【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part22【改蔵】

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1名無しさん@ピンキー
立てた
2名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 01:03:17 ID:89x7rG3e
絶望ぬるぽ
3名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 01:03:35 ID:/l9isiYT
これまでに投下されたSSの保管場所
2chエロパロ板SS保管庫
ttp://sslibrary.gozaru.jp/
あぷろだ(SS保管庫付属)
http://www.degitalscope.com/~mbspro/userfiles_res/sslibrary/index.html
===スレに投下する際の注意===
・SSの最後には、投下が終わったことが分かるようにEND等をつけるか
 後書き的なレスを入れてください。
・書きながら投下はルール違反です。書き終えてからの投下をお願いします。
・前書きに主要登場キャラ、話の傾向を軽く書いておいてください。
・鬱ネタ(死にネタなど)、エロなし、鬼畜系、キャラ崩壊、百合801要素などは
 注意書きをお願いします。
・ただし、完全に女×女や男×男のネタなら百合板、801板の該当スレで。
・過度な謙遜、自虐は荒れる原因になるので控えてください。
書き手にもルールがあるからといって必要以上に
気負わずにみんなと楽しくやっていきましょう。

携帯からのスレ立てです。まさか立つとは思わなかった。
すんませんが前スレは誰かお願いします。
4名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 01:15:54 ID:78pbpiVq
前スレ
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part21【改蔵】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1244814980/
5home:2009/08/19(水) 07:39:33 ID:GWwZM9io
前スレからの続き

「望さん…」
「…ま、まとい、さん」
「望さん」
「…まとい、さん」
「望さん♪」
「まといさん…」

嬉しそうに微笑むまとい。
望に名前を呼ばれるのが、そんなに嬉しいのだろうか。
満足気な笑顔は、爛々と輝き。
その眩しさに堪えられなくなる。
自分の狂言に付き合わせてるだけだというのに。

「も、もぉいいでしょ…。さすがに恥ずかしいですよ」
「せっかく、これからでしたのに」

むくれ顔のまとい。
初めて見る表情の気がした。
頬を膨らませる姿は、とても愛らしい。
つい望が赤面してしまう。

「わ、我が儘は勘弁して下さい」
「分かりました、あなた♪」
「…!?」

突然の呼び掛けに、驚く望。
すっかり上機嫌のまといに戻り、悪戯っ子のように笑う。
望の反応を見ているかのようで。
我慢できず、そっぽを向いた。
窓の外は、相変わらず田んぼばかり。
また、案山子を見つけた。
今度は一人でなく。
二人並ぶように、立てられている。
誇らしげに立つ案山子に安堵して、正面を向く。
珍しく少女は、自分を見ていなかった。
望がさっきまで見ていた場所を、じっ、と見つめる。

「あの案山子…」
「…」
「私たちみたいですね」
「…そうでしょうか?」

嬉しかった。
少女と自分の考えていることが、一緒なのが。
突然訪れた幸福感は、よく確かめる間もなく消え去った。
最後のトンネルに入り、周りから風景が消える。
もうすぐ、目的の駅に到着する。
悲しみからか、喜びからか。
望は静かに目を閉じた。
6home:2009/08/19(水) 07:44:09 ID:GWwZM9io
遅れましたが
>>1 乙です
7名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 09:56:40 ID:msOWzuBc
homeさんいつも乙です
でももう少し書き溜めてから投稿したほうがいいんじゃないかなと思わないでもないです
8名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 11:01:04 ID:b/2ckuUR
>>593
GJです。
絶望先生ならではのお話でとてもおもしろかった。

>>home氏
まといかわいいです。
これからも頑張って下さい。
9ている:2009/08/19(水) 13:48:15 ID:X+a/7rUe
前スレの予告どおり完全にエロ、恋要素がないです。前スレの593さんと質問がかぶってしまいましたが、592のほうです。
10hina:2009/08/19(水) 13:50:41 ID:Sj3N4eyE
前スレ593です、フルボッコを恐れて
そーっと覗きに着たら、まさかの好評で滞在許可が出たので復活
593と名乗ると自分で忘れそうなんで、hinaと名乗ります
コテハン迷惑なら取ります(´・ω・`)

私の様な書き手でも、書き手が増えれば
自然と神ssの方も投下しやすくなる‥‥とかちょっとだけ自惚れつつも投下。

これも少し前にメモ帳に書いてあった物で、藤吉さん視点のドタバタギャグです
今回晴海のキャラ崩れに特に注意。後文章力は言うまでも無し(´・ω・`)
11ている:2009/08/19(水) 13:50:49 ID:X+a/7rUe
『なめとこンプレッ熊』
教室にて
愛 先生…
望 どうしたんですか 加賀さん
愛 私のようなものが日直当番などをして みなさんをまとめてよいのでしょうか!?
望 いや 他のみなさんもやっていますし…
智恵 これは コンプレックスですね
望 コンプレックス…ですか?
智恵 精神医学では 心の中に複雑な感情を抑え込んでしまうことです 加賀さんの場合
   は劣等感を感じてしまう インフェリオリティーコンプレックスです
望 ああ マザコンとかファザコンってやつですか
晴美 シスコン ロリコン ショタコンなんかもそうですよね!
望 彼女が言っているのは何なんですか?
千里 知らなくても、大丈夫です。
12ている:2009/08/19(水) 13:51:37 ID:X+a/7rUe
望 でも 複雑化している感情と言っても もっといろいろあるんじゃないですか?
千里 いろいろって、どういうことですか?
望 みなさん いろいろなコンプレックスを抱えていますよ! 実際にシネコンとか言うじゃないですか 映画館によるコンプレックスだってあるのです!
智恵 コンプレックスは ただ単に複雑という意味ももっていますが…
望 シネコンっていうのは 売店で買った物を置くところを左右とも使われてがっかりしたこと とか ポップコーンをばらまいて周囲の人々から冷たく見られたこと 
  とかですよ! 私も抱えてますよ シネコン
まとい 先生 人間以外のものが抱えているコンプレックスもありますよ
望 いたんですか
まとい ええ ずっと コンプレックスを探しにフィールドワークをしましょう
13ている:2009/08/19(水) 13:52:26 ID:X+a/7rUe
街にて
一旧 う〜ん
望 おや 一旧さん
一旧 ぷよぷよ7を買ってみたんだけれど 新要素が追加されててルールが分からないんだよ
望 ああ ありますね 時にはそれでつまらなくなることも
クイッ クイッ(誰かが望の着物を引っ張る)
望 音無さん コンプレックスを見つけたんですか
コクン (芽留がうなずく)
芽留携帯 このケータイ 機能が多すぎて覚えられねーよ!
望 確かに最近は おき電話にまでいろんな機能付いてますからね
まとい 今のは機械が抱えるコンプレックスです
晴美 先生 私も見つけました この漫画なんですけれど どんどん設定がややこしくな
っているんです。
・NARUTO
・BLEACH
14ている:2009/08/19(水) 13:53:25 ID:X+a/7rUe
望 ありますね まあこの漫画も多少はそうですが 他にもこんな多くのコンプレックス
が!
  ・完璧だと思っていた夏の宿題計画に欠陥があったこと(プロジェクト コンプレX)
  ・昔のプレステでよくある メモリーカードを無くした失望(コンプレイステーション)
  ・大阪のユニバーサルスタジオのジュラシックパークで追いかけられて マジ泣きしてしまい 今思えば恥ずかしかったTコンプレックス
  ・最近メロディーが滅茶苦茶すぎて 個人的には月蝕グランギニョルくらいが一番好きだったアリプロ(アリプレックス)
 ・4種類ぐらい揃うとかぶり始め、結局全部揃えるの妥協したガチャガチャ(コンプレックスリート)
   (上記5個作者の実話)
  ・2段階くらいしか使わないのに 明るさが4段階もある照明器具
  ・ついには液晶画面まで削ったiPodの小型化(単純化しているようで複雑に)
  ・栄養バランスやらいろいろ書いてあるコーンフレークの箱の裏面(コーンフレークス)
千里 名前でこじつけているだけじゃない。
望 絶望した!人や物が抱えるコンプレックスに絶望した‼
可符香 先生 心配は無用です 一度コンプレックスとなったことでも それは教訓に変わるのです
望 またあなたは 何を言っているんですか?
可符香 たとえば芽留ちゃんにはこれを
可符香が芽留に何かを手渡す
可符香 らくらくフォンです 簡単なことまでコンプレックス化してしまった現在の携帯を教訓に作られたのです!
芽留携帯 これジジイが使うやつだろ!
望 そう甘くはありません 一度コンプレックスを抱えると恐怖が生まれてしまうのです
  実際に私は シネコンで二度と映画を見られなくなってしまいました!
美子 あれ このネタ少し暗号化のネタとかぶってませんか?
望 コンプレックスになるようなこと言わないでください! もうネタを考えるが怖くな
  ってしまいました!
翔子 いいネタしいれてありますよお 1個一万二千円でーす
望 よし 買った!
千里 先生が、コンプレックス商法に!
可符香 大丈夫だよ千里ちゃん これが教訓となってネタ作りに注がれる力が増えて もっと面白いネタが作れるようになるから
15ている:2009/08/19(水) 13:56:06 ID:X+a/7rUe
完です。本当の絶望先生より短くなってしまいました。題名考えるのが一番手間かかる…
16hina:2009/08/19(水) 13:58:34 ID:Sj3N4eyE
自分のタイピングが遅いせいで割り込んでしまったorz
ているさんすいません!すいません!ついでにこんな私が生まれてきてすいません!
小説は絶望先生本編っぽい話で面白かったですw

では、早速>10で予告した藤吉さんしてんドタバタ物を。
17hina:2009/08/19(水) 13:59:59 ID:Sj3N4eyE
「……何だかスランプね……」
自分で書いた同人誌を見て呟く、
どうにも最近あんまり良い構図が描けない。ネタは多いのに。
「……そうだ!、先生の寝姿からスケッチを……!」
我ながら良いアイディア!、ナイス私!
私が本気を出せば、宿直室の屋根裏に入ることくらい容易い事。
そしてそこではあんな光景やこんな………ふふふふふ
ふと気がついたら不審そうな目で先生がこちらを見ていた。
……表情に出てたかな?、千里にも時々言われるけど、こればっかりはなぁ……
――AM.2:30――
さて、無事屋根裏侵入成功!……この学校、やっぱり警備甘すぎよね?
多少古典的とは思いつつも、やっぱりこれが一番かなーって事で
双眼鏡と覗き穴を……よしっ
寝顔良い感じねー、何の夢見てるのかしら?
……って、ん?、あれは……
「……よし、寝てるわね……」
常月さん?辺りをキョロキョロ見回して何を……
ハッ、まさか先生に夜這いを!?
……んー、久藤君だったら良かったんだけどなぁ……
あ、先生の布団に近付いて……何かに引っかかった?
「!?、これは……!?」
そのままその何か白い…包帯かな?
に巻き取られた常月さんは、早業で柱に縛り付けられちゃった
と、なるとやっぱり……?
「かかったわね、抜け駆け厳禁」
「っあなたは!」
やっぱり小節さんか
コレ、ちょっと個人的に面白そうな展開かも!
先生には迷惑な話だけど、私に被害は及ばないし
ジタバタしてる常月さんを尻目に、
先生に近付く小節さん……今更だけど先生、
千里も含めてあんな子達相手にしてて良く生きてるわね……
異性にも同姓にもモテるなんて、流石!、そして久藤くんが先生の兄弟達と奪い合いを(省略)
バキベキッ
!?、何の音?……まさか!?
……良かった、ここは安定してるわね
なら、一体……
「うなっ!」
「っ!?」
ち、千里!?っと危ない、危うく声出すところだった……
にしても千里、何で床下に潜ってるのよ!
あ、常月さんの包帯今ので切れたわね
ドゴッ 「………」
ってまた!?今度は……三珠さんか、壁破壊とは大胆な……先生、良く寝てられるわね
でも、やっぱり幾らなんでもフラグ立て過ぎじゃないかな?
何か火花飛び散ってるし……臨戦態勢だし、
もしかして、今からオフエアバトルでも始めるつもりじゃ……
「「………」」ダッ
あ!動き出し……
「う……ん、」
あ、先生の身じろぎで止まった、
先生起こしちゃマズイもんね、今回はこのまま休戦?
「にいさ……ダメですよ、そんな……あっ……」
!!今の寝言何!?ちょ、最高!最高よ今の!
「アリアリアリアリ!フィーバ……あ」
マズイ、声出しちゃった……
18hina:2009/08/19(水) 14:01:40 ID:Sj3N4eyE
「曲者ぉ!!」シャッ
ヒィッ!?い、今千里の包丁が掠った!
このままだと消される!
は、早く逃げ……
バキバキバキッ
また誰か来……じゃない!
私の足元の板がさっきの包丁で割れ……!?
ドサッ「きゃう!」「っうぐぅ!?」
お、落ちちゃったよ、この危険な場所のど真ん中に!
松島トモ子がライオンのオリに落ちた様なものよ!
皆目を丸くしてコッチみてるよ………どうしよう
……ん?、私の下に誰か……先生!?
と、言う事は、この体制的に、私が先生を
襲ってるように見えないことも無い……いや、実質見える訳で……
「ヒィッ!?、だ、誰ですか何なんですか何するんですか貴女あぁぁ!!」
ヒィィ!!、先生起きちゃったしパニクってるし!そりゃそうだけど!
ヤバイ、今回ばかりは本当にマズイ、これもう傍から見たら私が先生襲ってるだけだよね、うん
だとしたら、当然千里達は……もう千里が鬼の形相に!?
ちょ、包帯が……動けな、って三珠さん!バットを握ってコッチ来ないでぇぇ!!
「いやああああああ!!」
何とか包帯を引きちぎって逃げることはできた、私の顔は見えてなかったみたいで追撃も無い。……死ぬかと思ったけど
正直、自分に運動神経があって良かったとコミケ以外で思ったのは始めてかもしれない。
とりあえず、辺りが暗かったのと皆が混乱してたのは不幸中の幸いだった、
もしあの環境じゃ無かったら私は今こうして学校には居られなかった……考えただけでも恐ろしい
「あ、おはようー!」
「ん? おはよう風浦さん」
今日は随分とご機嫌みたいね、先生に物凄いイタズラでも仕掛ける時のような笑顔が
私に向けら…れ?……もう嫌な予感しかしない。
いやいや、でもあの時風浦さんは居なかったし、偶々そう見えた……
「千里ちゃん!千里ちゃん!昨日ね、宿直室の屋根裏に……」
だけじゃ無いぃぃ!お願い待って!、千里は本当に危険だから!
本当にシャレにならないの!!
「…………」
!、チラっとだけどこっち見た!?、やった!風浦さんに想いが通じ……て無い!?
何か黒い笑顔でこっち見た気がする!
19hina:2009/08/19(水) 14:02:27 ID:Sj3N4eyE
「どうしたのよ?、キッチリ、最後まで話しなさい!」
「あ、ごめん千里ちゃん、それでね……」
ちょ、風浦さああああん!!
何で私集中砲火!?私何かし………あ
もしかして、アレ!?、一昨日、下校しようと思ってた時
知恵先生に突然持ち物検査されそうになって、持ってた先生×久藤君本の原稿を
慌てて近くにあった風浦さんの机にしまってそのまま帰った事!?
……翌日、普通に忘れ物を渡すような笑顔で返して貰ったけど、
もしかして、実は結構怒ってた、とか……?
『嫌だなぁ、早めに来てた先生に相当誤解されたくらいで 怒らないよぉ』
テレパシーキタコレエエエエエエ!!
え、何コレ超能力!?そして確信した、結構怒ってる!
ごめんその事は謝る!いや謝りますから千里だけは御勘弁を可符香様!!
「それでね、最後は屋根裏から……」
!!、そのオチは……!
「その話はダメえええぇ!!」
「……え?、晴海、風浦さんの話本当だったの!?」
「う……」
しまった、墓穴を……
「『昨日から襲う事を考えてニヤニヤしていた』、とか……そう言うのも? あとは……」
何かあること無い事話し出したああ!
しかも無い事の方が圧倒的に多い!風浦さんのばかああ!!
「まぁでも、晴海がそんな事をするとは思えないし……。」
「ち、千里……?」
千里は私を信じてくれるよね……?
とりあえずできるだけ澄んだ目をしておく……ダメ元だけど
「………そうね、今直ぐじゃなくて、闇の法廷で裁こうか。」
「それもいやあああああ!!」
千里に引きずられていく私を見送る風浦さんの笑顔が、
またも黒く見えたのは私の気のせいでは無いと思う
……その後の事は思い出したくも無い、あんなの不当判決よぅ!
とりあえずは、もう人の恋路に首を突っ込むのは止めよう
『妄想は妄想で、構図は日常からさりげなく』
うん、これだ、今度からそうしよう………

end――?
20hina:2009/08/19(水) 14:02:50 ID:Sj3N4eyE
ガラガラガラ……
「おや?、千里さんは欠席ですか?藤吉さんも」
「二人とも、仲良く遊びに行ってましたよ、だよね奈美ちゃん」
「え!?……あ、……うん」
「?、……絶望した!!生徒の堂々としたサボリに絶望したああ!!」
「何かもう、定番すぎてマンネリですね」
「私の決め台詞なんですから、そんな事言わないでください!!」
「あ、そうだ、先生今日何の夢見てたか覚えてます?」
「直ぐに話題を逸らしますね貴女は……
 ふ、これでも私は全ての悪夢を覚えていられると自負しています!」
「と、言うと?」
「あまり思い出させないで欲しいのですが……」
「まぁまぁ、人に話すと消えるって言いますよ?」
「……そのポジティヴは、好奇心から来てると顔に書いてあります」
「え?……そ、そうですか?、やだなぁ、気のせいですよ」
「!、先生が可符香ちゃんのポーカーフェイスを見破った!」
「彼女はポーカーフェイスとは違う気がしますが……まぁ、普通のリアクションと受け取っておきます」
「普通ってゆーなぁ!!」
「先生の前フリのおかげで、今回も奈美ちゃんが出た時の暗黙のルール達成できました!」
「いえ、貴方が私のフリに気付いてくれたおかげです!」
パァン!
「え!?、このやり取り暗黙のルールだったの!?というかドッキリ大成功のノリでハイタッチするなぁぁ!!」
「あ、そうだ先生、今日見た夢って何ですか?」
「ツッコミスルーされた!?」
「あぁ、忘れる所でした、確か命兄さん関連で……」
「絶命先生ですか?」
「……それ、兄さんの前で言わないであげてくださいね、下手すると私より厄介ですから……
確か、兄さんが手術していて……あ!完全に思い出しました!」
「何をですか?」
「『そんな太い血管の所を切りでもしたら危ないしもっと慎重に』と
 横で私が言ってたのですが、ドジな兄さんはプチッ……その辺りで、上から誰か落ちてきて起こされました」
「へぇ……(あぁ、それであの寝言だったんですね)」

〜寝言の真相〜 糸冬
21hina:2009/08/19(水) 14:05:11 ID:Sj3N4eyE
以上です(´・ω・`)
予想はつくと思いますが見ての通り藤吉さんが大好きです。

最近ここに活気が戻ってきて嬉しい限り、うんうん
22名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 14:37:49 ID:/l9isiYT
おふたかたともGJ!!うぴぃ!
23名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 14:38:22 ID:b/2ckuUR
>>ている氏
本編読んでいる様でおもしろかったです。
句読点や改行があればもっと読みやすいと思います。

>>hina氏
藤吉さんの日常を垣間見れて良かったです。
あと、晴海じゃなくて晴美ですよ。

揚げ足をとるようですみません。
24hina:2009/08/19(水) 19:12:58 ID:Sj3N4eyE
>22 >23
ありがとうございます(`・ω・´)

×晴海○晴美はあえて揚げ足を上げていたのですよ!
……いや、実際本気で間違えてましたがorz 指摘感謝ですw
25home:2009/08/19(水) 22:33:34 ID:6ZnQXxBD
hinaさん ているさん
GJです!

職人さんが増えたので自分も頑張っていきたいです!
26まといと望の結婚締結4:2009/08/19(水) 22:35:46 ID:6ZnQXxBD
駅のホームに降り立つ二人。
ようやく着いた望の故郷は、相変わらずの田舎だった。
まといの荷物と自分の荷物をまとめて持ち、出口へと向かう望。
その横にピッタリくっついて、離れないまとい。
今ではもう、横にいるのが自然なくらいだ。
突然、目の前に人が現れる。
立派な口髭を携えた初老の男性。
糸色家専属の執事、時田である。

「お迎えに上がりました、望坊ちゃま」
「久しぶりです、時田」
「お久しぶりです、時田さん」
「…坊ちゃま。そちらのかたは、坊ちゃまの教え子である、常月まとい様でございますね?」
「…えぇ、そうです。私の恋人でもあります」
「許嫁ですよ、先生♪」

嬉しそうに会話に加わるまとい。
対峙して腹を探り合う二人は、気にも留めず。
望はまといが右腕に抱き着いても、何も言わなかった。
この嘘がどこまで通用するか、望は内心ドキドキだったが、次の言葉に全て打ち砕かれる。

「望坊ちゃまも、常月様も無理をなさらないで下さい。全て、調査済みでございます」
「…どうゆうことですか?」
「これが猿芝居だと、分かっているということでございます」
「なっ、…!?」
「望坊ちゃま、糸色家の情報網を甘くみてはなりません」

そう言うと、時田は一枚の紙を広げた。
綺麗な和紙には、びっしりと文字が書いてある。
それを受け取り、読み進めると、望の計画が全て書いてあった。

「な、何故ばれたのですか…?」
「先生、よく見て下さい」
「へっ…?」
「これ、倫ちゃんの字ですよ」
「………絶望した!実の兄を陥れる妹に絶望した!」
27まといと望の結婚締結4:2009/08/19(水) 22:37:20 ID:6ZnQXxBD
その場にガックリとひざまづく望。
見かねた時田が声をかける。

「絶望なさることはありません、坊ちゃま」
「しかし、作戦が筒抜けでは意味がありません…」
「お聞き下さい、望坊ちゃま。このことを大様に説明しましたところ…」
「先生のお父様ですね」
「はい。大様はおっしゃいました。望坊ちゃまはお見合いの儀に参加しなくてよいと…」
「…本当ですか!?」

一気に顔を上げる望。
涙で濡れていた瞳が、今は爛々と輝いている。
逆に少々残念そうなまとい。

「本当でございます、但し条件がございます…」
「じょ、条件?何でしょうか?」
「望坊ちゃまのために里までいらっしゃった常月様に、望坊ちゃまが、おもてなしをすることでございます!」
「はっ…?」
「えっ…?」

ババーン!
まるで効果音が付くような衝撃な台詞。
…というわけでもなく、望は落ち着き払っていた。

「…そんなことで、いいんですか?」
「坊ちゃま、そんなことではございません。この里での一日のお世話を、全て坊ちゃまがなさるのですよ?」
「はぁ…」

いまいち実感の湧かない望は、返事に元気がない。
頬をポリポリ掻いていると、まといが口を挟む。

「それでは、この里に一泊するということでしょうか?」
「はい、見合いの儀を行う24時間の間は里を出てはなりません」
「えっ…!?そ、そんな…」
「また、見合いの儀に巻き込まれないためにも、宿泊は人里離れた小屋で行います」

不機嫌だった顔がみるみる幸せそうになるまとい。
しかし、逆にまた顔が萎れる望。
未だに、一度も表情を変えない時田。

「絶望した!悪戯好きな自分の父親に絶望した!」

望の絶叫は蔵井沢の空に響いた。
28home:2009/08/19(水) 22:40:26 ID:6ZnQXxBD
長々書いて申し訳ない

hinaさんと名前被るので
このSSが終わったら改名します
29名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 23:00:51 ID:Zy1QVWth
乙です。まと望の流れ…?
30名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 21:00:06 ID:yRQbDL1y
まとい大好きなのでうれしいです
homeさん書いて下さってありがとうございます
31名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 00:53:05 ID:Am5/LeRo
>>11のがコピペされてたんだけど、私怨とかの嫌がらせ?
それとも本人がやったの?
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/ascii2d/1247199824/
32名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 01:02:26 ID:RfzIO18T
本人がする理由あるかそれ
33home:2009/08/21(金) 01:56:52 ID:NBfX+Cqx
>>30

自分なんかのSSで喜んでいただけるなら幸いです

>>5の続きラスト行きます
34まといと望の結婚締結5:2009/08/21(金) 01:58:37 ID:NBfX+Cqx
川のせせらぎが聞こえる。
二人しかいないこの小屋の中で。
望は相変わらず絶望していた。
故郷に帰ってきた最初は、見合いの儀を逃れられると思い狂喜した。
だが今は、絶対的な権力の元に、まといとの同棲を強制させられている。
一方まといは、願ってもない状況に、つい顔がにやけてしまう。
ここでは盗聴も盗撮もする必要がない。
望とまとい、二人きりなのだ。
電気が通っていない薄暗い小屋。
一つだけある大きな窓から、日光が射している。
それが反射して、何とか人の姿を認識できる。
そんな、ボロ小屋。

「先生、何をなさっているのですか?」
「長恨歌に今回のことを書いているのです!」

鞄から取り出した愛用の歌集。
今までに望が受けた被害が全て、書き示してあるその本。
あまりの文章量に、周りの人間をドン引かせた一品だ。
恨みを書き記して満足したのか、望は今までの恨みを読み返し始めた。
ぺらぺらとめくっていく望。
その姿を見つめている、まとい。
中身がよほど気になるのか、ずいずいと望の近くに寄る。
望と歌集の間に頭を割り込ませて、内容を覗く。
微かに漂ってくるシャンプーの香り。
安いガムのような、そんな貧相なものではない。
とても豊かで、魅了するような。

「ちょっ…、常つ、き、さん…」

そんな、香しい匂い。
つい、ドキッとしてしまい、望が後ろに身をのけ反る。
すかさず、その隙間に体を寄せて、くっつくまとい。
もはや、歌集の中身には興味がなかった。
たった二人きりで、狭い小屋の中にいる。
動悸が早くなり、耳元で鳴っているかのよう。
二人どちらかを形容したわけではない。
近付く顔。
離れない瞳。
会話などというコミュニケーションはいらなかった。
まといが目をつむり、顔を寄せる。
触れ合う唇。
ようやく言葉を取り戻した、二人が。
35まといと望の結婚締結5:2009/08/21(金) 02:00:03 ID:NBfX+Cqx
「お慕い申しています、先生」
「だ、ダメですよ、常月さん。私達は教師と生徒なんですから…」
「今は、違いますよ」
「それは…」
「先生からおっしゃったんですから、責任をとって下さい」
「しかし…」

まだ抗議しようとする口を再び塞ぐ。
今度は意図して、触れ合う唇。
押し付けられる児戯の口づけに、戸惑う望。

「常月さん、貴女初めてですか…?」
「……キスがですか?」
「はい」

望を押し倒すような形なのに。
上に乗る少女は恥ずかしそうにしている。
モジモジとした態度から、正直に言うべきか迷っていることがうかがえた。
しかし、そうこうしているうちに少女は軽く頷いてみせた。

「あれだけの人と付き合ってたのに、キスは初めてなんですね…」
「そんなことする前に別れを切り出されますから…」
「…そ、そうですか」
「逃げないで居て下さったのは先生だけです…」

そう呟くと、まといは望の胸に顔を埋めた。
耳まで真っ赤になっているのが分かる。
急にこの少女が愛おしくなった望は、優しく頭を撫でた。
もう片方の空いた手を回して、背中から抱き締める。
素直に可愛いと思った。
抱き締めていてあげるくらいなら、構わないと考える。
そんな一瞬の油断を、見抜くまとい。
抱き着いて背中に回した手を、器用に動かし望の袴を解きほぐす。
まといを甘やかすことに夢中の望は、気が付かない。
何度も頭を撫でていると、既にまといが落ち着いているのが見えた。
疑問に思い、声をかける。

「落ち着きましたか?常月さん」
「…はい」
「では、そろそろ離して下さい」
「…嫌です」
36まといと望の結婚締結5:2009/08/21(金) 02:02:15 ID:NBfX+Cqx
悪戯が成功した少女は、ニヤリと笑いながら、望を見上げた。
引きずり落とされる望の袴。
外気に触れる絶棒。
あまりの出来事に、一瞬動きが止まる望。

「な、何をしているのですか!?」
「ふふっ、ちっちゃくて可愛いですね」

興奮など微塵もしていない望のそれは、小さく縮こまっていた。
躊躇うことなく、まといが絶棒の先を舐める。
長い間ご無沙汰だった望には、衝撃な快感で。
チロチロ繰り返す舌の動きに、絶棒が反応する。
みるみる形を変えて、それが異業のものへと。
大きくなったそれを、一気に口に含むまとい。

「あっ、うぅ…。常、月さん、…」
「……ひもひいいでふか?」
「は、初めてなんじゃ、ないんですか…?」

顎が疲れたのか、一旦絶棒から口を離す。
唾液に濡らされた絶棒と、まといの口に一筋の線が。
それが切れて落ちると同時に、次は手で刺激を与える。

「初めてですよ、先生」
「うっ…」
「初めてだから、先生に捧げるんです」

するすると、着物を脱いでいくまとい。
帯が外れ、前がはだける。
白く、成熟しない裸体が目の前に。
美しく綺麗な胸が、着物の影からちらりと見える。
望のものを舐めただけで興奮したのか。
まといのそこは、準備万端だった。
端正で卑猥なそこは、早く望を迎えたいとひくついている。
少女が上に乗ってくる。
なすがままだった望が、真剣な声で問う。

「常月さん、…本当にいいのですか?」
「はい。私には、先生しかないのです…」

迷うことなく答えるまとい。
真っ直ぐ自分を見つめる目から、つい視線を逸らしそうになる。
だが、きちんと見つめ返す望。
どうやら、まといの熱意の前にダウンしたようだ。
ニッコリ笑って、まといが動き始めた。
ヌルヌルに濡れている絶棒の先を、自らにあてがう。
未だ男を知らない少女の入口は固く。
中々思うようにいかない。
少し焦りつつも、何度か繰り返すうちに、先っちょが埋め込まれる。
ついビクッとするまとい。
その動きに唆され、少しずつ陥没していく。
一体となるのを感じるべく、少女の動きは緩やかなものだが。
確実に、絶棒は包まれていった。
途中に、少女の純潔を守る壁も壊されて。
今は根元まで深く繋がっている。
37まといと望の結婚締結5:2009/08/21(金) 02:04:36 ID:NBfX+Cqx
「痛くありませんか…?」
「す、少しだけ、痛いです…。でも」
「…?」
「とっても、嬉しいです」

そこに居たのは、いつもの常月まとい。
愛する者と淫乱な儀式を行う不義の少女ではなく。
愛しい者に付き纏う、常月まといがそこにいた。
いつもと変わらない、優しい笑顔で。
目の前の望に微笑んでいる。
交わる前と、同じように。
微笑んでいる。

「んっ…、先生、動いて下さ、い…」
「しかし、まだ痛いでしょう?」
「だ、大丈夫です。せ、んせいに、気持ちよくなって、欲しい、んです…」

健気な言葉に、胸が震えた。
どうしてこの少女は、こんなにも自分に尽くすのか。
それは、行為の後にでも考えようと思う。
今はただ、目の前の少女に集中するだけ。
ゆっくりと動く望。
まといの体調を気遣って、本当にほんの少しだけ。
クチュ、と小さく水音がする。
それに合わせて、まといの身体がぴくぴくと動く。
反応の可愛さに、悪戯心が浮かび上がり、それを食い止められない。
段々と動きを激しくする望。
やはり、それに合わせて反応するまとい。
慣れてきたのか、喘ぎ声が大きくなる。

「あっ、あんっ、…せっんせぇ…」
「気持ちいいですか?常月さん」
「あっ、…ひゃっ」

返事もできない程によがり狂うまとい。
ついつい膨れ上がる欲望。

「答えないと、続けませんよ…?」

まといをギュッと抱きしめて、耳元で囁く。
急に快感が消え失せる。
不満が残るまといは、壊れた玩具のように頭をがくがくと振った。
目に溜まる涙が、頬を伝う。
再び動き出した望。
少女を下から突き上げる。
絶え間無く続く、拷問のような快楽の波。
二人同時に、堪えられなくなってくる。
下半身に込み上げてくるものを感じる。
このまま果てたら、どんなに幸せだろうか。
望が頭の隅で考えると。
まといが耳元で囁いた。
38まといと望の結婚締結5:2009/08/21(金) 02:07:22 ID:NBfX+Cqx
「せんせっ、あん、あっ…、今日は、んっ、大丈夫、ですから…」
「!?」
「どうぞ、はぁ…んっ、中、に出してぇ、あっ、下さい…んんっ!」

狂った頭が歓喜して踊った。
もう他には何も考えていない。
ただ、まといの中に性をぶちまける。
それだけなのだ。
互いに抱き寄せ合い、身体を密着させる。
舌を絡ませ、夢中で吸う。
まといが望の頭を抱いた、その瞬間。
望の絶棒が爆ぜた。
まだ幼き少女の中で暴れ、欲望を放つ。
それを受け止めるまといもまた、頂点に達した。
一度も受けたことのないその感覚は、魅力的過ぎて。
少女の意識を遠くに流すほどだった。
次に気が付いたとき、まといは望の腕の中にいた。
丁寧に敷かれた布団の上に、身を横たえて。
太陽の匂いがする、白い掛け布団。
眼鏡を外した望が、まといを見つめていた。

「起きちゃいましたか?」
「…先生」
「まだ、しばらくは寝てても大丈夫ですよ。時間がありますから」
「…はい」
「ところで、常月さん」
「なんでしょうか?」
「大丈夫な日って、本当ですか?」
「はい、本当ですよ。私は、先生には嘘がつけませんから…」

(本当に、赤ちゃんを作るのには大丈夫な日です)

安心しきった顔の望。
望の前では演技をするまとい。
内心は、やはり悪戯が成功した幼児のような心境で。
つい、にやけてしまった。

「私、愛が深いんです♪」






終わりです。
久しぶりのエロなんで妥協しまくりました
また書けたら投下したいと思います
39名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 04:00:54 ID:1i0fZOAF
GJッッ!
40home:2009/08/21(金) 09:59:42 ID:NBfX+Cqx
>>39
ありがとうございます

>>33
ミスりました
5ではなく27からです
すみません
41hina:2009/08/21(金) 11:21:44 ID:YZeCMW3D
望まと大好きです!GJです!
エロとか書きたくても上手く書けないんですよ……
流石homeさんですね、尊敬です(`・ω・´)

>28 すいません、被り気味でしたか?
色々な所で使うHNから取ったもので……気になるなら私の方から改名しますよ?
新参ですし。
42yuguzerudo:2009/08/21(金) 11:40:27 ID:8+UGaB6K
>>41
いえいえ
もともと本名はこっちなんで
気にしないでください

hinaさんの作品楽しみにしてます
43yuguzerudo:2009/08/21(金) 13:30:27 ID:8+UGaB6K
勝手に改名記念に書いてきました
望霧 エロなしです
44霧よ、朝焼けが近い:2009/08/21(金) 13:32:43 ID:8+UGaB6K
目覚めの光が、瞼に注ぎ込まれる。
深い眠りから覚める望。
上半身だけ起き上がり、隣で可愛い寝息をたてる少女を見つめた。
お気に入りの毛布に包まり、幸せそうに目を瞑っている。
長い髪に触れようと手を伸ばす。
優しく頭を撫でて、声を掛けてみる。

「小森さん…?」
「…すぅすぅ」

呼びかけても返事がない。
まだ夢の中から出てきてないのだと判断し、布団から抜け出る。
温かく幸せな空間から出るのは辛かったが、何とか抜け出ると。
再び霧に話しかけた。

「小森さん…、愛してますよ」
「…んっ」

寝ているからこそ言った台詞だったが、霧がピクリと動いた。
それでようやく気付いた望は、霧に顔を近づける。
横顔のギリギリまで近づき、囁いた。

「寝た振りしてもダメですよ。今日は学校なんですから、抱いてあげられません」
「ん〜…」

望に向けて唇を軽く浮かせる。
しかし、唇ではなく頬に口付ける。
それも、触れる程度で。

「さぁ、起きてください。朝食にしましょう」
「………せんせぇの意地悪」
「やっと起きてくださいましたね。おはようございます」
「おはよ、せんせぇ」

また、今日が始まる。





おわりです。

最近、霧とまといどっちがより好きかで悩んでます
45名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 14:49:21 ID:Ds0fQyug
>>44
甘いだけの作品って…

大好きです!
46名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 16:45:03 ID:MS9aPwb/
あなたの望霧が好きだGJ
47ている:2009/08/21(金) 20:56:36 ID:vZRuCTkW
おもしろかったです。総合スレのほうにだれかがオリジナルと称して11から15の話を載せてしまったうえに、両方のスレを読んでいる人から、エロパロじゃないんですけど。という非難を受けてしまいました。非難した人は悪くありません。正当な批評だと思います。
でも他人の作品を(駄作ですが)かってに掲載だなんて、理不尽でしょう‼
48hina:2009/08/21(金) 21:10:53 ID:YZeCMW3D
望霧も大好きですw、まぁ、絶望少女は皆好きですが(`・ω・´)
homeさんの書く小説はまといも霧も可愛くて大好きです。
>47 ここでは大丈夫ですが、他スレに書き込みに行く時の為に
メール欄にsageと入れる習慣をつけるといいかもです。
勝手に掲載された事に関してはどまいです;

何はともあれ、望霧でテンション上がった記念で書きました
台詞オンリーの短編ネタ系です。
49hina:2009/08/21(金) 21:12:35 ID:YZeCMW3D
「おや、風浦さん、奇遇ですねぇ」
「ですねー、先生はこれからお出かけですか?」
「いえ、ちょっと女子大生さんに貰ったおでんの感想とお礼をお伝えしたいなー、と」
「この辺りの女子大生ですか?、私知り合いなので連れてきましょうか?」
「知り合いだったんですか、なら、お願いします」
「分かりました、ここで待っていてくださいね!」
「‥‥それにしても彼女、相変わらず人脈広いですねぇ…‥」
「糸色さん、私にご用事ですか?」
「女子大生さん!‥‥その、この間のおでん美味しかったので、お礼に出張先からのお土産を‥‥」
「まぁ、そんなのいいのに‥‥」
「私の気持ちですから、受け取ってください」
「ありがとうございます、糸色さん」
「‥‥あ、そう言えば、風浦さんは?、貴方を呼びに行ってから戻ってきませんが」
「可符香なら用事あるからって帰っちゃいましたよ」
「そうですか‥‥彼女のテスト、実は採点ミスしてたので、渡し直さないといけないんですよ」
「そうなんですか、渡しておきましょうか?」
「いえ、テストは本人以外にあまり見せるものでは無いので‥‥悪いんですけど、彼女の家分からないので呼んで来て頂けますか?」
「あ、わ、分かりました、ちょっと待っててください」
「むぅ‥‥呼び出しておいて用事とは、悪いことしちゃいましたかね‥‥」
「糸色先生ー!」
「おや、風浦さん‥‥随分息を切らしてますね?」
「急いで‥‥来たものですから‥‥女子大生から‥‥聞きました、テストですよね?」
「話が早くて助かります、はい、これです」
「ありがとうございます!」
「‥‥そうだ、貴方、隣の校舎の一年生の方って知ってます?」
「‥‥えぇ、まぁ‥‥」
「貰った手紙のお返事を書いたので、もし知っていたら連れてきて頂けますか?」
「あー‥‥はい、ちょっとお待ちを」
〜〜〜
「こ、こんにちは、糸色先生‥‥」
「こんにちは、この間はドタバタ騒ぎになってお返事返せなくて失礼しました、はい、これです」
「あ、ありがとう‥‥ございます」
「貴方も疲れてるようですねぇ‥‥」
「あぁ、急いで来たので‥‥」
「ところで、風浦さん知りませんか?」
「え?、もしかして用事ですか?」
「まだ少し話したい事がありまして‥‥」
「あ、はい、連れてきます‥‥」
〜〜〜
「せん‥せ‥」
「風浦さん、速かったですねぇ‥‥大丈夫ですか?」
「‥‥いえ、用事があるのでしょう?」
「そうでした、実はまた隣の女子大生さんを‥‥」
「‥‥先生、一つだけ言わせて貰って良いですか?」
「?、はい」

「わざとなんですか無自覚なんですか憂さ晴らしなんですか何なんですか」

「‥‥あ、もしかして二回もパシらせちゃった事、怒ってますか?」
「‥‥‥‥‥いえ、怒ってなんかいませんよー‥‥さっき言った事は忘れてください」
「‥‥何かすいません」
「‥‥‥何がですか?、女子大生でしたよね‥‥連れてきます」

以下エンドレス
50名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 21:17:26 ID:FHOl3bgt
ありがちだけど萌えた
51名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 22:19:55 ID:Ds0fQyug
>>49
おもしろかったです。
先生が無自覚なのがw
52ている:2009/08/21(金) 22:37:39 ID:vZRuCTkW
本当に人の心につけこむのうまいですよねカフカちゃん

16ではこちらこそすいません!hinaさんの素晴らしい作品の価値を、私の駄作によって下げてしまってすいません!
53名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 23:46:28 ID:Ds0fQyug
「あの…小森さん…本当にすいませんでした。あなたの大切な毛布をなくしてしまって」

「もぅ、いいよ。先生の買ってきた毛布で我慢するよ」

「本当ですか!?」

「うん、でも…やっぱりまだ安心出来ないなぁ」

「えっ、それじゃあ…」

「だからぁ…先生が安心毛布の代わりになって…」

「…え〜と、それはどういう意味ですか…?」

「先生に…えっと…その…後ろから抱きしめて欲しいなぁ…なんて…」

「わ、私がですか…」

「う、うん…ダメかなぁ…」

「……わかりました。それで小森さんが安心出来るのなら…」

「えっ…」

「そもそも私が小森さんの毛布をなくしてしまった訳ですしね」

「う、うん…。ありがと…先生…」
54名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 23:49:02 ID:Ds0fQyug
18集読んで思い付きでここまで書いてみた。
私、単行本派なんです…

リクがあれば続きも…
55yuguzerudo:2009/08/22(土) 08:04:28 ID:MkAzALAV
>>49
すごいおもしろいですww
何度も読み返してしまいました

小森さんの続き読みたいです
56yuguzerudo:2009/08/22(土) 22:26:55 ID:MkAzALAV
連続で申し訳ないが
書けたので投下

望→←まとい なので
苦手な人は御注意を

エロなし
57まといよ、夜明けが近い:2009/08/22(土) 22:29:22 ID:MkAzALAV
「先生、今日はこちらから帰りましょう」
「居たんですか…?」
「えぇ、ずっと」

すっかり日が暮れて、暗い夜道。
後ろから望の袴を引っ張り、分かれ道の別の方を指し示す。
どんよりとして、不気味な細道。
どうにも気が滅入りそうな道だ。

「嫌ですよ、こんな暗い道…」
「そんなっ!こっちに行けば、きっと幸せなことが起きますよ」
「例えば…?」
「えっ…?そうですね、暗い道だから、私が手を繋いでほしいって言うかもしれませんし」
「…」
「他にも、はぐれないようにピッタリ横にくっついたり」
「…」
「猫が飛び出してきて、私が抱き着いたりしますよ?」
「…馬鹿なことを言ってないで、早く帰りますよ」

まといの手を握り、自分の後ろから横に来させる。
思った以上に、強い男の力に驚く。
それでも、ギュッと握られている手には顔を赤らめてしまう。
カランコロンと、下駄の音を鳴り響かせる望。
その横を手を牽かれついていくまとい。

「こちらの道でも、幸せでしょう?」
「………先生の意地悪」
「貴女が望んだことではありませんか」
「…先生の幸せは、何でしょうか?」
「はい?」
「教えて下さい」

真剣な顔でまといが聞いてくる。
望に関する情報のときは、いつでもこうだ。
新たな悪戯心が芽生え、望はまといの耳元に顔を寄せる。
一瞬ビクッとしたが、構わず囁いた。

「早く家に帰って、常月さんを抱きしめること、ですかね」
「…っ!?」

火が出そうになるくらい、顔が真っ赤に。
可愛らしい少女の反応に満足して、また歩き出す。
決して手は離さなかった。

「行きますよ、常月さん」
「…はい、先生」

また今日が終わる。





終わりです

ラブラブなのは書いてて楽しいです(笑
58名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 22:37:03 ID:Lls+0NQx
>>56
悶え転がりそうになるほどGJな作品をありがとう
最近まとい作品多くてファンとしてはうれしい限りです
59名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 22:48:30 ID:m8PeUZtf
GJ
ちょっとこっちが恥ずかしくなっちまったい
60名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 00:27:55 ID:I9fAWi3+
まっといまっとい!
61266:2009/08/23(日) 19:24:56 ID:/GU21KY0
ええっと、なんだか一気に職人さんが増えて、嬉しい限りです。
やっぱり、スレが賑やかなのは良い事です。
みなさん、良作SSの数々、GJです!!
>>49が小技が効いてる感じで面白かったです。
ラブラブな望まとも素敵でした。

それで、私も一応書いてきたので、投下させていただきたいのですが、
ただ、これは懺・さよなら絶望先生第八話のEDの改変部分を知らないと意味不明な話になっています。
申し訳ない限りですが、勢いで書いてしまったもので……。
内容は例によって、望カフのエロなしです。
それでは、いってみます。
62266:2009/08/23(日) 19:25:42 ID:/GU21KY0
気が付けば、空の彼方から無数の白い結晶が降り続いていた。
ターミナル駅の薄暗い明かりを反射して、ホームに立つ自分達を包み込むように雪が舞い落ちてくる。
凍えた空気の中に白い息を吐きながら、可符香は望に問うた。
「結論、出ちゃってるんじゃないですか?」
柔らかく問いかけるその言葉に、僅かな震えが混じっている事に可符香自身さえ気付かない。
「はい……」
問われた望は少し俯きがちに、僅かに頬を染めて答える。
(いつもと同じだ)
可符香は望の答えに寂しく微笑みながら、胸の奥のどこかで奇妙な安堵感を感じながら、それを聞いていた。
(先生はいつもと同じ選択をして、私達はいつもの日常に帰還する。何も変わらない………)
行き先の決まったミステリートレインはほどなくこの駅を旅立つだろう。
それはきっと、可符香の心にわだかまる諦め切れない感情の一かけらに踏ん切りを付けてくれるに違いない。
だけど………。
「それじゃあ、行きましょうか?」
冷え切った彼女の小さな手を、大きな手の平が包み込んだ。
「あ………」
「確か……こっちのホームから出る列車だった筈ですが…」
優しく手を引く望の体温に、可符香の胸は締め付けられる。
(未練…かな……)
手の平に感じる望の存在が、忘れようとしている筈の願いを、想いを蘇らせてしまう。
きっと、望は可符香がどんな気持ちでいるのかなど知る由もないだろう。
だけど、今の彼女にとってこれは残酷過ぎた。
可符香は俯いて、ただ望に手を引かれるままに、大勢の乗客たちが行き交うホームを通り抜ける。
だから、彼女は気付いていなかった。
望の足が向かう先が彼女の考えている場所と違っている事に……。

「あれ、先生、こっちは……?」
「ん?どうかしましたか?」
ふと顔を上げて、可符香は気付いた。
いつの間にか、自分達がターミナル駅の中でもほとんど人通りのない場所に来ている事に気付いたのだ。
望と可符香がこれから乗る筈の列車は、実は数ある行き先の決まったミステリートレインの中でも、最も利用者の多いものである筈なのに……。
「やっぱり、この辺まで来ると駅の構内も寂しくなりますね。……まあ、今まで誰も乗った事のない路線ですから、無理もありませんが……」
「誰も乗ったことが無い路線なんて、どうしてそんなものが残っているんですか?」
当然の疑問を可符香が口にすると、望は困惑した表情を浮かべて
「……それは、まあ……いつかは乗らなきゃならないものでしたから…」
「……えっ?」
望の台詞の意味を測りかねているうちに、二人はついにそのホームに到着した。
「この列車で間違いないようですね……」
望の視線の先、ホームの端から端まで伸びる長大な列車があった。
連結された客車の数は数えも切れず、そしてそれを牽引する機関車部分はその他の列車に比して巨大なものだ。
だが、ホームには望と可符香以外の人影は一切ない。
今にも消えてしまいそうな、チカチカと瞬く蛍光灯に照らされた無人のホームは、降り続く雪の白さも相まって恐ろしいくらいに寒々しかった。
「中は暖房がきいてる筈ですし、さっさと乗り込んでしまいましょうか」
「ま……待ってくださいっ!!さっきから変ですよ、先生!!私たちが乗るのは……先生が選ぶのはこの列車じゃなくて……」
可符香は遥か遠く、大勢の人で賑わうホームを横目で見ながら叫んだ。
怖かった。
自分の知らない選択肢へと手を伸ばそうとする望が恐ろしかった。
この列車に乗ったが最後、自分がどこへ連れて行かれてしまうのか、不安でたまらなかった。
だけど、望は震える可符香の手の平をきゅっと握り締めて、
「これが、私の選択なんです」
「先生………」
「だから、ついて来てくれませんか?」
真剣な眼差しで可符香の瞳を覗き込みながら、望はそう言った。
可符香は何も言い返す事ができず、ただこくりと肯いた。
それを見て取った望は可符香の手を引き、列車の入り口へと足を踏み入れる。
やがて、二人が乗り込んだ列車は舞い散る雪の中、どことも知れない目的地へと延びる鉄路へとゆっくり滑り出していった。
63266:2009/08/23(日) 19:26:26 ID:/GU21KY0
「ターミナル駅に着く直前まで、『先送り』行きの列車に乗ろうと考えていたんですよ」
暖房の効いた車内、白く曇った窓ガラスを指先でなぞりながら、可符香は望の言葉を聞いていた。
曇りを拭った窓の向こうに見えるのは、車内の明かりに照らされて浮かび上がる無数の雪ばかり。
この列車が果たしてどこに向かうのか、可符香には未だ見当もつかない。
「ただ、その『先送り』というのもあくまで第二の選択肢だったんです。本当は乗りたい路線があったんですが………」
望の言葉を、可符香はただぼんやりと聞き流していた。
彼の選択がどうあれ、少なくともこの列車が「あの駅」にたどり着く事はない、それだけは確かなのだから。
ならば、望が何を選ぼうと、可符香には関係ない。
「その路線、調べたところでは正常に運行されてないみたいなんです。もしかしたらと思って、ターミナル駅でもよく調べてみましたが、やっぱり駄目でした」
「あの駅」で、いつも可符香は待っている。
『彼』を乗せた列車がホームに滑り込んでくるのを待っている。
ひらひらのフリルに縁取られた傘で、降り続く粉雪をしのぎながら、いつまでも、いつまでも。
だけど、本当は彼女は知っているのだ。
『彼』はきっと、自分の待つ駅になんて来てくれないのだと。
だけど、待つ事だけはできるから。
待っている間は、もしかしたら『彼』がやって来るかもしれないという希望を捨てずに済むのだから。
だから、可符香は待ち続ける。
「だからこその『先送り』だったのですが、ターミナル駅で一つアイデアを思いついたんです。それが、この路線……」
だけど、その『彼』・糸色望は今、自らの意思で選択肢を選び取った。
「この路線なら、上手くいけば乗りたかった路線を選んだのと同じ結果が期待できるかもしれない……」
第一希望の路線に対する代案ではあったけれど、望は『先送り』を行わなかった。
「あの駅」、即ち風浦可符香という選択肢をいつかは望が選ぶかもしれない。
その幻想を支える大前提が、今、崩れ去ろうとしていた。
望が何かを選んだのなら、それ以外の選択肢は振り落とされるのが道理だ。
消えていく希望を前に、意外なほど冷静な自分に可符香は少し驚いていた。
だが、それも当たり前の事なのかもしれない。
「あの駅」は荒れ果てていた。
さび付いたレールはほとんどが半壊状態で、その上を走れる列車など存在しない。
ホーム脇には壊れた列車の車両が転がり、既に駅としての体を保ててなどいなかった。
誰も、来ないからだ。
誰も彼女を、風浦可符香を選び取る事がなかったからだ。
待ち続ける可符香自身もそれは身に沁みて理解している。
きっと「あの駅」に向かう路線など誰の選択肢からも消え去って、とっくに廃線しているのではないのだろうか、と。
望があの路線を選ぶ可能性など欠片も存在しなかったのだ。
だから、どこへ向かうとも知れないこの列車で、可符香は全てが他人事であるかのように微笑んでいられる。
端から存在しなかった希望など、失ったところで痛くも痒くも無いのだから。
「……でも、ちょっと楽しみです」
可符香は望に向かって、にっこりと笑いかけた。
「先生がまさか『先送り』以外の選択肢を選ぶ度胸があったなんて……とても驚いてるんですよ、私」
「すっげー失礼ですね、あなた。………まあ、否定し切れない辺り、私も情けないばかりですが……」
「先生がどんな決断をしたのか、すごく興味があります。どんな駅なのか、私、楽しみですよ」
満面の笑顔で、それこそ内面の葛藤など露ほども感じられない明るい表情でそう言った可符香に、
望は何故か目を細め、優しげな表情を浮かべて答えた。
「ええ、私も……そこがあなたに気に入ってもらえる事を、心から願っています……」
そんな望の顔が、なんだか心に突き刺さるようで、可符香は彼の顔から目を逸らし、窓の外に視線を向ける。
振り続ける雪はいよいよその量を増し、景色を白く変えていく。
無人の野を、暗い山並みの合間を、そこに敷かれたレールを辿って、列車は走り続けていった。
64266:2009/08/23(日) 19:27:51 ID:/GU21KY0
それからどれだけ走った事だろう。
鉄路に降り積もった雪も物ともせず、ついに列車は目的の駅のホームに滑り込んだ。
「さあ、着きましたよ」
望に促され、可符香は列車を降りた。
扉を開けた瞬間、吹き込んできた冷たい風に、可符香はぎゅっと自分の体を抱きしめた。
外は暗かった。
どうやら、二人がこの列車に乗ったターミナル駅ほどではないにせよ、それなりに巨大な駅のようだったが、明かりと呼べるものが存在しないのだ。
唯一の光源は、二人が降りたばかりの列車の窓からこぼれる灯りだけ。
「先生、ここはどこなんですか……?」
一体、自分の想い人は、望は何を選択してしまったのか?
不安を抑えきれず、可符香が尋ねた。
「じきにわかりますよ」
一方、望の声には不安らしきものは感じられなかった。
ただ、何故か、その声音が緊張したようにほんの僅か、震えていたような気がした。
と、その時だった。
「あ……列車が……!?」
ガタン。
振り返ると、二人を乗せてきた列車がホームから離れていこうとする所だった。
ずらりと並んだ窓明かりは望と可符香の前をゆっくりと通り過ぎて、やがて線路の彼方へと消えていった。
「先生……」
「大丈夫、用意はしてありますよ」
望はカバンの中から、小さな懐中電灯を取り出した。
広いホームに一点、小さく点った明かりを片手に、望はホームに立つ柱を調べ始める。
「……何してるんですか?」
「いえ、この辺りにホームの電灯のスイッチがある筈なんです」
足元もほとんど見えない薄闇の中でも、望は迷う事無くホームの上を歩き、柱を一本ずつチェックしていく。
「先生、もしかして、この駅の事よく知ってるんですか?」
「まあ、他の人より多くを知っている自信はありますね。……ああ、やっぱりありましたよ、電源ボックス」
どうやらスイッチの在り処を見つけたらしく、望は声を弾ませた。
どうやら錆付いてなかなか蓋が開かないらしい電源ボックスを相手に悪戦苦闘する望。
両手のふさがった彼の代わりに、可符香は懐中電灯で望の手元を照らす。
「ふんっ!ぬぅっ!!…ぐぬぬぬぬ……っ!!……はぁはぁ…駄目ですね。ビクともしない」
「代わりましょうか、先生?」
「いいえ。あなたに代わった途端にこの蓋が開いたりしたら、たぶん私、激しく傷ついちゃうので……」
凍える空気の中、かじかんだ指で金属製の蓋に、望は挑み続ける。
懐中電灯を持っているだけで、手持ち無沙汰な可符香はそんな望の背中を見ながら、この駅の事を考える。
望が選んだ選択肢、その正体は今のところ全く見えて来ない。
しかも、望の方はこの駅について、どうやら良く知っているようなのだ。
暗闇に包まれた無人の巨大駅。
こんな場所だとわかっていて、どうして望はこの駅までやって来たのだろうか?
「…………寂しい、ところですね?」
可符香は問いかけてみる。
「先生は、一体何を決めたんですか?この場所に来る事にどんな意味があるんですか?」
「……そうですね。…正直、もう他に手段を思いつかなかったからでしょうか……」
「だから、それはどういう意味なんです?どうして先生は……っ!!!」
「それは…………おっと、ようやく蓋が開きました。よし、これで……」
カチャリ、電源ボックスの中、もう長い事使われていなかったらしく、蜘蛛の巣だらけのスイッチを望はONにした。
作業を終えた望は振り返りながら、可符香に語りかける。
「これはあくまで代案なんです。この場所に私が来る事自体に、意味なんてありません」
「それじゃあ何故……」
ホーム全体の電灯に電気が通って、それぞれの灯りが弱弱しく明滅しながら、周囲を照らし始める。
「私一人で来る事に意味はない。ですが……」
ゆっくりと照らし出されていくホームの上、望は可符香の元へ歩み寄る。
「私とあなたが、二人でここにいる事に意味があるんですよ……」
「えっ……あっ……!!?」
一瞬の出来事だった。
望がのばした腕が、可符香の体を強く強く抱きしめたのだ。
「ずっとずっと迷い続けていました。ほら、私ってチキンですから……」
まるで逃すまいとするかのように、必死で縋りついてくる望に、可符香は戸惑う。
65266:2009/08/23(日) 19:28:41 ID:/GU21KY0
「迷って迷って、ようやく自分の心が定まったと思った時には、既に目的地への路線は閉ざされていました。
正直、絶望しました。自分の意気地のなさのせいで全てが手遅れになってしまったんだって………」
「せん…せい…?それって……?」
可符香は思い出す。
ただ一人、来ない列車を待ち続ける「あの駅」での事を……。
そうだ。
あそこで待ち続ける内に、自分の心はいつの間にか諦めと倦怠に侵され、
気がつけば「待つ」という行為こそ続けていたものの、そこに誰かがやって来てくれる事など考えもしなくなっていた。
誰も気付かない、気付いてくれない、そんな可符香の絶望がいつしかあの駅へと通じるレールを断ち切ってしまっていたのだとしたら……。
「でも、まだ最後の手段が残されている事に気付いたんです。だからこそ、あなたをここへ連れて来た……」
気がつけば、自分達の立つホームだけでなく、暗闇に包まれていたはずの駅全体が煌々とした灯りに照らし出されていた。
その眩しさに目を細めながらも、可符香は確かに見た。
ホームの天井から吊るされた看板にハッキリと書かれた、この駅の名前を……。
「……『糸色…望』………」
それこそが、この駅の名前、この駅を選ぶという事の意味。
暗闇の中でも迷わず歩けるほどに、望がこの駅の事を知っていた理由もこれで明白となった。
そうだ。
ここは、彼の駅なのだ。
「……あなたへとたどり着く道を見失った私の、これが最後の賭けだったんです。強引な方法で、申し訳ありませんでした……」
望が何を言わんとしているのかは明らかだった。
「選んでくれますか……?」
可符香は、抱きしめられたままの姿勢で、望の顔を見上げた。
不安に揺れて怯える瞳は、しかし、まっすぐに可符香だけを見つめている。
(先生は……選んでくれたんだ……)
苦しみ、のたうち、それでも可符香の元へと辿り着く術を彼は探し続けていた。
それは己の運命に疲れ果て、望む未来へと手を伸ばす事を忘れかけていた彼女にラスト・チャンスを与えてくれた。
「あはは……いやだなぁ……」
可符香の瞳から、涙が一筋零れ落ちた。
「自分の生徒を強引に攫って、こんな所にまで連れて来ちゃうなんて、先生、ちょっとした犯罪ものですよ?」
泣き笑いの彼女は、望の胸に顔を押し付けて、彼の体を抱きしめる。
「………選んでもいいんですか、先生?」
そうしてようやく、問い返した彼女の声は震えていた。
「あなたに、傍にいてほしいんです」
望は固い抱擁を解いて、その代わりに可符香の肩にそっと両の手の平を置く。
そして、望を抱きしめる可符香の両腕に、ぐっと力が込められた。
それが、彼女の答だった。
もう離れない。離さない。
やがて、ゆっくりと顔を上げた可符香の唇に、望は自分の唇を近づけていく。
「風浦さん……」
「先生………」
重なり合う二人の吐息、二人の体温。
互いの気持ちを確かめ合うような、長い長いキス。
そして、二人っきりのホームの上で、二人はようやく心の底からの笑顔を交し合えたのだった。





………これでお話はおしまい。めでたしめでたしというわけで、舞台の幕は下ろされる筈だった。
だが、しかし……
66266:2009/08/23(日) 19:30:00 ID:/GU21KY0
「迷って迷って、ようやく自分の心が定まったと思った時には、既に目的地への路線は閉ざされていました。
正直、絶望しました。自分の意気地のなさのせいで全てが手遅れになってしまったんだって………」
「せん…せい…?それって……?」
可符香は思い出す。
ただ一人、来ない列車を待ち続ける「あの駅」での事を……。
そうだ。
あそこで待ち続ける内に、自分の心はいつの間にか諦めと倦怠に侵され、
気がつけば「待つ」という行為こそ続けていたものの、そこに誰かがやって来てくれる事など考えもしなくなっていた。
誰も気付かない、気付いてくれない、そんな可符香の絶望がいつしかあの駅へと通じるレールを断ち切ってしまっていたのだとしたら……。
「でも、まだ最後の手段が残されている事に気付いたんです。だからこそ、あなたをここへ連れて来た……」
気がつけば、自分達の立つホームだけでなく、暗闇に包まれていたはずの駅全体が煌々とした灯りに照らし出されていた。
その眩しさに目を細めながらも、可符香は確かに見た。
ホームの天井から吊るされた看板にハッキリと書かれた、この駅の名前を……。
「……『糸色…望』………」
それこそが、この駅の名前、この駅を選ぶという事の意味。
暗闇の中でも迷わず歩けるほどに、望がこの駅の事を知っていた理由もこれで明白となった。
そうだ。
ここは、彼の駅なのだ。
「……あなたへとたどり着く道を見失った私の、これが最後の賭けだったんです。強引な方法で、申し訳ありませんでした……」
望が何を言わんとしているのかは明らかだった。
「選んでくれますか……?」
可符香は、抱きしめられたままの姿勢で、望の顔を見上げた。
不安に揺れて怯える瞳は、しかし、まっすぐに可符香だけを見つめている。
(先生は……選んでくれたんだ……)
苦しみ、のたうち、それでも可符香の元へと辿り着く術を彼は探し続けていた。
それは己の運命に疲れ果て、望む未来へと手を伸ばす事を忘れかけていた彼女にラスト・チャンスを与えてくれた。
「あはは……いやだなぁ……」
可符香の瞳から、涙が一筋零れ落ちた。
「自分の生徒を強引に攫って、こんな所にまで連れて来ちゃうなんて、先生、ちょっとした犯罪ものですよ?」
泣き笑いの彼女は、望の胸に顔を押し付けて、彼の体を抱きしめる。
「………選んでもいいんですか、先生?」
そうしてようやく、問い返した彼女の声は震えていた。
「あなたに、傍にいてほしいんです」
望は固い抱擁を解いて、その代わりに可符香の肩にそっと両の手の平を置く。
そして、望を抱きしめる可符香の両腕に、ぐっと力が込められた。
それが、彼女の答だった。
もう離れない。離さない。
やがて、ゆっくりと顔を上げた可符香の唇に、望は自分の唇を近づけていく。
「風浦さん……」
「先生………」
重なり合う二人の吐息、二人の体温。
互いの気持ちを確かめ合うような、長い長いキス。
そして、二人っきりのホームの上で、二人はようやく心の底からの笑顔を交し合えたのだった。





………これでお話はおしまい。めでたしめでたしというわけで、舞台の幕は下ろされる筈だった。
だが、しかし……
67266:2009/08/23(日) 19:31:33 ID:/GU21KY0
「ん……あれは?」
「どうしたんですか、先生?」
望が何かに気付いたように顔を上げて、可符香も同じ方向に視線を向けた。
この『糸色望』駅へと続く線路上。
そこには爆走してくる蒸気機関車の姿があった。
「何か来てますね、先生………」
「客車の窓から、見知った顔がいくつも見えるんですが………」
二人はちらりと、ホームに掲げられた駅名を見る。
『糸色望』
そう、ここは彼を選ぶ者のための駅なのだ。
「機関車の上に木津さんが仁王立ちしてますね。足の裏、熱くないんでしょうか?」
「千里ちゃんなら、きっと平気ですよ」
「ああ、窓からあんなに身を乗り出して……小節さんに、日塔さんに……あれ!?小森さんまでいますけど!!?」
「学校、滅びちゃったかもしれませんね……」
まあ、当然の結果と言えた。
この駅を選んだのは、他に方法を思いつかなかったゆえの苦肉の策なのだ。
これで望を責めるというのも酷な話である。
「どうしましょう、みなさん、来ちゃいますよ……」
呆然と呟くばかりの望。
だが、可符香の対応は違った。
「さあ、先生っ!!!」
「えっ!あっ?ふ、風浦さん!?」
望の手の平をぎゅっと握って、ホームから駅の建物へと向かう彼女は階段を駆け上がる。
「……ぜぇぜぇ…なんだか、結局いつもの調子に戻っただけな気がするんですが……」
「そうですか?私は楽しいですよ!」
いくつものホームを横切って渡された陸橋を、望と可符香の二人が走る、走る、走るっ!!!
「だってほら、いかにも学園恋愛ものって感じじゃないですか!実はそういうのに憧れてたんです、私!!」
「風浦さん……」
可符香が笑った。
「……そうですね。あなたとなら、こういうのも悪くない」
そして、気がつけば望も笑っていた。
「それじゃあ、いっちょ逃げ切ってみせましょうか!!!」
「はい、先生っ!!!」
そうだ。
ここは消え去った筈の可能性を望が必死の思いで繋ぎとめ、そして可符香が選び取った新しい世界なのだ。
昨日までと同じようでも、まるで、全然違う。
列車がホームに到着する音が聞こえて、二人はペースを上げる。
駆け抜けていく先、広がる未来を夢見て、望と可符香の胸はこれ以上ないくらいに高鳴っていたのだった。
68266:2009/08/23(日) 19:32:31 ID:/GU21KY0
以上でお終いです。
失礼いたしました。
69yuguzerudo:2009/08/24(月) 10:01:37 ID:4J/o1GQn
266さんGJです!
最後の終わり方がやっぱ絶望先生っぽいですww

さて、書けたので投下ですが
いつもどうり、常月さんの次は小森さんです
エロなし
70貴女の頬、朝を暖める:2009/08/24(月) 10:03:03 ID:4J/o1GQn
午前5時過ぎ。
望はふと、目を覚ました。
宿直室の居間に置かれたちゃぶ台。
向かい側では霧も寝ている。
机の上に広げられた書類。
霧の前には勉強道具が置いてある。
難しい数式が連なったルーズリーフ。
霧の上半身に下敷きにされている。
自分の書類には、涎のあとが。
どうやら仕事の途中に寝てしまったらしい。
昨夜の状況を明確に思い出していく。

(そうだ、昨日は…)

甚六に催促されて、溜まっていた書類を引っ張り出した。
溜めたプリントが多過ぎて、中々終わらない。
布団で待っていた霧が様子を伺いに来る。

「どしたの、せんせぇ…?」
「あぁ、小森さん。すみません、急ぎの書類がありまして…」
「そか、…じゃあ、私も一緒に勉強しててもいいかな?」
「えぇ、構いませんよ」
「えへへっ」

霧の笑い声まで鮮明に思い出した。
そうして、二人で作業を始めたのだった。
気付かないうちに寝てしまい、朝を迎えた望。
自らの腕を枕にしている霧。
長い髪が顔にかかり、少し眉をひそめた。
退けてあげようと思い、手を伸ばした。
さらさらの黒髪に触れる。
手の甲で触れる。
そのまま、頬を撫でた。
柔らかく女の子らしい頬は、しっとりとしていて。
あまりに魅力的だった。
無防備に眠る少女が、純粋すぎて。
自分が抱いた感情を恥じり、クスリと笑う。
無意識に触れていると、少女の頬は意外と冷たいことに気がついた。
温めようと思ったわけではないが、何故か手を離さない。
じっ、と見つめる。
何かいい夢でも見ているのか。
霧は甘えるように望の手に頬を擦り寄せた。
起きているのではないかと、一瞬驚く。
止められない電気信号は、手をビクリと動かす。
寝ぼけ眼で、霧が意識を取り戻した。
自分の頬にあるものに触れて、何か確かめる。
それが望の手だと気づくと、顔を赤らめて飛び起きた。

「あっ…、あれ?せんせっ…?」
「おはようございます、小森さん」
「えっ…、うん。おはよ…」
71貴女の頬、朝を暖める:2009/08/24(月) 10:04:47 ID:4J/o1GQn
状況が把握できない霧に説明する。
昨日は仕事をしながら寝てしまったことと。
霧をそれに付き合わせたことを謝罪した。
しかし、起き抜けでボーっとしているのか。
霧は自分の頬に手を重ねたまま、その温かさを確かめていた。

「あの、小森さん…?」
「へっ…!?な、何?」
「大丈夫ですか?具合でも悪いんでしょうか?」
「い、いや…、大丈夫だよ、ただ…」
「…?」
「びっくりしちゃって」

開けていた窓から風が染み込む。
流れる寒さは、霧の体を冷やして。
徐々に頬の熱を奪う。
寝ているときに毛布がずり落ちてしまい、今の霧には残酷な状況で。
一度だけくしゃみをした。

「くしゅん!」
「とっ…!?寒いですか?窓を閉めましょうね」

立ち上がる望の腕を掴んで、引き寄せる。

「大丈夫だから、側に居て…」

もう一度、望を座らせてから手を取る。
冷えた自分の頬に触れさせて、その上から手を重ねる。
寝ていたときのように、頬を擦り寄せた。
可愛らしい動作に、望は何も言えなかった。
ただ、甘える少女に好きにさせて。
何も言わず、頬を固定する。
少し顎を上げさせて、こちらを向かせる。
金属の塊の、眼鏡は冷たい。
でも、触れ合っている唇は温かった。
触れ合って、すぐ離れる。
次は、唇に手を寄せる。
微かに残った望の体温が、全身に染み渡る。

「…温かいね、せんせぇ」
「そうでしょうか?」

ニコリと笑う望。
朝の日差しが、部屋を暖め始める。





終わりです。
ただ先生と小森さんがちゅーするだけの話でした

ということは常月さんは…
72名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 11:07:09 ID:KUHxl5Rv
GJ
73名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 17:34:28 ID:rHUlRRbR
あまずっぺぇ〜gj
74名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 20:08:42 ID:wRwcftYC
ああ小森さんとイチャイチャしたいなぁGJ!
75yuguzerudo:2009/08/25(火) 22:32:40 ID:nPp0K3GN
連続で気が引けますが
書けたので投下

167話の常月さんの台詞は信じたくない!
76そんなの、嘘です:2009/08/25(火) 22:34:55 ID:nPp0K3GN
凍えるような寒空。
望は宿直室の中で、ぬくぬくとテレビを見ていた。
いつもはただのちゃぶ台。
今は炬燵となっている。
雪が降りしきる外を尻目に、眠たげな望。
うつらうつらとしながらも、蜜柑を取って皮をむく。
昼間のテレビはどれもおもしろくない。
消去法で選んで、みのもんたが忙しなく話す。
むき終わった蜜柑を一口、放り込む。
甘い汁が広がるのを感じる。
と、同時に足元で何か動くのを感じた。
最初は勘違いかと思ったが、再び動く気配がする。
不審に思った望は、炬燵布団をめくる。
言い慣れてしまった台詞が口をついて出た。

「…いたんですか?」
「えぇ、ずっと」

和服の着物を身に纏う少女。
炬燵の中で息苦しそうにしている。
足を入れておくだけなら、暖かい炬燵だが。
中に全身を入れると話が違う。
小さい頃の記憶が甦り、まといに気を遣う望。
めくっていた布団を上げたままで、声をかける。

「中は暑いでしょう?こちらにいらっしゃい」
「…いいんですか?」
「何も遠慮することなどありませんよ」

少し微笑みかける望。
嬉しそうにしながら、まといが中から出てくる。
器用に、望の前に。
あぐらをかいている望の足の上にちょこんと座った。
他の女生徒と比べても小柄なまといでは、本当に座っているか疑う程で。
望は何も言わず、それを許していた。
得に、天使のような笑顔の前には、文句など引っ込んでしまう。
そのまま、後ろから抱き寄せるようにする。
まといのつむじに顎を乗せて、むいた蜜柑を食べようとする。
一つ摘み、飲み込む。
その動作をじっ、と見ていたまとい。
もう一つ蜜柑を取り、まといの口元に寄せる。
ニッコリ笑ってそれに食いつく。
餌付けのようで、楽しみだす望。
残り三つになったときに、望はふと思い出した。
まといが話していた、あることを。
77そんなの、嘘です:2009/08/25(火) 22:37:06 ID:nPp0K3GN
「そういえば、常月さん」
「はい、何ですか?」
「この間お話していたことは、本当ですか?」
「…この間とは?」
「皆さんで雪合戦したときです」
「……あぁ、あれですね」

まといも思い出した。
望に対して、自分の一矢報いる方法を話したこと。
もし、望が他の女と添い遂げたら。
自分の子供に望と名付けると脅した話だ。
別に本気で話したわけではない。
ただ、望に釘を刺しただけであって。
望がそんなに気にしてるとは思ってなかった。

「本気だったらどうしますか?」
「絶対にやめて下さい。同窓会に出席しませんよ」
「ふふっ、嘘ですよ。だって…」
「…何ですか?」
「たとえ先生に捨てられても、私は永遠に先生を愛してますから」
「…!?」
「諦めたりしませんよ」
「…貴女は本当に愛が深いですね」

どこか安心した声で、ため息と一緒に呟いた。
残していた蜜柑を再び食べる。
甘酸っぱい感覚が、何故か身に染みた。
この少女を捨てるのは無理だと、断定した望。
目の前に座るまといをぎゅ、っと抱き締めた。









終わりです

ちょっと過疎ってきましたね
78名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 23:46:21 ID:Mf6Aejea
まだそれほどでもない >過疎

そしてGJ!
抱っこいいよな抱っこ
(望まともいいけど、霧交で抱っこがげっちゃ読みたい)
79名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 01:07:34 ID:6VDJ80aO
GJ!
80名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 20:20:11 ID:CmfkrBaW
俺もあのあのまといの台詞は信じたくない。
あ、グッジョブです。まといの頭の↑に蜜柑乗せたくなりました。
81名無しさん@ピンキー:2009/08/27(木) 08:37:24 ID:+zwY5r2+
絶望した!
82名無しさん@ピンキー:2009/08/27(木) 22:41:50 ID:/7FSmzg+
絶望少女達を陵辱したいけど物語として筋が立たなくなるから断念
どうしてもその後猟奇・爆発・ブラックなオチにしかならない・・・
83名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 00:24:45 ID:fgVdbDUU
>>82
今週号のオチとか使えそうじゃない?とアドバイスしてみる
単行本派だったらゴメンね。
84名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 00:36:41 ID:oGMlge35
花束シリーズ思い出した
85名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 04:25:09 ID:cWsq2HGH
猟奇・爆発・ブラックなオチでもいいから陵辱物も読みたい
86名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 09:29:10 ID:pX4Nee0v
花束は秀才すぎ
あれを期待すんのは酷
87名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 10:53:49 ID:CnOvQDO8
あれは良かったなぁ。好きなキャラの回は今でも何度も読み返してる。
88名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 15:38:40 ID:Vm70Q+1H
陵辱にしても男キャラが問題になるよなあ……
命のポジション、花束で言えば。
個人的には霧とまとい、加賀ちゃんのがツボだったなあれは
89yuguzerudo:2009/08/28(金) 16:11:51 ID:RtYNDHM8
なにやら凌辱の流れですが
あえて望霧で

>>78
一応交も出ます
90yuguzerudo:2009/08/28(金) 16:13:02 ID:RtYNDHM8
暗い夕暮れ時。
学校での全ての仕事を終えた望が歩く。
今では、すっかり自分の家と化した宿直室。
疲れた右手を酷使して、ドアを開ける。
「ただいま帰りましたよ」
宿直室に居るはずの霧に声を掛けた。
残暑の続くこの時期でも、霧は毛布を手放さないで迎えに来る。
…はずだった。
いつもなら望の帰りを、今か今かと待つ霧。
望がドアを開ければ、その目の前にやってきて出迎える。
しかし、今日はその姿が見えない。
不審に思い、中に上がりこむ望。
台所にも居らず、望はその身を居間へと向かわせた。
テレビもあり、さして広いとも言えない、その居間で。
霧と、交が眠っていた。
望があげた薄いタオルケットに包まれて。
安らかな寝顔が、可愛らしい。
ただ、望が気に入らなかったのは。
交が、霧に抱き締められていることだった。
優雅に寝静まる霧の笑顔には、微笑みがこぼれる。
だが、その霧の腕に包まれる交には、敵対心が。
醜い嫉妬心、五歳の甥に持つべきものではない。
そんなことは望にも分かっている。
しかし、それを抑えきれないのは、霧を愛しく思う気持ち。
自分の恋慕の想いが強すぎるせいだと分かっている。
それを恥じるべきか、誇るべきか。
霧の寝顔と、交の寝顔を交互に見て、望は考えた。
二人が起き出すその時まで。
91yuguzerudo:2009/08/28(金) 16:18:37 ID:RtYNDHM8
「小森さん、あまり交を甘やかしてはいけませんよ…」
「あっ…、や、だ、せんせぇ…」
「今後こんなことがないようにお仕置きです…」
「んっ、あっ、…も、もう、イっちゃうよぉ…」
「うっ、出ます…!」
「ああっ!!はぁ、はぁ…」

霧はそれから、もっと交を甘やかすようになりましたとさ。





終わりです

まとい書いてる途中だったので
中途半端になっちゃいました
次はきっちり書きます
92名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 16:27:17 ID:VYMIONTz
小森さんたら策士w
望大人気ないな。もっとやれ。
93名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 17:45:42 ID:IOVd2dY8
乙。状況が状況とはいえ交に焼きもちだと……?お兄様カッコ悪い!
94名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 18:49:12 ID:W41mSWfT
GJすぎる
95名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 19:36:47 ID:51lR4pTy
うーんGJすぎる
やっぱ望霧が一番好きだ!
96名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 19:38:38 ID:Z9fuCypN
>>78ですが交が出て歓喜しております
ありがとう!! ありがとう!!

しかし嫉妬深い望っていいなぁ・・・
97yuguzerudo:2009/08/28(金) 23:02:17 ID:RtYNDHM8
皆さんありがとうございます!

>>96
もしリクがあれば何でも言って下さい
ネタ切れで書くものが思い付かないので(笑
98名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 23:05:19 ID:/vDQkkgb
加賀さんと先生の補習の話とか
99名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 23:37:29 ID:oGMlge35
藤吉さんが先生を凌辱モノ
100名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 23:38:28 ID:btq3Lrll
先生が千里ちゃんを縛る
101名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 23:45:23 ID:brESYOaN
場末のスナックで先生と加賀さんが爛れた恋愛を……
102名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 23:45:29 ID:W41mSWfT
倫がお兄様をいじめる話
103yuguzerudo:2009/08/28(金) 23:50:23 ID:RtYNDHM8
書いてる間に凄いことに…(汗

取りあえず>>98
エロ無しですよ
104名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 23:50:39 ID:M3+a2Qvo
大草さんが先生に買われようとする話
105羞恥と、謝罪:2009/08/28(金) 23:52:51 ID:RtYNDHM8
暗闇の宿直室。
一人泣き続ける愛が座っている。
側に佇む望は、どうすればよいか分からず。
オロオロと様子を伺うばかりで、役に立たない。

「加賀さん、もう泣かれないで下さい」
「すみません!すみません…グスッ」

愛には分からなかった。
いくら匿名からの指示があったからとはいえ。
どうして、自分はあんなに大胆な行動に出れたのか。
今でも望は優しく慰めてくれるが。
心の中では、自分を淫乱女と思っているに違いない。
望がそんな風に思っているのだと、考えれば考えるほど悲しく、そして申し訳なかった。
望には、そんな風に思われたくない。
でも、そう思われても仕方ない行動に出たのは自分。
だから、この状況をどうすればいいか分からない。
ただただ、涙が止まらない。
どうせなら、抱いてほしい。
こんな恥ずかしい思いでも、二人ですれば。
少しは和らぐ気がする。
そんな思考に行き着くと、また申し訳なさが滲み出てきて。
涙が頬を伝う。

「さぁ、加賀さん。補習はもうおしまいです」
「えっ…!?」

伏せていた顔を上げる。
優しく微笑みかけてくる望。
それは、とても近くのことで。
一瞬、キスされるかと思った。
背中に回された腕。
正面から、しっかり抱きしめられている。
互いの体温を共有する胸の感覚。
そこから、無限に溢れる懺悔の気持ち。
全て、望は受け止めているのだと。
そんな錯覚に陥って、また涙が出た。
申し訳ないとか、そんなことは考えないで。
愛も、腕を回して抱き着いた。
泣き続ける愛を、正面から見据える。
106羞恥と、謝罪:2009/08/28(金) 23:56:38 ID:RtYNDHM8
「ほら、そんなに泣いては、せっかくの美人が台無しですよ」
「えっ…、そ、そんな…!?」
「私は何も気にしていませんから、今日はお帰りなさい」
「…はい、すみません」

つい口を付いて出た台詞。
クスリと笑う望の目を見て、確信した。
あぁ、本当にこの人は本当に気にしていなかったのだと。
それは、少し胸を刺す鈍い痛みでもあったが。
同時に、愛に申し訳なさを感じさせた。

「すみません!すみません!勝手な勘違いをして…」
「やっと、いつもの貴女になりましたね」

ふっ、と微笑む望。

「加賀さんは、そちらのほうが可愛らしいですよ」
「…!?すみません!失礼します!」

振り返ることなく、宿直室を出た。
教室に着いた今も、心臓がドキドキいっている。
顔が、赤い。
望の顔を思い出して、一度だけ笑う愛。
明日からは、またいつもの絶望少女。






オマケ

「加賀さん…、ちょっと裏山来てくれる?」
「ひっ…!?」


終わりです

速書きに挑戦してみました
107名無しさん@ピンキー:2009/08/29(土) 00:55:59 ID:oUkPCgfD
グッジョブ
それにしても仕事早すぎワロス
108名無しさん@ピンキー:2009/08/29(土) 09:38:56 ID:UURtV4kO
リクが凄いww
109名無しさん@ピンキー:2009/08/29(土) 10:51:52 ID:E37l9QZR
加賀ちゃんかわええええ
110hina:2009/08/29(土) 16:56:01 ID:m/PizN0k
巻き添え規制が……orz

リクから投下まで早すぎですw
そして加賀さん可愛いですGJ!
111絶望に効くクスリ:2009/08/30(日) 02:12:35 ID:M6QtCfFF
お久しぶりです。続きを投下させていただきます。
大草さんで、今回はちょっとだけエロありかも。
112絶望に効くクスリ:2009/08/30(日) 02:15:31 ID:M6QtCfFF
望が美子と翔子に会う、その少し前に話は遡る。

紫煙が洪水のように満ち、苦い窒息に麻奈実は小さく咳払いした。壁も長年の煤にまみれ、実際の薄暗さ以上に陰惨な控え室が出来上がっている。
蝶が顔に張り付いたような化粧の女が学校の体育館にあるのと同じ型のパイプ椅子に座り、狭苦しい部屋に煙を吐き続ける。手に持った携帯電話は会計士の操る電卓よりも忙しく回っている。
気付かれぬようそれを一瞥し、麻奈実は口を覆って溜息を漏らす。
紅差し指をその女のように、カサついた唇に這わせる。荒れたそれを隠すための化粧も、麻奈実のここでの「役割」のために最低限薄さ。
本来の、彼女の年齢としての正しいあり方である「純情」が商品価値となってしまっていることに今更、本当に今更ながら気付く。壮絶な自嘲を浮かべる。
そして考える。本当に、今更。

こんなはずではなかった。
そう考えたのはいつ頃からか、何回目か、何故か。分からなくなって久しい。いやその発生が一酸化炭素のように無味無臭だった所為で、問うことすら追いつかなかっただけ。
互いに好きあって結婚したのだから、幸せでいられないはずがないと思っていた。一緒にいることで見えてくる欠点も、それ自体は覚悟があったし、感情では納得できた。
だが現実的な貧しさというものは、感情の理解を超えていた。
学校の休み時間も、家事の合間や寝る直前も内職と格闘する。バラに囲まれながらやつれゆく自分の姿はだいぶ笑えた。
特売のチラシをニセ札の真贋を見比べるように凝視し、親と同年代の主婦たちに揉まれる。一円の差額を十円に積み重ね、乾いた雑巾を振り絞るようにして金を浮かせる。
そうして出来た僅かなものも、夫のギャンブルの賭金として消えてゆく。
進退窮まった麻奈実のとった行動はふたつ。
ひとつは、夫と同じことをして、しかも勝つこと。
夫が賭博でなくした生活費を、妻が賭博で取り返す。不毛な循環とはこのことだ。
そして
「マナちゃん、指名入ったよっ!」
「はいっ!」
店頭からの呼び声。麻奈実は立ち上がった。
113絶望に効くクスリ:2009/08/30(日) 02:16:44 ID:M6QtCfFF
それは限りなく黒に近いグレーの「飲食店」
年齢は偽った。オーナーはそれを知っているか知らないか、麻奈実は知らないし、知らなくてもいいと思う。
勤め先も偽った。夫はそれを知っているか知らないか、麻奈実は知らないが、知られたくはないと思う。
だが、嫌が応にも染み付いてゆくタバコと酒、そして雄の匂いは、どれだけ肌を擦っても取れはしない。
「本番」こそナシ、とはなっていたが常連となった客から店の外で誘いをかけられることも珍しくなくなり、雇い主も明らかに「次の段階」を匂わせるようになってきた。
そんな勤めをしている妻の罪悪感と、そんな勤めをさせている夫の罪悪感がぶつかって、家に帰ってもまともに顔をあわせることが目に見えて少なくなった。
麻奈実が帰宅しても、夫は既に就寝していて、話し合いたい気力は疲れに圧倒される。そしてその疲れを背負ったまま、待ち受けるバラの造花。
夫との二人の暮らしを守るためにやっているはずの仕事が、逆に二人を遠ざけてゆく。止めたくても止め方が分からないまま、次の生活費が容赦なく消え、次の仕事は容赦なく入る。
あまりにも過酷だった。彼女の年齢であれば、呼吸しているだけで食事を準備してもらえるのが普通だと考えれば、きっと負わなくてもいいはずの業だった。
酒を注ぎ、身体を触られる程に、心は海底のように蒼褪めてゆく。
だがはじめの頃、「夫に」抱いていたハズの罪の意識は、いつからか、いつからか。



「12番だ。初めてのお客だよ、粗相のないようにね!」
「――はい」
オーナーに鍵を渡され小部屋に移動する。この店では客とスタッフが一対一で、テーマ別の小部屋に入り「お話」をするというのがウリであった。
12番は教室風のセット。
そして彼女の服装は、セーラー服だ。
「どんな人かしら……」
一見様は不安だ。常連様は絶望である。どう転んでも正の感情を持てはしない。
狭いながらも実際の学校とそっくりの造りで、嫌な緊張感をもってしまう。そして客はその緊張感も味わいにこの部屋を選んでいるのだ。
白い裾を摘む。これで、まさにこの服で実際に登校しクラスメイトと会い、授業を受けている。仕事の後には「におい」を消そうと躍起になるが、それも何時までもつのやら。
「がっこう」
酷く遠い場所にあるもののように呟く、日常の場所。

ドアがスライドしてゆく。立て付けの悪い音が嫌に、実際の教室と重なる。こんな既視感には早く退場してもらいたい。
けれど。
開ききった戸は、あくまでも麻奈実に残酷なデジャビュを叩き付けた。
「おやおや、こんなところでお会いするとは」
お恥ずかしい限りです――そう言いながら部屋に入ってきた青年を見て、彼女はガラガラと何かが崩れる音を聞いた。
114絶望に効くクスリ:2009/08/30(日) 02:18:33 ID:M6QtCfFF
「――せんせ、い」
いつからか、いつからか。
勝手に罪悪感を抱くようになってしまった、見当違いの操の対象。
いつもどおりの足音を、偽の教室に響かせながら彼は麻奈実の前に立った。そのまま無言で彼女を見下ろす望。ボタンの目が取れてしまった人形に対するような哀れみを、彼女は感じた気がした。
耐え切れなくなって枯葉のようになった舌を巻き、なんでもいいから言葉を紡ごうとすると
「早くしてくれませんか?」
訊き返すのすら躊躇われる、氷塊じみた声が麻奈実の胸を刺し貫いた。呆然と立ちすくむ彼女を尻目に、担任であるはずのその青年は教室で生徒が使うのと同じイスに腰掛け、腕を組む。
「ハイボール」
そして端正に歪んだ笑みを浮かべ、注文を告げた。酒の名が、手足の自由を操る呪詛のように麻奈実を縛る。
「――は、はい」
突然の出会いで曖昧に失いかけた意識を引きずり下ろし、裏方から酒を用意する。その間に考える。今日の先生は何かおかしい、と。
生徒たちの前で見せるネガティブな雰囲気も、時折の、包んであげたくなるような子どもじみた性質も、そこには欠片とてありはしなかった。
ではなんと言ったものか、名状できないままグラスを持って望に向き直る。歪なくせになんら不快感を覚えさせない、心の隙間に形を変えて入り込んでくるような笑み。
声を掛けることすら、唾を呑み込む間に勇気を奮い起こさないといけなかった。果たして私が相手しているのは本当に先生なのだろうか? 麻奈実は不安になる。
「お待たせしました――先生」
ままごとの役名に過ぎないはずの「先生」という言葉が、禁忌に触れるようで憚られた。学芸会の小芝居じみた動作で酒を置くと、目の前の青年は手招きして、こう言った。
「そのままこちらに、大草さん」
いつものように呼ばれ、この人は間違いなく「糸色望」であることだけは、馬鹿馬鹿しい事だがようやく自信を持つことができ、安堵する――店での愛称は自分の存在を、希薄にしてしまうような気がして。
「はい、先生」
先ほどよりは心安く彼を呼んで、もうひとつのイスを隣に据えようとする。訊きたい事が多すぎる。話したい事が多すぎる。
だが望はそんな逡巡中の麻奈実の手首を取り、逸らし気味にしていた目を繋ぎとめた。
そして子どもを宥める様な、或いは逆に母親にねだる様な、力を含んだ声で望は言う。
「そこではありません――こちらへ」
そこは腕の中、胸の中、彼の中。


「どうしてこんなところで、アルバイトを?」
「はぁ……あ、んく、コクッ……ぁ」
麻奈実は望の膝の上に座らされ、両足と両腕に篭絡されきってしまっていた。彼の右手は麻奈実に酒をあおり続け、左手は裾の下から入り込んで腹部を延々とさすっている。
決して酒に弱い訳ではなかったし、飲ませてくるペースも量も少なかったのですぐに潰れされることはなかった。それだけなら耐え続けることも、あるいは可能だったかもしれない。
だが望はそれを許すほど甘くもなかった。「甘く」囁くように訊いて来るのは、どれも彼女が答え辛いもの。
どうしてこんなところで働いているのか。
ウチの学校がそれを許すと思うのか。
これを知った友人はどう感じるだろうか。
そして、夫に悪いとは思わないのか。
言葉を発することが出来なくて、逃げるように、差し出されてくるウィスキーのソーダ割りを口に含む。身体は熱くなる。
不貞の愛を抱いてしまっている青年の腕に愛撫されることも、麻奈実の理性を一枚ずつ剥ぎ取ってゆく。
115絶望に効くクスリ:2009/08/30(日) 02:19:26 ID:M6QtCfFF
「せ、せんせ、い――ごめんなさいっ、はぁ」
喘ぎながら言う。視界がぐるぐると風車のように回っている。その戯言のような言葉を発する口に、緩やかな酒の川を流しこんでゆく。
柔らかな腹部を弄くっている指も、決してそれより上にも下にも伸びることはない。
どうせならめちゃくちゃにしてくれればと、密かに思い始める麻奈実。水風船を限界のギリギリまで膨らませるようなやり方に、戦慄と、隠された期待を抱いてしまう。
すると唇からグラスが離され、机の上に置かれた。そして空になった右手人差し指は、麻奈実のあいたままの口に突き込まれる。酒とよだれと喘ぎを口内で掻き混ぜながら、望は言った。
「お金、先生がなんとかしてあげましょうか?」
泥の底に埋没していた意識が半分ほど、持ち上がった。夢の壁の向こうで青年が囁くのを聞く。
「花の女学生が、お金で気を揉むことなんかなくていいんです。もっと楽しむべきなんです、一度しかない、高校生活なんですから」
口とへそに、交わりのように指を押し入れ、引っ掻く。飛んでいってしまいそうになる意識を、崖の淵で留まらせる。そして、麻奈実は荒い呼吸のまま言った。
「それ、じゃ、私はどうすれば、いい、んっ、です、か――タダで、とは、はぁ、おっしゃらない、ん、でしょ?」
自ら下手に出て、昏い瞳で青年を見上げるような、媚びた態度だった。
望はほう、と感心したように笑って、右の指を引き抜いた。そのまま麻奈実の頬を後ろに向かせ、唇が触れ合うような距離で言う。
「このお店、確か『本番』はナシでしたよね?」
蕩けた様に口を歪ませ、少女は囁く。
「せん、せいは――ずるい、おとなです」
台詞とは逆の、後ろめたい悦びに満ちた声。どうせ堕ちるのならとことんまで堕ちてしまおうと、モノのように扱われる自分を想像する。
その途中で、望は冷静な声で告げた。
「ですが、このままでは対等な取引にはなりませんね」
動きの止まった手に指に気付き、麻奈実は眼鏡の奥を覗き込む。次に発せられる言葉を待って、淡い吐息を漏らす。
「あなたの心も、差し出していただきましょうか」
途端、静止していた両の五指が魔女のそれのように麻奈実の肌の上を駆けずり回る。白雪の商品価値を下げ、もう誰の手にも渡らぬように、赤い跡を散らしてゆく。
散々溜められてきた水風船は、もう崩壊寸前だった。
「いいですか? 麻奈実さん、あなたはもう大草じゃなくなるんです。それでもいいというのなら――」
嵐のように荒れ狂う頭で、身体で、心で、まともに物を考えることなどもう出来るはずもなかった。白い光が、目を覆ってゆく。
「私の心も、貴女に差し上げましょう」
ビクンと、妻でもある少女の身体は、夫とは別の男の腕の中で爆ぜた。
そして頷くように頭が落ちて、麻奈実の意識は闇の中に溶け込んでいった。
116絶望に効くクスリ:2009/08/30(日) 02:24:40 ID:M6QtCfFF
今回の分は終了です。読んでくださった方、ありがとうございます。
大草さんも「不貞の愛」とかいうし、望って子どもに名前つけるシーンあるし(想像だけど)
フラグとしては十分な気がします。がんばれ奥様。
では、失礼しました。
117名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 03:38:58 ID:oyLisSEf
>>110
ocn?
118名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 04:59:06 ID:srtQJFji
>>116
ふう・・・
119名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 05:21:08 ID:Tic8X78W
乙過ぎる
120名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 09:17:28 ID:VEDCij1V
オナ禁してたのに出しちまった…

gjです。
121yuguzerudo:2009/08/30(日) 11:01:08 ID:CxK7Vabx
相変わらずGJ!

けど自分の書いたSSが投下しにくい…(笑

でも>>104に投下
122奥様の相談:2009/08/30(日) 11:04:51 ID:CxK7Vabx
「先生、私を買ってくれませんか?」
「……はい?」

望に相談があると言って、宿直室にやってきた麻菜実。
今からカップヌードルを食べようとしていた望の手が止まる。
またクラスメイト達の質の悪い冗談かと思い、周りを見回す。
しかし、他には誰もいない。
何より目の前の麻菜実は、真剣そのもので。
とても、冗談で言っているとは見えない。

「…どうゆうことですか?大草さん」
「ですから、先生に私を買ってほしいのです」
「い、いけません!いくら借金が多くても、御自分は大切にされないと…」
「だから、私は先生に頼んでいるのです」
「……へっ?」
「お店に行けば、知らない人に、…されるから、私は先生に頼んでいるんです」
「えっ」
「知らない人にされるくらいなら、先生がいいんです!」
「…そ、それは本気で言っているのですか?」

相変わらず、真剣な眼差し。
やはり、制服を着ていようと一人の主婦なだけはある。
とても強い信念を持っているようだった。
だが…、

「もし、本気でおっしゃっているのなら、尚更無理です」
「…!?どうしてですか?」
「今は、それで何とか凌げるかもしれませんが、必ず貴女は後悔しますよ?」
「…」
「それに、そんなことで稼いだお金を、旦那さんは受け取ってくれるでしょうか?」

黙ったまま顔を伏した麻菜実。
とても暗く、思い詰めた表情。
すっかりのびたラーメンを尻目に、望は麻菜実と向き合う。
その時、ぽつりと、麻菜実が喋りだした。

「…受け取りますよ、あの人は…」
「…今、なんと?」
「浮気ばかりして、ちっとも働かない、あの人なら受け取りますよ!」
「…!?」
「うっ、うっ…」

ボロボロと泣き出す麻菜実。
普段からは、とても考えられない少女の姿に戸惑う。
いつでも他人を、自分が母親であるかのように包み込む彼女。
そんな彼女が、泣いているのだ。
いつもなら望がしているはずの絶望の表情。
いや、あんなものなど問題にならないほど。
深い哀しみに駆られている。
麻菜実の言動、表情から、これはお金の相談ではないと考える望。
一応は教師なだけある。
123奥様の相談:2009/08/30(日) 11:10:34 ID:CxK7Vabx
「…旦那さんと、何かあったのでしょうか?」
「…」
また、ぽつりぽつりと話し出した。
「あの人、最近、浮気ばかりしてて…」
「…」
「私のことなんて、どうでもいいんですよ!」
「…それで、自暴自棄になったというのでしょうか?」

長いこと俯いていた望が、ようやく言葉を放った。
コクリ、と頷く麻菜実。
すっ、と立ち上がり、望が麻菜実の前に来た。
右手を振り上げて、狙いを定める。
しっかりと見つめる瞳の中に。
悲しい色を見つけた麻菜実。
軽く、ほんの軽く叩かれた頬。
振り抜かれることなく、頬に添えられたままの右手。

「…そんなことして、一体どうなるというのですか?」
「…!?」
「私などが言うべきことではありませんが、…そんな事をしても何も変わりませんよ?」
「…」
「もっと、前向きに生きるんです」
「……はい、ごめんなさい」

初めて、この少女の少女らしいところを目の当たりにした望。
どんなに強そうに見えても、隠し切れない弱点。
それを曝け出した麻菜実は、あまりにか弱くて。
引き寄せて、抱き締めた。

「お金の問題なら、先生も何とかしてあげます」
「…」
「でも、旦那さんとの問題は、大草さん。貴女が何とかしないといけないことです」
「…、はい」
「もう、大丈夫ですね?」
「……ごめんなさい」
「今日はもう遅いですから、早くお帰りなさい」
「はい」

添えられていた手が離れていき、麻菜実が立ち上がる。
頬に熱い感覚が残るまま。
宿直室の古い畳と、足が擦れる。
出口まで来て、麻菜実が振り返った。
そこには、先程の絶望の表情ではなく。
しかし、いつもとは若干違う微笑みを持つ少女。

「ありがとうございます、先生」
「いえいえ、また何かあれば相談してください」
「…失礼します」
すっかり伸びたラーメンが二人を見つめていた。
124yuguzerudo:2009/08/30(日) 11:12:25 ID:CxK7Vabx
オマケ

「私、離婚することにしました」
「そうですか、よい判断をなされましたね」
「それがですね、先生」
「…なんでしょうか?」
「借金を折半することになりまして、お金がないんです」
「…?」
「先生、私を買ってくれませんか?」

絶望少女達の叫びが木霊する。




終わりです
まぁ、読んでいただければお分かりでしょう
大草さんは無理です
125名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 11:39:03 ID:Q+gr95wW
なんというシンクロニシティ
126名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 13:15:35 ID:De3Uqx+a
そういえば151話で先生と入籍してたけど、その後苗字はどうなったんだろう
127名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 17:51:53 ID:D2n96bbo
大草さんの人気がじわりじわりと上がってる気がしないでもない
128名無しさん@ピンキー:2009/08/31(月) 02:27:36 ID:q55nFmAF
もっと出番が増えるべき
129名無しさん@ピンキー:2009/08/31(月) 12:19:46 ID:A5PFUYbi
まっとい!まっとい!
130yuguzerudo:2009/08/31(月) 14:11:56 ID:pb/TYcg3
リクを書く間の息抜きです

エロ無し
あと抽象的なんで苦手な人は御注意

まとい→望←霧
131金魚鉢:2009/08/31(月) 14:13:30 ID:pb/TYcg3
糸色 望は、町を歩いていた。
特に目的があるわけではない。
ただ、黙々と歩き続けた。
町並みの中で、すれ違う人たち。
微笑む人もいれば、何もしない人もいる。
そんなこと、気付きもせず、気にも留めず。
望は歩いていた。

そんな時に、一つの骨董屋を見付けた。
他の何にも興味を抱かなかったのに、何故か、それは目に留まった。
店の前にまで机を出して、所狭しと物が置いてある。
狭い通路に身を捻じ込んで、商品を物色していた。
レジの前で、爺さんか婆さんかも分からない老人が一人。
佇んだまま、ボーっとしている。
この空間の中で、望と老人しか居ないのに。
唯一の客でさえも、無視していた。
人との接触を避けて、此処まで辿りついた望からすれば有難かった。
何も喋らず、黙って棚を見上げる。
興味をそそられるものがあれば購入しようか。
キラキラと輝く彼の瞳は少年のようで。
とても、幼かった。
ふと、一つの商品が目に留まる。
綺麗な、それでいて、妖艶。
美しい形を携えた、金魚鉢。
彩りは爽やかで、とても夏らしさを醸し出している。
宿直室に飾れば少しは涼しくなるだろうか、と手に取る。
金魚を飼う当てなどないが、とにかく気に入ったようで。
望はそれを、レジまで持っていった。
132金魚鉢:2009/08/31(月) 14:14:38 ID:pb/TYcg3
「1980円になります」

しわがれた声が、狭い空間に響く。
代金を払い、金魚鉢を持ち去ろうとすると、老人が。

「お客さん、それで金魚を飼ってはいけないよ…」
「何故です?金魚鉢なんですよね…?」
「私は、忠告しましたからね」

それ以降は黙ってしまう老人。
何となく納得のいかない望だが、それ以上は追及しなかった。
元から金魚を飼うつもりなど無いからだ。
陽はまだ高かったが、早くそれを部屋にかざりたくて。
望は帰路を急ぐ。
陰から陰へと移動して、陽に当たらないようにしながら。
たまに、手の中の金魚鉢を見つめた。
その美しさに、段々と心を奪われ始めた望。
早く早くと急く気持ちを抑え付けて、また歩き出す。
しばらく歩けば、もう学校で。
真夏の太陽が照り付ける中を必死に歩き、校内に入ると。
どんなときでも、毛布を脱がない少女がいる部屋に向かう。
ドアが開くと、予想通り、小森 霧がそこにいた。

「おかえりなさい、せんせぇ。早かったね」
「ただいま、小森さん」

こんなに暑い日でも、霧は毛布を脱がない。
なのに、扇風機の前を陣取っている。
そんな、奇妙な光景だ。

「先生、そんなにその金魚鉢が気に入ったのですか?」
「い、いたんですか…?」
「えぇ、ずっと」

後から続く常月 まとい。
自分と同じく、和服を身に纏う少女が部屋に上がり込んできた。
望には愛しい気持ちを、霧には嫌煙の念を。
見事に表して、付き纏うまとい。
早速睨み合いを始めた二人を放って、望は台所へと向かう。
買ってきたばかりの金魚鉢に水を注いだ。
鮮やかに、その美しさを示す金魚鉢。
見惚れながらも、蛇口はしっかりと締める。
緩めにしておくと、後で霧から怒られるのだ。
相も変わらず爆発寸前の二人の前に、そっと置いた。
金魚が居ないのは少し寂しかったが、それはとても美しくて。
喧嘩を止めて、二人とも魅入った。
133金魚鉢:2009/08/31(月) 14:16:48 ID:pb/TYcg3
「…綺麗でしょう?」
「うん、せんせぇ」
「はい、とても…」

ゆらゆらと揺れている水面。
しばらく時間が経つと、治まった。
取り憑かれたように、それを眺める三人。
時が経つのも忘れて、見ていた。
その時、ポツリと望が呟く。

「この中で一生を過ごすのは、一体どんな気分なのですかね…?」
「「…?」」
「狭い世界の中で、好きでもないものに眺められる」
「「…」」
「そんな、寂しい生活なんでしょうか…」

急に興が削がれたのだろうか。
望はそれ以降、金魚鉢を見ようとしなかった。
そんな望を見つめる二人。
こういう時だけは、協力する気が起きるのか。
目を合わせて、一度頷いてから、じりじりと望に近付く。
窓の外を見ていた望は、二人の接近に気が付かない。
ガバッと抱き着いた二人。
望の右頬に霧が。
左頬にまといが。
軽く触れるだけの接吻。
そのまま二人共、左右の腕にしがみついて。
甘えた声で語りかけた。

「私はそうは思いません、先生」
「例え、こんな狭い中に入れられても」
「大事にしてくれる人がいるのなら」
「きっと幸せだよ…」
「ですから」

もう一度、顔を寄せていく。
あまりの早業に、望は顔を赤く染めることしかできない。
先程より、少し長い愛の証。
しな垂れかかる二人を支えた。

「大事にして下さい♪」
「大事にしてね♪」

目をつむり、望の心音を聞いている。
動くこともできず、望は二人を抱き寄せた。
幸せに満ちた二人の笑顔。
望もつい、顔が緩んだ。

「全く、敵いませんね」

金魚鉢の水が、軽く揺れた。


終わりです
今までエロを避けてきましたが
さすがにエロパロなのでそろそろ避けれないですね
134名無しさん@ピンキー:2009/08/31(月) 14:42:41 ID:8ePtlEjG
GJ!愛してる!
135名無しさん@ピンキー:2009/08/31(月) 14:56:44 ID:q55nFmAF
乙っした
136名無しさん@ピンキー:2009/08/31(月) 16:28:43 ID:WxmtE/6Q
おお、ひょっとして懺ED「絶望レストラン」のC/W「金魚の接吻」ネタですか。
GJっした。
137yuguzerudo:2009/08/31(月) 17:04:14 ID:pb/TYcg3
>>136
気付いていただけましたか!
悲哀の曲だったので
勝手にアレンジしましたけど…(笑
138266:2009/08/31(月) 20:26:35 ID:lyPri+RA
yuguzerudoさん、いつもGJです!!!
このしっとり甘くラブラブな感じ、流石だと唸らされます。
霧もまといも可愛かった………。

で、そんな素敵SSの後で恐縮なのですが、私もSSを投下させていただきます。
内容的には一応、交×霧でしょうか。
エロはないです。
それでは、いってみます。
139266:2009/08/31(月) 20:28:15 ID:lyPri+RA
雑誌に付属するパーツを集めて製作する高性能『糸色望』型ロボット。
発売されるなり、霧はすぐにこの商品に飛び付いた。
早速、ネットで全号購読の手続きを済ませた霧は、少しずつ届けられて来るパーツをコツコツと組み立てて、
ついに今日、糸色望型ロボットの完成にまで漕ぎ着けた。
製作途中では、なんだかホラーに出てきそうな不気味な球体関節人形にしか見えなかった望ロボだったが、
最後のパーツ、足袋を装着し、その全身を改めて眺めてみると、どこから見ても望そのもの。
仮に本人と入れ替わっても区別がつかないのではないかと思われるほどの完璧な出来栄えだった。
霧は望ロボの瞳をまっすぐに見つめ、胸を高鳴らせながら最初の命令を言った。
「チューしなさい」
しかし、口に出してみるとこの命令、かなり恥ずかしかった。
だいたい、どこまで精巧に作られていると言っても、相手は所詮、単なる機械人形なのである。
頬を真っ赤に染めた霧は
「ヤダ、私バカみたい!作りものに何させようと!」
なんて、自分にツッコミながら、望ロボを小突いた。そして、望ロボに対して改めて命令を下した。
「今の取り消し、ドブさらいしなさい」

というわけで、部屋の外で行う仕事が大の苦手な霧に代わって望ロボにドブさらいを任せ、
霧は黙々と家事をこなしていた。
「はぁ………なんだろ?せっかく完成させたのに……」
流しで食器を洗っていた霧の口からため息がこぼれた。
霧は先ほどの自分の言葉を思い出していた。
『ヤダ、私バカみたい!作りものに何させようと!』
全て承知で購入を決意した筈だった。
本物でないとわかっていても、自分の意のままに動く望が手に入るのだと今日という日を心待ちにしていたのに。
『作りもの』、その言葉が霧の胸に突き刺さる。
『作りもの』が必要なのは、本物を自分の思う通りに出来ないが故の代償行為だ。
それを考えた途端、自分と望の心の間にどうしようもないくらいの距離が開いていると気付いてしまったのだ。
今の霧が望に対して「キスしてほしい」と頼む事など出来はしない。
実行する勇気もなければ、その願いを受け入れて貰えるという自信もない。
もしも、本当にその言葉を、想いを望に伝えればどうなるか?
おそらく望はまず戸惑い、次に霧の話に真剣に耳を傾けて、そして最後には断るのだろう。
優しく、しかしきっぱりと。
霧は、望が自分の事をどれだけ大事に考えてくれているかを知っている。
だけどそれは、一人の生徒に対して、そして一つ屋根の下で生活を共にする家族同然の存在である少女に対してのものだ。
霧の願うような関係はそこには存在しない。
あの望ロボは、霧の前に横たわるそんな現実を図らずも浮き彫りにして見せたのだ。
「…私じゃ駄目なのかな……先生……」
食器を洗い終えた霧は先ほど望ロボを起動させた押入れの前にやって来る。
何はともあれ望ロボは完成したのだ。
組み立てのために使っていたこのスペースも元に戻さなければいけない。
そう思って、まずは床に散らばる『週間絶望先生』を束ねていく。
後片付けをしていると、心に覆い被さる虚しさがその色を濃くしていくように霧には感じられた。
「…………捨てちゃおっかな」
ポツリ、霧は呟いた。
望ロボの完成を一日千秋の想いで待ち焦がれていたけれど、今となってはあの作りものの望の存在は霧の心を抉るばかりだ。
だいたい、本物の望相手にロボの存在をいつまでも隠し通せる筈もない。
ロボが完成する今日に至るまで、望にバレないように霧がどれだけ努力してきた事だろう。
しかし、それだって限度と言うものがある。
もし、望にロボを見つけられて、「どうしてこんな物を買ったのか?」などと問われたりしたら?
霧には到底、上手く答えられる自信はない。
強く願っても手に入れられない、望の代用品だったなんて言える訳がない。
「アレって、粗大ゴミでいいのかな?」
そうして、霧が望ロボを処分する算段を始めたそんな時だった。
俯いた姿勢で片づけを行っていた霧がある物に目を留めた。
「……ん?……これって?」
畳の上に転がっていた、割れた円盤状の何か。
なんだか、霧はそれに見覚えがあるような気がした。
一体、何だろう?
霧はその正体を確かめるべく、そっとソレを手にとってみた。
140266:2009/08/31(月) 20:29:01 ID:lyPri+RA
「ふう……ここなら、きっとバレないよな……?」
その頃、糸色交は学校の中でも特に人のやって来る事の少ない、校舎裏手の倉庫にいた。
まだ幼い少年の傍らには、何かがパンパンに詰められた段ボール箱が三つ、重ねられている。
最上段の段ボールは蓋が僅かに開き、何やら人の手のような物が少し頭を覗かせている。
交はこれを隠すために、職員室に忍び込んで今はほとんど誰も使っていないこの倉庫の鍵を手に入れ、
そして小さな彼にとって余りに大きくて重たい三つの荷物を引きずってここまでやって来たのだ。
今からこの倉庫に封印しようとしている物、それは彼が壊してしまった望ロボの残骸である。
決して故意ではなかった。
組み立て中の望ロボを偶然にも発見してしまった交は、その異様な姿を見てたまらずその場から逃げ出そうとした。
その時不運にも、彼が足を引っ掛けた為に望ロボは床に倒れ、その衝撃でバラバラに壊れてしまったのだ。
霧の怒りを恐れた交は、その事実を隠蔽しようとした。
今、霧が望ロボだと思っているものは、交に言いくるめられて自分がアンドロイドであると思い込まされた望本人である。
三箱の段ボールを倉庫の奥に押し込めながら、交は深くため息をつく。
「どうしてこんな事になっちゃったんだろう……」
交は少しマセた所はあるが、望や霧の言う事をちゃんと聞く良い子だった。
もし悪い事、やってはいけない事をした時もきちんと謝る事ができる。
そんな交が今回だけは、どうしても自分のしでかした事を霧に打ち明ける事が出来なかった。
知っていたからだ。
きりねーちゃんはノゾムの事が好きだから。
よりにもよってこんな趣味の悪い偽者を買う事はないと思うけれど、それだって霧が望を大好きだからこその行動だ。
この事がバレれば霧はとてもとても怒るだろう。
怒って、そして、きっととても悲しい表情を見せるのだ。
その場面を思い浮かべるだけで、交の胸はどうしようもなく締め付けられてしまう。
悪い事だとわかっていても、交はそれに耐えられなかった。
「こうするしか……こうするしかないんだ……」
望ロボの残骸を隠し終えて、交は倉庫の扉に鍵をかけ、その場を立ち去る。
とぼとぼと歩くその背中には後悔という名の重荷がたっぷりと圧し掛かっているのだろう。
俯いた表情はただただ暗い。
やがて、宿直室の前まで辿り着いた交は、入り口の扉に手を掛けたその時、中から響いてきたその声を耳にした。
「な、何なのよ、これ……っっっっ!!!!!!!」
普段、滅多に聞くことのない霧の叫び声。
交は、その声に全身をビクリと震わせて後ずさった。
だが、望ロボの一件もあってすっかり動転してしまった彼は、思いがけず足をもつれさせてしまう。
「うわぁああっ!!!!」
ドスンッ!!!
その場に尻餅をついた少年の悲鳴は、宿直室の中の霧の耳にまで届いた。
そして、軽く床に頭を打ちつけた痛みを堪えながら、ようやく立ち上がった交の目の前で、扉がゆっくりと開いていった。
「交くん……」
爆発寸前の感情を必死で押し殺しているような、そんな霧の声。
「きり…ねーちゃん……」
暗く影のかかった表情の霧。
彼女が右手に持っているものを見て、交は完全に凍りついた。
「これ、どういう事なの?……知っていたら、教えてほしいんだけど……?」
耳だ。
壊れた望ロボから飛び散った部品の一つを、交が回収し忘れていたのだ。
霧はそれを見て悟ったのだ、交が何を仕出かし、そしてその後始末として何をしたのかを。
ほとんど金縛り状態の交の耳には、何かが崩れ去るような音が聞こえたような気がした。
141266:2009/08/31(月) 20:29:42 ID:lyPri+RA
暗い家の二階の部屋にずっと引きこもっていたあの頃だって、あんなに頭ごなしに人を怒った事などなかった。
交に向けられた烈火の如き怒りを、霧自身も止める事が出来なかった。
謝る交を何度も怒った。
そして、その燃え上がる感情の中には、自分と望の間にある深い溝への苛立ちまでが込められている事も、霧は気付いていた。
要するに、八つ当たりだ。
確かに、自分の悪事を隠そうとした交の行動は許される事ではない。
だけど、霧はそれにかこつけて、いかんともし難い自分の感情を交にぶつけてしまったのだ。
霧のお説教を聞き終えた後、交は暗い校舎のどこかへと消えてしまった。
無理もない。
あんな怒り方をされれば、誰だって傷つくのが当たり前だ。
残された霧の心もぐちゃぐちゃだった。
「交くんに、たくさん酷い事言っちゃった………」
霧が暗い顔で呟く。
自分の中に、あんな醜い感情があるなんて知らなかった。
行き場のない苛立ちをぶつけられる対象を見つけた途端、
それが間違った行動だと理解知っていながら、相手をズタボロにやっつけてしまうような嫌な自分。
そもそもこんな醜く汚い人間を、望が相手にする筈など無かったのだ。
嫌われて当然だ。
頭から毛布をかぶって、霧は目の端に涙を浮かべて宿直室を出て行った交の事を何度も思い出す。
ズキズキと痛む胸。
もはや、家事など一切手に付かず、霧に代わって望が作ってくれた夕食にも手をつけていない。
その後、望は交を探して夜の校舎へと出て行ってしまった。
今の霧は宿直室に一人ぼっちだ。
「最低だよ、私………」
そうして、鬱々とした気持ちのまま、どれだけの時間を過ごしただろう。
霧は何気なく時計を見て叫んだ。
「もう十時なの……っ!?」
窓の外の暗い空を見て、霧は愕然とする。
霧に怒られた交が宿直室を飛び出したのはまだ夕方、せいぜい午後の五時くらいの事である。
あれから五時間、いくら何でも遅過ぎる。
パソコンを確認すると、望から『校舎の中を探しても交が見つからないので、少し学校の周りを調べてみる』というメールが届いていた。
青ざめた顔で、霧は立ち上がった。
何てことだ。
交がどれだけ傷ついているのか、理解していたつもりだったのに……。
「交くん……ごめんね……」
交を見つけなければ。
探すアテなど有りはしなかったけれど、それでも見つけなければならない。
全ては、感情に任せて大切なものをないがしろにした自分のせいなのだから。
そうして、サンダルを足に引っ掛け、霧は暗闇に包まれた夜の校舎に飛び出していった。

まずは校舎をぐるり一巡り。
教室を一つずつ見て回り、交が隠れられそうなスペースもくまなく調べた。
男子トイレにだってかまわず踏み込んだ。
今の霧には交を見つける事以外は何も考えられなかった。
そうしてあらかたの教室や倉庫を見終わって、各教室の鍵を戻しに職員室にやって来た霧はある事に気が付いた。
学校の教室や倉庫の鍵は基本的に職員室入り口脇のボードで保管されている。
だが、その横にある小さな書類棚の際下段の引き出しにもいくつかの鍵が収められているのを見つけたのだ。
引き出しの前面には中にある鍵の名前が書かれていた。
しかし、その中で一つだけ、引き出しの中に収められていない鍵があった。
「北倉庫………」
霧も校舎の窓から見た事がある。
大きく校舎を回りこまないと辿り着けないため、ほとんど使われる事のないうら寂れたその倉庫を。
もしかしたら、いや、きっと………!!
「交君………っ!!!!」
霧はもう落ち着いている事など出来なかった。
職員室を飛び出し、パタパタと足音を響かせて廊下を走る霧の脳裏には、ただ交の顔だけが浮かんでいた。
142266:2009/08/31(月) 20:30:29 ID:lyPri+RA
「よいしょ……これで、腕が繋がるな……」
懐中電灯の頼りない明かりに照らされた倉庫の暗がりの中で、交は黙々と作業を続けていた。
今が何時なのか、どれだけの時間が経過したのか、そんな事は頭に無い。
小さくつたない指先で、交はバラバラになった望ロボのパーツに挑んでいた。
割れた部品を接着剤で固め、吹き飛ばされたネジの代わりを宿直室から持ち出した工具箱から探し出し、もう一度締め直す。
こっそり持って来た『週間絶望先生』とにらめっこしながら、何度も失敗を繰り返しつつ、少しずつ少しずつロボを修理していく。
秋だというのに、閉め切った倉庫の空気は妙に蒸し暑い。
着物の袖で何度も額を拭いながら、交は作業に没頭する。
「きりねーちゃん、ごめん……でも、きっと直すから……」
交の脳裏に、霧の怒りの表情が蘇る。
そしてその合間にふと見せた悲しげな表情。
(バレないように隠してしまおうなんて、オレ、何考えてたんだろう……)
交は霧の事が大好きだ。
笑っている霧も、泣いている霧も、怒るときの霧も、そして望が大好きでたまらない霧の事も……。
だから、交は決めたのだ。
この望ロボを必ず直して見せると。
相手は複雑な機械の塊で、何の知識も持たない交なんかの手には負えるようなものではない。
現にこれだけやって、作業はまだ全体の一割にだって達していない。
だけど、逃げ出す訳にはいかない。
霧の気持ちを知っているから。
この望ロボには、霧の望への想いが託されている。
直す以外の選択肢など、交の中にはもはや存在しないのだ。
汗ばんだ指先から部品を取り落として倉庫の中を這いつくばって探し回った。
割れた部品の尖った先端で指先を傷つけた。
手の平も着物も、機械油で真っ黒に汚れてしまった。
それでも交は、空腹も、疲労も、時間の経過も忘れて、ただひたすらに指先を動かし続ける。
もう一度、大好きなきりねーちゃんを笑顔にしてあげたいから。

そんな時だった……。
「交くん………っっっ!!!!」
聞き慣れたその声に、交は思わず振り返った。
そこにいた人物。
いつの間にか開け放たれていた倉庫の入り口には、安堵のあまり今にも泣き出しそうな表情の霧が立っていた。
143266:2009/08/31(月) 20:33:33 ID:lyPri+RA
校舎裏の北倉庫。
確かに盲点だった。
普段誰もが目にしていながら、あまりの使用頻度の低さから存在自体を忘れてしまう、そんな場所だった。
交の行方を心配するあまり焦った望はその存在を見落としてしまったのだろう。
霧は、息を切らせながら全力で校舎裏まで走った。
年中、ほとんどが日陰になってしまうその場所の、湿った土を踏みしめて霧は倉庫に向かって疾走した。
だけど、辿り着いた倉庫の扉を開いた先に、霧が見たものは、彼女が予想もしていなかった光景だった。
「きり…ねーちゃん……」
「交くん……それ、直してくれてたの………?」
きっと、自分の言葉に傷つけられて、膝を抱えて泣いているのだろうと思っていた少年は、
しかし、この倉庫の中でただひたすらにある作業に没頭していたのだ。
望ロボの修復。
割れた破片を一つ一つ繋げて、バラバラになった関節をつないで、交はどう考えても一人では不可能なその作業に挑んでいた。
交は、シュンとした表情で俯いて、だけどハッキリこう言った。
「ごめん、きりねーちゃん……今はまだこんなだけど、きっと直してみせるから……」
霧は悟る。
交は、霧に怒られた事なんかより、望ロボを壊した事で霧を傷つけた事を悔やんでいるのだ。
霧をもう一度笑顔にしたくて、ただそれだけを考えてここにいるのだ。
(…それなのに……私……)
へたり。霧はその場に膝をついた。
「き、きりねーちゃんっ!?」
心配して駆け寄ってきた交のまっすぐな眼差しを見た瞬間、霧の胸の奥底から凄まじいまでの感情の爆発が巻き起こった。
堪らずに溢れ出た涙が、ぼろぼろと霧の頬を零れ落ちていく。
「ごめん、きりねーちゃん、オレがあのノゾムのロボットをこわしたから……」
交はそれを、霧が壊れた望ロボを目にした為だと勘違いしたようだった。
「違うよ……」
そんな交に、霧は涙をぬぐって微笑みかける。
「ありがと、交くん……」
「えっ?…オレ……悪い事したのに……」
「………でも、私の事を心配してくれたから、ロボットを修理してくれてるんでしょ……?」
全ては、霧のために。交の頭の中にはそれ以外の何も無かった。
そんな交の思いやりが、不安と焦燥を抱えてささくれ立っていた心を優しく包み込んでいくのを霧は感じていた。
「ありがとう…本当にありがとう……交くん、私、すごく嬉しいよ……」
「…うわっぷ…きり…ねーちゃん……!!?」
霧の腕が交の体を優しく抱きしめた。交は少し驚きながらも、霧に素直に従う。
誰かが自分を心の底から大切に思ってくれている。その確かな実感は、霧を何よりも安心させてくれるものだった。
そしてそれは、暗い部屋の奥に引きこもっていたかつての霧が強く求めながら、決して得られなかったものだった。
やがて、霧は湧き上がる感情の中、自分の心の奥深くに芽生えた新しい『気持ち』に気付く。
(…………私…交くんのこと、好きになってる……?)
それに気付いて、最初に感じたのは微かな戸惑いだった。
十歳以上も年の離れた、まだこんな小さな男の子を相手に、自分は一体何を考えているのかと。
しかし、やがて霧は思い直す。どんなに理屈を張り巡らせようと、この胸の内に芽生えた暖かな気持ちを否定する事は出来ない。
(……私は交くんが好き………)
心の中で呟いたその言葉は、宝石のようにキラキラと輝いて感じられた。
「ごめんね…交くん……交くんの話も聞かずに、一方的に怒ったりして……」
「そんなこと………」
「わざとじゃなかったんでしょ?」
「そうだけど………でも、オレが壊したのには変わりないよ……」
「そう……」
交の自責の念は未だに晴れないようだった。
そこで、霧は交に優しくこう言った。
「……それなら…一つだけ……たった一つだけでいいから、私のお願いを聞いて……それでぜんぶ終わりにしよう…」
「う、うん……オレ、何でもするよ…tぅ!!!」
「ありがとう…それじゃあ……」
そして、霧は”それ”を囁いた。
「チューしなさい」
「えっ!!?」
驚く交の体を、きゅっと抱きしめた。
そして、おでことおでこが触れ合うほどの至近距離で、霧は目を閉じた。
やがて、ためらいがちに、優しく触れた小さな唇の感触を、霧は一生忘れないだろうと思った。
144266:2009/08/31(月) 20:34:10 ID:lyPri+RA
それから二人は、壊れた望ロボの部品をゴミの日に出せるように片付けていた。
「本当にいいの?きりねーちゃん……」
「いいの。私には偽物の先生なんて、もういらないよ……」
微笑む霧の顔に、少し前までの辛く悲しげな色合はもう見えなかった。
霧の胸の奥深くまで届いた温かな思いが、それをかき消したのだ。
「さあ、交くん、宿直室に戻ろう。先生も戻ってるかもしれないし」
「うん!」
そうして、二人は校舎裏の倉庫を後にした。
ようやく戻ってきた宿直室は無人で、どうやらまだ望は帰って来ていないようだった。
「先生に、交くんが見つかったって連絡しなくちゃ……」
望へのメールを送るため、霧はパソコンの前に座る。
そして、妙な事に気が付いた。
「ちょっと…交くん…これ、見て……」
「ど、どうしたの?……って、これは!!?」
ディスプレイ上に開かれたテキスト、そこには片仮名で八文字、こう書かれていた。
『 サ ヨ ウ ナ ラ   ノゾム 』
「もしかして……」
交は思い出す。
自分が望に対して『お前は本物の望を元に作られたアンドロイドだ』なんて出まかせを言ってから、
誰も望に対してそれがウソであるとは教えなかった。
他の人間ならいざ知らず、騙されやすさでは他に類をみない望である。
自分が本当にアンドロイドであると思い込んだ可能性は残念ながら否定できない。
そして、これが望の打った文章なら、ついさっきまで望はここにいたという事だ。
もし無人の宿直室を見て霧や交の姿を探し始めた望が、校舎裏の倉庫まで辿り着いてさきほどの会話を聞いたのなら……
『いいの。私には偽物の先生なんて、もういらないよ……』
交と霧の顔がさーっと青ざめていく。
「ノゾムーっ!!はやまるなーっ!!!」
「先生―――っっ!!!!!!」
血相を変えた二人が、慌てふためきながら宿直室を飛び出していく。
結局、望が発見されるのは翌朝早く、学校近くのゴミステーションでの事だった………。
145266:2009/08/31(月) 20:35:06 ID:lyPri+RA
以上でおしまいです。
交×霧は萌えるけど、難しい……。

それでは、失礼いたしました。
146名無しさん@ピンキー:2009/08/31(月) 20:42:11 ID:PODo146Z
乙。最後で先生はやっぱり面倒な人だと再確認w
147名無しさん@ピンキー:2009/08/31(月) 20:42:34 ID:d4X2nQ39
GJすぎる
オチもおもろいよ
148名無しさん@ピンキー:2009/09/01(火) 00:07:06 ID:dIuz05G4
交に惚れたGJ!
149名無しさん@ピンキー:2009/09/01(火) 00:21:24 ID:cD/Iwrr7
「ところで先生。『おもしろい同人誌』はどうすれば描けるか知ってますか?」
「いえ、詳しくは存じませんが」
「『リアリティ』です!自分の見た事や体験した事。感動した事を描いてこそおもしろくなるんです!」
ぽろん
「はあ……?ってなっ!何をするですかァーーッ!」
「たとえばこのピーー。どういう風に付いていて、どこに袋があるかとか、勃っている時とそうでない時はどう違うのかとか、
ピーーを描く場合同人作家は見て知っていなくてはいけないんです!」
にぎゅり
「ピーーを握られた男性は逝く前にどんな風に悶えるのかとか……『リアリティ』のために知っていなくてはいけないんです!!!」
グシュ グシュ グシュ
「ひいーーーーーーーーーーー」
「味もみておこう」
ぺちゃりぺちゃ
「らめェ〜〜〜〜ッ」
ビクンビクン

「なるほど。ぴーーってこんな味がするんですね。
これで今度ピーーを描くとき、一風違ったリアルな雰囲気が描けます。
ご協力ありがとうございました。困った時はまたよろしくお願いしますね」


150名無しさん@ピンキー:2009/09/01(火) 15:23:29 ID:DwdZ9e68
荒木絵で再現・・・・・・・・されなかった
151名無しさん@ピンキー:2009/09/02(水) 00:03:44 ID:EH0RcuXE
晴美×望、荒木バージョンできたきたきたきたきたきたきたきたあッ!

さりげなく「何をするだァーッ!」ネタがあるのが芸コマ
152名無しさん@ピンキー:2009/09/02(水) 01:35:54 ID:HI3zDlRV
ネタの解説をされるのがこんなにも恥ずかしいなんて!

次はまともなのを書きますん
153名無しさん@ピンキー:2009/09/02(水) 23:19:16 ID:lPcSPzc4
後日談「すべてがデヴになる」
望「ようやく新学期が始まりましたが・・・皆さん、何というか横に大きくなってませんか?」
メル「『んなわけねーだろハゲ』」
藤「っていうか先生こそ!」
望「えぇっ!?」
可「やだなぁ、当然じゃないですか」
望「え?」
可「だって、二のへの平均点の奈美ちゃんがあんな状態なんですよ」

奈 ( o ゜H ゜o )

マ「マダあの体系のままカヨ」
可「平均点が上がったのなら、個々の点(体重)も上がってるはずじゃないですか」
皆「そんなぁ!」
可「でも大丈夫、漫画界の掟によって、二人のキャラが被れば一方は淘汰されるから」
望「それです!日塔さん、ことのんの隣へ席替えです!」
こ「どういう意味ですか!」

こ( ゜H ゜ )   奈( o ゜H ゜o )
一週間後・・・
藤「先生、一大事です!」

こ ( ゜ー ゜)    奈( o ゜H ゜o )

藤「ことのんの方が淘汰されました!」
影「しかも、痩せて美人に・・・って、なってない!」
あ「今何か声がした気がしますが、ともかく平均点は上がりっぱなしです!」
千「むしろことのんの方が普通・・・」
倫「こうなっては最後の手段ですわお兄様」
望「こ・・・これは」

 【 二 代 目 普 通 少 女 ・ こ と の ん 】
こ「普通って言わないでよ!」

藤「あ、体重戻った」
あ「私も」

奈「・・・・・・・・・・・・( o ゜H ゜o )」
マ「で、初代はどーすんだヨ」
154名無しさん@ピンキー:2009/09/03(木) 00:16:33 ID:shpuP2uU
痩せるために運動=せkk
155266:2009/09/03(木) 00:37:19 ID:de614w4l
私も書いてきました。
今週のマガジンネタ、例によって望カフです。
156266:2009/09/03(木) 00:38:04 ID:de614w4l
「……というわけで、本来の日塔さんのダイエットはほぼ完了しました。
……まあ、まだ少しぽよっとしてる気もしますが、とにかくこれで日本に帰れます」
孤島に鬱蒼と茂るジャングルの真ん中にぽつんと立つ大きなテント。
その傍らで、照明の周囲に舞い飛ぶ見知らぬ南国の虫達の姿を眺めながら、望は携帯電話をかけていた。
人工衛星を介してどんな場所でも通話が可能なその携帯電話は、発電機付きの大型テントと共に望が倫に持って来てくれたものだ。
蔵井沢の実家からは独立して暮らしている望だったが、今回ばかりは長丁場に備えてジャングル用の装備一式を借り受ける事にしたのだ。
夏休みの終了を認めず、ジャングルを彷徨う2のへの生徒達を探し回っていた望の最後の仕事は、
休み中のラーメンの食べ過ぎですっかり太ってしまった奈美をダイエットさせて、無事に日本に連れ戻す事だった。
『ようやくですね。一時は九月中には間に合わないんじゃないかって話になってましたけど、安心しました』
「全くですよ、風浦さん。ここに至るまでどれだけ苦労をした事か……」
望の疲れ切った声に、電話の向こうの声の主・風浦可符香はくすくすと笑った。
「徹底したカロリー計算と運動の繰り返し……言葉にすると簡単ですが、ホントにもう気が遠くなるようでした」
『女の子の苦労、わかってもらえました?』
「今回の日塔さんの場合は自業自得でしょうに……」
他愛もない会話、その合間にどちらともなく漏れ出る笑い、それらは望の心と体にじんわりと染み渡り、疲れを癒していくようだった。
それから、どれくらい会話が続いただろうか?
『そういえば、結局、毎日電話くれましたよね?』
「ぶっ……!!!」
何気ないような調子で可符香が口にしたこんな言葉に、望の全身が固まった。
『何かあった時の緊急連絡用にって番号を教えてもらった、その日の晩にかかって来たのでちょっと驚きました』
「いや、そのですね。新学期って事でみなさん日本に帰っちゃったじゃにですか……あなたも含めて……」
『そしたら、次の日も、その次の日も……今ぐらいの時間になると決まって………』
「だって寂しいんですよぉ!!こんな絶海の孤島で、どこを見てもジャングルしかなくて……日塔さんはダイエット疲れですぐ寝ちゃいますし、
常月さんはきっと居るんでしょうけどステルス性が半端なくてほとんど一人と変わらないし………」
そうなのだ。
最初はちょっとだけのつもりだった。
一応、可符香達が無事帰国できたかどうかを確かめるという名目ではあった。
しかし、その初日から異国に取り残された望の不安感が爆発してしまった。
後はもう、芋蔓式にずるずると………。
日中、灼熱のジャングルで奈美のダイエット指導を行った望の、唯一心癒される時間がこれだった。
そういえば、そもそもこの携帯電話、望が倫に借りようとしたジャングル装備一式には含まれていなかったものである。
実はテントの中には高性能な無線装置があるので、非常時の連絡手段には困らない。
だが、倫は意味ありげに微笑み
「お兄様にはきっと必要ですわ……」
そんな事を言って、この携帯電話を押し付けて帰ってしまった。
今になって、初めて解る。
あの時、妹は望がこういう事態に陥るだろうと既に予見していたのだ。
157266:2009/09/03(木) 00:38:43 ID:de614w4l
『先生は寂しがりやですから、仕方ないですよ』
ほんの少しの孤独にも耐えられなかった自分への情けなさで、望はすっかり落ち込んでしまう。
それとは対照的に、可符香の口調はいつにもまして楽しげだ。
「……まあ、その辺は本当に今回の一件で身に沁みましたよ」
『そのお陰で先生がきちんと仕事を出来たから良いじゃないですか。先生が頑張ってくれなかったら、奈美ちゃんも帰って来られなかった訳ですし』
「うぅ……しかしですねぇ……」
可符香の言葉にもため息をつくばかりの望だったが、、ふと時計を確認して
「おっと、もうこんな時間ですか。思った以上に話し込んでしまいましたね。明日はこのジャングルの奥から空港まで出て行かなきゃいけませんから……」
『そうですね。名残惜しいですけど……』
帰国のため、明日は一日がかりの大仕事になる予定だった。
うっかり寝坊などする訳にはいかない。
だが、そのまま通話を切ろうとして、望はふとこんな事を聞いてみた。
「それにしても……今日はどうしてあなたの方から電話をかけてきたんですか?」
望自身は何気ない質問のつもりだった。
だが、その問いを聞いた瞬間、電話の向こうの可符香は完全に沈黙した。
「……?…どうしましたか?風浦さん?」
『いえ、それは…ですね……』
ようやく聞こえてきた声も、心なしか強張っている。
『…………先生こそ、今日はどうしていつもの時間に電話、くれなかったんですか?』
「ああ、実は明日帰れると思ったらこれまでの疲れがどっと出てきて、うっかり居眠りしちゃったんですよね」
『私がかけた電話に起こされるまで、ずっとですか?』
「ええ、そりゃもうぐっすりと……」
何だかちょっと怒っているようにも聞こえる可符香の言葉に、望はこう問い返した。
「寂しがらせちゃいましたか?」
しばしの沈黙、
それから、おずおずと可符香は口を開く。
『それもありますけど……ほら、あんまり安全な場所ってわけでもないじゃないですか。何かあったんじゃないかって、少し……』
「そうですか……それは、すみませんでした」
『いいですよ。今はこうして、声を聞けた訳ですし…』
そう答えた可符香の先ほどより幾分か柔らかな声音に、望はホッと息をついた。
それから、望は帰国までの簡単な日程を可符香に伝え、最後にこう言った。
「それじゃあ、風浦さん、また学校で……」
『はい、先生。また学校で……』
最後に交わしたその言葉に、自分がどれだけ嬉しそうな表情を浮かべているのか、最後まで築かないまま、二人は通話を切ったのだった。
158266:2009/09/03(木) 00:39:22 ID:de614w4l
以上でお終いです。
失礼いたしました。
159名無しさん@ピンキー:2009/09/03(木) 23:15:16 ID:shpuP2uU
先生がかわいかったです
160名無しさん@ピンキー:2009/09/04(金) 23:39:44 ID:QdvlZn/T
やはり望かふはいい。
161桃毛:2009/09/05(土) 02:52:14 ID:XgrRKhSR
 はじめて投稿します。桃毛と申します。
皆さんの作品を読ませていただいて、ひとつ自分も書いてみやうかと思いました。
近頃こちらのSSをかんがみますにマリア分が足りなひと感じましたので、
マリアで一本でっちあげました。
エロス分ありです。
 あと、甚六先生好きなので活躍させてます。てか主役です。
バイオレンスもあります。

一応原作18巻収録『暗黙童話』の追加ページから発想です。
それまでの原作中の断片情報を組み合わせてお話を作ってあります‥。

それではどうぞ。
『ZIN義6B戦記』
162『ZIN義6B戦記』:2009/09/05(土) 02:53:44 ID:XgrRKhSR
 黄昏時の小石川区、某高校校舎。
周辺の住宅地から夕飯のカレーの匂いが漂い始めた頃。
関内・マリア・太郎はいつものように校内廃棄物置場をひととおりチェックし、
しかる後校庭の向こうの校舎を見やった。
視線の先には男性教員更衣室があり、この時間、決まって甚六先生が帰宅前に着替えを行っている。
 マリアの優れた視力は校庭を挟んでなおはっきりと窓のさなかに甚六先生の姿を捉えていた。
かつて木津千里の命で無差別に生徒の間の抜けた姿を激写して回った際、
ただ一人終日微塵の隙も見出せなかったのが甚六先生であった。
それ以来、マリアはその中年の教師にただならぬ興味を抱いている。この平和ボケも極まった日本で、
あれほどの隙のなさは極めて珍しかったからである。

 男性教員更衣室。落日の陽光に身をさらしながら、教師甚六はその日の勤務の汗を吸ったシャツを脱ぎ捨てようとしていた。
しかし一刹那、肩口に突き刺さる、陽光とは違った温度を持った気配−。
それが自らに向けられる何者かの視線であると脳が知覚するより先に、甚六はカーテンを引き、視線を遮断していた。
『現役』時代のごとく地面に伏せたりはしない。
かつてさんざん味わった赤外線スコープのポイントの無機質な殺気とは違い、害意を感じられなかったためだ。
ここは戦場ではない、平和が当たり前の日本なのだ。
 だが、その視線の気配には覚えがあった。
糸色先生のクラスの、褐色の肌の娘だ。
関内・マリア・太郎と言ったか。
どういうわけか自分はあの異国の少女の興味を引いたらしい。
あの娘の出身は東亜細亜の某国と聞く。
確かに私も興味を抱かずにはいられないよ、なにせあの国は‥。
甚六はそこまで考えるとロッカーの鏡に写った己の顔を見、
普段その身に纏わせている頼りなさげな佇まいが飛んでしまっていることに苦笑した。
私の自己韜晦の仮面も薄くなったものだ‥。
着替えのシャツをロッカーから取り出し、袖を通す。
本性は注意深く隠してしまわねばならない。
この平穏な生活こそが、今の自分の日常なのだから。
 その体には日本の平穏な日常とは到底相容れないものが刻まれていた。
背に見事な和彫りの般若面。
そして胸には『仁義』の二文字。自らの、栄光と戦慄の時代の記憶であった。
 甚六は唇をゆがめると襟を整え、空腹であったことに気づく。
そうだ、ラーメンでも食べて帰ろうか‥あの店、糸色先生に紹介したが、食べに行ったかな‥?

 「ん−、甚六鋭イ!」
 マリアは眉をしかめながらぴょん、と廃棄物のテレビから飛び降りると、校門に向かって走り出した。
同じ国からやってきた友達の待つ下町の部屋に帰るのだ。今日は『仕事』の日でもあった。
163『ZIN義6B戦記』:2009/09/05(土) 02:54:39 ID:XgrRKhSR
 小石川区、某下町。
狭い路地が入り組むさなか、個人営業の商店や町工場もちらほら点在する、木造の家屋の多い一画である。
賃貸の値段も相応に安く、出稼ぎの外国人労働者などが共同生活するにはうってつけの地区でもあった。
関内・マリア・太郎の住居は、その下町の雑居ビルにあった。
 「おかえり、マリアちゃん」
 傷んだドアを開けたマリアを出迎えたのは、ともにこの国に不法入国した同居人ではなく、
クラスメイトの風浦可符香であった。
勝手知った様子で、狭い部屋にたたずんでいる。
 「今日もお客さん、連れて来たよ」
 「うん、アリガト」
 「あの子は、別のところでお仕事してるよ」
 「うん」
 可符香に朗らかに答え、マリアは素足の裏をタオルで拭き、ささくれた畳の部屋に上がる。
可符香の陰に座る小太りの、スキンヘッドの眼鏡の男を見てにっこり笑った。
 「じゃあ私はこれで‥、お金はマリアちゃんのぶん、忘れずに貰ってね」
 「うん、マリア感謝してル‥。あの国にいた時より、ずっトまし。みんな優しい!」
可符香はローファーを履くと、振り返らずにドアを開けた。
 「それはマリアちゃんが可愛いからだよ‥。じゃあ、前田さん、あとごゆっくり」
その表情は窺い知れなかった。
ドアが閉じられると、前田と呼ばれた男は鼻息も荒く、マリアに迫ってきた。

164『ZIN義6B戦記』:2009/09/05(土) 02:55:25 ID:XgrRKhSR
 密入国後知り合った可符香の紹介してくれた商売がこれだった。
 「ままっま‥マリアちゃん‥結構僕、順番待ったんだよ‥!」
 前田は粘つく汗を滴らせ、マリアを背から抱きすくめる。
お腹をごつごつした手で撫でさすり、首筋に舌を這わせ始めた。
 「うわぁ、マリアちゃん、お日様の匂いがするよぉ」
 「あわてルな、ふふ‥くすぐったいナ」
 前田はシルエットは未熟だが、よく運動してしなやかな童女の柔肉の感触を楽しみつつ、擦り切れたセーラー服をたくし上げた。
わずかに浮いたあばら骨に頬よせて高まる少女の動悸を味わいながら、あらわになった乳首をつまみ、はじき、指の腹で転がす。
 「ふぁあ‥」
あどけない少女の瑞々しい唇から嬌声が漏れる。前田は片手で薄い胸を玩びながら膝をつくと、紺のプリーツスカートを捲りあげた。
 「マリアちゃん、はいてないんだね‥。それにつるっつるだ」
 スカートに頭を突っ込んだ前田は、マリアの無垢な部分に夢中になった。
ぷっくりした下腹の弾力を舌で確かめながら指をそろそろと下に這わせてゆく。
やがて未熟な割れ目を探し当てると、そこはしっとりと濡れていた。
やわらかな媚肉を丁寧に押し広げ真ん中の小さなつぼみを剥き出しにしてやる。
綺麗な桜色の襞なかにぷっくりとふくらむそれは、たまらなく卑猥だった。
少女は身をよじり、いささか舌っ足らずな発音であえぐ。
 「そ、そコ、は‥」
 指でつまんでやると、「きゃんっ!」マリアの口からひときわ高い嬌声が洩れた。
抵抗なく吸い込まれた指が膣内をかき回す度、かぼそい肢体がふるえ、のけぞる。
やがてその身を軽く痙攣させながら、立っていられなくなったマリアは前田の足元に膝からくず折れた。
165『ZIN義6B戦記』:2009/09/05(土) 02:55:54 ID:XgrRKhSR
 「んぅ、ふー、お前、上手だナ‥」
 マリアはすっかり快楽に潤んだ瞳で微笑むと男のベルトをはずし始めた。
前田のふくらんだ下着をあらわにさせると、裾から手を突っ込み、既にはちきれそうになっている男根をきゅっと掴む。
緩やかに上下させながら、鼻先を下着に包まれた亀頭の裏に押し当てた。前田が呻く。
たっぷり唾液をのせた舌で舐めあげながら、空いた手で睾丸を転がし、
やがて下着の上端を噛むと、美味しい獲物の皮を噛み剥ぐ猫科の獣のように引きおろした。
 「おっきいな、お前‥、それに、イイにおい」
 壁に寄りかかって座り込んだ前田に八重歯を覗かせて舌なめずりすると、マリアは限界まで怒張した肉茎を躊躇いなく咥えこんだ。
可憐な唇がこれほど広がるものか、太い肉棒を半ばまで飲み込むと、四つん這いになって首を前後に動かし始める。
背骨のばねを使いリズミカルに肉棒を口内でしごきあげながら、舌を暴れさせることも忘れない。
粘液質の音が狭い部屋に響き、お互いの鼻息と喘鳴が耳に残る。
マリアはもみしだく睾丸の上がってゆく感触から、射精が近いことを覚った。
首をひねって媚びた視線を頭上の男に送りつつ、マリアは膨張する亀頭の先走りを吸い上げ飲み、
とどめに尿道口に舌先をねじ込み、転がした。
 「ま、マリアちゃん、も、もう出るよっ!」
前田はあまりの快感に情けない声を上げながら、少女の頭を引き寄せ、その喉奥に白濁した欲望をぶちまけた。
 「ん〜、んんぅ‥うぅ」
マリアはくぐもった嬌声を上げながら、目を細めて口内の精液を喉を鳴らして飲み下す。ずるり、と萎えない肉棒から唇を離すと、
 「美味しかっタぞ‥」
ちゅ、と亀頭に甘く口付けた。

 「信じられないくらい、気持ちよかったよ、マリアちゃん‥。君みたいなちいさなコが、こんなに上手いなんて」
マリアのような年端もゆかない少女が娼婦も裸足の技術で男に快楽を与えているということが、どんな意味を持つことなのか。
 「みんな、そう言っテくれる、日本人優しい!」
前田にとってはその事実はただ性感を高めるものに過ぎない。
事実の原因については想像もできないだろう。
 「マリア、日本に来る前、しばらくこうやってお金貰ってタ。だから、上手ダヨ」
 「え‥?」
その言葉の意味が頭に浮かぶ前に、
 「挿れないのカ‥?」
いつのまにか膝に跨っている少女に囁かれると、男のとぼしい理性は即座に蒸発した。
166『ZIN義6B戦記』:2009/09/05(土) 02:56:28 ID:XgrRKhSR
前田がもう十分に濡れた幼い性器に肉棒をあてがった刹那、薄い扉が蹴破られた。
何が起こったのか、脳が凍っている時、膝の上の少女はぴょんと部屋の奥がわに飛びのいていた。
乱れたセーラー服をぱっと直す。
 「ダレだ、お前ら!?」
 そこにはおよそ社会的な職業に従事しているとは言いがたい男たちが立っていた。
身に纏わせた爛れ荒んだたたずまいが、彼らが暴力にまつわる生業であると告げている。
男たちはモヒカン、金髪、小太りの三人組だった。
一人が土足で畳に上がる。金髪のその男は、うろたえる前田の頭にいきなり踵を叩き込んだ。
 「いぎっ!」
 「この辺でウチに断りなく商売なさっている方がいると聞いてね‥お嬢さんが元締めってわけじゃぁないようだが」
 最後に部屋に入ってきた一番偉そうな態度のモヒカンが顎をしゃくると、他の二人が前田に拳足を浴びせる。
 「まぁそいつも、客取ってる女も連れてきてシメろ、ってね、まぁ若頭が言うもんでね」
 マリアは男が言い終わる前に窓から飛び出していた。
男たちは密林の狭間にあった故郷を焼き討ちした奴らほど剣呑ではなかったが、危険である事はにおいでわかるのだ。
マリアは路地に転げ出ると裾を翻し、闇に包まれ始めた下町の迷路を駆け出した。
すぐ後ろから逃がすな、という怒声と足音が聞こえてくる。
 逃げる。あの時と同じだナ、マリアはそう思った。
167『ZIN義6B戦記』:2009/09/05(土) 02:56:50 ID:XgrRKhSR
下町のラーメン屋の狭い店内は常連客でぎっしりだった。
客の人種もさまざまで、大半は近くで就業する労働者だ。
 (腹がすいた時に食いたいものを食べられる。そんな当たり前のことが、昔は想像も出来なかったな)
 麺を腹に収め箸を置き、残ったスープを啜りながら、甚六は過去を振りかえっていた。
傭兵部隊に属し、一隊を率いて戦った日々を。
砂漠。市街地。寒冷地。正規軍、テロリスト、反乱軍。
様々な場所、状況で、あらゆる武器を用い、あらゆる敵と戦った。
任務が優先される戦場。血と鉄、泥と草。雪と岩。砂と風‥。
おちおち飯を食ってもいられなかった。
オレンヂロードの単行本一冊で一個小隊を相手取った事もあった。
そう、そして忘れもしない、密林でのゲリラとの戦い‥。
最後の戦場、東亜細亜某国。
 あの国は最悪の状況にあった。反政府ゲリラが跋扈し、治安は最低。内乱で経済が混乱し貧困が常態化。
衛生状態と食料流通の悪化で国民は疲弊しきっていた。
痩せ細った子供たちを見るたび、胸が痛んだものだ。
 政府の依頼はゲリラの一部隊の奇襲、殲滅だった。
それはほぼ成功しかけたが‥取り逃がした少数のゲリラが密林の村に逃げ込んだ。
そこで奴等は村を抵抗拠点化するために‥住民を虐殺し、家を焼いたのだ。
私のチームは逃げ惑う住民に混じってゲリラを倒していった。そして奴等の生き残りが最後に立て篭もった家で‥。
 「甚六先生!」
その声でふいに過去から引き戻された。カウンター席の角に、少女が立っている。
 「君は‥確か糸色先生のクラスの」
 風浦可符香。愛らしげな容貌だがその名は偽名(ペンネーム)。
人種国籍の特定不能。
担任教師糸色望との特別かつ複雑な関係。
背後の人脈、資金力、情報収集能力、いずれも‥。
かつての職業柄か、茫洋とした表情は取り繕ったまま一瞬で相手の情報をひとさらいする。
ところが不意の客は一人ではなかった。
小柄な、そうちょうど関内・マリア・太郎のような背格好の、短髪の浅黒い肌の少女が連れ立っていた。
手に布にくるんだ何か筒状のものを持っている。甚六はそれも銃であると一瞬で見抜く。
可符香が口を開いた。
 「助けて頂けませんか?」
168『ZIN義6B戦記』:2009/09/05(土) 02:57:43 ID:XgrRKhSR
 走る。走る。マリアのしなやかな体は、夜の闇を自在に駆けた。
けれども、かなり鍛えた連中なのか、男たちは少女に追いすがる。
そんな危険の中で、マリアはしかし楽観していた。不法入国者を取り締まる官憲との追いかけっこには慣れている。
舗装された道は平坦で走りやすい。ブッシュで皮膚を裂かれることもない。
家を焼く炎が呼吸を奪う事もない。銃弾や弓矢も飛んでこない。
足元を毒蛇が這う事もないし、何よりここは夜でも明かりがある‥。
だが、狭い角から通りに矢のように入りざま、車の明かりが視界を覆った。
 「ワッ」
 咄嗟に身を捻り、地面を蹴る。急制動と怒声。
運転者は地面に転がったマリアを罵ると、車を発進させ走り去ってゆく。
幸い膝を擦りむく程度で大事はなかったが、
「手こずらせやがって‥」
追いついた男たちに囲まれていた。
169『ZIN義6B戦記』:2009/09/05(土) 02:58:14 ID:XgrRKhSR
 いわゆる『事務所』と呼ばれる建物‥。小石川区一帯に根を張る、指定暴力団といわれる組織の所有物件。
三階建てのそのビルの奥まった一室であった。神棚の下に刀が飾られた殺風景な寝室で、数人の刺青の男たちが褐色の肌の少女に群がっていた。
 セーラー服が乱暴に引き剥がされ、複数の手が無遠慮に体中を撫で回してゆく。
はじめは抗ったマリアだったが、後ろ手に革のベルトのようなもので拘束されると、抵抗をやめた。
 (ゲリラが家に来た時と同じだナ‥すごく痛くて怖くテ‥でもあの時よりはましダナ‥)
少なくとも今回は、誰も目の前で殺されたりはしないのだから。
 
 「コラ、セーラー服脱がすんじゃねぇよ」
 「さすがにこの年頃のは初めてだぜオイ」
 男たちはマリアの未成熟な肢体に倒錯した欲情を剥き出しにしていた。
ベッドに少女を転がすと、金髪の男が早速勃起した肉棒をマリアのふっくらした頬に擦り付ける。
小太りの男が鼻息も荒くおなかを舐め回し、
モヒカンの男が太ももに肉棒を挟みつけ、動かし始めた。
 「や、柔らけぇ」
金髪は我慢できなくなったのか、少女の唇を押し開くと肉棒をねじ込んだ。
仰のけに転がるマリアのおとがいを反らし、まるで膣を犯すように喉奥をめがけて腰を前後させる。
小太りがちいさな肉ひだを押し開いて舌を暴れさせ、モヒカンが引き締まった尻の奥のすぼまりを指でほぐし始めると、
マリアの体から力が抜け始め、褐色の肌もほんのり上気してきた。
 「何だこいつ、感じてやがんのか」
 「そりゃあこのナリで客とってたんだ。もう十分女の体だぜ」
うるさく感想を漏らしながら男たちは少女の体の感触を味わう。
やがて頃はよしと、小太りは仰向けに寝た自分にマリアを跨らせる。
肉茎を膣にあてがうとかぼそい腰に手を回し、一気に引き寄せいきなり奥まで貫いた。
 「にゅあッ」
 相手のことなどお構いなしの一方的な腰使いで、小太りはマリアの狭い膣から快楽を貪り取った。
その間ずっとモヒカンの指が尻穴をかき回す。
やがてそれも肉棒に換わり、モヒカンは手馴れた様子で小太りと呼吸を合わせて文字通り少女の穴を嬲りになぶる。
マリアは呼吸も詰まるほどの快感の波に翻弄されながら、一方で落ち着いてきた。
 (あの時も同じようにされタ‥殺されると思っタヨ‥でも今は‥)
 自分に欲情するこの男達と同じように快楽に身をゆだねてしまえばいい。
過去において何度もそうしなければ生きていられなかった経験から来る、それは哀しい防衛本能なのかも知れないが。
170『ZIN義6B戦記』:2009/09/05(土) 02:58:41 ID:XgrRKhSR
いきなり髪を掴まれる。金髪が喉元に肉棒を突きつけてきた。
マリアは見上げて笑うと、ちいさな唇をいっぱいに拡げてそれを飲み込んだ。
 「こ、このガキ、マジでヤベェ」
 「な何だ、マジモンのド淫乱かよ、へへ」
 全身で媚を示すかのように腰をくねらせ、欲情に濁った眼で男を見上げ、肉棒に口を塞がれ声は出せぬかわりに猫のように鼻を鳴らしてみせる。
マリアの非凡な体の芯の筋肉は腰のうねりとともに肉穴の襞に微妙な運動を与え、いつしか男たちの欲望を自在に翻弄し始めた。
 女の体の扱いに慣れたはずの男たちはまるで底なしの沼のような、童女の魔性の肉壷にすっかり絡め取られていた。
 「す、凄ぇ、どうなってんだ」
精力には自信があったはずの自分が、どうしてもう限界の手前にいるのか。
男どもにそんな疑問がふと浮かんだが、今はこの柔肉を貪るのが全てに優先する。
夢中で腰を振るうち、やがて三人は限界に達した。
 「あひ、駄目だ射精るっ」
腰を使いながら、綺麗な桃色の乳首を吸っていた小太りが情けない息を漏らしてマリアの膣内に精を放った。
同時にモヒカンも尻肉をわしづかみにして、直腸の奥に精液をぶちまける。
 「んゥ、あはッ、あぁアッ‥」
マリアは背骨をそらせ、走り抜ける絶頂感に脳髄を焼かれながら、口内の肉棒に最後の愛撫を加える。
ちゅぽんと吐き出した肉棒からのほとばしりを、あどけない顔に受け止めた。上気したふるえる肌を、精液が白く汚してゆく。


 たった一度づつ射精した程度でどうしてこれほど疲れるのか、男たちはあるいはへたりこみ、あるいはベッドに大の字になっていた。
いまだ手を拘束されたマリアはゆっくり上体を起こすと、部屋の隅で一部始終を冷ややかに眺めていた男に話しかけた。
 「お前は、しないのカ?」
 「私は幼女を性的に愛好する趣味はなくてね‥。まぁ君には少々驚かされたが」
モヒカンたちから『若頭』と呼ばれていた男は撫で付けた髪を掻き揚げながら気取った口調で返答する。
 「そんな事より、君に客を紹介していた人物の事を教えて貰えないかね?我々の世界で言うところのしめしをつけねばならないんだよ」
 マリアには可符香のことかとすぐに思い当たったが、答えは最初から決まっている。
 「ヤダ!」
若頭はため息をつくと、ベッドに歩み寄って部下の尻を蹴飛ばした。
 「お前ら、何時まで寝てやがるんだ!今度はきっちり仕事をするんだよ!吐かせろ!」
飛び起きた男たちは衣服をなおし、そうした拷問に使う道具を取り出そうとキャビネットに寄ろうとした。
その刹那、分厚いはずの部屋のドアが蹴破られ、轟音とともに床に倒れ落ちた。
 ゆっくりと扉のあった場所をくぐって現れたのは、疲れた肩を安物のスーツに包んだ‥冴えない中年だった。
 「甚六!」
171『ZIN義6B戦記』:2009/09/05(土) 02:59:09 ID:XgrRKhSR
甚六はドアのあった場所をくぐると、自らの名を呼んだ少女の姿を確認する。
 (あの時もゲリラに気取られぬよう家屋に侵入するのは容易だった。
だがそこで観たものは自暴自棄になったゲリラが住人を殺し、その家族であろう娘達を陵辱している光景だった。
怒りに我を忘れた私達は、ゲリラを文字通り殺戮した)
 その時生き残った少女達を保護しようとした時、物陰に潜んでいた生き残りに甚六は撃たれたのだ。
幸いヘルメットを貫通して威力が減殺した弾丸は致命傷にはならなかったが、混乱のさなか少女たちは逃げ散ってしまった。
部下の話では、二人の少女のうち片方が、ゲリラの銃を拾って逃げたと言う。
その時受けた弾丸は、つい最近まで甚六の頭に入っていたのだ。
 (あの負傷で私は引退を決めた。あの少女たちを保護できず、結局救えなかったからでもある‥。
だが皮肉なものだ‥平穏なはずの日本でふたたび似たような光景を見ることになるとは)
次いで首を廻らし、室内の諸情報を一瞬で把握する。
くぐったドアは壁の右隅。正面隅にベッド。部屋は一辺8メートルほどの広さ。
高めの天井。窓、照明の位置。そして、敵の位置。自分の左前方に三人の男、部屋の奥対角の位置、神棚の下にもうひとり。
 「何だジジイ!」
 「どうやって入って来た!?誰かいねえか!!」
凄むモヒカンどもに、甚六は極めて平静に返答する。
 「他のみなさんはゆっくり眠ってもらっています」
 「あ?」
 一瞬、その意味を理解するために男達の表情が止まる。
その一拍ひと呼吸の間隙に、甚六は数メートルの間を一足で詰め、正面のモヒカンの喉を指拳で射抜いていた。
悲鳴が上がるより速く金的に膝を叩き込む。
くず折れる男の耳と頭髪を掴んで首を捻り、横を向いた顎に膝を叩きつけた。
首がありえない方向まで回転し、床に転がったモヒカンは痙攣の後動かなくなった。
 仲間が瞬きの間に無力化させられたのを目の当たりにし、さすがに小太りと金髪も自分達の商売の本分を思い出す。
彼らも腕に覚えの格闘技術の熟練者だった。
だが甚六の動きは彼らの経験と反応を異次元の領域で上回った。
甚六は二人の動きが起こるより速く一歩で金髪のみを相手取る位置を占めざま、下段の横蹴りで金髪の膝関節を蹴り抜く。
蹴り足を引かずに足甲を踏み潰し、同時に指を立てた掌底で顎を打ち上げ、眼球を抉った。
たまらず上体をそらし仰け反った金髪の剥き出しになった鳩尾を、腰の回転と体重移動を十分に効かせた縦拳で刺し貫き、
そのまま背後の小太りに向け吹き飛ばした。
 戦闘力を喪失した仲間の体を抱きとめる形になった小太りは、眼前に迫る甚六の拳に反応できなかった。
鼻の下の急所を精確に打ち抜かれ、後頭部から床に激突し、血泡を吹いて昏倒する。
部屋の入り口に立ってから三人を倒すまで、その間30秒と経ってはいまい。
 三人の体をふわりと越え、甚六は部屋に入って来たときと同じように若頭の前に立った。
 
172『ZIN義6B戦記』:2009/09/05(土) 02:59:35 ID:XgrRKhSR
 「なるほど剣呑剣呑。冴えない中年男がこれはとんだ人間凶器だ」
 若頭は一方的な立ち回りの間に、神棚の下の日本刀を抜き放っていた。
天井の高いこの部屋は武器の取り回しに支障はない。
つい、とベッドのマリアを見やる。
軽口を叩きはしたが、彼は内心眼前の化け物じみた中年男を相手にこの娘を確保するのは諦めていた。
他の部屋や階下の部下達がこの部屋の喧騒を聞きつけた気配はない。
この中年の言うとおり全員おねんねさせられたってわけか。
暴力の世界に生きて初めて遭遇する、人知を超えた戦力だった。
なにしろこの部屋にたどり着くまでに行われた闘争の気配が、部屋にいた自分達に全く感じられなかったのだから。
とあらば己の生命を全うするため、久々に生き死にの斬り合いをせんのみ。
その見切りの潔さと覚悟を決めたときの勝負強さが、彼をしてその地位にあらしめたのかも知れぬ。
若頭は臍下丹田に気合を込めると、切っ先を対手の左目につけ、半身に構えた。
 一変した空気を敏感に察したマリアは、ベッドから飛び降りると甚六の背後に走る。
普段と容貌は変わらぬものの内に何かを漲らせた甚六に、普段自分が抱いていた疑問に確信を新たにする。
 (やっぱり甚六、普通じゃなかっタよ)
同時に、別の疑問も浮かんでいた。そのたたずまいに既視感があった。
 (甚六‥ひょっとシテ‥?)
173『ZIN義6B戦記』:2009/09/05(土) 03:00:00 ID:XgrRKhSR
通常、刃物とは恐ろしい武器である。
肉体の何処に当たっても皮を破り肉を裂き、僅かな傷であっても戦闘能力は確実に減退する。
ましてや若頭の得物は日本刀である。
刃筋を立てる技術を持った熟練者が振るうそれは、手・足・首・胴、人体のどのような部位でも両断できるのだ。
甚六の見るところその身構えの品格・呼吸、切先にこもる気圧、相手は相当な遣い手のようであった。
相応のやり方が必要のようだ。
 甚六は僅かに右足を前に出し、間を整えながら口を開いた。
 「この子の商売の情報を誰から知ったのかね?」
 「もともとあのあたりにはウチを通さない立ちんぼやら売人やらが結構いてね。何せ外人の割合が多いんだ」
甚六はかすかに抱いていた疑問を確認するためさらに問いかける。
 「匿名のタレコミがあったのではないのかね?」
 「‥会った事はないがな」
 それだけ聞けば十分であった。
先ほどの立ち回りで示した戦力を背景に場の空気に圧力を掛け、会話から必要な情報を引き出す。
一種の合気術であった。
若頭は必要のないことまで喋らされた事に気づいていない。
 「ではそろそろ」
甚六はまるで眠り猫のような半眼で若頭を見るともなく見据えた。
174『ZIN義6B戦記』:2009/09/05(土) 03:00:24 ID:XgrRKhSR
 じわり。若頭は切先の向こうにいる中年男の輪郭がぼやけ、気配が膨れ上がるのを感じた。
来るか?間合いが混乱する。
間とはお互いの身体状況−構え、呼吸、拍子−が相互に関係することで変化する相対的・流動的なものである。
単なる距離ではないのだ。
単に右足を出して立っているだけの相手を、そうした感覚で図りかねていた。
奴にはそうした情報は何もない。呼吸も、リズムも全くの無だ。
変化未然の圧力のみが、こちらの存在を侵食してくる。
焦りとともに、気力と体力が凄まじい速さで削ぎ取られてゆく。

 やがてついにそれに耐えられなくなった若頭は自分から仕掛けることに腹を決めた。
だがその思考そのものが甚六に釣り出されたものであることには気がつかない。
 「チェェェェイ!!!!」
若頭は裂帛の気合とともに踏み込みながら構えを上段に変化させ、甚六に袈裟に打ち込んでいた。
 甚六は若頭の踏み込みより一刹那前にその太刀道の内側に入り込み、頭上に迫る白刃の柄中を受け止める。
同時に相手の肘を突き上げて極めながら正中線を崩して体を浮き上がらせ、真下に投げ落としざま太刀を奪い取っていた。
全てひと拍子に行われたそれこそは、至極の絶技・無刀取り。
電瞬の攻防の決着は、寸毫の一瞬であった。
 「片付きましたね‥。関内君、大丈夫ですか?」
息も乱していない甚六が刀を放り、立ち上がってマリアを見た。

 脳天から床に激突した若頭は息はあった。頚椎がずれ、体は動かない。
何が起こったか理解できず、片腕はあらぬ方向に曲がっていた。
ただ一言、やっと口にする。
 「てめ‥何‥もの」
 「ただの教職員ですよ‥前職は『砂漠のネリ消し』ですがね。お大事に」
若頭は、その珍妙な名前が伝説の特殊部隊の名であることに思い至る前に、意識を失った。

 「甚六!」
 マリアが抱きついてくる。
甚六は取り合えずハンカチを取り出し、体の白濁をふき取ってやり、スーツの上着をかぶせてやる。
そのときマリアは、甚六の背後で金髪の下敷きになった小太りが震える手で短銃を向けているのを見た。
 「アッ!」
銃声が響いた。
175『ZIN義6B戦記』:2009/09/05(土) 03:00:46 ID:XgrRKhSR
小太りの腕は、銃弾に打ち抜かれていた。
過去と同じ状況で同じ過ちを繰り返しそうになり、今度は助けられるとは。
甚六は自嘲気味に笑うと小太りの顔面を踏み抜いて止めを刺す。
そして振り返り、ドアのほうを見た。
そこには旧式のライフルを手にしたマリアと同じ肌の色の短髪の少女が立っていた。
 少女よりも、その銃に見覚えがあった。
あの時のゲリラが使っていた物に間違いない。
銃を持って逃げた子供。
あの国。あの人種。そして年格好‥。
少女はマリアの友達のようで、抱き合ってくるくる回っている。
 (では‥この子達は‥あの時の)
 甚六は笑った。運命の巡り合わせとはなんとも面白いことか。
甚六はひとしきり笑うと、少女たちの頭をなでる。
 「さぁ、帰りましょうか」
176『ZIN義6B戦記』:2009/09/05(土) 03:01:07 ID:XgrRKhSR
 事務所ビルを後にして、下町の路上。
可符香の家に行くという少女たちを送る道すがら。
 「関内君‥君たちは普段はあんな商売を」
一応教師の身ではある。そんな台詞が出た。
 「んー‥デモそうしないと生きて来れなかっタヨ‥。村から逃げて、町に隠れテ‥何年も何年もマリアたち、そうやって生きてタ」
想像していた答えだった。自分とて人を殺める商売をしていた身だ。何が言えようか。
 「そうか‥日本では自分で?」
 「ううん、友達の紹介ダヨ」
甚六の中で、ひとつのパズルが組みあがる。
だがそれは、彼女たちに言うべきことではないのだろう。
 マリアが、じっとこっちを見ていた。
 「甚六‥それ、なんて読むんダ?」
甚六は若頭を倒した際、ワイシャツのボタンが飛んでいたことに気づいた。
胸の『仁義』の二字があらわになっている。
 「じんぎ‥慈愛の心をもって、正しい行いを心がける事」
 「ふぅン‥」
 側頭部の古傷−弾痕にマリアの視線を感じた。
眼が合う。
澄んだ少女の目には、何かが浮かんでいた。
それは疑問が解消された時の子供が浮かべるたぐいのものであった。
ふいに、マリアが跳びついてくる。
腕が首に回され、お日様のにおいが甚六の鼻腔をくすぐった。
頬にやわらかなものが押し当てられる。
 「やっぱり、甚六優しい!アリガト!」
 マリアはぴょんと飛び降りると、傍らの友達を促して駆け出した。
やがてちいさな二つの影は、夜の闇に溶けてゆく。
甚六は少女の唇の温度が残る頬を撫でると、振り返り、歩き出した。
彼にも今では帰る家があるのだった。
177『ZIN義6B戦記』:2009/09/05(土) 03:01:28 ID:XgrRKhSR
 
 いくらも歩かぬうち、甚六はとある電柱の前で足を止める。
その影に少女がたたずんでいた。
電灯の明かりは弱く、表情は定かではないが、髪留めが僅かな光を反射して鈍く輝いている。
 「お疲れ様でした、甚六先生。お怪我が無くて何よりです」
 「あの組はもうお仕舞いだよ‥。たいしたものだよ、あの子達を囮に使って私に暴力団を叩き潰させるとはね」
 「囮?いやだなぁ、小石川区の治安とクラスメイトの安全のためですよ。市民として当然の義務ですよ」
その口調に狼狽のきざしは無い。
甚六はきゅっと唇を歪めると、言葉をつないだ。
 「関内君たちに客を斡旋していたのは君ではないのかね‥?また若頭が言うには匿名のタレコミがあったそうだよ‥。
 これで君の商売はやりやすくなるという事かな」
 「‥」
 少女の顔は、笑っていたか、どうか。
 甚六は追求をやめた。
自分もまた、秘めておきたい過去を持つ身だ。
あるいはこの少女もそうなのかもしれない。 
甚六は明かりに背を向ける。
その背は、いつもの頼りない中年男のそれに戻っていた。
 「あの子達は君の家に行くと言っていた。友達なんだろう?大切にしてやってくれ。関内君に制服を頼むよ」
 「わかりました。先生ごきげんよう」
背後の少女の気配が消えるのを確認する。
ため息をひとつつくと、男もまた闇に溶けていった。

                                    『ZIN義6B戦記』 了
178桃毛:2009/09/05(土) 03:02:27 ID:XgrRKhSR
 以上でお仕舞いであります。
不慣れなもので、省略とかでてしまってすみませんすみません。
なんだか必死こいて書きました。
書いたあとにくどいかな、と反省しきり。

 一番好きなキャラは加賀さんなので、
何か思いついたらそのうちまた書くかもしれませぬ。

 おそまつさまでした。
179名無しさん@ピンキー:2009/09/05(土) 06:43:41 ID:8qlxOC3D
アリ…かな
180名無しさん@ピンキー:2009/09/05(土) 13:31:57 ID:SXh96fuC
まじいい。感動しますた。
甚六かっこいいヨ。カフカ怖い・・・
181名無しさん@ピンキー:2009/09/06(日) 00:26:12 ID:z2BkpRPU
最高ですね
182名無しさん@ピンキー:2009/09/06(日) 11:43:35 ID:M+qQfB5H
お疲れGJ!
183yuguzerudo:2009/09/06(日) 23:32:46 ID:yC7G5n24
桃毛さんGJ!
素晴らしいです


さて、久しぶりに投下で
相変わらず エロ無し
望まとい です
184眼鏡の理由:2009/09/06(日) 23:34:44 ID:yC7G5n24
「ええと、明日は常月さんのお宅に家庭訪問したいと思います」

望は教壇に立ちながら、教壇の下にいるまといに言った。
最初はびっくりしたような表情をしたまといも、みるみるうちに笑顔になる。
あからさまにその視線を避けながら、望はプリントをまといに渡した。

「今日中に地図を書いて提出して下さい、あとは…特に連絡事項はないです」

千理の号令で朝のHRが終わる。
悲しむ臼井だが、誰も気付かない。
職員室に戻る望の後ろに、くっついて行くまとい。
底無しの笑顔が、少女の喜びを示していた。
あまり期待されても困る望は、注意を呼び掛ける。

「あ、あの、常月さん。私は、貴女の親御さんに会いに行くのですからね」
「はい」
「決して、貴女に会いに行くわけではありませんよ」
「えぇ、よく存じ上げてます」

いやに素直なまといに不気味さも感じるが、企みは分からない。
どうすることもできない望。
放課後に、黙ってまといから地図を受け取った。

翌日の朝。
普通なら休日の土曜日だが、望は出掛ける準備をする。
目指すのは、もちろんま
といの家。

木漏れ日の射す階段を上り、曲がり角に突き当たる。
右に向かい地図に目を向けた。
方向は間違っていない。
ついでに、後ろを振り返った。
今日は、ディープラブ少女がいない。
何となく背中に寂しさを感じたが、気にせず進む。
ある程度歩いて行き、表札が見えた。
珍しい苗字の、常月の文字。
玄関に歩いて行き、インターホンを押そうとすると。
突然ドアが開いた。
ドアの隙間から顔を覗かせたのは、先程いないことを確認した少女。
望の姿を見るなり、ニコリと笑いかける。
185眼鏡の理由:2009/09/06(日) 23:36:22 ID:yC7G5n24
「お待ちしていました、先生」
「こ、こんにちは、常月さん。よく来たのが分かりましたね…」
「先生がいらっしゃるのを、ずっと見てましたから」

そう言うと、望に取り付けた発信機の受信機を大事そうに抱えた。
望は何も見ていないふりをして、家の中に入れさせてもらう。
中に入ると、自分によく似た人の写真を見付けた。
縄を輪の形に結び、どんよりとした表情をしている。

「って、私じゃないですか!」
「まだありますよ?」

奥に招かれて入ると、家の中の至る所に望の写真がある。
しかも、汚れないように額縁に入れて。
最初は驚いていた望も。
居間に通されたときには、もう慣れていた。
机の前に座り、まといが煎れたお茶を啜る。
そうして、周りをキョロキョロと見渡した。

「ところで常月さん、親御さんはどちらに?」
「それが先生、両親は今、旅行中なんです」
「えっ…!?」
「先生が突然家庭訪問などとおっしゃるので、伝えることができませんでした」
「いや、昨日伝えたではありませんか!!」

素知らぬ顔で微笑む少女。
望は、その悪戯っ子の心境を、完全に悟った。
自分は嵌められたのだと。
最初から二人きりになるのが目的だったのか。
だからこそ、昨日はあんなにも素直だったのだ。
全てを理解すると、望は急に力が抜けた。
どちらかと言えば、緊張が抜けた感覚。
張り切っていたのに、空振りさせられた気分。
じと目で見つめていたが、少女はうっとりとした表情をするだけで。
このままでは埒があかない。
186眼鏡の理由:2009/09/06(日) 23:37:56 ID:yC7G5n24
「…それでは、仕方ありませんね。では、取りあえず、常月さんの勉強部屋だけ見せてもらえますか?」
「勉強、部屋ですか?」
「はい。普段どのような環境で勉強してらっしゃるのかだけ確認させて下さい」
「分かりました」

正面に座っていたまといが立ち上がる。
着こなした着物がゆらり揺れて、望を誘う。
後に続いて、まといに付いていく。
いつもと立場が逆で、普段は見ることのないまといの後ろ姿を眺める。
室内では厚底の靴も履けず、少女の小柄さが露呈している。
浮かれて歩いて行く小さなまといに、可愛らしさを感じた。
部屋に着いたのか、ドアの前でまといが立ち止まる。
望は思考を切り替えて、まといを見た。

「ここです、先生」

まといがゆっくりと開いたドアの先。
それは、望には堪え難い環境だった。
一面に張り詰められた写真。
捨てたはずのレシート。
使うことのなかった七輪。
千切れたロープ。
まさに、ストーカーの部屋で。
あちこちから自分を見つめてくる自分に、目眩がする。

「な、なんですか!?これは…」
「私の宝物です」

そうして愛おしそうに、写真を見渡すまとい。
ざっ、と部屋を見渡したその視線は、最終的に本物に向けられていた。
自分を見つめている少女の視線から逃れようと、望は部屋の中に進み込んだ。
しかし、どこを向いても自分に縁のあるものばかりで。
とても、落ち着くこともできない。
そのまま部屋の中を佇んでいるとまといが。
187眼鏡の理由:2009/09/06(日) 23:40:07 ID:yC7G5n24
「先生、お茶を煎れ直してきますので、ゆっくりとしていて下さい」

望の返事も聞かずに、部屋を出ていくまとい。
一瞬、もうお暇しようと思って止めようとしたが。
少女の浮かれた表情を見ると、気が引けて。
戸惑う。
別に、この後用事があるわけではないと、自分を納得させて。
まといの部屋のベッドに腰掛けた。
手持ち無沙汰となり、無駄な時間を過ごす望。
自分一色に染められているまといの部屋を見渡す。
よくもまぁ、ここまで集めたものだ、と少しだけ感心した。
けれど、同時に彼女ならやりかねないと、妙に納得してしまう。
ふと、あるものを見つけた。
それは、とても懐かしいもので。
無くしたと勘違いしていた。
古ぼけた眼鏡。
亡霊に持って行かれたのだと、考えていた。
今、ここにあるのは。
やはり、あの少女の行動によるものだろう。
それを手に取り、眺めていると、まといが部屋に帰ってきていた。

「その眼鏡、先生とお揃いなんですよ」

そりゃあ、私の眼鏡を取ったんですから、と言おうとしたら。
小さく整った手が、眼鏡をさっ、と奪う。
おかっぱの髪に、少し引っ掛かりながら、眼鏡をかけた和服美人。
普段、決して見ることはないだろう。
いや、そういえば小森さんが交の眼鏡をかけていた気がする。
他の女性を考えることもできない程、望の目線は目の前の少女に集中した。

(…)
188眼鏡の理由:2009/09/06(日) 23:42:59 ID:yC7G5n24
よく似合った、賢そうなつり目の瞳。
その眼が、細く閉じられて微笑む。
素直に、そう感じた。

「…よく、お似合いですね」
「そうでしょうか?」
「えぇ」

褒めたはずなのに、少女はその眼鏡を外した。
いつもの、付き纏う、まとい。
けど、それは悪巧みを考えてる、まとい。
少し自信に溢れていて、これから起こることに心躍らせる。

「私は、あまり眼鏡をかけるのは好きじゃありません」
「そうなんですか」
「もちろん、先生が眼鏡をおかけになるのと、先生の眼鏡は好きですよ」
「は、はぁ…」

素直に好きと言われる。
嫌な気はしないが、焦ってしまう。
少なくとも、この少女は不細工ではない。
むしろ、かなり可愛い部類に入る。
だから、焦る。
少しずつ近付く動作にも。

「ただ、私自身が眼鏡をかけるのは、あまり好きじゃありません」
「どうしてでしょうか…?」
「だって…」

もう、少女の顔は目の前だ。
これは駄目だ、と思ったとき。
既にまといの作戦は成功していた。
軽く触れ合い、離れていく唇。
熱が移ったのか、まだ温かい。
それは、脳で理解するのではなく。
体がそう感じていた。

「キスをするときに、邪魔になっちゃいますから」

少女の笑顔が、眼鏡の奥に焼き付いた。





終わりです

てか小森さんと常月さんの順位
完璧に逆転してきた気がする…
189名無しさん@ピンキー:2009/09/06(日) 23:44:51 ID:Yd51kEUF
GJ
いいセンスだ
190名無しさん@ピンキー:2009/09/07(月) 00:00:40 ID:BgQLbYDr
GJ
191名無しさん@ピンキー:2009/09/07(月) 08:20:47 ID:N8X4CVWb
GJ!

まといに精気を吸いとられたい
192名無しさん@ピンキー:2009/09/07(月) 18:23:28 ID:EaFxm8NS
まっとい!まっとい!
193 ◆n6w50rPfKw :2009/09/08(火) 11:40:30 ID:JvW4ERu+ BE:783175695-2BP(333)
ご無沙汰しています。
保管庫にある「湯莽草」の続きを投下したいと思います。
160話が元になっています。目的地に着いた後、宿で起きた出来事は……という内容。この間アニメにもなった話です。

智恵×望、可符香×望、霧・まとい×望。

割と標準的なえっちがあります。
ただし、アナル責めとたわし注意。
194湯莽草2-01:2009/09/08(火) 11:42:46 ID:JvW4ERu+ BE:626540966-2BP(333)
望はふと目が覚めた。
暗闇の中でじっとしていると、窓の外からかすかな風の息吹、渓流の水音が聞こえてくる。

――そうだ、自分はこのコと泊まっているんだっけ……

首をわずかに横に傾けた。
可符香のかすかな寝息が漏れてくる。
身を起こし、教え子の顔を覗き込む。
あどけない少女の幸福そうな寝顔が暗がりの中でぼんやり見える。
静かに蒲団から抜け出し、眼鏡を掛けてもう一度寝顔を覗く。
やはり少女の寝顔は変わらず、安らかなままである。
時計を見た。
まだ夜明けには大分ある時間だ。
望は温泉に浸かってくることにした。

可符香の頬に軽く接吻すると、もう乾いていた手ぬぐいを手にし、音を立てないように襖を閉じる。
スリッパをつっかけてそろそろっと戸を開け、身を外に滑らせた。
すると、隣の部屋から智恵がこっそり抜け出すところが見えた。
そっと声を掛けてみた。

「智恵先生」

智恵はびくっと肩を震わせておそるおそるこちらを振り返った。
が、望の顔を見て安堵したようだった。

「ああ、糸色先生。ちょっとびっくりしちゃいましたわ」
「驚かせてすみません。智恵先生も温泉に?」
「ええ、何だかふと目が覚めたら、そのまま眠れなくなっちゃって」
「私もなんですよ」

そのまま肩を並べて温泉に向かった。
二十四時間入浴可能な温泉があるとはいえ、時間が時間である。
古びた旅館の板張りの廊下は、足元に小さな灯りが所々点いているだけだ。
歩くと時折ギシギシと板が軋む音がする。
さすがに一人で歩くには薄気味悪い。

廊下を曲がった。先に新たな闇が広がっている。
冬の夜の冷気がさらに増した気がする。
まるで得体の知れぬ怪異が自分たちを待ち受けているようだ。
先ほどから、この世の者ならぬ何かが後方右斜め45度上や前方左60度上から自分たちを取って食おうと寸分の隙もなく虎視眈々と見つめているような気がしてくる。
そんなただならぬ気配を智恵も感じたのか、彼女の方から手を繋いできた。
ただ指先が触れるだけでは不安だろうから、軽く指を絡めてみた。
――決してやましい気持ちはない。
ぎゅっと握り返してきた。
指を一本一本しっかり絡み合わせ、しまいには、腕まで組んできた。
ついには体が密着し、自分との間に隙間がなくなった。

――当たってる……

肘の先が智恵の胸に当たっているが、本人は気にする様子がない。
いや、気にする余裕もないと言うべきか。
幾重もの布地越しに成熟した女性の柔肌の弾力をこっそり感じている間に、浴場に通じる階段の前まで来た。
二人で並ぶともういっぱいで、やや傾きが急だ。

――ギシ、ギシ、ミシ……
195湯莽草2-02:2009/09/08(火) 11:45:16 ID:JvW4ERu+ BE:313270092-2BP(333)
黒光りしているように磨き込まれた階段をそろそろと降りるにつれ、足下や側の板がいやに大きな音できしむ。
先は真っ暗である。
闇の底へ降りていき、やがて飲み込まれそうな気がしてくる。
さすがに薄気味悪く思い始めるうちに、ようやく脱衣場の前に来た。
最低限の明かりは点いているが、かえって不気味さを増しているように思える。
本来は男女別なのだが、一人になるのを怖がった智恵に手を引かれるまま、望も女子の更衣室から浴場に入ることにした。

「ごめんなさいね。ちょっと怖くて」
「いいんですよ。この時間だと先生のお友達も起きてこないでしょうし、あのコも」

向き合って互いに脱がせ合うと、素っ裸のまま手をしっかりつないで内湯を通り抜け、まっすぐ露天風呂に向かった。
昨日ある意味で大いに進展した二人の間柄である。
手ぬぐいで前を隠したりしない。

夕方にも入った露天風呂は岩で組んだ立派なものだった。
広めの湯船には、湯気がうっすらと立ち上っている。
あたりは真っ暗で、湯の色さえ分からない。

冬の戸外は寒さが容赦なく身を切ってくる。
さっそく湯船に肩を寄せ合って浸かった。
湯は程よい温かさだった。熱くもぬるくもない。
二人は存分に足を伸ばし、全身の力を抜いた。

源泉が流れ込んでいる音がチロチロと聞こえてくる。
おそらくは目の前に緑の山肌が広がっているはずだが、今は真っ暗闇で明かりの一つもない。
空には幾多の星影が瞬いているだけで、月は見えない。
しばらくの間、互いに無言のまま煌めく星空を眺めていた。
オリオン座が、そしてベテルギウス・シリウス・プロキオン……冬の大三角形が素人目にもはっきり分かる。

智恵の横顔を眺めた。
自分の隣にいる智恵は、昨夜さんざん自分を翻弄した相手である。
女王様でもある智恵によって昨夜は死ぬような目に遭わせられ、文字通り生き恥をさらけ出してしまった。
精神の奥底にへばりついている、他人に絶対に隠しておきたい秘めた願望まで全て知られてしまった。
――それでも。
それでも、惚れた弱みとでも言おうか……
今の彼女が何だかいとおしく、掛け替えのない女性に感じられて仕方がない。
――所詮、愛には理屈は要らないのである。

智恵の後ろから肩に手を回し、ボディラインを片手でゆるゆるとなぞってみた。
――下から上、上から下。
肩から脇、腰からヒップへゆるゆると、優美な曲線を確かめるように指を滑らせていく。
智恵は片手を望の太腿に置いたまま、頭を望の肩に乗せてきた。
しばらく智恵の肌の感触を確かめていると、身を寄せてきた。
太腿から脇腹にかけて動かしていた指先をボディラインから離し、
二の腕、背中、腹……肌のそこここにゆるやかに滑らせてみた。
すると、智恵の指先が内腿に侵攻してきた。
しばらく逡巡した後、握ってきた。

望は智恵の上気した顔を見つめると、そのまま接吻した。
一度口を離し、今度は深く舌を絡め合った。
唇を合わせている間中、智恵の柔らかな手は絶棒を軽く握ったり撫でたりを繰り返していた。
昨晩十分すぎるほど活躍してもう撃ち留めかと思っていたのに、
智恵の掌の中でまたも徐々に硬度を増してきた。

望は唇を離すと、伸ばしていた足をあぐらに組んだ。
智恵を抱き抱え、そのまま自分の上に向こう向きに座らせた。
位置を調え、静かに抱きしめてみた。

――なんて柔らかなんだろう……
196湯莽草2-03:2009/09/08(火) 11:47:56 ID:JvW4ERu+ BE:1253081489-2BP(333)
望は同僚教師の抱き心地の素晴らしさに痺れた。
湯の中なのに、人肌の温かさが直に伝わってくる。
智恵の素敵な肌触りをさらに確かめるべく、腹から胸、胸から腹にかけてゆるゆると触れていく。

そして湯に浮かんでいる爆乳を下から掬い上げ、たぷたぷっと揺さぶり始めた。
何度も味わったことのあるそれは掌からこぼれ落ちそうに柔らかく、
望の意のままに形を自由自在に変える。
それでいて少しでも力を抜くと、たちまち元の素晴らしいフォルムに戻ろうとする。
自律性のある最高の乳房だ。
いつまで触っていても飽きないおっぱいだ。

「ん……」

智恵はかすかにうめくとやや仰け反り、頭を望の肩に乗せた。
この反応に気を良くした望は、さらに揉みこみを加えてみた。
麓の方からじわじわと揉み、丁寧に丁寧にリズミカルな刺激を加える。
中まで解きほぐしたのを確認すると、親指の腹で乳輪をなぞってみる。
時折乳首をコリコリと摘んだり、ぎゅっと押し潰してみたりする。

「あふ……あ」

智恵はたまらず望の上で身を捩った。
智恵の手は湯の中で所在なげにもがいている。
望の太腿に当たっている智恵のヒップがわずかにくねる。
そのちょっとした動きが何ともエロティックだ。
熱を帯び大きくなった絶棒が智恵の尻や背中に当たっているが、気にする余裕はないようである。

「こちらはどうですか」

左手で智恵の素晴らしい乳房を代わる代わるリズミカルに揉み続けながら、
右手を智恵自身の入り口に滑らせてみた。
勝手知ったる叢を掻き分け、スリットを優しく撫でてみる。
案の定、既に湯とは違う滑った蜜を湛えていた。
静かに指を差し入れ、入り口でわずかに抜き差ししてやる。
智恵の腰がぴくんと跳ねるが、構わずにゆるりと奥まで探訪する。
粘膜を傷つけないよう注意して小刻みにスライドさせながら、侵攻する。
かなり奥まで挿し込んだ時点で、一番感じるスポットを指先で突いてやる。

「あぁ」

智恵の喘ぎが艶っぽくなった。
そのまま親指でクリトリスを軽く撫でてやると、きゅっきゅうっと指を締め付けてくる。

「あう」

智恵が、大きく仰け反った。
ごく軽く秘豆の周囲をなぞりながら、耳元で囁いた。

「さっきのところがいいんですね」

智恵は大きく息をつくだけで、返事がない。
望は再度同じ箇所を突き、豆を押し潰してみた。

「どうですか。ここがいいんですか」
「あうぅ……い、いいですっ」
197湯莽草2-04:2009/09/08(火) 11:50:28 ID:JvW4ERu+ BE:313270092-2BP(333)
智恵はたまらず上ずった声をあげ、脚を閉じようとした。
しきりに身をくねらせ、喘いだ。
自分の意のままに世界最高の楽器を奏でている錯覚に囚われながら、
望は憧れの同僚の耳やうなじに舌を這わせていく。
豊かで形の良い乳房も芯からたっぷり揉み込み、
時折乳首を摘んだり親指の腹で擦ったりして愛撫が単調にならないように留意する。
そうしながら下の方では指で豆の表面を優しくじらすように撫でたり、
ぐりぐりとしたり、爪でつんっと弾いたりする。
その度に智恵は面白いほど全身を捩じらせ、甘い吐息を漏らす。

――じゃあ、まず先に……

先に彼女をイカせてやろうと思い、望は指のそよぎを早くした。
案の定、智恵の呼吸が速くせわしくなり、しきりに身体を丸めて望の上から逃げ出そうとした。
そこをがっちりと捕まえておいて、さらに日頃智恵が好む動きを忠実に再現してやった。
しばらくすると、挿入している指に、ぴゅ、ぴゅっと濃い蜜がまとわりつくようになった。
同時に痛いほど食い締めてきた。

――クチュクチュ。クチュクチュクチュ……
「あ……あ、あぅんっ!」

智恵は望に抱かれたままぴくぴくっと痙攣しながら、一瞬身を硬くした。
そのまま軽く達したようだ。

絶棒の硬度もマックスに達している。
望は脱力している智恵を抱き抱え、湯船の縁の岩に手を掛けさせた。
よろけがちな身体を支えながら、ゆっくり立たせた。
尻をぺちぺちと軽く叩いて、こちらに突き出させた。
まったく無駄のない、何とも妖艶な曲線美である。
このあこがれの完璧なボディを自分が征服するのだ。
望は武者震いすると、後ろから覆い被さり、挿入した。

「むっ!」
「んぅ……」

智恵は一瞬背をわずかに仰け反らせた。
かまわず絶棒を進めていった。
蜜壷は十分に熱く潤っていて、心から侵入者を歓迎してくれているようである。
そして粘膜や襞のあらゆる部分が絶棒にも程良く絡みついては快楽の源泉を供給し、
さらなる動きを心待ちにしているようだった。
ここで期待に応えねば男ではない。
望はいきなり激しく突き上げてやった。

「いやぁ……ああん!」

智恵の高い声が響いた。
素敵な声に気を良くし、そのままガシガシと動いてやった。
何度か肌を合わせているので、智恵の好みはだいたい把握している。
そこを集中的に攻めてやると、智恵は甘い声でさらなるおねだりをしてくる。
いつもならわざと少しじらしてさらに智恵を燃え上がらせるのだが、
そろそろ自分も下半身がぼうっと痺れて熱くなっている。
抜き挿しするたびに快感が絶棒を走り抜け、腰の奥に蓄積されていく。
それに温泉とは言え冬の野外での営みだ。
短期決戦、と自分に言い聞かせた。

そこで望は一度深く突き挿した。

「くぅ……深いっ」
198湯莽草2-05:2009/09/08(火) 11:53:07 ID:JvW4ERu+ BE:469906439-2BP(333)
智恵も上擦った声を漏らした。
腰を押しつけたままぐりぐりと回転させてみた。
そうしておいて一気にリミッターを解放し、
タプタプ揺れていた乳房を鷲掴みにしながらガシガシと激しく腰を動かす。
そうして智恵を一気に追い込んでいった。

「あっ……ああ……もう、もう」

真っ赤な顔を左右に激しく降りながら、智恵はそのまま達していった。
強烈な締め付けが絶棒を襲ってきた。
濃い蜜を絡め放精を催促してきたので、存分に奥深く注ぎ込んでやった。

     ☆

再度湯に浸かり、息を整えてから部屋に戻ることにした。
着替え室に向かうが、智恵の足取りがおぼつかないものになっている。
時折ふらついて濡れた床で滑りそうになるので、望は手を繋いで誘導することにした。

ほの暗い着替え室で身体を拭ってやる。
ぱんつも穿かせてやろうとしたが、それは断ってきた。
先に着衣を済ませて観ていると、智恵は自分でぱんつを穿こうとはするのだが、
まだ腰がふらついているようだ。
片足を上げるとよろけたりしていて、穴に足を通すのも一苦労の様子である。
のろのろと浴衣に袖を通して前を合わせるのも、いつもの智恵からは想像も付かない。

――相当腰にきているようですね。

そんな彼女の姿を見ているうち、ふと悪戯心を起こした。
何気なく智恵の後ろに回ると、ぱっと腰紐を奪った。

「……え?」

案の定、智恵の反応が遅れた。
やはりチャンスは今しかない!
袖を通したばかりの両腕を捻り、素早く後ろ手に縛った。

「ちょ、ちょっと! ふざけるのもいい加減に……んっ……あん」

さすがに智恵も望の悪ふざけがすぎると思ったらしい。
だが、構わずに身八つ口から手を差し入れ、しっとりとした乳房をぐいぐいと揉んでやる。
智恵はさすがにやや抵抗してきた。
だが、しばらくするとすうっと力が抜けてきた。
乳首をくりくりっとつまんでやると、とたんに腰が砕けて身を二つに折ってしまった。
露天風呂での情事の火照りが体内に残っていて、今その種火に火がついたようである。

「さ、部屋に戻りましょう。風邪を引くといけませんから」

さんざん智恵の風呂上がりの乳房を楽しんでから手を抜いた後、丹前を肩から掛けてやった。

「じゃ、そろそろ戻りましょうか」

言いながら、手を前に回した。
開きかけている前の合わせ目を容易く突破し、右手を智恵の中に滑り込ませる。
耳元で囁きかけてみた。

「先生はおっぱいが敏感ですから、もう大変なことになってるんじゃないですか」
「う、嘘ですッ」
「嘘なもんですか。ほらほら」
199湯莽草2-06:2009/09/08(火) 11:56:55 ID:JvW4ERu+ BE:174039825-2BP(333)
入り口で指を遊ばせると、ぴちゃぴちゃとかすかな水音が漏れてくる。

「あん! だ、ダメぇ」

頬を赤らめた智恵が背を丸め、腰を折りかけた。
左手を丹前の下に潜り込ませ、再度身八つ口から豊かな乳房をを鷲掴みにすると強引に引き起こした。
そして指を引き抜くと、そのままぱんつを引きずり降ろし、足から抜き取ってしまった。
今まで智恵の中に入っていた指は当然のことながら透明な蜜で濡れていて、
その滴が淡い照明の元でも光っていた。
濡れた指先と抜き取ったぱんつを智恵にひらひらと見せびらかしてやった。

「ほらご覧なさい。こんなにキラキラしてるじゃありませんか」
「いやぁ……」
「嘘をついた罰です。これは没収します」
「あぁ……」
「さ、部屋に戻りましょうか。このままの格好でね」
「あぅ……んっ」

望は戦利品であるぱんつを懐にしまった。
智恵のすぐ後ろに陣取って身体を密着させた。
智恵の中にまた指を挿し入れ、むにむにと動かす。
左手で掴んだままの乳房をふるふると揺さぶる。
そのままゆっくり腰を智恵の尻に当て、歩を進め始めた。
智恵も仕方なく歩みを合わせ始めた。

脱衣室を出た。
二人の歩みは遅々として進まない。
――もちろん、望が意図して遅くしているからだ。
智恵は後ろ手に縛られ、おまけに智恵自身には望の指が収まっている。
しかも絶えず蠢いては妖しい刺激を智恵の身体に送り込んでいる。
乳房も望の左手で揺さぶられ、時折乳首を弄られるので、まるで力が入らず、抵抗できないようだ。

ようやく暗くて狭い階段を上り、廊下に出た。
智恵が恥ずかしそうに小声で呟いた。

「だ、誰かに見られたら恥ずかしいわ」
「誰も見てませんよ。
 他に泊り客はいませんし、ご友人もうちの部屋のもよく寝てるでしょうし。
 さ、もっと歩みを早くしないと」
「ああん……」
200湯莽草2-07:2009/09/08(火) 12:01:06 ID:JvW4ERu+ BE:261059235-2BP(333)
そう言いながら、中に挿し入れた指を動かしてやる。
中はすっかり潤っていて、指の動きによく反応してくる。
その反応を楽しみながら、親指で赤い豆をぐりぐり撫で回す。
時にぎゅうっと押し潰す。
その度に智恵の足が止まり、ぴくんっと痙攣する。
しっとり汗ばんできた乳房を揉み上げ、固くなっている乳首を摘むと、
智恵の身体が小刻みにぷるぷる震える。
後ろから腰を突いて催促すると、ようやく一歩踏み出す。
絶棒もすっかり熱を帯びて固くなり、数枚の布越しに智恵の尻や背に当たっているはずだが、
彼女に抗う手立てはないようだ。

――もういいかな。ここで挿入するか……

望は長らく智恵の中にいた指を引き抜くと、その右手で布地を数枚まくり上げた。
素早く絶棒を露出させると、後ろからずぶずぶと貫いた。

「あぁん!」

智恵が一瞬仰け反って喘いだが、そのまま歩みを進めることにした。
右手で智恵の腰を、左手で乳房を掴んだまま、腰だけで後ろからずんずん突いてやる。
繋がった腰だけで前進しているようだ。
時折うなじや耳に軽く唇を落としたり、舌を這わせたりもしてみる。
その度に智恵の喘ぎが高く、息遣いが荒くなるようだ。

日頃自分の上に君臨し、自分の全てを統治している絶対不可侵の女王様である智恵。
そんな彼女を今まさに自分の意のままにしていることに、不思議な感慨と興奮を覚えていた。
すっかり気が大きくなっていた。
昨晩、惨めな拷問を受けたトラウマがあと少しで癒されそうな気さえしていた。
温泉への行き道に感じていた不気味さはどこへやら、今は輝かしい勝利に陶酔し、
心がいたずらに高揚しているのを抑えられない始末である。

廊下を曲がり二人が泊まっている部屋が近くなると、智恵の息が荒くなり、
抑えた喘ぎが頻繁に漏れるようになった。
時折摘んでやる乳首もすっかり固く勃っているのがよく分かる。
耳を舌先でなぞったあとで囁きかけた。

「もうイクんですか」

智恵は、荒い息をつきながらも黙ったままであった。
望も黙ったまま右手を智恵の前に滑らせ、親指で智恵の急所をきゅうっと押し潰してやった。
智恵は果たして一瞬仰け反った後でしきりに頷いた。

「じゃあ、どちらに見てもらいましょうか」
「……え?」
「智恵先生がはしたなくイク姿を、お友達か教え子のどちらに見てもらいましょうか」
「そ、そんな」

望は戸惑う智恵を、自分の部屋の入り口と智恵の部屋のそれとの間に押しつけた。
そして智恵の部屋の戸に手を掛け、耳元でねっとりと囁いてみた。

「お友達にしましょう。
 昼間にアドバイスしてあげたお友達に、智恵先生のいやらしい姿を見てもらいましょう。
 頼りがいのあるクールなお澄ましさんのようでいて、本当はとってもエッチでマゾなんですよって」
「くぅ……そ、それは勘弁して」
201湯莽草2-08:2009/09/08(火) 12:04:28 ID:JvW4ERu+ BE:609137257-2BP(333)
智恵は激しく首を横に振った。
そこで乳房をたぷたぷと揉み立てながら、わざとイジワルに訊いてみた。

「へえ〜。じゃあ、教え子の方がいいんですか」
「…………」
「教え子にイク姿を見せたいだなんて、智恵先生はどうしようもない変態ですね」

そう言いながら乳首を捻り上げた。

「ひっ」

智恵は一瞬息が止まったようだ。

「さ、こちらに」
「……」

ついに望は自分の部屋に落城寸前の智恵を連れ込んだ。
入り口の戸を静かに閉め、つっかけていたスリッパも脱ぎ、
あと少しで襖に手が届くという時点で、智恵の身体が大きく痙攣し始めた。
唇をきつくかみ締め、背を大きく仰け反らせた。
「う、うぅっ!」
絶棒を激しく締め付けるが、さすがに今回はまだ発射まで少しは余裕がある。
素晴らしい締め付け、奥へ奥へと誘う絡みつき、
そして襞全体の精妙な動きによるきつい絞りたてを存分に堪能した。
智恵は最期にぴくっと小さく痙攣すると、がくっと首を折ってしまった。

「智恵先生、もうイッちゃったんですか。
 じゃあ、中に入りましょう。
 冷えるといけませんし。
 またたっぷり可愛がってあげます。
 教え子の目の前でイク姿を見てもらうとしましょう」
「うぅ……そんな」

望もそろそろ中で放出してもいいかと腹を固めたその時。

「……そろそろね」
「え?」

智恵の不思議な呟きを耳にした望は思わず聞き返した。

――にゅぽんっ!
「あ」

智恵が腰をぷるんっと横に振ると、硬化した絶棒があっけなく智恵の中から抜け出てしまった。

慌てていると、いつの間にか手首の縛めを解いていた智恵が、望の丹前を剥ぎ取り、頭に被せてきた。
視界がすっかり奪われてしまった。

――え……ええっ!?

事態が急展開しているにもかかわらず色欲に爛れた頭が追いつかずにいるうち、
智恵は望の浴衣や下着に至るまでするするっと剥ぎ取ってしまった。
そしてつい先ほどまで自分がされていたように、望の両手を後ろに捻り上げ、腰紐できつく縛り上げてきた。
慌てて解こうとしたが、何と言うことだろう、結び目はぴくりともしない。
それどころか、ぎりぎりと手首に食い込んでいるほどきつい縛り方だ。

――さすが女王様のロープ捌きは伊達じゃないな……
202湯莽草2-09:2009/09/08(火) 12:09:03 ID:JvW4ERu+ BE:783175695-2BP(333)
変なところで望は感心した。
おまけに、望が没収していた智恵のぱんつを上から被せられ、指先の抵抗も封じられてしまった。

――や、やられた! 今までのは、ひょっとして、え、演技……!?

望は焦りで頭の中が真っ白になった。
破滅への足音がどーん、どーんと迫ってくる気がした。
急に丹前が払い落とされると、智恵の女王様らしい囁き声が耳元をくすぐってきた。

「うふふ……ちょっと楽しかったわよ。
 じゃあ、約束通り、イク姿を教え子に見てもらいましょうね」
「え、あのぅ、それは私じゃなくて智恵先生が」
「え? 何かおっしゃいました?」

智恵がまだ固いままの絶棒のカリの部分を妖しく扱いた。

「く……くくっ」

望、声が出そうになるのを懸命に噛み殺そうとした。
そんな苦労をあざ笑うかのように、智恵は残酷に宣言した。

「さ、部屋の中に入りましょ。
 またたっぷり可愛がってあげます。
 冷えるといけないわ」

智恵は襖をついっと開けると望を先に通し、後ろ手でそろそろと閉めた。
哀れ、犠牲者・望は全知全能の女神・智恵の導くまま、
自分が連れ込むはずだったはずの部屋の中にまんまと連れ込まれてしまったのである。

     ☆

可符香はまだ静かな寝息を立てている。
その隣には、望の布団が隙間無く並べて敷いてある。
当然、枕も隙間無く並べて置いてある。
掛け布団を剥ぐと、智恵は望を枕の側に立たせた。
布団の上なので足音はしない。
立ったところで、智恵は無言のまま、頭を、そして背を押さえてきた。
中腰になったが、まだぐいっと押さえられる。
ついに膝をついた。
なお頭を押さえつけられた。
とうとう枕に額がついた。
ちょうど土下座のような格好だが、両手は後ろで縛られ、その上から智恵のぱんつで被われている。

すぐ隣には可符香が寝ている。
可符香の寝顔を眺めていると、尻をぴしゃぴしゃっと叩かれ、腰を上げさせられた。
次に内腿をぴしゃぴしゃと叩かれ、やや膝を開かされた。
こうして可符香が寝息を立てているすぐ傍に頭をつけ、尻を高く掲げた状態に奴隷の位置がセットされた。

智恵が耳元で囁いてきた。

「それじゃ、いくわよ」

いったいどんなことをされるのか、奴隷としては気が気ではなかった。
固唾を飲んでいると――尻たぶが開かれた。
狭間にぬめっとした感触がした。

――ひ!
203湯莽草2-10:2009/09/08(火) 12:13:42 ID:JvW4ERu+ BE:1096446479-2BP(333)
懐かしくも妖しい感覚に、背筋を震えが伝わった。
早くも絶棒が期待でぴくんと震えた。
智恵の舌がしばらく秘密の部分で蠢いていたかと思うと、舌先が差し込まれてくる。
どうも回転しているようにも感じられる。
さらに背筋をぞくぞくっと震えの第二段が駆け上っていく。
もう腰の奥で発射の予兆が芽生える。

智恵の舌がそのまま割れ目を舐め上がり、舌先が尾てい骨の上あたりをちろちろとくすぐっている。
先に高ぶっていていったん収まった性感がまた溶け出しそうだ。
微妙な感覚を我慢していると、脚の間から智恵が手を差し入れ、熱を帯びた絶棒を握ってきた。
くいっ、くいっと掌でわざとくびれ目を擦り立てるようにしながら掌中で位置を整えると、静かに扱き始めた。

「んー。ぐっ」
――ここで声を出したら!

声を出したら可符香気付かれてしまうと思い、奥歯をぎりぎり噛み締め、
下半身から襲ってくる快感を必死に堪えた。 
ところが、そんな望の努力をあざ笑うかのように、智恵は腰や背にきつく吸い付いては
ちゅっと音とたててキスマークを付け始めた。
そうしながら、穂先からにじみ出る透明な液を膨張した鰓に塗りつけ、
にちょっにちょっと恥ずかしい音を立てながら扱きを再開する。
望は智恵の熟達した手さばきを声を上げずに堪能する羽目になった。
どんなに気持ちよくても、声を立てたらアウトである。
隣の可符香に何としても気付かれるわけにはいかない。

キスマークが腰からだんだん背中の上につき始めるにつれ、智恵が望にのしかかるようになった。
智恵の技巧的な扱き、キスマークをつけられる刺激、豊満な乳房が背中に押し付けられる感触のミックス。
さらに、眠っている教え子のすぐ横で責められているという背徳感。
望はたまらなくなった。

さらに、智恵は左手で望の弱点である乳首をくすぐってきた。
身体がぴくつくと、がばっと覆い被さってきては耳元でこんなことを囁く。

「あら。相変わらず、男のクセに乳首が感じるのね」
「ん……」
「ふふっ。もっと弄ってあげますね」
――くりくりっ。くりっ。くりくりくり……
「! ぐぅぅ……」

くりくりっと豆粒のような乳首を転がされ、ただでさえグロッキー寸前の絶棒がさらに反り返る。
時折耳元にふーっと息を吹きかけたり、ぺろぺろと耳穴を舐め回したりする。
乳首をいじる指の動きも多彩だ。
どれ一つとして同じ方向からの弄りはない。

――声を上げたい。
上げたくてたまらない。
快感をアピールしたい。
気持ち良いと存分に訴えたい。

だが、だが……自分が攻められているすぐ横には可符香が幸せそうに寝ている。
何が何でも黙ったままでいることだ……

望は必死に我慢するしかなかった。
かえってそのジレンマが快感を増幅させる。
おまけに智恵の動きの数々は、女王様の経験から得た、マゾ男の扱いを十分心得たものだ。

望は着実に追い詰められていた。
絶棒が度々ひくつくようになった。
透明な涙が後から後から流れ出るようになった。
――カタストロフィが間近だ。
204湯莽草2-11:2009/09/08(火) 12:16:23 ID:JvW4ERu+ BE:696156285-2BP(333)
そんな状況を感じ取ったのか、智恵が望の傍にすっくと立った。
そして髪をぎゅうっと掴み上げ、無理矢理半身を起こされた。
そして、膝立ちにされた。
そのまま可符香の顔のすぐ傍まで連れて来られ、膝立ちのまま半ば顔を跨ぐようにされた。

今、最大限に勃起している絶棒が可符香の寝顔の上にある。
智恵はかがんで望の耳元に口を寄せると、こんなことを囁いてきた。

「さ、今からこの子を起こして、イクところを見てもらいましょ」
「い、嫌ですよ。そんな」

囁き声で必死にイヤイヤをした。
だが、智恵は素知らぬ風に次の選択肢を提示した。

「それとも、寝顔にかけちゃいます?」
「そ、そんなぁ。勘弁して下さい」

望は囁き声で必死に哀願した。

「そう。じゃどっちがいいかゆっくり考えて。
 それまでこの子の顔の上で気持ち良いコトしてあげます」
「うう……」

そのまま照準を下に向けられた状態で、扱きが再開された。
もし暴発してしまったら、幸せそうに寝ている可符香の鼻筋や頬を直撃することが確実だ。

――こ、このままでは大変なことになる……

望は歯を食いしばり、肛門を思いっきり引き締めて耐えようとした。
爪先をぎゅうっと曲げた。
だが、非情にも、智恵は望の身体の位置を細かく調整して、
絶棒の穂先が可符香の鼻先や頬のすぐ上を掠めるようにした。
そうしてゆっくりと手の動きを再開し、快感を堪える望の顔をじっと覗き込んでくる。
時にわざと激しく扱いて望を慌てさせる。
智恵の表情はすっかり女王様のそれになっていた。
婉然とした笑みを漏らした。

「ふふっ」

既に袋が可符香の額に乗ったり頬を叩いたりしている。
教え子を蹂躙するには十分な仕打ちである。
やがて鈴口が鼻先を掠めるとき、可符香がなにかの匂いをくんくんと嗅ぐ仕草をした。

――ああっ、すみません!

望は思わず目を固く閉じた。

智恵はとうとう絶棒の先を可符香の鼻の下に押し付けた。
そのまま穂先で愛らしい唇をゆっくりなぞった。
上の唇を中から左、そして右へ。
下の唇を右から左へゆっくりと。

さらに唇の合わせ目に沿って動かされていると、半開きになった唇から可愛い舌先が覘いた。
そして、すぐ近くにあった絶棒の裏筋をぺろぺろっと舐め始めた。

――ひぃっ! こ、これは……!
205湯莽草2-12:2009/09/08(火) 12:19:40 ID:JvW4ERu+ BE:609136875-2BP(333)
予期せぬ刺激に、たちまち発射したいという欲求が出てきた。
でも、今漏らしたらこの世の終わりである。
望は必死に首を左右に振った。

「うう、もうダメです。出ます。勘弁してください」

首を打ち振りながら、喉の奥から呟きを絞り出した。
智恵は望にこんな提案をした。

「じゃあ、イクときには『絶望する』って言いなさい。
 そうしたら助けてあげます」
「そ、そんなぁ」

望は自分の決め台詞を汚される気がしてイヤイヤをした。
だが、智恵は素っ気ない。

「じゃあ、このまま出すのね」

と、可符香が舐めている裏筋や鈴口付近を避け、
真っ赤に充血している亀頭の表や鰓を親指・人差し指の二本指でつまむと、
指の腹でしゅりしゅりっと擦り始めた。

――ひぐぅ!

そこから強力な電流の矢が腰の奥に突き刺ささった。
たちまち濁流が根元に押し寄せ、必死に堪えている仕切りにぶち当たり押し開け乗り越えようとした。
下半身がぶるぶるっと震えた。
あと五秒したら暴発してしまう。
可符香の顔を汚してしまう。
ただでさえ怖いこのコに決定的な弱みを握られてしまう――ついに望は屈服した。

「あぐぐ、わ、分かりました。言います」

望の降伏宣言を耳にすると、智恵は無言で素早く根元をぎゅっと強く握った。
驚いた絶棒から、漲っていた発射の機運がとやや退いた。
先から白い涙が一滴滲んだだけで、どうやら暴発は免れたようだ。

ほっと息をついたところで、頭を掴まれた。
また枕に押さえつけられた。
ぽすっと音を立てて布団の上に仰向けに倒れると、智恵が望の両脚を抱えて方向を調え、
望が可符香と並んで寝ているような格好にした。

そうしておいて、智恵は望の脚を割り拡げ、ぐいっとのしかかってきた。
智恵の体重が背中に回っている手にかかり、望は苦吟した。

だが、その苦痛もすぐに消し飛んだ。
智恵がまだ力を保っている絶棒を乳房で挟んできたのだ。
ただ挟んだだけでない。
そのまましゅっしゅっと擦り上げ始めた。
一旦収まっていた射精感が再び高まってきた。
単調な動きにならないよう、責めも変化に富んでいた。
左右の乳房で上下する方向を変える。
小刻みにうりうりっと摩擦したりする。
望が快感のあまり腰をせり上げ、脚を閉じようとすると、内腿を手で押さえつけ、ぐいっと大きく開かせる。
そして先ほどまで可符香の鼻先にあって発射寸前だったモノを存分に責め上げた。

胸の谷間から絶棒の穂先が頭を見せた。
すかさず智恵はそこをちゅぽっと咥え、舌先でちゅるちゅると嘗め回す。
望はまた腰をせり上げながら激しく首を振った。
206湯莽草2-13:2009/09/08(火) 12:23:00 ID:JvW4ERu+ BE:348078454-2BP(333)
「ん、ぐ……もう、もう、ぜ」

必死の囁き声を耳にしたのか、智恵の責めが一層激しさを増した。
双乳による扱きはスピードと圧力を増し、亀頭を咥えっぱなしの口内では舌先がしきりに発射を促してきた。

ふと横を見た。
自分がこんな修羅場を迎えているのに、可符香は相変わらず天使のような無垢な寝顔を見せている。
汚してはいけない天使のようだ。
そのあどけない寝顔を眺めているうちに、ついに限界が訪れた。
望は屈辱の言葉を呟くこととなった。

「む……ぜ、もう、絶望します、うぅっ!」

望は可符香の寝顔を目にしながら、智恵の口内へ屈辱の噴射を遂げていった。
だが、噴射が始まってなお可符香の寝顔を見ていると、急にきつく吸い上げられた。

――ちゅううううううっ!
「ひゃうっ!」

あまりのきつい快感に思わず目を閉じてしまう。
まるで自分が責めている間、これ以上他の女の顔を眺めること叶わぬと女王様から宣告されたようだった。

望は目を閉じたまま、智恵の口内にこの度の旅行で何度目かの精を発射し続けた。
智恵はそれをコクコクと飲み下していった。
飲み下すときの喉・口腔内の微妙な動きが、発射したてで極度に敏感になっている亀頭全体を刺激し、
さらに望を喘がせた。
これに加え、さらに舌先で敏感な亀頭を嘗め回したり、またきつく吸い上げたり……
最後の最後まで望は智恵の技に翻弄された。
仕上げに親指と人差し指で根元から丁寧にゆっくり扱き上げ 、筒の中から丁寧に精を搾り出された。

全部搾り出すと、智恵は脱力した望を抱き起こし、背中に手を回して縛めを解いた。
そしてまた望を仰向けに寝かせると、大胆にも可符香を抱き寄せ、望の腕枕に寝かせる格好にした。
そしてその場をついと離れた。
望は大いに焦ったが、動くことはおろか、声を上げることすらできない。

可符香が望の腕を枕にして十秒……三〇秒……一分。
下半身でしびれたままの絶棒の感覚を持て余しながら、時の過ぎるのを待った。
幸い教え子はくー、くーと微かな寝息を立てているままだ。
目を覚まさないでいてくれたようだ。
心の底で胸を撫で下ろして彼女の顔をまた眺めた。
自分の間近で眺める可符香の顔は、数年前に出会ったときと変わらずあどけなさを保ったままのようにも見え、
また不意に年齢不相応に大人びているようにも見えた。

そこへ、しばらくどこかへ行っていた智恵が戻ってきた。
望の腹の傍に屈みこむと、力を半ば失ってだらりとなっている絶棒を、
水で濡らしたおしぼりでぎゅうぎゅうと拭ってくれた。
冷たさに腰を捩りかけたが、可符香が自分の腕枕で寝ていることを考え何とか我慢した。

拭い終わると、智恵はいきなり望の両脚を抱え込んだ。
驚いたことにそのまま電気アンマをしてきたのだった。

――むにむにむに。むにむにむに……
207湯莽草2-14:2009/09/08(火) 12:26:30 ID:JvW4ERu+ BE:783175695-2BP(333)
まだ発射の痺れが残っている所にこの刺激はきつい。
望は煩悶した。
可符香が腕枕で寝ているので逃げ出すどころか、身を捩ることすら叶わない。
声さえ上げることが出来ない。
歯を食いしばって耐えるしかなかった。
いつしか絶棒に硬度が戻っていた。

脚を降ろされた。
だが、智恵の足は望の局部を押さえつけたままである。
様子を見ようと首をもたげかけた途端に、その足が前後に揺さぶられ始めた。

すっかり芯が回復した絶棒は、まだ発射した後の敏感な感覚が残ったままなので、
この責めにも敏感に反応してしまった。
智恵のつま先が、絶棒を踏みつけるように摺り上げる。
指でくびれをくすぐってくる。

「くくっ……」

必死に奥歯を噛みしめて呻きを封じ込めようとした。
声を殺すのに一苦労も二苦労もした。
少しでも身を捩ると腕枕で寝ている可符香が目を覚ましかねない。

今度はかかと近くでゴリゴリと転がすように擦ってきた。

「あぐっ、ん」

きつい性感が容赦なく絶棒に襲いかかってきた。
ただただ智恵の責めを耐えるしかなかった。
だが、耐えることでかえって快感が増幅してしまう。

――今出したら気持ち良いだろうなぁ……

絶棒に本格的に力が籠もったところで――無情にも智恵の足が離れた。
そのまま智恵の責めは終わりとなったようだ――放置プレイということだろうか。

智恵は部屋の入り口に落ちていた望の浴衣と丹前を拾ってきた。そして望の裸身にかぶせ、さらに布団を肩までかけてくれた。
――可符香もこれで風邪を引かなくてすみそうだ。
そして枕もとに来てしゃがみ込むと、こう囁いた。

「じゃ、おやすみなさい。
 来週の日曜は久しぶりに調教してあげますから、空けておいてくださいね」

望が力なく頷くのを目にすると、智恵は望の耳たぶをねっとりなめ回し、
耳たぶをはむはむっと甘噛みし、仕上げにふうーっと息を吹きかけるとすっと立ち上がった。
すっかり固く大きくなった絶棒にもうちょっかいをかけることなく、するりと部屋をぬけ出、音もなく戸を閉めた。

「うーん」

望は慌てた。
可符香が目を覚ましたのか。
身を固くして貝のようにじっとしていた。
可符香は寝ぼけたような声をたてると、望の方に寝返りをうった。
そして肩口に顔を埋めてきた。
望はそおっと空いた手で肩を抱いてやると、脚を絡めてきた。そして――可符香はそのまままた穏やかな寝息をたてはじめた。
望はそっとため息をついた。
208湯莽草2-15:2009/09/08(火) 12:29:25 ID:JvW4ERu+ BE:609136875-2BP(333)
布団の中、浴衣越しに教え子の体温を感じ、あどけない横顔を間近で眺めてみる。
絶棒は先の責めで屹立したままである。
空いている右手で可符香の背中をゆっくりさすってみる。
――ブラはしていない。
浴衣の胸元から中に手を潜らせる。
また背中に手を伸ばす。
背中からヒップへ至る曲線を指先で何度か往復してみる。
なだらかでエロチックな曲線だ。

ヒップまで手を伸ばしてみた。
すべすべつるんとした手触りがたまらない。
指先をぱんつの下に潜らせ、お尻のほっぺたを撫でさすっているうち、何とも切なくなった。

思い切って自分の体勢を可符香向きにした。
可符香のぱんつをややずり下げた。
そして可符香の片足をほんの少し持ち上げると、その隙間、可符香の太腿の間に絶棒を差し込んでみた。
ゆっくりと持ち上げていた足を下ろし、絶棒を挟むようにした。

――こ、これは……!

何と素敵な感触なんだろう。
望は絶棒全体で可符香の太腿の温かさ・柔らかさ、草むらの繊細さを感じることになった。
太腿で挟まれているだけでじんわりと充実感に浸ることが出来た。
よほど何度か抜き挿しをしようかと考えた。
が、さすがにこれ以上は言い訳が出来なくなるし、何より先ほどまでの緊張感が緩んだのか、
眠気の方が勝ってきた。

――まあ、いいか……

可符香に挟まれていると安心出来る気さえした。
熱を帯びた絶棒を教え子の魅力的な太腿で挟んだまま、
小ぶりで丸く引きしまったヒップを優しく撫でているうち、いつの間にか自分も浅い眠りについていた。

     ☆

霧とまといが夕食の仕度をしている。

「先生。今晩はお刺身だよ。タコのおさしみ」
「へええ。それは楽しみですね」
「じゃ、食べさせてあげるね。あーん」
「私のも食べてくださいね。あーん」
「あーん」

自分を好いてくれている美少女の教え子二人に食べさせてもらう至福。
望はだらしなく口を開けた。
ところが、二人が箸でつまんでいる刺身の一切れがやけに大きい。
おまけに強力そうな吸盤がついている。
しかも、二人はその刺身を望の首筋に当てたり、服をはだけさせて胸元にあてたりする。
そして、肌を吸盤に吸い付かせ、きゅぽんと小さな音をたてて引き剥がす。

「ちょ、ちょっと。あのぅ、何してるんですか」
「何って、気持ちいいことですよ」
まといが微笑みながら答える。
「うん。気持ち良いでしょ。ほらほら」
霧もにこやかに相槌を打ちながら、奇妙な行為を続ける。
――きゅっ、ちゅぽん。きゅっ、ちゅぽん。
209湯莽草2-16:2009/09/08(火) 12:35:16 ID:JvW4ERu+ BE:69616122-2BP(333)
吸盤が肌に吸い付き、ちゅぽんっと離れる。
その何ともいえぬ感触に、望の体内で早くもざわめき始めるものがあった。

「うひゃ。や、やめて下さい。くすぐったい」

だが、二人はますます行為をエスカレートさせる。
体内に生まれたざわめきがどんどん大きくなってくる……

     ☆

ここで意識が段々戻ってきた。

――ちゅぅっ、ちゅぽん。ちゅぅっ、ちゅぽん。

目が覚めてきたのに、ちゅぽん、ちゅぽんという吸盤が吸い付いて離れるような音、
そしてあの感触はそのまま断続的に続いている。
しかも、自分の胸元や乳首など、弱点ともいえる場所に集中している。

音と感触がする方を向こうと首を持ち上げた望は驚いた。
いつの間にか、可符香が起きていて自分の胸や腹に情熱的に吸い付いては、
薄暗がりでもはっきりと分かるキスマークをつけ続けていたからだ。

「ちょ、ちょっと」
「あ、先生、おはようございます」

可符香がにこやかに挨拶をしてきた。

「あ、おはようございます。……って、あなたいったい」
「先生こそ、生徒が寝ている間にえっちなイタズラしようとするなんて、びっくりしましたよ」
「え、いや、それはそのう、あなたが布団に入ってきて」
「それに、寝言で『絶望した』とかするとか仰ってましたし、
いつの間にか背中にあんなにいっぱいキスマークつけて……
 昨日あれから何してらしたんですか」
「へ!? そ、それは……」

望は言葉を詰らせた。
まさか、可符香が寝ている間に温泉で智恵と交わったあげく、
いろいろあってこの部屋で智恵にパイズリで抜かれて足コキされたなどとは言うわけにはいかない。

「口惜しいから、同じ数だけ前にもキスマークをつけてあげます」
「口惜しいって、あなた」
「もちろん先生の手や足にもいっぱいつけてあげますね。
 おまけですよ」

可符香が嫉妬めいたことを口にするのを初めて耳にしたが、今はそこを追及している時ではない。
夕方に帰宅した後が怖い。

「ちょっとあなた、やめてく、ひあぁっ」

不意に望の抗議は中断した。
手始めとして乳首に強く吸いつかれ、もぐもぐと甘噛みされたからだ。
しかも、いきなりきつく吸い上げたり、レロレロと舌先で乳頭を弾いたり、乳輪をなぞったり……
望の感じる攻め方をことごとく踏襲し、起き抜けでぼんやりした望の脳に快感を伝えるのに十分なものだった。
望の抵抗が収まったので気を良くしたのか、望の生白い薄い胸板から腹、
そして贅肉のまるっきりついていない内腿から男のくせに細くて毛もまばらな脛に到るまで、
可符香の情熱的な奉仕が続き、満遍なくキスマークが付けられた。
210湯莽草2-17:2009/09/08(火) 12:37:51 ID:JvW4ERu+ BE:365482073-2BP(333)
最後に、力を帯び始めた絶棒をいとおしそうに手にすると、
溶けかけのキャンディーバーを味わうように大事そうに口に含んできた。
そしてちゅぱっ、ちゅぱっと音を立てて吸いたてた。

「あ、あひぃ」

望は思わず奉仕中の可符香を見つめた。
可符香も上目遣いで望を見返してきた。
――にっこり微笑んでいる。
微笑んだまま、舌先を柔らかなドリルのように回転させ始めた。

「うぐ……」

望は高ぶってきた。
ここまでされて性行為を中断するほど望は枯れていなかった。
やがて口を放した可符香を抱き抱え、自分の下に組み敷くと、そのまま挿し貫いた。

「んっ」

可符香も満足そうな表情をして仰け反った。
やがて望の背に腕を回し、ぎゅうっと抱きしめてきた。

中は最初から潤っていた。
そして望の突きを優しく受け止め、包み込んでくる。
――そのまま朝に激しく交わった。
感極まった可符香が、望の背に回した手をぐいっと引きよせると、背に爪を立てるおまけまでついた。

「くぅっ」

望はたまらず可符香に告げた。

「もうぜ、いや、い、イキます」
「ええ、先生」

二人でタイミングを合わせ、同時にクライマックスに達した。

     ☆

宿を出る段になった。
二人とも身支度はすっかり整えている。
襖を閉め、部屋の戸を開けようとしたところで外から智恵の声がした。

「糸色先生、もう支度できてます?」
「ええ、智恵先生。今出ます」

靴紐を結び終えて立ち上がり、戸に手を掛けた所で、可符香がふと何かに気付いたように言った。

「あ、先生。ちょっと」
「え?」

望の足下にしゃがみ込んだ可符香を何気なく見ると、なぜか望の下半身に向き合っている。
布地越しとは言え、至近距離で異性に局部を見られるのは、
教壇に潜むまといで慣れているとは言えいささか恥ずかしい。
不審に思っていると、おもむろにマントに手を掛け開き、袴の腰紐を緩めてきた。

――え、えっ!?
211湯莽草2-18:2009/09/08(火) 12:40:24 ID:JvW4ERu+ BE:278462944-2BP(333)
ここから電光石火のような動きだった。
どこをどうされたのか、あれよあれよという間に股間を丸出しにされ、
気付くと今朝も活躍した絶棒を愛らしい口にぱっくり含まれていた。

――ちゅぱちゅぱ。ちゅるるるんっ!

しかも最初から情熱的な舌遣いである。
昨晩から今朝にかけてあんなに酷使された絶棒であるのに、
あっと言う間に硬化させ、直ちに追い込みを掛けてくる。

「ちょ、ちょっと!」

望は囁き声で可符香に抗議した。
何せ、戸を一枚隔てた外には智恵がいて、しかも自分たちが出てくるのを待っている。

――何かの弾みでこんな所を見られたらどうなるか……

しかし、可符香は含んだまま「ふふっ」と微笑んで、ちらっとこちらを上目遣いで見上げると、奉仕を再開した。
しかもその奉仕が激しい。
舌先をドリルのように回転させ、張り出した鬼頭のエラ周りをぐりぐりとしゃぶり回す。
絶棒を軸として舌先で出来たドリルの刃が回転しているようだ。
そうしておいて、唇で敏感なくびれを挟んではむはむと扱きたてる。
時折きつく吸い上げさえする。

――こ、これは……くっ!

昨晩から今朝にかけて何度も出してもうしばらくは打ち留めだと思っていたのに、
もう腰の奥に射精感の兆しを感じる。
思わず腰を引こうとするが、可符香に尻をがしっと両手で掴まれ固定され、
逃げようとした罰とばかりさらに熱烈に責め立てられてしまう。

「く、くっ」

歯を食いしばって快感に耐えている所へ、また外から智恵の声がした。

「先生、まだですか?」
――いけない、じれている!
「しゅみまひぇ……あの、す、すみません。あのぅ、もうちょっと」

もうちょっとで出そうです、と言い掛けたのをすんでの所で飲み込んだ。
あわてて声を出したせいか、最初を噛んでしまった。
きっと変に思われたに違いない。

――ああ、もしこんな場面を見られたらどうしよう……

出発前だというのに自分のイチモツを受け持ちの女生徒にしゃぶらせている姿を見て知られたら、
さすがに問題になるだろう。
智恵先生なら黙っていてくれるかもしれないが、後々のことを考えると鬱だ……

それにしても気持ちいい。
溶けてなくなってしまいそうだ。
もう出したい。
智恵の声を耳にしてからか、可符香の舌捌きがますます速度と過激さを増している。
熱を帯びて固くなった獲物を絶対に逃げられない檻の中で縦横無尽に追い立てている。
望は可符香の頭に軽く手を添えていた。
目を閉じて快感で意識が飛びそうになっていた。その時:
不意に膨らんだ穂先を音を立てて吸い上げられた。

――ちゅううううっ!
212湯莽草2-19:2009/09/08(火) 12:42:41 ID:JvW4ERu+ BE:522117656-2BP(333)
「ひゃううん!」

思わず良い声で鳴いてしまった。
慌てて口を押さえたが遅かった。

「先生、どうしたんですか? ここ開けますよ」
「いや、ちょっと待……あの、そのぉ」

戸が開きかけた。
だが昼間は立て付けが悪く、スムーズに開かないようで、ガタガタと音がするばかりである。
一方で可符香の責めはラストスパートに入った。
絶棒の方も望の建前上の意志に反してすっかり発射準備が整い、
本音による指令を今や遅しと待ちかまえている。

――もうお終いだ……もう駄目だ、もうダメだ、もうたまらない、出そう、出る……!

教え子の口中で絶棒が極限まで反り返った。
煮えたぎる白いマグマが今まさに解き放たれようとしたまさにその時:

「え、な〜に? どうしたの?」

先ほどまで戸を開けようと四苦八苦していた智恵が急に戸の前から遠ざかっていった。
どうやら、連れの女性に呼ばれたらしい。

――ナイス、連れの女性!

いつの間にか絶棒はただ含まれているだけになっていて、口撃も止んでいた。

――助かった。
「ふう……」

思わず安堵のため息をもらしたとき、

「ふふっ」

下から含み笑いが聞こえた。

「びっくりしましたね」

見下ろすと、いたずらっぽく見上げてくる可符香と目が合った。

「心臓が止まるかと思いましたよ。
 まあ、もう少しで逝くところでしたが……はうっ」

彼女の頭に軽く手を添え、ぽんぽんと軽く叩いて感想を漏らした。
とたんに、爆発寸前で膨れ上がったままの穂先を軽く吸われ呻いた。
ふと口を放した可符香がしれっと独り言を言った。

「せっかくタイミングを合わせてたのになぁ」
「へ? 何ですって?」

思わず聞き返したが返事はなかった。その代わり、

「じゃあ、そろそろ逝きましょうか」

と笑顔で優しく呟くと、MAX近く膨張している絶棒の砲身を喉の奥までくわえ込んだ。
そして頬をすぼめて激しく吸い立て始めた。

――ちゅぱっ、ちゅぱっ、……
「くうぅあっ……もう、もう」
213湯莽草2-20:2009/09/08(火) 12:46:23 ID:JvW4ERu+ BE:487310047-2BP(333)
生徒と不埒な行動に及んでいる現場を見られて身の破滅という危機から逃れて気が抜けたのか、
絶棒戦隊の防御力は根底から弱体化されていた。
可符香軍の怒濤のラストスパートに、望はあっけなく最期を迎えた。

――ちゅううううううううっ!
「うっ……いい、イきますっ」

可符香軍隊長の熟練した口撃に、さしもの威容を誇った絶棒戦隊も、
ついに降伏の白旗ならぬ白濁液を敵隊長の口内にどっと放出し始めた。
鈍い快感を伴って降伏の証が次々と放出されている間も、
絶棒は敵口中に虜囚の辱めを受けたまま舐められしゃぶられ、蹂躙の限りを尽くされた。
降伏した後も持てる弾の全てを放出し尽くし、硬度を失って小さくなった銃身が、
愛らしい敵隊長の小さな口から解放され、
最終的に武装解除され身柄を解放されるはしばらく後のこととなった。
その間、望は可符香の頭に軽く手を添えたまま身動き一つ出来なかった。
完敗と言えよう。

――ちゅうううぅ。っぽん!

敗者に捺される焼き印として、あるいは戦闘の区切りとして、
可符香は仕上げとばかりに背伸びして望の首根っこにかじり付き、特濃のキスマークを残した。

「ちょ、ちょっと!」
「大丈夫ですよ。マフラーで隠しておけば全然人目に付きませんよ」

     ☆

この度の旅行で精力を智恵・可符香に文字通り吸い取られた望は、帰りの車中では、
可符香と今後の密談をこなした以外はうつらうつらと居眠りをしていた。
駅で可符香・智恵一行と別れ、重い足取りで宿直室まで戻った。

     ☆

「ただいまぁ」
「お帰りなさい」
「お帰り、先生」

宿直室には、なぜか霧の他にまといがいた。
交は交当番の家に泊まる日になっていて、不在だった。
宿直室には、もうコタツが出してあって、みかんや茶菓子や湯呑みが置いてある。
ストーブにも火が点いていて、部屋は存分に暖まっている。
こたつの上の様子からすると、まといはしばらく前からいたらしい。

――はて? この二人が一緒にいるなんて、何か特別なことでもあったのかな?
「お帰りなさい」
「外は寒かったでしょう」

不思議に思っているうちに、まといが望の手荷物を受け取り、霧が外套を脱がせてくれた。

――それとも、いつの間にか仲直りしたんでしょうか。
「先生、お疲れだったでしょう。先にお風呂に入ってください」
「温泉帰りだから、ちゃっちゃっと軽く浸かれるように支度しといたよ」

見ると、たしかにコタツの横にタライが置いてあって、湯が張ってある。
ほかほかと湯気も出ている。
周りにはバスタオルやシーツが敷き詰めてある。
いつでも湯浴みが出来ると言わんばかり、簡単な入浴の支度が整っていた。
――まるで帰宅時刻を予期し、そこから逆算して準備を進めていたようである。
214湯莽草2-21:2009/09/08(火) 12:49:04 ID:JvW4ERu+ BE:69616122-2BP(333)
「それともご飯にする? 
 ご飯ももう準備できてるよ。
 今日はお刺身だよ。
 マグロのいいのがあるんだ」
「へえ〜」
「それとタコ。
 ピチピチなんだから」
「は、はぁ……」
――そう言えばタコの刺身と二人が夢に出てきましたね。そしてその後は……

ここで、望は朝方見た夢とその後の可符香との情事を思い出し、つい顔がゆるんでしまった。

「先生、部屋の中でいつまでもマフラーは変でしょう。さあ」

望のだらしない表情に女の影を感じたのか、まといがやや棘を含んだ言葉を吐きつつマフラーに手を掛けた。

「はあ……って、ちょっと待って!」
「え? どうかしたんですか」

ぼうっとしていた望はようやく自分の危機に気付いた。
今二人の前でマフラーを取り着替えをするということは、可符香に貰ったキスマーク、
ひいてはこの小旅行中に自分に何があったかを如実に晒すことに繋がる。
身の安全を図るためには、それだけは避けねばなるまい。
望は穏やかに抵抗してみた。

「いや、その、ほら、食卓にほこりが立ちますから。
 奥で着替えて来ますよ。
 子供じゃないんですから一人で。
 あはは、あはははははは……あは」

しかし、このぎこちない言い訳がかえって二人の不審をまねいたらしく、抵抗も無駄に終わった。
二人の手がマフラーに掛かった。

「……いいから」
「どう、ぞっ!」
――するするするっ!
「あーれー」

あまり勢いよくマフラーを引き剥がされたので、つい身体がくるくると回転してしまう。
――目が回る。回る。回る!
とうとう二人掛かりでマフラーをはぎ取られてしまった。

「……………………」
「……………………」

二人ともしばらく無言のままだった。
恥ずかしい痣が残っているはずの自分の首筋に鋭い視線が刺さっているのがいやでも分かった。
やがて、笑顔を凍り付かせたまま、まといが静かに口を開いた。

「先生。やっぱりご飯の前に、お風呂はいかがですか」
「うん。それがいいよ」

同じく氷の微笑をたたえた霧が珍しくまといに同調しながら、有無を言わさず残りの着衣を剥いでいく。

「ちょ、ちょっと待ってくださ」

このままでは自分の身体につけられているはずであった無数のキスマークを見られてしまう。
いくらなんでも、それでは今度こそ本当に身の破滅、カタストロフィだ。
今ならまだ何とかごまかせるかもしれない。
だが、まといも手伝って強引に望のシャツから袴、下着まで全て脱がせてしまう。
215湯莽草2-22:2009/09/08(火) 12:51:55 ID:JvW4ERu+ BE:626540966-2BP(333)
「いや、待ってください。待ってく」
「ほらほら」
「じたばたしないのっ」
「待ってください。待って、待」
「あーーーーーーっ!!」望の必死の懇願を打ち消す大声でまといが叫んだ。
「うわぁ……何これ!!」霧もびっくりしたようだ。

――……ついに見つかってしまった……

「ああ……あたしの先生が汚された!」額に手を当て霧が大げさに嘆いた。
「ああ……私の先生が傷物にされてしまったわ」まといも「私の」を強調して悲嘆に暮れてみせた。

顔を見合わせていた二人は、やがて、声を揃えて望に命じた。

「先生、ちょっとそこに座って……お座りっ!!」
「うはぁ、はいっ!」

望は裸のまま二人の前に正座して頭を垂れた。
こうなっては担任教師という肩書きはあってないようなものである。
しばしの間、黙りこくって立ったまま望の上半身を前から後ろから眺め回していた二人が静かに問い掛けてきた。

「先生、これどーゆーこと?」
「誰につけられたんですか?」

まさか全部が全部智恵と可符香につけられましたと正直に答えるわけにはいかない。
黙っていた。
だが、

「何とか言いなさいよっ」

怒った霧についっと手で顎を上向きにされ、顔をのぞき込まれた。
視線を合わせまいと必死にそっぽを向こうとした。
そこへ、まといが思わせぶりに呟き、霧が相槌を打った。

「やっぱり写真の通りだったわね」
「そうみたいね」
「へ?」

二人の会話の意味が分からないでいる望。
が、まといがふところから写真を一束取り出し、望の鼻先に突きつけてきた。

「先生、これ」
「へ……はうっ!」

望は思わず固まった。
温泉で智恵と可符香に甘美な拷問を受けている様子、
露天風呂で智恵の後ろから覆い被さっている様子、
深夜智恵にプチ露出をさせながら部屋に戻る様子、
それに驚いたことには眠っている可符香の横で智恵に搾られている様子や
宿の出発前に可符香にしゃぶられている様子まで、
この旅行中に自分が晒した痴態が鮮明に写っているものばかりだ。
もちろん、自分の肌につけられたキスマークも鮮明に写っている。
望はごくりと生唾を飲み込んだ。

「こ、これはいったい……」

背筋から冷や汗が伝った。

「いったいいつ撮った……はっ!」
216湯莽草2-23:2009/09/08(火) 12:54:23 ID:JvW4ERu+ BE:313270463-2BP(333)
「やっぱり先生だったんだね」
「業務用の暗視カメラと赤外線投光器をうまく組み合わせてちょちょっとね」

マヌケなことに、望は二人の前で自白してしまったのだった。
まといが種証をしてくれたが、それを感謝する余裕などもうなかった。

「これは詳しく確かめないとね」霧の目が妖しく光っている。
「そうね」まといが同調する。同じく目が爛々と光っている。
――くっ、こういう時に限って共闘ですか……

望はたまらず奥へ逃げ込もうとした。
だが、そんな行動などいつも望の身近にいた二人にはお見通しである。
たちまち望は捕まり、湯の張ってあるたらいの前に引き据えられた。
二人とも、自白してしまった下手人の手をそれぞれしっかと掴んで離さない。
そうしておいて、なんとも言えない恐怖に怯えている望を前に宣言した。

「やっぱり先にお風呂でよかったね」
「ええ。こんな跡は私達が洗い流してあげます」

二人はそのまま望の髪をぐいぐい掴んでタライの縁まで引っ張った。

「アイタタタ、痛いいたいイタイ」

望が情けない声で抗議するが、そ知らぬ顔である。

「で、この汚れはどうしよう? 
 プール掃除で使うデッキブラシでゴシゴシ擦っちゃおうか?」
「うーん、そうねえ……デッキブラシはないけど」

まといに訊ねられた霧はしばし考え込んだ。
そして、ついと台所へ向かった。
そして何かを二つ手にして戻ってきた。

「亀の子たわしならあるよ」

一つを湯に浸し、まといに手渡した。
自分のたわしも湯に浸した。

「よーく擦ったら汚れ、落ちるかしらね」
「そうね、じょりじょりとね」
「ひいっ! 勘弁してください……あ痛たたた」

二人はいやいやをして逃げようとする望を挟み撃ちにする。
髪を一束づつ掴み上げてそして無理に中腰にさせると、
ぷらぷらと情けなく揺れる局部の裏表をたわしでぴたりと挟んだ。

「ひやあああああ」

男体で一番敏感で弱い部分にたわしのチクチクする刺激が容赦なく襲いかかり、望は思わず叫んだ。

「じゃあ、擦ろうか」
「ええ。ごしごしとね。せーの」

たわしにじわっと力がこもった。
チクチクの度合いが強くなった。

「うわーん、待って、待って! 使い物にならなくなります!」
217湯莽草2-24:2009/09/08(火) 12:56:35 ID:JvW4ERu+ BE:139231542-2BP(333)
恐怖の余り望は泣き叫んだ。

「何でも言うこと聞きますから、二人を大切にしますから! 
 どうかそれだけは勘弁してください〜」

望は二人におべんちゃらを言ってしまった。
このセリフを耳にして、たわしが望の局部からふいっと離れた。

――た、助かった……

望は心底ほっとした。
だが、離れていたたわしがキスマークだらけの腹と背中に押しつけられ、そして:

――じゃしじゃしじゃしじゃしじゃし……!
「ひぎゃ〜〜〜〜!!」

望は絶叫した。

「痛い、いたイタ痛いたイタ痛いたイタ痛〜〜!! 
 ご、ご慈悲を〜〜!!」

望の懇願に二人はつれなかった。

「どちらかを選ばなきゃダメに決まってるじゃない」
「ねぇ」

二人の手にさらに力がこもった。

――じゃしっ、じゃしっ、じゃしっ、じゃしっ、じゃしっ……!
「ひい〜〜〜〜!! ど、どうしてこんなひどいことを」
「あら、綺麗にしてあげてるだけですよ。
 不潔だと女性に嫌われますよ」
「そうよ。汚れは落とさないとね。
 女性関係がだらしないのは嫌われるよ」

望の上半身が裏表とも真っ赤になった頃、ようやくたわしが肌から離れた。

「ひーん、二人ともひどいです……」

望はぺたんと女の子座りをしてめそめそと泣いた。
血こそ滲んでいないが、肌は茹で蛸のように濃い桃色に染まっている。
そんな望を無視して二人は会話を続けた。

「どう? 汚れ、取れたかな?」
「うーん、あまり取れないみたい」
「むー……どうする?」
「赤チン塗ってくださいよぉ」

望は懇願したが、二人に横目で冷たく一瞥されただけだった。
それどころか、わざと不安を煽るような会話をし始めた。

「うーん、粗塩でも振っとく?」
「ひいっ!」
――そんなことをされたら傷跡に塩が痛痒く滲みてしまう。
「台所用洗剤でもかけとこうか」
「お風呂用洗剤、あったかな」

様々な洗剤を口にされ、望は気が気ではなかった。

――やばい、このコたち、本気で怒ってる……
218湯莽草2-25:2009/09/08(火) 12:59:15 ID:JvW4ERu+ BE:104424023-2BP(333)
「じゃあ、もっと洗わないといけないわね」
「そうだね……ところで先生」

急に霧から話を振られた。

「は、はいィッ!」
「この間あたしのパソコン使ったとき、ヘンなところにアクセスしたでしょ」
「へ? な、何のことでしょう。私にはさっぱり」

もちろん嘘である。
望は霧のいないわずかな間に好奇心で熟女風俗店のページをあれこれと閲覧した。
特に熟女の熟練した技の数々を動画や画像付きで解説してあるページは熟読し、動画はいちいち全部再生させてみた。
その履歴がパソコンにそっくりそのまま残っていて、不審に思った霧が追及したのだった。

「へー。身近にこーんなピチピチした女子高生がいるのに」
「熟女なんかに興味があるなんて。へー、そうなんだぁ」

二人がなぜ絶望先生の不埒なアクセス履歴を知ったか。
それは、まといが撮影した画像(一部は動画もあった)をいち早くチェックし、コピーしていたからである。
通信ソフトのデスクトップアイコンが通常の位置からわずかにずれていることに気づいた霧が、
履歴を調べて望の不埒なサイトへアクセスしていたことが発覚したのだった。
もちろんそのサイトは成人向けだった。
が、霧とまといが今後の望との夜の参考にするべくじっくり鑑賞し、
ひいては自分たちを望の好みに合わせるために役立てようと考えたのは無理もなかろう。
――なお、まといが撮影した動画・画像は霧のためにコピーし、DVDに焼く予定となっているようだ。

言い抜けることが出来ず黙ってしまった望にわざと見せつけるように、
二人は服をゆっくり脱ぎ始め、やがて一糸纏わぬ全裸になった。

二人は軽く全身を湿すとシャボンをしっかり泡立たせた。
自分の股間とおっぱいに泡を塗りたくった。
何度も肌を合わせたとは言え、女子高生、それも教え子の全裸にシャボンがまとわりついている……
何とも淫微な眺めで望は思わず目を逸らした。
だが、二人にちゃんと見るよう叱られ、若々しくて綺麗だと褒めるよう強要された。
それで気を良くしたのか、二人が次のフェーズに移った。

「とりあえず、腕と脚についてる汚れを落とすね」
「?」
「じゃあ先生、手を前に伸ばして」
「はぁ……」

望は両腕を軽く前に伸ばした。
右腕にまとい、左腕に霧が跨ってきた。
そのままゆっくり前後に腰をくねらせ、望の腕を洗い始めた。

――にゅるにゅる・ぬるぬる。……
――ぬるぬる。にゅるにゅる。……

亀の子たわしとは違った柔らかなチクチクする感触が自分の両腕を滑っている……時折軟らかな媚肉が当たる……
独特の感触に我を忘れていると、二人とも望の肩を抱いてきた。
そして顔に接吻の雨を降らせてきた。

――ちゅっ。ちゅうっ。ちゅっ……
――ちゅっ、ちゅっ、ちゅううっ!……

息もつかせぬ接吻攻撃で動転しているうち、二人は手の甲、手のひらを洗い始めた。
シャボンの泡で滑りが良くなった秘肉や翳りの感触に酔いしれていると、霧が前、まといが後ろから抱きついてきた。

「え、え!? あのぉ」
219湯莽草2-26:2009/09/08(火) 13:02:15 ID:JvW4ERu+ BE:174039252-2BP(333)
戸惑う望をよそに、二人は上半身を前後ろから挟むようにして乳房と股間のシャボンを塗りつけ始めた。

背中では、まといがはっしとしがみついて乳房と股間を同時に背中に押しつけ、
くちゅくちゅと丁寧に磨き上げ始めた。
いつの間にか小さなポッチが二点背中で動いているのが感じられるようになった。

正面では、霧が望の胸や腹を懸命に磨き立てようとしていた。
柔らかな乳房が霧が動くにつれ自由に形を変えているのが文字通り体感できた。
また、泡にまみれた翳りをゴシゴシと、その下の柔肉はゆるゆると擦り付けてきた。

教え子のひたむきで捨て身の攻撃を受け、いつの間にか絶棒がすっかり固くなっていた。

「間違って入れてないでしょうね」

背中から望の股間越しにまといの手が伸ばされ、そんな局部をチェックされた。

「ん……大丈夫だから」

望の乳首と自分の乳首を擦り合わせていた霧は、下から伸びてきた手を邪険に振り払おうとした。

以後、しばらく望の局部を巡って二人の手がバトルを繰り広げ、
もみ合う刺激でかえって絶棒が大変なことになった。

暴発したらどうしようと懸念していると、うつ伏せにさせられた。
霧が左足を持ち上げた。
そして腿の裏側、ふくらはぎを股間で洗い始めた。
次は右足で、こちらはまといが担当した。
一方が足を洗っている間、残りは背中や首筋についた泡をお湯を含ませたタオルで拭き取っていた。
二人は、文字通り身体を使い、望が興味を示した方法で望の汚れを洗い落とそうとしたのであった。

「そうねえ……あのね」

ここで、まといがいかにも今思いついたという風な芝居をしてみせた。

「この汚れ、一種の毒だと思うの。だから」
「だから?」霧が先を促した。
「だから私たちが毒を吸い取って中和すればいいんじゃないかしら」
「……それもそうね」あっさり霧が賛成した。

     ☆

望はたらいのすぐそばに敷かれているシーツの上に仰向けに寝るよう求められた。
断れるはずがないので素直に従った。
濡れタオルで身体の表半分がごしごしと拭われた。
もちろん絶棒辺りのナイーブな部分も丁寧に丁寧に拭かれた。

程なく、さっきまで身体を拭くのに使われていた濡れタオルで顔を覆われた。

「はい。じゃあ、患者さんが暴れるといけないから視界を覆っておきますねー」
「イイコイイコしててねー」
「あ、あのう……濡れタオルだと、いずれ息が出来なくなるのでは」

望の遠慮がちな問い合わせは当然無視された。
じゃんけんの結果、霧が上半身、まといが下半身に陣取ることになった。
やがて、二人は可符香がつけたあまたのキスマークの効力を消すべく、
その上から一つずつ丹念に改めてキスマークを付け始めた。
220湯莽草2-27:2009/09/08(火) 13:05:50 ID:JvW4ERu+ BE:522117656-2BP(333)
やがて、霧が望の乳首に吸い付いた。

――ちゅううううっ!
「あうっ!」
――れろれろれろれろ……

霧はさらに長いこと吸い上げ、舌先で乳輪を何周も辿った。
仕上げに、れろれろと豆粒のような乳首を舌先で器用に弾いた。
絶棒がぴくりと反応した。

「あ、ずるい」

顔色を変えたまといが魂の籠もり始めた絶棒を手に取り、優しくいとおしげに撫で回すと、
ぱくりと口に含んだ。

「そっちこそ! むかっぱ!」

霧も顔色を変えると、濡れタオルを被せたままの望の顔にぺたりと腰を下ろした。
その後身体を徐々に前倒しにし、上半身の支配を固めた上で一気に絶棒まで奪取しようと試みた。

「えいっ!」
――ちゅぽんっ!
「あっ」

霧の猛攻にたじろぎ一度は口から離してしまったまとい。
だが必死の巻き返しをはかり、望の体の上で一進一退の攻防を繰り広げた。

「なによっ」
「えいえいっ」
「ひぃっ! 他人の身体の上で争うのは止めてください!」

     ☆

いつの間にか戦闘が収束したようだ。
気が付くと、硬度が増した絶棒に二人がそれぞれ舌を這わせたり、ねっとり舐め上げたりしていた。

気持ちいいもののさすがに息苦しくなった望は、頭を振って濡れタオルを顔から振り落とそうとした。
だが、頭は霧の両膝や太腿でがっちり固定されていた。
それでも抵抗しようとすると、

「あン……おイタしちゃだめでしょ。えいっ」

と甘く一声上げた霧が脇腹や乳首を抓る。
それなら下半身を逃がそうとしてつい大きく開いていた脚を閉じようとすると、

「あらあら、先生ったら」

と、かえってぐいっと太腿を押し開かれ、押さえつけられ、
太腿に痣が出来るほどキツく吸い付かれ、特濃のキスマークを付けられる。
おまけに罰としてふくらはぎや内腿を抓られる。
意識を失いながら、望はいつの間にか二人の舌技に導かれて放出していた。

     ☆
221湯莽草2-28:2009/09/08(火) 13:09:41 ID:JvW4ERu+ BE:208847243-2BP(333)
不意に裏返しにされ、濡れタオルが顔から落ちた。

「ぶ……ぷはぁあっ、はぁ、はぁ……」

立ち上がろうとしたが腰がふらついてどうにも立てない。
四つん這いになって大きく息を付くのがせいぜいだった。
ふと気が付くと、自分の眼前には湯を張ったたらいが厳然としてあった。
望は自分のこれからの運命を予感した。

果たして、霧が何気ない調子で切り出してきた。

「先生、お顔も洗わないと」
「そうね。この洗顔フォーム、メイク落としも兼ねてるから、きっと汚れもよく落ちますよ」
――ぬりぬり。ぬりぬり。ぬりぬり……
「あっ、なに自分の使ってるのを塗ってるのよ。
 あたしのも塗ってあげるんだから」
――ぬりぬり。ぬりぬり。ぬりぬり……

二人は望の顔に我先にと争って自分の洗顔料を塗りたくり、顎から額に至るまで存分にこね回した。
二人の指先が顔の上を所狭しと動き回り、時には小ぜりあいを起こすのを止める気力はもう無かった。

どれくらい経っただろう。
二種類の洗顔料が顔の上で程良くブレンドされた頃――
二人が望の頭に手を掛けてきた。
そして力一杯押さえつけられ、一気にたらいに突っ込まれた。

「ぐ……ぐがぼっ」
――さ、さっきまでキスの雨を降らせていた癖にぃ……

四つん這いのまま頭をたらいに突っ込まれた望。
先ほどは濡れタオル越しに乙女の柔肌を味わえたが、今度はたらいの底が直に額や顔面に触れている。
そのまま頭を揺すぶられ、幾重にも塗り重ねられた洗顔料の層をたらいの底でゴリゴリ擦り落とされた。

動きが急に止んだ。
一瞬の静寂。

――ついっ。つーーっ…………

どちらかの指が背骨の上から下までゆっくりとなぞった。
次は下から上だ。
なぞり上げられるに従って、背骨の真下に妖しい感覚が生じ、脳に伝えてきた。

「わぶぶ。がぼぼ。べぐぐぅ」

指が二本になった。
双方向に指が進み、途中で出会っては分かれる。
生じた感覚が腰の奥から絶棒にまで至るようになった。
そのうち、指先が舌先に変わった。
舌先でじっくり上から下へ、ねっとり下から上へ。
体内に潜んでいる微かな性感がはっきり呼び覚まされてきた。
逆に、意識がたまに飛ぶようになった。
222湯莽草2-29/E:2009/09/08(火) 13:11:50 ID:JvW4ERu+ BE:174039825-2BP(333)
頭の上にどちらかが座った。
そのままお尻が頭をずるずると滑り降りてきた。
頭に少女の陰部がぐいぐいと押しつけられ、太腿で優しく固定された。
髪の毛でも自分とは別の毛が触れるとそれなりの感触はあるものだな、とぼんやり思った。
その少女が身体を前向きに倒し、上半身にぴったり覆い被さってきた。
柔らかそうなおっぱいが背中でむにゅっと押し潰れるのを感じた。
少しでも頭を反らし顔を上げれば自分の目の前に素敵な草原が広がっているはずである。
だが、もう頭どころか上半身すらぴくりとも動かせない。

「あーん、お尻がすっかり濡れちゃったぁ」
――霧だ。
「後でお風呂に入ればいいでしょ。私もついでに入るから」
「そうね、一緒に入ろうか」
「うふふっ」

そんなどことなく百合めいた会話を交わしている。
というか、当たり障りない会話を続けてわざと望の息が切れるのを待っているような気さえする。
やがて……

――れろれろ。ちゅうううううっ。……ぽんっ!

腰や脇腹あたりを舐められ、吸いつかれ、キスマークを付ける。
これが繰り返された。
その後乳首を指でイタズラされたりもした。
一方で、ふくらはぎや太腿にも舌が這っている。時折吸い付かれる。
こちらはまといか……

――く、苦しい……でも、気持ち良い……

快感に身を委ねそうになった頃、望に二人が語りかけてきた。

「先生。あの二人にしたことはちゃんとあたしたちにもしてね」
「その代わり、二人にされたことは、その倍以上私たちがしてあげます」

「ぐがぼ……ごごぼ……」
――ぜ、絶望した……無意味な嫉妬や意地の張り合いに絶望した……

望の息がますます苦しくなる。意識がすううっと遠のいていく……

いつの間にか尻たぶが開かれた。
秘密の場所に今ぬらぬらと舌を這わせているのは、まといだろうか、それとも……
意識が飛び始めた。

先ほどから乳首に触れていた細い指が、今やあからさまに二本指で摘んで揉んだり、
親指でぐりぐりと真ん中を押しつぶしたりしている。
また摘まれ、くいくい捻られる。
ゆったりと胸全体を揉まれ始める。

股間に後ろから手が差し込まれた。
いつしか固く大きくなっていた絶棒が湯で濡らした教え子の手でやんわりと握られ、やがてゆるゆると扱かれ始めた。

視界が暗くなってきた。

――く……気持ちいい……苦しい……息が出来ない……いい……

   ――【完】――
223 ◆n6w50rPfKw :2009/09/08(火) 13:13:03 ID:JvW4ERu+ BE:69616122-2BP(333)
以上です。長くなりました。
224名無しさん@ピンキー:2009/09/08(火) 14:30:18 ID:Y8MqX42G
これはすごいです
GJ!
225名無しさん@ピンキー:2009/09/08(火) 15:11:21 ID:q2HbU8Gp
霧とまといは先生を攻める時のシンクロ率高いよね
先生羨ましい
226名無しさん@ピンキー:2009/09/08(火) 17:37:06 ID:vMZPm9T7
眠ってる可符香の顔に棒を近づけるあたりで愚息が大変なことに!
227名無しさん@ピンキー:2009/09/08(火) 21:50:14 ID:l/Rsa1IE
貴方のSSは何度読んでも面白い&抜けます。
ごちそうさまでした。
228名無しさん@ピンキー:2009/09/09(水) 15:41:05 ID:CSgLGRbY
ハハ、なんとファンタスティックな・・
GJ
229名無しさん@ピンキー:2009/09/10(木) 00:16:52 ID:xuK4OPx4
「景お兄ちゃんと仲良いの?」
「仲良いですわ」
「命お兄ちゃんとは?」
「仲良いですわ」
「望お兄ちゃんとは?」
「普通」
230名無しさん@ピンキー:2009/09/10(木) 01:16:45 ID:B5tEhDQg
望にイタズラしたりしても、内心では許して欲しいと思ってる
倫のお兄ちゃんべったりぶりが好きです
231hina:2009/09/10(木) 13:27:49 ID:EgMZEOYg
これは凄い……GJです!
長文なのに飽きずに読めました

少し停滞してるようだし規制解けたので投下。
黒いアイツが苦手な人や食事中の場合は避けてください

相変わらずのエロ無しネタ系です。
232hina:2009/09/10(木) 13:30:50 ID:EgMZEOYg
現在、昼食も終わり校内は自由時間。
各々好きに時間を過ごしている中、教室内に奴ら……黒の軍勢は現れた。
「……あの、私達、何でこんな目にあってるのでしょうか、何か悪い事しましたっけ」
「……えーと……」
長くしなやかに動く触角、毛深い足、黒光りする体。
どれをとっても非常に見事なGが、望と可符香の前に君臨していた。
「ゴキ……Gなわけ、無いじゃないですかー、Kですよ、カブトです!」
「……ですよねー、メスカブトですよねー」
少々無理がある可符香の発想だが、
存在を否定するという案には大いに賛成なので少し乗っておく望。
「……でも、交が飼ってたの、オスだった気がしますが、気のせいですよね?」
「……あー、きっとツルみたいに恩返しに来てくれたんですよ!」
「恩返しされるような事はした覚えありませんが……スプレーとか、ホイホイとか」
目の前の現実から目を逸らしつつ、
動揺からどうでもいい話題に入ろうとする二人。
「……復讐だなんて、そんなわけ無いですよー」
「それじゃあ何なのですかこれは!異常発生ですか!?」
完全にGの軍団に包囲されている状況にパニックの望。
さらに、Gの内一匹が羽を半開きにする動きを見せる。
「あの構えは……F(フライング)G(ゴキブリ)A(アタック)!」
「あれが発動するんですか!?、あれ顔面に食らったら、私一ヶ月はひきずりますよ!!」
解説するだけの可符香に、完全にチキン状態な望。
状況は絶望的かと思われたが、そこで自由時間終了のチャイムと言う救済の手が差し伸べられた。
皆が教室に入るなり「ひぃっ」だの、「いやああ!」だの悲鳴を上げて引き返す中、
千里が「……何やってるのよ?、只の虫じゃない。」とスコップを構える。
「木津さん……!助かりまし」

「そぉい!」

望がそこまで言った辺りで、千里がスコップの甲でGを
豪快にブッチブッチと色々ぶちまけながら潰していく。
「………」ふらっ
「先生!愛ちゃんが倒れました!」
「あ……はは、こんなの夢に決まってるじゃ無いですか……あははははは」
「しっかりしてください!貴方が目を逸らしたら誰が状況纏めるんですかぁ!」
辺りは失神する者・現実逃避に入る者・昼食をリバースする者が溢れ、
Gの体液飛び散る教室は正に地獄絵図と呼ぶに相応しかった――
この事件は黒いにのへ≠ニ呼ばれ、関係者の間だけで封印されているとかいないとか……。

「汚い話のわりには 落ちないのナ」

糸冬
233名無しさん@ピンキー:2009/09/10(木) 21:04:04 ID:2Hpztt7G
GJ!!
Gに引きまくりの可符香が可愛すぎました。
234名無しさん@ピンキー:2009/09/11(金) 20:37:58 ID:z01RfIPs
見せておくれルンバ
君だけの踊り
見せておくれルンバ
私のための舞

教えておくれルンバ
何故、アイツと逝ったのか?
教えておくれルンバ
私はどうやって生きていく?

殺してくれよルンバ
君の居ない世界で
殺してくれよルンバ
見果てぬ夢への遠い旅

もう、誰にも愛されない
されど、私は全てを愛する

君は、そこで何をしているのか?
動きもせず、泳ぎもせず
ただ、真っ白に揺蕩うだけで
私を見ているのかい?

違うね
君は居るだけさ

何も見てはいないさ
何も愛していないさ
ただ、そこに居るだけで

とても、悲しいルンバ
けれど、嬉しいルンバ
死ぬまでルンバ
死んでもルンバ

もう死んでいると、気付かぬままに
揺蕩う君と
ずっとルンバ

あぁ、愛してくれよ
神のように、全てを許す
君の為だけの、
ルンバ
23520-32:2009/09/11(金) 21:53:56 ID:yPdgPaK7
※木野加賀エロなしです



----------
「さあ、皆さん!今日は抜き打ちで持物検査をしますよ」

望が言い放った言葉に、愛はびくりと身を震わせる。

(どうしたらいいのでしょう…わ、私の安心毛布が…)

着々と進んでいく抜き打ち検査。漫画雑誌や携帯ゲーム機がいくつか教卓の上へ重なり、愛の順番はあっという間に回ってきた。

「次は加賀さんですね。それでは、バッグの中を見せてください?」
「はい…す、すみません……」

ビクビクとしながら通学鞄の蓋を開ける。

「ん?何ですか?この布は…」
「そ、それはっ」

望は、布を指でつまみ上げてばさりと広げた。リアルな豹の顔がど真ん中に描かれた個性的なTシャツがクラス全員の前に晒される。愛は顔を青くして俯く。

「……それは、私の安心毛布です…」



「…木野って加賀さんと付き合っていたんだ」
「……木野、いつから加賀さんと付き合ってたの?」
「…木野も結構やるねー」
「え!お前らどうして分かったんだよ!」

ホームルーム終了を知らせるチャイムが鳴り、休み時間に突入するや否や、久藤・青山・芳賀の三人が木野の机をぐるりと囲むのだった。


end.
236糸色 望☆正義 ◆4XVfIqh2brY3 :2009/09/12(土) 04:35:12 ID:F8yTce+b
さてと、私も、時間をかけて、一太郎で文書を作って、ネタをまとめてみるかな。
ちっとも受けないネタなので、投稿は自重しますが…。

むしろ蟲師、デスノート、コードギアス、化物語の世界観が組み合ったごちゃ混ぜの世界だが…。
※私の夢の世界観はこのようなごちゃ混ぜの世界観です。しかも、絶望先生が自虐的な
行動をする自虐・ダメ人間系統ネタです。最後の落ちが、本当に1本いっちゃうんじゃな。
ああ、絶望した!

気が弱くて、ネガティブな性格の糸色 望が化物語の怪異に追い詰められて絶望すると、
それだけで自傷行為してしまっているという感じのネタのコーナーです。
237266:2009/09/12(土) 08:25:05 ID:Rg9fV2dg
書いてきました。
例によって望カフ、エロなしです。
238266:2009/09/12(土) 08:26:50 ID:Rg9fV2dg
カリカリカリ。
カリカリカリ。
一定のリズムを保ちながら聞こえてくるその音に耳を傾けながら、可符香はまどろんでいた。
まだまだ残暑の厳しい日はあるものの、一頃の暑さは過ぎ去り、窓から差し込む日差しも今は心地良い。
若干、喉に渇きを覚えていた可符香だったが、それよりも今は全身を包み込むぬくもりに耽溺していたかった。
カリカリカリ。
カリカリカリ。
あの音はまだ続いている。
それは何となく可符香を安心させてくれる響きで、小さい頃に母が聞かせてくれた子守唄を思い出させてくれた。
幸せなまどろみの中で、時間はゆっくりと過ぎていく。
やがて、太陽がだんだんと西に傾いて、部屋の中が少しだけ暗く、少しだけ寒くなる。
それに無意識の内に反応したのか、可符香は体をゆっくりと丸め、少しでも多くのぬくもりを感じようと
自分が今触れているものの中で、最も確かで最もあたたかなものに縋りついた。
ぎゅっとしがみついたそれから伝わってくる温度は、同時に彼女にとって最も馴染み深いものである。
カリカリカリ。
カリカリカリ。
カリカリ………コトン。
音がやんだ。
そして、その事を可符香が疑問に思う間もなく、柔らかな感触が彼女の頭に触れる。
二度三度と頭を撫でてくるその感触に、覚醒と眠りの狭間をゆらゆらと漂っていた可符香は夢の中へと沈み込んでいく。
「普段はあれだけ好き勝手に周りを振り回すくせに、こうしているとすっかり子供ですね……」
苦笑まじりの、だけども優しげな声が耳元に届いたのを最期に、可符香の意識は本格的な眠りに落ちていった。
窓の外の日の光は既にすっかり弱まっていたけれど、可符香がそれを寒いと感じる事はもう無かった。

それからどれくらいの時間が経過しただろうか?
可符香は暗い部屋の中でゆっくりと瞼を開いた。
最初に目に入ったのは、ちゃぶ台に突っ伏した担任教師の安らかな寝顔だった。
「せんせい……寝てる?」
未だはっきりしない頭を抱えて体を起こし、彼女は周囲の状況を把握した。
ちゃぶ台の上には現在この部屋の唯一の光源となっている古い型の電気スタンドがひとつ。
そして、その周囲に散らばった万年筆、赤いサインペン、鉛筆、消しゴムなどの各種文房具。
その傍らにはクリップでまとめられた分厚い原稿用紙の束が五つ。
それらは夏休みの課題として提出された読書感想文の内の、二年生の分の全てだ。
夏休みの宿題は学生達にとってだけではなく、教師にとってもきつい仕事だ。
膨大な量の課題を一気に見なければならないのだ。
特に、決まった正解が存在せず、一つ一つの内容を吟味しなければならない感想文は最も厄介な代物の一つだろう。
望は数日前からこの大仕事に掛かりきりだった。
「そっか……それで先生の様子を見にやって来たんだっけ……」
寝ぼけていた可符香の頭にだんだんとその記憶が蘇ってくる。
今年の夏休み、望は休みの終わりを認めようとしない生徒達の下を駆けずり回って、新学期の開始を伝えた。
だが、その最後の一人、日塔奈美の説得にかなりの時間を要する事となってしまった。
そのために、彼が学校にようやく姿を現したのは、新学期が始まって一週間ほどが経過してからの事だった。
当然、宿題や休み明けテストの採点といった仕事は手付かずのまま彼の手元に残されていた。
やってもやっても終わりの見えない採点地獄に、ときに悲鳴を上げ、泣き言を言いながら、
それでも何とか辿り着いた最後の大仕事こそが、この読書感想文の採点だった。
しかし、その頃には望の方も体力の限界を迎えていた。
夏休みの終盤を、全国各地のスナックに流された女子生徒の下を巡ったり、灼熱のジャングルで生徒達の探索に費やしていたのだから、それも仕方のない話だった。
可符香が望のところにやって来たのは、望の仕事の進捗具合をちょっと確かめようと考えたからだった。
だが、二言三言、会話をして帰るつもりの筈が、何故だか腰を上げる気になれず、そのまま望の様子を見守る事となった。
仕事に集中している望はほとんど無言。
しかし、時折思い出したように可符香に向けて、ちょっとした冗談を言ったり、夏休みの思い出話なんかについて言葉を交わしたりした。
そういう時の望の顔は心底リラックスしているみたいで、それが可符香が望の下を立ち去れなかった一番の理由かもしれなかった。
239266:2009/09/12(土) 08:27:24 ID:Rg9fV2dg
カリカリカリ。
カリカリカリ。
望が走らせるペンの音が部屋に響く中、ただただ静かで安らいだ時間を可符香は過ごした。
だけど、そうしている内に何故だか可符香の意識を、気だるい睡魔が包み込み始めた。
「眠いんじゃないですか、風浦さん?」
「……い、いやだなぁ…先生みたいに疲れ切ってるならともかく、私はぜんぜん……」
「そうは言っても、夏休みの終盤はあなたも南の島だのジャングルだのを駈けずり回って、私と同じくらいに疲れてるんじゃないですか?」
「……そんなことは……」
「その半分閉じかけた目でこっちを見ながら言っても、説得力は皆無ですよ」
「うぅ…そうですね。結構、私も…限界だったみたいです……」
何かにつけて望の先回りをして、悪戯の用意をしたりするのが常となっている可符香もまた疲れを溜め込んでいたようだった。
しかもそんな状態でも平気な顔をし続けようとするものだから、一度限界を越えてしまうと一気に疲れが押し寄せてくる羽目になる。
「ごめんなさい……せんせ……」
「いいですよ、別に。今は疲れてる人間の気持ちが嫌というほど理解できますからね……」
望は苦笑しながら、さらにこう続けた。
「それに、居てくれるだけで良いんです。それだけで随分と落ち着くんですよ……」
「ふぇ…何ですか…?」
「いいえ、こっちの話ですよ」
望が何を言わんとしているのかは気になったが、ともかく可符香は、ちゃぶ台の上に上半身を預けようとした。
しかし、既に意識も朦朧とし始めていた彼女は体のバランスを崩してしまう。
「…ふわっ…うわぁああっ!!?」
倒れこんだ先、彼女の体を受け止めたのは、望の細腕だった。
「だ、大丈夫ですか!?思っていた以上に疲れていたみたいですね……」
しかし、心配そうな望の声も可符香にはほとんど耳に入っていなかった。
なぜなら………。
「風浦さん…おやっ?……」
その時の彼女はすでにすやすやと寝息を立て始めていた。
望の膝の上に状態を預けて、膝枕、というよりはほとんど彼の体に縋りつくような格好で可符香は眠りに落ちようとしていた。
望は、そんな可符香の姿にふっと微笑みを見せて
「おやすみなさい、風浦さん……」
そう呟いてから、彼女を起こさぬように静かに仕事を再開した。
カリカリカリ。
カリカリカリ。
心地良い眠りの中を漂う可符香の耳には、望の走らせるペンの音だけが聞こえていた。
その音に、望の存在を確かに感じながら、彼の膝の上で、可符香は安心しきった表情を浮かべて寝入ったのだった。

そして今、ようやく全ての仕事を片付けて、すやすやと眠る望の横顔を、可符香は見つめていた。
「そっか、私、先生に……」
思い返すと、まるで子供のような有様を見せてしまった事が恥ずかしかったが、それでも自分を気遣ってくれた望の優しさは嬉しかった。
それから、彼女はこの部屋の温度が現在、思った以上に下がっている事に気付いた。
できれば、望を布団に寝かせてやりたかったが、いかに痩身とはいえ男性一人の体を運んでいく自信はない。
そこで可符香は毛布を一枚、望の肩にかけてやる事にした。
しかし、押入れから出した毛布を望のところまで持って来たとき、彼女はある事を思いついた。
「先生のおかげで、ぐっすり眠れましたから、今度はそのお礼です」
可符香は望の体をそっと畳の上に横たえさせ、毛布をかけてやる。
そして、望の枕元に腰を下ろし、彼の頭を可符香の膝の上にのせた。
「…ん……んん……」
望は可符香の体温に反応したのか、まるで赤ん坊のように体を丸める望。
そんな望の頭をそっと撫でて、ちょうど自分が言ってもらったのと同じように、可符香は望に優しく囁いた。
「お疲れ様。おやすみなさい、先生……」
パチリ。
可符香がちゃぶ台の上のスタンドのスイッチを切る。
安らかな暗闇に包まれた部屋の中、可符香はいつまでも望のたてる寝息を聞いていたのだった。
240266:2009/09/12(土) 08:28:12 ID:Rg9fV2dg
以上でおしまいです。
失礼いたしました。
241糸色 望☆正義 ◆4XVfIqh2brY3 :2009/09/12(土) 15:37:31 ID:F8yTce+b
新コーナー・「360文字でやっつけろ!」

このコーナーは、糸色 望になりきって、やっつけ仕事のように、アニメや漫画や映画や
新しい電化製品や新発売の自動車などを360文字以内でまとめる電波系ガセネタコーナーです。

例えばですね。えーと、Windows7がいよいよ正規版が発売されますよね。
その新しいWindows 7のことを360文字以内でやっつけちゃってくださいね。など。
242名無しさん@ピンキー:2009/09/12(土) 17:14:59 ID:jNXH5FT2
>>238-239
GJ!
純愛いいですね
243hina:2009/09/12(土) 22:20:14 ID:1l55j5pK
>>238-239
貴方の書く純愛な望カフ最高です
244名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 15:51:09 ID:KIheq7Er
いいねー
245桃毛:2009/09/14(月) 03:48:48 ID:6yveD15Z
 お久しぶりです、桃毛です。
ああっ、純愛眩しいです。
近頃は倫と望のお話を書いていたのですが、
ちょっと脱線しまして加賀さんの掌編を投稿します。

前回のような物騒な描写はありません。
ごく微量のえろ分はあります。

ではどうぞ、『雨濡れた朝』
246桃毛:2009/09/14(月) 03:49:39 ID:6yveD15Z

 ある雨の日の早朝、黎明の明かりがほんのり地上を照らしはじめる時間。
煙雨にかすむ閑静な住宅街を、一人の少女が歩いていた。
雨だというのに傘はたたんで手にしたまま−。
うなじに束ねた髪が揺れ、濡れそぼってからだに張り付いた純白のワンピースに、水色の下着がうっすら透けている。
あらわになった華奢な肩にどこかはかなげな空気を漂わせながら、少女・加賀愛はぱちゃりと水たまりを踏んでゆく。

 加賀愛は、こんな雨の朝が好きだった。
まるで世界に自分しか存在しないかのような、そんな錯覚を覚えるほどの静寂な時空。
ここでなら自分は誰にも迷惑を掛けることなく、誰も傷つけずにすみ、世界に対し敬虔で謙虚で在ることが出来る‥。
 それは所詮はありえない願望、独りよがりの妄想錯覚に過ぎないと聡明な彼女は理解してはいた。
だがこの肌に張り付くような、微細な雨の降る空のもとでは、
自分が生きる世界で犯してしまった様々な罪が清められてゆくような気がしていた。
張り艶のある瑞々しい肌膚を、雨が玉粒となって無数流れ落ちてゆく。
心地よいその感覚を、加賀愛は久方ぶりに満喫していた。

 いつの間にか−。
彼女は普段自分が本来属する世界において日常的に通うところである場所、学校の校門前まで歩んできていた。
 「わたしときたら、なんて迂闊‥」
部活の朝錬の生徒達すらまだいない静謐な校舎に正対し、愛の足はふいに重くなる。
その眼は自分の学級の教室と、そして宿直の部屋を交互に見つめていた。

ながつきの、しぐれのあめのやまぎりの、いぶせきあがむね、たをみばやまん‥。
万葉の一首が、愛の胸にふと浮かぶ。
 「糸色、せんせい‥」
そっと口にしてみる。
かっ、と身体に火がともる。
宿直の部屋には、彼女の敬愛する担任教師・糸色望が寝泊りしているのだ。
敬愛?
とんでもない。
それは自分の罪深き人生で初めて芽生えた恋情ではないのか?
級友の一人に促されたとはいえ、一対一で告白までしてしまったのだ。
どうして先生は、あの時返答をくれなかったのか。
白皙の秀貌のその頬を赤らめて、うつむくわたしを見つめていたのに。
嗚呼。
先生を責めるような思いを抱いてしまった−。
すみませんすみません。
同時に、その宿直室に同居する同級の女生徒たちに対し暗い嫉妬の炎もまた、揺らめいてしまう。
 「ああ、小森さんすみませんすみません、常月さんすみませんすみません−。
  わたしは醜い生き物です!」
自分に、こんな感情があったなんて。
247桃毛:2009/09/14(月) 03:50:13 ID:6yveD15Z
 雨は、いぜんさやさやと愛のからだを濡らしていた。
彼女は校門の門札にすがるように手を掛け、心中その罪状を列挙していた。
 わたしは不注意にも先生の前を横切ってしまいました−。
わたしは恥知らずにも先生に倒れ掛かり、抱きついてしまいました−。
わたしは破廉恥にもテストの補修で赤点をご勘弁頂く為、敷き延べたしとねで先生を篭絡しようとしてしまいました−。
わたしは忙しいはずの先生を煩わせ、映画に同行し、あまつさえ隣に座ってしまいました−。
わたしは不遜にも遊園地で先生におあしを使わせてしまい、先生の隣で楽しんでしまいました−。
わたしは身の程知らずにもプールで未熟な肢体を水着に包んで先生に晒してしまい、お眼を汚してしまいました−。
わたしは傲慢にも流れ着いた場末のバーで先生を見ない顔よばわりしてしまいました−。
 ああ、ああああ、そしてそして。
わたしはふしだらにも今朝も先生を想い、この指でみずからを慰めてしまいました‥。
もう何度目でしょう。
そんなことでは決して満たされないとわかっている筈なのに。
とどまらぬ劣情を、とまらない指を、いっそ食いちぎってしまいたい。
告白以来、こんなに思っているのに先生はどうして何もしてくれないのか。
ああ、また先生を責めるようなことを思ってしまいました、わたしは卑しい女です。
すみませんすみません‥。
 熄むことなき罪の意識の無限連鎖、螺旋回廊。
顔中を真っ赤に染めた愛は、いつしかうずくまってしまっていた。
束ねた髪が、濡れそぼって重く揺れる。

 自らを清めてくれるように感じていた雨が、次第に重く感じられてくる。
愛は罪の記憶とともに浮かんできた今朝の寝床での孤独な快感に再び捉えられていた。
傘を地べたに放り出し、その手をもう雨しずくが滲みてきてしまっている下着に這わせる。
いや、雨だけではない。
愛は自分の両足のあいだに触れて、糸引く透明な粘液に濡れていることを知った。
路上で、それも学校の前で−。
今朝何度目かの自己嫌悪とともに愛は暗い欲望に身を焼きながら、指をそろそろと動かし始めた。
薄い翳りの奥に指を差し入れかき回しながら、反対の手指で胸の控えめなふくらみの先端をまさぐった。
「ふ‥く‥」
唇を噛んで声を押し殺す。
自分のもっとも敏感な肉のつぼみに、いつ触れようか−。
妄想の中では優しく愛のからだに触れてくる担任教師を想う一方で、愛は考えていた。
やっぱりわたしはふしだらな女です。
こんなわたしが先生を想ってしまってすみません‥。
 
 ふと、うずくまって身もだえする愛に傘が差し掛けられた。
 「どうしましたか?」
 「ひっ!!!」
息を呑むどころか、心臓が凍って砕けてしまいそうになった。
その声は気配は、間違えようも無い−。
 「せ、先生‥」 
 「ああ、やっぱり加賀さんですね。また傘もささずに‥風邪をひいてしまいますよ」
担任教師、糸色望だった。
248桃毛:2009/09/14(月) 03:50:49 ID:6yveD15Z
 望は心配そうに愛の顔を覗き込んでくる。
 「気分でも悪いのですか?それにしてもあなたとは雨の日に何かと縁がありますね」
愛はつい先刻まで行っていた罪深い行為を必死で取りつくろおうと慌てながら傘を拾った。
 「い、いえいえいえ、散歩をしていたら、その‥その‥」
 「立てますか?さ、つかまって下さい」
望は屈託無く手を差し伸ばす。
愛はその手を掴むのを躊躇った。
ほんのさっきまで、この指は自分の恥ずかしい部分に触れていたのだ。
雨に濡れてはいるが、糸引く粘液に汚れているかもしれない−。
愛は遠慮しようとしたが、望はその手を掴むと愛のからだを引き上げ、立たせた。
あああ、先生すみませんすみません、わたしの穢れた部分に触れていた指にふれさせてしまって−。
当然ながら望はそんなことに気づきもしない。
 「顔、赤いですね。風邪ですか?いけませんよ、こんな薄着で」
愛の濡れ透けた下着や華奢な肢体、玉雫の散る白磁の肌はことさら無視するいつもの望の様が、むしろ愛を安心させた。
 「だいじょうぶです、先生。朝の散歩で、たまたまつまづいただけですから‥。
  お手を煩わせてしまってすみませんすみません」

 「それにしたって傘を差さないのは良くはありませんよ。また地面への加害もう‥」
それでも少しは意識しているのか、愛のからだから望は視線をそらす。
望の差す蛇の目の番傘の下に細かい雨が微かに音を立てている。
落ち着いた愛は、望の長い睫毛や浮き出た鎖骨や喉仏に色気を覚える。
望はいつものカッターシャツの書生スタイルではなく、胸元をあけた着流しである。
望のほうこそ、朝の散歩のようだった。

 「なるほど‥普段の罪穢れが洗われるようだと‥。
  確かに、けぶる雨に静かな朝。そんな思いも浮かびましょうか」
自分のいやらしい行いを糊塗するかのようにいけしゃあしゃあ説明してしまったと、愛はまた内心望に謝罪していた。
そんな愛のこころは知らずもがな、望は説明を聞いて蛇の目傘をぱたりとたたむ。
 「あなたらしいですね‥。先生もそれにあやかってみましょう。
  私のような最低最下の者は、それだけでもう罪で一杯ですからね」
 「え?」
愛の手がつい、と引かれ愛が先ほど歩いてきた道のほうに促される。
 「あなたの家まで送りましょう。はじめはわたしの部屋で服を乾かして頂こうかとも思いましたが‥、
  交や、その、小森さん‥もまだ寝ていますからね」
愛の胸は小森さん、の言葉にちくりと痛んだが、同行してくれるという言葉に嬉しくなる。
 「では参りましょう、加賀さん。せっかくですから、雨の日は雨を愛す‥そんな風情を楽しみましょうか」
 「吉川英治、ですね‥。楽しみあるところに楽しみ、楽しみなきところに楽しむ‥。
  すみませんすみません、わたしのようなものが偉そうに」
望はにっこり笑うと、愛の手を握ったまま歩き出す。
 「良くご存知ですね。先生なにやら楽しくなってきました」
249桃毛:2009/09/14(月) 03:51:24 ID:6yveD15Z
 愛しき先生とともに同じ雨に濡れながら、愛は幸せだった。
先生の手はいつもは別の生徒の髪を撫でているかもしれない。
だが、今このときはわたしの手を握っていてくれる。
この女の子に自然に妙な気を持たせることばかりの先生。
きっと自分は特別でもなんでもないただの生徒にしか過ぎないのだろう。
でも‥。
望の頬が微かに赤い。
掴んだままになっている愛の手に、望の温度が伝わってきた。
愛は少し首をもたげ、望の首筋や耳の裏、そしてつややかな髪を見上げていた。
自分が何処をどう歩いているのかもわからない。
すみませんすみません、わたしは今、傲慢にもまるで先生が恋人であるかのように勘違いしてしまっています。
身の程知らずのうぬぼれです。
でもまた明日の朝も、先生を想ってみずからを慰めてしまうかもしれません。
わたしは破廉恥な勘違い女です‥。
しかしその内心の謝罪は先刻までとは違い、どこかうきうきとしていた。
 
やがて愛の家の前にやってくると、望はきびすを返す。
 「すみませんすみません、わたしのようなものに付き合って頂いて‥」
愛がいつものように頭を下げていると、視界が明るくなっていることに気づく。 
 「加賀さん、虹ですよ」
 望の声で暁の空を見上げる。
いつの間にか雨が上がり、薄い雲が朝日に溶け始めた空。
そこには大きな美しい虹のアーチが掛かっていた。
 「これは見事な‥。加賀さんと私だけがこれを見ていると思うと贅沢ですね。
  ではまた後ほど教室でお会いしましょう」
曙光を前にこちらを振り返る望の顔は、どんな貌だったのか−。
 
 愛はぼう、と血が上った頭の片隅で考えていた。
わたしの顔は変にゆるんでいないだろうか。
クラスの皆さんに不快な思いや不審な思いを抱かせてしまいはしないか。
きょうはいつにも増して目立たないようにしていよう、愛はそう思った。

 
250桃毛:2009/09/14(月) 03:54:16 ID:6yveD15Z
以上でおしまいです。
望×加賀さんはまた書きたいです。

その前に倫の方をうまいこと仕上げねば。
がんばります。
251名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 16:06:50 ID:swpaqSdi
gj
倫の方も楽しみにしてます
252名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 00:20:40 ID:vPvYkmLJ
むらむらチアコス
253名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 03:22:48 ID:CmGutfOi
加賀さんが先生で自分を慰めてる姿を想像しやすいのはなんでだろう
他の女子がそういうことをするのはイメージが沸きにくいんだけど
254名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 08:53:48 ID:WJIbyCDz
加賀ちゃんかわええ
255名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 20:44:19 ID:Hxk9NLOn
前に陵辱ものを考えていたんだが、智恵先生主人公で
カウンセラーの立場を使って弱みを握り、女子を次々と食べていく感じでどうだろうか
256名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 20:48:52 ID:A7IWYQ58
是非読んでみたいんだけど、百合板の方がいいのかも?
でもあっちって何だか純愛オンリーなイメージあるから、ちょっと判断に困るな
257266:2009/09/15(火) 22:21:57 ID:d2BTABkW
書いてきました。
命×倫で、エロなし。
懺11話での倫ちゃんの可愛さにやられて書き始めたのに、
気が付いたら困った命兄さんの話になっていました。
258266:2009/09/15(火) 22:22:42 ID:d2BTABkW
糸色命は昔から、ほんのささやかな、ある願いを持っていた。

末っ子で、しかも男ばかりだった兄弟に初めて生まれた女の子であったためだろうか、倫はやたらと甘え上手だった。
例えばある時、倫の持って歩いていた風船が風に飛ばされ、木の枝に引っかかった事があった。
「あっ…りんのふうせんが…っ!!」
倫は声を上げて木に駆け寄ったが、風船の引っかかっている位置にはとても手が届かない。
よほど身軽な人間でなければ、登って取って来るのも難しい、それほどの高さだった。
「倫、残念ですけど、あの風船は諦めましょう」
倫の傍らに立っていた望がそう言った。
だが、倫は高い木の上で、風に吹かれて今にも飛んでいきそうな風船をじっと見つめて、その場を動こうとしない。
「仕方ありませんよ、倫。あんな高さじゃあどうやったって手は届きません」
そんな倫を諦めさせようと望はさらに言葉を重ねた。
しかし、その時、ずっと風船を見つめていた倫が、突然望の方を向いた。
「望…おにーさま……」
「ちょ…倫っ!…そ、そ、そんな目をされたって僕は……っ!!」
潤んだ瞳が、じっと望を見上げてくる。
倫がそれ以上言葉を発しないのは、自分の願いが無茶なものであると自覚しているからだ。
だけど、諦め切れなくて、何とかしてほしくて、縋るような目つきで倫は望を見つめる。
いつもは喧嘩ばかりしている妹だというのに、望はそんな倫の瞳の色に心揺れてしまっていた。
今にも泣き出しそうなこの顔を、笑顔に変えてやりたい。
そんな気持ちが望の胸の中をいっぱいにする。
「ええいっ!!仕方ありませんっ!!!」
「あっ、おい、望っ!!!」
傍らで見ていた命が止める間もなかった。
望は声を上げて巨大な木に挑みかかって行った。
上に登るにつれてだんだんと細くなっていく幹や枝に必死にしがみついて、望はついに風船の紐をつかむ。
そして、ゆっくりと慎重に地面まで降りてきた望は風船を倫に差し出す。
「……はぁはぁ…取ってきましたよ、倫……」
「望おにいさま……」
倫は望から風船の紐を受け取ると、
「ありがとう、望おにいさま……っ!!」
花のような笑顔を浮かべて、そう言ったのだった。

大体、万事がこんな調子だった。
倫は滅多な事では自分の願いを口にしたりはしない。
ただ、その黒い瞳を潤ませて、じっと見つめてくるのだ。
これには誰もがイチコロだった。
兄弟達だけでなく、父や時田、躾には厳しい母の妙までもが、あの瞳に心を射抜かれてしまった。
特に、倫の願いを聞くことが多かったのは、倫にとって一番身近な家族である望だった。
その一方で、何故だか命は倫から願い事をされた経験がほとんどない。
当時、医師を目指して勉強に明け暮れていた命だったが、倫と一緒に過ごす時間は決して少なくなかった。
望や他の家族も不在で、倫と二人きりになる事だってあった。
それなのにである。
命の記憶には倫の願いやわがままを聞いてあげた記憶がほとんど存在しないのだ。
僅かに一度か二度、命に願い事をしてきた時の倫は、他の家族に見せるのとは違う、なんだか申し訳なさそうな心苦しそうな表情を浮かべていた。
それっきり、倫は命に何か願い事をした事はない。
時田や望には、今も滅茶苦茶なわがままを言ったりしている様子なのに………。
259266:2009/09/15(火) 22:24:40 ID:d2BTABkW
「なんでだろうなぁ……」
命はふかぶかとため息をついた。
「なんでなのかは私は知らないですけど、別に構わないじゃないですか」
そんな命の様子を冷めた目つきで眺めながら、望がぶっきらぼうに言った。
「命兄さんは倫のわがままに付き合わされる苦労を知らないから、そんな気楽な事を言えるんですよ」
「とはいえ、俺だけだぞ。父さんも母さんも縁兄さんも景兄さんも時田も、みぃんな何がしか倫に甘えられた経験があるのに……」
「一度か二度、頼みごとをされたって言ってたじゃないですか」
「だから、その時の様子が問題なんだろう。あんな申し訳なさそうな表情で他人行儀にしなくっても……」
「私には全く理解しがたい悩みですね……ていうかですね、命兄さん」
「ん……何だ、望?」
望はコホンと一つ咳払いをしてから
「わざわざ宿直室を訪ねてきてする話がそれですかっ!!!」
若干呆れた顔で、命にそう言った。
「むぅ……それは確かに済まないと思うが……」
ほんの少し弟の顔を見ようと立ち寄っただけだったのだが、気がつけば延々自分の悩みを話していた。
確かに、望の方からすればたまったものではないだろう。
「あれが『しすこん』ってヤツなのか……」
「こら、交くん、そんな事言っちゃ駄目だよ」
外野の声が耳に痛い。
むろん、客観的に見て今の自分がどれだけ滑稽なのか、命も理解していない訳ではない。
それでも気になってしまうのは、今の命と倫の関係がただの兄と妹に止まるものではないからなのだろう。
命は一人の女性として倫を愛し、そして愛されている。
妹に向ける想いと、愛しい女性に向ける想い、その二つが重なり合って命が倫を想う気持ちはより一層強く大きくなった。
だからこそ、命の頭からは、倫がどうしてそんな態度を取るのか、その事が離れなくなってしまった。
「……情けない話だけど、倫に遠慮されてると思うと、正直辛いんだ……」
呟いてから、命はちゃぶ台の上の、霧が出してくれたお茶を手に取る。
夢中で喋る内にすっかり冷めてしまったそれを一気に喉に流し込んで、命は息を吐いた。
そんな兄の様子を困り顔で見つめながら、望が言う。
「そうは言いますけどね、命兄さん。倫が理由もなく、そんな態度を取ってると思うんですか?」
「何か心当たりがあるのか、望?」
「いいえ、全然全く見当もつきません。でも、倫が命兄さんをどう思っているのか、私なんかより兄さんの方がよく知ってるでしょう?」
確かに。
倫が命を想う気持ちは疑いようもない。
それで十分ではないか。
倫には倫の事情がある、考えがある。
今は余計な事に頭を悩まさず、ただそれを信じていれば良いのかもしれない。
「そうだな……すまなかったよ、望」
「全くですよ」
それから、命は宿直室を辞去し、幾分落ち着いた気持ちで家路についたのだった。

そして、数日後の糸色医院。
「ううん……この訳ではどう考えても不自然ですわ……」
診察室の片隅の机に、英語の宿題に取り組む倫の姿があった。
診察時間の終了した糸色医院を訪ねて、命と他愛もないおしゃべりをするのが倫のここ最近の日課だった。
ただ、診察が終わっても命にはカルテの整理など、細々とした仕事が残っているため、
倫も命がそれを片付けるまでの時間、宿題や予習などをして過ごすのがお決まりのパターンだった。
学校の成績も優秀な倫は、大抵早々と勉強を終えてしまうのだが、今日は少し様子が違うようだった。
「ふう、これで今日の分はお終いだ」
「命お兄様、すみません。こっちはもう少しかかりそうですわ」
「いや、全然構わないよ。だけど、珍しいな。倫がそこまで手こずるなんて…」
倫はさきほどから、辞書を何度もめくり、教科書とにらめっこを続けている。
明日の英語の授業範囲をあらかじめ訳しておく事。
予習を兼ねたその宿題は、いつになく倫の頭を悩ませるものらしかった。
何度もノートに訳文を書きかけては、途中で手を止めて、結局消しゴムで全て消してしまう。
そんな事を果たして何度続けただろうか?
ついに倫の左手は辞書に手を掛けたまま固まり、右手に持ったシャープペンシルもピクリとも動かなくなってしまった。
それまで倫の様子を見守っていた命だったが、見かねて助け舟を出す。
260266:2009/09/15(火) 22:25:35 ID:d2BTABkW
「倫、私にもその英文、少し見せてくれないか?」
「えっ?でも……」
倫はこういう所ではとことん真面目な娘だ。
出された宿題にはあくまで自分の力で挑むべきだと考えているようだ。
「知らない事を学ぶのが勉強なんだ。自分一人では行き詰る事だってあるさ。
そういう時に他人をあてにするのは悪いことじゃないよ。最終的に倫がその知識を自分のものに出来ればいいんだから」
「………そう、ですわね…」
命は倫から教科書を受け取り、早速、問題の英文に目を通す。
一読して、倫が悩んでいた理由が、命にはなんとなく理解できた。
「なるほど、わかったよ。これはむしろ、この英文が悪いな」
「どういう事ですの?」
「文章としての筋が通っていない。文章の前後で微妙に文脈がズレたり、見当ハズレな事を書いたりしてる。
それを一本の筋の通った文章として訳そうとしてたから、倫もあんなに悩まなきゃいけなかったんだよ」
それから、命のアドバイスを受け、倫は訳文を完成させた。
だけど、ようやく宿題を終えたというのに、倫の表情にはなんだか辛そうな、苦しそうな色が浮かんでいた。
命は倫のその表情に見覚えがあった。
それは、ずっと昔、倫が珍しく命に頼みごとをした時のそれと良く似ていた。
「情けないところを、お見せしてしまいましたわね……」
理由はわからない。
しかし、倫は以前と同じく、命の手を借りた事で落ち込んでいるようだった。
「いつもこんな事ばかりですわ。肝心なところで失敗して、みっともない姿を見せてしまう。………命お兄様は、ずっと見ていてくださったのに…」
「……私が?」
「あら、お忘れですの?ずっと昔、私が華道を始めた頃から、ずっとそうだったじゃありませんの?」
倫の言葉で、命は思い出す。
まだ幼い倫が、つたない指先で、それでも一生懸命に花を活ける姿を、その傍らで見守っていた記憶。
「だけど、私は忙しくて、いつでも倫の傍にいられたわけじゃあなかった……」
「そうですわね。でも、命お兄様は時間の許す限り、私の事を見守っていてくださった……だから」
幼い頃の倫にとって、自分を見守り励ましてくれるような命の眼差しは何よりも頼もしいものだった。
たとえその場にいなくとも自分の事を思ってくれている、そんな命の存在が与えてくれるエネルギーが小さな倫の心を支えてくれた。
だからなのだろう。
倫はいつしか、自分を見守ってくれる命の想いに応えられる存在になりたいと、そう願うようになっていた。
「でも、実際は気持ちばかりが先走って、上手くいかない事ばかりでしたわ。今だって、たかだか学校の宿題なんかに手こずって……」
「倫……」
命は悟った。
倫がどうして命に願い事やわがままの類をほとんど言わなかったのか。
倫は命に、全力で、精一杯に頑張る自分を見て欲しかったのだ。
花を活けるとき、勉強をするとき、その他の生活の諸々に至るまで、いつだって倫の眼差しは命に向けられ、命の存在を感じていたのだ。
「倫………。倫、そんな事はない」
「命お兄様……」
命の手の平が倫の頬をそっと撫でる。
そして、瞼を閉じた倫の額に、命は優しくくちづけをする。
「倫がどれだけ頑張っているか、私はよく知ってるよ」
命のその言葉に倫が浮かべた微笑は、命には他のどんなものよりも輝いて見えた。
261266:2009/09/15(火) 22:26:15 ID:d2BTABkW
「………それで、倫の態度の謎も解けて、倫が何を考えていたのかもわかった訳ですよね」
「ああ」
「別に命兄さんを距離を置いたり、変に遠慮していたわけじゃないとわかった訳だし、もう問題はない筈ですよね」
「まあ、そうだな」
「………じゃあ、これ以上、何の不満があるんですかっ!!」
数日後、命は再び宿直室を訪れていた。
単なる事後報告と思い兄の話を聴いていた望だったが、しかし命にはまだ何か思うところがあるらしい。
「いや、不満はないんだが、ただ……」
「ただ、何ですか?」
すっかり辟易した様子で聞き返した望に、命は少し照れくさそうに笑いながらこう言った。
「それはそうと、やっぱり倫に甘えられたいなぁ……と」
倫の自分に対する気持ちは有難かったが、それはそれ。
やはり、もっと倫に可愛らしく甘えられてみたいというのが命の正直な気持ちらしかった。
呆れ顔の望からはもうぐうの音も出ない。
「『しすこん』って、すげえ」
「こら、交くん!!」
見守る外野の声は相変わらず。
そして、そんな宿直室の入り口の扉一枚向こうでは、
「……もう、命お兄様ったら……」
困り顔でため息をつく妹が一人。
さて、次に会ったとき、命の希望する通り甘えてみるべきか否か?
悩む倫をよそに、秋の空はどこまでも青く高く晴れ渡っていたであった。
262266:2009/09/15(火) 22:26:52 ID:d2BTABkW
以上でお終いです。
失礼いたしました。
263名無しさん@ピンキー:2009/09/16(水) 15:47:13 ID:a12xYz64
マスター、すず部長が改蔵を調教するSSが読みたいのだが。
264名無しさん@ピンキー:2009/09/16(水) 17:56:05 ID:l9ycvQ72
命×倫というのは新鮮だったGJ!
265名無しさん@ピンキー:2009/09/16(水) 21:57:34 ID:q5/QLcag
千里の揚げ足を全力でキャッチする景兄さんに何かを感じた
266名無しさん@ピンキー:2009/09/17(木) 16:46:00 ID:XsMR84+L
>>263
調教じゃないけど保管庫に部長が改蔵の筆おろしをする奴ならあったぞ
267名無しさん@ピンキー:2009/09/17(木) 18:14:19 ID:8k4+LtHn
マスター、ハイボールを。
それと、謝緒里ママと糸色先生の爛れた恋愛関係を描いたSSを……
268名無しさん@ピンキー:2009/09/17(木) 18:23:35 ID:08DFZLTw
記憶が朦朧としてる先生を小森さんが攻める話とか無いかな
いや、小森さんだけじゃなくて今週出てきた嫁をかわるがわるってのでもいいんだけど
269名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 00:33:04 ID:4peQK/fw
大将!朝起きたら倫と同じ布団で寝てて昨夜の記憶が無くて絶望する望の話をくれ!
270名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 11:55:02 ID:qMa+DiNs
言いたくなかったけどさ、エロパロなのにエロ無しのSSを書き続けて悦に浸ってる奴はなんなの?
死ねよ
271名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 12:24:36 ID:0CFyl6Q5
スルーライフスルーライフ
272名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 13:06:42 ID:DJmq+/a4
言いたくないけどここエロパロ板なのよね
273名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 13:18:13 ID:XkZ5vsxg
文章創作板だろ
274名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 22:19:05 ID:MnEzgCBB
下半身でしかモノを考えられない人っているもんだよ
275266:2009/09/20(日) 01:31:41 ID:nQP28rj8
書いてきました。
望カフ、エロはないです。すみません。
276266:2009/09/20(日) 01:33:56 ID:nQP28rj8
私は待っていた。
ずっとずっとその場所で、一人っきりで待っていた……。

その日、私は学校近くの桜並木の脇、桃色ガブリエルが堂々と枝を広げるその根元にやって来ていた。
桃色ガブリエルの周囲は少し開けた場所になっていて、青く晴れ渡った空が良く見えた。
きっと空の上からも、こちらの様子が同じように良く見えるだろう。
「よいしょ、っと……」
私は足元に持って来た荷物を下ろした。
色々な色や大きさの各種ボール類に、色画用紙や色紙、十数本もの竹ざおに各種工具がひとそろい。
その他にも数え切れないほどの、さまざまな雑貨類が袋から溢れ出す。
これらは全て、ポロロッカ星人に着地点を知らせるためのオブジェの材料だ。
数日ほど前も私は同じようにオブジェを作って、ポロロッカ星人とのコンタクトを試みたのだけれども、成果は芳しくなかった。
今回はそのリベンジなのだ。
前回のものより目立つ、もっとポロロッカ星人にアピールできるようなオブジェを作るつもりだ。
既にイメージは固まっている。
前回のオブジェを基本に、色々と新しい飾りつけを試してみるつもりだ。
「よし、がんばろう!!」
というわけで、早速私はオブジェの製作にとりかかった。

オブジェの台座部分になる竹ざおを組み合わせて、ロープで縛り付けて固定していると、ちょうど奈美ちゃんが通りかかった。
「奈美ちゃん、どこいくの?」
「あ、可符香ちゃん。うん、ちょっと学校に……って、何か凄いの作ってるね」
「あはは…ポロロッカ星人にはこのぐらいしないとアピールできないと思って」
ちょっと驚いている様子の奈美ちゃんに、私は重ねて質問する。
「学校って、もしかして……?」
「うん、先生のお見舞い」

実は、今週の私のクラスはちょっと慌しかった。
先生が何者かに拉致された挙句、後頭部を何度も強打されて記憶喪失になってしまったのだ。
しかも、そこにもう一波乱。
記憶を失った先生に、自分を先生のお嫁さんであると思い込ませようとして、クラスの女子のみんなで争奪戦が起こってしまった。
先生は記憶をリセットする為に何度も後頭部を叩かれて、ついに限界を迎えてしまった。
早速、絶命先生がやって来て診察したところ
「まあ、三日も寝かせていれば治るだろ」
先生はとても頑丈なようだった。
それから三日間、先生は糸色医院の奥のベッドで寝かされていた。
学校に置いておくと、また同じ事が起きるんじゃないかと心配した絶命先生の考えだった。
その間、私は毎日、先生の寝ている部屋にお見舞いに行った。
すやすやと眠る先生は何も話してくれないし、何をやっても反応してくれない。
退屈だったので、私は図書室から借りてきた久藤君オススメの本をぱらぱらと捲りながら閉院の時間までをそこで過ごした。
それでも、思っていた以上に可愛かった先生の寝顔を、存分に見られた事はなかなかの収穫だったと思う。
クラスのみんながお見舞いにやって来る事もなかったので、私はいつまでも先生とふたりぼっちだった。
たぶん、争奪戦を繰り広げた女子達みんなが罪悪感を感じてたんだと思う。
みんな、本当に先生が好きだから。
大好きだから。
その雰囲気がなんとなくクラス全体に伝わって、みんな先生のところに行き辛くなってしまったのだと思う。
でも、いくら眠ってるとはいえ、さすがに一人ぼっちは可哀想なので、ときどき出てくるあくびを噛み殺しながら、私は先生の傍に居続けた。
277266:2009/09/20(日) 01:34:47 ID:nQP28rj8
そして、三日目。
いつものように先生のベッドの脇で本を読んでいると、待合室の方から声が聞こえてきた。
「あの……先生のお見舞いをさせてもらいたいんですが……」
「ああ、構わないよ。そろそろ望も目を覚ます頃だろうしね」
いつになく緊張した様子の千里ちゃんの声と、それに応える絶命先生の声。
みんな、ようやく先生の顔を見る決心がついたみたいだった。
「う……ううん……」
と、その時、すぐそばから聞こえてきた声に、私はベッドの方へ視線を向けた。
ベッドの上で、もぞもぞと動く先生。
絶命先生の言葉の通り、先生もそろそろ目を覚ますようだった。
「………先生、治って良かったですね。みんなも来てくれるみたいですよ……」
すっと私はベッド脇の椅子から立ち上がり、カバンの中に本をしまった。
「それじゃあ先生、お大事に……」
そうして、先生が目を覚まさない内に、私は部屋を出て行った。

「それじゃあ、先生の調子、だいぶ良くなったんだね」
「うん。記憶もぜんぶ元に戻ったみたい。……せっかくだから、先生に食べてもらおうと思ってクッキー焼いてきたんだけど、喜んでもらえるかな?」
「大丈夫だよ、奈美ちゃんの作るお菓子、普通においしいから」
「普通って言うなぁ!!」
奈美ちゃんは、どうせ沢山人が集まってるだろうからと、クッキーも多めに作って袋に小分けにして持って来ていた。
おすそ分けにと、私もその中の一袋をもらった。
「ありがとう、奈美ちゃん」
「えへへ……あ、そうだ、可符香ちゃんもこれから一緒にお見舞いに行かない?」
何気なく奈美ちゃんが口にした言葉に、私の心臓がきゅっと締め付けられた。
「でも、私、このオブジェを作らなきゃいけないから……」
「学校まではすぐだし大丈夫だよ。きっと先生も喜んでくれると思うし」
「……そうかな?」
「そうだよ」
にっこり笑顔の奈美ちゃんが、私の手を優しく握った。
だけど、私は首を横に振る。
「やっぱりやめとくよ。あんまり大勢で行っても迷惑だし、先生にはまた明日会えるから……」
「可符香ちゃん……」
残念そうな顔で、手を引っ込めた奈美ちゃんに、私は笑顔で言う。
「先生によろしくね、奈美ちゃん」

ああ、一番勇気がないのは、意気地なしなのはきっと私なんだな……。
桜並木の道を駆けて行く奈美ちゃんの背中を見送りながら、私はそれを痛いほどに感じていたのだった。

それからも私は、せっせとオブジェ作りに精を出した。
なにしろポロロッカ星人の宇宙船が飛ぶはるか上空からでも見えるものを作らなければならないのだ。
大きさもそれなりのものが必要になるし、そうなると必然的に力仕事も増える。
桃色ガブリエルの木陰は吹き抜ける風のお陰で涼しかったけれど、それでも額から滲む汗をときどきタオルで拭わなければならなかった。
奈美ちゃんが去ってから、この桜並木の道を通る人は全くいなかった。
ざわざわと風に揺れる木の葉の音と、時折上空を横切る小鳥達のさえずりだけをBGMに私は作業を続けた。
「これで配置は完璧かな……」
そして、オブジェがようやく完成した頃には、時刻は午後の四時近く、太陽も徐々に西へと傾き出していた。
完成したオブジェの傍らに座って、私はその全景をじっくりと眺めた。
ポロロッカ星人にアピールする要素をてんこもりにしてみたつもりなのだけれど、なにしろ本来は上空から見るものなのだから、
横から眺めているしかない私には、その出来・不出来の判断はできない。
それでも、一仕事終えた達成感からなのか、私は不思議に満足した気分でそれを見ていた。
278266:2009/09/20(日) 01:35:52 ID:nQP28rj8
それからの時間をずっと、私はオブジェの横ですごした。
風が少しだけ、冷たくなった。
太陽がもう少しだけ西に傾いて、空がだんだん赤くなって、その分だけ地面に落ちた影は黒く長くなった。
もうほとんど仲間もいないだろうに、それでも諦めずに鳴き続けるセミの声が少し寂しかった。
待てど暮らせど、ポロロッカ星人の宇宙船は姿を現さない。
ひょっとすると、ポロロッカ星の技術で夕焼け空に完全に溶け込んで、地上を見下ろしているのかもしれないけれど、
もしそうなら、地面に座り込んで、薄着で来た事を少し後悔しながら、彼らの出現を待ち望んでいる私に対してちょっと失礼なんじゃないかと思った。
「来ないな……」
何度呟いたか知れないその言葉を、私はまた口にした。
今回は焚き火を燃やして、ライトアップもして、夜遅くまで粘るつもりだ。
だけど、予想外の肌寒さのせいで、少し計画を改めなければいけないかもしれない。
見上げる秋の夕空はどこまでも澄み渡っていて、紫とオレンジでグラデーションされた空には宇宙船の影一つ見えない。
「来ると…いいな……」
私はもう一度、小さく呟いた。
その時、私の肩にそっと温かな布がかけられた。
私にはちょっと大きすぎる、男性ものの外套。
じんわりと伝わってくるぬくもりは、さきほどまでそれを着ていた人のものだろう。
「待たせましたね……宿直室が人でいっぱいでなかなか抜けられなかったんです」
振り返った先、その人はいた。
夕陽を背に受けて、少し困ったような顔で、先生は私に微笑みかけていた。

「あなたのやり方はいつだって迂遠で、わかりにくくて、まだるっこしくて………まあ、流石にずいぶん慣れちゃいましたけど…」
先生は私のとなりに腰を下ろした。
「体は良いんですか、先生?」
「ええ、ピンピンしてます。むしろ殴られる前より調子が良いくらいです。………正直、暴力を受けるのに慣れてしまった自分が怖いです……」
先生は苦笑いして、
「待っていてくれたんですね」
と言った。
「…………」
私はどう答えていいかわからず先生から視線を逸らした。
「学校への道で何か変なものを作ってる女の子がいる………そういう話が方々から耳に入ってきましたからね。
そして最期はダメ押しで、日塔さんからの目撃情報……気にならないって方がおかしいですよ……」
そうだ。
私は待っていた。
大きなオブジェを組み上げて、その傍らに座ってずっとずっと待っていた。
だけど、自分が本当に待ち望んでいるものには、目を閉じて見ないようにしていた。
「さりげなく要素を配置して、特定の結果へと誘導する。あなたがいつもやってる方法ですね」
「あはは……できれば気付かずに来てほしかったんですけど、バレちゃったんなら仕方ないですね」
「当たり前です。一体、どれくらいあなたの悪戯につき合わされたと思ってるんですか」
私は臆病者だから……。
他のみんなのように、面と向かって先生に気持ちを伝えられないから……。
遠回りで、ややこしくて、わかりにくくて……そんな方法しか取れない自分を情けないと思いながら、結局待つ事しかできずにいた。
279266:2009/09/20(日) 01:36:47 ID:nQP28rj8
「というわけで、随分遅くなっちゃいましたけど、風浦さん、私は間に合う事ができましたか?」
だけど、先生はいつもと変わらない笑顔で、こうして傍にいてくれる。
「はい……」
「それは良かったです」
先生の腕が、私の体をそっと抱き寄せた。
「……おわっ!?…風浦さん、体、思ってた以上に冷えてますよ?大丈夫なんですか?」
「オブジェ作りで汗をかいたまま、ずっとここにいましたからね……そういう先生も、やっぱり痩せてるだけあって、あんまり温かくないですね」
「うぅ……でも、私は別に好きで痩せっぽちなわけじゃ……」
「だから、ほら、体温が低い人間同士、もっと温かくなるために……」
私は、抱きしめてくれた先生の腕に応えるように、そっと自分の腕を先生の背中に伸ばし
「ほら、もっとくっついていましょう……」
寒さに負けないよう、ぎゅっと先生に抱きついた。
「先生……」
「風浦さん……」
それから、どちらともなく、先生と私は互いの唇を近づけていった。
そんな時だった。
「あっ………」
既に紫紺に変わり始めていた夕闇の空を、ジグザグの光の軌跡が切り裂いた。
高い空の上から、きっと私たちの事を見下ろしている、ポロロッカ星人の宇宙船………。
「ほ、本物は初めて見ました……いいんですかボーっとしてて、風浦さんっ!?」
驚きの声を上げる先生。
だけど、私のやる事は変わらない。
愛しい人のぬくもりに包まれて、その唇の柔らかさを味わった。
「待たせておけばいいんです」
そして、そう言った私に、今度は先生の方から唇が重ねられる。
それから、遥か星の彼方からの訪問者達が見下ろす中、私達はずっと抱きしめ会って空を見上げていたのだった。
280266:2009/09/20(日) 01:37:26 ID:nQP28rj8
以上でお終いです。
失礼いたしました。
281名無しさん@ピンキー:2009/09/20(日) 20:27:31 ID:zVvC02n0
力作乙でした。
最後微エロに仕上げてあるのが良心的w
282名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 01:03:49 ID:tdDsU0Ld
保守
283名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 09:39:59 ID:SXNG7Odi
まといー…
284糸色 望☆正義 ◆4XVfIqh2brY3 :2009/09/26(土) 20:22:49 ID:Q0Gd10Qb
近親性行の話

例えば、糸色 望が糸色 倫と一緒に性行為をするとしましょう。
それは間違いなく、近親交配の扱いとなります。

近親交配は、子どもが虚弱であったりといいこと無しです。
285糸色 望☆正義 ◆4XVfIqh2brY3 :2009/09/26(土) 20:28:58 ID:Q0Gd10Qb
ハムスターで繁殖させたのはよいが、最初は、あまりにも若すぎたため、
生まれた子どもが虚弱でした。6匹生まれたが、3匹は育つ途中で死んでしまって…。
もう3匹は成熟したが、1匹だけ一番弱いハムスターで…。残り2匹も虚弱だったことが
相まって3ヶ月で死亡。

ハムスターはもちろん、犬や猫でも、最初のうちの繁殖では、子どもが虚弱で上手くいかない場合もある。
286糸色 望☆正義 ◆4XVfIqh2brY3 :2009/09/26(土) 20:38:57 ID:Q0Gd10Qb
犬や猫は6匹以上の子どもが生まれますよね。
6匹の中でも、強いものと弱いものの格差はどうしても出てきます。

従って、ケンカになると、弱いものはあっけなく傷だらけにされてしまいます。
自然界の犬や猫だってそうです。弱肉強食ですので、弱いものはろくにエサも取れず、
早死にします。ところが、人間の手で保護するので、弱いものも十分に生きていける
世の中になりました。それって、過保護でしょうか?

実は、愛犬・愛猫ブームで、犬猫で近親交配など、滅茶苦茶な交配が動物に対しての
愛情もないブリーダーよって行われており、これによって、身体に障害を持つ犬と猫が生まれており、
これが問題となっています。
287名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 22:13:14 ID:dTMmikaP
『ちはやぶるかみよもきかずタツタバーガー 1/3』

某ファーストフード店
某バーガー
奈美「あ〜!懐かしいよねコレ!」
あびる「復活したんだコレ」
藤吉「久々に食べとく?おいしかったはずだし」
・・・ちゃむちゃむちゃむ・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
奈美「・・・こんな味だったっけ?」
あびる「・・・普通の感想」
奈美「普通って言うなぁ!」
藤吉「懐かしいし美味しいけど・・・何というか、期待した程じゃないね」
絶望「記憶による補正ですよ!」
奈美「先生!いたんですか!?」
絶望「ええ、先程からずっと」
あびる「記憶補正?」
絶望「人間、しばらく接しないと記憶が薄れていきますが、その薄れた部分を脳が勝手に良い方に修正しようとするのです!」
・実家の手抜き料理
・一度だけ行った創作居酒屋
・同窓会前夜に見る卒業アルバム
絶望「結果、味は変わってないのに期待外れとか前より質が劣化しただとか非難されるのです!
   連載開始後の数週間、どれだけサンデー時代と比較されたと思ってるんだ!!」
奈美「誰に何をいってるんですか!」
絶望「失礼、何だか悪しきモノが乗り移ってたみたいです。それはまあ置いといて、   絶望した!記憶補正による期待外れに絶望した!」
288名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 22:15:18 ID:dTMmikaP
『ちはやぶるかみよもきかずタツタバーガー 2/3』

可符香「悪いことばかりでもありませんよ」
絶望「え」
可符香「記憶補正で実力を過小評価されてたら、久しぶりに見たときに驚き度が上がって好感度増ですよ」
絶望「言われてみたらそうですね・・・
   久々にみたら、思いの他レベルの高かったことの多いこと!」

・セルを食い止めた天津飯
・北極で爆弾を止めた偽勇者
・ラストダンジョンの中ボスを瞬殺した仏の顔
・半年での修行でS級妖怪に成り上がったトーナメント敗退者の面々
・最終巻表紙に載った関西弁

藤吉「過小評価っていうか、眼中に無かったのが出てきて活躍しただけじゃない!」
絶望「眼中に無かろうが、活躍できればそれはそれで勝ちです」
奈美「それなら、私たちも初期設定を持ち出せば人気アップになるんですか?」
絶望「ん・・・まあ、そうとも言えますね」
一同「(それは良いことを聞いた・・・)」
絶望「?」
289名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 22:17:00 ID:dTMmikaP
『ちはやぶるかみよもきかずタツタバーガー 3/3』

翌日
まとい「先生、昨日の一件で大変なことに」
絶望「いたんですか、っていうか今日は珍しく私服ですね」
まとい「ええ、それよりもほら!」
絶望「こ、これは・・・!」
愛「べつにあなたのためじゃないんだからね!」絶望「ツンデレな加賀さん!」
木村「和をもって良しとしましょう」絶望「二重人格なカエレさん!」
木村「告訴します」絶望「そして巻末の告訴状!」
万世橋「今度は無視ですかぁ!」絶望「いじめられてる万世橋くん」
置き手紙「縁がなかったので帰ります」絶交「父さん!」絶望「兄さん!」
絶倫「お兄様」絶望「真正面から登場する倫!」
千里「みんな、忘れられてた初期のネタなんかやらないでよ!」
絶望「ひいっ!」
千里「・・・・・・・・・・・・何か?」
絶望「・・・・・・・・・・・・猟奇オチじゃないきっちりさん!」
奈美「私不登校なのよ」絶望「・・・何度もやったそのネタは、もはや普通・・・」
奈美「普通っていうなぁ!」
絶望「兎にも角にも・・・皆さんやりすぎです!」
奈美「こんだけやれば、忘れられてた記憶補正で人気アップですよね?」
絶望「・・・大変申し上げにくいですが・・・残念な方の記憶補正なんではないかと・・・」
一同「・・・・・・・・・・・・」
マ太郎「ていうか、そろそろこの話にオチつけろヨ」
絶望「この流れでどうやってオチをつけろと!?」
可符香「先生には、っていうか主人公には、究極の忘れられてるネタがあるんじゃないかと」
絶望「わ、私にアレをやれと?・・・・・・」
一同「こくっ」
絶望「・・・・・・こ、こんな流れじゃ話がオチん、オチん、お、おオチンチ・・・やっぱ無理!」
一同「あ〜あ〜・・・・・・」
じょしらく「お後が宜しいようで・・・」
290名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 22:19:23 ID:dTMmikaP
※この物語はフィクションです。実在の百人○首、チキ○タツタには一切関係がありません
291名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 23:03:16 ID:YJgCCrWB
乙。なんでこんな話考えたんだw面白いけどwww
292266:2009/09/27(日) 03:43:57 ID:8kOwFxoG
乙です。
最後の初期設定連発が面白かったですw
本編さながらのネタを思いついて形にできるって、ホントに凄いです。

えっと、私も書いてきました。
また万世橋君×めるめるのネタなのですが……。
趣味に走りすぎたネタで申し訳ないです。
それでは、行ってみます。
293266:2009/09/27(日) 03:45:38 ID:8kOwFxoG
カーテンの隙間から差し込む朝日の眩しさと、窓の外から聞こえる小鳥達のさえずり。
ベッドの上、うっすらと瞼を開いた芽留は、心地よいベッドのぬくもりに後ろ髪を引かれながらも、ゆっくりとその体を起こした。
「……ふぁ……」
芽留の口からほんの小さなあくびがこぼれる。
昨夜、万世橋わたるから借りたゲームに夢中になって夜更かしをしたせいだろう。
寝不足の頭は上手く回転を始めてくれず、芽留はベッドの端にぼんやりと座り込む。
寝ぼけ眼をぐしぐしと擦りながら周囲を見渡すと、いつも通りの部屋の様子が何故か少し違って見えた。
(うぅ…やっぱ、ゲームやりすぎたか。まだ目が疲れてやがる……)
わたるの家に遊びに行ったとき見つけた少し古いゲームソフト。
一見して何の事もない普通のアクションものに見えたそのゲームだったが、試しにプレイさせてもらったところ、意外なほどに手の込んだつくりと、
難しすぎず易しすぎず、絶えずプレイヤーのやる気を刺激してくる絶妙なゲームバランスに芽留はすっかり入れ込んでしまった。
しばらく夢中になって芽留はゲームをプレイした。
その様子を見ていたわたるが、ぽつりと一言。
『なんだったら、持って帰ってもいいぞ、それ』
【いいのか?】
『いいも何も、さっきまで棚の奥に死蔵されてたからな。昔は俺もずいぶんやり込んだけど、今はお前の手元にあった方が良さそうだ』
というわけで、芽留はゲームソフトをありがたく借り受ける事とした。
ついでにサントラと各種設定資料の掲載されたオフィシャルブック、ノベライズ版とコミカライズ版まで持たせようとしたわたるの脳天にチョップを食らわせ
帰宅した芽留は時間の許す限り、そのゲームに没頭した。
しかし、ここまでこのゲームにのめり込んでしまう事になるとは思っていなかった。
序盤最強のボスキャラを倒したところでセーブして、ふと時計を見るととっくに日付が変わっていた。
既に芽留が目を覚ましてから10分ほどが経っていたが、視界に感じる違和感もまだ消えてくれない。
ここまで翌日に影響が出てしまうというのは流石に考え物だ。
(ゲームは一日一時間……じゃあないけど、流石に自重しないとな…)
ため息を吐きながら、芽留が立ち上がった。
その時である。
(……あ…れ……!?)
芽留が感じていた視覚の違和感が一気に巨大化した。
いつもと全く変わらない部屋。
全ての家具が昨日と同じ場所に配置され、足りないものなど何一つない。
それなのに、今の芽留の目に映るその景色は、昨日まで彼女が見ていたソレとは完全に異質なものだった。
(…なんだ、これ……オレ、一体どうなって……!?)
訳のわからぬまま、頭を抱え俯く芽留。
そこで、彼女は気がついた。
(……どうして?……爪先が…遠い?)
立ち上がった芽留を支えるつま先の、その距離がいつもより遠い。
ありえない事態にますます混乱する芽留の頭だったが、やがてゆっくりと状況を理解し始める。
爪先が遠いのではない。
芽留の視点がいつもより高くなっているのだ。
もう一度、落ち着いて足の付け根のあたりから爪先まで、ゆっくりと視線を下げていく。
すらりと伸びた長い脚。
芽留の知らない、他の誰かの脚。
続いて、手の平を見る。
細長く、しなやかな指と一回り以上も大きな手の平は芽留の良く知る自分の手の平とは全く違うものだった。
改めて、周囲を見回す。
違和感の原因はもはや明らかだった。
(オレ…背が高くなってる……!?)
見慣れた部屋の景色を、いつもと全く違う高さから見下ろしていた事が芽留を混乱させていたのだ。
だが、こんな事があり得るのだろうか?
現在の芽留の視点は、昨夜までより数十センチは高くなっている。
一晩でこれほどの身体的成長が可能な人間など存在するのだろうか?
(そういえば…服もキツイ……)
これまで自分の身体に起こった変化に戸惑うばかりで気付いていなかったが、
身にまとう衣服も子供用のものを無理矢理に着せられたみたいで、体のあちこちが締め付けられるようだった。
その年頃の平均的な女子程度にまで成長したバストのせいで、パジャマの胸の辺りのボタンが弾け飛んでいた。
(でも、ウエストのところのボタンは外れてない!エライぞっ!オレっ!!……って、そんな事考えてる場合じゃなくて……)
恐る恐る、芽留は鏡を覗き込んだ。
そこにいたのは、顔立ちや目つき、髪型などに確かに昨日までの芽留の姿の名残を見せながらも、別人のように成長した自分の顔があった。
芽留は焦った。
294266:2009/09/27(日) 03:46:39 ID:8kOwFxoG
こんな姿を見られたら、一体、親や友達にどう説明すればいいのだろう?
そもそも、これほどに変わり果ててしまった自分を、音無芽留だと認識してくれる人間はいるのだろうか!?
(…逃げよう……)
芽留は混乱する頭の中で、決断を下した。
もしかしたら、母や、芽留を溺愛している父ならば気付いてくれるかもしれない。
だけど、もし、そうならなかったら?
昨日まで愛情を込めて自分の名を呼んでくれた人達に、その同じ口で「お前なんか知らない」と言われたりしたら……。
芽留の心を猛烈な勢いで恐怖と不安が埋め尽くしていく。
(…そうだ!逃げるんだっ!!家族の誰にも見つからない内に、この家から!早くっ!!)
命綱の携帯電話だけを机の上から掴み取って、芽留は自分の部屋から飛び出していった。

家を抜け出した芽留は、後ろも振り返らず、ただひたすらに走り続けていた。
現在、彼女が身につけているのは、いつも通りの学校の制服だ。
しかし、すっかり成長してしまった芽留が本来の自分のサイズの制服を着られる筈はない。
実はこれには理由があった。
部屋を飛び出した芽留が最初にした事は、自分の着られる服を探す事だった。
彼女が目をつけたのは、母親の洋服。
ピッタリのサイズとはいかないだろうが、子供服同然の自分の衣服よりはマシだ。
母親はまだ朝食を取っているはずだったし、その間に自分が着ても違和感の無い服を見つけて、それを着て逃げ出そうというのが芽留の計画だった。
だが、しかし。
芽留の母親は以上なほどの衣装持ちだった。
広い家の中に、母専用の衣服を収めた部屋がいくつも存在する。
芽留はその中から、適切な服が保管されている部屋を見つけ出さなければならなかった。
(一体、どの部屋を見たらいいんだ?……って、ええいっ!!迷ってても仕方がないっ!!)
芽留は手近な衣裳部屋のドアを開き、その中に入った。
彼女がそこで目にしたもの、それは………
(な、な、なんだよこれぇええええっ!!!!!?)
メイド、ナース、フライトアテンダント、ウェイトレスに巫女にシスター。
その他、所狭しと並べられた日常生活では必要なさそうな衣装の数々。
それらが一体どんな用途に使われるものなのか、あまり考えたいものではなかった。
(しかし、ここは大ハズレだな。こんなのを着て外に出られるわけがない……って、あれ?これは……?)
そんな時、芽留は巨大なクローゼットの片隅にソレを見つけた。
(これ……ウチの制服だよな?)
芽留の通う学校指定のセーラー服、加えて足元にはご丁寧にも靴下と靴とカバンがセットになって置かれている。
見慣れたセーラー服を手にとって、芽留はしげしげと眺めた。
果たして、このままこの部屋を離れて探し続けたとして、このセーラー服以上に自分が着て違和感のない服が見つかるだろうか?
(多分…いや、きっと無理だ……)
時間は刻一刻と過ぎていく。
芽留に残された選択肢はあまりに少なかった。
(ええいっ!どうにでもなれぇっ!!!)
そして、芽留は決断した。
ボタンの外れたパジャマを脱ぎ捨て、いつものセーラーに身を包むと少しだけ安心する事ができた。
着替え終わった芽留は衣裳部屋を出て、窓から家を抜け出した。
295266:2009/09/27(日) 03:47:34 ID:8kOwFxoG
それからほとんどずっと、芽留はひたすらに走り続けていた。
体が成長した分体力も増したのか、走った距離に比べて芽留はそれほど疲れを感じていなかった。
しかし、芽留はただ闇雲に走っているわけではなかった。
(アイツ……来てくれるかな?)
走りながら、彼女はとある人物にメールを送っていた。
【大変な事になった。九時前に駅前に来てくれ】
詳しい事情は書けなかった。
今の芽留の置かれた状況はあまりに荒唐無稽すぎて、どう説明したところで悪い冗談にしか受け取られないだろうと考えたからだ。
それでも、面と向かって話せば、彼ならば、万世橋わたるならば信じてくれるかもしれない。
ほとんど別人に成り果てた自分を、音無芽留本人だと認めてくれるかもしれない。
そう信じて、芽留はわたるへのメールの送信ボタンを押した。
駅までの距離はあと少し、約束の時間ももうすぐだ。
果たして、わたるはあの場所で待っていてくれるのだろうか?
拳をぎゅっと握り締め、芽留は駅へと続く道を、スピードを上げて駆け抜けていった。

だが、芽留は気付いていなかった。
『こちら3号、さきほど例の女がC地点を通過したのを確認した』
「こちら1号、了解。やはり目的地は駅前か……人ごみに紛れられたらアウトだな」
芽留の行動を監視し、追跡する男達。
彼らの表情は険しく、語気にもどこか切羽詰ったような雰囲気が感じられた。
なぜならば……。
「芽留お嬢様が姿を消した事と、突然屋敷から現れたあの女が関係ない筈がない……。
なんとしても捕まえなければ……芽留お嬢様を救い出すために………っ!!!」

ようやく辿り着いた駅前で、駅舎の壁に手を付いて、息を切らせながら周囲を見渡し、芽留はわたるの姿を探した。
(まだ来てないのか?……ていうか、しまったな。細かい場所の指定を忘れてた……)
駅前はただでさえバスの発着場や、タクシー乗り場、行き交う人々でゴチャゴチャとしている。
芽留の方からわたるを見つける事が難しいのはもちろん、今の芽留の姿を知らないわたるが彼女を見つけるのは至難の技だ。
(待て。焦るな、オレ…もう一度メールを送ればいいだけの話だろ……)
不安と焦燥に飲み込まれそうな心を、すうっと深呼吸一つでなだめて、芽留は携帯を取り出しメール入力画面を開いた。
わたるに宛てた二通目のメールを半分ほどまで打った時
(……なんだ?こいつらは……?)
いつの間にか、駅の壁を背にした芽留の周囲を数人の男達が囲んでいた。
それぞれ服装も年齢もバラバラで、一見して無関係な風を装っていたが、彼女を睨みつけるような眼差しだけは共通していた。
(なんかわかんないけど、ヤバそうだな……)
危険を察した芽留はその場を立ち去ろうとするが、
「待てっ!」
背後から伸びてきた男の手が彼女の手首を掴んだ。
【何をしやがる!!】
携帯の画面でそう言い返してやろうとした芽留だったが、あまりに強すぎる男の握力のせいで携帯の操作すらままならない。
(なんなんだよ、こいつら……?)
芽留の脳裏に当然浮かんだ疑問に、芽留を捕まえた男が答えた。
「貴様、芽留お嬢様をどこへやった?」
(なっ!?)
「芽留お嬢様が屋敷から姿を消した一件、手引きしたのは貴様だろう?」
驚愕の中で芽留は悟った。
彼女を睨みつける男達の視線、そこに込められた静かな怒りの意味を。
(…あのクソヒゲハットの事だからな。こんな奴らぐらい雇っていても不思議じゃない……)
彼らは娘を溺愛する父が芽留を守るために秘密裏に雇ったボディガードといった所だろう。
しかし、恐らくはそれなり以上に優秀な彼らも、今回の芽留の失踪を防ぐことは出来なかった。
なにしろ、警護対象である芽留本人が全くの別人に姿を変えてしまったのだから。
296266:2009/09/27(日) 03:48:47 ID:8kOwFxoG
(オレが芽留だって言っても……まあ、信じないよな……)
それは芽留にとって、これ以上ない皮肉だった。
自分を守るために雇われた男たちに、今正に追い詰められているというこの現実。
芽留を捕まえた男たちは、それが自分達の探し求める人物とも知らず、彼女を徹底的に追及するだろう。
(冗談じゃないっ!このまま捕まってたまるかぁ……っ!!!)
芽留は自分の手首を掴む男の手の平を引き剥がそうと必死に暴れる。
「このぉ、逃がさんぞっ!!!」
いかに芽留の体が成長したといっても、力と体格では相手の男の方が圧倒的に上なのは明らかだった。
しかし……。
(こぉのぉおおおおおおっ!!!!!)
「がっ!?痛ぅうううううっ!!!」
男の手を振りほどこうとする振りをしながら、芽留は男の手の平の親指の部分をコンクリート製の駅舎の壁に叩き付けた。
痛みにひるんで、男の手の力が緩んだ隙を見逃さず、芽留は脱兎の如く駆け出した。
「くそっ!やりやがったな!!」
「回り込めっ!絶対に逃がすなっ!!」
男達の怒号を聞きながら、人ごみを掻き分け、芽留は必死で走った。
(ちくしょうっ!どうしてこんな事になるんだよっ!!)
背後から迫る敵意は彼らが自分を音無芽留だと認識していないという事を芽留に痛感させた。
昨日までの自分の居場所から逃げ出さなければならない情けなさ、悔しさ。
気がつけば芽留の頬を一筋の涙が伝い落ちていた。
それをセーラー服の袖でごしごしと拭って、くじけそうな心に鞭を入れて、芽留はひたすらに走る。
そんな時だった。
(あれはっ……!!?)
前方に見つけた見慣れた背中。
今にも諦めてしまいそうだった芽留の心に希望の火がともる。
(わたるっ!わたる…っ!!来てくれたんだなっ!!!)
芽留は暗闇の先、ようやく見出した光に向かってまっしぐらに走る。
もっと近く、もう少し近くに、アイツの背中に手が届く場所まで………。
だが、しかし……。
「待ぁてぇえええええええええっ!!!!」
追っ手の男たちの一人が駅の構内を通り抜けて、芽留の目の前に躍り出た。
男の手から逃れようと方向転換を試みる芽留だったが、今度は横断歩道を渡ってきた通行人の群れにぶつかりそうになってしまう。
足の止まった芽留の周囲を、再び男達が包囲していく。
先ほど、芽留の前方に回りこんできた男が芽留とわたるの一直線上に、わたるへの道を阻むように立ち塞がった。
(くそっ!もう少し…あと少しなのに……っ!!)
雑踏の向こうに見えるその姿は、手を伸ばせば届きそうなのに、芽留には彼に呼びかけ、振り向かせるための声がなかった。
メールを打つ暇もない。
芽留に出来るのはもはやただ神に祈る事だけだった。
(わたるっ!!わたる…気付いてくれ!!!…わたるぅっ!!!)
じわじわと距離を詰めてくる男達。
通行人の波に阻まれて、道路に遮られて、芽留が逃げ出すための隙はほとんど残されていない。
(わたる――――――っっっ!!!!!)
その時、まるで芽留の心の叫びが通じたかのように……
(あっ………)
ゆっくりと、本当にゆっくりと万世橋わたるは、芽留の方に振り向いた。
しかし……
(そんな……わたる……)
わたると自分の視線が交差した瞬間、芽留は必死に訴えた。
自分はここにいると。
音無芽留はここにいるのだと。
だが、そんな彼女の声なき声を目にして、わたるが浮かべたのは明らかな困惑の表情だった。
やはり、無理だったのだ。
今の芽留の姿と、昨日までの音無芽留を重ねて見る事が出来る人間などいないのだ。
芽留は心の中で、自分を支えていた大切な何かが崩れていくその音を聞いていた。
(わたるぅ…オレは……オレはここにいるんだっ!!…わたるっ!!!)
今にも泣きじゃくって、この場に崩れ落ちてしまいそうな芽留の体。
297266:2009/09/27(日) 03:50:18 ID:8kOwFxoG
だが、残酷な現実はその歩みを止めてはくれない。
「ようやく観念したかぁ!!」
左右から同時に飛び掛ってきた男達をかわす事ができたのは、ほとんど偶然の力によるものだった。
半ば放心状態の芽留は、訳もわからぬまま男達の手を掻い潜ってその場から逃げ出した。
振り返る事無くただ前へ、走り抜けていく彼女の頬を大粒の涙が伝い落ちていった。

あれからどれだけ走り続けただろう。
路地裏に飛び込んで、右も左も判らないまま、闇雲に見知らぬ道を奥へ奥へと進んでいった。
本人もどこに向かっているのかわからない状態で、ここまで逃げ延びられたのはある意味では奇跡とも言えた。
だが、それももう終わりだ。
「手こずらせてくれたな……だが、これでもう逃げ場はないぞ…」
裏道を走って走って走りぬけた先、三つのビルの壁面に囲まれた袋小路に芽留は追い詰められていた。
だが絶体絶命の窮地にいるというのに、俯いたその顔には何の表情も浮かんでいなかった。
芽留の心はあの時、わたるの間近にいながら、わたるに自分が誰であるかを判ってもらえなかった事、
その悲しみのためにほとんど凍りついてしまっていた。
信じたかった。信じていたかった。だけど、考えてみればイヤでも理解できるはずではないか。
ある人間が突然、それまでの名残を一切残さず、全くの別人の姿に変わってしまえばどうなるか。
それを昨日までと同じ人間だと、胸を張って言える者などいるだろうか。
全て当たり前の事、仕方がない事なのだ。
(オレはもう、音無芽留じゃいられないんだな……)
恐らくこの後自分は、激しい追及を受け、警察に突き出され、身元不明の不審者として扱われるのだろう。
今の芽留には自分が自分である事を証明できるものなど、何一つないのだから。
じりじりと男達が芽留に迫る。一歩、また一歩と距離が詰まっていく。
四方八方から、芽留の体を押さえつけようと何本もの腕が伸びてくる。
そして、芽留は観念したように、その瞼を閉じた。
(もう一度だけでも、わたると話したかったな………)
だが、しかし……
「何だお前はっっっ!?」
驚きに満ちた男の声が響いて、芽留に伸ばされていた腕達が動きを止めた。
恐る恐る、芽留は瞼を開けた。そこにいた人物を見て、息を呑んだ。
「お前は芽留お嬢様の学友の……どうして邪魔をする!?」
「そう強く言われると、俺もあんまり自信ないんだが……」
男達と芽留の間に割って入るようにして、万世橋わたるが立ち塞がっていた。
「今朝、芽留お嬢様の姿が屋敷の中から消えた。ほぼ確実に、その女が関わっている」
「なるほど、確かにそれはそうなんだろうな……」
それから、わたるはバツの悪そうな笑顔を浮かべて、芽留の方に振り向いた。
「すまん。気付くのが遅れた……」
わたるの手の平が、芽留の頬に触れた。
その優しい感触が、ぬくもりが嬉しくて、ぼろぼろ、ぼろぼろと、芽留の瞳から涙が零れ落ちていく。
「なんだ?いつもだったら蹴ったり殴ったり罵倒したり、もっと騒がしい事になるところだろ?」
【煩いっ!!バカっ!!黙れっ!!このキモオタっ!!!!】
泣きじゃくりながら、芽留は何度も何度もわたるの胸元に殴りかかった。
わたるはそれをかわさず、甘んじて打たれるがままとなる。
「最初は本当にわからなかった。だけど、あの時、お前が最後に見せた表情が気になってな……」
芽留に呼び出された駅前で、わたるの前に突然現れ、そして突然に去っていった少女。
彼女の面影が自分の良く知る小さな少女とよく似ている事には、わたるもすぐに気付いた。
だけど、それだけならばどことなく芽留に似た少女だとしか、わたるも想わなかっただろう。
しかし、彼女がわたるの前から走り去る前に見せた泣き顔。
一心にわたるを見つめる瞳が頭から離れなかった。
それはわたるがこれまで芽留と過ごしてきた日々の中で、幾度も目にした表情だった。
その記憶が理屈抜きにわたるの心に訴えかけてきた。
あの少女をそのままにしておいて良いのか。
あの、ただひたすらにわたるの事を信じる瞳を、涙で濡れたままにしておいて良いのか、と。
「こうしてお前の前に立ってみるまで、ぜんぜん自信はなかった。だけど、話しかけてみりゃあ何て事はない、やっぱりお前はお前だった」
わたるの胸を叩き続けていた芽留の腕が止まった。
涙で濡れた顔をわたるの胸に埋めて、震える指先で携帯の画面に、芽留は言葉を打ち出す。
【遅すぎんだよ、ハゲ……】
「すまん」
追っ手の男たちはその光景を呆然と見ている事しかできなかった。
298266:2009/09/27(日) 03:51:02 ID:8kOwFxoG
その後、芽留はわたるに付き添われて、自分の家に戻った。
芽留の心配とは裏腹に、芽留の父は彼女を見るなり
「どうしたんだっ!!めるめる、誰に泣かされたんだっ!?またコイツか!!コイツが悪いのかっ!!!」
一発で芽留が芽留である事を見抜いて、傍に居たわたるに食って掛った。
ちなみに芽留の父曰く、識別のポイントは
「……むう、そうだな?あのめるめるならではの美しい塩基配列なんかが……」
遥かに常人離れした、理解しがたいものだった。

そして翌日。
【理不尽だ】
「まあ、こういうパターンのお約束と言えばお約束だな」
芽留の姿はものの見事に元に戻っていた。
「もし俺がお前みたいにまるで違う姿に変わったらどうなると思う?」
【変わるってどんな風にだ?】
「一晩で見違えるくらいスマートになったりしたらどうだ?」
【一発で見抜けるな。痩せようがどうしようが、お前のオタク臭が消えるわけがない】
そうやって他愛もない会話を交わしていた二人だったが、わたるが不意に真剣な表情になってこんな事を言った。
「お前の親父さん、凄いな。姿が変わっても、一発でお前がお前だってわかるなんて……」
【いや、あれは人類が到達しちゃいけない領域だろ……】
「でも、俺は最初、お前の事に気付いてやれなかった……」
呟いたわたるの顔には苦い微笑が浮かんでいた。
彼は成長した芽留との最初の遭遇で、気付いてやれなかった事を酷く悔いているようだった。
しかし……
【それは違うぞ。わたる】
「えっ?」
確かに、わたるは今の芽留が芽留である事にすぐには気付けなかった。
あまりに急激な変化について行けず、彼女の姿を見失った。
だけど、彼は言った。
『あの時、お前が最後に見せた表情が気になってな……』
今までわたるが過ごしてきた芽留との日々の記憶。
それと、今の芽留が見せたあるかなしかの兆しを繋ぎ合わせ、彼は彼女のところへ辿り着いた。
わたるの中に積み重ねられてきた芽留の像が、最終的に彼を芽留の元へと導いた。
とても微かで不確かなものだけど、確かにそこにある二人の繋がり。
それが芽留にとっては何よりも頼もしいものだった。
この繋がりがある限り、たとえどんなものに阻まれようと、きっと二人はまためぐり合う事ができる。
(わかってた筈なのにな。全く、何を怖がっていたのやら……)
【わたるは、ほとんど何も見えないような場所から、オレに辿り着いてくれたんだ】
「そう……なのか?」
だから、芽留はとなりを歩く暗い顔のオタク少年に笑顔でこう言うのだ。
【ありがとう……本当にありがとうな、わたる】
299266:2009/09/27(日) 03:51:36 ID:8kOwFxoG
以上でおしまいです。
失礼いたしました。
300名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 12:51:49 ID:dSlS8ljF
ええー
そんなのいやん
301名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 13:36:18 ID:TIGRsjbj
266が時々書くこのカップリングは正直意味がわからないんだが
はっきり言って全く感情移入できないし
こうも続けられるとほとんど荒らしじゃないか?
302名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 15:52:32 ID:OCSRhOsr
また不毛なカップリング論争が始まるお……
303名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 16:18:07 ID:We+t9jiT
>>301
理想のカップリングで作る作業に戻るんだ。
304名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 17:32:17 ID:mSiswXem
>>301
いや荒らしはお前だ
感情移入できなきゃ読まなきゃいいだけ
お前のようなコメントが他の投稿者を敬遠させてスレを衰退させる
305名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 17:34:17 ID:LjO6C6wP
奈美「あれ?三珠ちゃん何やってんの?」
真夜「・・・・」
奈美「あ、マフラーだ!三珠ちゃん上手だね!」
真夜「・・・・・」
奈美「ねーねーこれ誰のために編んでんの?もしかして先生に?」
真夜「・・・・・!」
奈美「あーやっぱり先生のためなんだー! 三珠ちゃんもかわいいところあるじゃん!」
真夜(・・・・・違う、これは先生のためのじゃない、これは・・・・・)


〜放課後〜


真夜「・・・・・あったかい・・・? 犬・・・・」
犬「・・・・・・・・」
真夜「・・・・・」
犬「・・・・・・バウッ!」
真夜「そう・・・・よかった・・・」





霧「あれ? 先生そのマフラーどうしたの?」
先生「いや、先日何者かに突然マフラーで首を絞められたんです。
これはそのときの・・・・」
霧「・・・・・なんで持ってかえってきたのよ・・・・?」
先生「なかなか丁寧に作られていますしけっこう温かいので・・・・」
霧「そう・・・・」





真夜「そういえばこの前先生にマフラー編んで首に巻いてあげようとしたのに
なんで倒れちゃったんだろ・・・・・・?」
犬「・・・・・・」

〜終〜


どう見ても駄作です、ごめんなさい。
 
306名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 18:03:51 ID:8kOwFxoG
どう見ても三珠ちゃん、可愛すぎです。
GJでしたっ!!
307名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 19:49:32 ID:71cyLeId
>>199氏や真昼さんの望カフが読みたい
308名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 20:18:25 ID:UVPv5e53
>>307
懐かしい名前を
309名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 01:36:49 ID:Ju+elzMn
アニメ一期にあった、臼井君家にカエラが宿題を届ける話、
あれから発展させたSSとか、そのカップリングの話って過去にあった?
310名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 04:10:29 ID:lMnCgvRk
カエラなんていねぇ
311名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 17:29:36 ID:bd7F47+D
>>307
あの二人は別格の望カフ書きだったと思う
いい職人さんが随分消えちゃったね
312名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 18:14:04 ID:0M6dZr3m
ここも随分嫌われたもんだ
313名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 18:37:36 ID:3NPvMNjA
>>307の2人は別格
真昼が雪が徐々に投下されるのでひたすらここに通ってたな
199氏の可符香と先生はひたすらにやにや萌えるので困る

ちょっと保管庫いってくる
314名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 20:18:53 ID:AknIqpU2
266とは大違いだなw
315名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 22:25:21 ID:bd7F47+D
そういうこと言うから職人が消えるんだ馬鹿
まあそんな話題を降った俺も悪いが
316名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 22:49:13 ID:AknIqpU2
266のつまらなさにはいい加減ウンザリさせられてるんだよ
可符香好きなだけにアレの書く低レベルな望カフが視界に入るだけで吐き気を催す
あの文章力の低さでどうしてエロパロ書こうなんて考えたんだ?
317名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 22:58:22 ID:Ju+elzMn
そこまでいうか。
318名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 23:13:08 ID:JFOzlT9o
スルーライフですよ
319名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 23:25:54 ID:Onf9j3SL
だったらお前が書けよと
320名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 23:26:18 ID:ZrFKNA3g
>>316
君の言うところの理想の望カフとやらをぜひ見せてくれ。
321名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 23:37:07 ID:AknIqpU2
お前こそ266の望カフをどうして放っておくのか
アレのSSに少しでもこのスレに存在を許される価値があるんなら
個条書きで教えてくれ
322名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 23:41:56 ID:bd7F47+D
お前のウザさなら箇条書きできるぞw
そんな無駄なことに時間を使う気は毛頭ないが
323名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 23:42:33 ID:IsmeOrnp
原作のことを考えると、そもそも先生と可符香が恋愛してるだけでお笑いなんだから
気楽にいこうぜ
324名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 23:54:22 ID:MWxsnC/3
大草さんと先生がちゅっちゅしてる話が読みたいです><
325名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 01:44:29 ID:SHOHjBSj
こんな格付けとクレクレばっかのスレじゃ人いなくなるわな
326名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 07:24:39 ID:1Ro/yUxG
>>321
何も投下せずに文句だけいうクレクレ乞食より、はるかに格は上。
32720-32:2009/09/29(火) 18:55:08 ID:MKzvZGsg
・望×霧で安心毛布ネタ
・エロあり

望霧以外の要素なしで他の絶望少女は一切出ませんw
苦手な人がいたらスルーお願いします!
328小森ちゃんの安心毛布(1/3):2009/09/29(火) 18:58:43 ID:MKzvZGsg
霧の毛布が風で飛ばされてしまった。
すぐに望が新品の毛布を用意したものの、
代用品では駄目らしくすっかり機嫌を損ねてしまった。
望は、きっと見付かりますよ、と柔らかい言葉をかけようとも思ったが、
所詮は気休めだろうと諦めて窓の外を見た。
すると、霧の方が立ち上がって望の傍へ寄ってきた。

「ねえ、先生」

艶のある声が響く。
同時に霧が望に寄りかかり、すべての体重をかけて大人の体を畳の上へ倒させようとした。
しかし、男女の体格差は想像以上に大きく、望は少しよろけただけだ。
霧は不満げに口元をへの字に結ぶと、躊躇する事無く足払いをかけた。

「わっ、小森さん!…って、なっ、なな何をしているんですか!」
「あの毛布に包まっていないと、安心できないの。だから、先生が代わりだよ」

目的どおり望の足の間に収まった霧は、手際良く浴衣を捲り、
柔らかい絶棒を下着の上から遠慮なく掴んだ。

「っ…!」
「先生、痛かった?」
「いえ、平気ですけど…じゃなかった、平気じゃありません」
「…安心させてよ…お願い」

不服そうに呟き、霧は望の下着を下ろした。
露出したそれを、ちゅぷ、と口に含んでつるつるした先端を舐める。

「っ…小森さんは…舌が短いんですね」
「ん、…ふ…っ」

霧は一瞬眉を寄せたが、赤ん坊がおしゃぶりをくわえているとき安心するのに似た心理なのか、
すぐに瞳を閉じて一生懸命全体へと舌を這わせはじめた。
はじめは柔らかいままだったため何度か口から零れてしまったが、
硬さを持ちはじめると上手に唇で扱く。
根元から、手も使って扱き望の射精感を昂ぶらせていく。
329小森ちゃんの安心毛布(2/3):2009/09/29(火) 19:01:44 ID:MKzvZGsg

「っ…気持ちいいですよ。…あ、小森さん、腰が揺れています…欲しいんですか?」
「ぁ…安心したら、えっちしたくなっちゃった…」

普通の教師なら生徒がこんな事をしたら引き剥がすのだろうが、
流されやすい望は欲望のままに霧のジャージに手を伸ばす。
下着ごと引き下ろして白いヒップを露にしてしまう。

「ひゃ、お尻が寒いよ」
「それなら先生の上へ乗りますか?」

脇の下へ腕を通し、霧の体を抱き上げると自分の膝上へ座らせる。
下半身裸の霧が跨り、勃起した部分と霧の股間が擦れた。望の思ったとおり、霧のそこはぬるりと滑る。

「よく濡れていますね、…可愛いです」

霧の尻の下へ手を差し入れると、柔らかさを味わうように揉みしだいた。
霧は望の首の背に腕を回し、もどかしそうに俯いている。

「どうしました?なんて、意地の悪い質問でしょうかね」
「…先生のいじわる」

霧は怒った様子も無く火照った頬を綻ばせ、自ら腰を浮かせた。
実の年齢よりも幼く見える顔立ちに見合わぬ動きで腰を揺らして、
割れ目と絶望を馴染ませるように愛液を行き渡らせるとゆっくり腰を落とし始める。

「はっ…ぁああ、ぁんっ、せんせい…!」
「っ…小森さん、――!!」

狭く熱い肉に自身が飲み込まれていく感覚に肌が粟立つのを感じながら、
ふるりと震えながら快感を受け止めている霧の体をそっと支える。
繋がる箇所に何も隔てるものはなく、肌と肌が直に擦れ合うのが気持ち良い。
はじめに口での愛撫を受けていた事もあり、望の感度も十分に高まっていた。
330小森ちゃんの安心毛布(3/3):2009/09/29(火) 19:05:27 ID:MKzvZGsg

「っ、あっ、あん先生!きもちぃ…きもちいの…!」
「はぁ、はぁ、小森さんっ…」

望の突き上げと共に霧が腰を揺らすと、柔らかそうな胸が目の前で大きく揺れる。
だんだん、それに触れない事はなんとも惜しく感じはじめた。
望は、片手で霧のシャツを胸の上までたくし上げると霧の口元へ服の端を寄せた。

「……小森さん、これ、くわえていてくださいね」
「ふぇ…?―はい…んっ、ふ…ぅ!」

シャツを口にくわえた霧が苦しそうに息をする。
望は、露になった二つの膨らみを荒々しく揉みしだきながら何度も首筋や鎖骨に吸い付いた。
しばらくすると霧の体が小刻みに震え、くわえていたシャツの端が口から落ちる。

「ひゃ、ふぁ…!もう無理…せんせっ…!」
「く…っ、私も、そろそろイキそうです。小森さん、っ…!」
「や、…っあ…外に、出して…ぁああっ、あんっ…!!!」

ほぼ同時に迎えた絶頂にがくがく膝を震わせると、
望に掴まっていた腕の力が緩み、霧はぱたりと後ろへ倒れた。
長い黒髪が畳に広がる。霧の中にすべてをとき放った望はそっと腰を引いた。

「す、すみません。中に出してしまいました…」
「もうっ。先生のばか!……なんてウソだよ」

少し頬を紅潮させた霧は嬉しそうに微笑むと、望の腕を引いてぎゅっと抱きついた。
しかし、行為の余韻に浸る霧とは違い、望の手は霧の下半身へと伸びる。
薄い茂みをなぞってから、指を添えて割れ目を大きく広げる。

「ひゃっ!先生だめ、広げないでよ…先生のが出てきちゃうし、恥ずかしいよ」
「ふふ、先生がもっと安心させてあげますよ。小森さん」


…それから一時間も戯れて、ようやく二人はぐったり寄り添い、
互いを毛布のように抱いて眠るのだった。

end.
331名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 19:18:25 ID:5xwKnDk5
そろそろ望霧が恋しくなってきた所だった
ありがとう
332名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 19:30:36 ID:Bfbsseij
先生えろっ!
おつです
333名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 19:36:46 ID:GO0Si90V
GJ!ふたりともえろい
33420-32:2009/09/30(水) 08:58:51 ID:jBt39Gli
>>331-333
ありがとう!また出来たら投下します
335名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 06:03:24 ID:veyS7Xrq
これですよ。
こういう望霧を待ってましたよ。
336名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 08:25:24 ID:ON6UZeIK
ここはわりと平和でいいなぁ
337名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 09:16:16 ID:Yw68Y0Nl
ここが平和って、お前どんな殺伐としたスレから来たんだw
338名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 18:35:34 ID:YJulp5N1
クズがギャーギャー言ってるときが一番盛り上がる所なんかまさに平和って感じがする
339名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 18:21:59 ID:AO7qVoYl
最終話に命あびるを受診した
340199:2009/10/04(日) 10:14:37 ID:Jo9FPkhw
生存表明。
リアルで忙しいのと、エロくなると途端に遅筆になるのとで
なんかいろいろアレなんですがどうにか生きてます。

本来なら書きかけのをとっとと上げなきゃいけないんですが、先に一本仕上がっちゃったので
そちらを保守代わりに投下。
望×可符香。うん、すまない、エロなしなんだ。
「ここはエロパロ板なんだぜ」って……言うよね、すいません、半土下座します。
341『先生、風浦さん』:2009/10/04(日) 10:16:37 ID:Jo9FPkhw
「『先生』って呼ぶの、どうなんでしょうね」
腕枕してやっていた少女がぽつりと呟いた言葉に、望はきょとんとして、何のことです、と聞き返した。
「いえ、ちょっと今思いついただけなんですけど」
そう応えると可符香は身じろぎして望の胸に擦り寄ってきた。猫がマーキングをするように擦り擦りと顔を素肌に擦り付けられて
一瞬ためらってから遠慮がちにその髪を撫でてやる。
「あの、多分汗臭いですよ、私」
「そんなことないですよ」
笑って軽く口付けてから、いかにも今気付いたと言わんばかりに悪戯っぽく上目遣いで微笑む少女。
「あ、でも確かにお互い結構汗かいちゃいましたよね。先生が頑張っちゃいましたから」
「……そういうオヤジくさい表現をするものではありません、幾つなんですか貴女は」
「若者っぽく言えば、先生が」
「言い直さなくて結構ですっ!」
明らかにからかわれていると分かっていても、真っ赤になってムキになってしまう自分が哀しい。
もっと言えば、事後の、本来ならもっとロマンチックな睦言の一つや二つがあるであろうシチュエーションで
年下の少女にいいようにいじり倒されている自分が哀しい。
――が、それと同時に自分をいじり倒すこの少女がどうしようもなく愛しいのだから、自分もとことん軸がぶれきっていると思う。
ため息を1つついて可符香の体を抱きしめると、くすくすと笑う声が密着した体に響いてくる。
温かくて柔らかい肌の汗ばんでしっとりとした感触に、今更ながら自分がどれだけ
この少女に対して『頑張った』のか思い知らされて、激しくなる鼓動を誤魔化すように話題を振った。
「――それで、何の話なんですか」
「何がですか?」
「貴女が言い出したんでしょう、先生がどうとか」
ああ、と可符香が思い出したように頷く。
「大したことじゃないんですけどね、先生と私って、一応世間一般で言うところの恋人同士じゃないですか」
「……一応も何も、この関係が世間一般で言うところの恋人同士じゃなかったら何なんですか」
「先生、セフレとかパパとか、今時の世間にはいろいろとあるんですよ?」
「お願いですから本気で止めて下さい、絶望しますよ」
それって脅迫ですか?と吹き出す可符香。ひとしきりくすくすと笑った後に改めて「恋人じゃないですか」と仕切り直してくる。
「まぁ……そう、ですね」
僅かに照れを滲ませながら応えた。可符香とお互いの気持ちを伝え合って、体もこの少女の弱点が
分かる程度には重ねてきて――どこからどう見ても立派な『恋人同士』だと思う。
改めて認識させられて赤くなった望を見上げて、可符香がですよね、と言いながら少しだけ眉を顰めて見せた。

「それなのに、未だに『先生』『風浦さん』って呼び合うのも、どうかなーって思ったんです」

「……ああ」
ようやく合点がいって、大きく頷いた。
頷いた、はいいものの。
「……とは言いましても、ねぇ……」
なだめるように可符香の頭をぽんぽんと撫でながら、顔をしかめる望。
「先生、私のこと『可符香』って呼びたくないんですか?」
拗ねたような口調に、いやそんなことは、と慌てて否定して少しだけ赤面しながら
「教師として生徒の貴女に接してきた時間が長いですからね、『風浦さん』という呼び方に馴染んでしまっているんですよ。
 落ち着く……と言いますか、まぁ、要は――」
「今更恥ずかしくて呼べません?」
「心を読むのは止めて下さい!」
「嫌だなぁ、先生の考えてることぐらい心なんか読まなくてもお見通しですよぉ」
ニャマリ、と微笑んでくる可符香。どうやら先程の口調はお芝居らしい、と今更気付いて
わざとらしく咳払いをしてみせた。
342『先生、風浦さん』:2009/10/04(日) 10:17:15 ID:Jo9FPkhw
「……まあそれに、私と貴女はまだ担任と教え子の関係でもあるわけですからね。
 あんまり気安い呼び名に慣れてしまって、うっかり周囲に勘付かれるようなことになってもまずいでしょう?」
「ああ、そうですね」
先生、埋められちゃったり刺されちゃったり縛られちゃったり殴られちゃったりするかもしれませんね!と
自分の腕の中でやけに楽しそうに言う少女を半目で見下ろす。
「それもありますが、何より社会的に色々と問題です」
本人達がいくら真剣に愛し合っていたとしても、世間というのは色眼鏡をかけて物事を見るのが好きなのだ。
いくら留年を繰り返しているとは言え、可符香はまだ高校生。そして自分は高校教師。
ワイドショーだの週刊誌だの某巨大掲示板だのが全力で食いつくネタであることは間違いない。
分かりましたか?と問い掛けると、可符香がはい、と頷いた。
「つまり、先生はあくまで私に『先生』って呼ばれながらの、教師が教え子を調教するっていう設定での
 プレイの方が好きなんですね」
「どこをどう解釈したらそうなるんですか!?」
思わず上半身を起こしながら全力で突っ込む。こちらを見上げながらあはは、と笑ってくる愛しい少女に
大きくため息をついた。
ふと、思いついて尋ねてみる。
「それじゃあ、貴女は私のことを何て呼びたいんですか?」
「私ですか?」
丸い目を瞬かせた後、うーんと首を傾げる可符香に重ねて問い掛けた。
「『糸色さん』っていうのも恋人としては変でしょう、やっぱり……『望』って呼びたいですか?」
「そうですね、それもいいですけど」
応えて、悪戯っぽく――どこか嬉しそうに、にっこりと笑う可符香。

「私としてはやっぱり、『あなた』って呼んでみたいです」

こうして思い知らされる。
結局自分は、この少女にはどんなに頑張っても一生勝てないのだと。

「先生?」
再び抱きしめられた可符香が、不思議そうな声をあげる。憎たらしいほど落ち着いた様子に
大きな大きなため息をついて、その肩口に顔を埋めた。
「……そういうのは、できれば男の口から先に言わせて下さいよ」
「駄目ですよ、先生チキンだから、私がおばあちゃんになっちゃいますよぉ」
掠れた声で呻く、あっけらかんとした声が応える。

だが、『一生勝てない』というのは『一生勝負し続ける』ということであって。
それはつまり――『一生この少女と一緒にいられる』ということに、他ならないのであって。

――それなら別に勝つ必要ないんじゃないかと考える辺り、とことん駄目人間なのだ、自分は。
軸がぶれきっていて、チキンで、駄目人間で――それでもみっともないほど、彼女の愛を請うている。

「……ん」
強く強く抱きしめられて、可符香が幸せそうな声を漏らした。
華奢な腕が望の体に回って、抱きしめ返す。くすくすと笑う声が耳をくすぐった。
「――先生、ひょっとしてまた頑張れそうじゃないですか?」
「ですからその表現は――ああもう」
彼女の額にそっと口付ける。枯れてなくてよかったですねー、とムードもへったくれもない台詞を口にする少女と
この先ずっと結果の見えている勝負をし続ける覚悟を決めて。
「頑張ってくださいね、先生」
僅かに上気した頬で楽しそうに微笑む恋人に、せめてもの反撃を試みるつもりで
「……頑張ります」
と苦笑してから、深く深く、唇を重ねた。
343199:2009/10/04(日) 10:18:43 ID:Jo9FPkhw
お粗末様でした。
俺……今抱えてる仕事が終わったら……今度こそエロシーン書き上げるんだ……。

なんかもう毎回いろいろとすいません。
344名無しさん@ピンキー:2009/10/04(日) 10:44:48 ID:VOQRsOCa
書き上げてから投下するという方法もある。
345名無しさん@ピンキー:2009/10/04(日) 12:56:29 ID:Zq6tM0mQ
199さんktkr
相変わらず原作の雰囲気を壊さない望カフは見事としか言いようがない
エロも待ってるよ!!!
346名無しさん@ピンキー:2009/10/04(日) 13:49:53 ID:vjC24tFI
>>336
コナンスレとか悲惨すぎるもんな
347名無しさん@ピンキー:2009/10/04(日) 17:32:40 ID:FPywkSKx
199さんが来るのをずっと待ってたんだよぉぉぉおおおおぉぉおぉ
乙でした、また待つ作業に戻ります
348名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 14:26:05 ID:9lkUKUPq
>>346全てのレスが叩かれるハヤテスレからきました。
349名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 15:47:45 ID:fHXz33VF
格が違うとか持ち上げといていざ出てきたらスルーとかお前ら怖いw
350199:2009/10/05(月) 19:33:03 ID:3Mw3nJc/
総マンセーされたくて書いてるわけじゃないし
好みにあったらレス、今回はちょっと…だったらスルーは
正しい判断かと。むしろエロパロ板なのにエロなし投下なんて
叩かないだけここの住人は優しい方ですよ。
レスがないのが何よりのレスだと思って頑張ります。

ごめんなさい投下以外ではできるだけコテハン控えてるんですが
これだけは言いたかった。
351名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 20:26:06 ID:LkU0dsxy
自分はみんなのレスで賑わってる方が割と好きなんだが職人でもないのにレスをしろっつーのも変な話か
352名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 20:52:35 ID:TJqda1Jw
まぁ199とかは既に旬が過ぎた人だからな
353名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 21:49:58 ID:87BzfdB7
カップリングの好みが合わないSS以外は読んでるけど、文才のない私はいざ感想を書こうとすると
「○○ちゃんきゃわいい!!!!キュンキュン!!!!!!」
しか思いつかず、ワンパターンでキモくなりそうなので自粛しているのです。
354名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 23:43:30 ID:f0R0DWkd
まあ文才がないなら別に無理して書く必要はないと思うぞ。
355名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 23:45:46 ID:3qoRJtZD
ゴタゴタついでに聞いてみるが>>351の職人でもないのにレスをしろの意味がわからん…
感想言ってるのはレス職人、とか?
356名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 00:48:58 ID:rD9hEUWU
このスレじゃ感想にまで文才求められるのかw
357名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 01:12:18 ID:ZyLZaol9
荒らし目的でわざと傲慢なフリをしているのだと信じたい
358266:2009/10/07(水) 01:49:43 ID:HkC/6sy9
うおおおおっ!!!
199さん、遅ればせながらGJです!!
この可符香と先生の距離感、空気感、たまらないですっ!!!

一応、私も書いてきました。
先日のマガジンに掲載された196話、「くみあはせ」の終盤で記憶喪失になった先生をめぐって、
霧やまとい、あびるに真夜、千里が次々と望の後頭部を強打しては強奪していく話を基にしたSSです。
本来はエロありにしようと思っていたのですが、すみません、色々考えてしまって今回もエロなしです。

それでは、いってみます。
359266:2009/10/07(水) 01:50:37 ID:HkC/6sy9
先生が記憶を失った。
買い物途中に拉致された糸色望は幾度となく頭を強打されて、いわゆる記憶喪失の状態に陥ってしまった。
自分が誰なのかすらも判らなくなってしまった望。
しかし、これは彼に思いを寄せる女子生徒達にとっては最高のチャンスでもあった。
まず、望にアプローチを仕掛けたのは霧。
霧は真っ白になった望の記憶に、自分と望は結婚していたのだという認識を植えつけようとした。
一時は上手くいくかと思われたこの作戦だったが、他の女子達も指をくわえて見ている訳ではなかった。
今度はまといが望を連れ出し、後頭部を強打する事で記憶をリセットしてしまう。
ところが今度は真夜が望を連れ出し、同じ目的で後頭部を強打。
さらに、あびるも望を連れ出して、またもや後頭部を強打。
最後にやって来た千里のスコップが見事なまでにジャストミートして、そこで望は限界を向かえた。
立て続けの衝撃ですっかりダメになってしまった望の頭は、一時は猿並みの知能にまで落ち込んでしまった。
そして、宿直室で療養を続けていた望がようやく正気に返ったのは一週間後の事だった。

ガラガラガラ。
宿直室の入り口の引き戸を開いて現れたのは、千里、あびる、真夜の三人。
彼女達は望が回復したという知らせを聞いて駆けつけてきた。
「あっ、千里ちゃん、あびるちゃん、真夜ちゃん!」
扉の開く音を聞いてやって来た霧に、千里が尋ねる。
「先生が元に戻ったって、本当!?」
「うん。まだ少しボーっとするみたいだけど、自分が誰かも判るし、頭もしっかりしてるみたい」
嬉しそうに微笑んだ霧の言葉に、千里達はホッと胸を撫で下ろす。
自分達が原因で望に手ひどいダメージを与えてしまった事に、彼女達は強い責任を感じていた。
確かに望が何かにつけて暴力を振るわれるのは、2のへの面々にとってはありふれた日常の出来事だった。
だけど、今回は少しばかり事情が違った。
彼女達は望と結ばれたいと願うあまりに、際限を忘れて暴走し、望を壊れる寸前まで追い詰めてしまったのだ。
「先生に、謝らなきゃね……」
呟いたあびるの言葉に、他の三人が肯く。
「先生はこっちで寝てるから……」
そして、千里達は霧に先導されて宿直室の中に敷かれた望の布団の横に腰を下ろした。
「やあ、あなた達も来てくれたんですね」
「先生、無理なさらないで……」
千里達の姿に気付いた望がよろよろと起き上がろうとするのを、すぐ傍らに座っていたまといが支える。
「平気ですよ。これでも見た目よりはずっと頑丈なんですから」
そうやって強がって見せる望の微笑みが、今の千里達の心には痛かった。
「ごめんなさい、先生……」
「ど、どうしたんですか?あなたがそんなにしおらしいと、こっちが逆に困ってしまいますよ」
沈痛な面持ちで千里が頭を下げる。
そして、戸惑う望の目の前で、霧が、まといが、あびるが、真夜が次々と頭を下げた。
「ちょ…あなた達まで……!?」
「ごめん、先生」
「ごめんなさい、先生」
「先生、ごめんなさい……」
「…………」
頭を下げた少女達にずらりと囲まれて、望の困惑もピークに達する。
「そんな……頭を上げてくださいよ」
「先生……。先生はもう、記憶を全部取り戻したんですよね?先生に怪我をさせたのが私たちである事も……」
静かに語りかけるあびるの言葉に、ようやく望も彼女達の意思を汲み取る。
「………そうですね。確かに今回のは、いつもよりかなり効きました。暴力を振るうのも褒められた話ではありません」
望は改めて、優しい口調で少女達に向けて語る。
「でも、まあ、一度暴走し始めたら止まらないあなた達の事ですから……そうですね。次はもう少しお手柔らかにしてもらえれば
後はこうして、きちんと謝ったんですから、それでもう十分じゃないですか……」
望の言葉を聞いて、五人の少女達はゆっくりと頭を上げる。
「だから、もうそんな顔をしないでください……」
「先生……」
五人の少女達の顔にようやく笑顔が戻る。(若干一名、外からではわからない娘もいるが)
その様子を見て、望も安心した表情でウンウンと肯く。
ともかく、後は望が完全に復調すれば、今回の事については一件落着、この時、なごやかな空気の中で誰もがそれを疑っていなかった。
だが、しかし……。
360266:2009/10/07(水) 01:52:29 ID:HkC/6sy9
「それにしてもさっきは驚きましたよ……」
「私たちが謝ったのがそんなに意外ですか、先生?」
「いや、それもありますけど……ほら、さっきからなんだか他人行儀だと思ったら…」
「他人行儀……って、何の事です?」
顔に疑問符を浮かべる千里に対して、望が口にした言葉は五人の絶望少女達をさらなる混乱の中に引きずり込むものだった。
「先生、先生って……そりゃあ教室ではそう呼んでもらった方が助かりますけど、ここでは『望』ってちゃんと呼んでくださいよ、……千里」
「へ……?…えっ!?」
唐突に下の名前で呼ばれて、千里は目を白黒させる。
さらに、望は他の少女達をぐるりと見回して
「霧も、まといも、あびるも、真夜も、みんなちょっとおかしいですよ?」
「き、き、霧って……えっ?…せ、先生!!?」
「な、何を言ってるんですか?」
「そう呼んでもらえるのは嬉しいけど……いきなりどうして?」
「………(困惑しつつも頬を染めている)」
そして、戸惑う絶望少女達の前で、望はこれ以上ないくらいとんでもない発言をした。
「どうして、って………そりゃあ、私たち六人一緒の夫婦じゃないですか」

つまるところ、望の記憶は完全には元に戻っていなかった、そういう事だった。
なんとか意識と、これまでの記憶のほとんど全てを取り戻した望だったが、そこに致命的な混乱が生じてしまったのだ。
望を巡る絶望少女達による争奪戦が起きたとき、彼は偽物の過去の情報を刷り込まれては後頭部を強打されてそれをリセットされた。
しかし、頭部を強打される毎に消え去ったように見えたそれらの情報は脳の奥深くに蓄積されていった。
そして、望の意識が覚醒へと向かい始めたとき、望の脳はそれぞれ矛盾するその記憶を合理的に処理するために、それらを一つにまとめ上げた。
即ち、望と五人の絶望少女達、合わせて六人が共に暮らす夫婦であるとする架空のストーリーを作り上げたのだ。
というわけで……
「はい。リストにあったものはきっちり買ってきたわよ。それから、シャンプーもちょうど切れそうだったから、買っておいたわよ」
「ああ、気付いてなかった……。ありがとう、千里ちゃん」
商店街からの買い物から戻った千里に霧が礼を言う。
「今夜は確か、肉じゃがだったわね?」
「うん。後はお味噌汁の具を何にしようか決めてなかったんだけど……」
夕食について話し合う霧と千里の横に、今度は真夜がひょっこりと顔を出す。
「…………」
「手伝ってくれるの?それじゃあ、まずはジャガイモの皮むき、お願いできる?」
コクリ、肯いた真夜は早速大量のジャガイモの皮むきにとりかかる。
ほとんどが女の子だけとはいえ、人数が多いのでかなりの量になるのだ。
と、そこに今度は宿直室の入り口扉がガラガラと開く音が響いた。
「ただいまー」
「おかえり、あびるちゃん。アルバイトお疲れ様」
動物園のバイトから帰って来たあびるの体には、新しい包帯が巻かれていた。
「また、怪我したの?」
「平気。いつもの事だから」
心配そうに問いかけた霧に、あびるは柔らかく微笑んで答える。
あびるが着替えのために部屋の奥に行ってしまうと、今度は窓の外から望の声が聞こえてきた。
「洗濯物、もう取り込んでおきますね」
「はい、せんせ……じゃなくて……望さん…お願いします」
応えた霧の声は、慣れない呼び名に戸惑いを隠せずにいた。
「まといは向こう側の洗濯物をお願いしますね」
「わかりました、……の、望…さん……」
そしてそれは、外で望の手伝いをしているまといも同様らしかった。
無理も無い話しではあった。
望が目を覚ましてから、既に一週間が経過しようとしていた。
あの日、望に生じた記憶の混乱に責任を感じた五人の少女達は、それが偽物の記憶である事を彼に理解させようと口々に説明した。
しかし、望はポカンとした表情を浮かべたままで、彼女達の言葉の意図するところすら理解できていないようだった。
なにしろ、望にとっては五人の少女達と夫婦であったという偽の記憶の方が真実なのだから。
それでも、彼女達の話に真剣に耳を傾け続けた望は最後に……
「つまり、私の記憶も、信じてきたものも、そして何よりあなた達へのこの気持ちも全てが嘘っぱちだったというわけですね……」
寂しそうにそう言って、笑った。
「未だに信じられませんけれど、他ならぬあなた達が言うんですから、本当なんでしょう……」
五人の少女達はそんな望を見捨てる事が出来なかった。
361266:2009/10/07(水) 01:53:13 ID:HkC/6sy9
「ち、ち、ち、違いますっ!!」
千里が叫んだ。
「えっ?千里…じゃなくて、木津さん、何を言って?」
「違うんですっ!!全部間違いなんですっ!!!!」
どうにか望を救いたくて口を開いたものの、何を言っていいかわからず千里は同じ言葉を何度も繰り返してしまう。
と、そこに今度はあびるからの助け舟が入る。
「これは……テスト。そう、テストだったんです」
「テスト、ですか?」
あびるの言葉を引き継いで、今度はまといが口を開く。
「そうです。絶命先生からの指示で、せんせ…違った…の、の、望さんの記憶がしっかり戻ったかどうか確かめるために……」
「本当の記憶が揺らいでいないか確認してたんだよ」
そして、最後を締めくくった霧の言葉を聞いて、望の顔にようやく安堵の表情が浮かんだ。
「そうか……そうだったんですね。…でも、命兄さんも意地悪ですよ。こんな方法で確認をとろうとするなんて…
本当に…どうにかなってしまうんじゃないかと思いました」
見れば、望の両手は傍目からでもわかるほどに、ブルブルと震えていた。
よほど、霧達に自分の記憶を否定されたのが恐ろしかったのだろう。
真夜が無言でその震える手の平に、優しく自分の手を重ねた。
「だから、先生、安心してください。明日からはまた元通り、みんなで一緒に暮らしましょう」
そして、千里のその言葉と共に、望と五人の絶望少女達の奇妙な夫婦生活が始まったのだった。
交は幼いなりに何かを察したのだろうか、望が目覚めたその日の内に倫の家へと出て行ってしまった。
そして、狭い宿直室の中、手探りで始まった共同生活は七日を経て、ようやく一定のリズムが生まれていた。

「「「「「ごちそうさま」」」」」
夕食が終われば次は後片付けだ。
人数が多い分、洗う食器も多いけれど、それぞれ分担して仕事をこなせばそんなに時間は掛からない。
「そしたら、ラインバックがすごく嬉しがって……あの子ったらはしゃぎ出すと止まらないから」
「その度に生傷増やして帰ってくるのは、こっちとしては冷や汗ものなんですけど」
苦笑しながら言った望に、千里も続く。
「そうよ。あなたが動物大好きなのはわかるけど、もう少し気をつけないと」
「そうだね。でも、あの尻尾を目の前にするとつい我を忘れちゃって……」
一日の仕事を終えて、談笑する六人の様子はなごやかなものだった。
最初の二日ほどは少しぎこちなかったが、元来この六人は知らない仲ではない。
次第に夕食後のこの時間はこんな風に日常のこまごまとした話題で会話を交わすのがお決まりとなっていた。
この時間があったお陰で、望の記憶の混乱から始まった生活に後ろめたさを覚えていた少女達の気持ちもだんだんと落ち着いていった。
現在、最大の問題はまた別のところにあった。
「みんな、お風呂沸いたよ」
霧の声が聞こえて、みんな顔を見合わせた。
「今日は誰から入りますか?」
「動物園のバイトもあったし、一番に汗を流したいんじゃない?」
「それじゃあ、一番風呂、もらおうかな…」
元々が宿直の教師が一人で過ごすように作られた施設である。
風呂も当然小さなものであり、望と霧とまだ小さな交で使う分には不自由しなかったが、その倍の六人ともなれば事情はかなり違ってくる。
途中、水を足して沸かしなおしたりしても、湯量の限界は補い難いものがあった。
「たまにはのんびり、銭湯とかどうです?」
望の背後にぴとっとくっつきながら、まといが言った。
「そうですね。悪くないと思いますよ。広いお風呂はやっぱり気持ちいいですからね」
「…………」
話を聞いていた真夜も、無言でコクコクと肯く。
「でも、小森さんはどうするの?」
「私はいいよ。その分、こっちのお風呂をたっぷり使えるしね」
「それじゃあ、明日にでも早速行ってみましょうか」
おだやかな会話と、絶え間ない笑い。
明るい空気に包まれた宿直室はこれ以上ないくらい平和に見えた。

だが、今この瞬間も、少女達は忘れてはいなかった。
これが、自分達が発端になって生み出された、偽物の幸せである事を。
362266:2009/10/07(水) 01:54:38 ID:HkC/6sy9
例えば、それは夜、狭い部屋に敷き詰められた布団の並びから薄っすらと透けて見える。
「これから……どうなるんだろう…?」
なかなか寝付かれず、布団の中でゴロリと寝返りを打ちながら霧が呟いた。
隣にはすやすやと眠る望の顔が見える。
霧がこの場所で、望の一番近くで寝ているのは、彼女がこれまで一番長く望と生活を共にした人間だからだ。
誰が言い出した訳でもない。
一番最初の夜、布団を敷いた時、気がついたらこうなっていた。
多分、誰もが後ろめたいのだろう。
望は記憶の混乱によって生まれた偽物の過去の中で生きている。
その中で、少女達は少しでも本当の彼の過去の生活の、その名残を残そうとしているのだ。
望を挟んだ向こう側、彼にピッタリとくっついて眠るまといの行動も、いつものストーカー行為によって、昔を取り戻そうとしているのかもしれない。
いつもなら望の隣を巡って争う事になるはずの千里やあびるも黙ったまま。
不器用な真夜は部屋の一番端っこで寂しい背中をこちらに向けて眠っている。
「全部…私たちが仕出かした事だけど…でも…いつまでもこんな事、続けてられないのに……」
やはりどう考えても、望を間違った記憶の中にとどめておく事が良い結果をもたらすとは思えなかった。
だけど、あの時不安に怯える望を見て、霧達は決断してしまった。
一度始まった偽物の夫婦生活はいつしか彼女達自身をも飲み込んで、脱出不可能の底なし沼になろうとしている。
「あの時…私が先生のお嫁さんになろうとなんてしなければ……」
霧の胸は罪悪感ではち切れてしまいそうだった。
望争奪戦の一番手となり、今も歪んだ共同生活をずるずると続けている事。
そして何より、この現状にわずかばかりの幸せを感じている自分が、霧にはどうしても許せなかった。
ほんの小さな違いだけれど、霧にはわかる。
今の望の五人の少女達に対する態度は、一見すると今までと変わらないように見えるけれど、彼女達を妻として気遣うものに変化していた。
それは、霧が長い間望んで得られなかったものである。
嬉しかった。
たとえ五人一緒とはいえ、望が自分の事をそういう目で見てくれる事が霧にはたまらなく嬉しかった。
そしてだからこそ、間違った方法で手に入れた幸せに浮かれる自分が、とても汚いものに思えた。
「ごめん…先生…ごめんなさい……」
震えながら霧は呟いた。
その時である。
「そんなに自分を責めないでください、霧……」
やさしい感触が頬を撫でた。
気がつくと、いつの間に目を覚ましたのか、望が霧の瞳を覗き込んでいた。
「気にするな……なんて、気楽には言えませんけど、私の頭の一件はもう過ぎた事なんですから……」
「あ……うぁ…せんせ…」
それは違う。
そう叫びたかった。
全ては現在進行形の出来事であり、取り返しのつかない事態になろうとしているのだと。
そして、今の自分はそれを承知で、偽りの安寧の上に胡坐を書いているのだと。
だけど、喉元まで出掛かった言葉は、口から出る前に砕けて消えてしまう。
(ダメだよ、先生。私、こんな意気地なしの卑怯者なんだよ……)
優しく頬を撫で続ける望の手のぬくもりが悲しくて、ぽろぽろ、ぽろぽろと霧は涙をこぼし続けた。

翌日も、表面上だけは何事も無いように、宿直室の日常は続く。
「なんで復帰させてくれないんでしょうかね?私はもうすっかり元気なのに」
「そ、そうですよね…。でも、怪我した部分が部分ですし、大事をとれって事じゃないでしょうか?」
誤魔化すように答えたまといの言葉にも、彼の表情は晴れない。
目を覚ましてから一週間、怪我をした時から数えればおよそ半月近くも休んでいるというのにまだ学校に戻る許可が下りない。
その事を、望はかなり気にしているようだった。
まさか、怪我の後遺症が現在もしっかり残っているから、などと言えるはずも無く。
まといは曖昧な笑顔を浮かべる事しかできない。
(私があんな事をしたから……)
記憶を失った望が霧のところにつれていかれたとき、まといはほとんど無我夢中で行動していた。
望を他の誰かに渡したりしたくない。
望の一番近くにいるのは自分なのだ。
もし、再び記憶をリセットする事で望が自分の事だけを見てくれるようになるのなら……。
ならば、躊躇う理由など何一つ無い。
あの時は、本気でそう思っていたのだけど……。
今になって理解した。
それは自分の愛する望の心の大切な部分までも損なってしまう、決してやってはいけない方法だったのだ。
363266:2009/10/07(水) 01:55:37 ID:HkC/6sy9
そして、それ以上に許せないのは
(私は、まだみんなに嫉妬してる……)
まといは、心のどこかで現在の状況、五人の少女が望と共に暮らすという生活に不満を感じていた。
霧も、千里も、あびるも、真夜も、全て追い出して望を自分だけのものにしたい。
この期に及んで、そんな考えが浮かんでしまう自分がひどく醜く感じられた。
「ちょっと、命兄さんのところに行って、今後の事について相談してみましょうか」
やはり先行きの事がよほど不安なのだろうか。
望はそう言って立ち上がり、宿直室の扉の方に歩いていく。
まといもいつものように、気配を殺して望の背後に立ち、その後をついて行く。
だが、学校の校門をくぐってしばらく進んだとき
「…………」
ピタリ、まといの足が止まった。
「許してください、先生……」
そして望の気付かぬままに、まといの姿はどこへともなく消えていったのだった。

一方、そのころ藤吉晴美の部屋では……
「どしたの、千里?さっきから、ずっとボンヤリして」
「ん?あ、ああ……晴美、ごめん。すっかり手が止まってたね」
「いや、それは大丈夫だよ。もう少しで原稿も片付いちゃうし」
「うん……」
きっちり几帳面で、いつもはっきりと物を言う親友が、こんな状態になっている事について大体の察しはついていた。
「また先生の事、考えてたの?」
晴美の問いかけに、俯いたままの千里は黙りこくっていたが、やがてぽつりぽつりと心情を吐露し始める。
「本当は、きっちり伝えなきゃいけないってわかってる。このままじゃいけないって……」
記憶の混乱した望の傍にずっと居続ける事。
それはあの時、自分の記憶が偽物であると知らされて、怯える望を見た少女達が本心から選び取った行動だった。
だけど、その一方で、望の妻でいられる時間を嬉しく思っていなかったと言えば嘘になるだろう。
望の千里に対する態度は、基本的にはあの怪我を負う前と変わらない。
しかし、彼の言葉や行動の端々に、妻として千里を大切にしようとしているのが感じられた。
そのさりげない気遣いに、千里はどれだけ心躍らせた事だろう。
「でも、それじゃいけない。先生をこのままにしてちゃいけない。それは分かってたのに……」
本来ならば、少しずつ、望が現実を、本物の過去を受け入れられるように導いてやらねばならなかったのだ。
五人の少女達が生活を共にするのは、それまでの暫定的な措置であるべきだったのだ。
だけど、千里にはそれが出来なかった。
思いがけない形で縮まった望との距離を壊してしまいたくなかった。
「ほんと、いつも言ってる割には、きっちりしてないわよね、私……」
「千里……」
晴美は千里にどう言葉を掛けていいかわからなかった。
何故ならば、彼女も理解しているからだ。
千里が望に向ける感情と同じものを、彼女もまたほのかに心の奥に抱いているのだから。
(このままじゃ、ダメ……だけど)
どんなに言いつくろったところで、現状のままの生活を続ける事は望にとって良い結果をもたらすとは思えない。
しかし、望に本当の記憶を戻す作業は、彼に恋焦がれてきた千里の心には耐え難いものだ。
選ぶべき道は最初から明らかなのに、千里にはそこに進む勇気がない。
ならば、このまま望を偽物の世界に引き止め続けるだけの自分がとり得る最善の選択肢は何なのか?
(やっぱり、いけない事をしたツケは、きっちり払わなくちゃね……)
その答えは既に、千里の心の中にはっきりと浮かび上がっていた。
364266:2009/10/07(水) 01:57:29 ID:HkC/6sy9
昔から、自分の気持ちを人に伝えるのが苦手だった。
特に、相手を『好きだ』と思うその感情は、気がつけばいつも彼女を、三珠真夜を暴走させていた。
殴って、叩いて、火をつけて……。
何故かこれまでその行為を咎められた事はなかったけれど、好きな誰かを傷つけてしまう矛盾はいつも彼女を悩ませた。
だけど、この一週間、彼女のそういった行動は、どういうわけか鳴りを潜めていた。
その事に真夜自身が気付いたのは、いつも馴染みの彼と出会ったからだった。
「わうっ!!」
(あ、いつもの……)
見慣れた顔の犬が真夜の顔を見上げながら、嬉しそうに尻尾を振っていた。
真夜はこの犬の事が好きだったのだけれど、彼女の愛情表現はいつも斜め上に飛んでいってしまって、
真夜は犬に出会うために、そのお尻の穴に棒をつっこむという、あんまりな悪戯をしかけてしまっていた。
だが、今日の真夜は不思議とそんな事をする気になれない。
(たぶん、先生の事があったからだ……)
真夜たちによる連続後頭部強打のせいで、望は自分の過去さえ見失ってしまった。
以来、真夜は事ある毎に暴発してしまう自分の感情と行動を、どこか恐れるようになっていた。
そもそも、今までの方がおかしかったのだ。
自分の愛情表現が一つ間違えばどれだけ致命的な結果をもたらすのか、考えればすぐに解る事なのに……
「くぅん……」
足元に擦り寄ってきた犬を見て、真夜はしゃがみ込んだ。
震える手の平で、そっと犬の頭に触れる。
「わう……」
犬は気持ち良さそうに目を閉じて、真夜の手の平に撫でられる。
(こんなに…こんなに簡単な事だったのに……)
こんな風に望に触れられれば、彼の記憶を捻じ曲げてしまう事などなかった筈なのだ。
だが、全てはもう遅い。
ぽろぽろ、ぽろぽろと、真夜の瞳から涙が零れ落ちる。
後悔と自責と、それでも消えない望への好意と愛情。
激しい感情は真夜の胸の中を容赦なくかき乱した。
「わうぅん?」
突然立ち上がった真夜を、不思議そうに犬が見上げる。
真夜はセーラー服の袖口でぐしぐしと涙を拭い、そのまま駆け出して行ってしまった。
その孤独な後姿が道の先に消えるまで、犬は走り去る真夜を見つめ続けていた。

「ところで、調子の方はどうだい?」
腕のひっかき傷に包帯を巻いてもらっている間、ぼんやりと考え事をしていたあびるは、命のその言葉でハッと我に返った。
「あ、はい…先生は元気にしてます。………記憶の方は相変わらず、あのままですけど…」
「違う違う、望のことを聞いたんじゃないよ」
慌てて答えたあびるに、命は首を横に振って
「君の調子はどうなんだ?」
「傷の事なら大丈夫です。慣れてますから。それにラインバックも最近、じゃれつくときの加減をわかってきてくれたみたいだし」
「そうか。それじゃあ、君のメンタル面についてはどうだい?」
「えっ……?」
「元々あまり喋る方じゃないけれど、最近は特に元気がないように見える」
命の言葉に、あびるはどう答えていいかわからなかった。何故なら、それは彼女自身が自覚していた事でもあったからだ。
「君達五人が望と生活を始めたのは、記憶の混乱が起こっている望になるべくショックを与えないように、現実に引き戻してやるためだった」
「はい……」
「だけど、今では君の方が憔悴しているように見える。望との生活が君たちの負担になっているようなら、別の手段を考えるべきだ」
あびるの瞳を覗き込む命の表情は真剣そのものだった。
だからなのだろう。あびるはポツリポツリと、内心に秘めていた思いを口にし始めた。
「……それも、ちょっと違うんです」
「違う、というと?」
「苦しいんです。先生やみんなとの生活が上手くいけばいくほど、なんだか逆に本当の先生から遠ざかってるみたいに感じられて……」
あびる達の今の生活は、望に生じた記憶の錯誤が前提にあるものだ。これは本当の、本物の先生の気持ちではない。
それを理解しながら現在の生活を続ける事は、あびるの心に深い葛藤を生み出してしまった。
現在の望のその心の奥にあるのは、自分達が原因で作り上げられた偽の記憶なのだ。
ならば、望が見せてくれる思いやりも、同じく偽物と言っても過言ではないのではないか。
「先生が優しい言葉をかけてくれる度に、笑顔を見せてくれる度に、すごく嬉しくなるんです。
でも、それが本物じゃないって本当はわかってる。だから、私、ときどき自分の気持ちがわからなくなってしまいそうで……」
言いながら、あびるが浮かべた苦笑いは、とても寂しげで、この少女が今どれだけ精神的に追い詰められているかを命に教えてくれた。
365266:2009/10/07(水) 01:58:31 ID:HkC/6sy9
「やはり、現在のままの状況が続くのは良くないようだな。他の娘達も同じような状態じゃないのかい?」
「でも、私たちがいなくなったら、先生は……」
あびるの脳裏に、記憶を否定されたときの望の怯えた表情が蘇る。
「先生を見捨てるわけにはいきません」
「だからといって、これ以上君達が傷ついていい理由にはならない。近いうちに望にも話して、治療方針を大幅に変えよう」
あびるにはもう何も反論できなかった。
確かに、彼女自身を含めた少女達の心は、一見平静を保ちながらも、実は限界ギリギリにまで達しようとしていた。
あの時、望に手を差し伸べた事が正解だったのか、それも今は解らない。
ただ、自分達にもう望を助ける力がないというのなら、素直にそれを受け入れるしかないのではないか。
あびるはぼんやりとそう思った。
「とりあえず、今日話した件についてはしばらくは内密にしよう。だけど、いずれ準備が整ったときには……」
「はい。わかってます……」
一礼して、あびるは診察室を出て、糸色医院を後にした。
無意識に踏み出した足の向かう先が望達の待つ学校とは反対方向である事に、彼女自身、気付いてはいなかった。

「全く、命兄さん、結局具体的なアドバイスをくれないんですから……」
ブツブツと呟きながら、糸色医院から望が帰って来た頃には既に時間は夕方の六時を過ぎようとしていた。
命の対応に文句を言っていた望だったが、どうにも気がかりな事が一つだけあった。
「それに、妻達をちゃんと気遣えって、一体どういう意味なんでしょうか?」
妙に真剣な表情で命が言った台詞を、望はもう何度も頭の中で反復していた。
「確かに、このまま私が仕事に復帰できないと、彼女達も不安でしょうけど……」
訳もわからず、その事について考え続けていた望だったが、ふいに昨夜の記憶が蘇った。
『ごめん…先生…ごめんなさい……』
ぽろぽろと涙をこぼしながら、望に謝っていた霧の顔。
どうして彼女が自分を責めるのか、何か頭の怪我の一件以外にも理由があるように感じたのだが、
それが具体的には何であるのか、今の望には全く見当もつかない。
だが、それと同じように、他の四人の妻達も何がしかの悩みを抱えているのだとしたら……。
「まさか……でも、私の事がやっぱり彼女達の負担になっていたんでしょうか……」
考え込みながら歩いている内に、気がつけば望は宿直室の前まで辿り着いていた。
「とりあえず、みんなからじっくり話を聞いてみなければ……」
呟きながら、扉を開いた望はその向こうの光景に思わず息を呑んだ。
「えっ……!?」
無人の宿直室。
差し込む西日に照らされた部屋の中には人っ子一人いない。
「おや、お帰りになられましたか?」
と、その時、背後から聞こえた、耳慣れない声に望は振り返った。
「あ、あなたは誰です?関係者以外が校内に入る事は…」
「おや、小森さんの方からお聞きになっていませんか?私、全座連から派遣されたものです」
まだ10代の半ばにも達していないのではないだろうか?
声の主の少年は大人びた喋り方とは裏腹に、背も低く、ゆったりとした着物を着たその姿はまさに座敷童そのものだった。
「全座連から?一体、どうして?」
「本当に何もお聞きになっていないんですね。実は小森さんがこちらの学校から出るという事で、補充要員の要請がありまして」
「そんな…霧が……っ!!?」
望はその言葉に愕然とする。
昨日、彼女が見せた涙と謝罪の言葉、あれにはやはり何か言い知れぬ事情があったのだ。
「霧……いったい、どうして?」
訳もわからず、頭をかかえる望は、ふとちゃぶ台の上に置かれた紙の存在に気付く。
そこに書かれていたのは
『ごめんなさい。突然ですが、この家を出て行こうと思います。
先生をこんな風にしてしまった私が、平気な顔で先生と一緒に暮らすなんてやっぱり許されないと思うのです。
多分、先生は私の事、心配するよね。
でも、どうか気に病まないで。全ては、私の仕出かした事なのだから……。
ごめんなさい。本当に、本当の本当に、ごめんなさい。  
                                    小森 霧』
「そんな…霧……」
震える手で手紙を持ったまま、望は呟いた。
366266:2009/10/07(水) 01:59:42 ID:HkC/6sy9
そして、気付く。
いつもなら、この時間、この部屋には共に暮らす少女達の姿がある筈なのに……。
(まさか、みんなまで……)
最悪の可能性を想像して、望の顔が青ざめていく。
「まといっ!まといっ!!いないのですか、まといっ!!?」
藁にもすがる気持ちで、いつも自分のそばから離れなかった筈の少女の名を叫ぶが、返事は全く返ってこない。
たった一人ぼっち、宿直室に残された望は、ただその場に立ち尽くしている事しかできなかった。

それから二時間以上が経過しただろうか?
霧は線路沿いの道を当ても無く、一人歩いていた。
「先生、今頃どうしてるかな………?」
昨夜、涙を流す自分に、望が優しく頬を撫でてくれた時の事がありありと思い出される。
それでも行かなければならないと、霧は思っていた。
今の彼女にとって、自分が望の近くにいる事、それ自体が罪悪なのだ。
遠くへ。
少しでも、望から離れた場所へ。
ただそれだけを考えて、霧は歩を進める。
普段、部屋の中に引きこもっているせいで、運動不足の足はすぐに悲鳴を上げたが、彼女は少しも気にしなかった。
ただ、時折零れる涙が視界を滲ませて、前が見えなくなってしまうのだけは困りものだったけれど。
「ごめん…ごめんね、先生…勝手に出て行って心配してるよね?怒ってるよね?…でも、だけど、私……」
離れれば離れるほど、強くこみ上げてくる望への想い。
しかし、だからこそ、霧は望の元を離れなければならないのだ。
その想いが結局は、望から正しい過去と自由な意思を奪い去ってしまったのだから。
やがて、霧の進む道の先に駅が見えてきた。
霧はジャージのポケットから財布を取り出し、いくら入っているか金額を確認する。
「やっぱり、そんなに余裕はないな。慌てて飛び出したから、あんまりお金持って来れなかったし……」
このお金で買える限界ギリギリの額の切符を買って、どこか遠くへ行ってしまうのだ。
学校付近の駅を使わなかったのは、少しでも自分の足取りを誤魔化すため。
列車で行けるところまで行ったら、降りた場所からまた歩き続けて、辿り着いた街で何か仕事を見つけて暮らそう。
引きこもりである自分にどこまで勤まるかはわからないけれど、ダメだったのならその時に考えればいい。
駅舎の中に一歩足を踏み入れると、行き交う人の波が霧を圧倒した。
だけど、この人波にまぎれてしまえば、もうこんな自分の事なんて誰も目に留めはしないだろう。
電光掲示板で次の列車の時刻を確認し、財布の中身をほとんどひっくり返して切符の購入に宛てた。
改札をくぐり、人がごった返すホームで列車を待つ。
時間はもう残り少ない。
あと少しで、先生とも本当にお別れだ。
線路のずっと向こうに先頭車両のライトが見えて、こちらに向かってどんどん近付いてくる。
やがて、ホームに滑り込んできた列車はゆっくりと停まり、霧の目の前で自動扉が開いていた。
さあ行こう。
このまま、行った事も無い遠い場所で、先生が忘れてくれるまでひっそりと過ごすのだ。
きっと、先生は悲しむだろうけど、大丈夫、今の先生にはみんながいてくれる。
だけど、自分だけは。
全ての発端を作ってしまった自分だけは、先生の所にいるわけにはいかない。
霧はホームに並ぶ人波に押されるように、列車に乗り込むべく一歩を踏み出した。
そんな時である。
「霧っっっっ!!!!!」
聞きなれたあの声が乗客たちでごった返すホームのざわめきさえ吹き飛ばして、彼女の耳へと届いた。
「せん…せい……?」
振り返れば、改札口の辺りからこちらに向かって走ってくる望の姿が見えた。
同時に彼女の胸にこみ上げてきたのは早く行かなければという焦りと、罪悪感さえ跳ね除けて湧き上がってくる言いようの無い嬉しさ。
二つの感情の狭間で揺れ動く霧の心が、その足をしばしの間止めさせた。
そうだ。
いつだって、恋焦がれてきたのだ。
先生の傍から離れるなんて、本当は考えるだけでも嫌な筈なのだ。
「霧っ!待ってくださいっ!!霧っっっ!!!!」
367266:2009/10/07(水) 02:00:59 ID:HkC/6sy9
人ごみを掻き分けて、声が近付いてくる。
ダメだ。
行かなければ。
そう思っている筈なのに、霧の足は地面に貼り付けられたように動いてくれない。
それで、彼女は改めて悟った。
望の事が好きだと、ずっと思ってきた。
自分の中にあるその想いの強さを自覚しているつもりでいた。
ああ、だけれども、それは違ったのだ。
今だからこそ解る。
自分はこんなにも望の存在を必要としているのだと……。
「霧っっっ!!!!」
「先生っ!!!」
振り返り、望に向かって伸ばした手の平を包み込んだぬくもりは、霧にとって何にも代え難いほどに愛おしいものに思えた。

望から差し伸べられた手を取り、彼の元に戻る事を決意した霧。
その後、彼女は望から予想もしていなかった現在の状況について聞かされた。
「とにかく、宿直室にみんな戻っていないんです。倫に協力してもらって、目下捜索中ですが……」
「わかったよ、先生。みんなを連れ戻そう!!」
望の叫びを聞き、自分の中の強い想いに気付いた彼女の答えは決まっていた。

それから、望と霧は、倫からもたらされる情報を元に街中を駆け巡った。

「真夜っ!!」
「真夜ちゃんっ!!!」
「…………!?」
暗い路地裏に一人うずくまっていた真夜の元に駆けつけ、

「ラインバック…今夜はちょっと場所借りるね……」
「グルゥ……」
「あびるっ!!やっぱり、ここだったんですね!!」
「せ、先生……!?」
ラインバックの飼育小屋の壁に寄りかかって膝を抱えていたあびるを見つけ出し、

「ちょっと、寂しいわね。……でも、これで良かったのよね…」
「良くなんてありませんよ、木津さんっ!!」
「せん…せい?」
ほとんど街灯もない林の中の道を俯いて歩いていた千里の肩をそっと抱きしめた。

そして、最後の一人……

とある駅の近く、長距離バスの発着場にまといは立っていた。
いつもの袴姿ではなく、ごく普通の洋服に袖を通しているのは、望の元を離れる上での彼女なりのけじめなのだろう。
「こういうのを着るのも、ずいぶん久しぶりだな……」
思えば、望と出会い、彼に恋心を抱くようになってから随分と時間が経過してしまった。
何かと移り気で好きな人がころころと変わってしまう自分がこんなにも長い間、一人の人を好きでいられた事自体、何か不思議な気分だった。
「そっか、先生はいつもちゃんと私の事、見ててくれたから……」
今まで、まといが好きになった相手は、いつもその執拗なまでのアプローチに辟易して、彼女の事を疎んじるようになった。
だけど、望はまといのストーカー行為に迷惑顔を見せたりはしても、彼女を殊更に遠ざけようとしたりはしなかった。
呼びかければ必ず帰ってきた『常月さん』という優しい声が、今もまといの耳に残っている。
きっと、だからこそ、今まで好きになった誰よりも望の事を愛おしく思えたのだろう。
368266:2009/10/07(水) 02:02:08 ID:HkC/6sy9
「でも、やっぱり、私は先生と一緒にいちゃいけない……」
彼女は知ってしまった。
望が負傷し、正しい記憶を失ってしまったこの時でさえ、他の女性に嫉妬してしまう自分の心の凄まじさを。
それは、普段ならどうという事も無い心の動きだった筈だ。
想い人に近付く者があれば、それを妬んでしまうのは仕方のない事だろう。
だけど、まといは、望の心と体を何よりも気遣うべき時に、そんな感情を抱いた自分が許せなかった。
そして、自分では抑えられないこの強い感情の波は、きっといつか望を傷つけてしまうだろうと、そう考えたのだ。
まといは手の平の上の、バスのチケットに視線を落とす。
とりあえず、北に行こうと考えていた。
これからの季節、日一日と増していく寒さが、望に向けられた想いをいくばくかでも鎮めてくれるのではないかと考えたからだ。
ひゅうん。
通り抜けた夜風の意外なほどの冷たさに、僅かに体を震わせながら、まといが呟く。
「寒い……つい一月前はあんなに暑かったのに、もう少し、厚着して来れば良かったかな……」
「それなら、これからみんなで銭湯にでも行きませんか?」
「え……っ?」
ふわっ、と肩にかけられた外套のぬくもりと、忘れる筈もない愛しい人の声。
信じられないような気持ちで振り返ったまといの後ろに、彼はいた。
「随分探しましたよ、まとい……」
優しく微笑む望の背後には、霧が、真夜が、あびるが、千里がいた。
「先生、ダメですっ!…私は先生の周りにいちゃいけないんです……っ!!」
「何を言ってるんですかっ!!」
イヤイヤと首を振り、泣きじゃくるまとい。
その冷え切った手の平を、望の手のぬくもりが包み込む。
「本当の事を言うと、目を覚ましてからずっと不安で仕方ありませんでした。
私の記憶にはまだ欠落している箇所や、矛盾している部分がいくつもありましたから……」
「先生……」
「でも、一つだけ確かに覚えている事があったんです。………貴女達は私にとって、かけがえのない、大事な存在であると」
それは、重大で致命的な錯誤だった。
だけれども、同時にそれは誰も覆すことの出来ない、真実の言葉でもあった。
彼は間違いなく愛していた。
2年へ組、絶望教室と呼ばれるその場所に集まった生徒達を心底から大切に思っていた。
5人の少女達全員と夫婦であるという、とんでもない記憶の混乱の根っこには、動かしようの無いこの真実が横たわっていた。
刷り込まれた偽の記憶に対して、望の心の中に存在し続けていたその気持ちが強い背骨を与えたのだ。
まといも、望の背後に控えた霧も、千里も、あびるも、真夜もようやくそれを悟った。
「私には、貴女が、貴女達が必要なんです……っ!!!」
確かに全てが偽物だったかもしれない。
だが、望のこの言葉、この気持ちに偽りはないのだ。
徒に自分を責める必要も、形の無い不安に怯える必要も最初から無かったのだ。
理屈ではない。
望は彼女達を心の底から必要としていたのだ。
「先生っ!!私…っ!私……っ!!!」
涙をこぼしながら縋り付いて来たまといの体を、望が抱きとめる。
そして、霧も、千里も、あびるも、真夜も、同じように望にそっと抱きついた。
吹き抜ける秋の冷たい夜風の中でも、寄り添い合った六人の周りの空気だけは暖かだった。

その後、六人は宿直室に戻った。
残念ながら、その頃には銭湯の営業時間をとっくに通り越しており、約束通りの銭湯行きは無理になってしまった。
「仕方ないですが……いや、やっぱり残念ですね…」
「家がいいよ」
そう返した霧に、望は苦笑で答えるしかなかった。
霧の代理の座敷童の少年は皆と揃って戻ってきた彼女を見ると、どこか安心したように微笑み、引き止める望達に一礼して去って行った。
その後、望達は並べた布団に今日一日で疲れ切った体を横たえ、穏やかな眠りについた。
だが、霧だけは、駅のホームで望に手を握られたときの感触が残っているような気がして、何となく寝付かれなかった。
369266:2009/10/07(水) 02:03:07 ID:HkC/6sy9
『私には、貴女が、貴女達が必要なんです……っ!!!』
偽りの記憶の中にあって、唯一変わらなかった望の想い。
それは、いつか恋人として一対一で望と結ばれたいと願う、霧の想いをは少し違うものだけれど……。
「そっか…先生の中に、私もいるんだ……」
あの時、望の言葉から感じたその実感は、霧の心の奥にしっかりとしたぬくもりを残した。
そのまま、どれくらいの時間、暗い天井を眺めて過ごしただろうか?
「眠れないんですか?」
不意に隣の布団から、望の声が聞こえた。
「うん。今日は色々あったから……目が冴えちゃって…」
「そうですね。全く、大変な一日でしたよ」
霧は望の布団の方を向いて、薄闇の中でもわかるその微笑みに向けて、しみじみと語りかけた。
「でも、せんせ……じゃなくて、望さんのお陰で、みんなここに戻って来られた……」
しかし、一方の望は何やら考えるところがあるらしかった。
「本当に、そう言えるんでしょうか?」
「えっ!?」
「確かに私はあなた達を連れ戻そうと走り回りました。でも、その私自身が全ての原因だったとしたら……」
その次に望の口から出てきた言葉に、霧は言葉を失った。
「今日の事でようやく解りました。私の今の記憶は間違ったものなんですね?」
「………せ、先生!?」
「いえ、まだ本当の記憶というヤツを取り戻したわけではないんですけど、今日一日のみなさんの様子を見ていたら、何となく解ったんです」
目覚めてから一週間、五人の少女達と共に過ごす生活の中で薄っすらと感じていた違和感。
それが、何かから逃げ出すように望の元を去っていった彼女達の姿と重なったとき、突然に望は気付いた。
彼女達の心を追い詰めてしまったのは、彼自身の中にある大きな矛盾である事に。
その矛盾を取り繕おうとした事が、結果として少女達の心を疲弊させてしまったのだと、彼は理解したのだ。
「結局のところ、私がみんなを苦しませてしまったも同然なんです。だから……」
呟いた望の言葉には、強い後悔の念が滲みでていた。
しかし……。
「先生、違うよ………」
暗い表情を浮かべる望の頬に、霧はそっと自分の手の平を伸ばした。
そして、あの駅のホームで望の手から伝わったのと同じぬくもりが、今度は霧から望へと伝わっていく。
「みんな、先生と同じだったんだよ……」
「私と、同じ……?」
「みんな、先生を大切に思ってた。みんな、先生の事を必要としてた。それだけなんだよ……」
「霧……」
霧は思う。
結局のところ、望の記憶の混乱はきっかけに過ぎなかった。
それが、五人の少女達が抱いていた望への強い思いを、思いがけない形で解き放ってしまっただけの事。
それ以上でもそれ以下でもあり得ないのだと。
「だから、もう少しだけ……先生……」
「そうですね……きっと、そうなんでしょうね」
望の手の平が、彼の頬に触れる霧の手の平に覆い被さる。
指を絡み合わせ、手をつないだ二人の意識は、そのままゆっくりと安らかな夢の中に沈んでいった。
370266:2009/10/07(水) 02:04:05 ID:HkC/6sy9
以上でおしまいです。
失礼いたしました。
371名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 06:43:40 ID:a60Q3JSO
よかったよGJ
霧成分多めで嬉しい
372名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 20:24:34 ID:AC1GsOiR
>>370
話が深くて面白かったよ。お疲れ様
373名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 01:03:42 ID:HDMGq50a
乙でした
道徳的葛藤じゃなくてドタバタギャグに主眼が置かれていたら面白かったかも
374名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 17:51:15 ID:murbLC1S
266さん乙!
先生うらやましい、脳内でエロを追加したw
375266:2009/10/09(金) 21:36:20 ID:clgb1mWP
短くてエロなしなのを二本ほど書いてきたので投下します。
まずは一本目。
万世橋君とめるめるの話。
376266:2009/10/09(金) 21:37:29 ID:clgb1mWP
「ツインテールが好きだっ!!」
「髪留めのボンボンが可愛いっ!!」
「ちっちゃい手の平がたまんねえっ!!」
それぞれが芽留に対して魅力を感じる部分を主張して、より細分化された小さなファンクラブに分かれてしまったのだ。
まあ、芽留を溺愛する事にかけては他の追随を許さない芽留パパにかかれば
「全部っ!!!」
とばかりにそんな細かな違いの壁など全てぶち抜かれてしまうのだったけれど……。
【……なんでこうなるんだろうな?前に次回からオレが成長するってデマが流れたときも凄かったし……】
目の前で繰り広げられる、めるめるファンクラブ+芽留パパによる乱痴気騒ぎを、芽留は呆然と眺める。
「人気者は辛いな」
【うるせー、キモオタ!!!……ていうか、いつの間にファンクラブなんて出来たんだ?】
隣に控えていたわたるの余計な一言に言い返しつつも、芽留の口からはため息が一つ。
「……まあ、お前のクラスには、こういう事を誘導して楽しみそうなヤツもいるけど…」
わたるの脳裏に浮かんだのは、黄色いクロスの髪留めがトレードマークの例のポジティブ少女だったが
「たぶん、こいつらが勝手に始めた可能性の方が遥かに高いな。残念だが……」
芽留の一部層へのアピール力の強さは以前からのものだった。
こんな団体が結成されてしまうのも時間の問題だったのかもしれない。
【なんで当のオレの意思を無視して、勝手にファンクラブなんて始めちまうんだよぉ……】
「やめろって言ってもやめるような連中には見えないし、諦めるしかないな……」
ガックリと肩を落とした芽留の背中を、わたるは慰めるようにポンポンと叩いてやる。
その後しばらく、うなだれたままの芽留だったが、ふと何かを思いついて顔を上げ、わたるにこう質問した。
【んじゃあ、オマエはオレのどこが好きなんだよ?】
「んな……っ!?」
その発言に、わたるはしばし固まってしまう。
まずはわたるのそんな反応を期待していた芽留は意地悪な笑いを顔に浮かべて、もう一度尋ねる。
【どうなんだ?早く答えろよ?】
実際、それは芽留にとって興味のある事でもあった。
芽留パパのように、「全部」と言い切ってしまうのも一つの言い方ではあるが、
その相手の全ての部分を気に入っているとしても、「特にここが好き」というポイントはあるだろう。
わたるが一体自分をどんな目で見ているのか、芽留はそれが知りたかった。
それを、こういうタイミングで茶化したようにしか聞けないあたりは、いかにも芽留らしい発言だった。
だが、強情でひねくれ者な事ではわたるも負けてはいない。
377266:2009/10/09(金) 21:38:04 ID:clgb1mWP
「コイツ…そんな事を、今この場所でか……!?」
うめきつつも、わたるは芽留とそっくりの意地悪な笑顔を顔に浮かべ、こう答えた。
「そうだな。まずはその生意気で態度がデカイあたりが好きだな」
【なっ!?】
「ついでに言うと、とんでもなく口が悪いのもたまらなく好きだぞ」
反撃成功。
ニヤリと笑うわたるを、芽留はむーっと睨みつける。
このまま、コイツの言わせたいようにしてなるものか!!
【そうか……なら今度はオレの番だな…。オマエの脂肪だらけの体とその目つきの悪さには惚れ惚れしてるぜ】
「ほう、それはそれは嬉しい話だな」
【いやいや、オレの方こそオマエの話に照れちまったぜ】
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!!
二人の間で無言のプレッシャーがぶつかり合う。
まあ、毎度憎まれ口を叩き合っている二人には、ありがちなパターンだった。
この後は、そのまま喧嘩へとなだれ込むのがお決まりだったが、しかし、今回は少し違った。
【このヤロー】
「なんだとぉ……って、ん?」
何かに気付いたように、わたるが表情を変えた。
そして、
「そうか。そうだな。確かに好きだな……」
急にそんな事を言って、楽しそうに、嬉しそうに笑い出した。
【お、おい…いきなり何言って!?何の事だよ?】
「何って、さっきから話してるだろ?お前の好きなところの話だよ」
わたるはしゃがみ込んで、芽留にぐいっと顔を近づけた。
「生意気で態度がデカイところが好きだ。とんでもなく口が悪い所も好きだ……」
【な、な、な、何だよ、ソレ!!?】
先ほどと同じ言葉を、先ほどのからかうような調子とは違う、優しげな口調でわたるは言った。
「つまり、そういうお前が本当に、心の底から好きなんだよ、俺は……」
【えっ!?あ…うぅ……それ、なんかズルイ……】
時々腹を立てたり、さっきのように喧嘩もする、でも、それを含めた音無芽留と過ごす時間が、わたるは好きなのだ。
良いも悪いもなく、そういう芽留をわたるは愛していた。
「で、今度はこっちから聞くんだが……デブで目つきの悪い俺の事、お前はどう思ってる?」
【そ、それは………】
芽留はわたるからのその問いにしばし逡巡したが、
【もちろん、好きに決まってるだろ!わたるっ!!】
最後にははっきりと、そう答えたのだった。
378266:2009/10/09(金) 21:39:43 ID:clgb1mWP
一本目は以上でおしまい。
続いて二本目。
先生と可符香のお話。
379266:2009/10/09(金) 21:40:42 ID:clgb1mWP
年に一度の文化祭、その会場を長大な一枚の壁が真っ二つに分けていた。
たくさんの予算をかけて文化祭を盛り上げようとする実行委員会と、緊縮財政を掲げる木津千里書記長派との対立によって、
同じ校内で全く違う方針を掲げた二つの文化祭が開催される事となってしまった。
しかし、それだけならまだ良かったのである。
千里書記長の断行した文化祭大革命によって、書記長側の文化祭はその中でさらに細分化されてしまった。
無数の壁で区切られた狭いスペースの中で、各々が展示や催し物を行う一人文化祭の乱立する状態になってしまったのだ。

さて、ここは糸色望教員による一人文化祭区画、果たして彼がどんな催し物を用意したかと言うと……
「う〜ん、一人ぼっちなのは寂しいですが、この展示は我ながらなかなかに壮観ですね」
何やら満足げに呟く彼の視線の先にあるのは、壁一面に並んだ首吊り用のロープの数々。
望はそれらを眺めながら、少し影のある表情で呟いた。
「ふふっ…所詮は私の命なんてこのロープ一本で簡単に断ち切れてしまうもの……。人生とは何とも虚しいものです」
「うわぁ、このロープ、頚動脈や気管を圧迫しないように出来てるんですね。どういう仕組みなんですか、これ?」
「…って、おわああっ!!?」
突然、隣から聞こえてきた声に望は驚く。
横を見ると、彼にはお馴染みの超ポジティブ少女、2のへの黒幕、風浦可符香がロープを一つ一つ手にとって、その具合を確認していた。
「ロープ一つにもこれだけの工夫。やっぱり先生の生きる事への執着は相当なものですねっ!!」
「執着なんてしてませんからっ!!!」
キラキラと目を輝かせてそう言った可符香に、望はお決まりの文句を叫び返した。
「だいたい、どこから入ってきたんですか?いつから居たんですか?私の一人文化祭に何の用ですか!!?」
「何って、それは勿論、先生の展示を見に来たに決まってるじゃないですか」
まあ、確かに個人レベルまで細分化してしまったとはいえ、文化祭の展示を見に来て文句を言われる筋合いはない。
むぐぐ、と黙らされた望の前で、可符香は展示物を一つ一つ見回していく。
「あ、アロマ練炭新しくなったんですね。へー、今度のは部屋の空気をきれいにしてくれるんだ」
望が持ち歩いている自殺道具の数々は、使用しても死に至らないようにするための様々な工夫が凝らされている。
望の会場にはアロマ練炭の他にも、通気性と強度の両方をアップさせる事に成功した新型ガムテープなど、
かわいそがりの望のために開発された死なない自殺グッズが狭いスペースにずらりと並べられていた。
「これなら万が一にも先生が死んじゃう事はありませんね!安心しました!!」
「だから、違うんですよぉ……私は本気でですねぇ……」
十も歳の離れた教え子に良い様に遊ばれる望の姿は、ハッキリ言って情けなかった。
まあ、これもいつもの事だと望が半ば諦め始めた頃、可符香がこんな事を言った。
「でも、私、本当に嬉しいんですよ。この展示を見てると、先生の『何が何でも生きてやるぞ』って意気込みが伝わってくる気がします」
「……風浦さん、お願いです。もう参りましたから、これ以上いじめないでください……」
力なく言い返した望だったが、そこでふと気付く。
こちらを見つめる可符香の、その眼差しに込められた真剣な色に。
「本当に嬉しいんです。……だって、人って簡単に死んじゃうじゃないですか……」
「風浦さん……」
「どんなにポジティブに考えても、これだけは否定できないですから……」
寂しげな、可符香の笑顔。
それを見ながら望は思い出す。
時折、可符香が語った自分の過去の事。
現在は身寄りもなく一人で暮らしている事。
彼女の過去に何があったのか?
正確なところは判らずとも、だいたいの想像はつく。
「みんなきっと天国で幸せにしてる……。でも、もう会えないんです。話す事も出来ないんです……」
ぽつりぽつりと語られる可符香の言葉に、望はどう答えていいかわからない。
「ほら、先生、覚えてますか?初めて会った時の事……あの時、私、本当に先生が死んでるんだと思って……」
望は思い出す。
この学校に赴任した最初の日、満開の桜の下で、望は首を吊った。
それを偶然に見つけてしまったのが、この少女だった。
380266:2009/10/09(金) 21:41:27 ID:clgb1mWP
「……結局のところ、皆さん曰く『かわいそがり』の私の、本当は死ぬつもりのない首吊りごっこに過ぎません。
心の弱い私が、自分をかわいそうだと思うためにやったつまらないお芝居です………」
「でも、そうせずにはいられないぐらい苦しかったんですよね?絶望してたんですよね?」
可符香は一歩前に進み出て、望の頬に触れる。
「先生は弱虫です」
「ズ、ズバリ言いますね……」
「弱虫で、泣き虫で、ネガティブ思考の塊で、生きるのが辛くて仕方がなくて、ほんとならとっくの昔に死んでてもおかしくなかった……」
可符香の赤い瞳が望をまっすぐ捉える。
望はみじろぎもせず、彼女の言葉に聞き入る。
「でも、先生は生きた。『絶望した』って叫んだり、自殺ゴッコをして自分を慰めて、
這い蹲ってでも、のた打ち回りながらでも、先生は生きて生きて生き続けてくれた………だから…」
そこで、可符香は笑った。
嬉しそうに、愛おしそうに、望に微笑みかけた。
「だから、私は先生と出会う事ができた。先生と色んな事を話して、先生の隣にいることができた……今も、こうして…」
どんなに無様でも、みっともなくても、望が生き続けた事が、二人を繋いだ。
それはどんな奇跡よりも尊いものだと、可符香は信じる。
「なので、私は、先生が生きる事に執着してくれると嬉しいです……」
「風浦さん…………」
ならば、と望は思う。
些細な事にすぐ打ちのめされし、命を絶とうとしてもそれが出来ない自分。
何よりもそんな自分自身に望は絶望してきた。
だけど………。
「それが、私を風浦さんに出会わせてくれたのなら、情けない私の人生にも意味はあった……」
望の言葉に、可符香が嬉しそうに肯いた。
望はそんな可符香の背中にそっと腕を回し、彼女の華奢な体を抱きしめる。
そして、望の抱擁に応えるように、可符香も望の体に腕を回し、ぎゅっと力を込めた。

と、そんな時である。
「………ちょっと、聞こえてるの!!?」
少し怒った様子の、聞き覚えのある声が二人の耳に入った。
「あ……カエレちゃん?」
「えっと…あのその…これはですね……」
そこには、実行委員会側の文化祭との境目となる壁の上からじとーっとした目でこちらを見るカエレの姿があった。
望の一人文化祭の区画はその壁のすぐ近くにあったのだ。
再分化され、一人一人が孤立した状況にすっかり油断し切っていたのが拙かったのか。
決定的瞬間を見られて、望はうろたえる。
「こっちの文化祭が性に合わなくて、壁の向こうには理想の文化祭があるって聞いて、壁を乗り越えてみたんだけど……なるほど、これが理想ね……」
望に向けて、呆れと軽蔑の入り混じった視線を送ってから、カエレは再び壁の向こうに消えた。
取り残された二人は何とも気まずい雰囲気。
やがて、望は壁にかけられたロープの一つを手に取り……
「絶望したっ!!今度こそ、もう完膚なきまでに絶望しましたっ!!!」
首吊りの輪っかを首にかけて、青く晴れ渡った空に向かって叫んだのだった。
381266:2009/10/09(金) 21:42:05 ID:clgb1mWP
以上でおしまいです。
失礼いたしました。
382名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 08:49:23 ID:ss01nCJk
『冷静と情熱の緩衝地帯』

分化祭翌日―――中央線

奈美「昨日は散々だったね〜」
あびる「亡命してきたカエレちゃんなんか、自分自身を分化しちゃったもんね」
奈美「壁の中がジャングルジムみたいになってたっけ」
絶望「そう、分化した後さらに細分化するのは恐ろしいのですが、解決法方法もまた存在するのです」
あびる「先生」
絶望「ごらんなさい、丁度良い例が来ました」
駅員「間もなく電車が参り〜ます〜」
 電 車 到 着
女性専用車両
普通車両
男性専用車両
奈美「・・・・・・・・・普通車両って何よ!?」
藤吉「っていうか男性専用なんて出来てたんですか」
絶望「試験的に車両を男女別にしたようなんですが、ニューハーフな方々はどうするだとかアベックが別れ別れになるだとか、
   いろいろ問題が出てきまして、かといってそれごとにいちいち専用車両造るわけにもいきませんからね」
あびる「で、奈美ちゃん車両ですか」
奈美「だから普通じゃないって!」
絶望「細分化されていくはずだった属性が、普通に全部組み込まれ、今では両極の緩衝地帯と化しています」
あびる「まあ、男性専用じゃなかったら空いてる方に乗りますけどね、普通に」
奈美「だからぁ」
藤吉「というか、男性専用をみてみたいんですけど・・・参考用に」
絶望「ともかく・・・そんな緩衝地帯が世の中には多々存在するのです!」

犬と猿の狭間に雉
水と油の狭間に卵白
嫁と姑の狭間に孫
妄想の女性と現実の女性の狭間にラブドール
アニメ化と打ち切りの狭間に原作

千里「私としたことが、緩衝地帯のことは想定外でした。」
絶望「あ」
千里「そうですよね、分化の無限連鎖は流石に問題があります・・・わかりました、妥協しましょう。」
奈美「ええっ!?」
千里「緩衝地帯の設立を容認します・・・ただし、すべての対立に緩衝地帯を設けることを要求します。」
絶望「ああ、また厄介な・・・」
千里「世の全ての対立に緩衝地帯を!」

二次元と三次元
SとM
合法と非合法
383名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 08:51:21 ID:ss01nCJk
『冷静と情熱の緩衝地帯 2』


可符香「大丈夫、難しいことじゃありませんから」
絶望「と、いいますと」
可符香「奈美ちゃんを真ん中に置けばいいんですよ」
奈美「私!?」
可符香「奈美ちゃんなら、どちらの極にもかたよりませんから」

二次元と三次元と奈美ちゃん
SとMと奈美ちゃん
合法と非合法と奈美ちゃん

可符香「ほら、どちらにも偏ってない」
奈美「それ決して誉めてないわよね!?」
千里「なるほど、たしかにそれもそうね」
奈美「ひえぇぇぇ」


絶望「・・・で、その後どうなったんですか」
可符香「二次元と三次元の狭間に、こんなものが作られました」
 普通少女抱きマクラ
 等身大普通少女フィギュア
絶望「・・・ああ、なるほど・・・」
可符香「合法と非合法の狭間はマ太郎にもってかれました」
 マ太郎の○○○画像(自主規制)
絶望「これは非合法なんじゃないんですか」
可符香「戸籍やクラス名簿上は合法です」
絶望「はい、スルーで」
可符香「SとMの狭間には、これから始まります」
絶望「舞台?・・・って智恵先生!?よく見たら臼井くんも!」

臼井「日塔さん十円ハゲができたんだって?」
奈美「誰がハゲやねん」 バシィッ
智恵先生「お前しかおらんわハゲ」 バシィッ

絶望「って、ど突き漫才ですか!」
まとい「でもちゃんとトリオになってますね」
絶望「いたんですか」
まとい「ええずっと」

智恵先生「新井でーす」
奈美「日塔でーす」
臼井「ミナミハ○ルオでござ・・・」 バシバシィッ
384名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 08:54:06 ID:ss01nCJk
『冷静と情熱の緩衝地帯 3』

千里「違うわね。」
奈美「やらせといてそれはないよ!」
千里「やっぱりSとMとボケとツッコミはべつものです。きっちりSMの狭間に立たないと!」


女王様「罵りなさい」
奈美「このハゲ変態キモい」
臼井「ひ・・・ひどい、でももっと罵って」
女王様「なら靴を舐めなさい」
臼井「はい喜んで!」
奈美「私の上履きを舐めるなぁ!キモい!」
女王様「そろそろいたぶってあげようかしら・・・」
奈美「ムチとローソクを渡さないで下さい」
女王様「いいからいたぶりなさい」
奈美「うぇぇぇ」
臼井「あぁ、もっと、もっとこの豚めを虐めて下さい女王様」
奈美「女王様って言いながら私にすがりつくなキモいぃ!」

絶望「・・・・・・・・・」
可符香「SとMの緩衝地帯のことをなんて呼べばいいのかしら」
あびる「Sがサド、Mがマゾ、普通だったらHでいいんじゃない?」
可符香「Sな女王様、Mな臼井くん、Hな奈美ちゃん!」
奈美「Hっていうなあ!っていうかこの状況のどこが普通だぁ!」

女王様「さあH、もっと力を入れて叩いておやりなさい」
臼井「ああHさま、もっとムチを!」
奈美「誰がHだ!キモい!」

385名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 19:00:40 ID:SLtDWR6W
以前のタツタの人ですよね?
今回もよく考えられたネタで面白かったです。
ああ、いじられる奈美は愛おしい。
386名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 22:40:50 ID:2ACNLX+l
ホントこういう時の奈美の汎用性はすごいよなwww
387糸色 望 ◆DoPaVzDaiM :2009/10/14(水) 06:03:53 ID:8iJ7KDJh
>>385
宮城県の@niftyの基地外だと思われますから自重。
388266:2009/10/16(金) 02:07:53 ID:iiaEziWB
書いてきました。
望カフ、というか望杏?のエロなしです。

それでは、いってみます。
389266:2009/10/16(金) 02:08:43 ID:iiaEziWB
見事な秋晴れの日曜日。
雲ひとつない青空の下、その遊園地では家族連れやカップルなど大勢の来園客達が休日を楽しんでいた。
が、その中で一箇所だけ、他とは様子の違うアトラクションがあった。
「ぐわぎゃあああああああああああああっ!!!!!!!!!」
この遊園地の最大の目玉である、今年新しく運転を始めたばかりの超大型ジェットコースター。
いつもならば、コースターに乗った客達の歓声や悲鳴が聞こえる筈なのだが、
今日に限ってはたった一人が発するその絶叫に全てかき消されてしまっていた。
断末魔の如きその叫びはコースターが三連続の大型ループに突入した事で、一際大きくなる。
「ぎああああ…あああっ!!…おぎゃあああああああああああっ!!!!!!」
なんだか新しい生命が誕生したみたいな叫び声に、コースターの順番待ちの客達も困惑の表情を浮かべている。
やがて、ようやくコースターが出発地点に戻り、ふらふらと席から立ち上がった声の主は瞳に涙を浮かべてこう言った。
「ぜぇぜぇ…はぁはぁ………し、し、死んだら…どーするっ!!!」
「いや、死にませんから」
呆れた表情で突っ込んだ、前髪を真ん中分けにした少女・木津千里の前で、
彼・糸色望は力尽きたようにその場に膝をついたのだった。

10分ほど後、ジェットコースター近くのベンチに、望は今にも崩れ落ちそうな状態で座り込んでいた。
「絶叫系が苦手な人は珍しくないけど、まさか先生がここまでだったなんて…」
望の肝の小ささにため息をつきながらも、心配そうな表情で奈美が言った。
今日は、望と2のへの生徒達でこの遊園地に遊びに来ていたのだが、
いかにチキンな望とはいえ、まさかジェットコースターの一回でダウンしてしまうとは誰も予想していなかった。
「だ、だ、だ、だから…ジェットコースターだけは…ダメだって言ったじゃないですか……」
「すみません…流石に先生がここまで怖がるなんて思ってなかったですから……」
先ほどは望の発言に突っ込んだ千里も、息も絶え絶えな望の姿に少し心配げな表情を浮かべている。
「いや…ほ、他の絶叫系ならどうって事ないんですけど…ジェットコースターは…アレだけは……」
実は望はジェットコースターに関して、ちょっとしたトラウマを持っていた。
それはまだ、望が中学の2年生だった頃、夏休みに少し蔵井沢から遠出した彼はさびれた遊園地を見つけた。
入園料はなし、アトラクション……というのもちょっと躊躇われるようなオンボロの乗り物達に乗るのにも大してお金は必要ではなかった。
望はほんの暇つぶしのつもりでその遊園地に入ってみる事にした。
よほど老朽化しているのか、ギシギシと金属の軋む音がする海賊船に乗り、日焼けして真っ白に色落ちしてしまった観覧車から周囲の景色を眺めた。
そして、望が最後に乗ったのがそのジェットコースターだった。
ジェットコースターといっても、その規模は小さく、ループはなし。
ただ、狭い敷地をくねくねと走るレールに振り回されてみるのはなかなかにスリルがありそうだった。
望は乗降り口で眠たそうにしていた係員の男性にチケットを渡し、小さなコースターに乗り込んだ。
座席には安全バーのようなものはなく、代わりにシートベルトで体を固定する仕組みのようだった。
望は早速ベルトの長さを調整し、バックルに金具を差し込んだ。
だが、しかし……
「あれ、壊れてるのかな……」
金具を差し込んでもバックルからは何の手応えもなく、すぐにベルトが外れてしまう。
何度かガチャガチャと抜き差しを試した望だったが、やはりベルトは固定されない。
諦めて、係員にベルトの故障を伝えようとしたその時である。
ジリリリリリリリリリリリッ!!!!!!
「えっ!!…ちょっと…シ、シートベルトがまだ……っ!!?」
けたたましいベルの音と共に、ゆっくりとジェットコースターの車体が動き始めた。
「と、と、止めてくださぁああああいっ!!!シートベルトが壊れてるんですっ!!!!!」
必死に声を張り上げた望だったが、係員の男はジェットコースターの操作盤の前でぼんやりと宙を見つめるばかり。
そして、地獄が始まった。
先述の通り、このジェットコースターは小型であるが故の迫力不足を、狭いスペースにくねくねとレールを張り巡らせ、乗客を振り回す事で補っていた。
シートベルト無しの望を乗せたコースターはそのコースを可能な限りのスピードで走りぬけた。
望はジェットコースターの車体のフチを必死に掴み、無数のカーブや上下の落差にふりまわされる体が吹き飛ばされてしまわないように堪えた。
コースを一周して元の乗降場に戻ってきたときには、望の魂はほとんど真っ白に燃え尽きていた。
390266:2009/10/16(金) 02:09:31 ID:iiaEziWB
「………以来、ジェットコースターの類はそれがどんなに安全に気を配られてるとわかっていてもダメなんです」
「それはトラウマにもなっちゃいますね……」
運動神経ゼロの自分がそのコースターに乗ったらどうなるか。
少し想像してしまったあびるは、望に同情の眼差しを送った。
「それじゃあ、先生が回復するまで、ここで少し休んでいきましょうか」
「いえ、せっかく来たのに、それは悪いですよ。私はしばらくここにいますから、みなさんは遊んできてください」
准の言葉に、望は首を横に振った。
自分一人の都合の為に生徒達の楽しみを奪うのは気が引けたのだ。
「でも、いいんですか?」
「心配しなくても、私もすぐに復活しますから、さあ、行って来てください」
そして、心配げにちらちらと望の方を振り返りながら人ごみの中に消えていく2のへの面々を望は見送った。
「はあ……せっかく遊園地に来たのに、水を差してしまいましたね……」
ベンチの背もたれにぐったりと寄りかかりながら、望は呟いた。
未だに頭の中はグラグラ、平衡感覚が戻ってくれない。
先ほどはああ言ったものの、いつになったら元に戻るのか見当もつかないし、生徒達だけを行かせたのはやはり正解だった。
「あうう……我ながら情けない……」
「いやだなぁ、そんな事ないですよ」
突然聞こえてきた声に、望は驚きに目を見開いて自分の真横を見た。
そこにはいつもの笑顔で微笑むポジティブ少女の姿があった。
「風浦さん…何してるんですか?みなさん、とっくに別のアトラクションに行きましたよ!!」
「そうですね。今からじゃ、ちょっと追いつけないと思いますから、私もここで休んでていいですか?」
ベンチに座る望のすぐ隣に、可符香がちょこんと腰掛けていた。
「ほら、先生も一人でみんなを待つのは退屈でしょう?」
「そりゃあ、そうですけど。……あなたにまで気を遣わせてしまうなんて……」
「毎回、思いつきで暴走してクラスの騒動の発端になる人の言葉とは思えませんね」
「む…うぅ……」
可符香の言葉は望を容赦なくコテンパンにしてしまう。
だが、この少女が一人残される望を気遣ってここにいるのは明らかなのだ。
申し訳なさと嬉しさがそれぞれ半分ずつ、複雑な心境の望に可符香はにっこりと笑ってもう一言
「それにこれなら、しばらく先生を独り占めできますから……」
「な…あ……ふ、風浦さん……っ!?」
彼女のその発言にドギマギとうろたえる望を見ながら、可符香は楽しそうに笑う。
すっかり彼女の手玉に取られていた望だったが、遊園地のざわめきや楽しげな空気、色とりどりのアトラクションを背景に
微笑む彼女の顔を見て、不意にソレを思い出した。
ずっと昔、同じように良く晴れた日曜日の遊園地で、望をからかっては楽しそうに笑っていた小さな女の子の事を。
「そういえば、あの時以来ですね……」
「えっ?」
唐突な望の言葉に可符香がきょとんとした表情を浮かべる。
「以前もこんな風に、あなたと遊園地に行った事があったでしょう?」

自分の手をきゅっと握り締めてくる小さな手の平の感触が可愛らしく、愛おしかった。
日曜日の遊園地は予想通りに人でいっぱいで、望は少女がどこにも行かないようにその手をぎゅっと握り締めた。
まあ、その程度の事で止まってくれるような娘なら、最初から苦労など無いのだけれど……。
「すごいですね、おにーちゃん!!」
望の足元の幼い少女、杏は彼の心配をよそに賑やかな遊園地の風景にすっかり心奪われているようだった。
本当に嬉しそうなその笑顔を見ていると、先行きの苦労も心配も気にならなくなってしまうのだから、
「それじゃあ、今日は思う存分に楽しみましょうね」
「もちろんですっ!」
望の言葉に、杏は満面の笑顔で答える。
「なんたって、きょうはお兄ちゃんとはじめての『でーと』ですからっ!!」
391266:2009/10/16(金) 02:10:35 ID:iiaEziWB
高校に入学したばかりの望が偶然出会った幼い少女、杏。
何故だか杏に懐かれてしまった望は、彼女の強烈な悪戯の数々に翻弄され続ける事となる。
だが、どういうわけか、望はそんな杏の事を嫌いになれなかった。
むしろ、悪戯を成功させてクスクスと笑う彼女の笑顔にどこか心惹かれるものを感じていた。
それは、何につけても後ろ向きでネガティブな望が持っていなかった輝きを、その笑顔に感じていたからかもしれない。
騙されやすい望は少女の口八丁に踊らされて散々痛い目を見たが、それでも杏と顔を合わせると何故だか笑顔になる事が出来た。
そんな杏が神妙な顔でとあるお願いを持ちかけたのは、二週間ほど前の事である。
「どうしたんですか?僕に出来る事なら、何でも協力しますよ」
「は、はい…えっと……その…」
いつもならハキハキと喋る杏が、その日に限っては落ち着きなさげに辺りをきょろきょろと見回し、口ごもってばかりでなかなか話を切り出してこない。
望には、どうしていつも元気な杏がこんな状態なのかが理解できない。
しかしやがて、覚悟を決めたらしい杏が顔を真っ赤にして口にした言葉で、望もまた同じような状態に陥ってしまうのだけれど……。
「わ、わたしと『でーと』してくださいっ!!!』

それからしばらく、杏と一緒に完全なパニック状態に陥っていた望だったが、気分が落ち着いてくるにつれて、
この少女がどれだけの勇気を振り絞ってその言葉を口にしたのか、それが身に沁みて理解できてきた。
「やっぱり、だめですか?」
上目遣いに望の様子を伺いながら、不安げに杏が尋ねてくる。
彼女の表情を曇らせたままにしておくのは、望の本意ではなかった。
「ああ、わかったよ。僕でよければ、デート、つき合わせてもらいますよ」
瞬間、杏の表情がパッと明るくなる。
「ほんとに、ほんとにいいんですかっ!!」
「本当の本当ですよ」
望の手の平を握り、ぴょんぴょんと飛び跳ねて、全身でその喜びを表現する杏の姿に、望まで嬉しくなってくる。
高校生と幼稚園児、歳の差は10歳以上、本来ならこんな感情を持つのはおかしいのだろうけれど……
(ああ、やっぱり僕はこの娘の事を……)
しみじみと湧き上がる愛おしさを、望はしばしの間噛み締めていたのだった。

というわけで、ついにやって来たデートの当日。
はしゃぐ杏が手を引っ張って、二人は遊園地のアトラクションを次々と巡っていく。
途中、巨大なジェットコースターを見て望が完全に固まってしまう場面もあったが、そもそも幼稚園児としても小柄な杏が最初から乗れる筈も無く、
望は彼女の前で醜態を晒す羽目にならずに済んだのだった。
しかし、遊園地での杏はとことんまでパワフルだった。

例えばそれは、メリーゴーランド。
「うぅ、この歳でこれに乗るのは恥ずかしいですね……」
なんて躊躇っていた望を
「ほら、お兄ちゃん、こっち来てください」
と座らせた場所は杏が座っているのと同じ木馬の上。
木馬のやや後ろの方に望を座らせた杏は、前の方のスペースに跨る。
「ちょ…えっ!?」
「ふたりのり、楽しいですね、お兄ちゃん」
無邪気なその笑顔に望が言葉を失くしている間に、メリーゴーランドはゆっくりと回転を始めた。

例えばそれは、コーヒーカップ。
「わ、わ、わ、わ、わっ!!?これいじょ…も…まわさないでくださ…あああああああああああっ!!!!!」
「あははははははははははははっ!!!!!」
杏の手がカップ中央のハンドルをこれでもかと回す。
周囲の景色が残像になって尾を引くほどに高速回転するカップの中から、望の悲鳴と杏の笑い声が響き渡った。
392266:2009/10/16(金) 02:12:08 ID:iiaEziWB
例えばそれは、オバケ屋敷。
「……ちょ、ちょっと怖すぎじゃないんですか、ここ?あんな所から突然出てこられたら、こっちの心臓が持ちませんよ」
「え?とつぜんですか?」
ビクビクと怯えながら進む望に、杏は不思議そうに問い返した。
「とつぜんなんかじゃないですよ」
「へ?」
「ほら、あそこにも、あっちにも、わたしたちが入ったときから、みんなずっとみてますよ?」
暗闇のあちこちに指を差して杏が言った言葉。
最初はその意味が全く解らなかった望だったけれど……
「ほら、お兄ちゃんのせなかにも、さっきからずっと……」
「って、何!?何がいるんですか!!?誰がいるんですかっ!!?」
「だから、オバ…」
「あああああっ!!!やっぱり言わなくていいですっ!!聞きたくないです!!!」
「こわがらなくてもだいじょーぶですよ。お兄ちゃん、気に入られてるみたいですから。『いえに行ってもいい?』って聞いてますよ?」
「イやああアアアああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」

そんなこんなのドタバタを繰り返しながらも、望と杏は時間いっぱいまで遊園地での『でーと』を楽しんだ。
そして、二人が最後に乗ったのは、ゆっくりと回る巨大な観覧車だった。
膝をくっつき合わせ、向かい合って座席に座る望と杏。
二人を乗せたゴンドラは観覧車の動きに合わせてゆっくりと上昇していく。
窓の外、だんだんと小さくなっていく眼下の景色を眺めながら、杏は望に言った。
「ありがとう、お兄ちゃん…今日はほんとうにたのしかったです」
「それは僕もだよ。まあ、多少疲れ気味ではあるけれど………」
今日一日の興奮がまだ抜けないのか、頬を赤くした杏の頭を望は優しく撫でてやる。
たぶん、こんな気持ちは望一人では味わう事なんて出来なかった筈だった。
自由に、しなやかに、笑顔と共にどこまでも突き進む小さな少女の姿は、望の瞳にはやはり眩しく映った。
杏はそのまま、気持ち良さそうに頭を撫でる望の手の平の感触に身を委ねていたが
「そうだっ!いちばんたいせつなことをわすれちゃう所でしたっ!!」
そう言って、唐突に望の方に向かって身を乗り出し、とんでもない事を言い出した。
「キスしてくださいっ!!!」
「えっ!!?」
突然飛び出たその言葉を、望の脳は処理しきれない。
慌てふためき、事態を必死に理解しようとしている内に、さらにズイッと杏は望に顔を近づけてくる。
「な、なんでいきなり?どうしてそんな……」
「この遊園地のかんらんしゃのこと、ずっと前におかあさんのともだちから聞いたことがあったんです」
その遊園地の観覧車で、ゴンドラが一番高い場所にやって来たときにキスをすると、その相手とずっと一緒にいられるのだ、と。
「も、もしかして、君がこの遊園地に来たいって言ってたのは……!?」
望は、デートの場所について杏と話したとき、彼女がどうしてもこの遊園地に行きたいと言って譲らなかったのを思い出した。
(でも、それは……)
理屈も根拠もあったものじゃない、ただのオマジナイ。
どこにでもありそうな、単なる噂話。
だけど、目の前で望を見つめる少女の瞳はどこまでも真剣だった。
望は考える。
(キスなんて……こんな、小さな娘に……)
杏がどれほど切実にそれを望んでいるのかは、彼女の瞳を見ればわかった。
それでも、こんな幼い少女に、そんな形で触れる事が果たして正しい事なのか、望にはわからなかった。
望が躊躇っている間にも、ゴンドラはゆっくりと、しかし確実に上昇していく。
杏はとても頭の良い娘だ。
向き合った望が何を考え、何を躊躇しているのか、おぼろげには理解していた。
(やっぱり、わたしとお兄ちゃんじゃ……)
やがて、ゴンドラは観覧車の一番上まで到達する。
望の意思を曲げてまで、この願いを聞き届けてもらうつもりは杏にはなかった。
ゆっくりと俯いた杏。
大好きなお兄ちゃんとの『でーと』が実現しただけでも嬉しくてたまらなかったのだ。
これ以上、無理を言って望を困らせるような事はしたくない。
ただ、出来るならば、本当にお兄ちゃんとずっと一緒にいられる方法があるというのなら、それがウソでも構わない。
どうしても、試してみたかった。
393266:2009/10/16(金) 02:13:20 ID:iiaEziWB
「ずっと…ずっと、いっしょにいたかったな…お兄ちゃん……」
ポツリ、杏が呟いた。
だが、ゴンドラが下降を始めようとしたその瞬間……
「あ………」
柔らかな感触が、ぬくもりが、杏の額に触れた。
驚いて、杏は顔を上げる。
そこには、困ったような、だけどどこまでも優しげな顔で微笑む望の顔があった。
「ずっと一緒にいたいのは、僕だって同じですよ」
「お兄ちゃんっ!!!」
声を上げ、杏は望の体に抱きついた。
そのあまりの勢いにバランスを崩して、危うく椅子からずり落ちそうになった望だったが、ギリギリのところで杏の体を抱きとめる。
それから、ゴンドラが地上に下りるまでの僅かな時間の間、杏は望の胸に顔を埋めたまま、離れようとはしなかった。

さてはて、観覧車のオマジナイとやらがどれほどの効果があったものか。

「……そうでしたね。そんな事もあったんですよね…」
呟いたかつての少女、赤木杏、今は風浦可符香というペンネームを名乗る彼女は少しだけ寂しげに呟いた。
あの後、望と杏の二人は、長らく別れ別れになる事になった。
その長い時間の中で、杏は何とかして望の事を、彼との思い出を忘れようとした。
全てを奪い去られ、日に日に孤独になっていった彼女にとって、あの懐かしい日々を思い出す事はあまりにも辛すぎた。
やがて、彼女はあらゆる事を肯定的に捉えるポジティブ思考の鎧で自分の心を覆い尽くす事となった。
そんな、可符香の心中を察してか、望は努めて明るい調子でこう言った。
「まあ、まじないの類なんてそんなもんですよ。………それに、全く効果がなかったわけでも、ないじゃないですか」
二度と出会うことの無いはずだった二人。
だけど、とある卯月の、桜の舞い散る日に、望と杏は再会を果たす事になった。
『いけません!命を粗末にしてはいけません!』
『死んだらどーする!』
あの日、もう一度二人が出会ったあの時から、望と可符香は互いの傍らから離れる事はなかった。
「でも、正直、人間の運命というのはわかりませんから、もう二度と離れたくはありませんが、その願いが果たして叶うかどうか……」
もしも、望と可符香が再び別れ別れになるとしたら。
望の中から、いつまでもジェットコースターのトラウマが消えないのと同じように、
強く刻まれた思いは、感情は、そう簡単には人の心の中からは消えてはくれない。
果たして、二度目の別れがやって来たとして、この想いを抱えたまま生きていけるほどに自分は強いのだろうか?
晴れ渡った空を見上げながら、望は自問自答する。
と、その時
「それなら……」
突然立ち上がった可符香が、望に顔を寄せて屈み込んできた。
「ふ、風浦さん……?」
「あんまり効果のないオマジナイでも、重ねてやれば少しはマシになるかもしれません」
言いながら、自分の唇を望の唇にそっと近づけてくる。
「ちょ…あれはあの場所でするから意味のあるおまじないだったんじゃ…ていうか、そもそもこんな公衆の面前で…」
「それじゃあ、また私と別れ別れになりたいですか?」
「そ、それは…………」
そう問われて、望の中に他の答えなどある筈も無い。
「先生、ずっと一緒に……」
「わかってます。もうあなたを離したりはしません……」
触れ合った唇は、柔らかく、甘かった。
秋晴れの下の遊園地、望と可符香の下へ2のへの仲間達が戻ってくるまでには今しばらく時間がかかりそうだった。
394266:2009/10/16(金) 02:14:03 ID:iiaEziWB
以上でお終いです。
失礼いたしました。
395名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 14:44:56 ID:YBucVBm4
杏ちゃんというと430氏のSSを思い出すな
396名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 17:57:29 ID:ijCxgA9y
そんな人もう忘れた
397名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 18:02:39 ID:WfGLt60g
>>359-369
266さん、こういう設定でエロパロ書きたいんですが、設定お借りしても良いでしょうか?

いつもSS楽しませてもらってるよ!
398名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 18:52:14 ID:/1pZK6cv
いなくなった人の話ばっかすんのやめとけよ、今書いてる人間がやる気なくなるだろ
このスレそんなんばっかだが
399266:2009/10/16(金) 23:19:09 ID:iiaEziWB
>>397
わざわざ、ご丁寧に私に確認まで取ってくださって、ありがとうございます。
どうぞ、構わないでガシガシ書いてください!
SSの完成を楽しみにしてますよ。

それから、
>楽しませてもらってるよ!
とのお言葉、非常に嬉しかったです。
ありがとうございました。
400名無しさん@ピンキー:2009/10/17(土) 23:59:00 ID:Ouu3qugV
望杏GJ
ロリカフ可愛いなー
401名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 10:19:39 ID:BO0DWBif
                l三`ー 、_;:;:;:;:;:;:j;:;:;:;:;:;:_;:;:;_;:-三三三三三l
               l三  r=ミ''‐--‐';二,_ ̄    ,三三三彡彡l_   この感じ・・・・
              lミ′   ̄    ー-'"    '=ミニ彡彡/‐、ヽ
                  l;l  ,_-‐ 、    __,,.. - 、       彡彡彳、.//  266か・・・・
_______∧,、_‖ `之ヽ、, i l´ _,ィ辷ァ-、、   彡彡'r ノ/_ ______
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄'`'` ̄ 1     ̄フ/l l::. ヽこ~ ̄     彡彳~´/  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                 ヽ   ´ :l .l:::.         彡ィ-‐'′
                ゝ、  / :.  :r-、        彡′
              / ィ:ヘ  `ヽ:__,ィ='´        彡;ヽ、
          _,,..-‐'7 /:::::::ヽ   _: :_    ヽ      ィ´.}::ヽ ヽ、
      _,-‐'´    {  ヽ:::::::::ヘ `'ー===ー-- '   /ノ /::::::ヘ, ヽー、
402名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 11:48:58 ID:v4aXq2Fi
そんなにイジメてやるなよ
403hina:2009/10/21(水) 17:36:17 ID:V3v9mq7v
一つ書きあがったので久々に投下。
エロパロ書こうと頑張った、凄く頑張った、10回は書いた。
読めたもんじゃなかった(´・ω・`)

可符香の一人語りでエロ無しギャグメインです、
今回特にキャラ崩壊注意。可符香好きは避けたほうが……
404hina:2009/10/21(水) 17:41:37 ID:V3v9mq7v
――それは、とある休日、いつもの様に先生をからかいに
でも行く事にして、気分良く外着に着替えていた私が
テレビの電源を付けっぱなしにしていたから事から始まりました――

【〜〜座のあなたの本日運勢は〜】

自分の星座の事が流れ、何気無く目を向けると、
画面には大きく残念!12位です≠フ文字が。
偶然見ただけの日に最下位は少々モチベーションも下がりますね……。

【〜〜座の中でも、女性で高校生、さらに小柄でショートカットのあなたは特に危険です】

見事なまでのピンポイントさに誰かの悪質な嫌がらせかと一瞬思いましたが、
そんな事あるわけ無い……と思って占い師の顔を良く見たら千里ちゃんだった、あるかも。
……まぁ、人間とは、ここまでピンポイントに言われるとたかが占いと
分かっていても気になってしまう生物であってですね……

【〜今日は、5年間に起こる災いが全て降りかかってきます、
外に出ても良い事なんて無いので家で大人しくしてなさい】

つい最後まで聞いてしまった信憑性があるのだか無いのだか分からないような占いですが、
家で大人しくしてなさい%凾ニ言われると何となく逆らって見たくもなります。

何で命令形なんですか、千里ちゃんらしいと言えばらしいけどおかしいでしょうコレ。

そもそも朝の占い如きで休む人が出たら社会は大混乱になっちゃいますよー
……今私、相当くだらない事考えたなー、とか思いつつもテレビを切り、靴を履いて外に出ます。

先生の位置は大体検討が着いているのです、毎回休日には自殺スポットを巡っているし、
この間望が愛読書『死にるるぶ』のとある場所に印を着けているのを見たからでもあります。
そうとなれば先回りすれば良いだけの話ですよ、……自称ディープラヴのストーカーと一緒にしないでくださいね?

――ほら、予想通りの小道に居ました。

さらに丁度良く先生は「絶望した!」と叫んでいる最中で、
今登場するのが最も適したタイミング、ガードするように望の背後に張り付いている
まといちゃんを軽く突き飛ばそうとした瞬間――千里ちゃんをなめるものじゃ無いと思いました。

それは、普段なら絶対に有り得ない事。
……まといちゃんに、危険を察知されたのか避けられました。

それだけならまだしも、重力に従って倒れる私の先にあるのは池と来ています。
(あぁ……災いって、これのことかぁ……)等とこう言う時に限ってどうでも良いことを考えて
軽く現実逃避をしていても容赦無く体は傾き、辺りに大きな水音が響き渡った――。

「……?、常月さん、今後ろの方で大きな水音がしませんでしたか?」

謎の水音に大して先生は当然疑問を持ったみたいで、後ろに居るまといちゃんに話かけてます。
ですが、日頃色々あったからなのか何なのか、まといちゃんは何事も無かったかのように
まといちゃんは「大きな鯉でも跳ねたんじゃ無いですか?」と返し――

「この位で負ける訳無いじゃ無いですかー、ポジティブは最強なんですから!」
……とは言った物の、もう心折れそうです、寒い上に何か生臭いです。
そもそも、一人でこの台詞言ったところで空しく響き渡るだけであって……

いや、今の台詞聞かれてたらそれはそれで問題ですけど。

とにかく、このまま帰るのは何か癪ですし、負けな気がします。
今なら走ればまだ追いつける筈です!
405hina:2009/10/21(水) 17:45:07 ID:V3v9mq7v
――さて、追いつけたのはいいのですが……

「先生、常月さんとお二人で、デートですか。」
「何言ってるんですか!いつものことじゃ」
「そうよ、いつも通りデート中なの!邪魔しないでくれる?」

……どうやら修羅場の様ですね、あそこに割って入る勇気は無いです、
あんまり気が立ってると話術とか通用しないんですよ、私だって色々考えてるんです。

「……やっぱり、あなたとは、決着をつけるしか無いわね!」
「私もそう思ってた所よ!!」

あー、先生も逃げた所で始まってしまいましたね、オフエアバトル。
さて、漁夫の理だかそんな感じのことわざもあった気がするので、
先生を追いかけるとします、特にあの二人に絡む理由も無いですし。

「うなぁっ!」
「甘い!!」

今、物凄い勢いで何かが目の前をかすった気がするのですが……
流れ玉でしょうかね、私の向こう側の壁に包丁突き刺さってますね、当たったら怖いですね。

……って怖いで済むわけ無いでしょう!死にますよこれ!時々かすってますし!
もうキャラでも無い事とか思っちゃいますよ、私がこんな事考えてる時点で色々怒られそうですよ!

とりあえず、その場を離れるのが先決です、さっさと先生を追います。
……もう、何で先生追っかけてるのかも忘れそうだし正直帰りたいですが、
とにかくここまで来てすごすごと帰るのは嫌です、一種の意地ですかね?
406hina:2009/10/21(水) 17:45:55 ID:V3v9mq7v
――んー……流石に見失っちゃいましたねぇ……先生逃げ足は早いんですよねー
……寒いし痛いしボロボロだし、何で私がこんな目に合わないといけないんでしょうね。
占いってあんまり馬鹿にするもんじゃ無いと痛感した今日この頃。

……あぁ、なんと言うか、もう……
「……絶望した」

「えっと……風浦……さん……ですよね?」

……もしかして、全然追いつけないと思ってたら
途中で追い抜いてたパターンですか、そうですか。
しかもよりによってこんな爆弾発言を聞かれちゃいましたよ、
とにかく誤魔化さないと明日からギクシャクしちゃいますよ。

「えっと……ですね、絶望した、なんて先生がいつも言ってるのでどんな感じかと言ってみただけです!」

「……で、ですよねー、服装もきっと精神力を鍛える寒中水泳か何かですよねー、先生もそう思っていた所です」

うん、我ながら無理がありましたね、分かってますよそれくらい。
……というか先生完全に気を使ってるんですが、

服装まで無理やり解釈して同意してくれましたよ、そんな事されると
こっちが一番恥ずかしいんですよ、昔教えたじゃ無いですか、スルーライフでしょうそこは!

「えっと……あ!そうです!小森さんに買い物頼まれてたんでした!」

あからさまな嘘ですね、思わず某ヤンデレヒロインのように『嘘だッ!!』
とでも言いたくなりますが、流石にそれは止めておきます。
……それにしても先生、逃げる気満々ですね。それでも教師ですか

「……そ、それではまた今度学校で!」バサッ

あ、やっぱり逃げまし……、ん?、何か投げつけられました。
……先生の、羽織……?もしかして、先生なりに気遣って……

調子狂うような事、するじゃないですか……。

(先生、今日の所は見逃してあげますよ、感謝してくださいね?)
……なんてね、私らしくない事を思いながら、先生の羽織を抱きしめて
「占いなんて、やっぱり当たらないじゃ無いですかぁ……。」

と、誰にも聞こえないように一人呟いてみたり――


糸冬
407hina:2009/10/21(水) 17:47:31 ID:V3v9mq7v
以上です、エロパロにエロ無しはどうかとかで
講義してる中、空気読まない投稿すいませんでした。
KYの人と覚えてください(´・ω・`)
408名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 18:21:07 ID:l0XAs8+x
>>401
同じこと考えててワロタ
409名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 18:42:12 ID:v4aXq2Fi
だから、あんまりイジメるなって
まあ、うざったいのは解るが、追い出すにしてもスレが荒れたら駄目だろ
266なんぞはスルーし続けて黙殺してれば
最終的にはいずれ消えるだろ
410名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 19:00:10 ID:Pa/U5fSz
カエレタソハァハァ カエレタソハァハァ
411266:2009/10/21(水) 19:11:28 ID:yrHw5GGR
すみません。
>>401さん>>408さん、>>409さん、
やっぱり私がこのスレにいる事で住人の方々にご迷惑が掛かっていると考えるべきなんでしょうか?
こちらとしてはただ謝るしかできないのですが、どういった点で不愉快にさせてしまったか(これをわざわざ聞かれるのもあまり気分は良くないでしょうが)
察しの悪い私に、いくらかでも教えていただけませんか?
412名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 19:14:53 ID:95C2Q/vk
もう266さんはこんなスレ見捨てるべきだ
アンチでも追い出しでもなく本当にそう思う
413名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 19:40:05 ID:BO0DWBif
俺は期待してただけでアンチじゃないよ
414名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 19:44:14 ID:BO0DWBif
期待してたってのは、今週の内容で彼女が何か書きそうだなってことね
言葉が足りなくて誤解を招いている気がする
415409:2009/10/21(水) 20:04:27 ID:v4aXq2Fi
どう考えても誤解の原因は俺だな
正直に言えば俺は266のSSは好きじゃない
ただ、あんな形でその事を書くべきじゃなかった
スルーもしくはきちんとした感想でやるのが筋だったのに
苛立ちまぎれに書いてはいけない事を書いてしまった
266にも他の住人にもスマンとしか言いようがない
416名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 20:11:08 ID:A9deTtCv
というかこんな糞スレに投下する奴はただのマゾ
417409:2009/10/21(水) 20:16:32 ID:v4aXq2Fi
というか、俺のレスさえなければホントなんでもない普通の流れだったのにな
自分が266を嫌いだからって他人の言葉もそうだと思い込んでいた俺が一番誤解してた訳だ
418266:2009/10/21(水) 20:25:54 ID:yrHw5GGR
お話はよくわかりました。
私自身、何かにつけて過剰に反応しすぎる部分があり、余計に話をややこしくしてしまったようで申し訳ないです。
とりあえず、私の存在がご迷惑になっていないなら、それが何よりです。

先ほどようやく今週のマガジンを確認しました。
確かにこの内容なら、そういった流れの話が出てきてもおかしくないですね。
ていうか、既に書きたくなってる訳ですが。

兎にも角にも、みなさん、お騒がせして申し訳ありませんでした。
それでは、失礼いたします。
419名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 20:33:44 ID:qzOGsrhi
こういう場所だからある程度叩かれるのは承知の上で投下してるんでしょ
それが嫌なら自分のサイトでだけやるべき
事がある度にいちいち出てこなくてもいいよ
420名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 20:45:56 ID:YHyXSA5W
ある程度ってどの程度だよ
421408:2009/10/21(水) 21:16:19 ID:l0XAs8+x
今さらだけど自分も401さんと同じで266さんが好きそうな流れだにって思っただけだよ
でも読み返したらアンチに見られてもしかたない流れだったかも
言葉って難しいね
422名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 21:27:22 ID:jHzAR6eb
SS投下のスピードだけは感心するがな
423名無しさん@ピンキー:2009/10/22(木) 06:05:15 ID:7L0VIpp9
嫌みったらしいやつだな
424名無しさん@ピンキー:2009/10/22(木) 18:10:38 ID:KFduMce6
お前らこういう話題好きだなぁ
425桃毛:2009/10/22(木) 22:07:34 ID:vcjvrEvf
桃毛です。久方ぶりに投稿します。
ここしばらく働いて帰って寝るだけの労働機械をやっていましたがやっと解脱。
ねんがんの やすみを てにいれたぞ。

書きかけの倫のぞをうっちゃらかして加賀さんで一編でっち上げました。
ネタは謝緒里ママ編、ということで、いささか古いネタですがごかんべんを。
えろ分は多めであります。先生ちょいSです。

ではどうぞ、『懺夏の夢』
〜あるいは、加賀愛の帰還?
426『懺夏の夢』:2009/10/22(木) 22:08:59 ID:vcjvrEvf

 そこは海沿いの町にありがちな、険阻な地勢の町だった。
海から陸に上がるとそこはすぐに坂。
山の急斜面が坂に変わるあたりに、人の住む世界が張り付いている。
その町へ廃線も囁かれるローカル鉄道が一本、峻険な山を縫って通っていた。
 夏も終わりに近いある日−。
町を見下ろす駅に、二時間に一本の電車が止まる。
 ホームに下りた客はたった一人の男。
袷に袴を瀟洒に着こなした男は、糸色望と言った。
中性的ですらある整った顔にうっすらと汗を滲ませている。
彼は荷物を持ち直すと、無人の改札を悠然とくぐった。
落日が海も町も黄金色に染め上げる黄昏時のことであった。


 望は、何のためらいも無く坂道を下ってゆく。
入り組んだ路地を左右に折れ、やがて地元の漁師たちが夜に憩う場所−飲み屋が点在する横丁にたどり着いた。
そこは見るからにさびれた一画だった。
道の片隅には港町だというのに痩せこけた猫がやる気なさげにうずくまっている。
望はその猫をみて、この町に漂うどうしようもない疲れた空気を痛感した。
そういえば、先ほどから住人の一人にも行き逢わない。
およそ活力という物が感じられないほどの、鄙びた町である。
 (やれやれ‥なにもこんなところに‥)
427『懺夏の夢』:2009/10/22(木) 22:09:57 ID:vcjvrEvf
 望は潮の香りと、微かに漂うなまものの腐敗臭に眉をひそめながら、とあるスナックの前で足を止めた。
その店は、『スナック 謝緒里』と言った。
 軋む音を立てるドアをくぐる。
こぢんまりとした店内は落ち着いた色と木の香りで調和がとれていた。
店内の適度な狭さに、望は好感を抱いた。

 「いらっしゃい。この辺じゃ見ない顔ね」
カウンターにひっそりたたずんでいた女が、望に声をかけてくる。
この店のママのようだ。
店名どおりならば謝緒里ママだろう。
彼女は磨いていた皿をそっとしまうと、こちらを向いて薄く笑みかけてきた。
望は女の対面のスツールに腰掛け、荷物を足元に置いた。
 「ハイボール」
この国でのウイスキーのソーダ割の俗称を告げる。
ママは無言で、しかし手際よく注文の品をあつらえると、望の前に静かに出した。
 ひと口あおりざま、望は自然にママを見やる−。
この町にある意味相応しく、どこか疲れたたたずまいの女だった。
黒いワンピースにあらわになる、力なく儚げな肩。
肉付きのうすい背にうっすら浮かぶ肩甲骨の隆起が艶めかしい。
束ねた短い髪のほつれたうなじが、かすかに色気をはなっていた。
年のころは判らなかったが、張りのある肌は彼女がまだ若いことを物語る。
望は僅かに眉をひそめ、ため息を押し殺す。
428『懺夏の夢』:2009/10/22(木) 22:10:35 ID:vcjvrEvf
 背を向けた彼女はレコード機の電源を入れ、古びたLP盤を取り出してセットしていた。
曲が流れ始める。
無言に戻ったママを半眼に見つめながら、望はグラスを時折口に運ぶ。
 (バッハの無伴奏バイオリン・ソナタ&パルティータ、ですか‥。
  このような店で聞くとかえって味がありますかね‥。
  演奏はハイフェッツ‥でしょうか。場違いではありますがいい趣味です‥)
会話を妨げることは無いであろう控えめな音量のバッハに聴き入ることしばし−。

 ハイフェッツの熟練した技巧が奏でるバッハは鮮鋭な豊かさを湛えていたが、むしろ店内の静寂を否が応にも意識させた。
沈黙したままグラスを時折傾ける望。
カウンターの女は、望を横目でちらちら見ながら、やはり黙ってグラスを磨いている。
その手つきは、どこかいらいらしているようにも見えた。
どれほど時間が流れたのか−。
やがてその静寂な時空に耐えられなくなったのか、女は客に話しかけた。
 「お客さん‥どちらから?」
 「遠くからですよ」

カウンターを挟んではいながら、二人は視線を己の手元に落としている。
その間を、バイオリンの旋律が流れてゆく。
 「お仕事か何かで?」
 「そんなところです」
 「お仕事、ですか‥。
  何をなさっているのですか?」
その言葉にこもる微妙な温度。
望はからりと氷を転がすと長い睫毛を伏せた。
 「若輩ながら、教師‥をしております。
  そういう謝緒里‥さんは、なぜここでこんな商売を?」
ややもつれた舌をグラスの酒で湿しながら答えを告げる。
その瞬間。
穏やかだったママの気配に、僅かに激しいものがこもるのがわかった。
 「わたしもお酒、いただいてよろしいかしら」
ぞくり。
来ましたね。
望は僅かに唇の端を吊り上げながら、グラスを口に運んだ。
429『懺夏の夢』:2009/10/22(木) 22:11:23 ID:vcjvrEvf
 
 ママは望と同じ酒をグラスに満たすと、つい、とあおった。
一度、二度、三度−。
白い肌膚に微かに火がともってゆく。
望には同時に彼女のなかに何かこわいものが宿ってゆくように感じられた。
その上下する白い喉に見とれながら、望は彼女の言葉を待つ。
 「好きなひとが、いたんです‥。わたしは学生でした。
  そしてそのひとは、先生でした」
 「‥ほう」
がん。
謝緒里はカウンターにグラスの底を打ち当てた。
飛び散る琥珀色のしぶきを受けるのも構わず、続けた。
 「ある日わたしは、級友に背中を押され、先生に告白しました。
  けれど、あのひとは何も言ってくれませんでした。ただ頬を赤くして黙ってわたしを見つめていただけ−」
 「‥」
 「年頃の娘が、それからどんな思いで日々を送ったと思います?」
 「それは‥」
どこか疲れた、控えめな印象の女に一瞬閃いた情念は、望を少々たじろがせた。
酒を一気に呷ったせいもあるのだろう。
彼女はあまり酒が強そうではないようだった。
謝緒里は垂れ気味の眉をひそませながら、望の方に酔眼を向ける。

 「先生は同級の女生徒にとても人気がありました。
  先生は家が燃えてしまったので宿直室に間借りしていたんですが、同棲していた娘までいたんですよ」
謝緒里は言いながら、減ってしまった自分のグラスにウイスキーを注いでゆく。
 「‥‥」
 「他にも、ずっと先生をつけまわしていた娘、保健室で同じベッドで寝ていた娘。
  恋文をしたためて来た下級生や、高校生で人妻なのに先生と不倫を望んだ娘だっていました」
 「‥大した色男ですね」
注ぎ足した酒をあおった謝緒里ママの眼が、次第に据わって来る。
その眼線は、いつしか望に絡みついてきていた。
 「先生は時々、わたしに付き合ってくれました。
  映画や遊園地、プール‥。そんなことだけでわたしは有頂天。
  可愛いものですよね?手さえ握って貰えなかったのに。
  結局先生は、わたしに、何も‥言ってはくれなかった、のに‥」
ひと言ごとを区切るその言葉が望の耳に、刃のように切りつけられてくる。
430『懺夏の夢』:2009/10/22(木) 22:12:23 ID:vcjvrEvf
 「夏のある日でした。あのひとはその女生徒たちをはべらせてプールで水遊び。
  わたしは水に浸かってそっと姿を見ているだけでした。
  そこでわたしは見てしまったんです。
  先生が、見たこともない綺麗なひとと、うっとりお酒を傾けながらボートで流されてゆくのを」
その表情には何か凄愴ともいうべき何かが湛えられているように見えた。
 「それっきり、先生はいなくなりました。
  あとは解りますよね?青臭い、恋とも呼べない何かを喪った小娘が、どう流れどう堕ちていったか」
 「‥なるほど‥」
望は冷ややかに過ぎるほど平静な態度で、謝緒里の震える肩から眼をそらし、店のドアを見つめた。 
奇妙なことに、客は一人も入ってこない。
 「興味深いお話でした。
  どうです?お客さんもいらっしゃらないようですし、こちらで一緒に頂きませんか?」
謝緒里は一瞬戸惑ったような表情を見せたが、望を見て頷く。
棚からボトルを掴むとこつこつと靴音を立ててカウンターのゲートをくぐり、謝緒里は客席に廻った。


 謝緒里は望の隣のスツールに腰を下ろす。
横顔に突き刺さる謝緒里の視線を受け流しながら、望はゆっくりと席を立った。
 「それで?貴女はその先生にどうして欲しかったのですか?」
ひくり。
謝緒里は肩をひとつふるわせ、そのぼうとかすんだ瞳を振り向いた望に向き合わせた。
 「そっ‥それ、は‥」
望は整った指先を謝緒里のあごに掛けて上向かせると、鼻先を触れ合わせんばかりに自らの顔を近づける。
 「たとえば?こんな?」
 「あっ!‥や、やめてください!」
男をはねのけんと伸ばしたしたその腕に込められた力はあまりに弱く。
望は抵抗なく謝緒里を引き寄せる。
自らのグラスの酒を口に含むと、無遠慮に女の口唇に自らの唇を押し当てた。
後頭部を押さえつけ、口中の酒をきっかり半分、相手の口腔に流し込む。
謝緒里はその酒を少しむせながら飲み下した。
緩んだ口の端から琥珀色の雫が垂れるのも構わず、望は舌先で謝緒里の唇を舐めた。
そのまま下唇をついばむと、覗いた謝緒里の白い歯めがけて舌を侵入させる。
 「んあっ‥あんぅぅ‥」
探り当てた謝緒里の舌を絡めとりあえぎを殺すと、ねぶり、口外に吸い出してやる。
その先端に望はまるで乳首を愛撫するように吸い付き、自らの口唇でしごきあげてやった。
ぴくぴくと謝緒里の顎が痙攣し、望の胸に張り付いたままの指先がふるえるのが解った。
糸を引いて唇を離すと、望に抱きすくめられた謝緒里のからだからもともと弱かった力がぬけ去っていた。
431『懺夏の夢』:2009/10/22(木) 22:13:08 ID:vcjvrEvf
 望は謝緒里の赤く染まった耳朶にほほよせる。
犬歯を立てて甘噛みしながら、囁いてやった。 
 「流れただの堕ちただのと、世にすれたような事を言う割にはずいぶんうぶな反応ですね‥。
  可愛いですよ?謝緒里さん」
かっ。
耳まで赤く染めた謝緒里は手を振り上げようとしたが、望の手がそれを掴む。
 「叩けますか?あなたに」
 「‥」
 「謝緒里さん、いいですか?わたしは『行きずりの客』、ですよ?
  あなたのよく知っている人物に、似ているかも‥しれませんが‥ね」
望のもう一方の手が謝緒里の背に回された。
 「あなたの望むままを、わたしにぶつけてくれていいのですよ?」
−のぞむ、ままに。
謝緒里の息がしだいに荒くなる。
そのあらぬ虚空をまどう視線は逡巡のためか、それとも−。


 「『一期は夢よ、ただ狂え』‥閑吟集でしたかね。
  これは夢、そう残夏の一夢ですよ」
 「ゆめ。‥ああ、夢。‥せんせい‥」
考えようによっては男の言葉は卑怯そのものだったが、謝緒里の理性はもはやそれを認識する状態にはなかった。
彼女の中で抑圧されていたなにかが、かちりと音を立てる。
それはいわば、スイッチが入る音−。
432『懺夏の夢』:2009/10/22(木) 22:13:57 ID:vcjvrEvf
 謝緒里はかぼそい指を望の襟もとに伸ばし、その首をするり撫でると襟をかき開く。
カッターシャツのボタンをはずすと覗いた鎖骨に口付け、歯を立てた。
 「せんせい。せんせい。せんせい。ああ、あぁ、ずっとずっと、わたし」
唇は首筋を吸いながら手を袴の帯に伸ばし、結び目をもどかしげにほどく。
地べたにおちた袴を追うようにスツールをすべり降り男の足をかき抱いた。
 望はふるふると震える女の頬の感触を楽しみながら唇を歪めると、袷の帯を自ら解く。
下帯をあらわにその股間を謝緒里に擦り付け、奉仕を促した。
謝緒里はむしろ嬉しげに頷くと、唾液をたっぷりのせた舌をためらい無く下帯に這わせ始める。
自分の欲しかったものの場所を探り当てると、そのふくらみに鼻先を押し付け、白い指でもみしだく。
 謝緒里は手の中の布の舌で体積と硬さを増すそれをいとおしげに撫でさすり、霞がかった瞳で望を見上げた。
薄紅を引いた唇で何度も接吻を捧げられた下帯はところどころに紅い染みが出来ていた。
謝緒里には、その布は邪魔なのだ。
 「あぁ、解きかたがわかりませんか?すみませんね、いまあげますよ」
望は懐いた仔犬をあやすように跪く女の頭をなでると、下帯を解く。
あらわになった肉棒がぴんと反り返り、謝緒里の鼻先に突きつけられた。
 「せんせ‥?」
 「いいですよ、どうぞ好きにして下さい」
433『懺夏の夢』:2009/10/22(木) 22:14:35 ID:vcjvrEvf

 謝緒里は切なげに喉をならすと望の肉棒を両の手で捧げるように包み、先端に口付けた。
あおのいて望を見上げながら、開いた口に差し伸ばした舌の上で亀頭の裏を転がし、先端を舌の裏でなぞってやる。
しかしその動きはどこかたどたどしかった。
舌を赤黒い肉棒に這わせながら、時おり謝緒里の瞳に不安げな色が浮かぶ。
−せんせい、これでいいでしょうか?わたしの、その、‥口は、気持ちいいですか‥?−
 「どうかしましたか、謝緒里さん?だいじょうぶ、気持ちいいですよ。
  不慣れを恥じる事はありませんよ?」
望は優しげに微笑みながら女の髪をなでてやる。
謝緒里は未熟な自分の舌の働きにそれでもぴくぴくと反応してくれる望に雌の心をくすぐられるのか、
嬉さといくばくかの恥じらいのこもった笑みを返した。
 その時であった。
望の顔の笑みが、優しさを通り越したところまでつり上がる。
謝緒里の髪を撫でていた望の手に急に力がこもった。
 「でもこのままでは夜が明けてしまいますね‥。失礼して、動かせてもらいましょうかね」
何のことかと見上げた謝緒里の喉奥めがけ、望は腰を突き出していた。
 「んぅ、んんっ」 
喉奥を突かれ、軽いえずきとともにむせる謝緒里。
望はそれが収まるのを待ってから、引いた腰を今度は優しく使い始めた。
 「舌を遣うのも忘れないで下さいね、謝緒里さん。そう、舌の腹でしごいて‥、いい子です、上手ですよ」
顎を撫でて口をいっぱいにひらかせ喉やほおの裏側の粘膜の感触を楽しむ。
肉棒のせいでぷっくり膨らんだ謝緒里のほほをさすりながら、見上げてくるその蕩けた顔に満足げに頷いてやる。

 (わたしの口に出たりはいったり‥いやらしい、へんな‥におい。せんせいの、おちん‥)
まるで脳髄を犯されているような錯覚をおぼえ、謝緒里はぶるっと背筋を震わせた。
それでも時おりぴくりと震える肉棒にいとおしさを覚え、望の腰使いにあわせ必死に舌を働かせた。
僅かに温度と体積を増す口中のそれに、
本能かあるいはかすかに持っていた知識からか、射精が近いのだとうすぼんやりと思い至る。
望と眼が合った。
きっと自分は今すごくはしたない顔を見られているのだろうな。
上気した頬をすぼめつつ舌を動かしながら、そんな思考が謝緒里の脳裏をよぎったとき、それは来た。
434『懺夏の夢』:2009/10/22(木) 22:15:12 ID:vcjvrEvf

 耳朶を揉んでいた望の指がこわばるのを感じた瞬間、喉の奥に温度を持った何かが叩きつけられる。
それが自分が愛撫を捧げた男の絶頂の証なのだと思い至る暇もあればこそ−。
 「んあっ!んんぅっ!」
驚きながらもその粘つく白濁を必死で受け止める謝緒里。
射精のあまりの勢いに閉じてしまっていた眼をひらくと、顔をかすかに赤らめた望が自分を見下ろしているのが解った。
唇をすぼめ、肉棒の奥に残る精の残滓を吸い出すと、にっこりと微笑んだ望が頭を撫でてくれた。
その笑みに嬉しくなった謝緒里は、ためらいなく口中の白濁液を飲み下した。
 「せんせい‥、わたし、うまく出来ましたか‥?おち‥んち、あの、気持ち良かったですか‥?」
わざと、性器のことを口にしてみる。
他にいくつもある直接的な名詞は、謝緒里には羞恥のあまりとても口に出せるものではなかったが、
幼さの残るその表現は何とか口の端にのせることが出来た。
望はいささか強く唇の端をつりあげると、膝を突いて謝緒里の耳に唇を寄せてきた。
 「はい、謝緒里さんのフェラチオ、とっても良かったですよ。とても我慢出来ませんでした」
自分のほうで動いて女の口を犯していたことなど棚に上げ、謝緒里の恥じらいを楽しもうと、わざわざそうささやいてやる。
 −いや、せんせい、嫌です、そんないやらしいこと言わないでください−。


 望は期待通りに身をよじる謝緒里の腰を抱いて立たせると、カウンターに肘を突かせた。
その突き出された尻の後ろにまわる。
 「せんせ‥?」
不安げに首をめぐらす謝緒里のうなじに口付けると、望は小ぶりな丸い尻肉を撫で回しワンピースの裾をまくり上げた。
繊細な刺繍の薄絹の下着と、ストッキングを吊るガーターがあらわになる。
華奢な肢体の、抜けるような白い肌を飾る黒のレースがなまめかしい。
 「そのままでいて下さいね‥今度はわたしが謝緒里さんを気持ちよくして差し上げますよ」
 「え‥?」
435『懺夏の夢』:2009/10/22(木) 22:15:48 ID:vcjvrEvf
 
 酒精に焼かれ性感に燃えた頭でも、男の言葉の意味するところを悟ったのか。
今度は謝緒里の後ろにひざまづいた望が鼻先を尻に押し当ててくると、謝緒里はたちまち顔を赤く染めあげた。
 「いや、せんせ、やめてください‥」
何か抗議めいた台詞を望に浴びせはしたが、期待感に膝が笑ってしまう。
だいいち、すでに下着を糸引くほど湿らせてしまっているのを男の眼前に晒している身ではそんな言葉など何の意味も持たない。
ふふ、と笑った望の鼻息にすら感じてしまい、
膝をすり合わせようとした様をじかに見られては、謝緒里はあきらめてしまう他なかった。
 望は謝緒里の両の腰骨の下に結び合わされている下着の紐に指を掛ける。
すい、と引くと、そのちいさな絹の布地はするりと謝緒里の尻から離れていった。
それはぺたり、僅かに粘液質の音を上げて床に落ちる。
 「あぁっ!」
見られた。見られている。せんせいに、わたしの一番恥ずかしい、ここを‥!
 「おやおや、単に蝶々に結んだだけですか?なんですか、こんな風に剥ぎ取られ易いようにしていたなんて‥」
 「ち、ちがいます!これは、その‥」
 「貴女のように普段おとなしげな人ほど、その身に秘めた欲望は深く大きいということですかね?
  瑣末な事からわかるものですよ、いやらしい方です、ほんとうに−」
望にそんな風に罵られるたび、謝緒里の脳髄の奥に被虐の快楽が押し寄せる。
 −そうです。毎日下着を換えるたび、これを脱がすのがせんせいなら、と幾度思ったことか。
  わたしはいやらしい女です。せんせい、ああせんせい、はやくわたしの『そこ』をいじめてください−。
空気にふれ、望の眼にふれた己の秘部をひくつかせ、謝緒里は期待を燃え上がらせたが、望はそこに触れようとはしなかった。

 「いやらしい‥雌のにおいは確かにしますが‥、ねえ、謝緒里さん?
  何処にふれて欲しいのか、どうかわたしにわかるようにそこを拡げて貰えませんか?」
男はもう鼻先に『そこ』を捉えながら、意地悪くのたまい、そこに吐息を吹きかける。
 「ひんっ!」
手ひどいおあずけに狼狽した謝緒里はますます膝を震わせて、カウンターをつややかな爪でかきむしった。
 「えぇっ‥?い、いや、せんせい‥いじわるしないでください‥許して‥」
犬歯をむき出して女に見えぬ笑みを浮かべた望は顎をそらすと、ゆれる尻の肉をわしづかみにする。
 「駄目です。さ、早くしてください‥貴女の綺麗なそこを、わたしに見せてください」
巧みにおだてながら、望は謝緒里の両肘を引くと、その指先をまるい尻の合わせ目へと引っ張ってやる。
謝緒里は観念したのか、白い歯をきしらせると自分の指先に力を込めた。
436『懺夏の夢』:2009/10/22(木) 22:16:29 ID:vcjvrEvf
 
 ‥くぱり。
 「あぁ‥、変態!変態!へんたい!せんせいは変態です!変態!
  こんな、こんなことさせるなんて‥!」
 謝緒里は罵られたり褒められたり、すっかり望に乗せられて、あるいは乱れる己に酔ったのか。
口調こそ望を咎めるように荒げてはみたが、男の望みどおり自らの肉襞をその眼前にいっぱいにひろげてさらけ出した。
 「たいへん よく できました」
くすりと笑った望は舌を差し伸ばしひくついた桃色の膣穴に吸い付いてやる。
じゅるり、わざと音を立て入口の柔肉をねぶり、吸い、舌先でかき回した。
鼻先で植生を掻き分ける動物のように割れ目に唇をねじ込みながら、
 「おいしいですよ?謝緒里さん。それにとても綺麗ですね‥流れて堕ちても、あまりここは使わなかったということですかね」
いちいち淫らな責め言葉を吐いて女の脳を焼くことも忘れない。
 「あっ!ぃあっ!あぁぁ‥」
上体をカウンターに突っ伏した謝緒里はひくひくと細かく体を痙攣させ、舌を出してあえいだ。
 「使ってません‥いっかいも‥せんせいに、して欲しかったから‥、あぁっ!」
答える必要も無い、羞恥をともなう台詞を意識せずに吐き出す謝緒里は、もうすっかり出来上がっていた。

 ぴしり。
忙しく舌を使う傍ら、望の指の腹が謝緒里の肉の芽を軽くはじいた。
声にならないあえぎを漏らしくず折れる謝緒里の膝を、望が咄嗟に空いた手で支えてやる。
 「いけませんね、ちゃんとお尻を突き上げていて頂かないと‥。してあげられなくなりますよ‥?」
 「いや、いや、いやぁ‥」
何がいや、なのやら。
望は尻肉に甘噛みしながらくすりと笑うと、手指を膣の入口にあてがう。
既に太ももにいく筋か粘つく垂れをつくるほど潤ったそこは男の指をすんなり受け入れる。
 「ひぃっ!」
それでもずっと自らの秘所を律儀に拡げ続けていた謝緒里の腰から、すっと力が抜けるのがわかった。
望は謝緒里の肉の内と外ではさみこむように指を、舌をうごめかせる。
 「せんせい、だめ、だめです‥わたし、だめなのぉっ‥!」
皮をむきあげた肉の芽をつまみ、転がし、優しく引っ張りながら舌先でとどめの愛撫を加えてやると、謝緒里はたまらず達した。
手足を突っ張らせ、望の指を締め付けながらふるふると痙攣する。
ぴゅうとふき出した飛沫が望の袖口をぬらし、力を失った謝緒里が下半身から床にずり落ちていった。
437『懺夏の夢』:2009/10/22(木) 22:17:06 ID:vcjvrEvf

 望は袷を脱ぐと床に敷き延べ、謝緒里をそこに寝かせてやる。
なきぼくろに光る涙を一粒、唇で吸うと、謝緒里の背に手を廻し、ワンピースのジッパーを引き下げた。
服をぬがせ、のこったブラジャーも引き剥がす。
謝緒里の薄い胸が絶頂の余韻に上下するのを見下ろしながらその膝を割り、覆いかぶさるように女の体の横に手をついた。
肉棒を、謝緒里のそこにあてがう。
 さて−。
奇妙に冷静さを保った望は、顔をそむけた謝緒里のほほを撫ぜた。
 今回はわたしもたいがい流されてしまいましたが、ここらできっちりしなくてはいけませんかね。
 「ねぇ、謝緒里さん」
 「せんせ‥しちゃうんですか‥?」
謝緒里はぼうと霞がかかった、しかしどこか期待に満ちたような瞳で望に向き直った。
 「いいんですか?」
 「‥はい、優しく、どうか‥」
 「ちがいます」
 「え?」
髪を撫で、耳たぶを撫で、顎へと手指を流しながら−。
 「貴女はスナックのママで、わたしはゆきずりの客。たまさかの縁に酔った二人の、行きずりの情事−。
  そんな事でいいのですか?」
 「‥え?」
性感に乱れていたはずの謝緒里の緩んだ顔貌に、望の投げかけた影が何かを呼び起こす。
 「それは‥!で、でも、でも!」
酔いなどとうに醒めていたのか、それともあえて乱れることで最も繊細ななにかから、目を背けていたのか−。
 「でも、そうじゃないと、‥そんなかりそめの関係じゃないと、わたしなんかが!
  わたしのようなものが、先生とこんなこと出来ません!」
わたしのようなものが−。
悲鳴のように叫んだ謝緒里を、望はきゅっと抱きしめた。
 「本当は、お互いが何者であるか、知っていますよね‥。わたしが、何をしにここに来たのかも」
 「‥‥『お仕事』で来たんでしょう?『お仕事』ですよね?」
438『懺夏の夢』:2009/10/22(木) 22:18:03 ID:vcjvrEvf
 望は自分の店に来たときの発言が、謝緒里の心に澱のようにわだかまっていた事に気がついた。
あぁもう。
拗ねないで下さい。
結構覚悟決めて、来たんですから−。
 「ええ、仕事、確かにそれもあります。わたしは教師で、貴女たちの担任ですからね。
  でもただ仕事だけでここまでしませんとも−」
 「‥」
 「一期の夢と、狂う度胸がなかったんです、わたしも。あなたと同じですよ」
 「あ‥」
 「先ほどのあなたの告白は、本当にこたえました。
  すみません、あなたがどんなに傷ついていたか」
 「せん‥せい‥」
 「確かに酔いやら何やらに流され、調子に乗りはしましたが‥。
  ここに来たのは‥あ、‥愛、のためですよ!ああもう、恥ずかしいですね!」
上った血の熱さを振り払うように、ぶんばぶんばと頭を振る望。
 「え‥?」
 「それはあなたの名前、そしてわたしの想いです。‥迎えに来ました、加賀‥愛さん。
  ‥新学期が、はじまるんですよ」
 「せ、せんせ‥」
言いかけた謝緒里、否、加賀愛の唇は望のそれに塞がれていた。
望の唇はぴりぴりと強張っている。
自らの告白の照れ隠しであることが愛にはわかった。
先ほどの接吻のような巧みさはなく、それはまるで中学生の初恋のようなつたなさ。
それだけに伝わってくる望のまごころが、愛の胸を締め付けた。
 「加賀さん。本当に心配させてくれましたね。わたし一人では、こんなところ見つけられませんでしたよ。
  他の皆さんともどもいなくなって、どんなに心配したか‥」
 「‥すみませんすみません!わたしのようなものが、本当に先生に被害を与えてしまい−」
 「一緒に帰りましょう。これを、済ませてからですが」
真っ赤になった愛を見て、望はにっこり笑う。

 
 望は上体を起こすと、自らの肉棒で愛の十分に濡れた膣の入口をねぶりまわしはじめた。
 「ひぁっ!」
 「まったく−。加賀さん、あなたには本当におしおきが必要ですよ、いいですね?」
 「は、はい、でもせんせい‥優しく‥お願いします‥」
うっすら透けた黒いストッキングに包まれた愛の両膝を開かせる。
スナックのママなどという仮面の剥がれた愛は、糸色望の学生である、ただの年頃の娘に戻っていた。
 ひかえめな乳房も、尖った先端も、あばらの浮いた白い腹も、両足の付け根の薄い翳りも、
ただの教師と生徒の関係ならさらけ出すことなどありえない場所。
けれど、今は。
 「いきますよ、加賀さん」
439『懺夏の夢』:2009/10/22(木) 22:18:45 ID:vcjvrEvf
 あてがわれた望の肉棒が、愛の一番深いところに向かって侵入してくる。
愛が夢にも思い描き、覚悟していた痛みは、一刹那閃いただけだった。
残った酒精のせいか、既に十分なほど潤っていたせいか−。
抵抗少なく望を受け入れた愛は、それだけで意識が飛びそうになった。
 「だいじょうぶですか?つらくありませんか?」
 「あっ?‥はい、せんせい‥でも、あつい、です‥」
ささやくように、初々しい睦言が交わされる。
 「わたしもあったかいですよ。だいじょうぶそうですから、動きますね‥」
 「‥はい、せんせい、やさしくおねがいしま‥」
優しく?
とんでもない。
これは、おしおきですから。
かすかにうねる、愛のかぼそい体に雄の嗜虐心を刺激されたのか、望は歯をきゅっと噛むと、腰をいきなり激しく突き入れた。
 「うぁっ!あっ!せ、せんせい、いきなりっ‥!」
望はそれには答えず、上体を起こすと愛の乳房をもみしだきながら、いっそう激しく動き始めた。
 「おしおき、って言いましたよ、加賀さん」
 「いぁ、あぁあ、せんせいっ‥!ずるいです、こんな、わたし‥っ!」
望は突き入れる肉棒のせいでそこだけぷくりと盛り上がった愛の下腹をなでさする。
複雑に絡み合った肉襞を出入りするたび、つい先刻まで乙女だった愛の肉が、その口から上がる嬌声に相応しく痙攣していた。
 「あぁ‥、加賀さん、あなたのかたちがわかりますよ‥?きつくて、せまくて、あたたかくて」
 「いやぁっ!いやです、せんせい、そんなこと言わないでくださいっ」
−こんな時でも『ください』なんですね、加賀さん−。
乱れながらも身についた品の良さを失わない愛に、望はむしろ興奮した。
この娘を、もっともっとのけぞらせたい。
恥ずかしいところが、見たい−。
440『懺夏の夢』:2009/10/22(木) 22:19:18 ID:vcjvrEvf

 動く望から飛び散った汗が、愛の体にぱたぱたと落ちる。
望は愛の上体はそのままに、その両膝をあわせて腰をひねらせた。
 「え‥?ぇあっ?ん、んんぅ‥」
愛の嬌声が耳に心地よい。
ひねることで強調された腰のくびれにうっすらあばらが浮きいで、成熟一歩手前の少女を貫いているという背徳感をあおる。
 愛は態勢が変わることで先ほどとはまるでちがう快感に襲われていることに気づき、驚いていた。
突かれているのは自分の下半身なのに、望が動くたび、まるで脳の裏側を直接愛撫されているような錯覚に襲われる。
 −自分の身体なのに、まじわりかたによってこんなに感覚がちがうものになるの−?
頭をよぎった『まじわる』という自分の思考に、羞恥する。
 (まじわってる。わたし、せんせいと交わっているんだ)
頭の中がそんなことばでいっぱいになり、もう他に何も考えられなくなりそうになった。

 愛のあえぎが低くうめくようなものに変わった。
 「可愛いですよ、加賀さん‥。さぁからだを廻して、膝を立てて‥」
望はやわらかくしなる愛の肢体を四つんばいにさせると、その持ち上げられた尻を上から押しつぶすように肉棒を送り込む。
 「せんせ、いや、いや、こんなかっこう‥」
息も絶え絶えにあえぐ愛。
敷き延べられた望の袷をかきむしりながら、快感のあまり上体を支えられない肘がかくりと折れる。
頬を床に押し付けて尻だけを高く望に向かって突き上げた自分の痴態を認識することも、もはやできるかどうか。
 「加賀さん、だいじょうぶですか?」
空調が効いてはいるものの、絡み合う二人はもう汗とその他の液体で濡れそぼっていた。
 「あ、あ、あぁあ‥」
何度かゆっくり浅く浅く入口をかきまわしたあと、深く強く突き入れてやると、愛の嬌声はひときわ高くなるようだった。
 「ひんっ!ぃ、せんせい‥きもち、いいです‥」
ぽそぽそ、愛はやっとそれだけを言うと唇をきゅとむすび、快感に堪えかねたように身をよじる。
限界が近いようだった。
望もずれる眼鏡を直す余裕も無いほど、切羽詰ってきてはいた。
十分に感じている愛に満足はしていたが、最後に一度いじめてやりたい、そんな雄の情念が望を持たせている。
441『懺夏の夢』:2009/10/22(木) 22:19:59 ID:vcjvrEvf
 望は伏した愛の肉の芽に這わせていた指を滴る粘液に湿らせるとそこから引き抜く。
よつんばいの突き上げられた愛の尻の、肉棒の出入りする上に見えるもう一つの穴−そのすぼまりに指をあてがう。
 「ひぁぁっ!そ、そこはっ」
恥ずかしいそこは、愛にとっては何かを入れることなど考えもつかない場所−。
飛びかけた意識が羞恥と驚きにつなぎとめられた一刹那。
つぷり。
望の指がそこに侵入し、肉棒の動きにあわせて中をかき回していた。
 「んぁぁっ!!」
とたんに今までよりひときわ大きな快感の波が押し寄せ、愛の脊髄を駆けのぼる。
それと同時に望はペースを上げ、愛の最も深いところへと肉棒を突きこんでいった。
 「せんせい、せんせい、せんせい‥っ」
 「加賀さん、加賀さん、加賀さん‥!」
脳髄が溶け出し、時空感覚が混濁し、意識が交じり合う。
もうどちらがどちらを責めているのか責められているのか、愛にも望にもどうでもよくなっていた。
 「加賀さん、先生ももう限界です。いいですね、加賀さんの中、一番奥にあげますよ?」
 「だめですっ、せんせい、だめですぅっ‥」
肉と肉、心と心の奥で膨らんだ何かが見えない容れ物を満たし、沸騰し、はじけてゆく。
愛のからだがふるりと揺れ、ひきつり、望の分身をしぼりあげる。
天を仰ぎながら身をのけぞらせた望は、愛の膣奥に精を放っていた。
 
 二人のからだが脈打ち、長い射精が終わると‥愛は横に崩れ、前のめりに身を支えた望の腕の横に転がった。
望は自分も床の袷の上に転がると、愛を抱きとめ、ふるえの残るからだをそっと撫でてやる。
 「今度は、いなくなったりしないで下さいね‥加賀さん。あなたは、わたしの‥」
そこまで言って、愛が気を失っていたことに気づくと、望は苦笑いを浮かべた。
しばしのまどろみに、愛はどんな夢を見るのだろうか。
そのまま誰にも聞かれることのない言葉を眠る愛の耳にささやくと、望もまた眼を閉じた。

 何周めになるのか、ハイフェッツのバイオリンの音が、再び時空に満ちていった。

           『懺夏の夢』了
 
442桃毛:2009/10/22(木) 22:20:46 ID:vcjvrEvf
以上で仕舞いです。
なんだか結構な分量になってしまいました。
はじめは可符香が出てきて黒いオチがついていたのですが変更しました。
それにしても加賀愛というキャラからはなんだか嗜虐心を刺激するオーラが出ているとしか思えません。
つまり、いじめたくなります。
ナイス魔性。

久しぶりにここを見ましたがいろいろあったみたいですね。
自分は266さんのようにネタの鮮度と筆の速さは無いですが、
マイペエスでだらだら書いていこうと思います。

443名無しさん@ピンキー:2009/10/22(木) 22:51:10 ID:SXB0a1X6
ふう
444名無しさん@ピンキー:2009/10/22(木) 23:53:54 ID:oDXtj2wl
GJ!!加賀さんかわいい
445名無しさん@ピンキー:2009/10/23(金) 00:15:29 ID:gfMfwbni
>>442
シャナの19巻より良い!!
446名無しさん@ピンキー:2009/10/23(金) 08:54:43 ID:RRnkO7da
エクセレント!
447名無しさん@ピンキー:2009/10/23(金) 21:25:17 ID:gfMfwbni
バイオレンス!
448名無しさん@ピンキー:2009/10/23(金) 21:39:29 ID:nT/D5dfK
>>403
私男だけど最後の先生に萌えた
449hina:2009/10/23(金) 21:53:09 ID:9BEhcjn6
>>442
加賀さんGJ!

>>448
まさかこのタイミングで感想レス貰えるとは思わなかったがありがとう
450名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 10:59:05 ID:w/bUWQAy
小森タソハァハァ 小森タソハァハァ
451名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 18:17:27 ID:cCJnb6Eh
大草さんを無理矢理犯してドロドロの精液を何回も中に出したい。
中出しされて妊娠した大草さんは、愛人に熱をあげている旦那に、いい機会だと離婚されちゃうんだ。
大草さんは優しいから堕ろすなんてこと考えないんだ!まあ、堕ろすお金も無いんだけどね。
借金を半分背負って、しかも住む所もなくなった大草さん。
先生に頼れば何とかなったかもしれなかったんだけど、僕みたいなキモオタの子供を妊娠したなんて知られたくなくて、どこか遠い所で暮らし始めるんだ。
でも借金取りにすぐ居場所がばれる大草さんかわいそう。アルバイトをしてお金を返そうとしても、わざわざ妊婦を雇ってくれる所なんてないよね。
だからヤクザが経営するイケナイお店で働くことになるんだ。ヤクザは法律なんて無視するから、お客のおちんちんを挿入されちゃう。しかも妊娠する心配がないから皆生で中出し!
一日に何回も知らない人とセックスしても、大草さんの手元に残るのはほんの少し。元本もちょっとずつしか減らない。
お腹が大きくなってきた頃、ついに大草さんはエッチなビデオに出ることになるんだ!子供を産んだり育てたりするのにはお金がたくさんかかるからね。
ビデオの中で何回も溢れるぐらいいっぱいおまんこに中出しされて、100人より多い男の臭い臭いザーメンを顔やおっぱいに浴びる大草さん。
本当は嫌で嫌でたまらなくって泣きだしたいんだけど、「おまんこの中にもっと下さい」とか「精子おいしい」とか笑顔で言うんだよ。そうしないとお金が貰えないから。
そんな風にして、子供が産まれる直前までエッチなことをし続けた大草さんにも出産のときがくるんだ。
父親である僕のことは憎んでいるんだけど、やっぱり産まれてくるのは自分の子供だから可愛いんだよね。だから子供に望って名前をつけて愛情を注ぐ大草さん。
イケナイお仕事の後で精神的にも肉体的にも疲れていても、望の世話をすると昔好きだった先生を思い出してちょっとだけ大草さんは幸せな気持ちになれるんだよね。
そんな日々が続いているときに、実はずっと大草さんをストーキングしてた僕は、望の1才の誕生日に一緒に僕の顔の写真を送るんだ。
大草さんは僕の顔を思い出す!忘れたかったんだね。でも僕のこと忘れちゃ駄目だよ。僕のおちんちんの感触を忘れちゃ駄目だよ。
それから毎年僕の写真を送るんだ。そして大草さんは気付くんだ。子供がどんどん僕に似てきていることにね。
気付いてからは子供を見て思い出すのは先生じゃなくって僕になるんだ!おまんこに皮の被ったおちんちんを突っ込まれて精液をながしこまれた感触を思い出すんだ!
そうやって身も心もボロボロになった大草さんハァハァ
452名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 18:51:21 ID:MTb/lIrj
一度目の施しを受けた時は、地に頭を擦り付けんばかりの感謝をする。
二度目の施しを受けた場合は、何食わぬ顔でおかわりを要求する。
三度目の施しを受けた時は、おかずが無いと激怒する。
453名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 22:22:21 ID:1q4GN1Oc
なにがあった
454名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 14:37:13 ID:sUdP645p
カエレタソ・・・ ナプキン・・・ ハァハァ・・・
455名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 17:47:15 ID:sUdP645p
経血・・・ ハァハァ
456名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 18:12:18 ID:FdSWP0DT
そういやhome氏って最近見ないな
457名無しさん@ピンキー:2009/10/26(月) 01:01:48 ID:tHvbayFF
まあいつでも書けるようにしときゃいいじゃん
時間もネタもやる気も有限なんだから仕方ない
458名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 20:44:37 ID:EQj5zKSb
459266:2009/10/28(水) 00:39:10 ID:UmadwfZf
先日はお騒がせして申し訳ありませんでした。
先週のマガジンの0,001秒の天使のネタで書いてきました。
望カフ、エロ無しです。
それではいってみます。
460266:2009/10/28(水) 00:39:57 ID:UmadwfZf
港から学校へ続く道のりを望はトボトボと歩いていた。
彼には今日とある離島への出張があったにも関わらず、島に向かう船に乗りそこなってしまったのである。
「仕方ありませんよ、先生。いくら仕事でも命には代えられませんから」
「そうは言いますけどねぇ……」
背後を歩くまといの励ましの言葉を聞いても、望の表情は暗いままだった。
望が船に乗り損なったのには理由があった。
彼のクラスの生徒の一人、風浦可符香曰く『0.001秒のチキ……もとい天使』と名付けられた望の驚異的な危機回避能力。
何故だか望には可符香そっくりの天使の姿に見えるソレが彼を船に乗らせなかったのである。
ほとんど予言じみたその能力が警告した通り、望の目の前で出航した船はものの見事に沈没してしまった。
まあ、その事自体には何の問題もないのだが……。
「そもそも、私が出張を度忘れせずに、もっと早い船便に乗ってれば島にも辿り着けた筈なんですよね……」
その辺りに関しては言い逃れのしようもなく、望の落ち度であると言えた。
望は自分の右隣、少し宙に浮かんで彼に寄り添う『0.001秒の天使』に対して恨めしげに話しかける。
「だいたい、あんな事になるって解ってるなら、もっと早くあなたが教えてくれても良かったじゃないですか……」
「そう言われても、私は危険回避が専門ですし、流石にあんまり先の事はわかりませんから」
答える天使はあくまでマイペース。
むしろ望に迫る危険を回避出来たので少し得意げなくらいである。
しっかり身の危険を防いでもらった以上、文句を言う事も出来ず望は黙り込む。
「あの、先生、誰とお話になってるんですか?」
望の深層心理に潜む存在である『0,001秒の天使』はまといには見えない。
天使と望の会話に置いてけぼりのまといはふくれっ面で望の横顔を睨む。
と、その時だった。
「……あっ!?」
「……んっ!?」
天使と望は同時に背後を振り向いた。
バロロロロロロロロロロロッッ!!!!!
轟くエンジンの爆音。
キキ――――――ッッッ!!!!
アスファルトとこすれ合うタイヤの摩擦音。
天使の力を借りるまでもなく察知できる、迫り来る危険の予感。
案の定、振り返った望の視線の先、今しがた望達が通り過ぎた交差点を曲がって、恐ろしいほどのスピードでこちらに走ってくる一台の車が見えた。
フロントガラス越しに見える運転手の青年の顔には、明らかな焦りと恐怖の表情。
後輪の片方を歩道のブロックにぶつけ、完全にコントロールを失った自動車は反対車線を横切って、そのまま望達の方へ突っ込んで来る。
本来なら、一目散にその場を逃げ出すべき状況だったが、望にはそれが出来なかった。
何故ならば……
「えっ!?…く、車が……っ!!?」
望と見えない天使の会話に注目していたまといは、車が間近に迫るまでその接近に気付いていなかったのだ。
「常月さんっ!!!!」
望はなりふり構わず、体当たりでまといを車の進路上から突き飛ばした。
だが、まといの事で頭が一杯になっていた望はその場から自分も逃げ出すことが出来なかった。
「あ………」
全ての風景がスローモーションになっていく中、望は目の前の自動車を呆然と見つめていた。
視界の隅で、『0,001秒の天使』が青ざめた顔でこちらに手を伸ばしているのが見えた。
(そういえば、物理的に回避不可能な危険には天使も無力なんでしたっけ……)
そして、次の瞬間……
「先生――――っ!!!!!」
まといの悲鳴が響き渡る中、望の意識はホワイトアウトしていった。
461266:2009/10/28(水) 00:41:17 ID:UmadwfZf
開け放たれた窓から吹き込む爽やかな秋の風がカーテンを揺らしていた。
既に時刻は午後の2時ごろ、この秋一番の陽気に恵まれたおかげか部屋の中は温かい。
そんな心地良い空気の中、薄っすらと瞼を開いた望の視界に真っ先に映ったのは、見慣れた兄の顔だった。
「ああ、望、気が付いたんだなっ!!」
「…はい……起き抜けに見たのが角メガネの顔だってのがアレですが、目は覚めました…」
ペチン!!
目覚めていきなりの憎まれ口に、命は望の頭をクリップボードで軽くはたいた。
「うぅ…怪我人にひどいじゃないですか……」
「自業自得だ。ていうか、お前、自分が怪我してここに運び込まれた事は理解できてるんだな?」
「いや、そういう訳でもないんですが……気がついたら全身ボロボロで病室にいるなんてのは、日常茶飯事ですから……」
「なるほど、お前も苦労が絶えない訳だ……」
そこでふうっとため息をもらし、命は優しげに望に微笑んだ。
「……な、なんですか、命兄さん?…なんか気持ち悪いですね」
「気持ち悪いとはなんだ。これでもかなり心配したんだぞ。お前が車にはねられたって聞いた時は……」
「あ………そう、でしたね……」
命の言葉で望はようやく思い出す。
自分は暴走した自動車からまといを庇った為に逃げ遅れてしまったのだ。
だが……
(あの時、車は確実に私との正面衝突コースに入って、逃げる余裕もなかった筈なのに……)
望の瞼の裏には、目の前ほんの2、3メートルまで迫った自動車の姿がその細部に至るまでしっかりと焼きついている。
毎回、絶望少女達に好きなように遊ばれ、度々暴力を振るわれて否応もなくタフになった望だったが、
車に真正面からぶつけられ、押し潰されては流石に生きていられる筈がない。
「兄さん、私にぶつかってきた車はどうなったんですか?」
望が質問すると、命は少し暗い表情になり
「即死……だったそうだ。相当スピードを出していたからな。
突っ込まれた酒屋はたまたま休業中で、ご主人は奥の方にいたんで無事だったそうだが、店は半壊状態だ……」
「それなら、どうして私は……」
望は納得できなかった。
確かに今の望の体は怪我だらけで、全身が痛みに悲鳴を上げていたが、望の記憶が正しければこんな程度で済む事故ではなかった筈なのだ。
思案顔の望に、命も少し困ったような顔で口を開く。
「何だか知らないが、お前避けたらしいぞ」
「へ?」
「いや、正確には避け切れなかったんだがな……お前、あの時首吊り用のロープを持ってただろ」
命は、事故の一部始終を見ていたまといからその様子を聞いたそうだ。
望は迫る車を前に、淀みのない動作でロープを取り出し、まるでカウボーイの投げ縄のようにその先端の輪っかを近くに立っていた街灯に引っ掛けた。
そして凄まじい力でロープを引っ張りながら、背後の酒屋のシャッターを蹴って宙に跳んだのだという。
「火事場の馬鹿力というヤツなんだろうな。前後左右逃げ場のないお前はロープをたよりに上へ逃げたんだ」
それでも、完全に車を回避し切る事は不可能だった。
宙に逃げるすれ違いざまに、望は車に全身のあちこちをぶつけられたという。
車体前方に両脚をぶつけられ、ボンネットの上を転がってフロントガラスにぶつかりアバラや腕の骨を折られた。
それでも、望は致命的だった筈の自動車衝突の衝撃をほとんど逃がし、車と酒屋の間でサンドイッチになる事を免れた。
「ほら、お前の右の手の平、包帯が巻いてあるだろ?とんでもない握力でロープを掴んでいたらしいな、手の平の皮が擦り切れてズルズルになっていたぞ」
言われて、望は初めて自分の右手をまじまじと眺めた。
「というわけで、お前は何とか生還できた、という事みたいだな。正直、私も信じられないが……」
「ええ、多分事実なんでしょうね……」
包帯に隠された傷からじんじんと伝わってくる熱を帯びた痛みが、命の話が事実であると裏付けているように感じられた。
事故の説明を一通り終えた命は手元のクリップボードに視線を落として、望に怪我の状態を告げる。
「ちなみに私の見立てでは、怪我は全治二ヶ月ぐらいだから……そうだな、三日もあれば退院だろう」
「ちょ…っ!?何でですか!!どこをどうやったらそんな計算に……っ!!!」
「だってお前、こないだもクラスの女子生徒にボコボコにされて全治三週間の大怪我を負ってたけど、翌日には完全復活してたじゃないか」
「う……そういえば…」
「正直、最近のお前は景兄さんとは別の方向で人間離れしてるみたいで、見ていてちょっと怖いぞ……」
確かに2のへの担任職は修羅場の連続である。
ちょっとやそっとでダウンするようでは勤まらないのだ。
462266:2009/10/28(水) 00:42:00 ID:UmadwfZf
何とも言いがたい表情で苦笑いする望に、最後に命はこう付け加えた。
「まあ、早く教室に戻って無事な姿を見せてやる事だな。かなり心配してたぞ、お前の生徒達」
そう言って病室を立ち去る兄の背中に何とも言えない照れくささを感じつつも、望は穏やかな笑顔で見送ったのだった。

翌日も、望は糸色医院のベッドの上で目を覚ました。
トイレに行こうと起き上がり、スリッパを履いた所でしばし戦慄。
「私……確か両足骨折してましたよね?」
昨日の命の言葉の通り人間離れしていく自分を実感して、望はブルリと全身を震わせる。
用を足して部屋に戻ってきた望は昨夜からずっと考えていた事、事故当時の記憶を少しずつ思い出そうとしていた。
徐々に浮かび上がってくるパズルのピースのような記憶の断片から考える限り、昨日命に伝えられた話は真実らしい。
「これも、例の『天使』の仕業なんでしょうかね……」
あの『0,001秒の天使』は可符香曰く望の「生き意地の汚さ」、つまるところ彼の生存本能のようなものから生み出されたのだという。
倒れてくる黒板や窓から飛び込んできたボールを最小限の動きでかわし、ついには船の沈没まで予言した天使は、
物理的に回避不可能な事故に対して、ダメージを物理的最小限に抑えるよう働いたのだ。
「生き意地汚いってのはちょっと失礼ですが、今回ばかりは天使に感謝ですね……」
今、望の周りには事故直前まで見えていた例の天使の姿はない。
おそらく、現在の望の傍には大きな危険はないという事なのだろう。
こうして気分が落ち着いてくると、望の中で今度は別の疑問が頭をもたげてくる。
それは、あの天使が現れた時にはあえて考えないようにしていた事……。
「あの天使の姿……あれって、どう見ても風浦さんですよね?」
もし、あの時の望と視覚を共有できる人間がいたら、間違いなく望と同じ感想を抱くだろう。
髪の色と服装と背中の翼を除けば、独特の雰囲気まで含めて、あの天使は風浦可符香と瓜二つだった。
さらに厄介なのは、あれが望の深層心理が生み出した存在だという事で……
「あうう……やっぱりこれは、私が風浦さんの事を…て、て、天使だと思ってるとかそういう事なんでしょうか?」
それはかなり恥ずかしい推論だった。
頭の中では、色々と反論を組み立ててみるのだが、実際に見てしまった事実に勝る証拠はなかった。
しかも、正直、天使の可符香が自分の中にいる事がとても嬉しい自分がいたりして………。
「いや、でも風浦さんは天使っていうよりは…なんというか小悪魔的な……って私は何を言って!!?」
考えれば考えるほど、混乱していく望の頭脳。
ウンウンと唸りながら頭を抱える望だったが、ふとその脳裏に何か奇妙なビジョンがよぎった。
(何ですか、これは……?)
白い闇。
目前に迫った車を前にした望の思考がホワイトアウトした時、視界を覆ったまばゆい光。
同時に、望はその時の自分の心の動きを思い出す。
迫り来る自動車に対して、何とか助かろうと一瞬の間に凄まじい勢いで思考を回転させていた望の意識がゆっくりと停止していく、そんな感覚。
(これは……諦めだ……)
あの時、望はギリギリのところで、助かろうとする心と体の働きの全てを放棄しようとしていたのだ。
彼はそれを表現する、ピッタリの言葉を知っている。
(……0,001秒の悪魔……)
自分の中には、生き意地の汚さ・生存本能から生まれた『天使』ぐらいしか宿っていないのではなかったのか?
疑問に駆られる望の頭の中で、真っ白なビジョンは徐々に変化をしていく。
光の向こうに、薄っすらと何かのシルエットが見える。
それは望に向かって必死に手を差し伸べようとしている。
(…何ですか、これは?…一体、誰なんですか!!?)
そして光の中のシルエットが明確な形を結ぼうとした瞬間……
「先生、失礼しますっ!!!」
「はいっ?」
飛び込んできた耳慣れた声に顔を上げると、病室の入り口には黄色いクロスの髪留めをしたセーラー服の少女の姿が……。
思わず、望は口走った。
「天使……?」
「えっ!?」
きょとんとする少女、風浦可符香の背後から、彼女に続いて部屋になだれ込んで来た2のへの面々が、
望にその発言の真意を吐き出させようとし始めるのは、この後僅か三十秒後の事である。
463266:2009/10/28(水) 00:42:48 ID:UmadwfZf
『天使発言』についての2のへの生徒達の詰問から望が何とか逃れる事が出来たのは、遅れてやって来た今回の事故のもう一人の当事者のお陰だった。
「せ…んせ…ごめ…ごめんなさ…、わ、わ、わたしのせいで…わたしなんかのせいで……」
「ほら、もう泣かなくていいですから。あれは私が仕出かした事であって、常月さんが自分を責める謂れなんて無いんですから……」
「でも……でも………っ!!!」
いつもの勢いをすっかり無くし泣きじゃくるまといを宥めながら、望は改めて今ここに自分の命がある事に感謝した。
もし自分が命を落としていれば、眼前でそれを見せ付けられたこの少女の心にどれだけの傷を残した事だろう。
「せんせい…せんせい……ごめんなさい…ごめんなさい……」
ギシギシと軋む腕を持ち上げて、まといの頭をそっと撫でる。
望にはそれ以上の事は出来そうになかった。
自分のせいで大切な人が死んでいたかもしれない、その事実の圧倒的な重さがもたらす痛みを消す術を望は知らなかった。
だが……
「せんせ…ひっく…ごめんなさ…………ぎゃんっ!!!?」
痛烈なチョップの一撃がまといの声を断ち切った。
「何をするのよ……っ!!」
涙声で叫びながら、振り返ったまといの視線の先にいたのは小森霧だった。
今回、彼女は全座連に代理を頼んで、望の見舞いにやって来ていた。
「ちょっと、いきなりどういうつもりよ……っ!!!」
「涙、鼻水……顔、ぐしゃぐしゃで汚いよ…」
「汚いって何よっ!!!!」
「汚いから汚いって言ってるの……ほら」
霧はジャージのポケットからハンカチを取り出すと、まといの顔を半ば強引にぐしぐしと拭った。
「だから、さっきから何するのよっ!!!」
「きちんと顔きれいにして、ほら、先生に言う事があるでしょ?」
「言う事って、だから私は……先生を死なせそうになった事を……」
「そうじゃなくて、謝るより先に言わなきゃいけない事、わからないの?」
目元に涙を浮かべて、しばし霧とにらみ合いを続けていたまといだったが、その言葉を聞いてハッと何かを悟ったような表情を浮かべた。
そして、ゆっくりと再び望に向き合ったまといは、着物の袖で涙を拭ってぺこりと頭を下げて、言った。
「先生、ありがとうございます……」
『まといのせいで』望は事故に遭い、もしかしたら死んでいたかもしれない。
それも一つの見方ではある。
だが、今回の事故を解釈する視点は当然それだけではない。
『まといのために』
今回の事故における望の行動の起点はそこにあった。
それはもしかしたら、望の死というまといが最も恐れる事態に帰結したかもしれないけれど、少なくともあの時望を動かした意志をないがしろにするのは違うはずだ。
「どういたしまして……こちらこそ、心配かけてすみませんでした…」
「先生……」
望を見つめるまといの顔には、いつの間にか少しだけ笑顔が戻っていた。
そして入れ替わりに、今度は霧が望の傍らに座り、彼の耳元にそっと小声で囁いた。
「私からも、ありがとうね、先生。まといちゃんの事も、それから、ちゃんと生きて帰ってきてくれた事も……」
「なんだかんだでいいコンビですね、あなたと常月さんは……」
「それは……だって、立場が逆だったら、きっと私もまといちゃんみたいになってたから……」
照れくさそうに答えた霧の目は少しだけ赤く、頬を伝い落ちた雫の後がかすかに残っていた。
それからも続いた2のへの面々によるお見舞いは、彼ららしい容赦のないものだった。
「先生、いくゾ〜ッ!!!」
「うわああっ!!関内くんっ!!やめなさああああ……ぐはぁっ!!!?」
マリアのフライングクロスチョップをまともに喰らって悶絶しながら、
(さっきの感触や痛みからして、折れてた筈のアバラ、もう繋がってる!!?私の体はどうなってるんですかっ!!?)
自らの肉体の神秘に戦慄する望。
さらに、包帯ぐるぐる巻きの望の姿を見て、あびるがポツリと呟いた
「先生、お揃いですね……」
の一言から始まった絶望少女達の争いに揉みくちゃにされ、望はすっかり疲れ切ってしまった。
望は生きも絶え絶えの声で千里に問いかけた。
「あのぉ、そろそろ閉院の時間なんじゃ……」
「ああ、それなら絶命先生から許可、もらってますから」
「へ……!?」
「好きなだけ病室にいて、好きなだけ先生を玩具にするといいって」
「あの角眼鏡ぇええええええっ!!!!!!」
かくして生贄に饗された弟の悲鳴を遠くに聞きながら、診察室の兄は
「楽しそうだなぁ」
と鼻歌まじりにカルテの整理を行うのだった。
464266:2009/10/28(水) 00:43:58 ID:UmadwfZf
そして、日もとっぷりと暮れ夜の闇が街を包み始めた頃、ようやく2のへの面々はそれぞれの家路についた。
ただ一人を除いて………
「話すのなら、もうちょっとこっちに近付いたらいいんじゃないですか、風浦さん?」
「えへへ、たしかにそうですね」
言われて、隣のベッドの端に腰掛けて、静かに望の方を窺っていた可符香は立ち上がり、望のベッド横の丸椅子に腰掛けた。
「いつもなら、色々とちょっかいを出したり絡んでくるところなのに、今日はやたらと静かでしたね」
「ああ、それはですね。先生に対する放置プレイですよ」
「いぃっ!!?」
先ほどまでとは一転、いつもの快活な笑顔を浮かべて彼女は続ける。
「真っ先に病室に入ってきたのに、みんなの後ろに下がって話しかけても来ない私………。先生、寂しかったんじゃないですか?」
「うっ……!!?」
「チラチラ私の方を何度も見てましたもんね。不安だったんでしょう?」
「そ、それは……っ!!」
「どうやら、大成功だったみたいですね。放置プレイ……」
「うぅ、あなたという人は……どうしてこう…」
クスクスと笑う彼女に、言葉もない望。
だけど次の瞬間、可符香の笑い声がフッと途絶えた。
「あっ……」
「…どうしてこう、素直じゃないというか、天邪鬼というか……」
「先生……」
途絶えた笑いの代わりに彼女の口から漏れたのは微かな驚きと、そして次に心の底から湧き上がる様な安堵の声だった。
いつの間にやら、膝の上で組まれた彼女の両の手の平の上に、そっと望の右手が重ねられていた。
「いつもだったらこれくらい気付くでしょうに……どうやら、あなたにもかなり心配をかけたみたいですね……」
「私は絶命先生から事故の事を知らされて、その時にはもう先生の命に別状はないってわかってましたから、そこまでショックは受けなかったですよ。………でも」
「でも?」
可符香はしばしそこで言葉を区切り、慈しむような優しい手つきで望の右手をきゅっと握った。
「ほら、まといちゃん泣いちゃって凄かったじゃないですか。それを見てたら、今更ちょっと怖くなって来て……先生が死んでたかもしれないんだって……」
「心配しなくっても、私にはあなたの言う生き意地汚い天使がついてるんですから……」
なるべく明るい言葉を返そうとした望だったが、俯き押し黙る可符香の表情に言葉を詰まらせる。
そもそも、『0,001秒の天使』はあくまで物理的に回避可能な危険に対してのみ有効なものである。
今回はダメージを最小限にする余地があったからこそ、この程度で済んだのだ。
人は死ぬ。
たとえ天使が守ってくれようと、唐突に、残酷に、人生はその幕を下ろす。
望は擦り切れた皮膚が痛むその右手で、可符香の手を握り返す。
「私はここに居ます。ついこの間も死に掛けて、明日や明後日、この先の未来でどうなってるか分かりませんが、少なくとも今私はここに生きています」
「はい……」
「すみません、風浦さん……今の私にはこんなこんな事しか言ってあげられない……」
「いいですよ。それで十分です……」
可符香は両手で握った望の右手の平を、そっと胸元に持っていく。
「私もここにいます。この先どうなるかはわからないけど、今、先生といられる事がとても嬉しいです……」
そこでようやく、可符香の顔に笑顔が戻った。
釣られたように、望もにこりと微笑んだ。
と、その時である。
(なんですか……これはあの時の…!?)
目の前で、自分の手をきゅっと握って微笑む少女の姿に、望は強烈な既視感を覚えた。
(デジャヴ!?……いいや、違う!これはあの時の……)
望は思い出す。
迫り来る自動車、白い光の中、諦めに包まれる意識。
その時、光の向こう側から、こちらに向かって懸命に手を伸ばすシルエットを望は確かに見た。
それは……
(風浦さん……いや、あの天使!?)
望に手を伸ばす天使の顔には、それまでの微笑みはなく、今にも泣き出してしまいそうな必死の表情が浮かんでいた。
465266:2009/10/28(水) 00:44:38 ID:UmadwfZf
小さな手の平をめいっぱいに開いて、天使は望に向かって手を伸ばしていた。
その姿が、声にならない声が、『悪魔』に捕らわれていた望の心を解放する。
天使に応えるように、大きく手を伸ばした望は、彼女の手の平をしっかりと掴んだ。
天使の顔に安堵の表情が浮かび、その頬を一筋の涙が流れ落ちていく。
そして次の瞬間、白い光と、天使の姿は掻き消え、気が付くと望は右手に掴んだロープを頼りに暴走自動車から逃れようとしていた。
「先生?どうしたんですか、ボーっとして?」
「あ…いえ、すみません。ちょっと、事故の時の事で思い出した事があって……別に大した事じゃあないんですけど」
可符香の言葉で現実に引き戻された望は、たどたどしく彼女に弁解した。
「ふうん……そうですか」
望の言葉に対して、可符香は意味ありげな眼差しを投げ掛けて、そう呟いた。
果たして、この少女はどこまでこちらの考えを呼んでいる事やら。
望の前に始めて『天使』が出現したとき、何やらと意味ありげな眼差しでこちらを見ていた気がするが、
もしかして天使が可符香の姿である事など当に見抜いているのだろうか?
(正直、風浦さんは底が知れないところがありますからね……ありえない話じゃありません…)
内心の動揺を隠しつつも、とりあえず望は強引に話題を逸らす事にした。
「そういえば、明日でもう入院最終日なんですよね。全治二ヶ月が三日で完治とか、本当に命兄さんの見立ては当てになるんでしょうか?」
「でも先生、実際私たちがお見舞いに来た時より確実に動きが良くなってますよ」
「わ、僅か数時間で……!?私の体、本当にどうなっちゃってるんですか!!?」
「丈夫で健康なのは良い事ですよ」
暴力慣れし過ぎの自分の体がだんだん空恐ろしくなってきた望の横で、可符香はニコニコと笑う。
その後も二人はしばし、他愛の無い雑談を続け、それからついに可符香は病室を後にする事になった。
「明日もお見舞いに来ていいですか?」
帰り際、可符香は望に問うた。
「もちろん、来てもらえると嬉しいですよ」
望の答えに心底嬉しそうな微笑みを返して、可符香は病室を去っていった。
彼女が帰ってしまった後も、部屋の中には可符香のぬくもりが残っているようで、それに包まれた望はすやすやと穏やかな眠りにつく事ができた。
466266:2009/10/28(水) 00:46:11 ID:UmadwfZf
翌日、午前中。
可符香が二度目のお見舞いに来る筈の放課後までの時間、望はある一つの事だけを考えて過ごしていた。
それは……
(どうしてあの時、天使は泣いていたんでしょうか?)
天使が可符香の姿をしていた理由。
望は最初それを、自分が可符香の中に生きる希望のようなものを見出しているからだと考えていた。
だが、その解釈は事故の時垣間見た、涙を零し望の手を掴んだ天使の姿と微妙な齟齬があるように感じられた。
ただ憧れ求める希望の対象が、あんな今にも泣きじゃくりそうな表情を浮かべるだろうか?
それに、望自身にとっての可符香という存在を考えたとき、単に『希望』という言葉だけでは言い表せない何かがあるような気がするのだ。
仰向けに寝転がったベッドの上で、時間の経つのも忘れて望は『天使』とそして、風浦可符香の事だけを考え続ける。
やがて、時計の針が正午を回る頃、思いがけない来客が望の病室にやって来た。
「お怪我の具合はどうです?糸色先生」
「智恵先生……来てくださったんですか?」
「ええ、ちょっとだけですけど、時間が取れましたから。甚六先生も心配していらっしゃいましたよ」
ベッド横の椅子に腰掛けた智恵は望の怪我の具合について尋ねたり、学校の、特に2のへの様子について話してくれた。
「常月さんはどうしていますか?」
それから望は、昨日この病室で泣きじゃくっていたあの少女の事を智恵に尋ねた。
やはりまだ望に対する罪悪感が拭い切れないのだろう、常に望の傍から離れなかった少女の姿は今ここにはない。
「元気になった……というわけにはいきませんね、流石に。あの事故からまだ何日も経っていないんですから……」
「そうですか……」
無理もない話だった。
一応、昨日のお見舞いでとりあえずの落ち着きは取り戻しただろうが、そう簡単にあの事故のショックが和らぐ筈もない。
「ただ、学校を出る前に宿直室を覗いてみたんですけど、常月さんもそこにいたんですよ」
「彼女が宿直室に…?」
「ええ、いつものように小森さんと喧嘩をしてた訳じゃないですけど、なんだかあそこにいるのが一番安心できるみたいですね」
やはり、まといと霧の間には奇妙な友情、もしくは信頼関係があるようだ。
望の顔にも少しだけホッとした表情が浮かぶ。
と、そこで望はある事を思い出した。
「智恵先生、もう一つお聞きしてもいいでしょうか?」
それは昨日、断片的に頭の中に蘇ってきた事故の瞬間の記憶についての事だった。
暴走車が目前まで迫った瞬間、望の意識はそこから逃れようとする思考を完全に放棄していた。
先日、クラスの話題に上った『0,001秒の悪魔』にものの見事に捕らわれていた訳である。
何とか危うい所で『天使』に救われる形になったわけだが、生き意地汚いとまで言われてしまう自分の心の中にどうして『悪魔』は存在していたのだろうか?
「それは……そもそも、風浦さんの説ですから、私にははっきりした事は言えないんですけど…」
望の問いに、智恵は一つ一つ慎重に言葉を選びながら答えていった。
「自分でも気付かない『無意識下の自己破壊願望』、それを私は『0,001秒の悪魔』と呼びました。
人間の心は無数の要素が複雑に組み合わさって出来ていて、その中にこの『悪魔』も潜んでいるんです。
それはどんな人でも例外はありません。糸色先生、あなたも同じなんです」
「えっ、でも私は……」
「そう、確かに糸色先生には、深層心理に潜む強烈な生存への欲求……風浦さんが言うところの『0,001秒の天使』がいるんでしょう。
でも、『天使』の存在はそのまま『悪魔』の存在を否定する事にはなりません。
生を強く望みながら、同時にどこかに自己の破滅への願望も存在する……
人間の頭の中にはそれこそ無意識なんていくらでも転がっています。単純に割り切れるものじゃあないんですよ」
467266:2009/10/28(水) 00:46:47 ID:UmadwfZf
なるほど、と望は肯いた。
『天使』と『悪魔』、『生』と『死』、相反する要素である事から、それらが同時に存在するとは考えてもみなかったが、それは間違いだったようだ。
望の中にも『悪魔』はいた。ただ、それが『天使』の存在によって覆い隠されていただけの話なのだ。
「糸色先生の『天使』は普段から自己破壊に向かう『悪魔』を打ち消しています。
でも、何かの拍子に先生の心に生まれた隙に『悪魔』が入り込んで、破滅へと向かわせる事もある。
今回のケースでは、たぶん常月さんを助けた事がトリガーになったんじゃないでしょうか?」
「彼女を車から逃がした事がですか?どうして?」
「たぶん、常月さんが危ないと気付いたとき、糸色先生の頭の中は彼女を何とか助ける事でいっぱいになっちゃったんじゃないでしょうか。
だから、突っ込んで来る車の前から彼女を逃がした時、その事に安心してしまって、先生の意識に一瞬の空白が生まれてしまった。
その0,001秒に『悪魔』が入り込んで、先生の心から目前の危機を逃れようとする意思を奪い去ってしまった……」
望は事故の時の事を思い出す。
確かに、こちらに向かって暴走してくる車の存在に気付いていないまといを見たとき、望の頭はその危機感でいっぱいになってしまった。
何も今回のような極端な事例を出すまでもなく、目下の目標を達成したとき、人間の心にはどうしても弛緩が生まれてしまうものだ。
望はその隙を『悪魔』に狙われてしまったのだろう。
「でも、そんな状態の糸色先生の心をもう一度立ち直らせた『天使』って何なんでしょうね……?
ここまでくると、単に『生き意地汚い』という言葉だけでは、ちょっと説明できそうにありません……」
「そ、そうですよね……私にも何がどうなっているのやら……あははは……」
まさか、その『天使』が自分の教え子、風浦可符香に関係していそうだとは、流石に口が裂けても言える訳が無い。
乾いた笑いでその場を誤魔化そうとする望を、智恵は少しの間怪訝な眼差しで見つめていたが
「それじゃあ、そろそろ学校に戻らないといけないので……とりあえず、元気そうで安心しました」
椅子から立ち上がり、望に向かって微笑んで見せた。
「お見舞い、わざわざありがとうございました。智恵先生…」
「どういたしまして…次は学校で会いましょう、糸色先生」
そして、小さく手を振ってから、智恵は病室を立ち去った。
残された望は先ほどの智恵との会話を思い出しながら、またあの『天使』について考えを巡らす。
『ここまでくると、単に『生き意地汚い』という言葉だけでは、ちょっと説明できそうにありません……』
智恵はそう言っていた。
望も同意見だ。
そして、望の中に『天使』が生まれた理由……それはあの事故のとき『天使』が見せた泣き出しそうな表情と深く繋がっている。
今の望にはそう思えて仕方がなかった。
468266:2009/10/28(水) 00:49:29 ID:UmadwfZf
「先生、来ましたよ、お見舞い」
「待ってましたよ、風浦さん」
時計が午後の四時を回る頃、約束通り可符香は望の病室にお見舞いにやって来た。
いつも同じように見える彼女の笑顔が、昨日に比べて少し明るく見えるのは、やはり昨夜の会話が彼女の不安をいくばくかでも取り去ったからなのだろう。
それからおおよそ30分ほどの間は、可符香が今日クラスであった事を色々と話してくれた。
どうやら、また千里が暴走して教室が半壊状態になったらしい。
つまりは……
「今日も2のへは平和だったって事ですね」
「はい。平和そのものでした」
そう言って笑い合う二人は、果たして2のへの凄まじさを自覚しているのかいないのか……。
「しかし、こっちはずっと退屈でしたからね。智恵先生が来てくれたのと、命兄さんが診察に来たのを除いたらずっと一人きりでしたから」
可符香の話を聞き終えた望は、今度は自分の今日一日を思い出してみる。
智恵と命の二人と会話した以外は、延々とベッドの上で例の『天使』について考えていた記憶しかない。
ぼやくような望の言葉を聞くと、何故か可符香は悪戯っぽく笑って
「じゃあ、外出てみませんか?」
「はい?」
「今からの時間だとちょっと寒いですけど、一日中この部屋に缶詰じゃストレスたまっちゃいますから」
「一応私入院中ですよ?」
「大丈夫。復帰直前のリハビリだって考えれば問題ありません」
「でも、入院患者が勝手に出歩いたりしたら……」
「その点もオーケーです。実は既に絶命先生の許可を取ってあったりします」
「あの角眼鏡……また私の見てない所で勝手に……」
自分の知らない所でポンポンと話を進めていく兄がどうにも憎らしい。(可符香については既にこういう娘だと諦めている)
確かに外出自体は嬉しくない事もないのだけれど、どうにも納得がいかない。
ぐぬぬ、と望が歯軋りしていると……
「おーい、望っ!!」
唐突に開いた部屋のドアから、当のその人物、命の声が飛び込んできた。
そして、
「ここまで回復して風邪でもひかれると大変だからな、着ていけ」
ぽいっとドア越しに投げ渡されたのは命のコートだった。
ここまでお膳立てされてしまうと、もはや反抗する気力も湧いてこない。
可符香に一旦部屋を出てもらい、望はいつもの袴姿に着替え、渡されたコートを肩にひっかける。
それからこの三日間、ほとんど使わなかった手足を、一箇所一箇所確認するように動かした。
体のあちこちに痛みは残っているものの、外に出るのに支障は無いところまで回復しているようだ。
「ほんとに命兄さんの話の通りになってきてるみたいですね……まあ、ギャグ漫画の人は死んでも死なないと言いますし……」
自分の回復力の異常さ加減にいい加減くらくらしてきた望。
ともかく靴も履いて準備万端整えた彼は、ドアを開いて病室の外へ
「お待たせしました、風浦さん」
「それじゃあ行きましょうか、先生」

糸色医院の入り口扉を通って数日振りに望は街に出た。
夕暮れ迫る街を吹きぬける風は思いのほか冷たく、望はブルリと体を震わせたが、
ずっと病室に閉じこもっていた彼にはそれさえもどこか新鮮で心地の良いものに感じられた。
「どこへ行きたいですか、先生?」
「あなたの行きたい所へ、ってのはダメですか?」
「何でも人に任せっ切りにするのは良くないですよ。まあ、先生らしいですけど」
「私らしいってのはどういう意味ですか……」
「ほら、何処か思いつく場所ないんですか?」
「……そうですね、ずっと味気ない病室にいましたから、緑のある公園なんか見てみたいかもしれないです」
というわけで、近所の公園に向かって望と可符香は歩き出した。
糸色医院や可符香の家も近くにあるこの一帯の地理は望もよく知っているのだが、何やらご機嫌な様子の可符香が一歩前に出て彼を先導した。
二人は病室で交わしていたような他愛も無い会話を繰り返してはくすくすと笑った。
ある時は望が前を歩く少女の背中に話しかけ、彼女が返した少し毒を含んだ返答にへこまされたり。
ある時はくるりと振り返って話しかけてきた少女の可憐な笑顔に、思わず言葉が出なくなってしまったり。
だんだんと薄暗くなっていく街の寂しさは、むしろ間近にある愛しい人の存在を際立たせて、望と可符香の周囲を親密な空気で満たしてくれた。
469266:2009/10/28(水) 00:50:25 ID:UmadwfZf
「先生……」
「なんですか?」
「もし先生が死んでたら、こうして二人で歩いたりも出来なかったんですよね」
「そうですね……。話す事も、触れる事も、笑い合う事も、二度と出来なくなっていたかもしれません」
「先生、そこにいますよね?」
「ええ、黙って消えたりしないですから、安心してください、風浦さん……」
赤い夕陽を背に受けて、道の先に長く延びる自分の影を踏みながら、二人は歩いていく。
やがて、二人は少し交通量の多い交差点にまでやって来る。
ここを渡れば、すぐに公園に行き着く筈だ。
信号待ちの間、望は周囲を確認するが、この間のように無茶な運転をしている車は見当たらない。
やがて、信号は赤から青に変わり、周囲の車や歩行者といっしょに、望と可符香も歩き出そうとしたのだが……
「…………っ!!?」
それは、唐突に目の前に現れた。
「天使……!!」
両手を大きく広げて、行く手を遮るように現れた天使に、思わず望の歩みが止まった。
だが、可符香の方はそれに気付く事なく、立ち尽くす望の前で、横断歩道に踏み出していく。
(いけないっ!!この『天使』が現れたという事は何か危険なものが……っ!!!)
望は周囲を見渡すが以前のように乱暴な運転をする車も、凶器を携えた通り魔の類も見当たらない。
一体、何が起ころうとしているのだろうか?
その答を求めて、望は必死に思考を巡らせる。
そして、気付いた。
(もしかして……あれが…!!?)
交差点を通り抜けようとする一台のトラック、その運転自体には問題はない。
だが、望には確かに見えた。
トラックの積荷である数十本の鋼鉄製の建材を束ねるワイヤー、それを繋ぎとめる金具が今にも砕け散ろうとしている所を。
望は再び正面に立ち塞がる『天使』に視線を戻す。
彼女の顔には優しげな微笑が浮かんでいた。
だけど、その微笑みは、この間の事故で必死に望に向かって手を伸ばしていたときの泣き出しそうな表情と同じくらい、切なく、悲しげに望には見えた。
やがて、望が後からついて来ていない事に気付いた可符香が横断歩道の途中で足を止め、こちらに振り返ろうとした途中で自分の真横を通るトラックに目を留めた。
何か予感があったのだろうか?
可符香の視線は望と同じく、今にも壊れそうなワイヤーの金具に向けられていた。
彼女は気付いたのだ。
そして、再びゆっくりと振り向いた可符香の顔に浮かんでいた表情は……
「先生、ごめんなさい……」
望の目の前の『天使』と同じ、悲しげな微笑だった。
『天使』と可符香、二つの笑顔が望の視界の中で重なる。
そして、望はようやく悟る。
いつの間にか自分の深層心理に宿っていた、この『0,001秒の天使』の正体を……
(そうか、だから…………)
あの『天使』は単なる希望の象徴や記号として、望の生存への欲求が可符香の姿を借りたものでは決して無い。
満開の桜の下であの日望が出会った少女。
可符香はときに巧みな詭弁で望を操り、ときに手痛い悪戯で望を困らせた。
そして、いつも望の隣で笑っていたのだ。
彼女は望の傍にいる事を、望の存在を必要としてくれた。
それが望の中にあの『天使』を作り出した。
望の中に蓄積されていった彼女との日々の無数の欠片が集まって形作られたもう一人の可符香。
望の心に映し出された、彼女の鏡像。
望は知っている。
可符香がどれだけ自分の事を必要としてくれているかを。
笑顔の仮面に隠して、決して素直には見せようとしないその気持ちがどれだけ深いものであるかを。
あの事故のとき、『悪魔』に捕らわれ諦観に飲み込まれようとした望の心を揺り動かしたのは、そんな可符香が与えてくれた望への想いだった。
『天使』がそれを思い出させてくれた。
望を失う事が、彼女の心にどれほどの痛手を残すのかを教えてくれた。
(あの時の私はただ風浦さんが涙を流す事が許せなくて、その一心だけで『天使』の手の平を掴んだ……)
そして、今眼前にある『天使』の、可符香の笑顔。
本当は誰よりも寂しがりやで、誰よりも幸せを求めている筈なのに、いつも一歩下がったところで悲しげに微笑んでいる彼女の表情。
自らの死を間近にしてなお、彼女がまだそんな顔をするというのならば……
(なら、私がするべき事は決まっています……っ!!!)
望は何の躊躇いも無く、横断歩道へと踏み出していった。
470266:2009/10/28(水) 00:51:33 ID:UmadwfZf
(そっか、私、死ぬかもしれないな……でも、良かった。あそこにいれば、きっと先生は安全だから……)
刻一刻と迫る最期の瞬間を前にして、可符香の心は驚くほど穏やかだった。
例の『天使』のお陰なのだろうか、望は横断歩道の手前で踏みとどまったままだ。
それだけでいい。
彼さえ、糸色望さえ無事ならば、自分は満足だ。
例え、二度と話す事も、触れる事も、笑い合う事も出来なくなったとしても、先生が生きていてくれるなら……
だけど……
(あれ?……私の手、震えて……)
不意にこみ上げてきた本能的な恐怖が、可符香の心を揺り動かす。
それでも、こぼれそうになる涙を堪えて、彼女は微笑み続ける。
(…いやだなぁ……怖いなんて…そんな事、あるわけないじゃないですか……)
自分はこれでもう十分に幸せなのだ。
思い残す事など何もないのだ。
恐怖を堪え、可符香は何度も自分に言い聞かせる。
しかし、彼女の脳裏に『彼』の姿が閃いた途端、それは脆くも崩れ去った。
(先生………っ!!!!)
湧き上がる恐怖すら押し流して、可符香の心を圧倒的な悲しみの色が覆い尽くしていく。
そうだ。
だって、私は……
「死にたくないっ!!ずっと一緒にいたいっ!!!先生っっっ!!!!!!」
堪えきれずに漏れ出た、少女の悲痛な叫び。
それは虚しく響き渡って、そのまま崩れ落ちる鋼鉄の建材に飲み込まれて消えてしまう筈だった。
だが、しかし……
「風浦さんっ!!!!」
「えっ!?」
少女の声に応える者がいた。
「あなたを死なせはしませんよっ!!!」
耳元で聞こえた望の叫び声。
その声で意識を現実に引き戻された可符香を、何度も触れた彼のぬくもりが包み込んだ。
そのまま可符香の体は地面を転がり、横断歩道の向こう側まで辿り着いたところで、望の体が彼女を庇うように覆い被さった。
そして……
「先生……」
可符香の口から発せられた小さな呼び声をかき消すように、辺りに崩れ落ちる建材の轟音が轟いた。

「すみません、命兄さん……」
命の手で包帯を巻かれながら、望が言った。
彼と可符香は今、交差点での事故で負った怪我の手当ての為、糸色医院に戻っていた。
「お前が謝る事はないさ。事故なんて、いつどこで出くわすかわかった物じゃないんだから」
望の咄嗟の行動のお陰で、彼と可符香に大した怪我は無かったものの、トラックから落下した建材によって十数名の死傷者が出てしまった。
望の目には何人もの怪我人がうめき声を上げながら救急車に運ばれていく地獄絵図のような現場の様子が焼きついている。
「せっかく貸してやったコートをボロボロにされたのは噴飯物だが、弟の命には代えられない。よく無事でいてくれたな、望」
一通りの手当てが終わり、腰掛けていたベッドから立ち上がった望に、命はマグカップを二つ渡した。
中に注がれていたのは熱々の紅茶、たっぷりのミルクと砂糖が入れてあった。
「彼女も一人で待たされて不安がってるだろうから、さっさと行ってそれを飲ませてあげろ」
「言われなくてもわかってますよ」
中身をこぼさないように慎重に二つのマグカップを運びつつ、内心では兄の気遣いに感謝しながら望は命のいる診察室を立ち去った。
471266:2009/10/28(水) 00:52:19 ID:UmadwfZf
可符香はほとんどの照明を落とした暗い待合室のベンチに座って、望を待っていた。
望は紅茶の入ったマグカップを一つ可符香に手渡し、自分もその隣に腰掛けた。
「命兄さんが入れてくれました。こういう時は甘いものを取ると落ち着きますよ」
「はい……」
やはり事故のショックのせいか、可符香の言葉はいつもより力ない。
正直に言えば、望も気力体力をすっかり消耗していたのだが、今の彼女の前でそれを見せるわけにはいかない。
なるだけ明るい口調で、望は可符香に話しかけた。
「それにしても、災難でしたね。まあ、お互い大した怪我が無かったのが何よりです」
「………そうですね。それも、先生が助けてくれたお陰ですけど……」
しかし、慎重に選んだつもりの望の言葉は、いきなり可符香の地雷を踏み当ててしまった。
マグカップを持つ手を震わせ、可符香は一段と表情を暗くする。
「先生が助けてくれなかったら、きっと私、あのトラックの積荷の下敷きになって死んでました……だけど」
今にも消え入りそうな微かな声で可符香は語る。
「だけど、あの時、私思ってしまったんです………嬉しいって、心の底から…」
「嬉しい……?」
「先生が助けに来てくれて、嬉しいって思ってしまった。……もしかしたら先生が死んでたかもしれないのに、助けられて、私嬉しかったんです…」
孤独と恐怖に苛まれながら最期の瞬間を迎える事を覚悟していた筈なのに、それでいいと思っていた筈なのに、
絶対に傷つけたくないと思っていたその人が、命を投げ出してまで自分を救おうとしてくれた事に喜びを感じている自分。
それが可符香にはとてつもなく卑怯で、許し難い事のように思えていた。
望はそれだけ言って俯いてしまった可符香の姿をしばし眺めてから、ゆっくりと口を開いた。
「なら、私も同罪ですね」
「えっ?」
「私の死を一番悲しむ人の前で、自分の命を危険に晒してしまった。許し難い事です」
「でも、それは……!?」
思わず顔を上げた可符香に、望は微笑んみかけて言葉を続ける。
「だけど、それだけの事をしたのに、今の私は嬉しいんです。こうしてまた、風浦さんに触れて、話して、笑い合える事が……。
一歩間違えば、全て台無しになったかもしれないのに、無責任もいい所でしょう?」
それはあの『天使』が教えてくれた事であり、つまりは風浦可符香という少女との日々が望に与えてくれたものだった。
何にも代えられない大切な人の存在。
望も可符香もやっていた事は結局何も変わらない。
愛しい人の傍に居たくて、だけどその人を傷つけるのが怖くて、悩み苦しんで自分の道を選び取った。
あなたに笑っていてほしくて……。
あなたに幸せでいてほしくて……。
「風浦さん、こんな私を許してくれますか?」
「せんせ………」
ぽろぽろと涙を零しながら倒れこんできた可符香の体を望は受け止める。
それからしばらくの間、薄明かりの待合室で望と可符香は寄り添い合い、固く抱きしめ合っていたのだった。
472266:2009/10/28(水) 00:53:05 ID:UmadwfZf
以上でおしまいです。
失礼いたしました。
473名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 00:57:14 ID:T8oVpuU9
GJ!
アンタやっぱサイコーだぜ
474名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 02:40:35 ID:yzGVmrzX
この寂れたスレには266さんは不可欠だね
475名無しさん@ピンキー:2009/10/29(木) 01:20:08 ID:/O8f5UNB
GJ
散歩シーンの会話イイよ
476名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 02:07:23 ID:Wm0mtVOj
gj
477名無しさん@ピンキー:2009/11/05(木) 00:20:02 ID:BL79EgYp
スキ魔ってエロ要員じゃねえ?
478名無しさん@ピンキー:2009/11/05(木) 08:09:45 ID:XDLhks1C
心と体のスキマを…
479名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 08:02:00 ID:Kvk3sUu8
千里×晴美が読みたいな〜
480名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 12:49:43 ID:wXjxhESn
それ百合スレじゃね?
481名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 22:59:37 ID:Kvk3sUu8
なら千里×望×晴美でw
482名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 12:41:13 ID:mbuUG06a
カエレタソ ハァハァ・・・ パンツ ハァハァ・・・ ナプキン ハァハァ・・・ 経血 ハァハァ・・・
483名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 13:22:58 ID:kl6Ec6Zg
キモイ
484名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 02:06:33 ID:vSRq78zL
「絶望に効くクスリ」の続きを楽しみにしてます
48520-32:2009/11/09(月) 16:30:29 ID:+ndqF56T
266さんのSS(>>359-369)の設定をお借りしたSSが出来たので投下します(許可ありがとうございました!)

・望×千里でシリアス
・千里ちゃん視点で軽い性描写もあり
486偽りの奥さん〜望×千里(1/2):2009/11/09(月) 16:32:36 ID:+ndqF56T

糸色望が記憶を失った。
それだけでも大事件だが、更に複雑な事が起こった。
記憶を失う原因である、少女たちの連続殴打。
その合間合間に刷り込まれた偽りの記憶が本来の記憶に影響を及ぼしてしまった。
己の受け持ちの生徒である五人の少女を、妻だと思い込んでしまったのだ。

六人が世にも奇妙な共同生活を営んでいる宿直室。
深夜、ぐっすり眠る千里の布団に侵入する腕があった。千里はすぐに目を覚ます。
眠りが浅い方では無いが、事故の後から神経が過敏になっていた。

「千里……?」
「先――じゃなかった、望さん? あの」

望は、ぴくりと反応を返した千里に小さく呼びかけると、体温で満ちた布団の中へ体を滑らせた。
自分の布団は望の隣ではないのになぜ?千里は軽いパニックに陥りそうになり、身を縮こめる。

「起こしてしまってすみません」

謝りながらも、望は千里の腰に腕を回し自然な動作で抱き寄せる。
本当に、自分の妻にそうするように堂々としていた。
元より望の思い込みが激しい事は周知の事実だったが、まさかここまでとは。
気持ちが沈みかけたが、急に唇を塞がれて意識を引き戻される。
深く口内まで舌でなぞられ、魔法のように体の力がするっと抜けた。

「んんっ…、ふ」
「千里…」
「あ、あのっ、明日も…学校ですよ…?」

ファーストキスの余韻を感じている余裕はない。
望がこれから行おうとしている事は間違いなく夫婦の営みだ。
望に対する恋愛感情は薄れていないから嫌悪の感情は起こらないが、
性経験の無い自分が応じたら確実にボロが出て、望の記憶を混乱させてしまうだろう。

「はい…でも、恥ずかしながら溜まってしまって。兄さんの目がある病院では出来ませんでしたし」
「ええと、命先生は何か仰ってませんでしたか?」
「特に、こういう方面の話はしていませんね……」

今の望には、自分と行為に及ぶことは当たり前の日常なのだ。
千里は、覚悟を決めたように望の方を見た。灯りの無い中で薄らと不安げな表情が見える。
自分から抱きついて耳元にキスをすると、裏側のスイッチに舌先を這わせた。
息を殺した望の鼻腔から僅かに呼気が漏れる。
唇を当てたまま囁きかけた。

「ごめんなさい、今日は都合の悪い日なんです。だから、口でさせて欲しいです……望さんのを」
487偽りの奥さん〜望×千里(2/2):2009/11/09(月) 16:35:45 ID:+ndqF56T

緊張感に鼓動が速くなっていく。
恥ずかしさから、答えを待たずに布団の中へ潜ってしまうと、さっと帯を解いて浴衣の合わせを乱した。
おそるおそる、下着の上から股間の辺りを撫でる。
溜まってしまったと自分で話していた通り、望の股間は布越しに緩く反応していた。
体の方は完全に回復しているようだ。
初めて口淫を行う千里にとって、布団により視力・聴力が遮断されているのは心細かったが、
他の少女達に気付かれないためには都合が良い。
はむ、と形に添って咥え、形が更にはっきりしてくると下着のゴムに手をかけた。
引っ掛かってしまう下着を苦労しながら下ろすと、大きくなった絶棒を取り出す。
実物の男性器をはじめて目の前にしているのだが、この暗闇ではほとんど見えない。
手と口の感覚で形を想像しながら、根元からやわやわと揉んだり、上下に擦りながら先端にキスをしてみる。
ぎこちなく刺激を続けていると、望の手が自分の手に重なった。
やはり物足りなかったのか、自分が一番感じる場所を示すように千里の手を導いて、そのまま上下に動かしはじめた。
千里の掌も当然つられて動く。
しばらく操り人形になっていると、今度は頭の後ろに手を添えられた。
前に押すような動きを察すると、千里は陰茎を深く咥える。
独特の匂いと味が広がり咳き込みそうになるが、頭を抑える手の力は更に強くなっている。
ふっとその力が緩まり頭を引くと、またすぐに強く押し付けられる。
力の強弱に合わせて頭を上下させ、裏筋を舌で何度も舐め上げてみた。

「んっ…ふ、ぅ……」
「千里、良いですよ…その調子です。ん…もう少し頬を窄めて…。あと、ちょっとですから…」

望が、掛け布団に顔を少し潜らせて囁いてくれる。
こんな状況でも、嬉しいものは嬉しい。
自分のぎこちない性技でも達してくれようとしている絶棒を、目尻に涙を浮かべながら一生懸命唇と舌で扱く。
望の掌が、落ち着かない様子で千里の長い黒髪をくしゃりと握ったり離したりしはじめた。
限界が近いのかもしれない。そう思い、少し強く陰茎全体を吸い上げてみる。

「っ!…千里、このままイキますよ…っ」
「ぅ、…っん…、んく…!」

望の切羽詰った声に数瞬遅れて、口の中に温かく苦い液体が放たれた。
耐え難い味に、すぐ飲み込むが、射精はすぐには落ち着かない。
何度かに分けて吐き出され、完全におさまるとようやく口を離した。
もそもそと布団の外に出ると望がそろりと頭を撫でてくれる。
用意してくれていたティッシュを受け取り、口元を拭うと力強い抱擁があった。

「ありがとうございます…それでは自分の布団に戻りますね」
「はい…おやすみなさい。望さん」
「おやすみなさい…また明日」

望は頬にキスを残して自分の布団に戻ったが、千里はまだ胸が高まっていた。
頭から掛け布団を被る。望の残した香りがしっかり残っていた。
パジャマのズボンの中に指をしのばせると、下着がしっとり濡れていた。
ほんのり残る熱の勢いで自慰を…とも考えるが、悠長に幸福感に浸っているべきではないのだと考え直す。
今日はかわす事が出来たが、いつかきっと、最後まで求められてしまう。
望の口ぶりから、まだ他の少女達とは関係を持っていないようだったが、これからまといや霧たちの布団へも行くだろう。

熱と嫉妬と幸福感が複雑に混じりあう感情を抱えながら、千里は早く眠りに落ちてしまおうと強く目を閉じた。
48820-32:2009/11/09(月) 16:37:20 ID:+ndqF56T
終わりです〜
続き物っぽい終わり方ですいませんすいません!
489名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 19:33:02 ID:/L+M5/uh
ひええGJ
490名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 21:25:46 ID:vSRq78zL
良いですね、GJです!
491名無しさん@ピンキー:2009/11/10(火) 06:16:25 ID:jBtQWPMC
千里かわいいよ千里
492名無しさん@ピンキー:2009/11/10(火) 22:18:00 ID:YcmOBolp
千里いいよー
493名無しさん@ピンキー:2009/11/11(水) 23:55:27 ID:ljWWKarr
そろそろ容量キツイかな
494名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 15:01:58 ID:iuXaIVp4
きついかな?
ならば新作は建て替え後にしておこう。
495名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 23:33:39 ID:Ymzu0gUW
短編2本くらいなら余裕
496名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 11:37:22 ID:ZB7DCHkz
中編一本なら入らない

待ってる人居るし、立ててくる
497名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 11:44:54 ID:ZB7DCHkz
【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part23【改蔵】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1258166515/
498名無しさん@ピンキー:2009/11/16(月) 23:59:06 ID:6ilipI6g
埋め
499430:2009/11/17(火) 00:14:57 ID:nPGOEY9y
お久しぶりです。
なかなか埋まらないようなので、新刊発売で上がったテンションで
埋め小ネタ1本投下します。
CPは、まとい×望×霧…のつもり…です。
相変わらずエロなしスイマセン…!
5001/2:2009/11/17(火) 00:16:18 ID:nPGOEY9y
学校の廊下を歩きながら、望はふと思い出して、呟いた。
「そういえば…。」
「どうしたんですか?」
背後からの問いに、望は振り向いた。
「常付さん、いたんですか。」
「ええ、ずっと。」
「ちょうど良かった、あなたに聞きたいことが…。」
望は思案顔で尋ねた。
「あなた、何で小森さんが同棲日記付けているの、
 知ってたんですか?」
先日の宿直室での出来事。
まといは、迷いもせずに押入れの霧を見つけてみせた。
「…そんなの、一目瞭然です。」
霧のことを尋ねられたのが面白くなかったのか、
まといは、口を尖らせ上目づかいに望を見た。
「だって、私が先生と一緒に宿直室に行くと、いつも、
あの座敷わらし、日記をつけてましたもの。」
望は驚いた。
「そうだったんですか…私は全く気がつきませんでしたよ…。」
まといはにっこり笑った。
「いいんです、先生は他の女のことなんか見なくても。
私のことだけ見ていれば。あの女は私が見張っていますから。」
「…はぁ…。」

翌日の夜、宿直室で、望は探し物が見つからず、
部屋の隅でパソコンに向かっている霧に声をかけた。
「小森さん。」
「…。」
「小森さん?」
霧は、ハッとしたように顔を上げた。
「あ、ごめん、先生、何?」
「…先ほどから何を熱心に見ているんですか?」
霧は再び画面に目を戻すと、上の空の様子で答えた。
「…ネットオークションだよ…あのストーカーが、しつこくて……。」
「ストーカーって…常付さんですか?」
「うん……。」
5012/2:2009/11/17(火) 00:17:40 ID:nPGOEY9y
望は嫌な予感がしてモニターを覗き込んだ。
「いったい、何を常付さんと争っているんですか?」
「あ、駄目!」
「―――!!!」
何やらアングラのオークションらしい黒い画面には、
『超レア!糸色望の中学時代の日記、恥ずかしいポエム付!』
というポップな文字が躍っていた。
その下には、確かに見覚えのある日記帳の写真が載っている。
「な、な、なんですか、これは―――!!!」
霧が諦めたようにため息をついた。
「ここのオークション、けっこう先生のグッズ充実してるんだ。」
「ちょ、ま、私のグッズって、いったい!?
 誰ですか、人の物を勝手に出品している不埒な輩は!?」
霧は肩をすくめた。
「分からないよ。ここは会員の秘密厳守で有名なサイトだから、
 多分、管理者に聞いても教えてくれないと思うよ。」
「ああ、絶望した!個人情報のネットへの流出は許すくせに
 プロバイダー責任を果たそうとしない管理者に……ん?」
望は振り上げた両手を宙で止めた。
「だったら、さっき、何で常付さんだって分かったんですか?」
霧は肩をすくめた。
「それくらい分かるよ。あの女のことはいつも見てるんだから、
 行動パターンは読めてるもん。」
「…へぇ…。」



翌日、望は交を風呂に入れながらぼやいていた。
「まあ、あの2人が私のことを好いてくれてるからこそ、
 お互いをライバル視してるってことは分かってるんです。
 でもね、最近2人とも、お互いのことしか見てなくて、
 本来の目的を見失っている気がするんですが…どう思います?」
「…子供にそんなこと相談するなよ!」
502430:2009/11/17(火) 00:18:48 ID:nPGOEY9y
いつぞやのマガジンで、霧が同棲日記を付けていることを
何故か知っていたまといを見て、ふと思いついたネタ。
霧もまといも、あくまでも「好きなのは望」なので、
百合ではないですよ!と言い張ってみる。
そしてオークションの件は、倫ちゃん→可符香→マルチ2人組
という鉄壁のルートができあがっているとかいないとかw
お付き合い、ありがとうございました…!
503名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 00:28:13 ID:R5Ef2c/F
GJ!!
確かにあの二人、しっかり互いの事を気にして行動してますからね
おいてけぼりの先生が哀しいW
504名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 02:35:07 ID:776OIenf
先生かわいいよ先生
505名無しさん@ピンキー:2009/11/19(木) 05:29:27 ID:PH4cDwOp
GJです!
506名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 20:10:14 ID:/8ZHixWq
専ブラからだと残り何KBかわからない
507名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 22:29:48 ID:2EpzY1Da
残り8kb、次スレ立ってるんだし
もうここはほっといて落とすなり、AAで容量埋めるなりでいいんじゃないか
508名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 22:35:11 ID:AsdWQIyR
      |   │ .
      |   │
┌──| r―t│───i
│    | i ___ ! .       |
│   ゝ ─ '   コ. │
│         コ  │
│  木   お   .ロ  |
│       埋   の  │
│  津  め  ス  │
│      .し  キ  │
│  福  ま  マ.   |
│      す    、  |
│  造            |
│                |
└────────┘
509名無しさん@ピンキー:2009/11/25(水) 02:29:08 ID:eIprCUJ6
男子生徒複数×千里ちゃんってのを書きました
鬼畜系じゃないけど輪姦苦手な人は避けてくださいね
短いからたぶん残り容量にまだ入るはず
510ご自慢の…:2009/11/25(水) 02:30:06 ID:eIprCUJ6
放課後、今日は部活動もなく、誰も居ないはずの茶道部の部室から人の声がする。

「本当に……いいの?」
「まだ信じてないのかよ。千里ちゃん、こいつに証拠見せてやってよ」
不安げな男子生徒とその友人達、そして彼らの前には千里が居た。
千里は頷くと、制服を脱ぎだし裸体を晒した。
白い肌と小さい胸の先でツンと立った乳首、だが男達の視線を一際集めるのはその下腹部だ。
前後の穴はぐっしょりと濡れ、その中から小さなモーター音がする。
千里は指を伸ばして、その音の正体である振動する二つのローターを少年達の前で引き抜いた。
さらに指で秘裂を左右に開いて、その中を彼らの前に晒す。

「うわ……」
唾を飲み込むと、千里の様子をおっかなびっくり見ていた少年がふらふらと近づき、千里の唇を奪った。
そのまま千里を押し倒し、その体にむしゃぶりつく。
ひどく興奮した様子で、焦りながらズボンを下ろして、勃起したペニスを出すと、千里の秘部でこする。
愛液をペニスにしっかり馴染ませると、少年は銃口を入り口に狙い定め、千里の目を見た。
「どうぞ……あの、どちらでも」
千里が股を大きく開き、二つの穴を無防備に晒す。
少年はごくっと生唾を飲み込むと、秘裂を割って膣内にペニスを挿入し、腰を前後に動かし始めた。

「そいつさ、千里ちゃんのこと好きなんだってさ」
「そうなの……ごめんね、幻滅した?」
ぶんぶんと頭を振って否定する。
「そんなことない!木津さんの体すっごくきれいで、柔らかくて……っはあ、きもち…いい……」
少年は千里の体を指や唇で味わいながら腰を振る。
すぐに限界が訪れて、ぐんと突き入れたペニスから精液が勢いよく千里の中に放たれた。
511ご自慢の…:2009/11/25(水) 02:30:58 ID:eIprCUJ6
「良かっただろ?じゃあ次は俺らが」
「待って、まだこっち……」
絶頂の余韻に浸りながら千里に抱きついていた少年は、千里のアナルに指をやって言う。
「おいおい、俺らも待ってんだからさ……」
ぽりぽりと頭を掻きながら不満げな顔をする。
そんな男子達に千里が微笑む。
「大丈夫。そこに寝転んで」
千里に言われるまま、少年が畳の上に寝転ぶと天井に向けてペニスが屹立する形になる。
その上に千里がまたがって、ペニスをアナルへと導いた。
膣内とはまた違う、柔らかな感触がぐにぐにと動きながらペニスを包む。

「んっ……みんなも……」
ふるふると唇を震わせながら、千里が男達を誘うと、彼らのペニスに千里が囲まれた。
ひとまず目の前にあるペニスを手でふたつ、口でひとつ、しごいてしゃぶる。
「あー、ひでーよ千里ちゃん」
余ってしまった男子が二人、愚痴をこぼすと千里はごめんね、と目配せする。
千里の体が空くのを待つ間、一人は千里の胸にペニスを押し付けて柔らかな感触を楽しみ。
もう一人は、千里の髪をペニスに巻きつけてしごき始めた。

順に一人ずつ、限界を迎えて千里の膣、体、顔、髪、口、思い思いの場所に精液をかける。
だが彼らは皆若く精力も旺盛で、一度の射精程度で萎えることなどなく、すぐに復活したペニスを千里に向けた。
512ご自慢の…:2009/11/25(水) 02:32:00 ID:eIprCUJ6
「もういいよな?」
床に寝ていた少年は、尻穴にたっぷりと精液を搾り取られたようで、恍惚とした表情を浮かべていた。
特に返事は待たずに、千里の体を持ち上げ、畳の上でよつんばいにさせた。
「ははは、ずいぶん出したなぁ」
千里の中に指を入れて、精液を掻きだし、その中に今度は自身のペニスを挿入する。
また、それとは別の男子が千里の前に回って、千里にフェラチオをさせていた。

「っふ……ぅ……んぅぅっ!」
ときに胸やクリトリスに触れてやれば、それに反応して千里の中はぐにゅぐにゅと変化し、男を悦ばせる。
「っ」
短く息を吐いたかと思うと、男子が千里の中へと遠慮無しに白濁液をぶちまけた。
千里は甘い声をあげながら身を震わせている。
ふー、とため息をついて千里の背中にキスをしながらむにゅむにゅと胸を揉んで、達成感に浸る。
千里の中から射精を終えて、少し元気を失ったペニスが抜かれたが、すぐに別のペニスが入っていく。

まだまだ少年達の性欲は満たされない。
一度終えた者さえ、また復活して千里の中へ精を放とうと待っている。
体位を変え、対象を変え、何度も何度も千里は男子達の精液を浴びるように受けつづけた。

「あーっ……もうやってんのかよ」
茶道部の扉を開け、別の男子が数人入ってきた。
「まあいいか、千里ちゃん、今日もよろしくね」
千里は、二人の男子に前後から挟まれ、膣と肛門を犯されながら恍惚の表情を浮かべていた。
うっとりと目を細めながら言う。
「うん……えへへ……今日も、いっぱぁい……」
513ご自慢の…:2009/11/25(水) 02:32:51 ID:eIprCUJ6
名前を数度呼ばれて、千里が目を覚ました。
顔を上げると、彼女のクラスの担任の望がそこに居た。
「お疲れ様」
言うや、望は千里の前でペニスを出す。
千里は、口を開け望のペニスを口に含み、両手を使って袋や竿にも愛情いっぱいに奉仕する。
「頑張りましたね。みんなすごく良かったって言ってましたよ」
誉められて、千里はまるで、うぶな少女のように照れた様子で、顔をほころばせた。
べっとりと全身に男達の精液を浴び、ペニスを慣れた手つきで扱う姿には似つかわしくない。

「見せて」
千里の口から大きくなったペニスを抜いて望が言うと、千里は畳に寝転んで脚を開いた。
「ずいぶん可愛がってもらえたみたいですね」
千里の中を覗きながら、ぐちゅぐちゅ音を立てて指でかき回す。
恥ずかしそうにする千里に微笑むと、望は千里の中にペニスを挿入する。
すっかりほぐれて、とろとろに柔らかくなった膣肉が望のペニスに吸い付いてくる。
「あっ!…ふあぁぁーーー!」
入れた途端、さっそく嬌声を上げながら千里はイってしまう。
望のペニスがとろけきった膣内で前後に動く快感、気が狂ってしまいそうなくらい気持ち良い。
「はは、イきっぱなしじゃないですか……良いですよぉ、今日の木津さんの中」
「わらしもぉ……へんせ……せんせの……いちばんすきぃ」
ろれつのまわらないまま千里は、大いに乱れながら望への愛を口にする。
二人はお互いを呼びながら、高まりあい、同時に絶頂を迎えた。
514ご自慢の…:2009/11/25(水) 02:34:49 ID:eIprCUJ6
「はぁ、はぁ……せんせ……せんせ…」
「今日もいっぱい、可愛がってあげますよ。まずはお風呂といきましょうか」


どうしようもないほどに互いを愛する気持ち。
それはもはや、彼ら二人だけでは処理しきれないほどに大きなモノになっていた。
愛する千里の痴態も何もかも、他人に見せつけてしまいたいという想い。
望に言われるまま、他の男に犯され、それでもただただ望だけを求める狂おしいほどの想い。
異常だと思いながらも、そんな行為を二人はやめることが出来ない。


「今度、兄さん達にあなたのこと紹介したいんですけど、どうでしょうか?」
「お兄さん達に……ですか」
「ええ、倫にも」
何か、ぞくぞくとした感覚が千里の背中を走った。
もちろん千里の答えは決まっている。
515名無しさん@ピンキー:2009/11/25(水) 02:40:34 ID:eIprCUJ6
おわりです
なんとか入りました
きっとそろそろ容量いっぱいになってくれるはず
516名無しさん@ピンキー:2009/11/25(水) 02:50:57 ID:eIprCUJ6
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517名無しさん@ピンキー:2009/11/25(水) 03:22:43 ID:pBQ2Jn5E
518名無しさん@ピンキー:2009/11/25(水) 14:02:12 ID:2EmA7oo/
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519名無しさん@ピンキー


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