7THDRAGON/セブンスドラゴンでエロパロ 第四帝竜
2 :
名無しさん@ピンキー:2009/06/23(火) 14:09:22 ID:5hvl9JlR
セブンスヌルポ
セブンスガッ
>>1乙カリユユユウウウウウウウウウウウウウウウウ!!
・・・夢、ゆめを見たんだ
マレアイアが男女逆のヤマジュン帝国だったという夢を
夢でよかった。本当に良かった
目が醒めて夢でよかったと安堵したのはひさしぶりだよ
イカ臭そうな国だな
あれか、女にひどい目にあった男達が
友情に目覚めながら傷を癒すオアシスなのか。
……いきてぇなぁと思ってしまったじゃないかww
ノワリー「エメル様に21時間労働を強制されて私の体はボロボロだ・・・」
ネストル「ユーリィにギルドから追い出されて俺のハートはズタズタだ・・・」
地味金「同僚が皆へイズに食われてしまった・・・鬱だ」
ハノイ「セティス様にふられて、もうこの際男でいいや・・・」
こんな感じの男ばっか集まって友情は芽生えるのか・・・?
王の直属でメイド隊ならぬ執事隊がいるわけか・・・アリやな!(ギラリ
>>10 バントロワに「かわいげ」を理解された途端クーデターを起こされたジェッケや、
男だらけの環境は何も変わらないけどとりあえず南国リゾートを楽しみに来た
バーナードも居るわけですね、分かります
何気に楽しそうじゃないかw
大統領がいなくなって生きる希望が無くなったメナス
話題にもされず、他キャラとも絡めにくいリッケン
騎士団長だけどあっさり深手をおってしまうグリフ
等の方々もいるんですね。
15 :
名無しさん@ピンキー:2009/06/27(土) 17:36:53 ID:ixJc/x72
そして慰めあう彼らの友情は・・・やがて愛情へ・・・
・・・って、ホモは嫌だが、男女を元に戻した普通のマレアイアなら
おいしくいただけそうなシチュではあるw
>>エメル様に21時間労働を強制されて
性的に強制労働されたんですね!
エメル様モノが読みたくて仕方が無い・・・!
エメル様モノじゃなくて恐縮です。自分も読みたいです。
SS一本投下したいのですが埋めがてら第三帝竜に投下した方がいいでしょうか。
保管庫さんの作業が終わるまで残しておかなければいけないということもあるので。
14KBちょっとです。
埋め立ては、どうしても必要になったら職人でなくてもできるという考え方も。
埋めとなったら飛んできそうな職人さんもいるしw
どうもです。では今回はこちらに投下します。
・過去最高にヤマなし、オチなし
・エロ描写も完全になし
NGはいつもどおり『駆け出しローグの日記』でお願いします。
以下人名対象一覧
カエラ:デコログ。第一人称。 姉御:女サムライ。
彼:眼鏡平。あだ名を先生。 リーダー:茶ファイター。副長と交際中。 副長:緑ナイト。名前はシンシア。
ギルマス:帽子メイジ。 姫ちゃん:プリンセス。偽鬱姫。
――前回の戦闘から二週間弱、ようやくあたし達の戦力も全快しました。
そんなわけで現在あたし達はダンジョン探索中。
巷ではいよいよ『その日』が近いなんて噂も流れているけど、結局あたし達のやることに変わりはないんだよね。
今回は別のギルドとの合同探索。万が一だろうが億が一だろうがこの時期に
不慮の事故で戦力を失うのは避けるよう、大統領府からお達しがあったらしい。
……うん。正直『アレ』を見てると、向こうの人たちには加勢なんて必要ないんじゃないかと思う。
あたし達のお相手はプリンセス四人で構成された歌って踊れる万能チームだった。
回復、攻撃、補助、妨害とそれぞれの役割がしっかりと果たされ、出てくるドラゴンを片っ端から仕留めていく。
まあその分道中の数が多い雑魚モンスターはこっちが引き受けてるわけで、
役に立っていないわけじゃないんだけど。それでも彼女達がここのボス格の大物ドラゴン相手に
一歩もひかずに渡り合うのをあたし達がボーっと眺めている現状に変わりはない。あ、睡眠入った。
「準備、完了……!」
「いっくわよー!ずっとあたし達のターン!」
「さあ、皆さんご一緒に?」
「受けろ!神さえ地を舐める圧倒的な暴力の嵐!!」
「「「「ナインテール」」」」
「ウボァー!」
つつがなくドラゴンの殲滅を完了し、帰り支度を始める。
と、向こうの人たちと話していた姫ちゃんが戻ってきた。基本的に無口な子なんだけど
やっぱプリンセス同士話が弾んだんだろうか。
「……向こうの人たちが、話してきた」
「へ?」
「マレアイアに、遊びに来ないかって」
――――――――――――――――――――
南海に浮かぶ女だけの楽園、マレアイア諸島。
その中にたった一人、明らかに周囲から浮きまくって(という程でもないけど)
居心地が悪そうにしている彼がプリンセス四人に連れられて例の女の子に近付いていく。
「まぁ!本当に集めてきてくださったのですね!
では、さっそくこれであなたを飾りましょう……え?ちがう?」
そこで彼は何を思ったか、予想外の行動に出た。
その手に持った羽をそっと女の子の髪に挿し、目の高さをあわせて微笑みかける。
「これでよし。うん、似合ってるよ」
「私にこれをプレゼントするというのですか……?」
「うん。こんなにきれいな羽なんだし、僕が持ってるのはもったいないと思うんだ。
それよりもこれからきれいになっていく君が持っていたほうがずっと、いいと思うよ」
「…………
な、なんでしょう……頬が熱くなってしまいましたわ……!
だ、男性って……思ったより優しくて怖くない生き物なのですね……!」
…………
「かっわいいねー?」
「うわっ!?」
「頬が熱くなってしまいましたわ、だって!
もう、やるじゃんあんな気の利いたアドリブができるなんて知らなかったなー、
よかったね満足してもらえた上あんなに可愛く喜んでもらえて?」
「い、いやその……」
笑顔で見送る彼に後ろからダイブして見事な受け答えの労をねぎらう。
その首筋に短剣が触れているのはご愛嬌というもんだよね。
たまらないのは彼の方だ。あせあせと必死の弁解が始まった。
「あの羽で飾られるって事は下手すれば女装とかそういう方向に行くわけで
それはできれば避けたいというか何とかして別の方向に話を持っていけないかなと
そんなふうに思ったらついああいうことを言っちゃったわけで……」
「……ぷっ」
あまりの必死さに思わず笑いが漏れてしまった。
「あ、……あぁ、もしかしてからかった?」
「ううん、最初は本気だった」
――――――――――――――――――――
場所を移してマレアイア領内、本島から島三つ分離れた海岸でウチのギルドは休暇を過ごしていた。
「やっほー、なんか釣れた?」
「いや、全然だな」
並んで釣糸を垂らしているリーダーとギルマスのうち、リーダーの方が短く答えた。
基本的には男は入れないマレアイア、男達だけ残して遊んでくるわけにもいかないので
あたし達は許可を取ってここに陣取っている。
「先生君はまだマレアイアでクエスト進行中なのかい?」
「まーね。物腰柔らかいから適材だとは思うけど、誰があんなバカなクエスト考えたんだろ」
「むくれない。世の中には色々あるのさ」
「は……ところで姉御は?」
「ナイト君と一緒に水着に着替えてるよ。そのうち出てくるはず」
噂をすれば影とはこのことだろうか、防波林の向こうから姉御と副長がやってきた。
副長が着ているのは白いワンピースだ。シンプルだが色々と眩しい。
「あ、あの……リーダー、どこか変じゃありませんか?」
「あ……ああ、よく似合ってる……と思うぞ」
そして姉御はというと……
「……ねえ、姉御」
「なんだ」
「……それ、いつも着てる全身タイツとは違うの?」
「違う!そしていつも来ているのも全身タイツではない!!」
そうなんだ……?
いや、だって、でも、ねえ?
たしかに袖はないし、裾も膝までしかないけど、そもそも水着なんかに縁のない暮らしを送ってきた
あたしがその辺りの微妙な違いを理解できなかったとしても仕方がないんじゃないかと、あたしは思う。
「で、水着に着替えたって事は泳ぐわけ?」
「何を馬鹿な。泳ぎたいのは山々だがこの辺にはいるだろう、その、……アレが」
「あー……」
姉御のいうアレとは、……要するに触手だ。触手のアレだ。
「姉御もねえ。触手の一本や二本どーってことも」
「やめろっ!私の前でアレの話をするな!アレを思い出すだけで私は、私はっ……!!」
「ああごめん悪かったから泣かないでって……
でもさ、結界が復活したおかげでこの辺からは魔物が一掃されたんじゃなかったっけ?」
「む……?」
「せっかくだし泳いできたら?気分転換もかねてさ」
「むぅ……そうだな。滅多にこれないところだし……少し泳いでくるか」
姉御を見送ったあたしは釣り糸をたらす二人と一人のところに戻る。
「姉御が泳ぎにいったから引っ掛けないように気をつけて」
「了解。しっかし釣れないねぇ」
「潮が悪いのか、釣り方が悪いのか、餌が悪いのか……」
「……あの、そういえば」
副長が口を挟む。
「狙いは何なんですか?」
「へ?」
「釣りって普通狙いを決めて、その魚に合わせて仕掛けをつけると聞いたんですけど」
「そういえばそうだな。この仕掛けは何に合わせてあるんだ?」
「……えーっと」
「まさか……」
「か、考えてなかったなぁ……なんて」
「だめだなこりゃ」
リーダーが竿を上げた。
糸の先についているのはアゴート揚げだ。……本当に何を釣るつもりだったんだろう?
「やれやれ、情緒はあったが無駄な時間を過ごしたな」
「えー、ここで釣らないと夕ご飯が淋しいことになるよ?」
「んなこと言ってもな。……そうだ、シンシアは泳ぎに行かないのか?」
リーダーが副長に声を掛けた。
「むむ、こういう場合まずは日焼け止めを塗ってあげるのが定番ではないのかね?」
「お前は黙ってろ」
「私、あまり泳ぐのは得意ではないですし……それに小耳に挟んだんですけど、
この辺りは潮の関係でマレアイアで出たゴミが流れ着くそうですし」
「観光地とゴミ問題は切っても切れぬ関係だな」
「観光地にしたいわけじゃなかったんだろうけどね」
「気候が気候だからね……
……ゴミで思い出したけど、マレアイアの弁当屋には裏メニューでろぉぱぁうどんがあるらしくてさ。
雑誌とかで知った人が興味本位で注文して、結局撃沈して捨ててしまうことも多いそうだよ」
「ふぅん……」
食べ物を粗末にしちゃいけないのに……
……ん?ということは?
「ふぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
浅瀬の方からろぉぱぁうどんの残骸に驚いた姉御の悲鳴が聞こえてきたのはそのときだった。
――――――――――――――――――――
「凄い悲鳴でしたね」
「いくら触手が嫌いでもうどんの残骸に驚くことないと思うんだけどなぁ」
あのあと姉御はあたしが助けに行くまで腰を抜かしてへたり込んでいた。
浅瀬だったからよかったものの、足がつかなかったらと思うともう姉御は海水浴はしないほうがいいと思う。
その姉御は現在リーダーと組み手の真っ最中だ。
組み手といってもリーダーの手には刃を潰した巨大な剣が握られているんだけどね。
ちなみに姉御は刀を持ってきていない。ああいうものは潮風に当てないほうがいいんだそうだ。
で、その組み手の様子はというと。
「……せやっ!!」
「がふっっ!?」
一方的だった。
特攻し、受け流し、反撃の機会さえ与えず一撃でのす。
先程の恥を洗い流そうとするかのごとく姉御は完膚なきまでにリーダーを叩きのめし続けていた。
「で、副長。ちょうど二人で話せるしさ、聞きたいことがあるんだけど」
「はい?なんですか?」
あれから二週間。
「リーダーとはどこまでいったの?」
「……ええぇ!?」
「赤くなった赤くなった」
「もう、からかわないでください!」
「ごめん、あんまり予想通りだったから。で、実際どう?まだキスさえしてないって聞かされても驚かないけど」
「ばば馬鹿にしないでください。そのくらいは……」
「おお。いつ?どこで?どっちから?」
「あのときリーダーが気がついて、あなたがいなくなった後……って、何を言わせるんですか!」
「やー、あの奥手な二人が正式に付き合い始めたくらいで何か変わるもんなのかな、とか思って」
「放っておいてくださいよぅ……それよりあなたの方はどうなんですか?」
「あたし?」
「その、参考までに恋人らしいこととはどんなことをするのかな、と」
「あたし達かぁ……」
それこそ人それぞれ、場合によりけりではなかろうか、と思わないでもない。
そもそも別の理由であたし達は参考にならない気がする。
出会ってから今の関係になるまでは色々と早かった。相補性と偶然がいい感じに重なったんだろう。
で、一時期はお互い若さと好奇心で若干サルをやったこともあったけど、本来あたし達は
そっち方向は淡白らしい。自分で言ってて死にたくなってきたけど。
気の向いたときに寄り添って話し合って、遊んだりする。
あたし達はあまり恋人という言い方をしないような気がする。特にそんなことにこだわったりせず、
気の向くままに付き合っている。
……これって、どうなんだろうか。
これって、遊びの関係とどう違うんだろうか。
もちろんあたしが彼に対して抱いている感情はそんなもんじゃないと思うけど、やってることは。
このままじゃまずいんじゃなかろうか。
なんとなく、そんな事を考えてしまわないでもない……
「あの、カエラさん」
「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事しちゃって」
「それはいいんですけど、あれ」
「?」
「ちょっとリーダーが心配になって来ました」
「……む、力が入りすぎたか?」
そうこうしている間に砂浜に倒れ伏したリーダーが起き上がらなくなっていた。
やっちまったか?
思わずあたし達が腰を浮かしかけたところでリーダーは復活した。
「……だーーーーっ!!なんでだ、なんで勝てない!?
始めと同時に突っ込んできて、どう防ごうとしてもねじ込んできてのされる!
いったいどうしろと……」
起き上がるなり叫びを上げるリーダーにギルマスが冷静な声を投げる。
「……すこし落ち着いたらどうだい?頭を使わないから負けるんだよ、頭を」
「お前な……傍から見てりゃそりゃ簡単かもしれんがな?こっちは本気で」
「そう、そうなんだよ」
「?」
「傍から見てると君がさっきからどうしてやられ続けてるのか理由が丸分かりだってこと。
……ナイト君、教えてあげたまえ」
「私ですか!?」
突然話を振られて慌てる副長だったが、リーダーの真剣な視線に一つ咳払いして口を開く。
「ええっとですね?つまり、その、簡単に言うと」
「うんうん」
「サムライさんは積極的に接近戦に打って出ているように見えて、実際には
リーダーの迎撃に合わせてカウンターだけで戦ってるんです」
「!なん……だと……!?」
あまりにも簡単な答えに絶句しかでない。ご苦労様、とおいてギルマスが話を引き取った。
「ファイターの戦い方は攻防一体、その巨大な武器で致命的な威力を持った攻撃を繰り出すことで、
巨大なモンスターを押し戻したり敵に防御を取らせて行動を封じつつ戦うのが基本スタイルだ。
突っ込んでくるサムライも回避するのが困難である以上、その攻撃ルートをできる限り塞ぐように
迎撃するのが君なりの防御法になる。が、実際にはサムライは君が迎撃を始めるまで攻撃しない。
君が慌てて迎撃しようとしたところを、逆にそれにあわせてドカン!というわけだ」
「……マジか?」
「はっはっはっは、気付かずに何とか勝とうと必死になるお前をボコるのは楽しかったなぁ。
さて、飽きたからそろそろやめようっと」
「勝ち逃げかよ!?」
持って行き場をなくしたリーダーの視線がギルマスで止まる。
あきらめろ、とギルマスは無言で却下した。
「畜生……」
「さて、そろそろ先生君とプリンセスが戻ってくる頃だ。野営の準備をしよう」
――――――――――――――――――――
なんだかんだいって今回の休暇もあっという間だったな。
そんな感慨が浮かび上がる。
「それにしても姫ちゃんのあれ、びっくりしたな」
パチパチと爆ぜる炎をを見たまま隣の彼に話しかけた。
「たしかに……言葉にはしにくいけど、あれだもんね」
それは彼が戻ってきた直後のことだった。ほどなく戻ってきた姫ちゃんが、いきなり
素っ頓狂なイントネーションで、知らない言葉をしゃべりだしたのだ。
マレロ言語。
あれが元は共通言語から枝分かれしたらしいと聞かされても、あたしには到底理解できない。
「なんてゆーかさ、あのイントネーションを聞いてると遺伝子に刻まれた何かが……」
「わかるわかる」
「……」
「……」
やや、沈黙が落ちた。
「それとは別にさ、不思議な国だよね」
「そうかな?」
「そうだよ。
……
ところでさ、お昼もいなくて夕方までずーっと帰ってこなかったよね。
やっぱ男嫌いの人たちに男を認めさせるためあれやこれや一生懸命……」
ダメだ。こんな話をするべきではないと分かっていても、つい口を突いて棘のある言葉が出てしまう。
ところが、以外にも帰ってきたのは照れくさそうな苦笑顔だった。
「いや、まあ……それもなくはないんだけど、……これ」
「へ?」
「星花の貝殻。マレアイアでしか手に入らないんだって。
何とか手に入らないかと思ってあちこちの砂浜を探し回っちゃって……
気がついたらあんな時間になっちゃってたんだ。本当にごめんね」
「……どうして?」
「いや、その……夢中になると周りが見えなくなるというか、時間を忘れるとは本末転倒というか」
「あ、そうじゃなくて。……今日、なんか特別な日だっけ?どうしてそんなに……」
「え……」
じっと、答えを待つ。
帰ってきたのは、簡単で、どうということもなくて、そして単純な答えだった。
「えっと……プレゼントしたかったから……じゃ、ダメかな」
……なんでしょう、頬が熱くなってしまいましたわ。
「………っ」
何故そんな事を聞かれたのかも分からないといった表情。
あたしは思わず彼の背中を叩きながら笑いをかみ殺していた。
「え、え、なに?なにか変なこと言ったかな?」
「あははは、いやー、我ながら変なことに気を回したなーと思って」
「??」
「世間一般のイメージはどうか知んないけど、あたし達はあたし達だねってこと」
なおも訳のわからなそうな顔をする彼にもたれかかり、姉御達のほうを見やる。
酒盛りに移行した大人組。
こちらの視線に気付いた姉御が意味もなく小さく手を振ってくる。
軽く手を振り返し視線をずらすと、姫ちゃんは若干おねむのようだ。
ぼーっとしている姫ちゃんを気遣いながらも副長はリーダーにお酒をつがれ、お返しにつぎ返している。
「ふぅ……なんてゆーか」
「なんていうか?」
「楽しくない」
「えぇー……」
「特におもしろいこともしなかったし、おいしいご飯もなくて魚を適当に焼いただけだし、
いつの間にか時間がたってて何してたんだろうって思っちゃうけど……」
あれ?酔っ払ったんだろうか。
お酒も飲んでないのに、思考回路がおかしい。
「……でも、なんか幸せ」
本当ならこの休暇をフルに使って、色々な楽しいことにチャレンジしてみるところなんだろう。
それもできずいつの間にか時間を過ごしてしまっていたのに、今あるのは暖かい気持ちだけだ。
「あぁ……なんとなく分かるよ」
「ほんとに?」
「うん。なんていうか、何か嬉しいことがあったときの幸福感よりももっと原始的な、
家族や仲間が一緒にいる安心感かなって」
「あー。そっか……皆一緒だもんね」
「いつもは意識しないけどね」
上を見上げる。とてもいい月だ。
その光に魅せられて、睡魔に支配され始めた頭に変なテンションが湧き上がってくる。
「ねえ……」
「何?」
「やっぱ、自分の居場所は自分で守んなきゃダメだよね」
「そうだね。あと、自分だけじゃなくて皆で」
「よーし、やるぞー……ドラゴンなんかにあたしの居場所をやったりするもんか、くるならこいやぁー……」
「はは……うん、その通りだ。後もうちょっと、頑張ろうね」
「おー……」
後で分かったことだが、あたしが飲んでいたのは本当にお酒だったらしい。
そんなわけであたしの記憶はここでブラックアウトだ。
ただ、あのとき、また皆でこんなきれいな月を見たいなと思ったことは、
今でもはっきりと覚えている。
最後ミスった……
投下終了。ともすればバトルばかりになりがちな間に普通の休日を挟んでみたかった。
次回はクライマックス(笑)です。最初から最後近くまでバトってます。
もう少しお付き合いいただけると幸いですー。ではまた。
おー、いよいよ次で終わりかぁ
カエラは結局水着に着替えなかったのかしら
おー、世○樹からおっかけてきて、ついにか・・・。
さびしくなるなぁ。
お久しぶりです。戦いの選択の続き話投下です。
注意事項
・ほんのりエロ
・ゲーム本編との矛盾あり
・アリエッタのイメージを崩したくない人ご注意
・フレイムイーター最強説を唱える方ごめんなさい
・中盤以降の帝竜の名前バレ注意です
・ジェン爺のかしこさ値がかなり低い。
こんなん無理無理!な方はタイトル『戦いの選択』NGお願いします。
登場人物
ソウマ・若サムライ。主人公。一応貴族。艦帝竜を撃破。忍耐力はかなりのもの。
エリス・ルシェメイジ。元奴隷。あの日以来ソウマが抱いてくれないので少し寂しい。
リア・ルシェプリンセス。元奴隷。ソウマとエリスの仲を応援する…が微妙に諦めてない。
ジェンジェン爺・圧倒的不人気を誇る老人。個人的イメージで頭はかなり悪い。ある種人気者?
アリエッタ・ジェン爺の宿で働くルシェのメイド。黒くない。ソウマに助けられる。
31 :
戦いの選択:2009/07/07(火) 01:27:25 ID:faSfxUl5
→C アイゼン地方、炎帝竜フレイムイーターの討伐
地帝竜はあの『ユグドラシル』が討伐に向かっている。
空帝竜は討伐しようにも、討伐ができない。高空にいる相手にどう戦えと?
となると消去法で炎帝竜か……アイゼンに近いのもあるし、これが最善か。
「ソウマ様ー!大丈夫ですかー!?」
と、ちょうど考えが纏まったところで、エリスとリアが乗った船がやって来た。
「あんな無茶しないでください……!本当に心配したんですから……」
「お兄ちゃん、もし機関砲が飛んできたらどうするつもりだったの……?」
船に引き上げられるなり怒られた。
いや、確かに我ながら無謀だったとは思うが、あのままではジリジリと追い込まれてだな…
しかしここは謝罪すべきか……
「すまない。次は気を付けよう」
「約束ですよ…?」
「次はどこに行くの…?あと討伐報告は……?」
「アイゼン付近に潜む炎帝竜フレイムイーターを討伐する。
それと報告なんだが……正規ギルドでないことがばれる恐れがあるのと……
多分ハノイの血で染まったであろう謁間の間に入りたく無くてな……」
全てが本音である。色々な意味でマレアイアには戻れない。
仮に血染め状態でなくとも、あの水着を渡した(ハノイが選んだのだが)のが私達だと
ばれると、不法入国罪に色々おまけがついてきて厄介であるし。
それに討伐報告をせずとも、この亡骸を見れば討伐完了は伝わるだろう。
報酬金が貰えないが、金銭の為に戦っているわけではないし、それも問題ない。
今すべきことは、迅速な帝竜の討伐だ。
西大陸の地帝竜ジ・アースは『ユグドラシル』とネバンプレスの名将二人が討ち取るだろう。
ここで私達がフレイムイーターを倒せば、残る帝竜はインビジブルのみ。
そう、平和な世界は近い。もうすぐ元の世界に戻るのだ。
平和な世界を夢想しつつ、船の舵をきる。
向かうは、フレイムイーターの潜むとされるドーマ火山……!
32 :
戦いの選択:2009/07/07(火) 01:28:38 ID:faSfxUl5
……と決意も新たに火山に向かった筈なのだが……
「いいお湯ですねソウマ様」
「あぁ……」
「お兄ちゃん顔が赤いけどもうのぼせちゃった…?」
「あぁ……」
なんで二人と混浴するはめになっているのだろう……?
ドーマ火山のすぐ近くに構える温泉宿『ニギリオの館』
数日の船旅の疲れを取るためにここに宿泊したわけだが……
ご覧の有り様である。
確かに温泉宿で温泉に入らないのは八割を損している気がするが、混浴とは聞いていなかった。
しかも温泉はこの大きな露天風呂ひとつだけ、入浴客は私達以外にも当然いる。そしてその他の入浴客の視線がさっきから凄く痛いのだ。
(あの野郎……羨ましい……)
(くそっ!タオルとれろ……!)
(ウホッ、いい男……)
などの小声まで聞こえる。
まぁ……前後から妙齢の美少女に抱きつかれている私は明らかに周囲から浮いているだろう。
今まで何度か二人同時に抱きつかれたことはあるが、未だにこの状況は慣れない。
いやむしろ慣れることができる人物がいるなら会ってみたい。
「んっ……私も…のぼせちゃいそうです……」
後ろから蕩けた声でしなだれかかってくるエリス。うん、胸が当たっている。
「ふぁ……私も……」
前から熱っぽい声でしなだれかかってくるリア。うん、ポジションが最悪だ。
……動けないのですよ、一般客の皆さん!
二人の露骨な誘惑に負けることができたならどんなに楽か……
しかし既に一回、本能のままにエリスを抱いてしまっている私としては自制心が働く。
サムライたるもの、情事色事は婚約し、しかる後に行うべきことであって、
このような誘惑に負けてしまってはいけないのだ。平常心、平常心……
それにエリスはともかく、リアにまで劣情を抱くのは……
……いやいや、何故エリスを除外しようとしているんだ私は!?
悟りの境地はまだまだ遠そうである……
「「「うっ!……ふぅ」」」
……私を睨みつけていた数人の客の声が重なった。
そして彼らのいるあたりの湯に何か白い浮遊物が……
……どうやら少なくとも彼らよりはマシなようである。
33 :
戦いの選択:2009/07/07(火) 01:29:32 ID:faSfxUl5
さてそれはそれとして、そもそも何故この宿に連泊しているのか?
私達は当初、帝竜フレイムイーターの討伐のためにこの地に足を運んだわけだが……
正直な話討伐は拍子抜けだった。時は三日前に遡る……
――ドーマ火山に入ってすぐ、直進しただけで目的のそれはそこにいた。
予想外極まりない。何故こんな入り口付近で堂々としているのか?
軽く調査するだけのつもりが、いきなり最終目的に辿り着いてしまった……
さて、この場合選択するべき行動はなんだろうか?
A とりあえず敵の力量を知るために軽く戦って逃げる
B 当たって砕けろ!
ここで私達が選んだ選択はAだった。
危なくなったら直ぐに退く。敵の弱点を知れたらいいと思っての行動だった。
『貴様らは……あの連中とは違うようだな。まぁいい……我が焔の前に沈むがいい!』
唸りをあげて炎帝竜フレイムイーターが翼を広げる。そして戦いが始まった……
……
…………
………………
「……どうしようかコレ?」
軽く溜め息を吐く私の手に握られるは、ほんのり熱を持つ炎帝竜の尾……
そう……勝ってしまったのだ。
確かに自動回復は厄介ではあったが、サムライの最高奥義『双つ燕』で血管を狙い斬りした結果、
一発で主要な血管の断裂に成功し、回復を遅らせることができた。
自慢気に使ってきたフレイムヴェイルもエリスのマナバレットの前には全くの無力で……
本当に、実にあっさりと炎帝竜は陥落したのだった。
本来なら喜ばしい事態なのだが、ミッション受理をする前に倒してしまったのが問題だった。
(ミッション受理前に標的を倒してしまうことはかなりの重罪。但し例外もある)
「流石にこれはまずいな……」
ピッ→A 偽装工作
直後……なんの躊躇いもなく私は行動に移っていた。
もう犯罪行為に対する私の感覚は麻痺しているのかもしれないな……
とりあえずフロワロシードを植えて表向きは帝竜が健在な様に見せることにして、
そのまま私達はそそくさと宿に戻ったのだった……
34 :
戦いの選択:2009/07/07(火) 01:30:46 ID:faSfxUl5
そしてその日の夜、宿の受付を済ませ、私達は二階の部屋を割り当てられた。
ちなみに、エリスもリアも一緒の一部屋だけだ。耐えろ私!
その割り当てられた部屋の扉から見て、左に数歩行ったところにある一際大きな扉。
そこにこの宿の主であるジェンジェン爺がいるらしい。
帝竜討伐が既に知られているかどうか……その探りを入れる為にここに来たわけだが……
「…!……!!」
部屋からは何故か怒鳴り声が聞こえた。
様子が気になり、扉を開けると……
「貴様っ!使用人の!ルシェの分際でこのジェン爺様に逆らうかっ!?」
「いやっ……!」
鞭をふりおろす老人と、怯えて蹲る緑髪のルシェの少女がいた。
その瞬間に全てを悟った。この宿は『そういう』宿なのだ、と。
そして考えるよりも前に、また体が先に動いた。
「やめろ!!」
抜刀からの一閃で鞭を両断する。
このまま返す刀でこの老人も斬り捨てたいが、流石に少女の前で血を見せるわけにもいかない。
「な…なんじゃお前は!」
突然の強襲者に慌てふためく老人――恐らくこの老人がジェンジェン爺だろう。
さて、いきなり斬りかかったはいいが……どうしたものか……
「何とかいったらどうじゃ!このジェン爺様にたてついて……」
己の富と名誉にしがみついた哀れな老人か……
何故こうもルシェを人として扱わない輩が多いのか理解に苦しむ。
回りくどいことはぬきで話すか。
「……単刀直入に問う」
「短刀直入じゃと!?」
ん?何故この段階で驚かれたのだろう?
「そうだ。何故この少女に鞭を……」
「…………」
「おい!聞いているのか!?」
少々声を荒げて問いつめるが、どうにも反応がない。
いや、何か小声でぶつぶつと言っているような……
――ジェン爺の脳内――
短刀直入じゃと……!?
わしの使用人の躾ぐらいでこの若僧は何を言っているんじゃ……!?
いやだが…だがしかし!この男の目は今まで数々の獲物を斬ってきた目だ……!やられる……!
それにその刀は短刀じゃなかろう!?完全に長刀の類じゃろう!?
直入……じかにいれる……あれを……わしに……
入れたら次はえぐるのが定石……あんなもので体内をえぐられたら……
死……!まごうことなき死……!完全なる死……!死んでしまう……!
たかが使用人一人のせいで、わしが……!
35 :
戦いの選択:2009/07/07(火) 01:31:56 ID:faSfxUl5
「……!」
私の顔を見たり、刀を見たり、自分の腹を見たり、倒れている少女を見たり……
ジェンジェン爺は落ち着きなくあちこちに視線をさまよわせる。
……これでは埒が明かないな。
「聞いているのか!?」
「ヒィィ!?ふ…ふん!運が良かったな。今日はMANAが足りないらしい。
だからわしはもう寝る!その使用人を連れてさっさと出ていかんか!」
……上から目線の高圧的な態度は気に入らないが、一応この少女を解放する気はあるらしい。
それならば今は深追いの必要もない。
「大丈夫かい?」
「う…うん……あ…ありがとう…」
廊下で少女は一礼だけして、慌てて去っていった。
傷の手当てをしてあげたかったが……仕方がないか。
しかしあのジェンジェン爺の性格からして、迫害されているのはあの少女だけではないだろう。
どうやらもう数日滞在して様子をうかがう必要性がありそうだな……
――これが三日前の出来事、そしてこの宿にわざわざ連泊している理由なわけだが……
少し違った理由でもこの宿にとどまるはめになっている。その理由が……
「ソウマ、背中流すね?」
湯桶を片手に持った緑髪のルシェの少女――アリエッタである。
ジェンジェン爺に叩かれていた、あの少女だ。
あの日彼女を助けて以来、アリエッタは色々と世話を焼いてくれるのだ。
何かを求めて助けたわけではないが、助けてくれたせめてものお礼がしたいとのことらしい。
ジェンジェン爺もあれ以来おとなしくなった様で、次の目的地に旅立とうともしたのだが、
アリエッタのたっての願いとあって断われず、ずるずると日が進み現在に到る。
どうやら本気でのぼせてしまったらしいエリスとリアを湯からあげて、
アリエッタが私を椅子に座らせ、背中を洗う。
「私はメイドだから……出来るお礼はこんなことぐらいしかないけど……」
「お礼目当てで助けたわけではない。気にすることはないよ」
「……ありがとう。でもやっぱり……ちゃんとお礼はしたいんだ……」
この時の私は…そのお礼、このあと起きる出来事など……予想だにしていなかったのだ……
36 :
戦いの選択:2009/07/07(火) 01:33:26 ID:faSfxUl5
「よいしょ…と……」
布団にエリスとリアを寝かせ、毛布をかけてやる。
二人とものぼせたせいか、ぐっすりと眠っている。
……今夜は久しぶりに一人でゆっくりと眠れそうだ。
実はここ数日、左右から二人の抱きまくら代わりにされてろくに寝れていないのだ。
押し入れからもうひとつ布団を取りだして、私も横になる。
本当に久々の広々とした布団だ。
撫でる頭がないのが少し寂しいが、考え事をしながら眠るには一人の方が落ち着く。
艦帝竜ドレッドノートは討ち取った。
そして炎帝竜フレイムイーターも討ち取った。
『ユグドラシル』が赤帝竜、黒帝竜を討ち取り、まもなく地帝竜も討ち取るだろう。
もうすぐ……平和が訪れる。
竜の減少、地道な駆除作業のおかげでフロワロも確実に減っている。
滅びてしまった町も、ゆっくりとだが再建が始まっている。
そう、今確かに、平和な元通りの世界に向かっている。
全て終わって、元に戻ったら……エリスと一緒に暮らそう。
貴族の暮らしには戻らずに、どこかでのんびりと……
そして……
コンコン…
扉を叩く音に夢想は中断され、意識が現実に戻される。
こんな夜中に誰が?と、多少警戒しながら扉を開けると……
「ソウマ……ちょっといいかな…?」
仕事着のままのアリエッタが、申し訳なさそうに立っていた。
「アリエッタ……?どうしたんだ?」
こんな時間にわざわざ訪ねてくるからには何らかの事情があるのだろう。
扉を完全に開いてアリエッタを部屋の中に入れる。
「うん……あのね……」
アリエッタが口を開いてから、数秒静寂が訪れた。そして……
「お礼を……しに来たんだ……私に出来る、限界のお礼……」
「何を…んっ!?」
次にアリエッタの口が開かれるのと、私の口が塞がれるのは、ほぼ同時だった。
「んっ……ちゅ……」
「んぐっ!?」
アリエッタの柔らかな舌が、私の喉奥に何かを押し込んだ。
「くっ……アリエッタ…何を……っ!?」
押し込まれた何かが喉を通ると、途端に体が熱を持ち始めた。
……確認するまでもない。これは媚薬だ。それもかなり強力な……
「ごめんね……私はお金もないし、一緒に戦う力もないから……出来るのは、これぐらい……」
そういうとアリエッタは自らの服に手をかけはじめた。
37 :
戦いの選択:2009/07/07(火) 01:34:29 ID:faSfxUl5
「待て……アリエッタ……」
なんとかアリエッタをひきとめるが、薬のせいか思うように力が入らないし、思考まで鈍ってくる。
しかし、ここで屈するわけにはいかない。
「こういう…ことは……むやみにしてはいけない……
本来……心に決めた…大切な人と……時をわきまえて…するべきことだ……」
「真面目だね……でも、エリスとはもうしちゃったんじゃないかな……?」
「!?!?」
馬鹿な……
会って僅か数日で……よまれたというのか……
自分でも取り乱しているのがよくわかる。
そしてその反応は、肯定の証にもなってしまうことも……
「くすっ…二人と温泉入ってた時、『駄目だ駄目だ…』とか言ってたら誰でもわかるよ…?」
声に出ていたのか……!!!
穴どころかティラノザウルスの口の中に入りたい気分である……
「でも……一度きりなんでしょ?……かなり我慢してない…?」
アリエッタの指が、私の寝間着の帯をほどきにかかる。
構造上、はぎとられるのも時間の問題だ。それに薬も入っていて状況は最悪である。
「だから…代わりに私を使って楽になって……?大丈夫…私は人じゃなくて、物だから……
あなたの好きにしていいよ…?それが、私にできる精一杯のお礼……」
くっ…………!
A アリエッタのお礼を受け入れる
B エリスが目覚めて止めてくれる
C リアが目覚めて止めてくれる
D 一発逆転のアイデアに賭ける
E サトリの境地で危機脱出!
F 乱入者を誰でもいいから期待する
G 上記以外の出来事が
ここまで。
個人的に一番苦戦した帝竜は実はデッドブラックだったりします……
あとトリ間違えました。保管の際は過去のものでお願いします。
GJ!!!
こいつはかなり悩む選択肢だぜ…。
Aもいいけど、アリエッタは「物」じゃないから…
Gで!
アリエッタを「物」じゃないと諭した後に二人が目覚めて4P希望…!
GJ!!!
温泉客じゃないけどソウマの境遇がマジで羨ましいぜ・・・
そしてジェン爺のINT値は中学時代の俺と同レベルか!
選択肢は・・・エリスメインなの考えてBで。ドロリとしたおにゃのこ達の争いになるかな?
フレイムイーターさんマジパネェっす
B!B!
おれがマルをつけたいのは選択肢Bだが期待は出来ない・・・
のぼせるほどに茹で上がったエリスたちがあと数秒の間に都合よく目覚めて
さすらいのラブ・ヒーロー・ハノイのようにジャジャーンと登場して
『ソウマ様になにやってんですか、この泥棒猫!』と更なる修羅場に突入させるわけにはいかねーぜ
やはりサムライならば運命は自らの手で『斬り』開くモノっ!!
せっかくだから俺は選択肢Dで一発逆転のアイデアに賭けるぜ!!
E
ここでなんとか留めないとエロゲ主人公の道をまっしぐらだぞソウマ!
……いや、板的にはそれでいいのか?
また悩む選択肢でてきたなー…
泥棒猫劇場でなくてもいいから慌てるエリスを見たい。よってBで!
てかもう選択肢全パターン書いてくれるのが一番ありがた…冗談です。
投下いきます。
http://7thep.x.fc2.com/ss/006.html ↑『フロワロの媚毒』の続きとなります。
前・後編の分割投下になります。続きは後日に。
固有名詞一覧
・ジェリコ 本作の語り手。ルシェヒーラー。スケコマシ。
・ナムナ ルシェサムライ。そのスケコマシにかどわかされる可哀想な子。
(名前は公式ちびキャラトークより)
「このロリコンどもめ!」とバックベアード様に怒られても仕方がないロリ物なので、
苦手な方はタイトル『彼女が鈴を付けてるワケ』でNG設定などをお願いします。
ギルドオフィスで所用を済ませ常宿の六剣亭へ帰ってきたら、入り口のところでナムナを発見した。
手には紙袋を下げており、なにやらこそこそ周囲をうかがっている……またアレか。
「ナムナ」
「わ、わわっ?! ジェッ、ジェリコッ?!」
一声かければ獣耳の先までびくんと震わせ、気まずそうな顔をしてこちらを振り返った。
やはり私が留守の隙をついて繁華街へと出かけていたようだ。
「まったく、また買ってきたんですか」
「……てへへへ」
ぺろりと小さく舌を出しバツが悪そうに照れ笑いをする……う、かわいいじゃないか。
だが、笑顔が愛らしいからって追撃を許すわけには行かない。
「てへへ、じゃないです。今週はもう無駄遣いはやめるという約束だったでしょう?」
甘いお菓子に、可愛い小物に、綺麗な服。カザンのような都会は女の子にとって誘惑で一杯だ。
ナムナはかなりの田舎から出てきたらしいので、そういったものに免疫が無いのはわかるのだが、
見事なまでにそれらの毒気に当てられてしまったようで、ここのところ浪費が実に酷い。
あったらあるだけ使ってしまうので、先日、とうとう見るに見かねてお小言を入れてしまった。
結果、彼女は計画的に手持ちを使うことを約束したのだが……ごらんのありさまである。
「……ごめんなさぁい」
「とにかく中へ。表でするような話じゃないですし」
獣耳ごとしゅんとうなだれるナムナの手を引いて、彼女の部屋にお邪魔した。
「やれやれ。まーたモノが増えてますね」
週払いで借りてるその部屋をぐるり見渡せば、いかにも少女らしいアクセだのぬいぐるみだのが散乱してるし、
作り付けのクローゼットからは真新しい服がはみ出すほどに詰め込まれてる。うーん、ちょっと重症だ。
そもそも彼女自身、ここのところ身に着けてる物が日に日に違う。
今日着ているのもサムライのユニフォームではなく、アイゼン風のゆったりとしたドレスに身を包んでいる。
ナムナはたたっと駆けて部屋を横切ると、ぽすんとベッドに腰掛けた。そういう仕草がいちいちかわいい。
私もとなりに座りナムナの顔をのぞきこめば、彼女は言いづらそうに口を開いた。
「ジェリコ……怒った?」
「怒っちゃいませんが、約束を反故にされて少し悲しいです」
「あうぅ……ごめんなさい」
怒ってないことを示す為に、この年少の恋人の肩に手をまわして軽く抱き寄せる。
「べつに謝る必要はないんです。ナムナが自分で気付いて反省してくだされば」
「……うん」
「ハントマンなんて商売は先々何があるかわかりませんし、やっぱり少しは貯金するべきなんですよ。
そりゃナムナは強いからすっごく稼いでますけど、全部使っちゃうのは良くないです」
「うん、わかってるんだけど……」
……けど、我慢できない、か。
贅沢な悩みなのだろうが、カネ回りが良いと言うのが逆にあだになったのだ。
大物のドラゴンだってなんなく狩ってしまうナムナ(と、オマケで私)は
かなり『稼ぐ』部類のハントマンに属する。必然的に彼女のふところには、
この年代の少女が持つには不似合いなほどの大金が転がり込んできて――
金銭感覚が麻痺するまで、さほど時間はかからなかった。
「ごめんなさい、ナムナ。もっと早く気付いてあげれば良かったんですけど」
「……なんでジェリコが謝るんだよ。悪いのはあたいなのに」
「ううん。メンタル面も含めて仲間の様子に気を配るのがヒーラーの務めです。
お金というのはね、分不相応な額を持つと、麻薬のように人の心をむしばみはじめるんです。
いくら剣の達人だからってナムナもそういうところはやはり子供なんだし、
身近な大人が――私が、気を配っておくべきだったんですよ」
「…………」
いつもだったら『子供あつかいしないで!』ぐらいは言い返してくるナムナが今日はおとなしい。
獣耳もずっと垂れっぱなしだし、コレは相当ヘコんでいるようだ。
お小言はそろそろ切り上げて、私の恥でもさらして場を和ますべきだろう。
「ま、私も多少の浪費癖はあるからあんまり偉そうなことはいえないんですけどね」
それはもう、あぶく銭が入るようになっちゃったもんだから、夜の街での遊興費がガッツリ増えた。
もっとも私の場合、形として残らない物に使っちゃうからナムナと違って部屋はスッキリしてるのだが。
「なーんだ、ジェリコもかー。あははっ、あたいたちって似た物どうしだなっ!」
「ナムナ、同類を見て安心するのは人生の死亡フラグです」
「……うー」
「とにかく良くないクセであるのは間違いないですし、せっかくだからふたりで一緒に治しましょう」
「そだね」
まあ、こういう悪習はちょっとづつ治していくしかないだろう。一朝一夕にはどうにもならない。
「前にもいいましたけど、お小遣い帳つけてます? アレを習慣付けるだけでもだいぶ違いますんで」
「うん、つけてるよっ! ほら、これこれみてみて!」
子供らしい丸っこい字で浪費の経緯がずらずらずらと書き連ねられていた。
ちなみに私も同様のものをつけているが、それはもう人様にはとても見せられない項目で埋まっている。
「感心感心、じゃ、さっそく今買ってきたそれもつけときましょう」
差し出されたメモ帳に一通り目を通した後、ナムナが未だ手にしていた小さな紙袋を指差した。
そしてナムナが紙袋から取り出したのは――
「――髪留め、ですか。なかなかかわいいデザインですね」
「でしょっ?! ユーズドだったんだけど、あたい一目で気に入っちゃってさ!」
確かに悪くない。
装飾部はルシェの細工師の手によるものだろう、嫌味にならない程度に華美な象嵌が施されているのだが、
「ナムナ、それちょっと貸してもらえます?」
「んん? いーよー?」
「ああ……やはり蝶番がイカれかけてる」
止め具の部分は『こっち』の製品だ。精度がルシェとはぜんぜん違う。恐らくルシェの細工に
適当な金具をつけて無理やり装身具に仕立て上げたのだろう。まったく、いいかげんな仕事をしてくれる。
「え、えええっ?! そんなぁ、せっかく買ってきたのに……」
「ああ、そんな落ち込まないで。とりあえず応急処置したげます」
「ホントにっ?! ありがとジェリコ、だいすきっ!!」
しかし流石はナムナ、実に良いリアクションである。
獣耳の先っちょまでピーンと尖らせて驚きと喜びの入り混じった顔をしたかと思うと、
全身で飛びこむようにして私に抱きついてきた。
やれやれ、愛情表現がどこまでもストレートな子だ。まるで子犬だな。
――だけど正直、コレにやられてしまったのだと思う。
なんというかその……女たらしのこの私が、世間一般で言う
『純愛』とか言うものに目覚めてしまったのかもしれない。
ナムナのような未成熟な女の子にここまで惹かれる日が来るだなんて思っても見なかった。
だが、決してロリコンと言う無かれ。
たまたま心惹かれた女性が未成熟な女の子だっただけであって、
決して未成熟な女の子すべてが好きなわけじゃあないんだからねっ!
そして数分。自室から2,3部品を持ってきて修理完了。
「できました。ほら、これでガタつきがおさまったでしょう?」
「ホントだぁ……」
「ただ、あくまでも応急処置ですから。だから今度使わないとき三日四日貸してください。
そしたら根本から止め具を作り直して付け替えたげますんで」
「そんなの作るの大変じゃないの?」
「そうでもありませんよ。ルシェの男は手先が器用ですしね」
門前の小僧の習わぬなんとやらで、子供の時分から爺様の工房に出入しているうちに、
いつの間にやら私にもこの手の雑貨を作る技術が身についていた。
「はー、ジェリコは何でも出来るんだねえ」
そこまで感心された顔を向けられると少々気恥ずかしく、そして申し訳ない。
ハントマンとして肝心かなめの戦闘を私はナムナに頼りっきりなのだから。
「何でもじゃありませんよ、出来ることしか出来ません」
「ううん、ジェリコはホントにすごいと思うよ。やさしいし、かしこいし、
器用だし、怪我はすぐ治してくれるし……それに、カッコいいし」
いくらなんでも高評価すぎる。
私はそこまで出来た男じゃない。職業相応、年齢相応のことがやれるだけの話だ。
あばたもえくぼとは言うけれど、ナムナは『年上の彼氏』と言う物が出来て
のぼせて舞い上がってしまってるのだろう。
私は本当はかなりダメな部類の大人に属するのに、
そこまで信頼されてしまうとなんだかものすごく申し訳ない気持ちになる。
一人で勝手に打ちひしがれていると、ナムナが私の袖をくいくい引っ張ってきた。
「ね、ジェリコ、いっこお願いがあるんだけど……」
「なんでしょうか?」
「せっかく治ったんだし、その髪留め、あたいに付けてくれる?」
「はは、了解しました、お客様」
椅子に座らせポニーテイルに結わえていたナムナの髪をいったんほどく。
ナムナの髪は結構長くて、おろした姿もそれはそれで大変に愛らしい。
コレを見れるのは恋人ならではの特権だろう。
「どんな感じにいたしますか、お客様」
クローゼットの戸に付属してる大きな鏡を見せながら、ご注文をうけつける。
「高めがいいなっ」
「かしこまりました……このくらいで?」
「もっと高く」
「……こんなですか?」
「もっとがいい……」
「もっとって、これ以上あげたら……」
耳にひっかかる、と、言いかけて気付いた。
頭のてっぺんの獣耳がぴくぴくしてる。コレは……ナムナが『触って欲しい』時の動きだ。
「……このような感じですか、お客様?」
推論を確かめるため、柔毛に包まれたナムナの耳を軽く撫でれば、
「……ぁ、んんっ……うん、そんな感じ……」
甘い吐息をからめて可愛く返事してくる。
……ああ、なるほど。
ハナっからそのつもりで頭飾りなんて買って来てたのか。
いつぞやの一件以来、処女こそ奪ってはいないものの、
いろいろ可愛がってあげてるのでナムナの身体は男の味を覚え始めてる。
悪い子だ。イケない子だ。
発情期もちゃんと来てないお子様なのに、処女なのに、こんな男を誘うようなマネをして。
そう言えば最近ちゃんとかまってあげてられなかった。溜まっちゃってたんだね。
……だけどね、ナムナ、悪い子にはおしおきが待ってるって教えただろう?
「ではお客様、これなどいかがでございましょう?」
耳のふちを指先でなぞりながら、時々くにくにつまんであげる。
ビロードのように滑らかな手触りだ。あたたかく、そしてやわらかく、独特の触感が指に心地いい。
「みぅ……ぅうん…うん、うん、それ大好きぃ……」
最初の頃はくすぐったがるか、でなければ感じすぎて泣き出してしまっていたナムナの耳は、
数ヶ月間じっくり開発したげた結果、いまや立派な性感帯の一つに進化している。
「お次はどういたしましょうか?」
「なめて……みみ、なめて……」
よろこんで。
返事代わりに耳先をぱくりとくわえ込み、ぷるぷるとした食感を唇と舌で味わう。
「ふぁあぁっ……あ、あぁ、ジェリコ…いいよぉ……」
獣の親が子を毛づくろいしてやる要領で、唾液を軽く絡めつつ舌先で毛を撫で付けていく。
もっともその舌先には愛情だけでなく、幾分かの劣情も込められてる訳だが。
さらには口唇だけでなく、手櫛でナムナの綺麗な髪をすきながら頭皮全体を刺激していった。
「いかがでございましょうか、お客様?」
「それやめて、なまえで呼んでよぉ……」
ぷうとほっぺたを膨らませて不満げに言う。
「ああ、ごめんなさい、ナムナ……で、どうです?」
「きもちいぃ……」
「気持ちいい? 何の話ですか、ナムナ?」
「何の話……って」
「髪型に決まってるじゃありませんか。できましたよ」
口唇愛撫する合間も手は休めず、ご注文どおり高めに髪を結い上げておいたのだ。
仕上げにぱっちんと髪留めを付けて出来上がり。うむ、我ながら上出来。
さて、仕込みはこれまで。おしおき開始だ。
ナムナは鏡の中の自分をのぞきこみながら、
「え、ええぇ……えええっ?! か、髪型って…えっと、うん、素敵だと思う……けど」
「『けど』? 何がご不満なんです?」
「ジェリコのばか……いじわる。わかってるクセにぃ……」
愛撫を中断されて体がうずくのだろう、もじもじと身をよじらせている。
「ええ、わかってますよ。ナムナが髪をいじって欲しいと言いつつ、
本当は身体をいじって欲しがってるすけべぇな女の子だって事をね」
「あ、あ、あうぅぅ……あたいはすけべぇなんかじゃ……」
「違うんですか。じゃあ続きもやめますか」
「や、やめちゃだめっ!!」
「なら、正直に白状してください、自分がどんな女の子なのかって」
「あうぅ……あ、あたいは、あたいはぁ……」
「続けて」
「じぶんのっ、か、身体をいじって欲しいと思ってる……す、す…す………す……」
「『す』? 『す』がどうしたんです?」
「すけべぇなおんなのこ、ですっ!!」
頬を羞恥に染め、精一杯の勇気を振り絞り、ついにナムナは言い切った。
「ん、よく言えました。ごほうび欲しいですか?」
「うん、ごほうびほしい……」
「じゃあ、どんなご褒美が欲しいんです? おねだりしてみて」
ナムナの顔に絶望が広がる。次のハードルがあるとは思ってなかったようだ。
「ど、どんなって、どんなって……」
そこでもう、いろいろと限界にきたのだろう。
いきなりぽいぽいと服を脱ぎ捨て始め――キャミソールとぱんつだけの姿になったところで手が止まり、
「……して」
顔をうつむけ、目の端に涙を溜めながら、それだけを口にした。
ま、いじめるのはここまでか。
「まったく、こんなことの為に無駄遣いまでして。ナムナは悪い子です。
えっちな事なら普通に頼んでくればいくらでもしてあげますのに」
「だって……だって、恥ずかしかった……んだもん」
「次にこんなことしたらもっと恥ずかしいこと言わせますからね」
「あ、あうぅぅ、ごめんさ――」
奇襲攻撃、キスをする。その唇はいちご味。
んん……味つきリップグロスか。お子様向けの背伸びアイテムだが、自分の分をわきまえてるとも言える。
よく見ればナムナの顔にはグロス以外にも薄く化粧が施されていた。
子供だと思ってたらどんどん大人になってくる。こういう部分、女の子はやっぱり成長早い。
「お化粧、してるんですね。似合ってますよ」
「えへへへ、ありがと。頑張ったんだよー」
はにかむナムナをお姫様抱っこして、椅子からベッドへ。
「……ねぇ、ジェリコ」
「なんです、ナムナ?」
「きょ、今日は……最後まで、して、くれるの?」
出会った頃には何も知らないガキんちょだったナムナは、いつの間にやら一通りの性知識を身に付けていた。
ああ、畜生。そういう知識も含めてじっくり育てていきたかったのに、なんて事をしてくれる。
やっぱり都会はダメだな。特にスイーツ系の雑誌。アレがいけない。悪いことばっかり教えるんだから。
……もっとも私もこの年齢の頃にはこういう方面への好奇心で一杯だったから、人のことは言えないわけだが。
「うーん、ナムナの身体が大人になるまで我慢できませんか?」
「あたいはもう大人だよ……赤ちゃんだって作れるもん」
妹さんの一件があるから、子作りも無理な話ではないのだろうが、普通はもう2,3年待つべきだ。
どの道、サイズ比的に今のナムナでは私のモノを受け入れられないだろうから(裂けたら怖い)、
いましばし彼女の身体の成長を待つ必要があるんだが。
「だけどまだまだ成長の余地はあるでしょう?」
主に、胸とか、乳とか、おっぱいとか。
「だって……」
むう、今日はやけに食い下がるね。だったら大人トークでちょっと引いてもらおうか。
「まあそう言わずに。じーっくり時間をかけてナムナの身体を処女なのに感じちゃう、
やらしい女の子に開発してあげますから」
さすがにナムナはこういう直球の艶話にはまだまだ耐性がないらしく、
「しょ、処…って、や、やらし……って……ばかばかばか!! ジェリコのへんたいっ!!」
ほっぺたを真っ赤に染めると、ぽかぽか胸を殴ってきた。
痛い痛い痛い。前衛職なんだから後衛には優しくして。骨折れそう。
だけど男は我慢だ。痛みをこらえて笑顔を作り、優しげにナムナに語り掛ける。
「でも、ナムナだって、はじめての時から気持ちいいほうが良いでしょう?」
「えぇぇっ?! はっ、はじめて……って、えっと、その……そのぉ…………」
「いま挿れても私もナムナも痛いばっかりでちっとも気持ちよくなれないと思うんですよ。
それとも痛いほうがお好みで?」
「い、痛いのはやだよぉ……」
「じゃあ、私に任せてもらえます? ナムナをちゃんとオトナの身体にしたげますから」
最終的には精液を子宮で受け止めてイケるレベルにまで仕込んであげるからね。
「……うん、お願いジェリコ」
キャミソールをまくりあげてナムナの小さなおっぱい(ちっぱい)を露出させる。
そこはまだ刺激をくわえていないのに、官能に期待して桜色の突起がつんつんともう尖っていた。
「ナムナ、もってて」
そしてまくった裾をナムナ自身に持たせて固定させる。プレイ時には常になにかやらせて
参加意識をもたせるべきだ。でないと、受身のマグロさんになっちゃうからね。
「あぅぅ、恥ずかしいよぉ……あたい、ちっちゃいし」
「コレはコレで可愛くてアリだと思いますけどね」
「だけど……ジェリコはおっきい方が好きなんだろ……だって、その、
おっきい女の人がいたらいっつもねっとり眺めてるし」
うわ、観察されてる。お子様とは言えやはりこういうところはオンナだ。
「いやまあその。否定はしません」
「……ばか、えっち、すけべぇ、へんたい」
ぷくぅとほっぺを膨らませてすねる。こりゃ早急にご機嫌をとらねば。
「では、すけべぇなのでナムナの身体をいじっちゃいます……力を抜いて」
「……うん」
おおきくなあれと念じながら、食肉を下ごしらえするようにじっくりと
脂肪分控えめなナムナの胸を揉みしだく。ボリューム不足ではあるのだが、
若いだけあって(若すぎるが)流石に肌のハリときめ細かさは最高だ。
「ん……んふぁ……」
最近では、声はずいぶんオンナになってきた。
ただただ官能に翻弄されて悲鳴をあげる少女だった時期を終え、
オスを興奮させ、狂わせ、誘う、メスとしての艶を帯び始めている。
……が、本人はまだまだ羞恥が先に立つのか、声を聞かれないよう抑えているようだ。
「ナムナ。もっとすけべぇな声聞かせて?」
「やだ、やぁだぁ……恥ずか………あぁっ! んっ…ふあぁっ! いきなり吸っちゃやぁだぁっ!」
ちっぱいのてっぺんに口付けて舌先で転がしてあげた。興奮が進むほどに突起は薄い桜色から紅色へ。
慣用句的な意味ではなく、本当に乳臭い。年齢的にアウトの少女に手をつけていることを今更ながら実感する。
うすい乳房やちいさな乳首を充分濡らした所で唇を離すと、
「……うー」
なんだか不満げにうなり、潤んだ瞳でじっと見つめてきた。
もっとして欲しいけど恥ずかしくて自分からは言い出せない、そんな所だろう。
「自分でさわってごらん?」
ナムナの手を取り唾液にまみれた乳房へと導く。
「え、え、ええっ? え、えと、その……うん、やってみる」
戸惑いはあったようだが、やがてこっくりとうなずき、指先で敏感な突起をつまんでいじり始めた。
うむうむ、チャレンジ精神旺盛でたいへんよろしい。
「上手ですよ」
「こ、こんなの上手って言われてもぉ……ううぅんっ…ぜ、全然嬉しくないよぉぉ」
そんな事を言いつつも若い身体は実に向学心に燃えているようで、
どんどん気持ちの良いいじり方を発見していっているようだった。
さて、そろそろ良い感じにほぐれて来たかな、
……と、思ってナムナのぱんつの中に手を差し入れてみたのだが、さっぱり濡れてない。
うーむ。やはり発情期じゃないルシェはやりづらい。もちろん個人差はあるが、
男は勃たず、女は濡れず、気分が盛り上がってもヤれない事が多いのだ。(その意味では私は例外の部類だ)
おまけにナムナは子供だし、まだまだ心に身体が追いついてこないのだろう。
まあ、今日は挿入までは行かないし、時間をかけて可愛がってあげればいい。
「ナムナ、指なめて」
「んぅ……」
一旦ぱんつから引き抜いた指をナムナのちいさな唇にそえると、
そのままちゅぱちゅぱとしゃぶり始めた。
「んん、もう良いですよ」
指を唾液で適度に濡らし、再びぱんつへ潜り込ませる。
「ん、あぁ……ジェリコぉ……」
探り当てた幼い割れ目を指で上下にじっくりとなぞってあげる。唾液のぬめりでスムーズだ。
とは言え、この程度のお湿りでは、すぐに乾いて使い物にならなくなってくる。
「もう一度、指なめて」
「……ばか、へんたい、さわってた奴でしょ、それ……うぅ、ヘンな味がするぅ……」
文句をいいつつも、ぱんつから再び引っこ抜いた指を差し出せば、
ねっとりと吸い付いて指に唾液を絡めさせてくれる。まったく、素直で手のかからない子だ。
――と、同じ工程を2,3度くりかえして、ようやく秘唇はほぐれて花開き、蜜を分泌し始めた。
「やっと下のおくちが指をおしゃぶりしてくれるようになりましたよ」
「んやっ、ああぁぁ……そんなのイチイチ言わなくていいよぉ……」
だめだめ。君は恥ずかしいのが気持ちいい子だから、いっぱい辱めてあげないと。
そのまま蜜口をいじり続け、愛液でじゅうぶん指が潤ったあと、軽くナムナの中に進入させる。
「あ、あ、あ、入ってきたよぉ……」
「ナムナもそんなのイチイチ言わなくていいんですよ?」
「ばか、ばかぁ……やぁあぁ、そこ……そこおっ!!」
「『そこ』が良いんですか、イヤなんですか?」
「良いの、いいよぉ……つづけてぇっ!」
よし、じゃあ一番気持ち良いとこ行こうか。
指を膣口からずらして少し上――ぷくり膨れたクリトリスに愛液をまぶしていく。
「あ、ひゃぁあぁぁっ?!」
うん、いい声いい声。
少し前まで、指でのクリトリスへの刺激は強すぎて嫌がっていたのだが、
最近ようやくこの官能を享受できるカラダになってきたようだ。
だけど、身体そのものはまだまだ未成熟。肉芽の包皮は硬くてほとんど剥けない。
と、言うか剥いたりしたら痛くて泣き出してしまうだろう。
あくまでも優しく、包皮の上からこりこりするのが精一杯だ。
「大丈夫ですか? 痛くない?」
「あああっ、うんっ、だいじょぶっ! いい、いいよぉっ!」
脱がして置いてあげたらよかった。もうぱんつごとぐっちゃぐちゃだ。
まあ、コレはコレでおもむきがあって、わたくし大好きなんですけれども。
「んっ、んんっ……うぅううぅんっ!!」
おやおやおや。
一度は手ぇ止まってたのに、ナムナさんってば自分で乳首をまたくにくにいじってる。
無意識にやってるっぽい。そこを指摘したら恥じ入りまくった最高にいい顔を見せてくれると思うのだが、
今日のところはそのまま感じさせてあげたいので、あえて放置しとく。ああ、私ってなんて親切。
さて、乳首はセルフサービスで頑張っておられるので、私は下のおくちに集中しよう。
はじめてのときのアレを除けば、ナムナは今まで一番良い感じにとろけてきてる。
これまで入り口以外はいじったことがなかったが、今なら、指一本ぐらいなら入るかもしんない。
肉芽をいじる右手はそのままに、遊んでいた左手もぱんつの中に突っ込み、蜜のあふれる膣口をいじくる。
「ナムナ。指、挿れちゃっていいですか?」
「……え、うん……その、指って、ナカに?」
「ええ」
「お、お願いします」
ヘンな所で礼儀正しい。きっと親御さんの教育がよかったのだろう。
ごめんなさい、親御さん。出来たお子さんなのにこんな台無しにしてしまって。
「ん、あぁぁああっ?!」
膣口に中指を沿えじっくりと押し込んでいけば、ナムナは白い喉をさらすようにびくんとのけぞった。
「ふあぁぁっ?! ゆ、ゆびっ!! はいって、はいってきてるのぉっ?!」
「ええ、入れてます。ナムナのナカに入れてます」
そのまま行きつ戻りつじっくりとほぐしながらナムナの膣を犯していく。
快感に慣れた入り口の部分を通り過ぎ、まだまだみっしりと肉の詰まった中ほどに指が届く。
「痛くない? イヤなら抜きますよ?」
「だ、だいじょぶっ……ちょっとだけ、痛い、けど、イヤじゃ……ないから」
オーケー。ならば続行だ。
そしてついには中指は根元までナムナの中に飲み込まれ、指先は彼女の最奥に届く。
「あ、あうぅぅ……そ、そこは本当にイヤ、い、痛い、へ、ヘンないたさ、だよぉ……」
流石に子宮口の仕込みはまだ早いか。
「わかりますか? 今さわってるところが、赤ちゃん作る部屋です」
「……ぁ、ここが、そうなんだ」
女性の本質とも言うべき部分をいじくられ、なにやら感慨深げにぽつりつぶやく。
「頑張りましたね。いちばん奥まではいりましたよ」
「うん……」
「頑張ったごほうび、あげましょうか?」
「うん、ほしい、ごほうび、ほしい」
膣に異物を受け入れたと言う事実がナムナをひどく興奮させているのだろう。
涙で濡れた目はどこか遠くを見て、上ずった声で甘え、おねだりしてくる。
じゃあ、イカせてあげよう。
いつの間にか自身の乳首をいじっていたナムナの指がお留守になってる。
私の両手は下のおくちでふさがっているので、唇でくわえてねっとりなめてあげることにする。
「あ、あん、やぁ……それ、すき、すごく、すきぃっ」
挿入した中指はあまりにも膣肉がぎちぎちと硬すぎるので本格的な抽送を断念し、
代わりにクリトリスをつまんだ指の力を強め、右へ左へゆすらせる。
「ジェリコ……っ、あたい、もうっ……もうっ……あぁぁ、だめぇっ!」
「ナムナ、こんな時はどういうか教えたでしょう?」
「あ、あ、あ、あ…イクっ! イッちゃぁうっ!」
はい、よく言えました。正解のご褒美にトドメをくれてあげましょう。
歯とのあいだに唇をかまして乳首を甘噛みし、同時につまんだ肉芽をぎゅうっと押しつぶす。
「あ、ああぁぁっ?! ああああぁぁっ!!」
たまらずナムナは登りつめた。
達した余波で私の中指をくわえ込んだままだった膣肉が、きゅ、きゅきゅっと伸縮する。
膣内ばかりかナムナの身体全部がが子供の身で味わうにはまだまだ
強烈過ぎる性感に翻弄されて不随意運動でがくがく震え――
「ふにゃぁ……」
――やがては全身から力が抜けてくってりと弛緩し、私に体を預けてきたので
ぱんつから手を引っこ抜き、なるべく優しく抱きしめてあげた。
「どうでした?」
「大事なところ同士じゃないけど、カラダがジェリコとつながって
嬉しかった……すっごくうれしかった、よぉ……」
まずい、なんて可愛すぎることを言うんだ。
あえて萎えた状態をキープさせておいた私の愚息にどんどん血液が流れ込んできてしまう。
ええい、ご奉仕させる直前まで萎えさせておいて、大人の余裕って奴を見せ付けてやろうと思ったのに、
お子様相手になんてザマだ。
まあ、勃っちゃったものはしょうがない。攻守を交代して一本抜いていただこう。
「じゃあ、ナムナ。今度は私を気持ち良くしてくれます?」
「うん、ジェリコ……って、あああああっ?!」
……いや、私はまだなんもしてないよ?
素っ頓狂な悲鳴をあげたナムナの視線を追っかければ、そこには時計、午後3時。
「ごっ、ごめんっ、ジェリコッ!!」
たれてたナムナの獣耳がびくんと元気よく立ち上がり、
さっきまで性感にとろけていた表情に、みるみるうちに理性が戻ってる。
「……どうかしたんですか、ナムナ?」
「あたい、メナスさんから大統領府の兵士さんたちに稽古をつけてやるよう頼まれてたんだ!」
「な、なんですってー?!」
「ホントごめんっ! 埋め合わせは後でするから、行かなきゃっ!!」
そのまま飛び出していこうとするナムナを、
「ナムナっ!! 服っ!! 服っ!!」
慌てて呼び止めれば、
「……え?」
彼女は自分が情事の後のとんでもないカッコをしてることにようやく気づいたらしく、
「き、着替えるから、でてってーっ!!」
顔を真っ赤にして私を部屋から追い出した。
…………えーと、何この置いてきぼり感。
うん、これはもう仕方がないよね。
夜の町(まだお天道様は余裕で登ってるけど)に遊びに行きたくなっても仕方がない。
無駄遣いをやめることを互いに約束したばかりだけど、こればっかりは不可抗力だよね。
食・寝・色の動物の三大欲求って、あんまり我慢すると身体に悪いし。
昼間だったら割引も利くから、今すぐ行ったほうがむしろお徳だし。
それにほら、風俗って浮気じゃないからね。ぜんぜん大丈夫。ぜんっぜん。
♂♀
投下終了。
以下余談。
そんなわけで、長らく書く書く詐欺状態だったナムナとジェリコの続きのお話をお届けします。
待ってた方にはお待たせしてしまって申し訳なかったっす。
ウチのジェリコさんは本当にダメな人なんですが、大丈夫。後編にはもっとダメな人がでてきます。
GJ,このコンビの続編を待ってました。
しかし実によいダメルシェですねw
別の続編にも期待しつつ気長に待ってます。
GJ!このコンビいいなあ、うん
ダメ人間って隣から見る分にはけっこう魅力的なんですよねえ実際問題
亀だがGJ
スケコマシも惚れてしまったおにゃのこの誘惑には勝てないわけですな
ところで質問なんだが、
「プリンセスの職業についてる子」の実際の身分について、各々どういう妄想してる?
ちなみに俺は、
「王位継承権の第一位が欲しい王女。教養を身に着けるための旅をする上での隠れみのとしてハントマンをしてる」
と妄想してる。
マレアイアの裏の産業として王位継承権の低い王女は高級娼婦として出荷されるけど
その中で運よくナイ子さんなりに逃がしてもらった子がハントマンとして生きている
鬱姫は希少な男の子として生まれ、娼婦用男の娘として育成・調教された後に調教役の金メイジさんに
不特定多数の男女とやらせたら面白いだろうなーという気まぐれで誘拐されて連れ回されてる
職としてはけっこういっぱい居そうだから、
あくまで歌姫って意味のプリンセスで
実際には庶民〜精々いいとこのお嬢様くらいってイメージだった
でも仲間からは姫とか女王様とかって冗談混じりに呼ばれてて
そのたびにやめてください〜って恥ずかしがる麻呂姫なんか可愛いと思うんだ
自分は普通に、マレアイアの女王は歌の力が強い者が選ばれるから、歌の修行の為のハントマン生活かと思ってたな。
でも結局SSの場合は作者さんの自由でいいよね。
亡国のただ一人の生き残りの姫でも、マレアイアのただの一般の姫でも、
事情があって姫のふりをしているおとこのこでもさ。
高級娼婦という発想はなかったけど、これはいいかも
で、買った客のところへ連れて行かれる途中で逆らったりして
折檻されてるところを、誘拐と勘違いした騎士男に救われたり…
で、お礼はもちろんお約束通りの展開で。
戦いの選択の続き投下です。
注意事項
・エロ無し
・ゲーム本編との矛盾あり
・ゲーム終盤のネタバレ注意です
・メナスのネーミングセンスが酷い
こんなの無理に決まってるだろ!な方はタイトル『戦いの選択』NGお願いします。
登場人物
ソウマ・若サムライ。主人公。一応貴族。艦帝竜と炎帝竜を撃破。ヒビがあるが一応鋼の精神力。
エリス・ルシェメイジ。元奴隷。ソウマのためなら素早く目覚めます。
リア・ルシェプリンセス。元奴隷。本当にぐっすり眠っていたのかは定かではない。
アリエッタ・ジェン爺の宿で働くルシェのメイド。ソウマにお礼を体で払おうとする。
メナス・まだ名前だけの登場。上から目線のメガネ。ネーミングセンスがとにかく酷い。
ノワリー・ザ・パシリ。空帝竜を倒していないので、徒歩で各地を疾走する羽目になった。
64 :
戦いの選択:2009/07/13(月) 00:04:23 ID:TWtNNS3P
→B エリスが目覚めて止めてくれる
のを期待したいが……目覚めたら目覚めたで別の問題が……!
「ほら、横になって……?」
服を脱ぎ捨て、産まれたたままの姿になったアリエッタに押し倒される。
……前衛職の私が、一般人に簡単に押し倒されるのはどうなんだろうか?
いやそんなことは今はどうでもいい。この体勢は最早絶体絶命である。
「ア…アリエッタ……やめるんだ。今ならまだ間に合う……!」
「大丈夫だよ……」
「大丈夫ではない……!いや、そもそも…何が大丈夫なんだ……」
「私はそういう商品……『物』だから……気遣いはいらない……」
「そんなことはないっ……君は『物』ではない……!」
「……ありがとう………」
喋っては後退、喋っては後退を繰り返して逃走を試みたが、とうとう壁にぶつかってしまった。
アリエッタも礼を言いこそすれ、私の寝間着から手を離さずににじりよってくる。
前門のアリエッタ、後門の壁……限りなく詰みに近いこの状況。
こうなったら頭突きでこの壁を壊して、そこから隣の部屋に逃げるしか……!?
駄目だ……隣の部屋の客人に通報されるだろうな。
それ以前に頭突きで壁を破壊するという発想が馬鹿げている。
頭突きの威力など、たかが知れてい
「ななななななにをしてるんですかああぁぁぁぁ!!!」
エリスの
ロケットずつき!
こうかはばつぐんだ!
マナのそれとは異なる、実体をもった白銀の弾丸――
エリス渾身の滑空頭突きがアリエッタに炸裂した。
65 :
戦いの選択:2009/07/13(月) 00:05:17 ID:iL3tKYQc
衝撃の光景から約1秒後、どさり……とエリスとアリエッタ、両名が床に倒れ伏す。
が、すぐさまに頭をさすりながら二人ほぼ同時に起き上がる。
おそらく、エリスのあのふわふわの耳が激突時の衝撃を拡散させたのだろう。多分。
なんにせよ、ギリギリだったが素晴らしい助け船だ。やはり私の選択は間違っていなかった!
「いたたた……いきなり頭突きって……何するの……?」
「それはこっちの台詞です!ソウマ様に何をしているんですか!?」
「何って……こういうことだよ?」
「そん…な……」
さらりと言ってみせるアリエッタと、ガクリとうなだれるエリス。
何か……凄く嫌な予感がして仕方がない……選択を間違えた、そんな予感が……
「ソウマ様……」
目に涙を溜めたエリスがこちらに顔を向けてくる。
「いや……捨てないでください……っ!」
そして、それとほぼ同時に飛び付かれ、泣き縋られた。
「え…?え……!?ど…どうしたの……!?」
突如泣き出したエリスに驚き、アリエッタが慌てふためくが、
私は落ち着いてゆっくりとエリスの頭を撫でる。
エリスと出会い、初めて会話した時も、取り乱した彼女はこの言葉を口にした。
『捨てないで』……あの時と同じ言葉。
エリスの幼少期、筆舌に尽し難い過酷な境遇、奴隷としての生活を表した言葉。
どんなに悪逆無道、この上なく冷酷な主であっても彼女は捨てられる事を恐れたらしい。
幼い自分がいきなり外に放り出されては、生きのびていくことが不可能だから……
それもあっただろう。しかし、本当の理由は違うように思える。
エリスは……独りになるのが怖いのだろう。
どんな仕打ち、虐待以上に、孤独になることが、何よりも……
先程、エリスの目に私とアリエッタはどう映っただろう?
服がはだけている私と、服を着ていないアリエッタ。
暗い室内、そしてこの時刻である。
……何も知らない者が見たら、『私が』アリエッタに夜伽を命じたように見えるだろう。
これまでに何度かエリスのその手の話を断っていた私が、
会ったばかりの使用人の少女にはそれを平気で行う……
誤解ではあるが、エリスはそれを見て自分が『捨てられた』と思ったのだろう。
そんなことは、ないというのに……
「エリス……落ち着いて……大丈夫だから……」
「うっ…ぁぁ……」
未だ泣き続けるエリスの頭を、こちらも撫で続ける。
ただただ、撫で続ける。
66 :
戦いの選択:2009/07/13(月) 00:06:12 ID:iL3tKYQc
しばらく撫でて、ようやくエリスは落ち着いてきた。
「……落ち着いたか?」
「ひっく……ソウマ様…やっぱり……胸が大きい人の方が…いいんですか……?
だから……アリエッタさんの方を……」
「いや「ごめんね……悪いのは私の方……」」
私の言葉よりも早く、アリエッタがエリスに頭を下げる。
服もいつの間にか元通りに着こなし、そしてここに到るまでの経緯をエリスに説明してくれた。
「本当……ですか?」
「うん…押し掛けたのは私の方。……これ以外、お礼の方法がわからなくてさ……」
「でも!助けてくれたお礼を体で払うのは間違っています!」
「いやエリス……君も最初私に同じことをしただろう……?」
思わずツッコミを入れると、エリスは顔を赤くしてうつむいてしまった。
しかし、ツッコミはしたが、二人は決して悪くない。
そもそもの発端、諸悪の根元は、そんな礼の仕方を教えた者達なのだから……
「それじゃ二人とも…本当にごめんね……お礼は別の方法考えるから……」
そう言ってアリエッタは部屋から出ていこうとするが、扉を開けたところで立ち止まった。
「ね、ソウマ、今夜はエリスと一緒に寝てあげなよ。…その方がきっと落ち着くだろうし…さ」
どこか寂しげな声でそう言い残し、今度こそアリエッタは部屋から出ていった。
「……ごめんなさい」
それを見送るエリスも、小さな声でそう呟いた。
が、すぐに私側に向きなおし、正座をして私の眼を見てきた。
「ソウマ様……また取り乱してしまいましたが……
本当によろしいのですか……?私は……ご迷惑なだけなんじゃ……ん!?」
言い終える前に、その小さな唇を塞いでやる。
……普段の私なら、多分とらない行動だろう。
アリエッタに飲まされた薬の影響か、先程のエリスの悲痛な叫びの影響かはわからないが……
ただ、そうしたかった。
しかしそんなに時間はかけずに、エリスを解放する。
「そんなことはない……エリス、あの日、約束しただろう?……君を独りにすることはない」
「!!……はい!」
嬉しそうに、私の大好きな笑顔でエリスが私の胸まで飛込んでくる。
再びその頭を撫でながら、二人で布団に潜り込む。
が、
「それじゃ、おやすみエリス。いい夢を」
「おやすみなさいソウマ様……」
夜に男女がひとつの布団に潜り込んでも、私は『昨夜はお楽しみでしたね』のイベントは起こさない。
これはけじめであるし、さっきアリエッタにそう言って直後でもあるし。
……
…………
正直に言うとかなり我慢しているのだけれども。私だって聖人ではないし。
アリエッタのあの薬、効果持続時間はわからないが、かなり厄介な置き土産である。
すぐ横で、早くも安らかな寝息をたてて微笑んでいるエリスを見ると……非常に危ない。
「……まいったな」
小声で愚痴をこぼすが、状況は変わらない。
しかもしっかりと腕を背中に回されているので動くことさえままならない。
……これは今夜は眠れそうにない。
頭の中で気分を限りなく盛り下げる映像を何度も再生する。とにかく、別の事を考えねば。
そんな状態で、夜が更けていった。
67 :
戦いの選択:2009/07/13(月) 00:07:11 ID:TWtNNS3P
「だ……大丈夫ですかソウマ様?顔色が真っ青ですが……」
「だ……大丈夫だ……」
結局一睡もできず、過去の父上の酒宴での醜態などを思いだし続けたら吐き気までしてきた。
……子は親に似るというが、私もいつかああなってしまうのだろうか……?
「スー…スー…」
リアはまだ寝息をたてているが…昨夜のやりとりなどを聞かれてはいないだろうか……?
確認のしようがないが……聞かれていないと思う。多分……
「おはよう!朝ごはん持ってきたよ」
と、そこに朝食を持ったアリエッタがやってきた。
「ん?確か注文はまだしていない筈だが……」
「……これは昨夜のせめてものお詫び。タダでいいよ。あ、あとね……」
何かを思い出したように、エプロンのポケットの中を探すアリエッタ。
そして出てきたのは……
「これ…!今朝の新聞なんだけど…『帝竜ジ・アース討伐される』…だってさ!折角だから読むね。
西大陸を制圧していた地帝竜ジ・アースが昨晩、ユグドラシルとネバン連合軍に討伐された。
先日、謎のギルドによって艦敵竜ドレッドノートも討伐されており、
残る帝竜は炎帝竜フレイムイーター、空帝竜インビジブルの二体のみとなった。
帝竜最強とされているキングは既に討伐され、残る帝竜も僅かな今、
平和な未来は限りなく近いと言っても過言ではないだろう。
また、艦帝竜を討伐したギルドの正体は未だ謎のままだが、いくつか情報が入っている。
一人は、鬼のような形相で竜を粉々に切り刻むという、恐ろしいサムライ。
一人は、銀髪の魔術師で、そのマナの弾丸は正確に敵の眉間を貫くという。
最後の一人は、帝竜の砲撃を完全に防ぐ程の防壁歌を操るという、驚異の歌姫。
この三名に対し、カザンのメナス補佐官は便宜上、以下の仮称で呼ぶことを決定した。
サムライ『殺戮の凶刃』・魔術師『魔銀の狙撃手』・歌姫『戦慄の旋律者』
この謎の三名の情報提供者には大統領府から特別金が……あれ?二人ともどうしたの?」
「い…いや…なんでもない……」
「もうすぐ平和になるんだってさ!いいニュースだよね」
「そ…そう…ですね……」
ぎこちない笑顔を浮かべた後で、エリスと顔を見合わせる。
……確かに、帝竜討伐はいいニュースだ。だが……後ろにあった余計な文。これがまずい。
どう考えてもその『謎の三名』は私達であって、しかも恐ろしく脚色されている。
さらには妙な二つ名までつけられる始末。しかも害を為す敵のような名前である。
特に私の『殺戮の凶刃』なんて、どう聞いても人間を死の淵に沈めるFOEの様な名前である。
カザンのメナス補佐官……この酷いネーミングセンスの持ち主を、私は一生忘れないだろう。
そして、私達の情報提供者には特別金が出る……これは…捕まえる気なのだろうか?
「ほら!折角のいいニュースなんだし、ご飯もきっと美味しいと思うよ。リアも起こさないと…」
「す…すまない」
まあ確かに、後ろを気にしなければいいニュースである。
わざわざ持ってきてくれたアリエッタの為にも、ここは美味しく朝食を頂くことにしよう。
そう思った、その時
外が、空が、暗くなった。
68 :
戦いの選択:2009/07/13(月) 00:08:16 ID:iL3tKYQc
窓を開けて、暗くなった空を慌てて見やる。
雲は一切ない快晴の天気の筈なのに、何故か空は淀んでいた。
そしてその空の一点に見えるは紅い星。
いや違う。凄まじい速度でこの星に飛来する『何か』だ。
それは、見る見る大きくなり、そして北の大地に突き刺さった。
その瞬間、衝撃が走った。
着弾点である北の大地も、今いるこの東大陸も、恐らく離れた西大陸も……
この星そのものが、衝撃に揺れた。
揺れが収まり、ここからでも視認できる紅い『何か』をもう一度見る。
それはまるで、フロワロの様な紅と紫を基調にした色で。
それはまるで、生きているかの如く怪しくうごめいていて。
それはまるで、開花する華の様に大きく広がって。
そして
声が聞こえた
『おはよう…エデンの諸君』
低く、響き渡る声で、あの紅い『何か』の上から
世界中を絶望させるような、そんな声で告げられる言葉
帝竜が減り、人が平和な未来に望みを持ったばかりだというのに……
まるでそれを嘲笑うかの様に……
今まで世界中で頑張ってきた人の思いを無に帰す様に……
それは突然、なんの前置きもなく現れた……
『我はグレイトフルセブンスがNo3…真竜ニアラ。その名において、この星の全てを喰らう!!』
その日、新たな災厄『真竜』の声は、確かに世界に恐怖をもたらした。
69 :
戦いの選択:2009/07/13(月) 00:09:23 ID:TWtNNS3P
真竜の襲来から、一夜が明けた。
「……」
「……」
「……」
私も、エリスも、リアも……無言であった。
「おはよう……朝ごはん…持ってきたよ……」
そしてアリエッタも……必死に笑顔を作ろうとしているが…無理をしているのがよくわかる。
原因はおそらく、真竜ニアラと、昨日の夕方の号外新聞だ。
その内容は……あまりに惨いものだった。
突如来襲してきた真竜ニアラに対し、プレロマは秘密兵器『千人砲』で攻撃。
撃破には到らなかったものの、深手を負わせることには成功した……
この記事だけを見れば、もう一発千人砲を使えば倒せる!……そう思うだろう。
しかし、千人砲にはある犠牲が伴っていた。人の…千人の命である。故に千人砲。
今回千人砲の人柱となったのは、全てがネバンプレスの住人……ルシェだった。
しかし彼らは、無理矢理ではなく、自らの意思でそれを希望したという。
誇り高きルシェの魂は、次の世代の者に受け継がれると言って、躊躇いもなく……
そしてそれだけの犠牲を払っても真竜ニアラは倒せなかった。
喰らった攻撃を吸収し、以後無効化する能力と驚異の再生能力。これが真竜ニアラの力。
この能力のせいで千人砲はもう二度と通用しないうえ、早くしないとその傷まで癒えてしまう。
そのうえ、問題はまだあった。
「……これ、いいかな?」
「うん……」
すっかり元気を無くしたアリエッタから新聞を受けとる。
たった一日で、こんなに変わってしまうとはな……
そして新聞の内容も、一日で大きく変わってしまった。
一面を飾るのは『装真竜ヘイズ』による被害状況。
装真竜ヘイズ……
千人砲の砲撃で動けないニアラの代わりに人間の『刈り入れ』を任されたニアラとは別の真竜。
そのヘイズは拠点としてミロス付近のバロリオン大森林を選び、そして……虐殺を始めた。
新聞の一面、被害状況…犠牲者の数は……はかりしれなかった。
ミロス第二、三、五、六、八騎士団は一人残らず死亡。
せめて遺体の回収だけでも…と向かった14のヒーラーギルドも一切行方がしれない。
千人砲の犠牲になった者の敵討ちにと飛び出したルシェ騎士団も未だ帰らない。
真竜を討伐し、名をあげようとして壊滅した一般ギルドもかなりの数だ。
たった一日、たった二体新たな竜が来ただけで、人間と竜の力関係は再び逆転してしまった。
そして今度は……
三年もの猶予は……
間違いなく存在しない。
このままでは一月と待たずに……人間は滅びるだろう。
70 :
戦いの選択:2009/07/13(月) 00:10:15 ID:TWtNNS3P
アリエッタが持ってきた朝食も、美味だが喉を通らない。
千人砲で散ったルシェ、人々の心に恐怖を植え付けたニアラ、そして今も人を刈るヘイズ……
それらに対する思いが、部屋の空気を重くする。
コンコンコン……
「…?誰だ?」
その空気を一時的に破ったのは扉のノック音。
しかしアリエッタはここにいる。一体誰が…?
などと考えているうちに扉が開いた。
「はぁ…はぁ…この中に…ハントマンの方はいらっしゃいますか!?」
息を切らして現れたのは深緑髪の若い男だった。見しらぬ顔である。
確かに私達はハントマンではあるが、何故いきなり私達の部屋を訪ねてくるのか…?
「何故ハントマンを探しているのだ?」
とりあえず、まずは自分達の正体を隠して、相手の出方をうかがってみる。
「申し遅れました……私はノワリー。プレロマ学士長代行です。
現在真竜ヘイズ並びに真竜ニアラ討伐のために各地に散らばっているハントマン……
ギルドに、カザンに集まるよう招集をかけているんです。あなた達は…ハントマンの方ですか?」
「……っ」
返答に困った。
予想外の人物の来訪で驚いたのもあるが、問題なのは話の内容。
真竜ニアラと真竜ヘイズの討伐……確かにそう聞こえた。
絶望のどん底にたたき付けられ、殆んどあきらめていた人類に、
まだこんなことを考える人が残っていたとは……
私は……
A 滅びてなるものか。誘いにのり、三人でカザンに向かう。
B あがいても手遅れだ。残り少ない時をエリスと過ごす。
C プレロマは千人砲を使った国で信用ならない。独自で真竜対策をたてる。
D エリスとリアの心の傷が心配だ。一人でカザンに向かう。
ここまで。
書き始めたらあまりにも危険な嫉妬劇になってしまったので修正しました。
前回全部の選択肢を書いてくれれば〜とのお言葉をいただきましたが、残念ながら無理です。
一応選択肢にしてはいるので大体の話の展開は頭に出来ていますが、体力持ちませんので……
それではまた。
GJ!!!
これまた迷う選択肢…。
本編とは違うお話のCで!
無理はしないでください〜w
GJ!
下の選択肢がどうにも死亡フラグに見えてしまうのでここはAで!
しかしイカルガのもローグ日記のも今回のもゲーム本編以上にヘイズさんが強そうに見えるなぁ・・・
この状況で犯罪者<ハントマンな気がするのでAで。
まぁ、ソウマ君は悪い事してないんだけど
「働きによってはこれまでの罪を帳消しにします」とかなんとかで
晴れて陽の元を歩いてほしい。
ロケットずつき使うなw
無難にAを選ばせて貰おう。王者の剣とかも出てくるかな?
しかしどうでもいいけど、なんでメナスは紅杭の塔が降ってきてすぐに塔だとわかったんだ?
どうみても塔にはみえないだろ普通…
グレイトフルセブンス(笑)のニャー様相手ならてこずることは無いな
Aで
こんばんは。なんか保管庫のうpろだのほうで色々あるようですが大丈夫でしょうか。
新しいのが出来たので投下します。以下人名対象一覧
カエラ:第一人称。デコログ。 姉御:女サムライ。カエラの師匠?名前はサクハ。
彼:眼鏡平。 リーダー:ファイター。 副長:緑ナイト。名前はシンシア。
ギルマス:帽子メイジ。 姫ちゃん:偽鬱姫。
・エロなし
・厨二病全開
・容量デケー
NGはタイトルでどうぞ。
――カザン共和国、市街地、西門前広場
嫌な気配を孕んだ風が、あたし達の間を吹きぬけた。
その遥か上空では薄暗い雲の中を稲妻のような不気味な燐光が走る。
城壁の上に見える空が、北西の方から赤く、赤く染まっていった。
『無数の竜の侵略により、滅びの花(フロワロ)に覆われた世界』
シャリ…シャリ……
見上げるあたし達の足元で静かに音が鳴った。
石畳に、露天の棚に、民家の屋根に。
あらゆるところにフロワロが覆い、見る間に美しく咲き誇ってゆく。
『数奇な運命に導かれ、セブンスドラゴンに挑む者達』
それは悪夢のようなおぞましい光景だった。
けれど、あたし達は誰一人として戦意を失う者はいない。
あたしの傍らで刀を抱える姉御も、
今やフロワロに覆い尽くされた石畳を踏みしめる名も知らぬハントマン達も、
城壁の上で弓を、魔導の道具を携える人たちも。
『――そして、理想のため、名誉と富のため、自らの正義のために命知らずの冒険に挑む者たち』
上空を、また幾筋もの不気味な光が通り過ぎていく。
その光の中に、この星を喰らう忌むべき者達の影がかすかに見えた。
来る。
北の空に目を戻せば、災厄を宿した流星が、今度はここに落ちるコースで近付いてくる。
この場にいるすべてのハントマン達が、呼応するかのように武器に手を掛けた。
次々と、奴らを迎え撃つために武器を抜く音が響く。
『人は彼らを――』
「いくぞ、ここからは待ったなしだ」
姉御がそう呟いてくる。
傍にいる知人は姉御だけだ。他の人とはメナス補佐官の苛烈な激励の後、その場で別れた。
「うん、分かってる」
あたしは短く答え、光の落ちるルートと頭の中の地図を符合させていった。
それから、思い出したように姉御に向かって笑いかける。
姉御は呆れたように、でもしっかりと笑って頷き返してくれた。
今、あたし達の遥か後方で、最初の流星がカザンに落ちた。
『――冒険者(ハントマン)と呼んだ』(プレロマ非開架図書『セブンスドラゴン』第零章より)
――数日前、ギルドホーム
「さて」
ギルメン七人が集合し、食堂のテーブルに集う。
「いつも行き当たりばったり運営の僕達がこうして集まってもらったのは他でもない、
……ついに来た。大統領府よりカザンに在籍する全てのハントマンへ」
ギルマスの手にあるのは見るからに高級そうな公式文書の封筒だ。
「公式ミッションか。この時期にそんな大規模な発令、というだけで内容がわかるな」
「大仕事なんでね、一応説明させてもらおう」
それをテーブルに置き、ギルマスは淡々と語り始めた。
「人類滅亡へのカウントダウンはついに秒読みの段階に入った。
プレロマの予測したニアラの最速再覚醒時刻まで残り数日を切り、『新たなる英雄』は
何だかよく分からないが最終決戦兵器を手にニアラの居城に踏み込んだ。
近日中にニアラと接触、交戦に入る。勝率は……不明だ。
ただ言えることは、この戦いで少なくとも確実にニアラに深手を負わせることができるだろうということだ。
そして二度目の休眠はない。そのときは人類が必ずニアラの寝首を掻く」
「それはつまり」
「守りに使える配下がいなくなった今、向こうもここで決着をつけるしかない」
リーダーが合いの手を入れた。
そして、ギルマスの言葉が意味することがあたしにも分かってくる。
「戦えるうちに『新たなる英雄』も全世界の人類も片付けてしまおうってことだね」
「そう。持てる全ての力を使った総力戦に出る可能性が高い」
「全世界に対しての攻撃……無謀なようでいて真竜の力を持ってすれば不可能ではないかもしれませんね」
「この予想を受けて、どこの国でも決戦に備えて軍の準備を進めている。
軍を持たない国も同様だ、マレアイアには強力な結界がある。そしてカザンには」
「あるいはどこの軍にも勝る、ハントマン達がいる」
「大統領府よりカザンに在籍する全てのハントマンへ。
これはメナス補佐官からハントマン達に当てた、カザン防衛作戦への協力要請だ」
作戦における各ハントマンの立ち位置や命令系統などの質問が終わり、一段落着く。
「俺達は東門で防衛班、サムライとローグは遊撃班、お前は城壁で射撃班か」
「そして?ヒーラーとプリは救護所で衛生班。この分だとかなり判断は現場に任されそうだな」
「あと、何か聞きたいことのある人は?」
「ない」
「特に」
「正直、今回のミッションの成功確立は過去最高だ。……成功確立は、だ。
敵の総力が総力だけに個人個人の危険度、死亡率もまた過去最高だ。気を引き締めて頼む。
これまで僕はなんでもかんでも『大丈夫、大丈夫』で済ましてきたが今回は……
いや、今回も。どうか、『大丈夫、大丈夫』で済まさせて欲しい」
真面目な口調に誰もが真剣に頷いた。
「これまでも修羅場は潜り抜けてきたんだ、心配あるまい」
「だね」
姉御が前向きな意見を出す。
それにあたしは同意したというのに、返って来たのは意地悪な笑いだった。
「ま、この前みたいにわざわざ自分から危険の中に突っ込んでいかれてはどうしようもないがな?」
「「「ぐっ……」」」
刺されたのはあたしだけではない。
件の事件で死に掛けたメンバーがそろって呻きを上げた。姫ちゃんは知らん顔だ。
「あー、他に何か言いたいことのある人は」
「ない」
「ありません」
「よし!では連絡終了!各自戦いの準備をして、ゆっくり休んでおくように!
……なに、いつもどおり片っ端からぶっ飛ばせば問題ない」
それはあたし達、歳若いメンバーに向けた言葉らしい。
勇気付けるようにギルマスは続けた。
「見敵必殺、攻撃は最大の防御、ただし油断大敵!
たしかこういうことわざがあったはずだ、殺られる前に死ね!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……殺られる前に殺れ!!」
「言い直した!?」
「てか間違えた!大事なところ間違えた!!」
「殺られる前に殺れ!!」
「いや分かったから」
「二回言った!」
「ええい、うるさい!解散!これにて終了だっ!」
――――――――――――――――――――
――現在、西門前広場
【来た!ドラゴンだ!】
「こっちに三体来た!応援頼む!」
「今行く、ちょっと待て!」
【来た!ドラゴンだ!】
「こっちも片付いたぞ!手が足りないところは!?」
「向こうに二体!あれを頼む!」
「まかせとけ!」
【来た!ドラゴンだ!】
「陸上型のドラゴンは!?」
「まだ来てない!全部王者の剣が食い止めてる!」
「……大統領府前広場が手薄だそうだ!誰か応援に行ってくれ!」
【来た!ドラゴンだ!】
「分かった!私たちが行く!!」
【来 た ! ド ラ ゴ ン だ !】
剣戟と叫び声と魔法弾と矢の飛び交う混沌とした戦場の中、「行くぞ」と一言姉御が走り出す。
目の前の一匹を斬り払い、あたしはすぐさまその後を追った。
いたるところで死闘を繰り広げるハントマンとドラゴンの間をすり抜け、
立ちふさがる敵を片っ端から斬り飛ばしながらあたし達は北へ向かって駆け抜ける。
北東を見上げれば大統領府の時計を掲げた城門が見えた。
「ひああああぁぁぁぁ!!いやあああッ!!」
飛んできた悲鳴に思わず足を止める。一拍遅れて姉御も急停止した。
声のするほうを見れば、石畳を覆うフロワロの中で誰かがうずくまっていた。
「うあああああ!
フロワロ、フロワロっ……!!
いやあああっ!あたしの、あたしの腕がぁっ!!」
服装からみるにあたしと同じローグの女の子が(あたしより少し年上かもしれない)
フロワロの中を転げ周り、その白い腕を振り回しながら悲鳴を上げ続けている。
「おい!しっかりしろ!」
いち早くその子を抱き起こして揺さぶる姉御が、効果がないと悟るや即座にその頬を張り飛ばす。
「しっかりしろ!幻覚だ!
よく見ろ!……お前の腕だ!何ともない!!」
「あ……あ?」
そこでようやく、その瞳の焦点が自らの腕に合った。
「あたしの……腕……」
自らがフロワロの引き起こす幻覚を見ていたと理解したらしく、
その子は近くに落ちていた弓を杖代わりによろよろと立ち上がった。
「行かなきゃ……」
「無理するな、お前はもう後退して休んだ方がいい」
城壁に向かって歩き出すその子を呼び止め、あたしに向けて姉御が視線をよこす。
場合によってはあたしが待機場所まで連れて行けということだろう。
「ダメ。皆、戦ってるから、あたしも行かないと」
彼女の言う『皆』とは、たぶん彼女のギルドメンバーのことだった。
力無いながらもそのはっきりとした視線がまっすぐに姉御を見る。
「……わかった。死ぬなよ!」
戦場に戻っていく彼女の背中を見送って、姉御がこちらに振り返る。
「よし、いこう」
「ああ」
北へ向き直り、駆け出そうとしたあたし達の鼻先に次の瞬間大型のドラゴンが落下した。
「……っ!」
巨大な頭部とよく飛んでこれたもんだと思う小さな翼を持った肉食恐竜タイプのドラゴンだ。
その小さな目が、あたし達を捉えてこちらへと向いた。
「こいつは手間ね……!」
武器を構えなおすあたしの脇をすり抜けて、姉御が居合いの構えで突っ込んだ。
「かけている手間など、あるものかっ!」
気合一閃、大きく傾けた体制から背負い投げるように刀を抜き放つ。
たったそれだけで、竜の首が飛んだ。
噴き出す血飛沫を避け、姉御が檄を飛ばす。
「急ぐぞ!大統領府前広場だ!」
「が、合点!」
それにしても、と走りながら思う。
全力でドラゴンを迎え撃つハントマン達。
そして、殺されても殺されても、死地としか思えないハントマン達の真ん中であろうとも、
ためらい無く舞い降りて襲い掛かるドラゴン達。
「ドラゴンも、生きるのに必死なのかな」
「お前なあぁぁ!どうして、どうして今そういうことを言うかなぁ!
言っとくがこいつらに心があろうと無かろうと情けをかける余地はこれっぽっちも無いぞ!?」
「分かってるって!」
「おーい!そっちに行ったぞ!」
「?」
前方から声が飛んでくる。
見れば、傷だらけになった二足歩行の中型ドラゴンが狂ったようにこちらに向かってくる。
「あれは……」
「砂漠の石竜か!」
姉御じゃないがこの一匹に割いてる暇などありはしなかった。
スピードを落とさずお互いに急接近し、真っ向から敵を迎え撃つ。
すぐ目前でドラゴンの顎に炎が溢れた。
思い切り踏み切って跳ぶと同時に、足を掠めるほどすぐ下で石化の力を持った炎が迸る。
「……シッ!」
空中で身体をひねり、ドラゴンの頭上を飛び越えながら上体を下に引っこ抜く。
上下逆さまになって目の合ったドラゴンの、その目の間に両手で握った短剣が突き刺さった。
「……せああぁっ!」
宙を飛ぶあたしの体重に引きずられ、短剣が嫌な音を立ててドラゴンの頭を断ち割る。
もう一度身体をひねって着地するあたしの後ろで血と脳漿を噴き出しながらドラゴンが倒れた。
……一介の不良少女に過ぎなかったあたしも無茶な芸当ができるようになったもんだ。
「排除完了!」
「いきなり突っ込むな!心配するだろうが!」
「ごめん!」
北へ向かう通りはここで突き当たり、居住ブロックの中を東へ伸びる。
――――――――――――――――――――
――大統領府前広場
広場の近くまで来たが、この辺りは戦闘の中心地からは外れているみたいだ。
オフィス前では数人のハントマンとすれ違ったが、敵の気配はあまり無い。
辺りにはドラゴンの死体がまばらに転がっている。
「ドラゴンいない……ね」
「ああ」
とりあえず、目的地のある二つのオフィスの間を伸びる道に目を向ける。
そのむこうに、見覚えのある姿が見えた。
「あ」
「お?」
常時しかめっ面のファイターと、頬の柔らかそうなナイトの女性。
大きな飛竜の骸の傍らに立っていた二人もまたこっちに気付く。
「リーダーに副長?東門に配置されたんじゃ?」
「大統領府前が手薄だと言われて……そちらは?」
「同じだ」
「まあ、知らない奴らと連携するよりは有利だろう。行こう」
偶然でも同じギルドの味方がいるのは心強い。
そしてあたし達は、大統領府前広場に足を踏み入れた。
大統領府前広場は不気味なほど静かだった。
フロワロに覆い尽くされた広場には奇妙な緊張感が満ちている。
「警戒は怠るなよ」
「はい……でも、ドラゴンがいませんね」
「うん……」
辺りをゆっくりと見回したあたしは、『それ』を見て足を止めた。
広場の奥、まさに大統領府の目の前に、赤い光が満ちている。
赤い空のせいでいつもと違う色に見える風景の中、そこはより色濃い光に照らし出されていた。
静かに、雲の切れ間からまっすぐに落ちる光がゆらゆらと揺れる。
そして。
何の前触れも無く、それは現われた。
赤い光の中に半透明の巨大な竜の幻影が見えた、と思った次の瞬間にはそれはそこにいた。
虚空から浮かび上がるように現われた真紅の竜。
低く唸りを上げながら、それはゆっくりと頭を上げる。
「姉御、あれ……」
それを指差し、姉御に話しかけようとしたそのとき。
ドラゴンが、一歩踏み出した。
ずしゃッ
危険だ。
危険だ。
危険だ危険だ危険だ危険だ危険だ。
あたしの本能がこの期に及んでやっと目の前のドラゴンが幻覚でも錯覚でもないことを理解した。
脅威、威圧、それらを訴える感覚神経がことごとく一瞬でゼロからマックスに振り切れる。
それほどまでに強大な気配を放つドラゴンが、今まさにこちらに向かって近付いてきていた。
全身鎧を連想させる頑強な骨格。
鋼のような筋肉に鎧われた巨躯を鮮血を浴びたような鱗が覆い、
その両腕の先で大ナタのような爪が鈍く光る。
猛獣の毛皮すら比較ではないと思わせる滑らかで強靭な皮膜で作られた
二枚の翼をゆっくりと広げながら、一歩一歩、ドラゴンは地を踏みしめる。
捻じ曲がった角を備えた獰猛な頭部で凶悪な光を湛えた双眼が光った。
ドラゴンが止まる。
その巨体から収まりきらずに溢れ出す力、強大な殺気、
そして何よりそれらをねじ伏せる圧倒的な精神の力。
ずんっ!
オ オ オ オ オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ !!!
強く石畳を踏みしめ、ドラゴンが咆哮した。
まっすぐこちらに向かってだ。
物理的な突風と錯覚するほどの殺気に吹き飛ばされそうになる。
これは、そうだ、以前あたし達は一度だけ帝竜との戦いに参加したことがある。
全体すらも見えない巨大な敵の足一本を止めるためあたし達は死力を尽くした。
あのときの敵に、真正面から見られたら、きっとこんな感じだ。
「無理だよ姉御……こんなの勝てるわけ無いよ………」
「だが、やるしかあるまい。……あとこの前のバロリオンの事をからかったのはすまんかった」
「今謝んなくていいよぉ……」
「こいつが来るから他のドラゴンがいなかったのか……!?」
「どちらにせよ選択肢は無いぞ」
「分かってる……いくぞ。どうにかして応援が来るまで持ちこたえるんだ」
絶望的な戦いが始まった。
――――――――――――――――――――
真紅の鱗に覆われた腕がたわむ。
鋼鉄のような筋肉が盛り上がり、凶悪な力を込められた鉤爪が音速で振り抜かれた。
「……っ!」
紙一重で交わしたあたし達の向こうで、鉤爪と盾がぶつかって恐ろしい金属音が上がる。
先頭を切って敵の攻撃を受け続ける副長はすでに傷だらけだった。
だけどその目からは闘志が失われていない、副長はまだ大丈夫だ。
「うおおおぉぉぉっ!!」
副長ほどではないがあちこちに傷を作ったリーダーが斬りかかる。
その切っ先は、しかしその巨体からは信じられない敏捷さで後退したドラゴンに空を切った。
翼による滑空とバックステップを組み合わせ、重力を無視した動きで後ろに飛んだドラゴンは、
そのまま広場を囲む建物の窓を衝撃で砕きながらその壁面に着地する。
目で追うリーダーの頭上を跳び越し、あたし達の中央に落下したドラゴンの背後から
間髪いれずに姉御が襲い掛かった。
振り向きざまに爪が振るわれる。予想していたようにジャンプしてかわし、
空中から斬りかかろうとした姉御を待っていたのは巨大な牙の立ち並ぶ顎だった。
「っの……!」
斬りつけるはずだった刀を防御に回す姉御に、粉砕機のような噛み付きが襲い掛かる。
身の竦むような音に、一瞬だけ目をつぶってしまう。
もう一度目を向けたとき、そこには粉々に噛み砕かれた刀だったものと、辛くも難を逃れた姉御の姿があった。
「くそっ……玉鋼だぞ!?」
着地した姉御を追撃しようとするドラゴンに副長が切り込んだ。
攻撃目標を変更するドラゴン、けど本命はそっちじゃない!
懐に潜り込んだあたしの短剣が走る、副長に向かう腕を斬りつけ、返す勢いで肘の内側に突き立てる。
一瞬ひるんだドラゴンに副長が剣を振り下した。
副長の剣を受けた左腕が受ける。そのままあたしを巻き込み、豪腕が副長を薙ぎ払った。
意識が左に逸れたその瞬間に、本命――リーダーが渾身の一撃を叩き付ける。
「っ!!!――――――な!?」
大剣はドラゴンの肩口に少し食い込んだだけで止まっていた。
反撃を避け、後退しようとするリーダーがいきなり横に吹き飛ばされる。
強烈な尾の一撃を受け、リーダーはギルドオフィスの壁に叩きつけられた。
「かはっ……!」
「リーダー!!」
心配している場合ではなかった。こちらに向き直ったドラゴンから圧倒的な殺気が迸る。
凶暴な光の宿った瞳を爛々と輝かせ、ドラゴンが二枚の翼を開いた。
「来るぞーーーーーっ!!」
足元の石畳をクレーターのようにへこませながら、炎のような殺気を纏ったドラゴンが飛ぶ。
二枚の翼が空気抵抗に軋みながら強引に力の矛先を下方に向けて捻じ曲げ、
次の瞬間、全てを砕く気迫と共にドラゴンの巨体があたし達の中心に突っ込んだ。
「っ―――!!」
一瞬前まで立っていた石畳が轟音と共に粉砕され、衝撃波と共に無数の破片が舞い狂う。
一際大きな岩塊に命中され、副長がくぐもった悲鳴を上げた。
降り注ぐ瓦礫の中、側頭部を押さえる副長の顔の左半分が見る見る血に染まる。
「ぅぅ……」
「大丈夫か!?」
「っはい!心配しないで!!」
「ちっくしょう……あれどんどん威力上がってない……!?」
「時と共に殺意は募りゆくか……なんともタチの悪い冗談だ!」
土煙の中、粉砕された路面の中心で地獄から響いてくるような唸りと共にドラゴンが立ち上がる。
……畜生、まいったなぁ。
――――――――――――――――――――
ハントマンをやってる人なら誰だって、とても勝てないような敵が徘徊するダンジョンに
突っ込んでしまって命からがら逃げ出す――なんて経験の一回や二回はあるだろう。
今のあたし達の状態はそれに近い。
このまま戦い続けても勝てないのは明白で、かつ速やかに逃走しなければ待っているのは死だ。
……けど、それと今この状況では、絶対的に違うことが一つある。
話は変わるけど、古今東西どこの国の軍隊でも敵前逃亡という奴は重罪で、大体が死刑だ。
初めてその話を聞いたときは誰だって死にたくないのは当然なんだからそんなの重すぎるんじゃないか
なんて思ったもんだけど、彼に説明してもらった今は納得している。
簡単に言えば敵前逃亡は味方を詐称しての悪質な利敵行為なのだ。
戦争では、味方がそれぞれの役割を果たしていてくれるからこそ兵士は目の前の敵に集中できる。
それが交戦中に味方が逃げ出してしまったらどうなるだろうか。
戦線は途切れ、そこから侵入した敵に挟撃を受けた兵士達はあえなく全滅の憂き目を見る。
つまりはそういうことだ。
敵が見えてから逃げ出すことは、味方に自分も戦うと嘘をついて不完全な体制をとらせておき
不意打ちでそのまま敵の前に放り出すことと何一つ違わない。
だからこそ敵前逃亡は重罪で……いや、違う。
そんな問題ですらないのだ。
軍隊のルーツは襲い来る外敵から身を守るための戦力だ。
外敵を撃退できなければ殺されるほか無い。戦って勝つしか生き残る方法はないのだ。
だから軍隊では、戦って勝つ以外に生き残る手段を残しておいてはならない。
だから敵前逃亡は、我が身惜しさに逃げることは、あってはならないのだ。
あたし達は兵隊じゃない。
だけど、今こうしてたくさんの味方と助け合って戦っているこの状況は
軍隊で兵士として戦っている状況と何一つ変わることは無い。
それはつまりあたし達からは逃げるという選択肢は奪われているということを意味する。
逃げてもその分が誰かに回る以上、敵が強いからと逃げることはできないのだ。
だから、あたし達は逃げられない。
……第一、もうこの星には逃げる場所なんてどこにだって残されていないのだから。
――――――――――――――――――――
「畜生っ……畜生ぉーーっ!」
リーダーが立てなくなるのは時間の問題だった。
副長も失血しすぎて動きにキレが無い。
そして、
「……ぐっ!」
「ぅあっ!?」
あたしと姉御もいいとこいってる。
ガタのきはじめた身体を引きずって前に行こうとした瞬間、吹っ飛ばされた姉御が飛んできた。
「で、ででっ、弟子を巻き込んで迷惑を掛けるとは、わ私も落ちたもんだな……す、すまない」
「いいけど……姉御……集中力が切れてきてるよっ」
「うぐぅぅ………」
もともと姉御のタフさはあたしと大差ないのだ、あの化け物を相手に長丁場を戦えば当然こうなる。
ふと見やれば、副長を殴り飛ばしたドラゴンがこちらに向かってきていた。
「……ヤバい!」
姉御の状態を確認する。ええい、やるしかない!
立ち上がると同時に右足がずきりと痛んだ。
「姉御、立って!どうにか止めるから反撃お願い!」
「できるのか!?」
「できなきゃ困るよ!」
立ち上がった姉御の肩を抱き、振り下ろす爪を後ろに避けながらその手首を短剣で払う。
だけど、当然、追撃がやってくる。
奴が巨木のような尻尾を振り上げた瞬間、あたしは姉御を後ろに突き飛ばした。
南無三!!
真上から振り下ろされる尾を短剣の十字受けで受け止める。
もちろん防御効果なんて気休め程度でしかない、あたしは全力で踏ん張った。
足元が陥没するかと思うような衝撃が背中に、そして両足にかかる。
っ―――――!
「……このおおぉ!!」
ヘタな鈍器より殺傷力の高い拳がドラゴンに打ち込まれる。
もう一発……それを受ける前にドラゴンは飛び退った。
その後ろからリーダーと副長が二人係で引止めにかかってくれる。
「すまない、大丈夫かカエラ……カエラ?」
尻餅をついたっきり立ち上がらないあたしに姉御が声を投げた。
「あのさ……姉御……」
「うん?」
「実はさ、さっき、飛んできたガレキ、当たっちゃっててさ……」
ドラゴンが何度か使った殺気全開での凄まじい体当たり。
何とかかわし続けたものの、さすがに防ぎきれないそれをあたしは右足にもらってしまった。
痛む右足を誤魔化し誤魔化し、跳んで、走って、踏ん張って。
そうして衝撃を受け続けた足に、尻尾の一撃を受け止めたときのが止めだった。
「……足……折れちゃった……」
正直あたし達はよく持ちこたえた。
一瞬でも気を抜けば即ズタズタの肉塊にされてしまうだろうドラゴンの攻撃を受け、かわし、
驚くほどの時間ドラゴンを足止めしつつ生き残った。
でも、これまでだ。
リーダーが、次いで副長が薙ぎ倒されてあたし達のそばに叩きつけられた。
本当にあたし達はよく戦った。
だけど、この規格外の化け物を相手にするのは力不足だったのだ。
あれだけ必死で抵抗し、打ち込んだというのにドラゴンの身体には深い傷など一つもない。
リーダーの剣も姉御の拳も通じなかった以上、あたし達にはもはや打つ手はなかった。
……いや、本当はある。一度きりの隠し玉、正真正銘の最後の手段が。
だけど。躊躇無くそれを使えるほどには、あたしは潔くも覚悟が出来てもいなかった。
「舐めるなよ……ただじゃ死ぬもんか、せめて一太刀……ぐあっ!!」
またしてもリーダーが弾き飛ばされて外壁にぶつかった。
呻き声すら上げずにずるずると崩れ落ちる。
ダメだ。もう、リーダーは戦うことが出来ない。
そして。
絶望的な気分でそれを見るあたしの横で、姉御は静かに口を開いた。
「……カエラ、大丈夫だ」
「姉御?」
「お前くらいは、どうにか、守って見せるから」
「……!!」
もう、そのときが来ちゃったんだ。
あたしの頭を支配したのは驚きでもなく焦りでもなく、そんな冷めた諦念だった。
ずしん。
ドラゴンが止めを刺しにやってくる。
立ち上がった姉御は今にも飛び込んでいってしまいそうだ。
あれほど定まらなかった覚悟はたった今静かに固まりつつあった。
そうだ、もう、迷うことは無い。
「……これはもう、師匠としての意地だ。
お前には未来がある。あと、そいつらもせっかくこれから二人で幸せになろうとしてるんだ。
だから、なんとしても守らなきゃいけないんだ。
……それと、その、なんだ」
たぶんぶっきらぼうに言い捨てようとして、やっぱり普通に笑っておこうと思ったんだろう。
「ほとんど師匠らしいことはできなかったけど、お前のことはそれなりに好きだったよ」
――姉御、あたしも大好きだよ。
左手が蛇のように伸び、駆け出そうとした姉御の足首を掴む。
「わばっ!?」
びたん、と音がしそうなほど見事にすっ転んだ姉御をよそ目にあたしはどうにか立ち上がった。
「きっ貴様、いきなり何をするんだ……!」
「んー、下克上?」
「馬鹿!なにをこんなときにふざけて……」
ふざけてないって、怒んないでよ。
……これでも一生懸命無い知恵絞って考えたんだからさ。
考えうる限り最大の成果を上げるために、あたしは淡々と話す。
「あたしが何とかする。あと戦えるのは姉御だけなんだから、無理されちゃ困るの」
「なんとかするって、お前」
「……応援、来ないね」
最後の期待を込めて見た広場へ続く通りには、未だ応援の来る様子は無かった。
「でも、ま、その内来るでしょ」
「カエラ?」
「……どかんと一発、花火でも打ち上げりゃあ、さ」
「……カエラッ!!」
一瞬だけ、姉御が叫ぶのが聞こえた。
身を落とし、左足一本にありったけの力をこめて一気に跳躍する。
ドラゴン目掛けて弓なりの軌道を描きながら空中で身を一回転させ、
その勢いのままにあたしは両手で握った短剣を下にして眼下のドラゴンへと襲い掛かった。
「うおりゃああぁぁーーっ!!」
決死の気迫を前にドラゴンが退いた。
またもや左足に限界の負担を掛けながら着地し、そのまま目の前のドラゴンに突撃する。
真っ直ぐに喉を狙った一突きを放ち、あたしはすぐさま飛び退った。
死神の大鎌のような一振りが空を切る。
「……さあ、こい」
目の前のドラゴンに殺気が溢れ、力が満ち満ちていく。
空気が震え、その足が踏んだだけで石畳にヒビが入った。
「彼のいないとこで死ぬのは、ちょっと嫌かな。
ああ、でも彼に死ぬとこ見せなくてすむからいいのか」
――誰かに言われたからというのはやめろ、だっけ。
この技を習得したときにあたしが見たメモの文面だ。
大丈夫、誰かに言われたからじゃない。
――やらなければ誰かの未来がないから、というのも言い訳でしかない。
分かってる。やるかやらないかはあたし次第。
自分で決める。
――お前が自分の命を引き換えにして未来を守りたいのか、どうなのかが全てだ。
そう、あたしは自分の大好きな人達を守りたい。
姉御や彼や、ギルドの皆はそう長く一緒にはいなかったけれど本当の家族をあたしにくれた。
その皆がいない未来なんてあたしには考えられない。
だから。
――自分の命を引き換えにして?
……?
うん、分かってる。
命が惜しくないわけじゃないけど、でも、それよりも大事なものがある。
……本当だろうか?
どうしてだか、あれほど固まった決意が今ここで揺らぎ始めている。
大切な仲間より我が身を優先するような、そんな思考回路は持っていなかったはずなのに、
どうして、どうして。
………あ。
走馬灯のように繰り返す思考の中、見つけたものは他愛も無い記憶だった。
『これが終わったら、今度はどこに行こうか』
吹き飛ばすような威圧を纏い、ドラゴンが双翼を開くのが見えた。
――――――――――――――――――――
耳をつんざくような轟音が広場を揺るがした。
「カっ……カエラーーーッ!?」
ぱらぱらとガレキの破片が降り注ぐ。
次の瞬間土煙を突き破って飛び出したドラゴンの、
咆哮しながら振り飛ばそうとするその鼻先に、あたしは居た。
生きてる
生きてる。
生きてる!
「……っ……ぅう……ぅ……
…うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!
うわっ!うああああっ!!
うわあああぁぁああああぁあぁあぁあああーーーーーッ!!!
……死んでたまるもんかっ……!
死んでたまるもんか!
死んでたまるもんか死んでたまるもんか死んでたまるもんかぁっ!!」
土壇場で怖気付いて死に損なった以外の何物でもなかった。
大見得を切っておきながら覚悟し切れなかった以外の何者でもなかった。
だけど笑うなら笑え、今やあたしは自分が本当は何を望んでいるか思い出した。
あたしは死にたくないのだ、自己犠牲などまっぴらだ!
ギルドの皆が居ない未来など考えられないが、あたしがそこに居ない未来もまた絶対に嫌だ!
最良の選択を逃したことは分かっていた。
あたしの望みが実現不可能なことも分かっていた。
それでも諦めることはできなくて、あたしはエゴを撒き散らしながら泣き叫ぶ。
憎い。
あたし達を殺そうとするこいつが憎い。
あたしが死ぬか他の誰かか、そんな選択をさせようとしたドラゴンが憎い。
願うのに叶えられない、世の中のありとあらゆる理不尽が憎い。
目一杯の憎悪を目の前のドラゴンに転嫁し、あたしは短剣を握った。
「……殺してやるっ……!」
振り放そうと激しく暴れるドラゴンにかじりつき、何回も短剣を振るう。
幾度も切っ先が打ちつけられ、頭骨に刃が押し当てられてギリギリと音を立てた。
そして、一際大きく振り上げたあたしの背中を鋭い爪が切り裂く。
「っぁ…………!……うああああぁぁぁぁーーーっ!!」
それでもやけくそで振り下ろした短剣は、ドラゴンの輝く右目を貫いた。
凄まじい咆哮があがる。
「はあっ……はぁ……」
残った左目が、殺意に満ちた目であたしを見た。
「っは……ざま……見……」
どんっ。
衝撃が身体を走る。
下を見れば、ドラゴンの巨大な爪があたしの腹部を突き抜けていた。
「ちく……しょ……」
喉の奥から血があふれ出る。
指先から瞬く間に血の気が引いていく。
全身から力が抜け、短剣が落ちた。
ドラゴンの爪がそのままあたしを引き裂こうとする。
その寸前、姉御がドラゴンの懐に飛び込んだ。
「私の身体よ、今だけ限界を超えてくれっ!!」
目にも留まらぬ猛ラッシュが打ち込まれる。
体制を崩したドラゴンの手から引き戻され、そのままあたしは後方に投げ捨てられた。
一度に出血しすぎたせいで身動きの取れないあたしは受身も取れずに地面に落ちる。
それでもどうにか捉えた視界の中で、カウンターしそこなった姉御が左腕を食い千切られるのが見えた。
「……っ……ううぅ……う」
よろけて後ろにたたらを踏んだ姉御があたしの隣に尻餅をついた。
「ぐっ……くそ……くそ……くそっ……」
動けないあたし達の前にドラゴンの巨体が立ちはだかった。
その左腕が、たわめられた鋼のように力を蓄えながら振り上げられる。
「っ……!」
断頭台のような一撃は、正確に、一辺の容赦を含むことなくあたし達に振り下ろされた。
――ッ。
……いつまで経ってもそれは来ない。
恐る恐る目を開け、見上げた頭上では見知らぬ大剣がドラゴンの爪を受け止めていた。
「――待たせたな!」
その剣の主である真っ赤な髪のファイターが次の瞬間爪を押し戻し、横薙ぎの一撃を見舞う。
「ゲンブっ!!」
突入した銀髪のサムライが刀を抜き放つ。
白刃一閃、反撃しようとした右腕から鮮血が吹き出した。
「――よく持ちこたえた」
それだけ言って、サムライはたまらず飛び退ったドラゴンを追撃するファイターに続いた。
剣戟と爪撃が飛び交い、彼らはたった二人でドラゴンと渡り合う。
……来た。
『王者の剣』だ!
「動かないで」
真珠色の髪をしたヒーラーらしき人があたし達の傍らに立った。
「今、回復しますからね」
こつん、と音を立てて杖が石畳を叩いた。
圧倒的な出力のマナが溢れ、見る間に身体に暖かさが満ち溢れていった。
「ユーリィ!早いとこそいつらを下がらせろ!」
「さすがにこれを押し留めながら戦うのはきつい――」
前方で戦う二人から声が飛んでくる。
「分かりました!さあ、後は私達に任せてあなた達は――え?」
あたし達を立たせようとするヒーラーの人の両脇を、誰かが通り過ぎた。
……リーダーと、副長だ。
「俺は――何をボケていたんだ」
決然とした呟きに闘志が宿る。
「やってやるぞ。……いけるか、シンシア」
「もちろんです」
「ちょっと、あなた達――」
二人は一歩も引かぬ表情で武器を構えた。
投げ捨てられたボロボロの盾が転がって音を立てる。
「回復、ありがとうございます」
「礼を言う」
そして、二人は飛び出した。
「でやあああああぁぁぁぁぁっ!!」
「おおおぉぉりゃあああぁぁっ!!」
突撃した二人は王者の剣をすり抜けてドラゴンに激突し、そのまま文字通りドラゴンを押し戻す。
「……すごい!」
ヒーラーの人の口から驚嘆が漏れた。
「どこにあんな力が……」
「……分からんのか……?」
「へ?」
唖然としていたあたしは姉御の言葉の意味を掴みかねた。
向こうでは王者の剣のファイターが呟く。
「意外とやるじゃねえか……で、なんでまたあいつが化けて出て来やがったんだ?」
「奴はカザン奪還の際『新たなる英雄』に葬られたはずだが」
「きっと……フロワロや今回世界を襲っているドラゴンと同じ、ニアラが作り出した幻影です」
「はっ、なるほどね……なんにせよ、幻影とはいえ奴は奴だ!ここで大統領の敵討ちと行くぜっ!」
再び王者の剣はドラゴンの幻影へと突っ込んでいく。
何とか起き上がろうとしたあたしを、残る一人が押し止めた。
「ダメですよ!あなた達はもう動ける怪我じゃないんですから!」
「でも……」
「――大丈夫だよ」
「え?」
聞き覚えのある、心の安らぐ声に、あたしは思わず声のしたほうを見上げた。
柔らかい茶色の髪の毛、ところどころ擦り切れた施術衣。
あたしの額に手を当てて、彼がそこに居た。
「どうしてここに……?」
「――そりゃ、君達が心配だったからに決まってるじゃないか。そうだろう?」
もう一つの聞き覚えのある声。
ギルマスがいつものように緊張感無く歩いてくる。
「ごめんね。あれに対抗できる援軍を呼ぼうと思ったら時間かかっちゃってさ」
「あ……いや、別に」
「――さて」
帽子をかぶりなおし、雰囲気を一変させたギルマスが鋭い視線ドラゴンに向ける。
「ずいぶんとまあ、僕の友人達をボコってくれたみたいじゃないか。
お礼に全力全開でいかせてもらう――往け、略奪の魔弾!『マナバレット』!!」
一斉に味方が散ると同時にドラゴンに魔法弾が炸裂する。
そしてマナが四散しドラゴンが体勢を立て直そうとした瞬間、無数の魔法弾と矢がドラゴンに降り注いだ。
面食らってギルマスを見上げると、ギルマスは黙って親指を後ろ上空に向けた。
「遠距離攻撃のエキスパートギルド。王者の剣のついでに連れて来た」
クエストオフィスの屋上で、西通りで出会ったあの子が小さく手を振った。
「ああもう……危ないですから私達に任せて後退して欲しいのに……」
「まあまあ、ここまで来たら下がれって言う方が無理じゃないかなと」
「でしたらせめて防御重視の戦い方をしてくれると「……大丈夫……!?」
「姫ちゃん!」
青い付け耳を揺らし、姫ちゃんが広場に駆け込んでくる。
……すごい。偶然とはいえ、ばらばらになっていたウチのギルドが全員集合なんて。
「大丈夫、皆無事だ」
「そう、よかった――」
「プリンセスですかっ?いいところに!お願いです、歌で守りを固めてもらえませんか」
「ちょうどよかった!歌ってくれ、とびっきり景気のいい奴を頼む!」
姫ちゃんは即座に空気を呼んで歌いだした。
物語で新たなる力を得て復活した勇者のパーティが魔王の復活を目論む邪悪な軍団との
最終決戦に挑む場面で流れる、100%負ける気のしない勇猛な戦歌を。
戦場が姫ちゃんの歌に支配されゆく中、立て続けに無視されまくったヒーラーの人が憮然と呟く。
「もう……」
それでもため息をつくのは一瞬だった。
きっと眼差しを上げたヒーラーの人は、手早く支度して彼に声を掛ける。
「私は前線で援護に行きます、この二人をお願いします」
「任せてください」
「本当に、絶対、あなた達はダメですからね!それじゃ!」
駆け出していく背中を見送って、彼があたしのお腹と姉御の腕の止血に戻る。
「ねえ……」
「だめ。無理。傷口が開いたらショック死しかねないんだよ?」
「でも……」
「大丈夫」
「心配あるまい」
姉御と彼がそろって戦うリーダー、王者の剣たちを指差した。
「生きようとする人間とは、かくも強い」
「……そうだね」
人数的な有利、そして行く手には勝利という道しかないという絶対的な自信が、
尽きることの無い闘志となってあの強大なドラゴンを圧倒する。
一撃一撃の剣が、降り注ぐ弾幕が、連携して途切れることの無い攻撃が
確実にドラゴンの幻影の力を削り取っていく。
やがて、王者の剣のリーダーの大剣が食い込むと同時に、
幻影は現われたときと同じように跡形も無く虚空へと消えていった。
――――――――――――――――――――
どれだけの時間がたったろうか。
姉御と二人で石畳に寝かされているあたしからは時間間隔が麻痺して失われている。
と、足音に気付いて視線をやると、上下反対の視界でギルマスが近付いてきていた。
「やあ、まだ生きてる?」
死んでてたまるか。
「ギルマス……戦わなくていいの?」
もうこのあたりに敵は居ないというのにこんな所にいていいのだろうか。
へ?とギルマスは一瞬首をかしげた後、何か思いついたように上を指差した。
「気付いてないのかい?」
指差した先を見上げる。
何も無い。青い空があるだけだ。
……青い空?
「あー……終わったんだ」
「おかげさまでね。で、サクハ。左腕の保存処置をお願いしてきたよ。
どうにか繋ぐから一時間後くらいに来てくれって」
「……ああ、分かった」
「そーゆーのって、早い方がいいんじゃないの?」
「今は重傷人で向こうも手一杯でね。リハビリは必要になるけど一時間後でも大丈夫だろうって」
「繋がるだけ御の字だ。元に戻るかはともかくそれだけ分かれば十分だ」
「ん。それじゃ、僕は大統領府のほうに行くから」
そういってギルマスは去っていく。
あたしはといえば、やっと気付いた青空に向かって存分に開放感を味わっていた。
「ふぃー……それにしても、いいところは全部持っていかれちゃったね」
「しかたあるまい」
「それにしてもさー……あたし、まったくといっていいほどいいとこ無かったし……」
「……阿呆め」
すこん、と姉御の右拳が降ってきた。痛い。
「お前は、十分劇的な活躍をしたじゃないか」
「え……?」
「幻影の右目を潰したときだ」
ああ、と思い当たる。確かにあれで遠近感を失ったならあたしも貢献したことにはなるか。
「でもやけっぱちだったし、あれが無くても最終的には勝ったような」
「違う。まだ気付かんのか」
呆れたように言う姉御は、どこかバツの悪そうな顔だった。
不思議に思うあたしに、姉御は話を続ける。
「……正直、死ぬ気だった」
「へ?」
「私だけじゃない。ファイターもだし、もしかしたらナイトもそうだったかもしれないが
ともかく死ぬならただでは死なんみたいな気持ちだった。気付いてただろう?」
「ああ……うん」
あたしもそう思って、土壇場でやめたわけだし。
「死んでたまるもんか、は物凄くよく効いたよ。
ずっと年下のお前が何一つ諦めないで泣くほどの気迫を出しているというのに、
それにひきかえ半端に諦めたふうですかしているこの自分の体たらくはどうだとな」
「いや、そんな……覚えてないで、恥ずかしいよ。あれはその……死にたくなかっただけだし」
「それでいいんだ。そのおかげで私達は自分の望みを際限なく押し通せたんだから。
確かにお前が何もしなくても王者の剣は間に合ったかもしれないが、それでも言うぞ。
――お前は私達を救ったんだ。もっと、胸を張っていい」
身体のだるさも、腹部の鈍痛も、全部気にならなかった。
「――あたし、偉い?」
「ああ、偉い」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「……へへっ」
「くっくっく」
これほど爽やかで、充実した気分になれることはこれからもそうはないに違いない。
あたしはそう思いながら、向こうからやってくる彼に向かって元気よく手を振った。
投下終了。もてる厨二病を振り絞って書きました。名付けて「脇役の戦い」。
作中のマイギルドはヒーロー補正ゼロのため、たとえ赤トンボに勝てても帝竜にはかないません。
かといって大ボスが雑魚ドラゴンじゃなあ……ということで王者の剣に出張ってもらいました。
他に書きたいネタが出来てきたため次でこのシリーズはいったん締めたいと思いますが、
とりあえず最後くらいえろっちいことをすべきなのかこのまま押し通すべきか迷っています。
ではまたノシ
>>77 G J .
「彼ら」登場のあたりからもう涙が出てきましたちくしょうめありがとう大好きだ手前らぁぁぁ!!
この強大な怪物っぷりを見てると、ゲーム中のPLギルドは規格外なんじゃね? とか思えてくる罠
くっそう、ありがとうもっかいGJ!!!!
極々個人的にはえろ無しでも問題ないと思います。だってこいつらだもん。
GJ!
ゲーム本編ではアレだった王者の剣が輝いている…!!
GJ!!!
個人的な感想で恐縮ですけど、
ゲーム本編のシナリオより、貴方の書くお話のほうが感動しました(´;ω;`)
ここまできたならエロより終わりに力を入れて欲しいです!
失礼しました。
急に誰もいなくなったな……
千人砲イベントの後、ネバンの誰もいなくなった廃屋から音がするので調べに行くと、
隅っこのほうで減った人口を補完する為に、子作りしてたりするわけですね、わかります
子供同士で光景が出てきた俺はまちがいなくインピオ
戦いの選択の続き話投下です。
注意事項
・エロ無し
・ゲーム本編との矛盾あり
・ゲーム終盤のネタバレ注意です
・若干の残酷表現
・今回は選択無し
・メナスの用いる戦術がかなり酷いです
こんなの無理!な方はタイトル『戦いの選択』NGお願いします。
登場人物
ソウマ・若サムライ。主人公。一応貴族。現存ギルドではそれなりに上位。
エリス・ルシェメイジ。元奴隷。シールドクラフトは生命線のひとつ。
リア・ルシェプリンセス。元奴隷。キュアUをマスター済み。ヒーラー顔負けの回復量。
メナス・真竜討伐作戦の責任者。その戦術は……
集められたギルドの皆さん・打倒真竜に燃える、ピンキリのギルドの皆さん。しかし……
101 :
戦いの選択:2009/07/24(金) 02:07:59 ID:grw7ogeU
→A 滅びてなるものか。誘いにのり、三人でカザンに向かう。
私はなんのために貴族の生活を捨ててハントマンになった?
竜の恐怖に脅え苦しむ人を助けるためではなかったか?
まだ旅立ったばかりの時を思い出せ。
このまま宿に篭って滅びを待つのと、勝ち目が薄いとわかっていても戦いに行くのと……
どちらが有意義か?
……比べるまでもない!
「私はソウマ。正式にギルドを作ってはいないがハントマンではある。
真竜討伐のお話し……詳しくお聞きしたい」
「!ご協力感謝します……後ろの方々は?」
僅かに安堵の溜め息を吐き、学士長代行が私の後ろに目線を移す。
……再び言葉を躊躇う。
真竜の強さ…それは被害の大きさから鑑みて、帝竜のそれを軽く凌駕するだろう。
そんな真竜を討伐するために各地のハントマンを集める……
その意味するところは、良く言えば総力戦。悪く言えば犠牲覚悟の物量戦。
そんな戦いに二人を連れていっていいのだろうか……?
無論、私一人では一般竜にさえ苦戦するだろう。ここまでこれたのも、二人のお陰だ。
そんなことは十二分に理解しているつもりだ。しかし……もし二人の身が危うくなったら?
「彼女達は……」
「ハントマンです」
「!?」
私の言葉よりも早く、その言葉が告げられた。
慌てて後ろに振り向くと、エリスとリアが既に出発の準備をしている。
「っ…今度の敵はいままで以上に危険なのだぞ!?この宿でおとなしく……」
「そんな危険な場所に!一人で行かないでください!」
「それに……私達が危なくなっても、お兄ちゃんが守ってくれるんでしょ…?」
二人は退かない。確かなる決意がそこにあった。やれやれ……決意が一番遅れたのが私だとは……
二人の言い分ももっともだ。彼女達だって、滅びの運命に抗いたいのだから。
私一人で行っても、死体処理の仕事が増えるだけ。
サムライならば、せめて二人の少女くらい守り抜けなくてどうする?
そもそも、守ると約束したではないか。約束は守るために存在するもの。
ならば、とるべき行動はひとつだ。
「わかった……三人で向かおう。ノワリー殿、よろしいでしょうか?」
「本当に重ね重ねご協力感謝します。それでは、ポータルでカザンまでご案内します」
ポータル……国の上位数名しか利用不可能な、瞬間転移装置。
つまり、カザンには数分で到着することになる。もう、後戻りは許されない。
「みんな……」
部屋から出ようとすると、アリエッタが泣き混じりの声で引き止めてきた。
「ちゃんと…みんな無事に帰ってくるよね……?また来てくれるよね……?」
「もちろんだ!」
「ソウマ様がいるから、大丈夫です!」
「帰ってきたら……一緒にあのお爺さんに…一泡吹かせようね…」
アリエッタの不安な問いに、私達三人はすぐさま約束の返答をした。
そう、生きて戻る。何がなんでも、絶対に。
決意を新たに、私達は宿を後にした。
102 :
戦いの選択:2009/07/24(金) 02:10:00 ID:grw7ogeU
――――――――
宿を出てすぐのポータルに触れる。
たったそれだけの行為だというに、目の前にはカザンの町があった。
全ての始まりとなったこの町に来るのは本当に久しぶりだ。
正面に見えるは、大統領府。
世界中の真竜に抗う人間が集められた、まさに人類の最後の砦といったところか。
そんな砦に、いよいよ私達は足を踏み入れる。
中で待っていたのは
おびただしい数の人間、ハントマン。
そしてその中央、玉座の前に堂々と立つ一人の眼鏡男性だった。
「メナス指揮官、新たなハントマンの方をお連れしました」
「ありがとうございます。……ほぅ、王者の剣と同じ三人構成か……」
私達を値踏みするかのように見るこの男が……
かつてのカザン壊滅時期から一人指揮をとり続けて来たメナス補佐…指揮官か……
「お前達、ギルド名はなんだ?」
「……ギルド名はありません」
身長では負けていないのに、まるで見下ろされているような錯覚さえ覚え、
正直に答えてしまったが、それがまずかったのか辺りがざわめいた。
無理もないか……
「いや、別に構わない。大切なのは戦力になるか否かだ。何か証明できるものはあるか?」
……いきなりどうしろと?
ギルドか否かに寛容なのはありがたいが、条件が漠然としすぎている。
強さの証明……
上位ギルドに遅れをとらない証明……
あった!
「……これで証明になるだろうか?」
膨らんだ荷物の中からひとつを掴んで、床に投げつける。
「!!!」
その瞬間に再び辺りがざわめいた。
「まさか…これは…」
表情はあまり変わらないが、メナス指揮官も僅かに驚いているようだ。
私が投げたのは炎帝竜フレイムイーター、それの尻尾だ。
帝竜と真竜の強さはかなり違うが、それでも仮にも帝竜を倒した証拠品。
並のギルドよりかは戦える証明になる筈だ。
「何故だ…炎帝竜はまだ討伐報告が……」
……やってしまった。ミッション受理前の標的討伐は……重罪……!
「あ……!サムライに魔術師に歌姫の三人組……まさかあんた達が艦帝竜を討伐した…!」
そして、一人のハントマンの青年が私を指差して叫び声をあげた。
人を指差してはいけません!……などと言っている場合ではないぞこの状況!
一人が叫べば、連鎖反応は起こるもので……
「俺知ってるぞ!『殺戮の凶刃』の話!鬼のような形相で竜を原子レベルまで斬り刻むって!」
「しかもその後それをうまそうに食うんだろ!?」
待て。いつから私はそんな化け物になっている!?
「ってことはあの銀髪の女の子が……『魔銀の狙撃手』か!?」
「竜だろうが人間だろうが構わずまず顔面にマナバレット叩き込む恐ろしい奴らしいぜ……」
エリスも酷い言われようだ……そんなことはしないぞ!
「それじゃあのちっこいのが『戦慄の旋律者』か!?」
「おい馬鹿やめろ!逆鱗に触れたら邪声歌で脳みそボーン!って破壊されんぞ!」
リアまで……聖声特化なのに何故勝手に邪声特化扱いされているのか謎だ……
「てことは炎帝竜は顔面ぶち抜かれて、脳も破壊されて、斬り刻まれて食われたのか!?」
そこまで酷くはしていない!
「悪魔だ…人間じゃねぇ!」
立派に人間だ!
「おぉ!やっぱりあの時僕のラブを手伝ってくれたマイソウルメイトじゃないか!」
もう帰りたい……
103 :
戦いの選択:2009/07/24(金) 02:10:57 ID:grw7ogeU
結局、私達の誤解を解くのに一時間費やした。
しかもそう簡単に恐怖が拭えるようでもなく、一部のハントマンからは怯えられたままだ。
……そもそも、誰だ?最初に誤った情報を流したのは?
「凶刃、お前達が噂通りであろうがなかろうが帝竜二体を葬ったのは事実。戦力として認めよう。
勝手に帝竜を倒したり、どうやら不法入国等もしているみたいだが……
状況が状況だ。功績を挙げればそれらは不問にしよう。悪い条件ではないだろう?」
功績を挙げれば、か……こんな状況だからこそ、できれば無条件で不問にしてもらいたかった……
あとちゃんと名前で呼んでもらいたい。
「さて、新たに三人志願者が増えたところで本題に入ろう。
諸君、実にこれだけの人数に集まってもらってなんだが、君達程度では真竜には敵わない。
そう、奴を倒せる可能性があるのは、私の大統領の選んだギルド【ユグドラシル】しかない。
そこのところはわかっているな?」
開口一番、メナス指揮官の口から飛び出たのは、
ここに集まった者全員の気持ちを否定するものだった。
確かに【ユグドラシル】なら希望はあるかもしれないが……
「おい眼鏡、どういう意味だそれ?俺たちはなんのために集まった!?」
「私は部下と仲間の敵討ちができると聞いてこの討伐隊に参加したんだぞ!」
そんな指揮官の言葉に、反発の声をあげるハントマンの姿が見えた。
金髪の男騎士に…緑髪の女騎士だ。二人とも鎧にミロスの紋章が刻まれている。
「ミロス第一騎士団の騎士団長と副団長ともあろう方がわからないのか?
ミロスの騎士団はあなた達第一騎士団以外全て壊滅。その最後の騎士団も半壊状態。
……真竜にやみくもに向かって、更に犠牲を増やすつもりか?」
「犠牲を増やさぬために…人々を守るのが我等騎士の仕事だ……!」
「部下は、仲間は、皆そう言って森に向かった…!エメラダ様の言う『世界の盾』になるために!」
二人の騎士は肩を震わせながら…涙を堪えながら言い放った。
『世界の盾』……今まさに、ミロスはその名がふさわしい。
彼らが真竜ヘイズを森林にとどまらせているからこそ、私達はこうやって会談ができる。
彼らが身を呈して力の無いものを守るからこそ、未だ一般人の犠牲者は出ていない。
だが、どんなに堅固な盾もいつかは朽るように、『世界の盾』の崩壊も秒読みだ。
「……わかっているさ。俺達が行っても勝てないことぐらいはな」
「それでも、このままでは部下達の死は無駄になってしまう!せめて奴に一矢報いたいのだ…!」
「無駄ではない。『世界の盾』がヘイズを抑えている間に、『世界の剣』たるユグドラシルが、
対真竜用の秘密兵器を手に入れた。それを使えば……確実に真竜を抹殺できる。
だから二人……いや、ここに集まった全員にやってもらうことは……
『ユグドラシルの援護』だ」
一気に静まりかえった部屋に、指揮官の言葉がよく響いた。
104 :
戦いの選択:2009/07/24(金) 02:11:50 ID:grw7ogeU
――その後、喚く騎士二名をなだめてから、今回の討伐作戦の全貌が語られた。
まず、秘密兵器『ドラゴンクロニクル』を使い真竜ヘイズを『分解』し、
そして『分解』されたヘイズを『再構築』して武器にし、それでニアラを伐つらしい。
しかしこの作戦には大きな穴が。
真竜をも分解するという常識外れな兵器だが、万能ではないらしく、欠点があった。
分解対象者に抵抗されると、分解に時間がかかるというのだ。
真竜たるヘイズに抵抗されてしまうと、分解にはおよそ20ターン前後かかってしまうらしい。
20ターン…分に換算すれば実に60分。その間、真竜を分解空間内に留め続けなくてはならない。
つまりそれは、常に真竜と向き合っての戦い、自分の逃走も相手の逃走も許されない。
大国の騎士団を一瞬で壊滅させる真竜相手に、そんな芸当ができるのは……
確かに【ユグドラシル】しかいない。……いや、彼らでも危険だ。
彼らが真竜との戦いに耐えられるよう、無傷、万全の状態でヘイズの元に辿りつけるように、
森林の中程までの魔物と配下の竜を片付ける……それが集められた私達に対する指令だった。
決行は二日後の早朝。
駆除部隊が先行し、傷付いたら後方待機している治療部隊の元に戻り回復、
そして駆除部隊が再び敵を減らし、ユグドラシルを一気に森の最奥のヘイズの所に届ける……
攻撃、後退、回復、攻撃、後退、回復の単純作業で楽な作戦だと他のギルドは喜んでいたが……
どうにも腑に落ちない。
集まったギルドのヒーラーやプリンセスは全員が治療部隊に回されたわけだが……
連続して竜や魔物を駆除するとなると、クラフトマナや月明かりの詩が欠かせなくなってくるし、
不意打ちをされた際の対応もしやすくなる。
それなのに……部隊を何故分けた?
確かに治療可能な者が一ヶ所に集まることによって、治療師同士の治療も可能になるが……
……考え始めると色々と疑問が出てくる。
今回の討伐作戦には『王者の剣』が参加していない。
『彼らの要となっていた魔術師が先日深手を負ったため不参加』とのことだが……
それが理由ならば、何故今回の私達駆除部隊に治療師を組み込まないのか?
王者の剣よりも集まった者の方が強いから?馬鹿な。
王者の剣は竜が襲来する以前からあった熟練のギルド。
ユグドラシルとNo1ギルドを賭ける話も出るほどの、歴戦のギルド。
間違いなく、最高峰のギルド。集まったどのギルドよりも確実に上手だろう。
それなのに何故……?
数が多いから?駆除にそんなに苦労しないから?あるいは……
…
……
………
…………深く考えるのはやめよう。
もう作戦は決定事項。退くことは出来ない。止まれない。
私はやるべきことをやるだけだ。
誰よりも竜を駆除して。
功績をあげて。
堂々と生きて帰る。
ただ、それだけだ。
105 :
戦いの選択:2009/07/24(金) 02:12:58 ID:grw7ogeU
「逃げろ!早く逃ガッ……!」
仲間を逃がそうとした戦士は、仲間と共に大地を這う大剣に体を縦に両断されて、
その噴き出す鮮血で大地と樹を紅く染めあげた。
「嫌だ…死にたくない……死にたくなあぁぁぁい!!!死にガブボベベ…!……!!」
誰もが思うであろう事を叫びながら、騎士はうごめく物体に取り込まれ、
盾と共にその物体を彩る骸のひとつとなった。
―――――――――バロリオン大森林
真竜ヘイズが潜む、紅い森。
そこに集められた勇士達は……心のどこかで油断していた。
本体を叩くのは英雄。自分達は雑魚の配下竜を倒すだけ。
そう聞かされていたからこその油断かもしれないし、ただ自分達に慢心していたからかもしれない。
しかし、どちらにせよ、認識が甘かった。
最初の犠牲者は治療部隊の一員だった。
森に入ってすぐに、倒れている騎士を見つけ、駆け寄り、治療を試みた心優しき治療師。
だが、彼女は治療を試みた次の瞬間に……その体をバラバラに切り裂かれた。
誰かがその光景に悲鳴をあげた瞬間、既に四人が治療師と同じ死を遂げていた。
五人の犠牲者を出してようやく皆が辺りの異変に気が付く。
地面から突き出た無数の大剣。
それこそが、駆除せよと言われた配下の竜……いや、違う。
どうみても竜ではない。完全に剣だ。そして大地を潜行して私達に奇襲をかけてきた。
金属である剣に、奇襲をかけるような頭脳…意識があるとは思えない。
だが実際に奇襲され、既に犠牲者が出ている。ならば考えられることはひとつだけ。
この剣は、真竜ヘイズの一部。そしてこの森全体が、ヘイズの殺戮領域……!!
「っ……全員散れぇ!!!」
どこかのギルドの誰かがそう叫ぶのと、大剣が固まっている私達に向かってくるのは……
ほぼ同時だった。
反応が少し遅れた数人が、また斬り刻まれていくのが視界の片隅に見えた。
106 :
戦いの選択:2009/07/24(金) 02:14:27 ID:grw7ogeU
血と肉片と剣と盾と絶望とフロワロで埋め尽されたこの狂気の森を、私達は必死に駆ける。
私達の部隊で残ったのは私とエリスだけ。
他は道中で斬り刻まれるか……
『ヌ゙ボア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙……!』
後ろから追い掛けてくる、あの異形の物体に取り込まれてしまった。
大剣は、まだ破壊できた。
下手に逃げ回らずに、正面から斬撃を受け止め、隙をみて腹に一撃を加えて叩き折る。
苦労はするが、無理ではなかった。だが、アレだけは無理だ。
巨大な金属手に握られた、腐った屍肉の塊。そして新たに取り込まれた人間の顔。
凄まじい吐き気さえ覚えるその姿は、とても直視できたものではない。
腐臭とおぞましい姿に耐えて斧を降り下ろした勇敢な戦士もいたが、
斧が刺さった瞬間にうめき声が聞こえた。
それは、まだ生きている状態で取り込まれた彼の仲間の声。
戦士はそれに怯んだところを、伸びてきた無数の腐った手に捕まり……瞬く間に吸収された。
先行していたミロス騎士の死体を取り込み、新たに来た私達をも取り込んで、
どんどん肥大化する、死の象徴たるヘイズの手……
幾百もの屍肉で守られたそれは、一切の武器を弾くうえに、
屍肉から漏れる、さっきまで生者だった者の悲痛な叫びが、こちらの戦意を削ぐ。
さらに、斬った瞬間に『人間』の血が噴き出して、濁った目で助けを求めながら絶叫する。
ヘイズはこちらが攻撃しにくいように、わざと取り込んだ人間の意識を残しているのだ。
このおぞましき死の塊を斬ることは、人間を、仲間を斬るのと同じこと……
こんな相手とまともに戦えるのは……おそらく誰もいない。
心ある人間には……戦えない……
107 :
戦いの選択:2009/07/24(金) 02:15:34 ID:grw7ogeU
「はっ…はぁっ……ソウマ様……!」
幸いにも、あの死の塊は動きは鈍く、決まった範囲しか動かないようなので、
吐き気を堪え、涙を流すエリスを近場の岩に座らせてなだめる。
「エリス、大丈夫だから……落ち着いて……」
「うっ……ぐぅ……ソウマ…様、どうして…どうして…こんなこと……に……」
エリスをなだめつつ、私も考える。どうしてこんなことに……?
本当は……気付いていた。
何故、強さに関係なく『ハントマンが』集められたのか?
その答えは、『死んでも問題ないから』
ハントマン……冒険者は基本的に各地を転々とする命知らずだから。
何故、駆除部隊と治療部隊に分けられたのか?
その答えは、『生き延びてしまっては意味がないから』
今回の目的は、ユグドラシルの援護。
如何に歴戦の彼らでも、あの死の塊とまともに戦い続けるのは不可能だ。
だから……死んでも構わない私達を『囮』にしたのだ。
あの塊は、基本は動かない。その側を死にかけた生物が通るか、攻撃するとそれを捕食する。
そして……アレにも好みがあるらしく、生きた人間と死体、両方目の前にあった場合……
死体を優先して取り込むのだ。ゆっくりと、時間をかけて……
つまり、この討伐作戦の真の目的は……
『森全体に斬り刻まれた無数の死体を用意して、あの死の塊を足止めする』
……これしか考えられない。
治療師のいない駆除部隊は、大剣に刻まれるか、相討ちで果てるか、どちらにせよ、
塊へのいい『撒き餌』になる。これでまずユグドラシルへの被害は激減する。
治療部隊は、残った大剣の襲撃への肉盾となるし、傷付いたユグドラシルの治療もできる。
だから、分けられたのだ。
どちらの部隊に分けられても、英雄を助けるための捨て駒になることに変わりないが……
何故もっと早く気が付かなかった?
千人砲……ニアラを倒すために平然と千人の命が犠牲になった。
それならば、同じ真竜であるヘイズを倒すためにも……犠牲を払うに決まっている!
治療部隊に分けられたリアは大丈夫だろうか……?
堅牢の韻とキュア、そして月明かりの詩を駆使すれば一応安全だとは思うが……
駆除部隊に分けられたハノイも心配だ。
彼は独特な感性の持ち主だが、決して悪い人間ではない。
そしてエリス……
彼女が予め薬を多めに持ってきてくれたおかげで、こうして私達はまだ無事なわけだが……
目の前で繰り広げられた虐殺は、確実にエリスの精神を削っていた。
108 :
戦いの選択:2009/07/24(金) 02:16:26 ID:grw7ogeU
私が、もっと警戒していれば……
私が、討伐に誘われた時に断っていれば……
私が、全てを一太刀で斬り伏せることができる程に強ければ……
……
……いくら後悔しても思っても、たらればに意味はない。現実は変わらない。
今できるのは、生き延びることだけを考え……
………………する。
む……何の音だ?いや、声……?
…………の匂いがする。
匂い?何のだ?いや誰の声だ??
……武器の匂いがする!
声が近付いてくる。武器の匂い?そんなもの匂うのか??
『うまそうな武器の匂いがする!』
あぁ完全に聞こえた。うまそうな武器?一体なんのことだろう?
――凶刃、少しいいか?
――メナス指揮官、私の名前はソウマなのですが……なんでしょう?
――お前の持つその刀……なかなかの名刀のようだな。それなら奴をおびきだし……
――はい?
――いやこちらの話だ。刀に恥じぬ活躍を期待しているぞ。頑張ってくれたまえ。
――……心得ました。
あぁ、理解した。
私は、少し特殊な『囮』なのだ。
『……その刀か。いい加減宝剣探しで腹も減った。まずはそれから食うとしよう』
木々を斬り倒し、それは現れた。
全身から生えた、鈍い銀の輝きを放つ数々の剣。
犠牲者の血を吸ったのか、鮮血と見間違う程に紅い装甲。
艦帝竜さえ比較にならない程の巨大な機関砲まで備えつけられている。
全身余すとこなく武装した、その正体は……
『装真竜ヘイズの名において、その刀と命……頂くぞ!』
――真体ヘイズがあらわれた!!――
109 :
戦いの選択:2009/07/24(金) 02:18:42 ID:grw7ogeU
「エリス!」
エリスを抱えて後ろに飛び退くのと、無数の弾丸が地面をえぐるのはほぼ同時だった。
弾丸の大きさこそ艦帝竜と変わらないが、その発射速度は桁違い。
逃走は……まず不可能だ。
「そんな……どうして真竜が……!」
驚くエリスを一回立たせ、目の前の竜と向き合う。
先程のヘイズの言葉から察するに、奴はこの刀の匂いにつられてここまで這い出て来たらしい。
加えて出発前のあの会話……
そして目の前の真竜の足元に見える謎の魔法陣……
……理解が確信に変わった。
ユグドラシルが到着するまでに、少しでも長い時間真竜を足止めしろということか。
――お前の持つその刀……なかなかの名刀のようだな。それなら奴をおびきだし……
あの言い方からするに、ヘイズが上質の武器を求めていることは知っていたに違いない。
奴をおびきだし……私達と戦わせて、少しでもユグドラシルの負担を減らさせるつもりか。
――刀に恥じぬ活躍を期待しているぞ。頑張ってくれたまえ。
すぐには殺されずに、少しでも持ち堪えて頑張ってくれ……そういうことか。
あの魔法陣がおそらくドラゴンクロニクルだろう。
あの魔法陣内に一定時間ヘイズをとどまらせなければ、作戦は失敗の筈……
機関砲の発射速度から逃走は不可。残された道は否応無しに耐えることだけ。
ユグドラシル到着まで耐えたら、思惑通りに彼らへの負担は減る。
耐えられなければ、食われ、ヘイズの食欲を満たし、結局彼らへの被害が減る。
……どっちに転んでも、あちら側にとっては有益なわけだ。
よく目にする、過去の英雄の冒険小説。
それらは選ばれた英雄が悪を次々に打ち負かすという、子供に大人気の痛快なお話。
だが、その英雄の活躍の裏で犠牲になった無数の戦士は、名前すら書かれていない。
そして、私達の辿る道もまさにそれ。
歴史から抹消されるだけの、英雄伝説を作るための、土台。
誰の記憶にも残らない、悲しきただの屍のひとつ……
ふざけるな
私は別に英雄などにはなりたくない。
だが利用されるだけされてただ死ぬのは御免蒙る!
英雄も、集められた皆も、私達も、全て同じ『人間』だ。
皆等しく夢を見て生きる権利はある!
生憎私には守るべき人がいる!
英雄のために捨て駒になるなど、断固拒否する!
「エリス……シールドクラフトを常に張って私の後ろにいなさい」
「ソウマ様!?まさか……!」
「極力攻撃は私が受け止める!逃げられないならば……前を見るしかなかろう!」
無謀だということは十分に承知している。
ただ抗いたかった。
歴史の闇に沈む無名の戦士だって人間で、確かに生きているのだから……
110 :
戦いの選択:2009/07/24(金) 02:20:01 ID:grw7ogeU
『キルスラッシュ!!』
「がっ……!く…!」
ヘイズの繰り出す剣が、脇腹をえぐる。
だがそれぐらいは覚悟のうえだ。
サムライという職の都合上、大怪我は常に想定している。
だから傷が痛み、苦しくてもすぐに次の行動に移ることができる、
一般に『刃下のリアクト』と呼ばれるサムライ独自の技だ。
そして次にとる行動は、
全ての邪念を払い、体内の気を練って己の体力を回復する、『練丹』
これもサムライ独自で編み出した、特別な呼吸法が可能にする技だ。
回復したら、再び身構え、次の攻撃にそなえる。
『貴様……人間の癖になかなかしぶといな……』
ヘイズはまだ気が付いていない。
その体の一部、大剣のひとつが既に分解されていることに。
なるほど、確かにドラゴンクロニクルの力は本物らしい。
この調子でリアクトと練丹で耐え続ければ……
『だが、貴様ら人間では俺は倒せんぞ!』
私の甘い考えを吹き飛ばすように、真竜ヘイズが吠えた。
そして次の瞬間
その姿を見失った
「な!?」
「ソウマ様!!上です!」
エリスの声に慌てて上空をみれば、
そこには、背から新たに九本の長剣を生やしたヘイズの姿が。
『ナインテエェェル!!』
襲い来る九本の剣。
まるでそれぞれが生きているかの如く動き、私の体を刻み、エリスの盾を砕いていく。
なんとか耐えきったが……今の技は……!
『驚いたか人間?貴様達の編み出した技の一部を拝借させてもらった。
次はこれでどうだ?タイダルウエェェェイブ!!』
完全に体制を立て直す前に襲いくる重い一撃をなんとか刀で受けきるが、両腕に激痛が走る。
信じられないが、ヘイズは確かに私達人間の編み出した技を使用している。
しかしナインテールはリア曰く「取るだけスキルポイントの無駄…」な技らしいが……
とてもそうは思えない。今のタイダルウェイブもそうだ。
本来、威力が高く重い素材で出来た斧だから可能な戦士の必殺技。
それを平然と薄い剣でやってのけるのは……真竜だからこそできる芸当か。
「ソウマ様……!」
「だ…大丈夫だ……!」
本当は大丈夫ではないけれど。
最初のナインテールで心のどこかでこの真竜に恐怖を覚えてしまったけれど。
ここであきらめるわけにはいかない……!
111 :
戦いの選択:2009/07/24(金) 02:30:45 ID:grw7ogeU
―――――――――
どれ程の時間が経っただろうか?未だユグドラシルは到着しない。
私の体はボロボロだし、エリスもシールド展開が不安定になってきている。
だがそれは……ヘイズも同じだ。
『ガ……ギ…キサマら……俺ノカラダにナニをしタ…!?』
時が経つにつれて、ヘイズの体も確実に崩れ始めていた。
体から生えた剣は既に残り二本だし、紅い鎧装甲も剥がれ落ちている。
頭部まで分解が進んでいるのか、攻撃も単調なキルスラッシュが多くなっている。
私も、エリスも、それを見て少し安心していた。
厳しいけれど、もう少しだけ耐えれば……勝てる、と。
戦いにおいて、油断が命取りなのはわかっていた。
わかっていても、どうにもならない時がある。
元々勝ち目の無い戦いだと思っていたから余計安心してしまった。
戦いはいつ何が起こるかわからないのに……
相手は、真竜だというのに……
『オ オ オ オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ォ ! ! ! ! 』
突如、ヘイズが唸りをあげて突進してきた。
完全に虚を突かれた私は構えが遅れ、エリスはシールド展開が遅れた。
ヘイズが狙うは、盾の無い無防備なエリス
『ぐガ……双つ……ツバメェ!!!』
瀕死の真竜が放った、私にとって非常に馴染み深いその剣技は
エリスの体を易々と
切り裂いた
「エリスーーーーーーーーッッッ!!!!」
ああ私は何をしている!?!?
叫ぶよりも前に、動け私の体!
ヘイズの剣が怖いか?
ああ怖い!
けれどこのままではエリスは斬り刻まれる!
そんなのはもっと怖い!
守る約束はどうした!?
サムライの刀はなんのためにある!?
痛む足を無視して、震える心に鞭打ち、痺れた腕に神経を集中させて。
ヘイズの双つ燕が完全に入る前に、エリスの前に飛び出す。
双つ燕の一撃目は、斬りおろし。
二撃目は……斬りあげ……!
二撃目のくる位置に刀を持っていき、防ぐ。
だが、あくまでそれは、対人での対処法
今相手にしているのは、おそろしい真竜
小手先の防御が、通じるわけがなかった
防ごうとした私の刀は逆に弾かれ、右腕は大きく上にはねあげられた。
そして双つ燕の三撃目と四撃目は……高速で振り抜かれる、交差撃
刀を弾かれた、生身の人間が受けていいような代物ではない
皮が斬られる感触
肉が斬られる感触
骨が斬られる感触
また肉が斬られる感触
また皮が斬られる感触
そして……体の右側が、少し軽くなった
112 :
戦いの選択:2009/07/24(金) 02:31:37 ID:grw7ogeU
「!!!がっ……ぁ……っ……っっっ!!!!」
激痛……そんな言葉も生温いな。右腕が胴体と離れたのがわかる。
左腕はまだくっついているが、どうにも骨まで斬られている。
そして右肩と左肩から伸びた紅い直線は体の中央で見事に交差している。
交差点と右腕があった場所からはおびただしい出血。
それなのに、妙に頭は落ち着いている。
ああ……敵ながらなんて見事な双つ燕だろうか。
そして流石は真竜。一撃が私の四撃に匹敵する程の威力とは……
もしサムライだったなら、剣聖になるのも夢ではなかろうに……
はははは……私は何を考えているのやら……血の流し過ぎか?
少し想定外の痛みだが、痛みは痛み。即死する傷ではないからまだ私は動ける。
動いて何をする?エリスを助けなくては。エリスのあの出血は命に関わる。
あれ?私はどうなんだろう?いや、まだ動けるから問題ない。
ほら、エリスは倒れていて動けないではないか。だから、とるべき行動はエリスの治療だ。
……ああそうか、治療しても逃げられないんだった。何故?真竜がいるからだ。
頼むから早く分解されてくれ。エリスが危険な状態なんだ。
はやく、はやく、はやく!
『グギ……キサママダ……イキテ…イルノカ……』
それはこっちのセリフだ。早く分解されてくれ。
わたしはエリスを守ると約束をした。けれどまもれなかった。
だからせめていのちだけは助けないといけない。
ほら、エリスはきずがふかいんだ。ひくかぶんかいされるかしてくれしんりゅうよ。
『ギ……ギ…キサマ…コンドコソ…コロス……!』
ころす?そんなことはきょかしない。わたしたちはいきるんだ。
だから、ひかないなら、しぬのはそちらだ。
まだわたしはうごける。
まだひだりうではついているし、あしだってある。
ほら、かたなもまだおれていない。まだにぎれる。
なんだかすごくからだがだるいけれど、えりすをたすけるにはいまこのばで、
しんりゅうをたおさなければ……
もうすこし、もうすこしだから。もうすこしだけいうことをきけわたしのからだ。
てきもひんし。あたまにいちげきをいれればたぶんかてるから……
ほら、ひだりてでかたなをにぎれわたしのからだ……
わたしはまだ……たたかえる……
えりす……すぐに……たすけるから……まっていてくれ……
もうすこしだけ……
ここまで。
あと二、三回で終わりますので、もう少しだけおつきあいいただけると幸いです。
それでは
GJ!
かなり燃えました!
勿論この後、三途の川で変態父との再会シーンもありますよね?
GJ!!!?
Aを選んでしまったばかりに…。
続きが気になる><
うわあああああああ!!?
ちょ・・・2人とも助かるよね?死なないよね!?
ヘイズのくせになんでこんなに強いんだよぉ・・・
GJ!
本当にヘイズのくせに生意気だ
解析した次のターンぐらいには倒せてしまう奴なのに
GJ
なんかすごく続きが気になる!
というかお前ら、いい加減メナスの非情さに怒れよw
メナスの非情さというかむかつき度合いが
まさにって感じでワロタ
投下行きます。
>>54の続きです。
・今回エロなしです。
固有名詞一覧
・ジェリコ 本作の語り手。ルシェヒーラー。スケコマシ。
・ナムナ ルシェサムライ。このターン空気。
・ロザリー 赤毛ヒーラー。採掘特化。通称、ロザ姐さん。
・カリユ 六花亭ウェイトレス。カリユ可愛い。
(名前は公式ちびキャラトークより)
「――ってな事がありましてねぇ、いやぁ、大変でした」
「がははっ、そりゃ災難だったなルシェの兄ちゃん!」
歓楽街で身も心もすっきりしたあと、私は六花亭で食事を摂っていた。
カウンター席には、いい感じに出来上がってるオッサンが一人。
お互い顔見知りだが、酒場の常連という以上の情報は名前さえ知らない。
(まあ、こっちも名乗ってないから『ルシェの兄ちゃん』呼ばわりなワケだが)
ところで私はパッと見の外見や丁寧なしゃべり方から、
むっつりスケベだと思われがちなのだが、別に全然そういうことはなく、
「いやぁ、それがですね。アレはアレで結果的に適度な焦らしプレイになりましてねえ、
お店でしてもらったとき、実にいい感じで一本抜いてもらえました」
酒場の酔客たちとフツーに猥談をかませる程度のオープンスケベである。
「がははっ、災い転じて巫女とナースってか?!」
「……はて、ナースなら存じてますけど、ミコってなんでしょうか?」
看護士さんなら、治癒術の研修してたときに一度お相手したことがあるのだが。
「あー、知らねぇか? アイゼンの一地方で神につかえる乙女をそう呼ぶんだよ」
「聖職者の一種ですか。しかし少々マイナーすぎやしませんかね?」
「服が流行ってんだよ、服だけが。ほれ、例のモタ=ボナールの工房は知ってんだろ」
「そりゃまあ」
知らないほうがおかしい。モタ工房といったらドリス大統領をはじめとして
熱心なファンの多いハントマン向けの服飾ブランドだ。
かく言う私も何着か持っているし、ショップにはナムナが毎日のように通いつめているはずだ。
「あそこのデザイナーが趣味で作ってる奴なんだがな。紅白で、ひらひらの」
「ああ、あの紅白ですか。モノはマネキンに着せてるのを見たことあります」
「おうよ、アレが一部の『お店』で人気でな。清い物をけがす感じがイイってよ」
「シスタープレイみたいなもんですか」
「そうそう、ンな感じだ。あの服、腋がごっそりあいてるからな、
着せたまま一物を腋で挟んでしごいてもらうと、好きな奴はたまらんらしい」
「腋コキ、そういうのもあるのか!」
今度ナムナで試してみよう。
それはさておき。
我々も別に意味なく助兵衛トークを繰り広げているわけではない。
自衛の為である。
緑色の髪と獣耳をした小悪魔的ウェイトレスから自身の食事を守る為に。
「カリユさーん。エビフライまだですか?」
その小悪魔的に可愛いウェイトレスに注文品の催促をする。
注文から10分、普段だったらもう出てきてもいいはずだ。
「………………」
しかし華麗に無視なさる。
彼女はウェイトレスとしてあろう事か、目を床に向け、獣耳を意志の力でぱたりと伏せ、
視力と聴力を自ら制限することで世界のすべてを拒絶しようとしていた。
酒場にあふれる有害情報――助兵衛トークから一心に身を守っているのだ。
私たちだけではなく、六花亭のそこここで男性客が猥談を展開していた。
やむなく私はカリユに近づき、伏せたケモミミ(ふかふか)を指でつまんで持ち上げ、
「カ・リ・ユ・さ・ん」
音節ごとに区切って彼女の名を呼びかける。ついでに耳孔に息をふーっと吹きかければ、
「ひゃ、ひゃいっ!」
びくんと身体を震わせてやっと返事をかえしてきた。
念のため言っておくと、ボーっとしていたカリユの覚醒を促したかっただけで、
決して性的いたずら的な意図はない。ないったらない。
「エビフライ。出来てたら持ってきてください」
「あっ……はい、ただいま!」
カリユは持ってくるなり、またもや目を伏せ耳を伏せての自閉モードへと回帰する。
そして私のテーブルに乗せられたのは、七本のエビフライ。
――客席に七本すべてがやってくる。かつてそれは奇跡に等しい出来事だった。
このエビフライは六花亭名物……いや、カザン名物と言っても過言ではない至高の一品である。
だが、六花亭マスター(キザ)の手を離れたときには七本だったエビフライは
客の口に届くときにはその本数を大きく減じているのが普通であった。
原因はこのルシェ娘――カリユである。
彼女はエビ大好きな上に常時はらぺこで、チップとしてエビフライを要求してきやがるのだ。
て言うか『あ、エビフライありがとう、もらうね!』と、こっちが何も言わないうちから喰らうのだ。
なんでそんなのをウェイトレスとして雇ってるんだという、根本的な疑問はさておき、
かわいいは正義なのでとがめる者も少なく、カリユは我が世の春を謳歌していた。
だが当然、客だって七本全部食いたいと言うのが本音である。
マスター(キザ)にチクったり、自前で厨房から取りに行ったりとさまざまな対策手段が講じられたが、
彼女の食欲の前に打ち破られ、数多くのエビフライ注文者たちが涙を呑んだのであった。
その連綿と続く客とカリユの戦いに終止符を打ったのが――何を隠そうこの私、ジェリコである。
今までの注文者たちは己のエビを守るのに腐心して、カリユと真っ向から戦う意思を持たなかった。
あえて言おう、愚策であったと。攻撃こそ最大の防御であったのだと。
私も常々カリユの暴虐に苦しめられてきた一人であったのだが、一つの突破口を見出したのであった。
カリユがウブな処女である事に気付いた私は、彼女が性表現への耐性を持たないであろうことに着目し、
数人の仲間達と助兵衛トークをくりひろげてみたのだ。
結果は大成功。
カリユは酒場に充満する有害情報から身を守る為に全力を尽くさねばならぬようになり、
つまみ食いという名の攻勢に移ることがほぼ不可能となったのであった。
現在では酒場の男性客ほぼすべてが、私にならっておおっぴらに猥談を行うようになり、
ここにカリユの封じ込めが実現したのであった。
「………………」
ケモ耳をぺったんとふさいで、助兵衛トークを聞いてないアピールするカリユ可愛いよカリユ。
しかし、どれほど必死に耳を伏せようとも、ルシェの優れた聴力は完全にはカットできまい。
くっくっくっ、思い知るがいいカリユ。どんどん耳年増に調教してあげるからね。
事ほど左様に食い物の恨みは恐ろしいのだ。
つまりこれは正当な復讐であって、単なるセクハラではない。断じて違う。
いや、彼女はおなかぷよぷよで常々ダイエットに頭を悩ませているというから
食事量を制限して差し上げるコレは人助けですらある。
客はエビを存分に喰らい、カリユは減量に成功し、私は猥談に赤面したカリユの艶姿を楽しむ。
まさに三方一両得の妙案であった。
この作戦、酒場の雰囲気が悪くなることを嫌う六花亭マスター(キザ)の存在が一応のネックではあるのだが、
カリユを恐れなくてすむようになった客たちが遠慮なく注文するので
売上が微増する事などが理由なのだろう。
他の女性客がいないときに限って『ま、コレはコレでカリユの薬になるか』と、黙認していただいている。
……などと過去の激闘に思いをはせつつ、私はエビフライをぱくり一口。
旨い。
ふわっとしててかりっ。
火を通し切らずエビの中心部にはあえて火の通ってない部分が残されており、
エビの甘味がまったく損なわれていないばかりか増幅されている。
道を極めた達人のみに出せる匠の技であった。
「いやー、やっぱりタンパク質の摂取はエビに限りますねえ」
エビをほおばりつつ酒場の常連氏に語りかければ、
「がははっ、そりゃぁ抜いて出しちまったモンは補充しなきゃなぁっ!」
陽気な返事が戻ってくる。
「ええ、今晩ウチの彼女に『埋め合わせ』をさせるつもりですので
じゅうぶんに溜めておきませんと」
「かーっ! 若い若い! 若いってのはいいねえっ! 昼間イッパツ抜いてるってのに、
まったくお盛んだァ、今夜もズボズ――――がっ、うががっ……」
こきゃっ、と珍妙な音がして。
常連氏の首が突然真横を向き――そのままグラリ倒れてカウンターへと突っ伏した。
「なっ、なんですっ?!」
「はーい、うごかないでねー。動くとキミも首ひねっちゃうよー?」
思わず慌てふためく私の耳に背後から、軽ぅい感じの女性の声で実に物騒な脅しがかけられたのであった。
……いや、女性だって?
おかしい、マスターの指示でカリユ以外の女性が店内にいないことは確認してるのだが。
と言うか、この声どっかで聞き覚えがあるような……。
「そこのウェイトレスさんからセクハラ野郎どもの討伐依頼が出てんのよ――って、
ありゃりゃりゃ? キミ、ジェリ坊?」
「ロザ姐さんっ?!」
「ははっ、やっぱジェリ坊だ!」
余裕で知り合いだった。
赤い髪に赤い服に赤いメガネ。上から下まで赤づくめ、派手めの女性が視界内へと現れた。
そうか、ロザ姐さんなら存在に気付かなかった理由がつく。インビジビリティで気配を消していたのか。
「ね、姐さんがなんでここにっ?!」
だがネバンプレス在住のはずの姐さんが何でカザンに?
「いやー、買ったヤマに竜が沸いちゃってねー。掘るに掘れなくなっちまったのよ。
んで、借金取りからほとぼり冷ますために逃げてんだけど、
ひとまずヒーラーの技術を生かしてハントマンでもやろっかなーって。
……ところで、ジェリ坊こそなんでそんな荒事向きのカッコしてんのさ? ケンカは嫌いだったっしょ」
「いやまあ色々ありまして……て言うか坊はやめてください坊は。貴女は一応、同い年でしょう?」
「だったらキミも姐さん呼ばわりはやめなよ」
「……無理です。ロザ姐さんはなんて言うか姐さんだから」
「はっはぁ、お互い年食ったってのに、ジェリ坊は変なトコだけお子様のままかぁ」
そうかもしれない。アレから精神的にはほとんど成長できてない気がする。
ロザ姐さんとはネバンプレス大学でぶらぶらしてた時、治癒術の講義などで知り合った。
実は良いところのお嬢さんらしく、ロザリーなんちゃらと言う長ったらしい本名が
あるのだが、同級生ばかりか先輩達や教授連中までもが『ロザ姐さん』という通称で呼んでいた。
気風良し、気前良し、器量良し。そして何よりケンカが強い。
度胸もあって面倒見もいい、男前オブ男前な彼女が『姐さん』の称号を周囲から授けられたのは、
入学からわずか一ヵ月後のことだった。
生物学的な意味では東の大陸の人間なのだが、ルシェ以上にルシェらしいその性格によって、
ルシェ氏族の一員として認められているほどである。
彼女は治癒術も一応修めてはいるのだが、本来は地質学のエキスパート……いや、ぶっちゃけると山師で
最新の機材顔負けの精度で鉱脈を探し当て、何でわかるのかと訪ねると『勘』と一言だけが返ってくる。
学生時代から文字通りの意味で『一山当てて』ものすごい金額を稼いだかと思えば、
『ああ、アレ? 別のヤマ買ったら無くなっちゃった』と、ああっという間にその金を使い果たし、
気付けばすっからかんで周りに食事をたかる様な真似さえしていた……と、言うか私もたかられた。
とはいえ、その山も『当たり』だったらしく、後から豪勢なメシをおごってもらったりもしたのだが。
まさにグレートワーカー。浮き沈みの激しい人生である。
「ま、再会にかんぱーい」
「ええ、乾杯」
とりあえず、私たちは数年ぶりの再会を祝して杯を酌み交わしていた。
「んで、いきなり説教で悪いんだけどさ。ダメだよー、セクハラは。
クエストオフィスに依頼がくるとかよっぽどだよ?」
どうやらカリユは私の排除を依頼し、それを受けたのがロザ姐さんだと、そういうことらしい。
「いや、コレには事情が」
「その事情にかこつけてエロい事すんのがキミの目的でしょーが。昔っから」
「……う、そのぉ」
否定できない。昔を知ってる人間の、なんとやりづらいことか。
「大体ジェリ坊はエロい気持ちばっかり先行しててさー、いざコトとなったら
すっごい自分勝手なセックスばっかりだったよねー。どうよ、ちったぁ上手くなったの?」
「姐さん、姐さん……人目があるんでちょっとお手柔らかに頼みます」
で、その。
彼女とはヤってるヤってないで言うなら、ヤってる関係である。両手両足で数えられるぐらいの回数。
……だが『恋人だったのか』と問われれば、かなり微妙なところなのだが。
姐さんには常時7〜8人の男がいて、私もまたその一人に過ぎなかったからだ。
「うっふっふっふ。キミに女扱いのイロハを教えてやったのはわたしだからねー。
師匠としちゃあ弟子のその後が気になったりするわけさァ」
彼女から教授されたテクニックの数々は実際その後の人生で大いに役立ったので、どうにも頭が上がらない。
「他にも気になる『お弟子さん』はいらっしゃるでしょうに」
「でも、テクこそイマイチだったけど、将来性をかんがみると
あの頃付き合ってた子の中じゃキミが一番だったよ」
「ああ……そりゃどうも」
今更言われても、という話ではあるのだが多少は嬉しかったり。いやぁ、男って単純だ。
「うん、アレの大きさと太さと硬さの総合力で一番だった」
「そんな基準ですかいっ!」
だけどさっき以上にいわれて嬉しい話だったり。いやぁ、男ってホンっと単純ですよね。
「んー、だけどね、コレまで300本以上喰ってきたけどさァ、
キミのは歴代でも4位に入るからそこだけは自信を持っていいと思うよ。そこだけは」
……300て。私も結構遊んでる部類に入ると思うんだが、流石にゼロ一個足りない。
「『だけ』を強調しないでください、『だけ』を……
ちなみに一位ってどんな人だったんです?」
自分以上がいると聞き、妙なところで対抗意識と好奇心が沸き起こる。
「んん、興味ある?」
「そりゃまあ」
「ジェリ坊も名前だけは知ってると思うよー……あ、でも、この話ってしてもいいのかな」
ロザ姐さんが言いよどむとは珍しい。大学の教授連中か誰かなのだろうか?
「そんなに出しづらい名前なんですか。言いたくなければ結構ですよ」
「ま、いっか。ビビってるって思われんのもシャクだし言っちゃう。
一位はね、ドリスだいとうりょ――」
「ストーォォォップ!! ロザ姐さんストーップ!!」
こんなオープンな場所で出していい名前じゃないだろ! そもそも、どういう縁でそうなったんですか!
「いやぁ、後にも先にもベッドの上で完全に小娘あつかいされたのはアレ一回だけだわね。
ホンっと凄かったわぁ、ドリスだいとうりょ――」
「喋んなつってんだろ、このヤリマン!」
……いかん、激昂するあまりつい口汚く罵ってしまった。
「違うわ。ヤリマンじゃなくて性豪って呼んでちょうだい」
そしたら姐さん、ち、ち、ち、と立てた人差し指を左右に振りながら、そんな事をおっしゃいます。
サマになってるけど妙にムカつくのは何故なんだろう。
そこに横から口を挟んできたのは、六花亭のマスター(キザ)だった。
「ぎゃぁぎゃぁ騒ぐな若造。アゴートの奴の女好きは、昔っからこの辺住んでる奴なら誰でも知ってる」
「……はぁ、そーだったんですか」
まあ、英雄色を好むっていうしなあ……。
「それと嬢ちゃんよ。ウチの店でその手の話すんなとは言わねぇけどよ、アゴートの名前を気軽に出すのは
勘弁してくれや……なんせ奴さんが雲隠れしてからもう3年になるんでな。ピリピリしてる奴も多いわけよ。
メナスの若造あたりに聞きとがめられたら、どうなるかわかったモンじゃねぇんでな」
「……ぁ、そうですね、わたしが不注意でした。すみません」
やーい怒られてやんの。しかしマスターにかかれば姐さんもまだまだ嬢ちゃん呼ばわりか。
「まあ、アゴートの奴のことだから、あんがい政務をおっぽりだしてどっかの女のところに
シケこんでるだけかもしれねえんだけどなァ」
そう言ったマスターはなんとも妙な表情を浮かべたかと思うと、厨房の奥へと戻っていった。
「まあ、キミも童貞小僧じゃあるまいし、この程度のことでイチイチ目くじら立てる物じゃないってことね」
「そーですね……」
姐さんはもーちょっと自重するべきだと思いますけどね。色々と。
「あ、童貞小僧で思い出したけど、キミの童貞切ってやったときのことおぼえてる?」
「それは絶対にほかの誰かと間違えてますっ!」
青春の思い出の一ページにかけて否定しておくが、私の初体験はロザ姐さんではない。
「んん、グリオン君あたりと勘違いしてたかなぁ」
「彼にまで手ェつけてたんですか……従兄弟と穴兄弟とか嫌すぎるんですけど」
だいたいそんな勘違いするぐらいって、いったい何人童貞切ってんですか。
「あー、そかそか、思い出したわ。ジェリ坊のはじめてって確か、近所の幼馴染の――」
「――待った、何で知ってんですか、その話」
おかしい、他人にはほとんど語ったことがないはずなんだが。
「山師の情報網を甘く見ないで。あの当時、ジェリ坊がわたし含めて4股ぐらいかけてるのは
気付いてたからさァ。ヘンな病気うつされたらヤだし、キミの女関係は一通り調べてあったのよ」
「……バ、バレてましたか」
それを知った上で私との関係を続けてたのかこの人。度量が広すぎる。
「ふふん、あったりめぇよぉ。おどろいたぁ?」
「それはもう……あの、怒ってます?」
何年も前のことを今更って気もするが、聞かずにはいられなかった。
「んー、わたしも男関係は人のコト言えなかったし、それに……」
「それに……?」
「あの頃のジェリ坊の本命ってわたしだったっしょ? それなら放置でもいいかなーって」
「な、な、な、何でそんなことまで……」
その本命だった本人に言われて、思いっきりキョドってしまうわたくし。何でそこまでわかるんだ。
「勘よ……と、言いたいトコだけど、一応根拠はあるかな」
「……はぁ」
「コレよコレ」
と、言って姐さんは自分の顔を指差して、
「……メガネ、ですか」
「そ。キミが贈ってくれた奴。見てのとーり今でも重宝してるよぉ」
それは、かつての私が姐さんの気を惹きたくて、必死になって作った奴だった。
赤が大好きな彼女のために、最高級のサンゴを調達し、細工師としての持てる技術のすべてを使って
削り出し、各部には微細な彫刻を施したものだった。
「キミが付き合ってた他の3人のコにはさ、こーゆー手作りの奴はプレゼントしてなかったっしょ。
だから、わたしが一番なんだなーって確信できた」
「その通り……完敗です」
「それにキミが他のコと付き合ってた目論見もだいたいわかってたし」
「……え?」
「よその女の子とたっぷりセックスして経験値つんでテク磨いて
『いつか姐さんをひぃひぃ言わせてやるんだ!』とか、そんなトコだったんでしょ?」
「うぅっ、ぐっ……!」
「ふっふっふ。図星だったかぁ。もー、かわいいなあ」
読心術師か、この人はっ!!
「でも良いタイミングでジェリ坊と再会できたもんだわ」
「何がですか?」
「いま逃亡生活で男切らしててさァ。せっかくだから一発ヤろうよ」
「タバコ切らしてるのと同じ感覚で言わないでくださいよ!」
「失礼ね。タバコは吸っても身体に有害なだけだけど、
ちんこは吸ったら良性のタンパク質が摂取できるんだから」
……この女、そんなにタンパク質を摂取したいんだったら『あのね』をタイトルに冠する
同人誌シリーズでいっぺん酷い目にあってくれば良いのに。触手系とかで。
「そういやさ、精液のタンパク質組成ってエビとかの甲殻類に近いって知ってた?」
「エビ食ってるときにやめてくださいよ!!」
ダメだこのひと早く何とかしないと。
さっきまであんなに美味しかった絶品エビフライが今はもう台無しである。
「味とかさ、匂いも生のエビに近い――」
ろくでもない講釈を続けるロザ姐さんに、おもわず『ぶち殺すぞ、人間(ヒューマン)ッ!!』と、
怒鳴りつけそうになったのだが……
ごっすん。「ふぎゃっ?!」
私が大声をあげるよりも先に、いつの間にかカリユが私たちの背後に立っていて、
お盆をロザ姐さんの頭に振り下ろしていた。しかもヨコじゃなくてタテだった。
見事なまでの、おぼんチョップであった。
ケモ耳の先までぶるぶる震わせ、怒りに満ちたカリユが咆哮する。
「なんでっ……なんでセクハラ止めにきた人が一緒になってセクハラトークしてるんですかぁっ!!」
そういえばすっかり忘れていたが、姐さんの今日の仕事はカリユへのセクハラを止めに来ていたのであった。
カリユのお盆が再び猛威をふるう。
ごっすん。「みぎゃっ?!」
普段おとなしい子のこーゆー姿を見ると思う。ルシェというのはやはり戦闘民族なのだなぁ、と。
「そもそもっ、エビをっ……エビを侮辱するなぁッ!!」
ごっすん。「ひぎゃっ?!」
「エビを食べる時はねっ、誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃあダメのにっ……!」
ごっすん。「めぎゃっ?!」
ああ、いけないいけない。姐さんの頭から煙とか出始めている。そろそろ止めねば。
「カリユさん」
「なぁにっ?! エビを冒涜するなら貴方もぶつよッ!?」
うーむ、カリユの瞳が王蟲のごとき攻撃色。対応を一手間違えれば私もごっすんの餌食だろう。
「マスターがこっち見てます。お客さんに手ェ出すのはそろそろ自重したらどうです?」
「……あうっ」
「まあ私も少々やりすぎました、すみません。こちらを差し上げますので、
とりあえずコレで手打ちということにしませんか?」
――と、食べ残しのエビフライを差し出せば、
「わぁい、ほんとにっ? ありがとうございますっ♪」
ああっという間にさくさくかりかりと音を立ててカリユの胃袋へとおさまった。
それにしてもあんな話を聞かされたあとで、よくもエビなんて食えるものだ。
……ははぁん、やっぱり彼女はガチ処女か。精液の味を知ってたらこんな真似は出来まい。
「じゃ、ゆっくりしていってね!」
しかし一発で機嫌が回復している。この子もずいぶん安上がりだなぁ。
「うぅ……頭痛がする」
「頭痛ってこういうときに使う単語でしたっけ……」
ロザ姐さんが頭を押さえながら、ゆらりと身体を起こした。
「まあ、おかげで助かったわ。お礼にキミがどれだけ成長したかみてあげる。ベッドの上で」
「……結局そっちの方向に話をもってきたいんですね」
「ありゃりゃ? ジェリ坊のクセに食いつき悪いなー。どったのよ?」
「だって私は今お付き合いしてる人いますから」
そしたら姐さん、目がまんまるな驚いた顔をして、
「どしたの、なんか悪い物でも食べたの? て言うか本物のジェリ坊? 偽者じゃないよね」
「なんですかその反応は」
「だって『バレなければ浮気じゃない』と豪語していたあのジェリ坊がだよ、
彼女がいるという程度の事で、目の前の据え膳をはねつけるなんて信じらんない」
「…………」
失礼な。と言いたいところだったが、確かにかつての私はそんな感じだったので否定できない。
「しっかし……そーなんだぁ。ふーん、へーえ、なるほどねぇ……」
「なんですか今度は……」
「そっかー、浮気が申し訳ないって思うレベルで好きなんだぁ。
愛されちゃってるなぁ、その彼女さん」
「……むぅ」
ああ、マズい。図星突かれて少々赤面しちゃってるかも。
「ははっ、そんな顔しなさんなって。ね、どんな子なの?」
言えるわけねー。
身体も性格も見るからにお子様だなんて。
「元気な子です。明るくて、一緒にいるだけで気分が晴れやかになるような」
やむなく、要点はぼかして当り障りのない回答をする。
「へー。ルシェなの、人間なの?」
「ルシェです」
「ほうほうほう、惚れたきっかけはなんなのかなー?」
「彼女――サムライでしてね。お仕事を手伝ってるうちに惹かれあっていったというか。
まあ、状況が状況だけに、吊り橋効果みたいなのもあるんでしょうけどね」
「ああ、それでキミまでハントマンのカッコなんてしてるんだ。
ところでカラダの相性は?」
聞くか。それを。
「……その、まだ最後までしてませんので」
この手の話を嘘ついても、この人の前じゃ即行バレる。正直にゲロっちゃうのが一番だろう。
「嘘ッ?! 『会ったその場でズブリ』が信条だったキミがっ?!」
「そんな信条を持ったことはありませんっ!」
とは言え、似たよーなことは5,6回やったことはあるのだが。
「まあその……経験も足りないし、カラダも硬い子なんで少しづつ慣れさせてる最中なんですよ」
「はっはぁん、まだ処女かー。大事にしちゃってんなぁ、このこのぉ!!」
姐さん、肘でぐりぐりしてくる。うーむ、むずがゆいったらない。
「いや、ははははは……」
「こりゃぁ、わたしが悪かった。キミにそんな好きなコがいるんだったら
あんな軽ぅい気持ちで『一発やらない?』なーんて持ちかけたわたしがバカだったわ」
「やれやれ、やっとわかってくれましたか……」
「うん、よーくわかったわかった――」
「――本気で落としに行かなきゃダメってことをね」
忘れていた。
女が魔物だという事を。
魔物の中でもこの女性は最強の一体だという事を。
いつの間にか私の手の甲に、姐さんの掌が重ねられていた。
「……ロ、ロザ姐さんっ?!」
「ね、あらためて聞くけど、これからわたしとセックスしない……?」
言葉の一言一言が実に蠱惑的。
その響きは甘やかに男の――私の脳を揺さぶってくる。
さっきまでのどこかとぼけた雰囲気は完全に消えうせ、
そこには熱っぽい視線で男を狙う一体の女豹がいた。
「いや、だからその、私にはっ……」
恋人がいるから。なんてセリフは既に意味がないと気付いて言い留まる。
「うふ。人のモンとわかると余計に食いたくなんのよねぇ……」
人としてそれはどうかと思うが、私もちょっとそういう傾向があるので
うっかり気持ちを理解できてしまう。
「今日は坊やにまた一つ教えたげる。罪悪感の伴うセックスってすっごく気持ち良いのよ。
……どう、試してみたくならない?」
坊や扱いされても不思議と腹が立たない。まるで二周り以上年上の女性を相手にしてるようだ。
重ねあった手の指と指が絡められ、要所は爪の先で突かれたり引っかかれたり。
それだけで、もう気持ちがいい。やはり男のカラダを熟知している。
「坊やも忘れたわけじゃないんでしょ? わたしのカラダのき・も・ち・よ・さ」
思い出してしまう。
その肉は極上。
数多くの女性と関係してきたが、未だこの人を超える身体の持ち主には出会ったことがない。
アレから数年の熟成を重ねたその身体は、まだ若さが残っていたあの頃とは
また違った味わいになっているのだろう。
「んふ……キミ、勃ちはじめてるよぉ。私とのえっち思い出しちゃったのかなぁ?」
ずい、と迫られ顔と顔の距離が近づく。
潤んだ瞳は男を誘い、軽くアルコール臭の混じった吐息が鼻腔を犯す。
そう言えば私はさっきからクチ一つきけてない。まるでヘビににらまれたカエルだ。
「それに坊やにはちゃぁんと教えたよね。女にあんまり恥かかすなって」
何も抵抗できないまま、つう、と伸びた姐さんの手が私のおとがいをねちっこく捉えて固定し、
「……ここで逃げないって事は肯定とみなすよ?」
濡れた紅い唇がゆっくりと近づいてきて――
「店ン中でサカるな、ガキども!!」
ごごごっすん。「ふぎゃっ!?」
ごごごっすん。「げふあっ!?」
上空から飛来した二枚のお盆が、私と姐さんにそれぞれ強烈な一撃を加えたのであった。
「いててててて」
「あたたたたた」
頭を押さえつつ上体を起こせば、そこにはお盆を構えたマスターが。
どうやらカリユのお盆チョップはマスター直伝らしい。
「助かった……」
私はといえば、空気クラッシュしてくれたマスターにただただ感謝するばかりである。
「お前らもうちょっと場所考えろ」
「ひっどぉぉい、マスター。あとちょっとでこの子落とせたのにぃ」
流石は姐さん。この状態のマスターに口答えするとか度胸がありすぎる。
「あのな、嬢ちゃん。まわり見てみろよ。お前ら二人が面白すぎるから、
客どもが見入っちまって、酒は飲まねぇ、つまみは食わねぇ、こっちはさっきから商売上がったりだ」
マスターに言われて気付けば、四方八方の周囲の席から視線がぐさぐさ突き刺さっていた。
「あ、見物料をもらったほうがよかったかな?」
しかしその視線をものともせず、姐さんはマイペースに言葉をつむぐ。
「バカ言え。こっちがカネもらいたいぐらいだ――だいたい、そういうことは上でやれ上で」
しかしマスターは上層(つまり宿屋・六剣亭だ)を指差して……
「おい、ルシェの若造。お前上に部屋とってただろ。嬢ちゃん連れてってやんな」
「と、止めてくれないんですかっ?!」
ダメだ。私の味方が誰もいない。
「止めるかよ。何で俺がそんな野暮をしなきゃならん。だいたい嬢ちゃんも言ってたが女に恥をかかすな」
そこからの姐さんの行動は迅速だった。
「んじゃっ、コレ、おもちかえりさせてもらっちゃいまーす♪」
姐さんはがっしり私の腕をホールドして立ち上がる。
「ロ、ロザ姐さんっ?!」
振りほどけない。腕の力が強すぎる。
いつぞやのナムナの一件以来、少々トレーニングしてはいるのだが、
同じヒーラーとは言え鉱山で鍛えたロザ姐さんと、元々がもやしっ子の私では地力の違いがありすぎる。
「マスター、コレお会計ねっ、足りる?」
「ふん。足りるというか……余るな」
言って姐さんが取り出したのは、金のインゴットだった。こんなん持ってるならそっから借金返せよ。
「じゃ、余った分は今日の迷惑代ってことで、周りの皆におごらせてちょうだい」
姐さんはこーゆーところがホンっと男前なんだよなぁ……。
「毎度あり――おう、客ども! 嬢ちゃんのおごりだ、飲んで、食え!!」
周囲の席から歓声が湧き起こる。たちまちのうちに宴会が始まった。
酒場から宿の方へずりずり引っ張られながら、私は一つため息をついた。
「どうした若人! こーんなきれいかわいい女の子とえっちできるってのにテンション低いぞー!」
貴女はテンション高すぎだ。
『きれいかわいい』に関しては異論はないが、『女の子』と言うには賞味期限をすぎてるんじゃないかと思うが、それを口にしない程度の分別は私にだってある。だいたい言ったら頭蓋骨ヘコまされるぐらいの目にはあう。
「……自分の無力を噛み締めてたんですよ」
「まーまーまーまー、元気だしなよっ。あっちのほうが元気になってくれないと私もちょっち困るしっ!
――ま、どんな状態からでも勃たせる自信があるけどね。例え死体からでも」
怖いんだかいやらしいんだかカッコいいんだか。
「よーし、おねーさん、ジェリ坊が元気出るように、ツンデレサービスしちゃうぞぉ」
「……もう勝手にしてください」
「べっ、別にアンタの気持ちなんてどうでもいいんだからねっ、アンタの身体だけが目的なんだからねっ!!」
「それは100パーセント本音ですよねっ?!!」
「あはははははは」
まったくなんて人だ。
どうやらもうどうしようもないらしい、私も腹をくくる必要があるようだ。
「あのー、姐さん、一つだけお願いが……」
「んん、なぁに?」
「今日はこれからパイズリとか頼んじゃってもよろしいんでしょうか」
「おっけーおっけー、おねーさん頑張ってはさんじゃうぞっ♪」
ああ、ナムナ。どうか無力な私を許して欲しい。
どうしようもないから。本心じゃないんだ。本心じゃないんだけど、
これから他の女性と関係を持ってしまう私を許して欲しい。
――だけど、どうせだから。ついでだから。
たまにはナムナの身体では試せないプレイを試みたいと考えるのも別に間違ってはいないよね?
♂♀
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
投下終了。
以下余談。
2回分割のつもりが3回分割になっちまいました。
カリユのイメージはキャラスレ……と、いうかあそこの某氏のイメージに大きく影響を受けてるので、
あっちを読んでない方はわかりにくかったかもしれませんね、申し訳ない。
かりゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
ハイテンションのヤリマン姉可愛いよヤリマン姉
かりゆぅぅぅぅぅぅぅぅぅ
触手同人誌吹いたwww
こないだのオンリーの奴は純愛系だったけど
そう遠くないうちに触手系の酷い目にもあうんじゃないかなー
…スコッチをつまみもナシにちびちび飲んでいたんだが
この夜中に揚げたてのエビフライが無性に喰いたくなったじゃねーか
どうしてくれる
なんという姐さん
俺のハートは持っていかれました
あと孤独自重w
あのジェリコを坊や扱いとは……姐さん凄いッス…!
そしてどうしよう、カリユに対する黒い欲望が止まらない……
カリユぅううううう!!
今日の晩飯はエビフライだったぜい。カリユぅううううう。
でもって赤平さんスキーな俺大喜び。
「自キャラ X 自キャラ」あるいは「NPC X NPC」の妄想は超余裕で出きるのに、
「自キャラ X NPC」の妄想ってどうして気恥ずかしいんだろうか
前スレ末期の倒錯したやりとりに心狂わされて投下します。
・エメル様×アイテルもの
・801要素あり
・全力で季節ネタ
・エロなし
NG指定はエメル×アイテルでお願いします。
ニアラは滅びた。人類は勝利した。
エデンに青空が戻り、竜とフロワロは消え去った。
だが、地上から戦いは消えなかった。
それは人間の宿命なのかもしれない。
闘争こそが人間を靭くし、それゆえに人間は竜すら退けたのかもしれない。
竜は食らうのみ。人は、その性、戦いを好む。
――そしてその戦いは、人知れぬ禁地の果てにおいてもまた、繰り広げられていた。
これはそんな愚かな生き物たちの、誇りと存在意義を賭けた闘いの記録である。
「……姉さん」
「――」
「……姉さんってば!」
「――なんだ、アイテル」
「どうして姉さんは、そんな余裕綽綽でいられるの? もう――時間は迫っているのよ」
「こんなときは焦っても仕方ない。むしろ最悪の事態に備えるべきなのだ」
「そうかもしれない。でも、でも、最期まで諦めない、それが」
「諦めなどしないさ。だが、妥協は必要だ。多少の犠牲も」
「だからって」
「アイテル。私たちにできることは、限りがある」
「――姉さん」
「私たちは最大の努力をした。違うか? だが、このままでは間に合わないことも明白だ」
「うん……」
「まずは、現実と折り合いをつけようじゃないか」
「諦めるんじゃなくて?」
「当たり前だ。安心しろ、プランはおおむね立っている」
「まさか、また1000――」
「馬鹿なことを。そんな余裕はどこにもない。何より、資金的に不可能だ。
ハッ、国家の後ろ盾を失った我々など、こんなものさ」
「エメル姉さん……」
「いいか、計画はこうだ。
まず、表紙は2色刷り。PPは諦めよう。
ページ数も32から16に縮減だ。そこで寝てるドリスの阿呆が、締め切りに間に合うとは思えん。
まったく、落ちぶれたものだな。
かつては800ページ、『史上最大の801』を実現し――
ついには5分冊1024ページを達成したサークル『千人砲』が、16ページのコピー本とは」
「表紙2色だなんて! ダメよ、姉さん! 同人誌は表紙が勝負なのよ!」
「現実と戦うんだ、アイテル。あと2時間以内に表紙だけでも入稿しないと、4色製版は間に合わない」
「じゃ、じゃあ、プリンタからのカラー出力で……カラーコピーでも……」
「表紙は紙質が命だ! 最低でも70Kg。ここは譲れない」
「そんな。そんな重い紙、コンビニのコピー機じゃあ」
「このインクジェットなら180kgまでいける。だがこれで4色使えばコストで爆死する」
「で、でも、このプリンタのカートリッジは、CMYが1セットになったタイプで」
「黒だけで刷る。赤は手で塗ればいい」
「……逆に間に合わないんじゃ」
「赤をワンポイントにするんだ! 赤は売りながら塗ればいい。
本当に、どうしても間に合わないならモノクロ表紙と言い張れば異常はない!」
「そ、それは、そうだけど」
「納得したか? まったく、相変わらず心配性だな、お前は」
「――そうじゃなくて、だからって今この修羅場でカタログをチェックしなくたって」
「何を言うか。お前が『お姉ちゃん、煮詰まってるときは戦○BASARAで無双するといいよ』だの、
『やっぱり浅井夫婦はいいねぇ。ああでも、みっちゃんもいいよねぇ』だの、私の集中を乱すことばかり」
「……95%くらいは姉さんの自業自得なんじゃ」
「ううううううるさいっ! ガノタは黙って数字で掛け算してろ!」
「姉さん、簡単に掛け算っていうけど、数学と違って掛け算の前後を変えると答えが変わるんだからね?」
「そそそそんなことは先刻承知だっ! だいたいが、Wでデビューしたようなひよっこが、この私に説教など」
「だって私、W以前の時期って、『ファン○ム無頼』の最期の砦を守ってたんだもん。
神栗の掛け算にだってバリエーションは一杯あるんだよ!」
「……き、貴様にイデオ……いや、馬鹿なことで喧嘩するのはよそう。お互いに寒くなる」
「――そ、そうね、姉さん。でも、せめてカタロムにしておけば、もっと検索が楽なんじゃあ」
「分かってないな。カタログのほうが書店に並ぶのが早いんだ。専門書店も含めてな」
「それはそうだけど、せいぜい数日しか違わないんだし」
「見たら買う、それが鉄の掟というものだ。
たとえカタログといえども、次に出会う機会が必ずあるとは限らない」
「いやいやいやいや。あるから。絶対あるから」
「それに、私がカタロムを手に入れていないとでも思うか」
「じゃあそっちを見れば」
「チェックするのはピンクの蛍光ペンと決めているんだ」
「ダメだこの人」
「でもさぁ、姉さん」
「なんだ――ここ、ベタでいいのか?」
「ええ。姉さん、なんだかんだで、この前の戦争の間はリア充だったんじゃないの? なんでこっちに戻ってきたの?」
「お、おま……リア充……なんで……おま、おまおまおあおあおあま」
「これトーンお願い」
「おうよ」
「ノワリーだっけ? いい感じのメガネ男子じゃない」
「あれはダメだな」
「そうなの?」
「フラグというものを理解していない」
「いや、その、姉さん、それゲーム脳」
「何を言うか。脳科学的にそんなものは何の根拠もない」
「姉さん見てると、精神工学的な根拠はありそうだけど。フラグって、どれのこと?」
「監禁ときたら拷問と陵辱だろうJK」
「――何その他人事みたいな」
「だだだだがプレイヤーの期待というものが」
「ノワリーのほうにそんなことするモチベーションがないじゃない。あ、ここトーンでいいよ」
「インパクト的に集中線にしないか」
「手間じゃない? 間に合う?」
「何本、線を引いてきたと思ってる」
「えへ、信頼してます。んー、まぁ、でも、確かにフラグっちゃあフラグだよね」
「だろう? モチベーションはフラグにあわせるべきだ」
「ギャルゲーじゃないんだから……」
「爆弾処理をする結果として、人間関係は改善する。そういうものだ」
「危険な発言ktkr」
「ともあれ、ノワリーはダメだ。人間としてダメだ」
「そこまで全否定? エデンで一番の良識派って噂じゃない」
「あいつはMだからな」
「そうだけどさ」
「やつは踏まれて伸びる子だ。それなのに良識派とは笑わせる」
「そこまで言うか」
「やつの成長は、ファロに懸かっている」
「ノーマルな恋愛対象を得て、M男から脱皮するとか?」
「アホか。M男は一生M男、何をやろうがそれは変わらない。
問題はただ一つ、やつがファロに踏まれることを求めるか否かだ。ファロは踏むです。ます」
「――ビッグ○イトを縦置きしたみたいな建物に住んでるんだから、みんなそういう人なんだよね」
「ばれたか」
「あの構造のどこに建築工学的必然があるのか、私が知りたいでーす。あ、ごめん姉さん、そっちのペンとって。ありがと」
「お前こそどうなんだ。タケハヤは」
「んー、随分前から脳内彼だし」
「おま」
「だってさぁ、あれはもう死んでるとしか言いようがないじゃない。私、そこまで馬鹿じゃないもん」
「英雄様ご一行は、随分と同情してたようだが」
「ざっつ・ろーるぷれい!です。ます」
「ファロktkr」
「だってさー。あの子たちさぁ、なんかすっごい、ウブだったじゃない?
だからほら、モチベーションのためには、恋人を亡くした女を装ったほうがいいかなーって」
「怖い女」
「そんなあなた、いくらすごく好きだったからって、何百年も同じ男を好きだとかありえませんって。
何その都合のいい妄想。女は黙って待つのが当然とか、死ねばいいのに」
「だよなー。コーヒー飲むか?」
「まだお茶あるから大丈夫。でもさ、結果OKって感じで、良かったよね」
「ニアラを倒したんだしな」
「ドリス×タケハヤなのか、タケハヤ×ドリスなのかが最後に残った課題です。ます」
「ダメだこいつ腐ってやがる」
「よし、ここまで来たらもうちょっとだ」
「頑張った! わたしたち頑張った!」
「うむ――う?」
「ん?」
「……おい――これ、ノンブルが変だ」
「へ?」
「14が二枚ある」
「ええええええええ」
「おおおお落ち着け。落ち着くんだ」
「2、3、5、7」
「いやいやいや」
「1から10までの数を2つの集合に分割して、それぞれの集合に含まれる数をすべて積算したとき、ふたつの解が等しくなるケースは」
「ない。7がどちらか一方にしか含まれないからだ」
「変なごっこ遊びしてる場合じゃないし」
「おおおおおお前が」
「うううん――ミスったねえ。ネーム切らずにカンで描くとこれが怖い」
「ちゃんとネーム切ってても、今の精神状態だと1Pくらい余裕ですっとばしそうだけどな」
「あるあるー」
「ねぇよ。弱ったな。いや、いい。17ページ。これに決めた!」
「ピカ○ュウ、君に決めた!」
「関係ねえええええ!」
「だだだだだだって」
「だっても□ッテもない!」
「助けて魔将」
「ガイ○ルとか誰が分かるんだ。いや、そんな話じゃない。落ち着けアイテル。
てかアイテルとガ○エルって似てるな」
「○イフルのほうがもっと」
「だから関係ないと言ってるだろう!
そうじゃなくて、コピー本なんだから16の倍数に縛られる必要はないんだア○フル」
「あ、ああ、あー、そうね。いま7ページぶんのメモ帳とか想像して頭がワース○レイドのコミックス状態に」
「だめだこいつ」
「でも姉さん、やっぱり3ページは余る、よね。表3に刷るとか無理でしょ?」
「無理だな。
だから1ページ目は中表紙、2ページ目は目次と前書き。最後の20ページは奥付と後書き。完璧だ」
「うはっ、今の今まで奥付がない本でした」
「不幸中の幸いということだ」
「むしろ災い転じて福となす。今明らかになるエメル姉さんの計画性」
「うっせー黙れ1000人砲に詰め込むぞ」
「それより、もうタケハヤとドリスを叩き起こしてもいいかな」
「いいんじゃないか。コピーと製本には手の本数があったほうがいい」
「オラオラ、起きろおめーら。仕事じゃー。原稿を落とした罪は体で購ってもらおうじゃねーがー」
「なんというなまはげ」
「オタな子はいねーがー」
「――すごい、孤独な鬼だな、そいつ。明らかにオタだろ」
「言っててめっさら冷えました現実。つーかちゃきちゃき面付けせんかい」
「アイテル、我々はとっとと8Pと9Pを仕上げなくては」
「そうでした。なんか無駄にエロいよね、8Pとか9Pとか」
「パーピン・キューピンのどこがエロいんですかアイテルさん」
「それはあたかも荒野を無限に続く軌道のような」
「なんというプーチン」
「絶対に今年はメドベージェフ×プーチンあるよねー」
「ない。それはない」
「それはそうと、すごいアイデアが降臨しますた」
「お前のアイデアは信用ならん」
「この17ページを8回コピーして、それぞれ少しずつスミとかトーンとか台詞とかいじって」
「もう10回でも100回でもやったらええ」
「お後がよろしいようで」
「よいといいよな」
「どうせDVDBOX買いますから。良い子はみんな買います」
「ダメだこいつ」
私たちの戦いはまだまだ始まったばかりだ!
アイテル先生の次回作にご期待ください。
以上、投下終了です。
きっとエメル様の前世は地球の歴史を変えちゃうようなスーパーアシスタント。
…これなんて二週間前の俺?
修羅場ると人間自分が何言ってるかすらわかんなくなるよねー
そもそもどこで売るんだ?w
プレロマまんが祭り?w
そこはやはりゴロランの館にて『裏取引』で販売するのでは?
というより、まさかあのクエストで買った本が実は……ないか。
この慌しさ・・・わかる!
エロパロ板でこんなネタにお目にかかる日が来るか…w
いいなあ…孤独じゃない、支離滅裂なやり取りする相方がいる修羅場…
>150
そこで脳内相方ですよ
ファロ「締め切りまでに原稿を完成させられる確率………」
見直したはずなのに山のような誤字脱字に絶望しました。
こんばんは。
>>77-93の続きです。一旦の終了編。以下人名対象一覧
カエラ:第一人称。デコログ。 姉御:女サムライ。カエラの師匠?名前はサクハ。
彼:眼鏡平。名前はアルフレッド。 リーダー:ファイター。 副長:緑ナイト。
ギルマス:帽子メイジ。 姫ちゃん:偽鬱姫。
・エロなし
・ヤマなし
・下らないおまけつき
NGは『駆け出しローグの日記』でどうぞ(おまけは『夢日記』で消えます)。
「はー、きれいになった」
さわやかな風の吹き込む部屋を満足げに見渡し、掃除用具を片付ける。
あたしはギルドホームの自分の部屋でたった今掃除を終えたところだった。
まあね、ほんとは決戦の前に身の回りを片付けるってのがお約束だと思い出して
遅ればせながらもお掃除しますかみたいな気分で始めた訳だけど。
「新しい毎日の始まりだと思えばまあいっか」
あたしは雑巾の入ったバケツを取り階下へ下りた。
……まあ、そんなわけで人類とドラゴンとの戦いは終わりを告げた。
第何次なんとか大戦……とかあの戦いを呼ぶ動きもあるらしいけど、そんなのはあたしに関係ないことだ。
結局、あたしも無事に生き延びることが出来たわけだから。……カザン防衛作戦でサクリファイスを使おうと
していたのがバレて大目玉を食らった上スキルリセットさせられたのはこのあたしですがそれが何か?
……結局あのあとあたしはどてっぱらに空いた傷のせいで一ヶ月の間安静を強いられた。
まあ一歩間違えれば内臓でろりの上半身と下半身がさよならした惨殺死体になっていたと思えば軽いもんだけど、
とはいえ内臓の詰まった腹をあの巨大な爪に貫通されたわけで、それはもう大変なことになっていたとか。
マナによる治癒でふさがっていた傷を開くや否や大出血、てんやわんやの大騒ぎだ。
あんちきしょう、子供が産めない体になっていたらどうしてくれる。
こっちも右目を抉ったからおあいこだけどね。
そうそう、あれをやったのがあたしだと知れると王者の剣には微妙に感心された。
なんでもあたしは『大統領と同じ、二番目にキングの右目を潰した女』らしい。
よく分かんないけど大統領と同ってのが気分がいい。もしあたしに子供が出来たら自慢しよう。
そんなわけで治療のあともしばらくはまともなものを食べさせてもらえず毎日のように
もう治ったでしょと泣きついてたけど、あまりの退屈さに姉御とバカ話をやって
大笑いした拍子にお腹がズキズキと痛み始めたときはどうしようかと思ったね。
ま、でも、そんな傷を受けたにもかかわらず腹部の表面には傷跡一つ残ってないんだから
……ファンタジーってすごい。
さて、台所に入るとそこにはなにやら麺棒で生地を伸ばす姉御の後ろ姿があった。
鼻歌なんて歌っちゃってご機嫌だ。
「るっるーるるっるるっるっ、るっるっるーるるっるるっるっ、
るっるーるるっるるっるっ、るっるっるるーるるー、
雪がチラチラクリスマス、町にキラキラ灯がともりゃ、
酒っに浮かれた愚か者ぉーーっ、ワンサカ!ワンサカ!繰ーり出しっますわ!」
……あ、本気歌いになった。
ともあれそのまま突っ立っている訳にもいかないので保冷庫を開けつつ声を掛ける。
「心にっ決めたあの方は、そんな不埒じゃ……」
「ご機嫌だね姉御」
「わひゃっ!?……おおおおおまいつから!?」
「ついさっき。ってかそんなに驚かなくても」
「ーっ!、オホン!ゴホン!……まあなんだ、腹はもういいのか」
「バッチリだよ。姉御こそ腕は?ちゃんと動く?」
「見ての通りだ」
そういって姉御はひらひら左腕を振ってみせる。
あの化け物に食い千切られた腕は、いい具合に傷口が鋭利だったことと
処置、治療がよかったおかげでどうにか元通り動くようになっていた。
「……こっちはさすがに痕が残っちゃったけどね」
「ん?」
「あ、ううんなんでもない。ところで姉御なに作ってんの?ソバ?うどん?」
「いいや、ピザだ」
「……さいですか」
冷えたお茶をグラスに注ぎ、リビングに向かいながら考える。
人類滅亡だなんだと騒ぎ立てはしたけどこの戦いも終わってしまえばこんなものだ。
第一、あたしは『新たなる英雄』のギルドネームすら知らないのだ。
『新たなる英雄』。
とりあえず実在はする(一緒の作戦にも参加したし)、
いくつかのパーティで構成された大統領府直属の先鋭ギルド。
大活躍の割にはカザン以外での一般人知名度は意外と低く、あたしも詳しくは知らない。
というか会った事はあるかもしれないけどその中にいたか分からない。
とはいえその実力は凄まじいまでにホンモノで、
設立間もなく大統領にその秘めた可能性を見出され、それを証明するかのように
国立ミッションを立て続けにクリア。その後フロワロにやられて三年間昏睡状態に陥るも
目覚めるや否や最初の帝竜を潰してカザンを奪還、その後も世界を駆け巡り
大戦の間に斬ったドラゴンの総数実に666匹というまさに生ける伝説だ。
「……ちなみにウチのスコアは?」
「87匹……」
リビングのテーブルにぐったりと突っ伏したギルマスが答えた。
「まあ……三人で二百匹を超えるドラゴンを倒した王者の剣とは比べ物にならないけど……
一人当たりのドラゴン討伐数からいってもウチはかなり上位だと思うよ……?」
「はあん……それはいいんだけどね」
ところでギルマス。
「……さすがにだらけすぎじゃない?」
人間とドラゴンとの戦いが終わってからというもの、ギルマスは気が抜けてしまったのか
もう溶けるんじゃないかってくらいぐうたらの限りを尽くしていた。
リビングにあるこのテーブルに突っ伏したままぴくりとも動かず、気付けば寝息、
ときどき目を覚まして差し入れられた食べ物を寝たまま食べ、また寝、
たまにトイレに立ち、戻ってきて寝、何か思いついたことがあるとノートに書き、そして寝る。
……何故自分の部屋で寝ないのかは謎だ。
「んー……分かってはいるんだけどね……気力が出ないんだよね……」
「気力があってそれだったら病気だって。ほら、なんでそんなやる気がないかな?」
「はーー……」
ごろり。
ごろり。
いくらかの間追加でぐうたらし、おもむろにギルマスは顔を上げた。
「……つまりねー……冒険屋は冒険してないと死んじゃうんだよー……」
「はい?」
「きみがウチに入る前にいっぺん話しただけなんで忘れてるかも知れないけど、
僕達は今こそハントマンとして活動してはいるが本来は冒険屋なんだ」
「そうだっけ……?」
「で、簡単にまとめると。ポータルの使用許可は取り上げられ、船もなく、
飛空挺なんて夢のまた夢で、しかも大戦中に行ける所はあらかたまわってしまったために
もはや冒険できる場所がなくなってしまい、それでやる気をなくしていると」
「まあそんなとこ」
「でもさー、しかたないことなんだし我慢して普通にクエスト受ければ?
いくらなんでもほんとに冒険しないと死ぬわけじゃないでしょ?」
「死ーぬーのー……」
「……(やれやれ)
ってもねー、実際姉御やリーダーは元気にしてるじゃん?」
「君にはあの二人が元気に見えるのかい……?」
「へ」
「あの二人も僕と同じ生粋の冒険屋だからねー、見た目には分かりにくいけど凄く気力が落ちてきてるよ」
「……マジですか」
「ファイターはテンションが下がって妙に行動が爺臭くなってきたし」
「自分より重傷だった副長が先に復帰したからヘコんでるのかと思ってたよ」
「まあそれもあるけど」
あるんかい。
「サムライなんかおにぎりを作ろうとしてるのかと思いきやパエリアだし」
それは不調なんだろうか?
「とにかく、僕達の存在意義が危機にさらされていることはわかってほしい」
「はぁ……」
とりあえず返事して考えてみる。
最近ギルド内の空気がおかしいなとは思っていたけど、ここのところの
年長組の様子を思い返せば思い当たることはないこともない。
「じゃ……どうすんのさ?参っちゃったのは分かるけど?」
「そうだな……
………
……………ギルドを畳んで故郷(くに)に帰ろうかなって、ファイターやサムライと話してた」
「………!」
「あそこには僕達の冒険屋としてのルーツがあるし、鍛えなおしながらあそこで
新たなる冒険への準備をするのもいいかもしれない。なんだかんだ言って
こっちに来てからというもの仕事としての冒険ばっかりで僕達の腕も鈍ってきてるし」
「……」
「あのころはサポートなんかじゃなかった、僕達ひとりひとりが最前線だったからね。
わりと不測の事態で命の危機に陥ることも多かったけど切り抜けて……うん?」
「……じゃ、さ。地元に帰るとしたら……このギルドはどうすんの?ギルドホームとか」
「そうだね……約束通り『ルールブレイカー』に引き渡すことになるね」
「そう……
……?
ちょちょちょっと待って。次から次へと話が急すぎて付いていけないんだけど、ルールブレイカーって何?」
「あれ、ああ!そういや話してなかったね!どこから話したもんだか……
まずは僕達がこっちに来たときの話と、このギルド『ピースメーカー』について話をしないと」
おしゃべりしているうちに少し調子が出てきたようで(ウチのギルマスはこういう人だ)
応接間のソファーに場所を変えつつギルマスはカザンに来たばかりの頃のことを語りだした。
「……僕達がこのカザンにやってきたとき、取れる選択肢は二つあった。
ひとつはどこにも許可の要らない、個人ギルドとしてやっていくこと。
もうひとつはギルドオフィスに登録してカザン国属ギルドになることだ。
まあ実際選択肢なんてあってないようなものだったけど……
ハントマンによって作られたカザンという国は、逆に言えばハントマンが
お互いに助け合うための組合としての側面が大きい。
ギルドオフィスに登録すれば理事会……つまり大統領府の意向には逆らえなくなるけど、
そのかわり仕事を斡旋してもらったりハントマン用の情報提供を利用できたり
そのメリットは極めて大きいんだ。そもそも他の国ではハントマンという職業が
社会的に認められていないこともあって、バックを持たないハントマンはすべからく
カザン大統領府の指揮下に入るより他にないと言える」
「で、ギルマス達もギルドオフィスで登録しようとしたわけだ?」
「そう。だけどここで大きな問題があった。ぶっちゃけお金がなかった。
ギルドとしての体面をととのえるのはおろかハントマンとしての体裁を繕うことも出来なかった」
ぐっ……なんか心が痛い。
お金がない。そのワードはあたしに嫌でもスリをやって捕まったあのときを思い出させた。
「……なんか昔のあたしを思い出して居心地悪いんですけど」
「そいつは失礼。
で、そんなとき僕達はとある事情から解散しようとする一つのギルドに出会った。
彼らの名を『ピースメーカー』という」
「ふえ」
ギルマスの口から出てきた名前は今あたしが属しているこのギルドそのものの名前だった。
さらに話の流れから考えれば、あたしの頭でもその意味は分かろうというものだ。
「じゃ、このギルドは」
「そう、貰ったんだ。彼らはその名の通り平和と善を愛する無駄に熱く爽やかな連中で、
これからドラゴンに対する反撃が始まろうという時期に解散しなければならないことを
非常に残念がってた。そんなわけで僕は彼らとお話して、いくつかの条件をつけて
彼らの名義やらなんやらをそっくり譲り受けたわけだ」
「はー。なるほどね。なぜか頭にアマクダリとかメイギガシとかそんな単語が浮かんでくるけど」
「一緒にしないでくれ。で、その条件の一つは、まず平和を愛しそのために活動する、
そんなギルドであること」
「抽象的過ぎない?」
「そのとおりなんだが彼らにとっては譲れないところなんだろうね。
で、さらに一つは、もしギルドの活動を停止するときは、そのギルド財産を
全て彼らの友軍ギルドである『ルールブレイカー』に譲渡すること」
「名前からして全然友軍でも何でもない気がするんだけど…実は正義の味方とか?
あたしそっち方面には全然通じてないからどんなギルドかわかんないよ」
「その道では割と有名なギルドだよ。つい最近も大きな仕事をやったらしい。
えーとたしか……」
ギルマスは眉間に手を当て、最近行われたというそのクエストについて語り始めた。
――――――――――――――――――――
彼ははメガネを探していた。
シュールな光景だが厳然たる事実だ。
外した覚えもないのにいつの間にやらなくなっていたメガネを探して大統領府をさまよう彼は、
前方の廊下の角を執政官たちが慌しく走っていくのに気付く。
「メナス補佐官の様子がおかしいらしいぞ!」
「誰が話しかけても返事をしないらしい!」
それを聞いて彼は首をひねった。
彼らが様子がおかしいと言った自分は、今ここにいるからだ。
角を曲がった彼は、すぐにその先にある人だかりを発見する。
「メナス補佐官!」
「どうされたんですか!」
私はここだぞ?
ますます眉をひそめた彼は、人だかりに近付き、声を掛けようとした。
「おい……」
「メナス補佐官!しっかりしてください!」
「医者はまだか!?」
「メナス、お願いだから返事をして!」
口々に叫ぶ彼の同僚、部下、その中心にあったのは――
――彼が探していた、彼のメガネ、そのものだった。
「…………」
彼は何も言わずにその場を後にした。
「この件でルールブレイカーは大統領府への出入り禁止を喰らったらしい」
「どんなクエストなのさ!?」
「『メナスを笑わせろ』。あの人の一日二十時間勤務は有名な話だろう?
やっと大戦も終わったことだしこのままじゃ過労で倒れるってんで有志の依頼で
ドッキリを仕掛けたんだ。ただ予定では『お前達は私をどこで識別しているんだ!』
となるはずが予想以上にキキ過ぎて見事に滑った上、後で事情を知った
メナス補佐官が烈火のごとく怒って出入りできなくなったらしい」
「はぁ……なんというか……そんな馬鹿げた出来事が大統領府で起こったってのが信じられない」
「それがルールブレイカーというギルドだ。
他にもギルドの名前を決める用紙を見ただけでエラン執政官があまりのセクハラに泣き出したとか
ギルドネームは勝手に略したりしてはいけないって決まりを楯にメナス補佐官にそのここではとても言えないような名前を
何回も言わせたとか『王者の剣』に『嫉妬神のテーマ』って曲を贈りつけてあそこのリーダーを
マジギレさせたとかその手の伝説には事欠かないギルドだよ」
「ことごとくロクでもないことばっかしてると思うのはあたしがおかしいのかなぁ!?」
ふう……いけないいけない、落ち着こう。
今あたしにとって大事なことは?そう、それだ。
「つまり……後には何も残らないって事?」
「え?あ、うーん……そうだね。ギルドとしての財産全て、だから『ピースメーカー』として
の活動記録以外は全部なくなるかな」
「そう」
「……?」
「こっちで……これから巻き返そうとは思わないんだ?」
「まあね。出遅れてきた時点で僕達は脇役に決定だもの。
もう世界は大丈夫だ、僕達の出番はないよ」
大丈夫。出番はない。
これまでにも何度か聞いた、ギルマスの口癖だった。
「……いいんだけどさ、なんていうかギルマスって、楽天家というか傍観者的というか」
「ああ……僕は性善説というか、『人間って素晴らしい』論者だからね。
世の中ってのは色々な人間が思うままをぶつけ合って、最終的に調和が取れる。
だから自分は口を出す必要がない。そんなふうに思っちゃうんだ」
「ふぅん……どうせ調和が取れるなら、あたし達がちょっと位動いてもいいと思うんだけどな。
世界の動く方向に逆らわないようにっていうか、それなら少しくらいわがまましてみようとか思わない?」
「!」
「……まぁいいや。それじゃギルマス、あたしやること思い出したから」
そうだ。今の話を聞いて、その未来を思い描いて、あたしにはやらなければいけないことが出来た。
ギルマスを残し、あたしはその場を後にした。
「……どうせ調和が取れるなら少しくらい、か」
――――――――――――――――――――
「そっか。もしかしたらギルドを解散するかもしれないんだ」
「うん。そしたらアルフレッドはどうする?」
あたしは彼の部屋に向かい、今聞いてきた話を聞かせていた。
彼は少し考え、自分の考えを話す。
「僕は……少なくともギルマス達と一緒には行けない。ヒーラーとしてやることがあるからね」
「あたしも、ここを離れられない。アルフレッドも居るしね。
……だから、姉御とお別れする前にやりたいことがあるの」
「うん」
「姉御をデートに誘ってくる。止めないで」
「止めないよ」
「ありがと」
「あまり無茶はしないでね。いってらっしゃい」
彼の言葉を背に受けて、あたしは慌しく部屋を出た。
台所へ向かうと姉御はまだ調理中だ。
あたしはその背後へそっと近寄った。
「……ん?なんだ?」
気配に気付いた姉御が声を掛けてくる。
あたしは黙って料理を続ける姉御に歩み寄り、そして後ろからそっと腕を回した。
「ん……な、なんだ……どうしたんだ?」
首をかしげ、くすぐったげな表情で姉御は困ったように声を掛けてくる。
「……姉御」
「ん?」
「包丁、置いて?」
「もう……なんなんだ……?」
傍から見ると恋人同士のように見えるかもしれない。
仕方ない、といったように包丁を置き、姉御はん?とあたしに目で問うた。
あたしはいっそうぴたりと寄り添い、強く姉御の身体を抱きしめた。
そして、
自分の手首を掴み、姉御のウエストをきっちりとホールドした。
「へ?」
疑問の声を上げる姉御を強く絞り上げ、
身体を密着させながら重心を後ろにずらし、
全力を込めて姉御の体重を後ろに引っこ抜いて、
「え、うわぁぁぁぁああああーーー!?!」
あたしは自分でも惚れ惚れするほど完璧にジャーマンスープレックスをきめた。
「……初めて自分の意思で姉御から一本取った」
「……言いたいことはそれだけか……」
こいつは痛みじゃねえ、屈辱だ!といわんばかりの怒気が姉御の声に滲む。
そ知らぬ顔で流しつつ、ホールドを解いてあたしは姉御に言った。
「故郷に帰るんだって?」
「何……ああ。そう……しようかとも思っていた」
「あたしはいけないからさ。……ねえ姉御、あたしと原っぱまでデートしない?」
「なんだと……?」
「あたし、いっぺん姉御と本気で戦ってみたかったんだ」
――――――――――――――――――――
古いお話やなんかでは、サムライの決闘は風の吹きすさぶ草原と相場が決まっているらしい。
今あたしが立っているこの場所もまあ、決闘にふさわしくないポカポカ陽気を除けば
おあつらえむきなロケーションだといえないこともなかった。
「……で、また、なんでいきなり決闘だ?」
七メートルほど離れた向こうで姉御が至極真面目な様子で立っている。
真っ直ぐにこちらを見てくるその様子にはどうにも納得のいかない色が見え隠れする。
「ん?よく漫画とかであるじゃん。師匠が修行を終えた弟子に、『これが最後の試練だ』
とか言って勝負を挑むの」
「そういうのは師匠の方から言うと思うんだがな……」
「それにね、絆が欲しいんだ」
「絆?」
「そう。絆って言うのは恥ずかしいから、肩書きかな?『弟子』よりもうちょっと重みのある肩書き」
「……お前が何を言っているのか分からないよ……」
「姉御が帰っちゃったらさ、当分会えないわけじゃん。そうやって何年も音信不通でいるうち、
次に会ったとき姉御はあたしに気付かないで通り過ぎちゃうってこともありえると思わない?」
「そんな……ことは……」
「そうじゃなくても向こうで作った新しい弟子が可愛くて、あたしとは完全に他人になってたりさ」
「……」
「なんか……なんか、悔しいんだ。姉御はあたしが初めて本当に尊敬できて、
ついて行きたいと思えた人だからさ。そうなると、なんか嫌なわけ。
だから、弟子以上になりたいんだ。忘れられないくらいの、姉御にとっての肩書きが欲しい」
正直な気持ちを言葉に乗せ終え、あたしは反応を待つ。
姉御は遠くから見つめるような目で、どこか儚げな声であたしに聞いた。
「じゃあ……どんな肩書きが欲しい?お前の望むものは」
あたしは短剣を抜いた。
逆手に握った短剣の、刃を水平に姉御に向けて持ち上げる。
……知らず、不敵な笑いが浮かんだのが分かった。
「……姉御のライバルになりたい!」
刃の向こう側に見える姉御の顔がぽかんとして、それから徐々に下を向いた。
その肩がふるふると震える。
「ふ……くくっ………ふふふ……ふはっ、はははっ!
ははははははははははっ!!あーっはっはっはっはっ!!!
言うじゃないか……言うじゃないか!」
ぞろり。
歯をむき出し、凄絶な笑みを浮かべて姉御は顔を上げた。
しゃべるために笑うのをやめてもなお、くつくつと声がくぐもる。
「お前の口からそんな言葉が聞けるとは思わなかった……
こうやって本気でお前が挑んで来るともだ!
嬉しい、嬉しいよカエラ。
ただしだ、言っておくぞ………」
姉御の右手が、カザン防衛作戦でドラゴンに噛み砕かれた刀の代わりに新調した
新しい愛刀『マタムネ2号』の柄を掴む。
「今の私は……」
すらり、と引き抜かれた刃が陽光を反射して真っ直ぐにあたしに向けられた。
あたしの短剣と姉御の刀、二つの刀身の向こうに見える姉御の目が一直線にあたしを射抜く。
「……かつてないほど全開でいくぞ!
来るがいい!お前が本気で私に勝つと思っているなら、私も全力で相手をしてやるッ!!」
裂帛の気合ががあたしに叩きつけられた。
それをぶち破り、あたしは叫ぶ。
「上等っ!いざ、勝負!!」
そしてあたしは走った。
一直線に向かい、あたしと姉御の間合いが詰まる。
迎え撃つ姉御の間合いに入る瞬間にあたしは地面を蹴りだした。
懐に入った瞬間に加速する一種の奇襲戦法とともに、切っ先に体重を乗せる、
殴りおろすような斬りつけを見舞う。
加速した剣筋をも読みきり、姉御は一歩後ろに下がってかわすとともに返しの刃を振りぬいた。
身体をひねって今度はあたしが避ける。と、同時に直感にしたがってもう一度かわす。
今かわしたはずの刀がすでにあたしに向けて振られていたのを左手の短剣で止め、
あたしは右半身をねじ込んで姉御を狙うと同時に姉御は後ろに下がって
その手に握られた刀が薄くあたしの左手を切った。
それでも間合いを詰めようとすれば、姉御がその刀身を鞘に納めた。
触れるものを絶つ気迫が居合いの構えに宿る。
その中へ、あたしは躊躇なく踏み込んだ。
抜き放たれる一閃があたしを目掛けて走る。
そしてあたしは――
「……に゛っ!!」
――振り払う一撃でその刀を弾き飛ばし、姉御と息のかかる間合いへ接近した。
――――――――――――――――――――
「いいか、刀というものは気合いでは斬れない」
あたしが姉御に剣の手ほどきを受け始めた頃だ。
実践訓練の休憩中に、姉御は刀についてのウンチクを語ってくれた。
「へえ?」
「何故か刀の使い手というと精神集中して気合で斬るんだとか
そういう誤解を受けていることがあるが、実際にはそんなのは無理だ。
刀というものは刀より長いものは斬れないし、刃が通らないものも斬れない」
「言われてみりゃ当たり前だよね。で?」
「ではどうすれば斬れるのかというと、まず物が切れる仕組みを理解することだ。
さらにその物が斬れる状態に持っていくための刀の当て方動かし方、
それを実現するための身体の運び方、姿勢。
対象のどこに、刀のどの部分をどう当てどう動かしどう力を伝えるか、
そのためにはどのような姿勢から身体の各部分をどう連動させなければならないのか。
こういったことを理解して、初めて刀というものは斬れるようになる」
「ふむふむ」
「……さて、では」
「うん?」
「斬れないものを斬りたいときはどうすればいいと思う?」
「へ……」
「刀の全長より長いものや、継ぎ目のない強固な鋼。これを斬るためには」
「うーん……?斬れないものは斬れないから斬れない訳でそれを斬るには斬れるものを斬り」
あたしはしばらく無い知恵を振り絞って考えてみた。
斬れないものを斬る?当然答えなどでるはずもなく、あたしはすぐに降参する。
「だー、分かんない。そもそも『斬れないもの』なんでしょ?……どうやって斬んの?」
「何、簡単なことだ」
姉御は得意そうに腰に手を当て、はっきりきっぱり言い切った。
「気合いで斬るんだ」
バックステップを踏もうとする姉御にねじ込むような蹴りを入れる。
下がれるだけ下がりきったところを蹴り押され、体勢を崩した姉御におまけのもう片足が飛んだ。
「ぐっ……!」
勝った!姉御の居合いに気合いで勝った!
戦う前に考えてみた結果、まずあたしにはまともに斬り合って勝てる要素など無いことが分かった。
ではどうすればいいのか?更に考えてみた結果、出た結論がこれだ。
姉御の刀を弾いて飛ばしてそれから姉御を殴ればいいのだ。
そう、あたしは姉御の教えを忠実に守った。
剣筋の自分へ向かうただ一点に自分の剣筋をぶつけ、そして気合いで上回って弾く。
もちろん姉御の斬撃にもありったけの気合いが、剣気といえばいいのか、
サムライの全てを絶たんとする鋭い気合いがこもっていて弾くのは容易じゃない。
だけどサムライにはサムライの気合いがあるように、ローグにはローグの気合いがあるのだ。
その上あたしのテンションは最高潮、とどめにあたしには行住坐臥の構えがある。
行住坐臥の構えは心の構え、姉御に対するあたしの心が入った心理武装なのだ。
ここまで来て負けるわけがない。あたしは姉御の気迫を上回り、そして打ち勝った。
弾き飛ばされた刀がくるくると飛んで地面に刺さる。
皮肉にも基本を怠らずにしっかりと握った姉御の右手は刀と一緒に弾かれて空を掴む。
後ろに飛ばされ、左手を受身に回さざるを得ない姉御を追う様にあたしも飛んだ。
空中で身動きのとれない姉御を抑えるように、そのままあたしは姉御の上に落下する。
どさっ。
その衝撃で舞い上がった草葉が落ちたときにはあたしは姉御の両腕を膝で封じ、
両手で握った短剣を姉御の喉下に突きつけていた。
「……あたしの勝ち、だよね」
「……ああ……そうだな……」
短剣をしまい、膝をずらす。
見下ろした姉御はどこかぼうっととしていた。
「正直、負けるとは思わなかった」
「まあ……わか、じゃなかった、情熱の差かな」
「若さって言おうとしたな」
「はは……」
「ちょっとショックだったぞ。『今なら誰にも負けない』みたいな気分だったからな」
「あ、あたしもそんな気分だったから」
「まあいい、私の負けだ。……そろそろどいてくれ……」
あたしは姉御に馬乗りになった状態で姉御の顔を見下ろした。
……そのときだった。ふとあたしは、どうにも妙なことを思いついてしまったのだ。
断じて言うけど、そのときまでは決してそんなつもりじゃなかった。
けどそれを思いついたあたしは、何も考えることなく気付いたらそれを口に出していた。
「ねえ、姉御」
「なんだ」
「……キスしてもいい?」
「はぁっ!?」
姉御が素っ頓狂な声を上げた。
当たり前だろう、けどそれでもあたしは動じない。
「お前は何を言ってるんだ、この期に及んでトチ狂わなくたっていいだろう……!?」
「本気だって……思い出ってことで」
「思い出なら十分心の中にあるだろ?大体なんでキスなんだ」
「なんか、世界があたしにやれって」
「それは電波だ、戻って来い。な、いいから帰ろう、離してくれ」
「やだよ……ね、いいでしょ……?」
身を屈め、顔を近づける。
本気が伝わったらしく、姉御はますます目を泳がせてしどろもどろし始めた。
「な、なぁ……やめないか、そっちにいったら戻れなくなりそうで怖いんだが」
「べつにいいじゃない」
「それにほら、アルフレッドのこともあるだろう?これって浮気だと思うな、だから」
「許可取った。これくらいなら許してくれるよ」
「……マジなのか」
「うん……」
見上げてくる視線をじっと見返す。
「「……」」
姉御のほうが先にぷい、と視線を逸らした。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……歯、磨いてきたんだろうな……」
――――――――――――――――――――
ギルドホームに帰るとなにやら雰囲気が一変していた。
あのふやけたキクラゲのようだったギルマスに生気がみなぎり、皆をリビングに集めている。
「ああ、お帰り!これから今後の活動方針について話し合うから席に着いてくれる?」
あたしと姉御は顔を見合わせた。
解散について話すにしてはあのギルマスのみなぎりよう。
首をひねるあたし達に彼が声を掛けてくる。
「お帰り。うまく話せたみたいだね。怪我もしてないようで何より」
「あ、うん」
「ああ、その……本当によかったのか?」
「……?なにがです?」
どたばたしながらも全員が席に着くと、ギルマスが一つ咳払いして口火を切った。
「さて、今後の方針について僕から一つ提案があるんだが……」
「提案?と、いうことは」
「そう、解散じゃない。活動継続に関する提案だ」
思わずあたしはギルマスの顔を見上げた。
他のメンバーも、なにを言い出すのかと怪訝な顔を見合わせている。
「……考えが変わったんだな」
「そうだ、昨日の僕は死んだ。今言いたいことは、人間やっぱり野心が大事だよねということだ!」
「ずいぶん変わりましたね!」
「今日の昼聞いたのとは正反対だよ」
「まあね!とある助言のおかげで僕はいっそのこと歴史に残らず歴史を動かし、
人々の平和の陰には彼らの働きがあった、そんな影役者になろうという野望を持ったわけだ」
「……よかったな……」
「僕達は本来冒険屋だ、冒険しなければ生きていけない。
それなのに大戦が終わってポータル使用許可を取り上げられ、
実績を上げて移動手段を手に入れようにも大戦が終わっているのだから躍如の機会もなく、
仕方ないから解散しようかというのがこのところの方針ではあった。
が、よく考えてみればそんなことはない。むしろ今からがチャンスだと僕は思う」
「チャンス……これからが?」
「敵との戦いが終われば仲間同士の戦いが始まるのが歴史の教訓というものだ。
争いがあれば損害を受ける人がいる、そして得をする者もまた必ずいるんだ」
「ちょっと……ちょっと待ってください。たしかにそれは歴史の教訓かもしれませんが
でも、それで私たちがどうこうなるような規模の争いはそう起きないでしょう?
それに……争いを利用するようなことはあまり……」
手を挙げたのは副長だった。
生真面目で道徳心の厚い副長は困惑しながらギルマスに異議を唱える。
「そうでもないんだ……とある事情から、あちこちの国で問題が噴出してる。
例えばカザン。ドラゴン襲来の折メナス補佐官はドラゴンに対抗できる共同戦線を
作るためにそれまであってないようなものだった戦力徴発を駆使して
抗戦体勢を敷いたことで多くの反発を買った。そのおかげで早くから
ドラゴンに抵抗できるようになったとはいえ、今でもその禍根は残っている。
『新たなる英雄』を事実上自由に動かせるのもやっかみの種のようだ」
「世界を救った英雄の名はとてつもないネームバリューだからな」
「ミロスでは長年の圧政で蓄積した反政府感情をどうにか宥めていかなければならないし、
アイゼンはアイゼンで貴族と平民両方を相手にしながら改革を進めなきゃいけない。
ネバンプレスは千人砲を使用したことに対して国内外から波紋が広がっている。
プレロマもしかりだ。どちらもそのときの首脳はもういないってのにね!
とまあ世界は今なお揉め事の種が絶えない、問題だらけといってもいい」
「……」
「この混乱に乗じて自分の目的を果たそうとする輩は五万といるはずだ。
そして彼らが自分を利そうとするならそこには僕達が利を得るチャンスもある……」
「!」
副長が顔を上げた。
リーダーもまたギルマスの顔を見上げ、つまり、と前置きして問いかける。
「そういう連中に敵対するほうに……政府を利するほうになるんだな」
「無論だ!」
ギルマスはきっぱりと言い切った。
「そもそも問題が噴出するに至った事情というのは他でもない『新たなる英雄』のことだ。
彼らが軒並み立ち並ぶ国の内側を片っ端から引っ掻き回して風通しをよくしてくれたせいで、
国を司る立場の人たちは悩み、葛藤し、その末に自分の理想を見つけて動き出した。
これを成功させずになんになる?一介の冒険屋たる僕達が味方をするなら、
同じ人間でありながら国の重圧を背負わされ、それでも答えを出した者達以外にない!」
熱のこもった口調でまくし立てるギルマスは、ここまできて少し照れ臭そうに声を落とした。
「……ま、国の管理するダンジョンに入るためには国を味方にするしかないってのもあるけど」
でも今言ったこともほんとだよ?と念を押すギルマスにあたし達も声を交し合う。
「争いを止める側……なんでしょうか」
「むしろ対抗馬だな。羊の中に紛れ込ませておく山羊かもしれん」
「かもしれんが、だけど国に協力するのが一番道理にかなっていると俺は思う」
「国に住むみんなのために働いてる人たちだもんねー……」
「私どうでもいい」
もう一度視線を前に戻す。
また咳払いを一つ、ギルマスは話を締めにかかった。
「さて。以上を踏まえ、積極的にミッションをこなすことで信頼を得、それによって
ダンジョン探索の手段を手に入れるというのが僕の提案だ。
もし君達が協力してくれるのならこの僕の知識、交渉能力、情報、そしてわずかなコネを
駆使してどうにかカザンに取り入る手がかりをつくって見せるが……どうだろうか?」
「はいはーい!あたしやる!」
「僕もやります」
「……こいつらがこう言うなら、私もやるぞ」
あたしと彼と姉御が手を挙げる。
リーダーは沈黙を守り、膠着するかと思った矢先に副長が手を挙げた。
「私もやります。……世のため人のためになりそうですから」
副長にそう出られてはリーダーにも選択肢はなかった。
「……分かった、分かってる。最初から反対する気なんてないよ」
「……そういうことで」
全員の賛成を得て、ギルマスはぐっ!とガッツポーズを決めた。
「よっし!そうと決まれば明日からさっそく行動開始だ!
一介の冒険者には若干ハードルが高いがなんとかねじこんでみせるよ……
というわけで僕は明日に備えてもう寝る!各自解散!」
ウチのギルド会議はいつも唐突に始まり唐突に終わる。
今日も例に漏れずガタガタと皆がリビングから出て行く中、彼があたしに声を掛けた。
「……よかったね」
「うん」
「まったく、とんだ肩透かしだ」
振り向けば姉御が肩をすくめて軽くため息をついた。
「……ま、もうしばらくはよろしくな」
「うん。これからも当分お世話になるね」
「馬鹿。……お前は私のライバルになるんだろう」
そう言って姉御はあたしの頭をぽんぽんと撫でた。
投下完了。とりあえずこれでいったん締めです。
これから別のネタに移りますが、そっちも当分はエロネタ無しになりそうなので
せめてのおまけをつけました。蛇足ですね。でも続きもいつか書く……かも。
ちなみに姉御が歌っているのは『恋はせっしょやおまへんか』でyahoo検索すると何かわかるかも。
では山を賑わす枯れ木になるべくまた修行に参ります、ノシ
その日、とあるギルドのサムライであるサクハは後輩ローグのカエラを連れて
近場の野原までやってきていた。
「さて、この辺でいいか」
「いい場所だね」
サクハの手には大きな包み、カエラの手には水筒。
いわゆるピクニックだった。
シートの上に腰を下ろし、包みを開く。
少しの水で手を清めた後、サクハは包みの中身である木のおひつにかぶせた布を取った。
塩を手にすり込み、おひつのご飯を手にとって握る。
丸みを帯びたおにぎりが出来上がり、サクハはそれを正座して興味津々といったカエラに差し出した。
「ほら」
「あ……うん」
サクハの手から受け取ったおにぎりを、少し逡巡して、カエラは一口食べた。
「どうだ?」
「んー……なんか、なんかくすぐったい気がして味なんて分かんないような……」
「私の味がするだろう」
「っ……!」
「自分の手で米を握り、それを手渡しで相手に渡し、食べてもらう。
人間の食事の根本だと思わないか。たまにはこういうのもいいかと思ってな」
「あー、うん、まあ」
「ほんとうはぬか漬けのキュウリを丸ごと一本と握り飯を両手に持って、
交互にかじりながら合間に冷酒というのが最高なんだが……さすがにオジン臭いからな」
「でも姉御は好きなんだ」
「はは、そうなんだ」
談笑する二人。しかし、カエラが次の行動に移ったとたん場の空気はぐるりと変わってしまうのだった。
「あは………、……姉御」
笑いの余韻を残しながらサクハの手をとり、カエラはどこか不思議な色を目に浮かべる。
そして捧げ持った手の細い指を、カエラはそっと口に含んだ。
「……!?なっ、おい!?」
「……姉御の味がする。……姉御もえっちぃこと言うんだね」
な。サクハは愕然とした。そんな意味で言ったんではないのに。
「ちょ、そんなつもりじゃ……んむっ!?」
不意打つように口付けられ、カエラの舌が口の内をくすぐっていった。
ぺろりと唇を舐めるしぐさを見せられ、頬が熱くなるのが分かる。
「ん……いい味……」
「この……!いい加減に、きゃ!?」
さすがに頭にきて嗜めようとした瞬間だった。
気付けばサクハはいとも簡単に押し倒され、体重でシートに押し付けられている。
「ちょ……こら……」
おかしい。普段ならこれくらいなんでもないはずなのに力がでない。
焦りに焦るサクハの瞳に、満面の笑みを浮かべるカエラの顔が映った。
「……もっと、姉御の味が知りたいな」
法被の内側に手が滑り、薄い着衣の上を撫でる。
「こら……やめ……」
わき腹をそって上へと上がった手が突然胸を軽く掴み、思わずサクハは声を漏らした。
「ぁ……!待って、やめて。ここは人が来るから……!」
人が来なかったらどうだというのか、それさえも考えられずサクハは弱弱しい抵抗を続けた。
「誰も来ないよ」
残酷なほどあっけなく切り捨て、カエラは略奪を再開した。
いつのまにか胸を押し捏ねられるのに合わせて断続的な息を上げていた。
もう片方の手が下に伸びる。
「あ、やめて、やめ……あぁ………!!」
(……という夢を見たわけだが)
「書けるかそんなもんっ!!」
「どうしたの?あ、夢日記?」
「(う、夢を思い出して)あ、ああ。だがなんか変な夢を見てしまってな」
「へー。あ、でもさ、聞いた話だと夢って深層心理の潜在欲求を表すんだってよ?」
「!!!?!?!!?だっ……誰がーっ!しかもお前が、お前がそれを言うかーっ!!」
「わああ!?ちょっ……なんで怒ってるのさー!?」
今度こそ投下完了です。
>>167 お疲れ様でしたっ!
本編があって、SSがあるのは分かるけど、
やっぱり本編より面白かったです。
カエラたちの次の冒険、新しいネタに期待!
>>167 あぁとうとう終わってしまった・・・毎回楽しく読ませていただきました。
次の新しいお話も期待して待ってます!
戦いの選択の続き話投下です。
注意事項
・ほんのりエロ
・ゲーム本編との矛盾あり
・ゲーム本編ラストバトル近辺のネタバレ注意です
・少々長いかも
・メナスファンの人ごめんなさい
こんなの無理だろ!な方はタイトル『最後の選択』NGお願いします。
登場人物
ソウマ・若サムライ。主人公。一応貴族。真竜ヘイズ戦にて右腕を失う。
エリス・ルシェメイジ。元奴隷。真竜ヘイズ戦にて腹部に重傷を負う。
リア・ルシェプリンセス。元奴隷。アンゼリカケージは習得済み。森からはなんとか生還。
メナス・真竜討伐作戦の責任者。その非人道的作戦のツケがまわってくる。
医師・カザンに住む微笑む医師。奇跡の代行者の遣い手。ソウマ達を治療。
旅するメイド・世界各地を一人で旅するメイド。アースブレイカーの遣い手。
171 :
最後の選択:2009/08/06(木) 00:07:40 ID:Yw1euRd9
……ここはどこだ?
記憶が乱れて……何も思い出せない。
しかし随分と殺風景だな。砂利と川しかないとは……
ん?あそこにいるのは……母上か?父上もいる……
あぁ……そうか。
私は死んだのか……
母上、父上……不出来な息子も今そちらに……
「あなた…また他の女に手を出したみたいねぇ?今度はルシェの人妻とか聞いたけど……」
「ゆ、許せ!千人砲に入ったはいいが残した娘が心配とかで、慰めるつもりでだな……」
「黙りなさい!耳?耳がいいの!?『お前の強さに惚れた!』って……あれは嘘だったの!?
私、あの時嬉しかったのよ?がらにもなく、あなたの真剣な表情にときめいたのよ!?
それを……それを……!!今日という今日は許さないからね…!ナインティーテール!!」
「ああぁ!!痛くて恐いけどやっぱり気持ちいぃーーー!!!」
……あまり行きたくないな…………
終わるまでここで待つか。
……
…………
………………
一体いつまで続くのだろう?そろそろ待つのも疲れてきた。
気分転換に散歩でもするか……
……
む?なんだあの光は……?
誰かが……私を呼んでいる?
他に行くところもないし、行ってみるとするか……
―――――――――
「う……」
……ここはどこだ?
とりあえず、まずは状況確認だ。どうやら何処かの病室らしい。
そして視界の右側に映るのが……
「……おにぎり?」
しかも二……待て、過去にも同じことを言った気がする。それも二回。
違う……これはおにぎりなんかではない……
そうだ……これは……
「エ…リ…ス……?あぁ…無事だったか……」
「あ……うっ……ソウマ様ぁ!!!」
飛び付いてきたエリスの頭を撫でようとして……自分の腕が根本からないのに気が付いた。
そうだ……思い出した。私は……
172 :
最後の選択:2009/08/06(木) 00:08:31 ID:Yw1euRd9
――『ガギ……フタリマトメテ……シネ!!』
あの時…ヘイズに片腕を斬り落とされて…
――「うごけ……わたしのからだ!」
無理矢理左で刀を握って……ヘイズの頭部を狙って……
――『バ…カメ…ソノカタナ…モ……ノコッタ…ウデモ……イタダクゼ!!』
ヘイズがいきなり口を開けて……犬歯ならぬ剣歯が見えて……
――「……!きさまをたおせるなら…ひだりもくれてやる……!」
私は気にもせずにそのままヘイズの口の中に刀を突き刺して……
――『ガナッ…!?キサマ…ショウ…キカ!?…ナラ…バノゾミド…オリニ!!』
同時にヘイズの歯が左腕にくい込んで…そのまま左腕も失いそうになって……
――「フリ…ズ……ェイ…ル……!!」
――『グガ…!?アガ……ガァ……ッ……!?』
息も絶え絶えなエリスが氷の防壁術を唱えてくれて……
それのおかげでヘイズの歯が私の腕を噛み千切ることはなくて……
私はそのまま刀を無理矢理降り下ろして……
――『バ…カナ…オレハ…グレ…ト…セブ…ン……ヘイズ…ダゾ………』
結局またエリスに助けられて、けれど確かにヘイズの体を切り裂いて……
それで……確かエリスに白銀水で応急処置をして、自分には……
そうだった、近場にいた蝶のリンプンを傷口に塗って無理矢理血を止めたんだっけな……
片腕を失い、体内の気の循環が不可能になった以上、練丹はもう使えなかった。
そして白銀水はひとつだけ。ブラドテープでどうにかなる出血でもない。
残された応急処置は『傷口を石化させて血が流れ出るのを止める』……これしかなかった。
人を石化させるリンプンを持つ蝶があの辺りに生息していたからこそできた荒業だが……
なんにせよ止血を済ませ、エリスを左腕で抱えながら必死に逃げた様な曖昧な記憶がある。
そして町付近で力尽きた…と。
173 :
最後の選択:2009/08/06(木) 00:09:21 ID:Yw1euRd9
「エリス…私は何日寝ていた…?」
「もう5日になります。リアさんがアンゼリカケージでマナの力を強めて……
医師の方がその空間内で何度も奇跡の力を行使したのに……
ソウマ様の傷がなかなか塞がらなくて…ようやく傷が癒えても目覚めなくて、私……」
「そうだったか……」
左側のベッドを見やるとリアがすやすやと寝ていた。
おそらく、歌いすぎて疲れてしまったのだろう。起きたらお礼を言わねば……
しかし…あの森からこうして三人全員生きて帰ってこれるとはな……
……他のハントマン達はどうなったのだろうか?
世界各地には、優れた回復術を持つ人がいる。
重傷人から死人さえ蘇らせる、奇跡の力の代行者達。しかしいくら彼らでも、限界はある。
死して時間経過した者は、もう蘇生できない。これでミロス騎士達の蘇生は不可能。
脳や心臓といった、重要な器官の損傷が激しくても蘇生はできない。
これで少なくとも、私の目の前でバラバラにされたハントマンの蘇生も不可だ。
そして時間も経たず、損傷も少なく見事蘇生できた場合も、完全に回復するわけではない。
目は失ったら二度と回復しないし、臓器などはその機能が低下する。
そして手足を失った場合も同様だ。おとぎ話の大魔王の様に、失った側から再生したりはしない。
私の右腕も、もれなく再生することはない。だが正直な話、私はそれで構わない。
あの絶望的状況で、失ったのが私の片腕だけで済んだのはむしろ奇跡である。
加えて強制石化の後遺症もないようだし、実に私は運がいい。
のだが……
「……ソウマ様…ごめんなさい……」
何故私は謝られているのだろう?
「私が…私が油断したから……ソウマ様の腕が……!」
……そういうことか。やれやれ……
「よっ…と!ほら……泣くなエリス。私は全然気にしていないから……」
体を横にして、残った左手でエリスの頭を撫でてやる。少々肩に負担がくるが、そんなの無視だ。
「あ……でも!私がいなければ、ソウマ様は腕を失くすことはなかったんですよ!?」
「違うぞエリス。逆だ……」
そうとも、まったく正反対。
「あの時、エリスの防壁術があったからこそ左腕は失わずに済んだのだ。
もしエリスがいなければ、私は両腕…いや、ヘイズに出会う前に死んでいたな。
だから謝るな。むしろ私は感謝しているんだぞ?」
守られた左の腕を伸ばしエリスの体を掴んで、こちらに抱き寄せる。
「左腕まで失っていたら……こうやってエリスに触れることさえ出来なかったからな……」
174 :
最後の選択:2009/08/06(木) 00:10:17 ID:Yw1euRd9
「あ……ぅ…ふえぇぇぇ!!ソウマ様あぁぁぁ!!」
「あー…だから泣かないでくれ……ほら、よしよし……」
うーむ…謝らせても謝らせなくても、結局泣き付かれるのか……
しかし先程から感じるこの懐かしい感覚はなんだろうか?
病室で目覚めて、おにぎりと誤認…泣くエリスの頭を撫でる……
ああそうか。あの時……エリスと初めて話した時と同じ状況なんだ。
思えば、森で重傷を負いながら町まで逃げるところから同じ状況だな。
あの時は……こんなことになろうとは思わなかったな……
ただの一人のハントマンとして、普通に町や人々に害をなすドラゴンを退治するつもりが……
エリスと出会い、彼女のために帝竜、さらには真竜とまで戦うことになるとは……
人生というものは、まったくもってわからないものだ……
「ふっ……」
「どうしたんですか、ソウマ様?」
「いや、撫でていたら君と出会った時を思い出してな……」
「…そういえばあの時も私はソウマ様に助けられて…このカザン治療院でお話ししたんでしたね」
なんと…逃げ込んだ治療院まで同じだったか。
そういえば、ミロスの治療院は騎士達で埋まっているだろうからとカザンに走った記憶があるな。
「ソウマ様はあの時も私のせいで大怪我をされて……」
いや…あの時の怪我の殆んどは私の未熟さと父上のせいだったんだがな……
「それで自己紹介して……私はとり乱して……」
懐かしい…あの時からエリスはかわいかったな……流石にバック宙土下座には驚愕したが。
「それで私…こんな風に…ソウマ様に…奉仕しようと…したんですよね…………」
そうそう、まさにこんな感じの心地好さが下半身から……
!?
「エエエエリスッ!?」
「ふぁい?ふぁんへほうは?」
いつのまにやら、目の前にあの時の様に私の愚息をくわえるエリスの姿が!
「な…なにをしている!はやく止めなさい!」
「んぷっ…思い出したら…なんだか体がうずいて…………んむっ…………」
「ぬぐぁ……!?」
いうやいなや、エリスは再び私の愚息をくわえこんだ。
……まずい。『あの時』とは状況が微妙に異なる。
まず、『あの時』は舐める行為だったのが『今回』はいきなりくわえる行為になっている。
結果、その刺激は桁が違う。
次に『あの時』は両腕を使ってエリスを抱き寄せたが、『今回』の私には左腕しかない。
結果、刺激で力がうまく入らない片腕だけではエリスを引き剥がせない、動けない。
総合結果……私大ピンチだ!!
175 :
最後の選択:2009/08/06(木) 00:11:14 ID:Yw1euRd9
くそぅ!落ち着け私!あの時とは別の対応をすればいいだけだ!思い出せ!あの時の選択肢を!
A 気持ちいいので、このまま流れに任せる……それは駄目だ!
B なんとか引き剥がして、落ち着かせる……これができない!
C 攻められるよりも攻めるために、押し倒す……駄目だ駄目だ!せめて優しく…って違う!
D ナースコールと思われるボタンを、押してみる……右側にあって押せん!
E 目の前の耳を、掴んでみる……多分今掴んだら止まれない!
F 突如食われた筈の父上が乱入……あの世で母上にしばかれていたから無理だ!
……全ての選択が使えないだと!?
えぇい!人は過去に囚われずに未来を作る存在!過去の遺産が使えないならば新たに作ればいい!
A 諦めて流されるまま快楽に溺れる
B 優しく押し倒してエリスの体を貪る
C 目の前の耳を掴んだり甘噛みしたりする
駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ私の脳はもう駄目だーー!!
こうなったら出てこい第4の選択肢!コマンド入力!↑↑↓↓←→←→……ABが押せない!
などと馬鹿なことをやっている間にもエリスの攻撃は止まらない。
触れるだけの口付けから、全体を舐め回したり……
そうかと思ったら一気に根本までくわえこんだり……
情けないが、私の限界は近い。もってあと1分だ。本当に情けない。
上気した顔で私のモノに懸命に奉仕するエリスを見るだけで……もう堪らない。
妙案が浮かばない以上、先程の選択肢のどれかを実行しないと、
あと数十秒で私の汚い欲望をエリスにぶちまけることになってしまう。
しかし本気でロクな選択肢がない!あと30秒!
唯一使えそうなのはCだ。耳はエリス最大の弱点。そこに触れるなりすれば、
驚いたエリスの動きが止まるかもしれない。そして脱出!
だが同時に、エリスの耳の感触は極上である。いや耳に限らず、今の私がエリスに触れて…
その誘惑に耐えきれる保障がない。正直な話Bを選びかねない。
だが!だがしかしサムライとしてはやはり結婚後にだな……!あと10秒!!
えぇい、儘よ!迷う時間も選択肢もない!私は逆転の一手にかける!
→C 目の前の耳を掴んだり甘噛みしたりする
『ふみゅっ!』
「ひああぁぁぁぁっ!?っぁ…!耳っ…!駄目です……!」
【ソウマのりせいは自爆した!ソウマのりせいは跡形も無く消え去った…】
176 :
最後の選択:2009/08/06(木) 00:12:05 ID:Yw1euRd9
ああ……私はローグではないというのに、何をやっているのだろう……
許せ、エリス……
「ひぅ……!耳は…本当に駄目ですっ……!」
耳を軽く甘噛みしてあげるだけで、エリスは実にいい声をあげる。
本当に、堪らなく愛しい。手放したくない……離れたくない……
「すまないエリス……だが、君がいけないんだぞ?」
「ふぁ……っ……あぁ…!ご…ごめ……なさ…い!」
いや、本当にいけないのは脆弱な私の精神の方なんだが……エリスにも僅かに非はある。
だから…本当にあともう少しだけ。もうしばらく耳を可愛がったら、止めるから……
「ふみぃ……ソウマ様ぁ…………」
しばらく耳を可愛がったら、潤んだ瞳でエリスが私を見上げてきた。
……うん、最初からわかっていたことだ。
今の私が、エリスが、耳だけで落ち着くわけがないことぐらい。
「エリス……」
「ソウマ様……」
頭では必死に止まれ!の命令を出すが、体はちっとも止まりやしない。
あの日以来抑え続けた反動なのか、一度死にかけた影響なのか……
どんな理由にせよ、もう止まることはできそうにない。
ただただ、何故か今は無性に目の前の少女を慈しみたかった……
「エリス……脱がせるぞ?」
「は…はい」
マントを羽織っていない今のエリスは、薄いシャツ一枚のごく軽装。
そのたった一枚の服のボタンに手をかけ、外していく。
……
…………
その作業の途中で……私の手は止まった。
「……ソウマ様?」
急に動きが止まった私を訝しむエリスの声が聞こえるが、返事ができない。
「……っ!」
ギリリ…と鈍い音が聞こえる。……自分の歯噛みの音だ。
エリスの服のボタンを外してまず現れるのは、白くほっそりとしたお腹。
だが……そこには以前はなかったものがある。
まだ真新しい、腹部全体にはしった痛々しい傷痕……
私がもう少し警戒していれば、エリスが負うことはなかったであろう真竜ヘイズ戦の傷痕……
「っ……エリス……すまない……!」
やっと出てきた言葉は、役にたたない謝罪の言葉だった。
177 :
最後の選択:2009/08/06(木) 00:12:51 ID:Yw1euRd9
「…どうして……ソウマ様が謝るのですか…?」
「私は……君を守るなどと大言を吐きながら…こんな……」
「いいんです!この傷は私の油断のせいです!しかもそのせいで……ソウマ様の腕は……!」
再び泣きはじめたエリスの左手が、私の右肩に触れる。
「何を言う!全て私の油断、未熟さが招いた結果だ……」
「違います……!私が…私が……!」
同じ様な、自分に全ての責任があるといった言葉を、私もエリスも繰り返す。
全面的に私が悪いのは明らかだが、責任感が強く、意外と頑固なエリスも譲らない。
幾度繰り返しても、言葉の内容は変わらない。いつまでたっても平行線のままだ。
その平行線の会話をしつつ、私は考える。何故あの時エリスを庇った?
答えは簡単。エリスが危険な状態だったからだ。
では何故致命傷を負った後も、ヘイズに挑んだ?
これも簡単。エリスを助けるためにだ。左腕も失うところだったのに?
左を失くしても、同時にヘイズを倒すことは出来た。エリスはくわえてでも治療院に連れていく。
ではエリスのおかげで左腕が残った時、何故嬉しかった?
またエリスに触れることができるからだ。またエリスの頭を撫でられるからだ。
……あぁそうか…私は自分の命よりも……
「私は何よりも、エリスを失うことが怖いんだ!」
「私は何よりも、ソウマ様を失うことが怖いんです!」
不毛な平行会話を終わらせようと私の口から飛び出た言葉と、
同じことを考えたと思われるエリスの口から飛び出た言葉は、ほぼ同時だった。
気恥ずかしさからか、私もエリスも次の言葉が遅れてしまう。
若干の間の後に、再び同時に動いて、
互いの唇を重ねた。
言葉はいらない。こんなにも自分を想ってくれているのだから……
178 :
最後の選択:2009/08/06(木) 00:13:45 ID:Yw1euRd9
「あの……ソウマ様………」
ゆったりと時間をかけた口付けを終えると、エリスがおずおずと声をかけてきた。
「……何も言うな。私は私がエリスを助けたかったから自分の意思で行動したまで。
だからエリスが気に病む必要はない。わかったね?」
「はい……でも、ソウマ様…無茶はやめてください。あなたがいなくなったら……私は……」
「……善処しよう。しかしそのセリフは私のものでもあるな。エリスを失うのは……耐えられん」
エリスの頭をそっと撫でて、その白銀の髪に指を通す。
柔らかな感触……確かにエリスは、いまここにいる。その証拠。
……私の理性が即座に砕け散った理由も今ならわかる。
エリスが、今この場に確かにいることを、確かめたかったのだ。
そしてエリスも、おそらくは同じ感情を持ち、行為に及んだのだろう。
互いが深手を負い、死の淵をさまよい、目覚めたばかりで現実か夢かの区別もつかない。
だから確かめたかった。
互いが互いを想い、失うことを恐れた故に……互いの生存を。
ただ……
「流石に怪我人同士でこういった行為をするのはな……いやそもそも婚姻前にだな…」
「うぅ……そうですよね……」
エリスがガクリとうなだれるが、これはどうしようもない。
私は右腕を失った以外にも、全身に傷ができている。そしてそれも完治はしていないだろう。
激しい動きをして、もし全ての傷口が開いたら今度こそ死ぬ。なんとも間抜けな死に方だ。
エリスも傷は少ないが、腹部全体に負った大きな傷がある。
下手に挿入なぞしたら、これも生命の危機だ。愛する人を自分で殺すのは洒落になっていない。
しかし耳を可愛がってエリスをその気にさせたのは私なわけだし……
ここはせめてエリスだけでも満足させるべきか?
「エリス……悪いが今はこれで我慢してくれ」
「えっ?あ、あぁぁぁああ!?」
左手をエリスのスカート内に侵入させ、下着越しに彼女の秘裂をなぞる。
ただそれだけで、エリスの体は大きく跳ねた。
「だ…大丈夫か?」
「はぃ……やっぱり…ソウマ様に触れられるだけで……嬉しいです……」
むぅ……なんだかこちらまで恥ずかしい気持ちになるな。
そして少し落ち着け我が愚息。無理だから。今回は入れられないから。
構えを解け。あんまり見苦しいと明王叩き込んで再起不能にするぞ?
「ソウマ様こそ……辛そうです…大丈夫ですか?……そうだ!こういう時は……
『しっくすないん』です!」
「……?」
聞き慣れない言葉だったが、これだけは言える。何か嫌な予感がする……!
179 :
最後の選択:2009/08/06(木) 00:14:33 ID:Yw1euRd9
「エ、エリス……」
「な、なんでしょうか……?」
「これが『しっくすないん』か……?」
「えぇ……かなり前に覚えさせられたのですが……やっぱり凄く恥ずかしいです……」
今、私の目の前にはエリスの形のよいお尻が。
そしてエリスの目の前には、見なくてもわかるガチガチの我が愚息がいる筈だ。
互いの性器を舐めあえるこの体勢がエリスの言うそれらしいが……
どう考えても常軌を逸している。エリスにこれを教えた『主』にはいずれ双つ燕をくれてやる。
しかしなんというか……こんな至近距離で見るのは初めてというか……
いやあの日以来見ていないわけだが……とにかく凄まじい。
そして、確実に人としての道を一気に踏み外しているのもわかる。
……本当に私はもう駄目かもしれない。サムライどころか人間失格かもしれない……
「えと……それじゃソウマ様…お願いします……」
「う…うむ……」
もう後には引けぬか……
私はエリスに、エリスは私に舌を伸ばし、そして舐めあげ
【ガチャ】
「えぇい!凶刃、魔銀、戦慄!いつまで惰眠をむさぼっているつもりだ!……あ」
「やめてくださいメナスさん!彼らはまだ完治していないんですよ!?……あ」
「「あ」」
突如扉を開けて、二人の人間が乱入してきた。
一人は、そもそも私達が深手を負う直接の原因を作った諸悪の根元、メナス指揮官。
もう一人は白衣を纏ったルシェの女性。姿からおそらく私達を治療してくれた医師だろう。
そんな二人は、乱入と同時に固まった。
無論、私とエリスも。
あぁ……昔から私の嫌な予感はよくあたる……
これなら、まだ父上が乱入してきた方がマシだ……
180 :
最後の選択:2009/08/06(木) 00:15:28 ID:Yw1euRd9
「あー…おたのしみのところ悪かったな凶刃。といいたいところだが、
お前達にはすぐに働いてもらわねばならない!」
「……」
メナス指揮官……いやもうメナスでいいか。とりあえずまずその鼻血とにやけ顔を止めろ。
最悪のタイミングで乱入しときながら悪びれる様子もないこのメナス、
二言目にはもう私達をこきつかう話をし始めた。
ちなみにエリスは隣のベッドに正座で医師に説教されてしまっている。
医師の説教の他にも、まだやってないんです!とのエリスの抗議の泣き声も聞こえる。
私もだが、体があれだけうずいた状態で強制終了はかなり酷である。
私の愚息も、両足で挟みこんで無理矢理抑えているざまだ。
悪いのは私達なのだが、やはり色々な意味でこのメナス、許すまじ……!
「…メナス指揮官、やってもらうこととはなんだ?真竜ヘイズならば、撃破したであろう?」
「あぁ、その事に関しては感謝している。予想以上の働きだ。だが、それの礼などは全て後だ。
今は落ち着いて、私の話を黙って聞きたまえ。
……つい先程、ユグドラシルが真竜ニアラとの戦闘を開始した。
しかしそれと同時に、真竜ニアラは隠し持っていた竜数千匹を各地に放った。
あと数分もしないうちに、このカザンにも無数の竜が飛来する。
お前達には、このカザンに向かってくる竜の殲滅をやってもらう」
「はぁ!?」
思わず聞き返してしまった。
今なんと言った?数千の竜が世界各地に?それがあと数分で?それを倒せと!?
「馬鹿な!…それに何故私達だけで……!」
「ヘイズ討伐の際、集まったほぼ全てのギルドが壊滅した!
生き残りで竜をまとめて相手にできるのは、お前達だけなのだ!」
それはお前の責任であろう!?
英雄部隊の出し惜しみさえしなければ、それ程の犠牲は出なかった筈だ……!
「頼む……!もはやお前達以外ぶへっ!?」
なおも食い下がるメナスの頬に、突然棘鞭が襲いかかった。これは……
「何言ってるの……?お兄ちゃんもお姉ちゃんも……あなたのせいで死にかけたんだよ…?
私や他の治療師を庇って…ミロスの騎士団長さん達も、みんなみんな死んじゃったんだよ…?
全部……あなたのせいだよね…?それなのに……」
「そ…それはだな…ぐふぅ!?」
再び棘鞭がメナスの頬を打つ。今度は左だ。
ゆっくりと鞭を手元に戻し、ベッドから起き上がったのは、先程まで寝ていたと思われるリア。
声は荒げないが、彼女が静かに怒りの感情を爆発させているのがわかった。
181 :
最後の選択:2009/08/06(木) 00:16:13 ID:Yw1euRd9
「待て…落ち着け!今は時間がないんだ……!戦えるのはお前達しか……」
両頬を押さえながらメナスがうめき声をあげる。
こころなしか、目の端に涙が見える。痛いのだろうか?それとも恐怖からだろうか?
多分……両方だろう。
「……どうしてもって言うなら…私一人で戦う。
お兄ちゃんにも…お姉ちゃんにも…無理はさせられない」
「な…リア!?」
「リアさん!?」
「やめなさい!あなただってまだ足の傷が完治していないでしょう!」
突然のリアの発言に、私とエリスはもちろん、医師までもが待ったをかける。
「大丈夫だよ…もうちゃんと歌えるし、鞭も握れるし……ほら、もう立てるよ」
「そうか……ならば命じる!カザンを脅かす竜を全て殲滅してみせよ!」
メナスが声をあげると同時に、口の端を持ち上げたのを私は見逃さなかった。
この男は、わかっているのだ。
私が、エリスが、リアを一人で戦わせるわけがないと。
全ては『カザンを』守るために。利用できるものは全て利用する……か。
メナス……冷酷だが、『国』を守る指揮官としては、それが正しいのかもしれない。
私達はリアを見捨てれない。
エリスと目をあわせれば、彼女も頷いた。思うことは、同じ。
結局私達は最後まで、メナスにいいように利用される『駒』なわけか……
それが非常に癪だが、仕方がない。メナスの言うとおり、時間がないのだ。
どのみち戦える…街の人を守れるのが私達しかいないというのなら……
戦うまでだ。
私は壁にたてかけられていた母上の刀を握りしめ。
エリスはマントを羽織り、薬の入った袋の中身を確認して。
必死で止める医師を振り切って。
リアを追ってカザン中央広場に向かう。
これが、私達の最後の戦いだ。
182 :
最後の選択:2009/08/06(木) 00:17:01 ID:Yw1euRd9
「……なんで来ちゃったの?」
「リアさんも、私達の大切な仲間ですからね。それに、私だけソウマ様とあんなことをして…
リアさんだけに戦いを押し付けるなんてできませんよ……」
「うむ……それにアリエッタとの約束もある。『三人』で生きて帰るんだ。絶対にな……」
「お兄ちゃん…お姉ちゃん……ありがとう……」
言葉を交えながらも、私達は決して前から目をそらさない。
前方数キロ先に、こちらに向かってくる竜の群れが見える。
帝竜の様な巨体を誇る竜は少ないようだが、その数が異常だ。
その数は……軽く千を越える。
フロワロを無数に産み出すように、竜も無数に産み出すことができる……
それが真竜ニアラの本当の能力か……
人間に絶望を味あわせるためだけに、その力を使ってこなかったということなのか……?
いや…今となってはどうでもいいか。目の前の敵を倒すことだけを考えろ……
竜の群れから数匹が、速度をあげてこちらに向かってくる。
細くしなやかな紅い体…そして薄い八枚の虫羽……見たこともない竜だ。
しかし、似た様な竜には出会っている。アイゼン付近の竹林にいた、あのトンボ竜だ。
姿形が似ているなら、厄介さも似ているんだろうな……
……
………何故か全身から嫌な汗が流れる。
まるでヘイズと出会った時のような……そんな感じだ。
間違いなく、あの竜は強い。
「ソウマ様……?」
「……なんだいエリス」
「勝て……ますよね?」
すぐに返事が出来ない。
あの竜は強い。尖兵であの強さなら、群れの奥にいる竜はどれ程の……?
そんな考えが頭を横切るが、ねじ伏せる。思考は、いい方向にもっていくべきだ。
「……勝てる勝てないではない。『勝つ』んだ!」
「……はい!」
理想論でしかないのはわかっている。
気を抜けば、おそらくあの虫竜一匹にだって殺されかねない。
だから、ひたすら前を見て、勝って、生きることだけを考えろ……!
さぁ、もう敵は目の前だ。
最初の一匹目からつまずいていては話にならない。
刀はもう構えた。来るならば来い!
【来た!ドラゴンだ!!】
183 :
最後の選択:2009/08/06(木) 00:17:53 ID:Yw1euRd9
倒しても…
【来た!ドラゴンだ!!】
【リブロドラゴニカが現れた!】【ワイバーンμが現れた!】【イビルドラゴニμが現れた!】
倒しても……
【来た!ドラゴンだ!!】
【カノンドラグが現れた!】【グリフィナスμが現れた!】【ドラゴストナタμが現れた!】
倒しても倒しても……
【来た!ドラゴンだ!!】
【オルグドラゴμが現れた!】【ビトラドラゴニスが現れた!】【アルマノスμが現れた!】
きりがない……!
刀が虫竜の体を両断し、マナの弾丸が甲竜の頭を射ぬき、棘鞭が石竜の首を絞めあげる。
だがそれらの竜の亡骸を踏み荒らし、新たな竜が襲いかかってくる。
それを斬り伏せても、また別の竜が亡骸を吹き飛ばしながら突進してくる。
リアの月明かりの詩の力で、私達のマナはほぼ無尽蔵ではあるが……
どんな優れた刀も、使い続ければこびりついた血や油で斬れ味が鈍ってしまう。
鞭を振るう腕も、だんだんと疲労が溜っていく。
詠唱破棄をしても、絶え間なく術を行使すれば精神に負担がくる。
交戦して数分。まだ余力はあるが……このままではジリ貧だ。
『グオオォォォオオオ!!!』
……いや、それを待つ暇もないかもしれない。
轟いた咆哮はまさしく帝竜のそれ。最悪のタイミングで、最悪の援軍……!
空中という、絶対有利な戦場を持つが故に討伐が後回しにされていた、最後の帝竜……!
「空帝竜インビジブル……!?くそ!」
空を見上げれば、極彩色の翼をひろげ、こちらを見下す空帝竜の姿があった。
『翼なき愚かで哀れな人間よ…なかなかにしぶといが、ここまでだ』
空帝竜の翼が帯電しているのがわかる。止めねば、雷の嵐が飛んでくる。
当たれば、即死はなくとも体が痺れて満足に動けなくなる…その果てに待つのは死だ。
しかし空帝竜のいる位置には私達の攻撃が届かない。
仮に跳んで届いたとして、落下時に眼前の顎竜にまるのみにされるのが関の山だ。
帝竜と竜の群れ…同時に相手にすることはできない……!
これは……詰み…なのか?『死ぬがいい弱き生命体よ!いずれ貴様らの英雄も後を追うだろう!』
ここまでなのか…………!
「アースも帝竜も、みんなブレイカーなんです!必殺技、アースブレイカー!!」
『がっ!?』
天よりの謎の声、空帝竜の短い悲鳴、その後に響く、大地を砕かんとする爆音……
突然のことに、私達はおろか、竜の群れまでもがその動きを止めてしまった。
184 :
最後の選択:2009/08/06(木) 00:18:45 ID:Yw1euRd9
やがて土煙が晴れると、そこに立っていたのは一人のメイドだった。
空帝竜は……その後ろで頭部を完全に粉砕され、ピクリとも動かない。
「ふぅ…なんとか『今回』は間に合ったみたいですね」
「あの……失礼だがあなたは……?」
「私はただのメイドです。このカザンには少々苦い思い出がありまして……
微力ながら、カザンを守らんと戦うあなた達の手助けをさせていただきます!」
そういうと女性…ただのメイドさんは血塗れた破城槌を振り回して、竜の群れに飛込んだ。
ただのメイドが帝竜を一撃で仕留めたり、そんな物騒な得物を振り回せるのか……?
疑念は尽きないが、ひとつ言えるのは、彼女が頼もしい味方であるということだ。
「メイドは秘密が多いんです。それと、味方は私だけではないみたいですよ?」
読心術…!?本当にこの人は何者なんだ……?いや、それよりも、他にも味方が…?
「あぁ、いるぜ!ユグドラシルや、お前達みたいな無名のギルドまでこんなに頑張ってんだ!
俺達も少しは頑張らねぇと、ドリス大統領に顔向けできねえよな!!」
街の西口より、大剣を振り回し、複数の竜をまとめて薙ぎ払う赤髪の剣士が現れた。
その顔は私ですら知っている。ユグドラシルと実力を二分するギルド……
王者の剣のリーダー、ネストルその人だ。
「若僧どもだけに戦わせるわけにもいかんな……竜ども、営業妨害の罪は重いぞ?」
続いて酒場方面から、左手に剣を持ち、右手に斧を持ったキザな初老の男性が現れた。
そして、ヘキサスパイクとタイダルウェイブを同時に放つという荒技で次々と竜を倒していく。
「わしらがいればカザンは安泰だ!いくぞエリザ!」「あいよ!さぁ、どいつからペシペシされたいんだい!?」
「妹は僕が守るんだ!妹に手を出す奴は、人間でも竜でも容赦しないぞ!」
民家からもさらに数人が飛び出し、それぞれの得物が竜を斬り裂いていく。
「はぁ…はぁ…ご無事ですか!?まったく、怪我人にこんな無茶させるなんて……!」
そして治療院からは、先程の医師が息をきらせて走ってきた。
その手に持つ縄の先には全身を縛られたメナスが……これは見なかったことにしよう。
「あなた達は休んでいて!…と言っても戦うのでしょう?……それなら、私も戦います。
医師として、目の前で死者を出すわけにはいきませんからね。大抵の傷は任せてください」
「助かります!」
メナスめ……何が私達だけしか戦えないだ。
まだこんなにもたくさん、無数の竜に絶望せずに戦ってくれる人がいるではないか……!
185 :
最後の選択:2009/08/06(木) 00:19:37 ID:Yw1euRd9
心強い味方に、エリスとリアの頬が僅かに綻んだ。
多分私も似たような表情になっていることだろう。
さっきから妙に軋む左腕の痛みも、なんとなくやわらいだように感じる。
人は、未来への希望があれば死なないというが…本当なのかもしれない。
リアの守護歌の有効範囲はこの街全体。そしてこれだけの味方がいれば、あるいは……
いや、勝てる……!
「ソウマ様……?」
「なんだいエリス?」
「もし……この戦いが終わったら……どうなさるつもりですか?」
「そうだな……エリスと一緒にのんびりと暮らしたいな。
……それと、『もし』は必要ない。この戦いは終わる。竜ではなく、人の勝利でな…」
「…!はい!」
そうとも、もうすぐ、もうすぐ竜はこの星からいなくなる。
竜のいない、元の平和な世界……今度こそ、それは現実のものとなる筈だ。
その平和になった世界で、エリスと共に暮らしたらさぞ楽しいことだろう。
……そういえば、どこで暮らすかを考えていなかったな。
さて、少々気が早いが、どこにしたものか……
A 賑やかなカザンか?
B 故郷たるアイゼンか?
C 全ての人に平等なミロスか?
D エリスの勉学のためにプレロマか?
E 受け入れられるかはわからないが、ルシェの国ネバンか?
F マレアイア……これはまずい。
G 初めて出会った森の中に家を建ててみるか?
H 各地を転々と旅をするのもいいか?
……今は目の前の竜を倒そう。
そして……
ここまで。長々とすみません。
次で最終話となります。
それでは
>>186 GJ!!!
この作品も次で終わるのかぁ;;
出会いは大切、G!
リアとも一緒に暮らすと書いてないところをみると…。
まさか…!
GJ!しかしハノイってどうなったんだ?
GJ!!!
でもソウマの腕は無くなったままなのか・・・
選択肢は、色々むかつくメナスをいつでもぶちのめせるようAで!
それとあの父上と母上がどんな経緯で結婚したかの話も見てみたいぜ!
GJッ!
これほどメナスに嫌悪感を覚える日がこようとは。
皆で各地を転々するのも楽しそうなのでHで。
>>153 とうとう完結かぁ…
もうちょい続きが見たい気がするけど新作も待ってるよ!
…でも姐御の続きもひっそり期待したりもする!
>>171 カザン連中つえぇ!しかも襲ってきてる竜の強さが明らかにニャアより強敵だし…
でも本来世界の危機ならこうやって皆一丸になって闘うべきなんだよね。つまりメナスてめーも闘え!
ここはBを選ぶぜ。ルシェ迫害貴族はみんな双つツバメで除外だ!
連レス失礼!
第三帝竜の未保管の作品とアップローダーにあったもの全部一応保存しといたんで
埋めるか落とすかして大丈夫だよ。流石にスレ重複いつまでもするわけにもいかないし。
乙!wiki絵板でも壊れたメナスは色々目にしてきたがここまで壊れたのは初めてだぜ!
>>192 GJ。お疲れ。ありがとう。
GJ!!
微笑む医師の手によってメナスがモーニングスター代わりとして
酷使されるのを期待しています。
選択肢はGで。
夏だから人いないのか?誰か金ナイトメインの話をプリーズ
金……ナイト? いたっけ、そんなん。
保守
>>199 おお、乙です。
じゃあもう、前スレは完全に埋めるなり落とすなりしちゃうほうがいいやね。
乙です!
と言いたいけど1つだけ
キャラ名が香辛料の人のって載せていいのかな?
初出はこっちとはいえ自サイトに掲載してるし
(保管庫でもタイトルが恍惚からトリプルになってるから
作者の自サイトの存在知ってると思うけど)
お話中ちょっと失礼します。
こんばんは。新しいネタで投下します。
・エロなし
・ハントマンもドラゴンも(今のところ)でてきません
・ネタバレはニギリオの宿まで。
NGは『ニギリオいいとこいちどはおいで』でどうぞ。
いつもと変わらない朝。
いつもと変わらない目覚め。
いつもと変わらない一日を始めるために僕は粗末な寝床を後にした。
コレルという名の使用人がいる。
若くて健康で性格も良く、使用人としての適正に溢れた優良物件だ。
本人がそう言うんだから間違いない。
所はアイゼン、貴族街の周辺部に、僕の住み込むその小さな家はあった。
まずは箒を担いでそう広くもない庭と玄関を掃き清め、それが終わったら洗濯にとりかかる。
そろそろ買い換えなきゃダメかなとボロい物干し竿を見ながら洗濯物を干し終わると、
次は水汲みと雑巾がけに入らなきゃいけない。
家の要所をカラ拭き水拭きし終え、それじゃ洗濯物が乾くまで休憩でもするかと
本棚に寄りかかって一冊拝借しそのページを開こうとしたところで旦那様から声がかかった。
「おーい、コレル!」
一行も読むことなく本を戻し、書斎へ向かう。
広げた書簡にせわしく筆を走らせ、次々と文を書き連ねるのに合わせて
眼鏡越しの視線を言ったり来たりさせる長い黒髪で僕と同年代の青年は、
僕が戸を開けると目を向けてくる暇も無いように仕事を続けながら言った。
「来たか?悪いけどそろそろ昼にしてくれ、忙しすぎて腹が減ってきた」
「はーい」
あれが僕のご主人だ。
一家代々旦那様の家の使用人をしてきたその息子である僕は、幼い頃から旦那様と共に育ってきた。
とあることで旦那様の両親と僕の両親を一辺に失う悲劇に見舞われつつもどうにか二人でやってきたのだ。
とまあ、もし僕たちが異性同士だったらなんらかのロマンスが生まれていたかもしれないが、
あいにく僕も旦那様も男なのでそういったことはなかった。断じてなかった。
……ともかく台所へ行き材料の確認をする。
ご飯の残りとくず野菜が少々。前もらってきた鶏肉の残りもそろそろ使ってしまおう。
火を起こして簡単に味付けしたお粥を作り、肉団子を入れる。
待つことしばし、よし完成。
出来たお粥を取り分ける。このとき肉団子は全て旦那様の方に入れるのが大人の常識というやつだ。
お椀を二つお盆に載せ、書斎へと取って返す。
「お待たせしましたー」
「お、じゃ昼にするか」
ずずー。
旦那様の前にお椀を置き、僕もそばにある小さな物書き机にかけて食べ始める。
……うん、もうちょっと味が濃くてもよかったかな?
無言で食べ続ける旦那様は、その内ふと思い出したように口を開いた。
「ああ、そういや忘れてたけど言おうと思ってたことがあるんだが」
「はい?」
ずずー。かつかつ。
聞き返す間にも食事を続ける旦那様は、また少しお粥をすすり、そしてお椀を口から放してこう告げた。
「お前クビ」
こうして僕は、かの悪名高いニギリオの宿の門を叩くことになった。
森の中にただ一本通っている道を歩きながら考える。
人生なにがあるか分からないもんだなあと。
感慨に耽りつつ歩き続けているうち、やがて本当にこの先に何かあるのかと思ったほどの静かな一本道の先から
木々の匂いとは違う匂いが漂い、開けた土地が見えてくる。
程なく、僕の眼前に落ち着いた意匠のいかにも温泉宿といった建造物が現われた。
あれが今日からの僕の職場、ニギリオの宿だ。
その庭先に佇む従業員らしき女の人に、僕は近付いていった。
「あの」
「いらっしゃいませ〜人類最後の桃源郷、ニギリオの……あれ?ルシェの……お客さん?」
「いえ、新しい使用人ですけど」
「ですよねー!」
「……」
ですよねーって。
まあ船に乗ってここまで来れたという分を差し引いても身なりを見れば丸分かりなんだけどさ。
「まあそういうことで来たんですけど……まずはどちらに伺えばいいですか?」
「そうですねー、入って左の受付に断ってから二階のご主人の部屋へ伺うといいと思いますよ」
「あ、丁寧にありがとうございます」
「いいえ〜、これから同僚になるわけですし。お仕事は辛いですけど脱そ……めげないで一生懸命頑張ってくださいね〜」
今脱走って言おうとしませんでした?
さて。結局のところ僕はここに来ているわけだがもちろん黙ってクビになってきたわけじゃない。
『……クビ?今クビって言いました?』
『ああ言った、確かにお前クビと言った』
『……な』
『な?』
『なんでまたいきなり!?クビになるようなことをしでかした覚えはありませんよ……?』
『……まあな。そもそもお前がどうこうじゃなくてこっちの都合だからな』
『はあ……』
ちなみにこの間二人ともお粥をすすりながらの会話なので緊迫感もなにもありゃしない。
『とりあえずお前、ウチがしがない貧乏貴族だってことは知ってるな?』
『はいまあ、お金も地位も力も無いうだつのあがらない貧乏貴族であるという程度には』
『張っ倒すぞ。ともあれまあそういうことだ、……ぶっちゃけお前を雇っておくほどの金がなくなった』
『給料なんてもらった覚えがありませんよ』
『金があっても俺がお前に給料をやると思うか?』
『いいえ、全く』
『本当のことだがムカついてきたぞ。まあ、これ以上お前を食わせていけないのも本当だけどな』
『でもですね、でもですよ?いくらなんでも二十年近く連れ添ってきた僕を、
いきなりクビってのはあんまりじゃないかと!今まで築いてきた絆というものを考慮して頂けないですか』
『絆じゃ飯は食えない』
『うっわひどい!友情はプライスレス』
『……下らないことを言うな。』
『だってそうでしょう!ああこれまで僕が信じてきたものはなんだったんだろう。こんな鬼や悪魔のごとき所業を受けようとは』
『……食わせておけなくなったとはいえお前の再就職先だけはなんとか見つけておいたんだがな』
『神様仏様旦那様。やっぱ絆を信じてよかった』
『現金すぎるだろお前……まあ、とにかくそこへ行きゃ飯だけは何とかなるだろ。ニギリオの宿ってとこだが』
『………
……え?ニギリオ?』
とまあ、そういうわけだ。お金が無いと言われちゃ居座っているわけにもいかない。
共倒れしたってしょうがないしね。
さて、受付も通っていよいよここの主、ジェンジェン爺とご対面だ。
使用人ネットワークの産物として僕もジェンジェン爺の噂は色々と耳にしている。
曰く、裏の世界の覇王。金の亡者。元マフィアの頭。
そのくせ根城に引っ込んで金儲けに勤しむ温泉宿の主人としての顔を持ってたりする偏屈ジジイ。
その裏の実態を知っているものは本人を除き一人もいない……
……温泉宿の使用人として呼ばれたわけだし、そんなに心配しなくていい、はずだ。うん。
深呼吸を一つ、僕は支配人室に踏み込んだ。
「失礼します……」
「おおいらっしゃいま…………ってなんだ!」
部屋の中にいた黒髪の老人が振り返り、さっそくお小言が飛んできた。
「お客様かと思えば薄汚いルシェではないか!さっさと用を済ませて仕事に戻……
……うん……?たしかお前の顔はまだ見たことが……」
いきなり叱咤モードに入りそうになった老人は、新顔である僕を見て一旦停止する。
人の出会いは最初が肝心、僕は背筋を伸ばしてはっきりと自己紹介した。
「あ、はい!以前こちらに伺いましたショウジュの家から新しくご奉公に参りました、コレルと申します。
至らないところもあると思いますが、一生懸命働かせていただきますのでどうぞよろしくお願いします!」
「……ふん。最近の者にしては多少躾が出来ているようだな。ショウジュ……?たしか……」
振り返った黒髪の小柄な老人は、再び机に戻って何か帳簿のようなものをめくり始めた。
これが、ジェンジェン爺。……驚くほどイメージどおりでちょっと怖い……
「ショウジュ!そうか、あの糞生意気な若造だな!……そうか、お前か!
人を馬鹿にしくさった態度で使用人を紹介しましょうかなどといらなくなった穀潰しを押し付けてきおって!」
「す……すいま……」
なんて言い草だろうか。
当たってるだけに。
予想通り過ぎる人柄に毒を抜かれつつも、僕は次の言葉を待った。
「まったく……で、ここの使用人になりに来たとか言っておったな……」
「は、はい」
ジェンジェン爺は後ろを向いて何か別の冊子をめくって行く。
遠めに見る限り使用人の、名簿?……のようだ。
「ふん」
「……」
「小僧」
「はい!」
「働きに来たと言ったな」
「はい、どうぞよろしくおね」
「いらん、帰れ」
「ご無体なっ!!」
それはもう突然かつ完璧な宣告だった。
か・え・れ。帰れ。
……前述の通り、僕には帰る場所がない。
帰れといわれて帰るわけにはいかないのだ。
【粘りますか?】
……もちろん『YES』だ!
「なんじゃその目は!?
ウチにはすでに十分な数の使用人が働いておる!
無駄な人員に払う金などないわ!」
【それでも粘りますか?】
『YES』
「帰れと言っとろうが!
何か?自分がよければこの零細経営の宿が苦しくなってもいいというのか!?
なんと自分勝手な、ああこれだから近頃の若い奴は嫌なんじゃさっさと帰れ!」
【負けずに粘りますか?】
『YES』
「ええい……しつこいやつめ!
これでもやるからさっさと帰れ!」
【パロの実を手に入れた!】
【…………死ぬ気で粘りますか?】
『……YES』
「なんじゃと!?これでも帰らないのか!
ええい、それならやったものを返せ!」
【パロの実を取り上げられた!】
「……ふん、そこまで言うなら雇ってやってもいいぞ?
その代わりここの使用人が一人泣くことになるがな、それが資本主義というものじゃしな!」
「!?」
「やれやれ、そうと決まればクビにする奴を決める作業にかからなくてはな。
心が痛むが仕方ないわい、一人を救えば一人が救われない、それが世の中というものじゃ。
諸行無常、盛者必衰、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。
後から来た奴が諦めれば万事丸く収まるのにな」
「……」
【……本当に、全力で、恥も外聞もなく、土下座して粘りますか?】
『YES』
「……心の底から申し上げます、どうぞ、これ以上、酷いこと仰らずここへ置いてくださいませんでしょうか」
「!?」
「どんな仕事でも喜んでやりますので、ほんとに、どうか、ちょっとでいいんで哀れみの心をお願いします、いやマジで……」
……粘ること30分。どうにか僕は生きていく場所を手に入れた。
――――――――――――――――――――
これが、僕がニギリオの宿で働くに至るまでの経緯だ。
ここらで一つ閑話休題を入れて頭をリセットしたいところではあるけれど、
残念ながらそんな話題もないので現在の僕の様子に移ろうと思う。
宿泊施設の朝は早い、めっちゃ早い。
日が昇る前に起きだし、僕は同僚達と共に仕事に取り掛かった。
ちなみに、僕たちが寝起きする宿舎についての描写は特にしないので自由に想像して欲しい。
たぶんそれで大体合ってる。
僕達の最初の作業は露天風呂の掃除だ。
お客さんの中には朝風呂という奴がめっぽう好きな人もいるわけで、彼らが起き出してくる前に
夜の間に落ちた葉っぱやらなんやらを片付けてぴかぴかに磨き上げておかなければならないのだ。
かき集めた落ち葉などを捨てに行くと、ちょうどゴミ出しに来ていた給仕の女性が声を掛けてきた。
「あ、おはよう。どう?そろそろ仕事には慣れた?」
「おはようございます。はい、しっかり教えてもらえるおかげでバッチリです」
「うん、クタベさん面倒見がいいもんね」
この人がニコレットさんだ。
僕より少し年上で、担当は違えど仕事に関することを色々と教えてくれる。
とても明るくいつも笑顔を絶やさないので皆から親しまれていて交友関係も広い。
ちなみに、さっき話の中に出てきたクタベさんというのは……
「おぉい、立ち話もいいがきちんと仕事を片付けてからにしないとダメだぞ」
噂をすれば影。振り向けばクタベさんがデッキブラシを持って苦笑している。
「あ、すみません。じゃニコレットさんまた」
「私も仕事しなきゃ」
「さ、行こう」
そうしてニコレットさんは戻っていき、僕はクタベさんの後について歩き出した。
クタベさんはここの使用人達の中では年長の、ややくたびれた感のある男性だ。
けれど僕は、その小柄だけどがっしりした体躯や積み重ねた苦労が刻まれたかのようなシワをかっこいいと思ったりする。
後輩や新入りにも優しく、新入りである僕を同じ班に入れて色々面倒を見てくれるいい人だ。
「それにしてもなかなか飲み込みが早くて、助かるよ」
「あ、ありがとうございます。ずっと使用人だったんで、掃除とかは自然と分かるみたいです」
「ああ。だが、ここは大勢のお客様を相手にするところで家付きの使用人とはだいぶ違う。
そのあたりのことはやはりニコレットに教えてもらうといいかもしれないな」
「はい」
そう。生まれたときから使用人になることが決まっていたような人生を送ってきたおかげで
仕事自体はそう苦にならないが、やっぱりお客さんを相手にするというのは違う。
使用人としてはともかく接客業のスキルがない僕はまだまだ仕事を任せられるレベルじゃないということだ。
少しでも早く仕事を任せられるレベルにならねばと誓いつつ、後は黙々と作業をする。
掃除しなければいけないところはいくらでもあるし、水を汲んだり食材を運んだりとやることは尽きないのだ。
ただでさえ無理やりここの使用人に納まったことでジェンジェン爺からいい目で見られていない僕は、
評価向上のためにそりゃもう馬車馬のように働くほか無かった。
ただ、今だから思えることがある。あの時『働きたい』と言ったからあんなに帰れ帰れ言われたのであって
もし『働きたくない』と言っていたら速攻で働かせてもらえたんではなかろうか。
……そんな訳無いよね。そんな訳無いと思うことにしよう。
「……ふぅっ」
とりあえず仕事は一段落着いた。
もちろん掃除なんてのは一日中やってたって足りないわけだし一日の仕事はまだ始まったばかりだが、
とりあえずお客さんが起きて来るまでにやらなければいけないことは終わった。
この後は朝食を取った後、いくらやっても終わりの無いエンドレス掃除タイムに入ることになる。
それにしても。
一つ一つの仕事が苦にはならないとは言ったが、全体的なキツさとしては相当な感がある。
まだ仕事はいくらでもあるのに、足腰の筋肉は微妙にだるい。
この調子で身体を酷使していけば、行く末は『貧相なくせにガチガチ』と揶揄される
典型的な小作人体格になっていくこと請け合いだ。ま、今でも微妙にそうなんだけどさ。
しかし、こうしているとなんだかまんざらでもない感覚と共にこんなフレーズが浮かんでくる。
……労働って、いいね!
「……なに爽やか気取ってやがんだか……」
見られてたよ。
若干バツの悪い思いをしながら振り返ると、そこには
不機嫌そうな視線を投げる短髪の青年が一人座り込んでいる。
「……えと、すいません」
とりあえずなんだか気に障ったらしいので謝っておくが、
どうやら先輩殿の機嫌は思ったより悪いらしかった。
「けっ、別に謝ってもらわなくたっていいけどよ。
あのクソジジイにこき使われてんのに、それを喜んでやってる奴がいると思うと嫌になんだよ」
「はぁ」
……成程。これが無理やりつれてこられたクチか。
知っての通り、ここで働いている人達の事情には二種類ある。
一つは僕のようにこの不況で勤め先が無くなり、ここに身を寄せて来るタイプ。
そしてもう一つが、詐欺に遭ったり借金のかたに売られたりしてここで働くよりなくなったタイプだ。
目の前にいる先輩はどうやら後者のようだった。
「……先輩は、どうしてここに?」
今思えばここで黙ってればよかったのだろうが、僕は地雷原に続く一歩目を踏み出してしまった。
案の定先輩は険悪度を上げた視線を向けてくる。
「……騙されて連れて来られたんだよ。んなこと聞いてどうするってんだ」
「いや……ここで働いているのが不満なような感じだったんで、なんとなく」
「ここで働くのが、だ?いちいちすっとぼけたこと言ってイラつかせてくれる野郎だな……
いいか?俺はな、金持ちだの権力者だのそういう奴らが皆だいっ嫌いなんだよ。
俺達みたいな底辺層を踏み台にして自分が得することばかり考えてやがる、
そーゆー奴らに尻尾振ってる奴も俺は大嫌いだ」
「……」
むう。
さすがの僕でも『尻尾振る奴』が誰を指しているのかは分かった。
随分と嫌われてるなあ。
さて、こんなところでケンカ腰になるほど分別が無いつもりは無いけどここで引き下がって
それこそ尻尾を振るしか能のないやつだと思われてもつまらない。
一応説得を試みては見よう。
「……これでも尻尾振ってるつもりは無いんですよ?
ただなんていうか、性格的に仕事はきっちりしないと気が済まないっていうか」
「仕事、ね」
「…………
いけませんか?自分の仕事ちゃんとやるってのはおかしいことじゃないと思いますけど」
「いけねえなんて言ってねえよ、ただ使う側の奴らに良い顔してんのが気にいらねえだけだ」
「良い顔したいんじゃなくて仕事をちゃんとしたいだけだって言ってるじゃないですか……!」
まずい、険悪な雰囲気になるのが止められない。
だけどここで引き下がるわけにはいかなかった。
好むと好まざるとに関わらずずっと使用人をやってきて、それなりに使用人であることの誇りも美学もある。
それを根底からぶち壊されるようなことを言われて、黙っているわけにはいかないのだ。
「大体、聞いてれば使う側の人をよく思ってないことは分かりますけど。
元々が使用人なんて使う主人がいて初めて成り立つ商売じゃないですか。そのことを踏まえた上で
使用人としての誇りを持ってやってるんだから、他人にとやかく言われることじゃないと思います」
「誇りだ!?使用人の?そんなもんが本当にあると思うか?
雇う側の都合であれだこれだ指図されて所有物として扱われて、牛や馬とどこが違うんだよ!」
「牛、馬、所有物で結構です!自分の財産を大事にしない人がいますか!?
働かせるために雇った人材にわざわざ意地悪して働けなくしたり長続きしないようにさせる人がいますか!
自由が少ないのは事実ですけど、少なくとも使用人だって真面目にやってりゃそれなりに幸せになれるじゃないですか!
そんなことも考えられないんですか?」
「……」
「……」
「……ああそうかよ」
彼は立ち上がった。
こちらを真っ直ぐに睨みながらつかつかと歩み寄ってくる。
「そうだろうな。お前の言ってることは間違ってねーだろうさ。
で、悪口ばかりで真面目にやらねー俺はたるんでるだけだと。結構だよ。
でもな」
そして彼は、右手で向こうを指差した。
「あいつに同じことが通じるか?」
彼が指差したのは、重そうな水桶を運ぶ小さな女の子だった。
その身体に見合わない大きな桶を提げ、懸命に運んでいる。
「あいつだけじゃねえ。ここには小さい奴も身体の弱い奴もいるのは知ってんだろ。
そいつらはな、使用人が向かないからってやめるわけにはいかねえんだよ。
その自由が無いことは大したことじゃねえのか?俺は納得いかねえんだよ」
「……ぅ」
「確かにお前みたいな健康で良く働く馬なら大事にしてもらえるだろうけどな。
病気の馬やヨボヨボになって働けなくなった馬はどうだ?下手すりゃ処分されるだけじゃねえか!」
……ヘコんだ。
完膚なきまでにヘコんだ。
あのあとまた仕事に戻り、今は昼の休憩だ。
どうも僕が精神的にやられたことは顔に出ていたらしく、クタベさんにかなり心配されてしまった。
「……はぁ」
「どーしたの、そんな暗い顔して」
「ニコレットさん」
本当に余程ダダ漏れらしい。ニコレットさんまで声をかけて来た。
「いえ……なんでもないです」
「なんでもなくないでしょ。ま、無理に話せとは言わないけど」
「……すいません。どう言えばいいのか分からなくて」
「気にしない気にしない。さ、元気出して。もう休憩終わりよ」
(……反論できるだろうか)
あの先輩の言ったことは事実だ。
僕にとっては従属なんて苦痛でもなんでもないが、それはあくまで『僕にとっては』だ。
思えば僕はいい環境に恵まれて居たのだろうが、そうでない人だっている。
そんな人たちが居るということを踏まえた上で僕はどう振舞うのが正しいだろうか。
世を嘆きながらなるべく嫌そうにしているとか?
そんなわきゃ無い。
………。
(……なんかだんだん腹が立ってきたぞ)
そもそも僕は何でこんな事で頭を悩ませてなきゃいけないのだろうか。
これは社会の問題であって、一介の使用人である僕が考えなきゃいけないことじゃないはずだ。
せっかく温泉宿なんて珍しいロケーションでの使用人ライフを送れると思ってたのに……
(……あ)
あの子だ。
相変わらずその小さな身体では無理のある仕事を懸命にこなしている。
「……」
僕は黙って彼女に近付いた。
「あ」
「よっと」
水桶を引き取り、ポカンとして見上げてくるその子に聞く。
「どこまで持っていくの?これで終わり?」
「え?え、えと、お風呂の入り口に置くんですの。それで、お客さんが使って無くなったらまた……」
「分かった。じゃ早く戻してお客さんのチェックに戻ろう」
それだけ言って駆け足で浴場入り口へと向かう。
呆気に取られていた女の子も一拍遅れて付いてきた。
「……ここでいい?」
「は、はいですの、あの」
「じゃあ、また無くなったら呼んでくれる?
桶を運ぶのは僕のほうが向いてるから、その間お客さんの相手をしてて」
「でも、あの、それじゃお兄さんの仕事が」
「大丈夫、僕は働き盛りだからその分たくさん仕事をしなきゃいけないんだもの」
じゃ、と言い残して自分の仕事場へ戻る。
「……」
デッキブラシを手に取った。
気合いが漲る。
傍目からはさぞ間抜けに見えるだろうが、今の僕の心は巨大なドラゴンに立ち向かうハントマンのようだ。
「いくぞ」
そうだ。なんかもう吹っ切れた。
さっきのことは我ながらなかなかの偽善っぷりだった。
他人を手伝ってる暇があったら自分の仕事をしろという嘲りが聞こえるようだ。
……なら自分の分と他人の分を引いてもお釣りが来るくらい仕事すれば問題なしだ!
「てやああぁぁー!」
気力満点、僕は猛烈さの中にも丁寧さを忘れない心構えで一気に仕事の殲滅にかかった。
「……ふぅっ!」
非常に疲れたがそれもこの充足感を思えば吹っ飛んでしまおうというものだ。
受け持った掃除箇所をいつもより一時間ほど早く掃除し終え、
余った時間で夕食の準備でてんてこ舞いの厨房へ材料を運んだり水汲みを手伝ってきた。
仕事がはかどったという事実はこうも自尊心を満足させる。
「……今度はなんなんだ」
あの先輩が箒を手に立っていた。
その表情はどことなく呆れているようにも見える。
ぎろりとねめつけ、僕は言った。
「…………こうしないと、自分のスジが通せないんですよ!何か文句ありますか?」
「何も言ってねえだろ!?なんでつっかかってくんだよ!」
「朝方散々つっかかって来たのはそっちじゃないですか!」
びっ!と人差し指を突きつける。
「ええ、ええ、そりゃ世の中いい人ばかりじゃないし僕と違って辛い思いしてる人もたくさんいますよ!
じゃあどうしろってんですか!百歩譲って不愉快なのは分かりますけど、
それなら一緒にいやーな顔してれば満足なんですか?違うでしょう!?
じゃあどうしろってんですか!!僕に何が出来ます?何も出来やしませんよ!!」
「逆切れかよ!?」
「逆切れでなにが悪いんですか!人の使用人ライフに水を挿すようなことばっか言って!」
「悪かったな!でもな、これだけは譲れねーぞ!
仕事のためだろーとなんだろーと、それで無理に仕事させられる奴らのことを仕方ないなんて」
「誰が言うんですか!そういうときは助け合うでしょう!?」
「ん、おう」
「だいたいどうにもならないことがあるからってウジウジしててもしょうがないじゃないですか、
それならそれなりにせめてマシな環境を作れるように知恵を絞るのが前向きな生き方でしょう」
「ああ、で……」
「別にお互いに支えあっちゃいけないとか言われてる訳でもなし、
最終的に仕事さえできてりゃここの主人なんかは満足するんだから
適当にこっちで工夫すればいいんですよ!大体……」
「だから、その……ちょっと待て」
「与えられた……はい?なんですか?」
「えと、あの、な?
……俺は別にお前があのクソジジイの手駒になるんじゃないかと心配してるだけで、
お前のポリシーを否定したいわけじゃないってかむしろどうでもいいというか……」
「……
…………ええーーーーー!?」
「ええーって言われても」
「え、だって、それじゃ僕は何のためにあんなに悩んだり……」
「知るかよそんな事」
……なんということだろう。
あまりのことに僕はがっくりと膝をつき、思いっきり脱力してへたりこんだ。
ああ、気力が尽きた。
あからさまにやる気のなくなった僕に、先輩は念を押すように聞く。
「で、もういっぺん聞くぞ。身体の弱い奴調子の悪い奴、立場の弱い奴を監視する方になったりは……」
「しませんよ、そんなこと」
「……そうか」
一拍、間が空く。
「……じゃ、お前もちゃんとした『仲間』なんだな。疑って悪かった」
「あ」
差し出された手を見る。
やがて、段々と、僕は理解することができた。
新しい友達ができたのだ。
たった今失われた気力がもう戻ってきた。
我ながら分かりやすいと思いつつも、その手をしっかりと握り返す。
「……どうも。これからよろしく」
「へっ」
そうして僕の仲間は一人増える。
ここへ来たときはどうなるかと思ったが、ニコレットさん、クタベさん、そしてまた一人分かり合える人ができた。
この分なら新しい生活にもきっとすぐなじむことが出来るだろう。
そう信じるのに十分なこの一日は、後に他にも色々な人たちと仲良くなるのに大きな自信を与えてくれた。
……
眠くなってきた。
まだ彼女のことを書くところまでいっていないが、明日も早いし今日はこの辺でやめにしよう。
所はアイゼン、東の半島。そこにある温泉宿で、僕は明日も働いているだろう。
投下終了。次から個性豊かな同僚達や因業上司に囲まれて使用人ライフを送りつつ
生まれも育ちも思想も違う彼女と仲良くなりたい彼(コレル)の話になるはず……たぶん。
温泉宿ならではのシチュエーションも色々とあると思いますのでネタをくれてやろうという奇特な方はぜひ。
では、まだまだ未熟ですがこれからも精進しますのでまた。
なんか珍しい切り口の話で興味沸くな。
ナナドラのSSは皆クオリティ高ぇ……気後れするわ
GJ、おもしろかった
続きが楽しみだ
ここはニギリオの宿について好意的というか、こういう施設もありなんだという解釈が多いよね
ニギリオ関係を書こうとするとどうしても
ルシェレボリューション爺天誅な話になってしまうんで
ここへ来てそういう見方もあるんだなと思うようになった
>>212 GJ!これまた続きが気になるぜ・・・
俺の中ではジェン爺=ぶん殴るなのでかなり新鮮だ
>>201 あれ最初からタイトルトリプルキスじゃなかったけ?
一応ここに投下されたものだし、作者さんから注意されたら消せばいいのでは?
ドリスやソウゲンといった各国首脳が
ムダヅモ無き改革よろしく麻雀で
殺りあったり犯りあったりすると言う
怪電波を送信してきたのはここの住民ですね?
先生怒らないから正直に白状しなさい
ところで、セティスやエメラダをひん剥いた場合の
ご褒美グラフィックが送信されて来てないので、
電波の送信者は後でもってくるように
擬人化神竜たんたちと
地球の命運を賭けて決戦ですね、わかります。
>>216 面白そうだし是非描いてみたい気もするが
いかんせん麻雀のルールをよく知らなかった
>>216、217
どうしよう自分が受信してしまったじゃないですか……!
本能のおもむくままに書いてしまいそうだ……
大丈夫、もうすぐUPします。
投下します。
・麻雀もの。全力でネタです。
・麻雀わからないと、多分全然わかりません。
・とりあえずまだエロなしです。エロは女流戦のときに!
・NG指定は「覇王」でお願いします。
「ドリス殿! ドリス殿! ドリス殿はどちらに!
あなたは奥の間を探しなさい、グリフ!
あなたは街を探すのです、ヴォルグ! ついでにエビフライを買ってきてね! ゆっくりしちゃだめよ!
ドリス殿! どこです、ドリス殿! どこなんです!?
ドリス殿! お客様のなかにドリス殿はいらっしゃいませんか!?」
「相変わらず元気だな、エメラダ殿」
天袋の戸をあけて、ドリスが姿を現した。
「ドリス殿! お久しぶりです。ごきげんよう」
「ごきげんよう。いつにもましてお美しい」
「まあ、お世辞は結構ですわ」
「なにを申されるか。あなたほどの名花、エデンのいずこを探そうとも見つかりますまい」
「まあ、お世辞は結構ですわ」
「……その帽子、実に素晴らしいですな。お国の流行ですか?」
「そう! そうなんです! 自信作ですの! カザン共和国にも輸出いたしますわよ!」
「それで、お急ぎの件があったようですが」
「えっと。なんでしたっけ」
「エメラダ様、六花亭に向かったヴォルグの反応がロスト! かりゆ汚染の痕跡あり!」
「それは一大事だ。ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね!」
なむなぴこぴこ。
「それで、お急ぎの件があったようですが」
「そうです! ドリス殿! ドリス殿はどちらに!」
「そこからですか。はい、ここに」
「メナス様が大変なことに……急いでトゥキオンに!」
「なんと。やむをえませんな、急ぎましょう」
場所は変わってトゥキオン。禁地の果てには1つの小さなテーブルが置かれていた。
テーブルクロスの色は、草木萌える深き緑色。
「――その者、青の衣をまといて深緑の野に降り立つべし。神話は本当だった」
誰が喋ってんだよ。誰でもいいですね。そうですね。
そんなことより、テーブルの足元には縄を打たれて口枷をかまされた半裸のメナスがいた。
「メナス! なんということだ。無事か!」
ドリスはメナスにかけよって、両手で抱え上げる。
「……大統領……」
「許さん。許さんぞ。メナス、お前の敵は必ず討ってやる」
ドリスは手の中のメナスをあやすように語りかけた。
「……ええと、ドリス殿、それはメナス様のメガネです」
「おや、てっきりこっちが本体だとばかり。人生、どこまでいっても勉強だな」
「その通りだ、ドリス・アゴート。久しぶりだな」
「これはおひさしゅう、エメル殿。いつにもましてお美しい」
「わたしほどの名花、エデンのいずこを探そうとも見つからんだろう。それはともかく、だ」
テーブルの奥には、ほっそりとした影があった。
「デッドブラック。釈明をしてもらおうか。メナスに何をした」
「釈明だと? 釈明してもらうのは私のほうだ。この男、1Gも持たずに鉄火場にきおったぞ」
「なるほど、それはメナスが悪い。好きにしてくれ」
言いながら、ドリスはデッドブラッ子にメガネを投げ渡す。
「なあんだ。まったくですね、ドリス様」
「大騒ぎして損をしたな、ドリス」
「だが久しぶりの機会だ。どうだ、点メナスで打たないか。それともそんなレートでは不足か」
デッドブラッ子はメガネを弄びながら、低く笑った。
「いいだろう。ここではそれしかあるまい」
「次は大統領府にみんなで来いよ。点エビフライで打とう」
「それはニアラも喜ぶ」
「アイテル、アリアリで」
「あ、私はナシナシでお願いします」
ドリス、エメラダ、エメルの3人は順番にメナスを蹴飛ばすと、卓についた。
223 :
覇王:2009/08/22(土) 22:05:15 ID:pDXfZYjI
――そして1時間。
「あー、もうダメダメ。もー今日は全然ダメー。ぜっんぜん勝てないー」
最初に根を上げたのはエメルダだった。
麻雀を始めて2週間の彼女に、この卓はちょっとばかり荷が重かった。
あくまで、ちょっとだけ。
「ラス半かな、エメラダ女王様?」
含み笑いをしながらデッドブラッ子が囁く。
「ラス半、ラス半。もう帰らないとヴォルグに怒られちゃう」
「わかりました、エメラダ殿。ではこれでラスにしましょう」
エメラダを除いた全員が緊張した表情になる。彼らは彼女の実力を、イヤというほど知っていた。
アルテマは滑らかに洗牌をこなし、全員の手元に初手を配り終える。
「きーちゃーおーやー」
エメラダが親を取った。ピリピリとした空気が立ち込める。
「えいっ。んー、これいらなーい」
全員の顔に安どの表情が浮かんだ。テンホーはない。
だがテンパってるのは疑いないだろう。
いや、あるいはもっと悪い何かかもしれない。
エメラダはツモってきた白をほいっと河に捨てた。
「デッドブラッ子が雀鬼流だからって、そんな挑発までするかエメラダ」
「じゃんきりゅう?」
「いや、失礼」
エメル、ドリスが初手を捌く。
デッドブラッ子が無表情のまま第一ツモを取り、静かにBを捨てた。
「それ、ちー」
エメラダの鳴きが入る。さらされたCDのDが赤い。
エメラダがにこにこしながら@を捨てた
エメルとドリスが目配せをした。
『デッドブラッ子め……無茶をする』
『エメラダの手はおそらく@@ CDで、あとのメンツもできていたハズだ』
エメラダにはタンヤオとホンイツしかわからぬ。
エメラダは、ミロスの女王である。玉座に座り、帽子をかぶって暮して来た。
けれども勝負に対しては、人一倍に敏感であった。
『ここでBを鳴いて@を切った。つまりおそらくは』
『赤Xか赤五をツモってきた』
『タンヤオ赤3、おそらくはドラ1以上。開幕の親満はきついな』
『だが彼女は必ずムダヅモなくツモる。そこでツモれぬ女に女王など務まらん』
『あと2順か。いけるか、エメル?』
『努力しよう』
エメル、ドリス、デッドブラッ子とツモがまわり、
エメラダは全身で嬉しさを表現しながら@を切った。
エメルは、ひとつ深呼吸してから、白を切る。
「ポン」ドリスが鳴く。
ドリスが中を切った。
「ポン」エメルが鳴く。
エメルが\を切った。
「チー」ドリスが鳴く。
ドリスが北を切った。
「ポン」エメルが鳴く。
エメルが\を切った。
「チー」ドリスが鳴く。
ドリスの4センチは、五五七八。危険牌を止めつつ、九の差込を待つ。
エメルはホンイツ、一Tのシャボ。万が一エメラダがツモりきれなかった場合の余剰牌を待ち伏せる。
当然だが、イカサマはない。危急存亡を迎えたときに発揮される、人間のチームワークであった。
……でもニュータイプ能力でこんだけ会話してれば、それってローズだと思うんだ。
224 :
覇王:2009/08/22(土) 22:06:27 ID:pDXfZYjI
デッドブラッ子が静かにツモり、一瞬の躊躇の後、八を切る。
彼女の手には、九がアンコになっていた。
ドリスに打ち込めば、この場は1000点で終わる。
だが、ヒトと協力することなどできるだろうか?
デッドブラッ子のプライドが、刺し込みを許さなかった。
エメルとドリスが微妙に表情を曇らせる。これがニアラなら――
「それ、かんですー」
死の宣告が響いた。
「新ドラは、きゃー、八だわ〜! で、リンシャンツモするんですよねー」
「リンシャン牌からツモ、ですよ、エメラダ殿」
ドリスがあきらめ顔で苦笑する。彼女にとって、それは同じ意味だ。
「よいしょっと。あ、きたきた。かんしまーす」
Xが4牌、緑の沃野を走る。
「新ドラは、きゃー、きゃー、Xだわ〜!」
「な、なあ、ここ、責任払いだったか……?」
デッドブラッ子が囁くようにアイテルに聞く。
「ダイミンカンは責任払いです」
「――そうか。そうだったな……ドリスにまで貸しを作るか」
口元をゆがめるデッドブラッ子をよそに、エメラダがリンシャン牌を引き込む。
「えい、三つもー! えーと、えーと……
たんやお、ドラ1の、新ドラが8個で、赤が3個あって、えーと……」
エメラダが指折り数え始める。
「13本? これって何点ですか、ドリス殿?」
「リンシャンツモは役がつきますから14翻ですね。13でも文句なく数え役満ですが」
「やった、36000点のツモです! さあみんなキリキリ払って!」
「エメラダ、あなたが親だから48000だ。それから、責任払いというルールがあるから、デッドブラッ子が全部払う」
「そうなんですか? じゃ、デッドブラッ子さん、お支払いおねがいしますね」
「――トビだ」
「えへへへ。うーん、満足しました。ありがとうございました、じゃあこれで失礼しますね」
「待った。メナスを持ってけ。5人くらい」
「そんなにいらないです。あ、でもそうだ、ドリス殿、メナス様いります?」
ドリスは苦笑いしながら首を振った。
「いりません、と言いたいが、そういうわけにもいきませんな」
「じゃあ、これで貸し一つってことで。メナス様をお返ししますね」
「わかりましたよ、女王陛下。新作の帽子、入荷をお待ちしております」
「明日にでも。では、これで!」
疾風は去っていった。やや悄然とした3人が残される。
「――あんた、背中が煤けてるぜ」
エメルがデッドブラッ子に呟く。
「言われなくても分かってる」
デッドブラッ子は半泣きだ。
「ニアラなら迷わず九を差し込んでた。いい勉強になったな」
「ふん、だ!」
「しかしどうする。ワンカケだが。インビジブルあたり、呼べば5分くらいで来れないか?」
「すまないが、私もそろそろ引き上げだ。メナスを連れて帰る」
「そうか。ならここでお開きだな。また呼んでくれ」
「――次は負けん」
「いい挨拶だ。じゃあな!」
225 :
覇王:2009/08/22(土) 22:07:32 ID:pDXfZYjI
ドリスとデッドブラッ子も去り、雀荘トゥキオンはもとの静かさを取り戻した。
エメルはカウンターに座って競馬新聞を読みふけり、アイテルは牌を磨いている。
と、アイテルが不思議そうに呟いた。
「……あら? どうしたのかしら、これ……」
「どうした、アイテル」
「姉さん……この卓、牌が多いわ」
「――何だと! いやまて、何が多い。まさか」
「三。三が5枚ある」
「やられた。まったく、とんでもない女王様だ」
「もしかして、あのリンツモは」
「握られたな。あれがツモれてなければ、さすがのデッドブラッ子でも差し込む」
「でも、あのゲートでX線身体検査はしてるのに、どこに? 磁石が入った牌なんて持ち込めないわ」
「帽子だ。新作と言ってただろう。クソ、やられた。最初からそのつもりだったんだ」
エメルとアイテルは顔を見合わせ、首を振った。
なるほど、これもまた人間の強さ。ヒュプノスには、届かない世界。
「次は、負けん、か。やれやれ。
あんなおっそろしい生き物と戦おうとする竜も、また、竜か。
我々では勝てないはずだな」
「いいじゃない、姉さん。姉さんだって、負けなかった」
「ありがとう、アイテル」
「――ドリス大統領、すみませんでした。まさか、その……」
「分かってる。どうせエメラダに誘われたんだろう?」
「は、は、はい」
「構わん。ミロスとの貿易は拡大する予定だった」
「しかし」
「エメラダには貸しをひとつ作ってある。差し引きではこっちのプラス1だ」
「貸し? いったい?」
「ドラに七を積んだ。ちょうど手元にあったんでな。
あのドラ4がなければ親倍だからトビはしない」
「いったいなぜそんなことを――」
「ハンチャン全部打ってるだけの時間は、彼女にはなかった。門限があるからな。
だが、彼女はルールを守る。ラス半宣言がある以上、ハンチャン打たねばならん」
「――なるほど」
「取引、なにもかもは取引さ。覚えておけ、メナス補佐官」
「はい」
(だが――取引ばかりでは、人間は腐る。
戦い! そうだ、戦いが必要だ。それが――それが、足りん。
このままではまずい。人間にとっても、竜にとっても。
それが、そのことが分かっているか、エメル。分かっているか、ニアラ)
ドリスは深いため息をつくと、昇り始めた朝日を見つめた。
(続く?の?)
226 :
覇王:2009/08/22(土) 22:08:18 ID:pDXfZYjI
次回予告!
――そのとき、残り500点になっていたデッドブラッ子が静かに牌を倒した。
「麻雀は2人で打つもんじゃないってことを忘れるなよ。食らえ、四暗刻(パーフェクト・ダークネス)」
「どうみてもクイタン仕掛け、何をそんなに偉そうに――」
「クイタン? ふふ、そうか。お前には、これがそう見えるか。
見ろ、捨てられし者たちの本当の姿を。聞け、彼らが放つ、本当の声を。
ご無礼、大三元(キングズ・ソード)、48000だ」
「麻雀を打つものなら、誰もがっ! 誰もが必ず一度は憧れたっ!
その背中を一度は追い、その言葉を一度は必ず口にしたっ!
誰もが一度は打(ぶ)ってみたいと思い! 誰もが決して打(ぶ)ちたくと思った!
今、伝説の男が、最強の竜が、この場に姿を現す!
その名はっ……」
,'::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: :::::::l ・
l:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: :::::;' ・
ヽミ:::::::::::::::::::::::::;r=:;;、_::::::::::::::::::::::::彡ミソ ・
`'ミ;;:::::::::::::://彡`''-`ニ;;三彡''" ゙!ミソ あ
!';;i''':.'=il!" : l.リ ン
_,,.、、ィ、l! ゙=il、、_ _,.、、、:' l,;!''-、、,, ) ) 背 た
_,,.、-‐''"´ / i, 弋ltッ-,`ッ‐‐ 、f‐tッ‐ァ' .!!:::::::',:: 〃 `''‐ 、 中 `
,、‐''"´ / ', ,、 '"_ ヽ, `゙ミ,''‐-、,'′::::::!:(',; ヽ が
,/ ':, ,' l ':,,.、 '" ヽ, \ ` 、 ヽ,:::: l _;;リ ':, 煤
ヽ', i ,、 '" 、 \ ヽ,_ ヾ二二で)″ ! け
':, ! ,r" :. ンー' 、 ゙! },,,ヽ, ':、'、〉 // l て
_ ',. / :. / ! ! ! ヽ ;ヘ 〃;/ l る
‐、ヽ ',. / ン、、..,,,__,,.. -{ r/ l‐--‐' ゝー' 〃/ l ぜ
ヽ ヽ. ',. / /, `! __,' f,'"_,, - '' ! °
``' '- ミ、 ! / / ':, ゞ-' i!´ l
以上、投下終了です。
ぎゃああああああ、NG指定用のタグが1個抜けてる! すみません。
続きを書くときは、もうちょっとムダヅモ的に大技の応酬にして
麻雀からなるべく離れようと思っております。書くかどうかはともかく。
……八も5枚あるわぁ。吊ってきます……
おっと先を越されてしまったか……また後日投下するとします。
笑ったよw
だけどムダヅモパロにしては闘牌がちょっと理性的(笑)すぎるかなw
コンビ打ちで
プリンセスオーダー!
セイブザクイーン!
とかあるのか…
「3順後にツモるぜ…」
「ま、まさか!これが…あのフォーリングスター…」
かぶってしまったけど自分も投下です。
注意事項
・麻雀ネタ、エロ無し短し。
・しかしあなだらけ。麻雀から脱線のおそれもあり。
・竜擬人化
・受信したものを勢いで書いただけなので続く保証がない
・約三名が速攻退場
・まだ冒頭
こんなん無理だろ!な方はタイトル『闘牌伝エデン』NGお願いします。
登場人物
・約36名。本文中に表記。
234 :
闘牌伝エデン:2009/08/24(月) 13:44:54 ID:jqB+iqri
「ドリス大統領、それにニアラさんでしたか?ただ力任せに争うだけでは……
ゾウリムシと変わりありませんよ?私達は人間、そしてニアラさん達は私達を造った存在……
それならば、もっと知的に、平和的に、話し合いかそれに順ずるもので問題を解決するべきですわ」
カザンの東に存在するミロス連邦国……そのミロスの女王エメラダは、
未知の侵略者たる竜にも、英雄王にも臆することなく、平然とそう言ってのけた。
その発言に、名指しされた二名は僅かに眉をひそめるが、同時に思案する。
エメラダの計らいにより今この部屋には、惑星エデンの大国の主要人物全員、
そしてエデンの創造主たる真竜ニアラ、その仲間真竜ヘイズと配下の七体の竜がいた。
人間と竜……互いに、全ての駒を出した状況というわけだ。
そして人間代表、ドリス・アゴートは考える……
(いざ戦闘になったら……こちらに勝ち目はないか……そして俺はゾウリムシではない!)
竜代表、今回は早起きな真竜ニアラもまた考える……
(人間は家畜に過ぎぬ筈なのだが…このドリスという男はかなりできる。
後ろの頭に石を埋めた男もかなりの遣い手…そしてヒュプノスの生き残り……
神体でも厳しいかもしれんな……)
「「わかった……武力行使以外の方法を模索しよう」」
二人の代表者は声を揃えて握手を交わす。その後ろでプレロマ学士長が喚いていたが。
「まあ、ものわかりがいいですね。それでこそ知的生命体です。
それでは、その方法もいまこの場で平等にクジ引きで決めてしまいましょう。
異論はありませんよね?皆さん?」
女王エメラダの言葉に、誰も異議を唱えない。いや、唱えられないでいた。
この場は何かと黒い噂の絶えないミロス、その女王謁見の間。
下手に発言をしたら、何が起こるかわからない……それ故の異議なしなのである。
「なにがでるかな?なにがでるかな?なにもでないかも〜っと」
そんな状況を理解しているのかいないのか、エメラダはノリノリでクジを引く。
とてもそうは思えないが、彼女が引くクジに、この星の運命はかかっているのだ。
もし『口の大きさ勝負』なんかだったら、人間はどうあがいても竜には勝てないでしょう?
「でました!」
エメラダは……箱に手をいれてから僅か一秒でクジを選んでしまう。
本当にこの人は理解しているのだろうか?色々と。
それは人間も竜も思ったことだが、口には出さない。今はそれより、クジの内容だ。
「えーっと…まぁ!【マージャン】ですわ!」
「「なん…だと…?」」
「「……ゴクリ」」
「「……?」」
人間も竜も、実に様々な反応を見せる。
それもそうだろう、そんな博打競技が…この星の運命を決めるのだから……
235 :
闘牌伝エデン:2009/08/24(月) 13:46:07 ID:jqB+iqri
「えー…それでは人間…この星をかけたマージャンのルールを説明する」
顔を仮面で覆っているためわからないが、ニアラが何故か楽しげにルールの説明を行った。
〜エデン争奪麻雀・詳細ルール〜
ルール1・人間が勝った場合はエデンは永久に人間のもの。竜が勝った場合はエデン食い付くし。
ルール2・竜側は真竜ニアラとヘイズ、そして配下の七体の竜の計9人しか戦えない。
人間側はその三倍の27人まで戦える。戦える者がいなくなった方の負け。
ルール3・戦いの最中、竜の持つ『固有能力』の発動を認める。
ルール4・戦いは竜一人に対して人間三人で挑むものとする。通しも可。
ルール5・初期点棒は50000。
ルール6・点棒が0以下になった場合、戦闘不能。人間側は戦闘不能者が出た場合、
すぐさま次の人間を参加させること。(四人いないと麻雀ができないため)
ルール7・武力行使はご法度。知的に平和的にね?byエメラダ
ルール8・上記を守ればあとは好きにしてよし!
「以上がルールだ。人間、並びに我が配下の諸君、理解してくれたかな?」
ニアラがルール説明を終えて、マイクを定位置に戻す。
いよいよ、エデンを賭けた戦いが始まるのだ……
「大統領……妙に私達人間側が有利じゃありませんか?
こっちは9人倒せば勝ち、あちらは27人も倒さねばならないんですよ?
それも3対1…各自多面待ちをすれば楽勝ですよね…?」
「確かにな…だがメナスよ、ルール3の『固有能力』とやら…厄介そうだぞ……
竜の力に、人間の常識は通用しない。
豪運か、あるいは常軌を逸脱したイカサマか…なんにしろ要警戒だな。
それと俺達人間の猶予は24人までだ。25人やられた段階で、残り2人……
麻雀の続行が不可能となり、敗北となるわけだ。ところで、その人数は集まったのか?」
「はい!(多分)兵ばかりを集めました!これが一覧です!」
ドリス・メナス・エメラダ・グリフ・ソウゲン・リッケン・エメル・ファロ・ノワリー
ルシェ王・ジェッケ・バントロワ・セティス……各国主要人物計13名
ルシェファイター・金ナイト・ルシェナイト・ルシェローグ
黄ヒーラー・ルシェヒーラー・ルシェメイジ・若サムライ・おっサムライ
ルシェプリンセス・ジェン爺・ハノイ・ネストル・????……PC、NPCキャラ計14名
「我ら竜も最強のメンツだぞ?人間どもよ、我らに勝てると思うな!」
ニアラ・ヘイズ・キング・デッドブラック・インビジブル・ジ・アース・トリカラード
リブロドラゴニカ・ドラゴアンゼラ……真竜+帝竜+最上級竜計9名
人間と竜、星を賭けた戦いの鍵を握る総計36名の戦士……
彼らは一体、どのような闘牌をするのか!?
「竜側、一番手は私、黒帝竜デッドブラックがお相手します。どうかお手柔らかに……」
「ならばこちらはソウゲン・リッケン・ルシェヒーラーの三人が相手だ!」
ついに、その戦いの火蓋がきっておとされた……!!
236 :
闘牌伝エデン:2009/08/24(月) 13:47:05 ID:jqB+iqri
「ロンです!12000…リッケンさん、トビですね」
「無念……」
人間と竜の戦いが始まり、しばらくの時が流れた。
今現在、人間側の戦況は……最悪だった。
たった今デッドブラックに振り込んでしまったリッケンは、持ち点がマイナスとなり退場。
その前に既に残りの二人も全ての点棒を吐き出して退場してしまっている。
……人間側は早くも三人の兵を失ったのだ。
対する竜、デッドブラックは持ち点が異常である。
何しろ元々多い点棒を三人分丸ごと取り込んでいるのだから。
(このままではまずいな……)
戦況を眺めていたドリスは、爪を噛みながら状況を整理していた。
今デッドブラックの持ち点は軽く20万を越えている。
儚く散った二名の代わりに戦いに参加した桃髪の戦士と金鎧の騎士の持ち点は、
それぞれ16000と34000。配牌もいいとは言えない。
リッケンの代わりに戦いを引き継いだばかりのノワリーの実力はわからないが、
多分デッドブラックにむしり取られてしまうだろう。
このままでは……人間は竜を一人も倒すことなく負けてしまうのは火を見るより明らか……
しかし絶対に負けるわけにはいかない戦いである。
そこでドリスは、ある賭けに出た。
「ニアラ……頼みがある」
「なんだドリスよ?」
「ひとつ、俺の要望を聞いてくれないか?……このままでは竜が一方的過ぎる。
「ふむ…確かにこうも一方的だと退屈だな。いいだろう……
貴様の要望にこたえてやろう。負けてくれ、以外ならなんでもこたえるぞ?」
「じゃあこの麻雀を脱衣麻雀にしてくれ」
「なんだそんなことか。いいだろう、この麻雀を脱衣麻雀に……」
「「なにいぃぃぃ!?」」
広いミロスの謁見の間に、竜と人間の見事な絶叫が響く。ニアラも例外なく叫んだ。
竜側は、驚きの絶叫。対する人間も同じ様な驚きの絶叫だったが……
一部の人間は…歓喜の絶叫をあげていた。理由は伏せておこう……
そして集まった人間と竜が絶叫をあげるなか、一人だけ表情を変えない者がいた。
その者は、今さっき卓についたノワリー。
彼は表情を変えずに…ただ目の前に座る幼さの残る黒髪少女――
卓の大きさの都合で人間の姿をとっている黒帝竜デッドブラックを――
眺めていた。ひたすらに。口の端を僅かに持ち上げて。瞳を狂気に染めて。
そして……鼻から血を流しながら…………
237 :
闘牌伝エデン:2009/08/24(月) 13:48:46 ID:jqB+iqri
おまけの各竜固有能力
・ニアラ、ヘイズ…不明
・キング…固有能力『募り行く殺意』『王の威厳』
局を重ねる度に役の威力が勝手に上昇。ドラものりやすくなる。
ノーテンだった対戦者を問答無用で一発退場させる。抵抗は不可能。
・デッドブラック…固有能力『完全なる闇』
対戦者を疑心暗鬼にさせ、全ての牌を危険牌だと誤認させる。
・インビジブル…固有能力『瞬動』
一巡に一回、手牌と山牌を入れ替えられる(四牌まで)発動タイミングはいつでも可。
・ジ・アース…固有能力『ソウルプレス』
流局した場合、対戦者の点棒の半分を破壊して使用不能にする。
・トリカラード…固有能力『オールリセット』
その局を強制的に流局させる。発動タイミングは二巡目以降。
・リブロドラゴニカ…固有能力『風切羽』
牌の表面を削りとって白にすることができる。が、体力を消耗する。
・ドラゴアンゼラ…固有能力『秩序結界』『癒しの歌』
大いなる力で対戦者のあらゆるイカサマ行為を封じる。
一巡ごとにどこからともなく点棒1100点が自動追加される。
各人間固有能力…所有人数、能力共に不明。
ここまで。
ツッコミとクレームはおおいに受け付けます。
ノwワwリwーw
ヤる気すぎるwwwww
ノワリーめ!とうとう本性をあらわしやがったな・・・
ところで何故フレイムイーターさんとドレッドノートがはぶられてるんですかっ!?
敵前逃亡する奴や味方を盾に(弾に)する奴はあてにならんのだろう
ゴウモウパイがあるのに驚いた。
もう防ぐ方法は決まったな
>>244 劣化ウランは破られてなかったか?炎熱に耐えれる体力があればゴウモウパイは可能。
○○ヴェイル系も同じ理由で使えないな。リブロの属性耐性ってオール100だっけ?
リブロに魔法は普通に通るよ。
てか轟盲牌に限らず全ての牌にベノムなりヴェイルかければ楽勝では?
ひーらーさんとメイジのコンビ打ちで可能だと思う。
>>247 それは「この身が燃え尽きようとも」轟盲牌を発動させ、
天地創世(ビギニングオブザコスモス)を完成させてしまう
フラグにしか見えないw
こんにちは。こつこつ書き溜めた駄文を投下します。今回もエロなしですよ。
前回の『ニギリオいいとこいちどはおいで』の続きです。
以下人名対象一覧(前回まで登場分)
コレル:第一人称。骨の髄まで奴隷根性の日和見青年。
ニコレット:にこやかな給仕の女性。優しいお姉さん。
ハンコツ:前回名前の出てこなかった『先輩』。偉い奴は大嫌い。
ガーベラ:同じく前回名前の出てこなかった少女。あるいは幼女。
どの語尾に「ですの」を付ければいいのか迷う。
NGはタイトルをどうぞ。
この星に暮らす二つの知的種族。
この二つの種族には、地域によって様々な呼び名がある。
例えば、
『ヒト』と『ルシェ』。
『人間』と『ルシェ』。
『人間』と『亜人』。
『ルシェ』と『他民族』。
『戦う民』と『東の民』。
『ヒト』と『半獣の民』。
……こんな具合に。
どの呼び方をしているかでその人の出身地が判ると言われるくらい、二つの種族に対する呼び名は多い。
異邦人同士の揉め事があればその半分は種族の呼び方に関することだというのも頷ける話だ。
ちなみに僕は、『人間』と『ルシェ』という呼び方を使っている。
お国柄ヒトのことを人間と呼ぶが、自分の事を亜人と呼ぶほど卑下するつもりは無いというわけだ。
(亜人というのは『人間に次ぐもの』という意味らしい。僕としては『ヒトとルシェ、合わせて人間』だと思っている。)
で、僕はルシェであることを特別にこそ思っていないが誇りには思っている。
自分を構成するアイデンティティーのひとつでもあるわけだし。
……だから、
「あんたなんか、これっぽちもルシェを名乗る資格なんてないわよ!!」
……なんてことを言われると、ものすごくヘコんでしまうのだ。
――――――――――――――――――――
あれから少し経った。
相変わらず僕はこのニギリオの宿で、日夜こき使われる日々を送っている。
まあ『仕事を楽しむ』すべを取得している僕にとってはこれくらいなんでもない……
……なんて言うと一気に仕事量が増える気がするので言わないが、それなりに気楽にやっている。
もちろん肉体的にはまだまだ負荷が激しいが仕事も少しずつ覚えてきたし、
口は悪いが根は良い先輩であるハンコツさんとも仲良くなって今のところここでの生活は順調だ。
このままいけば……いけば?
若いうちにした苦労は人格を磨き、肉体を強くする。
このまま経験を積み重ねていけば、何十年か後には僕も良い感じにくたびれた頼もしい使用人になれるだろう。
朗らかで親しみやすくそれでいて有能な、そんな使用人になることが僕の目標なのだ……お嫁さんも欲しいかな。
後者の目標は達成できるか分からないが、出会いはひょんなところに転がっているもの、
運を天に任せてそのときが来るように祈ろう。
「さてと!」
そんな事を考えているうちに客室に箒をかけ終わり、僕はちりとりを手に立ち上がった。
履物入れの方を掃除していたハンコツさんを見るとあちらもブツクサ言いながら片付け終わったようだ。
「よし、じゃこの部屋で終わりですよね」
「ん、おぉ」
ハンコツさんとは楽しそうに仕事をしているのが気に入らないと因縁をつけられたところからの仲だが、
分かり合ってからは一緒に仕事をすることも多く、性格は違えど親友と言っていい付き合いを続けている。
彼と共に部屋を出ると、すぐそこでこれまた最近すっかり顔馴染みとなった女の子と出くわした。
「お疲れ様ガーベラちゃん」
「お疲れ様ですの」
水桶運びを手伝って以来親しくなったこの女の子は、
最近人に仕事を頼むということを覚えてスムーズに仕事を進められるようになったようだ。
「客室にお花をかざりに来たんですの」
「ふぅん……浴場入り口のチェックは?」
「今はお掃除中ですたっふおんりーですの」
「あ、そっか」
「で?こりゃ色の違うのを一本ずつ挿しゃいいのか?おーい!マンザラ!」
「んー?なんだ?」
ハンコツさんに呼ばれてもう一人の青年が顔を出す。
この人がマンザラさん、髪を刈り込んであるとこなんかはハンコツさんとそっくりだが
性格は似ても似つかない穏便主義でどちらかというと僕と気が合うタイプだ。
「花だとよ。花瓶だしとけ花瓶」
「おう」
ちなみに仲良くなる人仲良くなる人皆お互いに親しいので不思議に思ってはいたが、
なんのことはない。どんな職場でもなかよしグループというものは出来るらしく、
僕がそのグループの一つに入っていこうとしているだけだった。
思えば会った時から僕の情報も伝わっていてあっさり仲良くなれたなあと思わないでもない。
「じゃ、僕達は庭の掃除に戻りましょうか」
「かったりぃなあ……」
「またそんなことを。……ん?」
それに気付いたのはそのときだった。
ここは二階の、吹き抜けに面した客室前なのだが一階がなにやら騒がしい。
手すりから身を乗り出して下を覗くと、階下ではちょっとした騒ぎが起こっていた。
「なんだぁ?」
どこか死角の奥の方から言い争う声が聞こえてくる。
周りの騒ぎを聞きつけた人たちの話し声で良く聞き取れないが、
一際大きく聞こえるのは若い女性がなにか知らない言葉を交えてまくし立てる声だった。
そのままひとしきり言い争いを聞き続ける。と、やがて眼下を一人の少女が賭け抜けて行った。
すぐに彼女は死角に入ってしまい、そちらの方からまた騒がしく声が聞こえてくる。
「とりあえずあの女が騒ぎの原因みてーだな」
「そうですね」
階段を下りていくと、途中でまたちらりとあの少女が見える。
金色に少し茶を混ぜたような髪と、同じ色をした耳。
一瞬しか見えなかったが彼女が旅人らしい服装をしていることも分かった。
(旅行中のお客さんかな?……それにしても)
「……あの子、可愛かったなぁ」
「そうかぁ?」
思わず口に出てしまったが仕方ないので彼女に意識を戻そう。
先程見えた彼女が一般的にみて美人とカテゴライズされるかは疎いので分からないが、
少なくとも分かったことは、僕は彼女のような女性がタイプらしかった。
(もしかしてこれが世に言う出会いの機会、というやつなんだろうか)
「……なんて、そう都合よく出会いがあるとも思えないけど」
「おいおい本気かよ……お前あーゆーのが好みなのか?」
「うっさいですね」
しかしまあ、運がよければ知り合いになれるかもしれないチャンスだ。
とりあえず行ってみるだけ行ってみることにして、僕は騒ぎのあった吹き抜けのほうに近付いていく。
近い。
どうやら現場はすぐそこらしく、僕は戸の無い入り口からそちらのほうへ顔を出した。
そして、
見えたのは靴の裏だった。
「どっけえええええぇぇぇぇぇ!!!」
……ええ、そりゃもう見事な浴びせ蹴りだった。
入り口の上枠を掴み身体を振り子のようにスイングさせながらの一撃は、
パワー、スピード、角度ともに必殺の一撃と呼ぶにふさわしい威力で僕の真芯をきれいに捉え、
その意識を即座に刈り取りエデンの果てまでぶっ飛ばしてくれた。
…………惚れたよ。
――――――――――――――――――――
気が付くと天井を見ていた。
「知ってる天井だ……」
屋根と、壁と、床しかない従業員宿舎の天井だ。
僕はその従業員宿舎(男子用)で布団に寝かされていた。
ハンコツさんが声をかけてくる。
「よう、頭は大丈夫か?」
「いきなりご挨拶ですね……」
「冗談言ってんじゃねーよ、ほんとに頭の方は問題ねーのか」
「うーん……」
若干くらくらするが特に問題はなさそうだ。
立ち上がってみると平衡感覚も異常はないようだった。
「大丈夫みたいです」
「おう。ま、今日はゆっくり休んどけ」
「仕事は?」
「お前な……ああ仕事な、なんというか、その、いろいろあってな」
「よく分かんないですけど……そのどさくさに紛れてハンコツさんもサボってるという予感がヒシヒシします」
「うっせえ」
図星か。仕方ないなと思いつつ、僕はもうひとつ気になることを思い出していた。
さっそく横を向いているハンコツさんに聞いてみる。
「あの……あの女の子は?」
「あいつか?まだここにいるぜ」
「!ほんとですか?」
気を失っている間にいなくなってしまったかと思っただけに、少し嬉しかった。
我ながら懲りないとは思うが、ハンコツさんに頼んで彼女のもとに連れて行ってもらうことにする。
宿舎を出るともう夕方だった。
「……はぁ?あの女が気に入っただぁ?」
「えぇと、まあ」
「お前を出会いがしらに蹴り飛ばした奴だぜ?……お前もしかしてそっちのケがあったとか」
「違いますよ!」
「じゃ、強い女が好きなのか?」
「そーゆーのとも違うような」
「じゃなんでだよ……」
「そこが自分でも分からないところが不思議とゆーか」
「わかんねえ奴だな、ほれ、いたぞ」
指差す方に目を向ける。
するとそこに、ニコレットさんとマンザラさんの傍らに、確かに彼女はいた。
金色にぱさついた茶色を混ぜたような髪。
気の強そうな目。
不満を表して膨らんだ頬にぴりぴりとせわしなく震える耳。
彼女がそこにいた。
「だーかーら!私はお金が無くてここに売り飛ばされてきたんじゃなくて……」
「分かったから落ち着きなさい。ね?」
「落ち着けるわけ無いでしょ!?こっちは騙された挙句散々コケにされたのよ!?」
「よう、相変わらず喚いてんな」
「あぁ!?」
ご機嫌斜めのようでどう声を掛けたものかと逡巡する僕を尻目に、ハンコツさんがあっさりと声を掛ける。
超反応で飛んできた殺人的な視線を受け流し、ハンコツさんは親指で僕を指し示た。
「ふん。おい、目を覚ましたから連れてきたぜ。とりあえずこいつになんか言うことはねーのか?」
「ああん?……誰だっけ、あんた」
覚えてない!?
若干ショックにとらわれる僕を見てマンザラさんが助け舟を出してくれる。
「お前さんが蹴り飛ばした男だよ、覚えてないか?」
「……あぁ!」
追加説明でようやく僕の事を思い出したらしく、納得したように手を打って彼女は僕に近付いてきた。
「ふーん……そっか、あんただったんだ。
ごめん、蹴り飛ばしたりして悪かったわね」
「気にしないで、このとおり元気だから」
そう答えながら僕は目の前の少女を観察した。
若干気性は荒いが、少なくとも悪い人じゃなさそうだ。
そっけない言い方だがいいかげんな謝罪じゃない。
「それより、僕が蹴られたときの事の経緯が知りたいかな。
あ、僕はコレル、ここで働いてる使用人だよ」
とりあえず話の糸口はつかめた。
ついでに名前も聞き出したいところだけど……
僕の思いを知ってかしらずか、ニコレットさんが絶妙な援護射撃をしてくれた。
「そういえば名前も聞いてなかったわね。私はニコレット、あなたは?」
「……バレッタよ。ネバンのバレッタ」
「ネバンプレス?」
ネバンプレス帝国。
『孤高の戦団』と呼ばれた異国の地。
彼女――バレッタさんの口から出た言葉を聞き、
僕は彼女の名前を記憶に刻み込むとともに自分の持っているネバンプレスの知識を展開した。
ちなみに、僕の情報源は元旦那様の家にあった本だけなので
持っている知識も受け売り状態であるのはわかって欲しい。
ネバンプレスは西大陸に築かれたルシェの国だ。
アイゼンとの仲は悪い……を通り越して断絶状態だったりする。
その理由の一つは過去の経緯。
カザンができるより、ミロスがアイゼンから独立するより昔、
それこそ千年単位の昔に、東大陸で迫害を受けたルシェは東大陸に残ろうとする同胞と袂を分かち
自由な土地を求めて西に旅立った。
海を越え砂漠を越え、雪原を渡り彼らは苛酷な環境を切り開いて一つの国を造り上げる。
それが後のネバンプレスだ。
そんな彼らが東大陸の民を良く思っていたわけが無い。
特にその昔から現在に至るまで存続しているアイゼンなどはなおさらだ。
対立感情こそ何百年という時が洗い流してくれたが、
今でもアイゼンにとってネバンプレスは辺境の蛮族の国だし、
ネバンプレスにとってアイゼンは変わろうとしない古い考えに凝り固まった者たちの国だ。
最近ドラゴンに対抗するために開かれた世界協定のときも双方の代表者は一言も口を聞かなかったらしい。
まさに好きの反対は嫌いではなく無関心……を体現するような関係だが、
まあお互いに遠ざけあうことで余計な争いが生まれないならそれはそれでいいのかもしれない。
世界に六つしか国家のないこの星で、もし戦争なんかしても馬鹿馬鹿しいしね。
もう一つの理由は、単純に地理的な関係。
二国はエデンの北西と南東、まさに世界の反対側だ。
世界の北と南、西と東は繋がってるんじゃ?なんてツッコミは却下する。
アイゼンからネバンプレスに向かおうと思ったら、アイゼンの公式船団にでも便乗しない限り
北上してトドワの丘を越え、ミロスに入り、西に向かってカザンに到達、船で南下して
プレロマを経由しつつ西の玄関口ゼザに向かい、そこから砂漠と雪原を越えてようやくネバンに到着となる。
そもそもネバンプレスはその地理的な関係からゼザを経由してプレロマと多少交流がある程度で、
その他の国に対しては殆ど交流が断絶しているまさに『孤高の戦団』なのだ。
……とまあ、彼女の故郷、ネバンプレスとアイゼンの関係はそんな感じか。
「で、そんな遠いところから何しに?」
「旅行よ」
「……」
ま、まあ断絶しているというのは国家レベルの話であって、
諸国漫遊を一種のたしなみとするアイゼン貴族なんかもたまにネバンプレスに行ってたりはする。
ネバンプレスからの旅行者がいたとしても驚くことじゃない、うん。
「どうせだから思いっきり文化の違うとこに行ってやろうと思って、
貯金をはたいて世界の反対側のアイゼンくんだりまでやってきたのよ。
……そしたら、そしたらよ!?」
「どーせ怪しいボッタクリの店に引っかかったとかだろ?」
「違うわよ!おいしいカニが食べられるって言うから、そいつに付いてここまで来たら
いつの間にかお金を盗られ荷物を盗られ、ご丁寧にここの従業員に登録されて
その上連れて来た奴はあたしのチケットで船で逃げててここに置き去りにされてたのよ!
追っかけようにもチケットすらないからどうしようもなくて……!」
「「………」」
「なおさらバカだろ」
「よくもまあそこまで……」
「きいいぃぃ!!」
哀れみの視線(呆れ含む)を向けられて彼女は地団太を踏んだ。
僕はといえばそんな彼女の一挙一動足を微笑ましく見守っていたが、
あまり見つめているのも失礼かもしれないと思い直し、話を進めることした。
「ここにいる事情は分かったけど……そこから僕を蹴り飛ばすまでの間にどんな経緯が?」
さしあたって次の疑問を向けてみる。
……すると、彼女の様子に変化があった。
なんとも嫌そうな顔というか、じと目で恨めしい視線を送ってくる。
何か変なことを言っただろうか。少し逡巡したが、答えはすぐに出た。
「……あんた、もしかして蹴ったこと根に持ってんの?」
「え?あ、いやごめん!そんなつもりじゃ」
あんまり僕が蹴り飛ばした蹴り飛ばした言うもので気になったらしい。
反省しつつ僕は先を促した。
ちなみにニコレットさんとマンザラさんは仕事が残っているらしく、
ここで僕達に断りを告げてから戻っていった。
「先って言っても……あとはそう、そうよ!
なによあいつ、あの強欲ジジイ!人が騙されたんだって言ってるのに
こっちも金を払ったんだからその分は働いてもらわないと困るとか!」
「あー、言いそうだ」
ってかやっぱり僕のときは天邪鬼だったのだろうか。
「私を騙した奴から取り返せって言ってもふん捕まえて連れ戻してくるから待てって言っても
全然話にならないからしまいには一旦逃げるしかないと思って……」
「で、出て来たこいつを思わず蹴り飛ばしたわけだ」
「……そうよ」
「ふぅん」
「ハンコツさん……だからあんまり蹴り飛ばす蹴り飛ばす」
「別にいいわよ……
……ふん!さて、どうやってここを出て行くか考えないとね。
さっきは止められたけど、あの強欲ジジイ
次になんやかんやふざけたことを言ってきたらこうして!こうして!
こうっしてっ叩きのめして、堂々と出て行ってやるわ!」
「勇ましいね……」
「当然でしょ!」
空を切ってシャドーボクシングやらキックやらしている彼女は、
ちょっぴり気後れの入った声を掛けると得意げに胸を張った。
「勇猛なるはルシェの魂、いかなるときも恐れを知らず!
どんなときも勇敢であってこそのルシェ、あんな耄碌なんて怖くもなんとも無いわ!」
「……はぁ」
ふふん!とばかりに胸を張るのに同調するように耳が誇らしげにぴんと立つ。
僕はそれを可愛らしいと思いつつ、だけど彼女のセリフに少しだけ違和感があった。
――さて、事情を聞くのは大体済んだ。
後はお金も荷物も無い彼女が今後どうするかだ。
とりあえず僕としてはこれ以上彼女とジェン爺がぶつかるのは避けたい、どうにか穏便な解決を承諾してもらわないとね。
そう思って僕は、それが後に頭を抱える事態への導火線とも知らずにその話題を出した。
「ところで、これからどうするの?ジェン爺のこともあるし……
出来れば話し合いで何とかして欲しいんだけど」
「私だって別にケンカしたいわけじゃないわよ?
ただ、あいつが次もあの態度なら確実にぶちのめしてやることになるけどね!」
「あの……あれでも僕らの主人なんだけどな」
「は?」
振り返った彼女は、何を言ってるのか分からないという顔をした。
「主人ったって、契約上の話でしょ?」
「そうなんだけど、まあどっちにしろ主人であることに変わりはないし」
「ちょっと待ってよ……何?あんたあいつになんか良くしてもらってんの?」
「へ?まさか!目の敵にされてしょっちゅう怒られてるよ」
「ならなんで庇うのよ……ちょっと見たけどあいつ、従業員に高圧的な態度ばっかじゃない」
「まあ、仕方ないことだし……それにそれとこれとは別でしょ?
使用人は主人の役に立つように働くもんだし」
「あんた……おかしいとは思わないの?」
彼女が眉をひそめて理解できない、という顔をする。
それだけでなく、確かに僕の答えは彼女の不快さを刺激しているらしい。
それが分かっていながらも、僕はこう答えるよりなかった。
「……特に」
「…………」
彼女は今度こそ不快さを顔に表した。
ため息を一つ、そしてただ一言。
「……飼い慣らされてんのね……」
「……!」
「何よ、違うの?」
「……否定はしないよ」
「しないの」
「……」
なんだか嫌になるような沈黙が落ちる。
「ちょっと聞くけどあんた……ルシェの誇りは無いの?」
「……」
「何よ?」
「なんでもない。……ルシェであることを誇りには思ってるけど、ルシェの誇りとかは無いと思う」
「何言ってんの……!?」
「そんなことより、」
「そんなことよりじゃない!」
彼女はついに怒鳴った。
困った。どうも僕は、彼女の退くことのできない場所に踏み込んでいるようだ。
どうにか話を逸らそうとするのが、またしても彼女の険に触れる。
「ルシェの誇りよ!?それを、あんたはそんなことで済ますわけ?」
「……僕は、せっかく人間とルシェと二つの種族があるんだし、
片方にこだわらなくてもいいかななんて。それに……」
「ちょっと待ちなさいよ……」
「え?」
「なんであんたは東の民を人間って呼ぶの?ルシェだって同じ人間でしょ……!?」
「あ」
……完全に不意打ちで、僕は自分の失言を知る。
まさに続けざまに地雷を踏んでいる状況だった。
そうだ。ネバン出身の人の前で、ヒトを人間と呼ぶべきでないなんてことは知っていたのに……
「アイゼンでは……そういう風習なんだ。確かに僕もルシェだって同じ人間だとは思うけど……」
「……もういいわ。でもね、これだけは言うわよ……!」
そして彼女は、満身の怒りと軽蔑を込めて言い放った。
「あんたなんか、これっぽちもルシェを名乗る資格なんてないわよ!!」
……ものすごくヘコんだ。
さて、ヘコんだことはヘコんだがこのくらいはここに来てすぐの頃にもあった。
ハンコツさんに自分が見ないでいた現実を突きつけられ、ヘコんだ事だ。
だけど今回はこれで収まらない。
僕が精神的なダメージを受けている間に、事態はすでに動き出していた。
「……おい、その辺にしてやれ。そいつは平和主義なんだからよ」
ずっと口を出せないでいたハンコツさんがさすがに口を挟んできた。
僕を見下ろしていた彼女がそちらを向く。
「だって……私はね、ルシェの魂を侮辱する奴だけは大嫌いなの。
特にアイゼン人なんて大嫌い、ルシェの誇りを踏みにじる連中だもの!
それなのにこいつは、」
「で、そんなこと言うためにわざわざアイゼンまで来たのか」
……ハンコツさんがやや強引に遮った。
あの違和感が原因だ。
さすがに遮られたことには気付いたらしく、彼女は訝しげにハンコツさんを睨んだ。
「……何よ?」
「なんでもねえよ」
「何なのよ!」
「なんでもねえって言ってんだろ!それよりこいつはな、……ん?」
僕はハンコツさんの肩をつかんだ。
ここは、僕に言わせてほしい。
さて、前にもヘコんだと言ったが、前とは違うことが一つある。
僕は反省していない。反省してはいけないのだ。
ハンコツさんは僕が現実を見ていないことを怒ったが、彼女は違うところを怒った。
そう、彼女にはネバン人であるがゆえに許せないことがある。
だけどこれは納得するところではない。ハンコツさんは口に出すのをためらったが、
僕はあえて口にしてみようと思った。なによりこのままじゃ僕の評価はどん底のままだしね。
「ちょっといいかな」
「……!何よ?」
へこんでいたはずの僕が話しかけたことで、彼女は少し動揺したらしい。
「君の言うとおり僕は飼い慣らされてるし、強く物を言えないし、
僕が情けない奴だってことは弁解もしようが無いくらい確かだけど、
でも、僕にルシェを名乗る資格がないってのと、アイゼン人が嫌いだってのは取り消してほしいんだ」
「は……なんであたしが?ううん、あんた、自分が何言ってるのか分かってんの?」
「わかってもらわなきゃならないのはそっちだ」
「……!」
わざわざ気に障るような言い方をしてしまったなと思いつつ
彼女の様子を伺えば、案の定激高して猫のように毛が逆立つのがわかるようだ。
だけどこれを納得してもらわなければ僕の評価も回復しないし、なにより余計な軋轢の原因になりかねない。
それを忠告する意味でも言っておかなければ。さて、どう切り出したものだろう?
「……ネバンプレスの人たちは、自分達の事を呼ぶとき
ネバンの民とは言わずに『ルシェ』って呼ぶよね。いつだって、いつだって」
「……?だから……何よ……?」
「……アイゼン人は嫌い?」
「嫌いよ、大っ嫌い」
「そう……
……僕は」
そのとき彼女がかすかに怯えているように見えたのはきっと気のせいだろう。
「僕は、『ルシェ』で、『アイゼン人』だ」
「……
………
…………………………!!!!!!!」
彼女が凍りついた。
そして、まるで追い討ちをかけるように次の言葉が紡がれる。
「だから僕は、ネバン人が嫌いだ」
――――――――――――――――――――
……なんてことはもちろん言わないけどね。
でも、ネバンプレスが言うルシェとアイゼンのルシェが違うってことは分かって欲しい。
ネバンプレスとは違う誇りだから分かってもらえないとは思うけど、
でも違う誇りを持っているってことは分かってくれるでしょ?
僕らは皆アイゼン人だ。
それを嫌がる人だって当然いるけど、それを誇りに思う人だっていっぱいいる。
僕は、ネバンプレスの『ルシェの誇り』はとても気高くて崇高なものだと思うよ。
だから、君もこういう生き方もあるんだって少しでも認めてくれたらとても嬉しいな。
……って言おうとしたら天井を見ていた。
「……あれ?」
夢オチ?
しけた布団から頭をめぐらせて横を見ればそこにハンコツさんがいる。
「よう、頭は大丈夫か?二重の意味で」
「えーと……どこからが夢ですか?」
「はぁ?
……とりあえずお前があの女に蹴られたとこまでは現実だぞ」
「えと、客室の掃除をして一階に降りたときですか?」
とすると、あれから先のことは全部夢だったのだろうか。
それはさすがにキツイと思ったが、そうではないとハンコツさんが教えてくれた。
「あ?違う違う、二回目の方だ」
「二回目……」
「覚えてねえのか?」
「はい」
「はぁ……顎はどうだ」
「顎?」
言われて気付いた。
なんか……鈍痛というか痺れるというか……
「なんていうか、顎がきしむような……」
「あれをもらっちゃなあ」
ま た 蹴 ら れ た の か !
「……何されたんですか僕」
聞くのが怖いが聞かないわけにもいくまい。
ハンコツさんは顎をさすりながらなんとも言えない顔で、
「何って、俺も目では追えなかったけどな。いやもう、あの時は色々凄かったし。
お前がいきなりとんでもねえこと言い出して、一体こりゃどうなるんだと焦ったら突然、
バチン、って音がしてよ。何事かと思ったらもうすでにあの女の足が180°上を向いてて……
そりゃもう見事だったぞ?お前少し宙に浮いてたしな」
「……」
「ま、あの女も思わず反射的にやっちまったみたいだし、舌を噛まなかっただけ幸運だろ」
「そうですね……って、え」
なにか聞き逃せないことを聞いたような気がする。
思わず反射的に……とんでもないこと?
「え、あの、ハンコツさん?」
「ん?」
「僕がとんでもないことを言ったって……何言いましたっけ?」
「へ?それも覚えてねえのか?ええと、自分はルシェでアイゼン人だから……」
――僕は、『ルシェ』で、『アイゼン人』だ。
―――だから僕は、ネバン人が嫌いだ。
「……あああぁぁああぁぁあ!?」
そこで!?
そのタイミングで切られたのか!?
「おい、なんだどうした?」
「そんな……それじゃ嫌われるどころの話じゃ……」
「おーい、しっかりしろ」
「――はぁ、で、本当はその後にも続けようとしたんだけど
蹴られてそこしか伝わらなかったのね」
これはニコレットさんだ。
ものすごく落ち込む僕を、ハンコツさんはとりあえず食事だと皆が集まる裏庭へ連れてきたのだった。
「そうなんです……」
「俺もネバンの奴らは気に食わねえけどよ、それにしたってよくもあそこまで真正面から
言ってのけたもんだと思ったくらいだぜ?ありゃもう宣戦布告とかそういうレベルじゃねーな」
「そんなに」
「あぁ……」
「まぁ、その、なんというか、お前も大概バカだよな」
仰るとおりです。
「とりあえず元気出しなさい。ほら、食べて食べて」
「はい……」
玄米パンをもそもそと食べながら今回の件でどれほど嫌われたかを計算する。
食欲が失せそうなので即座にやめた。
とりあえず謝罪だけはしておこうか。
そんな事を思いながら蒸かしたパンを半分ほどかじったとき、ガーベラちゃんがやってきた。
「お疲れ様ですの。私にもひとつください」
「はい、どうぞ」
「ありがとう……コレルお兄さんはどうしたんですか?元気がなさそうですの」
「そんなに元気ないかな?」
「いつもやる気に満ち溢れてるからね。あのね、あの旅人さんのことで……」
「そうだったんですか……。
ああ、だからあのお姉さん泣いてたんですね」
「「「!?」」」
泣いてた?彼女が?
思いもしなかった情報は僕達を少なからず驚愕させた。
「ちょ……それ、本当なの?」
「ばーって走ってすれ違っていったからよく見えなかったですけど……たぶん間違いありませんですの」
「それにしたってよ……あれがちょっとくらい悪口言われたくらいで泣くタマかよ!?」
「でも……」
「……世界の反対側まで来て」
「?」
一言もしゃべらずにいたマンザラさんが口を開いたのはこのときだった。
僕達が目を向けると、ちょっと考え、またしゃべりだす。
「故郷を離れ、世界を半周するような距離を旅して文化も風習も違う異国に、
それもルシェが差別されると評判のアイゼンにやってきて、心細くとも
表面上は毅然としたふうを装い、そしたら今度は騙されて金も荷物も奪われた挙句
見るからにルシェの差別されるこんなところに置き去りにされ、
あまつさえ仲間だと思っていたルシェに……その子は典型的なネバンのルシェ民族主義だったんだろ?」
「え、はいたぶん」
ネバンプレスの人たちにとってはルシェであることは特別な意味を持つ。
それは単に種族的な意味ではなく、民族的な意味だ。
そして彼らはルシェであることを重要視するあまり、時にルシェという種族であることと
彼らにとっての『ルシェ』という民族であることとを同一視することがある。
「ああ、で、その子にとってはルシェ、同属がいるということが最後の心の拠り所だったんだろうな。
それがその仲間だと思っていたルシェに真正面切って拒絶どころか敵意を向けられたら……
……そりゃ、泣いても仕方ないかもしれん」
「うわ……」
「確かに……」
「……あ、ああああぁぁぁぁ…………」
ドツボにはまるとはこのことだろうか。
そうだ。彼女はどんな思いでここへやってきて、どんな思いでいたのだろう。
それを考えれば僕の仕打ちはあまりにも酷すぎたかもしれなかった。
どうしよう?
頭を抱え込んだ状態から見上げれば、帰ってきたのはドンマイ、という視線だった。
「やっちゃったことはしょうがないわよ。せめて謝りに行ったら?で、仲直りしてきなさいよ」
「あ、はい……」
謝って仲直り。何もしないよりはいいだろう。いや、そうすべきだ。
ただ、もう一度彼女に会いにいけるかというと……
「……あの、だれかに付いてってもらったりは」
「ダメよ」
「ですよねー……」
「頑張れ」
「はい……」
……はぁ。仕方ない、一人で行こう。
重い足を引きずるように、僕は彼女を探して歩き出した。
投下終了。
ヒロインが出たのにその殆どが『彼女』と表記されて名前が出ないとはこれいかに。
ちなみにそのほかの登場人物の名前ですが……すいません。
お気づきの通り、モデルとなったニギリオNPCの表記名を自分の死ぬほど酷いセンスで
もじって名前にしてあります。特にハンコツ、マンザラは正直手抜き過ぎてすまんかった。
現在『ひきつる給仕』と『掃除する少年』の名前を考えています。もしなにかいい名前があったら
教えてくれると幸いです……それではまた。
なんかこう、深いところに絡めててすごいなあ……
リアルでも有り得る話なだけに、続きが楽しみです。期待してますwktk
>ヒドイ名前
そのまま本名と言うワケじゃなくてあだ名だろうと考えてました、源氏名みたいな
乙です
ところで足癖の悪いこの彼女さんは無手サムライ?
マンザラさんをマンダラさんと読んでしまった俺に隙はなかった!今後の展開にwktk
>ヒドイ名前
昔のゲームには少年という名前の少年もいてだな・・・
保守
七帝竜まで行くのは厳しそうだな…
キミがエビフライを食べていると
カリユがとことことやってきた
かと思えば、彼女はいきなりそのロングスカートをたくしあげて
物欲しそうに赤面した顔でこちらを見てくるではないか
キミは彼女の丸見えになっているぱんつを引っ張り
その中にチップ代わりのエビフライをサービスしてもいいし、
どうしようかと迷うフリをしてぱんつを心に焼き付けてもいい
もちろん自前のエビフライを下のお口にご馳走してあげるのも自由だ
そう妄想しているとなんとカリユのスカートの中からイクラクンが飛び出してエビフライを奪い、
ほくほく顔でかりゆにエビフライを召し上げたのだった。
268 :
名無しさん@ピンキー:2009/09/06(日) 11:30:21 ID:vJWHJ+h8
269 :
268:2009/09/06(日) 11:31:53 ID:vJWHJ+h8
sage忘れた…リブロに削られてきます。ごめんなさい
いったいどんな趣味をしていれば携帯待ち受けになるというのか問い詰めたい
ねー、ケータイ見せてよー
渡しますか?
→はい
いえす
…何コレ?
え、えッ?
ノワリーさんが…?
……。
ぱくっ!!
えふぇふぇー、ばんふぁいあー♪
はい、私は出血のノワリーさんの血で元気になりました!
あれ?
…もしかしてキミも元気になっちゃった?
…うん、じゃあ…そっちにもバンパイアしないとね?
えいっ!
わあ…?
…ダガーフェティシュとってて正解…ううん、何でもない!
えっと、じゃあまずは恍惚のトリプルキスね
天然のマスクを剥がしたげる…♪
…きゃっ!?
り、リプレイスファーストしたからって
いきなりヘッドショットは…もう
(以下の文章は省略されました)
何故真顔で鼻血を流すロリコンノワリーを待ち受けにしようと思ったんだw
しかしこの出血が闘牌にどんな影響がでるのやら‥‥
デッ様「なんだ‥‥?あの牌の汚れは。そうか!さっきの試合であがった時の牌に血が付いたんだ!つまりあの牌はイーピン!
‥‥いや待て、そんな致命的なミスに気が付かないだろうか?
いや気付く!つまりあれは罠!すりかえたんだ!
なんとなくこんなノワリーの毒盛り作戦光景を幻視した。
>>273 省略はずるい!
>>268 とりあえず待ちうけにしてみたよ。
…
……
長時間の使用は無理でした!
>>274 それ麻雀じゃなくてEカードや!てかそれだとデッドブラック焼き土下座フラグだから勘弁!
何をどう間違えたら天地創世をイーシャンテるんだww
ところで前スレの埋めネタはあれでおしまい?
練習用殴り書きスレの方にエピローグが
鷲頭ノワリーwww
この後アタマハネされて絶望するんですねわかります。
されなくても点差が絶望的だけどね!
やはりネタを楽しむために俺もマージャンの基本ルールを勉強したほうがよさそうだな・・・
とりあえずメナスが凄いのはわかった
誤った知識を身に付ける前に言っておくと、基本麻雀牌は各種四枚までだからね?
右上の白ばかりの本来ありえない役・天地創世の元ネタはムダヅモ。
左上ロゴと左下のイーピン扉の元ネタはアカギ。両方なにかとありえない麻雀漫画。
ところでファイターのエンドルフィンってなんか利点あったっけ?
レベルは高いけど死にスキルばっかとって落ち込むへたれベテランハントマンの電波受信した。
ベルセルクでカバーできない呪いと恐怖を自力で消去できる
でも奇跡の代行者が使える平さんがいるとあまり意味が無いな
きっとそのハントマンはエンドルフィンのみならずヘキサスパイクとかも取ってるんだろうなぁ
>>281 >エンドルフィンの利点
恐怖と呪いの自己回復くらいだな
毒・睡眠・混乱・魅了・麻痺・盲目はベルセルクの出血で予防できるし
呪いを自己回復できるという利点をとってもいいし、ベルセルクで事足りると諦めてもいい
リカヴァ1の1振り=盲目回復=目の保養
ってことで
満面の笑みでスカートたくしあげるモルさんと
真っ赤になってそっぽ向いてたくしあげるロザリーさんを幻視した
>>282 おい、ヘキサとってる俺に謝れ!弱いけど音がいいじゃないかよぉ…
>>284 個人的には逆のイメージだな。うちの赤平さんに恥じらいの感情はないんだぜ!
>>261 そ れ だ !
いや慣れとは恐ろしいもので頭の中で連呼しているうちにそうおかしい名前とも思えなくなってしまうのです。
特にハンコツとマンザラなんて双子みたいで、グラフィックは同じだけど性格は正反対な二人に
ぴったりなんじゃないかと血迷ったり……しかしあだ名ということにすれば全て解決ですね。
以降コレルとバレッタ以外の使用人sは全員あだ名だと思うことにします(自分が)。
あと、
>>262バレッタはハントマンではありません。コレルと同じ汎用通行人グラのNPCです。詳しい設定はその内。
あー、こんにちは。最近続きを待ちわびている続き物の職人様方がご多忙のようなので、
留守番ついでに景気づけに
>>250-259の続きを投下します。
以下人名対照一覧
コレル:骨の髄まで奴隷根性の日和見青年。
バレッタ:ネバン的ルシェ魂至上主義の精神。
ハンコツ:偉い奴は大嫌い。
マンザラ:今の暮らしはそこそこ満足。黒目の離れた鳥類ではない。
ニコレット:優しい先輩のお姉さん。
NGはタイトルでどうぞ。
……さて、話の続きを書く前にここらで一つ注意書きを挟んでおこう。
この世界には六つの国家と、そして民族、種族、出身によって違う様々な考えがある。
もしもこのノートを僕以外の人が見ているとするなら、それはどんな事情か知らないが
一つだけ知っておいてほしいことがある。
僕は卑屈で小心なアイゼン・ルシェだ。
他の国に行ったことはおろかこの間まで都からも出た事の無かった世間知らずで、
アイゼンの価値観ばかりに気を取られて無意識に他国の価値観を否定するし、言い訳もたくさん書く。
だから決して僕の書いたことに共感はすれ、僕の書いたことを鵜呑みにしないで欲しい。
そんなこと分かってる、自意識過剰だって?
僕もそう思うけど、でも一応書いておきたい。
……だって、これを呼んでいるのはもしかしたら僕の子供かもしれないじゃないか。
もし世の中のことを正しく知りたいと思うのなら、
このノートだけでなくいろいろな国の、いろいろな人の書いたものを読むことだ。
自分にとっての真実、他人にとっての真実、世界にとっての真実、
これらを別々に捉えられるようになってこそ物事を見る目というのは培われるらしい。
色々と書いたが結局のところ、このノートには僕の自分勝手な思いの軌跡が綴られている。
そして僕は後からこれを読み返しては我が身を反省したりするのだ。
……もっとも、出来れば僕としてはこのノートには別の役割を期待したくないことも無い。
異邦人同士の交流には、立場や思想が違うからこそ新たな発見や相互理解の喜びがある。
いろいろな国の人たちが来るここに来て、このノートにはそんな交流の記録をつけていけたなら
それはかなり素晴らしいことなんじゃないだろうか。
……嬉しいことに、それは遠くない未来に実現できそうだったりする。
いつものように前置きを書いたところで話の続きに戻ろう。
無自覚に彼女――バレッタさんを思い切り傷つけそのショックのあまり反射的に繰り出された
半月蹴りにノックアウトされた僕だが……さて、謝りにいくといっても彼女はどこだろう?
宿の中は夕食やら宴会やらの準備で忙しいが、なんとなく人がたくさんいる場所に彼女はいない気がする。
となると喧騒から離れた人の通りかからない場所……
勝手口、鯉の池、食材置き場。
そんな場所を捜し歩き、やがて僕は、廊下の灯りに淡く照らされた庭で農具倉庫の裏に彼女の姿を発見した。
「……」
暗がりにしゃがみこんだ彼女の耳は気の毒なほどしおれきり、
欝なオーラをまとって沈黙するその姿はとてもじゃないが声を掛けづらくてしょうがない。
まるで親とはぐれて隙間に隠れたまま震えている子猫のようだ。
……きっとそれはあながち間違いな表現ではないだろう、
誰も信用できる人がおらずに異国に放り出された彼女の心情は、その例えに近いだろうから。
意を決して僕は彼女に歩み寄った。
「っ」
足音に気付いて彼女が顔を上げる。
僕の顔を見て、やってきたのが僕だと知ってその顔に色々な感情が浮かんだ。
疑念、警戒、そして敵意。
まるで外敵に対して針を逆立てたハリネズミのようだ。
そんな彼女を前に僕はどうしたかというと、
……思わず手をあげていた。
ホールドアップ的な意味で。
「「………」」
沈黙。
見つめあう僕と彼女。
「……」
「……」
「……なにやってんのよ……」
うん、自分でもよく分からない。
警戒はどこへやら、彼女がよこしたのは呆れ気味な視線だった。
きっとこれは結果オーライだ。
とりあえず警戒を解くことには成功したのだから。
手を下ろし、言葉を探す。なんと言うべきだろう?
「えと……その」
「……」
「……ごめん」
だあああ僕の馬鹿!!
目一杯口ごもってようやく出てきたのが『ごめん』とはなんだ!
口下手にも程があるというかイラつかせるだけというかそもそも何に謝っているのかさえ分からないじゃないか!
「……何に対して謝ってるのよ」
「ほら言われた!」
「???」
「あ、いやこっちの話」
いかん、目一杯怪訝な顔で首をひねられてしまった。
落ち着け、それまずは深呼吸。
すー。はー。
落ち着いて、僕はもう一度彼女を見つめなおした。
「あのっ」
「っ、何よ?」
「あの……酷い事言ってごめん」
「……」
「あんなこと言うつもりじゃなかったんだ、ほんとは、あの、その、」
「……いいわよ」
「あ、うん」
「……」
「……え?」
「いいわよって言ったでしょ」
「いや、それはそうなんだけどさ」
そんなにさくっと許されてしまうと、かえって不安になったりする。
どうしていいのか分からず、僕は当たり障りのない質問を繰り返していた。
「その、許してくれるの?」
「別に……許すも許さないもあんたは本当にそう思ってるんでしょ。
あんたがそういう考えなのなら、それは私がどうこう言えた義理じゃなかったんだし。
……ただ、自信が無いのかなって、そう思っただけだったのよ」
「ごめん」
「だから何に謝ってるのよ」
「えと、心遣いを無にしたことに対して。あと、なんか泣いてたって言うから……」
「!!」
「あ」
「……っ……!」
口を滑らせた、と思ったときにはもう遅く、彼女は声にならないうめきを上げながらガシガシと頭をかいた。
普通泣いてたなんて、人に知られたくないことなんだから当たり前だ。
「どこで、誰、見られて、……っ、他に誰が知ってんの」
「えと……僕の他に最低四人……」
申し訳なさそうに告げると彼女はますます頭を抱え込んだ。
「そいつらに言っといて……次に私が会うまでにその記憶消しとけって」
「無理だと思うよ……」
「……」
黙り込んでしまう。
こちらも申し訳ない気分だった。元々は僕が原因なのだ。
人を傷つけるようなことを、言うまいと思っていたのに。
「……とにかく、そういうわけだから謝らせて。ほんとにごめん。あんなこと言うべきじゃなかった」
改めて謝罪すると、彼女はゆっくりと顔を上げた。
どこと無く気疲れした顔だが、険は取れていた。
「うん……ま、気にしなくていいわよ。
ルシェにあんなこと言われるの初めてだったから……ちょっとびっくりしただけだから」
「……」
言葉とは裏腹な、沈みがちで疲れた口調だった。
何も言えず僕は黙り込む。
そんな僕に、彼女はもう一つ思い出したように問いかけた。
「……ね、ほんとなの」
「え?」
「アイゼンのルシェにも、ネバンのルシェは嫌われてるの」
「……」
僕は迷った。
ここでそうだと答えるべきだろうか。
でも、あれは嘘だよと言うのも違うと、僕は思った。
慎重に言葉を選びながら答える。
「少し、そういうこともあるよ。ちょっと言ったけど、アイゼンに住んでるルシェの殆どは、
ルシェであることを誇りに思っていてもネバンプレスの死を恐れない考え方とかは理解できない。
でもネバンプレスの人はそれこそがルシェの本質だって言うから……じゃあ自分達はなんなんだ、ってなる人もいる。
……ネバンプレスに憧れてる人もいるんだよ?ルシェには住みやすいとこらしいし」
「いいわよ、下手なフォローしなくて。それにネバンでは形だけルシェでもダメよ、心が無きゃ。
そうね……こっちで暮らすあんた達に押し付けたのが間違いだったかしら。ガキ臭いこと言って悪かったわ」
「そんなこと」
「でも」
「?」
「あたしはネバンの皆をルシェと呼ぶわよ。あんた達が東の民を人間と呼ぶように」
「それは……うん」
「いいの?」
「呼び方なんて些細なことだよ。アイゼンではいまだにキツネうどんかタヌキうどんか、そんなことで争ってるんだよ」
「は……よくわかんないけど」
「前読んだ本に、自らの真を捨て世の真に媚びるは勇無きなり、されど世の真を捨て自らの真に逃げるは智無きなり、って。
自分の信念を貫くことと同じくらい人の信念を理解してあげるのは大事だよ、って意味だったはず」
「……そうね。それでいいわ」
「じゃ、仲直りってことでいい?」
「なによ、まだそんな事気にしてたの?」
「だって」
「いいわよって言ったんだからそれでいいのに、これだから……」
「アイゼンの国民性だもの」
「む……この話の流れだと反論しにくいわね」
「はは」
「まったく……あ」
場の空気が和んだところで気の抜ける音が鳴った。
彼女のお腹が空腹を訴える音だった。
「こんなときに鳴らなくたっていいじゃない……」
「あ……えと、その……
ジェン爺が、ウチで働かないし金も払わない奴に飯なんてやる必要はないとか言ってて……」
「……分かってるわよ、いいから心配し」
「だから、これしか」
「……へ?」
「あの……僕の分、半分なんだけど……これしかないんだ」
「ちょっと待って。
えーと、つまり、これを私にくれるって言いたいわけ?」
「そうだけど」
僕の差し出したパンを前に、彼女はしばし逡巡した。
「……くれるって言うなら遠慮はしないわよ?
あ、あとアイゼンの物を貰うときの作法なんて知らないし」
「気にしなくていいよそんな事、さ食べて食べて」
「えーと、じゃ、貰うわ……ありがと」
「どういたしまして」
少し冷えてしまった玄米パンをとり、彼女はもそもそと食べ始める。
「雑穀の粉を蒸かしてあるのね……」
「ごめん、白米とか上等なものはあんまり出なくて……」
「ネバンじゃアイゼン風に炊いた米なんてまず食べないわよ。こういうののほうが馴染み深いわ」
「あ、そっか」
そう言うとあとは彼女は何もしゃべらず、ただ食べる音だけが薄闇に聞こえる。
気だるげな表情でパンを食む様子を見ながら、僕はふと思ったことを聞いてみた。
「それで、バレッタさんはこれからどうするつもり?」
「ん?そうね……ここにはルシェの、ネバンの仲間は来ないの?」
「来るかもしれないけど、少なくとも僕は見たこと無いよ」
「でしょーね……でも、仲間にお金を借りる以外にここから出て行く方法なんて……」
「やっぱり帰るんだ」
「そりゃね。こんな所に長く……ごめん取り消すわ。
でもやっぱりここじゃ私は一人だもの。信頼できる仲間がいないとこでなんて……
別にあんた達が信頼できないって言ってるわけじゃないわよ」
「分かってるよ」
……なんだか複雑な気分だった。
彼女の言いたいことは分かる。異国の地で友達もなしに留まるなんて普通は耐えられない。
とはいえここにネバンプレスの人が来るなんてそうないだろうし、
なによりそうなったら彼女がここからいなくなってしまうわけで……
……なんだかなあ。
「ま、でも」
「?」
「居てくれたおかげで少し気が楽になったわ。その……ありがとう」
「どういたしまして」
お礼を言われるほど何か出来たとは思わない。
けれど、慣れない様子でありがとうと言う彼女に僕はせめて誠意を持ってどういたしましてと返した。
翌日。
相も変わらずせっせと仕事に精を出す僕はハンコツさんに声を掛けられる。
「で、どうだったんだ?」
「バレッタさんのことですか」
「おう。遅いからまたノされてるんじゃないかと昨日は心配してたんだけどよ」
「仲直りは出来た……と思います。いろいろお互いの話をして、それで遅くなっちゃって」
「ふぅん。ま、それならいいけどよ」
「そうですね……と、あれ」
ふと上体を起こした先に見える木立。
朝の空気の中、その木陰でこちらを窺う彼女の姿がそこにあった。
軽く手を上げると向こうも近付いてくる。
「……おはよう。どうしたのそんなとこで、っていうか昨日はどこで寝たの?」
「どこでも何も……その辺でうつらうつらしながら夜を明かしたわよ。寒かったわ」
「そりゃそうだ。火山が近くにあるとはいえ温暖な気候じゃないからな」
「風邪ひいたりしてない?」
「そんなに柔じゃないわ……」
そう言いながらも寒さでよく眠れなかったらしく、
彼女はふあぁふ、とあくびを一つして目をしばしばさせている。
「お気の毒様というか……ところで、ヒマなら手伝ってくれるかな?
何もしないでブラブラしてるのは社会一般的にいやな目で見られるよ」
「好きでブラブラしてるわけじゃないわよ……大体なんだって私があんたの手伝いをするのよ?」
「それはまあ、昨日分けたご飯とこれから分ける朝ご飯のお礼ってことで」
「え、普通そこは無償の思いやりでしょ!?いや、別にいいけど!」
「じゃあこれ、落ち葉を集めてくれる」
「うぅ……」
彼女が唸りながらも床を掃き始める。
視線に気付いて振り向くと、ハンコツさんが意外そうな目で見ていた。
「お前ちゃっかりしてんな……なんてーか意外だわ」
「そうですかね」
「だってよ、お前のイメージといえばなんて言うかクソジジイにヘコへコしてばかり……」
「まあそうですけどね」
どうもここにきて最初の頃の言動のせいで、僕にはある種のイメージが付きまとっているようだ。
少しイメージ修正を図ったほうがいいかと思えば、ハンコツさんの口から出たのは案の定だった。
「でもねハンコツさん、よく考えてください。
僕って泣きついてここにおいてもらったクチだから、ジェン爺に対してすっごく立場弱いですよね?」
「おう。……それにしちゃお前あんまりいびられてねーよな」
「それはですね。……言うことを聞かない犬と従順な犬がいたら従順な犬を可愛がりたくなると思いません?」
「お」
「厄介者かと思っていたけどよく働くし素直だし、
そんな犬ならたまにご飯を余計におねだりしてきてもむしろ可愛い……とか」
「お前またこれが……意外と打算的な奴だったんだな……!
……ちょっと待て、言うことを聞かない犬ってのは」
「ああ。……え、口に出したほうがいいですか?」
「だー!マジか、俺はお前を対比効果でよく見せるためのスケープゴートかよ!?」
「嫌だったら仕事してください」
「くうぅー」
「……根っからの奴隷根性ですけど、それでもご主人に意見を通したいときってのはあるじゃないですか。
そういうとき説得できるかどうかは普段の働きぶりかなと、そういう打算も少しはあるんです」
「あー、そうかいそうかい。畜生どうせ俺はお前みたいに頭のつかえない脳筋野郎ですよ」
「やさぐれないでくださいよ……」
「ちょっとー、手伝うのはいいけど私一人に任せとかれちゃさすがに釣り合わないわよー?!」
いけない、彼女の事を忘れていた。
それでなくてもおしゃべりに夢中で手が動いていないなんてのは失態だ。
僕は急いで仕事に戻った。
「何話してたの?」
「こいつが腰が低いように見えて意外としたたかだって話だよ」
「あー……なんとなく分かるわ」
分かられても困るが。
「まあでも、三代続いて使用人の、生粋の従属家系だからね。そういう思考も受け継がれてるって言うか」
「「……」」
「あれ?」
「ねえ、アイゼンではたった三代でも生粋とか由緒正しいとか言うの?」
「いやあ、さすがに三代じゃ言わないだろ」
「よね。大体三代より前には何してたのよ?」
「ん、奴隷稼業」
「「……」」
「僕のおじいちゃんが子供の頃くらいに奴隷制が禁止されたでしょ?
で、それまで職業奴隷だったうちの一家はそのまま使用人にクラスチェンジしたんだよ。
まあ奴隷と使用人なんて名前の違いだけで、掃除洗濯炊事に雑用、大してやることも変わらないから
特に大きな意味は無いんだけどね」
「……ちなみに、奴隷になったのはいつ頃から?」
「さあ。少なくともおじいちゃんのおじいちゃんの時代にはすでに元旦那様の家付きの奴隷だったとか」
「道理でDNAに刻み込まれてるわけだよ……」
「いやあ、それなりに幸せな環境に生まれたからだと思いますよ?
奴隷制が廃止されたのは諸外国への外聞のほかに奴隷をそれこそ物としてしか扱わない異常者が
いたせいらしいですけど、僕のところはずっと伝統的な主従関係だったみたいですし」
「育ちがいいと性格もいいってか?けっ!どうせ俺は、どうせ俺は……」
「だからやさぐれないでくださいって」
「意外と気にしてんのね」
どうにも立ち直らせるのは骨が折れそうだったので、とりあえず朝食をもらって来る。
その半分を昨夜のように分け合っていると、今度はマンザラさんがやって来た。
「おう、お疲れさん。
……なんだ、譲ちゃんとはずいぶん仲良くなったもんだな」
「はは」
「ま、こいつもヘタレだけど悪い奴じゃないしね」
「へえ、……ほんとに仲良くなったんだな。人の温かさは身にしみるか」
「……っ、ふん」
「??」
マンザラさんのニュアンスとそれに対する彼女の反応がよく分からなくて
首を傾げるが、二人ともそれには気付かずマンザラさんが次の話題を口にした。
「それはそうと気をつけろよ。今ここにちょっと厄介なお客が来てるからな」
「厄介なお客?」
思わず僕は顔を上げた。少なくともマンザラさんは穏便派で、
国籍や少しのわがままくらいでお客さんを敬遠したりする人ではない。
そのマンザラさんが厄介というからには営業妨害レベルの迷惑行為を想定しなければいけないからだ。
「それがなんと言うか、詐欺の常習犯でな。裏の情報を嗅ぎ付けにたまに来るんだ」
「……!詐欺?」
その一言で彼女の耳がピン、と立った。
「詐欺とは言ったんだが、三流で場合によってはそのまま居直って恐喝まがいの行為に及ぶ
性質の悪い男でな……ここでは目立った騒ぎを起こしてないから出入り禁止にも出来ないし、
とにかく遠巻きにしてあんまり近寄るんじゃないぞ」
「分かりました」
「……ねぇ、そいつどこにいる?」
「休憩所に、っておいこら」
「私の荷物盗っていった奴かもしれないでしょ!確かめてくる!」
止める暇もあればこそ。
彼女はあっという間にすっ飛んでいってしまった。
「やれやれ……俺の言ってたこと聞いてなかったのか?」
「聞いてなかったんでしょうね……」
「昨日盗みをして逃げた奴が今日ここにいるわけ無いと思うんだがなぁ」
「たぶんそうでしょうね……」
ため息を一つ。
「なあ、コレル。万が一でもなきゃあの娘は当分帰れないと思うんだが、どうすればいいと思う?」
「そうですね……やっぱり、ここに住み込んで働くように説得するしかないと思います」
「だよなー。でも、どうもご主人とは話がこじれてるようだし今更うまくいくかな?」
「ジェン爺にもなんとかお願いして置いてくれるように頼んでみます。
……普段真面目に働いて信用を得ているのは、こういうときのためでもありますし」
「そうかー……ま、その方がお前にとっても嬉しいしな?」
「な!」
「ハンコツから聞いたぞ、あの娘が気に入ったんだって?」
話が伝わるのが早い……
情けない顔を向ければ、帰ってきたのは悪意のカケラもない弟の成長を見る兄のような表情だった。
やれやれ、しかしまあ、確かにそうだ。
彼女がここにとどまってくれるならそれは僕にとって嬉しいことだ……だけど。
「でも、帰りたいんだよなぁ……」
「んん?」
「そりゃ、ここにいてくれれば僕は嬉しいですけど。でもそれだと彼女は
家族や友達のところに帰れなくて悲しい思いをするんですよね……
そう思うと、喜べなくて、ネバンプレスに返してあげたいと思うんです」
「はー……お前、いい奴だな」
「そうですか」
「お前なら辛いときに優しくしてくれたんじゃなくてもお前のこと認めてくれるって」
「そう……ですか」
よく、分からない。
仲直りはしたけど、僕は彼女に認められたんだろうか?
僕は彼女に『ルシェを名乗って欲しくない』と言われた。
勇猛でも、誇り高くも無いからだ。
だけど彼女はさっき、僕の事を『ヘタレだけど悪い奴じゃない』と言ってくれた。
それはもしかして、彼女が僕を新しい価値観で理解しようとしてくれたのかもしれない。
ネバンプレスの考え方だけじゃなく、僕の訴えに応えて。
……もしそうだったらと思うと少し、いや、とても嬉しかった。
――――――――――――――――――――
十数分後。
僕は客室の掃除をするために宿の中へと入っていく。
そして休憩所へさしかかったそのとき、それは起こった。
「あ」
視界の端に一瞬だけ彼女が映った。
それに気付いて視界を戻したとき彼女は休憩所の席に座る一人の男の肩に手をかけ――
――次の瞬間、男がナイフを抜いた。
「!?」
いきなり横払いに飛んできたナイフにのけぞる彼女。
突然の凶行に、その目が驚きで見開かれる。
そして、一瞬の間を置いて。
休憩所にいたほかの誰かが悲鳴を上げた。
「なんだ」
「どうした!?」
その場所に居た人々が振り返り、近くにいた人々が顔を出す。
そして彼らが状況を理解していくにつれて、あっというまに休憩所は緊迫した空気に包まれていった。
「な……な……?」
「ち、畜生……!」
男は怯えているように見えた。
威嚇するようにナイフを握り締め、せわしなく周囲に気を配っては事が大きくなっていくのに歯噛みする。
その場に居た人々はといえば、思考が追いついていないでいた。
これはなんなのか。
本当に事件なのか。
あれは本当に刃物を突きつけているのか。
目の前の事態が真に緊迫した事態なのかどうか理解できなくて動けなくなる、
集団に流されて行動することをよしとするアイゼン人は緊急事態に直面すると往々にしてこうなってしまう。
かくいう僕も例外に漏れず、硬直しているのは他と同じだ。
「……なにがあったの!?」
後ろから声を掛けられ、はっと我に返った僕は振り返った。
「ニコレットさん」
「げ……あいつ!前々から何かやるんじゃないかと思ってたけどついにやったわね……!」
「あ、あれがマンザラさんの言ってた詐欺師もどきの」
「そうよ。それにしてもいきなり刃物沙汰なんて……」
角から様子を窺うニコレットさんにならって僕も向こうを見る。
ナイフを突きつけられた彼女は困惑しながらも退かずに目の前の男に相対していた。
「な……なんなの……」
「仲間はどこだ」
「へ?」
「他の官憲はどこだっ!!」
男は油断無く辺りを見回しながら苛立たしげに叫んだ。
「……官憲?」
「あいつ……アイゼンで何かやったのね。官憲に追われてるんだわ」
「そこへ声を掛けたから……」
ようやく事情を理解し、僕は少し後悔した。
今考えればあそこで止めるべきだった。
その男が暴力に訴えることも辞さない無法者だという時点で行かせるべきではなかったのだ。
「警察のこと?何のことだか知んないけど……私は一人よ。仲間もいないし、旅行できただけよ」
「あ……?」
男がもう一度彼女の服装を見直した。
やがて男の顔に、痛恨の先走りを犯した事への悔恨が浮かんでくる。
「……畜生!」
「そういうわけで……行ってもいい?」
「動くなっ!!」
男が半狂乱で叫ぶ。
「くそ、お前のせいで、お前のせいで……」
このとき男は手負いの獣のように興奮し、血走った目に息遣いは異常なほど荒かった。
その様子を見ながらニコレットさんが眉をひそめる。
「興奮が尋常じゃなさ過ぎるわ……薬でもやってるんじゃないでしょうね?」
分からない。確かなことは、あの男が予想以上に危険な状態であるという事だけだ。
「お前さえいなければ……」
男が憎々しげに吐き捨てた。
その言葉に思わず彼女が呟いた、その言葉がかすかに聞き取れる。
「……私だって、好きでいるわけじゃないわよ……」
「黙れっ!とにかく、ここを出るまでは……動くなあっ!!」
さて、ここに至って、ようやく他の客達は動き始めていた。
男が本当に危険だと判ると、気付かれないように、男を刺激しないようにゆっくりと休憩所から離れ始めたのだ。
男の目に留まったのはその中の小さな子供だった。
親とははぐれてしまったのか、一人でその子は休憩所から出ようとしていたのだ。
彼女に気をとられていた男が気付いて辺りを見回したとき、
休憩所に残っているのは男とバレッタさん、そしてその子だけだった。
男が見回している間に、気付かれた子供は逃げようと走り出す。
そして。
追い詰められた精神状態に、いつの間にか人がいなくなっていたという驚愕、
その子が逃げようとしたことに対しての反射的な焦り。
何を思ったのかあるいは人質にしようとしたのか、男はその子を捕まえようと突進した。
「……!?させるかっ!」
彼女が後ろから男を蹴り飛ばし、その子に声を投げる。
「ほら、行きなさい!」
一目散に逃げ出した子供の背中を見送る間もなく、彼女が振り返る。
その瞬間に、男は彼女に飛び掛っていた。
「っ、きゃぁっ!?」
反応は早かったが体重差はいかんともしがたく、彼女は押し倒されて床に倒れこんだ。
その喉元にナイフの刃を突きつけ、男が苛立たしげに彼女を引き起こそうとする。
「くそ、くそ、邪魔ばかりしやがって……」
「この、離、れ……!」
「うるさい、殺すぞ!!」
「……っ、ちっ……!」
後ろから首をロックされた上で首筋にぴたりとナイフを押し当てられ、彼女は抵抗をやめた。
いくらなんでもこの状態では刃から身を守るすべがなく、抵抗の仕様がない。
そのまま男は彼女を引きずるように移動し始めた。
「……まずい!人質として連れて行く気だわ」
「…………!」
僕は自らの覚悟の無さを呪った。
こんな、男がパニック状態になって人質をとるような状況になる前に、
そうならないように何かすべきだったのではないか。
平和ボケのあまり何とかなるだろう事態を傍観し続けた結果がこのザマだ!
「……、助けなきゃ」
「ちょっと!?」
その場を立つ。
玄関先に先回りしようとした背中を向けたそのとき、僕の耳に彼女の声が聞こえてきた。
「……っの……ほんっとに……散々だわ。そう悪いことばかりでもないかな、と思いなおした直後にこれだもの」
「うるさい黙れ……」
「いいわよ……騙された時点でこれ以上何があったって変わりゃしないわ」
言葉とは裏腹に、その声には泣きそうなほどの不安が滲んでいた。
ここに取り残されて孤独と不安に苛まれ、そこからようやく立ち直ろうとした矢先に
今度は凶暴な男に何処へか連れ去られようとしているのだ。
怖くないわけがない。不安に押しつぶされそうにならないわけがないのだ。
そんな彼女を、絶対に連れて行かせるわけにはいかなかった。
「……」
僕は覚悟を決めた。
男が玄関方面に行こうとして向こうを向いたのを見計らい、
こっそりと休憩所に入り込んでテーブルの影に滑り込む。
テーブルの上に置いてあった誰かの食べかけの汁蕎麦を手にとり、七味唐辛子を振る。
そして、おもむろに僕は立ち上がって二人に接近した。
二人のすぐ近くで、床が軋んで音を立てる。
「!!」
それに気付いて男が振り返った瞬間、僕は手に持った汁蕎麦をその顔面に叩きつけていた。
「ばっ……!?」
「バレッタさん!!」
反射的に突き出されたナイフが見当違いの方向へ空を切る、
その隙に刃から解放された彼女を引っつかんだ。
「っ!!」
強引に引っ張りこみ、とっさに左半身を出して庇う。
その直後、闇雲に振り回されたナイフが左腕を突いた。
血が流れる感覚とともに痛みが走る。
それでも彼女を離さず後ろに下がろうとしてその身体を引っ張った瞬間、彼女の足が跳ねた。
「……しっ!」
僕の腕の中で身体をひねり、跳ね上がった足が男の手からナイフを弾き飛ばす。
そのまま僕達は後ろに倒れこんだ。
「っく……」
「早く!」
何とか起き上がり、通路の方へと急ぐ。
待っていたニコレットさんのほうへ彼女の背中を押しやり、僕は後ろを振り返った。
今のうちに奴を取り押さえ……駄目だった。
唐辛子が効かなかったのか、男は目を拭い、ナイフを拾って立ち上がろうとしている。
その狂気じみた視線が僕を射抜いた。
「はぁっ、はぁっ……」
「っ……ホウキ!モップ……棒なら何でもいい!」
「!」
僕の声に応え、ニコレットさんがホウキを僕に向かって投げた。
それをキャッチし、向き直ると同時に男が狂おしく絶叫しながら突っ込んでくる。
「うおおおぉぉっ!」
「この……!」
萎縮する足を踏ん張り、逃げそうになる心を押さえつける。
昔覚えかじらされた護身術の通りに構え、そのナイフを握る男の手に一振りだけホウキで打ち込んだ。
ただがむしゃらに突き出していたナイフはそれだけであっけなく落ちた。
技巧も何もなく激情のままに振り回していただけならそんなものだ。
呆然とした態で男が自分の右手を見た瞬間、僕はもう一度ホウキを振り上げた。
……ごめん、名も知らぬ詐欺の人。
見たのも出会ったのもすぐ前で、僕はあなたがどんな人間なのか、どんな事情があってこんなことになったのか知りはしない。
彼女の身の安全を確保するためとはいえ問答無用で実力行使に出たのも申し訳なかったかもしれない。
けど、同情はしない。こっちにも言いたいことはあるのだ。
「人の店でっ、刃物を出すなぁっ!!」
――公衆店で刃物を抜くのはご法度だ。客が刃物を抜いたとき、人はそれを『刺客』と呼ぶのだ。
しっかりと踏み込みながら、お手本どおりの面をその顔面に叩き込む。
予想外に硬い手ごたえが返った。
「がッ……」
当たり所が悪かったのか、男はそのまま目を剥いて後ろにひっくり返ってしまう。
「……」
「気絶した?」
どうやらそのようだった。
つついて、完全に気絶していることを確認する。
そしてついに緊張の糸がほどけた僕は、
「……っ、お、おっかなかった……」
その場にへたり込んでしまうのだった。
「……大丈夫?」
ようやく騒ぎが知れ渡り、駆けつけてきた同僚達が壊れた食器などをかき集めていた。
足を引きずるように休憩所を出ようとするとニコレットさんが声をかけてくる。
「ちょっと腕を切られたんで医務室に行きます。……バレッタさんは?」
「……ここにいるわよ」
声のする方向に目を向ければ、そこに彼女が背を壁にもたせてしゃがみこんでいた。
彼女も負けず劣らずぐったりとしおれている。
「たかだかナイフ一本ぐらいどうってことないと思ってたのに、ね。自信なくすわ」
「たかだかって……あ、いや、あの子を助けようとしたからじゃない。
その、アイゼン人でも助けようとしてくれて、ありがとう」
それは僕の本音だった。
少なくとも彼女は昨日、アイゼン人など大嫌いだといったのだ。
「別に。他人がどうだろうと他人は他人私は私、私がルシェの戦士であることには変わりないんだし
誰に対してもルシェとして振舞えばいいんだと思っただけよ。
あんたこそ、案外ルシェの魂があって見直したわよ?その……ヘタレって言ったのは撤回してあげても……」
後半はなんだかもじもじとした言い方だった。
が、このとき僕は別のところに注意をとられていた。
「え、別にルシェの魂とかでああいうことしたんじゃないよ」
「……へ?」
「あれはアイゼン男子としての行動というかなんと言うか……」
「む……、あーいうのはルシェの誇りよ」
「アイゼン魂だって」
「違うわルシェの……」
「アイゼンなんだって」
「あーはいはいはいはい。二人ともつまんないことで争わないで」
泥仕合になりかけたところでニコレットさんからストップが入った。
「コレル君、医務室に行くんでしょ?」
「ああ、そうだった。……君も一緒に行こう?少し休んだ方がいいよ」
「あ、ちょっ……痛っ!」
「?」
手を引いて医務室に行こうとしたとたん、彼女は小さく悲鳴を上げてしゃがみこんでしまう。
彼女が左足を押さえているのを、僕は見た。
「足……怪我してるの?……!ナイフを蹴り飛ばしたとき?」
「……あんたが急に引っ張ったからよ」
「ごめん……」
あの時彼女が一時的にでも男の手からナイフを弾いてくれなければどうなっていただろうか。
僕は自分が引いたせいで彼女が目算を誤り足を怪我したことにさえ気付かなかった……
「ほんとにごめん。すぐ医務室に行こう」
「え?ちょ!?」
「あら」
彼女を両手で抱え上げ、僕は立ち上がった。
ニコレットさんに後の事を頼んでおく。
「じゃあニコレットさん、あとはよろしくお願いします」
「あ、うん」
「こら、ちょっと!降ーろーせ!恥ずかしいでしょ!?」
「足を怪我したんでしょ?だれも変だとは思わないよ」
「そういうことじゃなくて……!!」
僕はさっさと歩き出した。
休憩所に人が集まっている分、廊下は静かで誰ともすれ違わない。
ふと彼女を見下ろすと目が合った。
彼女の頬が薄く紅潮する。
「……?あの?」
「ちっ……違うわよ!?これはその、あの、
……吊橋効果よ!あんたがあの後すぐこんなことするから……」
「え、うん。ごめん、よくわかんないけど」
「あぁもう!あんたって奴はどうしてこう人の心の隙間に入り込むようなことばっか……
あ、でも……こうして見ると……」
何を思ったのか、彼女は僕の顔をじっくりと観察した。
ポツリと呟きが漏れる。
「テチスナノナミチニテチミイ……」
「え?なんて?」
「っ、うるっさい!さっさと歩け!」
「はいはい……」
医務室はもうすぐそこだった。
そして、更に翌日。
僕達は今日もまず掃き掃除から始めるために裏庭に集まっていた。
そしてその日、僕達の顔には困惑の色が浮かんでいた。
昨日までそこにいなかった人がそこにいるからだ。
「えーと、その」
「何?」
「バレッタさん」
「だから何?」
「どうしてここに?あと、その格好は?」
そう、そこにいたのは彼女だった。
しかも昨日まで着ていた旅服ではなく、給仕用のいわゆるメイド服を着てそこにいる。
「……昨日捕まったあいつ、私から盗んだ奴じゃなかったわ。
私が騙されたのはもっと若い奴だったもの。
これ以上はもう盗まれたものは取り返せないだろうし、だから」
肩をすくめながら彼女はそう語る。が、そこまで言うと彼女は胸を張り、ふっきれた顔で続きを口にした。
「不本意だけど、ね。ここで働いてお金を貯めることにしたのよ。
もとよりお金が無きゃここからも離れられないし、しょうがないでしょ?」
「おいおい……ここの給金なんてたかが知れてるだろ?雀の涙ほどもないんだぜ?」
「ゼロじゃなければマシよ。何もしないよりはいいに決まってるわ」
「でも……いいの?当分帰れないし……信頼できる仲間がいなきゃって、前」
「だーかーら。それじゃ他にとるべき道があるかって、ないでしょ?……それに」
「??」
「その……少し一緒にいて、あんた達のこと信頼してみても、いいかなー……って、その」
その言葉を聞いて、僕はとても嬉しかった。
ついでに照れくさそうに言う彼女は非常に可愛かった。
「あ……ありがとう!」
妙に感激した僕に彼女はちょっと引いたが、すぐに気を取り直して
明後日の方向を見ながら「ま、ね」と言ってくれる。
「そういうわけで、これからよろしく!さ、仕事するんでしょ?さっさとやるわよ!」
「へいへい」
「うん!……あ、そういえば」
「何よ?」
「どうして給仕なのに僕達と同じ仕事してるの?」
「……」
彼女は黙り込んだ。
「……あの耄碌ジジイが……
お前はお客様の前に出ないで使用人の仕事をしろ、って」
あちゃー。
僕はハンコツさんと顔を見合わせた。
(……ハンコツさんもそう思いますか?)
(お前もか……)
「ちょっと……今なにアイコンタクトで話したのよ……」
「あ、いや別に!別に……賢明な判断だとか、まあ当然の結果だねとかそういうことじゃなくて……あ」
「……っ……!」
また地雷踏んじゃった?
ハンコツさんが呆れたように首を振った。
ああ、元旦那様。
僕は今日も元気でやっています。
そう、きっと。彼女という新しい仲間を加えて、ここでの暮らしはより賑やかになっていくだろう。
「悪、かったわ、ねっ!!」
――最後に見えたのは、かかとの後ろだった。
投下終了。
作中に出てくる種族の呼び名とか民族問題とかはゲーム中で聞ける様々なセリフ(アリエッタとか)
を元に自分で色々解釈、妄想したものなのでうっかり本編と矛盾するんじゃないかとgkbrしてたりします。
ちなみに『東の民』は完全に造語です。ご了承ください……
さて、次からもほぼエロは無しでまったり行きたいと思うので読んでくださる方はこれからもよろしく。
それではまた。
GJ!
あの強欲ジジイが孫を可愛がる良きおじいちゃんに思えてきた不思議!
GJ!
ルシェ語は便利だよね。今後の二人の進展に期待!
ちなみに自分はエロ有りでもエロ無しでも全然オッケーさ。
ルシェっ子、実は複乳説
ハルカラは複貧乳
そんな歪んだ電波を受信したんだが、
もちろん送信主はここの住民だよな?
さて、ここにはエロイ奴は多いが
そこまでカオスな電波を発せられる奴は少ないと思う
可能性としては萌えスレ住民のほうが高いk(カリユゥゥゥゥゥゥゥゥゥ
俺が昨日送信したのは、イクラクンをじゅっぽんじゅっぽんに触手調教すると言う、
いたってノーマルな電波だから違うぞ。君のような変態と一緒にしてもらっちゃこまるね(キリッ
お久し振りです。
諸事情によりだいぶ間があいてしまいましたが、最後の選択の続き投下です。
注意事項
・エロ無し
・ヤマナシオチナシ
・最終回
・一部キャラの酷い扱い
こんなエンディング認められるか!な方はタイトル「選択の未来」NGお願いします。
306 :
選択の未来:2009/09/23(水) 00:30:34 ID:Ugk64TeA
「くっ……」
甘く見過ぎていた。
刀を振るうだけなら片腕でもなんとかなる。二刀流訓練の賜物だ。
だがしかし……
世の中ただそれだけでなんとかなる敵ばかりではない。
私の目の前に鎮座しているこの敵も、まさにそれだ。
さっきから何度も何度も何度も何度も攻撃を試みるが、一撃も入らない入れられない。
全て易々と回避されるのだ。敵はただ無言で黙々と私の攻撃を避け続ける。
もしこいつが人の言葉を話すことができたならば、きっと私を見下し嘲るだろう……
腹立たしい。
何が何でも、この敵だけには、いますぐに、絶対に、なんとしてでも、勝つ!
心を落ち着かせて、もう一度渾身の一撃をっ!
【miss!】
ぐっ……いま一度!
【miss!】
これならばどうだ!
【miss!】
何故だ…!何故……!何故………!?
左腕にうまく力が入らない。指先が痺れている。
集中力も切れてきた。冷静さを欠いた攻撃など、当たる筈もなし。
これ以上戦っても、私に勝ち目はない……これが私の限界なのか?
……現実はなんて非情なのだろう。信じたくなくとも、信じざるをえない。
私は負けた。ただそれだけ。それが揺るぎない現実……
「すまない…エリス……」
謝罪の言葉を口にして、私はやがて訪れるその時を待つ。
戦いに敗れた愚かなサムライの末路……
もきゅ、もきゅもきゅごっくん……
「ソウマ様、いかがでしょうか……?」
いつものように不安げな様子でエリスが尋ねてくる。もう少し自信を持ってもいいだろうに。
その右手には箸が、そして左手には、今しがた私が惨敗を喫した茶色い悪魔、
『アイゼン芋の煮転がし』がたっぷり乗った皿が。
味は素晴らしいのだが、この独特の丸みがとにかく厄介極まりない。
本当にとにかくよく滑る、転がる、逃げる、掴めない!
……筈なのだが、エリスは一度も失敗することなく芋を掴み、私の口に運んでくる。
……正直な話、かなり恥ずかしい。
純アイゼン民である私が、ろくに箸が扱えないのもそうだが、
なんというか、こうやってエリスに食べさせてもらうことが非常に恥ずかしい。
いや、偏に箸スキルが悲惨な私のせいではあるが……
勿論、私とて向上心は持っている。毎夜毎夜、ちゃんと箸で豆を掴む訓練をしている。
なのにこの体たらく。ちなみに昨夜の夕飯である『豆腐と艶やかゼリーの辛味噌和え』にも、
豆腐(絹)とゼリー(鮮度抜群)の連携の前に何も出来ないまま惨敗した。
その更に前日の夕飯の『のぉぶるくらうどん』にも惨敗している。
……
そもそもメニューの掴み難易度が星5クラスなのも原因かもしれない。
いやまさか…エリスがわざとそんなメニューばかりを選ぶはずもなし。
これは本当にたまたま偶然なんだ。私の技量の問題なんだ。
そう…エリスと暮らし始めて一月、毎日このやりとりをしている気がするが、偶然なのだ。多分。
しかし……あれからもう一月も経つのか…………
307 :
選択の未来:2009/09/23(水) 00:31:48 ID:Ugk64TeA
一月前……
人間と竜、その存亡を賭けた最後の戦い日、各地で無数の竜との戦闘が繰り広げられた。
最後の帝竜を撃破し、援軍も加わり勢いに乗った人間が優勢な街。
前の大戦にて騎士の大半を失い、陥落寸前の連邦国。
何があったか、覚醒した王自らが最前線に飛び出したらしい我が母国。
その技術で、被害を最小限に抑えようと奮迅する学都。
竜が出現したその日から戦い続け、この最後の戦いも変わらず戦い続ける帝国。
魔を退ける結界を張り巡らせ、ひたすらに耐えぬく諸島国。
そして紅い塔にて、巨竜と死闘を繰り広げる英雄。
戦況や規模は全てバラバラだが、誰もが未来を守るために戦った。
結果から言えば、人間は勝利した。
しかし犠牲者は当然いる。各地の名もなきハントマン達、そして……
カザンの英雄ギルド【ユグドラシル】もその犠牲者に含まれている。
ユグドラシル……四人のローグで編成された少数精鋭の超攻撃型ギルド。
あの日彼らが真竜ニアラに用いた戦法は、『サクリファイス』の連続使用だった。
サクリファイス…使用者の生命力を爆発させ、敵に致命傷を負わせ、味方を癒す禁断の技。
代償に、使用者は跡形もなく消し飛ぶ。奇跡の力を持ってしても骨ひとつ再生できない程に。
彼らはそれを、四人全員が使った。
その瞬間は、カザンで戦っていた私達にも聞こえ、見えた。
爆発が発生する度にニアラの左翼、右翼、胴体がそれぞれ粉々に砕け散っていき、
最後は光り輝く大剣がニアラを貫き再生を封じ、止めの四度目の爆発で真竜を完全に消滅させた。
それと同時に、私達が戦っていた竜も全員が煙の如く消え去った。
……その時の場の空気は喜び半分悲しみ半分といったところか。
ハントマンとして少しでも戦闘スキルを把握していれば、あの爆発の正体がわかるだろう。
況してやカザンはハントマンの聖地。住人のほぼ全てが理解していた。
竜は消え、平和な世界は戻ってきた。しかし彼らは戻ってこないと……
戦闘が終わり、建物内に避難していた住民も徐々に姿を見せるが、
それらの人々も、場の空気で何があったかを理解してしまった様子だった。
ある家の少女は泣き崩れて兄に慰められて…
またある家の少女は口に咥えていたエビフライを落として立ち尽くし…
先程まで竜と死闘を繰り広げていた王者の剣ネストルは涙こそ流さなかったが、
一言だけ「馬鹿野郎……」と呟いていた。
そして……おそらく英雄達との付き合いが一番長いであろうメナスも遅れて呟いた。
「ユグドラシルが…やってくれた…」
その言葉を聞き、泣く者、呆然とする者、全ての人間が空を見上げた。
視界に入るのは、澄み渡った青空……この星本来の姿だった。
確かに、平和な、元通りの世界が、そこにあった。
308 :
選択の未来:2009/09/23(水) 00:33:15 ID:Ugk64TeA
それから一月経った現在……私はエリスと二人で、森の奥でひっそりと暮らしている。
アイゼンの自宅を売り払ってまでここに移り住んだのはいくつか理由がある。
まずはやはりアイゼンは二人では暮らしにくいことがあげられる。
多少緩和されたが、やはりアイゼンの人間とルシェが共に暮らすことへの周囲の反応は冷やかだ。
故にすぐ飛び出した。エリスが気の毒であるし、私も切り裂き魔になりかねない。
幸い、何故か考え方の変わった王とその家臣が抜本的構造改革をするとの噂もあるので、
それまではアイゼンに近寄らないことにしよう。
二つ目の理由、それはここが私とエリスにとって特別な場所だからだ。
そう、私とエリスが初めて出会ったあの森だ。
やはり数奇な運命、原点回帰は必要だろう。二人きりの静かな空間というのもいいものだ。
ちなみに、(ある意味)この森に来てエリスと出会うきっかけを作ってくれた、
父上+二名の墓も家の傍に作っておいた。
僅かばかりの感謝の念と弔いの意味を込めて作ったのであり、
決して、供養しないとまた化けて出てきそうだとか思ったわけではない。
閑話休題
そして理由その3。最近これがある種一番の理由になりつつある。
ズバリ、人に会いたくないのだ。
別に『私とエリスの愛の巣窟に近寄るな』とか言うつもりはないが、
『私とエリスの時間を奪うな』とは言いたくなってしまう。
原因はまたしてもあの憎きメナスだ。
一月前、英雄の弔いもろくに終らぬなか、私とエリスとリア…そして王者の剣が奴に呼ばれた。
飛び出た言葉は
見えますか大統領(省略)竜がいなくなってもお前たちのやるべきことは変わらない。
というわけで両ギルドとも次はこのミッションをクリアしたまえ。
ミッションの内容は覚えていない。
そもそも言う前にその場にいた全員でエグゾーストスキルを三連でたたき込んでやった。
お前もっと他に言うべきことがあるだるだろうと。せめて散った英雄に言うことはないのかと。
しかも何故未だ上から目線なのかと。本当に疑問がつきない。
しかも腹立たしいことに、メナスの発言もあながち間違ってはいないのだ。
竜の襲来で忘れられがちだが、そもそもハントマンは竜襲来以前から存在していて、
その主な役目は、困った人の手助けから魔物の退治まで多岐に渡る。
竜がいなくなっても、『昔の元の姿』に戻るだけで、ハントマンは変わらず存在するし、
竜以外の魔物も普通に各地で暴れ続けているのだ。
つまり、メナスの言葉を要約すると、
『お前たち今すぐユグドラシルの代わりに溜まった仕事片付けてこい』
ということだ。
309 :
選択の未来:2009/09/23(水) 00:34:30 ID:Ugk64TeA
……それ以来人目を気にする毎日なのだ。
ヘイズ戦、及び最終決戦で無駄に私達の名が広まった結果、依頼量が凄まじい。
ちょっと外に出て誰かと会話するだけで、
クエスト【刃こぼれした刀を100個集めて!】が発生しました
クエスト【官能の奉仕者を無傷で捕獲せよ!】が発生しました
クエスト【十万貸してください】が発生しました
この有様。しかもどれも受理したくないクエストばかりときている。
ユグドラシルがいなくなり、必然的にNo1ギルドとなった王者の剣はさらに悲惨らしく、
1週間前偶々会ったネストルはひどくやつれていて、
「俺……クエストが全部終わったらユーリィと結婚するんだ……」
と言い残して森に消えた。その手に【白銀水を100個集めて!】と書かれた紙を持って…
実に嫌なフラグだ。しかも私自身にもあてはまりそうだし……
さらに問題なのが、この森奥に建てた家の存在が一部にばれているらしいことだ。
少し前から、わざわざ玄関の手紙受けに直にクエスト依頼書を入れてくる連中がいる。
何故ばれた、何故平穏な日々を過ごさせてくれない、何故無茶を言う!
……そうこう言っている間に手紙受けの前に立ってしまった。
ああ開けたくない。実に開けたくない。
朝食を終えて現在の時刻は7時を少し過ぎた程度。
この時間から満杯だったら、またしても1日の殆どがクエストで終わってしまう。
頼むから入っていないでくれ。たまにはゆっくりさせてくれ。
あけるぞ?あけてしまうぞ!?
ガチャドドドサー……
片手では抱えきれない量の依頼書が雪崩てきた。
うん、わかっていたさ。だがへこむ。
「ソウマ様、今日は…やっぱり駄目みたいですね……」
様子を見に来たエリスは私の顔を見るなりその耳をへたらせてしまう。
多分今の私の表情は、諦め混じりの半笑いなのだろう……
「えっと…とにかく内容を見てみませんか?もしかしたら簡単なものばかりかもしれません!」
うむ、確かに一昨日の依頼【コルリアロールが食べたい!】はすぐに完了した。
……その次の依頼【ゼンダメンマが食べたい!】で一日中筍掘りをする羽目になったが。
だが希望は捨ててはいけない。さて…今日の依頼は……
【デリカ鉱石を20個集めて!】
「「はぁ……」」
エリスと揃ってため息ひとつ。
まだマシな部類だが、今日は一日山で過ごす羽目になりそうだ……
310 :
選択の未来:2009/09/23(水) 00:35:50 ID:Ugk64TeA
「【モテモテ騎士が憎い!】…だからどうしろと?」
「【処分に困っているフロワロシードをなんとかして!】…これは無視できませんね…」
机の上に依頼書をエリスと二人で仕分けする。
ふざけた依頼から、本当に緊迫状態の依頼もあるため確認は怠れないのだ。
「【ポータルレー修理依頼】………ポータルって壊れるんですね」
「【エリスさんを私にください!】…誰が渡すか!というよりこの字は店主だな?!」
以前エリス宛てに『良き妻になる方法エプロン編』などの本が送られてきたりと、
アイゼンの万屋の店主とは今も交流はある。
他に野菜を送られてこともあるので感謝はするが、これは別だ。
仮に悪ふざけだとしても一撃はいれる。そもそもあの日の覗き行為のこともあるし。
「【かわいげを手に入れてくれ】……え?」
「これは手紙か…【無料招待券。たまには会いに来てね】……リアか…元気そうだな」
リアとは決戦の翌日に別れた。
『二人の邪魔しちゃ悪いから……』とのことで、リア自らの申し出で。
最初は一人で大丈夫かと不安だったが、すぐにニギリオの宿に就職したあたりが逞しい。
アリエッタや他の従業員と協力して、ニギリオの宿乗っ取り計画を企てたらしく、
こうやって『無料』の招待券が発行されているところを見ると、計画はかなり順調な様だ。
ちなみに主な乗っ取り方法は全従業員による調教鞭打乱れ打ちらしい。
少々手荒な気がするが、あそこの連中もルシェを奴隷扱いしていたのだから、
自業自得、因果応報というやつだ。
「リアさんもアリエッタさんも元気みたいですね」
「ああ、時間に余裕ができたら顔を見せないとね…」
「でもソウマ様、その招待券の後ろに張りついている個室肩揉み券は使わないでくださいね?
わざわざ個室のあたりが……凄く嫌な予感がするんです」
「わ…わかったよ……」
確かに私もなにかを感じる。肩揉みがエスカレートしそうなそんな予感が……
せっかくだがこの券は封印しておこう……
「これは…ユーリィさんから?【ネストルを探して!】…え?」
「こっちも同じ内容だ。ゲンブ殿からだが【森で行方不明のネストルの捜索願い】……」
……これは最優先で受理すべきクエストだな。
今日はいつも以上に疲れる一日になりそうだ。
「マイソウルメイト!ここを開けてくれたまえ!」
「……この独特な声は…」
「ハノイだな…何故この場所が……」
本当に、いつも以上に疲れる一日になりそうだ……
311 :
選択の未来:2009/09/23(水) 00:37:00 ID:Ugk64TeA
渋々玄関扉を開けると、案の定そこには桃色の髪が嫌でも目立つハノイが。
「ハノイか…久しぶりだな。悪いがこちらも忙しくてな。
クエスト依頼ならまた…別の日…に?ハノイ、となりの女性は誰だ?」
正直追い返すつもりだったが、ハノイの他にもう一人来客がいて機を逃してしまった。
背丈はエリスより少し高い程度の、ハノイに負けず劣らず目立つ桃色の髪と耳を持つ少女…
姿格好からしてハントマンと思われる。得物は両手剣か……
「えっと、初めまして。ボクはハルカラ。その節は主人がご迷惑をおかけしたようで……」
「初めまして。私はソウマ。別にご主人に迷惑をかけられたことは……はい!?」
待て。かなり待て。超絶待て。今この少女はなんと言った!?主人…!?
「そうそう、迷惑なんてかけてないさ!彼らは僕のソウルメイト、いわば分身なのだから!
それはさておきマイソウルメイトよ!今日は君たちにお知らせがあるんだ!
僕はついに見つけたんだよ!真実の愛、TRUE LOVEを!ついに僕の愛が受け入れられたんだよ!
もう孤独な愛狩人ではないんだ!愛狩人ツインズなんだよ!
今度僕たち結婚するんだよ!」
「「――――――――――――!!!!????」」
誰か叫び声を抑えた私とエリスを褒めてくれ。
寝耳に水なんて生易しい衝撃ではないぞこれは!寝耳に30o機関砲でもまだ足りない!
ハノイが、結婚だと!?この少女と!?まだ小さいのに!?
いや待て、その理論だとエリスに手を出した私もアウトだ!
ああ違う違う落ち着くんだ私!この場合言うべきことは……
「そ…そそうか!よかったなおめでとう!」
「お…おめめととござざいますハノイさん!」
よし言えた!
「ありがとうマイソウルメイト!これが結婚式の招待状さ。是非きてくれよ!」
式場・ミロス大聖堂……本当に結婚するのか…あのハノイが…
マレアイアにて醜態を晒したあのハノイが……私よりも先に……
なんだこのよくわからない敗北感はっ!?
しかし…私達がハノイのクエストを手伝ってから、まだそんなに時は流れていない。
この短期間の間に何があった!?
312 :
選択の未来:2009/09/23(水) 00:38:21 ID:Ugk64TeA
「ハノイ、ひとついいか…?」
「なんだい?」
「彼女…ハルカラさんとはどういう経緯で知り合った?」
「あぁ、あの真竜ヘイズ討伐作戦の日に…ごめんよ、君たちにとっては思い出したくない日だね」
「いや…構わんよ」
「あの日僕たちも君たちと同じように前線に駆り出されてね。
あの剣の群れに散々追い掛けられて…気付いた時には僕とマイハニーは囲まれていたのさ。
もう駄目か…そう思って二人で最後の抵抗でエレメントフォロアを使ってみたら……
凄いきたね!一撃であの剣を倒したからね!見事な愛の連携プレイ!
生半可な相手とじゃあんな連携できっこない!つまり……」
話が長い…愛は盲目とかいうやつか。
早い話が、極限状態の中での奇跡的連携と同じ髪色に二人共運命を感じたらしい。
私が驚いたのは、ハノイが普通に戦闘をこなせることだ。
ずっと一人旅をしていて勝手に強くなったとのこと。ついでに3色全ての魔法も使えるらしい。
……人を見かけで判断するものではないな。
「…して僕たちの愛は確固たるものになったのさ!ラブって素晴らしいよね!」「…あぁ」
「君たちもラブを大切にしなよ!それじゃ僕はそろそろ失敬するよ。行くよマイハニー!」
「はい、あなた!」
桃色のオーラを出しながら、ハノイ…いやハノイ夫婦は去って行った。
「まるで嵐だな……」
「えぇ……」
懐の時計に目をやれば、短針がひとつ進んでいた。
一時間も語られたのか……
「少し時間が押したか…手早くクエストを終わらせるとしよう。
一通りの道具はあるな。よし、行くぞエリス」
「はい……あなた」
313 :
選択の未来:2009/09/23(水) 00:40:49 ID:Ugk64TeA
……………………
「きゃああああぁぁぁ!?ごごごごごごめんなさい!
悪気はないんです!ただハノイさん達を見てたらなんかそう言いたくなったといいますか、
気の迷いといいますか、羨ましかったといいますか、ああそうじゃなくて……
とにかくソウマ様本当にごめんなさい!」
「何をそんなに慌てているんだ?むしろ様を取った呼び方だから嬉しいくらいだぞ?」
半分嘘だ。内心私も凄く慌ててる。なんだこの感情は……!
ハノイ夫婦の妙な空気にあてられたか……?
「ハノイ達が羨ましいなら、私達も今すぐに式を挙げてみるか?そうすれば完全に問題はない」
「なっ!?だ…駄目ですよ!ソウマ様がゆっくり落ち着いてからって言ったんじゃないですか!」
「そうだったか?」
「そうです!そそそれじゃあ早く行きますよ!ネストルさんがきっと助けをまってます!」
「そうだな……では行くとしようか、奧さん?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!??」
不意打ちの仕返しにこちらも軽く不意打ちで返すと、
エリスの顔は急速に赤く染まっていった。もっとも私も負けてはいないだろうが……
我ながら頭のネジが抜け落ちすぎである。なんとまあ恥ずかしいことを!
……恥ずかしいついでに、本当に仕事全て投げ捨てて式を挙げてしまおうか?
いやいや、流石にそれはまずいか。やはりけじめはつけないとな。
ほんの少し未練があるが……
「ほら、行きますよソウマ様!」
顔を赤くして、けれどどことなく嬉しそうなエリスに左手を引かれ、
私は今日も、そしてこれからも、愛する人と共に忙しいながらも幸せな日々を過ごしていくだろう。
以上です。
エロくもないのに長々と投下してきましたが、一応今回で最後です。
ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございます。
それではまた。
乙&一番槍GJ!!!!
夫婦のバカップルぶりにニヤニヤが止まりませんw
きっと息子が出来たら旦那が、娘が出来たら嫁さんが嫉妬しまくりなんだろうw
何にせよお疲れ様でした
>>314 初めて読んだ時から貴方の作品のファンでした!
ソウマ&エリスの結婚式やその後のことを考えるだけで
ニヤニヤが止まりませんwww
素敵なお話ありがとうございます!
そして本当にお疲れ様でした!!!
次のお話も楽しみに待ってます^^
GJ!
ニヤニヤがとまらなくて困るwソウマもエリスもお幸せに!だがハノイ、てめーは駄目だ!
終わってしまうのが少々残念だが、次の作品も期待して待ってるよ!
本当にお疲れ様!
>>314 GJ!とうとうこの二人の話もおしまいか・・・
もしよかったら結婚後の番外編かなにかを・・・(チラッ
いや勿論新しい話も期待してますよ?
しかしとにかく今はお疲れ様でした!
セブンスとセクロスを読み間違えて
こんなスレに来ちまったがどうということは無かったぜ
にあら「グレイトフルセクロスなのだぞ!
――来た、セクロスだ!
エメル「私はセクロス一筋で今日まで生きてきた
(性的な意味で)異端の学都プレロマ
ネバンとは強い関係がある(せr
プレロマの住人は知識ばかり先行してぶっかけとか前立腺責めとか変態的なプレイばかりしてそう
代理保管庫さん地味にしっかりとお仕事してるのね
お疲れ様です&ありがとう。
【連載系】のシリーズ名で少し吹いたw
誰も見てない今なら言える
ハルカラたんはアルジャの性奴隷
逆だろ
むしろSっぽい紫姫が受けにまわるほうがだな
ヤンデレナイトが物陰から「私の姫様に…!」と歯ぎしりギリギリ
そのヤンデレナイトが金髪ツインテだと俺によし
俺以外誰得だがw
ビリッチ→アルジャの恋愛要素ナシの独占欲とか美味しいです
ナイトと姫の百合ん百合んは俺の大好物だと知っての発言か
それが外見オンリーでも良い人間だけどな! 過去投下された女装鬱姫と堅物ナイトの物語とか大好きだよ…
ところでファイターのブーン(斧持ちノットでこ)が長身短髪の女性に見えるのは俺の心の目がおかしいからでしょうか
従者の分際で主の鬱姫の後ろの穴だけを徹底開発する金メイジさん可愛いよ
>>330 アローフォロア失敗してローグにぐりぐりされるとこまで異常ありません
ようやく設定画集を入手。
そしたらバントロワの服が地味にエロい事を知った。
あれってハイレグ、だよね……?
異常ありません!
336 :
◆Y62mw7fowc :2009/11/03(火) 20:15:52 ID:e9BnkggX
だあああ前回の後半書き直してぇ!こういうときはどう気分を変えればいいのでしょうか、お焚き上げですかね?
ともあれまだ楽しみに待っている作品の完結を見ていないのにこのスレを死なせるものか。
>>287-298の続きを投下に来ました。
以下人名対象一覧。
コレル:使用人NPC(銀)。奴隷根性の染み付いた使用人青年。
バレッタ:給仕NPC(金)。ネバン出身ルシェ魂至上主義の少女。
マンザラ:使用人NPC(茶)。偉いやつは大嫌いなコレルの顔馴染み。
ニコレット:給仕NPC(金)。ベテランでにこやかな先輩。
今回大して内容もないのにびっくりするくらい長文になってしまいました。
NGは『ニギリオいいとこいちどはおいで』でどうぞ。
最近ますます仕事に身が入るようになってきた。
きっとここで働くことを通していろいろ楽しいことがあるからだと思う。
ところで、これを読んでいる君の時代、君の住む国には主にルシェか人間、どちらが住んでいるだろうか。
あるいは両方?
君の時代にはどうだか知らないが、少なくとも今現在ルシェと人間の男女が添い遂げることはかなり大変なことだった。
二種族が平等じゃない国に生まれたら高確率でアウトだし、
そもそも種族が違うゆえに本能的なストッパーがかかるせいで恋愛感情を持つ場合自体が少ないと言われている。
おまけに例え結ばれても、ルシェと人間との間には子供が生まれない。
いや、生まれないことはないのだが極めて生まれにくいというべきか。
奇跡的に子供が出来たとしても、ルシェとも人間とも違う姿をしたその子は
どこの国でも好奇の目で見られることになる。
ルシェと人間とが結ばれるということは、そういう茨の道なのだ。
……だけど。
それでも、どんな苦難が待ち受けていたとしても愛さえあれば……
そう思わせてしまうのが愛という物なのかもしれない。
――――――――――――――――――――
コレルです。
今日もこのニギリオの宿で低賃金重労働に励む僕の生活は、
最近とみに張り合いが出てきて楽しいことこの上ない。
その原因は、今僕の隣で同じように掃除用具を抱える彼女だ。
バレッタさん。
はるばるアイゼンにやってきたところ詐欺に遭い、ここに置き去りにされた生粋のネバン・ルシェだ。
そんな不幸にもめげず、今は帰国の旅費を稼ぐためにここで働いている。
若干気性が荒いのが玉にキズだが、その威勢のよさからは思いつかないくらい物分りがいい人だし、
何より生来のさっぱりした性格がうけてネバン人にもかかわらずここの人たちにもすんなりと受け入れられた。
ちなみに僕としては。
ここで働くことになったのも不本意そうながら、やることになった以上はしっかりやると
不慣れな様子で一生懸命仕事に励む彼女を見ていると、なんというか、こう……
できれば二人でお茶したいです。
休日何それ食べられるの?な僕には縁のないことではあるのだけれど。
「今日から私も正規シフトね」
「そうだね」
彼女の新人研修も終了し、今日からは正式な戦力としてフル回転してもらう。
仕事に関しての基本的なことは僕とニコレットさんとクタベさんの三人がかりで教え込んであった。
「よっし、やるからには徹底的に、ここのベテランにも負けない手際を見せてやるわ。
ネバン式の掃除を目に焼き付けることね」
「それはいいんだけど。掃除の仕方が乱暴で床に傷がつきそうなんだよなぁ……」
「ええ?あのくらいやんなきゃ汚れも落ちないし、磨けないんじゃない?」
「ネバンプレスとは建築様式も床材も違うんだよ、もっと丁寧にやってもらわないと」
「むう。仕方ないわね」
口を尖らせる彼女に少し笑いをこぼし、
それからもう一つ注意しておくことがあったのを思い出して笑いを引っ込める。
「ああ、それと。いくら掃除・雑用方面の従業員だって言っても、
バレッタさんは給仕服を着てるからお客さんから話しかけられることがあると思うんだ」
「そういえばそうね。……分かった。任せといて、接客だってバッチリこなして――」
「いや、そういう時は無理せず僕を呼んで」
「……………」
げしっ。
ローキックが飛んできた。
ちなみに、先程彼女の事を若干気性が荒いと評したけど実際どのくらい気性が荒いのかというと、
本来彼女は女性なので給仕として接客に回されるはずが
(建前上は男女平等ってことになってるけど、実際野郎より女の子に給仕してもらった方が嬉しいよね)
ジェン爺の『こんな奴をお客様の前に出せるか』という理由で使用人に回される事になったという程度だ。
ただ、使用人用の制服で彼女に合う物が無かったため格好だけは給仕服だったりする。
ついでに言うと彼女は割と脚癖が悪く、怒らせると高確率でキックが飛んでくる。
ネバンプレスにいた頃はコミュニケーションの一つと言ってもいいくらいだったそうだが、
最近僕がネバン・ルシェほど屈強ではないということを理解してくれたらしく
当たってもそんなに痛くないくらいには手加減してくれるようになった。
ただ、彼女にはそれとは別に思いもかけないことがあると反射的にキックを見舞うという悪癖があり
(この前はモップの持ち方を指導しようとしたらうっかり手を握ってしまい蹴り倒された)
この場合は無意識なので手加減の仕様もなく大概ノックアウトされる羽目になる。
正直なんとかして欲しい。
「今日も元気そうだな」
とまあそうこうしているうちにクタベさんがやってきた。
改めてこれから初仕事ということで、バレッタさんが真面目な顔で気をつけの姿勢をとる。
「バレッタは今日から本格的に仕事開始だな」
「はい」
「まあ、特別に気負う必要はないから教えたとおりにやりなさい。頼んだぞ?」
「はい!」
「それと、コレル」
「なんですか?」
「コレルにはバレッタと組んで貰おうと思う。先輩として色々手助けしてやるんだぞ」
「えぇっ!?」
「……何よ、嫌なの?」
「え!?う、ううん!そんな事ないよ」
そんな事はない。むしろ願ったり叶ったりだ。
でも、なぜ?
知っての通り僕もせいぜい勤務数ヶ月で、新米もいいところだ。
彼女の付き添い役としては不適当なんじゃなかろうか。
……もしかして、気を回されてる?
いやいやいや。クタベさんは気のいい人だけど、そんな理由ではさすがにないだろう。
だけど……願ってもない機会なのは事実だ。
ここはひとつ、好感度アップを狙ってみようかな?
というわけで僕は自分の仕事をこなしつつ、積極的に彼女のサポートをしてみることにした。
掃き掃除では細かくアドバイスを出し、水汲みのときは彼女の分まで少し多めに運ぶ。
他の作業でもあれこれここはこうするといいだとかこれはそうすれば楽だとか一々世話を焼いた。
……そして。
水を替えに行くついでに彼女の手にある花瓶を渡してもらおうと手を出したところで彼女が顔を上げた。
「……あのさ」
「うん?」
「私って、見ててそんなにトロい?」
「え」
「それとも危なっかしくて見てられない?それならはっきり言ってくれる」
「いや、そんなこと」
「だったらそんなに一々構わないで。
そりゃ、あんたと比べたら手際が悪いのは分かってるけど。さすがにこれじゃやる気が失せるわ」
「……ごめんなさい」
僕がうなだれると彼女は顔を戻し、また黙々と掃除の続きに入った。
……………
前途は多難なようです。
――――――――――――――――――――
そのお客さんがやってきたのは僕達が玄関先の庭を掃いているときのことだった。
「誰か来たわよ」
ニギリオの宿を背にして真っ直ぐ見た先に細く伸びる、森の外へと続く長い小道。
その小道から二人連れのお客さんがやってくる。
「ほんとだ」
いらっしゃいませと声をかけるにも微妙な距離だったので、
そこはかとなく気付かない振りをして掃除を続けつつ横目で確認する。
珍しいことに、それは質素な旅行用のコートを来たルシェの青年だった。
その後ろにはマントを羽織り、大きなフードを被った女性らしき人が歩いている。
時折後ろの女性を気遣うように振り返りつつ、青年はこちらに近付いてきていた。
十分距離が近付いたところで、僕は改めて顔を上げる。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませー」
僕とバレッタさんが続けて挨拶すると、二人は少し逡巡した様子で立ち止まった。
「あ……はい、どうも」
「どうも。……あの、つかぬ事をお聞きしたいんですが」
女性の方がおずおずといった感じで返事をし、青年の方が軽く頭を下げてから問いかけてくる。
「なんですか?」
「あの……こちらではルシェだけで泊まることもできるでしょうか?」
ああ、なるほど。
封建的なアイゼンにおいて、特に本国に伝わっているだろうニギリオの評判を聞いていれば
門前払いを食わされないかどうか心配になっても仕方ないというものだ。
僕は二人の心配を吹き飛ばすべく、とびきりの営業スマイルを浮かべつつ言う。
「はい、大丈夫ですよ。うちの主人はお金さえ払えばドラゴンでも泊める人ですので」
「……………」
いかん、ジョークを飛ばしすぎたか?
少し心配になったが、青年の方が気を取り直した様子で「そ、そうですか」と返したので流すことにした。
「では、どうも」
「はい。ごゆっくりどうぞ」
「……」
青年が歩き出し女性の方もぺこり、と頭を下げて青年に続く。
僕はそのまま見送ろうとした。
と、そのとき、脇を通り過ぎる女性の横顔を見たバレッタさんが『あれ?』という顔をした。
釣られて僕も女性の顔に目を向ける。
……おや、ほんとだ。
少し迷ったが、結局僕はその二人を呼び止めた。
「あの」
「はい?」
なんだろう、と行った感じで二人が振り向く。
「大変不躾な質問をさせてもらいたいのですが……」
「なんですか?」
「その……お二人はどのような関係で?」
その質問をすると、当然のことながら二人の顔にはいぶかしむ表情が浮かんだ。
「……それがなにか」
おっと、警戒心を呼び起こしてしまっただろうか。
そう思った僕は、慌てて弁解するように両手を振った。
「あ、いやその深い意味はないんです!ないんですけど、その……
……
人間とルシェのお客様の組み合わせの場合、一応お二人の関係を聞いておかないと
ご不快な思いをさせる場合がありますので!」
ぴたり。
二人の反応が止まった。
「……あれ?」
何かまずいことを言ったかな?
戸惑う僕達。
しばしの沈黙の後、やがて女性の方は、ゆっくりと、頭を覆っていたフードを外した。
「……………」
ツヤのある黒髪が流れ、側頭部にその髪の中から覗く耳が見える。
ああ、やっぱり。
よかった、うっかり見違えてルシェの人を人間と呼んでしまったのかと思った。
女性が口を開く。
「……何故、分かったんですか……?耳は隠れていたと思うんですが……」
なるほど。
どうして二人が絶句したのか、ようやく納得がいった。
耳を隠した状態でいれば、連れからして自分もルシェと見られると思っていたのか。
しかしどう答えたもんだろう?僕とバレッタさんは顔を見合わせた。
「何故、って言われても……、ねえ?」
「なんとなく、としか言いようがないわよね」
「なんとなくで分かるものなんですか……?」
二人が困ったように顔を見合わせている。
思いもよらないところでつまづいた、そんな感じだ。
少しの間重く沈んだ沈黙が流れ、青年の方が顔を上げた。
「あの……」
「って、ああ、いや、問題があるわけじゃありませんよ!?
事情がお有りでしたらこれ以上詮索もしませんし、他の人にも黙っておきます!
なんでしたらあの、受付とか僕が代わりに部屋を指定しましょうか……?」
「え、ああ……じゃあ、お願いできますか?それと私たちのことも一応」
「はい、何も知らなかったことにします、ね?」
「あ、うん。じゃなかった、はい」
「それじゃこちらへどうぞ。えと、できるだけ人の集まるところから離れた部屋でいいですか?」
青年の方が肯き、女性がフードを被りなおす。
そして僕は二人を先導し、宿の中へと案内していった。
――――――――――――――――――――
「なんだったんだろうな、あの二人」
僕は仕事に戻りつつ、あの二人の事を考えていた。
人目を忍ぶようにやってきた年若い二人連れ。
「なんだか世間慣れしてない感じだったよな」
普通人には国ごと、あるいは民族ごとにある程度共通した外見の特徴があり、
その人がどこの人なのかは顔つきを見れば大体分かるものだ。
同じように人間とルシェも大体見れば分かるもので。
それが分からないとなると……あまりたくさんの人に接することのない上級貴族。
あとはあの青年の女性の扱い方からするに、貴族の娘とその専属使用人といったところだろうか。
それならあの二人に漂っていた微妙な箱入り感にも頷ける。
と、その組み合わせで考えられることといえば。
「駆け落ちかな?」
確証はないが、なんとなくそんな気がした。
あの二人の世を儚んだような雰囲気がそう思わせたのかもしれない。
と、気が付けば手が止まっていた。
いけないいけない……そういやバレッタさんは?
「だーかーら!ここは禁煙だって何回言えば分かってくれんのよ!!」
「げ」
言わんこっちゃない。
お客さんとトラブルの真っ最中だ。
「固いこと言うなって、ここには他に客もいないしよ、迷惑をかけてるわけじゃねえだろ?」
それは壮年のお侍さんだった。
廊下のベンチに腰掛け、地団太を踏んで憤る彼女をよそに煙管をふかしている。
そして言葉を交わすたび彼女のボルテージは上がっていく最中だった。
「他に客がいようがいなかろうが、ここでタバコはダメなの!」
「お前さんなぁ……こっちが煙草を吸う権利だって考えてくれてもいいだろうよ」
「禁煙場所での喫煙権なんて知ったこっちゃないわ!とにかく……」
「ったく……これだから話の通じない亜人層の下働きはよう……」
「な、ぁ、ん、で、す、っ、て……!!」
やばいっ!
ネバン・ルシェに『亜人』は禁句だ!
「ふざっ……!」
「ストーップ!落ち着いて、下がって!」
「コレル……」
「申し訳ありませんお客様、働き始めて間もないんでうまくご案内できないんです!
ここではではおタバコを吸うお客様も吸わないお客様も快適に過ごしてもらえるように、
喫煙場所と禁煙場所を分けてあります。あちらが喫煙場所になりますので、ご協力願えませんでしょうか!?」
彼女を背中に押しやりつつ必死で弁解をまくし立てる。
幸いお客さんは大して腹も立てずに納得してくれた。
「ん、ああ、喫煙所があるのか……分かったよ、最初ッからそういってくれりゃ……」
「ありがとうございます……」
のしのしと喫煙場所に向かって歩いていくお侍さんをホッとしつつ見送る。
がるるると唸りつつきっ!と中指を立てるのを慌てて下ろさせると、彼女は憤然とそっぽを向いた。
「ふんっ!」
「……………」
「……何よ?」
「別に……」
どうして僕が彼女と組まされたのか、分かった気がした……
――――――――――――――――――――
「……ってことがあったんだ」
「そりゃお前、確実に押し付けられてるだろ」
「やっぱそう思います?」
夕方の休憩時間、僕達は使用人控え室にいた。
ちょうどそこにいたハンコツさんも交え、座って休みながら雑談する。
「僕だって新米でとてもバレッタさんをカバーしきれないのに。
でも、使用人頭の仕事だけじゃなくてジェン爺に反抗的なメンバーのご機嫌とって
働かせるのもクタベさんの仕事だしなぁ、文句つけるにはちょっと可哀想だし」
「そうだよな、あの人いっつも苦労ばっかしてよ」
「反抗的なメンバーの代表格みたいなハンコツさんが何を言うか。
どうせならニコレットさんを見習ってくださいよ、
きちんと働きがてら経営のノウハウを盗んでいつか独立してジェン爺を見返してやるとか、
ハンコツさんもあんなんならクタベさんも楽なのに」
「わかっちゃいるけどよ。なんかあのジジイに指図されるとやる気無くすんだよな」
「もう……と、バレッタさんはまだ機嫌悪いまんまだし」
「当たり前よ」
「客に殴りかかりそうだったってくらいだからな……って、いつものことか」
「なんですって」
「落ち着いて」
本当にやれやれだ。
バレッタさんの肩を抑えつつ、ふとそこで僕はあることを思い出した。
「あ、そうだ。そろそろあの二人に食事の事を聞きに行かないと」
「うん?……ああ、あの二人ね。私も行くわ」
二人連れでやってきた男女のお客さんの事を思い出して席を立つと、彼女も続いて立ち上がった。
残ったハンコツさんが首をかしげて聞いてくる。
「誰のことだ?」
「ちょっと」
「ん、おう」
と一旦納得してから、
「……なんだ、もう二人の秘密を作る仲になったのか」
意地悪げな顔でニヤニヤとした笑いをハンコツさんは向けてくる。
おのれ、人の気持ちは知ってるくせにからかったな。
「そういう悪趣味な冗談は……」
僕は苦い顔で文句を言おうとする。
言い終わるより先に、彼女がフロントキックで椅子ごとハンコツさんを蹴り倒した。
唖然とする僕の目の前で派手な音とともに椅子が倒れ、何かを打ちつけたようなゴンという音が響く。
「私、そういう冗談は嫌いなの」
「いつつつつこの暴力女……」
「ふんっ。いくわよ、コレル」
「え……い、イエッサー」
ハンコツさんのことは気になったが、僕は彼女について部屋を後にした。
ずんずんと先に進む彼女の背中を追いかける。
それにしても、さっきのは少しだけ驚いた。
口より先に手が出るを体現するような彼女のこととはいえ椅子ごと蹴り倒すなんて……
もしかして、相手が僕だったからとか?
うう、そんなに嫌われているつもりはないんだけど……
「コレル」
「っ!」
と、急に彼女が立ち止まってこちらを向いた。
「な、何?」
どぎまぎしながら答える。
「……………あの二人の部屋って、どっち?」
「……こっち……」
彼女を連れて、僕はニギリオの宿の端っこのある部屋に向かう。
「お風呂からも裏庭からも離れたところを選んだのね」
「できるだけ人と会いたくないみたいだったから。受付にも食事のお伺いとかは不要みたいだって
伝えておいたから、変わりに僕達が行っておかないとね。あ、そこだよ」
やがて見えてきた一室を指差し、僕は立ち止まった。
「ここ?」
「そう。って、あ」
「ここね」
その僕が指差した部屋の戸に、彼女がためらいなく手をかける。
「ちょっ、ノックが先……」
「失礼しまーす」
制止する間もなく彼女はその勢いのまま戸を開け、
そして凍りついた。
まあ、なんというか。
『自分の部屋に恋人を連れ込んで、取り留めのない話をしているうち空気が桃色に、
だんだんそんな気分になってきて、そしていざ事に及ぼうとしたところで
空気の読めない姉が部屋のドアを開けた』
そんな状況だった。
凍り付いているのは向こうも同じ、とてつもなく長く思える数瞬が流れる。
「……失礼しましたっ!!」
いち早く我に返った僕は彼女の襟首を引っ掴んで引き戻すように戸を閉める。
フリーズしたままの彼女を支えつつ待っていると、部屋の中からは身繕いのごそごそと言う音が聞こえてきた。
しばらくして、音が聞こえなくなったところを見計らって声を掛ける。
「この部屋へご案内した者です、入ってもいいですか?」
「ほんっとうにごめんなさい」
「いえ……鍵をかけ忘れたこちらにも非はあるので」
少しして、僕達は気まずい空気で向かい合っていた。
僕の隣ではバレッタさんが、こちらに来てから知った土下座の知識をフル活用して畳に耳を伏せさせている。
それをどうにか顔を上げさせ、女性の方が口を開いた。
「……私達、駆け落ちしてきたんです」
もう隠す意味もないだろうということで、僕達は二人の事情を聞かせてもらっている。
案の定この二人はアイゼン本土のさる名家の一人娘とその元使用人だった。
「引き取っていただいた恩を返すため、この十年と少々身を粉にして奉公させていただきました。
使用人としてならないことをしたのはお嬢様を好きになったことくらいでしょうか」
「私はいけないことだとは思わないわ」
「まあアイゼンの、それも上流貴族じゃね」
「はい……私の父や母も、彼と結ばれることを許してはくれませんでした」
「それで駆け落ちか……昔はあったみたいですけど、今時はなかなか聞かないですよね。
古典にも身分違いのために結ばれることを許されなかった男女が心中する話が……あ」
途中で失言に気付いて二人の様子を窺う。
幸いなことに、青年はやや照れくさそうにこう言ってくれた。
「はは……私達は死にませんよ。生きて、添い遂げて見せます。
旦那様や奥様を裏切ってお嬢様を連れてきた以上、きっと幸せにしてみせる。そういう意味でも」
「ふふっ。嬉しいです、そう言って貰えて。
ただ、どうせなら『お嬢様』はもうやめて、名前で呼んで欲しいのですけど。
もう私はお嬢様じゃなくて、貴方に呼び捨てで呼んでもらえる存在になりたくてここまで来たんですから」
「あ……。そう、ですねお嬢様……じゃなかった、その……」
まったくもって。
僕はこの二人に心から幸せになって欲しいと思った。
隣ではバレッタさんも同じ意見らしく、両手を固く胸で握り合わせながらうんうんと頷いている。
僕達からの視線に気付くと、二人は今更ながら少し照れた。
しばらく暖かい空気を漂わせた後、やや改まって二人はこちらを向く。
「それで……ですね。図々しいとは思うのですが」
僕達は再び控え室に取って返した。
今度は二人を連れて。
「ただいまー」
「お帰なさ……っ!?そ、そそそそちらの方は?」
そこにいたのはハンコツさんだけでなく、出迎えたのはヒキエさんだった。
ヒキエさんは同僚の中でも顔見知りの一人で、ニコレットさんと同じ接客担当だ。
極度の人見知りという、接客業では致命的なんじゃないかと思える性格をしていて
お客さんに話しかけられるたびに噛みまくっているが、案外普通に仕事をしていたりする。
そのヒキエさんが僕達の後ろの二人を見て竦みあがってしまったため、一応二人を紹介することにした。
「はぁ……駆け落ちしてきたんですか」
「そ。人目を忍んで来たんだから言いふらしたりしたらダメよ?」
「ははいもちろんです!」
自分の方が年上にもかかわらずおどおどするヒキエさんだが、一旦落ち着いて席に座りなおすと
少し落ち着いたのかそれで、というように口を開いた。
「で……それは分かったんですけど、どうしてわざわざこちらに?
あ、いえ、詮索するつもりじゃないんですごめんなさいごめんなさい」
「落ち着けよ」
「それを今から話すから」
お茶を一口すすり、女性がここに来た理由を話し始めた。
「アイゼンを出ようにも、私達二人だけではトドワの丘を越えるなどとてもできません。
それ以前に竹林すら抜けられるかどうか……
となれば船で出るしかないのですが、民間船や商業船では北海を越えて北へはいけませんし」
「そこで思い当たったんですが、こちらならこっそりと北へ密航させてくれる方も現われると
以前聞いていて……それでこちらへ来たんです」
そうなのだ。
先程僕達に二人が聞いた事というのは、ここに出没する裏業者の情報だった。
生憎そちらには詳しくない僕達は、誰か知っている人がいないかとご飯を食べさせるのもかねて二人を連れて来たわけだ。
「実を言うと、アイゼンからここまでは正規の船で来たのです。
旦那様がお嬢……彼女を連れ戻そうとしたなら、私達がここに来たのはすぐ分かってしまうでしょう。
そしてほぼ間違いなく旦那様は彼女を連れ戻そうとします」
「ですからできるだけ早く、父の手の者がここに来る前にミロスに入りたいのです。
ミロスに入ってしまいさえすれば、おいそれと連れ戻されることもないでしょうから」
その通りだ。
アイゼン育ちには少し慣れない国ではあるが、あそこほど弱者に味方になってくれる国も他に無い。
僕が頷くと、そこでバレッタさんがおもむろに肩をすくめた。
「ただ、ね。急ぐのはいいけど、気を付けた方がいいわよ?
密航させてくれるってだけならいいけど、そうやって人を騙して売り飛ばすような輩もいるんだから」
「そうです!人攫いはすっごく怖いですよ!」
珍しくヒキエさんが身を乗り出し大声で同意する。
「ヒキエさんは、確か……」
「はい……かれこれ十年位前に人攫いにあって、売られてきたんです。
どうされるのか、どこへ連れて行かれるのか、怖くて怖くてたまらなかった……
だから、絶対人攫いには捕まっちゃダメです」
真剣で重みのある言葉に二人が重く頷いた。
「そもそも、売る方も売る方なら買うほうも買う方だよな。
ここの強欲ジジイといいホイホイと人攫いなんかから人を買うなってんだ」
「はい、ここに連れて来られて、働かせられるのは辛いです。
でも、もしここに買われなくて済んだら、っていう条件でやり直せたとしてもそんな勇気もないです。
もしかしたらここよりひどい、身体を売らされるようなところに売られていたかもしれないし
最悪買い手がつかずに足手まといで殺されていたかも……」
「ふざけてるわ!」
バレッタさんが激昂した様子で吐き捨てる。
そのままイライラと指で組んだ腕を叩き、彼女は不満をこぼし始めた。
「大体、そこの二人が付き合うのを許さなかった両親といい
人身売買といい、どうしてこうもアイゼンではルシェへの蔑視がまかり通ってるのかしら!?
アイゼンに来た頃だって理由もなく見下されて片っ端から蹴り飛ばしてやろうかと思ったわよ!」
「アイゼン人の立場から弁護させてもらうと、そんな人ばかりでもないよ……」
「そんな奴だっているじゃない。あんたもねー、どうしてそういう連中に腹が立たないわけ?」
「お、それは前から俺も思ってた」
「どうしてって……そうだなあ、ジェン爺も含めてそういう人ってさ、
別に僕達がルシェだから見下してるわけじゃなくて社会的に階級が下だから見下してると思うんだ。
そう思えば腹も立たないかなと」
「……………」
なんか可哀想な人を見る目で見られた。
「え、あの」
「そう……よね。うんまあ、そのとおりよね」
「そうだな。社会的な階級だからだよな」
「ちょっと待ってなんでそこだけ優しくなるのさ違う誤解だって!
確かに分かりにくかったかもしれないけどそんな、ああなんかいい例えはないかな……
……あ、そうだ!こんな例えはどうかな!?」
「ん……どんな例えよ?」
同僚に可哀想な人だと思われる最悪の事態を避けるため、必死に考えて案を搾り出す。
まだ若干疑惑の目で見てくる二人に僕は、その例えを出した。
「血液型占いでさ、そういう占いに凝ってる人に
あなたはB型だから自己中心的です、そうならないように注意しなさいって言われたら殺してやりたくなるけど
統計をとった結果B型は比較的自己中心的な人が多いことが分かりました、だからあなたも注意してくださいって
言われたらそんなに腹は立たないでしょ?」
「あー分かる分かるその例えなら分かるぞ!!すっげえムカつくもんなあれ!」
「え゛……そ、そう……?そんなにムカつくの……?殺したくなるくらい……?」
「当たり前だろ!こっちはそんなもん信じてもないってのにさもそれが世の中の常識ですみたいな顔して偉そうに
根拠も何もないガセ話を垂れ流すんだぞ!?あげく毎回毎回B型に恨みでもあんのかってくらいこき下ろしやがって……」
「で、でも、たかが占いだしそんなに目くじら立てることもないんじゃない?
えと、あんたは?コレルはどうなの?あんたもその、血液型占いやってる奴は……嫌い……?」
「……確かにたかが占いだけど、そういうのを信じてもない人に押し付ける人とは僕は仲良く出来ないかな」
「あう」
「だよな!こっちは信じてもねえのにお前らのカルト宗教を押し付けるなってんだ!
お前らは仏教徒に、食事前のお祈りをしなさいとでも言うのかよ!」
「ブツブツ……知らなかった……コレルは血液型占いは……そっか……」
幸いなことに、どうやらこの例えで二人の共感を得られたようだった。
なんか二人して微妙にずれた反応を返してきている気もしないではないけど。
と、お客さん二人の視線に気付いて振りかえる。
「……………」
「あ、ごめんなさい置いてけぼりにしちゃって」
「いえ」
「ニコレットさんとかなら知ってるかなと思ったんだけど、仕方ない、こっちから探しに行こうかな。
ちょっと探してくるんでご飯食べて待っててもらえますか」
「すいません。お手数おかけします」
「ニコレットなら休憩所で見ましたよ」
「どうも」
僕が立ち上がると、バレッタさんも席を立ってきた。
「気が削げたわ……私も行こうかな」
「また一緒に行くのか。こりゃ案外的外れでも……」
「シッ」
後ろ回し蹴りでまたもハンコツさんを蹴り倒し、彼女は僕に顔を向けた。
「さ、行きましょ」
休憩所への道を歩きつつ、僕は少し考える。
「どうせなら、ニコレットさんじゃなくて情報通のアリエッタ姐さんに聞いてみようかな……」
「アリエッタ?」
アリエッタ姐さん。『薄幸少女アリエッタ』『抱きしめたくなる可愛さ』『無垢なる刃』など様々な二つ名を持つ
ニギリオ一の情報通だ。無口で交友関係も狭いが、人に愛される才能に優れた人でもある。
「私あの人根暗で苦手なのよね……」
「宿中のアリエッタファンを敵に回すよ」
「分かってるって、苦手なだけよ」
「いいけど。ニコレットさんとアリエッタ姐さんは同じシフトだからそばに居るはず……
あの二人のためにも信用できる人を見つけたいね」
「そうね。この時代に駆け落ちなんてなかなか出来ることじゃないわ。
それにあの女の人のセリフもかっこよかっ……
……ところで、さ」
言葉の途中、何かを思い出したように彼女は僕に振り返る。
なんだろう?さりげなさを装って普段言わないことを言おうとしてるようにも見えるけど。
「何?バレッタさん」
「それよ。その……いつまで私のことさん付けで呼ぶのよ?」
ちょっとバツが悪いように目を背けながら彼女が聞いた。
僕は首を傾げる。確かに僕は彼女をさん付けで呼んでいる、そこを聞かれるとは思わなかったなあ。
「えーと……」
「いや、その、一応同じ場所で暮らしてる仲間なんだし?あんたならまあ、
呼びたいなら呼び捨てにしてもいいかなって……あ、いや別に大した意味は無いのよ?別に――」
「あー、そうなんだよね」
「そう呼んで欲しいわけじゃ……え?」
「いやさ、確かに僕もさん付けはちょっと他人行儀かなって思ってたんだ。
けど呼び捨てはさすがになれなれしいし、かといってちゃん付けじゃあんまりでしょ?
他にも色々考えたんだけどどれもイマイチで」
「……………」
「で結局総合的に考えればやっぱりさん付けが無難かと……どうしたの?」
「……………」
ごすっ。
脛の真横につま先が入った。しかも今回は痛い、地味に痛い。
「あいたたた……いきなり何するのさ」
「うるさい」
きっぱりと吐き捨て振り返りもせずに彼女は歩き出す。
そして三歩もいかずに止まる。
「?」
その背後から顔を出して前を覗くと、僕達の行く先、数メートル先にあの見覚えのある人物がいた。
あのお侍さんだ。
彼女の顔には最初っから隠す気のカケラも無く『嫌なときに嫌な奴に会った』という表情が浮かんでいる。
きょろきょろとあたりを見回していたお侍さんは、僕達を見つけるとすぐ近寄ってきた。
彼女が即座にUターンして僕の背後で止まる。
「おう、お前らちょうどいい所であったな。ちょっと聞きたいことがあってな」
「……なんですか?」
「便所の場所だ!いやな、ちぃと食いすぎたのか食ったものが押し出してきてよ」
「トチニカイニ・・・」
「……向こうの角です……………」
「おう」
彼女ほどじゃないが若干呆れながら向こうを指差す。
お侍さんが歩き出すとともに、僕達もまたその場を去ろうとした。
「ところで」
ふいに後ろから飛んできた声に足が止まる。
振り返ると、腕を組んで意味深な笑いを浮かべたサムライの男性が顔だけ向けてこちらを見ていた。
「なんですか?」
「いや、なに」
不敵な表情のまま、ただ一言。
「ここに、人間の女と亜人の男の二人連れは来てないか?」
「っ」
声は殺した、と思う。表情も出さなかった、と思う。
内心の焦りを押し殺して、僕は努めて平素を装って言った。
「いえ、知りません」
「本当に?」
「はい。
……あの、どうしてそんな事を?お知り合いですか?」
怪訝な顔を作って首をかしげ、妙な質問にいぶかしむふうを演技してみせる。
内心の緊張を抑えようとして右手を固く握り締める。
「いや、なに。……っと、便所に行くんだった。漏れちまうな」
と、そこで侍の男性は話を打ち切った。
そのまま向こうを向き、お手洗いの方に歩きだす。
僕と彼女はそこに留まってじっとその背中を見送り、その姿が角に消えるや顔を見合わせた。
「……大変だ!」
どちらからともなく振り返り、もと来た道を駆け足で戻りだす。
「今のって」
「間違いないよね?」
「え、ええ……それを聞いてんのよ」
わからない。
ただ、雰囲気からしてあの人が何かを知っているのは確かだった。
確証を得ないまま僕達は控え室に駆け戻り、食事を取っている二人を呼ぶ。
「どうしたんですか?」
慌てて戻ってきた僕達を見て、男性が怪訝な顔をした。
「急いで食べ終わって!もしかしたら追っ手がもう来てるかも知れない」
「!!」
「壮年の髭を生やしたお侍さんなんだけど……二人とも、知ってる人?」
かいつまんで今あったことを話し、ついでにその人の特徴を簡単に伝えて知人か聞く。
二人が首を横に振った。
知人ではないということだ。
「じゃ、ここを離れたほうがいいわね」
困惑した顔をしながら二人が立ち上がる。
立ち上がって、しかし、と男性が立ち尽くした。
「しかし……どこへ行ったらいいのでしょう?
逃げてここまで来たのに、ここから離れるといっても行く場所など……」
「わからないわよ!でも、このままここにいて見つかったら困るんでしょう!?」
男性が黙り込む。
「……分かりました」
数瞬の間を置いて、女性がはっきりと言った。
「行きましょう。当てが無くとも、二人一緒なら何とかなります。
ここでぐずついたばかりに万が一捕まったりしたら私は死んでも死に切れません」
真剣な女性の訴えを受け、二人はじっと見つめあう。
「……………。わかった、発とう」
少しして男性は頷いた。
「僕がお二人の荷物を取ってきます。お二人は裏庭の方から」
「私が連れて行くわ」
「ハンコツさん、ちょっと外れるんでお願いしますね」
そうと決まれば早い方がいい。
僕は控え室を飛び出し、二人の部屋へと急いだ。
二人分の荷物を引っさげて、僕は裏庭の方へ急ぐ。
正直従業員泥棒に間違えられやしないかと冷や冷やものだ。
裏の浴場に続く渡り廊下の入り口でバレッタさんたちが待っている。
「こう見ると泥棒みたいね」
「言わないでよ」
荷物を二人に渡す。
「じゃ、付いてきてください」
渡り廊下を歩きながら、僕は二人にこれからの事を説明した。
「宿の裏には、簡単ですけど畑とか鶏小屋とか……そういう自足スペースがあるんです。
そっちの方から森の中の、ドーマ火山方面に抜ける道に入れます」
「ドーマ火山に?」
「はい。色々考えたんですけど、ミロスに渡るならドーマ火山に行くのがいいと思うんです。
あそこは温泉宿であるこの宿にとってはとても大切なところだし、ジェン爺が管理してるんです。
だから人も入れますし、裏家業の人が待ち合わせに利用することもあります」
「そこへいけばあるいは……」
「ただし、ほんと人目に付かないところなんで騙される危険性はもっと高くなります」
「自分達がここに来ているのを知ってる人がいて、
連絡が取れないと実家に連絡することになっている、くらいは言った方が良いわね」
「なんとか……やってみます」
「頑張って。男は度胸!ですよ……あ」
廊下の先から誰かやってくるのを見つけ、思わず足を遅める。
洗濯物を抱えた給仕の女の子だ。
彼女は僕らを見つけると、不思議そうな顔をして立ち止まった。
「あれ?そっちの人はお客さん……よね。この先はスタッフオンリーじゃなかった?」
「あ、ええと……」
一瞬言いよどんで後ろを見る。
別に答えなくては通れないわけではないが、ここで不自然に思われると後々マズイ。
と、なんとかしなさいよ、とこちらを見るバレッタさんを見て僕は、彼女にバレたら殺されそうな口実を思いついた。
「ひそひそ……(彼女が張り切って料理を運ぼうとして、派手につまずいてすっ転んだ挙句
料理を頭からかぶせちゃったんだ。洗ってるのを見られるのは恥ずかしいって、裏の井戸へ洗濯に連れて行くんだよ)」
「ひそひそ……(ああ、なるほど……)」
よく考えればおかしいと気付くだろう。
しかし屋内にもかかわらずフードを被っている女性の容貌と、日ごろ伝わっている彼女の気性とで
(それもどうかとは思う)僕の嘘は割と信憑性を持って届いたようだ。
「それならまあ仕方ないね」
「じゃ、そういうことで」
三人に行こう、と合図して歩き出す。
誤魔化せたことにほっと一安心した、そのときだった。
「……ちょっと!」
後ろから声がかかった。
「……何か?」
それには答えず、彼女は僕を通り過ぎてつかつかと三人に歩み寄る。
やばい、もうおかしなところに気付いたか?
そう焦る僕の目線の先で、給仕の子はバレッタさんの目の前に立った。
「そのエプロンボロボロじゃない。ほら、これに換えなさい」
「え、え?」
あたふたするのを意にも介さず、傷だらけのエプロンが奪い取られた。
「こっちは補修に出すわ。接客業なんだから身なりにも気をつけないとダメよ」
「あ、はい」
バレッタさんが返事をすると、給仕の子はエプロンと洗濯物を抱えなおし去っていった。
「ふう、驚いた」
「そうね」
渡されたエプロンを着用しながら彼女が返事をする。
「ところで」
「はい?」
「あの子を騙すのに、なんか随分なこと言ってなかったかしら?私の勘違いかしら」
「……さ、また誰か来る前に行こう」
僕は絶対振り向かないよう心に念じながら歩き出した。
後ろから飛んでくる視線に耐えつつ、しばらくして裏の畑の端の、森の中へと続く細い道が見えてくる。
「ここを通って、森を抜けても真っ直ぐ道を行けばドーマ火山です」
「もう暗いし気をつけるのよ」
「はい。……本当に、ありがとうございます」
旅の装束を調え、二人は並んで僕達の前に立った。
「色々お世話になって、本当にありがとうございます」
「恩に着ます。なにかお礼が出来るといいのですが」
「気にしないでいいわよ」
「お客様の役に立つのは仕事ですから。今度は堂々と温泉に入っていってくださいね
……ああ、あとお礼はいいですけど今回の宿代は置いていってください」
「え、あ、はい」
「……あんた…………」
非難がましい目を向けられたがこればかりは仕方ない。この二人に代金の踏み倒しさせるわけには行かないし。
二人分の宿代を確かに受け取って、僕は二人に向き直った。
「じゃ、お気をつけて」
「はい。ありがとうございました」
「また次の機会に」
そう言って、二人は森の中を西へと歩いていった。
――――――――――――――――――――
「さて、気付いたら夕ご飯食べ損ねたね」
「げっ」
「仕方ない、たまにはこんなこともあるさ」
「えぇー……?」
休憩時間はすでに終わり、夜の仕事が始まろうとしていた。
夕飯が食べれなかったのを笑って流そうとすると彼女が恨みがましい目を向けてくる。
「食事抜きであんた平気なの?」
「アイゼンの使用人たるもの、一食や二食食べなくたって」
「理解できない……」
彼女がげっそりと呟いた。
たははと言うしかない僕の視界で、向こうからニコレットさんがやってくる。
「いたいた、どこ行ってたの?クタベさんから、二人は宴席の設置に入るようにって」
「よっし、大仕事!」
「しかもよりによってこんなときに大仕事だし……あんたは嬉しそうだし……」
「だって、何か大変な仕事を任されると頼りにされてる気にならない?」
「うーん……前線で初めて斥候に任命された感じかしらね?それなら私にも分かるけど」
そっちが僕には分かりませんが。
「ともかく掃除からだよね。時間も無いし速攻で片付けないと!
桶に水汲んでくるからホウキとってきてくれる?」
「はいはい了解」
仕方ない、というように肩をすくめて彼女は苦笑いした。
よし!両手を打ち合わせて気合いを入れる。
僕達は、完全に気分を入れ替え張り切って大仕事を片付けにかかった。
ニコレットさんが言い忘れたように口を開いたのは、そのときだった。
「……あ、それと」
「?」
出鼻を挫かれてよろめく僕に、首をかしげながらニコレットさんは言う。
「申し訳ないんだけど、それが終わったら122号室の片付けに行ってくれる?
そこのお客さんが急用とかでいきなりチェックアウトしちゃって」
「はぁ……。……、ちょっと待って、それってどんな人でした?」
「え……、髭生やした中年のお侍さんだったけど?」
「「……………!!」」
僕達は息を呑んだ。
「何かあったのかって聞いたけど、待ち人が出たとか言うばかりでよく分からなかったのよね。
と……まあそういうわけでよろしくね」
立ち去るニコレットさんの背中を見ながら、僕達はただ立ち尽くす。
どうする?どうする?どうする?
どうするもこうするも、ない。
「……あの二人を追いかけよう」
「え……」
彼女が僕の顔を見る。
「……仕事はいいの?あんた」
僕は振り返った。
まったく手のつけられていない広間が、僕の目の前に広がっている。
そして僕は視線を戻した。
はっきりと言う。
「仕事より大切なことなんて、いくらでもあるさ」
「……」
ゆっくりと、彼女の顔に明るい表情が広がった。
「そうよね!」
すぐさま僕達は走った。
前方を歩くニコレットさんを追い抜きざま、後の事を頼む。
「すいません急用です!仕事は誰か他の人に」
「!?ちょ、ちょっと!?」
「ごめんね!!」
いきなり追い抜かれると同時に無茶を言われ慌てるニコレットさんを後ろに、
僕達は宿を飛び出し、裏庭を抜け、細い道の通る森の中へと飛び込んだ。
明かりの差さない真っ暗な森の中、何度も足をとられそうになりながら走る。
「遅い!もっと早く走れないの!?」
「無、理っ、これ以上だと、途中で息がっ」
それにしても彼女は速い。
僕だって連日の激務でそれなりに体力に自身はあったのに、彼女はそれ以上のスピードで息を切らさないんだから。
「ネバンでうけた訓練じゃこのくらい普通だったわ!とにかくもっと早く!!」
急かされ急かされ必死で走るが、なかなか二人の姿は見えてこない。
まだか!?まだそんなに遠くには行ってないはずなのに……
次第に木立は薄くなり、道は広がって前方の景色が森から草原へと変わっていく。
木々のトンネルが途切れ、ついに僕達は森を抜けて月明かりの下へと飛び出した。
……いた!
森を抜けてすぐ、向こうにあの二人の姿が見えた。
と、そこに見える姿が二人だけでないことに気付いて、僕は急ブレーキをかける。
「……ストップ!」
「なに!?どうしたのよ?」
「……遅かった!捕まってる!」
「く……」
「旦那様が心配しておられます。おとなしくお家に帰ってください」
「……………」
「今なら何も無かったことにしよう、との事でした。さあ」
「嫌です!!彼と結ばれないのなら、絶対に帰りません!」
「……穏便に事が運ぶなら、今までの働きに免じてその使用人にも害を加えぬようとの仰せです」
「……………!!」
二人を取り囲んでいるのは見知らぬ三人の男達だった。
そのいでたちや雰囲気から、なんとなく用心棒ではないかと思わせる。
「ちっ……」
「待って!」
今にも飛び出していこうとする彼女を押し留める。
「何よ!?」
「まずいんだ!今ここで飛び出していけば、よしんばあの二人を逃がせたとしても
ニギリオの従業員が邪魔をしたことが分かって後々僕達がまずい!」
「そんな、悪いのは連れ戻そうとしてる方でしょ!?」
「アイゼンでもそれが通ってたら、駆け落ちなんて最初っから無いよ……!」
「……!!」
彼女が真剣な目で僕を見る。
言いたいことなんて分かっていた。
それじゃあここで何もせずに傍観しているっていうのか。
そんなことするものか!
だけど、何か方法は……
「……バレッタさん」
焦燥に駆られた様子で向こうのいきさつを見守っている彼女を呼ぶ。
「何?」
「……やっちゃって」
「……いいの?」
彼女が僕の顔をを窺うように覗き込む。
僕は大きく頷いて見せた。
「いいの。その代わり、速攻でのしてね」
「オッケー……!」
ゴーサインを受けて彼女が立ち上がった。
闘志に爛々と目を輝かせている彼女は不敵な笑いを浮かべ、僕を見下ろして言う。
「よーく見てなさい、コレル……」
「っ……?」
「私の本気を見せてあげる……この前のチンピラがマグレだったってことを教えてあげるわ……!!」
言うが早いか、彼女は一気に飛び出して僕の視界から消えた。
「―――っ……」
「!?」
二人を取り囲んでいた三人の男のうちの一人。
その目の前に、突然彼女は現われた。
「……やっ!!」
「っぐっ……………!」
―――――速い!!
男が何か反応しようとしたときには、彼女の左膝が男のみぞおちにめり込んでいた。
さらに追撃の右膝が肩を穿ち、男の左半身を強引にこじ開ける。
そしてそのまま、彼女は空中で一回転しつつがら空きになった左サイドへ渾身の後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
人一人を昏倒させるのに十分すぎる威力を待った蹴りを受け男が吹き飛ばされる。
一息に三段の蹴りを放ってようやく着地した彼女が、次の獲物に狙いを定めた。
「っ……!!」
彼女と目が合ったもう一人が反射的に鞘に収められた刀を構えようとする。
それと同時に、彼女が跳んだ。
「……しっ!」
「うぉっ!」
男が体重を乗せて前に出された左足をとっさに鞘で受け止める。
脇に流されて勢いが殺がれ、彼女は男の目の前に着地した。
「……このぉっ!!」
この好機に、男が鞘に納められたままの刀を鋭く振り下ろす。
……その先端が地面を打ったとき、彼女はそこにいなかった。
空中で、ひらり。
真上に跳んだ彼女が一回転してその頭を強烈に踏み抜いた。
「ぐっ」
顔から崩れ落ちる男を見ながら僕は感嘆する。
強い!
確かにこれなら、この前追い詰められた詐欺師に捕まったことなどまぐれとしか言いようが無いだろう。
この前のはただ刃物をもっただけの無法者だったが、今回は本物の用心棒なのだ。
それを奇襲とはいえろくな反撃もさせないなんて……?
感心してばかりもいられなかった。僕も飛び出し、二人と残った用心棒の間に割って入る。
「下がって!」
「……あなた達!?」
「二人とも下がってください!……最近この辺に出ると噂の夜盗です!!」
「!?」
思いもしないことを言われて二人が驚いた顔をした。いいから合わせて!
驚くのは二人だけじゃない。
残った用心棒の男もまた、思わぬことを言われて虚を突かれる。
男は戸惑い、そして自らの身分を証明しようとうろたえた。バレッタさん――!
「馬鹿なことを言うな!我々は――」
「……ちょやっ!!」
「がっ!?」
間に合った。
言わせる前に、二人目を倒したところから接近するまでをそのまま助走距離にした飛び蹴りが頭を打ち抜く。
自分達の正体を証明しようとした寸前で気絶させられた男が草原に倒れこむ。
三人が三人とも気絶したことを確かめた上で、彼女が戦闘態勢を解いた。
「……というわけで、僕達はお客さんが襲われてるのを見て
夜盗に襲われていると勘違いしてそのままのしてしまった、ということでよろしく」
「オッケー。だけど、それで誤魔化せる?」
「ウチの敷地内でお客さんを襲ったのは事実だし、つっぱねられるよ」
「そ。ならいいわ」
「……あの……」
呆気にとられていた女性がおずおずと声を掛けてくる。
僕達はほっとして二人の下へと駆け寄った。
「ああ、無事でよかったわ」
「追っ手かもしれない人がいきなりチェックアウトしたって聞いて。心配で追いかけてきたんです」
「あ……ありがとうございます……」
「……助かりました。私ではとても太刀打ちできなかったでしょう……お恥ずかしいです」
「気にしない、バレッタさんがおかしいだけですから」
言い終わるや否や上体をのけぞらせてハイキックを避ける。
「ちっ。……そういや追っ手はあのヒゲ侍かと思ったんだけどね。どっちにせよ間に合ったからいいけど」
「この三人にはここに来たとたん囲まれて、他の人は見ていません」
「うん。さてコレル、ここでまたさよなら気をつけてってのもなんかアレだし、
どうせだからドーマ火山まで送っていかない?仕事を残してきたのが気になるのは分かるけど」
「う……どうしよっかな……」
ここで断るとなんだか僕が悪い人になるような気がする。
横目で盗み見た女性の表情にはとても嫌とはいえない期待がこもっていた。
「あの、私……お二人にも来て頂けるととても心強いです。お話もしてみたいですし……」
いや、まあいいんだけどね。
結局のところここまで来て断れるほど薄情でもないし。
僕が同意すると、そこで女性ははっと気付いたように男性を見た。
「あ!?え、えと、違いますよ、あなたが頼りないとかそういうわけじゃ全然なくて、あの」
「はは……分かってます」
「本当に?あの、あなたがそうしたいならやっぱり二人でも」
「本当に。私もお話したいと思ってたんです」
「……良かった!」
ううむ……普通ならそう言われても気に病ませないための口実なんじゃないかと
疑ってしまいそうなところだが、さすがお嬢様、純真さが違う。
それとも信頼かな?
僕がそんな感想を抱いていると青年がこっそりと僕に話しかけてきた。
「しかし、本当にすみません。急に駆けつけて頂いたという事は、お仕事を中断してまで我等を案じてくれたということでしょう」
「え、いや、気にしないでいただいても」
「いえ。私も先日まで使用人でしたから、仕事をほっぽり出すことがどれほど心残りになるか分かっているつもりです」
そういえばそうだった。
となると僕も、よその使用人の話を聞いてみたくなったりもするというものだ。
「やっぱり上級貴族の家でも、使用人の仕事は同じなんですか?掃除とか雑用とか」
「そうですね……基本的にはそうです。
しかし主人が上級貴族となると、従者にもそれなりの品格が要求されますから……」
「そういうのを教わったり?」
「ええ、働かせるための使用人に教育を受けさせるんだから不思議な話ですよね」
「いいなー、エリートなんだ」
「そんな……」
「でも、おかげで彼とは小さい頃から一緒にいられたんです。ううん、小さい頃から一緒だったから
好きになったのかしら……色々ありましたよね」
「お稽古が退屈で上の空だったのをかばって一緒に立たされたり、
私がとめるのも聞かず竹林をどんどん冒険していって帰れなくなったり、
あの頃は振り回されっぱなしだった気もしますが」
「う……ひどいです」
「でも、あのお転婆だったあなたがこうして立派な淑女に変化を遂げたと思うと感慨深いですね」
「そうですね……思えばきっかけは野良犬にいじめられていたときに
あなたに助けてもらったことかもしれませんね。ありがちな話ですけど」
「そう……ですか?」
「ええ」
「いいな、幼馴染でもあるから分かる話ですよね。
僕にもいないではないですけど男だし性格があれだしなあ……手紙の返事も返ってこないし」
「腐れ縁、というのも後からすればいいものかもしれませんよ?」
「ですかね」
そういうものかもしれない。
しかし、納得していくらか気分を明るくする僕とは裏腹に、青年の方は暗い面持ちになってうなだれた。
「しかし……そう思うにつけても旦那様達を裏切ったのは申し訳ないです。
身よりもない私に教育を受けさせ、彼女の傍に置いてくださるほど信頼して頂いたのに」
「……いつか、分かってもらえます。
今は父も、冷静ではいられなくてなにがなんでもという気持ちでしょうけど
何年かして、孫の顔でも見せに帰ったらきっと許してもらえますよ」
「……………」
少しして、青年の顔に薄っすらとながらも笑みが浮かぶ。
「……そうだといいですね」
「はい」
僕は知っている。
人間とルシェの間に子供が出来る確立は、ほとんどないと言えるくらいに小さい。
それでも僕は、どうかこの二人に子が授かるようにと願わざるを得なかった。
顔を見合わせて笑う二人にこっちのテンションもにわかに上がってきた。疲れたのかもしれない。
「さて、そのためにもうまくミロスに渡らないと。行きましょう、二人とも」
「そうでした、ここでのんびりと話をしてる場合じゃなかっですね」
「本当に。つい私ったら……」
「問題ないですよ。さ、バレッタさんも……どうしたの?」
そういえば彼女は一切話に加わっていなかったことに気付き、向こうを見ている彼女に目を移す。
最初話に置いてけぼりにされたせいで拗ねているのかと思った僕は、
彼女のぴんと尖って震えている耳と真剣な表情からそれが間違っていることを悟った。
「バレッタさん」
「問題なく……ないわ。もっと早く気付くべきだったんだけど」
「!!」
向こうの方から、お互いに声を掛け合いながら何者かが近付いて来るのが聞こえてくる。
あっちだ。いたぞ。そっち側へ。……何者かなど考えるまでもない。
気付けば僕達は、七人ほどの下級武士風の男達に囲まれていた。
「おい、大丈夫か?」
「うぅっ……」
男達がさっきのした三人を起こしている。
「これは……さすがにわがままが過ぎますぞ!」
「どうする……?」
「やむを得まい」
「お嬢様、最後の警告です!今大人しくここで帰ってください!
でなければ力ずくで連れ帰らざるを得ません!」
女性がびくりと震えた。
僕は視線を逸らさないようにしながらバレッタさんにそっと耳打ちする。
「バレッタさん……これ……何とかできる?」
「無理よ。さっきは奇襲でしかも数が少なかったのよ?まああんたが戦ってくれりゃ逃げるくらいは……」
「ごめん僕無理」
「はあ!?この前のチンピラ相手に立ち回ったのはなんだったのよ!?」
「あれは刃物をもってるだけのたいして一般人と変わらない人だったから僕にも何とかなったのであって……
さすがに稽古もしてない護身術で本職の人を相手にするとかとてもとても」
「ちっ……それでも。降伏したりするわけにはいかないのよ。……やってくれるでしょ」
それは彼女の、僕に対する信頼に賭けようとしているように思えた。
「……………分かってる。義理と意地にかけて、逃げ出したりなんかするもんか」
「よし、それでこそルシェよ」
青年もまた腹を括った表情で僕の横に出た。
「私も争います。例え叶わないとしても、彼女を諦めたりはできません」
「オッケー。男を見せてちょうだいね」
彼ははっきりと頷いた。
そんな彼の後ろで、彼が手に入れようとする女性はただ一人思いつめた顔でいる。
「あ……私っ……」
「待って」
女性が何か言おうとするのを彼女が遮った。
「あなたのために大の大人が三人、しかもその内一人はあなたの恋人が身体を張ろうってのよ。
それをあなたが『心配だからやめて』なんてありえないわ。
……あるとしたら私達を信じるか、もしくは自分も戦うかよ」
「!」
うつむき、きつく目を瞑りながら女性は手を握り締めた。
そして顔を上げ、彼女はきっぱりと言う。
「分かりました。最後まで逃げましょう」
「よし……!」
僕達の抵抗の意を知った男達は目配せしあう。
「いいのか?」
「仕方あるまい……」
男達がじりじりと間合いを詰めてくる。
それに合わせて僕達は強行突破を図るべくぐっと身構え……
場にそぐわない気楽な声が聞こえてきたのはそのときだった。
「ちょーっと待った!!……おうおう、また剣呑な事になってんな」
「!?」
一斉に視線が向けられたそこにいたのは、あのお侍さんだった。
「あいつ……!?」
彼女が思わず声を漏らす。
彼はぐるりと辺りを見回して僕達の連れている二人をその視界に収めるとにかりと笑った。
「おう、久しぶりだな!」
「「!?」」
知り合い!?
思わず僕とバレッタさんは二人のほうに顔を向ける。
そして二人が返した反応は、
??
二人して思いっ切り首を傾げるというものだった。
「おいおいそりゃねーよ」
「え?あの?だって……」
「忘れちまったのか?お前さんが小さい頃はよく遊んでやったろうが。
お前の親父の兄貴だよ」
「え……伯父様!?え、だって、私の知ってる伯父様はその、身なりもちゃんとしてて、清潔で、
それにお家のために昔数々の功績をあげた立派な方だと……」
「今はみすぼらしくて汚くてそのへんのオッサンにしか見えないってか」
「あ、いや……!」
「まあいいよ。坊主も坊主だぜ、俺様のことはすっかり忘れちまったのか?」
「……今思い出しました、本当に申し訳ありません」
「あーあーいいっていいって、落ちぶれたのは本当だからな。
さて……どうでもいい話はこの辺にしてだな」
なんだか話についていけないが、要はお侍さんは二人の知り合いだったらしい。
お侍さんは腕を組み、周りの男達に向けてしゃべりだした。
「俺様もな、昔はそりゃあ実家のためにいろいろ働いたんだよ。
そいつが言った立派だった頃ってのはその頃だ……まあ頭も悪かったし専ら武勲を上げてたんだが。
弟はそっちの方はからっきしだったしその分もと思ってそれなりに貢献はしたつもりだ。
で、その頃の心の癒しがこいつら二人だったわけだなぁ……むさい男の心に爽やかな風をくれたわけだ。
その二人が大人になって結婚するって聞いたときは、そりゃ我がことのように喜んだよ。
けど頭の固い俺様の弟がな……まあ俺様が社交方面はからっきしだったせいでああなったって面もあるんだが……
あとは男親特有のアレだな。で二人の結婚を認めねえときやがる。それでちょっと手助けに来たんだよ。
まあ、お前さんたちも上仕えの身で窮屈なのは分かるんだが。あいつには俺様からよく言っとくからよ、
今日のところは退いてくれねえか」
男達の間にざわざわというどよめきが起こる。
どうする?
旦那様の兄上様といえばあの有名な……
本来なら家を継ぐ立場の……
しかし……
男達の中の一人が踏み出した。
「あ、貴方様が旦那様の兄上殿であられるという証拠は?」
「証拠か?証拠といえるものは特にねえんだが……」
「そ、それではやはり、我々としても見逃すわけには」
「あーはいはい分かったよ」
お侍さんは分かった分かったというように手を振り、一歩踏み出した。
「仕方ねえな、要はこういやいいのか」
そして僕達に背を向け、たった一言。
「失せろ」
僕の隣のバレッタさんが一瞬後ろに飛び退りそうになったのを、僕は確かに見た。
背筋を突き抜けた威圧感、これが侍の使う『鬼の形相』の力だろうか。
これだけでその人が本物だと分かる圧倒的な威圧だった。
「……な、俺に免じてよ」
彼が先程の威圧とは正反対な穏やかな口調で言う。
男達はなおも少しの間動かなかったが、誰か一人の口にした「旦那様に確認しよう」という
一言を合図に一人また一人と逃げるように去っていった。
「おお、俺様の貫禄も案外捨てたもんじゃないな」
男達がいなくなり、お侍さんが気楽な口調で口を開いた。
二人が彼の元へ寄っていく。
「伯父様、本当にありがとうございます」
「なーに、かわいい姪っ子のためならな。あと、甥も同然なお前さんも」
「……本当に、ありがとうございます」
「気にすんな。……お前さんらもこいつらに協力してくれたみたいだな?ありがとよ」
「あ、いえ」
「………」
おもむろに声を賭けられた僕は少し戸惑いながらも返事をする。
しかし、彼女はといえば根に持っているのか、返事をしなかった。
「ん?なんだ?ありがとってばよ」
「………」
「なんだ、嫌われてるみたいだな」
「あー、その」
僕は一瞬迷い、正直に言うことにする。
「彼女ネバンプレスの人なんで、亜人と呼ばれてヘソを曲げてるんです」
「ちょっ、コレル!?」
僕がお客さんにこんな事を言うなんて以外だったのか彼女が声を上げるが、
なんとなくこの人には腹を割ってしゃべってしまった方がいいような気がしていた。
「あー、なるほどな。……すまん、この通りだ」
お侍さんがあっさりと手を合わせて頭を下げる。
こうされては彼女も、
「う……いいわよ……」
と言うしかなかった。
「おう。で、だお前ら」
お侍さんが再び二人に向き直る。
「ああは言ったものの、正直弟に諦めさせられる気はしない。
せいぜいが時間稼ぎするくらいだ、それは分かってくれ」
「……はい」
「しかも俺様も、今や大した立場も持ってなくて弟の手の者を何度も追っ払えん。
アイゼンに戻って時間稼ぎをするにしてもお前らについていてやることはできん」
「はい」
「それでも行くんだな」
「もちろんです」
二人でそう言った彼らは、僕達の目の前にやってきて言った。
「ここまでありがとうございました」
「お二人は戻って下さい、ここからは二人で行かなくては」
「でも……」
「いいの?」
「はい。必ずミロスにたどり着いて、お二人に手紙を出しますから」
「では、急ぐので行きます!ちゃんとしたお礼も出来ませんが、お二人のことは忘れませんから!」
そう言い残し、二人は連れ立って走り出した。
お侍さんが二人の背中に声を掛ける。
「弟が手を回したせいで、密航は無理だぞ!どうするんだ!?」
青年が立ち止まって叫び返した。
「……こうなったら隙を突いて一度本土に戻り、歩いてトドワの丘を越えます!!
一度は諦めた案ですが、他にはありません!彼女は必ず守り通しますから!!」
再び駆け出していく二人の影を見ながら、お侍さんは感慨深げに呟いた。
「は……本当に大人になったな……」
「あの」
僕が声を掛けようとすると、彼は僕を見下ろしてにやりと笑った。
「なあに、心配すんなって。俺様もアイゼンまではついていてやるよ。
その後も要は『こっそり』助けてやりゃいいんだ、『こっそり』な」
「……そうですね!」
僕がほっとして笑うと、バレッタさんももじもじしながら口を開いた。
「まあ……頼むわよ。あの二人」
「おう!じゃ、俺様も行くぜ!今度きたときはゆっくり泊まって行くからな!」
「はい、お待ちしております!!」
元気よく返事をすると、お侍さんは壮年の男性とは思えない速さで風のように走り去って行った。
後には、月明かりに下に僕たちだけが残される。
「……………」
「……帰ろっか」
「そうね」
彼女はもう一度、三人が去っていった方向を見る。
「……頑張ってね!幸せになんなさいよ!」
「……」
「……さ、行きましょうか」
「うん」
そして僕達は、帰った後仕事を放り出したことでどんなことを言われるか、
そんなことをあれこれ騒ぎながら帰路に着いた。
――――――――――――――――――――
追記:
それからしばらくして、ニギリオの宿にミロスから一通の手紙が届いた。
差出人の名前は無かったが、ミロスに着いた、ありがとう、ただそれだけが書いてある手紙だった。
その日僕達はいつもよりにこやかにしながら、何事もなかったかのように仕事に励んだ。
追記2:
今日、廊下のくずかごに日付の古い雑誌が捨てられていた。
恐らくお客さんが置いていったものを誰かが広い、今まで読んでいたのだろう。
ちなみにそれは大衆向けの女性雑誌で、内容は『これで相性もバッチリ判る?血液型占い特集』だった。
すいませんageました……投下終了。
センスの酷いネーミング第五弾登場です。さすがに『ヒキツルさん』じゃあんまりだろうと思って
ああなりましたが、NPCには『ツカレ執政官』『ネムイ執政官』などといったネーミングもあるので
もしかしたらそっちでも良かったかもしれないです。
GJ!!
いつもながら見事な外伝っぷりです。……いや褒めてるつもりなんですが、何か変な感じ
オッサンにはこういう立場がよく似合う、それとバレッタさんかわいいよバレッタさん
GJ!!!
追記の雑誌にニヤニヤせざるをえないw
続きをwktkしてお待ちしています。
質問があるのですが、
アリエッタの二つ名にある『抱きしめたくなる可愛さ』はどこからの出典でしょうか?
読んでる途中にひじょ〜〜〜〜に気になったので…。
お答え頂けたら幸いです。
>>361 どうもです。いつもながら頂けるGJが励みになります。
『抱きしめたくなる可愛さ』はイラスト投稿サイトpixivでアリエッタイラストに何故かよく
つけられているタグだったので引用させていただきました。というか検索してみたら本当にアリエッタばかり
だったので少し笑いましたw他二つも大体同じ流れで。これからも批評お願いしますです。
>>362 お答えいただきありがとうございます。
pixivにもアリエッタの絵が投稿されているとは・・・。
早速見に行ってみます!
保守
続きものの作者さんとか
みんなどこ行っちゃったんだろうね…
メンバーの名前が香辛料系のあの人しか
行方がわからないな
もうみんなエデンから旅立ったのだろうか
続きです。
◇空腹ルシェ(彼女)×???(彼)
◇読みづらいかもしれません。
◇エロ無し、短し、続くし。
◇◇◇
血のような紅き眼をした彼女は歩く。赤黒く、染まった服を着て彼女は歩く。
ケタケタ。何が可笑しいのか彼女は笑う。ポタリポタリ。ナイフから滴り落ちる血液と同じリズムで彼女は笑う。
彼らはそんな狂った彼女を見つめることしかできないでいた。
助けたかった。今までも、諸国を旅して助けを求める人は数多くいた。しかし、助けることができたのはその内の一握りだろう。
その多くが、竜に殺された者達だった。目の前で殺された者達もいた。誰にも知られずに死んだ者達もいた。
その場面に出会う度に、彼らは胸の奥で、悲しみと怒りと悔しさで溢れた。
死んだ者達の家族や友人、恋人からの糾弾もあった。
『どうして見捨てた』
『どうしてもっと早く来なかった』
『どうして助けなかった』
『どうしてお前達だけが生きている』
『どうして』
どうして、どうしてと非難されながらも、彼らは戦ってきた。きっと自分達の戦いは誰かを助けるモノだと信じて、戦ってきた。
その結果が、これである。たった一人の民間人を救えず、一人の人生を狂わした。
彼らが聖職者なら、神を恨んだろう。だが、彼らは神を信じない。三年前のあの日に信じることを止めたのだから。
だからこそ、彼らは自身の愚かさを呪う。何も守れない弱さを呪う。
そんな彼らを嘲笑うかのように、彼女は彼らに近付いてきた。
「皆さん、足が止まっていますよ? 早く彼の元に行きましょう? きっと彼は待っていてくれているんですから」
彼女はそう、催促の言葉を告げ、先へと進んでいく。
彼らは、例え彼女がどんな風になっても命だけでも助けよう、と諦めにも似た決意をして、彼女の後を追っていった。
◇◇◇
洞窟を中程まで進んだろうか。氷の床に手こずりながらも進んだその先には、見覚えのある影があった。
それは傷つき倒れる、リタ、エミリ、ハリスの三人だった。
彼らはすぐさま駆けより、息があるのを確認すると、何があったのか尋ねた。
「ご、ごめん……あの……人を見つけ、たんだけど……正気を無くしてて……」
そこまで言って、リタは気を失った。
リタの言葉から、彼がこの洞窟にいるのは間違いない。
何処だ。何処にいる。と、彼らはお互いに周囲を警戒して――、
「……ッ! 上、だっ!」
ハリスが叫ぶと同時に、彼らは上を見上げる。が、遅かった。
既に、目前まで迫っていた。
轟音と共に、彼らは四方に散らばる。その中心には彼がいた。いたが、『彼』ではなかった。
「ミタナ……?」
それは竜の鱗で覆われていた。赤い鱗は興奮したかのように蠢いていた。
「ワタシヲ、ミタナ……?」
それは獣の顔をしていた。紅の眼と白い牙が、彼らに向いた。
「――コロス」
それは人の体だった。あの時会った彼の体によく似ていた。
「コロス。コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスッ!!」
彼の名前は誰も知らない。それ故この怪物の名は【ロスト】。失った全てを求める者。
手には此処の修練者のだろう刀が握られ、所々破れた衣服はやはり修練者のだろう血がこびりついていた。
それが物語るのはただ一つ。
彼はもう、ヒューロの邪気に呑まれたのだ。
遅かった。その一言が、彼らの脳に浮かんだ。
せめて、せめてもう一日でも早く来ていれば……。そう、後悔の念が彼らに押し寄せる。
「あはは……」
彼らが絶望にも似た悲しみを想っている時、突如彼女は笑い出した。
「あははは、あはははははは! あはははははははははははははははっ!」
狂喜の笑い声を響かせ、彼女は彼を見て、呟く。
「……貴方の答えはそれなの? 違うでしょ? 私を待っていてくれてたんでしょ? 私はずーっと待っていたんですよ? 違うの? 彼は私の為に、こんな所でも待っていてくれたのよ。そうよ、きっとそうだわ。ふふふ……そうよ……そうよ……ふふふ……」
彼女は呟くのを止め、ゆっくりと顔をあげると、先程のナイフを構えた。
「皆さん、申し訳ありませんが彼を動けないようにしてくれませんか? 彼ったら、イライラして私の言葉も聞いてくれないみたいですので、ちょっとお灸を据えないといけませんし、ね?」
彼女は笑って言った。ニコリと優しい笑顔がよく似合う彼女だったが、彼女の紅く染まった瞳は何も移さず、虚空を見つめるのみである。
異常であると知りながらも、彼らにはどうすることもできずにいた。
やがて、彼の叫びと共に、戦いは始まった。
誰も報われない戦いが始まった。始まってしまった。
彼らに助けを求めた心優しい男は、刀を握る右手を振り下ろしながら、彼らに襲いかかってきた。
彼らに助けを求めた心優しい女性は、ナイフを握り、笑いながら彼に向かっていった。
彼らは、最悪のシナリオを思い浮かべながら、しかし戦うことしかできないので、彼へと各々武器を構え、走り出した。
止める者は、誰もいない。止めれる者も、誰もいない。
空気を切り裂く刃の音が、どこか悲しんでるように洞窟内に響いた。
以上です。今まで消えていてゴメンナサイ。何とかハッピーエンドで終わらせます。
ところで、ナナドラの設定資料を買ったのですが空腹ルシェについてはほんの一言だけでした。残念です。ではノシ
お帰りなさい、待ってたよ!
しかし序盤のアレから誰がこんな展開を予想できただろうか・・・
本当にハッピーエンドで終わるんだよ、ね・・・?
続きがきてうれしい!おかえりなさい!
でもハッピーエンドが想像できないぜ…
待ってた!
保守替わりに投稿。意味分からないとこ多いかも……。
題名は『外伝』です。エロ無し。どうぞ。
その人は一言で言えば『異質』だった。
アイゼンの人は皆、私達ルシェを卑下するような奴ばかりだと聞いていた。
無論、私は冒険者(ハントマン)として各地を旅したので、そんなのは比率の問題か誇大妄想みたいなモノだろうと知っていた。
しかし、やはり宮殿使いの高官達となると当然、偏見も酷くなり、まさしく話の通りの『アイゼンの人間』になる。
だが彼は違った。
私と彼が初めて会った日。彼にクエストを頼まれた。
内容は彼の仕事の補佐。そんなの、ルシェである私がやれば使用人もとい奴隷のようなものだ。一発殴って、断ろうかと考えたが、お金が乏しい当時は仕方なく引き受けた。
結果として、それは良かった。
彼は真面目に仕事をして、その合間に休憩と称して私とたわいもない談笑をする。
その顔に私を見下すような感じはなく、本当に喋るのが好きな人なんだな。と分かるぐらいに彼はお喋りだった。
気付くと、クエストの約束時刻は上回っていて、他のメンバーを待たせていた私は慌てていて、ロクに挨拶もせずに帰ってしまった。
それなのに後日謝罪をすると笑って許してくれる彼がいた。
私はこの時から彼に惹かれていたのだろう。
それからアイゼンに寄る時は必ず彼に話しかけた。彼も私の冒険譚を気に入ってくれたようで、少し渋めのお茶と甘いお団子を出しながら聞いてくれた。
何時しかそれを楽しみに日々を生きていた自分に驚いた。
同時に気付いた。あぁ私は恋をしているんだって。
そんな日々が続いたある日。私は彼にプロポーズをされた。
真っ赤な顔をしながら必死に叫んだ彼に、私は何だか可笑しくて、抱き締めながらお願いします。と囁いた。
するとみるみる内に赤かった顔が更に赤くなって、強く抱き締めてきながら今日は人生最高の日だ! と彼は叫んだ。
五月蠅かったから足を踏んで落ち着かせたのはここだけの話。
それからは本当に大変だった。
ハントマンとしての後処理。貴族の妻としての振る舞い。周囲の静かなイジメ。それでも、彼の側にいたかった私は、必死に耐えた。
そんなある日、私と彼(と言っても今は夫である)はある高官に呼び出された。
私達は覚悟した。おそらく、別れよとの命令だろう。下手したら斬首。良くて左遷か。後ろ向きな考えを胸にして、それでも私達は手を取り合って赴いた。
辛辣な表情で向かった私達を待っていたのは高官ではなかった。なんと、皇帝陛下本人であられた。
私達は何事かと恐怖にも似た不安を感じた。
皇帝陛下はそんな私達にこう仰られただけでした。
「夫婦円満こそ、老いる人間の幸福の秘訣。何時までも末永くいたまえ」と。
そう仰ると皇帝陛下はお連れになったのであろう第三王妃様と供にゆっくりとお部屋を後にしました。
残された私達は暫くポカンと呆けた後、やっとの事で理解しました。
私達の仲は許されるモノなのだと。それが嬉しくて嬉しくて、その日は子供みたいに二人涙を流して喜びました。
◇◇◇
以上で、私の短い物語は終わりです。
それからの私達を皆さんは見ることはできません。だってコレはあなた達から見たら未来の事なんですもの。
だけど私の夫の姿なら見ることが出来ます。今より少しばかり若いですけど、見た目だけは妙に年老いていて。ふふふ……。
会ったなら挨拶ぐらいはして下さいね? 彼、本当はお喋なくせに、あまり喋れなくてイライラしていますから。私みたいなハントマンとの会話が一番楽しかったそうですよ?
え? 何処にいるか分からない?
いつも同じ所にいますよ。アイゼンの宮殿の入って左奥。仕事場のその階段側の……そう、その人! あ、だからって狙わないで下さいね? 私の大切な夫なんですから!
それでは皆さん、お別れの時間となってしまいましたので、またお会いするその時までは夫によろしくお願いしますね。
さようなら。
◇◇◇
――暗転の後、どこからともなく声が聞こえる。
『君達はこの映像を見た後、その人に会っても良い。但し、決してこの映像の中身を言ってはいけない』
彼らは、不思議な体験をした後にとある場所を訪れた。
『何故なら、彼らがこの未来を知らないことは必然であるからである』
そこはアイゼン皇国の宮殿。入ってから左奥にある仕事場。
『未来をかえてはいけない。と、いうわけではない。未来は不変な物などではないからだ』
そこには、真面目に仕事をこなす髭を生やした若者という不釣り合いな人間がいた。
『しかし、もし君達が彼らの幸せを望むなら、私の言うとおりにして欲しい』
その男は君達に気が付くとやぁ。と軽めの挨拶をする。区切りがついたのだろう。愛用の湯飲みに渋めのお茶を入れ、手招きしている。何か良いことがあったのだろう。
彼らは苦笑いしながら彼へと向かう。
『そして、もし。もし君達が彼らの物語をその目で見たく、また、その物語を少しでも協力したいならば――』
彼らは彼の近くに腰掛け、話を聞く体勢になる。
彼もまた、話をする体勢になる。
『――彼の話を最後まで聞いてあげてくれ。そうすれば、きっと君らにクエストを出すだろう。後は――』
彼はゆっくりと口を開く。
『――ハントマンである君達の番だ』
「聞いてくれ! 何と、ようやくこの僕にケモミミ少女の知り合いが出来たんだ! あぁ最高だよ! 時間が空いてるなら僕の話を聞いてくれると嬉しいんだが……聞くかい?」
【聞く】【聞かない】
以上です。誰だか分かっていただけると幸です。
こんなNPCの妄想が止まらない。ごめんなさい。ではノシ
面白いね。
お話の視点が上手い。
じーんとして泣きそうになってしまった
GJ!
イクラクンはエロパワーで魔力を充填しているよ、と言うお話しです。
百合が苦手な人は回避をお願いします。
イクラクン×ハルカラ、ジェリコ×イクラクン。何故か三人パーティー。
ストーリーのネタバレ無し。NGワードは「変態さんの魔力充填」です。
変態さんの魔力充填(1/16)
「ヴォルケイノ!」
イクラクンの魔法が炸裂し、敵の群れは一掃される筈だった。
「……ん?」
しかし、炎のダメージを受けながらも数匹はまだしぶとく倒れずに立っている。
「ごめん、後はお願い」
「了解」
ハルカラが切っ先鋭い剣を振り回し、味方が被害を受ける前に瀕死の敵を仕留めていく。
最後の敵は回復職ながら前衛に出ていたジェリコが重みのある杖を振り回し、叩きのめした。
「どうしました? 調子でも悪いのですか?」
敵の魔法防御力や地形属性を考慮しても、普段のイクラクンの呪文なら確実に敵の
息の根を止めていただろう。それを不思議に思ったジェリコがイクラクンをうかがうと、
本人はけろっとした顔をしていた。
「んー、調子が悪いって言えば悪いのかも」
ぺろっと舌を出し、なぜかハルカラの方に目をやる。
「……」
そんなイクラクンの視線を受け、ハルカラは気まずそうにうつむいてしまった。
「?」
「まあ、今日はくたびれちゃったからもう休もうよ」
二人のやり取りの意味は分からなかったが、イクラクンの提案で一向は宿へと向かった。
変態さんの魔力充填(2/16)
温かい食事を済ませ、熱い風呂に入って疲れた身体を癒した各々はそれぞれのベッドへ
潜り込んだ。ふかふかの布団に包まれて幸せな眠りについていたジェリコだったが、
女の子達のひそひそ声に目を覚ます。
「イクラクン、そんなのダメだって!」
「だって仕方ないもん。ハルカラちゃんだって今日のボクの情けない魔法見たでしょ?」
「でも、だからって。ボクがもっと頑張るから、ねえ、お願いやめて、イクラクン」
「ハルカラちゃんじゃダメなの。パワーが全然足りないの」
「それは分かってるけど……、でも、やだよう……」
どうやらハルカラは泣き出してしまったらしい。それから、声を押し殺したハルカラの
すすり泣きと、多分イクラクンがベッドから抜け出したのだろう、床を踏んでいるわずかな
きしみが聞こえた。二人の様子も気になったが、ジェリコはそれ以上の眠気に負けてしまった。
「う、わ」
腰の当たりにじんわりと甘い痺れを感じ、短い睡眠を中断された不満を抱えつつ
重いまぶたを開ける。目を覚ました瞬間、自分の身体の中心を包みこんでいる
誰かの手の感触に驚いて些細な苛立ちなど吹き飛んでしまった。
「えっ」
わずかに首を上げ、横たわっている自分の身体を見る。やわらかい布団は腰の当たりで
大きく盛り上がり、こみ上げて来る快楽に合わせて軽く動いていた。
「……」
布団をめくると、薄暗がりでも分かる白銀の髪。
「イクラ……、クン」
「えへ。起きたね」
寝間着のズボン越しにジェリコを刺激していた手を休め、物欲しそうにちろりと
舌なめずりをするイクラクンは布きれ一枚まとっていなかった。
普段のマイペースでおっとりぼんやりした彼女からは想像も付かないような淫らな表情を見た
ジェリコの背骨にぞくぞくと震えが駆け上ってくる。
変態さんの魔力充填(3/16)
「そりゃ起きますよ。何してるんですか」
「何って、魔力補充」
「魔力、補充?」
「慣れない長旅で疲れちゃって、ボクの体内のマナが不安定になってるの。マナの補充には
生体エネルギーの摂取が手っ取り早いって、基本でしょ」
本来なら大地や水、風の力を身体に取り入れ、それを制御して効率よく活かすのが
術者の努めだった。しかし、積極的に賞賛されはしないものの、他人と身体を合わせて
肉体と感情を高め、それを魔法力へと変換する技術も確かに存在する。
「ボクとジェリコさんが、えーとその、えっちすれば、お互いにいいと思うんだ」
倫理的にはどうかとも思うが、身体を起こしてベッドの上にぺたんと座ったイクラクンの
胸元、控え目なふくらみに視線が吸い寄せられてしまう。
「ね、だから、いいでしょ?」
中心を軽くさすってくる。手先はいやらしい動きをしながら可愛らしく首をかしげ、
甘えた声でおねだりをしてくるイクラクンの誘惑に心が揺れるジェリコだったが、
「だめーっ!」
二人の間に突然割り込んできたハルカラの泣き声に我に返る。
「んもうっ、邪魔しないでよ、ハルカラちゃん!」
「イクラクン……、男の人とするなんてダメだよ、イクラクン、ボクの事好きだって
言ったじゃない!」
流れる涙を手で拭いながらハルカラは訴えた。フリルの付いたキャミソール姿で悲しそうに
泣いているハルカラはとてもいじらしく、昼間大振りの剣を軽々扱っていた彼女とは
まるで別人のようだった。
変態さんの魔力充填(4/16)
「うん、言ったよ。ハルカラちゃんの事は大好きだよ、でも他の人とえっちしないなんて
言ってないもん」
あまりの言い草に、ハルカラはひくりを息を飲む。
「ボクは心も身体もイクラクンひとすじなのに、そんなのって」
「だって、やっぱり男の人じゃないと満足できないんだもん。ハルカラちゃんとするのも
気持ちいいけど、やっぱりあの固くて太いのがずぶずぶって入ってくる感じとか、
熱くて濃いのをお顔にかけられたり、お口やおなかの中にどくどくって出される
感覚とか、女の子同士じゃ味わえないし」
くちびるを噛み、ぽろぽろと涙をこぼしているハルカラがあまりに可愛そうになり、
何を言ったらいいのかは分からないが取りあえず声をかけようとしたジェリコを
イクラクンが遮った。
「いいの。この娘、意地悪されるの好きなんだから」
ジェリコの耳元でぼそぼそとささやくと、少しやわらかくなってしまったジェリコ自身を
ゆるゆる刺激し始めた。
「ハルカラちゃん、そんなにボクが好きなの?」
「うん」
泣きながら、しっかりと頷く。
「じゃあ、ボクがジェリコさんとえっちするの手伝ってもらおうかなあ。ボクも男の人と
えっちするの久しぶりだし、こんなに大きいの入れて痛くなっちゃうと嫌だから」
「そ、そんな」
「ボクの事が好きなんでしょ? だったらできるよね。はい、決まり」
「あ、あう」
「じゃあ、ボクがジェリコさんのを舐めるから、ハルカラちゃんはボクのあそこを舐めてね」
寝起きのぼんやりした頭のせいもあるのかもしれないが、ジェリコもイクラクンに
流されるままに、自らズボンを脱いで足を広げた。
変態さんの魔力充填(5/16)
「あっ、そうか。ハルカラちゃんは男の人の、見た事無かったよね。せっかくだから
見せてもらいなよ」
「う、っ」
イクラクンの小さな手に握られた赤黒く太い肉の棒を見て、ハルカラは息を詰まらせた。
頬を真っ赤に染めて顔を背けてしまう。
「ちゃんと後学の為に見ておいた方がいいと思うんだけどなあ。まあいいや、いただきま〜す」
ジェリコの足の間に仰向きにころんと寝転がり、中心を片手でやわらかく握る。顔を傾け、
美味しいごちそうを頬張るかのようにくちびるでくわえ込む。
「んぐっ、おおき……、ハルカラちゃん、早く」
「……うん」
空いている方の手で自分の秘部を開き、そこにハルカラの舌と指を誘った。
「うんっ、気持ちいいよぉ、やっぱりハルカラちゃんの舌って素敵」
固い肉棒をよだれまみれにしながら、時折くちびるを離して艶めいたため息を漏らす。
「指も入れてね。あっ、すごい、ジェリコさんのもぴくぴくしてる」
女の子同士の痴態を目の前に見せつけられながらねっとりとした刺激を与えられ、
そこはすぐにでも爆発しそうになっている。
「ね、ジェリコさん、気持ちいい?」
わざとぴちゃぴちゃと音を立てながら、この場に似つかわしくないあどけない微笑みを浮かべる。
「気持ち……、いいですよ、イクラクン、口を離して下さい、もうすぐ……」
「えへへ。いいよ、お口に出して」
「お口って、イクラクンっ」
「ハルカラちゃんは続けて」
驚いた顔を上げたハルカラだったが、短く命令されて素直に従った。
変態さんの魔力充填(6/16)
「ジェリコさんの飲みたいなあ……、ね、お口いっぱいにして」
口を大きく開き、熱いそれを飲み込める限りに頬張る。
「んっ、ふっ」
くちびるをすぼめて締め付け、口内で吸い上げながらながらじゅっ、じゅっと濡れた音を立て、
同時に根本を強めにしごいている。
「イクラ、クン、そんなにされたら」
明らかに射精を促す動きにたまらなくなり、イクラクンの頭の動きに合わせてジェリコの
腰がつられてしまう。
「うぐっ」
イクラクンの首の動きに合わせて喉の奥まで突き入れてしまうと、苦しそうにうめいた。
「大丈夫ですか」
ジェリコの快楽を途切れさせないように口を離さず、顔を上げて目の動きで肯定する。
イクラクンも頬を紅潮させ、興奮した短い呼吸をしていた。
「ん……、ふうっ」
汗ばんだ全身を痙攣させ、股間に舌を這わせているハルカラの頭を強く押さえ付け
いやらしく腰をくねらせている。
「ハルカラ……、ちゃん、気持ちい、ね、ジェリコさん、お口に、お口にちょうだい、
ボクに飲ませて、男の人の……」
わずかにくちびるを離し、うるんだ瞳でおねだりをするとまたジェリコのものに
しゃぶりついた。
「イクラクン、いきますよ、ああ、もう」
一瞬痛みを感じるくらいに吸い上げられ、それが引き金となって快楽が迸る。イクラクンの
小さな口の中で、びくん、びくんと震えながら大量の精液が吐き出された。
変態さんの魔力充填(7/16)
「うく、んんっ!」
その液体の青臭さが口の中に広がった瞬間、イクラクンが登り詰める。精を放出した
ジェリコの先端からもっともっと搾り取ろうとでもするように吸い付いてきた。
「そんなに……、吸ったら痛いですよ」
「んっ」
ゆっくりと顔を離し、とろけた瞳で頷いた。身体をぐったりさせたままハルカラの
髪の毛を軽く引っ張り、自分の上に来るように促す。ちらっと顔を上げたハルカラに
悔しそうな目で睨まれ、ジェリコは少し落ち着かない気分になった。
イクラクンはだるそうに身体を起こすと涙を浮かべているハルカラの身体をぎゅっと
抱きしめた。そのまま目を閉じ口づけると、ハルカラも素直にキスに応じる。と、
ハルカラの身体がぎくりと緊張した。抱擁から逃れようとしたが当然イクラクンは
それを許さず、それどころか体勢を入れ替えて自分がハルカラの上にのしかかってしまった。
「えへへ〜、飲ませちゃいました」
口移しされた液体をすぐに吐き出そうとしたハルカラのくちびるを手の平でふさぐ。
「飲まなきゃダメ。美味しいんだから、ハルカラちゃんもこの味覚えてね」
新しい涙を浮かべていやいやをするハルカラに顔を近付けた。
「せっかく飲ませてあげたのに、ハルカラちゃんはボクの厚意を無にするんだ。へ〜え」
もう片方の手でハルカラの胸をまさぐりながら、意地悪い微笑みを浮かべる。
「これ、ボクが好きなんだからハルカラちゃんも好きにならなきゃダメ。分かった?」
「くんっ!」
薄いキャミソール越しに固くなっている乳首をきゅっとつまみ上げた。
「飲まなきゃハルカラちゃんの事、嫌いになっちゃうからね」
「く……、んく、ん」
脅されて、きつく目を閉じ、口の中の液体を何とか飲み下す。細い喉が小さく動いたのを
見て、イクラクンはやっとハルカラの口を解放した。
変態さんの魔力充填(8/16)
「美味しかったでしょ?」
「にが……、変な、美味しく、ないよ」
けほけほとむせながら、まだ顔をしかめている。
「あ〜、せっかく飲ませてもらったのにその態度はいけないなあ。ジェリコさんに失礼でしょ」
ハルカラの耳元に口を寄せ、何かをぼそぼそとつぶやいた。
「えっ、あ」
「早く」
それからハルカラの腕を引っ張り、ジェリコの正面に座らせる。
「ほら。ボクの教えた通りに言って」
「あ、あのでも、そんな」
「早く言ってってば」
ぺたんと座ったハルカラの足の間に手を入れ、ショーツの中心を指でなぞった。
「きゃあっ」
「うわぁ、ハルカラちゃんってば、おもらししたみたいにびしょびしょだよ。そんなに
男の人の飲んだのが気持ちよかったの? だったら早くお礼を言わなきゃ」
「そんな、そんなの言えない」
「早くしないと、こうだからね」
粘った液体でぐっしょり濡れているショーツの横から指を入れ、とろとろになっている
割れ目をそっとなでる。
「あああっ!」
びくん、と強ばりながら逃げようとする腰をもう片方の手で押さえ付け、くちゅくちゅと
いやらしい音を立てながら指を動かし続けた。
「イ、クラク、だめぇ……」
「だめ、じゃないでしょ。ジェリコさんにお礼を言うの。ちゃんと目を見てね」
ハルカラはゆっくり顔を上げようとしたが、ジェリコの視線を感じるとまたうつむいてしまう。
変態さんの魔力充填(9/16)
「早くしてくれないかなあ、ボクはハルカラちゃんをそんな子に躾けた覚えはないけどなあ」
「あんっ、だ、だって、イクラクンの指が」
「指、やめちゃう?」
「だめっ!」
ハルカラの内股がひくひくと引きつり、緊張している。
「ここ、こんなにこりこりになってるもんね。いきそうでしょ? やめられないよね」
汗の滲んだハルカラの首に顔を寄せ、皮膚を甘く吸った。
「あううんっ!」
やわらかくカールした髪に口づけながら、指の動きを速めていく。
「いきたかったらジェリコさんにお礼を言うの。教えた通りにね。言わないとやめちゃうから」
「やめ、やめちゃだめ、あっ、ああ」
ぽろぽろと涙をこぼしながら、途切れ途切れにかすれた声でつぶやいた。
「せ、精液……、えっちな味でとても美味しかったです。ごちそうさまでした」
ぐっとくちびるを噛み、それからはあっと熱い息を吐く。次の言葉をためらっているのを
見て、イクラクンはもう一度ハルカラの耳にささやきかけた。
「ひぁんっ!」
ついでにやわらかい耳の縁をくちびるで甘く噛み、耳の中のふさふさしたやわらかい毛を
吐息でくすぐる。
「ジェリコさんの、精……液、飲んでボクは、違うのこれはイクラクンの」
「余計な事言わないの。本当にやめるからね」
ぴたりと指を止めると、悲しそうにいやいやをした。
「だったら、ほら。ジェリコさんが退屈してるでしょ」
つい先刻精を吐き出したばかりなのに、再びむくむくと立ち上がりかけているジェリコの
中心は退屈からはほど遠いようだった。
変態さんの魔力充填(10/16)
「ごめ、ああっ、ボクはジェリコさんの精液飲んでお○○こを濡らす変態です……」
「そうそう、ハルカラちゃんってば変態だよね。ねえ、ショーツが邪魔。脱いで」
言われるままに腰を浮かせ、もどかしそうにショーツを下ろす。
「ねえ、ジェリコさんも見てあげてね。えっちで変態なハルカラちゃんの可愛いお○○こ」
キャミソールのすそをめくるとハルカラは身をよじった。
「やだ、やだあっ!」
「まだ分からないかなあ、見て下さい、でしょっ」
「きゃあんっ!」
耳の付け根をくちびるで強く噛むと、全身をぴくぴく痙攣させた。
「見……、ひくっ、見て下さい、ボクのえっちなお○○こ」
「そうそう。そうやってもっとえっちな事言って。そうしたらいかせてあげる」
はあはあと息を荒げるハルカラの真っ赤になったク○○○スを小刻みにこする。
「ボク、あああっ、ジェリコさんに……、男の人にお○○こ見られていっちゃうようっ!
お口の中に、まだ精液の味が残って……、お、男の人の、飲むの初めてだったのに、
こんなやらしいなんて、ボク、ボクっ」
きつく目を閉じて全身を強ばらせた。
「好きっ、イクラクンっ! ごめんね、ボク気持ちい……、ね、いく、いってもいい?」
「いいよ。お○ん○んのミルクを飲んで発情しちゃう変態さん」
イクラクンの指先がハルカラのク○○○スを強く引っ掻いた。
「くあっ……、あああっ」
その刺激で登り詰め、全身をびくんびくんと震わせる度に新しい愛液を溢れさせる。
「ハルカラちゃん、可愛い。好きよ、大好き」
首筋にくちびるを寄せたイクラクンは汗で濡れた肌を強く吸った。
「好きいっ、ボクも、イクラクン、イクラクンっ」
やがてハルカラはぐったりと身体の力を抜いた。
変態さんの魔力充填(11/16)
「ね、ジェリコさん」
イクラクンはジェリコの足の間に顔をうずめると、固くそそり立ち、先走りの汁をこぼしている
肉棒を舐め回してよだれをなすり付けた。
「いいよね。ハルカラちゃんをいじめてたら我慢できなくなっちゃった」
手の甲でくちびるをぬぐい、身体を起こす。ジェリコに背を向けると、よだれまみれの
肉棒にどろどろにとろけている自分の中心を合わせようとおしりを押し付けてきた。
「いいですよ。私も、もう」
イクラクンの腰に手を添え、一秒でも早く男をくわえ込もうとしている動きを助ける。
貪欲にひくついている入口がジェリコの先端をとらえると、ためらわずに腰を落とした。
「……!!」
言葉にならない声を上げながら、ずぶずぶと根本まで飲み込んでいく。
「痛く……、ないですか、イクラクン」
「ちょっと痛い……、でもいいの、無理矢理されてるみたい、ああっ」
そう言いながら自分から腰を振ってくる。
「きついようっ、好き、これ好きなの、おなかの奥まで突かれると苦しくて、苦しいけど
感じちゃうのっ! ね、ジェリコさん、もっと強くしてっ」
細い身体を後ろからきつく抱きしめ、請われるままに乱暴に突き上げてやると、嬉しそうに
喘ぎながら泣き声を上げる。
「すごいっ、ボク犯されてる、男の人に犯されてるのっ! お○○こ壊れちゃうよ、
もっと、もっと壊れるくらいにしてっ」
「イクラ……、クン」
のろのろと顔を上げたハルカラが、男に貫かれて嬌声を上げるイクラクンを見つめた。
変態さんの魔力充填(12/16)
「ああっ、お○ん○んがボクの中で暴れてるうっ、ボクのお○○こをめちゃくちゃに
犯してるようっ、こんなのだめえっ、おかしくなっちゃうよ!」
真っ赤になった頬に大粒の涙をこぼし、閉じないくちびるからあごへとよだれが伝っている。
「嘘……、こんなイクラクン、初めて見る」
普段は意地の悪い、いやらしい言葉を投げ付けながらハルカラの身体を快楽に導くイクラクン。
「ジェリコさん、き、気持ちいいよおっ! ボクもう、だめ、だめえっ」
そのイクラクンがジェリコに全身を揺さぶられ、涙を流して悦んでいる。
「……イクラクン、可愛い」
ごくりとつばを飲み込むと、ハルカラはイクラクンの胸に指を伸ばした。
「なんだ、イクラクンも変態なんじゃない」
「やああっ!」
固くなっている乳首を少しきつめにつまむと、嬉しそうな泣き声を上げる。
「イクラクン、そんなに締め付けたら我慢できませんよ」
ジェリコのかすれた声を聞いて、ハルカラは強めに胸をつねった。
「へえ、イクラクンって胸をつねられると感じちゃうんだ」
「ハ、ハルカラちゃん、だめ」
弱々しい声で名前を呼ばれ、ハルカラの背筋がぞくぞくと震える。
「何がだめなの? ジェリコさんが我慢できないくらいお○○こがひくひくするんでしょ。
気持ちいい証拠じゃない」
「やめて、ハルカラちゃん。そ、そんな事言うと後で許さないからね、やあんっ!」
今度は胸に顔を近付け、先ほど自分の耳がされたようにくちびるで強くはさんだ。
変態さんの魔力充填(13/16)
「ハルカラちゃん、それ以上されたら私が保ちません」
「あ、ごめんなさい」
いったん顔を引いたが、イクラクンの乳首をいじめた時に胸の奥にこみ上げてきた
甘く切ない気持ちをもっと味わいたかった。
「じゃあ、先にイクラクンをいかせちゃえばいいのかな。うわあ、すごいよイクラクン。
イクラクンこそおもらししちゃったじゃない」
二人がつながっている場所に指を伸ばし、興奮のあまりに薄い包皮から顔を覗かせている
ク○○○スの表面を軽くなぞった。
「ちが、ハルカラちゃ」
「ジェリコさんのこんなに太いのをくわえ込んで、やーらしいんだ」
男のそれを間近で見るのは未だ抵抗があったので、まぶたを薄く閉じてあまり視界に
入らないようにする。大量に溢れている液体を指に絡め、固くなっているク○○○スを
小刻みに擦るとイクラクンの身体が跳ねた。
「ひっ、ああ、うぅっ」
「イクラクンがこんなに可愛い声を出すなんて知らなかったなあ。いつもボクに酷くて
えっちな事ばっかり言うから、てっきりいじめる方が好きなんだと思ってたけど」
下から上へ、ツメの先でかりかりと引っ掻くようにすると、きつく目を閉じてぶるぶると
全身を震わせた。
「いじめられても気持ちよくなっちゃうんだ。ねえ、もういっちゃいそうでしょ?
イクラクンの変態。インラン」
変態さんの魔力充填(14/16)
真っ赤になった頬を涙で濡らしながら絶頂寸前の快楽を噛みしめているイクラクンを
言葉で嬲っているうちに、ハルカラの腰ももじもじくねってしまう。イクラクンの秘部を
いじりながら、もう片方の手で自分のそこを慰め始めた。
「ハル……、カラ、ちゃん、好き」
息を詰め、全身を強ばらせる。
「ジェリコさん、ボクいっちゃう、いく」
「いいですよ、私も、もう」
ジェリコはイクラクンの肩越しにハルカラに手招きをした。手招きの意味を一瞬理解できない
ハルカラだったが、ジェリコがイクラクンの乳首を指さすとするべき事を理解する。
「イクラクン、大好き」
お互いの秘部をまさぐる指は休ませずに、イクラクンの乳首に顔を近付けると、くちびるで
強く吸った。
「いっ、いぃっ! ひうっ、痛……、いっ、い……」
痛いと言いながら、とろけた声で登り詰める。
「いきますよ、中」
「うああんっ」
ひくん、ひくんと波打つ肉の中に精液を迸らせると、甘い鳴き声を上げた。
「イクラクンっ、イクラクン……!」
固く張り詰めた小さな乳首をしゃぶりながら、ハルカラも後を追う。満足しきった三人は
ぐずぐずとベッドに崩れ落ちた。
変態さんの魔力充填(15/16)
「……せまい。帰る」
さすがに三人で寝るにはベッドが狭すぎる。まだ呼吸は若干荒いままだが、取りあえず
一息付いたイクラクンは自分のベッドに戻る事にした。
「うん」
腰が甘く痺れ、床についた足が少し揺らいだが、ハルカラはイクラクンに肩を貸してやる。
ちらりとジェリコの方を向き、すぐに目を逸らしながら曖昧に頭を下げた。
満足感と心地よい疲労に包まれてジェリコが再び眠りに引き込まれていく。
一つのベッドに入った二人はまたこそこそ話しを始めたようだった。
「ハルカラちゃん、何するの?」
「何って、イクラクンをきれいにしてあげるんだよ」
「だからってそんなとこ舐めちゃ、ああっ!」
ぴちゅぴちゅと濡れた音が聞こえてくる。
「だってこれ、イクラクンも好きだからボクも好きにならなくちゃいけないんでしょ?
さっきはあんまり分からなかったから、良く味わってみなくちゃ」
「まだ痺れてるからそんなに吸っちゃダメ、舌、入れないで……、あああっ」
布団の下でハルカラが動く度にイクラクンが震える。
「ねえ、イクラクンって本当はいじめられる方が好き? だったらボク、頑張るよ」
「うーん、ハルカラちゃんをいじめるのは好きだよ。……って言うか、ハルカラちゃんが好き」
「ボクもイクラクンが好き、イクラクン、イクラクンっ」
もっと聞いていたかったが、ジェリコの意識がゆっくり途切れていった。
変態さんの魔力充填(16/16)
翌日。
「ヴォルケイノーッ!」
どごん、と壮絶な火柱が上がり、敵は瞬時に消し炭になった。
「す、すごい……」
朝からテンションが高く、ごきげんなイクラクンはフィールドで出会う敵を次々に
なぎ倒していった。
「そんなに違うのかな、男の人とするのって」
不満そうにつぶやくハルカラにめざとく気付いたイクラクンは彼女をぎゅっと抱きしめる。
「それもあるけどー、これはハルカラちゃんとの愛情パワーだよ、うん」
「そ、そうかなあ? だったらいいんだけど……」
惚れた弱みで簡単に言いくるめられてしまうハルカラを抱きしめながら、イクラクンは
ちらりとジェリコの方に振り向くといたずらっぽく舌を出して見せた。
「あっ、何でよそ見するのよ」
「してないよ〜」
「嘘、した」
「してないってば。ハルカラちゃんはボクの愛を疑うの? だったら今すぐここで
身体に証明してあげてもいいけど」
「身体って……、イクラクンのえっち!」
くすくすと笑いながらじゃれ合う二人につられ、ジェリコも自然に微笑んでしまった。
以上です。
名前の所にタイトル入れれば良かったorz
GJ! 少し活気が戻ってきたかな?
GJ!このスレのジェリコは裏山…けしからんハァハァ
乙
次スレどうする?
この人数だと……厳しいな。
立てて即死しなければ続行…ではダメかな…
404 :
名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 04:11:32 ID:Z54PhTu5
書きたいとは思うがなにも思いつかないんだよな
立ったら投下するよ
連載もまだあるし世界樹に行ってる方も向こうが一段落したら戻ってきてくれるんじゃないかな…
もし立てるとしたらテンプレは現行+
>>199の代理保管庫でおk?
ごめんageる
いいんじゃないかな
./ ;ヽ < フゥハハハーハァー! エンカウントは地獄だぜー!
l _,,,,,,,,_,;;;;i
l l''|~___;;、_y__ lミ;l
゙l;| | `'",;_,i`'"|;i |
,r''i ヽ, '~rーj`c=/
,/ ヽ ヽ`ー"/:: `ヽ
/ ゙ヽ  ̄、::::: ゙l,
|;/"⌒ヽ, \ ヽ: _l_ 彡
l l ヽr ヽ | _⊂////;`) ナデナデ
゙l゙l, l,| 彡 l,,l,,l,|,iノ∧
| ヽ ヽ _ _ ( ・∀・) ニャー
"ヽ 'j ヽヽ, ̄ ,,,,,U/"U,,