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ニセドラ!3:
駅前には、家路を急ぐ人々でごった返していた。竜児(犬)は、泰子の勤め先であるお好み焼き屋、
弁財天国に行こうとしたが、逆に面倒な事になりそうだったので、スルーして気付けば駅前に着いたのだ。
すれ違う人の中には、犬好きの人もいて、竜児(犬)に気をとめ、ワンちゃ〜んっと近づいて来て触ろうと
するのだが、狂犬そのものの鋭い眼差しを見るなり、逃げてしまったりしていた。
途方に暮れている竜児(犬)に、またもや一人、声を掛けて来た物好きが来た。
「道のど真ん中にいやがって、ジャマな野良犬!」
川嶋亜美。ファッション雑誌の高校生モデル、抜群の美貌を誇る彼女は、残念ながら口が悪い。
「保健所に通報して犬らしく犬死に…あれ?この犬の目…見覚えが、何だっけ?」
竜児(犬)に気づいた。もう少しだ。竜児(犬)は、猛烈アピール。
「うわわわわっ!吼えた、威嚇した、恐ェ!」
ダッシュで逃げる亜美。バウバウ!釈明する竜児(犬)。どう見ても犬に襲われているようにしか見えない。
あっ亜美ちゃんだ。誰かが亜美に気付く。亜美ちゃんが、猛犬に襲われている!ピンチだ!助けろ!
竜児(犬)は、即席の勇者達に、カバンやら傘で、ボコボコにされた。
***
ゲホッゲホッ…
なんとか逃亡に成功した竜児(犬)。くそっ、動物愛護協会に訴えてやるっと、誓うのだが、行き場がない。
とりあえず、家に帰ろうと、いつもの通学路を、駆け抜ける。さすが犬の脚。速い速い。
もうすぐ到着!という交差点で、竜児のカバンと服を持った実乃梨に出くわした。
「も〜、高須くん、どこ行っちゃったんだろ…家にはいないみたいだし…」
急用で、どこかに行く事はあるだろう。しかし着ていた服がここにあるって事は、、、全裸だ。
「北村くんに関係…あるわけないかっ!もしかしたら宇宙人に誘拐された?それともっ」
と、実乃梨の妄想が加速した時に、竜児(犬)に気付く。ワンッ!と吠えてみる。
「アヒャヒャヒャ!!このワンコ、高須くんそっくりっ!ちょー受けるっ!やるな?キミ!」
竜児(犬)に駆け寄り、実乃梨はおもいっきりヨーシヨーシする。いつの間にか、ムツゴロウの物まねしていた。
犬になってから、初めて優しくされ、尻尾をフリフリしていたが、実乃梨のスキンシップが強烈すぎて、
ハアッハアッ、…意識して興奮してしてしまった。恥かしい。
「ワンコっ!気に入ったぜ。首輪付けていないから野良だね?よしっ!家においで。飼ってあげる
ふっふーん…本当に高須くんそっくり…ワンコッ!お前は今からニセ竜児。ニセドラだっ!」
ワンッ!ともう一回吠えてみた。
続く