ヤンデレの小説を書こう!Part26

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1名無しさん@ピンキー
ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。

○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。

■ヤンデレとは?
 ・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
  →(別名:黒化、黒姫化など)
 ・転じて、病ん(ヤン)だ愛情表現(デレ)、またそれを行うヒロイン全般も含みます。

■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫 @ ウィキ
http://www42.atwiki.jp/i_am_a_yandere/

■前スレ
ヤンデレの小説を書こう!Part25
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1248569652/

■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。

■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
 ・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
 ・版権モノは専用スレでお願いします。
 ・男のヤンデレは基本的にNGです。
2名無しさん@ピンキー:2009/09/11(金) 13:35:51 ID:jhFw37HX
      /__.))ノヽ     こ、これは>>1乙じゃなくてわしが育てた魔球なんだから
            .|ミ.l _  ._ i.)    変な勘違いしないでよね!
           (^'ミ/.´・ .〈・ リ  
           .しi   r、_) | 
             |  `ニニ' /        二二二二二二二 ̄>
            ノ `ー―i´_                >/
      ? )ヽ   ;'ー  ̄     ` 丶            / /      
      `丶 \i     ┌'' ̄丶 |            /  <____
         丶 |     i 、(\i  !           |______/ 三().()
          メリ     <_  (_  ゝ
           〈     i   ̄
          _ L.]]ニ[l iニ}__
        、 `     i     ̄`\
     _/       |. .,,____   \
   /´     、.-‐''''  ̄     `\  丶
 /ノt--ー''''〜             メ  丶
(,__ゝ                    \. ノ
                         」_ /´ )


3名無しさん@ピンキー:2009/09/11(金) 15:33:08 ID:ZxOTIZX3
AAは容量食うから控えめにな。
>>1
4名無しさん@ピンキー:2009/09/11(金) 16:27:46 ID:gOpLKDxQ
>>1
5名無しさん@ピンキー:2009/09/11(金) 23:23:45 ID:j8ZWa2Rg
そろそろヤンデレ家族と傍観者の作者は降臨しないかな?
6名無しさん@ピンキー:2009/09/11(金) 23:39:31 ID:n6kSVmu4
携帯からのwikiが新しくなってる
7名無しさん@ピンキー:2009/09/12(土) 00:39:00 ID:HR96SeSP
>>5
飽きたんじゃないの?
8不安なマリア4:2009/09/12(土) 00:52:50 ID:18DtHrx3
>>1
スレ立て乙でした

不安なマリア第4話投下します
9不安なマリア4:2009/09/12(土) 00:55:54 ID:18DtHrx3
『不安なマリア』第四話


私はいつも不安で仕方なかった。
時々、自分でも何が不安なのか分からなくなるほど、色んなことが心配になる。
軍隊にいて戦っていた頃はそれも良かった。命を救われたのも、二度や三度ではない。
私にとって、「不安」は性格や気分とは違う次元のもののように感じる。
なんというか、本能であり本質であり、私という人間の一部、と言えば良いだろうか。

瀕死の重傷から回復した時、私はすでに戦いはおろか、日常生活すら困難な状態だった。
隻腕に下半身不随――不安と復讐心のみを糧に生きてきた代償だ。
私は戦えなくなり、自分の生きる場所そのものだった軍からお払い箱になった。
自殺を考えた私に看護士だった彼はこう声をかけた。
「助かってくれてありがとう。もう大丈夫だ、よくがんばったね。」
長年のしこりが一瞬で消えた気がした。彼さえいれば生きていける。
「不安」以外で私を満たした、記憶の限りで初めての気持ちだった。
ザンジバルで彼と出会い、私は変わった。
その時は確かにそう思えたし、実際その通りのはずだった。

・・・・・・・・
10不安なマリア4:2009/09/12(土) 00:58:25 ID:18DtHrx3

携帯電話の一件以来、マリアはあまり取り乱さなくなった。
それに、忙しい夫を支えようと出来る範囲で家事をやろうとしてくれている。
今の生活に慣れたのか、それとも自分に自信をもてるようになったのか。
いずれにせよ、ジョナサンにとって喜ぶべきことに違いはない。
しかし、困ったこともないわけではない。例えば、電話する回数が大幅に増えたこと。
女物の香水の疑惑が晴れても彼女の猜疑心は根深く、日中かけてくる電話は確実に増えた。
彼女曰く「あなたにたかるクズの機先を制するため」らしい。
しかも、二回以上出ないことがあると、電話越しでも分かるほど不機嫌になる。
困って「定期報告」の復活を提案したこともあったが完全に失敗だった。
彼女が、そんなものはそもそも知らないと主張し、一切の聞く耳を持たないのだ。
「一体何の話だ?」彼女は殺気立ってその話題を打ち切ってしまった。

最も心配なのが、料理に挑戦し始めたことである。
車椅子の座高を上げ、スープの出来をみる姿は危なっかしくて見ていられない。
「今まで助けてもらってばかりだから、私もあなたのために何かしたいんだ。」
彼女がそう言って楽しそうに手伝うので、危ないからやめろとは言えなかった。
夜、作り置きしたスープを温めて待ってくれていた時は正直、幸せを感じたものだ。
「・・・どうだ?ちゃんと温かくなっているか?焦がしたりしていないか?」
上目遣いで真剣に聞いてくる妻が可愛らしく、思わず「ありがとう」と抱きしめた。
ただ世話をされるだけの毎日ではマリアも心から安らげないのだろう。
そんなことも考え、ジョナサンは心配する自分を納得させたのだった。
しかし、危うく大事故につながりそうなこともあった。

ある朝のことだった。
家中に漂う凄まじく焦げ臭い匂いでジョナサンは目を覚ました。
しかも妻が大声で助けを呼んでいる。
「ゴホ、ゴホッ、ジョナサン、助けてくれッ!フライパンが、フライパンが・・・」
慌てて駆けつけると、キッチンから黒い煙がもうもうと立ち上がっている。
「大丈夫かッ!?」
火事か!?と色めきたった彼は猛然とキッチンに飛び込んだ。
マリアはあの体だ、火事になっても逃げられない。一刻も早く彼女を助けねば。
見ると、フライパンとキッチンの一角が燃え盛る炎に包まれている。
そして車椅子の妻は煙に巻かれそうになっていた.
「はやく!ゴホッ、ジョナサン、このままでは家が燃えてしま、ケホ、ゴホッ・・・」
何とか消火しようとしたのか、手にした水差しには並々と水が張ってある。
「こんなのじゃ消せないし、まず君はここから出ろ。」
そうして彼女を抱えて連れだすと、彼はガスを止め消火器で手際よく消火した。
11不安なマリア4:2009/09/12(土) 01:01:06 ID:18DtHrx3

「本当にごめんなさい。私が馬鹿だったんだ・・・」
終わってみれば単なる小火騒ぎだったが、それでも被害は小さいとはいえなかった。
キッチンの一部は焦げて、家中が一面煤だらけになってしまった。
しかも、煙を軽く吸い込んでしまったマリアは病院で診てもらわなければならない。
どう考えても、「料理の失敗」ではすまない事故だった。それも大事故につながる可能性大だ。
下手をすればマリアかあるいは夫婦ともども死んでしまうかもしれなかったのだ。
厳しい表情のジョナサンに、当たり前だがマリアは相当落ち込んだ様子を見せた。
「その・・・、済まなかった。あなたに朝食をつくろうと思って・・・。」
どうやら、ブルストを朝食にと焼こうとしたらしいが、フライパンを引っくり返したらしい。
焦って油のボトルを倒し、飛び散った火花がそれに引火したというわけだ。
意気消沈し、俯いて許しを乞うているのが痛いほど分かる。

しかし、今回は命がかかっていた。素早く動けない彼女にとって火は危険だ。
妻を失うことなど、今のジョナサンにはとても耐えられないことだった。
だからいかに優しい彼でも、厳しい表情で怒りたくなるのも無理はない。
「朝食をつくってくれて、ありがとう。でも君に命の危険まで冒して欲しくない。」
「火を扱うのはとても危険なんだ。わかっただろう。何かあってからじゃ遅いんだよ?」
さすがに身の危険を感じたのか、彼女は真摯に頷いてみせた。
「あなたの言う通りだ。ごめんなさい。本当にいつも心配をかけてばかりだな、私は。」
随分と後悔しているのか、妻は顔を俯きがちにとつとつと謝った。
「もういいよ。君が無事だったんだ。でもこれから料理する時は僕の目の届く範囲で頼むよ。」
不安な面持ちで懇願するジョナサン。俯く妻の恍惚とした表情に気付くよしもなかった。

目の届く範囲で、とは言ったものの、彼はこれでマリアも料理をやめると思っていた。
しかし、それは甘かった。こうなるともはや売り言葉に買い言葉である。
マリアは「そうだな。じゃあ私に料理を教えてくれ」と言い出したのだ。
「今度は絶対うまくなるから、“目の届く範囲で”ちゃんと見ていてくれ。」
これには一度きっぱりと断った彼だったが、それでも最後は折れてしまった。
というのも、妻がいつになく強烈な不安を覗かせたからである。
「あなたの為に何かしたいんだ。そうでないと自分はここにいていいか分からくなる。」
そうしてすがりつかれるともはや断れず、ハラハラして見守った。
必死に自分のために頑張る彼女の姿を、心配とはいえ嬉しかったこともある。
それに、不安定な妻が落ち着き、普通の夫婦のようで幸せを感じていたのだ。
12不安なマリア4:2009/09/12(土) 01:03:25 ID:18DtHrx3

・・・・・・・・

いま私は再び「不安」でいっぱいになっている。
それも、結婚した頃から。もう心配事なんて何もないはずなのに、だ。
最近は、彼が他所のクズと寝ているイメージが頭からずっと離れない。
あの香水あの香水あの香水あの香水あの香水・・・・・・。
彼もやっぱり『あの女』みたくなってしまうのだろうか。
そして私は『あの男』みたくなってしまうのだろうか。
実際、笑える話だ。今の私が置かれた状況は、怪我で退役した後の父に似ている。
こんな風になるのも、やっぱり私があいつらの子でクズだからなのだろうか?

彼が電話をくれなかった日から、私は昼夜問わずそんなことを考え続けた。
そうして、この前ようやく一つの結論に達することができた。
きっと私たちはまだすこし不完全なだけだったのだ、と。
夫婦として、家庭として、私たちはまだ完全にお互いのことを思いきれていない。
このままではあいつら『クズども』のようになってしまいかねない。
だから、お互いが教え、与えあうのだ。彼はすでに私に多くを与えてくれている。
一方、私が彼に与えられるものはただ一つだけだが、効果はすでに実証済みだ。
私が持つそれを彼も持てれば、私は与えられるだけの存在ではなくなる。
私たちは完全な家庭をつくれるのだ。
13不安なマリア4:2009/09/12(土) 01:05:53 ID:18DtHrx3
『不安なマリア』第四話投下終了
14名無しさん@ピンキー:2009/09/12(土) 01:15:43 ID:H5y9G8ws
>>13
GJ!!
着実にヤンできてるな
続きが楽しみです
15名無しさん@ピンキー:2009/09/12(土) 13:23:31 ID:+BtR/9iN
ポケモン黒のせいで新しいポケモン買ってしまった・・・
メスって出にくいんだな・・・
と、スレチすまん
16名無しさん@ピンキー:2009/09/12(土) 14:28:54 ID:8Jzsez3w
最近不安なマリアが一番の楽しみになっている。良作GJ!
17名無しさん@ピンキー:2009/09/12(土) 16:21:19 ID:HR96SeSP
スレ違いって分かってるなら書き込むなよ。
18名無しさん@ピンキー:2009/09/12(土) 16:38:03 ID:4I6tvHak
>>13
GJ!
俺も不安なマリアが最近のここでの一番の楽しみだ

>>17
お前ってやつはネガティブな発言しか出来ないのか?
19名無しさん@ピンキー:2009/09/12(土) 19:38:10 ID:wYkkzP9V
>>13GJ!!
20名無しさん@ピンキー:2009/09/12(土) 21:59:24 ID:RyyGHIki
今日発売日だったー
21名無しさん@ピンキー:2009/09/12(土) 22:09:19 ID:/inMitD6
>>18
言い方は少し乱暴だが>>17は何も間違っちゃいないだろ
22名無しさん@ピンキー:2009/09/12(土) 22:57:57 ID:TYzdITdL
ぽけ黒でアカネが出てくるのが楽しみだw
23名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 00:52:45 ID:DvC34nDd
やっぱりチコリータは壁&リフレクしか使い道がないな…
香草さんみたいにストライク一撃とか無理っす
24名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 03:05:20 ID:HYurjtMQ
>>18,20,23
死ね
25名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 03:11:20 ID:UIe8UlPo
とりあえずsageてくれ
んでここを荒らすような真似をやめてもらいたい
26名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 03:19:02 ID:qjOIx8u9
今まで止めろと言われてそいつが止めた事があったか?
そいつはそうやって軽めに荒らしつつ隙あらば第二の修羅場スレのようにしようと窺っているに過ぎない
27名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 04:49:55 ID:D1W5727/
長寿スレになると何かと沸きやすくなるよね
28名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 05:58:52 ID:Q0zwuji/
>>25
結構前から地味に居るけどな。sageずに「死ね」しか言わない貞子みたいな>>24
最初はウザイと思っていたが、最近考えを改めた
逆に考えるんだ。>>24に「死ね」と言われたら良いことが起きるかもしれないと
29名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 08:42:29 ID:QeIqP3hC
ポケ黒信者もいい加減自重しろ
関係ないポケモンの話をし出したり、頻繁な催促
いい加減うざったい
30名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 08:43:04 ID:DNdE4wTm
きっと来る……
きっと来る……
31名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 17:15:45 ID:ySo8g+IO
流れぶった切ってここで投下といきたいが残念ながらHDDが吹っ飛んでデータロストという……
32名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 17:52:32 ID:e4RutLzn
17歳少女が20歳会社員男性をナイフで刺して全治1ヶ月だと
33名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 18:46:22 ID:+E1HMtWU
>>13
遅くなったがGJ!

>>30
つ貞子
34名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 22:56:42 ID:cMMpSdms
>>32
血の滴り落ちる包丁が部屋の電灯の灯りを受けて不気味に光る。
JK「貴方が悪いんだから…仕事の付き合いとか言ってあんな雌猫どもと飲み会だなんて」
焦点の定まらない目で、抑揚も感情も篭もってない声で言い放つJK。
会社員は血がにじみ出るわき腹を必死に押さえながら、青白い顔で傷口と女子高生を交互に見る。
会社員「う…ぁ…」
声にならない声をあげる会社員にそっと近寄り、JKは柔らかく微笑んで彼の頭に手を触れる。
JK「でもいいわ。これで貴方を一生看病出来るから…貴方の一人暮らしの部屋でずっと二人きり…死ぬまで、ね?」


こんな修羅場があ…るわけないか
35そして転職へ  8:2009/09/14(月) 00:06:41 ID:B+36P9J1
投下します。
36そして転職へ  8:2009/09/14(月) 00:07:39 ID:B+36P9J1

教会の一室。粗末なベッドの上で僧侶ちゃんは横たわっていた。
人払いを神父さんに頼んだ僕は、ひとりで僧侶ちゃんの傍らの椅子に腰かけて、
僧侶ちゃんの顔を見る。
ランプで橙に染め上げられているものの、やはり血の気が引いている。
傷は深い。そんな事実が否応なしに僕に突きつけられている。

「…ごめんね。」

しばらくのち、僕は言葉を絞り出した。

「…ごめん…ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

堰を切ったように懺悔の言葉が放たれる。
それと同時に、彼女の眼から滴があふれこぼれおちていくのが見えた。
結果だけ見れば、僕は彼女を攻撃の盾にしたことになる。
ただ、僕はその時こうも思っていた。
僧侶ちゃんならもしかしたら許してくれるかも…そんなふざけた期待が。

「全くです。」

僧侶ちゃんの口から出てきたのは、今まで一度たりとも僕に聞かせたことのない
明確な拒絶だった。
ある程度予想はしていたものの、普段とまるで違う彼女の放った言葉に
凍りつく僕。その僕の目の前で彼女は…。

「勇者さん…見て。」

自分の上半身をすべて僕の前にさらけ出した。
…うわ。

「勇者さん…私、キレイ?」

右乳房は完全につぶれていた。刀の切っ先がえぐった個所を周りの脂肪が
埋めようとするかのようにいびつな谷が出来上がっている。
赤黒く醜い傷跡が、傷一つなくランプに揺れる絹肌の上でより一層の
悲劇性を演出しているのだ。
それを踏まえた上で、彼女は僕に聞いている…いや、責めている。
そんな傷跡を眺めているうちに、僕の心にもふつふつとした感情が芽生えてきた。
彼女の傷よりもさらに醜いそれは、僕の心の中で揺らめきだす。
『彼女が勝手にやったんだろ?僕は頼んだ覚えはない』
そんな思いをどうしてもぬぐいきれない。

「答えてください。私、きれいですか?」

その時、僕は彼女の眼を見た。信じられないような物を見てしまったような気がする。
目に、不気味な黒い光が宿っているのだ。彼女の持つ聖職者としての力とは
決して相容れそうにない光。
多分、僕の力と同類のモノ。形容するなら『闇』。

「…ごめん。きれいな体を、僕のせいで…。」

彼女の眼と問いかけから避けるように、僕は目をそらして言葉を濁した。
クスリ。この場に似つかわしくないような小さな笑みを浮かべた僧侶ちゃんは
ゆっくりと僕を見ながら…。

「許さない。」
37そして転職へ  8:2009/09/14(月) 00:09:08 ID:B+36P9J1

教会の階段、その踊り場付近で盗賊くんは何やらぶつくさ言っている。

「…ううう。何をやっていたんだ私は!これではただの負け犬では
ないか!
それにしても勇者のやつ…さっきから僧侶のところにずっと入り浸りだが…。
わ…私だって怪我をしたのだぞ!?そりゃ、僧侶に比べたら軽い傷だけど…。
大体、あいつは多少なりとも胸があったのだから良いではないか!
少し小さくなっても!肩こりが無くなるのだろ!?わたしときたら…うう。
…にしても、傷の見舞いには時間がかかりすぎているような気が…まさか!
弱りきって抵抗できない僧侶を勇者が手ごめにして!?
むううううう!なんとうらやまs…あ、ちがった許せない!
私というものがありながらあのヘタレ…!
…私のことを見ないような勇者の眼は、もういらないだろう?このナイフでグサリと…。
盲目になった勇者か…フフ。それもいいな。
私があいつの目となり、常にそばにいてやるんだ。私があいつの盲導犬だ。
…きちんとお世話したら、勇者は私をほめてくれるかな?頭撫でてくれるかな?
フフフ…想像したら私…ん?」

振り向くと、当の勇者がそこに!

「うわあああああああああっ!?」

当然の如く、絶叫する盗賊くん。

「いっ…いつからだ勇者!?どこから私の話を聞いていた!」

「…ん?ああ、『頭撫でてくれるかな?』の件から。」

「ほほほ本当だろうな!?全部盗み聞きしていた承知せんぞ!
罰として私と結婚してもらうからな!」

「ん…いいよ。」

そこで初めて盗賊くんは勇者の顔色が悪いことに気づく。

「勇者…どうしたのだ?僧侶は意識を取り戻したのだろう?」

「ああ、怒られちゃったよ。そして…。」

勇者…僕は僧侶ちゃんの目を見ながら…。

「盗賊くん…悪いけど、パーティから外れてくれるかい?」
38そして転職へ  8:2009/09/14(月) 00:10:42 ID:B+36P9J1

扉がぶち破られた。
この描写は勇者…僕の視点で書くものではない。なぜなら以下の出来事が
起きている間、僕はさっきまで盗賊くんと話していた廊下で静かに
横たわっているからだ…盗賊くんのパイルドライバーによって。
…あの身長と体つきで、よくこの技が出せたもんだ。
…つーかよりによってパイルドライバー?なんでそんな危険な技を…。
やっぱり、昔のこと恨んでいる?
そーだよ
絶対そーだよ
あははははははは…
やばい、これ以上は僕、もう…。

扉がぶち破られ、盗賊くんが銀色の眼光を放ちながら部屋のベッドに
歩み寄る。

「…僧侶。どういうことか説明しろ…。」

ベッドに幽かな微笑みをたたえ横たわる僧侶に対し、ゆっくりと盗賊くんは
ナイフをむけた。

「…私を仲間から外すだと?勇者の言うところだとおまえの案だったようだが?」

「…人にものを尋ねるのにナイフを向けるのですか?とことん
礼儀知らずなのですね。」

僧侶ちゃんの目も滾滾とした闇をたたえて余すところがない。

「私のせいではありませんよ。何があったのかは存じませんが、あなたの
存在があの魔道士を呼び寄せた一因であることは否定できないはずです。
たとえ勇者さんにも一因があったにせよ、あなたがいなければ
襲われるリスクの軽減は出来たのではないでしょうか?だとしたら
パーティ離脱は自業自得ですよね?
素性の知れぬ人を勇者さんのそばに置くことは許せません。
あなたがいれば、あなたが過去に犯した罪のツケが勇者さんにまわるかもしれないのです。」

39そして転職へ  8:2009/09/14(月) 00:11:45 ID:B+36P9J1
「ゆっ…勇者はそれでも私を必要としてくれるはずだ!」

「…勇者さんは優しいですから、たとえどんなにあなたの存在に迷惑がっていようとも
決してそれを口にはしないでしょう。ただ、私は違います。
私はこの先何が何でも勇者さんを守り抜く。そしてそのためには
邪魔になるもの全てを排除します。
…安心してください。勇者さんには私がいれば大丈夫ですから。私だけいれば。
あなたに心配していただかなくても結構です。」

「でも…でもでもっ!」

「お黙りなさいな。」

僧侶ちゃんの目がこれ以上はないというくらい黒く染まった。
部屋のランプ特有の明るささえ、その瞳にはもはや届かない。

「必要としてくれる…?魔道士との戦いであなたは何をしていたのですか?
仲間から外す…?最初からあなたの目的は勇者さん一人だけだったでしょう?
私のことを本当は邪魔ものだとか思っていたのではないのですか?
そんな不純な動機で、世界を救おうとしている勇者さんの足を引っ張ろうなど
言語道断です!」

「勇者の意思はどうなんだ!?あいつが本当に私を邪魔だというのか!?」

その時、僧侶ちゃんの顔に朗らかな笑みが浮かんだ。
これ以上ないくらいの、不気味に朗らかな。

「勇者さんは私に言いました。『償うためなら、なんでもする。』って…。
ですから私は言いました。『道中は、私の指示に従って下さい。』と。」

ギリリ。盗賊くんの奥歯が音を立てる。

「だってそうでしょう?私の指示に従っていただかないと勇者さんは
いろいろ無茶なさるんですから。…私がいないと駄目なんですから。」
40そして転職へ  8:2009/09/14(月) 00:13:23 ID:B+36P9J1
「嘘だ。」

盗賊くんのナイフを握る手に青筋が走る。

「お前がいなくても、勇者は私と旅ができる。第一、お前のかけようとする
回復呪文を勇者は道中さんざん拒否してきたのだろう?
私はお前と違って戦える。おまえと違って役に立てる!おまえは何もできないのに!
お前がいないと勇者は駄目だと…?真っ赤な大嘘だっ!」

「違う!」

初めて僧侶ちゃんの目に一瞬、動揺が走った。

「私がいないと勇者さんは無茶をする!私がいれば勇者さんは安心して
旅をすることができる!そうなの!嘘なんかじゃない!
私が勇者さんにそうであるよう願ったのだから、嘘なんかじゃない!」

「なるほど…。」

しまった。とでも言いたげに僧侶ちゃんの顔がゆがむ。

「お前…勇者を脅迫したな?勇者の優しさに付け込んで、おおかた自分の
操り人形にでも仕立て上げるつもりなのだろう?その胸の傷で以て。
…私は勇者の仲間だ。その勇者を陥れようとする者は、誰であろうと
許さない!」

盗賊くんの手からナイフが…。

「そこまでなんだな〜。」

間延びした、しかして無視できない威圧感を含む声が響き渡った。


「二人ともそこまで〜。ダメでしょ盗賊クン。喧嘩なんかしちゃ。
勇者クンに嫌われちゃうぞ?」

ドアの外れた戸口に、魔法使いさんが立っていた。
41そして転職へ  8:2009/09/14(月) 00:14:32 ID:B+36P9J1

「僧侶チャン。盗賊クンの件なんだけどさ〜もうちょっと一緒に旅してみない?
勇者クンだってこんな別れ方望んでないはずだけどな〜。」

「…いきなり何を言っていらっしゃるのですか?あなたに勇者さんの
何が分かると…。」

「分かっちゃってるんだな〜コレが。」

魔法使いさんの眼光は一瞬で変わった。獲物を見つけた猛禽類のそれだ。

「分かっているよ。カレの奥深くまで。誰よりも…誰よりもわかっているんだから…。」

「ば…馬鹿なことおっしゃらないでください!私の方がずっと…ずっと。」

「うんうん。わかっているよキミのカレへの深い思いは。
好きなんでしょ勇者クンのこと…『火をつけるくらい』に。」

「…おっしゃっていることの意味が分からないのですが?」

「ここの教会、建物は古いけど石造りだし建材も丈夫。アタシの見立てだと
ざっと二つか三つの耐火呪文もかけられているね…。」

何事もないような風であたりを見渡す魔法使いさん。
世間話でもするかのような口調の軽さだが、目は笑っていない。

「ここならたとえ放火されても、酒場みたいには燃えないだろうな〜。」

クスクス笑いながら、魔法使いさんは廊下に足を踏み出す。
そして、振り返り僧侶ちゃんの顔を見て。

「考えといて盗賊くんの件。さもないとアタシ…。」

含みを持たせた笑みを最後に浮かべた後、オヤスミといって去っていく
魔法使いさん。そのあとに盗賊くんが出ていく。
部屋に残された僧侶ちゃんの眼には、怒りと悲しみの色が浮かんでいた。

「やっぱり…あの時あの女…。」

42そして転職へ  8:2009/09/14(月) 00:15:25 ID:B+36P9J1

目を覚ますと…このシチュエーションは何度目だろう。
あの時、泣きじゃくりながら僕にしがみついてくる盗賊くんに
ついうっかり僧侶ちゃんの名前を滑らせてしまったところ
御覧の有様だよ!…クシュン。
何のことはない。ただの40度越えの風邪だ。…あれ、まずくない?
パイルドライバー炸裂後、寒い廊下にしばらく寝て(気絶して)いたらしい。
盗賊くんが戻ってきたときにその場にいなかったということは
多分神父さんかシスター辺りが僕を部屋まで運んでくれていたのだろう。
…一足遅かったようだが。
…あれ?今気づいたんだけど、ひょっとして僕やばかったんじゃないのか?
あのマッド神父やシスターにあの晩意識がないことをいいことに
改造手術される危険性もあったわけだから。くわばらくわばら。

あの後、魔法使いさんと盗賊くん、そして僧侶ちゃんの三人でなにやら
話し合いをしたらしい。
何を話したのかは知らないが、僧侶ちゃんは盗賊くんをとりあえず
許す気になったみたいだ。
…僕の方はそうもいかないが。

あの時、僕に向けきっぱりと拒絶した僧侶ちゃんに許してもらいたくて、
僕は言った。

「ごめん僧侶ちゃん。償い切れるとは思わないが、せめて償わせてください!」

しばらく間があいて、やがて僧侶ちゃんの手が僕の頬にそっとふれ、
撫でまわした。

「なんでもする…誓いますか?」

「うん!するよなんでもする!」

「でしたら…。」
43そして転職へ  8:2009/09/14(月) 00:16:22 ID:B+36P9J1
「勇者さん。」

隣のベッドから僧侶ちゃんの声がする。僕と僧侶ちゃんは二人部屋で
寝ているのだ。
魔法使いさんは薬を買いに行っているし、盗賊くんは近くにはいない。
僕にその意思が無いとはいえ、一度は僕に僕の口で離脱を求められたのだ。
さらに僕の風邪を自分のせいだと言い…それで反省してくれればいいものを
僕の離脱勧告との相乗効果で絶望してしまい、ずっとふさぎこんでいる。
魔法使いさんに助言を請うと、『キミのことで胸いっぱいだからね。
しばらくほうっておいてあげるのが優しさだよ〜。』とのことで、
あまり盗賊くんの居場所について言及しないことにしたのだ。
それに…僧侶ちゃんのこともあるし。

「ドジなんですね勇者さん。寒い廊下にねっ転がるなんて…こども
みたいでかわいいですけど。」

僧侶ちゃんがクスクス笑っている。前と変わらぬ優しい笑い声に聞こえるが…。

「やっぱり、勇者さんは私がいないと駄目ですね。」

声のトーンが変わる。普通の人にはわからないかもしれないが、
昔からずっと僧侶ちゃんと一緒だった僕だけに分かる変化が確かにあった。

「…盗賊さんの件は保留しました…勇者さんがさみしがるといけませんから。
けど、わかっていますよね?あの時の誓い…。」

僕は答えない。僧侶ちゃんも分かっているのだろう。

「私の指示に道中はしたがっていただくこと。それと…。」

言われなくても分かっている。それは…。

「私を常に必要とすること。私なしでは生きられなくなること…です。
分かっていますよね?もう逃げられないっていうこと。」
                    
                             続く。
44そして転職へ  8:2009/09/14(月) 00:17:20 ID:B+36P9J1
以上です。それではシツレイシマス。
45名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 00:22:28 ID:37hAWI/k
>>34なんてたのしso…ゲフンゴフン…恐ろしい話なんだ

>>44GJ!!! 
46名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 01:47:35 ID:s5eJFJb3
GJ!
僧侶ちゃん黒いよ僧侶ちゃん
47名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 02:13:31 ID:Te2Q07ej
GJ! ところで魔法使いさんもそのうち勇者にデレるんだろうか?
48名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 02:18:31 ID:i1FDlO41
続きが楽しみです
GJ!
49名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 02:26:43 ID:lYri4wbY
GJ
僧侶ちゃんかわいすぐる
これから勇者と添い寝フラグですねわかります
50名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 16:44:39 ID:xihEVAim
GJ!!
51名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 21:39:08 ID:OWAjb0A4
CJ!
52名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 21:44:40 ID:KCp+p86E
DJ!
53名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 22:07:25 ID:37hAWI/k
>CJ/DJ
F-15単座/複座型日本仕様かwww

とにかくGJ!!!!
54名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 10:12:34 ID:R4VSoxyz
>>53

なんだそれ
55名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 11:30:10 ID:PLz6RQ3B
>>54
戦闘機
56名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 13:54:43 ID:lJIx+PDF
なんで前スレまだ120も書き込めるのに新スレに移動してるの?
57名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 15:08:37 ID:Y6TyJTb5
埋めようとした奴を>>877が阻止したところまでは知っている
58名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 18:24:29 ID:CY6KlSk0
>>56
1000レスいかなくても500KBで落ちるんだよ
59名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 19:35:51 ID:2k+LdEDJ
>>58
>>56の言った意味が分かった。ありがとう

>>44
GJ!
60名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 21:07:03 ID:VN87TOYs
やったね!
61名無しさん@ピンキー:2009/09/16(水) 00:14:30 ID:AMiYGFa8
前スレ埋めろよ
62名無しさん@ピンキー:2009/09/16(水) 09:10:52 ID:i+fFI99i
前スレ埋める前に現スレ埋めろよ
63名無しさん@ピンキー:2009/09/16(水) 14:32:59 ID:Zj60ilVq
日本語でぉk
あとsageろ
64名無しさん@ピンキー:2009/09/17(木) 02:58:12 ID:mTIO6c2/
忠犬ハチ公のような彼女ってどうよ。
朝は隣室から駅まで見送りにきて
夕方は彼が降りてくるまで風の日も雨の日も待ち続ける。
そんな彼女はお好き? 
65名無しさん@ピンキー:2009/09/17(木) 07:00:43 ID:IBPg6kHc
>>64
構わん続けろ!!
66名無しさん@ピンキー:2009/09/17(木) 10:39:15 ID:wlWIV7Hu
>>64
男が帰ってくる時間が遅くなって女の匂いがしたりして次第に病んでいくんですねわかります
67名無しさん@ピンキー:2009/09/17(木) 12:43:09 ID:+bQfh0uE
>>64
ヤンデレスレより依存スレ向きの題材な気がする
気のせいか確かめるためにも書いて投下するんだ!
68名無しさん@ピンキー:2009/09/17(木) 13:37:23 ID:9MNEbQFZ
依存スレなんてあったんだ
なんかそっちの方があってる気がしてきた
69名無しさん@ピンキー:2009/09/17(木) 13:41:43 ID:2Nc/CnAP
気のせいだ
大体いちいち別スレの話題を出すな。荒れる元だ
70名無しさん@ピンキー:2009/09/17(木) 14:45:16 ID:oLLkAdYM
HACHIって話題にならないまま終わったけど、どうだったのかな
NANAの続編だと思って見に行った人はいるのかな
71名無しさん@ピンキー:2009/09/17(木) 20:33:30 ID:hhzrehd8
>>70
ブログ(笑)で言ってろ
72名無しさん@ピンキー:2009/09/17(木) 22:31:29 ID:ASBS8Poo
>>67
むこうはほのぼのと平和だから変な物連れてこようとしないで
73名無しさん@ピンキー:2009/09/18(金) 22:43:40 ID:xsyobVrt
ヤンデレのメイドさんに、他の女と会うアリバイ作りを頼んだらどーなるんだろ?
74名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 00:41:40 ID:OZiJOqCC
>>73
男「という訳で女さんと会うアリバイを作ってきてくれ」
ヤンメイド「…出来なかった場合はどうすればいいでしょうか」
男「ん〜、そこをなんとかしてくれよ」
ヤンメイド「わかりました…」

翌日、彼はめでたく『女さん』と出会えました。
何故かその日以降メイドの姿が見えなくなったが…。
75名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 01:00:55 ID:AwB4iHGO
>>74
入れ替わったのか
76不安なマリア5:2009/09/19(土) 01:08:14 ID:y4Nin90V
流れを切るようだが投下
77不安なマリア5:2009/09/19(土) 01:11:04 ID:y4Nin90V

マリアが家事修行をはじめて、2ヶ月が過ぎた。
さすが元軍人、軍隊仕込の包丁裁きはなかなかだったが、火を扱う手は心許ない。
ジョナサンとしては、頑張ってくれて嬉しかったがまず不安が先に立ってしまう。
仕事中でも、すこしの暇を見つけては電話して安否を確認する癖がついた。
この前の小火が、もしかしたら今度は火事になるかもしれない。
高めに調整した車椅子から落ちれば、最悪怪我をしてしまう。
実際、彼女は料理中に何度か車椅子から落ち、駆けつけた夫に助けてもらっている。
そうしたことが続き、彼の心配症は加速度的に強くなっていった。
しかし、駆けつけたときの妻の安堵と不安が入り混じった嬉しそうな表情を一度見てしまえば、
彼の中には例えようのない幸福感が溢れるのだ。
そうしてマリアは、夫に「教え」、「与える」ことを繰り返した。

そんなある日、マリアが夕食を準備することになった。
隻腕なうえ、体も衰えたマリアにとって、水を張った鍋を持ち上げるのも一苦労だ。
包丁も、手つきはジョナサンより良いくらいだが、やはり体が邪魔をする。
座った状態で料理すること自体、困難なのだ。課題はいくらでもある。
心配したジョナサンは定時に帰宅しており、ハラハラしながら妻の料理を見守った。
そんな夫の視線を感じ、マリアの口元はどうしても緩んでしまう。
「最近、はやく帰ってきてくれるんだな。ありがとう。」
帰宅が早いくらいで大喜びされると、彼も照れくさく、素直に心配だからと言えない。
「うん、まぁそうかな。忙しくないからね。それに特訓もあるし・・・」
彼の照れたような言葉に不満な彼女はさらに追撃した。
「ふふ。正直に“君が心配だった”と言ったらどうだ?私を気にかけてくれたんだろう?」
最近鍛えだしたのか、右腕だけで肉を軽快に切っていく。
よほど努力したようで、彼は自分の見ない間にマリアが変わったことに驚いた。
「ああ、その通り。君が心配だった。料理、すごく上手になったね。」
素直に喜ぶと同時に、自分の見ない間、というのが何となく気に入らない。
「ふふ。それで良いんだ。あなたが教えてくれたんだから上手いのは当たり前だ。」
彼女は機嫌よさそうに答えた。と、背後から突然抱きしめられる。
「あっ。待て、今は料理中だぞ。」
「・・・でもね。君が僕の見えないところで頑張るのは、何だか嫌だな。」
夫から予期せぬ言葉をかけられ、マリアは恍惚とした。
今の夫の心理はまぎれもなく、不安と独占欲から生まれたものだからだ。
これまでなかなか目に見える成果が現れなかったので、喜びもひとしおである。
あと一息だ。込み上げる歓喜を押さえ、ツツと彼の腕に自らの指を絡ませた。

一方、夫も自分の言葉と行動の意味に気付いてうろたえていた。
自分は何を言っているのか。無論、独占欲だって人並みにあるのは自覚している。
しかし、今の言葉はまるでマリアが不安定になったときに吐露する感情と同じだ。
一体、いつの間に自分はこんな風に・・・。
体を離そうとしたがいつの間にか腕に彼女の指ががっちりと絡んでいる。
「あ、あの、今のはその・・・」と一応、弁解を試みる。
妻が振り向いた。全てを包みこむように微笑んでいる。
「クス。ふふ。やっとあなたも、わかってくれたんだな。」
「不安を感じるんだろう?影も形もないのに、ただそこにいるんだ。」
「それは私だ。私がいるんだ。あなたのなかに。私だけが。」
マリアは、ジョナサンの体を引き寄せた。
彼は動けないまま抱き止められる。いつも彼女にしていることを自分がされている。
「あなたが不安で心配してくれるから、私は安心して生きられる。」
「私もあなただけを考えて、心配して、毎日待っている。一緒なんだ。」
額をつけて目と目を合わせる。こういう時、マリアの目は他に何も許さない。
「・・・ふふ、私もあなたも幸せ者だ。そうだろう。」
夫には、私以外との時間も、私以外との空間もいらないし与えたくない。
夫の不安を育て、独占し、支配することで、彼女は彼の心の選択肢を極端に奪っていった。
78不安なマリア5:2009/09/19(土) 01:14:24 ID:y4Nin90V

それから1カ月が過ぎた。彼は明らかに変化していた。
どんなに忙しくてもあまり残業をしないようになった。
家との連絡をするため、他との電話を避けるようになった。
他人と何をしていても家のことが気になって仕方ない。
以前は時々していた散歩も、あまりやらなくなっていた。
週末は極力家にいて、マリアと料理や掃除、読書に打ち込む。
二人ベッドでキスやフェラしながら一日を過ごすことさえあった。
妻が無事かどうか、どうしようもないほど心配になる時もある。
しかし、電話で話したり、家に帰って抱きあえばそんな不安は吹き飛んだ。
いつ、どこで、何をしていても妻のことが気になるようになっていた。

その日も、さっさと作業を終わらせたジョナサンは定時ちょうどに店を出た。
「じゃあ、ここでお先に失礼します。お疲れ様でした。」
店に残ったのは店長と、以前、香水で浮気疑惑の火元となった同僚のクレアだった。
最近、この二人の会話はただ一つの話題に独占されている。
いわずもがな、ジョナサンが最近変わった、というものだ。
「やっぱりヘンですよね。」とクレア。
「うーん。そうだねえ・・・。」とろとろと相槌を打つ店長。
二人とも、ジョナサンの何が変わったのかはイマイチ掴めないのだ。
仕事が速いのも、真面目だが緩急をつけられるのも相変わらずなのだが。
「それに、なんか最近あの人、何だかそっけないっていうか。」
確かに、最近のジョナサンは職場での人間関係に気を使わなくなったように見える。
もちろん無礼ではないのだが、そもそも関心が向いていないようだった。
しかもクレアは、特に自分に対してそうなのではないかと感じていた。
「確かになぁ。そりゃあ早く帰るのは、奥さんのことがあるから良いけど・・・。」
「変ですよ。外回りなんかもっとユルい感じでしたけど、なんか最近ぜんぶ事務的で。」
「あと、電話もなぁ・・・」さすがに店長も電話の回数が異様に多いことに気付いていた。
「ですよね。電話、どんな忙しくてもしてますもん。私たち仕事中じゃないの?って。」
仕事を始めたころの真面目で人当たりの良かった彼は一体どうしたのか。
「最近は私がランチに誘っても来ないし・・・。」とクレアは怪訝な顔をした。

その頃、すでに夕食を終えたジョナサンとマリアは、ソファでだべりあっていた。
これは最近根づいた習慣で、夕食後、抱き合いながら色々なことを話す。
話題は最近の彼の悩み、マリアのことが異常なほど心配になってしまうことだ。
しかし、それを聞いた彼女はこれ以上ないというほど嬉しそうに笑った。
「ふふ。アハハハハハッ。すごいッ。私たちは完璧だ。完全な夫婦になれる。アハハハハッ」
「あなたの中にいるのは私だけだ。あなたが見えるのはわたしだけだ。そうなんだろう?」
「それは、すごくすごく良いことなんだ。ふふ、だって私たちは夫婦だからな。」
「夫婦とはそういうものなんだ。クス、ずっと二人だけ。これが本当の夫婦なんだ。」
彼が偽物の基準はなんだと尋ねると、彼女は鼻で笑って答えた。
「あいつらだ。『あの女』と『あの男』。私を生んだクズどもは偽物だ。ざまあ見ろッ。」
強烈な憎悪だった。そして彼もそうだなと心から首肯する。
――そうだ、『あいつら』はクズだ。そして、僕らはクズじゃない。
79不安なマリア5:2009/09/19(土) 01:17:45 ID:y4Nin90V

「私はクズの娘なのに。本物になれたんだ。ふふ、あはは・・・」
口を歪め、半笑いのままの虚ろな目で、マリアは夫を見つめた。
彼女の目が彼の目を捕える。ジョナサンはたまらず妻を倒して抱きしめた。
「僕らはあいつらと違う。そうだろう?」
慄く彼にキスしながら、うっとりとした表情の彼女はその耳に囁く。
「今はな。でも一生そうならないために、ずっと二人だけで・・・。」
そう言ってマリアは彼の股間に顔をうずめる。長い金髪が垂れた。

彼がまるでセックスしているように感じるほど、彼女のフェラチオはうまくなっていた。
肉の擦れる音、吸い上げる音、舌を絡める水音、彼の荒い息、うめき声。
「普通の」セックスが出来ない彼女にとって、精一杯の楔がフェラチオである。
夫を責め抜き、それに夫が感じれば、彼女は歓び、独占の証に満足して絶頂する。
「・・ンム・・ンン・・・ハァ・・ジョナサン?」
「うぁ、ッツ・・・なんだい?、ハァ、急に・・・」
急に止められて不満そうな顔をするジョナサンを、マリアが探るような目で見つめる。
「まさか、他の女にもそんな声をだしている、なんてことはないな?」
そう言うなり、目線はそのまま「作業」を再開した。舌を焦らすように少しずつ動かす。
「な、に言って、ううッ、く、ぁあ・・・」
「どうした?答えられないのか?どうなんだ。」
マリアは自分の表情が醜悪になっていくのを感じた。しかし、疑念は止まらない。
――疑いは私の愛の証なんだ。だから正直に答えてくれ。同僚の女だろう?あの香水の。
――私の勘違いだと言うなら、私の仕打ちを許してくれ。私を愛してるんだろう?
彼女は先端を甘噛みして射精を促しながら、その根元を手で締め上げる。
「ちがっ、・・・うぁ・・――ッく、はぁ・・・・してない。信じてくれ・・・」
ジョナサンは「信じてくれ」という懇願を繰り返し、彼女を悦ばせた。
「信じて」と懇願する夫の姿のなんと愛しいことか。
疑われる不安で彼をもっと満たそう。互いに満たしあうからこそ夫婦なのだ。
再び「夫」を咥え、片手で自分の股間も刺激しながら、支配の言葉を投げかける。
「ム、フ・・・ンム・・ゥん・・・本当か?もし嘘なら、ンンッ・・・自殺、するかもな。」
「キッチンで・・ハァ・・大怪我もいいな。もっと、ンフぁ・・・ひどい、状態に・・・」
「ンフ・・フッ、ん・・それとも、二人で、ンム、死ぬほうが、ハァ・・良いか?」
責められ続け朦朧とした夫は、「マリア・愛してる・信じてくれ」の三語を呟くだけだ。
それだけでマリアは、幾度となく絶頂してしまう。こんな深い陶酔があるとは知らなかった。
――イく。これだけでもっとイける。あなたがおかしくなって私と一緒になって・・・。
――ジョナサン、もっと不安でもっと気持ちよくしてやる。私の私の私の私の私の・・・。
単なる呻き声しか出なくなった頃、ようやくジョナサンは解放された。
不安、信頼、喜び、恐怖がないまぜになって強烈な快感となり、彼を襲う。
妻の笑い声が響き、頭の中で不安も愛情も妻も自分も全てがいっしょくたになる衝撃。
「イクっ、私もイクからッ。だからッッ、一緒にィィィィイ」
髪を振り乱して高笑いしながら、マリアも再び絶頂した。

興奮しすぎたせいだろうか。夫を責めまくった後、マリアの意識は急に薄れていった。
その時も、マリアの脳裏に浮かんだのはやはり夫の不安に満ち何かに慄く表情だった。
ついに夫と分かち合えるようになったのだ。この身と魂にとりつく塊を。
不安に慄く夫から抱きしめられた瞬間、マリアは歓喜に震えていた。
無理もない。ずっと一人で背負ってきた呪いを一緒に受けてくれる人ができたのだ。
彼女は思う。そもそも「不安」が消えるはずなどなかった。私の一部なのだから。
私は再びそれを使いこなしただけだ。しかも軍にいた頃よりも上手く。
3ヶ月前の小火や、何度も椅子から体を投げ出した努力を思い出し、思わず笑みがこぼれる。
彼女のなかでずっと燻っていた敗北感は、いつの間にか消え去っていた。
意外にも、消えるべきは「不安」ではなく全ての「過去」だったのである。
全てを清算した気になり、必要なものは手の届くところにしかないように見えた。
80不安なマリア5:2009/09/19(土) 01:20:53 ID:y4Nin90V
投下終了
81名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 01:24:46 ID:WlUqHrSF
>>80
グッジョブ 病みが深まってきましたな
82名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 08:34:22 ID:AwB4iHGO
洗脳ktkr GJ!
83名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 12:42:32 ID:z57y7toC
>>80
GJ
ゾクゾクする!!
84名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 16:16:55 ID:SMQoNnBw
GJ!!!!!
マリア、旦那の心を“掌握”したな。
【掌握】1.手中に納める事。
    2.完全に制圧下に置くこと。 
85名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 00:53:45 ID:b4lsQjJI
過疎
86名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 01:10:33 ID:fiOv6hvB
ですな
まったりヤンデレ古書店の話をふと思いついて書いてる
87名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 01:49:45 ID:dGI1W1BA
がんばれ。みんながんばれ。
88名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 08:47:59 ID:EA05gEY/
ヤンデレ家族読みたいな。
89過疎ネタ:2009/09/21(月) 11:28:23 ID:Zt3o9Xcy
過疎…人が居なくなること。

小学生の時、左隣のお兄さんが村から出ていった。夏、おじさんが倒れてしまった。
俺は高二になった。
ついに左隣のおばさんが死に、お向かいのじいちゃんが死んだ。
そうしてこの集落の人口は八人となった。
俺の家族と、幼なじみの家族しか居なくなった。
雑貨屋や、役場のある少し向こうの集落も終わりかかっている。
向こうも村民の高齢化と大量死去で百人をついに切った。
親父はこの村を捨て、弟と俺の高校がある街に引っ越す事に決めた。
俺達兄弟はお隣さん(距離10m)の姉妹にその事を伝えた。
俺は姉、弟は妹と同年齢で、学校も一緒なので一言で終わった。
「学校で会おうね。」
それから学校でしか会わなくなった彼女達は何かにとりつかれたかの様に日々、オカシクなっていった…

後は想像にお任せする…

          
90名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 15:02:18 ID:Sl5QIR/R
え…ここで終わりなの?
91名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 16:09:17 ID:fiOv6hvB
>>89
設定GJ!誰か続きを

古書店モノ、つくってみた。2レス消費。
なんか古書店を舞台にする意味ががが。たぶん続かん
92名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 16:14:42 ID:fiOv6hvB
『小籠堂番台日誌』

この町に住んで3年が過ぎた。
こじんまりとして瀟洒な雰囲気の駅前とたくさんの公園が魅力の、静かな町だ。
商店街も健在で、住んで以来行きつけの店も何軒かある。
今ではみんな顔馴染みだが、野暮にならず礼節を弁えた人たちばかりだ。
決してオープンな人間ではない僕でも静かに入り浸れる貴重な場所。
そんななかでも異色の店がある。僕の現在の(プラス多分死ぬまで)バイト先だ。
そうそう、もしあなたが女性で僕が番台にいる時は気をつけてほしい。
何に気をつけろって?まずは店長がいるかどうか。綺麗な女性だけど問題アリでね。
もしいたら、彼女の挙動と表情に気をつけて。あとは頭上及び足元、かな。
おっと、走って出口に飛び出す用意も忘れずに。

古書店『小籠堂』。こかご、と読む。
歴史家だった祖父や親戚、自分の本と、老後の資産で私の父が始めた。
古い木造建築の暗くて狭い店内。4架の棚に占拠された、静かで温かい雰囲気の古本屋。
なんだか私を無条件で許容してくれているような気がして、よく店に入り浸ったものだ。
しかし店をはじめて1年たたないうちに、父は病で倒れてしまった。
当時、私は歴史学者を目指して大学院にいたが、教授と揉めてその道を諦めていた。
辞めた後はいわゆるフリーター。父が死んで、私は店の主人となった。
母は父が他界する3年前にこの世を後にしていた。だから私は完全に一人。
夢破れた私にはこの煤けた「籠」がちょうど良い空間じゃない?
そんな風にくさってた私の前に彼が現れた。ほんと変わってるわ、あの男(ひと)。
ふらふらしてちょっと頼りないけど、死ぬまで私と一緒にこの店で・・・。

古書店『小籠堂』。こかご、と読むそうだ。
僕が初めてその店を訪れたとき、すでに夜9時を回っていた。
にも関わらず開いているので入って見ると、奥の番台に女の人が座っている。
ピクリともせず、ぼうっと何か前を見つめているようだった。
20代後半だろうか。長い髪を後ろで縛り、化粧は薄く飾り気の無い印象だ。
クリッとした目に眉根を寄せているので、物憂げなのにどこか生活感が滲む。
何だか背後に視線を感じつつ、本棚を物色していると不意に声をかけられた。
「閉店中です。」
意味不明な宣告とむすっとした声に、思わず腹が立った。
文句を一言、もごもごと呟いて僕はその店を後にした。
思えば、これが僕の永久就職先の小籠堂とその女店主、吾妻さんとの出会いだった。
93名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 16:20:48 ID:fiOv6hvB
ごめん3レスになりました

彼が初めて店に来たのはいつだっただろうか。
確かあの日はバイトを一つクビになり、ヤケになっていた。
それから閉店時間を過ぎても店を開け、番台の上で人生について考えていた。
この毎日をエッセイにして書いたら売れるかも、などと妄想にふけったものだ。
誰がこんな古本屋経営独身女の辛気臭い日記など読みたがる?と自己批判。
そんな時だった。彼が今は見慣れたぼやぼやした顔で入ってきたのは。
痩身をふらふらと動かして本棚を物色する姿になぜか胸が高鳴った。
一目ぼれというやつだろうか。何となくこの青年が気に入ってしまった。
――話、してみたいな。
自然と思ったが、なにせ恥ずかしながら、人生26年目にして初の体験。
言葉が出ずに焦るうち、不器用で天邪鬼な口が先に動いた。
「閉店中です。」
むすっとした感じの嫌な声。嫌な台詞。あたし最悪だ・・・。
ぎょっとした彼は、何か文句を言って帰った。当たり前の反応だ。
この時は諦めかけたけど、網を張ってれば案外チャンスってあるものね。

初対面は最低だったが、入用な本が割りと安く手に入る数少ない古書店だった。
なので、僕は時々店に行った。番台にあの女(ひと)がいない時を選んでたけど。
そんなある日、大学の帰りに寄った時だった。この日のことはよく覚えている。
番台に誰もいないまま、小籠堂は開いていた。ほったらかし・・・。
――仕方ない。本を物色しながら店番してやるか。どうせすぐ戻るだろ。
そう思い、つらつらと本棚を眺めながら、番台の横の椅子に座っていた。
しかし、10分、20分と経っても店員は来ない。
――どうなってんだよ、この店。ったく・・・。
ここまでくれば、と僕も携帯音楽プレーヤーを出して本格的に待機モードに入った。
そうして耳にイヤホンをあてようとしたその時だった。
店の奥、暖簾の向こう。普通の家屋であろう場所から、なにやら呻き声が聞こえた。
「うう・・・」
何かのアクシデントで店に出れなくなったのかも知れない。
そう考えた僕は、とりあえず「御免下さい」と声をかけて暖簾の奥へと入った。
暖簾をくぐると、暗い廊下が続いていて、突き当りで二手に分かれている。
右手は和室なのか、襖が閉まっている。暗い。そして怖い。
なんだか某ホラー映画みたいだな、と思いながら進むと、さらに奥から呻き声が。
――逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ・・・。
真言を唱えながら突きあたりを右へ。窓から光が差す廊下の先に裸電球が見えた。
扉が開け放されている部屋の床に、女の人が倒れている。
思わず「ひっ」と声を漏らすが、勇気を奮い立たせて人命救助に向かった。
94名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 16:23:47 ID:fiOv6hvB
これで終わりです

助け起こすと、以前僕を追い払った女性であることが分かり、さらに萎えてしまった。
とりあえず助け起こし「大丈夫ですか?」と声をかける。
青白い顔で弱々しく呼吸する彼女は、庇護欲をくすぐる愛らしさがあった。
背中をさすってやると、意識を取り戻したのか、少し大きい目がゆっくりと開く。
抱きかかえる僕と目が合った。
「・・・・・・。――ッッ!!」
途端に目をかっと開いた彼女は、かすれた声で聞いてきた。
「な、んで・・・君、いる、の?」
「・・・いや、そのたまたま寄ったら店開いたまま誰もいないし・・・。
それで、誰か来るまで待ってたら、なんだか呻き声が奥から聞こえたから。」
もしかしてなんか疑われてる?と思い、焦って弁解する僕に、彼女はイライラしたように、
首を横に振りながら再び尋ねた。
「ち、がう。はぁ・・・なん、で、君がッ・・今日、店に、来てるの?」
――は?
質問の意味が分からなかった。なぜ僕が今日来ないと思っていたのか。
またも意味不明なことを言われて僕は黙ってしまった。
「だって、君・・この曜日は、いつも・・・来ない、から」
――え?それってもしかして僕が来る日を気にしてたってこと・・・?
あまりの急展開に思考停止した僕を見つめる彼女は、なぜか僕の肩に手を回している。
しかも、なんだか顔がうっすらと紅くなって、嬉しそうなかん、じ・・・?
僕を見つめたまま、彼女はなおもしゃべった。
「でも、はぁ・・そんなこと、どうでも・・いいよね。来てくれて・・ありが、と。
私、こんな、・・優しく、して・・もらったこと、なくて。・・・はぁ、やっぱ運命、
かも・・・。あはは。あと、・・・この前、ごめんね。コホッ」
彼女は言いたいだけ言うと、目を閉じた。
「エェッ?だ、大丈夫ですかっ?!あのッ、ちょっと!」
揺さぶると、彼女は一言「風邪・・・。」と呟いて寝込んでしまった。
確かにひどい高熱だった。その日の僕は店を閉め、彼女を寝かせと、なぜか大活躍だった。
因みに一番の苦労は僕に抱きつく彼女を何とか引き剥がすことだった。
後日、本人から直接話を聞くと、どうやらあの初対面から彼女は僕を好きになったらしい。
もう一度会おうとして、バイトの子に僕の容姿を伝え、何曜日に来るのか分析していたらしい。
夜も寝ずに統計を取った末の知恵熱だと、自慢げに語っていた・・・。
これが馴れ初めになるとはね。やれやれ・・・。
95名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 16:43:50 ID:jmVne1p4
おわるなぁあぁぁあぁぁぁぁっ!!!!!びけぇぇきぇおおおおおおおおぃおおっおおぎゃああああああああああ!!!!!!
96名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 18:16:53 ID:Vg1CJAGb
どちらもGJだけど
どちらも「この続きは?」と聞きたくなる
97小籠堂番台日誌:2009/09/21(月) 18:26:05 ID:fiOv6hvB
>>95-96
レスありがとう
別の話の片手間で書いたやつだからなぁ・・・
日常編と対泥棒猫編はなんとなく頭に浮かんでるけどオチが無い
暇なら頑張るかも
98名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 18:30:35 ID:usymwP8l
いいじゃんこれ
落ちなくてもいいから個人的には続けてほしい
99名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 20:10:11 ID:jmVne1p4
>>97
片手間…?
100名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 23:11:10 ID:9X770mdV
で、ヤンデレなの?
101名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 11:06:21 ID:Zeyd+Yoo
悪戯好きのヤンデレっ娘って保管庫に
いたっけ?
102名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 15:11:52 ID:jaAtah6H
急に人がいなくなったような気が・・・
103名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 18:00:16 ID:99Tuc5Me
過疎ってるな〜
104名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 19:20:41 ID:vlbLAeAo
作家さんもネタ切れ感が否めないな…
105名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 19:43:56 ID:QxWdOU4R
素人レベルで書けるシチュエーションはほぼ出揃っている観があるし
普通に楽しめる作品+ヤンデレ要素みたいのだと相当筆力も要るし
属性もちの住人が展開にうるさいとなれば
(ヒロインがなかなか病まなかったりライバル的な男が少しでもでたりするような、快楽原則に外れたものは批判される)
職人さんは相当書きにくいのは確かだろうなあ
106名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 20:24:50 ID:5+AucLp2
異常な執着、人並み外れた行動力、良心の欠如…
スレのテーマ上、ヒロインの性格がどうしても固定されるからなあ

このスレと属性が被るキモ姉妹スレは、逆に「血縁」という限定条件にいかにバリエーションをつけるか、という意欲があるからなかなか過疎らない気がする
107名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 21:01:57 ID:y1R452bw
人がいないのかこのスレだけじゃないよ。
他の有名なスレも基本投下少なくなっている
108名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 21:02:06 ID:7Y92Gkkb
そもそも過疎って無いだろ
夏が終わったから勢いが落ち着いた、ただそれだけ
109名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 21:02:34 ID:y1R452bw
sage忘れました申し訳ない
110名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 23:49:46 ID:GzsOcZJv
少し投下が無い日が続いただけで過疎だネタ切れだと騒ぐもんじゃない
普通にもっと長期間投下が無いスレだって沢山あるんだぞ
111名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 00:08:09 ID:kz1hnmdq
今現在一番栄えてるスレはどこなんだ?
112名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 00:13:20 ID:gackzFBB
東方スレの勢いは凄い
113名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 01:16:14 ID:W4Pt7dBa
あそこだけは時間がたつのが早いから
114名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 01:20:45 ID:kVi0pApU
王女や貴族の令嬢が騎士を好きになるのは優等な遺伝子(自分)で、
劣った遺伝子(騎士)の子どもを少しはマシにしようという本能が働くから
という記述を見つけまして、感銘を受けました。

これをヤンデレに応用できないかな?
115名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 06:03:32 ID:zIVG+mFR
ヤンデレよりツンデレのほうがしっくりこないか?

姫「感謝しなさい。貴方の子孫が平民上がりだとバカにされないように、私が産んであげるから」

まあ、ツンデレ姫が平民上がりの騎士を好きになったが、騎士は幼なじみの村娘と結婚するつもりでいて姫が病んでいく展開ならありか
116名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 08:58:22 ID:ZynHtabf
>>115
読みたいな
117名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 09:00:11 ID:H51B8ZOK
ヤンデレとツンデレをブレンドすれば何も問題はない
118名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 09:25:26 ID:T4KnPluS
べ、別にあんたのために殺ったわけじゃないんだからねっ!
泥棒猫が気に食わなかっただけなんだから!
で、でも…このままじゃ独り身になったあんたが可哀想よね。
仕方ないから責任とって私が付き合ってあげるわ! 感謝しなさいよっ。
119名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 09:45:49 ID:iXfzyNZC
ツンデレとヤンデレを混ぜると大抵周囲に甚大なダメージが
階段から突き落とされたり、故郷を焼かれたり、脚を切り落とされたり
120名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 10:00:55 ID:eO3xQzA5
>>119
反動というかギャップだよね。
あれはうまく書けるとけっこうイイ
121名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 12:12:09 ID:eO3xQzA5
>>94に付け足し 2レス消費
病み成分が足りないと言われたのでその分だけ補充

あの日、僕は吾妻さんを寝かせた後もお粥を作ったりと世話をしてやった。
そのまま二人で夕食をとり、僕がカップラーメンを、彼女がお粥をすする。
若干薄暗い食卓で、僕らは自己紹介して、連絡先を交換しあった。
彼女の名は籠目吾妻というが、苗字が嫌いらしく、名前で呼ぶように言われた。
彼女が店主であること、両親はもう他界していること、歴史学研究者を目指して諦めたこと・・・。
僕は、自分の人生について淡々と語る彼女にいささかびっくりしてしまった。
正直、「運命」と言われたり、抱きつかれたりで面倒くさいことになったな、とも思う。
でもやっぱり可愛い子からあんな風に甘えられたら、親切したくもなるさ。年上だけど。
さすがに、僕の来る曜日や時間帯、買う本の傾向まで詳細に調べられていたあたりは怖くなったけど。
「だから、ほしい本があったら言って。君の要望にはできるだけ対処するから。だからさ、その・・・。」
「その・・・?」
吾妻さんの目元がかなり赤くなってるけど、これはもう熱のせいだと思いたい。
「その・・・、駅前とか、よその町とかいっぱいあるじゃない。その、要は他の本屋にさ。」
「はい。」
何となく、言いたいことは推測できた。でもそれってすごく面倒くさいんじゃないのか?
「要は、つまり、・・・これからなんだけど。他の本屋行かないで、うち、に、来てくれる?」
「・・・」
やはり、と思わず黙ってしまった。運命云々はマジだったのね。こういうタイプだったとは・・・。
沈黙に耐え切れなくなったのか、吾妻さんは身を乗り出して会話を続行した。
「あ、あは、あははは、や、やだ、年下相手にあたし何言っちゃってんだろ。い、今のなし。ね?
忘れちゃっていいから。ね?黙んないでよね?あは、ははは。」
自嘲してみせるが、微妙に目だけ笑えてないのが痛々しく、僕はつい乗ってしまった。
僕の悪い癖で、どんな悪い状況にもあっさり靡いてしまうのだ。
でも、いま思えばこの時ばかりは僕の太鼓持ちも悪くなかったと思う。
「年下は関係ないし、ここだけっていうわけにはいきませんけど、いいですよ。僕、今日から極力
この店をひいきにします。古本屋の中でもけっこう好きな方でしたし。」
ここだけとはいかない、と聞いた吾妻さんの目が一瞬、般若に見えた気がしたけど、後半部分を聞いて
からの反応は、驚くやら喜ぶやらメチャクチャだった。
「ほ、ほほほほ、ほんと?ホントにうちばっかり来てくれるの?じゃ、じゃあ駅前の丸山書店とか、」
「あそこは古本の割りに高いから行きません。」
「じゃあじゃあ、隣町のブック・オブとかは?ブックセンタ・さいとうとかは・・・?」
「基本、マンガ以外の古本はここだけにします。」
「マンガと新刊は違う店、行っちゃうんだ・・・?」
「ここだけっていうわけにはいきません、て言ったでしょ。でも僕、あんまり新刊買わないし。」
どこの本屋に僕が行くかで一喜一憂した末、彼女は突如、机をドン!と叩いた。
今でもよく覚えているが、目が完全に据わってたよ、アレ。
122名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 12:18:11 ID:eO3xQzA5
>>121つづき これでほんとにおわり

「わかった!」
「な、なにがですか。びっくりさせないで下さい。」
驚いてみせると、彼女はニヘラとしてしなだれかかってきた。吐息がかかって不覚にも興奮したが、
あれが原因で後日、風邪を引いてしまったのだった。そのときもあれやこれやあったなぁ。
「えへへ。わかった。わかってしまった。」
「だから、何がわかったんですか。」
半ば呆れ顔で聞くと、彼女はまるで名探偵が犯人のミスを指摘するかのようにして、ビシッと
僕の顔を人差し指で指した。
「簡単なことだよ、ワトスンくん。私と君で新刊を買いあえばよいのだ!で、二人で読もッ。」
もちろん、読む場所はここだけだよ。と得意顔で付け足した。
あ〜、今思い出しても、頭痛くなってきたよ・・・。
「・・・。まず、僕の名前はワトスンでなく、牧目修です。それと、結局他の書店で買うならわざわざ
ここで読んでも一緒じゃないですか。というかそもそも僕はあなたと・・・。」
ああ、この時、僕は空気を読みはずしていた。というか吾妻さんのキャラがまだ掴めてなかった。
吾妻さんは僕の反論を遮って再び机を叩いた、というか殴りつけた。
ドゴッ、という音が響く。拳がカタカタと震えていた。
「だだだだからね、たた確かにそうなんけどね。いいかな?いいよね。きき君が新刊はべべべ別だって
言うから、私、精一杯譲歩したんだよ?読むだけで我慢したんだよ?それでも駄目?駄目なの?」
顔は笑顔のようだけど、唇は引きつってるし、なにより目が怖すぎる。
強烈な威圧感の前に僕はあっさりと白旗をあげてしまった。
「うん、同じじゃないです。ここで読むほうがいいです。ていうか今度からなるべくここで読書すること
にするよ。ね。そうするから。吾妻さんもそうしよう。」
そういうと、彼女のわなわなしていた肩がピタリと止まった。そして一言。
「・・・ホント?」
この時の、申し訳なさそうに上目遣いで見る吾妻さんの可愛さは凶悪だった。
なんというか、例えるなら犬のパピヨンとかポメラニアンみたいな。年上なんだけど。
「ホントです。そうしましょう。」
断言すると、彼女はまたしなだれかかってきた。そしてとんでもないことをふっかけたのだ。
「ねぇねぇ。それってさ。告白と受け取っていいかな〜」
「ぇぇえッ?ちょ、ちょっと待った。いつからそんな話になったんですか?あと、いつまでも引っ付かな
いで下さい!風邪がうつるじゃないですか。」
「風邪?なんならこの家で一緒に寝込んじゃおうよ。そしたら私が看病してあげるからさ。そ、れ、に。」
告白云々への反論は無視されたうえ、それに、と意味ありげに彼女は微笑んだ。
もちろん、この時点で、すでに僕はもう色々と諦めてしまった。
「・・・それに、なんですか?」
「寝込んでる君の代わりに君の家に行けば色々しらべられるしねー。統計の厚みが足りないと思ってたんだ。」
恋人なんだから、全部知り尽くすのは当然だよね。と吾妻さんはまた、ニヘラと笑うのだった。
僕が熱を出したのは小籠堂から帰宅した2日後だったが、結局、看病という名の家探しをされてしまう。
これが、僕こと牧目修と、籠目吾妻の出会いというか強行馴れ初め詳細編、です。
123名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 12:22:54 ID:u5jhVxBl
リアルタイム乙。彼女が風邪で病んでるってのはわかった

で、ヤンデレなのか?
124名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 12:30:15 ID:pwCePVkH
十分病んでると思うんだけど。それにまだ話続くんだしいちいち揚げ足とらなくても…。
とりあえず作者さん乙でした。
125名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 13:39:47 ID:30Rh3b1R
超能力者ヤンデレに追い掛けられる夢を見た。逃げようとしても身体が動かなくて逆に引き寄せられて捕まってしまった。
126名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 14:46:31 ID:A4wpA70O
女の子には超感応能力(テレパシー)があり…考えていた別の女の事がバレ…と言う訳ですな。
127名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 15:16:29 ID:TJ1XKfmZ
テレパシーはベタな部分もあるしヤンデレというかサイコホラーになりかねんよ。
相手の思考がだだ漏れよりサイコメトリーとか念写能力の方がよくね?

サイコメトリーだと特に液体の方が思念が残ることが多いとも聞くから彼氏が飲んだ
コーヒーやお茶や彼氏が入浴した風呂の水などからその前後の行動がチラっと
見えたりってのがヤンデレ側の想像力を書き立てそうだよ。
念写ならその日一日の彼氏の行動を写真に念写するヤンデレな彼女とか。

128名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 16:46:38 ID:7rosULBB
>>114
前後の文脈が分からないからなんともいえないが、生物学的に考えてその説には賛成しかねるなあ
不利な形質を取り込もうとする理由がない。優れた遺伝子とするならば、優れた遺伝子側にメリットが無い
本当にその働きが存在するとなればそれは利他的行動だが、血縁選択説に当てはまらない
騎士は身体能力的に優れた遺伝子だからそれを本能的に欲するということならば分かるが
129名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 16:57:32 ID:JRDtu+Vm
>>127
男君が外出するたびにいちいち数万円もするカメラを叩き壊さなきゃならんのね
130名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 18:12:37 ID:jboNytKO
>>128
ヤンデレ小説スレでなんで生物学を語ってるのかは知らんけど――
>>114が言ってるのは、単純に『遺伝子』→『血統』の記憶違いじゃないか?
ちょうどすぐ下の>>115の記述的な感じで。
131名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 18:52:11 ID:IiDxymrv
>>128
遺伝学的に自分とより異なった遺伝子を持つ男性に惹かれ易いというのは科学的証拠が挙がってるよね
つまりかけ離れているがゆえに優れた血統がそれに劣る血統に惹かれるということはありうるわけだ
132名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 20:13:00 ID:fnjtgfgL
そうなんだー。
133名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 20:50:22 ID:7rosULBB
>>131
王侯貴族の血統が遺伝的に優れた血統とは限らないし、それに遺伝子が自分より遠いほど惹かれるっていうのに科学的証拠っていうほどはっきりした証拠あったか?
免疫系をコードしている遺伝子が遠いと惹かれやすいと聞いたこともあるが、その情報の送受信のプロセスが解明されていないことには科学的とは言いにくい
ちゃんとした学術雑誌に載っているような話じゃないと信用できない
単に俺が知らないだけかも試練が。まあスレチスマソ


ただ、身分差はありだな
特に相手が貴族や王族だったりすると、娘はまず間違いなく政略結婚の道具にされるし
134名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 20:57:16 ID:55nRoHIj
>>133
まぁ王侯貴族は血を濃くしやすい(天皇やハプスブルク)
そして血がこゆいと先天的遺伝子欠陥ができやすいけど代わりにとんでもない化け物が生まれやすくもあるからな
そういう意味では長い間血を重ねた王侯貴族の血統は優れているとも劣っているともいえる
135名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 21:10:40 ID:IiDxymrv
>>133
ツッコミどころが多くて長くなるから科学的な部分は自分で調べてくれ。
俺は王族は優れた血統なんていってないよ。
>>128で優れた・劣ったの話を出してたからその話に乗っただけ。

136名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 21:44:05 ID:5KhesYGp
遺伝子が異なっているほど自分に欠けた能力を補うことができるからなぁ
必要な能力によって遺伝子の価値は逆転するから遺伝子に優劣はつきにくいよ
137名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 01:11:27 ID:UnEa1bm8
その話はヤンデレと関係ないよ、やめようね
あとここは子供が来てはいけない所だよ
138名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 01:34:16 ID:GmIJL/x0
ヤンデレエスパーの話かと思ったら何時の間にか優生学の話になっていた
な、何を言っているのか(ry
139名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 05:33:21 ID:pQ8CxTNY
生物や薬学にやけに詳しい彼女は要チェックだ!理系っ娘って可愛いよな。
研究者系彼女が病んでしまったかどうかのポイント。
1.何かが入ってそうな食べ物を渡してくる。
2.やたらマーキング行動や求愛行動を実演してくれる。
3.心不全や急性アルコール中毒等でお亡くなりになられた方が周囲にいる。
4.他の女との食事は絶対に許して貰えない。
5. 日頃の生活が細部にわたってデータ化されて収集されている。
6.よく効くお薬を自作してくれる事があるが、彼女に対して強烈な性欲を覚えてしまう。
 
140名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 08:33:52 ID:GmIJL/x0
>>139
2.マーキング行動って具体的にどんなのなんだ?
犬がやるような匂い付けみたいなもの?

141名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 09:50:50 ID:GmIJL/x0
オタクな主人公がヤンデレに好かれるとどーなるんだろ?
俺はメイド(和装含む)さんが大好きなアレゲなオタだけどヤンデレ娘も
コスプレするのだろうか。
142名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 11:24:54 ID:JMbtQCfp
好きに妄想してくれよ
143名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 12:30:09 ID:wOJZ7dM5
>>141
男君の好みならばコスプレぐらい余裕でやるでしょ
144名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 16:15:36 ID:pQ8CxTNY
>>140
動物の場合は臭い付け、人間の場合はキスマークでも有効。
具体的には唾液や汗を付けたりキスマークを首筋に…
 
145名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 19:05:41 ID:i5ew9Zh+
ヤンデレマーキング
・一晩中抱きついて自分の匂い(コロン、体臭)をつける
・キスマークを首筋につける。もしくは腕や足を噛んで歯形傷をつける
・油性マジックで男の見えない体の部分(尻、腰など)に自分の名前、相合い傘などを書く
・唾液、愛液を体の下半身につけておく
・タトゥー、入れ墨、もしくは鉛筆、コンパスで男の背中か肩に自分の名前を彫る

究極のヤンデレマーキング・男の脳に自分を刻みこむ(調教、洗脳で)
146名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 20:16:48 ID:UMfIcGll
>>142
そしてその妄想を投下してくれよ
147名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 00:36:17 ID:uMsb137r
A「ヤンデレはどうして男を好きになったんだ?」
B「それは難しい問題だ」
A「そんなの分かってる」
B「誰にも分からないだろう。神のみぞ知る問題だ」
A「神なんているのかよ?」
B「ああ、神は絶対にいるよ。ただ、ヤンデレが生まれたことにしろ
ヤンデレが男を好きになったことにしろ、きっと神の予定に入ってなかった。
それは確かだ、神は驚いたと思うよ」
148名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 13:17:30 ID:xcAp8Yi9
職人光臨マダー?
149名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 15:43:50 ID:621NIGAq
マダー
150名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 17:22:01 ID:YQC5aA2h
てかぽけ黒終わったな
151名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 18:39:30 ID:TxDyg1nf
次はポケモン白の始まりだな
152名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 18:40:41 ID:+RGWXtCv
いや、白はどうかと(^^;)
153名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 18:47:38 ID:TxDyg1nf
>>152
白ダメ?
真っ白い心のポケモンしかいないの。
主人公が始めに植え付けた心の……?なんだおまyなにをっ――!!!やめッ!?










ヤッパリクロデオネガイシマス
154名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 00:49:51 ID:VF3v1kYA
このスレも空気が大分変わりましたね
何と言うか、ゆとってんなぁ
155名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 01:04:31 ID:gDhvVcK4
なんかもうゆとりって無条件で見下したい時の便利言葉だよね
156名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 01:04:47 ID:+7bRzqe2
ボケモンスレにでも帰れよ
157名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 08:11:50 ID:17nEWtKA
>>154
ここは既に雑談したいが為に作品を投下できなくする奴らしかいない。とっとと新天地に移った方がいいぞ
158名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 08:33:20 ID:FJd+uW2S
投下があれば空気も変わると思うけど……
159名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 10:58:52 ID:495y0P+x
まぁ、投下がなければ雑談が多くなるのはしかたないけどね。
160名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 20:52:11 ID:Lvk3qE9W
逆に全くスレが伸びなくても投下し辛いかもだからいいんでね?
161名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 21:30:06 ID:p1Dl4JFi
え?ぽけもん黒ってどっかに投下されてんの?
162名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 22:15:34 ID:FyTF8Hjg
ヤンデレ家族まだ?
163名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 22:52:42 ID:jEtBsjy+
ポケ白
寧ろポケモン達は普通の子でトレーナーがヤンデレとか…
ダメか
164名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 23:37:29 ID:xw6HDDEe
どの位まで病んでいいのかなぁ
犯罪レベルはOKでしょうか?
165名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 23:40:16 ID:VrJkzump
いいよ!
166名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 23:48:32 ID:BujMOzYL
犯罪どころか世界征服でもおkだ

だから書くのだ!
いい加減ポケ厨を黙らせるのだ!
167名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 23:50:58 ID:xw6HDDEe
ここは久しぶりだけど書いてみます。
アドバイスサンクスです。
以前書いた完結していない自分の作品に、完結が付いていたのは苦笑しました。
168名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 01:11:06 ID:9awRW9Ds
すまんがこれだけ教えてくれ
ぽけもん黒は他のところに投下されて完結したのか?
169名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 01:14:33 ID:qgJ7US9s
してない
170名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 01:20:43 ID:gspyVOQv
「ヤンデレに会社勤めは無理にござるな」
「立身出世などは考えておりますまい
彼女の胸にあるのはただ ドロ猫さんを討つ
それのみ」
「ドロ猫か
あれは男殿のお気に入りゆえ 無事でいられるかどうか」
171名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 01:47:09 ID:cv6QVGKR
>>167
変身少女か!
172名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 02:00:46 ID:PmjI3MNB
投下か。楽しみだな。
173名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 07:27:04 ID:9lApKnkD
ヤンデレ家族はマダガスカル?
174名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 12:26:09 ID:HBuHtCe1
催促多過ぎ
テンプレに過度な催促禁止とか載るのは情けなさ過ぎる
本当に勘弁してくれ
175そして転職へ  9:2009/09/27(日) 13:07:02 ID:+Zb+9Sog
投下します。
176そして転職へ  9:2009/09/27(日) 13:08:02 ID:+Zb+9Sog

みなさん、はじめまして。
ぼくのなまえは『めたるすらいむ』っていいます。
ひらがなだけでよみにくい?がまんしてください。
いっしょうけんめいにんげんのことばをおぼえたんです。
さて、ぼくはいまとあるまちのちかくにいます。
めのまえにおんなのこがいます。
ないています。
ぼくをみつけました。
とびかかってきました。
ぼくはつかまりました。
だれかたすけてください。

泣いていた女の子…すなわち盗賊くんは教会の階段を三段跳びで駆け上がり、
勇者(とお邪魔虫S)の病室へと一目散に駆け込んだ。
バタンと開かれるドアと、盗賊くんのうれしそうな声。

「見て、勇者!銀色の珍しい魔物だ!メタルというぐらいだから売れば
高くなるんじゃないかな?私が見つけてきたんだ。この前のパイルドライバー
の一件はこれで償わせてくれ!…な…。」

目の前に立ちふさがった不都合な現実が、盗賊くんの口をふさいだ。
真っ白なシーツに広がる、真紅の花。…血?
憎きお邪魔虫がベッドに横たわり、勇者が上に荒い息をして覆いかぶさっていた。
二人とも着衣は乱れ、さっきまで行われていたであろう行為の激しさを
容易に想像できる。
ぽたり。両眼からにじみ出た滴が頬を伝わり、木目の浮き出た床に
またひとつ、またひとつと落ちていく。
盗賊くんの心の中には、どこかしら楽観的な自分がいた。
勇者と私は、たとえ勇者が表にださなくても…お互い尊重しあい、助け合い、
何より愛しあえるなかだと。
なのに…。
目の前の光景は…。

「勇者…信じてたのに…あんまりだよぅ…うぇ…うええええええええええん!」
177そして転職へ  9:2009/09/27(日) 13:09:51 ID:+Zb+9Sog
「風邪にはリンゴです。」

僧侶ちゃんが突然切り出してきた。

「リンゴは医者いらずの果物です。風邪ひき勇者さんにはリンゴしかないはずです。
ですから私が剥いて差し上げます…その…ウサギ風に。」

僧侶ちゃんは自分の枕元に置いてあった果物かごからリンゴをひとつ取り出し、
傍らの椅子の上から聖なるナイフを取り出した。
自分の傷も癒えていないのに、痛くないのだろうか?
質問しようとして…僕はやめた。彼女に背を向け横になる。
今、僧侶ちゃんと会話をするのが怖い。今まで付き合ってきたがこんな風に
感じたことなどただの一度もなかったのだ。
鼻歌を歌いながらリンゴの皮をむく僧侶ちゃん。部屋にはその音しか響かない。
さくっ。

「いた!」

聞き捨てならない音と声に僕が飛び起きる。隣の彼女は若干涙目になり
指先を見てめていた。赤い筋がスウと走り、そこから血の線がみるみる
伸びていく。
彼女の隣にはもっと悲惨なものがあった。リンゴのぶつ切りがそこにある。
…僧侶ちゃん?さっき君は皮を剥くと言ってなかった?何コレ。
これでどうやってウサギにするの?皮と一緒にウサギへの進化の過程まで
きれいさっぱりそぎ落とされているんですけど。

「…見たな。」

僧侶ちゃんの背後に人魂が揺らめきだす。顔に黒の縦線が入り、
目から輝きが消える。

「…僧侶ちゃん。もしかしてキミ…。」

「…勇者さん。料理ができない女の子ってお嫌いですか?」

「へ?」

「私…料理なんてしたこと無いんです。」

何…だと…。

「…でも、私へこたれません!勇者さんは私がいないと駄目なんです!
私の料理がないと四六時中おなかペコペコでいなくてはなりません!
そういうことで…私はこのリンゴを攻略して見せます!」

小さく拳を握りしめる僧侶ちゃん。その横にいる僕の顔は蒼白だ。
料理下手な幼馴染は小説や娯楽本のネタにはなるかもしれないが、
実際それを食べさせられる身としては心底恐ろしい。

「あ…そうだぁ。勇者さん。これからは私が毎日ご飯を作って差し上げます。
…私以外の人が作った料理…絶対に食べてはいけませんからね。
勇者さんのおなかは、私の気持ちがいっぱい詰まった料理でしか満たせないんです。
約束ですよ…?フフフ…痛っ!」

目の前で調理されていくのは、僧侶ちゃんの創作料理『ブラッディ・りんご』。
ざく切りにされ、芯しか残っていないようなリンゴを処女の血で優しく
デコレートいたしました…。みたいな?

「喰えるかー!」
178そして転職へ  9:2009/09/27(日) 13:11:24 ID:+Zb+9Sog
僕は熱で朦朧とする頭もなんのそので絶叫する。彼女に対して負い目を感じている
のは事実。道中は言うことを聞こう。只、食べ物を粗末にするのは堪忍できない!

「ナイフを貸しなさい僧侶ちゃん!僕がリンゴ剥いてあげるから!」

「嫌!勇者さんは私がいないと何もできない人でいるんです!私が勇者さんを
一生支え続けるんです!勇者さんは私から離れられない人になるんです!
それなのにここでリンゴの皮むきから教わったりしたら…私の立場が!
駄目ったら駄目!らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

僕は抵抗する僧侶ちゃんに覆いかぶさり、ナイフを奪おうとする。
僧侶ちゃんは僕に必死で抵抗する。第三者の目から見ればバカなことを
やっているが、それぞれ熱と興奮で冷静な判断がつかないでいるのだ。
着衣は乱れ、互いの顔には汗の玉が浮かび、呼吸は自然と荒くなる。
やっとのことで僕が彼女の手からナイフを取り戻したその時…。

ガチャ!

「見て、勇者!銀色の珍しい魔物だ!メタルというぐらいだから売れば
高くなるんじゃないかな?私が見つけてきたんだ。この前のパイルドライバー
の一件はこれで償わせてくれ!…な…。」

盗賊くんが入ってきた。


僕ら一行の間の悪さは言い表すのも億劫なほどのものだ。このタイミングでは
僕と僧侶ちゃんの関係を誤解されても仕方がない。
しかし、このまるで神にでも嫌われているかのようなタイミングは
一体何だというのだろうか?
部屋に入ってきた盗賊くんは、顔面蒼白で唇をわなわなとふるわせている。

「勇者…信じてたのに…あんまりだよぅ…うぇ…うええええええええええん!」

「ちょ…違うんだ盗賊くん!誤解なんだよ!」

「クスッ。とことん無粋な方なのですね。…雌犬。」

かすかな笑い声とともに聞こえてきた僧侶ちゃんの言葉。僕は信じられない
気持で。彼女の方を見た。
…ああ、やっぱり違う。昔静かな湖畔で見せてくれたあの優しそうな
笑みは見当たらない。
他の人にはわからないであろう幽かな笑い方の違い。それが僕にはよりつらく感じられる。
一緒に変わらぬまま過ごしてきた分、彼女が少しでも変化していることに
言いようのない恐怖心が心にわき起こるから。

「見ての通り、勇者さんと私は結ばれました。折角ですから祝福して
いただけませんか?」
179そして転職へ  9:2009/09/27(日) 13:12:17 ID:+Zb+9Sog
「な…!僧侶ちゃん!嘘も大概に…。」

僕が僧侶ちゃんを叱ろうとした時、僧侶ちゃんと僕の目が合った。
黒い瞳が不気味な光を放つ。
ダメデスヨ、ユウシャサン。ワタシニサカラッテハ。
僕の唇が見えない力によって麻痺させられたように力を失った。

「処女の血で汚されたシーツ、乱れた着衣…これ以上の説明は不要でしょう?
私と勇者さんの愛の営みを祝福するつもりがないならお引き取り下さい。」

状況はあっているよ!だけど描写が間違っているでしょ!
処女の血って…処女が流した血ってことでしょうが!大体僕ズボン履いたままだし!
盗賊くん、気づいてよ!これは僕のアホな幼馴染がリンゴの皮むきで自爆した
だけの産物であって…。

「勇者!ゆうしゃゆうしゃ…わああああああああああああん!」

ただその場で駄々をこねる子供のように泣きじゃくる盗賊くん。
よほどの興奮状態なのか、僕の話が耳に入っていない。
そして、とうとう堪え切れなくなったのだろうか?抱えていた銀の
物体を放り出し、走り去っていってしまった。

「…僧侶ちゃん。後で盗賊くんに謝ろう。」

「どうしてです?すこしからかっただけではありませんか。」

「駄目だよ!彼女が傷ついているのは分かっているだろう?
盗賊くんはデリケートなんだから、少々の悪戯でも深く傷つくこともあるでしょ?
大体、なんでそんなに盗賊くんを嫌うのさ!?」

「盗賊だからです。私から大切なものを奪おうとするからです。」

「あんなにまで酷いからかい方をしてまで僧侶ちゃんが守りたいものって何!?
仲間より大事なものって何なのさ!?」

「…ここまで鈍い人だとは、正直考えていませんでした。まあ、可愛いですけど。」

「…?」

僕が言葉の意味を理解できず、悩んでいると。
180そして転職へ  9:2009/09/27(日) 13:13:25 ID:+Zb+9Sog
「勇者ク〜ン。薬買ってきたよ。」

魔法使いさんだ。僕を視界におさめるとにこりと微笑んでくれる。
その笑みに少し荒んでいた心が柔らかくなるが、なんだろう?
少し僕を見る目が以前と違う気がする。何か熱を持っているような…。
僧侶ちゃんが僕の袖を引く。『デレデレするな』?分かったよ。

「ありゃりゃ?どうしたのこの状況。」

僕はふてくされたような表情を浮かべる僧侶ちゃんを視界に入れながら
状況を詳しく説明した。

「なるほど。じゃあ、アタシが連れ戻してくるから二人とも寝てて。
…勇者クン。本当に間違いを犯しちゃだめだぞ!」

いたずらなスマイルを残し再び出ていく魔法使いさん。癒される〜。

「うわぁ。すごくびじんなひとですね。」

…誰?

僕と僧侶ちゃんは顔を見合わせる。子供のような少し高めの声だ。

「ここですよ、ここ。」

メ…メタルスライム!?

「はじめまして。ぼくはめたるすら…うわ!やめて!こうげきしないで!
うひゃああああああ!?」

僕の中に眠る冒険者としての本能が呼びさまされる。この世界で生きる者は
どうもこの魔物に対しては情けが無くなるのだ。こいつを倒せば僕は
冒険者として高みに…。

「めっせんじゃー!ぼくはゆうしゃさんへのめっせんじゃーです!」
181そして転職へ  9:2009/09/27(日) 13:14:25 ID:+Zb+9Sog
「ゆうしゃ…私は、お前のことが…。」

町から離れた森の一角。古びた切り株の上に腰を下ろし、盗賊くんは独り
犬のぬいぐるみを抱きしめていた。

「…好きだ。今も、好きだ。」

しまっていた気持ちを言の葉に紡ぐ。森の中を涼しい風が音をたてて
通り過ぎていく。
盗賊くんが旅をする理由。それは勇者。ただそれだけ。
だから、どんな危険な旅でも恐れない。

「私は盗賊。盗み出すのが仕事。…ならば…!」

勇者のいる教会の方角に強いまなざしを向ける。そして…。

「出て来い。いるのは分かっている。」

盗賊くんが、一本の大木に向けて言い放った。

「先ほどから私の様子を観察していたな?何者だ貴様。姿を見せろ!」

ナイフを抜き、構える盗賊くん。油断のない構えが見えない敵を見据える。
盗賊くんの左足が地を蹴ったと思うと、次の瞬間には盗賊くんは大木の
すぐ近くに迫っていた。
まったくの無音で間合いを詰めたのち、素早く大木の後ろ…敵のいる
方面へ回り込み、ナイフで一閃する。
しかし、その刃が大木の裏に潜んでいた影に届くことはなかった。
影の呪文の詠唱が響き、盗賊くんへ炸裂する。

「この呪文は…!なぜお前が!?」

森の中、盗賊くんの悲鳴が響きわたり…やがて静かな森に戻った。
182そして転職へ  9:2009/09/27(日) 13:15:34 ID:+Zb+9Sog
ベッドに腰掛け、僕は眼を丸くしてスライムの話に聞き入っていた。

「船を出してくれる?次の町で?」

スライムはうなずく。
山に囲まれた地形に位置するダーマ。その近くの山の麓にある海洋貿易国
ポルトガ。造船業の町から始まり、恵まれた海洋資源を利用して
たった数代で有数の超大国になった国だ。
ここに着けばダーマの神殿は目と鼻の先。
話によると、その国の近くで最近名をあげている謎の盗賊『カンダタ』が
勇者の僕に会って直接話がしたいというのだ。
スライムはその話を僕に持ってきてくれたらしい。
次の町から出ている船を手配したので、いそいでポルトガまで向かってくれ
ということなのだ。

「聞いたことがあります。素顔を見せぬ謎の盗賊…。おそろしく強く、
あくどい商人から奪った金品を貧しい方達に配り歩く義賊…。
そんな人がなぜ勇者さんに…?」

理由は分からない。何かの罠かもしれないが、メタルスライムを
メッセンジャーに起用するあたりが罠にしては手が込みすぎている。
一流の魔物使いでない限り、このような真似はできないだろう。

「分かった。僕たちはポルトガに向かう。…それでいいですか、僧侶ちゃん。」

「ええ、結構です。」

にこりと僧侶ちゃんは笑った。



「起きて、盗賊クン。おきなさ〜い!」

盗賊くんの目が開く。魔法使いさんが傍らに座り、ほほを軽くたたいている。

「よかった起きて。倒れているのを見つけたんだ。気分どう?」

「魔法使い…?私は何を…ウッ!?」

頭が割れるように痛む。自分が何をしていたのかさっぱり思い出せない。
加えて、頭の中にかすかだが変な声が響くのだ。

「う…ううううううう。頭が割れる…。」

「ありゃりゃ。どうしたの?誰にやられたの?」

「ううう?やられた?私が…か?」

駄目だ。さっぱり思い出せない。頭が痛い。自我を保てない。自分が自分で
無くなるかのようだ。

「…大丈夫だよ盗賊クン。外傷はないみたいだし、一日休めば楽になるかもよ?
勇者クンも僧侶チャンもまだ調子戻らないし。おぶってあげるから
帰りましょ。」

崩れ落ちるように魔法使いさんの背に体を預ける盗賊くん。

「…ゆうしゃ…わたしは…。」

ぽつりと言葉を残すと、盗賊くんの意識は闇に落ちた。
183そして転職へ  9:2009/09/27(日) 13:16:44 ID:+Zb+9Sog

それとほほ時を同じくして、ここはとある山に隠された洞窟。
国が急発展するとともに増えた盗賊たちをとらえるための牢獄だったところだ。
もう国はこの牢獄を放棄したが、ここは今も使われている…魔物の
住処として、そして盗賊団のアジトとして。

ぐおおおおおおおおおおおおおお!

雄たけびをあげて、オオカミ型の魔物が牙をむき出しながら人影に向かい
飛びかかっていく。
後を追うようにたくさんの同種の魔物が一斉に襲い掛かる。
彼らの凶暴な攻撃は、城の兵士の鋼の防備もものともせぬほど強力だ。
加えてこの大軍。標的の運命はきまったようなものだったが…。

「地獄のいかずち。」

なにやら聞いたような単語を人影が口にし、呪文を唱えると紫色の
稲妻が魔物の群れを蹴散らしていく。
肉が焦げる音が辺りに広がっていく中、ひとつ目の巨人が人影の
後ろに回り込み、何もかも粉砕する大棍棒を振り上げ、その
脳天をカチ割ろうと…。

「うりゃ。」

横なぎの一閃。剣というより斧の形状をしたソレはまるで熱した
ナイフでバターを切るように巨人の胴体を割った。
人骨のような黄ばんだ白身の武器、その武器には赤く眼を光らせる
髑髏が笑っている。
そしてそれを軽々と扱う人影…男は、年の程四〇前後といったところだろうか。
精悍な顔だちをしているが、口元は無精ひげでおおわれどこか荒々しさを
感じさせる風貌だ。くわえて男の体にはひどいやけどの跡がある。

「うーい。アジトの大掃除、終わり。」

ぽつりと男はつぶやくと、無造作に剣を投げ捨てる。
管理しておく必要はない。この男以外世の中でこの剣を扱える人間は
いないのだから、盗まれる心配はないのだ。

「…早くこねえかな、アイツ。もうそろそろメッセージが届いているころだろ。」

ぽつりとつぶやいた男の眼には、どこか暖かい光があった。
184そして転職へ  9:2009/09/27(日) 13:18:09 ID:+Zb+9Sog
以上です。このまま完結にむけ書いていきます。
185名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 14:17:41 ID:A/KDAEfA
GJ
186名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 14:27:55 ID:KRld4bVf
GJ
これだけの勢いで完結に向かったのは久々な気がする
187名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 14:38:36 ID:gNHaRQxf
>>184
お久しぶり&GJ!
僧侶がエグイのか可愛いのか、わかんないぜ……
そしてさりげに、3人とも程よく病んできたなあ……
次回を楽しみにしています。
188名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 15:31:35 ID:bbTplTuG
GJ!続き楽しみにしてるよ〜
189名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 23:19:34 ID:gspyVOQv
4年来使っていたパソコンを買い換えた。
もはやいらなくなったディスプレイを運んでいる最中、
ふとした弾みで床に置いた新しいキーボードの上に落下して、キーボードが真っ二つ。
パソコンも病んで新しい泥棒猫に牙をむくもんだと思い知った。
190名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 23:40:59 ID:h76lhgMb
なるほど古いパソコンのキーボードが新しいパソコンに一目惚れ
下僕のディスプレイに命じて恋敵のキーボードを壊させて、

自分は newディスプレイとうまうまという修羅場情況ですね。

機械間にもヤンデレが普及しているなんて…
そういや最近、俺のノートの調子が悪いのもこの派閥争いが原因!?


191Cinderella & Cendrillon 4:2009/09/27(日) 23:54:49 ID:WLAf6iMa
あれ? ここはどこなの? 最後は680だったはずなんだけど?

と、いうわけで真に申し訳ありません新型インフルってました。
しかも終わったと思ったら続けて39度の高熱に襲われ昇天してました。

季節の変わり目ですので皆さんもお体には十分気をつけて下さい。
それでは投下します。
192Cinderella & Cendrillon 4:2009/09/27(日) 23:55:41 ID:WLAf6iMa
〜依音side〜


「という夢を見たんだ」

はい、嘘です、ズビバゼン。
しかし目が覚めての第一声がこれとは……おれは順調に人間という階段を下って行ってるようだ。
さて、冗談は置いといて何をしようかな……

 たたかう
 ぼうぎょ
 まほう
 どうぐ
 にげる
≫……しらべる

何と戦うの!? そしてなんで調べるの扱いがそんなにひどいの!?
……ホントに大丈夫かな……いや…選択はあってるけどさ……
とりあえず天井は白一色、右には窓、左には花瓶と洗面台。
まごうことなき病院ですね、わかります。
しかもこの広さで仕切りのカーテンがないってことは一人部屋!?
我が家にそんな金があったのか……初耳だぞオイ。
まぁここまで元気なら問題ないだろ、ちょっくら部屋の外みてくるか。
…っと、あり?

えねは ひだりうでが なかった !!

だからなんでそんなにゲーム設定にしたがるの!? そろそろついていけねぇよ!
そんで今シリアスなところだから空気読んで!? 今おれの左腕の存在がとてつもなく空気だから!

……よし、整理しよう。
まずここは病院、しかも一人部屋、うんおk。
そして俺の左腕が肩からない、うんおk。
それ以外は包帯やらガーゼやら絆創膏やらついてるけど一応無事、うんおk。

えねは めのまえが まっくらに なった

空気読めやぁぁぁぁぁぁあああ!!
てめぇ最近バッジ16個とったからって調子乗ってんなよ!?
ミミロルがミミロップになってメッチャ可愛いからって調子乗んなよ!?

…ハァ…ハァ…なぜ疲れたし……
まぁ、全然よくないけど…とりあえず出よう……
と、ベッドから起き上がり、扉を開けようと手を伸ばしたところで扉が開いた。
扉の先には眼の下にクマを作ったさきねぇ、おれはいつもの癖で声をかけた。
「おはよう、さきねぇ」
「えっ……あ、うん…おはよう……えね……」
めずらしく歯切れが悪い、どうしたんだろうか?
「どうしたの、さきねぇ?」
「……うっ、うぇ…うぇぇぇええ」
泣いた!? おれが悪いの!? ちょ、抱きついてこないで!? さきねぇの身長で普通に抱きついたr
「お、落ち着いて! さきねぇ! 息が、いきができないかr」
193Cinderella & Cendrillon 4:2009/09/27(日) 23:56:14 ID:WLAf6iMa
〜10分後〜

「……落ち着いた?」
「………うん………」
さきねぇをベッドに腰かけさせて、自分は来客用の椅子に座る。
「どうしたの? いきなり泣き出して。」
おれが10分間に3回も窒息しかけた理由は何なのだろう、しかし……
座ったままうつむき黙りこくるさきねぇ……か、かわええ!
「……ねが……と………から……」
「え?」
しまった、さきねぇに見とれてた。
「…えねが私のこと嫌いになったと思ったから…」
反射的におれはさきねぇを抱きしめていた、右腕だけで。
悲しげなさきねぇの顔を見たら、なぜかそうしなきゃいけないと思ったんだ。
「おれがさきねぇのこと嫌いになるわけないじゃん! なんでそんなこと思ったんだよ!」
さきねぇは今はもうないおれの左腕の付け根を撫で……
「……だって、えねの左腕がなくなったの、私の所為だもの……」
そんなことで……そんなことでおれがさきねぇを嫌いになると思ってるのか……
「そんなことない、そりゃなんともないって言ったら嘘になるけど、こんなことでおれがさきねぇを嫌いになることは、絶対ない。」
それだけは絶対言える、嘘じゃない。
「本当? 本当にえねは私のこと嫌いにならない?」
「うん、本当だよ、約束したっていい。」
「………そう……」
直後、おれの唇はさきねぇのそれで塞がれていた。
さきねぇの舌がおれの唇を割って入ってくる。
歯ぐきをなぞり、歯を舐め、舌を舌で舐めまわされた。
呆気にとられてるおれにさきねぇは言った、ゆっくりと、一文字一文字を確かめるように。
「好きよ、大好き、愛してるわ。 他の誰よりも、姉さんよりも。」
今でも忘れない、あの時のさきねぇの暗く冷たい濁った眼を。
194Cinderella & Cendrillon 4:2009/09/28(月) 00:00:13 ID:WLAf6iMa
以上で今回は終了です。
今回は短めでした、暇つぶしにはなったでしょうか?
続きもできるだけ早めに書こうと思います。
それでわ、ごきげんよう。

追記:前回のコメントのおかげで、うちの猫を異性として見れるようになりかけてます。
     ど う し て く れ る w
195名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 00:04:17 ID:KdK1hWMd
投下乙!

猫娘ヤンデレものも期待してるぜ
196名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 00:30:49 ID:z+IkJdu/
>>194
GJ!
申し訳ないw多分それ俺が書いたレスだw
>>195も言っている様にいっそ開き直って
猫物のヤンデレSSを書いてみるのはどうだろう?
197名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 02:14:25 ID:mlMRsxeU
>>184
GJ!!!キャラクターも大好きだが、実は主人公や父親の呪い設定とかがすごくお気に入りだったり。
続き楽しみです。
>>194
GJ!! 面白かった!猫物は読んでみたいな。
198名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 02:15:57 ID:eehA49r+
どちらもGJ
ぬこのヤンデレか新鮮だな
199名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 23:37:35 ID:fmlscaY+
>>194
猫のヤンデレ期待しているぞ。
200名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 02:22:00 ID:jSliJe6v
ふと思ったんだけど知らない間にヤンデレに好かれていて
盗聴機とか隠しカメラとか仕掛けられている男君がこのスレを見ていて
その事をヤンデレが知ったらどう思うんだろうか
201名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 02:26:47 ID:wyh06beP
>>200
次の朝にはベッドに縛られて強制ギシアン地獄だろうな
202名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 03:01:55 ID:uZNvKCtL
>>201
天国の間違いだろ
203名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 03:24:35 ID:FcOV5wEN
我に返って赤面しながら普通の子に戻っちゃうのはナシで
204名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 09:03:40 ID:hsG5dpT2
>>203
早く続きを書け。
205名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 10:13:15 ID:9ABqkF1s
カザンの後裔
HP MAX +200
力+20
体力+20
移動速度+3%
攻撃速度+4%
キャスト速度+2%
攻撃時1%確率で,キャスティング時2%確率でLv10カザン召喚

オズマの後裔
MP MAX +200
知能+20
精神+20
移動速度+3%
攻撃速度+2%
キャスト速度+4%
攻撃時1%確率で,キャスティング時2%確率でLv10ブレーメン召喚

ギルド戦のある意味最終目標みたいなもんじゃないかな
このとんでも称号は
206名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 10:13:36 ID:9ABqkF1s
派手に誤爆・・・無念
207名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 11:51:44 ID:XHaomgAI
アラドwwwwwwww
208167:2009/09/29(火) 16:32:19 ID:TlEsai1M
>>167です。久々の投下をします。
ここではコテを付けていなかったので名無しです。
>>171さん、その通りです。

久々なので短編です。
209研修医…美咲の愛:2009/09/29(火) 16:34:34 ID:TlEsai1M
【研修医…美咲の愛】


 駆血帯(くけつたい)で浮かび上がった静脈に針が突き立てられて、透明な注射筒に血が少し逆流する。
ゆっくりと注射液が入っていくその情景に、女は恍惚の表情を浮かべ軽く舌なめずりをした。

「少しだけ痛いけど我慢して下さい。直ぐにすみますから…」

 薄暗く冷たいエアコンの空気が流れる室内。白いタイルが目立つそこには、パイプベッドが置かれ
一人の青年が寝かされている。先ほどから、ヴヴヴという奇異なモーターのような音が断続的にしている。
その横に立つ黒髪の女性。白衣を身につけ、銀縁の眼鏡をしたその女性は注射が終わると、
それを銀皿の上に置いた。
 駆血帯のクリップを外すと、注射器の刺さっていた部分に顔を寄せ、眼鏡を親指と人差し指で
挟みながら外す。注射跡が残る腕を、舌でチロチロと舐め始める。
 少しだけ血が付いた、その部分が唾液でベトベトにされていく…。

「ううっ、ここ…は。俺は一体…」
 ベッドに寝かされていた男は、チクチクとした腕の痛みで目が覚めた。ゆっくりと周りを見渡すと、
そこが今まで自分が見たこともない部屋だと言うことに気がつく。頭がぼぉっとして、まだ状況が
把握できない彼は、隣にいる医者らしき黒髪の女性に話しかける。
「あの、すみません。ここがどこだか教えていただけますか」
 女性は注射器の横に置かれていた眼鏡をかけ直すと、笑顔で振り向きながらこう答える。
「ここは…一樹さんと私の愛を育む場所ですよ…」
 その女性の顔を見た、男はみるみる顔が青ざめ呼吸が荒くなり、動揺した表情で口を開く。
「…美咲か?まさか、何で…」
 絶句した男を無視するかの様に、美咲と呼ばれた女性は言葉を発する。
「久しぶりですね。一樹さん。そして、ようこそ…私の所へ」
 一樹は悟った。並べられたベッド、薄暗い部屋。そこは、病院の霊安室だった。
210研修医…美咲の愛:2009/09/29(火) 16:35:17 ID:TlEsai1M
「はぁっ…んっ…あぁっ……」
 マンションの一室から女性の喘ぎ越えが響く。黒革によって丸出しの胸を荒々しく鷲掴みにされ、
捏ね回されて、豊満な乳房は柔らかく歪み、先端の尖った乳首を指で挟まれ潰されると、腰がびくりと
反応して、身体を震わせる。
「ひあぁっ!あぁっ……一樹、もう…イッちゃう!」
 淡く嬌声を漏らしながら、腰を打ち付けてくる一樹の背中に手を回し、壮絶な快楽に足をがくがくと
爪先立ちで痙攣さながら美咲が叫んだ。
「ふふっ淫乱な雌豚には褒美が必要だな。…っはぁ、はぁ…よし、今からお前の薄汚いその膣内に
俺の精子を注ぎ込んでやるよ」
「ありっ…がとう…ございますぅ…ひぁあぁんっ!! この、雌豚な私に、精子っ、注いで下さいぃっ!」
 首輪を付けられた美咲が懇願する。子宮口を突かれ、膣内は深い圧迫感に襲われた美咲は、精子と
いう言葉に敏感に反応する。挿入する動きに操られるまま、腰をさらに激しく妖しく振るわせて、
膣がキュッとペニスをキツくくわえ込む。
「いくぞっ、んんっ、はぁ、はぁ…で、でるっ!」
「雌豚の美咲は一樹を愛しています。イクっ…うぅ…あぁぁ、淫乱おまんこでぁぁっ、あぁっんんっ!!」
 ドクンと脈打つペニスの動きに合わせて、美咲は何度目かの絶頂を迎えぐったりとベッドに果てた。


 都内の有名大学の医学部に進学した紫藤美咲(しどうみさき)は、厳格な父親と優しい母親に育てられ、
初めての一人暮らしと大学生活を満喫していた。高校生までを女子校で過ごし、男性に免疫のない美咲にとって、
一人暮らしはかねてからの夢であった。両親は最後まで反対したが、医者になるという夢を叶えるという
大義名分を主張する美咲に折れて、渋々マンションでの一人暮らしを承諾したのだった。
 美咲は大学の三年までにほぼ全ての単位を取得し、研修医として入った病院で森里一樹(もりさとかずき)と出会った。
腰まである黒髪を髪留めで一つにまとめ、黒縁の眼鏡を掛けていた美咲は、美人ではあるが目立たない研修医だった。
「こんにちは。紫藤さん。俺も今年からこの病院に配属された森里一樹。よろしく」
 そんな美咲に話しかけてきたのが、一樹だった。
「こんにちは。紫藤美咲です。よろしくお願いいたします…」
 素っ気ない返事。やたらと腰の低いただの研修医。それが美咲の最初の印象だった。
211研修医…美咲の愛:2009/09/29(火) 16:36:03 ID:TlEsai1M
 美咲は一樹と距離を置いていたが、一樹は美咲に対して積極的にアプローチを掛けてきた。
一週間後には他の研修医と複数での食事会に誘い、一ヶ月も過ぎた頃には、二人だけで食事に行った。
男性と付き合ったことのない美咲には、何もかもが初めての体験で、今まで感じたことのない魅力を一樹に
感じてきたのもこの頃だ。
 両親に嘘をついてデートを繰り返し、告白をされての初めてのキス。その時に今まで自分が男性と
付き合ったことが無いことを一樹に告げた。

「私、今まで男性と付き合ったことが無くて…魅力的でもないし…」
 そう言って自嘲気味に話すと、一樹は笑いながら《自分に任せろ》と答えた。そんな一樹を、美咲は
心の底から愛して体を許した。最初はノーマルだったセックスが、次第にSMチックになっていったのが
気にはなったが、愛する一樹のためなら何でも許せる気がしていた。



「一樹、妊娠したかもしれない…」
 一樹を愛するようになって半年、最近は随分間の空くようになったセックス。その日無理に付き合って
貰ったのには訳があった。生理の不順を気にして、妊娠検査薬を試した結果は、【+】であった。
卒業を半年後に控えて、医師国家試験が待っている今の現状は美咲にもよく分かっている。
だからこそ、きちんと告白しておきたかった。自分の国家試験は一年ずらしてもかまわない。
一樹さえ、自分を愛してくれているのならば…。

 だが、一樹から帰ってきた答えは残酷なものだった。
「…んー、俺、そう言う面倒な事嫌いだから。堕ろせよ」
「え…。一樹、今何て言ったの?良く聞こえなかったんだけど」
「だからさ、俺、金ないし、ハッキリ言って、美咲とはセックスできればいいわけ。ここの病院に頼めば
直ぐに堕ろせるだろ」
「ねぇ…冗談でしょ。愛しているの。一樹のこと。その一樹との間にできた子供を堕ろせるわけないでしょう」
「はぁ?ちょっと待てよ。お前、雌豚の癖に、ちょっと勘違いしてないか。俺の子供を産ませるわけないだろっ!」
 最後の方は語尾を荒げて、一樹はさっさと服を着始め、グチグチと悪態をつきながら部屋を出て行く。
初めての恋をした相手…、初めて体を許した一樹に、勇気を持って妊娠を告げたとき、美咲は捨てられた。

《それからは一樹は美咲との携帯連絡を着信拒否をして、あからさまに美咲を無視するようになった》
《一樹は産婦人科の担当医から、美咲が流産したとを聞かされ、その頃から美咲は病院に姿を見せなくなった》
《1ヶ月後、一樹はその病院に勤めていた若い看護師、早苗と恋仲となり美咲の事などすっかり忘れていた…》
212研修医…美咲の愛:2009/09/29(火) 16:36:42 ID:TlEsai1M
「美咲、何、やってんだよ。なんだよ、この拘束具は。これ、お前に、買ってやった奴じゃないか」
 パイプベッドに手枷を付けられ、荒縄で縛られた半裸の状態のまま一樹は叫んだ。
「思い出しますね。一樹さん。こうやって拘束されて動けなくなった私を、ローターやディルドで沢山
愛してくれて…。私、一樹さんの責めで何度もイッたんですよ…」
 うっとりとした目で拘束具を指で撫で回し、一樹の股間を優しく撫でる。
「お前、まさか俺に、復讐するのか?なぁ、そうなんだろ、悪かった謝る。だから、許してくれ」
 自分の状況を理解した一樹は、目の前の美咲に懇願する。だが、当の美咲はキョトンとした顔で、
一樹を眺めている。
「何言っているんですか。一樹さん。将来の夫になる人に、復讐なんてする恋人が何処にいるんですか?
私はただ、美樹が妹か弟が欲しいって強請るものですから、一樹さんに協力して貰いたくって…」
 クスクスと笑いながら、美咲は答える。まるで、冗談を言った恋人が可笑しくて、それに答えるかのように。

「夫だと?おい、直ぐに、ここから出してくれ。俺とお前は、もう何の関係も、ないだろう」
 咽せるように言葉を切らしながらいう。興奮すると、ぶつ切れ口調になる一樹の言葉を、美咲はまるで
聞こえないかのように、一樹のペニスに愛撫を繰り返している。
「最近、一樹さんに妙な害虫がついていると言うことを聞きました。それで一樹さん、とても困っているようですね」
「何の話をしている?」
「一樹さんが私に一生懸命会おうとしても、その害虫が邪魔をして、一樹さんがとても困っているって…」
「だから、何の話をしているんだっ」
 怒るような口調で一樹が尋ねると、ゆっくりと白いカーテンを指さす。
「捕まえましたよ。一樹の命令通りに…ほら、聞こえるでしょう。害虫の声…」
 ヴヴヴという唸るような音。先ほどから気になっていた音が、カーテン越しに聞こえる。
「カーテン…開けてくれ。美咲。お前、何をした」
「一樹がそう言うのなら、捕らえた害虫を見せますね…」
 カーテンを引くと、そこには女性が縛り付けられていた。全裸の女性は目隠しをされ、口枷から涎がだらしなく
零れている。股間に突き立てられた極太のバイブが、クネクネと動きながらモーター音をさせている。
「早苗…」
「う゛っ、う゛う゛っ、う゛ーーーー!!!」
 口から声にならない絶叫を繰り返し、その女性は叫びながら果てた。体がピクピクと痙攣して、腰が動いている。
一樹はその状況を見て……絶句した。
213研修医…美咲の愛:2009/09/29(火) 16:37:13 ID:TlEsai1M
「んっ…れろ…ふぁ……ちゅ……」
 カウパーで濡れた亀頭の先を、指で弄り舌を卑猥にねっとりと絡めて美咲は愛撫している。
「やめっろ、くそっ、ぁぁっ…悪かった…」
「もう、何度目かしら…一樹ったら、こんなに元気…これなら催淫剤なんて要らなかったかしら…」
 唾液でベトベトになり滑りの良くなった陰茎を、手の平で包み込みながらゆっくりと上下に扱く。
そう言いながら、美咲は自らにも注射を打つ。転がった注射器。美咲はベッドの上に乗ると、勃起したペニスを
指先で誘導しながら、自らの膣口にそれをズブリと沈めていく。
「はあぁっ…一樹のオチンチン…子宮まで届いて入ってきてる…」
 腰をリズミカルに上下させて、グチュグチュという淫猥な音をさせながら美咲は喘ぐ。
「お前、その薬でおかしくなっているんだ。んんっ…ぁっ…くっ…そうだろっ」
「ぁぁっ…一樹、ああっ、またイクわ…これで、赤ちゃんまたできるわ…」
 そんな一樹の声をまるで無視するかの様に、美咲は汗を飛ばし、黒髪を乱れさせてセックスの快楽を貪る。
「やめっ…ろ、ぁぁっ、でっ、出るっ、ぁぁぁっ!」
 ドクンという射精感を感じ、それを受け止めるように美咲の膣道がぎゅっと締まる。
「ああぁっ…イクッ…ド変態雌豚の美咲イックぅぅ…!!」


 果てた一樹に覆い被さるように、銀色の眼鏡が一樹の目の前に近づきこう告げる。
「ねぇ一樹…私にはそんなもの要らないわ。私がさっきから注射しているのはね…これよ」
 一樹に見せられた小瓶には、FHS製剤と書かれている。
「排卵誘発剤…」
「そう、そしてあの害虫にも同じもの注射してあるの。あのバイブから、誰かのものか分からない小汚い精子が
たっぷりと流れ込んでいるのよ」
「あっ……」
「一樹は私のもの…だって…私と貴方の子供もいるんですもの…ねえ、一樹も挨拶してあげて…」
「ぁぁぁぁああああああっ!!!!」
 そうやって、一樹の前にもう一つ小瓶が出される。ホルマリン漬けの瓶にはこう書かれていた。

《美咲と一樹の大切な長女【美樹】》


【おしまい】
214167:2009/09/29(火) 16:37:56 ID:TlEsai1M
以上です。

では、失礼します。
215名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 18:45:08 ID:d/qFYpqC
>>214
うは、全体的にエグいぜGJ!
216名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 21:18:32 ID:g16/RGtb
これは一樹が悪いな
217名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 23:00:36 ID:Gsjtykwa
GJ
とりあえず一樹死ね
218名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 23:57:34 ID:nVrWVIdg
ヒューエグイのきたねw

GJ
219名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 00:04:46 ID:Hf92+pw8
>>208
やっぱり変身少女だったか!

>>214
小瓶に子供を入れて保存してるなんてヤバイ!
220Cinderella & Cendrillon 5:2009/09/30(水) 00:28:16 ID:uM5KCD/m
こんばんわ、前回からちょっとだけ早めに投下します。
最近姫乃が空気だということに気付きました……すいません、もうチョイ待って下さい。
今回は前回の分の妃乃sideです。
それでは、ごゆるりと。
221Cinderella & Cendrillon 5:2009/09/30(水) 00:28:44 ID:uM5KCD/m
〜妃乃side〜

…怖かった…
……とても怖かった……
私はえねに嫌われてしまったのではないだろうか。
えねはもう私のことを気にかけてくれないのではないだろうか。
そうなってしまったら私にはもう生きる意味などない。
……怖い……怖い……怖い怖い怖い……
さっきから何度も病室に入ろうとしているのに、足が動かずソファに座っている。
幸い内臓に被害はなかったものの、吹き飛ばされたときに左肩をガードレールの角に強く打ちつけてしまった。
その結果、腕の靭帯が断裂し、筋肉が裂け、神経を切断、骨を砕き、本当の意味で腕が皮一枚でつながっていた状況だった。
さらに平日の夕方ということもあり、道路が渋滞、救急車の到着が遅れ病院への搬送が遅れた。
やっとのことで病院へ着いたころにはすでに左腕は手遅れ、むき出しになった骨から細菌感染しないよう肩から切り落とすこととなった。
……私をかばったばっかりに……
これが逆だったらまだ希望はある、左腕を失ったことでえねを心身ともに絡み取れる口実になる。
しかし実際は逆……さっきから悪い予想しか思い浮かばない。
ふと時計を見る、午前7時5分前……そろそろいつもえねが起きる時間。
私は自分の足に思いきり力を入れソファから立ち上がる。
恐る恐る病室のドアの取っ手に手をかけ深呼吸。
……1,2,3……よし、もう大丈夫。
少し力を入れてドアを開ける……目の前にえねが居た、今一番逢いたくて一番逢いたくなかった……私の大切な人……
「おはよう、さきねぇ。」
……いつも通りの朝の挨拶……
「えっ……あ、うん…おはよう……えね……」
うまく言葉が紡ぎだせない、安堵感からか目の前がぼやけてくる。
「どうしたの、さきねぇ?」
心配そうに語りかけてくる……その優しい声に私が零さないようにしていた涙を零してしまう。
「……うっ、うぇ…うぇぇぇええ」
口火を切ったようにあふれる涙、私は我慢できずにえねを抱きしめていた。
「お、落ち着いて! さきねぇ! 息が、いきができないかr」
222Cinderella & Cendrillon 5:2009/09/30(水) 00:29:13 ID:uM5KCD/m
〜10分後〜

「……落ち着いた?」
「………うん………」
恥ずかしいことをしてしまった……せっかくえねの前ではクールに自分を偽っていたのに……台無しだわ……
「どうしたの? いきなり泣き出して。」
……言えない……えねの姿を見たら安心して泣いてしまったなんて言えない……
でも……今の本当の想いは……
「…えねが……私のこと……嫌いになったと思った……から…」
「え?」
「…えねが私のこと……嫌いになったと……思ったから…」
言葉を口にした瞬間、私はえねに優しく抱きしめられた。
「おれがさきねぇのこと嫌いになるわけないじゃん! なんでそんなこと思ったんだよ!」
「……だって、えねの左腕がなくなったの、私の所為だもの……」
素直に口にする……これは変わりようのない事実だから……
「そんなことない、そりゃなんともないって言ったら嘘になるけど、こんなことでおれがさきねぇを嫌いになることは、絶対ない。」
「本当? 本当にえねは私のこと嫌いにならない?」
「うん、本当だよ、約束したっていい。」
「………そう……」
なら……私はえねの唇を奪う、今までずっと監視していたから間違いなくファーストキスだ。
自分の舌でえねの口の中を蹂躙する、やっぱりこうやって攻めていくほうがしっくりくる……
……私はもう嘘はつかない……自分の心を偽らない……だから……

「好きよ、大好き、愛してるわ。 他の誰よりも、姉さんよりも。」

223Cinderella & Cendrillon 5:2009/09/30(水) 00:32:47 ID:uM5KCD/m
と、いうわけでお疲れ様でした。
一時の暇つぶしになったでしょうか?
それでは、失礼いたします。

追伸:もうだめだ、おれはバニラクリームフラペチーノと結婚してくる。
   ヤンデレ猫って……反則だろjk
   ちなみに現在おまけで猫娘ヤンデレを製作中です、お楽しみに!
224名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 01:33:29 ID:8j2oa5Wc
一番槍GJ!
結婚おめ。末長くお幸せに
猫娘ヤンデレとやらも期待しています
225名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 12:06:23 ID:2Q1Y2dze
GJ
続きがかなり気になる、これにひめねぇがどう加わるか楽しみ
226そして転職へ  10:2009/10/01(木) 01:28:07 ID:8YiTZklH
投下します。したら、寝ます。
227そして転職へ  10:2009/10/01(木) 01:28:55 ID:8YiTZklH

潮風香る港町。行商人のにぎやかな声が飛び交い、海の男たちが
今日の漁労の獲物自慢をしている。
ここはポルトガ。魔王討伐の旅なら序の口、転職のための旅なら八分目と
いったところだろう。
海とは反対の方角にそびえる山。その山に開いている洞窟の一つを
抜ければ、そこには転職の聖地ダーマが待っている。
かなりの道筋をショートカットした分、普通の冒険者なら経験不足が
仇となりこの国周辺の魔物に骨までおいしく頂かれるのが山々だが、
あいにく僕らのパーティはチートといっても差支えないほどの
力を持っているので大丈夫だ。

しかし、別の不安が下船した僕の胸に渦巻いている。
盗賊くんの件だ。
僕らがメタルスライムのメッセージを受けた日、盗賊くんは何者かに
襲撃された。
目立った外傷もなく、見つけ出した魔法使いさんが大丈夫だというので
盗賊くんの手当は魔法使いさんに一任することを僕…じゃなくて
僧侶ちゃんが決めたのだが、それ以来盗賊くんの様子がおかしい。
人が変わったようなのだ。
いつものように僕にじゃれ付こうとするわけでもなく、ただジッと
僕の方を見つめながら、時折ふっと不安にさせる薄笑いを浮かべる。
口数も少なくなったが、異様な圧迫感が身に付いたようだ。
まるで、肉体は盗賊くんでも中身が別人のようなそんな印象。
この世界には人に取りつく悪霊系の魔物も存在するので、彼女に軽い記憶テスト等を
行って憑き物でもないか調べてみたが、結果は異状なし。
魔法使いさんに相談してみても、気にしすぎだよと笑い飛ばされてしまうし…。
…どうしたというのだろう?



「勇者さん。やっぱり私たちの町より断然大きい街ですね!」

僧侶ちゃんが眼を輝かせている。気がはずむのももっともな町。
明るく、活気があり、冒険者たちへ海の向こうへの新たな道を切り開いてくれ、
とにかく騒ぐのが楽しくなる街だ。でも…。
僕はちらりと盗賊くんの方を見る。最も僕らの中で賑やかだったはずの
盗賊くんの面影がない。相変わらず暗く濁った瞳に唇の端が持ち上がった
薄ら笑い。僕の視線に気づくと、すぐにいつもの無邪気そうな笑みを
その上に張り付ける。

「勇者。どうかしたか?」

「ううん。なんでもないよ。」
228そして転職へ  10:2009/10/01(木) 01:30:04 ID:8YiTZklH
逃げるように顔をそむけた僕は、ポケットに入っていたメモを取り出した。
皺くちゃになった紙の上には、僕の筆跡で走り書きがしてある。

「裏路地のバー『チョコボ亭』の一番奥の席」

…改めて見ると、おそろしく突っ込みたい文字が躍っている。
突っ込んだらだめだ。突っ込んだらだめだ。突っ込んだらだめだ。…よし。
メモを再びポケットにねじ込む僕。すると後ろから魔法使いさんが声をかけてきた。

「勇者クーン。私たち女の子はちょっと用事があるから、しばらく
フリー行動にしないかな〜。」

「な、なにを言っているんですか!勇者さんの護衛にあたるのが私たちの
使命でしょう!?第一、私は勇者さんの側を離れるわけには…。」

「僧侶。」

盗賊くんが僧侶ちゃんの腕をつかんだ。

「僧侶も一緒にくるんだ。来るんだ。」

「痛い!痛いです!」

僧侶ちゃんが顔をゆがめる。なんだか大げさには見えない。

「盗賊くん!僧侶ちゃんを放してあげて!」

僕の制止に、盗賊くんが手を離した。僕の方に顔を向けまたあの
能面のような作り笑いを浮かべる盗賊くん。どうなっているんだ?

「まあ、そーいう訳で…はい!かいさ〜ん!」

魔法使いさんの一声とともに、またも盗賊くんと魔法使いさんに捕獲された
僧侶ちゃんは僕の目の前で人ごみの中に拉致されていった。

「うわあああああん!?勇者さん!助けて下さい!勇者さーん!」

…止める間もなかった。
229そして転職へ  10:2009/10/01(木) 01:30:55 ID:8YiTZklH
ひとり残された僕は、空を見上げ大きくため息をつく。
ふと、空にふわふわ浮かんでいる雲の一つに目が行った。
平べったいスライムのような形の雲。それが旅立ちの日にお城の上に浮かんでいた
雲と形がよく似ていたのだ。
―旅も、もうすぐ終わる。
雲を眺め、旅立った時からのことを思い出す。
悪魔との会合に竜王事件の真相。旅についてきてくれると言った時の僧侶ちゃん。
火事場で出会った魔法使いさんに、ひと悶着あった盗賊くんとの出会い。
宿屋での将棋勝負。その後、魔道士の襲撃。教会では僧侶ちゃんの昔との
ギャップに驚かされたりもしたっけ。そしてメタルスライムメッセンジャーと
変わってしまった盗賊くん。

隣では、氷で冷やされた果汁をふんだんに詰め込んだ小瓶を売っている。
僕はさんさんと降り注ぐ直射日光に目を細めながら、白い壁に背を預け
買った小瓶に口をつけた。
程よく冷えた甘い果汁が、僕の頭に心地よい刺激と糖分を送り込む。
喉と頭が少しずつクリアになるのを感じながら、僕は過去の回想をしながら
暖かい日差しを味わった。
カンダタとの約束の時間までまだ少し時間がある。たまにはこんな
のんびりも悪くないだろう。
雲はのんびりと流れ、時はゆっくりと過ぎていく…。


パリーン!
通行人が何事かと物音のした方を振り向く。粉々になった小瓶の傍らには
青ざめたような顔の少年がいた。

「…まさか。」

自分の手から滑り落ち、粉々になった小瓶に気を向けることなく、僕は
言葉を漏らした。
急いでさっきのメモを取り出す。書いてある簡単な場所の地図を頭にたたき込み
僕は急いで裏路地方面に走りだす。
風が強いはずの港町、さっきまで吹いていた風が凪の時間でもないのに
いつの間にか消え去っていた…。
230そして転職へ  10:2009/10/01(木) 01:31:45 ID:8YiTZklH
裏路地にある酒場、だいぶ潮風におかされ錆びついた蝶番のドアをあけ
薄暗い店内に足を踏み入れる。

「…おい、ボウズ。ここはお前さんのような青二才が来るような処じゃねえ。」

人相の悪い店主のだみ声を流して僕は一番奥のテーブルへ進んでいった。
そこにいたのは体をすっぽりとまるで何かから身を守っているようにマントで
覆った人影がグラスをあおっている。
その人影も僕に気づいたのだろう。僕に向かって軽く手を挙げた。
僕はテーブルを挟んで反対側に座り込む。そこにやる気のなさそうな
女が一人、注文を取りにきた。

「後にしてくれ。」

マントの人影がぽつりとつぶやく。声からして男、そしてそれは同時に
僕の予想通りであった。
つまらなそうに一瞥をくれ立ち去っていく女が離れていくのを確認すると、
マントの男が僕の方に向き直った。

「勇者だな?おれの名前はカンダタ。知っていると思うがおれの仕事は
ケチな盗賊ってやつで…。」

「茶番を楽しむために来たわけじゃないんです。」

少し強い口調で僕は相手の口を制す。

「初めまして、勇者オルデガ。…いや、父さん。」



しばしの沈黙の後、先に口を開いたのはマントの男だった。

「…いつから気づいていた?」
231そして転職へ  10:2009/10/01(木) 01:32:37 ID:8YiTZklH
「さっき。理由は僕の居場所を察知してメタルスライムを送ってきたこと。僕の居場所を
つかんだ呪文は、盗賊の秘儀『タカの目』の改良版索敵呪文といったところでしょ?
あの呪文にかかる制約は、対象の相手を自分が知っている必要があるよね。
僕と父さんに直接の面識はないけど、索敵を可能にしたのは呪いの血の
影響だろ?あれはこの世で僕と父さんしか持っていない。
逆にいえば、お互い全く面識がないのに索敵可能な相手は同じ呪いを
受けている僕たち二人だけなんだ。…最も、生きているなんて思っていなかった
けど。」

「御覧の通り、生きている。」

肩をすくめてやれやれといった動作で、マントの男は言葉をつづける。

「俺の正体を説明する手間がうまく省けたみたいだな。…お前にいろいろ
話しておきたいことがあってよ。」

「どうして生きていたの?火口に落ちたはずなのに。」

「呪いのせいさ。」

グラスの中の液体を飲みほし、少しオルデガは遠い眼をしてみせた。

「魔界でも高貴なランクに入る悪魔。悪魔には契約は冒してはならない
絶対のものという価値観があってな。当然、契約で発生した呪いにも
そんな価値観は付きまとっている。単純に言うと、呪いにもプライドって
やつがあるんだよ。あの時俺はお前の母さんに『偶然』殺された
形となった。…だが、呪いの方がそんな殺し方を良しとしなかったのさ。
俺はあくまでお前の母さんにその手で直接殺されなくてはならない。
呪いがそう働きかけて、俺は重症を負いながらも何とか生き延びた。」
232そして転職へ  10:2009/10/01(木) 01:33:27 ID:8YiTZklH
「…じゃあ、まだ呪いは終わっていないってこと?」

「もちろん、死んだことになった俺は逃げ延びたと思った。三年前までは。」

三年前。どこかで聞いたことのある言葉に僕の耳は動いた。

「三年前、身を隠していた俺のところにとある王国から緊急の要請が
入ってな…。竜王事件だ。」

「…!りゅ…竜王事件!?」

「ああ、その王国には昔の恩義もあって、俺はあの姫様から竜王を
奪還した。…竜王はその後自ら命を絶ってしまったがな。」

今度ばかりはさすがに驚いた。竜王事件を解決した勇者がまさか
父さんだったなんて!

「問題は、その過程で俺は姫様と闘わなくてはならなくなったことだ。
強大な魔力を誇る姫様に対して、俺も自分の呪いの力…地獄のいかずちの使用を
余儀なくされてな。なんとか勝てたものの、呪いの魔力の独特の気配が
最も知られたくない相手…お前の母さんに知られてしまったんだ。」

「じゃあ…。」

「お前の母さんは俺が生きていることに気づいたんだろう。今もなお
この世界を覆い尽くすほどの索敵呪文のフィールドを日夜展開し続け
俺の居場所を探っている。」

やってられねえよ…ぼそっとため息とともに小さな言葉でオルデガはつぶやいた。

「この索敵呪文に引っかかっちまうと、その次の瞬間にはお前の母さんが
瞬間移動呪文で俺の目の前に御到着、俺は呪いの運命を受け入れる羽目になる。
このマントは呪文よけのマントでね、ねぐらも放棄された牢獄をアジトに
改良して使っている。牢獄には強力な対呪文の術が施されているからな。
メタルスライムを調教してメッセンジャーに仕立てたのもそのためさ。
あいつらには一切の呪文が効かない。当然俺の魔力の気配が調教過程で
あいつらに染みついていたとしても、索敵でそれを見つけることは出来ない
からな。…厄介なのは、ここ最近魔力が強くなってきたことだ。」
233そして転職へ  10:2009/10/01(木) 01:35:05 ID:8YiTZklH
どうしてと僕は問いかけた。母さんはもう四十に手が届くところのはずだ。
年とともに魔力は少しずつ衰えるのが常だし、急激な上昇などあり得ない。
そりゃ、確かに見た目は三十前半だけど。記憶力にいたっては五歳だけど。

「お前が旅立ち、家にいなくなったから俺を死力を尽くしで探すつもりなんだろう。
お前の母さんは薬学のエキスパート。若返りの薬で昔の魔力を取り戻したんだ。」

何…だと…。

「若いころのあいつか…考えてみりゃ、もう一度会いたい気もするんだけどな…。
でも絶対無事で済まないだろうな…。」

懐かしそうに振り返る父さんを目の前にして、僕はふと安心した。
殺す、殺されるの関係になっても、お互い愛しているのは変わりがないのだ。
…最も、自重しろよとは言いたいのだが。

「ん?ねえ、若返りの薬が存在するってことは、年をとる薬も存在するってこと?」

「ああ。…というかそっちの方が調合は簡単なはずだ。材料にもよるが
多分一年単位で肉体を成長させることは可能だぞ。…ん?どうした。
そんなに真剣な顔つきになって。」

「…父さん。」

僕はまっすぐ相手の目を見据えた。

「少し聞いて欲しいことがある。」




「なるほどな…。」

僕が少々長い話…旅の間に自分が感じたこと、そしてそこから導き出された
恐ろしい仮説を話す前に、父さんはもう一杯注文していた。
今、その一杯は周りに水滴を湛え、口をつけられぬままテーブルに置かれている。
元勇者にとっても、飲みながら聞けるような安心感のある話ではなかった。

「お前の言うことがもし本当だったら、これは相当危険だぞ。」
234そして転職へ  10:2009/10/01(木) 01:35:46 ID:8YiTZklH
オルデガは続ける。

「俺にも何とかできないレベルだ。まあ、そんな話は突拍子もない
与太話と笑い飛ばすこともできるがな。」

そういいつつ、懐からオルデガは小汚い木の棒を取り出し僕に放ってよこした。

「使え。もっとも、役に立つかは分からんがな。」

使い方と細かな注意に熱心に耳を傾ける僕。
…こんなものが、本当に役に立つのか?

「勇者クーン!」

戸口で声が聞こえた。見ると魔法使いさんがこれまでにないほどのセクシーな
衣装を身にまとい、エンジェルスマイルで手を振っている。

「探したよ〜。みんなドレスアップしたから見においでよ〜。
みんな可愛くなったよ〜。すんごいよ〜。」

「…そういう事みたいだ。それじゃあ父さん、さよなら。」

席を立つ僕。その背中に声がかかった。

「なあ、お前俺を恨んでいるか?」

無言で振り向く僕。

「…お前の生い立ちはどこかで聞いていると思うが、お前は俺が望んで
生まれてきた訳じゃない。それどころかこんな厄介な呪いまで押しつけられ
その年で命を狙われている。俺は別にお前に許しを請うつもりはねえ。
お前にいくら恨まれようが、俺は知ったことじゃねえ。
ただ…何となく聞いてみたくなってな。」

僕の唇に、幽かに笑みが浮かぶ。
顔を魔法使いさんの方に戻し、振り返らず僕は片手をあげて立ち去って行った。


「勇者。見てくれ。」

「勇者さん。見てください。」

「ふっふ〜。勇者クン、見るのだ!」
235そして転職へ  10:2009/10/01(木) 01:36:39 ID:8YiTZklH
何とも素晴らしい光景が、薄暗い酒場のドアを抜けた瞬間に広がっていく。
盗賊くんはごく薄地のシルクのマント。というか生地がもはやレースと
表現しても過言ではないほどの生地の薄さだ。
白い花を胸につけ、はにかんだ表情を浮かべている。
僧侶ちゃんは…一番変化があった。
青のドレスローブに身を包み、唇には上品な色の紅が施された。
ふわりと再び戻ってきた風になびく髪はきれいに整えられ、大人の色香と
少女の初々しさが眩しいほどだ。
…本当に、本当に変わったなぁ。…本当に。
魔法使いさんは、豊満な肉体をさらけ出しながらもどこかに気品を感じさせる
紫と白の踊り子衣装。官能的なボディラインも、なぜか卑猥な感じは
全くなりを潜め、上品でセクシーという不思議なムードをみにまとっている。

「勇者さん。いかがです?」

「うん、変ったね僧侶ちゃん。しばらく見ないうちに…。」

「そうだろう。勇者。」

盗賊くんが間に割って入る。

「さあ、勇者。宿を用意しておいたぞ。部屋で私の生まれ変わった姿の
感想をじっくり聞かせるのだ。」

「勇者さん。私のもお願いします。」

「もちろんアタシもね!」

三人の女の子に引きずられ、宿に向かう僕。
太陽は少しずつ橙にそまり、水平線に消えていった。
236そして転職へ  10:2009/10/01(木) 01:37:31 ID:8YiTZklH
「…母さんの面影があったな。」

ぽつりとつぶやいて、テーブルに金を置き酒場を出ていくオルデガ。
残された硬貨の横に置いてあった口の付けられていないグラスが
誰も手を触れていないにも関わらず、ヒビが入り…。

ガシャン!

と割れた…。
237そして転職へ  10:2009/10/01(木) 01:39:11 ID:8YiTZklH
以上です。なんだかほのぼのムードになり
スレの空気に合わなくなってしまったので、
次回は誰かに天に召されていただこうかと思います。
238名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 02:40:38 ID:9fheqC1o
>>237
一番乗りGJは私がいただこう
いよいよ次回は天に召されるのか・・・
流れ的にいい話なんでいっそみんな病むけどこのままほのぼのとハッピーエンドだったらいいなとつい思ってしまったよ
私も老いたね・・・
世界観的には蘇生できる可能性もあるから絶望せずに待つ事にするよ
239名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 08:43:46 ID:7Q/ZGrSA
>>237
GJ!
239はメガザルを唱えた
240名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 12:42:39 ID:EQS0tLK7
>>234
GJ!!!今回も楽しませていただきました!
設定も掘り下げられてよかった〜 続きに期待大です。
241名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 15:43:10 ID:176RSyKj
オルテガに死亡フラグが立ったな
242名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 21:44:23 ID:WjlQOe9M
これってドラクエを元にしてるのか?

FF4以来FF一筋だったが、ドラクエもやってみようかな・・・
243名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 22:37:51 ID:TPsc2VHr
最新作ドラクエ9にはヤンデレヨウジョがでてきます。
244名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 01:32:18 ID:WAgyzOqz
GJ
勇者親子二代、竜王…何かとヤバそうな世界だな。
しかも親父と竜王に至っては世界に多大な影響及ぼしてるし…
245名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 12:27:39 ID:0qEtLl/C
先が気になるぜ

職人GJ
246名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 15:06:20 ID:E93PZlwb
そろそろヤンデレ家族の続き読みたいな。
247名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 19:41:56 ID:b5jSBKrj
ヤンデレ家族はもうこないものと考えたほうがいいかもしれん。

SS書いてるどころじゃなかったみたいだしな、ブログみた感じでは。
248名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 20:06:09 ID:hewaZEzz
ぽけもん黒も結構経つな
まぁ忙しいんだろうからゆっくり待つか
249名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 21:37:25 ID:E93PZlwb
>>247
何かあったの?ブログを教えろというのは非常識だろうから、
あなたのフィルターを通して最大限ぼかした形でいいので教えてくれ。
本人の病気とかでないなら、むしろ答えてくれなくていいけれど。
250名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 23:07:06 ID:b5jSBKrj
>>249
骨折して入院していたらしい。
先月末づけの内容だから、まだ退院したばかりっぽいみたい。


今、保管庫みて確認してきたけど、最後の投下があってからもうすぐで一年。
さすがにもう来ないものと解釈すべきかと。
まあ、自分は待つだろうけどさ。
251名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 23:17:55 ID:eN48Dlol
>>250
入院してたのか・・・まぁ無事で何よりだ
ヤンデレ家族の続きは半分諦めてるけど、ヤンデレスレが続いてる限りは何年でも待つよ
252名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 23:48:40 ID:CCAVLz2r
骨折で入院てえらいとこ骨折したんだな
253名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 23:51:07 ID:1R728xOL
ちんこですね
254名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 00:21:23 ID:vc56YBMc
大根で足を折られたのか…
255名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 08:34:57 ID:6wUXPfDA
骨折で入院ということは足首とか大腿骨骨折とかかな。
腕なら症状にもよるけど自宅療養が出来るし。
256名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 09:11:37 ID:CPiQa/pf
詰まる所暴力的なヤンデレに一年間監禁されていたのでござる。
逃げようとした時に何本かへし折られたでござる。
257名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 12:06:27 ID:dR0rsDgf
>>256
これがあるから暴力=ヤンデレと思われるんだよ
258名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 12:45:22 ID:3YqTNlyT
確かに勘違いしてる人が結構いる
何処で読んだか忘れたけどヤンデレ作品と謳っておきながら
読んでみたらヤンデレでも何でもなく
ただ猟奇殺人をしてるだけの女の話だった作品があった
259名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 13:01:01 ID:tDISxsxd
じゃあ、クラスの女の子とちょっと話しただけで、浮気したと言われて、罰としてさんざん搾り取られるってのはあり?

260名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 13:01:55 ID:miUVzI4i
お願いだからフラグ立つまで待て
261名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 21:04:01 ID:RQVQ4RzZ
よくわからんが、愛故に狂うのがヤンデレであって
頭のおかしなヒロインと恋愛するのはヤンデレでも何でもないってだれかが言ってた気がする
262名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 21:26:37 ID:6wUXPfDA
>>261
確かにそうだ。
愛しすぎるからこそ病み悩む過程や状況、結果が重要なのに猟奇的だとか暴力的
なだけでヤンデレ判定されてる作品があるな。
暴力メインや重視なのはただのサイコだ。
263名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 21:41:17 ID:3YqTNlyT
逆に愛が深過ぎてそれ故に病んでいるのであれば暴力的要素が皆無であってもヤンデレ
264名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 22:06:18 ID:eTSrB9H+
というか

>■ヤンデレとは?
> ・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
>  →(別名:黒化、黒姫化など)
> ・転じて、病ん(ヤン)だ愛情表現(デレ)、またそれを行うヒロイン全般も含みます。


と、
265名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 22:07:04 ID:eTSrB9H+
というか

>■ヤンデレとは?
> ・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
>  →(別名:黒化、黒姫化など)
> ・転じて、病ん(ヤン)だ愛情表現(デレ)、またそれを行うヒロイン全般も含みます。


と、テンプレに書いてあるだろ
おまえら何年同じ議論繰り返す気だ
266名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 22:07:39 ID:eTSrB9H+
かぶった、スマソ
267名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 23:35:14 ID:3YqTNlyT
ヤンデレの定義についてではなく
ヤンデレを勘違いしてる人達について話してたんだけど
確かにウザかったですね。スマソ
268そして転職へ  11:2009/10/04(日) 13:52:07 ID:7Py5FMpo
書き溜めしてあった分を投下します。
なお、今回は本編の補足といった色合いが強く、
日本史の改ざんも混ざっています。
この話は見なくても本編に影響ありませんので
日本史にカルトまがいの愛着を抱いている方は
スルーお願いします。
269そして転職へ  11:2009/10/04(日) 13:53:06 ID:7Py5FMpo
悪魔たちや魔物たちの楽園、魔界。緑化事業が進んだ町並みと
レンガ造りの洒落た家々。川のせせらぎが流れる風と心和むハーモニーを
小鳥たちとともに人々に贈る、そんな街。
…イメージと違う?基本悪魔たちは人間よりも賢いのです。
そんな彼らが、いつまでもマグマに満ち溢れた黒の世界のまま自分たちの
世界を放置しておくわけがないのです。
賢いだけに、魔族同士の無駄な戦争もありません。
ただ、こんなに美しい街並みや人間などとるに足らない頭脳を有していても
罪を犯すならず者はどこの世界にもおります訳で…。
魔族の裁判所では、今この方が裁かれている最中です。

「被告人。あなたは大神官ハーゴンで間違いないですね?」

「…はい。」

「よろしい。では検察側、冒頭陳述を。」

「はい!」

くたびれたジャージ姿と腰縄で身をやつした大神官ハーゴン。その正面に
堂々とした姿で腰を据えている裁判官ジャミラスが検察席に座っている
魔族に声をかけた。

「被告人、大神官ハーゴンことハーゴン・ロトノシソンニ・マケテマスは
三年前より勃発した魔界と人界の戦争の際、対人界用の決戦兵器
『破壊神シドー』に対して魔界倫理上認められていない呪文の譲渡が
あった件で告発されています。
譲渡された呪文は最大回復呪文ベホマ。ご存じの通りラスボス級の
魔族、魔物が瀕死状態で体力を全回復することは倫理上大変問題ある行動です。
彼のとった行動は、魔族の品位を貶める極めて遺憾なものであったと
考えざるを得ないものであり、一層の反省と事件の再発を防ぐために
厳しい処分が被告人に望まれるものであります。」
270そして転職へ  11:2009/10/04(日) 13:53:55 ID:7Py5FMpo
「分かりました。それでは弁護側。今の陳述に対して意見をお願いします。」

「はい。」

弁護席の魔族が立ち上げる。

「被告人がシドーに上記の呪文を使用させる目的で譲渡したならば倫理上
問題ある行動ですが、あくまでオプションとしてつけただけであったら
本件の悪質性は極めて低いものと思われます。被告人も自分の行動の
短慮さに反省の様子を示し、再犯の恐れもきわめて低いものと思われます。
よって、弁護側としては本件が今すぐ実刑に結びつくものとは考えて
おりません。」

「よろしい。では、被告人に対しての質疑を開始します。」

ジャミラスが木槌を叩いた。

「被告人。あなたは今挙げられた件を事実と認めますか?」

「…はい。」

「被告人。」

検察席から声が飛ぶ。

「あなたはあの呪文を戦闘に使用させる目的で譲渡しましたね?」

「異議あり!」

弁護席の魔族が机を叩き、人差し指を突き付けた。

「あからさまな誘導尋問です!そもそも呪文が戦闘時に使用されたとしても
それが故意のものとは立証されていません!一発だけなら誤射かもしれない!
(注・この発言は実在する一切の個人及び企業とはなんの関係もありません)」

「異議あり!ここに実際シドーと戦った人間、ローレシア国の王子の証言書が
あります。これによると、シドーは戦闘時自身のHPが満タンであるにも関わらず
バカの一つ覚えよろしくベホマを唱えてきてウザかった…とあります。
ここから見て、シドーは戦闘時ベホマに依存してきたことがうかがえます!」
271そして転職へ  11:2009/10/04(日) 13:54:49 ID:7Py5FMpo
「異議あり!体力が満タンにも関わらず呪文を使用したということは
呪文を戦闘に使用する意思がないものと思われます。そもそも馬鹿であるなら
本件の責任能力さえ疑わしいものであるはずです!」

「異議あり!シドーの責任能力の有無にかかわらず、譲渡したのは被告です。
シドーを召喚した被告なら、譲渡の結果何が起こるか推測はついたものと
思われます!」

カン、カン!
木槌の音が鳴り、裁判官が双方を諌めた。

「静粛に!論点がずれてきています。原点に戻りましょう。被告人。
なぜ譲渡を決意したのですか?」

「…焦っていたんです。」

ハーゴンが気弱そうな声で話し始めた。

「シドープロジェクトを任されたとき、破壊神の名に恥じない装備を
つけなくてはならないと思い…人間達に恐怖を与えるすごい兵器として
最強のものとは何かを考え続けるにあたって…思いついたのが
絶対に死なない不死身の神…つまりベホマでした。
でも!仕方なかったんです!私の研究室が何者かに荒らされていて、
搭載されるはずだった最強武器もみんな資料がバラバラにされていて…。
手元に残っている選択肢としてはもうこれしか…。」

「荒らされていた…?なぜ魔界警察に連絡しなかったのです?」

「それは…。」

「…被告人。先日、あなたの研究室あてに元ゼミ生からのメッセージが届きましたよね?」

検察の魔物が資料をあさり、血まみれの封筒を取り出した。
272そして転職へ  11:2009/10/04(日) 13:55:41 ID:7Py5FMpo
「誠に勝手ながら、必要性を判断し家宅捜索の際無断で拝見しました。
『助けて…妹…………ヤられる…監禁。』血で汚れてあまり解読できませんが、
送り主は被告のゼミを除籍処分になっていた魔界蕎麦屋の長男のようです。
なお本件の告訴数日前、魔界蕎麦屋の長男と長女が失踪しているようで
二人の行方は目下捜索中です。これは本件とは無関係の事件のようですが
隠し通す理由でも?」

「いや…私の命運がかかっているプロジェクトに余計なゴタゴタを持ち込みたく
なかったもので…あの…その…。」

「まあいいでしょう。被告人が研究室での事件を隠したかったのはこの手紙からの
自己保身であったことは既に立証されました。ちなみに、その二人の間に
なにかトラブルのようなものはあったのでしょうか?」

「トラブルと言いますか…昔から仲の良すぎる兄妹だったことは確認が取れています。
ただ、妹側に『もう我慢できない』『脚ちょん切れば逃げられなくね?』など
奇妙な言動があったことも確認できました。一方長男の方は失踪する前、竜王事件の
関係者の一人勇者オルデガの一人息子との接触が報告されています。
詳しいことはわかりませんが、長男がオルデガにかけた呪いの件で話を
していたようです。ちなみに、呪いの種類やその経緯は依然分かっておりません。」

「うむむ…人を呪わば穴二つ。呪いをかけた当人が失踪とは…。
我々魔族もまた、因果応報の呪縛からは逃れられないということですか…。」

「あ…あのう。」

しみじみと感慨深げな顔つきで顎に手を当て考え込んでいるジャミラスに
ハーゴンがおずおずと申し出た。

「竜王事件で思い出したんですけど、私の研究所から無くなっていたものが
あったんです…。」

「なっ、なんだってー!」

裁判官、弁護士、検察の三人が例のあれをやった。

「ええ…あまり大したものでもないので気にも留めていなかったんですけど…。
実は二つございました。私の保管してあった卒業生の学生プロフィールの
中からその竜王のファイルが持ち去られているのです。」

「なぜそのようなものが…?」

「分かりません。」

ハーゴンも困り果てたように言葉を続ける。
273そして転職へ  11:2009/10/04(日) 13:56:54 ID:7Py5FMpo
「知っての通り、竜王事件の際めぼしい証拠は全部提出しておりますので、
大雑把に見た彼の性格とか趣味とかの記録ぐらいしか残っておりませんでした。
一応個人情報ですが、これと言って悪用できるほど価値のあるものでも
ございません。」

「それで、もう一つのものは?」

「はい。私の昔のゼミで行った『丸わかり邪教の復活神話・不老不死神話』の
学生提出レポートの中の一つです。結構良い出来だったので記憶に残っているのですが…。
えーと?確か…『ミチザネレポート』でした!」

「ほう!それはどのようなものですか?」

ジャミラスは興味深々といった様子で問いかけた。

「ええ…少し長くなりますが。私のゼミでは古今東西の邪神や邪教の研究を
行っていますが、ある学生がジパングという国で古くから畏れられた邪神菅原道真を
テーマに死者の復活研究を行ってきましてね。もとは貴族だった道真は権力争いに敗れ
大宰府に左遷されることになりました。しかし、都に心残りがあった道真は
大宰府で没したのち神になり都の政敵に天罰を下す…このような話です。
この話、真相は別だったんです。道真に『天罰』を下されて死んだ貴族は
たったの一人でした。衝撃的な出来事とはいえ、当時天皇すら意のままに操っていた
貴族一派に壊滅的なダメージを与えることはできません。しかし、その後
とある別の貴族が天皇に知恵を奏上し、天皇は道真を追いやった貴族一派の
力を削ぎ落し、一時的とはいえ権力を取り戻すことに成功します。
この知恵を天皇に献上した貴族…彼こそが菅原道真だったのです。」

「え?だって道真は死んで神になったはずでは…?」

「ええ。確かにそのとおりです。しかし、神になった彼にはもう一度この世に復活する
方法がありました。…自分の記憶や能力、存在そのもののコピー&ペーストです。」

「なっ!?」
274そして転職へ  11:2009/10/04(日) 13:58:15 ID:7Py5FMpo
「つまり、うだつの上がらない唯の貴族に自分の意志や記憶、技術を
完全にコピーして貼り付けてしまえば、体は別人でも道真は現世に
復活したことになります。事実、復活した道真の働きで政敵の一味は
一時力を失いました。」

「むむむ…確かに理屈だけ見ればそうですが…可能なものでしょうか?」

「提出されたレポートにはその方法も示されていました。我々の存在は
身も蓋もない言い方をすれば脳によるものです。脳の認識で自我を作り
他者を認識し、他者と自分を別の存在と判断することで『自分』を
生み出します。我々の存在をどうにかするという行為は、要は脳を
操作することによっていくらでも可能になります。」

「脳を操作する?そんな方法があったのですか?」

「ええ、この方法は莫大な魔力と集中力が必要になり、この魔界でも
できる可能性のある魔族はごく僅かでしょう。ただ実証例こそ
ないものの、仮定理論はすでに彼によって確立されていました。
そしてその方法ですが、ある力を複雑に組み合わせることで出来ます。」

「ある力…?それは一体!?」

「考えてみれば簡単ですよ。」

少し得意げにハーゴンは笑った。

「脳内における情報の伝達方法。そして菅原道真を結びつければ分かることです。
さて、今でこそ学問の神として崇められている道真公。昔は何の神だったでしょう?」
275そして転職へ  11:2009/10/04(日) 14:00:09 ID:7Py5FMpo
星が夜空を彩っている。いつもは気にも留めない星たちが今夜は
とても奇麗に輝いているのが見える。
いつもと違う世界の見え方をしている自分に気づき、勇者オルデガは
自嘲気味に笑った。

「なんだ。俺の運命もう決まったようなもんじゃねえか。」

目線を下におろせば、赤々とした死の光が時々きらめく。
オルデガめがけ時々吹き出る溶岩が、彼を死の世界に連れて行こうとしている
死神の手に姿をかぶらせていた。そこにオルデガの生命線とも言うべき
マントが、オルデガ自身の手で投げ込まれる。

―未練はない。

自分はこの世でやることはやった。闇の力で好き放題できた。そしてその代償…
一人息子に運命を切り開くカギは渡せた。

「出てきなよ。久しぶりにお前の顔が見たい。」

彼の後ろにスッと人影が現れた。

「クスクス…お久しぶりですね、勇者さん。」

暗がりでもはっきりと分かるきれいな瞳。きめ細やかな肌とほんのり
紅く染まった唇。それとは対照的に少し古びた修道服が若々しい肉体を
覆い隠している。

「…お前ってこんなに奇麗だったのか。あの時は気づかなかった。」

「まあ、お上手。」

両頬に手を当て、少し傾けた顔を赤らめながらその女性は上目遣いで
オルデガを見つめた。

「そういう勇者さんも変わりましたね。ワイルドで素敵です。…でも、
相変わらず瞳はそのままなんですね。なんだか優しそう。」

「…勇者はよしてくれ。元勇者だ。同時にお前は未亡人。」

場の空気が急に冷え切った。笑顔はそのままに女性の声に危険な気配が混じる。

「いいえ。私はいつもあなたの妻です。今までも、これからも。」
276そして転職へ  11:2009/10/04(日) 14:01:11 ID:7Py5FMpo
「若妻すぎるだろその姿。いったい何歳だ?」

「花も恥じらう17です♪10ほど若返ってしまいました〜♪」

「冗談なのか?それとも本気で記憶力が悪いのか?お前の話を真に受ければ
俺は勇者としてどころか人間として危ないレッテルを張られるんだが…。」

「勇者さんのことを悪く言う輩は皆天に召されて頂きます。」

女性の声に凄味が入る。

「逆に私からも質問です。…生きていたのならどうして私のところに
帰ってきていただけなかったんですか?」

「…お前はそういう奴だったな。忘れたんだろう?この場所での出来事を。」

「いいえ!しっかり覚えています。この場所で私は勇者さんに女にして
頂いて…キャッ(ハートマーク)」

「…もういい。疲れた。」

「そうですか。疲れましたか…。」

オルデガの瞳にとてつもなくぎらついた光が宿り、さっと女性から間合いを取る。
とてつもなく濃縮された青白い魔力が女性の身を包み、魔力の影響だろうか?
女性の身体が少しずつ地面から浮かび上がる。

「私から離れて長くなりましたからね。疲れたでしょう。でももう大丈夫です。
肉体ごと疲れを吹き飛ばして差し上げます。」

女性はそう言うと修道服をはだけて首元をさらした。そこには見たこともない
刺青が彫られている。

「私が開発した牢獄呪文です。私の身体を牢獄にすることで、魂を一つだけ
私の体内に閉じ込めることができるんです。素晴らしい呪文でしょう?
これから何があっても二人は一緒なんです。朝起きても、寝る時も、
さみしい時も、うれしい時も一つの体で二人は永久に一緒です。
…あ、さみしい時なんてありませんね。これからはいつも一緒に
いられるんですから。私はもう勇者さんと離れ離れになりたくない!
勇者さんという存在そのものを手に入れたい!勇者さんの魂を奪えば
私は勇者さんの存在を手に入れられる!」
277そして転職へ  11:2009/10/04(日) 14:03:14 ID:7Py5FMpo
魔力がこの叫びと同時に赤黒い色へと変貌する。その力強さも
込められた狂気もケタ違いな存在になっていく。
しかし、オルデガは逆に驚くほど冷静で静かになった。目に映っていた
鋭い光も今はない。

「…なあ。俺たちの存在って言うのは、俺ら自身が脳みそで作り上げた
記号のような幻覚ではなくて、ちゃんと魂に存在が刻み込まれている
ものなのか?」

「私はそう信じています。ですから勇者さんの魂をください!」

オルデガはしばらく黙っていた後…。

「断る!」

力強く言い放った。

「人の存在が脳による記号としてのものではなく、魂に刻み込まれた
唯一のものとして成立する…その事実が本当ならば、俺はそれを
あいつに伝えてやらないとならない!あいつがそのことに気づいたら
あいつの言っていた最悪の可能性を阻止できるかもしれない!
俺にはまだ生きる目的がある!」

「…ふふ。おっしゃっている内容はサッパリですが、男らしくて素敵です。
でも駄目。勇者さんは今日ここで私と一つになるんです!
ここからは逃げられませんよ!」

「逃げる必要なんて…ねえな。」

腰に下げていた髑髏が縁どられている剣を抜き、構える。

「おれとあいつは忌々しい力でつながっている。だから言葉で伝えなくても
きっと伝わってくれるさ。伝え方?簡単だろ。全力で戦うことだ。
勝算がなくても、一秒でもこの世にとどまり全力を尽くす。俺たちの存在は
脳によるまやかしじゃない。魂に刻み込まれた、どんな時も全力を尽くして
護るべき価値のあるものだ!」

「あはははははは!ならば私の魂に刻まれた存在意義は勇者さんを
この私の存在全てで愛し、奪い、支配することです!肉体でもなく!
脳によって生み出された勇者さんの意志でもなく!勇者さんの存在が
刻まれた魂を頂きます!」

オルデガの体に一気に殺気がみなぎる。体中を取り巻く闘志が形を成し、
紫の稲妻が辺りにほとばしり始めた。

「手加減なしだ。」

「勇者さん。あなたを…私に下さい!」

二つの力がぶつかりあう。やがて、片方の力がもう片方の力に飲み込まれ
一瞬の煌めきとともに、夜空の星の輝きが消えた。
278そして転職へ  11:2009/10/04(日) 14:04:56 ID:7Py5FMpo
真夜中、四人部屋の宿で僧侶ちゃん、盗賊くん、魔法使いさんが
かすかな寝息を立てている中、むくりとおきあがった僕は窓の外を
眺めた。
寝る前はあんなにきれいに輝いていた星が、今はかすかに見えるだけだ。

「…父さん。」

ぽつりと言葉が漏れる。

「勇者さん…どうかしましたか…?」

僧侶ちゃんが眼をうっすら開いて僕の方を眺めてきた。

「なんでもないよ。」

僕はかすかな笑みとともに、再び床に就いた。

―本当に、なんでもないよ。

もう一度窓の方を眺める。いつの間にか空は雲で覆われていた。
明日は、きっと雨だろう。
279そして転職へ  11:2009/10/04(日) 14:08:56 ID:7Py5FMpo
以上です。それでは失礼します。
280名無しさん@ピンキー:2009/10/04(日) 14:55:29 ID:4N4OMZpl
ドラクエスレでやれ
281名無しさん@ピンキー:2009/10/04(日) 14:55:58 ID:olqEqC+M
>>280
死ね☆
282名無しさん@ピンキー:2009/10/04(日) 17:29:59 ID:XQQLbT+Y
くだらない言い争いはやめてGJを贈ろうぜ!
GJ!!!オルテガさん……スレ的にはオルテガさんは勝てないよな。涙目です。
283名無しさん@ピンキー:2009/10/04(日) 18:30:12 ID:6rcjzzM7
GJ!
オルテガさんが負けたとしか思えないw
284名無しさん@ピンキー:2009/10/04(日) 23:13:54 ID:a64wMg51
GJ!

>「…父さん。」
>もう一度窓の方を眺める。いつの間にか空は雲で覆われていた。

この時点でオルテガさんが負けてるなw
285名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 00:01:54 ID:n+crEySg
GJ
遂に犠牲者がw
286名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 00:02:23 ID:HWYVPzms
GJ!
さすがにオルテガさんは「ぬあああああぁぁぁぁーーーーーー!」
とは言わなかったねw
287名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 15:06:24 ID:lTjBOWXc


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:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 中に誰もいませんよ ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
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288名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 23:07:29 ID:tdlwmZsm
>>286

パパスじゃあるまいしw
289名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 16:47:19 ID:2Bned2ob
【会員制】PINK書き込みに●必須化か?
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/erobbs/1254786518/

どうなるか分からないけどお試し●の準備ぐらいはしておいたほうがいいかもね
290名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 20:47:34 ID:0TOauKHT
↑・・・こことなんか関係あるのだろうか?
291名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 20:48:17 ID:Gyirl8bB
まぁ書き手は減るんじゃない?
292名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 21:20:57 ID:2Bned2ob
>>290
……ここもPINKなんだが
実装されたら書き込めなくなるから準備したほうがいいぞって……釣られた?
293名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 22:16:26 ID:AnWmFYvB
>>290
くだらない雑談してる奴が減る
294名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 23:50:58 ID:Nlel+ahm
末尾Pとはまた別物なんだよね?
めんどくせ
295名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 23:52:35 ID:UD7pMPw0
完全ROMになるか
296名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 12:41:19 ID:1bi6aFa8
まあ、その時は●の支援とかやってみる(^_^;)
297名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 14:48:32 ID:ed4gcnC1
荒らしが減るなら…
298名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 15:43:32 ID:WlTNua1M
書き手も減って過疎る可能性もあるから
手放しに賛成は出来ないかな
299名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 20:34:53 ID:dRTLmBGs
●必須化は世界平和のために人類を滅亡させるのとあまり変わらんな
300名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 20:56:18 ID:CTLqu03E
男君との平和な未来のために人類滅亡させるんですね
301名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 04:01:57 ID:VRdPCEMb
エゴだよ!それは!
302不安なマリア6:2009/10/08(木) 22:42:30 ID:TK20YbMz
いきます
303不安なマリア6:2009/10/08(木) 22:46:06 ID:TK20YbMz

花屋の店員、クレアは心中で深くため息をついていた。
といっても特に深い理由があるわけではない。外回りが嫌なのだ。
ただ、彼女は外回りを面倒と思ってこそいたが、嫌ってはいなかった。
嫌いになったのはつい最近である。それも確たる理由があってのことだった。
真相は単純、同乗者の問題だ。しかし、セクハラだとかそういう問題ではない。
同乗者ジョナサンの性格というか雰囲気というか、行動にも時々見え隠れする感情。
それが、最近になってどうにも違和感のあるものなのだ。
なんと言えばよいか分からないが、どうも気が滅入るような暗さを感じてしまう。
ちょっと前までのジョナサンはそんな雰囲気ではなかった。
クレアの彼に対する第一印象は、快活で優しく真面目そうな青年、というように高評価だった。
少し伸ばしたブラウンの髪と、とび色の瞳で物腰の柔らかい雰囲気も好印象である。
痩せてはいるが鍛えたらしき体と整った顔立ち、優しげな雰囲気が気に入り、狙った時期もあったが
結婚していると聞いてあきらめた。しかし、好意が燻り続けていたのも事実である。
だから、彼女はジョナサンとの外回りが好きだった。
ジョナサンは融通の利く男でもあった。少し帰りが遅くなっても気にしないし、適度に息を抜く余裕
があったのだ。クレアは彼とよく昼食を共にすることが楽しみであった。

しかし、最近彼は変わった。実際の行動や言動が変わったのは勿論、その裏の感情が読めない。
できるだけ早く仕事を終わらせたいのか、ただ黙々と作業をこなすだけ。外回り中も寄り道しない。
しかも、心なしか彼女と話したりすることを特に避けているような気がする。
昼食に誘ってもあまり良い返事は返ってこなくなった。
――もしかして、あたし避けられてる?
そんな疑問がもたげてしまう。何か悪いことでも言って怒らせたのだろうか。
そんな風に考えていると、一つだけ思い当たることがあった。
――香水・・・。
少し前のことだ。二人で外回りに出ることになり、車に乗りこんだ時。
クレアが先に車に入って待っていると、ジョナサンが運転席に座った。
彼は、入ってくるなり何か顔をしかめたので、どうかしたのか尋ねたのだ。
すると彼は「いや、うん。ちょっとね」とはっきりしない。
「どうしたの?なんか気になるから言ってくれません?」
そう突っつくと彼はこう答えた。「いや、けっこう今日は香水強めかな、って」
その後はえぇ〜?!などと茶化した反応をして誤魔化したものの、ショックだった。
あれが原因だとすると、自分はずっと臭いと思われていたのだろうか。
というよりも、実は彼、香水の匂いが嫌いで、それをずっと我慢していたというわけか。
そんなことで自分を嫌うとは思えなかったが、それを疑ってしまうほど彼は変わってしまったのだ。
――う〜ん。このままは嫌だし、もう一度仲良くなりたいなー。話できないかな?
それに何か重大な悩みがあるのかもしれない。好意の証としても、彼の相談に乗りたかった。
――でももし、奥さんの問題とかだったらどうしよ。・・・でもま、それはそれ、か。
こうして、真性楽天家のクレアは、マリアの夫を強引に昼食に誘うことにしたのだった。

最近、自分でも驚くほど他人との接触が少なくなっていることに一抹の心配がある。
ジョナサンは、何度かそういう話を妻のマリアに向けてみていた。
しかし、マリアの反応はいつも嬉しそう笑い、彼にキスと「セックス」をせがむだけだ。
他人と触れ合う機会はおろか、その欲求さえも明らかな減退を見せている今、彼は焦っていた。
しかし、この町で彼と知り合いの「他人」など町の狭いコミュニティのなかの人々ぐらいである。
彼らは、私達のような境遇や体験もなく、そもそも話が合うわけなどないのだ、とはマリアの弁。
必ずしもそんなわけではない、現に・・・と反論しようとすると、あの虚ろな視線。
「じゃあ、あなたは私との時間より連中との下らないおしゃべりが大事なのか?」
「私には孤独かあなたとの時間しかないんだ。休日だけでも一緒にいたいのはおかしいか?」
「私とあなたは二人で一つ。他に代わりはない。あなたは私から目を離さないで。」
こうして静々と問い詰められると、彼もそれ以上反論する気をなくしてしまうのだ。
――彼女さえいればいい。勘当された時、そう思ったじゃないか。これ以上何を望む?
――それにもう、マリアだけ見ていなくてはならないんだ。
304不安なマリア6:2009/10/08(木) 22:49:00 ID:TK20YbMz

それに、町にはマリアを決して良い目で見ない者もいる。
一ヶ月に何度か、休日に車椅子をひいて公園や町のメインストリートに出かけることがあった。
しかしデートを楽しむ二人の姿はやはり小さい町の中、どうしても目立ってしまう。
傷痍軍人を抱えた流れ者に優しい場所など決して多いものではない。
不安や孤独感から徐々にヒステリックになっていく妻の心を解放するにはどうすれば。
悩みながらもジョナサンは誰も恨まず、働き、妻との生活を維持した。
だが何事も限界がある。町の中で孤立が身にしみた。そんな時、マリアが一人で努力を始めた。
料理や掃除といった簡単な家事だが、ジョナサンは彼女につきっきりで教えている。
――彼女は立ち上がろうとしている。ただ孤立するだけじゃなくて・・・。
――いまは彼女に専念するときなのだ。それで僕も救われる。
そう自分に言い聞かせながら、妻をベッドに寝かせる。それでも、不安感やストレスが溜まった。
マリアはそれを全て自分にぶつけていいと言い、そうしていつも「セックス」に雪崩れこむ。
しかし、一体感と凄まじい快楽はその時だけで、終わればすべてばらばらになってしまう。
――息苦しくなるのはなぜだ。不安になればもっと気持ちよくなれるはずなのに・・・。
――マリアだけ、マリアだけ、マリアだけ・・・。どうすれば僕たちは、幸せに・・・?
果たしてマリアが言うように二人だけで生きられるのか、不安になってくるのだ。
同僚のクレアから食事の誘いがあったのはそんな頃だった。

その日、仕事が忙しく昼は食べられないとジョナサンが告げると、妻はただ「そうか」と答えた。
最近、彼は妻のランチボックスをもって職場に向かう。彼女の料理の腕が上がったのだ。
だから、外で料理を食べる時は彼女に断り、ランチボックスをもたないで家を出る。
今回は昼食の相手が同僚の女性だったので、あえて妻に黙っておくことにした。
マリアのほかの女性に対する敵愾心は依然として強烈で、特にジョナサンへの接近を許さない。
何度も浮気調査と称して携帯から鞄の中身に至るまでひっくりかえしている。
あるいは、キスマークを発見しようと、時には全身をくまなくチェックする。
執念と猜疑心がそうさせているのだろうが、常に爆発しかねない危険さを秘めていた。
だからこそ、やましいわけでもないのに彼はクレアとの昼食を隠すことにしたのだった。
ではなぜ、そんな危険を冒してまでクレアと食事をするのか。無論、ただの気まぐれではない。
マリアとの生活に息苦しさを感じたとかいう、夫婦の悩みというのも違う。
自分自身への焦りとも言える気分がそうさせたのだ。
彼は、社会との接点、接触を拒むような自分の気持ちに何とか歯止めをかけたかった。
気がつけば、最近は同僚との食事どころか会話さえも成立しなくなっているのである。
そんなことがこれからもっと進行すれば、いつか自分達は完全に孤立してしまう。
それだけはなんとかして防がねば、と彼は考えていたのだった。
もちろん、それが妻の独占欲の影響を受けたものであることは分かっている。
だから根本的には夫婦の問題に直結しているのだが、彼はどうしてもそれを考えたくなかった。
妻の望んだ通りではないような気がしたからだ。
自分の望み、妻の望み、絵に描いたようなジレンマのなかでジョナサンは悩んでいた。

彼は仕事と言った。仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事仕事・・・・・・、
だから、そう。不自然じゃない。私のランチボックス。私が彼のためにつくったランチボックス。
そう。不自然じゃない。彼は忙しいのだ、私の料理を食べられないくらい。
食べられない。そう、食べられないだけだ。「食べない」のではない。断じて違う。
忙しいのだ。何より彼がそう言っていた。外回りが大変なのだろう。何軒も何軒も何軒も回って。
・・・・・・おかしい。なぜか涙がこぼれてきた。体の震えがとまらない。
あはは、はは、どうしてかわからない。今日の私はすこし変だ。さっきから体が震える。
――女なのかもしれない。もしかして、彼は女と食事をしたくて今日は・・・。
そんな妄想が頭をよぎる。すぐ怒り泣く醜い私に代わって健康的な若い娘と外にいる彼の姿。
「駄目な妻だな、私は。また夫を疑ってしまった。」
一人笑って誤魔化そうとする。しかし、笑いは咽にひっかかり、乾いた音しか出なかった。
「そうだ。電話しよう。電話だ。電話電話電話電話電話・・・。」
電話電話と呟き続け、意識を集中させて嫌な妄想をはねのける。
305不安なマリア6:2009/10/08(木) 22:54:13 ID:TK20YbMz

しかし、一度疑いだすと止まらない。怒りと不安で電話を持つ手が震える。
「うぐ、ぐす・・・ふぅっ、ぐ・・・うあ・・・」
電話機に涙が零れ落ちる。何度目かでようやく、正しい番号をダイヤルできた。
何回かのコール音の後、ジョナサンが出た。
「もしもし。マリア?」
少し周りが騒がしい。今日は町を歩いて回っているのだろうか?昼時で休憩しているのか?
「ああ。私だ。どうしてる?お腹は減っているか?」
それとなく探りを入れる。それにしてもさっきからカチャカチャという音が煩い。それに周りで
幾人かが喋っているような感じだ。
――ジョナサン、いまどこにいるんだ?
『ああ、うん。アレ、やっぱりもっていくべきだったかな?』
ははは、と笑い声が聞こえる。しかしどこか違和感のある、乾いた声だ。
――どこだどこだどこだどこだ
「ふふ、私の料理だって捨てたものじゃないだろう。随分、練習したんだ。」
どう攻めてやろうか。ジョナサンの反応に備えた瞬間だった。大きな声が入ってきた。
『前菜をお持ちしました。蛸のカルパッチョでよろしいですね?』
『あ、きましたよ。ジョン、』
『マリア、いま客を待たせてるからちょっと待っててくれ。すぐかけ直す。』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
『・・・マリア?』
心臓が止まったような気がしていた。
以前、一度だけあったことがある女の声。受話器の向こうで夫を親しげに呼ぶその声。
どうやら女と二人で食事を取っているらしいこと。
そして何より、夫がそんなことをしながら自分に嘘をついたこと。
なにもかもがショックで、悲しすぎた。重い何かが奥底から全身に広がっていく。
――窒息する。苦しい苦しい苦しい。息が詰まる。息が息が息が息が・・・・。
「か、はっ」
空気が、声にならない叫びが咽から漏れる。
『マリア?どうしたんだ?大丈夫か?』
夫の心配そうな声。いつもはそれで安心できるのに今日はそれさえ偽物にしか聞こえない。
『どうしたの?』
また聞こえるあの声。吐き気を催すような、呪われた声音。
女になにか合図でもしているのか、ジョナサンの気配が一瞬、受話器の向こうから消える。
その姿が脳裏に浮かんで、マリアは朝食と昼食を一気に吐き出した。
「うぐ、う、げぇっ・・・・・・かっ、は・・・・」
カオスのなか、たった一つのことだけが彼女の脳裏にはっきりと現れていた。
――復讐しなければ。あの女。復讐復讐復讐復讐復讐
――取り戻す。私のものを。ジョナサン、まっててくれ。すぐ思い出させてやる。
――わたしのものわたしのものわたしのものわたしのもの
感情はすぐ断片として消えてゆき、復讐という目的だけが残った。
彼女は落ち着いてジョナサンに呼びかける。
「大丈夫だ。なんでもない。私も鍋がそのままだから見に行くよ。一段落したら必ず電話だぞ。」
そうか、じゃあまた後で、と電話は切れた。
また一人になったリビングで、彼女はゆっくりと考えていた。

あの豚の名前は何と言ったか。・・・そうだ、クレアだ。奴の匂いがする。でもなぜ?
決まりきっている。あの豚に夫が誘われたのだ。昼食でもとろうとかなんとか言って。
それで、彼は私の料理を食べないつもりなんだ。私の私の私の私の私の私の・・・
卑しい豚のことだ。それだけではすむまい。きっと、もっと汚らわしいことを考えているのだ。
それにしても、彼は私の料理に飽きたのだろうか。いや、そんなことはない。ありえない。
なぜなら、あれに飽きたということは私の体に飽きたということだからだ。
私が彼のために作る料理には全て、私の体液が入っている。だから、彼が飽きるのはありえない。
あの豚は私の痕跡を彼の体から流そうとしているのかも知れない。別のものを食べさせて・・・。
そう思った途端、私の中で熱い物が弾けて噴出した。火山みたいだ。壁に皿を叩きつける。
「そちらがそういうつもりなら、私にも手があるぞ。」
あは、ははは、あはははははは。豚の処遇は決まった。もう終わりにしてやる。
そうだ。彼にも「罰」が必要だ。もう一度、完全に「教えて」あげないと・・・。
306不安なマリア6:2009/10/08(木) 22:57:05 ID:TK20YbMz
以上、雌豚登場編でした
次あたりで完結
307名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 23:58:51 ID:GUpxBeMw
作文もどき。
少しでも面白いと思ったの?
308名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 00:35:54 ID:lm3GoF2O
>>306
GJ!相変わらずゾクゾクする
309名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 00:49:16 ID:eoYducE7
>>306
GJいよいよ破滅だなw
310名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 01:39:35 ID:EEx+OlAN
>>306
マリアこえええぇぇw
GJ!
311名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 03:32:43 ID:Db+RRUu/
>>306
GJ!
頑張れ
312名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 04:43:11 ID:RQxB1QUF
キター!!大爆発!!キましたよー!!GJ!GJ! 
次回、恐ろしい事になるなァ。
313名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 04:59:44 ID:x+xtK9N0
>>306
GJ!
盛り上がってきたな!
314名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 22:02:56 ID:eHIxjX/e
夜中に連続で褒める不自然さに気づかないのかな?この作者にうんざりした。
315 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/10/09(金) 22:10:37 ID:Fq4q3HCv
ぽけもん黒 六月分七月分まとめて投下します
長いので連投規制対策に支援よろしくお願いします
316 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/10/09(金) 22:12:03 ID:Fq4q3HCv
……なんか酉変わってますね
文字は変えてないんですがどうなってるんでしょうかね
317ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/10/09(金) 22:19:07 ID:Fq4q3HCv
 遭難した。
 何かの冗談でもなければ何かの比喩でもない。
 本当に、道に迷った。
 鬱蒼と生い茂る樹海の中で。
 僕は、皆に向かって力の無い笑みを浮かべた。



 シルバー達に逃げられた後。
 延焼が起こらないことを確認した僕と香草さんはポケモンセンターに戻った。
 香草さんが僕の火傷を心配したためだ。
 香草さんはヒリヒリと痛む僕の肌を撫でると、今にも泣き出しそうな顔で僕を見た。そんな彼女に「今すぐポケモンセンターに行きましょう」と懇願されれば、同意しないわけにはいかない。
 実際は火傷というより日焼けといったほうが正しいような軽症だった。どの道、このまま散歩を続ける気分にもなれなかったけども。
 過剰に僕のことを心配したかと思えば、その直後に「あのアマ、今度会ったら絶対にぶち殺してやる」なんて恐ろしいことを口走る。
 ますます香草さんとランは戦わせられない。
 そもそもランが悪いわけじゃない。悪いのはシルバーなのに。
 しかし、香草さんは感情の変化が激しすぎるように思う。笑っていたと思えばすぐに不機嫌になり、慌てていたと思えばすぐに怒り出す。もしかして女の子は皆こうなんだろうか。
 だったら僕は今後女の子と関わっていく自信がない。

 ポケモンセンターで診断を受けたが、やはり結果は「治療の必要なし」だった。
 大事をとって一応塗り薬を出すか? と聞かれたが、不要だと思ったので断った。
 僕が診察室からでて、診察室の前で待機していた香草さんにそれを告げると、「藪医者が!」と診察室に突撃しそうになった。
 羽交い絞めにして抑え、なんとか説得した。
 羽交い絞めにした際、香草さんの胸の感触がして恥ずかしいと同時に嬉しかったことは内緒だ。
 しかしその後香草さんが「やけによそよそしかったから間違いなくばれていただろう。
 触っているんだからばれない道理はないんだけど。
 部屋に戻った後がまた大変だった。
 香草さんの治療に行って以来戻っていなかったために、長時間(といっても一時間程度だが)放置されたポポは恐慌状態だった。
 ドアを開けた僕の目にまず飛び込んできたのは散乱した羽。
 次に目に入ってきたのは、隅のほうで小さくなっている、涙で顔をグシャグシャにしたポポの姿だった。
「い、一体何があった!?」
 僕は慌ててポポに駆け寄る。どう見てもただ事ではない。
「ゴー……ルド…………ゴールド!? うわぁああああん!」
 ポポの突進のような抱擁に僕は数メートル飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた。ポポは僕の胸に顔をうずめ、泣きじゃくっている。
 僕はすぐに危険を察知し、ポポの背中に両腕をまわした。
 間髪空けずに、腕に蔦が叩きつけられる。
 腕に爆ぜるような激しい痛みが走った。
「香草さん、何するのさ!」
「ち、違うの! ゴールドにやろうと思ったわけじゃないの! ただ私はその鳥に……」
「それがダメだって言ってるのさ! どうしてそんなことしようとするんだよ!」
「だってゴールドにだ……」
 ポポが僕に思いっきりぶつかったことを怒っているのか。
「そんなこと言っている場合じゃないだろ! ポポ、僕たちのいない間に何があった!?」
 僕は二度目となる質問をポポに投げかけた。
 しかしポポは相変わらず泣いてばかりで話せそうに無い。
 しかも廊下まで飛ばされてしまったので、人が通りかかるときっと奇異の目にさらされることだろう。
 だからとりあえずポポを抱えてベッドまで移動することにした。
「な、何してるのよ!」
 突然香草さんから批難のような質問が投げかけられる。
「何って、ベッドまで運ぼうかと」
 直後、頭部を狙って飛んできた香草さんの蔦をかがんで回避した。
 なぜかは知らないけど、香草さんの蔦が飛んでくる気がしたからだ。案の定、飛んできたわけだし。
 香草さんの言葉には言外の意味が多すぎる。普通の回答じゃほぼ間違いなく蔦の餌食になることを僕はすでに学習済みだ。
318ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/10/09(金) 22:19:29 ID:Fq4q3HCv
 次いでとんできた蔦も扉の陰に隠れることでやり過ごした。
 ここは遮蔽物が多いから隠れやすいし、そもそも狭いから蔦を振り回しにくくて良いね。
 香草さんの蔦対策がそのまま場所の良し悪しになっていることに泣けてくる。
「ダメよ、そんなの絶対にダメ!」
 そういうことは蔦を振り回す前に言って欲しい。僕じゃなかったら今頃大怪我だ。
「何がダメなのさ」
「何がって……そんな……」
 なにやら香草さんは大きな誤解をしているような気がする。
「ただポポから話を聞きたいだけだよ?」
「嘘よ!」
 どうして嘘と判断したのか聞きたい。僕の今の話に何かおかしな点があっただろうか。それとも、僕はそんなに嘘つきに思われてるのかな。
「本当だよ。香草さんも一緒に聞こうよ。場合によっては警察のお世話になるかもしれないし」
「警察の世話になんてならないわよ! だってその鳥、それ自分でやったのよ!?」
 自分で? 自分で羽を毟って撒き散らしたというのか?
 ポポは腕が翼になっているために自分で自分の羽を毟ったりは出来ない。どうやって自分一人でこんなことをしたっていうんだ。
 そう思いながらも、確認のために一応ポポに問いかける。
「そうなのポポ? これ、自分でやったのか?」
 僕の問いかけに、ポポは首をわずかに下げた。なんてこった。
 最初この羽毛はポポのものかと思ったけど、よく見たら部屋の片隅にビリビリに引き裂かれた枕が転がっていた。
 羽毛の枕なんて、なんて無駄に高級な設備なんだポケモンセンター!
 税金の無駄遣いという言葉が頭をよぎったが、普段は枕もなしに野宿という旅人達のために、せめてここでくらいは柔らかい枕で寝て欲しいという優しさかもしれない。
 というか、そうであって欲しい。
「どうしてこんなこと……」
「怖かったんです!」
「怖かった?」
「ゴールドが帰ってこなくて……捨てられたのかと思って……探しに行きたかったですけど……ゴールドが戻ってきた時いなかったら……約束破ったら捨てられちゃうと思ったんです……それで、どうしたらいいのか分からなくなって……分からなくなったんです」
 ポポは泣きじゃくりながらポツポツと述べる。
 はっきり言って、ポポの心理が理解できない。
「ポポ。どうしてポポはそんなに心配するのさ。僕ってそんなに外道に見えるかな?」
 つい言ってしまった。ポポもこんなことを聞かれても困るだろう。彼女には否定以外の回答は初めから用意されていない。僕が気づいていないだけで、僕が本当に下衆野郎だとしても、僕から見放されないためには否定するしかないのだから。
「ポポには……ポポにはゴールドしかいないんです。ポポには何も無いんです。一人では何も出来ないんです。ゴールドが……ゴールドがいないと……。だから、ゴールドがいなくちゃ生きていけないんです! だから、だから……」
 嗚咽によって言葉は途中で途切れた。ポポは再び僕の胸に顔をうずめて泣きじゃくる。
「そんなこと無いよ、ポポはもっと自分に自信を持つべきだ。僕が……」
「はいはいそこまで。分かったでしょ? その鳥に付き合うだけ無駄なのよ。まともな理由なんかないんだから」
 僕がいなくてもポポは大丈夫。ポポは僕以外のトレーナーを知らないからそう思うだけなのさ。僕はけして特別じゃない。
 その言葉は香草さんの割り込みによって中断された。
 香草さんはうんざりした表情でポポを僕から引き離す。
 ポポは両翼をバタバタと羽ばたかせて抵抗したが、香草さんの力には勝てなかったようだ。
 一方の僕はというと、その様子をただ呆然と眺めているだけだ。
 どうしたらいいか分からない。
 ポポの状態はどう考えたってまともじゃない。僕が、何かを間違えたのだろうか。
 きっと、僕のそんな様子でまた不安になったのだろう。ポポがまた今にも泣き出さんばかりに顔を歪めた。
 僕はポポを安心させるためにとりあえず笑みを作る。中身の無い笑みを。
319ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/10/09(金) 22:20:07 ID:Fq4q3HCv


 僕が入り口から向かって左側のベッド、ポポと香草さんが向かって右側のベッドで寝ることになった。
 香草さんの強い要望のためだ。
 それには、僕としても同意だった。
 ポポを甘やかしすぎたのかもしれない。いや、甘やかしているというほど何かをやったわけではないけども。
 とにかく、距離をとることには同意だった。
 香草さんには悪役を押し付けてしまって申し訳ないけど、香草さんの要望ということであれば僕がポポを見放したということにもならない。
 もちろん、香草さんにポポに対して暴力を振るわないことは約束させた。
 ……これで責任を果たした、と考えるのはただの独りよがりなのだろうか。
 もしかして、育児放棄を行った大人も、このように考えているのかもしれないな。最低限すら果たせてないのに、それで十分と勘違いする。
 たとえ偽りでも、それが一時的な仮初であったとしても、ポポを愛すべきなのだろうか。
 たとえ、それがいつか僕の人生と共に決定的な破滅に行き着くことが分かっていたとしても。
 僕の心は揺れていた。


 フワフワの羽毛の枕も、僕の煩悶を吹き飛ばしてはくれなかった。
 重い気分で迎えた朝。
 体を起こすと、香草さんとポポはすでに起き上がってこちらを見ていた。
 なんだか怖い。
「お、おはよう」
「おはよう」
「おはようです」
 僕の挨拶に対して二人は微笑んだが、それがさらに恐怖を煽る。
 これは単なる被害妄想だろうか。

 僕たちは準備を終えると次の町目指して出発した。
 檜皮村から次の古賀根市へ行くには姥女の森を通らなくてはならない。
 この森、木々が鬱蒼と生い茂っているため、昼間でも地上部まで日光が届かず、非常に薄暗い。その上、いろんないわくがあるとかで全国的に有名な心霊スポットでもあり、夜には絶対に立ち入りたくない場所だ。
 地元住民からはいわくつきの地というより、神聖な場所ということで畏れられてこそあれ、怖れられているなんてことは無いから、いわくなんてものはただの噂で、実際には何も無いと信じたい。
 入り口で通行が制限されるという特性上、ここは一つのチェックポイントにもなっている。僕は入り口の係員にポケギアで自分の情報を提示する。
 係員の隣には警察の人もいて、ロケット団の出入りを監視しているようだった。
「ロケット団に気をつけて、見つけたらすぐに通報してその場から逃げてください」
 と言われたが、シルバーの件を知っている僕からすれば、出入り口なんて警戒しても意味がないと思ってしまう。元々一部の人とトレーナーしか立ち入れない場所なんだし、そもそもロケット団が正規の出入り口を使うはずがないのに。

 実際に踏み入ってみて分かったが、この森は本当に暗い森だった。
 入り口から数十歩進んだだけで晴れから曇りになったくらいの明るさの差がある。
 行き先は闇にかすんで、はっきりとは見えなかった。
「なんだか、気味が悪いね」
 僕は思わずそう漏らす。
「な、情けないわね。ゆゆゆ幽霊なんているわけないじゃない!」
 そういう香草さんの足は小刻みに震えている。少し可愛い。
 ポポはといえばキョトンとしていた。羨ましいまでに鈍感だ。
 光が入らないためか、あまり固くない地面を踏みしめながら進んでいく。

 まだ朝だというのに、森はすでに雨天時よりも暗くなっていた。
 暗さもさることながら、木々の密集度からポポが飛ぶことが出来ないことも厳しい。香草さんの蔦も本来の力を発揮することは出来ないだろう。
「きゃっ!」
 香草さんがゆるい地面に足を取られ、短い悲鳴を上げる。
「大丈夫?」
「ポポは大丈夫ですー」
 はいはい、分かったからね。
 香草さんは――僕もだが――歩きにくそうにしているが、ポポは鉤爪のお陰か、それとも長かった野性の生活のお陰か、滑りやすく力を込めにくい地面をまったく苦にせず、なんでもないようにひょいひょいと歩いていく。
 その跳ねるような動きが、ヒラヒラと揺れる服や羽と相まって、とても可愛らしい。
 あっちに足をとられ、こっちに躓きと、ふらふら歩いている僕と香草さんとは大違いだ。
 香草さんは何も言わないが、表情からは不機嫌さがにじみ出ている。
 こういうときこそ、(一応)パートナーである僕が支えてあげないと!
 ……決してポイント稼ぎとか、そういうのじゃないからね!
 僕は彼女に手を差し出した。
 ふらふらしている人間同士が手を繋いだら共倒れになるんじゃないかとか、そういう野暮なことは考えてはいけない。
320ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/10/09(金) 22:20:43 ID:Fq4q3HCv
 しかしその手に重ねられたのは手ではなく翼だった。
 いつの間にかポポが素早く駆け寄ってきていたのだ。
 僕はポポを見たが、涙目で上目遣いで覗き込まれてしまった。
「だめ……ですか?」
 涙声でのトドメの一押し。
 これで何も言えなくなってしまうのは僕だけではないと自信を持っていえる。
 そういうことで、なんのためか分からないけど、ポポと手を繋いで森を進む。
 ポポと手を繋いでも、当然足場が安定するわけではなく、そのため何回かポポを巻き込む形で転んでしまった。
 しかも一回は一見ポポを押し倒しているような格好でだ。
 すごく気まずいと共に、手をつないだのが香草さんでなくてよかったと思った。香草さんとだったら今頃僕の命はない。運がよくても繋いだ腕は根元からなくなっていることだろう。
 しかし巻き込んでしまっていることが申し訳ないから、ポポに手を離そうかと提案しようと思ったけど、ポポの嬉しそうな顔を見て、僕が手を離そうと言った後のことを考えると何も言えなかった。
 僕の数歩前を行く香草さんの周りだけ闇が濃いように思えるのは気のせいではないと思う。
 一方で、隣にいるポポはここが薄暗いというには暗すぎる森の中だと思えないくらいニコニコとして明るい。
 まるで香草さんの周囲の光がポポの周囲に移動しているかのようだ。
 僕はとても胃が痛い。

 その胃が痛い空気で進むこと数時間。
 唐突に、ポポが立ち止まった。
「どうしたの?」
「……誰かの泣き声みたいなのが聞こえる……気がするです」
 僕の質問に、ポポはおずおずと答えた。
 その様子からして確証は無いようだ。
 事実、立ち止まって耳を澄ませてみても、僕には何も聞こえない。
 香草さんにも尋ねてみたが、彼女はこちらに向き直ることもせず、無言で首を振った。
 彼女は僕や香草さんと比べかなり耳が良いから、僕が分からなくたって間違いとは言えない。
 しかし、こんな暗い、先の見えない森で泣き声。どう考えても気分のいい話ではない。
 背中に寒いものが走る。
「と、とりあえず、先に進んでみようか。ほ、ほら、ポケモン同士のバトルかもしれないし!」
 僕は結論を保留して先に進むことにした。
 立ち止まっていてもしょうがないし。
 何かに怯えながら、慎重に、ゆっくりと進むことしばらく。
 聞こえた。僕にも、聞こえた。
 しくしくと、すすり泣くような声が。
 香草さんも聞こえたらしい。足が止まった。
 香草さんは青ざめた顔をして振り返った。
 き、ききき気のせいよね!?
 口はパクパクと動くばかりで言葉をなしていないが、そう言いたかったような気がした。
 僕はコクコクとせわしなくうなずく。
 香草さんを勇気付けるというよりは、自分を落ち着かせようと暗示をかけているといった方が適切だ。
 なんとか励まそうと言葉を発しようとしたけど、恐怖でパニック手前に陥っている頭は上手い言葉を見つけてくれず、僕も彼女のように口をパクパクさせるだけに終わった。
 ポポはそんな二人の様子をキョトンとして見ている。ポポは幽霊に対する恐怖とかないんだろうなあ。ゴーストポケモンだったら戦う対象だろうけど、それ以外のモノはポポにとっては意味を成さないんだろう。

 辺りを警戒しながらゆっくり先に進むが、明らかに香草さんの歩が遅くなっている。進めば進むほど、すすり泣きも近くに聞こえてきているから分からなくも無いんだけど。
 ついに香草さんの足が止まった。彼女は今にも泣き出しそうな顔で振り返った。
 か、かかか風の音よね!?
 相変わらず言葉にはなっていないが、そう言っている気がした。
 しかしこれが風の音ではないことは明白だ。もちろん気のせいでもないことも。
 僕は無責任にうなずくわけにも行かず、沈黙を返す。
 ポポは僕の顔の覗き込んで、不思議そうな顔をしている。
321ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/10/09(金) 22:21:16 ID:Fq4q3HCv
「そ、そういえば」
「そういえば?」
「い、いや、なんでもない」
「き、気になるじゃない。言いなさいよ」
「あー、えっと……思い出したんだけどさ、とある研究所で、幽霊の研究をしていた科学者が、幽霊に取り付かれて自分も幽霊になっちゃったっていうホラーを思い出してさ……」
「いやぁああぁあぁああああああ」
 耳を劈く悲鳴が辺りに響く。
 香草さんは叫びながら強く僕に抱きついた。骨が折れそうな勢いで。
 肺から空気が噴き出していくのが分かる。い、息が……
「ご、ゴールド!? しっかりして!?」
 香草さんは僕がグッタリしていることに気づいたようだ。
「ま、まさか……幽霊の仕業!?」
 いえ、貴方の仕業ですよ香草さん。
 だからそんな青い顔をしてガクガクと震えないでください。
「チコのせいです!」
 一方、幽霊なんてものに微塵の恐怖も抱いていないポポは当然僕がグッタリしている理由が分かっているわけで、激昂し、香草さんに飛び掛った。
 止めなければ。僕がそう思うより早く。
 ポポは突然空中で固まり、そのおかしな姿勢のまま地面に落ちた。
「ぽ……ポポ?」
 呼びかけるも、返事は無い。
 慌てて抱き起こす。意外なことに、ポポには意識があった。目だけをを必死に動かしているが、体の自由が利かないようだ。ポポ自身も、何が起こったかわからないらしい。
 こ、これはまさか……
「ゆ、幽霊……」
 香草さんはそう呟いたかと思うと、体をまっすぐに伸ばしたまま後ろ向きに倒れた。抱き起こしてみたが、こちらはただの気絶のようだ。
 よく見れば、前方の空間、木々が不自然に折れ曲がっており、しかも周囲に比べて水浸しになっている。これはもうじめじめの域ではない。
 前方に何かいる。
 おそらくポポが突然動けなくなった原因もそれだろう。
 となると、この何かをなんとかするしかなさそうだ。
 頼りの香草さんは気を失っているし、起こしたところで戦力にはなりそうにない。
 となると、当てに出来るのは僕一人だけか……
 出来ることなら逃げたいが、そうも行かない。
 僕はベルトに挿したナイフを抜くと、そろそろと進む。
 またシルバーに遭遇しないとも限らないと思ってベルトに挿しておいたのだけれど、隙を少なく武器を取り出せることがこんなときに役に立つとは。
 原因が本当に幽霊だとしたら効果があるかは疑問だけど、それでも心強い。

 ほとんど進む必要もなかった。
 ほんの数歩進んだだけで、濁った池が見えた。
 同時に、その池に浮かぶ桃色をした何かも。あ、あれはまさか髪?
 で、溺死体?
 もしくは、あれはここで非業の最期を迎えた人の幽霊で、成仏しきれずに化けて出ているとか……
 ろくでもない言葉が脳裏をよぎって、思わず身構える。
 そうしている間もすすり泣きの声が聞こえてくる。
 やはり発生源はアレのようだ。
 ……嫌だけど、とりあえず近付くしかないのかな。
 い、いや、そういえば、池に近付くと、そのまま池の中に引きずり込まれるなんて怪談ではよくあるパターンではないか!
「あ、あのー、すみませーん」
 近付く気が失せたので、とりあえず呼びかけてみる。
 しかし反応はない。
 どうやら近付いてみるしかないようだ。
 ああ、嫌だなあ。
 そう思いながらゆっくり近付いていると、突然その桃色の物体が池から浮上した。
 同時に、見えない手のようなものに押されて、その場に倒された。
 慌ててナイフを構えなおし、前方を向くと、そこには、桃色の長い髪を持った、同じくピンクの着ぐるみのようなものを着た少女が立っていた。
 着ぐるみは撥水加工がほどこされているのだろう、表面の水は見る見る玉となり落ちていく。
 年は僕と同じくらいか少し上くらいだろう。目は物憂げに開かれており、口が開きっぱなしになっている。どこかこことは違う世界を見ているような、単に何も見ていないような、そんな不思議な印象を与える表情だ。
322ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/10/09(金) 22:22:01 ID:Fq4q3HCv
 これは……ヤドンか。
 幽霊の正体見たり枯れ柳とはまさにこのことだ。
 ここはヤドン族が多数住んでいる檜皮村からいくらも離れていない。ヤドンに遭遇しても何の不思議も無い。
 僕は安堵したが、同時に不安も覚えた。
 ヤドンは本来温厚なはずだ。それなのに彼女の周囲にある木々はことごとく、おそらく念力で曲げられており、そしてポポが身動きが取れなくなったのは、きっと彼女の金縛りによるものだ。
 だとすると、これはこれで、危険な状態と言える。
 香草さんにもポポにも頼れない今、襲い掛かられたら僕は自分の身を守れるのだろうか。
 情けない現実だ。
 彼女は池から上がると、僕のほうにゆっくりと歩いてきた。
 ど、どどどどうしよう!
 警戒は怠ってはいけない。しかし相手に警戒心を与えてもいけない。
 僕は彼女の死角になるように、背中にナイフを構えた。
 念力を自在に操るヤドンに、果たしてナイフは通用するだろうか。
 そう思わなくもないけど、何もしないよりはマシだろう。
 見えない腕で全身を締め付けられるような、そんな感覚。
 突然僕は四肢の自由を奪われた。
 何もしないも変わらなかったかもしれない。
 おそらく、いや、間違いなく彼女の仕業だろう。
 彼女は一歩、また一歩と僕に近付いてくる。
 恐怖におののくも、何も出来ない。
 一回の跳躍で僕に届く、そんな距離まで近付いたとき。
 彼女は突然パッタリと倒れた。
 わけが分からず、混乱していた僕の目に飛びこんできたのは、着ぐるみから突き出した、根元に近い部分からバッサリと切り取られた尻尾だった。
 碌な処置がされていないようで、傷口は随分と生々しい。
 手当てしないと!
 そう思ったときには、すでに金縛りは解かれていた。
 僕は彼女を引き摺り、香草さんとポポが倒れているところまで戻った。
「ゴールド!」
 僕の姿を捉えるなり、ポポに抱きつかれた。やはりポポは彼女に金縛りをされていたのか。
「急に体が動かなくなって、それでゴールドもいなくなっちゃって、心配したです!」
 いなくなったって言ったってほんの数十メートルの話なんだけどね。
 と、今はポポと戯れている場合ではない。一刻も早く彼女の傷を看ないと。
「ポポ、ちょっと離れて。彼女の手当てをしたいんだ」
「あう、ごめんなさいです」
 ポポは僕から慌てて離れる。お願いだからその不安げな目をやめてくれ。

 彼女が意識を失ったせいか、傷口からは血がにじんでいた。彼女が僕に近付くとき、特に血が垂れた様子はなかったから、きっと起きているときは念力で止血していたのだろう。となると、ますますまずい状態だ。
 僕はリュックをおろすと、中から傷薬と包帯を取り出した。
 僕のリュックに入っている道具は何も逃亡用の物だけではないのだ。突然の怪我にも対応できるようにしておくのはトレーナーの常識さ! 僕はただ他の人よりほんのちょっと逃亡用の道具が多いだけなのさ。
 傷薬を傷口に吹きかけると、傷にしみたのか彼女はうっと呻き声を漏らした。
 気絶したんじゃなかったのか。しかし立っていることもできないほど弱っていることに変わりは無い。
「今傷の手当をしているから、じっとしてて」
 彼女にそう言うと、今度は傷口にガーゼを当て、手早く包帯を巻いていく。
 これでよし。元々出血は酷くなかったし、ガーゼすらいらなかったかも知れないくらいだ。
 彼女が倒れた原因はおそらく貧血だろうけど、水の中にいなければここまで酷くならなかったんじゃないだろうか。
 しかし外敵がどこにいるかわからない状況ではしょうがないか。
 ……それにしても、どうしてこんな酷い怪我をしているのだろうか。
 ヤドンの尻尾は再生能力があるから多少の損傷は問題にならないとはいえ、これほど酷いとそれも例外だ。ちゃんと治癒すればいいけど。
 鋭利な物で切られたような感じの傷口からいって、自然に出来たものではなさそうだ。
 となると、誰かに襲われたと考えるのが妥当だ。
 すぐに思いつく心当たりが一つ。
 ロケット団。
 僕は、背中に冷たいものを感じた。
323 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/10/09(金) 22:23:03 ID:Fq4q3HCv
六月分終わり
続いて七月分投下
あと、今回サブタイはつけません。というか今後つけないかもしれません
324名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 22:24:12 ID:uLG6P0cw
やっと来た。
325ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/10/09(金) 22:24:28 ID:Fq4q3HCv
 背後にサクッという草を踏みしめた音が鳴った。
 驚き、慌てて振り向く。
 後ろは、香草さんが立っているだけだった。
「びっくりした……目が覚めてたんだね」
「その女、誰よ」
 あれえ? 相手は香草さんだし、この子はただ怪我の手当てをしただけだ。別に何もやましいことも、怖いことも無い。
 それなのに何故だろう、冷や汗が止まらないのは。
「え、ええっと、幽霊の正体」
「どういうこと?」
 急速に香草さんから放たれていた殺気が弱まるのを感じた。それに、表情に少し困惑の色が混じっている。やっぱり幽霊は怖いのか。
「彼女の超能力が原因だったんだよ。すすり泣きの声も彼女のものだったんだ。何があったのかは彼女に直接聞いてみないとよく分からないけど、多分怪我が原因で気が立ってたんじゃないかな」
 僕はそういいつつ、先ほど手当てした彼女の尻尾を指し示す。
「酷い……」
 香草さんも思わず声を漏らしたようだ。確かに、随分と痛々しい傷だ。
「……やどり」
 突然、僕のものでも、香草さんのものでも、ポポのものでもない声が聞こえてきた。
 僕と香草さんは揃ってビクリと跳ねる。
 その声の主は、どうやらヤドンの彼女のものらしかった。
 常識的に考えればそれ以外の選択肢はないんだけど、幽霊という先入観があったせいだ。
「……私……の名前……巻貝……やどり」
 彼女――やどりさんは再び口を開いてそう言った。
 随分とゆっくりとした話し方だ。消耗がそんなに激しいのか、それとも素でこれなのか。
「やどりさん? 僕は若葉ゴールド。こっちは香草チコさんで、あっちがポポ。尻尾は大丈夫?」
 どう見ても大丈夫ではないけど、他にかける言葉を思いつかない。
「……大……丈夫」
 彼女はそう言いながら、ゆっくりと起き上がる。全体的に行動にスローモーションがかかったような人だ。
 僕に襲い掛かるときはあんなに素早かったのに。
 体を起こした彼女は、相変わらず呆けたような顔で、僕をじっと眺める。
「……あり……が……とう」
「え? ……ああうんっ。ごめんね、痛くなかった?」
「……痛く……無かった。……あなた……いい人」
「い、いやいい人だなんて……」
「それで、どうしてこんなことになったのか、教えてくれる?」
 僕とやどりさんの会話に香草さんが割り込んできた。
「……そう……襲われた」
「襲われたって一体誰に?」
「……黒い服を着た……人たち」
 やはりそうか。そもそもこんな行いを働く奴らなんて限られてくる。黒い服を着た人たちとはロケット団のことだろう。
 しかし、それにしては奇妙な話だ。
「でも、尻尾以外に怪我らしい怪我してないよね」
 彼女はざっと見て、切断された尻尾を除いたらかすり傷一つ無い。
 他に傷が無いのに、尻尾のように傷を負いにくい部位だけ酷い怪我をしているというのは違和感がある。
「……ぼーっとしていたら……尻尾が切られていた……」
 ……ギャグ?
 ヤドンは皆かなり鈍いらしいけど、尻尾を切られてから気づくなんて、いくらなんでも鈍すぎる。
「その人たちは……倒したけど……怖くなって……逃げた。水の中で……傷が治るのを待っていた……」
 水中で傷が治るのを待つとかどんだけ常識がないんだこの子は!
 水中では血液は凝固しにくく、当然、血も止まりにくい。完全な自殺行為だ。
 なんというか、色々と危うい子だな。
「で……も……ゴールド……安心できる」
 彼女はそう言って、のそのそと僕に寄り添うように座りなおした。
 こんな酷い目に会ったのに人間不信にならなかったのはなによりだけど、怪我の手当てをされたからって見ず知らずの人間をこんなにすぐに信じるのも問題だと思う。
「ゴールド、こんなことしてる場合じゃないでしょ!」
 唐突に、香草さんの蔦に縛られ、立たされる。
326ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/10/09(金) 22:24:50 ID:Fq4q3HCv
「先に進まないと!」
 香草さんの言うことは尤もだ。でも蔦で縛り上げて立たせるのは勘弁して欲しい。
「でも、やどりさんをこのまま放っては置けないよ」
 僕は蔦から抜け出しながら反論する。
 一応の処置はしたとはいえ、このまま彼女と別れるのは危険すぎる。檜皮村に戻るか、せめて一日様子を見るくらいはしたい。
「戻るですって? 何言ってるのよ!」
 当然、香草さんは認めてくれない。
「ポポはゴールドの言うとおりにするですよー」
 ありがとうポポ。でも僕の言うとおりには状況は動いてくれなさそうだ。
「そうだ! じゃあ古賀根市まで一緒に行くってのはどうかな? そうすれば僕たちもタイムロスにはならないし、やどりさんの心配もない。あ、もちろんやどりさんがよければ、だけど」
「……いいの?」
「いいよ」
 香草さんが何か言おうとしていたが、僕は強引にさえぎった。
 彼女が急ぐ気持ちも分かるけど、ここでやどりさんを放置して進むことなんて出来ない。
「今すぐ動くってわけにもいかないよね。ちょっと休憩しようか」
 僕がそういうと、ポポはそそくさと僕のすぐ隣に座った。
 チラと香草さんのほうを見ると、彼女は思いっきり僕を睨んでいた。
 参ったな。また嫌われちゃったよ。
 溜息をつかないようにするのもなれてきた。無意識で溜息を抑制する。
 しかし心の中では盛大な溜息をつきながら、食事の準備を始めた。

 食事を終え、荷物を片付けながらやどりさんに声をかける。
「やどりさん、歩けそう?」
「……うん。……血が止まったら……楽になった」
「それはよかった。じゃあ進もうか。ごめんね、無理させちゃって」
「無理なんて……していない。それに……謝るのは……私のほう。迷惑かけて……ごめんなさい」
「何言ってるのさ。困ったときはお互い様だよ」
 そう言って僕は立ち上がり、彼女に手を差し伸べる。
 着ぐるみのせいで、一人で立ち上がるのは大変だと判断したからだ。
 今更だけど、この着ぐるみ、邪魔じゃないのかな。
 ホントに変わった人だ。
 隣では、座ったポポが翼をパタパタと動かしていた。これは私も手を引いてほしいというアピールだろうか。
 僕がポポにも手を差し出すと、ポポはぱあっと頬を緩ませた。
 こういうことをするから、ポポの僕に対するスキンシップが過剰になっていくんだろうなあ。
 頭ではそう分かっていても、ポポが笑顔だと僕も嬉しくなってしまう。

 再び、僕たちは歩き出した。
 やどりさんの体調が心配だったけど、僕の心配に反して、彼女の足取りはしっかりしたものだった。
 むしろ僕たちの方がぎこちないくらいだ。
 彼女はこの森によく来るようだったから、当然このような悪い足場にも慣れているのだろう。
 しかし、どれだけ歩いても同じような景色ばかりだ。迷いそうになる。
 やどりさんに尋ねても、分からないという返事が返ってくるのみだ。
 彼女は古賀根市に行ったことは一度も無いそうだ。
 古賀根市は方円地方最大の都市だ。当然人も多く、皆キビキビとしている。
 彼女のようなのんびりした人が、あのようなあくせくした街に行っても、色々危ないだろう。
 そういう意味で、彼女が古賀根市に行ったことがないと聞いたとき、少し安心してしまった。
 尤も、僕のせいで始めて行く事になってしまうのだけど。
 歩いている間、やどりさんのことを色々と聞いた。
 彼女は十六歳、つまり僕の一つ上で、檜皮村の一軒家に一人で住んでいるそうだ。
 旅に出た経験は無し。去年の旅の参加は、家の維持を理由に辞退させてもらったそうだ。
 両親を事故で亡くし、そのとき彼女も大怪我をしたとのこと。本当に、怪我の多い人だ。
 余計なことを聞いてしまって、申し訳ない気分になった。
 時々寂しく思うこともあるけど、気ままにやっているから気にしなくていい、と彼女はフォローしてくれたものの。
 彼女は話すのがとても遅いため、これだけの事を聞くのに大分時間がかかってしまった。
 しかし時間がかかった割には、まだ森を抜けることが出来ていない。
 それどころか、この道は前にも通ったような気がする。
 コンパスを見ても、どうも方位が合わない。
 もしかして、幽霊騒動のごたごたで正しい道を外れてしまったのか?
 この疑問はすぐに確信へと変わった。
 少し前から木に印をつけて歩いていたのだけど、印をつけた木と再会したからだ。
327ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/10/09(金) 22:25:56 ID:Fq4q3HCv

 ここでようやく話は冒頭へと戻る。
 間違いない。僕達は遭難している。
 僕は力の無い笑みを浮かべ、皆にその旨を告げた。
 ポポは不安げな表情を浮かべ、香草さんはまるでゴミを見るような目、やどりさんは相変わらずぼんやりとした表情と、反応は三者三様である。
「で、でも大丈夫だよ! 食料も水もある!」
 僕は慌てて弁明したが、香草さんは「だから?」と言わんばかりだ。
 水と食料はあって当然のもの。香草さんの反応も尤もだ。
 まさか森で遭難するなんて。まったく自分が情けない。
「とりあえず、道からは外れるけど、ここをまっすぐ進もうと思うんだ」
 僕はそういいながら、目の前の木々の間を指差す。
 この道に沿って進んでいても、グルグルと回るだけだ。
 ポケギアのGPSは鬱蒼と生い茂る木々のせいで役に立たない。
 しかし幸いにも僕はコンパスを持っていた。
 ならば多少のリスクはあるが、コンパスの方位に従って、この道を進むべきだと考えた。
 しかしそうなると心配なのはやどりさんの体力だ。
 どれだけ歩けば森を抜けるか分からない上に、もう随分無駄に歩かせてしまっている。
 心なしか顔色も悪くなっている。
 そこで僕は提案した。
「やどりさんはここに残っていて。それと誰かもう一人も。あとの一人は僕と一緒に来て欲しい。ここにタコ糸があるから、残る人はこれの一端を握っていて欲しいんだ。そうすれば僕はここに戻ってこれる」
 まさかタコ糸がなくなるくらい歩いても、道が一本も見つからないということは無いだろう。
 僕はリュックから取り出したタコ糸を眺めながらそう思う。
 三人とも、僕の提案に異論は無いようだ。
 問題はどちらがついてくるかだけど……
「ポポが行くですー!」
「……私は残るわ」
 懸念に反して、あっさりと決まった。香草さんがおとなしく残ると言うなんて珍しい。
 そういえば、かなり幽霊を怖がっていたからな。さっきの幽霊の正体はやどりさんだったけど、他に何か無いとも限らない雰囲気だ。
 香草さんの表情が暗いのはそういうことだったのか。
「じゃあこれよろしく。何かあったら強く引っ張って。出来るだけ早く戻ってくるから」
 僕が差し出したタコ糸の一端を、香草さんは無言で受け取る。
「何か無くても、二時間もしたら戻ってくるよ。じゃ、行ってきます」
「……行って……らっしゃい」
 やどりさんはゆっくりと手を振ってくれたが、香草さんは無言の上に無反応だ。
 そんな様子を奇妙に思いながらも、僕とポポは出発した。


 道の無い森の中。
 厚く張った苔に足をとられながら、ゆっくりと歩いていく。
「――で、それで……」
 ポポの元気な声が湿った森に木霊する。
 ポポはすこぶるご機嫌だ。
 香草さんがいないからかな。
 だとしたら、やっぱり問題だよな……
 そう思いつつ、二人の関係改善は内心諦めている。
 ポポは臆病すぎるし、香草さんは頑固すぎる。
 これじゃあ話し合いになるはずが無い。
 この森のように、僕の気分はどんよりと重い。

 三十分ほど歩いた頃だろうか、僕たちは大きな段差に突き当たった。
 高低差が大きく、木々のためにポポも飛べないから確かめようが無いけど、おそらく、ここが森の終わりだ。
 地図によると、段差沿い左に進んでいけば、正式な出口に突き当たることだろう。
「よし、引き返そうか」
 地図から顔を上げると、ポポに声をかけた。
 今頃、やどりさんと香草さんはどうしているだろうか。


328ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/10/09(金) 22:27:17 ID:Fq4q3HCv
 ゴールドは私を置いていってしまった。
 私と一緒にいたい。二人で共に進みたい。
 そう言って欲しかったのに。
 私の中でやりきれない思いが溜まっていく。
 どうしてこんなことになってしまったんだろう。
 少し、回顧する。

 私は、孤独だった。
 同じ種族で集まって作られた里には同年代の子供は無く、街で友達を作るしかなかった。
 しかし、里の期待を一身に背負わされたせいで選民意識が肥大した私に、友達など出来るはずもなかった。
 当然だ。最初から自分と自分の仲間以外のすべてを見下してかかっている人間と、誰が友達になってくれるというのだ。
 でも、ゴールドは、私をパートナーに選んでくれた。
 誰とも話せなくて、小さくなっていた私を。
 率先して選んでくれたわけではないけど、すでに悪印象を持たれていたであろうに、それでも、私を選んでくれたのだ。
 彼は同じ種族以外で、私を拒絶しないでくれた、初めての、唯一の人間だったのだ。
 始めは、ゴールドのことも、よく知りもしないのに見下していた。
 どうせ私の種族以外の人間なんて、皆価値のないものだと思っていた。
 でも、どうしてだろう。
 彼と話していると、それだけで気持ちが高ぶった。
 彼といると、それだけで心が安らいだ。
 いつからか、彼ともっと一緒にいたい、ずっと一緒にいたいと思うようになっていた。
 今まで生きてきて、感じたことの無い想い。
 私はこの想いを、そして何よりもゴールドを、決して失いたくは無い。

 でも、私は特別じゃなかった。その彼の優しさは、誰にでも向けられるものだった。
 旅に出てすぐに、悪夢が訪れた。
 ゴールドは彼を襲った忌々しいあの鳥をパートナーにした。
 あの卑しい追いはぎを。
 彼の荷物を奪おうとしたくせに。彼を傷つけようとしたくせに。
 それなのに一体どの面下げて彼の前に立てるのだ。どうして彼に触れることが出来るのだ。あの低脳極まりない鳥が。
 私のほうが強いのに、私のほうが賢いのに、私のほうが役に立っているのに。
 それでも、彼は私だけを見てくれない。いちいちあの鳥のことを気にかける。

 ふと、夢想したことがある。
 もしあの鳥と出会わなければ、今頃どうなっていたかを。
 ゴールドが私だけを見てくれる。私だけに話しかけてくれる。敵を倒せば、私だけを褒めてくれる。
 そう、きっとそこには、素晴らしい日々があったはずなのだ。
 だけど、現実は。
 私はついさっき会ったばかりの女性と一緒に、ゴールドの帰りを暗い森の中で待っている。
 彼はあの鳥にいちいち気を割く。いや、むしろあの鳥のほうを優先している節すらある。
 それを思うと、胸が締め付けられるように痛んだ。
 彼は、少し優しすぎるのだ。

 目の前の女を見る。
 止血の知識すらない、愚鈍な馬鹿だ。しかも、コイツもゴールドを傷つけようとした。
 確かに怪我については同情した。しかし、それがゴールドと共にいていい理由にはならない。
 なぜコイツがここにいる。なぜゴールドと共にいれる。
 そう考えて、気づいた。
 コイツはこのままゴールドに寄生しはしないだろうか。
 想像して、身震いがした。
 そんなことになったら、ゴールドと話せる時間が、ただでさえ皆無に等しいゴールドと二人っきりの時間がますますなくなってしまうのではないだろうか。
 この女を排除しないと。
 脅して逃げさせる?
 ダメ、もしこの女が戻ってきてゴールドに告げ口されたら……
 ゴールドがそれを知ってどうするかなんて考えたくも無い。
 口を完全に封じ、かつ、いなくさせるには――
 答えは単純だ。
329ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/10/09(金) 22:28:23 ID:Fq4q3HCv
 私は、無音で両腕の蔦を伸ばす。
 ここはあまり人が立ち入らない深い森だ。モノの隠蔽は容易い。
 私は彼女の背後から、蔦を少しずつ、音も無くスルスルと忍び寄らせていく。
 あと少し。もう少しで彼女の首にかかる。彼女を――
 そのとき、手が突然震えた。
 ゴールドがタコ糸を引いたらしい。
 私は慌てて両手の蔦を引っ込めた。

 私は、一体何をしようとしていたの?
 正気に返った頭で、先ほどまでの自分の行為を恐ろしく思った。
 ゴールドが止めてくれなければ、私は今頃……
 狂いそうになる自分を抑えるように、両腕で自分を強く抱いた。


「お待たせ、道、見つかったよ」
 合図として糸を強く数回引いた数十分後。
 僕とポポはようやく香草さんとやどりさんが待つ場所に帰ってこれた。

 ポポが中々戻りたがらないせいで結構な時間を食ってしまったけど。
「ポポ……ゴールドと二人がいいです……」
 大きな瞳一杯に涙を溜めて、上目遣いでこれを言われたときには、危うく正気を奪われそうになった。
 しかしそうは言われても、戻らないわけには行かない。
 それに、早くしないと日が暮れる。
 ただでさえ暗い森が、本当の真っ暗闇になったら、行動するどころか、留まることさえ恐怖だ。
 ポポの悲しそうな顔を見るのは心が痛んだが、ポポの願いを聞き届けるわけには行かない。

「遅かったじゃない」
 香草さんは俯きながら言った。普段なら怒っているのかと身構えるところだけど、なぜだろう、今の彼女はとても危うげで儚げに見えた。
「ごめん。地面がよくなくてさ。大目に見てよ」
 努めて軽い調子で返したが、返事は無い。
 困って頬を掻いていると、やどりさんが立ち上がってこちらに来た。
 体調を確認しようと思ってたけど、自発的に立って歩けるくらいなら心配はなさそうだ。
 やどりさんは止まらず、そのまま僕に寄り添うように抱きついた。
「な、何を……」
 僕の言葉は彼女の表情を見たところで止まった。
 幸福感に包まれた、穏やかな表情。
 彼女も、不安だったのだろうか。
 とはいえ、いつまでも抱きついているわけにもいかない。ほんの数秒抱きつかれただけで、ポポが「ポポも!」と飛びついてくることだろう。
「やどりさん、怪我は大丈夫?」
 僕は尻尾の様子を見ることを言い訳に彼女を引き剥がし、後ろを向かせた。
 包帯には血がにじんでもいない。念力を使っているのか分からないけど、血は完全に止まっているようだ。
「……問題……ない」
 そう言って再び向き直って僕に抱きつこうとするやどりさんをかわし、三人に向かって呼びかける。
「出口までいける目処が立った。出発しようか」

 ザクザクと苔を踏みつけながら森の中を行く。
 ポポがしきりに僕に話しかけてきているので会話は絶えず、雰囲気は明るい……はずなのだが。
 最後尾を俯き加減でついてくる香草さんに目を向ける。
 時々、香草さんはこのように表情が窺い知れないことがある。
 本当に彼女のことはよく分からない。しかし心配なのは心配だ。
 これも、彼女にとっては余計なお世話なのだろうか。

 僕はすぐに先ほど来た森の行き止まりに突き当たった。そこで進路を変える。
 やどりさんもまだ元気そうだし、このまま急いで森を抜けてしまおう。
 日が暮れると、こんなところには恐ろしくていられない。
330ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/10/09(金) 22:28:56 ID:Fq4q3HCv
「あっ!」
 進路を変えてから数分もしないうちに、ポポが声を上げた。
「どうしたの?」
「建物が見えたです!」
 僕の目にはまだ何も見えないが、ポポは僕よりはるかに目がいい。
 少し歩を早めると、すぐに僕の目にも建物が映った。
 予想通り、そこは通行所だった。
 皆、靴や足が泥だらけだったけど、やどりさんの念力で綺麗に掃ってもらった。念力にこんな使い方も出来るなんて。まるで見えない手のようだ。そういえば、沼の中にいたにもかかわらずやどりさんがそんなに汚れていなかったのはこれのためか。
 通行所で簡単な手続きを終え、僕たちは古賀根市へ入った。
 と言っても、しばらくはただの小道。大都市の片鱗もない。
 しばらく歩くと、広い囲われた土地と、それに隣接した一軒の家が見えた。
「大きな家ですね」
 ポポが何の気なしに、感想を述べる。
 家……というより、構造的には学校のほうが近い。しかし僕が通ったような普通の学校とは似ても似つかない。ここのほうがはるかに豪華だ。
「確かアレは育て屋じゃなかったっけな」
「育て屋……です?」
 耳慣れない単語に、疑問の声を上げる。
「うん。珍しい施設でね、しばらく子供を預ければ、相応の代金と時間の変わりに、入所した子供を一流の紳士淑女に教育するって施設なんだ。方円地方にはこの一箇所しかないんだよ」
 僕の言葉を聞いて、ポポがピキッと固まった。
「その教育手腕には定評があるらしくてね。どんなことをやってるのか、トレーナーとしてはぜひ一度見てみたいなー……ん? ポポどうしたの? 顔色が真っ青だよ」
「……あ……うあ……」
「大丈夫? 体調でも悪いの? ちょっとここで休ませて貰おうか?」
「だ、だだだ大丈夫です! ポポ、元気です!」
「ホントに?」
「本当です!」
「ならいいけど、無理はしないでね」
「無理してないです!」
 ポポの様子が急変したことを疑問に思いながらも、僕たちは先に進む。

 古賀根市の中心部にある高層ビルが見える距離までくると、辺りに家々も増えてきた。
 ホケモンセンターは中心部にあるから、あそまで進まなければならない。
 歩くこと数時間、日が暮れる頃。ようやく僕たちは街の中心部に到達した。
「うわー! すごいです!」
 ポポがビルを見上げ、興奮した声を上げている。
 僕も初めてきたときにはかなり驚いたものだ。
 若葉町は四階建て以上の建物が珍しいような辺鄙な田舎町だ。
 だから初めてこんなビルを見たときには、それだけでどきどきしたものだった。
 やどりさんは相変わらずぼんやりとした表情でビルを眺めている。呆気にとられているのか、それともただぼーっとしているだけなのか。彼女の表情から思考を伺うことは難しい。
 一方香草さんは上を向くことすらせず、地面を見ていた。
 僕は見て見ぬ振りをした。

 ポケモンセンターにつくなり、やどりさんをつれてすぐに病院へと向かう。
 見た目は痛々しいが、やはりヤドンの尻尾は元々再生可能なもので、今回も再生は問題なく行われるだろう、との診断結果だった。
 やはり、見た目ほど重い怪我ではないらしい。
 森の中からここまで僕らのペースにあわせて歩いてこれたので、そうなのはうすうす分かってはいたのだけれど。
 倒れたのは一時的なショックだったらしい。
 処置も消毒して包帯を巻くだけという簡単なものだった。縫合等を行ってしまうとむしろ再生に支障をきたすのだそうだ。
 損失部位はかなり大きいのに、再生可能だというヤドンの神秘に感心しながら、僕は女医さんに礼をいい、診察室から出た。
 待合室にはポポと香草さんが待っていた。
 ポポは間違いなくやどりさんが心配だったのではなく、ただ僕を待っていただけだろう。
 待合室で騒がしくするのも迷惑だし、僕たちは速やかにあてがわれた部屋に移動した。
 自然と、というか色んな意思が働いて、僕が一人でベッドに腰掛け、香草さん、ポポ、やどりさんの三人が向かいのベッドに腰掛ける形になった。

「やどりさん、大事に至らなくてよかったね」
「……うん」
 まずは無難な第一声。本題を切り出す前の布石だ。
331ぽけもん 黒 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/10/09(金) 22:29:17 ID:Fq4q3HCv
 きっと香草さんやポポはパートナーでも無い人を、診察を終えても別れず、ここまでつれてきたことを疑問に思っていることだろう。
 僕は少し息を吸うと、一息にいった。
「それで、もしよかったら、やどりさんも一緒に旅をする仲間になって欲しいんだ」
 案の定、香草さんとポポの表情が驚きに変わった。一番驚くべきであるやどりさんは相変わらずの、どこか遠くを見ているような表情だ。
「な、何を言っているのよ!」
 正気? と言わんばかりに、香草さんは僕に食って掛かる。
 そのまま立ち上がり、僕ににじり寄ろうとした香草さんの動きを、ポポが翼で制した。
「契約解除する奴には関係ないことですよ。黙ってろです」
 驚いた。
 その冷たい視線ときつい言葉は、ほんの数十分前まで無邪気に微笑み、切れ間なく僕に話しかけ、笑いかけてきたポポと同一人物とは思えなかった。
 まさかポポのこんな態度を見ることになろうとは。
 この話を切り出すにあたって、様々なケースを予測したけども、これは予想の範疇外だった。
 また、恐怖と同時にまだ契約解除の話は反故にはなっていないことも思いださせられた。
 以前のポポに、こんな表情が出来ただろうか。これも成長の一つなんだろうか。それとも、最初からポポは……いや、これは今はおいておこう。
 それよりも今すべきことは、至急香草さんと話し合うことだ。
「ごめん、ちょっと香草さんと二人きりで話がしたい。ポポ、やどりさん、申し訳ないんだけど、しばらく席を外してくれないかな。……こんな話、外でするわけにもいかないし」
 不安だった。「アンタと話すことなんて何も無いわよ。さあ、役所に行きましょ。そして契約解除よ」と言われてしまえば、僕になす術はない。
 一瞬だけ目線を下げて、現在時刻を確認した。役所が閉まるまではまだ三十分以上あった。急げば書類を取ってくるくらいのことは十分に出来る時間だ。
 目線を正面に戻す。ポポの翼の影から出てきた香草さんの目は、ひたすらに無機質だった。まさに心ここにあらずといった様子だ。
 これもまた予想外だ。いや、思索を巡らしていると考えれば、この目の説明もつくか?
 一瞬の間の後、香草さんが口を開いた。
「いいわ。話し合いましょう。私達の……これからについて」
 そう言うと、彼女は神妙な面持ちで腰を下ろした。
 ポポはその様子を見、再び僕に向き直った。僕の真意を測るかのように。
 僕は、まっすぐポポを見つめ返す。
 ポポの目に、一瞬。落胆の色が混ざった。
 しかし、ポポはすごすごといった様子でおとなしく部屋から出た。やどりさんも、相変わらずぼんやりとした様子でポポの後に続く。

 そういえば、やどりさんからしてみれば、部外者の自分の目の前でいきなり意味の分からぬ険悪な光景が発生したという、ただただ唖然とするしかない状況なんだよなあ。すごく申し訳ない。
 ふと、思考の端でそんなことを思った。
332名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 22:34:51 ID:PaPeuABz
支援
333 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/10/09(金) 22:35:22 ID:Fq4q3HCv
七月分投下終了
今回はこれで終わりです

投下が遅れた理由については忙しいというのもありましたがそれだけではありません
ただ、まだしばらく忙しいので月に追いつくのはそこそこ遅くなりそうです


・催促について
個人的には催促は嬉しいし活力になります
しかしここは私のスレではないので、催促は他の書き手さんの妨げになりかねないと思います
ですので、催促や間が空いた後の感想は、避難所のほうにお願いします

あまり書き手がつべこべ言うのは好きではないのですが、このまま放置するのも無責任にあたるのではないかと思い書かせていただきました
334名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 22:46:01 ID:oyRaeM58
待ってました!香草さんのヤンデレがついに…w
335名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 22:55:43 ID:KNSD5+gH
待ってました!
GJです!!
336名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 22:58:14 ID:uLG6P0cw
エロパロでエロ無しはいいの?
337名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 23:22:03 ID:oD55ftze
お久しぶりGJ

しかしコガネシティはジョウト地方ではないか?
338 ◆/JZvv6pDUV8b :2009/10/09(金) 23:32:26 ID:Fq4q3HCv
あー、すいません、勘違いです
×方円
○上都
で脳内補完お願いします

後、エロはもしかしたら最後まで無いかも知れません。自分でも分かりません
ただ、どうせエロは殆ど無いのでエロに期待している方はぽけもんNGしてもらったほうがよいかと
339名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 00:32:18 ID:zG+F2nx3
>>333
おおっ! 久し振りだGJ!
ついに3人目の仲間が加わったか……
病み香草さんと病みポポの本性も出てきて、なんだかワクワクしてきた……

次回もゆっくりでいいので、楽しみにしています。


>>336
アナタは単行本一冊分の、エロシーンオンリーの小説や漫画を、最後まで楽しく読めるのか?
エロシーンが必要な場面まで待つのは、長編の基本だと思う。
340名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 00:34:05 ID:tQEbzOKO
>>339
いや、普通に気になったから聞いたんだけど…。
カンにさわったんなら悪い。
341名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 00:36:22 ID:olEswFp1
>>340
だからさぁ・・・過程ってのがあるだろ。
342名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 00:41:33 ID:tQEbzOKO
>>341
めんどくせーな・・・気になっただけだって書いてるだろ?
343名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 00:42:00 ID:UtoQjopd
前に荒れたからってそんなに目くじら立てるなおまえら
344名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 01:17:27 ID:ilXF9Ax4
スレが荒れるとヤンデレの肌が荒れます
345名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 02:15:52 ID:Qs0SrTdi
なにポポこわい
346名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 08:12:04 ID:GqPg7vGX
自然なノリだな。ポケモン作者は自演で盛り上げないから好きだ。
347Y:2009/10/10(土) 10:30:46 ID:f8yLouiB
ポケモン黒 更新おめでとうございます。
待っていましたよ

愛されてるのに自覚が無い主人公はどんな展開に巻き込まれるのか。
348名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 10:59:38 ID:16ZiHvqJ
ぽけ黒更新キタ!GJ!
香草さんとポポ、それぞれの黒い面が見れたな
個人的には香草さんが好きだけど今後のやどりさんにも期待
349名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 13:09:27 ID:OyYJomYZ
>エロシーンが必要な場面まで待つのは、長編の基本だと思う

長編ウザいといつも思ってるよ
350名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 13:17:37 ID:cGfD812z
はいはいワロスワロス


久しぶりに香草さんが見れて良かった
GJ
351名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 15:44:51 ID:5QTqpVB6
GJ
ポポたん…ついに本格化してきたのな。
香草さん、発想が悲しみの向こうへと逝きかかってる!

やどりさんは殺伐空間に耐えれるのか…
352名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 23:12:55 ID:dfOQ2QxA
>>333
GJ。やどりさんはどういうタイプのヤンデレなのか、はたまたモブキャラなのか楽しみだ。
353名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 03:31:30 ID:Ifle4kIw
MGのVガンに、あの兄貴は今頃、喜んでそうだな
354名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 04:15:33 ID:dD/45maJ
>>333
GJです!
355名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 06:18:38 ID:SsnDp5dY
>>347
死ね
356名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 16:22:30 ID:IElKgG84
   〓〓〓CAUTION!〓〓〓

        ∧病∧
 <ニニ=ヽ( ‘∀‘)
         (   )ヽ=ニニ> 
         し―J  

   〓〓〓CAUTION!〓〓〓

   このスレにヤンデレが居ます!

   落ち着いて避難してください!
357名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 16:24:58 ID:fOWYDrxu
むしろドンと来いっ!
358名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 17:26:34 ID:k//TpiEB
ヤンデレを愛情だけそのままに(主に自分以外に対して)無害化するにはどうしたらいいか

そんなのヤンデレじゃなくてただのデレだって?
359名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 18:08:45 ID:G1fmjS++
一途に彼女をたっぷり愛し続ければ八割は大丈夫だ
残りの2割は自分の中でNTR妄想を膨らませて妄想上の泥棒猫を憎悪する
360名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 19:02:02 ID:L29fqscX
ヤンデレも 愛し続けりゃ バカップル

なんてな
361名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 19:10:13 ID:4IwTV3eB
このスレを見せて我に返させる
前にも言った気がする
362名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 19:30:05 ID:bzTni91x
「世の中には頭のおかしい女もいたものね」
 ヤンデレスレを一瞥した彼女は平気でそうのたまった。自らもその頭のおかしい女の一員であるという自覚は微塵も無い。
「そんなことより……」
 そう言いながら、彼女は俺の股間に手を伸ばした。
 待ちきれない、そう言っているかのように彼女の瞳は熱を帯びている。
 上等な絹のように滑らかな彼女の手が俺の股間に届き、彼女はそれをいとおしげになで上げる。
「たっぷり、愛し合いましょう?」

(省略されました・・続きを読むにはヤンデレに愛の言葉を囁いてきて下さい)
363名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 19:56:58 ID:QWEGeGKq
俺、来月結婚するんだ
364ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2009/10/11(日) 20:34:47 ID:Fh07qOuG
俺、MGのVガンダムが発売されたら購入するんだ。

久しぶりに投下します。比較的短いです。
365ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2009/10/11(日) 20:36:19 ID:Fh07qOuG
***

 お父さんが死んだ。
 車に撥ねられて死んだ。
 お父さんはもう居ない。
 もう何もお話はできない。
 酔っぱらったお父さんの愚痴を聞くこともできない。
 家族全員でご飯を食べることもこれからはない。
 もう、二度と。

 白と黒がいっぱいの部屋。そして私も白くて黒い。黒くて白い。
 たくさんの人が居る。見たことがある人も居る。知らない人も居る。
 私はただ座ってる。今、どんな顔をしているのかしら。
 無表情? 泣いてる? 怒ってる? 
 それとも、顔から目以外の全部のパーツが抜け落ちちゃったのかしら。
 それでも、別に、構わないわ。
 もう、全部おしまいなんだから。

 お父さんは死んだ。私が殺した。
 あの雨の日、置き去りにしちゃったせいで。
 大好きだった。お父さんもお母さんも弟も妹も。
 みんなとずっと仲良く暮らしたかった。

 でも、もうそれは叶わない。
 お母さんとお父さんは一生離ればなれ。
 弟と妹はどこかに行っちゃった。
 私は、ひとごろしの私は、もう誰とも一緒に居られない。

 
 ――そう。
 私を必要としてくれる人なんて、どこにもいない。
 だからもう、私なんか。

 私なんか、潰れちゃえ。
366名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 20:36:45 ID:zHfzmzCj
支援
367ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2009/10/11(日) 20:37:04 ID:Fh07qOuG
***
 
「もう俺のことは放っておいてくれ」
 ぶっきらぼうに言い放つと、正面の席に座る彼女の顔が曇った。
「どうしてそんなことを言うの?
 まだわからないじゃない。まだ、諦める必要なんかない」
「……わかってないんだな」
 そう、彼女はまだ信じている。
 俺の折れた腕が治ると。また、以前のように動かせるようになるのだと。
 それどころか、俺が必ず復帰するのだろうとすら思っている。
 いいや、思っているだけではない。
 今までの彼女の口ぶりからすると、確信しているのだ。
 俺がまた、ロードレースで勝利するのだと。

「やめたんだよ、俺は」
「やめたって、何を? はっきり言わなくちゃわからないよ」
「……ロードレースをだ」
「レースが何?」
「だからっ!」
 わかっているくせにとぼけた振りをする。
 こいつの考えなんかわかってる。
 俺を煽って、俺の負けん気を起こさせようというのだ。
 そんな手には乗らない。
 もう二度と復帰はできないんだから。
「治らないなんて、お医者さんは言ってなかったんでしょう?」
「動かせるようにはなる、ただ以前と同じようにはいかない。
 ……そう言っただろ、俺が、自分で! お前に!」
 腹が立つ。
 なんでこいつはここまで俺にかまうんだ。
 幼なじみだからか。
 まだ俺が諦め切れていないって、見抜いてるっていうのかよ。
「復帰したって、もう以前みたいに走ることなんかできない。
 遅いんだよ、俺は! お前が知ってる俺じゃないんだ!
 あのレースはベストの状態だった。それでも全国じゃアイツに負けた!
 もう、自転車に乗ったって――」
 ――勝てない。
 その決定的な一言を言おうとして――
368ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2009/10/11(日) 20:37:30 ID:Fh07qOuG
「勝てるよ、私にはわかるもの」

 ――そんな、何の疑いも持たない幼なじみの言葉が聞こえてきて、口が止まった。

「あなたが誰よりも自転車が好きだって知ってる。
 誰よりも速くないといけない、自分より速い人間なんて許せない。
 私は知ってるよ、あなたの気持ち。
 そして、今の遅い自分を許せないってことも、わかってるつもり」

 どうしてわかってるんだよ。
 いつもすっとぼけた顔してるくせして。

「勝ちたいんでしょう。だったらまだ続けて。
 今のあなたより強い人がいても、必ずあなたはその人より強くなる」
 
 ああ、そうだよ。まだ終わりたくない。
 もっと勝ちたい。勝ちを譲りたくない。
 もう負けない。他の誰にも負けたくない。

「あなたが自分を信じられないなら、代わりに私があなたを信じてあげる。
 あなたは、強くて、そして――速いわ」

 この女は、いったいどこまで俺のことを――――
369ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2009/10/11(日) 20:38:38 ID:Fh07qOuG
「さっきからなにぶつぶつ言ってるのさ、ジミー?」
 少女に小声でそんなことを言われ、向かい合って座っている俺の顔が曇った。
「邪魔しないでくれないか。今いいところなんだ」
「いや、あそこのお兄ちゃんとお姉ちゃんの話のナレーションをしてるのはわかるけど。
 恥ずかしいよ、それ。ジミーってばもしかしてチュウニビョウ?」
「意味分かって言ってるのか知らないけど、小学校も卒業してない玲子ちゃんに言われたくはないな」
 たしかに同席している人間としては突っ込まざるを得ない行動だったかもしれないが。

 俺と玲子ちゃんがいるのは、先日入院した病院の待合室である。
 退院したからといって二度と病院に行かなくていいわけではない。
 怪我の治り具合を見るために医者に来るよう言われれば、行かなくてはならない。
 それは別にいいのだ。
 俺だって自分の腕が元通りになるなら何度でも病院に足を運ぶつもりだ。
 検査の終わった後に寄った待合室で玲子ちゃんと会うのだって構わない。
 この病院に来たからには、この子と遭遇したって何ら不思議はない。 
 しかし、目の前で青春ドラマのワンシーンを実演してもらうのは困る。
 俺と同じく、白い三角巾で腕をつるした同年代の男に注意を向けてしまったのがまずかった。
 さっさと立ち去って帰路に着いていれば、妙な空間になった一室から去るタイミングを逃さずに済んだのに。
 あるもんなんだな、目の前で青春されることって。
 席を立つことも許されてない感じがしたよ。
 だから、理不尽に感じた俺がついつい勝手なナレーションを入れてしまっても何も悪くないはずだ。
 どうせあの二人には俺らなんか眼中にないだろうから。
370ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2009/10/11(日) 20:39:32 ID:Fh07qOuG
 約五分後、絶賛青春中カップルが立ち去り、再び待合室は俺と玲子ちゃんだけとなった。
 紙コップに注がれたぬるいコーヒーを喉を潤し、話しかける。
「……で、どこまで話してたっけ?」
「えーっと…………あれ、ボクのお母さん、いやジミーのことだっけ、あれ?」
「いいや、玲子ちゃんの話だったな」
「え? ボクそんな話してた?」
「うん。あそこまで堂々と自分のパンツについて語ってくれるとは思わなかった」
「え? ええ? えー……」
 玲子ちゃんが思い出すように天井を見上げ、顎に人差し指を当て、最後に俯いた。
 コーヒーをもう一度胃に流し込む。少し苦い。
 コップを机に戻した途端、玲子ちゃんが立ち上がり叫んだ。
「言ってないし! ジミーにボクのパンツの色なんか教えないし!
 それ教えてボクに何の得があるの!」
 ――ふうむ。
「見られたいという欲求を叶えてくれる?」
「無いってば!」
「実は黒を穿いているのに白と言っておくことで、
 俺にサプライズを提供する喜びを得られる、とか?」
「ジミーを喜ばせても別に嬉しくない!」
「うーん、じゃあさっきは白と言っていたけど実は――」
「今日のは白だって! さっきからしつこいよ、ジミー!」
「ほうほう、玲子ちゃんは白を穿いているのか」
「……………………あ」
 しまった、という顔を浮かべる玲子ちゃん。
 そしてわなわなと拳を揺らし、椅子に乱暴に腰掛けた。
「学校でもスカートの中見られてないのに……」
「高校生に口で勝とうなんて言うのが甘いんだよ。
 玲子ちゃん、わかりやすいからなあ。熱くなりやすいし」
「ううう〜。こないだからジミーに見られてばっかり。
 もうボクお嫁さんにいけない……」
「安心して。いざとなったら俺がもらってあげたりしないから」
「あはははは、なんだかすっごくむかつくよ、ジミー」
371ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2009/10/11(日) 20:40:28 ID:Fh07qOuG
 コーヒーもなくなったので、玲子ちゃんいじりはそろそろやめて本題に入ることにした。
「さっきの話の続きだけどさ。ほら、俺に玲子ちゃんのお母さんと会ってくれないか、って」
「うん、そう。……やっぱりダメ?」
「ダメ」
「どうしてさ。お母さんどうしても連れてきて、ってボクに言ってたんだよ。
 それぐらいジミーに会いたがってたんだから」
「悪いけど、本当にダメなんだ」
 会いたくないんだ。
 せっかく昔のことを無かったことにできそうなのに、いまさら蒸し返したくない。
 伯母がどんなことを言ってきても、耐え続けることはできそうにない。
 愛想笑いを浮かべながらの会話を続けていられるまで、気持ちの整理がついていない。
 ふとした拍子に堪忍袋の緒が切れて、怒りをぶつけてしまうかもしれない。
 何も知らない玲子ちゃんを前にして、そんなことはしたくない。
 この子にとっては、きっと良いお母さんなんだから。
「理由を言ってよ。ボク、ちっとも納得できない」
「聞いても納得できないと思うよ、君には」
「いいから言ってよ。それから判断するから」
 そのまま話せば長くなる。けど、短く言うこともできる。
 俺は玲子ちゃんのお母さんが嫌いなのだ、と。
 しかし、それをこの子に伝えてしまっていいのか。
 母親が嫌われているなんて、子供にとっては嬉しくなんかないだろう。
 おそらくだが、昔の俺だって母を悪く言う人は、良く思っていなかった。
 どうすればいい?
 なんて答えればいいんだ。
372ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2009/10/11(日) 20:41:40 ID:Fh07qOuG
「……ねえ、ジミー。もしかして」
 悲しそうな目で玲子ちゃんが見つめてくる。
 目に力がこもっていない。
「ボクの、お母さんのこと」
 一言ずつ、絞り出すようだった。
 次に来る言葉がなんであるかわかっている。
 母親思いの純真な少女に言わせるべきではない、そんな台詞。
 けれど静止の声は出ない。
 止めて、俺の口から言ったところで、この子が傷つく結果は変わらないのだから。
「嫌い、だった……?」

 もしかしたら俺は、嘘でも否定しておくべきだったのかもしれない。
 もっとも、そのことに気付いたのは玲子ちゃんの問いに対して頷いた後でのことだったのだが。
 
373名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 20:42:54 ID:0F5Sue7t
ヤンデレ化した女の子を妊娠させてしまったら… 
まず、責任云々は別に結婚する。(もしくは結婚してから妊娠させる)
その後、どう子供に被害及ぼさないようにするか考えないといけないよな。
こんな優先順位も困る…夫(絶対)>子供(邪魔なら消す)

何かトラブルがあった時に、「この子が死ねば●●は■■なのに…」とか言う発想で殺害されても困る。
374ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2009/10/11(日) 20:43:13 ID:Fh07qOuG
今回はここまでです。一年ぶりなのにこれだけですいません。

あと1、2回で清算編は終わります。
375名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 20:44:19 ID:s5C/Nd8w
>>374
乙です
376名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 20:44:29 ID:FAnIk2Sj
最近読み直したからちょうど良いタイミングでした
GJです
377名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 20:49:25 ID:4XnyNs8a
素で忘れてた。
378名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 20:52:15 ID:k//TpiEB
キタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!
この日をどれだけ待ち望んでいた事か
379名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 20:52:37 ID:0F5Sue7t
すみません!妙なときに書き込んじゃって!

久しぶり!GJ!!! ジミー!何パンツの色聞き出してんだテメエ!
380名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 21:45:15 ID:+Dlh0Xy+
>>374
お久しぶり、そしてGJ!
続きも楽しみにしてます
381名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 22:29:21 ID:FHQ5uuEu
>>374
この話を読んでこのスレを見るようになりました。GJ!!
兄への思いを自覚した妹がどうなっていくのか、いつまでも待ってます。
382名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 22:36:58 ID:Ifle4kIw
>>374
いつくもの夜を越えて、やっと、新しいのが…。
383名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 22:37:59 ID:D3PHgCmX
>>374GJ!!
また見れて、涙が出た、今日は良く眠れる。ありがとう。
384名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 23:31:59 ID:cvo/A0ez
>>374
やっと帰ってきたんだね。別に待ってなかったよ、たまたま毎日見に来ていただけなんだからね!!
385名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 23:46:29 ID:w+XmwFVg
>>384
なんというツンデレ
386名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 00:15:47 ID:8qOt40Dt
ジミーそのうち玲子タソに
「逢いたかったぞこのヤロー!」
とか言って抱きついて体中撫でまわしたうえで
パンツ脱がそうとするんだぜ。
阿良々々木病だよ絶対。
387名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 00:22:46 ID:bcGAMOPt
>>374
GJ!
久々すぎてもうなんか言葉にならないぜ
388名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 02:30:05 ID:eeS0XjJY
>>374
お帰り、そしてGJ!
ジミーはいつの間にロードレーサーになったのかと思ったぜw
389名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 05:04:01 ID:NHD4GbEh
>>374
え?え?え?え?
ちょっとまって焦りすぎて言葉が出ないんだけど、え?
いやまじでGJ!!!
390転載:2009/10/12(月) 07:40:19 ID:Flvxswmc
7:Nice@名無し :2009/10/12 01:03:46 ID:ONGFydiU0
「動き出す時」を書いた者です。
すみません、二話目にして規制で投下が遅れるという事態が発生しております。
すぐに解除されるだろうと高を括っていたら何だかんだでもう一ヶ月以上規制状態でして…
規制が解除され次第、直ちに二話目を投下致します。本当に申し訳ありません。
391名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 09:11:47 ID:Pqe/ZxFx
規制か。ヤンデレに監禁でもされたのかと思ったぜ
392名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 10:09:09 ID:NGsA0kwm
>>374
ジミーやっと帰ってきたか。
作者がロードレーサーだったとは驚いた(ちが…。
393名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 10:34:29 ID:6nqM10Q3
懐かしい作品が出てきて嬉しいね
394名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 14:15:53 ID:fYoyk3TI
まとめ更新乙です
395名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 17:24:33 ID:tjLLfOM9
これだからヤンデレスレはやめられない
396名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 19:38:43 ID:02ltwM70
次の投下も一年後か?
397名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 23:03:11 ID:KZ9Y9JI2
完結してくれるならそれでも一向にかまわんさ。

398名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 23:03:55 ID:CVnPeBqe
ぽけもん作者のために…

ワカバタウン→若葉町
ヨシノシティ→吉野市
キキョウシティ→桔梗市
ヒワダタウン→桧皮町
コガネシティ→黄金市
エンジュシティ→槐市
アサギシティ→浅葱市
タンバシティ→胆礬市
チョウジタウン→丁子町
フスベシティ→燻市

ぜひご活用を。執筆頑張ってください。
399名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 23:57:23 ID:+EZjrQsF
  |  男くんの就職が決まらないから
  \ 私と二人だけの会社を立ち上げます     
     ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         〃⌒⌒ ヽ
        イ ノ病ミヽ ヽ.
      ⊂j∬‘ 3‘ハ⊃-、_
     //(     丿::://)
     |:::|/⌒ /⌒ヽ  )::::|::::|/|
   / ̄(__(_ ノ''/ /./|. |
  /旦. /三/ /  |_|/| |
 | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|    │.│
400名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 00:11:19 ID:H5ODSDKe
>>390
一ヵ月以上も規制に引っ掛かり続ける事なんてあるの?
俺、精々一週間もすれば解除されるんだけど
401名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 00:20:00 ID:tc/1BtU0
俺OCNだけど何年か前に経験あるぞ
402名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 00:35:37 ID:H5ODSDKe
あるんだ。一ヵ月以上はキツイな
もし俺がそんなに長く規制されたら
ヤンデレが俺のPCに何か細工したのかと疑う
403名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 00:51:47 ID:KeJjJoLQ
ヤンデレをやってたらヤンデレが病み目で朝フェラやってたんだ。なにをいって(ry
404名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 01:18:01 ID:n+NvOtEP
ひめねぇとさきねぇはまだか
405名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 01:21:05 ID:wi1KoE+T
規制って何ですか
それのせいで最近の投下が少ないのですか
406名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 06:44:14 ID:v5148ihA
>>405

規制というのは暗喩じゃよ。
407名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 07:21:26 ID:etJJGYov
ucom民の俺は今年二ヶ月ぐらいのがあったぞ
408名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 13:21:04 ID:uTMQXN/b
YahooBBだが今年は4月から3ヶ月全鯖規制された
これでも大手の中ではましな方だっていうけどね
409名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 18:38:08 ID:USv7bxJJ
そういえば今回のぽけもん黒にはサブタイがないね。
次更新時にでも一緒につけて貰えると嬉しいな
410名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 20:15:41 ID:oBH6loJh
>>409
付けないかもだとよ
411名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 20:25:21 ID:USv7bxJJ
>>410
ほんとだ。幕間でそうコメントされてたね
失礼しました
412名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 21:59:30 ID:1j7n1Uyg
>>401
一時期保土ヶ谷と丸の内が酷かったよな。
丸の内なんかは殆どの東京都民が引っかかってた。
いい加減ブロックごとに分割しろよとか思ったり
413名無しさん@ピンキー:2009/10/14(水) 00:07:49 ID:GfmK8Nqd
去年だっけかVIPスレのアホ共のせいで半年近く規制されたような・・・
414名無しさん@ピンキー:2009/10/14(水) 00:26:22 ID:Ul5dWhG2
兄さんを規制します
兄さんは歩く犯罪者です
だから私が管理しなければいけません
415名無しさん@ピンキー:2009/10/14(水) 01:25:05 ID:T9gNM624
弟を規制する
弟は歩く犯罪者だ
私が規制しなければならん





犯罪者は大抵歩くけどな
416名無しさん@ピンキー:2009/10/14(水) 02:30:18 ID:EVubahKI
OCNのmarunouchi、要は東京
funabashi、要は千葉
板別なら数ヶ月、半年も珍しくはない
ヤンデレが絡んでいるとすればこんな感じ?

○月×日
今日も彼はあまりメールを返してくれない。
本当は私のことが嫌いなのだろうか?

○月△日
彼に直接理由を聞いた。
どうやら、にちゃんねるのびっぷというものにはまっているらしい。
私より魅力的な人が沢山いるのだろうか?
死ねばいいのに。

○月□日
彼と同じプロバイダに契約した。
早速、スクリプトによる大量投下を開始。
もうすぐ開放してあげられるよ。

●月☆日
やっと私の荒らし報告スレが立って規制が発動。
遅いよ。
自分でやれば良かった。

●月×日
彼がメールをすぐ返してくれるようになった。
規制がかかって暇だかららしい。
計画通り。

●月▲日
プロバイダから連絡が来た。
二度と荒らしはしないと約束して解除してもらった。
すぐに大量投下を再開した。

■月○日
プロバイダを強制解約させられた。
でも近所の同じプロバイダと契約しているところを見つけておいたから大丈夫。
無線LANで自宅から繋げるようにしておいたので、明け方に書き込みできるようスクリプトをセット。
明日の朝が楽しみだ。

◎月▲日
何ヶ月も書き込めないから諦めてくれたらしい。
でも、前より彼の妹との仲が良くなっているのが気にかかる。
暇な時間を増やしすぎたようだ。
別の手を考えないと・・・。
417名無しさん@ピンキー:2009/10/14(水) 11:30:48 ID:brB/rwIZ
かゆ うま
418名無しさん@ピンキー:2009/10/14(水) 15:01:40 ID:CGLThURt
 葉月さんと澄子ちゃんは元気にしてるかな? 気になるわ
誰かその後の行方を知ってる人はいないか?
419名無しさん@ピンキー:2009/10/14(水) 15:04:47 ID:CGLThURt
 あっ。でてたスマソ
420名無しさん@ピンキー:2009/10/14(水) 16:47:20 ID:caarsa9p
傷はどうなったんだろうな
421名無しさん@ピンキー:2009/10/14(水) 17:24:29 ID:CGLThURt
 >>420 弟君がキスしてくれたら治るだろう
422名無しさん@ピンキー:2009/10/14(水) 17:25:45 ID:CGLThURt
 ただし、自分からしたいと思ってするキスでないと効果はありません
423名無しさん@ピンキー:2009/10/14(水) 20:02:23 ID:SCiPcxQy
久々に来たらぽけもん黒とヤンデレ家族がきてた
GJ!
424名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 00:25:14 ID:xPplsROG
>>419
ウソつけ澄子ちゃんは出てないだろ。葉月さんがケロッとして出てるのはなぜ?
425そして転職へ  12:2009/10/15(木) 00:30:22 ID:WXI0nz98
投下します。
426そして転職へ  12:2009/10/15(木) 00:31:05 ID:WXI0nz98
「マモノオオオオオオオオオオ!」

洞窟を抜けた先に広がる森、ダーマ神殿にあすにも到着であろうこの場所で
僕たちは魔物と戦っている。独特の雄たけびとともに鋭い爪の一撃を
ひらりとかわした僕、僕に気を取られている魔物のすきを突き
盗賊くんの不意打ちと僧侶ちゃんの幻影呪文が魔物の動きを鈍らせる。

「みんなグッジョブ!さてアタシの見せ場だね!上級雷撃呪文ライディン!」

魔法使いさんの呪文の詠唱とともに僕たちは魔物から距離を置く。次の瞬間には
巨大な稲妻が相手をミディアムに仕上げていた。

「む〜調子よくないね。ほんとならウェルダンぐらいまで行ったのに…。」

十分じゃないですか?それと殺し方に美学を求めないでください。
大体、あの程度の魔物なら殺さずとも追い払えたのでは?
と、魔法使いさんに恐る恐る進言したところ

「うん。多分追い払えた。だけど駄目なんだよね〜。大切な、大切な
勇者クンの体に傷をつけようとしたおバカちゃんには…フフフ。」

目が怖いよ!青というより紫に近い目が僕を見つめているので、よけいにこわ…あれ?
なんというのか…僕は少し魔法使いさんの目を観察する。
僕を見ているようで、見ていないような眼だ。焦点は僕に会っているのに
意識も僕を対象としているのに、なんだか変だ。
まるで僕を僕としてとらえていないような…。

「勇者さん。二人で何見つめ合っているのですか?」

予想はついていたが、このタイミングは僧侶ちゃんだ。
別に僕は厭らしい目的で魔法使いさんと見つめ合っていた訳ではないのに
そういう言い方をされると何だか傷つく。
だけど、今日ばかりは何かが違った。
魔法使いさんがものすごい怒ったような顔つきを僧侶ちゃんに向けたのだ。
僧侶ちゃんもその顔を見ると、何か失敗したような顔をする。
つかつかと魔法使いさんが僧侶ちゃんに近寄り、少しきつい口調で
何やら囁いた。
…いつもとは違う光景だ。これまで僧侶ちゃんは何かと魔法使いさんに
食ってかかっていったし、魔法使いさんはそれを受け流し続けていた。
ところが今はどうだろう。魔法使いさんが何事か囁くと僧侶ちゃんは神妙な
顔をする。
そういえば、ポルトガの町以降僧侶ちゃんは僕に『命令』をまったくしていない。
盗賊くんと同じく、なにやら僧侶ちゃんにも変化があったようだ。
おとなしくなったのはいいことなのかもしれないが、心の中にある
何かがざわめいているのを感じる。
―嵐の前の静けさ
そんな言葉がふっと僕の心をよぎった。
森の中を生暖かい風が吹き、ダーマ神殿の方角に走り去っていく…。
427そして転職へ  12:2009/10/15(木) 00:32:06 ID:WXI0nz98
放置された小屋を見つけたのはまったくの偶然だった。蜘蛛の巣だらけの
室内に足を踏み入れると埃が舞う。けれども野宿を覚悟していた僕らには
天の施しにも等しいものだった。
この世界の森の中で野宿など自殺行為にも等しい。群れなすモンスターや
凶暴な亜人がわんさか押しかけてくるのは目に見えている。
火など焚こうものなら居場所が一発でばれてKO。応戦しても太陽が昇るまで
エンドレスバトルを繰り広げる羽目になる。
そのため、旅人は通常近くの宿屋に泊るか瞬間移動呪文で宿屋のある街に
移動するのが常だ。一日以上かかるであろうダンジョンの往来の際はキャンプを張る。
それも大がかりでしっかりとしたものだ。それにはキャラバン隊が不可欠で
専用の業者を雇うことに…。
つまり、僕たちの一行に森の野宿は不可能というわけだ。
そんな中現れた廃屋。不思議なことに野生の魔物はあまり民家を襲わない。
お約束というものらしい。
そんな訳で今日の寝床をゲットできた僕たち。中に放置されていたランプは
当然のことながら燃料が尽きていたので、自分たちのを使用した。
必要最小限の灯りの中、寝床を整える僕たち。明日にはダーマ神殿が僕らを
待っているのだ。いよいよ転職できるのだ。
呪われた運命ともおさらば。これで僕は普通の人間として人生を謳歌できる…。
僕…この旅が終わったら、普通の人生を送るんだ。

「勇者さん。」

僧侶ちゃんが声をかけてきた。

「もしよろしければ、近くに泉があるそうですので二人で出掛けませんか?」

泉…久しぶりだね。懐かしさにふと顔がゆるむ。

「うん。わかった。もうちょっとで書き終わるから待ってて。」

僕はそう言って手紙を書き終えると封を閉じて、便せんに記されている
転移呪文の印に触れる。手紙が目的の所まで転移したのを見届けると
僧侶ちゃんの方に歩んでいった。

「何のお手紙だったんですか?」

「ん?魔王討伐の秘密兵器さ。」

「もう…またはぐらかして…あ、そうでした。勇者さん、『命令』です。
私と手をつないで行ってください。」

僧侶ちゃんは僕の返事も待たず指を僕の指にからみつかせるように
手をつないだ後、寄りかかるようにして僕を促した。
428そして転職へ  12:2009/10/15(木) 00:33:11 ID:WXI0nz98
「じゃあ、少し散歩に行ってきます。留守をよろしくお願いします。」

僕はそう言って魔法使いさんと、この頃様子がおかしい盗賊くんに声をかける。

「いってら〜。勇者クン…物陰に押し込んで…ヤっちゃえ!」

魔法使いさんはいつも通りだが…。

「………………。」

盗賊くんは虚空を見つめてぼっとしている。魔法使いさんがそんな盗賊くんの
頭を小突くと、はっと我を取り戻したような盗賊くんは

「勇者…行ってらっしゃい。」

と、やはり昔とは違った様子。

「ほら、勇者さん。早く早く。」

どこか焦った様子の僧侶ちゃんに引っ張られながら、僕は少し心残りで
小屋を後にした。そして、その選択のツケをもうすぐ僕は支払うことになる…。


泉の水は実に住んでいた。これほどまでに明るかったのかというほど
月の光は水面を照らし、深い青を湛えた水面は幻想的に輝いている。
自然の光100パーセントの風景は、町で暮らしていたころには全く
お目にかかれなかった。
湖畔に腰をおろした僧侶ちゃんは僕を見上げると、自分の隣の地面を
ポンポンと叩く。
座ってください、という意味だろうか。
ゆっくり隣に腰掛け、二人でしばらく泉を眺め続ける。
暫くすると、空にかかった雲が月光を遮断して辺りが漆黒に染まる。
そして、雲が晴れ月光が再び僕らを照らし出した瞬間…。

僧侶ちゃんが僕を押し倒していた。

そのまま彼女の唇が僕の唇に重なる。月光にきめ細やかに映える白い
両手が、ゆっくり、そして力強く僕を抱きしめる。
そのまま僕にまたがる形となった僧侶ちゃんの眼には、銀の滴が
こぼれおちそうなくらいに輝いていた。

「愛してます。」

僕の唇から離れた彼女の唇が、言葉を紡ぐ。

「愛しています。昔から、これからもずっと愛しています。だからこれからもずっと
一緒にいてください。言葉だけじゃ足りません。抱きしめるだけでも
満たされません。私…勇者さんが欲しいんです。」

「一緒にいてください。離れないでください。私以外を見ないでください。
たまに不安になるんです。自分が自分でなくなるかのように怖いんです。
一緒にいる証をください。消えない証を私の体に刻み込んでください。
勇者さんの体に刻み込ませて下さい。…私を…私を抱いてください!」
429そして転職へ  12:2009/10/15(木) 00:33:54 ID:WXI0nz98
「…何で…?何で何も言ってくれないんですか?私が軽い女に見えますか?
いいえ!私は勇者さん以外にそんなこと…そんな女じゃないんです!
何なんですかその眼…!なんでそんなに怒っているんですか!?
そんな目で見ないでください!見ないで!見ないでください!
おかしいですよ勇者さん!何で私の言うとおり私をめちゃくちゃにして
くれないんですか!?昔言いましたよね?私のことを好きにして構わないと!
…やめてください…。やめてください。やめてくださいやめてください
やめてくださいやめてやめてやめてやめろやめろやめろぉ!!
そんな目で見ないで!何で怒っているの!?意味が分からないよ!
好きな人に体を捧げて何が悪いの!?一生勇者さんのそばにいたいと
願うのは罪!?好きな人を独占したいと思うことの何がエゴなのよ!?
そんな目をしないで!やめて!勇者さんは黙って私を蹂躙して、愛して、
そばに居続けるの!なんでそれができないの!勇者さ…」

パアン!

僧侶ちゃんの身体が一瞬宙に浮き、地面に沈んだ。
彼女は何が起きたのか分からないといった様子で僕を見つめ、それから恐る恐る
自分の頬に手をあてる。
僕は僧侶ちゃんを殴った。そう、殴ったのだ。

「嘘…。」

僧侶ちゃんの顔がゆがんでいく。悔しさのあまり言葉が震えていく。

「うそ…だよね…?そんな…こんな…私たち、こんな終わり方じゃないはずですよね?
嘘…うそだよ…だってこんな…愛しているもん。だって愛しているんだもん。
なのになんで?どうして?ねえ分からないよ。助けて勇者さん。
助けてよ…たすけ…うわあああああああああああああああああああ!!!!!」
430そして転職へ  12:2009/10/15(木) 00:35:17 ID:WXI0nz98
頭を抱え悲鳴を上げたのち、僧侶ちゃんはナイフを振りかざしそのまま
突っ込んできた。涙を湛えた眼は充血し大きく見開かれ、顔は苦悶の表情で
ゆがんでいる。ナイフを向けられているこっちが気の毒に思えるほど
彼女が苦しんでいるのが見とれる。

…でも駄目だ僧侶ちゃん。今はまだ耐えてくれ。

ナイフが僕の肩を掠めた。血が少し肩口を濡らす感触を感じつつ、僕は
彼女にあて身をくらわした。
倒れ込み、動かなくなる僧侶ちゃん。僕は駆け寄り無事を確認する。
どうやらうまく気絶してくれたようだ。
ほっとした矢先、背後に人の気配を感じ取り僕は振り向いた。
そして、そこにいたのは…。

「喰らえ、勇者。」

盗賊くんが月光にきらめくナイフを振り上げ、僕に向かって勢いよく
振り下ろす。
―冗談だろ?この距離とタイミングじゃ間合いをあけるなんて不可の…
月光が湖畔を照らすなか、また一人の姿が力なく地に崩れ落ちた…。



勇者一行がねぐらに決めた小屋の中は、見たこともない巨大な
魔法陣で埋め尽くされていた。
そこに佇む女性が一人、静かに目を閉じ何かを待っている。
やがて、小屋の外から誰かの足音が近づいてくると女性の顔に笑みが浮かんだ。
そのまま小屋の外に出て、女性は足音の主…盗賊くんの姿に話しかける。

「わたくしの望んだ通りに事を成し終えましたか?」

盗賊くんは何の感情も浮かんでいない顔でこくりと頷いた。

「いい子ですわ…本当に。これで、わたくしの下にあの方が再び来て下さる…。
勇者殿には気の毒な事を致しましたが、全てはわたくしたちの永久に変わらぬ
愛のために…。さあ、盗賊。最後の仕事です。勇者殿の肉体は
きちんと持ってきていただけたのでしょね?」
431そして転職へ  12:2009/10/15(木) 00:37:54 ID:WXI0nz98
この時、始めてうっすらと笑みを浮かべた盗賊くんは左手を女性の方に翳すと…。
盗賊くんの手から紫の稲妻が飛び出すのと、異変に気づいた女性が呪文防御を
唱えるのはほぼ同時だった。
稲妻の直撃こそ免れたものの、完全に不意を突かれた女性は反動で
後ろに吹き飛ばされる。
体制を立て直す彼女。その頬にうっすら血がにじんだ。

「どういうこと…?何故盗賊風情が闇の呪文を…まさか!?でも、そんな…。」

「気づいたみたいだな。」

盗賊くんは女性をまっすぐ見据え、不敵に笑った。
そして盗賊くんは目を閉じて何やら唱える。白い煙が辺りを包み込み、
盗賊くんがさっきまでいた場所に立っていたのは…。

「勇者殿…どうして?」

「変身呪文モシャス。当然知っているよね?」

「馬鹿な。変身呪文は魔法使いなど一部の者しか使えぬ高度な呪文。
いくら勇者とはいえそうそう扱えるわけが…。」

勇者…つまり僕は懐をごそごそと弄り、一本の汚い棒を取り出した。

「僕の父オルデガが僕に渡した切り札…『変化の杖』だ。
これさえあれば、僕は変身呪文が使える。」

女性の顔に動揺の色が浮かぶ。僕は追及の手を緩めなかった。
こいつだけは許さない。僕の眼に鋭い光が浮かぶ。
知っている人がいたら多分こういっただろう。
本当に、父親そっくりの眼の光だと。

「長きにわたる茶番劇もどうやらここでおしまいのようですね。さあ、
僕や盗賊くん、そして僧侶ちゃんを陥れた罪の報いを受けろ!」

僕は左手をまっすぐ女性の方に翳しながら、きっぱりと言い放った。

「魔法使いさん…いや、竜王事件の新犯人…ローラ姫!!」
432そして転職へ  12:2009/10/15(木) 00:38:50 ID:WXI0nz98

時が、再び流れ始めた。
無言の魔法使いさんは落ち着きを取り戻したらしく、笑みすら浮かべている。

「…否定はできないですよね。あなたは成長剤か何かで実際よりも
大人に変身し、周りの目を欺いて僕らの仲間に加わった。
そして、何かの目的のために今日狂った作戦を実行したんでしょう?
何かの呪文で僧侶ちゃんや盗賊くんを操って!その小屋の中…
おそらくそこにあなたの目的の鍵があるんじゃないですか?
例えば…禁術の魔法陣とか。」

「正解ですわ、勇者殿。」

今度は魔法使いさん…もといローラ姫が不敵に笑う番だった。

「わたくしの事はお聞きしていますでしょう?わたくしは三年前、
あなたのお父様によって大切な殿方を私の手から奪われました。
そして、あの方は逝ってしまわれた…わたくしを独り遺して…。」

「でも、私はあきらめませんでした。この世にもう一度あの方を呼び戻す…。
そこで目をつけたのは、どことなくあの方と似ているあなたの肉体そして、
魔界にひそかに潜入して見つけた禁術文章『ミチザネレポート』…
その中に記されていた『雷撃呪文の脳内連続刺激による記憶の完全移植』です。
あなたの肉体にあの方の全ての記憶を上書きし、さらにはわたくしのことを
愛してやまず離れられないように記憶を作り変える…素晴らしい
案だと思いませんこと?」

僕の背中を嫌な汗が流れおちる。
狂っている…。
僕の驚いた顔を見て饒舌になったのだろうか。ローラ姫はさらに話を続けた。

「この計画にはわたくしの思い通りに動く手足と、この術のモルモットとなって
頂く人材が必要でした。あの僧侶と盗賊は実に良い下僕であり、実験材料でしたわ。
あなたが旅立つため王宮に向かった時、私はひそかに僧侶をさらい、
呪文のテストを行いました。まだ術もそんなに完成しておらず、私の人格の
ほんの一部分…つまり、愛する人に対する執着心をコピーするだけで
当時は精一杯でした。その時の記憶も消したと思いましたが、深層心理の
どこかで私のことは覚えていたのでしょうね…。
ああ、あと酒場に火をつけたのは彼女の仕業ですよ。私の執着心がコピー
された直後の彼女の人格は不安定なものになりますから、勇者殿との
二人だけの旅を諦められなくて、仲間集めを放火により封じるといった
短絡的な行動に出たのでしょうね。」
433そして転職へ  12:2009/10/15(木) 00:40:54 ID:WXI0nz98
体中が熱い。血液が逆流しそうだ。怒りでもはや言葉もない。
よくも僧侶ちゃんを…。
同時に、彼女のこの旅での変化の理由が分かった。二重人格といってもいいほどの
いつもの僧侶ちゃんと怒った時の僧侶ちゃん。こいつが元凶だったのか。

「その後、わたくしの術は次のステップ…術の対象者の意志に反する命令の
実行にまで行き着き、ポルトガ行きの船に乗る前の森であの盗賊を襲撃。
わたくしの命令を忠実に実行する人形になるように脳に刺激を与え続けました。
最初の方は抵抗が激しかったものの、時間がたつにつれすぐに忠実になり、
ポルトガにつくころには余計な事を考えぬ僕に…。」

なにがおもしろいのか、くすくすと笑う姫君。
高貴さが見え隠れするその一挙一動が忌々しいものに感じられる。

「ポルトガで勇者殿と別れたわたくしと盗賊はその後僧侶を抑え込み
術をかけることに成功いたしました。今晩には、私の魔法陣布陣までの
時間稼ぎをお願いしていたのですが…どうやら成功したみたいですね。
盗賊による襲撃は失敗したようですが…。」

あの時盗賊くんの攻撃を避けるには、彼女を攻撃するしかなかった。
以前僕には剣は必要ないとどこかで語ったが、それは闇の力に頼るだけではない。
僕は実は徒手空拳の使い手だ。素手の一撃にさえ殺傷力が籠っているほどに鍛えてある。
仮にもオルデガの息子だ。拳一つで魔物を葬れないようでは勇者は名乗れない。

「そして…今からあなたにかける術式が私の最大の禁術『完全記憶移植』です。
さあ、さようなら勇者殿。そして…わたくしの下に戻ってきてください、竜王!」

美しい顔に恍惚の表情を浮かべながら、魔力をみなぎらせるローラ姫。
数々の勇者を葬ってきた美しき呪文の使い手が僕の前に立ちふさがる。
そんな中、僕はさっきの僧侶ちゃんのことを思い出していた。
僕に見せた涙、交わした唇、愛しているという叫び…
何をとっても、どれをとっても嘘いつわりになんて見えなかった。
時間稼ぎが目的じゃない。あれは多分、彼女の心からの叫び。
だからこそ、許せない。
次の瞬間、僕の左手から今までにない規模の稲妻が放たれた。
434そして転職へ  12:2009/10/15(木) 00:43:08 ID:WXI0nz98
以上です。多分次回で物語は終わります。
次回で伏線や何やらはあらかた片づけられると思うのですが…。
そんな訳で、たぶん次回で最終回です。
お付き合いいただきありがとうございました。
435名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 00:48:31 ID:wwN2TftS
436名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 00:56:44 ID:VtNF8+on
投下GJ
最終回を楽しみにしてます
437名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 02:36:44 ID:KwrdNu1N
GJ!! 最終話に期待する。
438名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 08:16:28 ID:YfYvPOW8
心理学の使い手ならヤンデレの彼女ができても理論武装で対抗できたりするのかな?
そのうちヤンデレ属性が消えちゃったりして……そんなのもありだな。
439名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 09:06:42 ID:CVO4KP3x
それはヤンデレじゃなくてメンヘラだろ
440名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 09:19:32 ID:a/tvhGcU
男「犯罪は駄目だよ云々」
女「ごちゃごちゃうるせーっ」
男「うわぁ」

結局はこうなる
441名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 10:35:33 ID:JEz+aNih
花火ってヤな女だお
傷の件ももうチャラだろあんだけやったら
442名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 12:12:53 ID:I3ZvK5IH
>>434
GJ! いよいよ最終回ですか。期待してます。
しかし「マモノオオオオオオオオオオ!」ってw
443名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 18:54:12 ID:jsEdrfhF
GJ

所で本来デイン系は勇者専用呪文だったような・・・
まぁ細かいことは良いか。
444 ◆AW8HpW0FVA :2009/10/15(木) 21:26:40 ID:qBkq9DBW
投稿します
445変歴伝 21 ◆AW8HpW0FVA :2009/10/15(木) 21:28:34 ID:qBkq9DBW
叫び声と共に戸を開け放つ音が、屋敷に響き渡った。
突然の出来事に、水城は業盛に伸ばした手を止め、業盛は頭の機能を復活させた。
「兄様!」
叫び声の主は、惑うことなく部屋に入り込み、
業盛に圧し掛かっている水城を突き飛ばした。
気を取られていた水城は、受身を取ることも出来ずに、頭を床に強打した。
「痛たたたた…、ちょっと、なにすんのよ、あんた!!!」
痛む頭を擦り、涙目になりながらも、
水城は自分達の情事を邪魔した乱入者を強く睨み付けた。
「あっ…、兄様、その様に…、あぅ…、胸に息を吹き付けられたら…、
私…、んっ…、感じてしまいますぅ…」
「ん〜、ん〜!!?」
「ちょ…、なにやってんのよ、あんたはぁあああ!!!!!」
女は水城に憚ることなく、業盛を抱き締めていた。
それも、自分にはない豊満な胸を、業盛の顔面に押し付けて。
「あんた、離れなさいよ!三郎が苦しそうじゃないの!
それに、兄様ってどういうことよ!」
水城は業盛を抱き締めている女を指差した。
女は少し顔を上げ、水城を見つめた。瞳には、嘲りと蔑みの色が混じり、宿っていた。
「どういうことって、そのままの意味ですよ、薄汚い雌犬さん」
女の発言は、一瞬の内にその場の空気を凍り付かせた。
水城は肩をわなわなと震わせ、殺意を孕んだ目付きで女を睨み付けた。
「…薄汚い…雌犬ですって…」
「あらあら、言葉の意味も理解できないんですか?
人である兄様に盛る犬に薄汚いと言って、なにか問題でも?」
水城が睨み付けても、女は怯むことなく、悠然と水城を見つめていた。
「ん…、ん…、ん………」
そんな折、先程から女に抱き締められていた業盛が、意識を手放しつつあった。
「…って、三郎の顔が青くなってるわよ!!!」
「えっ…、きゃあぁあああー、兄様、大丈夫ですか!!!」
険悪な空気は、一瞬の内に吹き飛んでしまった。
「このでか乳女、私の三郎を殺す気!
どきなさい、三郎にひざまくらしてあげるんだから!」
水城は女を突き飛ばし、業盛の頭をひざに乗せようとした。
「なにさり気なく『私の三郎』とかふざけたこと言っちゃってるんですか!
私の兄様に勝手にひざまくらをしようとしないでください!」
女は業盛の左手を取り、業盛を水城のひざに乗せまいと強く引っ張った。
それに負けじと、水城も業盛の右手を取り、強く引っ張った。
「お前等いい加減にしろぉおおおお!!!」
そんなことをしている内に、業盛は目を覚ましていた。
446名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 21:30:43 ID:qBkq9DBW
急に気絶させられた挙句、両腕を引っ張られた業盛は、
目覚めて早々、怒鳴り声を上げてしまったが、その怒りはすぐに収まった。
業盛を窒息死させようとしていた張本人が、彩奈だったからだ。
彩奈がここに来たということは、今度は一郎になにかあったということである。
すぐにでもそのことを聞き出そうと思ったが、
水城がいる手前、今それを聞くのは憚った。
後で二人になった時に聞けばいいだろう、と業盛の頭で決着が着いた。
「ねぇ、三郎、誰なのこいつ…?」
「兄様…、この女は、何者なんですか…?」
水城と彩奈は、ほとんど同時に業盛に聞いてきた。
お互い、目をおろおろさせ、業盛の機嫌を伺っている様に見える。
とりあえず業盛は、自分は怒っていないと言って二人を安心させ、
水城には彩奈のことを、彩奈には水城のことを掻い摘んで説明した。

「…っという訳だ。納得してくれたか、二人共?」
一通り説明を終えた業盛は、二人に目を向けた。
「えぇ…、納得……する訳ないでしょ、この馬鹿ぁああああ!!!」
「兄様が優しいのは分かりますが、犬畜生にも情けを掛けるのは理解できません!」
二人は大体同じ様な感想を抱いた様だ。
「大体、見ず知らずの女を看病するあんたもあんただけど、
それで三郎を兄様と呼ぶあんたもどうかしてるわ!!!
それと、また犬って言ったわね!!!」
「きゃぁ〜、兄様ぁ〜、薄汚い雌犬が私に襲い掛かってきまし……痛っ!」
子気味のいい音と共に、彩奈は自分の額を押さえた。
業盛が彩奈の額を小突いたのである。
「彩奈、犬畜生なんて汚い言葉を使っちゃ駄目じゃないか。
彩奈だって、人からそんなこと言われたら、嫌だろ?」
傍から見ると、まるで父が子を諭している様な光景である。
「それに水城は、俺の大切な人だ。例え妹であっても、そんなことは言って欲しくない」
「!!!」
普通の人が言えば小っ恥ずかしい台詞を、業盛はなんの恥じらいもなく言ってのけた。
それを聞いた水城は、顔を真っ赤にして、俯いてしまった。
そんな水城に気付くことなく、業盛は彩奈を無言で見つめ続けている。
彩奈はその無言の圧力に耐え切れなくなり、
「うぅ…、分かりました…。兄様がそう言うなら…」
と、謝罪の言葉を述べた。
「分かってくれたなら、それでいいんだ」
彩奈から言質が取れた業盛は、目容を和らげ、彩奈の頭を優しく撫でてやった。
「あぅ…」
彩奈が奇妙な声を出したが、業盛は構うことなく撫で続けた。
彩奈も顔を真っ赤にして俯いてしまった。
447変歴伝 21 ◆AW8HpW0FVA :2009/10/15(木) 21:31:55 ID:qBkq9DBW
二人が静かになったのを見て、ここが話の潮時だろうと思った業盛は、
真っ赤になって俯いている二人を尻目に、ゆっくりと立ち上がった。
「あっ…、三郎、どこに行くの?」
我に返った水城は、それを見咎めた。
「あぁ、もう晩いからそろそろ寝ようと思ってな」
戸の辺りで足を止めた業盛は、振り返って水城にそう答えた。
「兄様が寝るのなら、私も」
水城と同じく惚けていた彩奈は、業盛の言に素早く反応して立ち上がった。
「ちょっ…、待ちなさいよ、三郎!」
水城の表情だけでなく、声音からも不機嫌な色が滲み出ていた。
先程の水城の大胆告白が、まるでなかったかのように話が進んでいる。
それが不機嫌の原因だと、さすがの業盛でも察することは出来た。
正直、業盛も返答に困っていた。二度も水城からの告白を蹴っている業盛であるが、
それらは全て、水城のことをまったく知らないで言ってきたことである。
だが、今は一月も同じ部屋で暮らし、水城のことをそれなりに分かる様になり、
業盛も水城のことは嫌いではない。むしろ好きと言ってもいい。
しかし、ここで水城に告白していいものか、と業盛は思った。
突然の水城からの告白に、業盛はまだ心の整理が出来ていない。
それに、他者が介する中で告白するのも、いささか趣に欠ける。
「悪いが水城、今はその告白には答えられない。
だが…、近い内に必ず答えは出す。それまで…、待っていてくれないか?
その時は、俺から…」
そこまで言って、業盛は、しまった、と思い、顔を赤くした。
これではほとんど水城との交際を認める様な言い方ではないか。
案の定、水城は先程のそれよりもさらに顔を赤くしていた。
どうやら、完全に止めを刺してしまった様だ。
「さっ…さささ三郎のくっ……癖に、まっ…まま待ってくれだなんて…、
なななな生意気なこと言わないでよ!
でっ…でも、わっ…私は、どどどどど度量が広いから、
とっ…特別に待ってあげるわ!かっ…かか…感謝し…しなさい…よ!」
声が裏返ったり、涙声になったりしながらだが、水城は了承してくれた。
「ありがとう」
業盛は水城に感謝の言葉を投げ掛け、部屋から出た。
「さてと…、少し話を聞かせてもらおうか、彩奈」
そう言って、業盛は隣に侍っている彩奈に声を掛けた。
彩奈がこちらを向いた時、一瞬殺気の様なものを感じたが、
彩奈の表情はいたって穏やかであった。
気のせいか、と業盛は気にも留めなかった。
448変歴伝 21 ◆AW8HpW0FVA :2009/10/15(木) 21:32:52 ID:qBkq9DBW
業盛は彩奈を部屋に招き入れると、彩奈と相対する様に腰を下ろした。
「一郎になにかあったのか?」
確信のある業盛は、無駄話をすることなく本題を切り出した。
唐突だったので、彩奈は少し驚いた様な顔をしたが、突如その表情に影が差した。
「……弟は…………」
いったん彩奈はそこで言葉を区切り、俯いてしまった。
どうしたのかと業盛は思ったが、よく見ると彩奈は肩を揺らして咽び泣いていた。
「……………亡くなり………ました………」
絞り出すように彩奈はそう言った。
「なっ…!」
思わず業盛は身を乗り出しそうになった。
あれほど元気だった一郎が、そう簡単に死ぬとは思えなかったのだ。
「三日ほど前のことです…。急に苦しみだして、寝込んでしまったんです。
私は兄様から渡された金で医者を呼んだのですが、もう手の施しようがないと言われて、
最期は口から泡を吐いて…」
そこまで言うと、彩奈は本格的に泣き出してしまった。
いたたまれなくなった業盛は、泣きじゃくる彩奈を優しく抱き締めてやった。
しばらく抱き締めていると、彩奈は泣き疲れてしまったのか、寝息を立てて眠り始めた。
それを見た業盛は、彩奈を抱き上げ、布団に寝かせた。
しばらくの間、業盛は彩奈の頭を撫でていた。
「まるで、本当の父親か兄の様ね」
業盛が振り返ってみると、水城が腕を組んで立っていた。
「水城、どうしたんだ?」
急の訪問に業盛は驚いたが、水城はどことなく不機嫌そうに、
「心配になったから来ただけよ」
と、ぶっきらぼうに言うと、水城は業盛の傍に座った。
「信用がないな…」
業盛は、残念そうに肩を落とした。それを察してか、水城は、
「べっ…別に、この子の心配をしてる訳じゃないわ」
と、付け足す様に言った。
「はぁ、どういうことだ…」
業盛は水城の言葉が理解出来ず、不思議そうな顔になった。
「あんたのことが心配で来たのよ…。私の夫…になる予定なんだし…」
水城はそう言って、俯いてしまった。
今日の水城は、大胆になったかと思ったら、
急に赤くなったり俯いたりと忙しいな、と業盛は思った。
「とっ…とにかく、今日はもう寝ましょ。私だって眠いんだから」
水城は慌てた様に言うと、業盛と彩奈の間に割り込む様に布団に入り込んだ。
「みっ…水城、今日も一緒に寝るのか?彩奈もいるのに…」
「ここが私の指定席なの。他人がいよういまいが関係ないわ」
まったく悪びれずに水城は言うと、業盛の反論を無視し、さっさと寝入ってしまった。
反論を無視された業盛は、是非もなし、と思い、自分もさっさと寝ることにした。
449 ◆AW8HpW0FVA :2009/10/15(木) 21:34:42 ID:qBkq9DBW
投稿終了です。
446番がなぜかsageられませんでした。すいません。
450名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 21:53:01 ID:HtZ1HNDf
待っていた、待っていたぞ!
GJだ!!
451名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 23:21:49 ID:CC0pEn/i
GJすぎて言葉がでねぇ
452名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 23:35:43 ID:rS38avUb
職人に感謝!

いつもwktkで待ってるぜw
453名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 02:26:46 ID:tOOXUUbY
やったぜヤンデレ家族キテターーーーーーーー
454名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 02:44:38 ID:xHIabwu0
弟、謀殺されたか
ナム
455名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 06:53:15 ID:6+0mZuQu
ヤンデレ家族ってなに?
456名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 07:20:21 ID:n4wbhzeN
>>455
釣り針ぶっといなぁ。大人は質問に答えたりしないって上司が言ってたぞ
457名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 12:37:54 ID:OwczltiY
>>449
GJ!
業盛の傍にいる口実の為に謀殺されたくさい一郎カワイソス
しかしもっとドロドロの修羅場になるかと思ってたら
想像してたよりかはあっさりしてたな。少なくとも表面上は。
水面下ではどうなってるか分かったもんじゃないがw
458名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 13:03:05 ID:/O440q4V
初めまして。投稿します。
459少年 松田 悠里の場合:2009/10/16(金) 13:06:40 ID:/O440q4V
俺と彼女との出会いのきっかけは、ほんの些細なことだった、当時の俺たちは高二に上がりたてで、たまたま俺とあいつが一緒のクラスになったのだ。
もちろん、その程度なら些細なことですらない。
恒例の委員会・クラスの係決めで俺は放送委員を選んだ。オリエンテーションであらかじめ決めておいた担当の曜日の昼休みに、自ら持ち込んだCDをかける。
それを楽しみにしていたのだ。学生生活を一通り体験した皆さんなら想像がつくだろうが、委員会というものは大抵、それぞれクラスで代表二人が選出される。
この放送委員も、例外ではなかった。そして俺以外にもう一人立候補したのが、あいつ。作倉 奈緒輝だった。
ビロードの如く艶やかな、腰まで伸びた黒髪。端正な顔立ち。透き通るような白い肌。"ナオキ"という、聞いただけなら男かと思うような名前、けれど美少女。
いろんな意味で気になるやつだ。

翌日の放課後、さっそく委員会で集まった。活動内容についての説明と、担当する曜日決めだ。黒板には月曜日から金曜日までの希望欄が書かれている。
俺は"水曜日"と書かれた欄に名前を書いた。その曜日を選んだのには、特に深い理由はなかった。
数分後、全員が希望の曜日を書き終えた。幸いにも、水曜日の欄には俺ともうひとりの名前しか書かれていなかった。
これがどういう意味か、というと、他の曜日はだいたい3、4人なのに対し二週間に一回というハイペースで当番が回ってくるということだ。
ちなみにその"もうひとり"ってのは、意外なことにあの作倉だ。

そこから一週間とすこし後、はじめての当番が回ってきた。CDと弁当と暇潰しのPSP…むしろ鞄ごと持ち込み、放送室に向かった。中に入ると、作倉がいた。

「こんにちわ松田くん。」
「…今日は俺の当番だぜ? えっと…作倉さん?」
「奈緒輝でいいよ。クラスメイトなんだし、そんなに畏まることないでしょ?」
「……まあ確かに。じゃあ俺のことも、悠里って呼んで」
「ふふっ…わかった、悠里くん」

変わったやつ、と思いつつ俺はプレイヤーにCDを入れる。職員室以外に流すよう指示を受けていたので、それに従い各フロアの音量を調整する。
これからお昼の放送を始めます、とお決まりの挨拶を言い、プレイヤーの再生ボタンを押した。手始めに、妖精達が夏を刺激する歌がスピーカーから流れ始める。

「へえ…悠里くんってTM聴くんだ。なんか、意外だね」
「小学生のときから好きなんでね。お気に召さなかったか?」
「ううん、私もTMは好きだよ?」

そうかい、と返事をしつつ俺は鞄から弁当を取り出した。すると奈緒輝も弁当を取り出し、お昼ご一緒していいかな? と聞いてきた。
特に断る理由もなかったので、構わない、とだけ返事をしておいた。
奈緒輝の弁当箱はいかにも女の子らしい、小さなものだった。以前小耳に挟んだが、女子の弁当というものは小さな弁当箱に具をあわせる必要があり、
かつ彩りが大事で、男子の弁当より難しい…いや、手間がかかるものらしい。奈緒輝のそれは彩りも美しく、作った人の腕前が現れているようだった。
かくいう俺は、両親とも海外でエンジニアとして活躍し荒稼ぎしているおかげで安泰な独り暮らしなのだが、弁当は俺の自作だ。
なんとなくだが、あまりじろじろ見られたくない。実は奈緒輝も自分で弁当を作っていた、というのは後日知ったことだが。
460少年 松田 悠里の場合:2009/10/16(金) 13:08:53 ID:/O440q4V
食後、暇をもて余した俺は鞄からPSPを取り出し、電源を入れた。ソフトは、発売から今現在まで幅広い人気を誇るゲーム"モンスターハンター2ndG"略してモンハンだ。
といっても俺はつい1ヶ月前くらいから始めたのだが。
セーブデータを読み込んでいると、ここでも奈緒輝が声をかけてきた。

「へえ、悠里くんモンハンやってるんだ? ハンターランクいくつ?」
「8だ。ヤマツカミは出ているんだが、根性スキルのついた装備がまだ揃わなくてな。…お、ラヴァの足買えるな。揃ったわ。」
「ちょうどいいじゃん。私も行くから二人でヤマツカミやろう?」
「…奈緒輝ってモンハンやってたんだ。ランクは?」
「9。ウカム倒してあるよ」
「そうか、じゃあ集会所先行ってるよ。」

"集会所"という、分かりやすく言えば、様々なモンスターを狩るクエストを受ける場所に向かった。いわゆる、通信プレイ用の部屋だ。
俺は先にヤマツカミのクエストを受けた。俺の装備は、"根性"という、一撃死クラスのダメージを受けてもHPが1残るスキルと、武器の切れ味を上げるスキルを発動させた

ものだ。
ヤマツカミは一撃死の技をたびたび使ってくるので、下手くそな俺でもとりあえずこれでなんとかなるだろう。
奈緒輝のキャラの装備は俗に"金色一式"という、"大剣"に特化したようなものだった。武器はあの大根おろし。
これ以上は…いやこの時点で既にモンハンをやったことのない人には全く分からないだろうから、過度な説明や戦闘描写は割合させてもらおう。
ヤマツカミ戦は思ったよりも早く、簡単に終わった。20分はかかると思ったが、15分で討伐。一撃死の技を使われることもなく沈んだ。ほとんど奈緒輝の活躍だったが。

ふとPSPで時計を確認してみると、昼休み終了5分前だった。俺はCDプレイヤーの停止ボタンを押し、マイクで「これでお昼の放送を終わります」とアナウンスした。

「ねえ、悠里くん」奈緒輝が機材の電源を落としている俺に声をかけた。「せっかくだし、メアド交換しようよ。いいかな?」
「ああ。待ってな、今携帯出す。…よし、じゃ赤外線でまず俺が送るわ」

互いの携帯の赤外線ポートをほぼゼロ距離に近づける。いやまったく、最近の携帯はほんと便利になったもんだ。
ソ◯トバンクがまだJ-PHONEと呼ばれてたころから携帯を使っている俺は、その遷移をほぼ全て把握している。
22世紀の携帯を当時の人たちが見たら、未来のハイテク万能通信機器だと思うこと間違いなし、だ。
そんなことを考えてるうちに、今度は奈緒輝からアドレスが送られてきた。俺はそれを手早く電話帳に登録しておいた。

「さ、教室戻ろっか」奈緒輝は携帯をしまうと、机の上の放送室の鍵をとって言った。俺は「そうだな」とだけ言い、二人して放送室をあとにした。

これが、俺と奈緒輝の出会いだ。
461少年 松田 悠里の場合:2009/10/16(金) 13:10:34 ID:/O440q4V
それ以来俺たちは頻繁に話すようになった。休み時間には会話を、ときにはモンハンをやり、放課後は一緒に帰るようにもなった。
偶然にも奈緒輝の家は俺の自宅から自転車で5〜6分と、わりと近場にあったので、帰りは奈緒輝を後ろに乗せて自転車を走らせるのが定番になっている。
ちなみに学校から俺の家まではおよそ20分だ。

奈緒輝はある意味では、最高の友人だった。俺の趣味にあわせるでもなく(むしろ趣味がかぶっていることが多い)、遊びにも付き合ってくれる。
いつしか互いに「悠里」「奈緒輝」と呼び捨てで呼びあう仲になっていった。テスト前には図書館に行き、二人して教科書とにらめっこをしたりした。
奈緒輝は理系、俺は文系なので互いにカバーしあって勉強に励んだ。
結果、テストの点数は俺たちでワンツーフィニッシュを飾ることになった。その頃から俺たちはこう冷やかされることが多くなった。

「新婚夫婦」や「美男美女カップル」などと。

奈緒輝は特に気にするでもない様子だったが、俺の心中は穏やかではなかった。
奈緒輝と遊んでいる時は忘れていられた過去の過ちが、今度は奈緒輝と遊ぶ度に俺の思考を支配するようになったのだ。
奈緒輝は何度か俺の表情を読み、心配そうに声をかけてきた。だが俺は問題ない、と言いごまかした。
奈緒輝にだけは、どうしても知られたくなかったのだ。俺の過去を。

ある休日の事だ。俺たちは電車で隣町まで赴き、駅周辺をぶらぶらとしながら遊んでいた。それはいつもの光景。月2回はこうして遊んでいるのだ。
7月ともなれば梅雨も明けはじめ、じめじめとした暑さが日中漂うようになる。
今日の俺は黒を基調としたゴシック風のTシャツにジーパンといういでたち。こんなものもはや家着だ。なにしろこのシャツを買ったのはもう3年も前なのでな。
少し生地がすれているが…友人相手にわざわざ着飾ることもあるまい。
対して奈緒輝はミニスカートに、水色基調のTシャツと、見た感じいかにも涼しげな格好をしている。まあ、いつもこいつの服はこんな感じだ。

俺たちはまずファーストフード店で軽い食事をとり、それからゲーセンに向かった。俺のお目当ては、ドラムセットを模した、巷ではよく厨二ゲーと言われている音ゲーだ。
まあ、始めた時期が中二だったのであながち間違いではあるまい。
対して奈緒輝はすぐ隣にある、ギターを模した、やはり巷で厨二ゲーともてはやされて?いる音ゲーにコインを入れた。
この二台が置かれている場合、大抵セッションプレイ…平たく言えば協力プレイができるのだ。奈緒輝がこのゲームに手を出したのも、中学二年のときだとか。
やはり、多感な年頃なのだろう。そう、無駄に。まあ俺も人のこと言えないが。
分からない人は、"ギタドラ(笑)"とでも検索してくれ。
462少年 松田 悠里の場合:2009/10/16(金) 13:12:18 ID:/O440q4V
ひととおりプレイし終え、ゲーセンを出た俺たちは次の目的地である映画館に向かっていた。
「いや悠里すごかったね。まさかクリアできるとは思わなかったよ」奈緒輝はけらけらと笑いながら言う。
「今度からあの曲禁止な。右腕がまじパネェっす」
「まあまあ、着いたらジュースおごったげるから」
「そりゃどうも」

などと話している間に目的地に着いてしまうのは、お約束のパターンだ。目的の映画は、「ヱ〇ァンゲリヲン・破」。なんと俺たち二人揃ってエ〇ァヲタ…という程ではない

が、まあそれに近いものだったのだ。
チケットを買ったあと、フードコーナーでポップコーンをひとつとドリンクを購入した。ここのポップコーンは馬鹿みたいに量が多く、ペアでひとつがもはや定番なのだ。
もちろん俺のアイスティー(大)は奈緒輝の奢りだ。
劇場に入ると、人がちらほらと座っており、目測で3/4ほど埋まっているようだ。
指定の席に座り、ポップコーンを抱える奈緒輝。俺も座り、さっそくストローでアイスティーを吸う。ほどなくして、劇場が暗転した。

―――――――――――

「いや〜すごかったね悠里」
「ああ。まさか<ネタバレ>が<ネタバレ>で、しかも<ネタバレ>なんだもんな」
「そんなこと言ったら、<ネタバレ>だって<ネタバレ>だったよ!?」

映画が終わり、外に出たとき時刻は20時。空が紫色に染まりつつある時間帯だ。駅に向かう道中、俺たちはつい今しがた見終えた映画の話題で花を咲かせていた。
結局映画に夢中になってしまい、ポップコーンはほとんど手付かず。奈緒輝が抱えているのには変わらず、二人でちまちまと食いながら歩いていた。それがカラになる頃、駅

にたどり着いた。
パスモを改札に当て、中に入る。ホームに上がると電車がちょうど来ていたので、それに乗り込む。わずか二駅で地元に着くので、立ちっぱなしだ。
地元に着くと、今度は奈緒輝を家まで送り届ける。休日なので、徒歩でだ。奈緒輝は徒歩だと俺に気を遣ってくれるのか、いつも遠慮してくる。まあ結局いつも送っていくの

だが。

―――けれど、今日はそれのやりとりが無かった。

奈緒輝の家の前まで着いた。俺はいつものように奈緒輝に別れのあいさつを言い、踵を返そうとした。だが、

「…待って」奈緒輝に呼び止められた。
この時、俺の頭の中では警鐘が鳴り始めていた。嫌な予感がする。

「今日はどうしても、悠里に伝えたいことがあるの」

やめろ、言わないでくれ。言わなくてもわかる。だから、やめるんだ。

「私は…」

頼むよ。言わないでくれよ。だって、それを聞いてしまったら―――
463少年 松田 悠里の場合:2009/10/16(金) 13:13:53 ID:/O440q4V
「私は悠里のことが好き。ひとりの男性として愛しています。」

遅かった。奈緒輝は言ってしまった。俺が一番恐れていた、この関係をぶち壊すひとことを。

「悠里は…私のこと、好き? それとも…私じゃ嫌…かな?」

奈緒輝の声はかすかに震えていた。

「奈緒輝。」俺は、重たい口を開き、言葉を捻り出そうとする。けれど…なんて言えばいいのか分からない。

答えだけなら、"NO"だ。俺はもう、誰かを愛することはできない。けれど、奈緒輝との関係が、とても心地良かった。
遠すぎず、近すぎず…いや、端から見たら近すぎかもしれないが、俺にとってはそうなのだ。それを失うことが、怖いのだ。
脳裏に、あいつの顔が浮かんだ。奈緒輝ではない、かつて俺が傷つけてしまった女性の顔が。俺にむけて吐かれ、そして今でも俺の心を蝕んでいる呪詛の言葉が、浮かんだ。

―――嘘つき。

「…ごめんな。俺は奈緒輝の気持ちには応えられないよ。」

奈緒輝の顔色が、一気に青ざめた。苦しそうに、奈緒輝は言う。「…どうして?」と。

「俺は、お前のことが大切だ。最高の友達だと思っている。けれど…俺には誰かを愛するなんてことはもう出来ないんだ。」
「どうして…!?」
「……それは言えない。けれど、俺はお前を失いたくない。これは本当だ。」

最低な言い訳だった。つまりは、「これからもオトモダチでいましょう」と、一番最悪な、都合のいいことを俺は言っているのだ。
そんなことできる訳ないのに。奈緒輝との"友人"としてのほどよい距離感に甘えきっていた証拠だ。けれど奈緒輝は言った。

「そっかぁ…悠里にとって私は、大切な"友達"なんだね」
「…済まない」
「ううん…いいの。それはそれで、幸せなことだから。ねえ悠里?」
「…ん?」
「その代わり…ずっと私と友達でいてね? 約束だよ?」

奈緒輝は小指を差し出した。俺も、自らの小指を出して、奈緒輝のそれと絡めた。この蒸し暑い夜でさえ、その手は冷えきってい
464少年 松田 悠里の場合:2009/10/16(金) 13:15:03 ID:/O440q4V
翌日、月曜のなんとなくけだるい朝を迎える。休み明けというのは仕事始め、俺ら学生は学業始め。なぜか憂鬱になってしまうだろう?
古くから「ローマは一日にして成らず」という言葉もあるくらいだし、みなさんもそう感じたことは少なからずあるだろう。けれど、俺の憂鬱は休み明けのせいではない。
結局きのうは一睡もできなかったのだ。奈緒輝は俺の前では最後まで笑っていたが、きっと泣いていただろう。…やはり俺には傷つけることしかできないのだろうか。
ベッドから這い上がろうとするが、胸が重く、苦しい。言っておくが、気圧が低いわけでも埃が凄まじいわけでもない。そもそも俺は喘息じゃない。この苦しさは以前さんざん味わった、あのときのものと同じだった。

俺はこの日、学業をサボることにした。

―――――――――――


夢を見た。俺は中学の制服を着ている。となりにいるのは奈緒輝ではない。橘 美弥子という、かつての俺の友人だ。俺たちは中学校の、ひと気のない空き教室にいた。

「どうしてあんなことしたの」美弥子は言った。
「…我慢できなかったんだ。お前が、援交とか出会い系とか…そんなガセ流したやつが、許せなかったんだ」
「そのせいで私がどんな目に遭ったか、わかってんの!? 確かに、最初は嬉しかったわよ…あんたがあいつをぶん殴ってくれたときは。
 でも…あのあとから嫌がらせが更にエスカレートした。いくらあんたが守ってくれても、もう耐えらんないのよ! 見なさいよ、これを!」

美弥子は左腕のリストバンドを外した。その下にはさらに包帯があった。それすらもほどいてみせる。そこには痛々しく、まだ新しい傷痕があった。リストカットの傷痕だ。

「耐えらんなくて…気がついたらこうしてた。わかる!? あんたがあいつらから私を守ってくれても、私の心は守れやしないのよ!」
「そんな…美弥子、俺は…っ!」

美弥子の瞳からは、大粒の涙がこぼれていた。その表情は、俺の知っているものではなかった。すなわち、憎悪。

「私には…悠里がいればよかった。他になにもいらなった。誰も信じてくれなくても、あんたさえ信じてくれていれば、それでよかった。でも、もう無理。私、もう疲れたの」

美弥子は教室の窓を開き、窓枠に手をかけた。何をしようとしているのかはすぐ察しがついた。ここは5階だ。落ちればまず助からない。

「美弥子、やめろ!」俺は美弥子を制止すべく、手を伸ばした。けれど、それは叶わなかった。美弥子は微笑んで、こういった。
「嘘つき。」

そして、美弥子の身体は空に投げ出された。
465少年 松田 悠里の場合:2009/10/16(金) 13:18:21 ID:/O440q4V
―――――――――――

そこで夢から醒めた。寝間着が汗でびっしょりだ。俺が見たのは、過去の出来事。過去の、俺の過ちだ。
美弥子が落ちた先にはたまたま教材搬入用のトラックが停まっていて、荷台に落ちたことで奇跡的に一命をとりとめた。だが、心が壊れてしまっていた。
その日から美弥子は入院したまま、結局卒業式にも出なかった。あの瞬間以来、俺は美弥子に会っていない。あの言葉が、俺が最後に聞いた美弥子の言葉だったのだ。

「嘘つき…か」

この夢を見たのは久しぶりだ。去年の、高一の夏には見なくなっていた。つまり丸一年振りだ。
俺が美弥子を守る、かつてそう約束した。けれど守ることはできなかった。嘘つきと言われても仕方ないことだ。
胸が苦しかった。半ば強引に忘れていた記憶が、引き出されたのだ。もし過去に戻れるとしたら、どんなことをしても美弥子を、そして俺自身を止めただろう。
俺は、美弥子が好きだった。美弥子の為なら、何だっできた。けどその思いが、美弥子を傷つけてしまったのだ。
だから俺は誰も愛せない。奈緒輝も例外ではない。むしろ、奈緒輝だからこそだ。

「…サイテーだな、俺は」

汗を吸ったシャツを脱ぎ捨て、俺は台所に麦茶を飲みに向かった。台所の時計の短針は12時を指している。

「…明日は学校に行かなきゃな。」

自室に戻り携帯を見ると、一件のメールが来ていた。差出人は…「五十嵐 頼人」。

―――今日はどうしたんだ?

俺は返信のコマンドを選び、一言だけ書いて、送った。

寝坊。


五十嵐 頼人は俺の男子の友人で、中学からの付き合いだ。本来、"よりひと"と読むのだが、誰かが"らいと"と呼んで以来、あだ名が"ライト"で定着してしまったのだ。
しかも当時はちょうどデスノートが流行っていた時期で、頼人を"よりひと"と呼ぶのは俺くらいになってしまったほどだ。そしてそれは、高校に上がってからも変わりなかった。本人は嫌がっていないのが、幸いだ。
男子にしてはやたら長い、ストレートな黒髪と、どんな相手とでもくだけた話をできる軽妙な話術、それに均整な顔立ちと、声優としてでも食っていけそうな渋い、二枚目な(?)声が特徴的だ。
…こいつ本当に俺とタメなのか? と時々思うことがあるのは、中学時代から変わらない。

欠席した俺を案じてくれたのかどうかは知らんが、まあいい。
466少年 松田 悠里の場合:2009/10/16(金) 13:21:08 ID:/O440q4V
―――――――――――


「よお悠里、トイレ行こうぜ」頼人は唐突にそう言った。俺は別に催している訳ではないのだが。すると頼人は俺の耳に顔を近づけ、ささやくように言った。

「男同士の話だ。奈緒輝クンには聞かれない方がいいんじゃないのかな?」

言い終わると頼人は顔を放し、にっこりと微笑んだ。こいつがこういう笑い方をするときは、大抵腹に一物抱えている証拠だ。
ところで、毎回思うんだがいい加減その、耳元でささやくのやめてほしいんだが。これ以上腐女子のファンが増えても困る。
噂では俺と頼人のカップリングという末恐ろしい内容の同人小説を製作しているとかいないとか。

「んで、話ってなんだ」男子トイレのなか、他に誰もいないことを確認して俺は頼人に訊いた。
「悠里、お前作倉に告白されただろう」
「―――っ!?」
「やっぱり、な。お前は昔から分かりやすいやつだからな」

―――! 本当に、こいつは昔から鋭いやつだ。そもそも頼人は、奈緒輝の気持ちを知っていたのか。

「そうするとお前がどういう答えを返したかも察しがつく。…話してないんだろう、あの子のこと」
「…ああ」
「お前はどうするんだ? いや、どうしたい?」頼人は核心を突いた質問をしてきた。
「俺は…俺は奈緒輝を失いたくない。それだけだよ」

そうかい。頼人はそう言って、蛇口を捻った。ご丁寧に石鹸で手を洗いながら、さらに言う。

「だったら、同じことを繰り返すなよ。…忠告はしたぞ」

頼人は一足先にトイレから出ていった。外から「キャー♪」という黄色い声が聞こえる。…やれやれ、あいつは相変わらずモテモテだな。

―――――――――――

放課後、俺たちはいつものように二人乗りで帰路を流していた。いや、いつものように、というのは正しくない。なにしろ、会話がないのだ。
互いに何も喋らないまま20分が経った。俺の自宅が見えてくる。奈緒輝の家はここから少し先だ。だが、奈緒輝が唐突に言った。

「…ねえ、今日悠里の家に遊びに行っていい? 久しぶりにスマブラやろうよ?」

俺は一瞬だが、戸惑った。おとといの出来事のせいた。だがこう言ってくるということは、友達としての提案なのだろう、と俺は思った。否、思うようにした。

「…ああ。ぼっこぼこにしてやんよ」
467名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 13:22:36 ID:/O440q4V
前編終了です。
468少女 作倉 奈緒輝の場合:2009/10/16(金) 13:24:18 ID:/O440q4V
「私は悠里のことが好き。ひとりの男性として愛しています。」

私は勇気を振り絞って、自らの想いを悠里に伝えた。
少なからず希望はあった。心のどこかに、悠里は受け入れてくれるだろうという気持ちがあった。ずっと一緒にいて、悠里の事を理解できているつもりだった。

けれど、それは思い違いだったと知ることになる。

「…ごめんな。俺は奈緒輝の気持ちには応えられないよ。」

どうして。私はたまらずそう尋ねた。悠里はいった。私のことは大切だと。最高の友達だと。そして…私を失いたくない、と。

そんなのって、ずるいよ。そんな風に言われたら、泣くわけにいかないじゃん。
失いたくない? 私は、悠里がそう望むならずっとそばにいてあげるのに。
誰も愛せない、ってどういうこと? 一体君に何があったの? …私じゃ、だめなの?


私は今にも溢れ出しそうな涙を堪え、笑顔でいるよう努めた。

「ずっと私と友達でいてね? 約束だよ?」

そう言って指切りげんまんをするのが精一杯だった。
自転車で走り去っていく悠里を見送る。彼の姿が見えなくなって、ようやく私は我慢することをやめた。
まるで子供のように、その場にへたり込んで泣いた。胸が押し潰されそうなほど苦しい。私たちは…"友達"でいられるのだろうか。もしくは…そう考えると、今度は恐怖が思考を支配した。
嫌、私だって失いたくない。

「苦しいよ…悠里」
469少女 作倉 奈緒輝の場合:2009/10/16(金) 13:26:16 ID:/O440q4V
次の日の朝、教室に悠里の姿はなかった。瞬時に、悠里のことが心配になった。
昨日無事に帰れたのだろうか? そういえば昨日の夜はメールをしていない。まさか、事故にでも遭ったのだろうか―――

「心配しなさんな、奈緒輝クン?」

そのひとことで、私は我に還った。声の主は、悠里の友達の、ライトくんだった。
本当は彼の名は"よりひと"と言うのだけれど、私を含め大多数の生徒には"ライト"で定着している。

「…ふむ。」ライトくんは私の顔を見ると首をかしげて言った。

「冷たい水で顔を洗ってくるといい。といってもこの時期、どこの水道水も生ぬるいがね。レディの眠りを醒ますには、ちょうどいいはずだ」

彼の言い回しは、少々キザったらしいところがある。けれど不思議なことに、ライトくんにはそれがしっくりくるのだ。私たちなんかより、数段大人びて見える。
理性と知性を兼ね備えた、聡明なひとだ。私はライトくんの言う通り、水道で顔を洗いに行った。

ばしゃばしゃと顔をすすぎ、ハンカチで拭く。目の前の鏡に映る自分の顔を見てみた。…目が赤い。
ライトくんは、察したのだろう。私が昨日一晩中泣き明かしていたことに。だから遠回しにああ言ったのだ。

「目は醒めたかい? お姫サマ」女子トイレから出るや否や、またしてもライトくんに出くわした。

「目の疲れ、充血には目薬。これ鉄則也り」ライトくんは私に、ポケットから出した点眼薬を差し出した。よく見ると、使用した形跡がない、新品だ。わざわざ用意してくれたのだろうか?

「…ありがと。」私は俯きつつ、彼に礼を言った。

「なんの、どこかの阿呆が寝坊してその勢いでサボったのに比べれば、君は十分に素直さ」
「…寝坊? もしかして、悠里のこと?」

ライトくんはしかし、ふっと微笑むとこう言った。

「―――大丈夫、君は彼に必要とされているよ」

私は今度こそ驚きを隠せなかった。まるで私の心を見抜いたかのような言葉に。ずるいことに、ライトくんはそれだけ言うと立ち去ってしまった。
470少女 作倉 奈緒輝の場合:2009/10/16(金) 13:28:47 ID:/O440q4V
日中を通して、私は悠里に連絡をしようかしまいか迷った。けれども、結局勇気が出なかった。その日は家に帰り夕飯を済ますと、携帯を握りしめたまま、眠りに就いた。

翌日、ごく普通に悠里が来た。不思議なことに、私は悠里を目の当たりにしていても落ち着いていられた。

「おはよう、悠里。具合はどう? ライトくんから聞いたわよ。すごい熱出したって」その言葉は、自然と口からこぼれた。いつもと変わらない、友人を心配する私。

悠里は「心配かけてすまない。もう大丈夫だ」と言った。
でも駄目だ。悠里の声を聞いたとたん、急に胸が苦しくなった。ライトくんが珍しく神妙な顔をして私たちを見ている。駄目、約束したじゃない私。ずっと友達でいようって。

授業の内容もまるで頭に入らず、ただ機械的に板書を写し取るだけの6時間を終え、私は"いつものように"悠里と二人乗りをして帰路についた。
悠里がペダルを漕いでいる間、私たちは会話ひとつしなかった。次第に悠里の家が近づいてくる。そうすると、この背中の温もりもなくなってしまう。
そう思うと胸が締め付けられるかのように苦しくなる。いやだ。もっと悠里を感じていたい。友達でもいい。もっと私を求めてほしい。

「…ねえ」その言葉は、ほとんど無意識のうちにつむがれた。「今日悠里の家に遊びに行っていい? 久しぶりにスマブラやろうよ?」

私は卑怯だ。"友達の誘い"を、彼が断るはずがない。私は、悠里の弱味につけこんだのだ。彼は二つ返事で了承し、私を家に招き入れた。

部屋に入り、鞄を放るとWiiの電源をつけて二人分のコントローラーを装着する悠里。ほどなくして、対戦が始まった。
私は最初、アイクを選んだ。悠里はスネークだ。結果、飛び道具とCQCを巧みに使いこなす悠里のスネークに敗北を喫した。その後もどんどんキャラを変えては対戦を繰り返した。
最後に私がマリオを使って、ようやく悠里に勝ったところで、一区切りとした。

「よかったら飯食ってくか?」悠里はWiiを片付けながら言った。
「…いいの?」
「ああ。俺だって、たまには誰かと一緒に晩飯も食いたくなるんだ。何しろ、寂しい独り暮らしなんでね」
「じゃあ…もらうね」

私は母さんに、「友達の家で夕飯をご馳走になる」とメールをした。返事は早かった。内容は、「悠里くんの家でしょ。泊まってくの?」と。
うちの両親は悠里を大層気に入っている。なにしろ、私に初めてできたボーイフレンドなのだから。けれど、以前何度か悠里の家に来たが、泊まったことはない。
なのに母さんは必ずこう聞いてくる。いつもなら私は「泊まらないよ」と送り返すのだが、今の私は揺らいでいた。
頭の中を様々な想像が交錯する。駄目だ。そんなことしたら友達ですらいられない。
けれど、私の指は勝手に動いていた。

―――泊まってくよ。

メールは、送信された。
471少女 作倉 奈緒輝の場合:2009/10/16(金) 13:30:05 ID:/O440q4V
悠里手作りのカレーライスは絶品だった。彼なりのこだわりがあるらしく、なんと悠里はルゥではなくカレー粉と香辛料をを使って作るのだ。
悠里のカレーは、もはやこれだけで料理店を拓けるのではないか、とすら思った。

「親父たちが海外に行って独り暮らしを初めてから研究したんだ。俺的に、今日の割合は最高傑作だ」

なるほど、彼はやりこむと止まらない性格だ。彼の凄まじいゲームの上達ぶりと、このカレーを見れば、途方もない努力の片鱗が見えてくる。

「おいしかったよ悠里。ごちそうさま♪」
「お粗末様、と」

食後は悠里の自室でまったりと、二人でテレビを見ていた。今期の月9は、バスケットボールという今までにない新ジャンル…と思いきや実は恋愛ドラマだった。
見始めて数分で後悔した。昨日の今日で、しかも私たちは今ふたりきり。放送しているのは恋愛ドラマ。非常に重苦しい静寂が、空間を支配している。
また胸が苦しくなった。私は今、悠里を求めている。でもいけない。私たちは、友達なんだ。

「…なんかつまんないし、回そっか?」悠里のその一言が、沈黙を破った。チャンネルがないので、悠里はテレビ本体でチャンネルを変えようと手を伸ばした。

もう、限界だった。
私は悠里がチャンネルを回すより早く手を伸ばし、主電源を切った。暗転するブラウン管。その黒は、まるで今の私の心だ。今から私は、最低なことをする。

「悠里、お願いがあるの」言うと同時に、私は悠里を押し倒した。悠里は、面食らった様子で私を見ている。

「これは友達としてのお願いだよ。…抱いて。」

悠里は私の言葉を聞いて、どうしてこんな真似を、と言った。愚問だよ。どうしてって、決まってるじゃん。悠里が好きだから。
とは言わなかった。

「私は悠里で性欲を発散するの。悠里も、私で性欲を発散すればいい。悠里だって、私で処理したことあるんでしょ? 私も、以前悠里で処理したことある。こうすれば一石二鳥じゃない?」私は自嘲ぎみに微笑んで、そう言った。
悠里は何も言わなかった。何も言わず、体を起こすと私を抱きしめてくれた。そのまま、ベッドになだれ込む。

ごめんな。彼はそう言った、気がした。
472少女 作倉 奈緒輝の場合:2009/10/16(金) 13:32:39 ID:/O440q4V
悠里は私を、優しく抱いてくれた。初めてで、快楽よりも痛みを感じている私をいたわるようにゆっくりと腰を動かしている。
だんだん慣れてくるにつれて、少しずつ気持ちよくなってきた私は、悠里の耳元で囁いた。

「もう大丈夫だから…悠里の好きなように動いていいよ」

注挿のスピードが上がった。悠里はさっきまでとは打って変わって、激しい。ぐちゃ、ぐちゃと卑猥な音がよく聞こえる。
私は私で、快楽を振り切るように悠里の名前をしきりに叫ぶ。

「悠里…っ、悠里! すk…っ!?」

突然、キスで口を塞がれた。やっぱり悠里はずるい。こんな時ですら、言わせてくれないなんて。
絶頂が近付いてくる。腰の動きも、一段と激しくなった。嬉しい。悠里、私で気持ちよくなってくれてるんだ。

「んん…! ―――! ――――!!」

悠里は、私の中で果てた。避妊具なんてつけていない。でも平気、今日は安全日だから。私も、悠里と同時に絶頂に達した。
それからようやく、悠里は私の唇を塞ぐのをやめた。
「悠里…ありがとう」ぜえぜえ、と肩で息しながら、私はそう言った。


―――――――――――

その日以来、私たちは頻繁に交わりあった。お願いするのは、決まって私の方から。性欲処理、と言い訳をして悠里の温もりを求め続けた。
さすがに二回目以降は避妊具を装着するようになったが、悠里は私の"お願い"を一度も断らなかった。
悠里と繋がっている間は、なにもかも忘れられた。ただ目の前の彼を感じることで、一種の安心感を得ていた。けれど、コトが済むと凄まじい喪失感と虚しさに襲われる。
473少女 作倉 奈緒輝の場合:2009/10/16(金) 13:34:28 ID:/O440q4V
気が付けば夏休みも終わり、9月になっていた、ある休日のことだ。私は、ライトくんに呼び出されていた。
プライベートで彼に会うのは初めてだった。彼の服装は、Tシャツにパーカー、ジーパンと、ラフなものだった。なのに、幼さは全く感じられない。

「ライトくんって、本当に高校生なの?」
「さて、ね。たまに自分でも分からなくなるんだ」ライトくんは苦笑しながら言った。

私たちは喫茶店に入った。ライトくん御用達の店らしい。中には人が誰もおらず、閑散としていた。

「内緒話をするなら、ここほどうってつけの場所はないさ。それに、ここの紅茶は絶品なんだ」ライトくんはそう言いながら、紅茶をホットで二つ注文した。

紅茶が用意され、ひと口飲んでから私は切り出した。

「話って、なに?」
「君は今…幸せか?」

ライトくんの質問は、予想外だった。この人は、いったいどれだけ見抜いているのだろう?

「…幸せよ。悠里と友達でいられたし。それに、望めば抱いてくれるの」
「無理をするもんじゃない。君は今、これっぽっちも幸せなんかじゃないだろう?」
「…どうしてそう思うの?」

すると彼は一口紅茶を飲み、一呼吸おいてから言った。

「君は悠里の体が欲しい訳じゃない。心が、欲しいんだろう?」

図星だった。彼の言葉は十二分に的を射ている。

「…そうよ。私は悠里に愛されたいの! でも悠里は決して私を愛してくれない。いくらキスしても、肌を重ねても…そこには心がない。
 でも、そうしないと不安で…悠里がいなくなってしまいそうで怖いの。私は卑怯なの! そうでもしないと、悠里を繋ぎ止めておけないのよ!」
私の中にあった、醜い感情を全てさらけ出してしまった。それでもライトくんは目を背けず、微笑んで言った。

「言ったろう? 君は彼に必要とされている、と。大丈夫、今の彼は君の気持ちに応えてくれるよ」
474少女 作倉 奈緒輝の場合:2009/10/16(金) 13:35:27 ID:/O440q4V
ライトくんと別れたあと、私は悠里の家に向かった。9月ともなると、少し肌寒いものだ。特に、太陽が見えないこんな日は。今は午後5時、わずかに冷たい風が吹き付ける。
私は、深呼吸をしてからベルを押す。けれど、いくら呼び鈴を鳴らしても反応がない。留守…?
どこにいるの? 私はふらふらと、あちこちを歩き回った。そして、それを見てしまった。

悠里が、知らない女のひとと歩いている。楽しそうだ。
嫌。私の悠里を盗らないで。誰なの!? 悠里、どうして楽しそうに笑うの!? 私はそんな笑顔、見たことない!気が付けば私は、手提げ鞄からナイフを取り出していた。

今日私は、ひとつの覚悟をして、来ていた。悠里を、永遠に私だけのものにする。ライトくんは言った。悠里は私の気持ちに応えてくれると。なら…

一緒に死んでくれるよね、悠里?

私は悠里のそばに近づいた。ナイフはまだ、ポケットに忍ばせてある。

「ねえ悠里…その女の人、だれ?」

悠里が口を開く。けれど、なにも言わずどもってしまう。

「誰でもいいや。だってこうすればいいんだから」私は、ナイフを悠里のお腹に突き立てた。肉をスッと通り抜ける感触がする。力は、そんなに要らなかった。

「私もすぐそばに行くから。ずっと一緒だよ、悠里。…愛してるわ」

そして、ナイフを引き抜く。血が、間欠泉のように吹き出てくる。悠里はしかし、苦痛に顔をしかめることもなく、まっすぐ私を見つめて言った。

「…俺も、奈緒輝を愛してるよ」

ぼろぼろになった私の心を打ち砕くには、その言葉は十分すぎた。
どさり、と悠里はその場に倒れる。悲鳴が聞こえた。それは、近くにいるあの女のものではない。

「いや…悠里…悠里ぃ――――――!!」

悲鳴をあげているのは、私だった。
475名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 13:36:49 ID:/O440q4V
中編終了です。後編は、明日にでも投稿したいと思います。
476名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 15:40:15 ID:OwczltiY
GJ!
しかし何故ナイフを持ち歩いてるw
477名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 17:12:14 ID:woYcy/LB
なげぇ
GJ!
478名無しさん@ピンキー:2009/10/17(土) 01:54:24 ID:BTois3ii
>>449
GJ! 個人的には彩奈が一番好きなキャラなので再登場してくれて嬉しいです。

>>475
GJ! 後編も楽しみにしています。
479名無しさん@ピンキー:2009/10/17(土) 22:42:06 ID:Rx33nX47
参考画像はまだ用意できてないが、目のハイライトを消せばヤンデレっぽくなるよね
480名無しさん@ピンキー:2009/10/17(土) 22:47:37 ID:bHEpRTlu
いわゆるレイプ目ってやつだな
481名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 00:02:19 ID:Rx33nX47
ウム!
でも、三白眼のヤンデレは少ないよな
482名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 00:11:51 ID:EJ8hfqZd
ヤンデレな女の子とエッチする場合は何に気をつけるべきだろうか?
483名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 00:13:27 ID:YRK0mS8Z
>>482
ゴムは絶対自分で準備しろかな?
484名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 00:15:11 ID:VRVI6FQP
相手から貰ったゴムは絶対使わない
485名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 00:19:32 ID:c4XiwN+c
「○○ちゃんのほうが良かったなぁ……」と決して言わない
486名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 00:33:57 ID:PMi9aakb
そりゃ相手がヤンデレじゃなくても言ったらあかんやろ
487名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 00:49:12 ID:YRK0mS8Z
いや、ヤンを期待してる俺たちならあえて言うべきではなかろうか
488名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 00:58:17 ID:Yehv7Vnj
自殺呪文だな
489名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 01:02:23 ID:vjMRelIR
「男くん好き…ハァハァ」
「ああ、俺もだ。


お前は最高のセフレだったよ」
490名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 01:08:16 ID:ePs4gbnx
事後ピルをオムライスに混ぜて食わせればいいだろう
491名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 01:10:27 ID:xv0DwPMf
>>489
「セフレ……?」(どうしよう。どういう意味の言葉なのか分からない(汗))
492名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 01:16:03 ID:ePs4gbnx
セフレ扱いだろうが、最愛の恋人扱いだろうが病む子は病む。
主人公の扱い以外にもっと大きな要因があるんじゃないだろうか?

たとえば育った環境とか。
493名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 03:49:14 ID:rTAsz1oc
>>475
一気に読まされた
テンポが良くて、しかし内容濃いので好きです

ライトかっけー
494名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 14:49:07 ID:a0IHCFgS
やんでロイドりたぁんずの続編がみたいのぅ…
495名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 15:21:14 ID:lX7bhP1M
>>475
GJ! 後編もwktkして待ってます。
496名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 18:21:54 ID:VptD154Y
>>482 仕事の話しかしない。
仕事の事しか考えない。
趣味の…  (同上) 
ベットの中で
ヤン「●さん…好きです!愛してます!」
●男(ああ…早くまとめないと課長がウルせーよな。今日中にまとめるか。)
ヤン「あの…どうしたんですか?怖い顔して。どこ行くんですか?」
●男「今月分の記録まとめてくる。あさってが期限だからな。あー無駄に疲れたな。」
  
497名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 20:19:34 ID:tFwZV52L
さきねぇとひめねぇはまだか
498名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 21:44:13 ID:ji0CrtpS
ジャンプスクエアの貧乏神が!って漫画に出てくるお嬢様がヤンデレっぽい
499名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 22:10:44 ID:nA/Z06uX
今日はヤンデレ家族きてくれるかなぁ
500名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 22:20:33 ID:dyl9EpVg
新参なんだがウィキにある上書き書いてる人ってここに来てますか?
501名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 22:41:34 ID:lX7bhP1M
>>500
上書きは一年以上前の作品で、今でも未完成のままだよ。
作者もそれ以来見てないな。あと一話くらいで終わるらしいが。
502名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 23:28:15 ID:w4OWPBJb
・ヤンデレ家族と傍観者の兄
・変歴伝
・ぽけもん 黒
がこのサイトのトップ3くらいだろうか。
503名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 23:29:36 ID:neSkw74S
>>502
荒れるからやめろ
504名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 23:39:07 ID:zQoh4h5s
トップとかランクとか言い始めると必ず過疎る
そいつらだけ投下すりゃここのスレ住民は満足か…なら他に行こうとなるからね
信者が付くのは勝手だけど、他の人が投下しにくくなる空気を作るのは止めようよ
505名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 00:10:19 ID:fFQ3J9/l
>>500
作者のサイトならどっかにあったよ
506名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 01:34:08 ID:bZLKpYB0
浮ついてるよ、スレが空気が浮ついてるよ
507名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 08:43:56 ID:m7cXyJIG
ヤンデレヒロインが告白して。主人公が
「俺は二次元にしか興味ないんだ」と断ったらヤンデレはどうするだろうか?

いくらなんでも二次元キャラは殺せないし、主人公のPCを二次キャラごと叩き潰すのだろうか?
それとも二次ならOKなの?
508名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 08:44:26 ID:m7cXyJIG
しまった、あげちゃったよ。ごめん
509名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 09:41:04 ID:VHyvbU0x
監禁して三次元(というか自分)の事が好きになるよう洗脳
510名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 09:52:12 ID:geiqRTpG
自分を潰して2次元にするってネタをどっかでみたな
511名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 10:09:15 ID:xY3fKmcm
そこでヤンデレ子特製のエロゲーですよ
勿論主人公とヒロインは
512名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 10:58:56 ID:B26DZebH
女「私を愛してくれないなら……死ねい男君っ!!」
男「ゲホッ、ケホッ!」

女「はっ!? まさか男君は不治の病に!?」
男(コクリ……)首を縦に振る。
513名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 14:21:46 ID:VHyvbU0x
1.ヤンデレの手によって治療法が確立。この世から不治の病が一つ消えた
2.だったらせめて残された時間を一緒に過ごそう
3.どうせ助からないのならと、その場で心中

ギャグなら1。シリアスなら2か3だろうか
514名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 15:25:26 ID:GU7iSnH/
ヤンデレならその執念を生かして1.でいけそうなんだがなw
515名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 16:09:14 ID:VHyvbU0x
まあ俺も個人的には1の展開が一番好きなんだがw
516名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 16:24:28 ID:08y7G7Lg
4 コールドスリープを開発し未来へと望みを託す
5 男の最期の頼みにより女は子供を育てて行くことを決める
6 男が死ぬのだったら逆に生き返らせれば良いんだと
  死者蘇生を会得
517名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 17:12:32 ID:iVdDs6LK
7 脳だけ摘出して体はサイボーグ化or新しい体を作る
518名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 18:12:55 ID:e6OAOejl
8:ショ○カーに改造を依頼
519名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 19:27:44 ID:D/GhQAHK
9:世界の破壊者となってパラレルワールドの男君を探す旅に出る
520名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 20:17:45 ID:axykZtz9
この流れ面白いと思ってるの?
521名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 20:21:47 ID:2X+Ijyj2
つまらんな
522名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 20:37:42 ID:j4kyobty
そういう時には新しいネタを投下・書き込んで流れを変えるんだ!

ヤンデレの兆候が見られる女の子と結婚するなら、注意すべき事は何だろう?
ホウレンソウ(報告・連絡・相談)の原則は必須だと思う。  
523名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 20:43:24 ID:Qxj/GRR6
はい、ここまで
524名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 22:04:45 ID:kcEd87gJ
 | まさかのときのヤンデレ!
 └──v────v─────v────

    ∧傲∧ _丿病|_    o素oヽ
    (゚ー゚*)   (‘∀‘*)   (゚ー゚∪
    ノヽ~ノヽ  ノヽ~ノヽ   ノヽ~ノ゛ヽ,
   ん †  ) ん †  ) ん †  )  
    丿 八 ゝ 丿 八 ゝ  丿 八 ゝ  
    U〜U    U〜U    U〜U 
525名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 23:32:45 ID:H6/dTRkZ
>>522
いや、下手に変なことを相談すると監禁されかねないのが怖いところ。
526名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 12:13:28 ID:m7j+HDA6
>>525

まぁ、相談しなくても何だかんだ監禁されるけどねw
527名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 13:35:29 ID:td4EgAFj
何という積みゲー
もとい罪ゲー
528名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 13:48:02 ID:pYyizHe6
ええいだったらその娘をとことん愛してその娘の中のヤンデレを不発に終わらせてくれるわー!
529名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 16:48:53 ID:A1aYS0En
>>528
欲しい時にはモテない癖に、ヤバいときだけモテる罠
「●くん、実はあなたの事が…」とか言い出したり
「あなたが好きに…」とか急にほざき出したりして…
「何か隠してない?何かありそうなんだけど?」と感づかれる。
530名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 16:51:36 ID:DyP2ssQX
不発になるのは男君の精子だろ
531名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 18:40:26 ID:rj/VM5wV
不良とヤンデレの組み合わせってどう思う?
532名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 19:00:11 ID:c2zNtoy2
人に聞くな
533名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 20:09:53 ID:td4EgAFj
逃げまどう不良とヤンデレ娘か
いいな
534名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 20:12:43 ID:A1aYS0En
>>531 ノリでやってみた。

不良「あぁん?俺に何の用だよ委員長様?」
委員長「あんた!タバコ始めたの!体にも悪いし校則違反!」
不良「守ったらどうなるんだよ?ヤラせてくれるのか?」

《二学期》
不良「オマエしつけー女だなぁ!俺がバイク乗ろうがタバコ吸おうが俺が補導されるだけだろうが!」
委員長「アンタの為に言ってるのよ!昔の方が格好よかった!」
不良「ウッセーよ!ドイツもコイツもよ!オマエは俺の嫁かゴルア!」
委員長(嫁…私の事?)

《三学期》
不良「俺が女遊びしようが賭事しようが関係ないだろ!犯すぞテメエ!」
委員長「ふーん、そんな事してたんだ。お仕置きがいるかもしれないね。」
不良「お仕置き?先公のマネごとですかぁ?お尻ペンペンが良いなあーぎゃはは。」
委員長「自宅謹慎だったよね?私の家で謹慎してみない?とっても気持ち良いかもしれないよ?」
不良「なんか目がヤバい?ちょっ…死ぬって!バリバリって言って…アヅッ!!」
委員長「目が覚めたらじっくり雌犬の臭い取ってあげなくちゃ。真人間に私が戻してあげるからね…」
535名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 20:22:39 ID:2Pg1QALV
どんな不良も「懲役30日」みたいに弱り果てるだろうな
懲役というか終身刑だけど
536名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 22:23:24 ID:ZshZawjv
>>534
何かすごく良いんだけど
537名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 00:35:38 ID:Rwy+XEow
うん、委員長が幼馴染みで病み方にも年期が入ってそうだ
538名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 01:31:40 ID:ENC1gnNo
私にはジュン君という幼馴染がいる。
母親同士が友達で、人見知りだった私は幼稚園から小学校にかけてはほどんど
ジュン君としか遊ばなかったくらい仲が良かった。
ジュン君は外見も成績も運動神経も普通で、本当に絵に描いたような普通の子だった。
でもすごく優しい子で、いつもニコニコしていて遊びに来る時は私の好きなうすあじの
カールを持ってきてくれたり、サイフを落として半泣きになってた私の為に、日が暮れる
まで一緒に探してくれた思い出がある(結局出てこなかったが)。
539名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 01:32:01 ID:ENC1gnNo
私とジュン君は地元の公立の中学高校に進学して、クラスは一緒にならなかったけど
同じ学校だった。
異性の幼馴染というと、思春期になると疎遠になってしまうものらしいけれど、私と
ジュン君は一緒に遊ぶ回数こそ減ってしまったけれど、ずっと仲が良かった。
変わったのは高校に入った頃から。
高校デビューという訳じゃないけど、高校で仲良くなった友達に勧められるまま
ヘアスタイルやメークを教わった私は、そこそこ男の子にかまわれるようになった
(小学校中学校時はほとんど空気だった)。
モテた事のない私は、この頃本当に有頂天だった。男女グループで遊びにいったりして
楽しくてしょうがなかった。自然とジュン君ともあまり話さなくなった。
540名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 01:32:27 ID:ENC1gnNo
顔を合わせるとジュン君は、明るく話しかけてきてたんだけど、その頃一緒に
遊んでた男の子達と比べて、少し垢抜けない感じのジュン君と話しているところを
見られるのが何だか嫌で、そっけない返事ばかりしてた。
決定的だったのは、女子で一番人気だった陸上部のA君と一緒の時に話しかけられた時に
「何?友達?」と聞かれて、私はつい「しらない」と答えてしまった事だ。
過去に戻れるのなら自分をひっぱたいてやりたいのだけど、あの頃の私はA君に
別の男の子と仲が良いと思われたくなくて必死だった。
その時のジュン君は「あ、ごめんなさい」と、ちょっと寂しそうに笑ってゆっくり
去っていった。その姿を見ても、私は特になにも思わずA君の事だけが気がかりだった。

それから程なくしてA君と付き合い始めた事もあって、ジュン君とはますます疎遠に
なった。それだけではなく、ジュン君が幼馴染だと知ったA君は、ジュン君に小さな
嫌がらせをしていたようだった。
私がそれを知ったのは、嫌がらせを始めてしばらく経ってからだったのだが、それを
知っても、幼馴染に嫌がらせ→愛されてる私! というラリった思考しか出来なく
なっていた。イジメというほど大げさなものではなかったという事もあるけれど。
これは本当に言い訳にしかならないけど。
541名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 01:32:55 ID:ENC1gnNo
そうして高校2年になって、私はA君との付き合いにすっかりイヤになっていた。
顔は申し分ないのだけど、中身は本当に子供だった(これは私も同類だ)。
自分の思うとおりにならないとすぐに不機嫌になって、私に当り散らした。
それでも女子一番人気のA君のカノジョというステータスを捨てたくなくて、
ずるずると付き合ってた。
そんな時、ジュン君とB子さんが付き合い始めたというとんでもないニュースが
飛び込んできた(しかも告ったのはB子さんからだった)。
B子さんは同じ学年ですごく綺麗な子で、成績もトップクラスで男子(全学年の)
一番人気の子なんだけど、なぜか彼氏はいなかった。
相手がB子さんという事もあったけど、ジュン君にカノジョが出来たという事実が
なぜか私にはすごいショックだった。
本当に自分勝手な考えなんだけど、私がどんなに冷たくしても彼氏をつくっても
ジュン君はいつも私を待っててくれるような感じがしていた。
542名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 01:33:22 ID:ENC1gnNo
体育祭の準備委員になった私は、同じく準備委員になったB子さんと話す機会があった。
近くで見るB子さんは本当に綺麗で、私は声に動揺が出ないように注意しながら、
出来るだけ軽い口調でジュン君の話題を振ってみた。
ジュン君とは、ジュン君が参加している地域ボランティアで高校に入る前から
知り合いで、そこでジュン君を好きになって思い切って告白したが、丁寧にお断りを
されたそうだ。
それでもどうしても諦められなくて自分を一生懸命磨いて、この学校に入ってから
もう1度告白し、それでもお断りされて、今回が3度目の告白だったそうだ。
私はB子さんがそこまでしたという事が信じられなくて、どうしてそこまで!?と
聞き返したら、B子さんの方が不思議そうに
「彼ほど優しい人は見た事ないし、多分これからも会う事ないよ。私さんは
幼馴染なのに気付かなかったの?」と言われた。
B子さんは私の事を知っていた。なぜかと言うと、ジュン君が断る時に言ったそうだ。
「小さい時から好きな子がいるんだ。僕はずっと初恋が続いているんだよ」
B子さんは、私さんがよそ見をしてくれてよかった、とちょっと笑った。
543名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 01:33:54 ID:ENC1gnNo
私は家に帰ってから、ずっとベットに寝転んでジュン君の事を考えた。
ジュン君はいつも私の手を引いて歩いてくれた。小学校の頃、クラスの男子に
からかわれても、人見知りの私を学校まで連れて行ってくれた。
手を離してしまったのは、私だった。
意味の解らない涙が溢れて止まらなかった。
544名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 01:54:40 ID:HgPk0v0/
別にヤンデレじゃないし、そもそもコピペだし
何をしたいんだよ
545名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 02:15:34 ID:0kBkhOp8
そこから病むんだよな!さあ続きを書くんだ!
546名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 02:29:51 ID:Zeeow8Sz
たしかに続きが必要だな!
547名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 07:34:14 ID:Jqxy3VKy
むしろBさんをヤンデレ化で…
548名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 08:32:00 ID:7Y7jYxds
続きがかなり必要だな
そこから幼なじみ病みの展開が俺の好物に変化する
それか
B子さんと別れさせるために嫌がらせ→B子さん病み→かな〜しみの
とても…スクイズです…
549名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 09:10:18 ID:DUlPXkCQ
確かに今の時点ではヤンデレじゃないし続きが無いと
550名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 09:37:17 ID:Z91ewS8Q
最近カノジョのセックスが激しいのはフラグか?
551名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 13:22:22 ID:saAsT0SD
マーキングしてるんだよ、多分…。
552名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 14:15:02 ID:dRECwhM8
忙しくて当初の予定より遅れてしまいましたが、投稿します。
553少年 松田 悠里の場合A:2009/10/21(水) 14:16:58 ID:dRECwhM8
俺はあの日、奈緒輝を抱いた。
だって、仕方ないだろう? 奈緒輝のやつ、あの時のあいつと同じ笑顔を見せるんだ。抱かないと、奈緒輝がいなくなってしまいそうで、怖かったんだ。
最低だよ、俺は。

奈緒輝はベッドの上で悶えながら何かを言いたそうにしてる。俺は聞きたくないから、キスをして無理矢理口を塞いだ。
初めて触れる奈緒輝の唇の感触は…残念ながら憶えていない。

それ以来、俺は何度も奈緒輝と交じりあった。夏休みのほとんどは、奈緒輝との逢瀬によって費やされた。けど、ベッドの中で俺を支配していたのは、凄まじい
までの空虚さだった。
夏休みなんざあっという間に終わり、気付けば9月。若干肌寒い気候になっていた。そんなある日のことだ。俺が美弥子と再会したのは。

昼飯を済まし、自室でただぼうっとしていると、呼び鈴が鳴った。誰だろう?
奈緒輝なら、必ず来る前にメールをしてくるはず。…新聞の勧誘だろうか。
俺は窓からこっそりと訪問者の姿を見てみた。

馬鹿な。あれはまさか…美弥子!?

すぐさま玄関にかけ、扉を開けた。そこにいたのは、間違いなく美弥子だった。

「久しぶりね、悠里」
「美弥子…治ったのか!? 面会謝絶になるくらい酷い傷だったって…」
「面会謝絶? ああ、どうりであんた一回も見舞いに来なかったわけだ。大方、頼人にでも吹き込まれたんでしょ? 私はもう、ぴんぴんしてるわよ」

予期せぬ来客に、俺は驚きを隠せなかった。すると美弥子は、ふっと微笑んでこう提案した。

「久しぶりに、公園にでも行かない?」

そうして言われるままに、俺は近所の公園に来ていた。俺たち二人は、ベンチに座って話をする。

「懐かしいわね。昔はよく、あんたとこうしてくっだらない話をよくしたもんだわ」
「ああ。…お前とこうしてまた話せるなんて、俺は思ってなかった」
554少年 松田 悠里の場合A:2009/10/21(水) 14:18:32 ID:dRECwhM8
美弥子は一呼吸おいて、言った。

「…ごめんね。」
「―――え?」
「この3年間、悠里がどうしてるか心配だった。…頼人から聞いたわよ。あんた、女の子に告白されたんですって? でも、あんたはあの時のことを思い出して、告白を断った、って」
「頼人と…会ったのか?」
「ああ、知らなかったのね。私たち、付き合ってるの。一緒に暮らしてるのよ」
「――――えぇ!?」
「…だから、もうあんたが気にする必要はないのよ。私には頼人がいるし。それに…喧嘩別れしたままじゃ、お互い気分悪いでしょ?」
「俺を…許してくれるのか?」
「許すとか許さないとか…そういうことじゃないわよ。悠里は、ずっと私を守ってくれた。あの時私があんな真似したのは、私自身があんたのこと信じることができなかっただけ。
…弱かっただけなのよ。だからもういいのよ…ありがとう、悠里」

その言葉を聞いて、ようやく俺の心は枷がはずされたような気がした。…不覚にも、泣いてしまった。

「こっちこそ…ありがとな、美弥子」

それから俺たちは、他愛ない話をしながら俺の家に向かっていた。美弥子の話によると、頼人は株で儲けるだけに留まらず、高校卒業と同時に企業を立ち上げる気でいるらしい。
やっぱあいつ、俺らより10歳は年上なんじゃねぇの? と、二人して腹の底から笑った。こんな風に笑ったのは、本当に久し振りだよ。笑うのって、気持ちいいんだな。

その時、俺を呼ぶ声がした。
555少年 松田 悠里の場合A:2009/10/21(水) 14:20:39 ID:dRECwhM8
「―――悠里。その女の人、誰なの?」

奈緒輝だ。ああ、紹介するよ、こいつは…と言いかけたが、ためらった。
どう説明すればいいんだ? 俺と美弥子の関係を。けど奈緒輝は答えを待たずに、続けた。

「誰でもいいや。だってこうすればいいんだから」

刹那、下腹部に鈍い痛みが走った。―――奈緒輝が、俺をナイフで刺したのだ。

「私もすぐそばに行くから。ずっと一緒だよ、悠里。…愛してるわ」

言うと奈緒輝はナイフを引き抜いた。ぐちゅり、と生々しい音がした。血がどんどん溢れてくる。あまりの痛さに、意識が飛んでしまいそうだ。
奈緒輝は、笑っていた。瞳は輝きを失い、今にも壊れそうな笑顔だ。
俺は…奈緒輝をここまで追い詰めてしまっていたのか。済まない頼人、お前は忠告してくれてたのに…また同じことをしちまったみたいだ。

だから…伝えなきゃ。

「…俺も、奈緒輝のこと愛してるよ」

俺の意識は、そこで途切れた。
556少年 松田 悠里の場合A:2009/10/21(水) 14:22:21 ID:dRECwhM8
悠里が奈緒輝に刺されてからおよそ半日が経過した。
ナイフによる傷は幸いなことに急所をそれており、病院に搬送されてからの緊急手術で一命をとりとめた。
奈緒輝は、悠里を刺したことで…正確にはそのあと悠里が放った一言により半ば錯乱し、何度も自害を試みては、頼人たちに止められた。
医師に鎮静剤を投与され現在は眠りに就いているが、今もうわごとで悠里の名を呟いている。

奈緒輝は眠りから醒めてから、ずっと悠里に寄り添っては狂ったようにごめんなさいと呟いていた。
さしもの頼人もその姿には驚愕…というよりは狼狽したが、奈緒輝の視界にはもはや悠里しか映っておらず、悠里の心音、吐息、声以外聞こえていないようだった。
悠里の意識が戻ったのは事件から二日後。真っ先にそれに気付いたのは、もちろん奈緒輝だ。すぐさまナースコールを押すと悠里に抱きつき、許しを乞うた。

「ごめんなさい悠里…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい――――」

悠里は突然の展開に混乱したが瞬時に記憶を呼び覚まし、状況を把握した。ここは病院。俺は奈緒輝に刺され、恐らく手術ののち入院―――

悠里はぽん、と奈緒輝の頭に手を置き、さらさらと撫でて言った。

「いいんだよ。元はといえば素直にならなかった俺が悪いんだし…それに、謝るのは俺の方だ。」
「………?」
「お前の気持ち、すごく嬉しかった。でも…怖かった。あいつみたく、お前のことも傷つけちまうんじゃないかって。結局、お前はこんなにも傷ついたってのに、馬鹿だよな、俺は。」

悠里は奈緒輝に、己の過ち全てを話した。
美弥子という、昔の友人を助けようとして、逆に自殺をさせるほど精神を追い詰めてしまったこと。命はとりとめたものの、ショックで人形のようになってしまったこと。
そして…その美弥子と先日、三年ぶりに再会したこと。奈緒輝が見た"知らない女"とは美弥子のことだったのだ。
悠里は美弥子との再会で心の枷を解くことができ、美弥子もまた悠里が息災でいて安堵を得ることができた。その矢先にこの有り様なのだが。

悠里は奈緒輝の両肩に手をおき、自分の方へ向き直らせ、言う。

「改めて…奈緒輝、お前が好きだ。今からでも間に合うかな?」

奈緒輝は目を丸くしたが、悠里の言葉の意味を咀嚼しきると涙腺が弛み、涙が溢れ出した。

「…うん。私、ずっと悠里のこと好きだよ。」

悠里は思った。これですべて解決したと。奈緒輝と幸せな日々を送ることができる、と。そしてそれは実際叶ったのだが。
永くは続かなかった。
557少年 松田 悠里の場合A:2009/10/21(水) 14:22:54 ID:dRECwhM8
二ヶ月後。とうに退院した俺は、平和な日常を過ごしていた。奈緒輝とは晴れて彼氏彼女の関係になり、それはもう周りが羨むくらいいちゃいちゃしてた…ってわけではなく。あくまで学校では慎み、いちゃいちゃは放課後から、というのが俺たちのルールだった。
そしてそんなある日のこと、とある事件が起きた。

「靴箱に手紙って…本当にあるんだな。」

そう。放課後、靴に履き替えようとしたら一通の小綺麗な手紙が入っていたのだ。大事なことだから二回言った。内容は、

【松田 悠里先輩へ

 どうしても伝えたいことがあります。放課後、屋上まで来ていただけませんか?

 藤代 樹】

樹…? なんて読むんだ?まさか"き"さんじゃあるまいし。

「あら、悠里それ…手紙ね。」

隣にいた奈緒輝が反応した。ちょうどいいので、奈緒輝に読み方を訊いてみることにした。奈緒輝は理系だが、妙に漢字に詳しいのだ。曰く、現文のテストは漢字さえできれば赤点はない、と。

「ああ。奈緒輝、これなんて読むんだ?」
「これはね…人名なら"いつき"って読むはずよ。」
「さんきゅ。」

なるほど。"いつき"さんねぇ…一体何の用なんだか。
「いいえ。ところで、何て書いてあったの。」

奈緒輝が尋ねてきた。心なしか、いつもより声のトーンが低い気がする。だが俺は特に意に介することもなく。

「さあ。ただ、放課後屋上に来てくれってだけ。」と答えた。

「……………そう。ねえ悠里?」
「どした奈緒輝。」
558少年 松田 悠里の場合A:2009/10/21(水) 14:24:01 ID:dRECwhM8
すると奈緒輝は人目も憚らず深く口づけをしてきた。舌を絡ませ、唾液を交換し、歯を舐める。なんか、いつもと違う。奈緒輝が"らしく"ない。

「………ぷは。」

満足したのか、奈緒輝が唇を離す。唾液が糸引いて、艶かしい。と、俺が奈緒輝に見とれていると。

「行ってきなよ。………信じてるから。」と言った。


奈緒輝は不安になったのだろうか。馬鹿な俺にも、あれがラブレターだってことくらい察しがつく。でも心配ないさ。俺には、奈緒輝がいればそれでいい。いつきさんには悪いが、丁重に断らせてもらう。そうして俺は屋上へのドアを開けた。
待っていたのは、きれいなロングの金髪をなびかせた少女だった。眼鏡と、真一文字に結ばれた唇は寡黙さを物語る。元気印の奈緒輝とは、対局の位置にいそう。それが俺の感想だ。

「君が、藤代 いつきさん?」
「……はい。」

いつきさんの声はか細く、しかし透き通るようだ。小さいが、何を言っているかは十分伝わる。

「あの…私、悠里先輩のこと…好き、です…」

やはり。予想はしていたが、愛の告白が待っていた。けれど、俺の答えは決まっている。

「ごめん。俺、彼女がいるんだ。だから――っ!?」俺の言葉は、強引に遮られた。遮ったのは、いつきさんの唇だ。ぎこちなく、ただ啄むようなキスで俺の口を塞ぐ。
559少年 松田 悠里の場合A:2009/10/21(水) 14:25:04 ID:dRECwhM8
「…っはぁ、なんのつもりだ!?」いつきさんをなんとか引き離し、問い詰める。対していつきさんは、信じられないことを口にした。

「先輩に彼女がいること知ってます。でも!一番じゃなくてもいいんです!私を…先輩のものにして下さい!」

ああ、またなのか。この娘も、こんなにも俺を思ってくれている。…けれど、当然イエスなどと言えるわけない。ましてこんな望み、聞けるわけない。

「ごめん。」そのひとことを聞くと、いつきさんの顔は青ざめた。けれど…

「…わかりました。」と言って引き下がった。

―――――――

いつきさんが立ち去るのとすれ違いに、今度は奈緒輝が屋上にやってきた。

「少し…寒いね。」

そう言って奈緒輝は俺に寄り添う。もうじき12月、コートが恋しくなる時期に制服だけでは確かに寒い。けれど、奈緒輝がいれば暖かい。それはお互い同じ思いだろう。

「…ねえ悠里。」奈緒輝は少し躊躇いがちに口を開く。
「さっきの娘…キス、してたよね。」

その言葉に俺は、背筋に冷たいものを覚える。

「…無理矢理、不意打ちだよ。安心しろ、俺には奈緒輝だけだから。」
「本当に? 私の傍からいなくならない?」
「…? ああ。」

奈緒輝はすがりつくように、或いは祈るようにキスを求めてくる。
思えば、このときの奈緒輝の様子はどこかおかしかった。けれど、この冬の寒空の中でも奈緒輝の体温が心地よかったので。
気付かないふりをしていた。そして俺は再び道を踏み外すことになる。
560少年 松田 悠里の場合A:2009/10/21(水) 14:25:35 ID:dRECwhM8
翌日、藤代 樹が事故に遭ったと頼人から聞かされた。

頼人は相も変わらず勘が鋭く、それだけでなく妙に情報通で、昨日の下駄箱の手紙の主まで把握していた。だから朝イチで藤代の事故のことを俺に伝えたのだ。
ちなみに情報を集めている理由は…俺たちに万一のことが起きないようにだそうだ。

「悠里、友人として忠告しておく。…奈緒輝くんに気を付けろ。」
「気を付けろ? 奈緒輝が俺に何かするのか?」
「…分からない。けれど、なるべく傍にいろ。」

頼人の言葉の真意は測りかねるが、とりあえず心にしまっておくことにした。

放課後。俺は藤代の見舞いに行くことにした。奈緒輝にも声をかけたが、

「あの娘は悠里のことが好きなんだから、私が行ったら気まずいでしょ?」と断られてしまった。
まあ、奈緒輝とは見舞いのあと病院近くのマックで待ち合わせる約束をしといた。

病室。ネームプレートには藤代の名前しか書かれていない。俺は三回ノック(たしか二回はトイレだったな)をして、中に入った。
藤代はベッドの上で上半身を起こした体勢で、俯いていた。包帯の巻かれた顔だけは、窓側を向いている。

「樹さん…具合、どうだ?」

俺は重苦しい空気の中、なんとか声を絞り出した。呼び方を、名字から名前に変えて。けれど、返事はない。

「怪我はどのくらいだったんだ?」
「いつ頃出てこれそうなんだ?」
「無事で良かった。」

いろいろ声をかけてみるが、やはり返事はない。…まるで、あの時の美弥子のようだ。
と、ふいに藤代が口を開いた。
561少年 松田 悠里の場合A:2009/10/21(水) 14:26:07 ID:dRECwhM8
「…顔に傷が残るって、言われたんです。」
「…え?」
「一生消えない、醜い傷が! 残るんです!」
「そんなもの、俺は―――」

気にしない、と言いかけて、やめた。
俺が気にしないからって、だからなんだ。俺はこの娘の気持ちに応えなかった。奈緒輝だけを選んだ。だから…

「もう…帰って下さい。」

俺は何も言えなかった。

病室を出て、スライド式ドアを閉める。中から、すすり泣くような声がする。俺は、逃げるようにその場を後にした。

奈緒輝を家まで送り届けた俺は、まっすぐ自宅へと戻った。何をするにも気分が優れず、とりあえずシャワーを浴びた後はベッドに身を投げ、ぼうっとしていた。
一時間くらい経ったころだろうか。玄関の呼び鈴が鳴ったのは。奈緒輝か? 俺は重い体を起こし、玄関に向かった。そこにいたのは…

「やっほー悠里、元気…そうじゃないわね。」

美弥子だった。
562少年 松田 悠里の場合A:2009/10/21(水) 14:26:38 ID:dRECwhM8
「どうしたんだ、いきなり?」
「や、ちょっとあんたの様子が気になってね。」
「そうか…まあ上がれよ。外寒いだろ? 今カップスープでも淹れてやっから。」
「さーんきゅ。じゃお邪魔しまーす。」

美弥子はリビングの椅子に腰掛け、足をぶらぶらさせている。俺は電子ポッドの湯で二人ぶんのカップスープを作り、片方を美弥子に差し出した。

「はぁ…やっぱ冬にはコレよねぇ。んで悠里。」
「うん?」
「頼人から聞いたわよ…昨日今日と、いろいろ大変ね。」
「ああ。結局俺は…三年前から何も変わっちゃいないのかな?」
「そうね。あんたは三年前から…優しいまんまよ。だから悠里。」

美弥子は空になったカップを置き、言った。

「あんまり自分を責めちゃだめよ。あんたは十分、頑張ってるんだから。」


それから他愛ない話をすること小一時間。さすがに空も暗くなってきたので美弥子を帰すことにした。家まで送ろうかと思ったが、

「ガキじゃないんだし、一人で帰れるわよ。あんたはおとなしく寝てなさい。」

と断られてしまった。けれど俺は後悔することになる。あの時、無理にでも送っていけば或いは、違う結末が待っていたかもしれない、と。
563少年 松田 悠里の場合A:2009/10/21(水) 14:27:48 ID:dRECwhM8
美弥子を見送った俺はカップを片付けるべく、再びリビングに戻る。と、机の上に小さな箱が置いてあるのを見つけた。美弥子の忘れ物か? 俺はそれを美弥子に届けてやることにした。

「う〜…さぶっ。さっさと届けて帰ろ。」

美弥子の家の方角へ自転車を走らせる。この時期、手袋なしでは正直手が冷たくて仕方ない。しばらく自転車を飛ばしてると、人影が見えてきた。美弥子か? いや、違う。あれは…奈緒輝?

「よう奈緒輝。こんなとこで何…を…?」俺は奈緒輝の姿を見て絶句してしまった。

赤い。奈緒輝の服は"何か"で赤く染まっていた。嫌な思考が脳内をめぐる。寒いのに、冷や汗をかいてしまう。

「あ、悠里だぁ…」

奈緒輝は俺の姿を見るや、ぱあっと微笑みかけてきた。まるで、四つ葉のクローバーを見つけた子供のように。
しかしその手に握られていたのは断じてクローバーなどではなく…一本のナイフだった。恐らく、あの時俺を刺したのと同じ物だ。
そして"赤"の正体は…

「おい奈緒輝…一体何を?」
「ねえ、私ね…いいこと思いついたの!」

奈緒輝は嬉々として語り続ける。

「悠里に他の女の子が近づくたびに、私ね…すごく不安になるの。ほら、悠里って優しいじゃない? だから泣き落としとかされちゃったら断れないと思うんだよね?
 だからさ、そうなる前にこうしちゃえば安心だよね? あはははっ!」

赤の正体は、横たわる美弥子の血だった。
564少年 松田 悠里の場合A:2009/10/21(水) 14:28:20 ID:dRECwhM8
「大丈夫だよ悠里。私がちゃんと悠里のこと守ってあげるから。悠里に近づく邪魔者はみーんなこうしてあげる。」
「奈緒輝っ…お前、そこまで…」

…もう奈緒輝は正気じゃなかった。でも俺は気付いている。なんの前触れもなかったわけじゃない。あの日、俺を刺したときに奈緒輝の心はひびが入ってしまっていたのだ。
そしてそれは治ることはなく、俺はそれに気付かないふりをしていたんだ。

「…ぅ……ゅぅ…り…」

か細い声が俺の名を呼んだ。…美弥子だ。まだ息があるということか。しかし…

「奈緒輝…来い!」

俺は血塗られた奈緒輝の手をとり、駆け出した。否、逃げ出したんだ。


ひとまず、人目につかないように俺の家まで連れてきて、すぐに奈緒輝をシャワーへ入れた。血に汚れた衣服は全て物置部屋に隠し、代わりに俺の服を脱衣所に置いておく。
俺は貯金をありったけ用意した。その額20万円、預金口座の金も合わせれば軽く500万は行くだろう。当たり前だ。両親がとっといてくれた、俺の大学資金なんだから。
それと、最低限必要な荷物を鞄に詰め込んだ。
ふと、ポケットの中の小箱に気付いた。美弥子が忘れていったものだ。
恐る恐る箱の中を開けてみる。中身は、8ギガバイトのメモリースティックと、手紙だった。

【悠里へ。誕生日おめでとう。

 頼人から聞いたわよ。あんた、相変わらず昔からゲームか音楽聴いてるかのどっちかなんですってね。
 まあいいわ。8ギガもあるんだから好きに使いなさい。無くしたりしたら、承知しないんだからね!

 これからもよろしくね。美弥子】

忘れていた。今日は俺の、17歳の誕生日だったのだ。メモリースティックは、美弥子からのプレゼントだっだ。わざわざ頼人に、俺が何を欲しがっているかリサーチまでしたようだ。忘れ物なんかじゃ、なかったんだ。

「う…っ、あああっ…! 美弥子ぉ…!」
565少年 松田 悠里の場合A:2009/10/21(水) 14:29:15 ID:dRECwhM8
涙が止まらなくなった。美弥子を見殺しにした罪悪感。最期に美弥子が残してくれた優しさ。その二つが相まって、感情を爆発させた。

がちゃ、とドアが開く。奈緒輝がシャワーから上がったのだろう。俺が泣いているのに気付くと、後ろから優しくふわりと抱きついてきた。シャンプーの香りが、鼻孔をくすぐる。

「怖くないよ、私がいるじゃない。私、ずーっと悠里のそばにいるからね。」

その言葉は暖かく、純粋で、しかしどこまでも残酷だった。今の奈緒輝には罪の概念などない。ただ"俺のために"手を血に染めたのだ。
そして俺も、美弥子を見殺しにした。俺たち、人殺しカップルだな。…ったく、笑えねえよ。
俺は最初、二人でどこまでも逃げる気でいた。金と時間が許す限り精一杯逃げて、あわよくばどっかの田舎で落ち着こうと。けれど、そんな考えは綺麗に失せた。
永遠に傍にいよう。愛する人の傍に。

俺たちは、そのままベッドの上で交わりあった。避妊具なんて無粋なものはいらない。ただ純粋に、もしくは狂ったように互いを求めあった。
これが最後。口にしなくても、奈緒輝もわかっているみたいだった。
566少年 松田 悠里の場合A:2009/10/21(水) 14:30:23 ID:dRECwhM8
限界まで果てた奈緒輝は、俺の胸元に顔を埋めて深く眠った。そして俺は奈緒輝の細い首に両手を重ね、ゆっくりと締め上げる。

「ごめんな奈緒輝…俺のせいでいっぱいお前の事苦しめた。これで最後だから…すぐに俺も行くよ。…愛してるよ、奈緒輝。」

ぎりぎり、と音がする。奈緒輝の顔は青ざめている。苦しさに目を醒ました奈緒輝、けれど表情は穏やかだ。
奈緒輝の口が動く。酸素は断たれているから声は出ない。けれど何て言っているかはわかった気がした。

「ありがとう」と。そう言った気がした。
そして奈緒輝は、事切れた。

次は俺の番だ。…できれば奈緒輝の手にかかって死にたかったが、これ以上罪を重ねさせるわけには行かなかった。だから俺は先に奈緒輝を手にかけ、自らの手で幕を引くことにした。
奈緒輝のナイフを握る。先ほど、血の汚れをきれいに落としたが、結局血に濡れる羽目になっちまうな。…まあいい。あまり奈緒輝を待たせたくはないからな。

俺は深呼吸をし、それから一気に自らの首を掻き切った。
視界が赤に染まる。息ができず、ひゅうひゅうとショボい音がする。だんだんと血からが抜けてきて、寒気と激痛だけが俺の体を支配する。
薄れゆく意識の中で、奈緒輝の声が聞こえた気がした。いや、きっと気のせいなんかじゃあないさ。待ってろ奈緒輝、今行くから。

じゃあな、頼人。色々とありがとうな。

そして意識は、永遠に途切れた。
567 ◆MxLpX2pLHM :2009/10/21(水) 14:31:32 ID:dRECwhM8
終了です。酉つけます。
568名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 17:45:08 ID:Z8FMGb6P
>>567
GJ
569名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 19:04:28 ID:4H9n2Oir
>>567
まさかの・・・BADENDとは。
良かったです。GJ!

570名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 22:19:40 ID:e24SVTWc
GJ—

GJって何の略?
goodjobだとおもってたんだが違うらしい
571名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 22:50:57 ID:w5ACH35W
great jobのことだ
そして>>567gj!
572名無しさん@ピンキー:2009/10/22(木) 01:12:07 ID:DhC7t7yU
はぁ・・・
鬱だ。しかし、良かった。GJ!
573名無しさん@ピンキー:2009/10/22(木) 13:12:41 ID:YbCYqOUb
>>571
半年、いや一年ROMれ
574名無しさん@ピンキー:2009/10/22(木) 16:49:04 ID:4LU5jg2R
>>567 GJ!!!! 心中エンドか…
575名無しさん@ピンキー:2009/10/22(木) 18:22:06 ID:kQ1Q189s
男が急進派の極左学生で、トロツキストじゃなくてスターリンor毛沢東支持者だったら、
ヤンデレが政敵(泥棒猫)を排除するのに理解を示してくれるかもしれない…!
576名無しさん@ピンキー:2009/10/22(木) 19:23:43 ID:d3koeh9W
ヤンデレがピッケルの素振りを始めました
577名無しさん@ピンキー:2009/10/22(木) 21:16:23 ID:4LU5jg2R
>>575 ノってみた。(赤色注意)

鉄男「ほう…それであいつを粛清したと。」
裏地「だってあなたの一番は私じゃないといけないもの。政敵の排除は常識でしょう?」
鉄男「よろしい、ならぱ仕方あるまい。ところで何人位粛清したんだ?」
裏地「5人かな。槌で頭を砕き、鎌で頸動脈を切る作業の繰り返しよ?」
鉄男「同志裏地よ、なぜか眠いのだが…」
裏地「ウォッカの飲み過ぎじゃない?」
鉄男「そんな訳あるまい…zzz」
裏地「これで吉府君は私と一緒に暮らせるね!」  
578名無しさん@ピンキー:2009/10/22(木) 22:38:54 ID:kQ1Q189s
極右ヤンデレはお国にデレデレ、極左ヤンデレは粛清にデレデレ
じゃあ、中立ヤンデレは何にデレデレでしょうか?
579名無しさん@ピンキー:2009/10/23(金) 00:27:25 ID:CRvomESb
ID:kQ1Q189sはなんだかよくわかってないに100ペりか
580Cinderella & Cendrillon 6:2009/10/23(金) 00:48:54 ID:9xbypOrN
お久しぶりです、やっと書き上がりました。
講義のレポートと試験に追われ、思った以上に遅くなってしまいました。
今回は前回、前々回と同じ場面の姫乃sideとなります。
いつも通り、皆様の暇つぶし程度になれば幸いです。
それでは、ごゆるりと。

……え? 猫?
今オレのベッドで寝てるよ。
581Cinderella & Cendrillon 6:2009/10/23(金) 00:49:37 ID:9xbypOrN
〜依音side〜

やぁ皆! こんにちわ!
ところで皆は最近、現実逃避はしてるかな?
僕? 僕は今、現実逃避の真っ最中さ!
え? 現実を見ろって?
やだなぁ、現実を見ても何もないよ……何も……
ただそこに僕とさきねぇのキスをばっちりと見てしまったひめねぇがいるだけさ……
…………ひめねぇが……ヒメネェガ…………


〜姫乃side〜

弟が交通事故にあった。
その知らせが来たのは夕方の6時頃、私がその知らせに気付いたのは夜の11時頃。
朝から研究室に籠って実験のレポートをまとめ、不備がある、もしくは不明瞭な個所はもう一度実験をする。
それの繰返しを続けているうちに午後の5時になった。
(これは徹夜になるかもなぁ……)
そう思い、弟と双子の妹の携帯にメールを入れ、仮眠をすることにした。
そして目が覚めたのが午後10時30分、眠気覚ましのコーヒーを弟がプレゼントしてくれたカップに注ぎ、机に戻る。
カップの中のコーヒーが半分になった頃、先輩の一人が「メール着てたわよ?」と知らせてくれた。
私は礼を言い、自分の携帯を確認する、妃乃からのメール、珍しいこともあるものだと思いメールを開く。
そこには「えねがじけにあた」とだけ書かれていた。
急いでいたのだろう、「えねが」までは読み取れる、問題は「じけにあた」の部分。
恐らくこれは「じけ」に「あた」と読むのだろう、「じけ」…………「事故」?
とするとこの「あた」は「えねが事故に……」から推測すると…………「あった」かな?
全文を読解し再翻訳する、「えねがじこにあった」…………「依音が事故にあった」!?
そのたった一行の文字列を理解すると同時に、手元にあったカップは床に落ち、音を立て、割れた。
582Cinderella & Cendrillon 6:2009/10/23(金) 00:49:59 ID:9xbypOrN
そこからの行動は迅速だった。先輩に事情を説明し床にこぼれたコーヒーとカップの後始末を頼む。
そして自分はコートを羽織り、携帯と財布だけ持ってタクシーに飛び乗った。
タクシーに乗っている数十分が耐えきれない。早く……早く!
病院に着くと同時に運転手に一万円札を渡し「お釣りはいらない」と吐き捨てる。
後ろから声をかけられたが気に留めている時間はない、受付に弟の病室の場所を聞き出す。
8階の個室、804号室。エレベーターなどを待っている時間はない。
階段を1段飛ばしで駆け上がる、2分もたたないうちに8階に着いた。
804号室、廊下の突き当たりの右の部屋、地図はさっき受付で見たので覚えている。
私が804号室を見つけると部屋の前のソファに妃乃が座っていた。
「妃乃……何があったの……?」
できるだけ優しい声で話しかける、でも少しは怒気が混じっていたかもしれない。
「ち、が……わた、し……そんな……つもり、じゃ……」
現実を信じられないのか、それとも信じたくないのか。
私は双子の妹を廊下に残し、弟の居る病室に入る。
未だ寝ている依音を見た瞬間、意識が飛びそうになった。
痛々しく巻かれている包帯、真っ白な病人服。
本来なら清潔なイメージをもたらすそれらが、私の脳にさらに痛々しいイメージを追加する。
思わず駆け寄り、えねを抱きしめる。
そこでさらに異和感、左肩から生えているはずの腕がない、左腕がない。
私は座り込みたい衝動を何とか抑え、えねちゃんに布団をかけ病室を後にする。
病室の前にはまだこの出来事を理解しようとせずふさぎ込んでいる双子の妹が1人……。
「……妃乃。」
「………………」
「……妃乃!」
「っ!」
「いい加減受け止めなさい。」
ゆっくりと妃乃が私を見上げる。
「何があったかは知らない、でも依音をあんな風にしたのはあなたでしょう?」
「………………」
妃乃は答えない、恐らくこれは肯定の意なのだろう。
「だったら、私はあなたを許さない。 例え依音があなたを許しても、私はあなたを許さない。」
それだけ言うと私は依音の病状を知るため、担当医師を探しに行った。
かなり大掛かりな手術だったため、今は安定していても先はわからないらしい。
医師は続けて、数週間の入院が必要と私に告げた。
医師の話を聞き終えると、私はえねちゃんの着替えを用意するためにいったん自宅へ向かった。
考えをまとめるためタクシーではなく、徒歩で自宅へ向かう。
病院から自宅までは徒歩で約2時間、往復で4時間。
だけど私にはそれが1時間にも満たないとさえ感じた。
自分では妃乃にあんなことを言っておきながら、自分でも受け止めきれていないのだろう。
滑稽すぎて笑いがこぼれる。
結局、再び私が病院を訪れるとき、携帯のディスプレイには「Am 07:00」と表示されていた。
8階の804号室、すでに部屋の前に妃乃の姿はなかった。
逃げたか、それともお手洗いにでも行ったか、どちらにせよ自分には関係ない。
私は何も考えず病室のドアを開け放つ。
そこにいたのは…………

…………我が最愛の弟である奏 依音と、依音と唇でつながっていた私と同じ容姿をした女だった。

583Cinderella & Cendrillon 6:2009/10/23(金) 00:52:05 ID:9xbypOrN
以上で今回は終了です。
多分、次回あたりもう1人ヲンナノコが出てくると思います。
それではそのときまで、さようなら。
584名無しさん@ピンキー:2009/10/23(金) 02:00:49 ID:f/Y45zCw
さきねぇとひめねぇやっとキターーー!
GJ
またいいとこで終わってしまって焦らしプレイ継続してしまた
585名無しさん@ピンキー:2009/10/23(金) 03:27:40 ID:VH3fsrUr
GJ!
> もう1人ヲンナノコ
猫ですね。分かります
586名無しさん@ピンキー:2009/10/23(金) 18:05:00 ID:WVxsxVhr
久しぶりキター!!!!
GJです!
587名無しさん@ピンキー:2009/10/23(金) 18:13:59 ID:O0iMnp8t
こ、これはヤベぇ・・・
588名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 00:33:41 ID:CgusciAZ
ヤンデレに1TBの外付けHDDを買い与えたのだが、すぐに男の写真で満杯にしやがった
589名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 02:05:27 ID:jffk5btd
>>588
それで?
590名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 10:40:20 ID:KG1jVska
我慢できなくなって男の目玉をえぐりだして自分の目と交換したそうです
591名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 14:01:06 ID:z2tv6v26
ガキは角煮でオナニーしてろ
592名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 22:49:26 ID:2ZKaJDKZ
世界最後の日

隕石が衝突するまであと17時間

ヤンデレは男のハートを掴む事は出来るのか?

みたいなのを夢で見た
593名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 23:05:41 ID:u8DE+yyl
それなんてあすせか?
594名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 23:46:29 ID:2NMRiSV1
無事、規制が解除されたので投下します
595動き出す時 2話:2009/10/24(土) 23:47:55 ID:2NMRiSV1
救命士とか、そういう職業に就いている人でもなければ、恐らく一生に一度あるかどうかの体験をした俺は
次の日の朝、自室のベッドで絶賛爆睡だった。どうせまだ夏休み期間中なんだし、このまま昼くらいまで寝てしまおう
そう考えて起きる気ゼロで眠りこけていた俺の耳に突然、鼓膜を破らんばかりの大声が聞こえた。
「祐樹! 起きなさい! 夏休みだからって何時まで寝てるつもりよ!?」
あまりの声量に、耳にダメージを受けつつ目を開けると、非常によく知ってる顔があった。声で誰かは分かってたけど。
「おばさんに、祐樹が帰ってきたって聞いたから様子を見に来てみれば……」
声の主は幼馴染の綾菜だった。ポニーテールにしている自慢の赤い髪を揺らしながら更に続ける
「突然行き先も告げずにふらふらどっかに行っちゃうんだから! 心配する方の身にもなってよ!」
どうやら俺が若気の至りで何も知らせず突然旅に出たのが心配だったから怒っているらしかった。
「悪い、綾菜。心配かけたみたいで……」
素直に謝る事にした。すると綾菜は
「ふん!」
と、そっぽを向いて部屋のドアの方に向かって行った。一見すると諦めて突き放した様な態度である。
しかし、付き合いの長い俺には、実はこれは許してくれたのであるという事が分かった。
「朝ごはん出来てるから早く降りて来なさいよ」
最後にそう言って、綾菜は部屋から出て行った。彼女は羽柴(はしば)綾菜。俺の幼馴染であり、お隣さんでもある。
ウチの両親と彼女の両親はとても仲が良く、俺達は生まれた時から家族ぐるみでの付き合いだった。
その為、俺達は兄弟の様に育ち、今もそんな感じの関係である。ちなみに学校のクラスも今までずっと同じである。
小・中の9年間と高校1年の今も同じクラスなので合計して十回連続で同じクラスなのである。
ここまで来ると神掛かり的な何かの力が作用しているのではないかと疑ってしまう。
ちなみに容姿の方は非常に良い。健康的に伸びた手足に、形が良くやや小振りなそれぞれの顔のパーツ。
そして、強気そうだがパッチリとした意志の強そうな目。綺麗な赤い髪がそれらによくマッチしていた。ちなみに彼女の赤い髪の毛は地毛である。
両親共に日本人であるのに、何故赤い髪をしているのかというと……ぶっちゃけ忘れた。
遺伝子の突然変異か何かの関係で色素がどうこうとか聞いたような……いや、それは違う話だったような……
まあ正直どうでもいい。俺にとっては「綾菜の髪の毛は赤くて綺麗」という事実があれば、それで満足なのである。
性格の方も見た目通り強気な面もあるが割とさっぱりしており、誰に対しても分け隔てなく接する為、男女問わず好かれており友達も多い。
そんな訳で結構モテるらしく、告白されたなんて噂を時々聞くけど全部断っているらしい。
まあ、あいつは誰とでもすぐに友達になれる分、逆に相手を友達以上に見る事がなかなか出来ないんだろうと俺は解釈している。
ちなみに周りも同じ解釈をしており、そんな中で綾菜が唯一友達以上(兄弟)として接している俺は、周りから綾菜の旦那扱いされており
俺と綾菜はクラス公認の夫婦として扱われている。勿論クラスの連中の冗談・冷やかしの類である。
俺もそうだが綾菜もそんな気は無いだろう……と、それより早く着替えて下に降りないとな。俺は急いで着替えて一階へ向かった。
596動き出す時 2話:2009/10/24(土) 23:48:54 ID:2NMRiSV1
一階へ降りるとテーブルには既に朝食が並んでいた。ご飯に味噌汁、焼き魚にお新香という典型的な和食の朝ごはんだ。
「今日は味噌汁よ」
俺が椅子に座るといつの間にかテーブルの向かいに来ていた綾菜がそう言った。
綾菜は時々こうして我が家に来ては母さんの料理を手伝ったりしており、今のは「今日、私が作ったのは味噌汁よ」という意味である。
早速その味噌汁を飲んでみる。良い感じにダシが利いており、味噌の濃さも丁度良い
「うん、美味い。もう少しで母さんに追いつくんじゃないか?」
と、褒めると綾菜も嬉しそうな顔になる。
「よかった、口に合ったみたいで。でも流石におばさんにはまだまだ及ばないよ」
と言った。そこに我が母、廣野早苗(さなえ)がやって来て
「そうよ、祐樹。私の料理はまだあと二回変身を残しているんだから。甘く見て貰っちゃ困るわ」
そうのたまってきた。マジか? 今でも相当美味いのに、更にあと二段階も美味くなるというのか!? というか変身ってなんだよ
母さんは以前、料理人を目指していたらしく非常に料理が上手い。俺の父、和雅(かずまさ)の事もその料理の腕でゲットしたとか言っていた。
「でも、綾菜ちゃんもかなり上達してるわよ。この歳でこれだけ料理の出来る子もなかなかいないわよ〜」
と、嬉しそうに何故か俺に向かってニヤリとした表情を向けながら言ってくる母。まあ、言いたい事は分かる。
俺と綾菜の両親は俺達がくっ付く事を望んでいるらしく、クラスの奴らと同じく俺達を夫婦扱いして時々遊ぶのである。
「上達できたのはおばさんの指導のお陰ですよ。とても分かりやすく教えてくれますし」
「もう、綾菜ちゃんったら、そうやっておばさんの顔を立ててくれるなんて嬉しい♪」
と、何だか二人はそのまま料理談議へとなだれ込んでいった。俺は気にせず朝食を平らげ食器を流しへと運んで行った。

「じゃあ、行って来ます」
母さんは自分が講師をしている料理教室へと出掛けて行った。
かつて料理人を目指していた母さんは、火事に巻き込まれた時に消防士だった父さんに助けられ
その時の恩と助け出す時の父さんの姿、更にその後、見舞いに来た父さんと会話をして知った人柄に惚れたらしく
「私は和雅さん専属の料理人になります!」
と、夢が料理人から父さんと結婚する事に変わったそうな。母さんの積極的なアプローチによって二人は付き合う事になったけど
父さんが奥手で、なかなか一線を越えずにいたらしい。どう見ても両思いなのにと周囲もヤキモキしていたそうだが
ある日、何故か突然父さんが人が変わったかの様に母さんを抱いたらしく、そのままゴールインしたとのこと。
何故、それまで奥手だった父さんが突然行動に移ったのかについては、その話を聞いた周囲の人達も疑問を抱いたそうだが
変わったのは話で聞いた、その日の夜、食事を終えてからだけで、それ以降は全く普段通りだったので
普段抑えていた色々が噴出したんだろうという考えに至ったらしく、結果的に二人がゴールインする後押しとなったので良かったねという結論となったそうだ。
その後、父さん専属の料理人となるため、料理人になるという夢をバッサリ切り捨てた母さんは
かつての経験を生かして料理教室の講師をするようになった。母さんの指導は料理教室に通う奥様達にも好評らしい。
ちなみに料理教室の講師をやるようになった理由については「経済面でも和雅さんを支えたいの。それに、こうして私も稼いでいれば
もし、『不慮の事故』か何かで和雅さんが働けなくなってしまっても生活に困らずに済むでしょ?」と言ったらしい。
それを聞いた父は「心配性だなぁ」と苦笑したそうだが、その話を父から聞いた時、何故か俺は不安を感じた。

さて、今日はこれから何をしようか。母さんを見送り、特にする事も無いのでどうしようかと考えていると
「祐樹、実は私、夏休みの宿題がまだ終わってないんだけど、分からない所とか見てくれないかな?」
と、まだ家にいた綾菜が聞いてきた。
「おう、分かった。じゃあ部屋で待ってるよ」
「うん、じゃあ勉強道具、取って来るね」
そう言って綾菜は一度自分の家へ戻って行った。
597動き出す時 2話:2009/10/24(土) 23:49:59 ID:2NMRiSV1
夏休みのある夜、家に電話がかかって来た。出てみると隣に住んでいるおばさんからだった。
「あっ、綾菜ちゃん? 祐樹が帰ってきたわよ。なんだか疲れてるみたいで帰ってきて早々寝ちゃったけど」
私は幼馴染が帰って来たという連絡を受けてすぐに家を飛び出しそうになったのをギリギリの所で堪えた。
今行っても仕方ない。行く口実となる物も無いし、祐樹を起こしてしまうのも可哀想だ。そう考えて明日の朝に行く事にした。
本当は今すぐに祐樹の様子を見に行きたいが、その気持ちを抑えて、明日ちゃんと睡眠が充分な状態で祐樹に会おうと眠りに着いた。

朝になり、私は隣の家へと向かいチャイムを鳴らした。するとおばさんが出迎えてくれた。
「おはよう、綾菜ちゃん。じゃあ早速だけど今日は味噌汁をお願いしようかしら」
こうして私は時々朝に祐樹の家にお邪魔して朝食作りを手伝わせてもらっている。気合を入れて味噌汁作りに取り掛かる横でおばさんは魚を焼いている。
私のお母さんもそうなのだが、おばさんは見た目がやたらと若い。高校生の子供がいるのだから当然それなり年齢なのだが、見た目はどう見ても20代である。
祐樹も私も母子で出掛けた時に母子ではなく姉弟・姉妹に間違えられた経験がある。私達の母親は秘密の若返り薬でも共有しているのだろうか?
しかも美人で、私が作った味噌汁を味見してくれているその横顔は、女の私でも見惚れてしまうほど綺麗である。
「うん、美味しいわ。これならいつウチにお嫁に来てくれても問題無いわよ」
「そ、そんなお嫁って……///」
おばさんの発言に思わず慌ててしまう。顔が熱い。恐らく今の私の顔は真っ赤だろう。
「じゃあ、朝ごはんも出来たし祐樹を起こして来てくれないかしら?」
「あっ、はい」
私は内心喜びながら、それに表に出さないよう気を付けて返事をし、二階へと階段を上がっていく。
祐樹の部屋に前に着き、一度深呼吸をしてから軽くドアをノックする。
「祐樹ー? 起きてるー? 朝ごはん出来たから起きてたら返事しなさーい?」
反応は無い。祐樹はまだ寝ているようだ。その事を喜びつつドアをそっと開けて部屋の中へと入る。
祐樹はまだ眠っており、ベッドの上で寝息を立てていた。私は祐樹の寝顔を覗き込んだ。
(可愛い……)
祐樹本人に自覚は無いが、祐樹はおばさんの遺伝子をちゃんと受け継いでいるらしく、おばさんによく似たとても整った顔立ちをしている。
そして、その無防備な寝顔は、見慣れているハズなのに、見ていると段々と胸がドキドキしてきてしまう。
祐樹はモテる。祐樹は誰に対しても優しくて、常に誠実であろうとしている。その優しさ・誠実さを受けて惚れる子は多い。
だけど祐樹にモテるという自覚は無いし、告白をされたことも無い。何故なら、それらは全て私が潰しているから。
例えば、祐樹に気がある子の前でわざと祐樹に必要以上に接触してみせたり、祐樹にラブレターを渡して欲しいと頼んできた子には、そのラブレターを捨てた後
祐樹からの返事は「NO」だったと伝えたり、色々な手を使って私は祐樹への告白の類をとにかく片っ端から潰していった。
優しい祐樹の事だ。告白でもされたりしたら、その子に同情して好きでもないのに付き合ってしまうかも知れない。
祐樹の事をよく知りもしないクセに、祐樹の一部を知っただけで全てを分かったような気になっている女と付き合っては、祐樹が不幸になってしまう。
祐樹の事を誰よりも理解していて、誰よりも深く愛している。そんな私と添い遂げる事こそが、祐樹にとって一番幸せであるに決まっている。
幸いなのは、祐樹がミーハーな子達にキャーキャー騒がれたりしていない事である。流石に表立って騒がれると、こちらも対処しにくい。
祐樹はおばさん譲りの整った顔立ちながらも、おじさんの遺伝子もちゃんと受け継いでいるらしく派手さが無いというか目立たない(別におじさんは派手さが無いだけで
渋いと言うか地味なカッコ良さみたいな物があり、冴えないとか不細工とかいう訳ではない)。その為、ミーハーな子達はもっと目立っていて派手な
別の男子に流れてくれているのである。まあ、隠れたイケメンみたいな感じでのファンもチラホラ居るみたいだけど個人単位だし動きも大人しいので問題は無い。
598動き出す時 2話:2009/10/24(土) 23:53:55 ID:2NMRiSV1
私の祐樹への思いがここまで強くなったのは小学校に入ってすぐの頃だった。その頃には既に私は祐樹の事が好きだったが、あくまで一般的なレベルの感情だった。
その思いが今ほど強くなった原因はいじめだった。私は小学校に入学してすぐの頃にいじめに遭っていたのである。原因は私の赤い髪である。
それまで私達の周囲にいた子達は、物心がついた時には既に私が近くに居たので、私の髪に何の疑問も持たずに当たり前の事の一種と捉え、普通に接してくれていた。
しかし、卒園後に同じ小学校に入学したのは私と祐樹だけ。それ以外の子達から見れば私の髪は異端だったのである。
自分達と違う物は排除しようとするのが生物の本能なのだろう。私はあっという間にいじめの対象となった。とはいえ小学校に入学したばかりの子供である。
いじめと言っても靴を隠されたりする程度のものだった。しかし当時の幼かった私には辛くて仕方なかった。その度に祐樹に慰めてもらったりした。
ある日、私は数人の同級生に囲まれて、遂に暴力的な直接手を出すいじめへと発展しそうになった。
祐樹が掃除当番で私一人になったところを狙われたのである。しかし……
「おい! 綾菜に何してるんだ!」
ギリギリのところで祐樹が助けに来てくれて、その剣幕に怯んだいじめっ子達を、そのまま追い払ってくれた。
「綾菜、大丈夫だったか!?」
と、祐樹が心配して声を掛けて来てくれた時、私はそれまで我慢していた涙を堪えきれずに泣き出してしまった。
「うっ、ひっく、もうやだよ。何で私の髪は赤いの? みんなと同じじゃないの? 私だってみんなと同じ黒い髪の毛が良かった!」
泣き喚くようにそう叫んだ私を祐樹は抱き締めて、そして私の髪を梳かす様にゆっくり優しく頭を撫でてくれた。
「俺は綾菜の赤い髪、好きだよ。綺麗だし、これが綾菜の髪なんだって感じがするし」
「でも、赤いからみんな変な目で見てくるし、からかわれたりするんだよ」
「そんなの気にするな。みんなお前の髪が綺麗だから羨ましがってるんだよ。これからは『へへーん、いいだろー』って見せ付けるくらい堂々としてろ」
「でも、でも……」
「もし、世界中の人達みんなが綾菜の髪を変だと言っても俺だけは絶対に綺麗だと思ってるし『綺麗だ』って言ってやる」
その言葉を聞いた時、私は今までに無い安心感に包まれた。そうだ、例え誰が敵であったとしても祐樹だけは必ず私の味方でいてくれる。
「うん、ありがとう祐樹。私頑張ってみる! 祐樹が言うみたいに堂々と出来るように頑張る!」
「おう、その調子だ! 俺も応援するぞ! 頑張れ綾菜!」
「うん!」
こうして、この日から私の中で、祐樹に綺麗と言ってもらえるこの赤い髪の毛は私の自慢へと変わった。
そして、祐樹に言われた様に堂々とするよう心掛け、嫌がらせをされても挫けずに強くあろうとし続けた結果、徐々にいじめの方も無くなっていき
私にも友達が出来るようになった。こうして今の私へと繋がっていく。祐樹や周りは私の性格を強気と称しているようだが、その基を作ったのは祐樹である。
祐樹がいなければ今の私は無かったと思う。弱いままで泣き続けていただろう。祐樹がいたから私は強くあろうと決意する事が出来た。
祐樹には今でも感謝している。ただ、いじめが無くなったのは良かったのだが、学年が上がってくるにつれて今度は私に言い寄ってくる男子が出てきた。
はっきり言って祐樹以外は、どこまで行っても、あくまで「友達」でしかない。付き合おうという気なんてとても起きないし、そもそも私は祐樹のモノだ。
私に言い寄ってくる男子もそうだが、祐樹に思いを寄せている女子も、私と祐樹を見て、二人の間に割り込む余地なんて無いと思わないのだろうか?
599動き出す時 2話:2009/10/24(土) 23:55:18 ID:2NMRiSV1
と、そこで私の思考は一旦停止した。原因は、ふと目に留まった部屋の時計。私が部屋に入ってから結構な時間が経っている事に気付いたのである。
このままでは、折角おばさんが私を信頼して祐樹を起こしに向かわせてくれたのに、その意味も無くなってしまう。
私はもう少し祐樹の寝顔を堪能したい思いにかられながらも息を大きく吸い込んで
「祐樹! 起きなさい! 夏休みだからって何時まで寝てるつもりよ!?」
そう叫んだ。その後、目覚めた祐樹に行き先も教えてくれずに突然出掛けて行った事に対しても説教をした。
ここ数日の祐樹がいない、無事かどうかも分からない日々は私にとっては地獄であった。文句だって言いたくなる。しかし……
「悪い、綾菜。心配かけたみたいで……」
祐樹が申し訳なさそうに謝ってくるのを見ると、私の怒りも削がれてしまう。だいたい祐樹は卑怯だ。あんな顔をされたら怒るに怒れない。
「ふん!」
私はそっぽを向いて、赤くなっているであろう顔を祐樹に見られないようにしながら、朝ごはんが出来ている事を伝えて部屋から出て行った。

その後、朝ごはんを食べ終えた祐樹がおばさんを見送っている間に私は食器を洗っていた。
(祐樹に褒められた……)
洗い物をしながら私は幸せな気分に浸っていた。食事中、祐樹におばさんにもう少しで追い付くのでは? と言われた。
おばさんの料理の腕前はプロレベルの凄さである。祐樹もその事は当然理解しており、おばさんの腕前をとても高く評価している。
その祐樹からのあの言葉は、現時点での私にとっては最上級とも言える賛辞なのである。私は浮かれ気分のまま洗い物を終え祐樹の元へ向かう。
「祐樹、実は私、夏休みの宿題がまだ終わってないんだけど、分からない所とか見てくれないかな?」
おばさんを見送り終えた祐樹に声を掛ける。祐樹は勉強も出来て、成績の方もかなり良い。
流石に成績トップに名を連ねたりはしないが、こうして同級生の勉強を見てあげるくらいは出来るレベルである。私もこうして時々見てもらう。
「おう、分かった。じゃあ部屋で待ってるよ」
祐樹と部屋で二人きり。しかも家には他に誰もいない……つい、そんな事を考えてしまう。
祐樹の事だから、どうせ手を出したりとかはしてくれないのだろうけど、頭では分かっていても、どうしても心の何処かで期待をしてしまう私がいる。
「うん、じゃあ勉強道具、取って来るね」
そう言って私は、何も無いと分かりつつも期待を胸に、勉強道具を取りに一度自分の家へと戻った。
600名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 23:56:00 ID:lqHYnP0+
こおり
601名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 23:59:08 ID:2NMRiSV1
投下終了です。遅くなって申し訳ありません。
しかも、規制に引っ掛かる事がよくあるので
今後もこの様な事があるかも知れません。その時はご勘弁を……
あと、前回ご指摘がありましたけど
脱字があったことをお詫び申し上げます。すみません
602名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 00:33:59 ID:t8fcFDbD
GJ!
個人的には好きな作品なので
多少間隔が空いても待ってるぜ
続きも期待
603名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 06:15:49 ID:swjBUOZD
>>601
ふーん、まあまあね。一応、褒めてあげるわ♪
たまたま私がここを見に来ていても、あなた目当てな訳じゃないんですからね(怒)
604名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 12:40:09 ID:3E3TN9cf
ま、まあ少しは上手になったじゃない。
べ、別にあんたのこと、気になってたとか、投下されてないか毎日チェックしてたとか、
そんなんじゃ、ないんだからねっ!
605名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 15:06:43 ID:zAQpZuGJ
>>601
とてもよかったけど、投下が遅れるのは本当に規制のせいなのかな
わたしはずっと待ってるから別にいいんだけど、もしかして他の子(SS)に
かまけてたりしないよね? わたし、いつまでも待ってるから
もしわたしのこと忘れちゃったら、必ず会いに行って思い出させてあげるからね…


意訳:とてもGJでした。続きも期待しています
606名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 15:48:09 ID:P9g0Jdk4
>>603-605
死ね
607名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 15:58:48 ID:s564k/dU
香ばしいレスで台無し
608名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 16:40:36 ID:IIS9oi2i
マジで中学生とかいそう
609名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 17:38:58 ID:cOM1qNha
>>608
精神年齢的がね
610名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 18:28:10 ID:4t7WUilR
なんで毎度毎度スルーしないのだろうか
611名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 18:42:55 ID:Pek7WvpW
誰でもいいから関わりたいんじゃないの
612名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 19:15:22 ID:46ZSsEka
皆寂しんぼさんたちなんだな
613名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 19:35:29 ID:KZRP5rV7
寂しいでググればわかるように現代人の精神は不安定なんです。
だから、恋敵とか刺しちゃう子がいるんです。

え?私ですか?
違いますよ。だって私はそんなにお人好しではありませんから。
体も所有物も全て、製粉機にかけて原子炉で焼却しても怒りが収まらないんですから。

今、思い出してもあのメス猫もどきのボウフラ達は・・・!
彼の視界に入ろうとするなんて!!
昨日も100匹程駆除したのに、また出てくるなんて・・・



614名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 19:43:16 ID:EXXuxpth
なにこれこわい
615名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 20:22:36 ID:8fo9MwXC
>>601
GJ! 強気系ヤンデレ幼馴染みイイ!
しかし、そうか俺がモテなかったのは
ヤンデレが俺への告白を潰してたからだったんだな
616名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 23:05:09 ID:mnNW4IDy
>>615
今お前に一番必要なのは鏡と現実を見る力だ
617名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 23:23:13 ID:2cDTVfp+
>>601

GJ!この時を待っていた!次も期待
618名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 23:47:11 ID:FVxsoq/H
>>603-605
目障りなんだよ、ボクの目の前から(このスレから)消えてしまえ!!!
619名無しさん@ピンキー:2009/10/26(月) 00:01:50 ID:FpveAgog
ごっこ遊びなら他所でやれよ
620名無しさん@ピンキー:2009/10/26(月) 11:21:34 ID:Vj97igi7
>>608
お前も含めてな
621名無しさん@ピンキー:2009/10/26(月) 12:59:35 ID:rGGJixsQ
>>620
言いたいことはわかったから、とりあえずsageを覚えてから来てくれ
622名無しさん@ピンキー:2009/10/26(月) 18:32:44 ID:wZ9c1hTr
>>601
GJ! しかしこれはまさか母親もヤンデレなのか?w
623名無しさん@ピンキー:2009/10/26(月) 20:56:18 ID:vjU1BRHo
10 名前: ◆ AW8HpW0FVA 2009/10/26(月) 19:01:41 ID:/3oImZO20

規制されました。
624名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 14:25:36 ID:BBTpE3pJ
>>606
俺を騙るな お前が死ね
625名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 14:45:47 ID:E40kRZHe
はいはい、sage覚えてから来ようね。
626名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 16:35:52 ID:rgGi9QVE
                                       ┌─────┐
                                                      │ じゃがいも │
                                                      └─────┘
                                                  ┌───┐
                                                  │林  檎│
                                                 ┌┴─┬─┴┐
                                                 │自殺│ 鮑 │
                                    ┌─┐        ├──┼──┤
                                    │金│      ┌┤マット │牛舌│
                                    │箔├─┬─┘└┬─┴──┤
                                    ├─┤薬│  米  │酪王牛乳│
                                    │眼│  ├┬──┼──┬─┤
┌─┬─┬─┐┌─┬──┬──┬─┬─┤鏡├─┤│蒟蒻│ 苺 │納│
│カス.|..海│豚││河│蕎麦│なし..│和│豆├─┤五│└┬─┴──┤  │
│テラ.|..苔│骨││  ├──┼──┤  │  │池│平│葡├─┐ 葱 │豆│
└┬┴┬┴─┤│豚│牡蠣│団子│牛│腐│  │餅│  │桃├──┼─┤
  │甘│椎茸│└─┴──┴──┴┬┴┬┴┬┼─┤萄│ .. |ひよこ.| 落│
  │  ├──┤  ┌───┬──┐│犯│素││味├─┴┬┴──┤花│
  │夏│地鶏│  │蜜  柑│饂飩││罪│  ││噌│ 茶 │焼  売│生│
  ├─┴──┤  ├───┼──┤├─┤麺│└┬┴──┴───┴─┘
  │薩摩芋  │  │  鰹 . │酢橘││  └─┤赤│
  └────┘  └───┴──┘│蜜  柑│福│
┌──┐                       . .└───┴─┘
│泡盛│
└──┘

627名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 16:39:30 ID:c2Z91fXI
>>626
なし はかわいそうだろw
628名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 16:53:19 ID:srUP9XT6
>>623
このトリップって変歴伝の人だっけ?
最近規制が多過ぎじゃね?
629 [―{}@{}@{}-] 名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 17:28:07 ID:f+PPXUMR
>>626
なしはひどいwww

>>628
その人みたいだね。
規制に関しては2ちゃんねるの荒らしが影響してるみたい。

エロパロ板総合情報室 10号室
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1239193007/813
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1239193007/828-830
630名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 17:33:55 ID:01pXQKVL
なしは梨だろとマジレス
それより犯罪と自殺を何とかしなさい
あと池

それともアレか?
大阪と秋田は泥棒猫を抹殺するのに絶好のスポットなのか?
631名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 17:35:17 ID:G+okggNc
>>626
なんか恨みでもあんのかwww
632名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 18:38:06 ID:nbvcR1ru
だって>>631君、最近あの女にばっかりかまうんだもん。
恨み言の一つや二つもいいたくなるよ
633名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 19:58:54 ID:1DHZalm3
>>630
俺の実家秋田だが自宅の近所は借金で自殺したひとが5〜6人いて
学校の先輩も自殺したひとがいる
634名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 21:20:42 ID:5OFyJGVH
投下する職人がいなくなれば、俺の駄文を投下し続けるスレとして存在し続けることだろう。
635名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 22:04:32 ID:nbvcR1ru
>>634
ずっと見てるから安心して!
636名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 22:46:48 ID:I84Ej8Qy
ヤンデレ「男くんが『飼ってやるよ』だって、捨てられなくて良かった……」

子曰く、捨てられなかったヤンデレは幸いである
637名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 22:53:10 ID:dC4z/vUJ
「ヤンデレさん……俺達別れたはずだろ?」

子曰く、ヤンデレを捨てることなど不可能である
638名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 22:58:53 ID:I84Ej8Qy
668 名無しさん@恐縮です 2006/07/30(日) 16:56:21 ID:/l9BPhvWO
俺もヤンデレから逃げ切ったら10万円っていうビデオに出たことある

669 名無しさん@恐縮です 2006/07/30(日) 17:00:19 ID:9iyD/Oxj0
>>668
それ凄いね。逃げ切れたの?
639名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 23:05:32 ID:G+okggNc
「おかしいこと言うのね…? 死んでも離れないって言ったじゃない……なんで怯えてるの?」

夢枕獏曰く、たまらぬヤンデレであった…
640名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 23:19:43 ID:srUP9XT6
荒らした奴をピンポイントで規制できないものか
職人さんが巻き込まれて投下が遅れる事態が発生し過ぎだ
何とかしてくれヤンデレ
641名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 00:02:10 ID:UqBfCxsm
規制しても荒らしがいなくなるとも限らないしね
むしろ関係無い人が巻き込まれる弊害の方が酷い
642名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 13:37:02 ID:kuLS10Ev
昨日の乙男ってドラマのお嬢様がちょっとヤンデレっぽかった
643名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 13:49:52 ID:E0GNSp2l
スイーツ(笑)
644名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 19:32:21 ID:i17N45ru
この状況はマズイな……
645名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 21:46:31 ID:7yL4ne0t
もうすぐハロウィンだが何かハロウィンネタで良いのは無いだろうか
646名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 22:06:34 ID:MppFNxy2
ヤンデレだったらtrick or treatならぬlove or dieか

愛してくれなきゃ殺しちゃうぞ♪
647名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 22:12:28 ID:8ZxFNilW
定番だが兄にTrick or Trick するキモウトだろ

誰かから貰ったお菓子に食べると体が火照って不思議な感じに
仮装したまま好きな女の子(または彼女)とデートしてそのままエッチ
あの子の奥に何度もぶちまけた後、仮装を取ってみるとそこには……
648名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 22:13:48 ID:8ZxFNilW
すまん、スレ間違えたw
キモウトの所はヤンデレで
649名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 22:16:37 ID:d1UDGRoz
・・・聞き捨てならないわね
650名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 22:27:31 ID:GRqnZoMl
短編のハロウィン物からもう1年経つのか、つい最近の事だと思ってたよ
651名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 23:56:35 ID:v2zgO1Rf
>>645に触発されたので、お茶請けにでも。
投下します。



ピンポーン

「はいはい新聞だの宗教だのの勧誘はお断りですー」
「政くーん!トリックオアトリート!お菓子がないならいたずらですよ?」
「・・・は?」

突然鳴ったインターホンに出てみれば、見知らぬ魔女のコスプレをした女・・・誰だこいつ。

「あー今誰だこいつって思ったでしょ!私は政君のお嫁さんでーす!」
「いや、お話をした覚えもねーんですが」
「えええ?!毎日話かけてくれてるよ!私よ私!あ、いつもとキャラ違うからわかんないのかな?」
「・・・あー、ちょっと待ってください。毎日?」
「そうでーす!」

そう言われても全く見覚えがない。こんなエキセントリックな美少女なら少なくとも記憶のどこかにはあるはず。
考え込む俺をキラキラと期待に満ちた目で見る女。いやそんなに見られてもさっぱりわからないんだがな。
首を傾げる俺に女は痺れを切らしたらしく、膨れっ面になる。

「むー、本当にわかんないの?私だよ?・・・うー、でもそっか、結構時間経ってるし・・・」
「俺、毎日話しかけてるんじゃねーんですか・・・」
「は、話しかけてくれてるよ!毎日!政君、私だよ!」

腕を掴まれる。この女、妙に体温が低くぞわぞわと背筋を悪寒が走った。
・・・あれ、時田、美祢?美、祢?


「・・・み い ?」


「えへへ、やっとわかったみたいだね?」

にこにことしている女に総毛立つ。
そんなわけがない、みいのはずがない。なんて性質の悪い悪戯なんだ。だってみいは。

「・・・みいは、俺の目の前で・・・死んだはずだ!」
「うふ、そうだよ政君。政君の前で車に引かれて死んじゃった。二年間ちゃんと私に話しかけてくれてたでしょ?心の中で」

あっさりと肯定され、思わず一歩引く。いやいやそんなわけないだろ。これは性質の悪い悪戯だ。だってみいは俺より7つ下だったんだから。

「年齢くらいいくらでも操れるよ・・・ねえ政君、私ね、政君が好き。これは我侭だし酷いことってわかってるけど、やっぱり一人は寂しいの・・・」

先ほどまで輝いていた瞳には今はもう欠片も光がない。腕は掴まれたまま、俺は辺りを見回すがお菓子はおろか魔よけになりそうなものは一つもない。
歯の根が合わない、ガチガチという音を聞きながら俺は気が遠くなるのを感じた。

「一緒に来てね、政君。お菓子もないみたいだし・・・えへへ、私のいない世界で他の女と結ばれる政君なんて見たくないもの」
652651:2009/10/29(木) 00:17:48 ID:Xrsc1FgG
すみません、投稿終わりですというのを入れ忘れましたorz
653名無しさん@ピンキー:2009/10/29(木) 05:44:41 ID:Xe5venck
幽霊カワユスw

昨日から大規模規制発動中
長期化しなきゃいいが
654名無しさん@ピンキー:2009/10/29(木) 07:10:20 ID:NqyplNZL
ずっと思っていたんだが、少子化問題の最大の原因は、女共にあると思う
た理由として現代女性は、男を主に金とルックスでしかみていない
おまけに用が無くなったら、ポイだからな
そんなんじゃ、男性諸君も結婚したくないだろうに

そこで考えた。
女性の皆様がヤンデレ化すれば、いいんじゃね?
とそうすれば、結婚したくない男性諸君も結婚したくなる。
そうなりゃ少子化もなくなり、万事解決……



するわきゃないか。
655名無しさん@ピンキー:2009/10/29(木) 07:16:17 ID:dF0/aj4+
ヤンデレってあなたの子供孕みたいっていうけど子供が女の子だったらどうするんだろ
ていうか二人で完結している世界に子供という第三者が入り込む余地はあるんだろうか
656名無しさん@ピンキー:2009/10/29(木) 12:07:06 ID:stMmHHKH
ふと小ネタを思いついた


成る程、つまり君はロミオとジュリエットのような、
純愛系の病みが増える事を主張する訳だね・・・。
確かに荒唐無稽ながらも一理有るかもしれない。
ところで564君、「隗より始めよ」という言葉を聞いたことは無いかい?


ふふふ、心配は要らないよ・・・
私は君と出会った事を運命だと思っているんだから!
657名無しさん@ピンキー:2009/10/30(金) 12:29:41 ID:6P1gd1AX
ウィキには子供(女の子)生んでるSSいくつかあるんだけどな
しかし大規模規制の影響かどこもかしこも過疎っててワロタ
658名無しさん@ピンキー:2009/10/31(土) 00:45:04 ID:f77DpIEb
保管庫の更新止まってる?
659名無しさん@ピンキー:2009/10/31(土) 00:52:56 ID:2r62Fapm
だから誰でもできるというのに(^_^;)
660名無しさん@ピンキー:2009/10/31(土) 02:22:14 ID:92yCEbF0
>>601
GJ!小学生時代の台詞かっこよすぎ
>>652
GJ!
もしお菓子用意してたらどうなってただろうなww
661名無しさん@ピンキー:2009/11/01(日) 04:15:45 ID:WJKzmMzp
桜の幹、作者飽きちゃったんだろうか.....
662名無しさん@ピンキー:2009/11/01(日) 08:45:24 ID:6f5liyle
たぶん規制だろ
663名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 05:11:40 ID:3KcRw/jC
いや、間違いなく飽きたんだろ。
664名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 13:26:56 ID:6FsfJWVu
心理学者ならヤンデレを理論武装で手なづけられる。
自分への執着を対話によって上手く解いて、何時の間にか恋が愛に変化。これじゃヤンデレじゃないか
引っ張って引っ張って最後に論破ぁ ってのもいいな。ま、刺されるんだが
665名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 21:25:16 ID:9CsILaGV
>>664
心理学に変な幻想をもつのやめな
666名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 22:10:08 ID:YoybVsY+
大学生「ヤンデレさん! ノート目当てで擦り寄ってくるあの女どもをどうにかしてくれ」
667名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 22:21:00 ID:YoybVsY+
ヤン大生「なんでゼミが必修なの…弁当一人で食べて友達0人の私には地獄だわ」
ヤン大生「人付き合い苦手なくせに調子乗ってサークルとか入るんじゃなかったわ
      あからさまに女漁りに来てるやつばっかでめんどくさい・・・」
ヤン大生「私最初トイレでご飯食べてた。それか誰もいない公園の駐車場に車停めて
      お母さんの唐揚げ弁当…涙の味がしたな」

男大生「定期試験直前になると『ノート見せて』『出席カード出しておいて』『プリント取っておいて』と俺人気者」
男大生「ゼミ終了後みんな時間空いてるし全員で飯行くか!ってなった時自分だけ行きません、と言うのも空気悪いし
     かといって特に話すこともなく付いて行くのも辛かったりするんだよな」
男大生「講義になると、俺の周り半径3席が空席になるんだけど」

男大生「おっ」
ヤン大生「あっ」

孤独な二人が出会って愛が芽生えた。
668名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 22:46:47 ID:/Wqeyh57
>>664
会話が通じない相手に理論で語っても無意味。病んだ言葉様に理論武装で戦えるか想像してみ?
669名無しさん@ピンキー:2009/11/03(火) 02:44:19 ID:4goAkacH
心理学やってる連中が相手を説き伏せたりなんてするか?
あいつら性質の悪い狐狸の類みたいな連中だぜ
670名無しさん@ピンキー:2009/11/03(火) 03:22:07 ID:T/yjXypI
女の精神科医が心理学を学びすぎて逆に取り込まれて病んじゃったりとか
671名無しさん@ピンキー:2009/11/03(火) 05:56:47 ID:Uppn6wIO
精神科医自身が鬱病になったりすること多いらしいしなw
672名無しさん@ピンキー:2009/11/03(火) 17:23:04 ID:d/bgxpjj
規制はいつ終わる?
673名無しさん@ピンキー:2009/11/04(水) 10:21:43 ID:zY6h5SfF
言葉様「何を言おうと誠君の彼女は私なんですから」
  誠「男も女も所有物ではない。よって所有格を使うのは不適当」
   
  誠「桂じゃなく、言葉と呼べと?」
言葉様「そうです、ぜんぜん違います!!」
  誠「呼び名は音、それを解釈して、その人だと互いが分かる名称なら呼び名の役割を果たせているの。
    そこにお前みたいな視点から、定義を加えて、意味づけし、それを当たり前といって俺に押し付けようと
    するのは筋違い。お前をどう呼ぶかどうかは俺が決める」

言葉様「西園寺さん達は幸せになれないと思います。私がさせませんから」
  誠「幸せはなるものでも、させるものでもなく感じるもの」

言葉様「死んでください」
  誠「お断りします」

他になんかあった?
674名無しさん@ピンキー:2009/11/04(水) 18:52:17 ID:gZemXicX
ごめんねヤンデレ…素直クールに浮気なんてしまって…
やっぱビッチじゃないヤンデレが一番可愛いな…
675名無しさん@ピンキー:2009/11/04(水) 18:58:36 ID:7FuOMccd
最近ヤンデレに飽きてきた
やっぱり明るくて可愛い子が良いわ
676熱くなれよ!:2009/11/04(水) 21:30:50 ID:YsHUAIrl
 私は恋をしている。
 相手は私の所属するテニス部の先輩。
 長身で、ルックスが良くて、女の子なら誰もが憧れる男性。
 その先輩に一目惚れをして、テニス部に入ったのだ。

 私には凄く勇気が要ることだった。
 私は人見知りも激しいし、運動も苦手だ。しかも高校入学から既に大分経って、もう新規入部する者は一人もいない時期だった。
 それでも恋の炎に突き動かされて、勇気を出して入部し、可能な限り先輩に近づくための努力をした。
 それでやっと先輩と話せる程度の仲になり、遂に告白した。
 OKを貰い、最初のデートで肉体関係を持った。
 悲願を私は叶えたのだ。

 だが、幸せはほんの少ししか続かなかった。
 先輩は他のかわいくて有名な女の子とも肉体関係を持っていたのだ。
 私は何度もあの泥棒猫と別れるようにお願いをした。
 何度も電話を掛けた。後を尾けた。
 しかし先輩は聞く耳を持たず、しまいにはお前みたいな重い女と付き合うんじゃなかったとまで言われ、話もしてくれなくなった。
 残された方法はたった一つ。あの雌犬を殺すしかない。
 でも――――。
 それが出来なかった。
 何度やろうとしても体が動かなかった。それを繰り返す内、遂に結論に行き着いてしまった。
 
 諦めよう。
 そうだ。
 もう私には無理なんだ。
 私には。

 私は部員が既に帰ったテニスコートの中で一人体育座りをし、ひたすら泣いていた。
 そして全てを諦めようとしたその時だった。

『諦めんなよ』

 え?
 どこからか声が聞こえた。それも頭の中に直接語りかけられるような不思議な聞こえ方だ。
 私は顔を上げた。
『どうしてそこで止めるんだ、そこで! もう少し頑張ってみろよ。駄目駄目駄目駄目諦めたら!』
 そこにいたのは半透明の男だった。
 幽霊のように背景の景色がその男の体を透けて見えていた。
「…………」
 普通なら戦慄すべき状況だろう。が、私は恐怖をさほど感じなかった。
 驚かなかったわけではない。ただ恐怖をかき消す程、その男は何というかハイテンションで――やけに暑苦しいのだ。
677熱くなれよ!:2009/11/04(水) 21:31:37 ID:YsHUAIrl
 年は四十歳代くらいなのだろうか。よく見るとテニスプレイヤーなのか、テニスルック姿をしている。そして、異性交遊という不純な理由でテニスをしているような輩とは全く違う、体育会系スポーツ馬鹿のステレオタイプのような汗臭い空気を醸し出していた。
 私は聞いたことないが、もしかしてこのテニス部には無念の死を遂げた熱血コーチとかが居たのだろうか。

 私は恐る恐る幽霊に聞いた。
「あの。あなた、一体誰ですか?」
『俺かい!? 俺はね、テニスの神様だよ! テニスの一流プレイヤーにして、現在は指導者だ! 今日は悩んでいる君の事を応援するために来たんだ! だから君にだけは俺の姿が見えるんだ!』
 テニスの神様――――なるほど。
 何故か納得がいった。確かにまるでオリンピック選手のような貫禄を感じさせる所があり、どこかで見たことがある気がする。案外すごい人なのかもしれない。だが、しかし――――。
「あの、テニスの神様さん。」
『なんだい!?』
「私の悩みはテニスじゃなくて、恋愛なんですけど……。あなたじゃ役に立たないと……。」
 私は冷静な突っ込みを入れて、勝手に燃え上がる炎に冷や水をぶっかけた。しかし目の前の自称テニス神の炎はまったく衰えない。彼は暑苦しい笑顔で私に言った。
『大丈夫! どうにかなるって! Don't worry!』
「いや……どうにかなるって……」
『それよりさ、君。好きな先輩の事諦めようと思ってんの?
 泥棒猫をSATSUGAIするの、諦めようとしてんじゃないですか?』
 この男は全く私の言う事を聞く気がないらしく、勝手に話を進めていく。だが何の根拠も無いにも関わらず、理屈を丸ごと飲み込んでしまうような迫力があった。私はその勢いに呑まれ、つい返事をしてしまう。
「え……は、はい。」
 私が力無く答えた途端、自称テニス神の瞳が熱く燃え上がった。怒濤のマシンガントークが始まる。
『諦めんなよ! 諦めるなお前! どうしてやめるんだ! そこで! もう少し頑張ってみろよ! 駄目駄目駄目駄目諦めたら! 周りのこと思えよ! 応援してくれてる人達のこと思ってみろって! 俺だってこのマイナス10度の中シジミが取れるって頑張って――――』
 まったくデリカシーの無いスポ魂的発言の上、意味不明な事まで言っている。中々人に意見の言うことの出来ない私だが、これには思わず抗議した。
「こんなストーカー女を応援してくれる人なんてどこにいるんですかっ……!」
『そりゃ決まってるだろ! モニターの向こうからヤンデレスレのみんながお前にヤンデレになって欲しいって応援してんだよ!』

 ちょwwおまwwそれメタ発言ww
 ――まあそれはともかく。
 何はともあれ私の心の底からはこみ上げてくる何かがある。私は段々この自称テニス神の熱意に呑まれつつあった。
 今度は浪花節で、私に同情するように語りかけてくる。
678熱くなれよ!:2009/11/04(水) 21:32:39 ID:YsHUAIrl
『恋はさぁ、冷てぇよなぁ。惚れた男は君の思いを……感じてくれねぇんだよ。どんなに頑張ってもさぁ、なんでわかってくれねぇんだよって思う時あるのよね…………。俺だってそうよ。熱く気持ちを伝えようと思ったってさぁ、『お前熱すぎる』って言われるんだから。』
『でも大丈夫! ヤンデレの気持ちをわかってくれる人はいる!
 そう! 俺について来い!』
 ぴきーん。
 TV番組で使われるような効果音が聞こえた。催眠術師が両手を叩くとたちまち人が催眠に落ちるように、瞬時に私の中に熱いやる気が滾った。
 どこにこんな力があったのだろう。
 体が熱い。何でも出来そうな気がする。
『もっと熱くなれよ! 人間熱くなったときがホントの自分に出会えるんだ! 』
 何で迷っていたんだろう。
 そうだ、私は――――
「……諦めたくない。」
『そうだ!』
「私は先輩を絶対に渡したくない!」
 私は思い切り叫んだ。
『そうだ! お前、昔を思い出してみろよ!』
 テニスの神様は何かを指さす。その先に見えるのは富士山だ。この高校は富士山の麓にあり、その山肌の細かな模様まではっきりと見えるのだ。
『富士山のように、先輩の一番になるって誓ったんだろ!』
『今日からお前は! 富士山だ!』
「――はい!」



 それから数日後、私は暗い取調室の中に居た。
 殺人未遂で逮捕されてしまったのだ。
 殺して死体を埋める計画だったのに犯行をしくじってしまい、殺すことすら出来ないまま通報されてしまってこのざまだ。
「お前はとんでもないことをしでかしたんだ。親が泣いてるぞ!」
「そうだ! そんなことして好きな先輩が振り向くとでも思ったのか? ん、どうなんだ?」
 狭い取調室の中、強面の男に繰り返し罪を責め立てられ、どんどん心が追い詰められていく。正直今はもう先輩のことなどどうでもよく、ただ刑事達の尋問に泣くことと頷くことで答えるしか出来なくなった。
 そして今もまた、尋問された私はただ反省の言葉を述べる。
「私はなんて取り返しのつかないことを……」
『お前、何言ってんの?』
「…………」
『お前、失敗やだとか思ってんじゃねーのか? 失敗は自分をどんどん成長させてくんだぞ! 今日から失敗したら、ガッツポーズだ!』
 何がガッツポーズだ。
 何故かよりによってこいつはまだ、私にくっついたまま離れようとしない。私はもう先輩のことは諦めたってのに、諦めんなよ、諦めんなよと、私の耳元でひたすら四六時中囃し立ててくる。
679熱くなれよ!:2009/11/04(水) 21:33:42 ID:YsHUAIrl
『頑張れ頑張れ出来る絶対に出来る積極的にポジティブに頑張れ
 もっとやれるってやれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ――――』

 しばらくすると刑事達は出前を取ったらしく、店屋物の丼を持って来て私に勧めた。
「ほらカツ丼だ。これでも食べなさい。」
 大きなカツと、その下には山盛りの白いご飯が詰まっている。
 だが食欲などあるはずもなく、私は首を横に振った。
「……いりません。」
 またも耳障りな声が頭に響く。
『お米食べろ!』
680名無しさん@ピンキー:2009/11/04(水) 21:34:57 ID:YsHUAIrl
投下終了。

つい、修○公認祭りに熱くなって思いつきで書いた。反省はしていない。
681名無しさん@ピンキー:2009/11/04(水) 22:22:11 ID:a/b9vZ+3
ぅおいっ!!それヤンデレやなくてただの地縛霊やないかい!!つーかオチがねぇwww
682名無しさん@ピンキー:2009/11/05(木) 01:07:05 ID:9yF/mWH5


>>681
落ち着け
683名無しさん@ピンキー:2009/11/06(金) 00:19:32 ID:gqruwoDg
GJだぜ!
684名無しさん@ピンキー:2009/11/06(金) 01:33:43 ID:AlJVNfNh
これはいろんな意味でニコ厨乙
685名無しさん@ピンキー:2009/11/06(金) 17:39:54 ID:RdadJsBZ
普通っぽい女の子が修○のせいで…ということに泣いた。
686名無しさん@ピンキー:2009/11/06(金) 19:07:06 ID:Q8ev/iLF
タイトルでなんとなく予感はしてたけど、『諦めんなよ』で完全に吹いたwww
687名無しさん@ピンキー:2009/11/06(金) 20:29:51 ID:Xz07sf1H
ヤンデレが泥棒猫をキーボードで殴ると、キーと泥猫の歯が飛んで『F』『U』『C』『K』『Y』『O』『U』(歯) 『B』『I』『T』『C』(歯)『H』と空中で並ぶことだろう
688名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 00:07:22 ID:IgpybYSj
少しうるさいぐらいの古参がいた方がいいと思える流れ
689名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 00:32:42 ID:C3/jYT5u
mixiのヤンデレコミュは既に開設当時からアレだし
あそこに次ぐ歴史があるこのスレまでこんな状態だと
自サイトに篭りたくなるのもよくわかる

というか最近何なの
アニメで猟奇的なシーンが流れるとすぐにブログでヤンデレヤンデレ騒ぎ始めるし
テレビのワイドショーやら少女漫画・雑誌の特集でヤンデレ取り上げられるし

糞食らえ
690名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 00:35:21 ID:ylUX/nv4
このスレだって最初のころはホモコピペ張られまくりで酷かったあれがスレ初作品になるのか
691名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 01:12:55 ID:gD/CvkDI
>>689
まー、言いたいことはよく分かるがもうちょい言葉は選ぼうな
拡大解釈されていることには禿げ上がるほど同意だ
692名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 02:17:47 ID:o8cwLsJg
想いと狂気が点滴の様にじわじわクルのがヤンデレの特徴。
最初から頭逝ってるのとは別物だと思う。   

まともな娘が愛ゆえに段々変質していく様には興奮を禁じ得ない  
693名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 02:55:06 ID:VHhwew2u
どんだけ同じこと繰り返し言ってんだって言いたくなるが、言わないとダメな時ってあるよな
過程ぶっ飛ばして最初っから頭のネジぶっ飛んでるのをヤンデレっつってもなあっては思うし
ヤンデレとメンヘラごっちゃになってるやつもいるだろうね
定義があやふやとはいえ勘違いが多いのは事実。それをどうするかが問題だと思う

下手にこういう話題すれば自治房云々と荒れるし議論してもウザイと言って荒れる
かといって荒れるのを恐れて黙っていれば勘違いが増長する。多少荒れてもハッキリしとくべきとは思うよ
少なくともどこぞのスレみたいに荒廃したりはしないだろうしね
694名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 09:09:02 ID:syiNqKzC
ヤンデレな彼女 って本を買ったら、ヤンキー四コマだった
695名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 09:38:52 ID:B+YCcAb2
私はヤンデレの無意識的な経験と考え方の選択の仕方に関心を持ったんだ
周りの考え方をもろ鵜呑みにしたような問題提起とその問題視した物事、出来事のある視点から見た非効率的な
解決方法の選択。感情に自己責任を取らずに、他者に押し付けようとする責任転嫁っぷりw
次第に、狭める視野と強化された執着。その非効率的な解決方法を実行に移す際に発揮される論理的な戦略や駆け引きや
自由概念の独特な解釈。「激しい」妄想と自己投影、筋を違える度に増殖する欲望とそれにより不安定になっていく
精神、さらには──(ry
696名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 10:41:07 ID:00t1FlpZ
ヤンデレって、すごく心の弱い子なんだと思う
697名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 11:05:01 ID:v1qMZCj9
貴様はヤンデレではない!
698名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 11:57:52 ID:6clQRw++
.自治厨がギャーギャー騒ぐから段々人減ったんだと思うけどなあ。
初期の住人がおおらかだった頃の方が人多かったしスレ賑わってたしSSも多かったし面白かったよ。
何かあるたびに「ヤンデレじゃねえ、引っ込んでろ」って叩いてたらそりゃ人も減るわ。
699 ◆1boupGu7tRVw :2009/11/07(土) 12:36:46 ID:ugR8nC3i
>>694
よう俺
700名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 12:38:10 ID:/TyzRNC/
>>698
最初期でもヤンデレじゃねぇはあった
ただスルースキルを備えてる奴が多かっただけのこと
701名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 12:46:48 ID:6clQRw++
そうだっけ?
でも今の噛み付き方ほどではないと思う。

>■ヤンデレとは?
> ・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
>  →(別名:黒化、黒姫化など)
> ・転じて、病ん(ヤン)だ愛情表現(デレ)、またそれを行うヒロイン全般も含みます。

テンプレでこう定義しているのも無用な論争避けるためだし
>>692-693みたいな意見時々見るけど、これ上段だけ認めてて下段は認めてないと思うんだよな
てことはテンプレ無視の個人の好みの押し付けだと思うんだけど。
702名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 12:52:31 ID:/TyzRNC/
>>701
なら両方同じこと
こいつらが批判してるのは下は満たして上は満たしてないって言ってるんだろ
だったらただテンプレ嫁でスルーすればいいだけの話
703名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 12:54:36 ID:6clQRw++
>>702
だよな、ありがとう
>>692-693が正当だ、みたいな流れになりそうで嫌だったんだ
感謝
704名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 13:02:23 ID:sjYqGJIF
おお、3行で言いたいことまとめてたら、もう解決してたようだ。

>>694 >>699
その漫画さ、表紙か帯にちゃんと『ヤンキー+デレ』って、書いてなかったか?
705名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 14:15:19 ID:C3/jYT5u
706名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 14:21:22 ID:00t1FlpZ
そーなんす
707名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 15:12:23 ID:syiNqKzC
>>705それだわ。
エロもパンツもねー、グダグダ漫画でした。
708名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 17:59:53 ID:EXugN6oL
主人公とどんな関係のヒロインのヤンデレがいい?つまり、彼女とか幼馴染とか学校、会社の同級生同僚とか
709名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 18:27:34 ID:qPm//0+J
前世の妻、義妹、幼なじみ、彼女から病むのも中々……
ごめん、妹がご飯だとよじゃあな!
710名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 19:20:23 ID:3BzNPiYQ
>>698
過疎化の根本的な原因は、「ヤンデレ」が中途半端に有名になってしまったせいでガキが増えた事。
避難所見てみろ。酷いぞ
711名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 19:28:15 ID:6clQRw++
>>710
昔からいたよ、そういう人は。それを受け入れて盛り上がってたんだけど。
てか避難所ってどこのことだよ。
712名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 19:43:51 ID:3BzNPiYQ
>>711
えっ
713名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 19:44:53 ID:6clQRw++
>>712
保管庫の掲示板か?
あれは避難所じゃないぞ?
714名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 19:50:27 ID:3BzNPiYQ
>>713
自称古参乙
715名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 20:26:36 ID:oVR3cw+d
スレとは関係なくWiki内の話し合いで作られたのに
なんでなんであそこが避難所になるんだ
716名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 20:32:18 ID:C3/jYT5u
へぇ
そんなんあったんだ
保管庫更新されなくなって以来外部とか全然見てなかったわ
717そして転職へ  13:2009/11/07(土) 21:58:30 ID:MTeA6Wkq
投下します。
718そして転職へ  13:2009/11/07(土) 22:00:02 ID:MTeA6Wkq
僕の手から放たれた紫の光はまっすぐに姫君に向かって炸裂した。
あまりの強大な魔力の放出に体がついていかず、僕の膝が崩れ落ちる。
この技は連発できない。最初の一発の不意打ちが外れた以上、多少の無理を
覚悟で使った二発目だ。これ以上は僕の魔力をもってしては火炎呪文の
一発も放てないだろう。
―でも、直撃だ!
先ほど舞い上がった爆煙の方を見て、僕は勝利を確信した。

「その考え方は実に危険でしてよ。相手の死体を確認しないでの勝利宣言は。」

煙がいずこともなく飛び去り、全く持って無傷の姫君が笑いながら立っていた。

「嘘でしょ…。何で平気なの?」

「知れたことです。わたくしがあの部屋に敷いたのは今から使う『記憶移植』の
術式ではなく『悪魔召喚』の禁術術式ですもの。闇の力を使うあなたの妨害が
予想される手前、私が複雑な『記憶移植』の術式を組み立てるのはいささか
難がありました。ですから私は悪魔と契約し、私の術が完成するまでの間
あなたのお相手をお願いしたのです。」

「そういうことです。」

姫君の横に新しい影が舞い降りた。戦闘中なので詳しい描写は省くが、悪魔だ。
しかも美人だ。

「私は今魔族に追われている身でして。人間界に私と兄さんの永遠の愛の巣を
提供してもらうことを条件に、この姫君の願いの手助けをすることになったのです。
フフフ…待っていて下さいね兄さん。逃げだせないように四肢を斬っておいたし、
人間界に逃げ込めば魔裁もそうそう見つけられないでしょう。」

悪魔は恍惚とした笑みを浮かべた瞬間、僕の背後にあっという間に回り込み
僕を地に押し付けた。今の僕の力では自力で抜け出せない。

「おやおや。どうやら魔力は空のようですね。まあ、たとえ魔力が十分にあったとしても
雷に強い私には到底かないませんけどね。」

その性質を利用してあの時姫様の盾になったのか。考えてもみれば同じ
闇の力を使う者同士、立場は対等だ。人間界で闇の力を使う僕が強いのであり
魔界の住人相手では闇の力の経験が不足しすぎているのだろう。

「しかしあなたも気の毒な方です。竜王に似てるからってあの姫君の
ターゲットにされてしまうとは。まあ、恋する乙女のやることですから、
黙って受け入れてあげてもいいのではないですか?」

ちょ!本当にそんな理由でターゲットにされていたのか!?竜王に容姿が
似ていればだれでもよかったの!?
僕はただ普通の生活を送りたいだけだったのに、竜王似の容姿といい宿命と言い
なぜ生まれながらに不幸が降り注ぐんだ!
呪われているから不幸なのか?それとも不幸だから呪われたのか?
719そして転職へ  13:2009/11/07(土) 22:01:20 ID:MTeA6Wkq
「それでは悪魔。わたくしの術式が完成するまでその身体を押さえつけていただけます?
もちろん、傷がつくのは困りますわ。」

「御意に。」

にっこり笑った悪魔は確信していた。今度こそ幸せになれると。偶然兄が転がり込んできたあの時は不覚にも逃がしてしまったが、今度は大丈夫だろう。
この姫君も信用できる。自分と同じ匂いのする姫だ。恋い慕う人を手に入れるための
契約を反故にはしないはず。
兄さんとの愛の巣、ふたりきり、ずっと一緒…。
体の奥底から湧き上がってくる煮えたぎるような熱い衝動の心地よさに
悪魔は身震いした。

「…だからさ、相手の死体を確認しないうちの勝利の確信は自殺行為。
そういったのは貴方達でしょう?」

突如、幸せいっぱいの女悪魔を黒い炎が包み込んだ。
悲鳴を挙げて炎を振り払おうとするも、魔界の獄炎はますます勢いを増す。
とうとう魔法陣を展開した女悪魔は魔界へ逃げ去ってしまった。

「馬鹿な!魔力はとうに空のはず!それにその呪文は一体…?」

驚く姫君の顔を僕は睨みつける。

「僕が『使用できる』闇の呪文は地獄のいかずちだけ。しかし、僕の『覚えている呪文』
は一種類だけじゃないよ。姫君、あなたはご存じないだろうけど、僕と父は
魔界の炎をも召喚できるんだ。魔力不足なら、術者の右腕を代償にしてね。」

「ま…まさか…。」

「右腕はくれてやる…あと、トガシなんて言うなよ。怖い人たちに怒られちゃうから。」

そう、これは物語の初めに語っていたこと。右腕から放たれる魔界の炎を黒龍の
姿へと圧縮、敵を焼き尽くす僕が父親から受け継いでいた真の切り札。
『使えない』と表現していた理由は…。

「し…しかし、勇者殿!その技を使えばあなたはあの合法的最強盗賊団
ジャス○ックに…。」

「そう。この技を使えば最後、彼らに嗅ぎつけられて僕は惨殺されてしまう。
しかし、今彼らはそれどころではないのさ。ほんの少し前彼らのところに
一通の差出人不明の手紙が届いているはずだよ。そしてその中にはある人物が
勝手にとある有名な吟遊詩人の詩を違法コピーして大量販売しているという
告発状が入っている…。まあ、本当はその人物無罪なんだけどね。よほどの
大物だから彼らの意識は全部むこうに向かっているはず。僕がこの技を
使っても、何の問題もない。」

「な…まさか罪なき人に冤罪をでっち上げスケープゴートに!?
勇者殿!人としてそのような考えはいかがなものかと…。」

「あんたに言われたくないね姫君!大体奴の首献上しないと人間と魔界の戦争が
終わらないんだよ!」

「…まあいいですわ。少々の誤算はありましたが、結果として勇者殿には
魔力も切り札ももう残っていいらっしゃらないのでしょう?」

「…できれば地獄のいかずちで仕留めておきたかったけど…。
見せてやる姫君。僕が父から受け取った最後の切り札を!」

僕はそう言って、変化の杖を振り上げた。
720そして転職へ  13:2009/11/07(土) 22:02:23 ID:MTeA6Wkq
ローラ姫の思考は動きとともに止まった。氷ついたその活動は目の前に現れた
光景によってのもの。そしてまたその光景により凍りついた時はゆっくりと
動き出し始める。
彼女が勇者のパーティに潜入した理由、三年間の綱渡りの日々の目的が
目の前で彼女に微笑みかけていた。

「りゅ…竜王!?」

もちろん目の前にいるのは本当の竜王などではない。それはこの場にいる姫自身が
よく自覚している。変化の杖による勇者の変装だということは痛いほど
分かっているのだ。自分にそう言い聞かせようとした姫は、ふと気づく。
自分の目から大粒の涙がこぼれおちていた。

「久しぶりだね…ローラ。」

目の前の竜王がにこりと微笑みかける。今まで自分が一方的に愛していた彼から
初めて名前で呼ばれたのだ。城のもの達は自分のことを『姫君』としか呼ばず、
今まで父母以外誰一人名前を呼んだことのないその名を今最もいとしい人の
姿が呼んでくれている。
足が笑い、下半身に何か熱いものがジュウとみなぎってくる。
たてない。
いつの間にやら地面にへたり込んでいた姫君は、母乳をねだる赤子のような
何か満たされない物を求めるような期待に満ちた潤んだ目で竜王を見つめていた。

「どうしたんだいローラ。僕のこと忘れてしまったのかい?竜王だよ。
いつまでもキミだけの竜王さ。」

「ふ…ふぇ?今なんておっしゃいましたの…?」

「ふふっ。わかってるくせに。全く厭らしい人だな!」

そう言って竜王の姿をした者は姫君を無理やり押し倒す。記憶の中の竜王とは
あまりにかけ離れたその行為に驚愕するのも一瞬のこと。いつも姫君が監禁生活の
中で思い描いていた本当に竜王に望んでいた今の姿に姫君は一切の抵抗なく
期待のあまりあふれ出る涙をぬぐおうともせず、上に見える竜王の顔を
見つめ続ける。
721名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 22:02:47 ID:o8cwLsJg
病んじゃって依存度合いが酷い女の子と、何処にでもいそうな女、どちらが危険なんだろう?

前者はブチ切れて監禁コース
後者は結婚詐欺師かもしれない…
722そして転職へ  13:2009/11/07(土) 22:03:50 ID:MTeA6Wkq
「…僕と少し話しただけでココは大変なことになっているよ?姫君のくせに
まるで娼婦のような厭らしさじゃないか?まさか、自分を満足させてくれるのなら
別にどんな男でもいいってことかい…?」

眉をよせてちょっと悲しげな表情を浮かべてみせる竜王。そのあまりにも
あからさまな釣り餌にも今の姫君は食いついてしまった。

「ち…違います!わたくしそのようなふしだらな女ではありませんわ!
わたくしは…竜王、あなただけのローラです!」

「その言葉信じていいのかい?なら、後ろを向いて厭らしく僕にねだりなよ。
『すぐに濡らしてしまう厭らしいメス犬にどうぞぶち込んでください』って。
上手に言えたらキミが今いちばん望むことをしてあげてもいいよ。」

姫君の思考はもはやオーバーヒートして理性が本能に追いつけない状態になっていた。
期待のあまり震える足腰に鞭打ちなんとか体制を整えると、腰を高くあげ
羞恥と期待で真っ赤に染め上げた顔、その形の良い唇から言葉を紡ぐ。

「す…すぐに濡らしてしまう厭らしいメス犬にどうぞぶち込んでください!
お願い!お願いしますぅ!」

竜王は満足げに微笑んで、姫君の耳元に顔を近づけ甘い声色で囁いた。

「いいかローラ。これから君は一生僕の奴隷だ。三年前とはわけが違う。
毎晩全力で愛してやる。僕なしでは片時もいられないくらい愛欲と依存に満ちた
王族のものとは思えぬ位あさましいメスに変わるんだ。二足歩行の日々も
今日限りで終わり。今から徹底的に君を愛して二度と足腰立たなくなり
四つん這いで過ごさなくてはならないほどにしてやるよ。
別にいいだろ?だって僕は君を愛しているんだから。」

これこそ、姫君にとって天地がひっくり返るほど驚愕の、そして心に望んでいた
言葉だった。もはや声も出ず意味をなさないあえぎ声をあげ、ただ首を全力で
縦に振る姫君を見て…。

「じゃあ僕だけのローラ。約束通りぶち込んであげる。」

竜王…の姿の勇者こと僕はそう言いつつ、手元にこっそり寄せておいた長くて、
硬くて、黒くごつごつと節くれだった木の棒を振りかざし…。

ポカーン!
723そして転職へ  13:2009/11/07(土) 22:05:04 ID:MTeA6Wkq
「父から渡されたのは変化の杖ともうひとつ、姫君に関する父の考察さ。」

後頭部に僕の一撃をぶち込まれ伸びている姫君に僕は独りごちた。

「母さんという人間の本質を見抜けなかった父はさすがに反省したみたいでね。
潜伏中もずっと人を見る観察眼を養う訓練をしていたのさ。姫君と戦ったあの時、
父はあなたにそっち系の属性があることを何故か見抜いていたんだよ。
そして、僕は勇者やキングスライム、あるいは王族など限られた血筋にしか
使えないディン系の属性をもつ魔法使いさんの正体があなたであることを
ある程度感づき、父に打ち上げて、対策を練った。もっとも、あなたのこの
目的や盗賊くん達が手駒と化していたことまでは分からなかったけど。」

ひめぎみからへんじがない。ただきぜつしているようだ。

「相手の隙を誘発するのは戦いで重要な一手だからね。悪いけど、竜王の姿を
使わせてもらったよ。卑怯だと思うかい?別にいいんだよ。
勇者って言うのは、正々堂々魔物を蹴散らし、伝説の防具に身を固め、世界中の
人々のために正義を背負う人間のことじゃない。
誰かのために、日夜小さな努力を積み重ねられる人のことを言うんだ。
…上記のとおり、己のために戦う僕は勇者なんかじゃない。だから
どんな卑怯な手も平気で使えるんだよ!」

仮とはいえ、一応勇者を名乗っていた人間にあるまじき暴言を吐いた僕は
姫君に背を向けると、湖畔に置いてきた僧侶ちゃんや盗賊くんのもとへ駈け出した。
こうして、僕の短い旅の割には強すぎるボスとの戦いはひとまず幕を閉じる。
そして気の抜けた僕はこの後そのツケをあまりにも高い代償で支払うことになる…。
724そして転職へ  13:2009/11/07(土) 22:06:00 ID:MTeA6Wkq
オチ1
人間界の隅、人はとても近寄れないような山の中にこっそりと建てられていた
館の中では惨劇が起きていた。勇者が姫君と戦っているころの話…。

「ひぃ!?たっ…たすけてくれえ!」

情けない声をあげ、地を四つん這いになりはいずり逃げ回る魔王バラモス。
その後ろには、黒い服に赤いリボンタイに身を包み、うつろな目をした少女たちが
手に鈍い光を宿した剣を片手に獲物を追い詰めていた。

「どうしてここが分かった!?何故わしを狙う?」

「タレこみがあった…あなたは違法にコピー品をばらまき、著作権を侵害した…。」

「し…知らん!本当に知らないぞわしは…。頼む…みのがしてくれ!!」

「…問答無用。」

そこに残っていたのは阿鼻叫喚の地獄絵図。
行為の終わった少女たちは、その場でうつむいたかと思うと不意に肩を笑わせ…。

「ふふ…あは…あははははっはははははは!!やったよ!殺してやったよ!
著作権くんを馬鹿にする奴を殺してやったよ!剣でグサリと!ザシュッと!
原型ないほどにばらばらあははははっはははははははっははははっはははは!
そうだよ簡単なことじゃない!著作権くんは私たちが守るんだから!
弱く儚い著作権くんは私たちがいないと駄目だから!私たち以外では駄目だから!
著作権くんを侵害する虫けラドモハバラバラノグサグサハハッハハハッハッハハハ!
著作権くん著作権くん著作権くん!
ず〜っと ず〜っと 我らジャス○ックの側にいてね。ずっと守ってあげるから。」

後日、原形をかろうじて残していたバラモスの首を人間界は魔界に渡し、ここに
人間と魔族の三年にわたる戦いが終わった。


オチ2
とある町の船着き場で船が今出ようとしている。小さな船に乗り込むのは
十七、八の年頃の少女だ。

「にしてもお嬢さん。あんな小島に何の用だい?あそこにはだーれも住んじゃいねえ。
一人ぼっちのちーさな島さ。」

「ええ。ですからあそこに住むのです。」

妙な女だ。船頭はそう首をかしげる。

「確かに魔物は少ねえけども、一人ぼっちじゃ辛かろうに…。」

「一人じゃありません。ずっと夫と一緒です。」

彼女はそう言って、血の色のように赤く光る首元の魔法陣をそっと撫でた。
それっきり、彼女がどうしているのかは誰も知らない。
725そして転職へ  13:2009/11/07(土) 22:07:10 ID:MTeA6Wkq
オチ3
結局、転職はできなかった。勇者をやめるなど許されないことなのだそうだ。
とはいったものの、魔界の戦争も終焉し暇になった僕は旅に出ることにした。
今度の旅は、幻のアイテム『世界樹の葉』を捜すためのものだ。
姫君の禁術から僧侶ちゃんと盗賊くんは救い出せたものの、二人とも
禁術を使われた影響でさっぱり眼を覚まさない、
そこで僕が思いついたのは例のアイテムだ。驚異の癒しの力を持つというこれなら
禁術の爪後も洗い流せる…僕はそう考えたのだ。
それから一年…。

「ケモノオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

うりゃ!
気合いとともに繰り出した一閃で魔物を倒した僕は、眼下の霧深く立ち込める海を眺める。
そして崖の上に立ち、目を細めながら僕は海の向こうにある島に思いを飛ばした。
いろいろ情報をあつめ、ついに確からしい情報をつかんだのだ。この海の向こう、
大海原にぽつりと存在する島にある木が幻の世界樹だと…。

「魔物退治で懐具合も改善したし…そろそろ船を借りられるかな?」

町に行って交渉してみようと、僕がその場を立ち去ろうとした時…。

「勇者さぁん…。」

「勇者…。」

懐かしい声がした。
二人分の足音とともに、耳に入ってきた僕がもう一度聞きたかった声…。
黒い長髪と、ふわふわのショートヘア。
一年前から止まっていた歯車が、僕の中で力強く回り出した。
もう二度と止まらない。そんな思いが伝わってくる力強さで…。

「僧侶ちゃん!!盗賊くん!!」

僕は二人の元へ駆け寄り、二人をギュッと抱きしめた。

「良かった!目が覚めたんだね!?よかった…本当によか…っ?」

おなかがあつい。ふたりからはなれぼくはじぶんのおなかをみる。
ないふがにほんぼくのおなかにつきささっている。ちもでているようだ。
あれ?このないふ、そうりょちゃんととうぞくくんのものじゃないか?
どうして?ねえそうりょちゃん、とうぞくくん。だまってないでなにかいってよ。
ねえどうして…ねえ…。
726そして転職へ  13:2009/11/07(土) 22:10:37 ID:MTeA6Wkq
目が覚めると…この書き出しを見て僕は安心した。
なんだ。夢オチか。いつもは手抜きだと批判したくなるこの手法も、嫌な
夢を見てしまったあとでは自然に笑いがこみあげてくる。
ひどい夢だ。多分僧侶ちゃんと盗賊くんへの想いの強さで、あらぬ状況が
僕の夢の中で暴れまわったのだろう。
さて、船を捜しに行くか…え!?

「勇者さん。好きぃ…。」

「むっ…ちゅぱっ…勇者…ずっと一緒…。」

信じがたいことに、僧侶ちゃんと盗賊くんがそこにいた。
僧侶ちゃんは僕の胸のあたりをしっかりと廻した手でホールドし、頬を僕に
幸せそうにすりよせている。
一方の盗賊くんはというと、僕の右手をとりその指を愛おしそうに丹念に
舐めまわしているのだ。

「勇者さん…。あの時はひどい事をしてごめんなさい…。怒ってますよね。
だから私達が眼を覚ました時、そばに居てくれなかったんですよね。」

「勇者…あの時のことは反省しているんだ。お前に刃を向けた私の事を
怒るのは無理無きことだが…さみしかったよぅ…。」

涙声になりながら僕に訴えかけてくる二人。だが僕の頭はそれに追いつかない。
この目の前の二人が夢じゃないのなら、あの時僕はどうなったんだ?
僕は腹に手をやる。そこにはまだ完全に塞がっていない傷跡の感触が感じられた。

「…私たち考えたんです。このままの関係を続けていたら、想いがすれ違い
いつかみんなが壊れてしまうって。」

「それは絶対に避けねばならないこと。そこで目を覚ました私達は一つの
結論に至った…。それがこれだ。」

盗賊くんが指さす先…僕の周りの床。それを見た僕は…
死にたくなった。
727そして転職へ  13:2009/11/07(土) 22:11:24 ID:MTeA6Wkq
黒く染め抜かれた魔法陣。この一年で多少なりとも魔術の心得がついた僕には分かる。
あまりにも有名な禁術…それは

「死人呪文…ネクロマンシー!?」

「そうですよ。」

僧侶ちゃんが僕に抱きついた。そして僕の身体を蛇のようにゆっくりと撫でまわす。

「あの時、勇者さんをこの手で殺して二人でこの呪文をかけました。知っての通り
よみがえった人間は、術者に対して絶対服従なので。死後すぐ術をかけないと
いけないのが難点ですが、うまくいったみたいで良かったです♪
あ、安心して下さい。ちゃんと永久腐敗防止呪文もかけてありますから。
ゾンビみたいな魔物にはなりませんよ。」

僕の中で動き出していた歯車が、乾いた砂となり消えていく。
そんな…こんなのってないよ!

「さあ勇者。言ってくれ。お前は私たちの何だ?」

僕の口が意識とは裏腹にしゃべりだす。

「僕は…僧侶ちゃんの…よき夫であり、盗賊くんの…永遠のパートナーです…。」

僧侶ちゃんと盗賊くんの顔が、今まで見たことがないくらい輝いた。

「じゃあ、命令です。…私たち二人を愛しなさい。一生そばに居なさい。
ずっとずっと、一緒です。」

「ずっとずっと…一緒…です。」

力なく繰り出された言葉は、僕の旅の終わりを静かに締めくくった…。


                           おわり。
728そして転職へ  :2009/11/07(土) 22:14:03 ID:MTeA6Wkq
以上、誰も助からないバッドエンドでした。
今回で最後です。お付き合いいただきありがとうです。
正直、他の作者さんみたいにうまく伏線を
まとめきれなかった節は見受けられますが…
どうか生暖かくスル―してやってください。
729名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 22:24:48 ID:EAWUoW1i
>>728
GJ!無事(?)に完結して良かったです
730名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 00:37:48 ID:pZGPuB6n
>>728
GJ!!
素敵なラストをありがとう!
731721:2009/11/08(日) 01:01:05 ID:r+jXiGH7
GJ!!!!! なんつーか突っ込み所&ネタ満載で面白かったです。



…スレの空気を変えるためのネタを落としたら割り込みになってた。本当にすみません! 
732名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 01:19:29 ID:+ac1lUO+
なんだハッピーエンドか
733名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 01:31:41 ID:+SuQrdya
ブサイクとヤンデレの組み合わせはどう思う?
734名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 01:32:30 ID:1Fyqx5QN
上げてまで言うことかね
735名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 01:49:09 ID:+SuQrdya
>>734
新参ですまない 参考程度に聞きたいんだ
736名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 02:18:53 ID:8eBnOxPL
不細工にするんならとことん不細工にした方が面白そう
737名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 08:25:07 ID:+SuQrdya
主人公がオタク+ブサイクだが、心優しい青年という設定はどうかな?
738名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 08:48:52 ID:cUUqWZkH
>>715
避難所として使われてるなら避難所でいいんじゃね? レス代行スレあるし
739名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 09:03:55 ID:gFmzCJJz
作った本人がいうけど避難所じゃないよ(^_^;)
740名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 11:50:58 ID:cUUqWZkH
>>739
運営系の誰かがその顔文字使ってたな
741名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 12:16:57 ID:gFmzCJJz
マァヴ(^_^;)

最近ニダーランやってるからついつい使いたくなっちゃうのだ(^_^;)
742名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 20:48:22 ID:pMJGqgvT
テレビ番組見てたんだけど浦島太郎の乙姫様ヤンデレだったのかよ…
743PKOネタ:2009/11/08(日) 20:49:04 ID:r+jXiGH7
「いってらっしゃい。必ず帰って来てね。」
「ああ、任期満了してここに帰るよ。」
半年後…第●次国境監視部隊任期満了
「ただいま、いやー中東は暑かった。ここじゃあ雪降ってるからびっくりしたあ。」
「お帰りなさい。お勤めご苦労様、寂しかったんだよ…」
「ごめんな。そろそろ結婚しないか?同期の奴ったら任期中ずっと奥さんとののろけでさあ…」
結婚後半年。また別地域のPKOに派遣
「行ってきます。帰ってくる頃には出産だなあ。ごめんよ、側にいられなくて。」
「ホントに気をつけて。あそこまだ紛争やってるのよ!無事に帰って来てね。」
42日後
“次のニュースです、第●次兵力引き離し活動隊の宿舎に迫撃砲が撃ち込まれる事件が…”
「え…まさかね…負傷者いたんだ…あの人だったらどうしよう…帰ってこなかったらどうしよう…」
出発から65日目
「あの人が無事でいますように…もし何かあったらわたしのせいだ…」
「そうだ、そうすれば良かったんだ。だったらこんな心配する事も無かったんだ…フフフ」
紛争終結・引継終了、帰国
「ただいま。うおっ…どうしたんだ、そんなに寂しかったのか?」
「寂しかったよう、もう何処にも行かないでよぅ!」
744PKOネタ:2009/11/08(日) 20:58:31 ID:r+jXiGH7
「ちょっ…お前何した…凄く眠い…」
「これで私とこの子と一緒に暮らせるね。もう演習とか無いんだよ?」
義父が息子の謎の無断欠勤に気づき官舎を訪れたとき、娘夫婦は居なかった。
        終
 
海外派遣から帰って来て嫁が病んでたらイヤだな。
745名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 22:18:28 ID:KW7ZtnQx
軍人でなくても海上保安庁とか村の駐在さんとかでもヤンデレ
はできそうだな。
特に駐在さんなんかだと職務の関係で村の住人とコミュニケーション
取らないといけないし。
746名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 23:38:28 ID:ibW6/1VG
しかしな、最近は良作が少なくなってきたな。
スレ見るより、何度も読んだ保管庫のほうが面白いこともあるよな

個人的には沙耶みたいのが本当のヤンデレだと思うんだよな

あ、一つ訂正だが、タイミングがこれだったってわけで、決して>>743を批判してるわけじゃないぞ
747名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 23:39:48 ID:hyc1Kd35
     /: : : : : __: :/: : ::/: : ://: : :/l::|: : :i: :l: : :ヽ: : :丶: : 丶ヾ    ___
     /;,, : : : //::/: : 7l,;:≠-::/: : / .l::|: : :l: :|;,,;!: : :!l: : :i: : : :|: : ::、  /     ヽ
    /ヽヽ: ://: :!:,X~::|: /;,,;,/: :/  リ!: ::/ノ  l`ヽl !: : |: : : :l: :l: リ / そ そ お \
   /: : ヽヾ/: : l/::l |/|||llllヾ,、  / |: :/ , -==、 l\:::|: : : :|i: | /   う う  前  |
.   /: : : //ヾ ; :|!: イ、||ll|||||::||    ノノ  イ|||||||ヾ、 |: ::|!: : イ: ::|/   な 思 が
   /: : ://: : :ヽソ::ヽl |{ i||ll"ン    ´   i| l|||l"l `|: /|: : /'!/l     ん う
 ∠: : : ~: : : : : : : :丶ゝ-―-      ,  ー=z_ソ   |/ ハメ;, :: ::|.   だ ん
   i|::ハ: : : : : : : : : : : 、ヘヘヘヘ     、  ヘヘヘヘヘ /: : : : : \,|.   ろ な
   |!l |: : : : : : : : :、: ::\    、-―-,      / : : :丶;,,;,:ミヽ   う  ら
     丶: :ハ、lヽ: :ヽ: : ::\__  `~ "      /: : ト; lヽ)   ゝ
       レ `| `、l`、>=ニ´        ,  _´ : :} `   /
         ,,、r"^~´"''''"t-`r、 _  -、 ´ヽノ \ノ   /    お ・
       ,;'~  _r-- 、__     ~f、_>'、_         |  で  前 ・
      f~  ,;"     ~"t___    ミ、 ^'t         |  は  ん ・
      ,"  ,~         ヾ~'-、__ ミ_ξ丶     |  な  中 ・
     ;'  ,イ ..          ヽ_   ヾ、0ヽ丶    l         /
     ( ;":: |: :: ..          .`,   ヾ 丶 !    \____/
     ;;;; :: 入:: :: ::      l`ー-、   )l   ヾ 丶
     "~、ソ:: :い:: :     \_  ノ ,    ヾ 丶
748名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 23:43:09 ID:rqKKIkBd
それ使い方ちゃう
749名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 01:33:51 ID:frnvpFxt
ここの平均精神年齢、平均年齢が低下しているんでしょう
どこでも草生やしてレスするやつとか酷い
750名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 01:54:51 ID:jRfxSdmF
住民の質は知らんけど作品の質は別に低下してないと思うけどな
具体的なタイトル出すのは荒れる元になるから控えるけど最近の作品だって良作は多いと思うし
それに>>746みたいな書き方だと最近の作品を書いてる人が良い気分しないでしょ
751名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 02:09:33 ID:epzczZKN
>>749
とりあえず、sage覚えてから言おうか
752名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 10:52:43 ID:W6twaFlx
彼女が「私、時々、我を忘れちゃうことがあるみたいなの、もしそうなったら止めてね」
と僕に頼んできたんですが、どうやって止めたらいいのでしょうか?
気が付いたら、包丁を握り締めて、笑っている彼女をたまに見ます。
彼女は僕がどうしたのって言うまで、気づかなくて、自分が包丁を握り締めていたことを覚えていないそうなんです
753名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 14:44:32 ID:M1HHOulI
病院つれてけよ
754名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 17:28:38 ID:/R0OpoLv
ほトトギす
ぽけもん黒
ヤンデレ家族
変歴伝くらいしか面白くないんだけどなんかオススメある?
755名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 17:40:49 ID:qTvyMadv
おっと、こんな大きい釣り針に引っかかるなよお前ら
756名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 17:50:16 ID:ziHa0Y5T
>>752 とりあえず静かに背後に近づき、胸をm…じゃなくて凶器を奪うんだ!
投げ技で倒してそこから寝技に移行!ショックで正気に戻ったら成功。

>>754 特定の作品名出して、「……くらいしか面白くない」と言うのは荒れる元である。
従って、ご配慮願いたい。

質問の答えとしては、自分で発掘すると良いと思うぞ。
757名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 18:47:47 ID:8ZfH9q0o
>>755
アウトー!

罰としてヤンデレに喧嘩売ってこい
758名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 18:57:16 ID:QSj8MdtN
ヤンデレスレにおける死亡フラグってどんな感じかな

「ねぇ、○○君って最近かっこよくない?!」
759名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 20:11:40 ID:GgN/PA5H
ID:QSj8MdtNみたいな奴がいるからこのスレは駄目になった
760名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 20:39:42 ID:n5jvN1a4
>>754
お前が書いてる中のやつで面白いやつが一つもないわ。
761名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 20:46:56 ID:yLzAv9BS
釣られないクマー
AA(ry
良い子も悪い子もまねしちゃ駄目だぞ
762名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 22:44:05 ID:kmrSu4LU
携帯からの投下でも、大丈夫ですか?
763名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 22:45:29 ID:tE9U7/CL
支援
764名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 23:07:14 ID:kmrSu4LU
俺の幼馴染みの「白川 刹那」は、学校でも評判の美少女だ。

髪型はショートカットで、ぱっちりとした瞳に小ぶりな鼻、桜色の唇、そして華奢な身体、

俺のボキャブラリーじゃ伝わりにくいと思うが、もの凄い美少女だ。
765名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 23:11:18 ID:kmrSu4LU
外見もいいが、性格も活発、一緒にいてこちらも明るくなれる性格だ。

でも、彼女には一つだけ欠点があった。
それは、俺みたいな奴が幼馴染みだということだ。
766名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 23:34:31 ID:kmrSu4LU
俺の名前は、天宮健一と、なんとも平凡な名前だ。

顔は、主観的にも客観的にも見て中の下、もちろん生まれてきて15年間、彼女もいない。

普通の女子は見向きもしないだろう
そんな奴と美少女が一緒にいたらどう思う?

僻み、嫉妬などの視線で俺の精神力は「もうやめて!私のライフは0よ!」状態なんだ。

heaven状態なんだ!
だから、決心した。刹那から距離を少しずつ取ろうと。

それが、アイツのためにもなるんだと。
俺は、あの時までそれが正しいと思っていた。

あの時までは・・・
767名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 23:36:56 ID:kmrSu4LU
投下終わります。時間かけてすいません
768名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 23:45:04 ID:mplHvUdJ
>>767
投下してくれるのはありがたいんだけど、出来ればもう少し書き貯めてから投下してほしい
769名無しさん@ピンキー:2009/11/10(火) 01:01:30 ID:xN+a8fFI
sageのことは分かってるみたいなのに何で本文はsageないんだろう
770名無しさん@ピンキー:2009/11/10(火) 01:04:57 ID:rFCsmSnV

最近はパロディを頻繁に使うのが流行りなんですか?
771名無しさん@ピンキー:2009/11/10(火) 01:38:45 ID:e5gUwLOk
某生徒会アニメのことかー!!
772名無しさん@ピンキー:2009/11/10(火) 02:01:54 ID:776IuoS0
ワイヤードって保管庫に在るのが最後の更新?
773名無しさん@ピンキー:2009/11/10(火) 07:59:26 ID:LW1cy54k
>>772 保管庫の掲示板には別所で作り直しとあるし、実際検索すると続いてるっぽいというのは確認できる。
774 ◆ewP6fUImNw5g :2009/11/10(火) 12:08:22 ID:cHD3KfLX
第一話 「明きら・メルは大変なものを奪っていきました」

(前略)*明きら、談。 病む前の「暗・メル」ちゃんはやはり「暗・メル」ちゃんだった

俺は明きら・メル、この物語が中心に置いている男だ。突然だが僕は大変なものを奪ってしまった。
ん? それは何かって、それはね、暗(くら)・メルちゃんの処女だ。ああ、何て事をしてしまったんだ(汗)
こんなに被造物と創造物の関係に忌々しい考え方をしたことは無い。んっ、暗ちゃんが起きたぞ。
 
「ふふふふふ、ついに奪ったわね。私の、私の処女を。責任とって結婚してもらうわよ」

暗ちゃん、君の僕に対するこだわりは、強いようだね。

「なら、僕の童貞を奪った責任はどうしてくれるんだ。これって逆レイプっていうんじゃないかな?」

そう、僕はベットに両手両足を縛られ、彼女に犯されていた。そして僕は彼女を犯していた。
中田死した。オワタ。ボクハ子供を持つ気はない。

「暗ちゃん、責任は取りたい人が取ればいいよ。僕は責任取る気なんてさらさらないし、誰かに押し付けようとも思わないよ」

「何言ってるの? この子は必ず守り通すわ。一定期間が過ぎればあとは法律がこの子を守ってくれる。貴方は私のものよ」

僕はもう明らめた。何故なら僕は明きら・メルという存在だからだ。
明らめるには一度、暗めることを認め、明らめることを明らめる必要がある。そう、僕は自分の存在さえをも明らめていた。
そして明らめの連鎖は続く。彼女の暗める連鎖が続くように。僕達はずっと共にいて引き合っているようにも見えるが、
いつまでも、溶け合うことは無く、離れているようにも見えた。

「うふふふふ、さあ、二回戦に行くわよ。今夜も寝かせないからね」
「ああ、暗ちゃん、分かったよ」

さて、二人は溶け合うが混ざらない。暗いが明るい。くっ付かないが離れない。全ては視点の問題なのだ。

775 ◆ewP6fUImNw5g :2009/11/10(火) 12:19:43 ID:cHD3KfLX
投下オワタ

この世には自分が存在するが故に、自分の存在とは全く逆のことでしか
自分として存在できないことがある。
明きらが、明きらである為には、闇を肯定する必要があった。
776名無しさん@ピンキー:2009/11/10(火) 13:50:17 ID:lcQYF3co
何この文ふざけてるの?
777名無しさん@ピンキー:2009/11/10(火) 16:26:40 ID:vZ73Aucg
sageを忘れて、書いたSS消えているのですが、もう1度書いた方がよろしいですか?
778名無しさん@ピンキー:2009/11/10(火) 16:59:10 ID:WDbV1R8/
>>777
いいよ別に…
779名無しさん@ピンキー:2009/11/10(火) 18:14:43 ID:jAApUjIu
面白い作品なら書いてほしい。
780名無しさん@ピンキー:2009/11/10(火) 20:12:15 ID:eP+r97QI
書いて書いて
781名無しさん@ピンキー:2009/11/10(火) 21:29:48 ID:LWxEgmga
>>774
久しぶりに糞と思った。
782名無しさん@ピンキー:2009/11/10(火) 21:41:27 ID:7yGRVydX
第一話って……
まだ続くのか?
783名無しさん@ピンキー:2009/11/11(水) 00:32:58 ID:+obilsrz
>>774
すまないけど文章が破綻しすぎてて読めたものじゃないなぁ・・・
784名無しさん@ピンキー:2009/11/11(水) 00:37:09 ID:s+QOyF3O
投下します
785相反する2人:2009/11/11(水) 00:39:02 ID:s+QOyF3O
「どうしてそこで諦めるんだ!!そこで!!もう少し頑張ってみろよ!!俺だってこの寒い中シジ(ry)」

カチッ

「もう、朝か・・・」

やかましい目覚まし時計を止めた後、洗、顔を洗い、歯を磨き、母親が作った朝飯を食べ、部屋に戻り、制服を見て思い出す。

「あ、今日高校の入学式か」と。

俺が高校の入学式のことを思い出したと同時に、インターホンが鳴った。
そういえば、今日から父さんが長期出張で母さんも、一緒について行っていないんだよなぁとボンヤリと思い出した

ということは、必然的に俺が玄関に行かないといけないか。

ガチャガチャ、ガチャン
「おはよう」

「うぃーす、おっはー」
(そういえば、コイツとも同じ高校だったな)
786相反する2人:2009/11/11(水) 00:40:18 ID:s+QOyF3O
天宮 奈々枝(あまみや ななえ)俺の幼馴染みだ。
髪型は、ショートで顔はそこらのロリ系アイドルに負けないぐらいの童顔、しかし、胸は結構でかい。

まぁ、早い話がものすごい美少女ってことだ。

「? 何ボーとしてんの? 早く学校行こーぜ。 」 「あいよー。」

しかし、毎度のことながら辛い。 え?何が辛いって?奈々枝と一緒に歩いていたら、同じ高校の奴らは、「うおっ! メッチャかわええ!!あの子!」 「でも、隣の奴はすげぇブサイクだな。」
やかましいわ。聞き慣れてはいるが、しかしムカつく。 まぁ、釣り合わないのは分かっているし、俺だって半ば諦めの境地にいる。
でも、奈々枝は気にしないで俺に話を振る。
楽しそうに。
787相反する2人:2009/11/11(水) 00:41:48 ID:s+QOyF3O
いつも、思うんだが俺なんかでも一緒にいて楽しそうなんだから(俺の錯覚かもしれないが)早く彼氏でも作ればいいのに。 コイツなら選り取り見取りなのに。 もったいな「っいて、あにすんだよ、頬をつねるな。」 「何すんだよじゃないよ。ちゃんとボクの話を聞いていた?」
「聞いてたよ。 高校が面白いといいね。っていう話だろ?」 「おっ、ちゃんと聞いてるじゃん 感心 感心」
「そうだな。 可愛い子と知り合いになれたらいいな。ボソ」
788相反する2人:2009/11/11(水) 00:44:16 ID:s+QOyF3O
「・・・対に・・・・・仲・・・せ・・・から」 「ん? 何か言ったか」 「ううん。何も言っていないよ そんなことより早く行こーぜ。」 「ハイハイ、わかりましたよ」 さっき、奈々枝が何を言ったか気になるが気にしても仕方ない。
そして、俺らの高校生活が始まる。
789名無しさん@ピンキー:2009/11/11(水) 00:46:52 ID:s+QOyF3O
投下終わります

初めて書いたので、文章が変なのは、ご了承下さい
790名無しさん@ピンキー:2009/11/11(水) 02:20:14 ID:v8jZI03m
文章が変だと思ったら見直してみたほうがいいよ
791名無しさん@ピンキー:2009/11/11(水) 06:01:40 ID:OHjAcStA
>>773
トンクス
ただ保管庫の掲示板が表示できなかったorz

見つけられなかった俺はまだまだ検索スキルが甘いようだ
もうちっとググッてくる
792名無しさん@ピンキー:2009/11/11(水) 23:05:01 ID:7MCZyIQI
>>789
投下乙


強いて言うならば、もうちょい1レスに文章詰めてもらいたいかな
793名無しさん@ピンキー:2009/11/11(水) 23:49:54 ID:ODPQ7+6z
>>788

結構面白そうなんで、楽しみにしとります
794名無しさん@ピンキー:2009/11/12(木) 01:24:28 ID:mYq1LVB0
何なんだこのブツ切りラッシュ…
7951レス小ネタ『病んでる姉』:2009/11/12(木) 01:26:47 ID:bmwzbhth
1
 人生最大の決断は、僅か十五歳にして訪れた。
 空には綺麗な星と月。そして目の前には、既に幻想の域にまで達した女性が一人。
「ほらっ、どうするんだ弟?」
 蛍光灯も消えてる薄暗い場所。明かりは窓から差し込む差せ明かりのみ。
 自宅の二階、ボクの部屋で、ボクの姉が、ボクを見下ろす。
 キャスター付きの椅子に座って足を組み、その前でボクは正座するだけ。
「奴隷なんて……イヤに決まってるよ」
 黒く、黒く、闇の中でさえ一層に栄える黒。長い髪は黒く、切れ長の瞳は黒く、制服も、穿いてるタイツも、下着も、心も、全てを黒で統一してる。 
 ボクの姉は、羽衣 狐子(はごろも きつねこ)は、そんな黒で男を恐れさせ、魅了して行く。たった一人……弟のボクを除いて。
「な、なっ、なんでだっ!? 奴隷になれば、毎日ご飯を作って食べさせてやるぞ? 掃除も洗濯もしてやるし、ち……チューだって、いっぱいしてやるんだぞっ?」
 ボクだけはこんな姉に頭を痛め、普通の姉になってくれと土下座までして頼み込む。
 発端は十分前、二人きりの夕食の時、頬を赤く染めた姉から貰った物。




 『 奴隷契約書
  わたし、羽衣狐子は
  奴隷として弟に尽くす事を誓い
  弟は見返りとして、姉だけを愛する事を誓います


  ※一生涯有効 』




 紙にはそれに加え、姉の名前と拇印が押してあり、後はボクが足しておしまい。だけどさ……

「だからボク、奴隷なんていらないってば」
「イヤだイヤだっ!! 弟の奴隷になるんだもんっ!!」

 結婚できないから、ボクの奴隷になるらしい。あぁ、ほんと……頭が痛い。
796名無しさん@ピンキー:2009/11/12(木) 01:35:53 ID:1erMFYFA
>>789 セリフ改行に気を付けてみたら?
楽しみにして待ってるぜ。


使用機器によっては辛いことってあるよな。
例、PSP…コピペが出来ないから一レス短編になってしまう。
ノートに手書き→見ながら打ち込む、投下の繰り返しなので時間が掛かる。
797名無しさん@ピンキー:2009/11/12(木) 01:47:50 ID:qLt9RUrD
>>795
イイ!
ぜひ続きを……
798名無しさん@ピンキー:2009/11/12(木) 03:08:38 ID:xyhraPCa
>>795
姉の名前w
あのビジュアルで脳内再生されたら非常に萌えたw
799強襲:2009/11/13(金) 03:15:21 ID:O9hdO7pG
装甲が砲弾を浴びるような激しい金属音が先刻より襲う。
もうすぐ、雨戸と言う紙装甲は抜かれるだろう。ここは田舎の片隅、人も道も通らない。
女の子が手斧で雨戸を滅多打ちにしていても分からない。薄いアルミ合金の雨戸についに穴が開いた。
なぜこういう事態になったのか、二時間前に遡る。
「もう俺は学校には行かねえと決めたんだ!もういいだろ!」今日も学校からの回し者が来た。
俺は不登校と言うヤツだ。ある事件がキッカケで心が負けた。そして家にこもるようになった。
両親は会社の近くの県外のアパートで暮らしていてこちらには無関心。学校側も二ヶ月で諦めた。
しかし欠席二週間目から女の子がやって来る様になった。最初はプリント等を届けに来てるだけだったが、
ある夏の日、汗に濡れた彼女を家に入れ迷惑料代わりに飯を振る舞った事があって以来、彼女は毎日来る様になった。
会話をする内にどうやら俺が心を許したとでも思ったようだ。説得が始まった。
彼女には悪いと思いつつも居留守、罵声で抵抗をしていた。
来なくなってくれたらよかった。そうすれば俺は苦しまずに済んだのに。
だというのに彼女は雨の日も風の日も雪の降る日もやって来た。  
800強襲:2009/11/13(金) 03:48:22 ID:O9hdO7pG
気づいたら冬になっていた。夏のあの日から少しづつ少しづつ彼女は何かが変質して来た。
使命感に燃えた瞳は何時しか何かを期待する瞳になり、何故か“楽しそう”な表情に変わっていた。
この女、目的と手段を取り違えている…と思った俺はこう言った。
「おまえ、何しに来たんだ!今更どのツラ下げて復帰しろって言うんだ!意志が変わらない以上片道25分も掛けて俺の所に来たって仕方無いだろ!もう来るな!」
いつも気丈な彼女は急に俯き、走り去ってしまった。
翌日も彼女は来た。彼女は暗い笑みで俺にこう告げた。
既に担任からも見捨てられ、訪問不要の烙印を押されていたがただ会いたいが為に、自ら志願して通い続けていたと…語った後。
だから「私だけを見て」と。
馬鹿馬鹿しい、お前がここに来ることを目的としてようが俺は知ったこっちゃねえ。
だからキモチワルイその感情を向けて来るなと言った。
そしてついに今日彼女は濁った目をしてこう言った。
「学校に来てみない?あたしが復帰できるように頑張るから、だからあたしだけを見て。」
そして俺は正気でない人間に言ってはいけない拒絶の言葉を言い放った。
すると、彼女はよく響く声でこう言った。

801強襲:2009/11/13(金) 04:17:56 ID:O9hdO7pG
「アンタがアタシを見てくれないのは家に閉じこもってるからなのよね。」
俺は二階の窓から話していた。後にも先にも手が触れる距離で会話したのは夏のあの日だけだ。
猛烈にいやな予感がした。アイツは俺をここから引きずり出そうとしている。
心の距離を詰めて話そうとしている。俺は急いで一階に降り、ドアを施錠し・雨戸を閉めた。
ドア越しにアイツの声が聞こえる。
「こんな家があるから引きこもっちゃうんだ、好意も信じられなくなるまで。じゃあ…」
二階の窓から下を窺った。すると居なくなっていた。
安心したその時、ドアが引かれる音が続いた。玄関は死角だったのだ。
ガシャンガシャンと連続した音が一分位続いた。そしてぴたっと止んだ。
次の瞬間、真下の居間の方から激しい金属音が響き始めた。
頑丈な玄関戸より薄いアルミ雨戸とその下のガラス戸を破った方が簡単だ。
しかし女の子の力で殴ったり蹴ったりしてもへこむだけじゃないかと思っていたが…
いきなり、乱打音と共に山脈状に隆起してきた。道具を使っているようだ。
そして電話機にたどり着いた時、ガラス戸が割れた。
止め金部を潰され雨戸が開き、ガラス戸の鍵を開けられた。
俺は固まった。   
802強襲:2009/11/13(金) 04:30:11 ID:O9hdO7pG
「おじゃましまーす」場違いな明るい声でアイツは家に入ってきた。
左手には名字の入った古い手斧が、そして肩から学校制定のバッグを掛けていた。
アイツはバッグをテーブルの上に置くと、中から弁当箱を取り出して、俺の前に置いた。
「やっと目を見てお話出来るね。その前にお昼ご飯作ってきたんだけど。食べて。」
俺は状況の意味不明さ、植え付けられた恐怖心から何も言えなかった。
803名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 04:35:41 ID:O9hdO7pG
投下終了。
PSPから4レス短編を打ってみた。
ノートに書いたものを打ち込み、チェック、投下したので1レスあたりの時間が長くなった。         
804名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 09:25:15 ID:pbZweGO3
GJ
続きに期待
805名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 10:56:14 ID:FMUc2o/M
GJ!
これは続きが気になる
806名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 00:49:22 ID:pKeymMBW
>>803
これは……続き期待しています
807名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 05:48:59 ID:pYLx4Xmu
>>804>>805>>806
なぜ同じような事を三回連続で書くの?
808名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 07:50:01 ID:Mf4X639o
皆続きが気になるからだろ

>>803
GJ!
809名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 07:51:35 ID:Mf4X639o
sage忘れちまったすまん
810名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 21:59:33 ID:WVM0YdgF
投下します。ネタ大量につき注意。なお、この物語はフィクションです。
実際の団体には何の関係もなく、イトミミズは美味しくないだろうと
思います。
811名探偵物語:2009/11/14(土) 22:00:50 ID:WVM0YdgF
―どうしてこんなことになってしまったのだろう。
その女…只野 茂歩(ただの もぶ)は自身への問いかけを繰り返していた。
彼女は今、とあるマンションの一室にいる。すこし広めのその部屋は薄暗く、
外からの目線を遮るように厚いカーテンは窓を完全に覆っていた。
その中で十人程度の人間が、必死で何やらぶつぶつ言っている。
それを指揮しているのは、黒の衣装に身を包んだ謎の女だった。
「では皆さん。祈りの時間です。隣の方と手を取り合って…そうです。
さあ、一緒に素晴らしい世界への祈りをささげましょう…せーの。」
「イトミミズ!イトミミズ!我らの我らのイトミミズ!」
謎の女の指揮の下、部屋中の人間達が一斉にその言葉を復唱し始めた。
第三者の目から見たらこれはどのような光景に映るのだろうか?多分
ついていけないだろう。只、彼らの眼は馬鹿にするにはあまりにも真剣だった。
そこに一人気おくれしたようにぼそぼそと復唱しながら、只野は横を見る。
そこには彼女の悩みの原因…彼女の親友である富香 菜子(ふこう なこ)が
もはや狂信的というべき迫力で祈りの言葉を叫んでいた。
「イトミミズ!イトミミズ!万歳万歳イトミミズ!」
恍惚とした表情を浮かべ祈る彼女の姿を見ると、只野の心は痛む。
ここは、新興宗教団体『小宇宙(コスモ)イトミミズ教』の本部。とあるマンションの
ワンフロアを全部使って週に二度このように布教をおこなっているのだ。
日本が不況に陥った現在、国中の人々が頑張ってなんとか自分たちの暮らしを、
経済を、そして日本自身を立て直そうとしているその中で社会問題も起きている。
そしてその中の一つ…マスメディアにあまり登場しない問題が、新興宗教だ。
本来人の信仰心自体には何ら害はないもの。しかし、これが怪しげな宗教セミナーに
魅入られてしまうと、大変なことになってしまう。
富香の場合、まさにそれであった。
彼女の両親は事業で失敗した揚句高跳び。親の借金を一人背負わされた富香は
大学を中退し、少しでも稼ぎの良い夜間のバイトで借金の返済に努めていた。
大学で親友だった只野はそんな富香の身を心配したが、結局何もできなかった。
同時に、富香に小宇宙イトミミズ教の魔の手が迫っていることも知らなかった。

「イトミミズ!イトミミズ!意外と美味しいイトミミズ!」
十分間ほど続いた祈りの時間も、ようやく終わりを迎えそうだ。
只野はほんの数週間で変わってしまった親友に再び目を向ける。
富香が怪しげなセミナーに入信したというのを知ったのは一週間前。その
少し前に只野はそのセミナーの良くない評判を聞いていた。
詐欺まがいのグッズ売り付けや脱会の際の脅迫、そして教祖の信者への性的暴行。
只野は不安になり警察に相談した。しかし、警察の腰は重い。
その噂は警察でもチェックしているが、如何せん証拠がないのだと只野は言われた。
証拠があれば本部に踏み込むこともできるが、今の時点で宗教関係に手を出すのは
難しい…担当した刑事は苦い顔でそう訴えてきた。
そこで只野は決意したのだ。自分が、直接踏み込んで証拠をつかんでみせる!富香を魔の手から救うのだと。
今日、只野はイトミミズ教に仮入会しセミナーに参加している。親友の入会に
富香は涙を流して喜んでいたが、その顔を見るのも只野はつらい。
―待ってて菜子。今私が助けてあげる。
親友を毒牙に掛けようとしているであろう目の前の謎の女を、只野はありったけの
敵意をこめた眼で睨みつけた。
812名探偵物語:2009/11/14(土) 22:02:04 ID:WVM0YdgF
「ハイ。皆さんここまで。どうでした?小宇宙と一体化できましたか?」
黒装束の女…たぶんこのセミナーのナンバー2である女の呼びかけに部屋の
全員が満面の笑みで応じる。もちろん、その中には富香も混ざっていた。
「さて、今日は仮入信の…只野 茂歩さんを紹介したいと思います。」
不意に女が只野のことを指さす。あまりの唐突さに只野は驚き、ただ眼を
見開いたままだった。すると、急に富香が立ち上がった。
「私に紹介させて下さい追従者様。」
追従者…教祖のナンバー2であるなら教祖とともに歩む者という意味だろう。
只野はそう判断した。
「皆さん。彼女は私の親友で、大学の同期だった只野さんです。彼女はとても
優しくて、御覧の通り抜群のプロポーションをしているので、教祖様も
きっとお気に召すと思います。」
「ちょ…ちょっとまってよ菜子!」
聞き捨てならない言葉に只野は声を荒げた。プロポーションと気に入るという言葉。
結び付けて考えると、人々に救いを与えるべき宗教にはふさわしくないはずだ。
「そうですね。今日は教祖様も奥の間にいらっしゃることですし、入信の
儀式は早い方がよろしいでしょう。」
追従者がにこりと笑うと、信者たちがそれに従い一斉に笑い…いきなり
只野を押さえつけた。
「ぐう!?ちょっと何?何なのよ!」
「イトミミズ教の教え…それはすなわち教祖様の教えにしたがい生きる。
言いかえれば教祖様のために生きよということですの。そのため女性の…特に
若くて美しい方には教祖様の為に格別の奉仕を求めているわけです。」
追従者の笑みが、意地悪いそれへと変化する。ここまでくれば、只野にも
おおよそ言葉の意味は掴めるというものだろう。自分の置かれている状況から
自分の最悪の想像が的中していると判断した只野は思い切り叫んだ。
「ふざけるなバカヤロウ!私は菜子を連れ戻しに来たんだ!こんなレイプまがいの
変態宗教教祖に捧げる体なんか生憎持ち合わせちゃいないね!」
勢いよく放たれた罵声に、一瞬追従者の顔が醜くゆがむ。その醜さを見て
只野も…それこそ一瞬だが、こちらは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
ただ、彼女は気づいていない。もう一人彼女の言葉に顔を歪ませた人間がいることを。
「うぎゃっ!?」
ものすごい蹴りを脇腹に入れられて、只野は悲鳴を上げた。
そこには憤怒の表情を顕わにした親友…富香が仁王立ちしていた。
「ひどいよ茂歩…教祖様の悪口を言うなんて絶対に許さない!」
痛みで只野は動けなくなる。しかし、体の痛みよりもはるかに混乱の方が
今の彼女の行動を縛りつけていた。
―そんな…菜子、私はあなたを助けに来たんだよ?
仮入信はセミナーの不法行為を探るためだけのものだった。多少の危険は
覚悟していたものの、その危険を冒しても助けたい親友…富香が既に憎むべき
セミナーの一員となっていることに只野は衝撃を受けている。
「富香さん。見たところ、あなたの親友の体にはとてつもない悪霊が取り付いて
いるようです。そのせいで彼女は教祖様の事をこんなにもひどく言うのです。」
富香の肩に手を置きながら、追従者はいけしゃあしゃあと語りだす。
「でも安心なさい。教祖様と一体化し、その神力を授かれば彼女の悪霊も去り
彼女はあなたのような信仰厚い信者に生まれ変わることでしょう。
さあ、手伝ってください。彼女を教祖様の元へ…。」
「分かりました。教祖様の元へ…。」
富香はそう繰り返すとものすごい力で只野を押さえつけ、そのまま廊下に出て
奥の方にある部屋へと引っ張っていく。部屋への距離が近くなるほど
只野は恐怖を覚え…いつの間にか泣き出していた。
「嫌ァ!菜子目を覚ましてよォ!私だよ!親友の茂歩だよう!」
「親友だから…こうするの。」
そしてとうとう只野はドアの前まで引きずられていった。万力のような
親友の力から逃れられず、彼女は頭の中で後悔とともにつぶやいた。
―ごめんね、菜子。
目の前でゆっくりと開かれるドア。そして、完全に開かれたその先に広がった
光景を目の当たりにして…。
女の悲鳴が長く響き渡った。
813名探偵物語:2009/11/14(土) 22:03:10 ID:WVM0YdgF
目の前の光景を、信じられないという表情で今只野は見つめている。
そこには確かに教祖がいた。ただし血みどろの姿で。
顔の穴という穴から血を流し、顔じゅうの皮膚はほとんど紫色と化し膨れ上がっている。
何かの奇病かとも思ったが、教祖の傍らに突っ立っている人影を見た瞬間只野は
その場でなにが起きていたかをうすぼんやりと悟った。
年は二十歳と少々といったところだろう。只野とそれほど大差ない年齢に見える。
長くも短くもない髪をして、黒のスーツ。ものすごいイケメンといった表現はできないが、
どこかしら爽やかさと安心感を与える顔だちをしているその男が、血で染め上げられた
金属バットを片手にぶら下げそこにいるのだ。
まだ驚きから立ち直れない只野の横で、富香が長く響く悲鳴を上げている。
そんな二人に気づいた謎の青年は、二人の方を向き笑みを浮かべ挨拶をした。
「やあ。俺の名前は明智 乱歩(あけち みだれある)。フリーの名探偵さ。」
どんなセミナーよりも胡散臭い自己紹介をしたこの男こそ、この物語の主人公なのである。
…正直、大いに不安だが。


「結論から言うと、お前がしばき倒した相手…伊藤 深水(いとう みみず)はクロだ。」
灰色の天井の下、タバコ臭い空気をかきまわしながら刑事が大勢走り回る中
ここ羽羅麗留警察署(ぱられるけいさつしょ)の木剣納刑事(きけんな刑事)は
目の前でかつ丼を平らげている男を呆れたように見やった。
「伊藤は地位と女欲しさに、そのパートナー…追従者として伊藤と組んでいた
あの女は金欲しさに宗教セミナーを設立したらしい。おい、聞いているか?」
木剣納の不満げな声が、幸せそうにかつ丼の丼を空にした男…明智の耳に届く。
しかし当の明智は一切存ぜぬといった顔。
「おい…聞いてんのかMrミダレアル!」
「俺をその名前で言うなぁ!」
木剣納の最後の発言がよっぽど気に召さなかったのだろう。明智の手が
木剣納の胸倉を掴み、テーブルをはさんで若干明智よりに引き寄せる。
「嫌だったらおとなしく私の質問に答えたまえ明智君。それと私の胸から
その男の欲望がにじみ出た薄汚い手を放したまえ。」
「ちっ…了解した、A 。」
今度は木剣納の耳が聞き捨てならないワードを脳に伝えとったらしい。こめかみに
十字マークが入った木剣納が、腰に下げてある木刀をすらりと抜いて
チェシャ猫のような笑みを浮かべたままの明智の喉元に突きつけた。
「ォぉおおおい…?今なんと言った?何がAだ?木剣納はKのはずだが?
何をもってAとした?そもそも何のためのアルファベット一文字表記だ?」
「かのジェームス・ボンドのMみたいでカッコいいだろう?Aの理由は…。」
「もういい!沢山だ!本題に入るぞ今すぐに!」
真っ赤な顔で机を平手で何度も叩きながら、木剣納は話を続けた。
814名探偵物語:2009/11/14(土) 22:04:25 ID:WVM0YdgF
「あのセミナーの信者たちは気の毒だが一応拘束させてもらった。性犯罪幇助の
行為はあったわけだから致し方ないのだ。」
ああ、と明智は相槌を打つ。その点は明智も理解している。
宗教系の被害にあうのは大抵日常生活に疲弊した人間たちだ。さらにまずいことに
ようやく救いの手が差し伸べられたと彼らが一度でもそう認識してしまうと
以降自分のその価値観を捨て去ることができなくなる。その宗教が間違っていたとしたら
それは自分のミスであり、自分は真実を見抜くことのできない駄目な人間だということを
認めてしまうことになりかねないのだ。
駄目な自分は社会から淘汰される。よって駄目な自分とみられないために必死で
自分の信仰を弁護し続けるうちに自分の中で嘘が誠になりのめり込んでいく…。
自分の宗教に一度でも疑問を持った時点でその人間達は思考の罠にはまり深みに落ち、
最初から魂まで捧げるほど深みにはまった人間達と同じ所まで行き着いてしまう…。
悪徳宗教はまさに蟻地獄。そしてそこにはまった人間は自身のアイデンティティを
保つために逆に自我をどんどん失っていく忌々しい矛盾の世界。
表情の硬くなった明智に気を使ったのだろうか?木剣納はつとめて明るく言った。
「でもまあ、お前は今日一人の女性を救ったわけだ。お前からの一報で我々も
あのセミナーを性的暴行未遂でしょっ引けたわけだし。」
「俺は依頼を受けただけだ。あやしげなセミナーをひとつ潰してほしいってな。」
「ははは…お前もはや探偵じゃなくゴルゴだな。」
明智も苦笑してお茶を啜った。何げない話をできる仲間がいるのはほっとする。
目の前の胸が非常にかわいそうな美女刑事を見つめ、明智の顔は柔らかくなった。
「大丈夫。入信した彼らの目もすぐに覚めるさ。」
二人は視線を交わすと席を立つ。そして日々の雑踏の中へと帰ってい…。
「ああ、そうだ。このかつ丼は奢りじゃないぞ。」
明智の悲鳴が警察署に響き渡った。


明智の職業は探偵だ。つぶれた小さな喫茶店を買い取り中を改装した
事務所を駅からだいぶ離れたところにぽつりと持っている。
仕事はもっぱら浮気調査。たまに警察の表ざたにできないような案件を引き受けたり
今回のような悪徳宗教からの救出任務を請け負うこともある。
それならば明智は実力があるのだろうか?
答えは否。明智は洞察力も頭の回転も普通の人間と大差ない。運動神経は常人より
頭一つ二つ抜けているが、それだけである。
にも関わらず明智にハードな仕事が来る理由…それは本人が探偵が好きだからである。
好きな物のためには意欲的に活動し、そのためのお客様には丁寧懇意なサービス。
探偵業のためならば危険なこともなんのその。今回のような悪徳セミナーの教祖程度なら
暴力による事件解決も辞さないダークヒーローは、悩めるクライアントの要望に
これまでしっかりと答えてきたのだ。
この静かな町で探偵業という怪しい職業が受け入れられたのも、本人の積み上げてきた
業績の賜物である。
815名探偵物語:2009/11/14(土) 22:05:22 ID:WVM0YdgF
…補足しておくと、今回の明智の教祖への暴行はなぜか立件されないことになった。
あの後伊藤 深水の拷問…じゃなくて尋問の担当をしたのが警察署きってのオトシの達人
時津風刑事(ときつかぜ刑事)だったからだ。彼の武道とは思えぬ残虐な指導…もとい
社会復帰のための愛有る鞭のおかげで、伊藤は誰のことも訴えないことになったのだ。
これにて本件は一件落着…といったところだろう。
冬も間近の曇天とは裏腹に、少し明るい表情で街角を歩く明智。くすんだ深緑の
外套の温かさに心地よさを覚えつつ、彼は事務所の前についた。
「ただいま。」
カランカランと頭上の鈴が鳴り、とたとたとたという足音が近づいてくる。
「おかえりなさい!明智先生!」
くりりと丸い目。少し茶色に染めた髪。垢抜けたファッションをしている割には
まだ可愛らしいという表現の方がぴったりくる見た目一七、八の少女が明智を出迎えた。
彼女は微動だにしない明智の外套を実に器用に脱がせて傍らの衣装かけにかけると
寒い外から帰ってきた明智を気遣い手を取って暖か…。
「何故ここにいる小林いィィ!!!!学校は一体どうしたんだぁ!!!!」
「ふみゃみゃみゃみゃみゃ〜!?」
明智の怒号が描写ごと少女の耳を吹き飛ばそうとした。
今日は木曜日。時間は午後一時と半を少し過ぎたところ。よい子は学校の時間です。


「学校より先生の助手をやった方が楽しいですもん。」
全く悪びれた様子もなくその少女…小林 兎凪(こばやし うなぎ)は言い訳をした。
「何度も言ったはずだ。学校をさぼるな。それと俺に助手はいらん。」
明智の方もほとほと呆れたといった様子で応対する。
「むみゅ〜。」
少し怒ったのだろうか?頬をプクリと膨らませて明智を見上げる少女は、
そのまま明智の顔を睨み続けている。
「私だってちゃんと明智先生の手伝いとして情報収集していますよ?今日も
怪しげな宗教サークルの情報を仕入れてきました!褒めて褒めて!」
何がめでたいのだろうか?笑みを浮かべ自分で拍手している目の前の少女を
明智は疑いの眼差しでもって見つめていた。
816名探偵物語:2009/11/14(土) 22:07:17 ID:WVM0YdgF
「まずは…な、なんと!近年珍しい悪魔崇拝の情報です!」
小林君がカンニングペーパーに目を通しながら強調する。
「ええと…信仰の対象は奇抜なメイクとファッションに身を包んだ男性です。
人々を脅迫して自分の信者にして、勢力を伸ばしつつあります!」
「ちなみに、なんと言って脅迫しているんだ?」
明智の問いかけに対し、小林は本人そっくりに似せようと努力しながら…
「お前も、蝋人形にしてやろうかぁ〜!」
…。
明智の射抜くような視線にしばらく射抜かれた小林は、ようやく自分が間違っている
ことに気づいたらしい。しかし、肩を落としたのも一瞬のこと。二枚目のカンニング
ペーパーを取り出すと、明智に進言した。
「むむむう!私小林はまだ諦めません!今度の情報はすごいですよ?なんと
宗教テロを企てている団体があるんです!」
明智の耳が反応する。小林の自信ありげな表情から具体的な情報なのだと
悟ったのだ。テロの計画があるなら警察と協力して…明智の頭が回転し始める。
「この団体の中心人物はカリスマ二人組。そして信者は数え切れないほどいます。
二人が彼らの前に姿を現すと、信者たちは皆まるで彼らに祈りを捧げるかのように
両手を全員高々と上げ、何やらみんなで復唱するんです。
恐ろしいのはこれから。彼らは誰かを殺すつもりです!」
「本当か?誰をだ?」
小林はちょっと困り顔になって、首を横に振った。
「でも、殺し方は分かります!多分信者全員で撲殺するつもりです!」
「それはまた奇妙な殺し方だな。もっと効率的な方法はいくらでもあるだろうに。」
「本当です!二人組の『殴りに行こうか』というフレーズの投げかけに対して
全員が狂気の表情で呼応するんです!」
明智の表情が凍りつく。彼の眼に冷酷な氷の力が宿りだした。
「ちなみに小林。信者たちの復唱している言葉はなんと言うのだ?」
「え〜っと…たしか『YAH YAH YAH』でした。」
「小林それC & Aだぁぁ!!!」
怒りの表情で突っ込みを入れた明智。小林の頬を両手でつかみ左右に引っ張り出す。
「わ〜ん!許して下さい明智先生!小林まだこの星の事が分からないのです!」
「どういう意味だ今の発言は!お前は一体何なんだぁ!」
折檻はしばらく続いた。だいぶ落ち着いた明智が今度は諭すような口調で
小林の説得を試みる。
「いいか小林。学業ってのはいつか必ずどこかで役に立つから学ぶんだ。
学校をこうも休んでばかりだと、俺がお前から未来を奪っているような気がしてならない。」
「…でも、小林勉強についていけない。」
不意に少し沈んだ口調で小林が漏らした。明智はそれを見てしまったというような
顔つきを一瞬見せてしまう。
少し捕捉させていただくと、彼女は少し学習部分で発達が遅れているのだ。
一度問題が分からなくなるとパニック障害に陥り、以降全ての問題が解読不可能に
なってしまう…そんな悩み。それを彼女は抱えている。
明智は心理学方面には詳しくないが、これはもはや心の病気の一種だということには
とうに気づいていた。そして、それは日を追うごとに厄介な問題に発展している。
彼女のパニック障害が日常生活にまで広がってきたのだ。一度心の平穏をかき乱されると
それ以降の行動を監視する理性の力が急激に低下してしまう。
そしてその症状が日常生活に支障をきたし始めたころ…その時ちょうど明智と小林は
この事務所で出会ったのだ。
817名探偵物語:2009/11/14(土) 22:08:34 ID:WVM0YdgF
「ここで働かせて下さい!」
今から一年ほど前だろうか?明智が事務所に帰ると、そこには一人の少女が
少し寒そうにしながら事務所前で待っていた。
クライアントだろうと思い、事務所に迎え入れた明智に対して少女が開口一番
放った言葉がこれである。
「ここで働かせて下さい!」
明智は大きく息をつくと、昨日の新聞を引きずり出しテレビ欄を眺める。
昨日の特別ロードショーで某ジブリ作品でもやっていて、そこにインスパイア
された少女が嫌がらせのためにやってきた…明智は当時そう判断したのだ。
しかし、確かにその日ジブリ作品はやっていたのだが予想していたものではない。
『秋の特別企画 東宝とジブリのコラボレーション! ゴジラ対メカトトロ』
という謎めいた番組が九時からあっただけである。
「ココデハタラカセテクダサイ!」
とすると…明智は推測する。本当にこの少女は仕事を求めてきたのだろうか?
可愛らしい少女だが、どこか儚げで危ないような印象をうける。
「君さぁ、おうちの人はそれを許したの?未成年みたいだけど…。」
おうちの人…少女はゆっくりつぶやくと、突如堰を切ったように泣きじゃくりだした。
「わああ!泣くな!泣くなっての!分かったよ来てもいいから!泣くな!」
明智はその時うっかり少女の来訪をオッケーしてしまい、以来その少女…小林は
こうしてほとんど毎日明智の事務所に入り浸っているわけだ。
その時明智は彼女の家の事情については何も聞かなかった。彼の腕なら調査は
容易かったかもしれないが、明智の第六感が深くかかわるなと命じたのだ。
そして後に語られることになるだろうが、その判断は賢明なものだった。
少なくともその時は…。
818名探偵物語:2009/11/14(土) 22:09:35 ID:WVM0YdgF
「夕御飯の支度しておきますね先生。お腹が空いたら温めて食べてください。」
事件の捜査に自分が役に立たないことを悟った小林が、エプロンを身にまとう。
彼女が自分の心の安定を保つために彼女なりに考えてとった行動は、明智の
助手を日々の日課にすることだった。
どうして明智のことを知ったか。それは当の明智にもさっぱり分からないが、
最初の来訪以降、彼女は助手としての腕は最悪だが家政婦代わりに
立派に務めあげている。彼女もまた、明智とともに生活リズムを組み立てていくことで
パニック障害の発症はだいぶ抑えられているのだ。
「キッチンには絶対に入らないで下さいね?」
いつものセリフを残し、小林はスキップしながらキッチンに消えていく。もとは
喫茶店なのでキッチンの設備もよく、今晩もおいしいものにありつけるだろう。
しばらくのちに流れてきたシチューの匂い。小林の料理の上達具合からして
この冬にはシチューパイが食べられるだろうと考えながら、明智は今回の事件の
依頼人への報告書を仕上げ、パソコンを立ち上げたのちメールボックスを調べる。
そして、明智の顔が見る見るうちに青ざめていった。

件名 お元気ですか?
差出人 怪人20面相 

                              続く。
819名探偵物語:2009/11/14(土) 22:12:39 ID:WVM0YdgF
以上です。以前書いた中二病物語の反省点を自分なりに踏まえ
書いてみました。
なお、病みは多分次回からになりそうです。
820名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 22:26:46 ID:ObfzI3jH
>>819
…………はっ!? 終わったのか!?
あまりのネタ乱打っぷりに、ここがヤンデレスレなのを一瞬忘れてた。

とりあえず、次回以降の病みに期待。
821名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 22:34:06 ID:UX27P3Vr
ナンバー1 ナンバー1
822名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 22:46:05 ID:pYLx4Xmu
どれがどれか分からん
823名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 23:11:22 ID:UX27P3Vr
派手 主役
824名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 01:04:22 ID:3fqAfVgf
名前がw
乱歩ワールド全快ですね
次回期待です
825名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 02:34:54 ID:FndhiZc1
タイトルの影響で乱歩の言動がいちいち松田優作で再生されてコーヒー吹いたw
ていうかなぜにインチキ宗教団体のネタばかり拾ってくるんだ自称助手w
826名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 05:40:16 ID:3KP08UR0
これは続き読みたいな。
827名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 11:16:10 ID:6//XPT77
電波系な女の子スレに来たのかと勘違いしてしまったぜ
828名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 18:04:55 ID:o9mtwx4a
怪人20面相のくせにメールの件名が『お元気ですか?』でうっかり吹いちまったじゃねーかw
829名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 22:00:47 ID:+K8xRTQg
「ほかの女にとられるくらいなら殺そうと思った」 同居少年(18)を刺殺しようとした女性(20)逮捕
http://tsushima.2ch.net/test/read.cgi/news/1258288125/

これは・・・
830名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 22:46:04 ID:evihWGE8
いい加減にしろこのKASUが!
831名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 22:47:09 ID:ShxCo2Uw
惨事は問答無用にNG
832名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 22:48:50 ID:Oj+WDhGz
ヤンデレ幽霊書こうとしても似たようなネタしか浮かばないで御座る
833名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 23:04:54 ID:BbvO67mK
>>832
それがしヤンデ霊読みたいでござる!よみたいでござるよぉ〜!
834名無しさん@ピンキー:2009/11/16(月) 17:41:39 ID:nOin6fCb
おっと>>833はテンゾーだな
こんなところで油売ってるとメアリの王賜剣一型でもがれちまうぞ?
835名無しさん@ピンキー:2009/11/16(月) 20:46:53 ID:9QBNjCqS
短編的な物を投下します
836幽霊と初恋と玉砕と:2009/11/16(月) 20:49:26 ID:9QBNjCqS
「ゴメンナサイ、アナタノコトガスキデハナイノ」

告白したら棒読みでこんな台詞を言われたこと、あるかい?

俺はある、たった今言われた

クラスのマドンナ、白石ひめかちゃんに告白したらそう返されたのだいつもコロコロ笑う彼女がその瞬間無表情になりそんな台詞を吐いたので、俺の心は凄まじいダメージを受けていた

初恋だったのに…初めて告白したのに…

「うおおおお!恋のバカヤローー!」
俺は生理食塩水を垂れ流し、退散するしかできなかった

明日学校どうしよう…
837名無しさん@ピンキー:2009/11/16(月) 20:51:44 ID:9QBNjCqS
「…で、いまにいたると…馬鹿か、キミは」
俺の住んでいるボロマンションにて俺は事のあらましを同居人に伝えた

同居人は女性で、とても美人だ
普通ならうらやましい、けしからん、襲えよ!とか言うのかもしれない

だが…彼女は…幽霊なのだ
俺に取り憑いている彼女の名前は
ミネサワネネコ、略してネココ
ピチピチの18歳だ(幽霊として生きて20年程なので実年齢は…)

「ネネコさん…バカって言わないでくださいよ…」

「…全く…君をこんなにも好きな私がいるというのに…」

彼女が何かブツブツ言っていたが、よくわからなかった
838名無しさん@ピンキー:2009/11/16(月) 20:53:35 ID:9QBNjCqS
彼がクラスのマドンナに告白する、と聞いた

私はその時にショックで成仏してしまうかもしれないほどの衝撃をうけた

彼が私のモノでなくなってしまう…
何処かのメス猫とちちくりあうなんて許せない

彼と私は強い絆で結ばれている

私と彼の出会いは病院だった
空虚な日々を幽霊として送っていた私は、運命の出会いをしたのだ
私の姿を見たのは彼が初めてだったし、笑いながら私に話しかけてきたのも彼だ

彼は私に沢山の初めてをくれた
839名無しさん@ピンキー:2009/11/16(月) 20:57:59 ID:9QBNjCqS
彼は優しい人間でもあるが酷い人間でもある

彼は覚えていないかもしれない、けど私は彼に一度だけ告白されているのだ

「ぼく、お姉ちゃんだいすき、お姉ちゃんと結婚したい」

こんなことを言われたら好きになるしかないじゃないか


日々募る不満、会いたい時に会えない不安

それに絶えられず私は、彼が中学生になった時に頼んだのだ

君に取り憑いていいか、と
彼は笑いながら了承してくれた
そして彼と私は一心同体となったのだ

それなのに、その絆が割かれようとしている…
彼は他の人に告白してしまうのだ

彼の告白を受けない人間はいないと思う、事実私は告白されて彼に落とされた
840名無しさん@ピンキー:2009/11/16(月) 21:01:49 ID:9QBNjCqS
駄目だ…そんなのは駄目だ…私は彼のモノで彼は私のモノなのだ
誰にも渡さない






はははは!計画はとてもうまくいった!
不安要素もすんなりと通過できたし、慰めたことで彼の好感度もかなり上がっただろう!

内容は簡単だ、私は彼女の意識を乗っ取ったのだ
彼女の意志はとても弱く、乗っ取っるのは簡単だった
後は彼の返事を興味なさそうに適当に断る

彼のさりぎわの泣き顔はとても良かった



あのメス猫の体は適当に校舎で放置したし、その時の記憶もないだろう


私と彼の平穏な日常はまだ少しだけ続くだろう

例え終わるとわかっていても私はその最後の瞬間まで後悔はしたくない

だから覚悟しといてくれ、いつか君に愛されるように頑張るからな

だからそれまではメス猫は近付かせない、絶対にだ

私はそう思い、疲れて寝てしまった彼の唇に熱いキスをした
841名無しさん@ピンキー:2009/11/16(月) 21:02:54 ID:9QBNjCqS
投下終了

乱雑な文だけど堪えきれず投下した

続き…はないと思う

それじゃあすんませんでした
842名無しさん@ピンキー:2009/11/16(月) 21:35:02 ID:MMaMmcaY
なんだこいつ
馬鹿か?
843名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 00:25:11 ID:3sMNAHJ/
>>841
GJ!


>>842
死ね
844名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 00:27:05 ID:EVbQm3Sn
>>841
GJ
845名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 01:23:39 ID:NSCcuNr0
>>843
死ね
846名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 02:03:06 ID:Hwl2TKK7
まぁ、ここで終わった方が良さそうだな。
847名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 07:29:41 ID:pIocyVhO
>>846

なんだこいつ
バカか?
848名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 08:53:56 ID:tbzswZ6H
まあ句読点も打てない起承転結もない物語とすら言えない素人の妄想はいらんわな。
どんだけキリスト並みに優しく見てもこれは酷すぎる。小学生でも『。』くらい付けられるぞ。
849名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 09:20:00 ID:/D76NRlL
まあまあ、嫌ならスルーすればいいじゃないか。

>>841
GJ
850名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 09:47:49 ID:qjfZltIr
850get
851名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 10:37:17 ID:XJRQZg9J
さすがにこれは酷いな。
852名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 11:18:06 ID:l0CtPDQ1
>>841
お前二度とこのスレに来んなよ、ROMる事も許さん。

>>849
死ね
853名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 11:29:33 ID:i9wCMlLB
スルー検定開始のお知らせ
854名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 12:05:33 ID:W1bbK6EG
ということでSS書いてくる
855名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 15:38:59 ID:+LDgcJw0
>>819
これとそっくりな話を読んだことがある。
知能に障害のある女の子に押しかけられる探偵の話。
後半部分はこれとまったく同じ文章だった気がする。
リメイクにしては同じすぎる。

検索しても見つからない
あたまがゆわんゆわんする
856名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 18:17:25 ID:+w+9Cjy4
しょうがないから新しく待とう
857名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 18:57:06 ID:ZB9zGTj0
>>855
知っているかい?デジャブって前世の記憶らしいぜ。
858名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 22:59:58 ID:KNPlqtPW
投下します。
859相反する2人 2話:2009/11/17(火) 23:04:26 ID:KNPlqtPW
長かった入学式も終わり、俺と奈々枝は一緒にクラス分けを見に行った。「ボクは、3組か。そっちは?」 「俺は、5組だよ」俺がそう言うと、奈々枝は非常に残念そうな表情をしていた。何で、そんな残念そうな顔をしているんだ。それはともかく、俺のクラスは・・・
860相反する2人 2話:2009/11/17(火) 23:04:52 ID:KNPlqtPW
うぇっ、知っている奴誰一人いねぇよ。 まぁ、気長に頑張るか。 「じゃあ、また後でな。」 「う、うん」 何でアイツあんな気落ちしてるんだよ。 気落ちしたいのは、俺の方だよ。
とにかく、教室に行くか。
ざわ・・・ざわ・・・
うわー、本当に知っている奴いねぇよ。最初は、大人しく席に座っておくか。 えっと、俺の席は・・・おっ、窓際の一番後ろから二番目か。
861相反する2人 2話:2009/11/17(火) 23:06:26 ID:KNPlqtPW
ラッキーだ。 しかも俺の後ろの女子は、メチャクチャ美人だ。奈々枝とは、違ったタイプだな。髪はポニーテールで、落ち着いた雰囲気を醸し出している。彼女は、俺と同じく知っている奴がいないのか高校生活初日だというのに、読者をしている。 少しだけ、話し掛けてみようかな
862相反する2人 2話:2009/11/17(火) 23:06:53 ID:KNPlqtPW
「あの・・・」 「あっ、はぃ」急に声をかけられて驚いたのか、目線がせわしなく動いている。「えっと、それ何の本?」 「はぃ、えっとその、えっと・・・」 男子に慣れていないのか、深呼吸して落ち着いたのか、俺の質問に答えてくれた 「・・・・ベ・・・です。」
863相反する2人 2話:2009/11/17(火) 23:07:31 ID:KNPlqtPW
今にも消えそうな声で、彼女は俺の質問に答えてくれたが、聞こえなかったので、もう一度聞いてみる。 「ごめん、もう一度言ってもらってもいい?」 「あっ、はぃ、 ライトノベルです・・・ 学校を出ようという本です。」
864相反する2人 2話:2009/11/17(火) 23:09:30 ID:KNPlqtPW
本の表紙を見せてくれた。 「へぇ、それってハルヒも書いている人でしょ?」 「!・・・・・コクコク」彼女は、先ほどよりも頬を赤く染めて頷いた。・・・もしかして、人見知り? そう思ったのと同時に担任らしき人が来て、俺らの会話はひとまず終了した。
865相反する2人 2話:2009/11/17(火) 23:09:54 ID:KNPlqtPW
その後は、恒例の自己紹介があり個性的な奴もいれば、オーソドックスな自己紹介の奴もいた。俺は平凡に自己紹介を終えたけどな。 そして、次は俺の後ろの子の番だ。「しりゃっ、・・・し、白河 涼子(しらかわ りょうこ)です。 よ、よろしくお願いします。」
866相反する2人 2話:2009/11/17(火) 23:13:52 ID:KNPlqtPW
彼女は、早口で自分の名前をいい終わり恥ずかしいそうに下を向いてる。やっぱり、人見知りなんだなーと思った。 特筆すべきことは無かったな。強いていうならば、昼食時間に奈々枝が俺の所に来たときは、クラスの男女が俺と奈々枝を交互に見ていたのは、いい思い出だ。
867名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 23:14:53 ID:7SxNytgK
一万年さん乙です
868相反する2人:2009/11/17(火) 23:16:22 ID:KNPlqtPW
嫉妬や妬みやらが、俺に突き刺してくる。俺は、これからの高校生活に不安を覚えてきた
869名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 23:17:50 ID:KNPlqtPW
投下終わります。

1レスに文章を詰め込もうとしたら、エラーばかり出てくるのですが、どうしたらよいでしょうか?
870名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 23:30:36 ID:J2mmJ0Yt
投下お疲れー。
pc使えばいいんでね?
871名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 23:59:21 ID:Hwl2TKK7
PC持ってないんじゃない?
872名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 00:00:54 ID:qjfZltIr
>>869
gj、次回はいつ頃かね?
873名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 00:35:27 ID:EfzNp6i9
>>869
投下乙


適度に改行しないとエラーが出るよ
目安は3行位で改行するが吉
874キレた人々:2009/11/18(水) 00:40:08 ID:ZQE6TSNe
投下します
875キレた人々:2009/11/18(水) 00:50:08 ID:ZQE6TSNe
「キミとボクは似ているね」
高校の入学式が終わった後の教室。
あいつから最初に言われたのはそんな言葉だった。
「本当に、キミとは仲良くなれそうだ。今後ともよろしく」
あいつは握手の為か手を差し出した。
俺はあいつの手を握り返すことなく、形だけで返した。
「よろしく」
思えばその時からだったのかもしれない。
すでに壊れてしまった俺の日常が、完膚なきまでに破壊されたのは。
876キレた人々:2009/11/18(水) 01:09:44 ID:ZQE6TSNe
とある秋の日の土曜日。
ゆとり教育世代の俺は、行きつけの市民図書館で適当に本をあさっていた。
あ行から順に、人気どころで芥川なんかを意味もなく読みふけって。
とりあえず、暇つぶし位にはなりそうな厚さの本を見つけ、何時も座って
いる席に移動する。
窓際の日当たりの良い場所なのだが、すでに先客がいた。
「やあ、奇遇だね。こんなところで会うなんて」
黒髪のショートカット。整った顔立ちにスレンダーな体。
さらにボーイッシュな服装のせいで近くに来ないと少年と間違われそうな
美少女。
名前を如月神無(きさらぎ かんな)という。
「おや、芥川かい?ボクもけっこう読んだよ。ボクは羅生門が隙かな」
聞いてもないことをつらつらと述べる。
「内容はどうでもいい。暇さえ潰せればそれで」
こいつがいると静かな休日を過ごせない。
俺は踵を返して貸し出しカウンターに本を持っていった。
877キレた人々:2009/11/18(水) 01:26:32 ID:ZQE6TSNe
「つれないなぁ。キミとボクの仲じゃないか」
一体どういう仲なんだ。
「やあなぁ、キミとボクは同類じゃないか。同じ人間失格だろうに。
おっと、これは太宰だったね」
どうでもいい訂正だ。
しかし人間失格は言いえて妙だな。そこは肯定してもいい。
人間失格。頭のキレたイカレ野郎。
念じるだけで物を浮かせたり、思考が読めたり、透視が出来たり。
そんな領域の俺達は、もう人間じゃないんだろう。

俺は、俗に言う超能力者。頭の壊れた、人間失格。
878キレた人々:2009/11/18(水) 01:29:06 ID:ZQE6TSNe
一話終了です。

初めての投下なので文章は下手ですが許してください。
あと話の腰を折るようなところで投下してすいません
879名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 01:34:06 ID:gsK4tKud
とりあえずsageてくれ
880名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 02:37:09 ID:drcVc0Ez
全然下手じゃない期待してるぜ
ただもうちょい書き貯めてから投下してくれるとありがたい
881名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 03:54:41 ID:p/NJDUOQ
最近は下手なんですって自分で言うのが流行ってんのか?
882名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 05:41:32 ID:tJeBNWoQ
これはハルヒの佐々木をパクったのかな?
883名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 15:23:24 ID:LyCE5Jjb
ツンデレ綾波系ポンコツ
ハルヒからしてテンプレ揃いだけどな
884キレた人々2:2009/11/18(水) 15:30:45 ID:ZQE6TSNe
投下します。
885キレた人々2:2009/11/18(水) 15:52:12 ID:ZQE6TSNe
父さんは人間の底辺に近い人間だった。
仕事をクビになり飲んだくれる毎日。
母さんはそんな父さんを見かねて姉と一緒に出て行ってしまった。

俺を置いて。

構わなかった。引きとめなかった。
帰ってくると、当時の俺は信じてしまっていた。

ある日、少しの金を持たされて「好きなものを買って来い」と言われ意気揚々
とお菓子を買いに行った帰り。
家の前には黒服の集団と父さんが何か話していた。
父さんは俺を指差して黒服に何か言った。
黒服たちが近づいてくる。恐くなって逃げ出した。
あっさりと捕まった。
必死にもがいたが大人の腕力には敵わなかった。
「こいつは、どうしても良いんだな?」
「ああ、それくらいでちょうどチャラだろ」

最初、何を言ってるのか分からなかった。
「坊主、お前も不幸だよな。はした金のために売られるんだからよ」
黒服の一人が気持ち悪く笑う。
父さんも同じ様に笑っている。
ここで、唐突に気付いた。
俺は、父さんに見捨てられたんだと。

必死で足掻いた。必死でもがいた。必死で必死で必死で、、、

気付いたら、皆ただの肉塊と化していた。
886キレた人々2:2009/11/18(水) 16:11:00 ID:ZQE6TSNe
アパートの一室で目が覚める。
最初に見えたのは変わる事の無い何時もの天井。
今日は土曜の次の日。つまりは日曜日。ジャスト七時。

何か、嫌な夢を見た気がする。
まあ、いつものことか。

テレビを付けると、ニュースで最近近所で起こった焼死体発見の事件が取り
上げられていた。
詳しくは知らないが、被害者は俺の高校の生徒だったらしい。

まあ、どうでもいいけど。
パイプベッドから下り、冷蔵庫から牛乳を……ってあれ?
ああ、昨日如月をまくのに手こずって買い物出来なかったんだっけ。
仕方なく牛乳を諦めてシャワーを浴びる。
さて、今日も図書館へ……また如月と会ったら面倒だな。

撮り溜めした映画でもみるか。

887名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 16:38:06 ID:8M0kjGw4
わざわざ作品を叩いて投下しにくい雰囲気を作るのはどういうことだろう
888キレた人々2:2009/11/18(水) 16:38:13 ID:ZQE6TSNe

その後、午後五時までぶっ続けで映画を見ていた。
やっぱり某未来の世界の殺人マシーン映画は2が一番面白い。
ジ○リは空飛ぶ城に限る。


流石に夕飯時なのでキッチンに立とうとしたときにチャイムが鳴った。
チェーンを外さず扉を開ける。
「どちら様ですか?」
「あ、今日隣に越してきたんです」
どうやら女性のようだ。
そういえば、やけに騒がしいと思ったら業者が来てたのか。
一旦扉を閉めてチェーンを外す。
「久しぶりだね。ずっと会いたかったよ」
「は?」
久しぶり?会ったこと、あるのか?
恐らく知り合いなのであろうその人。
すこしだけ茶色がかった髪。グラビア顔負けの容姿。
……全然見覚えがない。
「もう、まだ分かんないの、まーくん?」

まー、くん?
その呼び方をするのは、数人しかいない。
まさか……

「姉…さん?」
「ぴんぽーん!正解!ずっと会いたかったよ!これからよろしくね」
889名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 16:40:23 ID:ZQE6TSNe
とりあえず二話終了です
病むのは少し先になります
890名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 17:10:04 ID:LI8x6mot
>>889
891名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 18:56:09 ID:l0K+acoQ
なんという厨二展開www
892名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 18:59:49 ID:EbFoz9oJ
おつ!
893名無しさん@ピンキー:2009/11/19(木) 08:15:27 ID:Z52s7TGX
中2っていうか小6妄想くらいの展開だよな。
894名無しさん@ピンキー:2009/11/19(木) 18:02:09 ID:98/OMvBK
小・中・高となるに従って変質していく幼馴染みとか…

小学校高学年「●くんの事が好きです。大好きです。」
中二「●くんと私の前世は王室関係で、禁断の恋で死んじゃったの。これからもよろしくね王子様。」
中三「まさか高校、別じゃないよね?あの女と一緒の高校なんて●君には無理だよ!」
高一「●君、最近テニス部の子と仲良いけど…あの子とどうなの?」
高三「え?何言ってるの?私は●君の事すべて知ってるんだよ?私の●君盗らないでくれるかなぁ。」

純粋→厨二病時期→妄執と変化させてみた。
895名無しさん@ピンキー:2009/11/19(木) 19:37:10 ID:lpsfhiOq
>>889
いかにも厨二の願望が入り混じったSSだな
896名無しさん@ピンキー:2009/11/19(木) 19:50:54 ID:D9cLfgZa
質問させてください。
病みが物語の中盤から後半にかけてにになる場合は、
ここに投稿しないほうがよろしいのでしょうか?
897名無しさん@ピンキー:2009/11/19(木) 21:02:43 ID:ATTW7W3U
>>896
いや、そんなことはないでしょ。
「病みが出てこない」とかの文句を気にしすぎるのはよくないよ。

途中で執筆を投げ出さず、病みゆく過程を筋道立てて書いていけば、外野は文句を言わず見守ってくれると思う。
まあ長編を投下するときは、最初の2〜3話くらいは、そういう文句がでてくるのは我慢するしか……やね。


というか、短編や掌編ならともかく、長編で最初っからMAXで病んでたら、話が続かなくない?
898 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/19(木) 21:19:28 ID:D9cLfgZa
>>897
了解しました。
今日が初書込み、初投稿です。
一応長編をと思っていますので、トリップをつけさせて頂きます。
不備、間違えなどがあれば生暖かくご指摘頂けると、喜びます。

申し訳ないですが、エロなし。
病みが遅めです。

それでは、投稿します。
899群青が染まる 01 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/19(木) 21:23:02 ID:D9cLfgZa
「伝説の竜を倒した英雄…始まり始まり!」
 わぁっ!と子供から歓声が上がった。
 
 今日もいい天気だ…暑くなりそうだ。
 まるであの日のように。

 ………
 ……
 …

 空が青く眩しかった。
 今日も晴れそうだな。
 眩しい陽の光に目を細める。

 明日はお祭り…皆喜んでいるのだろう。
 祭りの準備でいつもにまして活気付いた町。

 ここ、ブリードはあたり一面を山に囲まれた町。
 商人が多く訪れる町でもある。

 なぜこんな山に囲まれた町でと思うかもしれない。
 理由は…この山の1つに竜が住んでいると言われているからだろう。
 いや、住んでいるとは言えないかもしれない。
 誰も見たものはいないからだ。

 それでも、竜がいると信じられている…多くの者が竜の森から帰ってこないから。
 それは竜と会ったため帰れなかったと…。

 おかげでここは名誉のために訪れる騎士、力試しに訪れる傭兵等、様々な人が
多く訪れる。
 その人達を狙って、商売が盛んに行われている。

 この町では、他の町とは違い竜を神として崇めている。
 商業発展の神としてだ。
 いつからそうなったかもわからないが、今でも脈々と崇められている。
 いや、竜を伝説上の生き物として崇める町は他にもあるかもしれない。
 竜殺しという特別な力を持った人もいるということを聞いたことがある。
 ただ、自分が生きてきた間には竜に会ったことも、会えたということも聞いたこと
がない。
900群青が染まる 01 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/19(木) 21:26:32 ID:D9cLfgZa
 ましてや、他の町にいるなどと聞いたことがない。

 …まだわずか21年だが。
 
 俺は竜がいると信じているわけでも信じていないわけでもない。
 世界は広い。だからどこかには存在するだろう。
 この町から出たことがない自分にとっては、知る術はない。
 いつか、世界の全てを見たいと思っている。

 …約束したから。
 姉さんと約束した、もう一度会おうと。

 俺はこの町ブリードの近くに捨てられていた孤児だ。
 そのため親の顔も知らない。
 勿論兄も姉も弟も妹もいない。
 
 そんな俺を拾ってくれたのは、ドウィヤというこの町1番の商人。
 勿論息子としてではなく、小間使いとしてだ。
 そのため必要最低限の旅の知識は叩き込まれている。
 
 俺の名前はトモヤ。
 この町で生きて、この町で死ぬと思っていた時もあった。

 ……
 
「おい、これ」
 そう言って、荷物を渡される。
 この荷物を指定されたところまで届ける。
 それが俺の主な仕事だ。
 もうずっとやっている仕事を今日も、同じように繰り返す。
 給料は端金。
901群青が染まる 01 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/19(木) 21:30:04 ID:D9cLfgZa
 それを雇い主であるドウィヤに話すと、
「お前は拾ってやった恩を忘れたのか!」
 と返されたきり、2度と話すなと言われた。
 特に憎いとは思わなかった。
 命あるだけましだ…そう昔から割り切ってきた。
 
「おつかれさん」
「おう、おつかれ」
「明日の祭りに誰と行く?」
「勿論、あいつとだよ」
「相変わらず仲がいいねぇ…」
「へっへっへ。うらやましいだろ」
「ああ、俺も女欲しいな」

 賑やかな話が聞こえる。
 明日は1年に1回の竜のための祭典。仕事も休みとなる。
 ただ、俺にとってはほとんど関係ない。
 どうせ一緒に行く人もいないのだから。

「…ただいま」
 家に帰ってきても何も返事はない。
 それはわかっている。
「生きているだけ幸せか…」
 知らず知らずのうちに溜息が漏れていた。
 
 チャリンチャリン…と音を立ててお金が瓶の中で跳ね返る。
 こうやって瓶の中にお金を貯めている。
 大分溜まってきたな。
 もう十分かな…このお金は町を出るためのお金。
 もう十分かな…拾ってもらった恩は返しただろう。
 いつまでも1人の僕なんだから、この町に留まらなくてもいいだろう。
 だから、明日の祭りを最後に町を出よう。
 そう考えると、祭りの日というのはいい区切りだったのかもしれない。
902群青が染まる 01 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/19(木) 21:33:53 ID:D9cLfgZa

 …心が軽くなるのを感じる。
 明日晴れるといいな。

 いつもと同じように布団は冷たかった。

 ………
 ……
 …

「おまえ、親にすてられたんだってな」
「すーてごすーてご」
 きゃいきゃいと子供達が囃し立てる。
 その中心に僕がいた…その子供達と同じぐらいの歳の僕が。
 …やめてくれ…。

「おい、なんとか言えよ!」
「…」
「おい!」
 容赦なく蹴りが飛んでくる。
 体のいいサンドバック。

 もう、うんざりだ。

「そんな汚い格好で歩き回らないで欲しいものだ。私達の評判まで落ちる」
「全く、親の顔が見たい」
「はは、親いないのに可哀相ですよ」

 笑いながら話す大人達。
 仕事場で待っているのは、嫌味だった。
 大人達が聞こえるように吐く。
 ドウィヤは、便利な道具として拾っただけだ。愛情などない。
 わかっていた。子供心ながらわかってはいた。
 それでも悲しかった。
 部屋で泣きながら決めた…この町を出ることを。

 ………
 ……
 …
903群青が染まる 01 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/19(木) 21:37:44 ID:D9cLfgZa

 嫌な夢を見た気がする。
 そんな重たい頭を払うように、顔を洗う。
「…はぁっ…」
 思わず声が漏れる…少しだけましになった。
 最後までいい思い出がなかったな。
 本当に…?姉さんは…?

 もう一度冷たい水を顔に浴びてから両頬を一度叩いた。
 もう何度見ただろう、この鏡に映る痣を。

 外に出ると、昨日にもまして活気に満ちていた。
 こんな日ばかりは、戦士達も戦いを忘れているのかもしれない。
 人波は小山まで…竜の祠がある小山まで続いている。
 山道には出店が立ち並んでいた。
 あの先には竜を祭った、本堂がある。
 彼等は竜を倒すために竜に祈るのだろうか。

 本末転倒で、少し笑えた。

 ぶらぶらと人波を見ながら、人波とは逆方向に歩き始めた…見たい場所を
探索しながら。
 最後に、人がいない小さな丘まで辿りつくと、腰を下ろした。
 ここは家もなく眺めがいい、人もほとんど通らない。

 向こうには竜を祭った小山がある。
 それも一望できる場所…秘密の場所みたいなものだ。

 もう少しすれば陽も落ちる。ここからが祭りの本番。きっと賑わっているのだろうな。
 誰かと一緒に回っている自分を想像して、慌ててかぶり振った。

 …そんなことはこの町を出てから考えればいいと。
 真っ青だった空は…既に朱に染まっていた。

 それはとても綺麗な空だった。
904群青が染まる 01 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/19(木) 21:41:23 ID:D9cLfgZa

 思わず目をつむりたくなるような…思わずこのまま自分がいなくなる
ような、そんな気分。
 このまま目を瞑れば…俺はいなくなるのか?

 強い風が吹いた。
 丘を山を撫でるように草花を掻き分けて吹き抜ける。
 それが合図だった。

 強く強く目を閉じた。

 風は強かった。
 思わず、自分が飛んでしまったのではと思うほど強かった。
 それでも、とても気持ちいい風だった。

 ああ、この風が吹き抜けたら町を出ようと、荷物を持って町を出ようと。

「…いい眺めだ」
 誰もいなかったはずの場所から、自分の背中から声が聞こえた。
 慌てて振り向いた。

 …時が止まったようにも思えた。

 その瞳は、はっきりしていた。
 その瞳の色は、過ぎ去った空の青を俺に思い起こさせた。

 その女が何かをしたわけでもないが…ないが、体を蠢くものがあった。
 なんだ…これは。
「い、いいいいいなが、がめ、だね」
 喉が焼けたように、上手く喋れない。
 そんな俺に、興味を失くしたように女の視線が外れる。
 瞬間、かかっていた重圧が軽くなったように思えた。

 その髪は風にたなびいて揺れた。
 まるで世界を覆うように。
905群青が染まる 01 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/19(木) 21:46:27 ID:D9cLfgZa

 俺の目は彼女を捉えて離さなかった。
 それは恐怖?
 それは見惚れてた?

 どれぐらい時間が過ぎただろう。
 数秒…数分?
 長くて短い時間だった。

 ふいに、女が指を向けた…光が灯る小山に向けて。

 夕日に隠れて色が見づらい、赤い灯篭が人波と一緒に走っている。
 その女が何を聞いているのかがはっきりとは、しなかった。
 だけど、祭りのことを聞いているのだと理解した。

「き、今日は祭りなんだ」
 まだ舌が痺れているように回らない。
「……」
「竜にかかか、感謝する日と言ったほうがいいのかな」
 それを知らないということはこの町の人間ではないだろう。
 いや、この違和感、人ではないのかもしれない。
 そんな現実離れした事ですら受け入れられた。

 ――

「我を祭るとは…おかしなことだな」
 本当におかしなことだった。
 一方的に敵としているのは人間の側なのに。
「え…?」

 信じる信じないはどうでもよかった。
 ここにこの人間がいて、此方(こなた)に降り立った…それだけだ。
906群青が染まる 01 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/19(木) 21:50:17 ID:D9cLfgZa

「…汝(うぬ)に案内を頼もう。報酬は命だ」
 まだ震えている人間に言う。
「い、命?!」
「…そうだ」
 人間、それも命をとして戦う人間ではない人間。
 殺すのはわけがなかった。

 だが、人間よ。汝(うぬ)らは特に己が命が惜しいのだろう?

「ど、どこに…?」
 震えながらも必死に声を上げる人間。
「我ではない我がいる場所までだ」
「もし、もし見つからなかったら?」
 やはり人間は弱い、か…。
 いや、無謀ではないだけ、ましなのだろうこの人間は。

「その時は手間賃として、そなたの命を助けようぞ」
 瞳が人間を捉えるたびに、人間は竦みあがる。

 人間は矮小だと、思っていた…。
 それは圧倒的な力の差、それが生んだ結果だとはこの時からわかっていた。

 そうわかっていた…それでも、人間を矮小と思い己を過大評価した。
907 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/19(木) 21:54:02 ID:D9cLfgZa

以上で今回の投稿は終了いたします。
それでは、また次の話で。
908名無しさん@ピンキー:2009/11/19(木) 23:19:56 ID:lpsfhiOq
う〜ん…
この先どうなるのかが全く気にならないな。
909名無しさん@ピンキー:2009/11/19(木) 23:36:24 ID:jOGkrKb6
>>907
gj
人外物は大好きです^q^
910相反する2人 3話:2009/11/20(金) 00:25:14 ID:i9ytejrS
投下します。
911名無しさん@ピンキー:2009/11/20(金) 00:26:36 ID:L40zzNw+
11月14日はヤンデレの誕生日
ヤンデレ「今日は何の日か知ってる?」


                 U
                 U            /
\           / ̄ ̄ ヽ,        /
  \        /        ',      /      _/\/\/\/|/\/\/\/\/\/\/\/\/|_
    \    ノ//, {0}  /¨`ヽ {0} ,ミヽ  /       \                                  /
     \ / く l* トェェェェイ  ', ゝ \       <  11月14日はジュウシマツ感謝デー!        >
     / /⌒ リ   `ー'′   ' ⌒\ \    /                                  \
     (   ̄ ̄⌒          ⌒ ̄ _)    ̄|/\/\/\/|/\/\/\/|/\/\/\/\/\/\| ̄
      ` ̄ ̄`ヽ           /´ ̄
           |            |
  −−− ‐   ノ           |
912相反する2人 3話:2009/11/20(金) 00:27:20 ID:i9ytejrS
入学式から三週間がたち、やっと学校生活にも慣れてきたころだ。

高校生活が始まると同時に、両親が長期出張に行ってしまい、自炊はどうしようと考えていたが、奈々枝が「ボクが朝昼晩ご飯を作ってあげるよ!」と言ってくれた。

気持ちはありがたいのだが、幼馴染みだからといって、さすがにそこまで世話になるのは申し訳ない。
「いや、さすがに奈々枝も毎日メシ作るのは、大変じゃないか? 俺のことは、気にしなくていいぞ。」 遠まわしにやんわりと断ったつもりが、
「・・・ボクが作ったご飯、食べるの嫌?」
涙目の上目遣いで今にも、泣きそうな声で俺に問い掛けてきた。
913相反する2人 3話:2009/11/20(金) 00:28:59 ID:i9ytejrS
考えてみてもらいたい。
道のド真ん中で、超絶美少女と見た目がよろしくない男がいて、男の方が、女の子を泣かしているように見えたら・・・

考えたくもないな。
奈々枝を泣かした後の惨劇なんて、容易に想像出来る。
・・・仕方ない。
「わかった。メシのほうは、お願いしてもいいか。」 「う、うん!! ボクに任せておきなよ!」

「でも、1つだけ条件がある。」
914相反する2人 3話:2009/11/20(金) 00:33:19 ID:i9ytejrS
「条件?」 「あぁ、毎日メシを作って貰うのは、悪いから1ヶ月に一回だけ、俺が出来る範囲で、どんな雑用もしてやるよ。」
「・・・、それ、ホント?」 「あぁ、宿題だろうが、掃除だろうが、何でもござれだ。」
「・・・今の言葉に嘘はないよね。」

なんで、そんなに疑り深いんだ? コレぐらい当然だろう。 「あぁ、嘘はないよ。」
そう言うと、先ほどまで泣きそうだったのが、今はすっかり元気になってやがる。
・・・これは、1ヶ月後が末恐ろしいな。

まぁ、でも途中で諦めるだろう。 俺なんかのメシを毎日作るのは、苦痛だろう。

それよりは、好きな男に弁当とかを作ってやるのがいいと思うな。

俺みたいな男にこんな優しくしてくれるのは、やはり昔のことを気にしているのかな…。

だとすれば、あんまり無理はしないで欲しい。
915相反する2人 3話:2009/11/20(金) 00:34:21 ID:i9ytejrS
昔のことは、気にしなくていいし、俺と朝昼晩ずっと一緒にいるのも苦痛じゃないかな。

まぁ、途中で奈々枝が諦めても、家の近くにある奈々枝の好きな「甘味堂」で好きなだけ、デザートを食べさせよう。

・・・今のうちに、自炊を覚えておくかな。
916相反する2人 3話:2009/11/20(金) 00:36:31 ID:i9ytejrS
しかし、俺の認識は、甘かった。

奈々枝は、1日も手を抜くことはなく、宣言通りに、毎日メシを作りにきてくれているのだ。

しかも、味は格別、種類が豊富、体に良いものなど、工夫して作ってきてくれている。

・・・ここまでしてくれるのは、予想外だったな。
多分、ゴールデンウィークにある宿題のためだろう。

噂では、うちの学校のゴールデンウィークに出てくる宿題の量が途轍もなく多いらしい。

まぁ、いいだろう。
毎日、こんなに上手いメシを作ってくれているんだ。

頑張るしかないか。

ハァ、やれやれだぜ。
917相反する2人 3話:2009/11/20(金) 00:37:38 ID:i9ytejrS
投下終わります。

話が長くなりそうです。
918名無しさん@ピンキー:2009/11/20(金) 00:57:16 ID:CZa3Hq0n
>>907
>>917
いいよいいよー!!
919名無しさん@ピンキー:2009/11/20(金) 01:39:55 ID:qXzPktva
920名無しさん@ピンキー:2009/11/20(金) 03:13:38 ID:JLUsM6ks
>>907
おお…っ、異世界&人外モノなのか〜
長い作品になりそうだけど、期待しています。

>>917
幼馴染モノ&ボクっ娘のヤンデレ……
続きが楽しみですGJ
921 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/20(金) 21:34:16 ID:VNsCGPXW

最近、日々寒くなってきましたね。
それでは投稿させて頂きます。
922群青が染まる 02 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/20(金) 21:37:57 ID:VNsCGPXW

「なんで、こんなことに…」
 なったんだろうか…。
 ただ最後にあの景色を見て、それから…。

 人にどれぐらいぶつかったかわからない。
 それほど頭が混乱していた。
 どういう道を歩いたか覚えていない。

 思い出すのは彼女の言葉だった。
「…そうか」そう言った女。
 あそこで待つつもりなのだろう、それ以上何も言わなかった。
 
 断られると思っていた。
 だけど何も言わなかった。
 それは、逃げることのできないことの現われだったのかもしれない。

 荷物を纏めた―勿論、準備は既に出来ていた―俺は、丘へと急いだ。

「……」
 予想より早く辿りついたせいなのだろうか、女が少しだけ驚いた表情を
作る。
 どうやら、いかに人間離れした彼女でも、俺が今日旅に出ようとしてい
たことは知らなかったと見える。

 だから、聞かずにはいられなかった。
「逃げたら…どうなって「殺した」」
 綺麗な声が響いた。
 既に、日は沈んでいた…これが、俺と彼女の旅の始まりだった。
 終わりはどこなのだろう。
 早く終わりたいという気持ちが強く心を支配していた。
923群青が染まる 02 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/20(金) 21:41:31 ID:VNsCGPXW

 ……

 馬の歪めの音が響く。女と荷馬車に乗っている。
 勿論、馬の手綱は俺が握っている。
 女は、黙って遠くを見ている。

 …そろそろ日が昇る。
 昨日が終わり、今日が始まった。
 
 ………
 ……
 …

「…これは?」
 女が問う。
「馬車、だよ」
 どうやら、荷馬車を知らないらしい。
 馬は流石に知っているのかもしれないが。

「え、っと、荷物や…人を載せて移動するための物だよ」
 お節介かとも思ったが、付け加えた。

 女はただ馬をそして荷馬車を見ていた。
 馬は静かに震えていた…騒ぎ立てることもなく。
 それとも、何かに気づいていたのだろうか。

 女が、柵に手をかけた。
「え!いや、それは…」
 他人のもの…。
 その目がこちらに向いた。
924群青が染まる 02 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/20(金) 21:45:28 ID:VNsCGPXW

 それだけで、体が竦む。
「他の人の…持ち物だから」
「……」

 女が軽く握った(ように見えた)だけで柵が音を立てて砕ける。
 実際にどれぐらい力がこもっていたのか。
 疑うわけではなかった…彼女は人知を超えた何かかもしれないと。


 俺は見られないように溜息をついた。

 ………
 ……
 …

 後ろを振り返ると女がいる。
 …どこかをボーっと明後日の方向を見つめたままの女が。
 そんな彼女が人ではないとは、やはり思えなかった。
「…何用だ?」
 脳が一瞬で沸騰したかと思った。
 こちらを向いた女のどこか爬虫類を連想しそうになるその瞳に吸い込まれ
そうな、そんな感覚に陥りそうになる。

「あ、な、名前を聞いてない」
「…好きに呼べ」
 それだけだった。
 また興味をなくしたように視線をそらした。
 なぜ他の竜を探すのか、なぜ元の姿で探さないのか…聞きたいことはたく
さんあった。
925群青が染まる 02 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/20(金) 21:49:11 ID:VNsCGPXW

 彼女が何者なのかは俺には全くわからない。
 だけど、もし彼女が自分で言ったとおりだとしたら…そこで頭を振った。
 彼女は命を助けると言った。
 今はそれを信じるしかない。

「マリン」
 安直だったが、空を連想させる青いその瞳からつけた。
 興味がなさそうに、そっぽを向いていたまま何も言わない女。
 どうでもよかったのだろう彼女にとっては。

 それでも、嬉しかった…独りじゃないことに。
 だからだろう…こんなに心が暖かくなるのは。

 今思えば無謀だった。
 そして、彼女が俺に興味がないことはよく知っている。


 荷馬車についた車輪がゆっくりと音を立てて回る。
 街道を馬が歩いてゆく。
 その日は、陽は見えるものの生憎の曇り空だった。
 元々商人が多く来るブリードには、人や馬がよく通るため道も整備され
ている。
 それでも、次の街までまだ遠かった。


 陽が昇ってから、陽が沈みかけるまで会話らしい会話はなかった。
 それは、俺にとってありがたいといえばそうだったし、寂しいといえば
そうとも言えた。

 自分で考えておきながら、我侭だなと苦笑した。
926群青が染まる 02 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/20(金) 21:52:46 ID:VNsCGPXW

 ――

「…あれはなんだ?」
 初めて見るものばかりだった。
 世界はこんなにも広く。
「ああ、あれは風車っていうんだ。粉引きのための施設だよ」
 …風車…頭の中ですぐに浮かんでくる。
 知識はある…それは受け継ぐ知識。

 こんなにも狭い。

 だが、実物はやはり違う。
 そうだな、人間で言えば、これが楽しいということなんだろうな。

 わざわざ人間で言う必要はなかった…それでもそう直した。
 人間というものに感化されたわけではない。

 ただ、言葉を分ち合いたかっただけなのだろう。
 それとも…。

 陽が沈む。
 獣の気配が少しずつ増えていく。
 だが、その気配も遠い。

 この道周辺に近寄る気はないという事か。
 なのに火を焚いては、辺りを見回している…そんな人間を視線の端に
捉えながら、空を眺めた。

 目を瞑ると感じるのは、世界そのもの。
927群青が染まる 02 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/20(金) 21:56:07 ID:VNsCGPXW

 ――
 
 時折来る質問に答えながら、旅は順調に進んでいく。
 勿論、荷馬車を盗んだ件で誰かが追ってくるというのはなかった。
 何度も振り返ったのを彼女にはばれていたのかもしれないが。
 …きっとばれているだろう。

 目指す方向から、また行商人とすれ違った。

 そうだな、そろそろ街が見えてもいいころだ。
 すぐにそれが正しかったことがわかる。
 前方の大きな街が視界に写りこんだ。

 ここが一番近い街。
 街の名をタウリオという。
 中継地点にとても適した場所のため、色んな品物が一度ここに集められ、
運送されていく。
 とても大きな街だ。

 大きな街ゆえに…出入口には門兵が配備されている。

 どうかばれていませんように!
 頭の中に祈りがひしめく。
 
「よし、そこで止まれ!」
 調べるため行為…ただそれだけ。
 だけど、嫌な予感が湧き上がる。
 どうかばれていませんように!
 もう一度、強く唱えた。
928群青が染まる 02 ◆ci6GRnf0Mo :2009/11/20(金) 21:59:43 ID:VNsCGPXW

「荷馬車を調べさせてもらう」
 緊張で心臓が破裂しそうだ。

 どうしていいかわからない俺とは対照的に、彼女はいつものように
無表情だった。

「おい、これ」
「…ああ」
 その声に心臓が跳ねた。
 何か見つかったのだろうか…?
 何か目印でもあったのかもしれない。

 どうしたらいい?!
 額から汗が落ちるのが、嫌でもわかる。

「お前達、ちょっと来、待て!」
 その言葉にいち早く反応したのがマリンだった。

 地面を蹴り、高く飛び跳ねた。
「おい、追え!!」
 音だけは軽快に聞こえた…音だけは。
「逃がすな!!」
 門兵が慌てて、高い壁を軽々飛び越えたマリンを追って街の中に入る。

 マリンが蹴ったと思われる地面が見事に抉れていた。

 …人とは思えない力。

「……」
 その人離れした力に口を閉じることも忘れていた。
「兄さん、今のうちや」
 いつのまにか隣に立っていた男に言われて、気付いた。
 そうだ、今なら門兵もいない!!と。
 急いで荷馬車から必要なものを漁り、街の中へと走った。

 兵が皆、マリンを追いかけていったのは不幸中の幸いというべきか…。
929群青が染まる 02 ◆ci6GRnf0Mo

「いやー、兄さんついてるね」
 声に振り向く。
 わかっていた…さっきの男がついて来ていたことは。
「…何か用ですか?」
 その追ってくる男に問いかける。
「そうやで、聞きたいことがあるんや」
 男は何も隠そうとせず、笑った。

 そんな彼に言われるがままに、食事処へと入った。
 席について気づいた…何も考えずに無謀だったのはないかと。

「そ、それで用って…?」
 本当に何も考えていなかった。
「そんなに、警戒せんといてな。あ、わいの名前はハル。よろしくな!
兄さんは?」
「え、あ、トモヤ」
 つい流れのまま口をついてでた。
 何をやってるんだ俺は!!

 そんなハルと名乗った男は自分より若くみえた。

「トモヤはんか、いい名や。それで…あの姉ちゃんは何者や?」
 急に真顔になった男が顔を近づける。
「な、何者って…?」
 人ではない…と言っても信じてもらえないだろう。
 下手すると頭がおかしい人になってしまう。

 それに、自分自身で信じ切れていない…彼女が人ではないと。

「そう、警戒せんといてな。ただわいは興味が沸いたんや、あの姉ちゃんに」
 少しでも落ち着けば、嫌でも警戒したくなる。
「…なぜ?」
 ゴクリと喉がなった。

 まさか、マリンを…。