【鷹は陽に背きて】31
マリスの体は磨かれ、美しい衣装を与えらた
見た目は育ちのいい貴族の子弟にしかみえない
マリスを買い取った紳士はゾルタークと名乗った
ゾルタークの屋敷には他にも多くの子供がいた
ゾルタークが諸国を回り集めた子供であった
マリスは彼らと共に教育を受け、遊んだ
マリスは生まれた村に戻ったかのように
日々を楽しんだ
ゾルダークは常日ごろ、子供たちに説いていた
「お前達はいつの日かここを巣立つのです
そして広く社会に貢献するのです
すでにお前達には痛ましい過去はありません
あるのは満ち足りた現在と輝かしい未来なのです」
マリスはいつも目を潤ませ、聞き入った
マリスは誓った
自分がここを出たら、大きく社会のために働こうと
特に自分のような境遇のこどもを救おうと
【鷹は陽に背きて】32
2年ほどたったある日
マリスはゾルダークに呼ばれた
いつにも増して着飾ると馬車に乗せられた
「いよいよだ」
マリスは胸の高鳴りを抑え切れなかった
「さる郷士の方からお話があってな
お前を養子に迎えたいというのだ」
ゾルダークはマリスを見もせずに述べた
馬車はある屋敷の前で止まった
「こちらですか?ゾルダーク様?」
ゾルダークは答えなかった
そのまま使用人の案内で屋敷に入る
主人はいなかった
だがゾルダークは構わず、階段を下っていった
(何かおかしい)
マリスはさすがにいぶかしんだ
地下へ続く階段はらせんになっていた
やがて幾重もの人の声が木霊してくる
あたかも地下で舞踏会でも催されているかのようだ
やがて重厚な扉が見えた
マリスは全身に鳥肌がたった
震えを隠し切れない
使用人が2人がかりで鉄の扉を開ける
「ここだ・・」
ゾルダークはマリスの背を押した
【鷹は陽に背きて】33
「うああああっ!」
マリスは叫んだ
視界には地獄が広がっていた
地下の間は広かった
大理石の柱が無表情に並んでいる
そして真紅のじゅうたんの上では
何組もの人間が全裸でからみあっていた
男どうしのペアもあった
輪姦もあった
マリスは目を疑った
よく知った顔がたくさんあるのだ
みんな一足先にゾルダークのところを巣立った子供たちであった
彼らは一様に犯されていた
犯しているのはみな肥満の老人であった
高齢の女性もいる
彼女らも恥ずかしげもなくしなびた裸体をさらし
美しい少年に奉仕させていた
「ふふ・・喜べ・・ついにお前が役に立つ時がきたのだ
社会にその存在意義を還元するときがきたのだ」
ゾルダークは大きく笑った
いつのまにかマリスの後手は縛られていた
そのまま衆目の前に引きずリ出される
【鷹は陽に背きて】34
「みなさま、大変長らくお待たせしました
かねてから予告しておりました
あの両性具有の少年につきまして
ついに「熟成」が完了しました
どうぞご賞味のほどを」
ゾルダークは壇上で高らかに述べる
老人達はそれまでの相手を放り投げ、アリのようにむらがった
マリスは泣いていた
ズボンの前には大きな黒いしみをつくっている
ゾルダークはマリスを見た
そして耳元でささやく
「よくぞ頑張った。
お前のような人外が今まさに社会の役に立とうとしているのだ
ここのお方たちは、さる王国の元老院の方たちでな
非常に高尚なご趣味を持っていらっしゃる
お前は今日よりこの方々におつかえするのだぞ」
マリスは赤じゅうたんの上に投げ出された
せまりくる無数の手と性器
マリスは喉がちぎれるほどに叫んだ
【鷹は陽に背きて】35
その日もマリスは奉仕に出されていた
マリスは四つんばいになっていた
うしろから鶏ガラのような細い老婆がのしかかっている
その腰には宝石を埋め込んだベルトを巻かれていた
ペニスバントである
先端は双頭の張り子になっており、
片方はマリスの膣に
もう片方は自分の膣にめりこませているのだ
マリスはのけぞっている
声は出ない 喉がかれているのだ
老婆は氷のような表情で、マリスの美しい金髪をつかむ
そしてそれを舐め始めた
マリスの前方には肥満体の老人がいた
顔には大きな黒いシミができている
マリスの顔に向けてペニスをしごいている
「よいよい、人外の化け物よ
これよりもったいなくも値千金の黄金の水を賜ろう」
マリスの顔に黒ずんだ尿が放出された
マリスは口を開け、それを受けた
そのまま顔を床にこすりつけ
こぼれた尿をなめる
こうしなければ、折檻されるのだ
おぞましい乱交は夜通しおこなわれる
昼間はマリス達閨奴は地下牢につながれた
食事は日に2回
手つかみを強要された
奉仕の前には湯で体を清められた
マリスの目はすでに光を失っていた
死ぬまでこの醜い老人達に奉仕するのだ
気が狂い自殺するか、虐待で殺されるか
いずれにしても地獄だ
マリスは考えることをやめていた
ただ子供の頃に覚えた歌をほうけた表情で
繰り返していた
【鷹は陽に背きて】36
それは夜も更けた頃に起こった
激しい振動が屋敷を襲う
無数の足音が地下に向かっている
「ぎゃああ・・」
鉄の扉のむこうで叫び声がする
老人達は騒ぎ始めた
何者かが鉄の扉を押し叩いている
しばらくして鉄の扉は打ち砕かれた
鉄の扉を壊し、背徳の間に入ってきたのは
醜いオーガの巨躯であった
門番の頭を片手で砕くと、咆哮をあげる
次に入ってきたのは小柄な老人である
「はは・・どうやらお楽しみのようじゃったの
真にあいすまんが、こちらも仕事じゃて
ここにいる御仁はみな死んで頂こうかのお」
悠々と述べると 両手の剣を振り上げる
それを皮切りに次々と黒い装束のものども押し入ってきた
右往左往する背徳の間の住人に
刃をふりおろす
あとは阿鼻叫喚の地獄であった
「老師、子供たちはいかにしましょうぞ?」
「うむうむ、彼らは身寄りのない邪宗門
ここで天に召されることこそ神の慈悲であろうよ
・・・・殺せ」
老人は終始笑顔であった
のんびりと凄惨な虐殺の風景をながめている
ふとマリスに気がつき、動き出す
「おお・・これはこれは珍しい
半陰陽とはのぉ・・ほほ
神も時に戯れた造形をなさるものよ」
老人の右腕がわずかに動いた
マリスに小水を飲ませていた老人の首がゆっくりと落ちる
「どれ、お使いになるかな?」
老人はマリスに長剣を渡した
マリスの目に急激に光が戻る
マリスを犯していた老婆は震えたまま、後ずさった
股間にはマリスの愛液と血で濡れた擬似男根が
醜くそびえている
マリスは彼女に剣を振り下ろした・・何度も何度も
老人は手をたたいて喜んだ
【鷹は陽に背きて】37
老人の率いる一団は暗殺部隊であった
マリスはその場で入団した
それより他に道はなかった
マリスに与えられた役割は「仕込み」であった
事前に標的に接近しスキを作るのだ
あるときは商人の子息に
あるときはきまぐれな貴族の娘に
マリスはその美貌で次々に役割を演じた
貴種流離譚の王子を演じたこともある
標的は男女を問わず
マリスの美貌に魅了された
そこには必然的にセクシャルな手法がつきまとった
しかしマリスは両性具有であることを
悟られてはならなかった
そのため密事はいつも夜の闇のなかで行われた
性の交わりそのものには、
底知れぬ嫌悪をもっていた
連想するものは「虐待」や「調教」そして「隷属」
ただ「仕事」として淡々とこなした
先日の若い売春婦に対する露骨な嫌悪は
ここらに起因しているのだろう
組織の中での地位は低かった
だがいままでのような「虐待」はなかった
長である老人に見初められたからである
老人はバイセクシャリストであった
激しくマリスの膣を蹂躙することもあれば
みずからの肛門に挿入を求めることもあった
マリスは性玩具としてはこの上ない存在であった
他方、仕事においてはあくまで補助者にすぎない
依頼主の顔を見る事はなかった
ただ老人からの命令を忠実に実行することだけだった
【鷹は陽に背きて】38
「今回もそうです
老師から言われた通りに
あの橋の付近で待機していました
だんなのことを見張れと
橋での襲撃が失敗したあとは
とにかくだんなに追尾し隙を見出せと言われました
あとはご存知の通リです」
「おっちゃんを殺した理由を聞きたい」
「だんなを殺すことに邪魔な存在だったからです
仕込みのうちです」
俺は何も言わなかった
マリスの長い回想は終わったようだ
表情は晴れ晴れとしていた
「これが私のすべてです
あとは・・そう・・この場で殺していただくだけ
そうすれば私の人生は終わります
仲間にも見捨てられた今
どうせ次も地獄が待っているでしょう
今までと同じようにね・・
ならば生きている必要はありません
どうぞ・・殺して・・」
マリスの目から涙がこぼれた
俺は仕込み杖に手をかける
その刹那、一筋の剣閃が走った
【鷹は陽に背きて】39
「だんな・・・・」
マリスは唖然としていた
俺はマリスを斬らなかった
刃はマリスの顔に剣風を当てただけで
元の仕込みの鞘に戻っている
「殺す価値すらないぜ、今のお前は」
マリスは俺をじっと見ている
「お前の話を聞けば、絶望ばかりの人生だったそうだな
生きるだけ地獄が待っているような
ではなぜ今も生きてるんだ?
いくらでも死ぬ機会はあっただろう
自分で死ぬのは難しくない
自分が苦しめばよいだけだからな」
マリスは震えていた
危険な表情であった
「ひどい言い草に聞こえるかもな
でも考えたことがあるか?
なにがお前の中の何が生かさしめてきたかをな」
俺はマリスの顔をみた
マリスの表情が変わった
何事かを考えている顔だ
「俺が思うにそれは復讐心かもしれん
お前の故郷を滅ぼした教団や
むごい運命をもたらしたゾルダークとかいう輩へのな
この俺の生きている理由もそんなものさ」
【鷹は陽に背きて】40
マリスは大きく目を見開いた
俺はその瞳をのぞきこむ
「むろん生きる理由によしあしはない
ただ、最近俺は思うんだ
復讐のためだけでは不十分だとな
むろん、復讐を誓った相手を許すことは生涯ない
それはしなくていい
ただ復讐以上の生きる理由がないと
結局はそいつらに負けたことになるんだ
たとえ復讐を遂げてもな
なぜならそれしか人生を描けなくなってしまうからだ
人生はそもそも俺だけのものだ
そであるのに復讐の名の下、そのすべてを憎い相手に注ぎ込んでいるのだ
皮肉だろ?」
マリスは顔を覆い崩れ落ちた
声をあげ泣いている
俺はその体にマントをかける
「少し蛇足だったな
ともかくだ、マリスも考えてみな
考えぬいた上で殺して欲しければ
そのときはまた言え」
俺はマリスに背を向けると手枕のまま目を閉じた
マリスのすすりなく声が延々と聞こえた
【鷹は陽に背きて】40
ろうそくの火が揺れる
黒ずくめの射撃者はじっと
自らのボウガンを見ていた
片腕で扱える小型のものだ
これで何人の命を奪ってきたことか
彼の名はアラン
老師なきあとの暗殺団では
実質的なトップであった
ここは暗殺団のアジトである
建物は教会の地下を利用している
教会は治外法権だからだ
今、アランは危機に瀕していた
たった1人の放浪者を殺し損ねている
それどころか暗殺団のリーダーたる老人も
失っている
依頼主は業を煮やし
契約の解除を告げてきた
暗殺契約の解除というのは
大変意味が重い
この世界での信用を失う
そればかりではない
暗殺者は依頼主の黒い部分を知っているのだ
今度は自分達に暗殺の手がのびることになる
口封じのためだ
ふと、アランはボウガンを入り口に向けた
そこには一つの影があった
「マリス・・貴様生きていたのか
よくもおめおめと戻ってきたものだ!
死に損ないが!」
「はは・・アラン様
おあいにくさまでしたね
まぁ・・見ればずいぶんとお悩みのご様子」
アランはボウガンを放つ
矢はマリスの足元に刺さる
「黙れ!貴様のせいだ!」
だがマリスは笑みを浮かべたまま
アランに歩み寄る
ろうそくの灯りがマリスを照らした
アランは思わず、息をのんだ
マリスは白いドレスを着ていた
胸元が大きく開いている
束ねたブロンドの髪はおろしている
妖しい笑みを浮かべている
【鷹は陽に背きて】41
「ご安心くださいな
あの男は今、私の手の中におりますの」
「何?どういうことだ?」
アランは猛禽類のような顔を歪ませる
「ふふ・・あの男に連れさらわれた晩
彼は私の告白に同情したのか
私を殺さなかったのです
そればかりか私を抱いて・・
あくる日、私を自由にしてくれたのです
ふふ・・彼も所詮男」
マリスの言葉使いや表情は
たおやかな女性そのものであった
組織の中ではそのように強いられていた
「ふふ・・アラン様
やつはこの町に来ます
ここで私と再会する約束をしたのですから
必ず彼は来ますよ
これは良い知らせではありませんか?」
「ふん・・なるほど・・」
アランは鋭角的なあごを撫でる
それが本当ならば勝機だ
マリスはさらに身を寄せた
ボウガンにかけられたアランの手に
自らの手をそっと重ねる
アランは拒まなかった
「分かった・・今夜、再び依頼主にあうことになっている
お前も一緒に来い
今のことを説明申し上げて、契約を継続してもらおう」
「ありがたき幸せ
このマリス、全身全霊をつくしますわ」
マリスは艶やかな視線をアランに送った
冷静沈着なアランが息を飲んでいる
マリスはゆっくり肩口からドレスを脱ぎ落とした
細身の美しい裸体を露わにする
「アラン様、老師なきあとこの体はあなた様のもの
私はしょせん、両性具有の人外
強きものの庇護なしには生きてゆけません・・」
アランは立ち上がった
そのままマリスを押し倒す
マリスは艶やかな吐息で応じた・・
【鷹は陽に背きて】42
「なるほど・・ならば最後の機会を与えよう
貴様らの命をもってして暗殺を成し遂げる
この言に嘘りはないな?」
「はい!偽りはございません」
ひれ伏したアランとマリスは
鋭く返答する
目の前の大椅子には依頼主が鎮座していた
肥満体である
豪奢なシルクの寝巻きを着ている
顔には仮面をしていた
不気味に笑う太陽を象った仮面である
声はくぐもっていはいたが
低くよく響く声だ
「ご安心めされ、ゲルバリル神父様
ついにあの男への仕込みが終わりました
残るは我らが総力をあげて嬲るだけ
老師の仇でありますれば容赦はいたしません」
マリスは瞳を大きく開いた
軽い震えが体を襲う
マリスはこの場ではじめて依頼主を知ったのだ
今回の暗殺の依頼主はゲルバリル神父であると
それはあの男が知りたがってたこの国の
実質的な権力者の名である
そこにはどんな因果があるのか・・
「承知したぞ
・・おや・・今夜の宴の用意が整ったようだ
どれ、貴様らも参れ
暗殺成功の前祝いといたそう」
「はっ、恐悦至極にございます」
アランとマリスは再び、頭をさげる
【鷹は陽に背きて】43
マリスの震えが止まらない
今すぐにでもこの場を離れたい
だがそれは許されない行為である
隣のアランも似たようなものであった
まばたきもせず宴の様を見ている
招かれた大広間には料理はなかった
ただ一組の男女が全裸でつながれていた
男は中年であった
髪はボサボサに乱れ、やつれた表情をしていた
体つきは強健であった
女は少女であった
まだ固さの残る細身の体を晒している
必死に体を隠そうとしているが
手の拘束によりそれは叶わない
「うむ、これはなかなか
さぁ宴をはじめぃ!」
ゲルバリル神父の号令とともに
男女の拘束はとかれる
背後から罵声とともに警護兵が
両者をたたく
男女はおびえながらも、おずおずと抱き合う
そのまま互いを確かめるように
体を触り始めた
両者とも悲痛な表情を浮かべている
耐え切れず泣き出したのは中年男だった
「ほほほ・・あの男女は実の父娘でな
これからあやつらを絡ませるのだ
あの父親は先物で仕損じた商人だ
寛大なる我輩はあやつに
この饗宴を無事になしとげたら
借金を清算し、新天地での生活を保障することを
約束したのだ」
ゲルバリル神父は手をたたく
「私は何よりこの饗宴が好きでな
ふふ・・あの男を見ろ
顔は道義的に悲痛さを訴えているが
あんなに勃起をしているではないか
自分の実の娘のハダカに欲情しておるのだよ
ああ・・たまらん・・ああ」
事実、やがて中年男は娘のふとももを開くと
いきりたつペニスを挿入したのだ
娘は壮絶な叫び声をあげる
【鷹は陽に背きて】44
突然、ゲルバリル神父は立ち上がった
隣に控えた小姓が2人がかりで
その衣服を脱がせる
ゲルバリル神父はのしのしと
絡み合う父娘に迫った
警護兵は娘にのしかかる父親を引きずり離した
父親は勃起したペニスを晒したまま
何事かを叫んでいる
そのペニスには白濁の液体がからみつき
光沢を帯びていた
だが次の瞬間、怪鳥のごとき叫び声をあげる
警護兵がそのペニスに斧をふりおろしたのだ
それを見た娘も叫びそうになる
だが声が出ない
後ろからゲルバリル神父が首をしめているのだ
喉元を圧迫しているのだ
さらにゲルバリル神父は自らのペニスを
娘の膣にめりこませている
「不埒な畜生どもめ
貴様らにはかかる神の裁きを与えようぞ!」
やがて娘は目の光を失い口から血を吐く
「おお・・たまらん
死ぬ直前の最後の締め付けはまさに至高
おおおお・・おお」
ゲルバリル神父は犬のようにほえると
娘の首から手を離す
娘の首は力なく折れ、倒れる
父親は絶叫した
その股間からは恐ろしいほど血が滴り落ちている
それにも構わず娘の元に向かおうとする父親
だがそれは叶わなかった
警護兵が父親の首に斧を振り下ろしたのだ
【鷹は陽に背きて】45
「大いなる太陽神よ、この罪深き父娘を
その慈悲なる光で照らしたえ
エス・ラ・ヌーラ」
ゲルバリル神父は恍惚としながら天を仰ぐ
だがその表情はすぐに曇る
「ああ・・しかし足りぬ、満たされぬ
やはりかって見た美しき母子には及びもせぬ
ああ・・ああ・・ああ」
ゲルバリル神父は悲しげにつぶやく
そのまま精を放ったばかりのペニスをしごく
何事かを想起しているのだ
アランやマリスの存在も眼中ないらしい
やがてうめくと膨大な量の精液を放つ
一度射精したものとは思えぬ量だ
小姓は湯に浸した布で後始末をした
「アラン、マリス!」
「はい!」
突然呼ばれて返答をしたのはアランのみ
それも声を絞りだすのが精一杯であった
暗殺者の彼をしても衝撃的な光景であった
「あの男をただ殺すだけでは許さぬ
この場に連れてまいれ
顔を・・顔をみたい
あの時の子供の成長した顔をな」
【鷹は陽に背きて】46
「全くおろかな男だ、お前は
まんまとマリスの言に騙されおって
ふふ・・まぁ感謝しているぜ
これで俺の頭領就任は
華々しいものになるだろうよ」
アランは俺に罵声をあびせる
隣にはマリスが笑みを浮かべている
俺は後手でしばられている
鷹の装飾のある仕込み杖も奪われた
俺はあの夜の約束通り、マリスに会いにいったのだ
向かったのはラチュル町
このあたりでは一番大きい
マリスはそこに暗殺団のアジトがあるといった
そしてもう一度マリスはそこに紛れ込み
依頼主の情報を聞き出すといっていた
俺に協力してくれるわけだ
もちろん俺は賛同した
今回の襲撃の真相を知るよい手段だ
【鷹は陽に背きて】47
最もそれがなくてもマリスには会いたかった
俺はあの夜マリスを抱いたのだ
背を向けて眠り始めた俺に
マリスは静かに寄り添ってきた
そして抱きついたのだ
言葉はなかった
俺は拒まなかった
ふとマリスに愛おしさが沸いてきた
マリスの告白に対する同情以上の感情だった
久しく忘れていた感情である
そのまま俺たちは肌を重ねた
お互いの体を確かめるように
愛し合った
マリスの目からは涙がこぼれていた
男はダメなものだ
一度情を交わすと無碍にはできない
特にマリスとは魂すら通わせた間柄だ
俺たちは町の入り口で落ち合った
離れていたのは3日である
ずいぶん長い間に思えた
不思議とラチュル町への道中には
敵の襲撃はなかった
あの弓を操る黒ずくめの襲撃者は
まだ生きているはずなのに
マリスは俺を宿に案内した
重要な情報を得たとだけ述べた
部屋のドアを閉めるなり
マリスは抱きついてきた
柔らかい唇を俺の唇に近つけている
大きな瞳は潤んでいた
俺は何も言わずマリスをベッドに運んだ
しかし・・・
目が醒めればこのザマであった
俺は自分の甘さに怒りをおぼえた
だがどうしよもない
【鷹は陽に背きて】48
アランは俺の前に立ちはだかった
そして俺の顔を蹴り上げる
口の中で歯が折れ、俺は血を吐いた
「ざまあねぇな」
アランは腹の底から絞り出すような声をしている
俺は荒縄を振り切ろうと暴れた
しかし周囲の黒装束どもに押さえられる
アランは再び俺を蹴ろうとして・・・
「おやめくだい、アラン様
依頼主の元に連れてゆくのでしょ?
この男の顔を傷付けるわけにはゆきませんよ」
マリスはアランの肩に手を置いた
そのままアランに抱きつく
「ふむ・・そうだな
貴様にはこれから連れてゆく場所がある
そこで存分になぶってやるからな」
アランは俺に唾をはきかえると
マリスと唇を重ねた
そのまま舌をからませている
まるで俺へのあてつけのようだ
俺は目を閉じ、顔をそむけた
切れた唇からは一筋の血が流れている
【鷹は陽に背きて】49
「はははは・・ついに・・ついに来たか」
俺の目の前の大椅子にいる男は笑う
嬉しさのあまり体を震わせている
こいつが襲撃の依頼主か
俺の背後ではアランとマリスを先頭に
数名の配下が平伏している
「うむ・・その目だ・・・覚えておるぞ
あの時と変わらぬ目だ」
俺はじっと男を見た
何か俺の記憶の奥をかきみだすようなこの感覚
奴は何者だ?
やおら男は不気味に笑う太陽の仮面を取った
素顔が露わになる
男には眉毛がなかった
髪はなく、目は極端に小さかった
男は頬の脂肪を震わせて、笑う
「ご健育あそばれまして恐悦でございますな
アクトレーザス王子!」
「貴様・・・・・リチャルドス卿!」
俺は眼を見開き、叫んだ
【鷹は陽に背きて】50
「ほほほ・・ずいぶんと懐かしいお名前を
今の私の名前はゲルバリルでございますよ
現在は太陽神に使える敬虔なる神父
いやぁ・・なにもかもがお懐かしゅうございますな、王子」
「裏切り者が・・父上を母上を・・よくも」
以前、俺が年増の売春婦に
ゲルバリル神父のことを聞き出したのを
憶えているだろうか
あの時、売春婦は言っていた
古くからある噂によれば
ゲルバリル神父はもともとこの国の者ではないと
ある高地民族の国の大臣であったと
そして国を売り、信仰を捨て、太陽神に帰依することで
現在の地位を得たのだと
それは本当だったのだ
「最近、こんな風の便りを耳にしましてな
ダゴン卿とジャニエラ伯が相次いで惨殺されたと
しかもその周囲には必ず、
鷹の杖を携えた放浪者の影があったそうで」
ゲルバリル神父、いやリチャルドス卿は言葉を区切る
「さらにその放浪者がなんと我が領国にも
接近しているというではありませんか
私は背筋が凍りましたよ
まぁ、もっとも私の正体は割れていなかったようで
そこは胸を撫でおろしましたがな」
リチャルドス卿はそう言うと俺を見た
もはや笑ってはいなかった
「王子、あなたの復讐の旅は今宵で終わりです
さぁ国王夫妻の御許へ!」
【鷹は陽に背きて】51
アクトレーザス・フォン・ハイルランド
俺の本当の名前である
険しい山々に囲まれたハイルランドの王家に生を受けた
厳しい父と心優しく美しい母のもと
俺は将来の王として「鷹の教え」を
学んで育った
だが俺が12のときのことだ
日輪の旗をかかげた騎馬隊が
俺の国を襲撃したのだ
当時拡張をはじめたばかりのラメイシャ教であった
国王たる俺の父は改宗を拒否
全面的に対抗をした
父は「鷹の教え」を守る気高い戦士の長である
だが抵抗むなしく父は極刑に処された
王都は焼き払われ、日輪の旗がなびいた
逃げる俺と母を助けてくれたのは
一部の臣下であった
彼らは口をそろえていった
「ここは一旦降伏しましょう
今は生き延びることです
そしてそう遠くない未来に
再び王家を再興しましょう
アクトレーザス王子を王として
鷹の教えは不滅です」
【鷹は陽に背きて】52
国王たる父の元には「7賢」と呼ばれる
大臣がいた
そのうち4人は父とともに戦い、果てた
残ったのはダゴン卿、ジャニエラ伯
そして今対峙しているリチャルドス卿であった
彼らは武勇というよりは知略で
王家を支えてきた
偽りの降伏で王の血筋を守るという計略は
彼らならではのものであった
俺と母はダゴン卿の用意した館に匿われた
馬車の荷台に隠れ
夜の闇を縫って移動をした
あの当時の俺に恐れはなかった
必ず日輪の軍団を倒し
再び鷹の王国を復興させると誓っていた
心優しき母は存命である
それがなによりの希望であった
「ここが仮の王の間でございまする」
ダゴン卿は館の地下に俺たちを案内した
「ダゴン殿、これは一体?」
母は訝しげに問うた
そこには仮の玉座はなかった
あるのは鎖と桶、そして鉄の格子
「ここが仮の王の間にございます」
ダゴンは無表情で繰り返す
その瞬間、無数の兵士が地下におりてきた
そして槍を俺たちに向ける
俺に武器はなかった
だが母を守るために拳を握る
母はそれを制して
「ダゴン殿、其の方はまさか・・」
ダゴンは笑った
「ふふ・・王妃様、私めはダゴンではございません
今の名はクリフトロイヤ
敬虔なるラメイシャ教徒にございます」
【鷹は陽に背きて】53
「なんだと!?」俺は気色ばんだ
母は美しい顔をゆがめている
必死に何かに耐えていた
「国王は素晴らしきお人でしたな
ただ・・辺境の地に住み過ぎたせいか
時の流れに少々疎かった
ゆえに強大なるラメイシャ教団に
抵抗するなどという愚行をなさったのです
鷹の教えなどとのたまって・・ふふ
そして・・」
ダゴンは更に声を強くした
「配下を見る目も曇っていらした
みな鷹の教えの下に一致団結して
国を支えているなどという甘き幻想
我とジャニエラ伯、リチャルドス卿の3名が
ずいぶん前からラメイシャ教と通じていたことも
ご存知なかったようだ・・・ふふ」
「裏切り者!恥を知れ!」俺は叫んだ
「黙れ、小僧!
聞け、我々は王妃と時期国王たる王子の首を
ラメイシャ教に進呈することを命じられている
それもってラメイシャ教への忠誠とみなすとな
だが、安心しろ・・」
ダゴンはゆっくり俺と母を見た
「すでに首は進呈しておる
お前達に良く似た母子のものをな
顔を激しく焼いておいたのだ
教団の連中も怪しまなかった、ふふ」
ダゴンは手をあげる
槍を構えた兵士は俺たちを向かってくる
そして俺たちの腹や背を打つと縛り上げた
多勢に無勢
俺は抵抗できなかった
ダゴンは目を見開き、叫んだ
「貴様らを生かした理由・・ふふ
それは我ら3臣下の高尚なる趣味にある
求めるのは下克上の悦び
気高く美しき王家の母子を死の間際まで
陵辱するのだ」
王妃たる母の嗚咽が聞こえる
【鷹は陽に背きて】54
俺はうっすら目を開けた
その瞬間、激しい痛みがよみがえる
口、顎、胸、わき腹、下腹部、そして肛門
3人の逆臣は容赦なく俺の体を蹂躙した
俺は壁に体をこすりつける
地下の壁の冷い
こうでもしないかぎり、痛みで気が狂いそうだ
俺の前歯は折られていた
息をするたびに痛みを感じる
涙がにじむほどだ
これは俺が口淫を拒んだためだ
奴らは容赦なく鉄の棒を口にねじこんできた
向こう側に母が見える
その美しく透き通るような肌は
逆臣どもに汚されていた
薄く形の良いく唇には、リチャルドス卿のペニスがねじりこまれている
豊かで張りのある乳房もつぶれんばかりに握られていた
背後から腰をふっているのはジャニエラ伯である
犬のような顔は恍惚のあまり蕩けそうになっている
「これは皆様方、なかなかのご盛況ぶりで」
ダゴンは杯をあおりながら、その様を眺めている
「さすが、一国の国母たるお方
並みの女とは器量が違いますな
何度、放っても平常心を保っておられる
こちらも発奮のしがいがあります」
ふと、ダゴンは俺を見た
「これは、王子、おめざめで?
いや・・さきほどは失礼した
このダゴン、一番槍として王子の体を
頂戴しましたぞ、
なんたる名誉・・ふはは」
俺は何か叫ぼうと口を動かす
しかし空気が漏れて言葉にならない
床に再び、血がしたたり落ちる
「どれ、お二人とも、
そろそろ例の余興に参りましょうか
私はもう我慢できなくてね・・ふふ」
【鷹は陽に背きて】55
俺は背を蹴られた
そのまま仰向けに寝かされる
全身が痛い
寝返りすら打てない
これ以上何をするのか?
母の首筋には剣があてられていた
何事かを命じられ、目に涙を浮かべている
だが、ゆっくりと立ち上がった
「・・・・・・」
母は俺の前に立った
傷だらけの顔に笑みが宿っている
そして、ゆっくりと俺の体にまたがった
「アクトレーザス、愛おしきわが子よ」
母は俺の体をさする
そのまま乳房を口に当てた
俺は赤子のように吸い付く
母は微笑んでいた
3人の逆臣はまばたきもせずこちらを見ている
母はそのまま、俺の股間に顔をうずめた
優しくペニスをさすり、口に含む
そのままいとおしげにしゃぶった
母はそのままペニスに手を添えると
そこに腰をおろした
そのまま体を倒し、俺にしがみつく
「アクトレーザス、ああ、アクトレーザス
たくましくなったわね・・私は嬉しい・・」
母は涙を流していた
なにもかもが美しい
神々しささえあった
まるで母胎にかえるかのような安心感
俺の脳裏には幼きころの思い出が
走馬灯のように駆け巡った
だが・・・
「た、たまらんわ・・」
ダゴンは狂ったようにこちらに這い寄る
そのまま母を俺から引き倒した
残りの逆臣も群がる
俺はとめどなく涙を逃した
だが動けない
母の狂ったような悲鳴が聞こえた
俺の視界が闇に染まる
それが母との最後の触れ合いであった
その晩、母は警護兵のナイフを奪い
自害したのだ
【鷹は陽に背きて】56
「憶えておるぞ・・そう忘れるものか
我らが催せし気高き鷹の母子の相姦劇
あれほど美しきものをみたことはない
ああ・・ふふ」
目前のゲルバリル神父、いやリチャルドス卿は
うわ言のように笑う
「外道が・・貴様も他の逆臣のように
地獄におくってやる」
俺は低く言い放った
「ふん・・ほざけ
死ぬのは貴様だ、アクトレーザス
どれ、あれを持って参れ」
リチャルドス卿の指示とともに
アランは立ち上がった
手に長い何かを携え、恭しくリチャルドス卿に献上する
俺に一瞥を与えると、不敵な笑みを浮かべた
俺は唇をかみしめる
「これぞ、これ。
鷹の杖か・・ふふ・・未練がましい細工であるのぉ
しょせんは辺境の小国
私は己の判断に今でも感心しておるわい、はは」
リチャルドス卿は頬を震わせながら
俺の仕込み杖を眺めた
いつのまにか、俺の背後にマリスが立っている
俺の首筋に大振りのナイフを当てた
処刑の準備か
俺はうらめしげにマリスを見る
「さきほど、其処もとのアランに聞いたぞ
この杖は刃を仕込んであるそうだな
ふん・・気高き王子が聞いて呆れる暗器ではないか
まぁこれがなければお前は翼をもがれた鷹
どうすることもできまい」
リチャルドス卿はそこで笑みを止めた
「さて・・そろそろお別れですぞ、アクトレーザス王子
国王夫妻の御許へ参られよ
ふふ・・このリチャルドス、あなたさまにお仕えできて
光栄でありましたぞ・・ははははは
さぁ、殺せ!!」
【鷹は陽に背きて】57
「だんな・・今です!」
マリスは短く叫ぶと、俺の手足の結び目に
ナイフを下ろした
そういえばこの拘束もマリスがしたものだった
「恩にきるぜ、マリス!」
俺はその瞬間、跳躍した
リチャルドスもアランも状況を飲み込めていないようだ
俺はリチャルドスの腹を蹴り上げる
前のめりに倒れるリチャルドス
手からは鷹の杖がこぼれ落ちる
「父と母の仇、ハイルランドの仇!
死ね、リチャルドス卿!!」
俺は刃を抜いた
血しぶきをあげて、リチャルドスの首が床に落ちる
その顔は驚愕と恐怖に満ちたものだった
「マリス、貴様!」
アランはボウガンを構えた
他の配下数名も剣を抜く
マリスは逆手にナイフを構えた
「だんな、お見事でした・・」
「ああ・・ありがとな」
俺は刃をむき出したまま、マリスに駆け寄る
【鷹は陽に背きて】58
「なぁ・・アランとか言ったよな、お前は?
アラン、ここは手打ちにしないか
依頼主が死んだんだ
もはや俺たちが争う理由はないはず」
「黙れ・・黙れ・・貴様は殺す!」
アランは爬虫類のように残忍な目をした
怒気にいかつい肩が震えている
その時であった
無数の足跡がこの部屋にせまってきた
警護兵であった
いかつい甲冑を着込んでいる
「国王陛下からの直令である
ゲルバリル神父は病で急死あそばされたことにすると
・・・ゆえにここにいるものは皆死んでもらう」
先頭の兵士が低く述べる
「マリス・・またお願いできるか?」
「はい・・だんな」
マリスは少し笑顔を浮かべると、腰に手をやる
ベルトには小物入れがあり、中には・・・
【鷹は陽に背きて】59
「アラン、貴様もしつこいな・・
そんなにあのジジイの仇を取りたいか?」
俺はつぶやいた
マリスは不安げに俺の背中についている
「黙れ・・老師の仇などではないわ
マリスだ・・マリスの心が本当はお前にあるのが許せん」
アランはボウガンを構えた
俺も刃を抜く
ここは開けた草原である
ゲルバリスの館からは4キロほど離れている
マリスの投げた煙幕のなか
俺たちは館を飛び出した
背後ではアランの配下の暗殺団と警護兵達が
もみ合っていた
俺はその喧騒に参加する気はなかった
リチャルドス卿を殺したのだ
俺の復讐は終わった
それだけで満足であった
俺は恩のあるマリスとともに
夜の道を駆け抜けた
しかし背後から、矢の雨が襲ってくる
アランもまた喧騒を背に一人
俺たちを追ってきたのだ
「アラン様・・・」
マリスは気丈な声で叫ぶ
「もはや私の心はだんな・・いえアクトレーザス様にあります
アクトレーザス様は私を果てない無明から救って下さったのです
私は罪深き体を受け入れ、生きる目的を見出したのです
もはやあなたの元には戻りません
薄暗い闇の世界には」
「黙れ!両性具有の人外が!
生きる目的だと?大層なことを・・
アクトレーザスを葬った後に、よく教えてやろう
貴様は所詮、薄暗い世界を這いずり回る宿命にあることを!」
「おしゃべりが過ぎるぜ、アラン
もう始まってるんだよ」
【鷹は陽に背きて】60
一陣の風が草原を駆け抜けた
月が雲に隠れる
俺は極端な半身に構えた
仕込みの刃をアランに向け突き出す
これでアランのボウガンの標的は限られる
俺の顔か、もしくは肩だ
俺はそのままの構えで駆けた
アランは矢を放つ
シュッ
矢は俺の頬をそぐ
直撃は免れた
俺は構わず距離をつめる
しかしアランは俺に背を向け、距離を稼いだ
その間にに矢を再補填する
アランは振り返った
猛禽類のような顔は残虐な笑いが張り付いている
勝利を確信したのだ
ふいに俺は刃を納めた
アランの動きが一瞬とまる
意外な行動に驚愕したのだろう
それがチャンスであった
俺はそのまま跳躍し、距離をつめる
そして抜刀した
一筋の剣閃が駆け抜ける
そして・・・
【鷹は陽に背きて】61
再び一陣の風が草原を駆け抜けた
雲は流れ、再び明るい月が顔を出す
地に伏したのはアランだった
腰から右肩にかけ一文字に切り上げられている
血の海の中、驚愕の表情のまま倒れていた
俺は手を合わせる
俺は死者に対しては畏敬の念を持っている
たとえ憎むべき仇であってもだ
なぜならそれは明日の己かもしれないからだ
横にマリスがいた
「マリス、これで良かったか?」
「はい・・・これで」
マリスも手を合わせる
そして涼やかな笑みを浮かべた
月明かりのなか、2つの影が重なった
【鷹は陽に背きて】62
俺たちは走った
明るい月の下、どこまでも
はるか遠くに見えたラチュル町も
すでに見えなくなっている
それでも俺たちは走った
復讐と絶望に満ちた世界から逃れるように
そして疲れ果て
太いブナの木の袂に
倒れこんだ
どちらからともなく肌を重ねる
俺はマリスの胸に抱かれている
マリスは母親のように
優しく俺を抱きしめた
そして俺は目を閉じた
深い深い眠りの国に落ちてゆく
俺は夢を見た
俺は一匹の大鷹になっていた
風を操り、自由に大空を翔ける
俺はやがて見覚えのある場所についた
雪の積もった高い山々に囲まれた辺境の地
俺が生まれたハイルランドである
そこには誇り高き王国があった
素朴で気高い民もいた
民は新しき王を迎えていた
玉座は2つ
その一つにはマリスは座っていた
ハイルランド式の質素であるが美しいドレスを纏っている
そして俺はもう一つの玉座に舞い降りた
【鷹は陽に背きて】63
目が覚めた
そこにはマリスの顔があった
優しげに微笑んでいる
「寝ないのか?」
「ええ・・だんなの顔を見ているだけで嬉しくて」
俺たちを唇を重ねた
「マリス・・憶えているか?
初めて抱き合った夜のこと
あの夜が明けるとき、お前は教えてくれたよな
お前を生かしめているものを」
「はい・・私は心の底でずっと秘めていた思いがあったのです
私のような憐れな子供を少しでも救いたいと
そういう世界を作りたいと」
「素敵だぜ、マリス・・
俺のも聞いてくれるか?」
マリスは微笑んで首肯する
「はい、喜んで」
「ありがとうな。俺は、俺は祖国を復興したい
そしてどんなものでも受けいれる平和な国を作る
これが俺の生きる意味だ」
マリスは深く首肯する
「私もすべてを捧げてお仕えします
この命が果てるまで
だんな・・いえアクトレーザス王子」
【鷹は陽に背きて】最終章
東の空が白くなってきた
やがて燃えるような朝焼けとともに
世界は朝を迎えるだろう
太陽がすべてを照らし出すのだ
その大いなる輝きによって
だが俺とマリスはそれを背に向け
西に向かう
俺とマリスの視界に映るもの
それは沈み行く星星と
それに寄り添う半月の月であった
【以上です】
【ありがとうございました】
今更投下に気付いた
大長編乙過ぎるGJ
183 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/19(金) 08:20:35 ID:XTJfWyRJ
GJ、雰囲気あるね
いいもの読ませて貰いました
面白いよー
過疎だから反響が少ないけど
ネタスレなのにマジで投下なんかするからこんな事に…
186 :
名無しさん@ピンキー:2010/05/12(水) 20:30:39 ID:e023xN5I
いやでも素晴らしい投下だったぜ
というわけこのスレの繁栄を祝ってage
残ってたのか
188 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 22:58:48 ID:zBza0DoV
保守
189 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/22(日) 01:02:59 ID:X0Vswd1t
投下待ち
まさかまたこのスレを目にすることがあるとは……
女は犯せー!
男も犯せー!!
あれ?
あ、主人公がアマゾネスだったらありか…
192 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/04(土) 00:59:34 ID:CG/3XzJu
わあい!
「高名なる姫騎士様が…戦場で討たれ、装備を剥ぎ取られ犯されていた…
さてこの場合国民達は奮起するだろうね。復讐の為に」
「……まさか貴方、」
「戦いが長引いてほしいと思ってる人は一杯居るってことさ…アンタの見てきた国民の中にもね」
こんなの?
194 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/28(火) 22:40:09 ID:jEe/6fJZ
素晴らしい作品サンクス
このスレを立てた一番最初のスレの
>>1だが
結局無職生活に飽きて就職活動の末、糞忙しい会社に入ってしまった…
8ヶ月無職期間あったけど、結局無職になってもダメな奴は動かないね