【貴方なしでは】依存スレッド5【生きられない】

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1名無しさん@ピンキー
・身体的、精神的、あるいは金銭や社会的地位など
 ありとあらゆる”対人関係”における依存関係について小説を書いてみるスレッドです
・依存の程度は「貴方が居なければ生きられない」から「居たほうがいいかな?」ぐらいまで何でもOK
・対人ではなく対物でもOK
・男→女、女→男どちらでもOK
・キャラは既存でもオリジナルでもOK
・でも未完のまま放置は勘弁願います!

◆boay/MlI0U氏が作成されたエロパロ依存スレ保管庫
http://wiki.livedoor.jp/izon_matome/

前スレ 【貴方なしでは】依存スレッド4【生きられない】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1239737590/
2名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 09:25:40 ID:mY7IqUt6
>>1 乙! マターリいきましょう
3名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 09:41:14 ID:rpR0kJOg
3ゲト
>>1 乙です!
4名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 11:23:56 ID:DChCBGYI
>>1
Zです!じゃなくて乙です!
5名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 02:46:25 ID:o4NwW1Sz
>>1

遅くなれど乙!!
6 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/06(木) 08:12:46 ID:/GW3XAKI
投下します。
まだ触り程度なので依存者は出ていません。
7夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/06(木) 08:14:10 ID:/GW3XAKI

『新天地』――子供の頃、寝る時に母がよく聞かせてくれたおとぎ話。
すべての者がなに不自由なく暮らし、誰もが仲良く、争いのない天国のような土地があるらしい…それが新天地。

別名――エンジェル・アイランド――

天使が住んでいると言う由来からその名が付けられたらしい。

まぁ、俺はそんな土地があるなんて信用していないけど…。
あるなら今すぐ永住するからどこにあるか教えてほしい。



なぜ俺がこの話に否定的なのかと言うと、単純に現実からあまりにもかけ離れている話だからなのだ。

四百年前の核戦争でこの世界が激変したらしいのだがあまり詳しいことは知らない。


その激変したと言われるこの大地には今、大きくわけて四種類の種族が生息している。

人間。

純モンスター『ボルゾ』

半モンスター『スケイプ』

人間とスケイプの間に産まれてくるハーフ、亜人『ミクシー』


世界はこの4種族で成り立っているのだ。

一番数が多いのが純モンスター『ボルゾ』
世界の60%は人間やミクシーと会話が出来ないこのボルゾが一番多いとされている。

繁殖力も他の三種族より十倍近くもあり、知能は三種族と比べて、かなり低いし凶暴。
8夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/06(木) 08:14:53 ID:/GW3XAKI

――次に多いのが世界の25%を締めている種族。

それが人間。

俺もこの『人間』として生まれたのだが、大昔の種族は人間しか存在していなかったそうだ。

今では絶対に考えられないことだが、人間が起こした四百年前の核戦争で、様々な動物に科学変異をもたらしてしまったらしい。
その結果、純モンスターと半モンスターが生まれ、戦争で疲れきった様々な国が次々とモンスター達に襲われてしまい、人類が壊滅の危機に直面した所で、やっと戦争を一時中断する決意をしたそうだ。

ここ四百年で、なんとか25%まで上がってきたのだが、核戦争を中断した直後、残った人類は10%も満たなかったらしい。



――その次に多いのが世界の15%の種族を締めている、亜人『ミクシー』
見た目はあまり人間と変わらないのだが、体の一部分に動物の特徴が混ざっている。
性格は温厚で人間と同じように町に溶け込み仲良く暮らしている。

しかし、その温厚な性格とは裏腹に噂によるとキレたら誰にも止められなくなるらしく、その姿を見た人は皆、口を揃えて鬼神と呼ぶそうだ。

だからなのか、ミクシーに対して差別のような出来事や発言は法律で一切禁止されている。
9夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/06(木) 08:15:49 ID:/GW3XAKI
基本、ミクシー同士から生まれてくる子供が多いのだが、人間とスケイプの間に生まれたミクシーは身体能力や記憶力が普通のミクシーに比べて段違いにUPするらしい。
普通のミクシーと区別がつかないので、その能力を目の前で見るしか判別はできないそうだ。



――最後に残ったのが世界に5%しか生息していない、半モンスター『スケイプ』

唯一ボルゾと会話が出来る種族で、見た目は多種多様なようだが、皆、何処か神秘的な気高さを持っており、他の種族と馴れ合うことを極端に嫌っているらしい。

「らしい」と言うのは生まれて一度もこの『スケイプ』に会ったことがないのだ。

人間に紛れて人里に来ることがあると言うが、何処に住んでるのかも不明、身体能力も不明。
確かに見たことがない者にはスケイプに対して神秘的な物を感じるのも無理がないのかも知れない。


そんな四種族が仲良く暮らせる時代が来ると母は本気で思っていた。
毎朝、毎夜、同じ時間に礼拝堂に向かい両膝を地面につけて祈る…。小さかった俺は母の姿を見て幼心に母をいつか新天地につれていこうと心に決めていた。

――その時の俺は、母と同様に皆が仲良く暮らせる場所があると本当に信じていたのだ。
10夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/06(木) 08:16:25 ID:/GW3XAKI


◆◇◆†◆◇◆


――頬に当たるなにかを感じて目を醒ます。

部屋の窓が少し開いており、そこから流れてくる生暖かい風が頬を撫でているようだ。

心地よく、どこが寂しい…。

この風が、母の贈り物だと考えれば少しは寂しさも紛れるかも知れない。

「…ふぅあぁ〜〜ぁあッ……」
長い欠伸をし終えると、ダルい上半身を持ち上げ、ベッドに腰を掛ける。その際にベッドがギシッと大きく軋むのがハッキリと分かった。

新しいベッドに買い換えてもいいのだが、このベッドも小さい頃から使っているベッドなので愛着があり、手放すことに少し寂しさを感じてしまうのだ。

「…」

窓の外に目を向け、耳をすませると、小鳥の鳴き声が唄となって耳に流れてくる――

仲が良いのか毎朝窓際で二羽の小鳥が身を寄せあって唄っているのだ。
この小鳥達には世界の争いなんて関係ないのだろう…少しの間唄っていたが、俺の方に振り向きもせず飛び立ってしまった。

それを見届けた後、ベッドから立ち上がり、窓に向かってゆっくりと歩き出す。

「ったく……人の家で休んだんだから少しは金ぐらい払えよな…」
見えなくなった小鳥に悪態を吐き、少し外を眺めた後に窓を閉めた。
11夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/06(木) 08:17:06 ID:/GW3XAKI


――
―――
――――

「よう、朝早く珍しいな。」

「ん?あぁ、おはようさん。目が覚めたから散歩してんだよ。」

二度寝しないように家から出て町中を散歩していると、赤レンガでつくられた民家の二階窓から見知った男性が声をかけてきた。
名前はマイル・ホーキンズ。小さい頃からの幼なじみで俺より歳が七つ上になる。
金色の短髪に薄いアゴ髭。今年25歳になるらしいのだが、見た目は10代と言われても違和感が無いぐらい若く見える。

「散歩?ふ〜ん…まぁ、いいや…俺も行くからそこで待ってろよ。」
そう言うと俺の返事も聞かず、窓から外に乗り出していた上半身を家の中に引っ込めた。

「はぁ……ったく…」
二階窓から目を離し、玄関の扉に目を向ける。
赤いレンガの壁に白い扉。シンプルな民家にどこか風情を感じる。
この辺一帯はほとんどレトロな建物で統一されており、この風情や景色を気に入り引っ越してくる奴もいるらしい。

それに、この町は山の斜面に面しているので急な坂が数多くあり、山のてっぺんにある教会から見える景色を眺めるために観光目当てでくる人も多いのだ。
12夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/06(木) 08:17:45 ID:/GW3XAKI

町のすぐ下は港になっており、森に囲まれたこの町は、船を使わない限り他の町に行くことも出来ない。

食料や雑貨品、防具、武器などの類はこの港を使って輸入、運搬されている。

船を使わずに行くことが絶対に無理なのか?と聞かれれば別に不可能ではないと答えるだろう…。
隣町まで繋がっている道はあるし、森を突っ切っていけば二日で到着する。


じゃあ、なぜそうしないかと言うと、森の中全てがモンスターの住処になっているからなのだ。

誰が好んでモンスターの住処に足を踏み入れたいと思うだろうか?
どんなに切羽詰まっていても決して森に足を踏み入れてはならない。
骨も残らずモンスターに喰われるから――。
この町に住んでいる子供は皆、親に「森にだけは入るな」と言われて育つ。

だから誰も入らない。

道があろうが無かろうがモンスターのテリトリーに足を踏み入れることは、死に繋がるのだから。
13夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/06(木) 08:18:31 ID:/GW3XAKI

――街灯の柱にもたれ掛かり、空を眺めていると、ドタ、バタ、ドタと忙しない足音が民家の中から聞こえてきた。
勿論この家の持ち主の足音だ。


「はぁ、はぁ、遅くなって悪いな。」
勢いよく開いた扉から、先ほど二階の窓から顔を出していたホーキンズが姿を現した。顔に似合わずシンプル好きなのか、服装もラフな感じだ。

「いや、べつに…。それじゃ、どこいくよ?」

「…飯食うには少し早いしな…。暇潰しに港まで下りて、時間潰そうぜ。」

「そうだな。」
この町には娯楽という娯楽が無く、本当に自然しか無いぐらいの田舎なのだ。
だから、他国船から港に輸入されてくる他国の珍しい商品を見たり買ったりするのが町人達の一番の楽しみとなっている。

その船も半年の間に三度しか来ないので、他国船がくる日の港は町人達でごった返し、良い商品は朝早くから港に行かないと買えない事が多い。


この町の風景を見た他国人の中には自然が一番だ…と言う奴もいるだろうが、モンスターに囲まれて暮らす俺達からすれば戯言としか受け取れない。

恐怖を知らないから、そんなことを軽々しく口に出せるのだ。

「なにしてんだ?早く行こうぜ。」

「…あぁ、行こう。」
14夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/06(木) 08:19:27 ID:/GW3XAKI

――港の入口まで歩いてくると、微かに人だかりが見えてきた。

港には何隻もの帆船が停まっており、船内から船員が荷物を外に忙しなく運び出している。


「おっ?もう来てるよ他国帆船。」
そう、今日がその町人が楽しみとしている他国船が来る日なのだ。

「珍しいな…」
いつもなら昼飯時に来るのだが、空はまだ綺麗な朝焼けに染まっており、朝日すら出ていないのだ。


――「よぉ、お勤めご苦労さん。」

「…んっ?おう、あんたか…おはようさん。」
荷物を運んでいる船員にホーキンズが気軽に話しかけた。
知り合いなのか、その気軽さに機嫌を損ねる訳でもなく、小さく笑ってまた荷物を運び出した。

「なんで今日はこんなに早いんだ?」

「四日後に嵐がくるんだってよ。」

「嵐?」

「あぁ、かなりでかいようだぜ?だからなるべく早く来て、商品売って帰ろうってなったんだよ。

…まぁ、どの船も考えてることは一緒みたいだな…。」
船員が荷物を地面に置くと、周りの船を鬱陶しそうに見渡した。
それにつられて俺達も周りを見渡すと、周りの船の船員も同じように荷物をせっせと運び出している最中だった。
15夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/06(木) 08:20:05 ID:/GW3XAKI

「そっか…邪魔して悪かったな。それじゃ、気を付けてな。」

「おう、嵐がこの町を直撃するかも知れないから、あんたらも気を付けてな。」
片手を軽く上げてそう言うと、また荷物を取りに船内に走って行った。
場所を取らなければ店を開くことは出来ないので皆、必死なようだ。

「…嵐…か…」

「…」
船員を見送るとホーキンズが俺の方に深刻そうな顔を向けてきた。

何が言いたいのか長年の付き合いだから分かる。
多分俺のことを気遣っているのだろう…。

「…もう、大丈夫だよ…気にすんな。」

「そっか…」

なぜホーキンズがこのように俺に気を使うのかと言うと――10年前にも嵐が町を直撃したことがあるのだ。

町を襲った嵐の被害はでかく、土砂崩れを起こして町に流れ込んできた。

流れ込んでくるのが土砂崩れだけならすぐにでも復旧作業をできたのだが…。



――土砂崩れと同時に森に住んでるモンスターまでも流れ込んできたのだ。

その結果、流れ込んできたモンスターが次々に町人を襲い、なん百人という町人が命を落としてしまった。

この事件の事を、後に『嵐の乱』と呼び、今でも痛々しい過去として皆の心に深い傷を残している。
16夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/06(木) 08:20:41 ID:/GW3XAKI

その『嵐の乱』の 犠牲になった者は皆、教会の中にある大きな墓石に供養の為に名前が彫られており、毎日犠牲者の家族がお祈りを捧げに来ている。




俺の母――アイル・レイアンもその犠牲者の一人なのだ。

モンスターに襲われた俺を庇い殺された。
その時にモンスターから受けた背中の傷は今もなお消えることなく残っている。




――「おい…なんだあれ?」

「はぁ?なにがだよ…」
ホーキンズが俺の肩を手の平で軽く押し、ある場所を指差す。
ホーキンズが指差す場所に目を向ける…そこには他の帆船とは違う一際立派な黒い汽船が停まっており、船内からコンテナが次々に運び出されている。



「確か、あの船…西の民の…」
この辺では見かけたことはないのだが、あの船の先端にある鷹の紋章…たしか、バレン王国の紋章。

「西の民って……バレンかっ!?…人の噂では人身売買とかを商売にしてるって…」

ホーキンズが言うように、噂でしか聞いたことがないのだが、裏ではかなり悪どい事をしているそうだ。

でも、なぜ都会の船がこの田舎町に来たのだろうか?

この町に来た目的が人拐いの類いならまず不可能だ。
17夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/06(木) 08:37:56 ID:/GW3XAKI

この港に来るまでに海門を通過しなければならないので、入って来る時もそうだが、この海域から出る時は必ず厳重な取り調べが行われる。その為、モンスターだらけの森を抜けない限りこの町で人拐いなんて出来るわけが無い。

なぜ、海門なんて存在するのかと言うと、ここから東へ五キロほど進んだ場所に、この近辺では一番でかいノクタールという王国がある。

正しくはこの町の為にあるのではなく、そのノクタールを守る為に存在しているのだ。

「…ちょっと、聞きに行こうぜ。」

「お、おいっ!」
怖いもの知らずと言うか、怖いもの見たさと言うか……。
ホーキンズは黒船に向かって颯爽と歩き出した。


「んっ?おい、止まれ!なんの用だッ!?」
コンテナ周りを見張っていた黒船の船員が俺達に気がつくと、こちらに走り寄ってきた。


「おいおい、なんの用だって散歩してただけじゃねーか。」

「この辺をうろつくな!!散歩したきゃ、他へ行け!!」

「ハァ?おまえ俺が誰だか知らねーのかよ?このコンテナごと蹴り飛ばすぞ。」
18夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/06(木) 08:39:12 ID:/GW3XAKI

「なッ!?ふざけるな!!さっさと消えろ!!!」

ホーキンズが相手をおちょくるようにコンテナを軽く蹴ると、男の顔色が一瞬で変化し、先程より強い口調で怒鳴り散らしてきた。

「ホーキンズ、やめろって…悪かったな、仕事の邪魔して。こんな場所にバレンの船が来ることなんて珍しいから気になっただけなんだ。」
ホーキンズと男の間に割り込みなだめる。
このままケンカでもすれば他の国の人間に迷惑がかかる。
それに、相手の数が多すぎる…今の俺達は武器になるものを何一つ持ち合わせていないのだ。

「ふん…コンテナに近づくことは許されないからな…それだけは覚えておけ。」
此方に争う姿勢が感じられないと悟ったのか、腰に装着してある短銃から手を離した。

「あぁ…分かった。それでこんな田舎町に何しに来たんだ?」

「……隣のノクタール王国で七日前に生誕100周年パレードがあったんだよ…」

「そういや、そんなこと言ってたな…」
この町からも大勢参加している者がいるらしい。
なにが楽しいのか分からないが、しょっちゅうある行事では無いので祭りは息抜きになるのだろう。

それに、王妃が生まれた日と重なるので、かなり大きなパレードだそうだ。
19夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/06(木) 08:40:07 ID:/GW3XAKI

「そのパレードで俺達も店を出す予定だったのだが、腹立たしい事に国から出店禁止命令がだされて稼ぐことが出来なかったんだよ…。
だから小銭だけでも稼ぐ為にこの町によったんだ。

この町が終われば次の町…その町が終われば次の町って感じで少しずつバレンまで戻るつもりだ。」

「また、悲惨な事になったな…。でも禁止令が出るってかなりの大事だぞ?なんの店を出そうとしたんだ?」

パレードの日に出店ごときで国から直接禁止令が出るなんて聞いたことがない…。よっぽどの事がない限りパレードの日ぐらいは大目に見てくれるはずだ。

「ふん、なんの店か気になるんなら町の中枢部にある広場に今日の夕刻、店を出すから来るんだな。

勿論金を忘れんなよ?
こっちだって商売でやってんだから店の商品を安々見せたり教えたりする訳にはいかないんだよ。」
男がそう言い放つと、再度近づくなと警告してくる。

その言葉に軽く頷き、俺達は黒船前を後にしようとした時だった――




――…テ



「…?」

「どうした?」

「いや…べつに…」
歩き出そうとした矢先、後ろから誰かに呼び止められた気がしたので反射的に振り返ってしまった。


(…空耳か?)
20夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/06(木) 08:41:02 ID:/GW3XAKI



―タ――て―

「!?」
確かに聞こえた…気味が悪くなり周りを見渡す…しかし、バレンの船員の見張りが三名いるだけで俺に話しかけてくるような輩は誰一人いない…。

それに…声が聞こえたというより頭の中に響いたという感じだった。


「おい、大丈夫か?」

「なんか…声が聞こえないか?」

「声?………いや、聞こえないけど?」
ホーキンズの耳には聞こえていないようだ…。
だとすると、やはり俺の脳に直接話しかけてきているのか…?
考えられない事ではないのだが初めての経験だ。


―ス…ケ―


「ッ!?」
また聞こえてきた…それに先程より強く感じた。

「…」
コンテナの方に目を向ける――確信は持てないが、多分あの中から聞こえてきている…。

――あの中になにかいる…?

そう考えると体全身に鳥肌が立った。


「お、おいッ!?どこいくんだよ!」
ホーキンズの横を通り過ぎ走り去る。
あの近くにいては行けない気がした…。
だから頭に響く最後の言葉も聞こえないフリをして逃げた。







――タス…ケ…テ…
21 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/06(木) 08:46:16 ID:/GW3XAKI
投下終了です。

前スレの>>793さんが言ってたみたいに、まず春春夏秋冬を終わらせることを先に考えるので、こっちは少し投下が遅くなるかも知れないです。

皆さんの投下を楽しみにしています。

では。
22名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 13:59:54 ID:ECyXJ+an
>>21
新スレ一番槍GJ! 参ったねこりゃ。どっちも面白いじゃないか。どっちも頑張れ。
大胆な世界設定好きだわー。
23wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 14:56:59 ID:HMrGgIxw
二番槍投下ゆきます。
じわじわと行く感じで。今回から改行変えてみました。
24wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 14:59:23 ID:HMrGgIxw
              わたしの棲む部屋(2)

 杜守(ともり)さんのベッドに潜り込む。なんだかいたたま
れないほど恥ずかしいのだが、恥ずかしいのと一緒に浮かれる
ほど嬉しいのも本当だ。結果としてわたしはうつむいて口の中
でお邪魔しますとかなんとか、ごにょごにょと言い訳じみたこ
とをつぶやく挙動不審者になってしまう。

 ひんやりしたタオル地のシーツが気持ちよい。杜守さんはす
でに大の字になっている。その身長は180と少し。わたしは152
cm。ベッドのサイズには余裕があるし、腕の下側にすっぽり入
るのには適当な大きさだ。

「窮屈じゃない?」
「いえいえ、そんな」

 杜守さんはずるずると枕をこっちへと送ってよこす。このベッ
ドには枕が3つもあるのだ。その枕の位置を調整して、わたしの
頭をひょいと乗せる。ひろった動物を扱うような無造作なやり
方だけど、わたしの身体に一気に緊張が走る。ま、ま、まくら
はともかく。枕と布団の境目、わたしの首の後ろに杜守さんの
腕があるんですけれど。

「高さ平気??」
 これって腕枕の一種なのではないか。一種であるというか、
そのものであると思う。腕! 腕枕! 滅多にないシチュエー
ションにわたしは舞い上がってしまい、がくがくと頷く。
 もしわたしのおなかにメーターがついていたら、そのメータ
ーの針はぐんぐんと回転して真っ赤に示された領域で直立不動
になってしまっただろう。もしわたしにしっぽがあったら、びっ
くりして股の間に挟み込もうとするのと、嬉しくって千切れる
ほど振るのをいっぺんにやろうとして、目も当てられないほど
大惨事になっただろう。
25wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:01:26 ID:HMrGgIxw
「役得な感じだな、俺」
 杜守さんはそんなことを言ってくれる。嬉しい。嬉しいのだ
けれど、わたしは本当にダメ女子であって、客観的に見ても役
得と云うよりは誰得な話だ。
「そ、そうですか?」
 その証拠にわたしの口はぼそぼそと冴えない台詞しか喋って
くれない。我が事ながら、本当にがっかりしちゃうような意気
地の無さだ。

 杜守さんと一緒に寝るのは初めてではない。2回はしちゃっ
たわけだけど、寝るだけならその10倍くらいはしている。ちっ
とも威張れることではない。それは、つまりわたしがそれだけ
「情緒不安定」になっていると云うことだ。

 つい最近まで、杜守さんがいない杜守さんの家の中で、一日
中泣いていることもあった。自分のお荷物っぷりにほとほと愛
想が尽きて、ぐったりしてやる気もなくなり、それがこの先ず
ーっと続くのかと思うと、終わらないという恐怖がわたしをど
ろりとした暗闇のほこらに置き去りにした。

 わたしは確かなものを一つも持っていない。別に、財産が欲
しい訳じゃない。もっとずっとくだらないものでも良い。自分
が自信を持って自慢できさえすれば。あののび太君でさえ綾取
りに掛けてはすごい才能を持っていたのに(昼寝もすごかった)。
わたしはのび太君ほども確かなものがない。いや、彼はなんだ
かんだで主人公なのだ。友人も沢山いる。わたしの友人ジャン
ルは壊滅的だ。
26wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:03:29 ID:HMrGgIxw
 わたしが「情緒不安定」になっていると、杜守さんはたまに
ここに泊めてくれる。「情緒不安定」でも絶対ここに泊めてく
れないこともある。その差はよく判らない。わたしが本格的に
めそめそしていると泊めてくれないような気がしてるが、本当
にへこんでいると泊めてくれるような気もしている。よく判ら
ない。
 杜守さんのベッドに入ると、不思議によく眠れる。夢も見な
いでぐっすり朝まで。おまけに、ちゃんと目が覚めるし、目が
覚めた後はリセットされたみたいに普通の気分になれる。杜守
さんのベッドは霊験あらたかな神域なのだ。

 ごそりと身じろぎの気配。杜守さんの寝返りだ。
 わたしの中の暗い考えがぱっと霧散する。杜守さんの腕が頬
の下にある。その体温を感じる。
 体温ってすごいのです。
 他人の体温にこんな威力があると云うことを、わたしはこの
家で初めて知ったような気がする。同じベッドの中に他人が居
て、その体温を感じる。言葉にしてしまうと「暖かい」でしか
ないけれど、この「暖かい」は春の陽気とか、ぬくい布団とか
とはまったく違う。全然似ても似つかない。
 あまり大きな声では言えないが、わたしだって処女ではない。
だからまったく経験がないはずでもないのだが、杜守さんの体
温を感じるたびに、狼狽えてしまう。
 それくらい「他人の体温」って直接的だ。

 考えるとか悩むとか迷うとか、落ち込むとかへこむとかルー
プするとか、そういった一切合切を飛び越えて、ややもすると
思考も心も飛び越えて、身体と魂を安心させてしまう。こんな
凄いものを凄いと思わなかった過去のわたしは本当に何も考え
ていなかったんじゃないだろうか。
 わたしはおずおずと横を向く。杜守さんの横顔が見える。わ
ずかな動きだけど、その動きをするだけでわたしは滑稽なくら
いどきどきしてしまう。大事な家主がもし眠りにつく直前のあ
のふわふわした世界を彷徨っているのなら、邪魔したくはない。
27wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:06:12 ID:HMrGgIxw
「ん? どした?」
 杜守さんは片目を開くとこちらを見る。

「暑いか? 今年は冷夏だって云うけど」
 いえ、そんなことはなくて。冷房の効いた部屋は心地よいし、
むしろ杜守さんが暖かくてそれは幸せなんです、というような
意味の「大丈夫です」というつぶやきをこぼす。ああ、何でこ
ういう風に云っちゃうんだろう。

「そか。うむ」
 杜守さんはそう言うと、安心したように大きく息をする。わ
たしはその杜守さんに5cm近づく。杜守さんにも異論がないよ
うなので、もう5cm。それで杜守さんとわたしの間には距離が
無くなる。

 肌が、触れてしまう。

 杜守さんは月並みだけど暖かくて、しっかりとそこにいて。
もちろんしがみつくなんてとてもではないけれど出来ないわた
しは、ベッドの中で背伸びをするような姿勢で、ちょっと胸を
反らせたりして、さり気なく杜守さんの脇腹のあたりに身体を
くっつけたりしてみる。

 心臓が全力運転だ。
 脳みそが書き換えられていくのが判る。こんな状態で情緒不
安定なんか落ち込めるはずがない。暖かい鼓動を頬と胸、杜守
さんに触れている場所で感じる。強制的に落ち着かせられてし
まう。暴力的にリラックスさせられてしまう。圧倒的に和まさ
れてしまう。
 安心してしまう。安心させられてしまう。
28wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:08:23 ID:HMrGgIxw
 ――涙が出そうだ。わたしがどんなにお金を積み上げてでも
(実際にはお金無いんだけど)欲しかった安心が、体温と鼓動
だけで溢れるほどに生産されてこぼれ落ちてゆく。杜守さんの
ベッドにはいるたびに、その有無を云わせないほどの甘やかさ
に、半分泣きそうになる。

「甘えたいの?」
「ちょこっと」
「そっか」
 杜守さんがごそごそと腕の位置を調整してくれる。

 わたしは覚悟を決めて、身を寄せる。頬の下、杜守さんの腕。
肘の内側の皮膚の薄い部分、静脈が透けて見えるその部分にそっ
と唇をつける。わたしは今、どうしようもないほどてんぱって
居る気がする。でも、この天国みたいなベッドの恩返しなんて、
相当ダメな女子で有るところのわたしには、一種類くらいしか
思いつかない。
 みっともない粗品なんだけど、どうか受け取って欲しい。

 ぺろっ。ぺろっ。
 犬にしたって不器用な仕草で肘の内側を舐める。それをしな
がら、じわじわと杜守さんにくっつく。シてくれちゃって良い
です、むしろシちゃってくださいの合図。ううう。こんなのじゃ
アピールが足りないっぽい。そろそろと布団の中で隠密前進を
するように右手を進めていく。腕に力なんてまったく入らない。
それどころか、咎められるかと思うと膝から力が抜けそうだ。
 やっとたどり着いた杜守さんの首筋。自分の手のひらがしっ
とり濡れてる気がする。汗でべたべただったら子供みたいで格
好悪い。でも思い切って、指先で杜守さんの首筋をなぞる。杜
守さんの腕の内側にキス。何度も、何度も。わたしが杜守さん
にお返しできるなんてえっちくらいしかないのです。
29wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:10:27 ID:HMrGgIxw
「もしもし」
 杜守さんの声。聞こえないふりをしてキスを続ける。ハーフ
パンツからむき出しの、色気に欠ける太ももなんかも絡めたり
して、むやみやたらにキスしまくる。

「もしもーし」
 キスする場所が腕って云うのも相当に臆病な話だけれど、う
うん、これはまずは手始めで、ここから徐々に全身に。覚悟を
決めたらやるのが筋っていうものです。

「えいっ」
 後頭部を叩かれた。

「はい……」
「眞埜(まの)さんなんか、無理してるでしょ」
「そんなことないです……」
「しないですからね」
 はっきりと釘を刺される。

「なんか難しいこと色々考えながらしようとしてたでしょ」
 見透かされている。でも、それじゃ、わたしは本当にお荷物
だ。確かに色々考えてたけれど、不純な気持ちは全然無いので
す。わたしは本当に相当ダメな女子でお荷物家出娘なので、家
賃代わりにもならないのは判ってるけれどえっちくらいはしな
いといけないと思うのです。
30wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:12:53 ID:HMrGgIxw
「そういう考えが良くない」
 わたしの身体はセメントを流し込まれたように硬直する。
 うっすらと考えてたことが一気に現実味を帯びる。そうなの
だった。わたしの身体はめりはりにかけるにょろにょろなのだっ
た。こんな身体に欲情しないと云われてしまえば、それはそれ
までで。そもそもえっちでお返しになるのは気持ちがよいから
だと思われ、わたしといやらしい事をしても気持ち良くなれな
い可能性だって高く、それではお返しにはならないのではない
か。
 いや、もっとそれ以前に哀れみで面倒を見ている家出女にべ
たべたとくっつかれて迷惑なのでは無かろうか。気のない女が
ベッドの中で身体をまさぐってきたりして、それは立場を置き
換えてみたらげーと云うような話なのではないか。つまり、そ
れは、その。

 ――迷惑。

 その言葉がぽこりと暗い海に浮かぶ泡のように意識されたと
たん、わたしは半ば以上絶息したようになる。身体は硬直して
いるのに力が入らず、体温が一機に5度以上下がったような気
分になる。気が付くとわたしの手のひらが、引き裂けるほどに
シーツをぎゅっと握っている。

 目の前が暗くなる。視界が暗くなって、暖かくなったかと思
うと、それは杜守さんの手のひらだと判る。両目の上に当てら
れた杜守さんの手のひら。その腕がわたしの胴に回されて、引
き寄せられる。小柄なわたしは、まるで手荷物のように引き寄
せられる。墜落しかけたわたしの気持ちは、動転して静止する。
31wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:15:26 ID:HMrGgIxw
「はいはい。リセット、リセット」
 杜守さんは犬にでもそうするかのように自分の懐にわたしの
背中を抱き寄せる。横向きに寝ている杜守さん、スプーンのよ
うに重ねられるわたし。杜守さんの声が、頭の上からふってく
る。

「俺もね。男なのでえろえろなことは好きです。大好きです。
でもねー、流石に恩返しとか家賃代わりとか、そういう気持ち
でするのは、萎える」
 杜守さんの言葉にせいで、身体が真っ赤に燃える。ああ、す
みません、ごめんなさい。そんな風に思わせてしまうとは思っ
ていなかった。だからわたしはダメなんだ。いや、ダメよりも
もっと悪い。

 醜い。わたしは醜い。
 ――自分が世話になっているから、その恩をセックス程度の
ことでチャラにしようとしていたのだ。云われてみるとそれは
まさにその通りで、わたしは自分の狡さ、卑小さのせいで消え
入りたいような気持ちに襲われる。

「そんなこと気にしないで良いんだよ。ちゃんと約束したでしょ
う。しばらくの間は自分の家だと思ってくつろいで良いから」
 約束? ――約束って何だろう? わたしは杜守さんと約束
なんてした覚えはない。
32wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:18:16 ID:HMrGgIxw
「……あのネットカフェで家に誘ったとき、したよね。べっこ
り凹んで、凹みまくって鼻水垂らして顔ぐしゅぐしゅにしてた
時に。当面面倒を見るから、気持ちをリセットしてうちに住む
って」
 そんな約束、してない。そんな優しい約束してくれた人なん
て、今までに居たことない。わたしはそんな約束をもらえるほ
ど華のある女子じゃないのです。
「約束って色んな形で行われるでしょ? 書面で、契約で、メ
ールで、約款で。口頭で、文書で、色んな言葉で。時には『テ
ィッシュをとってあげる』なんて形で交わす約束もあるんだよ」
 わたしは今度こそ、本格的に溢れてきた涙を抑えることが出
来ない。だってそんな優しいことを云われるほど良い子でも佳
い女でもないのだ。わたしという存在は。鼻の奥がわさびでも
塗りたくったようになり、口が変な風にひしゃげてしまう。

「そもそもさ」
 杜守さんの声のトーンがわずかに明るく、茶化すようになる。
「男はえろえろ好きだから、それぞれそれなりにこだわりがあ
るんだよ。『恩返しに来た娘が馴れないお返しをする』なんて
のがツボの人もいるかもしれないけど、そういうのは個人的に
はちょっと今ひとつでさ。かたっくるしい事言うのも何だけど、
えろは好きな人とが良くない?」

 それは違う。それだけはすごく誤解だ。
 好きじゃないなんて誤解だ。そんなのは嘘なのだ。わたしは、
杜守さんのことをかなりすごく大変困ってしまうほど、――な
のだ。その部分は本当なのだ。わたしはその誤解を解こうと反
論しようとしたが、涙で詰まった鼻はわたしに反逆してぐしゅ
ぐしゅと水っぽい音しか出してくれない。
33wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:21:01 ID:HMrGgIxw
「えろはさー。えろえろーな気分の時に、えろえろーな気分の
相手と、それ以外のことは考えられないほど溺れてやるものだ
よ。
 さっきのだって、好きな相手以外とやっちゃダメとか云う道
徳じみたことを云うつもりはなくてさ。えろって弱点丸出しな
行為でしょ? 性癖も精神的な弱さもばれちゃうような距離感
でやるものでしょ。
 さらけ出してしまうものだから、ゆだねられる相手とじゃな
いと『一番気持ちよく』はなれないよ。相手とつながることし
か考えられないようなとき、打算が無くなったときに、発情し
ちゃって、もうえっちのことしか考えられないような気分です
るものだよ」

 杜守さんの話は、難しい。
 わたしは処女ではなくて、その初回は割と打算的に、下手を
するとその場のノリで捨ててしまったような気がする。それを
責めている言葉なのかとも思うけれど、そうとも聞こえない。
 何枚かまとめたティッシュを取ってくれる杜守さんの大きな
手。
 判らないけれど、嫌われてはいないような気がする。なのに、
杜守さんはダメだという。『なにかの代わりにえっちをしちゃ
ダメ』ということなのだろうか。そんな意味のようだけど、ち
ょっと違うような気もする。

 でも、杜守さんの声は優しくて、温められた背中は穏やかで。
わたしは髪の毛を触ってくれる杜守さんの指先を感じて眠りに
落ちた。眠りにつく直前まで、わたしの鼻は無様にぐずぐずと
鳴っていたけど。
34wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:23:17 ID:HMrGgIxw
 目が覚めたとき、あまりにも暖かくて、居心地が良くて布団
の中で無意識に身体中をくねらせてしまった。わたしは本当に
ダメな女子です。寝乱れた姿は他人には見せられませぬ。
 意識がはっきりすると、杜守さんの大きなベッドにいるのが
理解される。杜守さんの姿はない。仕事に行ってしまったらし
い。杜守さんは、朝のお出かけに関しては非常にクールだ。

 起き出して、台所へと向かう。9時半だった。自分でもびっ
くりの早起き(8時間は寝てて、早起きも何もないが)。やっ
ぱり杜守さんのベッドは霊験あらたかなのだった。

 冷蔵庫の中を見る。
 とりあえず、冷やした麦茶をグラスに注いで、ほっとする。
本日は流石の杜守さんも昼食は用意してない。してあったらま
たへこんでしまうところだった。
 麦茶を飲んだら洗濯。洗濯は好きだ。家事の中では一番好き
かもしれない。洗濯機に放り込むだけと云えば、それだけなの
だが、干すのが好きだ。特に夏の洗濯物はぱりぱりして、取り
込みが楽しい。
 本日は早起きしたので、掃除をする。杜守さんもわたしも、
ものを散らかすような性癖はないので、整頓は簡単だ。掃除機
を掛けて、拭き掃除をする。わたしは、自分でも落ち込むのだ
が、要領が悪い。手早く作業を進めることが出来ない。お昼過
ぎになって4時間たったけれど、まだ拭き掃除が半分という所
だった。
35wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:26:00 ID:HMrGgIxw
 今日はなんとしても、ガスレンジまでやっつけよう。
 なんて、思う。だって、身体で恩返しが出来ないダメ女なの
だし。掃除くらいしないと、本当に愛想を尽かされてしまう。

 そこまで考えると、昨晩のやりとりが思い出される。
 強い羞恥心と罪悪感。
 やってしまった。今までのわたしだって「相当にダメな女子」
で「お荷物」だったけれど、昨晩のあれは無い。目も当てられ
ない。こうして一晩明けてみれば、よく判る。

 わたしは、杜守さんの好意に値段をつけようとしたのだ。
 あのどん底の地獄から救出してくれた杜守さん。その好意っ
ておそらく奇跡に近いもの。わたしは奇跡に値段をつけようと
した。こんなダメ女の身体で。きっと3千円くらい。足下が崩
れて崖から落ちるような気分で立ち尽くす、じわーっと涙が
湧いてくる。我ながら酷いことをする。わたしは、杜守さんを
侮辱した。赦されないようなやり方で。

 申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、それでも、と思う。
 そんなに、嫌われてはない、と思いたい。

――それ以外のことは考えられないほど溺れてやるものだよ。
 そんな杜守さんの言葉が思い出される。だとすれば、前にやっ
た2回はやはり、義理という訳じゃないだろうけれど、わたしが
ここに居続ける言い訳を作ってくれたという意味合いが大きかっ
たのだろう。確かに身体を重ねてわたしは落ち着けたと思う。
でも、嫌いならそれさえもやってくれないはずだ。杜守さんは
優しい人だけど、同時に随分クールな人だとも思う。
36wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:28:46 ID:HMrGgIxw
――発情しちゃって、もうえっちのことしか考えられないよう
なときにやるものだよ。そうも言っていたっけ。思い出すと、
腰の奥が熱くなって、むず痒いようなくすぐったいような衝動
が滲み起きてくる。

 もしかしたら。
 本当にもしかしたら。

 わたしがあんな卑屈でずるい事を考えないで、ちゃんと発情
できてたら、杜守さんと身体を重ねられたのだろうか。杜守さ
んの暖かさと、しっかりした確かさが欲しくて、甘えたくてじゃ
れたくて、それ以外何も考えられないほどに発情していたら、
杜守さんはわたしを抱いてくれたのだろうか。
 その想像はわたしの中で麻薬的に膨らむ。

 「そんな風」になってしまった自分。それを抱いてくれる腕、
暖かさ、杜守さんのベッド、甘える、押さえつけられて、求め
られる。氾濫する感触に溺れかけて、わたしはわたしの身体を
抱きしめてぶるっと震える。

 どうしよう。そんなことされたい。絶対されたい。
 そんなことをしてもらえるなら、どんな対価でも払ってしま
いそう。

 でもその一方で、わたしの心の中の乾いて冷静な部分が「ダ
メ女子のわたしにそんな価値はない。杜守さんのあれは社交辞
令」なんて冷めた思考を投げかけてくる。その意見には説得力
があって、そのとおりだとわたしの90%くらいは簡単に同意し
てしまう。
37wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:31:15 ID:HMrGgIxw
 でも、残りの10%のわたしは動物的なのだ。
 下着の下がじんじんと熱を持って、もうぬかるんだようにお
漏らしをしかけている。そんな風に滅多になることのないわた
しはびっくりしてしまうけれど、それこそが10%の動物的わた
しの主張なのだ。
 それは「それ以外考えられない」くらいに脳の中までピンク
色に染まりたいわたし。そんなわたしなら抱いてくれるって、
そんなわたしを食べてくれるって、もしそんなことが現実に起
こるのならば、その愉悦はいかほどのものだろう。

「ううっ」
 ホットパンツの上から軽くなぞる。

 軟らかい感触。それは自分の身体の一部なのに引いてしまう
ほど卑猥で甘やかな器官だった。ホットパンツのちょっと硬め
の布地を通しても判るほど、とろけた感触。暖めたゼリーのよ
うに、下着をかみしめて指から逃げるほどのぬかるんでいる。

 指が埋まる。
 ぐちゅぐちゅとかき回す音が耳ではなく、身体の内側を通っ
て聞こえる。こんな事をしていたら下着もホットパンツも汚れ
てしまうのは判っているけれど、指が止まらない。こわばって
固いホットパンツの布地がざらりとこすれるのさえ、歯が浮く
ほどの刺激なのだ。

 わたしの頭の中には言葉が回っている。
 ――発情。
 ――えっちなことしか考えられないくらい。
 そんな風になって、そんな風にとろとろになって、杜守さん
の処へいけるなら。
38wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:33:41 ID:HMrGgIxw
 胸の中が燃えている。血の温度が一桁上がったように、肺の
中の空気まで熱くて、呼吸が荒くなる。口を開けて空気を取り
入れるたびに、じんわりとしびれて勝手に動いてしまう舌が踊
り、だらしなく甘い声が漏れてしまうのが抑えられない。
 知らない。こんなにえっちで気持ちの良い自慰を、わたしは
知らない。フローリングの床の上で膝立ちになった腰は、空中
の何かにこすりつけるように勝手に動く。そのたびに食い込ん
だ下着とホットパンツの布地がこすれて、もどかしいような痺
れるような刺激を送り込んでくる。わたしの自慢できないよう
なサイズの胸の中心部も、疼痛を感じるほどに咎ってブラの裏
地を擦り立てている。

 発情してる自分。
 誰も居ない台所でおかしくなったように腰を振っている自分。
 そんな自分が意識されているのに、どきどきも身体の疼きも
止まる気配がない。杜守さんのことを思うと、はしたない甘え
声が唇から漏れ出すのも止められない。

 だって、いっぱい発情したら……。
 したら……。
 杜守さんが抱いてくれるかもしれない。

 どうやって? 疑問が浮かんだとたんにドミノのように暴走
する連想。どうやって発情を知らせるの? 杜守さんに抱きつ
くの? キスするの? それくらいでは伝わらないのは判って
る。
 どろどろになった下着を見せるの? 見せている自分、ずり
降ろした下着におびただしい粘液、とろりと糸を引いてこぼれ
る蜜。広げてみせる? 杜守さんにこすりつける?
 それとも、杜守さんにご奉仕するの? しゃぶりたてるの?
膨らみきった先端を唇でぬるぬるにして、張り切った傘も、先
端の小穴も舌先でほじるように、丁寧に丁寧に、しつこいくら
いに愛情を込めてご奉仕するの?
39wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:35:56 ID:HMrGgIxw
 淫らな妄想に鼓動が加速する。わたしの口からは、吐息とも
喘ぎ声ともつかない糖度の高い音が断続的に漏れだしている。
わたしはこんなにえっちな女子だったんだ。そんな認識も頭の
中のいやらしくて気持ちよくて、そのくせ憧れてしまうほど幸
せな妄想に塗りつぶされていく。

 ――でも、そんな意思表示じゃやっぱり伝わらないよ。
 え?
 ――本当に欲しいなら、云わなきゃ。

 脳内を駆け巡る自分自身の声。そうだ。ちゃんと、云わなき
ゃ。いつも思ってることを云えてない。そのせいで杜守さんに
気を遣わせて、余計な手間を掛けさせて……だからちゃんと云
わなきゃ。なにを? それは、だって。つまり、はっきりと。

 発情してるって。

 下着の内側がとろとろですって。杜守さんにくっつきたくて
気が狂いそうですって。わたしはえっちな女子になってしまっ
て、えろえろです。身体が疼いて頭の中がおかしくなりそうで
す。だから、ほんの少しで良いからぎゅっとしてください、ぎ
ゅっとしてくれるだけで疼き狂ったあそこが壊れちゃうくらい
気持ちよくなってしまうから。

 恥ずかしくて仕方ないけれど、わたしは、わたしがそんな台
詞を杜守さんに告げるのを想像しただけで簡単に限界を超えて
しまう。
40wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:37:59 ID:HMrGgIxw
「〜〜〜ッ!!」
 身体の中をほとんど固まりともいえる気持ちの良さが駆け回
る。尾てい骨で発生した気の狂うようなむずがゆさが背骨に沿っ
て脳に到着、そこで派手に爆発して、意識の中をとろりとした
粘液性の幸福感でたっぷりと水浸しにしてしまう。

 フローリングの床の上にうつぶせにばったりと倒れているわ
たし。
 相当情けない格好だけど、そんなことは気にすることも出来
ない。ひんやりした床が気持ち良いことしか感じられない。
 頭の中にある思考らしい思考は「やってしまった」というこ
と。
 何をやってしまったのかとか、それがよいことなのか悪いこ
となのかとかは考えられない。ただぽつんと「やってしまった」
という単語が脳内に浮かんでいる感じ。もう一つ判るのは、今
の変態じみたえっちくさくて恥ずかしい自慰で、脳内の傍観者
と動物の割合が9:1から8:2くらいになってしまったということ
だけだった。
41名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 15:39:22 ID:3zNZY6Lw
支援
42wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:40:46 ID:HMrGgIxw
「どうぞ」
「いただきまーっす」
 わたしの勧めで杜守さんが箸を持ち上げる。本日は金曜日。
杜守さんの部屋に泊まってから一週間近くが過ぎていた。
 今週のわたしは、いろいろがんばった。我ながらびっくりし
ている。今日は(もちろん杜守さんは知らないが)わたしが勝
手に設定したテスト的な位置づけの夕食なのだ。わたしは自分
の食事をするのもそこそこに、ちらちらと杜守さんを様子を観
察してしまう。

 夕食のメニューは、回鍋肉ともやしのおひたし、絹さやの味
噌汁、それからだし巻き卵だ。先日のリベンジと云うことにな
る。
 実を言えば、今週のお昼ご飯は、4回ほど回鍋肉を食べてい
る。こっそり作って練習したのだ。
 ネットで調べて知ったのだけれど、料理――少なくとも家庭
で作るような料理は、センスではなくて場数だという。場数と
丁寧さ。センスがあれば少ない練習で上手になれる。要領が良
ければ、「どこの丁寧さを削除してはいけないか」が判る。ど
ちらも短時間で美味しい食事を作るには重要なポイント。でも、
けして必須ではないと云われていた。場数をつんで、ちゃんと
手順を守れば、料理はきちんと美味しくなるって。

 だから、たぶん杜守さんみたいには美味しくできてないと思
うのだけれど、前回よりもちゃんとしているはず。
43wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:42:16 ID:HMrGgIxw
 お肉は1回軽く湯通しして、その後下味をつける。キャベツは
先にかるく茹でる。茹でるときに塩とサラダ油を入れると、き
れいな色合いになる。このとき茹ですぎないように注意する。
茹ですぎると、後で炒めた時の追加加熱で、ボリュームが無く
なってションボリした感じになる。こういう注意点を1個ずつ
気が付くために必要なのが「場数」。
 かといって、茹ですぎないように気をつけると、キャベツの
白い芯の部分がほとんど生になってしまったりする。加熱の具
合が均一に行かないのだ。それを防ぐためには、材料を切る時
点で大体同じ大きさに、しかも、固い部分は火が通りやすいよ
うに薄めに切る必要がある。これが「丁寧さ」。

「たくさん頑張ったね」
 杜守さんは微笑む。ううう、やっぱりばれてしまうのか。練
習していたこともお見通しなのだろう。でも、褒めて貰った。
わたしは嬉しくなる。
「美味しい、ですか」
「うん、美味いよ。おかわりもらえる?」
 わたしはご飯をよそいながら、顔が崩れるのを止められない。
自分でもにこにこしちゃっているのが判る。嬉しい。料理を褒
められた程度でこんなに嬉しいのか。それとも杜守さんだから
嬉しいのだろうか。判らないけれど、こんなに嬉しいとは――
家事をがんばってしまう女子の気持ちもわかってしまう。
44wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:45:00 ID:HMrGgIxw
 にやけてしまうわたし。しかしお茶碗を渡したわたしの顔は、
その喜びとは裏腹に緊張をしてしまう。
 褒められたのは、嬉しい。けれど、褒められたと云うことは
「美味しいと云ってもらえたら体当たり」すると決めていた作
戦がGOサインということだった。頬が熱くなるのを我慢して、
冷静に、落ち着いてと自分に言い聞かせる。
 いや、でも落ち着いてなんかいられようはずもない。出来る
ことなら逃げ出したいような臆病な気持ちがわき起こる。ここ
で逃げてどうするのだ。なんて理知的なつっこみはわたしの中
には一切ない。わたしはダメ女子なのだ。いままでの基本方針
はいつでも全軍撤退だった。

 だけど、今週のわたしはちょっと違う。
 わたしはうつむいて食事をしながら、太ももをぎゅっとこす
り合わせる。それだけで身体の底に澱のように沈殿していたむ
ず痒さがほんの少し癒されて、甘い感触がわき上がる。――今
週のわたしは動物なのだ。
 詳しく説明するのも恥ずかしいが、今わたしの脳内は傍観者
と動物の割合が3:7くらい。先週の比率から云えばまさに大逆
転。「怖いならいっそ撤退を」なんて理性的な台詞はもちろん
聞こえているけれど、それより「発情して甘えちゃいたい」ほ
うが強くなっている。自分でもどうかと思うのだけれど、わた
しはえろえろになっているのだ。
 我ながらびっくり。そうか、頭の中がえっちな妄想でいっぱ
いってこういうことを言うのか……と自分でも感心してしまう。
45wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:46:34 ID:HMrGgIxw
 それでも、料理がうまくいかなかったら、今週は見送ろうと
思っていた。動物なのは良いけれど、動物である自分に甘える
のは本末転倒だ。わたしはダメな女子でお荷物だけど、杜守さ
んを「ダメな女子程度でOKな人」にはしたくない。たとえ、
ダメな女子でも、進歩しそうなダメ女子くらいになっていない
と、申し訳が立たない。
 そう思って回鍋肉の練習をしたけれど、美味しいって云われ
てしまった。……男の人ってご飯をすごい勢いで食べる。気持
ちよいくらいにぺろりと食べてしまった杜守さん。お世辞じゃ
なくて、上達したと云ってくれたと思いたい。

「今週の仕事は、いかがでしたか……?」
「終わったよ。今週も盛りだくさんだったねー」
 やっぱり待ったなしらしい。
「じゃ、その。エビスでも出しましょうか? 持っていきます
よ」
 どきどきする。変な顔になっているんじゃないかと気が気で
ない。杜守さんはこちらの思惑に気がついてるのかどうか判ら
ない、いつもの屈託のなさで、ごちそうさま、ありがとう、じゃ
部屋に引き上げてるわーなどと告げて立ち上がる。

 へ、へ、部屋に引き上げているそうですよ? わたしは急い
で食器をまとめるとキッチンでざっくりと洗う。一人っきりの
台所で変に緊張しているわたし。自覚症状があるけれど焦って
いるのだ。多分。恥ずかしながら逃げだしたい臆病な気持ちを
打ち消すために、逆にそわそわしてしまっている。
 ロフトに引き返すと、乏しい衣料品をカラーボックスから引
き出す。薄手の面積小さめのパンツ。白いシャツ。……そんな
物しかないのですが勘弁してください。
46wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:47:57 ID:HMrGgIxw
 着替えるときに、下半身がぬるりと滑る。ううう。この一週
間で急速に変態度が増してしまった動物であるところのわたし
は、期待だけでもう下着を汚してしまっているらしい。3時間
前にお風呂に入ったばかりだというのにとろとろと身体の内側
が潤っているのが判る。
 リップを付けて髪の毛をとかして、完成。早い。身だしなみ
なんて何にもしてないのと同じタイムだ。だけど、半引きこも
りの生活をしていたわたし的には、これがいま出来る精一杯。

 こんこん。
 ノックをして、杜守さんの部屋に入るわたし。杜守さんはパ
ソコンのディスプレイにウィンドゥを出してTVのニュースなん
て眺めてる。そっと近づいて、デスクの上にグラスを置くと、
杜守さんと視線が合う。
「ど、どぞ」
 わたしは勇気を出してお酌なんてしてみる。は、は、恥ずか
しい。この白いシャツは杜守さんにもらったものなので、太も
もの上半分は隠れてるけれど、その下はいきなりパンツです。
どう思われているのかと考えただけで、叫びながら逃げ出した
い。

「さんきゅー。……休日前ってのはいいよな。俺、休日よりも
休前日の仕事明けの方が好きかもしんないなー」
 杜守さんはそんなことを云いながらビールをごくごく飲んで
る。間を置いちゃいけない。そうだ、どーぶつで良いのだ。勢
いに任せちゃって良いのだ。色々考えてしまうのも、わたしの
良くないクセなのだ。いけ、云ってしまえ。
47wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:49:50 ID:HMrGgIxw
「杜守さん、あの」
「ほい?」
 勢いに任せて切り出すわたし。
「りょ、料理の、その」
「うん、練習したんだよね?」
「はい、その、それで」
 ここで間違えちゃいけない。「ご褒美が欲しい」なんて云っ
ちゃいけない。だってわたしがここで面倒を見て貰っているの
だから。せめてもの分担として家事をやるなんてのは至極当た
り前のことで恩返しにもなっていない。そんなことの対価を要
求するなんて恥知らず。ううん、それ以前に、それは不純な気
持ちだ。「えっちの時はえっちに溺れて」って杜守さんは言っ
てたではないか。

 もし、してもらえるのなら。お情けやご褒美じゃないほうが
良い。もし、させてもらえるのならば。頭の中がとろとろに蕩
けたわたしでご奉仕したい。何かの代替えじゃなく、それこそ
それ以外考えられなくなるくらい、杜守さん無しでは過ごせな
くなるくらい、溺れてみたい。
48名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 15:52:08 ID:NF5Rdb3j
読んでてニヤニヤしてしまうな、支援。
49wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:52:13 ID:HMrGgIxw
「ううう――発情、しちゃってます」
 うつむいたままで云うわたし。あぅう。声が裏返ってる。口
が勝手にわなわなして、ぱくぱくして、視線を床に落としたま
ま、上げられない。杜守さんのこと、見られない。

「あ、え。えーっと」
「あたまのなか、えっちな事でいっぱいです……」
 恥ずかしい。恥ずかしくて、頬が熱くて、冷房の効いた部屋
なのに、全身が茹で上がったようになっている。でも、動物化
しちゃったわたしはオーバーサイズなYシャツの裾をそろそろ
とまくり上げる。がくがくしそうな指先で、自分から見せるよ
うに。情けないくらいお粗末な脚を見せてしまう。

「今週は、毎日2回ずつオナニーしてて、でも、一回もいって
ないです。毎回、ちゃんとぎりぎりで我慢して……我慢しなが
ら、と、と……杜守さんの名前を何十回も呼んで……ました」
 云う、云っちゃう。その台詞は今週いっぱい頭の中にこびり
つくほど繰り返し続けてきた言葉。それを杜守さんに告白して
しまう。我慢し続けたいやらしい行為を告げるのは、言いしれ
ないほどの背徳的な開放感があって恥ずかしいのは本当なのに、
一度始めてしまった粗相のように言葉が止まらない。

「――したいです。杜守さんに溺れても、い、良いですか?」
 わたしは、もう、半分以上溺れちゃっていた。
50wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/06(木) 15:54:15 ID:HMrGgIxw
 以上(2)投下でしたなり。依存になってるかな。
 なってると良いな。もっと依存依存にしてゆく予定です。
 お粗末様でした、召し上がれ。
51名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 16:43:09 ID:tYxVqC1r
>>わたしだって処女じゃない
ダニィ!? ウゾダドンドコドーン!!

だがそれがいい
52名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 23:13:48 ID:EFiBPu7R
GJ!改行が変わって逆に読みづらくなったがGJ!
依存とHは切り離せないね。依存の仕方とその先のHの考え方、過程が良い!
53名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 03:39:12 ID:Mtamf1Ts
うーむ。こりゃ凄いですよ。ホントに・・・
GJ!
54名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 06:48:27 ID:vJ8KATag
GJだけど…ここは◆ou.3Y1vhqcが投下したすぐ後に投下するのが流行ってるの?
別にルールとかないけど普通ちょっとぐらい間開けない?
55名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 07:34:05 ID:CJCjQGP3
このスレは初めて来たけど
何だこれおもすれー
GJ
56名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 08:21:28 ID:FJ56ybm9
イイヨイイヨー
57名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 14:46:59 ID:rN+W5ljD
>>54
へえ他のSSは◆ou.3Y1vhqcの後に投下されてたのか
全然気づかなかったわ。あんまり作者とかみてないし、乞食の俺は感想の有無に関係なく読んでるから知らなかった
お前は◆ou.3Y1vhqcのことをよく見てるんだな
いや、◆ou.3Y1vhqcのこと というよりは◆ou.3Y1vhqcが投下した後のこと の方が正しいか
58名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 16:32:44 ID:72H1AFye
お前は誰と戦っているんだ
59名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 22:10:50 ID:IM2ULake
戦ってるんじゃない!依存しているんだ!
こうですか、わかりま(ry
60名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 22:12:32 ID:p5KEpixB
>>54
21 名前: ◆ou.3Y1vhqc [sage] 投稿日: 2009/08/06(木) 08:46:16 ID:/GW3XAKI

23 名前: wkz ◆5bXzwvtu.E [sage] 投稿日: 2009/08/06(木) 14:56:59


◆ou.3Y1vhqc氏が書き込んでる最中に割り込みまくるならともかく、
6時間も間が空いてるんだし何の問題も無いのでは?
レス番号だけなら「すぐ後」かもしれんけどさ。

◆ou.3Y1vhqc氏がコンスタントに書き続けているから、そう見えるだけかと。

>>57
気持ちは分かるが落ち着け
61名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 23:52:53 ID:Hrb/ZWEV
>>60
>>54は6時間が速すぎると思ったんだろう
スレによっては一日ぐらい待てってところもあるしな

>>54
このスレはほとんど職人さんの投下がないからか
>>1にも投下は時間を空けての文言はないし
投下間隔をみんな気にしていないだけじゃないかな
>>54もあまり気にするなよ
レスを流そうとしてるとかそういうんじゃないんだからさ
まったり依存していこうぜ
62wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:06:38 ID:+ERTFzLW
>>54
 ごめんなさい、配慮が足りませんでした。
実は前スレ後半には出来上がっていて、残容量の関係で
投下を控えていたために、新スレになって早々流して
しまった状況で、心遣いが不足してました。
 今後は無いようにします。ごめんなさい。

 そんな訳で、とりあえず、最終回。
63wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:08:44 ID:+ERTFzLW
              わたしの棲む部屋(3)

「あぁ。えっと……」
 言葉を失う杜守さん。それも当たり前だ。わたしだって、
わたしがこんなことを言い出す人だなんて先週まで全く知ら
なかった。びっくりしてしまうのは良く判る。でも。びっく
りされてるのは、とても辛いのだ。なぜって、わたしだって
恥ずかしいと思ってるんだから。

 杜守さんの目の前で、長めのシャツの裾をまくり上げる。
――どこまで見えてるか判らないけれど、太ももを限界まで、
もしかしたら恥ずかしい染みがあからさまに広がってる下着だ
って見えてるかも知れない。
 わたしは羞恥心で顔を上げられない。視界に見えてるのは、
値段の高いパソコンチュアに腰掛けている杜守さんの、ひざ、
腰、胸、意外にきれいな手、そして喉元。その喉元が何かを
嚥下するようにごくりという動きを見せるのを発見してしま
って、わたしの身体の中の恥ずかしさが、一瞬で陶酔にも似
た甘い期待感に変わる。

 杜守さんも少しは……発情してくれてるのかな。

 視線を伏せたまま、半歩近づく。
 本当は滑るように優雅に接近したかったのだけど、無理。
おそらくわたしの足取りは酔っぱらいのそれでしかない。無
理な体勢に危機感を覚えたのか、杜守さんの両腕が反射的に
伸ばされる。わたしはその両腕をプラットフォームにして、
杜守さんに顎の下辺りに、おでこを着地させる。
64wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:11:27 ID:+ERTFzLW
 だって、顔なんて恥ずかしくて絶対上げられない。
 茹だりすぎて、きっと変になってる。
 こうしてたって、唇が勝手にわなわな震えちゃうし、酸素
が足りなくて頭が馬鹿になりそうな自覚がある。

 杜守さんの顎の下、胸と云うにはちょっとばかり高めの場
所におでこをくっつけて、不自然な体勢のまま、訊ねる。

「杜守さん……。わたし、発情してます。えっちしたくて、
おかしくなりそうです」
 声は途切れ途切れだし、かすれたり、引っかかったり、到
底色っぽい誘いにはなってない。精々が哀れっぽい救命要請
にしか聞こえなかったと思う。でも、その言葉で、杜守さん
の呼気が詰まったようになって、大きな手のひらがわたしの
腰の後ろ辺りに回される。
 次の瞬間、わたしはあまりにもたやすく杜守さんのひざの
上に抱きかかえられる。向かい合わせのまま、杜守さんの脚
にまたがるように。子供扱いのような体勢だけど、いまの状
況ではかえって恥ずかしい。普段の身長差がうまって、わた
しはあわてて杜守さんにしがみつく。
 しがみついていないと、わたしの顔が杜守さんに覗き込ま
れてしまうのだ。俯いてるとか、視線を落としてとか、通用
しない距離と角度になってしまっている。

「ひゃ、わ、ぁ、ああぁ」
 どこの誰が立てる声だ。って自分で突っ込みを入れたいよ
うな甘くてかすれた声がわたしの。事もあろうにわたしの口
から自動的に出る。杜守さんがわたしのおしりの位置を(臆
病なわたしは無意識的に、杜守さんとくっつかないように腰
が引けていたのだ)調整するように、ぐいっと引き寄せて、
そのまま背筋をさぁっと撫で上げたのだ。
65wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:13:32 ID:+ERTFzLW
 は、恥ずかしい。
 セックスってこんなにも恥ずかしい物だとは知らなかった。
 杜守さんとはこれで三回目のはずなのに。
 何でこんなに恥ずかしいんだ。わたしはおかしくなってし
まっている。

 杜守さんの指先が、Yシャツの布地の上から、わたしの背
筋を、何回も撫でる。始めの数回は安心させるように大きな
手のひらを使っていたのに、次第に悪戯っぽい動きになって
ゆく指先が、まるで背骨の形状を確認するかのように、一個
一個のふくらみを肉の薄い背中の上で探索する。
 わたしの身体は、それだけの動きにあきれるほど敏感に痙
攣してしまう。それはわたし自身でも制御できない不如意な
反応で、声を立てないように食いしばった口から、湿った吐
息が次々に漏れ出す。
 背筋を降りていった指先は、尾てい骨方面へと進行し、や
がてパンツの縁まで到着する。そこでからかうようにそのゴ
ムをたどった後、さらりとお尻に接触する。わたしは、パニ
ックになって杜守さんにしがみつく。

 下着、濡れてる。ぐちゅぐちゅになってる。
 そんなの部屋に入る前からだけど。それを杜守さんに知ら
れちゃう、確認されちゃうと云うのは、こんなにもいたたま
れない気持ちだとは思わなかった。ううん、予想も覚悟もし
てたのに、全然足りなかった。

 でも、杜守さんの指は割合あっさりとそこから離れて、背
中に戻ると、わたしをなだめるかのように暖かくぽんぽんと
叩いてくれる。わたしは粉々になってしまった脳内をとりま
とめようと、杜守さんの首筋に顔を埋めて、荒い呼吸を続け
る事しかできなくなっていた。
66wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:15:37 ID:+ERTFzLW
「いっぱいいっぱい?」
 杜守さんの言葉に、こくりと頷く。
「じゃ、降参して終わりにしよっか?」
 ええっ!? そ、そんな。真っ白になるわたしの頭。杜守
さんの声は、かすかに笑いを含んで意地悪っ子のようになっ
ている。わたしは必死になって、顔を振る。首筋に埋めたま
まなので、肩口を頭でぐりぐりしているようにしかならない
けれど。

「じゃぁ、胸。みせて」
 ううう、あんまりだ。

 わたしは、その言葉からたっぷり1分ほど躊躇ったのち、
のろのろと上半身を杜守さんから引き離す。えっちしたいっ
て申し込んだのはわたしだから、仕方ない。そんな風に自分
に何十回も言い聞かせながら、身体を起こす。

 太ももを大きく開いて杜守さんの腰にまたがったまま、わ
たしはYシャツのボタンを外してゆく。普段、当たり前のよ
うに上から外していくのに、往生際の悪いわたしは、下から
順番にしかボタンを外すことが出来ない。サイズが大きいか
ら、外しただけで肌がすぐさま見えちゃうようなことは無い
と思うのだけれど。

「あ、おへそ見えたよ」
 思うのだけれど、現実は違った。からかうような杜守さん
の声。嬉しそうな響きで、わたしの頬が余計に加熱される。
ううう、見ないで欲しい。たいしたものじゃないのだから。
67wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:18:12 ID:+ERTFzLW
「ひゃわ、わ、くうっ、うぅっ……」
 突然杜守さんの手のひらが、脇腹に当てられる。その大き
さと暖かさは容赦がないほどで、動きの止まったわたしに杜
守さんはにこりと笑いかけると、自然な態度で手のひらを上
の方にスライドさせる。
 両手の平はわたしの脇腹を撫で上げて、決して無い訳では
ないけれど、かといってとても豊富とは言えないわたしの胸
の膨らみを、文字通り手中に収める。
 下側からふわりと支えられたわたしの胸は、別にたいした
刺激を受けた訳でもないのに、杜守さんの掌のなかでじんじ
んと甘ぁい疼きを発信し始める。脇の側からふにふにと手の
ひらを動かす杜守さん。乳首には触れてないけれど、胸をさ
わさわと触られる度に、Yシャツの布地がこすれて、はした
ない感触が走る。
 一番上のボタンは外せてないから、その瞳にわたしの胸は
見えていないはずだけど、何でそんなにジャストな位置でさ
われるのだろうか。

 わたしの脳内は、もう完全にパニックになりかけている。
 そもそも前にしたときは、部屋は暗くしてたし、ベッドの
布団の中だった。いまは電気も灯ってるディスプレイの青白
い光に照らされた部屋の中だ。パソコンチュアで、杜守さん
のひざの上で、わたしはえっちでえろえろな女の子宣言をし
ちゃってて、どこにも隠れる場所はないのだった。

 杜守さんはゆっくりとその温度でなにかを融かすように胸
を触っている。わたしは恥ずかしさで身動きも出来ない。杜
守さんはまた微笑むと、わたしにすいっと近づいて、ちろり
とわたしの唇をなめた。それだけで。それだけのことでわた
しは太ももに力を入れてがくがくしそうな腰を我慢しなけれ
ばならなくなる。
68wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:20:16 ID:+ERTFzLW
 睨もうとしても、杜守さんは手柄を立てた悪戯小僧みたい
な微笑みでわたしを見ているだけだ。この人は、こんな人だ
ったのですか? わたしの脳内で、あうあうとパニックだけ
が雪だるま式にふくれあがってゆく。

「落ち着いて」
 落ち着いてなんかいられる訳無いでしょう! わたしはや
けくそになった突っ込みをしたいのだけれど、あいにくそう
いう台詞が言えるようには生まれついて無く、ましてやこの
状況下では云えるはずもなく、ただ恨みがましい視線で杜守
さんを見つめることしかできない。

「まだ、余計なこと、考えすぎ」
 杜守さんがささやく。どういう意味だろうと思った瞬間、
杜守さんはその一瞬の隙を突いて、またわたしの唇をちろり
と舐める。うううっ、それは卑怯ですよ、と思った瞬間、杜
守さんの両方の親指が、いままでは見逃してくれていたわた
しの乳首をくるんとこすり上げる。
「〜っ!!」
 杜守さんの肩に置いたわたしの指先が、ぎゅっと掴みかかっ
てしまう。胸が、胸の中心がつーんとなって流れ出してしま
いそうな甘い感覚。

「気持ちいい?」
 杜守さんの言葉に頷く。恥ずかしくて、浅く頷いたら、杜
守さんは非道にも、羽のように軽く挟んだ乳首をすりすりと
してきた。わたしは慌てて、気持ち良いです、すごく、なん
て降参の台詞を吐いてしまう。

「ご褒美に、キスして良い?」
 一も二もなく頷くわたし。杜守さんの舌先が、何度かわた
しの唇を舐める。その後、わたしの下唇をはむっと挟まれて、
ぺろっとされて、わたしの閉じていることすらも出来なくなっ
た口はあっさりと杜守さんの侵入を許してしまう。
69wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:22:27 ID:+ERTFzLW
 キス、されてる。
 杜守さんと唇を合わせている。頭の中は蜂蜜をたっぷりと
掛けたシュークリームのような、もう甘ったるくてふわふわ
な何かに占領されて、ろくに思考も出来なくなってる。

 杜守さんが、乳首をきゅうっとひねるとその刺激はわたし
の脚の指先まで走って、空中で何かをつかむように丸まって
しまう。一方、何か大切なもののように乳首を丁寧にすりす
りされると、もっとそれが欲しくて、合わせた唇の間から、
甘え声が止まらなくなる。

 唇の周りが唾液でべとべとになってもキスをやめられない。
すればするほど、杜守さんの唇が美味しくて、気持ちよくて、
夢中になって味わってしまう。杜守さんが始めたキスなのに、
わたしのほうがおねだりするように舌を絡め続けている。

「えっちになった?」
 やっと唇を外すと、杜守さんが聞いてくる。こくこくと頷
くわたし。えっちになったというか、それ以外無くなったと
いうか、発情しきったわたしは杜守さんに触れているのが気
持ちよくて、それだけで身体中が勝手にひくひくしてしまっ
ている。

「じゃぁ、ベッドに行こうか」

 別段すごい憧れがあった訳じゃないのだけど、お姫様だっ
こと云われているものをされてしまった。恥ずかしいと云う
より、照れくさい。でも、そんな照れくささよりも、いまは
杜守さんにくっついていられるのが嬉しい。
 えっちになったわたしというのは、どうやら普段のわたし
自身よりも、相当欲深いらしい。それも、原始的な欲深さだ。
まず、杜守さんの近くに居たい。出来れば触れていたい。い
や触れていないと、気が済まない。しかもその上、触れてい
る面積を限りなく大きくしたいらしいのだ。
 確かにわたしは寂しがり屋で、自己嫌悪的な気分の時は、
胸をつく孤独感だけで一晩中眠ることも出来ないで過ごすこ
ともあったけれど、動物化してしまうとここまで甘えん坊に
なるのかと、自分でもびっくりしてしまう。
70wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:25:02 ID:+ERTFzLW
 手の平で触れていたい。
 でも、それだけよりは抱きついていたい。
 ただ抱きつくよりは脚を絡めたい。脚を絡められたなら、
唇を付けたい。望ましいのは唇へのキスだけれど、それが出
来ないのならどこでもかまわない。首筋でも、胸でも、指先
でも、いまなら杜守さんの身体中にキスをして、唇でなぞる
のだって、絶対してみたい。
 それはご奉仕とか対価とかサービス精神では全くなくて、
ただ単純にわたしの我が儘で「触れる面積を増やして甘えた
い」だけなのだ。

 だから、ベッドに投げ出されたわたしは、必然的に離れて
しまった杜守さんに強い不満を覚える。杜守さんのシャツを
つかんで、子供のようにつんつんと合図を送る。もっとくっ
ついていたいから。
「そんなに引っ張らないで、俺も脱ぎたいし」
 なんて杜守さんが言っても、わたしは少しも納得できない。
服を脱ぐなんて些末なことだ。くっつく方がよっぽど大事。
なぜかわたしの動物部分は確信してしまっている。

「あの」
「ん」
「わたしが、脱がせます」
 反論は一切許さない断固たる態度。つまり挙動不審気味に
視線を泳がせつつ、真っ赤になった頬を隠して小声で呟く。
という手法でわたしは意思表示をする。発声はこの際重要で
はないのだ。実力行使が重要なのだ。
71wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:27:16 ID:+ERTFzLW
 ベッドの上に無理矢理上がってもらった杜守さんに、まず
はめいっぱい抱きつく。大きい。180cmを越える杜守さんは、
わたしから見れば本当に巨大だ。抱きつく甲斐がある。
 ひとしきりぎゅっとハグをしたあと、本格的に服をぬがす。
抱きついたままベルトをはずし、ファスナーを引き下げる。
シャツのボタンは、片手で外す。だって、そうすれば、もう
片方の手は杜守さんにしがみついていられるから。
 杜守さんの胸に頬をこすりつけながら、シャツの下のTシャ
ツをずらして、肩を抜き、どんどんはだけさせてゆく。杜守
さんの胸板が現れると、そこにも頬ずり。何回かキスをして、
味を確かめて、またシャツを脱がす作業に戻る。
 杜守さんの身体に触れたい。動物的に発情したわたしの身
体を擦りつけたい。
 そんな具合に趣味全開で進めていたら、服を脱がすだけで
20分くらいかかってしまったらしい。それでも、杜守さんの
パンツまで全部脱がせて、思いっきり抱きしめる。
 ちらりとみえた杜守さんのそこは、もう固くなってる様に
見えて、思わず。思わずなのですが、ぎゅっと握ってしまう。

「えうっ?」
 杜守さんの声で、我に返る。
 に、に、に。握ってしまったらしい。大胆なことをしちゃっ
たことに気がついたわたし。でも、身体の方はいっこうに手
を離す気配がない。杜守さんを抱きしめて、左手は首筋に絡
めるように両脚を杜守さんの右足にからめ、胸板に頬ずりし
ながら、右手であそこを握っちゃったりして。
 そうなのだ。つまり、触る面積を増やしたいのだ。わたし
の身体は、わたしよりもずっと素直で、責任を取るわたしの
身にもなって欲しい。

 やけくそになったわたしは、無理矢理顔を上げる。わたし
の腰に手を回したまま、ちょっとびっくりしてる杜守さんと
視線が逢う。慌てて目をそらした後、もう一度視線を合わせ
て、もうどうにでも慣れなんて気分で、微笑んじゃったりし
て。
 あああ、ごめんなさい。ごめんなさい。でも、あれを握っ
たまま微笑む女って相当にダメダメだ。なんて突っ込みもし
てみたりして。いえ、そんな体裁はもう良いんです。
72wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:30:15 ID:+ERTFzLW
「上手に……脱、がせられまし……たか?」
「うー。ちょっと上手すぎ」
「ダメですか」
 ぎゅぅっと腰に回された手に力がこもり、わたしは抱きし
められる幸福感で自動的に杜守さんにしがみつく。

「ううん、良くできました。……ずっと握ってる辺りが、す
ごくえっちだね」
 にやっと笑われて、羞恥で体温が上がる。けれど、握って
いる手のひら自体は、杜守さんの鼓動と、興奮が伝わってき
て、どうしても離す気になれない。変態同然。というか、変
態そのものなのかも知れないけれど、触ってるだけで、安心
とスリルという本来逆の性質の感情が渦を巻いて、くらくら
するほど気持ちがよいのだ。

 わたしも悟ったことがある。

 実を言えば、わたしはその。口で愛撫するという、つまり、
いわゆるあれの経験がないのだが、いまなら出来る。出来る、
というか、かなり没頭して、楽しめてしまう実感がある。
 さっきキスをして脳みそをとろかされたわたしにはそれが
想像できてしまっている。粘膜をふれあわせるというのは、
境界があやふやになるほどの快楽だから、肌を触れあわせる
のより深いスキンシップ欲を満足させてくれる。
 つまり、白状してしまうと、口でするのは楽しそうだ。わ
たし自身のイメージががらがら崩れそうだけれど、正直な気
持ちだから仕方ない。いまなら、一時間でも二時間でもしゃ
ぶっていられると思う。甘えたい欲求を相手にぶつけて、そ
の結果相手が気持ちよさそうにしてくれたりするのなら――
そんな様子を想像しただけで、半日でもしゃぶっていられる
って保証できる。
73wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:32:17 ID:+ERTFzLW
「えっちで、すみません」
 不埒な――おしゃぶりするなんて妄想に浸っていたわたし
は、真っ赤になってわびる。

「ううん。可愛いです」
 杜守さんは、そう言うとわたしをくるりとひっくり返す。
小柄なわたしは、まるでお好み焼きのように見事に反転させ
られて、杜守さんの身体の下になる。

「あ、あぅ」
 そうされて見下ろされると、さっきまでのえろえろで積極
的だった脳内が、一気に弱気になって恥ずかしさが倍増する。
でも、杜守さんは「動いちゃダメですよ」なんて云って、わ
たしの身体にキスを始める。
 まず、おへそ。腰骨。パンツに指がかかって、桃の皮のよ
うにぺろん、とめくられる。視界の隅でちらっと確認すると、
哀れなほど濡れちゃってるパンツとあそこの間には粘液の糸
まで引いちゃっていたけれど、幸い杜守さんはコメントせず
にスルーしてくれてほっとする。

 でも、そのほっとしたのもつかの間、杜守さんはわたしの
左の足首をぎゅっとつかんで、そのまま持ち上げちゃったり
する。わたしは大きなベッドに背を預けたまま、(自慢する
ほどじゃない)胸の谷間に片ひざだけを抱えるような屈曲姿
勢で、杜守さんのキスを受ける。

 その場所は、ひざ。
74wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:35:09 ID:+ERTFzLW
 なんでそんなところに!? なんてパニックなのはほんの
序の口。ひざにキスされて、ぺろっと舐められちゃうのは、
嘘じゃないかってパニクっちゃうほど気持ち良かったのだ。
 くすぐったさが極まって、何か別のものに化けちゃいそう
な、奇妙な刺激。身をよじって逃げたくなるうずうずは、恐
怖感にも似ていた。でも、そのくすぐったさから逃げようと
した腰を抱きしめた杜守さんの腕の中で、わたしは何かの間
違いですからって弁解したくなるほど濡れちゃっていた。
 ひざ小僧を舌がぺろぺろされてしまう。初めての愛撫で、
こんなに気持ちよくなってしまって、わたしはあうあうと逃
げ口上を小声で並べ立てるけれど、それは杜守さんに全部却
下されてしまったりして。そのまま唇が太ももの内側に降り
てきて、両脚の間のみっともないほど蕩けた部分にふぅっと
息を吹きかけられただけで、もう限界になってしまう。

 ごめんなさい。
 もうだめです。
 くっつきたいです。

 くっつくというのは、もう、抱きしめるとか、脚を絡める
とか、キスするとかじゃないです。そんなのじゃ我慢できな
くて、それは本当に、もっともっと繋がりたくなっちゃって
て。つまりしちゃいたいって事です。
 っていう事を必死になってもぐもぐ云ったわたしに、杜守
さんは笑いかけてくれる。相当意地悪な笑いに見えたのだけ
ど、切羽詰まっていたわたしは、お願いです。なんて懇願し
てしまう。
75wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:37:32 ID:+ERTFzLW
「はい。じゃ、しますね」
 ずっとお預けされていたわたしのそこはぽってりと濡れきっ
ていて、久しぶりだけれど問題もなく杜守さんを受け入れて
ゆく。熱くて固いものが、狭くてみっちりした肉をかき分け
て侵入してくる感覚。押し広げられていく実感だけで、意識
が軽く飛んでしまう。
 みっちりとした質感。身体の内側にあってどうしても指が
届かないもどかしいむず痒さを、ぎちぎちと擦り癒される快
楽と、寂しさが埋まってゆく充実感で、わたしの口からはだ
らしない声が漏れてゆく。

 気持ちいい。
 気持ちよすぎる。

 吸う息も吐く息も自由にならない。身体のコントロールの
中心が下腹部に、杜守さんの突き刺された部分に集中してし
まって、その部分から伝達される快楽がわたしを支配し始め
ている。
 わなわな開く唇からは、押し出されるように舌がだらりと
出てしまいそうだし、自分でも緩みきった表情になっている
のが判る。

 ごりごりと押し込まれるときは、精神の中にぽっかり空い
ていた寂しさの穴がみっちりと満たされて、メープルシロッ
プのような幸福感が身体中を浸してくる。
 恥知らずな肉がまとわりつきながらも引き抜かれていくと
きは、手が届かなかったむず痒く発情しきった部分を、こっ
てりと擦ってもらう快楽で、太ももが自然とひくひく動いて
しまう。

 ううう、気持ちいいよう、ずるい。こんなに気持ちいいな
んて知らなかった。ごめんなさい、ごめんなさい。わたしは
ぐちゃぐちゃになった頭の中で、訳もわからないままに詫び
る。
 だって謝りでもしないと申し訳ないほど気持ちいい。
76wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:40:03 ID:+ERTFzLW
 杜守さんが言ったの、本当だ。
 発情してないときにセックスしちゃダメだ。
 お礼で身体重ねるとか、良くない。すくなくとも、こんな
発情えっちを期待していて、お礼のためのセックスなんかを
提供されたら、公共広告機構に訴えられても仕方がない。

「きもちいいです、ごめんなさいぃ、あぅあ……うぅ……あ、
あ、あっいぇ……ずるぃ、ずるいですっ……」
 決してペースの速くない杜守さんの動きなのに、脳の中が
ぐつぐつに煮込まれて、訳がわからなくなっている。

「気持ちいい?」
「気持ちいいです……すごいよぅ……」
 ゆっくりと、でも有無を云わさぬような確かさで埋め込ま
れる杜守さんのもの。すごい。腰がぐっと押しつけられて、
わたしの行き止まり、一番深い部分にぎちゅっと接触する。
たまらない。身体の内側が溢れるほど満たされる。
 内蔵を通り抜けて、頭の内側まで圧迫されるほど、わたし
の内側が杜守さんで一杯になる。深くて、一杯で、寂しさも
自己嫌悪も絶望も入る隙間がない。

 わたしのエッチなあそこが、頬一杯に食いしん坊になって
杜守さんを抱きしめる。それでも収まりきらずに揺すられる
と、お腹のそこにしびれるような快楽が次々と破裂する。

「反省した?」
「しました、しましたぁっ……」
 身体も心もどろどろに液状化して、杜守さんの言いなりに
なってる。言いなりになっているのが気持ちいい。
 引き抜かれてゆく熱い固まり。引き留めようとぎゅぅっと
抱きつくけれど、それはすべての粘膜をぬるぬると未練がま
しく擦りつけるだけ。擦り上げられた内側がショートしそう
なほど気持ちいい。頭の中と直結されて、麻薬のような稲妻
がぱちぱちとスパークしている。
77wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:42:14 ID:+ERTFzLW
「発情えっち、好き?」
「好きですっ」
 ためらうなんて出来ない。欲しくて、深い部分まで欲しく
てわがままな子供みたいに腰を揺すっておねだりをしてしま
う。

「眞埜(まの)さん、すごく可愛いですよ」
 その言葉は気持ちよさのあまり真空になったようなわたし
の心にダイレクトに入ってきてしまう。嘘だぁ。そんなの社
交辞令に決まってる。なのに、わたしの身体はその言葉だけ
で、一段どころか数段飛ばしで快楽の受信量を増大させる。
 社交辞令でもお世辞でも何でもいい。幸せだから。ずるい。
抵抗できる訳、無い。そんなこと、云われたこと無いから、
下腹部が狂ったように幸福になってゆく。

「見ちゃうね」
 わたしが未練がましく身につけていたYシャツの、首元の
最後のボタンを杜守さんは外す。はらりとはだけるシャツ。
自慢できないわたしの身体、めりはりに欠けてる、ムーミン
谷のにょろにょろみたいな胸も、胴体も、ウェストも丸見え
になる。

「白くて、きれいで、美人さんですよ」
「嘘だぁ〜……ぁぅんっ……」
 わたしは腕を持ち上げて顔を隠す。そんなことを云われたっ
て信じることは出来ない。わたしの身体は細いばかりだし。
胸だって大きくないし、お尻だってないし、ウェストのくび
れだって自慢できない。幼児体型ではなく、ただ単に貧相な
のだ。
 だから杜守さんのそれは社交辞令でお世辞だ。
78wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:45:26 ID:+ERTFzLW
 問題なのは、そんなリップサービスが、わたしにとっては
涙が出るほど嬉しいということ。あんまりにも夢見ていたよ
うな言葉だから、嘘だと判っているのに、わたしの心のは舞
い上がって、勝手に幸福になって行ってしまう。社交辞令だ
と判ってるだけに涙がこぼれるほど切ないのに、幸福なのも
本当なのだ。

「お世辞ですか」
「社交辞令ですよぉ、そんなのぅっ」
 杜守さんのくすくすと笑う気配がした。だからわたしは確
信する。やっぱりお世辞なのだと。そんなこと事実であるは
ずがないのだと。それは痛かったけれど、慣れた痛みだから
そうだと信じたのだ。いま抱いているわたしに甘い言葉をく
れたのだろうと。

 しかし、本当はお世辞ではなかったのだ。
 いや、社交辞令であった方がいろんな意味で無難だったか
もしれない。杜守さんがあんなタイミングでくすくす笑うこ
との意味を、わたしは全然判っていなかったのだ。
 杜守さんはわたしの考えてた十倍も百倍も鬼畜なのだった。

「嘘なのですか?」
 ほんのすぐ近くで聞こえる声。ぎゅぅっと押しつけられた
腰が、わたしの性器を満たして、奥の奥までぎちぎちにして、
その上杜守さんが抱きしめてくれる。身体に含まれている媚
薬のような甘い成分が、ぎゅぅっと絞られて脳まで侵してく
るような、幸せすぎる充実感でだらしない声が止まらない。
 杜守さんはそれを判っているのか、ゆらゆらと揺れるよう
なリズムで、奥の方をこつんこつんと刺激してくる。
79wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:48:17 ID:+ERTFzLW
「うそ……に……きま……って……ますぅ」
 それでも幸せで、だって悲しさも寂しさも、こんなに深く
密着して抱きしめられたら、入り込むことが出来ないから。
満たされすぎて、幸せしか感じることが出来ないから。

「そうなの?」
 今度はずるずると引き抜かれる。弾けるような刺激。引き
抜かれていく。あんなに深く満たされていたものが引き抜か
れると、身体の中心部にぽっかりした欠落が出来たような寂
しさを感じて泣きたくなる。
 なのに、身体中は快楽に痺れて抵抗できない。抵抗できな
いようにされて引き抜かれるという事実が、余計に快楽を深
めてしまう。寂しい、寂しいのに気持ちいい。

 先端だけが浅く埋まった、引き抜きと串差しの間のわずか
な間隙。だらしなく開かれたわたしの太ももの間のインター
バル。わたしのあそこは、次の侵入に焦がれて、じりじりと
灼かれてゆく。一番奥まで埋めきられた充実感と多幸感が欲
しくて、恥ずかしいけれど、腰をもじもじ動かして催促して
しまう。
 気持ちよさが一旦収まる方向へと向かうと、その余熱と、
ふくれあがる腰の中心部の物足りなさが、わたしの中の寂し
さと混ざり合って、狂おしいほど切なくなってゆく。

「眞埜(まの)さん、可愛いくないの?」
「可愛く、無いです」
 杜守さんは意地悪っ子笑いでたずねる。わたしは顔を背け
て、小さな声で言い訳をする。

「美人さんで、身体もきれいだよね」
「美人でもきれいでもないです」
 こんな中途半端な位置で止めて、杜守さんは意地悪だ。えっ
ちの最中にまでわたしのコンプレックスをえぐらなくても良
いのに……。視界にすっと影が差す。わたしより身長にして
30cm大きい杜守さん。背中を曲げるようにして、わたしの上
に覆い被さってくる。
 わたしの首筋に頭を埋めて、ちゅ、なんて音が聞こえたと
思ったら、耳たぶが軽くかまれていた。ぞくぞくするわたし
の耳元で、杜守さんの低い声が聞こえる。
80wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:54:59 ID:+ERTFzLW
「眞埜さんは可愛い人だよ」
 ゆっくりゆっくりと杜守さんが腰を押しつけてくる。じっ
くりと、焦らすように。動物になっちゃってるわたしは、揮
発性燃料を追加されたようにどんどん発情して行ってしまう。
物足りなさも、寂しさも、朝露のように蒸発して、充たされ
てゆく。
「う、う、嘘です」
 半分も入っていないのに、今度は引き抜かれていってしま
うそれ。わたしはあの焦れったさを思い出して腰を揺するけ
れど、杜守さんは逃げていってしまう。

「や、やだぁ。……うう〜」
「眞埜さん、きれいでしょ?」
 またゆっくりと侵入ってくる杜守さん。声が優しい。じわ
じわ進んでくるときに、敏感な部分に当たるとそれだけでひ
ざががくがくするほど気持ちよくて、からだがイルカのよう
に跳ねてしまう。
「きれいだよね?」
「違います……もん……」
 途端にじわじわと引き抜かれてゆく。――そこまでされれ
ば、いくらわたしでも気がつく。うううう、うわぁ!? な
んて極悪な人なんだ。杜守さんはっ!! む、無理矢理わた
しに嘘をつかせる気なんだ。

「い、意地悪ですよ。杜守さん。嘘つかせるなんてっ」
「そんなことないよ?」
 優しい声。わたしの耳たぶを加えて、杜守さんは唇ではむ
はむして軽くキスをする。耳から伝わる刺激だけで、浅く埋
められたわたしのあそこは次から次へとおねだりの粘液を流
してしまう。

「眞埜さん。頭の中、どろどろにえっちでしょ?」
 こくりと頷くわたし。
「もっともっと発情して、病みつきになって」
 杜守さんの声に、酔ったようになってぎゅっとシーツをつ
かむ。いつのまにかゆっくり入ってきている杜守さん。かみ
しめるように締め付けると、満たされている快感で、欠落が
埋まってゆく。
81wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 00:57:21 ID:+ERTFzLW
 なる。
 なります。
 病みつきになる、なるからっ。

「じゃぁ、可愛いのも、認めちゃおう」
 うううう。ひどい。なんて極悪なのだ。わたしは、しがみ
ついた杜守さんを離したくなくて、こくりと頷く。でも杜守
さんはその程度じゃ許してくれなくて、耳をはむはむしなが
ら、わたしのことをさらにえっちな生き物に改造する。
 杜守さんは「おねだりなんだけどな」なんて云うから。えっ
ちな刺激がほしくて発情しきったわたしは、その「おねだり」
という単語に我慢しきれないほど当てられてしまって、結局
杜守さんの求めるままに、呟いてしまう。

 嘘なのに。ううう。本当にダメ女子なのに。ダメダメなの
に。
「わたしは可愛いです」なんて。
 蚊の鳴くような声で。必死に抵抗したのに、云わされて。

 その瞬間、杜守さんは狙い澄ましたかのように、深ぁく、
わたしが我慢できないほど敏感な場所に、コツンとぶつけて
くるのだ。そんな場所にくちゅりと付けられたら、わたしが
満たされて幸せを感じてしまうの、杜守さんはとっくに判っ
ているはずなのに。ううう、悪魔だ。

 もっと。って杜守さんが言う。
 わたしはピンク色に狂っちゃったままの脳みそで、あの詐
欺台詞を再生してしまう。こつん。ご褒美に、奥の奥をかき
回される。腰の奥がぞくぞくして、水風船が膨らむように幸
福感を貯蓄していく。

 もう一回、っておねだりされる。
 あの台詞を唱えるわたし。杜守さんは「もっと可愛く、色っ
ぽく」なんてリクエストをしてくる。とろとろにえっちなわ
たしは、甘ぁい声で「眞埜は可愛いです」って云ってしまう。
「すごく可愛いよ」っていうお褒めの言葉と、ご褒美にかき
回されて、一番奥にキスされる。お腹の奥でぐちゅりと麻薬
をお漏らしをしたような悦楽。あそこが幸せになっちゃう。
しがみつくわたしを、えっちな快楽が満たしてゆく。
82wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 01:01:48 ID:+ERTFzLW
 ひどい。詐欺だっ。意地悪。悪魔っ。

 って、思ってるのは本当なのに、わたしの脳みそはどんど
ん幸せになって行ってしまう。幸福が溢れちゃっている。だ
らしなく緩んだわたしの口元は幸せそうな微笑みを浮かべて、
杜守さんに「可愛いです、美人なのです」なんて甘え声でさ
さやいて、そのたびに杜守さんはご褒美をくれる。

 気持ちいい。甘やかされるの、気持ちいい。
 甘えるのは、狂っちゃうほど、脳みそがとろけて病みつき
になるほど気持ちいい。

 幸せって麻薬だって初めて知った。こんなものを味わった
ら、抵抗できない。寂しいあの気持ちに戻れと云われたら、
死ぬ方がましだと思えるほどの幸福を味わってしまう。
 杜守さんと身体を重ねて、これ以上ないと云うほど深く触
れあいながら、こんな風に甘えてしまうなんて。
 もう口を閉じていることも出来ない。喘ぎ声と共に何でも
吐き出された舌は半ば痺れて、言葉も上手に紡げなくなって
いる。

「きもち、いいですぅ…あんっ…眞埜は、きもち……よくて、
可愛くて……うっ……スタイル、よく、なる……」
「反省した?」
 何言われてるか判らない。わからないけれど、する。反省
するぅ。ごめんなさい、ごめんなさい。とらないで、奥まで
ぎゅぅってしてるの、取り上げないでっ。

「癖になった?」
 なってる、なってます。癖になってる、可愛いってゆうの、
気持ちいい。云わされるのも、云われるのも、幸せすぎて、
頭ゆるゆるになっちゃう。なりました。中毒になりましたぁぅ。
「眞埜さん、かわいいよ。我慢しないからね」
 一際強く抱きしめられて、一番奥に埋められて、小さいわ
たしの身体は杜守さんの腕の中にすっぽり包まれるようにな
って、強い圧力をうける。

「かわいいから……杜守さんに……どろどろ…あ……あ……
から。してっ……まいにち……くだ……くださいっ。いっぱ
い……いっぱい……かわ……かわいがって……〜〜っ!!」
 その確かさ、どこかへ飛ばされてしまいそうなわたしは、
しっかりと拘束されて、その拘束さえ気持ちよい幸福感を止
めることは出来ずに、膨らみきった水風船が破裂するように
わたしは弾け飛ぶ。
83wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 01:05:50 ID:+ERTFzLW
「杜守さんは趣味が悪いです」
 身体がだるくて、全身とろりとしたハニークリームみたい
に力が入らない。腰の奥が一杯になってしまったように甘い。
疲れてるしひりひりしているのに、満腹になった昼寝猫みた
いな幸福感が身体の奥にあって、身動きする気にもなれない
のだ。
 それでも、わたしはわたしを抱えてくれている杜守さんに
抗議の言葉をかける。

「なんで?」
 杜守さんはけろりと答える。でも、その杜守さんもちょっ
ぴりだるいようだ。力を抜いて、わたしを小脇に抱きしめて
いる姿は、普段より少しだけ油断しているようで、それがと
ても可愛くて、嬉しい。

「あんなこと言わせるなんて、は、反則です」
「そうかなぁ」
 わたしは趣味が悪いとか、信じられないとか、嘘つきとか、
詐欺師とか、ドSとか、えろえろ飼い主とかきっぱりと……
つまり、口の中でもぐもぐと云ってやった。

「でも、眞埜さんをいただくのなら、一番可愛い眞埜さんを
食べたいでしょ? 眞埜さん可愛いのに自己卑下強すぎだし」
 自己卑下なんかじゃない。ダメ女子はそんなことしない。
ダメ女子は存在開始時から、ダメなのですよ、杜守さん。わ
たしは、またもやべっこりと凹んでしまう。

「眞埜さんはまたそっちに行こうとする。まぁ、リセット」
 そんな風に云われたって、そう簡単にはいかない。だって、
引きこもりで、居候で、特別な技術もない、美人でも可愛く
もなくて、貧相な身体の、高校中退の家出娘なんて、この世
のどこにも行く当てなんて無いのだ。
84wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 01:09:44 ID:+ERTFzLW
「だまされたと思って、ほら」杜守さんの胸に抱きかかえら
れる。
「イヤなら、声に出さなくて良いから。唇だけでね」
 ぎゅっという抱擁。杜守さんの汗のにおい。いまでは幸せ
の香りになっているそれを感じながら、その胸板に顔を埋め、
わたしはその皮膚にちょっと唇を付ける。乾いちゃってる唇
を、舌先で潤して、これでキスしても大丈夫。なんて、昨晩
までなら絶対に出来ない思考。わたしはそれしきのことで、
心臓がどきどきしてくる。

 さっきまでセックスをしちゃっていたというのに、なんだ
か異様なまでに恥ずかしい。けれど、頭の上から振ってくる
杜守さんの「おねだりだからね」なんて云う言葉には到底逆
らえない。

 眞埜は可愛いです。
 ――なんて、唇だけで云ってみる。だけなのに。
 うわぁ、うわぁ!?

 おかしい。わたしはおかしいのだ。変態なのだ。
 こ、壊れちゃってる。

 だって、幸せなのだ。杜守さんの胸に抱かれて、そんな詐
欺を言い立てる、自分に嘘をついちゃってるのが幸せすぎて、
こら、君は自重しなさい! って云うくらい、あそこだって
潤んで来ちゃってる。癖になってる。あの台詞を唇でなぞる
だけで、甘え狂っていた幸福感が再生されてたまらなくなる。
一気に体温が上がって唇がわなわなと震えてしまう。
 杜守さんに抱えられた身体がぎゅぅっと緊張して、我慢し
きれずにしがみつく。
85wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 01:12:24 ID:+ERTFzLW
 一大事だ。
 うううう、ど、どうすればいいんだろう。わたしの頭の中
はパニックで一杯になってしまう。パニックで一杯なのに、
寂しさも不幸も感じれない。だって、シュークリームみたい
でちょっとえっちくさい幸福感が脳を選挙してしまっている
から。わたしの脳の指令を無視して、心の方は甘えん坊の快
楽を貪っている。

「幸福って、時に良薬でしょ?」
 良薬なんかじゃない。ただの麻薬じゃないかぁ!?
 わたしは顔を上げられない。杜守さんにしがみついたまま、
その胸をぼかぼかと殴ってやる。
「眞埜さんが可愛くなればなるほど、気持ちよくなっちゃう
んだよね〜。……また今度とか、したくないです?」

 杜守さんの囁きは、いままでかぶっていた猫を捨て去っちゃっ
て、本物の鬼畜人間になっていた。ドS杜守さんだったのだ。
だからといって、嫌いになんかなった訳ではない。なれる訳
がないではないか。この状況で嫌いになれる女子が居たら、
申告して欲しいくらいだ。
 ましてやわたしは、相当なダメ女子で。

 発情したえっちなんて、耐性はないし。
 幸せになったりしたら、抗えるはずも無くなる。
 好きな人から餌付けされたら、どんなものにだってなって
しまうのだから。絶対絶対に社交辞令で、嘘で、詐欺なのに。

「眞埜さん? 今度お風呂で、おっぱいも大きいって云わせ
てあげますね」
 うううう。わたしは、杜守さんに言われるのなら拒否なん
て出来ない。わたしの中で、幸せと杜守さんと気持ちいいの
は、同じ事になっちゃってるんだから。
「お願い……します……」
 他に云える事なんて、何かあるだろうか?
86wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/08(土) 01:13:02 ID:+ERTFzLW
 以上投下終了、お目汚しでした。とりあえず
 この三回でおしまいっと。
 甘やかな依存になってれば嬉しく思います。
 (本当は杜守も眞埜に依存しているのでしょうが)
 では! 心の師匠ゲーパロ師の帰還を祈りつつ
 流浪投下にもどります。またっ!
87名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 01:16:00 ID:SoE0djmG
支援?
88名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 01:17:23 ID:SoE0djmG
あれ、終わってた

>>86
乙でした。これはいい依存の形だな
89名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 02:18:04 ID:tC8pwDH9
見事発情的仕事・・再見!再見!
90名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 02:37:14 ID:bqItqAvw
>>86
これはいい……今まで自分が読んできたSSの中でも最高クラスだと感じた…GJ!
91名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 04:21:55 ID:vpWLDNz/
こいつぁあ甘ったりいぃぃっ!南通天貞(1863〜1921)さんもビックリな甘ったるさだ!
ここまで甘ったるいエロ&依存は初めてだ。なにこのスイーツ?糖尿病?ヤりながら書いた?
こんなもんGJ言うしかないやないかい!GJや!GJやで!!
92名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 07:14:53 ID:MfM71ksj
>>86
萌え死ぬってこういうことか・・・GJ
93名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 08:16:41 ID:xWHXBLQr
>>86
もうちょっと読みたいというところで終わらせるとは…なんというSなSS師w
94名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 09:25:28 ID:dUxG9tgZ
>>86
神GJです



しかし保管庫の更新早いなwwww
95名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 17:31:01 ID:bHfGBET9
前スレ埋めようぜ
96 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/08(土) 21:57:05 ID:oRFbHVQR
ちょっと短いですが、投下します。
97夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/08(土) 21:59:05 ID:oRFbHVQR
「コーヒー一つと、海鮮ピザと…後はムーのステーキお願い……おまえは?」

「…俺はコーヒーだけで。」

「んじゃ、コーヒー二つで。」
ホーキンズの言葉に対してエプロン姿の女性は「かしこまりました。」と深々と頭を下げ、奥の厨房に入っていった。




――俺達は今、港を後にして町中のとある飲食店に来ていた。
ホーキンズが腹が減ったと騒ぐので、朝早くから開店している店に来たのだが、ホーキンズとは違い食欲なんて俺にはまったく無い。

なぜかと言うと、港で聞こえてきた声が頭から離れないからだ。

幼い少女のような小さい…それでいてハッキリと聞こえた「たすけて」という言葉。

あの言葉は間違いなく俺に向けられていた。
しかし、たすけろと言われても俺にはどうすることも出来ない。とゆうか、まずなにをすれば良いのか分からないし、第一確信が持てない…。
もしかして、俺の幻聴かも知れない…そう考えると、少し気分が楽になった。

「おまえ、まださっきの事気にしてんのか?空耳だよ、空耳。」
店員が持ってきたステーキを頬張りながらナイフを目先に持ってくる。

「あぶねーな…別に気にしてないよ。ちょっと疲れてたのかもしれないしな。」
98夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/08(土) 22:00:34 ID:oRFbHVQR
考えるのはやめよう――明日の朝になれば忘れてるはず…。

声を頭から無理矢理消して、コーヒーに口をつける。






――「おっ?おい、あれ……ぷぷっ…くくっ…」
窓の外を眺めながらコーヒーを飲んでいると、ホーキンズが店の入口を指差しながら含み笑いをしだした。

意味がわからず「なんだよ?」と後ろを振り返ると、店の入口付近で挙動不審な行動をしている人物が視界に入ってきた。
入口の前を忙しなく行ったり来たりしており、店の中を覗き込むとまた少し離れて物陰に隠れる。何度も何度もそれの繰り返し。

その挙動不審者に自然と目を細めて誰かを確認しようとする。

身長は150センチ前後。
小さい顔に薄緑の大きな瞳…髪は綺麗な栗色で、その頭には幼さを際立たせる猫耳…。
服は青い花柄ワンピースを着ており、裾と袖には女の子が好きそうなフリルがついている。
そのワンピースの裾からは細い尻尾がピョコッと出ていて、一目でミクシーの少女だと確認できた。

「……はぁ」
その少女の姿を確認すると、盛大にため息を吐いた。

「ぷぷっ…可愛いじゃねーか……ぷっ…く…」
本人は笑いを堪えてるつもりなのだろうが、口の隙間から笑い声が漏れている。
99夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/08(土) 22:01:05 ID:oRFbHVQR

「…ちょっと、行ってくる。」
ホーキンズの笑い声に苛立ちを感じたが、気持ちを押さえて席を立ち上がり、少女の所へと歩き出す。

少女も俺を見つけたのか、嬉しそうに尻尾が右左に動いており、店の入口の前で俺が出てくるのを足踏みしながら待っている状態だ。




――「よう。」

「ライトっ!」

店を出ると、少女が俺の名前を呼びながら勢いよく腰に抱きついてきた。身長が低いのでなんとか踏ん張ったが、少し息が詰まってしまった。

「ん〜っ!」

「おい…周りに人がいるから…」
声が聞こえていないのか無視をしているのか……俺の服に頭を突っ込み、お腹に顔を擦り付けてくるので猫耳が胸に触れて物凄くくすぐったい。

「…人の服にいつまで頭突っ込んでだ。」

「あぁ〜!ライトの匂いが…」
いい加減周りの目が痛々しくなってきたので無理矢理頭を服の中から引っこ抜いた。

「あほか…。メノウ…おまえ、また抜け出してきたのか?」

「…神父さまどっかいった…だからライトと遊ぶの…」

幼さの残る声でそう呟くと、俺の服を掴み、不安そうな瞳で俺の顔を覗き込んできた。
100夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/08(土) 22:01:56 ID:oRFbHVQR

メノウと言うのはこの子の名前。
胸元にはグリーンメノウの宝石が輝いており、唯一親からの贈り物だと嬉しそうに話していたことがある。

一ヶ月前にその親にこの町の教会に預けられたそうだが、メノウ自身、親に見捨てられたと理解していないらしい。

いや…理解できないのだ。

「ねぇ、ライト、お花畑行こっ!私ね、お花の帽子つくるの!!」

「あぁ…わかった。ちょっと、ホーキンズに話してくるから待ってろよ。」

なぜ理解出来ないのか…それは脳の発達が普段の子より少し遅れているのだ。
年齢は14歳なのだがまだ5歳ほどの知恵しか持ち合わせていないので、行動や言動は五歳児となんら変わらない。
五歳児と違うところ。それは14年間の人生経験があることだろうか…。

「ホーキンズ…少しメノウの相手してくるわ。」
ホーキンズのいるテーブルまで行くと、先程頼んだ食事はすでにたいらげており、次の食事が店員により運ばれてくる所だった。

「おう、また夕方にお前の家まで行くわ。」

「は?なんで?」

「なんでって…さっき港でバレンの人間が言ってたじゃねーか。」
メノウの相手をしていたのですっかり忘れていた。
嫌なことを思い出させる…。
101夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/08(土) 22:02:50 ID:oRFbHVQR

「本当に…いくのか?」

「おまえは気にならないのか?あんだけもったいぶられたら気になってしょうがねーよ。」
ホーキンズの言うようにあの男の誘いかたは、見に来なければ損をすると言った感じで自信に満ち溢れていた気がする。

「……わかった。それじゃ、夕方に。」
反論しても無理矢理つれていかれるので諦めることにした。
それに、正直言うとあのコンテナの中も気になる…。
多分、中央広場に行けばあのコンテナの中身もわかるはず。

「おい、メノウ…行くぞ。」

「あっ、うん!ばいばいっ!」

俺を待っている間、店の飼い猫と遊んでいたのか、猫に手を振りこちらに走り寄ってきた。

よく猫に話しかけている姿を目撃するので会話ができるのかと思ったのだが、基本無視されているのでメノウの独り言なのだろう…。
純真無垢な心だからこそなにか動物と通じる物があるのかも知れないが、道端では少し控えてほしい…。

「ねぇ、ライト!今日はいつまで遊べるの?」

「夕方までなら大丈夫だよ。」

「やった!!あのね、メノウね、お花の首輪も――」

「わかった、わかった。」
よほど嬉しかったのか、花畑に到着するまで一切俺の手を離さなかった。
102夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/08(土) 22:03:43 ID:oRFbHVQR

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇


――暗い――寒い――痛い――

なにも見えない…お腹もすいた…私はここで死ぬの?
みんなどうなったんだろう…私みたいに捕まったのかな…。

どうでもいいか…どうせ死ぬんだし。

さっきも外の人間に念話をしようとしたけど怖がられて逃げていってしまった…。

まぁ、人間相手に念話なんてしても意味がないか。



――ガチャッ。


何度聞いても嫌な音…

暗い箱の中に一筋の光が差し込む。

――「くっ、くっ、くっ……また稼いでくれよ?」
下品な声…顔を見なくても低脳だとわかる。
こんな男の金儲けの種にされるなんて…。

「おまえは珍しいからな…国につくまで、くたばんなよ?死ぬんならちゃんと稼いでから死ね。」

薄汚い笑いに寒気がする。

だから人間は嫌いなんだ――醜いヨクのカタマリ――無能な癖に欲が絡むと人外如き振舞い。

「よし、行くぞ。」

鉄の箱に無理矢理押し込まれ、連れ出される…。




――はぁ……もう一度だけ。




――もう一度だけ、帰りたかったなぁ――
103夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/08(土) 22:04:22 ID:oRFbHVQR

◆◇◆†◆◇◆

「うえぇぇぇぇぇえん!!、ヒッ、ヒック、びぇえぇぇぇえぇぇん!!!」

「み、耳元で泣き叫ぶな!てゆうか、離れろっ!」
俺の服を掴み大声で泣きわめくメノウ……本当に十四歳かと思うぐらい力が強い。
この光景を事情を知らない人が見たら何事かと思うだろうな…。



――なぜ、こんなにメノウが泣き叫んでいるのかと言うと、俺が大嘘をついたので怒っているらしい。

らしいと言うのは俺自身、嘘なんてついたと思っていないからだ。

メノウが言う俺がついた嘘と言うのは「夕方までなら大丈夫」と言う約束のこと。
時刻はもう十八時…嫌と言うほど遊んだつもりなのだが、メノウの言う夕方は太陽が沈むまでだそうだ。

「メノウ…いっぱい遊んだだろ?また遊んでやるかy「やだぁあぁぁっ!!ライド、う、うっ、うぞっ、ウソついだぁあぁぁ〜!!!」

俺が教会から出ていこうとすると、わざわざ俺の前に回り込んで教会の中に押し返そうとする。

先程から何度もこれを繰り返しているのだ。
「ほら、メノウ。ライトも用事があるんだから…いい加減にしなさい。」

隣にいる女性がメノウを優しく諭す。
104夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/08(土) 22:05:09 ID:oRFbHVQR

この人は、教会の隣に住むミクシーの女性であり、この教会のシスター。

名前はマリ・アンナ。

10日に一度、ノクタールの教会に出向く神父に代わってメノウの世話をしている女性で、メノウの親代わりでもある。

自分からメノウの世話をさせてほしいと志願したらしい。

神父から聞いた話だがどうにも子供ができない体らしく、メノウの里親になりたいそうだ。

メノウもよくなついている……のだが。

「やだっ、まだ、遊ぶのっ!ライトと一緒にご飯食べる!」

こうなると誰も止められなくなる…。

アンナさんも片手で頭を抱えて下を向いてしまった。

ため息を吐き、時計に目を向ける…。あの店がいつまで開いているのかわからないが、そんなに早く閉まることはないだろう……ホーキンズは……まぁ、いいや…。



「よし…それじゃ、夕食を食べたら今日はちゃんとバイバイできるな?」

「…」

「約束しなきゃ、もう帰るぞ?」

「………うん…。」

かなり怪しい返答だが、しかたがない…多分このまま押し問答をしていれば本当に日が暮れるまで続けるだろう。

「…それじゃ、ライトも家に来なさい。夕食はもうできてるから。」
105夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/08(土) 22:05:47 ID:oRFbHVQR

「…はぁ…わかりました。」

「よかったね、ライト!お姉ちゃん、メノウね、アップルパイがいい!!」
先ほどの鬱陶しい雰囲気は何処へやら…もう頭の中は食べることでいっぱいらしい。

「アップルパイはダメ!あんた、ベッドまで隠し持っていって、夜遅く布団の中で食べるじゃないの。」

「メ、メノウのアップルパイじゃないっ!」

「あんたのベッドがアップルパイのカスだらけなのよ!洗濯する身にもなりなさい!ってゆうか夕食にアップルパイなんて作らないわよ…。」

――この二人を見ていると本当の家族のように見えてくる。

だけど、本当の家族にはなれない…多分アンナさんもそれは分かっているはず。

メノウを寝かせると、決まって夜中、寝言で母親を呼ぶらしい。

…涙を流しながら…。
突然、母親がいなくなる恐怖…俺は嫌と言うほど理解している。
メノウの場合は親から離されたあげく、知らない町に連れてこられたのだから心寂しくなるのも無理はないだろう…。
少なからず境遇が似ているのでほっとけないのかも知れない。

「アップルパイ!アップルパイ!」




…どちらにせよ今は夕食にアップルパイが出てこないことだけを願おう。
106 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/08(土) 22:08:45 ID:oRFbHVQR
投下終了。

次は春春夏秋冬の投下となります。
107名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 02:57:04 ID:EIRPn1NC
いいと思う
期待して待ってる
108名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 17:58:44 ID:q5Urq/ON
thx
109名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 18:02:16 ID:cqbFbxV7

        ,. -ー冖'⌒'ー-、
       ,ノ         \
       / ,r‐へへく⌒'¬、  ヽ
       {ノ へ.._、 ,,/~`  〉  }    ,r=-、
      /プ●)y'¨Y(●)ヽ―}j=く    /,ミ=/
    ノ /レ'>-〈_ュ`ー‐'  リ,イ}    〃 /
   / _勺 イ;;∵r;==、、∴'∵; シ    〃 / 
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  人__/ー┬ 个-、__,,.. ‐'´ 〃`ァーァー\
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110名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 18:35:50 ID:CNgioY7Q
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111名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 23:54:28 ID:sYxH7Ays
>>106
GJ! 子供ウザいw
112名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 12:52:21 ID:tFISRok+
>>106
GJ
113名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 05:26:14 ID:tliUlVRY
保守
114名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 02:22:47 ID:mz0Ssfs9
マジで人いないな保守
115名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 04:08:29 ID:QPEcM0wy
なにいつものことさ。
116名無しさん@ピンキー:2009/08/15(土) 08:31:55 ID:DKC5QDDz
お盆で帰省していて書き込みが無いのもあるだろ。
実家にネット環境が整っていないとか。
117名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 04:41:51 ID:ZSSxawDb
すっかりこのスレに依存してんなー保守
118名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 01:54:16 ID:1b2lla01
今日の夜23時までに誰か投下しなければ俺が……
119名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 18:00:15 ID:qBxySpVI
この星を破壊しつくすだけだぁ!
120名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 20:30:30 ID:1b2lla01
11時までに投下しようと思ったけど無理だw
春春夏秋冬の続きは明日投下しますね。
121名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 00:57:40 ID:G1//2J4t
もう明日になったよ(ハート)
122名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 00:47:28 ID:lq2Cr9Vv
マダー??
123 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 01:07:32 ID:uomxVZO0
いや、今日投下しようとおもったんですが、なぜか投下できなかったんですよ…。

申し訳ないんですが夜勤で今仕事中なんで、家に帰ってからになるかと…なるべく早く投下するんですいませんがもう少し待ってください。
124名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 02:40:49 ID:FkSQ7wy8
お仕事ご苦労様。のんびり待ってるよ
125名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 09:11:46 ID:o5QuvrqH
Omegaの視界……色々と期待してたんだけれどなぁ
126春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:17:01 ID:uomxVZO0
投下します
127春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:17:53 ID:uomxVZO0
昔の記憶の中に春香と俺で、一つの物をよく取り合っていた思い出がある。

人形――おやつ――服――夕飯のオカズ――

恵さんの膝の上もそうだが、なぜか俺が使おうとするものを、すべて横取りするのだ。

その春香の横暴に対して、一度だげ理由を聞いた事がある。

すると春香は当たり前のように話し出した。


――私達は生まれた日や場所が一緒じゃない?

同じものや、同じ景色を見続けていれば、お爺ちゃんお婆ちゃんになった後、天国に行く時も手を繋いで一緒に行けると思うの。

誕生日と命日が一緒ってすごいよね?私とハルは天国に行っ―て――も――
128春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:18:50 ID:uomxVZO0

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「それじゃ、美幸ちゃんを家まで送っていくから。」

「えぇ、気を付けて。美幸ちゃんも、また遊びにおいでね?」

「はい、ありがとうございました。」
恵さんに見送られて家を後にする。
赤部家ならまだしも、自分の家で誰かに見送られるのはなにか不思議な気持ちになる。

いつもは誰もいない寝るだけの箱のような場所だったけど、今日は皆のおかげで家の中が何年かぶりに活気づいた。それは嬉しくもあり、どこが寂しかった…。

皆が帰れば耳を圧迫する静寂にまた包まはれる事になる。

多分、美幸ちゃんを送って家に帰ってくればみんなはもう赤部家に帰っているだろう…。

夏美もついてくると駄々をこねたのだが、寝不足なのか目が真っ赤になっていたので早く家に帰って寝るように言い聞かせた。
かなり渋っていたが、恵さんにきつく諭されると何も言わず自宅に帰っていった。

「すいません…春樹先輩怪我してるのに、何度も何度も…」
美幸ちゃんのつむじは昨日と今日で見慣れてしまった。
顔を合わす度に頭を下げられてる気がする。
129春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:19:51 ID:uomxVZO0

「イヤ、別に大丈夫だよ?流石に暗い夜道を女の子一人で帰らすわけにはいかないからね。」

暗いと言ってもまだ夕方の7時なのだが、何かあったら親御さんに悪い。
それに春香の二の舞だけは絶対に避けたい…。

「…あの…春樹先輩…」

「なに?」

「あの…か、彼女さんが…怒ったり…その…私達…誤解を…」

「彼女?」

「写真の…」
春香のことか…そう言えば写真を見られたんだった。
写真を見たときから異常に静かになったと思っていたが、春香の事を気にしていたのか…。

「…あぁ……今日墓地に行ったでしょ?あれがそうだよ。」
別に隠すこともないし、知られて困ることでもない。
それに美幸ちゃんには春香に話しかけてるところを目撃されている。

「……えっ!?じゃあ、春樹先輩の彼女さんって……」

「…うん、三年前に亡くなってるよ。」
――ちゃんと声が出ただろうか?
震えていなかったら満点だ…。

「ご、ごめんなさいっ!!」
慌てたようにまた深々と頭を下げる。
流石につむじばかり見飽きてきた。
震える美幸ちゃんの肩を掴み顔を上げてもらう。

「別に気にしてないって。もう三年前の話だよ?吹っ切れてるよ。」
130春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:20:19 ID:uomxVZO0

よくこんな大嘘を喋れたもんだ…。未だに春香の写真を見なければ寝ることもままならないのに、吹っ切ることなんてできるハズがない。

「わ、わたしの悪い癖でっ!気になって、それで、春樹先輩に迷惑がかかると…!」

「わかった、わかった。早く行こ。」
興奮しているのか、美幸ちゃんが何をいってるのか分からなくなってきた。
こんな話を長々と続けても意味がないと思い、早々と美幸ちゃんの家に向かって歩き出す。


「ま、待ってください…ちっ、違うんです!!ちゃ、ちゃんと…その、謝りますから!だから、怒らないでください!」
歩き出すために一歩足を踏み出すと、後ろから美幸ちゃんに必死の形相で腕を掴まれた。
いや…掴まれたと言うより抱え込まれた。

「怒る?いや…怒ってないけど…」

「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…。」
多分周りの人間が見れば痴話喧嘩に見えるのだろうが、俺の心情はそんな軽い物ではなかった。

夜道だからか、小さな声で呟くと美幸ちゃんの姿にとてつもなく恐怖を感じてしまったのだ。

「ほ、ほんとに怒ってないから…ね?」
かなりビビりぎみで美幸ちゃんの頭を撫でてみる。


「……」
131春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:21:05 ID:uomxVZO0

どこか怯えたように俺の顔を覗き込んでくる…。
なにをそんなに疑っているのだろうか?

別に普通の会話をしていただけなのに…それとも無意識のうちに勘違いされるような表情をしていたのか?
なんにせよこんな往来で騒いでたら警察を呼ばれかねない。早く離れなければ。

「本当に全然怒ってないから。ほら、お母さんも心配するし…。早く行こ?」

「………はい…。」
俺の腕に巻き付いている美幸ちゃんの腕が離れていく……腕から離れる瞬間、最後になぜか小指を軽く握られた。かなり力強く握っていたのか服がシワだらけになっている。

「…」
美幸ちゃんにばれないように小さくため息を吐くと、横を歩いている美幸ちゃんに視線を落としてみる。先程の違和感は無くなり、どこか疲れたように下を向きながら歩いている。

まだ二日しか顔を合わせていないのに、えらく所帯染みているのは気のせいだろうか…。

ただ、美幸ちゃんが人懐っこいだけだと思うけど…どこか胸に引っ掛かる。


――そんなことを考えながら5分ほどぼーっと歩いていると、あっという間に美幸ちゃんの家がある住宅街についてしまった。
132春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:21:56 ID:uomxVZO0

住宅街の入口で立ち止まると、会社帰りのサラリーマン達が駅の方から歩いてくるのが視界に入ってきた。
鬱陶しそうにこちらを一見すると、疲れた表情で俺達の横を次々に通りすぎていく。

流石にこの時間になると学生はいないようだ。


――「えっと…ここで、大丈夫?」

「あっ、はい……大丈夫です。」
玄関の前まで送ろうか迷ったのだが、親御さんが心配するといけないので、ここでわかれることにしたのだが…。


――見送って帰ろうと思っていた俺の心情とは裏腹に、美幸ちゃんはまったく俺の横から動かなかった。

そのまま家に向かって歩いていってくれれば気安くバイバイと言えたのだが、なぜか駅から川のように流れてくるサラリーマンを眺めだしたのだ。

「どうしたの?なにかあるの?」

「…いえ、お父さんが多分帰って………」

「お父さん…?」

「はい、多分この電車で帰ってくるかと……あっ、来ました!」

美幸ちゃんがいきなりサラリーマンの群に向かって元気よく手を振りだした。

多分お父さんを見つけたのだろう…手を振っている方に目を向けるが、美幸ちゃんのお父さんを見たことがないので、すべてが美幸ちゃんのお父さんに見える。
133春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:22:34 ID:uomxVZO0

正直本心は、俺は一緒にいても大丈夫なのだろうか…?変に勘違いをされて殴られたりしないだろうか?、と言う気持ちで少し…いや、かなりドキドキしていた。

複雑な心情の中、逃げたくなる衝動を押さえて美幸ちゃんの視線を追いかけるけど、誰が誰かなんてまったくわからない…。

そんな感じで必死に美幸ちゃんのお父さんであろう人物を探しだそうとしていたら、美幸ちゃんの声につられてサラリーマン群の中から一人、こちらに向かってくる人物が視界に入ってきた。

周りのだらしないサラリーマンとは違い、スーツをきちっと着込んだ長身の男性…多分この人が美幸ちゃんのお父さんなのだろう…。

見た目は正直に言うと俺が苦手な雰囲気を醸し出している……春香の父親もこんな感じだ。

美幸ちゃんに手を振り返すわけでもなく、表情を崩さずに颯爽とこちらに歩いてくる。口元の骨格が少し上がっているので怒ってる訳ではなさそうだ。




――「ただいま、美幸。」

「おかえりなさい、お父さん。」

やっぱり正解だ。
男性は美幸ちゃんの前まで歩いてくると、優しく微笑みながら話しかけた。
美幸ちゃんもその男性に満面の笑みで返している。
134春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:23:13 ID:uomxVZO0

――やはり家族に向けている笑顔と俺に向けている笑顔はまったくの別物。

俺と話している時は、どこか気を使っていて三歩下がった場所から話しかけてくるような話し方だったのに、今は本当に安心した表情をしている。


「ん…?美幸、この子は?」
俺に気がついたのか美幸ちゃんのお父さんがこちらに視線を送ってきた。
ただ先程までの笑顔は消えている…やはり怒らせたかと思い、慌てて頭を下げた。

「あっ、私の学校の先輩で、夕凪 春樹さん。昨日話したでしょ?」

「あぁ〜キミが春樹くん?昨日美幸を助けてくれたんだって?」

「いえ、そんな…」

「もしよかったらなにかお礼を…ってキミ…どうしたんだその怪我…?」
無表情が一変険しい表情に変わった。

「あの…この怪我は…」
自分が怪我しているのをすっかり忘れていた…。
こんな生々しい生傷をつけた人間が娘といたら流石に警戒するだろう…俺が親でも警戒する…。

「あっ、あのね、学校の階段で転んだんだって。そうですよね?」

「……えっ?…あ、あぁ…そうだね。」

なんて言おうか考えていると、ビックリすることに昼間に天然爆発した美幸ちゃんが気転を効かせてくれた。
135春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:24:17 ID:uomxVZO0

気転を効かせてくれたのは有り難いのだが、なぜ赤部家がいる時にそれをしてくれなかったのか…不思議でしょうがない。

「そうなのか?まぁ…怪我してるとこを無理に止める訳にもいかないな…また怪我が治ったら家に来なさい。なにかご馳走するよ。」

「はい、わかりました。それじゃ、みゆッ…山下さん…またね。」
危ない…せっかく美幸ちゃんが助けてくれたのに、自分から落とし穴に入りにいくところだった…。
よくわからないが、父親の前で娘の名前を呼ばれたらいい気分はしないはず。


変なボロがでないように、さっさと帰ろう…。
美幸ちゃんに軽く手を振り、美幸ちゃんのお父さんに頭をもう一度下げて、二人のもとから早々と離れる。

離れる間際、美幸ちゃんの表情が固まっていたのは気のせいだろうか?

「まぁ、いっか。はぁ…疲れた…。」
二人が見えない場所まで歩いてくると、大きく背筋を伸ばした。
とにかく一刻も早く家に帰って眠りたい…美幸ちゃんのことも少し気になったのだが、もう頭の中は睡魔でいっぱいになっていた。
136春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:25:05 ID:uomxVZO0


――
―――
――――
―――――

「ほら、美幸。早く家に帰るぞ」

「うん…わかってる…」

――なんで春樹先輩、私の名前を言ってくれなかったんだろう…私が嘘をついたから?
でも、それはお父さんが心配性で春樹先輩の怪我の理由を教えれば絶対に会うなって言われるから…。

それともやっぱり今日一日馴れ馴れしい行動が多かったのかも…。
悪い考えが次々に頭を過る。

確かに今日は私の取り乱す部分が多発してた気がする…。

春樹先輩になにか大きな壁を作られた感じがした。
私の思い過ごしならいいのだけど…。

「おい、なにしてるんだ?」

「えっ?なんでもないよ…早く帰ろ。」
お父さんの後を追いかけ、家に向かう。
家に明かりがついているのでお母さんがいるようだ。

春樹先輩にはまた明日の……今日の夜、寝る前にメールすればいい。
メールぐらいなら春樹先輩も返してくれるはず。

次からは嫌われないようにしっかりしよう…。
137春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:36:29 ID:uomxVZO0

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「…はぁ……むかつく――」
私部屋のベッドに顔を埋めて目を閉じる…考えるのは春兄の事ばかり…。
別に春兄に対してムカついてる訳ではない…あの美幸って言う子…なんで春兄があいつを家まで送らないといけないの?私は一人で帰ったのに……まぁ、家は隣だけど…。

「はぁ〜あぁ……なんで上手くいかないんだろ…」

枕から顔を離し、仰向けになると、部屋の中を軽く見渡す…。
見慣れた部屋…女子校生の部屋とは思えないほど落ち着いている…悪い言い方をすれば男臭い…。

ヌイグルミなんてひとつもないし、寝間着も可愛いげがないスウェット…。
春兄の前だけ頑張っているけど、こっちが本当の私。

「春兄…」
携帯をポケットから取り出し画面に写る春兄のを眺める。
何かあるといけないので待ち受けにはできないが、春兄の画面は恥ずかしながら何枚もある…すべて隠し撮りなのでまともに写ってる写真はひとつもないけど…。




「…ん?」
――画面に写る春兄を惚けながら見ていると、なにか違和感があることに気がついた。
138春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:37:10 ID:uomxVZO0

なんだろう…なにか重要な物が欠けている気がする…。

はじめは部屋の中のなにかがなくなっているのかと周りを見渡した…。別に違和感は無く、部屋の中が変わった様子はない。
次に服装を見る…別にいつもと一緒…寝間着のスウェットを着ているだけ…。

勘違いかと思いまたベッドにもたれ掛かる…。

何も考えず無意識に手を眺めていると、ふと、手に持っている携帯に意識を奪われた…。
こんなに軽かったっけ…?
そう思い携帯を軽く振るとあることに気がついた…。






――「あれ……私のストラップ……え…なんで……うそッ!?えっ、な、ないっ!!」
少し遅れて、ことの重大さに気がついた私はベッドから飛び起きて辺りを見渡した。
無い、無い、無い、無い…どこを探しても部屋の中にないのだ。

頭が真っ白になりベッドの布団をフローリングに放り投げる。

「なんで、なんで無いんだよっ!!?」
必死に探し回るほど空回りし、感情は焦るだけだった。

「落ち着け…落ち着け…ふぅ〜…たしか春兄の家にいた時にはまだあったはず…。春兄の部屋に入ったときは…どうだったんだろう…あぁ〜、わかんない!!」
ダメだ…冷静になんてなれない。
139春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:38:01 ID:uomxVZO0

でもなんで携帯につけてるストラップが無くなるんだろう?誰かが取るか…最悪、切れるしか思いつかない…

切れることは考えたくない…だとすると携帯から誰かが外した?

いや、あり得ない…私の携帯は常に私のポケットに入っているのだから…。

「あぁ〜、思い出せ、思い出せ!夏美、思い出せ!!」
食事を食べた後、一度時間を確認するために携帯をだした…その時は確かにあったはず…。
次に春兄の部屋……確かあの美幸って言う子と春兄で少し世間話をした時には…春兄の携帯についてあるストラップと私のストラップを交互に見てたから覚えている…その後家に帰ってきてお風呂に入って部屋で…。




「あぁあぁぁぁ〜!!!」
近所から苦情がくるほどの大声をだして、部屋から飛び出した。

思い出した…確か、春兄と私のストラップを交換しようと私の携帯についてあるストラップを外したんだった…。
その後、何度か交換を試みたのだけど、隙が無くて無理だった。

外すとしたその時以外あり得ない…多分まだ春兄の部屋にあるはずだ。

玄関を飛び出して、隣の春兄の家に向かう。まだ、秋姉さんが掃除をしているはずだ。
140春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:38:32 ID:uomxVZO0

春兄の部屋まで掃除はしないと思うけど、見つけたら預かってくれていると信じたい。

春兄の玄関の扉を強引に開けて、家にお邪魔する。リビングに秋音音さんの姿が見えたが何も言わず二階にある春兄の部屋に直行する。

「…はぁ、はぁ、はぁ…ッ!!」
部屋を開けた瞬間、部屋が掃除されてることに気がついた。

もう一度一階に降り、今度はリビングに入る。

「うるさいわね〜、バタバタと…あんた寝たんじゃないの?」
掃除を終えた秋姉さんがリビングでテレビを見ながらお茶を飲んでいた。

「はぁ、はぁ、あのさ!クマの…はぁ、ストラップ、はぁ、知らないッ!?」
呼吸がままならず、途切れ途切れにしか話せなかったがクマのストラップと言えばわかるはずだ。

「あぁ〜あれね。春の部屋に落ちてたけど夏美のなの?」
やっぱり秋姉さんが掃除をした時に拾ってくれたようだ…春兄にバレてたらと考えると寒気がしてきた。

「うん、私のなんだ…持ってるんでしょ?」

「えぇ、持ってるわよ?ほら。」

「ありがッ!?………え…?」
秋姉さんのポケットからストラップがゆっくりと出てくる……。




――何故か秋姉さんの携帯につけられて――
141春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:39:08 ID:uomxVZO0

「可愛いから後で春にお願いしようとおもってたんだけどね…。」
意味がわからない…なんで秋姉さんが私と春兄の繋がりを持ってるの?

「…返して」

「えっ?」

「返せよッ!それ私のだろ!!」

ストラップを取り返そうと、秋姉さんに駆け寄る。

「ちょっと!なにするの!!」

「私のなんだから早く携帯からはなせ!!なんで秋姉さんの携帯についてるんだよ!?元々は私と春兄のなんだぞっ!!!」

「春がなに?ちょ、返すから離しなさい!!危ないでしょッ!?」
私と春兄の繋がりを取られた――負の感情が私の頭を支配する…。よりにもよって秋姉さんだなんて…。


「痛ッ!!」
無理矢理、秋姉さんの手から携帯を取り上げると、携帯についてあるストラップを急いで外そうとする…が焦るばかりでまったく外れない…。

「なんでッ!、なんで外れないんだよっ!!!」
なにか違う力が働いてるのではないかと思うぐらいまったく外れなかった。
ただ単に私が混乱してるだけなのかも知れないが、今の私には秋姉さんと春兄を強く結んでいる気がしてならなかったのだ…。

「ちょっと、そんなに乱暴にしたら!」
秋姉さんの言葉を無視し乱暴に引っ張る…。
142春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:39:44 ID:uomxVZO0

「くっ!…このっ!ん〜………あッ!!」

ストラップについてあるビーズが勢いよく周りに飛び散った――何がおきたのか分からずその飛び散った数十個のビーズを目で追う。

フローリングをビーズがパチッパチッと音を経てて四方八方に散らばっていく…。

「だから言ったでしょ!…あぁ〜あ、早く拾わなきゃ。」

秋姉さんがビーズを拾うためにしゃがみこむと同時に私は自分の左手に目を向けた…。秋姉さんの携帯からストラップが無くなっている…。だとすると私の右手にあるはず…。

でも、なんでだろう…見るのが怖い…。右手がストラップを握ってるのも感触でわかるし、右手が尋常じゃないぐらい震えてるのも分かった。

「…」

恐る恐る右手に目を向ける。

「…あぁ…あ…」
震える手を広げると、そこにはヒモのないクマのストラップらしき物体が手の中に収まっていた…。

「らしき」と言うのは私が握りすぎてクマの原形が無いからだ。
ただ一つハッキリとしていること…


それは――私と春兄を結ぶ糸が切れた事――

「ちょ、ちょっと夏美ッ!?」
ストラップを放り投げ、リビングを飛び出して春兄の家を後にする。
平常心でこの場所にはいられなかった…。
143春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:40:28 ID:uomxVZO0

――なぜ私と春兄の繋ぐ糸はこうも簡単に切れてしまうのだろうか。私と春兄は一生涯寄り添えないってこと…?

「いや…やだ!嫌だイヤッ!!!」
おいていかれるのだけは絶対にイヤッ!

頭から悪い妄想を振り払う…。
また早くなにか探さなきゃ…春兄と私を繋ぐなにかを…おいていかれる前に…。






――「おまえ、なにしてんの?」

「……えっ?」
家の玄関先で震える足を抱え込んでいると、頭上から聞き覚えのある声で話しかけられた。

聞き覚えのあるどころか忘れたことなんて一度もない…。
間違いなく目の前に春兄がたっているのが分かった。

「どうした?どこか痛いのか?」
先程とは違い心配したように優しく話しかけてきた。嬉しいのだが、今は春兄の顔を直視できない…。

「な、なんでもないよ!ははっ、ほら…ピンピンしてるって!」
自分でも空回りしてるのがハッキリと分かった…。なるべく春兄を視界にいれず横を通り過ぎていく。

「本当か?まぁ、早く家に帰って寝ろよ?」
そう言うと春兄は私の元から離れて家に入っていった。
玄関の閉まる音を聞き、後ろを振り返る。


――この時、私は重大なミスを犯したことに気がつき、青ざめた…。
144春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:40:57 ID:uomxVZO0

無能なことに、ストラップを春兄の家のリビングに捨てたまま、家を飛び出して来てしまったのだ。

あの壊れたストラップを春兄が見れば、絶対に私を軽蔑するはずだ…。

本当は取りに戻らなければいけない…だけど、春兄に拒まれる恐怖で春兄本人がいる空間になんて死んでも行けなかった。

「……ッ!!」

――考え抜いた結果、私は春兄になにか言われる前に自宅に逃げ帰ってしまった…。
急いで部屋に戻り、電気を消して、ベッドに潜り込む…。


「どうしよう、いやっどうしようっ!…お願いします…お願いします…ごめんなさい…助けて…怖い…。」

布団の中で両手を合わせて願うこと…それは春兄がちぎれたストラップを視界にいれないこと…ただ、その一つだけ。

「ごめんなさ――春―兄――はるに―ぃ――ハ―ルにぃ――」


――ガタガタ震える私の体は、何時間たっても一向に収まる気配を見せなかった…。
145 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 15:43:50 ID:uomxVZO0
遅くなってすいませんでした、投下終了です。
146名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 17:03:01 ID:PlZRsWfm
GJ!
夏美さんは大変ですね
147名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 17:06:56 ID:mrgAInEm
美幸ちゃんが盗んだかとはやとちりww
美幸ちゃんはやっぱりええこやでぇ
148名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 21:15:13 ID:UOyyEFcM
前作の時も感じたんだけど、展開が強引というか大げさといとうか。
読んでる途中でフッと醒める瞬間があるんだけど俺だけな。
まあ結局最後まで読んじゃうんだけどねー。

登場人物ほぼ全員に依存ネタが入ってるから飽和してるとか?
149名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 21:30:23 ID:FkSQ7wy8
べつに俺は違和感は感じないが?
150 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 21:30:44 ID:uomxVZO0
なるべく早く終わらせるように書いてるんで詰め込みすぎたかもしれないですね。すいませんでした
151名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 23:22:03 ID:P7lWZYoh
>>148
まぁキャラの行動や考えやらが展開のための強引っぽさは感じるな。なんか無理やり感がある
物語的にもまだ美幸と出会ってたった2日しか経過してないんじゃなかったっけ?
でもなんだかんだ言いながら読んじゃうんだけどね
152 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/20(木) 23:46:28 ID:uomxVZO0
う〜ん…難しいですね…。
端から端まで書けば長くない?と言われるし、早く終わらせようとすれば強引に詰め込む形になるし…書くのが上手い人はそこを上手く書いてるんだろーけど…。

もう春春夏秋冬は方向転換できないので、ちょっと見る方は嫌気をさすかもしれないですが、もう一つの方はその辺気を付けて書きたいと思います。
153名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 00:33:38 ID:VBkKGigu
ていうかこの過疎スレで長いとか短いとか文句なんて言ってられないよ…
154名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 01:02:28 ID:wy4aEggN
最初の出だしの時点で長くなるってのは目に見えてた
進行は遅いしキャラが多すぎるし各キャラの視点で書いてりゃそりゃ長くもなる
むしろプロット組んだ時点で自分の作風、力量でどれくらい長くなるかくらいわかる話だろ
それを途中から無理矢理詰めて早く終わらせようとする時点で失敗は目に見えている
長くてもいいじゃん。丁寧に書いてりゃ長くなるが深みも出るし面白くなる
投下見てると別に長くは感じない。誰も急かしてないのに急ぐ必要はない
読んだ感じまだ起承転結の承の始まりくらいだろ。ならじっくりと丁寧に書いた方がいい
一レスの文章量もそんなに多くない。投下使用レスが多いから長く感じるだけじゃね?
慌てずゆっくり書けよ。無駄を無くしてシャープに書いて短く出来るタイプじゃないだろう
今更足掻いても仕方ないんだから開き直って書きたいようにやればいい

まぁあれだ、こんなんでよく二本同時に書こうなんて思ったもんだと呆れてはいるがな
155名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 01:28:14 ID:QzKCBk+a
>>154
長い
156名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 01:28:34 ID:4+/b+RBq
産業でok
157名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 01:38:48 ID:RCBQJLIh
面白いから長すぎって気はしないけどね
書き手の好きなように書いてくれれば…
158名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 01:41:34 ID:wy4aEggN
>>155
>>156
テヘッ、言われると思ったw
まあ気楽にやれってこった。一行で済むならそうしろってんだよな
159 ◆MkmoheL0Rc :2009/08/21(金) 01:51:40 ID:EXczNUmI
明日あたり盲月の続き投下しようと思いますが、投下間隔をどれくらいとれば良いのか分かりません。もしアレでしたら自重します
160名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 02:17:13 ID:Y5PbsWgM
問題ないだろ。
さすがに投下してすぐならまだしも、まる1日立ってれば文句は言われんだろう。
161名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 02:26:38 ID:EXczNUmI
ありがとうございます。明日心おきなく投下します
162名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 08:20:15 ID:vbBda+eC
>>159
楽しみにしてます。
>>154
そうですね…気長に書くことにします。
163 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/21(金) 21:02:50 ID:vbBda+eC

いつ頃投下するんだろう…
夢の国の続き、深夜に投下しても大丈夫なのかな?盲目の人が投下し終わった後に投下したほうがいいのか…。
164名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 21:12:35 ID:WmRdd795
まったほうがいいんじゃない?
165名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 22:15:11 ID:ajyRe7Fa
正直、投下予告って時間指定してくれなきゃ迷惑だと思うんだが
166 ◆MkmoheL0Rc :2009/08/21(金) 23:05:28 ID:op4St7LZ
ごめんなさい。のんびり推敲してました。これから気をつけます
投下します。
167盲月:2009/08/21(金) 23:08:56 ID:op4St7LZ
翌日。
太陽は既に高く昇っているが、僕は布団にくるまっていた。
「・・・どうしよう」
今たぶん12時過ぎだけど、起きようという気が微塵もしない。
朝起きるのは、苦手だ。
思い返せば、修学旅行などで早起きするのが本当に苦痛だった。
目覚まし時計3個くらい持っていったから、どうにか起きれた・・・んだっけ?違う気がする。
・・・そうだ、同じ班の詩音さんに起こしてもらったんだ。
『みーやーまー君!いい加減起きないとにゃあにゃあしますよ?』
とか言って。
彼女が口癖のように言っていた「にゃあにゃあ」という行為が、何を指すのかは未だに分からない。
ただ、語感からして明らかに脅迫には適さない。
むしろ萌えてしまう。
そんなことを考えていると、

「優歌くーん!お昼、一緒に食べませんか?」
表で声が聞こえた。
「んー・・・白峰さんかな?」
できれば放っておいてほしい。
そう思ったが、渋々ながら起き上がる。
すると。

「・・・うわ!?」
いつの間にか、見知らぬ女性が僕の部屋に立っていた。
身長がかなり高い。170は優に超えているだろう。
長く、綺麗な黒髪の間から、冷たい色をした瞳がこちらを見据えていた。
なんかこの人・・・白峰さんに似てるな。見た目は。
彼女の姉だろうか?
だが、あの気弱で優しそうな女の子の姉とは思えない程、冷酷な目をしている。
従って僕は確信を持てなかった。

168盲月:2009/08/21(金) 23:09:49 ID:op4St7LZ
・・・暫くして、というか遅まきながら、僕は寝起きを見知らぬ女性に見られたという事実に気づいて慌てる。
異性云々という以前に、人間として恥ずかしい。穴があったら入りたい。
だが、僕のそんな内心の葛藤とはまるで無関係に、そのひとは言葉を紡ぎ始める。
「こんにちは、深山くん。・・・いえ、君にとっては”おはようございます”かしらね?」
「あー・・・ごめんなさい、こんにちは」
とりあえず謝る。
「妹が待ってるから、来てもらえる?」
彼女は淡々と言葉を続ける。
「あー、はい。あれ・・・雪灯さんのお姉さん、ですか?」
「はい。白峰灯璃(あかり)と申します。妹共々、よろしくお願いします」
この情況から鑑みれば、よろしくお願いしないといけないのはこちらの方ではないかと思う。
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
そんなわけで、きちんと挨拶しておく。

「・・・あれ?」
ふと、彼女が疑問の声を上げた。
「はい、なんでしょう?」
何か粗相でもしたか。
と思ったが、寝起きの姿を晒すこと以上の無礼があろうか。
「ーーーもしかして、あなた、低血圧?」
「・・・そうですけど、それが何か」
「いえ。朝勃ちしていらっしゃらないものですから、不思議に思って。まあ、結構なことです」
「・・・・・・」
なにが結構なのだろう。僕が朝勃ちしないことか、それとも低血圧なことか。
思考する価値がまるで無い問題だったので、僕は放棄する。
「・・・まあ、とにかく着替えて。お昼のお食事、深山くんの為ということで妹が朝早くから頑張ってたの。・・・と言っ ても、ご存知のように妹は目が見えないから、私がサポートしたんだけど」
「えっと、それは光栄です。ありがたくご相伴させていただきます」
「そうしてくださると嬉しいわ」
彼女はそっけなく言うと、部屋から出ていった。

「・・・怖いひと」
着替えながら、ぼそっと呟く。
それからなんとなく、無愛想な彼女ーーー灯璃さんが、目の見えない妹を手助けしているところを想像しようと試みる・・・が、できなかった。
きっと妹の前でだけ、優しい姉なのだろう。いわゆる姉妹愛か。
うらやましい。
「優歌くん、はやくー!お弁当ー!」
雪灯ちゃんが僕を急かす声が聞こえる。
僕は少し雪灯ちゃんに嫉妬しながら、外に出た。

169盲月:2009/08/21(金) 23:10:54 ID:op4St7LZ
 そんなわけで白峰姉妹と僕は、海の見える野原で優雅に昼食をとることになった。
「えっと、じゃあ、いただきます」
ぼそっと僕が呟くと、雪灯ちゃんが「優歌くん、元気無いよ?」と真剣に心配してきた。
うん。そうだね。と苦笑いしてから、ふと疑問に思う。
雪灯ちゃんはどうやって食事をとるのだろう。
そう思っていると、向かいに座っている灯璃さんがおもむろに言った。
「じゃあ深山くん、折角だから雪灯に食べさせてあげて。ほら、雪灯は目が不自由でしょう?」

・・・は?
と思って雪灯ちゃんを見ると、若干頬を赤らめながら、可愛らしく小さな口を開けていた。
明らかに、待っている。
・・・僕が、その、いわゆるところの、「お口あーん」という行為をするのを。
できねえよ。
反射的にそう思ったが、灯璃さんがたたみかけてきた。
「どうしたの深山くん?雪灯の口に入れてあげるだけでいいのよ?・・・それとも、嫌なの?」
びくり。
雪灯ちゃんが肩を震わせた。
「あ・・・優歌くんが嫌だったら、その」
うわ、狡い。
僕は腹を括った。
「いやいや、やるよ?ちょっとおかずのチョイスで悩んでただけだから」
事務的にこなせばいい。ただの作業だ、と自分に言い聞かせる。
・・・そうだな。おかず→ごはん→おかず→ごはん、というローテに時々副采を交えていこう。
とりあえず、何かの魚料理に手をつける。
「・・・えっと、魚です」
「はい」
一応断りを入れてから、歯並びの綺麗な口に運ぶ。
箸がこつん、と歯に当たる感触がやけに生々しい。
「ん・・・ん、ん」
小さな口を懸命に動かして咀嚼する雪灯ちゃん。
何故だろう、ひどく官能的に見える。
・・・何かのフェチに目覚めてしまいそうだ。
僕は妄念を断ち切って訊ねる。
「おいしい、ですか」
「え・・・はい」
よく考えたら、このお弁当は彼女が作成したものだから僕が聞いても仕方ないのだが、彼女は律儀に答えてくれた。
「えっと、じゃあ、次はごはん・・・あ、おにぎりか。じゃあ自分で食べられr「あ、ごはんも、その・・・おねがいします」
「・・・・・・」
困惑して灯璃さんを見る。
彼女は僕を見て、にこりと笑った。
たぶん、今日初めて見る笑顔だった。

170盲月:2009/08/21(金) 23:12:04 ID:op4St7LZ
 その後も僕は、雪灯ちゃんの餌付け・・・いや全然違う、食事の補佐的な行為に夢中で、自分の食事はかなりおろそかになってしまった。
というか、食欲より性欲の方が盛んだった気がする。

それはともかく。
食後は白峰姉妹と雑談(雑談というか、僕が灯璃さんにいじられただけ)に耽る内に日が暮れ、島民の方々主催の歓迎会とやらがスタートしていた。
簡単な自己紹介をした後は皆、酒を飲んだりご馳走を頂いたりと好き勝手。
義父はああ見えて人の懐に潜り込むのが巧く、既に馴染んでいた。
僕はというと、未成年なので、酒は飲めないし、暇なので女性のスリーサイズを目測していた。
・・・義父の言っていたことは嘘ではなかったらしく、美人が多かったので、つい。
「こう見えて僕の目測の技術はなかなかの精度を誇るのですよ、灯璃さん」
灯璃さんは興味無さげだった。
「何が『こう見えて』なのかしらね・・・。じゃあ、私のスリーサイズを言い当ててみて」
「えーっと、84 59 87ってとこですかね」
暫しの沈黙。
「・・・すごい、本当に当たってる」
ふっ、見直したか!
と思ったが、彼女の表情を見る限りそんなことはなさそうだった。
続けて、隣でえへへと笑っている雪灯ちゃんのも当ててみせようかと思ったが、それはやめておく。



「さてと、本題に入りますが」
突然、灯璃さんが言った。
あの後も馬鹿な話を続け、雪灯ちゃんは笑い疲れたのか、僕の腰に手を回し、膝に頭を乗っけてーーーまるで僕にすがりつくかのように、すやすやと寝ていた。
一応僕より年上、という設定なのに。
さておき。
「ずいぶん長い前振りでしたね」
彼女はあっさりとスルーして話しだす。

「あなたはもう気づいているでしょうがーーー私たち姉妹は・・・否、私たち一族はこの島で忌まわれています」
「・・・え?」
僕は普通に驚いた。
確かに、なんとなく空気で感じ取ってはいたが、気のせいだろうと思っていた。
この穏やかな島で村八分というのは、まるで想像できないから。
「何故ですか」
「私の家は代々巫女をしているのですがーーー」
 
171盲月:2009/08/21(金) 23:13:18 ID:op4St7LZ
彼女の話をまとめると。
昔、彼女の一家は巫女ということで、人々から敬われていた。
だが、先代の巫女の頃。
巫女は男と関係を持ってはならないとされているにも関わらず、ある男と交際しているという噂が立つ。

人々に問い詰められた彼女は、恋人がいることを認め、また子を孕んでいることを告白する。
さらには、巫女なんて辞めて恋人と幸せに暮らす、と言いだす。
人々は失望し、あっさりと一族の権威は地に墜ちた。
あらゆる人々から罵倒を受けた。
家族でさえその例外ではなく。
ーーーだが、それも一時のこと。
すぐに、憎悪すら向けられなくなる。
完全な孤立。
だが、二人は特に悲しまなかった。
お互いが共に在れば、それで幸せだった。

やがて月日が経ち、子も二人、生まれていた。
そんなある日。
生まれて間もない下の子が、酷い風邪を引いた。
その日は凄まじい嵐が吹き荒れていたが、彼女の夫は医者の元に走った。
事情を話し、診てくれるように必死に頼む。
だが、医者は話すら聞かずに断ったという。
だからと言って諦めるわけにはいかず、助けを求めて彼は、必死に島中を駆け巡った。
そしてーーーどこからか飛んできた屋根瓦に頭を打たれて、あっけなく死んだ。

いつまで経っても戻らない彼を心配して、探しに行った彼女。
「それ」を見て発狂した。
止める間もなく医者を殺し、それから自分も夫の後を追う。
結果、あたりには三つの死体が転がることとなった。

風邪を引いていた幼子は病状が悪化していたが、さすがに人々が看病し、一命を取りとめる。
だが、失明していた。

「・・・その子が雪灯ちゃんで、姉が灯璃さんなんですね」
「そうです」
「そしてあなた方は嫌われている・・・というか、遠ざけられているわけですね」
「はい」
灯璃さんは肯定する。
表情には何も浮かんでいなかった。
「で・・・それは分かりましたが、僕にどうしろと言うんですか」
「いえ、別に。強いて言うならまあ、わたしたちはあまり親しい人がいないから仲良くしてくれて嬉しいし、これからもよろしく、ということ」
照れる様子もなく彼女は述べた。
格好良い。
「なるほど、わかりました」
道理で雪灯ちゃんがあんなに友達を欲しがっていたわけだ。
「ありがとう。・・・じゃあ、そろそろわたしたちは帰ります。ほら、雪灯、起きて」
「んー・・・にゃあ・・・やめて、にゃ」
唸っている。
・・・詩音さんの夢でも見ているのだろうか?
今度会ったら聞いておこう。
「ねぼけてるわ、この子。・・・もう16なのに」
溜息をつく灯璃さん。
「はは・・・あ、家まで送りますよ」
そう言って僕は雪灯ちゃんをだっこして立ちあがった。
172盲月:2009/08/21(金) 23:14:49 ID:op4St7LZ
帰り道。
時刻は夜半を少し過ぎている。
闇を溶かし込んだような夜空を切り裂くように、三日月がぎらりと光っていた。
心地良い夏の夜風を浴びながら、訊ねてみる。
「・・・突然ですけど、灯璃さんは月の中でどれが一番好きですか」
「満月ね」
即答だった。
「そうですか。僕は三日月が好きです。歪みが美しい。満月も美しいとは思うんですが、嫌いです」
「嫌い?どうして?」
「・・・なんか、満月って何かの目みたいだと思いませんか?」
「目ですって?」
そんなことを言う人は初めて見た、と言わんばかりに首を振る灯璃さん。
ちなみに雪灯ちゃんは僕にだっこされて爆睡している。
「いえ、まあ・・・何でもないです」 
「妙なことを言うのね・・・あ、そういえば雪灯は月について詳しいのよ。今度話を聞いてみたら」
「へえ、そうなんですか。・・・あれ、でも、失礼ですけど月の形とか分かるんですか?」
「それが不思議なことに、分かるのよ。何故でしょうね。夜、外に出ると『今夜は満月だね、灯璃お姉ちゃん』なん て言ったりするの」
「それはすごいですね・・・」
感心して、胸に抱いた少女を見やる。
相変わらずぐっすりと眠っている。
彼女はどんな夢を見ているのだろう、と、再び思った。
173 ◆MkmoheL0Rc :2009/08/21(金) 23:19:12 ID:op4St7LZ
投下終了です。
ごめんなさい。今回は色々と反省しています。
あとssで「ここをこうした方がいい」みたいなのがあったら教えてくださると嬉しいです。まだ駆け出しの初心者なので
174名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 23:27:10 ID:vbBda+eC
GJ!!俺も初心者だからあれだけど、普通に面白いと思います。
175名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 00:18:31 ID:ZStgBg9e
昨日も書いたけど話を詰め込みすぎ。
女と男の距離がいきなり近づいてるから、読み見逃しがあるのかと前の投下分をもう一度読んで確認してしまった。

まだ投下二回目なのに風情もへったくれもない。

まあ難しい設定かもしれんが頑張ってくれ。
176名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 00:25:12 ID:+8KtmQck
悪意がなくてもそういう批評は荒れる元だと思うんだ。
書き方を敬語にするだけで荒れる確立がだいぶ減るよ?


なんたって、私はこのスレに依存してるんだから♪
177名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 00:50:08 ID:jVEFgOcQ
>>175
ありがとうございます。
たしかに自分でもそう思います、はい。
もっと鍛錬を積もうと思います
178名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 01:08:13 ID:hGmebnXc
>>176
ならあなたも敬語を使いましょうよ…
179名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 01:17:18 ID:wsZJX22Y
SSを読めることが素直に楽しみ。GJ
180名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 19:16:32 ID:k5t3K0eb
>>173
面白かったよー
181名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 05:03:59 ID:3XTWCDI6
ここをこうしたほうがいいって意見ですね

投下した後に「色々と反省してます」ってのがそもそもおかしいですね
反省してるってのはどういう意味で何に対して反省してるのですか?
反省してるのに投下したのは何故ですか?
何か自分の作品のいたらない部分に気付いていながら投下したのですよね?
何故作り直さずに投下したのですか? 
あなたは作品に対する姿勢がまず間違ってると思います
半端な出来だと感じたり反省する内容な作品なら推敲して直してから投下するべきです

プロットをちゃんと作っていますか? または作り方を知っていますか?
物語の作り方を勉強したことはありますか?
作品に含まれるテーマ、読み手に伝えたいものはありますか?
自分で読み直して満足して納得したことはありますか?
自分が書いたものを本気で面白いと思ったことはありますか?

指摘、批評は言い出したらキリがないです。それを一つ一つ細かく言うことはしません
それよりもまずは作品、物語に対する姿勢から勉強することからお勧めします
182名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 05:55:20 ID:y6098G8T
とりあえず職人が寄り付きにくい空気にしてスレを廃らせたいという意図は理解した
183名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 06:30:50 ID:aEbEhUrG
夏になると批評家気取りが増える
184名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 07:47:04 ID:ytHxsjTs
>>181

まず、句読点をうつところから始めては如何かと。
他人の批評は、それからでも遅くないですよ。
185名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 10:19:47 ID:gF/nJ2LL
批評というか意見のつもりじゃね?
186名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 10:53:05 ID:8erFxz7R
>>173
GJ!
箸が歯に当たる感触が――のところが、実にナイスでした。
読んでて感触が伝わってきたw 想像して萌えちゃったんだぜ。
村八設定や盲目設定も好き。GJでした〜。
187名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 13:29:04 ID:9zkS5D9Q
まぁ、批評するのはかまわんと思う。
全員じゃないにせよ、それを参考にする職人さんも
いることだしね。

でも、職人に対する感謝がすこしでもあるなら、
けなすだけじゃなくってほめることもしたほうが
いいんじゃないかな。
188無題書いていたやつ:2009/08/23(日) 19:36:13 ID:EILy/Kdn
173GJ!
盲目大好きです。続き楽しみにしてます。

ところで「わたしの棲む部屋」に感動しすぎて何か書きたい気がドバトバです。
ここってリクエストみたいなのとってもいいんですか?良かったら何かネタください。
駄目でしたらスルーしてください。
189名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 20:02:23 ID:d8fmkdFY
えっとじゃあ、ヒロインは冷酷でドSの年上の女性で、主人公を奴隷扱いしている。
だが実は会社でいじめられていて、友達もいなくて、主人公に依存しまくり。
だがある日、主人公と喧嘩してしまい・・・。

というのはどうでしょうか。
細かすぎてすいません
190名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 22:23:47 ID:SNJNnfX3
主人公の後ろをヒヨコのようによちよちついてくる感じのヒロインで。
幼馴染でも妹でもなんでもいいや。大人しくて可愛いのがいいなー。
191名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 00:32:02 ID:Xc9nOGo2
>>188
前スレにあったこれ見たいなやつ

>541 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2009/06/28(日) 10:41:19 ID:cwS6Ke/o
>これが依存だ。
>以下コピペ

>38 :優しい名無しさん:2009/06/07(日) 01:49:07 ID:hwKwSUMk
>自分の価値は依存相手を通した価値でしか見ることが出来ない。
>相手が感じてる価値=自分の価値だから相手に必死になる
>嫌なことも何でもして尽くしていい子いい子と褒められることこそが喜び
>元カレのことはご主人様って呼んで慕ってた。
>今でも愛してる…。
>まず普段自分が着る洋服から髪型から1日の買い物や家事などの行動まで、相手にどうしたらいいか決めて頂いて、命令がないと行動出来ない生活してた。
>次第に彼なしで外に出ると不安で仕方なくなって、どんどん依存が深くなってく。
>そして相手のキャパシティを食いつぶす域まで達し喧嘩としがみつきの繰り返し。
>辛かった。
>相手がいなくなる、相手が自分を見てくれない、消えてしまう恐怖との闘いだった
>消えそうになるたび、心を切り裂かれる想いでどうかおそばにおいて下さいと懇願する日々。
>でもあの自分の全てを委ねた安心感、守られてる幸せもとてつもなく大きくて相手の為なら死んでもいいと思える。
>すれ違って、相手には結果としてとても酷いことを沢山したし、私もぼろぼろになったけど
>依存したい
>私の身を心も全てお仕えしたい…自らを賭して甘い依存の誘惑に溺れたい
>今はご主人様にどうしたらもう一度お仕えさせて頂けるか必死で考えてる
>まるで飼い主がなくなった犬
>主体性がない
>自分の価値は依存相手に認められた分だけの価値
192名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 00:36:22 ID:qfsAFfvL
これ惨事?
だったらすげえな
193名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 02:42:02 ID:kmWlgb1l
そこまでいくのはなんか精神的に問題がありそうだな
本人達が幸せで満足してればいいんだろうけどさ
194wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 04:24:52 ID:wdisNl5Z
ご無沙汰してます、流浪のwkzです。
前回だけじゃ「半分」だよなと、もう一回続きです。
杜守さんの方だって、やっぱり弱点くらいあるよね
ということで、今回も3分割(4/5/6)の予定。
ダメ女子+甘々依存属性。
ジャンル苦手な方も冗長な文章が合わない方も
トリップNG出来るように付けますのでよろしくお願いします。
では(4)投下ゆきます。
195wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 04:27:02 ID:wdisNl5Z
              わたしの棲む部屋(4)

「うっ。……はぁうっ……くぅん……」
 緩いシャワーにあたりながら、声をかみしめる。
 明かり取りの曇りガラスから白い光が浴室を照らしていて、
時刻はお昼。こんな時間にお風呂場でえっち臭い声を上げて
いるわたしは、目下、恩人杜守(ともり)さんの家に転がり
込んでいる家出中の引きこもり。ダメ女子の野村眞埜(のむ
らまの)。

 透明のお湯が弾けて流れる度に、身体の奥をヤスリでしご
かれるような強いスリルと快感が流れる。芯が熱くなって、
ぞわぞわして、勝手にドキドキして、期待しちゃうこの感覚
は最近おなじみになったもの。

 ついこの間まで、わたしは自分がこんなえっち臭い女子だ
とは思っていなかった。むしろ性的には淡泊な人間なのだと
いう自覚があった。
 わたしはダメ女子で、性格は暗くて、体型もセールスポイ
ントが無くて、顔だって目立たない出来に過ぎないので、当
然男の子に騒がれるようなこともなかったわけで。性的に淡
泊なこの身体を、わたしは便利だとさえ思っていた。

 しかしそれはとんだ誤解、と言うか無知ゆえの随分上から
の目線だったようだ。実際体験しちゃってから身にしみる自
分のえっちくささ。
196wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 04:33:58 ID:wdisNl5Z
 わたしの身体はわたしよりも遙かに正直者で、毎日二回く
らいは、わたし自身がなんにも……そのぅ、刺激を与えなく
ても、勝手に発情モードに入って、内部からじくじくと刺激
を期待するような、誘惑の囁き声を発するのだ。
 ――もっとも、それはわたし自身のせいかもしれないので、
一方的に身体の責任にするわけにも行かない。先日の……そ
の、杜守(ともり)さんとの一件を迎えるに当たって、わた
しは一週間にわたる発情訓練をやってしまった。

 思い出すと、顔から火が出てしまう。
 何であんな事をやってしまったんだろう。
 おまけにそれを杜守さんに告白するだなんて。変態だ。ま
さに変態の所行だ。

 つまり、ぎりぎり我慢自慰なのである。

 ううう。こんな事他人には絶対云えない。杜守さんからリ
クエストがあった「発情でめろめろ」を実現するために、わ
たしは一週間の間、毎日自慰をしてみた。
 それも、絶頂に達しないように、寸前で自分にお預けを食
わせる寸止め一人えっちなのだ。自慰の経験の薄いわたしは、
これで発情できて、少しは杜守さんにかまってもらえるかな、
なんて思っていた。

 そのもくろみは成功した。見事わたしの身体は発情(いや、
公正を期すならわたしの身体だけじゃなくて、気持ちの方だっ
てめろめろに発情しちゃったのだったけど)。

 大成功。
 成功したわけだけど、わたしは凹んでしまう。
197wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 04:39:20 ID:wdisNl5Z
 自分が性的に淡泊なのだ、なんて悠然と構えていたわたし
は、自慰がこんなに習慣性があるものだとは知らなかったの
だ。しかも、習慣という言葉の字義通り、やり方が固定され
てしまうようになるということで。もちろん、杜守さんと身
体を重ねた影響も大きいと思うのだけれど……。
 わたしは、自慰でいけなくなってしまった。
 いや、もしかしたらいけるのかも知れないが。……そのぅ、
自分でしていて、目の前に絶頂が迫ってくると、反射的に手
を離して脱力してしまうのだ。

 つまり、寸止めまで習慣化してしまったのだった。

 思い出して、背筋を強い飢餓が走り抜ける。
 ――布団の中、わたしはぬるぬると湿った性器を丁寧に触
る。自分の唾液を付けた指先で、ちょん、ちょんと軽く触れ
る。それだけで脚の指先が丸まるほどの快感。
 胸の先は、わざと乱暴に触れる。杜守さんのお下がりでも
らった、寝間着代わりのYシャツの布地が、ざらりとわたし
の乳首を舐め上げるのが心地よくて、もうすっかり癖になっ
ている。
 下腹部の突起を、下側から軽く持ち上げるようにしてみた
りすると、もう止まらなくなってゆく。歯が浮くほど甘くて
いやらしい感触が襲いかかる。
 二度、三度、それを繰り返しただけで、理性が蒸発して自
分がどろどろと発情していくのが判る。
 欲しい。欲しくて仕方ないのだ。
198wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 04:44:22 ID:wdisNl5Z
 甘くて切ないような寂しい気持ちと、何かにぎゅっとしが
みつきたい欲望に支配されながら、杜守さんの名前を繰り返
し囁く。声なんて出せないわたしは、脳裏で呟いているだけ
なんて思ってたけれど、習慣になっているこの口は、甘く感
じるほど唾液を分泌した舌で、途切れがちに大切な名前を呼
んでしまう。
 「してください」とか「いれてください」なんて言葉さえ
も。云えば頬が灼かれるほど恥ずかしいけれど、云った分だ
け感度が上がって、もらえるご褒美が大きくなることを知っ
てしまったわたしは、うわごとのように口走ってしまう。

 でも、あとひと擦り、敏感なクリトリスをぬるぬるになっ
た指先で甘く摘んで、きゅぅっと潰すだけできらめく天国に
突入できるという状況になると、わたしの両手はわたしの意
志とは関わりなく肩の高さに上がって、シーツをぎゅっと握
りしめてしまう。同時にふとももは誰にも見せられないほど
だらしなく開いて弛緩する。

 他の人のことは判らないけれど、わたしにとって絶頂は全
身の力がぎゅぅっと凝り固まって、そのあとものすごいスピ
ード感で身体からはじけ飛ぶイメージだ。そしてその後にけ
だるい甘い余韻が続くと言うのが基本形。
 だから、達する前に脱力してしまっては、イキたくてもイ
クことは出来ない。「イク寸前で刺激が絶たれる」という感
覚は説明しても多分判ってはもらえないだろうけれど、本当
に筆舌に尽くしがたい。

 あそこは、そのぅ、恥ずかしながら刺激を欲しがっている。
奥から奥からとろりとした粘液をこぼして、擦って欲しくて、
摘んで欲しくて、突き刺して欲しくて、じんじんと我が儘に
欲求を高ぶらせているのだ。
 願いがかなえられない場合は、入り口も、奥も甘ぁく疼い
て、わたし自身に「ここをちょっと刺激されたら、魂が蕩け
ちゃうほど気持ちいいですよ」なんてご丁寧に信号を送って
くれる。
 触りたくて擦りたくてたまらないのに、わたしの両腕はシ
ーツをぎゅっと握って動こうとはしない。
199wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 04:49:49 ID:wdisNl5Z
 「身体は正直」なんていうけれど、あれは「身体は凄腕の
強請り屋」という意味だと思う。欲しがってる刺激がもらえ
ない身体は、それこそあの手この手と手段を選ばずわたし自
身にいやらしい事を続行させようとする。
 そうやってわたしがわたし自身を生殺しにして、刺激が加
えられない場合、今度は実力行使だと云わんばかりに尿道が
じんわりと広がってゆく。漏らしてしまいそうな感覚にわた
しはパニックに陥る。なんとしてでも塞がなければ一大事に
なると警告が心を走る。

 ちろちろと内側を舐められるような幻の感覚。クリトリス
の根本が熱を持ってふくれあがり、このさい指でつまんだり
しなくても良いから。太ももに力をぎゅぅっと込めて、脚を
こすりあわせってみたら? なんて誘惑を仕掛けてくる。
 そう、それだけでイけてしまうほど、わたしのあそこは貪
欲になっちゃっている。でも、それなのに、わたしの「習慣」
は頑として聞き入れず、脱力を続けるのだ。おかしい。こん
なの、身体の生理に逆らっているはず。
 発情しきった性器を脱力させたまま、じわじわとした疼き
に耐えているのは、気が狂うほどに辛い。

 ――それなのにでも、同時に頭がおかしくなるほど気持ち
が良いのだ。

 わたしはかすれてしまった声で、杜守さんの名前を呟く。
できるだけ甘えるように、えっちな声で、懇願するように名
前を囁くのがコツだ。名前を呼ぶ度に、絶頂とは違う、けれ
ど同じくらい気持ちの良い波が心を充たす。
200wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 04:55:29 ID:wdisNl5Z
 杜守さんの「おねだり」を思い出して、その一つ一つに従
うと、心の底から屈服して、杜守さんの言いなりになるって
約束するのも良い。嘘をついている罪悪感が致死性の甘い毒
のように心に染みこんでいく。
 はしたないおねだりをするのも……杜守さんにはいえない
けれど、気持ちよい。これは絶対に内緒だ。

 そうやって囁き続けていると、身体は生殺しで切なく狂わ
されているのに、わたしの脳みそはどろどろのラズベリージャ
ムになってゆく。杜守さんの名前を告げる度に、その粘液状
になった脳みそに差し込まれた彼の指が、甘やかすようにか
き混ぜてくれる。さざ波のように走る幸福感と、お預けされ
る寂しさが混じり合って、わたしはいやらしい麻痺を止める
ことが出来なくなる。

 ――なんて。
 とてもではないが誰にも云えない性癖だ。

 そんな習慣を持ってしまった。ダメ女子から変態ダメ女子
に変化したわたし。ううう。変化じゃない、堕落だ。いや、
堕落ですらなくて、なんて云うんだろう……発病? とにか
く、身を持ち崩してしまった。
 生活も、情緒不安定気味なわたしの心も、最近ではえっち
な事が発覚してしまったこの身体も、全部杜守さんがいなきゃ
ダメになっている。

 そんな寸止め一人えっちを起き抜けにやっているから(し
かも、快感が引くのを見計らって二回も)。合計で30分近
く生殺し状態で、ゆるゆるに脱力した甘え声で杜守さんの名
を呼んでいたから。
 こうやってシャワーを浴びてるだけで感じやすくなった身
体が発情を始めてしまったりするのだ。多少恥を知りなさい。
わたし。
201wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 05:00:38 ID:wdisNl5Z
 今度ばかりは反省します。本当です。
 わたしはひんやりした浴室のタイルにおでこをぺたりとつ
ける。
 すいません。すいません。
 こんな事では杜守さんに合わせる顔がない。

 シャワーを終えたわたしは、髪を拭きながら台所へと戻る。
 杜守さんは仕事だから当たり前だけど、誰もいない。

 寂しいな、と思う。それは、ちょっと珍しい寂しさ。
 杜守さんと本当の意味で身体を重ねてから二週間。わたし
は、この寂しさを味わうようになっていた。
 肌寒いような物足りないような不安感。以前感じてたよう
な、むなしさや諦念の入り交じった空虚な寂しさとは違う、
もっと具体的で特別な寂しさ。

 多分、それは、杜守さんがいない寂しさ。
 わたしがいつも感じていた「ひとりぼっち」の寂しさでは
ないと思う。ずっと他人とふれあえなかった、この先誰とも
ふれあえないかもしれないという、漠然としているけれど、
わたしにとっては何より確信に満ちていた「未来の寂しさ」
ではない。

 だって、この特別な寂しさは、多分、杜守さん以外の誰が
ここにいてくれても、消えはしないから。

 あのえっちをしてから、わたしは少し変わったような気が
する。以前みたいに、ひとりぼっちの時に突然パニックに襲
われるようなことは減った。もし襲われても、身動きも出来
ないで、いきなりしゃがみ込んで動けなくなるほどの症状は
なくなった。
 ひとりでロフトによじ登り、布団の中で丸くなる程度の余
裕はあるようになった。
202wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 05:06:31 ID:wdisNl5Z
 いまでも、未来は怖い。
 わたしはまだ17で、どうなるか判らない真っ暗な海は50年
分続いている。その最中、わたしがどうなるか、わたしには
さっぱり判らない。幸福な、安楽な、もしくは穏やかな旅が
待っているとは、到底思えない。学校をやめて家出娘になっ
てしまったわたしは、いわゆる「社会のレール」を踏み外し
てしまったのだ。
 もちろん、そんなレールなんか無視をして、道無き道を進
んで、その冒険の旅が面白いと云えるひともこの世の中には
存在する。もしくは、そんなレールを踏み外したひと同士が
身を寄せ合って、社会のルールと外れた自分たちのルールで、
多少グレーゾーンではあっても独自の仲間を見つけて過ごし
ているのも見てきた。

 けれど、わたしは前者を選ぶには勇気がなさ過ぎて、後者
を選ぶのには社交性がなさ過ぎる。
 大人たちの言うような「未来の不安」なんかではないと思
う。もっと手触りがあって、はっきりとしたもの。わたしが
10人の中に立っていったら、どんな人の視線もわたしの上に
は止まらないだろうという確信。わたしは多分わたしの一生
で、何も価値あるものをつかめないだろうという静かな諦念。
 わたしには、どうにも居場所がないような気がしているの
だ。――自分の場所を持たない50年。そんなのは想像するま
でもなく、地獄でしかない。

 その地獄は、怖い。
 怖くて、泣きそうになる。
 でもその怖さと、杜守さんの居ない寂しさは別なのだ。

 寂しい。ただ寂しい。逢いたいし、話したいし、触れたい
し、役に立ちたい。甘やかして欲しい。意地悪なことを云わ
れても良い。あんまりかまってくれなくても我慢する。たと
えば一緒の部屋にいることを許可してくれるのならば、一日
中だってじっと良い子にしていられる。
203wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 05:13:47 ID:wdisNl5Z
 「自分の居る場所を持たない50年」が目の前に現れたら、
そいつはわたしを殺してしまうと思う。この敵は強大で、わ
たしは抵抗の叫び声を上げるまでもなく一瞬で八つ裂きにさ
れ、しかもそのあと蘇生され、殺され、蘇らされて、きざま
れる……それを50年繰り返す羽目になるだろう。その恐怖は
骨を凍らせるほどだ。
 でも「杜守さんに見捨てられた50年」が目の前に現れたら、
そいつが何もしてこなくても、わたしは生きていられない。
生きていたくないのだ。そいつが現れただけで、わたしは、
全てを手放してしまうと判ってしまう。

 好き、なのだと思う。
 云える資格はないけれど。

 杜守さんは、出来る男だからなぁ。……肩を落とすわたし。
 冷蔵庫を開けてみると、アサリのオムレツとジャバイモの
冷製スープ。なんで朝7時に出かける男性が、引きこもり同
居人(性別、一応女)の昼食を用意してゆけるのだろう。
 ほとほと自己嫌悪してしまう。

 これでも、少しだけ料理が好きになった。先週も練習をし
て、青椒牛肉絲なんかを杜守さんに食べてもらった。好評だ
ったので、本当にほっとした。やっぱり、練習は大事だ。
 練習でうまくなれることがあるってなんてすごいんだろう。
だって世の中には、生まれつきとか、才能で決まっちゃうこ
とが多すぎると思う。

 女の子にとって「生まれつき」という現実は、分厚い壁と
して早い時期から看取される。具体的にいうとそれは容姿だ。
女の子は、自分の容姿から逃げることは出来ないし、幼い時
期からそれとつきあう方法を学ぶ。
 可愛い女の子は子供の時から周囲にかわいがられる。愛情
をたっぷりもらって、優しい性格に育つ。あんまり可愛くな
い娘は、タフに育たざるを得ないし、わたしみたいに地味な
娘は注目されないことに慣れる。
204wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 05:19:46 ID:wdisNl5Z
 もちろん、学んだからと言って、仲良くつきあっていける
娘ばかりじゃない。美人で傲慢になってしまう子もいるし、
不細工で攻撃的になってしまう娘もいる。でも、うまく学ぶ
にしろ、学べないにしろ、大半の女子にとって「現実」とい
う言葉の最初の意味は「自分の容姿」という事実なのだ。

 シたいな……。

 なんて考えて、わたしの顔が瞬間的に茹で上がるのが判る。
 ごめんなさい、すいません、身の程知らずで申し訳ありま
せん。なんて誰もいないキッチンで手を振って誰とも知れな
い誰かに謝罪してみる。いや、その。言い訳させてもらいま
す。違うのだ。さすがのわたしがいくら変態系ダメ少女に堕
落したと云っても、この上さすがにさらに一人えっちなんて
話じゃなくて。

 杜守さんと。
 杜守さんとくっつきたい。

 それは心がさらわれて、空の中に舞い上がるような誘惑。
杜守さんに強制されて癖を付けられた、甘い言葉を唇でなぞ
るだけで、じわりと痺れるような遠い幸福感が、わたしの細っ
こい起伏に乏しい身体を包む。
 杜守さんとくっつきたいな。抱きしめて、唇を重ねたい。
ううん、手で撫でるだけでも良い。言葉を書けてもらったり
したら、嬉しくてしっぽが千切れるくらい振ってしまう。そ
うでなければ、見ているだけでも良い。一つの部屋の中にい
て、杜守さんの背中を見ているだけで、わたしは杜守さんが
想像もつかないほど嬉しい気持ちになれてしまうのだ。

 頭を二三回振る。杜守さんは仕事中なのだ。わたしだけが
こんな淫らでふしだら……というか脳天気というか、つ、つ
まり妄想に浸っているのは申し訳ない。
205無題書いていたやつ:2009/08/24(月) 05:20:02 ID:6h3omFMg
リアルタイム!支援!
206wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 05:26:53 ID:wdisNl5Z
 わたしはテーブルに出した一人分の昼食の前に座って、い
ただきますなんて呟く。
 我ながら冴えない声。声くらい可愛く生まれつきたかった。
 でも、アサリのオムレツとジャバイモの冷静スープ、加え
て食パンは美味しかった。どこがどう、とはいえないけれど
「杜守さんっ!」っていう味。単純なのに、見切れていると
いうか。無駄のないシャープな味だ。……こういうのもセン
スというのだろうか。

 もっとも料理ではあんまり落ち込まないで済むようになった。

 やってみて判った。料理は、場数。
 わたしは要領が悪い。それは事実だから、仕方ない。
 けれど、料理は場数でちゃんと上手になる。別にプロの料
理人になる訳じゃないし、杜守さんに「おかえりなさい」と
いう感じの料理が作れる腕があればそれで良い。だったら、
それは無限に遠い、手の届かないブドウじゃなくて、ちょっ
と手を伸ばせば、手が届くブドウ。

 やってみると、楽しいし。
 ちゃんと練習したのは、回鍋肉と、青椒牛肉絲しかない。
次は、何にしよう。わたしはロフトに戻って、中古のノート
パソコン(お下がり)をキッチンのテーブルに持ってくる。
無線LANがあるから、うちの中ならどこでもネットが出来
るのだ。
207wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 05:32:39 ID:wdisNl5Z
 次に練習する料理は、和食が良い。
 杜守さんはどんな料理でも(かなり猛烈な勢いで)食べる
けれど、和食が好きだって云っていた。和食はなんだか「作
っている感じ」が薄くて(焼き魚とか、冷や奴とか)避けて
いた。でも中華ばかりじゃ身体に悪そうだし、やってみるの
も悪くないかもしれない。

 やはり煮物かな。
 なんて考える。あるアンケートによれば、男性が望む手料
理の一位が肉じゃがだそうだ。肉じゃがなんて中学の実習で
作ったから作れる、なんて今のわたしは思わない。
 実習の一回切りの場数じゃ、どれほどの経験も積めはしな
い。細かいチェックポイントを洗い出し、一つずつ解決して
いく。それが上達。

 肉じゃがの場合、きっとジャガイモの切るサイズと煮る時
間と火加減に関係があるんだろうな。煮崩れちゃうもんな、
なんてレシピのサイトを見ながら考える。切るサイズやジャ
ガイモの季節による堅さ、煮る時間や火加減まで表記してあ
るサイトは見あたらない。たぶん、それは「場数」で身につ
けるべき事なのだろう。

 やっぱり肉じゃがかな。
 じゃなければ、筑前煮も良いな。

 午後は試作を一回作ろう。食べきれる分量で。上手に出来
たら、杜守さんに夕食もつくってあげたい。わたしは立ち上
がって食器を流しに下げると、ダメ女子ではあるなりに気合
いを入れたのだった。
208wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 05:39:32 ID:wdisNl5Z
「えと……すみませんです」
「ほいほい?」
 食後のこの時間。
 わたしは寝間着を着て、杜守さんの部屋のドアをノックし
た。手には、冷凍庫に入っていたカップのアイスをもってい
る。ちなみにこのカップのアイス、杜守さんの買い置きだ。
奇妙な部分で子供らしい人なのだ。

「マッサージの差し入れですっ」
 わたしはなるべく明るくちょこん、と敬礼のポーズを取る。
相変わらず杜守さんの前に出ると、なかなか顔を上げられな
い挙動不審な態度なのだけど。こうやっておどけた態度を取っ
ていれば、杜守さんも戸惑わないで済むわけで。
 ほら、色っぽい風情で夜の寝室を訊ねるなんて、それは美
女のやることだという気もするし。心配そうなそれで居て熱っ
ぽい眼差しなんて美少女の専売特許だ。
 わたしは、こうやっておどけているくらいしか出来ない。
神様、出来れば、裏返りそうな声くらいはどうにかしてくだ
さい。

 杜守さんは、さんきゅーなんて気軽に言って、ベッドに腰
を掛ける。わたしはその杜守さんにアイスを渡して、いそい
そと背後に回る。
209wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 05:47:18 ID:wdisNl5Z
「美味いなーアイス」
「ゆ、ゆびを」
「?」
「パソコンで、指、疲れて……しま、す」
 緊張で美味く回らない言葉をせき立てて、それだけを絞り
出す。これは建前というか言い訳。自覚症状はあるのです。
 ほんとうは、マッサージとか云って、杜守さんの身体に触
れていたいだけなのです。甘えたがりのダメ女子なのです。
いや、思うに、これはべたべた触りたいという世間で言うと
ころの痴女なのではなかろうか。ううう、変態だ。正真正銘
の変態だ。

 でも、ここまできたら、引くわけにはいかない。
 引くつもりもない。胸の真ん中が風に吹かれた水面のよう
に波立って、ざわざわして、杜守さんから感じる強い引力に
落下しそうなのだ。幸い肩をもむなんていうことだけ上手っ
て云われるし。別に肩もみが上手いくらいで、何かになれる
なんて思わないけれど、それでも杜守さんの近くにいられる
であれば、どんな薄っぺらな言い訳だって使ってしまいたい。

 ほら。こうして触れているだけで、他愛なく気持ちが浮き
立ってきてしまう。杜守さんの指は長い。骨っぽくて、ごつ
ごつしているけれど、器用そうでわたしは大好きだ。

 指と指の股の部分は特に念入りにぎゅむぎゅむとする。ア
イスを食べ終わった杜守さんは「むぅ〜」なんていいながら、
ゆっくりと目をつむる。そうしていると、余計に大型ほ乳類っ
ぽい。温泉に入ってる熊という所だろうか。
210wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 05:52:33 ID:wdisNl5Z
「……眞埜さん、眞埜さん」
「はい?」
「上手〜」
 笑いかけてくれる杜守さん。この人は、微笑むと、突然子
供っぽくなる時がある。ベッドでリラックスしている時なん
て特にだ。もちろんそうでない微笑みもあるんだけれど、そ
の二種類をどう使い分けているかは、わたしには、良く判ら
ない。

 でも、こっちの「子供っぽいにこっ」を向けられたわたし
の身体は、飼い主に呼ばれた犬のように自動的にお尻の位置
をずらして、ほんのちょっぴり杜守さんに寄り添う。
 駅前で配っているポケットティッシュと同じくらいの面積
だけ、杜守さんの脇腹に、わたしの腰の横がくっつく。体温
も伝わらないようなわずかな領地。まるでそれは文庫本を立
てかけただけのようなわずかな感触。

 その取るに足りない、本当にどうでも良いような暖かさの
せいで、わたしの気持ちの中は春の日差しのように浮き立つ。
ベッドに座って、杜守さんにくっついて触れているのは幸せ
だ。杜守さんは「俺ももう歳だしね−」なんてにっこり笑っ
てくれて、マッサージされると幸せーなんて云ってくれてい
るけれど、そんなの全然とんでもない。
 杜守さんの腕の健の固くなっているところを揉みほぐして
いるわたしだけど、作業をしているとか、労働をしていると
いうような実感はまるでなくて。貴重で大事なものを貸して
貰って、遊んでて良いよ、なんて云われたような嬉しさです
よ。触っているだけで幸せな気分になる。嬉しくて飛び上が
りそうなのは、こちらなのです。杜守さん。
211wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 05:58:30 ID:wdisNl5Z

「杜守さんは……その、お仕事お疲れ様です」
 指を触っているうちに、何とかそんな台詞をひねり出す。
でも云った途端に軽くへこむ。なんて芸のない台詞なんだろ
う。世間話にしたってもうちょっと気の利いたことが云えな
いのだろうか。冴えないわたしだ。

「いえいえ、最近は眞埜さんも料理なんかしてくれちゃった
りして。張り合い出ますよ」
 そんなことない。まだ「作れる」なんて云う料理は5皿に
満たない。料理は場数を踏めば上手になれるのは判ったけれ
ど、それは膨大な量の研鑽が必要だということでもある。要
領の悪いわたしは、何時になったら「料理できます」なんて
云えるようになるのか、見当がつかない。

 杜守さんはどうなんだろう。
 杜守さんは、少なくともわたしからは何でも器用にそつな
くこなすように見える。あまりにも飄々としているせいで、
生まれたときから何でも出来る様にさえ見えるほどだ。

「杜守さんは、なんで、そんなに何でも出来ますか?」
「ん〜。年寄りだから?」
「……」
 そんなこと云われても途方に暮れてしまう。わたしは返す
言葉も見つからないので、仕方なく、杜守さんの太い腕をぎゅ
むぎゅむとする。だんだん血行が良くなってきて、杜守さん
の腕が暖かくなってくる。自分のそれとは全く違う肌の感じ
は、意識してしまうと急に恥ずかしくなってきてしまうけれ
ど、わたしは俯いたまま、あぅあぅなどと呟いてやり過ごす。
へ、変態は抑制しなければいけない。
212wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 06:03:39 ID:wdisNl5Z
「眞埜さんは生真面目だなぁ」
 ごろんと寝返りを打つ杜守さん。あいている腕もこちらに
投げ出して、リラックスの体勢だ。
「……要するに、手の早さだよ。作業が早ければ、同じ時間
で多くの場数をこなせる。あとは年齢が作業速度を経験値に
変換してくれるよ」
「作業速度ですか……」
 あんまり嬉しくない結論。いろいろダメな女子であるわた
しなのだが、作業速度の遅さには自信がある。得意なことが
ないわたしの苦手ジャンルベスト3入りだ。作業速度って集
中力ですよね、なんて聞いてみると、あっさり「うん」と答
えられてしまう。集中力。それは堂々のベスト1。もちろん
苦手分野のだ。
 どんよりと暗雲を頭の上に載っけているわたしに、杜守さ
んは軽く笑いながら続ける。

「集中力ってさ。眞埜さん。なんか筋力とか、直感力みたい
に、何らかの能力があって、それが高いとか低いみたいに考
えてるでしょう?」
「違うのですか?」
「集中力ってのは、要するに要領を時間方向に使ったものだ
よ。……それは何らかの能力じゃなくて、捨てるって事」
「……?」
 杜守さんの話は、時に良く判らなくなる。すいません。頭
の良くない女子なのです。

「例えば、クライアントと交渉しているときは、書類仕事の
能力とか、来週の会議の対策とか、後でクリーニング屋に行
かなきゃとか、必要ないでしょ? 必要のない『部分』を、
自分から外しておくってのが、集中力だよ」
「そんなこと、出来るのですか?」
「そこら辺が要領だね」
213wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 06:09:26 ID:wdisNl5Z
 ――自分で出来るとは思わないけれど、その説明はなんだ
かわたしにはとても良く判るように思えた。「集中力に欠け
る」なんて云うけれど、それって別に何が足りない訳じゃな
くて、頭の中で余計なことを沢山考えちゃってるのだ。
 わたしは……杜守さんにはあんなことを言わされてしまっ
たけれど、やっぱり様々なことに自信が持てない。えっちの
時のああいう言葉は嬉しい。とても幸せ。けれど、あれはや
はり睦言なのだと思う。せめてお世辞ではなく、睦言であっ
て欲しいと希うのは、多分わたしの我が儘でしかないけれど。
 わたしの頭の中には、こびりついたように自信のない考え
が住みついてしまっているし、そうでなくても効率も要領も
悪い。
 いつも何かを失敗をしてしまうのじゃないかと考えていて、
料理を作っている時でさえ、材料を切っていては煮ている時
の失敗を考えたり、材料を煮ている時にはお皿の用意であた
ふたしてみたり、そもそも料理をしている最中に杜守さんに
事を考えたり、自分の未来のことを考えてくよくよしてみた
りと、おそらく「必要のない部分」が多すぎるのだろう。

 わたしには人間として無駄な部分が多い。

 その話は、多分そう言う意味で。
 わたしはそれに妙に納得してしまい、そしてすごく悲しく
なってしまった。だって、それはわたしが言葉には出来なか
ったけれど、漠然と思ってきたことだったのだ。ああ、こう
やってめそめそしているのも、きっと本当は無駄なんだろう
な、なんて。
 そんなこと、ダメ女子としては最初から、何とはなーく、
判っていたのです。判っていたけど、やっぱりへこむのです。

「最速ってのは、最軽量ってこと。余計なプログラムがイン
ストールされてなければ、人間はびっくりするほど早くなれ
るよ。それが常に正しいとは限らないけどね」
「……はい」
 頷くけど、少し引っかかった。
214wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 06:14:51 ID:wdisNl5Z

「いいんだよ」
「?」
「眞埜さんは、それで良いのだ。何が無駄なんて時間を掛け
なきゃ判らない。時間を掛けたって判らないって云うことも、
時間を掛けなきゃ判らない。だから眞埜さんは、それで良い
んだよ」
 杜守さんの伸ばした指先が、わたしのおでこに触れる。

 いつも俯いて視線を上げることも出来なかったわたし。だ
から、ベッドに横になった杜守さんは、寝転がったままでわ
たしの顔を直接覗きこめてしまう。優しい笑み。「判ってる
から安心しておけ−」なんて云う微笑み。
 それは子供っぽい杜守さんの笑いとは別の、もう一つの微
笑み。その眼差しは優しくて力強くて、安心するのだけれど、
わたしはなんだかとっても申し訳ないような悲しいような気
持ちになってしまう。

 何が「それで良い」のか、わたしには判らないのです。判
らないのに、それで良いなんて、それはただの慰めなのでは
ないのですか?

 蛍光灯の明かりから影になったわたしの、きっと微笑むと
も不安がるとも云えない、微妙で意味のわからない表情をし
たわたしの、その前髪を杜守さんは掻き上げてくれる。

 その夜は、わたしは杜守さんのベッドの端っこを借りて眠っ
た。暖かい布団と杜守さんの鼓動に包まれて。幸せで、嬉し
くて、優しい眠りだったけれど、わたしの中に杜守さんの微
笑みに感じた違和感が引っかかっていた。

 それでは、杜守さんと一つの褥を共にしても、消せない寂
しさはあるんだ。……そんなことを知るのにも、わたしには
まだ時間が必要だった。

215wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/24(月) 06:15:52 ID:wdisNl5Z
以上、部屋(4)投下終了。
お粗末様でしたっ。
216名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 06:37:03 ID:DH/I/gbY
一番槍かな?
GJ!まさか続きが読めるとは思いませんでした。
相変わらず眞埜さん可愛いなあ畜生
217名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 07:05:07 ID:LZFIwqTk
>>197
GJ
218名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 08:42:19 ID:29efubNX
かわいいなあ!
GJ!
219名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 09:39:43 ID:kHYRr81N
GGGGGGGGJJJJJJJ
220名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 12:31:55 ID:MStrVnIN
「それで良いのだ」
この台詞を見た瞬間、杜守さんばかぼんのぱぱなのだ〜に脳内妄想顔が一瞬変わった
い、一瞬だけなんだからねっ!
221名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 13:05:49 ID:F3GuWrIO
ダメ人間を依存させる側の人間には包容力と器量が必要だということがよくわかった
つうかGJとしか言いようがない!
222名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 15:22:20 ID:+otrBZsX
>>215
書き方は上手いけど遠回しな文章が目立つ。
それに本来の文の意味があまり伝わってこない。
223名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 16:18:01 ID:kmWlgb1l
遠回しで曖昧な文章だから想像の余地があっていいんじゃないか
224名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 16:21:28 ID:bvgkJcq7
>>222
>>194を読んだら作者本人は分かってて好んでやってるってわかるから
好みじゃなきゃ避ければいいってレベルだと思うよ

それよりジャバイモは方言なのかが気になるよGJ
225名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 16:23:50 ID:kHYRr81N
>>222
SS評論家さん今日も乙ですww
226名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 22:13:44 ID:29efubNX
>>222
ええと、とりあえずこのスレは作品に意見や批判をする場では無いので、
あえて作者が求めてきてるわけでもない時にそういう意見的な書き込みは必要ないです

逆にスレの空気が悪くなる場合が多いので、もう作品・作者に対する意見みたいなことは書き込みしないでくださいね
もちろん感想なら書き込み自由ですけど、わざわざ「面白くない」とか言う必要も無いです
つまらなかったらスルーかNGで

意見・批判がしたいなら、そういうスレがありますからそちらでどうぞ
何事もその場にあった行動を、ということですね
227名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 23:31:34 ID:qq18wmdu
勝手に決めつけんなボケ
てめえみたいな自治厨面した信者が荒れる元なんだよ
228名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 23:45:21 ID:FeMat55j
ボケとか書くから荒れるんでしょ、荒らす張本人になってどうするの
スルーしなよ
229名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 23:56:36 ID:tdcB8E4K
なんていうか、作者さんは無料でみんなに作品提供してるわけだけどなんでタダで見てる君たちがそんな偉そうなの?w書いてもらっているってスタンスのほうが自然だと思うんだけどねえ。
230名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 23:58:53 ID:W354fXaf
言っても無駄無駄
荒らしは自覚ないんだから
231名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 00:26:44 ID:KqZynglg
まあこんな言い争いに負けずに作者さんがんばれ
232名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 00:58:06 ID:SqVGDxjC
ボケがボクに見えてあせったw
233名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 01:29:18 ID:rhxwD+8W
>>228
すまん、あまりにも頭にきたもんだからつい書き込んでしまった。
>>229
より良い作品を書いてもらうために意見するのは当たり前のことだろ。
好みのシチュやネタだったり文体についてだったり、>>222の書き込みに関しては大方>>224の言う通りだと思うが誰も偉そうになんてしてないよ。
乞食とマンセーレスしかしない輩の方がよっぽど質が悪い。というかそれを装った荒らしまでいるしさ。
234名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 02:03:40 ID:eWgw8Yvg
>>226が言ってくれてるけど
「意見・批判がしたいなら、そういうスレがありますからそちらでどうぞ 」

>>233は荒れる元を自分が作ってるとまず自覚しろ
235名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 02:28:24 ID:/JZNEIqC
「こうした方がいいんじゃないか?」とか「ああしない方がいいんじゃないか?」とか
作者や読者やらがいい物を目指して話し合うのはエロパロ板では普通のことだと思ってたけど違うのか
236名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 02:57:22 ID:ENxu2uVy
何事も中庸が肝心
237名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 05:00:24 ID:3orUu3/9
>>235
もし本当にそれが普通だったら
作品投下されるたびに討論起こって荒れまくってるだろうよ

数年前まで活気づいていた嫉妬修羅場総合スレがいい例じゃないか

作品投下するたびに作品に対する討論が起こる→作者が投下しづらい雰囲気が多くなる
→そのうち神聖様の登場でさらに荒れる→作者他関連板へ移住→スレが寂れる

って感じであの名スレが今じゃ目も当てられない状態になってしまった。

ちゃんと言葉を選んで書き込むなら問題ないが
揚げ足とるだけのレスやら、不快になるようなレスが続くと
この依存スレも同じ目にあうと思うよ
238名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 06:35:07 ID:Yx5TZhbN
要するに皆、スレに依存してる、と。
239wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 15:18:04 ID:5VKgrtZv
wkzです。応援してくれた方に感謝を。
ダメ女子+甘々依存属性。 今回は中盤でエロないです。
ごめんなさい。ジャンル苦手な方も冗長な文章が合わない方も
トリップNG出来るように付けますのでよろしくお願いします。
では(5)投下ゆきます。
240wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 15:23:09 ID:5VKgrtZv
              わたしの棲む部屋(5)

 手で触れそうなほどとろりとした藤色の光がフローリングの
床を浸していた。夜明け前、それも夏の朝の夜明け前だけに見
られる、湖の水面のような朝の光。
 まだ蝉の鳴き始める前、夜明けの空気の中を、夏の日の予告
編が遠く響いている。壁に掛かったデジタルの時計はまだ4時
でしかない。暖かい布団に首まで入って、うっすらと目を開け
る。まるでお風呂に入って居るみたいに、お尻のそこから背筋
を、ひたひたと幸せがぬくもりを持って覆ってくる。

 頬の下には、わたしのそれよりもずっと太い腕。自然に頬が
緩んでしまう。少しだけ身じろぎ。背中に杜守(ともり)さん
のぬくもりを感じて、甘えるように身体をすり寄せて、居心地
の良い体勢を作り出す。
 あんまり体重を掛けちゃわないように、杜守さんの腕を頬の
下に感じて、思わずもらす吐息のような笑みをこぼしながら頬
ずりをする。杜守さんだ〜。なんて脳内ではリフレイン。寝起
きのIQが下がった脳みそは、たやすく幸せに蕩けてしまう。
 だって、杜守さんのベッドにお邪魔するなんて、週に一回も
ないイベントなのだ。わたしがこんなに嬉しくなっても仕方な
い。

 なんて考えているわたし杜守さんの腕枕じゃない方が触れる。
 髪の間に杜守さんの長い指先が探るように潜って、そのまま
手櫛のように流れてゆく。わたしは突然の感触に、思わず自分
を抱え込むように緊張してしまう。だって、それはあんまりに
も親密で甘やかな感触。不意打ちで受けるには、色っぽすぎる
気持ちよさだったのだ。

「おはよ、眞埜(まの)さん。早いね」
 パニックになりかけて凍り付きそうなわたしの後頭部から、
杜守さんは低い声で声を掛けてくれる。
241wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 15:30:08 ID:5VKgrtZv
 夜が明けきる前の杜守さんのベッドの中。わたしは杜守さん
が起きているなんて全然思ってなかったので、慌ててしまって
口の中でごにょごにょと返事をするしか出来ない。恥ずかしい
〜。頬が染まる。杜守さんが寝ていると思って、子供みたいに
甘えてしまった。ううう、格好悪い。わたしはごまかすために、
じりじりとベッドの端っこの方に逃げてゆく。
 でも、杜守さんはそんなわたしの腰をぐいっと抱き寄せちゃっ
たりして。杜守さんの腕の中にすっぽりと抱え込まれてしまう。

「逃げよーとした」
「してない、してません……」
「ほんと?」
 わたしは、上手に答えることも出来ずに、こくこくと頷く。
杜守さんの体温はわたしよりわずかに高くて、抱え込まれると、
いつもよりテンポの上がったわたしの心臓の音さえも、その熱
に煽られているのが判る。全身を巡る血流は、なんだかわたし
を、焦るような、怖いような、でもちょっぴり嬉しいような、
そんな居ても立っても居られないような気分にさせる。

 逃げ出したいのに、ちっとも動く気分になれない。麻薬的に
手遅れで、膝が笑っちゃうほど甘美なパニック。それが杜守さ
んの腕の中の感触なのだ。
 わたしは、ちょっと俯くように身を固くする。けれど、その
わたしの身体を、杜守さんは布団の中で引き寄せて、髪の毛を
梳くように触ったりして、それだけでわたしはどんどんあがっ
てきてしまう。
 ……白状すると、朝からえっちな気分にもなってしまってい
る。最近濡れやすくなっているのだ。それについては……それ
は杜守さんの責任だって大きいと思うのだけど、とてもそんな
責任追及出来ないわたしは、背中に杜守さんを感じながら、あぅ
あぅと云うくらいしか出来ない。

 しばらくそうして髪を撫でられていたわたしは、やがて気が
つく。
「……杜守さん?」
「ほい?」
「もしかして、寝てないですか?」
 そうだ、わたしがうっすらと目が覚めた時に起きていたのだ
とすれば、4時間も寝てないのではないか。考えてみると、わ
たしは杜守さんの寝姿をあまり見たことがない気がする。――
いや、違う。あまり、じゃなくて一度も見たことがないではな
いか。
242wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 15:35:16 ID:5VKgrtZv
「ちゃんと寝たよ。気にしちゃ、ダメダメ」
「だめですよ、ちゃんと寝ないとお仕事大変です……
 あ、ふわぁっ!」
 わたしの言葉を遮るように、杜守さんの指先がわたしの耳を
くすぐる。な、な、なんてことをするんですか。びっくりした。
衝撃だった。あんな動物的な……えっち臭い声を出しちゃう自
分にびっくりだ。
「むうぅ」

「じゃぁ、こっち向いて」
 杜守さんのリクエストで、わたしはごそごそと杜守さんの胸
の中に、顔を埋める。背中から抱きしめられるのも幸せだけど、
こうして自分の腕で杜守さんに抱きつくのも、嬉しい。大きな
杜守さんに抱きつくのは、なんだか「しがみつく」っていうイ
メージだけど、それだけに途轍もなく安心ししてしまうところ
がある。
 身長差のあるわたしは、布団に溺れちゃいそうになって、頭
を振る振ると振って掛け布団から出すと、杜守さんの肩に頬を
寄せる。杜守さんはわたしを抱き寄せて、抱き寄せて、ぎゅっ
と抱きしめて。

 わたしは怪訝に思う。
 杜守さんが、こんな風にわたしを抱きしめるのって、殆ど初
めてじゃないだろうか? わたしは良く判らなくて、ただ杜守
さんに回した腕で、ぽんぽんと背中を叩いたり、撫でたりして
みたけれど。杜守さんは少し寝ぼけているのかも知れない。

「……杜守さん?」
「ん?」
「どうしました? 眠いですか?」
 わたしの質問に、杜守さんはしばらく答えないで、髪の毛に
触れている。その触り方は丁寧で、指の間をこぼれてゆく髪の
感触を惜しんでいるみたいだ。やがて杜守さんはわたしをきゅぅ
っと抱き寄せると、勢いを付けるように起き出して微笑んだ。
243wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 15:40:54 ID:5VKgrtZv
「実は今週、ちょっと仕事が立て込んでてね。気合いを入れて
いたのだ」
 その笑顔は、いつも通りの優しくて頼りがいのある方の表情
だった。居候のわたしとしては心苦しく、何かしてあげたかっ
たのだけど、ダメ女子で、しかも引きこもりとしては出来るこ
とは殆ど何もない。杜守さんの言葉にも、頷くことしか出来な
いのだ。
「そこで眞埜さんを撫でてねー。ちょっとエネルギー補給をね」
 なんて冗談めかして笑う杜守さん。

 その表情に誘われるように、わたしは殆ど反射的に杜守さん
の頭に手を伸ばす。杜守さんの前髪。わたしのとは違う、男の
人らしい、ちょっと堅めの直毛。その前髪の間に指を差し入れ
て、撫でる。
 あれれ。
 なんて、自分でも驚いて、照れくさくて、気まずい思いをし
てしまう。何でわたしはこんな事をしているんだろう。杜守さ
んを子供みたいに撫でるなんて。杜守さんはわたしよりも十も
年上なのに。ううう、申し訳ないような言い訳したいような気
持ちになる。だって自分でも何でこんな事をしちゃったのか良
く判らないのだ。
 こういう時に、ほとほと自分の察しの悪さというか、頭の悪
さが恨めしい。わたしは挙動不審気味に視線を泳がせながら、
杜守さんに良い子良い子をする。

「これ、応援?」
 杜守さんのその問いかけに、うん、多分、はいです。なんて
言い訳をして。でも、実はちょっと違うような気もしていて。
頭の片隅に、昨日の夜寝る前に感じた違和感が横切るのを感じ
る。でもそれは明確な理由として判るわけもなく、ただ横切っ
ただけで。わたしは、ただ、子供みたいに杜守さんをちらちら
と見上げながら、撫でることしか出来なかった。
244wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 15:46:18 ID:5VKgrtZv
 ――八月の後半から九月の頭に掛けて。
 杜守さんは予告通り忙しかった。毎日のように遅く帰ってき
て、食事とシャワーもそこそこに部屋にこもって仕事を続ける。
どうやら職場から持ち帰ってくる作業も大いにあるらしく、明
け方までキーを叩く音が聞こえることもあった。
 ある晩は会社に泊まったかと思えば、あるときは始発で帰っ
てきて、一日中部屋にこもって、あちこちへと電話をしながら
書類を作っている事もあった。

 杜守さんに迷惑だけは掛けまい。
 そう思っていたけれど、寂しさは身を切られるようで。杜守
さんにかまってもらえない日々のながれは、まるでコールター
ルじみた粘着性で時計の針さえゆっくりと進むのだった。

 杜守さんは、杜守さんの言うところ「籠もって」しまうと、
お茶とカロリーメイトだけで良くなってしまうのだという。食
事をしすぎると、眠くなってしまうなんて云うのだ。わたしは
それでも、身体をこわさないように、下手くそなりに手早く食
べれるような食事を作ろうとした。
 お陰でサンドイッチのレパートリーが増えたけれど。

 杜守さんの言う「集中力」。
 その意味合いがはっきり判ってきたのは、五日ほどたってか
らだった。「必要のない余計な部品は捨てる」なんて言葉では
判っていたけれど、本当に目にしたのは初めてだった。
 考えてみれば、お茶とカロリーメイトなんて云う食生活はそ
の前兆だったのだろう。杜守さんは「食事について考える」と
いう部品を一端取り外してしまったのだ。その分シンプルになっ
て身軽さを増した杜守さんはさらに仕事にうちこんだ。

 ある日、杜守さんの部屋に差し入れに行くと、クローゼット
の前にはYシャツと下着とネクタイのセットが、五日分並べて
おいてあった。杜守さんは「その日何を着るか」も取り外して
しまったのだろう。歯磨きやシャワーなども最小限になって、
それらはどこか上の空で行なわれているようだった。
245wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 15:51:22 ID:5VKgrtZv
 仕事をしている杜守さんをそっと観察したことがある。こん
なに忙しいのだからさぞや激しい仕事をしているのかと思って
いたけれど、そんなことはなかった。杜守さんは表情も消えて
どこか仏像めいた超然とした雰囲気で、ただ確実に、ものすご
い速度でキーボードを叩いていた。
 喜びも悲しみも無いかのような、ある意味「やる気」さえも
見えない、ただ純粋に入力された情報を高速で処理して結果を
出していくようなその姿勢は、「表情を作る」部品を取り外し
てしまったかのようだった。
 わたしはただひたすらに驚いてしまい、でも声を掛けること
も出来ずに、自分のロフトに戻って、丸くなってた。それは、
わたしにとっては少し怖い光景だった。

 日に何度か、わずかな時間、杜守さんと話をする。
 それは紅茶の差し入れだったり、軽食を届けに行ったりする
タイミングでのことで、わたしはその時間を毎日毎日心待ちに
していた。
 杜守さんからかまってもらえない不安感は、まるでお日様を
遠ざけられた植物がそうであるかのように、わたしからエネル
ギーを奪ってゆくから。杜守さんの何気ない仕草で幸福になっ
てしまうわたしは、忠犬のようにその時間を待ち構えていたり
した。

 そんなわたしに、杜守さんは「ごめんねー、しばらくの事だ
から、ごろごろしたり遊んだりしててよ」なんて云って笑うの
だった。杜守さんは優しくて、精神的に大人で、おそらく仕事
では相当に煮詰まっているのにわたしの前ではいつも笑ってい
た。

 でもそれは、逆にわたしが居るから、わたしと話をするから、
杜守さんが仕事の最中は外しちゃっている「世間的に会話をす
る」とか「面倒くさい女の子に気を遣う」なんていう部品を装
備しなければならない、つまり重くなって集中力を阻害してい
ると云うこともわたしには判ってしまう。
 仕事も出来ないダメ女子が、ただ頭を撫でて欲しいなんて言
う自分勝手な欲求で、杜守さんの手を煩わせているのかと思う
と、みっともなくて申し訳なくて、ひどく自己嫌悪したりもした。
246wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 15:56:56 ID:5VKgrtZv
 わたしがこの家に転がり込んだ、最初の週を思い出す。
 冷蔵庫の中はミネラルウォーターとアイス、それにチョコと
お酒、カロリーメイトしか入っていなかった。
 杜守さんは、わたしが居ない間、シンプルに生きてこれたの
だ。杜守さんを下界に引きずる降ろしているのは、わたし自身
なんだなぁ、なんて思うと、泣きたい気持ちになる。

 時間の流れはゆっくりすぎて、夜が明けて日が暮れるまでに
一週間が丸ごと入るのではないかと思われるほどだった。杜守
さんが仕事で空けている家の中はむやみに広くて。それが落ち
着かないわたしは、自分のロフトに引きこもってその3畳もな
い天井の低い空間の中で、布団に丸くなって時を過ごす事が多
かった。
 居間でTVを見てても音楽を聴いてても良いのだけれど、杜
守さんが仕事で疲れ切っているのじゃないかと思うと、胃の中
がぎゅぅっと固くなったような気分になり、遊ぶような気持ち
も無くなってしまう。

 有り余る時間に考えるのは、杜守さんのことだった。
 ただ、杜守さんのことを考えていた。
 もちろん自分の寂しさや心細さ、先行きの無さについても、
それはもう自分でもがっかりするくらい考えたのだけれど、そ
うではなく、ただ杜守さんの事を想ったりもしたのだ。
 多分、わたしは生まれて初めてと云っていいくらい「他人」
のことを考えたのだと思う。自分の寂しさを通してではなくて、
「寂しさを紛らわせてくれる誰か」ではなくて、ただ「杜守さ
ん」のことを考えた。
247wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 16:01:58 ID:5VKgrtZv
 わたしは要領が悪すぎて、それは考え事をする、と言うただ
それだけのことですら手際が悪すぎるのだ。ダメ女子はこれだ
から本当に使えないのだけれど、とても沢山の時間を必要とし
てしまった。
 砕け散ってしまったガラスの破片を集めるみたいに、判りきっ
たことの欠片を一つ一つ集めて、ああでもない、こうでもない、
そんな訳がない、あるはずがないという頭の中の言い訳で、迷
路の壁に総当たりをしながら、どうにもならないほどのろのろ
と考えをまとめ上げた。

 わたしの右側には、うんざりするほどのネガティブな要素が
積まれている。不細工ではないけれど、あんまり美人とも云え
ない冴えない容貌。めりはりに乏しい、痩せて小さな体型。引
きこもりで高校中退。仕事できない。社交性無し。要領が悪く
て、頭も悪くて、第一印象は「影が薄い娘」。
 家出中で、杜守さんの家に転がり込んでいて、杜守さんが居
ないとホームレスになってしまう。根暗で、鬱が激しくて、
ちょっとしたことで不安になって杜守さんに泣きつくことで、
どうにかこうにか落ち着いて過ごせるようになったばかりの、
面倒くさいことこの上ないしょんぼり娘だ。
 杜守さんに撫でられたい。杜守さんに甘えたい。杜守さんが
居ないと、本当は一日だって耐えられない。それくらい、杜守
さんに寄りかかっちゃってしまっている、ダメダメ女子。
 それがずっと判っていたわたしの姿。
 ううう。自分で列挙しているだけで、泥のたまったどぶに片
足を落としてしまったような気分になる。

 片や、わたしの左側には、この10日で発見した傲慢で自分
勝手きわまりないわたしがいる。そのわたしを見つけ出して、
認めるのに10日もかかってしまったほど、わたしはそんな気
持ちを無かったことにしようとしていた。

 わたしは。
 杜守さんが、欲しいのだ。
248wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 16:07:10 ID:5VKgrtZv
 こんなダメ女子で、杜守さんに支払えるどんな代価もないと
いうのに。わたしは杜守さんに、求められたいと思っているの
だ。
 杜守さんは大人で、余裕があって、優しくて、わたしがいや
がることは絶対にしない。無理矢理働け、とか外に出ろ、とか
も云わないし、家事をしているのだって、杜守さんに言われた
からやっているわけではけしてない。えっちだって――前回の
アレをのぞけば、なんだかしないと不自然だから、身体を重ね
ました、みたいな雰囲気だった。
 でも、それでは我慢できなくなってしまった。
 思えばわたしは誰かを望んだ事なんて一度もなかったように
思う。女の子は、自分の商品価値には敏感なのだ。小学生の頃
から、自分の長所と弱点、そんなものは数値で表示されている
ように分かりきったものとなる。自分が誰かにどれくらい望ん
でもらえるかというのは、非常に残酷で、デジタルに処理され
るものだと、女子は全員知っている。
 わたしはわたしの「左側」によって自分の価値が、一山いく
らの粗悪品であると判っていた。だから本当に何かを望んだ事
なんて、無いような気がする。
 だけど、やっぱりもう誤魔化せないみたい。

 わたしは、杜守さんが欲しい。それは「杜守さんが居ないと
困る」とは全く別の感情で、もっと我が儘で傲慢な想い。

 杜守さんに、甘えて欲しいのだ。
 杜守さんの役にたって、杜守さんに偉いねって言われて、お
世辞じゃなくて、杜守さんに「居なきゃ困る」って云われたい。
あの人は本当に女の子の相手が慣れているから、気を利かせて
そんな台詞は普通に言ってしまうのは、すごく予想できてしま
う。でも、そうじゃなくて、杜守さんに求められたい。

 胸をつくような締め付けられる気持ちで、そう思う。杜守さ
んはいつだって優しくて、でもちょっと諭すような、保護者の
ような表情でわたしを撫でてくれていた。それはわたしの「左
側」、杜守さんが居ないと困ってしまうわたしにとっては都合
が良かった。ううん、都合が良かったからこそ、杜守さんがそ
れを演じてくれていたのだと、今なら判る。杜守さんはそれが
可能なほど、精神的に大人だったのだ。

 でも、わたしの「右側」はそれでは満足できなくなっている。
杜守さんが欲しい。全部なんて云わない。ほんのちょっぴりだ
けで良い。わたしが杜守さんを必要とする十分の一でも良いか
ら、杜守さんに必要とされたい。甘えて欲しいのだ。杜守さん
に優しく抱きしめられるのは魂に羽が生えるほど幸せだけど、
ほんのちょっぴりで良いから、杜守さんも我を忘れるほどわた
しに溺れるように、求めて欲しいと思ってしまう。
249wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 16:12:14 ID:5VKgrtZv
 ううう。
 脱線した。頭の中がピンクの妄想で溢れてしまいそうになる。
溺れるとか、求めて、とか。そう言う単語は禁止しておかない
と、思考がぐるぐる回って先へと進まないじゃないですか。

 へ、変態めっ。
 自分をちょっとしかりつけて、布団の中でもぞもぞと身体の
向きを調える。うわ。裏切り者! パンツがちょっと重くなっ
てる。すぐそう言う気分になるんだからはしたない。

 もちろん、その欲求、求めて欲しいなんて云う夢は相当に虫
の良い話で、望みが薄いって事は良く判っている。

 世の中にはわたしより可愛い女の人なんて星の数ほども居る
のだ。オトナで、ちゃんとお仕事をしてて、わたしよりスタイ
ルが良くて、化粧なんかも上手で、美人で、明るくて……とに
かく、わたしより優れた部分が、沢山あるような女の人は、きっ
と杜守さんの周りにいると思う。
 それを考えると気分がへこんで、布団の中でめそめそして、
鼻を真っ赤にすることもあった。
 杜守さんがそんな女の人と知り合いじゃないと思う方がおか
しいのだ。会社にはOLの女の人だっているし、学生時代の旧
友とか、良く判らないけど、取引先の美人なお姉さんとか、い
るに違いない。いや、絶対にいる。

 だって杜守さんは女慣れしているのだ。わたしは絶対の確信
を持って断言できる。
 だいたい、そうだ。あんまり考えたこともなかったけれど、
杜守さんだってわたしより10近く年上なのだから今まで付き合
った女の人が居ないわけがない。そんなの当たり前だ。あれだ
け仕事も出来るし、何でもそつなくこなす男の人だから、きっ
と高校とか中学時代にすでに彼女を作ってたりしていたに違い
ない。
 いつでも余裕があるあの態度は、料理と同じく、場数によっ
て育まれた経験なのだ。

 どんな人だったのかな。
 高校の後輩とか? ものすごく可愛くて、髪の毛は栗色のふ
わふわで、何でも良く気がつくかいがいしい女子かな。大学に
入ってからは一つ年上の、けだるい感じのそれでもすごく有能
な才女とか。きっと服を脱がしたら、ものすごく綺麗な身体な
のだ。
250wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 16:17:46 ID:5VKgrtZv
 大きなため息をついて、自分の持ち物を確認してみる。
 相も変わらぬ、ひょろりとしたにょろにょろボディだ。食生
活が改善されたせいで、肌には張りと潤いが戻ってきた。色が
白くてすべすべなのは、実は数少ない自慢だ。けれど、そんな
のは十代だったらどんな子でも、健康に暮らしていれば当たり
前に持っているわけで、何のアドバンテージにもならない。
 杜守さんがかまってあげた女の子の中でも、一番残念賞スタ
イルなんだろうな、なんて思うとナチュラルにへこむ。

 わたしの「左側」の後ろ向きで杜守さんに寄りかかりたい気
持ちと、「右側」の杜守さんを甘えさせたい、杜守さんの役に
立ちたいという気持ちは、わたしの中で衝突して、せめぎ合っ
ている。

 バランスなんて、とっても悪いのだけど。
 だって物心ついてからずっとダメ女子だったのだ。「左側」
の発言力が強くて、どうしたって恐れ多いというか、罪悪感で
一杯になってしまう。
 心の中で思っただけで、本当に申し訳なさでいっぱいになっ
てしまうのだ。わたしみたいなダメ女子がそんな大それた願い
を持ってごめんなさい。いえ、その。自信があるとか、絶対手
に入れるとか、杜守さんにふさわしい女性になるなんて自信は
ちっとも無いんですけれど。わたしは杜守さんが居なきゃだめ
な引きこもりなんですけれど。
 よりによって、一番始めに願う宝物が、杜守さんだなんて。

 でも。それでも、やっぱり。
 幸せって麻薬なのだ(良薬だったっけ?)。その魅力には、
ダメ女子のわたしは、ダメであればあるほど逆らいがたい。
 だってわたしの身体には、杜守さんに抱きしめられた感触が
残っているのだもの。腕の外側から大きく締め付けられる、鳥
肌に似た気持ちよさを覚えている。可愛いだなんて、あんなこ
と言われたのは生まれて初めてなのだ。雛鳥だって刷り込まれ
れば懐いてしまうと云うではないか。

 その小さいけれど決して消えない願いは、どんなに諦めよう
としても、そんなの無理だと理性が告げても、執拗にわたしの
中で燃え続けた。
 わたしは、杜守さんの留守がちな十日間をとおして、ダメ女
子であるばかりか、自分がえっちで変態でその上欲深い贅沢も
のだと云うことも思い知らされてしまった。
251wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 16:24:01 ID:5VKgrtZv
 長い長い杜守さんの修羅場が終わって、やっと何とか一息付
けたのは、九月の2回目の週末だった。「もーやだ。終わり。
仕事しない」と云って家庭用電話の線まで引っこ抜いた杜守さ
んは連続で10時間も寝て、わたしの作ったおにぎりを食べて、
それからまた昼寝までして、やっと体調が元に戻ったようだっ
た。

 かくいうわたしも我慢しきれず、お昼寝はご一緒させてもらっ
てしまった。ううう。10日ぶりの杜守さんですよ? ぬくいの
です。大きいのです。
 本当は疲れているのだし、1人で寝かせてあげるべきなのは
判っていたのだけれど、わたしの方も不安な気持ちとか、頭の
中がぐるぐるしてしまっていて、杜守さんが手招きしてくれた
のにまんまと乗っかって一つのタオルケットで昼寝をしてしま
った。

 目が覚めたのは夕暮れ時。
 やっぱり杜守さんの寝顔はみれなかった。なんだか悔しいし、
ちょっぴり悲しい。でもそのせいで「やっぱり」というように
確信が持てた。多分、おそらくだけど杜守さんは、やっぱりわ
たしに気を許してくれている訳じゃないのだ。

 優しくしてくれるし、気を遣ってくれるし――こ、こんなダ
メ女子ですけど? そのぅ「女の子扱い」してくれる。それは、
嬉しい。杜守さんの腕の中で目覚めるのは格別に幸せで、昼寝
の数時間だけで、3日分くらいぐっすり眠ってしまった。

 でも、杜守さんにとってはやっぱりわたしはどこか、お客さ
んなのだろう。それはわたしにはどうすることも出来ないけれ
ど、とても寂しい。本当はわたしがもっと自立して、素敵な女
の子で、杜守さんが居なくても生きていければ、こんな寂しさ
に耐えることも出来るのかも知れないけれど、それは無理。杜
守さんは、わたしの中でそれほど大きくなってしまっている。

 例の「右側」は杜守さんに甘えたい、甘えたいっ、かまって
欲しいと騒ぎ立てている。でも「左側」は「左側」で杜守さん
の本音の部分が知りたい、出来れば杜守さんもわたしに夢中に
なって欲しいなんて分不相応な願いを繰り返す。
 真ん中のわたしは杜守さんの事を好きな気持ちで湧かしすぎ
たお鍋のように沸騰しているし。そんなわたしすべてを、「杜
守さんに迷惑を掛けるのだけは絶対ダメ!!」と細くて頼りな
ーい理性が御している状態だ。
252wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 16:32:12 ID:5VKgrtZv
 杜守さんは、そんなわたしのぐるぐるに気がついてないわけ
もなかったのだけれど、何も言わないでいてくれた。夕暮れの
部屋の中でもそもそ起き出した2人。
 視線を合わせられないわたしは、メールチェックをする杜守
さんの横顔を、こっそりと見つめる。

 卑しくて自分勝手な考えだけど、誤魔化すことが出来そうに
もなくて、思い知る。わたしは、杜守さんにも癖になって欲し
いのだ。わたし以外じゃ、ダメになって欲しい。
 杜守さんに必要とされたい。
 杜守さんみたいな何でも出来る人に必要とされるって、そん
な方法全然判らないけれど。

 杜守さんが、さりげなーく。本当にさりげなーく。モスバー
ガーとポテト食べたいな〜なんて云う。確かに食べたい。お腹
がきゅるるんなんて音を立てて鳴く。
 仕事が一段落した今、ちゃんとした食事を杜守さんに作って
あげなきゃいけない立場なのだけど、もちろんそのつもりで準
備もしてあるのだけれど、昼寝をしちゃったせいですぐに食事
が出る、と言うわけにも行かない状況だった。

「眞埜さん、眞埜さん。久しぶりに買い食いってことで」
 杜守さんが、悪戯小僧みたいに笑う。

 引きこもりのわたしとしては、外出はちょっと怖いのだけれ
ど、駅前くらいまでなら何とか……。なんて考えて、顔を洗い
に向かう。コンビニに行くくらいなら今までだってやってきた
のだ。幸いもう夕暮れ時だし。
253wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 16:37:21 ID:5VKgrtZv
 マンションから外に出たわたしたちは、まだ熱気の残る街を
2人で歩く。
 青鉄の色に染まってゆく空に、宵の明星が輝いている。手を
つないでみたりなんかしたりしたら、も、もしかしてすごく幸
せかも知れない。なんて考えては見たのだけど、そんなこと自
分から出来るはずもなく、並んでいるような、後を付けている
ような、微妙な角度で歩く杜守さんとわたし。

 云うまでもなく、ちょっと後方から追跡しているのがわたし
だ。手をつなぐのはともかく、あのシャツの裾の辺りをちょこ
んとつかんで歩く、位は良いのじゃなかろうか。――なんて考
えてたから、杜守さんの言う言葉を聞き逃してしまった。

「はい? はい」
 何を訊ねられたかも判らないで返事をするわたし。杜守さん
は嬉しそうにしているので、まぁいいか、と納得すると、なん
と杜守さんが手を握ってくれるではないか!! ううう、手を
つなぐって想像以上に恥ずかしい。膝の力が抜けてしまう。

 世間の人たちはこんな事をやっているのでしょうか?
 よく事故も起こさないで歩けますですよ。

 なんて自己突っ込み。杜守さんの手は大きくて、本当に大き
くて、わたしはなんだか宝物を渡されたような気分で、ぎゅぅ
っと握ってしまう。杜守さんはちょっと振り返って、駅前の水
銀灯とイルミネーションに逆光になって、ニヤっと人の悪い笑
みを浮かべる。……人の悪い? わたしはそこで気がついて直
後に涙ぐみそうになる。

 だ、騙されたっ! はめられましたっ!
 杜守さんはにやにや笑うと、わたしが苦手なのを知っていて、
何食わぬ顔でわたしを美容室に連行する。引きこもりが最も恐れ
る場所の一つが美容室だというのにっ!
254wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 16:42:39 ID:5VKgrtZv
 杜守さんはなんだかすごく手慣れた様子で、こぎれいな女性
の人へ挨拶したりして。知り合いじゃないらしいけれど、何で
そんなに物怖じしないのだろうと悩んでしまうようななめらか
さで、わたしの意見など一切斟酌せずに注文を付けて、代金も
先払いしてしまう。
 これだから社会人は〜。
 わたしは泣きそうな表情で杜守さんに助けてください、お願
いって思ってみるけれど、杜守さんは聞こえていないみたいだ。
当たり前ですよ、そんなの。

「では、どうぞこちらへー」
 くすくす笑いをこらえたヘアカットの人がわたしをチェアに
案内する。ううう。杜守さん! 杜守さん!! この落とし前
はきっちり付けますからねっ! なんて鏡の中を睨むと、杜守
さんは例のいじめっ子風の笑顔でにこにこしてる。
 ううう。あの表情には、弱いのだ。癖を付けられたのが、えっ
と、その。……えっちの最中なので、あの意地悪そうな、しか
し相当に楽しそうな杜守さんの顔を見ていると、恥ずかしいこ
とに抵抗する気力がすぐに甘く蕩けてしまう。

 わたしは俯いて視線をそらして、お姉さんにごにょごにょと
口の中で挨拶をすると、大きくて座り心地の良いチェアに腰を
下ろす。美容室によくあるその大きな椅子はふかふかだけど、
わたしは電気椅子もきっとこんな感触なのだろうな、と絶望的
な気分になる。

 だいたい、わたしは引きこもりだし、別に可愛くもなんとも
ないのだ。
 髪の毛は毎日洗って綺麗にしてあるけれど、そんなにおしゃ
れじゃなくて、適度な短さで整っていればいいではないか。そ
れなのに杜守さんはこんな高そうな店に飛び込みで押し込んで、
にこにこしてたりして、すごく意地悪だ。

 ヘアサロンのお姉さんは、愛想良く何事かをわたしに話しか
けてくれる。そのたびにわたしはパニックに襲われる。昔はさ
ほどでもなかったけれど、半年も引きこもると他人に話しかけ
られるのがすごく怖い。
 被害妄想なのかもしれないけれど、こうやってニコニコされ
ると、わたしのことをくすくす笑っているんだという気持ちが
どうしてもぬぐえない。
 杜守さんはそんなわたしを見てにこにこしてたけど、途中で
モスバーガーに行って、ちゃっかりテイクアウトを買ってきた
らしい。コーヒーなんかしてくつろいで、鏡越しのわたしの恨
みの視線も飄々と受け流している。
255wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 16:47:45 ID:5VKgrtZv
 やっと完成したのは1時間以上かかってからだった。

「杜守さんは意地悪ですよ」
 はっきりと抗議したつもりだったけれど、やっぱり強く云え
ないわたしは、ごにょごにょと恨み言を呟いてしまう。

「眞埜さん髪綺麗なんだから、もったいないでしょ。軽くなっ
て、似合ってるよ?」
 むぅ。そんなお世辞に誤魔化されたりはしないのだ。なんて
思っていても、ちょっとだけ頬が緩む。背中の中程まである髪
は確かに最近重くなっていた。長さは調えるくらいで、ボリュ
ームを減らしてもらったので、すんなりまとまって、ちょっと
清楚なお嬢様風に見える。……もちろん中身はダメ女子のまま
なのだけど、自分でも可愛いかな、と思えていたわたしは杜守
さんの言葉に他愛なく嬉しくなってしまうのだ。
 もしかして、わたしは杜守さんに洗脳されつつあるのかも知
れない。

 陽が暮れて藍色になった街を2人でマンションに帰る。
 帰る場所があるというのは、本当に素敵だ。短かったけれど、
ネットカフェで寝泊まりしてた、どこにも行く場所がない、切
り離されてしまった感覚をわたしは良く覚えている。
 もちろんこのマンションは杜守さんの家で、わたしは居候。
でも、杜守さんが「居て良いよ」と云ってくれている間は、わ
たしの住み処なのだ。杜守さんが「ここが眞埜さんの寝床ね」
とロフトを調えてくれた時、わたしは安心感でじわーっと涙が
溢れそうになってしまった。その部屋へ、2人で帰るのは、く
すぐったくて幸せな気分だ。
256wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 16:55:25 ID:5VKgrtZv
 部屋に帰ると、早速ハンバーガーのテイクアウトを広げる。
杜守さんはチーズバーガーとフライドチキンとポテト四つだっ
た。ポテト四つ。ポテト四つですよ? と言う表情のわたしに、
杜守さんは「いいじゃん。たまに食べたくなるんだよ」と拗ね
たように云う。ちょっと可愛い。
 わたしはキッチンへアイスティーを入れに行く。冷蔵庫で冷
やしてあるので、シロップを入れるだけですぐに出来て簡単だ。
戻ってきたわたしは、ちょっとだけ迷ったけれど、ソファに座
る杜守さんの横に腰を下ろした。

 2人で食べるハンバーガーは美味しかった。家の中で食べて
いるのだけれど、どこかへお出かけしている気分で楽しい。わ
たしもお腹がすいていたし、一生懸命食べていたのだけれど、
杜守さんはいつにもまして早かった。わたしがハンバーガー一
個食べる間に、ポテト四つまで綺麗に平らげてしまったのだ。
 杜守さんは、お腹一杯、と言うようにごちそうさまをすると、
ソファによりかかって、のびのびとしている。杜守さんは、目
を細めて、まぶしそうな少しだけ眠そうな表情で、わたしに話
しかける。

「うん、綺麗になったよ。髪の毛、つやつや」
「杜守さんは、髪の毛好きなのですか?」
 いつかの夜明け、撫でてもらった髪を思い出しながらわたし
は訊ねる。杜守さんはその言葉に不意を突かれたように考え込
み、しばらくしてから「うん、云われてみればそうらしい」な
んて答えた。そうかーそうだったんだー。なんて意外そうな声
で呟きながら、わたしの髪の毛を触ってくる。

 それはとても嬉しいのだけど、照れくさいわたしは両手でア
イスティのグラスを持って俯いてしまう。氷を入れたグラスが、
ひんやりして気持ちいい。気がついてみれば、指先まで桜色に
染まっている。頬だって茹だっているに違いない。

 杜守さんは、わたしの背中を軽く抱き寄せるように、自分の
方へと引き寄せる。わたしの身体が杜守さんにぴとっとくっつ
いて、体温がまた1度ほど上昇する。
「甘えてもらうのが好きなんだよ」
 独り言のようにもらした杜守さんの言葉は透明で、なんだか
随分素直に聞こえた。だからわたしも思わず、何の考えも無し
に「寂しいのですね」なんて云ってしまう。
257wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 17:01:23 ID:5VKgrtZv
 杜守さんの反応が消えて、部屋の中には静寂が訪れる。街の
音も遠いこのマンションの中で、わたしの身体も固まる。やっ
てしまったかな、ううう、まずいことを云ってしまったんだ、
きっと。さっきまで上がっていた体温が一挙に低下する。
 心の中でごめんなさいすみませんとパニックになるわたし。

 久しぶりの杜守さんとの休日で気が緩んでいたに違いない。
ダメ女子なのに生意気なことを云ってしまった。ご、ご、ご、
ごめんなさいっ。わたしは内心で慌てふためいて、それをどう
にか取り繕おうとするのだけど、突然メンテナンス不良になっ
た身体は錆が浮いた機械のように動いてはくれない。
 神経だけが集中して、寄りかかった杜守さんの反応を背中で
探ってしまう。でも、杜守さんが何かに集中しているような気
配がするだけで、それが怖くて仕方ない。

 ひどく長く感じたけれど、実際には呼吸五回程度の時間しか
たっていなかったように思う。

「うん、それも本当みたいだ。眞埜さん賢い」
 杜守さんは小さく笑うような気配と共に、わたしの髪の毛を
撫でてくれる。その仕草でわたしはほっと一息つくけれど、で
も同時にすごく切ないような気分になるのだ。

 甘えられたいって云うのは寂しい気持ちの裏返しだって、わ
たしはこの十日間で思い知っていたけれど、それは杜守さんに
とってもそうなのか、それとも他の理由があってそう言ったの
か、わたしには判らない。そもそも、杜守さんみたいな何でも
出来る男の人の寂しいと、わたしみたいなダメ女子の寂しいが
同じものなのかも判らない。

「要領が良いとね。1人で色々出来ちゃうからねー。人恋しさ
が募るね。……修行が足りないなぁ」

 杜守さんの声には少しだけ自嘲するような響きがあって、で
も優しくて、わたしはその声だけで悟る。
 杜守さん、やっぱりそれは寂しさですよ。同じものかどうか
は判らないけれど。杜守さんみたいに何でもこなせる人が、な
ぜ寂しくなるのか、わたしには杜守さんの言っている言葉の理
屈は良く判らなかったけれど、その寂しさだけはよく知ってい
るように思えて、反射的に立ち上がると、杜守さんに向き直る。
258wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 17:02:16 ID:5VKgrtZv
「あ、あ、あのっ」
 なんだか放っておけないような、居ても立っても居られない
気持ちに突き動かされたわたしは必死に声を絞り出す。でも、
話し始めてみたは良いものの、何をしゃべるか考えてなかった
のですぐ言葉に詰まってしまう。
 杜守さんがどんな表情をしているのか、気になるけれど、視
線を上げて確認するのは怖いし恥ずかしい。

 心臓が鼓動を早める。全身の血が熱くなって、杜守さんしか
見えなくなる。杜守さんが「どうしたの?」って云ってくれて
るけれど、わたしは勝手にわなわなしちゃってる口と、へばり
ついたようになっている舌を無理矢理動かして宣言する。

「と、杜守さん」
 俯いたまま上目遣いで杜守さんをちらっと見る。恥ずかしい。
これから自分が何をしようとしているのか、何を言い出すのか、
考えると恥ずかしくて恥ずかしくて逃げ出しそうになる。でも、
もう身体は甘やかな、あの蕩けるような延々とした快感を思い
出して準備を始めてしまっているのだ。

 わたしは意を決して、ソファに座った杜守さんに近寄る。
 杜守さんの膝の上。いままでそんなはしたないことを自分か
らしたことはないけれど、その上にまたがるように腰を下ろし
て、その肩に手を回す。
 緊張して、震えてしまっている手のひら。
 自分でも桜色になっちゃっているのが判る熱い頬。
 でも、その全部で。杜守さんを感じたくて、わたしは堰を切
る。
「今から、あの、ぅー……甘える、甘え……てしま。ちがう。
甘え、ちゃいますっ」
259wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/25(火) 17:04:02 ID:5VKgrtZv
以上、部屋(5)投下終了。今回は杜守の話なので
(視点は眞埜ですが)、その意味で1〜3と対になって
居れば嬉しいです。次回はえろえろんしたいんだぜ。
お粗末様でしたっ。
260名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 17:08:16 ID:Z+IJm9K+
うわあGJ
あなたの文章が好きです。空気というか、雰囲気というか。とりあえず大好きです。
冗長なんて、とんでもない。遠回しな文章に味があって素敵です。
261名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 17:34:52 ID:Yx5TZhbN
>>259
えろえろん期待
262 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/25(火) 18:52:37 ID:ieXIgfsE
>>259
GJ!楽しみです。頑張ってください。

深夜に投下します。
263夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/26(水) 02:49:56 ID:zbpFSgfQ

――「ごちそうさまでした。メノウにもよろしく言っといてください。」

「えぇ、ありがとう。ごめんね?なにか用事があったんでしょ?ったく、あの子は……」

「はは、まぁいいですよ。」
アンナさんのため息姿に苦笑いで返す。
メノウのワガママにより、ホーキンズの約束の時間を大幅に過ぎてしまい、人通りも少ない夜の9時をまわってしまった。

夕食を食べたら帰ると言う約束だったのだが、メノウの本音は元々帰らせる気がなかったのだろう……メノウの食べるスピードがいつもより明らかに遅かった。
途中で帰ろうかと思ったのだが、後々メノウの相手をするのはアンナさんなので、仕方なくメノウの茶番に付き合う形になってしまった。
夕食を食べた後もメノウのワガママは続き、寝るまで本を読めだの、次はいつ会えるだの、お腹が痛いだの、なんだかんだメノウの相手は俺が最後までする羽目になってしまった。多分ホーキンズもこの時間では諦めているだろう…。

少しあのコンテナの中身が気になるが仕方がない。明日になれば忘れているはず。

「それじゃ、帰ります。本当にありがとうございました。」

「えぇ、また遊びにおいで。メノウも喜ぶから。」
264夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/26(水) 02:50:32 ID:zbpFSgfQ

「はい、それでは。」
また遊びに来る約束をして、アンナさんの家を後にする。

アンナさんも俺の言葉を聞くとすぐに家の中へと入っていった。あまりメノウと過ごす時間がないので少しの時間でもメノウといたいのだろう…本当に母親みたいな人だ。


「アンナさんも大変だなぁ……」

俺の場合は子守程度ですむのだが、アンナさんの場合そうはいかない。まぁ、アンナさんが自分から志願したのだから何も言えないのだけど、尊敬はする。



「……さむっ…早く帰ろ…。」
夜風が体の隙間を抜けていく。

アンナさんの家は民家街から少し離れた場所に位置し、尚且風の通り道である海側に面しているので潮風が容赦なく吹き付けるのだ。
逆に夏場は涼しく、海側の崖近辺には夏になるとよく人が涼みに来ているのを目撃することがある。

「…夏…か…」

――その夏がもうすぐやって来る…。人間にとって過ごしやすい時期であると同時にモンスターの行動が活発化する時期でもある。

俺の仕事上、稼ぎ時期なのだが、あまり嬉しいことではない…。
265夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/26(水) 02:52:44 ID:zbpFSgfQ

――「おい、ライト!」
民家街に向かって足場の悪い道を歩いていると、民家街の方から人影がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
声から察するに男…

俺の名前を呼んでいるので知り合いなのだろうが、外灯一つ無いこの細道では、暗くて誰が誰かなんてまったくわからなかった。

「おい、そこで止まれ…。誰だ?」
なにがあるか分からない…一応警戒だけはしとこう…。

「はぁ?とまれだぁ?」
俺の声に反応したのか男が足の速度を緩め、ゆっくりとこちらに歩いてくる。

「…あぁ……おまえか…」
月明かりで男の表情がうっすらと見えてきた。

「…あぁ……おまえか…じゃねーよっ!何時間待たせんだテメーは!!」
月明かりの中、姿を現したのは、汗だく姿のホーキンズだった。

「いきなり走って来るなよ…山賊の類いかと思ったぞ。」

「嘘つけっ!モンスターだらけのこのご時世に、山賊なんて聞いたことねーよ!!」
確かに、山賊なんて職を選ぶアホはいない。
それにしても今の今まで約束を守るために俺の帰りを待っていたのか…。

「おまえが女房なら、惚れまくってるな…」

「はぁ?気持ち悪いこと言ってないで、さっさと行くぞ!」
266夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/26(水) 02:55:47 ID:zbpFSgfQ

「行くぞって……中央広場に行くのか…?」

「当たり前だろーがっ!何時間待ったと思ってんだ!」
確かに約束を破ったのは俺なのだから、ホーキンズの言うことは聞くが、こんな時間まで開いているのだろうか?
行っても無駄な気がするが…。

「わかったよ…行こう。」
広場まで行って店が閉まっていればホーキンズも納得するだろう…。俺の返答に満足したのか、元来た道を降って行った。
ため息を吐き、ホーキンズに置いていかれないよう後を追いかける。

「待てって、ホーキンズ!」

「待てるかっ!早く行くぞ。」
慣れた場所なのでお互い外灯がなくても民家街まで続く道は熟知している。
子供の頃から遊び尽くした町なので、走っても転けることないのだが、この歳で町中を全力疾走するのも、かなり恥ずかしかった。
267夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/26(水) 02:56:51 ID:zbpFSgfQ

―――――
――――
―――
――


「なんだ、あれ?」

「おぉ〜、スゲーな!!」

中央広場が見える道沿いまでくると、見たこともない大きな白いテントが視界に入ってきた。

広場の周りを大きな柵で囲っており、その中央にテントを張っているのだが、何故かテントの周りをバレンの兵士らしき甲冑を着こんだ人間が見張りをしている。

「なんで見張りなんか立ててんだ…?」


「知らん…てゆうかなんの店だよこれ…」
物を売っている感じではない…サーカスかなにかしてるのだろうか?

それにしては物騒な気もする…。

「まぁ、なにをしているのかテントの中を見ればわかるだろ?行こうぜ。」
ホーキンズの言うように突っ立ってても何も解決しないので、広場の入口に向かうことにした。


「よう、バレンの兵隊さん」

「ん?なんだ、おまえ?」
入口に立っている兵士二人にホーキンズが話しかける。
近くで見ると甲冑しかつけていない軽装だが、やはりサーベルを腰に装着している。

「いや、俺達も中見たいんだけど、まだ大丈夫か?」

「残念だったな…今日はもう終りだ。」
268夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/26(水) 02:57:42 ID:zbpFSgfQ

「ふざけんなっ!金は持ってきてるんだから、俺ら二人ぐらい見せてくれてもいいだろ?なっ!?」

「ダメだっ!夕方の18時から21時までの三時間だと港前の伝言板に書いてあるはずだ!」
確かにバレン兵の言うとおり、店を開く際に何処で何時に始まり何時に終わると伝言板に書くことが決まりになっている。

「ぐっ……クソっ!」
よほど見たかったのかホーキンズが悔しそうに地面に落ちている缶を蹴り飛ばした。
確かにここまで来て見れないのは少し腹がたつ…メノウを連れてきてもよかったのだがアンナさんが許さないだろうし…。

「……んっ?なぁ……兵士さん。」

「なんだ、まだいたのか?今日はダメだと言ってるだろ。」

「無理なのは分かった。…あんた、さっきから今日は今日はって言ってるが…またこの場所で店を開くのか?」

「あっ?…あぁ…嵐が近づいているだろ?嵐が通り過ぎるまではこの町にいる事になったんだ…。だから今日と、明日の朝と、明後日の夕方の三回、ここで店をだすことになったんだよ。」

「ほ、ほんとか、それっ!?」
諦め気味に帰路に就こうとしていたホーキンズが、バレン兵の話を聞くなり此方に急いですっ飛んできた。
269夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/26(水) 02:58:32 ID:zbpFSgfQ

「あ、あぁ…だから、見たければ明朝7時にもう一度来るんだな。時間内にくればお客様として、丁重にもてなしてやるよ。」
いやらしい笑顔を見せると、俺達の目先で片手をヒラヒラと揺らし、早々と帰るように急かしてきた。

「…まぁ、明日と明後日の二日あるんなら、別にいいよな?」

「はぁ……そうだな………それじゃ、明日の朝にお前の家に行くから絶ッッ対ッにいろよッ!」
俺の両肩をがっしりと掴むと、言い聞かせるように語尾を強めた。
むさ苦しい男が二人、往来で顔を近づけている…端から見れば気持ち悪いの一言だろう。

「分かってるって、暑苦しいな…。」
疑いの眼差しを向けてくるホーキンズを押し退け、広場前を後にする。
悔しいことに数時間前までの複雑な気持ちは一切無くなり、今はテントの中で何が行われているのか、気になってしょうがなかった…。
270夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/26(水) 02:59:24 ID:zbpFSgfQ

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇


――『ドンッ、ドンッ、ドンッ』

「ったく、なんだよ……クソッ…」
翌朝、昨日の疲れもあり、気持ちよく熟睡していた俺は、自宅の扉を雑に叩く音で目が覚めた。

眠気眼で壁に掛かっている時計に目を向ける…。ぼやけてだが、朝の6時だと確認できた。

「…早すぎるだろ…」
少しずつ能が覚醒するにつれて、昨日の出来事を思い出してきた。

多分、扉の外にいるのはホーキンズだろう。
確かに朝に来るとは言ってたが、まさか一時間も早く来るとは…。




――『ドンッ、ドンッ、ドンッ』
頭を抱えて項垂れている間も、一向に扉を叩く音は止む気配を感じさせない。

「あ〜っ、はい、はい……分かったから何度も叩くな。」
だるい体をベッドから無理矢理起こし、ふらふらとした足取りで扉に向かう。
まさか、今から広場に行って並ぶつもりなのだろうか…?
あれだけ大きく宣伝していたから、それなりに人は来るだろうが、朝早く並ぶのはめんどくさい。

「……はぁ。」
このままホーキンズを放置していても、俺が出るまで叩き続けるだろう。近所迷惑を避けるために、しかたなく鍵を開ける…。
271夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/26(水) 03:00:47 ID:zbpFSgfQ


――ガチャッ


「んっ…?」

鍵を開け、ドアノブを掴もうとした瞬間、あれだけ激しく扉を叩いていた音が止み、こちらが掴むより先にドアノブがクルッと一回転した。
それとほぼ同時に勢いよく扉が開かれる。





――「おはよう、ライトっ!」
勢いよく開けられた扉の先に立っていたのは、ホーキンズとはかけ離れた低身長の小さな女の子…。

「こんな朝早くどうしたんだ、メノウ?」
立っていたのは大きなカバンを肩に背負ったミクシーの少女、メノウだった――。

大きいと言っても普通のカバンなのだが、体の小さいメノウが持つと、なにか拷問でもされてるような光景に見える。

「うんしょっと………えっとね……これじゃなくて…」
おもむろに地面に座り込み、肩に背負っているカバンを地面に置くと、そのカバンの中を両手でまさぐりだした…。

何をしているのか分からず、座り込んでいるメノウを見下ろすと、カバンの中がチラッと見えた。
…なにかヌイグルミのような物が入っている。

「ん〜と………あっ!そうだっ!」
カバンの中を荒らしていたメノウが、なにかを思い出したように立ち上がると、ワンピースについてあるポケットに手を突っ込んだ。
272夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/26(水) 03:01:58 ID:zbpFSgfQ

「はい、これっ、お姉ちゃんから!」

「アンナさんから?………って、なんだこれ?」
ポケットから出てきた物…それはクシャクシャになった紙切れだった。
その紙切れをメノウから受け取り、広げてみると、なにか文字が書いてある。
どうやら、アンナさんからの手紙らしい…。

「なんだろ……なにかあったのか?」
家の中に戻り、椅子に腰を掛けて手紙を読む。



『今日一日、用事ができたのでメノウを預かってください。明日の夕方、早ければ明日の昼頃には迎えにいきます。

アンナより。』

アンナさんからの手紙を読み終えると、盛大にため息を吐いた…。短い文だったが、事の重大さは把握した。
簡単な話、メノウを家に泊めろと言うことだ。

「よりによって今日は無いだろ……」
ホーキンズになんて言おうか…。

「メノウね、アップルパイ食べたい!」

「昨日の夕食で散々食べただろっ!お腹壊したくせにまだ懲りてねーのか!」

「え〜っ!食べたい、食べたい、食べたい〜っ!!」
昨日の夕食時に、メノウがあまりにもアップルパイをせがむので、アンナさんがしかたなくアップルパイを作っていたのだ。
273夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/26(水) 03:18:42 ID:zbpFSgfQ

だが、残念なことに俺はアンナさんと違って、アップルパイなんて高度なお菓子は作れない。

「諦めろ、俺はアップルパイなんて作ったこと無いんだ…。」

「うぅ〜……分かっy「まて、まて、待てぇ〜いッ!!」

――メノウが渋々納得しようとしたその時、何処からともなく…いや、先程メノウが入ってきた扉の向こうから男性の声が聞こえてきた。

「ふ、ふ、ふっ……俺を差し置いて菓子の話をしているのか…?」

「…あぁ…そうだ。」

「…ライト…」
メノウが不安そうにこちらに走りよってきた。

「ははっ、若いな……小僧、小娘……俺を誰だか知らないのか…?」

「いや、ホーキンズだろ?」
扉の端に身を隠しているが、ホーキンズだとバレバレだ…。知人の声ぐらい聞けばすぐにわかる。
何を遊んでいるのか…と言うか、いい年した大人が恥ずかしくないのか…?

「名前を聞いてるのではない!!…小僧…俺の職業を言ってみろ…」

「……パン屋…」

「そうだっ!俺はなんでも作れる!アップルパイだろうが、ミックスパイだろうが俺の手にかかればy「わかったから早く入ってこいよ…近所迷惑になるだろ。」
ホーキンズの台詞を横から割り込み、終わらせる。
274夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/26(水) 03:19:43 ID:zbpFSgfQ

――「ッチ……アップルパイ作ってやろうと思ったのに…」
扉の影から不機嫌気味な顔をしたホーキンズが姿を現した。

いや…不機嫌と言うより寝不足?
目の下にはクマができており、どこか体もだるそうだ。

「ホーキンズ…おまえ寝てないのか?」

「ん…?あぁ〜やっぱりバレたかぁ…」
恥ずかしそうに頭をかきながら、俺から視線をそらした。

あの店に行けるのが、そんなに楽しみだったのか…子供みたいなヤツだな。と、少し笑ってしまったのだが大間違いだった…。

「いや〜、昨日さぁ〜。あれからプッシーちゃんの所に行ってさぁ…楽しんできたんだけど、もう朝まで俺のモノ掴んで離さないわけよ?
はぁ〜…腰が抜けッブギャッ!?」

「あっ?」
ホーキンズが全て話終える前に拳骨を顔面にめり込ました。

「な、なにすんだテメーは!俺が誰だか知らねーのか!」

「パン屋だろーがッ!!おい…次メノウの前でその類いの話をしてみろ…舌切り落とすからな?」
俺と二人ならまだしも横にメノウがいる時はあまり汚れた話はしたくない。
それに、ホーキンズの話は生々しくて年頃の女の子には確実に悪影響を与えるのだ。
275夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/26(水) 03:21:16 ID:zbpFSgfQ

「グッ……わかったよ……んでっ?そのメノウはなんでライトの家にいるんだよ?」
自分に非があると悟ったのか、視線を俺から外すと、横にいるメノウに向けられた。
ホーキンズの視線に気がついたメノウは、ホーキンズと目を決して合わせず、怯えたように一歩下がって俺の後ろに隠れた。

「嫌われてるな、ホーキンズ。」

「…おまえがなつかれてるだけだろ?」
ホーキンズの言うように、なにもホーキンズだけ、このような態度をとってるわけではない…。
俺、神父、アンナさん以外と接触するのを極端に嫌がるのだ。

俺とメノウだって初めの頃はそうだった…。
決して俺とは目を合わさず、近づいてくることなんて絶対になかった。

メノウがこの町に来て一週間ほど経ったある日、町を歩いていたら飲食店で騒ぎがおきてるのを目撃し、それを覗きにいくと、何故か店内でメノウが店員に取り押さえられていたのだ。
食い逃げ容疑で捕まったらしく、神父から理由を聞いていた俺は、店員に理由を話してなんとか許してもらった。

メノウが言うには、アップルパイが店頭に並んでいたので眺めていると、店員から「アップルパイ美味しいですよ?」と言われたので作って貰っただけらしい…。
276夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/26(水) 03:21:49 ID:zbpFSgfQ

イスに座ってテーブルに置いてあるアップルパイを眺めていると、店員から
「食べないんですか?」
と言われたので、
「食べていいの?」
と返すと
「食べていいですよ」
と返事が返ってきたから食べたそうだ…。

そしたら、店から出ようとした時、捕まったと…。

この事件でますます人間恐怖症に拍車が掛かり、触れられることは愚か、人間と話すことさえ恐れている。

始めは冗談だと思ったのだが、泣きながら話すメノウを見て本気なんだと確信した。

その後、人から物をあげると言われてもついていくな…食べる店はお金がなかったら絶対に入るな。など、一般常識をゆっくりと教えてあげた。

飲み込みは遅いのだが真剣に話を聞くメノウを妹の様に感じ始め、その頃には今みたいな関係になっていた。

昨日、店に入らず店前をウロウロしていたのも、俺が教えた「店は一人で入るな」と言う言葉をちゃんと守っているからだろう。

「でっ?メノウはなんでいんの?」

「アンナさんが用事で家を空けるんだよ…だから今日一日、メノウの相手をしなきゃいけない。」

「マジか!?」

「あぁ…マジだ。」
人生の終わりのような表情を俺に向けると、大袈裟に床に座り込んだ。
277夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/26(水) 03:23:00 ID:zbpFSgfQ

確かにホーキンズの気持ちは分かる。俺だって今は見たい気持ちでいっぱいなのだ…。

「しょうがない……メノウも連れていくしかないな…」

「……はぁ?」
項垂れていたホーキンズが顔をあげ呟いた。

「別にやましいことする訳じゃあるまいし…メノウが一緒でも問題ないだろ?」

「そりゃ…そうだけど…もし、ストリップのような店だったらどうするんだよ?」

「その時は外に出ればいいだけだろ?」
確かにメノウを連れていけば問題はないのだが、どこか引っ掛かる…。
あの声の主も分からないし、危険はないのだろうか…。

「大丈夫だって…一般人が見に行けるような店だぞ?それに出店禁止令が出されたにせよ、ストリップ小屋なんかパレードの日にだせば全員打ち首でこの町に来てねーよ。」

「そうだよな…わかった…ただし、なにか危険な物を感じたらすぐに離れるからな?」

「あぁ、分かってるって。それじゃ、行くか?」

「いや…まず飯だな。」

「よっしゃッ!俺が取って置きのアップルパy「メノウ、食パンでいいよな?」

「うん、メノウ、パンでいいっ!」




「……グスッ…」
278夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/26(水) 03:25:18 ID:zbpFSgfQ
ありがとうございました、投下終了です。
279名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 07:58:55 ID:GwC8zv6l
GJ
280名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 08:28:55 ID:cTIZCDhF
正直捕えられているミクシー、俺としてはどうでもよくなってきたwメノウ、可愛いよ。メノウ
281名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 22:55:03 ID:a0+3ppg6
>>278
超GJ!!
>>280
コンテナに捕らえられてる人の事言ってるの?ミクシーだなんて一言も書いてないけど…人間かもしれないよ?
282名無しさん@ピンキー:2009/08/27(木) 03:17:14 ID:s6RLvnLF
メノウUZEEEE!
いい加減引っ張りすぎだろ・・・
283名無しさん@ピンキー:2009/08/27(木) 08:44:06 ID:elZn93q7
>>282
引っ張りすぎ?なにが?
こんなんで引っ張りすぎとか…
284wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 21:51:45 ID:nCcOMd7x
wkzです。連載第二分最終回。
ダメ女子+甘々依存属性。 今回はえっち満載ないです。
ジャンル苦手な方も冗長な文章が合わない方も
トリップNG出来るように付けますのでよろしくお願いします。
では(6)投下ゆきます。
285wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 21:54:21 ID:nCcOMd7x
              わたしの棲む部屋(6)

 視線を伏せたわたし。
 杜守(ともり)さんがどんな表情をしているのかは判らない
けれど、いつものとおり、余裕のある微笑みを浮かべているの
だろう。
 恥ずかしくて、視線は合わせるのはとても出来ないけれど、
杜守さんの唇は見える。

 ごくり、なんて。
 自分が唾液を呑み込む音がやけに大きく聞こえる。
 神様。神様なんて居ないのは判っているんですけれど、わた
しの脳内会議の一員として、この暴挙の成功を祈っててくださ
い。
 あと、懺悔が必要そうなので、今のうちにいっておきます。
 ごめんなさい。でも、この暴走ばかりは見逃してください。

 わたしは杜守さんの唇に、舌を這わせる。

 キスではなくて、甘えるために。
 杜守さんの下唇を舌先でなぞり、ちょっと荒れたその感触に
異性を感じてぞくりとする。杜守さんの膝の上のわたしの身体
には、いとも簡単にスイッチが入る。
 ただでさえ10日も杜守さんに触れないで居たのだ。その間も、
あの恥ずかしいオナニーを続けていたわたしの身体は、可燃性
の油をたっぷりぶちまけたわらの束のように燃え上がりそうに
なる。

 でも、ダメだ。
 わたしはわたしの身体に快楽を貪ることを禁じる。
 今は、杜守さんに甘えなければならない。
 宣言通りに、魂のそこから、杜守さんのために甘える。わた
しは自分自身を杜守さんへの捧げ物のように、大きなしっかり
した身体に寄せる。杜守さんの腕の中にしなだれかかって、わ
たしが少しでも美味しいごちそうに見えますようにと願う。

 ちょんちょんとノックをした舌先、わずかに緩んだ杜守さん
 の唇をくまなくおしゃぶりをして、ゆっくりと離れる。
286wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 21:54:55 ID:nCcOMd7x
「杜守さん……」
 あの、そのぅ、と言葉が空回りする。
 身体の中では押し殺された欲求が、聞き分けのない駄々っ子
のように不満の声を上げているけれど、わたしはその誘惑を受
け入れながらも、受け流す。
 そりゃぁ、自分でも判ってはいる。わたしの下半身は甘く痺
れて、下着には潤みが広がっているのだ。

 でも、それを我慢することにわたしは慣れていた。

 ヒリつくような、むず痒いような、じわじわと満ちてはそそ
のかすこの誘惑を我慢すればするほど気持ちよくなれるのを、
わたしの身体はもう覚え込んでしまっている。
 それに今は、わたしが気持ちよくなることなんかよりも、ず
っとずっと大事なことがある。杜守さんに少しでも気持ちを許
して欲しいから。そのための方法を一つしか思いつかないわた
しは、茹だり上がってパニックになりかけた自分に叱咤激励し
て、続く言葉を探す。

「甘え、ちゃいます」
「えっと、発情しちゃった?」
 杜守さんの腕が腰に回される。たったそれだけの動きにわた
しの肌は敏感に反応して、ひゃうんなどと云う声が漏れる。わ
たしはだらしなく開きかける唇から熱い吐息をこぼして、それ
でも踏みとどまる。

「はい……もう、あそこも……くちゅくちゅになって……ます
……」
 上目遣いに杜守さんを見上げる。
 うううう。

 視線があった、杜守さんが見てる。わたしの顔を見てる。
 でも、もう逃げない。逃げる場所なんて無い。
 温度をぐんぐん上昇させる自分の頬を意識しながら、恥ずか
しさに脳を灼かれたわたしは続ける。

「でも、発情してるだけじゃなくて……。今日は、わたしが、
杜守さんに……甘えて、ご奉仕する、日」
 胸が苦しくて、それだけを告げるのに何度も息継ぎを必要と
する。わたしはとんでもないことをしちゃってる自覚をもちな
がら、シャツのボタンを外す。
287wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 21:55:20 ID:nCcOMd7x
 杜守さんが見てる。
 杜守さんの視線がわたしの指先を追っている。
 変態だぁ。とは思う。じ、自分から見せつけるなんて。そん
なのおかしい、変態だぁなんて思う自分も入るけれど、これが
密かな妄想だったと判っているわたしも居るのだ。杜守さんに
膝に上にまたがって、自分からドレスシャツのボタンを外して
誘いかけるなんて、そんな妄想で1人えっちをしてしまったこ
とも、二回や三回でもない。
 自分でも、ちょっと引くくらいえっちな女子だと思う。

 でも、止めることなんて出来ない。
 わたしは杜守さんと瞳をしっかり見つめながら、時間を掛け
て白いシャツのボタンを外してゆく。もう肌が見えてるかな、
とか、胸が見えちゃってるかな、なんて云う理性的な思考は、
あっという間に蒸発してゆく。
 杜守さんの視線の熱で暖められた肌の感覚は、痛いくらいに
敏感で、ブラの裏地にこすれるだけで視界が霞むような快感を
伝えてくる。
 ボタンをすべて外したわたしは、シャツを脱がずに、そのま
まブラをすりあげる。フロントホックだったら良かったんだろ
うけれど、わたしの胸はそれほど大きくないのだ。オマケに白
一色で、デザインなんかも割と普通っぽくて、居候だから当た
り前なのだけど、色っぽくもなくて。
 それが申し訳なくて、杜守さんにせめて謝罪しようかと思っ
 た瞬間、杜守さんののど仏がこくりと動くのが見えた。

 それじゃ、そんなに不合格というわけでもないんだ。

 わたしはほっとするよりも、酔ったように発情した気持ちに
なってそう思う。杜守さん、杜守さん。こんな貧相なわたしで
も、ちょっとは良いかもと思ってくれたりしますか?
 もしわたしを抱きたいと思ってくれるのならば、出来る限り
甘く食べて欲しい。そのためにだったら、どんな恥ずかしくて
えっちなことだって出来ちゃうのです

「……胸、もう、とがってます」
 わたしは大事な宝物のように杜守さんの手を取る。長くて器
用そう指を持つ杜守さんの右手。それをわたしは両手で捧げる
ように支えて、わたしのシャツの隙間から忍び込ませる。
 ブラに無グリコませるように誘導して、コントロールするよ
うにその指に自分の指を絡ませて、しっとりとした肌に押しつ
ける。
 杜守さんの掌は熱くて、わたしび口から動物的な声が漏れて
します。わざと杜守さんの右手にわたしのそれを重ねて、自分
の胸の柔らかさを確認するようにこねてみる。
288wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 21:57:12 ID:nCcOMd7x
 とがりきった乳首が杜守さんの指先をかすめ、やがて捕らえ
られる。揉むと云うよりも揺するような刺激を加えられて、甘
い嬌声が漏れる。自分のものとは思えないほど艶っぽい声に、
頭のどこかで羞恥心が湧くけれど、それもこれも気持ちの良さ
を煮え立たせる燃料になってしまう。

「えっと、眞埜(まの)さ……ん?」
「はぁ……。はい……」
 杜守さんの声に少し戸惑いが含まれてるのが判る。でも、杜
守さん。ごめんなさい。甘く蕩け掛けた頭の中で、わたしはも
う決断してしまっている。一生に一回しか出来ない決断を、身
体の欲求でしちゃってる。

「ん……」
 杜守さんは結局何も言わず、わたしの腰を引き寄せて、抱き
しめようとする。でもわたしは、その杜守さんの手の指にしっ
かりと指先をからめて、胸に抱えるように離さない。
 抱き寄せようとする自分に抵抗するわたしを杜守さんはいぶ
かしげに見る。その視線を、出来る限り頑張って受け止めて答
える。
「だめ、です。……今日はわたしが甘えて……ご奉仕する日な
ので、杜守さんは、動いちゃ、ダメ」

 普段合わせない視線を絡めているから、恥ずかしくて、切な
くて心臓の音が耳の中でうるさいほど。
 ううう。こんな状況で表情を見られるのがこんなに恥ずかし
いなんて。わたしはきっとリンゴみたいに真っ赤に染まってい
る。えっちなおねだりをする、欲情した表情をしちゃってるん
だ。泣きそうに潤んだ瞳を、それでも杜守さんにじっと合わせ
る。

 杜守さんの表情に困惑以外の欲求もゆれてるのに、少しだけ
救われる。恥ずかしくて、胸がどきどきして、ポンコツのダメ
女子としては壊れそうだけれど、杜守さんの事を気持ちよくし
たいという気持ちだけで、わたしはつっかえながらも、かすれ
た声で再度「ダメです……」と告げる。

 胸に擦りつけた杜守さんの右手。それをそのまま捧げ持って、
キスをする。杜守さんの指先は一瞬逃げるみたいに動くけれど、
唾液をたっぷりと絡めた舌先でペロッてしたら、金縛りにあっ
たみたいに緊張してる。
 わたしは少しだけ楽しくなって、心の中でいただきますをし
てから、口の中に迎え入れる。
289wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 21:57:38 ID:nCcOMd7x
 唇で甘くかみしめるように咥えて、ぺろぺろと犬みたいにな
める。わたしは杜守さんの指先だと思うとそれだけで嬉しくて
幸せになってしまう。もちろん味が有るわけではないけれど、
幸福と欲情にたっぷりと侵されたわたしの脳は、その指先の情
報をあっさり「美味しいもの」と判定してしまう。

 杜守さんの指は美味しい。
 そう言うことだと脳が認識してしまえば、あとは一直線だっ
た。舐めてるだけで、腰が痺れて、ゆるゆるとした動きを止め
ることが出来まない。ううう、わたしえっち女子だぁ。
 おしゃぶり気持ちいい。
 指でこんなに気持ちいいなんて、その先のことを考える時が
遠くなりそうだ。

 わたしはぺろぺろしたまま、泣きそうな瞳で杜守さんを見る。
……あ、杜守さんも照れてる。それに、杜守さんだって発情し
ている。わたしの視線に気がついて、不意にそらした杜守さん
のその表情。わたしはそれだけですごく嬉しくなってしまう。
 そうかぁ。こんなダメ女子の廉価版ボディでも、杜守さんは
欲情してくれるんだ。嬉しい。嬉しすぎる。もっともっと甘え
たい。もっともっと杜守さんを気持ちよくしたい。

 杜守さんの指も手も唾液でべとべとにしながら、そっと離脱
した右手の指先で、今度は杜守さんのシャツのボタンを外す。
杜守さんはちょっと抵抗したそうだったけれど、自分でもえっ
ちくさいと思うくらいあふれた唾液で、指先をあむあむとした
ら、観念したみたいだった。

 はだけた杜守さんの胸板。あれも美味しそう、なんていささ
か物騒な考えが頭をよぎりながら、わたしは杜守さんの膝の上
を十五センチほど接近する。

 杜守さんの裸の胸に手を触れて、ちょうど良い位置を探して
腰を下ろすと、太ももの間に熱くてボリュームのある感触。そ
れが何なのか想像がついた途端、わたしはまるでお漏らしをし
てしまったような恥ずかしい快楽にさらわれる。
 固く張り詰めた杜守さんのもの。小さなため息みたいな声が
杜守さんの唇から漏れて、わたしの脳は羞恥心と、もっと湿度
の高いねっとりとした感情で一杯になる。
290wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 22:00:45 ID:nCcOMd7x
「杜守……さ……ん」
「……んぅ」
 きっとそれは、少しだけ杜守さんにお返しをしたいわたしの
欲情。杜守さんの腰を太ももでぎゅぅっと締め付ける。
 杜守さんからはスカートに遮られててまだ見えないと思うけ
れど、下着の中のあそこは杜守さんの固い下腹部にしっかりと
あてがわれて、どろどろと蕩け始めている。

「杜……守さ……ん」
「なに……?」
 わたしは無理矢理視線を上げる。杜守さんの瞳を覗き込む。
わたしがお漏らしみたいに濡らしているはしたない娘だって、
きっとばれちゃってる。

「眞埜は……」
 でも、いい。
 自分のことを名前で呼ぶなんて、とても恥ずかしい。でも、
恥ずかしいのが気持ち良いのだ。こんな甘ったるい声で媚びた
おねだりをするだけで、身も心もどろどろになってゆく。そう
杜守さんに癖を付けられちゃっている。
 恥ずかしいのに、えっちなのに、それが嬉しくてたまらない
中毒患者にされてしまっている。

「眞埜は、発情した……甘えん坊です……よ?」
「……」
 杜守さんの視線が強くなる。身体が緊張して、筋肉が震えて
いるのが判る。わたしも必死に我慢をしているから、杜守さん
の我慢が自分自身のことのように判ってしまう。

「眞埜の……からだ、えっちで……どろどろ……ですよ?」
 わたしは腰を浅く浮かせると、じれったいほどゆっくりと、
確認するように杜守さんの熱いこわばりの上に降ろしてゆく。
わたしに太ももの間の身体中で最も軟らかい肉が、杜守さんの
性器にねっとり絡みつくように。体重を掛けるその刺激で、脳
の細胞がどんどん光になって壊れるのが判る。
「うんっ」
 杜守さんの腰がもどかしそうにうねる。それを咎めるように、
強い力で太ももを締め付ける。
291wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 22:03:52 ID:nCcOMd7x
「甘えんぼでも……良い……ですか?」
 腰を揺する。重心をずらして、杜守さんの上でゆらゆらと腰
を舞わせる。それだけで、口がだらしなく緩んで、甘え声が止
まらない快感が背筋を走り抜ける。それでも、わたしは、必死
で視線を杜守さんに搦めて、自分のすべてを杜守さんに捧げ続
ける。

「うんっ……。うんっ」
「杜守さん……が」
 もう限界が近かった。
 締め付けた腰の下着とズボン越しではあったけれど、杜守さ
んの熱いこわばりが欲しくてわたしのあそこは、甘痒い切なさ
をどんどんとため込んでいる。何かにしがみついて必死にぎゅ
ぅっとしたくて気が狂いそうだった。

 でも、それでも。どうしても杜守さんに言わなきゃならい事
があるのだ。
「……杜守さんが、甘えて……欲しぃ……ときに、甘え……る
ので。杜守さんが……いないと、ダメなの……で。……杜守さ
んのものに。……杜守さんのものに、なりたいっで……す」
 杜守さんの動きが止まる。何かを必死に考えるように。何か
を追いかけて、突き止めようとするように。

「杜守……さん、が。……寂しい……時に……ぁ、あんっ。…
…甘え……ます。良い子に……してますっ」

 もどかしかった。
 わたしの脳は、やっぱりお粗末で、思ったことの何十分の一
も上手く云えない。こんな色仕掛けみたいな方法で、杜守さん
が意志を変えるはずなんて無いと判っている。けれど他の方法
なんて思いつかなくて。
292wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 22:04:16 ID:nCcOMd7x
 ……杜守さんは、たぶんわたしには想像もつかないほどセキュ
リティが固い人なのだ。杜守さんの「内側」に入るためには、
限りなく難易度の高い試験に合格する必要があって。一緒に暮
らしているだけでは、到底「内側」に入れてもらった事にはな
らなくて、わたしはいつまでも「居候だけどお客様で」。
 そう思った時の切なさと苦しさを思い出して、涙ぐみそうに
なる。
 もし杜守さんの「内側」に入れるのだとすれば、それは完全
に杜守さんの味方しかいないんじゃないか。杜守さんを絶対に
裏切らない。杜守さんが居なければ生きていけないような人じゃ
ないと、杜守さんの「内側」にはなれないんじゃないか?
 ――そう思いついたら、わたしは杜守さんに「おねだり」を
するという欲求に耐えきることが出来なかった。

 だって、杜守さんを絶対に裏切らないなんて。
 そんなことはわたしには当たり前すぎて。
 それを証明するのは目もくらむほどの誘惑で。

「杜守さん、杜守さんっ……」
「眞埜さん……」
 抱きしめようと腕を伸ばす杜守さんを必死に拒絶する。今抱
きしめられたら、ちゃんと告白出来ない。杜守さんは優しいか
ら、わたしがこんな風に自分を売り渡すことを自分からは望ま
ないと思う。でも、それは違う。全然違うのだ。
 ……わたしは、杜守さんが居ないとダメで、それは杜守さん
の側の事情とは関係なく、ただ単純にわたしが杜守さん無しで
は狂ってしまうと云うだけなのだ。
 もしかしたら、わたしと杜守さんは、こんな言葉を交わさな
くても、長い間上手くやっていけるかも知れない。
 でも、それは卑劣な行為だ。わたしはダメ女子で変態で堕落
もしているけれど、それでもちゃんと言葉にしたい。たとえ相
手から何ももらえなかったとしても、自分の「本当のこと」だ
けは言葉にしておきたい。

「杜守さんが居ないと、ダメ……です。もう、杜守さんで……
すっかり、癖になっちゃったの……です。……毎日、杜守さん
で……オナニーしてます。……いかないように、してます。杜
守さんに抱かれないと……イケないように……癖を付けて……」
 杜守さんに見られてる。
 えっちな告白をしてる、泣きそうな、でも快感にゆるんだ顔
を見られてる。杜守さんが居なくなったら行くところのない、
だめな娘の顔を見られてるっ。
293wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 22:05:00 ID:nCcOMd7x
「杜守さん、杜守さんっ。……杜守さんのこと、絶対絶対、裏
切らないです。……杜守さんの言いつけは、なんでも……云う
こと、きき……聞きます……」

 荒い呼吸と弛緩のせいで、口を閉じておくことも出来ない。
 油断するとわなわな震える唇から舌がこぼれて、透明な唾液
と共に、胸の谷間へと落ちてゆきそうになる。

「ぎゅっとして……欲しい……。撫で撫で、して……欲しぃ。
……かまって、キスをして……抱きしめて……突き刺して……。
頭の中がぁ……うぅ。真っ白になって……杜守さんの……熱ぅ
い……あぅ。その、うううぅっ。…………精液で……お腹の中
を一杯にして欲しい……ですけど」

 自分のえっちな妄想を、恥ずかしい言葉で告白する。
 もうわたしの脳はどこもかしこもスパークしていて。
 シャツが肌を擦る度に、ゆるゆると杜守さんに擦りつけてい
る下着の中でクリトリスがひしゃげる度に、まるで自白剤を打
たれたみたいにいやらしい懇願の言葉が紡がれる。

「眞埜は、良い子……なので……ちゃんと、あおずけっ……ん
くぅ……できますっ」

 杜守さんっ。杜守さんぅっ!!
 頭の中は、その名前だけで一杯になる。
 キスしたい。杜守さんの身体のどこでも良い。唇を付けて、
ぺろぺろして、全身で抱きついて、何もかも判らなくなるくら
いほおずりしたい。でも、その狂おしい欲望を押さえつけて
「良い子」であることを証明しなければならない。

「お預け……も……我慢も……、良い子……にするぅ。……し
ます、から……甘えて、ください……」

「眞埜さん……」
「甘えて……杜守……さ……」
 甘えて欲しい。油断して欲しい。
 入れて欲しい。
 杜守さんの「内側」へ。
 そうしてくれるなら、わたしなんてどうなってもかまわない。
杜守さんの居ないこの部屋で一ヶ月放っておかれても、杜守さ
んが甘えてくれるなら、かまわない。

「うぅ。うー。……か、か、飼い主様ぁ」
 自分の死刑執行書類にサインをするような気持ちで、心の中
で呼びかけていた秘密の呼び名を杜守さんに告げる。
294wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 22:07:54 ID:nCcOMd7x
 不意に強い力で引かれる。
 杜守さんの腕の中というよりは胸の中に。息苦しいほどに抱
きしめられて、頭がくらくらする。杜守さんだ! すごいっ。
杜守さんなのだ! 頭の中は、幼児退行しちゃったようにそん
なバカみたいな言葉がリフレインしていて、わたしはもがくの
も忘れて、自分からもしがみついてしまう。

「埜間さん、可愛いすぎ」
 ぼそりとした声と共に、わたしはがばっと抱き上げられる。
いつの間にか体勢はお姫様だっこだった。女子憧れのこの姿勢
だけど、杜守さんの方にはいっこうにそんな情緒はなくて、怪
獣のような足音を立てて居間を横切る。

「ひゃんっ!?」
 杜守さんは、自室のドアも半ば蹴飛ばすように開けて布団の
上にわたしを放り出す。厚い羽毛布団の中に埋もれるように沈
んでしまうわたし。
 杜守さんはそんなわたしに覆い被さって、「脱がしちゃうか
らね」と告げる。わたしはこくこくと頷く。ちょっぴり杜守さ
んが怖かったのは本当だけれど(何しろ杜守さんはえっちの時
になると、相当いじめっ子になるのは前回身にしみている)、
良い子になると宣言してしまった直後のタイミングでNOなん
て云えるわけがない。

「甘えても良いんだよね?」
 杜守さんの言葉に、わたしははっきりと頷く。杜守さんは…
…えっちの最中は、意地悪なドSなので、甘えさせてあげたら
どんな要求をされてしまうか判らない。でも、わたしはわたし
の全部を杜守さんにあげるって決めてしまった。
 身体も心も捧げて、そして、ちょっとだけでも杜守さんの何
かを購うと決めたから、恥ずかしいけれど、ちょっぴり怖いけ
れど、躊躇いはない。

「……うん」
 杜守さんはちょっと視線をそらして、照れたような表情で、
わたしのドレスシャツを脱がせる。もうずれきってしまったブ
ラジャーからも肩を抜き、マーメイドラインのデニムスカート
を脱げば、わたしに残されたのは、シンプルなショーツ一枚だ。
295wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 22:08:34 ID:nCcOMd7x
「隠しちゃ、ダメ」
 うううう。杜守さんはいじめっ子だ。
 わたしの自慢できるほどのサイズはない、かといって貧乳で
もないという、なんだか一番どうでも良い「標準から云えば、
ちょっと小さめ?」くらいの胸を杜守さんは蛍光灯の明かりの
中にさらけ出す。
 冷房のきいた空気の中で、乳首がかちかちに期待しちゃって
熱を持ち、とくとくと鼓動しているのが自分でも判る。暑くて
暑くて目眩がしそうだけれど、これはわたしの身体の温度。

 杜守さんは小さく微笑うと「両手は耳の横、小さな万歳で、
シーツも握っちゃダメ。……掌はゆるーく開いてね」なんて云
う。わたしは何でそんなことを云うのか判らないまま、仰向け
に横たわり杜守さんにすべてを晒してしまう。

 始めに感じたのは呼吸。怖くて目をぎゅっとつぶっていたわ
たしは、杜守さんの頭部がすぐそばにあったのも判らないくら
い錯乱していた。
 肩にキス。くすぐったい感触が、ぞくぞくした強いスリルに
変わる。首筋に熱い息がかかると、まるで痙攣するみたいにわ
たしの下肢に力が入ってしまうけれど、その直後のキスで魂ご
と緊張が吸い出されれてゆく。
 鎖骨を舐められるのは、自分でも訳がわからないほど扇情的
な感覚で、さして経験も深くないわたしはそれだけでも妄想が
止まらないほどえっちな気分になる。

 杜守さんの唇が続いて降りてゆくのは、わたしの胸。
 来たるべき衝撃に備えてわたしはぎゅっと目をつぶる。荒い
呼吸。とどろく鼓動。わたしの身体はいつからこんなにけたた
ましくなってしまったんだろう。100m走をしたかのような呼
気。わたしがこんなにはぁはぁしていて、杜守さんに嫌割れた
りしたらどうしようとか、そんなネガティブな思考だけがぐる
ぐるしてしまう。

 ……数瞬。刺激が来ないことをいぶかしく思ったわたしが、
そぉっと目を開くと、意地の悪い微笑でわたしを覗き込む杜守
さんと視線が合う。杜守さんがにこっとした瞬間、その指先が、
完全に無防備なわたしの脇腹をさぁっと撫でた。
 くすぐったいのと気持ち良いのの混ぜこぜになった感覚! 
「ひゃうっ」なんて声を我慢できずにもらすわたしを顔を、杜
守さんはじっくりと眺めながらおもむろにわたしの胸に唇を付
ける。
296wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 22:09:00 ID:nCcOMd7x
 ごめんなさい、ごめんなさい。
 えっちな胸でごめんなさい。
 何でわたしはこんなになるまで胸を放置しちゃってたんだろ
う。頭の中が後悔で一杯になるほど、わたしの胸は我が儘で。
もはや持ち主であるわたしよりも、ずっと杜守さんに懐いてし
まっている。
 だって、杜守さんがキスをするたびに、膨らみの奥がじくじ
くするほど疼いて、柔らかい舌先が乳首を捕らえると、花火が
上がったような気持ちよさが爆ぜるのだ。
 ううう。むねが、杜守さんのモノに作り替えられちゃう。
 身体が杜守さんのモノになっちゃう。

「だーめ」
「ひゃぅ?」
 もはやまともな志向も出来ないようなわたしに、杜守さんが
言い聞かせるように言葉を続ける。
「手のひらをぎゅぅって握っちゃ、ダメ。さっきお願いしたで
しょ?」
 ――そういえば、言われた気がする。わたしは羊毛がぎっし
り詰まったような脳内でそう考えて、腕の力を抜く。……あれ、
手のひらをゆるめると、身体の力も抜けちゃうんだ。
 杜守さんは褒めてくれるように頷くと、わたしを見つめなが
ら充血して熱を持ったわたしの胸に、ふるんと揺れを送り込ん
でくる。その甘い爆発で、わたしはの身体にはぎゅぅっと力が
入り、再び手のひらも握ってしまう。

「だーめ」
 ううう。そんなこと云われたって……。

「これは『おねだり』。眞埜さんが、ゆるゆるになって我慢で
きなくなっちゃうところ、見せて?」
 悪魔だ。地獄の変態ドSだ。わたしは、おずおずと身体の力
を抜く。杜守さんはにこにこすると、軽いキスをわたしの胸に
まんべんなく振らせる。

297wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 22:09:31 ID:nCcOMd7x
 気持ちいい。とろけちゃう。
 杜守さんに食べられちゃう。おかしくなっちゃう。
 胸の先っぽがじんじんする、腰の奥から止めどないほどあふ
れて来ちゃう。

 身体中の気持ちよい場所を、杜守さんに発見される。発見さ
れただけじゃなくて、撫でられて、つままれて、キスされて、
唾液でぬるぬるにされて……。ううう、想像しただけで頭が煮
えちゃうようなえっちな方法で、ほじくられて、かき回されて、
どろどろの中毒患者にされてしまう。

 新しい刺激を受けるたびにわたしの身体は防御しようとする
ように緊張にこわばる。杜守さんはそのたびに愛撫を中断して、
わたしが身体の力を抜いて杜守さんに従順になるまで、待って
てくれる。――うわ、わたしはいま「待っててくれる」なんて
考えた!! 嘘、嘘だぁ! 待っててくれるんじゃなくて、絶
対絶対調教されてるだけなのですよ。
 それを「待っててくれる」なんて、わたしはもう杜守さんに
完全にめろめろなんだ。頭の中まで、しつけられちゃっている。

「だいじょぶ? 眞埜さん?」
 杜守さんが、何か言ってる。
 わたしは杜守さんの言葉に集中して、何とか頷く。

「まだブレーキ踏めるけど、この辺にしておく?」
 ああ、そうなんだよなぁ。わたしは不意に突き上げてくる愛
おしさで、はっきりと首を振る。違和感の正体は、これだった
のだ。
 杜守さんは、セキュリティが厳しい。優しいけれど、どこか
に一線を引いた距離感を保てる人。ちゃんとした、大人の人。

 でも、だから臆病でないなんて誰が決めたんだろう。
 大人は臆病じゃないなんて、いつから信じ込んでしまってい
たんだろう。

「……ダメで……す」
 杜守さんがあまりにも何でも出来るから、わたしに優しくし
てくれるから、杜守さんには弱点なんて一個もないとわたしは
思い込んでいたけれど、そんなことはありえなくて。

 何でも出来る杜守さんは。優しくて大人の杜守さんは。
 甘えることが、とても下手なのだ。

「わたしは……杜守さんのモノなの、で……。杜守さんの、ど
んな『おねだり』……も……良い子に……できま、す」
 杜守さんの身体の中で、ざわりと動く気配がわたしにも判っ
た。大丈夫、わたしは、杜守さんだけのもの。そうなれる。
 杜守さんが居ないと惨めなダメ女子のわたしは、杜守さんが
居なくなったら消えてしまう。
298wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 22:13:39 ID:nCcOMd7x
「くふぅ……ひゃぅ」
「ううう、恥ずかしいです……そ、そこは……」
「はぅん。……いじめっこ、いじめっこ。……うー。ごめんな
さい」

 身体をゆるめるのって、すごいのです。
 もう、完全に無防備。気持ちよいことをされても、何の抵抗
も出来ない。触られる場所がどこであっても、杜守さんに食べ
てもらうためだけに存在する性感帯になってしまっているのだ。

 そのくせどんな場所を触られても決定的な刺激にならず、思
考がどろどろ発酵していくようないやらしい気持ちよさと、赤
ちゃん扱いされて幸福感と羞恥心とで癖を付けられてしまうよ
うな甘ぁい甘ぁい恐怖感が、交互に、時には混じり合って襲っ
てくる。

 波打ち際に放置されたみたいに、その快楽の波は定期的には
高まって、わたしをさらっていって、その度に理性はどんどん
蒸発して、わたしは杜守さんの事しか考えられなくなってゆく。

 いつの間にかショーツも脱がされていて、杜守さんは太もも
までぬらしてしまったあそこを、くりくりと可愛がってくれて
る。そのぱちぱちと弾けるような快楽は、いつものわたしだっ
たら全身をぎゅっと丸めて麻痺しているところだけれど、身体
中の筋力が抜けきってしまったわたしはもはやそんなことも出
来ない。ただひたすらに気持ちよくて、身も心も甘やかされきっ
て弛緩している。

 かき回して欲しいというヒリつくような欲情とは別の、……
そのぅ、恥ずかしい……おしっこを我慢してるような感覚が湧
きあがって来る。でも、それは不快な事だとも思えない。
 居ても立っても居られないような、どこかにしがみついて思
いっきり擦りつけたいような狂おしさが定期的に、じわーっと
せり上がってくる。その波が来るたびに、力が抜けきった下肢
はけだるく弛緩して、いやらしくうねっておねだりの姿を見せ
てしまう。

 多分、わたしはさっきから何度もイっちゃっている。
 でもそれは経験したことがある絶頂とは似ても似つかなくて、
甘やかにゆるゆると登っていって、とろりとしたミルクのお漏
らしをしてしまうような気持ちよさ。脳内がどろりと濁って思
考が出来なくなる。
299wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 22:14:12 ID:nCcOMd7x
「あぁ〜。うぅぅ……ぎゅぅ、したい」
 だから杜守さんがのしかかり、入ってきた時もきついとか痛
いということが全くなかった。あまりにも滑らかにぬるんと入っ
てきてしまったので、わたしは恥ずかしくてまた感度が1オク
ターブ上がってしまう。
 全身の筋肉を断ち切られたかのように全く力が入らないのだ。

 わたしの身体はだらしなく開ききって、無防備に杜守さんを
迎え入れてしまっている。杜守さんを気持ちよくしてあげたい
けれど、わたしの口からは甘いうめき声しか漏れてこない。
 杜守さんに入れてもらってるあそこだけじゃなくて、全身が
気持ちよかった。こすれている胸先も、揺する腰も、はしたな
く広げてしまった脚の関節さえもが気持ちよい。きっと脳が幸
せでやられてしまって、わたしは杜守さんのすることをただた
だ嬉しく感じることしか出来ないのだろう。

「いいよ。ぎゅってして」
 それは激しい交わりと云うよりも、身体を深く重ねて抱き合っ
ているだけの行為で。杜守さんを一番深くまで受け入れたわた
しはただじっとしているだけだったけれど、それでも波にもま
れる小舟のように甘い疼きに翻弄されてしまう。
 長いじれったい愛撫と度重なる弛緩と緊張で、幸福に蕩けきっ
た身体は杜守さんの脈動だけで天国の欠片を全身に浴びてしま
う。抱きしめたいけれど、ぎゅぅってしがみつきたいのだけれ
ど、腰にも腕にも力が入らない。まるで全身のゴムが伸びきっ
て役立たずになってしまったように力が入らない。
 わたしは、杜守さんの背中に回した手を、子供のような力で
這わせる。

「もう、だめ? ……つらい?」
 杜守さんの笑いを含んだ声。わたしがどんなに蕩け切っちゃ
って、クセになってしまっているか判っているのにそんなこと
を訊ねてくるのだ。

 ……いいのだ。
 杜守さんがそのつもりなら、わたしにだって考えがある。
300wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 22:16:33 ID:nCcOMd7x
 杜守さんの永遠の味方。
 杜守さんがどんなに甘えても、格好悪くても、失敗をしても、
きっとわたしよりずーっとすごい。杜守さんが居なければ情緒
を保てないくらい、杜守さんにメロメロなわたしは、絶対に杜
守さんを裏切らない。

 好きだな。
 わたし、杜守さんの事、大好き。

「良い子、します……だからぁ……」
 わたしはもぞもぞと動くと姿勢を直して、仰向けに寝転んだ
まま、二つの手を両耳の脇に上げる。それは喉もお腹も見せて
しまう、絶対従順の降伏の姿勢。
 軽く握って力を抜いた赤ちゃんのような手のひらをふにふに
させながら、太ももさえもじわじわ開いて、女の子の弱点とい
う弱点を全部杜守さんにゆだねる。

「して? ……杜守さん以外……じゃ……ダメになるように…
…して?」
 ううう。恥ずかしさと甘ったるい快楽で、言葉がもつれる。
 今のわたしはどうしようもない恥ずかしい女の子だ。
 唇からも太ももの間からもだらしない蜜をこぼして、全面降
伏の姿で、杜守さんの発情を誘っている。杜守さんに甘えて欲
しくて、とても他人には見せられない、媚びた姿を晒している。

「ちゃっと、力を抜いて……」
 杜守さんののど仏が動く。
「言いつけに……した……がいますから……いいこいいこって
……シテ……ください……」

 杜守さんが降りてきて、ぎゅぅっと抱きしめてくれて。可愛
いよ、って云ってくれた。ううう、それだけでお腹の底が、ひ
くひくしてる。あそこの内側からきゅぅっと蜜を絞り出すよう
な、じれったくて待ちわびるような疼きの恥ずかしさって、男
の人には絶対判らないんだろうな、なんて思うのだけれど。
 杜守さんの言葉がいつもみたいに余裕たっぷりのいじめっ子
と言うよりは、少し照れくさそうだったので、わたしは全てを
許したくなってしまった。
301wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 22:17:40 ID:nCcOMd7x
ごめんなさい
299と300、逆でしたっ。以下続行。
302wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 22:19:22 ID:nCcOMd7x
「飼い主様ぁ」
 わたしはほてった顔で出来る限り無邪気そうに微笑みながら、
自分でもやり過ぎだと思うほどの甘い声で杜守さんに呼びかけ
る。
 ぎくり、と杜守さんの身体に力が入るのが判る。わたしの中
に埋め込まれた杜守さんがびくんと跳ねるのだって、わたしに
は判ってしまう。
 内心では照れくさくて恥ずかしくてパニックになりかけてい
るわたしだけど、そんなことは押さえつける。ううん、押さえ
つけるまでもなく、いまのわたしは「えっちな娘」になってし
まっているのだ。普段のわたしなら出来ないけれど、こんなに
ピンク色にのぼせ上がった状態なら、こんなことだって出来て
しまう。

「飼い主様ぁ」
 甘えるように、懐くように微笑みながら、頬のすぐ横にある
杜守さんの腕にうっとりと頬を擦りつける。杜守さんのものが
、またひくりと大きくなる。
 さっき居間の時も、この呼びかけで杜守さんが動揺しちゃっ
たのは忘れたりしないのだ。杜守さんが意地悪するなら、わた
しだって少しくらいお返しをする権利があるはずだ。
 それは……多分自分自身の変態を認めちゃう、自爆テロに近
い攻撃だけど。杜守さんに甘えるのが気持ち良いって癖を付け
られちゃってるんだから、こんな呼びかけしてわたしの方だっ
て無事に済むはずがない。甘えるような声を立てれば立てるほ
ど、わたしのあそこはくちゅくちゅと噛みしめて、どんどんわ
たしも登っていくのが判る。
 それでも杜守さんが動揺して、動揺以上にわたしの甘い声に
反応しているのは、わたしのなかにざわざわした優越感とうっ
とりするほどの幸福感を呼び覚ます。

「飼い主様ぁ……して?」
 腰を揺する。わたしは飽和しそうな心地よさだけでどんどん
とえっちになってゆく。腰を揺する度に深く埋め込まれたもの
が粘膜の中で微妙に動いて、甘痒い刺激で脳が蕩けそうになる。
発情して、杜守さんしか考えられなくなって、わたしは微笑む。
303wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 22:20:07 ID:nCcOMd7x
 ずるい。
 ずるい。
 飼い主様にこんなに幸せにされたら、甘い声も、えっちな微
笑みも止められるはずがない。わたしはくぅんくぅんと仔犬の
ような鼻声をだしながら、潤んだ必死の視線でおねだりをする。

 ぎゅむん、ねじりこまれるような、奥まった内蔵をすりつぶ
されるような衝撃。わたしはお腹の底から呼吸をしぼりだされ
る。音も熱もない乳は苦笑のまぶしさだけが脳裏を占める。後
頭部が痺れるほどの快美感。

「眞埜さん、そうゆーのは、反則っ」
 もう一つ。
 さらに一つ。
 杜守さんが奥まで突き刺して、ぐちゅぐちゅにかき回して、
ほおばりきったわたしの甘痒い所も、ヒリついたところも満遍
なく擦り立ててくれる。わたしの口からは、断続的な啼き声と、
飼い主様、飼い主様というかすれた呼びかけが途切れることな
く続く。

「うー。判った。……するから。眞埜さんが欲しいから。うう
ぅっ。ずるいなぁっ」
 何度も何度も疲れて、その度に沸騰しそうな背骨を、甘美な
電流が走り抜ける。だらしなく舌をこぼした唇がわなわな震え
て、飼い主様に気持ちよくなってもらって褒めてもらうことし
か考えられなくなる。

「飼い主様。飼い主様ぁっ……。ぎゅ、して……甘えて……好
き、大好きっ……いいこするからぁ……。もっと、熱いっ……
あんっ。くださ……奥ぅ……シて、んぅっ!……欲し……」
 飼い主様はわたしを痛いほどの力で抱きしめてくれた。一分
の隙間もないほどみっちりと詰まったわたしの内側を、飼い主
様の熱い固まりが充たしている。奥に擦りつけられるような動
き。
 それだけで何度も何度も登り詰めて、わたしは幸福感で真っ
白に塗りつぶされてしまう。

 抱きしめられる。
 繋がって、弾けて、甘く充たされる。
 さざ波のように繰り返す痙攣の中で、蕩けきった心は杜守さ
んと同じ桃源郷に行って戻ってこれなくなってしまう。
304wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 22:21:33 ID:nCcOMd7x
「ぅぁ……」
 わたしは布団の中で身もだえする。目下タオルケットを巻き
付けた体勢で、茹だりきっているのだ。
 もちろんわたしを背中から抱きしめているのは杜守さん。
 あれからもう一度抱かれてしまって、多分真夜中をすでに回っ
てしまっている。

 ううう。いくら何でも今回のはやりすぎだ。前回の発情えっ
ちも変態でえろえろんでやりすぎではあったけれど、それにし
たって今回ほどじゃなかったように思う。
 ううう。自分が杜守さんに言ってしまったこと、やってしまっ
たことを思い出して身もだえする。変態というか、これは世間
で言うところの……ち、痴女に当たるのではないだろうか。そ
りゃ、多少は自覚があるけど。わたしは妄想癖もあるしきっと
えっちくさいダメ女子なのだ。

「ぅぅー」
 さらにそのうえ度し難いのは、こんなに身もだえするほど恥
ずかしいのに、実はあんまり困った気分になれていないのだ。
理性の方は、大きな問題を感じている。いくらなんでもこんな
えっち娘では愛想を尽かされてしまうと思ってる。でも。心の
方は勝手に幸福感をかんじとっていて、わたしがこんなに困っ
ているというのに、頬が緩んで笑みが浮かぶのを止められない。
 心さん、もうちょっと協力的になってください。同じわたし
なんですから。これじゃ泣きそうです。もうわたしは再起不能
かも知れません。

 それにやっぱり、杜守さんは意地悪のドSいじめっ子だ。あ
んなゆるゆるえっちを教えられたら、抵抗出来ない。身体も心
も際限なく甘えん坊になって、杜守さんと一緒のベッドに入る
だけで、どんな「おねだり」にも無条件降伏したい気分になっ
てしまう。強制的に懐かされているというか、こうして抱きし
められていても、指先が勝手に杜守さんの身体を探検しそうに
なったり、脚を絡めたくなったりして大変なのだ。

 一緒に眠る安心感と浄福の幸せを知ってしまったわたしは、
これからロフトで1人で寝るのが寂しくなりそうな気もする。
でも、それもしかたない。1人でいなければならない時は「良
い子でお留守番」すると約束したのだ。おそらく仕事場でも頼
られている杜守さんへの、それは出来る限りの協力。
305wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 22:22:02 ID:nCcOMd7x
――1人で何でも出来ちゃうと、頼るのも甘えるのも忘れてし
まうから。
――どんどん無駄をそぎ落として、シンプルになっていける。
けれど、余計な部品を取り外していくと、動機も優しくしたい
気持ちも取り外してしまうんだよ。幸せかどうか考える部品も、
外しちゃうんだ。

 身体を重ねたあと、杜守さんは小さい声でそんなことを教え
てくれた。その言葉の意味はわたしにはちょっと難しかった。
完全に理解しきれないし、わたしは杜守さんにはなれないから、
実感は永遠に出来ないのかも知れない。
 けれど、良く判らないなりに、杜守さんも、つまり「何でも
要領よく出来てしまう人」というのも、それなりの苦しみや辛
さがあるんだろうなって思えたのだ。
 杜守さんの言葉は、だから杜守さんなりの意味合いで「眞埜
が欲しい」と言われたような……。ううん、そんなことを考え
ただけで恐れ多いという気分になってしまうのだけれど。
 こんなダメ女子が何の役に立つのか判らないけど。もし、わ
たしが杜守さんに甘えることによって、杜守さんが何かを失わ
ずにすむのなら、優しくなれるのなら……。あまりにも傲慢で
思い上がった考えかも知れないけれど、わたしは杜守さんにとっ
ての「良い子」になりたい。

 杜守さんが、ううん、飼い主様が「そうだ」と言ってくれる
なら。料理の上手な娘になりたい。か、か、かわいい娘にもっ、
頑張って、なってみたい。本当はなりたかったのだから。それ
から、そのぅ胸の大きい娘にだって……なりたい。
 なれると、良いな。ううん、なる。ダメ女子でも、「欲しい」
って云ってくれるなら、わたしは恩返しをする。
 どうせ杜守さんが居なければ、ダメダメ女子なのだし。

 そういえば、杜守さんは時期をずらしたお盆休みなのだった。
 今度こそ料理を作ってあげなければ。ほんのちょっぴりだけ
ど、作れるレシピだって増えたのだ。杜守さん、杜守さんで飼
い主様。どんな食べ物ならば美味しいって云ってくれますか?
 わたしは、わたしを閉じ込める杜守さんの腕の中でもがいて、
水面へ顔を出すイルカのように布団から浮上する。

「杜守さ……」
 タオルケットから鼻の上を覗かせたわたし。抱きしめてくれ
る飼い主様の腕は温かくて、泣きたくなるほど安心感を与えて
くれて、ここが憧れていたあの場所だという確信を与えてくれ
て。
 そしてわたしは――。
 杜守さんの寝顔初めて目撃したのだった。
306wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/27(木) 22:24:39 ID:nCcOMd7x
以上投下終了、お目汚しでした。
とりあえずBパート杜守編おしまい。
多分、こうゆう依存も有るのかなぁ、と。
ダダ甘依存で、趣旨とはもしかしたらそぐわないのかも
知れませんが、読んでいただければ嬉しく思います。
ではでは! 流浪投下にもどります。またっ!
307名無しさん@ピンキー:2009/08/27(木) 22:42:11 ID:zHJ9rb37
GJ!
読んでいてこっちまで恥ずかしくなっちまった。
そんでこっちまで幸せになった。
308名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 00:55:35 ID:wJT8Taeq
>>306
よかった!マーマレードサンドか唐揚げを奢ろう!!
309名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 03:27:43 ID:f45rE8Bn
>>306
1から10まで同じような話で飽きてくる。
ストーリー性が皆無。
>>278
「会話」

「会話」
こんな感じで会話の間に隙間をいれたら違和感がでる。
310名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 05:30:59 ID:61QMzoRZ
おまえさんこのストーリーが読み取れないのか…
なんか、可哀想だな
311名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 05:45:18 ID:aB/tWPbK
大方この話の表面だけ読んでとりあえず書いてみたってとこだろ
きちんと読んでたらストーリー性皆無とか言えるはずないもんな
312名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 06:24:39 ID:61QMzoRZ
良かった安心したわ。
この話をきちんと読み込んでストーリー性皆無なんて言う可哀想な人はいないんだな。
313名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 06:55:03 ID:R3aGGNvh
>>297
GJ
誤字どうにかなんない?
314名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 09:13:13 ID:/9Nl84ih
甘々すぎて吐き気をもよおすほどGJだ!
素晴らしい依存だ。こりゃ居候→結婚で一生依存コースだな
俺もエロいダメな子に依存されてぇよ…

なんか頭が可哀想な子がいるけどピクルばりの金玉アッパーしとくんで気にしないでくださいね
315名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 10:46:36 ID:5STYqE5/
GJGJ!!!
かわいすぎる!!
316名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 13:09:08 ID:5wtoQPhO
なんか以前お付き合いした年上の人との関係に似てるなぁ。
もちろんひきこもり状態ではなかったけど。
317名無しさん@ピンキー:2009/08/29(土) 01:24:09 ID:MN/SC5ju
ふーん
318名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 14:16:27 ID:W6/kmPrw
〉〉316
kwsk
319 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:04:13 ID:dr57vIpD
投下します。
夢の国のほうです。
320夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:04:45 ID:dr57vIpD

――「……ほらな?飯なんか食ってるから……」

「いや、まぁ…悪い…」
ホーキンズが腰に手をあて、ジト目で此方を睨んでくる。
朝食を食べ終え、中央広場に三人並んで気楽に歩いてきたのだが…。流石にこの光景を見ればホーキンズが怒るのも無理はない。

「ねぇ、ライト…ここでなにがあるの?」
隣に並んでいるメノウが、周りをキョロキョロとしている。
並んでいると言うよりは、しがみついているが正しいのか…。
片手は俺の服を掴み、もう片方の手は迷子にならないようにしっかりと俺の手を握っている。

「あぁ、あそこにでっかいテントがあるだろ?

…見えるか?
あの中でなにかあるらしいんだ。」
この場所からは少し見えにくいが、テントの天辺部分が木々の隙間から見えるので、その場所を指差しメノウに教える。

広場まで来た…と言ったが実際は、まだ広場に到着していない…。
どういうことかと言うと、俺達が来た時にはもう既に広場前の歩道にまで客がごった返していたのだ。

無論俺たちも列に並んでいるのだが、先が見えないのでいつになるか…。

「まぁ、あんなでっかいテント張ってるんだから、一人、二人をチマチマといれないだろ。すぐだよ、すぐ。」
321夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:05:40 ID:dr57vIpD
ホーキンズの言うようにテントはかなりデカイ。軽く50人は入ると思う。

俺達の前に並んでいる人は多分70人ぐらい…。後ろを振り返り、俺達に続いている列の続きを確認すると、後ろも先が見えないぐらい並んでいるのが確認できた。
やはり、町の真ん中にあれだけでかいテントを張れば、珍しさ見たさに人が押し寄せてくるか…。

「おっ?ほら、列が動くぞ。」
疲れたように地面に座り込んでいたホーキンズが待ちわびた様に立ち上がる。
それと同時に俺達の前に並んでいた人達も、ゾロゾロと広場の方へ列を成して進んでいく。

「これなら、すぐに入れそうだな?」

「あぁ、何時間待たされるかと思ったよ…。」
前にいた者達はあっという間にテントの中に収まり、俺達も難なく広場の入口までこれた。

なかに入る人と入れ違いにテントの中からも人が次々と溢れ出てくる。
テントの中から出てきた者は皆、どこか興奮しておりテンションもかなり高いようだ。

「おい、あんた、ちょっと待ってくれ!」

「んっ?なんだよ、兄ちゃん。」
興奮気味に出口から出てきた中年男性に声をかける。
顔を見る限りかなり楽しい物を見て来たようだ。
322夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:06:34 ID:dr57vIpD

「ちょっと聞きたいんだが……中で何が行われているんだ?」

「へへっ…気になるのはわかるが、それは中に入るまで我慢したほうがいいぞ?俺の口から聞いたら楽しみが無くなっちまうからよ。」

「いや、そうじゃなくて…女や子供を中に入れても大丈夫なのか?」

「あぁ、それは大丈夫だ。まぁ、楽しんでこいや。」
そう言うと含み笑いをしながらスキップ気味に人混みの中へと消えていった。
中年のスキップ姿に、なにか痛々しさを感じながらも、少し安堵した。
中年男性が言うように出口からは小さい子供を連れた親子の姿も見える。
やはり、サーカスの類いか?
人が喜ぶとしたらモンスターを調教して何か芸をさせるとかその程度だろうか…。
あまり想像できないが、ここまで引っ張られると正直期待してしまう。



――「……んっ?……ッチ、なんだよクソっ!」
突然、前に並んでいる一人の男性がイラついたように呟き、鬱陶しそうに空を見上げた。
それにつられて周りにいる人達も次々に空を見上げていく…。

「あぁ〜あ……降ってきたよ…」

ポタッ、ポタッ、と空から小粒の雨が落ちてくる。
323夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:08:17 ID:dr57vIpD

誰も雨が降って来るとは思っていなかったのだろう。傘なんて誰も持っておらず、皆急いで歩道沿いに並んでいる木々の下に身を隠した。

「思ったより台風早く来るかも知れないな?」

「そうだな…風も少し強くなって来たしな。」
海に広がる空に目を向けると、黒い雨雲が此方に近づいてくるのが見える。
あの船員は四日後…と言っていたが、二日後には嵐がもうこの町に来るかもしれない。

「…メノウ寒いか?」

「ちょっとだけ…寒い…」
暖かかったので薄着でも大丈夫だと思ったのだが。雨がふり、海から吹いてくる風が強くなっているので気温が低下したみたいだ。ワンピース一枚のメノウには流石に堪えるだろう…小さい耳がプルプルと震えている。

「ほら、風邪引くから…これ着てろ。」
着ていた上着を脱ぎ、メノウに羽織らせる。

「ありがとう、ライトっ!」
満面の笑みでお礼を言うと、周りの目を気にせず俺の服に顔を埋め鼻歌を歌いだした。


「すーはーっ♪すぅーはぁーっ♪」
いや…鼻歌を歌ってると言うより鼻息が荒いだけか…。
324夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:08:55 ID:dr57vIpD

――「さぁ〜、さぁ〜、次の列に並んでいるお客様。前に進んでくださいよ〜っ!」


周りにいる人間と雑談をしながら時間を潰していると、入り口から団員らしき人物が姿を現した。
白いスーツに蝶ネクタイが妙に胡散臭い…。

その白スーツの隣には、白い犬の着ぐるみを着た奴までいる。その手には色とりどりの風船が持たれており、並んでいる子供達に配っているようだ。

「んっ…?どうした、メノウ?」
先程まで俺の服に顔を埋めていたメノウが、犬の着ぐるみを見た瞬間、ピタッと固まってしまった。

「……わんわん…」

「えっ?」

「……わんわん、こっちくる…」

わんわん…と言うのは犬の事らしい…。
確かに犬の着ぐるみを着た人物は、風船を子供達にわたしながら此方に歩いてくる。

「…」
メノウの耳と尻尾が立っているので、犬の着ぐるみに対して強い警戒心を抱いているようだ。

「別になにもしないって……ほらっ、風船貰えよ。」

「や〜っ!!」
俺の前まで犬の着ぐるみが歩いてきたので、後ろに隠れているメノウの手を掴み前に出そうとする……が、俺の右足にしがみつき一切離れようとしない。
325夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:09:41 ID:dr57vIpD

「はぁ〜……ありがとう。」
仕方なくメノウの代わりに風船を受け取る。

犬の着ぐるみが風船を子供達に配る間、メノウは一切犬の着ぐるみに対して警戒を怠らなかった。と言うより見つからないように必死だった。

「おい、ライトっ。中に入れるぞっ!」

――犬の着ぐるみが皆に風船を渡し終えると、広場に設置してある小さな門がゆっくりと開いた。

それと同時にテントの中から先程入っていった人が次々と出てくる…。一度目と同じように皆、かなり興奮してるようだ。

スゲー!
もう一度見たいっ!
欲しいっ!
テントから出てくる人々の声を聞くと、やはり高評判な物が中にはあるらしい。

ただ、俺が考えていたサーカスの類いでは多分無い…。
俺達の前列がテントに入って、まだ三十分そこらしか経っていないのだ。

「なんだろうな…?ここまで待たされるとかなり期待するよな?」

「あぁ、そうだな。」
広場前の窓口でメノウと俺、二人分の入場料を払い、入場券を貰う。

メノウも犬の着ぐるみから離れたので安心したのか、俺の手が離れない範囲でウロチョロしだした。
同じようにホーキンズも入場券を窓口で貰い、三人でテントのある場所まで歩いていく。
326夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:10:53 ID:dr57vIpD

「一番前の人から押さないように中にお入りくださぁ〜い!あっ、入場券はテントの前にいる人に渡してくださいねぇ〜!」

「はい、はい。」
テント前にいるバレン兵に入場券を見せ、テントの中に入る。

また、メノウの耳が少し立ったが、先程とは違い暗い場所にいるので軽く警戒してる程度のようだ。
メノウに風船を渡し座れる席を探すが、最前列の席は全て埋まってしまっている。仕方なく、中段の席に三人で座ることにした。
少しステージから離れているので見にくいが、この場所ならメノウに何かあっても出口が近いので、すぐに抜け出せる。

そんな事を考えながら軽く周りを見渡していると、ものの5分で全席が客で埋め尽くされ、入って来た入口がバレン兵によって閉ざされた。

「なにが、始まるんだろうな?」
ホーキンズが興味津々にステージを眺めている。

「多分見せ物小屋とかだろ……おっ?始まるぞっ!」
照明がステージを照らす。
恥ずかしいとに一瞬テンションが上がり、ホーキンズより先に声をあげてしまった。

照明が照らすステージの上には先程、客入れをしていた団員らしき白スーツの男が一人立っている。
327夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:11:34 ID:dr57vIpD

「今日この場所に足を運んでいただき、誠に有難うございます!
私、ここの団長を勤めさせていただいております、コーセツと申します。
よろしくお願い致します。」
礼儀正しいのか、ふざけているのか…にやけた顔つきで自己紹介を終えると、深々と観客席の方へ一礼した。

「お客様方…今この場所にいることを誇りに思ってくださいっ!」
突然、声の音量を上げると、大袈裟な動きをしながらステージを端から端まで歩きだした。

「皆様っ!今日、あなた方は特別な……いやっ!衝撃的な物を目撃するでしょう!!
決して生涯終わるまで忘れることはなく、お客様の記憶に強く残る時間を過ごしていただけると願いっ!私、ここに断言いたします!!」
白いスーツを脱ぎ捨て熱弁する団長の姿は、少なからず客の期待感を煽るものだった。

ホーキンズやメノウも興味津々に団長の話を聴いている。
かくいう俺も期待感が膨れ上がっている一人だ。

「それでは、短い時間ではありますが!心行くまで楽しんでいってくださいっ!!」
汗をかきながら十分ほど熱弁すると、出てきた時と同様に深々と一礼し、投げ捨てた白スーツを拾い上げ、颯爽と舞台裏に消えていった。
328夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:12:17 ID:dr57vIpD


「…長い演説だったなぁ…?」

「まぁ、それだけ期待しろってことだろ?」

団長が舞台袖に消えてすぐ、反対の舞台袖から黒い布を被せられたなにかが、団員二人の手によってステージの上へと運ばれてきた。

違う団員が木のテーブルを中央に置き、その上に黒い布が被せられた何かを慎重に乗せる。

「なんだ…?」

「あの黒い布の中身になにかあるらしいな…」

「おっ、おいっ!今、光ったぞっ!?」
周りの観客がざわめきたつ。
確かに黒い布の隙間から青白い光が微かに漏れた。


――「ふっ、ふっ、ふっ……」
先程、舞台袖に消えた団長がまた戻ってきた…。
多分皆んなが思っていることだが、出たり入ったりするなら始めからステージの上に立っててほしい…。

「皆様、お待たせいたしました…それではまいりましょう…夢の時間へ…。」
軽い足取りで中央まで近づくと、徐に黒い布に手を掛けた。






――「こちらが、おとぎ話に出てくる、あの有名な伝説の生物でございますっ!!!」

大きな声と共に勢いよく団長が黒い布を引き剥がすと、小さな鳥かごが一つ姿を現した。
329夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:12:56 ID:dr57vIpD

――「………う、うっ……うぉおぉおぉぉおぉ、スゲぇえぇえぇぇーッ!?なんだよこれッ!!?」

「キャー!?可愛いぃぃいぃ〜!!!」

「は、始めてみた…なんて綺麗なんだ…。」
少しの静寂の後、ステージに近い前列だけが歓喜の声を上げた。

「なんだよ、くそッ!ここからじゃ暗くて見えねーよ!!」
イラついたように立ち上がるホーキンズに煽られたのか、後ろの席の観客が次々に立ち上がりだした。

「お客様、焦らないようにっ!明かりをつけるので、お座りくださいっ!!」
多分これもバレン側の作戦かなにかだろう…散々煽って見せびらかせたほうが記憶に残りやすい…それだけ商品に自信があると言うことだ。

5分ほど待っていると徐々にテントの中が明るくなってきた。
この5分が死ぬほど長く感じたのもバレン側の思うつぼなのだろう…。

「おっ?見えてきた、見えてきた……ってなんだ?カゴの中に何か………ッ!?」

――小さなカゴの中身を見て絶句した――

鳥かごの中身…それは、見たこともないような、鳥かごに収まるほどの小さな人の姿だった。

「そうですっ!あの、神々の涙の雫とまで言われた伝説の生物っ!フェアリーでございますっ!!!」
330夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:14:04 ID:dr57vIpD

団長の声と共にテントの隅々まで驚きと歓喜の声で満たされた。

「おい、ライト見えるかっ!?妖精だってよ!!本物か、あれっ!?」

「さ、さぁ…俺もビックリしてる…よ…。」
妖精なんておとぎ話の中でしか聞いたことがなかったので、人間が作り出した空想の生き物だとばかり思っていた。

確かに本で見たように背中に羽がはえており、小さなカゴの中を器用に飛んでいる…。

「メノウどうだ…妖精だってさ。」

「…わかんない……でも、可哀想…」

「可哀想…か…そうだな…」
メノウに言われて我に返る。
確かに妖精は身体は違えど、人間と会話ができたり、仲良く旅をしているといったイメージが真っ先に頭に浮かぶ生物だ。

本で得た知識なので本当の生態はまったくわからないが、実物を見ても人に害を与えるような行動をするようには見えない。

どちらかと言うと、人間に対して怯えているような素振りを見せている。

「それでは皆様、前列から一人一人ステージに上がって間近でフェアリーを見てください!」
また、客席から一際デカイ歓声があがった。

「スゲーなマジでっ!間近で見るどころか、一生見ることなんてないぞっ!」
331夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:14:46 ID:dr57vIpD

ホーキンズの言うように妖精を間近で見るどころから、もう視界に入れることすら無いのかも知れない…。
そう考えると一度間近で見たくなってきた。

「メノウ…おまえはどうする…?」

「ライト行くなら…メノウも行く。」
解りきってた返答…メノウの手を掴みステージに向かって歩き出す。

「はい、はい。カゴに触れてはいけませんよ〜!お一人様、一分まででお願いしますね〜っ!」
一人一人ステージに上がり、見ては降ろされ、見ては降ろされ、次々に人が入れ替わっていく。

「次は俺だな!!」
俺の前に並んでいた、ホーキンズが待ちわびたようにステージに上がった。

「おぉ〜!なんか、元気ないけど本物っぽいぞ、ライト!」
此方に振り向き嬉しそうに話しかけてくる。

「はい、一分経過しましたぁ〜。次の方どうぞ〜。」

「はやっ!?」
渋るホーキンズを団員がステージの下に誘導する。

「それじゃ、行こうか?」

「うん…」
次は俺達の番だ…。
メノウの手を掴み、テージに上がる。

緊張しているのか握っている手が汗ばんできた。

「おっ?お二人様ですね?それでは倍の二分間お楽しみください。」
332夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:17:07 ID:dr57vIpD

「なっ!?ずるいぞっ!それじゃ、俺と三人で上れば三分だったのかっ!?」

「女性の方にサービスは付き物です。さぁ、お客様此方にっ!」
ステージ下から文句を言うホーキンズに対して団長は軽く受け流した。
大人げないを通り越して知り合いとして恥ずかしい…。

ステージ下から叫び続けているホーキンズから目を放し、ふぅ〜っと大きく息を吐き妖精が入っているカゴに近づく。

「カゴには絶対に触れないでくださいねぇ〜。」

「あぁ、分かっているよ…メノウ、わかったな?」

「うん…。」
手を出さず顔だけカゴに近づけ中を観察する。

透明感のある金色の髪に海のような青い瞳…背中には小さな羽がついており、その羽を使って狭いカゴの中を精一杯飛んでいる。

「おっ?こっち向いたぞ?」
俺達の視線に気がついたのか、一定の高さを保ったまま此方に視線を向けてきた。

よく見るとホーキンズの言うようにどこか弱々しい…目には生気が無く、羽も少し傷ついている…。

「ライト…もう、帰りたい…」
メノウが妖精から目を離し腕を引っ張る。

他の者とは違い妖精を間近で見てもメノウはまったく喜ばなかった…それどころか嫌悪感すら抱いてるようだ。
333夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:19:35 ID:dr57vIpD

確かにメノウの言う通り見ていてあまり楽しい物ではなくなってきた。
初めこそ伝説の生物だからと楽しみに見ていたのだが、今はどこか心苦しい…。

「そうだな……帰ろう…。」
妖精から目を離し、その場を離れようとした時――ふと、小さな疑問が脳裏をよぎった。




――あの声はなんだったんだろう?

昨日聞いたあの声…妖精の出現で浮かれていたが、あの声の主を探るためにこの場所に来たんだった。

「…ライト?」
メノウが考え込む俺の顔を不安そうに下から覗き込んできた。

メノウの頭を撫で、周りを見渡す。
別に変わった物や人物は見当たらない…。



――「…変わった物かぁ……」

変わった物―――もう一度妖精に視線を落とす…。
妖精はと言うと、既に此方を見ておらず、キョロキョロと周りの人間を見渡しながら同じ場所で羽ばたいている。

「…」
団長に目を向ける…ホーキンズとなにか言い争っている…団員もホーキンズを追い出そうと此方をまったく意識していない。

妖精の前にいるのは俺とメノウの二人だけ…

――今しかない。

「な、なぁ…」

「ッ!?」
コンッと軽くカゴ叩くと、音につられて妖精が此方に勢いよく振り返った。
334夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:20:24 ID:dr57vIpD

――多分…今からすることを周りの客が見たらさぞかし笑うだろうなぁ…。
頭から恥ずかしさを振り払い、一歩前にでる。




――「き、昨日の朝、話しかけてきたのは…お、お前か…?」
周りの人間にバレないように小さく呟く…。
妖精に話しかけたなんてバレたら町中の笑い者にされる…自分でもかなり恥ずかしいし、アホらしい。

「ラ、ライト…?」
メノウも俺のアホな行動にビックリしたのだろう…俺の顔をポカ〜ンと眺めている。

自分でも何故こんなことをしているのかまったく分からない…。ただ、アホらしく感じるが頭に直接話しかけてくるなんて人間以外の生物しか考えられないのだ。



「………バ、バレるか最後にするぞ……?あの…助けてほしいって……おまえが言った…のか…?」
妖精に向かって話しかける……が、まったく返答は無い。
それどころか、驚いたように俺の顔を見ると、そのまま硬直してしまった。

「ちょっ、お客様!?困りますよ、そんなに近づかれちゃ〜。
もう二分経ちましたから終わりでいいですね?。」

「あ、あぁ、悪い…」
カゴに近づきすぎたのか、ステージ裏から出てきた団員に気づかれ、妖精から離されてしまった…。
335夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:21:07 ID:dr57vIpD

「……それじゃ、メノウ帰ろっか?」

「う、うん。」
仕方なくステージから降りる。
あの声のことばかり考えていたので、少し警戒しすぎたのかもしれない…。
実際は危険など何一つ無かったし、心配することも無かったようだ。
妖精には少し後ろ髪を引かれる思いだが、俺とかけ離れた存在なのでどうすることも出来ない…。

「…」
最後にもう一度だけ妖精を目に焼き付けようと振り返り、妖精を見つめる……




――たすけてっ!



「っ!!?」
妖精と目が合った瞬間昨日の時と同様に頭の中に声が響いた。

昨日と違う点…それは、はっきりと聴こえてくること。


――お願い!私をここから出して!!!

「…」
昨日の朝の時と同じ声に間違いない…だとするとやはりあの声の主はこの妖精だったのか?。

「おい、なにしてんだよ?早く帰ろうぜ、ライト。」

「あ、あぁ…分かってる…(ここから出して…?あのカゴから抜け出したい…と言う意味か?)」


――また、あの暗い場所に連れていかれる!お願い!ここから逃して!


逃がせと言われても、今カゴを開けて妖精を逃がせば間違いなく俺が殺される。


――助けて…お願い…
336夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:22:07 ID:dr57vIpD


――「か、帰ろう…」
俺が下した決断――それは、声を聴かなかったことにする事だった…。



――イヤッ!待って!置いていかないで!!

やはり、俺ではどうすることも出来ない…。
助けてやりたいが、助けかたが思い付かないのだ。

心の中で謝りステージ前から離れる。

――待って、お願いだからっ!助けて!!!お願いッ!行かな――いッ――で―

テントの中から外に出ると先程まで聞こえていた声がプッツリと聞こえなくなった…。


「………はぁあぁぁぁ〜っ…。」

「どうした?なにかテントの中であったのか…?」

「ライト、大丈夫?お腹痛いの?」
テントから外に出ると安堵か罪悪感か分からないが、足から力が抜け、その場に座り込んでしまった…。

その姿を見て二人が心配そうに話しかけてくる…。
嬉しいのだが、多分妖精と会話したと話をしたところで信用しないだろうな…。

メノウは信用するかもしれないが、ホーキンズは九割笑うに決まっている……のだが自分の中に押し込めていると、なんだかモヤモヤしてしょうがない。

「絶対に笑うなよ…?」

「あぁ?だからなんだよ…?」

「……昨日の朝…港で声が聴こえたって言ったよな…?」
337夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:22:52 ID:dr57vIpD

「あぁ、言ってたな…」

「今さっき……テントの中でも声が聴こえた……」

「…」

「しかも、声の主は妖精だった。」

「へぇ〜…そっかぁ〜…」
明らかに信用していない目で俺を見ている…いや、見下している。

「やっぱり……もう、いいよ……おまえに話した俺がバカだった…。」

「嘘だって!拗ねんなよガキじゃあるまいし。」

「拗ねてねーよ!こっちだってバカにされるから言いたく無かったんだよ!」
一々回りくどい言い回しが腹立たしい…。
ホーキンズの横を通り抜け出口に向かう…。

――やっぱり忘れよう…。
始めから俺ごときがどうにかできるレベルじゃなかったんだ。

解りきっていたことだが、母の言葉が頭に残り半端な行動をとってしまった…。

――助けを求めるものを決して見捨てるな――

母の口癖が俺の心を半端に動かしてしまったのだ……結果、助ける所か見捨てて自己嫌悪に落ちることしか出来なかった。

「おい、待てって!悪かったよ、ふざけて。」

「…別に怒ってねーよ…ただ、あの妖精から助けてって…ここから出してって、言われたのになにも出来なかったからよ…」
338夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:23:42 ID:dr57vIpD

「おまえ、そんなこと言われたのか……?

……まぁ、なんてゆーの?
おまえが冗談なんて言う人間じゃないことぐらい俺だって分かってるって。
ただ、正直俺は声が聴こえてねーから半信半疑なんだよ。」
俺だって未だに半信半疑な部分はある…昨日聴こえた声を小さな正義感で突き止めようとしただけなのだから…。

「だからさ…まず、そういうことに詳しい人に一度、相談しないか?」

「…相談?」
先程とは違い真剣な眼差しで話しかけてくる…始めからこれができないものか。

「最近知り合ったんだけどさぁ。他国の話や、さっき見た伝説のなんちゃらとかを何処で仕入れた情報なのか、かなり詳しいんだよ。」

「信用できる人なのか?ってゆうか笑われるんじゃないのか?」
見ず知らずの他人に爆笑されたら流石に恥ずかしくて違う町に引っ越しを考えるかもしれない。

「そこんとこは大丈夫だな。あの人もたまにお前と同じようなことを叫ぶから。」

「それはそれで怖いな…」

「まぁ、いい人だから気にすんなっ!
明日は朝から仕事があるから夕方にお前の家に行くわ。」

「あぁ…悪いな。変な妄想紛いに付き合わせて…」

「あほか……それじゃ、また明日な。」
339夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:24:27 ID:dr57vIpD

広場の出口から出ていくホーキンズを見送り、空を見上げる。

昔からホーキンズには助けられてきた。
始めは必ずバカにするのだが、後々必ず解決の糸口を探してくれる。
ありがとう…なんて面と向かって言ったことは一度もないけど、心の中ではいつも思っていることだ。

「ライト…」
ホーキンズが出ていった出口を眺めていると、隣にいるメノウが小さな声と共に俺の服の袖をクイッと引っ張った。

それと同時にメノウに視線を落とす…。
上目遣いで俺の顔を眺めており、何か言いたそうにモジモジ、モジモジしている…。

「どうした?」





「……おしっこ。」

「えっ?おし……えっ!?ちょっ、ちょっと待て!!」
慌ててメノウを担ぎ、広場から離れる。




「…プルプル…」

「ちょっ、なにプルプルしてんだよっ!?
だしたのかっ!?
だしたのかメノウっ!?」

「……なにが?」

「はっ?えっ?なにがっておまえ――!」

妖精を見たこと……その妖精から助けを求められたこと……徐々に背中一面へと広がっていく生温かさを感じたこと…。

――団長の言うように今日は絶対に忘れられない一日となった。
340夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/31(月) 03:27:16 ID:dr57vIpD
ありがとうございました。投下終了です。

台風が近づいてる今日この頃…去年、風で飛んできた看板が頭に直撃して血だらけになったのを思い出します。
341名無しさん@ピンキー:2009/08/31(月) 05:15:32 ID:VCHrd6ht
どうなるどうなる
342名無しさん@ピンキー:2009/08/31(月) 13:06:01 ID:cR46595B
>>340
病院に依存してるんですね。
343名無しさん@ピンキー:2009/08/31(月) 20:36:46 ID:A9uSb7T4
体格差カポーを狙うとはこれまたマニアックな
344春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/02(水) 18:01:24 ID:vlGAseBw
春春夏秋冬夜勤の合間の深夜に投下します。

ここって本当に人いないね…
345名無しさん@ピンキー:2009/09/02(水) 18:39:10 ID:Yff/Ayxp
待ってます
346名無しさん@ピンキー:2009/09/02(水) 18:46:43 ID:C8K2G6W9
もちろん全裸で待ってます
347名無しさん@ピンキー:2009/09/02(水) 20:29:02 ID:PdhL79WZ
これは深夜までスレを占有するから投下する
んじゃねーぞと云う警告なんだろうな−。
348名無しさん@ピンキー:2009/09/02(水) 20:37:44 ID:vlGAseBw
>>347が投下したかったら投下すればいいよ。

楽しみにもなるし。
349名無しさん@ピンキー:2009/09/02(水) 21:13:58 ID:GL0HK5QH
>>347
深夜になる前に投下すればいいんじゃないか?
350名無しさん@ピンキー:2009/09/02(水) 21:45:09 ID:EZ3POTXt
でも、前にも「他の人が投下後に時間を置かずに投下するのは非常識」とかレスがついたことがあったよね。
(その時も2時間くらいは経っていたと思う)
その流れから行くと、やっぱり「深夜に投下」って夕刻に予告されたら他の人は投下しにくいよ。

今回は余計な一言も書くから余計に「どうせ俺しかいないでしょ」って風に読まれても仕方がないと思う。
351名無しさん@ピンキー:2009/09/02(水) 21:54:53 ID:vlGAseBw
余計な言葉って、まぁ普通に人いないなぁ〜って思って書いたからそんなつもりで書いた訳じゃないんだけどね。
次から予告はやめとくわ。
352名無しさん@ピンキー:2009/09/02(水) 23:19:45 ID:PdhL79WZ
そもそも予告にどんな意図があったか判らない。
他の人の牽制以外、何か意味があるの?
そのうえで、わざわざ鳥を消して
>>347が投下したかったら投下すればいいよ」なんて
云うのも相当に性格悪くないか?
もし投下があったらその数時間後に自分も投下するのか?
353名無しさん@ピンキー:2009/09/02(水) 23:46:06 ID:vlGAseBw
>>352
別に牽制とかのつもりはないですよ?別に深く考えないで書いたので気にさわったのなら申し訳ないです…。
次からは気を付けます。
すいませんでした。
354名無しさん@ピンキー:2009/09/02(水) 23:48:24 ID:m2DpuhvK
まあまあ落ち着いて。
355名無しさん@ピンキー:2009/09/02(水) 23:54:24 ID:Psjc8t4i
なんにせよ投下そのものは歓迎&GJだし、
夢の国も春春夏秋冬どっちも好きなんでガンバ。
356名無しさん@ピンキー:2009/09/02(水) 23:57:33 ID:DGxUwrGo
作者いなくなる理由分かるわ…。
357名無しさん@ピンキー:2009/09/03(木) 00:38:43 ID:8KrzXIi8
ていうか作者の方が立場上だろうに
読ませてもらってる事を忘れているんじゃないか?
358 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/03(木) 02:22:32 ID:D3R2sUx8
投下します。
359春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/03(木) 02:25:16 ID:D3R2sUx8


「それじゃ、お願いね?私はリビングにいるから。」

「はぁ…わかりました…。」
秋音さんが俺に申し訳なさそうにお願いすると、階段を降りてリビングに向かった。

――春香の墓参りから一週間…何故か今、見慣れた夏美の部屋の前に立っている。

「どうしろって言うんだよ…」
秋音さんから受け取ったストラップを見ながら考える。

美幸ちゃんを送って行った日、自宅に帰ってくると秋音さんがフローリングに散らばった何かを掃除している最中だった。

何してるの?と聞くと
「夏美のストラップ切れちゃってね…拗ねて夏美家に帰っちゃった。」
そう言うとクマのストラップであろう物体を俺に見せてきた。

あぁ、だからあいつ変だったのか…と思い、仕方なく俺の携帯からストラップを外すと、秋音さんにこのストラップを夏美に渡すようにお願いした。

それだけあのストラップが気に入ってたのなら俺の物をあげればすむ話だ。

しかし秋音さんはそのストラップを受け取らず、ビックリしたように俺のストラップと切れた夏美のストラップを交互に見比べた。

「な、なんで夏美と春が同じストラップ着けてる…の…?」
360春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/03(木) 02:26:25 ID:D3R2sUx8
そう聞き返してくる秋音さんは普段と違い、どこか挙動不審にも見えた。

隠す理由が無いので理由を話すと「そう…」とだけ呟き自宅に帰っていった。
それから一週間…学校を休んで平和な日々をおくっていたのだが、今朝、秋音さんから夏美の事で話があると相談を持ちかけられたのだ。

相談の内容は食事をあまり取らず学校もたまにサボると言うもの。
俺ならまだしも夏美が学校をサボるのは本当に稀で、ここ一週間、午後の授業をしょっちゅうサボってどこかにいくらしい。
秋音さんや恵さんが何度も注意したのだが一向に話を聞かず、お金遣いも荒くなっているそうだ。

俺的には年頃の女子高生なら欲しい物に多少はお金も使うだろうし、反抗期な年頃なのだろうから気にするような事ではないと思うのだが、教師の秋音さんはそうはいかないのだろう…。

悩んでいる秋音さんに軽く「俺が言ってあげようか?」と言うと五秒もしない内に「お願い」と言われてしまったのだ。

自分から言い出した事なのでやっぱり無し、とは言えず仕方なく夏美に話を聞きに行く事になってしまったのだ。
クマのストラップは秋音さんが直したらしく、元通りとは行かないが苦労して直したのは一見して分かった。
361春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/03(木) 02:27:08 ID:D3R2sUx8

まさか、このストラップが切れた事で非行に走ったとは考えにくいが、秋音さんから念のために夏美に渡してほしい、と言われたので一応渡すつもりだ。

「ふぅ〜。」
いつまでも廊下に立ってるわけにもいかない…。大きく息を吐き出し、夏美の部屋の扉をコンッコンッとノックする…。

――……

返事無し…

もう一度ノックをするが、やはり返事は返ってこない。

「…夏美、入るからな〜?」

「えっ……春…兄?ちょっ!?なっ、ま、待って!!」

「うおっ!?あぶねーな!」
仕方なく扉を開けて中を覗き込もうとすると、向こう側から勢いよく扉が閉められた。

「なんで春兄が家にいるんだよっ!?」

「いや、ちょっと話があるんだ。」

「は、はなしって…」

「いや、だから開けろって。」

「い、いきなり入ってこようとするなよ!!」

「いや、ノックしたけど?」

「わ、私は返事してなかったろ!」
夏美の声が少し声が震えていた気がするが気のせいか?
夏美の部屋に無言で入るなんて昔なら当たり前のようにしてたことだけど、夏美も高校生だと言うことを忘れていた…。

「あぁ、少しデリカシーが無かったよ…馴れ馴れしく考えてた……悪かったな。」
362春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/03(木) 02:27:47 ID:D3R2sUx8
「い、いや…そんなつもりで言ったんじゃ…」
最近あまり赤部家の人間と接していなかったから昔のような行動を取ってしまった…反省しなければ。

「でっ?どうするよ?部屋に入られるのが嫌ならリビングで待ってるけど。」

「あの、嫌じゃなくてっ!じゅっ…十分だけ待って…すぐに開けるから。」
そう言うと扉前から離れる足音と、部屋の中からガチャガチャと何かを漁るような忙しない音が聴こえてきた。

「ふぅ〜…」
廊下の吹き抜けから一階を見下ろす。
子供の頃はこの場所から見下ろす玄関はとてつもなく高くて怖かった思い出がある。
、今となっては淵に掴まれば普通に飛び降りれそうな程の高さに感じる。
まぁ、実際飛び降りたら怪我するだろうけど…。

「……んっ?…メールか…」
風が通る吹き抜けで涼しんでいると、右ポケットに入っている携帯の着メロが鳴った。

誰かを確認すると、画面には「美幸ちゃん」とでている。

別に驚く事ではない。
最近美幸ちゃんとはメル友感覚でメールをしている間柄なのだ。

話題が尽きない日は時間を忘れるぐらいメールをしていたこともあった…。
いつものように受信メールを見て。美幸ちゃんに返信メールを送る。
363春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/03(木) 02:28:29 ID:D3R2sUx8

「……よし」

美幸ちゃんとのメールの内容は、ほとんどが雑談のようなメールばかり。
怪我でなにもする事が無く、暇潰し程度で美幸ちゃんにメールを送ったところ、何故かメールが終わらず、三時間ほどメールのやり取りをしていたのを思い出した。



――「は、入ってもいいよ…」
夏美が言ったように十分ほど経過すると、部屋の中から小さな声が聴こえてきた。それと同時にガチャガチャとした忙しない音も無くなった。

「おう、分かった…それじゃ、おじゃましま〜す。」
入ってきても良いと言うと夏美の許可が出たので、ゆっくりと扉を開けて部屋に入る。

「…」

「ひ、久しぶりだな〜、お前の部屋に来るのも…」
自分でも解らないが、何故か緊張してきた…。

気を紛らわす為に、周りを見渡してみる…部屋自体は別に何も変わった雰囲気は感じない
高価な物だって別に目につかない…。
部屋の隅には小さなクローゼットが置かれている。やはり、お金を使うとすれば服とかアクセサリーの類いか…。

その夏美はと言うと、何故かフローリングに正座をしている。

これは俺も正座をしろと言う意味なのだろうか…?
よく分からないが、夏美の前に正座することにした。
364春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/03(木) 02:29:22 ID:D3R2sUx8
「あのさ…俺から言うのもなんだけど、秋音さんから話を聞いたんだよ…」
なるべく夏美を刺激しないように話し掛ける。
気性が荒い部分があるので頭ごなしに注意してもまず聞かないだろう。

「ち、ちがうよっ!?も、元はと言えば秋姉さんが悪くて!」

「はっ?な、なに?秋音さん?」

「わたっ、か、勝手に私の!春兄が…!」

「えっ?俺も?」
優しく話しかけたつもりだっだのだが、俺の話を聞いた途端、情緒不安定の如く夏美が意味の解らない事を話し出した。

「それで、私もう一度同じ物をって…でも、行ったら、無くなってたんだよ!!そ、それでいろいろな場所探してっ…探しても、探しても……どこ探しても無くてっ!」
探した?よく解らないが何かを無くしたそうだ。

「落ち着けって、な?」
なんとか落ち着かせようとするが、興奮してるのか、俺の話を一切聴こうとしない…いや、聴かないようにしている。

「で、昨日やっと見つけたんだ!隣町の繁華街まで歩いて探した!」
徐にベッドの下に手を突っ込むと何やら白い袋を引きずり出してきた。

「何それ?」

「で、でも何回やってみても違う物しか出なくて…。」
夏美から白い袋を受け取り中身を確認する。
365名無しさん@ピンキー:2009/09/03(木) 02:29:39 ID:m87iTMGF
支援
366春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/03(木) 02:31:03 ID:D3R2sUx8

「な、なに、これ?」

袋の中身…それは袋一杯のクマのストラップだった。

「友達に聞いたら私と春兄のストラップってレアな物らしくて、だからっ…!で、でも大丈夫っ!明日また行ってくるから!ねっ?」
ねっ?の意味が解らないが、あのクマのストラップが欲しいと言うことだけ唯一解った。

「ほら、これ。」
ポケットから秋音さんに渡されたクマのストラップを夏美に渡す。

「……これ…私の?」
俺の手からストラップを受けとると、恐る恐る目先に持っていき、本物かどうか確かめている。

「秋音さんが直してくれたんだぞ?」

「秋姉さん…が?」

「あぁ、切れたから悪いことしたって…」

「…」

「後でお礼言っとけよ?それと姉妹であんまり喧嘩すんな。」

「……」
俺の声に反応せず、なにも言わずに自分の携帯にストラップを着けた。
余程お気に入りだったのだろう…変なことにお金を使ってなくて秋音さん達もホッとするはずだ。

「てゆうか、早く用意しろよ。」

「えっ…?あれ?春兄制服着てる…学校に行くのか?」

「あぁ、あんまり休めないからな。」
本当は休みたいのだが秋音さんをあまり怒らせたくない…。
367春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/03(木) 02:49:01 ID:D3R2sUx8

「待っててやるから早く降りてこいよ。」
着替えの邪魔になるので部屋から退散する。
そう言えば服は着替えてなかった癖に化粧はしてたな…と変な所に気がついた。

「うん、ちゃんと待っててね…」
扉が閉まる直前、夏美の声で女の子らしい発言が聴こえた…。

身震いするので深く考えず一階に降りていく。
リビングに入ると秋音さんはもういなかった。

「大変だな…秋音さんも…」
家族の事…学校の事…苦労が一番絶えないのは秋音さんだと断言できる。
生徒に妹を持つと他の教師からの目も気になってくるはずだ。

「一応秋音さんにメールしとくか…」
心配してるといけないので解決したことだけでも報告することにした。

「よしっ…と…」
携帯をマナーモードにしてポケットに放り込む。
椅子から立ち上がりリビングから出て、玄関に向かうと、二階から階段を掛け降りてくる足音が聞こえてきた。



――「春兄、お待たせ。」
少し息切れしているので慌てて制服に着替えたようだ。
実際はまだ5分ほどしか経っていない。

「おっ?早かったな。んじゃ、行くか」

「うん。」
夏美と一緒に赤部家を出てると、走るのを嫌がる夏美を無理矢理引っ張り駅へと急いだ。
368春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/03(木) 03:00:20 ID:D3R2sUx8
――――
―――
――


「あっ、春樹先輩!」
駅に着くと、先に着いていた美幸ちゃんが此方に駆け寄ってきた。

「おぉ、おはよう。」

「…」

「おはようございます。今日から学校に行けるんですね?」

「あぁ、この手が治るまで休みたかったんだけど秋音さんに無理って言われてさぁ…」

「ふふっ、しょうがないですよ。骨折はすぐに治る怪我じゃないんですから。」

「いや、そうは言ってもさぁ〜」

「それに休んでばっかりだと単位落としますよ?」

「う〜ん…てゆうか後輩が言うなよ…。」

「だって留年とかしたら、どうするんですか?そもそy「な、なぁ、春兄…」

「んっ?なに…?」
俺と美幸ちゃんが会話をしている最中ずっと無言だった夏美が小さな声で話しかけてきた。

「ふ、二人は…そんなに、その……親しかったっけ?」
不安そうに話しかけてくる夏美を少し不思議に思ったが、夏美は俺と美幸ちゃんがメールしている事を知らなかったんだ…。

「いや、ここ一週間美幸ちゃんとメールしてたからな。」

「はぁっ?メール!?なんだよそれっ!?」
不安そうな顔が一変。ベンチから立ち上がると、怒ったように俺を見下ろしながら声を荒げた。
369春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/03(木) 03:01:46 ID:D3R2sUx8

「な、なんでって…だから暇だったからで…」

「隣に住んでるんだから私にメールすればいいだろっ!?」
隣に住んでいるからメールする意味が解らない。
どちらかというと隣に住んでいるのなら、メールしなくても口で話した方が早いぐらいだ…。
ただ、怪我をしている時は動くのも辛いからメールに頼っただけ。

「いや、メールするも何も、俺、お前のアドレス知らないし。」
そう、まず俺は夏美のアドレスすら知らないのだ。携帯を買った初日に教えてもらったのだが、夏美のアドレスがよく変更されるので面倒くさくて登録はしていなかった。

「なっ!?わっ、私は春兄の番号もアドレスも知ってるんだぞっ!?なんで春兄が知らないんだよ!」
そう言うと徐にポケットから携帯を取り出し、慣れた手つきでボタンを押していく。

俺のアドレスを知っていて当たり前。俺は購入した時からアドレスが変わっていないのだから。

数十秒後、俺の携帯が震えた。
中を見なくても解る、多分夏美が俺の携帯にメールをしたのだろう。
夏美からだと分かっていたが、一応携帯を開いてメールを確認する。




『件名:なし

本文:登録しとけや!』



「…」
なにも言わず消去する。
370春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/03(木) 03:03:20 ID:D3R2sUx8

「おいっ!今、消しただろっ!?ふざけんなッ!なんで消すんだよ!」
俺の携帯を覗き込んでいた夏美が激昂しながらそう叫ぶと、もう一度メールを送ってきた。




『件名:春兄が愛する夏美

本文:ちゃんと登録してね(ハート)。』
言葉とメールのギャップが激しくなっているが、一応登録することにした。

てゆうか、登録してほしいならアドレスを何回も変えないでほしい…。

「あっ、電車来ました。」
美幸ちゃんの声につられて線路側に目を向けると、丁度駅に電車が到着する所だった。

携帯を雑にポケットに突っ込み、膨れる夏美を無視して急いで電車に乗り込んだ。

―――――
――――
―――
――


始業式以来、久しぶりの学校に到着すると、当たり前の事だが物々しい飾りはすべて無くなっていた。

いつもの風景…生徒指導の顧問が正門前に立っており早く学校内に入るように急かしている。

「おら〜、早く中に入れぇ〜!……おぉっ!?久しぶりだな夕凪!
腕の骨を折ったんだって?カルシウム不足だよお前は!」
その顧問が気安く話しかけてきた。
秋音さんの知り合いと言うことで入学した時からこんな感じで話しかけて来たので別に気にはしていない。
371春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/03(木) 03:04:48 ID:D3R2sUx8

馴れ馴れしく接してくるのも別に嫌悪感を抱くような馴れ馴れしさではない。
どこか教師と言うより友達感覚で話しかけてくるので他の生徒にも人気はあるようだ。
ただ、体がごつく、クマの様に毛深いので一部の女子からは生理的に嫌われている部分もある。
本人もそれは解っているらしく、極力そういった生徒とは距離を取っているようだ。

「カルシウム不足じゃないですよ…ただ、階段から落ちただけです。」

「階段ねぇ〜?……ふ〜ん……まぁ、程々にしとけよ?」
顔についている傷跡をまじまじと見ると、飽きれ気味に諭された。
多分人に殴られた傷だと気づかれたのだろう…。

それでも何も聞かずスルーしてくれるのは少し有り難かった。

「ほらっ、お前は遅刻が多いんだから早く中に入れ!おっ?一年生も遅刻はするなよ!」

「は、はいっ!おはようございます!」
俺の後ろに隠れていたので安心しきっていたのか、いきなり話しかけられた事にビックリした美幸ちゃんが、勢いよくクマに頭を深々と下げた。
多分美幸ちゃんも苦手なタイプだろう。

「お、おぁ。元気だな…まぁ、頑張れ。…おっ?赤部も一緒か!髪の毛早く黒くしろよ!あと秋音先生によろしくな。」
372春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/03(木) 03:06:18 ID:D3R2sUx8

下心見え見えな発言に何故か少しイラッと来たが、いつもの事だ。

「髪は地毛だから無理(嘘)。
秋姉さんは毛深い奴は全部毛虫に見えるから無理だな(本当)。」

「け…けむし…」
夏美の発言に放心状態になるクマ…少し同情する。
まぁ、秋音さんが毛深い物が嫌なのは事実だからしょうがないか…。


夏美や美幸ちゃん達と別れ、三階にある三年生の教室を目指す。


「すぅ〜、はぁ〜……すぅ〜はぁ〜…」
教室の前に立ち、深呼吸をする。中からは楽しそうな話し声が聴こえてくる…もう始業式から一週間経っているので小さなグループぐらいは出来ているはず。

「はぁ〜…よしっ…」
平常心を装い静かに扉を開ける…。
扉の音につられたのか、先程まで話していた生徒が会話を止めて此方に振り返った。

「…」
教室に入り、自分の席まで歩いていく。
この数秒の行動が何時間もの重労働に感じた。

カバンを机横のフックに引っ掛け席に座る。
すると先程までの沈黙は無くなり、また各々友達と話し出した。

別に友達を作ろうとかは考えていないが、教室内で普通に話せる奴ぐらい作らないと一年もたないかもしれない…。
373春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/03(木) 03:07:52 ID:D3R2sUx8


――「疲れた…」
何時もより長く感じた一日の授業が終わり、生徒が皆それぞれ教室か出ていく。




――「あ、あの…夕凪くん…」

「…?」
席から立ち上がり、他の生徒と同じように教室から出ようとすると、後ろから小さな声で話しかけられた。

後ろを振り返り声のした方に目を向ける…そこにはショートヘアーの小さな女の子……いや…男子がおどおどしながら立っていた。

「あの…どうしたの?その右手…」

「え…?あぁ、これ?階段から落ちて怪我したんだよ。」
何度も顔を見て記憶の中を探すが全く覚えていない…と言うか見たことも話したことも無いはずだ…。

「そ、そうなんだ…。あ、あのさ…迷惑ならあれだけど…その…怪我が治るまで僕がノート写してあげようか…?」

「えっ…?イヤでも…迷惑だし…」

「う、ううん、全然大丈夫だよ?困ってるなら…僕が書いてもいいかな〜って。」
何を考えているのだろうか…?会ったことも話したことも無い相手のノートを写すだなんて…。

少し警戒心を持っていたのだが、ふとある考えが頭に浮かんだ。

もしかして俺と同じで話す奴がいなくて話しかけてきたのかもしれない…。
374春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/03(木) 03:09:17 ID:D3R2sUx8

見た感じ小柄で内気な雰囲気が全面に出ているので孤立していたのかも知れない。
そう考えると自然と警戒心も薄れていった。

「書いてくれるなら助かるけど…マジで大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫だよっ!同じ事を二回するだけだからさ。」
そう言うと無邪気な笑顔でニコッと笑った。

「それじゃ、悪いけどお願いするわ…。」

「うん、任せてよ!それじゃ、また明日!」
そう言うと小走りで教室から出ていった。
その姿がどこか美幸ちゃんに似ていたのは気のせいだろうか…。

「まぁ、いっか…早く帰ろっと。」
なんにせよ仲良く出来そうな人物を見つけただけでも、今日学校に来た甲斐があったと言うものだ。

「あ…そう言えば名前聞き忘れたな………あれ…?そう言えばアイツなんで俺の名前知ってたんだろ……」

やはりどこかで会話でもしたのだろうか…?しかし、何度考えても覚えていない物は覚えていないのだ。

「明日聞けばいっか…。」
考えるのもめんどくさくなり頭の中から消去すると、そそくさと誰もいない冷たい教室を後にする。


――教室から出る間際、些細なことたが「僕って言う奴初めて見たな〜っ」と少し可笑しくなって一人で笑ってしまった。
375春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/03(木) 03:15:36 ID:D3R2sUx8
ありがとうございました。投下終了です。
次もなるべく早く投下するのでよろしくお願いします。
376名無しさん@ピンキー:2009/09/03(木) 03:22:05 ID:8c09wnWF
GJ!!
377名無しさん@ピンキー:2009/09/03(木) 04:06:56 ID:ncEc8plO
はぁ…
378名無しさん@ピンキー:2009/09/03(木) 09:31:08 ID:AYXLBKIt
GJ! 続きも待ってます

投下予告については、深夜とかじゃなくある程度時間を指定するといいと思う
379名無しさん@ピンキー:2009/09/03(木) 09:42:59 ID:HmWxqy5R
GJ!
380名無しさん@ピンキー:2009/09/03(木) 15:51:52 ID:A2i3Zi0N
GJです!
381名無しさん@ピンキー:2009/09/03(木) 23:51:41 ID:hbYEeVzk
>>375
GJ!
382名無しさん@ピンキー:2009/09/04(金) 00:15:48 ID:IhLbSfgV
GJ
たしかにリアルで僕とか言う学生いないよなw
383名無しさん@ピンキー:2009/09/04(金) 00:38:22 ID:Hom8on1F
GJ!

え、普通に学生の頃は基本僕+敬語口調だったけど珍しかったのか
384名無しさん@ピンキー:2009/09/04(金) 01:30:24 ID:M3APP5/w
学生の頃は俺だったな
大学いってから僕になった
385名無しさん@ピンキー:2009/09/04(金) 02:19:37 ID:7B6XguMX
オレの友達に小学校の時からずっと僕の奴がいるぜ
ちょっと珍しいってぐらいじゃない?
386名無しさん@ピンキー:2009/09/04(金) 07:06:32 ID:Y4Pqq2Ix
最後に「だぜ」とかつける奴も見たことない。
387名無しさん@ピンキー:2009/09/04(金) 07:26:08 ID:hH+Fg24j
目上の人と話すときは僕使うことある
388名無しさん@ピンキー:2009/09/04(金) 10:03:54 ID:1VGOy1Vm
そうだぜよ
389名無しさん@ピンキー:2009/09/04(金) 10:25:59 ID:JdzwxXNA
俺はたまに「〜〜だべ」って言っちゃうことあるど
390名無しさん@ピンキー:2009/09/04(金) 13:52:37 ID:YeAuH+Sw
「だにー」と「だがね」は語尾によく使う。
391名無しさん@ピンキー:2009/09/04(金) 15:13:55 ID:WGHHKhoq
方言依存娘スレと聞いて
392名無しさん@ピンキー:2009/09/04(金) 15:29:04 ID:9JVpON62
二次で名古屋弁の女の子は見た事無いなそういえば・・・
393名無しさん@ピンキー:2009/09/04(金) 15:30:34 ID:xgV5gzFY
>>392
しゅごキャラのルルとナナ
394名無しさん@ピンキー:2009/09/04(金) 17:44:23 ID:dIU0fgzj
新キャラ!? どうなるんだ。 gj。
395名無しさん@ピンキー:2009/09/05(土) 00:34:15 ID:nf4RXBgv
和む流れ
396名無しさん@ピンキー:2009/09/06(日) 13:46:11 ID:UIlMUk5k
ヒャッハー!GJだァーっ!
でも男が男に依存してアッーな展開にはならん事を祈る
397名無しさん@ピンキー:2009/09/08(火) 12:33:15 ID:lvbggTAs
保守
398春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/09(水) 23:55:40 ID:6FyfH1kv
投下します。
399春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/09(水) 23:56:10 ID:6FyfH1kv

「分かってると思うけど、あまり激しい運動や動きは控えてください。
ゆっくりと物を掴むところから始めれば感覚は戻るので。」

「はい、分かりました。」
前に座っている初老の男性が俺の右手を揉みながら話しかけてくる。
この言葉だけ聞くと男同士で何してんだよ…と気持ち悪く感じるが、向こうも楽しくて男の腕を揉んでいる訳ではない。
仕事だから仕方ないのだ…。

どういう事かと言うと。俺は今、ギブスを外す為に学校帰りにとある病院へと足を運んでいた。

もうギブスは外しているのだが1ヶ月半も腕を動かしていなかったので、担当医に揉んでほぐしてもらっている最中なのだ。

「四日間でいいので朝と夜の二回、家族の方にお願いして二十分ほど揉んでもらってくださいね。」

「はい。」
実際ギブスは外れたのに、まだ自分の腕じゃないような不思議な感覚がする。

「よし…これで、大丈夫。今は動かしづらいと思うけど、すぐに普段の握力が戻るから。
…それとあんまり無茶な事しちゃダメだよ?」
揉んでいた腕を離すと、笑いながら俺の事を少し咎めた。

「はい、分かりました…。それじゃ、今までありがとうございました。」
400春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/09(水) 23:57:03 ID:6FyfH1kv

――医者に軽く頭を下げて、診察室から出ると、急いで中央ホールへと向かった。




「遅かったね、夕凪くん。」

「春樹先輩、大丈夫でしたか?」
中央ホールに着くと、ベンチに座っていた小さな男女が双子のように立ち上がり、此方に走り寄ってきた。

女の子は美幸ちゃん。

もう一人の男は1ヶ月半前にノートを写して貰ったのがきっかけで仲良くなった、鈴村 光(ひかる)。

仲良くなったと言っても、鈴村とは学校の外で会うのは今日が初めてなのだ。

声をかけられた次の日、何故俺の名前を知っているのかと聞くと、「一年前にガラス割って二階から生徒捨てようとしたでしょ?多分知ってるの僕だけじゃないと思うけど…」
その話しを聞いた瞬間頭がクラッときた。
俺の闇歴史を知るものがそんなにいるなんて…。
多分その一部分だけが広まって周りに悪い印象を植え付けてしまったのだろう。
今更ぐちぐち言っても仕方ないのでもう諦めているが、一年経ったのだからもう忘れてほしい。

しかし、何故鈴村はその話を知っていながら俺に話しかけたのだろう…?そんな疑問が頭に浮かび、思い切って鈴村に聞いてみた。
401春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/09(水) 23:57:34 ID:6FyfH1kv

すると「夕凪くんが悪い訳じゃないんでしょ?それに、その怪我も……喧嘩じゃなくて違う理由かな?」
と意味深な発言をされてごまかされた…。
少し疑問が残ったのだがその発言に対してあまり深く詮索せず、1ヶ月半経っても変らず人畜無害な奴なので今まで仲良くやってこれたのだ。



「病院を走るなよ…まぁ、ギブスはとれたよ。ほらっ。」
ギブスがとれた腕を自慢げに二人に見せる。
二人からおぉ〜!と言う歓声が病院内に小さく響いた。

「まぁ、今まで周りの皆には散々迷惑かけたからさ…今日家に来ないか?何かご馳走するよ。」
自分の家に人を呼ぶなんていつ以来だろうか…?
情けないことに(断られないか…?)と少し内心焦ってしまった。

「えっ、いいの!?あの…僕は大丈夫だけど…本当にいいの?」
そんなに嬉しい事なのだろうか…?目がキラキラしている。

「別にいいけど…あんまり期待すんなよ?なにも無いからな…。

美幸ちゃんはどうする?。」

「行きます!」
即答…1ヶ月前とは違い環境に慣れてきたのだろう。
良いことだ。

「それじゃ、行こっか?」

「うん。」

「はい。」
402春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/09(水) 23:58:51 ID:6FyfH1kv

受付でお金を払い、病院から出た俺達三人は、まず食料調達の為にスーパーへと向かった。

――「……ご馳走って…」

「鈴村…それ以上言ったら殴る。」

「で、でも…その…鍋も美味しいですからっ!」
考えて考えて考え抜いた結果。平凡な鍋にすることになった…。

何かをご馳走すると言い切ったのは俺なのだが、恥ずかしいことに料理なんて普段食べる物しか作ったことがなかったのだ。

材料を買い終えてスーパーを後にすると、時刻は夕方の五時をまわっていた。
今から家に帰って料理をして食事をするとなると少し遅くなってしまうかもしれない。

一応二人に門限があるかと聞くと、鈴村は「僕は男の子なんだけど!」と呆れ気味に怒られた。
発言の意味が解らなかったので、こちらも「男の子ってなんだよ…」と軽く流した。

美幸ちゃんは見た目通りやはり親の許可がいるのか、一回家に帰って制服を着替えるので、その時お母さんに許可を貰うらしい。


美幸ちゃんと一時的に別れた後、俺と鈴村で歩いている最中、鈴村が小さな声で不思議な事を口走った。

「懐かしい……この公園…まだ変わってないんだ…」

「なにお前…ここに来たことがあるの…?」
403春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:00:05 ID:6FyfH1kv


「え…?いや…まぁ、ちょっと昔ね…」
少し前に本人から聞いたが、鈴村の家はここからかなり離れているはず…。
親戚がこの辺に住んでいるのかと聞くと、住んでいないらしい。

懐かしいと言うぐらいだから小学生の時だろうけど、それ以上はごまかすだけで話そうとはしなかった。


――家に着くと、まずリビングに入り、重い材料をテーブルの上に雑に置いた。
鈴村にその事を注意されたが、相手するのがめんどくさいので軽く無視をする。

「夕凪くん…用意しないの…?」
鈴村がソファーに横になった俺の顔を呆れたように覗き込んでくる…。
鈴村の髪が俺の髪を撫で、目と目が合う。
近くで見ると本当に女の子みたいだなぁ…。

「うん……んっ?……ばッ!?お前顔をスレスレに近づけてくんな気持ち悪りーな!!」
恐ろしいことに、鈴村の顔に見とれていて顔を近づけられても違和感をまったく感じなかった。

「き、気持ち悪いって言わないでよ!傷つくだろっ!」

「き、傷つくって…。
まぁ、その…なんだ……も、もう用意しようぜ…」
頭から邪念を振り払い、急いで鍋の用意をする事にした。
404春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:00:59 ID:6FyfH1kv

――鍋の準備が終了して10分後、美幸ちゃんが到着した。
その30分後に夏美と冬子が家を訪れた。
残念ながら恵さんと秋音さんは仕事で来れないらしい…。

「しょうがないか…まぁ、四人で食べようぜ。」

「そうだな。それじゃ、春兄の隣…?…に……」

「…こ、こんばんわ…」
嬉しそうに此方に駆け寄ってくる夏美が、隣に座っている鈴村を見て眉間にシワを寄せた。

「中坊…春兄の隣は昔から私って決まってんだ…どけ…。」

「ちゅっ、ちゅうぼうっ!?僕は夕凪くんの同級生なんだけど!!」

「嘘つくな……おい、山下……早く弟をこのイスからどかせろ。」

「えっ?あの…私の弟では…」
美幸ちゃんに向かって命令口調で話しかける。
夏美は鈴村の事を美幸ちゃんの弟だと思っているようだ。

見た目は似ているので間違えても仕方がないのだが、もう少し言葉を選べないものだろうか?後で少し説教しなければ…。

「ほらっ、ネクタイ見てみろよ!青いだろっ!?キミより年上だって証拠だ!」
自分のネクタイを夏美に見せるためにイスから立ち上がり、夏美の前で胸を張る。

鈴村の方が頭ひとつ身長が低いので背伸びしているところが残念ながら少し可愛らしい。
405春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:01:40 ID:6FyfH1kv

「あっそ…それじゃ、先輩その場所をどいてくれますか?」

「ヤダッ!」
ヤダッて…会話だけ聞いていたらどっちが女か分からなくなる。

「なッ!?こっ、このっ、子ザルの癖に人間様のy「夏美っ!やめろって…飯食うんだろ…?早くイスに座れ。」

「…わかったよ。」
夏美の事だから一言二言返ってくると思っていたのだが、俺の言葉に対して素直に従った。いつもこれぐらい素直なら余計な問題もないのだが…。

「よし…冬子も…ってお前はもう座ってたのか…。」

「うん。早い者勝ちだから…。」
いつの間にか俺の隣にある左側のイスに腰を下ろしていた。
早い者勝ちの意味が解らないが、冬子は夏美と違い普段から落ち着いているので(落ち着きすぎ)争い事が無くて楽だ。

「…あ、あの…」

「……隣に座るからな…」
俺の両隣には冬子と鈴村…。自然と美幸ちゃんの隣は夏美が座ることになる。
不機嫌そうに美幸ちゃんに一声かけると、イスを片手で後ろに下げ、男らしくイスにドンッと腰を降ろした。
406春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:02:13 ID:6FyfH1kv

最近はあまり美幸ちゃんと夏美の仲が悪いように見えなくなってきた。
本人達は気づいていないかも知れないが、どこか無理にいがみ合っている気がする。

基本夏美から絡んでいるのだが、たまに美幸ちゃんから夏美に意見する時がある。
夏美は言われることに慣れていないのだろ……美幸ちゃんになにかキツいことを言われると涙目で俺に助けを求めてくる時がある。
その姿を見る度に俺は安心する…。本当に嫌っていたら話をすることすらしないだろう…。

やはり始めのわだかまりを残しているだけのようだ。
このまま行けばわだかまりも多分無くなるはず。




「おい、山下……その肉は私のだ…放せ。」

「わ、私がいれたんです……だっ、だから、私のですっ。」
この先、案外この二人が親友になりそうな気がする――。
407春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:15:48 ID:AdykL35E

――学生だけの鍋パーティーが終わり、俺と冬子が食器を片付ける事になった。

夏美と美幸ちゃんが手伝うと言ってくれたのだが、美幸ちゃんはお客さんなのでさせるわけには行かない。

夏美は単純に危なっかしい…。

ソファーに座ってテレビでも見てろと言ったら、二人共渋々ソファーへと歩いていった。

「先輩なに見てるの…?なにこれ…旅番組?ぷっ…くくっ……おじいちゃんかよ先輩…くくっ…!。」

「べ、別にいいだろっ!自然が好きなんだから!じゃ、じゃあ夏美ちゃんはなに見るんだよ普段!」
先にソファーに座ってテレビを見ていた鈴村と夏美が口論しだした。
旅番組…楽しいじゃないか。

「わっ、私?わたしは……その…」

「なに?」

「……ぽけ…もん…?」

「ポ、ポケモっ!?…くく……ぶぁはっあっはははははぁっ!ポケモンだってさっ!夕凪くん聞いたっ!?…夏美ちゃん子供だね〜あっははははっ!おなかいたいィっヒははははっぁ!」

「わっ笑うな!子供の時から見てるんだから日課になってんだよ!」

「いや…ポケットモンスター面白いですよ?私も見てました。」
夏美の横にいる美幸ちゃんが珍しく夏美を助けた。
408春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:16:23 ID:AdykL35E

「ほら見ろ!ぽけもんぐらい普通だ!」

「美幸ちゃん見てましたって言ったけど?今は見ていないって事でしょ?」
勝ち誇ったように鈴村を見下ろす夏美を鈴村がどん底に突き落とす。
その事実に気がつき夏美が美幸ちゃんをキッと睨むが美幸ちゃんはすでにソファーに座っており、旅番組を見ている。
夏美はと言うと、怒りの矛先を失ったのか、めんどくさそうに美幸ちゃんの横に腰を降ろすと、二人と同じように旅番組に目を向けた。

「…」
仲が良いのか悪いのか…呆れるがソファーに座る三人を見ていて悪い気はしなかった。

「春くん、早く洗って。」
リビングを眺めていると、食器洗いの手が止まっていたのか冬子に早く洗うように急かされた。

「あ、あぁ、悪い。」
慌てて手に持っていたコップを洗って冬子に渡す。
渡した食器を布巾で綺麗に拭くと、後ろにある食器棚へと運んでいく。
冬子の性格が出ているのかお皿を何枚も溜めずに、わざわざ一枚一枚食器棚へと運んでいく。
無駄な行動を省きたいのだろう…しかし、食器を洗っている俺からすれば急かされている気がしてならない。



――「…ねぇ、春くん…。」
409春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:16:53 ID:AdykL35E

同じ動作を機械的に行っていると、突然冬子から小さな声で話しかけられた。

「なんだ?」
冬子が隣にいるのは分かっていたので、冬子を見ないで皿を洗う事に集中する。

「美幸ちゃん最近よく家にくるよね?」

「あぁ、そうだな。」

「……春くん、美幸ちゃんのこと好きなの?」
冬子の唐突な発言に洗っている皿を落としかけた。

「意味わからん。なんでそうなるんだよ」
俺は一度たりとも冬子に美幸ちゃんを好きだと言ったことは無い。
無論冬子に限らず他の人間にも無い。

「じゃあ、なんでよく家にくるの?彼女でもないのに…」
食器を洗っているので冬子の顔を見ていないが、雰囲気でなんとなく怒っていると言うことは解った。

「まぁ、いもっ……友達みたいなもんだからな。」
危ない…また禁句を言うところだった…。

「……妹みたいな存在でも、他人の女の子が家に出入りすると周りの人は勘違いするよ?」
地獄耳の冬子には聞こえていたみたいだ…冬子の表情を確認したいが少し恐い。
声は相変わらず低めだが、会話を重ねていく度に冬子の声がハッキリと聴こえてくるようになった。

「それ言い出したらお前や夏美もそうだろ………ほらっ、これで最後だ。」
410春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:17:34 ID:AdykL35E

最後の皿を洗い終わり、流し台を綺麗に拭くと、横に立っている冬子に皿を手渡そうとした。



「……」


「冬子?」
が、なぜか冬子は皿を受け取る気配がまったくない。
不自然に思い、なぜ受け取らないのか冬子の方へ目を向けると、俺の手に持たれている皿は冬子の胸の前でピタッと止まっていた。

「…」
皿を眺めているのか、視点が合っていないのか…冬子は両腕をだらしなく下げたまま、まったく皿を掴もうとしない。




「―――じゃない。」

「えっ?」
下を向いたまま何かを呟くと突然ぷるぷると震えだした。

「ふ、冬子?」
冬子の姿を見てただ事では無いと感じ取った俺は、皿を流し台に置き冬子へと近寄った。





「私達は他人じゃない!!」
冬子の肩を掴もうとした瞬間、力一杯拳で冷蔵庫を叩き、先ほどまで小さな声で話していた冬子は俺に向かって大声を張り上げた。

「ちょっ、冬子どうしたんだよ?落ち着けって。」

「さわらないでっ!あの子はたかが1ヶ月でしょ!?一緒にしないでよ!」
冬子を宥めるために肩に手を乗せようとすると、勢いよく振り払らい、冬子が言う「あの子」であろう美幸ちゃんのいるソファーに向かって指をさした。
411春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:18:07 ID:AdykL35E

「やめろって!」
慌てて冬子の腕を掴み指をさす事を止めさせる。
幸いソファーから台所が見えないので三人には此方の姿は見えていないはず。

「どうしたの!?」
夏美がビックリした表情で此方に駆け寄ってきた。

鈴村と美幸ちゃんも困惑したように立ち上がり、此方の様子を伺っている。

「い、いや、なんでもないよ!」

「何でもなくないわよ……春くん…約束破らないでよ?」
数秒俺の顔を睨むと、俺の胸にエプロンを軽く投げつけた。

「それじゃ、私明日テストだから家に帰って勉強するね。」
そう言うと、鈴村と美幸ちゃんに礼儀正しく頭を下げてリビングを出ていった。
追いかけようか迷ったが、今追いかけて冬子と話をしても余計に話が拗れると思い、追いかける事ができなかった…。

「なんだあいつ…?」
夏美が不思議そうに冬子が出ていった扉を眺めている。

「さぁな…」
冬子から投げつけられたエプロンをイスに駆け、ソファーに腰を降ろす。
それを見た鈴村と美幸ちゃんも同じように腰を降ろした。

「約束…か…。」
約束――多分俺が冬子の兄になる事を言っているのだろう。

でも、なぜ冬子はあんなに俺を家族にいれようとするのだろうか?
412春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:18:38 ID:AdykL35E

冬子と約束をしたと言っても俺が中ニの時…第一、姉の命を奪った相手を家族に引き入れようなんて普通は考えないはず…。

それが、冬子なりの復讐なのか――春香と父親がいなくなり、ぽっかりと開いた穴を違う何かで塞ぎたいのか―――
残念ながら冬子が願う、昔にはもう戻れないだろう…。

「あっ、そろそろお母さん帰ってくる頃だ。」
夏美が壁に掛かっている時計を見ながら呟く。
その視線を追うように時間を確認すると、すでに夜の8時を回っていた。

「もう、こんな時間か…それじゃ、美幸ちゃん、そろそろ送っていくよ。」

「あっ、はい。わかりました。」
親に了解を得ているとはいえ、あまり家に引き留めておくのも本人に悪い。

「鈴村、ちょっと行ってくるから二階にある俺の部屋で待っててくれ。」

「わかった。美幸ちゃん、またね。」
鈴村に手を振り三人で家を後にする。

鈴村は家に帰るのが面倒くさいとの事で一日家に泊めることにした。
鈴村は美幸ちゃんと違って男なので電話一本で許可がおりるらしい。

「それじゃ私も家に帰るわ。暗いから気を付けてな春兄。家に帰って来たら電話しろよ。」

「母親かよお前は…まぁ、家に着いたらメールするわ。」
413春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:19:25 ID:AdykL35E

――夏美が家に入るのを確認すると、美幸ちゃんを家まで送るために美幸ちゃんの自宅へと向かう。
家が近いので送ると言うほどでもないだが、この道は夜になると人通りが少なく、街灯も無いので女の子の一人歩きは少し危険なのだ。

現によく痴漢がでるらしく、所々の電信柱に痴漢注意の看板が立て掛けてある。

「美幸ちゃん、この辺夜中になると痴漢とか多いみたいだから気を付けてね?」
隣を歩いている美幸ちゃんに軽く注意を促す。美幸ちゃん程の小さい女の子ならあっという間に連れ去られそうだ。

「ちっ、痴漢ですか?」

「あっ、でも夕方なら別に問題ないよ?人通りも多いから。」
美幸ちゃんを怖がらせたかと思い慌てて言い替える。

「私は夜に一人で歩く事は無いので大丈夫ですよ。春樹先輩こそあまり夜一人で歩かないでくださいね?危ないですから。」

「あ、あぁ…ありがとう。」
心配してくれるのは有り難いが、夏美といい美幸ちゃんといい俺を男だと思っていないのだろうか…。




――「美幸っ!!」
美幸ちゃんと雑談しながら歩いていると、道の暗闇から一人の男性が此方に走ってくるのが声と足音で解った。
414春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:20:18 ID:AdykL35E

――「お、お父さん?」
一瞬変質者かと思ったのだが、美幸ちゃんは声だけで走ってくる男性が美幸ちゃんのお父さんだと判別できたようだ。

「はぁ、はぁ、はぁ…美幸…。」
俺達の前まで走り寄ってくるとやっと顔がハッキリと見えた。美幸ちゃんの言う通り、走ってきた男性は美幸ちゃんのお父さんだった。
一度しか会った事がない俺は、俺達の前に姿を現すまで、美幸ちゃんのお父さんだと確認できなかった。

「お父さんどうしたの?汗なんかかいて…」
美幸ちゃんが息切れしているお父さんの横まで行き、背中を優しく擦ってあげている。

スーツ姿なので仕事帰りなのだろう…しかし何故美幸ちゃんのお父さんがこの道を使っているのだろう?
それに、美幸ちゃんを偶然見つけたと言うより、探し回っていたようだ。



「こんな時間までなにやってるんだ!!」

「ッ!」
息を整え終えた瞬間、美幸ちゃんに向かって怒鳴り声をあげた。
美幸ちゃんもその声にビックリしたのか、目を瞑って肩を強張らせた。

やはり美幸ちゃんが心配で探していたようだ。
「春樹くん…だったかな…?」

「あっ、はい。」
美幸ちゃんから目を離し今度は俺の方へと向き直る。
415春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:20:56 ID:AdykL35E
表情を見ただけで怒られると確信した。

「まだ美幸は16才なんだ…あまり連れ回さないでくれないか…?」

「お父さん、なんで春樹先輩に言うの!?私が仲良くしてもらってるの知ってるでしょ!!」
慌てたように美幸ちゃんが俺とお父さんの間に割り込むと、俺からお父さんを遠ざけるようにお父さんの胸を押し返した。

「美幸も美幸だっ!なぜ一本電話ができないんだ!?心配するだろう?」

「お母さんに、ちゃんと言ったもん!!」
確かに美幸ちゃんはお母さんに許可を貰ったと言っていた…。
お母さんからお父さんに伝わっていなかったのだろうか…。

「ッ……とにかく…今後は気を付けなさい。」
一瞬、美幸ちゃんの発言に対して眉間にシワを寄せたが、すぐに元の表情に戻り、軽く俺に注意を促した。

「はい、次からは気を付けます。すいませんでした……。」

「春樹先輩やめてください!」
二人に向かって深々と頭を下げる。
美幸ちゃんにすぐさま肩を掴まれ頭を上げさせられたが、少し長居させてしまったのは事実なのだから素直に謝っといた方が懸命だろう…。
言い返して説教が長引くのも正直めんどくさい。

「いや、分かってくれれば問題ないんだ…。」
416春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:21:18 ID:AdykL35E

案の定、俺の対応に納得したのか、ばつが悪そうに頭を掻くと、俺の肩に軽くポンッと手を乗せた。
もう、怒ってないという意味だろう…少しだけヒヤヒヤしたが、なにもなくてよかった。

「それじゃ、俺はこれで失礼します。」

「えっ、春樹先輩?」
美幸ちゃんのお父さんがいるのだから美幸ちゃんを家まで送る必要はないだろう…。

一刻も早くこの重い空気を逃れたくて、早々と別れの挨拶をする。




――「…待ちなさい。」
歩き出す俺の背後からハッキリと聞こえた美幸ちゃんのお父さんの声…。
嫌な予感を感じながらも無視することはできないので、仕方なく振り向いた。

「美幸がいつもお世話になってるんだろ?なにかお礼をしたいんだが。」
家に来い…と言う意味だろう…確か一番始めに会った時も同じようなことを言われた。
前は怪我を理由に断ったのだが、完治した今、流石に怪我を理由には出来ない。

「それに、美幸と仲良くなった友達なら話したいこともあるから。」

「えっ?」
どう断ろうか考えていると、お礼と言う言葉の後に意味深げに呟いた。
まるでお礼よりその話しがメインのように。
417春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:22:50 ID:AdykL35E


「春樹先輩よかったら少しだけ家に寄って行きませんか?ケーキあるんで食べていってください。」

「いや、でも悪いし…」

「そんな事は無いよ。美幸もこう言ってるんだ…長居はさせないから少しだけ家に来ないか?」

「はい……それじゃ、ちょっとだけ…」

二対一…流石に断れなかった。
別に美幸ちゃんの家になにか嫌な物があるとかそう言う事では無い。
美幸ちゃんの家に限らず、単純に気を使うのであまり他人の家にお邪魔するのは気が乗らないのだ。

それに話し…とはなんだろう?
家に呼んで両親二人で説教とかなら最悪だが、そんな雰囲気では無かった。

「はぁ…」
今更考えたって仕方ない。
携帯を取り出しメールを送る。

『美幸ちゃんのお父さんに家に招かれたから少し遅くなるかも……眠たかったら勝手にベッド使っていいぞ。』
鈴村にメールを送り、携帯をポケットに入れる。
前を向くと美幸ちゃんとお父さんが立ち止まり俺の方を眺めていた。律儀に二人共俺がメールするのを待っていてくれたようだ。

「それじゃ、行こうか?」

「…はい。」
418春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:23:30 ID:AdykL35E

「春樹先輩が家に来るのなんて初めてですね!パルも喜びますよ!」
横をちまちまと歩いてくる美幸ちゃんの歩幅に合わせて歩く。

テンションが低い俺とは違い、余程嬉しいのか、美幸ちゃんから珍しく俺に会話を持ち掛けてきた。

「パルかぁ…俺のこと覚えてるかな?」

「覚えてますよ!毎日パルに春樹先輩の話をしてますから。」

「ま、毎日?」
毎日話すほど俺の話題なんてあるのだろうか…。

「あッ……い、いや…変な意味ではなくて…あの…」
しまったと言わんばかりに両手で口を押さえると、何故か顔を真っ赤にして美幸ちゃんのお父さんの影に隠れてしまった。

「美幸が家で話す話題は春樹くんの事ばかりだよ。親としては複雑だけどね……ははっ」

「は、ははっ…は…。」
美幸ちゃんのお父さんに苦笑いで返す。
冗談混じりで話しているが後半は本音だろう。年頃の一人娘が男を友達にすると嫉妬するらしい…春香の父親がそうだった。

「お父さんもいい加減子離れしてよ〜。」

「そう言うな。かわいい一人娘を持つと男親は心配なんだよ……なぁ、春樹くん?」

「そ、そうですね、はははっ…はは……はぁ…」
美幸ちゃんに彼氏が出来る日はまだまだ遠そうだ。
419春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:24:10 ID:AdykL35E

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「…ふぅ」
携帯を閉じ、ベッドに横になる。
ベッドと言っても自分のベッドでは無い。
この家の持ち主…春樹くんのベッドだ。

「…なにもないな…」
部屋を軽く見渡す…思ったより普通の部屋なので少しだけガッカリした。
まさか夕凪くんと友達になれるとは思っていなかった。
夕凪くんは多分僕の事を一切しらないだろう。
だって一度も話したことが無いのだから。

でも僕は知っている。
小学生の時からずっと…。

「よいしょっと……んっ?」
ベッドから立ち上がり背筋を伸ばす。
ふと夕凪くんの勉強机に目が止まった。

「勉強してないな、これは…」
机に近づき周辺を見渡すが、教科書も筆記道具もノートすら机の周りに無い。多分学校に置きっぱなしなのだろう…。
机の上にあるのは脱ぎっぱなしの制服だけ。


「んっ?……なんだこれ…」
制服を綺麗に畳み、端に寄せると、制服の下に一枚の写真が落ちていた。

手に取り写真を眺める。
写っているのは幼さの残る、満面の笑みをした夕凪くんと…綺麗に笑う女性が一人。






「……春香ちゃん…」
420春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:25:00 ID:AdykL35E

懐かしさが込み上げてくる。

――光、今度ハルに会わせてあげるよ。絶対に友達になれるから――

春香ちゃんの言う通り優しい人だった…。二年も様子をみた僕が馬鹿らしく感じる。

「夕凪くん…こんなに笑えるんだ…」
写真の夕凪くんは本当に楽しそうに笑っている…。
ここ1ヶ月で友達の様に接する事はできた。
だけど会話が途切れたとき、物凄く悲しそうな表情をする時がある。
その表情を見る度に胸が締め付けられ、まだ春香ちゃんの事を強く愛してるんだと確認できた。

春香ちゃんの様に夕凪くんを心から笑顔にさせることが僕には出来るだろうか?
春香ちゃんが普段から見ていた夕凪くんの笑顔を僕も見てみたい…。


それに春香ちゃんとの約束もある。





「本当に……春香ちゃんが夕凪くんのことを好きになる気持ちがわかったよ――」
写真に写る春香ちゃんに話しかける――無論返事など返ってくる訳も無く、向日葵の様な笑顔も絶やす事はなかった…。
421春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:30:24 ID:AdykL35E
>>403>>404の間の二つが抜けました…。

422春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:30:49 ID:AdykL35E

―鍋の用意が終わる頃にはもう夕方の6時を過ぎており、窓から差し込む夕日の色でリビングの中が少し赤くなっていた。

もうそろそろ美幸ちゃんも来るはず…。

「あっ、そうだっ!…夏美達呼ぶの忘れてた。」
急いでポケットから携帯を取り出すと、夏美にメールを送った。

多分すぐに来るだろう。

「夏美って……赤部 夏美さん?」

「あぁ、なんだ知ってんのか?」

「まぁ、夕凪くんもそうだけど、良い意味でも悪い意味でも学校では有名人だからね…赤部先生の妹さんでしょ?」
確かに秋音さんと夏美が姉妹だと言うことはほとんどの生徒が知っていることだ。

「良い意味でも悪い意味でもって…悪い意味はなんとなく思い付くけど、良い意味なんてまったく思い当たらないぞ?」

「夕凪くんって女子から普通に人気あるよ?よく夕凪くんがいない教室で話してるとこ見るもん。」

「いや、俺は見たことも聞いたこともないんだけど……それに女子からお前を虐めるなって注意されたしな。」
一度、鈴村が俺に脅されてノートを写してるんじゃないの?っと数人の女子から問い詰められたことがある。
一応弁解したが、終始不満げに話を聞いていたので多分信用してないだろう…。
423春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:32:12 ID:AdykL35E



「な、なにそれっ!?そんなこと言われてたの!?」
驚いたように椅子から立ち上がると、テーブルの上を上半身いっぱいいっぱい乗り上げて顔を近づけてきた。

「だから顔を近づけんなって……まぁ、多分相手もお前が心配で声をかけてきたんだろ?しょうがねーよ。」
鈴村の見た目を考えれば、周りから見ればそう見えてもしかないのかも知れない…。
俺だって同じこと考えるかも…


「はぁ……は――夕凪く――す――気持――なく分かったよ…」

「えっ、なに?」
鈴村が俺の顔を見ながら何かを呟いたが、小さすぎて何を言っているのか途切れ途切れにしか聴こえなかった。

「その女子達がムカつくって言ったの!!」
そう言うと怒ったようにそっぽを向き、体育座りのように椅子の上で両膝を抱え込んだ。
本当に子供みたいな奴だなっと思ったがこれ以上機嫌が悪くなると、夏美と同じように手に終えなくなりそうなので俺も鈴村から目を離した。
424春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/10(木) 00:36:49 ID:AdykL35E
ありがとうございました、投下終了です。
>>403〜404の間に>>422〜423が入ります。

めんどくさいかもしれないですが、間に挟んで見てください。
それでは。
425名無しさん@ピンキー:2009/09/10(木) 00:38:38 ID:EQOR1y2P
gj
426名無しさん@ピンキー:2009/09/10(木) 00:51:34 ID:R0V3LZoT
誤字がちょっと気になるけど、乙&GJ
427名無しさん@ピンキー:2009/09/10(木) 15:08:24 ID:ga6wJgjj
GJ!!
428名無しさん@ピンキー:2009/09/11(金) 14:14:29 ID:KXFm0lZS
GJ!
429名無しさん@ピンキー:2009/09/12(土) 04:16:17 ID:0ekTx/XP
GJ!

冬子の気持ち悪さがイライラするレベルでワロタ
430名無しさん@ピンキー:2009/09/12(土) 22:13:24 ID:RyyGHIki
上手いね
431名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 15:26:11 ID:yYW+VS8G
まさかの鈴村君萌え
432名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 09:59:05 ID:OWAjb0A4
ここは平和だなぁ〜
433名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 22:27:19 ID:Cfib4wBf
リレーSSでもしませんか
434名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 22:43:51 ID:WeLJLTzd
貴方の股間にあるバトンが欲しい!
こうですか、わかりま(ry
435名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 23:27:02 ID:OWAjb0A4
>>434
暴投すぎるだろw

>>433
まずあなたからどうぞ。
後に続きますんで。
436リレー1:2009/09/15(火) 00:32:46 ID:wYzV1t0n
零時を少し過ぎた頃。
僕は目が冴えてどうにも眠れず、辺りを散策していた。

散策といっても、この辺りは静かな住宅街で、これといった景色は存在しない。
点々と燈っている街灯も、心なしか寂しげに見える。

その時ふと、何かの泣き声が聞こえた。
思わず耳を澄ます。
「ん・・・ひんっ、ひんっ・・・」
・・・・・・。
何かの動物だろうか。
興味を持った僕は音のする方へ向かってみる。

暫く歩くと、小さな公園があった。
「・・・あ」
ベンチに女の子が座っている。
・・・泣き声の主だろうか。
僕はとりあえず近寄ってみた。

「・・・え!?」
思わず驚愕の声を上げる。
なぜなら、彼女はーーー


無茶振りですみません。
誰かこのリレーSSを然るべき方向に導いてください
437リレー2:2009/09/15(火) 01:08:17 ID:05Q7X9fw

「おにいたん、だぁれ…?」
幼女も幼女…まだ5、6歳といったところだろうか?

小さな目で俺の顔色を伺う幼女の表情は怯えきっていた。

「俺か?この近くに住んでるんだけど…どうしたの?」

「…」
なるべく優しい声で話し掛けるが返事は返ってこない。

家出…なのだろうか?背中にはリュックを背負っており、首から小さな水筒をぶら下げている。

「一人だと怖くない…?」

「…怖くないよ……?」
そう言うと徐に立ち上がり此方に歩み寄ってきた。



はい、次の人どうぞ〜。
438名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 01:58:14 ID:/nw0fJRd
逮捕フラグ
439名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 11:30:26 ID:+T/XOZD4
>>436
リレーSSなんて(゚听)イラネ
440名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 20:11:45 ID:pr7f9he0
リレーは賛否両論あるし荒れる元にもなったりするから俺も遠慮願いたいな。
書いてもらった手前悪いんだけど、ごめん。
441436:2009/09/15(火) 20:35:03 ID:wYzV1t0n
すみませんでした。ROMります
442名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 20:40:55 ID:05Q7X9fw
そっか…それじゃダメだな。
まぁ、謝らないけど。
443名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 21:06:14 ID:wYzV1t0n
>>442
参加してくださってありがとうございました。この様な形で終わってしまって申し訳ないです
444名無しさん@ピンキー:2009/09/16(水) 00:36:10 ID:6yBnjoSq
リレーSSは完結しにくいうえに他人任せだから毎度見るたびに
話の流れが変わってしまって読みにくいし荒らしが寄って
きやすいからな。
どうしてもやりたいのならリレーSS専用スレなどを当たってもらうしか
ない。
445名無しさん@ピンキー:2009/09/16(水) 00:38:33 ID:i+fFI99i
いや、普通に謝ってだろ。
446名無しさん@ピンキー:2009/09/16(水) 12:45:30 ID:Dt3yKvoi
>>437
リレーじゃなくて、このまま書いて。
447名無しさん@ピンキー:2009/09/18(金) 00:58:18 ID:p+6F0nuK
ネトゲの人は元気だろうか…
448名無しさん@ピンキー:2009/09/18(金) 09:55:31 ID:5i8GRel7
ネトゲ?誰それ?
449名無しさん@ピンキー:2009/09/18(金) 09:56:38 ID:5i8GRel7
てゆうかここって作者一人しかいないの?
450名無しさん@ピンキー:2009/09/18(金) 10:21:16 ID:1MYb7+gx
作者じゃなくて作文書きな
451名無しさん@ピンキー:2009/09/18(金) 18:39:37 ID:LKz0Xe6O
>>448
ネトゲ風世界依存娘のことじゃないか?
452名無しさん@ピンキー:2009/09/18(金) 18:59:16 ID:5i8GRel7
保管庫見てきた。
確かにあの人のは続きが楽しみだ。
453名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 10:17:36 ID:UQcMRfH/
保管庫更新乙
454名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 20:39:10 ID:f7Aao6rX
てか管理人にdatファイルの質問したって奴、まずググろうぜ……
455名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 18:54:52 ID:0jXB0ExM
保守
456名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 20:02:36 ID:jmVne1p4
投下があるように、悔し紛れの保っ守ぅぅぅっ!
457前のそのまた前のスレの180:2009/09/22(火) 00:42:54 ID:N1kWvK17
リレーか……

例えば依存君がとある依存神が宿っているバトンをひろってしまってだな

 私は非常に困っている。ああ、困っているとも。
 通学途中に隣に住む幼馴染と義妹(両人とも、かなりの美少女だ)が周囲の目を引くほど
私にまとわり付いてるこの現状は困っている以外の何物でもない。
私の記憶が正しければ昨日まで幼馴染には苛められ義妹には汚物を見るような眼で見られていたはずだ。
昨夜、日課の散歩の途中でバトンを拾わなければ。
 依存神「気分はどうかな童貞君wwwwwww」
バトンに憑いていた自称依存神をぶん殴ろうとするが、両脇を幼馴染と義妹に抑えられているためできない。
この依存神とやらは、生き物に依存心を植え付け自由に強弱をつけられるという。暇をもてあました神々の遊び
とやらでバトンを拾った奴に依存娘を作ってるとか。……誰か止めろよ……。神の力により捨てることが出来ず
手放すには依存スレにリレーSSを書かなければならないということだ。
 朝食を食べている時に義妹が「あんたの匂いで朝食が不味くなるわ。自分の部屋に引きこもって
出てこないでくれない?」といつもどおりのお言葉を頂いたところ、この依存神(笑)が「うはwww
ツwwwwンwwwwデwwwwレwwww」とか良いながらバトンで義妹の頭叩いたとたん
私の匂いに依存してしまった。今も恍惚の表情で「あ、あんたの匂いなんて嫌いなんだからね!」
とか言いながら私の腋の匂いをくんかくんかしている。
また、幼馴染も玄関口で登校しようとしていた私を捕まえ蹴りと共に罵倒が飛んで来たところで
依存神(キリンさん)が「Sが好きです。でもMのほうがも〜っと好きです!(キリッ」と(略により今は虐めてオーラ
を出して何故自分を虐めないかと延々と問い詰めてきている。
 どうしたものかと思いつめ学校に向かっていると、いかにも清楚な黒髪ロングお嬢様で、しかし実は幼馴染
と一緒に私を虐めていた先輩が若干引きながら前方から近づいてきた。私はげんなりとしながら
肩を落とすと依存神(爆)が「見た目が清楚で中身が淫乱はマジぱねぇっすww鉄板っすwww
ここは一つ童貞君の精液依存にwwww」とのたまいながらバトンを振りかぶった。
 空を見上げながら目頭を押さえる。正面から抱きつかれた。半ば達観した思いで下を見る。
目を血走らせ鼻息が荒い先輩がチャックを下ろし逸物を取り出していた。
 私は困っていた。貧乳しか愛せないのに依存娘が皆巨乳なことに。そしてリレーSSが書けるように
なるまでにどのくらいかかるだろうかということに。

実はこうやって依存神付きバトンによってリレー(SS)を繋いでいるなら自分も参加したいがね
プロットも無しにたださえ難しいジャンルでリレーSS書くのは自分の実力不足的に考えてむりぽ
458名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 09:32:25 ID:btshTiY+
確かに。
459名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 13:48:35 ID:y1R452bw
>>457
読みにくい
460名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 10:12:19 ID:4llXYbTf
せめて、改行と草さえ何とかしてくれれば…
そして主人公が一人称私なのかよ。
461名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 11:13:46 ID:XvVFpsJm
読みにくいけど、読んだら面白かったので許す。

依存バトン、渡された人が渡した人に依存恋着する仕様なんだが誰もそれに気付いてないとか面白そう。
462名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 11:37:37 ID:TJ1XKfmZ
改行もしてないし読みづらい。
携帯から書いているのか?
リレーSSスレは別にあるからそっちでやった方がいい気はするなぁ、こっちの
ネタを交えるのなら誘導すりゃいいし。
463名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 12:20:57 ID:ZQWxcduX
>>457
意味わからんけど、なんかこのスレはリレーダメみたいだよ?
464春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:24:40 ID:ZQWxcduX
投下しますね。
465春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:25:03 ID:ZQWxcduX

壊れた宝物を元に戻すにはどうすればいい?

――直せばいい。

じゃあ直せない宝物なら?

――時間を巻き戻す。

その力が貴女にはありますか?

――ないから別の物で補うしかない…。

それで溝が埋まりますか?

――…埋まる。

本当に?

――……うるさい。

補われたその別の物は貴女の大切な宝物になるのですか?

――うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい――

所詮は代用品――タカラモノにはならないのでは?

――うるさい!

アナタが望んだ宝物はもうナイ――。

――違――ワタシ―望ん―物――あの頃―暖か―い―
466春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:25:38 ID:ZQWxcduX


――
―――
――――
―――――

「はぁ……嫌な夢…」
最近よく見る夢がある。
もう一人のワタシが私の宝物を否定する夢。
夢から目覚めると決まって身体が小刻みに震えている。
この夢だけは何回見ても慣れない…。

「まだ9時か…はぁ…悪夢ほど長く感じる夢はないわね……」
頭を軽く押さえながらベッドに腰を掛ける。
春くんの家から帰宅してまだ一時間しか経っていない…。

「…」
春くんの事を想像したらまた腹がたってきた…。
春くんは本当に私の兄になる気があるのだろうか?もう昔の戯言として春くんの中では片付いている問題なのかも知れない。
それでも春ちゃんのことは忘れていないはず…春くんが春ちゃんの事を忘れない限り、再構築の機会はいくらでもある。
ただ美幸ちゃんが春くんの心の中に入ってるのも確かだと思う。

それが私にはどうしても許せない。
友達なら許せるが美幸ちゃんの目的は多分春くんと付き合う事だろう…。

春くんに限って付き合う事は無いと思うが、もし美幸ちゃんと付き合う事になれば、今まで築き上げてきた私達との接点が将来無くなってしまう可能性だって出てくるのだ。
467春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:26:19 ID:ZQWxcduX

春くんが秋ちゃんやなっちゃんと結婚してくれるのが一番の理想なのだけど…。

「…そんな上手くいくわけないか…」
ため息を吐き、目を瞑りもう一度ベッドに寝転ぶ。

私の宝物…大まかに言えば家族。ピンポイントで言えばお母さん。

お母さんの宝物も私達だと信じたい…。
その宝物の中には春くんも入っているはず…。

じゃあ、春くんの宝物は――?







――冬子のことも絶対に守ってやるからな。


「…………春くんのバカ……」




――っ―た―

「…?」
ベッドにうつ伏せで寝転がっていると微かに下から声が聞こえてきた。
もう一度耳をすまして声を聞く。



「………お母さんだ…!」
微かにしか聞こえないが紛れもないお母さんの声。沈んだ気持ちは一瞬で消え去り、素早くベッドから飛び起きて私室を後にする。

階段を降り、リビングに近づくにつれてお母さんの声もハッキリと聞こえてきた。

「――に手をだしたら警察じゃすまないから。」
リビングの扉を開けようとした手が止まった。
誰かと話をしている…?

「えぇ…これが最後の忠告よ?私の家族に手をだしたら―――」
聞いてはダメだと思い急いで両手で耳をふさぐ。
468春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:26:57 ID:ZQWxcduX

確かにお母さんの声だった…だけど何故かお母さんの声には聞こえなかった。

悲しいような…怒ってるような…よく分からないけどあの優しいお母さんが話し相手に対して感情をむき出しにして話していた。

5分ほどして少しだけ耳から手を離すとリビングの中からお母さんの声はもう聞こえてこなかった。
恐る恐るリビングの扉を開けるとソファーに座っているお母さんが視界に入ってきた。

「あら、冬子。どうしたの?」
リビングに入ってきた私に気がついたお母さんは優しい笑顔を見せてくれた。間違いなくいつものお母さんだ。

「う、ううん。なんでもないよ?二階で寝てたら下からお母さんの声が聞こえてきたから帰って来たのかな〜ってね。」
お母さんの座っているソファーに近づき、横に座る。
お母さんの匂いがする……甘いような…切ないような…。昔から変わらない私の大好きな匂い。

「あぁ、ちょっと知人と電話してたのよ。」

「でも、なんかお母さん怒ってなかった?」

「えっ?あぁ、まぁちょっとね…。」
誤魔化すように苦笑いすると私の頭を軽く撫でた。

「そう…お腹減った?私がなにか作るよ。」
469春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:27:29 ID:ZQWxcduX

「えぇ、ちょっと疲れたからお願いするわ。」
そう言うとお母さんはソファーへ無気力に倒れ込んだ。
仕事疲れもあるのだろう…最近はよく疲れて帰ってくる事が多い。
その疲れを少しでも軽減できたらと、なるべくお母さんの負担にならないようにお母さんの身の回りの事は私がするようにしている。

それで私も誉めてもらえるので一石二鳥だ。

――「あっそうだ。」

「んっ、なぁに?」
何を作るか冷蔵庫の中を確認していると、お母さんが何かを思い出したように呟き、ソファーに座り直した。

「ハルの手はどうだった?」

「春くん?もうギブス外して元気にしてたよ?」

「ふふっ、そう。」
声で分かる…多分お母さんは今満面の笑みを浮かべているのだろう…。
春くんが羨ましい…。

私が春くんを家族にしたい理由の80%はお母さんが喜ぶから。
これは今でも変わらない気持。

後の20%は単純に私が春くんを独占したいという気持ちだと思い込んでいた…。

だけど違った。

小さな復讐――最近気付いた私の20%の本音。
その20%が私の中で徐々に膨らんでいく。



――お母さんの笑顔を悲しみに変える春くんが妬ましい――
470春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:28:03 ID:ZQWxcduX

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「お母さん、ただいまぁ〜。あっ、春樹先輩も遠慮せず入ってくださいっ!」

「あっ、うん…お邪魔します……。」
美幸ちゃんとおじさんに誘われて美幸ちゃんの家に来たのだが……新築独特の綺麗さに少し圧倒されてしまった。

玄関の地面は大理石のような綺麗な石が敷き詰められており、お母さんの趣味か壁紙は白一色で統一されている。
それに、赤部家以外の他人の家に来たのは何年ぶりだろうか…見慣れない場所に緊張もしている。

「ははっ、緊張するかな?美幸が言うように気楽にしてくれて構わないよ。」
顔にでてたのか、俺の心を見透かしたようにおじさんが笑いながら話しかけてきた。
一応笑って返事を返したが、気楽にするのは少し難しいかもしれない…。


美幸ちゃんに手を引かれリビングに通されると、洋色が強い玄関とは違い落ち着く和テイストの風景が広がっていた。

リビングの真ん中にはガラス張りの白いオシャレなダイニングテーブルが置いており、美幸ちゃんのセンスかお母さんのセンスかダイニングテーブルの真ん中には綺麗なすずらんの花が飾られている
471春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:28:33 ID:ZQWxcduX

というかリビングのあちらこちらに花が飾られている…どれもすずらんの花。
美幸ちゃんが花好きなのはお母さんの影響だと言っていたので家全体にその影響が及んでいるようだ。

「すずらんの花…好きなんですか?」
周りを見渡しながらおじさんに問い掛ける。
イスに座らされたのだが、ビックリすることにイスもガラス張りだった…。ここまでくると家に招かれていると言うより、店に来ている感覚に近い。

「んっ?あぁ…妻と美幸がね…」
目を細め、俺と同じように周りを見渡す。
その姿にどこか違和感を覚えたが、「そうですか」としか言えなかった。

「春樹先輩はモンブランとイチゴショート、あとチョコレートケーキもありますけど、どれがいいですかぁ〜?」
冷蔵庫の中からケーキが入ってるであろう四角い箱を持ち出してきた。

小さな箱をテーブルに置くと、俺の前のイスに美幸ちゃんが腰を降ろした。
それに続いておじさんが美幸ちゃんの隣に座る。
和やかな雰囲気なのだが、どこかバイトの面接を思い出す。

「どれでもいいから先に春樹くん選びなさい。」
おじさんがケーキの箱を開けると中から色とりどりのケーキが姿を現した。
472春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:29:08 ID:ZQWxcduX

食欲をそそる見た目をしているのだが、残念ながらすずらんの花の匂いが嗅覚を刺激してケーキの甘い匂いはまったくしない。
唯一箱に見たことがある専門店の名前が書かれているので有名な店だということは分かった。

「あの…俺はどれでも…」

「それじゃ中から選びなさい。」
そう言われたので一番オーソドックスなイチゴのショートケーキを貰うことにした。

美幸ちゃんはモンブラン。お父さんは俺と同じイチゴのショートケーキを選んだ。

美幸ちゃんもそれに気がついたのか慌ててモンブランからショートケーキに変える。

意味が分からなかったが、美幸ちゃんは基本意味の分からない行動が多いので、気づかないふりをしてケーキを食べ始めることにした。



「そう言えば春樹先輩、鈴村先輩が家で待ってるんじゃないですか?」
ケーキを頬張りながら思い出したように美幸ちゃんが呟く。

「ん?なんだ、家に友達が待ってるのかい?それじゃ、少し悪いことしたかな?」

「あっ、いえ…一応メールしたから大丈夫だと思いますけど。」
おじさんが申し訳なさそうに頭をさげる。
これは早く帰れそうな雰囲気だ。
473春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:29:37 ID:ZQWxcduX

誘ってくれた美幸ちゃんやおじさんには悪いけど、やはり少し居心地が悪い。それに長い時間鈴村を放置する訳にもいかない。

「そっか…帰らないといけないのか…しかたないか…」
おじさんが残念そうに言うその姿にどこか胸が痛くなった。
美幸ちゃんも少し残念そうだ。

「そうですね……それじゃッ、きゃッ!!?」

「おっと、すまん。」
立ち上がろうとするおじさんが手元に置いてある水の入ったコップを盛大に倒してしまった。

運が悪いことに美幸ちゃんの方へとコップが転んでしまい、美幸ちゃんの服やスカートが水でびしょびしょになっている。

(ん…?俺の見間違いか?コップを倒す動作が少しわざとらしかったような…)

「もぉ〜〜お父さんなにしてるの〜!」
美幸ちゃんが怒ったように立ち上がると、水を吸い込んだ服をタオルで拭き始めた。

「いや、悪かった。コップが目に入らなかったんだ…。私室に行って服を着替えたらどうだ?」

「まったく…あっ春樹先輩少しだけ待っててくださいね?すぐに服を着替えてくるので。」

「えっ?いや、俺は…」
俺の返事を聞かず急いで私室へと走っていってしまった…。
474春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:30:09 ID:ZQWxcduX

多分美幸ちゃんの事だから見送ってくれるのだろう。有り難いが、これ以上長居する気は無い。

「…」
チラリとおじさんの方へと目を向ける…。
先ほど美幸ちゃんが使っていたタオルでテーブルの上を綺麗に拭いている。

「えっと…すいません…。」

「んっ?なんだね?」
テーブルを拭く手を止めると。タオルをテーブルの端に置き、イスに座り直した。

「あの…そろそろ…」

「…………春樹くん……先ほど外で話したいことがあるって言ったの覚えているかい?」
俺の言葉を遮るように、おじさんが話しかけてきた。
先程の優しい声とは違い真剣な声に体が一瞬硬直する。

「あっ、はい…覚えてます。」
確かにおじさんは話したいことがあると呟いていた。
やはりケーキよりこっちの話しがメインのようだ…。

「美幸がいる場所では少し話し辛いことなんだ…イスに座ってくれるか?」
水をわざと溢したのも見間違いではなかったようだ…。
だとしたら余程美幸ちゃんに聞かれたくない話なのかもしれない。

「…はい…わかりました…」
緊迫したこの空気に押し潰されそうなのだが、逃げるわけにもいかない…。
渋々先ほど腰掛けていたイスに再度座ることにした。
475春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:30:43 ID:ZQWxcduX


「まず、美幸と仲良くしてもらって本当に感謝している…。先ほど感情的になったのも謝る…悪かった。」
そう言うとテーブルすれすれまで頭を下げた。
俺はと言うと、そのおじさんの謝罪にあたふたするだけでなにも言えなかった。

「それでキミをこの家に招いた本当の理由……それは、キミが美幸の親しい友達だと見込んで美幸のことで話しがあったんだ。」

「話ですか…?」

「あぁ……キミは普段美幸とどんな会話をしている?」

「会話って…日常会話のことですか?いや、普通ですけど…学校であったことや、パルのこと…あっ、あとお母さんの話は多いですね。」
よく分からないが尋問ではなさそうだ。

「そうか、分かった……。自分勝手なお願いだが、今から話すことを驚かないで聞いてもらいたい。そしてこの話を聞いて決して美幸から離れようとしないでほしい……頼む。」

「わ、わかりましたからっ、頭をあげてください。」
悲願するようにもう一度頭を下げる。今度は流石におじさんの肩を掴んで頭を上げさせた。

「美幸はね……軽度の精神的な病気なんだよ…」

「はっ?精神的な病気?」
唐突な発言に頭が追い付かず、言われたことをそのまま返してしまった。
476春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:31:16 ID:ZQWxcduX

精神的な病気と言われても美幸ちゃんにそのような傾向を感じたことは一度も無い。
むしろ明るく、元気で充実した日常を送っている気がする。

「鬱とはまた別のモノなんだけどね…。さっきキミは美幸はよくお母さんの話をする……そう言ったね?」

「はい。仲良さそうに電話もしてますし、本当にお母さんが好きなんだなぁって思いました。
よく美幸さんにお母さんが作った弁当美味しいんですって自慢されますから。

あっ、あと母の日に花をプレゼントしたら財布を買って貰ったって喜んでましたね。」
学校でもよく昼を一緒に食べることがあるのだが、普通に美味しそうな弁当だった。

プレゼントされた財布も美幸ちゃんにぴったりな可愛らしい財布だった。







「その弁当……私が作ってるんだよ。」

「………はっ?」

「財布も私が買って美幸の机の上にこっそりと置いておいたんだ。」

「えっと……意味がよく…」




「私の妻……………美幸の母は二年前に病気で亡くなってるんだ。」

「……え…」
亡くなってる?美幸ちゃんのお母さんが?
おじさんはいったい何を言ってるんだろう?
477春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:31:44 ID:ZQWxcduX

冗談か?だとしたらタチが悪すぎる。
てゆうかその冗談を俺に言う意味が分からない…。

「いきなり言われて理解できることじゃ無いと思うけど……今からなるべく解りやすく説明するよ?」

「はい…お願いします…」
頭がまったく回らない…さっきからおじさんは何を言ってるのだろうか?
信憑性がまったく無いので、おじさんの妄想話を聞かされている気分だ。

「美幸はね…昔から友達もできないぐらい人見知りで内気な性格の持ち主だったんだ…。
小柄な見た目もあって小学生の時はよくイジメられたし、泣きながら家に帰ってくることなんて毎日のようにあったよ。」

「…」
確かに美幸ちゃんは小柄な女の子だ。小学生の時ならイジメの的になりやすいかもしれない。
初めて会った時もキョロキョロと落ち着かなかったし、俺に対して警戒してるような素振りも見せていた。

「イジメが原因で次第に学校にいかなくなり、気が付けば私と妻にしか心を開かなくなっていた。
私と妻は単純に学校に行っていれば、いつかは友達もできるだろうと浅く考えていたんだ…。
子供の辛さを分からないなんて親として失格だな。」
478春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:32:18 ID:ZQWxcduX

自虐的に苦笑いをするおじさんを見て、この時やっと事の重大さに気がついた。

「妻と話し合った結果、美幸を転校させる事にしたんだ。
転校させればどうにかなる…。そう思っていたんだがね…違う小学校に行っても馴染めず、同じように学校に行きたがらなかったよ。」

「そんなに…」

「あぁ、それでも転校した小学校はみんな優しくてね。何度も美幸を迎えに来てくれたし、イジメはなかったよ。
だから小学校は休みがちだったけどなんとか卒業もできた。

美幸が中学に上がるぐらいかな…妻の体調が悪くなっていったのは…。」

「…」

「妻は昔から体の弱い体質でね……。美幸が中学に入学して3ヶ月ほど経ったある日、家事をしている時に心筋梗塞を引き起こして倒れてしまったんだよ……。
幸い命は助かったんだけど検査の結果、末期の胃癌だと判断されて手術のしようがないと言われたんだ……。

話を聞いていて頭がクラクラしてきた…なぜおじさんはこんな重い話を他人の俺に話すのだろうか?


「余命一年…。実際は一年ももたなかった…クスリで長引かす事はできるんだけど妻が嫌がってね…。

半年間頑張って最後は安らかに眠ってくれたよ。」
479春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:32:47 ID:ZQWxcduX

なんて言っていいか分からず、ただうなずくだけ…。それしかできなかった。

単純に理解ができなかっただけなのかも知れない。
おじさんの言ってる事に対して嘘は感じられなかった…。
逆に美幸ちゃんが嘘をつくような子でも決して無いはずだ。

話の糸がこんがらがって頭の中で絡まっている。

「じゃ、じゃあ美幸ちゃんが言うお母さんって…」

「美幸が言うお母さんは間違いなく私の妻だよ。」
おじさんの話が矛盾だらけで頭が痛くなってきた…。
死んだ人間が生き返っているのか?

「美幸はね…お母さんが死んだ事実を理解できないんだよ…。」

「…ぅ…ぁ…」
この時、なぜか春香が死んだ日の事が脳裏に浮かんできた。

俺も春香が死んだ後はそうだった…「死」を理解できないのだ。
何度も探した…春香が起こしにくるまでベッドで待っていた事もある。
遠い死がいきなり訪れるとすべてが一転し、なにが事実でなにが幻がまったくわからなくなる……。
だから自分が楽な方を選ぶのだ。

「それじゃ電話をしていたのは…」

「留守電だよ…私の家の電話は妻の声が入っている。それに話しかけているだけだよ。」

「留守電…?」
480春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:33:24 ID:ZQWxcduX

「あぁ、それとよく美幸の携帯に妻から電話がかかってくるはずだ。」

「はい…僕と遊んでる時もよく…。」
確かに美幸ちゃんから電話をかけると言うよりお母さんから電話がかかってきて話すことが多かった…。
その時は過保護だなぁ〜ぐらいにしか思っていなかったのだが…

「あれは、携帯のアラーム機能だ。
妻が入院している時、美幸が不安がってね……妻が美幸の携帯に自分の声を吹き込んでそれを留守電の時と同じようにアラームにしているだけなんだよ。」

「そ、そんなこと…」
ある訳ない…そう言いたかったが言えなかった…。俺も同じような状態だったので美幸ちゃんの行動を完璧に否定できないのだ。


「こんなこと普通は高校生の君に言うことではないと思うんだ…だけッ――「お父さんッ!!!」

「み、美幸ちゃんっ!?」
リビングのドアが勢いよく開くと美幸ちゃんが泣きそうな表情でリビングに入ってきた。

「なんでそんなこと言うのよッ!!?春樹先輩には関係ないでしょッ!!」

「み、美幸…ッ」
おじさんに走りより、強引に掴みかかると大声を張り上げてわめきたてた。
481春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:33:50 ID:ZQWxcduX

「はっ、春樹先輩、ち、違うんです!!い、今いないだけッで…そ、そうです!すぐに帰ってくるのでッ!ま、まっててください!」

「ッ…」
此方に駆け寄ってくる美幸ちゃんの姿に恐怖を感じてしまい、イスから立ち上がり後ずさってしまった。

「ッ!!?お父さんのせいでしょ!やっど仲良くしてくれ、るッ人がっ!!なんでぇえぇぇぇ!!」
俺の行動を見て顔をしかめた美幸ちゃんは再度おじさんへと掴みかかった。

「悪いね…春樹くん…今日は帰ってくれて構わないよ。」
おじさんが美幸ちゃんの両肩を掴み申し訳なさそうに俺に呟いた。

「嫌ッ!まってください春樹先輩っ!話を聞いてください、お願いします!お願いぃいぃぃだからぁぁぁっ!」
おじさんから離れると、リビングの扉の前に立ちふさがり俺が出ていかないように大きく両手を広げた。

泣き声と叫び声が混じって聞き取り辛いが気持ちは伝わってくる。
友達を失うのが怖いのだろう…ここで抱き締めてあげるのが正解かもしれない…。だけどそんなことできなかった…美幸ちゃんが怖かった…。

「美幸やめなさい…」
おじさんが立ち上がり此方に歩み寄ってくる。
その姿に美幸ちゃんは睨み返す。
482春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:34:18 ID:ZQWxcduX

「お父さんは黙っててよッ!!壊したのおどうざんじゃない゛ッ!!お願いです私の話を――!」
ポロポロと流れる涙は止まることなく流れ続けている。
震える指先がゆっくりと近づいてくる。

その手が――怖くて――怖くて。

「お、お邪魔しました。」
美幸ちゃんの横を通り過ぎ玄関へと向かう。

後ろからなにかが崩れる音と、子供のような大きな泣き声が俺の耳を支配した――

その声が痛くて――痛くて――痛くて――

自宅に帰るまで美幸ちゃんの泣き声と絶望に満ちた表情が頭から離れなかった。

「ど、どうしたの!?」
家に帰ってきた俺に向かって鈴村が慌てたように近づいてきた。
そんなに酷い表情をしているのだろうか…。

「なんでもない…」

「なんでもないのに涙流さないだろ!!」

「えっあれ…なん…うぅッ…う――」
なんで涙がでてくるんだろう…。

「夕凪くん…」
玄関で崩れ落ちる俺に優しく鈴村に抱き締められる。

どうしていいか分からず――ただ鈴村にしがみついて声をださず泣くだけ。
美幸ちゃんの辛さが自分の中に流れ込んでくるようでダムが決壊したように涙が止まらなかった。




俺は――美幸ちゃんを見捨てたんだ。
483春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/09/23(水) 16:35:33 ID:ZQWxcduX
ありがとうございました、投下終了です。

次もなるべく早く投下するのでよろしくお願いします。
484名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 17:03:17 ID:pwCePVkH
>>483
ヒュー!更新楽しみに待ってた!
どろどろのぐちゃぐちゃになってきて楽しみだ。次も期待
485名無しさん@ピンキー:2009/09/23(水) 18:59:53 ID:RRZsA4D2
GJ!
これは続きが気になります
486名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 00:02:48 ID:VFEkuR/K
GJ
次が待ちきれないぜ
487名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 00:26:22 ID:uT9vXx4K
GJ!!!食い入るように読んだぜ。
488名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 01:27:07 ID:oCa4Wkf5
>>483
俄然面白くなってきたな。GJ.
489名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 01:36:53 ID:lyGFwq42
。・゚・(ノД`)・゚・。 俺今からおちんちん切ってくる 美幸ちゃんのお母さんになる
490名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 02:51:30 ID:pCncy9bQ
>>489
韓国やモロッコに逝くのか…。
491名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 11:52:40 ID:8VoN/GM0
>>489-490
性転換ならタイが良いらしいよ
椿彩菜もタイで手術したんだってさ
492名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 18:44:42 ID:IESiPYUn
性転換するとオナニーできなくなるって本当か
493名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 19:47:19 ID:TP2qq266
>>492
方法に依るんじゃない?
494名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 19:50:17 ID:NfnfdTMR
>>492アナルオナニー的なものならできるのではないでしょうか

>>483乙&GJ!!
登場人物がみんなどこかしら壊れてるな。
この泥沼がどう結末を迎えるのか楽しみだ。
495名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 23:59:26 ID:sxbuHSYt
ここって、依存ネタならエロなしでもいいの?

面白いけどエロなしの話ばっかりだから気になった
エロパロ板だし
496名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 00:23:29 ID:w1Y4BeId
依存話で抜くんだろ?
常識だろ、なにいっちゃってんのこのひと
497名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 00:24:13 ID:YhimGZvw
セックスだけがエロとか思ってる人って…
498名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 00:46:01 ID:2Tj4UYgH
依存かもしながらエロに突入が最強
499名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 00:49:14 ID:TxDyg1nf
>>495
まぁ、息抜きと思ったらいいんじゃない?
500名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 05:18:20 ID:j7kJAicD
彼女が芸能人だか歌手で、主人公が彼女のお願いでヒモになってるssがあったと思うんだけどタイトル忘れた。
ラストで主人公が彼女が留守の時に電話で別れを切り出して出て行こうとしたら、玄関で肩で息してる彼女に気絶させられて監禁EDのはずだけど誰かタイトルしらないか?
501名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 08:26:26 ID:MlBdlUAQ
502名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 08:28:19 ID:uOtiEowM
503名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 10:01:12 ID:TxDyg1nf
ヤンデレじゃない?
504名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 10:11:56 ID:fTBxT4Rn
>>495
今投下されてるのが非エロパートばかりなだけ。
と信じたい。
505500:2009/09/25(金) 13:14:50 ID:j7kJAicD
>>501
>>502
あ、これこれ
サンクス
506名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 12:50:41 ID:vRrBpJuP
エロパロだから非エロSSは導入くらいならまだしも長く続く
のはアウトだと思うがね。
まあ俺は非エロSSは全てNGにして無視しているが。
507名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 13:00:42 ID:495y0P+x
>>506
まぁ、お前はそれでいいんじゃない?
違うスレにもいっぱいSSあるんだしエロが見たけりゃ別の物を見ればいいだけ。
508名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 15:57:08 ID:rrAQ/MQZ
いつかはエロSSが投下されると信じてる。
509名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 23:50:21 ID:vluedFpm
まあアニメの話はもういいいよ
ゲームなら、むしろ死霊状態の女版桃香のほうがどうなるのかが問題だ
510名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 23:50:42 ID:vluedFpm
すまん誤爆
511名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 01:16:19 ID:RxFOEwJk
逆に考えるんだ、抜ける非エロSSと抜けないエロSSならどちらがエロいのかって
512名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 16:59:11 ID:KXB0idrb
内容によるが個人的には非エロがいいと思う
ギシギシアンアンラメェラメェは似たようなジャンルの某スレで見れるしな
エロばっかみてると純愛or依存ラブラブの性行為までいかないssが読みたくなる
読んだ後で死にたくはなるが
513名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 17:01:52 ID:4TkG5PIl
楽しめて完結まで見せて頂けるのであればどっちでもいいな…
514名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 18:31:13 ID:tKHQfLEP
>>511
よりエロい方。
515名無しさん@ピンキー:2009/09/27(日) 23:54:19 ID:0wH50EMo
>>511

落ち着けw
516名無しさん@ピンキー:2009/09/30(水) 18:53:49 ID:bEK9i69F
どのスレ見ても、途中で投げ出す奴が多すぎるな。
517名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 00:05:59 ID:TKM0srEK
>>516
ごめんなさい。がんばります。
518名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 03:38:46 ID:JkjgLlMw
ごめんなさい
いつかやります
519名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 09:58:06 ID:5su0lVNH
「いつか」はもうやらないってことだな。
520名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 10:58:07 ID:lpUGI+qD
いつかまであと4日だな
521名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 11:10:23 ID:uY2Mpu0g
あまり完全を目指すのではなく、「とりあえずこんなんでええか」くらいのノリで投下してもらってもいいと思うよ。
後で余裕があればその際に改めて別verでうpしてもいいんだし。
一回こっきりの商業作品じゃないのだからそのへんは柔軟にしてもらっても個人的には大歓迎。
522名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 17:36:48 ID:+ONSEacr
明日の明日はまた明日
「いつか」は決して来ない。
523名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 15:34:54 ID:8Ogo6/xo
五日まであと三日
524名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 16:16:32 ID:CCAVLz2r
>>523
5日は来月も再来月もくるんだよ?
525名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 00:52:59 ID:3KpS2QND
完結させる・・・!完結させるが・・・今回まだその時と場所の指定まではしていない
そのことを諸君らも思い出していただきたい
つまり・・・書き手がその気になれば物語の完結は10年20年後ということも可能だろう・・・ということ・・・!
526名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 01:21:34 ID:dR0rsDgf
>>525
せめて3ヶ月に一度は投下してもらいたいけどね。
完結できないなら始めから投下すんなって思う。
途中から飽きてきたなら無理矢理にでも終わらせてほしい。
527名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 01:26:35 ID:ToYzYefK
なんでそんなに必死なの?
528名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 01:30:03 ID:dR0rsDgf
さぁ?
529名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 02:22:39 ID:jjFlZWN1
このスレに依存してるんじゃろ
530名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 07:07:07 ID:9FbtqZQS
依存しているからこそ、作者に辛く当たり
結果作者を遠ざけてしまう
そしてその結果さらに悩み、作者に辛く当t(ry

最終的にスレもろとも死のうとする
まさにヤンデレループ
531名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 10:30:40 ID:bMszNcE1
>>530
デレが見当たらない。
532名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 17:02:14 ID:X7DNEdjy
>>531
投下があると絶賛する。
533名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 18:34:50 ID:XdCU3YAy
今日も投下は無し……か…。
534名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 18:50:16 ID:MWZ0DrBj
いつものことだ。
535名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 20:08:28 ID:IRtlxf5U
まあクソくっだらねえ作文もどきが来るよりは静かで良いんじゃねえの?
ちゃんとした面白いのが来るまで保守して静かに待ってればいいじゃん
536名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 20:22:10 ID:AEB6oqSz
自信ないので投下自重します。


いつかもっと実力つけてから戻ってくるよ。
537名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 20:24:08 ID:XdCU3YAy
面白いとかバカじゃねーのw
マンガでも読んどけw
538名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 20:25:00 ID:XdCU3YAy
>>536
投下してよ。
539名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 20:25:18 ID:K+9y2ayv
>>535
どんだけこのスレに依存してんだよw
540夢と時間4話  ◆6ksAL5VXnU :2009/10/06(火) 21:24:17 ID:FcP26FTO
おそるおそる、投下です
541夢と時間4話  ◆6ksAL5VXnU :2009/10/06(火) 21:25:34 ID:FcP26FTO
 深夜のコンビニで出会った少女。いや、もう女性か。
 彼女は、俺が教育実習生だった頃に出会った生徒だ。家庭の問題で高校を卒業する事無く、退学した。
 その記憶が濃くて、接した期間は短かったが、一番印象に残っていた。
「川崎燕(かわさき つばめ)さん、だよな?」
「やっぱ先生! なつかしー!」
 眠気などは何処かへいっていた。
「マジで一瞬判らなかったよ」
「ふふ、そう?」
 学生の頃はパサパサの金髪に、パンダメイクという、非常にお粗末なギャルファッションだったが、今その面影は欠片もない。
 髪は地味ながらも綺麗なショートヘアーになっており、化粧も巧くなっている。左目の泣きぼくろが印象的な、美人となっていた。
「本当に、変わったよな」
「あは、前は酷かったもんね。今は仕事とかあるから」
「今の方が綺麗だよ」
 言ってから自分の言葉に気が付いて、年甲斐もなく赤くなる。これじゃまるでナンパだ。
 チラッと川崎さんの方を覗いてみると、彼女も少し驚いているようだった。
「ありがと、先生。……ちょっとキャラ変わったね」
「はは、まあな」
 笑って誤魔化した。彼女も釣られて笑ってくれた。
 一瞬の沈黙。その後で、彼女は俺に尋ねてきた。
「先生さ、今何してんの?」
「ニート」
「え?」
「嘘」
 受けなかった。
「今は、普通のリーマンって感じだな」
「教師には、ならなかったんだ?」
「色々厳しくてさ。まぁ、厳しいのはどこも一緒だけど」
「……疲れてるみたいだね」
 心配そうに俺を見つめるその目は、何というか、とても綺麗で、何時までも見つめていたいような、そんな目だった。
「疲れてるのは、一緒だろ。そっちは、何をしてるんだ?」
「パートで何とか生きてるって感じ。家は実家だからそこまで厳しくはないけど」
「へぇ、パートって?」
「ファミレス。もう忙しくて」
 ファミレスか。彼女は自転車で来ているから、この近くだろう。となれば。
「そこのガ●ト?」
 呟くように聞くと、彼女はピクッと反応した。
「うん、そこ! もしかして、たまに来たりするの?」
「やっぱりか! 結構使うよ」
 ファミリーレストランガ●ト。俺の重宝している店である。値段のわりに、店内はお洒落で、しかも中々うまい。
 彼女は驚いていたが、俺も驚いていた。まさかあの店で彼女が働いていたとは。
「あれ? でも、中々会わないよね」
「いつも何時くらいに入るの?」
「あ、そっか。私、いつも夜8時くらいに入るから」
「あぁ、なら会わないな。俺は昼と、遅くても夜の7時くらいにしか行かないから」
 そうなんだ、と彼女はまた落ち着いた。
「ラッシュ時は大変だろ?」
「大変なんてものじゃないよ」
 言って、彼女は真底うんざりした顔をした。相当参ってるらしい。
 俺のやっていたバイトは主に、裏で荷物を運んだりする力仕事だった為、彼女がどのような事をやっているのかわからないが、まぁ大変なんだろう。
 彼女の愚痴を聞いているうちに、時計は午前2時を指していた。
「川崎さん、帰らなくていいのか?」
「私は良いけど。ごめん、先生は明日また仕事あるんだよね」
「いや、良いよ。それより、送らなくても平気?」
「毎日のことだから、大丈夫」
「そりゃそうか。じゃ、帰るわ。今度、夜に寄ってみるよ」
 そういって、俺はリモコン操作で車のロックを外した。
 ガシャン、と数メートル先の車の鍵が外れる音がする。
 そして、彼女に手を振って別れようとしたとき、パッと冷たい感触が手首の辺りを掴んだ。彼女の手だ。
 彼女は先程とは少し変わって、緊張した様子で此方を覗き込むように見つめていた。その仕草に思わず息を呑む。
 大人っぽくなった彼女が、少女の表情をしていた。
542夢と時間4話  ◆6ksAL5VXnU :2009/10/06(火) 21:26:20 ID:FcP26FTO
「あの、先生……?」
「なんだい?」
 俺は何でもないように答える。しかし、伊達に23年も生きている訳ではない。
 彼女に出会って、話始めたときから薄々とだが気付いていた。
 俺は、この表情を知っている。
「たいした事じゃないよ。ちょっと、メールアドレス、教えて欲しくて」
 俺には三月がいるのだが、流石に断るわけにもいかない。
「なんだ。全然いいよ」
 そういって、アドレスを交換して、俺たちは別れた。



 家に帰って、床につく頃には3時になっていた。4時間しか眠れないのなら、帰らなくてもよかったかもしれない。
 川崎さんと会った後に、まるで図ったかのように三月からのメールがあったので、正直焦った。いや、別にやましいことなどは何もないのだが、相手が美人だとつい意識してしまう。
 メールの内容は「今から電話に出れる?」というものだった。
 こういう所に、よく気がきく奴だ。
 俺は携帯を操作して、三月に電話をかける。
 待っていたのか、2コールほどで繋がり、小さなマイクから、恋人の声が聞こえてきた。
『あ、疾人?』
「おう。どうした?」
 数日振りに聞く彼女の声。独特の訛りが今は懐かしい。
『いや何でも。ちょっと話したかっただけ』
「なんだそりゃ?」
『いいでしょ、別に』
「まぁ、俺もお前と話したかったし、丁度いいや」
 半分冗談。半分本気。
 受話器の向こう側で赤くなっている三月が見える。俺も赤いけど。
『……疾人。体、大丈夫? 無理してない?』
「お前は俺のオカンかよ」
 お互い笑ってしまう。
『そういえば、お母さんじゃないけど、疾人のお婆ちゃんの具合知ってる?』
「百超えてるようなババアだろ。いつ逝っても満足だろ」
『そうだけど、たまには顔出してあげてね』
「今は、忙しいからな」
『そう。今度はいつ会えるの?』
「わからん」
『そう』
 そういって、急に元気がなくなってしまった。
 婆さんの事もだが、それ以上に、三月は俺に会いたいのだろう。言葉には出さないでも、声でわかる。
 それは俺も同じだ。俺だって三月に会いたい。しかし、それは不可能なのだ。
 遠距離恋愛なんて、つらいだけだ。想いが強ければ強いほど、つらい。
 そして、つらい想いをして守っていても、ちょっとした事で脆く崩れ去るのだ。
「じゃ、明日つーか今日も仕事だから、切るわ」
『あ、うん、ごめんね?』
「いいって。それじゃ」
 それで切った。
 その後で、フーっとため息が漏れる。
 最近はいつもこんな感じだ。最初盛り上がっても、最後はこんな風にずーんとした空気になってしまう。
 余裕がないというのだろうか。お互いの気持ちを確認するので精一杯という感じ。
 正直、疲れる。
 三月の事は好きだ。でも、いやだからこそ、渇いてしまう。この街には三月(水)がない。
 いや違う。この街に水はあるのだ。目の前を流れているのだ。しかし、それを飲むことは許されない。何という拷問だろう。
 ふと今日、出会った少女を思い浮かべた。泣きぼくろが印象的な彼女。
(川崎さん、綺麗になってたよなぁ)
 そんな事を考えながら、目を閉じた。

 翌日、祖母が亡くなった。
543夢と時間4話  ◆6ksAL5VXnU :2009/10/06(火) 21:28:21 ID:FcP26FTO
終了です
前の投下が6月ですので、覚えている人はいないでしょう。
気楽にちびちびと書こうと思います。
544名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 21:36:39 ID:XdCU3YAy
>>543
GJッ!!!続きも期待してます。
545名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 22:03:17 ID:IRtlxf5U
4ヶ月ぶりに投下するのはいいけどさ、たった2レスだけじゃ投下されても反応しにくいだろうが

次に投下すんのも4ヶ月後ですか? とか気楽にチビチビってのは毎回2レス程度なんですか?
とか突っ込みたくなるわけよ。これでGJなんてどうして言えるんだよ?
どこぞの作文もどきみたいに行数減らしてレス数増やして投下しろとは言わんがもうちっと考えて投下しろよ

別に叩いて追い出したいわけじゃないからな。掛け持ち作文もどきよりは三倍程度期待してるから
546名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 22:04:28 ID:K+9y2ayv
>>543
待ってたよ。乙乙。

>>545
ツンデレならもうちっとツンデレらしくしろや。
547名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 22:05:56 ID:Gyirl8bB
>>545
とても香ばしいれす^p^
548名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 22:10:46 ID:XdCU3YAy
>>545
期待とかおまえ何様だよチンパン。

誰もお前ごときの為に投下してる訳じゃねーだろ。
549名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 01:12:33 ID:X98ypyF0
【会員制】PINK書き込みに●必須化か?
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/erobbs/1254786518/

管理人のJimさんが次のような提言をしました。
-----------------------------------------------------------
Let's talk with Jim-san. Part14
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/erobbs/1251283253/156
> I am thinking until the troll problem is fixed
> to make Maru a requirement on bbspink servers for posting.
(適当訳)
わたしは荒らし問題が解決するまで、
PINKの書き込みに●必須とするように考えています。
-----------------------------------------------------------
550名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 01:58:05 ID:4IMeqdgO
>>545
最後の一行で台無しだよ
551名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 04:59:23 ID:X98ypyF0
2chの子分BBSPINK、有料化へ 現管理人Jimさん「書き込み、●必須にする」
http://tsushima.2ch.net/test/read.cgi/news/1254815718/
552名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 09:01:05 ID:ed4gcnC1
>>551
これどういう意味?
553名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 10:59:12 ID:2UL9eDh7
そのままの意味さ
書き込みをするには●っていうポイントが必要になるから有料化される
ROM専には関係ないけど作品の書き手はつらいよね
554名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 11:26:29 ID:ed4gcnC1
>>553
あぁ、そう言う事か…まぁ荒らし対策にはなるけど、書く人も減るだろうね。
555名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 13:58:14 ID:3ljC85T2
age
556名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 12:49:01 ID:vCKxDJGb
そこまでして ここで書くよりは……
掲示板は他にもあるし……
っていう書き手が増殖しそうだね
557名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 20:21:01 ID:IieuQBFg
有名な投稿サイトといえばなろうと理想郷か
どっちも閲覧数上位が最低系ばかりのネタサイトになりつつあるけれど……
5584-263:2009/10/10(土) 23:40:52 ID:zMS7fuIB
投下します。
以前リクエストを頂いたもの。
ドSで冷酷な奴隷扱いは私には書けませんでした。申し訳ない。
559colorless:2009/10/10(土) 23:50:48 ID:zMS7fuIB

 黒の壁掛け時計が七時三十五分を示す。定時を五分過ぎたのを確認して、俊樹はその黒い電波時計が狂っているのではないかと疑念を抱いた。
 駅からそこそこ近いアパートのそこそこ広い一室。その部屋の主である彼女は、毎晩七時三十分に帰宅する。
 俊樹は卓上の皿を眺めた。一汁三菜を守った食事がこぢんまりと並ぶ。我ながらよくやるものだと思う。
 昨年の今頃ならば、キャンパスとバイト先と飲み屋を往復して、時折家に帰ってはコンビニ弁当をかきこむような生活をしていたというのに。
 全ては部屋の主たる小林柊子の体を慮てのことである。


 俊樹は柊子の事を何一つ知らない。同時に、柊子も俊樹のことを何一つ知らないのだ。
 去年の今頃――正確には、もっと暑くなっていた頃だった――俊樹がサークル仲間とのコンパでぐでぐでに酔っ払い、汗と吐寫物にまみれて転がっていたのが、このアパートのゴミ捨て場であった。
 そして、汗と吐寫物にまみれて転がっていた俊樹に手を差し伸べたのが、他ならぬ柊子だった。



「あなた、大丈夫?」
 心配するというよりは、むしろ突き放すよいな声音に視線を上げた。酔いやら汗やら涙やらで霞んだ視界に若い女性が映る。
 俊樹は、何故そんなことをしたのか未だによく分からないのだが、へらりと笑って「オネーサン、綺麗っすね」と答えた。
 事実、小林柊子は整った面立ちをしていたし、日々キャンキャンと喚く子犬のような女子大生ばかりを見ていた俊樹は、重たげな一重瞼から煌めく落ち着いた黒い瞳に惹かれてしまったのだ。
 柊子は皮肉気に唇を歪めて「そうね、整備の賜物だもの」と呟く。次いで冷たく俊樹を見下ろして、細く白い手を伸ばした。
 整えられたワインレッドの爪を眼前にちらつかされ、俊樹は呆然とする。無為にその爪を眺め続けた後、視線を少しだけ上げると、侮蔑にも似た色を浮かべた目と目があった。
「立てるの?ここ私の部屋だから、休んで行きなさい」

 そうして、なし崩し的に俊樹は柊子の部屋に転がり込んだ。女のもとに転がり込んだ、と聞いて激怒した両親に仕送りも切られ、学生用のアパートも解約してしまった俊樹に、帰る場所は此処しかない。

 しんと静まり返った室内に、携帯電話の初期設定着信音が響く。柊子からだろうか、と明滅するディスプレイを覗き込み、携帯へ手を伸ばした。
 俊樹は「三上次郎」という表示に一瞬手を止めたが、鳴り止む気配ない携帯を手に取り渋々と通話ボタンを押した。

「あーっ!でたでた!」

 きん、と携帯電話が壊れそうな高音が耳を突く。俊樹は眉をひそめた。確かに自分は高校からの友人の電話に出たはずである。これは、誰だ。
「あたし、覚えてる?」
 うるせぇ、名を名乗れ。と言いたいのをこらえて俊樹は努めて穏やかに、そしておちゃらけたようにして答える。
560colorless:2009/10/10(土) 23:52:09 ID:zMS7fuIB

「あれ?次郎じゃないの?」
 おそらく電話の相手は酔っているのだ。甲高い声の背後に居酒屋の喧騒が混じる。携帯電話のマイクから相手の酒臭い息が臭いそうなほどだ。
 案の定、電話の相手は酔っ払い特有の躁じみた笑い声をあげた。

「あたし、あたし。茜。覚えてるっしょ?」

 茜。たしか、同じゼミにそんな名前の女生徒がいた気がする。服も小物も化粧も流行りで固めた女子大生ほど無個性なものはない。
 俊樹の脳裏には、茜の笑ったときに剥き出しになる出っ張った前歯しか浮かばなかった。
「今、ゼミのみんなで飲んでるんだけどさ、俊樹君も来ない?」
 俊樹は苛々とテーブルを指で叩く。思い出した。この茜という女生徒は、何かにつけて自分を担ぎ出したがる。友人曰わく自分に好意があるらしいのだが、俊樹はこういうやり方が好きでは無かった。
 悪いけど、と前置きして俊樹はさも心苦しいような声を作る。
「用事があるから、今晩は無理。ごめん」
 途端に、電話の向こうの温度が2℃程下がった気がした。「だから言っただろ」と友人の聞き慣れた声が微かに聞こえる。
 ふぅん、と茜は鼻を鳴らした。

「あの噂、本当だったんだ」

 どく、と俊樹の心臓は鷲掴まれたかのように脈打つ。
「俊樹君さ、年上の女の人のところに居候してるんでしょ?それって、どうなの?ヒモじゃん」
 頭の中心が火でもついたかのように熱くなる。ぎゅ、と乾いた唇を噛んだ。

「はは、ごめんね。じゃあ、また」

 ――ヒモ、か。
 俊樹は暗い気持ちで携帯電話の電源を切った。柊子の部屋に転がり込んでから、めっきり人付き合いは悪くなった。
 仲間達と大騒ぎするのも嫌いではない。だが、柊子が帰って来るまでに夕飯の準備をしなくてはならない。別に強制されたわけではないが、俊樹は毎日食事を用意している。
 心地良いのだ。柊子のいる空間は時間の進み方がゆっくりとしている気がする。
561colorless:2009/10/10(土) 23:53:32 ID:zMS7fuIB

「行けばいいのに」

 一人しかいないはずの部屋に不意に声が響いて、俊樹は肩を震わせた。玄関へ続くドアに手をかけて、ベージュのスーツを纏った柊子がこちらを見つめていた。
「友達は大事にしないと」
 シャンパンゴールドに染められた爪が、俊樹の携帯電話を指し示す。
 何故か粗相を責められる子供のような気分になって、俊樹は携帯電話を握って隠した。
「いや……、あんまり好きじゃないんです。大人数とか」
 嘘ではない。だが、十分な真実でもない。
 柊子は「そう」と素っ気なく呟くと、ベージュの上着を脱ぎながらリビングを渡り、自室へ向かう。
 歩いた際に揺れた空気が、嗅ぎなれた香りをふわと俊樹へ運んだ。

「柊子さん!」

 とっさに呼び止めると柊子は少しだけ眉を上げて振り返る。
「お帰りなさい。……遅かったですね」
 柊子は少しだけ訝しげに眉をひそめると、次いで緩やかに唇で笑みを形作る。
 俊樹は柊子の笑い方が好きだ。決して歯を剥き出しで笑うようなことはなく、いつも僅かに唇を緩める。
 その笑顔には少しの翳りがある、気がした。

「そうね」

 たった一言を残して、ドアはぱたんと閉められる。
 お預けをくらった犬のように手持ち無沙汰に膝を見つめた後、俊樹は短く息を吐いて食事を温め直しにかかった。
 時折、自分は何者なのだろうかと思う。自分は間違いなく樋田俊樹である。そんなことは分かっている。
 柊子にとって、自分は何者なのだろうか。
 恋人?友人?厄介な同居人?放っておけない年下の坊や?
(或いはヒモ、か)
 考え、自嘲的に笑う。上手く笑えず歯の間から息が漏れて、一層虚しい気持ちになった。
562colorless:2009/10/10(土) 23:54:29 ID:zMS7fuIB
 柊子との間に体の関係はない。それどころか、触れたことすら数度しかない。一年近く男女が一つ屋根の下に棲んでいて、こんなことがあるのだろうか。
 悩んで悩んで尚、柊子のもとを離れられないのは経済的な問題があるからだけではない。
 俊樹は元来思い悩むたちで、高校の時分にはそっちの医者にかかったこともあった。
 人と付き合っていると、自分を偽っているような、仮面を被って接しているような気がして、自分を殺して周囲に迎合する自分に嫌気がさす。本当に自分を殺したくなる。
 だが、柊子には何一つ偽る必要が無かった。柊子は女性であるというのに、酷く口数が少ない。(尤も、女性は多弁であるというのが偏見であるかもしれないのだが)他ではどうなのかは知らないが、無為に表情を作ることもしない。
 人によっては冷たい印象を受けるのかもしれないが、俊樹には気にならなかった。むしろ柊子と接している時だけは、自分が人間である気にさえなった。

 それを、柊子に漏らしたことがある。柊子は彼女にしては珍しく一重の目を丸くして、呆気にとられたような様子であった。
 呆れられただろうか、気持ち悪いと思われただろうか。と俊樹は言わねば良かったと後悔した。だが、柊子は長い前髪を指先で払うと「そう。なんだか、文豪みたいね」と笑った。
 そのときの柊子の動作を、俊樹は全て目に焼き付けている。人差し指で前髪を払い薬指と小指で耳にかけるその動作も、伏せられた睫毛の震え方も。
 その切り返しに並々ならないセンスを感じた、と言ったら言い過ぎだろうか。とにかく、自分はその言葉に少なからず救われたのだ。
 カウンセラーの吐くお仕着せの言葉よりも、医者の出す得体の知れない錠剤よりも、柊子の「そう」の一言の方がよほど俊樹の暗く淀んだ脳髄を揺さぶった。
 とにかく、俊樹には柊子が必要であるのだ。それだけは、俊樹の狭い世界の真理であった。


 ことり、と卓上に茶碗が置かれる。はっとして顔を上げると柊子は不思議そうな顔をした。

「電子レンジ、何度も鳴っていたのに」
「あ、すみません」

 調理が完了すると、中の皿が取り出されるまで定期的にアラームを鳴らし続けるタイプの電子レンジである。どうやら思った以上に思考に耽っていたらしい。
「文豪だもの。仕方ない」
 柊子は茶化すように言うと、ダイニングテーブルにつき箸を手に取る。

「いただきます」

 赤い塗り箸が、白いご飯を掬う。俊樹はそれを眺めながら黒い塗り箸で魚をつついた。
 柊子は細面に一重瞼で、鼻も小作りである。その中に唇だけがぽてりとしていて、そのアンバランスが色っぽい。柔らかそうな唇に触れる箸が羨ましいと感じるあたり、既に自分は異常である。
 俊樹の視線に気付いたのか、柊子は視線を上げる。最後の咀嚼、嚥下を終えて柊子は口を開いた。化粧を落とした唇が、赤い。
「別に、先に食べていてもいいのに」
 いえ、と俊樹は首を振る。
「俺が、柊子さんと一緒に食べたいんです」
 柊子はふうと笑って、前髪を指先で払う。

「そう」

 待ち望んだその返答に、俊樹は自分の顔が勝手に笑むのを感じた。
563colorless:2009/10/10(土) 23:55:30 ID:zMS7fuIB
投下終了。
続きますが、前回のように毎日投下は無理かと思われます。
564名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 00:01:08 ID:tQEbzOKO
>>563
GJ!
ゆっくり頑張ってください。
565名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 01:43:43 ID:hobWe0ZR
>>563上手く言えないけど、時間の流れというか空気の流れというか、そういう雰囲気が凄く良い。
おもしろい。乙です。
566名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 04:13:19 ID:cOarytEQ
>>563
作風と文体から久しぶりにちゃんとした良い物が読める予感。続き期待してます。
567名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 05:17:10 ID:cOarytEQ
保管庫見たら七つの竜玉集めが男坂になった話の人でしたか。久しぶりに読み直したわ。
568名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 17:50:05 ID:WyjBKdVE
>>559
ダブルキャスト思い出した。
思えばあれも依存物なんだな。
二重のヤンデレがおまけで付いてくるけど。
569colorless:2009/10/11(日) 22:02:33 ID:IoNFJ1zv
これで完結。
年上の女性は難しい。
570colorless:2009/10/11(日) 22:02:58 ID:IoNFJ1zv

 小林柊子は、ひたすらにキーボードを叩いていた。視界を邪魔する長い前髪が鬱陶しい。
「小林さん」
 後輩の女子社員が柊子を呼んだ。そちらに視線を向けると、女子社員はつっけんどんに柊子に書類を手渡す。
「これ、部長からです」
「ありがとう」
 書類に目を通すと女子社員はそそくさといなくなった。

 「冷たい女」「少し顔がいいからと調子に乗っている」「無愛想なやつ」

 職場での柊子の評価など、おおよそこんなものだ。
 母も、柊子に「もっと愛想良くしなさい」と言って聞かせた。

 ――ならば、もっと美しく産んでくれれば良かったのに

 柊子は、地味な顔立ちをしていた。年を重ねてある程度落ち着いた顔立ちが好まれるようになるまで、柊子は美人と称されるような扱いは受けていなかった。

 若い頃は、目のぱっちりとした派手な顔立ちが好まれた。柊子などは、居ても居なくても変わらないようなもので、教室の片隅で息を潜めて生きる術を覚えた。
 自分のような人間は、なるべく目立たないように生きなければならない。もしくは、道化を演じて声の大きいクラスメイトを引き立てなければならない。
 性格上、道化を演じることが出来なかった柊子は徹底して自分を消した。息を潜めて日々をやり過ごした。

 社会人になってからは、ひたすら自分を磨いた。容姿コンプレックスとでもいうのだろうか。あの頃の自分にはどこか鬼気迫るものがあった。
 見目が少しばかり良くなったからと、周囲は柊子を表舞台に引っ張り出そうとする。
 だが、それまで薄暗いところで生きてきた柊子にそこは眩しすぎた。今更、愛想良く振る舞えるはずもない。地味に振る舞おうとしても、周囲がそれを許さなかった。

 「冷たい女」「少しばかり顔がいいからと調子に乗っている」「無愛想なやつ」

 放っておいて欲しいのだ。美しくなったのは自己満足のためだけで、周囲を楽しませるためではない。


 そんな中、一人の青年を拾った。昔の自分によく似た地味な顔をした青年の、泥酔した姿に自己嫌悪にも似た軽蔑と親近感を覚えた。
 柊子は体調を気遣うふりをして青年を部屋に引き入れた。なんとしても彼を手元に置きたかったのだ。
 酒に酔って舌足らずに吐き出された「綺麗っすね」という言葉は、確かに柊子の内部に染み入った。
 見返りを望まない純粋な賛辞が嬉しかった。
571colorless:2009/10/11(日) 22:03:25 ID:IoNFJ1zv
 定時に荷物を手に席を立つ。飲み会の打ち合わせに興じる同僚に一瞥をくれて、会社を後にする。羨ましい?どうだろうか。
 会社の隅で地味なグループも飲み会の打ち合わせをしていたのを思い出す。
 中途半端に変わってしまったせいで、どちらからもあぶれてしまった。

 はあ、と息を吐く。酒でも買って帰ろうかとコンビニに立ち寄るが、結局十分ほどうろついて店を出てしまった。
 夏の夜風が心地良い。遠目に見えるアパートの自分の部屋に灯りがついているのを見て取り、満たされた気分になる。
 かさかさと味気ない毎日で、俊樹だけが唯一の潤いだ。
どんなに会社の人間関係が辛くても、俊樹に「お帰りなさい」と声をかけられると、心の底から幸せな気分になることが出来た。

 ――莫迦みたい。

 柊子は前髪をかきあげる。
 一回りも年の違う青年に励まされるなど、情けない。同僚が聞いたらなんと言うだろうか。
 年若い男を囲った年増女が勘違いをしていると思うのだろう。
 柊子は自嘲を零した。


 鍵の開いたままの玄関ドアを細く開く。暗い中、鍵を探して鞄をあさらなくても良い。そのほんの少しの喜びに酔いしれる。

「あれ?次郎じゃないの?」

 ふいに聞こえた声に柊子は目を細めた。来客かと思ったが、そんなわけもない。相手は携帯電話であるようだった。
 時折、携帯電話からノイズ混じりの高音が漏れる。

 女の子、だ。それも柊子とは正反対なタイプの、声の大きい部類の人間。
 ちくん、と胸が痛んだ。俊樹は自分に似ているから、勿論外での人間関係は上手くいっていないものだと思いこんでいた。

 ――莫迦みたい


 本日二度目の呟きを胸中で吐き捨てる。
 俊樹は出て行こうと思えば、いつでもここを出ていけるのだ。俊樹の帰る場所を奪い手中に収めた気になって、そんな愚かな自分に吐き気を覚える。
 事実、追い詰められているのは自分ではないのだろうか?

 柊子は小さく溜め息をつく。
 泣いて喚いて縋ったら、俊樹は自分のもとへ残ってくれるだろうか。そう考えて、柊子は苦笑いする。
 そんなこと、自分に出来るわけがない。柊子のキャラクターがそれを許さない。
 俊樹は柊子を「飾らなくて素敵だ」と言うが、その実柊子は「飾らない自分」を偽っている。
572colorless:2009/10/11(日) 22:05:02 ID:IoNFJ1zv

「行けばいいのに」

 本当は行って欲しくない。だが、そんな言葉を吐いてみる。
 俊樹は一瞬驚いたような顔をして、次いで俯き加減に行かない旨を答える。
 柊子はなんでもないふりをして「そう」とだけ答えると、自室のドアに滑り込んだ。

 フローリングにへたり込み、ドアにもたれかかる。
 ――良かった。

 安心でぽろぽろと泣き出しそうなのをぐっと堪えて、柊子は鞄をベッドへ放り投げた。
 大きなドレッサーに向かい、自分の顔と睨み合う。

 ――大丈夫。綺麗。

 一人立ちの祝いに贈られたドレッサーを厭うた醜い自分は過去の者だ。
 口紅とアイシャドウを軽く拭き取り、部屋着に着替えると自室を後にする。

 何やら暗い顔で考え込んでいる俊樹をちらと見やり、アラームを鳴らし続ける電子レンジから茶碗を二客取り出した。

「電子レンジ、何度も鳴っていたのに」
「あ、すみません」

 柊子はそんな俊樹が愛おしい。「文豪だもの。仕方ない」と返して、赤い塗り箸を手にする。

 残念ながら、自分は俊樹の望むような女ではない。きっと、俊樹の嫌う女達と本質は何も変わらない。自分を装い偽り仮面を被って生きている。
 だが、俊樹の周囲の女の子達より、柊子は少しだけ老獪で小狡い。社会を知らぬ坊やを騙すことなど容易いのだ。

「別に、先に食べていてもいいのに」

 俊樹を気遣うふりをして、いやらしいかまをかけてみる。

「いえ。俺が、柊子さんと一緒に食べたいんです」

 柊子は長い前髪を払う。「そう」と素っ気なく接するも、待ち望んだ答えを言わせたことに、柊子の口元に勝手に笑みが浮かんだ。


573colorless:2009/10/11(日) 22:08:35 ID:IoNFJ1zv
投下終了。

戦争が終わったら、神父と修道女のエロあり依存物を書きます。
574名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 22:11:43 ID:8PFPZhmK
おお、リアルタイムGJ!
死亡フラグは勘弁してくださいw
575名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 22:31:57 ID:6YZcH2bZ
>>573
GJ。

リアルで柊子さんタイプの人知ってるからウンウン頷きながら読んだよ。
地味に暮らしてたのにいきなり自分が「流行」のタイプになっちまって呆然としたってさ。
そういうめぐり合わせって残酷だよね。
576名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 23:06:55 ID:4XnyNs8a
ねぇ〜残酷だよね〜
577名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 23:51:06 ID:lQOjL9ml
GJ

すげえ好きなタイプの話だ
578名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 10:06:34 ID:6G52mfgz
どこの戦争だよwwwwwww

なにはともあれお疲れ!
579名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 14:05:12 ID:3au8M2b4
うん、面白かった。
580名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 16:48:01 ID:bcFz9Qb+
>>573
神父×修道女期待
581名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 17:31:50 ID:gTEtbMYM
GJでした!!
5824-263:2009/10/13(火) 19:55:41 ID:xf9g5CnZ
投下します。
583栄耀、静寂、快楽 :2009/10/13(火) 19:56:19 ID:xf9g5CnZ
 大陸の南西部、チェスタートン地方。その外れにバジョットという小さな町はあった。
 大都市エインズワースへと続く街道沿いにあるその町には、様々なものが訪れる。
 例えばそれは、旅人であったり、芸人の一座であったりだ。勿論、バジョットを訪れるのは人だけでは無い。
 高価な宝物や遠い地方の特産物。海を渡った向こうから連れて来られた獣。珍しい書籍なども持ち込まれた。


 雷鳴轟く闇夜のもとで、ロイドは本のページを繰った。燭台の灯りが淡く手元を照らす。暗い空を迸った雷光が、室内を白く浮かび上がらせた。風で壁が軋み、窓ガラスに大粒の雨が叩きつけられる。
 ――ひどい天気だ
 ロイドはこの町の教会で神父をしている。二十八歳で司祭になり、この町の教会に派遣されて以降五年間、人当たりのよさで村人の信頼を集めていた。尤も、その人当たりの良さが穏やかな人柄を表しているのかと問われれば、ロイドは苦笑いせざるを得ないのだが。

 ――今日は安息日だというのに、神は私にゆっくりとした休みをくれる気がないらしい

 ロイドはぱたん、と本を閉じると燭台の炎を手燭へと移した。
 立派とはいえそれなりに歴史ある教会の建物は、ところどころ老朽化が進んでいる。どこから雨漏りするとも知れない。

 こつこつ、と石畳に自分の靴音が響く。時折それを掻き消すように雷が鳴る。
 ロイドはずらりと並ぶベンチを確認し、小さなステンドグラスが割れていないか点検した。
 最後に、ホールの正面に鎮座する巨大な偶像に手燭を掲げる。手燭のオレンジの灯りに偶像がぼんやりと浮かび上がった。

 ロイドは黙ってそれを見上げる。実のところ、ロイドはそれほど信心深い男ではない。むしろ信仰に否定的な考えさえ持っている。
 それなのに何故神父などという職についているかと言えば、つまるところその道がロイドの前に示されていたからだ。

「ああ、主よ。貴方が本当に全知全能であるならば、温かいスープと上着を賜りたい」

 偶像の下で、敬虔な町民が聞いたら卒倒しそうな不敬な台詞を吐くと、ロイドは肌寒さに腕をさする。
 こんな夜はさっさと眠るに限る。一通り見回りを終えると、教会の奥の自室へと踵を返した。

 その時、ホールに扉が軋む音が響く。乱暴に開け放たれた扉が大きな音をたてた。
 雷鳴と雨音と共に飛び込んできた小さな人影にロイドは溜め息をつく。だから、こういう日は早く眠った方が良いと言うのだ。

「どうしましたか」

 努めて穏やかに声をかける。人影はびくりと肩を跳ね上げ、ロイドへ、次いで周囲へと視線を走らせた。
 女だ。それもまだ若い、少女の面影を残した女。濡れた黒髪が白い頬に張り付いている。
「ここ、教会なんでしょ」
 女はロイドを睨み付けた。ロイドは顔面に笑顔を貼りつけて「ええ」と返す。

「なら、何も聞かずに私を泊めて」

 ぽたぽたと薄手のワンピースの裾から滴る雨水には血が混じっている。細く白い手首には枷が填められていた。

 ――今日を安息日とした奴を呪ってやろうか

 急に転がり込んできた面倒事にロイドは内心毒づいた。それでも表面上はにこりと笑ってみせる。

「神の御名のもとに、貴女へ温かいベッドと一切れのパンを」

******
584栄耀、静寂、快楽 :2009/10/13(火) 19:56:45 ID:xf9g5CnZ


 ぱちぱちと火のはぜる暖炉の前に座った女は、先ほどよりも幾分顔色が良い。
 幸いにも怪我はいずれも軽傷であった。止血を施し、簡単に包帯を巻くだけの処置だが大事には至らないだろう。
 ロイドは女の向かいにしゃがみ込むと、その手首に填められた枷に手をかける。女は怯えたような目でロイドを見上げた。
「大丈夫、痛いことはしないよ」
 見たところ枷は簡単な造りをしていて、容易に外すことが出来そうだった。無論、枷で封じられた人間自らが外すことは出来ないが。
 ということはつまり、この女は罪人ではないということだ。
 ロイドはびしょびしょに濡れたワンピースに手をかけた。ボタンを一つ一つ外すたびに、白い体が露わになる。
 女は緑色の瞳を不安気に揺らめかせて、ロイドを見つめる。

 ――人身売買か

 街道を通り、エインズワースへ流れる珍しい商品。それには人間も含まれた。別に違法ではない。貧しい農民にとっての命綱でもあるのだ。

 衣服を奪われ尚抵抗しようとしない様子と、貧相な体格。どのような環境に身を置いていたかなど、推して知るべしである。ロイドは目を細めた。
 憐れんだわけではない。ただなんとなく、苛立ったのだ。

 華奢な肩に毛布をかけてやり、枷を外した手に湯気をあげるティーカップを持たせる。
 少し距離を置いて女の前に座りロイドは尋ねた。
「君、名前は」
 女は唇を噛み、下を向いたまま顔を上げない。
「聞いてどうするの」
 疑念にまみれた瞳で女はロイドを睨んだ。それにロイドは肩をすくめる。
「君を名前で呼ぶんだよ。決まってるだろう」
 女は面食らったように目を丸くして、やがてぽつりと呟いた。

「クロエ」

 この辺りでは聞かない名である。おそらくここより少しばかり東の方の出身なのだろう。
 そうか、と頷きロイドは続ける。
「クロエ、どうしてこんな格好でここに来たの?」
 名前を呼ぶと、クロエの瞳が一瞬だけ緩んだのが見てとれた。しかし、次の問いにその表情は再び強張る。
 ロイドはその様子に溜め息をつきそうになるのを堪えて、優しく語りかけた。

「言わなければ何も分からないよ。言ってごらん。神は全てを許される」

 かみ、とクロエは口の中で呟くようにしてロイドを見上げる。そわそわと毛布の上に指を滑らせた。
 本当のところ、辛ければ辛いほど、隠さなくてはいけなくてはいけないほど、人間というものは喋りたくなる生き物である。そうでなければロイドのような職業が成り立つ筈もない。
「そう。だから、言ってごらん」
 クロエの生乾きの髪の毛を指先で梳いて、ロイドは空いた手で暖炉の上の小さめの偶像を示した。
 たっぷりの沈黙の後、一際大きい薪のはぜる音がしたのを合図とするようにクロエは口を開いた。
585栄耀、静寂、快楽 :2009/10/13(火) 19:57:07 ID:xf9g5CnZ

「私、売られて、それで、荷馬車に積まれて」

 ロイドは黙ってクロエの髪を梳き続ける。時折白く滑らかな頬に触れた。

「でも、雨が降ってきて、荷馬車、みんな、谷底に」
「……落ちたのかい?」

 クロエはこくりと頷く。
「君はどうして助かったの?」
「入り口の近くに座っていたから、馬が暴れだした時に投げ出されて」

 ロイドは考え込む。ならば、その荷馬車の御者や他の“商品”を助けてやらねばならない。
 雨が降りしきる窓の外を見やるロイドの胸にクロエはすがりついた。

「やだ……あそこには帰りたくないよ……」

 潤む緑の瞳を視界から外して、ロイドはクロエの体を支える。
 この天気だ。雨が止むまで救助は出来まい。となれば、早くとも明日の朝になる。この寒さの中では誰も助からない。
 ――ならば、誰に言おうが言うまいが同じことだ

「誰にも言わないよ」

 教会には今ロイド一人しかいない。町民と交流あるとはいえ、神父という尊敬を集める身分故の隔絶。
 ――私だって寂しいんだ
 人道に悖る?道徳に欠ける?余計なお世話である。神にも埋められない寂しさを自分で埋めるだけだ。

 ロイドは全てを神に捧げられるほど殊勝な神職者ではない。だからといって、皆に崇められていると勘違いして驕ることが出来るほど馬鹿でもない。

「君は疲れてるんだ。続きは明日聞くよ」

 そっち用の奴隷なのか、やたらと整った顔をクロエはこちらに向けた。その瞳に浮かぶのはロイドへの信頼。背後の神ではなく、ロイド自身へ向けられた感情。

 そんな視線はいつぶりだろうか、と記憶を探り、容易に探し出せない自分に嫌気がさしてすぐにやめてしまった。

586栄耀、静寂、快楽 :2009/10/13(火) 19:57:50 ID:xf9g5CnZ
投下終了。
5874-263:2009/10/13(火) 20:03:58 ID:xf9g5CnZ
キリスト教チックなことを書いていますが、カトリックっぽい架空の宗教です。
ドラクエの教会みたいなものです。
気軽に楽しんで頂けたら幸いです。
588名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 21:12:40 ID:L2iM00Z4
>>585
期待
589名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 22:13:27 ID:sl65LKum
これは期待せざるを得ない。
590名無しさん@ピンキー:2009/10/14(水) 01:30:07 ID:40Ik/Sy0
GJ!
期待!
591名無しさん@ピンキー:2009/10/14(水) 02:59:15 ID:M29NqTKV
Wizな神父様なんですね
592名無しさん@ピンキー:2009/10/14(水) 03:33:14 ID:k3cJgoO2
駄神父なのか堕神父なのか…どっちにしろスケコマシな神父ならば期待せざるをえないな
593名無しさん@ピンキー:2009/10/14(水) 23:23:08 ID:CxkMOmb/
駄神父だろうと堕神父だろうと依存とエロがあるならなんでもよい。
594名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 00:14:43 ID:7PFcOvZP
>>593
お前はしょうもない
595名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 01:15:21 ID:2HgrFWsH
牧師なら無問題
596名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 01:24:41 ID:UQNyDn1P
そこを敢えて神父なのがイイじゃろ?と思う俺は牧師の子供
597名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 02:22:10 ID:owi52ctE
神父と聞くとどうしてもアンデルセン神父が思い浮かんでしまうw
この神父はどっちかというとウルフウッドっぽいが
ああでもあっちは牧師か
598名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 13:26:51 ID:lRwLGnEQ
神父と聞くとどうしてもプッチ神父が思い浮かんでしまう。
599名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 13:53:41 ID:7PFcOvZP
神父を引っ張りすぎ
600名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 17:24:32 ID:kpGBy6q6
わかったからお前ら全員教会行って懺悔してこい
601名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 18:59:33 ID:tLQLLDDd
依存娘を養うなどという邪な夢のために就職してごめんなさい…
602名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 19:22:35 ID:6+0mZuQu
ヤンデレ
603栄耀、静寂、快楽:2009/10/16(金) 21:43:26 ID:hMmokj4Z
投下します。
アンデルセン神父もウルフウッド牧師もプッチ神父も分かりません。
神父といったらルロイ修道士が浮かびます。
604栄耀、静寂、快楽:2009/10/16(金) 21:43:57 ID:hMmokj4Z

 昨夜と打って変わって冴え冴えとした朝の陽光がステンドグラスを照らす。白い床の一角に揺らめく色とりどりの光をぼんやりと眺めて、ロイドは暗記してしまった本の内容を読み上げた。
 一心に祈りを捧げる信者達の中、自分一人だけが異質な気がして、空虚な気持ちでページを捲る。

 やがて日が高く昇るにつれて、ぽつりぽつりと人はいなくなっていく。逆に教会の外はだんだんと活気付いていくのを感じた。がらんとしたホールを見回して、ロイドは本を片手に教壇を下りる。
 常であれば、この後簡単な朝食を一人で食べ、小さな菜園の世話をするのだが、今日はやるべきことがあった。

 ロイドは早足で教会の奥へ向かう。手にはパンとスープを乗せたプレートを携える。つい二月ほど前まで中年の尼僧が使っていた部屋の前で足を止め、ドアをノックした。ドアの向こうから微かな身じろぎの気配を感じる。
 遠慮せずにドアを開けるとベッドの上で毛布を被ったクロエが所在なさげに視線をさまよわせていた。
「おはよう」
 そう声をかけると、クロエは毛布の下の華奢な肩を震わせる。
「おはようございます」
 控えめに呟かれた挨拶にロイドは笑顔を返した。
「よく眠れた?」
 クロエはこくりと頷く。
「それは良かった」
 言って、ああそうだと部屋に作り付けのクローゼットを開く。背中にクロエの不思議そうな視線を感じながら、目当てのそれを引っ張り出した。
「昨日着ていたワンピースは汚れが酷くてね。洗って、まだ乾いていないんだ」
 代わりに差し出したのは、黒の僧衣。尼僧が忘れていったものだ。
「君には少し大きいかもしれないけど」
 クロエは僧衣を物珍しそうな目で見つめていた。子猫のような好奇心に満ちた目がきらきらとしている。
 僧衣など腐るほど見てきたロイドは苦笑してクロエの頭をすいと撫でた。

「着替えさせてあげようか?」

 冗談混じりの言葉にクロエは目を丸くして、次いで顔を赤くして頭を左右にぶんぶんと振る。
 本当は軽いからかいの言葉であったのだが、その様子が可愛くてロイドは笑って続ける。
「おや、恥ずかしがることはない。昨夜裸を見たからね」
 ここまで来ると冗談か本気か判断しかねたのか、クロエはおどおどとロイドを見上げる。
 ロイドの目にからかいの色が浮かぶのを見て取り、彼女は唇を尖らせた。
「自分で出来ます」
「そう、偉い偉い」
 クロエが拗ねたような目でロイドを睨み上げる。ロイドはそれを笑って受け流すとドアに手をかけた。
605栄耀、静寂、快楽:2009/10/16(金) 21:44:29 ID:hMmokj4Z

「着替え終わったら声をかけてね」
 後ろ手にドアを閉め、クロエを閉じ込めるかのようにそのままドアにもたれ掛かる。
 こんな風に生きた会話をするのは久し振りだった。神の言葉を代理するわけでもなく、定型文のような綺麗事を並べ立てるわけでもない。
 いつもであれば口にするのをはばかる少々下品な冗談がひどく爽快だった。どうやら自分は、自覚していたよりずっと抑圧されていたらしい。
 別に、町の人間がよそよそしいわけではない。地域柄なのか、むしろ明るく社交的な人間が多い。
 構えているのは、ロイドの方であるのだ。周囲がロイドを神父として扱うから、それに応えようとしてしまう。
 幼い頃に親を亡くし、修道院に預けられていたロイドは神の僕ではない自分であった記憶が薄い。神父ではない自分を受け入れて貰えるかが分からない。分からないから怖い。
 言ってしまえばロイドは自分に自信がないのだ。

 はあ、と短く息を吐くと、背にしたドアからノックの振動が伝わる。ドアを細く開けて、緑色の瞳がロイドを見上げた。
「着替え、終わりました」
 着古された僧衣の、余った袖は握り締められてくしゃくしゃだ。白い指先が少しだけ覗いている。
 ロイドはクロエの手をとると余った袖を捲ってやった。白い手はひんやりと冷たい。
「裾も長いから、後で丈を詰めてあげるね」
 そう言われてクロエは目を丸くした。戸惑ったように朱唇を薄く開ける。
「……貴方がですか?」
 ロイドは苦笑を返した。男が裁縫をするのがそんなに珍しいだろうか。
「一人だとね、何でも出来るようになるんだ」
 深い緑色の瞳が、ロイドの目を覗いた。澄んだ色の瞳に何もかも見透かされているような気がして、ロイドは目をそらした。
「ああ、そういえばまだ名前を言っていなかったね。この教会で神父をしているロイドだよ」
 ロイドに手を取られたままのクロエは小さな手で、骨張った大きな手を緩く握る。
「ロイド神父」
「ロイドで良いよ」
「……ロイドさんは」
 クロエには神父と呼ばれたくなかった。訂正するとクロエは若干考えるような素振りを見せて、妥協案を口にする。
 ロイドさんは。
 クロエはもう一度呟いた。
「どうしてそんなに寂しそうに笑うんですか?」
 ひゅ、と自分の息が詰まる音が聞こえた。乾いた唇を湿らせて、ロイドは掠れた声で答える。
「寂しいから、かな」
 クロエはことんと首を傾げる。だが、ロイドの顔色が変わったのを見て俯き「ごめんなさい」とうなだれた。
 ロイドは柔らかな黒い髪に触れて、ぽんと頭に手を置く。
「冗談だよ。私はそんなに寂しそうかな?まあ、ずっと一人だと退屈なのは確かだけれど」
 滑らかな白磁の頬を視線で辿り、禁欲的な僧衣に覆われた鎖骨の造形を思い描いた。
606栄耀、静寂、快楽:2009/10/16(金) 21:45:13 ID:hMmokj4Z

「とりあえず朝食にして、そうしたら色々話さなくてはいけないことがある」
 デスクに置かれたトレーを示す。椅子に座るように促すとクロエは驚いたように一歩後ずさった。
「私が食べるんですか?」
「私はもう食べたからね」
「一人で?全部?」
 期待に目を見開く。興奮で頬が染まった。
 そんなに喜ぶような料理ではない。キャベツと豆を煮たスープとパン。それだけだ。量もさして多くはない。
「美味しい。ふわふわ」
 丸のままのパンにかじりつくクロエを手のひらで制止して、パンを千切ってやる。
「こっちの方が、食べやすいよ」
 クロエはロイドが千切ったパンを口に入れて、幸せそうに微笑んだ。目尻を下げて顔全体で笑う様子は、クロエを幾分か子供っぽく見せる。
 ――私も朝食を後回しにすれば良かった
 そんなことを思いながら、クロエを見つめていた。一人で食べるよりもずっと美味しいに違いない。
 あっという間にスープ皿は空になった。先ほどよりずっと血色のよくなった顔を上げて、クロエはふうと息を吐く。
 ロイドは自身の口元を指先で叩いた。
「パンくず」
 慌てて口の周りをこするクロエに笑みを零して、ロイドは空のトレーを押しのけた。
「真剣な話をしよう。君は、これからどうしたいんだい」
 クロエの緩んでいた表情が凍り付く。目を伏せて、黒い僧衣をぎゅうと握った。
「帰りたくない、です」
 昨夜のように一つだけ呟いて、クロエは黙り込んだ。ロイドが溜め息をつくとクロエの肩がぴくりと戦慄く。
「帰りたくない?ならば、どうしたいの?」
 やや棘のある口調にクロエは今にも泣きそうな顔をした。やがて途切れがちに言葉を紡ぐ。
「……ここに居たい。ここに置いてください。何でもします」
 ロイドは小さく笑ってクロエの頭を優しく撫でた。
「そう言われたら、拒むわけにはいきませんね。此処は教会ですから」
 クロエは口を半ば開いたままに、間抜けた表情でロイドを見上げる。ロイドは空のトレーをクロエに押し付けると立ち上がるように促す。
「はい。此処に居るからには自分のことは自分でやること。おいで、水場の使い方を教えてあげよう」
 自身の僧衣を翻し踵を返すと、ドアに手をかける。背後から「あ、ありがとうございます」という焦ったような声が聞こえた。それと共に小さい足音が自分を追いかけてくる。
 視界の端にぴょんぴょんと小走りに付いてくる黒い頭が見えて、ロイドは誰に見せるでもなく一人笑った。


 
607栄耀、静寂、快楽:2009/10/16(金) 21:46:01 ID:hMmokj4Z
投下終了。
相変わらず少しずつの投下ですが、ご容赦ください。
608名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 23:34:40 ID:tTh8WisV
>>607
GJ!

いいねー何気ない日常の中に入ってきたちょっとした変化。
これからどこまで依存していくのか楽しみです。
609名無しさん@ピンキー:2009/10/17(土) 00:35:11 ID:nIkSHdEc
GJ!
ルロイって懐かしいな・・・。
610名無しさん@ピンキー:2009/10/17(土) 03:09:21 ID:8+xeOriL
>>607
GJ!
お互いに依存していく未来が見えるようだ
611名無しさん@ピンキー:2009/10/17(土) 08:13:23 ID:mtuiSXir
>>605
スケベ神父と普段は無邪気な女の子、いいな。
612名無しさん@ピンキー:2009/10/17(土) 11:13:14 ID:skm25xrn
自信がなくて孤独が寂しい神父と頼れる者がいない逃亡奴隷少女か。こいつは期待できる…ッ!
だんだんと面白そうな作品を投下してくれる書き手が増えて喜ばしい限りだ
無駄にレス数だけ増やして中身の無いつまらん作品よかチョビチョビでも良質な方が良いです

しかしアンデルセンもウルフウッドもプッチも知らないとは珍しい。むしろルロイって誰だ?
613名無しさん@ピンキー:2009/10/17(土) 11:20:52 ID:fg7sbB7b
>>612
いや、人間の大半は知らないだろ。
614名無しさん@ピンキー:2009/10/17(土) 17:08:47 ID:DsT5TebS
井上ひさしと聞いて
615名無しさん@ピンキー:2009/10/17(土) 20:30:16 ID:K4sfNeCI
ルロイ・ギリアム…。
616栄耀、静寂、快楽:2009/10/17(土) 22:05:26 ID:0cpA1qkJ
投下します
617栄耀、静寂、快楽:2009/10/17(土) 22:05:51 ID:0cpA1qkJ
 閉ざされた告解室ですすり泣く女の金色の髪の毛を見下ろながら、ロイドはうんざりとした気持ちで彼女の話を聞いていた。
「主よ、私は罪深い女です。既婚の身でありながら行きずりの男と関係してしまいました」
「悔い改めなさい。神は貴女を許されます」
 はて、この女にこの台詞を何度言っただろうか。ロイドは顔が見えないのを良いことに思い切り眉間に皺を寄せる。
 いくら神の懐が広かろうが、この女の淫蕩ぶりには神もほとほと愛想がつきたのではあるまいか。ロイドは毎回悔い改めよ、と言っているのだ。悔いも改めもしないならば、懺悔になんら意味はない。
 女は男好きのする垂れ気味の丸い目に涙を浮かべて、紅を差した唇を震わせる。
「ああ、ありがとうございます」
 なかなかの女優ぶりである。

 女らしい体つきを隠そうともしないすみれ色のエプロンドレスを纏った後ろ姿を見送る。
 美しいがそれが災いしたのか、もしくは生来の男好きなのか、奉公先の旦那に手を付けられ、奥方に追い出されたのだという。
 その奥方に冴えない靴屋のもとへ嫁がされ、日々浮気に励んでいるようだ。
 懺悔をするのは構わない。神の許しを得る、などと大それたことを考えてはいないが、罪悪感に押し潰される前に誰かに話してしまうのは有効だろう。
 ――あれは不毛過ぎやしないか
 ロイドは内心呟く。全て話してさめざめと泣き、その後すっきりしたと言わんばかりに勇み足で男のもとへ行くのだ。
 ホールに鎮座する偶像を見上げる。偶像はロイドを無感情に見下ろした。「あんたのせいであんな下らない話をえんえんと聞くはめになった」ロイドは鼻を鳴らす。

 不意に背後で忍び笑いが聞こえた。
「ミセス・シンシアはまた不貞行為か。実にお盛んなことだ」
 白髪混じりの髪を撫でつけた男が、ベンチに身体を伸ばして笑っている。ロイドはそれには答えず挨拶を交わした。
「アシュレイ卿、お久しぶりです」
「なに、ミセス・シンシアに比べられたら私でなくても久しいだろうがね」
 芝居がかった口調でそう言うとアシュレイ卿は懐を探った。シガレットを一本取り出して、ロイドの方へ示す。
「一服どうだね」
「いえ、結構です」
 アシュレイ卿は片眉を跳ね上げ、「とっておきだ」と家紋の入ったヒップフラスコをロイドへ傾けた。
 ロイドが苦笑して首を振るとアシュレイ卿はさもつまらなそうに肩を竦める。
「聖職者という奴は実に理解しがたい人種だな。君は少しミセス・シンシアを見習うといい」
 この気障で芝居がかった男が、ロイドは苦手であった。だがそれに反してアシュレイ卿はロイドを気に入っているらしく、時折尋ねてきては二、三、話をしていく。尤も、この男が何を思ってロイドに話しかけているのか、本当のところは分かったものではないのだが。
「生き物ならば欲望に忠実でありたいじゃないか。そうだろう。ミセス・シンシアを見たまえ。実にいきいきと活力に満ちている。半ば死んだような君とは大違いだ」
「神に全てを捧げるのも悪くはありません」
 ふ、とアシュレイ卿は笑い、マッチを擦るとシガレットに火をつける。燐の臭いがつんと鼻孔を刺激した。
「神、か。その無闇に大きな青銅の像に何の意味があるというんだ。人を満たすことが出来るのは、酒と煙草と阿片だけだ。しかしそれすらまやかしにすぎないがね」
 ロイドはアシュレイ卿の挑戦的な瞳を見返した。ホールの透明な空気に紫煙が揺らぐ。
「貴方はマテリアリストなのですか」
「いいや、リアリストさ」
 アシュレイ卿は立ち上がるとゆっくりとした口調でロイドに語り掛けた。
「君はただの神職者ではないね。たまに、人間のような目をする。いや、獣かもしれんな。君は、その獣のような目で一体何を欲しているのだろうね。……待て、当ててみせよう」
 顎に手を当てて考える素振りを見せるアシュレイ卿を遮るようにロイドは静かに声をあげた。
「アシュレイ卿、私もやることがありますのでこのあたりで失礼いたします」
「迷える子羊の他愛ない話を聞くのが君の仕事だろう」
 わざと聞こえないふりをして、ロイドは早足で教会の外へ向かう。背後でアシュレイ卿が問い掛けた。
「実のところ、君は神を信じているのかね」
 ロイドは一瞬足を止め、何も答えられずに教会の扉を開ける。白い陽光が急に目を刺し、ロイドは軽い目眩を覚えた。
618栄耀、静寂、快楽:2009/10/17(土) 22:06:18 ID:0cpA1qkJ


「ロイドさん」
 白いウィンプル――修道女帽子をひらひらさせながらクロエが駆け寄ってくる。小さな子供達がクロエを追って走ってきた。
 クロエの手にはバスケットが抱えられていて、中には狐色のクッキーが入っている。
「ロイドさんもお一ついかがですか」
 赤毛の少年が手を振り上げた。
「俺も食べたい!!」
 クロエはその少年の額をつつく。
「だめ。ティミーはもう食べたでしょ」
 ちぇ、と頬を膨らませるティミーに「余ったら食べていいよ」と笑いかけ、クロエはロイドに向き直る。
「色々な形に切り抜いてみたんです。これが犬でこっちが猫」
「見て、神父様!あたしのはうさぎなの!」
 亜麻色の髪の少女は嬉しそうにクッキーをロイドの方へ差し出す。ロイドは「いいね、可愛いなあ」と少女の頭を撫でた。
「おや、これは花かい?可愛いね」
 バスケットの中のクッキーを指し示すと、クロエは困ったように首を傾げた。
「ライオン、です」
「……ライオン?」
「はい。この間のサーカスの一団が連れていた大きな猫です」
「いや、それは分かるけれど」
 どうしてそれを作ったのだろうか。そういえば、あのライオンをクロエは随分気にしていた。
「ふさふさで、好きなんです。ライオン」
「そうかい」
 ロイドは再びバスケットへ視線を落とす。そしてはたと視線を止めた。
「これは?」
 他とは明らかに違う、歪んだ造形。目を細めて見れば、ガーゴイルのような醜悪な生き物にも見える。
 クロエはぱっと頬を赤らめた。
「あ、それは、私が食べるんです」
 失敗作なのだろうか。もしくは、切れ端を固めて焼いたのかもしれない。
 何かの形?と問うとクロエは渋々といった様子で口を開いた。
「ロイドさん……です」
「……は?」
「でも、失敗してしまって……ぐちゃぐちゃに」
 その言葉にロイドは安堵した。クロエの目にロイドはあのような醜怪な化け物に見えている、というわけではないらしい。
 ロイドは誰にも聞こえないようにクロエに囁く。
「好きなの?」
「え?」
「私のこと。ライオンも私も、好きだからクッキーの形にしたんだろう」
 クロエは真っ赤な顔で口を開けたまま呆けていた。ロイドは何でもない顔をしてバスケットへ手を伸ばす。
「では、私は犬を貰おうかな」
「神父様、僕と一緒だね!」
「ずるい!あたしも神父様とおんなじのが良かった!」
 きゃいきゃいと騒ぐ子供達の声にやっと正気に戻ったのか、クロエはロイドの背後へ目を止め、バスケットを差し出す。
「お一ついかがですか」
「なるほど美味しそうだ。私は猫を頂こう」
 いつからそこにいたのか、アシュレイ卿はクッキーを一口かじる。
「君が欲しいのは可愛いお人形だったのか。気がつかなかったよ。君も存外子供っぽいことだな」
 それだけ囁いて、アシュレイ卿は踵を返す。
 クロエはロイドに不思議そうな視線を送ってきた。それに曖昧な笑みを返し、ロイドはその後ろ姿を見送った。

619栄耀、静寂、快楽:2009/10/17(土) 22:06:45 ID:0cpA1qkJ
投下終了
620名無しさん@ピンキー:2009/10/17(土) 22:23:12 ID:fg7sbB7b
終了すんな再開しろ。
621名無しさん@ピンキー:2009/10/17(土) 22:54:18 ID:skm25xrn
チョビチョビでもいいとは言ったが2レスは短すぎだろうがw期待してるから終了しないでくれ
622栄耀、静寂、快楽:2009/10/17(土) 22:58:03 ID:0cpA1qkJ
きりがよかったもので。ごめん。
次は頑張る。
623名無しさん@ピンキー:2009/10/17(土) 23:56:41 ID:5uMMn5+/
まあキリがいいなら仕方ない
適当に頑張ってくださいや
624名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 00:04:36 ID:wqKqbgYI
シニカル親爺期待w
625名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 01:19:30 ID:vMDRuOba
2レスとはいえ改行も少なく充分な分量!
GJ!
続きが気になります
626名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 11:52:57 ID:fzgKcUaA
投下量の問題じゃないんだ。完遂できるかが問題なんだ。
だから作者さん量じゃなく完成させるのに頑張って下さい。
お願いします
627名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 17:40:06 ID:W5Os/3RW
>>618
欲求不満としか思えない言葉責めのエロさだぜ。
628名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 18:03:18 ID:W432uxkj
まぁ、量が少なすぎると叩かれるもとになりやすいけどね。
629栄耀、静寂、快楽:2009/10/18(日) 19:54:16 ID:g9DiaNMy
投下します。
頑張りました。
630栄耀、静寂、快楽:2009/10/18(日) 19:54:49 ID:g9DiaNMy
 薄暗い教会。小さな窓から陽光が細く伸び、床を照らす。祈りを捧げる信者達の前に立つロイドの姿をみとめて、クロエはほうと息を吐いた。その音が広いホールに思ったより大きく響き、クロエは思わず自身の口を手で覆う。
 ――格好いい
 心の中で、ぽつりと呟いた。黒い僧衣に身を包んだロイドは本に目を落とし朗読を続けている。その静かで落ち着いた横顔が、クロエは好きだった。
 だが、それを上手く表す言葉をクロエは知らない。もっと的確に今のロイドを表現しようとしても、クロエはそれ以上の言葉を思いつかない。
 学が無いのだ。勉強して、言葉を知ればこの蟠りに名前がつく。そうすれば、ぐちゃぐちゃな自分の気持ちも整理される気がした。「こんにちは、お嬢さん。たしか、クロエといったかな」
 突然声をかけられたクロエは、はっとして顔を上げる。先日クッキーを受け取った男が、薄い笑みを浮かべて立っていた。
「こ、こんにちは……ええと」
 名前はなんといっただろうか。考え込むクロエにアシュレイ卿は即座に返した。
「アシュレイだ。アッシュとでも呼んでくれたまえ」
 クロエは苦笑を浮かべる。
「こんにちは、アシュレイ卿」
 アシュレイ卿は「つれないな」と肩を竦め、しかし少しも気分を害した様子は無くクロエを見つめた。
 鋭いグレーの瞳に射抜かれ、クロエは身動きが出来なくなる。値踏みされるような視線を受けて、ごくりと唾を飲んだ。
「君のような可愛いお嬢さんが近くに居ながら、彼は禁欲に励んでいるのかね?勿体のないことだ」
 アシュレイ卿は理解できないとばかりに首を振り、芝居がかった仕草で天を仰ぐ。クロエは何と返したら良いか分からず黙り込んだ。
「君は実に美しいね。シスターは自分のセンスの無さを隠すために野暮ったい僧衣を着るものだとばかり思っていたが、考えを改めねばなるまい。逆に流行の衣装に身を包み安心している女こそ迫害されてしかるべきだ。そうは思わないかい」
 クロエがなんと返事をするか迷っている間にアシュレイ卿は更に言葉を続ける。
「そう、実に神秘的で美しい。隠すというのはそれだけで淫靡だ。それに比べて染めた髪や塗りたくった顔の……いや、やめておこう。時としてそういったものは特殊な美しさを持つからね」
「あ、あの……」
「クロエ、少しいいかな」
 何とかして口を挟もうとするクロエを遮るように、ロイドがクロエを呼んだ。しめたとばかりにクロエは頭を下げ、「失礼します」と慌ててその場を逃げ出した。
「お話ししているところをごめんね。暖炉にくべる薪が切れていたから用意しておいてくれるかな。裏の小屋にある筈だから」
 はい、と素直に返事をして、ぱたぱたと走り出す。クロエ、と名前を呼ばれて足を止めた。
「走らない。落ち着いて」
「ごめんなさい」
 シスターらしく――とは言っても本物のシスターを間近で見たことは無いのだが――背筋を伸ばしてゆっくりと歩く。
 ――こうしていれば、ロイドさんの隣に居ても変じゃないかな?
 そう思い、ふとロイドの方を振り向く。知的な顔立ちの娘と何か話をしているロイドを見つけて、クロエは唇を噛んだ。
 クロエはさっさと前に向き直る。走ってはいけないと言われたにも関わらず、早足で教会の裏へ向かった。
631栄耀、静寂、快楽:2009/10/18(日) 19:55:08 ID:g9DiaNMy

 小屋、というのだから薪ばかりをいれた小屋かと思えばそうではなかった。クロエはがらがらと転げ落ちるケトルを拾い上げる。
 ――薪はどこかな
 薄暗く埃っぽい小屋にクロエは目を細めた。はたとクロエの目に梯子が止まる。視線を梯子の上へ向けるとどうやら屋根裏があるようだ。
 ――もしかして、上かな?
 まさかとは思うが確認してみようとクロエは梯子に足をかけた。が、梯子の一段目がばきりと音をたてて折れる。突然のことにクロエはつんのめった。
「う、わぁ……」
 夏の間に虫に食われてしまったのだろう。穴だらけでぼろぼろになった梯子を指でつつく。二段目、三段目に片足をかけて体重を乗せると、どちらも簡単に折れてしまった。
 仕方がない、とクロエは手近に置かれていた椅子を引っ張り出し、その上に木箱を置く。
 それを足がかりに天井裏に手をかけた。
「よい、しょっ……!」
 足を木箱から離した途端、足下で大きな物音がした。椅子の上の木箱が落ちてしまったのだ。
「うそ……」
 これでは下に降りられない。しかも周りを見渡しても薪は見つからない。
「うそぉ……」
 引きつった笑いを浮かべてクロエはもう一度、今度は少しだけ大きな声で呟くも、それは虚しく響くばかりだった。

 もうどれだけ此処にいるのだろうか。三時間も四時間もいる気がする。実際そんなに経っていないのだろうが。
 暇つぶしにしていた、厚く積もった埃を指でなぞっての落書きも、手の届く範囲の埃が全て無くなってしまいやめた。
 何度か飛び降りてしまおうかと思ったが、それなりに高さがある上に着地点には丁度自分の置いた椅子と木箱が転がっている。怪我は免れないだろう。
 誰か助けて、と思うも助けを求められるのはロイドしかいないのだ。
「ロイドさぁん」
 小声で呼んでみるも答える者は誰もいない。うう、とクロエは小さく呻く。
 と、その時、小屋の扉が開かれる音がした。
「クロエ?」
 クロエは顔を上げ、屋根裏から下を覗き込む。埃だらけの手で床を叩いた。
「ロイドさん!た、助けてください!」
 ロイドはクロエが散々難儀したガラクタの山をいとも簡単に跨いで来ると、呆れたような顔をしてクロエを見上げた。
「何やってるの?」
「薪を探してここに上ったら、足場が崩れちゃったんです」
 引っ張り出された椅子と散乱する木箱を見渡して状況を把握したらしくロイドは溜め息をついた。
「薪は外だよ。小屋の裏にあるんだ」
「……先に言ってください」
「はいはい、ごめんね」
 クロエの恨みがましい視線を無視してロイドは椅子の上に乗った。古い椅子が軋む。クロエよりずっと長身のロイドはそれだけで屋根裏に上がれそうだ。
 ロイドはおもむろにクロエの方へ両腕を差し出した。
「早く降りておいで」
 クロエはたじろぐ。緊急事態とはいえロイドの胸に飛び込むなんて出来ない。自分の心臓が無事でいられる保証がない。
「あ、あの!椅子の上に箱を置いて貰えば自分で降りますから!」
「不安定で危ないでしょ。いいから、おいで。大丈夫。君一人くらい支えられるよ」
 クロエは、ううぅと再び呻いた。渋々、ロイドの手を握る。
「はい、降りておいで」
「うわ!」
 急にぐいと手を引っ張られてクロエは変な声をあげた。そのまま前のめりにロイドの胸辺りに顔をぶつける。
「いひゃい」
 ぶつけた鼻を押さえて目に涙を溜めるクロエを見てロイドは意地悪く笑った。

632栄耀、静寂、快楽:2009/10/18(日) 19:55:39 ID:g9DiaNMy

******


 柔らかな紅茶の香りがふわとかおった。クロエは香りを辿って、膝の上の本に目を落とすロイドに視線を向ける。暖炉ではクロエが大変な思いをしてとってきた薪がオレンジ色の炎を上げていた。
 不意に、クロエは自身の手を握ったロイドの手の感触を思い出す。骨張った大きな手。クロエは自分の手をじいと見つめた。
 ――おとこのひと、なんだ
 今更ながら、改めて思う。
 抱き止めてくれた体はクロエよりずっと固かった。胸も想像より広かったし、腕もがっしりしていた。なんだか、変な感じがした。
 クロエはロイドの横顔を眺める。アシュレイ卿の言葉を思い出したのだ。
 ――キスとかしたことあるのかな
 幼い頃から修道院に居たと言うから、おそらくは無いのだろう。修道士は、清貧、貞潔、従順の三誓願を立てているのだ、と以前ロイドが言っていた。
 ――ロイドさん、童貞なのかな
 こくり、と喉が鳴った。膝の裏を妙な汗が流れていく。穴の開く程見つめていたことに気づいたのか、ロイドは本から顔を上げた。
「どうかした?」
 クロエは唇を舐める。かさかさに渇いて張り付いたような喉から掠れた声が漏れた。
「ロイドさん、キスしたことあります?」
 ぴしり、と空気が凍てついた。ロイドは全ての動きを止める。
「……どうして?」
「……ごめんなさい!なんでもないです!」
 ソファから跳ね上がり自分の部屋へ戻ろうとするクロエをロイドは呼び止めた。怒られるだろうか、とクロエは肩を竦める。
「此処においで」
 静かにそう言うロイドに怯えながら、クロエはおずおずとソファに座るロイドの前に立った。
 クロエの予想に反して、ロイドは穏やかに笑う。
「やってみせて」
「……はい?」
「キスの仕方。私に教えて」
 一気にクロエの脳は処理能力を何もかも超えてパニック状態になる。
「え?……、え?」
 目を白黒させるクロエに苦笑して、ロイドはクロエの手を引いた。昼間のようにクロエがロイドに覆い被さる形になる。
 ――ち、近い!近いっ!
 顔を青くしたり赤くしたりとクロエは忙しい。ロイドは涼しい顔で自分の唇を指先で示した。
「早く」
 クロエはロイドの唇をじっと見つめる。こんな機会、二度と無いかもしれない。これならば悪戯で済む。
 クロエはゆっくりと自分の唇をロイドのそれに重ねた。ゆっくり三秒心のなかで数え、唇を離す。
「それだけ?」
 からかうようなロイドの声音にクロエは掠れる声で囁く。
「口、少しだけ開けてください」
 僅かに開かれた唇を舌で舐め、口内に舌をねじ込む。上顎を舐め、ロイドの舌をつつく。
「舌、ください」
 息継ぎの合間にそう指示する。少しだけ伸ばされた舌に自分の舌を絡めて強く吸う。ぴちゃぴちゃと水音が響いた。
「はっ……、ぷは」
 深く口付けて、口内の唾液がどちらの物とも知れなくなった頃に唇を離す。
633栄耀、静寂、快楽:2009/10/18(日) 19:56:29 ID:g9DiaNMy
「もうおしまいでいいの?」
 やや息の乱れたロイドの声にクロエはどうにでもなれと腹を括った。もう一度ロイドの唇に噛みつくようにしながら、右手でロイドの僧衣のボタンを外していく。膝まである上着をやや乱暴に押しのけると、中のシャツのボタンも外しにかかった。
 唇から首筋へ、鎖骨へと口付けを落としていく。肌蹴たシャツの下へ手を差し入れ、乳首を指先で撫でた。ぴく、とロイドの肩が震えたのに気をよくする。
 クロエはロイドの耳を舐め上げた。耳朶をしゃぶり、耳の穴に舌を差し入れてじゅぽじゅぽと音を鳴らす。
「ここにキスしていいですか」
 ロイドのズボンを押し上げるそれを布の上から撫でた。熱くて固い陰茎。
 ロイドが熱っぽい息を吐いたのを了解と受け取り、クロエはロイドの脚の間に跪く。立ち上がった陰茎をズボンの上から唇で刺激する。はむはむと唇で食みながら、焦らすようにゆっくりとズボンを緩め陰茎を取り出した。
 最後まで手を出すことなく、大きく固く反り返った陰茎は出口を求めてズボンの中から弾けでてくる。クロエはそれに手を添えて、ちゅ、ちゅ、と口付けた。
 はあ、と頭上からロイドの息が漏れる音がする。クロエの腰がじくじくと疼いた。クロエはロイドの陰茎に舌を這わせて、時折強く吸い上げる。
 先端から溢れ出る透明な粘液は苦くて臭い。口の中がねとねとしていく。だが、それすら嬉しかった。
「んっ、……ぶ、ふあ、ロイドさん。気持ちいい?」
 クロエはロイドを見上げる。ロイドは眉間に皺を寄せて顔を歪めるとかすかに頷いた。
「出そうですか?出して。いっぱい」
 先程よりも強く吸い上げ、裏筋に舌を当てる。睾丸を唇で挟むとロイドがクロエの名を呼んだ。
「ふあ……、はぁ、なんですか?ロイドさん」
「あるよ」
「え?」
 クロエは何のことだか分からずロイドを見た。ロイドはにこりと笑う。
「さっきの質問の答え」
「さっきの……?」
 上腕を掴まれ立たせられたかと思うと、クロエの視界はぐるりと反転した。ソファに両肩を縫いとめられ、クロエは覆い被さってくるロイドを呆けて見上げる。
「だから、キスしたことあるよ」
 言うと、ロイドはクロエに唇を重ねた。舌が口内に割り込み、応える暇もなく犯される。
「んっ、んーっ!はっ……はうぅ」
 舐められ吸われ絡められ、クロエの体から力が抜けていく。ばたついていた手足がソファの上に力無く投げ出されるのを見計らったように、ロイドは唇を離した。
 ロイドはいまだに整理のつかないままのクロエの足首を掴み、体を二つに畳むように高く持ち上げる。膝が耳の辺りで固定されて息苦しい。
「ロ、ロイド、さんっ!?」
 焦るクロエを無視して、ロイドはすっかり捲れあがったクロエの僧衣の下に指を這わせた。太ももをくすぐられ、クロエは身をよじる。
「ひっ……!」
 下着をずらされじかに女陰に触れられ、引きつった声をあげた。じんじんと痺れたようになる自分の体が恨めしい。
「ああ、もう濡れているね」
 今日は寒いね。とさほど変わらぬ語調でそう言われ、クロエの体はかっと熱くなった。
「な、なんでですか!?ロイドさん神父じゃ――!」
 ないですか。と最後まで言えずにクロエは息を飲んだ。陰核を撫でられて腰が浮く。
 神父のくせに、どうしてこんなに手慣れているのだ。
「神父って暇なんだよね。毎日同じことの繰り返しで刺激がないし」
 ロイドはさらりと言い放つとクロエの中に指を入れる。長い指がぐちゅぐちゅと肉を蹂躙した。
「だ、だからって……!」
 反駁しようとするも膣壁の一点を擦り上げられ、クロエは息を飲んだ。びり、と快感が走る。
「ひゃあっ……!、あ、あっ、こ、この不良神父っ!――っ!」
 中を自由に弄ばれながら陰核を潰され、クロエは呆気なく達してしまった。声もなくイったクロエの膣がひくひくと痙攣しているのを感じて、ロイドはクロエの中から指を抜き取る。
 透明な液体でてらてらと光る指を浅く早い呼吸を繰り返すクロエの口に突っ込んだ。
634栄耀、静寂、快楽:2009/10/18(日) 19:57:21 ID:g9DiaNMy

「ぐっ、う、うぅ」
「はは、聖職者と詐欺師は同義なんだよ。覚えておきなさい」
 クロエはねじ込まれた指に丁寧に舌を這わせる。思考に靄がかかっているようで、白くふわふわとした気分だった。大人しく自分の体液を舐めとるクロエに笑いかけて、ロイドは指先でクロエの舌を挟む。
「君もなかなかどうかと思うけどね。指をおしゃぶりして興奮してるの?フェラチオのメタファー?」
 ロイドの指がクロエの口内から抜き取られる。「ああ……」とクロエは意図せず切なげな声を上げた。もっと舐めていたかった。ロイドの手をしゃぶるとロイドの味がした。
 ロイドはぐいとクロエの膝の裏に手を回すと固定し直す。腰から下が持ち上げられているせいで、自身の女陰にあてがわれる固い何かがロイドの陰茎だと気付いてクロエは顔を青くした。
 ぼやけていた思考がさっと覚めた。クロエはロイドの体を押しのけようとするが、広い胸はびくともしない。
「ちょ、ちょっとまって、うぁああっ!」
 長大なそれに一気に貫かれ、クロエは息を詰まらせた。ぐちゅぐちゅに濡らしてしまったせいで、陰茎は根元まで簡単に滑り込んできた。ぐん、と腹の底を押し上げられる。
「や、やら、まって、まってよぅ……!」
 涙を浮かべるクロエに構わずロイドはクロエに陰茎を突き込む。初めての体位で子宮を押し潰され、クロエは悲鳴をあげた。
「あ、あ、あっ、くるひっ、くるひぃ」
「気持ちいい、でしょ。中、きゅうきゅういってるよ」
「あんっ、あぁっ……!」
 ロイドは手で押さえていた脚を肩に掛けると、クロエの髪を撫でた。クロエの好きな優しい手つきだ。思考はもはや靄がかかるというレベルではなく、何もかも霧散して何も考えられなくなっていた。
「気持ちいいって言ってごらん」
「あうぅ、ひゃ、くるひいのぉ」
 ロイドは苛々とクロエを揺さぶる。結合部からはじゅぷ、じゅぽ、と卑猥な水落と共に泡立った粘液がだらだらと零れ落ちた。擦られる外側が、押し広げられる中程が、突き上げられる最奥が、気持ち良くてどうにかなってしまいそうだった。
「ふぅん。そういう態度でいいのかな?」
 ロイドは一切手加減せずにクロエを責め立てた。小さく華奢なクロエの体は壊れてしまいそうだ。
「言わないと、クロエのこと捨てちゃうかもね。どうする?君、私がいないと生きていけないだろう?」
 クロエは虚ろな目のままいやいやと首を振る。それだけはいやだ。ロイドのもとにいたい。ロイドの隣にいたい。
「やだぁっ……す、てないでぇ。んっ、あぅ、生きてけない、からぁっ!ロイドさんが、いないとっ、ロイドさんっ、ひうぅ!」
「分かったら、気持ちいいって言いなさい」
「あっ、気持ちいい、ですっ!気持ちいいっ!ロイドさんっ!ロイドさんロイドさん……!」
「いい子」
 ロイドは呟き、クロエに口付ける。クロエは無我夢中でロイドの舌に吸い付いた。
「んっ、ふぁ、……あ、ひゃぁ――っ!!」
 体の奥がどくどくと脈打つ。その度に痺れにも似た快感が体中を駆け巡った。
「ひゃ、あ、あぁ……」
 体が勝手に跳ね上がり腰が抜けそうになる。膣がぎゅうと痙攣して、いやでも体内のロイドの質量を感じてしまう。
「クロエ、締めすぎっ、だよ!」
 ロイドは慌てたようにクロエの中から陰茎を引きずり出し、たくしあげられた黒い僧衣の上に精液を撒き散らした。
 汚された僧衣をぼんやりと見下ろし、クロエはロイドの姿を探す。自分に覆い被さるロイドに腕を伸ばした。
「ロ、イドしゃん……ロイドさん。捨てないで……。一人じゃ、生きていけないの。私、わたし……」
 ロイドは荒い息を整えて、クロエの腫れた目瞼を撫でる。
「そうだね、君の心がけが良ければ、近くに置いてあげるよ」
 クロエは不安そうに瞳を潤ませると、はい。と頷き、ロイドの首に抱きついた。

635栄耀、静寂、快楽:2009/10/18(日) 19:58:00 ID:g9DiaNMy
投下終了。
636名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 20:00:30 ID:vMDRuOba
あなたのペースで頑張ってほしいw
GJGJGJ!!
637名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 20:52:32 ID:ZAnB9rQm
GJ
しかし、思ったより手ェ出すの早かったなw
638名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 22:10:17 ID:W432uxkj
読む気失せた。
639栄耀、静寂、快楽:2009/10/18(日) 22:16:16 ID:7Zqcnehx
他スレでイメージ画をアップしていた方がいたので、設定考えていたときのらくがきを。
本当は文字で全部伝えるべきなのですが……。

※絵、下手です。
※自分のクロエ像がある方はスルーが吉
http://imepita.jp/20091018/797280
640名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 22:29:47 ID:/xzhQm2g
コバルト臭ががが
641栄耀、静寂、快楽:2009/10/18(日) 22:44:58 ID:7Zqcnehx
たびたびすみません。どうしても気になったので。
コバルト臭いって文に対する批判ですよね?どういう意味ですか?
読む気が失せた方も、どうして失せたのか気になります。教えてください。
今後の参考にしたいので。
642名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 23:37:47 ID:Kfxvi2YT
自分で考えなよ。
例え間違ってても考えた分の成長は有るでしょう。
643名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 23:48:41 ID:vMDRuOba
>>641
俺は純粋に面白いって思うよホントに
「読む気失せた」っていう投げっぱなしの批判は、
ちょっと気にそぐわない展開になったからよく考えもせずに書いたんでしょ
しょうがないって
頑張って!
644名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 23:57:20 ID:W432uxkj
>>639
展開が早すぎる。
普通→依存の間がごっそり抜けてるから感情移入しにくい。
645名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 00:38:44 ID:e6OAOejl
イカした神父さんだな
646名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 00:52:27 ID:BUw46PLj
>>639
なんか揺さぶり失敗した紳士が次回冒頭でポルナレフ化しそうだなw
GJ! おもしろいんだぜ。
647名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 00:59:49 ID:bmqRiYoK
コバルトは意外と「女がいろんな男と」っての多いから。
ネトラレ展開は勘弁って言いたいんじゃねえの?

依存される≒独占する って考える奴多いかも知れん。
単純にクロエが処女じゃ無かったって事にムカついてる奴もいそう。

まあ要するに、展開が気に入る、気に入らないの問題であって
文章力云々じゃないんだから気にしなさんな。
648名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 02:35:26 ID:2tfiXq0B
>>635
GJ
あなたが神か
649名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 12:48:53 ID:GU7iSnH/
クロエは元々奴隷として売られそうになっていたのならそういう訓練
を受けていたんじゃねぇの?>性奴隷
650名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 19:01:17 ID:/jCD6eT6
>依存される≒独占する って考える奴多いかも知れん。
今まで出てきたSSのほとんどがそれでは

薬物依存にして薬物をくれる人だったら何でも従うとか
スリルが無きゃ生きていけない女が大怪盗や大物を手玉に取って大冒険したりするとか
変なものをコレクトするのに命かけてるコレクターとか
いろんな依存があるのに対人純愛系の依存しかない
需要が無いからかなぁ
651名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 19:45:24 ID:x7psD1Sl
>>650
薬物依存は別として、下二つはエロパロスレのSSとしては、ミスマッチじゃないの?
652名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 21:51:20 ID:UMZbtxFy
>>650
前にチョコ依存のSSなかったっけ?
653名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 07:55:47 ID:fKxJcHh4
あくまで嗜好の話で正誤の問題じゃないと断っておくけど、

依存される → 独占する → 過去も独占したい →
なら処女じゃないと → 未来も独占したい → 寝取られ展開も嫌

こんな感じなんじゃねえ? このスレを見てる人に多いのは。
654名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 17:26:44 ID:l6lDx/aS
俺は今現在独占できているなら別に気にしないけどな。
てか気になるのならわざわざトリップ付けてくれているんだからそれでNGに
しろよ書くのも投下するのも本人の勝手だろう? 読みたくなければNGしろよ。

655名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 18:26:00 ID:VjI58LbI
そもそもそういう路線で行くかどうか分らんだろ。
656名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 18:39:32 ID:2qU25h+K
>>634
GJ
「捨てる」と脅すの良いよね。
657名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 21:44:33 ID:ghYe7IOp
けんかダメだよ。
仲良くね。
658栄耀、静寂、快楽:2009/10/20(火) 21:45:26 ID:HVSljId5
コバルトって少女小説のことだったのか…
ウィキでCoについて調べてみた俺は馬鹿だな
展開が気に入らない方は申し訳ありませんがNGでお願いします
非処女萌えなんだ。許して
投下します
659栄耀、静寂、快楽:2009/10/20(火) 21:45:48 ID:HVSljId5
 鼻をつく生臭さにロイドは眉をひそめた。腹の底でぐるぐると渦巻くどす黒い何かが這い上がって来そうになる。
 激情に任せてクロエを抱いてしまった。仕掛けてきたのは向こうとはいえ、騙し討ちのような卑怯な方法で半ば強姦のように。
 しかも、自分以外には寄る辺の無い少女の弱みにつけ込んだのだ。
「最低だろうが……」
 ロイドは低く唸る。自分がそこまで腐っているとは知らなかった。聖職者の身でありながら、女人に劣情を催し、あまつさえ行動に移してしまった。
 女性経験があるとはいっても、商売女しか相手にしたことはない(それすら御法度ではあるのだが)。後腐れの無い乾いた関係。朝起きればベッドはもぬけのからである。その時のことは夢のようなもので、罪悪感を感じることなど微塵も無かった。
 だが、今朝は違う。目を覚ませば乱れた僧衣を纏ったクロエが控え目な寝息をたてている。鼻につく臭いも手に残る肌の感触も何もかも生々しい。
 ロイドは涙の跡の残るクロエの頬をするりと撫でる。黒い僧衣に点々と落ちる白い染みと、細い足にこびりついた体液の名残が清々しい朝の光のもとに痛々しく照らし出された。
「ロイドさんがいないと生きていけない、か……」
 嬉々として言わせた筈の台詞も、今繰り返してみるとひどく陳腐で下らない。
 興奮に飲まれて欲望が剥き出しになった自分が恥ずかしい。人間の本能を前にして、神への誓いなど紙のようなものだ。

 腫れた目瞼にそっと触れると、クロエは僅かに身じろいだ。ん、と小さな声をあげて、涙でぱりぱりになった黒い睫毛が持ち上がる。
 ロイドはどうしたらいいか分からず、黙ってそれを見ていた。何と声をかけたらいいのか分からない。だが、慌てていなくなるのもおかしいような気がした。
 緑色の瞳がゆるりと周囲を見渡す。はたとロイドを見止め、クロエはくっと喉をひきつらせた。
 その目に浮かぶのは、明確な怯え。色を失った唇が噛み締められる。
 それはそうだろう。あくまで優しく穏やかな男を装っていた。それが、急に獣のように自身に牙をむいたのだ。怖がるなという方が酷だ。
 ――自業自得だ
 苦々しく自嘲するとクロエは一層怯えたように僧衣を握り締める。ロイドはそれを見て悲しく表情を歪めた。
「人が来るまでまだ時間があるから、水を浴びて着替えなさい」
 ばさりと上着を羽織る。クロエは吐息のように返事をするとふらふらと部屋を去ろうとする。貸そうとした手をロイドは引っ込めた。
660栄耀、静寂、快楽:2009/10/20(火) 21:46:23 ID:HVSljId5
 教会の空気は静謐で、一切の生臭さを感じられない。いつもはいとわしい冷たい石のような空気が、今は心地よかった。
 ロイドは聖典に目を落としたが、読みなれた筈の活字を眺めるばかりで何一つ頭には入ってこない。
「おはようございます、神父様」
 仕立て屋の針子達が開かれた扉をくぐって入ってくる。ロイドはいつものように穏やかな表情を顔に貼り付けた。
「おはようございます」
 ぽつり、ぽつりと人々は祈りを捧げに教会を訪れる。そして用が済めば皆帰ってしまう。ロイドは強く孤独を感じた。自分には相談の出来る友人もいないのだ。
 ロイドは視線だけで、かのアシュレイ卿の姿を探す。話を聞いてくれそうな人間ならば、誰でもいい。たとえそれが悪魔だろうと構わなかった。しかし教会の中にアシュレイ卿の姿はない。
 ずぶずぶと沈み込むような暗澹とした気持ちになり、ロイドはぼんやりと外を眺める。シンシアの夫、靴屋の主人がクロエと何か話しているのが見えて、どろりと胃のあたりが痛んだ。靴屋の主人は四十を少し過ぎた、色の白い痩せた男だ。
 ――真面目なだけが取り柄の、退屈な男
 シンシアはそうこぼしていた。ロイドはその人の良い笑みを浮かべた面長の顔を睨み付けた。硝子越しにでも、殺気じみたものを孕む視線に気付いたのか、男はロイドに向けて軽く会釈をする。それにつられるように、窓硝子に背を向けていたクロエが振り返った。
 自分はそんなに酷い顔をしていたのだろうか。クロエはロイドの顔を見て身をすくめると、男と二、三、言葉を交わして早足に去っていく。窓枠の中からいなくなったクロエは、ややすると教会の扉をくぐって再びロイドを怯えた目で見上げた。
「あ、あの……」
「何を話していたの?」
 おずおずと紡がれた言葉を遮るとクロエはびくりと肩を震わせる。ロイドはそれを苛々とした気持ちで見ていた。あの男と話していたときは、どんな顔をしていたのだろうか。
「私に言えないようなこと?」
 潤んだ瞳がロイドを映す。
「ち、違います。……今日はいい天気ですね、とか、そういうことを……」
 語尾は徐々に力無く消えていく。今にも泣き出しそうな顔を見下ろして、ロイドは溜め息をついた。
「そう。もういいよ。裏から水を汲んできておいて」
 逃げるようにいなくなるクロエの後ろ姿を見送って、ロイドは冷たい石の壁にもたれ掛かった。誰もいない教会の広いホールは、自分の心音が反響しそうなほど静かだ。
 ロイドはずるずると石の床に座り込む。手のひらで目のあたりを覆い隠し、天井を仰いだ。
「子供じゃあるまいに……」
 なにもかも思い通りにいかないやるせなさをクロエにぶつけてしまい、より自己嫌悪に襲われる。目の奥がじんと熱くなり、ロイドは指で目頭を押さえたが、瞳からは何も零れ落ちてこなかった。
661栄耀、静寂、快楽:2009/10/20(火) 21:47:05 ID:HVSljId5
******

 地面から生えるポンプに手をかけ体重を乗せると、澄んだ水が勢いよく噴き出す。懸命に水を汲み上げながら、クロエは暗い気持ちで水飛沫を眺めていた。僧衣の裾にぽつぽつと濃い染みが出来ている。
 ロイドに触れられて嬉しかったのは本当だ。肌を重ねてこの上なく幸せだったのも嘘ではない。
 だが、そこに一切の打算がなかったと言えるだろうか。温かい食事と柔らかな寝床、おおよそ今までの人生で手に入れられなかったものが転がり込んできて、浮かれていたのではないか。それらを手放したくない一心で、ロイドに体を売ったも同然ではないのか。
 ロイドがいなければ生きていけないというのも、半分は本当で半分は嘘だ。ロイドがいなければ今のような生活は望めないが、野良犬のように生きる方法をクロエは知っていた。
 クロエは大陸の東の出身である。長い内乱のため国は荒れており、あまり治安が良いとは言えない。そのまたさらに荒廃した貧民街の外れで、クロエは産まれた。
 物心ついた頃には同じ年頃の子供達と、暴力と退廃の臭いのする街を生きていた。まともな人間ならば大人の男も近寄らないような場所だ。そんな場所でも生きるために、クロエは必死だった。
 道行く大人の財布をすったことも、行き倒れた人間の懐をあさったこともある。端金欲しさに娼婦のような真似をしたこともあった。何かを得るために足を開くことに、あまり抵抗はないのかもしれない。
 無理矢理犯されることもあったが、息をひそめて大人しくしていれば過ぎ去る嵐のようなものだ。下手に逆らって痛めつけられ殺されるよりずっとましである。
 そんなつもりで、ロイドの求めに応じたのかもしれない。
「最低だ……」
 水面に映る自分の顔がぐにゃりと歪む。喜びも幸せも、全て悲しみが上塗りしてしまった。
 ロイドのことは好きだ。優しくて、たまに意地悪で、そして寂しそうな人だ。温かい大きな手で頭を撫でられるのも、時折からかわれるのも好きだ。
「心がけ……」
 心がけ次第で傍に置いてやると言ったロイドの冷たい声を思い出してクロエは身震いした。
 全部見透かされていたのだろうか。自分自身でさえ気付かなかった浅ましい打算を。
 ロイドは自分に何を求めているのだろう。それを満たせなかったら、自分は捨てられてしまうのだろうか。
 ロイドの善意で取り交わした教会に置いてもらう約束は、クロエの打算のせいで契約に変わってしまったのだ。ロイドには対価を支払わねばならない。ロイドの気に障ることをしないようにせねばならない。
 苛立たしげなロイドの視線が怖かった。自分など、簡単に放り出されてしまう気がした。
 しゃがみ込んだクロエは膝を抱える。クロエ、と名前を呼ばれて首だけで振り向くと、教会に遊びに来た子供達がにこにこと笑っていた。
662栄耀、静寂、快楽:2009/10/20(火) 21:47:42 ID:HVSljId5
「クロエ、またクッキー作った?」
「約束したでしょ!」
 子供達は口々に言いながらクロエを囲む。
「ごめん。今日は作れなかったの。また今度ね」
 クロエがそう答えると子供達は押し黙った。
「クロエ……悲しいの?」
 亜麻色の髪の少女――エマがクロエの顔を覗き込んだ。他の子供達も神妙な顔をしてクロエを見つめる。
「ううん、そんなことないよ」
 クロエが笑ってみせるとエマは悲しそうな顔をした。
「でも、どうして泣きそうなの?」
 クロエは自分の頬に触れる。そんなに悲しそうな顔をしているのだろうか。
 黙り込んだクロエと悲しそうなエマの間に割り込むように、赤毛をなびかせてティミーが飛び込んできた。
「クロエは抜けてるから、失敗して神父様に怒られたんだろ!」
 クロエはひゅ、と息を飲む。エマは頬を膨らませた。
「神父様はそんなすぐに怒らないもん!」
「し、しらねーよ、そんなん!」
 ティミーはしゃがんだままのクロエの膝を軽く蹴っ飛ばした。
「俺が大きくなったらクロエをお嫁さんにしてやるから、俺のお嫁さんは泣いちゃ駄目なんだ!」
「シスターは結婚できないんだよ、そんなことも知らないの?」
 うるせえ、とエマを睨み付けるティミーを見て、クロエは小さく笑った。
「大丈夫。本当はね、水を運んでたら転んじゃったの」
「クロエはバカだなぁ!」
 自分に信頼の視線を寄せる子供達の期待を裏切りたくない、と思ったのだ。
 同時に、ロイドの寂しさの理由が、少しだけ分かったような気がした。

663栄耀、静寂、快楽:2009/10/20(火) 21:49:55 ID:HVSljId5
投下終了
664名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 21:53:41 ID:MOfe6V2I
>>647から何故か処女非処女がどうのって流れになってるけれど
別に誰も非処女だから読まないだなんて言ってなくね
665名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 22:51:37 ID:edarJDO8
そうカリカリすんなよ。ただ658が非処女萌だってそれだけだろ
別に処女好きは消えろと言ってるわけでもなし
666名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 22:54:21 ID:ry4JbQSB
>>663
GJ! 二人とも相談相手がいないから大変だな。捻じれて拗れてしまうがいいさ。
そしてエロスな翌日とかに小さな子供と話してる女というシチュがなんかちょっと好き。
背徳的なエロスの後だと特にいいね。

紳士の登場に期待しつつも、相談相手のいない二人の暗中模索も楽しみだったり。
667名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 00:39:47 ID:0RooE9+h
GJ!
処女とか非処女とか強調して書くから気になってくるんだよ。
普通に書いてれば問題ないよ、頑張って。
668名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 19:29:09 ID:KRQ43Tin
>>658
GJ
依存度が上がっていい感じ。
669名無しさん@ピンキー:2009/10/22(木) 20:43:06 ID:3xHVobc4
期待あげ
670栄耀、静寂、快楽:2009/10/24(土) 02:40:32 ID:uvHj96Iu
投下開始
671栄耀、静寂、快楽:2009/10/24(土) 02:41:12 ID:uvHj96Iu
 ぎし、と控えめにベッドが軋む。クロエの陶器のように白い頬に触れると、クロエは黒い睫毛を震わせ緑色の瞳を伏せた。
 ロイドは頬に影をおとす睫毛と、瞼に透ける青い静脈を見下ろす。
 ぷつ、ぷつ、と僧衣のボタンを外していく。繊細なビスクドールでも扱うような手つきで、優しく。ほう、とクロエは小さな息を吐いた。
 息を吐き出した唇に、ロイドは自身の唇を寄せる。ちゅ、と小さく音がする。唇に柔らかな感触。乾いた唇が、僅かにしとりと湿った。
 優しいのはそこまでで、ロイドはクロエを乱暴に押し倒す。ベッドに押し付けられて、クロエは苦しげに声を漏らした。
 歪められた表情にロイドの胸は高鳴る。猛る欲情がどくどくと脈打った。同時に、胸の奥でどこかがちくりと痛んだ。
「……んっ、んっ、ふ」
 舌で口内を蹂躙され、クロエは身を固くする。ロイドはクロエの薄い胸の頂で、ぷくりと存在を主張する乳首を戯れに指先で弾いた。
「きゃう!」
 犬のような声をあげて、クロエはびくりと肩を跳ねさせる。ロイドは手のひらでクロエの乳房を包むようにして、手のひらが大分あまる胸を揉みしだいた。
 肉の感触より肋骨の感触が勝るような貧弱な体を撫で回す。薄い乳房はロイドの手の中で形を変える。赤く手の痕が残りそうなほどに強く揉むと、クロエは押し殺したように呻いた。
「痛いの?」
 痛いようにしているのだ。クロエは首を左右に振った。それが、痛くないという意味なのか、もう止めて欲しいという意味なのか、ロイドには分からない。
「脚を開きなさい」
 命じるとクロエは素直に脚を開いた。
 ――つまらない
 クロエは一切の口答えをしない。何一つロイドに逆らおうとしない。ただ淡々と言うことを聞く。怯えたような目でロイドを窺いながら。
 ロイドはアシュレイ郷の言葉を思い出した。
 ――欲しかったのは可愛い人形?
 いいや、違う。そんなわけがない。その証として自分は何一つ満たされていない。これならば頭を撫でてやるだけだったこの間までの方がずっと幸せだった。
 ロイドはクロエの瞳を見る。上等のエメラルドのように煌めいていた瞳が、どろりと白濁しているような気がした。
 クロエをこんな目にしたのは、誰でもない自分だ。
672栄耀、静寂、快楽:2009/10/24(土) 02:41:42 ID:uvHj96Iu

 二度も抱けば罪悪感も薄まるだろうかとクロエを寝室に呼んだのだが、続きをする気にもなれなくて、ロイドはクロエの横に自身の体を横たえた。クロエは不思議そうにロイドを見つめる。奉仕を求められていると思ったのか、おもむろにロイドの上に跨り陰茎に触れた。
 そんなクロエをロイドは手の動きで制止する。クロエはいよいよ困ったように視線を泳がせた。
 ロイドはクロエの手をひき自分の傍らに寝そべるよう促す。そして、毛布ごと巻き込むようにクロエを掻き抱く。小さな体が潰れそうなほどに強く抱き締めた。
「……ロイドさん?」
 腕の中でクロエは身じろぎする。ロイドは逃がすまいとより腕に力を込めた。
「ロイドさん、……苦しい。ロイドさん」
 このまま腕の中で殺してしまおうか。どうせもとより身寄りの無い娘だ。突然いなくなったところで、気にかける者など誰もいない。
 ――ばかばかしい
 ふ、と腕の力を緩める。クロエは身じろぎを止めて肩で息をした。けほけほと小さな咳が聞こえる。
 そんなことをして何になる。今でも死んでいるのとさして変わりのない娘を殺したところで変わり映えはしない。
 クロエはもう二度と自分のために笑ってはくれないのだろうか。ロイドさん、ロイドさん、と邪気無く自分を呼んではくれないのだろうか。
 人形のような無表情を見つめる。ビイドロの瞳がロイドを見返した。その何かが抜け落ちたような瞳を見ていられなくて、ロイドは目を背けた。
 かわりにクロエの華奢な背中に手を回す。滑らかな背中を撫でると、クロエはふると震える。力任せに抱き寄せると、クロエはロイドの胸の中でひゅうと息を漏らした。
「君は、私がいないと生きていけないんだよ」
 クロエの耳元で語りかける。ねえ、そうでしょう。と耳朶に口付けるとクロエはこくりと頷いた。
「はい、ロイドさんがいないと、生きていけないんです」
 ロイドはそれに満足したかのように唇を歪めた。何度も口にすれば、嘘も真になる気がする。
「私と一緒に居たいでしょう?」
「……はい。ずっと」
「ちゃんとお願いしてごらん」
「あ……、私をロイドさんとずっと一緒に居させてください」
 どくん、と体のどこかが脈打つ。無理矢理興奮しようとしているのか、頭ががんがんと痛む。インク瓶をひっくり返したように脳が濁った青色で滲んでいく。
673栄耀、静寂、快楽:2009/10/24(土) 02:42:31 ID:uvHj96Iu

 ロイドは溜め息を一つついて、クロエの脚へ手を伸ばす。弛緩した脚を手で広げ、手探りでそこに陰茎をねじ入れた。クロエの喉がひっとひきつる。
 少しも慣らしていない女陰は、ロイドをぎちぎちと締めあげる。ロイドは抵抗の大きさを無視して目茶苦茶に腰を動かした。
「ふっ、ふっ、ひ、ひ、いた、い……!」
 声にもならない悲鳴をあげるクロエの眦から涙が零れる。ロイドは目を細めてそれを見下ろした。
 羨ましい。涙の流し方など、とうに忘れてしまった。神父になって手に入れたのは、仮初めの尊敬と虚栄の仮面だけだ。
 自衛本能なのか、乱暴な扱いに感じているのか、結合部からぐちゅぐちゅといやらしい音がする。それがより苛烈な情交を煽り立てた。
「あ、あふっ、ひゃ、あ、あ」
 クロエの声にも艶が混ざる。早くも自分の限界が近いのを感じて、ロイドは腰の動きを早めた。
「あぁっ、いぃ……、ひゃぁぅ……!」
「っは、良いの?中に出したらここに居られなくなるかもよ」
 目を見開くクロエに暗い笑みを投げかける。
「神父もシスターも姦淫は御法度なのに、神父の子供を孕んだシスターなんか笑えないよ」
 格好だけとはいえ周囲にシスターと認知されているクロエが大きなお腹を抱えている光景を思い描いていやに興奮した。
 対照的にクロエは顔を青くして手足をばたつかせる。
「ひっ、や、やだっ、いや……」
「何が?」
「いやだぁっ、外に、外に出して!中にはいやぁっ!」
 ロイドは構わずに快感を追う。じゅぽじゅぽと激しい音をたてながら出し入れを続ける。
「……!クロエ出すよ」
「うあ、やだっ!ロイドさん!いやだよ!やめてよっ!」
 びゅくびゅくとクロエの体内に精液を吐き出す。体内の違和感にクロエは絶望的な目をした。
 がたがたと震えるクロエの様子にロイドは唇を噛む。
 ――私の子を孕むのはそんなに嫌か
 自分で言い出したことなのに、自分勝手にも憤る。いっそ妊娠してしまえばいい、と精液を奥へ送るようにゆっくりと腰を揺らす。
 ――女の子がいい。クロエによく似た
 子供が出来れば、クロエが自分から離れることはないだろう。産まれるまで教会の奥に人目に触れさせず閉じ込めておけばいい。
 不意に、射精後特有の虚脱感に襲われる。ロイドはクロエの中から陰茎を引きずり出した。
 ――虚しいな
 いまだにふるえているクロエに背を向けて、ロイドはベッドに身を沈める。すすり泣きと共に体内から精液を掻き出す気配を背中に感じながら、ロイドは何も知らないふりをした。
674栄耀、静寂、快楽:2009/10/24(土) 02:43:17 ID:uvHj96Iu
******

 クロエは冷たい石の床に膝をつく。見よう見まねで胸の前に指を組み、頭をたれた。ウィンプルを外した頭の、黒い髪が肩を伝って滑り落ちる。
 教会の偶像に見よう見まねの祈りを捧げるのが、クロエの最近の日課になっていた。こうしている時だけは、ロイドの冷たい視線を忘れられた。そして、ロイドの温かい指先を夢見ることができた。
 柔らかで優しげな曲線を描く偶像の姿を見上げる。クロエは思う。ロイドの寂しさを。
 冷えた膝がじんじんと痺れる。クロエは息を吐いた。
 ロイドは、一人なのだ。たくさんの人間に囲まれて、慕われて、それなのに一人なのだ。
 その理由が、クロエには少しだけ分かった。きっと、クロエが子供達に自分の格好悪いところを見られたくないのに似ている。ロイドは一人ぼっちだ。
 ――私がいるのに
 クロエは思い、そして小さく首を振る。厄介事のように転がり込んできた痩せっぽちの小娘に、頼ろうとする人間がいるだろうか。
 ――それでも、
 差し伸べられたロイドの温かい手にクロエは救われた。数を集めて自分を紛れ込ませるためだけの殺伐とした集団に生きてきたクロエにとって、差し出された無償の愛はあまりに眩しかった。
 だから、クロエはロイドの傍を離れられない。短い間とはいえ、まるで憧れの町娘のように幸せだった自分を忘れられない。
 利己的だろうか。利己的なのだ。どこまでも自分勝手で、傲慢で。そのせいで与えられた愛も自ら投げ捨ててしまった。
 足りない足りないと子供のように駄々をこねて、ロイドから愛情を搾り取ろうとした。誰よりも愛情を必要としていたのはロイド自身であったのに。
 ――神様、お願いします。どうかロイドさんが少しでも寂しさから抜け出すことが出来ますように
 神様、神様、神様――。クロエは何度も祈る。冷たい床についた膝に痣ができるほど、組んだ指に白く関節が浮く程に。

 クロエはのろのろと立ち上がり、軋む体を少し伸ばす。平らな下腹部をするりと撫でて、小さく溜め息をついた。月のものが、遅れている気がする。気がする、というのもクロエは幼年期の貧困のためか元々周期があまりはっきりしていない。
 ――そうしたら、また一人だ……
 本当は、少しだけロイドの子供が欲しいと思った。腹に子が宿れば、自身の身の内に巣くう孤独感も埋まるかもしれない。
 クロエは自嘲的に笑む。自分はいつだって自分のことしか考えていない。だから、きっと、誰にも愛されないのだ。
 クロエはベンチに座って波打つ分厚い硝子窓を見つめる。
 万が一子が出来たら、エインズワースへ行こう。人がたくさん居る場所へ行けばなんとかなるだろう。その気になれば赤子など一人でも産める。クロエは貧民街でそんな娘を何人も見てきた。
 ――男の子がいいな。ロイドさんに似た格好良い男の子
 そして、目一杯の愛情を注いであげたい。自分のように寂しい思いはさせたくない。自分は学がないけれど、子供には勉強をさせてあげたい。そのために自分はたくさんたくさん働いて、そして子供が一人立ちする頃にひっそりと死にたい。
 本音を言えば、ずっとロイドと一緒に居たい。だが、今以上にロイドに迷惑はかけられない。
 ――ロイドさんと私と子供と一緒に居るのは駄目なんだ。出来ないんだ
 クロエの夢想の中のロイドは以前のように優しく微笑んでいて、クロエは無性に悲しくなった。
 つん、と目の奥が痛む。クロエはぐしぐしと目をこすった。クロエが泣くと、ロイドは嫌そうな顔をするのだ。
 背後で扉が開く音がする。今の時間に教会を訪れる人はいないから、それはロイド以外に考えられない。予想通り聞き知った声がクロエの名を呼んだ。
「……ロイドさん」
 今気付いたふりをして、クロエは振り返る。
 憔悴したような顔でロイドはクロエの隣に腰掛けた。ロイドの手が、クロエの膝を撫でる。そのまま僧衣をたくしあげられそうになって、クロエはその手を振り払った。
 ロイドが呆然としたようにクロエを見つめる。クロエもロイドに逆らうという初めての体験に戸惑っていた。
 クロエは偶像を見上げる。穏やかな顔のそれに見られているとあっては、そういう行為をする気になれない。それに、もしも腹に子が宿っていたら、あまり負担をかけたくなかった。
「あ、の……私……」
 ロイドはクロエの言葉を無視して立ち上がる。
 ロイドさん、と呼び掛ける悲痛な声をロイドは低く遮る。
「君はどこでも行きたいところへ行けばいい」
 クロエは息を止めた。ぐにゃりと景色が歪む。
 ――ああ、自分は必要とされていない
 もうなんだか、何もかも滑稽にかんじられた.


675栄耀、静寂、快楽:2009/10/24(土) 02:43:42 ID:uvHj96Iu
投下終了
676名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 07:42:57 ID:mEqNvIAM
>>675
GJ!
ロイド、必死だなwww
677名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 08:39:46 ID:AKjkmb6f
>>671
GJ
素直になれない二人がいい。
678名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 10:47:21 ID:jffk5btd
ロイドがゲス野郎にしか思えなくなってきたw
しかし歪んで捻れたような関係なのに依存しあうってたまりませんなぁ
679名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 11:01:00 ID:3qMELqPc
GJ
読んでてもどかしい位噛み合わずに空回りだな
680名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 01:54:31 ID:Fa2+wYTJ
GJ!
さてそろそろ次スレの時期かな
681名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 13:24:44 ID:hVvnmbnc
>>680
早くない?
682名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 14:05:08 ID:d1xAZpiH
>>681までで482.41kB
683名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 17:00:09 ID:hVvnmbnc
じゃあ、投下するのは次のスレまでまった方がいいみたいだね。
684名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 17:06:26 ID:uCcyEhSO
半年ROMってからにしようぜ
685名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 20:54:05 ID:KZRP5rV7
いやいや、あと3回は最低でも投下に耐えれるでしょ!?
686名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 20:59:33 ID:hVvnmbnc
いや、新しいスレがどうとか言ってるからもう無理なのかなぁって思ってさ。
まぁ、それだけ。
687名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 23:01:47 ID:mnNW4IDy
3レス〜5レス程度の投下なら大丈夫だろ。ものは試しに投下してみるといいさ
688名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 20:48:00 ID:1YPOFZeR
私待ちます
689名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 20:56:07 ID:QMb2AtA5
私も待ちます。
690名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 22:01:01 ID:YRs2i5aA
わたし、ま〜つわ、いつまでも、ま〜つわ
691 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/29(木) 12:44:54 ID:2NKtF9rC
20レスぐらい使ってしまうけど大丈夫かな…?
692名無しさん@ピンキー:2009/10/29(木) 14:57:44 ID:rOgGznb2
ばっちこい
足りなくなったら新しく立てればいいさ
693名無しさん@ピンキー:2009/10/29(木) 16:26:06 ID:IYdpLDtV
中身スカスカなら20レスでも容量は問題ないんじゃね?つか容量くらい自分で調べられるだろ
んなことよかダメ神父とRPGまだ?
694春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/29(木) 17:03:00 ID:2NKtF9rC
投下します
695春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/29(木) 17:04:14 ID:2NKtF9rC

昔からそうだった……誰かに頼りっぱなしで自分の意思を貫けない性格。

子供の時から常に自分のすることを春香に決めてもらっていた。
春香もそれが楽しくて幸せだと言っていたが、与えてもらっただけで俺は春香に何も返せていなかったんじゃないだろうか…?

俺がちゃんと春香の彼氏として役に立っていたのかなんて、今ではもう春香に聞くことすらできないが、成長できない俺を昔のように目の前に来て怒ってほしい――。
そう願うのは罪になるのだろうか?

最近は鈴村や美幸ちゃんが友達になって楽しい時間を過ごさせてもらっている。

その数少ない友達の美幸ちゃんを裏切ってしまった…。
助けを求めていたのに、差し出された美幸ちゃんの手を握る事ができなかった…。
自分の罪もロクに背負えないのに他人の人生に触れるなんて、できる訳がない。
そう決めつけて美幸ちゃんから逃げた。

春香のように他人の人生を自分の人生のように想える心が俺にもあれば…。

そう考えると後悔の波が津波となって押し寄せてきた。

後悔――春香の「死」で学んだはずなのに…。
やはり俺はあの日から何一つ変わっていない。


そう…三年前のあの日から――。
696春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/29(木) 17:05:17 ID:2NKtF9rC

―――――
――――
―――
――


「そう…そんなことが…」

「あぁ…」
今俺は自宅のリビングで鈴村に美幸ちゃんの家でおきた事実をすべて話していた。
人に言ってもいいことなのか迷ったが、自分ではどうすればいいか分からず、鈴村なら信用できると思ったので相談することにした。

「…それであんなに泣いてたんだ?」

「ぐッ……うるせーよバカ…」
鈴村は真剣な表情で話しているがバカにされてる気がしてならない。

美幸ちゃん宅から帰ってきた俺は恥ずかしい事に高校三年生にもなって同級生にしがみついて大泣きしてしまった…。
それを笑いもせず真剣に俺の背中をさすってくれたのは鈴村が優しい性格だからだろう。

「夕凪くんが悪い訳じゃないよ、そんなこといきなり話されたら僕だって混乱するって。」

「そっか?でも…美幸ちゃんは……」
多分俺の事を軽蔑しただろう…おじさんに帰っても大丈夫だと言われたがあそこは美幸ちゃんの話を聞いてあげるべきだった…。

「美幸ちゃんか……まぁ、少しの間はギクシャクするかもしれないけど…でも、大丈夫だよ!美幸ちゃんが夕凪くんの事を嫌うわけないだろ?友達なんだから。」
697春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/29(木) 17:06:03 ID:2NKtF9rC

「友達だから許せないことだってあるだろ…」

「友達だから許せることだってあるでしょ?」

「…」
ああ言えばこう言う…と言いかけたがそれは俺のほうかもしれない…鈴村の言うように友達同士の些細な喧嘩をしたならゴメンですむ話しだろう…。

だけど美幸ちゃんのあの叫び声を直接聞いたのだ……美幸ちゃんに謝ってすむ話ではない事ぐらい安易に想像がつく。

「大丈夫だって、明日美幸ちゃんと話そうよ。
美幸ちゃんもわかってくれるはずだから。」
前のソファーから立ち上がり、テーブルを回り込んで俺の隣に腰を掛けると、俺の頭を両手で抱え込もうとした。

「な、なんだよ…?」
鈴村の意味の分からない行動に、鈴村の手が俺の首に回る寸前で避けて後ずさる。

「えっ?…あの…ハグしてあげようかと…」

「ハグ!?な、なんでそんなことされなきゃならないんだよ!」

「いや、落ち込んでたし…それにさっきしてたじゃん。」
鈴村が不思議そうに俺の顔を覗き込む。
冗談ではなく本気で抱き締めようとしていたらしい。
698春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/29(木) 17:06:58 ID:2NKtF9rC

鈴村が言う「さっき」と言うのは泣きながら鈴村にしがみついた時のことだろう…。あの時は恥ずかしさとか男同士だとか気にする余裕が無かったのだ。

単純に慰めてくれようとしてる鈴村には悪いが素面で男に抱き締められるなんて絶対にイヤだ…。

「い、いや、もう大丈夫だよ…それより風呂に入るわ。」
いろんな意味で疲れたから早く風呂に入って寝たい…。

「そう……わかった。それじゃ、お風呂入ろっか。」
なぜか残念そうにうなずく鈴村に少し危機感を覚えたが、あまり深く考えず風呂場へと向かうためにリビングを後にした――。






「……なぁ?」

「んっ?なぁに?」
俺の問いかけに鈴村が大きな目をぱちくりさせ、不思議そうに顔を傾げる。

「おまえが先に風呂入るのか…?」
俺は確かに鈴村に風呂に入ると発言したはずだ…なのになぜ鈴村は俺と同じように脱衣場にいるのだろうか…。

「えっ?一緒にお風呂入るんじゃないの?」

「……………は?」

今こいつなんて――

一緒に風呂に入る…?聞き間違いか…?
いや…鈴村はすでに上の服を脱いでいるので聞き間違いではないだろう…。

……だとすると冗談か。
699春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/29(木) 17:07:48 ID:2NKtF9rC

「は、はは…ハハハ、おも、面白いな、鈴村!おま、おまえでも冗談言うんだなぁ〜いやぁ〜ビッ、ビックリしたぁわ!」
鈴村の発言に思考が停止しているせいで、喉のどの部分から出たのか分からないような声が出てしまった。

「え………友達の家に泊まったことないから分からないけど、友達の家に泊まったら一緒にお風呂入るもんじゃない…の…?」
戸惑った表情で問いかけてくるが、鈴村以上に戸惑っている俺がいる。

確かに友達と一緒に風呂に入るぐらい普通のことだろう…。
別に男同士見られて困るような物はついていない。

だが、何か抵抗がある…別に野郎の裸なんて見ても問題ないのだが――


「いや、入るヤツもいると思うけど…まぁ、一人で入れ。先に入ってもいいぞ?」

「う、うん。」
そう言うと脱衣場に鈴村を残してリビングに戻った。



「……はぁ」
リビングにあるイスに雑に腰を掛ける。
それと同時に大きくため息を吐いた。

なんだろう…たまに一回り小さい人畜無害な鈴村に警戒心を抱く時がある。
別に一緒に居てて嫌な気分にはならないのだが、たまに鈴村が女に見える時がある…。
行動なり、仕草なり、そこらへんにいる女より女らしいかも知れない。
700春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/29(木) 17:08:44 ID:2NKtF9rC

だから鈴村に接する時、些細なことだが体に触れるのを躊躇するのかもしれない…。

「……気持ち悪いな俺…」
なに考えてるんだ…。相手は同級生の男だぞ?

こんなこと考えるから警戒心を持ってしまってるだけじゃないのか…?
本当は鈴村に警戒をしてるんじゃなくて俺が危ないのか?

「……なんかイライラしてきた。」

美幸ちゃんの事で悩んでる今、たかが同級生の事で悩んでる自分にイライラしてきた。
しかも自分だけ…鈴村は普通に接してるのに俺だけがパニックになっている…その事でどうしようもなく腹がたってきた。

「くっ、くっ、くっ……俺だけパニクるなんて許せん…」
確か脱衣場にバスタオルは一枚も無かったはず…。
畳んであるバスタオルを一枚鷲掴みにすると脱衣場へと歩きだす。

「ふふふ…鈴村のパンツを隠してやる…」
鈴村が風呂に入ってる時脱衣場はもぬけの殻、パンツを洗濯機に放り込んでしまえば明日までノーパンだ。
バレてもバスタオルを持って来たと言う口実でなんとか誤魔化そう。

小学校以来のイタズラ心に火がついた俺を止める者は誰もいないのだ。

「…」
脱衣場の扉に耳をつける。音はまったくしない…湯船に浸かっているようだ。
701春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/29(木) 17:09:50 ID:2NKtF9rC

「…」
男の入浴は決して長くはないはず。
早くしないとタイムリミットが来てしまう。

「よし…行くか…」
恐る恐る脱衣場の扉を開けて中へと侵入する…。








――「えっ?なん……夕凪…く…」




「……?」
あれ…なんでコイツまだ脱衣場にいるんだ…?
それに真っ裸だかで…あぁ、風呂に入るんだから裸で当たり前なのか…………あれ?




「う、うあ、うぁあッ…ッ」
見る見るうちに鈴村の顔がゆでダコの如く真っ赤になっていく。




「あうあッぁぁうぁぁッ!!?なッ、なんでぇ!?なんで夕凪くん入ってくるのぉ!!?」
固まっていた鈴村が我に返り、慌てたよう体を手で隠してその場に座りこんでしまった。

泣きそうにキョロキョロと周りを見渡し、身体を隠すような物を一生懸命探している。

「わ、悪いッ!バッ、バスタオルなかったからっ!!こ、これ!」
鈴村の行動を眺めていた俺も、重大なミスを犯した事に気がつき慌てて鈴村にバスタオルを手渡して脱衣場から抜け出した。

「はぁ、はぁ、はぁ、……最悪だ。」
これではただの変態だ……。
鈴村が出てきたらなんとか弁解しなければ。


「ま、まぁ、なんとかなるか…」
702春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/29(木) 17:21:16 ID:2NKtF9rC

考えててもしょうがない…。それに1つ安心したことがある。

「ちゃんとついてたんだな……。」
そう、ハッキリと見てしまった…。
中性的な容姿をしているので少し不安だったのだが、鈴村の一部分を見ることで完全に男だと認識することができた。
これからは鈴村に対して躊躇なく…容赦なく接することができる。





「それにしてもアイツ毛が………んっ?」
テーブルに置いてある携帯が光っている。
誰かからメールが来たみたいだ。




「……親父?」
携帯の画面には小さく一文字で「父」と書かれている。
メールかと思ったが着信のようだ。父から電話なんて珍しい…。
此方から折り返し電話するのもめんどくさいので、メールすることにした。

「これで……よしっと。」
『電話した?』とだけ書いてメールを送る。
父から電話が掛かってくる時は日本に帰って来るか俺の誕生日の時ぐらいだ。
俺の誕生日はもう過ぎているので多分日本に帰ってくるのだろう。

5分もしないうちに父からメールが返ってきた。

『明日家に帰る。』とだけ書かれている。
素っ気ない文だがいつもの事なので気にしない。

素っ気ない文に対してこちらも素っ気ない文で返す。
703春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/29(木) 17:22:36 ID:2NKtF9rC

『わかった。』

メールを送り返すと今度は携帯をテーブルに置かず自分のポケットに放り込んだ。


「ふぅ……鈴村に着替え貸してやらなきゃな…。」
鈴村は家に帰らずそのまま俺の家に来たので着替えを家から持ってきていないのだ。
俺の服では大きいと思うが我慢してもらうしかない。

二階に上がり、私室のタンスからスウェットとTシャツ、を取り出してもう一度一階へと駆け降りる。
自分の下着を持っていこうか悩んだが、新しい下着がないので鈴村には我慢してもらうことにした。

「…」
脱衣場の前にたどり着くと、中からシャワーの音が聞こえてきた。鈴村が風呂に入ってる証拠だ。
もうあんなヘマはしない…もう一度同じことを繰り返すと鈴村の中で俺は確実に変態扱いされてしまうだろう。
軽くノックをして少しだけ扉を開ける。案の定脱衣場には誰もおらず、風呂場の扉には鈴村のシルエットが写っている。


「……鈴村ー?寝間着ここに置いとくからなぁ〜?」
持ってきた服をかごへ放り込むと、鈴村の返答を聞かず脱衣場から離れ、二階の私室へと向かった。
704春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/29(木) 17:23:39 ID:2NKtF9rC

「……風呂入るの明日でいいや…」
部屋に入り、一人ベッドに寝転がると、ポケットから携帯を取り出して無意味に携帯をいじる。

――何もすることが無い……少し前なら当たり前だったのに。

最近は何もすることが無いという状況を異常に感じてしまう自分がいる。
だから今日、鈴村と美幸ちゃんを家に招いたのかも知れない。
恥ずかしい話、人恋しくなるのだ。
皆とよく遊ぶ様になってからより一層その気持ちが強くなったのかも知れない。



「はぁ……どうするかなぁ…」
鈴村と話す事で紛らわせていた気持ちがまた溢れ返ってきた。

脳裏に美幸ちゃんの笑顔と泣き顔が何度も交互に浮かんでは消える…。

鈴村は話せば大丈夫と言っていたが――



「……めんどくさい…」
考えるのを諦めたように目を閉じる…しかし美幸ちゃんの事が頭から離れない。

あの時どうすればよかったんだろう……美幸ちゃんの話を聞いてなんて言うんだ?
所詮他人事…俺がどうこう言える問題では無いと思う。

でもあの時俺が手を差し伸べていたら……。

頭の中でいろいろと考えてるうちに、能が考えることに疲れてしまったのだろう…仰向けのまま泥のように深い眠りについてしまった。
705春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/29(木) 17:25:17 ID:2NKtF9rC

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「はぁ……どうしよう…」
先程起きた事故を、ぼーっとする頭で整理する。
バスタオルを持ってきた夕凪くんに僕の裸を見られた…多分全部。
その後発狂した僕に一言謝ってバスタオルを渡してすぐに脱衣場から出ていった。

「……なにも可笑しなことないじゃないか…第一男同士なんだ。は、裸の一つや二つ…」
夕凪くんが持ってきたタオルで濡れてる体を水分が無くなるまで拭き取る。
ふと目線を下に向けるとカゴの中にはスウェットとシャツが入っていた。

お風呂に入る前にはなかった。だとすると夕凪くんが持ってきてくれたのだろう。

何も言わず置いていってくれたのは夕凪くんの優しさなのか…ただ僕が聞こえなかっただけなのか。

「どうでもいいけど……大きいなぁ…」
シャツを両手で広げて大きさを確認する。夕凪くんの服なのだろう…僕が着ればブカブカに違いない。

この様子だとズボンも…。



「まぁ…着れたらなんでもいっか。」
案の定ズボンもブカブカだった。



――服を着た後、脱衣場から廊下に出た僕は、夕凪くんにお風呂を出たことを報告する為にリビングへと向かった。
706春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/29(木) 17:27:07 ID:2NKtF9rC


――「……あれ?」

リビング前まで来たのだが、すでにリビングの明かりは消えており、リビングの中からは人の気配は感じとれなかった。
だとすると多分、夕凪くんは自分の部屋に先に戻っているのだろう。
そう予想した僕は、リビングの扉を開けず、夕凪くんの部屋に向かう為に階段を上がることにした。

音がしないようにゆっくりと階段を上がり、夕凪くんの部屋の前に到着すると、礼儀として軽く扉をノックする。

「お〜い、夕凪く〜ん?」

…返事はナシ。

扉の隙間から光が漏れているので中にいるはずなんだけど…。

もう一度。今度は若干強くノックをする。
しかし、部屋の中から返事が返ってくることは無い。


「……夕凪くん、入るよ?」
仕方なく扉を開けて、そ〜っと中を確認する。




「……夕凪くん?」
部屋の中を顔だけ入れて確認すると、ベッドにうつ伏せで倒れ込んでる夕凪くんが視界に入った。

恐る恐るベッドに近づき夕凪くんの顔を覗き込む…。
大きく口を開けて、携帯を握り締めたまま気持ち良さそうに爆睡しているようだ。
707春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/10/29(木) 17:28:14 ID:2NKtF9rC

「ったく、夕凪くんは…」
夕凪くんの顔を見ていると、呆れて自然とため息が出てしまう…。

友達が遊びに来てるのに先に寝るとは……と少し思ったが、美幸ちゃんの事で精神的に疲れたのだろう。
無理に起こすのは止めておこう。




「…ふぁ〜あッ…………なんか…僕も眠たくなってきたな……」
小さく欠伸をすると、ポケットから出ているストラップを雑に掴み、携帯を取り出し時間を確認する。

11時40分。
もうすぐ日付が変わってしまう…。
こんな遅くまで起きてたのは初めてかも知れない。友達の家にお泊まりという事実にテンションが上がってたからあまり眠気を感じなかったが、夕凪くんが寝た今、いきなり眠気が襲ってきた。

「てゆうか……僕はどこに寝ればいいんだよ…。」
周りを軽く見渡すが僕が寝る布団は何処にも敷かれていない…。
床はフローリング――こんな所で寝たら体が痛くて眠ることなんてできるはずがない。




――「……まぁ…仕方ないよね……うん……仕方ない…」
5分ほど考えた結果、ある行動に移す事にした。
仕方ないと自分に言い聞かせて、なるべく音をださず、電気を消して夕凪くんに近づく。




「おやすみ……夕凪くん。」
708春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇





「ふぅ〜……まだ、夜は寒いわねぇ………」
肌寒い風が薄い服の隙間をすり抜けていく。周りの家の明かりは既に消えており、歩いてる人は愚か、虫の鳴き声すら聞こえない…。
辺り一面には闇が広がり、一歩前へでると一瞬で飲み込まれそうだ。

「なにか羽織るもの持ってこようかな…」
後ろを振り返り自宅を眺める。
勿論他の家同様、我が家も静寂に包まれている。




――皆が寝静まった深夜の一時…私は今、自宅前の道に一人立っていた。
別に誰かを待っている訳では無い……今から隣にあるハルの家へと向かうのだ。

夜遅く、自宅を後にする私を娘達が見たら疑問に思うはず…。
なので娘達が眠りについた後、誰にも気づかれないように家を後にする…1ヶ月ほど前から繰り返しているが娘達は多分気づいていないだろう……無論ハルも。

「…もういいわ…それよりも早くしなきゃ…」
カーディガンを持ってこようか考えたが、一々娘達を起こすような行動に出ることは無い……。
我が家から目を離すとすぐさま踵を返し、ハルの家の玄関へと早々に足を運ばせた――。