【田村くん】竹宮ゆゆこ 23皿目【とらドラ!】

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1名無しさん@ピンキー
竹宮ゆゆこ作品のエロパロ小説のスレです。

◆エロパロスレなので18歳未満の方は速やかにスレを閉じてください。
◆ネタバレはライトノベル板のローカルルールに準じて発売日翌日の0時から。
◆480KBに近づいたら、次スレの準備を。

まとめサイト2
ttp://yuyupo.dousetsu.com/index.htm

まとめサイト1
ttp://yuyupo.web.fc2.com/index.html

エロパロ&文章創作板ガイド
ttp://www9.atwiki.jp/eroparo/

前スレ
【田村くん】竹宮ゆゆこ 22皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1250612425/

過去スレ
[田村くん]竹宮ゆゆこ総合スレ[とらドラ]
http://sakuratan.ddo.jp/uploader/source/date70578.htm
竹宮ゆゆこ作品でエロパロ 2皿目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1180631467/
3皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1205076914/
4皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1225801455/
5皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1227622336/
6皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1229178334/
7皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1230800781/
8皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232123432/
9皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232901605/
10皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1234467038/
11皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1235805194/
12皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1236667320/
13皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1238275938/
14皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1239456129/
15皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1241402077/
16皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1242571375/
17皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1243145281/
18皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1244548067/
19皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1246284729/
20皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1247779543/
21皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1249303889/
2名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 23:45:17 ID:ofspAjvB
Q投下したSSは基本的に保管庫に転載されるの?
A「基本的にはそうだな。無論、自己申告があれば転載はしない手筈になってるな」

Q次スレのタイミングは?
A「470KBを越えたあたりで一度聞け。投下中なら切りのいいところまでとりあえず投下して、続きは次スレだ」

Q新刊ネタはいつから書いていい?
A「最低でも公式発売日の24時まで待て。私はネタばれが蛇とタマのちいせぇ男の次に嫌いなんだ」

Q1レスあたりに投稿できる容量の最大と目安は?
A「容量は4096Bytes、一行字数は全角で最大120字くらい、最大60行だそうだ。心して書き込みやがれ」

Q見たいキャラのSSが無いんだけど…
A「あぁん? てめぇは自分から書くって事は考えねぇのか?」

Q続き希望orリクエストしていい?
A「節度をもってな。節度の意味が分からん馬鹿は義務教育からやり直して来い」

QこのQ&A普通すぎません?
A「うるせぇ! だいたい北村、テメェ人にこんな役押し付けといて、その言い草は何だ?」

Qいやぁ、こんな役会長にしか任せられません
A「オチもねぇじゃねぇか、てめぇ後で覚えてやがれ・・・」
3名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 23:51:22 ID:8eFtds7K
4 ◆..4WSlv9x6 :2009/09/22(火) 01:29:05 ID:xXFEC5pT
皆さんこんばんは前スレの>>235で兄貴が竜児の幼馴染の
IFストーリーを書いた者です。前回以外にも好評だったので、
第二話を書いてみました。次レスから始まります。
5 ◆..4WSlv9x6 :2009/09/22(火) 01:36:48 ID:xXFEC5pT
注意原作の雰囲気・設定・キャラの崩壊、オリジナルキャラが出てきます。
それらが苦手な方はスルーでお願いします。
そんなの構わないぜ!という方は
↓からどうぞ。
6すみれ姉ちゃん:2009/09/22(火) 01:37:48 ID:xXFEC5pT
第二章

「お前、生徒会に入れ。」
ああ、これはあれか、入学式のとき言ってた「強制連行」ってやつか。でも何で俺が?
しかも俺の家の事情を知っている姉ちゃんが?
「なあ、分かっているとは思うが俺は泰子のために晩飯を作らなきゃならない。俺が帰るのが遅くなれば、
泰子の仕事に影響が出ちまう。だから俺は入れねぇ。」
「ああ、分かっているとも。十年間伊達にお前のそばにいたわけじゃない。」
じゃあ何故俺を連れてきたんだ。
「何、案ずることは無い。対策はちゃんと考えているつもりだ、それについては中で話そう。」
引き戸が開かれる。中には一人、男が座っていただけだ。
「おや、今日は遅かったね。ん?そっちの子は?」
男が尋ねる。この口ぶりからするに上級生のようだ。
「会長の待っていた新しい生徒会役員だ。」
ん?今、なんて言ったこの人。生徒会役員?誰が?俺が?まさかな、俺はまだ入るとは言っていないぞ。
「おい、ちょっと待ってくれ俺はまだ――」
「入るとは言ってない。だろ?」
「そうだけど・・・じゃあ何で生徒会役員だなんていうんだ?」
「お前の性格上入らなきゃいけなくなるからだ。」
まったくもって意味不明なことを言っている。しかも何かありげに笑っているのだ。
「えっ…つまり君は生徒会に入る気は無いのかい?残念だなぁ、ただでさえ人がいないのに。」
男は――いや、生徒会の会長は酷くがっかりした様子で訪ね、うなだれてしまった。
それでも言うべきことは言わなければいけない。悲しいけどこれ、現実なのよね。
「はい、僕は生徒会には――」
「はいストップ。そんなに答えを急ぐな、これを聞いてからでも遅くは無いぞ?」
また言葉を遮られる。そして耳にイヤホンがねじ込まれる。イヤホンの先にはMDプレイヤー、
その再生ボタンを姉ちゃんが押した
7すみれ姉ちゃん:2009/09/22(火) 01:42:02 ID:xXFEC5pT
「今回、折り入った話がありましてお伺いしました。」
姉ちゃんだ、しかもいつもは使わない敬語だ、相手は一体誰だ?
「えー、どおしたのぉすみれちゃん?あ、まさか竜ちゃんとぉ結婚するとかぁ?キャ〜ッ。」
2つの意味で噴出しそうになった。一つは相手が泰子であること。二つ目は泰子のとっ拍子の無い発言。
大体なんだ結婚って、普通は付き合って、それでからだろう。
「そ、そんなんじゃありません!」
キッパリと言われた。それはそれで悲しいものだ。
「え〜っ違うのぉ、じゃあ何なのぉ?」
「ええ、実は竜児君を生徒会に入れようと思いまして、それの許可をと思いまして。」
「許可ぁ?なんでぇ?」
「竜児君を生徒会に入れてしまうと帰りが遅くなって、泰子さんの晩ご飯が作れなくなってしまうかも
しれないので、それで泰子さんの許可をもらおうと思いまして。」
「う〜ん、ねぇすみれちゃん。」
「はい」
「その、生徒会っていうのに竜ちゃんが入るのは、竜ちゃんのためになるんだよねぇ?」
何時に無く真剣な声だ。何時もはもっとぽえぽえふにゃ〜んな感じなのに。
こんな泰子の声を聞いたのは高校受験の時以来だ。
「えっ、まぁ、はい。」
「じゃあ、やっちゃんはいいよぉ、それが竜ちゃんのためになるなら。我慢するよ。」
正直言って予想外だった。泰子なら「竜ちゃんのご飯食べたいからぁ、だめぇ」
とか言いそうなのに、許可した。本当に意外だった。
「本当ですか、ありがとうございます。明日、本人に伝えます。あ、あとこのことは竜児君に伝えないでください。」
「うん、竜ちゃんにはぜ〜ったいに言わない。じゃあねぇすみれちゃん。」
8すみれ姉ちゃん:2009/09/22(火) 01:43:35 ID:xXFEC5pT
ブツリ、とそこで録音は終わった。イヤホンを外す。少しばかり耳が痛い。
「な、対策はとってるだろう?」
「ああ、完璧なほどにな。」
これで俺の入らない理由は無くなった。しかし俺には入る気はさらさら無い。
「さあ、どうする?」
「泰子には悪いが俺は入らない。入る気は無い。」
さあ、これで話は終わりだ。俺は帰る。特売に間に合わなくなるんでな。
「そうか、これをやろうと思ったのに、残念だ。」
「そのカードは一体?」
「おまえもかのうやの常連なら、こいつの噂ぐらいは聞いたことがあるだろう?」
まさか、実在するとは思わなかった。
「まさか、それは…」
「そうだ、かのうやの従業員専用のカードだ。」
かのうや従業員専用カード。それはその名の通り、かのうやの従業員だけに渡されるカード。
割引券と同じ2割引が何回だろうができるそんな夢のようなカードである。
「だがこいつも使い主がいないとなると捨てるしかないな。何せ、もうすでに高須竜児で登録してあるからな
他人が使うわけにも行くまい。」
や…やめろ…そんな…そんなっ
「まあ私だって無駄にゴミは出したくは無い。そこでもう一度聞く。入るか?入らないのか?」
そんなMOTTAINAIことできるかっ
「くっ、外道め……分かった、入るよ。」
「その言葉を待っていた。ほら、約束のカードだ。」
外道め、と言ったが内心ホクホクでたまらない。
生徒会に参加させられたのは不本意だが。
「話を聞いていれば分かると思うが、会長、こいつが新しい生徒会の役員だ。」
「うん聞いてた。買収はダメだよ。ま、何はともあれヨロシクね。」
屈託の無い笑顔が向けられた。久しぶりだった、そして驚いて反応できなかった。
何せ初めから何の偏見も持たずに接されたのは姉ちゃん以来だったから。
「おら、何ボサッとしてんだ、お前も挨拶しろ。」
後ろからどつかれ意識をより戻す。
「あ、すみません。高須竜児です。これからよろしくお願いします。」
「うん、よろしく高須君。じゃあ早速活動と行きたいけど今日は特に何も無いから二人とも帰って良いよ。」
「あ、そうですか。えと…では失礼しました。」
「では会長また明日。」
「うん二人ともまた明日ね。」
初日から軽く肩すかしを食らいながら退室する。さあ、早く「あれ」の効果を試さねば…
自然と足取りが軽やかになる。
「お前、どうせかのうやに行くんだろ?それなら一緒に帰ろう。」
「ん?まあいいけどよ。」
9すみれ姉ちゃん:2009/09/22(火) 01:44:34 ID:xXFEC5pT


校舎を出ると空は赤く燃え上がっていた。グラウンドからはソフトボール部の掛け声が
あれはなんて言っているんだ?すえ〜ご〜ずえ〜!どぅら!うぉいっ!にしか聞こえない。
「どうした竜児、早く帰るぞ?」
「あ、ああ。そうだな早く帰ろう。」
あの掛け声、なんていってるかいつかソフトボール部の奴に聞いてみよう。
あ、気になることと言えば…
「なあ姉ちゃん、一つ聞いていいか?」
「なんだ、いきなり。まあ答えられる範疇であれば答えるぞ」
「何で、あの会長って人は俺を怖がらずに接してくれたんだ?」
本来なら普通のことだが、「俺」にとってはかなりの異常事態だった。
何故なのか気になった。姉ちゃんなら知ってるかもしれないから。だから聞いた。
「ん〜?なんだ、その…あの人は頭が良いからな。」
「は?何じゃそりゃ。」
今日は姉ちゃんが言ってることの意味が分からない。
「ん〜何て言うんだろうな、会長は人を噂や見た目なんかで判断するような馬鹿じゃないのさ。
それによく考えてみろ、制服をしっかりと着た奴がヤンキーに見えるか?私が拉致ったとはいえ
生徒会に入ろうとするヤンキーがいるか?」
「まあ、普通はそう見えねえよな。」
「そういうことだ。わかったか?」
なるほど、会長は姉ちゃんと同じように人の本質を見抜ける人なんだ。
誰彼構わず信頼するような人でも、噂で人を決め付ける人でもない。
色眼鏡を使わずちゃんと「俺」を見てくれる。「俺」を評価してくれる。
それがたまらないほど嬉しくなった。ちょっと泣きそうになった。
「ああ、わかった。」
「そうか。なら早く行こう。」
「……なあ、姉ちゃん。」
「…ん、なんだ。」
「…………」
少しの間があいてしまった。やっぱり言うのは少し恥ずかしい。
けど言わなきゃ。この思いを姉ちゃんに伝えなきゃいけない気がする。だから言う。
「姉ちゃん。生徒会に入れてくれてありがとな。」
「別に私は感謝されるようなことはしてないぞ?逆に迷惑だったんじゃないかと思っているくらいだ。」
自覚はしてたのかよ。まあいいやそんなことは。
「いいんだよ。こっちは感謝してんだ。素直に受け取ってくれ。」
「そうか?じゃあそう受け取っておく。」
「それでよし。さ、急ごうぜ、バーゲンが終わっちまう。」
「急がなくてもいいだろ。お前にはカードがあるじゃねぇか。」
少しばかり遅れたが、俺の本当の高校生活が今始まった。

続く
10 ◆..4WSlv9x6 :2009/09/22(火) 01:49:33 ID:xXFEC5pT
以上です。次回はまだ未定です。来週にでもできたらなと思っています。
拙い文でしたがお付き合いありがとうございました。
また次回も読んでいただけると幸いです。
11名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 02:23:40 ID:f+3OSEXP
>>かのうやの従業員専用のカード
不正にも程があるぞww

行き着く先にエロがあると信じてだな・・・
12名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 03:47:34 ID:vMd/U8mh
面白かったwGJ!
竜児は生徒会に入ったらいい仕事しそうだな、顔怖いからみんな従いそうw
13 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:16:07 ID:NDswd0Cg
皆さんおはようございます。
[キミの瞳に恋してる]の続きが書けたので投下させて貰います。
前回の感想を下さった方々、まとめて下さった管理人さんありがとうございます。
今回は能登視点です。
※自己曲解でキャラが違うかもしれません。
苦手な方はスルーしてやってください。
では次レスから投下させて貰います。


14 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:17:05 ID:NDswd0Cg
[キミの瞳に恋してる(3)]

まだ寒さの残る初春の朝、俺は我が母校 大橋高校の正門前で佇んでいた。
通り掛かる人も少なく、また、校内へ入る生徒も疎らな午前九時。
部活のある奴等くらいしか来ない、何故か? それはシンプルにたった一つ。
今日が土曜日だからだ。いつからか始まった毎週末二日の休日の第一日目。
大企業の社員、ないし、学生のみに許された特権らしい。
普段の休日なら、まだ惰眠を貪っている時間。だが俺はここに居る。
醒めない頭が眠気を誘い、初春にしては底冷えする外気は寝不足な身体には堪える。
おお、太陽が黄色い…寝不足だと黄色く見えるってマジなのね。
どうしてこうなった。
ああ…うん、待ち合わせ……しているんだ、木原と。
昨日の今日で早速相談らしい、人の気も知らずに…。
無理矢理に自分を納得させても、やっぱり割り切れないんだ…恋心ってヤツは。
特に俺なんて『板挟み』もいいとこ、親友と想い人に高火力の十字砲火を食らわんといけんし。
北村はアニキが好きで、木原は北村が好きで、俺は木原が好き…と。
四角関係……爛れ過ぎっしょ、もっと歳相応の純粋な恋は出来ないの? 俺はしたいよ。


15 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:18:03 ID:NDswd0Cg
北村と木原をくっつけようとしたら親友の気持ちを裏切る事になり、俺が木原に告ろうものなら想い人を裏切る事になる。
あ、じゃあ木原とアニキ、俺と北村で付き合えば全て解決しねぇ? なんて言うのは春田だけでいい。
少なくとも俺は特殊な性癖は持ち合わせてない、女子に恋する健全な男子さ。
まあ、アホな話はさておき…。
俺がハイテンションなのは、悩んで寝不足かつ木原と会えるだけなのではないからだ。
昨日、木原から届いたメールも要因に数えれる、こんな内容だからだ。
『あんな事があったから、正直、能登のこと今も信用は…出来ない、ごめん。
でも、でも…私も信じられるように頑張る、深い事まで相談出来そうなのは能登だけだから…。
奈々子にも、亜美ちゃんにも言えない事…言えるの能登だけだもん、二人にからかわれたり、ウザいって思われるの嫌だ。
…男子の気持ちを理解したいから能登に教えて貰いたい』
頼られ、仲直りのキッカケを掴めて嬉しい反面、自分が『男』として認識されてない事を読み取っちまったからだ。
『信用出来ない』ってよ、ははっ…面白いな。


16 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:18:48 ID:NDswd0Cg
確かにね、嫉妬して横槍入れまくりだった男子を、いきなり信用出来たら…アイツの将来を案じて止まなくなる。
下心丸出しなイケメン達に食い物にされる。
男ってのは狼、スキあらば羊を美味しく頂こうと常に画策してる生き物だ。
『恋愛相談してたら、いつの間にか食べられてた』
よく聞く話だ、女の子が恋愛相談するのは『抱かれたいサイン』らしい、それは女の子もよく知る事だとか…。
だが、俺はそんな度胸は無い、出来たら未だに童貞なんかして無い。
つまり、俺は『無害』だと…雄ですらないと思われている訳だ。
ははっ! そうですね! うん! 大丈夫! 俺はヘタレですから! …うぅ。
といった具合に『諦め』て自棄になってテンションが高いんだ。
もちろんメールは無難に返事を返したよ。
『了解、いつでも相談に乗るよ、信頼を取り戻したいからね』
…別段おかしくない筈。
そして、送り返されたメールは
『うん。じゃあ明日、相談したいんだけど? 能登は予定とかある?』
である。
あれよあれよと言う間に事は運び、気付けば翌日の朝九時に校門前で待ち合わせる約束をしていた。
悲しいかな、俺は抗えないし、常に予定なんて無い。


17 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:19:39 ID:NDswd0Cg
友達に相談しようともした、何せ失意と歓喜、混乱して訳分からなくなってさ。
高校の友人はNG 身近なヤツに知られたくない、なら中学の時の…。
ああ、駄目だ。ヤツらに恋バナは解らない。
走りに狂い、バイトした金で原付を改造して、膝にガムテープで巻き着けた空き缶を峠のコーナーで擦り付けてるヤツ。
座右の銘は『女と遊ぶ金があったら、新しいタイヤが欲しい』だ。
片や、三次元を諦めて二次元に逃げたヤツ。ずっとツインテールが素敵、ネギな歌姫に夢中だ。
『俺の嫁がディスプレーから出て来ないっす』と季節の変わり目には必ず言っている。
ちなみにコイツが『縛りプレイは燃える』と宣った野郎だ。
他も似たり寄ったり…誰にも相談出来ん、駄目じゃん。
……はあ、何やってんだ俺は。諦めないって言ったり、諦めるって言ったり…気持ちが変わり過ぎ。
男ならバシッと決めちまえ、どっちかに。 諦めたくないなら自分の心に正直になれ、それでいて木原に魅せる方法で勝負しろ。北村が霞むくらいに。
諦めるならダラダラすんな、ズルズル引っ張ってどうする、今から家に帰って疎遠になれ。


18 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:20:48 ID:NDswd0Cg
愚問だ、決めろ、なんて自分に問い掛けたら答は一つしか無いわな。
木原の笑顔が見たいんだろ、ずっと笑っていて欲しいんだろ?
なら…笑顔を見せる対象が北村じゃなくて俺でも良くね?
「あ…そうか」
今さら気付く、消極的に振る舞って遠回しに接したって木原には解らない、むしろ逆効果。
アイツの中の『北村』より、自分を磨けば…可能性が高まる、つまり自分に自信を持て。
俺は勘違いしてた、諦める必要なんて無いじゃねぇか。俺が木原に告ったところで彼女の気持ちを裏切る事にはならない。
木原を振り向かせたうえで告白したら、恋愛対象が俺に移って…結果、丸く治まる。
待ち合わせ中の今、俺は苦境で活路を見出す。
その為には、まず信頼を取り戻す事、それが重要、どうするか。
穿った見方ばかりして、言いなりになってたら信頼は戻せない、見下される。
だから斜め読みしてた木原からのメールに、もう一度目を通してみる、もしかしたらヒントがあるかも…。
…………ない、てか解らない。だけど妙な違和感がある、初っ端に送られたメールを見ているんだけど、何か重要な事が抜けている気がした。


19 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:21:45 ID:NDswd0Cg
それが何なのかは解らないが、直感で…。
「能登ーっ!」
思考を巡らせていると、そんな声が聞こえる。
声のした方に目を向けると、数十メートル先から木原が走っていた。
ファー付きの白いダウンジャケットに黒い超ミニスカ、ヌバックブーツ。といった具合におしゃれしている。
俺に相談するだけにしてはやけに…、ああ、女子はいつでもおしゃれしたいもんだ。そうだろ?
「お、おはよう!」
正直に言うなら、俺はその木原の姿に魅とれてしまい、第一声はうわずってしまう。
「はっ!は…っ、ん、おはよう…! 遅れちゃった、待った?」
俺の側に着いた木原が膝の上に手をついて、肩で息をしつつ、そう言った。
それはまるで…デートの待ち合わせに遅刻した彼女が言う台詞みたいで……少し胸をドキドキさせる。
「あ…いや、大丈夫、全然待ってないし」
だからか、俺もそんな言葉を返してしまう…彼氏のように。
「そっか、うん…。あ、そうだ! 能登って朝御飯食べた?」
呼吸を整えて、顔を上げた彼女は走って来たからか頬を赤く染めていて…、なんて事を考えてしまうのは仕方無いだろう。


20 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:22:13 ID:NDswd0Cg
今日の木原は昨日と違い、いつも通りに明るくて輝いているから。
それが俺に向けられていないとしても、やっぱり魅せられる訳だ。
「え? 軽く、だけど…」
「あ、ならいい! ほら、朝早いから…まだかなぁ〜って」
俺の言葉に木原が、両手を左右にブンブン振って返す。
「早いって…もう九時だし」
そう言った後に、俺は後悔する。木原の気遣いに気付いたから…バカだ俺。
「だねぇ、あはは…は」
そう乾いた笑いを最後にピタッと会話が止まる。
ほら、見てみろ…会話が終わったし、俺のせいで。
木原が気まずそう顔してる、何か、何か話さないと!
「あ、そうそう! そ、相談! 相談したい事があるんだよね?」
そこで、さっそく本題に移る事にする。内容は何となく解るが、直接聞かないと始まらない。
俺を木原にアピール出来る機会でもある、確実な受け答えさえ出来れば、だけど。
「う、うん。あ、あのさ…………昨日のメールで書いたけど、男の子の気持ち…が知りたいなって思って。
こ、告る前に相手の感じ方をたち、…確かみぇ……、ごほんっ!
確認したいんだ…よね!」


21名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 04:26:44 ID:Q2ahhzdk
22 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:29:02 ID:NDswd0Cg
言い難いのか噛み噛みに木原が言って、俺の顔を見上げる。
大きな猫目がまっすぐ俺を見詰めて、決意に満ちたようにも見える。
「え〜と、ごめん、いまいち言ってる事が解んないんだけど…。
ん…つまり、木原の仕草とか言った事の感想? みたいなのを教えろって事?」
「う〜ん、…うん! そんな感じ!
男の子の目線から見て、私ってどんな感じかなぁ〜って。
んんっ! 男子、…の、能登から見た私の可愛い仕草…とかを知りたいの!」
両手の拳を握って力説する彼女は、紅潮した頬を更に染め、俺にズイッと近付く。
「あ、ああ。なるほど、そういうこと。
でも俺と北村じゃ"可愛い"って思うツボが違わねぇ…?」
木原の言う事は解る、異性から見た自分の魅せ方を研究したいのだろう。
俺では無く、北村に対しての、だけど…現状は仕方無い。
焦るな俺、急いでは事を仕損じる。
こうやって仲良くなるしか無いんだ、今は耐えろ、いつかは俺に向けさせてみせるから。
「い、良いの! うぅ…能登の意見が欲しいんだってば!」
木原が返した言葉に俺はドキッとする、そして先程の違和感を再び感じた、なんだろう…この感じは?


23 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:29:39 ID:NDswd0Cg
「あ…、ま、まるおと能登って仲が良いじゃん? ん、だから好み…とかも似てるかなって。べ、別に能登の為にするんじゃ…。
ああっ、じゃなくて!! ともかくお願い、冗談じゃなく私マジですからっ!」
俺が思案していると、彼女に焦り気味にそう言われる。まあ…俺の為にする訳じゃないよな、解ってる、力説しなくても。ああああ…。
ヘコむ…、だがいちいち負けてられるか!
「うんうん! 解った、解ったから…、協力するよ」
俺が返すと木原の表情がパッと明るくなる、だが数秒すると顔を横に逸す、恥かしそうに。
ああ、違和感の正体が見えた…。何か木原ってフラれた割には元気なんだよ、…悔やむ暇なんか無い、先を見ようとしてるのか、邪推だけど。
北村と付き合いたいから、一回くらいで諦めてなんかいられない…とか。
俺の前に立ちはだかる『北村』は大きかった、乗り越えるのは大変だろうなぁ。
どんなに痛くても、これは絶対に通らないといけない道なんだよ、避けて通れない。
「ありがと、う…。じゃあ、はいっ」
顔を紅潮させた彼女が、上目遣いで俺を見て…手を差し延べてきた。
「えっと…」
な、何だ急に…。


24 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:30:21 ID:NDswd0Cg
「あ、あ、握手っ! な、仲直りの握手して無かったし、…ほらっ!」
木原は確実に俺との溝を埋めようとしてくれてるじゃないか。
『恐れ』だけ抱いてビクビクしてても駄目だよな…。
よし…俺も勇気を出そう、女子に引っ張られてばかりじゃ…ヘタレてばかりじゃ……。
「う、うん、仲直りの…握手な」
俺は右手で彼女の右手を握って、一回振る、触れた木原の手が僅かに震えているのは、多分…俺と同じ気持ちだからだ。
また嫌われたら…そう思うと怖い、どこまで踏み込んだら良いのか手探り。
でも『見たいモノ』を見るために持つ勇気を互いに確かめる。そうだろ?
「ん…」
木原の小さな手がギュッと俺を握る、そしてゆっくり力を抜いて離す。
「能登…落ち着いて話せる場所に行かない?」
照れ隠しか、俯いた木原がポツリと呟く。
俺も照れてしまう、昨日までいがみ合ってたのが嘘みたいでさ…。
嬉しかった、この気持ちを正直に打ち明ける時では無いのが残念だけど、ならせめて言葉じゃなく態度で示そう。
緊張するけど、自分の出来得る限りの優しい顔付きで紡ぐんだ。
「そうだね、公園、…公園にでも行く?」


25 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:31:07 ID:NDswd0Cg
.

「私さ、今まで勇気が持てなかったんだ、人に言い当てられて逆ギレまでして…。
勢い…みたいな感じもあったの、まるおに告ったのは」
公園に着き、ベンチに腰掛けた木原がポツリポツリと話し始める。
途中で買ったミルクティーの缶を両手で持ち、掌の中で手持ちぶさたそうに転がしつつ。
「まるおはアニキが好きだって解ってたし、誤魔化して嘘をついたし。
自分も他人も騙して、能登と喧嘩したのも八つ当たりみたいな感じだった。
何も上手くいかないからイライラしてた、ごめんね…」
俺は横で彼女の言う事を黙って聞く、相槌も打たない、途中で口を挟んだりもしない。
まずは木原の言いたい事を全て言わせて、木原の心情を察する事から始めようと思ったからだ。
「方法を間違えたって気付いた時には遅かった、引き返せない。
でも好きな人を…振り向かせたい、だから勇気を出そう…そう想った。
ねぇ、能登は……好きな女子とか…居るの?」
木原が俺の方に顔を向けて問い掛けてくる、恐る恐るといった感じに。
「居るよ…好きな女子は……居る、振り向かせるのが難しい…片想いだけど」
お前だよ、なんて言えたら…。けど、まだ言えない。


26 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:31:36 ID:NDswd0Cg
「私も居るよ、片想い…だし、その…身近な男子……うん。
手が届く近さで、でも届かない遠さ…だけど」
北村と暗に言っている、俺だって知ってる、わざわざ言ったのは意図があるのか?
「自分に自信が無いよ、けど…相手に見て貰いたいから頑張りたい……能登に協力して欲しいんだ。
自分勝手な話だけど、良い…かなぁ?」
普段の勝気そうな様子は無く、怯えた子猫みたいな……昨日見た、小さな子猫のような姿。
それは…守ってやりたい、という気持ちにさせる魔力があった。
「昨日も言ったよ俺、協力するって…、その上手く言えないけど、ま…任せてくれ」
咄嗟に…なんて言い訳しない、俺が言った事は本心で…、木原に魅力されて自然と出た言葉だった。
「うん、ありがとう。それでさっきも言ったんだけど、男の子の気持ちが知りたい、……笑わないで聞いてくれる?」
言葉が出ない、喉元までで止まる…だから一回頷いて返す。
「手…繋いでいい?」
俺の脳内で木原の言った事が反響しながら繰り返される、自分だけ時が止まったような感覚も覚えた。
思考も、視界も、血流すら停止したように思う、目の前の彼女に魅入られて…固まる。


27 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:32:21 ID:NDswd0Cg
大袈裟…? いや、当たり前の反応だろ、だって………えぇ? な、何で瞳をウルウルさせる! ジッと見詰めて!
な、男子の気持ちを知りたいから手を繋ごう、って…。
それは、あれか? ん、俺が木原と手を繋いだ『感想』を言えって事か!?
ま、待て、そんな…縋るように見るな! うは!
「ほ、ほら! あれだよ、あ、あの、その、う、嬉しかったりするかもしれないじゃん!
たっ! た、たか、確かめときたいしぃ! 反応とかっ!! いざって時にテンパりたくないですしぃ!」
俺が固まった姿を見て、顔を真っ赤にした木原が慌てふためきながら捲し立てる。
右手に握り締めたミルクティーの缶をブンブン、何も持たない左手も同様に。缶を開けて無くて良かったな……、じゃねぇっ!! 何、達観してんだ俺は!!
止まっていた時が流れ始め、勢い良く血液が全身を巡れていく。
膝の上で握り締めた拳が汗ばみ、身体が燃えるように熱くなっていく。
「あ、あはは!! そうか! れ、れれ練習、てか慣れ! トレーニングっしょ! OK! OK!」
中学生かよ…、緊張しやがって、手を繋ぐくらい簡単に…あああ、いくわけねぇ! お、おおお…良いんですか? マジで?


28 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:33:01 ID:NDswd0Cg
さっきのは握手! 親しみを込めて? みたいな、でも手を繋ぐってのは……少なくとも嫌われて無い? えっ、ええ?
ちくしょう! 考えてたって埒が明かない、ええい、ままよ!
「じゃ、じゃあ、繋いでみる? はっ、はははっ!」
落ち着け俺、握手はノーカンとしても女子と手を繋ぐ事は初めてじゃない、一回だけあるだろ。
知らない娘だけど握った、いや、繋いだことありますし!
もっと凄いのも握り締めた事あるし? それも木原の! あれに比べたら…。
スッと伸ばされた彼女の手を優しく触ってみる、するとピクッと微かに震えた…。
顔なんて見れない、想いを寄せた女子と手を繋ぐ事に緊張して…。
思い切って握ってみる、すると木原はギュッと握り返してきて、更に指を絡ませてくる。
「れ、練習とかじゃないし……、気持ちを知る為だから、マジで…カレカノみたいに、だよ?
能登が嫌なら…止めるけど…」
木原の言った事に俺は混乱する、急過ぎて気持ちの整理が追い付かない。
戸惑う…でも嬉しくて…照れて、信頼は地の底にある筈なのに信頼されてる気持ちになる。
上手く言い表せないわ、メールで伝えてきた内容とのギャップに驚いている、としか言えない。


29 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:33:44 ID:NDswd0Cg
『俺が望む道へ誘導されている』なんて誤解してしまう、けど勘違いしちゃいけない、これは『北村の為に』木原が取った行動なのだ。
そう思わないとマジに誤解して手痛い失敗を招くかもしれない。
少なくとも今は、木原の出方を観察しないとな。木原と『カレカノ』になりたいなら慎重にならないと水泡に帰す。
最後のチャンスなんだ、踏み外さないように石橋を叩いて渡る。それでいて自分をアピール、少しづつ小出しして様子見しろ!
言葉で答えるな、行動で示せ。
『嫌じゃない』って!
「んっ…」
だからまずは小手調べ、俺も指を絡ませてみる、徐々に深く…抵抗されるまで。でも木原は一度、微かに声を出した後はされるがまま。
自分の予想よりは嫌われていない事が解る、直感で。
彼女が恥かしそうに俯く様からも読み取れた、良い線行ってるとか? これはなんとなく。
「ど、どう? どんな感じ?」
木原は顔を伏せたまま、チラリと俺を見て問うてくる。
「聞いて怒るなよ? ち、小さくて…柔らかくて…暖かい、スベスベしてて…気持ち良いよ」
キ、キモい…キモいよ俺。でも、そう言うしか無いじゃん、感想なんだし。


30 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:34:30 ID:NDswd0Cg
「あ、ぅ…、ふ、ふ〜ん。そう? うん、それって…能登のマジな感想…だよね?」
ああ、さっそくやらかしたか? キモかったんだな?
心無しか落ち着かない様子の木原を見て、俺は後悔しつつも返事する。
「マジで……。わ、悪い…そういう意味じゃなかった?」
「え? ちが、違う。そういう意味なんですけど…、いきなり…な、馴々しかった?
あのさ、こういうのって男の子は…嫌いなの…かな、能登は…んん、嫌だったりする?」
サッと俺から目を逸した木原は、そう言うと絡ませた指を離そうとする。
嫌なわけない、少なくとも俺は…、自分の意見で……良いんだよな?
「ん、他のヤツは知らないけど、俺は……こういうの……嬉しい、よ。き、木原とだからか、な?」
そう言って俺は指をより深く絡ませる。
体温が急激に上昇した気がする、自分から初めての積極的攻勢、…上手く伝われ!
「え、あ…、う…うん」
小出しに、でも気持ちを目一杯載せて、初めから正直に言うのは無謀、だからこんな言い方しか出来ない。
まずは楔を打つところから、縄を掛けるのはもっと時間を置いて。焦るな俺、冷静になれ。


31 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:35:07 ID:NDswd0Cg
高鳴る胸の鼓動、脳内で響くドクドクとした血流の音、言い訳なんて間違っても口にするな!
真っ赤な顔をした木原が目を見開いて、俺を見詰める。驚いているんだ、な。
重なった掌が汗ばんでいるのは、俺の汗か木原のものか…、溶け合って解らない。
前を見据えた俺、固まった木原、二人に共通しているのは顔を真っ赤にして何も言えない、この二つ。
彼女は男子と付き合った事が無いなんて噂されてる、それが正しいならこの反応も頷ける。
告白すらされてないのに、こんな反応していたら……本戦ではどうなるやら、確かに『慣れ』が必要かもしれない。
木原は『こういう事』を言われ慣れてないから戸惑っている。
それは俺も同じで言い慣れてない、慣れたいとは思わないけどね。
「あ、あはは! ま、またまたぁ〜、能登はお世辞が上手いんだぁ〜、
…そ、そうやっていつも女の子を誘惑してるとか? 上手だねぇっ!」
?…!…!?
ご、誤魔化された、だと?
う…嘘だ! 俺の攻撃が効いてない!?
しかも、なんか怒ってらっしゃる? 痛い! 痛いよ! 木原さん!?
そんな力一杯に手を握り締めないでくださいっ!!


32 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:35:38 ID:NDswd0Cg
顔は笑ってる、けどオーラがっ! 変な闘気が出てるよ! え? 何、俺は変な地雷でも踏んだのか!?
「ま、まあ? 能登って"モテなさそう"だしぃ、多分それはないだろうけどぉ?
そ、そんな事よりお昼ご飯食べに行こっか。うん、そうしよう!」
んなっ!? ああああああああっ!!!!
俺のコンプレックスを抉らないでっ! 事実だよ、でも認めたくないんだからっ!
高須はおろか春田にすら先を行かれた喪失感を思い出させないでくれよ!
リアルが充実している奴等に対する劣等感がっ!!
「何してるの、早くっ! ほ、ほら!」
木原に手を引かれて立たされ、グイグイ引っ張られていく…。
先を足速に進む彼女の明るく染めた髪がサラサラと風で流れ、陽光で輝く、その様を抜殻状態の俺は遠くで見ている錯覚を覚えた。
やっぱり…まだ信用されてない、調子に乗るな、と毒を吐かれて俺の意思とは関係無く引っ張られ、……ん?
あれ…そういや、手…繋いだままだよ、な?
「なあ木原、手ってずっと繋いだままなの?」
そう聞いたのは、何故だろう? 黙ってれば、気付かれずにずっと繋いでいられるのに。
言えば、離されるかもしれないのに。


33名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 04:36:37 ID:PDEYAyR5
4
34 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:38:13 ID:NDswd0Cg
「だ、だだ…だからぁ〜、さっきも言ったじゃん!
"カレカノ"みたいにって! 手を繋いでないと解らないの!!」
「あ、ああ! そっか、そうだよね! 何言ってんだろ、俺!」
捲し立てるように木原が口走り、俺は即座に肯定する。
まあ…、これなら俺も救われた、よな? とりあえず。
木原は怒ったように見えたけど、実は憎まれ口というか、急に言われて恥かしかっただけなんだ、多分。
そう思えるし……、って、待て待て…な、何を『両想い』だって勘違いしてんのよ、俺の『片想い』ですからっ!
ともかく、救われた、と信じておこう。
「え〜っと…何を食べたい?」
何も喋らない木原の横に並んで、恐る恐る聞いてみる、何も話さないのは気まずいし。
「能登が決めていいよ…」
耳を赤く染めた木原が返し、ほんの少し顔を横に背けたのには傷付くが、俺は負けてられない。
「じゃあジョニーズに行こう、ファミレスならメニューも色々あるし」
よし、噛まなかった、自然に言えた、さっきからお互いに噛み噛み、ようやく落ち着いてこれた。
『脳味噌ふっとー状態』から『心臓ドキドキ状態』までは戻れた。エマージェンシー5からエマージェンシー4まで回復したよ。


35 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:39:10 ID:NDswd0Cg
この1の差は大きい、段階が上がる毎に自爆率が上がるのだ。
心の余裕があれば自身のアピールもしやすい、焦ればミスし易いのは誰しも同じ。俺は冷静でいたい。
今日は朝から常に4と5の間を行ったり来たり、このままでは俺の血圧がヤバい。
例えるならヒューズだ。 『ときめき木原電流』が流れれば俺の0.1Aヒューズなんて簡単に切れる。
漫画の如く鼻血を噴出してしまいかねない。
それほどに今日の木原は眩しい、強烈に俺の理性を揺さぶるのだ。
だが大丈夫。
「平常心、平常心…」
と、彼女が顔を僅かに俯かせ、ブツブツ唱えながら歩く姿を落ち着いて観察出来るまでに回復した。
しかし…俺と歩くと心が乱れ、平常心と唱えて自分に言い聞かせないと駄目なのか?
…とか考えると鬱になるから止めとこう。
駐車場を突っ切り、ジョニーズ店内への階段を上り、少しウキウキ気分でガラス扉を開ける。
いやぁ、これってデートっぽくね? 店員さんもカップルとしか見ないだろ、ゆ・う・え・つ・か・ん
「いらっしゃいませぇー! 御二人様ですか、御煙草はお吸いになられますか?」
なんて可愛い声と共に軽く礼する店員さんに顔を向け、返事を返そうとする、……んん?
「ありゃ? 能登くんと木原さんじゃないかね、あれれ?」



続く
36 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:40:34 ID:NDswd0Cg
今回は以上です。
次回は木原視点で、毎回視点が入れ替わって読み辛くてすみません。
また来ます。
では
ノシ
37 ◆KARsW3gC4M :2009/09/22(火) 04:43:04 ID:NDswd0Cg
連レスですみませんが規制の支援ありがとうございました。
38名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 09:31:21 ID:3ZwlUlSz
麻耶能登すばらしい〜最高ッ!

会長はゾーン外だったのが中に入りつつある

両作品とも続き楽しみにしてます。
39名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 10:43:00 ID:2LKAHwU4
>>36
GJ
木原の気持ちがわかってから読むと1話とは全く雰囲気が変わっていておもしろい

余計なことかもしれんが、みのりんって木原のこと、「麻耶ちゃん」って呼ばなかったか?
40356FLGR:2009/09/22(火) 23:58:42 ID:8mCKtGXc

356FLGRです。
「きすして3」が書き上がりましたので投下させていただきます。

概要
 「きすして2」の続編です。前作の既読を前提に書いています。 
 基本設定:原作アフター。よって、シリーズ基本カップリングは竜児×大河です。

 本作はThread-BとThread-Aの2パート構成です。
 
 Thread-Bはエロなし。木原→北村メインです。
 Thread-Aはエロあり。竜児×大河。

 まずはThread-B(38レス)から投下します。
 途中、規制などで中断するかもしれません。
41きすして3 Thread-B 01:2009/09/23(水) 00:00:02 ID:8mCKtGXc

 あきらめの境地に達し、悟りでも開いたかのような心境だった。
 木原麻耶は期末テストの結果が印刷された紙を半分に折り畳んで鞄にしまった。そこ
に記された自分の順位はまさしく平凡にして並であり、偏差値で言えば五十よりほんの
すこしだけ上って感じだった。それでも、前のテストより順位は上がっているし手応え
だってあったのだ。そう、麻耶は結構頑張ったのだ。それが結果に結びついたのは素直
に嬉しい。嬉しいのだけれど、やっぱりこのレベルでは何をどうしたって北村祐作と同
じ大学には通えない。なにせ北村祐作は学年トップレベルなのだ。進学先だって国立か
一流私大にきまってる。さらにアメリカ留学という可能性もあるけれど、それは考えた
くない。本当にそうなったらどうにもならない。

 ホント、マジでタイムリープできたら昔の自分に伝言の一つも託すのに。
 そんなバカバカしい事を本気考える程、麻耶は真剣であり、それゆえに失望は深かった。
そんな麻耶が、この夏に彼と特別な関係になれれば同じ大学に行けなくたって…という、
楽観的な希望を抱くのは極めて自然なことだった。

 その日の放課後、木原麻耶と香椎奈々子そして大橋高校のアイドルにして失恋大明神
弐号機である川嶋亜美の三人は例によって須藤バックスでお茶とおしゃべりに興じてい
た。アスファルトにくっきり描き出される影は夏の日差しの強さを感じさせ、事実、店
の外は三十度を楽に超える暑さだった。

「ねえ、亜美ちゃん。去年さ、まるおたちと別荘に行ったよね」
「あー、そんなことあったっけねー」亜美は軽〜く答えた。
「そうそう、私たちは連れて行ってもらえなかったのよね」
 涼やかな目で亜美を見つつ奈々子はぽそりと言った。
「今年はさ、私も連れてってほしいんだけど」
「私『たち』ね」
 奈々子はきっちり付け足した。
「悪いけどさ、今年は何にも決まってない。って言うかそういう話しもして無いし…」
「そうなんだ…」
 麻耶は沈んだ声で言った。
「だってさ、理系選抜の一位と二位が夏休みに泊まりがけで遊びに行くとか思う?」
「そうよね。それにしても、高須君が一位か…。すごいわね。二年のときから成績は良
かったけど」
 奈々子は亜美の横顔を眺めながら言った。
「ま、高須君は祐作が変なところでミスったからだ、なんて言ってたけどね」
 亜美はちょっと優しい目をして、でも押さえた口調で話した。
「でもさ、いくら受験でもちょっとぐらいは遊びたいよね。まるおだって」
「まあ、そりゃそうだろうけどさ」
「私ね…、もうハッキリ告白しようと思うんだ」
「あら、ダメもとで?」と奈々子。
「ダメもとって酷くない?」
「ごめんごめん」

「ま、確かにね。あの朴念仁には小学生でも分かるぐらいはっきり言ってやんねーと…」
「そうよね。見事なぐらいに伝わってないもの」
 奈々子は顎に人差し指を当てて、これまでの麻耶の戦いの歴史を思い出しながら言った。
42きすして3 Thread-B 02:2009/09/23(水) 00:00:57 ID:8mCKtGXc
「やっぱさ、なにか、こう、雰囲気みたいなのが大事だと思うんだよね」
「雰囲気ねぇ」
「どんな?」
「やっぱ、夏でしょ。海でしょ。単純だけど。だからね、亜美ちゃんの別荘に…」
「ふぅん、そういうことね」
 麻耶はウンウンと頷く。
「ま、使わせてもらえるとは思うけど」
 頬杖をついて亜美は言った。
「ありがと。亜美ちゃん」
 そう言って麻耶は亜美の手を両手で握りしめた。 
 
「あとは、まるおをどうやっておびき出すかが問題ね」
 アイスティーをストローでかき回しながら奈々子が言った。
「大丈夫。あいつはバカだから来いって言えば来る」
「でも、一対三じゃ不自然すぎるし、いくらバカでも来ないんじゃないかしら」
 哀れ、北村祐作。学年トップクラスなのにバカ扱い。
「そうだねぇ。じゃあ、能登君と春田君を入れて三人にする?」
 三人は百ミリ秒だけ考えた。
「…ないわ」「…ナシ」「…ありえない。つか、キモい」

「やっぱり高須君よね」奈々子が呟く。
「まあね、高須君がいれば食事の心配しなくていいし。もれなくタイガーが付いて
くるけど一対三より二対四のほうがマシだね」
「日程調整が大変そうね」
 亜美は鞄からスケジュール帳を取り出して八月のページを開いた。
「八月七日までのどこかってのがいいんじゃないの。それより後ろになると大人の夏休
みとバッティングするし、私も八月の後半に仕事入ってるし」
「なるほどね。私もそれでいいわよ」
 そう言って奈々子は微笑んだ。
「私も大丈夫。明日、まるおを誘ってみるね」
「高須君とタイガーは?」奈々子は亜美の顔を眺める。
「タイガーはあたしが誘ってみる。タイガーが来るなら高須君も絶対にくるし」
「ふふ、そうよね」
「まあ、ダメでも恨みっこ無しだからね」
 亜美は釘を刺す様に麻耶に言った。
「大丈夫だと思うわよ」
 奈々子は楽観的だった。たまには息抜きは必要だし、高須君だって、タイガーだって
二人で海に行きたいだろうし。それにこのメンバーならまるおが来ないと高須君も参加
しにくい。でも…

「亜美ちゃんはいいの? 高須君とタイガーと一緒で」
「な〜んも問題無いけど」
 亜美はあっけらかんとそう言って奈々子の耳元に口をよせて、
「奈々子はどうなのよ?」と聞いた。
「私も問題ないわよ。どっちかって言うと一緒にいる二人を眺めたいし」
「倒錯だねぇ」
「そうかしら」

「何を二人でコソコソ話してるの?」
 麻耶のちょっとムッとした声に、二人は顔を見合わせて苦笑した。

***
43きすして3 Thread-B 03:2009/09/23(水) 00:02:09 ID:8mCKtGXc

「つーわけでさ、タイガー。海に行かない?」
「なにそれ。わかる様に説明しなさいよ」
 翌日の昼休み、亜美はさっそく行動を開始した。祐作を引っ張りだすには高須竜児を
連れて行くのが得策なのだが、先に竜児に聞いたところで大河に聞いてみるわ、と言わ
れるのが関の山であり、つまり竜を射んと欲すればまず虎を射よ、というのが亜美の作
戦である。

「海ねぇ…。行きたくないわ」
「げっ」
「だって、日に焼けるし、髪の毛痛むし、暑いし。大体、夏なんてのはね、ばっちりエ
アコンの効いた部屋でゲームでもやってやり過ごすべきなのよ。それこそが現代日本人
の正しい姿だわ」
「うわ〜、年寄りクサ。高須君だって高校最後の夏の思い出ぐらい作りたいだろうに、
彼女がこの調子じゃねぇ」
 その言葉に大河の耳がぴくっと動いた。
「ほ、他には誰が行くのよ」
「あたしと奈々子と麻耶は確定。祐作と高須君とあんたは調整中」
「みのりんは?」
「合宿とダブってていけないってさ」
「そっか。忙しそうだもんね」
「部長だもんね。夏が終わったら三年は引退だし、今が一番忙しいのかもね」
 奈々子は顎に人差し指を当てて言った。

「亜美ちゃん。まるおの返事聞いて来た」
 教室に戻った麻耶が声を弾ませた。それだけで返事は分った様な物だった。
「来るって?」
「高須君が行くなら行くって」
「で、高須君は」
「タイガーが行くなら行くって」
「やっぱりね」
 ちょっと呆れた様な表情で亜美は言いながら、まあ、大事な彼女をほっぽって他の女
の子達と海に行くわけないか、と思った。
「タイガー次第ね」
 奈々子がちょっと緩んだ大河の顔を見て笑った。
「りゅ、竜児と相談して決めるわ」
 不機嫌な言い方は照れ隠し。亜美も奈々子もお見通し。
「じゃあ、夜にでもメールして」
「わかったわよ」
「さてと昼休みも終わりだねっと」
 亜美は立ち上がり、奈々子と麻耶も自分の席に戻っていった。

 その日の夜、大河は竜児と二人で参加することを亜美に伝えた。
 そして高校最後の夏休みが始まった。

***
44きすして3 Thread-B 04:2009/09/23(水) 00:03:30 ID:8mCKtGXc
 南に向かう電車のボックスシートに生徒会長にして失恋大明神初号機こと北村祐作と
木原麻耶、香椎奈々子が座っていた。三人を乗せた電車は山間部を抜け入り組んだ海岸
を見下ろしながら走っている。

 麻耶と祐作の会話はそれなりに盛り上がっていて、奈々子は時折会話に参加しながら
その様子を眺めていた。それは亜美の計画の成果だった。この電車に高須竜児は乗って
いない。逢坂大河も川嶋亜美も乗っていないのだ。
 
「おっと!」
 祐作は不意に声を上げて、ポケットから携帯電話を取り出した。
「亜美からだ。木原と香椎にもメールが行ってるんじゃないか?」
 そう言われて奈々子がバッグの中の携帯を見るとメール着信を告げる青い灯りが点滅
していた。麻耶の携帯にもメールが来ていて二人はほとんど同時に携帯電話を開いた。
「これって買い物リスト?」麻耶が言った。
「どう見てもそうね」
「結構な量だな。楽しみだ」祐作は長文のメールを眺めて微笑んだ。
「えー? こんなに買うの大変じゃん」
「そうね。かなり本格的な感じだわ」
「ああ、いかにも高須らしいよ。なんせあいつの料理は美味いからな。何を作るのか今
から楽しみだよ」
「へぇ。そんなにすごいんだ。高須君の料理って」
 麻耶は半信半疑という顔で祐作を見ながら言った。それを聞いて奈々子は小さく笑った。
「どうしたの? 奈々子」
「ううん、なんでも。本当に美味しいのよ。高須君の料理」
 あの味を思い出してつい笑ってしまったのだ。
「食べたの?」
「卵焼き一つだけね。タイガーのお弁当をくすねて」
「うわー。大胆。怒ったでしょ、タイガー」
「まあね。でも、褒めたら喜んでたわよ」
 そう言いながら奈々子はメールを読んでいた。
「ねえ、まるお。駅の近くにスーパーとかあるの?」
「ん? ああ、確かあったな。それに小さいけど商店街もある」
「じゃあ買い物は問題無いわね」
「えー? そうかな。結構な量だよ」
「量はそうだけど、野菜とか肉類とか魚介とか分けて書いてあるからこのメモの通り回
ればいいのよ。多分、このメモ、元は高須君が書いてそれを亜美ちゃんが打ち込んだの
よ。きっと高須君は私たちが買い物をしてまわるルートまで考えてメモを作ってくれて
ると思うわ」
「なるほど。それにしても高須は大活躍だな。掃除もしてくれてるんだろ」
「そうよ。亜美ちゃんとタイガーも昨日から行って準備してくれてるわ」
 奈々子は携帯を閉じながら言った。

45きすして3 Thread-B 05:2009/09/23(水) 00:04:32 ID:6IuauU7k
 ―― 一昨日の夜の事だった。

 奈々子が自分の部屋でくつろいでいると、携帯電話が着信メロティを奏で始めた。携
帯電話を開くとディスプレイには川嶋亜美の表示、すぐに着信ボタンを押した。
「あ、奈々子?」
「亜美ちゃん、どうしたの?」
「旅行の件なんだけどさ、あたし、明日から別荘に行くのよ。ちょっと掃除しとかない
とマズい感じなのよね」
「え? 大変じゃないの」
「あー。それは大丈夫。援軍を頼んだから」
「援軍って、ひょっとして高須君?」
「そ、高須夫妻。三人いれば全然オッケーだから。それに高須君がいると祐作が麻耶と
話さないでしょ」
「それは、そうかもしれないわね」
「まあ、そう言う事だから、明後日は麻耶のフォローお願い。それにさ、買い出しは
奈々子が頼りだから。高須君も奈々子をあてにしてるし」
「そうなの?」
 確かに、このメンバーならそうかも知れない。
「とにかく、そういう事だからよろしくね。祐作と麻耶にも電話しとくから。じゃあね」
「あっ」と言った時にはもう電話は切れていた。

 ―― ともかく、今のところ亜美の思惑通りに事は運んでいた。

「うーむ。なんだか申し訳ないな…」
 祐作は腕組みをして目をつぶって言った。
「そんなことないわよ。高須君、掃除好きだから。きっと、そうね、
『お、おぅ、川嶋、腕がなるぜ』とか言ってたんじゃないかしら」
 奈々子は腕組みして顔をしかめて竜児のモノマネをして言った。
「ぷっ…、いやだ、奈々子。ちょっと似てるし…」
「あら、そう?」
「おお、なかなか、似てたぞ。言い回しなんか、そっくりだ」
「…全然嬉しくないわ」
「いやいや、芸は身を助けるっていうからな」
「そうそう。タイガーに見せてあげなよ」
「だめよ。これは今やるから面白いの。後でやっても面白くもなんともないわ。そうい
う経験ってない? すごく面白い話しだと思ったのに友達に受けないことって無かった?」
「あー、それ、あるある」
「そうでしょ。これはそういう類いの芸なのよ」
 奈々子は落ち着いた口調で言った。
 もともと芸なんかじゃないのよ。ベッドの中で色々妄想していた成果なんだから。
 奈々子は心の中でそう呟いた。
 
 車窓からは夏の日差しに輝く海が見えていた。

***
46きすして3 Thread-B 06:2009/09/23(水) 00:06:14 ID:8mCKtGXc

「亜美ちゃん。すごい、すごいよ」
 リビングの窓からの景色を見た麻耶は興奮ぎみに「すごいよ」を連発した。
「奇麗な景色ね。本当に素敵だわ」
 奈々子は麻耶の隣に立って窓の外を眺めていた。海に来たのはもちろん初めてでは無
いけれどプライベートビーチは初めてだった。こんなに奇麗な砂浜に人っ子一人いない
というのはちょっと斬新な景色だった。
 
「おぅ、準備できたぞー」キッチンでちょっと遅い昼食の用意をしていた竜児が言った。
 ダイニングテーブルの真ん中にはスパゲッティが山盛りに乗った大皿。そして鍋が二つ。
「スピード重視でこんな有様だが味は保証する。ソースは二種類。そっちの黄色い鍋が
普通のトマトソースでこっちの赤い鍋がアラビアータ。あとはセルフサービスだ」
「おお、美味そうだな。では、早速」
 祐作はトングでパスタを皿に取ってアラビアータソースをかけた。
「じゃ、私も」
 麻耶も祐作にならってパスタをとりアラビアータソースをかけた。奈々子はトマト
ソース。亜美はアラビアータ。大河はトマトソース。最後に竜児がパスタにトマトソースを
かけて全員準備完了となった。
「おぅ、食ってくれ」
「いただき」大河は待ちきれずにフォークで巻き取っていたパスタを口に入れた。
「んー、辛くておいし」感想を漏らしたのは亜美。
「おお、美味いな。やっぱり高須の腕前はプロ並みだな」
「んなことねぇって」
「ホントだ。美味しい」麻耶はしきりに感心。
「茹で具合もいいわね。こっちのトマトソースもいいわよ」と奈々子。
「え? マジ。ちょっと分けて。奈々子」
 亜美に応えて奈々子は自分の取り皿を亜美に渡した。
「じゃあ、亜美ちゃんのを分けて」
 亜美の皿が奈々子のところへ。

 山ほど茹でたパスタも高校三年生六人の前にみるみるうちに減っていきあっさり完食
された。
「さすが高須だな」祐作はしきりに感心していた。
「そんなことないわよ。手抜きよ、手抜き」と大河。
「お前、余計な事言うなよ。本当に手抜きなんだから」
「いいじゃん。美味しいんだからさ」そう言って亜美は竜児を見た。
「おぅ、ありがとよ。さて、片付けちまおう」
 竜児は立ち上がって取り皿を重ねていく。
「あ、高須君。手伝うわ」
「あー。奈々子。いいの、いいの。ここは夫妻にお任せで」
「え? でも」
「あぁ。かまわねぇぞ。これぐらいならすぐ片付く」
「てことで。先に行ってるわよ。麻耶、奈々子、こっちこっち。部屋、教えるから。
あー、祐作もついでに来て。後で教えるのもメンドーだし」
「わかったよ。すまないな、高須。任せっぱなしで」
 祐作が申し訳なさそうに言った。
「おぅ、気にすんな。晩飯の片付けは手伝ってもらうからよ。そんじゃ、大河。
ちゃっちゃとやっちまおうぜ」
「しょうがないわねぇ」
 カチャカチャと音を立てながら大河は重ねた皿をキッチンに運んでいく。キッチンに
並んで立つ竜児と大河を祐作はまぶしそうに眺めていた。

***
47きすして3 Thread-B 07:2009/09/23(水) 00:07:37 ID:6IuauU7k

 真夏の強い日差しが白い砂浜を照らしていた。まるでイラストの様な青い空と遠くに
浮かぶ入道雲。白く輝く砂浜はゴミ一つ無い完璧な美しさでリアリティがまるでない。
当然、私有地だから六人以外は誰もいない。もっと言えば、視界の届く範囲を見回し
たって六人以外の人間は目に入らない。出来過ぎなぐらいにプライベートビーチに最適
な地形なのだ。

「亜美ちゃん、遅い!」
「ごめんごめん」言いながら亜美は砂浜を走り波打ち際を駆け抜けて膝までぬるい海に
浸かり麻耶と奈々子の傍に立った。それは春田が泣いて喜びそうなビジュアルだった。
いや、春田に限らず男子なら誰だって喜ぶ光景だった。

 亜美の水着は白地にブラウンのドットがプリントされただけの装飾がないシンプルな
ビキニで、そのシンプルさゆえに彼女のスタイルの良さを際立たせていた。麻耶の水着
も白地のビキニで柄はグレーのボーダー。色合いの割に華やかに見えるのはプリントに
ラメが入っているから。奈々子はちょっと大人っぽく黒地にリーフ柄がプリントされた
ビキニに同じプリントのパレオをセット。
 これが普通のビーチだったらナンパがウザくて堪らないだろうがここは完璧なプライ
ベートビーチ。そんな心配は一つもない。三人はお互いの水着を見せ合い、カワイイと
ヤバイを連発していた。

 そんな三人の盛り上がりとは無関係に、祐作は一人で夏の海を堪能するように泳いで
いた。

 
「おお、やっぱ盛り上がってんなぁ」
 昼食の片付けを済ませて一足遅れで着替えた竜児は盛り上がる三人娘をウッドデッキ
から眺めながら大河を待っていた。
「ごめん、待った?」
 ウッドデッキに出て来た大河は水着の上からパーカーを着てビニールバッグをぶら下
げていた。
「いや。気にすんな。それよか日焼け止めは?」
「ちゃんと塗ってきたわよ。けど…」
「けど?」
「背中とかできないから、後でさ…」
「お、おぅ」ぽりぽりと頬を掻いた。
「じゃ、いこっ」
「よっしゃ」
 竜児は足下に置いてあったクーラーボックス持ち上げストラップで肩から下げた。
飲み物がたっぷりと入ったクーラーボックスはずっしりと重くストラップが肩に食い
込んだ。二人はゆっくりとした足取りで砂浜に降りていき、竜児は砂浜に立てたパラ
ソルの下に敷いたレジャーシートの上にクーラーボックスを下ろした。
「おつかれ」
「おぅ、雑作もねぇ」
「あっち向いてて」大河はそう言って海の方を指差した。
「あいよ」と言って竜児は海の方を向く。
 大河はビニールバッグをシートの上に置いて、着ていた白いパーカーを脱いでバッグ
に押し込んだ。胸元を覗き込む様にしながら水着の具合を確かめた。この日の為に買った
真新しい水着。ちょっとだけ上げ底。
48名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 00:08:39 ID:rGRuSg0j
C
49きすして3 Thread-B 08:2009/09/23(水) 00:08:49 ID:6IuauU7k

「いいわよ」
 竜児は振り返って大河を見た。
「ど、どうよ?」相変わらず自信なさげだった。

 大河のビキニは白地に黒のチェック柄で彼女の身体のラインの美しさと可愛らしさを
引き立てていた。ウエストの細さが際立つから細身の身体でもバランスが取れて見える
し、モノトーンはちょっと大人っぽい感じで今の大河によく似合っている。

「いいよ、似合ってる…」
 何回も裸を見ているのに水着はまた違った感じでちょっとドキッとする。
「なんつーか、ちょっと大人っぽくて、可愛い感じで…良い感じだ…」
 竜児はそっぽを向きながら言ってから、ちらっと大河を見た。
「そ、そう。良かった」
 大河は竜児に微笑んで、そして波打ち際へと走った。夏の日差しに光る海と青い空を
背景に踊る様に波と戯れる大河の姿に竜児は見蕩れた。大河は膝下まで波に洗われなが
ら竜児の方に振り返った。

「竜児! 早く!」
「お、おぅ」と、応えて竜児は走り出した。

 波打ち際を超えて足が海に浸かると日差しで灼かれた身体がゆっくりと冷やされてい
くようで心地よかった。竜児が駆け寄るタイミングを狙って大河は水面を削り取るみた
いに腕を振って竜児に水しぶきをかけた。竜児はそれを頭から被ったが、大河が小さい
手で浴びせる飛沫は僅かなものだった。

「お前、髪の毛まとめるとかしなくていいのかよ?」
「あ、ああ、そか。忘れてた」
「ったく、とりあえず三つ編みにしてやっから…」

「そこの夫妻! イチャついてんじゃないっ」
 言いながら亜美は竜児を狙ってフルパワーでビーチボールを投げた。亜美の声に
「かわしま〜」っと言いながら振り向こうとした竜児の視界に一瞬だけ三人娘の姿が映
り、次の瞬間にビーチボールは竜児の顔面にモロに直撃した。バフッと間の抜けた音を
立ててボールは空を舞い、そこにちょっと強い波が来て竜児の足下をすくった。振り
返った拍子とボールの破壊力と波の絶妙なコンビネーション攻撃で竜児はバランスを崩し
「のわぁっ」と妙な声を上げみっともなくコケて大きな飛沫をあげた。上がった飛沫を
頭から被った大河がクスクスと申し訳なさそうに笑った。勿論、亜美は大爆笑。奈々子も
声を上げて笑ってから「ごめんね、高須君」と言って、また笑った。そして、麻耶は泳
いでいる北村を眺めていた。

***
50きすして3 Thread-B 09:2009/09/23(水) 00:09:59 ID:6IuauU7k

「次! 十本目、いくわよ」
「まだやんのかよ?」
「情けないぞ高須。もうギブアップか?」
「ぬかせ、俺のが一本リードしてるっての」

 謎の水泳対決に興じる竜児と祐作の姿を麻耶と奈々子は眺めていた。水泳対決、と
言っても実際は大河が沖に向かってカラーボールをノックしてそれを先にとって来た方
が勝ちという、要するに犬の遊びみたいなゲームだ。なぜ、金属バットが置いてあった
のかは分らないが、とにかく物置にそれはあった。

「そーれっ」大河は左手でピンク色のボールを軽く放り上げバットを握ると奇麗な
フォームでコンパクトに振り抜いた。スパーンという音が響いてボールは青空に吸い込
まれる様に飛んでいき海面に落ちた。
「レディ、ゴーッ! それっ、走れ犬ども」スタートの合図をしているのは亜美だった。
「ぬおぉ」「うおぉ」竜児と祐作は同時に砂浜を蹴って海にダッシュ。バシャバシャと
波を蹴り、飛び込み、ボールに向かって泳でいった。

「奈々子。高須君ってさ…意外とスペック高くない?」
「へえ、気になるの?」奈々子は意地悪そうに言った。
「私はまるお一筋だもん!」
「ふふ、そうよね。でも、凄いわよね。まるおと互角だもの」
「あ、戻って来た」

 ボールを持って戻ったのは竜児だった。よたよたと亜美にボールを渡してその場にへ
たり込んだ。すぐ後に祐作が戻り竜児の近くに座り込んだ。二人とも息を切らせて苦し
そうに酸素を貪る。
「勝者、高須君!」
 亜美が告げると竜児は拳を小さく突き上げガッツポーズ。祐作は万歳してから砂浜に
寝転がった。

「麻耶、まるおに飲み物持っていってあげたら」
 奈々子はそう言って目配せした。その方向にはペットボトル片手に竜児の元に歩く
大河がいた。
「そ、そうだよね」
 麻耶は砂浜に立てられているパラソルの元に小走りで向かった。麻耶はクーラーボッ
クスからスポーツドリンクのペットボトルを一本取り出して、祐作のところに向かって
歩き出した。
 
 いちいち気が利かないんだよね…。麻耶は思った。

 あれだけ激しい運動をしたらどうなるか、何が欲しいか簡単にわかるはずじゃない。
それなのにボケッとしちゃって、ちゃんとタイガーには分ってたのに、私はちっとも
気付けない。まったく、しっかりしてよ。ほら!

51きすして3 Thread-B 10:2009/09/23(水) 00:11:23 ID:6IuauU7k
 麻耶は祐作の前に立って笑顔でペットボトルを差し出した。
「まるお! お疲れ」
「おお、サンキュ」
 祐作はボトルを受け取った。輝く様な爽やかな笑顔だった。キャップを開けて口を付
けると一気に四分の一程を飲み干した。
「ふぅ、うまい。生き返る」
 笑顔も素敵、真顔も素敵、思わず見蕩れてしまう麻耶だった。
「ふふ、良かった。でも、負けちゃったね」
「ああ、こんなゲームでも負けると悔しいんだよな。敗因を考えないと」
「えー、そんなマジになんなくてもいいじゃん」
「いやいや、こういうのは真剣にやるからこそおもしろいんだ」
 そう言って、祐作はスポーツドリンクをもう一口飲んだ。
「そうなんだ。うん、男の子ってそういうところあるよね」
「女子は違うのか?」
「アレを一生懸命やる娘はいないと思うけど…」
「そうか? 櫛枝ならやってくれると思うんだが」
「そうかもしれないけど…。でも、普通の女の子はやんないと思う」
「ふむ、勿体ないな。面白いのに…」
「私は見てる方が好きだな。なかなか面白かったよ。まるおと高須君の対決」
「そうか。高須は水泳が得意なんだよな。何でも小さいころに…」

 ふと、麻耶は竜児と大河の方を見た。スポーツドリンクを飲んでいる竜児に大河が何
かを話しかけた。竜児はペットボトルを差し出し、大河はそれを受け取ると躊躇しない
でそれに口をつけて飲んだ。ふぅ、と言う感じで息を吐いてからペットボトルを竜児に
返し、受けとった竜児も当たり前のように口をつけて飲んだ。一本のボトルをシェアす
るなんてことは二人にとってはとっくに当たり前のことで意識なんて全然しないで自然
とそうなっていた。

『そうか…。ああいう風に自然な感じで行けばいいんだ。よし』麻耶は勝手に納得。

「…分析するに敗因は視力だな」
「ま、まるお。それ、美味しい?」
 麻耶は祐作の顔を覗き込むようにして聞いた。
「ん? ああ、美味いぞ」
「あ、あのさ、私も喉乾いちゃって。ちょっと…」
「おお、そうか。じゃあ、もう一本取って来よう」
 祐作はさわやかにそう言ってさっと立ち上がった。
「え、あ、いや、そうじゃ…」
「はっはっはっ、水分補給は大切だぞ」
 さわやかに語ってから祐作はパラソルの下に走り、クーラーボックスからペットボト
ルを取って小走りで麻耶のところに戻った。
「お待たせ」と言って、祐作は麻耶にスポーツドリンクを渡した。もちろん、未開封の
方だった。
「あ、ありがとう…」

52きすして3 Thread-B 11:2009/09/23(水) 00:12:19 ID:6IuauU7k
 麻耶はちょっとヤケ気味に勢い良くキャップを外して一気に飲んで、そして咽せた。
苦しげに咳き込む麻耶に祐作は「大丈夫か?」と声をかけた。麻耶は苦しそうにしなが
ら頷いたが咳はなかなか収まらなかった。
「あーっ、もう。麻耶、大丈夫?」
 駆け寄った亜美が麻耶の背中を擦った。しばらくすると麻耶の呼吸は落ち着いて咳も
収まった。
「ありがと、亜美ちゃん。もう大丈夫。ちょっと休むね」
「うん、そうしなよ」
 麻耶は奈々子に手を引かれてゆっくり立ち上がるとパラソルの下に歩いていった。

「祐作、あんたバカ?」
 亜美は目一杯の不機嫌を照射するみたいな目つきで祐作を睨んだ。
「なんだよ、一体?」
 祐作はちょっとムッとする。
「…ほんとに分ってないんだから。あーあ、だねぇ。ったく」
 亜美はそっぽを向くと麻耶と奈々子の方に歩いていった。

 ぽつんと残された祐作はやっぱり良くわかっていなかった。
 彼は本当に分っていなかったのだ。

***
53きすして3 Thread-B 12:2009/09/23(水) 00:13:29 ID:6IuauU7k

 太陽が沈みかけていた。
 竜児と大河、それに奈々子は一時間半程前に夕食の支度のために別荘に引き上げてい
た。麻耶は「ちょっと休むね」と言って自室に戻り、残っているのは祐作と亜美だけ
だった。
 亜美は麻耶と祐作の仲を取り持つつもりなんてなかったけれど、麻耶に対する祐作の
態度については前々から腹に据えかねるところがあったのだ。水着とセットのキャミ
ソールと裾フリルのショートパンツを身につけた亜美は砂浜に胡座をかいてぼんやりと
海を眺めている祐作に近づいていった。そして軽く腕を組んで祐作を背後から見下ろし
て話しかけた。

「祐作、何やってるの?」
「…亜美か…。何もしてない。ボケッとしてる」
 祐作は振り返らないで答えた。

「おもしろい?」
「これはこれで面白い…」
「そう…。ねえ、あんたさ…」
 麻耶の事、どう思ってるの? そう聞きそうになって、口を噤んだ。
「…狩野先輩のこと、まだ好きなわけ?」
 祐作の首が僅かに動き、でも祐作が亜美の方を向くことはなかった。
「どうして、そんなこと聞くんだ?」
「んー、そうね。祐作がどうしたいのか分んなくってね」
「…どうしたいって」
「そんな難しい事聞いてないでしょ。三択だもの。あきらめる、追いかける、こっちで
待つ、以上三つ。ああ、あともう一つ。もう諦めたってのもあるか」
 それは祐作の自由だから、もし、祐作がすみれを待つというならそれもアリだし、
追いかけると言うならそれもアリだ。どちらかなら、亜美は麻耶の気持ちを祐作に伝え
て、自分がどうするつもりか麻耶に言ってあげなよ、そう言うつもりだった。

 祐作は答えなかった。
「ふうん、答えられないんだ」
「亜美には関係ないだろ。余計な詮索だ」
 亜美の眉間に皺がよる。ちょっとキレた。
「そうだねぇ。あたしなんかには関係ないもんね」
 亜美は祐作の背中を見下ろして冷たい視線を投げる。
「…」
「じゃあ、もう一つだけ。ずっと分んなくて引っかかってたことがあんのよ」
「なんだ?」
「なんで選挙の時にコクったの。あれは、あんた的には男らしくてカッコ良かったわけ?」

 それが亜美には分らなかった。

 なにも全校生徒の前でやらかす必要があったとは思えない。自分に想いを寄せている
女の子の目の前でそうしなければならない事情があったとも思えない。そんなもの無い。
あるはずがない。

 狩野すみれとサシで向き合えばよかっただけの話しではないか。
 だから亜美には、あれが告白だとは思えなかった。もっと違う意図がある様に思えて
仕方が無かったのだ。
54きすして3 Thread-B 13:2009/09/23(水) 00:14:42 ID:6IuauU7k

「わからない」
 祐作は振り向かないで呟いた。
「わからない? そう、もう随分前のことだからねぇ。わかんなくなっても仕方ないわ
よねぇ」
 亜美は完璧に厭味だけで構成された言葉を芝居じみた口調でぶつける様に吐いた。
「すまない…」
「すまない? 適当な事を…」
 ムカついた。何が『すまない』のか。『わからない』のが『すまない』のか、それと
も他に『すまない』事があるというのか。適当にあしらわれているような気がしてムカ
ついた。でも…
「もういいわ。夕食を台無しにしたくないから」
 亜美は祐作に背中を向けて別荘に歩いていった。歩きながら気分をリセットすること
に集中した。皆の喜ぶ顔が見たくて使い慣れないキッチンで奮闘している奴がいるのだ。
それを台無しになんてできやしない。
「祐作、あんたもそろそろ戻ったら。もうすぐ晩ご飯だと思うから」
 亜美が祐作の方を振り返って少し大きな声でそう言いうと祐作は海を見たまま右手を
上げて応えた。

***
55名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 00:15:17 ID:rGRuSg0j
C
56きすして3 Thread-B 14:2009/09/23(水) 00:16:22 ID:6IuauU7k

 竜児の料理は多少の人間関係の痼りぐらいなら吹き飛ばすぐらいの出来だった。本日
のメニューはパエリアとトルティージャ。どちらも好評で、竜児はちょっと余るかも、
と思うぐらいの量を作ったのだがそれでも料理はキレイに無くなって六人の胃袋に収
まった。

 料理の出来に一番感動していたのは奈々子だった。竜児に「レシピを教えて」とお強
請りしてメモを作ってもらう約束を取り付けたほどだった。奈々子も竜児を手伝ってい
たのだがその手際に圧倒され、とにかく竜児に言われた事をやるだけで精一杯でレシピを
憶えるどころではなかったのだ。

 そんなわけで、夕食の片付けを済ませた竜児はダイニングでパエリアのレシピを書き
出しているところだった。竜児の正面に奈々子が座りレポート用紙にレシピが書き込ま
れていく様子を眺めていた。竜児の隣にはちょっと退屈そうに頬杖をついた大河が座り
竜児が書いている文字を眺めていた。
「別に今やんなくてもいいじゃない」と大河は言い、奈々子も「帰ってからでいいよ」
と遠慮したのだが、奈々子がぽろっと漏らした「お父さんにも食べさせてあげたいな」
という言葉が竜児には堪らなかったのだ。

 十分とかからずにレシピは完成し竜児はレポート用紙のページを剥がして奈々子に渡
した。
「ありがとう、高須君。なにかお礼しなきゃね」
 奈々子はそう言って丁寧にレポート用紙を畳んだ。
「お礼なんていいわよ」大河が言う。
「ああ、大した事じゃない。これで礼なんかされたらかえって困る」
「でもね、何もしないってのもね」
「おぅ、じゃあお茶でも入れてくれよ」
「お安い御用よ」奈々子は微笑んだ。

 奈々子はケトルをコンロにかけた。お茶と言ってもティーバッグの紅茶と緑茶、それ
にインスタントコーヒーぐらいしかない。だからそれは本当にお安い御用だった。

 竜児がコーヒー、大河と奈々子はミルクティーを飲みながらとりとめの無い話しをし
ているとリビングのドアがゆっくりと開き麻耶が入って来た。麻耶は何かを探す様な仕
草で視線を動かしダイニングでまったりとお茶を楽しむ三人を見つけた。

「あーっ。何コソコソやってるの?」
「別にコソコソなんてしてないわよ。お茶してるだけ」大河はさらっと言った。
「私もいいかな?」
「かまわないわよ」
「ああ、但しセルフサービスな」
「えーっ。奈々子、お願い」
「しょうがないわね。コーヒー? 紅茶?」
「紅茶お願い」
 奈々子は腰を上げると食器棚からカップを一つ取り出した。

57きすして3 Thread-B 15:2009/09/23(水) 00:18:17 ID:6IuauU7k
 四人の話題は料理のレシピだったり、昼間のちょっとバカなゲームについてだったり、
そんなとりとめの無い話だった。それがちょっと一段落したところで麻耶は竜児の方を
向いて小さな声で話し始めた。

「あのさ、高須君…教えて欲しいんだけど…」
 竜児の小さな黒目が少し揺れて麻耶を見た。
「まあ、知ってる事なら」
「もしかして、まるおって私のこと嫌ってる?」
 普通なら四人で話す様なことじゃないのだろうが、麻耶の片思いはここにいる全員が
知っている。
「キライってこたぁないだろう」竜児は間を置かずに応えた。
「迷惑だとか…聞いてない?」
「ねぇよ。北村はそんなこと言ってねぇし、思ってもいないさ。木原が来てくれると文
系クラスの様子が分かって面白いなんて言ってるぐらいだからな」
「本当に?」
「ああ、ウソなんかつかねぇよ」
「まだ、狩野先輩のこと、好きなのかな」
「どうだろうな」
「そういう話しはしないの?」
「しねぇな」
「本当にしないの?」奈々子が怪訝な表情で聞いた。
「ああ。してねぇ。いいだろ、狩野先輩のことは」
 竜児は眉間に皺を寄せて奈々子を見た。素でも凶悪な表情がさらに酷い事になっていた。
 奈々子の表情は強ばり、それに気付いた竜児は低く唸って目を逸らした。

「あ…、ご、ごめんなさい」
 奈々子はその名前が彼の苦い記憶と結びついていることを思い出した。
 大河の手が竜児の手にそっと触れ、それに気付いた竜児は大河を見た。
「気にしないで」大河は呟く様に言った。
 竜児は小さく頷き表情を緩めた。
「悪いな。本当にしねぇんだよ。つーか、あいつは俺に狩野先輩のことは話さねぇんだ」
「そうなの…」
「あいつだって俺には話しづらいだろうさ」
 全員が沈黙をもってそれに同意した。

「そうだよね」麻耶は言った。
「…私が聞いてもいいのかな? まるおに、先輩の事」
「…いいんじゃないの」そう言ったのは大河だった。
「そうだな、木原が思った通りにすればいい」
「うん…。そうだよね。まるおの部屋に行ってみるね」
「お茶ぐらい持ってった方がいいんじゃない」奈々子が言った。
「ま、北村にはコーヒーだろうな」
 竜児はケトルに水を入れてコンロにのせた。

***
58きすして3 Thread-B 16:2009/09/23(水) 00:19:36 ID:6IuauU7k

 大いなる勇気をもって麻耶は祐作の部屋のドアを叩いた。
「まるお。入っていい?」
 すぐにドアが開いて祐作が顔を出した。
「コーヒーもってきたんだけど」
 祐作は怪訝な表情を見せたけれど、
「…そうか。入れよ」と言って麻耶を招き入れた。
 よし、第一関門突破。麻耶は心の中でガッツポーズ。
 小さなテーブルの上にトレーを置いた。
「いただくよ」
 祐作はマグカップに指をかけて口を付けた。
「インスタントだから…たいしたことないんだけどね」
 麻耶は砂糖を半分だけ入れてスプーンでかき混ぜた。マグカップに口をつけて一口
飲むと香りも味もインスタントコーヒーだった。
「やっぱ、インスタントだったね」
「そうだな。でも、何か飲みたかったから丁度よかったよ」

「あのさ、まるお…」
 いきなり本題に入るのもどうかと思い、手近な共通の話題をふってみることにした。
「えと、ご飯美味しかったよね」
「おお、美味かったな。あいかわらず高須の料理はうまいよ」
「私は初めてだったから驚いたよ。あんなに本格的だとは思わなかったもん」
「だろ。普通驚くよな。女子でもあそこまで出来る娘は珍しいんじゃないのか?」
「いないよ。奈々子も驚いてた。っていうか感動してた」
「だろうな」

 それからしばらく夕食の感想を話した。

「高須君、お母さんと二人で暮らしてるんだよね?」
「ああ。ずっと二人暮らしだって言ってた。お母さんが働いて、家事も家計の管理も
全部高須がやってる」
「そうなんだ。凄いな。私なんか何にもできないよ」
「ああ。あいつは、高須は凄いよな」
「そうだね。けど、私から見れば、まるおだってすごいよ」
「俺が?」
「勉強できるし、スポーツ万能だし、生徒会長だし。十分スゴイよ」
「そうかな」
「そうだよ」

「ねえ、まるおは、まだ狩野先輩の事、好きなの?」
「え?」
「あ、ゴメン。言いたくなかったら、いいから」
「…どうかな。好き、なんだろうな」
「そうだよね」麻耶は寂しそうに言った。
「元気でやってるのかな?」
「…元気で…やってるよ」
「…そっか。さすがだね」
「そうだな」祐作は寂しげに微笑んだ。

「でも、なんでそんなこと?」不思議そうな目をして祐作は言った。
59きすして3 Thread-B 17:2009/09/23(水) 00:20:59 ID:6IuauU7k

「うん…あのね…」
 麻耶は迷った。『A:えっ、なんとなくね』『B:まるおが好きだから』無難なのは
間違いなくA。Bでコケたら話す事さえ難しくなりそう。そう、とりあえずAで間を繋
いで…、なんて調子だからダメなんだ、私はいつまでたっても、いつまで待っても気付
いてもらえないんだ。もう、言っちゃえよ!>私

「…すきだから」俯いて呟く様に言った。言ってしまった。
「え?」
「まるおが好きだから…」そう言って麻耶は祐作を見た。
 
 祐作は麻耶の目を見た。中途半端に口を開けて、瞬きを忘れて。 

「き、木原?」
「驚いた?」
「お、驚いた」
「やっぱり…、まるお、鈍感すぎ」
 呆れて突き放す様な口調で言った。
「え、ああ、でも、何で?」
「…何でって、好きになるのに理由が無きゃダメなの?」
 頬を染めたまま、口を尖らせて麻耶は言った。
「あ、いや…」
 曖昧な言葉を返す祐作に麻耶は、本当に驚いているんだ、と思った。あれだけアタック
したつもりなのに、ちっとも伝わってなかったのが悔しいというよりおかしかった。
「まるおのね…話し方が好きだったりさ、一生懸命な感じがよかったり。でも、やっぱり
理由なんて分かんない。私は単純にまるおが好きになったの。それだけ…」
 
「それじゃ、ダメかな?」
「いや、ダメだなんて」
「じゃあ、まるおはどうして狩野先輩が好きなの?」
「俺は…」
 最初は憧れだった。

「あの人に憧れて…」
 憧れが好きという気持ちに変わった。良く有ることだと思う。

「そうだよね。狩野先輩、すごかったもんね。いろんな意味で…」
「ははは。そうだな」
「でも、その凄い人に信頼されてたんだから、やっぱりまるおも凄いんだよ」
「そうかな…」
 祐作は口元に小さな笑みを浮かべて呟いた。胸をくすぐるのは…優越感だった。
 それはまだ彼女が会長で自分が副会長だったころ、毎日の様に感じていた感覚だった。

『ソウダヨ、オレッテ ケッコウ スゴインダ。ミンナヨリモ スゴインダヨ』

 ああ、そうか…。そうだった。
 俺はあの『凄い』人に必要とされて、褒められたかったんだ。
 貧弱な自分のプライドを補強するために俺には彼女が必要だった。
 だから彼女が夢に向かって旅立つ事が喜べなかったんだ。

60きすして3 Thread-B 18:2009/09/23(水) 00:22:33 ID:6IuauU7k
『なんで選挙の時にコクったの。あれは、あんた的にはカッコ良かったわけ?』
 
 あの日、自分は何を望んだ?
 自分の事を好きだと言ってくれる事か? 
 彼女の留学の延期か? 本当に?

 違う。そうじゃない。
 俺が何を言っても彼女は止められない。それは分っていた事だ。
 それ以上に、それ以前に、俺が何かを言ってそれで夢を諦める様な人だったら、彼女
は全然凄くない。そんなのは狩野すみれではないのだ。俺は行かないで欲しいと泣きな
がら、それでいて彼女が考えを変える事も望んじゃいなかった。それに…

 俺には彼女を追いかけるという発想も無かったのだ。本気になった彼女に俺なんかが
付いていける筈が無い。いや、付いていけてはいけないのだ。

 それでも好き『だった』のは事実だ。だから、俺は告白をした。 

 それで状況が変わるとは思わなかった。だって、変わって欲しくないんだから。
 ただ、『北村祐作は狩野すみれに捨てられて傷ついた』という事実だけを突きつけた
かった。自分を見捨てて夢に向かっていってしまう狩野すみれを少しだけ傷つけたかっ
た。だから、彼女が追い込まれる状況で、大勢が注目する中で告白したのだ。みんなの
前で、『お前のような凡人に興味はない』そう言わせたかったのだ。

 最後まで彼女は素晴らしかった。『面白い奴だろ』そう言ってくれたのだ。あれは間
違いなくあの人の優しさだ。俺にとっては期待した通りの展開だった。衆目の中で俺は
失恋しみっともない程に泣いた。俺は傷つき、彼女は傷つけた。否、俺は傷つけ、彼女
は傷ついた。

 あの時、俺は本当に自分のことしか考えていなかった。俺の事を真剣に心配してくれ
ていた友人達のことをまるっきり忘れていた。
 そして、狩野すみれはあまりにも狩野すみれだった。多分、彼女は俺に失望してムカ
ついていたのだろう。
 
 そして、事件は起きた…。否、俺が起こしたのだ。

 狩野すみれを失望させ、傷つけた。
 逢坂大河を傷つけた。
 そして、親友を、高須竜児を傷つけた。

 自己満足のために大切にしなければならない人を傷つけた。
 それなのに…、俺は優等生ヅラして生徒会長様なんてものをやっている。

『サイテーダナ』
 否定出来ない。北村祐作は最低である。

 でも、彼女に対する想いは本当だった。
 それは本物だった筈だ。 
 なのに、どこかで、いつ頃からか、変質してしまった。させてしまった。
 好きだったのに…。本当に単純に好きだった筈なのに……


61名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 00:23:17 ID:rGRuSg0j
C
62きすして3 Thread-B 19:2009/09/23(水) 00:23:53 ID:6IuauU7k
「え? まるお?」
 祐作の目から涙が溢れた。
「俺は…最低だ…」
 胸を押しつぶされるような痛みに喘ぐ様に、祐作はやっとの事で言葉を吐き出した。

「ごめんなさい。辛い事、思い出させて」
 麻耶は手を伸ばしながら、でも祐作に触れられず、ただ謝った。謝りながら麻耶も泣
きそうだった。北村が彼女の話で泣くと言う事は、つまり彼は彼女を好きで忘れられな
い、そう思ったから。

「ちがうんだ…。きはらの…せいじゃ…ない」
「でも…」
「ちがうんだ…。おれは…」
 そう言ったきり、祐作は言葉を詰まらせた。嗚咽がもれるばかりで何も言葉にならな
かった。俯いたままで落ちていく涙を見ていることしか出来なかった。祐作は自分が泣
いていることが情けなかった。自分が情けなくて泣き、そして泣いていることの情けな
さを吐き出すようにさらに泣いた。

 祐作の肩に暖かいモノが触れた。
「きはら?」
 麻耶は祐作を抱いていた。柔らかい胸で祐作の額を受け止めるみたいに、包み込む様
に優しく抱いていた。麻耶には祐作が何を悲しんで、なぜ泣いているのか分らなかった。
何ヶ月も前の失恋を思い出して泣いているとも思えなかったし、離れ離れの現状を悲しん
でいるのだとも思えなかった。

「ごめんね。私にはこんなことぐらいしかできないし、これしか思いつかないから。
でも、イヤだったらそう言って」
 祐作は何も言えなかった。それが嫌じゃなかったから。どす黒い澱のような感情に溺
れている自分にとって、それが救いに思えたから。

「おれは…、さいていだ…」
 己のあまりの幼稚さと犯した過ちの酷さに泣き、泣いている事の情けなさに更に泣く。
女の胸を借りて泣いているのも情けなかったが、抱かれていることの暖かさを心地よく
感じてしまっているのはもっと情けなかった。

「そんな事、言わないで。…好きな人からそんな事聞くのは悲しいよ」
「…ごめん…」
「まるお。私にはまるおが泣いてる理由、わかんない。知りたいけど、言わなくていい
よ。私なんかじゃ、なんの助けにもなんないだろうし…」
「そんなこと…」
 呟く様にいって祐作はそれきり黙りこくった。真っ黒な自己否定がぶり返してきて、
それを吐き出す様に嗚咽がもれた。麻耶はそんな祐作の頭を顎の下にしまい込む様にし
て抱き続けた。

***
63きすして3 Thread-B 20:2009/09/23(水) 00:24:59 ID:6IuauU7k

「stupid」可愛らしい唇から罵り言葉。
「愚かな、つまらない、バカ」低い声が答える。
「はい、正解」

「あれ、あんた達だけ?」
 リビングに入って来たのは風呂上がりの亜美だった。竜児はソファに身体を預けて
ちょっとだらし無く座っていた。大河はそんな竜児の太腿を枕にしてソファに寝転がって
いた。手にしているのは試験に良く出る英単語をまとめてあるっぽい有名な本だ。
「おぅ、そうだけど」
「何やってんの?」
「英単語クイズ」寝転がったまま大河が答えた。
「真面目だねぇ。こんな時ぐらい勉強なんて忘れりゃいいのに」
「貧乏性なんだよ」
「あ、そ。皆は?」
「麻耶は北村君のとこ。奈々子は外。星、観るって」
「そう、星ねぇ…」つまらなそうに亜美は言った。
「凄いんだよ。っても、ばかちーは何度も観てるのか」
「俺なんか普通に感動したけどな」
「え、そう……ちょっと見てこよっかな。奈々子の様子」
「おぅ、デッキにランタンあるから持ってけよ。暗いからな」
 竜児はデッキに出て行く亜美の背中を見送った。
「意地張んなくてもいいのにね」
 そう言って大河はちょっと笑った。
「だよな」
 竜児もちょっと笑った。

 亜美はランタンを手に浜へ降りていった。空を覆い尽くす星に立ちすくむ。
「すご…」
 暗闇に眼を凝らすと、砂浜に足を伸ばして座り反らした上体を腕で支えるようにして
空を眺めている人影が見えた。
「奈々子?」
「…亜美ちゃん?」
「そこに行ってもいい?」
「いいわよ」

 亜美はランタンの明かりを明るくして砂浜に降りていった。奈々子の傍に腰を下ろし、
ランタンの明かりを消して奈々子と似たような姿勢で空を見上げた。二人は空に見入った。
降ってくる様にも、吸い込まれていく様にも思える満天の星空を言葉もなく眺めた。
どのぐらいの時間そうしていたのか分らない。ほんの数分かもしれないし数十分かもし
れなかった。
64きすして3 Thread-B 21:2009/09/23(水) 00:25:50 ID:6IuauU7k

「綺麗だね」亜美が言った。
「そうね。本当に綺麗。タイガーがね、言ってたの。怖いぐらいだよって」
「星空が?」
「そう…星空が。なんか分かるわ」
「怖いの?」
「怖いわ」
「ふぅん」
「みんなすぐそこに居るのにね、なんだか独りぼっちになったような気がする」
「独りぼっちか…。本当はそうなのかもね」
「亜美ちゃんは…独りぼっちじゃないわ」
「そだね。亜美ちゃん人気者だから」
「そうじゃなくて」奈々子は少しとがった口調で言った。
「わるい、わるい」
「…高須君がいるもの」
「あれはタイガーのもち物じゃん」
「けど、亜美ちゃんの気持ちも知ってるでしょ。高須君は」
「そりゃね。言ったもの」
 おかげで失恋大明神弐号機の異名まで頂いてしまった。
「私が…いちばんダメね」
「言っちゃえば。奈々子も」
「言えないし、言わない。それが私のルールだから」
「そう」
「そうよ」
「ま、その気になったら言ってよ。付き添ってあげるから」
「ふふ、そうね。その時はお願いするわ」
 その時は来ないけどね、と奈々子は思った。
 
 亜美はランタンを点けて奈々子を見た。
「ねぇ、奈々子。あたしが一人じゃないなら奈々子だってそうだよ」
 そう言って奈々子の首に腕を引っ掛けて抱き寄せた。
「あたしは知ってる。奈々子のこと。ちょっとだけかもしれないけどね」
 奈々子は目を閉じて「そうね」と囁くようにいった。 

***
65きすして3 Thread-B 22:2009/09/23(水) 00:27:05 ID:6IuauU7k

「木原。ありがとう。もう、大丈夫だから」
 祐作は静かな声で言った。
「うん」
 麻耶はゆっくりと腕をほどいて祐作から離れた。
「いや、本当に申し訳なかった」
 麻耶は小さく首を振った。
「ぜ、ぜんぜん」
 平静を取り戻した祐作を前にすると、麻耶は自分が随分大胆なことをしたように思え
て来た。だったらいっその事ここでもう一押し、とも思うのだが明らかに凹んでいると
ころにつけ込むのもどうかとも思った。それで嫌われた元も子もないし、そもそも、
それじゃあまりに自己中じゃない? と思ったり、

「まるお、返事はさ…明日でいいから」
 また先送りかぁ…でも仕方ないよね、と麻耶は思った。ところが…
「え? あ、何の?」
 祐作の言葉は麻耶の予想の三万メートル上空を斜めに飛んでいたのだ。
 麻耶は肩を落として溜息をついた。
「まったく、どんだけ?」
 どんだけの決意でコクったと思ってるのよ! 一気に感情に火がついて爆発した。
 麻耶は祐作の肩をがっちりと掴んで彼をベッドに押し倒した。動揺する祐作を無視し
て、麻耶は顔を近づけてキスをした。言って分らないなら身体に言い聞かせてやる、そ
れぐらいの勢いで唇を押し当てた。ぼうっとするほどの熱が伝わって、胸が締め付けら
れる様に痛んだ。
 祐作は何も、本当に何もできなかった。彼女を振りほどくことはおろか、声を出す事
も、息をすることも瞬きする事もできなかった。完璧にフリーズしていた。
 何秒たったのか、麻耶は唇をはなして息を吐いた。麻耶がゆっくりと身体を起こすと
彼女の長い髪が祐作の頬を撫でた。

「き、き、木原? き、きすした?」
「したよ! これぐらいしないとまるおには分んないんでしょ」
 そう言われて祐作は麻耶に告白されていたことを思い出した。
「ご、ごめん」
「ほんとに、まるおは私の事、全然見てくれない…だね…」
 麻耶の目から溢れた涙が祐作の頬を濡らした。
「…気にも留めてくれない。ほんとにひどいよ」
 そう言って、麻耶はゆっくりと立ち上がった。
「もういい、わかったから。もういい」
 俯いたまま、麻耶は祐作に背中を見せて、「おやすみ」と呟くように言ってから、
祐作の部屋を出て行った。麻耶が歩いた軌跡を示す様に床には点々と水滴が落ちていた。

***
66きすして3 Thread-B 23:2009/09/23(水) 00:28:51 ID:6IuauU7k

 奈々子は勝手の分からないキッチンにちょっとばかり苦戦していた。朝食の支度は
任せて、そう竜児に言ったものの自分の家とは勝手が違って思っていたほど捗らない。
いつもなら考えないでも出来る事、調味料を取るとかお玉やらフライ返しを手に取るとか、
そんな些細なことに気を取られてしまってリズムが狂う。

「高須君の言ってた通りだわ。慣れない台所ってイライラするのね」
 奈々子は誰に言うでもなく呟いた。
「高須君に来てもらったら。もう起きてると思うし」
 奈々子の様子をダイニングから眺めていた麻耶が言った。
「大丈夫よ。あとは卵焼きだけだから」
「そう。じゃあ、そろそろ皆を呼んでくるね」
 あまり刺激しない方が良さそう、と思った麻耶が立ち上がった瞬間にリビングのドア
が開いた。

「おぅ。おはよう」
 リビングに入って来たのは竜児だった。
「おはよ。タイガーは?」
 麻耶は冷やかす様な調子で言った。
「すぐ来るだろ」
 実は空腹ですでにご立腹なのだ。
「香椎、手伝おうか? いや、手伝わせてください。いや、手伝わせろ」
「え、え、え?」
 竜児は持って来たエプロンをさっと身につけて奈々子の隣に立った。
「大体、終わってるんだな」
「ええ。あとは卵焼きだけ」
「じゃあ、それは任せてもらおう」
「え? そんな、いいわよ。私がやるから」 
「いいから。ちょっと作りたいものがあるんだよ」
 そう言って竜児は冷蔵庫から小振りなトマトを二つ出した。それをフォークで突き刺
してガスレンジであぶって、冷水を入れたボウルに投入。トマトの皮がぺろっとむける。
「へえ、そんな方法もあるのね」
「まあ、普通は湯剥きするんだけどな。どうせ炒めるから気にしない」
 トマトをザクザクと切ってスプーンでさっと種をとる。フライパンに油を馴染ませて
トマト投入。
「えっ?」という奈々子の声は無視。トマトを軽く炒めてからボウルに移し、フライパ
ンをキッチンペーパーで軽くふいて再び油を馴染ませてから溶いて塩をした卵を導入。
そこにさらにトマトを投入してかき混ぜる。卵がとろっとしてきたところで火を止める。
あとは余熱で丁度いい感じに。
「おし、出来た」
 言いながら竜児は出来上がった料理を皿にうつした。
「早っ!」としか麻耶には言いようが無い。
「はぁ…嫌になるわ」と奈々子。
「さてと、じゃあ大河を呼んでくるわ」
「あ、いいよ。私が行くからさ」
 麻耶がそう言った直後にリビングのドアが開いた。
67きすして3 Thread-B 24:2009/09/23(水) 00:29:31 ID:6IuauU7k

「あ…」とほぼ同時に祐作と麻耶は小さく声を上げた。
 麻耶は祐作から目をそらして、すぐに視線を祐作に戻した。
「おはよう、北村君」明るい声で言った。
「ぉ、おはよう」
 祐作は気が抜けたような挨拶しか出来なかった。
「じゃあ、みんなを呼んでくるね」
 麻耶は祐作の脇をすっと通り抜けてリビングを出て行った。
 
 その様子を見ていた竜児と奈々子は同時にちいさく溜息をついて顔を見合わせた。

「えーと、高須君。これで準備完了よね?」
「お、おぅ。そうだな」
 竜児と奈々子は出来上がった料理をダイニングテーブルに並べていった。
「ねぇ、高須君。これは初めて見る料理なんだけど…」
 テーブルに置かれた皿を奈々子はまじまじと眺めていた。
「ふむ、俺もだ」
 祐作も皿を覗き込む。
「そうか? 美味いんだよ。ミスマッチっぽいんだが実は絶妙ってやつだ」
 
 ぱたぱたという足音が聞こえてきた。リビングに姿を現したのは大河だった。
「おはよ。ご飯できた?」
 続いて亜美。
「ちーす」
 亜美に続いて麻耶が戻って来た。
「そろったね。じゃあ、いただきましょう」
 奈々子はちょっと空回りしそうなぐらいに明るい口調でそう言った。 

***
68名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 00:30:23 ID:rGRuSg0j
C
69きすして3 Thread-B 25:2009/09/23(水) 00:30:51 ID:6IuauU7k

 朝食を済ませた竜児は自分の部屋で軽く勉強していた。参考書を眺めつつレポート用
紙にメモを取っていく。遊びに来ているとはいえ何もしないと却って落ち着かないので
一時間ちょっとだけ勉強するつもりだったのだ。ベッドの上にはちょこんと大河が座って
いて、竜児につきあって参考書をめくっていた。部屋の窓とドアは開け放たれていて心
地よい海風が部屋を通り抜けていく。

 開けっ放しのドアを叩く音がして竜児と大河はほとんど同時に入り口の方を見た。
「あ、北村君…」
「おぅ。どうした?」 
 入り口には冴えない顔をした祐作が立っていた。
「高須。ちょっと話せないか」
「ん、かまわねぇけど…」
 祐作はちらっと大河の方を見て右手で小さく拝むような仕草をした。 
「竜児、これ借りてくわね」大河は参考書を片手にベッドから降りた。
「おぅ」
「悪いな、逢坂」
 大河は「気にしないで」と言って、パタパタと足音をさせて部屋を出て行った。
 竜児は立ち上がって椅子を空けてベッドに腰を下ろした。祐作はドアを閉めると竜児
が座っていた椅子に腰掛けた。

「で、話ってのは?」
 竜児は少し砕けた感じで言った。祐作は少し考えて、それから開けっ放しの窓の方を
眺めて話した。
「昨日、木原に告白された」
「そうか…」竜児は当たり前の事の様に応えた。
「驚かないんだな」
「まあな。想定の範囲内ってやつだ。で、どうした?」
「いや、それがな…動転してしまって答えられなかったんだ」
「お前なぁ。そりゃないだろ」
 竜児はちょっと呆れた口調で言った。今朝の二人のなんとも気まずい雰囲気の原因は
それなのだろう。竜児はそう思った。
「すまん」
「俺に謝ってもしょうがねぇだろ」
「そうだな。いや、実はな、とんでもない勘違いをしてたんだ」
「勘違い?」
「ああ。俺はてっきり木原は高須が好きなもんだとばっかり…」
「はぁ?」
「そんな顔するなよ」
 竜児はそんな顔をしていたのだ。何をどう勘違いすればそうなるのかさっぱり分らな
かった。
「どんな勘違いだよ。木原はずっとお前を追いかけてたじゃねぇか」
「ああ。言われてみればそうなんだが、木原の話しに高須が良くでてくる物だから…」
「そりゃ、お前…話しのネタだろ」
 竜児は膝に頬杖をついて祐作を見て、そして溜息をついた。
「それに、俺はド派手に失恋してるから女子からはさぞ引かれていることだろうと…」
 竜児は唸った。確かに、それは否定出来なかった。
「とにかく、俺は木原を泣かせてしまった」
 祐作は顔を上げ、二人は顔を見合わせた。
「それで?」
「いや、どうしたものかなと」
「どうするもこうするも…。とりあえず勘違いしてたことを正直に話すしかないだろ。
それで木原の気持ちにどうこたえるかはお前次第じゃねぇのか」
70きすして3 Thread-B 26:2009/09/23(水) 00:32:00 ID:6IuauU7k
「そうだよな」
「それ以外ねぇよ」
 ちょっと呆れた感じで竜児は言った。
「でよ。どうすんだよ?」
「ん? ああ」
「付き合うつもりが無いんだったら、はっきりそう言った方がいいんじゃねぇか?」
「そうだな…」
 祐作の表情はまるで冴えなかった。どう見たって気持ちが決まっているようには見え
なかった。だからといって、竜児にはどうすることも出来なかった。ただ、木原の気持
ちを考えれば、彼女の不器用な必死さを思うと、このまま放っておく事も竜児にはやっ
ぱり出来ない事だった。

「狩野先輩の事が好きなら、そう言ってやりゃあいいんだ。悩む様な事じゃねぇ」
「ああ、そうだな…」
 まったくピリッとしなかった。北村らしくない、と言えばそうなのだが、でも、生徒
会長選挙の直前にもこんな風に煮え切らない、自分で結論を出す事を避ける様な態度を
見せていたのを竜児は思い出した。

「北村…。お前、木原のこと好き…だったりして…」

「それが…わからないんだ。いや、わからなくなった」
「はぁ?」
「正直言って、混乱してる」

「じゃあ狩野先輩はどうなんだよ?」
「俺は…諦めたんだ。あの人の力になれないし、傍にだって行けやしない」
「いいのかよ? なんか、北村にしちゃあ前向きじゃねぇな」
「冷静に考えてみたんだよ。やっと、それが出来る様になった」
 祐作は竜児の目を見ながら言った。 
「それで分ったんだ。俺が向こうに行ったって、先輩を支えることは出来ないし、邪魔
になるだけだ。俺もそんな状況には堪えられない。それに、俺はあの人が俺を支えてく
れることを望んだけど、彼女はそれを望まないし選ばない」
「そういうことなら、しょうがねぇな」
 竜児にはそれしか言いようが無かった。
「ああ。先輩のことは今でも好きだけど、それは彼女のファンとして憧れているっての
が本当のところだよ」
「ファン…か」
 竜児はなんとなく残念なような気がしたけれど、祐作が出した結論には納得出来た。
たとえ相思相愛でも、生き方が重ならないことなどいくらでもあるのだろう。その時、
どちらを選ぶのかは人それぞれだ。自分の場合『大河と生きる事』が最初にあり、狩野
すみれや北村祐作にとっては『実現したい自分』が最初にある。そういう事なのだろう。

「ただな…、先輩を諦めることに罪悪感があるんだ」
 祐作は目を伏せて言った。
「なんだ、そりゃ? そんなの、お前の自由だろうよ」
「ああ。でも、逢坂と高須のおかげで先輩の本心を知る事が出来たのに…」
「お前はバカか?」
 竜児は不機嫌そうな表情を見せて僅かに語気を強めて言った。
「え?」
71きすして3 Thread-B 27:2009/09/23(水) 00:32:59 ID:6IuauU7k
「大河がそんなこと気にするかよ。俺もそんなこと気にしねぇ」
「いや、だけど…」
「お前、俺らのせいで先輩のこと諦められねぇとでも言うつもりか?」
「そんなつもりは…」
「つもりがねぇなら、そんなつまんねぇこと、気にすんな」
 竜児は話しながら口調を和らげていった。
 祐作は顔を上げ、
「そうだな。すまない」と言い、また俯いた。
 
 祐作は俯いたまま何かを考えている様子だった。竜児は黙ってそれに付き合っていた。
 一分程の静寂のあと、祐作は顔を上げて竜児を見た。

「…決めたよ。先輩のことはきっちり諦める。留学もナシだ」
 祐作の表情には迷いは無かった。いつもの北村らしい表情だった。
「…お前の好きにしろよ」
 そう言って竜児は微笑んだ。

「で、木原はどうするんだよ?」
「あ…、どうすればいい?」
 一転して祐作は如何にも困ってます、という表情を浮かべて竜児に聞き返した。
「どうすりゃいいって、俺に聞くなよ」
 呆れ顔で竜児は答えた。
「そうだよな…」と言って祐作は溜息をついた。

「木原の事を知りたいんだったら、そのための時間をもらうしかねぇだろうな」
「…そう、だな。頼んでみるよ」 

「高須、聞いてくれて助かったよ」
「ま、俺は聞いてただけだけどな」

***
72きすして3 Thread-B 28:2009/09/23(水) 00:34:29 ID:6IuauU7k

 じりじりと照りつける真夏の太陽の下で、竜児は三メートルほどの長さの竹竿二本を
担いで亜美の後ろを歩いていた。

「で、なんでビーチバレーなんだ?」
「こないださ、夜中にトップガンをやってたのよ」
「トップガン? ああ、映画か」
「イケメンさんたちが無駄にビーチバレーをやってたなーと思ってさ」
「ふーん。それで、これね」
 この竿とビニールひもをネット代わりにしてバレーボールねぇ。
「そう言う事。北村祐作 vs 高須竜児、ラウンド2って感じでさ…」
「二人じゃバレーにならんだろ」
「だからさ、混合ダブルス。つーか、高須夫妻 vs 北村・木原組ってこと」
「大河はともかく、木原がやるかねえ?」
「ま、それは祐作がなんとかすんじゃね。きっかけが欲しいって泣きついて来たのは
あのバカなんだし。ああ、このへんでいいんじゃない?」
 竜児は竹竿を肩からおろし、一本を手に取って砂浜に突き立てた。

 と、いうわけで…
 急造のビーチバレーコートに全員集合となった。

「祐作、誰と組む? ちなみにタイガーはデフォで高須君と組むことになってるから」
「ううむ」
 祐作は腕を組み俯いて思案している。
「じゃあ、立候補する人」
 亜美は麻耶の顔を見ながら言った。でも麻耶は手を挙げなかった。
「しょうがないね。じゃあ推薦」
 今度は奈々子の顔を見ながら言った。
「木原さんがいーとおもいます」
 奈々子がさっと手を挙げて棒読み口調で言った。
「な、奈々子!?」
「はい、それでは多数決をとります。賛成の人は挙手」亜美も棒読み。
 さっ、と亜美と奈々子が手を挙げる。
「賛成二、反対一で木原さんが選ばれました。おめでとーございます」
 パチパチと亜美と奈々子はテキトーに拍手。
「もうっ、なによ! 私、ぜーったい、やんないか…ひあっぁぁ!」
 背後から祐作にいきなり肩を掴まれて、麻耶は素っ頓狂な声を上げた。
「木原、すまないけど。俺と組んでくれないか」
 麻耶の後ろに立っていた祐作は麻耶の肩を掴んだまま言った。
「え?」
「たのむ! 今日は勝ちたいんだッ!」
 祐作の目は無駄に燃えていた。
「へ?」
「この通りだ! 頼む!」
 そう言って祐作は熱々に焼けた砂浜に土下座をかました。
「わわ、やめてよ! まるお。顔が焦げる」
「なんのぉ、これしき」ずりずりと額を砂に押し付ける。
「ひえーっ」
「ふろしき〜、ぴろしき〜」
 暑さと熱さで北村祐作が壊れていく。
73きすして3 Thread-B 29:2009/09/23(水) 00:35:47 ID:6IuauU7k
「もうっ、わかったよ。やるよ、やります。やらせてください!」
 それを聞いて祐作はばっと顔を上げた。
「おおっ。嬉しいぞ」
「もー。なんだかなー」麻耶はすっかり呆れ顔。
 祐作は竜児の方を向いてすっくと立ち上がった。
「ふはははは。高須! このときを待ちわびたぞ」
 どん引きの竜児をスルーして、祐作は麻耶の正面に立ち両手で麻耶の左右の肩をがっ
ちりと掴んだ。  
「いいか、木原。俺達は小さな火だが…二人合わせて炎となる。そして、炎となった俺
達はムテキだッ!」
「へ?」
「ちがう! ここで言う台詞は『コーチッ!』だ」
「こ、こーち!?」
 完全に全員おいてけぼり。
 亜美と奈々子は気の毒そうに麻耶を眺めていた。

「ねぇ、竜児」
「なんだ?」
「やるの? これ」
「しゃーないだろ。北村がやる気満々なんだから」
「ま、しかたないわね」
 大河はコキコキと首を動かしてから軽く屈伸。
 竜児はTシャツを脱いで大河に差し出した。
「大河。これ着とけ。その水着じゃ遺憾なことになりかねねぇ」
 大河は胸を包む水着に触れた。
「…確かにそうね」
 そう言って竜児からTシャツを受け取った。
「匂うなよ」
「まあ、これぐらいなら我慢出来なくもないわ」

 ともあれ…
 試合開始である。

「よしっ! 木原、たのむぞ」
「いっくわよ!」
 バスッという気合の入らない音を残してビーチボールは放物線を描いて飛んでいく。
竜児は数歩走って落下点につくと大河に向かってレシーブ。すぐさま身体を沈めて
ダッシュの体勢に入る。軽く膝を落とした大河は伸び上がりながら綺麗なフォームで
トスを決める。浮き上がったボールにタイミングを合わせてジャンプした竜児が強く
腕を振る。打ち出されたボールがブロックに入った祐作の手に当たり浮き上がる。浮き
上がったボールはゆっくりと北村・木原組のコートに落下。麻耶は必死に走ったが落下
点に届かなかった。
「よっしゃ!」
 竜児と大河はハイタッチ。
「ごめん、まるお」
「いや。俺のミスだ。よし、次は止めるぞ」
「うん!」いつの間にか麻耶も真剣だった。
74きすして3 Thread-B 30:2009/09/23(水) 00:36:39 ID:6IuauU7k

 審判兼ギャラリーの亜美と奈々子は予想外の盛り上がりを見せるバレー対決をコート
の脇で眺めていた。
「以外と…見られるもんだね」
「そうね。結構おもしろいわ」
「でもさ、さすがに厳しいね。北村ペアは」
「タイガーと麻耶のフィジカルの差がそのまま出てる感じよね」

 サーブ権は高須ペアに移りサーバーは大河。全身をバネのように使って鋭いサーブ。
なのだがボールがボールなものだから途中で失速してふわっと麻耶の手元に落ちていく。
麻耶は丁寧にレシーブして祐作に繋いだ。
「もらったぞ!」祐作がジャンプしてアタック。
「なんの!」竜児もジャンプしてブロック。
 竜児はボールを手に当てることは出来たがブロックは失敗。勢いの落ちたボールが竜
児たちのコートにゆっくり落ちてくる。
「ぬぅおおぁ」
 砂を蹴って大河が落下点に駆け込み右手一本でレシーブ。
「竜児!」
 絶対に拾えないと思っていた祐作と麻耶の動きは完全に止まっていた。竜児はがら空
きのコートの角をねらって軽くボールを打ち込んだ。
「よし!」
 そしてハイタッチ。祐作が竜児にボールをパス。竜児は大河にボールをパス。
「大河。一発かましたれ」
「まぁかせなさいっ!」
「せーのっ、どりゃあ」ボールは放物線を描いて北村組のコートに飛んでいく。 


 勝負は決しようとしていた。
 やはり麻耶と大河の運動能力の差は大きく、スコアは十八対十一。祐作のおかしな
テンションに当てられたというか、とにかく四人は真剣だった。麻耶も大河も竜児も
大マジで勝負に熱中していた。

「なかなか見応えがあったけど。タイガー相手じゃ無理か」
「確かにタイガーの動きは凄いけど、やっぱり息が合ってるのよね。あの二人」
「まあ、善戦したんじゃね」
「そうね。麻耶、必死だもの。あんなに走って大丈夫なのかしら?」

 奈々子が心配するのも無理はなかった。麻耶はすっかり汗だくで、顎の先から汗が
滴り、Tシャツは肌にぺったりと貼り付いていた。

「いくぜ」「やっちゃいなさい!」「おぅ」
「木原! まだ負けたわけじゃない」「わかってる!」
 ボールを持った竜児がサーブを打った。
 麻耶がボールを追いかけようと砂を蹴った。その瞬間…

「いたっ!」大きな声を上げて麻耶が転んだ。

「どうした? 木原」祐作はのたうつ麻耶の元に駆け寄った。
「いてて、ごめん。足、つっちゃった」
 祐作が見ると麻耶の左の脹脛がひくひくと痙攣していた。
「木原! 具合は大丈夫か? 頭痛とか、吐き気とか、大丈夫か?」
「え? そういうのは…無いけど」
 苦しげに麻耶は言った。
75名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 00:37:32 ID:rGRuSg0j
C
76きすして3 Thread-B 31:2009/09/23(水) 00:37:56 ID:6IuauU7k

「亜美! 中止だ。高須、手を貸してくれ」
「なんだなんだ」竜児は祐作の近くに走った。

「木原を別荘に運ぶ。手伝ってくれ」
「どしたんだ?」
「多分、軽い熱中症だ」祐作は小声でいった。
「そいつは不味いな」竜児も小声で答えた。

「木原。掴まって、立てるか?」麻耶は祐作が差し出した手に掴まって立ち上がった。
「ごめん、歩くのはムリ」
「肩を貸すから。高須も頼む」
「おぅ。でもよ、北村。お前が背負っていった方が速くねぇか?」
 ちょっと離れたところで亜美と奈々子が竜児にサムズアップを送っていた。
「え? でも。木原が…」
「あ、あの。歩けないからさ。悪いんだけど…おんぶしてよ」
「決まりだな。北村。とりあえず、エアコンで室温下げておくから。あとソファーにバ
スタオル敷いとけばいいか? 他に必要なもんは?」
「そうだな、タオルを冷やしといてくれると助かる」
「おぅ。お易い御用だ。じゃ、後は頼む」竜児はさっと手を上げて別荘に走っていった。
 祐作は麻耶の前で屈んだ。麻耶はその背中に身体を預けて肩につかまった。祐作の背
中に二つの胸のふくらみが押し付けられて北村のパトスは迸りかけたのだが今はちょっと
した非常事態。それに身を任せる様な北村祐作では無いのだ。祐作は麻耶の太腿を抱え
て立ち上がると重さを感じていないみたいに自然に歩き始めた。

***
77きすして3 Thread-B 32:2009/09/23(水) 00:39:18 ID:6IuauU7k

 祐作に背負われて別荘のリビングに戻った麻耶はバスタオルを敷き詰めたソファーに
座らされ、祐作にとにかく飲めと言われてスポーツドリンクを飲んだ。その後、汗に濡
れたTシャツを脱いで奈々子が麻耶の部屋から持って来たTシャツに着替えた。

「北村、これで良いか?」
 竜児は冷水で冷やしたタオルを持っていた。
「オッケー。これでいい。木原、横になれ」
「え? うん」
 麻耶はゆっくりと横になった。祐作は麻耶の額にタオルを乗せた。
「冷たっ。何? これ。別に熱なんてないよ」
「いや、自覚がないだけなんだ。軽い熱中症でもああいうふうになるんだ」
「そうなの?」麻耶は半信半疑で聞いた。
「ああ、熱痙攣だな。ミネラル欠乏だよ」
「流石に詳しいな」竜児が言った。
「ああ、これでも元ソフトボール部だからな」
「なるほどね」心配そうに見ていた亜美が言った。
「頭痛とか吐き気は?」
「それは大丈夫、ちょっと怠いだけ」
「それなら涼しくして休めば大丈夫だ」
「よかった」という奈々子の言葉はそこにいた全員の気持ちを表していた。

「てことでさ、私は大丈夫だからさ、みんなは遊んで来てよ」
 麻耶は横になったままで言った。
「そんじゃ、ここは専門家にお任せってことで」
 腕組みした亜美は奈々子と顔を見合わせてニヤッと笑った。
「そうね。その方が麻耶も落ち着くでしょ」
「あだだだ。こら、大河、引っ張るなよ」
「行くわよ、竜児」
 大河は竜児の耳を引っ張って窓際に連れて行く。
「てことで、北村。後は頼む」
「え? ああ」

 四人が砂浜に行きリビングには麻耶と祐作だけが残された。冷気を吐き出すエアコン
の静かな動作音だけが聞こえていた。

「置いていかれちゃったね…ゴメンね、迷惑かけて」
「迷惑だなんて」
「もう平気だからさ。まるおも行ってよ」
「いや、ここにいるよ。ダメかな」
「ううん。いて…欲しいな」
 祐作は麻耶が横になっているソファーと向かい合わせに置かれた一人掛けのソファー
に座った。
78きすして3 Thread-B 33:2009/09/23(水) 00:40:57 ID:6IuauU7k
「木原。昨夜は…ごめん」
 さすがに告白スルーは不味かった…と思った。
「え? うん。私も、その、やりすぎたって言うか…とにかく、ごめんなさい」
 さすがにいきなり押し倒してキスしたのは不味かった…と思った。

「迷惑だったよね。あんなこと」
 麻耶は少し身体を傾けて祐作の方を見た。
「迷惑だなんて…ただ…、ごめん、俺はずっと誤解してたんだ」
「誤解?」
「俺はてっきり木原は高須のことが気になってるもんだとばっかり…ごめん」
「は?」
 あまりに予想外な言葉に麻耶の口は中途半端に開きっぱなし。瞬きも忘れていた。
「本当にすまん。昨日までずっとそう思ってた」
「はは、そう、なんだ…」麻耶は力なく笑った。
「去年の暮れ辺りから高須とよく話してただろ。まあ、それで勘違いしたと言うか…」
「あー、あれか」確かにそんなことがあった。
「変な話だけど、もし俺が女だったら絶対高須に惚れてると思う。あいつはそれぐらい
良い奴なんだ。だから木原も高須に好意を持ってるんだろうって」
「そりゃ高須君はいい人だけど…そんな風に思われてたなんて…」
「もう、完璧にそう思い込んでた」
「じゃあ、避けられてるわけじゃないんだ」
「避けるなんて…。いや、避けてたのかな」
「そう…」声が沈んだ。
「あ、違うんだ。なんと言うか…。見ない様にしてたんだ。くやしいから」
「え?」
「自分の友達がモテたら嫉妬ぐらいするだろ」
「嫉妬? まるおが高須君に?」
「ああ。みっともないけど」
「みっとも無いなんて…。意外…だけど、普通だよ。私もみんなに嫉妬してるから」
「木原…」
「亜美ちゃんにも、タイガーにも、奈々子にだって。まるおがみっともないなら私なんて
みっともなさの塊だよ」
「そんなこと…無いよ」
「じゃあ、まるおだってみっとも無くないんだよ」麻耶は微笑んだ。

 いつの間にか、見つめ合っていた。それに気付いて、二人は視線をそらした。
「初めてだよね。こんなにちゃんと話したの」
「確かにそうだな」
 不思議だった。こんなにも素直に普通に話せるのは何故だろう。自分のみっともなさを
彼女にさらけ出せてしまうのは何故だろう。それが分らないのに彼女との関係を決める
のは無理だった。
79きすして3 Thread-B 34:2009/09/23(水) 00:42:13 ID:6IuauU7k

「その、昨日の答えだけど」
「うん…」
「卑怯だけど…保留ってことでどうかな?」
「え?」
「俺は木原の事、良くわからないし、もう少し時間をくれないか」
「ずるいんだ。優柔不断…」
「そうだな」
 卑怯だな、と思う。
 でも、もっと彼女を知るべきだと思う。それから結論を出すべきだと思う。
 けれど、もう答えは出てしまっているのかもしれない。
 こうしている今が心地良いのは事実なのだ。

「…いいよ。待ってあげる。その代わり夏休みの間に一度でいいからデートして」
「え?」
「ダメ…かな」
「…ああ、いいよ。約束する」
「ありがと…まるお」
 麻耶は目尻にうっすらと涙を浮かべて微笑んだ。

***
80きすして3 Thread-B 35:2009/09/23(水) 00:43:39 ID:6IuauU7k

 夕食はカレーだった。手間をかけて作ったオニオンペーストと竜児が持参したスパイ
スを使ったカレーは普通の『おうちカレー』とは次元の違う出来だった。ベースは市販
のルーだが味の厚みと深さが段違いなのだ。

「ヤバい、美味すぎ。あんた天才だわ」と亜美が言えば。
「美味い。実に美味いぞ。ふんどし一丁で海の上を走ってしまいそうだ」と祐作もその
味を絶賛?
「マジ信じらんない。激ウマだよ」麻耶はちょっとした感動を味わい、しかしその一方で
奈々子は「はぁ〜っ。こんなのって信じられないわ」と落ち込んでいた。

 そんな中、「まあ、美味しいけど…。いつものカレーの方いい」と大河だけはカレー
以上に辛口だった。『それは、まあ、そうなんだけどよ』と竜児も思うのだが、
「まあ、そう言うなよ。アレは手間もかかるし、六人分となるとちょっとシンドイ」
 そう言われて大河は『いつものカレー』が結構な重労働だったことを思い出した。
 竜児の『いつものカレー』は小麦粉とスパイスを炒って油で練って、つまりルーまで
手作りなのだ。だから三人前でも結構大変なのだ。
「しょうがないわね…」
 言いながら大河はちょっと申し訳なさそうに竜児を見た。
 
「あんた、これに文句つけるなんて、どんだけ我侭?」
 呆れ顔で亜美が言った。大河の頬がぴくっと動いた。
「あたしは正直に感想を言っただけよ。厳しい批評が作家を育てるのよ」
「なーるほど。そういうこと」
「どういうことよ?」
「評論家ってのは自分じゃ出来ないくせに偉そうにケチつけるんだよねー」
「別に偉そうになんてしてないじゃない」
「してるわよ。ねぇ、高須くぅん、どう思う?」
「そんぐらいにしとけ」あっさりと竜児は言った。
「ちぇ…。つまんなぁい」と亜美が言えば。
「ふーんだ」と大河はそっぽを向く。
「もう、亜美ちゃんも、タイガーも、子供じゃないんだから」
 呆れ気味に麻耶が言った。
「ほっとけ。こういうコミュニケーションなんだから」
 竜児はさらっと言った。慣れたものだった。
「いや、高須。そうはいかんぞ。やはり二人には仲良くしてもらわないと…」
 そう言って、祐作は顔を伏せた。
「仲良くしてもらわないと…」
「してもらわないと?」麻耶は不思議そうに祐作の顔を覗き込む。
「悲しくて脱がずにはいられない!」祐作は言いながらTシャツを脱ぎ始めた。
「うわ、このド変態!」
「北村! 頼むから食ってからにしてくれ」
「ま、まるお〜」

 バカ丸出しの賑やかで楽しい夕食だった。幸いにして丸出しになったのはバカだけで、
北村のあんなところやこんなところが丸出しになるようなことは無かった。

 そんな夕食を終えて皆が一息ついた頃、窓の外の暗闇を眺めて大河は言った。
「竜児。星、観に行こうよ」

***
81名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 00:44:52 ID:rGRuSg0j
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82きすして3 Thread-B 36:2009/09/23(水) 00:45:01 ID:6IuauU7k

 砂浜に敷いたレジャーシートに寝転んで竜児と大河は空を眺めていた。 
「真上に見えてるのがこと座αベガ、で下の明るい星がわし座αのアルタイル」
「ベガが織姫でアルタイルが彦星だよね。その左側の明るいのが白鳥座のデネブだよね」
「おぅ。そうだ」
「でも、ホントによく見えるね」
「七夕ってのは本当は今の時期なんだよな」
「そっか。仙台の七夕まつりって八月なんだよね」
「ああ。北海道も七夕は八月七日ってところが多いらしい」
「へぇ、そうなんだ」

「ねぇ、織姫と彦星って遊び呆けて働かなくなったせいで逢えなくなっちゃうんだよね」
「ああ、そんな話しだったな…」
 その後、ちょっと間があって、
「溺れるなってことかしらね」
「ん? まあ、程々にしとけって事だろ」
 二人は少しだけ顔を傾けてお互いの顔を視界に入れた。

「何を程々にするのかしら?」
「いやいや、何に溺れるのかを是非とも語っていただきたいねぇ」
 奈々子と亜美が二人を見下ろす様に立っていた。

「お前ら、盗み聞きか? 趣味悪いぞ」
「祐作のガイド、つまんないんだもん。小惑星探査機がどうしたとか国際宇宙ステー
ションがどうのとか、そんなのばっかでさ、ちーとも面白くねぇっての。ほら、つめて
つめて」
 亜美は大河のとなりに腰を下ろして大河の身体を竜児の方に押し付けた。
「うわっ。なにすんのよ、ばかちー」
「狭いんだから。ほら、奈々子も突っ立ってないで」
「ふふ、おじゃまするわね」
 奈々子は竜児のとなりに腰を下ろした。竜児はもぞもぞと身体を大河に寄せる。腕は
重なり合ってほとんど密着しているような状態だ。
「ありがとう。高須君」奈々子は竜児の隣に横になり空を見た。
 竜児の肩に奈々子の肩が触れた。
「うぉ」
「なによ?」と大河。
「あ、いや。なんでもねぇ」
「さてと、じゃあ高須君。解説よろしく」
「ったく。しょうがねぇな…」
 竜児はどこから話すかちょっと考えて、やっぱり夏の大三角から始めるのが良いだろ
うと思った。天頂に煌々とベガが輝いているのだから、やっぱりそれが自然だろう。

「夏の大三角ぐらいはわかるよな」
「名前はね…で、どれよ?」
「うわ、ありえない。さすがばかちー」呆れた口調で大河が言った。
「ふーんだ」
「真上に明るい星があるだろ。あれがこと座のベガ、で、その左と下に明るい星がある
だろ」
「ああ、あれと、あれね」
「下の明るいのがアルタイル。で、ベガの左の明るいのがデネブな。この三つの星をつ
なげた三角形が夏の大三角。見つけやすいから良い目印になるだろ」
「なるほどねぇ」
83きすして3 Thread-B 37:2009/09/23(水) 00:46:28 ID:6IuauU7k

 デネブから南の水平線に向かって流れる天の川。
 ベガを囲むヘルクレス、鷲、白鳥、竜。
 竜の傍らに小熊。その尻尾に輝くのがポラリス。星空の中心点。  

 竜児は夜空を気ままに散歩でもするように話す。こっそりと大河の手を握り、抱き合
う様に指を絡めながら。


 竜児達からちょっと離れたところにシートを敷いて祐作と麻耶は空を見上げていた。
 亜美と奈々子に逃げられた祐作は憤慨していたのだが、それはもうどうでも良くなって
いた。

「すごいな…本当に」
 もう、何度そう言ったか分らなかった。それぐらい祐作はシンプルに感動していた。
「まるお、そればっかり」
「いや、だって本当に凄いだろ」
 まるで子供みたい、と麻耶は思った。思って、つい吹き出した。
「なに?」
「ううん、なんでもないよ。ちょっと思い出しただけ」

 ママ曰く。『パパはほんと子供みたいで困るわ』
 それはつまりママも子供みたいな男が好きだってことで…

「なんとなく見下されているような気がするぞ」
「そんなことないよ」
 …自分もそういう男の子が好きなのだ。 
 ふと麻耶は思った。もう一度、ちゃんと言っておこう、と。

「ねえ、まるお」
「なに?」
「もう一回、言っておくね」
「え?」
「私はまるおが好き。ちゃんと憶えておいて」
「…ああ。忘れない」
「ありがと。それと約束も忘れないでよ」
「デートだろ。忘れないよ。夏休み中に木原とデートする」
「よろしい」

 なんだか、すっかり木原のペースだな、と祐作は思った。もっとも、それが気に入ら
ないなんてことは全く無かった。ずっと狩野すみれのペースに付き合っていたのだ。
驚かされることにも振り回される事にもとっくに慣れている。

 それよりも、ぶっちゃけ、木原とデートって何をどうすれば良いのだろう。兄には
ちょっと聞けない。どうせ冷やかされて弄られるのが関の山だ。
『う〜む、やっぱり、高須に聞こう』なんて事を祐作は考えていた。

***
84きすして3 Thread-B 38:2009/09/23(水) 00:48:09 ID:6IuauU7k

 バイトから帰って来た狩野すみれは自室でベッドに寝転がりぼうっとしていた。
 枕元には日本から届いたエアメールの封筒。送り主は北村祐作。収められていた便箋
に自筆で書かれていたのは今の祐作の真摯な気持ちだった。内容は過去の自らの過ちに
ついての謝罪とすみれへの恋心の収束宣言だった。それはどちらかと言えばすみれに宛
てたものと言うよりは、祐作が自分のケジメのためにすみれに送った物なのだろう。
すみれはそう思った。

 手紙を読み終えたすみれはほんの僅かな寂しさを感じていた。それは彼が寄せてくれ
ていたガキっぽい恋心が離れていったせいなのだろう。それはちょっと甘くて、すみれ
にしたって満更でもなかったのだ。でも、彼より夢を選んだ自分にそれをどうこう言う
権利が無いのも分りきった事だった。

 それに、自分にとっても北村にとっても、これでいい、そう思えた。

 北村祐作はいつまでも誰かの後ろを歩いていてはいけないのだ。彼には彼の夢がある
のだから。それを支えることが楽しくてたまらないっていう女だってこの世に一人ぐら
いはいるだろう。そして、狩野すみれにはそれが楽しいとは思えない。自分にそういう
才能が無い事は良くわかっている。そして、多分、北村祐作にもそういう才能は無いの
だと思う。

 そうは言っても、ちょいとばかり寂しいのも事実だ。それは認めよう。
 つまり、これは失恋だ。今更だが微かに胸が痛むのはそういう事なのだろう。

 すみれはベッドから起き上がると机の引き出しを開けて一枚のはがきを取り出し、
それをじっと眺めた。フッと口元で笑い、「確かにそうだな」と一人呟く。それは
ちょっとしたマジックアイテムみたいなもので、すみれは落ち込んだ時や寂しい時に
それを見る。そうするとなんとなく元気が出てくるのだ。

「どうしたの? ステラ」
 ルームメイトが聞いた。ステラはすみれの愛称だ。米国人的にすみれという名前は
かなり呼びにくいらしく、彼女がいくつか上げた候補のなかからすみれが選んだのが
ステラだった。

「変わり者の友達を思い出してた」
「へえ。ねぇ、そのポストカード、なんて書いてあるの? 日本語?」
「そう。日本語。書いてあるのはね…」
 すみれは言葉を選んだ。バカにもいくつかあるのだ。
「Stupid」
「それだけ?」
「そう。それだけ」
「そりゃ変わりもんだね」
 ルームメイトはケタケタと笑い、つられてすみれもクスクスと笑った。

(きすして3 Thread-B おわり)

***
85356FLGR:2009/09/23(水) 00:51:26 ID:6IuauU7k

以上で「きすして3 Thread-B」の投下を終了します。
Thread-Aは明日の投下となります。

支援、ありがとうございました

86名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 01:16:12 ID:0ubWfufj
なんというか、すごいよかった
87名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 01:28:53 ID:C1AaVcyh
おぉっ最近パラレルとかが多くて、勿論それも最高に面白いやつもあるんだが
やはり正統派は正統派で納得の楽しさだな
正直、北村のすみれへの気持ちの解釈、今回の展開を職人と共有出来るかで
本筋でかなり違和感を感じる人もいるかもだけど
それを補って余りある竜児、大河の原作の雰囲気を持って成長してるアフター感や
多分職人の前作を引き継ぐ亜美、奈々子の設定にニヤニヤ出来た
88名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 01:33:24 ID:5Q7UoBv/
素敵でした…。
このシリーズ、次のAまでではなく今後もぜひ書き続けて頂きたい。
89名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 03:18:25 ID:Y33xJgNf
スレ立て2日間、しかも>>100レス以内にパラレル、サイド、アフターとバラエティー豊富に投下されるとは
90名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 09:39:25 ID:HXfwHpMh
>>85
激しくGJでした!
読んでて清々しい気持ちになった。って感想として変か?まあいい
新スレになって良い流れが続いてるし、このまま行って欲しいものだ
91名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 12:22:06 ID:kJIZq9XL
>85

GJ
92名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 12:31:05 ID:MtlNWHlq
>>85
GJ!!

北村がすこしかっこわるかったが、
現実考えると乗り換えってのもあるかもしれないなぁ。
9398VM:2009/09/23(水) 18:48:43 ID:oA3XX/32
こんばんは、こんにちは。 98VMです。

前スレ>637様。
ローマ編ですが、投下直後に荒れた時期があって、なんとなく書くのを止めた感じです。
あんな徒然書きでも読みたい方がいるのかな、と勝手に解釈して続き書くかもです。
というわけで、レスに返事すんな!とか怒らないでくださいね。
一応、梅の続き書いてきましたのでご容赦ください。 ごめんなさい。
埋めネタ共通時系列 3レス。

「じゃぁね、春田くん。 ありがとう。」
「へ? 俺、まだなーんもしてないよ〜 奈々子様ぁ〜。」
「本当に助かっちゃった。 じゃ、お休みなさい。 またね。」
「うーん。 ま、いっかー。 奈々子様が喜んでくれたんならぁ。 んじゃおやすみー。」
……
…本当に、アホは使い勝手がいいわ。 助かったっていうのは本当よ、春田。

そんな風に少し頭が不自由な同級生に感謝しつつ、香椎奈々子は緩やかにウェーブのかかった黒髪を翻した。
今、彼女には欲しいものがあった。
ふとした弾みで知ってしまった甘い果実。
それはあまりにも上質で、ほとんど究極と言っていいほどの美しい果実。
その果実に比べれば、自分を捨てた男など路傍の石にも等しい。
もちろん、彼女自身にもそれが逃避行動であることはわかっている。
だが、止められない。 
初めて愛した男に捨てられた痛みは、しかし、それほどまでに深かったのだ。
ふと、我に返るといつも思う。 『私、狂ってる』 と。

今からやろうとしていることも、流石にちょっとやりすぎだ。
タイガーと高須くんの水入らずに割り込んで、何気に亜美を売り込もうとしている。
―――高須くんに亜美ちゃんを意識してもらう。
しかし、それは臆病な亜美をその気にさせるために必要だからだ。 二人のキューピッド役をやろうというのではない。
きっと高須くんは、亜美に言い寄られても揺るがないだろう、そう確信があるからこその策。
そうでなければ意味が無い。
なぜなら、それは亜美を傷つけるのが目的だから。
そして、その傷ついた亜美の心に生まれるであろう隙間を衝くのは…
「くすっ…… くす… くす… くす。」
……あっ。 やっぱり、あたし…。 くすっ。 ――――狂ってる。


     埋めネタ 続き  〜奈々子様のちょっと計画がくるった夏の夜〜


今日のカラオケの様子を見ても、高須くんが亜美を今までになく意識してしまっているのは明白だった。
たぶん、高須くんは今まで亜美にリアル感を感じていなかったのかもしれない。
それが、いまや芸能界で人気上々の亜美ちゃんが、二年経った今でも、自分を強く意識しているのを感じて動揺しているのだ。
宴会前の僅かなツーショットの時間は、思っていた以上に効果があったらしい。
ここまでは計画通り、いや、計画以上の成果だ。
亜美ちゃんの胸が腕に押し付けられた時の高須くんの姿勢は爆笑ものだった。
大河にお預けくらって堪っているのかしら?
亜美ちゃんも少し酔ってて、いつもの三割増くらいの色気だったし、見慣れないショートカットも興奮を誘ったのかもしれない。
ずっと亜美ちゃんに隣に座られて、結局高須くんは一度も席を立たなかったし、カラオケが終わって、席を立つのも最後だった。
それで、つい、カラオケスタジオから出る時、こんな事を言ってしまった。
「高須くん、ずっと勃ちっぱなしで、ご苦労様。」
高須くんは、あたしがそんな事を言うとは夢にも思ってないみたいで、本気で意味が伝わらなかったみたいだったけど。
そして、最寄り駅のホームに着くと、その高須くんの姿をキョロキョロと探す。
残りの電車は一本。
目的地は同じ大橋駅。
ならば、探すのはそう難しくは無い。 …ハズなのに。
特徴的な小柄な少女と、スッキリとしたシルエットの青年。 ……いない。 …そんなはずは…


「おぅ、香椎。」
「ひゃっ」
びっくりした。 まさか後ろから声を掛けられるとは思ってなかったから。 先にあの場を離れたから、てっきり…。
それに……
「あら? タイガー…逢坂さんは?」
「お、おぅ。 その、一緒に帰ろうと思ったんだが… 追い払われちまった…。」
あらあら。 なんとも。
「ふぅん。 喧嘩でもしているの?」
「それが、さっぱりわからねぇ。 ……川嶋は判っているみたいだったが、相変わらず謎かけばっかりで教えてくれねぇ…。」
「だったら、諦めないで亜美ちゃんに聞いてみればいいのに。 一生懸命頼んだら教えてくれるんじゃないかしら?」
「そ、そうか? ……いや、いや、やっぱりダメだ。 川嶋は忙しいんだから。 それに、川嶋とさしでってのは……拙いだろ。」
赤くなってる。
「ふふふ。 やっぱり、緊張しちゃう?  亜美ちゃん、相変わらず綺麗だもんね。」
「流石に女優ってなると違うのかな。 なんていうか、ますます美人になったような気がするな。」
「ううん。 髪切っただけで、亜美ちゃんは高校の時とほとんど変わってないよ。」
「おぅ? そ、そうか?」
「もし、綺麗になったように見えるんなら……。 それはきっと高須くんの亜美ちゃんを見る目が変わったからじゃないかな?」
「ば、ばか、お前までからかうのかよ。 …そんなことねぇよ…。」
あ。 一層赤くなって、へんな汗がでてる。

そうしているうちに、ホームに電車が滑り込んできた。
最終電車って、案外混んでるのね…。 飲んだ後に乗るのはちょっと嫌かも。 少し憂鬱に電車に乗り込む。
そして暫くして、『なるほど』と思った。
前から、亜美ちゃんほどの女の子がどうして高須くんに夢中になっちゃってるのか、正直不思議だった。
確かに高須くんは目つき以外はけっこういい男だとは思っていたけど、あたしの中では『けっこう』どまりだった。
悪いけど、頭がよくて、家事が完璧に出来るくらいじゃ、惚れたりなんかしない。
だから、何がそんなにいいんだろうって、私的には謎だった。
けれど、二人になってようやく見えてきた。
高須くんは狭い電車の中、あたしの体が他の人とくっつかないよう、うまく間に体を入れて守ってくれている。
それが、全然わざとらしくない。 というか、無意識でやってるように見える。
普通なら、女の子を意識して頑張っちゃう所かもしれないのに、高須くんにはそういう素振りが全然ないのだ。
なるほど、これが『そう』なのだ。
この自然な、ナチュラルな優しさが、普段ちやほやされるのに慣れていた亜美ちゃんには衝撃だったに違いない。

やがて、地下鉄の乗換駅で一時的に満員電車になる。
都合、高須くんと密着することになった。
不覚にも、つい腕で体をカバーしてしまったけど、高須くんの男の匂いを感じて、少しだけ脳幹がひりひりした。
それは、つい最近までの、逞しい腕に抱かれていた日々を思い出させる。
少しだけ頭が朦朧として、下腹部にぞわりと何かが這い出てくる。
もう、思い出さないことにした顔を求めて、少しだけ顔を上げると、目が泳いでいる高須くんの凶悪面が至近距離に飛び込んできた。
声に出すか、出さないかの微かな、笑い声。 高須くんに聞こえちゃったかな?
いけない、いけない。
今は亜美ちゃんの売り込みしとかなくちゃね。 ……それにタイガーの泣き顔なんか見たくないし。
でも。
でも、ちょっとだけなら…いいよね?

電車の中もすこし空いてきた。
大橋駅に着く少し前、ひときわ電車が揺れる場所がある。
そこであたしは……。 わざとらしく高須くんの胸に倒れこむ。
彼の足を、あたしの足の間に挟んで、カラダ全部を密着させた。
くすっ。
ほら、柔らかいでしょ? タイガーと違って。 太ってないけど、ぷにぷにしてるのよ? 『女』の部分ダケはね。
すこしだけ、彼の胸に指を這わせた後。
あたしは…… しっかりとくっついたビニールテープを剥がすみたいに、カラダを離していった。


朝まで、大橋駅に入る電車は無い。
駅前の人がまばらになるのはあっという間だった。
「お、おぅ… 本当に一人で大丈夫か?」
「ええ。 平気よ。 それより、タイ…逢坂さんのことだけど、やっぱり亜美ちゃんに聞いてみるのが一番いいと思うな。」
「だが、川嶋は忙しいだろ。 そんな事で、迷惑かけられねぇよ。」
「高須くん、わかってないなぁ……。 それとも気付かないふり? 今日の亜美ちゃん、すごく嬉しそうじゃなかった?
高須くんの傍にいる時は、ね。  亜美ちゃんは今でも……。」
からかうように流し目を送る。
「………」
高須くんは真剣な表情で俯いていた。
それで判る。 おそらく、高須くんには、ちゃんと亜美ちゃんの気持ちが通じてる。
気の毒だけど、やっぱり亜美ちゃんには勝ち目が無い。
けれど、男としての本能というものも、確かにある筈。
それは高須竜児の生い立ちを考えれば最も忌諱すべき感情だけれど…
それが全てを飛び越えていってしまうことがあるのを、あたしは学んだ。
そしてあたしは問いかける。
タイガーとすれ違い、上手く行かないこんな時に、懐が深くて、かつ深追いしてこない亜美は、とても都合がいい逃げ道だ。
だから、高須くんにとって、この質問は凄く厳しい質問になる。

「ねぇ、高須くんにとって、亜美ちゃんってなんなの?」
数瞬の間。
「なんで、香椎がそんなに川嶋の事、気にするんだよ…。」「友達だから。 親友だから。 それじゃ答えにならない?」
「……大切な、大切な『友達』だよ。 ……失いたくねぇ『友達』だ。」

ふーん。 脈あり、と。 ま、無理も無いよね。 あれだけイイ女、欲しくなかったら男として異常だもの。
はっきり突き放してやった方が、亜美ちゃんの為なのに、それが判ってても、高須くんにはそんな事は出来ないんだね。
本当に…… 本当に優しすぎるほど、優しい人。 あたしの胸も苦しくなるほどに… 優しい。
でも、そういう所が『隙』になるんだよ、高須くん。 
そして… 亜美ちゃんが奥手でよかったわね、逢坂さん。

それからも、ちくちくと高須くんを突っつく。
高須くんはなんだか、亜美ちゃんの事を聞かれる度に顔が壊れてしまって、さっきから凄くヤバイ。
職質が来ても不思議は無い。 というより、来ないほうが日本の治安に不安を感じちゃうレベル。
でも、なんだか、そんな顔が可愛く見えてきちゃってるのが凄く不思議だった。
きっと、亜美ちゃんもこんな気持ちで高須くんをからかってたんだな、と妙に納得。

「やっぱり、送ってもらおうかな…」
あれ? あたし、なんでこんな事言ってるのかしら?
「おぅ。 おう。 そうしろ、そうしろ。 こんな夜更けに、香椎みたいな美人、一人で帰したら俺の神経によくねぇ。」
「ふふふふ。 心配してくれるんだ。」
「あたりまえだろ。」 
「…嬉しい。」
えーと、亜美ちゃんの売り込み作戦だったよね、これ。 なんか、このままだといけない方向にいっちゃうかも…。
そういえば、麻耶、最終に乗ってなかったわよね…。
って事は…
そっかぁ。 今日は間違いが起きちゃっても仕方の無い日なのかもしれないわねぇ。
なんだか、当初の思惑と違ってしまいそうだけど…ま、いっかぁ。

肩を並べて歩き出した高須竜児からは、奈々子の顔は柔らかそうな黒髪に遮られてよく見えない。
だから竜児は気がつかない。
清楚なイメージの同級生が、
………香椎奈々子が、

―――夜の顔で嗤っている事に―――。

                                                                   おわり
9798VM:2009/09/23(水) 18:55:45 ID:oA3XX/32
以上です。
お粗末さまでした。

遅くなりましたが、すみれ姉ちゃん、瞳に恋して、きすして、三作とも素晴らしいです。
いつも楽しく拝見させていただいております。 GJです。 
ではまた。
98名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 19:54:50 ID:Cnw6cHDq
皆さんGJ!!!!
最近は麻耶ちゃんが人気だねぇw 
99名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 21:19:43 ID:HXfwHpMh
奈々子様最高www
徒然書きなんてとんでもない。期待してます
100名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 21:39:57 ID:8FfHY24L
>>97
新作だと、あーみんが大変危険なので(話は面白いですが)
ローマで幸せな亜美が読みたいです。
101夏休みに1/2:2009/09/23(水) 22:39:19 ID:kJIZq9XL
 会長が去ったあの日から何ヶ月か――。
 再び巡って来た夏、祐作は受験勉強に追われていた。
 そんな彼は、気を紛らわすため、時折散歩に出る。
 街を歩けば、同じく気晴らしにでてきた高須や櫛枝とでくわすこともあった。
 高須は祖父の経済的後ろ盾を得て医学部を目指し、櫛枝は体育学部を目指している。何れも、実現は見えていた。川島だって、将来に夢が沢山広がってる。
 だが――。
 いまだ、目標が見つからずにいるのだ。
 既に、彼のにはどこの大学にも入れるだけの力はついている。だが、なぜかそれに満足する事ができなかった。
 晴れ渡る空の下、高須と大河がよく歩いていた河原をまわり、駅へ向かう。かなり暑いが、ソフト部の練習とくらべたら、どうってことはないと思う。
 そして駅前。ふと、かのうやの看板が目に入る。
「いるわけ、ないか」
 散歩に出ると、ついこの前を通ってしまう。
 いくら夏休みでも、あの人がいるわけが無いのに。

「墓参りじゃ仕方ないか」
 米国あたりではえらく目立つ姿の娘が、車から降りた。国産にこだわる父が運転する、冠マークがついた高級車だ。
 わざわざ、その米国から呼び出され、夏恒例の墓参りに親とつき合って来たところだ。
 そして他の家族も車から降りる。どうせ国産なら、大きなミニバンかなにかにすればいいのに、家族で乗ると狭いじゃないか。そう思うが、口に出さないくらいの分別はとっくの昔に身につけている。
「ちょっと、散歩に出てくる。久々に、街が見たい」
 すみれはそう言うと、ひとりで歩いて行った。
 親が経営する「かのうや」の脇を通り、駅の方へ。そして、見つかれば目立つころうけあいの、かつての母校の姿を見に行く。
「いるわけ、ないか」
 グランドで練習するソフト部が目に入った。

「おーす、息抜きか」
 祐作の背後から、声をかける男子。
「おお、春田か。受験勉強はどうだ?」
「まあまあ、かな。親の店をやることは決まってるんだけどよ、せめて短大か専門くらいは行けって、親父が五月蝿くてなあ」
「大学は行かないのか」
「ははっ、行けたら、な。いーけーたーらー。そんなわけで、親父のいない所で勉強なんぞしに行くところよ」
 春田はにたっと笑って答えた。
「で、生徒会長どのは、志望きまったの? よりどりみどりで、たーいへんかもしれないけど」
「まあな」
「あ、肯定しやがった。なんとも、羨ましいなやみじゃね?」
 肘で小突く春田の言葉に、祐作は黙って肩をすくめてみせた。
「でもよー、実際のとこ受かる自信ないんでないかい。本命は」
「えっ?」
「ははっ、まあ、図星ってとこだな。じゃ、勉強がんばれや」
 春田はそう言うと、その場を後にした。

 暫く学校の様子を眺めていたすみれは、誰も気がつかない事に安堵の気持ちと残念さをこめた溜息をつき、家路についた。
 私服じゃ気づかないのも仕方ない。帰り道でも、数人の生徒とすれ違ったが、だれも振り向いてはくれなかった。
「ちょっと、寂しいな」
 ぼそり、独語する。
 帰ったら、あっちに戻る前に店のみんなに挨拶だけはしておこう。
 彼等が働いてくれてるおかげで、自分は贅沢にも留学などしていられるのだ。感謝しないと。
102夏休みに2/2:2009/09/23(水) 22:39:57 ID:kJIZq9XL
 会長が去ったあの日から何ヶ月か――。
 再び巡って来た夏、祐作は受験勉強に追われていた。
 そんな彼は、気を紛らわすため、時折散歩に出る。
 街を歩けば、同じく気晴らしにでてきた高須や櫛枝とでくわすこともあった。
 高須は祖父の経済的後ろ盾を得て医学部を目指し、櫛枝は体育学部を目指している。何れも、実現は見えていた。川島だって、将来に夢が沢山広がってる。
 だが――。
 いまだ、目標が見つからずにいるのだ。
 既に、彼のにはどこの大学にも入れるだけの力はついている。だが、なぜかそれに満足する事ができなかった。
 晴れ渡る空の下、高須と大河がよく歩いていた河原をまわり、駅へ向かう。かなり暑いが、ソフト部の練習とくらべたら、どうってことはないと思う。
 そして駅前。ふと、かのうやの看板が目に入る。
「いるわけ、ないか」
 散歩に出ると、ついこの前を通ってしまう。
 いくら夏休みでも、あの人がいるわけが無いのに。

「墓参りじゃ仕方ないか」
 米国あたりではえらく目立つ姿の娘が、車から降りた。国産にこだわる父が運転する、冠マークがついた高級車だ。
 わざわざ、その米国から呼び出され、夏恒例の墓参りに親とつき合って来たところだ。
 そして他の家族も車から降りる。どうせ国産なら、大きなミニバンかなにかにすればいいのに、家族で乗ると狭いじゃないか。そう思うが、口に出さないくらいの分別はとっくの昔に身につけている。
「ちょっと、散歩に出てくる。久々に、街が見たい」
 すみれはそう言うと、ひとりで歩いて行った。
 親が経営する「かのうや」の脇を通り、駅の方へ。そして、見つかれば目立つころうけあいの、かつての母校の姿を見に行く。
「いるわけ、ないか」
 グランドで練習するソフト部が目に入った。

「おーす、息抜きか」
 祐作の背後から、声をかける男子。
「おお、春田か。受験勉強はどうだ?」
「まあまあ、かな。親の店をやることは決まってるんだけどよ、せめて短大か専門くらいは行けって、親父が五月蝿くてなあ」
「大学は行かないのか」
「ははっ、行けたら、な。いーけーたーらー。そんなわけで、親父のいない所で勉強なんぞしに行くところよ」
 春田はにたっと笑って答えた。
「で、生徒会長どのは、志望きまったの? よりどりみどりで、たーいへんかもしれないけど」
「まあな」
「あ、肯定しやがった。なんとも、羨ましいなやみじゃね?」
 肘で小突く春田の言葉に、祐作は黙って肩をすくめてみせた。
「でもよー、実際のとこ受かる自信ないんでないかい。本命は」
「えっ?」
「ははっ、まあ、図星ってとこだな。じゃ、勉強がんばれや」
 春田はそう言うと、その場を後にした。

 暫く学校の様子を眺めていたすみれは、誰も気がつかない事に安堵の気持ちと残念さをこめた溜息をつき、家路についた。
 私服じゃ気づかないのも仕方ない。帰り道でも、数人の生徒とすれ違ったが、だれも振り向いてはくれなかった。
「ちょっと、寂しいな」
 ぼそり、独語する。
 帰ったら、あっちに戻る前に店のみんなに挨拶だけはしておこう。
 彼等が働いてくれてるおかげで、自分は贅沢にも留学などしていられるのだ。感謝しないと。
103夏休みにorz:2009/09/23(水) 22:41:33 ID:kJIZq9XL
失敬・・・・コピペ場所間違えましたorz

104夏休みに2/2:2009/09/23(水) 22:42:52 ID:kJIZq9XL
 ……ぴぽぴぽ♪
 携帯が鳴る。画面には「はるた」の文字。
『おーい、会長。会長みたぞ、会長』
「意味分からないぞ、おちつけ」
『失恋大明神、会長ったら、あの会長だってば』
「!?」
 ぶち。祐作は友人の電話を一方的に切り、あの人の番号を探した。
 みつからない。そう、あの日、自分にけじめを付けるため、消したのだった。
 が、手は勝手に動いていた。悲しいかな、彼の記憶力は、あの番号を暗記するくらいの余力があったのだ。
『びー。オカケニナッタ番号ハ、ゲンザイ……』
「そう、だよな」
 いまだに、日本での携帯を持っているわけが無いのだ。

「そんな、出征するわけでもなしに」
 すみれの前にでてきた夕食は、無駄に豪華な懐石だった。
「店で売ってるようなもので良いのに」
「お姉ちゃん、たまにしか和食にありつけないんだからさ」
「そう、だが」
「だったらほら、いただきまーす」
 陽気な声をあげ、妹は料理を食べ始めた。久々の、一家そろっての夕食だ。もちろん、あっちではこれほどの和食は食べられない。いや、ないことないが、彼女にしてみても異様に高価なものとなった。
 食事が済み、久しぶりに店の屋上から日本の夜空を眺め、何れはあの星に近づくつもりだ、などと想いを馳せた。
「ねえ、お姉ちゃん」
 妹も屋上に来て、声をかけて来た。
「なんだ」
「いいの? すぐに帰っちゃうのに」
「何が、だ?」
「忘れられてないでしょ、会長さん」
「何を言ってるんだ、何を」
「電話してあげなよ」
「番号は、とっくに忘れた。携帯も解約した」
 空を見上げて答えるすみれ。けじめは付けたはずだ。
 だが、妹はポケットに手を入れて笑いかけた。
「はい、貸してあげる。北村会長、進路決まらなくて」
「あの、バカ……」
 すみれは妹の携帯を受け取ると、暫くその画面を黙って眺めた後、見慣れた番号を呼び出した。

 ……ぽっぺぽっぺぽー♪
 携帯が鳴る。生徒会関係用の着メロだ。画面には「さくら」の文字。
「何の用だろう」
 何気なく、通話ボタンを押す。
『くぉらーーー、きたむらぁーーーー!!』
「ははは、はい、会長……へ?」
 うっかり、さくらがすみれの妹なのをわすれていた。でもまさか、あっちからかけてくるとは。
『会長はてめーだろうが! まだ進路決まってねえのか、バカモノ、バカ、モ……ぐしゅ』
「あ、あの」
『す、すまない。取り乱した。わたしは明日、あっちに帰る、だからな……ぐしょ』
「あ、あ、あの、お時間ありますか」
『だから、ない』
「今、です」
『……わかった』
105夏休みに エピローグ:2009/09/23(水) 22:43:22 ID:kJIZq9XL
 二学期が始まると、竜児は久しぶりに見た祐作の顔に変化を見つけた。
「なにか、あったのか」
「まあ、な。俺、アメリカに行く事にした」
「マジかよ」
「だからな、まだ勉強が足りん。ははっ、まずはまともに英語が話せないとな!」
「ああ、がんばれよ」
 と、口では言っていたが、竜児にはなんとなくこの言葉が聞けると予想していた。買い物帰り、もと会長と彼が、スドバの店先でべったりとよりそってるのを見てしまったから。 
「ところで高須。ひとつ聞いて良いか?」
「なんだ。俺は留学なんて無理だぞ」
「そうじゃない、逢坂とは、一度くらいキスしたのか?」
「あ、ああ。一応」
 一度どころ、ではないが。
「そうか。なんか、離れてる気がしなくなるよな、うん」
 祐作はひとりで勝手に納得すると、「べんきょーべんきょー」と言いながら、教室に戻って行った。



いろいろ、すんませんorz
106名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 23:48:11 ID:rGRuSg0j
>>97
ああそのまま奈々子様の濡れ場をry
ここにもひとりローマの祝日の続編を待っているのがいますよお。

>>85
麻耶たん大勝利キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
こんなIFもありだよあり。
107名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 23:52:29 ID:rGRuSg0j
>>105
104と105の間にあったひと夏の体験的なSSまだあ。
108356FLGR:2009/09/24(木) 00:04:47 ID:DQ+wLBcz

356FLGRです。
 予告通り「きすして3 Thread-A」の投下を開始します。

概要
 「きすして2」の続編です。前作の既読を前提に書いています。 
 基本設定:原作アフター。竜児×大河。

 エロ有りです
 物量28レス

 途中、規制などで中断するかもしれません。
 支援していただけると助かります。

109きすして3 Thread-A 01:2009/09/24(木) 00:06:10 ID:DQ+wLBcz

 竜児が大河の家で夕食をとる様になって三ヶ月がたって、それはもうすっかり日常の
風景になっていた。二人の母親はそれぞれの息子と娘を信頼し、見守り、そして息子と
娘も信頼を裏切らず、時に正々堂々と喧嘩したりしながら概ね円満に暮していた。それ
は大河にとっても竜児にとっても間違いなく幸せな状況で、竜児はこんな暮らしが高校
を卒業するまで続いたらいいなと思っていた。ただ、この暮らしが大河の両親(新)に
結構な負担を強いていることも薄々と感じてはいたのだ。

 夏休みを数日後にひかえた木曜日の夜。
 いつも通り三人で夕食を食べて、竜児と大河はダイニングで向かい合わせに座って緑
茶を啜っていた。大河の母はリビングのソファーに座ってテレビのニュースを観ていた。
育児休業中とはいえ有能なビジネスパーソンでもある彼女にとってそれは大事な日課
だった。おかげで大河も時事ネタには相当詳しくなっているのだが、それはこの話しに
はまったく関係ない。
 
 ずずっと緑茶を啜り、ふっと溜息をついて、
「竜児。海、どうしよっか?」と大河は言った。
 
 ―― 約八時間前 ――

 竜児は北村祐作と昼食をとっていた。生徒会長である北村祐作は昼休みを生徒会室で
過ごす事が殆どだったから竜児と祐作が一緒に昼食を取るのは週に一回あるかないかと
いったところだった。祐作が教室で昼食を取る曜日というのが決まっているわけではな
く、それは多分、祐作の気分と生徒会長としての仕事の溜り具合による、って感じなの
だろうが、竜児にとって疑問なのは自分の隣で一緒に食事をしている木原麻耶が如何に
してそれを察知しているのか、ということだった。麻耶は祐作が教室で食事をする日に
限って、すすすーっと現れて、ちゃっかり竜児の隣に陣取って一緒に食事をしていくの
だ。どういう情報網でそれをキャッチしているのか知る由もないし、唯のストーキング
なのかもしれないが、とにかくその努力にはちょっとした感動を禁じ得なかったりもす
るのだ。しかし悲しいかな一向に成果が上がっていないのもまた事実だった。

 ともかく、三人は一緒に昼食を取っていた。話題は文化祭の事だ。生徒会長、北村祐
作にとっての最後の大仕事になるイベントだ。数日後に始まる夏休みの間に生徒会とし
ては行事の概要を固めて各部や教師達との調整に当たらなければならない。

「なんとかして二日間開催を実現したいんだがな」
 祐作は言った。それは先代の生徒会長、狩野すみれも出来なかったことだった。
「そりゃ、難しいだろ」としか竜児には言いようがない。
「そうかな…」と麻耶。
「そうだろ。二日間となると準備も大変だし、特に模擬店なんてリスク倍増だ」
 竜児は険しい表情になる。
「そこなんだよな」
「無理に二日間やるより、前夜祭だけにした方が良くねぇか?」
「前夜祭?」
「前夜祭か…。アリだな」
「おぅ。去年はミスコンやったり福男レースやったりでかなりスケジュールがキツかっ
ただろ。だからミスコンと福男は前の日にやったらいいんじゃねぇの。夕方スタートで」
「そうだな。それなら行けそうだ。実はな、顧問の先生からミスコンは止めてくれって
言われてるんだ。学校行事としては不適切だろうって。でも、一般入場の無い前夜祭な
らいけるかもしれない」
110きすして3 Thread-A 02:2009/09/24(木) 00:07:06 ID:DQ+wLBcz
「イケメンコンテストもやればいいのに」
「ミスコンの男子生徒部門じゃ駄目か?」
「いや、それ違うから」麻耶は顔の前で手をパタパタと振った。
「誰のセンスだよ?」
「駄目か? おもしろいと思ったんだがな」
「お前かよ」

「とにかく、前夜祭はいいアイデアだ。早速、検討させよう」
 そう言って祐作は弁当箱を閉じた。いざ生徒会室といった感じだ。
「え? え?」
 麻耶は軽くパニック。おかしな声を上げて手をばたつかせている。
「おいおい、放課後でいいじゃねぇか。てか、とにかく食ってから行け。弁当に失礼だ」
「おお、それもそうだな」
 そう言って祐作は弁当箱を開けた。
「おぅ。手ぇつけたらちゃんと食え」
「いや、すまんすまん」

 麻耶はちいさく溜息をついた。
「は、話しは変わるんだけどさ…」ちょっと声が裏返っていた。
「あ?」「ん?」

「夏休みに亜美ちゃんの別荘にいくんだけど、二人もどうかな?」
 ジリッとした沈黙が流れた。

「忙しいからダメかな…ダメだよね…」声がフェードアウト。
 麻耶はちらっと竜児を見た。

 竜児にしても悪い話しじゃなかった。確かにヒマとは言いがたいが、あの奇麗な海で
大河と過ごせるならそれはもう僥倖以外の何物でもないだろう。それに隣に座っている
麻耶からビシビシと飛んでくる『助けて!高須君!おねがい!』的な電波を無視するこ
とも出来なかった。
「ま、まあ、俺は大河が行くなら、別に二、三日なら平気だぞ。他には誰が来るんだ?」
「えと、亜美ちゃんと奈々子と私。タイガーは亜美ちゃんが誘ってるはず」
「ふむ」
 ふむ、じゃねぇよ。木原はお前を誘ってるんだぞ。なんとか言え。北村。などと竜児
は思念波を送信してみるのだが届いている気配はまったくない。
「女ばっかだな。なんつーか、男が一人じゃ厳しいな…」
 竜児は上目遣いで祐作を見た。もう、凶悪な目つきが更に遺憾な事になっていて、ま
るで人の良い青年に難癖を付けて恐喝するチンピラみたいな画になっていた。

「…そうだな、高須が行くなら俺も行く事にしよう」
 麻耶の顔がパッと明るくなった。
「じゃあ、細かいことはまた連絡するね」

 ―― なんてことがあったのだ。 ――
111きすして3 Thread-A 03:2009/09/24(木) 00:07:49 ID:DQ+wLBcz

「竜児。海、どうしよっか?」
「俺はお前が行くなら行くし、お前が行かないなら行かないけど、せっかくだから二人
で行きたいなと…」
 竜児は照れくさそうにそう言った。大河はそんな竜児の表情を見て微笑んだ。
「じゃあ、決まり。ばかちーに電話しとく」
「どっちなんだよ?」
「行くに決まってるじゃない。あたしだって…そりゃ、あんたと…」
 以下、恥ずかしくて言葉にならず…
 
 テレビのニュースショーで天気予報のコーナーが始まった。
「じゃあ、ボチボチ帰るわ」
「うん」
「あら、帰るの? 気をつけてね」
 テレビを観ていた大河ママが竜児の方を向いて言った。
「はい、お邪魔しました」
 竜児は軽く会釈してリビングを後にした。それから大河の部屋の入口に置いておいた
カバンを取って玄関で靴を履き、振り返って大河の顔を眺めた。随分慣れてきたけれど、
帰るときはお互いにちょっとだけ寂しい気分になるのは相変わらずだった。

 だから、別れ際にはキスをする。竜児は少しかがんで、大河は少し背伸びして…
 軽く、二回だけ。

***
112きすして3 Thread-A 04:2009/09/24(木) 00:08:41 ID:6IuauU7k

 それから数日が経過して学校は夏休みに入った。何回かスドバで打ち合わせしたり
メールでのやり取りがあって、旅行の日程は八月二日から四日までの二泊三日、メン
バーは川嶋亜美、香椎奈々子、木原麻耶、北村祐作そして竜児と大河の計六名となった。

 その旅行を数日後に控えた七月末。
 大河の家から帰った竜児はいつも通り勉強に精を出していた。元より成績は良い方
だったのだが、それはその方が泰子が喜ぶから、と言う程度の動機によるものだった。
だから竜児は学年のトップを取ってやろうなんてことは考えた事すら無かったし、勉強
が将来役に立つとも大して思っていなかったのだ。でも、今の竜児には勉強そのものに
も、トップを目指す事にも意味があった。今の竜児が描いている将来像のために進学は
絶対に必要な事で、そして失敗出来ない事だからだ。
 進学のための資金の問題は祖父である高須清児が負担してくれることになり一気に解
消した。泰子のために蓄えられていた資金は手つかずで残っていて、それを竜児の為に
使うことを祖母である園子が望んだのだ。清児と泰子もそれに同意し竜児は大学進学を
選択できることとなったのである。
 そして竜児は考えた。大河の家から帰ってくる道すがらで、寝る前にベッドの中で、
勉強の手が空いた時、トイレの中、洗濯機の脱水が終わって回転が停止するまでの
ちょっとした時間、とにかく時間があれば考えた。大河と二人、どうやって暮していこ
うか、それを真剣に考えたのだ。そして今、竜児の頭の中にはそのプランがある。まだ、
誰にも話していない。でも、最初に話す相手は決まってる。もちろん大河に、だ。

「ふぅ。ん〜〜んが」
 竜児が大きく伸びをして肩をまわしていると机の上で携帯電話が鳴りだした。ふと時
計を見ると十一時半。大河だろうな、と思いながら携帯を見るとディスプレイに表示さ
れていたのはちょっと意外な人物の名前だった。

「おぅ。俺だ」
「あ、高須君。今、大丈夫?」
「ああ、問題無い。で、どうしたんだ? 川嶋」
「ちょっと頼みがあんのよ」
「なんだ?」
「あんたらだけ一日早く別荘に行けない?」
「ん、まあ、行けなくはねぇだろうけど。どうして?」
「掃除しておいて欲しいのよ」
「はぁ? 二人でか?」
「そう」
 どうにも胡散臭かった。
「…川嶋、お前、何考えてるんだ?」
「ばれたか」
「ばれるさ」
「…麻耶がね、あの娘、本気で祐作に惚れちゃってるのよ」
「みたいだな」と言うより周知の事実といった所か。
113きすして3 Thread-A 05:2009/09/24(木) 00:09:57 ID:DQ+wLBcz
「祐作があんたぐらい物わかりが良いと助かるんだけどね。とにかく麻耶はこれがラス
トチャンスってぐらいに入れ込んでるのよ。でもさ、あんた達が一緒にいると祐作はど
うしたって麻耶よりあんたと話すじゃない」
「だろうな。…道中の人数を絞ろうってんだな」
「まあ、そういうこと。あたしと高須君とタイガーは一日前に行って掃除しとくって筋
書き」
「確かに去年行ったときは掃除で随分時間を使っちまったからな。一石二鳥か…」
「でしょ」
「で、俺らは別荘に行くとしてお前はどうすんだよ」
「夕方に打ち合わせが入っちゃったのよ。なんとかして朝イチで別荘に行くから」
「なんとかって、なんとかなるのかよ」
「楽勝楽勝。あんたと違ってこっちは旅慣れてるんだから」
「わかったよ。にしてもよぉ、北村が納得するかねぇ」
「それは大丈夫じゃね。あたしが一日早く行くのも別におかしくないし、掃除の腕前を
考えたらあんたしか居ないじゃない。あんたが行くのにタイガーを置いてくのも変じゃ
ない。そうすると自然とこの組み合わせになるのよ」
「まあ、確かに理にかなってるな。北村まで来ちまったら、あそこに行った事のない香
椎と木原だけ残っちまうし、川嶋が二人のエスコート頼むわ、とでも言っとけば北村は
納得するだろうな」
「ぴんぽーん、正解!」
「それはいいけどよ、別に俺は木原と北村をくっ付けるとか、そういうのには加担し
ねぇぞ」
「あたしだってそんなの御免よ。あくまでもセッティングだけ」
「ならいいさ。にしても、お前はお人好しだな」
「フン、あんたに言われたかないわ。じゃあ、タイガーにはあんたから言っといてよ」
「おぅ、わかった」
「そんなとこかな。そんじゃ、切るわよ」
「ああ。なあ、川嶋…」
「なによ?」
「…ありがとよ。じゃあな。おやすみ」
「…なんのこと? まあ、いいわ。じゃあね」
114きすして3 Thread-A 06:2009/09/24(木) 00:10:58 ID:DQ+wLBcz

 電話が切れた。と、思ったら鳴った。大河からだ。
「大河?」
「あ、やっと繋がった」
「おぅ、悪かったな。もう、寝るのか?」
「寝る気満々だったのに、リダイヤルしてたら目が冴えて来ちゃったわよ」
「すまん。でも、ちょうどいい。川嶋の別荘に行く件だけどな、お前、一日早く行けな
いか? 俺と一緒に」
「どういうこと?」
「つまり……」
 竜児は手短に亜美との電話の内容を話した。
「…というわけで、一日目は二人きりなんだが、どうだ?」
「どうって、別に問題無いでしょ」
「だよな」
「…ええっ! 二人っきり!?」
 お約束すぎだろ、と思いつつ、そこはスルー。

「いや、そんなに驚かんでも…。とにかく、そういうことだから」
「わ、わかったわよ」
「じゃ、おやすみ」
「ちょっと、待ちなさいよ。寝られるわけないじゃないの…。ホントに目が冴えちゃっ
たわよ」
「とりあえず毛布でもかぶっとけ。そうすりゃ眠くなる」
「わかったわよ。また、眠くなったら電話するから」
 電話が切れた。
 五分経った。
 電話がなった。着信を押した。
「おやひゅみ…りゅーじ…」
「おやすみ。たいが」
「うみゅ…」
 切れた。
「なんだよ『うみゅ』って」
 竜児は携帯電話を置いてベッドに寝転がった。

『二人きりか… 丁度いい。大河に話そう。これからの事を…』
 大河が同意してくれるかは分らない。不安もある。大人の力も借りなければならない。
説得しなければならない人もいる。けれど、竜児はそれを話す事にした。 

 実現したいのだから、ビビってるヒマなんかないのだ。そう、自分に言い聞かせた。

***
115名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 00:11:56 ID:ufZ0lTKT
つC
116きすして3 Thread-A 07:2009/09/24(木) 00:12:08 ID:DQ+wLBcz

 海沿いの線路を南に向かって走る電車に竜児と大河は揺られていた。お盆の時期を外
した事もあって車内はさほど混んではおらず、二人の乗っている車両も席の半分ほどは
空いていた。

 車窓から見え隠れする青い海は夏の強い日差しにきらきらと輝いていた。
 大河は窓側の席で流れていく景色を眺めていて、なにかを見つけては隣に座る竜児に
話しかけていた。半袖の白いワンピースは大河に良く似合って可愛らしい事といったら
この上ないし、そんな大河に青い空をバックにして微笑まれれば竜児がちょっとばかり
間抜けな顔をして見蕩れてしまうのは仕方の無い事だった。

「ちょっと。竜児。聞いてんの?」
「へ?」
「うわ、サイテー。彼女が話しかけてんのにスルーするわけ?」
「ん、ああ、悪かったよ。で、何だよ?」
「まったく、しょうがないわね。お昼ご飯どうする?って聞いたの」
「ああ、飯か」
「そうよ」
「ちょっと早いけど…ま、いいか」

 竜児は棚からボストンバッグを下ろして中から紙袋を取り出して大河に渡した。
「なんだ。ちゃんとあるじゃない。有るなら有るって言ってよ、心細くなっちゃうじゃ
ない」
「心細くなっちゃうのかよ?」
「なっちゃうのよ。もう切なさで胸が潰れそうになるわ」
「そりゃ悪かったな。でもよ、言っちまったら十時のおやつになっちまいそうだったか
らな」
 竜児はバッグを棚に戻した。
「フン。そんなに飢えちゃいないわよ」
 言いながら大河はガサゴソと紙袋を開けた。
「わぉ」むくれていた顔がぱっと笑顔に変わる。
 中にはラップで包まれたカツサンド。ああカツサンド、カツサンド。
 大河は紙袋に入っていたウェットティッシュで手を拭って、もどかしそうにラップを
開けてカツサンドをかじった。
「あわてんなよ。喉詰まらせるぞ」
 大河は無言で頷いて、ゆっくりと噛み締めてから飲み込んだ。
「あー、おいし。心が安らぐわ」
「そりゃ、なによりだ」
 そう言って竜児もカツサンドをかじった。なかなかの出来だった。
 すぐに一つ目を食べ終わった大河は二つ目を手に取った。ラップを剥がしてぱくっと
かぶりつく。
「ほうは…ゆーひ」
「食べるか喋るかどっちかにしろ」
 大河はもぐもぐと口を動かす。
 あわてて飲み込まないところを見ると食べる方を選んだんだな、と竜児は思った。
 そして仕切り直し。
117きすして3 Thread-A 08:2009/09/24(木) 00:13:16 ID:DQ+wLBcz
「ねぇ、竜児…」
「ん?」
「三泊もしちゃって、やっちゃん大丈夫かな」
「大丈夫だろ。泰子だって家事が出来ないわけじゃねぇんだし」
「まあ、そうだろうけど…」
「ちょっとばかり部屋が散らかって洗濯物が溜るってだけだろ」
「そういうのはいいんだけどさ…、寂しいかなって」
「かもな…。でもよ、俺もいつまでも泰子と一緒ってワケにはいかねぇし」
「なんでよ。せっかく仲良くやってるのに」
「そうなんだけどよ…。気付いたんだよ。お前と一緒にいて」
「あたしと…?」
「ああ。そうだよ。俺の傍に大河が居てくれるみたいにさ、泰子の傍に泰子を大切に
想ってくれる人がいてもいいんじゃねぇかって」
「うん…」
「泰子は若いんだから、もう一回、普通に恋して、結婚して、愛してくれる旦那がいて
さ、そんな風になったらいいなって、今は思ってる」
「そっか…。そうだね。やっちゃんだって…そうだよね」
「ああ。きっと今までいろんなことを我慢してくれてたんだと思うよ。俺の為にさ…」
 泰子の十八年間に一つの恋も無かったなんて竜児には思えなかった。きっと、いくつ
かの恋はあったのだ、そしてそれを諦めて来たのだろう。
「うん…。そうだよね」
 大河は何かを噛み締めるみたいにそう言った。
「ま、そういうこった」
 竜児は軽い口調で言った。

「そうだ。泰子と言えば… 許可、貰っといたから」
「許可って何?」
「今晩、二人きりだから…その、してもいいか…、一応な」 
「なっ!?」
 竜児の耳は赤くなっていた。
 大河の耳も赤くなった。

 竜児は約束を守る男なのだ。誓約書にサインした以上、こっそりなんてのはあり得な
いのだ。

「まあ、そういう事だから」
「そ、そうなの。まあ、そういう事なら、あたしも吝かじゃないのよ」

 顔を赤く染めた大河はカツサンドを頬張った。
「は、ほうは」
「だから食べるか喋るかどっちかにせい」
 あわてて飲み込まないところを見ると…以下、略。
 そして仕切り直し。
「今朝、みのりんからメールが来たのよ。そんで、あんたに見せろって」
 そう言って大河は携帯を開いてポチポチとボタンを押して竜児に画面を見せた。
118きすして3 Thread-A 09:2009/09/24(木) 00:14:08 ID:DQ+wLBcz

 ――――――――――――
 大河。これを高須君に
 見せるんだ!
 
 高須君へ・・・
 ファイナルフュージョン
 承認!!

 承認!承認!承認!承認!
 承認!承認!承認!承認!
 承認!承認!承認!承認!
 承認!承認!承認!(>_<)b
 ――――――――――――

「く、櫛枝…」としか言いようが無い。
 怖い、怖すぎるぞ。櫛枝。
 承認してくれるのはいいけど、櫛枝、これは怖過ぎだ。
 しかも、承認される前に俺たちファイナルフュージョンしちゃってるし。

「これ、なんなの?」
「さあ、なんだろうな…」
「わかんないの?」
「多分、楽しんで来てねって意味だ…と思う」
 まあ、ウソではない。
「ふぅん。そうなんだ。てっきり『えっち』してもいいよって意味かと…」
「もう、バッチリ、分っちゃってるじゃねぇかよっ」

「………」「………」

 顔を赤く染めた二人はカツサンドを頬張った。
 車窓からは夏の日差しに輝く海が見えていた。

***
119きすして3 Thread-A 10:2009/09/24(木) 00:15:14 ID:DQ+wLBcz

 電車を降りた二人は当座の食料を調達するために駅近くの商店街で買い物をした。
翌日の夕食以降の分は北村達が買ってくることになっている。ただ、当座の分、とは
言っても結構な量になったし、別荘までは結構な距離だったから二人は駅前でタクシー
を拾って川嶋家の別荘に向かった。
 タクシーは白砂の散る林道をゆっくりと走り別荘を見下ろす位置で止まった。さらに
先まで行けばクルマで乗り付けることもできるらしいのだが、それよりもここから石段
を下った方が早く着く。二人はクルマを降りてトランクから荷物を取り出して歩き出し
た。すぐに景色が開けてきて、南仏あたりのプチホテルを思わせる瀟洒な作りの川嶋家
の別荘が見えてきた。

 二人は荷物を抱えてゆっくりと石段を降り、石造りのエントランスへ。竜児は亜美か
ら預かった鍵を使いドアを開けて中に入った。玄関の中を見回し、壁に取り付けられて
いる金属の箱を見つけてそれを開け、遠隔警備のコントロールボックスに亜美から渡さ
れていたカードを差し込んだ。

「よし、セキュリティも解除したから上がっていいぞ…」
 そう言って、竜児は靴を脱いで廊下に上がった。
「ん? なんか、おかしくねぇか。大河」
 竜児はすぐに異常に気がついた。そう、この別荘はどこかおかしい。一年前に来たと
きはとは何かが違っている。
「そう? 考えすぎなんじゃないの」
 言いながら靴を脱いで廊下に足を踏み入れた瞬間、大河も異常に気がついた。
「竜児の言う通りかも。なんかおかしい」
「ちょっと奥を見てくる」
「あたしは二階を見てくるわ」
「気をつけろよ」
 竜児は荷物を床に置き廊下をリビングの方に進んでいった。その背中を見送ってから
大河はゆっくりと踏みしめる様に階段を上がっていった。リビングのドアのノブを握った
瞬間、竜児の表情が曇った。ゆっくりとそれを捻って扉を開ける。カーテンが閉められ
ているせいで薄暗いリンビングルームを舐め回す様に見てから竜児は窓際に歩きカーテン
を一気に開けた。夏の日差しが差し込みリビングの隅々までを眩いまでに照らし出す。
くん、と鼻で息をすってからロックを外して大きな窓を開け放った。潮風が吹き込んで
レースのカーテンがはためいた。竜児は足下を見て「ここもか」とひとりごちる。
リビング奥のダイニングに足を踏み入れた時、疑念は確信に変わった。

 間違いない。これは異常だ。

「りゅーじっ! きてっ!」
 二階から大河の声が聞こえた。竜児はリビングを駆け抜けて階段を駆け上がった。

「竜児! これ… これって」
 大河が居たのは二階のバスルームだった。バスタブを覗き込んでいた大河はその内側
を指で擦って、その指先を確かめた。
「大河、ここだけじゃない。一階もそうだった」
「どういうこと?」
120きすして3 Thread-A 11:2009/09/24(木) 00:16:16 ID:DQ+wLBcz
「…川嶋の奴」
 竜児はポケットから携帯電話を取り出して亜美に電話した。呼び出し音がもどかしい。
「う〜っす、高須君。もう、着いたの?」
 亜美は気の抜けた声で電話に出た。
「ああ、着いたさ。今さっきな。これはどういう事だ?」
「何言ってんの? 全然、意味分んないんですけど」

「お前、俺を騙したな」
「はぁ? なんのこと。亜美ちゃんさーっぱりわかんねぇんだけど」
「てっめぇ、しらばっくれやがって」
「だから、何の事?」


「すっかりキレイじゃねぇか! どこもかしこも掃除する必要なんてねぇくらい」


 …しばしの沈黙。

「ああ、それね。実はさ、先々週うちの親戚が使ったもんだから業者に掃除してもらって
たんだって。三日前に掃除したばっかだもん、そりゃきれいだわ」
「お前なぁ」
「あたしも昨日聞いたのよ。でも、キレイな分には困んないでしょ」
「まあ、そうなんだけどよ」
「なによ?」
「…いや、いい」
「そう。じゃあ。明日の朝、そっちに行くから。そうね、八時ごろかな。じゃあね」
 そう言って亜美は電話を切った。

 竜児は溜息をつき、がっくりと肩を落として携帯電話を畳んでポケットに押し込んだ。
「三日前に掃除したんだってよ。業者が」
「そっか。だからこんなにキレイなのか。よかったじゃない」
「まあ、そうなんだけどよ…」
「なに、あんた、ひょっとして楽しみだったわけ?」
「ああ、実は、かなりな……はぁ」
 大河はそんな竜児の背中をタンタンと叩いた。
「いいじゃない。その分、ゆっくり出来るんだし」
「そうなんだけどよ。なんつーか、俺的には激闘の予感がだな…」
「いつまでもグダグダ言ってんじゃないわよ。もうキレイなんだからしかたないじゃない」
 口でキツい言葉を吐きながら、でも大河の表情は柔らかい。
「…ま、それもそうだな」
 ふっと竜児は表情を緩ませた。
「そうそう、もう、喉、乾いちゃったわよ。ジュースのも、ジュース」
「お前は小学生かよ」
 二人は階段を降りていった。

***
121名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 00:16:30 ID:ufZ0lTKT
つCと)
122きすして3 Thread-A 12:2009/09/24(木) 00:17:49 ID:DQ+wLBcz

 竜児はキッチン周りだけ念入りに掃除して、カレーに入れるオニオンペーストを仕込ん
でいた。仕込みと言っても玉葱をみじん切りにして焦げない様に炒めるだけだから、時
間はかかるが忙しいわけではないのだ。竜児はガスコンロの前に置いたスツールに座って
時折木べらでフライパンの中身をかき混ぜていた。十五分ばかりそんなことをしていると、
大河がダイニングからスツールを持って来てガスコンロの前に置いてそれに座った。
「まぜればいいの?」
「ん? そう。混ぜればいい。焦げ付かせない様にだけ気をつければいい」
「へぇ。やってみていい?」
「ひっくりかえすなよ」
「わかってるわよ。どうやるの?」
「別に難しくはないさ」
 竜児は木ベラを持ってフライパンのなかのみじん切りになった玉葱をかき混ぜた。
「ま、こんな感じ」
「簡単じゃない」
「そうだな、混ぜるのは簡単だな。焦がさないようにするのが大変だけど」
「やってみろよ」
「うん」
 大河は木べらを手に取って玉葱をかき混ぜた。怪しい手つきも竜児にとっては萌え要
素みたいなものだ。
「そんな感じ。慎重にやってくれよ。ひっくりかえしても焦がしてもやり直しだから」
「わ、わかったわよ」
「そんなに固くなるなって。慌てなければ大丈夫だから」
「うん」
 玉葱からじわじわと水気が出てそれが熱せられて蒸発していく。
「まぜて」
 大河は慎重に木べらで玉葱をかき混ぜる。また、しばらく待つ。竜児が「まぜて」と
言うと大河が小さく頷いて木べらで玉葱をかき混ぜる。
 リビングのカーテンが潮風に揺れている。
 聞こえるのはキッチンには玉葱を炒める音と微かな潮騒だけ。
「竜児」
「ん?」
「地味だね」
「地味だな。でも、料理ってそんなもんだろ」
「そうなんだ。これが無くてもカレーはできるよね」
「ああ、でも有った方が美味いからな。大河、まぜて…」
 大河が玉葱をかき混ぜるとすこしだけフライパンの中が騒々しくなる。
「あたしも、竜児みたいにお料理、出来る様になるかな」
「なるさ」
「ホントに?」
「ああ。喜ばせたい人がいれば出来る様になるんだよ。そういう人がいれば失敗しても
頑張れる」
「そっか。竜児も沢山失敗した?」
「おぅ。そりゃもう、指切ったり、火傷したりな。あと、苦労したのに不味かったり」
「やっぱ大変なんだね」
「まあ、俺の場合はちゃんと教えてくれる人が居なかったからな。無駄に苦労したって
感もあるな。まぜて…」
 また、まぜる。少し音が変わる。
123きすして3 Thread-A 13:2009/09/24(木) 00:18:43 ID:DQ+wLBcz
「じゃあ、お願いしたら教えてくれるの?」
「もちろん。まあ、家に戻ってからだけどな」
「ここじゃダメ?」
「ぶっちゃけ、あんまし道具が良くないんだよな。止めといた方がいい」
「そうなんだ…。じゃあ、帰ったら教えてよね」
「おぅ。…まぜて」
 そして、また混ぜる。
 しばらく待つ。竜児が「まぜて」と言う。大河が混ぜる。
 聞こえるのは玉葱を炒める音と潮騒。
 ゆっくりと、ゆっくりと、二人の時間が流れていく。


 作り置き食材の準備が終わるころには陽はすっかり傾いてリビングに差し込む日差し
は柔らかなオレンジ色に変わっていた。橙色に染まる水平線の彼方に入道雲が浮かんで
いる。藍色の空には雲一つない。昼間は風に揺れていたリビングのカーテンはぴくりと
も動かない。僅かな夕凪の時間帯。これから徐々に陸風が強くなっていくのだろう。
 リビングのソファーでは慣れない作業で疲れた大河がタオルケットにくるまって寝息
をたてている。竜児は『でる単』に目を通しながら時折大河の寝顔を眺めていた。時計
は六時半を過ぎた辺りを指している。あと二十分もすれば日没だ。
「大河。起きろ」
 竜児は大河の肩を揺する。「うぅん」と小さな声を漏らして大河は目をこする。
「寝ちゃった」
「疲れてたんだろ。そろそろ晩飯にしようぜ」
 もそもそと大河は身を起こした。タオルケットがかけられていた事に気付いて無言で
竜児に微笑む。竜児はそれにほんの小さく頷いて応える。それが、『ありがとう』と
『どういたしまして』の代わり。
「晩ご飯、なに?」
「今日はシンプルにパスタ」
「それだけ?」
「それだけ」
「うぅ…」泣くなよ…
「わかった、わかった…、コンビーフのピカタもつけるから」
「し、しかたないわね」
「その代わり、手伝えよ」
「し、しかたないわね」

 竜児はパスタポットに水を張りコンロにかけた。夕食はパスタ。まとめて作っておい
たトマトソースでシンプルに。沸騰するまでにピカタの下ごしらえを終わらせてしまお
う。それで、麺を茹でている間に焼けばいい。緑色も欲しいな。レタスで良かろう。そ
して夕食が済んだら星でも眺めてみよう。今日は新月だ。竜児はそんなことを考えてい
た。

***
124きすして3 Thread-A 14:2009/09/24(木) 00:19:43 ID:DQ+wLBcz

 砂浜は岩場に囲まれていて、見える建物と言えば背後に立っている川嶋家の別荘だけ
で、それ以外は彼方の海岸線に町灯りがぼんやりと見えるだけだった。あたりは静まり
返っていて聞こえるのは波の音だけ。この世界の人口が二人になったんじゃないか、
そう思ってしまう程の静けさだった。砂浜に広げたレジャーシートの上に置いた電気
ランタンを消すとあたりはすっかり漆黒の闇に包まれた。別荘の窓からもれる明かりは
砂浜までは届かず、空には月の姿も無かったから辺りは本当に真っ暗だった。

「うわぁ」大河は子供みたいな声を上げた。
「ほんと、すげぇな」竜児もやっぱり子供みたいに声を上げた。

 本当に降ってきそうなほどの星空だった。数日前の嵐のせいでまだ空気は澄んでいる
らしく、視界のかなたの濃紺の水平線から上は全て星で埋め尽くされているようだった。
都会では絶対に見られない全天を二分する天の川の姿もぼんやりとだけれどちゃんと見
える。

 大河はシートの上に寝転がって空を見た。
「竜児、頭じゃま」
「わかったよ」
 竜児は大河の横に寝転がった。

「すごいね。なんか、掴めそうだよ」
「ああ、本当にそうだな」
「降る様な星空って良く言うけど、本当に降ってくるみたい」
「昔はどこでもこんな風に見えてたんだよな」
 二人が暮らす微妙に都会な大橋ではこんな星空は真冬でも拝めない。

「ちょっと、こわいね」
「ん、どうして?」
「…自分がちっぽけに思えて、消し飛んじゃいそうで」
「捕まえといてやるよ」
 そう言って竜児は大河の小さい手を握った。
「これで大丈夫」
「うん…」

 穏やかに凪いでいる海は静かな波音を二人に聞かせていた。

「こうしてると空に浮かんでるみたいな感じがしねぇか?」
「ふふ、ほんとだ。浮いてるみたいだね」
「不思議だな、世界に二人っきりしかいねぇみたいだ」
「うん。そうだね」

 目の前は星の海で、聞こえるのは互いの声と波の音だけ。微かな風が頬を撫でて潮の
香りが鼻をくすぐる。
125きすして3 Thread-A 15:2009/09/24(木) 00:20:34 ID:DQ+wLBcz

「あのさ、竜児」
「ん?」
「約束、憶えてる」
「どれだよ? たくさん約束したからな」
「バレンタインの」
「おぅ。忘れるはずがねぇ。一番大切なやつだからな」
「守ってくれる?」
「守る…。絶対に」
「うん」

 それは一番大切な約束。

「竜児…」呟く様に呼んだ。
「なんだ?」
「もうすぐ、ママと一緒に暮らせなくなるんだ」
「…どうしたんだよ?」
 冷静を装って竜児は聞いた。あくまでも装ってだ。心はざわめき不安感で息苦しくな
る。けれどそれを押さえ込む。ここで狼狽えて何になる。
「あたしがお父さんの子供になるのはダメなんだって。お父さんの実家が許してくれな
くてね、あたしはママの子供なのにママの家族になれないんだ」
「そうか…」
 大河がいつまでたっても『逢坂』のままだったのを竜児も気にはしていた。大河の母
親は大河が逢坂の娘では困ると言っていたはずだ。だからこれは彼女にとっても予想外
だったのだろう。
「お父さんとママが離れて暮らしてるのも良く思われてなくてね、まあ、そりゃそう
なんだけどさ。あたしもそう思うし。もうすぐママは本当の家に戻る事になると思う」
「お前はどこで暮らすんだよ?」
「今住んでるマンション。ママが借りておいてくれるって」
「じゃあ、住むところには困らないんだな」
「まあね。でも、また、一人ぼっち」
「一人じゃない」
 そう言って竜児は大河の手を強く握った。
「うん、そうだね。竜児がいるもんね」
「ああ」
 大河は頷いた。竜児はそんな気がした。
「で、いつまで一緒にいられるんだ?」
「十一月までは一緒に暮らせるって」
「あと三ヶ月ってところか」
「うん。ママね、すごく辛そうに話してくれたんだ。何度もごめんねって言ってくれた」
「そうか。おまえの母さん、頑張ってたんだな」
「うん…。卒業するまで見てて欲しかったな。あたしの事も、竜児の事も」
「そうだな。きっと、お前の母さんもそう思ってるよ」
「そうかな…」
「そうだよ…」

 星空の中を飛行機の小さな光が走っていく。
126きすして3 Thread-A 16:2009/09/24(木) 00:21:26 ID:DQ+wLBcz

「竜児…、こわいよ」
「大河…」
「あたし、どうなるんだろう」
 震える様な、か細い声だった。
 竜児は大河を抱き締めたかった。抱き竦めて、もうお前の居場所は壊れない、そう言
いたかった。でも、それだけでは駄目なのだ。それでは暗闇で立ちすくむ彼女は歩き出
せないから。だから、竜児は立ちすくむ彼女の手を取って二人で歩く道を示さなければ
ならなかった。そして、それは竜児の頭のなかにちゃんとある。
 
「…あのさ、ずっと考えてたんだ。これからどうしたらいいのか。俺なりに考えたプラン
があるんだ。まだ、誰にも相談してないから出来るかどうか分んないけど、聞いてくれ
ないか?」
「…うん、話して」

 星空の下で竜児は自分で描いた未来図を大河に話した。それは竜児と大河が一緒に暮
しながら自立していくために、そしてみんなが幸せに近づける様に竜児が真剣に考えた
計画だった。

「どう? 大河が嫌なら考え直すけど」
「ううん。嬉しくて。考えてくれてたんだね」
「そりゃあ、考えるだろ。約束したんだから」
「ありがと…」消えそうな鼻声だった。

「盆にじぃちゃんの所に行くから、その時にお願いしようと思ってる」
「あたしも一緒に行きたい。あたしからもお願いしなきゃね」
「そうだな。大河が居てくれたら…なんだって出来る…」

 そう、なんだって出来る。彼女が天涯孤独にならないように、彼女の家族になること
だって竜児にはできる。出来るのだ。もう十八才なのだから。
 
「大河…」
「うん」
「ちょっと早いけど、お前の母さんがいるうちに結婚しよう」
「え?」
「卒業してからって思ってたけどよ、だったら半年ぐらい前倒しにしたって問題ない」
「竜児…」
「その…、お前がまだ考えたいって言うなら待つけど…」
「…本当にいいの?」
「あたりまえだ。二言はねぇ。嫁に来い」
 すん、と鼻を小さく啜る音がした。ちょっとだけ間があって、
「…うん。いく」と、大河は答えた。

「大河…。顔が見たい」
「うん、あたしも…」

127きすして3 Thread-A 17:2009/09/24(木) 00:22:33 ID:DQ+wLBcz
 竜児は身体を起こして電気ランタンの調光ノブを少しだけ捻って微かに光らせた。
LEDの白い灯りがシートの上を弱く照らした。ほんの僅かな白い光に照らされて大河
の姿がぼんやりと光った。暗闇に慣れた目にはそれでも十分明るかった。

「お前は、ほんとにきれいだな」
「ばか」小さく呟いて、大河は微かに頬を染めながら身を起こした。潤んだ目から涙が
一粒溢れた。仄かな白い光に照らされて二人は互いを見つめた。竜児の左手に大河の右
手が重なり、引き寄せられる様に顔と顔が近づいていく。

「りゅーじ…、きすして」大河が囁く。
 それに応えて、竜児は大河の小さな花びらみたいな唇を自分の唇で塞いだ。柔らかさ
を確かめて、ふっと唇を離す。
 竜児は大河の肩を抱き寄せて子供を抱く様な格好で抱えた。左の太腿に大河を座らせ、
立てた右足で背中を、肩にまわした右腕で首を支える。竜児は左手で大河の頬に触れ、
もう一度キスをした。ゆっくりと互いの体温を確かめ合うように触れ合わせる。惜しむ
様に唇を離して、目を合わせた。小さく「すき」と呟き、大河は竜児に抱きついて彼の
胸に顔を埋めた。竜児は大河の小さな身体を抱き締めて「俺も…」と呟いてから
「すきだ」と囁いた。
 
「りゅーじ…しよ」
「お、おぅ。戻るか…」
「…ここじゃ、ダメ?」
 勿論、竜児にとっても魅力的な提案ではあるのだが…

「ダメ。衛生面でよろしくない。それに砂が入るとスゲー痛いらしいぞ」
 夏の浜辺でも竜児は竜児だった。
「そうなの…」
 大河は敷かれているレジャーシートのサイズが些か不十分なことを察した。それに
清潔かと言われれば、たしかにそうは言い難い。
「しょうがないわね」
「ま、そういうこった」
 竜児は立ち上がって手を差し出して大河の手をとり立たせた。ランタンを大河に持た
せて竜児はシートを畳んで小脇に抱えた。

 二人は手を繋いで別荘に向かって歩いていく。

「しっかり調べてたのね」
「まぁ、こんなこともあろうかと…」
 大河のパソコンでこっそりググった。無論、履歴は消去ずみだ。


***
128きすして3 Thread-A 18:2009/09/24(木) 00:23:37 ID:DQ+wLBcz

 デスクライトだけが灯された仄暗い竜児の部屋。

 ベッドの上に胡座をかいている竜児の左太腿に大河が座っている。大河は竜児の腕に
緩く抱かれ、互いに啄む様な優しいキスを繰り返していた。
「あん、りゅーじ。いぢわる」
 緩く開いて待ち構える大河の唇を竜児の唇が塞ぐ。吐息が混ざる様なそんなキス。
「とけそぅ」小さな唇から呟きが漏れる。
 そうだな、と竜児も思う。溶けて混ざり合ってしまいそうな気もする。
「大河…もっと」
「うん」
 唇が重なり、竜児の舌が大河の中に挿入されていく。大河はそれを舌先で受け止める。
チロチロと舌を絡めて唾液でぬめる口の中でじゃれ合う。竜児の舌が引き上げて行くの
を追いかけて大河の小さな舌が竜児の口に滑り込んで行く。二人は混ざり合うぬるい体
液の中で戯れる。大河の舌が逃げて行くと竜児の舌がそれを追いかけて二人は大河の狭
い口腔でじゃれ合う。

「んっ」塞がれたままの大河の口から声が漏れた。
 こんなことを憶えたのはつい最近。初めて竜児の舌が侵入して来たときは驚きと恥ず
かしさで心臓が爆発しそうになった。だって、どう考えたってこれは淫らだもの。

 唇を離すと混ざり合った唾液が光る糸になって消えた。
「ん、はぁ」
「ふぅ」
 竜児はもう一度優しくキスして大河を抱き締めた。
「りゅーじ、脱がせて」
「おぅ」
 竜児は大河を抱く腕を緩めワンピースの背中のボタンを外していく。
「ちょっと立って」
「うん」
 ベッドの上に立ち上がった大河の前に竜児は膝立ちになって大河のワンピースを脱が
せていく。袖から腕を抜き腰のリボンを解くと白い布地はするすると大河の足元に落ち
ていった。竜児はぼんやりと青白く光るワンピースをフローリングの床の上に落とした。
レースで装飾された淡いブルーのブラとショーツだけになった大河は竜児に背中を向け
てぺたんと座った。
 竜児がブラジャーのホックに指をかけて外すと大河はブラジャーのストラップを肩か
らずらして腕をぬきそれを床に落とした。
 竜児もTシャツとハーフパンツを床に脱ぎ捨てた。本当はちょっとだけ畳みたい気持
ちもあるのだが、それは今やる事じゃない。そんなことは後でいい。

「はぁ…」
 自分の胸を見て、大河は小さく溜息をついた。
「なんだよ?」
「おっきくなんないもんだね」
「そんないきなりデカくなったら世の中巨乳だらけになっちまうよ」
「まあ、そうだけどさ」
「いいんだよ。これぐらいが俺はいい」
「ばか…、あん」
 竜児は大河を背中から抱く様に柔らかい乳房に触れた。ふわっとした触り心地は
スポンジケーキのようだ。柔らかいふたつのふくらみを掌で包む様に触れると細い肩が
ぴくんと揺れた。竜児は滑らかなミルク色の肌に包まれた乳房にわずかに指を沈めた。
揉むと言うより本当に触れる様な優しさで繊細に指を動かす。
129名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 00:24:34 ID:ufZ0lTKT
つCと)
130きすして3 Thread-A 19:2009/09/24(木) 00:24:46 ID:DQ+wLBcz

「ん、あっ…、くふん…」
 キスの余韻で濡れて光る小さな唇から喘ぎ声が漏れていく。それを止めない様に竜児
の指は優しく蠢く。大河の白い首筋に赤味が増していき可愛らしい耳朶は赤く染まる。

「りゅーじ…」
 大河は視界に竜児の顔を収めようとゆっくりと振り向いた。蕩けた瞳と淡いピンクに
染まる頬が竜児の目に映った。
「顔見せてよ」
「まだ、ダメ」竜児は大河の頬に軽くキスをした。
「いぢわ……っん」
 首筋を食む様なキスに大河の言葉は遮られた。竜児は大河の首筋をたどるように唇を
滑らせて大河の耳元に口元を寄せると赤く染まった耳朶にキスをした。
「あんっ。耳…だめ」
 
 竜児は甘噛みの様なキスをしながらふわふわとした乳房の感触を確かめる様に指を動
かし続けた。人差し指の腹が小さな乳首に軽くふれると華奢な身体がびくんと跳ねた。

「んっ…」乳房の外側を親指で撫でる。
 「あんっ」下側のなだらかなカーブを薬指と小指で可愛がる。
  「んくっ…」人差し指と中指で微かにふくらんだ突起を弄ぶ。

「りゅーじ…、お願い…抱いて…」
 潤む瞳が竜児を見た。
「おぅ」竜児は胡座をかいて右の太腿の上に大河を座らせた。
 緩く抱き合って唇を合わせる。ちゅ、と湿った音がする。触れ合う様にキスをして、
竜児は大河を抱き竦めた。それに応える様に大河の細い腕も竜児の背中を抱き締めた。
 
「りゅーじ…もっと…強く抱いて…ぎゅって、して」
 竜児は大河の身体を強く抱き寄せた。華奢な身体を軋ませる様に強く抱き竦める。竜
児の背中に大河の指が食い込む。軽く汗ばんだ肌と肌が貼り付いて熱がこもり、その熱
にうなされるように大河は熱い息を吐く。

「苦しいだろ」
「いいの。もうちょっとだけ。お願いだから…」
 
 お互いを苦しい程に抱き締めながら頬と頬を合わせた。
「大河、キスしたい」
「うん」
 腕を緩めて見つめ合い、ゆるく開いた唇を触れ合わせた。柔らかな感触を愛おしく感
じながら吐息を混ぜ合わせる様にキスを楽しむ。
 竜児の舌先が大河の前歯に触れる。大河は竜児を迎え入れて舌を絡ませる。
「んふ…」
 落ち着きかけた鼓動が再び速まって行く。

 大河の右手が竜児の身体をなぞっていき股間に触れた。
「おっきくなってる…」
「そりゃなるって」
「りゅーじ。あたしのも…触って」
「おぅ」
131きすして3 Thread-A 20:2009/09/24(木) 00:25:47 ID:DQ+wLBcz

 大河は竜児の太腿から腰を下ろして横になった。
「きれいだな。お前は」
「ホントにそう思ってる?」
「思ってる。やっと慣れてきたけどな。初めて見たときは、きれいすぎて…怖かった」
 そう言って竜児は大河の頭を撫で、そして頬にふれた。
「…ありがと」
 小さな声で大河は言った。

 竜児は大河のとなりに横になってショーツの上から陰核の近くを中指の先でくすぐった。
「っぅん…」
 膣口から陰核の間を擦る様に指先を滑らせる。力を入れずに撫でる様に優しく。
「…あんっ…」
 大河は甘い声を漏らしながら身体をよじる。滲み出した愛液でやわらかな布地が湿って
いく。竜児は右手をショーツの中に滑り込ませて陰毛の先の柔らかい部分に触れた。
 
 んくっ…ふぅ…
 
 大河は眉をよせて苦しげに喘ぐ。溢れた愛液が竜児の指先にまとわりつく。
 竜児は柔らかい割れ目に中指を沈めた。くちゅ、という音がして熱く蕩けた柔肉に竜
児の指は包み込まれた。

 んぁ…、くうんっ…  
 
 竜児は溶けて絡み付く柔らかい襞を掻き分ける様に中指を動かす。  
 指が淫裂に沈む度に、くちゅ、と濡れた音がする。
 指を動かす度に啼く様に大河は喘ぐ。肩を揺らし、苦しげに首をふる。

「…りゅーじ、脱がせて…」
「ん、おぅ」

 竜児はなめらかな肌につつまれた引き締まったヒップからショーツを剥きとるように
脱がせていく。腰からショーツを下ろしていくと溢れてクロッチに染み込んだ愛液が糸
を引いた。足を抜き、脱がせたショーツを床に落とす。

「とろとろだな」
「…はずかしい事、言わないで」
「ん、ああ」
 そう言ってから竜児は優しく唇で唇を塞いだ。そのまま、露になった性器にふれる。
人差し指と薬指で柔らかい部分を押し広げて中指で入り口をまさぐり指先にたっぷりと
体液をすくい取る。それを優しくぬりつけるように陰核を包むやわらかいを肉の襞を撫
でた。
132きすして3 Thread-A 21:2009/09/24(木) 00:26:54 ID:DQ+wLBcz

 あぅんっ…くふっ…  びくんと大河の背中が跳ねた。もっと…そう強請る様にせつ
なげに腰が蠢く。竜児は大河の入り口に指先を沈めた。溢れそうになっている愛液をか
き出す様に入り口から陰核にむかって谷底をなで上げる。たっぷりと濡れた指先で陰核
のまわりに触れて滑る体液を塗り付ける。
  
 ぞくぞくと疼く様な刺激に大河は肩を震わせ、…んぁはああっ、ん… 歌う様に喘ぐ。
 竜児は塗り付けた愛液で溶けたように濡れているやわらかい襞を挟む様に人差し指と
中指をあてがった。襞につつまれた陰核を震わせる様に優しく小刻みに指を動かす。
 大河は竜児の身体に抱きついた。
「…だめ…」
 竜児は指を止めない。くちゅくちゅと濡れた音と大河の喘ぎ声を聞きながら、彼女を
追いつめる作業に没頭する。

「…ぁ…だめ、…ぃくっ…っちゃう…」

 大河の背中が跳ねて反り、びくびくと腰が揺れた。細い奇麗な足はつま先までピンと
伸びきっている。竜児を抱き締める腕に力がこもる。竜児も大河の背中を抱きしめる。
暴れる身体を押さえ込む様に抱き竦める。
「…ぁんっ…、うぐっぅっ…」 一杯まで高まった快感はすぐには引かず、波の様に二
度三度と大河の身体を震わせた。

「大丈夫か?」
「いっちゃった…のかな?」こんな風になったのは初めてだった。
「…そんな感じはしたけど。俺はお前しか知らないからわからん」
「そだね」
「ちょっと休むか?」
「ううん…、して。…ほしいの…」
「おぅ」竜児は小さく頷いた。

 竜児は先走りの染みがついたトランクスを脱いで床に放った。枕元に置いておいた
コンドームを開封して固く勃ったモノに塗り付ける様に被せた。

 背中を向けて横になっている大河の肩に触れた。それに気付いて大河は仰向けになり
竜児を見上げた。優しく微笑んで瞼を閉じる。
「きて」
 竜児は大河に覆いかぶさりキスをした。ふっくらとしたやわらかさを確かめる様に優
しく唇を食む。それから首筋に、鎖骨、乳房にキスをした。ちいさな乳首にキスをして
から舌先で舐め上げる。
「…あん」可愛らしい喘ぎ声がもれる。
 大河の蕩ける淫裂に指を這わせるとぷちゅぷちゅと濡れた音が漏れた。にじみ出た熱
い蜜で満たされた花弁に指先を埋める。優しくかき混ぜて蕩けた蜜でやわらかい襞を濡
らしていく。

「いれるぞ」
「…うん」
 大河は膝を立てて、竜児が入ってくるのを待った。溢れ出た愛液で濡れて光る淫裂に
竜児の先の部分が触れると大河は肩を微かに震わせて小さく喘いだ。
 竜児はゆっくりと腰を沈めていった。固く屹立したモノが狭い入り口を押し広げて
たっぷりと濡れた大河の中を侵していく。強すぎる刺激に大河は息を詰まらせ目を潤ま
せる。ぬるぬると蕩けながらキツく締め付けてくる大河の内蔵を竜児は押し広げて貫い
た。根元まで大河の中に沈めたところで竜児は動きを止めた。小さな唇から喘ぎ声まじ
りの熱い息が漏れ出した。
133きすして3 Thread-A 22:2009/09/24(木) 00:28:06 ID:DQ+wLBcz

 竜児は息を荒げる大河の頬に触れた。
「痛かったか?」
「ううん…」大河は首を振って、
「きもち…いい…」と恥ずかしげに言い、潤む瞳で竜児を見つめた。
 ずん、とした愛おしさに胸が締め付けられた。

「うごくよ」「うん」
 竜児はゆっくりと引き抜いていく。引き抜かれたモノに蜜が絡み付きぬらぬらと光る。
そしてまた埋めていく。最後まで押し込まず半分程のところで引き返す。浅い抽挿を繰
り返して少しずつその速度を上げていく。

 …あ…あっ…っん…  竜児は一度動きを止めて、大河に優しくキスをした。
   ゆっくりと引き抜いて、 …ん…あ…
     それからゆっくりと舐るように一番奥まで押し込んだ。

 …くううんっ… 大河は啼く様に喘いで身体を捩らせた。

 また、抜き取って入り口の近く、浅いところを刺激する。くちゅくちゅと濡れた音を
させて浅い動きを繰り返す。竜児の動きに同期して大河の柔らかな乳房がふわふわと揺
れる。
 大河は薄く瞼をあけて溶けた瞳で竜児を見つめた。
「もっと…」
 それに応えて、竜児は一番奥の部分を突き刺す様に一気に貫いた。

 一番奥の部分を竜児に突かれ、意識が飛ぶほどの刺激が背中を駆け上がってくる。

 …ぅあんっ、くふぅっ、も…っと…… 

 言葉にならない悦びが喘ぎ声になって漏れる。
 貫かれた肉が彼のモノを締め付ける。抜き取られてしまう事を拒む様に抱き締めて縋
り付く様に彼を締め付ける。

 その感触に竜児は低く呻いた。意識を少しそらして一気に達してしまわない様に立て
直す。かがむ様に背中をまるめて大河に覆いかぶさり、蕩ける様な息と喘ぎ声を漏らし
ている唇を唇で塞いだ。

 竜児は身体を起こして大河の腰に手を添えて押さえつけ、そのまま、小刻みに腰を動
かして大河の奥の部分を繰り返し突いた。
 
 …あ…あん…ぁあん… 奥の部分を深々と貫かれる感覚に大河は喘ぎながら首を左右
に激しくふった。肩を切なげに揺らし、両手でシーツを固く握りしめる。竜児が動く度
に繋がっている部分からぐちゅぐちゅと淫らな音がもれだす。
134きすして3 Thread-A 23:2009/09/24(木) 00:29:12 ID:DQ+wLBcz

 竜児は奥まで沈めてそのまま大河に覆いかぶさり背中を抱いた。
「大河。首につかまれ」
「…え? こう?」
 大河は竜児の首に腕をまわした。
「あっ」
 竜児は大河の身体を引き起こした。竜児の腰の上に大河が跨がる格好で抱き合う。
 …あん… 一番奥の部分を押し上げられて息がつまるような刺激が背中を駆け上がる。

 抱き合う腕を緩めて唇を合わせた。互いの唇を味わうように湿ったキスを繰り返して
舌を絡めあう。それにつられるように大河の内側がひくひくと竜児を締め付ける。

「…あたってる…」うなされる様に大河は呟いた。
 深々と繋がっている部分からじんわりと疼く様な甘い刺激が伝わり、それが胸の奥の
方で暖かな感覚に変わっていく。

 …しあわせ… 大河の脳裏に不意にその言葉が浮かんだ。

「りゅーじ…あいしてる」
「ああ、俺も…あいしてる…」
  
 そして何度もキスを繰り返す。固いモノに突き上げられているところから、うずうず
と疼く様な快感が湧き上がってくる。背中を駆け上がってくる様な抽挿によるそれとは
違って、ふつふつとこみ上げてくる暖かな優しい感じ。

「…これ、好きかも…」
「そうか…動かすぞ」
「…ぅ、うん」

 竜児は大河の腰の下に手を差し込み、大河の腰を上下に揺らした。その度に奥の部分を
竜児の先端に突き上げられ、意識が飛びそうになるほどの刺激が押し寄せる。

 …ぁん…ぁん…っん…くっ…ふぅ… 激しく喘いで首をふる。竜児にしがみつき、
荒い呼吸で酸素を貪って、また喘ぐ。びくん、と背中が震える。竜児にしがみついて
抱き締める。そうしていないと飛んでいってしまいそうだから。
 
 竜児は動きを緩めて大河を抱き締めた。
 二人はそろって深く息を吐いた。

 大河は竜児の肩に手を添えてぎこちなく腰を前後に動かした。
「うまく…ぁん…できない…んっ…もんね…」
 頬を赤く染めて言った。
 不意に違う刺激が来て竜児は軽く呻いた。首の後ろが粟立つ様な感覚は竜児に限界が
近い事を伝えた。

「じゃあ、体位かえるぞ」
「え? うん」

 竜児は大河を抱いて押し倒す様に寝かせた。
「大河。もう、ボチボチ、限界…」
「うん…いいよ。りゅーじ。きて」
135きすして3 Thread-A 24:2009/09/24(木) 00:30:20 ID:DQ+wLBcz

 竜児はゆっくりとした動きで大河の中から引き抜いていった。中程まで引き抜き、そ
こから一気に押し込む。高い喘ぎ声と、ぷぢゅっ、という濡れた音が混ざり合う。引き
抜くとまとわりついた体液が溢れて大河の肌を濡らした。竜児は徐々にピッチを上げて
いった。繰り返し深い部分を貫き一番奥の部分をノックする。ぬるぬると締め付けてく
る大河の内蔵を自分のモノが押し広げながら侵していくのを感じながら、竜児は激しく
抽挿を繰り返した。

 津波のように押し寄せる快感に大河は翻弄される。喘ぎ、肩を揺らし、首を振る。
 竜児が動く度にぐちゅぐちゅという淫らな音が響きベッドが軋む。
「ぁん、ぁん…、っああ…」
 貫かれる度に淫らに喘ぎ、もっと、もっと、もっと、と催促する。
 ときに仰け反り、歯をくいしばり、眉を寄せ。竜児の二の腕を握りしめて彼を求める。

「…くっ、…いくぞ……」「うん…きて…」
 竜児は腰があたるところまで一気に押し込み、そして呻いた。
「んくぅっ…」
 身体の奥深くを突き上げられて声がもれた。その瞬間に弾ける様に竜児が脈打ったの
を大河は感じた。大河の中で竜児はびくびくと跳ねながら精液を吐き出した。それは
コンドームに受け止められて大河の中にはとどかない。けれど大河は竜児が放った物を
自分が受け止めていることを感じていた。それを本当に受け止められる日が来る事を信
じているから、今はそれだけで十分だった。

 竜児は大河に覆いかぶさり触れる様にキスをした。何かに酔った様に頬を朱に染めて
目を潤ませて自分を見上げる彼女が堪らなく愛おしかった。
 大河は左腕で竜児の背中を抱いて、右手で竜児の後頭部を優しく撫でた。
 竜児は深く息を吐いて、鼓動を減速させながらゆっくりと身体を起こした。

「大河…大丈夫?」
 言いながら髪を撫でた。
「うん…大丈夫。それに、はずかしいけど…その、すごく…よかった」
「…そうか。おれも、なんつーか、よかった」

 竜児はそっと優しくキスをした。
「抜くよ」
 大河は小さく頷いた。
 
 竜児は大河を貫いているものをゆっくり引き抜いた。ゆっくりと内側を擦られて大河
は切なげに小さく喘いだ。竜児はあふれた愛液で濡れた大河の性器をティッシュで丁寧
に拭い、彼女の体液で濡れたゴムの始末を手早くすませた。そして大河の身体にタオル
ケットをかけて、自分もそれに潜り込んだ。
136名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 00:31:18 ID:ufZ0lTKT
つCと)
137きすして3 Thread-A 25:2009/09/24(木) 00:31:33 ID:DQ+wLBcz

「うでまくら…」大河は頭をちょっとだけ持ち上げる。
「おぅ」と言って竜児は大河の首の下に腕を差し入れる。
 大河は頭を竜児の二の腕に下ろした。二人は向き合う様に横になって見つめ合った。
 竜児は大河の細くくびれた腰を緩く抱いた。
 大河は竜児の厚い胸に触れた。

「りゅーじ、あのね…」
「おぅ」
「…嬉しかった。ありがとね」
「んん?」
「ほんとに行っちゃうからね。お嫁に。もう、ほんとに絶対キャンセルできないからね」
「おぅ、お前もキャンセル出来ねぇからな」
 大河は小さく笑って「しょうがないわね」と言って微笑んだ。

「なぁ、大河…」
「うん」
「俺は本当に単純にお前が好きでたまんねぇから、ずっと一緒にいたいから結婚するん
だ。お前が独りぼっちになるのが可哀想だから、なんて理由で結婚するんじゃない」
 大河は目を閉じて、呟く様に「うん」と言った。ゆっくりと瞼を開けると潤んだ瞳か
ら一筋涙がこぼれ落ちた。
「あたしだって、寂しいからお嫁に行くんじゃないのよ。あんたが好きだから、ずっと
傍に居たいから…」

 結婚するのよ。と大河は静かに、でもはっきりと言った。

 竜児は大河の髪を撫でた。大河は竜児の頬に触れた。

「りゅーじ…、これから大変だね」
「ああ、大変だな。けど、なんとかするさ」
「うん」

 竜児は思う…
 辛い事も苦しい事も悲しい事も、全部喰らって飲み込んでやろうと。そしてそういう
諸々を、全部生きていく力や強かさに換えてやるのだ。そうやって、決して優しくない
けれど、けれど捨てた物でもないこの世界を大河と二人で生きて行くのだと。

 二人は見つめ合い、そしてゆるく抱き合った。互いの肌の温もりの心地よさが二人を
眠りに誘っていく。意識が徐々に途切れていく。
138きすして3 Thread-A 26:2009/09/24(木) 00:32:29 ID:DQ+wLBcz

「りゅーじ、ねむくなっちゃった」 
「俺も…。大河、パジャマ着ないと…」
「うぅ、めんどい」
 本当に面倒くさそうに大河は呟いた。
「そう言うなよ。また風邪ひいちまうぞ」
 竜児は腕に乗っている大河の頭を抱える様にして起き上がった。
「ほら、もうちょい頑張れ」

 蕩けた目をした大河はベッドからおりてトランクからショーツとパジャマを出した。
ショーツを履きパジャマを着ると、まるで倒れ込む様にベッドに横になった。
 竜児はトランクスとTシャツを身に着けて、うつぶせでベッドに横たわる大河にタオ
ルケットを掛けた。床の上で遺憾な状態になっている衣類に最低限の処置を手早く施し
てタオルケットに潜り込んだ。
 大河はもぞもぞと身体を動かして横向きになった。
 二人は顔を見合わせてどちらからともなく優しくキスを交わす。

 竜児が腕を伸ばすとそれを待っていた様に大河は竜児の脇に肩を入れる様にして横向
きに寝て頭を彼の胸にのせた。竜児は大河の肩を片手で抱き、空いている方の腕でタオ
ルケットを掛け直した。
 
「りゅーじ…おやすみ」
「おやすみ。たいが」

 目を閉じる。
 滑り落ちる様に眠りに落ちていく。
 ほとんど同時に。
 いつもそう。
 愛し合う事に全部のエネルギーを使い切ってしまうのだと思う。
 
 寄り添う身体の質量に
 寄り添う身体の温もりに
 傍らに確かな存在を感じながら
 
 二人は眠りに落ちていった…    

***
139きすして3 Thread-A 27:2009/09/24(木) 00:33:43 ID:DQ+wLBcz

 翌朝。

 別荘を見下ろす林道にタクシーが止まった。開いた自動ドアから姿を見せたのは川嶋
亜美。膝丈のデニムにオフホワイトのチュニックブラウスという至って普通のシンプル
なファッションだ。そんなありきたりの服装でも川嶋亜美はセレブオーラをバシバシと
放出しまくりだった。

 亜美は運転手からトランクを受け取ると軽く会釈して別荘へと続く石段を降りていった。
弱く吹き始めた海風が潮の香りを運んでくる。

 重厚な作りの玄関に立ち、呼び鈴を押して待つことしばし。
 ドアを開けて姿を見せたのは高須竜児。エプロン姿なのは朝食の準備中ということな
のだろう。八時ちょっと前に朝食の準備中ということは高須君的には寝坊だろう。彼の
後ろに手乗りタイガー。こんな風に迎えられるとこっちがゲストのような気分になる。
川嶋家の別荘に来たのに高須家に遊びに来た様な変な気分だ。

「うっす、高須君、あんどタイガー」
「おぅ、来たな」
「おはよ、ばかちー」

 竜児は亜美のトランクを持った。
「川嶋、朝飯は?」
「ん、ああ、まだだけど」
「おぅ、丁度良かった。一緒に食おう。荷解きはそれからでいいだろ?」
「え、うん」
「じゃあ、大河、食器をもうワンセットたのむわ」
「うん」と言って大河はダイニングに向かう。

「高須君、高須君」
「なんだ?」
「なんかさ、新婚夫婦の家に遊びに来た様な心境なんだけど…」
「うっ…なんだそりゃ」
「照れるなって」言いながら亜美は竜児の背中をバシバシと叩いた。
「ぐ…このやろ」竜児はリビングに向かって歩き出した。
「ちょいまち」亜美は竜児のTシャツの背中を鷲掴みにして引っ張った。
「なんだよ?」

 振り向く竜児の耳元に亜美は口元を寄せた。
「ねぇ、昨夜、したの?」
「な、な、な、なにおだ?」
 竜児の首から上が赤くなった。真っ赤だった。
 その様子を見て亜美はクスクスと笑い出した。
「高須君…、バレバレだよ…」
 竜児の首がカクっと折れて項垂れた。
140きすして3 Thread-A 28:2009/09/24(木) 00:34:40 ID:DQ+wLBcz

『竜児! なにやってんの!』

「ほらほら、可愛いハニーがまってるわよ。早く行けって、このエロ男!」
 亜美はニマニマと笑いながら、竜児の背中をバシバシと叩いた。

「まったく…。あのよ、川嶋…」
「え、なによ?」
「ありがとよ…楽しかった。お前のおかげだな」
「別にいいって…」

 告白させてもらったお礼なんだから。遅くなっちゃったけどさ…

「…ま、これから三日間たっぷり働いてもらうから」
「おぅ。まかせとけ」
 竜児は軽く応えてリビングに亜美のトランクを置いて大河の待つキッチンへ向かった。

 亜美はリビングのソファーに座ってキッチンに並んで立つ二人の姿を眺めていた。
 優しく、どこか懐かしい物でも眺める様な眼差しで。

 いいな…と、思う。羨ましいとか、そういう意味ではなく、風景というか空気という
か、雰囲気が素敵だった。胸に微かに疼く様な痛みはあるけれど、でも、こんな風に三
人で過ごすのも悪くない。

 そう…、これだってかなり素敵なことに違いない。
 こんな二人が自分の友達だって事はやっぱり素敵な事だと思う。
 
「わ、わ、ちょ、りゅ、竜児!!」
「おわっ、大河! 何やってんだ!?」

 ちょっと騒々しいけれど…
 素敵な事には違いない。そう思う。

(きすして3 Thread-A おわり)

141356FLGR:2009/09/24(木) 00:36:34 ID:DQ+wLBcz

以上で「きすして3」の投下を完了します。

支援、ありがとうございました。
Thread-Bに感想つけてくれたみなさんにも感謝。

356FLGRでした。
142夏休みに エピローグ:2009/09/24(木) 00:54:35 ID:lNO38AeU


せつない・・・・いろいろとせつないぞ〜
143名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 00:56:52 ID:lNO38AeU
すまん、HNが残った

今日はアカンわぁ・・・・いろいろと
144名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 01:05:24 ID:ufZ0lTKT
亜美ちゃん・・・(´・ω・`)
まあ、このルートでは恋人にはなれなかったが友達でもそれはきっととても素敵なことに相違ないよ。

竜虎エロに少し小躍り。
145名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 01:26:53 ID:PdegZfx4
終始2828してたわ!次回作にも超期待
146名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 02:21:01 ID:WaRaUiy0
できのいい竜虎エロは読んでると窓から飛び降りたくなるぜ
147名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 02:22:05 ID:nQYG2aMX
ふぁあ(´;ω;`)
色々なことに涙が出そうになるな
大河かぁちゃんの話あたりは、そういう一波乱はあっても変じゃないしな

なんか良い空気感を自然な感じで書けてる職人さんだけに、短編でいいからきすして3.5として
竜児が大河かぁちゃんに結婚したい報告するシーンをいつか書いて欲しいぜ
喜んだり泣くだけじゃなく、二人の想いは分かってるから違うのは分かってても
それは大河がまた一人になるからとかいう理由で決めた訳じゃないよね
と確認してしまうかぁちゃんとかあったら、マジで泣きそうになりそう
148名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 02:40:11 ID:Eu7fVput
シルバーウィークの恩恵か、良作が続いていて幸せ・・・

しかし何か違和感があると思ったらみのりんの出番が少ないんですな
あーみん派だからまあ良いけど少し寂しいw
149105:2009/09/24(木) 09:03:51 ID:Ny8xvTy3
補完書いてみてる。
上手く逝ったら今晩か週末にでも投下しようかな、と思います
150名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 12:21:10 ID:v4eRdITt
>>149
期待
151名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 18:14:31 ID:h7u5lnci
最近投下が少なくてかなり寂しかったんだが、
このスレになってからの流れは神がかってるな。
良作揃いで感謝感激だし昔の勢いが戻って来たか?
152名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 20:36:05 ID:8YJKoeCp
>>151
だね、途切れ無く作品が投下されてワクワクしちまうw
153名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 21:01:47 ID:nQYG2aMX
職人さんだって普通に書いてるんだから、集中して投下された後は
当然執筆中の時期も重なって、多少は投下がされなくなることも忘れちゃいけないよな
少し間あくと、過疎った過疎った言う人がいるけど、それが普通なんだよな(´・ω・`)
154名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 22:18:18 ID:ziSgIH2j
亜美ちゃん×竜児


亜美ちゃんを幸せにしてほしい
155名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 22:51:52 ID:+szankgq
>>154
言い出しっぺの法則ってのがあってだな…略

って、亜美もの投下してくれる書き手いくらかいるから期待しようぜ
後、自分でも書いてみては?
「幸せにしてほしい」って言うイメージを文章にするだけでSSになるよ。多分
156名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 00:01:56 ID:lNO38AeU
すまん、俺、
すみれ>大河>亜美>みのりん なんだ。
157名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 00:57:19 ID:Lu/Pa8h1
会長SSを書くんですね分かります
158名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 01:02:26 ID:gFEhHL5d
(´・ω・`)書いとるがな。

もちっとまってけろ
159名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 01:07:02 ID:Lu/Pa8h1
おおぅ
wktk
160名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 03:16:40 ID:OsYmd9v5
おぉう、活気あるなあ
うらやましい
161名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 03:29:02 ID:93kWycXF
待つで
162名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 10:53:34 ID:dHLGu9t9
独身を幸せにしてくれる猛者のすくなさに涙が
163名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 12:20:31 ID:XuLZYiId
そういや奈々子様には未だに「本番」までたどり着いているモノはありませんね
独身や麻耶すら竜児にヤラレることがあったのに、逆に「エロい」というキャラが立たされた奈々子様の方が鉄壁
これは何かの呪いかな
164名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 12:31:27 ID:HBt9K3nZ
奈々子様のエロネタの中てはクッキーの食べ方のエロさを描いた作品が一番エロかったw
165ちゅーして:2009/09/25(金) 12:44:33 ID:V5iEPy7t
きすしてさんとはカンケイございません。


「りゅーじ、先行ってるよ」
「おう。櫛枝も、帰るぞ」
「ZZzzzzz」
 午後にプールの授業があったその日、そこまでくたびれたのかとばかりに、みのりは爆睡していた。
「起きろって」
「たきゃひゅくーん、きてー」
 これは寝言。口からよだれ。
ーーー夢の中ーーー
「高須君、期末テストがぁ〜」
「つぎは数学、あと世界史」
「歴史、数学だよ。心配だぁ!」
ーーーー現実ーーー
「Zzz〜〜き〜〜すぅ〜〜、したぁ〜」
「へ? つか、寝ぼけてる?」
ーーーー夢ーーーー
「へ? つい、寝ぼけてた」
「高須君も注意しないと、追試だぞ」
ーーーー現ーーーー
「ZZZzzたきゃひゅくん〜ちゅ〜しないと〜〜つるすぞ〜〜」
「え、あ、吊るされるのは」
ーーーー夢ーーーー
「え、あ、追試は」
「隙だらけだな高須君。だめだぞそれじゃ」
ーーーー現ーーーー
「すきだ〜たきゃひゅ〜、Zzzだぃひゅめれ〜ZZZZzzzzz」
「あ、うん」
 きょろきょろ。教室はふたりだけだな、うん。
 と、高須は実は爆睡中の櫛枝の体を、かなり強引にだきしめ……
「……ちゅ@歓喜」
「ちゅ……え? あ、ちょっっと、心の準備がぁ〜」

「りゅーじ、いつまで・・・・・・・・・・ごゆっくりぃ!」

(続かない)
166名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 13:25:19 ID:93kWycXF
>>165
これは面白いwGJ
谷口大河ワロタ
167名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 16:46:50 ID:ScHqJzYg
大河空気読んだww
168名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 18:58:58 ID:4oghI+mg
>>164
俺もその作品で二次創作奈々子にハマったわw
169名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 20:43:21 ID:5HvEJa6p
最近雰囲気いいなぁ。空気がいいと飯まで旨いぜ、みたいな感じ?
シルバーウィーク効果なのか、はたまた読書の秋効果なのか
170名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 20:56:36 ID:93kWycXF
そういやそろそろとらドラアニメ一周年か、まだここまで活気があるのは嬉しいな
171名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 22:53:23 ID:nwOaf+0o
流れ切ってしまい、申し訳ないです。
次レスより投下させていただきます。

・題名:私の彼氏はおっぱい星人
・CP:竜児×奈々子
・エロ:微エロくらい?
・レス数:4レス
・方向性:バカップル(奈々子視点)

キャラの原作イメージが違うかもしれません。(特に竜児)
違和感を感じる方はスルーをお願いします。。。
172私の彼氏はおっぱい星人(1/4):2009/09/25(金) 22:55:11 ID:nwOaf+0o


竜児くんはおっぱい星人だ。

後ろから抱き付いてくるときは必ず胸に手が当たる。
エッチをするときにまず触ってくるのは胸。
揉んでこねてゆすって吸い付いて。
愛撫の時はもう執拗だ。

胸で挟むのも当たり前。
正常位のときも胸には必ず手をかけるし、
バックからのときも覆いかぶさって胸を揉むのは欠かさない。
射精するときはわざわざゴムを取って胸にかけるくらい。

そして終わった後のピロートークの時も、
どちらかの手を胸に当ててるのだ。

…そんなにいいのだろうか、私の胸は。



  〜〜 私の彼氏はおっぱい星人 〜〜



エッチが終わって、お互いお風呂に入ってサッパリして。
二人で寝巻きに着替えて布団に潜りこむ。

布団に入ると必ず竜児くんは私を抱き寄せてくる。
軽くキスをして、胸元に顔を埋めるのだ。
それが分かってる私はパジャマのボタンを少し開けておく。

胸に息が当たってくすぐったいし、スリスリしてくるからちょっと
イケない気分になりそうだが、それ以上にこの人が可愛くて。
子供みたいな彼を抱きしめて。頭を撫でて。頬を寄せる。

自分でもビックリするくらい、このおっぱい星人に順応してしまった。


***


最初はあまりのおっぱい星人っぷりに引き気味だったのだ。

胸が大きいことで、私は好色の視線を常に浴びてきた。
学校の男子や先生、通学途中のサラリーマン。
皆がギラギラした目で見てくるこの胸に、良い感情を抱いたことが無かった。

だから、竜児くんと初めてエッチをしたとき、私の胸への執着っぷりを
見て知って感じて、胸の大きさで私を選んだのでは、と考えたこともあった。
…竜児くんが私のことを大切に想ってくれているのはすぐに分かったが。

今はもう慣れを通り越して可愛らしく思うくらい。
亜美ちゃんによく「はいはいバカップルバカップル」と言われるが、
これを褒め言葉と受け取れるくらいこの人のことが愛おしい。

173私の彼氏はおっぱい星人(2/4):2009/09/25(金) 22:56:18 ID:nwOaf+0o


「どうしたんだ?」
ぼーっとそんなことを考えていたら、胸から顔を出した竜児くんが声をかけてきた。
「んー、竜児くんのおっぱい星人っぷりを考えてたの」
思い出しがてら、話を振ってみる。

「やっぱり泰子さんなのかしら?原因は」
「…長年あの胸と接してきたから慣れたと思ってたんだけどな」
居心地悪そうに頬をポリポリ掻く竜児くん。

幼いころはともかく、性に関心が出てくる多感な時期に、泰子さんの
アグレッシブなコミュニケーションは強烈だったらしい。
母親相手と抑えてきた衝動が、私の胸で開眼してしまったようで。

「自分でもこんなにおっぱいが好きだとは思わなかった…」
「私より大きい胸の女の子が居たら、竜児くんはそっちに惹かれそうね」
自分の魅力は胸だけという意識があるからか、少し自虐的にからかう。
が、
「…胸とか関係なく、奈々子より魅力的な子が居るわけないだろ」
私の目を見つめてこんな台詞をサラッと吐いてくるのだから、
言われた私にはたまったものではない。

「……もう。ずるいわ、そんなの」
顔が熱くなるのを感じる。
「もちろん奈々子のおっぱいも好きムグッ…」
胸を撫で回しながらまだ何か言おうとする
おっぱい星人の頭を抱え、照れ隠しのキスをする。

我ながら現金なものだ。コンプレックスの象徴だった胸も含めて、
竜児くんにほめられただけで誇れる気分になるのだから。
そんな彼だから、自分の全てを預けられる。甘えられる。
そして預けてほしい。甘えてほしい。

「竜児くん…」
「…ん?」

モゾモゾと抱えられた胸から顔を出し、私を見つめる。
その視線も、感じる体温も心地よい。
心の内から溢れるこの想いを形にしたい。届けたい。
そんな衝動が私を突き動かす。

「…私、竜児くんが好き」
「……おう」

174私の彼氏はおっぱい星人(3/4):2009/09/25(金) 22:58:12 ID:nwOaf+0o


「少し癖があるけど柔らかい髪が好き」
「笑うときの優しい口元が好き」
「私の髪をゆっくり撫でてくれる手が好き」
「ご飯とか歩くときも私にペースを合わせてくれる気遣いが好き」
「甘えんぼな私を包み込んでくれる竜児くんが、好き」

「…大好き」

私が言葉を紡ぐたび、竜児くんの顔がどんどん赤くなっていく。
そんな彼がたまらなく愛おしくて、またギュッと抱きしめキスをする。
くすぐったそうに、でも赤らめた顔を隠すことなく竜児くんが語りかけてくる。

「…俺も、奈々子が好きだ」
「……うん」

私の髪を撫でながら。
「しっとりしてて撫でやすいこの髪が好きだ」
私の口元のほくろを撫でながら。
「笑ったときのこのほくろが可愛くて好きだ」
私の手を撫でながら。
「俺が料理してるとき、下拵えとか手伝ってくれる気遣いも好きだ」
私を抱きしめながら。
「甘えんぼな俺を包み込んでくれる奈々子が、好きだ」

「…大好きだ」

吸い寄せられるように、キス。何度しても痺れるよう。
キスをして、頬をすり合わせて、唇を指で撫でて。
そしてまた額をあわせてキスをする。

そんな甘いひとときでも胸から手が離れないのは、
さすがと思うべきなのだろうか。

抱きしめて、抱きしめられながら、この愛すべき
おっぱい星人との抱擁が解けないよう腕に力を入れる。

175私の彼氏はおっぱい星人(4/4):2009/09/25(金) 23:05:20 ID:nwOaf+0o


「…奈々子のおっぱい触るのも好きだけど、
 こうして抱きしめるのが一番好きだ。
 奈々子の匂いが感じられる。
 奈々子の体温が感じられる。
 奈々子のおっぱいを体全体で感じられる…」
「…うん。いいよ、いっぱい感じて。竜児くんが私の胸を触るほど、
 私も竜児くんをいっぱい感じられるんだから…」

そう。
胸を触られるのは好き。
竜児くんを胸いっぱいに感じられる一番の手段だもの。
もっとたくさん触ってほしい。

私も、竜児くんを胸でメロメロにしたおっぱい星人、なんだろうか…。
そんな馬鹿なことも考えてしまうくらい、高須竜児にハマっている。
離れられない。

「…奈々子」
「……んっ」

竜児くんは体で私を。
私は胸で竜児くんを。

お互いに感じながら、また唇を合わせた。



〜〜 終 〜〜






「そういえば、さっきのいっぱい『好き』って言ってくれた中で
 胸のことに言及しなかったのはビックリね」
「…奈々子のおっぱいの偉大さは、一晩かかっても語りつくせないからな」
「……もう、バカ」

176名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 23:07:31 ID:nwOaf+0o
どうも駄文失礼しました。

ななこい読んで、奈々子様にやられました。
ラブラブイチャイチャなものが読みたい衝動に駆られたので、
ならば自分で書いてしまえ、と突っ走ってしまい。
初SSなので感想指摘ツッコミがあればお願いします。

またネタが浮かんだら書くことがあるかも。
当然奈々子様ネタでしょうが。

でわでわ。
177名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 23:17:11 ID:93kWycXF
これはGJ!最近奈々子分不足してたからたまらんww
奈々子物はいろいろあるもののここまでラブラブイチャイチャなのは少ない気がw
次回作も期待・・!
178名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 23:21:26 ID:HBt9K3nZ
GJ
超GJ

奈々子様はええのう
179名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 23:26:17 ID:urD3Ofil
GJ!
あまーい感じがいい!
これで初SSとは・・・
楽しみが増えるなあ
180名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 23:38:31 ID:7DmPgCM1
GJ!
次回作も期待してます♪
181名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 23:55:00 ID:gFEhHL5d
(゚д゚)あま〜〜
182名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 00:14:13 ID:lMejI4mM
>>176
GJ。事後シチュはいいなあ。
奈々子様はやわらかそうだな。
183名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 00:32:46 ID:i3rmIlOc
いいね奈々子さまいいね!これは次回作も期待せざるを得ない!
184名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 00:42:52 ID:lMejI4mM
>>176
終わりの後の4行が後を引いていい感じでした。
185名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 01:50:02 ID:1orzMjX/
奈々子様大人気www
186105:2009/09/26(土) 02:06:17 ID:EwLLC+N+
深夜にこっそりと投下

>102-105 の補完ストーリーです
こっちのが長くなっちまいましたが
187夏休みに/補完1:2009/09/26(土) 02:09:21 ID:EwLLC+N+
 赤い夕日が照りつける黄昏時、涼しくなったところで竜児は買い出しに出た。
 祖父という後ろ盾が出来たとはいえ、基本的に泰子と二人で暮らしてる事にはかわりなく、勉強の合間に食事や家事をこなしていた。
 河原の道で、春田とばったり出くわした。なにやら重そうな鞄を手に、家に帰る所のようだった。 
「おう、こんな時間に奇遇だな」
「竜児はあいかわらず。あ、そうだ、聞いてくれよ」
 春田は、挨拶だけで済まそうとした竜児を捉まえ、話しかけた。
「さっき、学校の図書室で勉強したたんだ」
「へえ、熱心だな。お盆だったのに。つーか良くあいてたな」
「それはいいんだってば。その図書館の窓から外を見たら、会長がいたんだよ、会長が」
「北村が? まあ、学校にはよく出てるから」
「ちがう、ちがう。狩野の兄貴のほうだって。もう、びっくりしてさ、思わず北村に電話しちまった」
「はあ……。謝っとけよ、北村に。それが本人なら辛いだろうし、未間違いだったらなおのことだぞ」
「あ、うん。あとで後悔した。話してる途中でブチッて切られてさ、怒らせちまったよ、きっと」
「ショウガネエなあ。謝っとけよ、マジで」
 竜児はそれだけ言うと、目的のスーパーへ急いだ。タイムセールまで時間が無い。
188夏休みに/補完2:2009/09/26(土) 02:10:45 ID:EwLLC+N+
 一人の少年が街を駆け抜けて行く。そうとう鍛えているのか、夜でもクソ暑いこの季節だというのに、表情には余裕があった。
 駅前通りの過度を曲がり、かのうやへ向かう。
 その店から通り一本手前で、少女、いや大人のレディへの階段を上りつつある、黒髪の女性が待っていた。
「ふっ、本当に来やがったな」
「もちろんです」
「聞いたぞ、失恋大明神だってな」
「あなたのせいですよ」
「ちがいない」
 久々に顔を合わせた二人は、互いの成長ぶりをすぐに感じとったが、それはおくびにも出さない。それこそが、成長の証なのかもしれないが。
「えっと、せっかくですから、少し街を歩きましょう。あまり変わってはいませんが」
 祐作は行く先も考えずにゆっくり歩き出した。
 足が向いた先は、自然と学校の方。この先の公園を突っ切ると近道なのは、二人とも良く知っている。
「遅刻しそうだと、よくここを突っ切ったものさ」
 すみれは、公園の砂利道を踏みしめながら言った。
「あれ? 遅刻しそうになったことなんか、あるんですか」
「ははっ、余計なお世話だ。ところで北村」
 なにかに聞き耳を立てるようにして、すみれはふと立ち止まった。
「ひとり、ふたり……五人ってとこか」
 物陰から、ガラの悪そうな男たちがのっそりと現れた。
「金持ちそうな姉ちゃんだな。だまって置いて行きな」
「それより、僕らとあそばな〜い?」
 絵に描いたようなチンピラだった。
 すみれはめんどくさそうに「まあ、金持ちではあるが、貴様らにやるカネはないぞ」と苦笑してみせた。
「痛い目にあいてえか?」
 キラリ。正面の男が刃物を出す。
 祐作が「危ない!」と叫ぶのと、「なんだ、害虫か」というすみれのつぶやきが同時に出た。
 直後、瞬時に間を詰めたすみれの手が、ナイフ男の手首を掴んでいた。
「遊んでほしいのか?」
 悲鳴、そして一回転の後、背中から落下。さらに一歩踏み出し、取り落としたナイフを砂利の上から踏みつけ、くの字にひしゃげさせた。
「へぼナイフだな。良いナイフなら、折れるはずだ」
「クソ、なめやがって!」
 一斉に襲いかかる男たち。
 その隙間を軽くステップ二つで通り過ぎ、一人を当て身で転ばせたところで、ふいに左手が優しく掴まれた。
「だめっすよ、こんなところで」
「まあ、そうだな」
 同じくやすやすとチンピラの手をかいくぐった祐作が、そのまま手を引いて、公園の外に走った。通りを二つ曲がったところで、一度ふりむく。
「良かった、追ってこない。しかし驚いた、止めなきゃ警察ざたですよ、あれ」 
「あれから、少しは強くなったからな。二度と醜態はさらしたくない」 
「醜態なら、俺のが、ね。もう、だめですよ。あなたにはでっかい将来があるんですから」
「……すまない」
 二人はもう一度振り向き、学校に向かって歩き出した。
 通りは公園よりずっと明るい。今度は安心して歩けそうだ。
189夏休みに/補完3:2009/09/26(土) 02:11:47 ID:EwLLC+N+
 竜児はタイムセールでほくほく顔になりながら、袋を抱えて帰り道を歩いていた。
「ここらは、最近物騒だっけな」
 といいつつ、公園に沿った道を歩いて行く。なんだかんだで、手頃なコースだ。
 その公園から「なめるなやがって!」と言う声と、どさっと地面に重いものが落ちる音が聞こえた。
「ヤベ。さっさと行っちまおう」
 すこし足を速める。
 そしてちょうど入り口のあたりで、何者かがぶつかって来た。
 ぐちゃ。
 ああ、せっかくのスイカが。
「何しやがる!!」
 竜児は思わず声を上げ、睨むようにふたりを見た。
「す、す、すんません!」
「ごご、ごめんなさいっ!」
 転げるように走り去る男たち。
 なんてこった、また怖がられてしまったじゃないか。

 日が暮れた時間、それもお盆だ。
 せっかくすみれと見に来た学校は、当然人気がない。門も、閉ざされてる。
「校舎の無事が確認出来ただけで、良しとするか」
 すみれは苦笑してみせた。
 その苦笑の中には、今日ここに来るのは二度目という事も入っていた。が、それは言わない事にして、自分の左手に目をやった。
「それに、満足したみたいだしな」
「へ?」
「貴様、ずっと手を握ったままだぞ」
 手を引いた公園から飛び出してから、ずっと握りっぱなしなのに、祐作は今更気がついた。
「あ、いや、すみませんっ!」
「バカ、謝るな。嫌だったら、とっくに捻り倒してるぞ」
「あ、あはは……そうだ、せっかくだから、生徒会室まで」
「不法侵入か? 悪くない」
「いや、そんな事はしませんって」
 おもむろに携帯を取り出し、どこかに繋ぐ。すぐに、当直の守衛が出て来て、門を開けてくれた。
「おっと、狩野さんじゃないですか。久しぶりに見て言ってください。ちゃんとみんなで手入れしてますよ」
 会長と元会長。
 極めつけの信用が服を着て現れたようなものだった。
「ありがとう。ちょっと見学して行くよ」
190夏休みに/補完4:2009/09/26(土) 02:12:54 ID:EwLLC+N+
「お? 誰か忘れ物かな」
 ちょっとしたソフト部の活動を終えた実乃梨が振り向くと、人気がないはずの校舎に明かりが見えた。
「あの部屋は、たしか生徒会室。熱心だね」
 祐作が快調になってからは、いや、先代の狩野の頃からの生徒会は、凄まじいというべき活発さで動いていた。実乃梨としては、またまた頑張っちゃってる、と心の中で笑みを浮かべるだけだった。
 そして、歩くのを再開。
 駅の近くの公園前に、見慣れた人影を見つけた。
「高須君?」
「おお、櫛枝。今日もソフト部か。お盆なのに大変だな」
「なーに、好きでやってるからね。で、どした? 浮かない顔で」
「奮発して買ったスイカが、通りすがりの体当たりで、まっぷたつだ」
 竜児は、買ったばかりで食べられないスイカを、途方に暮れて眺めていた。
「ほらほら、眺めてたって、スイカはくっつかないぞ」
「そらそうだけどさ」
「人間だったら、別れ別れになってても、またくっつけるんだろうけどね」
「なんだ、急に」
「さっき、こんな時間なのに生徒会室に明かりがついてたんだ。さっきは思いつかなかったけど、まさかー」
「それは、ないだろ……ん?」
 携帯にメールの着信。開いてみると大河からだった。
「相変わらずだね。君たちの仲は、転んだくらいじゃ割れなさそうだ」
「ばらばら、だけどな」
「ちゃんとくっついてるよ、うんうん。それじゃ、また。諦めて、ちゃんと片付けるんだぞ」
「おう」
 竜児は仕方なく割れスイカのカケラを袋に集め、不本意ながら公園のゴミ箱にでも捨てる事にした。
「仕方ない、代わりにアイスでも買うか」
191夏休みに/補完5:2009/09/26(土) 02:14:33 ID:EwLLC+N+

「会長は貴様だろうが。現会長、進路に迷ってるそうだな」
「あ、はい……」
「なんだその言い草は。欲しいものは無いのか? 手に入れたいものは? わたしは、欲しければ自分の力で取り行くぞ」
 窓枠に座り、自分より背の高い祐作を、見下ろすように圧する。
「たとえ遠くても、欲しいものに向かって行く事はできるはずだ」
「でも、あなたのようには……」
「では、それまでだ。どうした、取りに来ないのか」
 すみれは、わざと「行かない」ではなく「来ない」という言葉を使った。祐作が何を悩んでいるのか、とっくに確信していたからだ。
「What's on earth are you doing here?」
「えっ??」
「いったいここで何をしてるんだ、と聞いたんだ。ありふれた言い回しだが、教科書には載ってないかもな。世界は広いぞ」
 首を回し、星を見上げる。すみれの心は、もうその星空にあるかのように。
192夏休みに/補完6:2009/09/26(土) 02:15:51 ID:EwLLC+N+
「す、すみません」
「ああ。やはり、貴様にとってわたしは憧れでしかなかったのと思うと残念だ。もし、対等の関係になれれば、今度こそは本気で……いや、なんでもない」
 見上げながら、背中でかたるすみれ。その背中に、祐作はそっと手をかけた。
 息をのみ、なんとか一言だけ言葉を紡いで行く。
「I love you」
「I know」
 短い会話。
 旧い映画の中、星の彼方でかわされた言葉。
「てな、祐作。氷漬けは困る」
 この日、すみれははじめて祐作を名前で呼んだ。
「できれば、温めたいです」
 勇気を絞り、抱きしめる。空気は暑い。体は温かい。温め合って、暑くなって行く。
「好きに、していいぞ」
 すみれは、窓から降りて体を預けた。
「ほら、遠慮するな。欲しいものは、捉まえろ。捉まえたら、はなすな」
「……すみれ!」
 祐作は、この日はじめてすみれを名前で呼んだ。
「いい感じだ。これで、一応対等……んっ」
 何も言わず、すみれの口を自分の口で塞ぐ祐作。
 欲しいものが、その手の中にある。もうはなしたくない、はなさない。
 体が離れてても、繋がっていられるはずだ。そう、あの竜と虎のように。そう祐作は思う。
 そんな脳の活動とは別に、祐作の野生はすみれをさらに求めていた。
 気がつけば、二人だけ校舎の床に、すみれを押し倒していた。
 質素だが高価な服を慣れない手つきで半ば強引に脱がせ、愛撫する手でつけられた事が無い染みを下着に滲ませて行く。自分の「男」は、もうあり得ない大きさと硬さになっている気がした。
「……遠慮するな」
 すみれが腕の中で小さく言った。
 その口が、再び相手の口で塞がれる。
 鍛えられた両腕は、しっかりその体を抱え、そして……
「うぐっ」
 下半身に熱いモノを感じる。
 祐作は、お互い始めてという事など放置して、野生のまま動き、突いた。
(激痛? 苦痛? 否、快楽――なのか、これが)
 痛みと喜びが、すみれの心を溶かして行く。
「うっ、うあっ、あ、あっ、ああっ」
 苦悶に近い声が、だんだんオンナとしての喘ぎに。
 さらに堕ちて行く――。
 全てを、愛しいこのバカモノに預けて。
193夏休みに/補完7:2009/09/26(土) 02:18:09 ID:EwLLC+N+
「すみれ、さん」
 街を歩きながら、祐作が言った。
 その右腕にぶら下がるように腕を組んだすみれが、すこしおかしな歩き方をしながら笑みを浮かべている。
「だから、すみれと呼べと。あっちじゃそれが普通だ」
「Yes、すみれ」
「うん、それでいい。しかし、今日は思わぬ醜態をさらしてしまったな」
「でも、おかげで心は決まりました」
「そうか、良かった」
 何が決まったのか。そんなことは言う必要が無かった。
「明日の飛行機で帰るから、祐作ともう少し、一緒にいたい」
「それじゃ、スドバでも。閉店まで、まだ暫くあるから」
「そうしよう」
 通りの先に、見慣れたコーヒースタンド。
 アイスの入ったかのうやの袋を持った、目つきの悪い男がすれ違ったことに、二人は気がつかなかった。 



以上です。
思いのほか、長くなっちまいました。慣れない長文で、視点とかごちゃついてたりするかもしれないですが、どうかご容赦のほどを。
そしておつき合いいただいたかた、ありがとうございます。
194夏休みに/補完7@捕捉:2009/09/26(土) 02:23:45 ID:EwLLC+N+
いかん、寝ぼけてる

>190と>191の間に一部入れ忘れたorz


「待ってくださーい」
 校舎に入るなり、すみれは祐作を置いてさっさと歩いて行った。行き先は、あのあ懐かしい生徒会室。
「何を言ってる。しっかりついてこい」
 明かりをつけ、窓を開ける。
 そして校庭を背にして、仁王立ちになった。
「ついてこれないなら、ここで終わりだ。帰れ」
 仁王立ちになりながらも、すみれの目線は正面は向いていなかった。
「か、会長!?」



お騒がせしますた
195名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 03:20:56 ID:CvDuFVL7
乙w
もう少し落ち着いて投下しようw
しかし、生徒会室Hとは……やるな
極めつけの信用台無し!

次回も楽しみに待ってます!遅くまでお疲れ様でした!
196名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 09:56:35 ID:1orzMjX/
歩く信用も服を脱ぐことがあるのさ
197名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 12:26:49 ID:lSgQ8WL5
>>193
ネタ自体は凄く良かった。次回作期待!
だからこそ次回はしっかり読み直ししてね〜。
やっぱバカ春田は「高っちゃ〜〜ん」の方が良いと思う。
198 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:38:25 ID:FpS5vfVX
皆さんこんにちは。
流れを切ってしますが[キミの瞳に恋してる]の続きが書けたので投下させて頂きます。
前回の感想を下さった方々。まとめて下さった管理人さんありがとうございます。
前回の名称間違いの御指摘ありがとうございました。今回、修正しました。
※麻耶視点、エロはまだありません、キャラ設定を曲解しています。
苦手な方はスルーしてやってください。
では次レスから投下させて貰います。
199 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:39:03 ID:FpS5vfVX
[キミの瞳に恋してる(4)]

「く、くく櫛枝ぁっ!?」
ジョニーズの店内に入ってすぐ、能登が驚いた声でそう言った。
え…マジ? く、櫛枝?
足元を見ていた視線をゆっくり上げると、そこには確かに彼女が居た。
驚いた表情でポカンと口を開けて……私達を見ていた。
何故、櫛枝があっけに取られているのかは解る。
昨日まで私と能登は絶交状態だった、なのに今日になって二人一緒に仲良く手を繋いでいる、そして顔は真っ赤、照れまくり。
それの意味を理解出来ていないのだ、急過ぎて…。
「あ…う……あのあの…」
何か言おうとしても舌がもつれて言葉にならない、私はあたふたするしか出来ない。
ジェスチャーで伝えようとして、動いたのは能登と繋いだ右手、見せつけるように前面に突出してしまう。
ヤバい! そう思った時には、櫛枝の視線は私達の手に向けられていて…手遅れだった。
「あー…、あ! では、お席までご案内しますね!」
営業スマイルではない満面の笑みで櫛枝がニッコリ微笑み、私達の先を進む。
「ね、ねぇ櫛枝ぁ! これには深い訳があって…!」
我に帰った私は弁解を試みる、妙な噂をされたら……あ、それはそれで…。


200 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:39:42 ID:FpS5vfVX
「……麻耶ちゃんっ! 能登くんっ!」
私の呼掛けに櫛枝が止まり大きな声でそう言う、続いて振り返りグッと親指を立てて頷く。
『全部言わなくて良いさ、私は解ってる…おめでとう!』
と、櫛枝の表情は伝えてきた…、もう何を言っても聞かないんだろうなこの娘は…、今はバイトの邪魔しちゃ駄目だし。
…! うんうん! そうだ邪魔しちゃいけない、能登と"仲良さそうに"居るのを見られてクラスで噂されちゃったり?
うーん、仕方無いなぁ見られたしぃ? いちいち"弁解"してたらバイトの邪魔、仕方無い仕方無い。
私はこの事を既成事実として利用するという考えを思い付く。
『能登と木原は付き合ってる、この前のは痴話喧嘩か?』
事実と異なるが、こんな風に噂されれば私の追い風になる。
だって言えるじゃん能登に…
『じゃあ、私達…本当に付き合っちゃおうか?』
とか自然に言える、自分の勘定に入れて考えたらいけないだろうけど……私は本気だから。
本気だからこそなりふり構ってなんかいられない、朝からずっと…そうだもん。
能登に『木原麻耶』をアピールしてる、ほんの少し勇気を出して積極的に。


201 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:40:32 ID:FpS5vfVX
私の行動が能登から不自然に思われてるのは見るからに明らか、でも素直にならなきゃ…気付かれない。
これは私なりに考えた、ギリギリ…なるべく不自然にならないように、かつ、自分の気持ちを確実に伝える作戦。
「じゃっ御注文が決まりましたら、そちらのボタンを押してお呼びください…またねっ!」
名残惜しいけど彼から手を離し、案内された席に相対して座り、私は経過の再確認をする。

幸い強引なわりには引かれてはいない、思ってたよりアイツには嫌われてなかった、
むしろ好意すら抱いて貰えてるんじゃないか、と…思える場面もあった。
能登に『手を繋ぐのはイヤ?』って聞いたら
『ん、他のヤツは知らないけど、俺は……こういうの……嬉しい、よ。き、木原とだからか、な?』
なんて言われて…飛び上がるくらい嬉しかった。思わず握った手に力が入ってしまうくらい。
だけど希望的観測は捨てる、この場合は…。
いくら何でも能登が私の事を好きなわけない…まだ。好意というのは『女子』としてではなく『トモダチ』としてだと思うから。
『Like』を『Love』にさせるのは私の頑張りに掛かっている、ちょっぴりなら大胆な事をする覚悟もある。


202 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:41:10 ID:FpS5vfVX
それの触りとして私は能登に、手を繋いで、とお願いした、買ったきりで開けていないミルクティーの缶も次段階の道具なのだ。
私が一晩掛けて考えた『Like』を『Love』にする方法…それは…………
「あ、と、とりあえずさメニューを決めよう、なっ? 櫛枝には俺から説明しとくから気にするなよ」
…と、再確認はここまで、今は能登との会話に集中しよう。
「うん、あのさ能登…やっぱり櫛枝って"誤解"しちゃったかなぁ…?」
私は能登の言葉を聞いて問い掛けてみる、これは現状での彼の反応を確認する為。
目付き、言動、仕草、それらの情報から彼が『誤解』をどう捉えているのかを読み取る。
「ん、誤解…されたよな、あの感じは。俺等の関係を誤解してる、絶対に」
僅かに目が泳いでいるのは、動揺しているから。
『誤解』と二回言ったのは強調したいから。
頬を人差し指で掻くのは照れているから。
私が見た感じでは、そんな所かな…絶対ではないけどね。
だが、肝心の真意はサッパリ解らない、読み取れない。
まあ顔をしかめたりしてないから悪い感じじゃない…かな?
「だよね、うん誤解されてる、私が説明しとくよ、私のせいだし」


203 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:42:25 ID:FpS5vfVX
説明…か、櫛枝は部活にバイトに『忙しい』からね。いつになるかは解らないけど。
私はメニュー表を取って机の上に広げる。
「能登は何も心配しなくていいから、ん…何にしようかなー」
そう言いながら私はメニューに目を向ける。
時間を掛けて想いを伝える、そしてもっとも近道で能登に私を『意識』させる、そのために必要なのは大胆な行動。
「うーん、ミックスサンドとサラダにしよう、能登は何にするか決めた?」
と…言っても、私は能登と視線を合わせたり、手に触れたり…それで照れるくらいシャイで…臆病で。
どこまで踏み込めば良いのか不安で、なかなか思うようには動けない。
だから能登に『協力』してと伝えて、了承して貰い…大義名文を得た。
『男の子の気持ちを知る為』なんて言い訳して能登に自分の魅力を最大限アピールするつもり、弱虫で不器用だから…。
ダウンジャケットを脱いで席の端に置き、メニューを選ぶ能登を見詰める。
「ミックスグリルのライスセット、あとドリバー、で良いかな」
そう能登が呟いて呼び出しボタンを押す。
お昼時より少し前なのでまだ他の客は少ない、だからか三十秒も掛からずに櫛枝が飛んで来た。


204 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:43:22 ID:FpS5vfVX
「…ミックスサンドとグリーンサラダ、ミックスグリルのライスセットにドリンクバーですね」
彼女は注文を聞き、少し思案顔になる…そして何かを思い付いたようでペコリとお辞儀して席を離れていった。
何だろう妙な胸騒ぎが…。
「そういえば、木原は手を繋いでみて何か解った? …参考になった?」
能登が私の顔をチラリチラリと伺いながら問い掛けてくる。
「あ…、えっと、男の子の手って……おっきくてポカポカしてる、な……って、む…胸がドキドキするっていうか…ありがとう」
私はさっきまでの暖かく包まれる手の感触を思い出して、赤面して『感想』を紡ぐ。
『能登の手は』と言えないのがもどかしい、言ってしまいたい、けど…我慢。
言うのは簡単、でも言い過ぎると…不自然。ここぞって時に言わないと…だよ。
「そ、そう? 役に立てたなら良かった…ははっ、ドリバー行ってくるわ」
能登の目が泳いで、パッと私から顔を背けて席を立つ…。
ちょっとだけ…胸がチクッとした、素っ気無い…もん。
『そんな意味で言ったんじゃない』
みたいな感じ…。あれかな……やっぱり急ぎ過ぎたのかなぁ…。


205 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:43:58 ID:FpS5vfVX
私の気持ちだけが空回りして焦ってるのかな…、能登を置いてきぼりにしてる?
でも、でも…私にはこうするしか無いんだもん。
「……ちゃん、麻……ん。おーい麻耶ちゃーん」
「へ?」
そんな考えを巡らせていたら耳に届く私を呼ぶ声、慌てて声のした方向に顔を向けると櫛枝の顔が。
「ちょっ! え、近っ! てかいつから居たの!?」
ビックリした、私の鼻先20センチ足らずの場所に彼女の顔があったから…。
「ん、ほんの少し前からだよん、にひひ……ところで麻耶ちゃんも隅に置けんのぉ?」
ニヤニヤ笑いつつ、小声で彼女がそう言う。
ちなみに私は結構、櫛枝とは仲が良い。修学旅行でガールズトークした時にウマが合って、
今では昼のお弁当をたまにだが一緒に食べるまで進展している。タイガーのオマケつきで…。
「は…、いやいや何がよ、てか櫛枝はバイト中じゃん! こんな所で話してていいの、怒られるよ?」
「ふっ…大丈夫、今は昼前の空白時間、二三分空けても問題ナッシング!
それよか、見せつけてくれるねぇ? 能登くんと仲直りしてイチャつきおってからにぃ…いつの間に?」
辺りをチラチラ伺いつつ、私の耳元で彼女が問う。


206 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:44:31 ID:FpS5vfVX
「イ、イチャついて…なんか! うぅ…な、仲直りしたのはマジですけど、私達はまだ…そんな…あぅ"一日目だしぃ"
じ、じゃなくてぇ!」
彼女の言った事に内心ガッツポーズしつつ、私は否定とも肯定ともいえない事を口走ってしまう。咄嗟に…。
羞恥と照れが私を支配し、勝手に頬を赤く染めさせて両手の人差し指をつつきあってみたりして…。
「初のう、初のう…ところでお嬢さん、凄くお困りの様子だ。この櫛枝実乃梨がアドバイスしてさしあげよう」
と言う彼女、アドバイス…って。
「能登くんは鈍感っぽいよね、だからさ…
ちゅーの一つや二つでもぶちゅっとしちゃいなよ。
それくらいしないとヤツは気付きませんぜ?」
囁かれた事が理解出来ず私は思考が停止してしまう。櫛枝の見当違い、それでいて鋭い言葉…それは私を混乱させるのに充分だった。
「ち、ちちちち、ちゅー!?」
『ちゅー』つまりは『キス』その単語を聞いて私は体温が一気に上昇する。心臓がドキドキ、いやバクバク…かな。
いくら何でもそれは早過ぎる! い、いや……そりゃあ能登がしたいなら私はしても……違う違う! 何でもうする事が前提なわけぇ!?


207 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:45:06 ID:FpS5vfVX
落ち着け私っ! したいけど、まだその段階じゃないし! まずは仲良くならないと…うぅ能登に誤解される!
「おうよおうよ。ちゅーですよ、へっへっへ……じょーだんだよ。軽くマイケルジョーダン。
ん…それくらいの覚悟がないと好きな人ってすぐに自分をすり抜けていくのさ、幽霊みたいに」
フッと自嘲気味な溜息をした後、彼女の声色が変わった。
「気付いた時には手遅れ、素直になりたくてもなれない、自棄になって誤魔化すと見て欲しくても見てくれなくなる。
ずっと見ててくれたのに……プイッてそっぽを向いちゃう」
辛そうで、泣き笑いみたいで、真剣に。そんな複雑な表情の彼女が続ける。
「お節介だ、私が口出しする事じゃないけど、麻耶ちゃんには後悔して欲しくないかな…って思って、ごめん」
「櫛枝…」
ペコリと頭を下げて、彼女は何かを堪えたように微笑む。ああ、もしかしたら…なんだけど、みんな気付いているのかな。
私が本当はアイツを好きな事…、奈々子も亜美ちゃんも櫛枝も……みんなの言う事って意味が全部同じだもん。
『素直になれ』
「好き勝手な事を言ったお詫びにコレをあげる、何かの役に立つかも…お店で使っちゃ駄目だけどね」


208 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:46:10 ID:FpS5vfVX
彼女が私に手渡してくれたのはビニールで包装された……これはストローだ。
ただし普通の形はしてない、二本のストローが中間で交差していて『ある形』を成している。
これって本当にあったんだ、てか何処で売ってるの…みたいな。
うん、これはどう見たって『ハート』の形になったストロー。
「ちょ…ねぇ、コレって、うーん…あはは…、マジ?」
何で櫛枝が持っているんだろう? 素朴な疑問だった。
「あーみんと高須くんが来たら、コレを使っちゃろうかなと思って、安心してあと二本あるから」
胸騒ぎの原因、それは…これだったのだろう。ちょっと拍子抜けした。
「で、でも…これ恥かしい、能登が嫌がるかも…」
率直な感想を言ったまで、流石にベタだろう、何より…いつ使えと? 使用するシチュ…なんて、まだ先だろうし。
「ヒント。使い方は色々…ってとこ。あ、それとコレを……」
周囲を警戒しつつ素早く彼女が私の手に紙切れを握らせる。見てみるとドリンクバーのタダ券が二枚。
「お水とお絞りを出すのが遅れたお詫びだ、他の客には内緒だぜぇ? こっそり使いな〜、注文はこっちでしとくから」


209 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:46:59 ID:FpS5vfVX
見てみると、テーブルの上には水の入ったコップとお絞りが二つ置かれていた。いつの間に…。
「あ、ありがとう。ぅ、私…私…頑張る!」
そう言ったのは事実上の肯定、恐らく私の気持ちは櫛枝にバレてる。
なら隠しても無駄、私は決意を秘めた瞳と共に頷き返す。
「おぅおぅ、よし…時は満ちたり、ここは今から戦場になる。アルバイト戦士は行かねばならんのだよ」
彼女はそう言うとトレイをヒラヒラ振り、踵を返して行ってしまう。
解った、うん…私、解ったよ櫛枝が言いたかった事。私は『詰む一歩手前』だと言いたいんだ。
巻き返せるのは今しか無い、手加減するな、って事。多少考えを改めよう、後悔しないように。
悠長な方法は止める。最短距離でアイツに私を意識させ想いを告げる、どんな方法を使っても……そういう事だよね櫛枝っ!!
彼女の言った意味を履き違えてるかも、私の思い込み、だの、誤解だの……躊躇するような『甘え』は捨てる。
私がそう信じて勇気を貰った…それでいい、それだけで充分!!

スカートをギュッと握り締めて目の前を睨む。
『最短距離』で『意識』させてやる、その方法は一つしかない。


210 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:47:58 ID:FpS5vfVX
それは大胆で、背伸びしてて、告白と同等…もしかしたら更に勇気と決意が無いと出来ない事。
今日、明日に出来るわけじゃない、来週…来週の週末に実行しよう。それまでに下地を作る、今この瞬間から…。
能登が戻って来た、オレンジジュースをストローで飲みつつ外を見ている。その横顔を私は盗み見る、一回、二回…。
放心したような、何かを考えているのか、何とも言えない表情だ…、そんな彼を見ていると全身が燃えるように熱くなる、羞恥で。
私が考えていた事、それを能登にしたら…どんな風に思われるだろう、軽蔑されるかな? それとも異性として見てくれるようになるかな?
…ギリギリの一線を半歩越えるような行為。『ソレ』をするのは私達の関係的には間違っている、重々に承知している。
『迷ってらんないから』
……それくらい『好き』だって解って欲しい、能登を引き寄せたいもん。
櫛枝の言っていた事より、もっと効果のある事をしてあげる。
「ん…どうしたの? そんなに見て、さ」
私が紅潮しながら見ている事に気付いた能登が、そう語りかける。
「べっ、別に! 私もドリバー!」
私は勢い良く席を立って、彼から顔を逸す。恥かしい…。


211 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:48:44 ID:FpS5vfVX
...
..
.
「どうしようね、これから」
元気いっぱいな櫛枝の『ありがとうございましたーっ!』を背に受けて私達はジョニーズを後にする。
「そりゃあ、相談の続きがあるなら…、………また公園?」
「同じ場所もあれじゃねぇ? 河川敷は…どう?」
なんて提案してみる、それは次段階の為に。
近場に飲み物の自販機やコンビニが無い、その状況じゃないとダメなんだ。
「りょーかい、じゃあ止まってるのもなんだし行こうか」
今度は手を繋がない、出来ない。ご飯を食べている時に…思わず言っちゃったから。
『大体、どんな感じか解った』
なんて…。するとアイツが…
『そう? うん、ならもう大丈夫だよな』
と返して引っ込みがつかなくなった、頷いてしまった。
しまったと思ったけど、もう一回なんて言えない。
私のマヌケっぷりを嘆いていたら、何故か能登も頭を抱えてうなだれていた。
……アイツも実は手が繋ぎたかった? …………ないない、そんな私にとって都合の良い事は起こらない。
『木原も俺なんかと手を繋いだら恥かしいっしょ』
バカ能登……。
私はそっぽを向いて答えない、不機嫌なふりをして困らせてみた、ちょっと傷付いたし。


212 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:49:54 ID:FpS5vfVX
並んでテクテクと歩く私達の間には30センチの距離が開いている、まだ詰めれない短くて長い、近くて遠い…30センチ。
ジャケットのポケットに手を突っ込んで歩く彼と話す話題を探す、能登の事を知りたいから…。
ダウンジャケットのポケットの中には、ミルクティーの缶と櫛枝がくれたストロー、財布に携帯。
触ってみてもネタになる物は無い、辺りを見渡しても………あ、コレだ。
私と能登って背丈があまり変わらないんだ、でも、ほんの少し…気持ち…5センチくらい彼の方が高い。
だから見上げるなんてのは大袈裟で、本当は視線を合わせようとしたら…上目遣いになっちゃう。
でも座ると…その差が10センチになって、顔を上げないと…目が合わなくなる。
確か、去年の春先には立っている時の目線が同じだった。でも、気付いたら違っていた。
一年で身長が伸びたんだ…男の子はまだ成長期なのかな。私はすでに終わっているけど。
「能登って身長が伸びたよね」
手の平を彼の側頭部に並べて私は口を開く。
「……ほんの少しな、へっ…それでもまだ低いけど」
能登が自虐的な笑みを浮かべて返す、低い声で、……やってしまった。


213 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:50:54 ID:FpS5vfVX
地雷を踏んでしまったみたい。気にして、たのかな…。
あ、あああ…フ、フォローしないと! 取って付けた風じゃなくさり気なく!
「低く…なんてないじゃん、私からしたら高いんですけどぉ…ほら目線が合わないし」
どうだ? 自分的にはベストな返しだ。
「うぅ、北村はもっと高いぞ…」
ガクッと彼がうなだれてしまった。
私のバカ……どうすんのよ、追討ち掛けてどうすんの!?
な、ならこれなら!
「い、今まるおは関係無いじゃん…能登と私でなら、の…話なんだから」
よし! これなら大丈夫でしょ。
「あ、そういう事? 悪い、少し勘違いしてた」
とりあえずは納得してくれたみたい、僅かだけど表情が晴れた。
「あはは…私の言い方がマズかったから、ごめんね」
不用意な事を言うのは止めよう、またヘマしたら嫌だし。
口にチャックして黙々と歩く。…気まずい、嬉しいし楽しいけど…辛い。
前みたいに笑い話しながら歩けない、私が八つ当たりしたのが原因で…あれから何週間も経ったし仲直りもしたのに出来なくなっている。
能登も私も相手の出方を伺ってビクビクしている、ギクシャク、嫌だな、嫌だよ…。


214 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:51:31 ID:FpS5vfVX
胸がチクチク痛くて、鼻の奥がツン…と痺れる、涙が出そう。でも泣いたら駄目、彼が心配する。
..
.
「朝は寒かったけど、昼になったら暖かいな。歩いたら身体が熱くなるわ」
河川敷に着き、土手沿いの階段を数段下る。そして二人で端に腰掛けた。
通行の邪魔にならないように端っこ……間を空けようとする能登にジリジリ詰めて座ってみたりして。
彼の右隣にピタッとくっついてみる、仕方無さそうに装って…。
「詰めないと通行の邪魔になるし…」
言い訳を一息に言っても、ドキドキしてて…赤面してしまう、仕方無いじゃん能登と身体が近いし。
言葉を噛まないだけマシ、落ち着いているけど実は落ち着いていない、不思議な気持ち。
「で、ですよねー! 東屋もベンチも人が居るし! 不可抗力だ、ケホッ!」
能登も恥かしいんだ、私と同じく赤面して口走る。そして息が詰まったのか咳払いする。
チャンス! 今だ!
「喉痛いのかな………飲む?」
右のポケットからミルクティーを取り出し、能登の膝に載せる。
断れないようにポンッて…置いて、手を素早くポケットに突っ込む。
「良いの? 歩いたからかな、ちょうど喉も軽く渇いたんだ、サンキュー」



215 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:52:43 ID:FpS5vfVX
私は聞こえないフリして視線で彼の手を追う。
左手が缶を持ち、右手の人差し指がプルタブを持ち上げる様子を見守る。
缶が口元に運ばれるところは見ない、いや見れない。私がこれからする事に緊張して…。
見てしまったら意識してしまって能登のく、く唇がエロく見えるし、ね。
「わ、わた! 私もっ! 喉が渇いたかも! す、少しっ…ちょうだい!!」
彼が缶を降ろしたのを確認して私は作戦発動。狙いは……恥かしいな、か、かかか…かんせ……つ……きす!
「え! で、でも俺っ口を付けちゃったし!」
能登が慌てた様子で言い返してくる、多分…私がする事の意味を瞬時に察したのだ。
「気にしないっ! うん、ちゅ、中学生じゃないんだしぃ! う…能登は何考えてるのよ!?」
私は捲し立てる。自分の意図が相手にみえみえじゃん、だけどこれくらい強引じゃないと駄目なんだよ。
朝から決めていた事だし…でもちょっと変か、いやこれでいい。
櫛枝が言った事を免罪符にする、これなんて序の口…簡単に出来ないと気付いてはくれないんだもん、そうなんだよね?
彼の手から缶を奪うように取って、力強く握る。


216 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:53:19 ID:FpS5vfVX
一瞬躊躇したけど、何も考えずに一気に飲み干す。
ほら、何も変わらない。ただのミルクティー。買った時は熱かったソレも今は冷たく、食道を伝っていく。
そう、能登が口をつけたからって味は変わらない、けど…甘いミルクティーがより甘くなった気がする。
気持ち…心理的に甘くなるんだ、恋い焦がれている彼と一つの物を共有する事で至上の味に生まれ変わる。
大量生産で一つの例外無く同じ味の物が、彼に触れた後だと唯一の例外に変わる。
温度が冷えていても、飲むと身体が芯から暖まる、熱く…蕩けそうになる。能登の味だから…。

「…間接キスとかも能登は嫌? 男の子は嫌なのかな…」
『相談』を匂わすように掛けているのは、理由作りのため。まだ『理由』が無いと怖い。
「い、いや……そんなわけじゃない。ただ……言い難いんだけど」
そう前置きして、ポツリと彼が呟く。
「少し、いや、かなり…ドキドキする、な。あくまで俺はね…」
私達はそれ以上は何も言えなくなる、周囲の雑音が聞こえなくなるのは……心音が体内で高く響くから。
ジーンと耳鳴りもして、照れと緊張に身を縛られて身動き出来ない。


217 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:54:05 ID:FpS5vfVX
これくらいでドキドキしてたら、来週…アレを行動に進めると…ショック死するんじゃないの、ってくらい心の中は舞い上がる。
ああ…私は奥手なのかな、みんなしているからって気楽に構えてたけど、これマジヤバい。
全然違うし、予想よりも倍増しの恥かしさ。
「っ…それより次の相談なんですけどっ!!」
恥かしさを打ち消す為に私は大きな声で話し掛ける。
次の行動に移す為の布石を一つ、また一つ、私の『頑張り』は始まったばかりなのだ。
ここで止まるわけにはいかない、一つ出来たら、すぐに次へ。
遠回りした時間、周回遅れを取り戻したいから速く、確実に、こなす。
全力全開、私の本気でぶつかる。臆病な自分にサヨナラ。
見て貰いたいたった一人を得たいから私は諦めない!



続く
218 ◆KARsW3gC4M :2009/09/26(土) 12:56:23 ID:FpS5vfVX
今回は以上です。
奈々子様やアニキ、皆さんの良作ラッシュ最高、ワクワクしながら待ってます。
次回は能登視点で。
では
ノシ
219名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 14:48:16 ID:1MB0a4kb
KARs様GJでス!!
麻耶が可愛すぎますw
220夏休みに/まとめてみた:2009/09/26(土) 17:31:02 ID:EwLLC+N+
見直したら、まあ、ミスがorz
「たかっちゃ〜ん」だよな(汗

で、まとめてみたお


 テレビの向こうの宇宙船で、幸せそうなふたりが並んでいる。
 仲間にマイクをむけられた新郎祐作が「ちょっとだけ」とはなし始めた。
『自分がこうして、この場に、すみれと一緒に居られるのは、ある親友のおかげです。<竜と虎は並び立つもの。たとえその場に居なくとも>と、彼は良く言ってました。ここでお礼を言いたい。ありがとう、竜と虎』
 画面の手前で顔を見合わせる二人。
「やっぱ、俺たちの事だよな」
「だよね」
『もし見てたらいっしょに、な。カンパイ』
 画面を挟んで、飲み物が掲げられる。
「でも、すごいわね、北村君。ほんとに追いかけて行くなんて」
「いろいろあったんだよ、今なら話せるけど
 >>102 >>104でな、それから>>187-190だったんだ。
 その後、たしか>>194で、>>191-193 なんてことになったらしいよ。
 それで>>105ってわけさ」
「ふーん。北村君、ああ見えて、やるわね。生徒会室でHしちゃうなんて」
「あ、俺がはなしたってことは内緒だぞ」
「そのくらい、空気読めるわよ」

 ……かんぽーん

 突然、玄関のベルが鳴った。
「急患かな。ちょっといって来る」
 竜児が出ると、そこには意外な二人が。
「なんで、ここに居るのさ」
「なんでって、ミッションが終わって休暇というか新婚旅行だぞ」
 すっとぼけた顔の、北村夫妻だった。
「でも、今、テレビで」
「放送は何ヶ月も前のはずだけど。再放送じゃないか?」
 隣りで、<北村すみれ>が肩をすくめてみせた。
「でもすごいよな、三十前に開業なんて」
「おひさしぶり。もう、大変だったんだから」
 大河が追いつき、玄関の二人に笑いかけた。
「なるほど。北村君の放送、多分僻地にいて見れなかったんだわ。ついこの前まで、僻地勤務よ、へきち!」
「しかたないだろ、若造はそういう決まりなんだから」
「たまたま、地元で廃業する医者がいて、代わりってことで呼ばれたからいいけどね。もう、出産たいへんだったんだから」
「アハ……」
 相変わらずの二人に、思わず苦笑する二人。
 そして「いいな、先に子供を授かるなんて」と、祐作。
「でも、北村君のがHは先だfgtghじこlp;@」
「大河っ」
「わははっ、羨ましい二人だ。で、名前は?」
 豪快に笑いながら、すみれは訊いた。

「にゅーじ」


「んなわけあるかっ!」



221名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 19:28:29 ID:OZ/moxRW
にゅーじw
222奈々子エッス! (上):2009/09/27(日) 00:19:26 ID:jFyjeZMj
今から投下します。

お題は「奈々子エッス!」です。
竜児が奈々子様からエロいお仕置きを受けるお話ですが、その3分の1。
短編ですが、私の力不足で上、中、下に分けて数日渡って投下してきます。

3スレあります。
223奈々子エッス! (上):2009/09/27(日) 00:20:00 ID:jFyjeZMj
「言い訳は?」

私はベッドに体勢正しく座って、目の前に居る高須くんに棘だらけの口調で問いかかった。
場の雰囲気は重い。高須くんは私の前で頭を下げて、弱気そうに立っている。

「言い訳のないでたんまりなら、お仕置きよ。」

彼の無言のまま。でも「お仕置き」の内容を知っている彼は、さりげなく目線を私の下半身に向いて、私の太ももがいつも以上に密着しているのを気にしてるようである。

この生意気な、と心の中で罵倒しつつ、私はスカートを持ち上げ、両足をすこし開いて、彼が見たがる物を見せてあげた。
スカートからすらりと伸びた肉感的な両足の強調し、「割れ目」の部分も彼の目に入るように、私は体勢に少し微調整をした。でもやはり成るべく優雅のままに。
普段は冬服でも普通にニーソックスを着用するが、今日は特別に真っ黒なパンティーストッキングを着ている。
太ももの密着もこれも、「隙がない」という一点を強調し、彼にプレッシャーをかけるがため。

「…ほら、分かってるんでしょ。お仕置き。」

高須くんの喉が「ごくん」と動いたのを、私は見逃さなかった。もしかしたら、私もその仕草でもう少しヌレていたかもしれない。
自分の罪悪感と雰囲気に圧倒されつつも、私の色香に反応せずに居られないそんな高須くんの様子に、私は欲情している。

「お、おう…」

高須くんは恐る恐る跪き、私の足に触れようとする。
私は眉を顰めて、乱暴に彼の手を打って払った。

「止まりなさい。貴方、何か言うことないの?」

彼は直ぐに恐縮して、打たれて赤くなった手を引いて、正座したまま頭を下げた。

「す、すみません、香椎さん。」

そんな彼の返事に気を食わない。私は左手で彼の肩を捕まって、全力を込めて右手で彼に平手打ちを見舞う。

パシっっッ!!

中々大きな音だった。

「その呼び方ってなに?」

多分、躾けを忘れるほど、プレッシャ−と私の身体への欲望が強かっただけだろう。
普段しっかりしていて、此間まで身持ち硬い彼だが、「お仕置き」中ではこうも可笑しくなる。
それでも私は容赦しなかった。

「申し訳ありません、奈々子様。」

ピンタを食らって少し冷静になったか、彼の声の音色はすこし落ち着いていた。
詫びを聞いて満足した私は仏頂面で彼を見下ろし、「続け」と面色だけで命じた。

「…失礼いたします。」
224奈々子エッス! (上):2009/09/27(日) 00:20:25 ID:jFyjeZMj

彼は改めて私に手を伸ばした。彼は膝下に手をかけ、顔を私の股間に埋めた。
大事なところが彼の頭に擦りつかれて、私はその心地よさに、

「ん、ふう…」

と、少し呼吸を乱されていた。彼はそこで止まらず、左手と舌でを股の辺りを責める。
右手服の中まで手を潜りこみ、いやらしい手つきで腰の辺りを撫で回す。
その動きは相変わらず素早くて繊細で、確実に私を喜ばす。それだけで私は彼が欲しくなってきた。
だが、彼の思うままにさせるつもりはない。しばらくして、彼の手が私の胸を届きそうになったときに、私はその腕を捕まって彼を叱った。

「やめなさい!胸触っていいとは言ってないわよ!」

…のにもかかわらず、彼は強引に私の阻止を押し通して、指をブラに入れ、乳首を漁るように乳房の肌を掻いて、撫でて、摘んでいた。

「ん、…あっ!ちょっ、ちょっと!」

思わず声を上げて狼狽していた。普通に胸を揉まれると思った私には予想外なことだった。
前にもそのようことがあって、私は気持ちいいからって放置すると彼は直ぐに暴走して私を犯した。
だから、今回は厳しくしなければならないと思っている。
しかし、彼は私の命令を聞いていないし、力では私は彼に敵うワケがない。

「んん、う、はぁあ、うぐ、待って、高須くん、やめて、」

彼は調子に乗って、実力全開して私を攻めていた。
乳首を程よくの力で引っ張っていじって、腰の生肌にキスして舐める。
布越しに股間を唇で力強くマッサージして、脇の辺りの敏感帯を優しく触れる。
ずっと跪いていた彼は立ち上げて、私の唇を奪い、ディープキスで私の生気を取り上げる。
それしながらもも彼の手は止まらず、積極的に快感を与えて私を追い詰める。
そしてまた肌に口を戻し、私が興奮して掻いた汗を味わう。

「あぁ、はぁ、んん…そこは、だ、だめぇ」

私の性感帯を開発した張本人は、私に抵抗する力をもたせない。
私は暴れる力もなくして、しばらく彼の成すがままになった。

そして、いつの間にか彼にブラのホックを解けられた。
彼は一旦愛撫を止め、ブラを脱ぎ捨てて、私の上着の裾を持ち上げ、両手で胸を直接触ろうとする。
こうして最後のチャンスを与えられ、僅かながらも余裕を取り戻した私は奮発して───

「この、ド変態!」

残っているすべての力で彼を蹴った。

「うお…!」

彼は転んで床に倒れた。快楽で弱まっていた私の蹴り自体は無力だったようで、彼が倒れたのもバランスを崩しただけだった。
でも明らかに私の行為で驚いて、傷ついている。そんな彼に少し申しわけなく思うが、私の嗜虐心の方が余程強い。
225奈々子エッス! (上):2009/09/27(日) 00:22:41 ID:jFyjeZMj

私は倒れている彼に馬乗りして、力込めて連続平手打ちする。

「私を裏切っといて言うこと聞かないなんて、信じられないわ!!」

私は力いっぱいで叫んだ。

パシっ、パシっ、パシっ、

「お仕置きを何だと勘違いしてるの!?貴方頭そんなに悪かったの!?」

パシっ、パシっ、パシっ、パシっ

「この、このっ、この、このぉ!!」

パシっ、パシっ、パシっ、パシっ。

「はあ…はあ…」

息が詰めて、手も痛い。でも彼の頬は赤く腫れるのを見るとそれもチャラにできる。
「裏切っといて」の言葉が効いていたのか、打たれた彼はばつの悪そうにしている。
…気が付けば、身体は熱なっている。
私は上着を脱いで、自分から大面積な素肌を彼に曝す。
かわいそうな顔している彼だが、その目は僅かに光っていた。

そんな私の胸が見えてのは嬉しいのか。分かりやすくて単純な……
うう、駄目だ、身体がどんどん熱くなってる。

「そこでじっとして待ってて。」

声がちょっと荒くなるのは分かっている。もう、私の身体から溢れる情熱を隠すことが難しい。
お仕置きの次の段階に移行するために、なんとかコレを解消しなければならない。
226奈々子エッス! (上):2009/09/27(日) 00:25:47 ID:jFyjeZMj
以上です。

半日ぐらいかかったので、思ったより短かったことにちょっと凹んでます。
227奈々子エッス! (上):2009/09/27(日) 00:34:47 ID:jFyjeZMj
すみません、大失態です。

1レス目の
「言い訳のないでたんまりなら、お仕置きよ。」 という意味分からないセリフは

「言い訳もしないでだんまりじゃ、お仕置きよね。」

のはずでした。投下直前に修正しましたが、何かの間違いでは旧バージョンを投下してしまった。
228名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 00:50:05 ID:FboleTmE
>>227
GJ
>スカートからすらりと伸びた肉感的な両足の強調
一人称でこれを言うということは自分の魅力が分かっていらっしゃるということなので
どれだけ黒いんだよこの奈々子様は。

竜児を攻めているはずなのに文章の端々からやられ臭が漂ってくるのは何でだろう。
まあ、エッチな奈々子さまはいいと思うよ。

中、下も期待。
229名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 09:57:38 ID:73y1nRob
>>227
おつおつ。新鮮な感じだった
最初はあまり書けないものだし、慣れることだ
230名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 10:23:24 ID:n2oPX0tx
GJ!Mのケはないはずだがティンコおっきしt。
とりあえず3000レスの大作期待。
231名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 13:03:22 ID:l8RsG32z
ハードエロGJ
232 ◆9VH6xuHQDo :2009/09/27(日) 21:04:46 ID:xCZhhHFD
『みの☆ゴン』
前スレからの続きを投下させていただきます。8レス分(45〜52)です
スレが変わりましたので、再度注意書きをお読みください。

内容  最終的には竜×実ですが、竜が他のキャラと絡む描写有り。
時期  1年生のホワイトデー 〜 2年生の夏休みまでです。
    (今回はGW前後です)
エロ  妄想シーンです。いわゆる本番は、竜×実がくっついてから
    になります。
補足  内容、文体が独特で、読みにくいかもしれません。
 ご不快になられましたら、スルーしてください。
 また、続き物ですので、ここからお読み頂いきますと、
ご不明な点が多いと思います。
前回レス頂いた方、ありがとうございました。
亀ですが、スレ立てお疲れ様です。宜しくお願い申し上げます。

http://www.42ch.net/UploaderAnime/cgi-bin/../source/1254004829.jpg


http://www.geocities.jp/starwars0flash/starwars.swf?txt01=みの&txt02=ゴン&txt03=45-52&txt04=G.W.らへんのお話&txt05=偶然が重なり竜児と実乃梨の関係は親密になる&txt06=そこに新しい転校生が現れる
233 ◆9VH6xuHQDo :2009/09/27(日) 21:07:38 ID:xCZhhHFD

……わたし……わたしは、竜児くんが……好きっ……
 おうっ……俺も好きだ。実乃梨……
真っ直ぐ見つめる竜児。視線を受け止める実乃梨の艶やかな笑顔。
……うれしいっ……竜児くん……でもさっ、これって竜児くんの夢なんでしょ? ……
 夢……たぶんそうなんだが……じゃあ実乃梨、寝ている俺を起こしてくれないか?
……え?起こす? どういう、んっ……
竜児は実乃梨を抱き寄せ、少々強引にキスをする。シャンプーの香りがくすぐったい。
唇で触れた実乃梨の唇。手を廻した実乃梨の腰。その柔らかい感触。
チュパッ
……んっっ……竜児、くん……こうすると、起きるの?……
 ああっ。そう、だな……もっと、したい……
囁きあうたび、唇が触れる距離。竜児は、軽いキスではとても満足できなくなり、
そのパッションに正直に、ねぶるようなキスをする。
……はあぁん……んっ! ……
息継ぎのため、一瞬開いた実乃梨の唇。その隙間に竜児は舌を侵入させた。
一瞬、実乃梨の体が震える。ヌメるような感触にびっくりするが、
拙いながらも舌を絡ませ、竜児の歯並びを確認するように動かしてきた。
チュ、チュ……唾液の混ざる小さな音が、抱き合うふたりには聴こえている。
……竜児、くん……
強烈なキスを終えた実乃梨の瞳は潤みを増し、竜児をぼんやりと見つめている。
ほんのり桜色に染まるその頬を、竜児は指先でその温かさを確かめ、
そして、その指先は、実乃梨の首筋、さらに乳房に降りてゆく。

……はぁっん……いや……ん、……
軽く抵抗する、かわいらしい声。しかし竜児は、その行為を止めない。
逆にエスカレートさせ、乳房を大きな手でもみしだく。そして問う。
 実乃梨、いや、なのか?
……そんなこと、ないんだけど……もぅっ……
いじわるな質問に実乃梨はうつむく。可愛い……竜児は単純にそう思う。
柔らかな弾力を悦しむ竜児の指は、実乃梨の衣服を剥がしにかかる。
着替えを手伝ってもらう子供のように、実乃梨は、竜児のなすがままに、白い肢体を晒していく。
引き締まっているが、女性らしいまるいラインを描いている。
竜児の視姦に感づき、実乃梨は両手で竜児の眼を隠す。
……竜児くん、エッチな顔してる……恥ずかしいぜっ……
 おうっ、わかった。俺も脱ぐから……
おもむろに衣服を脱ぐ。几帳面な竜児らしからぬ、乱雑な脱衣。
焦る竜児は、下着に足を引っ掛け、バランスを崩す。

……竜児くん危ないっ!……わああっ!……
竜児を支えようと抱き付いたが、その勢いに飲まれ、一緒に倒れてしまった。
その結果、裸の実乃梨は裸の竜児に、馬乗りの態勢になってしまう。
……だ、大丈夫?竜児くんっ……
竜児の後頭部をさすり、心配する実乃梨。
そんな心配をよそに竜児の視線は、さする度にプルプル揺れる乳房に釘付けだった。
……ひゃあぅ! ……あんっ……
竜児は、パン食い競争のように、乳房に食らいつく。目を閉じ、吸った。
実乃梨は、そのまま竜児の頭を抱え込み、乳白色の乳房に埋めてしまう。
その感触と、オンナ特有の臭いに、興奮する。
……あんっ……あはっ、もっと優しくっ、ん……
いつの間にか竜児は、実乃梨の桃尻を指が食い込むほど掴んでいた。
ムニュリとした尻が、どのくらい柔らかいのか、竜児は知りたかったからだ。
234みの☆ゴン46 ◆9VH6xuHQDo :2009/09/27(日) 21:10:33 ID:xCZhhHFD

……竜児くんの……熱い……
極限まで膨張した竜児の本体が、接触している実乃梨のムッチリした太腿を焦がす。
竜児は、尻を揉みながら、本体を擦り付けていたのだ。乳房を吸う竜児は返事をしなかった。
……りゅ、竜児くん……その、当たってる……んあんっ! ……
竜児は、少しポジションをずらし、本体を実乃梨の股ぐらに通す。いわゆる素股だ。
お互い上下に腰を動かす。滴る実乃梨の粘液で、グッチュ、グッチュ、と、錬るような音が聴こえる。
快楽に、実乃梨は溜らず声をあげたかったのだが、激しくキスをする竜児の唇に蓋をされていた。
 実乃梨っ……好きだっ
抱き上げ、上体を入れ替え、今度は竜児が実乃梨に覆いかぶさる。
そして、両手、両指を絡ませ、実乃梨を大の字に押さえつけた。襲っているようにもみえる。
 実乃梨……お前が欲しい
……竜児くん……わたしを、あげる……
竜児の願いを汲んだ実乃梨。その表情から、大人の片鱗を垣間見え、竜児は胸がドキッとする。
それからふたりは、淫靡な息遣いだけでお互いを理解し始める。
竜児は、実乃梨のピンク色の割れ目に本体をあてがった。
ずぢゅ、と海綿が滑る音がして、ずぶずぶと本体を飲み込ませていく。
……はぅ……あ、竜児くんが……わかる……
 痛く、ないか?
……平気……ちょっと、んっ……大っき、けど……
竜児を受け入れる実乃梨。そんな彼女を、どうしようもなく愛しく想う。
……動いて、いいよ……
 おぅ……はくぁっ! 実乃梨っ……
軽く揺さぶるだけで、ぎゅんっと締め付ける膣壁。快感で感覚がビリビリした。
……ぁはっ、はあっん、んっ、あぁぁああっんっ……
ペースが上がり、弾かれたように実乃梨の口から甘い吐息が飛び出る。
未知の刺激に惑わされ、竜児も悦に入り、息が荒い。
 はあっ、はあっ、好きだっ、実乃梨。好っきだ、はあっ
……うんっ、うんっ、はあっん、うれしいっ、あんっ……
ギュウっと、実乃梨は強くしがみつく。その強さは竜児への愛しさに比例していた。
形の良い実乃梨の乳房は押しつぶされるが、竜児はその肉感を感じると同時に、
溢れる愛情も感じとる。実乃梨が竜児にキス。いたる所にキス。柔らかい唇で。
 実乃梨……このままっ……
熱を帯びた表情でコクッと頷き、実乃梨は竜児の胴体に脚を絡ませた。
実はその時には既に、竜児は放出を始めていた。痙攣のたび、どっくり大量に。
……竜児くん……好きっ……
 実乃梨……俺も……

……じゃあ、……起きてっ……

「おうっ……起きちまったっ」
竜児が起きたのは、幸いにも自室のベッドの上。
それにしてもリアルな夢を見た……思わず自分の手のひらを見る竜児。汚れている。
ここ数日で、実乃梨との距離が縮まり、想像する材料が増えたからじゃないか、
……と竜児は自己分析する。
しかし先日、告白寸前までいった校舎の裏の件があってから、なんとなくお互い、
変に気を遣うようになってしまった。ここ数日、頓挫したままの状態が続いていた。

竜児は立ち上がり、段ボールの中から、実乃梨への想いを書き記したノートを取り出した。
新しいページを開けて、しばらく考えてから、シャーペンを走らせる。
スタート地点の、確認。

……高須竜児は、櫛枝実乃梨を、愛しています。世界中の誰よりも……

『愛』という言葉。その意味を本当に理解するのはまだ早いのかもしれない。
ただ、今初めてその言葉を書き記すことに躊躇いがなかった事に気付く、竜児であった。


***
235みの☆ゴン47 ◆9VH6xuHQDo :2009/09/27(日) 21:13:11 ID:xCZhhHFD

明日から、大型連休。いわゆるゴールデンウィークが始まる。
夕暮れの校舎の屋上。やさしい色に包まれている町並みが見えた。
 ━━そこに年甲斐もなく、パステルカラーのケータイと睨めっこしている女が独り……
「勝負よねっ。決戦のゴールデンウィークっ……」
恋ヶ窪ゆり(29)は、気合入っていた。
元彼と別れてはや七年。七年といったら産まれた赤子が小学校に上がってしまうほど永い年月。
二十代最後。最後っぽい弾を装填。明日に決戦が迫っている。撃ち損じる訳にいかない。
結婚。その最後のチャンス━━ 沈みゆく太陽に、カラスが数羽横切る。
その鳴き声が、バカァー、バカァーに聞こえてしまったゆり。
そうよ、カラスさん。わたしはバカ。仕事バカ。ワーカホリックなの……
聖職に就いてから、わたしは仕事に生きてきた。結果的にそうなった訳だが。
そんなわたしを、励ましてくれているのだろう……カラスさん達は。
ゆりはそう、理解する。都合のいいように。

ビーッ、ビーッ、ビーッ
「あら? 誰かしら」
メールが着信……なんとなく嫌な予感がする。
ゆりは、こういう予感の的中率が残念ながら、高い。
恐る恐るケータイのフリップを開ける。
「まあ、逢坂くん(仮)からだわ。ふぅ、よかったわ〜」
もし、デートのキャンセルメールだったら、自分の身体ごと転送してやろうかと思ったゆり。
……本気だった。

逢坂くん(仮)は、ゆりがまだ新人、ギャル先生(22)だったころの教え子。
雰囲気、神経質で美形なところが、今の教え子、逢坂大河に似ている。だから逢坂くん(仮)。
結婚してからも、ちょくちょくメールをくれる彼は、昔からメール魔だった。添付ファイル付き。
どうせまた、妊娠中の奥さんのラブラブ写真だろう……一応、チェックするゆり。画像が開く。

「!!!!っ!! いいやあぁぁぁああっ!! なななんですかぁあっ!!」
激しく驚き、ゆりはケータイを投げ飛ばしてしまった。顔面を真っ赤にしてパニックに陥ってしまう。
それは、その訳は、ゆりが久しく見てない『物体』が画面いっぱいに表示されたからだ。
パステルカラーのケータイは、予想以上の飛距離をみせ、ヒューッと、屋上の柵を乗り越え、
……校舎の裏庭に落ちていった。
「たっ、たいへん!! 誰かいたら怪我しちゃうっ!」
教師らしい、もっともな心配をして、地味なパンプスをパタパタさせ、階段を駆け降りるゆり。
しかし心配すべきは、そのわいせつ画像が、他人の目に触れてしまう事だろう。
ケータイは、校舎裏の高須農場に落ちた。

「うおーっ! 竜児くん、大丈夫だった?」
「危なかった! スゲーびびった!! なんだこの落下物は? ……ケータイ?」
実乃梨と、高須農場でシソを植えていた竜児。
ひさしぶりの実乃梨とのツーショットだったが、いい感じなトコロを邪魔された感じになった。
畑に深く突き刺さってしまった、ゆりのケータイを掘り起こす。
柔らかい土の上に落ちて、どうやら壊れていないようだ。
「誰だよ、こんな危険な事するアウトローは! ……おおうっ!!」
アウトローが誰なのか確認しようと、ケータイを開けてしまった竜児。
三白眼に飛び込んだわいせつ画像に驚愕。大至急ケータイを閉じる。見たくなかった。他人のモノは。

「ねえ、今のって、サツマイモ?」
「おおうっ! 実乃梨! 見たのか?」
「なあに? 竜児くん。チラっとだけ見えたけど、サツマイモじゃないの?」
目をまん丸にする実乃梨。竜児が焦っている理由がわからないようだ。
「そっそうだなっ、サツマイモだな! サツマイモと……ヤマイモの画像だった!」
危く無垢な実乃梨の瞳に、わいせつでグロテスクな画像が映ってしまうところだった……
こんなヴァカ画像をぶちまけたアウトローに、一言、物申したくなる竜児。

「まだ屋上にいるな。ケータイ返して注意してくる。実乃梨、ちょっと待っててくれ!」
竜児は珍しく、イラッとし、屋上へ向かう。
それには、ささやかな実乃梨との二人きりのコミュニケーションを妨害された事もあったのだろう。
236みの☆ゴン48 ◆9VH6xuHQDo :2009/09/27(日) 21:15:42 ID:xCZhhHFD

「生徒の鏡であるべき先生ともあろうお方が、階段を駆け降りるなんて駄目じゃないですか!
 恋ケ窪先生は人気もありますから、ただでさえ目立つというのにっ! ここを見て下さいっ」
ビシッと指を指す先に、男らしい立派な筆文字で、『走るな。生徒会』という張り紙がある。
「ごめんなさいね、北村くん。これにはね……深い事情があるのです。気をつけるから、
 苦情は後で聞きますから、その……急いでいるので、今は、見逃してくれませんか?」
階段の踊り場で、副会長の北村に注意されてしまっているゆり。うあ〜んっ! 泣きそうだ。
竜児は、その横をすり抜け、屋上の扉に辿り着く。バタン、勢いよく開けた扉。
屋上に吹く風の中にたたずむ人物。その人物を確認し、竜児は絶句。
「たっ、高須くん!? ……なんでそんなに怖い顔して……わたし何もしてないんだけど……」

ビビりまくってる木原麻耶。仲良い香椎奈々子が、日直の仕事の後、雑用を頼まれたらしく、
終わったら一緒に帰ろうと待ち合わせしていたところへ乱入してきた鬼般若顔。寿命が縮まった。
「いや……木原……まあいい。気をつけろよな、これ、返すから……ちなみに俺は何も見てない。
 安心しろ。じゃあな」
竜児は、混乱してしまったのと、激しく恥ずかしくなってしまい、
無理矢理麻耶にケータイを預け、実乃梨の待つ校舎の裏に戻って行った。

「なななっ……なによっヤンキー高須っ! ……意味わかんない……」
渡されたケータイを胸に、立ち尽くす麻耶。返すっても、わたしのじゃないのに……。
仕方なく、初めて他人のケータイを開く麻耶。血管の浮き出る物体が液晶に展開される。
「何これ? ……内臓?」
むかし親に連れていかれたモツ煮込み屋さんで見た事ある、ような……
うさぎのニガヨモギ煮……だっけ?
とりあえず、この不審物を誰かに押し付けたい。
遅くなっている奈々子にメールして、待ち合わせ場所を変える麻耶。屋上から移動する。

「……それでね?先生、結婚式の二次会に行ったの。当時はまだ先生も若かったのね。
 そこで教えてもらった電話番号にかけてみたのです。あ、北村くん、電話番号はですね、
 ナマモノだから、教えてもらったら、その日にかけなきゃダメですよ?そしたらね……」
いつの間にか、失恋談議に花が咲いてしまったゆり。怒濤のように言葉を吐き続ける。
北村は、話しかけた手前、抜け出せなくなっていた。口を挟む隙もない。

「ああ!まるおっ!あと、ゆりちゃん先生っ!あたし落し物拾っちゃったんですけど!」
「よう!木原!いいところに来たな!俺が預かろう!ケータイか!」
「えっ?まだ話の途中なっ……なっ、なっ……きぃゃあぁぁぁあっ! 木原さぁぁんっ!!
 それわたしのケータイ! あわわわ!みた? 見ちゃいましたか? ぃぃやああぁぁっ!!」
この世の終わりに直面したように暴走するゆり。頭を抱えフリフリして、涙目になっている。
ゆりにドン引きする麻耶。暴れているワニに、エサを与えるように、慎重にゆりに歩みよる。
「こ、これ、ゆりちゃん先生のケータイ? うさぎのニガヨモギ煮……はい、どうぞっ」
「あありがとうございますっ、うさぎ? そ、そうですね、先生、うさぎ好きなんですっああっ」
今更ケータイを後ろ手に隠すゆり。手遅れだったが、ピュアな教え子は勘違いしてくれたようだ。
「よく分からないが、一件落着ですね、いやあ良かった! 失礼します。木原、行こう!」
上手い事、ゆりから離脱できた北村は、木原の手を取り、この場を去る。
「えっ? あっ、まるお……手」
ちょっぴり良い事があった麻耶だったが、照れる間もなく、一階まで降りた時点で解放される。

「助かったぞ、木原!! 明日からのゴールデンウィーク楽しんでな! じゃあな!!」
北村は、そそくさといなくなってしまった。わたし……まるおに利用されたの?
……麻耶は、その背中に叫んだ。う〜っ、
「もうっ!」

 ━━その日の夜。
ゆりのケータイに、逢坂くん(仮)から間違って画像を送ってしまった謝罪メールが届いた。
デコレーションバリバリ。本当に反省しているのだろうか。
「はああぁぁぁあ……明日は明るい日と書くのよね……明日、明日こそは!!」
決起するゆり。今日は不幸だった。しかしゆりの不幸は、これからが本番なのであった。


***
237みの☆ゴン49 ◆9VH6xuHQDo :2009/09/27(日) 21:17:20 ID:xCZhhHFD
ゴールデンウィーク最初の2日間にあった、ソフトボールの関東大会予選。
大橋高校は女子は見事優勝。6月の関東大会にコマを進めた。

そして、今日はゴールデンウィーク最終日。時計はランチタイムを少し過ぎている。

「あーらよっ! 出前一丁!」
バニラアイス大増量のヨーグルトパフェが、大河の目の前にドンッ!と置かれる。
「もうちっとでバイト上がるからよっ。大河、これでも食べて待ってておくれっ!」
ここは実乃梨のバイト先のファミリーレストラン。ウェイトレス姿の実乃梨が、
艶めくショートヘアーを上手くポニーテールにして、細いうなじを眩くさらしている。
ウエストを絞り、バストを強調しているミニエプロンフリフリのプリティーな制服。
竜児の恋心フィルターを通さなくても、充分可憐で、健康的な色気を感じる。お持ち帰りしたい。
「ありがと、みのりん! これ、バニラアイス特盛りじゃないっ! 店長に叱られない?」
「すげえなこれっ……実乃梨、あんまり無理すんなよ」
実乃梨をねぎらう竜児。今日バイトが終わったら、3人でこのまま祝賀会をする予定になっている。
「これっくらい大丈夫大丈夫っ。毎日試合観に来てくれたんだもん。これくらいさせてよっ。
 そうだっ、竜児くんは? ポテトフライはどうかな? 盛るぜ〜〜、超盛るぜ〜〜」
実乃梨はこぶしを握りしめ、竜児にズズズイッと、乗り出してくる。
「いや、俺はいい。とりあえずコーヒーあるし。あとで一緒に選ぼう」
じゃあ竜児くんも待ってておくれっ!おうっ実乃梨っ!という会話を目の前で聞いていた、大河。

「……ねえ、あんたたち、本当に付き合ってないの?なんか普通に、カップルじゃん」
実乃梨の後ろ姿を見ながら、竜児に質問。竜児はムセそうになり、コーヒーカップを置く。
「ゴホッ……俺と大河は同じ穴の狢だろ? だから分かると思うけど、確かに進展はしている。
 だからって急進させて、失敗して破壊したくないんだ。その、大事にしたいんだよ、判るよな?」
「ふうん。考え過ぎじゃない? ……はぁーっ……わたしも北村くんと、進展したいわっ。
 わたしの恋路を応援してくれる、心優しい誰かが、この世のどこかにいないのかしら?」
「……ちゃんと、協力しただろ? 俺だって、北村に電話したんだぞ?実乃梨からの情報で、
 連休の後半、二日ほど休みがあるはずって、聞きだしてだな…… まあ結局、生徒会と、
 家の都合で、全部予定が埋まってて、遊びにいけねえって、言われたけどな……」
もちろん連休前半は、北村も女子ソフトの応援に来ていた。しかし大河は北村に保留……されている。
大勢の中で会話したりは出来たが、二人きりになるとか、一緒に帰るとか、親睦を深める機会はなかった。
「フンッ。その言い訳、何回も聞いたわよ……はあっ、これ以上、障害が増えない事を願うわ」
その願いは数分後、儚くも崩壊するのだが、その対価として大河の想い人、北村が現れた。

「あれ?高須に逢坂じゃないか、奇遇だなあ!! そういえば、櫛枝がここでバイトしていたな。
 そうだ逢坂、せっかくだから紹介するよ。あれ、うちの両親。高須は三者面談の時に会ってるよな?」
「はっはじめまして、逢坂と申します。ごごご機嫌うるわしゅう」
あら、かわいい〜っ、あなたが逢坂さんね〜っ? どうもぉ高須くん、お母様お元気? と、
離れた所から頭を下げてくれる北村のご両親。竜児はペコリと会釈するのだが、一方の大河は、
突然のミート・ザ・ペアレンツ。動揺のあまり、左右に全身をクネクネ捩ってしまっている。

これはこれで、見ていて可愛らしい。和む。毒が無ければ普通に超美少女なのだ。大河は。
238みの☆ゴン50 ◆9VH6xuHQDo :2009/09/27(日) 21:18:55 ID:xCZhhHFD

その時、店内のチャイムが鳴り、ウェイトレスに先導され、新しい客が入って来た。
子鹿の様なスラリとした細い身体、長い手脚。誰でも一発で分かる。『モデル』だ。
「おじ様、おば様おまたせっ。あれ?祐作は?」
その背後から聞こえた愛らしい声に北村が振り返る。この声の主を竜児は知っている。
「おお、亜美。ここだ。高須は一度会っているよな? 逢坂、紹介する。川嶋亜美。
 昔、俺んちと家が隣どうしだったんだ。亜美。この娘は逢坂大河。宜しくな」
「っ…はじめまして! 逢坂さんっ! それと高須くん、久しぶりっ。元気だった?
 この前抱きついちゃってゴメンね? あっ、余計な事言っちゃった? わたし天然で……」

一瞬、大河の事を値踏みした亜美。大河はその視線を見逃さなかった。
本当は内心、芸能人に会って浮かれていたが、一気に大河の機嫌が絶対零度まで醒める。
「川嶋さん初めまして。北村くんの幼馴染みなんですって?良かったわね。神様に感謝しなきゃね」
そう、謎のセリフを呟き、静かに大河は席に戻る。亜美は素っ気ない大河の態度に、
大河が自分に嫉妬したと判断する。嫉妬させようとしたのだが。
「亜美、戻ろう。なあ、高須と逢坂はまだここにいるだろ? 親父たち、
 メシだけ食ったら家に帰るって言っているから、その後でまた話そう」
「また後でね! 高須くんっ」

竜児は去っていくふたりを見送り、少々興奮気味に、大河に同意を求める。
「ほらっ大河! 本当に幼馴染みだっただろ? いやあ、芸能人なのに性格も良い。
 お前も少しは見習ったら……なんかお前、機嫌悪くないか?」
ゴクンと唾を飲み込む竜児。ご機嫌斜めの肉食獣は亜美に殺気を送っていたのだ。
姿が見えなくなり、牙を収める大河は、ソファの背もたれにドカッと体重を預けた。
「まあ……いいわ。相手にするのもくだらないか。あんた、Wだから教えてあげるわ。
 自分で自分の事、『天然』なんていう人間に、まともな奴なんかいないのよ」
得意げにそう言いながら、大河は髪をかきあげ、息をつく。
「なんだよWって……」
「Vが2つで、VV。だからW。本当にニブイわね。フン。もうどうでもいい」
「そんな、ナゾナゾみたいなの普通解らねえよ……あれ?北村どうした?」
一般高校生の北村が、光り輝く様なモデル美少女をともないUターンして戻ってきた。
「混んでいて、他の店に行こうとしたら、親父が友達来ているなら、こっちで食べてこいって」
「高須くんお待たせっ、一緒に食事しよ?」
北村の隣で、亜美は天使の微笑みを浮かべ、手を振っている。つい竜児も手を振り返してしまう。

「……ご機嫌だねえ……犬が尻尾を振っているみたいだねえ……」
大河の冷たい一言に、恥ずかしいモノを見られた気がして手を降ろす。

「ねえ、高須くんっ、隣座っていいかな? 詰めてっ、詰めてっ」
「ああ、別に……おうっ、まだ! おわっ!」
亜美は席を奥に詰めようとした竜児のヒザに座ってしまう。亜美の尻の感触がヒザに伝わる。
「あんっ、ごめんなさい!わたしったら、恥ずかしい……ホント……笑わないでね?」
「いいいやっ……全く問題ないです……問題ないですから……ヒザ。さすらなくても……」
「え〜、おもいっきり座っちゃったし……高須くぅん、重くなかった? 大丈夫?」
ここはキャバクラなのだろうか? と勘違いするほど竜児に密着する亜美。
亜美が、大河に嫌がらせする為にやっているのは明白で、大河も分かっていたのだが……
239みの☆ゴン51 ◆9VH6xuHQDo :2009/09/27(日) 21:20:49 ID:xCZhhHFD

「川嶋亜美。竜児から離れろ。ライトNOW」
せっかく大好きな北村が隣に座っているというのに、大河は亜美に警告する。
大河は実乃梨が来る前に、ベタベタ発情女を竜児から引き離したいのだ。
亜美は、大物がヒットした釣り師のようにニヤリとする。
「え〜っ? 高須くん、いいよね〜っ! もしかしたら迷惑……なの?」
「亜美。高須はそう思っても言えない奴なんだ。なあ高須」
「……迷惑じゃねえけど……もう少し離れてくれ。その……近すぎる気がするんだが」
(この……クソガキっ)
北村の手前、唇だけ動かし、無言で亜美に侮蔑の言葉を吐く。竜児は読唇術で読み取る。
亜美も理解したが、一切無視。大河の隣を陣取る北村には分からなかったようだ。

「あーあ、家族サービスして疲れたな。悪い、ちょっとトイレ」
いつも通りにリラックスしている北村が、後の空気のことも考えずに席を立ってしまう。
「えっ、ちょっ……」
慌てて手を伸ばしかけるが、まさか行かないでくれ、とも言えなかった。
「おい、アホチワワ」
誰のことを言っているのか、竜児と亜美は、辺りをキョロキョロ見回す。
「チワワみたいに無駄にウルウルしてるあんたのことだ。誤解してるみたいだから教えてやる。
 こいつはわたしの彼氏じゃないし、あんたが暇つぶしに、くだらない遊びをしたいのはわかる。
 ただ、これ以上わたしの前で不愉快なことするな。竜児から撤退しろ。これは最後通牒だから。」
スプーンにとったバニラアイスを弾き飛ばす仕草をしながら、亜美に宣戦布告しようとする。
そんなかわいい攻撃だけで済む訳がない。大河の戦闘値を知らない亜美には、それは逆効果だった。
「きゃあっ、逢坂さん、こわ〜いっ。高須くぅ〜ん、助けて、お、ね、が、い」
さらに距離を詰める亜美。シャネルの匂いが理性を惑わす。もう無理だ。竜児も席を立つ。
「おうっ、なんか俺も便所っ、ええと便所はどっちだ?」
開戦直前のふたりを残して大丈夫だろうか、とはもちろん当然思うのだが……情けないことに、
亜美の妖力と、大河の圧力に、竜児の忍耐力が負けてしまった……
残した席の方を振り返えず、そそくさと男子便所へ向かう。戸口の前で北村は待ち伏せしていた。
「……よし。来たな。ちょっといいか。ちょっと……」
銀縁眼鏡を押し上げ、囁きかけてくる。そっと竜児を手招き、煙草の自販機の陰に隠れる。
「……おまえ、小便は?」
「出ない。まあまあ……とりあえず、屈め」
どうやら北村は本当に、竜児と話をするためだけにここにやってきたらしい。屈んだまま移動する。
「おい、どこに行くんだ。便所は? 席には戻らねえのかよ?」
「いいから。……黙ってろ」
トイレと逆方向、客席の方へ進んでいく。そして背を丸め、喫煙席と分ける壁に身を潜める。
その場所はちょうど大河と亜美が残された席の真後ろだ。二人の姿がばっちり見えている。
「……ちょっと、なに考えてんだおまえは、スケベな野郎だ」
北村が指を差したその先で、亜美はゆっくりと足を組み、腕をソファの背に放り出した。

「あんた……態度悪くない? あの目つきの悪い変なヤロー、本当に彼氏じゃねえの?
 そんなら亜美ちゃん、奪っちゃっていーい? あははははっ。全然いらねえけど」 
亜美は、甘ったるい声で口尻をわずかに歪め、命知らずにも、黙っている大河に尋ねる。
「……」
「てゆうかあの目つき、いまどきヤンキーなわけ? 彼氏じゃないにしても、
 よくあんなへッボいの、相手にできるよねえ〜。ちょっと尊敬しちゃう〜」
「……」
「ま、そうだよねえ〜、いまどきヤンキーって……ありえないにもほどがあるっていうか? 
 亜美ちゃん、あまりにもステージが違いすぎる相手にちょっと引いちゃうかもっていうか?」
亜美は小馬鹿にするように鼻を鳴らすと、大河に不躾な視線を向けた。
「ねえねえ、あんたって身長何センチ? 今気づいたんだけど、なんか縮尺おかしくない?」
「……」
「ふーん、そんなサイズの服、売ってる店あるんだあ。あ、子供服売り場?」
240みの☆ゴン52 ◆9VH6xuHQDo :2009/09/27(日) 21:23:14 ID:xCZhhHFD

「━━というのが亜美の地の性格。甘ったれでわがままで横暴、典型的なわがままお姫様」
な訳なんだが……と言う親友の顔を見つめたまま、竜児はワナワナ震える。
「な、なんて性格が悪いんだ……こええよ! 悪魔が乗り移っているとしか思えねえ!」
「……だろ?」
これまでの人生で、あんな女子を見たことない。大河の性格の悪さが可愛く思える。
「亜美は……やや、人格に難があってなあ。どうでもいいって思う相手の前では、
 地の性格が出てしまう。まあ、そういう相手って、たいがいは同性なんだけど」
どうした手乗りタイガー。奴が北村の幼馴染だからって遠慮してるのか。そう納得しかけた瞬間。

パシンッ!!
ビンタと呼ばれる技を炸裂した。
「……っ」
頬をおさえて目を見開く亜美は、もはや言葉も出ないらしい。
「蚊、よ。蚊がいたの。あら、これ蝿だ」
瞬間的に牙を剥いた虎が薄く笑う。その口元から、ペロリと赤い舌が一瞬覗く。
「なっ、なっ、なんてことすんのよっ、あんた頭、どうかしてんじゃないの? 信じらんないっ、
 なによこれ最低、最低、最っっ低っっっ! だからこんなとこ、来たくなんかなかったのよっ!」
「チッ……っさいなあ……黙れ、アホチワワ」
鋭く吐き捨てられた侮蔑の言葉に、亜美の細い肩が、荒い呼吸に震え始める。
「……う、……うっ、うっ……」
ここまでだな……と呟いて立ち上がった北村に続き、竜児も席へ急ぎ足で戻った。そして、
「ゆ、ゆうさくぅぅぅ〜〜〜っ! ふえええ〜〜〜ん!」
泣きながら北村の胸に飛び込んだ。もう帰りたいと子供のように訴え、チワワ目で北村を見上げる。
「あーあーあーあー……なんで仲良くできないんだよおまえは。まったく……
 騒がしくして悪かったな、逢坂。高須も。俺、こいつ連れて帰るわ」
頭を下げ、北村は店中の注目をものともせず、そのまま亜美を引きずって退場。
「……嫌い、あの女!」
悔しげに呻く大河。大変なことになってしまった。が、その時竜児の耳に、福音が授けられる。
「あり? どしたの?大河、機嫌悪いじゃん。なにかあった?」
きょとん、と目を丸くしている実乃梨が現れた。
「……みのりんっ、違うの、なんでもないの! じゃあ、揃ったし、しゅる……祝賀会やろっ!
 みのりん、お昼食べるでしょ? わたし手洗ってくるから、先に竜児と決めててっ」
実乃梨は大河の背中を見送ってから、おもむろに竜児の方へ向き直る。
「竜児くん……あとで帰りに教えてくれる? あれは相当怒ってるねえ、おとなしい大河にしては」
「おっ、……おとなしい?」
少し大河への見解に誤差を感じる竜児だったが、祝賀会の後、家まで実乃梨を送迎出来る事が確定し、
素直に嬉しかった。

***

食事を終える頃には、実乃梨のミラクルトークのおかげで大河の機嫌は回復していた。
「じゃあここ以外に、しゃぶしゃぶ屋さんとカラオケ屋とコンビニでもバイトしてるの?
 十分働き過ぎだって。みのりん、そんなに稼いで、何か欲しいものでもあるの?」
「これでもセーブしているんだよ?時間あるもん、勤労しなきゃ」
「蘇る勤労……だな」
竜児が渾身のツッコミを入れる。実乃梨の目がキラリと光る。
「おおっ、松田優作……そうそう、勤労の夏、日本の夏なのだよ」
「……き、勤労怪奇ファイルだよな」
「王子できたかっ!うんうん、天使勤労区だよ。やるな竜児くんっ!」
「……竜児。あんたの言動、かなりみのりんに影響されてるわよ……」
と、そんな感じで、既に亜美の事は全く話題にならかったのだが、
次の日、第2ラウンドが始めるとは、北村以外誰も知る由もなかった……
241 ◆9VH6xuHQDo :2009/09/27(日) 21:25:06 ID:xCZhhHFD
以上になります。
お読み頂いた方、有り難うございました。
やっと後半で、続けたいと考えておりますが、
様子を見させて頂き、判断させて頂こうと存じます。
またこの時間帯をお借りするかもしれません。
失礼致します。
242名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 22:00:48 ID:m9XMbyKh
GJ!
243名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 22:20:05 ID:tuku9CdD
GJ〜
244名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 22:22:49 ID:tuku9CdD
>220
そのネタ、全部自前??
245名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 00:09:55 ID:f9KgJajB
>>241
GJ
電話番号はナマモノとか、小ネタおもしろいわw
続き期待
246名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 14:13:30 ID:PHZMCS7L
キャバクラGJ
247奈々子エッス! (中):2009/09/28(月) 20:47:28 ID:ViA2wee2
今から投下します。7スレ分あります。

何故か「上」より倍以上に長くなっている…
「上」は誤字が多かったので、今度はもっとしっかり検査を行いました。
そして一応、卑語に自我規制かけています。
248奈々子エッス! (中):2009/09/28(月) 20:48:24 ID:ViA2wee2
一度イッちまえば落ち着くだろう。でもアソコでするのはまだまだ早すぎる。
とりあえず、熱いからストッキングを脱ごう。下着もドロドロで気持ち悪くなったし。
そして、スカート脱がずに、ストッキングだけを脱ぐことがないのは、この設定衣装の欠点。

ボタンを解かれたスカートは、太ももを擦り、地上へと落ちる。
下半身を全部包み隠した黒いストッキングから両足を取り出す。
ついでにパンツも脱ぎ、全裸になる。

「奈々子様…」

視覚的に衝撃力が強かったか、彼は感動しているようで、股間のところをとんでもない具合に膨らませた。なんか鋭い直角まで出来ている。
彼は私を視姦して、明らかに何か期待している。そのアホみたいなスケベ顔を見て、私はいいこと思いついた。

「チ〇ポはお預けよ。さっき、生意気なことしたでしょ。」

私はそういって、倒れている彼の身体を跨ぎ、自分の身体の卑猥な部分を見せ付けるように、仁王立ちで佇む。

「引き続き、私に奉仕なさい。」

そして、彼の顔に座りついて、自分の大事な部分を押し付ける。鼻が少し割れ目に入った気がする。
流石に体重はかけられないから、彼の身体を前に傾けて、重心を上半身に移させてあげた。
69の体位だが、私の方から彼を喜ばすことはない。

「うっ」

彼は少しうなった。分からなくもない。
幾ら清潔のつもりでいても、一日ストッキングを履いて過ごしたら、流石にアソコは臭う。
愛液の大量分泌で、さらに臭いがきつくなっているんだろう。
でも大丈夫。彼はその臭いに欲情するような変態さんだから。

彼はとりあえず私の尻を抱いて、顔を軽く擦り付ける。が、なんか躊躇っている。

「舌、出さないの?」

そう問いかかった間もなく、暖かい感覚は私の膣の中に入り込む。

「んん、あぁ、はあ♪…そうよ、いい感じ…」

その温もりは私の中に入って、出てて、私の股間の周りに巡って、そしてまた膣を出入りしていた。

「その調子、ね…んあ♪」
「はぁ、う…いい、いいよ。ねぇ、胸、触りたいんでしょう…?今は、んぐ、許してあげるっ、よ…」

聞こえていないか、彼の手は動かない。私はもう一度声をかける。

「あぁ、早くぅ…はあ、はぁ…二度も言わせな………あ、あああ!!」

私の文句がまだ終わってないうちに、彼は突然手を伸ばし、強く私の胸を握り締めた。
握り潰されそうなぐらい、強く。少し痛いけど、今の私にはちょうどいい。
こんな状態でも、ここまで精確に私の弱みを捕らえるなんて、なんかすごく器用。
もしかしたら、最初反応しかったのも、この不意打ちを狙っていたかもしれない。
249奈々子エッス! (中):2009/09/28(月) 20:49:02 ID:ViA2wee2

「ん…! いやあ!」

胸が強く握られ回されて、下の口だって強く吸われている。私は乱されている。

「んぐお゛ぉ!?」

そして、いつの間にか、私は自分から腰を振っていた。彼は驚いても仕方がない。
私は彼の顔で、股間の媚肉をマッサージしている。

「はあ、はあ、いい、気持ち、いいよ、高須くん!」
「ぐお゛、な゛、ぐな…な子…さま…」

彼は苦しそうに呻いている。口と鼻は私が動くたびに塞がられて、呼吸も満足に出来ないからだろう。
でも彼は苦しめられていても、胸に責めるのを忘れていない。私の身体は喜んでいる。

やがて、快楽の津波が襲いかかった。

「ん、ああ、いやぁ、い、もうだめ、逝く…」
「胸も、マ〇コも…すごく、きもち、いいっ…!!」
「あ、うぐ、高須くん、わたし、いくよ…はあ、はぁ、あぐっ…ああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「!う゛ぐっ!!」

絶頂の中に、私は両足で彼の頭を強く挟んで、両手も彼のシャツを強く握って、イキながら腰を振り続けた。
その同時に、私は……潮、吹いたらしい。下から液体が彼の首に噴射して、目に見えるような凄まじいオーガズムだった。
快感こそ与えていないのに、プライドを奪っといて、自分だけ盛り上がっていた挙句、一人でイって、汚いモノを相手にぶつけた。
女を無理やり犯す男の気持ちを、少し分かった気がする。

「はあ、はあ…」

何時ものことだが、絶頂したあとの虚脱は酷い。
私は辛うじて高須くんから離れて、ベッドに身体を預けながら床に座った。
私は深呼吸して、調子を取り直した。そして、振り向いたら、思わず失笑。

先の連続ピンタで懲りたか、彼は今度大人しくしていた。
で、首以上のところでは噴出したジルで酷く濡れて、顔も先の摩擦で赤くなって、もう滅茶苦茶。
そんなことになって、処理しないでじっとしているなんて、バカみたい。

「その見苦しい面を何とかしなさいよね。」

無茶した張本人である私、の口から出したそれは、間違いなく暴言だった。
でも彼は反発しない。彼はただ身を起こして、座るまま静かに服の裾で顔の汚れをふき取っていた。
私が体勢を直し座っていたら、彼は何かを求めるような目で声をかけた。

「奈々子様、俺にも、その…」

それはネダりだった。そして私は冷静な声で答えた。
250奈々子エッス! (中):2009/09/28(月) 20:49:26 ID:ViA2wee2

「自分でして頂戴。他の女の穴なんかに出入りしていたソレを触るなんて、気持ち悪いだけよ。」

──────そう。
このお仕置きは、他の女にちょっかい出した彼にあたえた「罰」。
設定では、私は彼が他の女とのヒメゴトを目撃して、彼のことを怒っているという。
高須くんが他の女性とも関係を持つことはずっと前から知っていた。
今日、彼が放課後で教室に女の子とセックスすることも、事前から知っていた。

何せ、私がそうさせたもの。

気のいいクラスの担任も、彼の元の思い人も、容赦なく彼にヤらせていた。そして今日はクラスメートの現役モデルの初めてを奪わせた。
彼が浮気する度に、私は大義名分で彼を虐めることができるから、もう何度どもそういうことを仕掛けてきた。
もう六人目になるんだっけ。彼女らも満更じゃなかったから、謀るのは結構容易かった。寧ろ、高須くんに抱かせるのに苦労した────彼は浮気しやすい性格ではなかった。
最近、彼は背徳感にも慣れたようで、ヤリチン気味になって、いろいろしやすかったけどね。普通な修羅場より「お仕置き」の方がデフォルトになったのも原因だが。
しかし、彼は今でも私を「裏切った」ということを意識して、私にどんな酷い事されてもあっさり受け入られる。
彼は優しいから、浮気自体に慣れてきても、そういうとこだけは変わらない。

「どうせゴムなしで中に出したんでしょう。貴方の臭い精液とその腐ったマ〇コの液体が混じりあって、ソレに付いているわよね。気持ち悪い。」

それを聞いて、今まで私の暴行を大人しく受け止めていた彼は、初めて不満の色を示す。

「…川嶋のその、アソコを『腐った』というのは、あんまりだと思います。」

「へえ、庇うんだ?私の目を盗んで、教室の中で貴方の情けない包茎〇ンポを嵌めて、初めてなのに直ぐに感じまくったマ〇コが、腐ってないわけあるの?」

口調こそ厳しいけれど、それに反して、私は反発されて喜んでいる。
これはお仕置きをエスカレートするのネタである。それに、彼がここで黙っていたらそれはそれで困る。
亜美ちゃんのことをそうして優しく気遣う姿こそ、私の望んでいるの彼の在り方。
彼が浮気していたというのに、私の身体と、心のどこかは歓喜している。
ちなみに、彼の「包茎」は仮性なだげ。

「川嶋は、泣きながら俺のことが好きだといいました。彼女は俺に…うっ!うう、まってください、奈々子様!」

私は足を彼の股間に押しつけて、彼の説明を途切れさせた。
そして、彼が「奈々子様」と呻いた直後、私は直ぐに足を離した。彼は痛がっていたと判断していたから。
力が入りすぎたかも、とちょっと反省した。少し感情的になったのも反省。でもそれを表には出さないのはお約束。

「彼女の気持ちに応えたばっかりなのに、私にも硬くなるわね。節操ないおチ〇チ〇。
 そんな弱虫、構ってあげなくていいの?もう堪らないんでしょ?」

「い、いえ、川嶋を貶む言葉を撤回させるまでは…あっ、や、やめて下さい!」

私はもう一度、彼の話の途中で足を押し付けた。今度はちょっとテクニークを込めている。
足指を動かし、ズボンの表に浮かべる男根の形に密着できるように、ゆっくりと愛撫した。
適切に圧力を与えながら、足を動きまわす。普通は先っぽが一番敏感だが、こういう時は根元辺りを押すのも効果的。
今度は上手く行っていたようで、彼の呼吸が荒くなるところで、私はまた足を離した。

「やっぱ苦しいんでしょう。
 そうね、彼女のマ〇コが腐ってないと主張する理由ぐらい、聞いてあげる。
 私から質問するわ。でもまず、ソレをシゴくことよ。」

「シゴくって…自分で、ですか?」

高須くんの疑問に、私はただ頷きで答えた。
251奈々子エッス! (中):2009/09/28(月) 20:49:52 ID:ViA2wee2


「……俺の言い分を聞いていただいて、ありがとうございます。」

高須君は少し躊躇っていたが、やがて観念して、ズボンとパンツを脱いだ。彼のオトコのコはぼよ〜んと揺れて、ご登場を果たせた。
爆発でもするかのように、もうピンピンしている。そして大きい。もう何度も見たけど、やはりそのインパクトには慣れられない。
ソレを見たら、どうしても、初めての時に身体が裂けるように痛かったのを、思い出してしまう。

そして、彼は床に座ったまま、私の目の前で自慰行為を始めた。

「うわ、本当にするんだぁ。キモイ。」

彼は私の理不尽な暴言に構う余裕もないらしく、黙ったまま腕をゆっくりと上下している。
一見普通にシゴいてるだけのようだが、妙に手つきに変化が入っている。
集中していじっているみたいで、なにか拘りでもあったようだ。

「まあ、いいわ。で、亜美ちゃんどうやって貴方を誘ったの?」

「好きだって、いって、はぁ…抱きついてき、ました。」

「ふーん。なんか簡単。それで押し倒したの?」

「いえ…それは午休のとき、でした。最初は断って、おきました。
 でも、放課後はまた引き止められ、ました。何故かそこで奈々子様の名前が出てき、ました」

彼はまったくオナニー止まらずに、喋っている。これは中々滑稽である。

まあ、私と彼が交際していることは、学院では内緒。しかし、私は亜美ちゃんにそれを教えた。しょっちゅうセックスしていたのも、彼女に教えた。
それは亜美ちゃんをハメるためだった。そうでもしなければ、幾ら高須くん中毒でも、奥手の亜美は何時までも体でアタックすることを、思いつかなかったのだろう。

「貴方が私のものだと分かっていながら、誘ってたんだ。やっぱ腐りマ〇コなのね。
 で、貴方はそれでもその〇ンポで亜美ちゃんとヤったわけ?」

「説得を試していましたが、そして川嶋が泣いてしまい、ました。
 彼女の泣き顔を見るのは、ショックだった…ううっ」

彼は説明しながら、手の動きを速まっていた。なんか激昂している。

「あっそ。」

私にはちょっと不味い話だった。彼が亜美ちゃんに優しくしたのは、私の心にチクチクと痛めつける。
でもそれ以上に、親友にも高須くんにも嫌な思いをさせた、と意識せずにいられない。
252奈々子エッス! (中):2009/09/28(月) 20:50:41 ID:ViA2wee2

私はいわゆる「M字開脚」をして、両手で花弁を広げ、また彼に私の女の部分を見せ付けた。

「見て。ほら、このおマ〇コだけは、亜美ちゃんに似ているんでしょ?腐ってないけど。
 これを見て、亜美ちゃんとするのを思い出しながら、シゴいて頂戴。」

悔しいが、スタイルでは亜美ちゃんに及ばない。自分には女としてはかなり魅力あると思うけど、事実として、体の作りは彼女と比べて明らかに違う。
だから、性器だけが似ているというのは───

「川嶋の方は…すこし色が浅いんです。」

ってこら。

「へー、そうなんだ。じゃあ、見せてあげない。」

悔しい。やはり処女には敵わなかったか。

「いや、待ってください!奈々子様のアソコは綺麗なんです。…それを見ながら、したいんです…」

変態的な感想だけど…ちょっぴり嬉しかった。だから、大サービスしてあげちゃう。

「そう。まあ、他は想像力で何とか補足しなさい。私もオナニーするから、ね…よく見て。」

私は一つの指を、自分の中入れて、何時もの調子でアソコを責めていた。

「ねえ、どんな体位で、してたの…?」

「さ、教卓の上で…最後まで正常位でしました。」

「どうして?」

「川嶋が、初めてだったから…はあ、はあ」

「はあ、うぐぅ…んん…やっぱり、そうだったね。で、亜美ちゃんの処女、マ〇コ、美味しかった…?」

実はセックスするところを一部始終見ていたのだが、あくまで言葉で彼を責める。
私は指ではもの足りないから、自分の胸にも手をかけた。
いまさら気付いたが、さっき高須くんに握られたせいで、赤い跡が付いている。

「凄く締まっていて、暖かくて、気持ちよかった、のですよ…はあ、はあ…」

「!!あぁっ!」
私は彼のその感想に反応して、軽くイっちゃった。でも直ぐにオナニーを再開した。
今度は勢いに乗って、膣にもう一つの指を入れて、もっと早く中をかき回して、そしてもっと強く胸を揉んでいた。
253奈々子エッス! (中):2009/09/28(月) 20:51:05 ID:ViA2wee2
「はあ…ふぅ…そういえば、亜美ちゃんに、アソコの毛が深いって、愚痴られた気が…実際どうだったの?」

「なんか、処理している、痕跡が、目立ちました…ううっ、もう、奈々子さま…ああ…」

彼は扱いてるて手を交代し、凄まじい速度で腕を動いた。

「ん、あぁ、も、もうイクのね?存分にいってぇ…!」

私も三つ目の指をアソコに入れて、もっともっと乱暴にかき回した。
彼がすぐにイクと思うだけで、何故か私も行きたい気分になってきた。
先の潮吹きで敏感になっているかしら。

「はあ、はあ…はい!奈々子様!」

「私に、かけて…!どこでも、良いから、遠慮しないでぇ…はぁ、亜美ちゃんにぶっかけなかった分、私を汚してぇぇ…!!」

私が許可をだしたら、高須くんは立ち上がって、私に向かってラストスパートをはじめた。

「ねぇ、亜美ちゃんがイっていたとき、はぁ、ああ、なんて、いったの…?」

「か、川嶋が?俺の、名前を何度も、叫んでました…はあ、出すよ、今出しますから…ああぁぁ…!」

「ああ、あああ、高須くん、高須くん、高須くん、高須くん…!」

私は彼の名前を叫びながらイった。先みたいに潮を吹きなかったが、存分に痙攣してきた。
そして彼も射精した。私の胸も、腹部も、股間も、彼の白くて臭い体液で汚された。

ああ、熱い…

「はあ…はあ…高須、くぅん…」

失神しそうな状態だったけど、私はちゃんと気付いてる。
彼は、「とこでも良いから」と言われても、明らかに髪に精液かけるのを避けていた。
彼は憎いほど、「目の前」の女の子に優しくするのに、慣れている。
故に、私は自力で彼の視線の中から逃げることができない。常に彼に見られていたい。
だからこれだけは認めざるを得ない。私は彼が好き。
何度も自分の処女をあげたくなるほど、もう狂っていたかのように、彼を、愛している。
でも悲しいことに、「初めて」は一度きりのもの。それは今の私ではどうにも、成らない。

私はいったばかりの彼の横顔をただただ注視していた。先に声をかけたのはまた、彼だった。

「奈々子さま、すいません…まだ、収まらないんです。」

…今日で二度目の射精だったのに、まだそんなに元気だなんて。
そんなに私が欲しかったのか。でも正直、やはり私も彼のモノがないと物足りない。

「うん。いいよ、高須くん…」

私は彼を受け入れるようと体勢を変えて、

「……来て……」

と彼に、自分の願いを、囁いた。
254奈々子エッス! (中):2009/09/28(月) 20:51:43 ID:ViA2wee2
以上です。

えっと…結局6スレだけでした。すいません。

なんと、実はネトラレ・ネトラセ属性で、Sに見えてドMな奈々子様でした。
竜児にぞっこんで甘いとこあるが、やっぱり黒い。ヤンデレ一歩手前に見えなくもないんですけど…まあ。
次はいよいよ本番です。甘口予定です。明日と明後日には間に合わなさそうですが、なるべく早く完成するように努力します。
では。
255名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 21:15:20 ID:X4dCo39H
う〜ん・・・・ビミョ〜
256名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 21:38:16 ID:H2EvBR1n
なかなかエロかった。続きも期待
257名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 21:50:36 ID:6HpRoB+I
誤字とかじゃなくて、日本語としておかしいなって思う部分が目立つ。

でも、状況は想像できるしエロくてGJ!
「ってこら。」も笑ったw

Sに見えてドMな奈々子って設定もツボなんで続き待ってる。
258名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 23:09:20 ID:QLVEFnbh
SがどMに変化させられるのは大好きだが
相手の男がM全開なのに女性のM墜ちってのは微妙だな

ふところがでかくて相手のSを好きにさせてやってたけど
相手の違う面も見たくてたまには責めてみた竜児、相手がM過ぎてSにはまっていく
でも二人とも事後は愛情いっぱいで後戯、てな方が竜児っぽい気はするな
259356FLGR:2009/09/29(火) 03:08:33 ID:dRDmzxKK

356FLGRです。
香椎さんがブームみたいなので・・・ 2レスです。

260耳かき 奈々子 01:2009/09/29(火) 03:09:53 ID:dRDmzxKK
 奈々子の内側、軟らかい肉の壁を竜児は丁寧になぞっていく。最初は入り口の近くの
浅いところから。かき回すように満遍なく壁をなぞりながら、徐々に奥へ奥へと竜児は
侵入していく。
 ぞくぞくとした、これまでに味わったことの無い感触が身体の内側から伝わってきて
奈々子の肩が震えた。撓わな胸のふくらみがそれにつられてふるふると揺れる。

「んっ」
 光沢のあるふっくらとした唇が緩くひらいて息を漏らす。
「た、かす…くん」
 奈々子はうっすらと瞼を開けて竜児を見た。
「ん、おぅ。痛いのか?」
「だいじょうぶ」
「動くなよ」
「う、うん」
「中の具合なんて、みんな似た様なもんだと思ってたんだけどな。結構、違うもんだ」
 竜児は奈々子の小さな入り口を覗き込みながら呟いた。
「たかすくん、なんか、いやらしい」
「んなことねぇ」
 竜児は慎重に奈々子の奥の部分に触れた。すこし引っかかるような手ごたえがあり、
そこを撫でるように指先を動かした。
「んくっ、はぁぁ」
 ほんの少しだけ強くこすられて胸が疼くような快感が湧き上がる。
「ここだな」
「だめ、はずかしぃ」
「んなことねぇって。誰だって溜まることはあるからな」
「そんな、露骨にいわないで…んぁっ」
「…もうちょっと濡らした方がいいな」
 そう言って竜児は引き抜いていく。
「はあぁ…」と、奈々子は切なげに息を漏らす。
 あまり強引にやってはいけない。なにせ敏感で繊細な部分だ。
 竜児はローションを垂らしてそれを湿らせて奈々子の中に沈めていった。

 もう一度、さっき触れた部分を攻める。竜児はその部分に濡れた棒の先で触れた。
「…んっ」
 奈々子の反応を見ながら竜児は慎重に動かしていく。たっぷりと湿らせて、擦り付け
るとぬるっとした感触が伝わってきた。
「んふっ、ぁあっ…はぁ…」
 竜児は口元に笑みを浮かべながら、ゆっくりと引き抜いた。引き抜いた物を竜児はし
げしげと眺めてティッシュで拭った。奈々子はその様子を視界の端で見ていた。
「そんなに、見ないで」
「恥ずかしがる様なもんでもねぇだろ」
「デリカシーが無いのね」
「そ、そうか。そりゃ悪かったな」

 竜児は入り口の周りのやわらかい肉に指をあてがって広げた。
「ぁん」
 思わず声が漏れる。そこだって、普段、人に触れられるような部分ではないのだ。
「うごくなよ」
「ぅん」
 竜児はもう一度、ローションで湿らせて奈々子の中に侵入していく。奥へ、奥へと
奈々子の内側を探っていく。やわらかい壁に触れる様に撫でまわす。

「あ、ふっ、んん…」
 奈々子は目を閉じて身体の内側を弄られる感覚を味わっていた。底知れない恐怖と、
でもそれと対になっている快感に酔いしれる。ただの同級生の男の子に身を任せ、まるで
落ちていく様な、堕ちていく様な感覚に侵されて、その背徳感に理性を嬲られる。
261耳かき 奈々子 02:2009/09/29(火) 03:10:37 ID:dRDmzxKK

 おとうさんが見たら泣くわ…

「…ん、っあ」
 奥に触れていたモノが抜かれていく。奥から入り口へと擦り上がっていく、その感覚に
奈々子の唇はゆるく開き、溜息にも似た熱い息が漏れ出した。

「…よし、香椎。反対側」
 奈々子はゆるゆると身を起こし、蕩ける様な目で竜児を見た。
「高須君、本当に上手ね。耳かき」

「ちょっと、あんた。時間かけすぎなんじゃないの?」
 竜児の正面で様子を見ていた大河が正座に腕組みという時代劇みたいな格好で竜児を
睨んでいた。
「あん? 普通こんなもんだろ」
「あたしの時なんか、この半分もかかんなかったわよ」
「そりゃお前の耳に傷がついてたからだろ。治ったらやってやるって言ったろうが」
「ぐぅっ…」

 などと言っている間に奈々子は反対側の耳を上にして竜児の右膝に頭を乗せていた。

「な、なんだってあんたエロボクロの耳掃除なんてしてんのよ」
「はぁ? お前が連れて来たんだろうが!」

 そうなのだ。大河はすっかり竜児の耳かきにハマってしまったのだが、一抹の不安が
あったのだ。ひょっとしたら自分と泰子は異常なんじゃなかろうかと。結論を出す方法
は一つだけ。新たなる被験者を用意することだった。

 と、言うわけで大河の口八丁手八丁で連れてこられたのが香椎奈々子だった。

「高須君、はやく…きて…」奈々子は催促する。
 いや、『きて』じゃなく『して』じゃねぇの、と竜児は思いつつ綿棒を手に取った。

 大河はすっと立ち上がり竜児のすぐ近くでぺたんと座った。
 そして唐突にころんと寝転がり竜児の左膝に頭を乗せた。竜児は左膝に大河の頭を
乗せたまま、右膝に頭を乗せている奈々子の耳かきを始めた。大河はブツブツと文句を
言っていたのだが、奈々子の耳かきが終わる頃にはすっかりおとなしくなり、すぅすぅ
と寝息をたて始めていた。

「香椎。もういいぞ。完璧な仕上がりだ」
 奈々子はゆっくりと身体を起こした。
「静かになったと思ったら寝ちゃったのね」
「まったく、勝手なもんだよ。何様のつもりなんだか」
「ふふ、でも、楽しかったわ。じゃあ、私、帰るわね」
「悪いな、なんかもう、大河の我侭に付き合わせちまって。悪いついでにその膝掛け
とってくれねぇか」
 奈々子は部屋の隅に畳まれていた膝掛けを取って竜児に渡した。竜児はそれを丸く
なって寝ている大河の身体にそっと掛けた。

「じゃあね、高須君」
「おぅ。気をつけてな」
 軽く挨拶して、奈々子は高須家を後にした。心に一つの疑念を抱いて。
「あんなになるなんて、私、ちょっと変なのかしら。それとも…」

(つづく?)
262356FLGR:2009/09/29(火) 03:11:55 ID:dRDmzxKK
以上、おそまつ。
356FLGRでした。
263名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 03:27:29 ID:bHKjOgr2
GJwww
つーかタイトルでネタバレしてんじゃんw
264名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 03:47:27 ID:shO5a79V
まさかの奈々子ブームwwみなさんGJww
265名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 04:47:17 ID:vvo0kmx2
わかりやすく被害者?が増えそうなラストのひきGJ
266名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 07:18:43 ID:ddoOcdGb
奈々子可愛い GJ
267名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 08:27:36 ID:2BdaCs4r
>>265

北村が召喚されそうだ。
268名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 08:31:59 ID:shO5a79V
櫛枝、亜美、木原、会長、さくら、独神、北村、春田
耳かき被害者になりそうなメンツ
269名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 12:23:35 ID:AfyVgQ32
さくらはヤバいことになる
270名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 12:27:43 ID:o6BWmPVL
大河「ひゃひゃ、やめへ、しょこは『鼻』っ!」
271名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 17:30:53 ID:vvo0kmx2
そういや小さい子が鼻水たまると綿棒つかったりするな
……いやなんかの本で、SM系の風俗でも綿棒を男の(ry
272でっけーぞ:2009/09/29(火) 18:21:31 ID:o6BWmPVL

「おおーっ!」
「ど、どうした櫛枝!?」
 突然の声に思わず竜児が振り向く。
「でっけーのが、あっ……」
「(ぱくっ)」
「……あのね、高須君。すっごーく照れ臭いな」 
 振り向いた拍子に、みのりの指がくわえられている。
「……おう」
 慌てて口を開く竜児、みのりも慌てて手を引っ込める。
「で、なにがでっかかったんだ?」
「(言えない……ハナクソだったなんて絶対言えない)え、あはは、なんでもないっ!」
「それはいいが、鼻血が出てるぞ」
273名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 20:48:42 ID:Ha3YG8Ya
GJと言わざるを得ない
274名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 10:29:19 ID:oFsU9Oj7
GJー

また静かになっちゃったね(´・ω・`)
275名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 11:06:47 ID:pWUs6GrD
賞味期限切れ
276名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 12:00:13 ID:LNqrEHgO
だから、毎日SS投下来ること自体がすげーんだって、
大体、立てて、一週間で300Kオーバーって勢いあるだろ

SS来ないとしても
その間、雑談でもして盛り上げる事が大事かな
277名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 14:43:59 ID:jHkZ4ZKE
気になったんだけど、耳にローションって大丈夫なの?
278名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 15:23:17 ID:FkQDQFgt
>>276のいうとおり
エロパロスレでもここはかなり人も多いし勢いもあるぜ
279名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 15:38:13 ID:OSjGktu/
ローションかしらないけど傷つけないように湿らしてる綿棒は売ってたような
280名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 18:47:36 ID:cwzBv76S
うん、他のスレもかなり巡回してるけど、ここはかなりのモンだと思う。
少なくとも、原作・アニメ共に完結済み作品の勢いとは思えない。
職人の皆さんには感謝の一言です。
281名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 18:51:58 ID:oFsU9Oj7
そうなのね・・・
エロパロは、こことみなみけ、あとハルヒくらいしか見てないから・・・
282174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 22:42:43 ID:Ouh9ldyv
「×××ドラ!」の続きを投下
特定カプ以外はダメな方は弾いてください
283174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 22:43:49 ID:Ouh9ldyv

「「「 ・・・・・・・・・ 」」」

目の前には、腕を組んで睨みつけてくる大河。
視線を少しズラして右を見れば、大河の隣にいる櫛枝が冷めた目でこっちを見下ろしている。
左を見れば、川嶋が腰に片手を当てながら豚でも見るようなキツイ視線をぶつけてくる。
早い話、大河達三人が囲みながら俺を見下ろしている。
教室のど真ん中で正座している俺を、それはもう穴が開くんじゃないかというくらい睨んでいる。
断っておくと、なにも正座の姿勢は強制されているわけじゃない。
川嶋と戻ってきた時点で、教室の中は酷い有様だった。
机なんていくつも吹っ飛ばされていたくらいだし、散乱している机に混じって春田が鼻血を噴いて倒れていた。
何があったかなんて考えたくもないが、この惨状を見れば口喧嘩程度で済まなかった事くらい嫌でも想像してしまう。
何故か当の二人は制服に埃一つ付けていなかったが。机の投げ合いでもしていたのか。
そんな教室の中で、ポッカリとスペースが空いている空間があった。
大河と櫛枝が睨み合っていた空間。
その場所で、誰に言われるでもなく体が勝手に正座の形をとった。
まぁそこまで歩かされたのは強制的になんだが・・・大河達による無言の圧力で。

「・・・・・・ぁ」

そんな状態が五分ほど経過した頃だろうか、意図せず声が漏れた。
喉が渇き切って掠れていて、自分でもえらく聞き取りづらい。
なにより、別に意味のある事を言おうとしたつもりじゃない。

「「「 な に ? 」」」

なのに、口から漏れたただけの俺の声に即座にハモリながら反応する三人の、その『ハモる』なんて可愛い表現の似つかわしくない
ドスの利いた低い声に、漏れた声すら引っ込んだ気がする。
正に針のむしろだ、本当に肌がチクチクしてきて痛ぇ。
チラリと見えた能登達の顔を見れば、自分がどんなにいたたまれない格好を晒しているのかを実感させられたのも痛い。

「・・・・・・な、なんでもありません・・・・・」

「「「 ・・・・・・チッ・・・・・・ 」」」

何で舌打ちまで同じタイミングで鳴らすんだよ、恐ぇよ。
敬語が拙かったのか、謝ったのが拙かったのか、それとも謝るだけで他に何も言わなかったのが拙かったのか、
何が拙かったのかは定かではないが、大河達の神経を逆撫でしてしまったのは間違いない。
とにかく空気が重い、尋常じゃないほど重いのに、それを更に重くしてしまった。

(ど、どうにかしてこの淀みきった空気を・・・じゃないと胃が握り潰されそうだ)

そうは思ってても、現実には口を開く事すら困難で、この状況で何をどう言えばいいってんだよ。
誰に何を言っても角が立つのは必死だ。誤字なんかじゃなく死に直結しそうな予感がしてならない。
最初に大河に話しかければ───ついさっきまで一緒だった川嶋が荒れそうだ。
なら川嶋に───大河が黙っちゃいないだろう、絶対に。
櫛枝だったら─── 一気に大河と川嶋の怒りが沸点を超えそうだ・・・こう、『ボンッ!』って感じに・・・これが一番危険じゃねぇか。
どうしたらいいんだ。

「・・・・・・あの」

「「「 な に ? 」」」

そもそも声を出した途端これだ。
一人ひとりどころか、三人いっぺんに話しかけるなんて以っての外だ。

「・・・・・・な、なんでもない・・・です・・・・・・」
284174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 22:44:59 ID:Ouh9ldyv

敬語にならないように気をつけようとしたつもりだったのに、苛つきを増した大河達の声から言い知れぬ恐怖を感じると、
自然と語尾に余計な一言を付け加えてしまった。
すると

「チッ・・・・・・」
「・・・チッ・・・」
「・・・・・・チッ」

今度はそれぞれ微妙にタイミングをズラした舌打ちをされた。
おまけに睨みが更にキツクなった。
角度がつき過ぎて、直角になりそうなほど目を吊り上げる大河の睨みも、
底冷えするような能面顔で睨む櫛枝も、素の状態だったらさすがにしないような顔でガンを飛ばしてくる川嶋も、
どれも正視に堪えられるもんじゃない。っていうか正視したくない。
あんな顔を見続けるくらいなら、気の済むまで殴られた方がまだ・・・気の済むまで? いつ済むんだ。
大河達の気が済む頃には、俺は死んでいるかもしれない。
死に顔は元の顔の判別も付かないほど原型を留めていないか、悩みの種である強面に磨きがかかるかの二通りだろう。

(いや、殴殺なんて面倒な事しなくても、包丁でサクっと刺した方が楽じゃ・・・現実味がありすぎじゃねぇかそれ・・・
 ま、まさかさすがにそこまでは・・・・・・否定できる根拠が見当たらねぇ・・・)

否定したくとも、否定するにはあまりにも明瞭に、かつ簡単に予想できる未来に怯えて縮こまる俺に向かって

「・・・・・・いい加減顔上げなさいよ、駄犬」

俯く俺には周りの様子は足元くらいしか把握できない。
だから、たまに漏れる声に反応する大河達と流れ落ちていく汗以外は、時間が止まってしまったんじゃないかと思っていた。割と本気で。
大河も櫛枝も川嶋も微動だにせず、それを取り囲んで見ているだろう能登を始め、クラスの連中も息を潜めている。
春田なんて息の根を止めていそうだ。
周りが異様なほど静かなのに、不整脈かと疑いたくなるほど不規則に暴れる心臓の音も、荒い筈の自分の息も聞こえない。
そんな中、今まで示し合わせたように三人一緒に単語を口にするか舌打ちをする以外は無言でいた大河が、
初めて自分の方から話しかけてきた。

「・・・・・・・・・」

素直に顔を上げた方がいい。
頭では分かってる。考えるまでもない。
なのに、体は言う事を聞かずに土下座と見間違うほど頭を下げて、正座している姿勢からピクリとも動かない。

「・・・・・・聞こえなかったの、竜児・・・顔 を 上 げ な さ い」

焦れた大河にもう一度言われると、バネ仕掛けのオモチャみたいに勢いよく背筋が伸びた。
意思とは無関係に動いたのは言うまでもない。
だが、それでも目だけは大河に向けられない。
どうしてもあらぬ方向に逸らしてしまう。

「・・・・・・こっちを見ろっつってんのがわかんないのね、あんたは」

「しょうがないわね」と。
続く言葉が耳に届いた時には、既に大河に胸倉を捕まれていた。

「ぐっ・・・・・・・・・」
285174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 22:46:16 ID:Ouh9ldyv

息ができない。
息が詰まるようなとか、そんな比喩表現なんかじゃなくて本気で息ができない。
両手で制服の襟首をキツく締め上げられ、膝立ちになるまで持ち上げられる。
振りほどこうにも、こんな時でも体は石みたいに固まっていて指一本動かせない。
何に対してか分からない後ろめたさや、周りの目だけじゃない。
息苦しさでチカチカと点滅する視界いっぱいに、真剣な表情をした大河が映っているから。

「いい? これから聞くことに正直に答えなさい。
 嘘吐いたり、はぐらかそうとしたらただじゃおかないわよ。わかったわね」

目が合うと、すかさず触れる寸前まで顔を近づけてきた大河。
その迫力に押されて、息苦しいのも忘れて我武者羅に首を縦に振って了解の意を示すと、パッと首を締め上げる力を解かれた。
バランスを崩して床に尻餅をつき咽こむ俺に、腰に手を当てて仁王立ちしている大河は深く息を吸い込み

「みのりんとばかちーが言ってたのは・・・・・・っ・・・」

抑揚をつけないようにしながら

「・・・・・・ホント、なの・・・・・・」

だけど最後には搾り出すような声色で、簡潔にそれだけを聞いてくる。
それ以上は何も言わない。
言わないが

「・・・・・・・・・」

見上げる俺の目を、大河は射抜くように真っ直ぐ見つめている。
これがいつもの大河だったら、その目の奥で「白状しないと殺す。白状してもその後で殺す」と、どっちに転んでも痛い目に遭わせると
脅しをかけてきている。そっちの方が全然気が楽だ。
少なくとも今みたいな泣きそうな顔をされるよりも、殴られようが蹴られようが、怒った顔をされている方がよっぽどマシだ。
そんな顔をしている大河を、更に悲しませるって知ってて首を振る。

「そう・・・なんだ・・・・・・」

無言の返事に対してそれだけ言うと、大河は屈んだ。
床に腰を下ろす俺の顔を正面から見据えると、おもむろに両手を頬に添える。

(・・・い、いよいよか・・・)

死刑執行という四文字が、俺の前に聳え立っている。
この体勢なら、おそらく片手を頬に添えたままでの平手打ちか、目一杯握り込んだ拳でのパンチか。
いや、両手で頭を固定しているから頭突きかもしれない。
なんでもいい、何が来ようと避けるようなマネだけは死んでもするな。
勝手に浮きそうになる腰に、これ以上無様な姿を晒すものかと渾身の力と、なけなしのプライドを込める。
いつ何が来ても耐えられるよう、奥歯だけはさっきから喰いしばっている。
準備万端、これ以上ないほど情けなくて最悪な人生の終わり方だが、ここで避けようものなら最悪の上に最低だ。

そして待つ事数秒。

「ねぇ」

櫛枝と川嶋を始め、固唾を呑んで見守っていた周りの緊張がピークに達した時、大河が口を開いた。
286174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 22:47:45 ID:Ouh9ldyv





「当然私が一番よね。そうでしょ、竜児」





「・・・そ・・・・・・は? えと・・・た、大河? それは、あの・・・どういう・・・・・・」

質問の意図が全く掴めない。
一番? 一番って何のだ? 何の順番だよ?
思いもよらない・・・いや、大体この状況で誰がこんな事を聞かれると予想できるんだ。
俺の中ではギタギタにされた後、頭を地べたに擦り付けるほどの土下座を経てまた大河達に───そこまで考えていた。
なのに大河は俺を打つでもなく、殴るでもなく、頭突くでもなく、至って大真面目な顔をして、何についてかは今一掴みかねるが、
自分が一番だろうと問うてくる。
訳が分からないし、混乱しているのはどうも俺だけじゃなさそうだ。
意識を周りに向けると、そこかしこがざわついている。
教室中に張り詰めていた緊張の糸が、大河の一言で一気に切れてしまっていた。

「・・・・・・?」

ふと、そういえば今まで三つあったはずのプレッシャーが消えている事に気付いた。
あれだけ押し潰されそうだったのに、今は微塵も感じない。
大河は目線をビタリと合わせたままだが、さっきほど強烈な目つきをしてはいない。
それどころか妙に勝ち誇ったような笑みを浮かべていて、張り詰めている感じは全くしない。

「・・・・・・───っ!?!?」

そーっと、大河に気をつけながら左右を見てみた瞬間、俺は後悔と恐怖で凍りついた。

「・・・・・・・・・」

「チッチッチッチッチッチッチッチッ・・・・・・」

櫛枝・・・一体どうしたんだよ、その顔・・・青筋が今にもはち切れて、血が噴出しそうなほど浮かび上がってるじゃないか。
それに青筋なのに全然青くない、どちらかと言えば紫に近いような赤い色をしてるぞ。
川嶋もなんでそんなに舌打ちを連発し・・・きょ、教室の床にツバを吐くのはさすがにマズイんじゃないのか。
ほら、周りの男子達がうわぁって・・・そいつらに向けて飛ばすなよ!?

「早くしなさいよ。今言った通り嘘偽りなく、あんたにとって誰が一番か正直にね。
 ま、答えなんて聞かなくてもわかってるけど」

フンッと、櫛枝と川嶋を一瞥した大河が鼻で笑った。

ビキィッッッ!!!

どうしてプレッシャーが消えたのか分かった。
的が俺から大河に変わった事と、俺が知覚できる限界を超えていたからだ。
その証拠に櫛枝と川嶋はもう俺を見ていない、俺の対面にいる大河を鬼も裸足で逃げ出すんじゃないかというくらいキツく睨んでいる。
そんな視線で睨まれているのに、何食わぬ顔をしている大河が信じられない。
俺だったら物の二秒もあれば舌を噛み切って楽になる方を選ぶ。
あれだけ耐え切れないと思っていた三人からの重圧は、あれでもまだ全力じゃなかったのか。
287174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 22:49:06 ID:Ouh9ldyv

二人が大河に矛先を向けているおかげで俺の方に若干の余裕が戻ってきた事はいいが、状況は刻々と悪くなっていく。
黙っていると再度焦れた大河に何をされるか分からないし、口を開けばあの状態の櫛枝と川嶋の注意を自分に向けてしまう。
どっちかと言えば後者の方が嫌だが、かと言っていつまでもこのままではいられない。
頬に添える程度だった大河の手は、今や爪が肌にめり込むところまできている。
堪え性の無い大河のことだ、いつ痺れを切らしてもおかしくない。
早く何か良い考えを思いつかないと

「・・・・・・ちょっと・・・黙ってないで、早く言いなさいよ。
 答えは一つしかないじゃない、それぐらいはわかってるわよね? ・・・わかってるわよねぇ!? 竜児ぃっ!!」

って、もうキレやがったのか!? はや・・・・・・ハッ!? せ、背中に悪寒が・・・汗まで・・・・・・・・・

「よしなって大河、そうやって無理やり言わせてもしょうがないじゃん。ねー高須くん。大河ったらおっかないんだからー・・・
 ・・・けどなー、できれば私も知りたいから教えてほしいなぁ、一番。あっ無理にとは言わないんだけど是非にね、是非ともね」

くっ付くんじゃないかと思うほど顔を近づけて怒鳴り散らす大河からなんとか目線を動かすと
そこにはギギギギと音が鳴ってそうな、不自然な動きでこっちを向く櫛枝がいた。
その顔には一見いつもと同じにこやかな笑顔が浮かんでいるが、よく見るとどこかおかしい。
まず目が笑ってないし、まるでどこかの誰かのように貼り付けたような、作ったような、そんな顔をしている。
薄っすらと浮かんでいる青筋も心なしかビクビクと震えているように見えるし、
微妙に言ってる事も支離滅裂なのが不気味さに拍車をかけている。
間違いなく、櫛枝は相当溜め込んでいる。

「高須くんさぁ、もう言っちゃいなよ。こいつらに遠慮しないでいいからね? 調子にのってつけ上がられても困るし、
 そういう連中って亜美ちゃん掃いて捨てるほど見てきたけど、大体どいつも人の男寝取りやがるような奴ばっかだから。こいつらみたいに」

どこかの誰かを見てみれば、櫛枝よりも数段年季の入った作り笑顔を既にバッチリ顔に貼り付けていた。
軽くはにかみながら、とても抉るようなメンチを切り、教室内でツバを吐き散していた女と同一人物とは思えない清楚さを振り撒いている。
が、口から出てくる物からは清楚さなんて欠片も感じられない。
説得力も半端じゃない。
何をドコで見聞きしてきたかなんて俺には知る由も無いが、生々しい事を臆面も無く言えてしまう辺り、
繕った川嶋とも、恐らく素だと思う川嶋とも違う、別の川嶋の一面を垣間見た気がした。

(・・・・・・ど、どうすれば・・・・・・)

完全に三人の注意が俺に向けられている。
そこまではさっきと同じだが、振り出しに戻ったのではなく追い詰められた。
気配で分かる。

「・・・ふーん・・・物好きなのね、二人とも。結果なんてわかりきってるのに・・・ま、いいけど・・・」

メキメキと音が鳴るまで挟み込んでいた俺の頭から手を離した大河は、手招きして二人を自分の横に立たせる。

「聞いて、竜児・・・私は竜児と、赤ちゃんだけでいい。それだけで幸せなの、他になんにもいらない、だから・・・
 ・・・私の前からいなくならないで・・・いなくなっちゃやだ・・・竜児と一緒じゃなきゃ、やだ・・・」

「高須くん、外野の声は気にしないでいいよ。大事なのはお互いの気持ちなんだからさ・・・私はそれを信じてるよ」

「テメェら泣くんだったらトイレにでも行ってからにしてよ、亜美ちゃんがイジめたとか思われたらマジ最悪だから。
 でもぉ、高須くんは亜美ちゃんにそんなことさせないよね・・・ね?」

一列に並んだのを各々が確認すると、ついでに火花を散らしながらお互いを見やり、予め決めていたように大河達が一斉に手を差し出してくる。
多分、この手を取った相手が一番なのだろう。
288174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 22:50:16 ID:Ouh9ldyv

俺にどうしろと?
大河は『俺にとって』の一番を決めろと言った。
それはこの三人の中からで、三人の内一人の手を取れば、それが一番になるんだろう。
二番や三番には何の意味もない、一番だけが決定する。
俺の一番を、俺が・・・・・・

今更な事かもしれないが、この険悪な空間を作り出したのは本当に俺が原因なのか。
目の前で繰り広げられるいわゆる『女の戦い』の原因が───信じられん。
大河達のあの真剣な告白を疑うつもりなんてないが、こんな状況じゃあ・・・せめて時間が欲しい。
どこかで物事をキチンと整理できるような時間を、できれば一人で。

(そのために、誰でもいいからこの場をなんとかしてくれ・・・この際悪魔でもいい、だから)

どうにかしてくれ。
そんな俺の、心からの願いが天に届いたのか。

ガラリ

いつもなら、既に一限目は始まっている。
なのに、何でこいつがこんな時間にやってくるのか。
だが、そんな事は問題じゃあない。
俺には教室に入ってきたそいつが尻尾を生やした悪魔よりも、頭に輪っかを乗せた天の使いに見えた。

「遅れてすみませ・・・そんなところで何をしてるんだ高須。亜美達も一緒になって」

教室に入ってきたのは北村だった。
訂正しよう、こいつは天の使いなんかじゃない。
なんてったって大明神、すなわち神様だ。直々に降りてきやがった。

「それに何があったんだ、教室の中がメチャクチャじゃないか。
 もう授業じゃ・・・まだなのか? ・・・よし、なら今の内に手分けして片付けよう、皆でやればすぐだ」

北村は目の前の惨状に気が付くと持ち前のリーダーシップと抜群の空気の読めなさを発揮し、教室中から向けられる冷めた視線を
意にも介さないで、率先して机を起こしていく。
大河も櫛枝も川嶋も、北村のマイペースっぷりにいくらか毒気と熱気を散らされたようだ。
何度目かの舌打ちと共に、突き出されていた手が引っ込む。
それでも視線は俺に突き刺さったままの予断ならない状態だが、今、即決断を迫られるよりは余程いいだろう。
もし万が一北村教なるものがあったら俺は入信してもいい。
こいつはただの失恋大明神じゃあない、俺にとっては救いのヒーローだ。
そのまま上手い事この状況をぶっ壊してくれ。

「おい北村」

・・・なんだろう、救いのヒーローがいきなり手の平を返したような・・・
ついでに今日一番の警鐘が頭の中で鳴り響いている気がする。
何故だ。

「ああ、すいません会長。急いで片付けるんで、少しだけ待っててもらえませんか」

なんだその弾んだ声は、それに何を言ってるんだ北村? 会長はお前だろう。
大橋高校で基本的に教師、生徒問わず会長と呼ばれているのは北村だけだ。
北村が生徒会長なんだから当然だ・・・だが・・・以前にも、当然生徒会長は存在した訳で。
そして北村が会長と呼ぶ人物なんて、俺には一人しか思い浮かばない。

「時間がねぇって言ってんだろ、勝手に入らせてもらうぞ・・・それに・・・用ならもう殆ど済んだようなもんだからな」
289名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 22:52:13 ID:Gh9tr/9Y
C
290174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 22:52:13 ID:Ouh9ldyv

聞いてるこっちが何故か背筋が凍るようなセリフを投げつけながら、聞き覚えのある声の主は教室内に足を踏み入れた。
その人物が同じ空間にいるだけで、クラスの連中が様々な反応をしている。
ある者は驚きに息を飲み、またある者は道を開け、別の者はその姿をケータイに収めようとして北村に張り倒されている。
背中を向けている俺でも、分かりやすいほど分かりやすいリアクションと断末魔が聞こえてくるために把握できてしまう。

「・・・その、なんだ・・・久しぶりだな、どうだ調子は」

真っ直ぐこちらに向かってきたらしく、声の主は五秒も経たずに俺の背後に立つ。
この人にとっては教室の異様な状況も、女子生徒三人を前にして床に腰を下ろしている俺の現在の格好も関係ないのか。
しかも何でそんなセリフを投げかけてくるんだ。
ちょっと恥じらいが含まれてるのが似合ってないとか、そんなことよりもよっぽど気になる。

(俺、会長・・・狩野会長とはろくすっぽ話した覚えなんてないんですけど・・・)

「「「 べ つ に 」」」

おそらく俺に向かって放たれただろう挨拶を、またも声を揃えた大河達が間髪入れずに返した。
だが、三人の視線は一身に俺に注がれている。
どういう事だ、と込めて。
言っても信じてもらえそうにないが、俺が一番困惑しているのに説明なんてできるはずがない。

「・・・耳に消しカスでも詰まってんのか? お前らに聞いちゃいねぇよ、いっぺん鼓膜に穴でも空けてきやがれ。
 私が用があるのは・・・竜児だけだ」

ポン、と。
悪態を吐いた会長に肩を叩かれって名指しでご氏名!? しかも下で!?!?

「っ!? 顔出すなり人のモンに馴れ馴れしくしてんじゃないわよ! 前々からアンタのそういう所が大っ嫌いなのよ!
 てゆーかアメリカ行ったんじゃなかったの!? 何しに帰ってきたのよ!? あと人のモンに気安く触んな!」

即座に大河が反応した。
後半の事は俺も聞きたかった事だが、それにしても機関銃のように一息で叫びきる大河の顔は怒りで真っ赤だ。
他の二人も・・・? いや、何だろう、予想に反してその表情は凍り付いている。

「名前で呼んだ名前で呼んだ名前で呼んだ名前で呼んだ名前で呼んだ名前で呼んだ名前で呼んだ名前で呼んだ名前で呼んだ・・・」

「・・・た、タイガーはともかく、こいつにまで・・・」

二人だけじゃない、こいつも少なからず衝撃を受けている。

「か、会長? 用事って、高須にだったんですか? なら俺に言ってくれれば・・・いえ、決してご自宅までお迎えに上がるのが面倒だったとか
 そんなんじゃないんです。むしろ願ってもないんですが・・・何故高須に・・・それにどうしてし、ししし、下で・・・」

お前はどれだけこの人に振り回されてるんだ。
いくらなんでもその程度の理由で遅刻するなよ、仮にも現生徒会長だろう。
完全に私事優先じゃないか。

「ああ、ご苦労だったな北村。今日はもう帰っていいぞ」

そんな北村に、会長は突き放すように非情な言葉を浴びせた。
北村は突然の会長の帰国に途惑いながらも胸を高鳴らせていたはずだ。
それが会長の一言で戸惑いが困惑に代わり、高鳴っていた胸は別の意味で早鐘を打っているだろう。
目以外の顔の穴という穴から水を流しまくる北村を見れば一目で分かる。
その目元にしても、メガネに当たる光を反射させるという力技で隠していて、レンズの下がどうなっているのかは北村にしか分からない。
291174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 22:53:19 ID:Ouh9ldyv

「相変わらずの厳しさ・・・それでこそ会長だ、ハッハッハ・・・」

辛い現実に打ちひしがれる北村は、それでもせっせと机を起こしていく。
誰の手も借りずノロノロとした動作で、黙々と。
まるで存在理由をそれだけに見出してるようで見ていて辛い。
見かねて手を貸そうと動き出した生徒もいたが、北村自身に止められて踏み出す足を止めた。

「私たちも帰るぞ。昼までには家に着かないと印象が悪い。
 親子関係を良好に保つにはそれなりに努力が必要だ。身支度と荷造りの時間くらいはやるから早く立て」

「え・・・ちょ、ちょっと・・・」

不吉なワードを目一杯散りばめ、早口に捲くし立てた会長が、俺を外まで引きずろうと制服の襟首を掴んだ。
大河とタイマンを張っても引けを取らない上、完璧超人の名を冠しても違和感のない会長の事だ、俺如きが抵抗を試みても徒労に終わる。
成す術もなく、訳を聞く暇もなく、俺は会長に連行される。

「待ちなさいよ」

「・・・ぁあ?」

そう半ば諦めていたが、俺の襟首を掴む会長の腕を、更に大河が掴んだ。
苛だたしげなセリフと共に会長の歩みが止まる。

「シカトしてんじゃないわよ、人の話はちゃんと聞けって習わなかったの? それとも日本語忘れちゃったのかしら」

「あんな一通なだけの喚き声が人の話だ? 本当に高等教育受けてんのかよ、小学生みたいなナリしやがって」

大河の挑発を軽く聞き流した会長は、即座に大河の癇に障るところを鷲掴みにして握り潰した。

「こんのっ・・・!」

「待て、待てって大河! 落ち着け!」

コンプレックスを的確に刺激された大河は余裕を繕っていた顔を一変させて、会長に殴りかかろうとする。
首根っこを引っ張る力が強まるが、無視して大河に抱きついた。
このままじゃあ殴り合いが始まる、それだけは阻止したい。
その一心で飛びついた、が

「ちょ、ちょっと、やめてよこんなとこで・・・みんな見てるでしょ・・・そ、そういうのはね、帰ってからで・・・
 もぅ、しょうがないんだから・・・」

俺の咄嗟の行動をどう取ったんだ・・・俺は大河をどうこうする気も、ましてや周りに当てつけようとするつもりもねぇよ。
そうじゃなくて、大河は今

「おい・・・身重の私を差し置いてまで、そいつの方が大切なのか・・・?」

そう、大河は身重の会長だから、二人一緒に安静にしてなきゃ・・・

「・・・・・・はい?」

「っ!? ・・・・・・・・・」

襟首から手を離した会長が、そのままヨロヨロと後ずさった。
ひょっとして、今の返事を肯定と取ったんじゃ・・・いや、それ以前に身重って・・・誰が?

会長が? ・・・会長『も』?
292174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 22:54:22 ID:Ouh9ldyv

あぁ、それを言うためにわざわざ帰国したのか。
突然現れた理由は分かった。
流れ的にも会長の発言からもそんな気はしてた。

(見に覚えのないどころかほぼ接点のない会長にどうしたってんだよ俺・・・)

「ね、ねぇ・・・」

うな垂れていると、大河に肩を叩かれた。
自然と下がっていた顔を上げると

「な・・・・・・」

会長の顔を見て絶句した。
あの会長が、薄っすらとはいえ目に涙を溜めて───!?

「・・・竜児、あいつになにしたのよ・・・」

大河も驚いている。
大河だけじゃない、櫛枝も川嶋も、他の連中だってそうだ。
北村に至っては体中から生気が漏れ出して抜け殻みたいになっている。
無理もない、あれだけ男らしい会長が人前で涙を見せるなんて、とてもじゃないが信じられない。

「私のことは・・・遊びだったのか・・・・・・? 」

(遊びだろうと本気だろうと会長に手を出す奴なんてそうそういる訳・・・そ、そんな目で俺を見ないで・・・)

こんな女々しい事を言っている事も信じられない。
しかも本格的に泣き出しそうだ。あの会長が、だ。
涙を溜めた目で、それでも気丈に大河を睨・・・もうとして、その大河に抱きついている俺を見ては目を逸らす。
あまりにも会長の様子が衝撃的で離れるのを忘れていたが、俺は大河に抱きついているままだった。
これは変な気を起こした訳じゃなく、殴りかかろうとしていた大河を止めるためにしただけだが
その抱きついている俺の頭を、大河は両手で抱えて離そうとしない。
おかげで誰がどう見ても抱き合っているようにしか見えない。
会長は極力大河を視界に入れたくないのか、中途半端に顔を俯けて俺に視線を合わせてくる。
潤んだ瞳に紅潮した頬、見ようによっては上目遣いに見えなくもない仕草に、最早男らしさなんて欠片も残っていない。
『狩野の兄貴の方』なんて呼ばれていたのが嘘のようだ。

「なぁ・・・なんとか言ったらどうなんだ、りゅう」

「しつこいわね、この格好見りゃわかるでしょ」

会長からの問いかけは、大河によって遮られた。
片手でギュッと制服に埋まるほど俺の頭を腹に押し付けると、
シッシと、犬でも追い払うみたいに空いた方の手をプラプラと振って会長に追い討ちまでかけている。
そんな大河に、とうとう会長の堪忍袋の緒が切れた。

「・・・テメェはさっきからなんなんだ・・・私は竜児に用があって、竜児と話してんだ。部外者がシャシャってんじゃねぇよ」

数歩前に出ると、ゴツッと硬い音を立てて大河の額に自分の額を押し付けた会長が、グイグイと力任せに大河を押していく。

「あんたこそ竜児のなによ・・・大体竜児竜児って、誰の許可取って呼び捨てにしてんのよ。他人が気安く呼んでいいと思ってんの」
293174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 22:55:13 ID:Ouh9ldyv

負けじと大河も会長を押し返そうと体中に力を入れる。
脇に挟まれている俺の頭蓋骨が、圧迫感に耐えかねて悲鳴を上げるが

「そんなんで他人ってーのは聞き捨てならないよ。一体誰が許可出してんのかな、大河とか言ったら殴るよ?」

「呼び方程度で得意気になるとかバッカじゃねーの? 見かけだけじゃなくて人としても超ちっせーんじゃね」

大河の不用意な一言に、一歩引いて様子を見ていた二人が反応した。
俺を締め上げる力が緩む。
櫛枝と川嶋、更には押し合い真っ最中の会長と、いっぺんに相手にするのは不利だと野性の勘が働いたのか、
俺から手を離し、悔しそうに後ずさっていく大河。
それでも俺を連れ出そうと手を伸ばした会長への威嚇は忘れていない。

「おい・・・そいつらもなのか・・・?」

と、大河だけだと思っていた会長が、割り込んできた二人をアゴで指しながら聞いてきた。
返答に困っていると、櫛枝からも川嶋からも睨まれる。
俺は小さく頷く事で肯定の意を示した。

「ほぅ・・・」

会長の目が怪しく光る。
片方の眉だけ器用に吊り上げ、垂らしていた腕を胸の前で組むと、それだけで一気に威圧的な態度に変わった。
先ほどまで纏っていた女性らしさが引っ込み、男性ホルモンをジョッキで一気飲みしてきたような男らしさを全身から振り撒いている。
後日、この頃には意識を回復させていた春田は能登にこう洩らしていたらしい。
大橋高校に狩野の兄貴が帰ってきた瞬間だった、と。

「私がいない間、随分とハメを外していたようだな。なぁおい」

「いっいや、その」

「・・・まぁいい」

言い訳のしようがない。
だって言い訳しようにも、俺は会長相手に操を立てておくような事は言ってない・・・はず・・・クソ、自信が無い。

「放っておいた私にだって責任はある。お前がキチンと誠意を見せてくれさえすれば、今回だけは目を瞑ってやる」

なんという亭主関白ぶりだろう、俺が不貞を働いた嫁だったら心から改心して一生ついていく。
だが、俺は不貞を働いたつもりもないし、そもそも嫁になった覚えもないし、嫁になんかひっくり返ってもなれやしない。
それに会長の言う誠意というのも疑問だ。
金銭を要求している訳じゃないだろうし、何をもって俺の誠意の証とやらを認めてくれるんだろう。

「まずは・・・あ、あの時みたいに私を抱きしめろ」

仁王立ちのままそっぽを向いた会長が、またもや乙女じみた事を言う。
あの時がどの時だかは分からないが、今この時、この場でというのは聞かなくても分かる。
大河達の目の前で。そうじゃなければ意味がない。
会長からすれば俺の誠意を試してるんだから。

「今日のところはそれでいい・・・だ、だめか?」

男性ホルモンが薄れてきているのか、命令しているのに何故かお願いになってる。
しかも『まずは』って、『今日のところ』って、ひょっとしてこれからもあるのか?
まさか一生をかけて誠意を見せろなんて言わないだろうな。
考えると会長なら本気で言い出しそうで、ちょっとだけ背筋に冷たい物が流れた。
294174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 22:56:09 ID:Ouh9ldyv

「そんなヤツの言うことなんか聞く必要ないわよ」

大河?

「だって竜児、言ってたじゃない」

俯いて顔を隠し、スカートの前に手を置いた大河。
モジモジと指を絡めたり離したりをしていると、意を決したのか

「その・・・わ、私ん家のベッドで、私のこといっぱいギュってしてくれて・・・好きだって・・・ずっとこうしてたいって・・・
 赤ちゃんができたあの時にそう・・・だから、だから・・・あ、あああ、あんたが抱きしめていいのは私だけなんだからね!」

赤く染まった顔を勢いよく上げた大河が宣言でもするように、指まで差してそう言った。
辺りがシンと静まり返り、言い切った後に込み上げてきたんだろう恥ずかしさに大河がプルプル震えている。
が、俺を指差すポーズは変わらない。
前言を撤回する気なんてさらさら無いという意思の表れのようだ。
大河の言うあの時は分かる。
昨晩、俺が事の真相を聞きに行こうとしたのをプロポーズしに来たもんだと勘違いしていた大河が話していた事と所々一致するから
多分その時の事を言ってるんだと思う。

「私にも言ってくれたよ、好きだって」

スーッと、静かな教室の中に櫛枝の言葉が広がっていく。

「練習が終わった後、二人っきりの部室で。言いたかったけど、今まで言えなかったって・・・高須くん、そう言って抱きしめてくれたよね。
 ・・・ま、まぁ〜さすがに部室の床でってーのはちょっと・・・けど、イヤじゃなかったんだよ、私。むしろ嬉しかったもん」

恥ずかしい話、そんな事を妄想した事はあった。
それも一度や二度じゃない。
でも実際に行動に起こそうとする根性なんて俺にはない。あってもまずは普通に会話するところから始めている。
絶句していると、ソフトボール部、とりわけ女子部員が湧き出した。
自分達が普段何気なく使っていた部室でそんな事があったと言われればさすがに黙ってはいられないのは分かるが、
やたらとキャーキャーという黄色い声が多いし、中には櫛枝を応援している者や詳細を聞こうとしている者まで出てきた。
どうやら部室でというシチュエーションに大いにツボったらしい。
櫛枝自身が後ろ指を指されるような流れとは無縁で安心する反面、「照れるぜ〜」と頭を掻きながら女子数人に耳打ちをして
盛り上がっている様子にメチャクチャ不安感を煽られる。
たまに俺を見ては「ウソー」とか「高須くんだいたーん」とか飛ばしてくる度に不安で堪らない。
何をしていたかなんて俺が知りたい。

「放課後、自販機の前」

ピタっと、語りだした川嶋によってまたも教室が静まり返った。

「あたしを背中から抱いて離さなかった高須くんの告白は、きっと一生忘れないわ。その・・・ば、場所が場所だけに尚更ね。
 ・・・亜美ちゃんがあんな恥ずかしい思いをガマンしたのって、高須くんだからよ? これからだって・・・」

だけどそれも束の間、一気に騒がしくなる。
一部の男子生徒が奇声を上げて自販機目指して教室から飛び出していくのを、残った自制心の強固な奴等は羨望と侮蔑を半々の割合で見送った。
今ごろ行ったとしてもそこに何がある訳でもないのに、何があいつらをそこまで駆り立てるんだ。
言うまでもないが女子は例外なく、皆一様に出て行った男子達の存在を記憶から忘却した。
あいつらは明日から名前じゃなくて変態の二文字で呼ばれることだろう、一時の感情に身を任せたばっかりにまだ一年は余裕で続く
高校生活を自分から棒に振ったんだから当然といえば当然だが。
幸いにも能登というストッパーのおかげで変態の仲間入りを避ける事ができたはずの春田も、大汗を掻きながら白い目を向ける女子達に
弁解を始めているが、取り押さえる能登を跳ね除けようともがいている場面をバッチリ見られていたため誰も耳を貸してくれない上に
変態予備軍のアホという烙印を押されていて、こんな事なら一時の感情に身を任せていても同じだったかもしれない。
どいつも自業自得としか言い様がない。
295174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 22:57:02 ID:Ouh9ldyv

「さっきから聞いてりゃ、なに言ってやがんだお前ら」

今度は会長。

「そいつはうちの親にも気に入られてんだよ。
 陳列だのを買って出るどころか地上げ屋まで追っ払った、今どき珍しい男気のある奴だってな」

かのう屋はよく利用する。つい気になって、雑に並べられていた商品を勝手ながら整頓したこともある。
会長の言う地上げ屋だと思わしき連中に出くわした事も。
だけどあの時俺はただ、店の商品に難癖をつけてた男達の近くに立ってただけだ。
騒ぎが広がる前にそこにやってきた会長が、口八丁手八丁で俺をかのう屋側の人間だとそいつらに錯覚させていた。
要はたまたま居合わせた俺を利用して、会長が言葉巧みに地上げ屋を追い返したんじゃないか。
・・・あれ、でもあの後・・・上機嫌な会長に無理やり家の中へと上げられて、それから・・・それから・・・・・・
お、思い出せない・・・俺はどうやって家まで帰ってきたんだ・・・

「フンッ、あんたこそなに言ってんのよ。私なんて家族同然・・・うぅん、家族なのよ?
 竜児だって、竜児のママだって私を家族だって言ってくれてる。これ以上の親公認が他にあるのかしら? あったら見てみたいもんだわ」

「「 ぐっ・・・・・・ 」」

「それに・・・竜児、してくれたもん・・・・・・プロポーズ・・・私もそれに『はい』って・・・・・・」

「「 ぐぬぬっ・・・・・・ 」」

櫛枝と川嶋がたじろぐ。
だんだんうっとりとした、夢見がちな顔になっていく大河は蚊ほども気にしないで昨晩あった出来事を話していく。

「あんなに幸せで、素敵な夜は二度目だったわ・・・竜児とも久々に一緒に寝られて・・・
 りゅ、竜児ったら、まだ出ないのに私のおお、おっぱ・・・も、もう、なに言わせんのよ」

誰も言わせてねぇし、それは夢だ。

「なに余裕こいてんだ? そのアドバンテージを覆せばいいだけだろ、私にとっちゃ造作もねぇ。
 今日にでも伺えばそれで十分だ。問題ねぇよな、竜児?」

それがどうしたという風に、会長が言う。
すると、大河に押され気味だった二人の目の色が変わった。

「高須くん、あとでお邪魔させてもらってもいい? いいよね? そうだ、なにもしないのもあれだからご飯とか作りに行こう。
 なにがいいかなぁ〜ここはやっぱ肉じゃが? まぁいいや、いろいろ作るから楽しみにしてて」

「もしもし、ママ? 亜美ちゃんの一生のお願い! 今日都合つけてほしいんだけど・・・うん、そう、せめてお昼までには・・・は? ムリ?
 なに聞いてんのよ、一生のお願いっつってんでしょ!? 言い訳なんていいからとっとと来てよね、じゃ・・・よし、こっちはいいよ高須くん」

「はぁっ!? な、なによそれぇ!? あんたたち、ヒトん家の迷惑とか考えなさいよ!」

「「「 私(あたし)は高須くん(竜児)に聞いてるんだけど(聞いてんだよ) 」」」

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ・・・竜児! 竜児だって、勝手に『私達』の家に来られたら困るでしょ? そうよね? ね?」

バっと、ギラギラと輝く四対の瞳が向けられる。
各々の放つレーザーみたいな眼力で火を点けられそうだ。

「・・・・・・きゅ、急にそう言われても・・・・・・」
296174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 22:57:58 ID:Ouh9ldyv

四面楚歌───こんな四字熟語を思い出した。
今の俺にはピッタリじゃないか。
大河達四人からすればそれぞれが紛う事なく敵で、自分の味方が俺という風に見えているのかもしれない。
とにかく四方向から追い詰められている事に変わりはない。

「・・・どういう事なんだ、高須・・・」

とうとう五方向目まで潰された。
途中から機械的に机を起こす作業を放棄して立ち尽くしていた北村。
顔から流れていた汗だの涎だのは止まっているし、抜け殻同然だった佇まいも正していて、いつもの北村と変わりなく見える。

「き・・・北村・・・?」

「高須・・・どういう事だと聞いているんだ!! 答えろ!」

が、声をかけた途端、落ち着いていると思った北村が爆発した。
生徒会長に就いて部活には顔を出さなくなったとはいえ、こちらまで駆け寄るその動きに衰えは感じられない。
教室という狭い空間は、俺に北村と距離を空けることも許さない。
だから、俺は振り上げられた北村の拳を───そう思っていた。

「あちょー」

だが

「グフゥッ!?」

一番近かった櫛枝が、北村と俺との間に飛び込んできた。
気の抜ける櫛枝の声に遅れて、北村が苦悶の表情と、次いで苦しげに息を吐き出す。
至近距離過ぎて櫛枝の頭しか見えなかった俺は、少しだけ首を動かして横から覗き込んでみる。
見れば、北村の右の脇っ腹に、櫛枝の左腕が突き刺さっていた。

「ダメだよ北村くん。暴力なんか何の解決にもならないよ」

正論だが、使い古されて穴の空いた鍋並に役に立たないセリフだ。
口にしている本人からして言ってる事とやってる事がちぐはぐなことからも、その役立たずっぷりが窺える。

「じゃ、じゃあこれは何なんだ・・・」

北村も同じような事を思っていたらしい。
脂汗が滲んだ顔に疑問を貼り付け、自身の腹にめり込む櫛枝の腕を見つめている。

「せーとーぼーえー、愛の代打バージョン」

代打・・・代わりに打つとは言い得て妙だ。
殴られそうになっていた俺の代わりに正当防衛として打った、と解釈していいのだろうが、
それにしても打つというよりは殴るという表現の方がピッタリな気がする。

「そんでもって、こっちは怒りのダウンスイングね」

「っ!? うおぉ!」

左手を北村の胴体に突き刺したまま、早くも正論をどこかにやった櫛枝が、逆の手を北村の顔面目掛けて突き出した。
両手を交差して頭を庇い、足も動かし、櫛枝の追撃を避けた北村だったが

「よっと」

今度は回り込んでいた川嶋によって、顎をカチ上げられた。
297名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 22:59:11 ID:Gh9tr/9Y
C
298174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 22:59:13 ID:Ouh9ldyv

「グアッ!?」

屈んで待ち構えていたために本気で気付かなかったんだろう。
完全に不意を突かれた北村は、屈伸の要領で勢いよく立ち上がった川嶋の攻撃をモロに貰った。
よく見れば、川嶋の手には過剰なデコとストラップで元の機種すら分からないケータイが握られている。
あんな凶器みたいなケータイで殴られたのかよ。
それに今ので北村のヤツ舌でも噛んだか、口の中を切ったらしい。
開いたままの口から血が溢れ出ている。

「チ・・・ィイ・・・!」

それでも北村はそんな事物ともせずに、仰け反りそうになった体を両足に力を込めて踏ん張る。
さすが元ソフト部部長だ。
普通なら尻餅をついているところを堪えきったなんて、生半可な鍛え方じゃないんだろう。
それが仇となるって知っていたら、この先は違っていたかもしれない。

「バカね、祐作・・・今ので倒れときゃいいのに」

ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン

川嶋が言い切らない内に、鋭い風切り音が空気を劈く。
その風切り音は俺の背後から聞こえてきたと思ったら、横を駆け抜けていって───

「竜児にひどいことしないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!」

「なっ!? あ、逢坂ぁっ!?」

目一杯体を捩り、両手で握り締めた木刀を横に倒した八の字・・・∞の軌跡を描いて、大河が北村に突撃していく。
既に櫛枝からの脇腹への重い一撃に加え、足止めのためだろう川嶋による顎への一発を間を置かずに食らっていた北村は
飛び出してきた大河に反応できなかった。
そこから先は地獄絵図としか形容できない。
気付くのが遅れ、更には足に来ていた北村は避ける事はおろか防御する事もままならず、大河が動きを止めるまでひたすら
往復してくる木刀を一身に受け続けた。
右に左に、木刀が襲い来る度にサンドバッグを彷彿とさせて揺れる北村はまともに体を支える事もできず
何度も床に倒れそうになっていたからとっくに意識を失っていたはずだ。
だが、あと少しで倒れる事ができるところで、それは許さないとばかりに反対側から来た木刀が北村を無理やり起こす。
繰り返されるそれは、吹き飛ばされた北村の眼鏡が床に落ちた無機質な音を合図にしてようやく止まった・・・

「・・・強いって、なんなのかしらね、竜児」

荒くなった息を整え、手近にいた男子の制服で木刀に付着した赤い液体を拭った後に櫛枝と川嶋とハイタッチまで決めた大河がそう尋ねてきたので
お前は十分過ぎるほど強いと即答した。
質問の答えにはなっていないが、少なくとも今の俺の嘘偽り無い気持ちだ。

「そう・・・でも、私はもっと強くならなくちゃだめなの・・・竜児と、この子を守れるママになるために」

今しがた北村を滅多打ちにした木刀をスッと背中にしまった大河はどこか誇らしげにそう言った。
どうでもいいが、今どうやってしまった? 背中に木刀を回したと思うと、気が付いたら手から忽然と消えていたぞ。
そもそもどっからそんな物取り出したんだ。

「母は剛ってマジなんだな〜。俺だったらあんな母ちゃんぜってぇ勘弁だけど」

「口は災いの元って知ってるか・・・いや、知ってなくてもいい、今覚えろ。
 覚えたらその軽い口を慎め、俺はあんな惨たらしい姿になる方がよっぽど嫌だし、見るのももう嫌だ」

そしてどうでもよくない事が一つ。
299174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 23:00:11 ID:Ouh9ldyv

「おい・・・起きろよ、北村・・・」

倒れ伏してから痙攣する以外はろくに動かない北村が心配だ。
近づいてみると、より悲惨さが感じられる。
その顔は別人と見紛うほど腫れていて、思わず悲鳴が漏れそうになった。
鼻からは出ちゃマズイくらい血が流れ出ていて、既に床にはピザよりも一回り大きな水溜りができている。
ヒュー・・・ヒュー・・・と、か細く弱々しい呼吸音と微かに上下する胸だけが、北村がまだ生きている事を知らせている。
一歩間違えれば、こうやって抱き起こしているのが北村で、半殺しにされて倒れているのが俺だっかもしれない。
それにこの先俺がこうならないとは限らないと思うと、どうしても見てみぬフリなんてできなかった。

「ぅ・・・た・・・かす・・・?」

「お、おぅ! 喋るな北村、すぐ病院に連れてってやる」

賽の河原で石を積み始める寸前だった北村が、なんとか意識を取り戻した。
開いているのか怪しい目で、そこに居るのが俺だと分かるとボソボソと口を動かす。
いくら止めても北村は聞き取りづらい小声で呻きつつ、それでも喋るのを止めない。
そんなに伝えたい事があるのか・・・そう思い、口元に耳を持っていくと

「俺はなにを・・・思い出せないんだ・・・目が覚めたら、なぜか肝臓と顎と全身を尋常じゃないくらい痛めつけられていて・・・
 まるで堅い木の棒で、泣こうが喚こうが、死ぬ寸前まで殴られていたみたいなダメージが・・・」

冗談かとも思ったが、北村は本気でついさっきまでの記憶が飛んでしまっているらしい。
こんなになるまで叩かれまくったんだから、その程度の障害で済んでむしろ僥倖と言っていいはずだ。
帰らぬ人になるよりは百倍マシだろう。

「しっかりしろ北村! それは・・・こ、転んだんだ・・・机を起こしている最中に足を滑らせたんだぞ、お前」

そうなのか・・・と、俺の苦し紛れの嘘を信じた北村は震える指で傍に落ちていた眼鏡を拾うと、歪んだ蔓を軽く矯正してかけた。
だって言える訳がないだろ? 女子三人に寄ってたかってこんなになるまでボロボロにされただなんて。
忘れているんなら都合がいい、せめて回復するまではそのままでいた方が。

「そうだ、会長が・・・会長はどうしたんだ? 確か俺は会長を連れてきて、それで・・・・・・っ!」

どうやら登校してきた辺りの記憶はしっかりとあるらしい。
相変わらず見えているのか疑わしい、試合後のボクサーみたいな腫れ上がった顔をあちこちに向けて会長を探していた北村。
だが、突然口を止めると

「お・・・おい?」

「高須、すまないが肩を貸してくれ」

返事も聞かずに自分の腕を俺の首に引っ掛ける。
見かけとは裏腹に回された腕には随分しっかりと力が込められていて、あまり深刻なダメージを感じさせない。
ホッとしつつ、それでもやはり保健室くらいには運んだ方がいいだろうとそのまま腰を上げて担いでいこうとしたが、
それより先に北村が俺の首を絞め始めた。

「思い出したぞ・・・俺をこんなにしたばかりか、お前は会長にまで手を出していたんだろ!? あぁ、俺は全て思い出した!」

おしいぞ北村、半分は思い出せているがもう半分が思い出せてねぇ。
しかしこんなに早く思い出すとは、こいつの会長に対する事に関しての記憶力というか、そういう部分にとんでもない執念じみた物を感じる。

「ちょっ北村・・・くるし・・・離して」

「俺はお前を親友だと・・・それなのにお前は・・・会長と・・・」
300174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 23:01:20 ID:Ouh9ldyv

ギリギリと、どこにこんな力が残っていたのか・・・いや、どこからこんな力が湧いてくるのか。
容赦なく俺の首を絞める北村からは言動全てが会長を軸にしているようで、その軸を俺が持っていったと思ってる北村は激怒している。

「なぁ、どうして黙ってたんだ・・・せめて一言俺に・・・」

「言いたい事はそれで全部か」

不意に息苦しさから開放された。
そう思った次の瞬間には、俺を羽交い絞めにしていた北村は会長の手で無理やり立たされ

「会長・・・会長っ! 俺はふュぎゃっぺ─────────ッ・・・・・・・・・」

胸のど真ん中を殴られて、意味不明なセリフを吐いて。
そのまま北村は、今度こそ動かなくなった。
それも立ち尽くしたまま。

「お前のことは忘れねぇよ、北村・・・さて、と・・・邪魔者もいなくなったことだしいい加減マジで帰るぞ、竜児」

(今忘れないって言った相手を速攻で邪魔者呼ばわりって・・・)

あれだけ深手を負っていた北村に止めを刺しておいて、会長は涼しい顔でそう言った。
二重の心臓破りをお見舞いされ、教室のオブジェと化した北村の目から涙が流れている。まだ本当に昇天した訳じゃなさそうだ。
北村からしたら死んでいた方がマシだったかもしれないけど。
時間が癒してくれるのを祈ろう。

「・・・竜児。私疲れちゃったし、赤ちゃんもお家に帰りたいって言ってる気がするから今日はもう帰るわよ」

と、再三出し抜こうとする会長に倣い、学校には用もないしこの場にいるよりは家に帰った方が余計な事に気を揉まなくて済むと
判断したのだろうか。
まず俺も一緒に帰るのが当たり前の前提だという大河が言い

「高須くん、今日は日が悪そうなんでまた今度お邪魔させてもらうね。だからさ、代わりに高須くんがうちに来なよ。
 うちの親って今夜は帰ってこない気がするから、自分の家と思ってくつろげると思うんだ。そのまま自分の家にしてくれても全然かまわないよ」

即座に櫛枝が繋ぎ

「亜美ちゃんの実家ってこっからだとけっこうするから、今日のところは伯父さん家でガマンしてね。
 それともどっかホテルでも取ろうか。あはっ、そっちのがいいかも、そうしよっ」

最後に川嶋がしめた。

「さ、行くわよ竜児」
「じゃあ行こうか」
「行きましょ」
「行くぞ」

「「「「 ・・・・・・・・・ 」」」」

四面楚歌再び。
一瞬でお互いの距離を詰めると、円陣でもするように四人は輪を作って睨み合う。

(ねぇ高須くん)

呆然とその様子を眺めるしかなかった俺に、背後から誰かが耳打ちをしてくる。
声からすると香椎だ。
反射的に振り返ろうとするが、香椎はそのままで、と小声で言ってくる。
訳も分からないまま言う通りにすると、背中にピッタリとくっ付いてきた香椎は続ける。
301174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 23:02:18 ID:Ouh9ldyv

(今の内に出ましょ。亜美ちゃんたちに絶対バレないところに匿ってあげる)

草の根を引き千切ってでも俺を探し出す大河達がありありと浮かぶ。
どこまで逃げても、例え地球の裏側まで逃げようと俺に安息は訪れない気がしてならない。
なにより

(・・・ど、どうして香椎が俺を・・・)

能登か春田が提案してきてくれたら、嫌な予感がしながらも俺は頷き、ついていったかもしれない。
だが、女子だから───それだけで嫌な予感しかしないから、素直に香椎の話に乗れない。
迷っていると、含み笑いをしていた香椎がふぅ・・・っと首筋に息を吹きかけた。
腰から背中を駆け抜けていく悪寒とは別の物を感じている俺に、香椎はもう一度クスリと笑った。

(ふふ・・・そ・れ・は・ね?)

「奈々子が卑怯者だからだよ」

今度こそ振り返った俺の目に、肩に手を置いて背伸びをしている香椎と、香椎の後ろに立つ木原が映る。
だから、チラッと横目だけで木原を見た香椎の目が、スッゲー嫌そうな形を作っていたのも見えてしまった。
心なしか舌打ちまで聞こえたような気さえする。

「・・・麻耶? いいところで変なこと言わないで、もぅ」

瞬きをすると香椎はいつものタレ気味な目に戻るが、顔は木原には向けない。
木原も特にその事には言及するつもりはないらしい。
実力行使で香椎を引き剥がそうとしている。

「ホントのことじゃん。あれだけ言ったのに抜け駆けみたいなマネして、マジどういうつもりよ」

「どういうつもりも、抜け駆けしてるんだけど」

スルスルと、肩に置かれていた香椎の手は背中を滑っていき、両脇を通り抜けて胸の辺りで止まった。
それと同時に背中に三つ、何かが当たっている感触を感じる。
一つは肩の辺りに、香椎が頬を当てているだろう感触。
あとは肩より少し下に二つ、温かくて柔らかい物が・・・

「ハァ? ・・・まだ根に持ってんの、あたしの方が先だったからって」

「・・・高須くんは好きなものは後でタイプよ。つまり先に抱かれた麻耶よりもあたしの方が・・・ね? 高須くん」

は、離して! この手を離してくれ! もういい、もう分かったから、お願いだから離してくれ!

「うわっ、出たよ負け惜しみ〜。そこの机でされてるあたしを見て指銜えてたのって誰よ」

「あたしね。でも、誰かさんは終わった後でも自分を慰めてたみたいだけど・・・誰だったかしら・・・麻耶、知らない?」

「・・・いっつも思ってたけど奈々子ってさ、もうちょっとその性格どうにかした方がいんじゃね。そんなんじゃ友達失くすわよ」

「麻耶は体をどうにかした方がいいわね。そんなんじゃおっぱいも満足に出そうにないもの」

「そりゃ、奈々子みたいに垂れまくってないけど十分イケルし。それに高須くんは満足してくれてたし」

「それこそ負け惜しみじゃない。大は小をかねるのよ? 大きいに越した事はないんだから。それにあたしは垂れてないわ、ね? 高須くん」
302174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 23:03:14 ID:Ouh9ldyv

制服越しじゃあどれだけグイグイ押し付けられようと、俺には香椎のバストがどんなだかなんて分かるはずもない。
木原のだって知る由もない。
ただ、強いて言えば・・・大河にこれの十分の一でもあったら、と・・・

「あのー・・・高須先輩いますか・・・?」

廊下の方から呼ばれた声に、弾かれるように飛んでいった。
実際香椎を軽くとはいえ押し退けた。
呼ばれたんだ、行くしかないだろう。
そうだ、俺は間違ってない。
ごめんなさい。

「な、何だ? 悪いが今立て込んでて、用があるなら・・・あれ、お前・・・」

「ヒィッ!?」

飛んでいった先には、一時期大河に触れると幸せになれるという噂が校内に広まった時に、大河をしこたま怒らせた下級生がいた。
確か、後から北村に名前を聞いて下駄箱に警告文まで送ったヤツで、名前は・・・

「富家?」

そう、富家。
結局は俺の警告も、今では失恋大明神から失恋大明神(ご神体)へとクラスチェンジした北村の説得も虚しく大河の餌食にされた、あの下級生。

「は、はいぃ! すみませんすみません! おおお、お時間はとらせないんで許してください・・・きょ、今日のところはコレで・・・」

「あ・・・あぁ、いや・・・用件はなんだ?」

俺が顔を出すなり、富家が怯え始めた。財布まで差し出してくる。
かなり表情が強張っていたらしい、俺はそんなにも必死だったのか。

「す、すみません・・・その・・・さくらちゃんと書記の先輩に言伝を頼まれて」

顔の筋肉を解して、ついでに目元も手で隠してやって、やっと富家は喋りだす。
・・・目は隠しておいてよかった。また怯えられて話どころじゃなくなる。
内容にもまだ触れていないってのに、さっき以上にかっ開いている目はきっと血走っていて、
さっきの比じゃないほど目の前で冷や汗を流して震えている後輩を脅かす事だろう。
・・・さくらちゃんって、会長の妹の事だよな? 狩野の妹の方の・・・それで書記の先輩ってのは、多分二年で生徒会の女子・・・

「『お話があります。大切なお話です。今すぐ生徒会室まで来てください、私も狩野さんもずっと待っています』・・・と。
 何なんですかね、一体。今すぐ、しかも口頭で伝えてきてくれって聞かないんですよ、二人とも。俺だって授業あるのに・・・」

手紙だと読みもせずに破かれるか、知らん振りされると思ったのだろうか?
そんな事はしないが、そんな最低な行為が似合いすぎる自分のツラが憎い。
どうやら小声で「さくらちゃんなんて、また成績が・・・あ、けどまた勉強を見て・・・」なんて算段を立てている不幸体質らしい後輩は
授業までサボってメッセンジャーをさせられたらしい。
それだけでも十分不幸だっていうのに、遠からず更に酷い不幸に遭遇する気がする。
そんな後輩に親近感が湧いてしまうのは何故だろう。

「あぁ、それとこれも」

まだあるのか・・・って、なんだこれ。

「今そこで光井さんから渡してきてほしいって」
303174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 23:04:04 ID:Ouh9ldyv

手渡されたのは、レースとフリルを縫い付けてできた手製らしきメイドキャップ。
雑とまでは言わないが繕い方が甘くて、俺だったらもう少ししっかりと縫って・・・関係ないな。
そんなどうでもいい事よりも

「・・・誰からだって?」

聞き覚えのない人物からの贈り物に、不信感と一緒に不安感が募っていく。
贈る相手を間違えてるんじゃないのか。

「・・・? 一年生の子なんですけど、知り合いじゃないんですか?」

「一年で光井・・・ちょっと心当たりが・・・これ、本当に俺にか?」

「えぇっと、それは高須先輩宛で間違いないです、何度も念を押されたんで。
 ・・・なんなら聞いてきましょうか、光井さん、まだそこにいるみたいだし」

指差す先には、小柄な女子が廊下の角からこちらを覗き見ている。
自分の存在に俺が気付いたと分かると、瞬時に隠れてしまったから顔までは分からなかったけど、それでも知り合いとは思いづらい。
大体あれは本当にこの学校の生徒か?

「・・・なんでメイド服なんて着てんだ」

この手作りのメイドキャップは、制服の代わりにメイド服を着込んでいたあの・・・光井? という子の物らしい。
・・・なんだって俺にこんな物を寄越すんだ。

「さぁ・・・彼女、二ヶ月くらい前からずっとあの格好で・・・なんでも、彼がこの格好が一番似合ってるって言ってくれたそうですよ。
 あくまで噂なんですけど、いくらなんでもそれで・・・ど、どうしたんですか?」

「・・・・・・なんでもねぇ・・・・・・」

聞くと同時に、メイドキャップの真っ白なレースに付いている赤い物を見て頭を抱えた。
キスマーク・・・精一杯背伸びしている感があって、狙い通りクラクラしそうだ。
目の前まで真っ暗になってきた。

「あの・・・と、とにかく、大事な話があるそうなんで生徒会室に行って下さい。俺、確かに伝えましたよ」

そう言うと、富家は足早に去っていった。
光井という子も、富家が消えると一度こちらに顔を出して・・・投げキッスか。
ここからでも分かるくらい拙くて、会長とは別の意味で似合ってない。

「・・・はぁ・・・」

見送り、勝手に出てきた溜め息を一つ吐くと、いい加減教室にかえ・・・待てよ。
これって千載一遇のチャンスじゃないのか?
今俺は廊下にいて、大河達はその事に気付いていない。
これなら

「「 ・・・・・・・・・ 」」

やっぱりやめよう・・・
香椎と木原がジト目で見ている。
香椎なんて大河の方を親指で差して、その親指を今度は床に向けた。
ちゃんと戻ってきて、さもなきゃタイガーたちにチクっちゃうかも───口も動いていないというのに、確かに俺にはそう聞こえた。
304名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 23:04:16 ID:Gh9tr/9Y
C
305174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 23:05:00 ID:Ouh9ldyv

(がんばれよ、富家・・・不幸なのはお前だけじゃないからな)

心の中で後輩へとそっとエールを贈っておく。
反対方向へ全力で走りたいと言って聞かない足を引きずって、俺は慣れ親しんだはずなのに、今は嫌でイヤで仕方のない教室の中に戻り、
元居た位置でピタリと歩みを止めた。
満足気に「やっぱり最後はあたしの元に帰ってくるのよ」と頷き、またも背中に抱きつく香椎。
と、そこに

「遅れてごめんなさー・・・い・・・ど、どうしたのこれ・・・私、教室間違えてないわよね」

前の方では大河達が無言のまま睨み合いを繰り広げ、背中では香椎と木原による言い争いが再び勃発している。
そんな教室に入ってきた独身。
上機嫌だった独身は、途中から入ってきたにも関わらず大して動じていなかった会長とは違い、教室内の異様な様子に目を白黒させている。
入り口にかかっている『2-C』と印字されたプレートを見返しては、
留学しているはずの前生徒会長の存在や燃え尽きて真っ白になっている現生徒会長、他にも大半が隅に寄せられている机等を不審に思い、
戸の辺りで野次馬をしていた奴に何があったのか尋ねているが、どいつも堅く口を噤んでしまう。
要領を得ないまま、それでも場を落ち着けようと手を叩き

「と、とりあえずみんな席に着いてねー」

独身は担任としての責務を果たそうと懸命に呼びかける。
だが、誰もその場から動こうとしない。
それどころか教壇に立つ独身に今日は来ない方が・・・という視線を投げかけている。
表向き生徒間での問題による責任を負わされる苦労と、その裏に教え子にまで先を越された担任を哀れんで。
そんな目を向けられているとは露ほども思っていない担任は、言う事を聞かない生徒達に疑問と焦りを多大に感じたのか
わざとらしい咳払いや遅すぎる連絡事項を伝えては、なんとか教師らしく振舞おうとしていた。
それでも誰一人まともに取り合ってくれず、次第に本気で落ち込んできた独身だったが、何か思いついたのだろうか。

「あぁっ、そうそう」

手をパン! と合わせると、マジメな顔になる。

「みんなよく聞いて・・・先生ね・・・・・・とうとうやったわよぉっ! 幸せへの片道切符、お腹に宿っちゃいました!」

ポンポンと、軽く腹部を撫で摩る独身の突然の妊娠宣言。
よほど嬉しいのかやたらとハイテンションに月の物が来ないのを不安に思っていただとか、この歳で上がったなんて冗談じゃないだとか、
いつか買い置きしていたままだった検査薬を恐るおそる使ってみたらなんとビンゴでしたとか、恥ずかしい事を大層自慢気に話していく。
高校の、それも女教師がノリと勢いに任せて生徒に打ち明ける物としてはありえない類の話だが、本人は微塵も羞恥心を感じている様子は無く
嬉々として「でき婚よー、先生だってやる事やってんのよ」と生徒達に告げている。

一人、また一人と独身から目を離していき、ゆっくりと俺に注目が集まる。
睨み合いをしていた大河達も、言い争いを止めた木原と香椎も。
みんなが俺を見ている。視線恐怖症になりそうだ。なったことにして逃げ出したい。

「来るのが遅れちゃったのも、ぶっちゃけ昨日から五年間分のゼク○イ広げてたり、
 ネットで式場とかいろいろ調べてたらいつの間にか出る時間過ぎちゃっててね」

年間購読でもしているのか。それも五年も前からって、25の頃からかよ。
リアルに焦りだすような年齢な気がして、一層生々しい。
それに計算したら、年12冊、丸五年としたら60冊にも及ぶ。
詳しい値段までは知らないが、大体一冊につき500円としたら・・・三万か。ばかにならないな。

「でもその甲斐あって『ここだ!』って思えたのも見つかったし、もう今日は有給使っちゃおうって思ってたんだけど、
 先生みんなに教えてあげたくなっちゃって」
306174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 23:06:02 ID:Ouh9ldyv

自慢したくなったというのが本音なんだろうな。
チラチラ目配せをしている独身は、早いとこ誰かに『相手はどんな人?』と質問されたくてウズウズしている。
どうせ本当に教える気はないのに、引っ張って引っ張って自慢したくて堪らないんだろう・・・ほ、本気で名前を出したりはしないよな?
いや、まだ100%俺だって決まった訳じゃ・・・

「ねぇ三十路相手って誰よ」

大河が確認を取りに行った。
棒読みで、敢えて独身が聞き過ごさないように一部の単語を強調して。
それも『相手ってどんな人』なんてもんじゃなくて『誰』というストレートで。

「知りたい? 逢坂さん知りたい? んもぉ、しょうがないわね〜・・・じゃあ、少〜しだけよ」

「いいから早く教えなさいよババァ」

「えっと〜詳しくは教えられないんだけど、歳は下でね、学校関係者の人でー」

「ふ〜〜〜〜〜ん・・・学年は? クラスは? ていうかそいつこの教室に居るんじゃないの? ほら、目つきのわっるぅ〜い誰かとか・・・」

「っ・・・あ、逢坂さんガッツキすぎよ〜・・・そんなに絞らなくったって、その内分かるんじゃないかしら」

ルンルン気分全開で大河の挑発を華麗にスルーしていた独身は、核心に近づいていくと途端にはぐらかした。
これ以上はさすがにマズイとでも思ったのか、話をぶった切って授業を始めようと準備しだす。
遅ぇよ、遅すぎる、手遅れだ。
既に大河達が手や首の関節を鳴らして準備を始めてる。

「どうせ高っちゃんだろ〜」

誰かがボソリと言ったのが聞こえた。

「ちっちちち違います!? 誰よ今憶測で物言った人、そういうのは先生だけじゃなくて高須くんにも迷惑なのよ!? ・・・ね、ねぇ高須くん?」

振ってどうするんだよ・・・
憶測で物を言われるよりも遥かに迷惑だ。
それにそんなバチンバチンとウインクしてこられても「バレてないわよね?」なんていうアイコンタクトは俺以外にも筒抜けになっている。
何の意味もない、どちらかといえば逆効果だ。

「「「「「「 ・・・・・・・・・ 」」」」」」

木原までが抱きついてきて、香椎と一緒になって俺の動きを拘束する。
それを確認した大河達がゆっくりとにじり寄ってくる。
ただでさえ困難だった逃走がより難しくなった。
もう不可能だろう。

「本当に違うからね? べべべ別に職員室で残業してる時に無理やりとか、そんなえっちぃ事なんて先生と高須くんはしてませんからね」
307174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 23:07:08 ID:Ouh9ldyv

いらないダメ押しに、大河がダッシュに切り替えた。
速ぇ。それ以上に恐ぇ。
いち早く駆け寄ってきた大河は、足が竦んで一歩も動けない俺を素通りすると

「・・・・・・ん? 逢坂? 俺になにを」

ガシャ─────────ン!!!!

「・・・・・・・・・き・・・北村ああああああああああああ!?」

一本背負いで窓目掛け、北村を投げ飛ばした。
閉じこもっていた自分の世界から帰還したばかりの北村が、枠ごと窓ガラスを突き破って空中を舞う。
ガラスに反射した光がキラキラと北村を飾り立て、パァッと赤い花火まで咲いて・・・
それらは瞬く間に見えなくなったが、俺に手を伸ばす北村が目に焼きついて離れない。

「大河!? お前なんてこと・・・おい、何してんだ」

突然の大河の暴挙に、教室内は阿鼻叫喚さながらの様相を呈している。
あれだけ北村が痛めつけられようと、手乗りタイガーならこのくらいいつもの事、仕方ないとして大して驚きもしていなかった奴等も
まさかそこまでやるなんて・・・と、恐怖に慄いている。
抱きついていた香椎と木原も大河に怯え、櫛枝と川嶋の傍まで後ずさり、並んで汗を掻いて固まっている。
独身なんて教卓に手を入れて何かを探している。いくら漁ったってタイムマシンなんか出てこないだろ、覗いてみたってムダだ。
会長だけは目を細めて腕を組んだだけで、特に動揺している風には感じられない。本当にそうだとしたら余計に北村が哀れだ。
問題の大河はというと

「よいしょ、っと・・・ここに居るとろくでもないことしか起きないわ・・・行くわよ、竜児」

備え付けられていた備品のカーテンを引き裂いて繋げただけの即席ロープを作ると、それを俺に括りつけた。
もう一方の先端は適当に積んであった机に巻き付けて重し代わりにしている。

「・・・・・・何してんだって聞いてんだよ」

「なによ、心配してんの? 大丈夫よ、だいじょうぶ。絶対にお腹だけは守るから・・・竜児も守ってあげてよね、赤ちゃん。パパなんだから」

もういろんな意味で心配すぎて何から指摘すればいいのか分からないが、一番不吉な事を一つ上げると・・・
こんな時に、何故大河はおぶさってくるんだ。
308174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 23:08:15 ID:Ouh9ldyv

「・・・そういう問題じゃなくてだな・・・」

これはあれだろうか。



飛べってのか?



こんなすぐに千切れちまうボロ切れだけを命綱にして、そこのまだ割れたばかりのガラスが所々残っている窓から、飛べっていうのか。
・・・もしかして、北村はただ窓をぶち破るためだけに・・・

「もぅ・・・私を信じなさいよ、竜児。あんたの一番の私を・・・きっと大丈夫だから」

一番・・・こ、ここでその話を蒸し返すのか・・・嫌な予感が

「「 ちょっと待ったぁ!! 」」

き、来た! 嫌な予感が地響きを立ててやって来た。
固まっていた櫛枝と川嶋が、付いていない決着を勝手に付けた大河を俺ごと取り押さえようと駆け寄ってくる。

「さぁ逃げ道は失くなったわよ、そこ意外にはね」

背中に乗っかっている大河が首を無理やり窓に向けさせた。
まさかこいつ、わざと・・・

「う・・・・・・・・・」

───後から思えば、この時の俺はどうかしていたとしか思えない。
普通だったら死ぬ危険だって十分考えられる、ケガは免れない高さから進んで落ちるなんて事、まずやらない。
大河も一緒なら、なおの事。
だから普通じゃなかったんだろう。
記憶も曖昧だ。
その曖昧な記憶で、断片的に思い出せるのは

背中に感じる大河と子供。
地面まであと半分という所で容易く破けた、見た目を裏切らない命綱。
重力に引かれ、背中から落下するのを寸での所で体勢を入れ替え───

「ぐえっ」

地面にしては柔らかい感触と、インコちゃんみたいな鳴き声を上げた北村の声と

「ありがとう、パパ・・・あとは私に任せてゆっくり休んでなさい」

暗くなっていく視界の中、大河の声を聞いたのを最後に、俺は意識を手放した。
309174 ◆TNwhNl8TZY :2009/09/30(水) 23:10:04 ID:Ouh9ldyv
支援してくださった方、ありがとうございます。

やっぱり会長はやりすぎた・・・
↓13皿目での問題の一文
>これ、投げ出すつもりはないけど・・・夏までに終われればいいなぁ・・・
夏どころかディケイドも終わっているという始末(最初に投下したのがディケイド第一話放送前日)。
頭の悪い内容共々、色々な意味でごめんなさい。
次でおしまい。

おまけ
問 今回最も不幸なのは?
A・北村 B・北村 C・北村 D・裸族
310名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 23:14:22 ID:7cNBMLkz
この後なにが起こるんだww

ついでに答えはEの冨家だな
311名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 23:27:35 ID:AIVVohnf
き、北村ああああ────っ!!(号泣
312名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 23:53:29 ID:UvK239ok
あなたの作品好きだな
おもろかったよ
313名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 23:53:54 ID:xELp0Sqj
乙。ハーレム物は大歓迎です。

でも、赤ちゃんあたりのこと、竜児に何にも心当たりないのがちょっと怖い。
彼の真似をした誰かがNTRしたかって思っちまう…
314名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 00:08:46 ID:2SF5jww3
不穏な書き出しで始まったと思ったら前見たヒロイン全員謎の妊娠したヤツか
GJ!!!!

つか、さらに増えてるー!!
大河ウゼー!!
流石に数が増えすぎて影が薄くなったのが何人かいますね。
どういうオチがつくのか楽しみにしてます。
315名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 00:25:47 ID:hwM6cOtW
高須さんパネェっす
316名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 00:27:36 ID:TOwXmR9f
久しぶりに笑い泣きをした
317名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 01:07:15 ID:61SAJNx4
楽しいんだけど、なんか見てるのが辛いぜwww
竜児が大河を抱き着いて暴走を止めた時、会長が悲しそうにした以外は
嫉妬や対抗心はあっても、悲しそうに落ち込む姿が無かったのがこの作品の勝因だな
あんまり暗い感じにならない次回であって欲しいが
しかしそれだとどうオチをつけるのか全く想像できんしどうなるやら
318名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 01:52:19 ID:LR/HBEpS
>>309

GJ
319名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 05:24:13 ID:SbQ++Zk5
木刀デンプシーマジパネェっす。

とりあえずこれハ−レムじゃないよねwww正直ここから話畳むのムリだと思うけど、夢オチでもいいから完結させて欲しいな
320名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 06:34:52 ID:NMOJHqTn
竜児おろおろし過ぎワロタ
はっきり覚えがねぇと言っちまえよww
GJ
321名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 07:59:16 ID:yFxF2uE+
>>174-309
GJ!奈々子様と麻耶の会話に戦慄したw
322名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 09:13:38 ID:g0hTmqc4
ちょっと分析してみる
竜児に『身に覚えがあるかどうか』だが、会長に関してだけは、あいての部屋に連れ込まれたところまでは
竜児本人が覚えていて、その先は不明
あとは全員、まったく身に覚えなし

一方、奈々子は、竜児と麻耶が教室でヤッているのを目撃したと言ってる
麻耶は「あたしのほうが先」って言ってるから、少なくとも竜児と奈々子が肉体関係にあると知っている

これって、麻耶&奈々子が一歩リードじゃね?
323名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 12:51:43 ID:lpUGI+qD
想像妊娠が何人かいるな
324名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 13:30:02 ID:g0hTmqc4
何人か、って… じゃあ、ホントに妊娠しとる娘もおるんかい
325名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 14:55:44 ID:O/V52ABr
あんまり分析すると続きが書きにくくなるぞw

>>309
見せ場のあった北村より、最初から机と同扱いの春田の方が……
326名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 18:00:21 ID:GNtnM3v+
・麻耶と奈々子は互いの現場を互いに目撃している=ヒロイン達個人それぞれの妄想ではない
・ヒロイン連中は竜児とシた記憶が事細かにあるが竜児にだけ覚えが無い
・妊娠検査薬は想像妊娠で陽性反応が出ることは100%無い


要点はこんな所か
327名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 18:31:22 ID:JZzbmZ9Z
推理ゲームじゃないんだし考察板でもないんだからさ・・・・
328名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 19:25:28 ID:GNtnM3v+
こっからどう風呂敷を畳むのか楽しみだから個人的に気になる所を書き出しただけなんだけど
そういうのも駄目なの?
329名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 19:42:14 ID:3XgkQ3sW
>>328

そういうことに反論しても煽りになるだけだから、口論は止めた方がいい
厨だって可能性もあるし、そういうのはスルーしてやろう
330名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 19:53:15 ID:GNtnM3v+
すまん
了解した
331名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 20:12:58 ID:kL4kSfBM
しかし、すげー勢いだな
500レスもたないんじゃね?
332名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 20:17:28 ID:yFxF2uE+
会長と大河の、北村へのてのひら返しっぷりが、凄くリアルだ
333名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 20:24:13 ID:qNtmq7dL
や、やりおった!この土壇場でデンプシーロールの完成型を見せおった!
しかも三人で、それも木刀でwww
ディケイドばりのコンプリートGJ!
334名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 20:59:33 ID:61SAJNx4
てか考察してる人いるけど、前作みるに
竜児が記憶とんでるだけで確実にやってる感じじゃなかったっけ?
あれ?別作品と混ぜこぜにしちゃってんのかな、保管所いってくるわ
335名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 22:17:58 ID:PURBUsF1
ホントに竜さんパネェなw
336名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 22:36:07 ID:lVP+r8Fs
なんかもうやっちゃんが産婦人科帰りでいい笑顔で乱入してきても
まったく違和感を感じないであろうおれは病んでいるな
337名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 23:47:54 ID:R23M5f6n
結構前になんとなく書いてみたやつ。
いつだったかに投下した「日常のヒトコマ」と少し繋がっています。
時間は、一年生の夏休み前。
北村、高須、麻耶、奈々子の四人はクラスが同じという設定。
奈々子の視点。
エロはありません、というかエロにもっていけませんでした。


「お、おい、あれって……」
「うわっ!? あれ誰よ! てか、ちょー美人じゃね!?」
「あの子って……、たぶんモデルの川嶋亜美ちゃんじゃない? 雑誌で見たことあるわ。なんでまるおくんといるんだろ……」
「そういえば見たことある!! ちょっ! 高須君! どういうこと!? 説明してよ!」
「ま、まずは落ち着け! 痛っ! 俺の頭を叩くなって! おまえ興奮しすぎだ!」
「だってだってだってー! まるおだよ!! あの鈍いまるおがあんな綺麗な女の子と……。
 もしかしてあんなに綺麗な娘が身近にいるから学校の女の子に興味示さないのかも……。うわーー、あたしこれからどうしたらいいの!?」
「麻耶、とにかく落ち着いて。まずこれから三人でスドバ行こ。そこで……」
「じゃ、見なかったことにするの!? そんなの出来ないよー」
「泣くな泣くな。まだどんな関係かもわかんねー痛っ!」
「あれは親し過ぎだって!? 二人とも仲よさそうだし、さっき少し聞こえたんだけどあの娘毒舌だし! 切れ味もバツグンだよ!!
 それなのにあんなに笑ってられるってどうよ!?」
「ま、まぁ仲は良さそう痛っ! 木原! ちょっとこっち向け! とりあえず俺の目を見ろ! 落ち着け!」
「うん、わかっ…怖っ! ちょ、高須君そんな目で睨まないでよ! あたし、脅されるようなこと何もしてないよ!」
「………ぅぅ」
「……麻耶。高須君、目を潤ませて落ち込んでるわよ。何度も高須君の頭殴ったの忘れたの?」
「えっ? そうだっけ? ご、ごめんね……」


麻耶が高須君に協力をお願いしてから一ヶ月近くが経過した。

協力をしてもらう前は、高須君はまるおくんと仲が良くて、まるおくんのことをいっぱい知っているはずだって思ってたけど、怖くて話しかけられなかった。
あの見るもの全てを射殺す目つきと凶悪な顔を見るとどうしても近づけない。
話そうとはしたんだけど、色んな噂が手伝って、どうしても一歩を踏み出すことが出来なかった。
噂には『本職』『極道』『二代目』なんかもあって、あたしや麻耶は実際にそういう筋の人の車に乗っている高須君を目撃したこともある。

たしかゴールデンウィークだったかな?
麻耶と買い物に行った帰りだった。

麻耶と別れしばらくすると私の携帯に電話が掛かってきた。
液晶には『麻耶』と表示されている。
さっき別れたばかりなのにどうしたんだろうと思いながら電話に出ると、興奮した麻耶が電話の向こうにいた。
「高須君は本物だった!」って意味のわからないことを言ってたから、とりあえず麻耶を落ち着かせていると黒塗りの高級車の窓から高須君の顔が出ていたのを目撃しちゃった。
高須君は脅されている様子じゃなくて、ごく普通にその車に乗っているのが当たり前のように車の中の人と話しながら周囲を確認している。
麻耶の言おうとしたことが一瞬で理解出来てしまった。

クラスメイトの一人が違う世界の人間だった。
それは噂で流れていた『ヤンキー高須』っていう言葉がとても小さく感じた。
知っちゃけないことだったのかも。
麻耶には落ち着くように言ったけど、あたしもすごい動揺していた。
338名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 23:49:26 ID:R23M5f6n
高須君の印象が反転したのはいつだったっけ?

黒塗りの高級車に乗っている高須君を見てからしばらく経ったある日、私はスーパーで高須君を見かけた。
高須君の後ろにはお店側のおばさんの目がしっかりと光っている。
おばさんの中では高須君が万引きをするということが確定していたんだろう、と思う。
高須君の動きに合わせてお店のおばさんがピッタリと張り付いていた。

高須君の視線の先には野菜や魚、肉なんかがあった。
もちろん高須君は自分が見られていることには気付いていない。
きっと料理の材料の見極めに必死だったのね。
その後、なんの問題もなくレジを通り、自前のエコバックに購入した商品を入れていく。
そんな時にあたしの近くから会話が聞こえてきた。

「あの男の子はマークしなくてもいいよ。とってもいい子だから」

高須君をマークしてたおばさんはそれを聞いて驚いてた。
あたしも驚いた。
今日高須君を見張ってたおばさんは多分新人さんだったんだね。
店側の万引きGメンからは、すでにお墨付きをもらっていた高須君。
それを聞いて、あたしは柄にもなく声を出して笑ってしまった。
……何があったんだろう。

気になったからおばさんに聞いてみることにした。
おばさんが言うには高須君は、陳列してあった商品が違う棚に置かれていたり、積んであった商品が崩れた時には率先して手伝ってくれたりしたようだった。
恩着せがましい態度もせず、それが当たり前。
そんな感じで自然に手伝った上に並べ方も完璧だったという。


家に帰ってから早速麻耶に話してみた。
嘘っ? っていう当たり前な反応が返ってくる。
でも「面白そうだね」って言ってた。
高須君って、もしかしたら今までも勘違いされていっぱい苦労してきたのかもしれないわね。

次の日、下校しようとしていた高須君を麻耶と一緒に呼び止める。
事情を話し、麻耶とまるおくんの仲を取り持ってもらえないかとお願いすると快く引き受けてくれた。
万引きGメンのおばちゃんは人を見る目があったわけね。

それからの高須君は毎日大変そうだった。
全然怖くない上に世話焼きだと知った麻耶はしょっちゅう高須君に絡みにいく。
高須君大丈夫? と聞いてみたら、「余計な気遣いをされるよりは何倍も嬉しい」って言ってた。
やっぱり苦労してるんだね。

でも麻耶の気遣いのなさは容赦が無いかも。
「なんでまるおはわかってくれないのー!?」と高須君に当り散らし、「今日は一杯話せたよ!!」って喜んで報告して、
そのまま高いテンションで高須君の頭や背中をドンドンと叩いてしまう。
ボディタッチではなく、勢いが強くなりすぎて殴ってる。
もうただの暴力にしか見えない。
照れながら話すときの麻耶の一発が一番強力なようで、あたしたちの周りには轟音が響き渡る。
いくら高須君が痛いと言っても楽しそうな笑顔のまま全く気にしない麻耶。
いい加減困り果ててるよ?

あたしから見ても高須君から見ても、麻耶とまるおくんはただのクラスメイト。
ただの友達。
いつまで経っても「ただの」がとれそうにない。
まるおくんは麻耶に対して友達以上の感情は芽生えていないように思えた。
339名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 23:50:00 ID:R23M5f6n
高校に入って初めての夏休み。
「このままじゃいけない!勝負はやっぱり夏なんだよ!」って麻耶が言い出し、夏休み中になんとかまるおくんを連れ出して、
あたしたちと合わせて四人でどこかに遊びに行こうっていう計画を練るため、お昼前にスドバに集まろうということになった。

話し合い当日、麻耶とあたしは偶然鉢合わせし、一緒にスドバへ向かっている途中で高須君を見つけた。
高須君の視線の先にはまるおくんがいた。

まるおくんは私服だったからこれから学校に行くわけじゃないみたい。
建物の陰に隠れた不審者丸出しの高須君に声をかけると、ビクッとわかりやすく反応した後、「北村はしきりに腕時計で時間を何度も確認している」って言ってた。
きっと待ち合わせでしょ?
でも麻耶は「怪しいからちょっと見てみよ」って言って高須君の隣を陣取った。
不審者カップルが成立しそうだけど、何も言わない方がいいわよね。
不審者二人に不審人物とみなされたまるおくんの待ち合わせの相手は、ファッション雑誌でよく目にするモデルの川島亜美ちゃんだった。
たしか同年代のはずだけど、なんでまるおくんと? なんてあたしが考えてると麻耶が暴走し始める。

「奈々子! あの足見て! 長すぎじゃない!? 何、あのスタイル! 絶対日本人じゃないっしょ!」
「えぇ、羨ましいわね」
「高須君! まるおにメール!」
「なんて送るんだ?」
「『足長すぎる女性は危険!って占いで言ってた』って送ろう!」
「意味わかんねーよ!」
「じゃ『今日のアンラッキーアイテム:サングラスを掛けたスタイルのいい女性』で!」
「ラッキーアイテムじゃねぇのかよ! それにあの人、アイテムじゃねぇし!」
「『恋をするにはうってつけの日、偶然ぶつかったクラスメイトと恋に落ちる』にしよ!」
「もし俺がぶつかったらどうすんだ?」
「……高須君ってそっち系の趣味だったの、どうりで……」
「なんだよ! どうりでって! その蔑んだ目もやめろ! 俺は普通に女の子が好きだよ!」
「誰が好きなの?」
「おっ、奈々子。気になる?」
「えっ? ま、まぁね。で?」
「お、俺のことより、まずは北村だろ」
「今は高須――」
とあたしが言い掛けたところで麻耶の声に遮られる。

「そうだった!『木と原っぱを好きになると恋愛運アップ』で!」
「たしかに極所的に恋愛運がアップするな」
「『クラスメイトの女子を大切に扱う良いことあるぞ^^』は?」
「学生限定の占いなのか?」
「『クラスメイトの女子を大切に扱うエエことあるぞ^^』だったら!」
「なんかエロい!」
「『今日のラッキーカラーは茶髪』でどう!?」
「染めろってか!」
「『ラッキーパーソン→クラスで席が後ろの女性』にしよう!」
「そんなにピンポイントの占いはねぇよ!」
「『目の前で転んだ人を助け起こすとそこから恋愛が始まる…』だったら不自然じゃないよ!」
「しょうがねぇなぁ、じゃそれで送っちまうぞ」
「えぇーーっ!! ホントに送っちゃうの? もし亜美ちゃんがコケたらどうすんのよ!」
「そんときはそんときだろ? そもそも二人の関係だってまだわかんねぇんだ」
「高須君、麻耶。一度落ち着いた方が良いわ。もしそんなメールが高須君から送られてきたら、いくら鈍感なまるおくんでもおかしいと思うんじゃない?」
「ん? あぁ、それもそうだな。じゃ香椎頼む」
「えっ? 何であたし?」
「おまえ北村のメアド知らないだろ? ちょうど良いじゃねえか」
「う〜ん、かなり抵抗あるんだけど……」
「お願いっ! 奈々子っ!」
「……まぁしょうがないか。いいわ。まるおくんのメアド教えて」
「はいよ、これな。んじゃ頼む」
340名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 23:51:05 ID:R23M5f6n
あれっ?
あたし、流されてるかな?
普段ならこんなことしないのに……。

……まぁ、いいわ。
さて、なんて送ろうか。
困った。
さっきの話の流れをそのままでいいわよね?
適当にさっきの会話を取り入れて文章を書いて……送信っと。

「香椎、どんな内容のメール送ったんだ?」
「これよ」

高須君と麻耶にさっきまるおくんに送ったメールを見せてみる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
       件名:★今日の迷惑メール占い(恋愛編)★

  ・今、魅力的な異性と二人きりでいるキミ達にはでっかい不幸が訪れるぞ♪
   そんな二人はこのメールを共有しよう!
  ・もしキミが学生ならクラスの席が後ろにいる異性を思い出しながら、
   木と原っぱを好きになると極所的に恋愛運が大幅アップ!
  ・ラッキーカップルはメガネと茶髪。
   休みの日に茶髪の女性を大切にするとイイこと起こるかもね!
  ・あなたの目の前で転んだ目つきの悪い人を助けると新たな恋の予感が!?
   その人にご飯を奢ってあげよう! きっと良いことあるよ☆
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

「奈々子、これいいよ!」
「……いいの?」
「……色々と突っ込むところはあるけどさ…。香椎、最後のはなんだ?」
「『まるおくんと高須君がうまくいきますように』…っていうお願いを込めてみたの。『目つきの悪い異性』って書かなかったのがポイントよ」
「えっ!? あたしと高須君ってライバルだったの!?」
「んなわけあるか!」
「そっか、だから今まで上手くいかなかったのかも……。スパイが紛れ込んでたんじゃダメだもんね……」
「本気にしないでくれ!」
「そうね、高須君が裏で糸を引いてたんじゃ、まるおくんとの関係が全然進まないのも納得出来るわね……」
「香椎まで……。お、おい、ちょっと待てって」
「あることないことあたしの悪い情報をまるおに流すなんて……、ヒドイヨー!」
「……おまえの日本語、カタコトになってるぞ」
「高須君、取引しよう」
「何でいきなり真剣な顔作ってんだよ!」
「奈々子をあげるからまるおをあたしに……」
「あ、あたしが取引されるの!?」
「わかった、手を打とう」
「えっ? ちょっと、待って! 手を打たないで!」
「な、奈々子を、大切にしてやってください……」
「……麻耶、何涙ぐんでんの!?」
「あぁ、もちろんだ。大切にする」
「……わぁ、そんな真剣な目で見つめられて、そんな台詞言われるとなんか恥ずかしい……。って、えぇっ!?」
「……高須君、大胆。でもそこで抱き締めるのはあたしじゃなくて奈々子だよ!」
「いや、木原だけからかわれてないのもどうかと思ってな」
「ねぇ、ちょっと騒ぎすぎてない? このままだと見つかっちゃうわ」
「そうだね。じゃ一回落ち着こう! いい? 高須君、奈々子、深呼吸ね!」

一番テンションの高い麻耶が言うのってちょっと……。
でも、まあ、いっか。
呼吸は整ったけど、興奮は収まらなかったみたいだね、麻耶。
341名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 23:51:47 ID:R23M5f6n
「よーし、小芝居も一区切りついたし話を戻すよ!」
「……あぁ、ちょっと疲れたが……」
「高須君がここで『北村、好きだー!』って叫ぶのはどう? あの雰囲気を一発でブチ壊せるよ」
「俺に外見だけじゃなく中身まで近寄りがたくなれっていうのか?」
「それなら麻耶がやった方がいいんじゃない? ついでに思いも伝えられるし……」
「あたし、絶対振られるじゃん!! 告白って、なんていうか、もっと、こ、こう、ロ、ロマンチックに……さ」
「高校生の告白で『ロマンチックに』なんてかなり難しいと思うぞ」
「工夫すれば大丈夫だよ! 恋はリアリストよりロマンチストなの!」
「そうなのか……? よく意味はわからんが……」

聞いていて飽きない。
少しずつ方向がおかしくなっていく会話がどんどん続いていく。
最近は、この二人の方がお似合いなんじゃないかと思うことがよくある。
麻耶はまるおくんを諦めて、高須君にいった方が幸せな気がするけど、どうなんだろ。
高須君なら麻耶のこと自由にさせながらも包んであげられると思うんだけど。

そういえばまるおくんはメール見てくれたかな?
高須君と麻耶ばかり見てて、まるおくんの反応を確かめるの忘れちゃった。

なんかそろそろ会話が終わりそう。
ちょこっと入ってみようかしら。

「おまえテンパり過ぎだ!」
「二人が落ち着きすぎなんだよー。ホントに高校生?」
「当たり前だ! 木原こそ――」
「いいこと考えた!」
「無視かよ!」
「おしっ、高須君突撃だ!」
「なんでだよ!?」
「頑張れっ! 別れさせ屋!!」
「香椎まで!? 俺のことそんな目で見てたなんて……」
「あ、ごめん。ちょっと面白そうだったから」
「奈々子の言う通りだよ! 頑張れ! 工作員!」
「くそっ! そんなに言うなら行ってきてやる」
「行けー!!」
「えっ、ほんとに行くの? 高須君」
「ああ、このままじゃ木原にどんどん俺が貶められるからな。心の傷が広がらないうちに行ってくる」
「ふふ、もし傷が広がったらあたしが癒してあげるわ」
「高須君、あの娘にやられないようにねー!」
「おうっ」


高須君が歩いて行く。
……物凄く不自然な偶然を装う高須君。
……違和感が纏わりつく歩き方で周囲に脅威を振りまきながら、まるおくんの元へ向かって行った。
342名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 23:52:16 ID:R23M5f6n
「あっ、コケた。違和感バリバリだね。あの様子じゃヤバイんじゃない? 奈々子」
「そうね、何もないところで躓いたのに、何かのせいにしようと必死になってキョロキョロしてる姿が哀れね」
「わっ、あの娘が駆け寄ってくれたよ……。案外いい娘じゃん」
「う〜ん、ちょっと意外ね。ふふ、高須君テンパってる」
「あーーっ! 照れるときによくやる仕草またやってる! ダメだ! このままじゃあの娘に高須君がやられちゃうよ!」
「でも、面白いからもう少し見たいかな」
「ははっ、それ言えてるかも」
「……なんか高須君、震えてない? もしかして感動してるのかな……」
「なんで?」
「だってあの娘、高須君のこと全然怖がってないもの」
「あの顔と目つき、コンプレックスみたいだもんね。気にしないでいいのに」
「慣れるとなんか可愛く思えちゃうしね」
「それ今度言ってあげなよー、きっと喜ぶよ高須君」
「麻耶、余計なこと言わないの。あっ、立ち上がった。どこか行っちゃうわ」

高須君は亜美ちゃんに手を引っ張られ、起こしてもらっていた。
お礼を言い、掌や膝に付いた埃を払っている高須君は、遠くにいるあたしからでも目に見えてわかるくらいキョドってる。
さっきの威勢はやっぱり虚勢。
その虚勢も転んだときにどっかに落としちゃったみたい。
麻耶の言った通りやっぱりやばいかも。
早く加勢したほうがいいかな?

まるおくんは「高須じゃないかー! どうしたんだ? こんなところでー!」と両手を広げて大きな声で叫んでいる。
その後は何を話しているかはわからなかったけど、すぐに三人で歩き出した。
ジョニーズに向かっているのかな?
時間も時間だし、お昼にするのかもしれない。

高須君が動揺している。
緊張してまるおくんと亜美ちゃんの会話に入れないみたい。

「あっ、やっと何か話しかけた!」
「上手く話に入っていけてるかな?」
「それは大丈夫っしょー。高須君って意外と話しやすいんだよねー」
「そうね、なぜか自然に話せるのよね。初めて話した時はビックリしたわ」
「見た目があれな分、損してるんだろうけど、話してみるとすごく優しかったりするから意外にモテるんじゃない?」
「そうかも。家事全般出来るっていうのもポイント高いわね」
「いいの? 奈々子」
「何が?」
「高須君、亜美ちゃんに盗られちゃうかもよ〜」

麻耶はイジワルな笑みを浮かべる。
あたしはどうしてか少し焦っている気がする。
嫉妬だろうか。
なんとなく感じたつっかえた感覚を胸の奥に残し、その感情はすぐに消えていった。
343名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 23:52:43 ID:R23M5f6n
「やっぱり、ジョニーズだね。奈々子、あたしたちはどうする?」
「今から入るのはなんだか怪しいし、気分も乗らないわ。そうねぇ、向かいにある喫茶店に入って様子見てみよっか。
 あそこからならジョニーズの中も見えそうだし」
「それいいねー、あそこ行ってみたかったんだ。よし、そうしよー!」
「高須君たちいい場所座ったわね。窓側だし、高須君からは喫茶店が見える位置だし」

あたしたちが入った喫茶店は、シックな雰囲気で高級感漂う清潔なお店だった。
店内には優雅なクラシックが流れ、落ち着いた内装で心地の良い空間。
恐々とメニューを確認するとそこまで高くはない値段だった。

スーツを着たウエイターに注文をした後、高須君にメールしてみる。
近くの喫茶店にいることを伝え、亜美ちゃんとまるおくんの関係を聞いてみた。
高須君によると、ただの幼馴染、らしい。
本当かな?

疎遠にならず、高校生まで幼馴染であり続ける男女がこの世に何組存在するんだろう……。
ま、美男美女だったら変な気を回さず付き合えるのかもしれないわね、なんて考えてみる。
でも一番は性格の問題かな?
まるおくんみたいな屈託のない性格だったら、いつ会っても変わらないから安心できるのかな?
……それってヤバくない?
まるおくんは亜美ちゃんと……?

あと亜美ちゃんはかなりの強い毒を吐くみたい。
『初めは綺麗で可愛くて優しくて気が利いて完璧にみたいな感じだったが、北村に何かを言われてから、すっげ〜毒舌になった。
 でも表情がコロコロ変わって面白い』
という内容もさっきのメールで送られてきた。

「高須君なんて?」
「ただの幼馴染だって。メール見る?」
「うん、見せて」

携帯の画面を見ながら、クリクリとした大きな瞳を輝かせてフンフンと頷いている麻耶。
なんか小動物みたいで可愛い。

まるおはこの娘の魅力に気付かないのかな?
なんでだろう? と考えると割と簡単に答えが出た。
でも麻耶には言わない方がいいわね。
泣いちゃうから……。

「ちょっと奈々子ー。あたしには高須君の隣が空いてるように見えるんだけど……」
「まるおくんと亜美ちゃんが一緒に座ってるからじゃない?」
「ただの幼馴染なのに?」
「うん、ここは女の子の方に気を使ったんじゃないかな? 高須君は外見でよく誤解されるから」
「…ただの幼馴染なのに?」
「まぁ、それだけ仲が良いのよ。あまり気にしないようにね」
「…た・だ・の・幼馴染だよ?」
「あっ、料理がきたみたいだから食事にしましょう」

しつこくなりそうだったから話を逸らせよう。
料理はとてもおいしく、店長の機嫌が良かったのか特別にデザートをサービスしてくれた。
344名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 23:53:09 ID:R23M5f6n
しばらく経つと、なぜか高須君の隣に活発そうな女の子が座った。
どこかで見たことある気がするけど、誰だったかな。

「ねぇ麻耶、あの娘だれだっけ?」
「んー? あれっ? 見たことあるね」
「ソフト部の…」
「あっ、櫛枝さんじゃない?」
「そうだ、櫛枝さんだ。なんで高須君の隣にいるんだろう?」
「まるおくんが呼んだんじゃないのかな」
「聞いてみよっか」

早速メールで聞いてみる。
『櫛枝、ジョニーズでバイト。終わった。北村、誘われた』
という返信が来た。
すぐに返ってくるところが律儀な高須君らしいけど、変なメールね。

「なんか櫛枝さんが来てから高須君、有り得ないくらいキョドってるよ」
「そうね。ふふ、もしかして高須君の好きな人って櫛枝さんなのかしら?」
「えーー!? それはちょっとショックだよ! なんで櫛枝さん!? 接点なんもないじゃん!」
「それはわかんないけど、あたしたちといる時と全然態度違うじゃない?」
「うん、あれは間違いなく不審者だね!!」
「顔の怖さと合わせると、警察が寄ってきても文句言えないわね」
「誤解を解くのに何時間も掛かりそうだね!」
「学校に連絡されたりして」
「親も呼び出されるね!」
「可哀相に……」
「……今日はこのまま高須君の尾行しても面白いかも……」

まるおくんのことで話をするはずなのに、いつの間にか高須君の話をしてる。
それだけ気に掛けているのかしら……。

「ねぇー奈々子ー。あたしらもあっち行った方がよかったんじゃなーい?」
「そうね。そっちの方が話がわかりやすかったわね」
「じゃ高須君に呼んでもらおっか?」
「あたしたちを?」
「うん」
「それは不自然じゃない?」
「やっぱり?」
「それよりあたしたちが何も知らないフリしてジョニーズに行った方が自然だと思うけど……」
「そーだよねー」

麻耶は少しつまらなさそうだった。
様子を窺うなんて柄にもないことしているからかな。

焦ったところで何も変わらないというのと、お腹がいっぱいになって動きたくなかったというのが重なって結局は麻耶と二人、喫茶店でゆっくりと喋っていた。
345名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 23:53:39 ID:R23M5f6n
「ねー、奈々子って高須君のこと本当はどう思ってんのよー?」
「う〜ん、どうかな。良い人だと思ってるよ」
「どんな風に?」
「麻耶はまるおくんより高須君の方が合うんじゃないかなぁって思うくらいに、かな」
「あれ? あたしと高須君? あたしは奈々子が高須君に気があるんだと思ってたんだけど……」
「あたしよりも麻耶と高須君の方が良いコンビに見えるよ」
「そ、そう?」
「麻耶、ちょっと嬉しそうね」
「うん、そりゃあねぇ。最近ね、奈々子と高須君と三人でいるのがすごく楽しいんだよね。今日だってまるお見つけた時いっぱい笑ったし。
 でもあたし、高須君と二人で話したことないよ」
「二人で居ても多分変わらないわよ。そのままの麻耶を受け入れてくれると思うわ」
「そう、なんだろうね。きっと」
「そうよ」
「だからあたしは奈々子と高須君がくっつけば良いと思ってるんだよねー」
「どういうこと?」
「奈々子って消極的でいつも心は一歩引いてるけど、男の子に求める理想高いでしょ」
「う、ん。まぁ、ね。別に理想はそんなに高くないと思うけど」
「でも高須君となら一緒にいたいと思ってるじゃん。そのまんまの奈々子を受け入れてくれていて、一緒にいるのが自然で、
 料理の話で盛り上がったりするでしょ? お似合いだと思うんだけどなー」
「ふふ、なんか変な感じね。高須君の譲り合いって」
「そーだね」
「でも肝心の高須君の気持ちを無視してちゃいけないわよね」
「そーだねー」
「さっき聞きそびれたから今度聞いてみよっか。好きな人は多分櫛枝さんだけど」
「あ、そっか。あたしのせいで聞けなかったんだった! ごめんね、奈々子」
「気にしないでいいわ、さっきの雰囲気じゃ正直に話してくれるかわからないし……。また今度聞こ」
「でも、さすがにあれはないよねー」
「あの挙動不審は初対面の相手だからって理由じゃないわね」
「そういや、あたしらと話した時とは全然違うじゃん」
「初めて話したときはちょっと無愛想で怖かったわね」
「でも相談したらすぐ親身になって話しに乗ってくれたから良い人かもって思えたなー」
「そうね。結構優しくてビックリしたわね」
「もしかして高須君も片想いで悩んでたのかも!? 気持ちがわかるからすぐに協力してくれたのかもしれないね」
「う〜ん、元々困った人を見過ごせないっていうのもあると思うけど……。それも理由の一つかもしれないわね」

高須君の話が続いていく。
全然まるおくんの名前が出てこないのはどういうことなのかしらね。
話しているうちに今度は亜美ちゃんの話題になった。
346名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 23:56:48 ID:f6HZmbtZ
支援
347名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 23:57:05 ID:R23M5f6n
「亜美ちゃん可愛いかったねー」
「そうね、雑誌で見るより実物の方が可愛いのね」
「可愛いから高須君に興味持ったら怖いよねー」
「でも高須君、鈍いからどれだけアピールされてもわかんないと思うけど」
「はは、それ言えてる。暗に行動で示すんじゃ全く気付かなくて、『好きです』って面と向かって言っても疑われそう」
「そうかもしれないわね」
「でも一応さ、亜美ちゃんでも難しいかもしれないけど、念のため先に差を付けておこうよ!」
「差って?」
「高須君と亜美ちゃんにもしものことがあるといけないからあたしらと高須君の距離をもうちょっと埋めようってこと!」
「どうやって?」
「名前で呼び合う!」
「名前で?」
「そう! その方が近い感じがするじゃん! 今、呼ぶとき苗字だし、君付けだし。もう名前で呼んでもおかしくないくらいは仲良いと思うよ。
 高須君のことは『竜児』って呼んで、あたしらのことは『麻耶』、『奈々子』って呼ぶようにしてもらう。それが他の女の子にも牽制になったりもしそうだしさっ」
「ふふ、なんか恥ずかしいけど、ジョニーズから出てきたら頼んでみよっか」
そんなに高須君のこと取られたくないのかしら?
なら麻耶が付き合えばいいのに。
まるおくんに対する気持ちが大きくて、高須君への気持ちに気付いてないの?

―――数時間後
高須君と合流し、はやる想いを胸に秘めた麻耶がそれを一切包み隠さず身体全体に表現して早口で質問し、高須君を追い詰めていた。

「で、どうだった? 高須君」
「えーーっと、今度川嶋の別荘に遊びに行くことになった」
「何それ!? 今日初対面でしょう!! ありえなくない? あんた数時間でどんだけ進んでんのよ!!」
「あんたって……、北村が前から俺のこと話してくれてたみたいでさ。なんか印象は良かったみたいだった」
「ちょっ、でも別荘行くってことは泊りがけでしょ!? 早すぎるって!」
「北村も行くし、多分お前らも行くだろうって言っといた」
「良くやった! 高須君、あたしはキミを信じてたよ!!」

高須君の右手を両手で包んだ麻耶の目の中には、無数に散った星がキラキラと輝いているように思えた。
さっきまで興奮して机を飛び越えそうな勢いで前に座ってる高須君に迫ってたんだけど……。
麻耶は切り替えが早い。
あたしはちょっと変わった親友を持ったみたいだ。
今更かな。

「…なぁ、香椎。木原ってこんな奴だっけ?」
「…まるおくんのことになると何でもありなんじゃない?」
「そんなもんか」
「そんなもんよ」

麻耶は別荘の話を切り上げ、早速さっきの話を高須君に振ってみた。

「あ、そうだ! 今から高須君のこと名前で呼ぶね。いい?」
「ん? あぁ。別に構わんが…」
「じゃ竜児。あたしのことは『麻耶』って呼ぶこと。奈々子のことは『奈々子』ね」
「ちょっと照れるな」
「恥ずかしいとかは言わない、思わない。あたしら結構仲良いじゃん。別に名前で呼び合っても全然不自然じゃないと思うよ」
「香椎もそれでいいのか?」
「いいわよ、竜児君」
「じゃ、じゃあ、ま、麻耶に奈々子。別荘に行く日だが…」

竜児君にあたしたちを名前で呼ばせるのは思いのほか簡単なことだった。
ちょっと恥ずかしそうに、でも嬉しそうにしていたのがちょっと可愛い。
言ったら怒られそうだけど…。

あたしたちは亜美ちゃんの別荘に行く準備を始めた。


ここまでです。
348名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 00:00:49 ID:f6HZmbtZ
GJ!
大河がいないと普通の高校生の日常っぽくなるところが興味深い。
続き期待してます。
349名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 00:29:48 ID:Y7PfQVaf
麻耶が原作より1.5倍ほど可愛くて、竜児が原作より2倍くらいはじけてるな
しかしパラレルとしてはなかなか楽しいな、俺が単にハーレム好きだからかもしれないけど
続いてくれると連載が楽しみな作品になりそうで嬉しいかも
350名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 00:36:10 ID:hDIXMHdg
ちょ!レスよりKBが多いって何?ww
351名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 00:48:34 ID:IoUJUa/c
なるほど、恋の予感が四重も、だね。
寧ろ占い送られた裸族には何もなかったけどw
352名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 00:53:08 ID:E+iVlSTX
ここまできたら奈々子さまとのエロースを希望するなあ。GJだよgj
353名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 15:18:31 ID:QyPdQs5L
これはななどら? それともまやどら?
354名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 18:17:21 ID:p5VPtoIF
なんか、「タイガードライバー」という電波をキャッチした
355名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 19:28:39 ID:E+iVlSTX
ななまやどらでもいいな。
三人仲良く・・・
356名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 19:52:30 ID:iS1Msdy/
357名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 20:47:45 ID:Xswg3YdU
>>347
麻耶がとんでもなく可愛いwww
GJ!!
358名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 01:09:43 ID:mCmUuIGU
補完庫の管理人様、お早い更新お疲れ様です。
流れの早いスレでの小まめな更新に、いつも感謝しています。
差し出がましいようですが、174氏の「×××ドラ!」、3話目の投稿が2とされており、実際の2話目が抜けております。
お手数ですが、お気づきになられたら2話目も載せていただけないでしょうか。
忙しい中、合間を縫ってでの作業でしょうから、都合のいい時でいいのでお願いします。

これからもムリせず、自分のペースで構いませんので、投稿された作品の保管、よろしくお願いいたします。
359名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 01:37:19 ID:Cz0cYn5V
wikiの更新は簡単なんですよ。>>358
360名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 01:47:22 ID:mCmUuIGU
>>359
迅速な対応に言葉がありません。
わがままを聞いていただき、本当にありがとうございました。
お疲れ様でした。
361奈々子エッス! (下):2009/10/03(土) 06:55:27 ID:0GbNDEuD
どうも。
今から投下します。6スレあります。
362奈々子エッス! (下):2009/10/03(土) 06:56:28 ID:0GbNDEuD

高須くんはシャツを脱ぎ、私の胸元に頭伏せて、赤ちゃんみたいに私の乳首を銜え、吸うって、舐める。今まで胸への接触が限られていた分、たっぷりとその味を貪るように。
その同時に、彼の右手は私の乳房を、左手は下半身の筋肉をゆっくりと按摩する。
もう濡れているとはいえ、初めては「あんなもの」では、挿入する前にはいつも緊張感が湧き出してしまう。だから、こうした方は安心して彼を受け入れる。
彼は焦らずに、律儀なほどにこの一歩に拘っている。

これがこの「お仕置き」が始まってからの、最初の体の密着。
肌の表面を染める彼の体温が心地よく、実際、愛撫よりも私を安心させられる。
しばらくしたら、彼は「行きますよ、奈々子様…」、と一声をかけ、私の中に進入した。

「うぅ…!かっ、たいっ…!」

彼の物が強引に膣壁を掻き分け、ゆっくりと前進するの、感じられる。
何時ものことだけど、彼のが大き過ぎるから、最初はちょっとキツイ。
幾ら緊張感なくなっても、慣れたくても慣りきれない。
それでも慣れるしかない。体の相性……というのを考えたくないから。

「う…はうっ!はぁ…はぁ…」
彼の物に奥まで押され、私は喘ぎだした。

「んん…全部入りました、奈々子様。」

まったく不快感がないというわけには行かないが、ちゃんと感じている。
自分の指とは違うし、何より高須くんに抱かれているから、オナニーより何倍も気持ちいい。
腹部に篭る僅かな苦しみも、心地よく感じられるぐらい、いい。

「はぁ…うぐ、はぁ…もう、いいよ。動いて…」
「はい。」

彼はお尻で円周を描いて、私の苦しみを解すように、ゆっくりと膣壁をかき回す。
暴走する時以外、最初にこれをするのは、ほぼお約束。

「んん…あぁ」
「どうですか?奈々子様。」
「い、いいよ…はぁん…でも、亜美ちゃんとは、直ぐに、活塞運動に、なったよね。」

これは言葉責めではない。ただ、気になっていることで質問をしただけ。

「…そう、なんですけど。」
「ん、ふふ。あぁ…ソコ、いい。で…亜美ちゃんを抱けるからって…そこまで、興奮したの…?」
「奈々子様?」
「白状して…亜美ちゃんを、犯しているとき…理性ぶっ飛ばされているんでしょ…?」
「……………」
彼はなぜかつい先のように素直じゃない。だから、私は膣をギュっと締まった。

「んはぁ♪……ねえ、答えて」
「……っ!!奈々子様…」
彼は私の締め付けに反応し、動きを緩めた。
363奈々子エッス! (下):2009/10/03(土) 06:57:57 ID:0GbNDEuD

……高須くんと亜美ちゃんのセックスを見たとき、私はかつてないほど強い嫉妬を覚えた。
彼が他の女性を抱く度、私の胸に広げるその苦味とは、少し違う。
亜美ちゃんは初めてでも、高須くんのことをちゃんと感じていたから。
しかし、嫉妬の形に違うものがあれど、その度が強ければ強いほど私は興奮する。
この嫉妬自体も、私が自分に用意した媚薬。その感情を糧にすれば、一度の「お仕置き」で軽く三回、四回ぐらい絶頂できる気がする。

だから私はしつこく追及する。

「はあ…言って。はあ、はあ…うぐ、早く…ねぇ?」
彼の動きはがあまりにも鈍かったから、私は自分から腰を振りだした。この感覚はたまらない。
彼もこれには耐えられず、素直に何もかも白状すると、私は予想していた。しかし、彼は突然完全に動きを止め、私の手を握って、
「奈々子様…いえ、香椎としているのに…俺は、川嶋の話をしたくない。」
なんて言いだした。

私は吃驚して、しばらく呆然と彼の目を見つめていた。
亜美ちゃんとの行為を受け入れておいて、今更「香椎としているのに」とは、なんか気に食わない。サイテー。
……でも、視界が霞む。何となく瞬きしたら、二筋の温もりが、重力に引かれているように、左右の頬を滑り耳に届く。

「香椎!?」

「…ひっ、ひっく」

おかしい。私は、泣いている。どうやら、彼を咎める考えと裏腹、私の中に別の感情が働いているようだ。

「しっく、うぐ、ひく…だがずっ、ぐぅん…」

涙が思うように止まることはなかった。だから私は涙を拭くことより、手で顔を隠すことを選んだ。こんな、情けない顔を二度も見せたくない。

「香椎、どうした?どこか痛いのかっ!?俺、悪いこと言ったか!?」

ほら。
彼はきっと、自分が私の中に入ると、私は必然のように傷つく、とそういう風に思っているだろう。
全然違うのに。だけど、彼がそれを意識してしまうのも無理はない。

三ヶ月前のクリスマスパーティー。その夜、彼はある出来事で凄く落ち込んでいた。
私はその原因に関心持つこともなく、ただ、「これがチャンス」としか考えていなかった。
私はそれを突いて彼を誘惑した。彼は精神的に弱まっていたから、私を抱くことにあまり抵抗しなかった。
でも結局、私の方が朝まで泣いて、逆に彼に気遣われるハメになった。彼は、自分の悲しみをさて置き、一晩中私の傍に居て、苦労した。

私が泣いたのは、体が彼を上手く受け入れてなかったから。
自制できないぐらいに痛くて、泣いてしまった。痛みは人によって程度が違うっていうけど、私のはかなり酷い方だったらしい。
彼がセックスするのを中断して、私を介抱し、慰めた。その優しさに更に痛みつけられて、私もっと派手に泣いた。そういうのは麻耶のキャラだと思っていたが、高須くんを好きになって恋焦がれたことから、なんとなく納得できる。私は弱い人間なんだから、と。
それで、その時のことが印象強かったのか、何時までも私がセックスで痛がると思い込んでしまう、そんな彼がいる。

「ひっく、しく、うっ…ううう」
364奈々子エッス! (下):2009/10/03(土) 06:58:19 ID:0GbNDEuD

「香椎…?俺、やめるぞ。だからもう泣くなよ。」

「…いやあっ!」

彼が私から離れようとしている時、私は彼を抱きしめ、両手両足を以って彼を拘束した。
それでも彼は力ずく身を引こうとする。私が無理しているとでも思っていて、反射的に力を入ったのだろう。
でも、こういう時こそ強気になる彼も愛おしい。

「抜かないで…大丈夫…ひっく、だから、抜かないで、離れないで…」
声が震えて説得力ないと、自覚している。

クリスマスの夜明けに、彼が自分の落ち込んだ原因を告白した。櫛枝さんに振られたって言った。それで私は自分が嫌いになった。
彼の優しさを食い物にしたのも同然に、自分勝手なことばっかり考えていた自分が許さなかった。そして今でも、彼に甘えられずに居られない。

実際、セックス以外での私たちの関係は、カップルとして極めて淡白である。私、「好き」って言われたこともない。
彼が私とセックスしているのも、半分は肉欲で、残りの半分は同情でしか、考えられない。
この「付き合い」を成り立たたせたのは、高須くんの黙認だけで、他に何にもない。これじゃあ、ゆり先生と麻耶とは何にも変わらない。元々友人として強い絆があった櫛枝さんや逢坂さんよりは、ずっと劣っている。
だから私、こうして彼の優しさに縋りつくことでしか、彼との繋がりを感じられない。

「香椎…」

「高須くんは何も悪くない…ひっく、うぐ…私はね、ちゃんと感じているの。今は痛くない。だから、動いてよ…高須くん…」

「ダメだろう、そんなんじゃ。」

彼は私と行為を続けることに、拒絶を示した。そして、上半身を少し右に傾けて、体を下ろして、私を覆うように伏せた。彼のものがまだ硬いまま私の中に留めてくれたってことは、一応、「痛くない」というのに納得したらしい。
彼の手が顔を濡らした涙をふき取るように、私の頬を優しく触れる。なんだか、ぐすぐったい。そして彼の手の平は、とっても暖い。
しばらく時間がたって、私は何とか嗚咽が止めた。

「…ごめんね、高須くん…こんな女の子で」
「いや、エッチの時に泣くぐらい、別にいいけどさ。」
「ううん、違うの。そんなんじゃない…」
「じゃあ何だ。言わないとわからないぞ。」

私は彼の腰に手を回し、彼の肩に頭を預けた。

「このまま私を抱いて、怒らずに最後まで聞くって、約束して。お願い。」
「…いいぞ。約束する。」

私はまた、彼の優しさに甘えようとしている。
そうでもしないと、私は彼のぬくもりを失うのを怖がり、この先に進まない。

「今日、亜美ちゃんが貴方とスルように迫るのは…私が煽りしていたから。」
「えっ?」

「一月のとき、櫛枝さんが貴方を押し倒したのも、私が原因だった。」
「…………」
365奈々子エッス! (下):2009/10/03(土) 06:58:48 ID:0GbNDEuD


彼はあくまで無言だが、体のほう、ビクっと動いた。
驚いているか、怒っているか、そんなの確認したくない。私は彼の顔を見るのも怖い。
でも、彼は約束通りに私を抱き続けてくれる。だから、私は平然を装い、とりあえず話し続けた。

「貴方はゆり先生と、麻耶と、狩野会長と、逢坂さんとエッチした。それは全部、私の仕業。」
「お前……それって…」

彼の体は震えていると感じている。でも、私は続かなければいかない。

「彼女たちが貴方が好きなのは違わないけど……それを利用してあんな事して、セックスでもっと感じるようになね私はやっぱり…最低。
 私が高須くんの大切な人たちを傷つけて、その上勝手に『お仕置き』なんかやって高須くんも傷つく…ごめん。私がこんな、嫌な、女で…うぅ」

せっかく涸れてくれた目には、また涙が溜まっている。

「……お仕置き自体は別に嫌いじゃない。」
彼は私の髪を触れながらそう告げた。

「嘘付き…」
「いや、香椎。俺はお前にそういうことされるのは嫌じゃない。寧ろ…
お前にされるとなんだか興奮する。変態って思われてもいい。
 お仕置きは皆、甘んじて受けた。お前とエッチしたのも、俺がお前としたかったからだ。」
「……」
「他の子のことは…今はさっておく。でも、俺はあのクリスマスイブからずっとお前のことを見ていた。
なんとなく、陰があると気付いたが、それでも俺はお前が可愛いと思う。」
「……そう?」

「今の話で、俺は香椎を軽蔑することも嫌うこともない。」

彼は手で私の頭を動かし、彼の目へと直視させられた。真剣で鋭すぎて、体に穴を作るような目。
他人には怖く、私には可愛く見える、良くも悪くも彼のポイントである目つき。
胸がときめく。こんな目と見詰め合えたら、私は期待せずに居られない。

「俺は──────香椎が好きだ。」

……正直、あまりの夢心地に、失神しかけた。自分の聞き違いと、疑いたくなって。

「ホント?」
「恥ずかしいことを何度も言わせるな…香椎、好きだ。いや、今まで言っていなかったっけ。ごめて、不安させてしまった。」

恥ずかしいといいながら、また好きって言ってくれた。
三ヶ月間も待ちかねた返事がやって来てくれた。
366奈々子エッス! (下):2009/10/03(土) 06:59:48 ID:0GbNDEuD
「……私も、好き。凄く嬉しいよ、高須君。」
「なんか照れるな。」
「くす。」



「ねえ…最後までして。高須くんに好きだって言われて、また火をつけられたみたい。もう痛くないから、変な気遣いしないで好きにしていいよ。」

私は彼の首に頬を擦り付けて、行為を要求した。

「おう。じゃあ、乱暴に行くぞ。」
「えっ?……あっ、いやっ」

気が付けば、高須くんのモノはずっと硬いままだった。
彼は体を起こし、私を抱き上げ、ベッドから降ろした。そして私を壁に押し付けた。
私の体重で、彼のモノがそのまま子宮を貫くように、強く押し付けていた。そして、彼はいきなり抽送をはじめた。
勢いで獣になったのではない。意識が明晰のまま、遠慮なしに私を激しく突いている。これで、彼が私を同情しているように見えなくなる。

「うぐ、っ、んんんん、ああぁ、やあぁぁ…!!」
「どうだ、香椎っ…!余計な気遣いのない、暴力的なエッチの感じは、なあ…!!」
彼は大げさに腰を振って、動くたびに膣肉が脱落しそうな錯覚を私に与える。

「…はあぁ!ああっ!いいよ、もっと激しくして、頂戴っ…ああぁ、あああああ!!」
彼のモノに高速出入りされている膣も、火傷しそうなぐらい熱くなっている。

「すごく、エッチだぞ…香椎…!それも、好きだ…!」
彼の言葉はさらに私の神経をなぶる。

「いやらしく、変態な、うぐ、私高須くんも、好き!大好きよ!そのまま、あぁ、私を、いかせてぇぇ!!」

「香椎…大好きだぁ!だから、中に、全部出してもらうぞ…!!」
「いいよ、来てぇぇっ!!あああ、あああああぁぁぁぁぁ!!!」
女は、生殖本能で、愛している男の精子を自然と欲しがるもの。だから私には、彼を拒む理由はない。

「ううっ…!」

彼は下半身を限界まで押しつけて、射精した。
熱く熱く滾るその奔流が子宮を通して、私の心まで届く。心も体も、彼という存在に満たされていく。
彼と付き合い始まってから、今のような幸せを味わったことがなかった。
心がちゃんと通じ合ってるセックスがこんな物だとは……全然知らなかった。

「はぁ、はぁ…高須くん…ありがとう。」

「……おう。」

私たちはそのままキスを交わした。告白して、本当の恋人同士になってからのファーストキス。

なんとなく、また、涙が出そうになった。
367奈々子エッス! (下):2009/10/03(土) 07:00:21 ID:0GbNDEuD
====(オマケ)エピローグのピロートーク===

「すまん、香椎…その、お前が不安だったのを気付いてやらなくて。ごめん。」
「…いいの。私が言わなかっただけから、貴方は何も悪くないわ。」
「でも…」
「気持ちが気付かれないぐらいで貴方のことを怒るんじゃ、もうとっくに分かれたわ。自分がどれだけ鈍感だか分かる?」
「…いや、根に持っているんじゃあ、やっぱり怒っていたんだろう。俺が…その、鈍感なのを」
「ふふ、そうね。でも今回だけ許しちゃおうか。」
「……ありがとう。好きだぞ、香椎。」
「うん。」
「俺…初めての夜のアレは、寧ろいい思い出と思うぞ。」
「うん…高須くんは、その時から私にメロメロだったかなあ」
「…微妙だ」
「ちぇー」

………

「それにしても、皆との関係はな…」
「あはは…そうね。
 私から彼女たちに謝っとかないとね…許されないかもしれないけど。
 でも、貴方は皆放っておけないんでしょう?なら、彼女たちを幸せに出来ると思う。
 過程はキツくもなるんだろうけど、私がフォローしてあげる。」

「お、おう。いいのか?」

「…私に文句言う権利ないし、なんだか悪い感じもしない。
 貴方がハーレム作って私たちの過ちをチャラにできるなら、私は幾らでも手伝ってあげるわよ。
 高須くんは絶対手放ししないけど。」

「香椎が一番だ。」

「モチロンよ。でないと、〇ン〇ンきっちゃうからね。」
「……愛しているぞ、香椎。」
「ふふ、そんなに怖がらなくてもいいよ。ちゅっ♪」

〜完〜
368奈々子エッス! (下):2009/10/03(土) 07:00:59 ID:0GbNDEuD
以上です。多分、一番エロが薄い部分なんです。
最後はさり気なくご都合主義ハーレムルートに突入したんですが、これで完結です。
ここまで読んでくださったお方、ありがとうございました。

「Sに見えてドM」というのは、やや勘違いされやすかったようで、ここで弁解させていただきます。
「ドM」はあくまでその「ネトラレ属性」に指しているもので、奈々子様の「竜児を虐めたい」の「S」な部分とは、概念的な交差ありません。
つまり、言葉のあやだっただけで、一般的な「SからMに落ちる」ようなプロットを書いたのではありません。
不明晰な表現で誤解させてしまって申し訳あまりせん。

ちなみにここの竜児くんはお仕置き中限定の真性のM、と調教されています。
反撃できたのは、エロイことで奈々子様を喜ばす方法に詳しかっただけです。
大体の命令には忠実だが、適切なところでサプライズ与える柔軟性も備えるという優秀さ。
つまり、よく出来た賢い肉〇隷のようなものです。表現からはっきりしてないのは私の落ち度です。
作品以外のところでここまで解説しなければならなかったが、書き手として、
作品自体の「日本語が変なところ」に加かって、それこそ私自身の力不足を示すもので、以後そうならないように精進いたします。

では。
369名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 09:08:16 ID:s9x0MHu6
GJ!
こういう奈々子様もいいねぇ。
しかも竜児が全員とやってるとかw
外伝とかアフターとかも気が向いたら書いて下さいませ。
370名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 18:01:22 ID:auX+aXnL
人物描写はアリだと思うんだがな
なんか日本語が達者な外人の文を読んでいるようだ(特に助詞の使い方が)
371名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 18:57:19 ID:oRLjLtTo
細かいとこで日本語が違う気がする

まあ、脳内補完でどうにかなるが
372名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 19:47:37 ID:0GbNDEuD
>>370
上手く誤魔化せたと思いきや…Orz
もっともなご批判です。今後気をつけます。
お見苦しい所をお見せして申し訳ありません。

達者かどうかはさて置きますが、確かに私は日本に住んだこともない外人です。
趣味で数年ほど日本語を学習していて、日本語でSS書いてみようと調子に乗ってしまいました。
書き手としては「母国語じゃない」のような言い訳をしたくなかったので、今まで黙っていたワケですが……
やはり見抜かれるんでしょうね…
373 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:28:01 ID:HhBu2NGl
皆さんこんばんは。
[キミの瞳に恋してる]の続きが書けたので投下させて頂きに来ました。
毎回の感想ありがとうございます、そしてまとめて下さる管理人さんありがとうございます。
※このSSは能登×麻耶です。キャラ設定が自分の自己曲解で違うかもしれません。
苦手な方はスルーしてやってください。
では次レスから投下させて頂きます。
374名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 20:28:41 ID:auX+aXnL
>>372
お、やはり外人さんだったんだ。
俺の職場に外人がいて、その人の文の癖と似てると感じたんだ。
でも日本に来たことがないのにそこまで書けるんだから凄い。誇っても良い。
先に書いたとおり、「てにをは」などの日本語独特で日本人独特の助詞の使い方を
もう少しだけ勉強してみてほしい。印象がかなり変わるはず。頑張ろう!

それにしてもとらドラのエロSSを描く外人まで現れるとは……、驚くべきか感激するべきか解らんw
375 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:28:47 ID:HhBu2NGl
[キミの瞳に恋してる(5)]

疲れた…マジで疲れた、心身共に…。
俺は自室のベッドに突っ伏して身体を休める。
この週末の二日間、全く気が抜けなかったし、予想外の出来事が多過ぎた。
まず土曜日、木原がおかしかった…うん、おかしいというか気合いが入りまくってた。
手を繋ごうと言われたり、間接キス的な事をした。俺にとっては生殺しに近い内容の事ばかりしてくる。
木原は……『北村と付き合いたい』その一心でこういう事を俺で試してるんだろう?
手を繋げば細い指が絡んでくる、何か言えば頬を赤く染めてチラチラ見ながら恥かしそうに返してきて、挙句に…こちらを意識したような行動ばかり。
『間接キスとかも能登は嫌?』
よく思い返してみれば、まるおのまの字すら出てこない、明らかに俺に向けられた言葉の数々。
彼女の言った言葉が今も頭の中で木霊して止まない。柔らかく瑞々しい唇が缶に触れる様が繰り返し再生される。
混乱する…木原は俺の気を引こうとしているのか? そう解釈していいのか、俺の思い過ごしか、わけが解らん。
二日間の出来事だけでは判断出来ない、勘違いして嫌われたくない。


376 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:29:11 ID:HhBu2NGl
俺は彼女に確認する術を知らない。
『木原よー、お前もしかして俺の事が好きなの? ん?』
なんて聞けるわけないし、怖くてしたくない。
昨日の夜、その段階では浮かれているだけで、ここまで考えていなかった。思い悩んでいるのは今日の出来事が原因だ。
今日、つまり日曜。俺は木原と居た。それは前日にした事をなぞるように…『相談』された。木原の家で…。
そして…何より内容が問題だ。
...
..
.
明るい青色を基調としたカーテンと壁紙にカーペット、可愛いヌイグルミが部屋の片隅で山になっている。
ティーンブランドの紙袋が制服やコートと共にハンガーラックに掛けられ、女子特有の甘酸っぱい香りで満たされている。
それが木原の部屋で、俺は初めて招かれた女子の部屋で…ガチガチに緊張していた。
『外は雨が降りそうだから』
木原がそう言って、俺を家に招いてくれた。確かに空は曇っていて、今にも雨が降りそうだった。
やっべぇ、何っすか…すげぇいい匂いする……。これが木原の部屋…てか、目のやり場に困るんですけど。
俺の心臓がエイトビートを刻む、その理由は簡単だ。


377 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:30:07 ID:HhBu2NGl
木原が俺に背を向けダウンジャケットをラックに掛けようとしていて、微妙に届かないのか背伸びして…見えそう。
ベージュのミニスカ、柔らかそうな白いフトモモ…その付け根、てかスカートの奥。そう、下着が見えそうなのだ。
見ようと思えば簡単に拝見出来る、だが俺は膝の上の拳に視線を向けて耐える。
木原に対して失礼、何より俺の良心が許さない。以前、良心の壁を越えた後に罪悪感に襲われ、二度と越えまい、と誓ったのだ。
木原が身を翻し、こちらに向かって来たのを気配で感じ、続いて白い丸テーブルを挟んで座る。
俺の葛藤は彼女に知られずに澄んだ、ただ不思議そうに見やり首を傾げた。
問題はここからだ、暫く無言状態が続いた後…
『能登はキス…したことある?』
彼女が…そう『俺に』質問した。唐突に…。
「え、………え?」
もちろん俺は当惑する。 『まるおはキス…したことあるのかな、能登は知ってる?』とかなら解るよ、でも俺を名指し。
恥かしそうに顔を俯かせ、女の子座りした彼女はモジモジしながら俺の返事を待っている。
「お、俺? えっと…な、無いけど?」
意図が不明だけど俺は素直に答える、今さら見栄を張っても仕方無いし…。

378 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:30:49 ID:HhBu2NGl
逆に嘘をつく方がカッコ悪い…と思うんだよね、女々しいみたいな。
木原が指先で自分の唇をなぞる…、俯いていて表情は解らないけど、耳も頬も真っ赤で……俺は魅入られる。
目を奪われた、艶のある薄桃色の唇を俺に示すように一回、二回と指先が滑っていく。
「あ、ああ…ごめん。そういえば飲み物とかいる? ココアくらいしか無いけど」
質問、それが何の意味があるのか教えて貰えぬまま…木原はそう言って俺の返事を待たずに部屋を出て行ってしまった。
俺はポツンと取り残され頭を抱える。
『何だ…? 何なんだ昨日から……木原の考えが読めない』
俺は見ての通り困惑し、必死に考えを巡らせる。
『時間を掛けても木原を振り向かせる』
それを実現させる方策は木原の心変わりを狙い、自身のアピールに努める、だ。
俺は木原の気持ちが北村に向いていると信じている、だからその考えに基づいてプランを練っていて、行動には移せていない。
アイツは北村を惹く為に……俺に相談してるんじゃ無いのか?
その前提は悔しくも自分の拠り所なのだ、北村と俺が入れ替わる…いわば目標。


379 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:31:28 ID:HhBu2NGl
同時に俺と彼女を繋ぐ接点でもあって、それが仮に木原の気持ちが俺に向いているなんて想ったら何故か自信が無くなるのだ。
何の取り柄も無い、つまり凡人の俺に好意を持たれてるなんて信じれない、自惚れじゃなく怖れ、疑心暗鬼に囚われそうになる。
あれだけ『木原が好きだ、何としても振り向かせる』なんて息巻いていても…。
もしかしたら好意を持たれてると考えられる兆候が見えてしまうと、いざとなったら恐い…逃げてしまいたくなる。
だって…まだ日数にして二日も経っていない、なのに…どうも自分の妄想が具現化したような事態ばかり起こる。
尻込みしちまうだろう、誰だって…。
カマを掛けてみればハッキリする、しかしそれは諸刃の剣。運良くいく保証なんて何処にも無い。
一度でも『そうなのか』と疑ってしまうと、否定された時が恐い。
例えば高須と亜美ちゃんの場合、ヤツの言う事が正しいなら、亜美ちゃんが積極的に好意を伝えてきて惹かれたんだとか。
高須の心を奪うくらいにハッキリ…亜美ちゃんはアピールしたんだろう。そして見事に射止めた。
だが、俺の場合は違う。曖昧なのだ、俺はハッキリしているが木原は曖昧。


380 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:32:16 ID:HhBu2NGl
金曜…つまり俺が授業をサボった日、アイツは北村に告った。まだ日も浅い。舌の根も乾かぬ内に心変わりなんて有り得るのか?
高須は櫛枝が好き、櫛枝も高須が好き…すれ違ったけど両想い。亜美ちゃんは片想いだった。
だが、ほぼ詰み状態の盤面をひっくり返した。
俺もひっくり返せるのか、亜美ちゃんみたいに勇気を出せるか?
……まだ出来ねぇ、判断材料が足りない。勇気が出ない。
「お、お待たせ。ココアは甘くても…良かった? 適当に砂糖入れちゃったから…」
そう思考していたら木原の声が聞こえて我に帰る。
目の前にココアの入ったマグカップが置かれ、お茶菓子のクッキーの皿を真ん中に…、憂いを帯びた表情の彼女も見えた。
「あ…大丈夫、甘い方が好きだから」
俺はすぐに気持ちを切り替える………臆病だから。
確実性が無いと踏み出せない、自信が無くて弱いから…、情けねぇけど。
熱いココアを啜って、木原の様子を伺う。
彼女は自身のマグカップには口をつけず、ただジッと上目遣いで俺を見てくる、視線が合っても昨日みたいに逸らさず。
俺がクッキーを食べて、咀嚼するのを見守った後、彼女が口を開いた。
「ど、うかな? お、おお美味しい…?」


381 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:32:53 ID:HhBu2NGl
「あ、ああ、うん。美味しいよ、その…ココアもクッキーも」
その大きな猫目で恐る恐る伺うように、だが俺の返事を聞くと『憂い』から『喜び』に表情が変化した…ように見える。
「っう…」
俺は再び魅入られる、言葉が出なくなる、彼女の満面の笑みが眩しくて…。
「良かったぁ…、実はソレ、クッキー…私の手作りなんだ、早起きして作ったの。
調理実習の時を思い出して、あと奈々子に電話して聞きながら
………って、あはは…何言ってんだろ私……」
普段のギャルっぽい口調なんて…全く無し、今の木原は歳相応の可愛らしさで……甘くて幼い。
照れた微笑み、それはさっきの憂いを隠す為か、それとも本心か……解らない。変化があり過ぎて解らないよ。
「ちょーありえないよね、ガラでも無いっていうか…変じゃね? 私には似合わないし……」
言い訳…なのか、今度は自己の否定とも言える事を言い始めた木原。
「いや、木原だって女子だし、お菓子作りは意外だったけど、全然変じゃない、よ。
俺は木原が凄いと思う、こんなに上手に出来たらスゲーって」
このクッキー…俺の為に作ってくれたんだろうな、慣れてないから形は歪だけど…味はかなり上手い。


382 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:33:28 ID:HhBu2NGl
「そ、そうか…な。うん、そうなんだ…」
彼女が恥かしそうにはにかむ様を見てしまい、俺は堪らなくなる。
だから…我慢出来なくなって質問する、さっきは答えてくれなかった質問の意味を問う。
「ところでさっきの、キス…がどうとかって聞いたじゃん?
あれって…どういう意味で聞いたの?」
と…、カマを掛けるんじゃなくストレートに、臆病で逃げ出しそうになる自分を奮い立たせて問う。声が震える、けど途中で投げたりはしない。
「…ん、それね、あはは…、うーん…あの…あぅ…、……わ…………ったから」
彼女は恥かしそうにモジモジするだけで要領を得ない。
『あうあう』と言い難そうに俺をチラチラ伺って、しばし後に何かを呟く、が、聞き取れない。
「うん?」
フルフルと小刻みに身体を震わせる木原が再び口にした言葉、それは…
「わ、私と……一緒だな…って、わ、私も…キス……したことないから……能登は…した事があるのかなって……」
……うん、まあ…そこまでなら別段…ね、でも問題はそこからだ。
「た、た試してみたり…したいって想わない? わ、私……とキス…して…みない?」


383 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:34:09 ID:HhBu2NGl
「わたっ…私ね! 能登っ…能登とっ! うぅっ…キ、キスッ! しちゅっ…してみたい!!

木原がバンッ!と両手で勢い良くテーブルを叩いて身を乗り出す。
彼女に言われた事、その破壊力は抜群で俺の思考を止めるには充分過ぎた。
「え…、あ……、えぇっ!?」
信じれるか? 俺とキスしたい、そう確かに言った。間違い、いや間違なく、ああでも聞き間違い………いやいや!!
つじつま…なんて、言動と行動の統合性なんて皆無、突き付けられた現実…それは…どう見たって木原に迫られて当惑する自分の姿だった。
「能登が…良いなら……し、しちゃう、よ? わ、私の"初めて"……も、貰ってよ」
この突飛も無い行動に俺は後退りしてしまう、半端無く魅力的な提案、しかし急過ぎて受け入れるまで至れない。
俺の右前方からジリジリと四つん這いで迫って来る彼女、瞳が潤んで表情なんか蕩けていて……言い方はアレだけど、熱に浮かされていた…。
「きょ、今日…部屋に誘ったのは………の、能登と……んくっ、キスした、かったから…なんだよ」
獲物ににじり寄る猫みたいにジリジリと差を詰めて来る彼女に圧倒されていた。


384 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:35:22 ID:HhBu2NGl
後退りする俺の思考は停止、心拍数がレッドゾーンに飛び込みオーバーレブ寸前…ただ目の前まで近付いた木原に釘付けになる。
俺の背中が何かに当たってそれ以上は引けなくなる、ベッドにぶつかったようだ。
「い、いやいや! その…嫌じゃないけど、なんで! 急…急じゃね? 俺、俺となの、北村とじゃ………、っ!?」
とたんに冷静さを多少は取り戻し、建前と本音、それらが入り交じってはいるが倫理を問おうとした。
だって、だ…木原は北村と……そうなんだろ、なら俺と『したい』は意味が解らない。
だが、俺の唇はそれ以上を紡げなくなる。
ガツッ!と固い物が歯に当たったと同時に柔らかい物が唇に押し当てられたから、だ。
鈍い痛みと暖かく柔らかい感触、今まで高鳴っていた心音が小さくなる感覚、何が起こったのか理解出来ずにいた。
俺は見開いた目で見てしまった、瞼をギュッと閉じて顔を真っ赤にした木原の顔を………零距離で。
荒くなった息遣い、甘ったるい彼女の匂いすら感じられる最至近に……居た。
両頬を手で押さえられ、塞がれた唇の熱で融ける。何もかもが融けていってしまう。


385 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:36:14 ID:HhBu2NGl
俺達の周りだけ時間が停止したような…感覚。遠くで時計の秒針が刻まれていく音が聞こえる。
「あ、あああ…。そ、そのごめ、ん…わ、私……」
数十秒経った…頃、木原が冷静になったのか、うろたえて俺から離れた。
「…っ! き、木原……」
俺も現実に戻される、高揚感、羞恥、照れ、戸惑い、様々な感情が入り乱れて混乱し…何を言うべきかの見当もつかない。
悲痛な表情をした彼女と固まった俺、二人の間に会話は無い。
降り始めた雨の音が静寂を破って耳に届く、それとは別に俺の高鳴っている心音もあるが……それは抜きにしてもいい。
状況の把握に努めようとしても、混乱した頭は木原の熱を繰り返し思い出させるだけ…。
「わ、わた…し………じゃ駄目か、な…」
どれだけの時が過ぎたのか見当がつかないが、静寂を破ったのは木原だった。
「の、能登が好き…なんだ…いきなりだからわけわかんないと思うけど………ずっと見てたの」
彼女が再び俺との距離を詰めて来る。縋るように、媚びるように、恐る恐る…でも確実に…。
「で、でも北村に告って…たよね、一昨日…に。たった二日前だ……」



386名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 20:36:18 ID:auX+aXnL
KARs様キテ(゚∀゚)ル━━━━━!!!
しえん
387 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:36:59 ID:HhBu2NGl
「ま、まるおに告ったのは………ムシャクシャしてて本心で言ったんじゃないの、
信じてくれないかもしれないけど、ほ、本当だよ?」
木原が俺の身体に覆い被さり、頬を震える手で撫でながら無理矢理微笑む。
「一年の頃から見てたもん、お願い…これは嘘じゃないから信じて…嫌いにならない、で…」
そう言われても何が何だか……何が嘘で、何が真実かも解らない。
「い、や…おかしいって……つじつまが合わない、じゃあ修学旅行の時のアレは…てか、その前から言ってたじゃん?
まるおーまるおーって……アレは何なのさ?」
嬉しいとは思うよ、でも疑心の方が強い……信じてやりたい、ああそうだよ、信じたいよ木原の言う事を…。
「そ、それは……う…、まだ言えな、い…。言ったら軽蔑されちゃうもん…」
でも、そんな風に言われたら…どうすりゃいいんだよ。
いいよ信じても、でも…信じるなら全面的に…だ。出来るか? 信じて裏切られたら?
考えたくないけど、木原は自棄になってて北村に当て付けしたくて…みたいな、それで俺に言い寄ってるとか。
嫌だ、嫌だ、考えるな! そんなの堪えれるかよ!


388 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:37:49 ID:HhBu2NGl
「…じゃあ…じゃあ、チャンスを頂戴? 一回で良いから私にチャンスを……能登に信じて貰いたいから」
...
..
.
顛末をざっと…こんな感じかな。正直な話、俺は参っていた。
事態が性急過ぎるのも要因だけど、何より木原の言う事が本心なのか確認しようが無い。
奈々子様や亜美ちゃんに聞いたとしても絶対では無いし、他ならぬ本人しか知り得ない事だからだ。
『夜まで考えさせて』
そう言って俺は帰ってしまった。その場で答える事なんて不可能だった。
即答するのは簡単だ、俺が考えていたように振り向かせる、いやこの場合は俺が歩み寄る、か?
そうする事に変わりなく、辿る道が微妙に変わるといった感じ。むしろ『近道』になる。
だが答を先送りしたのは木原に対して誠実でありたいからだ、本心を包み隠さずに伝えたいから、行動として表したいからこそ考えないといけない。
いや、ぶっちゃけ答なんて決まっているよ。ただ踏ん切りがつかないというか、事態を受け入れようともがいているのだ。
確かに彼女の言った事は嘘じゃないかもしれない、…なら何で回りくどい事をしたのか理解に苦しむ。


389 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:38:57 ID:HhBu2NGl
北村についての『相談』から徐々に心を開いていって……、みたいな…それこそ何ヵ月単位の積み重ね。
それなら解る、そうしたいと思っていたからだ。
だが木原の言う事が正しいなら、隠していた気持ちがこの二日で爆発したというか…、だからか通常の過程を駆け足で進んでいる。
いや正しいんだろう彼女的には。離すものか、と必死で…考えうる限りの自己主張をしているのだ。
一目惚れでキスまで出来たら、北村に対してすでにしている。手を繋ぐなら常にしていただろうし…。
北村もそんな事があったのなら靡くだろ、つまりそれは無かったみたいで…。
……木原の言っている『一年の頃から見てた』は本当なの…かな?
いや、別に虚構だの真実だの…関係無い、シンプルに『好きか嫌い』の二択で考えないと…。
俺は木原が好き…それでいいじゃん、何をどうしたって嫌いになれない。なら…チャンスを与える、と同時に俺もチャンスを貰う。
お互いの気持ちを確かめて、意見の相違が無ければ良い。晴れて恋人同士だ。
すれ違っている部分を繋いで、共有して、何でも試してみるって事さ。関係が壊れたら、なんて考えると恐いけど勇気を出す。


390 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:39:52 ID:HhBu2NGl
この関係を提案したのは俺だ、予想とは違ったけど…早いの遅いのなんて屁理屈なんだよ、マジで。
高須が言っていた『好きになるのは理屈じゃない』…悩んでいた時、亜美ちゃんに言われたらしい。
そうだよな、怖れて疑っていたら見失う。木原は俺を好いてくれていて、俺も同様で、なら理屈じゃなく勢いも大切だ。
なんだかんだ『流されている』のは事実、木原からのアプローチが無ければ俺は未だにウジウジしていただろう。
新たな関係を示してくれた彼女から勇気を貰い、俺からは気持ちを贈る。
「よし…」
そうしよう、なら次は行動だ。返事をする、俺からも…チャンスを与えて欲しいとお願いするんだ。
メール? 電話? ……いや直接『逢って』だ!
『今から家に行ってもいい? もし良かったら二十分後に家の前に居て欲しい』
そうメールしてから身支度し、鏡を覗き込んで髪を弄る。
ワックスでちょいちょいと数ヵ所にアクセントを加える。手早く…。
ジャケットの背を手で払い、汚れていないか確認して羽織り再び鏡と向き合う。
『わかった、待ってる。気をつけて来てね』
送られてきたメールを見てフリップを閉じる。


391 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:41:07 ID:HhBu2NGl
自室から出て階段を駆け降り、玄関でミドルカットスニーカーを突っ掛ける。爪先を思い切り床に打ち付けて無理矢理履く、型崩れを気にしてなんかいられない。
玄関から飛び出してからは全力疾走、一刻でも早く逢いたいから薄暮の街を駆けていく。
運動不足ですぐに息があがる、酷使する肺や脚が痛いし、脇腹がズキズキ鈍痛を伴って軋む。土踏まずの感覚が鈍くなり、ふくらはぎがパンパンになる。
辛いよ、でも走るんだ。二十分より十五分、十五分よりは十分…自分が急ぐことで逢う時間が早まり、長く話せる。
せっかく身だしなみも整えたのに走ったら意味が無いと言われたら返す言葉は無い。
でも良いんだよ、彼女は待っているかも。もしかしたら…メールが届いてからすぐ外に出て待ってるかもしれないだろ。
天秤に掛けて比重が重いのは『木原麻耶』だから…それで察して欲しい。
……居た。木原だ、ガチで待っていてくれた。
サラサラの長い髪を靡かせ、ファー付き紫色のダウンに気合いのミニスカート、そしてブーツ、見間違いじゃなく木原麻耶だ。
後ろ手を組んでソワソワと辺りを伺っている、その姿を視界に入れて最後の力を振り絞る。


392 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:41:53 ID:HhBu2NGl
落ちてしまったスピードを上げて全力全開、彼女の名前を呼びながら残り30メートルを駆けていく…。あと20…10…。
「っぐ! っは! き、きぃはぁら、あぁーっ!! はあっ!! はっ! あべしっ!!??」
そして足がもつれて木原の目の前で盛大にコケてしまう…。
.
「気をつけてって言ったのに…」
俺は再び彼女の部屋に上げられ、そう言われた。
そして見詰めているのは天井、また、アレですよ寝転がっているんです。
何故か? 簡単だ、俺はコケた時に顔面から着地、鼻をしこたま打って鼻血を出血大サービス中なのだ。
こういう時は寝転がるのはNGだ、気管に血液が流入するらしい………が、俺は寝転がっている。
ふひひ…理由? 木原に言われたからだよ、決まってるじゃん。
だって膝枕だよ、ひ・ざ・ま・く・ら! 木原がしてくれてるんだ断れるかよ!
細く見えてめちゃ柔らかいです、たまりません。リビドー的に。
「いやぁ…待たせるのは駄目かなって…」
木原の表情はここからは伺えない、そっぽを向かれているから。
「て、てか…の、能登が来てくれたのって……さっきの答を…くれる為だよね?」


393 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:42:41 ID:HhBu2NGl
続けてうわずった声で紡がれた言葉、期待と怖れが半々…ドキドキしているんだと思う、無意識にフトモモを擦り合わせてるし…。
「まあ、ね。答えは………」
「いいっ! そ、そのままでいいからっ! また鼻血出されてカーペットにでも落とされたらイヤですしぃ!」
起き上がろうとすると木原に頭を押さえられて遮られる。
「あ、じゃあ…言うよ?」
ここぞとばかりに落ち着く場所を定めるフリをして後頭部で『木原』を堪能しつつ俺は問い掛ける。
「う、うんっ!」
彼女が二回、大きく頷く。
ちなみに下から見上げる七部丈のシャツの胸元…緩やかに膨らんだ部分も気持ち揺れる様が見えてしまう。眼福眼福…。
「木原が言っていたチャンス…っての? あれ…俺も欲しい、なぁ…って。
木原の事、まだ知らない事だらけじゃん、知りたいし見てみたいし、見て貰いたいし知って欲しいって想ってる」
初めは言葉を選ぶように途切れ途切れに…、やっぱり緊張するよ告白も同然だし。だけど、だんだん一息に…自然に自分の気持ちを言えるようになる。
「さっきはビックリしたよ確かに、でも嫌だったんじゃない…嬉しかったからビックリしたんだ」


394 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:43:35 ID:HhBu2NGl
「木原は北村の事が好きだって…ずっと思ってたさ、けど俺の事が好きだ…って言ってくれて更にビックリ…してて。
そ、その…俺も好きなんだよ木原の事…、ずっと前から好きで……」
そこまでは流れるように紡がれていた言葉が……出なくなる。心臓が激しく鼓動し、照れやら何やらで余計に緊張している自分がいた。
「の、能登も…私の……事を?」
ブルッと一回震えた彼女が独り言のように呟く。
「だ、だから…一緒にさ…遊んだり、して…もっと仲良くなりたいな……って、無理せずに自然に…。
うぅ…あ、あ…つまり、つまりね……お、おりぇ…俺はっ木原と居たいんにゃよっ!」
噛んだ…肝心の締めで噛んじまったよ…恥かしい。どこまでヘタレなんだよ俺はっ!!
やっぱりよくよく考えたら、こういうのって目を合わせて言うべきじゃんっ! 今さらだけど!
「う、うん! わ、わわ私も能登と居たいもん! 知りたいよ、見たいよ、っん! いっぱい見て欲しい、私をもっと好きになって欲しいよぅっ!! ぐすっ!」
木原も緊張していたんだな、俺の失敗を気に掛ける余裕なんて無い華麗にスルー。


395 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:44:21 ID:HhBu2NGl
涙ぐみ…今にも泣き出しそうになりつつ答えてくれる、はっきり見えないけど…。
いや見る! こういう時に男が取るべき行動は決まっている。そうすれば見えてしまうものだ。
「きはっ、木原…泣くなって…泣き顔より笑顔が見たいし」
俺は起き上がって、そっと木原を抱き締めてみる、僅かにピクッと彼女は震えたが徐々に力を抜いて俺に抱き付いてきた。
そして格好つけて言ってみても実はガチガチに緊張している。
「だって、だって! うぅ…能登が泣かすこ、とを…ひぐっ! 言うからじゃん!
嬉しい、の、に、すんっ! 涙が出ちゃうし、私だって恥かし、いんだからっ!」
肩に顔をグルグル押し付けて彼女が紡ぐ。ほぼ同じ目線の木原もやっぱり女の子なんだな…とか思ったりして。
肩幅は狭いし、身体は小さいし、柔らかいし、いい匂いだし……。
だけどそんな浮ついた考えは一気に霧散してしまう……。
「のひょ、…っん! のとぉ…あむ…、ぐしゅっ! んんっ!」
それは木原が唇を重ねてきたから、だ。
いや重なるなんて…それ以上だよ。舌…舌がっ! 入っ…て…。
顔を真っ赤にして泣きながら、木原が舌を口内に潜らせて…来て。


396 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:45:18 ID:HhBu2NGl
よほど嬉しかったんだろう、気持ちが高ぶってみたいな?
頭をギュッと強く抱き寄せられ、俺の舌を捕らえようと奥へ奥へと来る。
くすぐったいような、気持ち良いようなフワフワした気持ちになり、同時に生々しくて、甘酸っぱくて、堪らなくて…。
何も考えられなくなって、俺も木原と舌を絡めて戯れる。
彼女の熱に溶かされ、柔らかく包まれて、俺からも包んで…ただ夢中になって貪る。
密着した唇の柔らかさ、漏れる吐息、甘く酔う彼女の味。
初っ端から濃厚な『木原』に絆され、熱くなっていく。
だけど…木原が俺から唇を離して、口元を手で隠して恥かしそうに俯く。
泣きやみはしているけど、まだ瞳はウルウルしていて、顔はやっぱり赤くて…可愛くて。
「血の味がする…」
そう呟いて彼女は俺の胸板に顔を埋め、照れ隠しなのか背中に回した手で爪を立てる。


続く
397名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 20:45:35 ID:auX+aXnL
@@@@
398 ◆KARsW3gC4M :2009/10/03(土) 20:45:53 ID:HhBu2NGl
今回は以上です。
続きが書けたら、また来させて頂きます。
では
ノシ
399名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 22:11:55 ID:cszNtazH
KARs様GJ!!
麻耶も能登も初々しさ全開にで可愛いすぐるw
400名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 23:07:17 ID:auX+aXnL
>>398
同じくKARs様GJ
青春だなー……(遠い目)
401名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 23:24:42 ID:nm+BWTtb
>>372
すげえな 外人さんがとらドラのSSを書くとは・・
402名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 23:27:16 ID:uz4kgoBn
>>398
『血の味がする』…くぅ〜 書きたいフレーズでしたよ〜! やられた!
流石のGJです〜〜。

で、ふと気がつくと早くも400KBオーバー。 梅ネタ用意せねば…。
403名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 23:38:52 ID:qTHeXobA
>>372は多分アジア圏の人だと思うけど、漫画とかの商業誌の翻訳なら今すぐにでも出来るんじゃ。
すげーよ。全く気付かなかった。SS読んで感服するなんてめったに無いぜ

俺も英語がこんくらい書ける様になりたいもんだ
404名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 23:48:10 ID:GJ8jAdot
地域やら国やらの特定はやめとけ荒れるだけだ
日本人だろうが外人だろうが良いSSにはGJ、駄作はスルー
それでいいじゃないか
405名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 23:58:16 ID:2oR4FYuR
KARsさん、どんだけ恋愛を経験してきたのか、想像力が豊富なのか、、、
GJ!
406名無しさん@ピンキー:2009/10/04(日) 00:51:46 ID:Jv5ceMbB
>>372
そんだけ上手に書けりゃあ充分だぜ
てか規制に巻き込まれてなくてよかったね
407名無しさん@ピンキー:2009/10/04(日) 10:34:45 ID:Pz6WvLxv
最近奈々子様や麻耶作品が多くて嬉しい
KARs氏の能登x麻耶は少女漫画かとオモタ(*´Д`*)ポワワ
408 ◆9VH6xuHQDo :2009/10/04(日) 20:43:03 ID:Pp68BERK
『みの☆ゴン』
>>240の続きを投下させていただきます。7レス分(53〜59)です

続き物ですので、ここからお読み頂いきますと、ご不明な点が多いと思います。
前回レス頂いた方、ありがとうございました。
宜しくお願い申し上げます。

http://www.42ch.net/UploaderSmall/cgi-bin/../source/1254594635.jpg

http://www.geocities.jp/starwars0flash/starwars.swf?txt01=MINO&txt02=GONG&txt03=53-59&txt04=A+transfer+student&txt05=This+time%2C+story+is+the+first+three+days&txt06=It+will+be+stalker%27s+story+next+time.+&txt07=My+best+regards
409みの☆ゴン53 ◆9VH6xuHQDo :2009/10/04(日) 20:50:24 ID:Pp68BERK

 世の中には、色んな人がいてだな。色んな愛のカタチがあると思う。
 しかしだな、お前のしている事は……なあ木原、聞いているのか?
 ……っと送信!……え? 何? 高須くん、何か言った?……
竜児は腕を組んで説教していたのだが、夢中でケータイをいじっていた麻耶は、
名前を呼ばれ、やっと竜児に顔を向けた。全く話を聞いていなかったようだ。
 ちゃんと聞いてくれよ。だから例の……わいせつ画像のことだ。
 まさか木原……自分のエロ画像を撮影したりなんかしてないよな。
 ……はぁ〜? 超どーでもよくない? あっわかった高須くん、欲しいんでしょ?……
 ……あたしのエロ画像。ねえ。今から撮影会しよっか? ねねね、しよっ。脱ぐね?……
 な、なんでそうなるんだよ、木原!俺はネットで画像が流出する、
 おうっ! 待て、木原っ! 脱ぐな! おおうっ、脱ぐなって!
ナゼかノリノリの麻耶。そうか……これは俺の夢、妄想モードか……。
竜児は、頭を掻こうとしたが、何故か都合いい事に、竜児の手の中には、
カメラEOS kissが握られていた。いつの間にこんなもの……さすが夢。なんでもありだ。
 ……ねえねえ高須くん、どーかな? あたし、結構似合ってなくない?……
夢中でカメラをいじっていた竜児が顔を上げると、制服の下に来ていたのはバニースーツ。
麻耶がセクシーポーズを決めていた。幼さの残るウサギちゃんは、ムチムチの肌を晒す。
 似合ってなくないって、どっちだ? っていうか、俺が言いたいのは、
 貞操観念を高くってか、もっと自分を大切にすることの重要性っつーか……
 ……そんな事、聞いてないってば! もういいっ! 早く撮ってよ! 早くっ……
 ……んもぉーうっ、高須くん! 撮ってくれないと、もっと脱いじゃうよっ!……
わかったっ、わかったから……と、竜児は、根負け。カメラのファインダーを覗く。
410みの☆ゴン53ー2 ◆9VH6xuHQDo :2009/10/04(日) 20:51:30 ID:Pp68BERK
無邪気にポーズを決める麻耶。その瞬間瞬間を竜児は、切り撮る。明るい色の髪がなびく。
17才のバニーガール姿は、クルクル廻る度、思春期特有の仄かに匂う発育臭を振りまく。
未成熟で、張りのある、ぷっくりした肉づきにセクシーなコスチュームはミスマッチだったが、
逆に、竜児が求めれば手に入れられそうなリアルさを匂わしていた。麻耶が、ウインクする。
カシャ……カシャ……枚数が進む度、レンズに慣れてきた麻耶は、竜児を大胆に誘惑してくる。
 ……ど〜かな?あたしのカラダ。高須くんが一番好きなところ、撮ってよ……
唇を尖らし、胸の谷間を強調し、目一杯色っぽく竜児に問う。名機EOS kissには、
手ブレ補正機能が搭載されていて、高鳴る竜児の鼓動は、幸いにも撮影には影響なかった。
 す、好きなところって言われてもだな……そんなの、すぐに決められねえよ。
 ……あ、ここは?ねえ、わたし自信あるんだけど、ねえここ。ほらほら……
そう言って、麻耶はムッチリした自分の太腿をツンツン指差す。指で太腿の張りの良さを知る。
しかしカメラは麻耶が示した太腿ではなく、その付け根、うっすら浮かび上がる縦筋を捕らえた。
麻耶のバニーガールの衣装は超ハイレグで食い込んでいたからだ。気付いた麻耶が手で隠す。
 ……ちょおとおおっ、高須くんエロい!……でも、撮りたいんだよねえ? 高須くんは……
よしっ!っと麻耶は決意。竜児を置いてきぼりにして、コスチュームを自ら剥ぎ取った。全裸だ。
右手でおっぱいを隠す。手ブラってやつだ。左手で下半身を隠すが、これは手パンと呼ぶのか?
 ……ちょっ、やっぱりヤバい、ハズいっ、ハズかしーかも……
自分でやっておいて今さら恥ずかしがる麻耶。レンズ越しに覗く竜児も恥ずかしくなったその時、
名機EOS kissがその顔優先ライブモードが発動。麻耶の背後で、ワナワナする顔に焦点を合わせる。
 ……ほう竜児くん。邪魔しちゃったかねえ? どうぞ続けてくんなまし……
 いや……実乃梨。これは木原に頼まれて本意ではない。話すと長くなるんだが、人助けなんだ。
 ……へえっ。それはそれは……ソレにしちゃあ、竜児くんのサツマイモ。蒸き上がってるよ……
 ……ねね高須くん、うさぎのニガヨモギ煮、スッゲーコリコリしてるよね、コリコリ……
ふたりに蒸き上がって、煮え上がる竜児の股間を指摘される。追い込まれた竜児は股間を押さえる。
 ……竜児くんのエッチ!! ……三途の川でまたあおう!! カイザーナックルッ!!……
実乃梨が振りかぶる。BAKCOOON!! っと股間にファイナルブローを打ち込まれる竜児。

「ぐわおおうっ! 実乃梨っ!!」
昨日に引き続き、2日連続で自室のベットの上で跳ね起きる竜児。
「ふわわっ! ……竜ちゃ〜ん、大丈夫ぅ?」
フニュフニュした顔で、心配そうに覗き込む泰子がいた。妄想モードの余韻が残る竜児。慌てる。
夢で股間にくらった一撃で射精してしまったのだが、掛け布団で泰子には悟られなかったようだった。
「竜ちゃん、みのりんちゃんの名前、何回も言ってたよ? やっちゃんちょっと嫉妬しちゃうな〜☆
 うふふっ……ねえまた、この前みたいに大河ちゃんちで、み〜んなでお食事会しよ〜よ、ね☆」
ああ、そうだな。今度誘ってみるよっと、泰子の頭を撫でる竜児。時計は夜中の4時。
はあ、俺の妄想癖は、病気なのかも知れない……。
411みの☆ゴン54 ◆9VH6xuHQDo :2009/10/04(日) 20:52:59 ID:Pp68BERK

「みのり〜んぬっ!! おっはよ〜」
連休明けの通学路。ここ数日太陽が頑張ってくれて、晴天に恵まれているのだが、
やはり太陽でも実乃梨の眩しさには叶わないのだ。今朝も竜児のココロが燦々と照らされる。
「大河、竜児くん、グッモーニンヌ! 元気でなによりだっ!」
「グッモーニンヌ……実乃梨」
「あははっ、竜児くんたらっ! 中途半端だが! それがいい! そうだ昨日さ、あの後……」
昨日のテレビの話題を始めた実乃梨。とめどなく話題を繰り出してくる。
竜児はそれが楽しい。聞いているだけで、ココロが安らぐ。癒される。
実乃梨のオーバーなリアクション、ユニークな動作。でも繊細で、優しい。
竜児は見とれてしまう。知れば知るほど、彼女を好きになる。
季節はまだ春。恋の季節。爽やかな校門へ続く坂道。
淡い希望が膨らんでくる。そんな油断した竜児が、
やらかしてまう。

プウ
何の音だ?
いや……俺は知っている。これは俺が出しだ音だ。
しまった……絶対に聞こえた。実乃梨と大河が会話を中断する。
大河がギラッと睨む。その向こうの実乃梨を、竜児は見る事が出来ない……

「くっさぁ〜〜〜い! あはははは!! 竜児くん、屁〜こきましたね、
 あなた〜〜っ!!あはははは!やっベー腹痛〜! ナイススティック!」
「す、すまねえ! 実乃梨っ、大河も……」
「笑っちまって、ゴメンよ? いや〜竜児くん、いつも意外過ぎてサイコーだぜ! うふふ」
「ドブくさい……最悪……先歩くわ。ふたりとも、勝手にやっててよね……」
大河は、早足で少し前に避難。実乃梨はまだ肩を震わせ、涙目だ。
……いいんだいいんだ。これも青春。
「あー可笑しっ! 発射タイミングが絶妙だったぜっ! でもねえ竜児くんっ。わたし、
 竜児くんのことトイレにも行かない清らかな聖人なんて思ってないから、安心しなっ!」
そう言って、実乃梨は竜児の肩に触れる。胸が苦しい。キュンとする。
竜児の心臓に温かいものがにじむ。それは波紋となって、カラダ中に広がった。
「……ありがとうな。実乃梨が、屁こいても、俺も、笑い飛ばすよ」
実乃梨は、竜児が不器用にそう言い終えるのを待ってくれていた。
そして竜児の耳元に、桜色の唇を寄せて、
「ん〜? そうかい? じゃあ、そん時は、ヨロシクなっ!」

好きというレベルを飛び越え、もう、実乃梨意外、お嫁にいけない。
……そう思う、竜児であった。
412みの☆ゴン55 ◆9VH6xuHQDo :2009/10/04(日) 20:54:24 ID:Pp68BERK

朝のホームルーム。……そんなバカな。聞いてない。
教壇には、担任のゆり。その隣に立つ八頭身。光を放つしゃべる宝石が、ピンク色の唇を動かす。
「今日からこちらの学校に転入してきました、川嶋亜美です、よろしくお願いします」
清らかに純粋にいい感じに、満開の外づら仮面。三井のリ〜ハ〜ウ〜ス〜……っというジングルが、
聴こえて来てしまうほど、亜美は絶好調に美少女だ。開戦必死を懸念する竜児の頭痛も絶好調だ。
「……なんで、こんな、ことに……」
壇上の清らかな天使に騒つく生徒達。そんな竜児の呻き声に気付く者はひとりもいなかった。
『あの子って、雑誌に載ってなかった?』『そうだっけ!? なんだっけ!? でも、かわいいー!』
『やだやだうそうそやばーいこれやばーい』……主にミーハーな女子の声。
一方男どもは挙動不審、奇妙なほどに押し黙って、ただ灼熱の眼でうっとり見上げる。
能登に至っては、ゆっくりと竜児向かって、大・当・た・り……!などと……

「みなさん! さー拍手! 新しい二年C組の始まりですよ〜!」
妙に朗々とした声を張り上げるゆり。亜美の肩を馴れ馴れしく抱き寄せ、ガッツポーズ。
休み中になにがあったのか、随分キャラを変えてきたようだ。ジャージにパーカー姿。
「……せんせえはっ、この休みの間にっ、最後の弾を……撃ち損じましたぁ……っ!
 だから、仕事頑張らなきゃいけない、でも、でも……誰にもわかんなくていいの!
 あ、あなたたちも、十年位したらわかると思うからぁっ! 北村くんっ、どーぞ!」
「みんな、聞いてくれ。実は亜美は俺の幼馴染でもある。同クラスになって驚いたが、
 まあ仲良くしてやってください。では朝のホームルームは以上! 起立! 礼!」
その直後に亜美の元に人の輪が出来る。芸能人がクラスメートになるなんて大事件だ。
爆発したような教室の喧騒に、もうやだあ〜という独身の悲痛な呻き声は、溶けて消ゆ。

***

「なあ北村……あれ、すっげえな」
騒がしい亜美周辺の様子を一瞥し、竜児は北村に話しかける。
亜美は転校初日の、二限目の休み時間にはクラスの中心人物になっていた。
「ああ。さすが、人心を掌握する術を心得ているな」
「……なんで昨日、転校してくること言わなかったんだよ」
「あれ? 言わなかったっけ?」
「ごまかすなよ。すっげえ驚いたぞ、本当に」
北村の机に腰をかけ、竜児は低い声で親友を詰る。北村は軽く頭を掻いて笑い、
「いや、すまん。俺は亜美に、ありのままの性格で人と付き合ってほしいと思ってるんだ。
 昨日言ってしまえば、亜美は完全に外面をかぶって適当にごまかす誤魔化す事わかってたからな」
「川嶋の本性をばらしたいのかよ。嫌われるだけだろ、それ」
「喧伝するつもりはないぞ。俺は亜美の本性が嫌いじゃないんだ。ありのままで嫌われるんなら……
 とにかく、本当の亜美を好いてくれる人間が、もっと増えればいいのにと思う。って、ことだ」
理想に燃える正義漢の目を見返して、竜児はなんとなく言葉を返せない。無理だろ、と。

***
413みの☆ゴン56 ◆9VH6xuHQDo :2009/10/04(日) 20:56:13 ID:Pp68BERK

次の三時間目の数学が終わったところで、竜児は教室を出て、いつもの自販機へ向う。
そして、自販機の前でみみっちく小銭を数えていたそのときだった。
「おさき!」
脇からすっと伸びた白い手が、竜児の手を遮るようにしてコインを投入口に放り込んだ。
突然の割り込み行為に驚くが、ここに来るのは竜児以外、ひとりしかいない、ハズだった。
「みの……おう……川っ、嶋」
もっと驚いた。てっきり実乃梨だと思っていたのだが、そこには亜美が無邪気に微笑んでいた。
「えへ、高須くんは、なにを買うつもりだったのかな。当ててみるね、うーん……これでしょ!」
最もえげつないイラストのついたスタミナ飲料を選び、桜色の爪の先で指して見せる。そこに、

「川嶋さんっ……正解はコーヒー、じゃないかな?」
「実乃梨っ……」
正解を言い当てた実乃梨が、微妙に離れたところで声を掛けて来た。前髪で表情が見えない。
そして正面を向いたまま、ジュースも買わずに実乃梨はスススっと、後ろ向きに去っていく
……フェードアウト。
「ね、高須くん……あのね。昨日のこと、忘れて欲しいんだ。あたし、天然っぽい所あるから、
 それで逢坂さんをイライラさせちゃったって……あ、ねえっ! 高須くんってば! 待ってよ!」
「話の途中ですまねえ、川嶋、悪いっ! 昨日のことだな? わかった忘れた。じゃあな! 実乃梨っ」
実乃梨を追いかける竜児。なんとなくその扱いに釈然としない亜美だったが、
亜美が心配する事態にはならなそうだな、と理解し一息つく。
「……ふ〜〜ん。……仲、いいんだあ。……まあ、そういうことなのね……心配ないか」
ふたりを見送った亜美は、スタミナ飲料をチョイス。グイッと一気飲みする。

***

四時間目。教師の目を盗んで、前の奴から折りたたんだメモが竜児の机に落とされた。
「……お……っ」

『 To りゅうじくん
  From みのり

  さっき転校生ちゃんといっしょに、なにをはなしていたの? 』

さて。時限爆弾がセットされた。なんて返答すれば良いだろうか。
亜美とは会話らしい会話は何もしてない。ただそんな返答だけじゃあ足らない気がする。
昨日のファミレスの帰りに、実乃梨に亜美のプロフィールは既に話してあるし、
大河にケンカを売って、売られた大河がビンタしたことまでは説明済みだ。
まさか転校してくるとは予想していなかったが、芸能人だし、北村の幼馴染って事もあるし、
亜美の悪態については、会う事もないだろうし、他言しない事も口裏あわせした。が。
「……もしかして……実乃梨……妬いてくれてるのか、な……」
教室の逆サイド、竜児は廊下側の席の実乃梨に振り向く。竜児と目が合った実乃梨は、
一体なにを思いついたのか、おもむろに竜児の方を向いたまま立ち上がった。
教師は背を向けて長い板書に入っているが、竜児も、大河も、北村も、亜美も、
それから他の生徒たちも、みんな驚いた顔をして立った実乃梨をついつい見つめてしまう。
実乃梨は目を細め、両手をあげていく。口パクで何か言っている。わかる。わかるぞ。
『ア〜ダ〜モ〜ス〜テ〜〜……』……と言っているように見えたその瞬間。
くわっ!
『ペーイッ!』
顔は険しく歪んで叫ぶように口を開け、両手はズバッと激しくを空を切る。

「え〜と、で、あるからしてえ……」
教師がこちらを振り返るのと同時、実乃梨はなにごともなかった顔をして席に座っていた。
あとで聞く事になるのだが、あのポーズには『あんたなんかしらないよ! ふん!』
という意味が込められているようだったが、教室にいる誰もが真意を読み取れることはなかった。
そして思う。天然というのは、ああいう人のことを言うのだ。
414みの☆ゴン57 ◆9VH6xuHQDo :2009/10/04(日) 20:57:47 ID:Pp68BERK

「なんでこんなことになるんだよ、信じられねえ!」
「大河〜っ、相変わらずドジッ娘だのお……」
「わざとじゃない! しょうがないの!」
大河は帰り支度をしようとして、いちご牛乳をちゅうちゅう吸いつつロッカーに向かった。
そして戸を開き、コケた。いちご牛乳ごと、自分のロッカーに頭から突っ込んだのだ。
「綺麗になるかな? ……これ」
「……ああ……してやるとも……実乃梨。ここは俺に任せて、練習頑張ってな。あとで行く」
「おうよっ、竜児くんも頑張ってなっ。大河もあとでね?」
「……うんっみのりん……竜児、私は教室で待ってるから」
マイゴム手袋をぎゅっと嵌める竜児。その異常に興奮気味の表情にビビる大河だったが、
綺麗にしてもらう手間、何も言わず教室に戻っていった。

***

「あと少しで完璧だ……」
掃除を始めてからそろそろ一時間。竜児はロッカーの中に完全に入り込んで、
いちご牛乳の影響とはもはや関係ないロッカーの隅を綿棒でちまちまといじくり回していると、
廊下を歩く足音が聞え、そいつは竜児に気づかぬまま、大河しかいないはずの教室に入っていく。
「やぁだ……なんであんたが残ってんの? 超目障りなんですけどお〜」
川嶋亜美さん(黒)のご登場だ。大河は席に座ったまま、顔も向けずにチッっと舌打ちする。
「寄るなアホチワワ」
「きゃ〜、こっわ〜い! さっすが逢坂さん! 先生たちにまでウザがられてるわけよねぇ! 
 いま亜美ちゃん、職員室に呼ばれてたんだけど、もう先生方み〜んな亜美ちゃんはかわいい、
 かわいい、逢坂にイジメられてないかってそればっかなんだよ? みんなだよみんな、
 超〜笑える〜。亜美ちゃんそんなこと言わなくてもかわいいって知ってるっつーの!」
「……へえ?それはよかったじゃない。それじゃあ私はその気持ちの悪い二重人格がどこまで保つか、
 楽しく見させてもらおうっと。学年変わっても卒業してもこの先ずっと、近くで監視しててあげる」
大河は鼻先で亜美の言葉軽く笑い飛ばす。目を細め、亜美を見上げる。
「くっ、この……ストーカー!……てゆうかあ……亜美ちゃん、あんたのこと気の毒に思うなあ? 
 亜美ちゃんが知ってる人間の中で、一番心が広い祐作にさえ、あんた嫌われてるんだもん。
 ファミレスであんたにされたこと、ぜーんぶチクっておいたから、多分相当嫌われたと思うよ?
 亜美ちゃんの敵は祐作の敵なの。あんた、かなり終わってるわね。それじゃあ、また明日ね!」

暴言を投げっぱなして、逃げた亜美。竜児は、速攻フォローに向かう。
「う、うわわ……た、……大河っ! 落ち着け!」
「竜児竜児っ! 聞いてた? ねえ、ほんとっ?ほんとにっ? 私、きらわれっ!?」
「ちょ、ちょっと落ち着けって! んなわけねえだろ、冷静に考えろよ!」
「だってでもあのバカ、んぬぉぉおバカチワワがぁぁっ! とりあえず、ブっっっ……殺すっ!!」
「落ち着け! 早まるな、いいから深呼吸を」
「るせぇっ!」
「おう!」
巻き舌で怒鳴って竜児を突き飛ばし、全速力で走り出した亜美を追うつもりなのだろう。
「だめだ、行くな! 落ちつけ大河……おいっ!」
弾丸のように教室を飛び出した大河。まずい、このままでは流血&惨劇必死。
地球の平和を願う竜児は、仲裁の為に追いかける。
仲裁できるかは別として。
415みの☆ゴン58 ◆9VH6xuHQDo :2009/10/04(日) 20:59:17 ID:Pp68BERK

1年生の富家幸太は、入学式から一ヶ月過ぎた今日。初登校であった。
別に引き蘢りとか不登校とかではない。どちらかといえば幸太は、
勉強が得意だったし、コミュニケーション能力も人並に備わっている。
では何故、そんな優等生幸太がゴールデンウィーク明けまで登校しなかったのか?
それは入学式前日。盲腸になり、そのまま入院一ケ月してしまったのだ。
超名前負けしている幸太のアンラッキーは、今回だけではない。
思い返せば志望校受験前日に自動車にはねられた。痛みに耐えながら受験したのが、
滑り止めの大橋高校。受験と言えば、中学受験の前日も自転車にはねられた。
そういえば国立小学校の受験の際には最初のくじびきであっさり落ちた。
さらには三歳の七五三の日に、ひい祖父さんが身罷った。
トドメは幸太が生まれたその日、叔父の会社が不渡りを出した……以下略。
そんな感じで幸太は、徹底的に不幸体質なのだ。そうとしか説明しようがない。

『庶務求む! 新入生大歓迎! 生徒会』

とっくに部活動の勧誘時期は過ぎており、まだクラスメートにも馴染めない今、
目の前にある、新入生大歓迎! の言葉が踊る張り紙に注目してしまう幸太。
庶務といったら、短的には事務手伝い。生徒会に対して特に大きな志もないが、
友人を作るため、とりあえず話だけでも聞こうかなと、張り紙に手を伸ばしたその時。
新たな不幸が、幸太の身に降り掛かるのであった。

ゴッ!
低い衝突音。またか……と気が遠くなりながら幸太が思い、すっ転がる。
酔っぱらいのようにフラつきながら、なんとか踏みとどまり、衝突相手を確認する。
「す、すいませんっ!だいじょう……」
その相手は、自転車ではなく、自動車でもなく、人形のような……美少女であった。
「いった〜っ! ……どこに目つけてんだ、このクソガキ! ふんぬっ!」
倒れた美少女に手を伸ばしたのだが、ブスッと目潰しをくらう。八つ当り。とばっちりだ。
「……!! ひいっ、目が!」
「見えない目ん玉なんか、潰れてしまえばいいんだ!」
「お、おい大河!下級生にあんまりじゃねえか、お前、立てるか?」
視力が回復した幸太の目の前には、素人離れした鋭い視線で不良男が睨んでいた。
こんな進学校になぜ超絶レベルの不良が……やはり不幸街道まっしぐら。
「ひぇぇっ! ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさい!」
「いや、俺が謝られても困るんだが……おぅ?」
ふと見た壁面に、幸太がさっきまで凝視していた張り紙が揺れていた。
「……なあ大河……これは提案なんだが、お前、生徒会に入ったらどうだ?」
「はあ? あのバ会長の生徒会? いったい何の罰ゲームよ。ありえないわ」
「いや、よく考えてみろ大河。庶務なんてたいした仕事しないし、北村がいるじゃねえか。
しかも下馬評では、あいつが次期会長間違いねえ。将来放課後ツーショット確定なんだぞ?」
「あの……僕が先にこの張り紙見つけたんですけど……」
存在が忘れ去られそうな幸太が自己主張する。せっかく見つけた自分の居場所。かもしれないのだ。
「全くヤル気なかったんだけど、そう言われると、気になるわね……竜児、生徒会室ってどこ?」
「旧校舎の三階だ。行くか。おうっ……お前も行くか?……俺は高須。名前は?」
「富家です。行きます。っていうか、ふたりとも採用になるんですかね?」
「どっちでもいいわよ。わたしが庶務になったらフォローしなさい。ぶつかったんだから」
「え? 俺、悪くな……はい……」
もしかしたら、この事件が幸太にとって、いままでで一番不幸だったのかも知れない。
416みの☆ゴン59 ◆9VH6xuHQDo :2009/10/04(日) 21:02:17 ID:Pp68BERK
***

「……いきなり出よったぁ……」
低い声で呟く。大河のその小さな全身から、一トンを超える猛虎の巨大な気配が、
獣臭とともにむわっと立ち上る。瞳孔の窄まった眼に、もはや理性はなし。
━━大河はこいつが大嫌いだった。
「おお、逢坂大河。北村の友達だったな、確か。生徒会室に何か用か?」
黒髪を背に流し、涼やかに整った美貌に似合わない男言葉で豪快に喋るこの女。
生徒会長、狩野すみれだ。北村と毎日一緒に仕事をしていて、ずっと北村といっしょで、
北村はご機嫌でにこにこ笑っていて、━━大河に苦い嫉妬を味わわせている女だ。
生徒会室にはすみれひとりだった。時計を見て納得。もう下校時間をかなりに過ぎている。
「高須もいっしょか。まさか、この前の校舎裏の続きじゃあねえだろうな?」
あくまで穏やかに、動揺する素振りなど欠片も見せず、太っ腹な微笑みで話しかけてくる。
「いえ、生徒会で庶務を募集しているって張り紙を見て、こいつを推薦しにきました」
この前の校舎裏を知らない大河は、竜児を一瞬ちらりと見上げるが、すみれに視線を戻す。
「はあ? 逢坂、本気か? そうか。で、その不幸を絵に描いたような坊主はなんだ?」
ビクッと幸太は反応する。綺麗な黒髪、色白の大和撫子、と思ったら、ざっくばらんというか、
がらっぱちというか……ただでさえ普通じゃない上級生達に囲まれ緊張しているというのに。
「はいっ、1年A組富家幸太です。俺も張り紙見て、庶務に立候補しにきました」
「だめよ。わたしが庶務になるの。あんたはわたしの秘書。舎弟。小間使いにしてやるわ」
「大河、言い方悪いが、庶務って雑用係だろ? 庶務に秘書っておかしいだろ?」
だぁーはっはっはっはっは!っと、豪快に笑うすみれ。あぐらをかいた脚をバンバン叩く。
「なんか知らねえが、おもしれえ展開だな。よし! ふたりとも放課後、明日から生徒会室に来い。
 とりあえず1ヶ月試用期間で、庶務の本採用は1ヶ月後にどちらかに決める。どうだ? 逢坂」
庶務候補のひとり、幸太であったが、すみれは終始大河とメンチ合戦。オロオロするしかない。
「……そうね。わたしも思いのほか楽しみになってきたわ。退屈しなくて済みそうね……」
ちょっと心配だが、北村がいれば大河もオトナしくするだろ。
しかし今日一日で、大河はすみれと亜美、ふたりの宿敵と刀光剣影。
たしかに退屈はしないだろうが、大河はしばらくオンナの闘い。
その神経衰弱しそうな環境の中に身を投じるのである。

***
417みの☆ゴン59ー2 ◆9VH6xuHQDo :2009/10/04(日) 21:03:00 ID:Pp68BERK

翌日のお昼休み。実乃梨は机の引き出しから何かを取り出した。竜児が近寄る。
「実乃梨、なにやってんだ?」
「おうよ竜児くんっ、今のわたしはデコ電職人なんだぜ、ちくしょうめっ」
「デコ電かあ、みのりん手先器用だもんね〜。わあっ、このリボンかわいいっ」
ニュッとふたりの間に大河が割り込んできた。実乃梨はピンセットで次々とストーンを乗せていく。
「へへへ〜、こうみえても器用なんだぜ〜〜……後輩に頼まれちまってよ〜っ……
 シャーッ!! 一丁、あがりっと! ストラップもおそろいのリボンだぜっ!!」
高く掲げたデコレーションケータイ。スウィーツでキュートなリボンが揺れ、キラキラ光っている。
「そだ、竜児くんのも作ってあげよっか?紫のスワロで、『りゅうぢ』って入れてあげるよ」
「お、俺? 俺が使ったら芋ヤンキーっぽいだろ?……気持ちだけで結構だ……」
「的確な自己分析ね、竜児。可愛いけど、わたしもよくケータイ落とすからムリだなぁ」
と、そこにカワイイもの大好きな麻耶が目敏く見つけ現れた。亜美と奈々子も引き連れて。
「すっごいかわいいじゃんっ、櫛枝っ、あたしのもお願いっ」
「へい、らっしゃい! 嬢ちゃんどんなんが、いんですかぃ?」
「えっと、あたしはピンクで〜っ、おっきいハートのストーンでぇ、思いっきりラブリーな感じでっ!」
「そいつぁラブリーだねえ……もうちっと具体的に教えてくれい……」
ノートの切れ端に丸っこい絵を描く麻耶。そして、竜児は連休前の事件を想い出す。
「あれ? 木原……お前ケータイ変えたのか?」
「あ、ヤン……高須くん? あれ、あたしのじゃないし。ゆりちゃん先生のケータイなんだってぇ!」
英語の授業を終わらせ、教壇で質問を受けていたゆり。周波数の高い麻耶の声をキャッチ。
大急ぎで竜児に向って走って来た。竜児はかなりビビった。そしてゆりの言いたい事もわかっていた。
「高須くん……あれは、7年前の教え子が間違って送信したのです。うっかりなんです。ミスなんです」
「わ……わかってます、先生。俺を信じて下さい……」
しかし竜児は今夜、悪夢をことになる。
418 ◆9VH6xuHQDo :2009/10/04(日) 21:05:55 ID:Pp68BERK
以上になります。
お読み頂いた方、有り難うございました。
また前回レス頂いた方有り難うございました。
とても励みになります。
文字数を間違えてしまい、分割したレスが
ありました。申し訳ございません。
またこの時間帯をお借りするかもしれません。
失礼致します。
419名無しさん@ピンキー:2009/10/04(日) 22:27:27 ID:EoswQKVY
GJ
屁こくなwwワラタ
ついにメンバー全員そろったか
420名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 17:15:20 ID:afUBzat5
スゲーなwwwwオマエラのシカトっぷりは尊敬に値する

作者はリアルでも周りの声なんか気にしないで我道を突き進んでんだろうな、スゲー精神力w
421名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 19:39:56 ID:sLS+ARge

屁こきネタで実乃梨のキャラ立てるところは良かった
後、亜美へのみのりんフラグブレーカーぶりがパワーアップしてて笑うしかなかった
この話だと活躍の場ないのかな、あーみん
422名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 20:25:51 ID:b/vOy84F
423名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 10:31:30 ID:uNLTd6Sc
今更ながら、まとめでななどらを読んだが…

奈々子様最高!
作者様は神ですw
424名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 13:13:36 ID:wuM0JRk/
ななどらとななこいでゴッチャになる……
読み直そう
425名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 17:47:15 ID:CxVN7zUN
両方とも面白いからな、俺もごっちゃになる
それは他のよく出来たSSにも言える事だが、なんだか説得力あるんだよな
だから、実際に発表されたエピソードのように思えてくる時がある
426名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 23:10:34 ID:u8iTjKG1
個人的にななどらに1票。
でも……麻耶が足りない。と乾く俺。
427名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 01:51:34 ID:NKKf+Ypt
保管庫更新マダー?
428名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 04:52:14 ID:X98ypyF0
【会員制】PINK書き込みに●必須化か?
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/erobbs/1254786518/

管理人のJimさんが次のような提言をしました。
-----------------------------------------------------------
Let's talk with Jim-san. Part14
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/erobbs/1251283253/156
> I am thinking until the troll problem is fixed
> to make Maru a requirement on bbspink servers for posting.
(適当訳)
わたしは荒らし問題が解決するまで、
PINKの書き込みに●必須とするように考えています。
-----------------------------------------------------------
429名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 04:57:26 ID:X98ypyF0
2chの子分BBSPINK、有料化へ 現管理人Jimさん「書き込み、●必須にする」
http://tsushima.2ch.net/test/read.cgi/news/1254815718/
430名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 17:35:36 ID:r6TRjInb
最近の『君の瞳に恋してる』を期待して毎日チェックしてます。なんか最近yahooでとらドラの何かあったのかな
431名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 20:50:59 ID:8WhuWFBu
みんな、スレの容量が一杯間近だから、投下控えてるのかな?
過疎ってるてコメントを引き出す釣じゃないよ、一応
432名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 21:00:04 ID:r4ZQDfBB
俺は違うと思う

30KB近くあればそれなりに書けるし

俺も釣りじゃないよ、所感ってやつだ
433名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 21:54:29 ID:wF7HGQAF
全部書き終えてから投下をと思ってると中々落せない。
でもちょっと分量多くなりそうで困ってます。
現在49KB多分18レス分。まだまだ先です。

念のため、一回の許容のレスってどれ位が良いんだろうか?
10とか20位で区切った方が良いのかな。
434名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 22:03:53 ID:dsSPq7DT
>>433
職人さんによって変わるからね〜、ある人は20レスだし、
ある人は60レス越だったり…まあ読みやすい 〜30レスくらいが良いかと…
435名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 22:10:12 ID:A4Z/BOvE
>>433
貴方が読みやすいというサイズで大丈夫ですよ。
436名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 22:14:55 ID:IetnPLVE
60レスくらいだと流石に分割した方がいいよね
ぶっちゃけ読んでて途中でダレる
モニタは本と同じ様には行かないからね
437名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 22:26:06 ID:wF7HGQAF
では20レス位で落そうかと思います。
完全に完結させてからの方は良いと思うので、出来れば次スレかそのまた次か。
なんとか次スレには間に合わせたいと思います。
感が取り戻せず苦戦です。
ではです
438名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 00:50:21 ID:t7bP+6Ys
期待
43998VM:2009/10/08(木) 02:08:10 ID:Zk6l1+Eb
こんばんは、こんにちは。98VMです。

そろそろ次スレかなーと思って埋めネタもってきたんですが…
なんかパッタリ進まなくなってますね。
というわけで、急遽なんか書きました。
色々な意味でご批判を受けそうな内容になってしまいましたが
急造品のご愛嬌ということで、ひとつ。
440戯    1/2:2009/10/08(木) 02:09:09 ID:Zk6l1+Eb

   ― 戯 ―                       98VM

独神。
高校時代、29歳の女教師をそんな風に呼んでいたっけ。
私自身はそんな風に呼んだことはないが、面白おかしく聞いていた事も確かにあった。
あの頃は、遥かに先の事に思えて、その数字にリアル感がなかったものだ。
けれど、今になってみると意外にあっという間だった。

フロリダの空はどこまでも蒼く澄んで、その先にある星の海を微かに映し出す。
特に用事があるわけでもなく、7 Miles Bridgeをオープンカーでのんびり走る。
キーウェストまでいったら……、またオーランドへ戻る。
何もない休日は、ただメキシコ湾を渡る風だけが道連れのドライブ。
ここ何年か、それが私の休日の過ごし方だった。

青と蒼に挟まれた無骨な灰色の道。 コンクリートの防壁のせいで海の上を走っている実感は無い。
しかし、それでも中々に心が晴れる。
雲ひとつ無い真っ青な空を、シミのように白い海鳥が横切って、私は顔を上げた。
やはり、フロリダの空はどこまでも蒼く純粋で。
初めて見上げた時とそれは変わらないはずなのに…
今は郷愁にも似た青が目を眩ませる。

…明日、私は30歳の誕生日を迎える。


星の海に憧れて、ひたすらに突っ走った。
立ち止まることなく。
振り向くことなく。
きっと色々な物を切り捨ててきた。
たぶん、沢山の物を犠牲にしてきた。

しかし、そのお陰で、私は手に入れることが出来たのだ。
――星の海を。
それは、それまでの人生全てを塗り替えてしまうような衝撃。
何度かそこに行って、そして何日もそこに身を置いて。
何者にも代え難き時間を過ごしてきたのだ。
だから、私に、後悔する事など何も無い。
地上に置き忘れたものなど無い。 私の魂は星の海に放たれたのだ。

441戯    2/2:2009/10/08(木) 02:09:52 ID:Zk6l1+Eb

やがて私は、ウェスト・サマーランド・キーで車を停めた。
壊れたOld 7 Miles Bridgeの袂まで散歩する。 役割を終えた巨大な鉄橋は荒れるがままに放置されている。
何度も見た景色だが、今日は何故か少しだけ違って見える。
青空に幾つか白い雲が混じり始めて、一層のコントラストを成す中、朽ちた巨大な人工物。
この橋を見て、『寂しい』と思ったのは、多分今日が初めてだ。
私は、懐に忍ばせた手紙を取り出した。
それは、まだ封を切っていない手紙。
白状しよう。
こんな海の果てまで来なければ、私にはその手紙を開く勇気が湧かなかったのだ。
差出人の名前は北村祐作。
ヤツの笑顔は… もう忘れかけている。
今の私には、隣に立って、支えてくれようとする人もいる。
けれど、怖かった。
見たくなかった。
あれは、
あの日々が育てたものは、
私にとって、生涯唯一つの想いだったのかもしれない。

開かれた封書の中には、見覚えの有る小柄な女と佇む、アイツの写真と、薄い一枚の紙切れ。
そしてこの上なくシンプルに、ただ一言のメッセージ。

『結婚します。』

……よく晴れた空なのに、肌に冷たい感触が宿る。
一つ、二つ。
遠い空から落ちてきて、ポツ。ポツ。と囁き声を上げる。

遥か蒼く澄んだ空を見上げる。

ポツ。ポツ。と。

―――頬を冷たいものが濡らしていった。

                                                           おわり。
44298VM:2009/10/08(木) 02:12:13 ID:Zk6l1+Eb
以上です。 お粗末さまでした。

推敲なしですので、ちょっと荒いですが、スレが進むきっかけになってくれればと。
もう寝ますw限界w
443名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 02:23:31 ID:lv2EstGh
会長が今流行りの乙男をやっておられる
444名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 02:27:14 ID:t7bP+6Ys
ああ・・せつねえ・・
445名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 09:51:47 ID:EXVfwvRT
>>442
GJです
446名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 10:57:49 ID:UfUlcVU+
全宇宙が泣いた
447名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 11:17:29 ID:2WZqiP1C
たいがと、きたむら……
え……?りゅうjry
GJ!
448名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 11:39:53 ID:w9aPmP4y
GJ!
98VMさんだから竜児×亜美の外伝なのかな。
449名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 15:55:43 ID:gToraMvM
ふぅ……気持ちが穏やかになった GJ!
450名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 17:07:01 ID:2NFXk/JW
うむ、同感だ。
「良作は精神安定剤」という言葉があってだな・・・
451174 ◆TNwhNl8TZY :2009/10/09(金) 01:43:34 ID:PDN46/Q5
埋めネタ代わりに
「たいがー」
452174 ◆TNwhNl8TZY :2009/10/09(金) 01:44:16 ID:PDN46/Q5

「・・・・・・なに見てんのよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

なんとなく気に入らない視線を送ってきてる気がする。
ホント、竜児の前とはえらい違い。
なんでこんなやつを家に上げてしまったんだろう。
竜児があんなに頼み込まなければ、こんなやつとっとと追い出してやるのに。

                    ※ ※ ※

あれは今日の放課後、竜児とスーパーで買い物をした帰り道。
電信柱の影に隠れながら、だけどそいつはしっかりと私を見据えていた・・・ように感じた。
気になったんで、歩みを止めて振り返った私の目に

「・・・・・・にゃー」

まだ生まれてから大して経ってないだろう両手に乗せられそうなほどの、とても小さな体。
背中と手足に横に。眉間に縦に。
三本ずつ入った虎縞の線は、そいつがそいつである事を主張しているみたい。
他には尻尾にも縞々の線が入っているのを除けば、どこにでもいるだろう茶色い毛並みをした、子猫。
そいつが物陰からじぃっと私の方を睨んでいる。
足は突っ張り、毛を逆立て、尾っぽに棒でも仕込んでそうなくらい垂直に伸ばした格好で、私を睨んでいる。
なにこいつ、ケンカ売ってんの? チビのくせして。

「で、そこで櫛枝がよ・・・あれ、大河?」

隣にいるものだと思っていた私が足を止めているのに気付いた竜児が、話を中断して振り返る。
見れば、何をしてるんだという言葉が伝わってきそうなマヌケ面でこっちを見ている竜児。

トットット

だけど、その顔はすぐにあの凶悪な目つきに似つかわしくないふやけ顔になった。
かなり似合ってない。
それだけならまだしも、横を通り過ぎていく通行人が走って逃げていくくらいだから、超をいくつ付けても足りないほど不気味。
竜児はその事に気付いてるのかしら・・・気付いてたら、とっくにふやけた顔を引き締めてるわよね。

「お、おぉ? なんだなんだ、お前どこん家の子だ」

近づいてきて、自分の周りをぐるぐると回って歩く子猫の存在に気付いた竜児が、手から提げている買い物袋を道路に着けないよう
気を付けながら腰を落とした。
そんなカッコでどこの家の子だ、だって。
猫が喋る訳ないのに、なっさけない声出して、なっさけない事聞いたりして、バカじゃないの。
どうせそいつに引っ掻かれるかなんかがオチよ。

「にゃぁ〜」

だけど、私の予想は即座に否定された。
私にあれだけ敵意を剥き出しにしていたあの子猫は、腰を落とした竜児に擦り寄って甘ったれた鳴き声を上げた。
それだけじゃない、頭を撫でようと出された竜児の手を、その小っこい舌でチロチロと舐めている。
竜児がくすぐったそうに指を引っ込めれば、猫はまだ満足していないのか、私の癇に障る間延びした声で鳴いた。
本物の猫なで声ってのは、きっとあんなのを言うんじゃないのかしら。
聞こえた瞬間高笑いをしているばかちーの憎たらしい顔が頭を過ぎったから、けっこう自信が持てる。
てかなによその態度の変わり様は。猫が猫被ってんじゃないわよ。

「おいおい、俺の指なんか舐めたって美味くないぞ? ハハッ、スゲェ人懐っこいなぁ、こいつ」
453174 ◆TNwhNl8TZY :2009/10/09(金) 01:45:02 ID:PDN46/Q5

そんな訳ない、竜児の指はおいしそ・・・じゃなくって。
そいつが人懐っこいなんて嘘でしょ?
現にそいつは私には近づくそぶりもない。
それどころか、時折私にガンをつけてはこれ見よがしに舌なめずりまでしてくる。
しかも、まるで「こいつは私のもんだ」と言わんばかりに、何度も竜児の指をザラついた舌で───なんだか気に入らないわね。
その仕草を竜児に隠れながらしてるのも、一層気に入らない。

「ひょっとしたら食い物の臭いでも染み付いてんのかもな、なぁ大・・・が・・・」

「なによ」

気が済むまで指をしゃぶってもらってよかったわね、竜児。
さぞかしご満悦でしょ? なのになに引き攣った顔してんのよ。

「フーッ!」

・・・あんたもそろそろいい加減にしときなさいよね。
いくら私だって、挽肉になってようが猫のお肉なんて食べたくないんだから。
あんただってイヤでしょ? ・・・××××されて※※※で○○○にされるなんて・・・

「フー・・・みっ!? み、みいぃ!! ・・・みゃあぁ・・・」

勝った。
クソ生意気にもまたも私に向かって威嚇なんてしてきたチビが、私の睨みに恐れをなしたのか、
竜児から離れて元居た電信柱にすっ飛んでいくと、ガタガタ震えてか細い鳴き声を上げている。
動物のそういう行動は負けを認めたってことなんでしょ、多分。
だから、私は勝った。
なのに

「・・・おい、なにも追っ払うことはなかったんじゃねぇのか」

竜児の棘を含んだ一言で、一気に冷める・・・せっかく人が余韻に浸ってるのに、水を差すなんてどういうつもりよ。
それに追っ払うなんてやめてよ、私はなんにもしてないじゃない。
竜児だって見てたでしょ。
私はちょっとばかし睨んでやっただけ。
それだけであいつが勝手にどっか行ったんでしょ。
そうなのに、なに怒ってんのよ。

「見ろよ、あいつ。あんなに縮こまっちまって・・・なぁ、さっきっから何でそんなにピリピリしてんだよ、大河。
 晩飯だったら帰ったらすぐ作ってやるから、機嫌直せよ」

はぁ?

「なに言ってんのよ竜児。私は全っ然怒ってないじゃない」

見当違いにもほどがある。
怒ってんのはあんたで、私はこれっぽっちも怒ってない。
怒ってる風に見えるのは、怒ってないのに怒ってるって言われたら誰だってそうなるでしょ。
私はいつも通り。

「・・・そうかよ、そりゃあ悪かったな」

ほら、やっぱり怒ってるのは竜児じゃない。それもふて腐れたりして、カンジ悪。
立ち上がった竜児はさっきよりも更にトゲトゲしたセリフを吐くと、それ以上何も言わずに私に背を向けた。
けれどすぐには帰ろうとせずに、提げていた袋の中から今日の夕飯に出す予定の、あんまり美味しそうに思えない
シシャモが入ったパックを取り出した。
その場で包装してあるラップを破くと、外だっていうのにそこいら中が魚臭くなる。
やっぱり、あんまり美味しそうじゃない。
そんなもんこんな所で開けてどうしようってのよ。
454174 ◆TNwhNl8TZY :2009/10/09(金) 01:45:43 ID:PDN46/Q5

「ほら、お前はこれで機嫌直してくれよー、美味いぞ」

何をするのかと思って見ていれば、竜児はその中では一番小振りなシシャモを摘んで、
電信柱に隠れてこっちの様子を窺っていた猫に分け与えてやった。
最初こそビクついていた猫は、屈んだ竜児が優しい言葉をかけてやると害はないと判断したのかしら。
すぐに飛び出してきて、目の前に置かれたシシャモに目もくれずにまた竜児の指を舐め始める。
その様は猫というよりも、どちらかといえば犬みたい。
誰にでも尻尾を振る犬。
ご機嫌な猫につられるように、竜児もふて腐れていた顔を引っ込めて柔らかい──つもりかしら──顔になっていく。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

むかつく。

「さっきは悪かったなぁ、あいつは腹を空かすといつもああなんだ。見境がなくなるっていうか」

余計なこと吹き込んでんじゃないわよ、それに猫に分かる訳ないって何べん言わせんのよ。
お腹が減ってるのは本当だけど、いつもって、見境がないってのはなによ。
失礼しちゃうわね。
・・・もう我慢の限界だわ。

「ねぇ、竜児」

ピク、ピクピク

私の声に反応して、あの猫が耳をピクピク動かした。
警戒してるのね。いいわよ、その方が野良っぽくて。
だけど私が用があるのは私に怯えるこいつじゃない。
大して気に留めないで、私は続けた。

「餌付けなんてしたら付いてくるわよ、そいつ。飼う気がないんだったらそういうのやめなさいよ」

ピク・・・

今度は猫じゃなくて、竜児の肩が小さく動いた。

竜児の家にはもうあのインコがいる。
竜児が可愛い可愛いと言って甘えに甘やかした、気味が悪いほどレパートリーは豊富なくせに自分の名前は満足に言えない、
それどころか卑猥な単語に変換するブサイクなインコ。
あれくらいならともかく、竜児の住んでるアパートで動物が飼えるとは思えない。
餌代だの予防接種だの、必要になるだろう費用を工面する余裕も感じられない。
そういう事情を踏まえれば、私の言葉はあまり意味がない。
結局は飼えない事なんて、竜児が一番分かってるはずだから。

「だけどよ、ほっとけねぇだろ」
455174 ◆TNwhNl8TZY :2009/10/09(金) 01:46:29 ID:PDN46/Q5

声色から伝わってくる、嘘偽りのない正直な気持ち。
背中を向けられていて分からないけれど、顔にも出ているはず。
竜児ならそう言うと思った。
見ないフリをするくらいなら、始めからこんな事はしない。
見ないフリができないから、だから竜児は・・・それは純粋な優しさから来る物で、竜児の良い所だって私は認めてる。
だけど気まぐれに手を差し伸べて・・・それで?
それでお終いになってしまったら、この猫はどうなるんだろう。
見たところ首輪もしていないから、多分野良猫。
かといって周りには親猫らしき猫は見当たらない。
その事を不憫に思った訳じゃないけど、幸せそうに竜児の指を舐め続けるこいつの、何にも考えていなさそうな顔を見て、
ちょっと考えてみただけ。
小さい内から親元を離れて暮らすなんて人間でもよくある事じゃない。
まして動物なら尚のこと、当たり前と言ったって過言じゃない。
自分の力で生きていくのは、遅いか早いかの違いはあれど、人間も動物も──私だってこいつだって一緒。
でも、半端でも優しさを受け取ってしまったら、この猫は必ず味を占める。
そうなったらまだ小さなこいつは、この先誰かが・・・竜児が傍にいなければ生きていけないかもしれない。
味を占めるって言うのは、極端な話、そういうこと。
それは猫がしたたかだからとか、それが悪いという訳ではない。
原因は竜児。
同情して、放っておけないからと手を差し伸べた竜児の優しさが、自分の力で生きることを止めさせてしまう。
・・・こいつを、ダメにしてしまう。

「そんなこと言っても面倒なんて見れないじゃない、あんたん家じゃ」

イライラする。

「・・・でもな、俺は・・・」

私はなんでこんなにもイラついているんだろう。
腰を落として、中途半端な高さに手を固定している竜児を見ていると、言いようのない苛立ちを感じる。
猫は遊んでもらっているつもりなのか、竜児の手に向かって跳びついてはしがみ付いたり、後ろ足だけでなんとか立ち上がっては
前足をチョイチョイと振っている。
遊んでもらってると思って、とても、とても嬉しそうな猫・・・やっぱり猫には人間の言葉も、心も分かる訳がない。
当然よね。人間だって猫の気持ちも、あるのかも分からない言葉も理解できないんだから。
察しろという方が無理な話だけれど、猫には竜児の表情からは何も察する事ができない。
私だって、竜児の考えている事なんて分からない。
それでも言わなければならない。

「いい加減にしなさいよ、竜児・・・子供じゃないのよ? ほっとけないって、それでどうにかできるもんじゃないって、竜児だって分かるでしょ」

間違った事を言ってるつもりはないけど、ひどい事を言っている自覚はある。
似たような経験を、いつか、私もしたから。

「・・・なぁ、こんな風に言ったら気ぃ悪くされそうだけどよ・・・なんだか大河みたいに思ったんだよ、こいつの事」

言いようのない苛立ちを感じている私に、そっと囁くように呟いた竜児。
その言葉が耳に届いた瞬間、体の奥の奥、お腹の底の方から抑えきれない怒りが込み上げてくる。
いつものがプチって音を立てているとしたら、今度のはブヂィッ! って太く大きな音を立てて、私の中から噴出していきそう。
けど、その怒りが表に出る事はなかった。
胸の真ん中から、それを上回る失望感と・・・多分、悲しかったんだと思う。
それらが寸での所で暴れだしたい衝動を抑え込んだ。
代わりに去来したのは、感じたこともないような空虚な感情。
456174 ◆TNwhNl8TZY :2009/10/09(金) 01:47:13 ID:PDN46/Q5

竜児は今なんて言ったんだろう。
その猫が私に───そう、そう言った。
確かにこの猫は見ようによっては私に見えるかもしれない。
虎縞の毛並みに、掬うように広げれば本当に手に乗れそうな小さな体。
まるで手乗りタイガーっていう私のあだ名を忠実に再現しているよう。

「私みたいって・・・どこが似てんのよ」

だからなのかもしれない。
私は一目見たときからこいつが気に入らなかった。
手乗りタイガー・・・それは私にとって嬉しい愛称でも、望んで呼ばれている物でもない。
単に背の低さと、なにかにつけては暴力を振るってしまう私の性格と、変な名前からもじって付けられただけ。
そのどれもが私を表しているけれど、私はそれがイヤで堪らなかった。
男の子にだって付けられないような名前も、いつまで経っても伸びない背も・・・その事でバカにされるのがイヤで、
バカにした奴等を叩きのめしたら、いつしか手乗りタイガーなんていうあだ名でバカにされるようになった。

イヤだった。

竜児に、遠回しにとはいえそう言われたような気がして、イヤだった。
こいつだけはその言葉を私に向かって言ったりしない、私をバカにしたりしない、私を・・・否定しない。
心のどこかでそう決めつけて、私が勝手に期待しただけなのに裏切られた気がした。
だけど

「どこがって言われても・・・よく分かんねぇよ、俺にも。大河とこいつは全然似てないのにな」

竜児は、そう言った。
なにそれ。

「大河はこんなに人懐っこくないしよ」

「にゃあ?」

ヒョイと抱き上げられた猫が、不思議そうに竜児を見上げている。
それも一瞬の事、竜児に顎の下を撫でられてゴロゴロと鳴けば、すぐに手なり胸なりに頬を擦り付けては甘えている。

「目の前に食い物が置いてあったら、迷わず食うだろうし」

シシャモは気に入らなかったか? と、制服に毛をくっ付けられるのも構わないでされるがままの竜児は、
道端に置きっぱなしだったシシャモを拾うと、猫の目の前まで持ってきてプラプラと揺らした。
右に左に揺れ動くシシャモには欠片も興味を感じないのか、相変わらずあの猫は竜児にベッタリだけど。

「でも、何でだろうな・・・俺にはこいつが大河みたいに思えてしょうがねぇんだよ。だから、ほっとけねぇ」

───私に思えて、それで放っておけない・・・・・・?

その言葉が、胸の中にスーッと溶け込んだように感じた。
457174 ◆TNwhNl8TZY :2009/10/09(金) 01:47:55 ID:PDN46/Q5

それがどんな意味を持ってるのか、どんなつもりで口にしたのか、私には分からない。
ただ、竜児は嫌味のつもりで言ったんじゃなかった。
少なくとも私を丸め込もうとしてる気配は感じられないし、本当の事しか言ってないとも思う。
第一、そんな考えがあるんならこんなこと言ってないで機嫌を取ろうとするはず。
同情や、哀れみから来る物でもない。
毎日、それこそ学校でも外でも顔を突っつき合わせているから分かる。
誰よりも竜児を知っている・・・そんなつもりはない。
でも、私にしか分からない竜児だってあるから。
だから、信じてもいいと思う。
その言葉を、竜児を。

信じたいって、思った。

「なによそれ、全然理由になってないじゃない。ばっかじゃないの」

「おぅ、なんとでも言え」

棘を含んだ私の言葉を、竜児は軽く流す。
邪険な感じは、もうしない。
いつもと同じ、私がよく知っている、私だけが知っている竜児のそれ。

「・・・もういい、さっさと帰るわよ。お腹減ってるんだから」

「はいはい、分かったよ」

これじゃあ、私の方がばかみたい。
意固地になってふて腐れて、引っ込みがつかなくなって意地張って。
ばか、ばかばか、ばかばかばかばかばかばか。

「・・・・・・ばか」

                    ※ ※ ※

結局───
あの後、案の定っていうか、あの猫は竜児から離れようとはしなかった。
竜児と、隣を歩く私との間をチョコチョコと歩いて、最後はアパートにまで付いてきた。
困り顔の竜児を背にした私がいくら追っ払っても、すぐにまたアパートの階段を駆け上り、玄関の前から動こうとしない。
ドアを堅く閉じ、諦めてどっかへ行くのを待ってみても、石みたいに動かない。
それどころか寂しそうに鳴き声を上げて、ひたすら竜児を呼んでいた。
そして

「・・・はぁ・・・もういいわ、ったく・・・やっぱり、今からでも外に放り出そうかしら・・・」

困り果てた竜児が必死に、それはもう必死になって頼むものだから、仕方なく。
本当に仕方なく、今日のところは一先ず私が預かることにした。
だから餌付けなんてするなって、あれほど言ったのに・・・まぁ、晩ご飯にししゃもの代わりに特別にとんかつまで出してもらって、残さず平らげた
私に、もうその話をとやかくは言えないけど。

トットット
458174 ◆TNwhNl8TZY :2009/10/09(金) 01:49:01 ID:PDN46/Q5

目を逸らすと向こうも私との睨めっこに飽きたのか、あいつは物珍しそうに家中を駆け回った後、何故か私の部屋の前から動かなくなった。
居たけりゃそこに居ればいいとリビングに引き返そうとすると、カリ・・・カリ・・・と、何か堅い物を引っ掻くような音が微かに聞こえた。
まさかと思って振り返れば、ようなじゃなくて、あいつが爪を立ててドアを引っ掻いている。
慌ててやめさせたけど、軽くとはいえドアには爪痕が残ってしまった。
知らず知らず、溜め息が漏れてしまう。
ドアに傷を付けられた・・・別にその事がショックなんじゃない。
この家を隅から隅までキレイにしている竜児にこれが見つかった時、文句を言われるかもしれないと思うと勝手に漏れていた。

「いいわね、今度こんなマネしてみなさい・・・締め出すだけじゃ済まさないわよ」

私の注意も素知らぬ顔で──言葉が分かるはずないって分かってるけれど、ムカつくものはムカつくわね──猫はジッと動こうとしない。
ジィッと、ただドアの向こうを見つめている。

「・・・はぁ・・・」

もう一度漏れた溜め息と共に、私はドアノブを回した。
遮っていたドアが開け放たれると、一目散に部屋の中へと走っていく猫。
なんとなく気になったんで、私も入ってみた。
すると、そこには

「にゃあ、にゃー・・・みゃあ・・・みゃおぉ」

窓に向かって、必死に声を張り上げる猫がいた。
明かりが差し込む窓に向かって、何度も、何度でも。
窓から差し込む光の中で佇む猫は、そこだけ切り取れば絵になるかもしれない。
でも、私はきっとその絵を飾らないと思う。

こいつは窓そのものに向かってじゃない。
窓を突き抜けて、その先にある、ある場所。

竜児の下に向かって、こいつは鳴いていた。

どうしてこいつはこんなにも竜児に懐いているんだろう。
初めて会った時もほとんど間を置かず、竜児にだけは全力で甘えていた。
私には今だって警戒を解いていないのに。
私が追い払っても、こいつは一旦離れはしても目に付く位置にはいた。
竜児が近寄れば、私が追い払った事も忘れて、何の不信も抱いてないように竜児に擦り寄っていった。
目の前に置かれた餌にも微塵も興味を示さなかった。
ただただこいつは、竜児に甘えていた。

どうしてこいつはそんなにも竜児がいいんだろう。
竜児を求めて、探して、来てもらいたくて。
こんなにも鳴いているんだろう。

どうしてそんなこいつに、私は自分を重ねて見ているんだろう。
純粋に甘えられるこの小さな猫を、羨ましく思っているんだろう。
こいつの隣に座って、竜児が顔を出すのをジッと待っているんだろう。

どうして。

「みいぃ、みゃお〜」

竜児の部屋から漏れていた明かりが消えるまで、こいつが鳴き止む事はなかったから

「・・・今夜だけよ・・・シーツ、汚さないでよね。竜児に怒られるの私なんだから」

私が寝られたのは、鳴き疲れて寝てしまった小さな居候を、起こしてしまわないようそっとベッドまで移してやってからだった。
459174 ◆TNwhNl8TZY :2009/10/09(金) 01:49:32 ID:PDN46/Q5
おしまい
いつかコンビニの駐車場で見かけたあいつは、今頃どうしてるんだろう。
460名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 04:15:24 ID:vB1t2C4n
どっちの手乗りタイガーもかわいいよタイガー!
461名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 08:18:34 ID:GGmynO6P
【田村くん】竹宮ゆゆこ 24皿目【とらドラ!】

http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1255043678/
462名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 11:33:54 ID:9YPv30id
やはり大河はかわいい
463プチうめネタ:2009/10/09(金) 12:37:50 ID:OggUir94
「自分は、いや俺は……」
 覚悟を決め、ひと呼吸入れる北村。
 緊張がピークに達し、もういちど息を吸う。
 そして、声を上げた。
「か、かかか、かかかかっか」

「何してんだ北村のやつ」
「さあ」
 大河と竜児が顔を見合わせる。

 いかん、もう一度。と、更に息を吸う。
「か、会長は、すすす、すみれーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「まあ、そうだよな」
「今更叫ばなくても」
 ギャラリーがざわつく。
「狩野、何とかいってやれー」
「呼び捨てにされてんぞー」

 ぽかんと突っ立っているすみれに、マイクが渡される。
「バカ者! 後で、生徒会室まで来い! 一人でだぞ!」
 
 数時間後、真っ赤な顔の二人が、廊下を並んで歩くのが目撃されたとかなんとか――。
464名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 15:08:59 ID:bnCA9hSz
>「か、会長は、すすす、すみれーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
テラフイタwww
465名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 19:07:11 ID:HnT4t2WE
>>459
GJ!
大河がかわいいながら、何だか切なくなった
てか>>309とテンション違いすぎないか?www

>>461
乙!

>>463
生徒会室で何があったのか微に入り細に入り教えてもらおうか
466名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 19:15:10 ID:fVaRPIEg
そういえば、竜児と亜美の修学旅行へ行けなくなったssの続きが気になるのだが。
46798VM:2009/10/09(金) 19:45:14 ID:9iJuKUzC
こんばんは、こんにちは。 98VMです。

念のためですが、前回のネタ、題名の意味がわからないと魅力半減につき補足
「戯」 読み:そばえ 意味:いわゆる天気雨。 
では、埋めネタ行きます。
保管庫の補完庫管理人様、いつも素早い対応お疲れ様&ありがとうございます。
恐れ入りますが、埋めネタ、時系列で並べていただけるとありがたいです。
順番は下記の通り(単純に投稿順)です。 我侭言って申し訳ございません。

「おくしゅりおいしいでしゅ」   Ver.奈々子×亜美
〜奈々子様の何も無い昼下がり〜
〜麻耶たんの何も無い昼下がり〜
〜亜美ちゃんのちょっとイイ事があった宵〜
〜麻耶たんのちょっぴり複雑な夏の夜〜
〜手乗りタイガーの嵐のちくもりの夏の夜〜
〜奈々子様のちょっと計画がくるった夏の夜〜
〜麻耶たんのマジありえねぇ徹夜明け〜    ← イマココ
468〜麻耶たんのマジありえねぇ徹夜明け〜1/3:2009/10/09(金) 19:46:07 ID:9iJuKUzC

ちゅーしちゃった…

キスです。

くちづけです!

せっぷんです!!

男の人の唇ってどんなだろうと思ってたけど。
案外、ふつーに柔らかかった。
あたしも初めてだったけど、あいつもきっと初めてで…
漫画や、ドラマの様には上手くできなかった。
軽く触れた後、ちょっと欲張って歯をぶつけちゃって、めっさ気まずい。
でもあいつが凄く嬉しそうに笑ってくれて。
それであたしもなんか可笑しくなっちゃって、二人で声を出して笑っちゃってた。
なんか、ヤケになった時みたいに、ハイテンションで笑うあたしたち。
すごく不思議だったけど、ただ単純に嬉しいんだって気がついて、あたしは凄く驚いていた。

何時から?
この間原稿渡された日から?
それとも、半年前?
もしかしたら、一年前?
ううん………多分、違う。

改めて見るとオサレ眼鏡はやっぱりまるおに比べたら、てんでかっこ悪い。
特に今は顔がにやけちゃうのを抑えきれないって感じで、まるでだらしない。
やっぱ、あたし、はやまっちゃったカナ? なんて思ってしまいそう。
でも、そんなこと考えてる頭とは裏腹に、さっきからあたし全然動けないんだよね…。
足が地面にくっついちゃってるみたいに、歩き出せない。
「え…っと、木は、…コホン… ま、ま、…麻耶…。 ちょっと、その、歩かない?」
やばっ、名前呼ばただけで、あたし心臓マッハじゃん。
「う、うん。 いいよ…。」
なんとか平静を装って答えてみたけど…
あいつに手を引かれて、やっとあたしの足は動いてくれた。


     埋めネタ   〜麻耶たんのマジありえねぇ徹夜明け〜


ネオンが煌く街は、まだまだ騒がしくて、空気も怪しげ。
しばらく公園を散策した後、あたしたちは繁華街に戻ってきていた。
公園の中はあちこちにカップルがいて、ちょっと刺激が強すぎ。
おかげでもう、テンパっちゃって何を話していたのか覚えていない。
ただ、確かなのは、もう終電の時間は過ぎちゃってるってこと。
つまり、朝まで能登と二人。
年頃の男と女が朝まで一緒に過ごすってことがどんな意味をもっているかなんて、いまさら言うまでもないよね。
勿論、能登だって、十分意識してるはず。
だから、きっと今夜はあたしにとって思い出の一夜になるに違いない。
そんな事を想像してたら、もう、心臓がばっくんばっくんいってどうにもなんない。
そういえば、今日の下着はどんなだったかな…
…ああ。 大丈夫。 勝負下着じゃないけど、お気に入りの可愛いヤツを着けてる。
そんな事を考え始めたら、道端で所々に料金を書いた電飾が光ってるのがやけに目に入ってくる。
もっとロマンチックな所がよかったけど、こういうのは勢いが大事って、いつも友達が言っていた。 だから、我慢。
あんまり我侭ばっかり言って、愛想尽かされたら最悪だもん。
そして、突然、能登が足を止めた。
― REST 5,800〜12,000円 ―
キ、キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

469〜麻耶たんのマジありえねぇ徹夜明け〜2/3:2009/10/09(金) 19:46:50 ID:9iJuKUzC

能登がちらちらその電飾を見ているのが判る。
握った手は少し汗ばんでるけど、それは能登のせいなのか、あたしのせいなのか、それとも二人ともなのか?
手を伝わって心臓のドキドキがばれてしまいそうで、手を振りほどきたい気持ちになるけど…
今、それをやったら最悪の意味に取られかねない。

何も言わない彼の様子が気になって見上げると…
頬がひくついて、何度も喉仏が上下する。
表情は…ちょっとだけ怖い顔。
能登は物凄く迷っているみたい。

『…あたし、嫌がってないよ。』
そう言えたらどんなに楽か。
でも、そんな事言っても、能登にしてみれば、急に手の平返されたみたいで、信じられないかもしれないし…。
だって、つい最近まで、「ウザイ」「キモイ」を連発してたんだもん…。
あたしだって、なんで急にって………。
………。
急じゃ、ないか…。
原稿もらいに行く時、いつも洋服選びに1時間以上、下手すりゃ2時間かかってた。
それでも待ち合わせの時間に遅れたことは一度もない。 …いつも彼が先に着いてたけど。
携帯電話、まるおの写真はけっこう消しちゃったけど、彼の写真はほとんど残ってる…。
本当はずっと前から判ってたのかな…。
北村君には別に好きな人がいて、能登はあたしを好きだって言ってくれてて。
だから、安易な道に逃げたと思いたくなくて。
それでずっと北村君を引き摺ってた。
でも、今夜。
完全に自覚しちゃった。 あたしが本当に好きなのは誰なのか。

だから、本当にいいんだよ。 …あたしを抱いても。
…うん。 あたしも求めてるの。 キミを。
だから…
「……あたしをだ…」

「あーーーー!! そうだ!そうだ!! 思い出した! 実はさ! 俺前から気になってた映画があってさー。 たしかこの近くで
オールナイトやってるんだよね! せ、折角だし、見にいかね? 最近、東京でもオールナイト上映してる映画館ってへったっしょ?
し、始発まで時間もあるしっ、ちょ、ちょうどいいよなぁ。 ラッキーだよ、うん。 それにしても、なんでオールナイト上映減っちまった
んだろうなぁ。 需要あると思うけど。 な、なぁ、木原もそう思わね? あっ、ってか、木原の好きな映画って聞いたこと無かったか
も。 ねー、どんな映画好きなの?」
「………は?」
ちょ……。 この状況で何、ソレ? マジ? マジ馬鹿なわけ?
あたしの声を聞いた瞬間に、能登は焦りまくって一気にまくし立ててきた。
あっけに取られて、その数秒後、頭が沸騰した。
繋いでいた手を、思い切り振りほどく。
頭にきすぎて、咄嗟に声が出なかった。
『最低! このヘタレカワウソ!』 脳内で再生される罵倒の言葉。 でも、あんまり頭に血が上ると上手く喋れなくなるみたい。
そして、それが幸いした。
あたしの様子に動揺して、絶望の表情を浮かべる能登の顔を見て、今しがた考えていた事を思い出した。
ついさっきまで、コイツはあたしが北村君を好きだって思い込んでいたんだ…。
そして、あたしはいつも能登のこと罵倒してたんだっけ…。
それが突然手の平返して、『抱いていいよ』なんて言ったら、もしかして凄い尻軽女に思われちゃう?
それは、それは……困る。 凄く困る。

だからあたしは、とりあえず話を合わせる事にした。

470〜麻耶たんのマジありえねぇ徹夜明け〜3/3
………
で、結局オールナイトの映画館で夜のデート。
そして、寝てる奴とか、いちゃついてるバカップルばっかりの映画館から出ると、もうすぐ始発が動き出す時間だった。
つか、なんでアクション映画?
好きな女の子誘うんなら、先ずは恋愛映画じゃないの?
百歩譲ってもホラー映画とか。
…でも、映画見る事になってから、能登はすこし落ち着いたみたいで、凄く紳士的にはなった。
やっぱり高校の時とは違う感じ。
きっと毎日会っていたら、見落としてしまうような小さな違いだけど。

いつも人で一杯な通りも、今は殆ど人の姿は見えない。
この街でも、こんな時間帯があるんだって、初めて知った。
白み始めた空の下、能登は相変わらずハイテンション気味。
あたしと一緒に居れるのがそんなに嬉しいのかなって、そう思えばまんざらでもないんだけど。
でもやっぱり、子供っぽいって言うか、物足りなさを感じちゃう。
甘い言葉で誘惑して、素敵なホテルで一夜を過ごす、なんて、能登には絶対期待できない…
あんな素敵な小説書くのに、リアルはダメって、ある意味お約束すぎだって。
能登だって、あたしとエッチしたいよね?
あたしはしたい、よ。
キスされた時、体が痺れちゃった。 全身が一気に熱くなって、ジリジリしたもん。

でも、改めて能登の顔を見たら、なんか嬉しそうな顔してる。
あたしとエッチできなくて残念じゃないの?
あたし、凄くがっかりしてるのに……。 これで、大学の友達に嘘つかなくてよくなると思ったのに……。
能登って、見た目どおり奥手なんだろうなぁ。 なんか自分に自信なさそうな感じだし。
あたしの方から『抱いて』って言わないとダメなのかなぁ。
でも……
でも、そんな淫乱なこと言って、もし能登に嫌われちゃったら、あたし………

あー!! もう! なんでよ! あたしが能登のこと好きになったんじゃなくて、能登があたしに惚れてるの!
なんで、あたしがこんなにビクビクしなくちゃなんないのよ!
もー、ムカツク、ムカツク!!
マジ、ありえねぇ!

大体、なんであいつはへらへらしてんのよ!
あたしが、こんなにすっ……
す………
………
あたし、あいつにまだ何も言ってないよね……
……なんであたしって、こうなんだろう。
いっつも自分のことばっかりで…

「……ほんと。 マジありえねぇ………」

小さな声で呟いた時、ちょうど、ビルの隙間から差し込んだ夜明けの光。
手をかざす間も無く、まともに顔に当たって目に染みる。

ちょっとだけ涙が、滲んだ。

                                                                    おわり。