左右を森に挟まれた道路。制服姿のミネルバは一人、トランステクターを走らせていた。
定期パトロールの最中である。秀太やキャブは数分前にそれぞれが担当するコースへ別れ、このあと定時に合流して基地へ帰還する予定だった。
だがミネルバは道の途中でスピードを落とすと、運転席から身を乗り出して周囲に気を配る仕草を見せた。それはデストロンの気配を探るための行為ではなく、彼女の顔にはこれから自分が行うことへの罪悪感と、誰かに見られはしないかという不安の気持ちが表れていた。
少ししてトランステクターは道を外れ、脇の森の中へと入った。木々の間にはうまい具合に車が通れるだけの間隔があり、ゆっくり二、三分ほど進むとやや開けた場所に出た。頭上は高い木から伸びた枝葉で覆われており、空から見てもこの広場はちょっと見つけにくいだろう。
その片隅に停車したミネルバは息をひとつ吐くと、銀色のリングを填めた両手を交差させた。
「マスターフォース!」
光が溢れ、一瞬でミネルバの身体は赤いプロテクターに覆われる。
「トランスフォーム! ヘッド・オン!」
さらに彼女の身体が車外に射出されると、一緒に飛び出した運転席のシートにドッキングしてロボットの頭部を形成する。そのままトランステクターが変形したボディへと合体した。
もう何度も繰り返してきたプロセスを経て、森の中にサイバトロンヘッドマスタージュニアの紅一点・ミネルバのロボットモードが登場した。
「はぁ……」
うっとりと感じ入った様な声を出すミネルバ。その視線はトランステクターの──自分の体を見下ろしている。
「凄い……」
そして、掌を閉じたり開いたり、体の様々な場所を触ったりする。傍から見れば、自分の体全体をまさぐる様な奇妙な仕草だ。そうしている内にも、彼女の口から呆けた吐息が漏れ続けていた。
「わたし…… ロボットになってるんだ……」
次に発せられたのはそんな言葉。口元はだらしなく緩んでいる。
ミネルバは、トランスフォームした自分の体そのものを愉しんでいた。人間の柔らかな肉体とはまるで違う硬質な感覚。肩口から大きく張り出した車のドアにあたる部分や、手足に付いたタイヤ。そんな普段の自分とは明らかに違う機械の体が、とても心地良く感じられる。
サイバトロンの一員として活動している時は押し隠している楽しみを、今は誰にも遠慮することなく味わっていた。
力の抜けた体はぺたんと尻餅をつき、傍らの大木にもたれかかった。全身を触っていた右手はやがて下半身へと伸びていく。そしてその指先が股間部へ触れた瞬間、
「うんっ!」
それまでとは明らかに異なる刺激に、ミネルバの体がピクリと震えた。
勿論トランステクターが変形したボディのその箇所に、人間の女性としてあるべきものが存在する訳はない。だが彼女の手は止まることなく、ただ平坦な装甲があるだけの股間部を擦り始めた。
「ん、んぁ…… う、ふぅ……っ!」
息を荒くし、機械の体を震わせながら行為に没頭するミネルバ。その全身を駆ける刺激は、普段彼女が生身のまま自分を慰めている時のそれと同種のものだった。それどころか股間が湿りだし、指先が濡れている感覚すらある。
「あ、ふ、い、イイ……っ」
嬌声をあげるミネルバの顔の、その内部──ロボットの頭部に収まっている、彼女の人間としての肉体。何もされていない筈の秘所が多量の液を溢れさせていた。
トランステクターによる仮の体とミネルバ自身の本体との間で、感覚が交錯しているのだ。トランステクターの股間を弄れば、同じことを何度も繰り返している肉体の方が反応して、その部分が湿りだす。
その感覚がさらにトランステクターへとフィードバックし、何も無い筈の股間が濡れているように感じられる。
それは生身の体だけでは決して味わえない、不思議な快感だった。ある時ほんの思い付きでこの行為をしてしまったミネルバはその悦楽に絡め取られ、以降何度もパトロールをサボっては同じことを繰り返していた。
「あ、ひ、んあ、ふあぁ……」
空いている左手は胸元を弄りだす。当然そこには十代の少女の乳房など無く、開閉する表面部と内部のパワーメーターがあるだけだ。
だが今のミネルバにはそんな人間と異なる体の機能さえ快楽と同様であり、狂った様に平坦な胸部を触り続けた。彼女の能力を示す筈のパワーメーターの表示も目茶苦茶に動いている。
「う、くん……っ! だ、だめなのに、こんなの、わたしぃ……」
こんなことをしている自分に罪悪感が無いわけではなかった。基地を出発した時には、いつももう止めなければと思っている。だが結局は誘惑に抗えず、今はその背徳心すらが快感を増す要素になってしまっていた。
「あ、わ、わたしぃっ! ぱ、パトロール、さぼ、て、こんなぁっ!」
手の動きはどんどん激しくなり、卑語交じりの嬌声はますます高くなる。
「は、に、人間なっのに! ろ、ロボットに、なって、オナ、ニー、して、こ、こんな、あ!」
森の中で自慰行為に耽る、人間の少女が変身したウーマンサイバトロン。彼女はいつもと同じ様に、達した。
「あ、はあああぁぁーっ!」
全身を震わせながら、大きく背を仰け反らせる。その頭部の中ではミネルバの肉体も同じ様に絶頂を迎え、秘所から大量の液を漏らしていた。
波が過ぎ去った後は力なく森の中に横たわり、しばし余韻に耽る。意識が遠くなってそのまま眠ってしまいそうな気がしたが、パトロールを抜け出している以上そんな訳にもいかなかった。
ふらりと立ち上がってようやく息を整えると、元の姿に戻る為に声をあげる。
「トランス、フォーム!」
ヘッド・オンとは逆のプロセス。トランステクターから分離した瞬間にミネルバは生身の感覚を取り戻し、そのままシートからも離れ、ビークルモードへ戻ったトランステクターの運転席へと収まった。
何時の間にかマスターフォースも解除され、そこには只の十五歳の少女がいるのみだった。白く柔らかな手足、爽やかな金色の髪、着慣れた制服。
機械の体の余韻がまだ残っている様な気がするが、今のミネルバは間違い無く人間だった。感慨深く自分の身体を見下ろすが、ふと股間に湿り気を感じる。
(……また、下着汚しちゃった……)
一人恥じ入って顔を赤らめる。終えてしまった今はますます罪悪感が募るが、だからといって先程までの快楽を否定する決意を固めることも出来ず、ミネルバは晴れぬ気持ちを心の中で持て余した。
「……行かないと」
それでも、皆にバレることだけは避けなければいけない。森を出たミネルバは再びパトロールコースに戻り、秀太たちとの合流地点へとトランステクターを走らせた。