【SO・VP】 トライエースSS総合スレ7 【RS・IU】

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1名無しさん@ピンキー
スターオーシャン、
ヴァルキリープロファイル、
ラジアータストーリーズ、
そしてインフィニットアンディスカバリー。

やりこみRPGの雄、トライエース作品の総合エロパロSSスレです。

潟gライエース公式サイト
ttp://www.tri-ace.co.jp/

鬼畜・猟奇・百合・801・死にネタなどは不愉快に感じる人もいるため、
必ず投下前に予告してください(カップリングも予告する方が望ましいです)。
保管庫のあぷろだや黒豆板に投下してこちらにリンクを貼る方法もお勧めします。
読み手の皆さんは、不愉快な作品については自分で回避してください。

前スレ
【SO・VP】 トライエースSS総合スレ6 【RS・IU】
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1234276738/

保管庫
2chエロパロ板SS保管庫
ttp://sslibrary.arings2.com/
現在、過去作品は「トライエース作品の部屋」「スターオーシャン3の部屋」 に収蔵

過去ログ収蔵
エロパロ&文章創作板ガイド トライエース総合
ttp://www9.atwiki.jp/eroparo/pages/371.html

関連リンク
黒豆板:ttp://jbbs.shitaraba.com/game/5682/
2名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 16:20:42 ID:pN8t9oTh
保管庫の管理人さんは他スレのログ保管も手がけており
大変に多忙なので、
投稿される方は

タイトル
作品名(SO・VPなど)
カップリング
注意属性(グロなど)

を最初に明記されますよう、よろしくお願いいたします。




製品情報
ttp://www.tri-ace.co.jp/product/index.html

スターオーシャン4
ttp://www.eternalsphere.com/so4/index.html

インフィニット アンディスカバリー
ttp://www.square-enix.co.jp/undiscovery/

ヴァルキリープロファイル2 シルメリア
ttp://www.square-enix.co.jp/vp/

ラジアータストーリーズ
ttp://www.square-enix.co.jp/games/ps2/radiata/

スターオーシャン Till The End of Time DC
ttp://www.square-enix.co.jp/so3/dc/
3名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 16:41:28 ID:ZJnecj1m
ぬるぽエース
4名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 16:51:51 ID:mZrmp46j
>>1乙の先をイく者達よ!
5女神(終焉BAD):2009/07/11(土) 17:00:14 ID:pN8t9oTh
>>3ガッ>>4どうも

ファビョニスです。前スレからの続きを投下させてもらいます
スレ移行したので注意書きをもう一度書かせてもらいます

VP2エインフェリアでエルド×セレス
先に投下した『終焉』(アドニス×セレス)冒頭でセレスがエルドの手を取ってしまったら、という
BADエンドルートになりますので、セレス→アドニスな状態です
シリアスの快楽堕ちなし、序盤陵辱、その後も欝カオス捏造多めドロドロ展開
所々で血も大量に飛びます
セレス視点。プロローグとエピローグだけイージス視点です。
セレス→とても可哀想なことになってます、自殺寸前までいきますんで厳重注意願います
エルド→ヤンデレ、最低最悪な男設定。アドニスが喪だったのでこっちはヤリチンにしてみた
結末も微妙です、しつこいですが鬼畜・虐待がダメな方はお手数ですが回避の方よろしくお願いします
なおアドニス本体は出ません
NGワードは「女神(終焉BAD)」です

全体的にかなりの俺設定になってしまいました、オリキャラ等複数でます
以上ご了承のほどよろしくお願いします
6女神(終焉BAD):2009/07/11(土) 17:02:11 ID:pN8t9oTh
「だからここから離れられなかった。お前もたまに突発的に自害したくなるのか、ナイフ見つめてるし。
 毎日泣いてるわ身体は痩せたまま一向に戻らねえわ、時々奇声はあげるわ。どうすりゃいいんだよ。
 死にそうになりながら屋根裏に潜んで膝かかえて耐えてた。
 そんなに嫌だったのか。
 けど、いくら悩んでも俺にできることはもう一つもなかった」
ふっきれたように言葉が続いてゆく。
真実がセレスに音無く積もりゆく。
「欠けた月見てたら、やっと何か世界が見えてきてわかったわけよ。あーそうかもう俺なんかに笑うわけねえかって」
「……」
「お前だけの話じゃ済まなかった。きっと心の何処かで自分が刻んできた足跡に疑問があったんだろうな。
 ずっと目を逸らせてた現実、糞丸出しの人生への後悔、見ないフリしてたそれが一気に出てきちまった。
 好きな女が死にかけてるのに糞の役にも立てやしねえなんてな。しかも犯人は手前だ。
 またこんな塵みてえな何の意味もねえ人生送るのかよって虚しくなった」
そんなことを考えていたのか。
そんなことを。
「いつも通り頭ん中で全部お前のせいにしようと思ったけど、駄目だった。
 あんな女に手ぇ出すんじゃなかったって思い込もうとしても出来なかった。
 そうじゃない。俺がいなけりゃ良かったんだって気付いちまうだけだった」
最早止まらない。それまでしまいこんでいた言葉にならない想いが止め処なく溢れてゆく。
「あの日はどしゃ降りの雨だった。
 あいつも心ん中じゃこんな風に毎晩泣いてたんだなって思ったら、もうどうしようもなくなった。
 森ふらついてたら糞みてえな魔物に背後から襲われて血まみれになるわ散々だ。
 俺は駄目だな。しょせん、何やらしてもダメなんだな。
 他人踏み躙って這い上がれたつもりになったまま、陽の当たる方に行く努力なんざ何もしなかった。
 きたねえ仕事なんぞいくらかばかりできても、それが何になる。
 大事な女一人守れない。それどころかどん底まで叩き落として毎日泣かせてばっかだ。
 何もかも馬鹿らしくなった。食ってもねえからもう体もボロボロだ。もういい。こんなものどうせ戦乙女にもらった命だ。
 ならお前にやろう、と」
「だからあんな日に来たのね」
嵐の只中の来訪に今更ながら合点がいく。
「死ぬなら、お前だけは浮上させてかねえとって思ってたからな。
 これで元に戻るよなあって思ったら急に楽になってこの家へと急いだ」
「嬉しくない贈り物ね」
「綺麗事言うなよ。血反吐撒き散らしてのた打ち回って苦しみぬいて無様に死んでくれるのが一番嬉しいだろ」
「……私は貴方じゃないわ。そんなことされても嬉しくも何ともない」
「へえへえ」
目を伏せるセレスに最早両手では数え切れない舌打ちをする。
最後に開き直った態度で吐き捨てた。
「ここまででいいだろ。それとも何だ。恥で嬲り殺す気か」
「……十分だわ。ありがとう」
真実というものは、どうしてこう斜め上を飛んでいくのだろう。
告白は終わった。
セレスは整理し切れない山積みの新事実に激しく動揺していた。
「なんか驚いちゃったわ…あなたもずいぶん……」
苦しんだのだな、と。
いや、そういう問題ではなくて。
目が泳ぐ。
そこまで。
私を。
どぎまぎする。
本当は苦しめたいだけなのだ、と思い込んでいたのに、この急展開。
信じてやりたい気持ちはあるのだが、すぐには信じられない。
しかし思考は今まで到達し得なかった地点まで駆け巡ってゆく。
いや、だが。しかし、これは……
セレスの明らかな変化は相手にも効果をもたらした。
闇の濃い苛立ちがゆっくりと消え失せていき、数分後にはすっかり落ち着いた表情を取り戻していた。
7女神(終焉BAD):2009/07/11(土) 17:03:27 ID:pN8t9oTh
「顔が赤けえな。酒も飲んでねえのに」
「なっ、何でもないわよ……」
「ふうん」
明白な天秤の揺れと傾きを楽しんでいる。
「俺のために色付いてくれてんだと嬉しいんだがな」
「違う……別に、そんなじゃ…」
否定はあまりにも脆弱だった。
それは相手をつけあがらせるだけ。
「セレス」
真面目な声色で名を呼ばれてびくりと跳ねる。
もう何でもいいから裸足で逃げ出したいくらいだった。
そんな女の心を逃すまいと死神が言葉の網を巡らす。
「わかっただろう?これだけ負い目がある。悪いようにはしねえよ。俺のものになれ」
ストレートに求められて更に動揺する。
「嘘。どうせすぐ飽きるわ」
「どうして飽きなきゃいけねえんだ。こんな惚れてんのに」
言い返しがまた狡い。
見つけた隙に容赦はない。ここぞとばかりに追い討ちをかけてきて、ぐいぐい入り込んでこようとする。
「覚えてるか?お前、あの嵐の夜に聞こえなかったことをもう一度言えって言ったよな。
 訊かれた時は『ごめんな』だけでお前は満足したけど」
「え。そ、そうだったかしら」
「髭にボコられてたし俺も正確には覚えてねえんだ。でも、実際はもっと言いたかったことを、
 最期にどうしても伝えたいと思っていたことを言ったと思う」
「もういいわ」
いいと言っても相手は止まらない。
テーブルの上に身を乗り出してくる。
「お前の気持ちも考えず酷いことをした。反省してる。本当はずっと好きだったんだ。ごめんな」
嘘だ。
嘘。嘘ばっかり。
絶対に絶対に、全部嘘――――
「あの、ほんとにもう」
テーブルが小さいのが災いした。手の平を向け拒絶を示したが、その手すら絡めとられる。
「ずっと昔から」
甲にそっと口付けられた。
セレスが驚いたのは相手ではなく己にだった。
理解不能な心境の変化が急激に起こっている。
触れられるのが、口付けられるのがまったく嫌ではない。
まさかの事態。
心に入ってきている。
「そろそろ観念しとけよ」
「やめて」
「一生かけて償うから」
「離して」
「約束する」
弱い抵抗など彼の前では同意も同じ。
「…大事にする」
顔が燃え盛るように火照っている。
このままでは呑み込まれてしまう。
駄目だ。
はっきりしないといけない。
決意したセレスは誘惑の手を振り払うと、
「お互いもう大丈夫よね」
きっと顔を上げた。
「今度こそ別れましょう」
エルドはしばらく閉口した。落ちる気配のまるでない女にうんざりしている。
しばらくすると再度口を開こうとしたので慌ててセレスが先手を打った。
「ごまかそうとしても駄目よ」
8女神(終焉BAD):2009/07/11(土) 17:04:35 ID:pN8t9oTh
「ごまかすとか。ひでえな。で?ここまたおん出されたら何処に行きゃいいんだよ俺は」
「……私に聞かないで」
「この鮮やかな赤の無い世界なんて褪せてる」
もう一度髪に触れようとしてきたので、きっぱりと拒絶する。
「探して。貴方に合う人を。きっといるわ」
「今目の前にいるのに何で探さなきゃなんねえんだよ」
「貴方と私の関係は無理やりのつぎはぎだわ。絶対に、長くもたない」
こんな無茶な関係には、いつか何処かで決定的な綻びが生じ、大事に至る。
深呼吸してから言葉を続けた。
「貴方は魅力的な人だわ。言動は蟲惑がかっているし、どうしてあんなに人気があったのか今ではわかる。
 でも、私には合わないわ。理由はそれだけ」
「具体的にどう合わないんだよ」
留まる事を知らない追撃にセレスの表情が歪む。
「しつこいわねぇ」
「悪りいな。嫌われるのには慣れてるもんで。幸せ逃すまいと必死なんだよ」
幸せ。その単語にセレスは引っ掛かりを覚える。
本当にこの男はこんな関係が幸せなのだろうか。
「私は貴方といても幸せじゃない……こんなもやもやした気持ちでいるなら、一人のがましだわ」
傷つけるかもしれないと危惧しつつも、後には退けない。はっきりと気持ちを伝える。
「ふーん」
当然ながらエルドは明らかに不機嫌だった。
だが、どこか余裕がある。
セレスの拒絶を嘲笑うかのように天井を見上げた。
「まあいいがな。じゃ、別れの時がきたら力一杯ごねるから。頑張れよお姫様」
あまりの執拗さに嫌気がさす。
「お願いそろそろいい加減にして」
「却下」
一言の返答はセレスを一段と曇らせた。
「……ねえエルド。私、今でもたまにあの一ヶ月間の夢を見るのよ。
 目覚めた時、その加害者が隣りですやすや寝てるなんて気持ちを、……本当にわかってくれてるの?」
今度はエルドが曇る番だった。
「知ってる。いつも汗びっしょりだ。何とかしてえけど、でもどうすればいいかわかんねえ。
 殴りたきゃ殴れよ。そればっかりは仕方ねえ。目ぇ覚めたらあの世でも後悔する気はねえ」
いちいち言い方が、目を伏せる仕草がずるい。
切り出しに困っているセレスに死神がぽつり問いかけた。
「そんなにあの糞野郎がいいのか」
女の小さな頷きは男の大きな嘆息に変わる。
「俺にしとけよ」
「無理」
大きくかぶりを振る。
「だって…そう、夜だってそうよ。
 貴方は……ほら、目隠ししたり縛ったり、それから、その…後ろでしたり、そういうことがしたいんでしょ。
 私は絶対に嫌。貴方に全て委ねることのできる子を探して」
この申し出には特に強い難色を示したエルドだが、
「……………………………………………………わかった。一生涯もう二度と絶対にしねえ。約束する」
たっぷり苦悩した後に思いっきり深いため息をついて、快楽の制限を受容した。
セレスは焦る。そこは是非諦めないでもらいたい。
「無理するものじゃないわ。私なんかじゃなくても、貴方ならすぐに良い子を見つけられるわよ。
 実際貴方にはもっと可愛い子が似合うし……」
「おい」
冷たい呼びかけが台詞を遮断する。
「いくら別れてえからって適当な口叩くな」
持ち上げたつもりだったのだが、逆に機嫌を損ねたらしい。
本当に気分を害したようなので続けるのをやめた。
代わりなど他にいないということが、自尊心の欠けた今のセレスにはわからない。
「ったく難攻不落だなこのお姫様は。侵入経路みんな遮断しやがって」
思ったように近付けない現状に、忌々しげに舌打ちする。
9女神(終焉BAD):2009/07/11(土) 17:06:03 ID:pN8t9oTh
「お姫様、か……」
セレスからは自嘲のこもった苦笑が漏れた。
お姫様なんかじゃない。
もう終わらせないと。
「エルド。私、春になったらここを発つわ。彼を探しに旅に出ようと思うの。だから…ごめんなさい」
心のうちを正直に明かすことで拒絶を貫き通した。
駄目なものは駄目、無理なものは無理なのだ。
間があいた。途方も無く長く感じられる時間だった。
ずっと眉間に皺を寄せていたエルドが突然両膝を叩いて静寂をかき消した。
「わかった。とりあえず、春だ。春が来ても同じ考えだったらまた言えよ。その時はきっぱり諦める」
「あのねえ……」
「これから寒くなる。お互い人肌恋しくなるぜ」
セレスがため息をついた後、また沈黙が訪れた。
今度はセレスが返答する番だ。
断るべき場面。
だがゾルデを救われたという事実が彼女に重く圧し掛かる。
「わかったわ。今回のお礼もしなきゃいけないし、春まで。ここを去るまでなら貴方に付き合うわ。
 でも気持ちは変わらないわよ」
「そうくるか」
エルドは何度も大きなため息をつくが、ため息をつきたいのは自分だと思わざるをえない。
「鬼だろお前。他の男追っかけるとか。それ必死こいて求婚してる男に言う台詞かよ」
心臓が跳ねた。
はっきり求婚していると言われると余計動揺する。
察せと言わんばかりの独白を提供したエルドからは不満が漂っている。
「すげー揺れたくせに。ほら感想は?」
顔を近付けられたのでついそらしてしまう。
かすかに期待している空気がセレスには至極重かった。
「感想言えよ。言わねーと俺が満足いくまでパイズリさせる刑に処すぞ」
「嫌。言葉尻捕まえてくるから、嫌。言わない」
「ったく」
頑固な女から身を引き、苛立ちを吐き捨てる。
「こんなことになるなら最初から時間かけて口説いときゃ良かった」
「…そうして欲しかったわ」
求婚相手は俯いたまま、悲しげに呟いた。
「今もまだ、たまに怖くなるのよ。心臓がばくばく言って、突然思い出したりして、思わず膝を抱いてるの。
 そして貴方に時折急激な殺意がわく。……多分これからずっと先も」
「お前案外しつけぇよなぁ」
「そう。そうやって貴方は私を認めてくれないでしょう。自分は悪気がなかったって証明してるし、
 これだけしてやってるのにまだ恐怖を引きずってるなんて……許さないなんて、おかしいと思ってる」
エルドが神妙な顔つきになった。墓穴を掘ったのに勘付いたのだろう。
傷の深さを欠片も理解していないという露呈。
溝はどうしても埋まらない。
「お前はさ。惨めだの何だの言うが。俺のほうがよっぽどだろ。
 必死こいてご機嫌取りだ。仕舞いにゃこれだけ尽くしても評価すらされねえ」
「感謝はしてるわ。本当に心からしてる。でもそれとこれとは別よ」
「許される日は?」
小さく首を横に振る。有り得ないという意思表示だった。
「お願いだから少しは私の立場にもなってみてよ。散々酷い目に逢わされた相手に言い寄られたって
 どうしようもないじゃない」
「そこを斬鉄姫様の度量の広さで何とかしてくれよ」
手段を選ばぬとはいえ、最早むちゃくちゃである。
「……何度でも言う。もっと心の広い女をさがして。私ではあなたの隣にいるには力量不足だわ」
「だから言えよその俺の悪いとこって奴を。全部。直すからよ」
「悪いだなんて言ってないわ。貴方は私には激しすぎる、ただそれだけよ。
 自分に合う子を見つけて第二の人生もっと楽しめばいいじゃない」
「やだ」
「やだじゃないの」
10女神(終焉BAD):2009/07/11(土) 17:07:09 ID:pN8t9oTh
聞く耳持たずのエルドに語気を強め、もう一度念を押した。
「私達は合わないわ」
「ああもうわかったわかった。お前が嫌がることは二度としねえから。それでいいんだろ」
「話をすり替えないで」
今回ばかりはなあなあで済ますことも、引き下がることも出来ない。
「聞いてエルド。本当に申し訳ないけど、私やっぱりあの人のことが好きな………」
必死の台詞は最後まで紡がれなかった。
途中、すいと音無く近寄られ、唇を奪われたからだ。
甘い。ほろ苦い。長い睫毛が近い。
「ん…ふ」
果実と花びらを使った酒の甘たるい味。濃厚に交わってから不意打ちの口付けは終わった。
変に蕩かされて視界が揺らぐ。
「どこがいいんだよあんな黒いのの。アレより評価が下ってのは流石にきついな。男として」
肩を抱かれて逃げ場がない。
「幼稚、粗暴、自分勝手。ゴミ、カス、クズ。どれだけ揃えりゃ気が済むんだよって感じじゃねえか。
 一緒になったところで苦労すんのは見えてるだろ」
「……別に、一緒になりたいわけじゃないわ。だから春まで貴方に付き合えるのよ」
それは実際口にすると己ににがい返答だった。
「お前の気持ち知ったらぜってー豹変して襲ってくるぞ」
嫌なことを平気で口走る男だ。セレスの全身が恐怖で波打った。
「そんなの。そんなこと、……絶対ないわよ」
死神を押し退ける。
だがその危険がないとは確かに限らない。現にこの弓闘士も自分を手込めにしたのだから。
「それとも、なんだ―――好きな男になら何されてもいいってヤツか?」
「………」
睨みあげる双眸は限度を知らない口先に怒り、殺気立っていた。
誰のせいで男が怖くなったと思っているのだろう。
やはりこの男と生涯を共にするなど有り得ない。
「言われなくても最初からあの人に優しさなんか期待してないわ」
ふいと顔を逸らせた。
「じゃあ何で」
理由を乞われて目を伏せる。
「好きなの。どうしようもないのよ」
そうとしか言えなかった。
「つーかホント信じられねーよ。よりによってアレかよ。何でだよ。
 アレに惚れてるなんて世界七不思議の一つに数えてもいい女に惚れた可哀想な俺の気持ちをちったあ考えろ」
何だかすごいことを言われている。
即座に反論したかったがどうも残念ながらあながち間違ってもいない。言葉に詰まる。
「マジでわかんねえんだよ。お前こそ俺に教えろよ」
「そんなこと言ったって」
「どっか感情がおかしくなってんじゃねえの。お前を殺そうとした男だぞ」
「エルド」
呼び声は静かだが鋭かった。
「他人事みたいに言うけど、兄さんが死の寸前で拾い上げてくれただけで、…貴方は私を一度殺してるのよ」
エルドの頬がぴくりと反応する。
あの時、病気を道連れにして、セレスは完全に死ぬつもりだった。
「ううん、一度じゃない。何度も何度も……貴方は私を地獄へ突き落とした」
最初の一ヶ月、毎日が生き地獄だった。
神妙な顔つきになったエルドがまた椅子に戻ったのを見計らい、話を切り出す。
「話を戻すけど。……最近、少し考えたの。どうして私はこんなにあの人が好きなのか」
「へえ」
頬杖をついて身を乗り出してくる。
切り口の違う話題に興味を引かれたようだ。
「剣だと思うわ。多分、剣でしか伝わらないことがある」
それはエルドにとって非常に気に入らないものだったらしい。
即座に興味を失い、がっかりと言わんばかりに椅子に凭れた。
11女神(終焉BAD):2009/07/11(土) 17:08:15 ID:pN8t9oTh
「何だよそれ。その言い分じゃ弓闘士の俺には最初から勝ち目ねーじゃん。不公平だろ」
そう言われても。
「一騎打ちした時。あんな状況で不謹慎だとは思ったけど。……すごく、近くに感じたの」
漲る殺気と緊張に支配された空間。
戦場にて名を馳せながら将軍にまで登り詰めた男と、戦場を離れ、嫁ぎ、四年もブランクのある女。
なのに引きずり出された。正直恐ろしかった。
だがいざ一騎打ちが始まると不思議な恍惚感がもたらされた。
誰にも届かない世界。
二人、向こうの世界にいた。
あの人は笑った。
多分、あの人と同じ笑みを、私も。
呼ばれている気がした。早く本気になれと、内なる私が出てくるのを誘導していた。
強い敵と戦いたい。
それが彼の敗因だった。
「同類なのよ」
生前はどうしても認められなかったそれを、今のセレスは素直に認めた。
エルドは息をついて頭の後ろで手を組む。
「そうだよなぁ。俺もあの時はこの化け物どもがと思ったもんだ」
「……」
変わり果てた女は思う。
化け物のままでいいのに。
ずっと、化け物のままでいてくれて良かったのに。
今では心底そう思う。
「彼が追ってきたら再戦を受けるつもりよ。だからその時は、春になっていなくても勘弁してね」
いつまでも惑わされていられない。ふらつきのない口調できっぱりと宣言した。
そんなセレスに流石のエルドも少々押され気味である。
「待ってんのかよ。自分を殺す男を。……っとに奇特な女だな」
罵られても苛立ちはわかなかった。
自分でもどこか壊れた想いだということはわかっている。
「この前久しぶりに鏡をじっと見たの」
突然の話題転換に死神は眉を顰める。
「私、変わったわね。自分で驚いてしまったわ。……驚くほど荒んでた。
 手荒い仕打ちを受けても我慢することさえできなくなっていた。涙を堪えることさえ、ね。
 戦わなくなった戦士というものは本当に無様ね。
 剣を持っても何か違う。集中できない。貴方が怖かったのもあるけれど、もっと根本的に。
 この人もどうせ裏切るんじゃないかって、人を信じることができなくなった。もう私は、取り返しがつかないのでしょうね」
襲われたのは事実だが、その後溺れたのも事実。
「責めてるんじゃないわ。私にも原因はあるということを言いたいの。
 私は逃げ出した。だからせめて、あの人の為に何かしたい。それは再戦しかないわ。
 確かに敗北の可能性は限りなく高いわね。でも、私にはそれくらいしかしてあげられることがない」
「未練たらたらだな……」
「シルメリアやアリーシャには申し訳ないけど、この二度目の生もそんな長くなくていいと思ってる」
既に再戦すれば先がないことを覚悟している。
そこまでの想い。
沈黙が漂った。
「まあ、あれだ」
完膚なきまでに振られた男はやれやれといった風に座り直すとテーブルの上で手を組み、真っ直ぐに見据えてきた。
「俺にしとけよ」
「……それのどこが『まあ、あれだ』なのよ」
「お買い得だろ。弓の腕前は言うまでもねえが、なんたって浮気の心配がねえ。心がどっか行くことはぜってーねえぞ」
「言い切るのね」
「そりゃ糞でけえ負い目があるし、それに」
ずいと身を乗り出してきた。
「俺はお前に病気だからな」
はあ、とため息をつくセレスを、濁った瞳が探るように見つめ続ける。
12女神(終焉BAD):2009/07/11(土) 17:09:23 ID:pN8t9oTh
「どうすればいい」
「え?」
感情の無い声色は他意を含まず真剣だった。
「どうすりゃ俺の方を向くんだよ」
「…エルド」
真っ直ぐすぎて、ぐっと詰まる。
「顔が嫌なら潰してくる。声が嫌なら喋らない。存在が嫌ならほとぼりさめるまでどっかふらついてる」
「馬鹿言わないで」
「言えよ。何でもする」
しかしいくら請われても、セレスとてどうしようもない。
ただ首を横に振り続けるしかできなかった。
「ったく。…………たまには笑えよ」
眉間をつんとつつかれ、指の腹でぐりぐり押される。
「何とかならねえのかよこれ」
「何?」
「しわ」
自覚がないので指摘に驚いた。
どうやらセレスはエルドと接する時は常に難しい顔を向けているらしい。
「クソヒゲ相手のがいい笑顔するじゃんお前」
「兄さん…イージスはいい人だもの、自然にそういう顔で接してるのよ」
セレスには当然の答えだがエルドには大辛な返答である。
舌打ちしてまた天井を仰ぐ。
「あの溺死体、目を合わせる度殺気充満してやがる。お前に愛想つかされたら即八つ裂きの刑だな」
「……兄さんにも苦労させてるのね」
心労は如何ばかりかと察し、申し訳ない気持ちで満たされる。
「あいつに言わせると、お前は羽根ちぎった蝶なんだってよ。あと飛べない鳥とか。鳥かごから飛びたてねーんだと。
 みんな俺のせいだとさ。お前さえいなけりゃ……っていつも睨まれる」
「……」
「そうなのか?俺が飛べなくしてるのか?」
問われて目を伏せる。
否定してほしいだけの問いかけには答えられない。
「その前に、私は花でも蝶でもない」
そんな言葉しか返せなかった。
「兄さんはかばってくれるけど、こんな状況に陥ったのはやっぱり自業自得よ」
「こんな状況、ね……」
一通り話し終えた。
エルドの目前に積み上げられたのは、思い通りにならない返答の束だけ。
童顔が更に不貞腐れて歪む。
「何でこううまくいかねえんだろうな。その胸ん中にいる糞野郎とか。抉り出せるもんなら抉ってやりてえっての」
「やめてよ」
セレスは咄嗟に胸を手で覆い隠した。何をしようがその男は心の真ん中にいるのだろう。
「私はものじゃないわ、エルド。犯していればそのうち言うこと聞くようになるとか、…有り得ないのよ」
そしてはっきり宣言した。
「春までは文句を言わない。でもそれまで。私を変えようとしないで。無理なのよ」
数ヵ月後の決別を示唆したが、
「ふうん。じゃあ勝負だな」
挑戦を叩きつけられたエルドも決して負けていない。

屋外の太陽はとうに沈んでいた。
だが手元にある太陽はいつ他の男の元に昇るのだろう。
そんな不安に苛まれる男の心をセレスは気付けなかった。



言いたいだけ言うと、はた迷惑な死神は欠伸とともに席を立った。
「流石に今日は疲れた。そろそろ寝ようぜお姫様」
「えっ」
13女神(終焉BAD):2009/07/11(土) 17:10:33 ID:pN8t9oTh
セレスが目を丸くすると相手は怪訝な表情になる。
「何だよ」
「だってこんな服着せるから続きするとか言い出すのかと……」
一瞬間があいた。
エルドの童顔がこれ以上ないぐらいに真摯を帯びる。
「わりい気付かなかった。夜も期待してたのか」
「違う!!」
「わかった。けど俺は疲れた。今夜はお前がしてくれよ」
「怒るわよ」
あまりに余計すぎる心配だった。
失言に頬を染めるセレスを低い声で笑う。
「だいたいよ。下着だってもっと色っぽいヤツつけろよ。地味なんだよばばあかお前は。面白くねえだろ。主に俺が」
「…そんな変態なもの私に買えるわけないでしょ」
「何だよ。買ってきたら付けてくれんの」
切り返しの手口が豊富すぎる。やはり口では敵わない。
「お前はぜってー黒が似合う」
更に睨み付けると楽しげに視線をそらした。
いけない、とセレスは焦る。
相手はいらぬ充足感を感じてしまっている。
「点数稼げるならちょっと頑張るかな」
そんなことまで言い出した。
腰を抱こうとしたので慌てて身をかわす。
言葉にも気をつけなければならないのか。弱り果てて俯いた。
「本当に…今日はもう…。…もしあなたが手を下さなかったらってことを想像してしまって、震えるのよ」
実際には阻止されたとはいえ、集団暴行のターゲットとして狙われていたという事実は大きい。
エルドは少し驚いたようだった。
「そういうもんなのか」
「そういうもんも何も。…ゾルデの女は今日、…みんな震えて眠ると思うわ」
瞳を伏せる女に向けて大きなため息が零される。
「そんなに怖かったのか」
はっきりとは言わないが、数時間前に己が彼女にした、手荒な行為のことを指しているのだろう。
セレスが静かに頷くと、
「悪かった」
目を見て素直に謝罪してきた。
謝罪にすら余裕がある。先刻の不透明な謝罪とはまったく別のものだからなのか。
「ほんと、何でも話してみるもんだな。なんか視線が柔らかくなった」
晴れやかな態度にいっそう困惑する。
「そういうわけじゃないわ……」
「こんな簡単なことだったんだな」
セレス側の焦燥にはまったく聞く耳持たない。
「一時はどうなることかと思ったが。終わり良ければ全て良し、だな。
 本当は満面の笑顔で迎えてもらいたかったがそううまくはいくわけねえか。貴重な一歩踏み出せたってことにしとく」
「エルド」
「話してよかった」
「……」
告白が彼にもたらしたのは、付け入る隙が大きく広がった事実なのだろう。
それどころか大事な何かを掴んでしまったらしい。
間をおかずガンガン迫ってくる。
「お前に口先だけの言葉が通じねえのはよくわかった」
「エルドあのね、確かにお互いの誤解は多少は解けたと思うけど」
「何でも言えよ。俺はお前のそばにいたいんだ」
「聞く気ないくせに……」
一歩下がれば、一歩追い詰められるだけ。
男女の駆け引きに疎いセレスでは新しい攻撃材料を得たエルドに迎撃のしようがない。
「眠るだけの夜だってお前を抱いてていいんだろ?」
壁を背にして逃げ場を失う。顔を近づけられて思わず目を瞑った。
14女神(終焉BAD):2009/07/11(土) 17:11:39 ID:pN8t9oTh
耳元で小さな笑い声がする。
「相変わらず押しが強いわね」
「相変わらず押しに弱いよな」
「なっ」
反論する前に頬を撫でられた。
長い睫毛が至近距離で自分を映す。
戸惑い目を彷徨わせていたら、首元の小さな傷が目に入った。
「エルド、首」
「ああ。…流石にあれだけの人数相手して傷もらわねえなんて無茶だろ」
指摘を受けたその傷を格好悪いと思ったのか、微妙な顔つきで口を尖らす。
だが彼の思惑に反してそれはセレスの心を更に揺さぶるものだった。
自分を守る為に戦ってくれたという確たる証拠である。
思わぬ追い討ちを喰らい更に惑っていたら、顎をくいと持ち上げられた。
「ひでえツラだ」
「え……あっ」
言われて初めて気付いた。そうだ。施された化粧がぐちゃぐちゃの有様なのだ。しかも長い間。
慌てて隠そうとしたら手首をとられた。
「いいんだ。隠すなよ」
「だって」
「ちょっと優しいツラになった」
「そんなこと……」
「向けられたツラん中じゃ一番いい顔だ」
セレスには自覚はないが、多分本当にそうなのだろう。
己の急変を受け入れ難い。どうしても目が泳ぐ。
「抱き締めていいか」
「……」
「抱き締めたい」
戸惑い押し黙ったままでいるのは肯定でしかなかった。
腕に捕らえられ、強く抱き締められる。
「あ……」
思わず吐息がこぼれた。
やっぱり何か違う。あれほど割合を占めていた嫌悪が和らぎ、とても小さいが温もりを感じる。
心の中にある大きな結び目が一つ、ほどけてしまったらしい。
「怖いか」
「怖い。気持ち悪い」
そんな変化を必死に否定する。
「正直だなおい」
不貞腐れつつも白い首筋を楽しむ。
「こっちだって拒絶くらう度に傷ついてんだぜ」
「……」
小悪魔めいた容姿の男は、自分より少し背が低い。
「俺はあの変態じゃねえし、過去へ戻るなんてキチガイじみた超人技も無理だ。
 そんじゃ今、生きながら頑張って許しを請うしかねえ」
「あのねエルド……」
手をぎゅっと握ってくる。
「信じてくれよ。本気なんだ」
逆襲は勢いを増す。
童顔美形という武器をフル活用して容赦なく襲ってくる。
雰囲気に呑み込まれそうになる。セレスは何とかエルドを押し退け、漸く距離をとった。
「そんな。突然、いろいろ言われても困るわ」
強い口調で咎められると、不服で口を尖らせた。
「んなこと言われたってよ。こっちだって本命に関しちゃ素人童貞みてーなもんだし」
「またそんな見え透いた嘘を」
「嘘じゃねえって。うまくできねえよ。確かに生前の職業がら適当なこと言って騙すのは大得意だがよ。
 お前はそういうことしていい相手じゃないだろ。ってやってたらあんなことになっちまったけど」
セレスの目が丸くなる。
15女神(終焉BAD):2009/07/11(土) 17:12:43 ID:pN8t9oTh
意外だった。
どうして他の女にするように上手に誘導してくれないのだろうと、ずっと思っていたのだ。
「…そんな」
それでは。
本当に私は特別だということか。
けれども。
今更そんな、真実を畳み掛けられても。
「ほんとに、今更…困るわよ……」
「困るなよ。頷けばいいだけじゃん」
「無理」
セレスに余裕を与えないよう立て続けに迫ってくる。
「軽い誘惑で適当にあしらえる相手じゃないから真面目にやってんだぞ」
「だから困るって」
「俺を見ろよ」
必死で視線を遠くへ投げる。
今目を合わせたら絶対に向こう岸で連れていかれる。
「あのね何度も言うけど本当に感謝はしてるのよ、でも」
「そんなに私のことばかり見るな、か?」
「ちょっ」
「いやだ」
「わかった、わかったから」
完全に流されている。頬を包まれると更に火照って眩暈を呼び、くらくらする。これ以上はまずい。
妥協策に走らざるを得なかった。
「……もう寝室へ行ってて。私は少し片づけをしてから行くわ」
寝床への招待。受けた男は薄く笑う。
「待ってる」
甘さを含ませて囁くと、やっとセレスを甘たるい責め苦から解放した。
ぎし、と階段がきしみ、別れたいはずの男が寝室に消える。
階下に残された女はため息をついた。



嘘だらけの男だ。本意などわからない。
だが今宵手を出してきたなら不誠実の証として正当な反撃理由になる。
この状況では我慢するのも一手ではないか。
そう思いつつ、寝室に入った。
化粧を落とし簡単に手入れして着替えると、覚悟をして寝台に上がる。
だが。
「おやすみお姫様」
先に寝台にいた男はセレスを抱き寄せただけで、本当に何もしなかった。
酒に含まれていた果実と薔薇の香りが甘く漂う。
心配せずとも、エルドはもう既にうとうと船を漕いでいた。
緊張の糸が一気にほどけると同時、己の読みの甘さを恥じる。
そうだ。今日は本当に疲れ果てているはずだ。これだけの大役をこなしたのだから。
「……おやすみなさい」
素直に感謝できない関係をやるせなく思う。
エルドは紅髪を指で梳いてひと房に口付け、
「ん――――…」
大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。
すっかりリラックスしている。
元暗殺者のくせに。
「明日は起きたらお前がいるんだなあ」
心底から嬉しげに言い残すと、健やかな寝息を立て始める。
あっという間に眠ってしまった。
16女神(終焉BAD):2009/07/11(土) 17:14:06 ID:pN8t9oTh
気が抜ける。
同時に危機的な状況を先延ばししただけだと、問題が依然改善されていない事実を理解する。
だが残虐な男の告白はあまりに透明で幼く、はねのけようがなかった。
その夜のセレスはただ安堵に浸かる寝顔を真横にして、困惑し続けるしかできなかった。
どうしよう。
―――どうしよう。














以上です。ありがとうございました。終了まであと2回お邪魔させてもらいます。
17名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 19:34:34 ID:Is13NI5I
読み終えての率直な感想
セレスもう諦めろw
18名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 19:57:43 ID:7lAf5F6x
GJとしか言いようがない
エルドYabeeeeeeeeeeee!!
なんかヤンデレ超越して新しい領域に足を踏み入れてるwww
基本シリアスで胃に重たい話(*褒め言葉)なのに、合間合間のやりとりがかわいすぎるから困る
赤面セレス…イイ
続きも待ってるぜ兄弟
19名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 22:47:56 ID:daE6Pg54
面白かった
セレスがエロ赤面可愛い
エルドがウザいヤンデレすぎて、何だかんだで丸くおさまれよお前らと思えてしまう不思議
20名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 00:13:26 ID:GgcErSSP
GJ!!
セレス、ほだされるか?
そしてエルドのヤンデレぶりに不覚にも萌えた。

それにしても…何でこんなにシリアスな話のはずなのに所々笑えるんだろう。
ファビョニスやっぱツボ押さえるの上手いわ。
21名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 01:32:01 ID:phB697zb
もうセレスはエルドを受け入れるか、殺すしかないね。
しかしこれ程人を好きになれるのもすごいなぁ。相変わらずの超長編お疲れ様でした。全く苦にならず読めました。面白かった!
22名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 10:56:16 ID:xxSmJwlh
ファビョニスきてたーーーーーーーーーーーーーーー!!!
なんだこの神やばいなこの神
23名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 21:59:13 ID:tjbLorQJ
フェラ強要で不覚にも勃起した
24名無しさん@ピンキー:2009/07/13(月) 11:32:23 ID:6uDrs+8z
やばいな、面白かった
GJです
25名無しさん@ピンキー:2009/07/18(土) 01:01:59 ID:xERRnzmF
この前AAAで検索したら同人板ひっかかったから初めて行ってみたけど
全体的にかなりの下火なんだな
ここもSSこねーわけだ
26名無しさん@ピンキー:2009/07/19(日) 14:17:06 ID:iae/nJy0
クリムゾンブレイド盗撮ものをですね
27名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 16:37:13 ID:2hPMXoSX
28名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 12:33:55 ID:jy4uGnt/
リドちゃんとジャック君が交尾しまくって赤ちゃんイッパーイ
29名無しさん@ピンキー:2009/07/27(月) 23:35:12 ID:aEcwX2um
まだハミマン猫娘SSきてないのか
30名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 21:51:58 ID:arfg6mAn
マリアの衣装エロくね?
31名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 00:13:48 ID:JzB8cOgP
クレアさんに比べればまだまだ
32名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 01:41:08 ID:YlK+qZVJ
クレアさんはやばいな
視姦されるぜよ
まあされてもキニシナイだろうしサービスだってしてくれるかもしれんが
33名無しさん@ピンキー:2009/08/02(日) 21:17:18 ID:GeHjTiLf
また落ちそうになってる

保守
34名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 21:58:05 ID:iYT/unDx
落ちちゃダメ!
35神なればこそ断ち切れず・1 (レザレナ):2009/08/04(火) 00:38:45 ID:Ji5kxW0v
VPレザード×レナスもの。レザレナ嫌な人はレザレナで弾いてください。
今回投下分はエロ無いです。すみません。

■そして彼は自分を殺す

  床に血だまりが広がっていく。
 その中心は、まだ若い男だ。四半世紀も生きていない美しい顔は血の気が失せ、眼鏡がひび割れていた。手袋をはめた手が伸びる。
 全く同じ顔の男へと向かって。
 同じ顔、同じ声。衣服だけは違い、立っている男は青い服をきて、手を血にぬらしている。
「貴様は……貴様は」
「レザード・ヴァレス」
 美しい声が響いた。死にゆく男はうなずいた。
「そうだ……私も、お前も同じレザード・ヴァレス。
 否、違う。この世界にあるべきレザードは私であるはず。
 貴様は肉体すら、魂すら持たぬただの情報の欠片。
 それなのに、何故、貴様が私を上回る……」
 忍び笑いが響く。立っているレザードは眼鏡を直した。
「簡単ですよ。

 あなたはレナスに会わず、私は出会ってしまった。

 ただ、それだけの違いなのです」
「レナス……レナス・ヴァルキュリア?戦女神の三姉妹か?確かに興味ある素体だが、それがどうかしたとでもいうのか……」
「ふふふ」
 心底おかしそうなのに、何故か啼いているような声だ。自分がそんな声を出せるなどと、レザードは信じられなかった。「そう、信じられないでしょうね。
 この私が!
 このレザード・ヴァレスが!
 女神とはいえ女ごときに恋をしてそれに囚われ神にまでなり滅せられたとは!
 そして未だに諦められず、賢者の石に自らの心を書き残し、ルーファスの支配する世界に自分が発生し、賢者の石を錬成する、そんな可能性に賭けたなどと!
 笑い話です!
 おかしくておかしくて……笑い死ぬほどだ!」
 涙がこぼれていた。
「……笑い話です」
 血の海の中からレザードは手を伸ばした。「そのようなご託、聞きたくもないですね。せめてこの手で滅してさしあげましょう」
「そういうだろうと思った」
 レザードはレザードを見下ろした。「私なら、そうするでしょうね。
 あなたは幸せだ。
 レナスに会わず、この思いも地獄もしらず、穏やかに安らかに死ねるのだから……」
「無様なっ!恋狂いのレザード・ヴァレスなど、私は認めぬっ!貴様こそ、この世界から消え失せろっ!」
 詠唱が始まる。
 二人とも全く同じ呪を紡ぎ、杖にほとばしる光の色まで同じだ。
「……永遠に儚く」
「セレスティアルスター!」
 天より落ちる無数の光は、羽ばたきさえ伴って、この世のレザードの体と魂を打ち砕く。
 最後に落ちた羽を拾い、レザード・ヴァレスは、物言わぬ屍となった己の目を閉じた。
「安らかに眠りなさいレザード・ヴァレス。
 レナスの姿も、声も、知らぬまま穏やかに。
 地獄を見るのは私一人でいい……。
 この恋を知るのも、私一人でいい……」
 声は血の広がりとともに薄くなり、そして、たった四半世紀で恋ゆえに神となりその魂を滅ぼされた大魔術師レザード・ヴァレスは、還ってきた。
36名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 21:30:52 ID:zUV3osta
>>35
ワクテカ(・∀・)
37神なればこそ断ち切れず・2 (レザレナ):2009/08/07(金) 23:52:47 ID:yprfCkFB
■時は回り出す
 人は死して魂となり輪廻を繰り返す。その前世がいかなるものであるかは、神すらも全て正しく把握はしていない。
全ての人の魂を記憶し再生した創造神レナス・ヴァルキュリアであれば別かもしれないが、その彼女にせよ、
今後ふえゆく人と魂全てを把握しきれるわけではないのだ。
 そして、主神ルーファスをしていわんや。彼は未だ神としては幼く、荒れ果てた世界を再興するのに手一杯だった。
誰が彼を責められるだろう。レザード・ヴァレスはルーファス達の世界では未だに生まれておらず、
主神オーディンの死によって世界の可能性が分岐したときに、レナスの世界のレザードが滅したとしても、
自分の世界でレザードとなるべき魂が存在しているということに気づいてはいなかったことを。
 月日は流れ、レザードは生を受ける。こちらの世界のレナス・ヴァルキュリアにであう以前、賢者の石を錬成した。
 その膨大な情報のなかに一つ紛れ込んでいたのが、あちらの世界のレザードが書き残した自らの魂の軌跡だ。
魂を消滅させられてもなお賢者の石の中に心は潜みつづけ、そしてついに牙をむく。
本来あるべき自らを抹消させて入れ替わった。ホムンクルスの体を奪い、実体を得る。

 ただレナス故に。ただ盲愛ゆえに。

「さて……今回は賢者の石もある、そして研究施設もある……。
 だがあちらの世界にいったとしても、また繰り返しになるだけ」
 レザードはつぶやいて外套を翻した。向かうは、亡失都市ディパン。
 時の機械を動かして、百年昔にまた戻る。
38神なればこそ断ち切れず・3 (レザレナ):2009/08/07(金) 23:54:58 ID:yprfCkFB
■騙された主神
 だいたいこいつが生きているのも腹立だしいが、言ってる内容はさらに腹ただしい。つくづく不愉快な男だと、主神生活100年目、ルーファスは思った。
「なんでお前が生きてるんだよ」
「記憶と魂の一部を『賢者の石』に書き込んでおいたのですよ。あれを錬成すれば、自動的に私はよみがえります」
 有り難いものになんつうことをしてくれやがったのだ。
「それ破壊できんのか」
「ドラゴンオーブの力くらいならなんとか。さて、冗談はともかく、本題に入りましょうか」
 主神はなにも言わず吐息をついた。マジでこの男ならそれだけでやってのけそうだから怖い。なにしろ女神とはいえ女一人のために人間から神にまで上り詰めた男だ。念のために人よけの結界をはっておく。
「で。何の用だ」
「アリーシャを蘇らせたくはないですか」
 自分の息が止まるのがわかった。
「神々というのは勝手なものだ。自分の都合で世界を壊したり作ったり、人の定めなどなんとも思っていない」
「貴様が言えた台詞か」
「ふふ。私はより極端だっただけですよ」
 自覚はあるのか。ルーファスはここまでやってこられた魔術師の技を評価して手を出していない。自分含め誰一人気づかせずにヴァルハラまで来たその実力は並の神族より上だ。
「創造神レナス・ヴァリキュリアなら、アリーシャを蘇らせることができる」
 ささやいた声にルーファスは拳を握った。
「どういう意味だ」
「そういう意味ですよ。我が愛しきヴァルキュリアは、全ての人間、全ての存在を理解し、それ故に己の身に取り込んで世界を再創造した。
 一度レナスはアリーシャと同化しています。
 アリーシャを再構成することは、レナスにとってたやすい話でしょう」
「ではなぜあの時彼女はそうしなかったッ!」
 たたきつけた拳の指輪が玉座の肘掛け石に当たり硬質の音を立てる。結界がなかったらフレイが来ていただろう。

「忘れてたんですよ」

「はあ?そんなことあるわけないだろーが!」
「じゃ、聞いてみたらどうです」
 水鏡が現れた。その中にはレナス・ヴァルキュリア……間違えようもない創造神レナスが存在している。あちらの世界のレナスだ。存在感からして違う。
『そこで私を見ているのは誰だ!』
「まて、俺だ、ルーファスだ!」
 切っ先を向けられ、鏡の中とはいえあわててルーファスはとりつくろった。
『ルーファス?ってむこうのあなた?
 どうしてこちらと連絡ができるというの?』
「それはともかく、レナス、聞きたいことがある。
 あんた、アリーシャの再生はできるのか?」
『ええ。それが何か?』

「それが何か、じゃ、ねぇだろぉぉぉぉぉがぁぁぁぁぁぁ!」

 結界内に空しく主神ルーファスの叫びがとどろいた。「あんた、俺の思いも、アリーシャの思いも知ってて、そーれーでー黙って帰ったってのか?
 自分の世界さえよけりゃそれでいいのか、ああ?」
『あー……いや、まってくれ、すまん』
 創造神は羽根飾りをなおした。

『忘れてた』

 流石レザード・ヴァレス。だてに変態眼鏡ストーカーフィギュアフェチの称号は戴いていない。レナスのプロファイリングはばっちりである。
「忘れてたじゃないだろ忘れてたじゃ!
 今すぐ返せすぐ返せ!
 アリーシャを返してくれぇぇぇぇぇええええっ!」
『すまん、ほんとうに申し訳ない。
 彼女の働きを考えたら、魂と肉体を再生してしかるべきだった。
 今すぐ再生してそちらに送るから、送り方を教えてくれ』
「え」
 思わずルーファスはレザードの方を見た。彼は頭を振って口に指を当てている。黙っていろということだろうか。
「あー、いや、それはちょっと俺もわからん。そっちでなんとかできんか」
『できるわけがない。だってお前、そちらから接触できるのだから、そちらでなんとかできるものなんだろう?この水鏡だってそうだし』
39名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 00:23:36 ID:htbFC3Mh
「いやこれはレザードが作った」
 あーあとつぶやくレザードの前で、レザードが何故、違う話を聞いてくれ、私はだまされんぞニーベryときて鏡が壊れた。「あ、あ」
「だから話すなといったのに」
「又水鏡作ってくれ!」
「作る端から愛しのレナスが壊してくれています。レナス、貴女は輝く破片の中でも美しい」
「陶酔してないで正気にもどれよ!」
「これでお解りでしょう。我が女神は、昔から一つの事に集中、特に私の事となると見境がなくなります」
「そらそーだ」
「だから私との戦いを終えたらすっきりして、アリーシャの事なんか忘れてたんでしょうね。つくづく神というのは身勝手なものです。レナスは私がいなかったら今頃消滅していたというのに、礼の一つもない」
 その分析はどうかと思ったが、レナスの忘れっぷりはそのとおりなのでルーファスは黙った。だいたい礼の一つくらいしてりゃレザードがひねくれて過去で大騒ぎすることもなかったかもしれない。
「さて。私の水鏡ではいけませんが、あなたの作るものなら別です。作り方を教えてさしあげる、といったら?」
「交換条件はレナスか」
「いいえ」
「帰れ。って今いいえって言ったの?」
「ええ。貴方にレナスをどうにかしてくれと頼んで、彼女が私を愛してくれるわけがないでしょう」
「そこまでわかってて、なんでレナスにこだわる」
「私も正直嫌気がさしてるんですよ。自分でいうのもなんですが、オーディンにすら匹敵する魔力と、それ以上の頭脳。これをもってすれば素晴らしい魔術の研究が成し遂げられることでしょう」
 前向きなレザード・ヴァレス。嘘だ。「大体あそこまでされたら私も懲ります」
 懲りるという文字がこいつにあったのか。「自分が情けなくなった。会って一年も経たぬ女神の為に、何故私がここ迄固執するのか?それはこの頭脳と魔力の無駄ではないのか?」
 この男にその魔力と頭脳が無駄なのだが、その力が有効活用されたら半端ではない幸福を民衆にもたらすであろう。「そう考え、私は隠遁して魔術の研究に没頭しました」
 専門用語でいうとふられてふて腐れて引き籠もったともいう。「しかし!呆れ果てた事に、寝ても覚めても浮かぶのはレナスの顔ばかり!忘れようと研究に没頭すること二百年、それでも私の心を虜にし続ける女神よ、汝は一体何者か?
砂漠を彷徨う旅人が水を欲するが如き餓えに二百年苛まれ、遂に私は悟った!」
 この演説の間ルーファスは枝毛を二本見つけて捨てた。レザードは美声の無駄遣いをしている。「我が魂は女神とともにあり、繋がりを絶たんとすればこの身を裂いても不可能なことに!」
「二百年考えたんなら諦めろよ!」
「諦められるもんなら諦めてますよ!大体貴方だって百年たってるのにまだアリーシャと!」
「俺の場合は彼女と両思いだからいいんだ」
「相手死んでるんだから不毛もいいところじゃないですか」
「生き返るってお前が言ったんだろうが!」
「今知ったんでしょう」
「話を進めよう。なんで百年しかたってないのに二百年って?」
「時間をループさせたんですよ。貴方の賽子に1が並び、僕の賽子に6が並ぶその日まで決して負けを認めず諦めない方向で」
「それエロゲちがうから。そしてストーカーの執念はマジたち悪いから」
「結構。かかっておいでなさい。私の意思の強さをご覧にいれましょう」
「その意思と才能有効活用しろよ」
「知るものか!例え神になろうと果てはせぬこの恋情を、一体どうしろとっ!」
 吐き捨てたレザードの台詞はルーファスのある一点を貫いた。
 神なればこそ、断ち切れない。
「あんな事は認めない」
「しませんよ。あと三百年、私を放っておいてくださればいい」
「三百年?お前どんだけ頑張るつもりだ」
「自らの力のみで創造神となる間」
 ルーファスは絶句した。「それでも、レナスがお前に振り向くかどうか分からないぞ」
「それでも私は存在せねばならない。それが世界の理なのです」
「そんな理あってたまるか」
「あるのですよ。主神ルーファス。子が親から離れていくがごとく、世界もまたいつか創造主から離れゆく。それ故の理です。また主神も一人ではおられず、傍らに侍るものを誤ればただ暴虐に走るのみ。
主神の交代劇。こちらではうまく言ったが、あちらではうまくいかなかった。私は世界が作った調整弁のようなものなのですよ」
 相変わらずこいつのいうことは理解できない。
「で、水鏡の作り方は」
「その前に、百年前のあなたに、私のことを説明して下さい。アリーシャにあう代わり、私の存在と研鑽を黙認してくださいとね」
 細かい条件を詰めてから、主神は一歩を踏み出した。移送方陣は空間でなく時をわたり、百年前に戻ってきた。
40名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 12:58:42 ID:NGRUeJZD
ktkr
41名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 20:29:03 ID:8jsSHuQd
こらwひぐ○しネタ自重w
42名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 15:34:29 ID:gCa1cbpN
gj
期待
43名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 12:40:18 ID:eNeiVc/b
ほしゅ
44名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 20:41:18 ID:dQiMzzFw
続き待ってます。
45名無しさん@ピンキー:2009/08/27(木) 18:06:37 ID:LVZECqws
>>35-39
半分妖精の世界のその後を描いたのか
期待
46名無しさん@ピンキー:2009/09/02(水) 20:40:14 ID:i8mxNeQ/
ほっしゅ
47名無しさん@ピンキー:2009/09/09(水) 05:36:54 ID:MFmG1c+E
ほしゅ
48名無しさん@ピンキー:2009/09/11(金) 01:10:23 ID:gOpLKDxQ
愛してる
49名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 01:47:57 ID:DNdE4wTm
知ってる
50名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 00:24:51 ID:4oW514p3
ホッシュ
51名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 08:40:24 ID:C340fP7A
やっとできたorz毎度遅くて申し訳ないファビョニスです
続き投下させてもらいます
注意書きは>>5をよろしくお願いします
52女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 08:42:46 ID:C340fP7A
膝をついているセレスの横でばさっと音がしたのと、ふぎゃっと驚く声がしたのがほぼ同時だった。
甘い香りがセレスの鼻をくすぐる。
肩の上では赤い薔薇の花束が咲き誇っていた。
振り向かずとも贈り主はわかる。
一体何処から調達してきたのだろう。この時期とご時勢にご苦労なことであるとは思う。
「ふぎゃっ?」
奇怪な音声に眉根をよせるエルド。
彼に振り向いたセレスは口に人差し指を当てていた。
「後にして」
小声で呟いてから、対象に向き直る。
「おいで」
セレスが手を差し伸べる先には、ほんの小さな仔猫がいた。
産まれ落ちてからひと月も経っていないことが見て取れる程の小ささ。
毛並みは泥で汚れている。
セレスが触れようとすると全身の毛を逆立てて後ずさり、何度も大きな息を吐き出し威嚇する。
剥き出すのは可愛らしい牙。
幼いながらも野生の防衛本能を働かせているのだろう。
警戒する大きな瞳は怯えきっていた。
「……まさかまた飼う気か」
エルドに恐れと呆れの色が浮かぶ。
セレスの家には既に二匹、先住の猫が住み着いているからだ。
「仕方ないじゃない。近くを探してみたけど、親猫も兄弟も見当たらないし。このままじゃ衰弱死してしまうわ」
「猫屋敷かよ……」
不満を吐き捨てる男に、女からの格段冷ややかな視線が注がれる。
「一番手のかかる馬鹿猫が何言ってるのよ」
揶揄された死神の表情が盛大に引き攣った。
「………お前言うようになりやがったな………」
青筋浮かぶ童顔をさらりと無視し、セレスは諦めることなく仔猫に救いの手を伸ばす。
「おいで」
だがいくら呼びかけても迷い猫は威嚇の体勢を崩さない。
それでいて後ずさったり近づいたりとはっきりしない。
決して逃げ出しもしない。
信じてよいものかと戸惑っているのがわかる。
「……」
そんな調子を保ったまま、時だけが過ぎていく。
「お前は優しい女だ」
ずっと隣で様子を見守る男が不意にぽつりと呟いた。
「……何よ」
「俺を振り払わない」
「……」
どこか己と仔猫を重ね合わせるものがあったのだろう。
だがそんなやりとりをしても互いに無表情のままだった。
やがてセレスが目を伏せて心情を吐露する。
「優しいのと情けないのとでは全然違うわ」
時間の経過と共に仔猫の威嚇体勢は緩やかに解けていった。
セレスの視界からは決して出ることなく、うろうろと所在なさげに彷徨う。
粘った甲斐もあって距離はかなり縮まっていた。
仔猫側も、本当は早く温もりの中で安堵したいのだ。
更に時間を割いてゆっくりと距離をつめる。
そうして仔猫が無関心を装い別方向を向いた時、ついに指の背でそっと柔らかな毛並みを撫でることに成功した。
「へえ」
傍観者から小さな感嘆があがる。
そのまま優しく撫で続ける。
仔猫は尻尾を立てたまま、ぶるぶる震えていた。
その震えが消えた頃に膝上に抱き上げた。
保護成功の合図。
生きた毛玉がちょこんとセレスの腕におさまるまでゆうに数時間を費やした。
53女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 08:43:49 ID:C340fP7A
「いい子ね……」
ふんわり優しい声色のセレスに、エルドが神妙な顔つきをする。
「おかしいな。俺の方がよっぽどいい子なはずなんだが。何故可愛がられてねえんだろう」
「……………面白くないのを通り越して殺意が沸くような冗談ね」
思いきり白けた細目を向けると、
「ひでえ」
流石に死神もむくれる。
こんな身勝手な男には付き合っていられない。セレスは仔猫を抱いたままさっさと玄関へと引き返した。
早くあたたかくしてやらなければ。
「なー。愛してるって」
置いてけぼりを食ったエルドが不服全開で戯言をほざくので、
「入らないなら鍵閉めるわよ」
冷ややかに呼びつけた。
「花束持ってきて。花瓶に生けるから」
薔薇の束を無造作に拾い上げると、ぶつぶつと不満を垂れ流しつつ弓闘士は家に入る。
セレスがドアを閉めた。

ここは春までの戦場。
受け入れるか、跳ね除けられるか。
どちらも譲れぬ戦いなはずなのに。
とても曖昧な毎日を過ごしていることへのため息がこぼれる。
おかしな話だ。
捕らえ囚われた関係が、今はもうどちらがどちらなのかわからない。
手渡された花束がむせ返る程に甘たるく鮮やかだった。
冬の薔薇。
贈り物に宿る幼い愛情が、哀れで、重い。



仔猫は汚れを落とし暖炉付近で少し乾かした後、空き箱に入れて別の部屋で落ち着かせることにした。
蓋を閉める際に可愛らしい声でみゃうんと鳴いた。その愛らしさに思わず微笑む。
軽く拭いただけで随分白くなったから、ちゃんと洗ったら真っ白な仔猫になるだろう。
ソファに戻ると先住の猫達が気まぐれに飼い主へ懐こうと寄ってきた。
が、彼等の行く手は悪者に阻まれる。
ずば抜けて厄介なでかい馬鹿猫が、その飼い主の膝を占拠しているからだ。
エルドにしっしっと手首を縦に振られると、諦めたのか猫達は退散していってしまった。
明らかに専有権を誇示している。
猫相手に。
「猫以下の扱いとか。俺は大変傷ついた」
しかも拗ねている。呆れてものも言えない。
こうしていると猫屋敷の主と言われても仕方ない気がしてくる。
「あのねえ……。あんな仔猫相手に嫉妬しないでくれない」
「あんなん拾ってる暇あるなら俺をかまえ」
恨めしげな声を出される筋合いはない。
ないのだが、欲求が満たされないと本当に仔猫さえ手にかけかねない男だ。
しばらくは大人しく膝を占領させることにする。
茶色の髪を撫でた。
春までは一緒にいると契約した手前、あまり邪険にもできない。
あの独白の後、エルドはセレスに対する攻略法を大幅に変更してきた。
この女には無理強いするより甘えて擦り寄る方が効果的、それに気付いてしまったらしい。
そうとわかれば話は早いようで、あの日からずっとこの調子だった。
白けることも度々あるが、逆にそれが振り払いにくい。
身勝手で横柄な男。少年のような容姿も計算のうちだ。
――――子供みたい。
違う。
子供そのものなのだ。
54女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 08:45:00 ID:C340fP7A
だんだん、一つまた一つ心を許す度、セレスの前でだけ凍った心が解けてゆき、
セレスの知っているエルドとは程遠くなっていく。
それは確実にセレスを捕らえ、手元に置き続ける悪質な手段でもあるのだが。
薔薇の香りが部屋を満たす。
贈り物という行為にはもらう喜びが伴うべきだと思う。
イージスから何かもらうと嬉しい。彼は食べ物や白い花をよくくれる。
だがそれは友人であり仲間であり、兄的立場で支えてくれるイージスがくれるから嬉しいのだ。
この男からでは受け取ることへの戸惑いと不安しか残らない。
「そんな悲しい顔するなよ」
思考を読まれて指摘を受けた。
視線を交わらせたくなくて目を伏せる。
「あ――――わり。重かったのか」
そんなセレスの態度を何か勘違いしたらしい。エルドは俊敏な動作で起き上がり、頭を退けた。
どうやらセレスの眉間に刻まれた皺を読み違えたようだ。
「ううん違うの。それはもう終わるから大丈夫よ」
セレスの身体には月のものが巡ってきていた。
下腹部への圧迫が負担だったと思ったのだろう。
その返答に、童顔には安堵が灯った。
「良かった。この前一回失敗したからずっと心配してた」
「……」
失敗されたその時、組み敷く男は硬直して顔面蒼白と化したが、組み敷かれていた女は特に動揺もしなかった。
愛し合ってもいないのにこんなことばかりしていては、いつかこうなるのではと予測していたからだ。
セレスはしばらく無表情でいたが、抑揚のない声でぽつりと宣告した。
「もし授かったら産むわよ。私」
セレスの顔の輪郭をなぞる指がぴくりと反応する。
エルドにはとんでもない発言だったらしい。
童顔が見る見る間に苦く歪んでいった。
「おい勘弁しろよ。これでまた人間の赤ん坊だあ?」
「そんなこと言ったって、できちゃったらしょうがないでしょ。これだけ毎日のようにしてるんだから。
 外で出すだけじゃ避妊としては完璧じゃないって聞いたわ」
対面する男は再度不貞腐れたが、こればかりはどうしようもない。
セレスは決めていた。
もし出来たら子供を最優先すると。
当然あの人の元へは行けなくなる。でも、それは仕方のないこと。
こんな毎日を過ごした末に宿ってしまった命の灯火を吹き消すなど、セレスには考えられなかった。
責任は取らなければ。
その為だったら私事など何もかも諦める。
完全に決意してしまっているセレスとは真逆、父親になる可能性持ちの男は心底嫌そうだった。
「大丈夫よ、そんな心配しなくても。一人で育てるわ」
安心させる為にそう言った。だが相手は頼られないのもまた気に食わないらしい。
エルドは思案するようにしばらく無言でいたが、
「まあ、産めよ」
意外なことを口走ったかと思うと、次の瞬間には凍りついた瞳で呟いた。
「どっか捨ててくるから」
セレスの目がこれでもかと見開いた。
戦慄で総毛立つ。
まさに心臓を掴みあげられたような衝撃だった。
「冗談だよ」
だが当のエルドは強張るセレスから視線を外すと、突き付けたおぞましい意見をあっさりと否定した。
「エルドっ!!ふざけないで!!」
流石に憤怒せざるを得ない。大声で怒鳴りつける。
「冗談だっつってんじゃん。おーこええこええ。気をつけねえとな。ガキなんぞ身篭られたら全部かっさらわれちまう」
「……」
ただ、恐ろしかった。
冗談と言われても体内の緊張は痛い程に残留し、寒気はおさまらなかった。
本音が混じっていないとは言い切れない。
怖いのはどちらだ。
だが同時に、孕ませて束縛するという最悪の手段は用いないという確信もでき、その点では安堵が広がる。
55女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 08:46:11 ID:C340fP7A
やりとりの疲労で長嘆息するセレスの膝に、また死神の頭部が預けられた。
驚きと嫌悪が迸ったが、慣れのせいかすぐに落ち着いた。
絡んでくる手を払いのけ、深呼吸すると、眼前の男をきつく睨み付ける。
「そういうこと二度と言わないで。貴方が言うと洒落にならないのよ」
「へえへえ」
それでも嗤っている。
困らせて楽しんでいるのがわかった。
嘆息ばかりのセレスの耳を、この男らしからぬ台詞が撫でる。
「お前と一緒なのは俺にとっていいことだと思う。柔らかい気持ちになる。少しだけ世界が優しく思える」
零れる本音は飾り気なく、セレスの心を小さく打ち、波紋を広げる。
発言に嘘が混じっていないことは薄い微笑の無邪気さが証明していた。
「……」
気のせいじゃない……。
この死神はまた一回り小さくなった。
このままずっと縮んでいくのかと思うくらいに何度も縮小を繰り返している。
その不可思議な現象の正体を、セレスは最近やっと、何となく理解することができた。
勿論本当に縮んでいるのではない。
だんだんセレスの前でだけ、この死神は子供になっていく。
素の姿を晒してゆく。
そしてセレスも日を追うごとにそんな彼を理解している、それゆえの現象だと悟った。
よくわからないというベールを剥いでしまったら人間などこんなものかもしれない。
成熟していないのは容姿だけではなかった。
凶悪で闇が深くて、ほどけないレベルに捩れていて、あまり合わせたくないと思っていた大きな目。
今ではただ寂しい瞳だと思う。
その目がセレスの中に、木漏れ日のあたる居場所を探している。
帰る場所のない迷い子の瞳に自分が映り続ける。
息苦しくなる。
求めているもの、そんなものは私にはないというのに。
「なんで見つめてるだけでそんなツラになんだよ。ったく」
少年は口を尖らせて幼稚な不満を撒き散らす。
対峙と和解。欲望と憎悪。
幾度となく繰り返し、両者は不安定な均衡を保ちながら、毎日をゆっくりと過ごしている。
だが、この関係を終焉させることだけは決して許されない。
死神の指先が元英雄の唇をなぞる。
「言わせてぇな。この口に。俺が欲しいって」
子供になったり、妖しいことを言ったり。
素で、変な生き物だわと思う。
「少しゃ俺のこと見ろよ」
不可解な願望を口走られて眉を顰める。
「……見ていないとでも?今だってこれでもかというぐらい視野を占領されてるけど?」
少々皮肉を含めて言い返すと、
「嘘だ。目には映ってても俺を見てるわけじゃねえ。せいぜい災難や害悪の塊くらいにしか思ってねえ」
温度の無い表情できっぱり断言された。
どきりとした。
そういう思考はまったくなかったが、心臓が呼応したということは図星だったのだろうか。
死神は頬と手のひらで女の太ももを味わいながら言葉を続ける。
「覚えてるか。戦乙女にこき使われてた頃。苦戦中にあの黒いのが勝手にノーブルエリクサー使いやがってよ。勿体ねえ」
「覚えているわ」
即答するほど鮮明に覚えている。
『彼』が、一人取り残されたセレスを遠まわしではあるが助けてくれた怪事件。
大事な大事な、宝物といっていいくらい大切な思い出の一つ。
「あんな余計なもん必要なかったんだぜ。俺の援護のが断然早かったからな」
「えっ?」
思わず素っ頓狂な声が漏れる。
「俺が誰よりも先にお前の援護に回ってたんだよ。でもまず敵ぶっつぶさねえと話にならねえだろ、すぐには近付けねえ。
 何とか始末して俺が回復薬取り出して声かける前に、うまいトコだけ持ってかれちまったってオチだ」
56女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 08:47:17 ID:C340fP7A
意外な裏話の暴露にセレスの目が真ん丸になる。
「ったく。お前は俺の助けなんて気付きもせずにあの黒いのにぽーっとなってるしよ。
 あんなはらわた煮えくり返るようなムカつきは久しぶりだったな」
俊敏なくせに案外間の悪い男だ。
「そうだったの……」
「あと―――お前は覚えてねーかもだけど」
「え、何?まだあるの?」
驚きが止まらない。
混乱するセレスに更に新事実が畳み掛けられる。
「あれはクソでけぇドラゴンとやりあった後だった。倒した後も、お前スイッチ入ったままでゾクゾクきてる感じだった」
息が詰まった。
それは多分、狂気と隣り合わせの非常に危険な状態。
戦闘の虜になっている姿。
「俺はとりあえず声かけた。おい、どうした。大丈夫かって。けどお前は殺気帯びててそれどころじゃねえ」
「嘘……」
愕然とする。まったく記憶にない。記憶にさえ留められない己の秘めた凶暴性を改めて思い知る。
「その後はどうなったの?」
先を聞くのが怖かったが、促した。
エルドはしばし言いたくなさそうにしていたが、むすっとふくれっ面になった後に吐き捨てた。
「どうなったも糞も。あの黒いのがのそのそ歩いてきて、お前の髪引っ張って終わりだよ」
そして更に不貞腐れた。
真実を知らされることで予想通りセレスが固まってしまったからだ。
当のセレスには髪を引っ張られた箇所からしか記憶がなかった。
それがエルドのもたらした事実とあっさりつながってしまった。
一見単純に思えた、意味のわからない行為。
だがきっとあの人は殺意に満ちた危険な状態からの戻り方を知っていて。だから『それ』を、施してくれたのだろう。
嫌がらせだと思っていた自分が恥ずかしくなる。
思いがけない記憶の断片の続き。真実の天秤ごと心が揺らぐ。
そんなセレスの頬の色合いと動揺が、彼女を欲する童顔を更に歪ませる。
「そうだよな。どうせ俺が何してやったって結局あいつなんだよなぁ」
鼻で嗤う姿にはあからさまな自嘲を感じた。
「俺は結局今回の生も誰にも必要とされてねえわけだ」
「エルド…」
ずるい言い方だとはわかっているが流石に心に引っかかる。
だがこの死神に同情など欠片すら不要。
直後に特等席から跳ね起きて、溝を埋める為、お構いなしに迫ってくるのだから。
「用意されてねえなら奪うしかねえよな?」
「エルド……」
戸惑うセレスに容赦はしない。
「俺の方がお前を愛してる」
きっぱりと言い放つ。
だが告白は透けて向こうが見えるほど薄っぺらだった。
平気で嘘をつく男が、口説いているつもりなのだろうか。
今のセレスにはもう笑い事にしか聞こえない。
そんな女に縋る男が哀れになる。
べらべらと綺麗事が並べられるが、安っぽい言の葉では心まで届く力も無く、脆く剥がれ落ちる。
そんな出来合いの言葉をいくら並べたところで、自然に手をつないで歩ける日などこないというのに。
この男はいつもそう。
救いの手を差し伸べた戦乙女さえ恨んでいる。
幸せはいつだって手招いているのに、そっぽを向きながら幸福を夢見ている。
この男には『わかれない』のかもしれない。
誠意からの情熱ではない。狂気じみた高熱は鳥肌を誘う。
成熟していない愛情が延々と垂れ流される。
気がつくとその必死さに深く同情している自分がいる。
それをエルド側も気付いている。気付いていて言の葉を続ける。
歪んだ伝わり方でも構いはしない。
自分の元に永遠に縛り続けられれば、それで。
一通り荒唐無稽を並べ立てた後、変化のないセレスなど構わずに、ゆっくり首筋に埋もれてきた。
57女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 08:48:20 ID:C340fP7A
「なあマジでそろそろ諦めねえ?」
「無理よ」
「何でだよ。特別だっつってるだろ。放したくねえのわかれよ」
特別と言われても全然嬉しくない。
稚拙な愛情が棘のように絡まり、ひっかかるだけ。
「……貴方、生前や今までに、そういう相手はいなかったの?」
軽く探りを入れてみたが、
「さあ。いなかったかもしれねえし、いたかもしれねえな」
掴みどころのない曖昧な答えしか返ってこない。
「何よそれ」
眉間に皺をよせるセレスの腰を抱き、平然と続ける。
「俺のが先にそいつの体温に飽きちまうからな。もって数ヶ月だ。どうでもよくなって嫌になる。
 結局どの女も大事に思えなかった」
身勝手なことを口走る口元が歪む。微かだが、壊れた感情経路を持つ者の悲哀が伝わってきた。
「わかってるよ。何もかも、悪りいのは俺なんだろうな」
「あら認めるの?」
「そりゃ、お前の膝枕でぼけっとしてれば気付くさ」
そう言って、薄く笑った。
最近のセレスには半ば呆れ果てた表情ばかりが浮かんでいる。
その不服げな輪郭を、半目をした死神の指がなぞる。
「ったく、難攻不落なんてもんじゃねえな。さすがアレの姉貴だ」
「もう。また『アレ』とか呼ぶ」
いくらセレスに迫っても、彼女の実妹を毛嫌いするところは一向に直らない。
「お前の妹は照り輝く太陽だ」
そんな男が唐突に、過大ともとれる評価をした。
驚いて絶句していると、どうでもよさそうに吐き捨てる。
「まあ大した女だくらいは思ってるぜ一応は。流石に世間一般レベル程度にはな」
明らかに認めたくないという言い草である。
「……なら、どうして……」
豊かな胸に埋もれていた頭部がゆっくり滑り落ち、また膝枕に戻る。
そして答えた。
「――――光が強過ぎるんだよ。俺みたいな奴には消えろって言われてるようなもんだ」
偏屈な理由である。
「……消えろなんて。理解できないわ。誰もそんなこと言ってないのに」
不満を口にすると、頬に手を当てられた。
「どうでもいいってことだ。俺がハマってんのはこっちのお姫様だからな」
はぐらかされてもやはり嬉しくない。
「そうね。私はあの子と違って世間知らずで隙だらけだものね」
毒気を含む自嘲の回答。今度はエルドが長嘆息する番だった。
「月にかかる夜霧が何言っても無駄か」
己を夜霧などに例える、そんな台詞を恥ずかしげもなくさらりと口走り、やれやれと目を伏せる。
しかしセレスとて、他人を卑下して持ち上げられても、ましてや実妹を貶めて褒められてもまったく嬉しくないのだ。
しばし無言の時が訪れた。
何だかよくわからないが、とりあえず文句を垂れつつもフィレスを評価していることだけは確認できた。
それでも、あの子より私、か。
「貴方ほんと物好きねえ」
茶色の髪を撫で付けながら、改めて思ったことを口にした。
「お前もそればっかだな」
「だって、私なんて。生前はああだし。本当はほとんど大剣振り回すイメージくらいしかないんじゃないの?
 可愛いタイプでも、癒されるタイプの女でもない。何故こんなに執着されるのかわからないわ」
セレスのこの疑問は童顔から余計な色を消した。
代わりにとても神妙な顔つきが現れる。
エルドは頭を預けている女を見据えたまま静かに答えた。
「お前はそこまできれいじゃないからな」
ひねた本音がセレスの心にさざ波を立てる。
「お前の妹の光は清浄で強すぎる。ついてけねえ。
 かといって殺しも血の生温さも何も知らない女に理解してもらえるたあ思えねえ。
 俺は、汚れてて、ちょっと濁ってて、ほのかに照らしてくれるぐらいの女が丁度いい」
58女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 08:49:41 ID:C340fP7A
飾り気のない返答。
エルドのこれまでの態度に少し合点がいった。
「……貴方本当にねじくれてるわね」
「今更」
薄い冷笑と共にそっと手を取ってきて、指を絡めた。
この手を離したらこの男はどうなるのだろうか。
また仄暗い裏世界で蠢いて闇を彷徨うのか。
温もりを知ってしまった分、更に深く堕ちてくんだろうか――――
不安がセレスを絡めとり、悩ませる。
イージスは多分、自業自得だあんな奴、と吐き捨てるのだろうけど。
でも。
「エルド」
しばらく間をおいた後、セレスは己を求め続ける男へ静かに言い放った。
「汚した女に光を求めないで」
本心を告げる。
わかっていても、心苦しくても、どうしようもなかった。
男女の情に関しては非常に疎く不器用な女。しかも現在は常に流されるのを恐れている。
そんな彼女では、とにかく拒絶を継続することしかできなかった。
死神が再度起き上がる。
「本気であいつんとこ行く気か」
暗雲立ち込める童顔を近付けられるのにも慣れた。冷めた返事を返す。
「何度も言わせないで。再戦に行くのよ。私は裏切ったわ。女としてはもう顔向けができない」
「その理屈おかしくねえ?何故自分から死にに行くような行動をとる?」
納得いかないとばかり噛み付いてくる。
「貴方本当に何も聞いてくれていないのね」
隠す事柄など既に皆無。迫りくる男に正直な答えを与えてやる。
「私にはもうそれしかできないからよ」
彼の男の話題が出るとセレスの目は少々光を帯びるが、翳りある表情ではその光も哀しく揺らめくだけだった。
諦めが支配している。
「女として、なんて。どうするのよ。ただでさえ女として見られてるかすらわからないのに。
 こんな汚れた体と心で。違う男と同じ屋根の下で暮らして。こんな女が、どんな顔して……会いに行けばいいのよ」
言葉の一つ一つが痛々しく室内に響く。
自嘲の苦笑は壊れて歪んでいた。
「私が、あの最初の三週間、どうして必死で我慢してたのか忘れたの?
 あの人を呼ばれて、あの人に貴方と同じことをされるのが怖かったからよ。
 それだけは――――それだけは、どうしても嫌だった」
苦しげな台詞の最後には、届かぬ想いが切なく滲んだ。
そこに矛盾した言動を続ける現実が更に追い討ちをかける。
自分を騙し陵辱した男との生活に甘んじ、同じソファに座っているなんて。
未だ、どこか堕ち果てた己を受け入れられなかった。
何があろうと生きなければ。解放された直後にいだいていた強い思いは掻き消えていた。
心のどこかで、この無様な二度目の生を早く終わらせてほしいと願っている。
「でも本当は……」
押し黙ったエルドに向け、薄く涙色をした言葉が零れた。
「もうわかってる。今更行ったところで相手にもされないって」
彼が自分に焦がれる獣の部分は当の昔に息を潜めてしまった。
殺す価値もないほど落魄れた。
「それでも、行きたいの」
再会できてもちらと一瞥されるだけで、きっと無視される。
確証はない。ただ、そんな気がしていた。
吐き出し終えるとしばらく静寂が漂った。
「……まだ駄目なのか」
いたたまれなさにエルドが俯く。
未だ許されていない現状と、未だ大して自分の方へ傾いていない女心を思い知ったらしい。
「一年も経っていないのに癒えるわけがない」
そう答えて目を伏せる。
後遺症は続く。
苛烈だったセレスの存在はずいぶんと儚げになっていた。
59女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 08:51:03 ID:C340fP7A
だがエルドは当然のごとくそれを受け入れず、言う事を聞こうとしない。
「どうすりゃいいんだよ」
何とかして自分の方に興味を向けようとする。
甘い甘い冬薔薇の匂い。とろけるような、振り払って掻き消したくなるような臭い。
次の瞬間、感情任せに強く抱き締められた。女の整った眉が歪む。
「何でもするっつってんじゃん。なあ言えよ」
「エルド苦し」
「何処にも行くなよ」
「エル」
そして最後にひときわ強く、壊れそうな程強く抱き締められた。
「俺を捨てるなよ」
あまりにらしくない切望に悪寒が走った。
普段の脅迫まがいの台詞とは違う意味で堪える懇願だった。
言の葉だけでなく、魂で呼ばれた気がした。
どうやらもう、そこまでの存在になってしまっているようだ。
一体誰に行ってるの、そう問い詰めたくなるのは、幼いエルドがどうしても振り向かせたかった彼の女がちらつくから。
我儘で、身勝手で、自分のやりたいように生きた女。
正反対と言ってはいたが、実は似ているのではないかと思う――――幼い頃、女神であるはずだった女に。
重い。今のセレスには重過ぎる。いつかまた潰されることを予感した。
もう少しばかりは大人な男なのだと買い被っていた。
何もできない。されるがまま、ただ拒絶をこめてぎゅっと目を瞑る他ない。
いくら求められてもセレスには応えることなどできなかった。



真冬。
窓の外は雪が降り続き、静かに積もりゆく。
最早枯れ果てるのを待つだけの寂び返った港町からも煙突からはまだ幾つかの息が上がる。
その息も近いうちに全て死に絶え、幽遠の地は真っ白にかき消されるのだろう。
港町は海の向こうの廃都に追随し、滅びの運命を受け入れていた。
今後はアルトリア、ヴィルノア、クレルモンフェラン等の進出が予想される。
終焉した国の元王女は無表情で薪をくべた。
風の噂でヴィルノアにはローランドがいると聞いた。
遠い昔、雷鳴と称された将軍は今後どのような道を選択し、進んでゆくのだろう。
これから軍事面強化で急速な発展が予想されるヴィルノア。
他にも誰かエインフェリアがいるのだろうか。
「……」
今は、考えない。
戦、戦、戦――――――
遠い昔、大きすぎる理想をいだき、波乱の生涯を送った女は気付いていた。
神の支配がなくとも人が人である限りいつの世も変わらないと。
だがこの取り残された地ではそれも関係のない話だ。
暖炉ではパチパチとはぜて炎が踊っている。その暖かな光に照らされて猫達がぬくぬくと寝転がる。
新入りの仔猫はあっという間に大きくなってゆく。
だがまだまだ幼い。先住の猫に舐められているのが視界の端に映り、セレスの微笑を誘う。
猫達を見守るゆったりした時間を楽しんでいたら、闇から溶け出したようにエルドがすうと現れた。
「ただいま」
「おかえりなさい。何処行ってたの?」
返事はない。
髪に雪がちらついているので、外に出ていたのだろうか。
音無く近寄ってきたかと思うとそのまま口付けられた。
重ね合わすだけの丁寧で繊細な口付けは冷たかった。
気性が荒いくせに突然こういうことをしても様になるあたりは本当にずるい男だと思う。
「二人殺してきた」
その凍りついた唇が、いともさらりと残虐を報告する。
セレスの眉間に皺が刻まれる。
盗賊の類なのは詳細を聞かなくてもわかった。この死地を狙う輩は未だ絶えない。
「確認に……」
行動を起こそうとしたらソファに戻された。
60女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 08:52:06 ID:C340fP7A
「ほっとけ。はぐれもんみてえだったしな、心配ねえ。どうせ春まで冷凍だ」
凶悪な発言とは真逆に何度も優しく啄ばむ唇。
キスのうまい男だ。状況に応じて使い分けてくる。
離れるとともに薄く目が開いた。
「薔薇か」
香水の香りを言い当てる。
「お前に合うな」
香りよりも甘たるい唇が首筋を這う。
誘われているのがわかった。
「欲情したらそのまま襲ってくるのやめてほしいんだけど」
「じゃ拒めよ。ほんとに嫌がるのならやめる」
大きなため息は都合よく了解とみなされてしまう。
「ここじゃ嫌」
立ち上がろうとすると同時、身体が宙に浮いた。
「ちょっ!」
次の瞬間に抱き上げられているのを理解する。
「っとにいちいち注文の多いお姫様だ」
「降ろして。重いでしょ」
慌てるセレスを半目のままでにやりと嗤う。
「今更」
そのままギシギシと音を立てて階段をあがる。
寝室に持っていかれ寝台に降ろされると、もう一度唇が押し当てられた。
口封じのつもりなのだろう。キスを続けながらどんどん事を進めてゆく。
「冷た……っ」
手が冷え切っている。
吐く息が白い。
首筋にいくつも口付けが落ちる合間、衣擦れる音がする。
「お」
邪気を帯びた死神の表情が少しだけほころんだ。
押し付けておいた黒の下着が顔を出したからだ。
「しつこいんだもの」
着用している女は渋々といった感じである。
ほぼ紐でできた下着は申し訳程度に隠すだけで、布の面積は非常に少ない。
「下品すぎるんだけど」
頬を染めて睨みつけるセレスに鼻をならす。
「何だよこの程度。ケツ丸出しで戦ってたの何人かいたじゃねえか」
相変わらず悪態にも最悪に品がない。
「丸出しじゃないわよ失礼ね。あれはああいう軽装構造の防具で……」
「つーか他の女なんてどうだっていいんだよ」
「………」
自分で話題に出しておいてこの締め方である。
手中の女は納得いかない顔をしていたがお構いなしに抱き寄せ、掠れ声で嬉しげに囁く。
「つけてくれたんだな」
困り顔のセレスにもう一度口付ける。
「だって勿体無いんだもの。春になったら二度と着ることないだろうし」
過ぎた期待をいだかせないよう軽く釘を刺すと、
「そうだな、飽きてるだろうしな。また新しいの買ってくる」
真っ向から撃ち返してきた。つくづく口の達者な男だと思う。
衣服を取り払い床に落とすと、本格的に甘い雰囲気を漂わせてきた。
唇と指が絶え間なく柔肌を蠢く。
「ん……ふ…。あ…っ」
下着をつけたままの喘ぎはまた格別に悩ましい。
「すげーいい。エロくて。剥ぎ取りたくなる」
「剥ぎ取るくせに」
呆れ顔の指摘に冷たく口角が歪んだ。
薄い布ごしに這う指が動くごと、女体がぴくりと反応する。
指どおりの良い紅色の糸をすうっと一度梳き、肌を絡め、抱き締めてきた。
61女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 08:53:16 ID:C340fP7A
無音。
時折の衣擦れと喘ぎ以外は。
二人の関係はずいぶんと変わった。
手首を押さえ付ける手は指を絡め、口付けも甘く熟した。
女の眉間に唇が落ちても皺がよらない。
この男と繋がっているなんて昔のセレスなら仰天するのだろう。
ぼうっと意識を霞ませたまま甘い波に身を任せ、揺蕩う。
何故振り払わない。
何故振り払えない。
怖い。それもあるが。
もう誰もいない。
答えは出ていた。
結局、互いに孤独なのだ。
「んん……」
歯列をなぞり上げ、口内を深く貪ってくる。
銀糸をひいても行為は終わらない。
されるがまま、熱されてゆく吐息を漏らし続ける。
「また地味なの選んでんな」
不意の指摘。手首を彩るアクセサリの輝石が小さくきらめく。
あれほど拒絶していた贈り物を、セレスは今ひとつ身につけていた。
「これは……」
セレスにとっては大量の贈答品への申し訳ないと思う配慮でも、エルドにとっては偉大なる進歩だった。
豊かな双丘に嬉しげに埋もれてくる。
布越しでも硬くなっているのがわかる乳首を摘み、押し潰した後、ゆっくりと舐めあげられた。
「はぁ……っ」
快楽に震え、仰け反る。
「エルド…」
頬に手を添えると、その手を取られ、指を口に含まれた。
男の舌が指を濡らし、ぴちゃぴちゃと淫猥に水音を立てる。
変に卑猥だった。
たかが指への刺激なのに、どうしてもぞくぞくと肌を粟立たせてしまう。
舌の赤で視覚まで犯されているような気になる。
本当に。
今でもたまに信じられなくなる。
この死神と、こんな関係になるなんて。
「わ、私もする……」
のまれそうになる危うさを己に感じ、うわずった声でぽつり呟いた。
それを聞くとエルドは軽い口付けの音を立てて唇を離した。
「いいけど。じゃケツこっち向けて跨れ」
直球である。
赤裸々すぎる要求。自分から申し出たとはいえ、セレスは露骨に嫌な顔をする。
「…私がしたいんだけど」
「そりゃ奇遇だな。俺もしてえ」
「……」
抵抗があった。
下半身を預け、すべてを曝け出すその体勢が、何よりの羞恥を誘うことを知っているからだ。
「…………手加減してよ?」
「さあ?」
絶対する気がない。
「もう……」
だが言い出したら聞かない男であることは承知している。
渋々ながらも言われた通りに跨ると、位置を微調整されて行為が開始された。
もう恥ずかしさなどに構っていられない。
見慣れてしまったそれに、やり慣れてしまった指を添え、舌を這わす。
指先で刺激して……先端を…それから……
何とか同等に感じさせようと一生懸命である。
一方のエルドは余裕綽々で、なだらかな腹と向こうに見える乳房の揺れをゆったり堪能していた。
62女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 08:54:21 ID:C340fP7A
「夢みたいだな。あの斬鉄姫様をのっけてしゃぶらせてんだから」
と、目前にある丸みを帯びた曲線を、つうと指で滑った。
淫らな五指は性技に長け、この女の感じる部分と流れを知り尽くしている。
「ん」
くすぐるように弄ばれ、つい腰を揺らしてしまう。向こうの方で嗤い声がした。
ふと物悲しい気持ちになり、行為の合間にぽつり呟く。
「……セレスじゃ、ないのね」
斬鉄姫ばかりを強調されると玩具のように感じてしまい、少々消沈する。
それに気付いたのか、相手は手管を代えてくる。手の甲と腕で局部をゆっくりと撫でつけてきた。
「ひっ」
「セレス」
掠れた呼び声は真摯に求められたようで、妙に耳に甘かった。
広い面積を使ってゆっくりと愛撫される。冷たい腕に起こされる摩擦。過敏になっている肌にはたまらない。
「あっ、ぁあ、待っ……ひぁあっ!やぁっ」
それがやっと終わったかと思うと、次は秘裂を下着越しに指で弄んできた。
「あ……やめ」
「――――全部だ。ふざけんなよ。俺が捕らえて連れ出した戦利品なんだからな。あの時からもう俺のなんだ。
 セレスも。斬鉄姫も。戦士の部分も。女の部分も。どの部分も、全部、俺のだ」
俺様発言を区切りながら一つ一つを強調しつつ、布の隙間から指を紛れ込ませてくる。
あまりの責め苦に反論の余地がない。
「くぅ…っ、ん……」
ぐちゅ、ぴちゃっ…ぬちゅ…
己の水音が卑猥だった。
熱い蜜がつううと太ももを伝っていくのがわかって羞恥で真っ赤になる。
相手は隙を与える気がない。
「んんっ」
耐え切れず腰ががくんと落ちてしまい、男の顔面にぎゅむっと押し付けるような形になった。
「ひあっ!!」
咄嗟に悲鳴をあげて慌てて跳び起きる。
それでも相手は嗤っていた。
余裕の差につい苛立って、
「あんまり調子にのるなら今度は押し潰してやるんだから」
と軽く脅しつけてやったが、
「殺れるもんなら殺ってみれば」
そんな物騒な言葉を簡単に口走る。
やはり口では敵わない。
「くたばるまで誰の手にもかかってたまるかと思ってたがよ」
「あっ」
むくれていたら、脇から片胸を掬い上げられる。そのまま乳首をつまんで愛撫してきた。
「どんな間抜けな死に様でもこの際しょうがねえ」
「ちょっ、ちょっと」
思わず抵抗しようとしたら、もう片方の手に桃尻をぐっと掴まれた。
膝立ち状態だったので見事にバランスを崩し、エルドの両肩に手をかけて寄りかかる格好になってしまった。
抱きつかれた男はすかさず女の耳元で嗤う。
「俺はお姫様を手に入れたんだからな」
同時に弄ぶ指の動きが卑猥に加速する。
「ひぁっ!あっ、やあぁ……!!あっあっん、んんっ」
己でも信じられないぐらいビクビクと反応し、喘ぐ。
いじられているだけで達してしまいそうなのを認めたくない。
「なあお姫様――――」
更に口説き文句を発しそうな雰囲気を察し、懸命に振り払う。
「待ってっ、その、さっきの続きを……」
「まだやんの?」
「やるの!」
半ば意地になっている女の姿を見て、完全に上手の男には薄い冷笑が浮かぶ。
「いいけどよ」
白布の上に横にされると、相手も逆向きで横になる。少し楽な体勢でできるように誘導された。
63女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 08:55:25 ID:C340fP7A
「ん、く…ふ……」
側位で互いの性器を舐め合う。
自分だって毎晩この男の相手をしているのだからずいぶん上達したはず。
今度こそ、と意気込んでいたのに、
「うぅ……。ん、あ…っ、ちょ…っ」
見越した相手は最初から容赦してくれなかった。
臀部を鷲掴まれ、下着越しに局部に強く吸い付かれて思わず呻く。
結局はどんな体位でも敵うはずもない。
過敏になった肌では舌先で優しくつつかれるだけで飛びそうになる。
「ま…待って、私にもさせてよ……っ」
懇願したが、お構いなしに更に付け根に埋もれてくる。
「や……も、イっちゃ……」
内股にかかる髪がくすぐったい。
下着をずらした隙間から侵入してくる舌が、体内を我が物顔で蠢いている。
「ひっ、いやっ!あぁっ」
溢れる蜜をいやらしく音を立てて吸い上げ、ひくつく箇所から更に溢れさせる。
「あ、あっ。やあっ……も、…ルド、ばか…っ」
もうどうしようもない。
ぎゅっと握ったり歯を立てたりすると危険なのでそれを手離すしかなかった。
エルドはそんな気遣いも計算のうちで動いている。
懸命にやってはいるのだが、この性獣みたいな男には到底敵わない。いつも先に崩れ落ちてしまう。
「ほらどうした頑張れ」
調子に乗った男が嘲笑うが、
「がっ、がんばれって、あっあっ―――んぁあっ」
どうしたもこうしたもない。
手を離したらエルドがさっさと身を起こしてしまった為、手元にそれはないのだから。
「わっ、私がする…って……」
訴えても五本の指は女の下腹部から離れない。淫らにくねり、時折芽に触れて、容赦なく責め立ててくる。
ぐちゅ、くちゅ……とわざと音を立て甘い刺激を送り続ける。
必死に睨みあげるがシーツにしがみつくだけしかできない。
褥を彩る際立つ赤髪が艶かしく乱れ、闇夜に蠢く。
「んっ。ちょっ、ほんっ、んんっ!ああっ、あ…っ。――――…っ」
顎が仰け反ると同時、軽く達した。
息の荒れるぐったりした躯を解放される。
肩を軽く押されれば簡単に仰向けにされて、豊かな胸が軽く弾んでから落ち着いた。
無防備な濡れた瞳に、死神の口端の歪みが映る。
「ばか。最低」
むくれて罵っても、
「もっと蔑んでくれよ。そっちのが興奮する」
こう返ってくるので対処のしようがない。
「変態。変態。ド変態」
「ひでえな。本当のこと連呼されると傷つくだろ。せめて素直って言え」
「もう……っ」
戯言の合間にも肩ひものずれた下着から胸をもみしだいてくる。
いつもと同じことをされているのに淫らな下着をつけたままというだけで何だか気分が違う。
変に背徳を帯び、高揚してしまう。
「何でそんなに頑張ろうとする?」
「ん……だって…毎回っ、…私ばっかりっ、…なんだもの」
「そんなん気にすんなっつってんのに」
首筋からくっくっと忍び笑いが漏れる。
「何よ」
「ほんとお前おもしれーな。追っ払いたい奴をよくしてどうすんだよ」
「だって……」
「それとも―――機嫌よくさせとけば春には満足して出て行くだろうって算段か?」
挑発的に問われたので、
「そうよ」
はっきりと答えた。即答に相手は舌打ちする。
「春になったら本気で拒絶するから」
64女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 08:56:29 ID:C340fP7A
「へえ」
エルドは自分に都合の悪い意見を決して真面目に聞こうとしない。
「……嫌いなわけじゃないのよ。またこじれないうちに終わりたいだけ」
「何だよそりゃ」
「私達は近いうちにきっと駄目になるわ」
「それはお前の願望だろ」
大事な話をしているのに、わざと流そうとする態度がセレスの癇に障る。
赤髪を撫で付ける手首をつかみ上げて鋭く言い放った。
「貴方まだ何か隠してるわよね」
それはまさに抉るような指摘だった。
童顔から一瞬で笑みがかき消える。
まさに図星、といった感じだった。
「やっぱりそうなのね」
硬直する相手から手首を離してセレスは嘆息する。
「それがどんなことなのかは私にはまだわからないけど」
明らかに動揺している幼い顔立ちの頬に手を当てた。
「こうしてることすら後悔して、憎くなること。――――ねえ、だから後ろめたくてこんなに優しいんでしょ」
エルドはしばらく面白くなさそうに黙りこんでいたが、頬に当てられた手を取ると、
「だったら何だ。隠し事の一つや二つお前だってあるだろ?」
いつも通り開き直ってきた。
「まー何でもいいぜ?何があろうが何に気付こうが、こっちは放すつもりなんざ微塵もねーからな」
関係ないと言わんばかりに再度迫ってくる。
「エルド」
「後悔なんてさせねえよ」
勢いのせいで互いの額がこつん、小さく当たった。
「……誰が獲りにきやがろうが、絶対に渡さねえ」
狂気を孕んだ決意。
取られた手に音を立て口付けが落ちた。
「なあ、もう俺のこと怖くねえんだろ?」
返事をしない女は悲しい顔のまま視線を逸らせた。
いくら女の体を手繰り寄せても男はその向こうへ行けない。
「貴方の口にすることは全部嘘よ」
「何故?」
ぐいと顔を近づけられると逃げられない。
「なあセレス、何で嘘なんだよ」
何度も何度も愛しげな掠れ声で名を呼ばれる。
「セレス」
「やっ」
気を抜いていると頷いてしまいそうになるのが怖い。
本当に、ただ甘いだけの人だったら、どんなに良かったか。
腹を撫でていた手のひらがそっと下腹部に再降下する。
「や、エル、だめ……」
少量の怯えを振り切られた。既に解けかけている下着を押し退けた指が一本、茂みをかき分け、濡れた体内でそっと蠢く。
「あ」
更に一本、じゅぷ、と深く飲み込んで卑猥な音を奏でた。
「や…も……っ。あん、あっ」
躯は勝手に指の蠢きに合わせてびくびくと痙攣する。
本当に上手な男だ。感じている演技など一度もしたことがない。
白い世界。
白い空気。
吐く息が更なる熱を帯びていく。
すっかり準備のできた肢体から下着の紐を解き、用済みとばかりに剥ぎ取ると、裸体をぎゅうと抱き締めてくる。
「嘘なんて言うなよ」
「あぁ、あっ、…ぁ」
もう平常心など遠い向こうに追いやられていた。
熱い滾りの先端が挿入される。
これからされる行為を思うとどうしても高鳴ってしまう。
65女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 08:57:32 ID:C340fP7A
「あっあぁ、はっ。ちょっ…と、…待って……あぁっ」
身じろぎすら摩擦となって快楽に変わってしまう。
「あん、はっ、あん……や…っ」
相手はお構いなしに押し入ってきて腰を使う。
絶頂だと思っていたところよりさらに高みへはね飛ばされようとしている。
「なん、でっ、…あっ、んんん……」
疑念も反撃も許されない。
体を繋ぐことで、心まで繋ごうとしている。
頭の内側から広がりゆく快楽に目が眩む。
この男に触れられ、責められていると、何処から声を上げているのかすら自分でもわからなくなる。
甘みと切なさが混ざり合い、突かれる度に溶かされてしまっている。
認めたくないが、以前よりずっとリラックスして、存在を受け入れているせいもある。
「んむっ……」
口付けられると腰に合わせて軽く咬まれ、吸われて甘たるく高められる。
もう一度達したが、相手は未だ挿れたままで硬度を保ち、至極冷静だった。
息も絶え絶えに気持ちを伝える。
「はあっ。はあ、は……エルドっ、いい…、すごく……」
「本当に?」
汗を浮かべる額への口付けがそっと唇に降りてきた。
「うん……」
完全に蕩かされた状態で、照れつつも素直に頷いたのに、
「お前はハメられながらのキスが好きだよなぁ」
また余計なことを言う。
ジロリと睨むとにやける顔をそらされた。
「二人でよくなりたいって思ってる?」
火照った頬のままでもう一度頷いた。
「ふうん」
吟味するような表情の後、再度唇を奪われた。
「ん…」
銀糸をひいて離れ、音を立ててもう一度。離れては吸い付き、もう一度。
紛うことなき悦懌が広がる。
そうして十分すぎるほど蕩けたのを確認すると、
「じゃ、動いて」
セレスの希望を汲んだらしく主導権を差し出してきた。
長めの啄ばみを終えてから、やりやすいよう少しだけ腰を浮かされた。
下になっている女は求められた通りにゆっくりと律動を開始する。
穿たれた楔が自分の中で更に熱く滾っているのを感じてぞくりと粟立つ。
氷のように冷たい男なのに、熱くて熱くて甘くてしょうがない。
そんな死神との褥。
できる限り激しくしたいと思いつつ、なかなか思うようにはいかない。
その間にも男の舌と唇が色づいた肌を彷徨う。
「ん……っ」
「そのまま」
尖った乳首を含み口内で何度も舐め上げ、同時に火照った肌を容赦なく撫で回す。
とてもではないが耐え切れない。
「ああっ、あぁあぁ、やめっ、ああっ……」
切なげな甘い喘ぎも、紅潮していく頬も、セレスの側ばかり。
「すげえいい。もっと動いて」
声色にからかいが雑じっている。どうも主導権を渡したわけではなかったようだ。
圧倒的な経験の差がやっぱり悔しい。
「あん…くっ。はぁっ、ん」
思惑通りなのか、意思とは裏腹に腰が止まらなくなっていた。
気がつくと勝手に達す寸前まで昇ってしまっている。
「ごっ…ごめんなさ……っ、私、もう……っ!」
「もう、何だよ?」
「ひゃぅうっ!!」
真っ赤な芽を突然潰されてあられもない嬌声が漏れた。
完全に面白がっている。
66女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 08:58:43 ID:C340fP7A
その後も茂みを撫でつけられ、芽の先端を摘まれた愉悦に必死で抗ったが、抵抗も虚しく達してしまった。
「うぅ…はぁっ、はぁっ、…」
痙攣する肢体から玉の汗がつうと滴る。
一夜に何度昇らせる気なのだ。
「意地悪しないで。これでも一生懸命やってるのよ」
生理的に潤んだ双眸で睨み上げ抗議すると、
「知ってる」
笑いながら優しく頬ずりされた。
「かわいい女だ」
やがてセレスの昂ぶりがある程度鎮まると、彼女の脚を曲げその間に割り込み直して体勢を整える。
「じゃ、いくか……お姫様」
最後にひときわ高く昇るつもりなのがわかった。
抱き寄せられたので背中に腕を回す。
男の腕の中。恐怖はずいぶんと遠のいた。
同意を確認すると、ゆっくりと律動が開始される。
「ああっエ……エルド、エルド…っ」
ずちゅずちゅっ、と己に出し入れされるそれの感覚はあまりにも熱く、吐息の乱れを呼ぶ。
「そ……いう声で名前…呼ばれるの、…初めて」
締め上げられているのだろう、苦しげな喋りをする男から嬉しげに頬をよせられた。
少しだけ驚く。
気持ちいいのかな、とつい目を細めた。
いつの間にか、相手が感じているのを素直に嬉しいと思えるようになっている。
縋り付いて更なる欲望に応えた。
セレスは己ばかり翻弄されていると信じ込んでいるが、実際は違う。
上気して色づいた肌。閉じた瞳に、重なる長い睫毛。
凛と際立つ美しい女の多い血筋。
瑕はあっても、薔薇の花びらが幾重にも広がるようなあでやかさ。
艶咲き潤う姿は交わる男の理性を激しく揺さぶり、狂わせる。
「んむ……」
支配欲の滲む乱暴な口付けが終わると腰をがっちり固定され、後は容赦なく突き上げられた。
「あああぁああっ!!」
音源はいっそう甘さを増し、喉で震え、男の耳に波を注ぐ。
ほんの少しでも心を許されたことで、男にはそれがより強く感じられていた。
「はあっ、はっ。んんっああぁっ!ひぁっ!すご…激し…っあっエル…いい、のっ、エルド……っ!!」
息継ぎの合間に快楽を十分享受していることを伝え、敵わずとも必死で自身も揺らし、応え続ける。
愉悦が全身をくまなく迸る。
駄目だ。
もがけばもがくほどこの毒沼の底に沈んでゆく。
「だめっ、もっ……」
限界を知らせるとひときわ大きく貫かれた。
「――――…」
世界が真っ白になった。
昇りつめた後はずりゅっと速攻で引き抜かれ、膣外すぐに熱い精を放たれた。
「あぶねぇ……」
互いの荒い息の合間、がっくり凭れてきた男から安堵の呟きが聞こえた。
白濁で汚されるのがまったく嫌ではなくなっているのに気付く。
しばらく抱き合ったままで事後を過ごす。喪失感の余韻が以前と違い心地よかった。
「良かったか」
問われたので疲労困憊を隠さず頷くと、
「何でもしてやるからそろそろ許してくれよ」
狡い男はここぞとばかりに許しを請うてくる。
「俺はお前と2人がいい」
耳元で囁き、頬に柔らかく触れてくる後戯を始める。
囁く睦言が弛緩した心と躯の隅々まで響いてたまらなかった。
流されないよう何とか持ち堪える。
「お願い…エルド、もっと、いい子を探し……」
「好きな女抱いてんのが一番気持ちいいよ」
懇願を終える前に卑怯な言葉で撃ち返してくる。
67女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 08:59:50 ID:C340fP7A
こんな調子のまま、二人の関係はいつまでも埒があかなかった。
「悪りいけど」
ぎゅっと目を瞑る女の頬に落ちる唇は優しく、柔らかい。
「失くしたくない……」
セレスは溶かされかけていた。
でも、記憶が苛む。
心の奥底で今もじくじくと痛む、存在の全てに刻まれたあの一ヶ月の悪夢が這い出てくる。
苦しみが屈辱が、傷を与えた主を拒絶する。
受容を言葉にしようとした口が自然に閉じてしまう。
どうしても許せない――――



消音。
あるのは自然界の波音だけ。
行為を終えたけだるい身体を横たえて、セレスはうとうと船を漕いでいた。
「眠るなら背中向けるな」
「ん……」
「こっち向けよ」
肩を掴まれ乱暴に逆を向かされた。
「ちょっ」
「さみぃ。離れるな。俺が寒がりなの知ってるくせに。鬼」
目前の死神が真面目に怒っている。
眠気を吹っ飛ばされて怒りたいのはこちらであるというのに。
「もー……」
「離れるな」
ため息をつくセレスに追い討ちをかける。
「ここにいろよ」
唇に小さな熱を灯されると、毛先で弱くはねている茶色の髪が顔にかかった。
「俺を拒むな」
掠れた呟きと共に抱き締められると何も言えなくなる。
セレスはとにかくこれに弱い。
毒を吐くくせに子供みたいにすり寄って甘えてくる、これに。
加えてこの容姿。
罠に嵌ったセレスは心底弱り果てている。
この男は、全力でセレスを翻弄し、揺さぶりをかけている。
背が小さいことや童顔を指摘されると憤怒するくせに、利用できる時はしっかり利用してくる。
――――ほんと、したたか。
「もう」
それでも振り払って体を起こすと、追うように体を起こしてきて、二人の体を毛布でふわりとくるむ。
優しいようでいて、ただの束縛。
刻印のように頬に口付けられた。
この男はこうしていれば手中の女が自分を絶対に裏切らないと確信しているのだ。
性格とは縁遠いあどけない輪郭を描く男がセレスの真横にいる。
邪気を含むきれいな横顔は、気のせいかもしれないが、以前より少しだけ優しさを帯びていた。
「……わがままな男ね」
毒づくと、
「今更」
にやりと笑われた。
「あのねえ……」
セレスの小言は更に距離をつめてきた童顔に阻止される。
「けど何でもいいってわけじゃねえぜ。お前の温度と、声しかいらない」
歯の浮くような台詞と甘い雰囲気を醸して、今夜も諦めることなく口説きにかかってきたからだ。
「離して」
抵抗して身じろぎをしたら、
「離さない」
更に深く捕らえられる。
「お前がすべてだ」
68女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 09:01:25 ID:C340fP7A
体温と共に、温もりに飢える魂の声が静かに伝わってくる。
こういう男にありがちな陰惨で痛々しい過去も、不条理に存在を踏み躙られる記憶も
愛されなかったことも守られなかったことも
何もかも
「春がきたら、丸一年ね……」
空気に流されそうになったので慌てて話題を変えた。
「いろいろあったわ」
「それ話逸らしたつもりか?」
下手くそな抜け出し方では案の定相手は不貞腐れる。
舌打ちして口説きを中断し、愚痴をこぼし始めた。
「ったく、糞みてえな人生だぜ。前も、今も。いいことなんて一つもねえ。
 お前の妹みたいなご立派な人間作った残りカスでできてんだろうな」
「……」
また妹に文句を言った。最早常套句と化している。
そう何度も口にするのは、何だかんだで妹をしっかり覚えている、という証なのに。
確かに実妹は色々な意味で強烈だった。もっとも姉も人のことなど言えないのだが。
でも本当のフィレスのことなんて誰も知らない。何を考え、何を感じていたかなんて。
もし知っているとしたら唯一人。夫だったあのパルティアの王だけだろうとセレスは追憶する。
口を尖らす死神の横にいると何となく予想がついた。
多分エルドが妹を毛嫌いする部分は一つ。
対峙する相手を真っ直ぐ前を見据える、あの淀みない目。あれが苦手なのだ。
人は平等などではない。
最初から恵まれた位置に産み落とされたような者もいれば、いくら這いずり回っても毒沼の底から抜け出せない奴もいる。
最初から誰かに嵌められたような人生を押し付けられたと、エルドはそう頑なに思い込んでいる。
邪悪さに伴う幼稚な一面。
「……」
最近セレスには何となくわかってしまったことがあった。
姉妹のせいか、歴史上セレスは妹フィレスと比較されることが多々ある。
彼女に対して劣等感をいだいていたなどという説もあり、何故そうなると人々の想像力の豊かさに驚く。
確かにフィレスには負けた。完敗である。
だが妹とは互いにわが道を行く、な性質。年も離れているし、とる武具も違う。あまり比較対象にしたことはなかった。
ただ、現実は違う。
それらを前提としてこの男は私の味方だと言っている。
――――言わせているのは、やはり私なのかもしれない。
散々迷惑をかけたフィレスに、さらに申し訳ない気持ちがわく。
「嫌いなもんばっかだ。何もかも。結局あの糞女神だって散々使役して捨てやがっただけじゃねえか」
そんなセレスとは真逆、隣の男からは怨念こもった唸り声が漏れた。
女神がシルメリアのことを指しているのはすぐにわかった。
「あの女も。どうかあのお二人をそっとしておいてあげてください、お願いします、だってよ」
「え……」
名前を聞かなくても何となく察することができた。
アリーシャだ。
あの女神と王女が自分のことを気遣っていてくれていたのだと思うとじんわり心があたたかくなるが、
「ケッざまあみろだ……くたばっちまえば元も子もねえ」
エルドの残酷で凶悪な様子を目の当たりにすると余韻に浸る暇もない。
「ざまあみろって……エルド流石にそれはないんじゃない」
「延々と好き勝手使いやがったくせに。死ぬ程嫌いな男に死ぬ程欲しい女あてがいやがって。そんで俺にはなんも無しだ」
最早その独白内容は度を越えた逆恨みだった。
思考回路のねじれを感じる。
この男には世界のすべてが敵なのだ。
手中の女以外は。
「エルドやめて。怒るわよ」
叱られて大きな双眸がぎょろり、怒気を纏うセレスを射る。
咎められてもここで退くような男ではない。
彼女の様子を嗤い、口角を歪めてぐっと迫ってきた。
「そうだ。怒れよ。そうやっていつも、お前がその度に俺をたしなめればいいんだ。ずっとな」
勢いのまま押し倒される。
69女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 09:02:41 ID:C340fP7A
「やっ、ちょっと」
驚いたが毛布にくるまっていて逃れられない。
組み敷いた死神はもがくセレスを楽しんでいる。
逃れられないのを確認するかのように。
「生き残ってくたばるまでの二年間何を考えて過ごしてた?」
「………」
答えずに睨みつけてもただ嗤っているだけ。
「……あなたこそシルメリアと生前、何を契約したの?」
「さぁ?」
互いに知りえぬ互いの本心。
「俺のものになるなら教えてやる」
自分勝手を綴り続ける唇が首筋を這う。
「そうだ……」
そしてぼそりと呟いた。
「後悔なんて誰がしてやるか」
「え?」
今度は何を言い出したかと思ったら、死神は一転、表情を濃い闇に沈めていた。
「お姫様は夢を見すぎなんだよ。あんな戦闘狂と一緒になったところでそうそう上手くなんていくもんか。
 三度の飯より暴れてえ糞野郎じゃねえか。俺が連れ出さなきゃ今頃お前は骨になってたに決まってる。
 そうだろ。ぜってーにそうだ」
セレスにというより、己に言い聞かせるような言い方だった。
「畜生――――何であんな野郎にだけ。なら俺にだって」
ついていけない。
理解の及ばない男にきつく抱き締められ、ひらすらに戸惑う。
「俺にだって一つくらい、与えられてもいいはずだ」
セレスは暴走気味のエルドの心境がわからず、ただされるがまま、届かない天井をずっと見つめていた。
独占欲の塊。
手元に堕ちてきた宝物を手放す気などさらさらない。
「俺は別に、多くなんて望んでない。大事なものなんて一つでいい」
声が突然鋭さを失い、優しくなった。
束縛を緩め頬を撫でると、
「ずっと欲しかった」
確定するかのように重く呟く。
「……俺のものだ」
その一言には普段より多めに狂気が混じっていた。
「お前だって悪いんだぜ。あの日諦めるつもりだったのに、あんな目で縋るから」
身勝手とわかっているのに、顔を背けられない。
見つめられても真っ直ぐ過ぎて受け止め切れない。
「わかってる。別れたらあっという間に飛んでっちまって、手が届かなくなるんだろ」
終わり無く続く求愛にひたすら耐え抜くだけの時間。
「だったらずっと捕らえとくしかねえじゃん」
「エル……」
唇が接触しようとした瞬間、ギイ、と扉が音を立てた。
二人ともぎょっとしてドアに視線を奪われる。
その先には。
「ニャー」
暖炉の火が消えたのだろう。あたたかい場所を知っている猫達がのそのそ入室し、寝台にあがってきた。
「ったく」
邪魔が入ったことで張り詰めた空気が緩む。
舌打ちと共に漸く束縛が解かれた。
解放されてほっとするセレスに仔猫が擦り寄り、甘えてみゃあと鳴いた。
「おい殺すぞ。俺のだ」
「もう、馬鹿言ってないで。そろそろ寝ましょ。ほら、今夜は冷え込みそうだし夜着を」
渾身の口説きを中断された男はさも面倒臭そうに口を尖らせる。
幼い顔立ちで、子供みたいな目をする。
計算なのか素なのかわからない。
着替えが済んでからセレスも諦めず、もう一度別れを切り出した。
70女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 09:03:48 ID:C340fP7A
「ねえエルド……私のような女が言っても説得力ないのはわかっているけど、やっぱり、心に別の人がいるのに他の男と永久を
 誓うなんて、私には……」
「構わねえ。いるなら置いとけよ。そのうち追い出すから」
台詞さえ最後まで言わせる気がない。
兎にも角にも強引である。
「エルドお願いだからあまり何度も言わせないで。私達は春になったら……」
「ずっとお前と同じモン見てていいだろ」
「エルド!」
「俺はもう一人でいなくてもいいんだろ?」
いくら声を荒げても、腰を抱かれては逃げられない。
いや、最初から逃げ道などない。
手をとったあの日から。
「俺の太陽は明日も昇るんだろ」
「やめて」
「セレス」
「ごめんなさい……」
「他には何もいらないって言っても?」
「……」
決して頷かない女に、相手からも、もう数え切れないくらいの溜息が零れた。
少し束縛が緩まると逃げるように寝台を離れる。
身の置き場がないのでそっと窓を開けてみた。
いつの間にか雪はやみ、闇の海原が広がっていた。
ただ静かな黒い海。壊れた故郷も闇に沈んでいる。
死神がそっと横に立った。
窓辺に佇んでいると、二人きりで海の真ん中、小舟で揺らめいているようだった。
「世界の果てって感じね」
「だからよ、その世界の果てから二人でとっととどっか旅立とうぜ」
誘われても首を縦に振る気などない。
「一人で行って頂戴。私はもう何処にも行く気はないわ。……ここが私の終わりの場所よ」
きっぱり断って、冷気の中で白い息を吐いた。
ここまで言えば少しは……と仄かな期待をいだく。
だが相手も並大抵の固執ではない。
「それじゃ俺もここにいる」
「エルド……」
「来年もその次の年も、ずっとお前の視界の中にいる気だから」
「エルド、お願いだからそろそろ」
「拒めよ。拒めばいい。いくらでも拒め。頷くまで言うから」
「貴方ホント無茶苦茶……」
反撃を受ける前に素早く口を塞いでくる。
重ね合わせるだけの口付けはこの状況下で逆に熟した甘さを感じさせた。
「……っ」
離れると間を置かずに頬を撫でられた。
「明日お前の気が変わって俺くたばってるかもしれねえじゃん。だから今伝えとく」
「いやっ」
振り払おうとしても絡めとられるだけ。
「傷つけたこと、本当に後悔してる。これからはお前の為に努力する。お前が隣にいることをずっと大切にして生きてく」
「やめて」
「だから俺を許して、俺を選んでくれ」
「無理よ……」
「ずっと俺を照らしていてくれ」
引き込まれたくなくてぎゅっと目を瞑る。
「笑えよ」
だが拒んでも拒んでもその童顔はすぐ近くにある。
逃れられない。
「……笑ってくれよ」

凍てつく冬が終わったら春が来る。
雪解けの頃、二人がどうなっているのか誰にもわからない。
71女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 09:04:57 ID:C340fP7A
言葉が果てた頃、猫達の待つ寝台に戻り、音の無い温もりの中で抱き合い、静かに眠りについた。
毎日が戦争なのに妙に穏やかだった。
心という名の天秤がゆらゆらと揺らめく。
戸惑って不安に包まれて、それでも一歩を踏み出そうとして。
ただ互いが融ける氷解の春を待っていた。



初めて関係を持った日から丸一年が過ぎた。
いや、持たされた日か。
その少し前に命日――――といっていいのか、アリーシャ達が消えた日があるはずだった。
生まれたての世界にいた為に正確な日時はわからない。
ヴァルキリー。その存在による強烈な重圧で、依代は少ししかその外郭を保てない。
最期をみとったわけではないが、彼女達が異世界で散ったのは確定事項。
彼女達の魂はどうなったのだろう。そして果敢にあの場に残った仲間達も。
時だけが流れていく。
最近のセレスは沈む一方だった。
アリーシャ達のこともあったが、明らかに選択肢を間違えたあの日、あの瞬間が近づいてきているからだ。
生き地獄の日々を思い出さずにはいられず、流石にエルドを受け入れられなくなっていた。
態度の硬化をエルドも察したらしい。二週間程空けると言って出て行った。
「ふわふわ」
別れ際、何気なくエルドの首周りを覆う白い柔らかな部分を撫でた。
春になると猫達の毛は陽光に促されてふわふわになった。
それに似ていると思う。
手を離すと、セレスは躊躇いがちに切り出した。
「エルド……春になったわ」
別れの合図だった。
しかし相手はいつものように優しく口付けてくるだけだった。
「……そのふわふわに笑顔で埋もれることのできる女の子をさがして頂戴」
何とかそう伝えたが、相手はへいへい、といとも簡単に流してしまう。
「今度の連休にまたディパンへ渡るんだろう。説得なんざ無駄だと思うけどな。それまでには戻ってくる」
当然のことのように平然と口走るのだった。
「一人で大丈夫よ……だからもうここには」
「ああそれから、『あの件』も考えとくから」
ぐっと詰まるセレスを半目で確認すると満足げに背を向ける。
流れは完全に死神のものである。
言いたいことだけ言い残し、エルドは青布をひらつかせながらさっさと出て行った。
肩を落とすセレスだけが残される。
浅はかだった。
賭け事、企み事。その分野でエルドに敵うはずもなかった。
春。
勝負の結果は完全にエルドの大勝である。
彼はセレスと接する以外にもゾルデという地域社会を利用して外堀から埋めてきた。
『あの件』というのは、春になったら希望者に弓の指導をしてやるという、実にこの死神らしからぬ約束である。
数百年経った世界でも彼の弓術の腕は褪せない。むしろ死地ではひときわ輝く。
雪が溶け出した頃、散歩中に、現在ゾルデ一番と言われていた射手がふんぞり返っている場面に出くわしたことがあった。
エルドは的をちらと見やり、あの程度でと聞こえよがしに嘲りを吐き捨てた。
そして憤慨する射手を退けると、的の中心をあっさり射抜いてしまった。しかも連射で。
実力者には人が寄ってくる。
そうでなくてもエルドは現在ゾルデを救った英雄ということになっている。
皆エルドが受講開始を宣言している春を心待ちにしていた。
若者などはもうすぐだと胸躍らせながら準備を始めているだろう。
ロゼッタ時代からわかっていたことだが、エルドという男は存外ちょこまかして働き者である。
動いていないと気がすまない性分らしい。
人材としては申し分なく優良な存在なのが非常に小憎たらしい。
だが、セレスにとって最も困る事実はそこではなかった。
エルドは明らかに努力している。
人と話す。人を助ける。切れそうになっても我慢する。計算ずくではあるが、それでも。
72女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 09:51:40 ID:C340fP7A
死ぬ程殺したいはずのイージスとの衝突も避けるようになっていた。今では逆にイージスが困惑している。
地域に溶け込むように、セレスとこれからもずっと一緒にやっていけるように。
心を入れ替えて……とまでは流石にいかないが、とにかく頑張っている。
ただ愛する女と共に在る為だけに。
あまり…いやかなり部下には慕われていなかったとはいえ、将軍職についていただけの統率力も備わっている。
この死地にあの弓闘士はもはや不可欠なのだ。
現実を再認識すると重い溜息に変わる。
わかっている。状況はわかっているのだが。
二週間と言わず、約束を破ってもいいから、そのまま何処かへ流れていってくれないだろうか。
やはり、ついそう思ってしまう。
春になって港町ゾルデは新たな展開を迎えていた。
ディパン崩壊の際、転げ出て行った若者達が戻ってきて、街の移転計画という吉報をもたらしたのだ。
この街にはもう先がない。まさに渡りに船な申し出。
一筋の希望に、ゾルデ全体が僅かながら活気を帯び、息を吹き返していた。
そんなわけでイージスも忙しい。セレスばかりに構っていられない。それはセレスも承知している。
ところが、定期的に話をしていないとやはり意見も食い違ってくる。
久々にゆっくり会話した際、セレスも移転先へ一緒に行くことを当然のように笑顔で話してきたのだ。
既に移転プランにがっちり組み込まれている。
イージス達を見送り、この地でひっそり生きて果てるつもりだったセレスはおおいに困っていた。
残留という意志を伝えても当然ながら許可されなかった。こんな所に若い女を一人残すなど確かに考えられないことだが。
何もかも中途半端なまま。
私は一体どうするのだろう。問題は山積している。
だがとりあえずは目の前の問題だった。
一年前の生き地獄を思い返す数日間を、何とか潜り抜けなければならない。
さてどうやり過ごすかと悩んでいると、ものすごい勢いで子供が二人、転がり込んできた。
エルドの大量虐殺により両親の敵を討ったという形になった、あの子供達である。
出て行くエルドから話の断片を聞いてセレスを心配し、泊まりにきてくれたらしい。
二人ともセレスとエルドを慕っている。特に少女の方は、すっかりエルドの信者になっている。
邪険にされつつも熱烈に慕っている。
結局エルドが殺し残した3人の男は捕らえられた数日後、イージスが感知し制止する余地もなく、
被害者の遺族や友人達による暴走で引きずり出され、凄惨な暴行により無残な死を遂げた。
現場では最後までこの少女の笑い声が響いていたという。
「ああ。くたばったか」
セレスから報告を受けたエルドは、干し肉の破片をちらつかせながら猫達を構いつつ、極めてどうでもよさそうだった。
「こんな先も未来もねえ閉鎖空間で皆ストレスたまってるとこだ。悪者なんか置いといたらそりゃそうなるだろな」
くくっと嗤う。
ぞっとした。
こうなるのをわかっていて、あえてほぼ無傷で生かしておいたのだ。
計算高い死神は固まるセレスの目の前で、放り投げられた餌を奪い合う猫達を見てにやにやしていた。
少女はどこか慕う男に近い感性を持っているのかもしれない。
エルドのお陰だと過剰なほど感謝感激している。
正直なところ、セレスは子供が惨殺を喜ぶような姿はいただけなかった。
だが両親を虐殺で失った少女の心の癒しになっているのなら、何も言えない。
やがて夜がくる。
少年は『今日は自分が見張りをするんだ』と気張り、一階で剣を横に毛布にくるまっているようだ。
セレスは少女と寝台で横になっていた。
ベッドに体温の高い子供がいると心まで安らぐ。
蜂蜜色の髪を撫でていると、少女は不意にゾルデの男達の話を始めた。
誰がかっこいいとか、誰が強いとか、頭がいいとか優しいとか。
とりとめもなく続く。
なかでも少女の一押しの男は、残念ながらセレスの大嫌いな青年だった。
外面がいいだけの浅薄で裏表の激しい男。
熱烈な告白を受けたが、断ってからは態度も一変した。
個人的には嫌悪感があるが、子供に優しいところはやはり評価すべきだろう。
少女の舌足らずな言の葉にのって、意識がゆっくりと先日起こった事件を回想していた。
73女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 09:54:07 ID:C340fP7A
見回りの最中。
街外れでたむろしている少年達がいた。
危険だから戻りなさいと声をかけると、全員が嫌なにやつきを浮かべながらセレスを流し見た。
この前振った男の弟が二名いた。睨みつける目が勝手な憎悪に燃えている。
いくら言ってもへらへらしていて一向に戻ろうとしない。
「……」
そんな時、ちょうどよく、満開の花を咲かせる木の上で寝ていたりするのがあの死神だ。
ダン!!という振動で木々が激しく揺さぶられ、花びらが舞い落ちた。
突然の衝撃音。一斉に原因に注目が集まる。
身軽な男は狭い木と木の狭間に足の裏を押し付け、危害を加えてもいい獲物達のご登場にひたすらにやついていた。
髪や肩に花がかかる。
無駄に絵になる整った顔立ちなのが逆におぞましい。
「あっ!このチビ……!!」
思わず叫んだ少年の一人の口を、仲間が慌てて封じる。
だがもう遅い。
それはエルドにとって最高のNGワードだ。
口角を更に歪ませると、低い声で下劣な台詞をのたまった。
「女もイかせたことねえクソガキどもが生意気にいきがってんじゃねえよ」
「エルド!」
「まぁいっぺん死んどけ」
何処から出てくるんだとつっこむ暇もない。
「手を出しちゃ駄目っ!!」
制止する前に事を起こされる。
すいと距離を詰めたかと思うと、硬直している少年の一人にどぎつい回し蹴りが炸裂した。
「エルドってばっ!!」
暴力を咎めようとしてもひらりとかわされて、次の獲物を蹴り倒す。
悲鳴をあげて逃げ出そうとした少年の背中にはとび蹴りが食らわされた。
最後の一人ががむしゃらに突っ込んできたが、エルドが軽く避けるとそのまま木に激突し、そのまま崩れ落ちる。
「クズどもが。わきまえろ」
「エルド……!」
「何だよ『手』は出してねえぞ。『手』は」
にやにやしながら無罪を主張する。
気絶した者、呻きながら泣いている者。全員無様に地べたに這いつくばっていた。
「やりすぎよ……!」
非難がましい視線すらものともしない。逆に冷めた目をして言い返してくる。
「どこが。お姫様はガキに甘すぎなんだよ。こういう類のガキは甘やかしてると無制限に調子づく」
「…言い切るのね」
「今ちょうど目の前に好例がいるだろ」
と、にやついたまま親指で自分を指す。
呆れるセレスの髪にそっと花を飾った。
若者達は家族や仲間に実際よりも大袈裟に被害を主張したようだが、とりあう者は誰もいなかった。
帰宅したセレスがどう謝罪するか頭を悩ませていたら、泣き崩れている少年達と家族が先に謝罪に来た。
ひたすらに頭を下げる姿にただ驚くばかりだった。
家族よりも、いざというとき守ってくれる武のある者に媚びておく。
卑屈なようだが現在の状況下では無理のない判断だろう。
結局、後からエルドが出てきて場を丸め込み、仕方ないから今回は許してやるという営業スマイルでまとめてしまった。
その偽物の笑顔に一瞬で魅了された年若い女達が言葉無く見惚れている。
まったく。
女を引き寄せたり味方につける能力は本当に大したものだ。
「だからさー」
耳元で響いた少女の高い声に、はっと現実に戻された。
「な、なに?」
慌てて聞き返すと、少女は何だか決死の表情である。
「だからね。お兄ちゃんは、あたしに頂戴」
それは子供故の大胆で唐突な申し出だった。
大きな瞳の奥に突然“女”が揺らめいて心臓がびくりと跳ねる。
なんと無邪気なのだろう。自分にはない行動力にある種感心してしまう。
そんなセレスの困惑の無言を拒絶ととったらしい。
74女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 09:56:33 ID:C340fP7A
「はー。だめかぁ」
答えはわかっていたような態度だった。玉砕した少女は大袈裟なため息をつく。
「…ごめんね」
「いーのいーの。それにだいたい、お姉ちゃんがいいって言ってもねー。お兄ちゃんがお姉ちゃんのこと大好きだもんね」
「……」
真実など伝えられようもない。
「偉いのね。先に私に言うなんて」
褒めると少女は神妙な顔つきになってしまった。
おかしな反応にセレスが不思議そうにしていると、
「………ごめんなさい」
と、上目遣いで詫びてきた。
「実はもう言ってみたの。大きくなったらお嫁さんにしてほしいって……」
驚いて目を見張った。
あの男にか。
最近の若い子は本当に大胆だ。
「で?い、言ったら?」
少女に先を急かすと、
「ごめんなさいって」
更なる玉砕を明かし、しょんぼりしてしまった。
哀れに思う一方、エルドがこの子に対し汚い言葉で拒絶しなかったらしいことには安堵した。
子供であれ好意を持つ相手には真摯に対応してと頼んだのを覚えていたようだ。
「大人の女にしか興味が持てない体ですって」
真摯すぎる。加減しろ。
「お姉ちゃんはいいなぁ……」
見上げる少女は心底うらやましげだった。
「お兄ちゃんにあれだけ大事にされたら、あたしなら死んでもいいのに」
返事が返せなかった。
会話が終わると少女は即うとうとし出してそのまま眠ってしまった。
息をつく。
罪な男だとつくづく思う。
明日も早い。心はもやつくが、少女に毛布をかけ直して共に眠ることにした。
戻って、くるのだろうか。
……くるのだろうな。
だがあちら側も、無茶をしてまた嫌われたり壊したりしたら元の木阿弥だということは重々承知。
お得意の強引な手口では踏み込めないといった感じだ。
何をしたか理解している故、何をしても何を言っても不安なのだろう。
こちらは惑わされるだけ惑わされて魂を削られているのだが……。
少女の眠り顔を見ながら溜息をついた。
本当に。
最初あんな乱暴なことさえしなければ、今頃気持ちに応えられて、普通に暮らしていたかもしれないのに。
私だって今は独り身だ。普通に扱っていてくれさえすれば、こんなことには――――
だがエルドにはセレスの都合など関係ないことなのだろう。
彼はセレスが頷かなくとも、これからもこんな調子のまま、なあなあでやっていくつもりだ。
「……」
本当に狡猾な男。
セレスが自分を振り払えないのをわかっている。
だから無防備に弱さを晒す。甘えて膝に頭を乗せる。
それがセレスを縛る最上の手段だと心得ている。
どう対処すればいいのか、もうセレスにはわからなった。



その日、セレスが見回りの歩を止めたのは、アネモネの赤い花が咲いているのに気付いたからだった。
「あら……」
跪き、そっと花びらを撫でる。
群生する可憐な花。
75女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 09:58:15 ID:C340fP7A
「……」
もうすぐ二週間が経つ。エルドは確実に戻ってくるだろう。
子供達のお陰もあって、心配していたよりつらい日々にはならなかった。
けれど。
「……いつまでもこのままではいられないわよねえ……」
その時だった。
ビュッ。
空を切る鋭い音がセレスを掠めるギリギリで飛んでいった。
突然の攻撃。
女の目が瞬時に戦士のそれへと変貌する。
反射的に身構えて矢の飛んできた方向を見据える。
だが茂みからガサと音を立てたのは意外な人物だった。
「え、ウソ、やだ……ちょっと反応遅すぎじゃない」
うろたえる女の声には聞き覚えがあった。
「ソファラ……!」
「ごっごめんなさい、今の程度なら余裕で矢を叩き落すかと……」
予想外の機敏の欠如に戸惑っているようだ。
だが呆気にとられているセレスに近付いてくると、
「……でも、貴方もちょっと鈍ってるんじゃないの?斬鉄姫さん」
軽く毒づいて小さく微笑んだ。
ソファラに会えたのは本当に偶然だった。
花に気をとられて立ち止まっていなければ、彼女はセレスに気づくことなく散策を終え、ゾルデに二泊の宿を求めただけで
先へと行ってしまっていたことだろう。
「あんな矢を飛ばしておいてそれ?貴方も相変わらずみたいね」
「あらご挨拶ね。ふふっ。…久しぶり、セレス」
笑むと整った顔立ちに艶麗が滲んだ。
艶やかな茶色の髪。瞳と同じ色の服と銀に輝く防具をまとう。谷間を覗かせる胸元が艶かしい。
切れ長で少々ツリ目をした、抜群のスタイルを誇る美女だ。
経歴はジェラベルン領主夫人。そして貧民街出身の元暗殺者。
波乱の生涯と共に、わかる人間にはわかる影の匂いを持ち合わせている。
そんな特有を、あのエインフェリアの面々はあまり気にしなかった。セレスも然り。
最初はかなり距離を置かれていたような気がするが、次第に仲良くなっていった。
見回りを終え、友人と共に家路を辿る。
「そうなの。しばらくカルスタッドにいたんだけど、砂でね、もう限界。キルケはヴィルノアへ……」
ソファラは表情にも言動にも柔和が混じり、以前より軽やかだった。
まさに運命の輪から解放された者、といった感がある。
「ヴィルノアなの?」
「そう。やっぱり旦那さんとの思い出が残る場所のがいいのかしらね。私だったらジェラベルンへなんて勘弁だけどね」
ソファラはそれをさらりと呟いたが、セレスはその裏にとてつもなく重いものを感じた。
そして思い出す。
そうだ。この女は生前盗賊ギルドと戦い、捕まり喉を潰され……
窓の無い部屋。
己が受けた被害とは比べ物にならない、4年にも渡る悪夢を想像する。
念願の再会とはいえ少し重い気持ちになった。
『この世の方がよっぽど地獄よ』――――
息が詰まる。
以前よりこのソファラという女を近くに感じる自分がいる。
「貴方は……」
シルメリアによって再生された肉体、元通りになった喉から奏でる綺麗な声。
声の持ち主はセレスの機微も知らずに顔を覗き込んでくる。
そして少々眉を顰めた。
「……なんていうか、すごく妖しい感じになったわね……。変な男に言い寄られたりしない?」
見透かされたような気分になって心臓が跳ねた。
慌てて繕う言葉を考えていると、
「彼激しそうだもんね」
ソファラは勝手に結論を出し、少々同情を含んだ苦笑を漏らしてから、その忠告を口にした。
「嫌な時はちゃんと嫌って言わなきゃだめよ?」
76女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 09:59:38 ID:C340fP7A
驚いて一瞬思考が停止し真っ白になった。
知っているのか。
家に戻ると客人は鼻歌を歌いながらキョロキョロする。
「みんな二人分ね」
先程から、その整った顔立ちには常に悪戯っぽい笑顔が浮かんでいる。
「で?彼も元気?まあ殺しても死ななそうな男ではあるけど。うまくいってるの?」
「ソファラ、知ってたの……?」
怖々訊ねてみると、
「勿論。というか、貴方達の仲を知らない仲間なんていないわよ」
そう軽々答えられた。
息をのむしかできない。
「そ…そうなの?」
驚きの連続、といったセレスの態度を見て、友人は腰に手を当てて半目になる。
「正直、貴女の鈍感具合には少々呆れるわね。彼の方は流石に気付いてて、よくからかわれてたわよ」
「から…かわれ………………?…あっ」
言葉の最後で思わず小さく叫んだ。
そこでやっとセレスも気付いたのだ。
ソファラはエルドとの関係を言っているのではない。
どうやら、セレスが『彼』と一緒になったのだと勘違いしているらしい。
「ふふっ。アドニスも、もう迂闊に変なことできないわよね。私も安心だわ。いろんな意味で」
「ソファラ……」
この友人は、セレスが好きな男と一緒になれてこの上なく幸せにやっているのだと信じ込んでいるのだ。
そしてとても素直にセレスの幸福を喜んでくれている。
冷や汗が出た。
これは言い出し辛い。
セレスは目を泳がせているが、気付かぬ友人は小首をかしげてにこやかに質問してくる。
「ひょっとしてもう子供とかいるの?」
全身から一瞬で血の気が引いた。
そんなセレスのただならぬ変化に、弾むように明るい、期待に満ちた笑顔がソファラから消えて行く。
「なにその顔」
「………あのね、ソファラ」
隠し切れない。セレスは意を決して真実を吐露した。
「実はその…相手はエルド、……なんだけど」
「えっ……?」
素頓狂な声があがる。
しばらくの硬直時間の後、ソファラはふうとため息をつき、ぴしりと言い放った。
「すっごくつまらない。貴方冗談のセンスはゼロね」
有り得ない。そう判断したのだろう。
セレスは苦笑して俯いた。
「冗談ならどんなにいいか……」
「なにそれ…なんで…?どういうこと…?」
予想外の展開だったのだろう。ソファラの表情が引き攣った。平常が崩れ、動揺している。
「何があったの?」
告白せざるを得なかった。
少々の恥を忍びつつ、騙されたことや壮絶な修羅場があった事実ははひた隠しにして、簡単に経過を説明する。
ソファラが心底驚いたといった感じで立ちすくんでいる。
やがて感情が理解に追いついて表情に出てくる。
怒りと苛立ちをこめた瞳は空すら切り裂くかと思えるほど鋭い。
空気は緊迫し、その場からは既に再会の喜びなど吹き飛んでいた。
「セレス」
重苦しい沈黙の後、友人は打って変わった怖い顔をして振り向いた。
「アレは駄目よ」
完全否定に力の抜けた苦笑しか出ない。
「駄目……かしら」
「だって早い話アレ、ただの快楽殺人鬼でしょ」
77女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 10:00:48 ID:C340fP7A
「…すごく容赦ない結論ね…」
「本当のことでしょ。時代と地位がさも英雄の一人みたいに語るけど、実際はあの通りじゃない。
 昔の私みたいに心を凍らせてやるんじゃないわ、本気で楽しんでる」
いちいち反論の余地が無い。
「貴方とはただの仲間だったと感じてたけど。あっちはずいぶんとご執心だったってオチみたいね……」
「そうらしいわね」
渦中の女は苦笑いするが、その目はまったく笑っていない。
それがソファラの不穏をいっそう引き出す。
「セレス……」
女弓闘士はがっくり項垂れる。
「前の生でも歴史の中で名前を聞く度、なんか無駄に貧乏くじ引く女だなとは思っていたけど」
「ソファラひどい」
友人は正直者である。
そして勿論そんなやりとりで終わるわけがない。ソファラはきっと顔を上げた。
「逃げましょう?私と一緒に。用意して。今すぐ」
「ソファラ」
「騙されたんでしょ?」
鋭い。
「違うわ」
心にもない否定はすぐに見破られる。
「さっき冗談ならどんなにいいかって聞こえた気がするんだけど」
指摘されると図星が顔に出てしまった。
かつてともに戦った仲間、大切な友人にこんな必死な顔をさせてしまう―――
そんな男と関係を持っているのかと思うと、それもまた切ない。
「何その動揺…貴方らしくないわ……」
悲しい顔をされる度にいたたまれなかった。
やはり昔の自分とは違うのだ。
久しぶりの再会でソファラは特にそれを強く感じているのがわかる。
折れた斬鉄姫など、想像だにしていなかっただろう。
「子供ができたかって聞かれて真っ青になるような男と一緒にいて本当に幸せなの?」
きつい様相で畳み掛けられてぐっと言葉に詰まる。
「本当は好きな人のところへ行きたいんでしょ」
「それは……」
怒り心頭のソファラは無造作に壁に立てかけてあった剣を鷲掴んだ。
「これ。手放してないってことはそういうことなんでしょ」
鞘に入ったムーンファルクスを突き出す。
ソファラは知っているのだ。
何故これをシルメリアがセレスに与えてくれたのか。
「貴方達の為にみんなでうまく行くよう影から応援してたのに。あいつは私達全員のことも裏切ったのよ!
 許せない……っ」
怒気がこれでもかと漲っている。ソファラは明らかに興奮し、冷静を欠いていた。
だが今のセレスでは制することすらできない。
「セレス!」
呼ばれる度に耳が痛かった。
「それでいいの?」
じっと見据えてくるソファラに耐え切れず、言葉に詰まりおどおどと目を泳がせるセレス。
それが一年越しの再会相手を更に歪ませる。
つつけば即破裂しそうな程張り詰めた空気。
そこに丁度よく『兄』が来てしまった。
「セレスー、もらいもんだけど、いるか……」
果実と花をかかえて窓から顔を覗かせたイージスの目がまん丸になる。
「ソファラ」
女弓闘士の怒りは戦友との再会を喜ぶ暇すら与えなかった。
つかつかと近寄ると何も言わず、思いきり髭面の頬を張った。
乾いた音と共に白い花が舞い散り、果実がごろごろ転がってゆく。
「何やってんのよあんた。この役立たず」
78女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 10:02:07 ID:C340fP7A
即座に反論が紡がれるかと思ったが、イージスは虚ろな目でそのまま肩を落とした。
「面目ねえ」
「兄さん……」
「兄さんですって?」
ソファラは殺気立っている。
「何よ兄さんて……ああもうどうなってるのよ。謝罪なんていらないわ。もっとちゃんと説明して」
ギッと睨まれても流されず、イージスは抑揚なく答えた。
「説明も糞も、もうだいたい聞いたんだろ。そういうことだ」
「何がそういうことだよ。開き直る気?見損なったわ」
「言い訳なんざしねえよ。けどな、セレスはもう決めちまったんだ」
「今のセレスはまともな判断ができる状態じゃないわ!!
 貴方が正しい方向に軌道修正してやらないでどうするのよっ!!」
言い合いの最後に空間を裂くような怒鳴り声が響き渡る。
激しく感情的になるソファラを久しぶりに見た。
「すっかり丸め込まれてるじゃないの!!何でこんな状態になるまでほうっとけるわけっ!?
 あんな死神と一緒にしとくなんて正気じゃ―――――」
「ソファラッ!!」
会話に入っていけなかったセレスがついに爆発した。
思わず叫んでしまったのは、それ以上の言葉を耳にしたくなかったからだった。
「私を哀れな女にしないで……」
ひどく悲しい面持ちでぽつりと呟いた。
しんと静まり返る。
やがて沈黙を破ったソファラが心底嫌そうに吐き捨てた。
「狂ってるわ……」
そして身を翻し出て行ってしまった。
「ソファラ待って!今日はいないの、だから戻ってきて」
しかし聞いてはもらえなかった。
友人はあっという間に視界から消え失せる。
こじれ果てた気まずい雰囲気が漂う。
やがてイージスが口を切った。
「ソファラの言うとおりだ。俺は……忙しいのに託けて、お前に何も……」
「兄さん」
先達がここまで苦渋を滲ませた顔を初めてみた。
「そんなことないわ、ねえそんな顔しないで」
近寄って懇願したが、イージスは目を伏せたまま、困り顔のセレスに本音を吐いた。
「やっぱり、変だよお前ら」
直球の指摘を受けたセレスが硬直する。
イージスはソファラの意見に同意なのだ。
「……すまん」
身の置き場がないのか、セレスの手を優しく振り払って、イージスも去ってしまった。
今でもそんな風に思っていたのか。
嵐は去ったが、取り残された女はいたたまれない気持ちになり、ただ立ち尽くしていた。



とにかく、このまま別れるなど考えられなかった。
イージスの方も気にかかったが、まずはソファラだ。
慌てて彼女を探しに家を飛び出た。
確か現在の仲間達と共に宿屋に宿泊しているはず。
宿屋の女性を訪ねたがわからないと困った顔をされるだけだった。
次に滞在していたソファラの現在の仲間達に話を聞いたが、優秀な弓闘士を奪われると思ったのだろう、
彼らの態度はセレスに至極冷たかった。
その後も散々探し回った。
79女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 10:04:10 ID:C340fP7A
夕暮れ。
息を切らして立ち止まり、辺りを見回した時、波止場で夕凪に吹かれているソファラを見つけた。



日が沈み、闇夜が漂い始める。
ソファラはセレスの姿を一瞥すると、また視線を海に戻した。
彼女の手から放たれた供華が空に弧を描き、波間に漂う。
それは多分アリーシャのための花。
「変な感じよね。あの子が死んで、戦乙女が消えて――――私達が生きてるなんて」
「そうね」
同じことを考えているのだな、と感じる。
運命を切り開いてあの子は逝ってしまった。
二人はしばらく追慕に浸っていたが、
「あの子」
ソファラがそっと隣りに立ったセレスに向けてぽそり呟く。
「やっぱり血のつながりかしら。貴方への接し方はちょっと違う感じだったわね」
「そうかしら」
「あの子もきっと貴方の幸せを願っているわよ」
気持ちは嬉しかったが、その台詞は少し虚しさを伴った。
あの子は戦乙女達と共に散じ、もうこの世のどこにも、欠片さえ無いのだから。
俯き気味のセレスに、
「セレス、逃げましょう」
ソファラはもう一度別の道を促してきた。
「仲間達には私から話すから。どうせ貴方甘いからあいつを消す気はないんでしょ。だったら逃げましょう」
「ソファラ」
「アドニスを見つけて、何で来なかったって、ぶん殴ってやればいいわ」
己の正しさを疑わないソファラは強気だった。戸惑うセレスに畳み掛ける。
「許さないわ」
「えっ」
「大事な人がこの世にいるってわかってるのに捜しに行かないなんて、許さない」
「ソファラ……」
望まぬ形で愛する夫と死に別れさせられた女の言葉は切実で、心に痛かった。
だがセレスはそこまで言われたことで、ふと気付く。
こんなに諭されても心があまり揺らいでいない。感情がとても薄いことに。
「……」
ゆっくり目を見開く。
そして、理解してしまった。
ああ、そうか。
彼はもう、手の届かない遠くに行ってしまったんだ。
そして今、私のそばにいるのは……
皮肉にも、ソファラというゾルデ外部からの刺激は、揺れ動き続けていた秤の揺れをついに傾けた。
「……セレス?」
人に言われて初めて気付くなんて。
もう一度目を伏せ、開けたセレスの緑眼は、穏やかな海のように落ち着いていた。
「ソファラ、彼は来なかったわ。彼の心は変わってしまったのよ。私とあの人は貴方達夫婦と違って相思相愛ってわけじゃなかった。
 どんな形であろうと、別の男の手をとった私が今更のこのこ出向いても、もう困らせるだけ」
「そんな、セレス、そんなこと……っ」
「私、決めたの」
深呼吸してからついに決意を口にした。
「エルドを選ぶわ」
その瞳の煌めきの強さに、今度はソファラがうろたえる番だった。
「どうして……」
立場は逆転していた。
突然の豹変を受け入れられないソファラに、言い聞かせるような声色で諭す。
「いろいろあったのよソファラ。確かに酷いこともされたけど、逆のこともたくさんしてくれたの」
「でもっ」
「うまく言えないんだけど」
80女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 10:06:36 ID:C340fP7A
この問題に最早部外者のソファラが出る幕はなかった。
セレスは己のことを考え、怒ってくれた友人をしっかりと見据え、答える。
「わかって。今の私は、好きな人と一緒にいてあげたい人が違うのよ」
意志の強さが滲む台詞だった。
しばらく間があいた。
ソファラはいろいろ言いたげだったが、やがて意気消沈して意見を飲み込んでしまった。
折れてしまったのである。
「……貴方変わったのね」
投げやり気味に指摘された女は薄く苦笑した。
「いろいろ、あったのよ」



星屑の下、セレスの家で和やかな夕食を終えると友人は席を立った。
「それじゃ私そろそろ退散するわね」
「何故?泊まっていきなさいよ」
引き止めたが戦友は首を横に振る。
「やめとくわ。今の仲間達が心配してると思うし」
「あ……、そうだったわね」
そう。セレスと同じように、ソファラにはもう別の場所と生活があり、彼女を待つ別の人間がいるのだ。
現実が少し寂しかった。
「それに……もしあいつが戻ってきて、かち合ってしまっても困るわ。
 変な火種になるといけないでしょ?あの男、鋭いし。私も噛みついちゃいそう。
 もうシルメリアは迎えにきてくれないからね」
「…そうね」
同意する。二人の衝突を想像して血の気が引いてしまったからだ。
「ま、いろいろ偉そうに言ったけど。正直私もちょっとエルドには敵う気がしないわー。
 好きこそものの上手なれ。ってヤツかしらね」
肩を竦める。
渦中の人物に言い切られたとはいえ、どう見ても納得いかない様子だった。
「多分ね。エルドは何も変わっていないわよ。ただ、貴方が特別だと気付いただけ。
 危なくてどうしようもない奴って前提はこれからも変化しようがない」
試すような言い方だったが、試された女は揺るがなかった。
「…それでも」
と一言、真摯に答える。
問いかけた女は諦めの大きな溜息を漏らした。
「それじゃ、私行くわ。ああ、イージスにもお詫びをしてかなきゃ……」
そして最後にもう一度だけ赤い髪の女を見据えた。
「本当にいいのね」
見据えられた相手は、こくり、頷いた。
「そう。わかったわ。貴方は子供じゃない。いろいろあって考えて出した結論なら、もう口出ししない」
つばをつまみ、帽子の位置を整える。それが遣る瀬無さからくる仕草なのがわかった。
「ごめんなさい。もしかしなくても私……今更かき乱してしまったのね」
「そんなことないわ。嬉しかった。ありがとう、ソファラ」
礼を言ったセレスに友人の腕がそっと伸びてきて、優しく抱き締められた。
「悪気があったわけじゃなかったのよ。今も、あの時も。それだけは信じて。
 貴方は笑ってたから何となく気付いてると思ってたわ。そんな不安になってるなんて思わなかった。
 何にせよどうせ数日後にはうまくいくって思ってたのよ皆。
 まさかそんなことする奴がいるなんて」



次の日は丸一日、何もやる気がしなかった。
仕事を終えて帰宅し、夕闇迫る部屋で一人、ぼーっと宙を見ている。
ひっそりと、かつてのゾルデなら有り得ないほど静まり返った空間。
二人ものかつての仲間に断言されては、流石に目をそらすわけにはいかなかった。
81女神(終焉BAD):2009/09/15(火) 10:08:10 ID:C340fP7A
そうだったんだ。
あの人が、私のことを……
頬は火照るが、どうも実感がわかない。
侵攻だっとはいえ、セレスは彼の首を斬り落とした犯人であることには変わりない。
いつも殺意を向けられていた。そう思っていた。
なので嬉しい真実ではあった。
けれど実際あの人は追いかけてこない。
何故だろう。
それは交差するべき一点で交わらなかったから。
あの一騎打ち、宿命の交差した瞬間のように、交わらなかったから。
和解への分岐点は多分、あの一つだけ――――
一年前のあの夕暮れ、窓から逃げ出したあの一瞬。
過去には戻れない。
私は唯一のチャンスを逃した。
完全に終わったのだ。
結論を、不思議なほど素直に受け入れることができた。
あれほど未練があったのに大した衝撃もないのは、本当はかなり前から心の準備ができていたからだろう。
だがそうすると、エルドは何もかも知っていて私を騙したということになる。
後ろめたい理由はこれか。
膝の上で仔猫が鳴いた。
撫でて、目を閉じる。
ソファラの剣幕やイージスの項垂れを思い出す。
私はまともな判断をしていないのかもしれない。
けれど、私は決めた。
エルドを許して、彼を選ぼう。
不安は消し切れない。だが時間は経過し、体の傷は痕を残すも、ゆっくりと癒えていく。
あの少年のような男と共に
生きていこう。
今日の夕暮れは赤かった。
あの立ち上がれた日とはまた違う赤。
螺旋が回る。廻り描いて巡り、飛んでゆく。
もう、行かなきゃ。もう既にそれぞれの新しい道を歩みだしているみんなのように。
あの人のように。
予定外の道であることは否めないが、扉を開いて、先に進もう。
決めてしまうと妙にすっきりしてしまう。
でも目の前には大きな難関が待ち構えている。
受け入れるとは決意したが、このまま大きな禍根を残したまま、なあなあで一緒になるなど有り得ない。
ある種の決着はつけなければいけないだろう。
目を閉じる。
もう二度と茨道など歩みたくないと思っていた。
今の私に、あの男を救うことなんてできるのだろうか。
あの男の腕の中という病的故に頑強な檻から、凍りついた瞳の中の牢獄から、私は出られるのだろうか――――












これでプロローグにつながります
今回もありがとうございました、また連投規制ひっかかりすみません
ラスト一回お邪魔させてもらいます
82名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 19:39:21 ID:qtzmkaVK
キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
83名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 19:49:03 ID:btyVZScY
よっしゃファビョニスキタ━━━━━━≡゚∀゚)≡゚∀゚)≡゚∀゚)≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━━━!!!!!
84名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 23:42:03 ID:SvFXX3Lm
GJ
セレス傾いたか
最初プロローグ読んだときはエルドEDなんて有り得ないと思ってたが
今ならアリかなって思えてる
ラストまとめ楽しみにしてます
85名無しさん@ピンキー:2009/09/16(水) 05:06:21 ID:DVXlF0gE
そういやプロローグでソファラの名前出てたよな
投下乙!最後までがんばれよ!
86名無しさん@ピンキー:2009/09/16(水) 11:04:56 ID:CzPdXLrK
エルドw
これ冬の生活もある意味拷問だろw
どんな終わりにするか知らんけど覚悟して最終回待ってる
87名無しさん@ピンキー:2009/09/17(木) 10:39:09 ID:2AvGGKG4
今回もGJ!!
セレス、女であるより母性が勝っちゃったっぽい…?
エピローグ担当はイージスとのことで少々結末にガクブルってますが
最終回期待しています
88名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 15:05:07 ID:hTJfYgJo
SO4 PS3移植決定記念age
89名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 00:21:29 ID:06rMzHSK
保守
90名無しさん@ピンキー:2009/09/22(火) 17:03:05 ID:pWNVgjtx
無事だった。良かった。
91名無しさん@ピンキー:2009/09/26(土) 12:09:24 ID:Jo21kkWc
続きが気になりますな
92名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 22:00:05 ID:avowiAhk
保守
93名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 17:44:48 ID:r4gvHw49
保守
94名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 19:15:27 ID:DHbT5/oK
保守
95名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 23:31:50 ID:ht+Ztrgg
EOEはこの板的にきそう?
96名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 00:59:22 ID:0qqFn7H1
保守
97名無しさん@ピンキー:2009/10/15(木) 22:02:57 ID:JI8kG2MK
まとめ見たけどジェラードないのかよ
98名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 01:49:04 ID:Mo+Gta1q
VPレナス自体があまり語られてない希ガス。4コマやアンソロ山ほど出てたのに勿体ない
女キャラにしても潔癖そうな人多いし。メル・フレイ姉妹・詩帆辺りがよく使われるんだろう
性格的には夢瑠とかもイケそうなんだけどなぁ
99名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 22:12:43 ID:/xJt27zv
VPレナスがってよりAAAが…
100名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 04:49:34 ID:OfOGfy4f
ジェラードは可愛い
101名無しさん@ピンキー:2009/10/24(土) 10:47:48 ID:y0j3p5cq
夢瑠もかわいい
102名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 11:54:42 ID:zrylX+6+
詩帆は常にメインメンバーだったなぁ
でも展開的にはスオウの嫁なんだよなぁ……
103名無しさん@ピンキー:2009/10/27(火) 22:01:18 ID:NtTt616W
神界派遣するタイミングずらすと詩帆が渇望を口にする
あれはタマラン
104名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 00:11:11 ID:E673fNDv
送るときは常に人格矯正、詩帆はスタメンで
スオウしか送らない俺に隙は無かった
105名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 10:21:41 ID:tV+c7N8b
送られるメンバー的に
Chapter1はベリナス一択カワイソスwww

魔術師組だとジェラードに那々美や夢瑠なんだよなあ
106名無しさん@ピンキー:2009/10/29(木) 01:38:19 ID:CALFBb6k
ベリナスは4コマとかにあるような博愛ブッ飛んだキャラにならんとエロが想像できないなw
アサカにはどうみても手出してなかったオーラが痛いww
同じ博愛でもあのご婦人なんて旦那とラブラブなのに…
107名無しさん@ピンキー:2009/10/31(土) 17:39:58 ID:xqHlcwxc
>>103
kwsk
108名無しさん@ピンキー:2009/11/04(水) 11:35:06 ID:c/6NEUGy
109名無しさん@ピンキー:2009/11/05(木) 18:22:54 ID:2ruDZcUl
>>107
エイルとの会話のことだと思う
ニコ動にエインフェリア別の神界イベント動画上がってるよ
110名無しさん@ピンキー:2009/11/05(木) 22:17:08 ID:ryTnfBCW
保管庫見てきた
SO4これだけ?
111名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 17:10:31 ID:NOg74QZB
だけ
112名無しさん@ピンキー:2009/11/12(木) 04:05:15 ID:fUJSc/WJ
正解
113名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 20:00:39 ID:DfR22b//
SO4と殆ど発売日一緒だけど他にも
ドラクエ6やPSPシレン、MAG等ゲームやりきれませんなw

EoE店頭用プロモ
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm8795589
114名無しさん@ピンキー:2009/11/19(木) 00:05:45 ID:Q9JC8nQX
保守
115名無しさん@ピンキー:2009/11/19(木) 22:25:39 ID:fTQNObrm
ここどれくらい人が残ってるんだ
あれだけいたSO3好きはまだいるのか?
116名無しさん@ピンキー:2009/11/20(金) 00:45:57 ID:PRy/l2kn
今日ふと思い立ってひさびさにやってみた。
ボタン操作すっかり忘れててなかなか攻撃できなくて焦った。
その間にパーティキャラがやられまくって、あっという間にリザレクトボトルが枯渇。
個数制限が結構厳しいことにいまさらながらきづいた・・・

それにしてもミラージュさんの勝ちポーズは萌ゆるw
後マリアはやっぱ強いわ。後方からパルスエミッションとエイミングデバイス射ちまくって
仲間がやばくなったらヒーリング。
これで大抵の相手は勝てる。
MPダメージでかいドラゴンゾンビ系は怖いけど。
117名無しさん@ピンキー:2009/11/20(金) 20:28:29 ID:qrnVugrR
>>115
もう、殆ど居ないんじゃないかな…
118名無しさん@ピンキー:2009/11/20(金) 22:50:58 ID:irf+5vT7
いるこたいるぞ
ただ月2、3回しか覗かなくなった
119名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 10:13:16 ID:jRPWQMmO
レスがついたら見るぜ
120名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 20:25:42 ID:Y3TseUGL
EOE一月末
EOEがどう転ぶかと
その後AAAがどう動くかにかかってるな
廃墟まっしぐらじゃないことを祈っとく
121名無しさん@ピンキー:2009/11/21(土) 23:27:54 ID:UquzPtRQ
>>120
SO4移植があるからとりあえず保険はかかってるだろ
Xbox360の文字通りキラーソフトだったんだからPS3でもそうとういけるはずだ
かくいう俺もついにPS3買う気になってるし
122名無しさん@ピンキー:2009/11/22(日) 01:33:39 ID:OUu3IHqE
SO4移植ってこのスレ的には保険になるかな〜なればうれしいけどさ
123名無しさん@ピンキー:2009/11/22(日) 02:57:56 ID:9YwsgRUv
>>119
自分はそろそろ続き物が来てる時期じゃないかと思って毎日覗いてる
124名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 20:33:58 ID:lA8tRtnW
>>122
SO4のスレを見る限り
保険にはなりそうもない…
125名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 22:07:18 ID:rSHG1x1/
保険のほの時にもなりそうもない
たまにSO4は箱○だったから移植されればわからないって意見みるけど
二次創作的にはまずありえないよね…
126名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 22:58:23 ID:D4UnJjUn
>>123
同じく
127名無しさん@ピンキー:2009/11/24(火) 22:36:49 ID:UeU9WcCk
何だそうなのか
俺も毎日覗きに来よう
128名無しさん@ピンキー:2009/11/26(木) 21:25:25 ID:1aNcbWCb
続き物してる職人さん達
いつころになりそうですか?
差し支えなければ教えてください
129名無しさん@ピンキー:2009/11/28(土) 20:51:01 ID:oCYx5Fb0
ファビョニスですが俺は来月10日頃になりそうです
最終回も遅くて申し訳ない
130名無しさん@ピンキー:2009/11/28(土) 21:58:07 ID:+AftFOFs
それまで全裸で正座して待ってる!
131名無しさん@ピンキー:2009/11/28(土) 21:59:32 ID:0mx6RWZh
>>129
了解です!待ってます。
132名無しさん@ピンキー:2009/11/28(土) 23:44:45 ID:U1BaB0c1
ファビョ!!愛してるぞ!!
133名無しさん@ピンキー:2009/11/29(日) 00:00:24 ID:lMlMXu2p
ファビョ二ス待ってる
134名無しさん@ピンキー:2009/11/29(日) 00:33:18 ID:LpYzGh/T
ファビョニス待ちの人らはいいな
SOもSSこねえかなぁ
135名無しさん@ピンキー:2009/11/29(日) 23:06:43 ID:L2XZ4X5T
そう言えばまだエッジ&レイミの主人公コンビがきてないな
136名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 19:41:14 ID:OhhpZ8sY
それ以前の段階だな
137名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 20:36:54 ID:k9pu6SUZ
どんな段階?
138名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 00:10:49 ID:rjah0Bxk
天の風琴が奏で流れ落ちるその旋律、凄惨にして蒼古なる雷…
139名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 19:29:39 ID:zQpPc1Xs
>>137
こう云う段階>>110
140名無しさん@ピンキー:2009/12/02(水) 20:56:07 ID:Xol1U7tc
でもSO4は4作くらい来たよね
141名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 21:44:22 ID:c1TPBtXL
それよりもSO1をだな
142名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 22:25:07 ID:VPmPCqth
咎をだな
143名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 08:58:56 ID:nNlshMHD
hosyu
144名無しさん@ピンキー:2009/12/10(木) 19:20:35 ID:RcTpZmEv
ほしゅ
145名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 19:50:01 ID:CA7FYceu
今気付いたが>>142はIDがVPだな
146女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:17:06 ID:Yt/tda8s
こんばんは最終話投下させてもらいます
今回も結局遅くて最後まで本当にすみません
注意書きの>>5にも書きましたがあまり気持ちのいい終わり方ではないかもしれません
ご了承お願いします
あと申し訳ないんですがいろいろと超展開です
147女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:19:17 ID:Yt/tda8s
潮風に吹かれて大きく深呼吸した。
――――あれからもう、一年が過ぎたのだな。
赤髪が揺れる。
長い睫毛に縁取られた緑の瞳には穏やかな青海が映っていた。
決めたんだ。
彼を選ぼう。
決意と共に暫く追憶に耽る。
やがて踵を返し、待ち合わせ場所の教会へ向かった。
近いうち無人と化すだろう施設内で死神の姿を見つける。
エルドは何故か、教会の端がお気に入りである。
ただ光差し込む窓辺に佇んでいる。
その姿はどこか違和感を伴い似合わない。
もっとも、死神とはそういった存在なのかもしれないが。
「……久しぶりね」
春になったらお別れだったはずの男。
セレスが躊躇いがちに声をかけると相手はゆっくりと振り向く。
直後にその整った童顔を疑念で染めた。
「どうした?」
察しがいい。セレスの機微を感じ取ったのだろう。
近寄り、顔を覗き込んでくる。
この男は目が大きくなった。
本当に大きくなったわけではない。
セレスを見る目に険しさが消えたため、素の顔立ちになっている。
セレスだけが知っている、少年のような幼い男。
「何でもないわよ」
僅かだが人目もある。周囲には二人は既に恋人同士という設定だ。
今は平素通りにしなければと顔を逸らせた。
ディパンへと向かう。
薄暗い喪失の森から王家の地下道へと入る。
道中は延々と耐え難い荒廃の現状が突きつけられた。
四宝の一つドラゴンオーブは既にこのミッドガルドへ戻ってきているのだろうが、不在時に培われた混乱の影響は深刻だった。
やはり魔物や不死者が増え、大幅に力を増してきている。
地下道の魔物達も例外ではなかった。
凌ぎつつ先を急ぐ。
そうしてディパンへと到着したのは、月光が優しく落ちる晴れた夜だった。
星屑の下、神からの襲撃を受け壊滅した故郷の土を踏む。
瓦礫が雪崩を起こしたまま無残に晒されている。
月明かりがそっと、今回も同行してくれた死神を照らした。
細く小柄な体格で、さらに身にまとう若々しい衣装のせいか、まだ成人もしていないような少年が立っているようにさえ見える。
光加減で色を変える髪の先が小さく揺れた。
「さてどうする」
そのおかしな生き物がセレスに今度の動向を問うた。
「夜のうちに城へ行ってみたいの」
悪意が大きく動くのは大抵闇の中と決まっている。
裏口から城内に踏み込むと顔見知りの兵士が一人、セレス達に気付いて寄ってきた。
あの敗北の日に王と共に散った、もしくは王の後を追った兵士の数など数え切れない。
だが命尽きるまでこの国を守るという選択をした兵士が、僅かながらこの地に踏みとどまっていた。
王も国も消えた。民も散った。彼等には未来がない。あるのはただ意地のようなものだけ。
存在自体が既に亡霊のようだった。
情報交換の為いくつか言葉を交わす。
盗賊達の悪行は相変わらずのようだった。兵士達の手が回らないのをいいことにやりたい放題らしい。
今回の滞在中に何とかせねばなるまい。
さらに、以前イージスがディパンに渡るきっかけになった、得体の知れない生物の正体も未だ解明されていない。
わかっていることは、動いたのが夜ということ。
城内の探索を告げて兵士と別れた。
暗い上、足場が悪い。だが何とか進まなければならない。
148女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:20:41 ID:Yt/tda8s
「ほれ」
損壊により渡りづらい箇所で、不意に手を差し出された。
死神の気遣いに微笑む。
「ありがとう……」
深い深い静寂。
終焉を迎えた城。
襲撃直後の痛ましい死屍累々の情景は、時間の経過により幾ばくか緩和されている。
それでも気分の良い光景ではなかった。
兵士が死に絶えたら、瞬く間に不死者や魔物が蔓延り、蹂躙されるのであろう。
謁見の間につながる扉が重たく開いた。
鎮座する王の途絶えた王座を見上げる。
かつて繁栄を極めた大国というのが嘘のようだった。
自然に溜息が漏れる。
祖国の落魄れ果てた姿というものも切ないものだ。
国は終わった。後は穢れ、歪んでゆくだけ。
閑寂な空間。
元王女が王座に手を添えたところで変化は何も訪れない。
華燭の盛典を極めた国のなれの果て。
「俺達にぴったりだな」
冷ややかな皮肉を吐かれたが、
「……そうね」
自然に同意が零れた。
俯くセレスを死神が嗤う。
「惨めに思うならお前がまた復興させればいい。なんせディパン王家の純血が流れてんだから。このまま天下でもとりに行くか?」
「何言ってるのよ」
「お前にはそういう力がある」
くいと顎を持ち上げられた。
「そうだろ。斬鉄姫セレス」
そんなこと、もう私にできるはずないのに。
エルドの毒を帯びる悪口は直る気配もない。
棘のある戯れを振り払う。



広場にも行ってみた。
星屑きらめく中、瓦礫の山を抜け、兄の子孫が断首された場所を見渡す。
その時の情景が今でも目に浮かぶ。
民から溢れる嘆声の中、斬首と共に霧散した王の魂。
その時セレスは行く手を遮った裏切り者の魔術師達との戦闘に駆り出された。
その戦闘はとても楽なものだった。
生前魔術師を狩る者として恐れられていたエルドがパーティーの一員だったからだ。
魔法を封じる魔法、プリベントソーサリー。それに魔術師の片方が見事にひっかかった。
後は逃げ惑う二人の裏切り者をエルドが楽しげにいたぶるだけだった。
嘆きと不安に包まれる観衆の中、皆が真剣に戦っているのに。
アリーシャが、ずっと見守ってきた少女が、実父の危機に直面しても動揺を堪え、懸命に剣を振るっているというのに――
いくら興味がないと言っても、20年近く生を共にした少女ではないか。
彼が味方で良かったとは思いつつも、嫌悪のまなざしを送るばかりだった。
崩壊したディパン城へ戻る。
敷かれた赤い絨毯の焦げ付いた残骸が、時を経て更に痛々しい。
悲惨な光景ばかりが続く。
だが逆に、これといって気になるものはなかった。
「ま、何かあるとしたら地下じゃねえの」
同意せざるを得ない。
かつん。
そっと地下に降りる。妖しい静寂を割って靴音が響く。
すえた臭いが鼻をつく。地下特有の冷たさと空気の湿り気が、じんわりと染み通ってくるようで気持ちが悪い。
149女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:22:25 ID:Yt/tda8s
例の時間制御装置のあたりには近づけなかった。封鎖されている。それを施しただろう黒髪の戦乙女の波動のようなものが微かに残っている。
地下とはいえ荘厳に妖気が混じる不可思議な情景だった。
その妖気を吸い上げているのか、魔物達は王家の地下道で徘徊していた輩より格段に強い。
「!」
セレスが気配を感じて振り向いたのと、エルドにより死の呪文が紡がれたのが同時だった。
生気を失った異形は抜け殻となり、そこから生命の蝶がひらひらと舞い上がる。
どの魔物よりもどす黒い童顔が、満足げに嗤った。



進んでも進んでも、ただ相変わらずの酷い光景が続くだけだった。
やがてあの忌まわしい研究所に到着する。
背徳にまみれた薄気味悪い回路の群れが二人を出迎える。
棺のような魔物達の養殖装置が今も取り残されていた。今も起動しているのだろうか。
水槽の中の何かがゆらゆらと蠢く。
彼等は生きているのか死んでいるのか―――
長く滞在していると精神を蝕まれそうだ。
最奥部はやはり鍵がかかっていて入れなかった。
どうしようもない。進めるのはここまで。
探索は完全に詰まってしまった。
溜息とともに肩を落とす。
仕方なくもと来た道を戻ることにした。
襲い来る魔物を射殺しながらエルドは平然と会話を続ける。
「そう落ち込むなよ。斬鉄姫セレス様のご帰還だ。くたばった連中も草葉の陰で喜んでるんじゃねえの」
「やめてよ私が何したか知ってるくせに」
「そんじゃ連れてった俺は重罪人だな」
妙に癇に障る言い草だった。
一匹魔物を薙ぎ払ってから咎める。
「どうしてそういう言い方しかできないの?だから嫌われるのよ貴方」
冷ややかで厳しい指摘をエルドは鼻で嗤った。
「知るか。カナヅチもそうだが外野ごときに何言われようが知ったこっちゃねえ」
『外野』と判断されていないたった一人の女には、それは重たい台詞だった。



階段を登り切ると、先程の兵士が安堵に満ちた表情で二人を出迎えた。
深夜の更なる探索を申し出るも、彼に却下される。
そして今日のところはもう休んでほしいとの懇願を受けた。
貴重な助太刀。疲労のせいで十分な力を発揮できず怪我でもされたら堪らないとのこと。
面倒くさそうに欠伸するエルドも兵士の提案に同意する。
嘆息するセレスも了承して城を後にした。
ふと振り返るともう一人の兵士を見かけた。
月夜の晩に背を向けて佇む姿はまるで化石のようだった。



闇に沈むマーニ通りを歩く。
魔法でともるはずの街灯達はすべて役割を放棄している。
人々に捨てていかれた紛うことなき廃墟。
「またきなすったんかい」
突然のしわがれた呼び声に心臓が跳ねた。
慌てて目を凝らすと、闇の中、花壇に腰掛けている老人と目が合った。
未だこの国にまばらに残る人影の一つ。
「何をしているの。こんな夜中に危ないわ」
「なあに、もうこの国じゃ何処にいたって危険じゃろうが」
注意しても、こんな返事を平然と返してくる。
150女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:23:58 ID:Yt/tda8s
ここで国の行く末を見届けると言い張り続ける住民。
ディパンからの退避を促しているセレスの手強い難敵でもあった。
「気持ちは変わらない?」
目線を合わせて会話を試みるが、寡黙気味な老人は微笑みながらただ一つ頷くのみだった。
生まれ育ったディパンと共に滅びるつもりだ。
セレスは息をついた。
あの兵士達と同じく、もう何を言っても無駄なのだろう。
それでも諦めないセレスに老人は、彼女の気品と立ち振る舞いの美しさ、そして優しさを指摘する。
まるで彼のカミール17将斬鉄姫セレス様のようだと微笑む。
背後でエルドの小さな嗤い声がした。
数十分後、今回の交渉もセレスが根負けした。
「どうせくたばるんだ。好きにさせろよ」
少し離れてから、極めてどうでもよさそうなエルドから悪態が漏れる。
呆れ返るセレスの半目が冷たく注がれた。
「……一体ここに何しに来たのよ貴方」
少しは民のことを考えてくれているのかと思っていたのに。
水筒の酒を煽る男はセレスの期待をあっさり打ち砕いた。
「たまには場所変えるのもいいかと」
いつも通りの戯言を平気で口走る。
言い草から、夜伽のことを示しているのがすぐにわかった。
セレスの表情が盛大に引き攣る。
「貴方ねえ!」
「飲むか?」
反論を防ぐようにずいと水筒を突きつけてきた。
たぷんと酒の音がした。
「……何か妖しいものが入ってそうね」
「入れるわけねーだろ。酒自体がそんなもんなのにそんな必要あるか」
「……」
溜息しか出ない。
気付くとどこまでも、すっかりエルドのペースだった。



これといった収穫がなかったことは残念だが、とりあえずあてがわれた民家に入り腰を落ち着ける。
上流家庭が見捨てていった家屋は、現在セレスが居住しているゾルデの家の何倍も広い。
調度品が飾り立てる玄関を抜け、いくつものドアを通り過ぎて寝室に入る。
盗賊が徘徊している可能性もある。念の為しっかりと施錠した。
外では廃都の上で欠けた月が回っているのだろう。
白を基調とする上品な寝室。
天蓋付きの豪奢なベッドに腰を降ろした。
「する?」
声をかけると、
「へえ」
驚嘆と共に歩み寄ってきた。
「物分りがいいじゃねえか」
切り出し方を迷っているのはわかっていた。
隣りに腰をおろした男に顎をつままれて視線が交わる。
「キスして……」
「言われなくても」
「たくさん、して」
エルドは少々怪訝そうに眉を顰めたが、手中の女をゆっくり押し倒して了承した。
「お姫様の仰せのとおりに」
その仰々しい物言いは、軽んじるようにも真摯なようにも聞こえた。
果実酒の甘い匂いが鼻をくすぐる。
久々の口付け。
息継ぎに軽く離れてもすぐにまた吸い付いてくる長い長い前戯。
151女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:25:17 ID:Yt/tda8s
ちゅ、ちゅっと絶え間なく啄ばみ、甘い音を立てる。
そういえば自宅以外で事に及ぶなど何ヶ月ぶりだろうか。
ディパン来訪には何度か付き合ってもらったが、手を出されたことは一度もなかった。
今思うと気を遣ってくれていたのだろう。
互いの鼻が当たらぬように少し顔を傾けキスを続ける。
そっと半目を開けてみると、相手の閉じた目と睫毛が見えた。茶色を多く溶かした金の髪が目の前でさらりと揺れ、顔の輪郭を消す。
この男もキスをする時くらいは目を閉じるのだなと何となく思った。
唇を啄ばむのは継続しながら、そのままゆっくり脱がされてゆく。
しばらくすると本格的に舌が入ってきて歯列をなぞった。
長く時間をかけた丁寧な口付け。奥底からの甘い痺れをもたらす。
大事にしてくれているのがほんのり嬉しかった。
身に溶け込むような感覚は多分酒気のせいではない。
頭、頬、首。手のひらがなだらかに女体を流れていく。
右胸、腰、腿。肌に吸い付くような緩慢な動きは高め方を知り尽くしていた。
「ん……」
豊かな乳房の柔らかみに指が浅く沈む。
慣れた舌先で突起を転がされて吐息をつく。
以前は内部まで浸食してくるその快楽に必死で抵抗していた。
後頭部と背中に自然と手を回せるようになったのはいつの頃からだろう。もう覚えていない。
自分の胸に埋もれている男の後頭部を撫でる。陽の下で輝く髪は今は闇を含み、暗い茶色に染まっていた。
この男を選ぶのだ。
そして二度目の死が訪れるまでの長い時を過ごすのだろう――――
実感が脳裏をよぎってゆく。
唇が胸元から戻ってきて、もう一度口付けられた。
「エルド……」
糸をひき、離れたところで、
「待って」
なおも続けようとする男を制する。
事を行う前に、精神的にも受け入れる準備が整ったことを伝えようと思ったからだ。
「あ、あのね」
だがいざ告白しようとすると何だか詰まってしまい、言い出し難い。
「なんだよ?」
急かされると一層詰まってしまう。
目を泳がせた後、苦笑いと共に呟いた。
「――――ううん。また後で」



結局話を切り出せぬまま事を終えてしまった。
疲労もあるのだろう、エルドは目を閉じてそのまま眠ってしまった。
幼い顔立ち。古傷だらけの躯。
あの豪雨の日にできた横腹の傷もかなり癒え、古傷の仲間に加わろうとしている。
額をそっと撫でてからベッドを離れ、夜着を纏う。
明日からはまた探索の日々。気を引き締めていかなければ。
疲れとけだるさ、そして不穏がセレスを包む。
盗賊達の尻尾をつかめない。怪物の正体も未だわかっていない。
それに。
「……ああもう」
かぶりを振る。
ゾルデを出る直前にイージスにかけられた揺さぶりが、ずいぶん効いてしまっているようだ。
振り切ろうとしてもつい、この世界のどこかで、同じ月の下にいるであろう彼の男のことを考えてしまう。
あの人が、私のことを……
湧き出ようとする想いを必死で霧散させる。
もう決めたのだ。私はエルドと一緒にやっていくんだから。
でも。
いくら言われても、未だに少し信じられない。
152女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:26:42 ID:Yt/tda8s
あるのだろうかそんな奇跡が。
私のことを……
けれど、それならどうして来てくれないのだ。
そんな疑問が肥大し、いくつもの流星になって心を流れ落ちてゆく。
アドニス……
今はどうしているのだろう。
笑っているのだろうか。元気でいるのだろうか。
大事な人はできたのだろうか。
ついずるずる傾く思考を再度振り払う。
もう手の届かない遠い人なのだからと噛み締め、想いを必死で押し込める。
幸せだといい。
そうだといい。
そうだと――――――
「何考えてる」
ぎょっとして目を見開く。
寝息を立てていたはずの男がいつの間にか真後ろに立っていたからだ。
「おっ、驚かせないでよ」
咎める声もうわずってしまう。
動揺するセレスとは真逆、エルドは微動だにせず彼女を見上げている。
いつの間にか夜着をきていた。
その目は闇夜に浮かぶ猫の目のようだった。
空気がひんやりと冷たい。
そうだ、言わなければ。
気持ちを切り替えてエルドに向き合う。
「あ、あのね」
緊張でほんのり頬を染めつつ、セレスは告げた。
「その……受けようと思うんだけど」
「何を?」
「だ、だから…貴方の気持ちを……その。受け入れようって……」
たどたどしい告白をそこまで耳にして、暗闇の中、エルドは小さく笑いを漏らした。
最初は嬉しいのかと思った。
だが、笑いには有り得ないはずの混沌とした狂気が混じっていた。
おかしい。
だんだんと気持ちがざわついてくる。
待望の受容を与えられたはずなのに、エルドは真っ向からセレスを見据え、言った。
その言の葉は有り得ないほど鋭かった。
「浮かれさせといて背後からブスリとやっちまう計画か?」
「えっ……」
「春まで、だったもんな。そして俺はお前をものにできなかった。ご機嫌とりばっかでヌルいことやってたからなぁ」
醜いまでに口元を歪め、嗤いながら詰め寄ってくる。
異変を認識するセレス側にも身の危険を感じる故の鋭さが増した。
想定外の展開だった。
どうやら告白を、陥れる為の嘘だと思い込んでいるようだ。
害意を全身に受けて緊張が迸る。ずっと請うてきたものを与えたのに、何故そうなるのだと理解が追いつかない。
でも、駄目だ。
威圧されてももう逃げない。
こういう男だということは承知の上。
向かい合わなければ。
ここが勝負とばかり、セレスは負けじと踏みとどまった。
「……実は私も聞きたいことがあるの」
目に宿る光は気圧される程に強い。
「知っていたのね。あの人の方の気持ちも」
「ああそれが何だ」
あっさり認めた。
詫びる気すらないようだ。完全に開き直っている。
153女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:29:01 ID:Yt/tda8s
「誰だ。ヒゲか?それともエインフェリアのどいつかがゾルデに来てお前に余計なこと吹き込みやがったか?」
音の葉に戻っている狂気が嗤いながら舞い踊る。
だがセレスも決して退く気はない。
「はぐらかさないで。私は貴方に訊いてるの」
火花が散るような睨み合いが続く。
舌打ちと共にエルドが折れた。
「ああそうだ。知ってた。あの変態の塔でもそうだった。お前は景色なんかに見惚れてたんじゃねえ」
幼く整った顔立ちが更なる深い闇へと染まりゆく。
エルドは明らかに暴走を始めていた。
「嫌い合ってるはずなのに。気が付いた時にはお前の目線の先にはあの黒いのが、いつもいた」
本当に知っていたのだ。
覚悟はしていたつもりだが、実際肯定されるとただ動揺するしかできない。
「どうして……」
「どうしてだと?」
悲しげに歪む女に向けて身勝手な理由が羅列される。
「ムカついたんだよ――――あれだけ険悪で顔合わせる度ギスギスしてやがったくせに、実は二人とも……なんてご都合オチはよ」
残酷な真実を、まるで悪魔のように嗤いながらだだ漏らす。
「他のエインフェリアの連中がお前ら二人の為にご丁寧なお膳立てしてやがんのも勿論知ってた。
 あの糞ども、一匹ずつあいつに激励送って去っていった。まるでもうお前らが一緒になるのは確定なんだとばかりにな。
 それ見てたら無性にブチ壊してやりたくなった。それだけだ。もともとあの黒いのが死ぬ程目障りだったせいもあるがよ」
途方にくれた。
選んだ男からは完全な悪意しか感じられなかった。
「どいつもこいつもお前ら見て優しい顔して笑ってやがった……」
「エルド」
セレスの震える声色が琴線に触れたのだろう。
「俺とあの糞野郎と一体どこが違うっ!!」
突然切れた。
二度と怒鳴らないと宣言したはずの死神から、久方振りに割れるような怒声を聞いた。
乱暴に両肩を鷲掴まれる。
「俺の方がずっとお前を見てた!!助けてやったし守ってもやったっ!!いつだって俺の方が先にっ!!
 何であいつなんだよっ!!なんでっ!!殺そうとしてた野郎なんかっ!!」
耳が痛い。
あまりに勝手すぎる。それなのに怒声には悲哀と辛苦が棘のように絡みついて痛々しく、酷く心を揺さぶる。
だがセレスも、そこでついに気付いてしまった。
「じゃあ、あの時も……一年前、連れ出してくれた時も、わかってて……!?」
「当然だろ」
暴露された過去にただ衝撃を受け続けるセレスを、死神は半目のまま鼻で嗤う。
「話の最中に扉の向こうで奴の気配がしたもんでな。
 お前らときたら馬鹿みたいにお互い嫌われてると思い込んでやがるし。
 ここぞとばかりに一言一句、はっきりと発音してやったぜ。お前がいかに怯えているかをな」
瞬きを忘れた目が更に見開かれる。
いたのか。あの時、あの扉の向こう側に。
そこまでとは思わなかった。
嘘で塗り固められていた今までに、思わず本音と嫌悪がこぼれる。
「……酷い」
「酷いだと?知らねえよそんなこたあ。お前はこの俺の手を取ったんだぜ―――」
強引に抱き寄せようとしてきたので、
「いやっ!!」
思わず振り払った。
拒絶を喰らった死神の目は完全に座ってしまった。
「甘やかしてりゃ図に乗りやがって」
凶悪な害意は制御を失い、強烈に渦巻く。
怯んだ瞬間、乱暴に掴まれて寝台へと投げ出された。
「きゃ……っ」
起き上がる前に敏速に覆い被さられてしまう。
154女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:30:41 ID:Yt/tda8s
「仕置が必要か?足枷でつながねえとわからねえかっ!?」
劈くような大声を浴びせられる。
両脇を挟まれてその場にしっかりと縫いとめられた。
いつもとは違い、追い詰められた男の荒い息だけが部屋に響いている。
「いい加減に…してくれよ……っ」
震える声で、まるでセレスが悪いとでも言うような勝手すぎる戒めを垂れ流す。
しばらく最悪に気まずい沈黙が場を支配した。
だがその間、エルドとは真逆、組み敷かれる女はとても冷静だった。
「私達、ずいぶん長く一緒にいたのね」
そう、繋ぎ止められたまま、ぽつりと呟いた。
「そんな泣きそうな顔しないで」
正確な指摘。
その一言はエルドの中にある決して触れてはいけない部分を弾いた。
童顔が瞬時に更なる凶悪を帯びる。
平手が飛び、乾いた音がした。
だがその音を立てたのは女の方だった。
「あんまり馬鹿にしないで」
頬を張られた男は女の素早い言動に硬直している。
「いつまでも捕らえた捕虜のままで言うこと聞いてろというなら大間違いよ」
セレスはゆっくりと、言うことを聞かない子供に言い聞かせるように呟いた。
「終わりにしましょ。もうこういうのは」
優しい声音とは裏腹に、何者からも目をそらさない強い光が奥で揺らめいた。
だがエルドの捻くれ具合も相当である。
くくっと嗤う。
「逃がしゃしねえよ」
「逃げたりなどしてやらない!!」
間髪いれず叫び返す。
その言動の鋭利に、今までずっと、この一年ずっと女を組み敷いてきた男は明らかに怯んだ。
そして彼女の瞳に本来の光が戻りつつあることに、漸く気付いたのである。
「私が私でなくなっても――――もう言いなりにはならないわ」
エルドが捕らえた女はついに、歪んだ関係への決別をはっきりと口にした。
「貴方が変わらないというのなら、これで終わりよ。
 こんな状態を続けるだけだと言うのなら、私はもう二度と貴方に笑いかけることができない……」
セレスが苦い本意を告げ終えると、辺りは再び深い沈黙で覆われた。
少々の緊張とともに返答を待つ。
髪が顔にかかって表情が見えない。
「何だよそれ」
破られた一声からはすっかり力が失せていた。
鳥かごに閉じ込めていた鳥が、ついに自分の手元から飛び立とうとしているのを感じ取ったのだろう。
「……別に無理して惚れろなんていわねえ。心底から愛してもらえるような人間じゃねえのは自分でもわかってる。
 ここにいろよ。嘘でいいから俺を愛してるって言えよ」
「エルド、だからね」
「こんなに頼んでも駄目なのかよ」
捨て身の説得でも暴走は止まらなかった。
ついに捨てられるかもしれないという焦燥。
エルド側も数ヶ月のうちにだいぶ不安が蓄積していたのだろう。
組み伏せた女に酒をぶちまける。
果実の酒があっという間に純白の夜着を濡らした。
「や!ちょっとやめてよ何するの!?」
突然の暴挙。
慌てるセレスの反抗を力ずくで押さえつける。
「今更」
狂おしい妖光を放つ双眸が冷たくぎらついた。
形勢の逆転。
恐怖が一斉に涌き出てしまいセレスの平静を遠く追いやる。
155女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:32:01 ID:Yt/tda8s
「いやっ!!」
「……ほんと、今更」
言の葉も視線も冷たく乾いていた。
「俺から逃げられるとでも思ってるのかよ」
「エルド!」
「離さねえぞ。ぜってえに行かせねえ」
「行かないわ。逃げたりなんかしない!」
「どうだか」
「乱暴にしないで!!ちょっとっ!!」
必死にもがいても返事は返ってこない。
「あ……!」
びくんと仰け反った。
舌が果実酒にまみれた首筋を無遠慮に這う。その間にも手のひらが女体を強引に這い蠢く。
「ああっ!」
先程と、今までと責め方がまるで違う。
与えられる熱はそれまでされた抱き方とはあまりに違う快楽を帯びていた。
全身に緊張が迸る。
連鎖的に、生前エルドにしな垂れかかる密偵の女の姿を思い出したからだ。
このまま彼女のように肉欲に溺れさせる気なのがわかった。
あの蕩けきった微笑み。
それが自分に重なって――――
「やだっ!!エルドってばっ!!」
焦り切って無我夢中で振りほどこうともがくが、
「心配すんな。朝には俺しか見えなくなってる」
押さえつける男から返ってきたのはとんでもない爆弾宣言だった。
「馬鹿っ!!何言って――――」
冷静になど、とてもではないがなれる状況ではない。取り乱し全力で抵抗する。
だが妄執という鎖は半端なく頑丈だった。
どうやっても逃げられない。
「やめてっ!!」
「しねえよ。逃げ出したりしなきゃな」
「私言ったわ。貴方を選ぶって!」
「へぇ。そりゃ光栄なこった」
決意を軽く流されてしまう。
会話を交わすごとに冷たすぎて凍ってしまいそうだった。
「……信じてくれないのね」
「お前が俺を信じてねえみたいにな」
口付けが震える女の胸元にいくつも落ちる。
いくら抗ってもエルドの言動は狂気を増すばかりだった。
「ひっ!あっ、やあぁっ!」
熱にうかされた女の表情は怯えが混じり更に艶めいて、男の支配欲と劣情をかき立てる。
「やっ!ああっ。んっやだぁっ、いやっ!いやぁあっ!!あっ、や…いやぁあああ―――――――っ!!」
絹を裂くような悲鳴が響き渡った。
暴れ狂うので寝台もぎしぎしと一緒に悲鳴をあげ続ける。
これまでずっと絶叫は行為停止の合図だった。なのに止めてくれない。
両手首を片手で捕られ、頭の上で固定された時、心臓が止まった。
このままだと何かで縛り上げられてしまう。
その先には永劫の呪縛が待っている。
絶体絶命の危機。
「やめてええぇええええええぇっ!!!」
絶叫の直後だった。
パニック状態の中、一欠けらの冷静がすらりと女に舞い降り、現状打開へのひらめきをもたらす。
幾度となく戦場で窮地を潜り抜けてきた戦士だからこその機転。
荒ぶる男の耳元で、ドスの効いた一言を重く叩き付けた。
「ほんとに嫌いになるわよ」
156女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:33:34 ID:Yt/tda8s
そしてその一言で生まれた一瞬の隙を見逃さなかった。
全身全霊の力をもって払いのけ、
「――――もうっ!!」
平手などという生易しいものではない。
勢いに任せ、問答無用で顔面に鉄拳制裁を喰らわせた。
ガッ!!
と一発、凶悪に重い打撃音が発され、不意打ちを受けた男が寝台に殴り倒される。
「いい加減にしてっ!!いつまでも、何でも脅迫や乱暴で解決できると思わないで!!」
怒鳴った後はベッドから転がり落ち、そのまま壁際まで距離をとる。
だがそこまでだった。
一年前の恐怖が再来し、瞬時に身体を支配していたからだ。
気持ちが悪い。吐き気がする。動きたくても悪寒で染まってしまい、ぶるぶると有り得ない程震えている。
「信じて……」
ただ一言、涙声で必死に搾り出した。
広い寝室に再度静寂が戻った。
恐れていたエルドからの追撃はなかった。己を抱き締め縮こまるセレスを見て我に返ったようだ。
「……馬鹿力」
毒づきつつも流石に気まずく感じたらしい。
「悪かった。――――だが別れるつもりはねえ」
きっぱり言い放つと衣服や装備をかかえ、明らかな後悔の目でセレスを一瞥し、舌打ちした。
「別の部屋で寝る」
そして踵を返し、あっという間に退室してしまった。
取り繕う暇もない。
その場に一人残されたセレスは予想外の逆襲を喰らったことに大きく息をついた。
「く……」
身体がうまく動いてくれない。下手に動くと吐きそうだ。
それでも必死に這い進んで鞘におさまった剣を抱く。
止めようとしても涙があふれる。
これでやっと普通に仲良くできると思い込んでいた相手からの手痛い仕打ち。
深い虚しさに包まれてしまう。
なんだ。
あれだけ口説いてきたくせに、結局は壊してもいい程度の存在なんじゃないか――――
「う……ふぅっ、………うう…」
酒でべたつく身体が心底不快だったが、清拭する気力すらわかない。
涙も震えも止まらない。
心臓の鼓動は呼吸困難になる程荒々しく、いつまでも止まらなかった。



目覚めた時には既に日が高く昇ってしまっていて、慌てて飛び起きた。
なかなか寝付けなかったせいだ。
エルドは先に身支度を済ませていたが、顔を合わせても当然ながら気まずかった。
「……二度と、しないで」
注意しても返事はない。
居心地の悪い不和の空気に押され、たいした会話もせずに外で出た。
相変わらずの廃都が広がる。
足元がふらついた。
根付いた恐怖はなかなか取り払えるものではない。
また何か仕掛けてくるのではないかという疑念を取り払えず、精神的にも体力的にもまったく休めていなかった。
エルドも何も言わない。
二人の関係には深刻な亀裂が走っていた。
切り出し方に困りつつ、暗く不穏な空気に苛まれていると、意外な人物が現れた。
「セレスー」
昨晩の兵士に連れられ、杖を振り回しながら近づいてくる魔術師が一人。
「兄さん!」
ゾルデにいるはずのイージスが歩いてきたのだ。
157女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:34:57 ID:Yt/tda8s
セレスを追って応援に駆けつけたのである。
へへっと笑いながらぼさついた頭をかく。
「やっぱり来ちまった」
「ありがたいわ」
信頼できる人間の登場。
つい気が緩み、セレスの表情にも希望と明るさが灯される。
「ふうん……」
代わりにエルドの不機嫌が増した。
身を翻し、さっさと何処かへ行ってしまった。
「なんだあれ」
「勘違いしてるの」
「何を?」
「突然OK出したから。信じられないみたい」
「はあ?」
イージスの眉毛のバランスが盛大に崩れ、心底呆れ果てたといった顔になった。
「また何かあったのか」
警戒を帯びて鋭く尖る問いかけ。セレスの重々しいため息はその肯定をしてしまう。
「昨晩ちょっとね。こじれちゃって。こっちはやっと受け入れる覚悟ができたっていうのに。うまくいかないものね」
取り繕うように苦笑するが、一年間彼女を心配してきた男はごまかされない。ただセレスを見つめ続ける。
「大丈夫かよ……なんか、顔色ヤバすぎるぞお前」
長い睫毛の向こうにある瞳は翳り、暗い。
表情もすっかり青ざめていて、極度の緊張状態におかれたことを示していた。
「ほんと、大丈夫」
安堵させようと見せた微笑みも無理があり、弱々しかった。
イージスはしばらく立ちすくんでいたが、やがて意を決し、きっと顔を上げる。
「セレス、俺からも話があるんだ」
「何?」
セレスの肩に片手を置く。
現在彼女に兄と呼ばれている男の眼差しは真剣そのものだった。
「ゾルデに戻ったら、一緒に旅に出よう」
あまりに突然の申し出。
理解が追いつかず、セレスの目が点になる。
構わず兄は宣言した。
「俺はアドニスにお前を送り届ける」
「そんな、兄さん。突然何を言ってるの?」
慌てて反論しようとしたら今度は両肩に手を置かれた。
「わかっているんだろう本当は。お前の居場所はここじゃない」
諭されても、突然すぎて返答すらままならない。
「そんな、だって……ゾルデのことはどうするの?今一番大切な時期じゃない」
「勿論だ。だが、ヤツを見つけるまでにそこまで時間はかからねえさ。ミッドガルドは狭い。そこら中に散ってった仲間達が皆協力してくれる。
 俺達の戦乙女が祝福した、お前と、アドニスなら。
 ちっとばかしはこじれちまったかも知れねえが、見つけたら俺が絶対何とかしてやる」
「ちょっ、に……兄さん、聞いて」
決定だとでも言うようなすさまじい勢いに押され、反論を紡ぐ自由はなかった。
「いや、もう何も言うな。決まりだ。きたねえおっさんの俺にだってわかる。お前の幸せはそこにある」
そう、うろたえる妹にきっぱり言い切った時だった。
「へえ。じゃ今は幸せじゃねえってことか」
冷えた物言いを投げつけられてイージスとセレスの表情が瞬時に強張る。
いつの間にかエルドがそばに戻ってきていて、嫌悪感剥き出しの表情で二人を睨みつけていた。
だがもうイージスも退いてやる気はないようだ。
セレスを庇うように前へ出る。
「盗み聞きたあ趣味が悪りいな」
「んなでけえダミ声で怒鳴ってりゃ聞きたくなくても聞こえちまう」
毒舌と軽視の視線を受けてもゾルデの英雄は安易な挑発などに乗らない。
「今は幸せじゃねえってことかって今ほざいたな。じゃあ何だよセレスのこの顔は」
親指で背後の女を指す。
158女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:36:24 ID:Yt/tda8s
「いつも泣かせて真っ青で震えさせてたくせに、仕舞いには受け入れるって言わせてもこの有様かよ。
 これから何潜んでるかわかんねえとこへ探索に出るんだぞ。こんな状態にして、本当は死なせてえのか!?」
牙を剥いて失態を追求され、エルドも流石にぐっと詰まったようだった。
「もういいだろう。彼女の揺るがない想いはわかったはずだ。これ以上束縛してもお前がもっと惨めになるだけだ」
 セレスは頑張っただろう。もう解放してやれ」
だが死神は醜い程口角を歪めて嘲り嗤うだけだった。
「冗談」
一触即発の張り詰めた空気が漂う。
「お前さえ余計なことしなけりゃセレスは本当はここにはいねえんだよ……!!」
イージスの一言一言には圧し掛かるような重みがある。反撃は鋭く、叩きつけるように厳しかった。
童顔にいくつも青筋が浮かぶ。
その時だった。
「あのう……そろそろ……」
一同がすっかり存在を忘れていた人物が場を制した。
空気の読めない兵士がおどおどと割って入ってきたのだ。
だがその鈍感さが逆に助かった。乗じてセレスも割り込む。
「そうよ。二人とももうやめて」
イージスは微妙な面持ちを作り、エルドは舌打ちして顔を逸らせた。
「兄さん、私、決めたから……」
「ああわかった。今はそれでいい」
「俺も別に構わねえぜ」
真っ向から対立する二人の同意を何とか得ることで場を収めた。
「仲良くしようぜエルド――――これが最後の共同作業なんだからよ」
イージスはギロリと挑むような視線を投げつける。
負けじと睨み返して火花を散らすと、エルドは不愉快全開といった感じのままさっさと行ってしまった。
一向にまとまらず捩れるだけの現実はセレスの嘆息に変わる。
「兄さん……」
「安心しろって。俺が何とかしてやるから」
満面の笑顔が逆に困り者だった。
そんな先達から更なる衝撃がもたらされる。
「そうだ。エーレンからの手紙で伝え忘れてたことがあってよ。アドニスからお前に伝言だぜ」
「えっ」
思わず息を飲み、見開いた目でイージスを凝視する。
反応の良さは心の表れ。それを確認し、先達はにやりと笑う。
「『やべえ時はあの感覚を思い出せ』だとさ」
心臓が飛び跳ねるような驚きの後は、意味不明な一言の伝言にきょとんとしてしまう。
「あの感覚と言われても……」
記憶を辿ったがさっぱり思い当たらない。果たして意味があるのだろうか。
「何だお前にもわからねえのか」
戸惑うセレスの肩に、イージスがもう一度手をおいた。
「まぁあれだ、本人に直接聞けばいいさ!どうせ数ヵ月後には一緒になってるんだからなっ!!」



薄暗くなるのを待って、もう一度地下へと降りることになった。
一行の空気は当然ながら険悪極まりなかったが、それでも組んでいるのは、互いに想定外の危険の発生を案じているせいだった。
魔物が続々と襲ってくる。
セレスに向けて攻撃魔法が放たれた。
「え……っ」
別の魔物に気をとられていたセレスは反応速度が鈍い。心身の不調は隠せず隙だらけである。
すんでのところでイージスの放った氷霊と相殺された。
「ごめんなさい」
「どんまい」
そう、優しく励まされた時だった。
159女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:38:21 ID:Yt/tda8s
ガコン。
瓦礫が落ちて砕ける音が合図のように辺りに響いた。
雑魚達が奇声をあげながら一斉に散ってゆく。
何事かと視線を投げた。
砕かれた向こうから、巨大なおぞましい生物が姿を現したのである。
「何よこれ……!」
植物のような、それにしては生物くさい大きな魔物。
数本の野太い触手が活発に蠢き、巨体に似合わぬ身軽な動作を見せる。
異様な配色。
見覚えがある。
アリーシャ達がディパン城に潜入した時、三賢者の一人に会う前に出くわしたあの化け物だ。
いや、違う。
あの時もでかかったが、今回は更に一回り大きい。
「成長してやがる……」
背後にいたエルドが呟いてから舌打ちした。
セレスは何となく察しがついた。以前の騒動の犯人はこの魔物だろうと。
地下にいたはずのものが地上へと這いずり出てしまったのだろう。
何かあるだろうと予想をしていたとはいえ、暴かれた正体に誰もが顔面蒼白だった。
知能の高い、巨大な不浄の植物。
丸太のような触手を振り回すとその先にある障害物は簡単に破壊された。
殺傷力も移動能力も格段に上昇している。
「退けっ!」
その場から散るように撤退したが、一人立ち竦んだまま動かない者がいた。
探索に同行してくれていた兵士である。
「何をしている!?早くっ!」
叫んだが、誰もが歴戦の勇者達のように動けるわけではない。
彼は恐怖でもたつき、ついにはよろめいて尻餅をついてしまった。
「くっ!」
嘲笑うように触手が空を切る。確実に獲物の急所を狙ってきた。
何とか間に合ったセレスが猛攻をすんでのところで薙ぎ払う。
それがスイッチになったのか、兵士は悲鳴と共に脱兎のごとく逃げ出した。
しかし逆に残されたセレスが窮地に追い込まれる。体勢を崩した彼女目掛け、触手が一斉に襲い掛かったのだ。
そこで的確な射撃の援護が入る。
体液が吹き散り、触手達の軌道が次々に逸れた。
「あっ!!」
暴走した触手に衝突され、弾き飛ばされてしまった。
柱に激突しかけたところを力強く抱きとめられる。
目を開けると不機嫌を丸出しにしたエルドの腕の中にいた。
「……ありがとう」
「色気ねえな。鎧なんかつけたまま抱かせるなよ」
つまらなそうに吐き捨て、セレスを離す。
「カスなんざほっとけよ。お前踏み台にして生き残られても俺に嬲り殺されるだけだぜ」
「エルド―――」
暴言を咎めている暇もない。
触手は剣となり矢となり、次から次へと襲い掛かってくる。
ミサイル系の飛び道具まで備えているのだから厄介極まりない。
芳しくない状況の中、エルドが冷静に呟いた。
「いけそうか」
「え、ええ」
覇気のない返答。訝しまれたが、こんな所で弱音など吐けない。
「……そこまでやわじゃないわ」
「じゃあ援護してやる」
この男らしからぬ申し出だった。
昨夜のことを少しは気にかけているのだろう。
攻撃態勢を整える暇もなく、左右に飛び散った。
160女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:39:47 ID:Yt/tda8s
気まずい最中とはいえ、戦闘ではやはり心強いことこの上ない。
申し合わせたような援護は的確だった。相変わらず他人という駒を動かすのが上手い。
セレスの動きをうまくつないでくれる。
射手は戦局を左右した。
一発の狙撃がうまい具合に命中し、部位を切断し、弾き飛ばす。
「やっちまえっ!!」
勝利への血路を開いた死神の合図。
好機到来。
この機を逃せば確実に全員に死が舞い降りる。
不調などに付き合っていられない。戦士は剣をぐっと握ると、鋭い目つきで跳躍した。
斬った。
とにかく斬った。
千切れた触手と体液、絶叫が鮮やかに舞う。
光が沸き起こり、その度に命の煌めきが削られていった。
跳躍。
斬る。
繰り返す。
解体されてゆく。
思い起こすのは血腥い戦場。
狂気の中で血沸き肉踊る感覚が鮮やかに甦る。



やがて動くものが見えなくなった。
体液の海の上、肩で荒い息を吐きながら立ち竦むセレスは、戦闘の終了を心底から安堵していた。
熱い。
心臓が爆発しそうだ。
汗がぽたぽたと前髪からも滴る。
精神の不安定、体調の悪さも後押しして、抑制できる限界地点まで高揚している。それを何とか押し込めた。
「はぁ…はっ……」
目の前が霞む。
ふらつき、揺らめき、立ち位置がわからなくなる。
ああ、でも。
良かった。
終わったのだから。
ギリギリだった。
これ以上、やったら――――
だが。
「セレスー」
イージスの呼び声に笑顔で振り向いた瞬間、即座に凍り付いた。
束の間の勝利を思い知らされたからだ。
「後ろっ!!」
滅多打ちにしたはずの相手が凄まじい再生能力を発揮し、ゆらりと立ち上がっていた。
おまけにうようよと、周囲から更に何匹もわいて出てきた。
遊ばれていたのだ。
立て直す暇など欠片もなかった。気付いた時にはすっかり囲まれていた。
強さも再生の速度もアリーシャ達が戦った時の比ではない。
確実に成長している。
追い詰めた獲物の動揺を楽しみ、まるで挑発するかのような動きをする。
優位の誇示。
だが彼等の思惑に反する女が獲物の中に一人混じっていた。
窮地の真っ只中、セレスは必死に己を保とうとする。
いけない。
楽しい。
わくわくしている――――
161女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:41:37 ID:Yt/tda8s
ドクン。
「嘘だろ……」
背中合わせになっているイージスの青ざめた呟きすら、もう聞こえなかった。
ざわざわする。
すぐそこにある、越えてはならない壁の向こう側がわかる。
異界の扉。
だめ。だめだ――――
ぎゅっと目を瞑る。
その時。
『おかえりなさい』
心に巣食う、ゼノンの姿をしたそれが、嗤った。
ぷつんと何かが切れた。
不意にイージスを狙って飛んできた、大木のように太い触手。
それが面白い程すっぱりと切れて吹っ飛んだ。
体液を撒き散らしながら暴れ狂う魔物の絶叫が轟く。
何が起こったかわからず、呆然と異形の醜態を見つめるイージス。
その緊張した瞳が、ゆっくりと、女を映す。
「セレス……?」
戦慄する。
今魔物の腕を吹っ飛ばした女。
そこにはセレスの姿をした、セレスではない違う女が立っていた。
纏う空気があからさまに違う。
外見的に変化があったわけではまったくない。
なのに、危うげだった女は打って変わり、獰猛な獅子を思わせる立ち姿をしていた。
その奇怪な女がゆらりと揺れる。
彼女が一歩を踏み出すと、魔物達が一斉に引いた。
女の横顔は研いだばかりの刃物のようにきれいだった。
赤い呼び声に応えてしまった時、セレスは正常という地面から、飛び立った。



彼女の場合、ただ力に溺れ、闇雲に動くものを殺したがる狂戦士状態になるというわけではない。
むしろ頭は非常に冷静である。
なのに血は逆流するかのように沸騰して、血液が大量に目に映ることを激しく望んでいる。
そのくせ精神は氷塊のごとく落ち着き払い、勘は隅々まで冴え渡る。
稀有な凶刃。
彼女は己が愛する男ほど、その実質を掴んでいない。
ある意味純粋で、非常に性質が悪いとも言えた。
若い頃は戦争という名目のもと、その力を惜しみなく振るうことが正義だと信じていた。
ラッセン侵攻後は平和という宝石をちらつかせた写本に導かれてしまった。
そして今は――――
女はただ立っていた。
いや、女というよりは、斬鉄姫。
後世に名を残し、現在も語り継がれる炎色の姫君。
豪然と。
すべてから圧倒的な威圧感を醸し出しながらその場に存在していた。
自然に口元が笑っている。
全身に広がる爽快感に酔っているせいもある。
その微笑は恐ろしい程に彼女を際立たせ、美しく仕立て上げる。
味方でさえつい気圧され、後ずさってしまう程の存在感。
魔物達も突然変貌した女に動揺していたが、数で勝負とばかり、攻撃を仕掛けてきた。
だが手段としては悪手でしかなかった。
今のセレスには力押しの手管など通じるはずがない。
小さな隙間を縫い、最小限の動作のみで獰猛な攻撃をかわしてゆく。
荒くれる触手に天井が破壊されて轟音が響き渡り、ぽっかりと空いた穴から月と星屑が見えた。
誰も女を捕らえることなどできない。
162女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:43:13 ID:Yt/tda8s
とん、とん、とん。
伸ばされた触手さえ軽快に足蹴にして、さらに高く舞い上がってゆき、ついには外へと出ていってしまった。
その獣は自由だった。
楽しい。殺したい。もっと手応えのある相手と戦いたい。
もっともっともっともっともっと
「おいっ!!セレス!!」
突然の豹変に仰天したイージスが慌てて後を追ってくる。
女は既に逃げるために凌いでいるわけではなかった。
まさに剣と一体化していると行っても過言ではない、それは完全に攻めの体勢だった。
セレスが通った後には生命の残骸、血と肉の塊が残されるだけだ。
土煙と赤い炎が狂おしく舞い踊る。
早すぎてついていける者は誰もいない。
女の目には燃え滾るような熱と凍り付くような冷温が共存していた。
剣を握りしめる。
今なら誰にも負ける気がしない――――!!



その後はただ、廃墟に魔物達の断末魔の悲鳴があふれ返るだけだった。
月夜の晩、数百年前に死したはずの英雄が熱風と共に舞う。
紅炎。
あまりにも人間離れした動きだった。
かつて黒光将軍だった頃、十倍とも言われる故郷の水軍相手に戦い続けた女。
疾風は何度も凶悪な弧を描き、魔物の肉体を分解し、飛散させる。
たちまち血液色をした狂気の世界が出来上がる。
瞬時に屍が生成される阿鼻叫喚の地獄絵図を駆け抜けてゆく一騎。
やがて数体が待ち構えるあからさまな罠の中へ、明らかに無謀なのをわかっていて突っ込んでいった。
多角からセレスという一点に向けて、ここぞとばかり凶器が集う。
「セレッ」
息をのんだイージスの硬直も無駄に終わる。
セレスはふっと微笑み、炎の髪をなびかせて、己が使用できる唯一の魔法を唱える。
攻撃力上昇の魔法。
彼女を飲み込んだ触手の群れは、パン、と破裂するように切り刻まれて大破した。
「嘘だろおぉおおぉおっ!!?」
凄惨すぎて信じられない。驚愕にまみれたイージスの悲鳴があがる。
生きた体液が死んだばかりの魔物の身体から派手に飛沫あげる。
まるで演舞。
赤髪がさらりと踊る。
魔物達を恐怖に陥れている女は今、紅蓮の宴に華を咲かす異界の舞姫のようだった。
最早この世のものであることすら忘れてしまったかのようだ。
「セレス!やめろ、止まれっ!!やめるんだ―――――っ!!」
足場の悪い瓦礫の山。もたつきながらも来た道を戻りながら、イージスは夢中で追いかける。
届かないとわかっていても必死で叫び続けるしかできない。
この場は凌げるだろうが、そんなことはもうどうでもよかった。
ただただ否応無しに痛感していた。
かつて仕えた王家の血筋が如何に人として優れていたか。
そして如何に破滅と背中合わせのものかを。
ドラゴンオーブを絶えるまで守護し続けた一族の根源。
不死者王と呼ばれる程の男を輩出し、戦乙女と融合などという偉業を成し遂げたあの王女の血筋。
斬鉄姫。
妹。
無力を痛感する髭面がこれでもかと歪む。
もう手が届かなくなってしまった。
この一年、もっと早く決意さえしていれば、いくらでも何とかできたのに。
後悔だけがせり上がる。
163女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:44:34 ID:Yt/tda8s
「セレス――――――――ッ!!」



「何他人事いってんだよっ!!こうなったのもお前がとことんまでセレスを追い詰めた所為じゃねーか!!」
殺戮の最中、誰かの非を責める罵声が微かに斬鉄姫の耳を障る。
何処かでイージスの怒号が飛んでいるようだ。
「止められもしねえくせに!!役立たず!!」
誰かを咎めているのだろうか。
ああでも、もう、どうでもいい。
戦闘に酔いしれる女は交戦に関係ない疑問を投げ捨てた。
「あいつならっ!!」
悲痛な罵声も巻き起こる紅炎によって無残に掻き消され、斬鉄姫の耳には届かない。
ただ紅が闇を焦がし続ける。



数十分もかからず、湧き出る魔物達は再生を停止していた。
屍骸の氾濫する只中、欠けた月を背に、カミール17将に数えられた女が立ち尽くしている。
感情の点らない表情には失望が滲んでいた。
「弱い……」
魔物達はその数でもってすら、彼女を満足させるまでには至らなかった。
ただ図体がでかく、再生が早いだけ。こんなものは強者とは言えない。
斬鉄姫は空を振り仰ぐ。
足りない。
次の相手をさがしに行こう。
そう決意して踵を返した時だった。
「セ…セレス……」
崩れた城壁の向こうからイージスが現れた。
そこにはいつものように彼女に優しい笑みを浮かべる男はいない。
冷や汗と武者震いを伴い、どう見ても腰が引けていた。
明らかに理解の追いつかない異物と化した女を畏怖している。
「怖がらなくてもいい。貴方には恩がある」
害意の無を仄めかすと、抱く恐れを見透かしたように微笑み、にっこりと笑った。
「今までありがとう。私、行くわね」
「……だめだ」
震え声の否定を受けると、セレスの整った顔立ちにおさまる緑の瞳が薄く揺らいだ。
「どうして………?」
全身を引き裂かれるような悪寒が走る。
吹き飛ばされんばかりの気迫。
戦場でこそ燦然と輝く女なのだと思い知る。
だが。
この女を今、野に放つわけにはゆかない。
確かに強大な力の持ち主ではある。だが今現在、決して正しい存在とは言えない。
あまりにも純粋すぎるのだ。
それこそ何処ぞの国家にでも属せば戦火を煽る大嵐となりかねない。
先達は杖を握り締め、腹の底から搾り出した。
「戻って来いセレス……!!」
呼ばれた女が静かに、ゆらありと笑い、その赤い唇を開こうとした時だった。
「よう」
斬鉄姫の興味が不意に逸れる。
「あらエルド」
足元の瓦礫を蹴飛ばして、同期である死神が現れた。
『斬鉄姫』とは初対面ではないせいもあるのか、イージスとは違い平然としている。
「ずいぶんと久しぶりだな」
「そうね。数百年ぶりだものね」
164女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:46:06 ID:Yt/tda8s
「また派手にやらかしたな」
「そうかしら。昔に比べたら可愛いものでしょ」
冷や汗だらだらのイージスには奇妙でしかないおかしな会話だったが、二人の間では通じていた。
元青光将軍がすたすた歩いていって、元黒光将軍の目前でぴたりと止まる。
向かい合ったままお互い腹を探り合うような数十秒が過ぎた。
「どいてよ」
「どかしてけよ」
そのやりとりがおかしかったのか、無表情だった斬鉄姫がふっと吹き出した。
しばらくくすくすと鈴を転がすような笑い声が漏れる。
それは余裕を含む、高みからの笑い。
もうエルドの手におえるような女ではない。
美しい鈴の音は緊迫した場面に異様に高らかに響いた。
「殺してかねえのか?ムカついてんだろ」
問いかけに笑い声が途切れる。
確かにセレスの目の前には今、一年間辛酸を舐めさせ続けてくれた卑劣な男が静かに立っている。
殺意を問われた斬鉄姫は感情の読めない双眸でじっとエルドを見据えていたが、薄く微笑みを灯したまま首を横に振る。
そして言った。
「一緒に来る?」
信じられないほど優しく、澄んだ声色だった。
だがそれは伴侶としての誘いでは決してない。
弓闘士としての腕を見込んだ故の申し出なのが薄々ながら感じられた。
いざなわれたエルドの表情は変わらない。
少なくとも表面上は。
「お姫様の仰せのとおりに……………と言いてえところだが」
必要とされたにも関わらず、小さく苦笑する。
「それは俺がほしい答えじゃねえな」
別の答えを求められたセレスは少しだけ悲しげな困惑を見せた。
「それは無理よ」
この一年、セレスがずっと彼に与え続けてきた返答。
エルドにとって不都合な真実は、彼女が覚醒しても変わらなかった。
結局は、そばにいると言っても、心は近くに無いという残酷な露呈。
俯いていた死神はぽつり呟いた。
「そうか……」
そして顔を上げた。
見慣れた童顔がそこにあった。
だが。
「こんな時に、そんな理由じゃねえと、俺は必要だって言ってもらえねえんだなぁ」
童顔は今まで一度も見せたことの無い、今にも壊れてしまいそうな、とても悲しい顔をしていた。
セレス側に小さな揺らぎが生まれる。
たまゆら。
それは本当に一瞬の出来事だった。
隙をついてエルドの身軽な体躯がすいとセレスの背後に回ろうとした。
窮鼠猫を噛む。
うな垂れていた相手の豹変と急襲。
だがセレスも並外れた能力を最大限に発揮している最中。
異様な動きを見せた死神に身体が勝手に反応しまい、意識を問わず剣が舞う。
ムーンファルクスが容赦なく彼を斬りつける。
だがエルドの手が長い赤髪を掴み、勢いよく引っ張る方が一瞬だけ早かった。
ぐん、と力を加えられ、女の顎が仰け反る。
「戻って来い」
そして叫ばれた。
とてもよく似ている声で。
165女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:48:05 ID:Yt/tda8s
「―――――――――この豚野郎ッ!!!」



背後で誰かが倒れる音がした。
だがセレスに振り返る余裕はない。
仰け反らせた格好から元に戻ると、がくんと膝をつく。
そのまま身体が折れて地面に手をついた。
目は見開いている。
暴走状態は解除されていた。
「そうか…」
『あの感覚を思い出せ』
「そういうこと……」
動けなかった。
想い人の真意を理解してしまったからだ。
本当に嫌がらせではなかったのだと。
「戻されたんだ……」
真実が疑念を浄化してゆくように脳内を駆け巡る。
あの時、やはり向こう側に行きかけた自分を、こちら側に引っ張り戻してくれたのだ。
即時にでも戦いたいはず。いつだって紅蓮に燃え盛っていた方が彼に都合がいいはず。ずっとそう思い込んできた。
だが提示された真実は違った。
奥底に何を飼ってようが、扱うのはテメエだろう。
喰われるな、と言う戒め。
それを教え、施してくれたのだ。
ずっと、イージスやソファラにあれだけ教えられてもどうしても信じられなかったものが、急激に身に染み込んでくる。
「本当なのね……」
でも、ここに来てはくれなかった。
来るつもりもないのだろう。
あれだけちょっかいを出しておいて、こんなに熱くさせておいて、知らんぷり。
連れていってもくれず、迎えにきてもくれず、一人で流れていってしまった。
やっぱり。
「……酷い人」



「はあ、はぁ…ぐぅ…っ……」
「!!」
目を見開く。
慕情で満たされた思考は、苦しげな喘ぎ声により一瞬にして砕け散った。
真後ろで、斬鉄姫の刃を正面から受けた男が倒れている。
「エルドっ!!」
慌てて走りよろうとしたがバランスを崩し、地面に倒れこんだ。
急激な変化から戻ったばかりのせいで身体がうまく動いてくれないようだ。
「く……っ」
必死で這って近寄るが、瀕死の男は彼女を乱暴に振り払った。
それはそうだろう。凶悪な一太刀を喰らわせた相手だ。
セレスは混乱と自責の念で押しつぶされそうだった。
「ご、ごめんなさい……っ」
「もう……いい…」
加害者を責めない声は、全てを諦めたような音を纏っていた。
「やっぱり…お前は……………」
言いかけて途切れる。
赤い。
傷口から、ただただ赤が広がってゆく。
「いやっ!エルド!エルドしっかりしてっ!!」
どうすることもできない。
166女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:49:30 ID:Yt/tda8s
後悔で支配され真っ青なセレスが涙目で叫び続ける。
「エルド…!!」
その時だった。
回復魔法の白い光がエルドをふわりと包み込んだ。
驚いたセレスが顔を上げる。
その先には。
「兄さん!!」
その魔法を施してくれるとは到底思えなかった男が、回復魔法を放った手を引っ込めて、疲れ切った顔をそのままに二人を見降ろしていた。
「ま、働きに応じてっつーことで。応急処置だけどな」
驚きつつも睨み上げる弓闘士ににやりと笑う。
「わかってくれたみてえだしな」
指摘を受けたエルドは童顔をこの上なく渋く染めたが、
「くっそ………――――――ぉおおおおおっ!!」
咆えて拳を地面に落とした。
乾いた鈍い音と共に、
「結局こんなオチじゃねぇか……」
そう零すと、今度こそ終わったとばかり、後方に倒れた。
セレスの変化しない想いをついに認めたのだ。
「本当はわかってたんだろ」
少々嫌味な追い討ちをかけてからイージスがセレスを見やる。
にやりとした表情からは、やったな、という耳にできない声が聞こえたようだった。
セレスは少し困った顔で微笑み返す。
帰結。
歪んだ関係はやっと終わりに辿り着けた。



ところがそううまく終わりは来なかった。
這い蹲っていた魔物達がもぞもぞと動き出し、一斉に立ち上がったからだ。
すっかり気を抜いてしまっていた三人ともが揃って凍りつく。
おぞましき脅威。
目の前には再度異形達がひしめき合っていた。
完全には再生していないもの。他のものとくっついてしまったもの。
人外のおぞましい奇声には大量の怒りが含まれ、波動となって感じられた。
ただでさえ不死の流れをくむ生命体。それがこの数。現在の三人ではもうどうしようもない。
「何とか凌ぐぞ」
轟然たる中、意を決したイージスが前に出る。
それをエルドが制した。
「下がってろ。俺が盾になって血路を開く」
意外な台詞にイージスもセレスも目を丸くした。
「何を言ってるの」
「お前こそ何言ってんだよ。俺なんざもう用済みだろ?どうなったって関係ねえくせに」
皮肉げに口角を吊り上げる。
「けど守るって言っちまったからな。仕方ねえ」
弓をつがえる。
決死の覚悟が伝わってきた。
「エルド!」
「喚くなよ。ぶっ倒れんの見るのが気ィ咎めんなら死んでも立っててやるから」
セレスの手を投げやり気味に払いのける。
「行けよ」
「ふざけないで!」
「早く連れてけ溺死大先生」
微妙な顔つきをしていたイージスだったが、とにかく時間がない。
決断を迫られた先達はエルドの提案を採った。
「時間がねえ。行くぞセレス」
「そんなっ!兄さん!!」
167女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:50:49 ID:Yt/tda8s
「行くんだ」
ぎょっとしているセレスの腕を強引に引く。
「だめ……っ!!」
セレスが犠牲を出してまで生き延びるという選択肢を拒絶した、次の瞬間。
突如として空から魔力を帯びた数多の矢が降り注ぎ、魔物達の断末魔の悲鳴を誘った。
「えっ!?」
突然の援護はエルドの射撃ではない。
空気を孕んで外套がまう。
その射手は軽やかに地面へと降り立った。
同時に、鮮やかな緑色をした長髪がこぼれる。
三人が息を呑むのと、その人物がフードを取り払い素顔を現すのが同時だった。
「よっ」
「ルーファス!!」
「ったくお前ら相変わらずだなぁ〜感動の再会もこんな修羅場かよ。勘弁しろっての」
呆れ果てた視線を投げかけてくる。
それはあまりにも懐かしい顔だった。
アリーシャ達と共にあの異世界に残ったはずの仲間。
その男が別れた時と寸分違わぬ姿で現れたのだ。
喜びと安堵が迸る。
だがこの緊迫した事態に、変わらずの軽い態度は、どこか違和感を感じた。
「お前どうやってここに」
「アリーシャ達は……」
イージスとセレスから溢れ出そうとする疑問の波を制する。
「話は後だ。そんな悠長な場合じゃねえだろ」
わらわらと群れる魔物達は今にも襲い掛かってきそうな勢いである。
「だな……」
「とりあえず少しばかり移動しねえか。そうだな、もうちょっと高いとこだ」
「高いところ?何か考えがあるの?」
「あーうん、まあ」
どうでもよさそうに頭をかく。
何だかおかしい。
久方ぶりの再会相手はあまりにも平常すぎて、地に足がついていない気がした。
だが今は彼に追従するしか、もう術はない。最早賭けに近かった。
ルーファスは悠長に辺りを見回す。
四方八方から浴びせられる殺意をものともせず高い場所を指した。
「そんじゃ――――あそこまで」
「あ、ああ……」
イージスも違和感を隠し得ないらしいが、言い出せずにいる。
ルーファスには違いないのだが、何かが確実におかしい。
「おうエルド、せっかくの見せ場に茶々入れて悪かったがよ、腐ってねーでいっちょ援護頼むわ」
と言って、むくれている童顔におもむろに手のひらを向ける。
回復魔法なのだろうか。イージスの何倍も強力な白い光が放たれ、あっという間に完治してしまった。
圧倒的すぎる魔力。施されたエルドも見ていた二人も思わず息をのむ。
「……ケッ」
悪態をつきつつ、渋々ながらも弓闘士は立ち上がった。
それを確認すると半妖精の視線が軽戦士へと移る。
「セレスいけるか?」
「誰に言ってるの?」
強気な女に即答を受けてしまい、問いかけた方が苦笑した。
何とか攻撃をかわしながらルーファスの指定した箇所まで登りつめた。
後はない。
ルーファスに全てを任せるだけだ。
下方からは悪意がうようよと群がっている。
「さあってと。久しぶりだからなー。ちゃんとできっかな」
だが当のルーファスはのんびりと、どうでもよさげにがりがりと頭をかいた。
168女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:52:10 ID:Yt/tda8s
「おいこらここまで来て今更そりゃねえだろ!」
生死の境目で慌てるイージスを尻目に、余裕の滲む笑いを零す。
そして弓矢をつがえながら答えた。
「力の加減が面倒でな」
数秒後、ただただ唖然呆然となるしかできない数分間が開始される。
弓矢と共に放たれる光の束。
幾重にも重なる複雑な魔方陣が強烈に照り輝く。
彼の必殺技は旅の途中一度パワーアップしたが、それ以上の力を漲らせ、いかんなく発射された。
すさまじい爆風が湧き起こる。
降り注ぎ爆発する光の圧倒は、無数の魔物達を跡形もなく消してしまった。
「すげ……」
有無を言わさぬ超人的な能力。
ルーファスの背後、脱力するイージスに強風から守られていたセレスも、無言で同意していた。
「浄化完了〜っと」
そんな大仕事をやってのけた男がすらりと弓をさげる。
明らかに雑魚が相手だったと言わんばかりの適当な終了の合図。
その場に残されたのは4人だけ。
そうしてセレス達は絶体絶命の危機を、旧友のほんの少しの手助けで脱してしまったのである。
「そうか……」
立ち上がった時、セレスは気付いた。
「アスガルドで……もう一度ユグドラシルへ登ったのね」
指摘されると半妖精はご名答と言わんばかり、にやりと笑った。
違和感の正体は、普段どおりにしていても滲み出す神々しさ。
神。しかもグングニルを手にし、主神となったのだ。
アリーシャと共に勇敢に道を切り開いていったあの半妖精が。
そう思うと、いやに感慨深い。
地面に降り立つと、あれ程しつこかった魔物達は見事に跡形もなく壊滅していた。
「大変だな。お前がいちいちミッドガルドに降りてきてこんな手間な仕事までしなきゃいけねえのか」
「いや本当は止められてるんだけどな」
表情が見る見る間に暗く翳ってゆく。
「つうかもう…何ていうか…もう…聞いてくれよ〜〜あのフレイってねーちゃん怖えよ〜〜」
以下延々と豊穣の女神に虐げられる新主神の悲惨な愚痴が続く。
話自体は愛する王女との思い出を胸に半妖精が神界で奮闘する壮大な物語なのだが、いかんせん語り手がコレなので
どうしようもない。
泣き言は放っておくと終わりそうもないので、痺れを切らしたイージスが合間を見て話に割り込み、礼を口にした。
「すまねぇ。そんな大変なのに、わざわざ俺達の為に来てくれたんだな」
するとルーファスは途端に無表情になり、ぽりぽりと頬をかいた。
そしてばつが悪そうにイージスとエルドを見やる。
「いや。すまん。ぶっちゃけお前らだけだったら助けになんてこなかった」
「はぁっ!?何だと!?」
「すまん!正直者ですまん!!だって怖いんだよ本当あのねーちゃん!!解放したエインフェリア達とは関わるなって!!」
ずいぶん盛大に尻に敷かれているらしい。
イージスもやれやれと言わんばかりに腕組みする。
「じゃあ何で来てくれたんだよ?」
「それはだな……」
そそそとセレスに近寄り、
「まあ、そういうことだ」
ごほんと咳をする。
セレスが「えっ?」と驚くと同時、エルドが盛大に引き攣り、イージスが何とも言い表しがたい顔になる。
それを見てルーファスの表情も渋味を増す。
三者三様の反応が、どれも気に入らなかったらしい。
「違うだろ……ほらっ、セレスは俺にとってどういう人よ?」
ヒントらしき台詞をちらつかせて回答を促すも、
「……」
疑惑の眼差しの集中砲火だけで、誰も答えない。
エルドが無言で弓をつがえる。
169女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:53:35 ID:Yt/tda8s
「アホども!!ちょっとくらい察せよ!!かーっまったくこれだから」
不満爆発と共に左手を拳にして突き出した。
薬指の指輪が輝く。
「俺のたった一人の女神をずっと心配して大事にしてくれてた人だろ!!」
飛び出したのは何ともこの半妖精らしい、至極誠実な答えだった。
「ルーファス……」
勢いに任せて本心を吐露してしまったのが恥ずかしくなったらしい。
後頭部をかきつつ照れ笑いした。
「まぁ、彼女はエインフェリア全員のこと気にとめてたけどさ。あんたに何かあると特に悲しむ気がしちまって。
 つい、いても立ってもいられず、な……」
何だか胸が熱くなる。
アリーシャが望んだ未来を作る為に神となった半妖精。
あの子は何も、存在すべてが掻き消えたわけではないのだと実感できて、目頭まで熱くなる。
思い出の中の少女がそっと微笑んだ気がした。



「そうだセレス」
「何?」
新主神が不意にごそごそと取り出したのは、透明で厚い破片だった。
「使うか?」
きらりとした輝きを無造作に差し出される。
見覚えがあった。
世界のありとあらゆる場所へ移動が可能、離れた相手とでも自由に会話できるという、それ。
「水鏡の破片……」
懐かしさがこみ上げた。
これを使ってアリーシャ達は、あの最終決戦の異世界へと飛んだのだから。
「とりあえず、話しかけるだけでもしてみりゃどうよ。目え閉じて念じてみな」
主語はなかったが、暗にアドニスのことを指しているのはすぐにわかった。
「……」
セレスはしばらく思案した後、首を横に振った。
小首をかしげるルーファスにすかさずイージスの解説が入る。
「信じねえんだよ。あっちの方も、むしろあっちのがその気だって。こんなことに限って頑固だから」
「はぁ?何だそれ?マジで?」
やれやれと大げさな溜息をつく。
鈍感にも程があるだろ――――口にしなくても目がそう言っている。
「そこまではっきり言わないと駄目か?」
そしてそれを容赦なく断言した。
「お前らがっつり両思いだぞ」
「………」
神になった戦友にまで言い切られ、呆然としているセレスの肩に、ぽん、と先達の手が置かれた。
「行けよ」
「兄さん……」
「幸せになれ」
髭面は、ただただセレスの幸福を願う優しい笑顔をしていた。
「ああでもそうだな、流石に今すぐとはいかないよなぁ。用意とかあるもんな」
「だな。それにあいつのことだから何かどっか変なところに出そうだしなぁ」
新主神とイージスはひどいことを言って朗らかに笑い合う。
イージスの高らかな笑い声をセレスは久しぶりに聴いた。
当然かもしれない。やっと肩の荷がおりようとしているのだから。
「……」
しかし同意は返せなかった。
やはり彼は自分の元へと来なかったのだ。
それに。
「あの、そうじゃなくて……」
「ヴィルノアにいる」
170女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:55:10 ID:Yt/tda8s
意外な人物が話題に口を挟んできた。
三人の注目が一斉に集まる。
エルドだった。
ついに訪れた決別に落胆を隠し切れない様子だ。ぐったりと座り込み、廃墟の壁にもたれ俯いている。
「……何故知ってるの」
小さく問われると投げやりに答えた。
「そろそろ始末しに行こうと思ってた」
「……」
呆気にとられる。
居場所まで調べ上げていたようだ。
悪気もなくさらりと言うのが何ともエルドらしい。
だが後に続く言葉は今までのものとは違っていた。
「俺が行く必要がなくなったな。お前が代わりに行くんだから」
セレスの目がまん丸になった。
童顔から、はあ、と重い息が吐き出される。
「これで終いだな――――せいせいする。偉そうに。わかったような口叩きやがってよ……虫唾が奔る」
「エル……」
「よるな。この化け物」
それは彼自身が放つ矢のような鋭い一言だった。
完全に以前のどす黒いエルドへと戻っている。
吹っ切れたのか、硬直するセレスに次々と畳み掛けてきた。
「うんざりだ。何だあの怪物じみた動きは。昔よりさらに磨きかかってんじゃねえか。
 冷めたなんてもんじゃねえ。解放だか何だか知らねえがお前なんかもう手放しても惜しくも何ともねぇんだよ。
早く行け。俺の前から消えろ化け物」
手のひらを返したような暴言の羅列。
気まずい沈黙が漂った。
束縛からの確かな解放。だが放し方が辛辣かつ陰湿すぎる。
しばらく言葉を発しにくい雰囲気が立ち込めたが、
「悪り、話の途中だけど。そ……っそろそろアスガルドにもどらねえと、おおお俺の命が危ない」
ルーファスの怯えを含んだ申し出に話題が逸れて、あっさりと空気が緩む。
「ありがとうルーファス」
せっかく再会できたのに、もう神界に戻ってしまう。生のあるうちにまた会えるとも限らない。
名残惜しさを隠せない表情で礼を言うと、新主神は変わらない笑顔でにやりと笑った。
そして確認するように水鏡の破片をちらつかせる。
「……いいんだな?」
「ええ」
二人のやりとりを、イージスが不安げな顔つきで見ていた。
「なあセレス」
「何?」
「あんまさ、あーだこーだと気負うなよ。彼女の為にもそこんとこ、どうかわかってくれ」
多分セレスよりもアリーシャを強く想っている存在。
そのルーファスにそう気遣われると気持ちが少し軽くなる。
「……わかったわ」
「んじゃ」
踵を返し去りかけて、
「ああそれから――――」
振り向き、おもむろにびしっと指差してきた。
「お前ら全員死後はもっかいエインフェリアな。しかも俺直属な」
爆弾発言を残し、忙殺の日々へと高笑いと共に帰還してしまった。
拒否する暇もない。
とんでもない御託宣を授かったイージスとセレスはただ立ち尽くしていた。
「ストレスたまってやがんな」
「ええ……」
戦友のこれからを案じていると、
「冗談じゃねえ」
どうでもよさそうにエルドが吐き捨てた。
171女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:56:37 ID:Yt/tda8s
嵐が過ぎ去って気の抜けた面持ちの二人とはまったく違う。
「……」
無表情のセレスがもう一度歩み寄り、蹲っている男と対面した。
「本当に行っていいの?」
「知るか。お前が本来いるべき場所なんだろ」
セレスが無言で動かずにいると童顔の闇が濃くなる。
「……モタモタしてんじゃねぇよ。気が変わらないうちに消えろ。それとも今この世から消してヴァルハラで待たせてやろうか?」
「お前この期に及んで……」
本気でやりかねない男。あまりに度を過ぎた暴言にイージスが杖を握りしめた。
だがセレスがそれを制す。
長い時間を共にした彼女には、それが必死の強がりなのがわかるようになっていたからだ。
「まったく。一つ気に入らないと全部投げ出す子供みたいね」
イージスとエルドの表情に驚きが混じる。
はっきりした口調には余裕が戻り、僅かな高圧混じりの語調が、一年前の彼女を思い出させたからだ。
背筋もぴんと伸びている。瞳に宿る光も輝度を保ったまま。
どうやら僅かな間とはいえ、覚醒したことが、彼女の精神に良い影響をもたらしたらしい。
そのセレスが先達に向き直った。
「兄さん、少し彼と話がしたいの」
意図を察したイージスに大量の困惑が混じる。
「セレス……」
だがセレスは揺らがなかった。首を小さく横に振り、再度イージスを見つめる。
「決めたの」
「……わかったよ」
兄はもう嘆息するしかできないようだ。
「お前また早死にするぞ」
それだけ言い残し、彼女の味方である先達は肩を落として退場していった。
申し訳ない気持ちで満たされたまま、イージスが消えるまで静かに見送る。
そして、かつて元将軍だった、そしてつい少し前まで恋人同士だった二人だけが残された。
静寂の中、俯いたままのエルドの隣りにそっと腰を下ろす。
やがてセレスが口を切った。
「彼のところへ行くですって?冗談やめてよ。どちらかの首がとぶだけだわ。高確率で私のが」
この世の終わりを迎えたような男が、苦笑雑じりの発言にぴくりと反応する。
「ヴィルノアに定住してるなら、とりあえず私を捜してはいないってことよね?寝た子を起こすような真似冗談じゃないわ」
空を見上げて笑う。
意図が掴めないのだろう。エルドは目も合わすことなく無言のままだ。
疑念に包まれる男の霧を晴らすため、更に言葉を続ける。
「みんなして言いたいこと言ってくれちゃってるけど。
 証拠はあるの?貴方や皆の勘違いかも知れないじゃない。私はそんな危険な賭けにはもう乗れないわね」
ちらりと流し見て、ふうと息をついてからもう一度空を見上げる。
「好きなだけじゃどうしようもないわ。あの人の生きる場所は戦場、死ぬ場所も戦場よ。私はもうそれに付き合えない」
真横の死神が少しだけ顔を上げる。その微妙な眼差しがセレスの横顔に注がれた。
「何にせよ、あの人は来なかった。一年経ってもこなかった。もう終わったのよ」
息をついてから目を伏せて呟いた。
「……合わす顔もないしね」
沈黙が漂った。
「どういうことだ」
歪む童顔を真っ直ぐに見据え、ぴしゃりと言い切る。
「ゾルデ移転の話もある。私にはやることがあるわ。二度目の人生、そうそう男のことばかり考えていられないってことよ」
それは何とも彼女らしい答えだった。
エルドはしばらく唖然としていた。自分の絶望とセレスの意見との食い違いに戸惑っている。
「…いいのか……いいのかよそれで」
そう何度も訊いてきた。
微かに震える声には理解し切れない女への当惑と、そして僅かな期待が混じっている。
そんな男から視線をそらさず、優しく諭すように伝える。
「私は貴方を選ぶと言ったわ。そろそろ信じてくれてもいいんじゃないの?」
「けど」
172女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:58:00 ID:Yt/tda8s
「そうね――――…一年前、あの時確かに最後まで残っていればわからなかったかも知れないけど。
 私がとったのは、やっぱりあなたの手だったってことかしら」
ここまで言われてもエルドは心を許さず硬直している。
差し出された幸福が信じられず、どうにも受け止めきれないのだろう。
「……何が言いてえかよくわかんねえ。ずっと駄目だ駄目だって言ってたじゃねえか。何でいきなり……」
多少拗ねているようなので、少し叱り付けるような口調で続けた。
「だから。対等では不安かしら?今までみたいに何かある度に力で押さえつけるんじゃなくて、新しい関係を築く努力をしてほしいの」
虚空ばかり彷徨っていた視点がゆるゆると仄かな光を帯びる。
「本気かよ」
まだ疑っている。
予想外すぎたのだろう。
一人ぼっちに戻るしかないと覚悟していた矢先なのだから。
「何言ってるのかわかってんのか」
セレスはひとつ頷き、未だ急展開に歪む童顔を覗き込む。
「一緒に帰りましょう。ゾルデへ」
道は選択された。
エルドのとった決死の行動は一滴となり、その一滴はついに穴を穿った。
超克の時。
焦がれていた自然な微笑みが惜しみなく向けられている。
エルドはやっとまた、以前のように笑ってもらえるようになったのである。
それでもすぐには反応が返ってこなかった。
しばらくしてから未だ納得がいかない、といった童顔がセレスを睨み上げる。
鼻先がかするくらい顔を近づけ、大きく口を広げて、言った。
「ば―――――か」
「なっ!?」
「ばかだろ。せっかくの逃げ出すチャンスをみすみす棒にふるなんざ」
そして唐突に笑い出す。それがとても無邪気に見えて、あまりに楽しそうで呆気にとられる。
おさまってきた頃、セレス側にはふつふつと怒気がわいてきていた。
こちらはやっと決心ができたというのに、笑うか。
「話を」
聞きなさい!と文句を言いかけた唇を、まだ笑みの残る唇が急襲した。
「ん」
唐突の襲撃に目が点になった。
有無を言わさぬ濃厚な口付け。
「ん……ふ」
十分交わってから銀糸をひいて離れた。
「どうしようもねぇ馬鹿だなお前。本当に」
闇のない笑顔からは幸福が零れる。
背中に手を回されて優しく抱き締められた。
「もうどこにも行けなくなったぞ」
目前にあるのは初めて見る顔。
何よりも誰よりも嬉しいといった表情。
そうだろう。
放ったはずの鳥が舞い戻ってきてくれたのだから。
「――――で。俺はこれからどうすりゃいいんだ?」
欲張りな男からの問いかけ。
どうすればもっと心に近付けるかを請われて顎をつままれたが、
「教えないわ」
きっぱりと言い放った。
「これから自分で考えて」
厳しい返答。エルドの口角が不満で歪む。
酷い難題を課せられ、表情にはやれやれといった渋みが増す。
だがどこか嬉しそうだ。
「あんまり煽るなよ……こっちだってできりゃ何事もなくうまくやりてぇんだからよ」
もう一度口付けてから、手中の女を真正面から見据えて言った。
「よしわかった。聞けよ。今から真面目に口説く」
173女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 22:59:24 ID:Yt/tda8s
「え」
ぎょっとして退こうとしたがそうは問屋が卸さない。
「何言ってもいいんだろ」
「べっ、別にいいわよ」
「聞けよ。本当はもっと言いたかったことがいろいろあるんだよ」
腰を抱かれて逃げ道もない。
「いや、あの、ほんと」
「セレス」
悩ましく迫られてぎゅっと目を瞑る。
だが微かな抵抗など無いも同然。
「目開けてくれよ……セレス」



武具が床へと投げ落とされる。
矢筒から弓矢がざらりと流れ出た。
「待って……」
逃げおおせて無事だった兵士やイージスに後処理を任せ、昨夜と同じ家に戻るなり、気の早い男は早速迫ってきた。
セレスは息つく暇もない。
帰り着く間にも無駄に口説かれ、べたべたされていたので、既に心臓の鼓動が早い。
「エルドっ」
壁に追い詰められて手首をとられる。
「疲れたし、その。今日のところは休まない?」
困り顔の提案は即時却下される。
お構いなしにずいと顔を近づけてきた。
「俺も疲れてる。殺されかけたしな」
ぐっと詰まるセレスを笑う。
「こ、この物好きっ」
「俺は物好きじゃない。何度言えばわかる」
至近距離できっぱりと言い放つ。
「俺の女は最高にいい女だ」
あくまで真顔。
そんな恥ずかしい褒め言葉を真っ向から投げつけられても。
「待っ」
「好きだって台詞も何度言えば受け取る気になるんだ?」
更に詰め寄られて思わず目が泳ぐ。その隙をつかれて抱き上げられた。
「やっ」
「今確かめたい」
寝台に持っていかれ、そのまま覆い被さられる。
これからされる行為を思うと、ついぎゅっと目を瞑ってしまう。
「セレス」
まだ密着してはこない。
体を重ねることへの赦しを請うているのがわかる。
「……昨日、怖かった」
少々拗ねてみせると、
「ごめん。二度としねえ」
早く触れてよいという了承が欲しいせいもあるのだろう、あっさり謝罪してきた。
「ほんとに悪かったと思ってる?」
眉間に皺を寄せて確認すると、
「俺を選んでくれるんだろ。なら二度とああなる心配もねえんじゃねえの」
そう返してきた。
そして更にずいと迫る。
「受け入れてくれ」
ずるい。
その幼い顔立ちで真面目に迫られるとあまりに真摯を帯びて跳ね除けようがない。
「…………………物好き」
174女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 23:00:51 ID:Yt/tda8s
ついに観念して目を伏せてしまった。
それを確認後、まずはそっと兜をとられた。
赤がさらりとシーツに流れる。
各所の装備も手際よく外され、不要物となり床へと落ちる。
されるがまま、戦士から女へと戻されてゆくようで。
防具と一緒に心の鎧まで外されている気がして、恥ずかしさがいっそうこみ上げる。
一通り防具を外し終わると太ももに触れてきた。
びくりと波打つ。
「どうした。やけに大人しいじゃねえか」
淡々と準備を進める男はセレスの態度を不思議そうにしている。
手中の女は焦げ付く程に真っ赤だった。
「だ、だって、いつもと雰囲気が全然……っ」
口付けも抱擁も全然違う。少し触れられただけでどうにかなってしまいそうだ。
今まで一度も受けたことがない甘さ。
甘いというより甘酸っぱい。
手馴れた手つきにより衣類もだんだんと暴かれてゆき、白い素肌があらわになる。
最後に手袋が床に放り投げられた。
剥き終えた豊満な裸体を満足げに抱き寄せてくる。
「ん……」
舌を絡められると、肩を掴む指の先まで痺れてしまう。
「何か違うのは当たり前じゃねえの?一山超えたんだからよ」
言葉を紡がれる度、更に赤くなってしまっているのがわかるが、どうしようもない。
エルドがいつもと違う。真っ直ぐな視線を決してそらさない。
追い討ちのように、
「好きだよ」
と耳元で、らしくない素直な告白を囁く。
眩暈でくらくらする。
既におかしくなりそうだった。
雰囲気が違う。違いすぎる。
「ああ…、あん……やっ」
戸惑う女の首筋を楽しむと豊かな胸に埋もれてきた。
ぷるんと柔軟に揺れる乳房が男をむにゅりと受け入れる。
一段と甘い喘ぎが喉から出てゆき、己のことながら信じられなかった。
裸体が重なる。
優しく撫で回されて思わず顎が仰け反る。格段に良い反応を返してしまっている。
頭に霧がかかって何も抵抗できない。
「セレス」
言葉は砂糖菓子のように甘く、発されるごとに感覚はますます鋭敏になってしまう。
「はあ…はっ……ああぁっ」
色付く裸体を責め立てながらいつまでも口付けは降り止まない。
「だから何赤くなってんだよ」
からかわれたが反撃する余裕すらなかった。
「恥ずかしい」
「何だ今更」
火照り顔を覆い続けていたら、邪魔とばかりに手をとられた。
「やっ」
「エロい顔見せろよ」
「いや」
必死で顔を背けるが、逃げ切れるわけもない。
「もっと見せてくれ」
困り顔の女と、手に入れた幸福を隠そうともしない男。
だがそんな対比さえ何となく穏やかである。
やがて男の手のひらは腹を撫で、下半身に降り、下腹部を撫で回し始めた。
「お前が暴走し始めた時、もう何もかもどうでもいいと思った」
「えっ、あっんんっ。はぁっ!ちょ…待……っ」
「何でもするから、他のものなんてどうなってもいいから、元に戻ってさえくれれば……」
175女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 23:02:11 ID:Yt/tda8s
いやだ。
今そんな本音をもらされたら。
大事に抱かれながら、ただ悩ましい喘ぎをあげ続けるしかなかった。
初めてのような照れくさい交わり。
いや。
ある意味、『初めて』なのだろう。
二人とも変に柔らかくなって互いを受け入れ、包み込んでいる。
「エルド」
火照り顔で名を呼ぶと応じて童顔が近づいてくる。
眼差しが優しい。
「セレス……」
呼び合っても今までとは何かが違う。
長めのキスが心にじんわり沁みてくる。
銀糸をひいた後も真っ直ぐに互いを見つめ、微笑むことができる。
「助けてくれてありがとう」
「……ああ」
ぎゅっと抱き締められた。
本当の意味で繋がっている気がする。
光も影も消え去った。
ただ、髪や腕や肌が愛おしく感じる。
やがて女の腕という輪をするりと自然に抜けて、男の顔が女体を降下していった。
「はっ、ああぁっ……」
脚を抵抗無く広げられるのは許容の証。
既に十分濡れそぼる茂みの向こうを指が蠢き、舌がなぞる。
躯が喜び、侵入してくる指をきゅうと締め付けてしまうのがわかった。
「あっ……んん、ふぅっ。んっんっあっ」
突然赤い芽を潰されて早くも飛びそうになった。
「だめっ、エルド……ああっ」
全身がびくびくと痙攣し、ちょっとした動きで何度も顎が仰け反る。
濡らされるのが、更に濡れてゆくのがまったく嫌ではない。
愛撫が長く、甘い。
今までいつも気になってしまっていた、少し苦いような、冷たいような感覚がなく、本当に甘たるい。
蜜がつうと伝うのがわかった。
信じられないほど濡れている。
「ひあっ!」
吸い付かれた刺激で軽く達した。
感情に抑制されない素直な性反応ができる。
その後も休むことなく責め続けられて十分すぎる程高められた。
「や……ぁあっ、んっ…気持ちいい……のっ、あっ!はぁっ、あっあぁ…」
薄く汗ばむ肢体。混じり合う体温。
身をよじり、蕩けた声で快楽を告げると、相手はいつもより嬉しげだった。
当然かもしれない。やっと素直な反応をしてもらえているのだから。
「そうしてるからな」
その時、声色が少しだけ悲しげだったのがふと気にかかったが、優しく頬を撫でられて、さほど気に留めなかった。
躯は色づき、程よく準備が整った。
疼く。
「はや、く」
生理的に潤んだ瞳で懇願した。
言わされるのではなく、自ら自然にねだることができる。
応じて熱い滾りが挿入ってきた。
「ああっ」
仰け反る女の嬌声にはもう枷などない。
ずちゅずちゅっと卑猥な水音と律動が混じり、紛うことなき喜悦が全身を駆け巡る。
「やあっ、あん……いいのっ、…ルド……ああっ!んんっ、ぁあ…」
抱き締める。
抱き締め返す。
176女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 23:03:36 ID:Yt/tda8s
多分、初めて愛し合っているのだろう。
「はあっ、は…あ、やっ。エルドっ、エル……あっあっあっ」
ずんと貫かれ、更にぐりぐりと弱い所に打ちこまれて、本気でおかしくなりそうになる。
繋がっている。
捩れた過去さえほどけてゆく気がした。
「ぁあっ、エルドっ!!」
我を忘れ、恍然と茶の髪を抱いた。
突き上げられてももう拒む理由などない。ぎゅっと抱きついたまま更なる交わりを促す。
「い……のっ。んっぁあっ!もっと、奥っ……!いいから、きてっ……!!」
心の奥底でほんのり灯る小さな幸せを感じられる。
「あ、あっ……!ん…ふぅっ」
ひたすら責め立てられていたが、途中、ふと薄目を開けた。
ここだ、というタイミングが見えた気がしたからだ。
迷わず腰を使った。
「………っと」
エルドの腰が止まる。最中に突然の波を与えたことで驚かせたようだ。
軽く睨まれたがセレスも引かない。
「言ったでしょ。いつまでもされるがままじゃないわ」
そう言って覆い被さる男の頬を撫で、微笑んだ。
「上等」
応じて相手もにたりと歪む。
「貪り尽くしてくれよ」
つながったまま、口で濃厚に絡み合った後、改めて責めを再開した。
「んんっ」
続く卑猥な水音。
両胸を鷲掴んだまま耳朶を食まれてぞくんと打ち震える。
体を、心を揺さぶられる感覚。
わかりあえた喜びにあふれている。
「好きだよ」
「わっ、私もっ、……、これからっあっ、もっと…好きになってく、からっ、エルド……」
言えなかった台詞がするりと喉を通っていった。
もうすぐ高波がくる。迎える快楽の予感にぶるるっと打ち震えた。
「エルドっ、エル…ああっ!や、ふぅっあ……ああっ!も、だめぇっ――――ぁぁあああぁぁああ―――っ!!」
世界が真っ白になるのと同時、ひときわ甲高い嬌声が枷なく迸った。
達した後はすぐに引き抜かれ、外で白濁を放たれた。
ぐったりした肢体を重ねたまま、視線を重ねる。
確認し合うように何度も口付けをして微笑んだ。
二人にしてはとてもシンプルな交わり。
けれど全然違った。
ただ体だけ絶頂に追い込まれるのではない。
どんな感情にも邪魔されない自然な嬌声をあげられた。
何だか高い壁を二人で超えられたような気がして、とても嬉しかった。
が。
「もう一回な」
たっぷりいちゃついた後、再度高みへ昇ろうといざなってきた。
「えっ?え、ええっ?」
仰天する。
腰を抱かれてぐっと引き寄せられ、慌ててももう遅い。
「まっまだするの?」
「火ぃつけたのはお前だろ」
当然と言わんばかりの口付けが降り注ぐ。
「ちょっ……」
しばらく戸惑ったが、今宵はある意味二人の記念日。仕方ないと割り切るしかない。
すっかりされるがままに身を委ねてしまった。
177女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 23:05:04 ID:Yt/tda8s
「もうだめ……」
こうして、ある意味で死ねる一夜がこんこんと更けていった。



目覚めると小鳥がさえずる朝が来ていた。
光が柔らかく世界を照らす。
薄目を開けたセレスの隣りに、床を共にした相手はいなかった。
起き上がろうとしてやめた。
疲れた。
昨日の疲労が色濃い。いろいろな意味で。
あの男にベッドの上で立ち向かうには、まだまだ修練が必要なようだ。
「ああもう…また……」
紅い花が無数に全身くまなく散り咲いている。
「……あの悪ガキ」
愚痴を漏らすも、それ程嫌な気持ちではなかった。
一年前の初夜も同じくらいこの小花を残された。
あの時は皮膚を剥ぎ取りたいと思ってしまうくらい嫌で嫌で仕方なかったのに。
変われば変わるものだ。
「……」
昨夜の伽を思い出すと赤面するしか術がなかった。
耳元で囁かれる甘たるい本音がくすぐったすぎて、別の意味で逃げ出したい交わりだった。
そんな彼に自分はどんな顔で接していたのだろう。考えるだけで顔から火が出そうだ。
でも。
二人の関係は、ちょっとだが、確かに変われた。と思う。
それに。
「少しだけかわいかった…かな………」
照れながら一人ごちた。
容姿だけの話ではない。すべてひっくるめて、初めて心底からそう思えた。
今までが今までなので何だか認め難い。
本当に彼を選んでしまったんだな、と実感する。
体に残る褥の感覚が妙に心の温もりとなって感じられた。
確信する。
大丈夫。
これからもやっていける。
………。
それはともかく。
「いたたた……」
立ち上がると同時、よろけて台に肘をついた。
腰が痛い。
これからもあの絶倫男の相手をしなければならないと思うと少し気が遠くなる。
そこでまた壮絶な照れが襲ってくる。
そう。
昨夜はついに心を許したことで、あられもない一面を惜しげなく披露してしまったからだ。
誰もいないのに一人で慌てふためいて顔を覆う。
あんな夜の後、どういう顔をして朝の挨拶をすればいいのだろうか。
悩みながら清拭し、着替え終わるころ、扉の向こうで物音がした。
「えっ、あっ」
心の準備ができていない。どぎまぎしながら振り返る。
そして瞬時に凍りついた。
そこにいたのはエルドではなかったからだ。
小柄な死神の代わりにいたのは大柄な汚い男だった。
「おい、女だ」
その一言とともに、仲間らしい男達が次々に顔を出した。
いるはずのない異性に目を丸くして驚嘆の吐息を漏らしている。
178女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 23:06:25 ID:Yt/tda8s
一人が殺意をちらつかせて前に出たが、
「いや待て。すぐ殺っちゃ勿体ねえだろ……」
陰湿に嗤い合うと、卑猥な言葉を投げつけながらにじり寄って来た。
三人。
様相が民や兵士達の証言と一致する。
死地を荒らしまわる下衆な盗賊。
こいつらか――――
まとめていない赤髪が邪魔だった。
昨日までのセレスならここでうろたえただろう。
だが今朝のセレスは至極冷静だった。
「あら」
すぐそばに立てかけてあった剣を手にして、
「相手をしてくれるのかしら?」
挑発に近い不敵な面構えで下劣な輩を睨みつけた。
悪漢を刺し貫くのは揺ぎ無き強い光。
三つの下卑た嗤いが途端に消えうせ、一斉に後ずさった。
ただの女ではない。
察知し、全員が臆した時だった。
真ん中にいた大男が背後から蹴り飛ばされて無様に地面に突っ伏し、物凄い音を立てた。
えっ?と目を点にした間抜けな男の顔面には、目にも止まらぬ蹴撃が加わる。
「……ったく朝っぱらから」
息つく暇もない。
三人のうち二人を瞬殺したエルドが入り口にて憮然として立っていた。
大きな欠伸をした後、セレスをジロリと睨む。
「おい一夜で即浮気はねえんじゃねえの」
「なら放っとかなきゃいいでしょ。鍵開けていったのは誰よ」
負けてやらない女は、つんとそっぽを向く。
「ああやだやだこれだからお姫様って奴は」
失態を突かれたエルドは不貞腐れ、視線を遠くに投げながら心底嫌そうに吐き捨てる。
そんなやりとりのせいで完全に置いてけぼりの最後の一人が、害意をむき出して武器を構え直した。
「おい!!」
「うるせぇ三下。ぶち込むぞ」
言葉を最後まで綴らせる気すらない。
ドスのきいた声で殺意を吐き捨て、弓をちらつかせる。
「んだとこのドチビがッ!!」
セレスがその発言のヤバさに息を飲んだ次の瞬間。
繰り出された容赦ない蹴撃が男を襲った。
背後の柱に打ち付けられ、損壊と共に崩れ落ちる。
「クズだな」
気絶した盗賊を思いきり踏みつけてからぐりぐりと踏みにじる。
心配することなど微塵もなかった。
甘たるい夢のような時間はかき消え、一晩で元のエルドに戻っている。
脱力した。
輝いている………
そうだ。
人間そう簡単には変わらないか………
彼が変わっていたらどうしようとか、無駄な心配をしてしまった自分に肩を落とす。
その時だった。
気絶したふりをして状況を伺っていたようだ。
顔面に蹴りを食らった男が起き上がり、凶器を手にセレスへと向かったのだ。
「!!」
だがセレスが事を起こす前に、その男から凄まじい悲鳴が響く。
今のセレスなら余裕で迎撃できる間合いではあったが、エルドの動きが幾分か早かった。
再度倒れた男には一矢が命中していた。
「汚ねぇ手でさわんじゃねぇよ―――――人の嫁さんに」
泡を吹いて倒れた男を見下ろし、そう吐き捨てる。
179女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 23:08:35 ID:Yt/tda8s
完全沈黙した盗賊達を確認してからセレスはエルドを流し見た。
「今どさくさにまぎれて何か言わなかった?」
「言った。――――何だよ違うのか?」
「………………違わないけど」
目を逸らすと、彼女が選んだ男は高慢に鼻を鳴らした。



ゾルデへの帰路を辿る。
エルドは何も言わないが、何気に歩みが遅い。
昨夜腰を痛めたセレスに合わせてくれているのだろう。
すっかり観念した賊を引き渡してからディパンを後にした。
今回の一件で廃都に蔓延る危険を正確に把握し、ついにディパン脱出を決めた者が少なくない。
大事になってはしまったが、とりあえずは大きな収穫と喜ぶべきところか。
王家の地下道を抜け、薄暗い森に出た。
「――――でもやっぱりちょっとやりすぎじゃない?」
盗賊達への過ぎた暴力を軽く咎めると、
「何だよしつけえな。褒めろよ。殺らずにちゃんと外してやったぜ。目玉にぶち込みたかったのによ」
さらりと悪意を吐く。
この死神の邪悪さには依然変化はない。
「これでも結構気ィ使ってやってんだぜ。またお姫様にブチ切れられて逆襲喰らったらたまったもんじゃねーからな」
「あら、わからないわよ。これから毎日気をつけてね」
澄ましたセレスに速攻で言い返された死神は半目で口を尖らせる。
「やな女」
毒づく表情は微妙だが、少し元に戻った彼女を心底では喜んでいるようだ。
つかつかと寄ってきて、何の脈絡も無く口付ける。
触れて啄ばむだけのキスでも今は穏やかに甘い。
唇が離れて浮かぶ互いの小さな微笑は、良い方向へ変化した関係を表していた。
「さて……帰ろうぜ。お姫様」
「ええ」
いつもの言葉に当然のように含まれているはずの皮肉がなくて、セレスも素直に返事を返せた。
だが初めての経験はこそばゆく、照れ臭くて思わず目が泳ぐ。
多分言った本人も気付いていないのだろう。
これからこういった日常をずっと積み重ねてゆくのだ。
喪失の森を抜けた。
春の大地には穏やかな光が射す。
「いい天気だな」
「そうね」
空が青い。
「すげー気分いい」
「ええ」
「今なら大丈夫だ」
「え?」
エルドの手から放り投げられた何かがセレスの頭上を弧を描いて飛び越え、さく、と地面に刺さった。
振り返ると、音を立てて光の柱が立ち昇っていた。
「これは、水鏡の破片……」
ルーファスから拝借してきたのだろうか。
「気が付いたら手元にあった。あのドヘタレ余計なことしやがって」
訊ねる前にエルドから回答が得られる。
更なる疑問が浮かぶ前に衝撃の一言が続いた。
「行けよ。お前の居場所はここじゃない」
驚いて目を見張る。
この男からイージスと同じ台詞を聞くとは。
「何よそれ。……どういうこと?」
「いや……」
頭をぼりぼり掻くと投げやり気味に吐き捨てる。
180女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 23:10:01 ID:Yt/tda8s
「正直選んでもらったら何か満足したっつか、急激に飽きた」
閉口しているセレスに背を向けたまま、死神はその言葉を言い放った。
「――――ってわけだ。だから行けばいいだろ。本当に行きたい男のところへ」
衝撃が何度も何度もセレスを走り抜ける。
「エルド……」
「根負けした。よーくわかった。お前があいつじゃなきゃだめなのが。こんな同情で選んでもらったって虚しいだけだ」
すらすらと、今までの彼なら絶対に有り得ない言葉を羅列する姿に、ただ絶句するしかできなかった。
だが昨日の投げやり気味な暴言の数々とは明らかに違う。
完全に腹を決めたらしい。
「仕舞いにゃあいつの真似事してお前を元に戻したんだぜ。無様としか言いようがねえだろ」
「でも助けてくれたのは貴方だわ」
戸惑いつつもフォローを入れると、
「あんなん俺じゃなくても誰にでもできた」
そう力無く返されるだけだった。
水鏡の音だけが静かに空気を震わす。
「自分の手でお前をこっち側に引き戻したかった。だが窮地に追い込まれて思い浮かんだのは『あいつならどうするか』だけだった。
 結局俺まで心の底では認めちまいやがってたってオチだ――――お前ら二人をよ」
自嘲の後、その場に深い沈黙が訪れたが、十数秒後にはセレスの方から苦笑が漏れた。
「仮に私がまだその気だったとしても、相手の気持ちってものがあるでしょ。……今更。身体もこんなだし」
エルドはその呟きを鼻で嗤った。
「その程度の傷、あろうがなかろうがあいつには関係ねえよ」
「……何故、そこまで言い切れるの」
戸惑うセレスに向け、今度は男から苦笑いが零れる。
唐突な展開。
もっといろいろ訊きたかったが、下手に慌てふためいたら場が壊れてしまう気がした。
微動だにせず、ただ次の言葉を待つ。
やがて相手から笑い声まじりの真実が漏れ出した。
「お前マジであの黒いのに嫌われただの愛想尽かされただの思ってやがんだなぁ」
「えっ」
そしてエルドはそれを告白した。
「来ねえのはお前のためだ。あのイカスミ単細胞、お前が今、自分から逃れられて幸せでやってると思い込んでやがるんだ。
 エーレンの奴に毒吐いたのも、もうお前を追う気はねえ、加害の意志はねえってことを強調して伝えるためだろうな。
 本当にどうでもよくなったのならアドバイスなんて伝言はしねえだろ」
確かにその通りだ。
だが。
「だから、そんなこと……何故貴方にわかるのよ?」
「わかるさ」
即答だった。
「俺とよく似た性格だ」
パズルのようだった疑問がすべて当てはまり、納得が心に浸透していった。
後ろめたい、本当の隠し事とはこれだったのだと理解する。
あの人も、そしてセレスも。互いに今も変わらぬ想いを抱いていることを知っていたのだ。
最高に気まずい空気が立ち込めた。
重たすぎる沈黙の後、エルドは再度セレスの旅立ちを促す。
「行けよ。大丈夫俺のことなんてすぐ忘れる」
そういう言い方をする。
昨夜砂糖の塊のように甘たるかったのは、そういうことか。
「何たって女神サマご推薦の本命んとこ行くんだから」
最後だから。
再び沈黙が訪れた。
じっと背中を見つめるセレスに向け、最後に本音をひとつ、地面に投げ出した。
「……疲れた」
告白を終えてもエルドは背中を向けたままだった。
葛藤を感じる。
幸せになってほしい。けれど行ってほしくない。
そしてそれらを全て包んでしまう程の無力感と諦め。
181女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 23:11:55 ID:Yt/tda8s
もうどうしようもないのだろう。
選択権はセレスに手渡された。
「……」
青光将軍。
昔は、小柄だが頼りになるこの男が、とても大きく見えた。
「本当にひどい男」
今は違う。
呆れを込めてぽつり呟く。
「飽きたとかもう行っていいとか言いながら。そんな子供みたいな仕草で行くな行くなって強がって。何よそれ」
襤褸切れのような立ち姿を晒して、すがることもせずに罠を仕掛ける。
最後の未練がふわり、淡雪のように消えた。
これが責任、か――――
「正直に言うと、行ってみたい気持ちはある……」
本心を呟いてからセレスは一歩を踏み出した。
水鏡へではなく、エルドに向かって。
そして思う。
昔戦場で太陽だったと言うのなら、私はもう太陽にはなれない。
けれど。
「でも、私は貴方を知ってしまった。まったくわからない人だった貴方が、何を考えているのか、何を思っているのか。
 そして貴方は狂気に染まった私を見捨てずに命を賭して引き戻してくれた……貴方が、助けてくれた」
そう。
この男は内で暴れ狂う嫉妬に囚われず、暴走からセレスを助ける一番確実な、最善の手段をとってくれたのだ。
セレスの為に。
今まで酷いこともたくさんされた。
けれど助けてもくれた。
―――――捨てられない。
また一歩男に近づく。
器用なようで不器用な、少年そのものの男。
この深い闇の底、ほのかな光でこの男を照らせるなら、そばにいようと思う。
そしていつか、二人で。
「貴方のいう通りかもしれない。でも、あの人はこなかったわ。……それが答え」
この箱の外へと一緒に出られる日がくるかもしれないから。
「誰にでもできたなんて言わないで。貴方の声だから戻ってこれたのよ」
救える日が来るのかどうかなんてわからない。
ただ、そばにいようと思う。
もう迷わない。
「……帰りましょ。私も疲れたわ。帰って、もう一眠りしましょう」
分岐点を迷うことはなかった。
本当の未来と別の世界を選択したのかもしれない。けれど後悔なんてしない。
初めてエルドの肩にふわり手を乗せ、自棄でも何でもなく、セレス自らの意思で寄り添った。
背が少し低い。
とげとげの男の両肩は、白いふわふわで覆われている。
寄り添われた男はくくっと笑った。
「馬鹿な女だ」
そう、解き放ったのに舞い戻ってきてくれた鳥を、愚かにも罵った。
だが抑揚も感情もない罵声には様々な思案が読み取れた。
荷物がどさりと降ちる音がしたかと思うと、次の瞬間には強く抱き締められていて息が止まる。
抱擁の中、耳元ではずっと小声で罵倒が繰り返される。
口説き文句は豊富なくせに、肝心なところで素直になれない男。
凶悪の中に隠されたその幼さを、セレスは受け入れ、微笑む。
この先で、この男と綴る違う未来が小さく揺れているのがわかった。
海の見えるこの青い青い世界に留まり、そして時がきたらゾルデの民と次の世界へ移転してゆくのだろう。
壊れるほどに抱き締められて息をつく。
また夜がきて、彼は私のそばに来る。
これからは二度と拒絶することなどないのだろう。
182女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 23:13:21 ID:Yt/tda8s
仰ぎ見る空があまりにも高く青い。
抜けるような青は悲しいぐらいに青かった。
水鏡の音が震えている。
何故か呼ばれているように聞こえた。
泣き出しそうになる。

ごめんなさい。
これであの気高き戦乙女に祝福された道は、
あなたに続く道は、
すべて閉ざした。





さよなら。









時が流れる。
春。
ゾルデに定住してから幾度目かの芽吹きの匂い。
セレスは窓辺にもたれて春の訪れを楽しんでいた。
艶めく赤髪が潮風にさらりと揺れる。
頭髪はもうすっかり元の長さに戻り、以前と同じように彼女を彩っている。
波止場を見やると看護師の女がのんびり散歩をしていた。
目が合って、軽く会釈された。ほんのり微笑みをのせて。
家の前を歩いてきた一家には深々と敬礼された。
以前の精神状態を取り戻したセレスはこなす仕事の質も能率も格段に跳ね上がり、現在ではイージスと同じく
一目置かれる存在となっている。
先日友人夫婦が移転先へと一足先に旅立っていった。
新天地への移転作業に追われるゾルデは和やかな活気に満ちている。
だが都市や周辺の町村には荒廃が我が物顔で闊歩している。残虐と混乱が世界を支配しているのには変わりはない。
移転先の生活はどうなるのだろうか。
不安と共に、新生活への希望もまた溢れ出る毎日。
セレスは久々の連休に向けて、客人達を迎え入れる準備をしていた。
数日後にはエインフェリア仲間達が数人、この消え行く港町に遊びに来る。
ここに集まるのも今回が最後になるだろう。
「お。逃げたかと思ったらちゃんといるじゃねぇか。感心感心」
休暇中のイージスが釣り道具を担いでふらふらと歩いてきた。
もともと髭面のせいか、数年経った今でもあまり老けたようには見えない。
彼の台詞はセレスの背後、家の中で作業をしているエルドに向けられたものだった。
「うるせぇヒゲ沈めるぞ」
噛み付くこちらも年齢不詳っぷりは相変わらずだ。
だが老いは人であるならば誰にも平等に降り注ぐもの。
エルドとてよく見れば僅かな肌の老化がわかる。
もっともそれは、彼にまともに近づけるセレスくらいにしかわからないのだが。
そんなエルドが、戦友達の来訪を前に、あからさまな旅支度をしている。
イージスに浮かんでいた笑みが見るみる間にしぼんだ。
「……何してんだコイツ」
183女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 23:15:28 ID:Yt/tda8s
問いかけはセレスの溜息に変わる。
「会ったら全員殺したくなるから俺は出掛けるって……。何とか言ってくれるイージス」
しぼんだ表情に、段々と呆れが注入されていった。
「お前が言って聞かないなら俺が言って聞くわけないよなあ」
外野をものともせずエルドは黙々と作業を続ける。
「行かしとけよセレス。こいつなりに気を遣ってんじゃね?俺も面倒はごめんだぜ」
「そういうことは小声でしゃべれ」
ついに勘に障ったようだ。気性の激しい童顔が髭面をぎょろりと睨みあげた。
「セレスに耳打ちでもすりゃ間男扱いするくせに」
火花が散る。二人は相変わらず仲が悪い。
「まぁいいや。火種になりそうな邪魔くせえのがいねえのはありがてえし。
 セレス〜二人で皆を〜平〜和に出向かえよ〜な〜」
わざと間延びする言い方をして含みを持たせ、イージスは去っていった。
「毒矢ブチこみてぇ……」
「……あのね。みんな移転前に最後に遊びにくるだけなのよ。なのに貴方は何で矢を買い足してるのよ」
「遊びにくるだけ?どうだか」
鼻で嗤い、疑惑を吐き捨てる。
褒められない手段で欲しい女を手に入れた男。
ソファラ等、事情を知る者には、当然ながら今もよく思われてはいない。
エルド自身もわかっている。そして開き直っている。
気を抜いてる時に遠くから殺っちまえれば楽なんだがなぁ……と悪態をついている。
何年経ってもこの男は変わらない。
セレスも半ば諦めていた。
ふうと息をついて隣りの椅子に腰掛ける。引き止められそうもない。
会話を成立させる気すらないのだから、どうしたものやら。
ふと大事なことを思い出して悪戯っぽく伝えた。
「ああそうそう、あと今回ね、フ ァ ー ラ ン ト が来てくれるそうよ」
ぴたりと動きを止めるエルドににっこり笑いかける。
「良かったわね」
半目が憎たらしげにセレスを睨む。
「……嫌がらせか?むしろ完全に俺の討伐隊じゃねぇのか?それ」
「そうかもね」
さらりと肯定すると、苦々しげだった表情が瞬時にどす黒く歪んだ。
「マジで狩っていいなら残るぜ」
この返答である。
「嘘うそ、冗談よ。そういうこと言わないの。せっかく来てくれるんだから。
 イージスはともかく、裏切り者と侵略者なんてコンビのところに。
 ファーラントね、せっかく新しい生を与えられたんだから、貴方と話をしてみたいって……」
「セレス」
遮って女の名を呼ぶ。
「俺は仲良しごっこなんざする気はねえ。連中が俺をどう思ってやがるかなんて分かり切ってる。
 白々しいマネさせようとするんじゃねえよ」
きっちり言い切ると、
「明日には出る」
視線を矢羽に戻した。
どうしようもない。
溜息をついて席を立ち、近場のソファに座り直したセレスに更なる追撃がかかる。
「それから」
作業を中断して近寄ってくる童顔は実に不服げだった。
「俺達は『コンビ』なのか?」
どっかと腰を下ろしてセレスの膝に頭を乗せる。眼差しは明らかに不貞腐れている。
問い方は横柄で幼稚なものだったが、失言を認めざるを得ない。
「違うわ」
「どう違う。言えよ」
こうやって、この男はよく自分の立ち位置を確認したがる。
「私の大切な人だわ」
184女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 23:16:50 ID:Yt/tda8s
「ふうん?」
物足りなさげに見上げてくる童顔。
更なる一言を欲している。
子供っぽい仕草に嘆息しつつ、子供に甘いセレスはつい、優しく言葉を与えてしまうのだった。
「一番大切な人よ」
言うだけ言わせて満足げに鼻を鳴らした後、少年は少し柔らかな口調になってセレスの頬を撫でた。
「そんな顔すんなって。お前はめいっぱい楽しめばいいじゃねえか」
「貴方にもいてほしいのよ」
「人間向き不向きってもんがある」
わけのわからないことを言ってから悩ましい指つきで女の顎をなぞった。
「連中が帰ったら俺も帰宅していつも通りお前の髪に埋もれる。それで万事OKだろ。何の問題もねえ」
「もう」
眉を顰めるのと同時、そっと口付けられた。
こうやっていつも提案をごまかされてしまうのだけれども。
「けど油断すんじゃねえぞ。俺がいなくたっていろいろと気を付けろよ」
つい数秒前まで子供でいたくせに、突然鋭く大人びた別の顔を見せる。
相変わらずよくわからない生き物。
「わかってるわ」
顎をつままれる。視線を逸らさずの物言いは至極甘い。
「無茶だけはすんな。死ぬなら俺の後にしとけよお姫様。帰る場所を奪われたら俺みてえな男はどうなっちまうかわかんねえぞ」
身勝手で物騒な台詞を平気で吐く。
「あら。じゃあ私はここにいるだけで、かなり世界平和に貢献してるってわけね?」
「ま、概ねそういう認識で構わねえよ」
肯定し、いつまでも思い通りにならない女を愛しげに撫でた。
日の光に反射して薬指の輪が呪いのように輝く。
「さて携帯食でも調達してくるか」
話が終わると転換も早い。セレスが掴み止める前にぱっと逃げてしまった。
「エールードー」
「楽しむのはいいが、浮気はすんなよ?お姫様」
しっかりと釘をさす。
だがそんなことを口走っても空気は軽い。
数年の間に培った、選んだ女への確固たる信頼のようなものが伺えた。
「じゃあな」
とはいえ、仕事はきっちりこなすけれども、私生活では相変わらず勝手である。
さっさとドアを開けて歩き出してしまった。
やれやれといった風に立ち上がり、玄関先まで出て呼び止める。
「……せめて、そのお姫様っていうの、そろそろやめてくれない?恥ずかしいわ」
頼み事に反応して死神が振り返る。
「何でだよ。お姫様はお姫様だろ。何年経っても。年くっても。しわくちゃのよれよれババアになってもよ」
相変わらずの毒を含んだ言い草である。
「もう十分年くってるわよ。なのにいつまでもお姫様とか。一緒になってもその嫌味はやめてくれる気ないのねぇ」
「……」
ところが彼女のその愚痴を受けて、エルドは何とも言い表しがたい顔つきと化す。
しばらく硬直した後、さも嫌そうな渋い顔を作り押し黙ってしまった。
何かが猛烈に気にくわなかったらしい。
子供のように口を尖らせている。
「え?何?」
セレスがエルドの変化に首をかしげると、拗ねたように目を逸らす。
「……そうか、イヤミねぇ……あぁ…成程……通じてなかったのか…」
不服丸出しで何事かをぶつくさ呟いている。
「え?」
そしてどんなに時間が経っても鈍感なままの女を睨み上げた。
「何か勘違いしてるみてえだが、別に嫌味でお姫様って呼んだつもりは今まで一度たりともねえぞ」
意外な言い分にセレスの平静が崩れる。
ずっと嫌味だとしか思っていなかったからだ。
「何よそれ。……一応昔王女だったから、じゃないの?」
185女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 23:18:17 ID:Yt/tda8s
「王家の血筋なんざ関係ねえだろ。だいたい初めて会った時にはもう王女じゃなかったじゃねえか」
「それじゃ何なのよ。わからないわ。はっきり言ってよ」
痺れを切らしたセレスにそう訊かれ、
「だから……お前はさ……」
察しの悪すぎる女に舌打ちする。
久方ぶりに邪悪な童顔に赤みがさし、目が泳いでいる。
そうしてたっぷり惑ってから、尖る口先が真実をぼそりと告げた。
「お前は………………………………“俺の”お姫様だろ」
間があく。
「ま、そういうことだ」
照れ隠しだろうか、恥ずかしい真相を吐き捨てた後はさっさと踵を返し歩き出してしまった。
「えっ、ちょ…………な、なに、なによそのオチはっ!!」
行き場のない驚きとせり上がる照れ。
硬直状態から我に返ったセレスは思わず犯人を追いかけていた。
今まで何百回、いや何千回そう呼ばれてきただろう。
それが全部。
嫌味どころか、そういうことだった、なんて。
セレスの頬もほんのり紅をさしている。
本当に、本当に――――恥ずかしい男。
捕まえようと夢中で伸ばした手をすいととられた。
「――――そうだ。準備はもうだいぶ終わってんだろ?これからちょっと散歩に出ようぜ」
「えー!?ちょっ……待ってよもうっホント……勝手なんだから――――」
「花が満開で見頃なんだよ」
決定とばかりに愛しい女の手を握る。
今日もまたこの身勝手な死神は、ふらりと見つけたとっておきの場所へ、彼女だけを連れてゆくのだろう。
そしてやはりいつものように、彼女だけに微笑むのだ。
「連れてくから」








エピローグ

どこいくんだか。
もさもさと生えた顎鬚をさする。
仲よさげにゾルデから去り行く夫婦。イージスは釣りをしながら手をつなぐ二人の後ろ姿を静かに見送っていた。
セレスのことだから陽が落ちるまでにはちゃんと帰ってくるだろう。もう一人はどうでもいいが。
「………」
本当に、うまくいっちまったなぁ。
一連の騒動を回想して感慨に耽る。
セレスが己で選んだ道だ。
今更、何も言うまい。
あれからもう数年。
正直うまくいくわけがないと思っていた。
しばらくしたら、どうせまたセレスを無下に扱いやがり始めるのだ。
どうしてやろうかなどと身構えていたが、心配に反し時間が経っても、いや時間が過ぎ行くほどに、エルドは彼女を
とても大事にしている。
愛されている女の笑顔も落ち着いていて、優しい。
今では二人の仲を心配する機会もほとんどない。
己だけに咲く花を一輪与えられ、闇を彷徨う死神はついに落ち着くところに落ち着いてしまったようだ。
顛末に、ふうと息をつく。
「―――ま、一応、ハッピーエンドってやつなのかねぇ」
186女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 23:19:54 ID:Yt/tda8s
かかる気配すらない竿を振りなおした時だった。
「仲がいいですよねぇあのお二人は」
いつの間にやら背後に不満げな顔の少女が一人立っていたのに気付く。
「ああ……」
同意する。
本当に。
ああやって見ていると何の障害もなく一緒になったようだ。
「付け入るスキが無いにも程がありますよ……」
あどけなさの残る少女が口を尖らせて唸る。
エルドに両親の敵を討ってもらった、と未だ慕っている少女。
影響を受けたのか同じ弓の道を選んだ。
今でも彼に淡い好意をよせているようだ。
「お前まだそんなこと言ってんか」
イージスには少女の心理がまったくわからない。
危険な匂い、というヤツに惑わされる年頃なのだろうか。
呆れ顔で訊ねると、言われなくてもわかってる、という不貞腐れた顔をされた。
「可能性ゼロなんてわかってますよ。それに私セレスさんのことも尊敬してるし、別にどうにかなりたいとかじゃないですよ」
ぷいとそっぽを向かれる。
「何より相手にされてないし……」
イージスから苦笑が漏れると少女は掴みかかってきた。
「聞いてくださいよ、弓の指導で手が触れたからちょっと喜んだだけなのにっ、青筋たてて『やる気ねえなら殺すぞ』ですよ〜!?」
興奮する少女を押し返す。
「やめとけやめとけ。ありゃ並大抵の女じゃ飼い慣らせねえよ。お前可愛いんだからもっといい男ふん掴まえな」
おだててやると、少女は少し持ち直したらしい。
「よーし……私もがんばって美形ゲットするぞ」
「その意気その意気」
するとちらりと流し目を送られ、
「だから……ね。ステキな人がいたら紹介とか、お願いしますねっ」
全力で媚びられる。
「へえへえ」
「あーんマジでお願いしますよぉ〜」
平穏な日常。
この先それがどのくらい続くかわからないが。
愛すべき穏やかな日々。
ハハハと笑いながら、されるがまま揺すぶられていたら、不意に遠くから怒鳴り声が飛んできた。
「おい!今日は久し振りのお休みなんだからご迷惑をかけるんじゃないぞ!!」
通りすがりの少女の兄が、イージスへの粗雑な扱いを咎めていったのだ。
少女は渋々ながら揺すぶるのをやめてイージスを放す。
そしてイージスに一礼して去ってゆく兄の背にべーと舌を出した。
「ずいぶん板についてきたなあいつ」
凛とした戦士のいでだち。
少年はセレスに剣の才能を見出され、将来有望な戦士へと雄々しく成長していた。
渋い顔を元に戻した後、少女が躊躇いがちに訊ねてくる。
「あのぉ……あれ。本当にいいんでしょうか」
「何が?」
「あれですよ」
去り行く兄が帯刀している剣に視線を投げる。
ムーンファルクス。
セレスから引き継いだものだ。
「高価な剣らしいし。何だか気が引けちゃうとか言ってましたよ」
才があるとはいえ、己にはまだまだ過ぎた業物に戸惑っているらしい。
「それに。以前確か、すごい大事なものだとうかがったような気がするんですが」
「ああうん、そうだな、あの剣は……」
説明しかけて、ひっかかった。
セレスとて女神からの譲渡品を他人に与えるのは相当に躊躇ったはず。
それでも譲ってしまったのは、ほんのり帯びている祈りの魔力が『奴』のもとへと導いてしまうからだろう。
187女神(終焉BAD):2009/12/16(水) 23:21:26 ID:Yt/tda8s
満ちた月ではなく欠けた月の道を選んだ彼女だからこその決断。
「……」
そこでつい、惑う。
女神の祝福から外れた道。
本当に良かったのだろうか、と。
これで――――
「どうかしました?」
「……あーいや、…何でもねえ」
「?」
「いいのいいの」
頭を振り、同時に纏わりつく疑念を振り払った。
そう。
いくら気が咎めても、自分が決めることじゃない。
あれはシルメリアが、セレスが幸せになれるようにと渡した剣。
彼女を慕う少年に振るわれるのならば、それが正しいのだろう。
「嵐は過ぎ去った。彼女は新しい航路を見つけたんだ」
「?」
イージスのぼやいた例えは、首をかしげる少女にはわからないようだった。
故郷の空気を深呼吸する。
たとえ疑念や後悔が付きまとってしまうような選択肢でも、腐らずに、選んだ道をゆくべきなのだろう。
それは強制ではない。
いろいろな出来事を経て立ち上がった彼女は、自らその道を選んだのだから。
「……もう、いいんだよ」
快晴の空を見上げる。
「行こうぜ。俺達の新しいゾルデへよ」



港町ゾルデ。
ディパン公国の終焉と共に見切りをつけ、移転を決行する街。
終わりゆく街の波止場にて、白い猫がのんびりと潮風を受けていた。



188ファビョニス:2009/12/16(水) 23:22:43 ID:Yt/tda8s
終わります
読んでくださった皆様、そしてスレの皆様
長い間投下させていただき本当にありがとうございました
心から感謝申し上げます
それでは
189名無しさん@ピンキー:2009/12/16(水) 23:37:01 ID:vH9FHhA9
おつです
初めてリアルタイム投下に遭遇しました

最後までどっきどきでした
いいもの読ませていただきました
ありがとうございます
190名無しさん@ピンキー:2009/12/16(水) 23:58:18 ID:GQJi1qog
お疲れさんでした!
最後までやり遂げてくれてありがとう!
旅立ちエンドと予想してたがエルドエンドか
俺は終わり方全然アリだったよ
191名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 00:06:41 ID:5XDk0FlD

大長編まじで楽しかったよ
セレスが心配でハラハラしながら読んでた
エルドも報われて良かったなあ

とにかく乙
他の作品も充電してからよろしくな
192名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 00:08:41 ID:2pZqT3f4
GJ!
つか終わり方マジ良かった。
ずっと楽しみにしていたので、完結して嬉しくも寂しいです。
お疲れ様です。
193名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 00:35:14 ID:WlAoq9lI
>>188 超乙です!gj!!
長編お疲れ様です!感動をありがとう!
194名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 00:48:43 ID:Ap/hBPjM
最初エルドがとんでもない鬼畜だったからラストは酷いことになるかも…とガクブルしてたが
二人とも笑顔で終わってよかった
長い間楽しませてもらいました
ファビョニスお疲れ様でした!
また気が向いたら書いてください
195名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 02:28:15 ID:arAcQnkK
読み終わりました。
こんな長編を完結させてくれて本当に本当にありがとう。正直に言いますと、私はこのゲームをプレイしたことがなく、よく知りません。なのに本当に引き込まれました。見事でした。素晴らしかったです。
途中まで「セレス!アドニスを選べ!」って念じてたんですが、終わってみるとセレスが幸せそうで何よりです。作者さんお疲れ様でした!
196名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 20:07:23 ID:LfGX2LoG
キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
197名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 23:35:50 ID:8kLslQrz
GJ!
完結お疲れ様でした!
この組み合わせ発売当時からあんまり見かけないのもあって読めてうれしかったです
ありがとうございました!
198名無しさん@ピンキー:2009/12/18(金) 11:04:50 ID:qhWiqu+8
終わったか…GJ
アドニスエンドかと思ってたのでちょっと意外だったかな
しかし女相手にこんな凶悪なエルド初めて見たw
面白かったよ
一年近く本当にありがとう
199名無しさん@ピンキー:2009/12/19(土) 21:23:54 ID:SxgUpViL
        rー、
    」´ ̄`lー) \
    T¨L |_/⌒/ ←この話のエルド
     `レ ̄`ヽ〈
       |  i__1
     _ゝ_/ ノ
      L__jイ´_ )
        |  イ
         |  ノ--、           r'⌒ヽ_
        ゝ、___ノ二7  /´ ̄l、_,/}:\
         |ーi |   l_/ /__ィ::.  ゝ~_ィ´:; ,ゝ
        __〉 {      (T´ |1:::.  \_>、};;_」
       'ー‐┘       ! ` ̄''ァ一、\ ヽ}  ←この話のアドニス
                   1  ヽ   .:::レ  ヽ、
                |_イー-、_;;j|_:.   ゝ、
                __,,,... -- |. {―――‐フゝ、  〉 -- ...,,,__
        _,, -‐ ´       ,r|__ト,    1ニノー'´       ` ‐- ,,_
    , ‐ ´         └―


無性にこれを貼りたくなった
ファビョニス連載お疲れでした
また気が向いたら投下よろしく
200名無しさん@ピンキー:2009/12/19(土) 23:36:04 ID:wVCv8e7v
そのまんまだなw
201名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 08:53:29 ID:3Kqzn3iX
    __              へ
    i. ツ               ゝ_!
.   !_l     _r' ⌒ヽ    ノ ,/
.   l ゝ、  ゙T ̄了:), ri' " ,/ ←エルド 
    ゙ゝ、 `)"ー、._,r:'"`  l、,/
      ヾ、     l :  i ,/
       Y    l :  l'"
        !     l : ,l
        l、   l : l
        /~ ニ口ニ{ 
          !    ヽ ゙!  ↓セレス
        ゝ   ヾ. ゙! ,D.
         \   ヽ.゙!ー七ヽ,   __
          \   )゙! く ゝ、  /゙ンニヾヽ,
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/   / ゙!" ̄ ゙ ̄ト;'(_)゙lー! ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
          /ゝ,/ l  !    l.l l_/ヽ.ヽ,H、
         / ,/   ゝニl    `¨¨ ↑ ~~~
         (ゞヘ、   | |       イージス
 
こうだろ
202名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 20:22:25 ID:tsBeYXA/
ww
203名無しさん@ピンキー:2009/12/21(月) 11:07:45 ID:Zv48rwZu
ホムーランAAは本当に汎用性激高だなw
204名無しさん@ピンキー:2009/12/21(月) 22:13:18 ID:gLxmuFof
吹いたw
205名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 23:03:48 ID:A4JPdAED
実は密かにイージスエンドを期待していた

なんてのは俺だけだという自信がある
イージスいい奴だよなあ
206名無しさん@ピンキー:2009/12/22(火) 23:49:56 ID:jx9ZZiAp
私はやっぱりアドニスが良かったな
もちろんエルドも良かったけどね
207名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 21:48:26 ID:xn0FKn74
大長編をゆっくり読もうと思い、保管庫でこの作品を見つけ
数日前に読み始めましたが
続きが気になってハイスピードで読み終えてしまいました
GJ!!
>>195と同じで作品知らないのですが引き込まれました
アドニスの存在もよかったけど、エルドが報われてよかったです
本当にお疲れ様でした!
208名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 23:04:09 ID:7U5KCPp4
知らないがって読み手意外にけっこういるんだな
元ネタわからなくても気にしないもんなのか
この機にぜひともプレイしてほしいとこだが
209名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 12:00:50 ID:0ol2k3iV
エロパロも年々過疎ってってるからな
知らない二次でも読んでみるか…てヤツもいるだろ
かくいう俺も長編読みたくて保管庫からきたクチ


AAAなら今二月にでるPS3のSO4迷ってる
やる価値あるかなこれ
210名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 16:52:43 ID:CTl8LPfR
うんちくくらいで難解ってどんだけゆとり?
嫌味で言ってんだろうけどブーメランだわ
211名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 18:39:28 ID:uw6V/S42
>>209
箱○版より追加要素も多いみたいだしぜひ
PS3版発売でSO4もここに何作かくるといいな…orz
212名無しさん@ピンキー:2009/12/27(日) 02:16:52 ID:YH5XtuyT
じゃあ俺はEoEの作品を待つぜ!!
リーンベルのパンチラを期待した野郎二人のがっかりネタとか
体験版プレイしただけでも色々出てきそうだが。
213名無しさん@ピンキー:2010/01/01(金) 04:14:09 ID:d/xFSsMh
あけおめ!
214名無しさん@ピンキー:2010/01/04(月) 19:20:46 ID:AWI6s4eJ
めめめ
215名無しさん@ピンキー:2010/01/08(金) 19:57:58 ID:5qsrX4/3
SO3の保管庫見てみたが
クレア&ネルがアーリグリフに捕まって輪姦てネタがほとんどないのがすげー意外だった
人気シチュだと思ってたのに
216名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 00:25:23 ID:7QHiUT4i
そのあたりはクリムゾンがやってくれるからな
217名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 01:02:50 ID:JhuE7j47
やってくれるというか、既にやってた気がする
218名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 21:30:22 ID:6EtHvBPG
SO3の同人誌って男向けは少なかったなあ
BLばっかりで
219名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 14:10:04 ID:UcdWVVlY
SO4作品が少ないのは箱だからなのは間違いねぇ
PS3の発売されたら増えるんじゃないかね
220名無しさん@ピンキー:2010/01/12(火) 19:23:15 ID:l44EhoBn
今は動画サイトなんかで気軽にプレイ動画見れる時代だし
同じ箱●でも某テイルズシリーズは人気が出てそれなり賑わってた
PS3版で増えるはありえないと思う
少しくらいは来るだろうけど

きてくれるといいけどさ…
221名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 17:05:33 ID:Qaajw8D6
>219
ゲハに帰れ。
222名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 21:13:51 ID:/kxusxGS
ゲハとかそういうんじゃなくて、
SO4I出たらきっと作品増える!ってう期待を抱いてるって言うレスなんではなく?
223名無しさん@ピンキー:2010/01/14(木) 23:17:03 ID:uctLaYor
箱ヘイトにも見えるがね。
PS3はもってないが、4Iが出ることで作品がここに投下されることを切に願うよ。
224名無しさん@ピンキー:2010/01/15(金) 01:12:50 ID:QX9C5xwW
箱でTOVが出た頃は結構盛り上がったけどPS3で出ても投下はほとんどなかった
移植じゃ新鮮さがないからこのままでしょ
225名無しさん@ピンキー:2010/01/18(月) 01:48:57 ID:qiFHa8Az
ロークで襲撃されそうになるのを助けてくれるとき
紋章術じゃなくて体で退治するとかしゃーないこと考えたとです
226名無しさん@ピンキー:2010/01/20(水) 20:44:05 ID:zSODcon+
単純に書いてくれる人間が次世代据え置き機持ってないから投下されないだけだったりしてな…。
227名無しさん@ピンキー:2010/01/20(水) 23:46:45 ID:ZY3Vrt2P
さすがにEoEとPS3SO4Iで多少はSSも来るだろ
多くは望めそうにないけど
228名無しさん@ピンキー:2010/01/23(土) 23:46:42 ID:PSvIwP0f
EoEもうすぐだな
体験版やった人、この板的にはどうだった?
229名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 13:40:15 ID:LPuPZ40T
リーンベルと20号でどこまでもってけるかだな…
公式はかなりリーンベル押しのようだが
ほかにも魅力的な女キャラくるといいけど
230名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 23:44:54 ID:2SY0feQV
今のところキャラも惹かれるものがないし、EoEは様子見して、SO4を買うつもり
半分は特典の画集目当てだけど…
231名無しさん@ピンキー:2010/01/26(火) 10:56:32 ID:jVZdgyid
家ゲRPG本スレに新作フラゲ組出てきてもよさそうな時期なのに
ここは通夜会場だな

ムリもねーが
232名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 21:02:27 ID:hYFIzftf
リーンパンチラはあるのか
20号のエロいシーンはあるのか
それだけ教えてくれ
233名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 11:43:45 ID:KTmx3pkE
リーンベル=実験体20号ってマジかよ
EoE女少なすぎだろ
234名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 09:19:06 ID:S0DDkUtI
235名無しさん@ピンキー:2010/02/04(木) 01:56:36 ID:8n4bypB6
ミュリアさんエロい
236名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 00:51:27 ID:JovA43oX
SO4を尼で予約してたけどお昼に来てたようだったんだが、
どのみち仕事で受け取れずに今日はおあずけ喰らった
237名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 07:59:16 ID:501jLGSt
箱○だから来なかったんだPS3出たらSO4二次は来る!って人いろんな関連スレでちらほら見たけど
どうかねえ
ムリだと思うが来たら確かにありがたいな
238名無しさん@ピンキー:2010/02/07(日) 23:21:48 ID:qdu01AXd
そしてこの廃墟である
239名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 12:23:39 ID:e8QJNp6/
糞箱だから来ないとか言ってたPS3組はさっさとSS投下しろよ
240名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 05:43:27 ID:QrCes1O8
圧縮が心配だな
241名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 23:11:53 ID:Eg1Y/qCn
もうこのスレに供給はないのか…
需要はあるんだがなあ…
242名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 21:27:35 ID:clv8X8rz
EoEスレ立てた奴ばかか
243名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 23:22:04 ID:DfmMrhit
次世代機持っている人間自体が少ないとかそんなオチなんだろうか。
プレイ動画なんか見ても実際にプレイしないと勝手がわからないだろうしなぁ…。
244名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 08:43:15 ID:G0S+zzVb
さすがにそのオチはねーわ
最近はプレイ動画見ただけで書いちゃう職人もいるらしいし

AAA二次創作する人がまず少ない
新作でても少ない
単純にここが書き手にとって魅力がない

ここらだろうな
245名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 11:52:46 ID:AVBU83+G
新作出て一ヶ月もたってない
SO4のPS3版も月初めに出た
この状況で一番有名なAAAファンサイトの総合サーチが500も回ってないからな
AAA二次創作全体が閉塞感で包まれてる
仕方ない
246名無しさん@ピンキー:2010/02/23(火) 23:47:28 ID:+skfW2rc
スレ独立までしちまったSO3の勢いが懐かしい
247名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 17:05:23 ID:hiigWZM/
SO4の出来が良かったのなら、こんなことには…
このスレのためにも、SO5で頑張れAAA
248名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 21:44:40 ID:m6aUfzbG
スーパー媚薬をうっかり呑んでしまったエイルマットがひょっこりやってきたメリクルを襲ってしまう話を誰か書いてくれ
249名無しさん@ピンキー:2010/02/28(日) 18:27:59 ID:lVjzXTln
>>248
言いだしっぺが頼む
250名無しさん@ピンキー:2010/03/02(火) 22:15:18 ID:Aad864EC
圧縮近そう保守
251名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 02:43:23 ID:e31SwAsH
過疎
252名無しさん@ピンキー:2010/03/08(月) 01:10:52 ID:FK+6sPrx
圧縮対策保守

職人さんカモンorz
253名無しさん@ピンキー:2010/03/13(土) 23:03:34 ID:OiVDWwmQ
次世代機どころか旧世代機の話だけど、いいですかね?
VP1、ヴァルキリー一行×イセリア・クイーンです。

全体的にアホ、というか全部アホかも。終盤フタるので注意。
設定めいたことをズラズラ並べてますが出鱈目です。資料集や開発者インタビューで違うこと言ってたらすいません。
あとがき含め11レスほどお借りする予定。
エロまでが長い。

一応、レスとレスとの間に「1行空き」を想定してるのですが
保管庫に入るときってどーなるんでしょうね? 初投稿でよくわからなかったり。
254天使の庭の最奥で(1/10):2010/03/13(土) 23:04:32 ID:OiVDWwmQ
いかに最強の彼女といえども、嵐のように襲い来る連続攻撃をしのぎ切ることはできなかった。
打ち込まれた重い衝撃に二歩、三歩と後ずさり、やっとのことで踏み留まってから、顔面を庇っていた腕をそろそろと下げる。
その視界に、真正面から矢のように突っ込んでくる青い影が広がった。
「しまっ───」
気付いたときにはもう、身構える隙さえ残っていなかった。

「その身に刻め!!」
神の鋭剣グランス・リヴァイバーが、電光石火の閃きで女王の身体を撫で斬りにする。
幾度かの斬撃の後、ひときわ強烈な逆袈裟を浴びて、彼女は成す術もなく空中へと吹き飛ばされた。
「ぐは……っ!!」
せりあがってきた三本の槍がその胸を刺し貫く。苦痛に見開いた目が、翼を広げ空を舞う戦乙女の姿を映した。
「神技! ニーベルン・ヴァレスティ!!」
宙に縫い止められた女王を巨大な投槍が直撃する。
飛び散った光の粒がその周囲を包み込み───目も眩むばかりの大爆発を起こした。

彼女は受け身も取れないまま、硬質の床に背中から叩きつけられた。
「ぐっ……!! う、う……!」
この異界の住人の誰もがそうであるように、彼女にとって肉体は絶対のものではない。
それは彼女という超存在が持つ魔力を変換して作り出されるアイコンに過ぎず、故にいくら手酷い打撃を受けようとも、元の形を失うことはない。
だが、たとえ見た目が無傷のままでも、肉体に加わったダメージはすなわち、それだけの魔力を削り取られたことを意味している。
「こ、小賢しい……!」
力の入らなくなった腕で、彼女は必死に体を起こした。
魔力の消耗の影響はすでに肉体の弱化にまで及んでいた。それでもなお、最強女王としての矜持がイセリア・クイーンを突き動かす。
戦乙女と三人の従者は、油断なく武器を構えてその様子を見下ろしている。
「苦しむだけだというのに……」
戦意を失わない女王の姿に、戦乙女ヴァルキリー───レナス・ヴァルキュリアは低く呟いた。
255天使の庭の最奥で(2/10):2010/03/13(土) 23:05:39 ID:OiVDWwmQ
「ねー、これいつまで続けるの〜?」
一同の後ろから緊張感のない声を上げたのは、従者のひとりである人魚の娘、夢瑠だった。
「こら、気を抜くな。相手はまだやる気だぞ」
槍騎士ロウファが鋭くたしなめた。その視線は床に倒れたイセリアから一瞬たりとも離れない。
「その通りだ。……だが」
巨大な剣を肩に担いだ大男、傭兵アリューゼが口を挟む。
「勝負はもう決まったも同然だろ」
「確かに。これ以上やっても同じことの繰り返しになるだけ」
レナスがそう応じ、イセリアは唇を噛みしめた。
女王にとって目の前の敵たちは、木の葉のように脆い存在だった。彼女の腕の一振りでその体は力尽き、霊力の粒にまで還元される。
しかしそれを何度繰り返してもその度に、宙を漂う光の欠片を生き残った誰かが再結合させ、彼らは蘇ってくるのだった。
果てしなき消耗戦の末───今、地に伏しているのはイセリアの方である。
「この戦いの目的は、我らの強さを試すことだったはず」
レナスはイセリアに語りかけた。
「すでに大勢が決した今、互いを滅するまで続ける意味は何もない」
「私を……見逃すというの?」
「違う違う」
夢瑠が叫ぶ。
「私たち、あなたが悪い人だからやっつけに来たとか、そーゆーんじゃないんだもの」
「確かにな……。正直、止めを刺すところまでやりたくないよ」
槍を女王に向けたまま、ロウファが言った。
「どう? それとも、完全に決着をつけなければ納まらない?」
「……いいえ」
レナスの問いに、無機質なホールの天井を見上げながらイセリアは答えた。
「私の負けよ。最強の名は、あなたたちにこそ相応しい」
四人の間に安堵の空気が流れ、彼らはようやくめいめいの武器を下ろした。
「そういえば、名前を聞いていなかったわね」
「私はレナス。レナス・ヴァルキュリア」
「レナス……。そう」
その名を胸に染み込ませるように、イセリアは呟く。
「ねえレナス。───あなたは最強の称号を手に入れた先に、何を望むの?」
「特に望みはない」
短い答えを返す。
「あえて言うなら、お前……いえ、あなたと戦うことが、望みだった」
ふふ、と女王は笑った。
「光栄ね。でも、それは質問の答えになっていないわ」
床にぺたりと座ったまま、レナスを見上げる。
「あなたたちは望み通り私と戦い、見事に打ち倒してみせた。では、その後は?」
「………」
「在るものといえば戦いだけのこの世界で、誰より強き者となったあなたたちは、これから何を目的に生きてゆくつもり?」
歌うように言葉を紡ぐ女王の隣に、いつのまにか夢瑠がしゃがみこんでいた。
「戦いだけなんてこと、ないでしょ」
「え……?」
「倒した女王様が、まだここにいるんだし。私たち勝ったわけだし」
肩にぽんと手を置かれ、イセリアは身を強張らせた。
「ま、まさか、私を……」
「うんうん♪」
「使役する気なの?」
「ありゃ」
ずるりと前に滑る。
「んー、使役っていうか、なんていうか」
「大体、今の私はこんな有様よ。もはや使い魔としての値打ちも……」
自嘲的にそこまで言って、イセリアははっと夢瑠を振り返った。他の三名も同時に気付いて息を呑んだ。
小さな声で流れる、呪文の詠唱に。
「よせ、夢瑠……!」
「キュア・プラムス!!」
決めの霊言により術式は完成し、治癒の光があまねく周囲を満たした。
256天使の庭の最奥で(3/10):2010/03/13(土) 23:06:18 ID:OiVDWwmQ
黄金色の光が薄れて消えたとき、女王の喉元にはレナスの剣の切っ先が突きつけられていた。
ロウファも再び戦士の眼を取り戻し、槍の穂で正確にイセリアを狙っていた。アリューゼは剛剣を頭上に振りかぶっている。
「夢瑠、てめえ……」
「大丈夫だってばぁ。今さら戦う気なんてあるわけないじゃない」
唖然としているイセリアに向かって、ねー、と呼びかける。
「そんなの女王様のプライドが許さないわよ」
「甘いことを……」
「いいえ。この子が正しいわ」
神にも等しい魔力のほとんどを取り戻し、先程までとは打って変わった力強い声で、イセリアが言った。
「私は敗北を受け入れた。無駄なあがきはしない───女王の名にかけて」
「ほらね」
夢瑠は得意げに小鼻を膨らませた。
「ごめんねー。みんな喧嘩っ早くてさぁ」
「あなたは呑気なのね」
苦笑しながらイセリアが答える。
「あの三人は戦うのがお仕事だけど、私は平和の申し子なの」
夢瑠の生い立ちを知る三名には、その言葉の意味が理解できた。なんとなく士気を挫かれ、彼らは剣を引く。
「せっかく元気になったんだもん。戦うより楽しいこと、しましょ」
「戦うより、楽しいこと……?」
「そうそう」
床に座り込んだままの女王の後ろに回り、ベルベットのように黒く光る衣の、両方の肩紐に指をかける。
「こんなこと♪」
そう言って夢瑠は素早く肩紐を左右へ開き、そして垂直に引き下ろした。
衣の下から女王の豊かな胸が、弾むように飛び出してきた。
257天使の庭の最奥で(4/10):2010/03/13(土) 23:07:10 ID:OiVDWwmQ
「……っきゃああっ!!!」
「うわ、服が羽根をすり抜けちゃった!」
両腕で胸を隠し悲鳴を上げるイセリアと、全く関係ないところに驚く夢瑠。
「どうやって着てるのかずっと不思議だったんだよね……あっ私の手もすり抜ける! どうなってんのこの羽根?」
「エーテル体ね」
事態を呆れたように眺めていたレナスが、口を開いた。
「エーテル体?」
隣にいたロウファが聞き返す。
「飛ぶための実体ある羽根ではなく、飛行能力が羽根という形で顕現している。私の翼と同じよ」
「そうなんですか……。エーテルってもっと硬くて、目に見えない物だと思ってました」
「エーテル・コーティングからの連想ね」
床に倒したロウファの槍をちらりと見て、レナスは言った。
「道具の『機能』をエーテルに写し取り、『形』の周りにメッキする。
 メッキのお陰で『形』が保たれ、それによって『機能』もまた保たれるから、メッキも劣化しなくなる。
 その堂々巡りを生み出して絶対に壊れない武具を作るのが、エーテル・コーティングの技術」
「へえ……」
「もー、難しい話はあとでいいじゃない」
嫌がる女王の服をぐいぐいとずり下げながら、夢瑠が会話に割り込んだ。
「君が言い出したんだろ」
「それよりさ、ほらほらっ」
イセリアの膨らみを後ろから両手ですくい上げ、たぷたぷと揺らして見せつける。
「ああ……い、嫌ぁ……」
「ちょいとお兄さん、女王様けっこういい物持ってますよ〜」
「ポン引きかお前は」
肩や腰の甲冑を外しては背後に放り投げつつ、アリューゼはすっかり肌も露わな女王に歩み寄っていく。
思わず後ろに退がろうとするイセリアだったが、背中から抱きついている夢瑠が邪魔でそれも叶わない。
涙の浮かんだ目を見開き、女王は精一杯の虚勢を張った。
「あ、あなたたち、この私にこんな事をして、只で済むと……」
「あれ? 勝負あったんじゃないの?」
淡いピンク色をした二つの頂点を指で挟まれ、耳たぶをそっと甘噛みされる。
「ふぁっ! ああんっ!!」
「もう戦いはおしまい。勝ち負けなしで、楽しみましょ」
そう言って夢瑠は顔を上げ、仁王立ちしているアリューゼに目配せした。
「ね?」
「ああ」
彼は手早くベルトを緩め、ズボンを脱ぎ捨てた。
258天使の庭の最奥で(5/10):2010/03/13(土) 23:08:09 ID:OiVDWwmQ
全員の目が、そびえ立ったアリューゼの剛直に集中していた。
「うわわわ……迫力ぅ〜……」
両手で顔を覆ったまま夢瑠が呟く。大きく開いた指の間から、キラキラ輝く瞳が覗いていた。
「くっ……。こ、これが、人間の……」
「あれを標準と思われちゃ困るんだけどね」
イセリアの呻きに、ロウファがげんなりした声で応じる。
「うー、ほんと立派……。マテリアライズに趣味入ってる?」
「馬鹿なことを言わないで!」
レナスが顔を紅くして叫んだ。
「エインフェリアの姿は本人の精神を元に再現されるもの。私は手を加えてなどいない!」
騒々しい一同と対照的に、アリューゼは押し黙ったまま足下のイセリアに目を据えていた。
見上げるイセリアの視線が、その顔と高く屹立するものとの間を頼りなげに往復する。
それに気付いた夢瑠が彼女の後ろから言った。
「ほら。女王様怯えてるよ」
「お、怯えてなんか……!」
慌てて取り繕うイセリアに構わず、
「優しい言葉でもかけてあげたら?」
それまで無表情だったアリューゼが、目を剥いて夢瑠を睨む。顔全体が『俺がか?』と問いかけていた。
勢いよくレナスの方を振り向くと、彼女は腕組みして頷いていた。隣のロウファがグッと親指を立てる。
アリューゼは観念したようにうなだれ、それからゆっくりしゃがんで視線を下げた。
「あー……その、何だ」
バリバリと頭を掻く。
「戦ってる時は……『見飽きた』とか言っちまって、悪かったな」
ほど近い距離で目と目が合った。イセリアの瞳を覗きこみ、彼にできる限りの優しい声でアリューゼは囁いた。
「別嬪さんだぜ」
レナスと夢瑠が同時に吹き出した。
「気にしていたのか」
「うーん……ギリギリ合格ってとこかな!」
「点が辛ぇなあ」
肩を落としてアリューゼがぼやく。女王の表情が、初めて緩んだ。
脱ぎかけの衣を引きずって、イセリアはアリューゼの足の間に這い寄り、熱い柱に手をかけた。
「……ッ」
無敵の傭兵は不意を突かれ、ぴくりと体を震わせた。
259天使の庭の最奥で(6/10):2010/03/13(土) 23:09:03 ID:OiVDWwmQ
端正な紅い唇に、収まりきらないほどの直径を含み、たどたどしい手つきで側面を摩擦する。
懸命にアリューゼを慰める女王をまた慰めるように、夢瑠とロウファがその左右に侍り、柔らかな膨らみを一つずつ揉みしだく。
夢瑠の片手は床に座ったイセリアの下半身にも伸びていた。
「は……あうっ」
埋められた指が内側で躍ると、彼女は腰を揺らして悩ましい声をあげる。
「ほらほら、手と口お留守にしちゃダメだよ。頑張ってー」
「はぁっ……、はぁっ……。んっ……むぐ……」
「でも、ちゃんと人と同じものがあってよかった」
女王の中に緩やかに指を出し入れしながら夢瑠が言った。
「仕組みが違ってたらどうしようかと思っちゃった」
お前が言うか、とアリューゼとロウファは思うが、口には出さない。
「違う所って、この羽根と輪っかくらい?」
「適当だなあ。さっきの戦いをもう忘れたのかい」
ロウファが苦笑いする。肉体が粉々になるような裁きの連撃を、最も頻繁に喰らっていたのは彼だった。
「そうね。人と違う所も多いけれど───」
イセリアの背後に、いつの間にかレナスが立っていた。
彼女は羽根の一枚に手を伸ばすと、その根元を軽くつまんだ。
「はぁんっ!」
「それはそれで、楽しみ様はあるものよ」
半透明に輝く羽根の先端に向かって、指をゆっくり滑らせていく。
「やあぁ……そこはっ……あ、あ、あああぁん!!」
イセリアは喉を反らせて叫んだ。
「エーテル体を……触っているのか!?」
「さっすが神様!」
「つーか気持ちいいのかよ、その羽根は」
よぉし、と夢瑠が張り切り、イセリアの体内深く指を挿し入れた。アリューゼは女王の頭を両手で捕まえ、自分自身を再び口一杯に含ませる。
前後左右からの間断ない攻めが続く。汗ばんだ額と涙に濡れた頬に美しい金髪を張りつかせ、彼女は裸身を痙攣させた。
「ふぅっ……! ふぐっ……! んっ……! んんーっ……!!」
「くっ! 行くぜ……!」
アリューゼは歯を食い縛り、イセリアの口内に思い切り精を放った。
「むぐ……ごほっ! げほっ!」
咳き込んで唇を放した彼女の顔面に、第二波、第三波の奔流が直撃する。
白濁にまみれ、女王はその場に崩れ折れた。
260天使の庭の最奥で(7/10):2010/03/13(土) 23:09:59 ID:OiVDWwmQ
「ねぇ……さっきのアレ、綺麗に消えちゃったけど」
息が整わないイセリアを助け起こしながら、夢瑠が言った。
女王の顔と髪と床に大量に飛び散っていた白い液体は、すぐに光の粒となって空中に消えてしまい、今は痕跡すらも残っていなかった。
「どこ行ったのかなぁ?」
「今の僕らの体は、ヴァルキリー様のDMEで出来ているからね」
ロウファが答えた。
「本体を離れた分は回収されるんじゃないかな」
「ええー。ごっくんしちゃったってこと?」
「そうなのか? ヴァルキリー」
「………」
レナスはそっぽを向いた。
「それにしても、まだまだ元気ねぇ」
発射後いくらもしないうちに角度を取り戻しつつあるアリューゼの腰の物に、夢瑠はちらちらと目を遣っている。
「女王様はグロッギーのようだがな」
「いいえ……まだ、よ……」
イセリアが起き上がる。
「こんなものじゃ……終わらないわ」
「ほう。さすがはクイーンだぜ」
頬を紅潮させ取り憑かれたように一物に手を伸ばしてくるイセリアを、ひょいと捕まえて引き寄せる。
「だが、奉仕させてばっかりじゃ悪いからな」
「あ……」
「今度はこっちの番だ」
膝の間に腰を割り込ませ、硬い巨柱を体の真芯にあてがう。
完全に狙いを定められたことを悟り、女王はぶるっと身を震わせた。
「……怖いか?」
「だ……誰に向かって、口を利いているの」
アリューゼはにっと笑って、一息に貫いた。
「くああっ……!! あーっ!!」
特大のそれに深々と打ち抜かれ、イセリアは絶叫した。目の前の鍛え上げられた身体に無我夢中でしがみつき、背中に爪を食い込ませる。
座位で向き合い、互いに抱き合ったまま、最初の嵐が過ぎ去るのを二人は待った。
「くう、ううっ……。ふーっ……。ふーっ……」
絞るような悲鳴が次第に小さくなり、胴を締め付けていた腕がいくらか緩むのを感じると、アリューゼはゆっくりと動き始めた。
「うぁっ!? ……う、んっ、んっ、あっ、んっ……」
白い裸身がリズミカルに上下し、豊満な胸が毬のように弾む。
苦しげな声の中に少しずつ甘い吐息が混じり始めると、女王の肩越しにアリューゼは呼んだ。
「ロウファ!」
「はいっ」
服を脱ぎ捨てながら、若き騎士が答えた。
261天使の庭の最奥で(8/10):2010/03/13(土) 23:10:49 ID:OiVDWwmQ
「………?」
アリューゼの腰使いに揺られる女王は、背後についた別の男を訝しげに振り返った。
規則正しく上下する彼女の双丘にロウファは両手を掛け、強く押し開く。
すでに巨大なものを挿入され一杯に張りつめている場所のすぐ近くで、もう一つの密やかな蕾が露わになった。
「ひ……!?」
新たな先端をぴたりとそこに添えられて、イセリアは声を上げた。
「だ、駄目! そっちは……!」
「大丈夫。僕は自分で道を切り開いてみせる」
熱い口調でそう言うと、ロウファは腰を突き上げた。

少し離れた場所から、レナスは三者の絡み合いを静かに眺めていた。
「参加しないんですか?」
その背中に夢瑠が寄り添う。魚に変化した下半身がグリーブを這い上がり、素肌の膝裏に押しつけられた。
「ひゃあっ!」
レナスは叫んで夢瑠を突きのけた。
「ウロコで触るな!」
「だってー、どーもノリ悪いんだもの」
その場でくるりと回り、夢瑠は二本足の姿に戻る。
「もっと楽しみましょうよぅ。それに、あっちが終わったら次は私たちですよ?」
「う……」
「せめてその鎧は何とかした方がいいと思うけどなぁ」
「………」
レナスはしぶしぶ目を閉じて精神を集中させた。その体が白い光に包まれ、まばゆく輝く。
青空の色をした鎧と羽根兜は光に溶け込むように消えてゆき───
次にその姿を現したとき、レナスはミッドガルドの街を彷徨うときのような、人間の娘の装いに変わっていた。
「脱がしっこしません?」
「……自分でやる」
「ちぇー。つまんないの」
膨れてみせながら夢瑠は、倭国模様の帯に手をかけた。
262天使の庭の最奥で(9/10):2010/03/13(土) 23:11:29 ID:OiVDWwmQ
「お疲れさま♪」
下着姿になった夢瑠が、後ろに同じく半裸のレナスを伴って、事を終えたばかりの三人に声をかけた。
「あはは、みんなぐったり」
床にのびている面々を見渡して愉快そうに笑う。
「ちょっと休憩しないと無理かな?」
「そうでもないさ」
「わっ」
いきなり手を掴まれて夢瑠は叫んだ。
半分寝転がった状態のまま、不敵な表情のロウファが夢瑠の素肌を舐めるように見回していた。
「お待たせしないよ。さあ」
ぐいっと腕を引く。
「きゃーあ! スイッチ入っちゃってるー!」
夢瑠はバランスを失ってロウファの体の上に倒れ込んだ。
「……楽しそうね」
「ええ、そうね」
レナスの独り言に返事が返った。先程の夢瑠と同じように、彼女の手首を何者かがしっかりと握った。
「私たちも……楽しいこと、しましょ」
イセリアの熱っぽい視線と、甘く蕩けるような囁きがレナスに絡みつく。
光の羽根を広げ宙に浮かんだ状態から、女王はレナスの首に抱きつき、そのまま体重を預けた。唇を奪いつつ床に押し倒す。
「ぷはっ! ちょ、待っ……んんっ」
「あの男たちも良かったけれど、やっぱり私……あなたと、してみたいのよ」
組み敷いた身体を強く弱くまさぐりながら、情熱的にそう告げた。
「で、でも……女同士でそういうことは……」
「あら」
にやりと笑ってイセリアは自分の足の間に片手を当てた。
「私たちに、性別なんてどれほどの意味があるのかしら」
輝きを放ちながら股間から伸びてくるものに、レナスは目を見張った。
「それは……!」
「エーテル体……。神族には、触れるんでしょう?」
透明なそれは赤い光に縁取られ、くっきりと男性のシンボルの形を示していた。
レナスの下腹部や太腿に何度か擦りつけ、その感触を確かめる。
「うふふ……気持ちいい」
艶然と女王は笑った。
「これなら満足できそう。私も、あなたも」
「嫌……ま、待って、そんな……」
僅かに潤み始めていたレナスの入口をその光るものが押し広げ、くちゅりと湿った音を立てる。
「あああ……!!」
「うっ……き、きつい……!」
じわじわと、しかし確実に、イセリアはレナスの中へと進んでいった。
根元まで完全に挿入すると同時に、先端が柔らかい天井に触れる。
「長さぴったりだったわね」
体の下で震えている戦乙女の乱れた髪を優しく梳き、その目尻に溜まった涙を唇で吸い取る。
「辛そうな顔も……素敵よ」
「は、放し、なさい」
「駄・目」
ゆっくりとした前後運動が始まり、レナスは新たな悲鳴をあげた。
263天使の庭の最奥で(10/10):2010/03/13(土) 23:12:32 ID:OiVDWwmQ
二度の発射を終えたアリューゼは冷えた床に座り、けだるい体を休めていた。
しかしその彼の相手をしたイセリアといえば、
「どう? 私のは、気持ちいい……?」
「や、やめ……あっ、あっ、あん……!!」
疲れるどころかますます勢い付いたように、今はレナスを攻め立てている。
「元気だな」
絡み合う二柱の女神を眺めながら、アリューゼは呟いた。
しばらくぼんやりとその様子を見ていた彼は、ふと自分の持ち物に目を落とした。
「……俺もか」
おもむろに立ち上がり、レナスに覆い被さった女王のもとへつかつかと歩いていく。
「邪魔するぜ」
「え……」
四つん這いになった腰を後ろから掴み、相手のいないままに濡れそぼった女の箇所に、再び分身を突き入れた。
「ひぁ、うああーっ!!」
「ぐっ……また、大きく……っ!」
不意打ちの挿入に、イセリアのエーテル体が脈打つように大きさを増し、レナスにも声を上げさせる。
柔らかな内襞の強烈に締め付けに、自らの部分が十分な硬度を取り戻したと判断すると、アリューゼは女王の身体越しにレナスを捕まえた。
「よっと」
身長ほどの長さの大剣を軽々と扱うその剛力で、二人をまとめて持ち上げ、そのまま完全に直立する。
「何を───」
そう言いかけたレナスの足は宙に浮き、その体重はただ一点に集中した。
イセリアに貫かれた、その部分に。
「あ……ああぁーーーっ!!」
同じことはイセリアにも起こっていた。同じどころか、彼女はレナスと自分とを合わせた重さを、かの巨柱に支えられる形になっていた。
「かは……あ、あ、あーーー!!」
戦乙女の青い翼と女王の赤い羽根が同時に広がった。エーテル体の羽根はアリューゼの胸を突き抜けて背中側に飛び出す。
ほとんど反射的な、飛行能力の発露だった。
彼はすかさず腕を翻し、レナスの両肩を上から抑え込んだ。
レナスは空中へ逃れられない。その体を下から抉っているイセリアもまた空中へは逃れられない。
「は、放しなさい……!」
「駄目だ」
イセリアの命令を一言で退け、アリューゼは体を揺する……。

ロウファの下で息を弾ませていた夢瑠は、縦に繋がった三名を目を丸くして眺めていた。
「うわぁ……凄いね、あれ!」
「そうだね……って」
思わず相槌を打ってしまってから、ロウファは眉を吊り上げながら笑った。
「余所見、す・る・な・よっ……!」
夢瑠の片足をがっちり抱え込み、続け様に腰を打ち付ける。
「ふぁっ! ご、ごめ……あっ! あんっ! あぁんっ!!」

どこでもない世界の一番奥で。
戦いを終えた者たちの嬌声は、互いに絡み合いながら、いつまでも響き渡っていた。
264あとがき:2010/03/13(土) 23:14:04 ID:OiVDWwmQ
おしまい。
お付き合いいただいた方ありがとうございました。
本編が暗いので二次創作は不真面目に走りたくなります。夢瑠使いやす杉。
ヴァルキリー様の人当たりがソフトなのはED後だからということでひとつ。
265名無しさん@ピンキー:2010/03/14(日) 23:15:03 ID:7HMR+1ME
アルトリア男衆が鬼畜すぐるwwGJ
レナス様……
266名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 10:31:10 ID:1jYMQr9n
乙っ
267名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 17:26:22 ID:fYBm5CLa
誰かSO3のロジャーで何か書いてくれる人いませんか?
268267:2010/03/15(月) 17:49:10 ID:fYBm5CLa
できればロジャー受けでお願いします。
269名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 18:36:46 ID:U8Pw/DSX
>>264
投下ありがとう
270名無しさん@ピンキー:2010/03/19(金) 20:11:55 ID:H/iPq3jz
ファビョニス連載終わってから実に三ヶ月ぶりのSS投下か…
本当にありがとう職人さん
271名無しさん@ピンキー:2010/03/19(金) 22:28:56 ID:CHglzi08
ありがとう職人さん非常にGJ!!
272名無しさん@ピンキー:2010/03/20(土) 01:26:38 ID:6pY7tH3e
職人さんGJ

今生身バッカたんと奥さんの話考えてるんだが、あの長い耳の扱いに困る。
あれじゃあ横向いて寝転がれないじゃないか…
腕枕とかどうするんだろうか
273名無しさん@ピンキー:2010/03/25(木) 04:14:30 ID:P9iLemBp
新作発表まだか
274名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 13:18:06 ID:OxYji3wL
ロエン×ヴェロニクって需要あるかな
275名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 09:52:35 ID:ZvxsM361
需要あるよ!
ワクテカ!
276名無しさん@ピンキー:2010/04/15(木) 09:42:34 ID:7hJNhpWi
保守
話題ないねえ
277名無しさん@ピンキー:2010/04/15(木) 22:52:25 ID:jmmAuuhU
VP3が出るという噂があるぞ!
278名無しさん@ピンキー:2010/04/16(金) 03:12:09 ID:U/YBH82F
VP本スレでも話題になってないし噂どまりだろ
279名無しさん@ピンキー:2010/04/16(金) 11:09:04 ID:eeHUZE2q
海外からの噂だっけ
けど負のイメージ脱せないAAAが
主力のSOシリーズの4も盛大にコケて低迷から脱せないのに
VP2・咎と大してふるわなかったVPで新作?
ちょっと胡散臭い気もする
6月E3待ちか
280名無しさん@ピンキー:2010/04/20(火) 20:13:45 ID:I1G8h7/q
2009年から制作スタートしててまだ公式未発表の作品が一つあったような気が。
それじゃないかな
281名無しさん@ピンキー:2010/04/27(火) 02:46:07 ID:QAP22hhT
トライエーススレも落ちたものだな
この書き込みの無さ・・・

今のAAA作品のキャラは、おまんこ舐めたくならないもんな
仕方がないか
282名無しさん@ピンキー:2010/04/30(金) 21:07:58 ID:78rsW232
お前の言う今はどの作品からだ
283名無しさん@ピンキー:2010/04/30(金) 21:47:49 ID:Xs0SKiTs
インアンから?
284名無しさん@ピンキー:2010/05/04(火) 01:30:42 ID:aOHBN14v
VP新作来るらしい

まだ箱で発売することしかわかってないけど
たぶんPS3とマルチ?
両方持ってるからどっちでもいいけどな
285名無しさん@ピンキー:2010/05/05(水) 17:52:53 ID:cNu7JwR7
本当はちゃんと書ききってから投下するべきなんだけど、今は途中までが限界。
エロは素人・スランプ驀進中・起承転結何それおいしいの?な人間が書いたので申し訳ない出来です。
ありきたりな話…かもしれない。

次からSO4のエッジ×レイミ(途中までしか書けてない)のSS。
タイトルは「触れ合う距離、触れ合う心」
NG指定はタイトルでお願いします。
「…っ! ちょっとエッジ!!」
「だめだ」
「いきなりなんて嫌っ! どうしたのよ!」
 カルナスに備え付けてあるベッドはそれほど硬くはないが、二人分の体重でスプリングが軋む。
 レイミは自分に覆い被さっているエッジの下から這い出ようとするも、彼の太腿にがっつりと身体を抑えられている。エッジの身体はびくともせず、レイミはただ愛撫を一方的に受けていた。
 エッジはレイミの胸を布越しに揉みしだく。たまったもんじゃないとレイミは制止を呼びかけるが、必死の嘆願も空しくエッジの動きは止まらない。
「やめてって! ひあっ!?」
 ざらりとした感触にレイミは甲高い悲鳴を上がる。エッジはレイミの部屋着の裾をまくって彼女の胸の突起を舐め上げたのだ。
 エッジの唾液の付いた突起は寒くもないのにぶるりと震える。齧り付くように彼はそれを口に含んだ。空いた右手でもう一方の乳房をいじり続ける。
 以前、事の最中に恥ずかしげもなくレイミの胸の先端を「赤く熟れた苺のようだ」と喩えた本人に弄ばれると、更に羞恥心が増してくる。
(なんで今になって思い出すのよ…!)
 レイミは胸中で己を罵った。手元に鏡はないが、今の自分の顔はさぞかし赤くなっているのだろうと思った。
 それにしても、この状況は非常にまずい。エッジと、セックス独特のこの空気に流されかけている。朦朧としてきた意識の片隅でレイミはそう思った。
 与えられる快感に抗い、腕の力を振り絞る。そして、
「エッジ…の、えっちぃぃぃっ」
 埋めていたレイミの胸から顔を上げた瞬間を狙い、エッジの両頬をぎゅぅぅぅっとつねる。伸ばせる限界まで頬を引っ張ってやった。
 頬の肉がこれほどかというくらいまで引っ張られ、エッジの動きが止まる。頬の痛みに彼は眉を顰めた。
「いひゃいいひゃいよ。フェイミいひゃい(痛い痛いよ。レイミ痛い)」
「何故盛(さか)ってるのよ」
「ひゃかってなんかにゃい(盛ってなんかいない)」
「じゃあ、何で嫌だって言っているのにやめてくれないの?」
 押し倒された状態のまま、下からエッジを見据える。一瞬、エッジが答えに詰まったように見えて、レイミはつねっていた頬を放した。 
 真っ直ぐな視線を逸らさないレイミに、エッジは気まずそうに目を逸らせた。それに加えていつもは凛々しいエッジの眉が今はハの字になっている。何かやましい考えでもあるのかとレイミはむっとしたが、黙ったまま彼の返答を待った。
 暫らく「あー」だの「うー」だの呻きながら思考を逡巡していたようだが、観念したようにエッジは口を開いた。 
「レイミも、いなくなるかと思って」
「私も、いなくなる?」
「…そう。今日はかなり心配したんだぞ」
 鸚鵡返しに訊くと、エッジはゆっくりとレイミの肩口に顔を寄せてくる。エッジの表情がよく見えない。眼前で彼の金髪がさらさらと揺れて、レイミの視界を覆った。
 エッジは何もしてこなかった。そのままの体勢で暫らく身じろぎすらしなった。
 そんな彼の頭を撫で続け、レイミは今日の一部始終を思い出した。
今度は書き終わってから投下します。
お目汚し失礼しました。
288名無しさん@ピンキー:2010/05/06(木) 20:10:51 ID:8m8h993e
おお・・・SO4か
乙する
289名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 03:41:47 ID:KZM71njg
てす
290名無しさん@ピンキー:2010/05/16(日) 00:44:01 ID:aAM1ocQv
誘い受けであろうと何だろうと、聞かずにはいられないのです
まだSO3は現役でしょうか?
そして、タイネーブとフェイトの絡みでも大丈夫なのですか?
291名無しさん@ピンキー:2010/05/16(日) 00:57:40 ID:f3VZIfey
むしろ4より歓迎されるかと。
292名無しさん@ピンキー:2010/05/16(日) 01:01:38 ID:aAM1ocQv
よーし、ありがとうございます
24時間以内に、書き込もうと思います
しかしそんなに人気ナインですか、4は
だからKOEIをたらしこんで星海無双を出せとあれほど(略
293nameless:2010/05/17(月) 00:06:15 ID:blL+UP0G
しかし292、改めて見るとアレですね。酔いすぎてましたすみません。
酒は恐ろしい。

久しぶりに、投下させて頂きます。SO3で、フェイトとタイネーブもの
カイネ様のおっぱいぷるーんぷるん
294nameless:2010/05/17(月) 00:07:10 ID:blL+UP0G
 「1億ぅっ、2億っ、百億ーのKISSを浴ーびーせーてーやるーっ、Baby!」

 歌くらい、誰だって歌う。上手だろうが下手だろうが、会話することが出来るのに歌うことが出来ない、などという人間は、イウヴァルドくらいしかいないだろう。

 「MachineGunKissでJustっ、Fall in loveーーーー」

 ラッセル執政官だって歌う。勿論マイクなどないが、羞恥ではなく酔いで顔を赤くしながら、熱唱を終えた。

 「うおーーーっ」
 頭上でパンパンと手を叩いているのは、こちらも赤い顔のフェイト。ラッセルは大きく息を吐き出すと、その場にしゃがみ込み、傍らにあった酒瓶を持ち上げた。
 「で、どうだ?」
 「いやー、よかったですよぉ。あと一歩で、コンサート会場もこちら目がけてまっしぐら、でした」
 「そうだなぁ。やはり、結界は発動して欲しいなぁ」
 事務処理が何とか終わった、その打ち上げのようなものだった。秘蔵の酒を持ち出したラッセルを発見したフェイトが、秘密にする代わりに、分け前を要求してきた。
 流石にこの時間、食堂に来るような人間もいないだろうということで、二人して静かに飲んでいたのだが、だんだんと二人とも、全てがどうでもよくなってきて、今に至る。
295nameless:2010/05/17(月) 00:08:01 ID:blL+UP0G
 「ほれ、フェイト。次はお前だ」
 「んじゃ、『今、この瞬間がすべて』を」
 「おいっ、ずるいぞ!」
 「それじゃ、『憂国の凱歌』?『花鈴』?『I can fry』?」
 「何その引き出しの多さ。いやいや、そうじゃなくてだ。桐生ちゃんじゃない私が、桐生ちゃんを歌ったんだ。お前も、違うのを」
 「……『おいらに惚れちゃ怪我するぜ』?」
 「そういうことだ」
 「ふっ……執政官、舐めないで頂きたい。この程度で僕が怯むとでも?」
 「……いやっ、ちょっと待て! やっぱ止めろ!」
 「えー?」
 「よくよく歌詞思い出せば、笑えないことに気付いた」
 「じゃあ、どうしろってんですかい?」

 「ちょっと! 何してらっしゃるんですか、お二人とも」

 咎める声色が降ってきた。
 二人とも首を回し、声の主を確認する。見回り中の、女隠密……タイネーブだった。
 「うーん? 食堂で酒盛りをするべからず、なんて法はない筈だがなぁ」
 からかうような口調のラッセルに、彼女は口を尖らせる。
 「確かに、そんな法律ありませんけど……でも、どうかと思いますよ? 執政官ともあろう人が、こんな所で酒盛りなんて」
 「おいおい、フェイトはいいのか?」
 「そういうことじゃなくて……」
 まだ何か言い足りないような彼女の目の前で、ラッセルはすっと立ち上がると、恭しくお辞儀した。
296nameless:2010/05/17(月) 00:08:40 ID:blL+UP0G
 「お嬢様。お手を拝借」
 「……はい!?」
 「いーからいーからー」
 彼はタイネーブの手首を掴むと、ぐいっと引っ張った。
 「えっ、ちょっと!?」
 「ラッセルを信じてー」
 そして、
 「とりゃ」
 「うりゃ」
 ラッセルが肩を押し、フェイトが膝裏を押す。
 「えっ」
 しかし、それで彼女が尻餅をつくことはなかった。彼女の、やや小さめな臀部がすっぽりと収まったのは、胡座をかいたフェイトの足の間。つまり、足首と股間の間に、尻が落ち込んだ。
 「……ひえっ!?」
 どういう状態なのか、ようやく理解した彼女は、顔を紅潮させて立ち上がろうとする。しかし、フェイトは左腕を彼女の腰に回し、右手で軽く頭を撫でた。
 「あっあのっ!?」
 「フェイトのここ、あいてますよー?」
 耳朶に唇を寄せ、囁くように告げる。その、熱を持った吐息に、彼女の身体が強張った。
 「救国の英雄を椅子代わりか。おぬし、なかなか肝のあるヤツよのぅ」
 杯をくわえたラッセルが、ニヤニヤしながらその光景を眺める。タイネーブは、二人が本気で酔っぱらっていることを悟った。
 「あ、あの、私その、見回りが」
 「どうせここでゴールだろ。気にするな、無礼講だ」
 予備の杯を、ラッセルはタイネーブの胸元に放り投げる。
 「逃ーがさーないーーっ」
 左腕を更に巻き付け、彼女の肩に顎を乗せるフェイト。その密着度に、タイネーブは身体を強張らせる。両手を揃えて持った小さな杯に、フェイトは酒を注いだ。
 「かんぱーいっ」
 「え、あ、は、はい」
 二つの杯が軽く接触した。フェイトはすっと飲み、タイネーブは恐る恐る、唇をつける。
297nameless:2010/05/17(月) 00:09:19 ID:blL+UP0G

 「ああーーっ」

 そして危うく、吹き出しそうになった。
 顔を上げれば、ファリンが食堂の入り口から、こちらを覗き込んでいる。厄介な人間に見つかった、と顔をしかめるうちに、ファリンは廊下の向こうへ首を向ける。
 「たいへんですよーぅ! タイネーブとフェイトさんがっ、食堂でぇ! 四十八手の一つ、『絞り芙蓉』にてお楽しみ中ですぅぅぅ!」
 「ちょっ……」
 思わず手を伸ばすタイネーブ。ファリンは食堂に入り、軽やかに跳躍しながら三人の元まで来ると、手の甲で軽く、タイネーブの額を叩いた。
 「あ痛っ!?」
 「ノックしてもぉしもぉーし、挿入ってますかぁ?」
 「は……挿入ってるわけないでしょ!」
 思わず、ファリンのペースに巻き込まれてしまう。

 「挿入ってはいないんだね?」
 「だからそう言っ」

 振り向いた時には、遅かった。目の前にいるファリンが、自分の背後にまでいる筈がないのに。
 彼女はその時、遺書を用意しておかなかったことを後悔した。

 「まったく、ファリンったら。危うく、シランド城が朱に染まるところだったじゃないか」

 何時の間に?とか、一体どうやって?とか……そんな質問は、無意味なのだろう。
 今すぐ、立ち上がるべきなのだ。しかしそれが出来ないのは、恐怖で力が入らないから。立ち上がらなければ、状況は悪化する一方だというのに。

 ネルの冷たい眼差しが、タイネーブに突き刺さっていた。
298nameless:2010/05/17(月) 00:09:51 ID:blL+UP0G

 「あれぇ? ネルさん……」
 ぼんやりした視線を、フェイトは後ろに向ける。
 「すごいですねぇ、全然気付きませんでしたよ」
 「まぁ、一応隠密の長だからね。ところでフェイト。タイネーブにちょっと用があるんだけど……」
 「タイネーブさんにぃ?」
 「ああ」
 「だめぇー」
 フェイトは両腕でタイネーブを抱きしめると、彼女の髪に顔を埋めた。二人とも、別々の意味で硬直する。

 スーハースーハー

 「ちょ、フェイトさん!? やっ、に、匂いをかがないで!」
 「ん? タイネーブさん、シャンプー変えた?」
 「え? か、変えました……けど」
 「ちょっと!? 何でフェイトが、アンタのシャンプーなんか知ってるんだい!?」
 「い、いや、この前偶然、そんな話をしてて……」

 ああ、何故、自分はさっさと酔っぱらってしまわなかったのだろう。タイネーブの視線の先には、この状況をニヤニヤと楽しむ風なラッセルと、既に酔いが回っているフェイト。
 はっきり言って、あれだ。まともなだけ損をするのだ、この状況では。
 「ねぇねぇ、私もご一緒していいですかぁ?」
 ファリンが、更に、この場所をかき回すような発言をする。
 フェイトとラッセルは少し目線を会わせると、ファリンとネルの二人に向かって、同時に、

 「「駄ぁ目ぇぇ」」

 と、ジェスチャーも付けて突っぱねた。
299nameless:2010/05/17(月) 00:10:23 ID:blL+UP0G
 「えぇ、何でですかぁ?」
 「これは男と男の飲み会なのである」
 「そうなのである。凸ならば可、凹ならば不可。よって、早々に立ち去れい」
 「でもぉ、タイネーブはいいんですかぁ?」
 「タイネーブさんは、お客さんですよーだ」
 フェイトは満面の笑みを浮かべると、タイネーブを更にしっかりと抱きしめる。
 「どうしても仲間に入りたいのなら、そうだなぁ……」
 ラッセルは顎を撫でた。左右の眉の高さは違っており、間違いなく、ロクなことを考えてはいない。
 「よし、そうだ。何か、フェイトの心を動かすような芸をしろ」
 「あ、それいいですね。誰か、俺の心に風を通してくれ、みたいな」
 「いえーい、ジュリエッタ乙〜〜」
 ぶつかるフェイトとラッセルの杯を見て、ネルは唖然とする。何か抗議し掛けたが、ファリンがさっさと先手を取ってしまった。

 「ゼーニゼニー」

 「……え?」
 ネルは思わず、ファリンに目を向ける。腹心の部下の意味不明な言葉に、ついに壊れてしまったのかと、そんな予想もしたが、フェイトは違った。ピクリと肩を震わせ、ファリンを見つめている。

 「おおっと、何ということだぁ!?」
 「え、ちょ……ラッセル様!?」
 「てっきりプリシス、もしくは手近にウェルチで攻めてくるかと思われたファリン選手! 何と、ハルカのゼニガメで攻めてきたぁ! カメールに進化すれば声優が変わってしまうため、このボイスはある意味レアと言えるだろう! 
最初は普通のゼニガメより小さくて臆病、しかし旅を通して強くなっていくという、まさに少年漫画の王道とも言えるキャラ。これにはフェイトも、興味津々だぁぁぁ!」
 「あ……解説役ですか、そうですか」
300nameless:2010/05/17(月) 00:11:00 ID:blL+UP0G

 酒はここまで、人を変えてしまうのか。
 しかし……ネルとて、ただ指をくわえて見ているだけの女ではない。彼女にも、引き出しくらいはある。
 ネルは咳払いすると、それと共に羞恥心を払い落とした。一方、ファリンはここぞとばかりにたたみかける。
 「うっしっしっし、それはそうよねぇ。あなたみたいな半人前に、彼女がいるわけなかったわ。ごめんなさいねぇ」
 「うおおっ、メグ教官!」
 「え、メグ!? あなた、ひよっこのくせに、一体誰の許可を得て私のことそんな風に呼んでるの!? 許しませんよ!」
 「ドSだし子持ちだし、後に忠実な奴隷だし! あなた何で、そんな完璧な逸材なのですか!? ああっ、ごめんなさい! ショートカットが見たいからって、除隊してすみませんでした!!」

 「半径85センチがこの手の届く距離〜〜」
 「!!?」

 「なな、何と!? ネル選手、ダブルラリアットを歌い始めたぁぁ! これはどうやら、マーガレット・サウスウッド教官よりも評価が高いようだ! 
しかしうまい! まるで本物だ! いやまぁ、ある意味本物なわけだが! フェイトの目も、釘付けだぁぁ!」

 「一緒にどうだい? フェイ……いや、KAITO兄さん」
 「え!? 僕が!?」

 「何とぉぉ! ここでネル選手、フェイトをカイトにすることで、大人びた妹というマニアックさで攻撃してきた! これでネル選手がロングヘアならば、一瞬で勝負は決まっていたかも知れん!」

301nameless:2010/05/17(月) 00:11:40 ID:blL+UP0G
 ラッセルの解説も、白熱してくる。

 「さあ、ファリン選手! 探す! 自らの歴史を紐解き、対抗できるものを探すが……だめだ! 勝機が見えない! 出来ればエトナは、最後の切り札に取っておきたいようだ!」

 ラッセル、更に白熱。しかし、数少ない同性の知り合いを取られ、若干嫉妬した模様。

 「さあ、これまで本部以蔵の如く解説に徹してきた私、ラッセルも、参加してみようかと思います。では……“飛鳥の鴉よ”!」

 それまでダブルラリアットをデュエットしていたフェイトが、突然、ピタリと止まった。
 だらだらと冷や汗を流し、ゆっくりと、ラッセルを振り向く。

 「では、先ず手始めに。“ゴウが裏切ったという報告を聞いて、絶望しかけるが、疑心暗鬼になりつつも、何とかデタラメだと笑い飛ばそうとする一条信輝”やりまーす」
 「やめてぇぇぇ!!」

 フェイトはラッセルの元に飛び込むと、その腰に抱きついた。

 「やめて、やめてください! 良心がっ、僕の良心が!」
 「「!?」」

 あっさり男の元に行ってしまった彼に、ネルとファリンは唖然とする。

302nameless:2010/05/17(月) 00:13:10 ID:blL+UP0G
 「“そなただけが、頼りなのだ”」
 「ああああ、ごめんなさい! 死体持ち帰ってごめんなさい! 珍しい椅子持ち帰ってごめんなさい! 貞女に浮気してごめんなさい! 
赤目についちゃってごめんなさい! 面倒臭くなって爆殺しちゃってごめんなさい! 真EDで、あなたの不憫さに思わず吹き出しちゃってごーめーんーなーさーいぃぃぃ……!」
 「“よいのだ、鴉よ。私はお前を、次の君主に……”」
 「ああああああ!! 信ちゃんっ、ひたすら平和を願っていた信ちゃん!」
 「“かないそうにない、いい夢だ”」
 「ラザード統括官!! ああ、ごめんなさい! アンジールの兄弟だっけ?とか、しょっちゅう間違えちゃってごめんなさい!」

 涙を浮かべるフェイトに抱きつかれながら、ラッセルは女性陣にニヤリと笑う。

 「ふはは、どうだ、私の少数精鋭的な経験値は! さて、どうする!? このままでは、めくるめく稚児遊びが待っておるぞ!」

 思わぬ伏兵だった。
 ツンデレランキングで、下手なツンデレよりも烈海王が上位に来るような……性別を越えたもの。
 フェイトの思い出に訴えかけるそれは、クリーンヒットのストレートのようなものだった。

 しかし、ここでついに、放置状態だったタイネーブが参加する。

 「ガドイン直伝っ、必殺っ、竜陣剣!」
 「ジャスティィィィン!!」

 さながら、ごぼう抜き。ラッセルは、迂闊にも援護してしまったことになる。少年時代の思い出が蘇っていたところで、ボーイミーツガールの代名詞とも呼べるそれは、あまりにも効果的だった。
303nameless:2010/05/17(月) 00:13:49 ID:blL+UP0G

 「タイネーブさんっ、お願いが! ボラボラボラボラボラ……」
 「ボラーレ・ヴィーア(飛んでいきな)!」
 「うおおおっ、目覚ましにしてぇぇぇ!」

 そこから先は、混戦だった。
 早々にギブアップしたファリンとラッセル、一騎打ち状態のネルとタイネーブ。そして、二人の間で揺れ動くフェイト。
 いつの間にか全員に酒が行き渡り、いつの間にか小規模な宴会が発生し……フェイトがラッセルに斬りかかる、などというハプニングもあった。(父親のカタキ的な意味で)

 そして、どれくらい時間が経ったのだろう。

 ふと我に返ったタイネーブが見たのは、ふらふら頭を左右に振っているラッセルと、食堂の床に寝転がる三人だった。どうやら生き残ったのは、一番酒に弱いが故に自重していた彼女一人らしい。

 (……どうしよう)

 「んー」

 途方に暮れていた時、寝惚けたフェイトが、タイネーブの膝の上に頭を乗せる。それに驚いた彼女は、思わず、杯に残っていた酒をこぼしてしまった。
 下げていた左手と、左手を乗せていた太腿が、濡れる。
 拭くものを探すため、目線を上げたタイネーブは、肌を這う湿った感触に、思わず声を上げそうになった。
 フェイトが柔らかい目のまま、彼女の指を濡らした酒を舐め取っている。
304nameless:2010/05/17(月) 00:14:24 ID:blL+UP0G

 「っ……!?」

 フェイトさん、と呼びかけようとして、しかしタイネーブは、じっとその光景を見下ろしていた。
 口の中に僅かに残っていた唾液を飲み込むと、口腔内はからからに乾燥した。
 そっと手を伸ばし、近くにあった、ファリンの杯を取る。まだ少し、中身は残っていた。そしてそれを、今度は故意に左肩に当てる。ピンと伸びた腕の表面を、透明な液体が滑り落ちていった。
 まだ、何とか言い訳は出来るだろう。
 フェイトは床に手を当て、身体を起こした。指先から指の股まで、丁寧に舐め上げ、その舌は、新たに流れてきた甘露の源を辿り、少しずつ、上昇していく。
 肘を越え、施文を撫で、舌がタイネーブの肩に達する時には、フェイトは両手で彼女を抱きしめるような姿勢になっていた。

 どうする?
 まだ、言い訳は出来そうか?

 「……フェイトさん」

 彼女はからからになった舌で、名を呼ぶ。フェイトは舌を這わせたまま、上目遣いに見上げてきた。
 「……飲みたいですか?」
 「ん」
 肯定するような微笑みを浮かべる。彼の吐息が、まるで麻薬のように、タイネーブの理性を浸食していった。
 「少し、待ってて頂けますか?」
 名残惜しくもあった。ここで離れれば、そのままフェイトは寝入ってしまうのではないかとも思った。
 しかしタイネーブはそっと彼の拘束から抜け出すと、ラッセルの元まで歩み寄り、その肩を叩く。
305nameless:2010/05/17(月) 00:14:58 ID:blL+UP0G
 「ラッセル様。ラッセル執政官様」
 「うーん……細工はりゅーりゅー……」
 「ネル様とファリンを、部屋まで連れてってください」
 そう言いながら、左右の手で二人の女性の片足を引っ張る。ネルもファリンも呻きはしたが、ちょっとやそっとでは目を覚ましそうになかった。
 ラッセルの両手に足首を握らせると、彼はふらふらと立ち上がり、鉄下駄を履いたような足取りで歩いていく。ネルとファリンを、ズルズルと引きずったまま。
 勿論、泥酔者に正常な行動が出来るとは思えない。ただ、二人を連れて離れてくれれば良かった。
 三人の邪魔者が消えた後、タイネーブは中身の残っている酒瓶を集め、一本にまとめると、それを持ち上げる。

 ここまでは、言い訳が可能。
 しかし……ここからは……。

 振り向くと、フェイトがとろんとした視線を向けてきた。
 「……二人で、飲み直しましょうか。フェイトさん」
 「んー、おさけー……」
 「ありますよ……たっぷりと」



 別に、違法なことを行うわけではない。
 これはもっと、それとは違う問題なのだ。



306nameless:2010/05/17(月) 00:15:38 ID:blL+UP0G
 フェイトの手を引っ張ろうとするが、タイネーブはふと、力を抜く。立ち上がり掛けた彼の身体は支えを失い、ちょうど、四つん這いの格好になった。
 「わ」
 言いかけて、彼女は躊躇う。しかし、フェイトに顔を近づけると、改めて、
 「わんわん」
 と、お手本のように言った。
 「……わんわん」
 訳が分かっているのか分かっていないのか……恐らくは、後者。わんわん、わんわんと繰り返すフェイトの首に、タイネーブはそっと、自分のマフラーを巻き付け、その端を持って立ち上がる。
 「……お犬さんごっこ……ですから……」
 未だに言い訳を用意しようとする、己の度胸のなさに呆れてしまった。
 フェイトは抗議するでも拒否するでもなく、ごく自然に、流れに身を任せていた。
 タイネーブが歩き出すと、フェイトも四つん這いのまま、前進する。そんなに距離はないのに、誰かに見られた時のことを考えると、彼女の背筋に甘い恐怖が走った。
 フェイトは相変わらずわんわんと呟き、時折、タイネーブの足に身体を擦りつける。彼はちゃんと、“お犬さんごっこ”をしていた。
 タイネーブが向かったのは、自室ではない。客人用の、小さな浴室だった。その扉を開き、フェイトを中に誘い入れると、内側から鍵を掛ける。今週のここの管理当番は、彼女だ。後で何とでもなる。

 いよいよ、言い訳がきかなくなってしまった。

 この浴室は今は使われておらず、タイネーブは風呂掃除という貧乏くじを引いてしまったのだ。明日も清掃をするのは彼女だ。
 しかし、それについて問題はなくとも、もう一つ、大きな問題がある。
 フェイトの記憶が、都合良く抜け落ちるなどというのは期待できない。これほどに酔ってはいるが。明日、酔いのさめたフェイトと顔を合わせた時……どうなるのか……。
 それに考えが回らないほど、タイネーブは愚かではない。彼女もまた、酔っているのだ。この状況に。
 浴室のタイルに足を置き、湯を入れ始める。フェイトはまだごっこ遊びを忠実に守っており、相変わらず四つん這いで浴室に侵入した。
 タイネーブは酒瓶の栓を抜き、右手で傾けると、左腕に中身を垂らした。いくつかの筋に別れながら、酒は白い肌を更に光らせ、指先から滴る。その指先を、フェイトの唇にそっと触れさせた。
307nameless:2010/05/17(月) 00:16:16 ID:blL+UP0G
 「ん……」
 フェイトは舌を伸ばし、先ほどと同じように、甘露の源流を探り始める。彼の両手は前足であることをやめ、こぼれ落ちる酒をせき止めようとするかのように、タイネーブの左腕を包んだ。
 さながら仙桃のような扱いを受ける自分の左腕に、それが自分のものであることを忘れた彼女は、嫉妬を抱いた。
 タイネーブは酒瓶を持ち上げ、一口、口に含む。故意なのか、そうでないのか、唇の端から一筋、酒が零れた。
 それを見つけたフェイトは首を伸ばし、彼女の顎に口付ける。狙っていなかったと言えば嘘になるが、あまりに急激な接近に、タイネーブは危うく、含んだ酒を飲み込みそうになる。
 酒を辿り、フェイトの唇はついに、彼女のそれに接触した。
 口移しをしようとした彼女にとって、フェイトが舌で無理矢理に唇をこじ開けてきたのは、予想外だった。含んでいた酒は、あっという間にフェイトの喉の奥へと流れ込んでいく。
 それだけでは済まず、彼の舌は、一滴残さず貪るように、タイネーブの口腔内を蹂躙した。歯や歯茎、舌まで。強奪のように乱暴な行為に、彼女は思わずフェイトの肩に手を置くと、力を込めて握る。
 フェイトがそれ以上の追求をやめた時には、タイネーブはうっすらを汗をかいていた。呼吸を整えることが出来ない。にも関わらず彼は、はだけた彼女の衣服から覗く太腿に吸い付いた。
 そこにも、酒が零れていたのだろう。タイネーブは掌で口を覆い、身体を強張らせる。
 もどかしくなったのか、フェイトが布地を更にかき分けた。露わになった下半身には、まだ下着が残されていたが、それは最早、本来の用途を成してはいない。

308nameless:2010/05/17(月) 00:16:51 ID:blL+UP0G
 (ああ……)

 ずっと、だ。これを実行に移す前から、朧気に計画し始めた時から。それからずっと、この浴室に来るまでの道程でも、はっきりと分かっていた。
 濡れた草むらはうっすらと、布地越しに露わになっている。羞恥心から足を閉じてしまいたかったが、フェイトが間にしゃがみ込んでいた。
 タイネーブの耳に、はっきりと、自分の心音が入ってくる。驚いたことに、その高鳴りは、視覚的にも確認できた。心音に併せて、衣服の胸の部分が上下に踊っている。
 彼女は酒瓶を傾け、それをそっと、下腹部に垂らした。一旦臍にたまり、そしてすぐに下着を濡らしていく。香りに誘われるようにして、フェイトの頭が、足の付け根へど移動した。
 フェイトの舌先が、下着越しに敏感な部分に接触し、彼女は思わず、声を漏らした。手が震え、直角になりかけた酒瓶から、ばしゃっと酒が零れる。タイネーブは慌てて、酒瓶を傍らに立てた。
 その源泉が、布の向こうにあるとでも思ったのだろうか。フェイトは彼女の太腿に添えていた掌を這わせ、その指は、左右の下着の紐を摘み上げる。爪を立てると、プツリと微かな音と共に、見事に断ち切られた。
 タイネーブは忙しない鼓動越しに、フェイトの行動を見下ろしている。
 脱がすよりは、剥がすという行為だった。そっと取り払われた下着は、微かに糸を引く。
 ついに、露わになってしまった。彼は顔を近づけ、ぷっくりと膨れた唇のようなそれに、接触する。すぅっと香りを吸い込まれ、タイネーブは身体を震わせた。

 「んっ……ぁあっっ……!」

 舌が、挿入ってくる。先ほど口腔内を蹂躙した時は、あんなにも柔らかかったのに、今は樹木の根のように硬くなっていた。その舌が、ゆっくりと……狭い肉の穴を押し広げ、侵入する。

 「ぁっ……んやっ……」

 たまらず、タイネーブは両手両足を使い、フェイトの頭に抱きついた。彼は抵抗せず、愛撫を続ける。舌を引き抜き、入り口の周囲に優しく這わせ、そしてまた、剛直に侵入を繰り返す。
309nameless:2010/05/17(月) 00:17:36 ID:blL+UP0G

 「やっ、んん……あああっ……や……だ……め……!」

 急激に、快感が高まってきた。言葉とは裏腹に、フェイトの頭を更に強く抱きしめる。
 何かが、自分の中で暴れだそうとしていたことは知っていた。それは何故か、堪えなければならない事のような気がした。しかし、あっさりと堰は破られ、あとはただ、本能に身を任せる。
 我慢していた排泄物を、何時間かぶりにようやく排出出来た……たとえは問題かも知れないが、ちょうど、そんな気分だった。溜まっていたものを、自分ではなく、他人の手によって出せた瞬間。
 タイネーブが微かに聞き取ったのは、弾ける水音と、自らの嬌声だけだった。
 既に、彼女の酔いは醒めつつある。朦朧とした意識を何とか奮い立たせ、顔を起こしてみると、前髪の先を濡らしたフェイトが、相変わらず優しく愛撫を続けている姿だった。
 先ほど耐えきれず、自らの下半身から噴出された愛液が、この世で最も愛しい男の顔を汚している。未だ酔いの醒めない彼女は、その事実を目の当たりにしたとき、ただ萎縮するしかなかった。
 フェイトは相変わらず潤んだ目つきのまま、突然顔を濡らした液体をぬぐい取り、その手を舐めていた。

 「っはぁっ……はっ……はぁ……」

 タイネーブは床のタイルに背を預け、天井を見上げている。と、その時、髪が濡れるのを感じた。

 「……あ……」

 既に湯は溢れ、浴槽からこぼれ落ちている。手を伸ばして蛇口をひねり、それ以上の浸水を防ぐ。
 再び水たまりの中に倒れ込んだ彼女の視界に、フェイトの顔が入り込んできた。
 彼はそっと顔を近づけると、タイネーブの頬に舌を這わせ、にじみ出た涙を拭う。タイネーブは両手を伸ばし、彼の身体を精一杯抱きしめた。
310nameless:2010/05/17(月) 00:18:09 ID:blL+UP0G

 「んぁっ……!?」

 敏感な場所に、硬いものが押しつけられた。その硬物の正体は、見なくても察しが付く。無意識の内なのだろうが、彼もまた、欲情していた。
 「……んー?」
 フェイトは不思議そうに首を傾げた。タイネーブの両手が、彼の衣服を外し始めたのだ。彼はしばらくされるがままだったが、脱ぐべきだと、そう判断したのか、やがて自分からベルトを外す。
 ズボンと共に下着がおろされ、反り返った怒張が現れた。
 「……!」
 露わになったそれに、タイネーブは真っ赤になって顔を背ける。しかし、脱ぐという行為を終えたフェイトは、再び、タイネーブの上に覆い被さってきた。
 彼の目は、じっと、こちらを窺っている。酔魔の内側の、理性あるフェイトに見られているような気がして、罪悪感と背徳の歓喜が背筋を走り抜ける。
 そして、タイネーブはやっと、この目の前の男が、忠実に自分に従っているのだと気付いた。手を伸ばせば酒瓶があるのに、それをせず、ただタイネーブが与えてくれるのを待っている。
 ごっこ遊びはまだ彼の中では続いているようで。酒は、タイネーブに従った後でもらえるご褒美だ、と、そのようなルールが出来つつあるのかも知れない。
 彼女はそっと指先を踊らせ、自分の着物の胸をはだけた。そして、彼の目を恐る恐る見つめ返す。この忠犬は、主人の意を敏感にくみ取った。
 フェイトの……男の手が、タイネーブの胸元に滑り込む。少しだけ身を固くする彼女だったが、彼はそっと、優しく、衣服を左右に広げた。
 既に下半身は露出しているというのに、今更ながら羞恥心が蘇り、タイネーブは両腕で胸元を隠す。一旦手を止め掛けた忠犬は、またしても、鋭すぎるほどに主人の意を読み取った。
 両腕をどかせ、最後の一枚、下着を取り去る。タイネーブの両手が、天井を掴もうとするかのように、フェイトの頭の左右へのばされた。彼は彼女の背中に手を回し、上体を抱き上げる。
311nameless:2010/05/17(月) 00:18:40 ID:blL+UP0G
 タイネーブも同じく、両腕をフェイトの首に回し、そして強く抱きついた。彼の体温が、体中に伝わってくる。胸も、下腹部も、その下の陰唇も、全てを彼に押しつけ、肩に顎を預ける。

 「……っはぁぁ…………」

 それだけで、ゆっくりと昇天していってしまいそうなほどに、タイネーブは幸福だった。
 酒瓶を手に取り、一口飲み込む。そしてもう一口を含むと、フェイトの口の中に、それを流し込んだ。フェイトが全て飲み込んでも、二人の唇は離れない。
 タイネーブは吸い付くような口づけを続けたまま、そっと右手を伸ばし、先ほどから自分の尻を押し上げようとしていた怒張に触れる。彼自身も彼も、ビクンッと反応した。
 白絹のような肌の手は、包み込まず、怒張の表面にそっと指先を這わせる。つるつるした感触はやがて、粘り気を帯びたものへと変わった。
 フェイトが、動く。タイネーブを抱いたまま、彼女の背をそっと、脱いだ衣服の上に横たえる。密着していた二人の身体が離れ、続いて唇が離れ、タイネーブは名残惜しそうに、彼の頬を撫でた。
 もっと触れていたい。もっと感じていたい。

 「ぁっ……」

 怒張の先端に、下の唇が接触した。押し広げられ、埋め尽くされるような衝撃を予感し、タイネーブは手を伸ばす。それに応え、フェイトは頭を下げると、彼女と再び口づけを交わした。
 貪るようではなく、啄むような短いキス。それを何度も落とされながら、タイネーブは敷かれた衣服の布を握った。
 徐々に……徐々に、自分の身体が、彼の怒張を受け入れ、飲み込んでいく。
 快感は、ゆっくりとではあったが、深く、広く、重くなっていく。そして、どこまでも巨大に。

 「ぁぁっ……あっ……ああっ……」

 やがて、尻に袋のようなものが触れた。ついに彼女の身体は、根本まで、フェイトに貫かれていた。
312nameless:2010/05/17(月) 00:19:09 ID:blL+UP0G

 無理だと、そう思った。
 これほどの……巨大な快楽に対して、どうやって沈黙を守れと言うのか。

 「ああっ、はぁっ!」

 ずるりと、亀頭が膣壁を擦りつつ、抜け出る直前まで引かれる。そしてまた、貫く。

 「ぁぁあっ、はっ、はっ、やっっ、んあああっ!」

 浴室に、一個の雌と化した嬌声が響いた。いくら何でも、廊下にまで聞こえてしまうのではないか。そんな恐れは、その解決策もないままに彼方へと弾き飛ばされる。
 忠犬は、主人の声色を敏感に聞き分け、精一杯の奉仕をするべく、様々に動きを変える。真っ直ぐに出し入れしたり、巧みに緩急をつけたり、突き刺す向きを変え、突き刺してから様々に動き回ったり。
 両の掌を乳房に置けば、タイネーブの嬌声は一層の艶を出した。
 彼女は恐怖を抱く。快感が過ぎて、死んでしまわないだろうかと。バカバカしいとも思えるその恐れは、今の彼女にとって切実なものだった。
 フェイトはタイネーブの身体を、まるで楽器の調整のように、様々に弄り回す。そしてそれは、彼女にとって限りなく最高に近い快感をもたらす。ほとんど絶え間もなく。
 的確すぎるのだ。巧過ぎるのだ。
 下半身の激しさとは裏腹に、フェイトのキスは、優しかった。慈しみ、愛でるような口づけ。それが、タイネーブの心を和らげる。

 「んふぅっ……はっ、あんっ、やぁっぁっ、はんっ……!」

 胎内高まっていく、うねりのようなものを、タイネーブは漠然と感じていた。
 いやだ、まだ絶頂を迎えたくはない。もっともっと、滅茶苦茶に、ぐちゃぐちゃにかき乱して欲しい。この幸福を、快楽を、もっとずっと、続かせたい。

 「ああっ、あっ、あっっ、あぁぁぁぁぁあぁあ、ンぁっ!!」
 「んんんっ……!!」

313nameless:2010/05/17(月) 00:19:43 ID:blL+UP0G
 しかし、終焉の時はやってきた。
 最後に一層大きく、とどめを刺すように貫かれ、彼女は身体を反らせて絶頂を迎える。同時に、フェイトも射精し、胎内にはマグマのような熱をもったものが流れ込んだ。
 火傷しそうなほどだった。しかし、その熱が冷めていくと共に、タイネーブも靄の世界から戻ってくる。
 ぼんやりとした頭で、ひどい有様だと感じた。涙と唾液で顔はぐちゃぐちゃで、さぞかしだらしない表情だろう。そしてもっとひどいのは、小水まで漏らしてしまったことだ。
 フェイトの手が、優しく、タイネーブの頭と顔を撫で、彼の舌は彼女の顔を汚す液体を拭う。彼女が震えながら両手を伸ばすと、まだ力の入らない主人を、忠犬は身体を密着させて力強く抱きしめた。
 身も心も満たされたタイネーブは、ただ、彼の鼓動を聞いていた。





 「しかし、あれだな。流石に昨夜は、私もはっちゃけ過ぎた。正直、すまん」
 「っつーかアタシ達三人、何で白露の庭なんかで寝てたんですかねぇ? 起きるのおが遅れてたら、いい笑い者でしたよ」
 「もぅ、ラッセル様ぁ。ちゃんと反省してくださいよぉぅ?」
 「黙れ、給料下げるぞ」

 ネル、ファリン、そしてラッセルの三人が食堂に入ると、既にフェイトとタイネーブが朝食を取っていた。

 「あれ、フェイト。タイネーブ。随分早いじゃないかい」
 「お前達、大丈夫だったのか? 私は前半部分の記憶しかないんだが」

 三人とも、記憶がすっぽり抜け落ちていた。
314nameless:2010/05/17(月) 00:20:29 ID:blL+UP0G

 「いや、それがですね。僕もあまり覚えてないんですけど、ちゃんと入浴して着替えて自室で寝てました」
 「そりゃすごいな。耳が痛いぞ」

 両耳を塞ぐ仕草をしたラッセルは、ふと、沈黙したままのタイネーブに目をやった。

 「お前はどうだったんだ、タイネーブ」
 「え……その……私は、最後まで残ってて、その……」
 「まさか、一人で片づけしたのか?」
 「ご迷惑おかけしました、タイネーブさん」
 「いっ、いいえ!」

 彼女は必死に首を振ると、再び、俯いて朝食の皿を眺める。
 (……私……あれよね。送り狼しちゃったわけよね)
 酔った人間を介抱すると見せかけて、結局美味しく頂いてしまった。
 あの後フェイトを誘導し、風呂で身体を洗おうとしたのだが、再び欲情した自分は彼にバックで抱かせた。一度やったんだから、一度も二度も変わらないだろうという気持ちもあった。
 そして今朝、目を覚ましてみれば、罪悪感が重くのしかかる。フェイトに記憶はなくても、自分はしっかりと覚えていて、その場面を思い返すたびに、バケツでも被って走り出したくなる。

315nameless:2010/05/17(月) 00:21:00 ID:blL+UP0G
 「あ。塩ですね」
 「ええ……え?」
 「「「え?」」」

 応えた後、タイネーブだけでなく、ネル達も声を出した。フェイトが傍の塩瓶を取り、タイネーブの前に置く。

 「あの……フェイトさん?」
 「ん?」
 「何で分かったんですか? 私が塩を欲しがったの……」
 「え? いや、何となく」

 別に、手を伸ばしていたわけでもない。ただ、そろそろ塩を用意すべきかと、そう考えた段階でのことだ。

 「……あうんの呼吸か? まるで夫婦だな」

 ラッセルが、空気を読まずに発言する。

 だらだらと、タイネーブの体中から冷や汗が吹き出した。

 ネルの視線が冷たい。

 (今度は……もっと、お酒をたくさん用意しておこう)

 冷や汗をかきながらも、そんな事を考えると、タイネーブは己の下腹部が、熱を持つのを感じていた。
316nameless:2010/05/17(月) 00:22:56 ID:blL+UP0G
【完】

終わりです、ありがとうございました

スタオが龍が如くくらいのペースで出たら、と、そんな風に思っていた時期が俺にもありました
317名無しさん@ピンキー:2010/05/19(水) 12:49:14 ID:euVbA2QF
おっ!SS来てるじゃん
GJです
318名無しさん@ピンキー:2010/05/19(水) 17:38:02 ID:noPZbaM7
SO3久しぶりだな
319名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 12:13:12 ID:kWPLvN6k
乙乙!
ご馳走様でしたw
320名無しさん@ピンキー:2010/05/23(日) 14:29:27 ID:ZZsLJouS
nameless氏久々に見た
321名無しさん@ピンキー:2010/06/03(木) 10:55:58 ID:qQim308c
VP新作期待
322名無しさん@ピンキー:2010/06/12(土) 20:28:02 ID:wrlje6Df
1週間以上書き込みないとかw
323名無しさん@ピンキー:2010/06/12(土) 23:28:46 ID:I9K2kDxh
しかし話すこともないしなあ
324名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 14:28:33 ID:8ZLPgtHX
アリューゼ×レナス
アリューゼ×アーリィ
アリューゼ×レオーネ
アリューゼ×メルティーナ

妄想は尽きないな
325名無しさん@ピンキー:2010/06/15(火) 21:38:29 ID:v/3gRnL8
じゃあ好きな組み合わせ見たい組み合わせでもみんなで書くか

SO3クレアたんもの
SO4猫娘もの
ちんべるたんもの
326名無しさん@ピンキー:2010/06/15(火) 23:37:02 ID:dkhXA36Y
クレア、マリア、レナがでれば何でも良いな
ただの好きなキャラベスト3だけど

AAAにはSO2か3の続き出して欲しいな
ブルースフィアみたいにキャラを引き継いだやつ
だが今のAAAだと、キャラのイメージぶち壊しクソゲー作ってくれそうで心配ではあるが

だがクレアを使えるようにしてくれれば3本は買う
327名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 12:36:50 ID:7eUlMjJ8
ちんべるは向こうのスレ合わせてもまだ一作も来てないんだよな
328名無しさん@ピンキー:2010/06/17(木) 06:34:01 ID:z0RtlgOD
フェイトマリアのカプED後の話で出してほしいな
329名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 11:23:45 ID:ffG0GRkS
クレアたんは乱交くらいしか思い浮かばない
330名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 10:01:38 ID:NbIRrqkp
レナとか久しぶりに聞いたな
あの設定画のふとももにはぁはぁ言ってたのが懐かしい
331名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 10:52:13 ID:fKP3q3EN
セリーヌさん
332名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 18:48:36 ID:uMCp7oTW
>>325
クリフ×ソフィア
何人の同意を得られるか・・・
333名無しさん@ピンキー:2010/07/01(木) 14:56:14 ID:4QrsfHb0
ゲーキャラ板ではソフィアマリアネルら辺のスレは未だ健在でちゃんと動いてるんだよな
SS書き手さんきてくんねーかなあ
334名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 03:03:21 ID:e0CDsZF6
完結してないSSの続きマダ-?
職人さんたちマジ頼む
335名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 15:03:30 ID:8XJhRtl4
同意
後個人的に
nameless氏
ファビョニス
また頼む
336名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 23:32:36 ID:UbQOL+OW
ファビョニスまたセレス書いてよ
337名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 19:13:08 ID:zLAsVf6J
読みたい気持ちはわかるが職人指名はやめといた方が無難

クレア
マリア
レイミ
ちんべる
アーリィ
フレイ
クレセント
338名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 01:02:33 ID:IrqGaVvf
確かに
だがあえてリクするならSO3だな
339名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 01:51:55 ID:H4JpsTz2
読みたいキャラ羅列参加
レナ
クレア
ソフィア
フェイリム
レナス
尻三姉妹
セレス
クレセント
ちんべる
340名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 22:50:28 ID:eCkdmpSy
>>333
アーリィ様スレも健全じゃないか健全
健…全…
341名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 00:14:54 ID:rqWvpk2l
SO3が単独であれだけ伸びてたのが懐かしいな
342名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 00:44:32 ID:3ff1kMIe
4を糞箱なんかで出すからこんなことになった
最初からPS3で出しときゃよかったのに
343名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 23:30:12 ID:4cNdwjBL
PS3関係ないから
たとえ戦闘が神ゲーだったとしても
あのキャラとシナリオじゃとても・・・

So1や2のキャラでも、抜こうと思えば未だにぬけるけど
4の・・・名前忘れたけど、西園寺なんとかやネコやロリや天然ボケじゃ、ピクリとも反応しない
344名無しさん@ピンキー:2010/07/23(金) 10:25:15 ID:nrQaUSiU
そういえばガブリエとイセリアとアシュレイ倒して放置してた。
……なんかなー、高難度とか敵ラッシュゲージ上昇量高くてやる気起きないし

カスタムサントラ機能使っても飽きるの早かったな、4……
345名無しさん@ピンキー:2010/07/23(金) 20:12:50 ID:sNAWD4o4
1は6回クリアした
2は30回クリアした
3は10回クリアした
4は1回で飽きた

4は冷静に見れば平均以上のゲームなんだろうけど
期待した内容とギャップがありすぎて恐ろしいクソゲーに感じたなぁ
346名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 00:00:03 ID:lPx1Efib
いい加減保守せんと

そういえばラジアータの続編が出るとか小耳に挟んだけど
トライは関係あるの?
347名無しさん@ピンキー:2010/08/09(月) 12:18:47 ID:RNygFr0d
ラジアータの続編になるのか、あれ
どうなるんだろうな

ところで同人板のAAAスレ落ちた?
348名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 12:11:45 ID:4KlqJXa8
>>347
巡回してないから詳しくは分からないけど、ちょっと前に板移転でもしたんじゃない?
それでもなかったのなら正直すまんかった
349名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 13:20:26 ID:UCWh+mqo
>>347
落ちて次スレもない
350347:2010/08/11(水) 03:59:35 ID:kvEcuLba
>>348>>349
そうか、ありがとう
やはり落ちたか
351名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 22:59:13 ID:3j6OoZwR
こっちは落とさないようにしないとな…
保守保守っと
352名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 02:09:38 ID:LaK8dbwO
ネタ、あるにはあるけど脇役マイナーCPだからなぁ
みんなが投下してもっと総量が増えてくれないと・・・
353名無しさん@ピンキー:2010/08/17(火) 23:13:29 ID:2z7oeCWS
メジャーもマイナーもあるか!さあ今すぐ妄想を文章にしてうpる作業に戻るんだ!
354名無しさん@ピンキー:2010/08/18(水) 12:08:26 ID:uHdBlXpw
ラジアータの新作だのVPの新作だのって話はどうなった
355名無しさん@ピンキー:2010/08/19(木) 20:45:31 ID:+s1xn7Be
ラジアータはアトラスにとられました
356名無しさん@ピンキー:2010/08/24(火) 17:16:13 ID:sVKtYNdm
VPは…今開発中との話の3タイトルに期待
357名無しさん@ピンキー:2010/08/24(火) 17:45:57 ID:2FQtkgK4
ゲーム新作も待ち遠しいが
どなたかこのスレに新作SSを持ってきてくださる職人はおられませぬか
358名無しさん@ピンキー:2010/08/29(日) 08:57:30 ID:Bt37lJU+
SSネタはあるがオチが決まらない
ありがちな展開すぎて自分の引き出しのなさに絶望

それはそうとEoEのコミック化が発表されたな
漫画でもリーンベルのパンチラやひんぬーネタやるのかね
359名無しさん@ピンキー:2010/08/29(日) 09:15:13 ID:p8jHfqRX
いや、グレネードねたは動画だからいいのであって、漫画でやられてもちと微妙な希ガス
360名無しさん@ピンキー:2010/08/29(日) 21:48:12 ID:uijWyjzo
ユーザー人気はないだろうけど、「咎を負う者」とか、時々妄想する。
エーリスは(ある意味で)ヤンデレに間違いない、とか。
シェリファは明らかにウィルフレドに気があるだろうとか。

ビジュアルで一番気に入ってるのはリーゼロッテだけど、今一ネタが浮かばないな…。
361名無しさん@ピンキー:2010/08/31(火) 22:15:51 ID:LpqZDRis
職人待ち
362名無しさん@ピンキー:2010/09/03(金) 18:53:59 ID:K/EmCfUa
痴女るマリアさん
363名無しさん@ピンキー:2010/09/07(火) 15:25:32 ID:RridlNDf
AAA新作マダー
364名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 13:11:42 ID:7s6fWErh
age
365名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 18:33:03 ID:Rv3xzsBo
咎ならシェリファとリーゼロッテを地上で飼い馴らしたい
レナスだと何となくエイミ×ジェイルとか妄想してしまう
夢瑠にいじられたり那々美に祓われるのもイイ

>358
そういう時は同じ話を習作として何本も書いてみれば良いかと
完結させるのが大事らしいので
公開しない以上、お蔵入りもお焚き上げも自由
キャラをあまり崩したくなければ他ジャンルの似たキャラで練習するとか
366名無しさん@ピンキー:2010/09/10(金) 20:20:51 ID:cTzgIacp
新作書いてる職人さんいる?
いたらありがたい
367名無しさん@ピンキー:2010/09/10(金) 23:51:44 ID:SyhSC1XO
職人光臨期待
368名無しさん@ピンキー:2010/09/11(土) 03:15:41 ID:zuzGWrr7
>>366
SO3ならここにいるぞ!

……一応聞きたいんだが、求められてるのは何だろう
369名無しさん@ピンキー:2010/09/11(土) 05:42:26 ID:lNT6LgKw
何ときかれたら自分はマリアが好きです
370名無しさん@ピンキー:2010/09/11(土) 22:59:09 ID:sHRkZxhW
ソフィアがいいな
371名無しさん@ピンキー:2010/09/11(土) 23:59:57 ID:B9i7+aOf
>>369
>>370

Oh...
372名無しさん@ピンキー:2010/09/12(日) 02:28:13 ID:HrmAa2zq
タイネーブがぐちゅぐちゅにやられちゃうのがいい
373名無しさん@ピンキー:2010/09/13(月) 11:52:27 ID:VShSn5jW
クレアとか好きだな
374名無しさん@ピンキー:2010/09/17(金) 23:50:33 ID:uehiGP5k
職人さん、まだか・・・
最近涼しくなって全裸待機もきつい
375名無しさん@ピンキー:2010/09/18(土) 23:17:10 ID:+yiVWxWz
368待ち
あとVPとちんべる待ち
376名無しさん@ピンキー:2010/09/25(土) 13:35:16 ID:YprHpSiq
ソリッドプロテクターを装備したレイミ
377名無しさん@ピンキー:2010/09/28(火) 00:53:36 ID:aVZ/CX4Z
SO5まだー?
378名無しさん@ピンキー:2010/09/30(木) 03:07:52 ID:E5d3MSqj
VP咎のナタリアさん陵辱もの読みたい
捨てた双子に復讐がてら玩ばれるのとか
そもそも双子の父が旦那じゃないとか
379名無しさん@ピンキー:2010/09/30(木) 20:30:30 ID:D/Jvrq5a
双子はえぐいのしか思い浮かばない 成長期前の細い腕でフィストとか
380名無しさん@ピンキー:2010/10/03(日) 04:30:51 ID:/cyN/NxH
姉は色気づいてる感じだから、残忍さもさぞ高まってることだろう
下手したらあの歳で経験済みかも知れん
弟は姉メインて感じだし、大剣振り回して腕太そうだから言葉責め担当か
姉よりガキな分容赦ないだろうな
381名無しさん@ピンキー:2010/10/04(月) 09:12:17 ID:RKJ129hy
アリューゼ×レオーネ(アーリィ)
382名無しさん@ピンキー:2010/10/12(火) 13:58:05 ID:gDmxxQVr
トライエース最近聞かなくね? 終わってるからか?
383名無しさん@ピンキー:2010/10/18(月) 09:38:00 ID:WwtbD25x
ええい欲求不満のミュリアさんが逆ナンして乱交とかはないのかね
384名無しさん@ピンキー:2010/10/28(木) 23:39:29 ID:eqheT/Mu
保守あげ
385名無しさん@ピンキー:2010/11/02(火) 23:47:45 ID:4yFDNeGC
職人いないのー
386名無しさん@ピンキー:2010/11/12(金) 23:39:34 ID:6JpdBr/e
へんじがない
ただの廃墟のようだ
387名無しさん@ピンキー:2010/11/13(土) 01:32:42 ID:DyyEeUt5
トライエースのお祭りゲーでないかなぁ  テイルズみたいに
388名無しさん@ピンキー:2010/11/13(土) 21:13:08 ID:Kkuvvztq
マリアさんのふとももー!
389名無しさん@ピンキー:2010/11/14(日) 19:05:18 ID:6qPqQeDz
エンドオブエタニティはここでいいのかね
390名無しさん@ピンキー:2010/11/16(火) 00:50:49 ID:XPWH3ipr
発売はセガだが開発がAAAだからいいんじゃなかろうか
391名無しさん@ピンキー:2010/11/19(金) 21:09:28 ID:6KFyGvtA
この状況を打破するような強烈なのは
流石に書けないな
392名無しさん@ピンキー:2010/11/24(水) 23:37:46 ID:U5V+PAot
強烈なのってどんなだ
393名無しさん@ピンキー:2010/11/28(日) 21:24:53 ID:C5x5/ygu
そんな強烈のじゃなくても
一作投下あればそれで…な状態だろどう見ても
394名無しさん@ピンキー:2010/12/08(水) 09:21:24 ID:1GEBIzZd
サディケルたっぱ縮め
395名無しさん@ピンキー:2010/12/20(月) 14:19:55 ID:4J1zqnBc
保管庫見たけど、SO1と2のが意外とないね。
396名無しさん@ピンキー:2010/12/29(水) 10:43:23 ID:hez88Sa5
今年も終わりか
投下ラストSSが5月とか寂しいな
来年はもう少し投下ありますように
397名無しさん@ピンキー:2010/12/29(水) 12:44:58 ID:w0bycKkN
ほしゅあげ
398名無しさん@ピンキー:2011/01/02(日) 00:39:51 ID:w1tiq7uc
あけおめ
今年こそ本気だしてなにか書こうかな 
全部SO3のソフィア絡みになるけどCPリクとかある?
399名無しさん@ピンキー:2011/01/03(月) 02:06:12 ID:6CkswVwO
クレアとルミナの声が股間にビンビンくるんだがなんで中の人無名?なんだ?
400名無しさん@ピンキー:2011/01/03(月) 03:05:52 ID:Ik+JA6SO
>>399
主にエロゲに声当ててるからじゃないかな。
401名無しさん@ピンキー:2011/01/04(火) 23:19:24 ID:NXNjWJz9
>>398
リクはないけど投下期待してる
ほかにも執筆中の職人さんいたらうれしい
402名無しさん@ピンキー:2011/01/07(金) 21:24:20 ID:Pub/wcnl
>>398
オーソドックスな所でフェイト×ソフィアが見たいです
403名無しさん@ピンキー:2011/01/15(土) 23:38:07 ID:FZAEr5ze
保守
404名無しさん@ピンキー:2011/01/21(金) 07:16:02 ID:xHv4vJIQ
トライ保ー守
405名無しさん@ピンキー:2011/01/27(木) 10:10:18 ID:GTRFT68e
次の素晴らしき話に期待保守
406名無しさん@ピンキー:2011/01/29(土) 23:47:15 ID:oXw9QC8x
痴女なマリアさん
407名無しさん@ピンキー:2011/02/02(水) 18:28:39 ID:8E29/mSx
>>398
フェイソフィを

アーリィ戦に敗北してアーリィのエインフェリアにされてしまうアリーシャ
そして夜な夜なアーリィに開発されていくアリーシャ
「アリーシャを殺させないで」発言は、プロローグやチャプター2へのアリーシャへの態度から考えられないほど軟化したから、アーリィがアリーシャ萌えに目覚めたとしか思えなかった
408名無しさん@ピンキー:2011/02/10(木) 15:25:23 ID:+VP+ETIb
アリーシャはNLGL問わず総受け
409名無しさん@ピンキー:2011/02/10(木) 20:13:04 ID:xAMii0km
SO3に限らずなんでも
410名無しさん@ピンキー:2011/02/11(金) 17:03:26 ID:caDOFvdn
クレアさんにムラムラする
411名無しさん@ピンキー:2011/02/13(日) 01:40:10 ID:hb89WM2s
NTRとかあり?
412名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 02:16:05 ID:vZMUomxK
注意書きさえあればおk
413名無しさん@ピンキー
今日知ったが某AAA二次総合サーチ規模縮小したんだな
ああ心も体も寒すぎる