保守
保守
152 :
名無しさん@ピンキー:2010/05/13(木) 22:44:57 ID:8A5NZyko
保守上げ
153 :
63:2010/05/15(土) 22:51:20 ID:ZmBDsU64
こんばんは。遅くなって済まない皆さん。
ロンリィ第6話投下します。
>>146 確かに生存報告にしてはいらない事書き過ぎたな・・・申し訳無い、以後気をつける。
相変わらず俺達は二人並んで本を片付けている。気まずい。本っ気で気まずい。いやもうほんとダレカタスケテ。
「弥里」
「ひゃい!?」
いきなり声を掛けられて派手に噛んだ。何かと思い振り向くと、夏目がこちらを見て怪訝そうな表情を浮かべていた。
「な、なに」
「いや、その本はこっちだ」
言われて、俺は手元を見る。国語の本の棚に歴史の参考書を捻じ込もうとしている馬鹿女が一人。要するに俺。
「あ、ご、ごめん」
「・・・気にすんなって言ってんだけどなぁ」
夏目が苦笑しながら言う。つっても、あんなヘヴィな話をされて気にするなと言う方が無茶だろ。俺はそこまで神経図太いつもりは無い。
「あんな話されたら、誰だって気にするだろ・・・」
「俺はさほど気にしないと思うが」
確かにこいつなら気にしなさそう・・・つーか、気にしてても顔に出ないからわかんねえんだろうな。
「けどよ・・・」
「だー、お前といい赤倉といい何そんな腫れ物触るみたいな扱いするんだよ」
「なんでって・・・」
一瞬だけ、俺の家庭の事をこいつに教えてしまおうかとも思う。が、それよりも早く。
「ともかく、この話は終いだ。これ以上突っ込まれても答えんからな、俺は」
夏目が面倒くさそうに言って、締めくくった。
「あっ、遅かったね二人ともげきゅっ!?」
「よーし、行こうぜ夏目」
人を見捨てておいて能天気にほざく洗濯板の顔面に渾身のアイアンクローを喰らわしてから俺はさらっと言った。
「・・・なあ弥里。今、赤倉の頭蓋骨から凄い不吉な音がしたような気がするんだが・・・」
「空耳だろ」
「ううう・・・お嫁に行けなくなったらどうしてくれんのよぅ・・・」
俺が先頭に立ち、心配そうに由香里を見遣る夏目が続き、恨めしげに俺を睨む由香里が後を追う形になった。あー、早く着かないかなー。
何分か歩いて、駅前の小さな料理店が見えてくる。赤倉屋、と何の捻りもないネーミングの店名が記された看板の前を通り、俺達三人は店の中へと入って行った。
「ただーいまー」
「お邪魔しまーす」
由香里と俺がそれぞれに言いながら、店の奥へと入っていく。
「あ、由香里お帰りー。弥里ちゃんもいらっしゃい」
店に入ると、穏やかな雰囲気の女性が俺達を出迎えてくれた。由香里の母の由里恵(ゆりえ)小母さんだ。小母さんは俺と由香里を見てにこやかに微笑むと、次に夏目を見た。
「・・・こちらは?」
「クラスメイトの夏目です」
俺が代わりに紹介すると、夏目は小母さんに向かってぺこりと頭を下げた。
「夏目恭介です。はじめまして」
簡潔にそれだけ言った夏目。すると小母さんは何やらびっくりしたような表情を浮かべると。
「あらあらあら。まあまあまあ。うちの娘が遂に彼氏連れてきたわ」
「ちょっとお母さんっ!?初対面の人に洒落にならないジョーク飛ばさないでよっ!!」
「あら、違ったの?」
「友達もう一人連れてくって電話したじゃんっ、もうっ!」
本気で驚いている小母さんと、性質の悪い冗談に憤慨する由香里。俺達はそうやってふざけながら、ひとまず席に着いた。
「ったくもう、お母さんは・・・」
「まあ落ち着けよ。小母さんも心配なんだろ、お前があんまりにも浮いた話が無いもんだから。うちのクラスじゃ『由香里はレズかも』なんて言ってる馬鹿もいるし」
「それ私じゃなくて弥里君の一人称のせいじゃん!夏目君も少しは否定してよ!」
「赤倉、そこまで言われると流石に俺でも傷つくぞ・・・」
心底憤慨する由香里と、男として少しショックを受けている夏目を宥めて、俺はテーブルに付いた。そのまま、料理が出てくるまでの間に雑談が再び始まった。
話している内にまたも話題が文学談義にシフトしたのだが、俺の悲痛な視線による物言わぬ抗議によって今回のお題は素人にも優しい『ライトノベル』に。まあ結局俺にはチンプンカンプンだけど。
「・・・然るに最近のライトノベルは『萌え』が主体になり過ぎてる傾向があるな。あの、くさかんむりの字の方」
「あー、確かに・・・女としてはあーゆーの見てるとさ、『こんな女が現実に居て堪るかぁああっ!』って気分になるのよねー」
由香里、そのラノベに出て来る女もお前には言われたくないと思う。お前、自分が一部の男子生徒から凄い人気者だって知らないだろ。合法ロリとか言われてるのも。
「中学の時は色々と無節操に買ってたんだけど、大体ラブコメに走り始めた辺りから真面目に読まなくなるんだよなぁ。続き気になるから立ち読みはしたけど、それで済ましてたし」
「・・・実は羨ましかっただけなんじゃねーの?ラブコメに走るまでのくだりが」
「弥里君それ禁句。浮いた話が一つもないのは弥里君もでしょーが」
言葉の矢がぐさっと刺さる。ちくしょうこのまな板め。
「はいはい、いい若者が小難しい話してんじゃないの。これでも食べて少しは明るい話題で盛り上がりなさい」
トレーを持ってやってきた小母さんが、俺達のテーブルに湯気を立てる皿を置く。わお、今日の新作料理はラム肉の赤ワイン煮込みだ。おいしそー。
「さ、召し上がれ」
「いっただっきまーす!」
言うが早いか、俺達は目の前の料理にフォークを伸ばした。ああ、美味しい・・・
「・・・しかし」
ん、何やら夏目が俺を見ている。口元に付いてるとかそういうベタな展開だろうか。
「こないだの昼飯の時にも思ったんだが、弥里ってなんかこう・・・心底美味そうに飯食うよなぁ」
「あ、わかるわかるー!それで居て弥里君ってば全然太らないんだもん、ずるいよねー!」
「んぐ、なんでそうなるんだよ・・・ごくん」
反論してから、口の中にあった肉を飲み込む。いかんな、今のはマナー違反だった。姉さんが居たら怒られてしまう。
「そっちのクラスの女子とか、弥里君みたいなスタイルになりたくて食生活真似たりしてるのに逆に太ったとか言ってるんだよ?」
「初耳もいいところだぞ、それ」
「私なんて運動しても全然スタイルよくならないってのにー・・・」
「馬鹿言え、ただでさえ寸胴なのにお前がそれ以上痩せたらゴボウになるってーの」
「あー!またさりげなく胸の事言われたー!」
「ほんと、この子ってばどうして胸周りだけお父さんに似ちゃったのかしらねー」
「お母さんまで言う!?お母さんの育て方も原因の一環でしょ!?」
俺達が不毛な言い争いをしていると、小母さんまでもが乗ってきた。それにしてもこの親子ノリだけはそっくりである。因みに小母さんの方は胸はそれなりにある。
もう一つついでに言えば、毎日厨房でフライパンを振るっている小父さんの胸周りはと言うと、アスリートもかくやと言わんばかりのゴリマッチョである。料理って本当に重労働らしい。
「ところで・・・夏目君、だったかしら」
「はい?」
話題が胸の事にシフトした事で、この場で唯一の男性な為に参加しづらかったのだろう。先ほどから無言で肉を食っていた夏目は、小母さんに声を掛けられて少々驚いたように顔を上げた。
「夏目君はどっちが好み?」
「は?」
・・・おい、ちょっと待て。このパターンはまさか。
「だーかーらー・・・由香里みたいに小さいのと弥里ちゃんみたいに大きいのと、どっちが良い?」
「・・・え゛?」
(何訊いてんだああああああっっっ!?)
っていうか俺を引き合いに出すな!それ以前に俺と由香里へのセクハラだろーがああああっ!
「お、小母さん!?ちょ、何訊いて・・・」
「・・・あの、質問の意図が見えないのですが・・・」
「んー、単純にゴシップ好きによるものよ♪もしかしたら娘の彼氏に発展するかもしれない男の子の意見も聞いておきたくて」
「だからそのネタいつまで引き摺ってんのよお母さんっ!」
大騒ぎする俺と由香里、フリーズする夏目には構わずに、小母さんは超絶楽しそうにのたまる。由香里も年食うとこんな風になるんだろうか。嫌だ、もしそうなったら二秒で殴り倒す自信がある。
「さあさあさあ、どっち?答えないと今日のご飯有料にしちゃうわよ?」
「あーもうっ!お母さんいい加減に・・・」
「やかましいわねぇ、大草原の小さな胸は黙ってなさい」
「なんだとぉーーーーっ!!貧乳はステータスだもん!希少価値だもん!!」
「あぁら、所詮は行動停止型のプライドね。『俺は俺だ、何を言われようと生き方を変えたりしねー』とか言ってるタイプの駄目人間ね」
「うぎーーーーっっっ!夏目君、まな板もいける人だよね!?っていうかまな板の方が興奮する人だよね!?」
ってお前まで暴走すんなっ!俺一人で小母さんとお前に突っ込みいれるのは難しいから!
「ちょ、ちょっと!由香里も落ち着けってば!」
「大丈夫!夏目君なら分かってくれるって信じてる!狭隘な価値観しか持たない男共と夏目君は違うって私には分かる!!」
「駄目だこいつ色々と手遅れだーーーっ!?」
漫画風に言えば、本来眼球があるべき位置にぐるぐると渦巻きが描かれているとでも言うんだろうか。怒りに駆られた由香里の目は、既に正常な人間のそれから大分遠ざかっていた。
「さあ!」
「どっち!?」
「え・・・えー・・・っと」
状況に頭が追い付いていないらしい夏目は、迫ってくる赤倉親子に明らかに気圧されている。こいつがここまで焦った表情を浮かべるのは初めて見た。
「・・・個人的にはその・・・さほど着眼はしていないと言いますか・・・女性の価値を胸で判断してはいませんので・・・」
「第三の選択肢を選んだ場合、無回答と見なします。いいから素直に答えなさい」
「・・・・・・・・・・大きい方っす」
小母さんの悪魔の囁きに、夏目の抵抗力が白旗を上げた。関係ないけど、鬼の形相を浮かべた由香里に詰め寄られてるこの状況で自分の好みを素直に言えるこの男は強い人間だなぁと思った。
「あらあら、今回は弥里ちゃんの大勝利ねー」
「だ、だから小母さんその言い方はっ!」
「うわーーん!!夏目君の裏切り者ーーーっ!」
「え、悪いの俺か!?」
カオスな食卓を囲んでいると、おろおろしている夏目と目が合う。すると、なんとなく気恥ずかしくなって互いに目を逸らしてしまった。
そっか、夏目って胸大きいほうが好みなのか・・・って、何考えてんだ俺は。
今回は以上です。では、失礼します。
161 :
名無しさん@ピンキー:2010/05/16(日) 08:12:05 ID:41paNsZA
GJGJ!!
通りすぎたけど面白かった、次まで待つわ
ちまたではワシっ子が流行っていないのじゃろうか?
広島弁ならアリ
>>160 GJ!
相変わらずのどたばただなww
前回は弥里が置いてけぼりだったけど今回は夏目の番か。
なんだか三人、うまくローテーションしているような気もする。
続きが来るまでこのスレを落とさないようにしておく。ガンバ。
ワシっ子はええもんじゃい。
保守
167 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 17:16:31 ID:IETB1Vjy
保守
168 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 10:13:45 ID:dRJkh7sJ
新潟のおばあちゃんが俺と言っていた
か
装甲悪鬼村正の光は一人称が「おれ」だな。
平仮名で「おれ」って、なんか可愛いよな。
刺々しさがなくなるな。平仮名の「おれ」
かふぇ☆おれ
173 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 01:01:57 ID:WWMCeoYi
保守
174 :
63:2010/08/04(水) 00:35:20 ID:VZq5A82x
生存報告。なんとか生きてます。八月下旬までには投下再開するかと思われますのでどうかご容赦下さい。
生きている間はここも生きてるよ保守
彼女がオレっ娘なんだが
それは自慢か? 自慢なのか!?
大事にしろよ
178 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 05:20:02 ID:/cluUGYW
ボクっ子とかオレっ子って意外にいるよな
179 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 07:55:11 ID:LsyYChWa
少しつけ加えて
「オレっち」とかはどうだ
>>138を見たら何かできてた
カン、カツーン、コン、コツーン
「ところでさー、君ボクのことキライでしょー」
カン、カツーン、コン、コツーン
「でもさー、ボクは君のことさー」
カン、カツーン
「けっこー好きだよ」
コン……カコッ
「あっ!動揺した!どーよ!?」
「意味わかんねぇ。そもそもなんで卓球なんだよしかもラリー勝負……」
「あれぇ知らなかったの?ボク卓球部のぶちょーだもん。王子サーブだって打てちゃうよー16種類くらい。すごいだろー敬えー」
「知らん」
「む。つまりねーボクが本気を出して試合すれば、君なんか軽〜く瞬殺できちゃうレベルってことだよー。しゃもじで」
「しゃもじで!?……ってことはお前は俺に絶対に勝てる勝負を仕掛けて、尚且つ手を抜いてたってわけか」
「あったり前田のクラウザー様だろー。『勝負は何でもいい』って言ったのは君なんだからね。ほらほら武士に二言は無し死人に口無しだろー?」
「武士じゃねえし死んでねえよ!!」
「と、いうわけでありまして耐久ラリー勝負はボクの勝ち〜」
ヤツはわぁいと嬉しそうに勝利宣言をすると、いそいそとラケットをケースに仕舞いこんだ。
そしてくるりと俺の方を振り向くと、小憎たらしいことこの上ない表情でふっへっへと変な笑い声を出す。
本人は精一杯不敵に笑っているつもりなのだ。
それから、脱いでいた学ランを床から拾い上げこれ見よがしにゆっくりと肩に引っ掛けると
「じゃーね風紀委員長。何度言われようとボクはごめんだね、セーラー服なんてさ」
涼やかな声で捨て台詞と共に軽やかな足取りで卓球場から去っていった。
無念。
今日も俺は「彼女」に一杯食わされたらしい。
GJ!この娘絶対風紀委員長ラヴだ
しかも自覚無っぽい
182 :
63:2010/08/19(木) 22:24:56 ID:61qrn5Rt
おお、しばらく来ないうちに良作が。GJです。シリーズ化されることを期待してます。
では自分も、ロンリィ第7話、投下行きます。
微妙に気まずい空気になってしまった俺とどこか疲れ気味の夏目、そしてさっきからこの世の全てを呪い殺さんばかりの暗いオーラを発している由香里は、その後もぐちぐちと話しながら食事を取った。
やがて、皿の上のラム肉もそろそろ腹の中に消えるかな、という時に、俺はふと思い出した。
「そういえば、姉さん遅いな・・・」
そう。姉さんがまだ来ない。いつもならこの時間は家に居る頃だし、学校からの帰り際に携帯電話に連絡も入れたから伝わってない筈は無いんだけど。
「美月さん?そういえば来ないね」
「美月さんって誰だ?」
この場で一人、俺の姉の名前を知らない夏目が訊ねる。
「あ、夏目君は知らないっけ。弥里君のお姉さんだよ。白木美月さん」
「へぇ・・・・・・・・・・・・白木、美月?」
頷き、間を置いてから夏目が訊ねて来る。姉さんの名前に何か心当たりでもあったんだろうか。
「どうした?もしかして知り合いだったとか」
「いや、ちょっと知り合いに名前が似てただけだ」
そう言った夏目の表情は、いつも通りの硬い表情だった。考えてもみれば、俺とそこまで親しくなかったのに、年齢の違う姉さんとは知り合い、というのもおかしな話だった。
暫く経って、俺達以外に客の居なくなった赤倉屋だったが、不意にからんころん、とドアベルが鳴った。
「お邪魔しまーす!ごめんね弥里、由香里ちゃんも・・・」
そこに居たのは、スーツに身を包み、ハンドバッグを抱えた女性・・・美月姉さんだった。走ってきたのだろうか。息が荒く、顔も赤かった。
「姉さん、どうしたの?」
「やー、帰り支度してたら部長が書類失くしたって大騒ぎし始めてね・・・」
姉さんの話によると、定時になってさあ帰ろうという時になって、姉さんの上司が叫び声を上げたそうだ。結局、皆で隅から隅まで室内を探し、コピー機の中に置きっぱなしにしていたのを誰かが見つけたそうだ。
なんだ、それならそうと連絡してくれれば良かったのに。
「携帯どうしたの?電池切れてた?」
「ん、まあそんなトコ。それよりお腹空いちゃったー!」
姉さんが空腹を訴えると、タイミング良く小母さんが、俺達に出したのと同じようなプレートを持ってきた。メニューは違っていたが、どうやらそちらも新作料理らしい。
「んー、おいし♪・・・あ、そういえば・・・」
やがて、俺達のテーブルに見慣れない人物が居る事に、ようやく気付いたらしい。姉さんは夏目を見てから、俺の方を向き直り。
「由香里ちゃんの彼氏?」
ガシャンっ!!
・・・小母さんと同じ事を言って、俺達三人を勢い良くテーブルに突っ伏させた。
「美月さんっ!」
「姉さんっ!」
「なんで弥里のお姉さんにまで言われるんだろうな・・・」
大騒ぎする俺と由香里、そして何やら憔悴している夏目を見て、姉さんは悪びれもせずけらけらと笑う。どうして俺の周りの大人というのは皆こんなノリなんだろうか。
「あああ、マジでごめん夏目・・・姉さんには後できつく言っておくから」
「いや、気にすんな。そろそろ慣れて来た・・・」
「あら違ったの?」
リアクションまで小母さんと同じだ。
「妹さんのクラスメイトの夏目です。初めまして」
夏目が改めて自己紹介をする。すると姉さんもそれに応じた。
「弥里の姉の美月よ。宜しくね、夏目君」
「はぁ・・・ども」
それから二人は軽く会釈をしあって、また食事に戻り始めた。
俺達の学校での様子、更に社会人一名の愚痴などと共に、あっという間に二時間近い時間が費やされた。由香里に本当に彼氏が居ないのかという話題でこっそり小父さんが聞き耳を立てていたのはご愛嬌だったり。
そんなこんなで俺達は赤倉屋を辞して、それぞれ解散した。俺と姉さんは自宅の方向へ、夏目もまた一人暮らしのアパートへ。行きがけに夏目が、俺達を送ると言ってくれたのだが。
「大丈夫大丈夫、私こう見えても空手の有段者だから。因みに弥里にも負けたこと無いわよ?」
姉さんの一言に、夏目は大人しく引き下がった・・・何やら気に入らないワードがあった気がするが、俺は敢えて気にしないことにした。
「いい子ね、さっきの夏目君って」
「まあ、悪い奴では無いよ。俺が学校で膝擦り剥いた時も、手当てしてくれようとしたし」
「あら〜?何よ弥里ったら、そんな漫画みたいなシチュエーション体験したの?」
「・・・いやまあ、うん・・・」
「ふふっ、羨ましいわねぇ」
・・・ううう、ごめんね姉さん・・・別にあいつとの出会いはそんな甘酸っぱいものじゃなくて、俺が男子二人と図書室で喧嘩して夏目が止めに入ったとかそんな殺伐とした感じなんです・・・!
しかしそんな事を言えるはずも無く。気が付けば姉さんは夢見る乙女みたいな表情を浮かべている。これはあれだ。絶対にいろいろと漫画染みたことを考えている。例えば。
―――保健室の一角に、奇妙な空気が流れていた。所謂、『ピンク色の空気』である。
『ほ、本当に大丈夫だから・・・』
『良いって。目の前で女の子が怪我してたんなら、助けるのが男ってモンだろ?』
少年はそう言いながら、丸いすに腰掛けた少女の前に跪く。
『ほら、擦り剥いたところ見せて』
絆創膏と包帯を手にして声を掛けてくる少年に、少女は恥ずかしげに、血の滲んだハイソックスをくるくると手繰り降ろしていく。
『んー・・・思ったよりも酷くは無いな』
『あ、あの・・・あんまり、見ないで・・・』
頬を朱に染めた少女の懇願に、少年はようやく自分と少女の位置関係と、そこから見えるいろいろな物に気付いた。
『あ・・・ご、ごめん』
言い訳するようにして少年は、目の前の傷口に視線を集中する。
『まだちょっと血が出てるかな』
言って少年は、傷口に顔を近づけると。
『えっ、あの・・・』
そこに唇を寄せ、流れていた真っ赤な血を吸い取った。
「―――なんて展開になってたり?」
「するかぁぁぁぁぁ!!!」
何やら気持ち悪い声色とジェスチャーを織り交ぜて語って聞かせてきた姉さんに渾身のアッパーカットを放つが、あっさりかわされる。あのな姉さん、それもう、俺と夏目以外の人間だろう。明らかに。
「もったいないわねぇ、結構レベル高かったのに」
「だああっ!!姉さん給料入ってまた何か漫画買ったなっ!?何か悪い物読んだろ!?」
そう。姉さんの隠れた趣味は少女漫画だったりする。いやまあ、女性が少女漫画を読むのは自然な事だし、そもそもそういうのに興味を持つ時期には俺のせいで働きに出てたから何も言えないんだけど。
姉さんの『青春』の教科書が少女漫画だってのは分かるが、だからといって俺にそんな甘酸っぱい日常を期待するのは間違っているというものだろう。
「そもそも俺は男なんて・・・」
「まあ、でもさ」
言いさした俺を遮り、姉さんが言う。
「女友達も大事だけど。それでも、気遣い無く話せる異性ってのは、貴重なモンよ、弥里?」
そんな事を、真顔で言ってくる。俺だって分かってる。今まで俺に、特に親しい友達は由香里しか居なかった。それは、今までの俺にとって今の夏目という存在がイレギュラーである事を示していた。
それでも、俺はあの二人と一緒に居られる時間がとても楽しいものだと、自覚し始めていた。
「・・・・・・わかってる」
多少むくれて言うと、姉さんは俺の手を握ってけらけらと笑う。
「ま、今日はいい事もあったし!帰ったら久しぶりに二人でお風呂はいろっか?」
「げっ!?ちょ、姉さんそれは・・・」
「いやー、お姉ちゃんとしてはね〜。妹がどれ位成長したのか興味あるかな〜?」
先程までの真面目な雰囲気はどこへやら。姉さんは指をワキワキと動かしながら俺に迫ってくる。
「へ、変態っぽいぞ!その指の動き!」
「酷いわねえ、姉の心を踏みにじる発言よそれ。これはお仕置きが必要かしら?懐かしのおしりぺんぺんとかで」
「由香里ーーーーっ!!!夏目でも良いから助けてぇぇぇーーーーっ!!!」
そうして俺達は、家に付くまで、何年ぶりかの鬼ごっこを楽しんだ。もっとも、体力面では俺を軽く凌ぐ人が相手なので、俺にそんな余裕は無かった。
だから。
「しかし、立派になったわねぇ、あの泣き虫坊やが」
家に入る直前の姉さんの呟きにも、気付く事がなかった。
今回は以上です。いわゆる、『導入編の最終回』に当たるかと・・・ちゃんと完結できれば良いなあ・・・
では、失礼します。
続きキテター!
楽しみにしてましたよ!
GJ
まだまだ話は助走段階のようだが、しっかり書いていってくれ
まあ気長にやろうやあ
保守
両方ともGJ!
193 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/13(月) 22:53:57 ID:2z70v8LZ
保守
194 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/18(土) 23:07:37 ID:qWlYFi8x
ほしゅ
195 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/27(月) 13:04:30 ID:WBqfVWvq
ボク子オレ子ワシ子
他にはあるかな?
>>195 漢字かひらがな(カタカナ)かってのはある?
197 :
名無しさん@ピンキー:2010/10/04(月) 00:21:09 ID:Ad7hBEbc
あり
198 :
名無しさん@ピンキー:2010/10/14(木) 23:32:33 ID:oUD4Ww6b
GJ!
199 :
名無しさん@ピンキー:
上げ保守