【田村くん】竹宮ゆゆこ 23皿目【とらドラ!】

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421名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 19:39:56 ID:sLS+ARge

屁こきネタで実乃梨のキャラ立てるところは良かった
後、亜美へのみのりんフラグブレーカーぶりがパワーアップしてて笑うしかなかった
この話だと活躍の場ないのかな、あーみん
422名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 20:25:51 ID:b/vOy84F
423名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 10:31:30 ID:uNLTd6Sc
今更ながら、まとめでななどらを読んだが…

奈々子様最高!
作者様は神ですw
424名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 13:13:36 ID:wuM0JRk/
ななどらとななこいでゴッチャになる……
読み直そう
425名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 17:47:15 ID:CxVN7zUN
両方とも面白いからな、俺もごっちゃになる
それは他のよく出来たSSにも言える事だが、なんだか説得力あるんだよな
だから、実際に発表されたエピソードのように思えてくる時がある
426名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 23:10:34 ID:u8iTjKG1
個人的にななどらに1票。
でも……麻耶が足りない。と乾く俺。
427名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 01:51:34 ID:NKKf+Ypt
保管庫更新マダー?
428名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 04:52:14 ID:X98ypyF0
【会員制】PINK書き込みに●必須化か?
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/erobbs/1254786518/

管理人のJimさんが次のような提言をしました。
-----------------------------------------------------------
Let's talk with Jim-san. Part14
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/erobbs/1251283253/156
> I am thinking until the troll problem is fixed
> to make Maru a requirement on bbspink servers for posting.
(適当訳)
わたしは荒らし問題が解決するまで、
PINKの書き込みに●必須とするように考えています。
-----------------------------------------------------------
429名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 04:57:26 ID:X98ypyF0
2chの子分BBSPINK、有料化へ 現管理人Jimさん「書き込み、●必須にする」
http://tsushima.2ch.net/test/read.cgi/news/1254815718/
430名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 17:35:36 ID:r6TRjInb
最近の『君の瞳に恋してる』を期待して毎日チェックしてます。なんか最近yahooでとらドラの何かあったのかな
431名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 20:50:59 ID:8WhuWFBu
みんな、スレの容量が一杯間近だから、投下控えてるのかな?
過疎ってるてコメントを引き出す釣じゃないよ、一応
432名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 21:00:04 ID:r4ZQDfBB
俺は違うと思う

30KB近くあればそれなりに書けるし

俺も釣りじゃないよ、所感ってやつだ
433名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 21:54:29 ID:wF7HGQAF
全部書き終えてから投下をと思ってると中々落せない。
でもちょっと分量多くなりそうで困ってます。
現在49KB多分18レス分。まだまだ先です。

念のため、一回の許容のレスってどれ位が良いんだろうか?
10とか20位で区切った方が良いのかな。
434名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 22:03:53 ID:dsSPq7DT
>>433
職人さんによって変わるからね〜、ある人は20レスだし、
ある人は60レス越だったり…まあ読みやすい 〜30レスくらいが良いかと…
435名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 22:10:12 ID:A4Z/BOvE
>>433
貴方が読みやすいというサイズで大丈夫ですよ。
436名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 22:14:55 ID:IetnPLVE
60レスくらいだと流石に分割した方がいいよね
ぶっちゃけ読んでて途中でダレる
モニタは本と同じ様には行かないからね
437名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 22:26:06 ID:wF7HGQAF
では20レス位で落そうかと思います。
完全に完結させてからの方は良いと思うので、出来れば次スレかそのまた次か。
なんとか次スレには間に合わせたいと思います。
感が取り戻せず苦戦です。
ではです
438名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 00:50:21 ID:t7bP+6Ys
期待
43998VM:2009/10/08(木) 02:08:10 ID:Zk6l1+Eb
こんばんは、こんにちは。98VMです。

そろそろ次スレかなーと思って埋めネタもってきたんですが…
なんかパッタリ進まなくなってますね。
というわけで、急遽なんか書きました。
色々な意味でご批判を受けそうな内容になってしまいましたが
急造品のご愛嬌ということで、ひとつ。
440戯    1/2:2009/10/08(木) 02:09:09 ID:Zk6l1+Eb

   ― 戯 ―                       98VM

独神。
高校時代、29歳の女教師をそんな風に呼んでいたっけ。
私自身はそんな風に呼んだことはないが、面白おかしく聞いていた事も確かにあった。
あの頃は、遥かに先の事に思えて、その数字にリアル感がなかったものだ。
けれど、今になってみると意外にあっという間だった。

フロリダの空はどこまでも蒼く澄んで、その先にある星の海を微かに映し出す。
特に用事があるわけでもなく、7 Miles Bridgeをオープンカーでのんびり走る。
キーウェストまでいったら……、またオーランドへ戻る。
何もない休日は、ただメキシコ湾を渡る風だけが道連れのドライブ。
ここ何年か、それが私の休日の過ごし方だった。

青と蒼に挟まれた無骨な灰色の道。 コンクリートの防壁のせいで海の上を走っている実感は無い。
しかし、それでも中々に心が晴れる。
雲ひとつ無い真っ青な空を、シミのように白い海鳥が横切って、私は顔を上げた。
やはり、フロリダの空はどこまでも蒼く純粋で。
初めて見上げた時とそれは変わらないはずなのに…
今は郷愁にも似た青が目を眩ませる。

…明日、私は30歳の誕生日を迎える。


星の海に憧れて、ひたすらに突っ走った。
立ち止まることなく。
振り向くことなく。
きっと色々な物を切り捨ててきた。
たぶん、沢山の物を犠牲にしてきた。

しかし、そのお陰で、私は手に入れることが出来たのだ。
――星の海を。
それは、それまでの人生全てを塗り替えてしまうような衝撃。
何度かそこに行って、そして何日もそこに身を置いて。
何者にも代え難き時間を過ごしてきたのだ。
だから、私に、後悔する事など何も無い。
地上に置き忘れたものなど無い。 私の魂は星の海に放たれたのだ。

441戯    2/2:2009/10/08(木) 02:09:52 ID:Zk6l1+Eb

やがて私は、ウェスト・サマーランド・キーで車を停めた。
壊れたOld 7 Miles Bridgeの袂まで散歩する。 役割を終えた巨大な鉄橋は荒れるがままに放置されている。
何度も見た景色だが、今日は何故か少しだけ違って見える。
青空に幾つか白い雲が混じり始めて、一層のコントラストを成す中、朽ちた巨大な人工物。
この橋を見て、『寂しい』と思ったのは、多分今日が初めてだ。
私は、懐に忍ばせた手紙を取り出した。
それは、まだ封を切っていない手紙。
白状しよう。
こんな海の果てまで来なければ、私にはその手紙を開く勇気が湧かなかったのだ。
差出人の名前は北村祐作。
ヤツの笑顔は… もう忘れかけている。
今の私には、隣に立って、支えてくれようとする人もいる。
けれど、怖かった。
見たくなかった。
あれは、
あの日々が育てたものは、
私にとって、生涯唯一つの想いだったのかもしれない。

開かれた封書の中には、見覚えの有る小柄な女と佇む、アイツの写真と、薄い一枚の紙切れ。
そしてこの上なくシンプルに、ただ一言のメッセージ。

『結婚します。』

……よく晴れた空なのに、肌に冷たい感触が宿る。
一つ、二つ。
遠い空から落ちてきて、ポツ。ポツ。と囁き声を上げる。

遥か蒼く澄んだ空を見上げる。

ポツ。ポツ。と。

―――頬を冷たいものが濡らしていった。

                                                           おわり。
44298VM:2009/10/08(木) 02:12:13 ID:Zk6l1+Eb
以上です。 お粗末さまでした。

推敲なしですので、ちょっと荒いですが、スレが進むきっかけになってくれればと。
もう寝ますw限界w
443名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 02:23:31 ID:lv2EstGh
会長が今流行りの乙男をやっておられる
444名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 02:27:14 ID:t7bP+6Ys
ああ・・せつねえ・・
445名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 09:51:47 ID:EXVfwvRT
>>442
GJです
446名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 10:57:49 ID:UfUlcVU+
全宇宙が泣いた
447名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 11:17:29 ID:2WZqiP1C
たいがと、きたむら……
え……?りゅうjry
GJ!
448名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 11:39:53 ID:w9aPmP4y
GJ!
98VMさんだから竜児×亜美の外伝なのかな。
449名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 15:55:43 ID:gToraMvM
ふぅ……気持ちが穏やかになった GJ!
450名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 17:07:01 ID:2NFXk/JW
うむ、同感だ。
「良作は精神安定剤」という言葉があってだな・・・
451174 ◆TNwhNl8TZY :2009/10/09(金) 01:43:34 ID:PDN46/Q5
埋めネタ代わりに
「たいがー」
452174 ◆TNwhNl8TZY :2009/10/09(金) 01:44:16 ID:PDN46/Q5

「・・・・・・なに見てんのよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

なんとなく気に入らない視線を送ってきてる気がする。
ホント、竜児の前とはえらい違い。
なんでこんなやつを家に上げてしまったんだろう。
竜児があんなに頼み込まなければ、こんなやつとっとと追い出してやるのに。

                    ※ ※ ※

あれは今日の放課後、竜児とスーパーで買い物をした帰り道。
電信柱の影に隠れながら、だけどそいつはしっかりと私を見据えていた・・・ように感じた。
気になったんで、歩みを止めて振り返った私の目に

「・・・・・・にゃー」

まだ生まれてから大して経ってないだろう両手に乗せられそうなほどの、とても小さな体。
背中と手足に横に。眉間に縦に。
三本ずつ入った虎縞の線は、そいつがそいつである事を主張しているみたい。
他には尻尾にも縞々の線が入っているのを除けば、どこにでもいるだろう茶色い毛並みをした、子猫。
そいつが物陰からじぃっと私の方を睨んでいる。
足は突っ張り、毛を逆立て、尾っぽに棒でも仕込んでそうなくらい垂直に伸ばした格好で、私を睨んでいる。
なにこいつ、ケンカ売ってんの? チビのくせして。

「で、そこで櫛枝がよ・・・あれ、大河?」

隣にいるものだと思っていた私が足を止めているのに気付いた竜児が、話を中断して振り返る。
見れば、何をしてるんだという言葉が伝わってきそうなマヌケ面でこっちを見ている竜児。

トットット

だけど、その顔はすぐにあの凶悪な目つきに似つかわしくないふやけ顔になった。
かなり似合ってない。
それだけならまだしも、横を通り過ぎていく通行人が走って逃げていくくらいだから、超をいくつ付けても足りないほど不気味。
竜児はその事に気付いてるのかしら・・・気付いてたら、とっくにふやけた顔を引き締めてるわよね。

「お、おぉ? なんだなんだ、お前どこん家の子だ」

近づいてきて、自分の周りをぐるぐると回って歩く子猫の存在に気付いた竜児が、手から提げている買い物袋を道路に着けないよう
気を付けながら腰を落とした。
そんなカッコでどこの家の子だ、だって。
猫が喋る訳ないのに、なっさけない声出して、なっさけない事聞いたりして、バカじゃないの。
どうせそいつに引っ掻かれるかなんかがオチよ。

「にゃぁ〜」

だけど、私の予想は即座に否定された。
私にあれだけ敵意を剥き出しにしていたあの子猫は、腰を落とした竜児に擦り寄って甘ったれた鳴き声を上げた。
それだけじゃない、頭を撫でようと出された竜児の手を、その小っこい舌でチロチロと舐めている。
竜児がくすぐったそうに指を引っ込めれば、猫はまだ満足していないのか、私の癇に障る間延びした声で鳴いた。
本物の猫なで声ってのは、きっとあんなのを言うんじゃないのかしら。
聞こえた瞬間高笑いをしているばかちーの憎たらしい顔が頭を過ぎったから、けっこう自信が持てる。
てかなによその態度の変わり様は。猫が猫被ってんじゃないわよ。

「おいおい、俺の指なんか舐めたって美味くないぞ? ハハッ、スゲェ人懐っこいなぁ、こいつ」
453174 ◆TNwhNl8TZY :2009/10/09(金) 01:45:02 ID:PDN46/Q5

そんな訳ない、竜児の指はおいしそ・・・じゃなくって。
そいつが人懐っこいなんて嘘でしょ?
現にそいつは私には近づくそぶりもない。
それどころか、時折私にガンをつけてはこれ見よがしに舌なめずりまでしてくる。
しかも、まるで「こいつは私のもんだ」と言わんばかりに、何度も竜児の指をザラついた舌で───なんだか気に入らないわね。
その仕草を竜児に隠れながらしてるのも、一層気に入らない。

「ひょっとしたら食い物の臭いでも染み付いてんのかもな、なぁ大・・・が・・・」

「なによ」

気が済むまで指をしゃぶってもらってよかったわね、竜児。
さぞかしご満悦でしょ? なのになに引き攣った顔してんのよ。

「フーッ!」

・・・あんたもそろそろいい加減にしときなさいよね。
いくら私だって、挽肉になってようが猫のお肉なんて食べたくないんだから。
あんただってイヤでしょ? ・・・××××されて※※※で○○○にされるなんて・・・

「フー・・・みっ!? み、みいぃ!! ・・・みゃあぁ・・・」

勝った。
クソ生意気にもまたも私に向かって威嚇なんてしてきたチビが、私の睨みに恐れをなしたのか、
竜児から離れて元居た電信柱にすっ飛んでいくと、ガタガタ震えてか細い鳴き声を上げている。
動物のそういう行動は負けを認めたってことなんでしょ、多分。
だから、私は勝った。
なのに

「・・・おい、なにも追っ払うことはなかったんじゃねぇのか」

竜児の棘を含んだ一言で、一気に冷める・・・せっかく人が余韻に浸ってるのに、水を差すなんてどういうつもりよ。
それに追っ払うなんてやめてよ、私はなんにもしてないじゃない。
竜児だって見てたでしょ。
私はちょっとばかし睨んでやっただけ。
それだけであいつが勝手にどっか行ったんでしょ。
そうなのに、なに怒ってんのよ。

「見ろよ、あいつ。あんなに縮こまっちまって・・・なぁ、さっきっから何でそんなにピリピリしてんだよ、大河。
 晩飯だったら帰ったらすぐ作ってやるから、機嫌直せよ」

はぁ?

「なに言ってんのよ竜児。私は全っ然怒ってないじゃない」

見当違いにもほどがある。
怒ってんのはあんたで、私はこれっぽっちも怒ってない。
怒ってる風に見えるのは、怒ってないのに怒ってるって言われたら誰だってそうなるでしょ。
私はいつも通り。

「・・・そうかよ、そりゃあ悪かったな」

ほら、やっぱり怒ってるのは竜児じゃない。それもふて腐れたりして、カンジ悪。
立ち上がった竜児はさっきよりも更にトゲトゲしたセリフを吐くと、それ以上何も言わずに私に背を向けた。
けれどすぐには帰ろうとせずに、提げていた袋の中から今日の夕飯に出す予定の、あんまり美味しそうに思えない
シシャモが入ったパックを取り出した。
その場で包装してあるラップを破くと、外だっていうのにそこいら中が魚臭くなる。
やっぱり、あんまり美味しそうじゃない。
そんなもんこんな所で開けてどうしようってのよ。
454174 ◆TNwhNl8TZY :2009/10/09(金) 01:45:43 ID:PDN46/Q5

「ほら、お前はこれで機嫌直してくれよー、美味いぞ」

何をするのかと思って見ていれば、竜児はその中では一番小振りなシシャモを摘んで、
電信柱に隠れてこっちの様子を窺っていた猫に分け与えてやった。
最初こそビクついていた猫は、屈んだ竜児が優しい言葉をかけてやると害はないと判断したのかしら。
すぐに飛び出してきて、目の前に置かれたシシャモに目もくれずにまた竜児の指を舐め始める。
その様は猫というよりも、どちらかといえば犬みたい。
誰にでも尻尾を振る犬。
ご機嫌な猫につられるように、竜児もふて腐れていた顔を引っ込めて柔らかい──つもりかしら──顔になっていく。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

むかつく。

「さっきは悪かったなぁ、あいつは腹を空かすといつもああなんだ。見境がなくなるっていうか」

余計なこと吹き込んでんじゃないわよ、それに猫に分かる訳ないって何べん言わせんのよ。
お腹が減ってるのは本当だけど、いつもって、見境がないってのはなによ。
失礼しちゃうわね。
・・・もう我慢の限界だわ。

「ねぇ、竜児」

ピク、ピクピク

私の声に反応して、あの猫が耳をピクピク動かした。
警戒してるのね。いいわよ、その方が野良っぽくて。
だけど私が用があるのは私に怯えるこいつじゃない。
大して気に留めないで、私は続けた。

「餌付けなんてしたら付いてくるわよ、そいつ。飼う気がないんだったらそういうのやめなさいよ」

ピク・・・

今度は猫じゃなくて、竜児の肩が小さく動いた。

竜児の家にはもうあのインコがいる。
竜児が可愛い可愛いと言って甘えに甘やかした、気味が悪いほどレパートリーは豊富なくせに自分の名前は満足に言えない、
それどころか卑猥な単語に変換するブサイクなインコ。
あれくらいならともかく、竜児の住んでるアパートで動物が飼えるとは思えない。
餌代だの予防接種だの、必要になるだろう費用を工面する余裕も感じられない。
そういう事情を踏まえれば、私の言葉はあまり意味がない。
結局は飼えない事なんて、竜児が一番分かってるはずだから。

「だけどよ、ほっとけねぇだろ」
455174 ◆TNwhNl8TZY :2009/10/09(金) 01:46:29 ID:PDN46/Q5

声色から伝わってくる、嘘偽りのない正直な気持ち。
背中を向けられていて分からないけれど、顔にも出ているはず。
竜児ならそう言うと思った。
見ないフリをするくらいなら、始めからこんな事はしない。
見ないフリができないから、だから竜児は・・・それは純粋な優しさから来る物で、竜児の良い所だって私は認めてる。
だけど気まぐれに手を差し伸べて・・・それで?
それでお終いになってしまったら、この猫はどうなるんだろう。
見たところ首輪もしていないから、多分野良猫。
かといって周りには親猫らしき猫は見当たらない。
その事を不憫に思った訳じゃないけど、幸せそうに竜児の指を舐め続けるこいつの、何にも考えていなさそうな顔を見て、
ちょっと考えてみただけ。
小さい内から親元を離れて暮らすなんて人間でもよくある事じゃない。
まして動物なら尚のこと、当たり前と言ったって過言じゃない。
自分の力で生きていくのは、遅いか早いかの違いはあれど、人間も動物も──私だってこいつだって一緒。
でも、半端でも優しさを受け取ってしまったら、この猫は必ず味を占める。
そうなったらまだ小さなこいつは、この先誰かが・・・竜児が傍にいなければ生きていけないかもしれない。
味を占めるって言うのは、極端な話、そういうこと。
それは猫がしたたかだからとか、それが悪いという訳ではない。
原因は竜児。
同情して、放っておけないからと手を差し伸べた竜児の優しさが、自分の力で生きることを止めさせてしまう。
・・・こいつを、ダメにしてしまう。

「そんなこと言っても面倒なんて見れないじゃない、あんたん家じゃ」

イライラする。

「・・・でもな、俺は・・・」

私はなんでこんなにもイラついているんだろう。
腰を落として、中途半端な高さに手を固定している竜児を見ていると、言いようのない苛立ちを感じる。
猫は遊んでもらっているつもりなのか、竜児の手に向かって跳びついてはしがみ付いたり、後ろ足だけでなんとか立ち上がっては
前足をチョイチョイと振っている。
遊んでもらってると思って、とても、とても嬉しそうな猫・・・やっぱり猫には人間の言葉も、心も分かる訳がない。
当然よね。人間だって猫の気持ちも、あるのかも分からない言葉も理解できないんだから。
察しろという方が無理な話だけれど、猫には竜児の表情からは何も察する事ができない。
私だって、竜児の考えている事なんて分からない。
それでも言わなければならない。

「いい加減にしなさいよ、竜児・・・子供じゃないのよ? ほっとけないって、それでどうにかできるもんじゃないって、竜児だって分かるでしょ」

間違った事を言ってるつもりはないけど、ひどい事を言っている自覚はある。
似たような経験を、いつか、私もしたから。

「・・・なぁ、こんな風に言ったら気ぃ悪くされそうだけどよ・・・なんだか大河みたいに思ったんだよ、こいつの事」

言いようのない苛立ちを感じている私に、そっと囁くように呟いた竜児。
その言葉が耳に届いた瞬間、体の奥の奥、お腹の底の方から抑えきれない怒りが込み上げてくる。
いつものがプチって音を立てているとしたら、今度のはブヂィッ! って太く大きな音を立てて、私の中から噴出していきそう。
けど、その怒りが表に出る事はなかった。
胸の真ん中から、それを上回る失望感と・・・多分、悲しかったんだと思う。
それらが寸での所で暴れだしたい衝動を抑え込んだ。
代わりに去来したのは、感じたこともないような空虚な感情。
456174 ◆TNwhNl8TZY :2009/10/09(金) 01:47:13 ID:PDN46/Q5

竜児は今なんて言ったんだろう。
その猫が私に───そう、そう言った。
確かにこの猫は見ようによっては私に見えるかもしれない。
虎縞の毛並みに、掬うように広げれば本当に手に乗れそうな小さな体。
まるで手乗りタイガーっていう私のあだ名を忠実に再現しているよう。

「私みたいって・・・どこが似てんのよ」

だからなのかもしれない。
私は一目見たときからこいつが気に入らなかった。
手乗りタイガー・・・それは私にとって嬉しい愛称でも、望んで呼ばれている物でもない。
単に背の低さと、なにかにつけては暴力を振るってしまう私の性格と、変な名前からもじって付けられただけ。
そのどれもが私を表しているけれど、私はそれがイヤで堪らなかった。
男の子にだって付けられないような名前も、いつまで経っても伸びない背も・・・その事でバカにされるのがイヤで、
バカにした奴等を叩きのめしたら、いつしか手乗りタイガーなんていうあだ名でバカにされるようになった。

イヤだった。

竜児に、遠回しにとはいえそう言われたような気がして、イヤだった。
こいつだけはその言葉を私に向かって言ったりしない、私をバカにしたりしない、私を・・・否定しない。
心のどこかでそう決めつけて、私が勝手に期待しただけなのに裏切られた気がした。
だけど

「どこがって言われても・・・よく分かんねぇよ、俺にも。大河とこいつは全然似てないのにな」

竜児は、そう言った。
なにそれ。

「大河はこんなに人懐っこくないしよ」

「にゃあ?」

ヒョイと抱き上げられた猫が、不思議そうに竜児を見上げている。
それも一瞬の事、竜児に顎の下を撫でられてゴロゴロと鳴けば、すぐに手なり胸なりに頬を擦り付けては甘えている。

「目の前に食い物が置いてあったら、迷わず食うだろうし」

シシャモは気に入らなかったか? と、制服に毛をくっ付けられるのも構わないでされるがままの竜児は、
道端に置きっぱなしだったシシャモを拾うと、猫の目の前まで持ってきてプラプラと揺らした。
右に左に揺れ動くシシャモには欠片も興味を感じないのか、相変わらずあの猫は竜児にベッタリだけど。

「でも、何でだろうな・・・俺にはこいつが大河みたいに思えてしょうがねぇんだよ。だから、ほっとけねぇ」

───私に思えて、それで放っておけない・・・・・・?

その言葉が、胸の中にスーッと溶け込んだように感じた。
457174 ◆TNwhNl8TZY :2009/10/09(金) 01:47:55 ID:PDN46/Q5

それがどんな意味を持ってるのか、どんなつもりで口にしたのか、私には分からない。
ただ、竜児は嫌味のつもりで言ったんじゃなかった。
少なくとも私を丸め込もうとしてる気配は感じられないし、本当の事しか言ってないとも思う。
第一、そんな考えがあるんならこんなこと言ってないで機嫌を取ろうとするはず。
同情や、哀れみから来る物でもない。
毎日、それこそ学校でも外でも顔を突っつき合わせているから分かる。
誰よりも竜児を知っている・・・そんなつもりはない。
でも、私にしか分からない竜児だってあるから。
だから、信じてもいいと思う。
その言葉を、竜児を。

信じたいって、思った。

「なによそれ、全然理由になってないじゃない。ばっかじゃないの」

「おぅ、なんとでも言え」

棘を含んだ私の言葉を、竜児は軽く流す。
邪険な感じは、もうしない。
いつもと同じ、私がよく知っている、私だけが知っている竜児のそれ。

「・・・もういい、さっさと帰るわよ。お腹減ってるんだから」

「はいはい、分かったよ」

これじゃあ、私の方がばかみたい。
意固地になってふて腐れて、引っ込みがつかなくなって意地張って。
ばか、ばかばか、ばかばかばかばかばかばか。

「・・・・・・ばか」

                    ※ ※ ※

結局───
あの後、案の定っていうか、あの猫は竜児から離れようとはしなかった。
竜児と、隣を歩く私との間をチョコチョコと歩いて、最後はアパートにまで付いてきた。
困り顔の竜児を背にした私がいくら追っ払っても、すぐにまたアパートの階段を駆け上り、玄関の前から動こうとしない。
ドアを堅く閉じ、諦めてどっかへ行くのを待ってみても、石みたいに動かない。
それどころか寂しそうに鳴き声を上げて、ひたすら竜児を呼んでいた。
そして

「・・・はぁ・・・もういいわ、ったく・・・やっぱり、今からでも外に放り出そうかしら・・・」

困り果てた竜児が必死に、それはもう必死になって頼むものだから、仕方なく。
本当に仕方なく、今日のところは一先ず私が預かることにした。
だから餌付けなんてするなって、あれほど言ったのに・・・まぁ、晩ご飯にししゃもの代わりに特別にとんかつまで出してもらって、残さず平らげた
私に、もうその話をとやかくは言えないけど。

トットット
458174 ◆TNwhNl8TZY :2009/10/09(金) 01:49:01 ID:PDN46/Q5

目を逸らすと向こうも私との睨めっこに飽きたのか、あいつは物珍しそうに家中を駆け回った後、何故か私の部屋の前から動かなくなった。
居たけりゃそこに居ればいいとリビングに引き返そうとすると、カリ・・・カリ・・・と、何か堅い物を引っ掻くような音が微かに聞こえた。
まさかと思って振り返れば、ようなじゃなくて、あいつが爪を立ててドアを引っ掻いている。
慌ててやめさせたけど、軽くとはいえドアには爪痕が残ってしまった。
知らず知らず、溜め息が漏れてしまう。
ドアに傷を付けられた・・・別にその事がショックなんじゃない。
この家を隅から隅までキレイにしている竜児にこれが見つかった時、文句を言われるかもしれないと思うと勝手に漏れていた。

「いいわね、今度こんなマネしてみなさい・・・締め出すだけじゃ済まさないわよ」

私の注意も素知らぬ顔で──言葉が分かるはずないって分かってるけれど、ムカつくものはムカつくわね──猫はジッと動こうとしない。
ジィッと、ただドアの向こうを見つめている。

「・・・はぁ・・・」

もう一度漏れた溜め息と共に、私はドアノブを回した。
遮っていたドアが開け放たれると、一目散に部屋の中へと走っていく猫。
なんとなく気になったんで、私も入ってみた。
すると、そこには

「にゃあ、にゃー・・・みゃあ・・・みゃおぉ」

窓に向かって、必死に声を張り上げる猫がいた。
明かりが差し込む窓に向かって、何度も、何度でも。
窓から差し込む光の中で佇む猫は、そこだけ切り取れば絵になるかもしれない。
でも、私はきっとその絵を飾らないと思う。

こいつは窓そのものに向かってじゃない。
窓を突き抜けて、その先にある、ある場所。

竜児の下に向かって、こいつは鳴いていた。

どうしてこいつはこんなにも竜児に懐いているんだろう。
初めて会った時もほとんど間を置かず、竜児にだけは全力で甘えていた。
私には今だって警戒を解いていないのに。
私が追い払っても、こいつは一旦離れはしても目に付く位置にはいた。
竜児が近寄れば、私が追い払った事も忘れて、何の不信も抱いてないように竜児に擦り寄っていった。
目の前に置かれた餌にも微塵も興味を示さなかった。
ただただこいつは、竜児に甘えていた。

どうしてこいつはそんなにも竜児がいいんだろう。
竜児を求めて、探して、来てもらいたくて。
こんなにも鳴いているんだろう。

どうしてそんなこいつに、私は自分を重ねて見ているんだろう。
純粋に甘えられるこの小さな猫を、羨ましく思っているんだろう。
こいつの隣に座って、竜児が顔を出すのをジッと待っているんだろう。

どうして。

「みいぃ、みゃお〜」

竜児の部屋から漏れていた明かりが消えるまで、こいつが鳴き止む事はなかったから

「・・・今夜だけよ・・・シーツ、汚さないでよね。竜児に怒られるの私なんだから」

私が寝られたのは、鳴き疲れて寝てしまった小さな居候を、起こしてしまわないようそっとベッドまで移してやってからだった。
459174 ◆TNwhNl8TZY :2009/10/09(金) 01:49:32 ID:PDN46/Q5
おしまい
いつかコンビニの駐車場で見かけたあいつは、今頃どうしてるんだろう。
460名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 04:15:24 ID:vB1t2C4n
どっちの手乗りタイガーもかわいいよタイガー!
461名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 08:18:34 ID:GGmynO6P
【田村くん】竹宮ゆゆこ 24皿目【とらドラ!】

http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1255043678/
462名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 11:33:54 ID:9YPv30id
やはり大河はかわいい
463プチうめネタ:2009/10/09(金) 12:37:50 ID:OggUir94
「自分は、いや俺は……」
 覚悟を決め、ひと呼吸入れる北村。
 緊張がピークに達し、もういちど息を吸う。
 そして、声を上げた。
「か、かかか、かかかかっか」

「何してんだ北村のやつ」
「さあ」
 大河と竜児が顔を見合わせる。

 いかん、もう一度。と、更に息を吸う。
「か、会長は、すすす、すみれーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「まあ、そうだよな」
「今更叫ばなくても」
 ギャラリーがざわつく。
「狩野、何とかいってやれー」
「呼び捨てにされてんぞー」

 ぽかんと突っ立っているすみれに、マイクが渡される。
「バカ者! 後で、生徒会室まで来い! 一人でだぞ!」
 
 数時間後、真っ赤な顔の二人が、廊下を並んで歩くのが目撃されたとかなんとか――。
464名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 15:08:59 ID:bnCA9hSz
>「か、会長は、すすす、すみれーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
テラフイタwww
465名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 19:07:11 ID:HnT4t2WE
>>459
GJ!
大河がかわいいながら、何だか切なくなった
てか>>309とテンション違いすぎないか?www

>>461
乙!

>>463
生徒会室で何があったのか微に入り細に入り教えてもらおうか
466名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 19:15:10 ID:fVaRPIEg
そういえば、竜児と亜美の修学旅行へ行けなくなったssの続きが気になるのだが。
46798VM:2009/10/09(金) 19:45:14 ID:9iJuKUzC
こんばんは、こんにちは。 98VMです。

念のためですが、前回のネタ、題名の意味がわからないと魅力半減につき補足
「戯」 読み:そばえ 意味:いわゆる天気雨。 
では、埋めネタ行きます。
保管庫の補完庫管理人様、いつも素早い対応お疲れ様&ありがとうございます。
恐れ入りますが、埋めネタ、時系列で並べていただけるとありがたいです。
順番は下記の通り(単純に投稿順)です。 我侭言って申し訳ございません。

「おくしゅりおいしいでしゅ」   Ver.奈々子×亜美
〜奈々子様の何も無い昼下がり〜
〜麻耶たんの何も無い昼下がり〜
〜亜美ちゃんのちょっとイイ事があった宵〜
〜麻耶たんのちょっぴり複雑な夏の夜〜
〜手乗りタイガーの嵐のちくもりの夏の夜〜
〜奈々子様のちょっと計画がくるった夏の夜〜
〜麻耶たんのマジありえねぇ徹夜明け〜    ← イマココ
468〜麻耶たんのマジありえねぇ徹夜明け〜1/3:2009/10/09(金) 19:46:07 ID:9iJuKUzC

ちゅーしちゃった…

キスです。

くちづけです!

せっぷんです!!

男の人の唇ってどんなだろうと思ってたけど。
案外、ふつーに柔らかかった。
あたしも初めてだったけど、あいつもきっと初めてで…
漫画や、ドラマの様には上手くできなかった。
軽く触れた後、ちょっと欲張って歯をぶつけちゃって、めっさ気まずい。
でもあいつが凄く嬉しそうに笑ってくれて。
それであたしもなんか可笑しくなっちゃって、二人で声を出して笑っちゃってた。
なんか、ヤケになった時みたいに、ハイテンションで笑うあたしたち。
すごく不思議だったけど、ただ単純に嬉しいんだって気がついて、あたしは凄く驚いていた。

何時から?
この間原稿渡された日から?
それとも、半年前?
もしかしたら、一年前?
ううん………多分、違う。

改めて見るとオサレ眼鏡はやっぱりまるおに比べたら、てんでかっこ悪い。
特に今は顔がにやけちゃうのを抑えきれないって感じで、まるでだらしない。
やっぱ、あたし、はやまっちゃったカナ? なんて思ってしまいそう。
でも、そんなこと考えてる頭とは裏腹に、さっきからあたし全然動けないんだよね…。
足が地面にくっついちゃってるみたいに、歩き出せない。
「え…っと、木は、…コホン… ま、ま、…麻耶…。 ちょっと、その、歩かない?」
やばっ、名前呼ばただけで、あたし心臓マッハじゃん。
「う、うん。 いいよ…。」
なんとか平静を装って答えてみたけど…
あいつに手を引かれて、やっとあたしの足は動いてくれた。


     埋めネタ   〜麻耶たんのマジありえねぇ徹夜明け〜


ネオンが煌く街は、まだまだ騒がしくて、空気も怪しげ。
しばらく公園を散策した後、あたしたちは繁華街に戻ってきていた。
公園の中はあちこちにカップルがいて、ちょっと刺激が強すぎ。
おかげでもう、テンパっちゃって何を話していたのか覚えていない。
ただ、確かなのは、もう終電の時間は過ぎちゃってるってこと。
つまり、朝まで能登と二人。
年頃の男と女が朝まで一緒に過ごすってことがどんな意味をもっているかなんて、いまさら言うまでもないよね。
勿論、能登だって、十分意識してるはず。
だから、きっと今夜はあたしにとって思い出の一夜になるに違いない。
そんな事を想像してたら、もう、心臓がばっくんばっくんいってどうにもなんない。
そういえば、今日の下着はどんなだったかな…
…ああ。 大丈夫。 勝負下着じゃないけど、お気に入りの可愛いヤツを着けてる。
そんな事を考え始めたら、道端で所々に料金を書いた電飾が光ってるのがやけに目に入ってくる。
もっとロマンチックな所がよかったけど、こういうのは勢いが大事って、いつも友達が言っていた。 だから、我慢。
あんまり我侭ばっかり言って、愛想尽かされたら最悪だもん。
そして、突然、能登が足を止めた。
― REST 5,800〜12,000円 ―
キ、キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

469〜麻耶たんのマジありえねぇ徹夜明け〜2/3:2009/10/09(金) 19:46:50 ID:9iJuKUzC

能登がちらちらその電飾を見ているのが判る。
握った手は少し汗ばんでるけど、それは能登のせいなのか、あたしのせいなのか、それとも二人ともなのか?
手を伝わって心臓のドキドキがばれてしまいそうで、手を振りほどきたい気持ちになるけど…
今、それをやったら最悪の意味に取られかねない。

何も言わない彼の様子が気になって見上げると…
頬がひくついて、何度も喉仏が上下する。
表情は…ちょっとだけ怖い顔。
能登は物凄く迷っているみたい。

『…あたし、嫌がってないよ。』
そう言えたらどんなに楽か。
でも、そんな事言っても、能登にしてみれば、急に手の平返されたみたいで、信じられないかもしれないし…。
だって、つい最近まで、「ウザイ」「キモイ」を連発してたんだもん…。
あたしだって、なんで急にって………。
………。
急じゃ、ないか…。
原稿もらいに行く時、いつも洋服選びに1時間以上、下手すりゃ2時間かかってた。
それでも待ち合わせの時間に遅れたことは一度もない。 …いつも彼が先に着いてたけど。
携帯電話、まるおの写真はけっこう消しちゃったけど、彼の写真はほとんど残ってる…。
本当はずっと前から判ってたのかな…。
北村君には別に好きな人がいて、能登はあたしを好きだって言ってくれてて。
だから、安易な道に逃げたと思いたくなくて。
それでずっと北村君を引き摺ってた。
でも、今夜。
完全に自覚しちゃった。 あたしが本当に好きなのは誰なのか。

だから、本当にいいんだよ。 …あたしを抱いても。
…うん。 あたしも求めてるの。 キミを。
だから…
「……あたしをだ…」

「あーーーー!! そうだ!そうだ!! 思い出した! 実はさ! 俺前から気になってた映画があってさー。 たしかこの近くで
オールナイトやってるんだよね! せ、折角だし、見にいかね? 最近、東京でもオールナイト上映してる映画館ってへったっしょ?
し、始発まで時間もあるしっ、ちょ、ちょうどいいよなぁ。 ラッキーだよ、うん。 それにしても、なんでオールナイト上映減っちまった
んだろうなぁ。 需要あると思うけど。 な、なぁ、木原もそう思わね? あっ、ってか、木原の好きな映画って聞いたこと無かったか
も。 ねー、どんな映画好きなの?」
「………は?」
ちょ……。 この状況で何、ソレ? マジ? マジ馬鹿なわけ?
あたしの声を聞いた瞬間に、能登は焦りまくって一気にまくし立ててきた。
あっけに取られて、その数秒後、頭が沸騰した。
繋いでいた手を、思い切り振りほどく。
頭にきすぎて、咄嗟に声が出なかった。
『最低! このヘタレカワウソ!』 脳内で再生される罵倒の言葉。 でも、あんまり頭に血が上ると上手く喋れなくなるみたい。
そして、それが幸いした。
あたしの様子に動揺して、絶望の表情を浮かべる能登の顔を見て、今しがた考えていた事を思い出した。
ついさっきまで、コイツはあたしが北村君を好きだって思い込んでいたんだ…。
そして、あたしはいつも能登のこと罵倒してたんだっけ…。
それが突然手の平返して、『抱いていいよ』なんて言ったら、もしかして凄い尻軽女に思われちゃう?
それは、それは……困る。 凄く困る。

だからあたしは、とりあえず話を合わせる事にした。

470〜麻耶たんのマジありえねぇ徹夜明け〜3/3
………
で、結局オールナイトの映画館で夜のデート。
そして、寝てる奴とか、いちゃついてるバカップルばっかりの映画館から出ると、もうすぐ始発が動き出す時間だった。
つか、なんでアクション映画?
好きな女の子誘うんなら、先ずは恋愛映画じゃないの?
百歩譲ってもホラー映画とか。
…でも、映画見る事になってから、能登はすこし落ち着いたみたいで、凄く紳士的にはなった。
やっぱり高校の時とは違う感じ。
きっと毎日会っていたら、見落としてしまうような小さな違いだけど。

いつも人で一杯な通りも、今は殆ど人の姿は見えない。
この街でも、こんな時間帯があるんだって、初めて知った。
白み始めた空の下、能登は相変わらずハイテンション気味。
あたしと一緒に居れるのがそんなに嬉しいのかなって、そう思えばまんざらでもないんだけど。
でもやっぱり、子供っぽいって言うか、物足りなさを感じちゃう。
甘い言葉で誘惑して、素敵なホテルで一夜を過ごす、なんて、能登には絶対期待できない…
あんな素敵な小説書くのに、リアルはダメって、ある意味お約束すぎだって。
能登だって、あたしとエッチしたいよね?
あたしはしたい、よ。
キスされた時、体が痺れちゃった。 全身が一気に熱くなって、ジリジリしたもん。

でも、改めて能登の顔を見たら、なんか嬉しそうな顔してる。
あたしとエッチできなくて残念じゃないの?
あたし、凄くがっかりしてるのに……。 これで、大学の友達に嘘つかなくてよくなると思ったのに……。
能登って、見た目どおり奥手なんだろうなぁ。 なんか自分に自信なさそうな感じだし。
あたしの方から『抱いて』って言わないとダメなのかなぁ。
でも……
でも、そんな淫乱なこと言って、もし能登に嫌われちゃったら、あたし………

あー!! もう! なんでよ! あたしが能登のこと好きになったんじゃなくて、能登があたしに惚れてるの!
なんで、あたしがこんなにビクビクしなくちゃなんないのよ!
もー、ムカツク、ムカツク!!
マジ、ありえねぇ!

大体、なんであいつはへらへらしてんのよ!
あたしが、こんなにすっ……
す………
………
あたし、あいつにまだ何も言ってないよね……
……なんであたしって、こうなんだろう。
いっつも自分のことばっかりで…

「……ほんと。 マジありえねぇ………」

小さな声で呟いた時、ちょうど、ビルの隙間から差し込んだ夜明けの光。
手をかざす間も無く、まともに顔に当たって目に染みる。

ちょっとだけ涙が、滲んだ。

                                                                    おわり。