「なんでって・・・だって、着替え取ってこなくっちゃいけないでしょ。このまんまじゃ寝れないじゃない」
「待て。お前、泊まってくつもりなのかよ。別にそこまでしなくったって」
「いいのよ、私がいいって言ってるんだから、いいの。それに・・・竜児のこと、心配なんだもん・・・」
「・・・大河・・・」
「・・・すぐ帰ってくるから、そんな寂しそうな顔しないでよ、もぅ・・・じゃ、行ってくるね」
「あ、おい・・・はぁー・・・」
「お待たせ〜竜ちゃん、ご飯できたよー。今度はね、栄養つくようにってね、卵のお粥にしたの。
えっへん、やっちゃん気配り名人」
「・・・悪いな、店まで休ませちまって」
「うぅん、竜ちゃんはそんなの気にしなくってい〜いのぉ〜。早く風邪治してくれるのが一番なんだから。
それよりもぉ、大河ちゃん帰っちゃったみたいだけど」
「あぁ、着替え取りに行ってくるってよ。すぐに帰ってくるんじゃないか」
「そうなんだぁ・・・なら、早くこれ食べちゃお。
朝もお昼も、さっきもそうなんだけどね、やっちゃんがお粥作ってるとなんだか大河ちゃんすっごく嫌そうな顔するんだもん」
「俺がそれ食ってる間なんてもっと酷かったぞ、足まで抓られたし・・・なんなんだろうな、あれ」
「ねぇー。ふ〜、ふ〜、はぁい竜ちゃん、あ〜ん」
「・・・うめぇ・・・ホントにうめぇ・・・」
「喜んでもらえてよかったぁ。どんどん食べてね、竜ちゃん。ふ〜、ふ〜、あ〜ん。
・・・あ、そういえば・・・さっきね、大家さんに変な話聞いたの。今日不審者さんが出たんだって、この辺り」
「へー・・・どうせ空き巣かなんかだろ。うちには関係ねぇな、盗られて困るのなんてインコちゃんぐらいだし」
「ふ〜、ふ〜・・・その不審者さん、ずっとこのアパートの裏にいたんだって・・・あ〜ん」
「・・・マジかよ」
「まじまじ。お隣さんがね、ずーっと話し声がするから変だなーって見てみたら、男の人が二人いて、コソコソなんかしてたんだって。
さっき大家さんがお巡りさんと一緒に注意するようにって言いに来てぇ、それで教えてもらったの」
「そいつら、捕まったのか」
「うぅん、まだみたい・・・ふ〜、ふ〜・・・やだなぁ、なにしてたんだろ・・・気持ち悪いなぁ、もう・・・」
「・・・戸締りだけはちゃんとしとけよ。昼間なんて、泰子一人で寝てんだから」
「うん・・・ね、それでなんだけどぉ・・・今日ね、一緒に寝てもいい・・・? なんだか恐くなってきちゃった・・・はい、あ〜ん・・・だめぇ?」
「・・・それは、ちょっと」
「そうよ、だめよやっちゃん。私が一緒に寝るんだから」
「それもさすが・・・に・・・───っ!?!? ・・・お前、い、いつからそこに・・・」
「・・・ねぇ竜児? 私言ったわよね、おかわり作ってあげようかって・・・そしたら竜児、お腹いっぱいって言ってたわよね。
あぁ、きっとそのすぐ後にお腹空いちゃったのね。そうなんだ、なら仕方ないわね。うん、そういうの私もよくあるし、それはもういいわ。
ウソ吐いただなんてぜ〜んぜん、これっぽっちも思ってないから、だから竜児も気にしないでいいのよ。
それだけ良くなってきてるってことなんだろうから、良いことじゃない。でも・・・・・・」
「た、大河・・・? ・・・あの、俺の話を・・・」
「・・・ほんとにおいしいって・・・あれ、どういう意味よ・・・まるで私のお粥は本当はおいしくなかったみたいに聞こえてしょうがないんだけど・・・
それになんでやっちゃんにあ〜んしてもらってるの・・・ふ〜ふ〜まで・・・ふ〜ふ〜・・・・・・」
「・・・お、落ち着け、大河。これは・・・なんていうか・・・慣れっていうか、もうどうでもよくなったっていうか」
「それはそうと、竜児? あんたもう眠いわよね」
「・・・な、なんだよいきなり・・・」
「だから、もう眠いでしょ? ご飯もお腹い・っ・ぱ・い! 食べたものねぇ。それならちょっと早いけど、今夜はもう寝ましょ」
「いや、ちょっとって・・・まだ九時にもなってねぇし、俺一日中寝てたからそんなに眠くもねぇんだけど・・・」
「そんなはずないわ、竜児は眠いの、眠いに決まってる。だから私が寝かしつけてあげる。ついでに私も寝るわ、一緒に。
今日はずーっと竜児の看病してたから疲れちゃった。あー眠い眠い。ほら、さっさと寝るわよ、竜児。
・・・さっきの事は、ぴろーとーくでゆっくり聞くことにしたから。今夜は寝られると思わないことね」
「寝んのか寝ないのかどっちだよ!? しかもお前それ絶対使い所間違ってるぞ!? ・・・や、泰子、なんとかしてくれ!」
「えっとぉ〜玄関の鍵はかけたしぃ、雨戸も閉じたしぃ、ガスの元栓も切ったしぃ・・・」
「イー! いぃ、いいいいぃ・・・いぃ〜んぅ〜・・・・・・ぽっ」
「あ、インコちゃんのカゴにシートしてあげてー・・・はぁい、おやすみぃ〜インコちゃん。
戸締りはこれでいいしぃ・・・うん、だいじょぶ。それじゃ寝よっか、竜ちゃん。
あっ、大河ちゃんはやっちゃんのお部屋とお布団使っていいよぉ〜。やっちゃんは竜ちゃんと寝るから」
「・・・竜児、私頭が痛くなってきたわ。それに寒いし、きっとあんたの風邪がうつったのよ。
責任取ってしっかり暖めなさい、キツく抱きしめてね」
「頭痛ぇのは俺の方なんだよ、いろんな意味で・・・なんか熱までぶり返してきたかも」
「たぁいへ〜ん。竜ちゃん、もう寝よ寝よっ」
「あっ、ちょっとやっちゃん!? 待っ・・・脱ぐなぁぁぁあ!」
「ぐぇっえ・・・いい、いぃぃいいい・・・いんぽ、いんぽ・・・いんぽ・・・?」
〜おわり〜
おしまい
435 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 14:16:08 ID:1TFwYES3
やばい
本当におもしろい
(・∀・)イイ
俺の腹筋を返せwwwwwwww
438 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 16:32:26 ID:TqndGjjt
>>394 台詞は竜児だけど、語りが、涼宮の前の席の奴っぽいな。
腹黒様の方も続きお願いしますよ。待ってますよ。
>>405 麻雀はルール解らないからアカギ見て覚えます。やっぱり、ルール知ってた方が面白いよね。
ルール解らないなりに楽しく読めました。GJ
>>434 新しい路線の可能性を見た気がする。ギャグドラも良いなぁ〜
下げ忘れた…皆、ゴメン。フライング土下寝で許して欲しい。⊥〇
>>394 修学旅行前に剃っちゃうなんてすげーな。
合宿前にキスマーク付けたら本気で怒られたのを思い出した……。
>>434 本気で競う櫛枝が面白くて好きやな。
これの前の話も竜児のフラグの立てっぷりが面白かったし
今回も面白かったです。
皆さんこんばんは。
[キミの瞳に恋してる]の続きが書けたので投下させてください。
前回の感想を下さった方々、まとめて下さった管理人さんありがとうございます。
※
今回は麻耶視点、性的描写があります、苦手な方はスルーしてやってください。
スレの残り容量的に途中で投下が出来なくなった場合は次スレで改めて投下します。
それでもよろしければ読んでやってください、では次レスから投下します。
[キミの瞳に恋してる(8)]
予定はあくまで予定、先行する事も遅滞することもある。
本来なら週末に『スキンシップ』したかった、タイミングが合わず今日まで事前準備ができなくて焦った、それが真実。
それに加えて奈々子から届いたメールで不安に駆られたのも予定を前倒しした要因。
『チェリーは美味しい』
何の前触れも無く届いたメール、それが何を意味しているのかくらいは私にもわかる。
チェリーって……『ど、どーてー』って意味じゃん、それが美味しいって…つまり……。
「ねぇ、ベロを出して…」
能登は誰にも渡さないもん、全部…私が貰うもん。
奈々子が私をからかうためにメールしてきたのは解っている、けど…やっぱり不安になっちゃう。
「こ…うでいい? ……っふ」
だから能登が余所見しないように……私の存在…『女の木原麻耶』を刻む、目一杯に背伸びして…。
唇を僅かに開き、突出した彼の舌に私はしゃぶりつく。
「っ…ん、ん、ふ…んむ。ちゅっ! ちゅ…くっ」
唾液を含ませた唇で甘噛みし、舌先を絡めて優しく吸い付く……何回も何回も…。
抱き抱えた彼の頭を何度も抱き直して顔の位置をずらし、深く深く口内へ受入れていく。
「ふ…っ! ふっ…っ! んんぅ、は…ふ、ちゅぷちゅぷ」
ただ夢中で舌を絡め、唇で締めながらゆっくり抽送し、彼を淫らに貪る。
本当は『こういうキス』をするのは顔から火が出るくらい恥かしい、でもしてみたい、能登が悦んでくれるならしてあげたいの。
能登の手が背中を擦り、一方の手がお尻を撫でる。ムズムズする…くすぐったいし、ゾワゾワしちゃう。
「は……。ん…、ふ、あ…っ…ちゅぷ」
彼の手が、舌が、唇が私を蹂躙し始める。フトモモを撫でられて揉まれる、重なった唇が私を捉えて舌が口内を探る。
恍惚しながら彼の舌を絡め取り、更に奥へと引き寄せてみる。
互いの淫れた喘ぎ、浅く荒い鼻息……熱に絆されて汗ばむ。
未経験の熱で融け、フトモモで引き寄せた彼の腰に密着し下腹部同士を擦り合わせ……発情していく。
「っふ! あ…だめ、まだ…足りないよぅ……んんっ」
能登の舌を優しく噛んだ後、離れていく唇が名残惜しくて…息継ぎの間も無しに今度は自分の舌を彼の口内へ…。
わがままな私を能登は可愛がってくれる。
なんて…言ってみる、実は二人共いっぱいいっぱいなの。
キス…する毎に……ビクッビクッてなっちゃう、そして身体を触れ合って戯れるから相乗して…余裕が無い。
弾かれ、吸われ、酔わされ…目の前に霞みが掛かって強張った身体が緩けていく…。
なんだかんだ能登は男の子…で、私は虚勢を張ったところで弱くて…。怖々と堅持していた守を解かされる。
「っは…木原…ねぇ木原…、胸を…さ、触ってもいいよね、見たいし、他にも……っ痛ぇ!」
そんな甘く蕩けた感覚が不意に終り、興奮した能登が私を組み伏せるの……獰猛な雄になっちゃった。
求められる羞恥の照れ隠しに、私は彼の背中に爪を立てて紡ぐ、目なんか合わせらんない、よ。
「必死…、鼻息が荒い、わ、私は逃げないんだから……焦らないで、いちいち聞かなくて、もいいよ。
んん…何でもさせてあげるし、し、しし…"してあげる"から…がっつくなっ……エロ能登…」
嬉しいけどツンツンしちゃう…戯れるのは初めてで不安だから…。
視線は彼の右耳、注意は彼の全身に向けて……虚勢を張る『フーッ!!』って猫みたいに威嚇する。してしまう。
でもこのままじゃ…また能登を不安にさせてしまう、なら自爆する前に……頑張ってさらけ出す。
「………がっつかれたら怖いよ…優しく…して」
ツンツンした後はデレデレ。
『私はキミから逃げないよ、離さない…』
そう紡ぐ代わりに大好きな能登へ口付けを贈る、唇より…もっと印を刻みやすい首筋に…。
強く…強く、内出血するくらい吸い付いて…素直じゃない『麻耶』のマークを残す。
誰が見ても解る部位に私の痕跡を刻む、男女の契の証を…。
「木原、俺…優しくするから怖がらないで……」
証を能登も私の首筋に残してくれる、私に負けないくらい吸ってくれる、押し付けられた唇の柔らかさに……融解される。
薄暗く寒い部屋の中で私達は互いを抱いて熱くなって……汗ばんで溶け合う。
「んん、もうちょっと…左、う…行き過ぎ、戻って…。うん…そ、そこを持ってグッて寄せて…」
能登の手が背中をまさぐる、下着を外そうと探るんだ……。私は身を捩らせ、場所を伝える。
外しやすいように身体を起こそうか、とも思ったけどやめた。だって能登にくっついていたいもん。
「ふ…、あ……ん」
四苦八苦しながらホックを外し、彼の手は私の胸元へ……下着を取ろうとして指が当たって……くすぐったい。
「っん! ん…は、は…はっ」
そして…ほんの少し身体を起こした能登の手が胸に触れ、五指が埋められ、ぎこちなく動き始める。
痛気持ち良い…って言うのかな? 自分でも揉んだりしないから…ちょっぴり痛い、けど…肩が震えるくらい気持ち良いの。
「あ…、あぅ…は……、んくっ…んん……のと…ぉ」
彼の手の平で私は沸き上がっていく…熱情にチリチリ…と理性を端から燻られる。
痒い所に届かないようなもどかしさ、彼の興味深々な指遣いが堪らなく愛しい。
「ふ…あっ! くふぅ…はぅ…はうっ!」
彼の唇が乳首に触れ、舌先で転がされ私は焦がされる。断続的にちゅぱちゅぱ…と優しく吸われ媚びて甘えた声が漏れる。
美味しそうに能登がしゃぶりつく、その姿が可愛いとさえ感じる。
彼の頭を抱いて、心地よい疼きを瞼を閉じて甘受する。不安、怖れ、それらは快感の波間へと沈んでいく…。
「ふっ! ふぅ…っ! ふあぁっ!!」
強く吸い付かれ、唇で圧迫されて引っ張られ…、舌で蹂躙される。
乳首がジンジンしちゃう…淡い刺激と電流に痺れ絆されて蕩ける。
「はふっ…! んっ! あうぅ…」
両方の胸を能登に悪戯される…右胸は強く揉まれ、左胸は赤ちゃんみたいに吸われる。…蕩けそう。
「あっ! の、とぉ…っ……ひあぁっ! 」
背筋を駆け抜ける電流に私は虜になる、強く吸われて舐められ…噛まれて切なくなっちゃうの…。
お腹の中がだんだん熱くなっていって、息があがる…初めての経験で、自分がどうなってしまうのか不安…怖い、けど興奮してる。
「の、の…能登ぉ……は…ぅ私…怖いよぅ、気持ち良くて……怖い」
その入り交じった感情を彼に紡ぐのは庇護が欲しいから…。
どこまで墜とされるか不安で、怖いけど見て見たくて…そして彼に護られたくて右手で引き寄せる。
「だっ…大丈夫、俺が居るから…」
返された言葉の優しさ…短くても想いは深い、安心させようと左手を繋いでくれる、強く深く…。
「木原がまだ無理だって思うなら…止めよう? 無理してたら…イヤだし」
そう言ってくれる能登の顔はここからでは見えない、けどね私は強くなるもん。ここで逃げたら何回だって言い訳して逃げちゃう。
「す、るもん…能登と…したい。無理なんてしてない」
繋いだ手をギュッと握り返し、彼の身体の下で身を捩らせる。
「へ、変な声とか出ちゃうし…確かにそ、その…色々と恥かしいの、お腹の中がキュンッてなっちゃう、けどね……全部見て欲しい…。
能登に…全部見て貰いたい…って想ってて…あの……うぅ…好きだから……大好きなの、だから…恥かしいけど頑張る」
私は彼の身体の下から抜け出しベッドの上で相対する。
逸らしてしまいそうになる視線を合わせて、身を隠す最後の下着に指を掛ける。
でも掛けただけで止まる…、実は昨日…お風呂で『失敗』しちゃって…見せるには勇気が居るの。
「やっぱり見たいよね? 能登は見てみたいよ、ね…わ、私も見てみたいかな…って想うし…。
一緒に脱いだら……恥かしくないよ多分、あぅ…能登のちんちん…見せて?」
何故こんな事を言っているのか自分でもよく解らない、私は……能登を知りたい、から…それだけしか解らないけど…。
ああ…言い訳してる、うん…正直…『いいかな』って想っている自分が居るんだ。
『最後まで』しても能登は幻滅しないし、私に優しくしてくれる。
根拠は無いけど…そう感じている、心の奥底で想っている。
戯れ合うだけなら身を任せれば済む、けど私は…自身からも動いて彼に抱かれたい。
想いの発露、焦がれた相手に『女』にして貰いたいと願うのは自然な事だよね?
『私は貴方の色に染められたい』
今日は無理だとしても…これを布石にして繋げて、次の機会に…。
「うぅう…お、落ち着けぇえ…俺落ち着けよ。あ…あああ…ちょっと心の準備が…」
能登が頭を抱えて苦悩し、そう言う。勇気が…出ない? 恥かしい? そっか私も、だよ?
「ん……ドキドキしてるね」
私は彼の胸板に頬を寄せ、耳をつけて高鳴った心音を確かめてみる。
トクントクン……彼の背中に両手を回して鼓動を聞く、強く速く…逞しい。
「私も…ドキドキ……しちぇ……してるし。一緒だ…ね」
二人で一緒に進めば怖くない、能登が勇気を出せないなら私が引っ張ってあげる。
能登の身体から離れて今度は私の胸の中に彼を誘う。ギュッて…頭を抱き抱えて…ドキドキを聞かせてあげるの。
「ねっ? ドキドキしてるでしょ、能登も私も……。怖くない…怖くない」
私は彼の頭を撫でる、優しく…しっかり…。不安なのはお互い様、助け合おう。
「き、木原…っ! そ、その俺…あー自分のモノに自信が無くてっ!
って何言ってるんだ、あれ? あ…うぁ、えっと…」
能登はガッチガチに緊張、私の胸の中で暴走する、可愛いなぁ…。
ちょっと余裕ってか…緊張がほぐれたかな? うん…今なら大丈夫。頑張れ私っ!
「う…私は気にしない…てか他の男子のなんて…知らないし、比べようがないし…。
私は……能登のだけ知りたい…、能登以外を知りたくないから……。
私が知っているい、一番おっきい…のは能登の………ち、ちんちんだ…けになるしぃ」
何回、能登と言ってんだ私、あう…恥かしい。け、けど! こう言えば…伝わるよね? 『私は能登だけ見てる』って!
「そ、そう…か、うん、俺も……木原だけを知りたいし、見たい…わ。見せて…くれよ」
彼は嬉しそうに照れつつ返してくれた、胸がキュンッてなる…堪らなく愛しい。
『この人になら全部任せれるよ…』
そう想える、私は強くなれる。
「脱ぐ前に言っとくけど実は……私、昨日…お風呂で失敗しちゃって…ぜん、ぶ…剃っちゃって……。
無駄毛を整えようとしたら形が左右で変になっちゃったから……また整えようとして…失敗して…。
気付いた時にはツルツル……になっちゃってア、アソコの毛が…………無い、の」
そう、『失敗した』とはそういう事。陰毛を整えようとして…間違って…ムキになって剃り続けたら…無くなってしまった。
「マ、マジっすか? お…おお、いや…それはむしろ…ぎ…う倖」
相対した彼はブツブツとそう言う、何を言っているかまでは聞き取れないけど、まあ反応は悪くなさそうで胸を撫で下ろす。
「あはは…マジ、で…さぁ…能登」
私は彼の手を引きつつ仰向けに寝転がる、どうせ『見せたり』『愛し合う』なら…一緒に。
能登の手を下着まで持っていっておねだりする、目一杯に甘えた声で…。
「…脱がせて?」
彼が生唾を飲み込んだ音が聞こえ、続けて素早く頷く。鼻が触れるくらいに近付けた顔は真っ赤で…多分私も同じ、赤くなっている。
「くす…能登の顔真っ赤だし」
「木原だって…」
そう言った後はジッと見詰め合う、身動ぎ出来ず…ただ彼に身を任せる。
「ん…」
そして下着がゆっくり脱がされていく、端に差し込まれた指が徐々に下がって…フトモモに触れる。
少しお尻を上げて手助けしつつ、私は亜美ちゃんからの『アドバイス』をいつ実行しようか考える。
奈々子のメールと入れ替わりに届いた『アドバイス』を……。
それは『二人一緒にしか』出来なくて、気分的にも良いらしい。
そして凄く恥かしくて…エッチな行為というか体位? じゃなく体制というか…。ともかく私はそれに誘おうと思っている。
亜美ちゃん曰く『甘えん坊さん』になれるらしい。
「ねぇ…能登も……」
それを私から促すのは恥かしい、でもね…気付くまで待っている、受け身、そういうのはもう止めると誓った。
だから……私から能登に紡ぐ『して欲しい事』 『してあげたい事』それらをしっかり伝える。
「あ…ごめん、今脱ぐから」
そう言って彼が自身の下着に手を伸ばす、そして私はそれを止どめて囁く。
「私が脱がしてあげる、ねっ?」
私の言葉に彼は震える、恥かしそうに…。
半端に脱がされ、左足首に掛かった下着を抜いた後、彼の下着に………。
端から指を差し込みゆっくり脱がす、慎重に…丁寧に。
「ん、ちんちん…引っ掛かっている…し、ん…ん? 脱がしにくいや」
そう言ったのも実はわざとなの…、望む行為へ自然に移行する為の『ウソ』 ごめんね。
私は身体を動かして彼の横に移り、下半身の方へ頭を向けて寝転がる。
『シックスナイン』というらしい、亜美ちゃんが教えてくれた。
「き、木原っ! ヤバいって、この格好はヤバいって!」
能登は気付いたみたい…『今から』何が起きようとしているか。
うわずって…ほんの少し期待に満ちた声、当惑じゃなく『期待』なのだ、なら私は……。彼のお尻を持って仰向けから横向きに身体を動かす。
続いて下着を一気にずらして初めてのご対面、え………あう、うん、え、あ…うわ…これが…能登の…。
私は羞恥で固まる、…ちんちん…って結構大きいんだ、ね? おヘソに付きそうなくらい上を向いててヒクヒク…してる。
ほんの数センチ先の未確認生物…それが第一印象だ、能登に言ったら怒るかなぁ?
あ、でも! か、かわいいかも! えっと…えっと…ピンク色で、あれ…オットセイみたいで、あはは! あ…う。
「能登ぉ…あ、あのね…ぺ、ぺぺ……ぺろぺろしてあげよっか? うぅ…その私だけ気持ち良くして貰うのもあれだし。
い、一緒に……はう…"気持ち良い事"……しよっ?」
私はそう言ってちんちんの根元を両手で支えて…。
「え!? あ…ちょ……待っ…っ!?」
舌先をゆっくり近付けて…第一歩を踏み出す、大好きな能登にしてあげる初めての『スキンシップ』だ。
勇気を出して先っちょを一舐め…二舐め…彼の腰が震える…ビクッビクッ…て。
「ん…ふ、ぅ、ふっ…」
『亀さんの頭』だっけ、そこを私は舌で舐め続ける……ミルクを飲む子猫のように。
こ、こうで良いんだよね? ねっ?
凄く気持ち良さそうな能登の喘ぎを聞いて私は嬉しくなる、だから彼の形を確かめるように舐め回す。
「ふ…あ、ぴちゃ、んん、ぴちゃ」
突出した舌先でちんちんに唾液の軌跡を残していく、優しく…ゆっくり。
「能登も…んぅ……して?」
フトモモで彼の頭を引き寄せ、未知の世界へ誘う。一緒に溶けようと…。
「んあ…あ、ふっ…ぅう。ん…くちゅ」
能登の鼻息が秘部をくすぐる、それだけ顔が近くに『在る』んだと実感すると恥かしい。
そして…下腹部から沸き上がる蕩けそうな快感、彼の唇が『麻耶』に触れて舌で抉開けてくる。
ぬるぬるした暖かい舌が私をなぞる、一瞬フワリと翔ぶ…続いてジンジンと痺れる。
「ふあっ!? あ…う…ぅ、ちゅぱ…はっ!」
身体が熱を帯びて疼く…痺れと甘い霞を伴って…思考を止めさせる。
私に出来る事は眼前の彼に熱情を込めて尽くし、施される愛情に震える事だけ。
それ以上の事は出来ないし、それ以上は存在し得ない、私達が今行える最大限のスキンシップで契り、気持ちを深める。
能登の指が秘部を拡げ、自身でも慰めた事の無い部分を擦る。私はちんちんの筋に沿って唾液を刷り込んで返す。
「はっうぅ…。ちゅっ! はふっ…! ぴちゅ…っ」
ヤダ…見ないで、そんな所は見ないでよ恥かしいからエ、エロ能登…。でもお互い様、能登が興味深々なら私も同様だから。
ちんちんの先に唇を押し付けて舌先で小刻みに舐めてみる、『一番先っちょ』ここが気持ち良いみたいだから…。
甘く吸い付いてちょっと強めにクリクリ…抉ってあげるとちんちんがお辞儀するの、ピクンピクンって…快感の強さに比例して変化する。
秘部を蹂躙され蕩ける快感に本能が呼び覚まされ、研ぎ澄まされる。敏感な部分から膣口まで這う舌が私を淫れさせる。
気付いた時には引き寄せた能登の頭をギュッと挟み込み、彼の…鼻に唇に『麻耶』を押し付ける自分が居た。
「んっ! んっ! あはっ…っくふぅ…! ちゅぷ…」
形容しがたい痺れと電流、視界も思考も霞み掛かって…身体中を羽毛で撫でられるようなむず痒さに襲われる。
膣やその奥…はムズムズを通り越して熱を伴って疼き、止む事なく私を切なくさせる。
胸への愛撫より強く、切なく、総毛立つ電流に逃げ腰になる私を能登が掴む。
お尻をね…掴まれてグイッ…て寄せられちゃうの……。
堪らない熱情に燃されて私は啼く。甘く媚びた艶声で…。
「んあっ! く…んんっ、はっ…は…あむ…」
トロンと蕩け頭を振って『イヤイヤ』して媚びる、無垢な身体に覚えさせられる『性』に悦び身体を跳ねさせる。
だから私も彼に覚えさせたくなる『キモチイイこと』を…。喘ぎながら口を目一杯開けてちんちんをパクッて食べてあげる。
「ちゅぷ…ふ…あ、くちゅっ! んっ! ちゅっぷ」
「っうあ!! き、きは…らぁ!」
全部は呑めないけどちんちんの頭を含めて全体の三分の一までは大丈夫…それ以上は喉に当たりそうで無理…かな?
唇を窄めて口内で舐め回す、飴玉をしゃぶるように舌で転がす。すると能登が私の名前を呼んで啼く。
「ちゅぷっちゅぷっ…ちゅ…ぷ、んう、んっ? んんっ…」
断続的に吸い上げ唾液と舌を絡ませる、ゆっくり抽送して唇で締めると、私の口の中でちんちんがおっきくなっていく…。
「んむ…んっ! ちゅぶ! ちゅっ…ぷ、んは…あっ!」
彼の唇が敏感な部分に触れて…強く吸われる、そして舌先が躍る、弾いて、抉って、転がされる。
強烈な電撃が私の身体を巡り、快感という名の痺れを残し、刻んで、果てること無く続く。
背中が反って、息があがる…ううん出来なくなる、甘い甘い霞の中で迷い、捕まり抜け出せなくなる。
ゾクゾクとした震えが下腹部から背中を伝って思考を曇らせ本能を揺する、トロトロに蕩けてしまう。
だからか私は強く能登を求める、経験なんて無いのに彼を本能で欲している。
「ちゅぷちゅぷ…ちゅっ! ちゅっ! んは…あむ…っ!」
『サカリのついた雌』になって求愛し、口内で彼を発情させようとねぶり回し…唾液と共に溢れ出た精を啜る。
苦くて…青い能登の体液、それが精液では無く先走った体液だと…生き物として知っている、本能で解っていて…。
蕩けた思考で彼が興奮していると察し息継ぎの時間すら惜しい、と…しゃぶりついて…強く激しく抽送する。
エッチな気分…なんて通り越して私は『スケベな娘』になっている、舌で頬で上顎で彼を貪る。
熱く疼く秘部を彼に擦り付け、覚えたての快楽を…欲求を自ら慰めてしまう。
そして『もっと愛して…』と媚びる、大好きな彼と互いの熱を共有し果てるまで戯れる。
「のとぉ…。っはぁ…はあ…んん…」
私は彼の顔に跨がり、腰砕けになった身体を震わせてサカる、もっと『キモチイイことをして』と行動で訴える。
そう、私は甘えん坊になってしまう…。亜美ちゃんが教えてくれた通りな『甘々のフニャフニャ』になっちゃった。
秘部に沿って舌がねっとり一往復二往復、敏感な部分を転がされる…強く吸われて唇で甘噛みされる。
「はうっ! んあぁ…あ…の、ひょぉ……蕩けちゃうよぅう…ひあぁっ!!」
そう啼いて腰をフリフリして求愛する、本能で覚えている『雄に庇護を求める術』を自然と行ってしまう。
脳味噌が…『ふっとー』しちゃうよぅ…。
お尻をモミモミ…アソコをちゅぱちゅぱ…能登がエッチな音を立てて私を貪る。
能登のちんちんを頬張り、唇で敏感なカメさんを甘噛み…舌をねっとり使ってしゃぶしゃぶ…。
口内でビクッビクッて暴れている、凄くキモチイイんだ? ちょっと嬉しいかも……。
と更に情熱を込めて愛撫する。
「うあ! で、射…ちまうよぅ! あ、ああ…木原ごめんっ!!」
それは突然だった、能登が身を捩らせ始めて落ち着きが無くなっていく。
荒々しく私を貪り、堪らない刺激に絆されて私も強く返す…そのやり取りを繰り返していたら…能登がそう叫んで腰を私に押し付ける。
「んっ!? ん…くっ! けほっ!!」
その瞬間、口内でちんちんが跳ねて…喉に熱く勢いのある飛沫が当たり噎せてしまう…。
ビックリしておもわず口から離すとその飛沫は私の顔面を直撃、粘っこい熱い液体……あ、これって……能登の……。
慌てて口内へ咥え直して、舌で彼の迸りを受け止める…そうしてあげると悦んでくれるんだよね?
そう、能登が射精したのだ…我慢出来なくなったからかな…?
ともかく…私は彼と戯れ合って……擬似性交をして………お、おくしゅり…じゃなくて射精に導いた。
他でもないこの『私』が、だ。
大好きな彼を満足させてあげれたのだ、なら亜美ちゃんや奈々子の言っていた台詞を言えばパーフェクトになるんじゃ?
全てを吐き出して痙攣するちんちんから口を離して私は起き上がる。
彼の顔から降りて少し振り返って様子を見てみる、恍惚の表情というか蕩けた顔? をして肩で息をしている。
うん大丈夫だ、今なら効果抜群に違いない。私は口元を右手で押さえて左手で彼に手招きする。
「あ…木原? ご、ごめん俺…我慢出来なくて、驚いたよな?」
我に返り慌てふためきながら能登が身体を起こして私に謝罪する、けど私はジッと見詰めるしかしない、出来ない。
口の中はせーえき…があるし…ね、喋れないじゃん、てか…その…ええいままよっ!
ネバネバだし苦いし青臭いしっ! マジこれを飲むの!? って感じじゃん………うぅ、でも飲まなきゃ言えないしぃ! 行ったれ!
「んくっ…んぅ……う」
意を決して口内に溜まった唾液と共に能登のせーえきを飲み込んでいく…苦しい。
喉に絡み付くし、苦いし……噎せそう、だが数回に分けて私は咀嚼する。
「んふっ…う……お、おく……」
額に掛かった精液を人差し指で絡めとり、しゃぶりってみる。やっぱり苦い…ごめん、不味いです。
でも、能登の……だから大丈夫、いつか好きになるかも…ね?
指しゃぶりしたまま熱っぽく、上目遣いで彼を見詰めて私は紡ぐ、魔法の言葉を……。
「おくしゅり……おいしいでしゅ」
そう聞いて唖然とした彼、ピタッて固まっちゃうの……ひ、引かれたかな?
と思ったのも束の間、徐々に能登の顔は真っ赤になっていき…ボンッ! と効果音が聞こえてきそうな勢いでショートした。
..
.
「ごめんって…マジ嬉しかったからテンパっただけだって……」
それから十分ばかり後、私は羞恥で顔を真っ赤にし涙ぐみつつ彼に背を向けていじけていた。
能登が暴走して恥かしい事ばかり言ったから……だ、ぜーんぶ能登のせいだ。
『ヤッベェ! ヤベェよ! マ、マジ? おくしゅりっ!? もう一回言って!』
だの
『お、俺も木原の愛え……ぐはっ!』
とか叫んで……二つ目は最後まで言わせなかったけど…。
ミゾオチを手刀で突いてしまったのは不可抗力、そうしないと彼は暴走し続けるだろうから。
てか…これじゃ『ラブラブ』じゃなく『変態』じゃん、うぅ…痴女だよ。
ま、毎回…飲んで、おくしゅり〜って言わなきゃ駄目になるから…。
私は友人達と浮かれていた自分を呪っていた。後悔ともいう。
腹いせに能登のTシャツで顔に飛んだ精液を拭いても私の心は晴れない。
………ううん、また『ウソ』を言ってしまった。
なんだかんだ言いつつ私は照れているだけなのだ、大好きな彼が暴走してしまうくらい悦んでくれた事が嬉しいの。
大きな一歩を踏み出して成功し、仲良しになれたのが幸せで…見てみたかった未来の関係を垣間見て照れまくっているだけ。
素直じゃない私はフテたフリをして彼の気を惹こうとしているだけ。
不機嫌そうにツンツンしてみせて彼を困らせているだけ…。
「お、お昼寝っ! 私が起きるまでギュッてして、離さなかったら……許してあげるっ!!」
私は背を向けたまま彼にそう言って被った掛布団の中でモジモジ…。
自分でも言うのはアレだけど可愛くない、わがまま…。
でも…それしか出来ないもん、これしか考えが浮かばないもん。
「わかった…、ん、後ろから抱き締めてで良い? それとも…」
そっと背後から抱き締めてくれた能登、やっぱり優しい…私のわがままを許容してくれる。
「真正面からに決まってるじゃん、気付け………にぶちん」
私はいそいそと身体を反転させて、そう呟いて彼の胸の中に収まる。
「う…悪かったね、どうせ俺はヘタレの鈍感で可愛くない奴さ」
彼は自嘲しつつも私を包んでくれる…。
一つの枕を共有し、彼の胸板に頬を寄せて収まりの良い場所を探る。
「ウソ……能登はカッコいいよ」
最後にそう言って私は意識を手放す、心強い彼の温もりに触れ、充足感に包まれながら………。
続く
今回は以上。エロ分が少なめで申し訳無いです、次回からは濃ゆくしますので勘弁してやってください。
では
ノシ
乙乙
容量>レスとか昨今稀に見るスレだ
465 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 23:41:02 ID:nLJgF3oP
、、
川嶋安奈が不法薬物所持で逮捕
って電波を受信したんだけど、流石に不謹慎かな?
竜児の親父は確実としてやっちゃんも若い頃は…いやいやそんな訳ないな
それはあーみんが苦しむのが見えてるからなあ…個人的にはあまり読みたいと思わないが、書きたいのなら別に止めはしない