2 :
名無しさん@ピンキー:2009/06/16(火) 01:46:16 ID:E/EOuhE+
図書館でぬるぽ
3 :
名無しさん@ピンキー:2009/06/16(火) 06:08:02 ID:WMqXqQsO
>>1 フッ…
. (~)l! (~)
|l| i|l , _ __ =i:i:i:i:i)
!i ;li __ _ ニi:i:i:i:i:i:)
l`・ω・´:l. __ ̄ ̄ ̄ ( `・ω・≡
!i ;li  ̄ ̄ ̄ キ:::::::::::::三
i!| |i  ̄ ̄  ̄ =し─三‐ ―
(~)/ ; /
(/i:i:i; /
/i:i:i:i// / ヒュンッ
( `・ω・/
(:::/:::ソ::::/
//し─/´
/ /;
(~)
=i:i:i:i:i)
ニi:i:i:i:i:i:i:) ―
( `・ω・´) ニ≡ ; .: ダッ
キ:::::::::::::三 三 人/! , ;
= し─三‐ ―_____从ノ レ, 、
図書館のパロはよく見るが、自衛隊はあんまり見ないなぁ…
>>5 国防レンアイの二人の後日談なんかオモロそうだけどな。
くっいた途端に周りがドン引きするくらいベタ甘になってそうで
俺は2年くらいたった脱柵エレジーが見たいわ
自衛隊といえば空の大人組
定番すぎか
アニメ化されてねーから知名度低い、そんだけ。
図書館もいいし自衛隊もいいw
タイトル忘れたがトイレの二人も良い。
>>12 ロールアウトだな。あの二人も良いなー
ラブコメ今昔&ダンデ・ライオンとか軍事とオタクも好きだ
同意せざるを得ない!
15 :
名無しさん@ピンキー:2009/06/22(月) 10:33:39 ID:cc8blrn7
タイトルとそのカップルの名前を見るだけでニヤついてしまう不思議
ライオンてどれだっけ?
今本が布教に出てるから分からん!
18 :
16:2009/06/25(木) 18:33:19 ID:ojYX3Edv
ゴメン、どんな話って意味です。
今昔出張してるんだ…
>>18 ラブコメ今昔イマドキ編の広報部カップル
跳ねっ返りだけど繊細な女と
ツンデレ不器用カメラマンの馴れ初め話…といえば思い出すか?w
ライオンはダンデョライオンな
不屈のタンポポ
21 :
16:2009/06/26(金) 13:16:57 ID:ttns7g1g
>>19 お〜!!ありがとう。
今昔てそーゆー意味でしたか。
広報カップルでわかたよ。
ツンデレカメラマンに笑ったけど確かに。
気持ち表すの下手だけど、手筈の用意周到さはさすがだよね。
>>22 しかもヒグマって…事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもんだ
ヒグマかよ!
クマがテントを見慣れてるわけがない。
その変なものが予想外の反撃をしてくたらそらーびっくりだったはずだ。
植物図鑑ならどんなシチュがいいかな?
纏まった頃のアマ〜とかいいな
早く読みたいよ!植物図鑑っ
いつになったらウチの地域にくるんだ!?
きっと後少しさ!
と何の根拠もなく言ってみる
イツキに激しく萌えたw
>>26 植物のつるが全身にからみついて、いろいろチョメチョメされてしまうあれ。
つるがパンツをつかむとパシーンと下着がはじけ飛んで全裸になるやつ。
33 :
29:2009/07/05(日) 01:33:18 ID:oh+NvmDf
今日見つけた!
何故かサインいりとそうじゃないのを売ってたw
イツキ可愛いね。頑張ってガマンする気持ちとか読めたら萌える…ww
と言うわけで励ましてくれた
>>30ありがとう
がんばって我慢してた時期
寝てたり風呂中のさやかや洗濯物をどう思ってたか…とかやばいね
いろいろと大変だったろうな〜w
33のサイン本ウラヤマシス
我慢してた時期は中身のない布にも興味深々だったのだろうか
風呂上がりのさやかとか、狩りの日にまだ寝てるさやかとか、さやかの出すシャワーの音とか、さやかの入ったあとのお風呂とか、さやかの匂いがするベッドとかか…。
イツキ可哀想w
>>35 なぜか10冊くらいあったよ。
どういうルートでお目見えしたのかは全くわからんが。
>>37 サイン本いいな〜羨ましい
必死で生殺しに耐えるイツキと、くっついてからのデレ全開のイツキ、どっちも可愛い。
どっちも萌える。
イツキと暮らしたら健康になれそうだけど体力も相当…
そういえば二人の年齢差についての描写はなかった気がするのだけど、あった?
>>39 イツキが学年1コ上。
さやか27歳、イツキ28歳だったと思うよ。
>>40 そうなのか。なぜ気づけなかったのかw
じゃあ、29と30になる年で再会か。
ますますいちゃこいてる毎日なんだろうなぁ…w
>>40ありがとう。
そうなのか。なぜ気づけなかったのかw
じゃあ、29と30になる年で再会か。
ますますいちゃこいてる毎日なんだろうなぁ…w
>>40だけど
再会した時(本編終了時)の年令が27歳と28歳ね。
分かりづらくてゴメン。
>>43重ね重ねありがとう。
そして二重書き込み大変すみません
再会時か!じゃあ我慢してたときwがイツキ26くらいだとすると
………生殺しは辛かったことだろうなぁ…ww
勝手に30前と20代半ばのガマンの辛さは違う気がすると思ってるw
原作にイツキ目線が無いから、ここで書くには相当な腕と愛が必要になりそうですね。
イツキって、さやかの気持ちは結構最初から気付いてたらしいけど、自分はいつさやかを好きになったんだろうね。
>>46 レス読んで思わず読み返したけども一つ判らんかったw
さすがに最初からってことはないだろうけど
引き金引いといてというセリフがあるから、
イツキもほぼ一目ぼれじゃないの
お互いに結構好みの容姿ではあったんだよね?
さやかはタイプっつってるけど
だからお互いほぼ一目惚れ、性格とかにマイナス要素がなければあとは好意が積み重なるだけだよね
イツキの方もほぼ一目惚れだったとしたら、気持ちが通じるまでどれだけ悶々してたんだろ。
それが、さやかにちょっかい出してる男登場で爆発って感じ?
その後の事あるごとにスキンシップありのデレっぷりも頷けるかな。
化粧してないさやかが好き、というセリフもあるけど
作者が行き当たりばったりで決めた感が強いような
自分がまぁ可愛いと思ってる女の子の世話をして過ごしてて、
家からは否定されてた自分の好きな事に興味を示してくれただけでなく
こっそり図鑑買って積極的に勉強してくれちゃって楽しそうに狩りもついてくるしと、
こうも好意まる出しに無邪気になついてこられたら
そりゃあ…ガマン中の苦悩は涙無しには語れないよねww
きっと実家はお金持ちなんだろうし、家と切り離してイツキをイツキとして見てくれた初めての子がさやかなんだろうな
あ〜っ!!!!!デレるw
>>52 イツキの心情として、凄くしっくり来た。
普段がデレだけに怒った時のイツキもいいなぁ。
さやかが夜遅くに一人でコンビニ来た時や、日射病でダウンした時に叱り飛ばすイツキに萌えたw
>>53 ありがとうw
ちゃんと叱ってくれるイツキは確かに萌えるw
締めるとこ締めるっていうか、
けじめをちゃんとつけられる人なんだろうなと思う。
それにしてもイツキに家出するだけの勇気がなくて
鬱々と過ごす事しかできない坊っちゃんだったら
こんな幸せな人生になってなかったろうと思うと決断ってだいじだな。
イロンナ意味でww
一目惚れから好意が増してって悶悶か〜。 想像すると萌える。
と言いつつ「もう少し暖めてあげようか」辺りが分岐点説をこっそりと。
さやかが出たばかりの風呂に続けて入ったり、いきなり抱きつかれて泣かれたりとか結構最初の頃から拷問だよねw
そんだけ頑張って耐えてたのに、さやかは構わず好き好きオーラ出してくるわ、勝手に嫉妬して怒るわ…イツキ不憫w
>>55 入浴剤は?
出会う前はこんなに泣く子じゃなかったのにって会話。
あれってイツキ“だから”さやかの毒を出してあげられるっていう、「あなただけ」攻撃ではないでしょか?w
>>57 最初の頃のやり取りが駆け引きっぽく見えたんだけど、
>入浴剤は?
それを言われるとw
その辺、さやかが直球で聞けば案外「最初から好きだったよ」とかアッサリ言いそうw
自分の性別に自覚は?ってあるんだから拾ったその日だろうね
自分が食っちゃうかもって自覚があるんだから
そういえばさやかはイツキは巧いと表現していたけど
イツキの脳内妄想ではもっと激しくやらかしていたのだろうかw
その辺はオトコノコだから食おうと思ったら食えるんじゃない?w
可愛いと思ってるくらいだし。
それでも好きになるのに時間はかからなかったと思う。
脳内妄想w個人的には風呂で毎晩処理してたんじゃないかとww
同居してたらうかうかティッシュも残せないよね〜
かなり最初からさやかの好意に気づいていたのに
自分も好きだと言葉じゃなくても態度でアプローチしなかった理由って何だと思う?
自分は流浪の男だから
思いを通じさせてここに居着いてはいけない、という気持ちかな。
「中途半端な今の自分ではさやかとこの先もずっと一緒に居られない」
って考えるようになったのは思いが通じてからだよね。
>>63 さやかの好意には気付いてたけどハッキリと言われた訳じゃないし、ヘタに本性出して嫌われてさやかの側に居られなくなる事を恐れたのかな…と想像した。
「好きになった子に手ぇ出さない条件で同居〜」結局はこのセリフに表れてるんじゃない?
同感
自分で自分のことをヘタレだからって言ってたしね
気に入った子から嫌われるの怖いし、
嫌われて同居解消する=一度共感者を得た後に孤独になる、のはキツイだろうし。
好きな子のいる居心地のいい場所から離れたくないと
いろいろ片付いてないし言えないの両方あったんじゃないかな
このスレ、エロパロなのに妙に和むな〜w
作品への愛に溢れてるよねw
明日発売の番外編も気になる!
萌えがあるといいなぁ…
>>26 遅レスだけど
あの晩の初Hの続きが読みたいです。
野生時代の読み切り、読めた方いますか?
イツキ、さやかは出てくるのかな…?
>>70 バレ?
さやかは出なかった。
日下部くんは出たよ。
>>71ありがとう!
そっか〜イツキは出るんだねw
午後三時に出てきた女の子の話かと思ってたけど、違ったか。
この話って、文庫化しないと収録されないよね…
イツキとは書いてないけど日下部くんってイツキの弟とかじゃないよね?
植物少年だった小学生の頃のイツキの話とか?
イツキとさやかの息子かもしれないな…
ラノベ板の方にネタバレ来てたね。
日下部くんの意味が解りました。
よんだ!甘酸っぱかったw
日下部くんの生活考えるとニヤニヤが止まらない
あと一冊分たまるくらい読み切り描いて欲しいね。
「小梅」キャンディみたいだったな
やはりあの夫婦は息子の前だろうといちゃこいてるんだろうか。
結婚式前夜なんて、イツキはやっとさやかは俺のものとか理想の家庭が持てる嬉しさにニヤけてるんだろうかww
そういえば式ってするのかな。
いや、まずは籍を入れてしばらくは金を貯めようと思ったけど式をあげる前に妊娠発覚なんてありえそうだし
それともまずは二人でいたいってことで避妊するかね?
少なくともさやかが電話しまくるのが治るまでは二人きりでいたいところだろうが
入籍はしたが、式は挙げてないっぽいよね。
イツキは自分が家庭環境に恵まれなかった分、子供がいる幸せな家庭に憧れ抱いていそう。
うん、イツキは早く家庭もちたいだろうね。
さやかも、結婚したらさすがに勝手に出ていけないと解釈すれば、早めにしたいんじゃない?
息子が生まれたら、構わずスキンシップしてくるイツキにさやか、照れ隠しで拒否→夜イツキ「さっきの分も合わせて、さやかで返してもらうよ」→翌朝さやかグッタリ、イツキはご機嫌で朝食作りとか?
娘だったらパパ大好き娘に、さやかがヤキモキしそう。
ヤキモキしてもシアワセ
やっぱり植物系の名前つけたのかな。
樹木の樹でイツキ」が素敵過ぎてそれ以上が思いつかない。
パパが樹だから、息子は葉(ヨウ)とかw
娘ならその季節の花の名前付けそうだね。
いいね〜葉とかいてヨウ
女の子もシンプルな名前を付けそうっぽい
野生時代の短編、植物図鑑本編と合わせて読むといい感じだった
野性時代、さんざん本屋探したけど置いてなくて、やっと見つけたと思ったら先月号だった…ショック…
有川先生の道草クッキング読んじゃったよ!
なかなか置いてないよね、野生時代
近所だとTSUTAYAにあったよ
先月号はノビルのパスタが美味しそうだった
>>90 そうなの〜私も唯一見つけたのがTSUTAYAだったんだけど、いかんせん先月号…
有川さん植物図鑑外伝たくさん描いて早く書籍化してくれると嬉しいな〜
大型書店で見つからなかったから密林で頼んだ。
この手法で描いて行けば、いくらでもネタありそうだよね。
本編に出てこなくても過去にイツキ・さやかに関わった人はたくさんいるだろうし…
野性時代は図書館で借りて読んでる
>>92 未来にもね。“身近にある小さな冒険”
“植物”縛りはあるけどいろいろネタありそう
>>91が早く外伝読めますよう
野生時代、今いるところはどこの図書館も置いてないよorz
96 :
91:2009/07/21(火) 00:12:36 ID:XYIJ1uuC
ところでケータイからまとめを見るときってロムをいっこずつ見るしかないのかな。
みんなどうしてる?
教えてチャンですまそ
PC派なんでわからん
参考にならなくて悪いね
ロム…?
兄さん?
ラ板の小話の人こっちにも投下してくれないかなー
100レス中1個もエロパロがない
手柴の初を書きたがっている自分がいる…。
別冊2を読み直そう。
塚はドーテーだろ。
柴崎が天使モードで筆おろし。
塚はあのセリフから鑑みるととりあえず一通りやってるだろう
でも自分からは積極的に求めなくていつものお決まりのセリフ言われて破局なのでパターンは少なそう
いんや、本番まで行く前に破局してるはずだ。
そーいうとこ責任感あるんじゃね。
遅ればせながら、やっと野性時代読めた!
一行でいいからお父さんの話も出して欲しかったな〜
108 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 08:46:11 ID:38wm2Ktw
さっさと書けカス
小話というか対話しか書けなくてスミマセン。
植物図鑑 イツキ×さやか
初めての夜の数日後くらい?
イチャイチャしながらこのまま営みに突入する雰囲気での会話
さやか「イツキ、私で『そういうこと』考えてたんだ
イツキ「ん。さやかにバレないよう必死だった
さやか「で、イツキの頭の中で私はイツキにどんなことされてたの?
イツキ「…行為をもって回答に代えさせてもらうよ?
さやか「…バカ
110 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 16:39:14 ID:38wm2Ktw
書けなくてスマンと言うくらいなら書くな。
目ざわり。
これでどう?
さやかはイツキと関係を持った週末、二人でテレビを見た。
いわゆるB級映画で、吸血鬼が高校の先生になって処女の生き血を吸おうとするドタバタコメディーだ。
「ツッコミどころが多すぎない?」
「楽しみ方は人様々。俺も吸血鬼になりたいな。相手はもちろん……」
イツキはさやかの首筋を噛もうとする。跡に残るのは絶対嫌なので払いのけた。
「目が怪しい」
さやかはぷっと吹き出すと、イツキもつられて笑みを浮かべた。
「さやか、おいしそう。いや、実際よかった」
「イツキ、私で『そういうこと』考えてたんだ」
「ん。さやかにバレないよう必死だった」
「で、イツキの頭の中であたしはどんなことされてたの?」
「……行為をもって回答に代えさせてもらうよ」
「……馬鹿」
あれから二人の距離は縮まったともいえるし、そうとも言えない。
イツキは下ネタを振ってくるようになった。さやかは赤面することもあったが、満更でもない。
身の上話を嫌うのは相変わらずだった。
でも、ずっとここにいてくれるだけでさやかは満足だ。たとえ現実味のない付き合い方と言われても。
「腰の具合は大丈夫?」
映画が終わってイツキが言った。どういう意味かは分かっていた。
すこしはみかみながら頷くと、イツキが微笑んだ。
今回はシャワーなし。お互い下着だけになってベッドになだれ込んだ。
「なかなかのカワイ子ちゃんじゃないの」
映画のセリフそのままでさやかに迫ってきた。首筋をまた狙ったのだ。
「ダメ! 跡が残る」
「じゃあ服で隠れるところで」
イツキは左肩を噛もうとする。さやかはすこし緊張すると、「フェイント!」
さやかは左上腕を噛まれた。
「あたしにそんな趣味ないの!」
「じきに病み付きになるよ。お楽しみ」
これが回答か。断ってやる。
だがキスをすると一転して、優しく舌を絡めるイツキに身をゆだねた。
ブラをはずされ乳房を揉まれる。イツキは口付けをやめて乳首を舐める。
いとおしむような愛撫が気持ちいい。
噛まれるなら毛布をかぶって抵抗しようと思っていたのも忘れていた。
――そのとき。乳房に歯形が残るような勢いで噛まれた。
「痛い!」
「気持ちよさそうにしてるから、つい。ごめんな」
さやかは気づいていた。イツキの術中にはまってしまったこと。
そして、それでいいことも。
この前よりも気持ちがいいことを実感しながら、さやかはイツキの肉体を受け入れていった。
「植物図鑑」で樹の「俺は君を布団に入れるとき、それなりに理性が必要だったけど」
を読んで、その時何があったのかを考えてみました。
4レスほど使います。
(それなりに理性が必要)
一宿一飯の恩恵を受けて30分後、「彼」はベッドで寝ている家主を見て困惑していた。
もとは、荷物の中から寝袋を出し、そのついでに風呂を借りた礼を言おうと思い、何気なく家主の方を見ただけだった。
家主である「彼女」はベッドの上、正確には掛け布団の上で規則正しい寝息を立てている。
暖房器具があるとはいえ、真冬の夜に布団なくして寝ていたらどうなるかくらいは、予想がつく。
30分前の彼女がかなり酔っていたこと、そして目を覚ました後の「彼」への予想される対応を考慮し、できるだけ自力で目覚めてもらおうと声をかけたが、一向に目覚める気配はない。
彼―イツキは逡巡した揚句、彼女の方へ手を伸ばした。
抱きかかえて布団に入れている間に彼女が目を覚ましたらという思いもあったが、これほど熟睡しているのだから、それはないという妙な確信のほうが強かった。
何より、翌朝彼女が風邪をひいていたら、後味が悪い。
(それなりに理性が必要2)
「ちょっと失礼」
律儀に小声で断りを入れてかがみ、寝間着に包まれた彼女を抱きかかえる。
「よいしょ…っと」
寝間着のお姫様は、本当に魔法が掛かっているかのように起きない。
彼女を抱きかかえたまま、ベッドの枕近くに位置をずらした。
その隙に掛け布団を足もとへ乱雑にとばし、彼女が本来寝るべきスペースを作る。
魔法が掛かっているのはお姫様だけで、女とはいえ寝ている人間を支えるのはやはり力がいる。
自然と、彼女と自分の体との距離が0になる。
あとは彼女を元の位置に戻し、掛け布団を掛けて作業終了、のはずだった。
不意に彼女が身じろぎ、その両腕がイツキの首に回された。
起こしてしまったかと内心慌てたが、寝息は途切れず、
狸寝入りというわけでもなさそうだった。
肌寒くて暖を取ろうと温かい方へ体が寄ったのか、
誰かに抱かれている夢を見ているのか、どちらにせよ本能がそうさせているのだろう。
イツキは、途端に意識し始めた自分の心音を感じながら、静かに彼女を布団に置いた。
(それなりに理性が必要3)
膝の後ろにまわした手を離し、自分の首にまわされた彼女の手を取る。
が、予想に反してしっかりとした力で組まれた手は、離せそうになかった。
不安定な姿勢で無理に腕を解いたら、その瞬間自分も体勢を崩して、
彼女の胸のあたりに顔を埋めそうだった。
善意からとはいえ、恩を仇で返すことは避けたい。
となると、残る方法はひとつ。
イツキは、彼女の肩を支えている腕をそっと抜き、彼女の頭を枕に着地させた。
一緒に、イツキの顔も、彼女のそれの至近距離にくる。
とりあえず、彼女を落とさず起こさず移動が完了したことにほっとした矢先、
自分の目前にある彼女の唇から目が離せなくなった。―欲しい。
(それなりに理性が必要4)
結局、唇は序の口だった。
イツキの首が彼女の腕をくぐるために彼女の胸元を通過する。
胸元に最接近したまま、でも触れられない、
見知らぬ女を押し倒したかのような感覚に、一気に自身が張り詰めていくのが分かる。―欲しい。と本能が叫んでいる。
急に彼女の腕の柔らかさと無邪気な温もりが思い出され、イツキは我に返った。
依然、お姫様の安らかな眠りは続いている。
イツキはそっと立ち上がり―――猛ったまま収まりのつかない自身をなだめる為にトイレにこもった。
二人がそうなってから最初の週末は雨だった。
明け方、静かに帰宅してシャワーを浴びたイツキは自分のではなくさやかの布団に潜り込んだ。
「さやかの隣に入れて」無声音で囁いたが承諾を得るつもりは無い。
「寝顔かわいい、さやか」つい手を伸ばしてしまったら止まらなくなって
頬から耳、柔らかい髪へと指が滑って行く。
「ん… イツキ?」
「起こしちゃった?ごめん」
「いいよ、お帰り、お疲れさま…」
目は閉じたまま口元で微笑んださやかの腕が伸びてくる。
小さい子供が母親にするように柔らかい胸に顔をうずめる。
「こうやってさやかの布団に潜り込みたいっていつも思ってた」
「ふふ…イツキ、可愛い…一緒に入りたいの、我慢してたんだ?」
さやかが優しく抱きしめながら背中やら後頭部をゆるゆるとさすってくる。
「うん、我慢してた。平日はさやかもう起きてるから助かったけど」
「布団に入って来るだけ?考えてたの」
「え…」
「イツキ、あたしで『そういうこと』考えたって言ったよね?」
今それ言うか?と思わなくもなかったけど、優しい声と掌に逆らえない。
「うん、必死で隠してた」
ふと、さやかの頭が降りて来て、さっきまで心音と一緒に聞こえてた声が近くなる。
「イツキの頭の中であたし、どんなことされてた?」
耳元で熱っぽくそんなこと言うから!だからこんな返事になっても仕方が無いだろ?
「…行為を持って回答に代えさせてもらう」
「…バカ」
パジャマの上からまさぐった胸は、ノーブラだったから余計に中心がすぐに見つかって。
指先でやさしく頂を引っ掻きながら唇を甘噛みする。
「さやかは、俺と『こういうこと』考えなかった?」
「…考えなかったと思う?」
「ずるい、俺が白状したんだからさやかも言ってよ」
「一緒…だよ、イツキと。でもあたしは頭の中でも『される側』だから行為をもって回答に代えられない」
照れ笑いしながらうつむくさやかが可愛くて、一気に布団に押し付ける。
「そんなエッチなさやかには遠慮はいらないよな?」
「今日は雨だから狩りにも行けないし」
後から付け足したような口実は二人の吐息に紛れて消えて行った。
わは、投下ラッシュだw
激しく乙&GJ!
投下してくれた皆さんGJです!
デレてからのイツキはかなりエロいw
121 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 03:52:08 ID:JVYF6xZI
レベル低いな
直接的でないところがかえってエロイイ!
GJですた
>>121 ツンデレだな〜
萌えたGJ
植物図鑑 イツキ×さやか
inバスルーム(ノーマル)投下します。
4分割にて。
【植物図鑑】イツキ×さやか バスルームにて1/4
「さやか、これ何に使うの?」
くっ付くか付かないかの至近距離で向かい合ってシャワーを浴びている最中、
イツキが体をかしげて持ち上げたのはキャップが水色のベビーオイル。
スキンシップ好きなイツキはこんな時も背中に手を回して
首とか鎖骨にちょこちょこキスを仕掛けてくる。
「ベビーオイルね。メイク落としとか、冬はスキンケアにもするし…いろいろ使えていいよ」
実は無駄毛処理にも使っているがあんまりにも色気が無いのでそれは伏せておく。
「このデザイン、どっかで見たことあると思ったらベビーオイルか。でもピンクじゃないんだ?」
女の子のスキンケアグッズに詳しいね?と出かかったけど寸でのところで飲み込む。
イツキのおでこがコツンとおでこに当たる。
上目遣いで拗ねた風に言ってくる。
「何でそんなこと知ってるのかとか考えたろ?
さやかはすぐ顔に出るから隠し事してもダメだよ。
店にさ、これのピンクの小さいのがあるんだよね。」
「そっか、コンビニでもたまに見るね、そういえば。
ピンクのは微香性で、あたしは無香料がいいからブルーなの」
「ふーん。ところで、」
ん?と首と目で相づちを打つ。
「こんな使い方も出来るよね」
手のひらにオイルを一押し取り出したイツキの手が背中から胸に滑ってくる。
抵抗する間もなく頂上に辿り着いた。
【植物図鑑】イツキ×さやか バスルームにて2/4
「んっ…」
「どう?」
「ぬるぬるして、あん、やらし…んっ」
「嫌ならやめるから言って」
「やめるつもりない癖に…あ…んっ」
潤滑油を得てより滑らかで暖かいイツキの手が胸に吸い付いて離れない。
親指は先端を捕らえくるくると器用に弧を描き、
残りの四指は麓から脇からふくらみをなで回す。
と思えばまるでピアノかハープでも弾くみたいに5本の指が器用に
時間差で先端を弾いていく。
息をつく暇もない愛撫に腰がくだけそうになる。
「はぁっ、んん、イツキ…もうダメ」
「まだまだこれからでしょ。もう下も触っちゃうよ」
「だ…め…」
イツキが耳たぶを甘噛みしながらわざと吐息まじりで追いつめてくる
「ダメじゃないくせに。
ちょっとおっぱい触っただけでベビーオイルよりトロトロになってるし?」
器用な指が容赦なく下腹部に降りてくる。
あっという間に割れ目をかき分けてさやかのイイところを
自前のローションを絡ませてやさしくなで上げてくる。
まるでディープキスみたいに耳たぶにしゃぶりついて耳の穴を舐め上げ、
片手は胸、片手は下、イツキってばマメで働き者。
体のあちこちが生暖かいぬめりで追いつめられて気が遠くなりそうーーー。
【植物図鑑】イツキ×さやか バスルームにて3/4
「まだ指も入ってないのにそんなにイイ?」
わざといやらしく耳元でいいながら
クリトリスから膣の入り口への直線を繊細なタッチで忙しなく往復する指。
「さやか、オナニーは指でクリ派?いつもこんな感じでしてる?」
「ん…バカ…そんなこと」
「言わないとここでやめちゃおうかなあ」
「や…めない…で」
「ん?」
「指で」
「うん」
「イツキ…が今…し…てるみたい…」
ここまでがやっと。顔から火が出る。
人に言ったこと無いのにイツキには何故か言えてしまった。
穴があったら入りたいって言うか…入れて欲しい。
入れて欲しい物は今まさに太ももに熱く押し当てられている。
「よく出来ました、上出来。エッチで可愛いコにはご褒美をあげようね」
足を閉じさせた前から割れ目を優しくなでながら
後ろに回ったイツキが閉じた足のつけ根に昂りを差し込んで来た。
もうそこはさやかの体液でドロドロだからベビーオイルは必要ない。
熱くそそり立ったイツキがバックから割れ目のヒダをこじ開けるように押し入ってくる。
中には入って来ないけど、
イツキの先端の柔いところがさやかの入り口のイイところに当たって声も出ない。
【植物図鑑】イツキ×さやか バスルームにて4/4
イツキの左手がさやかの太ももを押さえて素股でピストンが始まる。
右手は相変わらずクリトリスをやさしくぬるぬるさすってくる。
後ろから前から同時に攻められて、背筋がしびれあがるように快感が競り上がるーーー
「こん、な…のはじめ…て ああっ、イイよ…おかしくなりそう…」
「さやか先にイっていいよ」
「あ、んっ、バカ…あ、あ、イッちゃう…んっっ」
「さやかっ、可愛い…俺ももう…っ」
自分のとはまた違う、生暖かくてぬるっとした感触が内ももを伝って落ちて行く。
後ろから抱きしめられたまま
エレベーターで上階から一気に降りて来た時みたいにふわっと体が浮く。
大きすぎる波にさらわれて息が出来ないーーー。
ガクガク震えているのはイツキ?あたし?両方?
空白の数秒間の後、後ろから抱きしめられたまま、
どちらともなくバスマットにへたり込んだ。
「もう…イツキのエッチ」
「エッチなのはお互い様…でしょ?」
「やだもうっ」
「そんなさやかが大好きですが何か?」
「バカ」
二人で満員の小さなバスルームはいろんなものでぬるぬるしていて…
シャワーの音がなかなか止まない夜であった。
Fin
改行の間とかがよく分かりません。
読んでくださった方ありがとうございました。
あまーーい!!えろ〜い!
でもって可愛い……萌えました、GJ
特殊浴場のマットプレイが好きなオレによし(下品ですみませんorz)
GJでした!
132 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/02(日) 00:20:12 ID:bp7Zyq5P
このレベルで喜べるおめーらの脳みそに感動するよwww
GJでした!
イツキって寝る時もずっとさやかの体を触って眠ってそう。
毎朝、イツキの腕から抜け出すのに苦労するさやかの姿が浮かんだ。
なんとなくだけどさやかはわきとか腰とか弱そうなイメージ。
イツキは多分そういうの見つけるの楽しくて仕方が無いのだろうなー
イツキめも
チキンなくせにエロ関係ではねちこくてマメで甘えん坊で漢。とw
イツキはドエロだなw
GJ!!
イツキXさやか@植物図鑑投下します。
エロ無し、プロフィール捏造あり、オチ無し。
非常にぬるいです。
↓
「樹木の樹と書いてイツキと読む」
「苗字はキライだから言いたくない」
イツキがあたしに教えてくれた個人情報はこれだけだった。
数ヶ月後、イツキが深夜バイトをしているコンビニに来てしまった。
同じシフトの派手な女子大生が目に入る。
「イツキくんさー」
彼女が話しかける目線の先には通路で品出しをしているイツキの姿があった。
制服の胸に「五木」と名札がついている。
「五木 樹、イツキ イツキ…!」
イツキと目が合って反射で店から飛び出すさやか。
自転車で追いかけてくるイツキ。
「さやか!」
「待てよ!」
「何で俺が苗字キライで言いたくないか分かっただろ?」
ぬるい。
えろくない。
そんな小ネタが好きさ。
自転車で追いかけて来るイツキw
乙。ワロタw
イツキ・さやかの息子と順ちゃんは無理かな
再会して〜とかでも想像できない…かも
そだね。ちょっと難しい、かな…?
順ちゃんはいい感じに変わっていきそうだけど
挑戦あったらうれしい
あれはキレイな初恋のままに支といた方がお互いのためにもいいよね。
イツキの息子は天然タラシになるとおもう。
出会いのなれそめを息子に聞かれたらどう説明するのかね。
正直に「道端に落ちてたお父さんをお母さんが拾ったのよ」って言うのかな
道ばたに落ちてたお父さんをお母さんが拾って
身元不明のままその日から同棲したのよ
さやかすげー!
出逢った瞬間、本能が欲したからなんだよね。
誰とでもそうなる訳じゃない。
「うちのお母さんが好みの異性を見つけたかったら、道ばたにまで目を凝らしなさいって」
うちのお父さんが女の子を落としたかったら
有り合わせの食材とか道ばたの草を料って食べさせなさいって
どんな親だw
でもひとつも間違ってないのがさらにww
間違ってないのにこう繋げるとw
こういうの箇条書きマジックって言うんだっけww
箇条書きじゃないきがするんだがw
真実を上記のように聞いたら息子はグレると思う。
そして家出をして半放浪生活をし、
ある日マンションの植え込みに倒れているところを…
歴史は繰り返すってこゆことかw
それにしても日下部くんと順ちゃんが同級生ならユウキと早苗ちゃんとも同い年だよね。
映像でしか分からんくらいのニアミスがあったらと思うとニヤニヤだ。
でも日下部くんとユウキを戦わせるのはユウキがあまりにもかわいそうw
保守
神 募集中
保守
フリーターの千葉ちゃんに超萌えた。
同志求む。
ノシ
あの二人はずーっとあのままでいそうで怖いw
保守
>>157 質実剛健に恋するって表現、最高だったw
ただ千葉ちゃん、鉄板で処女だろうし性格的にも生真面目過ぎて、エチ関係になっても当分は愛情確認で終わりそう
誠治、焦らずガンガレw
圧縮回避保守
162 :
名無しさん@ピンキー:2009/09/18(金) 00:35:50 ID:y8JhtM5P
あげ
保守
保守
漫画の毬江ちゃんが可愛かった
久しぶりに図書館はいかがでしょうか、職人様
オレも今月頭に弓版4巻読んで小説も読み返してしまった
図書館成分を欲してしまうな
文才ない自分が憎い
保守
堂上 vs 小牧 超SS ある意味多少エロ有り? ageついでに。
実は意外と負けず嫌いな小牧w
ーーーーーーーーー
「笠原は俺が育てた」
無意識のうちに声に出していたらしい。
こういう時一番聞かれたくない同僚兼友人が口を挟んでくる。
「悪いけど俺は本当の意味で毬江ちゃんを育てたからね?」
「それこそオムツも換えたし。」
「堂上は笠原さんのオム…ごふっ」
べらべらとまくしたてた挙げ句、
自分の言ったことで勝手に上戸に入る憎たらしい友人の頭を力一杯叩く。
「想像すんなどアホウ!」
せいいっぱい苦い顔で言ってやったがまだヤツは別世界から帰って来ない。
自分も想像しかけたことはもちろん内密にして今晩の寝床に持って行く。
了
一生ROMってろ
たまごっちかい!
コミック買いの俺には4巻発売が待ち遠しい
弓せんせ版で別冊Ver.も読みたい秋の夕暮れ
>>171 コミック4巻?なら9月に発売されたよ?
5巻だ、死にたい
来年の春とか待ちきれないっ……
手塚と柴崎のあっまいエピソードとかねーかな
「なーんかさぁ、みんなアレやってない?」
買い置きの煎餅をパリッとかじりながら、同じく煎餅を頬張る柴崎に言葉を投げ掛けた。
「アレ?あぁ、アレね。そりゃ年代を越えて大人気だっていうじゃない。図書隊でもやってる奴、多いわよ」
「うちの兄貴もさ、どうやらハマってるみたい。いい歳なのにさ」
手の平からはみ出る程の大きな煎餅はあっという間に郁の胃の中に収まった。
よく食べるわね、と呆れたような素振りを見せる柴崎も同様だ。
柴崎はいつも先手を打って自分を不利にしないが、今この場で何に手を打ったのだろうか。
郁がそんな些細なことを考えていると柴崎が突然笑った。
「な、何?」
「あははっ、あんたみたいなお子ちゃまが『いい歳』ってえらそうに言うもんだから」
「失礼なっ。あたしだってもう四捨五入すれば三十だし、ていうか柴崎同い年じゃん!」
「へぇ、そんな歳のあんたは彼氏にアレ、貰ったんじゃなかったっけ?」
言い返したつもりが逆に追い詰められた。
あ、柴崎に話したのを忘れてた!
うっかり成分多め、とはいえうっかりしすぎだ自分!
「ちが、あれは一緒に買っただけで……」
「いつもの決まり文句で『お前の給料なんてたかが知れてる』…だっけ?貰ったと一緒じゃない」
「くっ、柴崎、細かいことばかり覚えて……!」
「だって、頭いいし?だいたいね、同室に惚気だけ聞かされて終わるわけないの」
口調はかわいらしいだけに憎ったらしいのがハンパない。
もういい、寝る!
いつもの捨て台詞が出たところであっさりと勝負はついた。
アレ、とは携帯ゲームの有名ソフトのことだ。
自分でキャラを作り物語を進めていくゲームだが、それ以外にメッセージを通信で送ることができる。
この間の公休日に出かけた先で郁がなんとなくゲーム売場を見ていると、いつの間にか堂上が側に立っていた。
「なんだ、お前。ガキじゃあるまい」
「えっ、堂上教官知らないんですか?」
発売初日で売上本数が大台に乗り一般のニュースでも取り上げられているというのに。
堂上が毎日、主要なニュース番組や新聞を抑えていることは知っている。
だからこそ、驚いた。
少し視線が落ちる先で堂上は違う、というように首を振り郁を小突く。
「アホウ、知らないわけないだろ。大人にも売れているんだってな。……まさか、欲しいのか?」
「いやえっと、あたし本体も持ってないし」
ちょっと気になっただけです、と言う前に堂上の意外な言葉が重なった。
「お前がやるなら、俺もやってもいいかもな」
「……それって、あたしをダシにしてません?」
「それが上官に言う台詞か」
「あっずるい、こういう時だけ!」
でも、そんな堂上教官も好きです、なんて。
ちょっと口が裂けても言えない。
郁は言葉を大事にしまい、早速ゲームを手に取った。
ゲーム機本体も買うには少し額が大きい。
余り無駄遣いをする性質ではないが、堂上と付き合うようになってから出費が増えている。
といっても、デートでかかる費用は殆ど堂上持ちで、郁が出費するのは服やら化粧品の類だが。
うーん、今月少し服を我慢してなんとか凌ぐしかないか……
同じ服を何度も着るのは堂上教官の前では避けたいけど今月はしょうがない。
よし、と決心して財布を出そうとすると目の前に堂上の手が差し出され何かを示す。
「よこせ」
「え、あたし二人分も買う余裕は……」
「お前はさっき話したことをもう忘れたのか、ニワトリじゃあるまいし」
手にした財布を渡しかけた郁に呆れたように堂上が溜め息をついた。
「買ってやるからその左手に持っているやつをよこせ、と言っているんだ」
「あ、なあんだ。あたし、てっきり……ってだめですよ!こんな高いの!」
「俺がいいって言っているんだ。いいからさっさと渡せ」
郁の抵抗も虚しく、堂上はそれらを取り上げると一人でレジへと向かった。
そして今、郁の手元にそのゲームがある。
訓練などで疲れているとゲームをやる余裕などなかなかないが、メッセージを書き込んだり読むぐらいはできる。
通信でメッセージが送られてくる相手は堂上だけだ。
仕組みはよくわからないが、そういう設定なのかもしれない。
始めはメッセージと言っていいか迷うような一言だけの文だったりしたが、最近は一応メッセージらしくなってきた。
図書館内で見かけた事や、食堂の献立やら、普段話題にしないようなことが送られてくるので驚くこともままある。
郁もこういった操作には慣れない所があるが、堂上だってきっと似たようなものだろう。
郁へのメッセージを作成している堂上を想像すると、なんだか可笑しかった。
「今日はっと……!!」
いつものようにゲーム機を立ち上げ、メッセージを確認する。
今日は食堂で数量限定でスペシャルランチを出していたらしいので、その事が送られているかもしれない。
郁はシフトの関係でそのランチにありつけなかったが。
その予想は見事に外れた。
【ちょっと、こい】
堂上教官からの呼び出し?
いつもなら携帯に送られてくるメッセージなので面食らった。
いや、だいたい何時に送られてきたメッセージなんだ。
この通信では送信時間までわからない。
しかし、通信できる距離は限られていることを考えると大まかな時間は掴める。
「やばっ、結構時間過ぎてるっ」
慌てて立ち上がった郁を、柴崎がきょとんして見ている。
「なんの時間?」
「えっ、いや、ちょっとあたし出てくるっ」
郁が部屋を駆け出る背中で柴崎は何かを呟いた。
「おい、堂上」
1か月ほど過ぎたある日、玄田が堂上を隊長室に呼び出した。
最近の図書館情勢は落ち着いていて、改めて話し合うような案件もないはずだ。
郁はそっと小牧を見ると、小牧はにこやかに首を振った。
何だろ……
にわかに広がる嫌な予感。
次の瞬間、バンッと勢いよく隊長室の扉が開き、堂上が飛び出してきた。
「笠原!」
「は、はいっ」
あたし?なんかしたか?!
ぴんと背筋を伸ばし一気に緊張を走らせた表情で堂上を見つめる。
堂上はつかつかと郁の隣まで来るとすれ違いざまに某か吐き捨てた。
「やめるぞ」
え、何を?
郁が聞き返す前に堂上が苦り切った表情でこちらを睨む。
「通信だ!」
何がなんだかわからないまま「はいっ」と返事をしたものの、毎日の楽しみが減ってしまったことに郁は肩を落とした。
業務に入って、小牧とバディを組む。
が、さっきの出来事が気になってちっとも業務に集中できなかった。
「笠原さん、しっかり」
「あ……すいません。ぼーっとしちゃって」
「さっきの、でしょ」
いつもの小牧スマイルは崩れない。
あたしもこれくらいポーカーフェイスでいられたらな。
と思った瞬間、一気に小牧スマイルが崩れた。
「あっははは、まさか笠原さん全然知らないんだ?そうだよね、堂上も知らなかったんだしね」
「な、何が……ですか?」
「通信ってさ、誰でもできるわけ。受け取って送らないって事もできる。どういう意味か、わかるよね」
誰でもできる。
受け取るだけ。
メッセージを送って来なかったら、相手は見えない。
……それって。
「今朝ね、玄田隊長が堂上に見せたんだゲーム機を。もちろん隊長のね。
なんだかんだいって寮も狭いから、部屋にいても通信出来ちゃうんだよね」
「勝手に見たんですか?!」
「勝手って言われても、受信が自動だからね。まぁ、堂上が迂闊だったかな」
最近は呼び出しも通信の割合が多かったから、恥ずかしさ倍増だ。
圧倒的に堂上の方が恥ずかしいのは確定なので、郁だけが騒ぐわけにはいかない。
黙りこくる郁の肩を叩きながら、小牧が慰めにもならない事を言うが全く耳に入らなかった。
乙
ところで、DQのすれ違いって「受信する=受信される」んじゃないの、基本的に
すれ違い通信はよく解らんけど、らぶいちゃ恥ずかしいっぷりはよく分かった!!!
GJ!
ゲームの機能がよく分からんので設定がいまいち把握できない。
すれ違いじゃなくて他にwi-fiかなんかでメッセージ機能がついてるの?
DQ9は持ってるしすれ違いはしたことあるんだけどちと違う気がする。
すいません、そんなにゲームの設定に正確さを求めていなかったので
実際のドラクエには合わせていません
プレイしているので仕組みは理解していますが
暇つぶしに読んで頂ければ嬉しいので細かいところはスルーしてもらえたらと。
ドラクエファンの方には申し訳ないです
いやいや乙です。
設定を把握したらもっとストンと読めるかなあと思って
余計な質問をしてしまい申し訳ないです。
堂郁、手柴、小毬それぞれの出勤前の朝、という電波を受信したので妄想。
堂郁…二人して時間通りに起き、定食系の朝食を分担して(もしくは当番制)作ってガッツリ食べて出勤。
行ってきますのチューの長さで時々喧嘩になる。
手柴…柴崎が朝弱いので、朝食担当は手塚。
朝は唯一優位に立てそうな時間帯だが、後が怖いので控えめにしている。
パンと野菜ジュースやシリアルヨーグルトと色々試すもそんなに食べない柴崎を心配する。
小毬…朝から美味しくいただいちゃってる小牧さん。しか出てきませんorz
文章に出来たらよかったのですが、ネタ書き逃げですいません。
>行ってきますのチューの長さ
ワロタ、行ってきますって出て行っても結局一日中一緒だろうよアンタらw
で、どっちがどうでケンカになるのか補足説明希望。
堂上が離れ難くて郁が
「んもうっ、篤さん長いよ!遅刻しちゃう!(プンスカ)」って感じですかねw
185 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 12:35:55 ID:FFaXG24o
>>184 次の日は堂上が昨日の事を気にして啄むだけの軽いキスで終わらせたら、今度はキスが短いと郁が怒る訳ですね。
お前ら遅刻しちまえwww
>>184 一日中一緒でも公私の区別はつけている(つもり)みたいだからその区切りはベタな事してそうだな、という所からの発想だったのです。
具体的な会話が浮かばずにいたのですが、可愛い郁をありがとうございます。
>>185 エンドレスw
187 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/26(木) 16:20:53 ID:lypezX3B
ほ
188 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/29(日) 17:34:24 ID:2AE8FX6G
今売られてるLaLaの小毬のキスシーンに萌えた
保守
保守
192 :
名無しさん@ピンキー:2010/01/06(水) 06:47:19 ID:nh9yX6RY
保守
保守
今売られてるLaLaの柴崎の郁への気持ちに萌えた
確かにあの柴崎のいちゃつき様から心情から恋するツンデレだなww
さて、節分ともなれば、
節分イベントの後、鬼の衣装のまま隊長に恵方巻き振る舞ってもらい、
他の隊員の言うとおりに、素直にのり巻きを口にくわえてそうな郁
「俺の恵方巻きも(ry」←堂上を見てニヤニヤ
「ありふぁほうほはいまふ」←気づいてない
そして眉間にシワをよせる堂上教官…
というのはお約束ですね。
いいですな!
郁が鈍感すぎて堂上教官がイラっとするの、いいですな!!ww
そして翌日には
「うー、まだ顎が痛いですぅ…」
「当たり前だ、無駄に頑張りやがって」
「えー!でもやるからには絶対最後までって」
「だからって、あんな…涙目になるまでやらんでも…」
「全部飲み込むの大変でしたよ〜」
「だから無理をするなと言っただろう!」
「でも普段は(輪切りになってるから)気付かないけど、結構太いんですね」
「そうか?」
という2人の会話を聞いてしまった人が色々と誤解するわけですね。
固まる手塚、上戸入る小牧も忘れないでください………
そいや良化隊はどーやって漲る欲望を解消してるんだろう…
エロ本・エロ小説・エロ漫画:検閲対象
エロDVD:検閲対象
検閲対象物は寮や家に持込禁止
なんでも禁止ってわけじゃないと思う
無理やりとか幼少とか家族同士とか屋外とか被虐加虐とか
そういうやつは禁止で、恋人同士が健全に行うならOKなんじゃなかろうか
未成年の入手は困難だろうけど
夫婦がセクロスしてるのとか、淫乱女がひたすらセクロスとかは桶で、ちょっと変わったシチュだと検閲対象とかありそう
尼僧物・僧侶、神父物:宗教施設に対して不謹慎な態度を助長するから検閲
オフィス物・ナース物・メイド系:セクハラを助長(ry
学校舞台の教師・教官物・スポーツクラブ、サークル活動系:学校の風紀を(ry
頼みもせんのに堂上のとこに持って行く奴はいそうだが。
203 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 08:46:55 ID:QEH2z5kq
堂上教官もエロ本読むのかなぁ…ww
隊長が頼みもしないのに有無を言わさず貸してくれます
まったく…とブツブツ言いながらもじっくり見て、郁似のスレンダーな娘を目視記憶するんですね、わかります。
良かった。このスレまだあったんだ。
ロム専だったけど携帯壊れてから見つけられなかったんだ。
堂上の好みはやっぱ年下系なんだろうかww
>>204 特殊部隊の先輩方が『教官と女子訓練生』物や『お姫様と王子様の出てくるエロ童話』物、
『軍隊内上司部下』物を無理矢理押し付けてくるのも忘れないでください…
『陸上部ユニフォーム』『女子高生と警官、自衛官』もありそうだがw
特殊部隊はレファレンスの復習の為、実地試験と銘打って各自熟読のうえレポートを書くことに
隊長自ら各隊員の苦手分野を選んだと課題図書を渡される
堂上のは》507のどれか
自室で隊長を呪いながら堂上がレポートを書いていると「篤さんはなんだったの―?」と郁登場
じっくり見ていただけに郁の顔とエロ本の体が脳内コラ
堂上そのまま郁押し倒すという電波を受信した
≫207だ
吊ってくる
どれだけミスるんだw
保守
>>208 手塚「………これをどうリファレンスしろと…………?」
手にした本の表紙には、黒髪巨乳の女優が衿を崩し、裾を開け、ふとももをあらわにした和服姿で妖艶な笑みを浮かべていた。
最近手郁妄想が楽しくて仕方ない
「……背の高い女とのキスは楽だな」
「あんた喧嘩売ってんの!?」
「……背の高い女との69は楽…って、まて笠原!噛むな!!」
「ほんはのほにひへはふ(女の子にしてやる)ーーーーー!!!!!」
ちょっと狙撃されてきます…
さっさと行け
>>213!
お前が書かなくて誰が手郁妄想をSS化するんだ!
手塚の弾は
>>215に任せろ!
215 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/11(木) 22:21:28 ID:Ga4Vp533
誰かイツキ×さやかを書いてくれー保守
寝るときに流し読みしてるとどーいう訳か「眉間」を「股間」と脳内変換しちゃって
堂上の股間に深い皺が…とか一瞬想像しそうになるんだよなー
脳みそ腐ってんのかな
むしろ活性化してるんじゃないかとw
塩の街は需要ない?
どんな作品にも需要があります「恋愛のカミサマ」だって
>>218 今日塩の街を読み終えた自分には今が最高潮!
投下してくだされば何でも喜んで拝読させていただきます。
塩は、寮で壁越しで隣のベッドに寝たエピソードがエロくて萌えた。
規制だねえ
「空の中」読み返して高巳×光稀にはげしく萌えたわ
みんな、LaLaDXについては触れないね……単行本派なの?
DXの方の話はそれ自体がパロディみたいなもんだからな
でもイイ萌え所をついてるよなw
キケン読んで、
飲み会行って酔っ払って思わずのろけさせられ、
深夜帰宅してそのまま勢いで思い切りやって、
親に声聞かれて奥さんに翌朝怒られる
ってネタを思いついた。
書きはじめてみたけど全然書けない。
職人さんてすごいな・・
クジラの彼の文庫が6月に出るらしいね。
個人的には柴崎タイプが主人公の長編が読みたいなと思ったり
231 :
初投稿・前提:2010/05/07(金) 09:50:01 ID:t40bx7Ym
|・ω・*)チラ トウコウスルナライマノウチ……
この連休で初めて原作読んだ。面白すぎる。郁タン可愛いよハァハァ。萌えが講じて初投稿。
前提:堂←郁(まだ自覚無し)の郁タンひとり遊び。郁タンはそんなことしない!っていう人は注意。
手塚と小牧もちょろっと出てくる。
時間:図書館内乱の鞠江が出てきた直後、まだ王子様の存在は分らない。
「――……ふーっ、いい湯だったぁ。」
まだ水気の残る短い髪をバスタオルで拭きながら、郁は自分のベッドへと腰掛ける。
ルームメイトでもあり親友である柴崎は今日明日と公休であり、朝から早くから出かけている。
久しぶりに地元の友達と遊んでくると言っていたから、恐らくは外泊届けも出しているのだろう。
(……あぁ、なんか…この『部屋でたったひとり』って感覚、久しぶりかも)
髪を拭きながらぼんやりそんなことを考える。自分が立てる音が部屋の中に妙に響く。
職場はチームワーク命!の戦闘職種で部屋は寮の相部屋。
常に他人の気配を感じながら生活しているのがデフォルトなだけに、逆にたったひとりの空間というのが妙に落ち着かない。
寮に来た最初の頃など――いくら相部屋の相手が柴崎と言えども――自分の部屋ですら他人がいることに
ストレスを感じた事もあったというのに。
(あたしも変わったな)
郁の口元にうっすらと笑みが浮かんだ。
「さて、おや……そ、そろそろ寝ようかな。うん」
誰に告げるでもなく、ひとりごちる。本当はいないはずの柴崎へ『お休みなさい』を言おうとして、慌てて言葉を変えたのだ。
何となく惰性で付けていたTVを消して、部屋の明かりを落す。
いつものようにベッドへ入り、眼を瞑るのだがどうも寝つきが悪い。
右へ寝転がり左へ寝転がり…うつ伏せになっても睡魔が訪れる気配は無かった。
今日も鬼教官にたっっっっぷり扱かれたのだ。身体は疲れ切って一刻も早く休息を欲しているはずなのに。なのに、寝付けない。
(……やだな、なんか…この感じ)
身体が火照り、肌の下で血が沸立つのを感じる。郁は眉間に皺を寄せ、いつの間にか温度の上がったため息を付いた。
「……ぅん…」
若い身体は休息はもちろんのこと、今夜は別のものを求めていた。
郁は無意識のうちに背中を丸めると、ジャージを履いた両脚を引寄せる。
すらりと良く伸びた脚の間に、郁の右手は吸い込まれていった。
(やだ、もう!……い、いくら柴崎がいないからってぇぇえ!!……あたしったら)
健康すぎる自分の身体が心底恨めしい。
純粋培養茨城育ちの熊殺しといえど、お年頃の女性なのだ。妙に身体が切なくて、仕方の無い夜もある。
若く健康な人間ならば当然の欲求であるが男のそれと違って何かとタブーにされやすい女の欲望、
しかも処女のそれとあってかこういう時の郁は自分が情けなくて悔しくて、泣きたいような気持ちになってしまうのだ。
女の子なのにしかも今だ異性の肌を知らないというのに、なんであたしの身体はこんなにいやらしくなってしまうのだろう。
それを誰かに知られたらきっと皆軽蔑する。あたしから離れていく。あたしを汚らわしくていやらしい女だと思ってしまう。
他の子はこんなこと無くて、柴崎だってこんなこと無くて、あたしだけあたしだけが……こんなに汚れている。
きつく閉じた目蓋に、じわりと涙が浮かんできた。
なのに手の動きは止まらない。えぇい、こうなったらさっさと済ませてしまおう。そう腹をくくって息を吐いた。
「……ッぁ……!……んん…」
消灯時間をとうに過ぎ、廊下を歩く者は誰もいない。しんと静まり返った部屋の中に、郁のため息と衣擦れだけが響いている。
郁の右手はジャージの履き口から侵入し、清潔な下着に包まれた己のそれを撫で擦っていた。
風呂の余韻も手伝って、すでに熱く湿っている割れ目を親指の爪で強めに擦る。下着の中で立ち上がってきた突起が擦れ、郁の腰が踊った。
「あぁッ……は、ぁ……」
今日はこの部屋には誰もいない。そのことが少し郁を大胆にさせる。解れた唇の間から甘い吐息が漏れた。
おかずと言ってしまえば身も蓋も無いが、郁がこういう時脳内で作り上げるイメージは小説の中に出てきた艶っぽい描写を元にしている。
砂糖で出来たような恋人同士の睦み事、敵陣に落ちて慰み者になってしまう姫君、果ては教師と生徒の禁断の愛――……
(……教師、と生徒)
体温で潤み始めた瞳を開き、暗闇にひとつの像を結ぶ。
(……教官と、あたし?)
小説の教師と同じく甘く熱っぽい『男』の顔をして、生徒たる郁を見つめているのは、165cmの教官……堂上だった。
きゅんと身体の奥が収縮するのが分る。溢れ出た体液が下着に吸い取られ、郁の指を汚していく。
(……教官)
幻の堂上は郁の切ないそこに指を這わせると、ゆっくりと郁の服を脱がせ彼女を裸にさせた。
良く鍛えられてはいるが、やや女性の丸みに欠ける身体を思い出し、幻の郁が身体を竦める。
そんな郁の強張った身体を、心を、堂上は魔法かと疑いたくなるほどあっさりとしかし実に優しく開かせていくのだ。
(……堂上教官)
郁は可愛い。綺麗だ。……愛している。俺に全てを見せてくれ。いやらしくてもいい、俺はそれが見たい。
――笠原ではなく、郁と甘く囁かれる。郁は聞こえるはずの無い彼の声に促され、ショーツの端から己のそれへ直に指を躍らせた。
くちゅっと小さな水音が立つ。生暖かい体液をぬかるむ表面を、郁が夢中で擦りあげる。
郁、お前は綺麗だ。嘘じゃない、本当だ。……だから『あたしの身体なんて』って思うな。誇っていい、お前は綺麗だ。
優しく囁きながら、堂上がキスを浴びせてくる。額へ、頬へ、眉間へ、鼻へ……そして唇へ。
「あんッ!!……っ、ぁあ…ッ……官ッ、」
彼の唇は郁の薄い胸を啄ばみ、鍛えられた腹筋を愛し、とうとうそこへ触れてきた。
あわせるように郁は、芯を持ったそれを強くねじ上げる。
「……あぁ…アンッ!」
郁、郁、もっと感じろ。素直になれ。気持ちいいのは恥ずかしいことじゃない、俺には何も隠す事は無いんだ。
堂上が自分の名前を呼ぶ度に、喜びで胸が震える。目蓋がじんわりと熱くなって、涙が零れた。
内勤の女の子たちのように柔らかい身体ではない。
背ばかり高くて可愛げはないし、また筋肉も付いたし、毎日の訓練で紫外線も放題だ。おまけに胸も無い。
柴崎のような絶世の美女でもないし、逆立ちしたって鞠江のように守ってあげたくなるような何かなんて出るわけも無い。
なのにそんな郁の身体を、堂上は可愛いと言ってくれる。綺麗だと言ってくれる。他の女の子たちのように、優しく扱ってくれる。
これがいいと、この身体が好きだとキスをしてくれる。――…郁が好きだと、愛を囁いてくれる。
……もう、初恋の王子様のことなど、頭の中に浮かんでこなかった。
(教官、教官、教官教官教官教官………教官…!!)
「……いぁッ……くふぅッ!!……っ、……!!」
涙で滲んだ視界に、堂上の優しい微笑が映る。郁の身体が一際大きく跳ね上がった。
「お願いお願いお願いお願い、手塚ッ、この通りだから一生のお願い!!今日のバディ交代して!あたし小牧教官と組みたいの」
「はぁ!?そんなこと出来るわけないだろ!!バディ決めるのは堂上教官なんだからなッ。
……まさかお前、また何か…!言え、言えよ。
今度は教官に何をした?またドロップキックか、それとも熊殺しのストレートパンチでも浴びせたのか!?」
「ちっ、……ちがうぅぅ!」
……次の日の朝班長ミーティングを終えた堂上が事務所に入ると、
焦ったように手塚に迫る郁と怪訝そうな顔をしている手塚、
そして上戸に入ったらしく身体を折り畳んで小刻みに震えている小牧の姿があった。
(――…あぁ、今日も平和だな。結構なことだ。)
いい加減慣れてしまった光景に脱力して事務所の入り口で立ち止まっていると、堂上の存在に気が付いた小牧が近づいてきた。
小牧は笑いすぎで目尻に溜まった涙を指で拭いながら、にやりとイジワルそうな笑みを浮かべる。
「ねぇあんたさ、今度は笠原さんに何したの?……ぷっ、くくく…随分な嫌われようだよ?」
「……知るか」
本当に原因など心当たりは無い。眉間に皺を刻みながら堂上はため息を付く。……本当に、随分な嫌われようだ。
「本当にどうしたんだよ。何かバディを変わりたい理由があるのか?」
「べ、別に何かしたわけじゃ……な、ないッけどぉ!」
あまりのしつこさに手塚が少々呆れ気味だ。探るような視線が郁の瞳を覗き込んでくる。
まさか『昨夜自慰のおかずに教官を使ってしまったので、気まずいのです』なんて言えるはずも無い。
言えるはずも無いが、今日ばかりは堂上の顔は見たくない。見てしまったら最後、昨夜のあれこれが浮かんできそうで恥ずかしいのだ。
「別に何もしてないんだったらバディ変わる必要もないだろ。諦めろ」
「お願いお願い、そこを何とか…!あたし今日だけはあっ、…あの、チビの顔見たくないのっ!!鬼教官、鬼畜!!」
年頃の娘の気持ちは難しいな、などと娘を持つ父親の気分であれこれ考えていると、横で小牧が盛大に噴出した。
言うに事欠いてそれか。大人気ないとは自覚しているが、腹の底から怒りが込み上げてきた。
ちょっと、ほんのちょっとだけ『自分に非があったのかも』なんて考えていた自分が実に馬鹿馬鹿しい。
堂上は自分の存在をアピールするように、指を組んで盛大な音を立てる。その音に反応して振り向いた郁の顔が凍りついた。
「――……ほぅ。笠原いい度胸だ。そこになおれ」
「……ひぃっ!!」
「この、アホウがッ!!」
大股で堂上が郁に近づいていく。右手に作られた拳を見て、郁はとっさに目を瞑り頭を手で守ろうとした。
が、そこはさすがに教官である。郁の手を掻い潜った堂上の拳骨が、脳天を直撃した。
――…遠くで小牧が噴出した音がした。
|・ω・) オメヨゴシシツレイ
|彡 デハマタ!
>>231 GJ!郁かわいいよ郁
最後の辺りは原作の雰囲気出てて良かった
238 :
231:2010/05/07(金) 16:34:39 ID:t40bx7Ym
|・ω・*)チラ 231デシ。
>>236 >>237GJアリガトウデシ……
郁タンだって健全なオニャノコだもん。仕方ないよね。おかずに好きな人使うのは自然の摂理だよね?
ていうか堂上の方がもっともっとえげつない事脳内郁タンにしてるよね?
萌えが発酵して最近脳みそがラブソングを勝手に堂郁ソングとかに変換してる。
とりあえず隙間ス/イ/ッ/チ/の『飲/み/に/来/な/い/か』は手柴に聞こえてならない。
次は郁タンが好きすぎて、一秒前の自分や一秒後の自分にさえ嫉妬しちゃう堂上が書きたい。
|・ω・) ヘタクソダケドマタヨンデクレルトウレシイオ
|彡 デハマタ!
>>231 GJ!下手くそなんてとんでもないよ!?
両思いの別冊も両片思いの危機〜革命もいいが、
自覚してない内乱の頃もいいねー
細かいコトを言ってゴメンだけど、呼称が一部違うな。
手塚→堂上「堂上二正」
小牧→堂上「おまえ」
でも初投稿なのにきちんとキャラが掴めてて面白かったよ。
次回作を待ってる。
>>240 小牧は堂上の事「あんた」って呼ぶ時もあるぞ
「海の底」読んだ
夏木×望のお互いの不器用さがなんつーかもどかしくてまどろっこしくてかわいくて悶え死にそうなんだがww
久々の上陸許可中、ふと甘えてきた望を辛抱たまらず襲う夏木さん
>>242 つ「クジラの彼」
その中の「有能な彼女」が「海の底」のカップルの
その後が書いてあるストーリだお
そういえば『クジラの彼』の文庫が6月末に出るな
少しで構わないから書き下ろしあると嬉しいんだけどなー
買ったまま放置してた海の底読んだ!
望が自分は臭うかと夏木に聞いて、それに夏木臭わないって望の首筋に顔寄せた所になんか萌えた
これは番外編が載ってるクジラの彼を買わざるを得ない
クジラの彼はどっちかっつーと冬原の方が萌える
「クジラの彼」買ってきた
萌え死んだ
248 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/02(水) 20:59:39 ID:cpH6PjyP
萌え上がーれー
海の底→クジラの彼のコンボで読むと冬原に萌え死ぬ
存分に聡子さんに癒してもらうといい
あーゆー、外面が良くて一見カンペキな男の弱った姿はたまりませんw
クジラ、今月末だよね?文庫出るの。
書き下ろしあるだろうか。
夏か冬のラブがあるだろうか。
252 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/12(土) 22:20:38 ID:AzoYKtIm
ハードカバー持ってるけど、描き下ろしついたら文庫版も買っちゃいそうだ…
253 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 09:48:13 ID:o4bhger6
いよいよ発売3日前ですよ!!
クジラの彼買いに来た
仕事中なんだよ早く開いてくれ本屋
>>254は無事に購入出来たんだろうか…
文庫版買ってきて久々に読んだけど、やっぱ萌えるなー
海と空の人らは勿論萌えるが、他のもそれぞれ萌えた
国防レンアイの伸下はすっげー良い奴だなあ
同じく全部好きだとおもた。
ロールアウトもいいあじ出してる
257 :
254:2010/06/26(土) 14:40:28 ID:uYmF0ELT
無事買えた
ハッケンくんストラップを嬉々として携帯に装着してしまったため隣席の同僚(有川作品未読、内勤)にバレ、口止めと布教を兼ねて一冊プレゼントしたさ!
高巳と光稀に萌え過ぎて会社の休憩室で転がり回るとこだった
あのストラップってその場で貰えるのか!
>>257のレス見て、帯確認して初めて気付いた。
しかし無事買えて良かったな。そして布教成功するといいなw
光稀さんはいちいち可愛いよな
ドッグタグのくだりとか初キスのシーンは笑ってしまうがw
うつかりすると光稀さんに振り回されそうなのに、手玉に取れてる高巳はすごいなw
国防レンアイを読むと元カノを思い出す俺ガイル。
260 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/27(日) 20:24:57 ID:lO0/R+4C
腹筋?据え膳?
261 :
259:2010/06/28(月) 01:52:31 ID:aISff4WD
リアル過ぎで笑えねぇ!
伸下は我慢強いよ、ほんと。
「三匹のおっさん」早苗ちゃんは実はレイプされてた、ってのはどう?
助けに行ったときは中出しされたあとで
二回目の挿入前だったから犯人は腰を振ってなかった、とか
実写化かー
実写かー
266 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 08:50:40 ID:srMEvrUi
ストーリー・セラー
規制解除ktkr
コミックスも新しいのが出たね。
買いに行かねば。
塩の町から買い続けてきたけど初めてサイン本ゲットした
発売日に行ったときは無かったのに今日行ったらあった
発売日に買わなくてよかった
サイン本か…羨ましい!
まだおもてなし課は連載してるの?
おもてなし課は随分前に終わりましたよ
検索で「フリー」まで入力したら
「フリーター、家を買う」が出てきてビビった
ずっとここの作品しか読んだことなかったけど、ついに原作を読み始めた
図書館戦争は本編はまだ読んでないんだぜ
でも別冊図書館戦争TU読了
お願いだ、誰か手塚柴崎の初夜を書いてくれ…!
>>272 今すぐ本編を読んでくるんだ
手塚と柴崎の初夜はないけどチューはあるから
「お前らさっさとくっついちまえよ!」っていう悶えと萌えがあるから
そういえば阪急電車の話題ってあんまりのぼらないのな
今日初めて読んだが凄く癒された
ゴンちゃんと圭一の話がほのぼのとしてて最高だったw
保守
276 :
名無しさん@ピンキー:2010/11/16(火) 20:12:44 ID:vrmd69Sl
図書館戦争はたくさんあるので、どの順番で読んでいいのか分かりません。
しっくりとくる系統を教えていただけると有難いです。
>>276 原作小説とコミック版があるけど、どっちの話?
小説版なら戦争→内乱→危機→革命→別冊1・2の順番で内容が続いてる
コミック版なら素直に巻数順でOK
もしかして、コミックスと小説、どっちを先に?ってことか?
いやたぶん
>>277の順番だろう
発行日見れば分かると思うが
スレがスレだからここの作品のことかと一瞬思った
系統ってなんだろ。つかどっちにしろ、
>>276の好み知らんと
どれがしっくりくるのか答えようない気がw
ほしゅ
そういや今月って堂上教官の誕生月だよねー
逆算すると今年19歳?……若っwww
一部の人に振りまわされたり遊ばれたりしない限りは
割と落ちついた大人なイメージだが、そういや年下かと複雑になった
郁はまだ当たっては砕けしてた頃か。運命の出会いwまであと4年?
今、図書大学生なんだなあ、堂上も小牧も
来年は毬江ちゃん、2度目の失恋か
ちょい教えてくれ。
堂上のプロフィール、12月生まれって何に書いてあった?
他のメンツのプロも判る巻あったら教えて。
パロ書きの参考にする。
革命86p
「年末近くに三十歳の誕生日を迎えた堂上」
ここかな
具体的に12月とは、他の巻でも書いてなかったような気がする
あとは、小牧は早生まれ、ってのは原作には出てたかな
アニメでの設定だったような気がする
多分プロフィールわかるのはそれぐらい
危機で茨城に向かう時、「来月で三十だ」って言ってたけどそれだと微妙かなあ
県展が「十一月に二週間ほど」、到着してから「県展まであと二週間ありません」ってのは見つけた
まあ年末近くなら12月なんだろうけど、気になってきた。もう少し読み返してみよう
あと前にラノベ板にあった年表(7・8スレ)見て、原作の年齢と日付けあるとこ(だけなので多分だけど)確認してきた
・毬江ちゃん、中三春で十五歳(内乱)
・柴崎、四月の三週間目までで二十三歳(内乱)
・手塚、七月下旬に二十三歳(内乱)
・郁、七月十八日以前に「二十歳を三つ過ぎても」(内乱)
・郁、県展へ向かうバスで「二十五になった」(危機)
こういうの確認したり妄想補完は好きだけど、自分で創作できないんだよね
>>287がんばってくれw
>>287 小牧が早生まれなのは、電撃版の漫画のキャラプロフィールからだったかな?
291 :
287:2010/12/31(金) 15:43:41 ID:ibWc2sJQ
>288-290
情報ありがとうー
こういうのを知らないで書くのと
知ってて書くのとでは内容が結構違ってくるんだ、
サンキュウです。
プロフィールと違うけど、緒形の頬って傷残ってるのかな
軍人(良化隊員)とはいえ、殴られただけじゃんと思ってたけど
同人サイトで傷持ちにしてるとこちょいちょい見る気がする
雑誌掲載の時にでもそう載ってたとか?
緒形の頬の傷はアニメ設定(原作にはなし。
自分は雑誌は読んでないけど、雑誌掲載時にもなかったと思う)
殴られた傷かどうかは明らかにはされていない
あーアニメそうなんだっけ?
じゃ原作や原作者コメでは傷あるとかないとか
やっぱり触れられてないか
295 :
名無し:2011/01/06(木) 10:41:16 ID:GA403am2
はじめまして…どうやって書き込めるんだ…携帯からでもいけるのか…
296 :
名無し:2011/01/06(木) 14:30:06 ID:GA403am2
乙
297 :
名無し:2011/01/06(木) 14:33:14 ID:GA403am2
お目汚し失礼
初投下なので、しかも携帯初心者…。どこまでやれるかわからないが、頑張ってみる
298 :
名無し:2011/01/06(木) 18:32:02 ID:GA403am2
堂×郁 1エロ微妙 長くならないつもり…
空調が静かに唸りをあげている。薄い灯の中、堂上は見るともなしに壁に映し出される影を眺めていた。
駅前のシティホテル。部屋はスタンダードなツイン。一応、クッションを敷き詰めたソファと軽い食事ができるように、テーブルもある。
窓の側に立てば、夜景も綺麗な事だろう…。
…窓の側に立てばな…
299 :
名無し:2011/01/06(木) 18:54:04 ID:GA403am2
堂×郁 2エロ微妙
軽く堂上が身動ぎをした瞬間、ソファの隣りに座っている笠原の身体に緊張が走った。
職業病なのか、思わずその緊張につられそうになり、慌てて自分の身体に入りかけた力を抜く。
壁紙を眺めていた視線を横に滑らすと、緊張のあまりか…背中に力が入りすぎ、ものすごく姿勢を正したまま、既に前傾姿勢になりかけている笠原がいた。両膝の上に置かれた両手は、無意識の行動なんだろうが…ワンピースの生地を力の限り握り締めている。
横顔は、淡い灯と俯いたせいで髪が邪魔をして見えないが…髪の間から覗く耳が、かなり熱を帯びているようで…
堂上は、無理矢理視線を外した。
どうしたって、そうなる。笠原から離れた方の腕で額を押さえる。二人掛けのソファに並んで座ってどれくらいたったのか…。身動ぎひとつを許さないような緊張は、それなりに堂上の精神力を削いで行く。
300 :
名無し:2011/01/06(木) 19:10:56 ID:GA403am2
堂×郁 3エロ微妙
…どうしたものか…。額に当てていた手を顎に移そうとして、自分の唇が乾いているのに気がつく。そういえば、夕食にアルコールを飲んだあと、水分を取っていなかったな…。堂上は、ようやく立ち上がる口実を見つけ、ソファから身体を起こした。
「おい…」
「嫌ですっ!」
…声をかけた瞬間、悲鳴のように上がった笠原の言葉に…堂上は、やっぱり…という思いが無かったと言えば嘘になる。立ち上がった堂上を振り仰ぐような笠原の表情は…
泣き出す寸前だった。
「……」
ソファから離れ、ゆっくりと備え付けの冷蔵庫を開け、水を取り出す。…取り出したが、蓋を開ける気もせず…。壁に凭れた。
301 :
名無し:2011/01/06(木) 19:20:08 ID:GA403am2
堂×郁 4エロ微妙
この部屋に来るまでにも…なんどか、タイミングは渡したのだ。
夕食の前…夕食の後、そして、上のラウンジに向かうエレベータの中。
…焦る気は無かった。無理強いするつもりもなかった。…ただ、ラウンジからの帰りのエレベータの中で、指を絡めたのは…
笠原なのだ。
そこから、ここまで…性急に動いたつもりもないし、というよりはとてつもない緊張の渦に巻き込まれて、動く事すら困難だったというのに…。
思わず、自分の精神世界に入り込みかけていた堂上を、笠原が引き戻す。
「帰りたくはないです!」
302 :
名無し:2011/01/06(木) 19:36:47 ID:GA403am2
堂×郁 4エロ微妙
ゴン…鈍い音がして、堂上は自分が壁に頭をぶつけた事に気がつく。
「おい…」
「どうしたらいいか、わからないんですっ!柴崎に聞いても、臨機応変とか言われるしっ!一応、資料とか探したけどっ!やっぱり、わからないんですっ!」
…あぁ…泣く。
部屋のライトが反射して、ツゥッと光の粒が走った。
…馬鹿だな…
そして…愛しい…。
そして…やっぱり、馬鹿だ。
「…怒鳴るな」
「だってっ!」
言い募ろうとする笠原に、笑いが込み上げて来る。願わくば…逆光となり、自分の表情を笠原に分からないようにしてくれたらいい。
「この、どあほうが…」
なんだって、こんなに可愛い。どうしてくれよう…この…存在を…。
「…教官…?」
堂上の様子に気がついたのか…笠原の声が伺うものになる。ペットボトルを開け、そのまま口をつけて半分ほど飲み干した。
303 :
名無し:2011/01/06(木) 20:14:51 ID:GA403am2
堂×郁 5エロ微妙
…薄闇の中、なんか訓練終了の後のような雰囲気で堂上が水を飲んでいる。ちょうど、入口灯の逆光で表情は見えないが…
どあほうって…言われた…
自分としては、必死に訴えたと言うか…叫んじゃったというか…そういう類いの言葉だっただけに…
呆れられたという気持ちが強い。
柴崎が、軽めにはたいてくれたファンデーションは、零してしまった涙で多分、みっともないことになっちゃってる
膝の上になんとなく戻した視線に入ったのは…握り締めすぎて、立派なシワが寄ったワンピースだった。
もう…なんでこうなるんだろう…。
ワンピースの上をパタパタと水滴が零れて滑って行く。部屋の灯を纏った涙の粒は、綺麗な故に…。悲しくなった。
「…おい…」
思ったより近い所から、声を掛けられ飛び上がりそうになる。
「…水、飲むか?」
視線が、いつもと違う角度で交差する。
窓からの光で、堂上の顔が…優しげで…
…カッコいいな…って素直に思えた。
304 :
名無し:2011/01/06(木) 20:36:16 ID:GA403am2
堂×郁 6エロ微妙
「…水、飲むかと聞いたんだ」
堂上の唇が動いた後、言葉が笠原に届く。まるで、腹話術にかかったみたいで笠原はキョトンとなった。
堂上の唇を注視し過ぎて…聴覚が一瞬飛んだらしい。
「水…」
うわ言のように繰り返して…。こくんと重力に従ったまま首を振る。
「そうか…」
そういいながら、堂上は…なぜか、渋い顔をして…
自分で水を口にした。
「…え…ちょっ、…とっ?!」
ボトルを持った手じゃないほうで、堂上が笠原の肩を軽く突く。押された動きで、ソファに身を預ける形となった笠原は、柔らかいクッションに押し戻されかけて…
「…む…くっ…」
堂上の手からペットボトルが床に落ちる。いや、捨てられて。形だけの抵抗をしようとした笠原の手首を器用に片手だけで一纏めにして…。
「んっ、…んっ…」
ソファに身体ごと押しつけられて…胸に堂上の手加減なしの体重がかかり…目を閉じる事すら忘れた笠原に、堂上も目を逸らさない。
305 :
名無し:2011/01/06(木) 20:59:18 ID:GA403am2
堂×郁 7エロ微妙
唇の間から伝わってきた何かに、笠原は身を竦ませる。いや、というように首を逸らそうとする顎を、堂上は離さない。
「っ…うっぅ…」
顔を動かす事が出来なければ、笠原は表情で…あと、喉を震わせて声をあげるしかない。
でも…堂上の視線は、そんな笠原の表情を見据えたまま…。
「…っ…うっ…」
笠原が弱々しく視線を逸らす為に…目を閉じた。片手で一纏めにされてた手首からも力が抜ける。
それを見つめていた堂上が、ゆっくりと口撃を開始する。
口移しにされた水は、強いアルコールのようで…笠原の身体から力を奪った。
「…っ…あん…」
啄むようなキスから、目尻に唇を押し当てられ…軽く舐められる。身を捩った笠原を許さないまま、首筋に唇を当て、軽く吸い上げ、舐めあげる。
「…やっ…だっ…」
ゾワリと拡がった感覚に、思わず喘いだ。
鎖骨になにか、ザラリとしたモノが当たり…うっすらと目をあける。
堂上の刈り込まれた髪が目の前にあった。
306 :
名無し:2011/01/06(木) 21:30:17 ID:GA403am2
堂×郁 8エロ微妙
「…いやか?」
だから…鎖骨に髭が当たるんですってば…
見当違いな事を考えていつの間にか、堂上が顔をあげていることにも気がつかなかった。
「…へ?」
間抜けな声が上がる。いやか?って…こんな状況でいやかっ?!ってゆった?この…教官っ?
「…笠原…」
「……」
言葉なんか出て来るはずもなく。真摯な顔に小さく頷くしか出来ず…
「そうか…」
「…っひゃっ…」
おでこにキスをされて、思わず首を竦めて口を押さえる。
「…おまえは…へ、とかひゃだとか…」
「全部言わなくて良いですっ!自分でもわかってますっ!」
怒鳴られそうな雰囲気に、日頃の賜物で思わず反射的に言葉が飛び出して。拳骨が来るかもっ、と固く目を瞑ったのは、日頃の行いの賜物だろう。
「…もう、帰す気はない」
耳朶を強めに噛まれ、チリッとした痛みが走る。んっ…と顔をしかめた笠原の耳に、息が吹き込まれ…身体から力が抜けた。
目尻に溜まっていた涙が、表面張力を保てず零れる。
…よかったぁ…
言葉にはならなかったが、思わず零れた吐息を見逃すほどもったいないことは、しない。
307 :
名無し:2011/01/06(木) 21:41:35 ID:GA403am2
堂×郁 9エロ微妙
「移動するぞ」
「ひやっ…きゃっ?!…教官…」
膝裏に腕が回され、腰の後ろにも腕が回る。グッと腕に力が入ったのを身体で感じて、笠原は慌てて堂上の首筋に縋りつくように腕を回した。
うっわ〜うっわ〜…お姫様抱っこ?だぁ…多分…
びっくりして、堂上を見つめる。堂上は、表情を変える事なく笠原を抱き上げている。
…なんだか嬉しくて。帰さないと言ってくれたことも、嬉しくて。やっぱりなんか、泣けてきて。縋った首筋に顔を埋め、目を閉じた。
おわり
…すいません。初投下で、グダグダで…
お目汚しと笑ってくださいっ
308 :
名無し:2011/01/07(金) 12:45:52 ID:SlWXQrlO
空の下 高巳×光稀 じゃれあいみたいなもん
甘ったるい空気が流れている。サラサラな髪を指で梳く様にしながら、露にした首筋に唇を当てて…
「…ん?」
「…ん?」
高巳の思わず漏れた疑問符に、気持ち良さげに目を閉じていた光稀も目を開ける。
「…なんだ…?」
「…ちょっと…ごめんね…」
身体から身を引かれ、えっ…と動揺するまもなく、いきなり部屋の灯がつき、光稀は動転した。
「なっ?っ…なにをしてるっ?!灯を落とせっ」
高巳の手ではだけかけた薄手のブラウスの襟元を慌てて掻き寄せ、身を伏せようとして、腕を掴まれた。
「おいっ…なにをするっ…」
「…んー…ちょっとね…」
光稀に眼光鋭く睨まれながらも高巳はなにか調べるように、軽く眉を潜めて光稀の項を改めて検分し始める。
「…光稀さん…ここ、どうしたの」
「なんだっ!いったいっ!」
「…多分、キスマークだと思うんだけど…」
高巳に指摘され、多分その箇所と思われる所を指で押さえられ。
光稀の身体が高巳の腕の中で硬直したのが…さらに高巳の顔から表情を消した。
309 :
名無し:2011/01/07(金) 13:03:08 ID:SlWXQrlO
空の下 高巳×光稀 じゃれあいみたいなもん
「…どうしたのか、説明できない?」
「…したくない」
「…でも、そーゆー所に、そーゆーのって、いささか穏便じゃないよね?」
「…なんでもない」
ベッドの上に正座して、視線を合わせない光稀と延々と押し問答が続く。
「…じゃあ、はっきり言うよ?」
結構、この言葉を口にするのはしんどくて。しかも、多分ひどい爆撃弾だ。
「…光稀さん、他の人となんかあった?」
「…っ?!」
それまで視線を合わそうとしなかった光稀が弾かれた様に顔をあげ、あげた瞬間真っ赤になり、真っ青になり見開かれた目からハラハラと涙が零れ始める。
「おっ…お前はっ…私が信用できないのかっ…」
「…信用してるし、俺は大好きなんだけど…いまのままの説明もないままに、うやむやにできるほど、心広くない」
「なんでもないっていっているだろうがっ…」
「じゃあ、どういう状況で、そうなったのか教えて」
「……」
ハラハラと涙が零れる様は、それだけで男としては満腹ものだが…。辛抱強く高巳は待った。
310 :
名無し:2011/01/07(金) 13:17:31 ID:SlWXQrlO
空の下 高巳×光稀 じゃれあいみたいなもん
…光稀は、ポツリポツリと話だした。だが、光稀自身も、そんな所にキスマークがついてるとはついの今まで知らないままだったから、多分でしか始められない。
…ある程度、あの日本国防をかけたエラい事の後始末が片付いたころ、遠田司令に部下一同飲みに行く機会があったのだ。
いつもなら、末席に座り、我関せずを貫く光稀だったが…斉木三佐の言葉もあったのだろう…なんとなく、珍しく二次会というものに付き合ってみたのだ。
遠田司令もいた事だし、他の同僚もだいぶ飲んでいたが、ハメをはずすまではいってなかった。
次の店まで行く途中に、高巳から電話があり、それに答えるうち…流れるまま、二次会の店に入ってしまった。
そして、それが、光稀にしては間違いの元となったのだが…
311 :
名無し:2011/01/07(金) 13:32:19 ID:SlWXQrlO
空の下 高巳×光稀 じゃれあいみたいなもん
「…あの、外泊届はちゃんと出したって言ってた時?」
光稀が頷く。高巳がさらに渋い顔になったようで、顔があげられない。
「まあ…光稀さんが二次会に行くって言っていたから、珍しいこともあるもんだとは思ったけどね」
言外にそれで、と言われた気がしたので、光稀は渋々続きを話していく。
「私は、お前と電話をしていたせいで店構えをちゃんと見てなかったんだ…。エレベータから出た瞬間、いきなり飛び付かれて、押し倒されて…」
なにが起こったのかわからなかった。身体にぶつかってきたのは、骨格は男だとわかるのに、みょうに柔らかい部分がある女で。
不意を突かれたぶん、受けるタイミングを失い、みっともなく床の上で腹這いに倒れ込んだ。
なにをするっ?!と上がった怒声は、キャーキャーと周りで上がる悲鳴と喧騒でかき消える。
背中に男1人分の体重を押し当てられ、なのに、柔らかい二つの山はっ?!
光稀はパニックだった。肘を身体の下に引き寄せ、力の限り身体を持ち上げ…膝をついて…。
312 :
名無し:2011/01/07(金) 13:47:05 ID:SlWXQrlO
空の下 高巳×光稀 じゃれあいみたいなもん
「…あら…女じゃない…」
光稀が首を反らすだけ反らして、視線を合わせた女は、首筋から顔をあげて、盛大に顔をしかめてみせたのだ。
「お前だって、女だろうがっ?!…あっ?あー??」
「武田っ?!」
爆笑とブーイングと、武田を探しに店から出て来た同僚の悲鳴で、エレベータの前は、一時パニックの相を呈した。
「………」
光稀の話の途中から、高巳の腕組みされた腕が微かに震え出している。
光稀は、思い出したのか、盛大にしかめっ面を作ったまま、話を続けていた。
「…私からどいたそいつは、ごめんなさいねぇって言ったんだ。
いい男が続け様に入って来て、つぎのエレベータの奴も、同僚だからって言われたから、サービスしなきゃって思って。
エレベータから出て瞬間に襲うのは、サービスかっ?!」
光稀が勢いのまま、視線を合わした高巳は、堪えようとして、堪えられないまま…盛大に吹き出した。
313 :
名無し:2011/01/07(金) 14:01:18 ID:SlWXQrlO
空の下 高巳×光稀 じゃれあいみたいなもん
「…なにがおかしい…」
もう、身も蓋もなく笑い出す高巳に、とりあえず憮然としてみせる。
馬鹿らしい事だと自覚していた分、話せなかったし、強情に話さなかった分、さらに話しにくくなった。
しかも、体力自慢の自分が、ふいを突かれたとはいえ、ニューハーフに寝技に持ち込まれたなんぞ、光稀の中では恥でしかない。
「…災難だったねぇ」
ようやく、高巳の手が伸びてきて、行儀よく揃えられた光稀の膝のうえに置かれる。
「まったくだ…」
今、思い出しても腹がたつし、さらに、土産までついていたとなると、情けなくなる。
しかも、指摘されるまで気がつかないうえに…指摘されたのが、恋人だとなると…
「うわっ…」
膝の上に置いた高巳の手に涙が落ちて来る。慌てた高巳が、光稀の腕を掴み自分の方に引き寄せた。
「なんで泣くの…」
「…だって…」
…不貞があったんじゃないかと疑われた。自分に非はないと思っていても、好きな人に疑われたのは…辛い。
「…光稀さん、強情だから…」
ごめんね、という言葉と共に瞼と言わず顔中に唇があてられる。
314 :
名無し:2011/01/07(金) 14:23:26 ID:SlWXQrlO
空の下 高巳×光稀 じゃれあいみたいなもん
光稀の涙が落ち着くまで、高巳の手が優しく髪を梳いてくれる。
「あんまり、危ない場所にいかないでね…」
…危ない場所ってどこだ…と聞き返そうとして止めた。高度二万メートルを危ないと思ってないのは、高巳も同じだろうから。
「…あの店には、もういかない…」
光稀の腕がするっと高巳の頭にかかる。少し上向けた唇に、仲直りのキスを落としながら…
高巳はベッドサイドの灯の摘みを一気に落とした。
…後日談…
光稀がそのニューハーフの店に行った次の日、高巳が朝仕事に行く前から携帯のメール着信がなりっぱなしだった。
有事かと身構えたのもしかたがない。並ぶ名前は光稀の同僚ばかりで、最後には遠田司令まで届いている。
『昨夜、武田三尉には悪い事をした。彼女には非はないため、寛大に接して欲しい』
何をやらかしやがったと、慌てて他のメールを開く。
『すまん!不可抗力だった!』
『目を離した自分が悪かった!出来たら穏便にっ』
付属の写メールで写されていたのは…ニューハーフがウィンクしながら現場検証のように指差ししている光稀の項だった。
315 :
名無し:2011/01/07(金) 14:30:47 ID:SlWXQrlO
空の下 高巳×光稀 じゃれあいみたいなもん
真っ赤な口紅に彩られたキスマーク。本人は気がついていないのだろう。写真を撮られているにも関わらず、かたくなに背中を向けているのは、怒りがMAXだからだ。
こういう時は、呼ばれても振り返るまい。それを見抜いた、このニューハーフがすごいのか写真を撮った奴がすごいのか…。
とりあえず、写メールを保存しながら高巳は自分と会うまでに、キスマークに光稀が気付くか気付かないか…。楽しむ事にした。
おわる
…すいません。人がいないので、連続投下しました。
316 :
名無し:2011/01/07(金) 17:24:13 ID:SlWXQrlO
うわああああ゛…なんだ空の下って(泣)携帯からだか、訂正できないっ…
すいません…空の中です…。
本当に、やっちまったい
久々に来てみたら上がりまくっててビックリ(οдО;)
しかも投下ヒャッホーイ(*´∇`)
GJです!
またヨロシクです
上げるのはSSの頭だけで、タイトルは名前に入れると尚良いかも
あとスレの1を見てちょ。
318 :
名無し:2011/01/07(金) 22:09:11 ID:SlWXQrlO
317さん、ありがとうございますっ(汗)
「SSあげるとき」に躓き調べて来るほど初心者です。
名前の所に、カップルと傾向…でいいんですね…。
最近、有川シリーズに辿り着いたものなので…。妄想が沸き立ってしかたありません…。
望むことならば…昨日、堂郁を投下する前に、別冊1を読んでいたらよかったと…。
べた甘すぎて、チロルチョコで鼻血がでそうです。
319 :
名無し:2011/01/07(金) 22:15:55 ID:SlWXQrlO
あと、スレ1をみたのですが…カップル、傾向などは了解しましたので、あと、気をつけたら良い事などあったら教えてください。
また、話が纏まったら、順次投下予定です。
私事ですが、投下できることが嬉しくて…。
楽しんで頂けたら幸いです。
メール欄にsageと入れような
あんまり投下以外で語りすぎるとうざがられるよ
カップルと傾向だけ書いて投下して、長々と後書き書かなければおk
投下楽しみにしてるので頑張って下さい
「…うわぁ…」
先に立った仲居がスラリと開けた襖に郁は目を丸くした。
「こちらは、川に面してますので…夜になれば蛍が楽しめますよ」
「蛍ですか…」
荷物を部屋の片隅に置きながら堂上が声をあげる。
「蛍、知らないんですかっ?!嘘ですっ!ごめんなさいっ」
有無をいわさず飛んできた鉄拳に、郁は慌てて狭い…とはいえ、旅館としては郁が泊まったことのない広さを、利用して避ける。
微笑ましいとでもいうように笑っていた仲居が、浴衣を整えようとして、ハタと手を止めて郁を見上げた。
「…お嬢さんには…浴衣、今おもちしますね」
浴衣やバスタオルなどが整えられている盆をわきによせ、おまちをっと断って部屋を出て行く。その後ろ姿を送り出しながら、堂上はジロリと郁を見る。
「…都民だからな。俺は。蛍は知っているが、実物は知らん」
「…暗に私が田舎もんとでも?」
さあな…と呟いて、堂上が川に面したほうの障子を開け…
「…教官?」
肩が跳ねるぐらい固まった堂上に郁が不審げに声をかけた。川が氾濫でもしていたか?
郁が堂上の脇から障子を覗いた時…。
「…あら…、この部屋は蛇口から温泉がでます。温度調整はお水でなさってくださいね」
郁の浴衣を持ってきた仲居はにこやかに、障子のところで固まっている二人に声をかけた。
仲居がお茶を入れながら、夕食の時間とそのときに飲むアルコールなどをテキパキと堂上に尋ねていく。
それではと、品良く襖を閉めた仲居の姿に…堂上は大きく溜め息をついた。
…これか…これをやりたかったのか…小牧っ!いない友人に毒づきながら、いまだ障子から離れることができない郁の背中をチラ見する。
「…障子、破るなよ」
ビクッと指が震え、慌てて障子から手を引っ込める郁に、さすがに可哀相になる気もする。
未だに外泊届すら気にする郁だ。純真純粋培養には、目に毒だろう…。多分。
とりあえずお茶を飲み干して、堂上は郁の隣りに立った。
「眺めはいいじゃないか…」
なんの慰めにもなってないな。どちらかと言えば、コレにコメントしないことは不自然だろう。
「…露天風呂知らないのか?」
脇腹にカウンターか、下手すりゃ投げられるか…。一瞬身構えたが…隣りに立つ郁は、真っ赤になったまま、さらに深く俯いた。
からかいが過ぎたか…。深く俯いた頭にポンと手を置く。いつもの癖で髪の毛を掻き回しながら、軽く耳朶を引っ張った。
「そんなにへこむな。俺は大浴場のほうに行くから。お前はこっちにはいればいい」
真っ赤になったまま、顔をあげた郁は、すでに涙目になっていて。
「そんな顔をするな…」
苦笑いしながら、ゆっくりと唇を重ねあわせた。
軽く啄むキスを繰り返し、郁の障子に掛けられていた手をとり部屋の中に連れ戻す。
郁は、キスが始まると完全に主導権を堂上に渡すようになっていた。
肩にすがりついて立ってられるうちはいいが…。甘い声が上がる頃には足が震え出す。
下が畳だという安堵感もあったのだろう…。
「…お…っと…」
郁の指が堂上の肩から滑り、そのままずるずるとへたりこんだ。
背中を支えたまま、堂上が膝で郁の体を支える。
「…露天風呂ぐらい…知ってます」
ジト目で睨みあげられて。堂上はすまなかったと涙が溜まった目尻に唇を落とした。
「…だから、どうしよう…」
堂上が大浴場に立ってすぐ、郁は携帯を引っ張り出して柴崎に電話した。
『…どうしようって…』
電話の向こうでは、柴崎は既に吹き出しかけてる。
『あんた、私に風呂の入り方聞きたいの?』
「ちがぁぁうっ!」
『怒鳴らないでっ』
「じゃあ、笑わないでっ」
そんな郁の懇願を聞くような柴崎ではない。ひとしきり笑ったあと、ようやく郁の話を改めてみせた。
『堂上さんが大浴場に行ってる間に入っちゃいなさいよ。どうせ、堂上さんあんたに気を使ってしばらくは帰ってこないわよ。お湯出してんでしょう?』
「…うん…。」
行き掛けに堂上が蛇口を捻っていったのだ。蛇口から勢いよく温泉が出てる。
『まず、内風呂で身体洗ってからね。そんでゆっくりとくつろいだらいいわ…ぶふっ』
「誰も風呂の入り方を聞いてないーっのっ!」
怒鳴り散らかして、郁は携帯を切った。
「おう…」
「あ…おかえりなさい…」
堂上が帰って来ないので、探しに行こうかと考えていた所だった。
気を使ってくれたのだろうが…
「…あぁ…布団…」
堂上がそこまでは考え付かなかったと、頭をかく。
「…大丈夫だったか?」
「…ちょっと、大丈夫じゃないかも…」
首を傾げる堂上に郁が目線だけで露天風呂をさす。未だに水の流れる音がする。
「どうした…」
「…お湯…温泉だから…温度調整…」
堂上がズカズカと露天風呂に向かう。郁は後を追いながら説明を始めた。
「お風呂にはいろうとして…熱くて。どうしようかと思ってたら、お布団の係りの人がきて…」
湯船からは、既にお湯が溢れているにも関わらず未だにとても人が入れる温度ではない。堂上はそれを確かめて郁を振り返った。
「…な…」
なにをしていたんだと言いそうになって口を噤む。
蛇口を捻ったのは堂上なのだ。部屋に通してくれた仲居の温度調整が必要という箇所をすっとばしたのも、堂上だ。
「…はいってないな?」
「なんの罰ゲームですかっ?こんな熱湯ぶろテレビでも危険ですよっ」
見境なく風呂に飛び込むように言われ、心外だと郁が噛み付く。
「…いや、髪が濡れてるから…」
あぁと、郁が乾き切れてない髪をいじった。
327 :
堂郁 温泉:2011/01/08(土) 19:19:02 ID:z9KeJUl/
「内風呂で…」
堂上が顔をしかめた。確かに洗面所の箇所に内風呂はあったが…それじゃ、せっかく温泉に来た意味がない。
「…俺が確認しとけばな…」
蛇口を捻っただけで部屋を出た事を自分の失態と考える堂上に郁が焦る。
「いえっ…あたし…が、」
柴崎と電話なんかしていなければ。ましてや、内風呂で悶々と身体なんか洗ってなければ…。多分、源泉温度のまま風呂桶がいっぱいになることはなかったはず。
言いたい事は互いにあるが…どうしたって目線は、未だ溢れている露天風呂にいく。
「…これ、このままでいいのか?」
「お布団係りさんは、良いって言ってました。入れる温度になったら水止めて良いって…」
そうか…と呟いて。もう1度堂上はお湯に手をつっこんでみる。どうにか熱湯ではないが…江戸っ子の入れる温度ではさすがに長風呂はできまい…。
「あっ、あーっ!」
突然上がった郁の声に、ビクッと身体を固める。まさかとは思うが、一瞬風呂桶に突き飛ばされそうな気がしたのだ。
振り返ると郁が嬉しそうに川を指差してる。
「ほらっ!教官っ、あそこっ」
「なんだ…?」
ほらっ、と浴衣の袖を掴まれるが、力の加減無しで引っ張られ、襟元がはだける。
「なんだいったいっ?」
ああ、もうっと焦れったさげに、郁が部屋に飛び込んでいく。いきなり部屋の照明を落とされ、堂上は目を丸くした。
328 :
堂郁 温泉:2011/01/08(土) 19:25:57 ID:z9KeJUl/
が乱れる。
「なんだいったいっ?」
あぁもうっ!と焦れったさげに郁が部屋に飛び込んだ。
いきなり部屋の照明を全部落とされ、堂上が目を丸くする。
「おいっ?」
しーっ!再び部屋を飛び出してきた郁に、人差し指で口許を押さえられ…
「…あそこ…」
淡い星明かりの元、指差された川の方には…
「?!」
やや緑がかった黄色の光がホワンと空に浮いていた。
329 :
堂郁 温泉:2011/01/08(土) 19:32:34 ID:z9KeJUl/
「…よかったですね」
思わず身を乗り出してしまった堂上に郁が小さく笑う。
「…蛍なのか?」
さっきのしーっが利いているのか、堂上が声を潜めたまま郁に尋ねる。
「そうですよ。…まって…一匹が光り出したら、続いて光り出すはず…」
言い終わらないうちに、二か所、三か所で点滅が始まる。
堂上はしばらく身を乗り出したまま、動かなかった。
「…お前が電気消したんだからな…」
郁の申し訳ない程度の胸辺りで、くもぐった声がする。
浴衣生地を通して、堂上の吐息の熱さがみぞおちに拡がる。
「だって…それは…」
最初の指摘で気がつかなかった堂上に分かりやすくするための処置で…。
「…あたしに、なんか落ち度あります?」
首を傾げる郁の顔を見ないまま、堂上が郁の首筋に顔を埋める。
「きゃっ…や…」
チリッとした痛みが走り、そこは、髪で隠れるところっ?と焦る郁に、堂上が悔しそうに呟いた。
「…なんか、お前の余裕が…悔しい…」
堂上の言葉に、郁がぶったまげる。
「余裕って?!余裕って?なにが、どこらへんがっ?」
うるさい!という言葉と共に唇が重ねられて…。郁は思わず目を強く閉じた。
布団の上に押し倒されて。堂上の腕が郁の項に回されて…
…あぁ…長いキスだぁ…
郁は、ほうっと息を吐いた。
堂上のキスは、軽く合わせるだけの時は、襟に。啄むようなキスは顎に手を添える事にようやく気がついた。
項に回した手で、ゆっくりと項と髪の毛を愛撫しながら、もう片方の手で郁の左耳の耳朶に触れる。
「…っ…ん…」
啄むようなキスから、舌を出せ…と言われていわれるがままに小さく突き出す。
良い子だ…堂上の歯が軽くそれを甘噛みし、軽く吸い上げる。軽い吸引力に、郁の口から…ふあっっという息が上がる。
「…気持ちいいか?」
堂上の声に、トロンとした目を向ける。小さく頷くと、また、蹂躙が始まる。
「…は…あっ…」
郁の身体から力が抜けた頃を見計らって、堂上は郁の浴衣の帯を解いた。
キスを続けたまま、前をはだけさせていく。空気が冷たかったのか、無意識に膝を立てすりあわせるさまが…。扇情的で…。堂上は、その膝に手をかけゆっくり内股に滑らせて行った。
「うっ…うぅん…」
手のひらを感じたんだろう。郁が身を捩る。
「やだ…よぉ…」
「わかったから…」
性急に事は進めないから。唇から、首に口撃場所を変えて。
「ふあっ…あ…」
弱い所に触れたのか、郁が甘い声をだす。繰り返し、同じ箇所を責めて…
「下着、外すぞ?」
堂上の言葉に郁は小さく頷いた。
332 :
名無し:2011/01/08(土) 22:55:05 ID:z9KeJUl/
すいません…間1話すっとばしました…。
ちょっと、いったん寝ます。
すいません…
乙!続き待ってるぜ!
少し気になってるんだが、書きながら投下してる?
書きあがってからまとめて投下、の方がありがたい
334 :
名無し:2011/01/09(日) 07:26:51 ID:ti0UmOSG
おはようございます
携帯からなんで…下書き無しの一発勝負のありさまです…
携帯からも、まとめていけるんでしょうか…。教えてください。パソコンもってないんですよ…。
間一話ぶっとばしてて、己ながらにいきなりエロに入っててたまげました…(汗)
ぶっとばしたとこから書き直すか…、べた甘な結婚式の後を書こうかと、悩んでます
335 :
名無し:2011/01/09(日) 07:44:30 ID:ti0UmOSG
もしかして…メモ機能からいけるのか…
ちとやってみます。
メールにでも保存、書きあげたら推敲
としてから投下すればいいんじゃなかろうか
あと改行減らせば、数少なく纏められて確認もしやすいかと
それと今の話終わったらこのスレ、可能なら以前のログも
読んで他の職人さんの投下の仕方とか
スレの空気(暗黙の了解的マナー)とか見てみるといいんじゃないかな
読み専が偉そうにごめんね
あと、名前は空欄にしとくと勝手に「名無しさん@ピンキー」って入って楽チン♪
蛇足スマソ
いろいろありがとうございます。m(_ _)m助かります。
とりあえず、メモ機能で試し書きができたので投下してみます。
結婚式のあとです。
試しなので、エロなしになりました。
部屋に入るなり、堂上は備え付けの冷蔵庫から水を取り出して呷った。
二次会用の背広はすでに揉みくちゃにされてしわだらけだ。
片腕でスーツの上着を脱ごうとしてうまくいかず、イラッとしているのが後ろからついてきた郁にもわかった。
機嫌わるいなぁ…
そっと手を伸ばし、上着の襟足をもって脱ぐ手助けをする。
「…すまん」
「…お酒…大丈夫ですか?」
「…心配いらん」
後ろから覗く郁に一回視線を合わせた後、ふいっと逸らす。
心配いらんといいながら…結構アルコール臭い。
そりゃ、あんだけ飲まされたら…
もともと堂上は酒に強い。結婚式場が用意したアルコールを捨てる為のバケツには、結局一滴も零されなかった。
そしてそのまま、図書館隊有志の二次会に突入で。
郁が黒留め袖を着た母親に親族控え室で「あの人が王子様だったの」と感きわまって泣き出したのを宥めている間に、二次会はあっというまに手のつけられないものになっていた。
「手塚は、どうなった…」
堂上の上着をクローゼットに掛けながら郁が心配ないですよと答える。
「ぶつくさいいながら、柴崎が連れて帰るそうです。…まあ…玄関先で放置されるかもしれないですが…」
「…っとに…」
ドスッと音がして、堂上がベッドに腰掛けた。
「郁、水取ってくれ」
はいと、新しいペットボトルを堂上に差し出して…。再び水を呷る堂上を見下ろす。
「…玄田隊長…楽しそうでしたね…」
「あれは、そこが抜けたザルだっ」
一喝されて、首を竦める。でも…とどうにか執り成そうとした郁をジロリと見上げる。
「ついでに、会場に入った瞬間、いらん掛け声をかけたのもあの人だ!」
先制され、再び首を竦めた。それは…気がついていたけど…
「…じゃあ…熊殺しのほうがよかったですか?」
ブホォッと水を盛大に吹き出し、噎せて気管に入った堂上は激しく咳き込んだ。
ゲホッゲホッと咳き込みながら、郁を見上げる。
郁はちょっと目線を下げながら…寂しい顔をしていた。
どうにか体勢を整えて…。最後に執り成すような咳払いをする。
…そうだった…そうなる可能もないわけではなかった…。考えるだけ恐ろしいが…
「…お母さん…控え室で泣いてました。あたし…なんかようやく一個だけ…女の子らしいようなことができたみたいで…恥ずかしかったけど、少し嬉しかったんです…」
…まあ…熊殺しという掛け声ならば…郁の母親は…卒倒しかねんか?
掛け声ひとつで、対極にいたのだと改めて思った。
手にしていたペットボトルを空にして…。ポンポンと自分の膝の上を叩く。
音に気がついて、郁が近付いてくる。
「…悪かった」
目の前に来るよう、手を取り堂上は自分の膝の間に郁を立たせた。
「…いえ…」
目を合わせないまま、肩を竦める郁に堂上が苦笑いする。
「…お母さんが選んだのか?その二次会用のドレスは」
ビクッと郁の身体が縮こまる。結婚式では郁の意向でマーメイドラインのドレスだった。
「…やっぱり…ファンシーで…」
子供っぽい…。パステルカラーで淡いピンクのフワッと膨らんだドレス。結婚式に自分の意見を通しただけに…さすがに無下にできなかったのだろう。
実際、郁の母親には不満だらけの結婚なのだ。…まあ…結婚式だけは、乙女バージョン大発揮だったが…。その母親が、堂上が王子様だったと知って泣いたか…。
「…可愛いぞ」
腕を伸ばし、立ったままの郁を引き寄せる。
「…無理しなくて良いです…」
「…馬鹿。悪かった。…自分が手一杯だったんだ。お前をよく見る暇もなかった。だから今、言ってる。可愛いぞ」
…うーと小さく唸りながらも、郁が堂上の肩に手を乗せる。
「…楽しかったか?」
それには即答でこくんと頷く。
「良かったな」
「…はい」
身を屈めて郁の唇が堂上に落ちて来る。重ねるだけのキス。
さて…。堂上は郁の手をとりベッドから立ち上がった。
「…篤さん?」
引かれるように、入口付近まで連れて行かれ…。部屋に向き直る。
「…やり直しな。」
「…えっ…きゃっ?!」
素早く堂上の腕が郁の膝裏に回され、あっという間に抱きあげられる。
「…ぁ…篤…さん…」
「…相場はこうと決まってるんだ」
お姫様だっこでやり直し…。
横にきた堂上の顔がちょっと赤い。照れてる。お酒もあるかもしれないけど…照れてる。
郁は、その頬に軽く唇を当てた。すると、堂上が振り返る。
「お前が顔を寄せないと、この体勢じゃ俺からはキスできないんだぞ?」
郁の顔がみるみる真っ赤になる。俯いてしまうかな?と思っていたら、するっと郁の両手が堂上の顔に添えられ…
「…ん…」
はむっというように唇を重ねた。
目を一瞬丸くした堂上をちょっと見返しながら…
「相場ですから…」
呟いた。
「…生意気…」
堂上の声に笑いが含まれる。そんな相場きいたことない。だけど…
「郁…もう一回」
珍しい堂上のお願い。郁は小さく俯いて…もう1度手を添えて唇を重ねた。
おわり
よしっ!わかった!
ありがとうございましたっ!あとは、過去ログみて雰囲気と流れつかんできます!
連続投下って、秒規制あるのにちょっとビビりました…。
2chすげぇ…。
でもわかった。
ありがとうございました。すごく助かりましたV(^-^)V
とりあえず、1行ごとの改行は読みにくい
昨日、町歩いていたらおもいつきました。
玄田司令…
エロなしです。ちょっと長いです
バスタオル一枚を身に着け飛び出してきた郁になんでもないっ!と強がりは言ったものの…
「どう調子は?」
小牧に通りすがりに背中を叩かれ、睨み返す。無臭性の湿布を張ってるから気取られるはずもないが、訓練で組む事が多い小牧は堂上が背中を痛めたらしいと勘づいたようだ。
「…腰ならとか、分かるんだけど…なんで背中?」
「うるさい。」
歩くスピードを上げ、小牧と距離を取ろうとするが…コンパスの差か、あっさりとついてこられ腹が立つ。
「堂上の事だから…ていうのは変か…。んー、俺の想像では油断していたお前を笠原がぶん投げて受け身が取れなかったとしか浮かばない。」
独り言のように呟かれるが、内容がいろいろ失礼だ。堂上はジロリと横を歩く同僚を睨み上げた。
「郁は、隙あらば俺をぶん投げる女じゃないし…。しかも俺は、郁にぶん投げられて受け身を取れないほど間抜けじゃないっ!」
バンッと開けられた事務室の扉に、驚いたように視線が集まる。
その中に目を丸くした郁を見つけて…ああそうだった…俺はここでこいつに大外刈りをキメられて…思い出したくないような事を思い出し、おもいっきり顔をしかめた。
…図書館独特の静寂を突き破るサイレン。見回りを勤めていた手塚と郁が天井を振り仰ぐ。パトランプの点滅はなし。火事じゃない。
ザッという音とともに、無線が入る。
『業務部からっ緊急連絡!閲覧室で多数の若者が乱闘騒ぎを起こしている!向えっ』
閲覧室と聞いた段階で走り出している。
「…なんだと思う?」
「わからん…だが、良化法のやりかたじゃない。」
手塚が腰に下げていた警棒を振って伸ばす。銃器火器を使わないと法が整備されてから、新に支給されたものだ。手塚に見習い郁も警棒を振り伸ばして、閲覧室への扉を開けた。扉一枚で隔てられていた喧騒が爆発する。
「…なんだこりゃぁ…」
郁も手塚も一瞬呆気に取られたが…つぎの瞬間飛び出して行ったのは郁が早かった。
「あんたたちっ!ここは成人式会場じゃないのよっ!晴れの日にぶっとばされたくなかったら出て行きなさいっ!」
「…どうなってる…」
苦虫を潰したような顔をしながら堂上が小牧に尋ねる。
「…図書館隊の仕事とは、なんかちがうけど…とりあえず、向って来た奴等は、返り討ちにしてるみたい…。手塚達が乗り込んだ当たりで逃げ出したのもいるみたいだし…。」
郁たちの警棒の的から逃れようと、正面玄関から飛び出して来れば、そこにはなまはげよろしくの玄田が指をならして待ち構えている。
「…なんなんだ…こいつらは…」
「区主催の成人式を追い出された奴等みたいですね」
「元気があっていいじゃねぇか!ただし、場所はちゃんと選ばなきゃな!おりゃっ!逃げんな餓鬼っ!」
受け身を知らないであろう若者が、玄田に大技を繰り出されては飛んで行く。
「受け身も知らんやつが図書館隊に喧嘩うるなんざ、100年早いわっ!」
そういいながらも楽しそうなのは見ない振りをするしかない。玄田が投げた新成人を、新人の防衛員が逮捕していく。なまじ、新成人はお約束のように派手な羽織り袴姿が多かったので積まれて行く様は見るも無惨だった。「お…最後かな?」
小牧の声に図書館内を振り返る。
外に逃げようとする男を手塚が押さえ込むところだった。
往生際が悪く、手塚の腹を蹴り上げようとして。
「…うっわ…」
思わず小牧が呻く。手塚をフォローするために走り込んだ郁が、ためらうこともなく、その新成人の横っ面に警棒を叩き込んだのだ。
歯を撒き散らしながら意識を失ったであろう新成人を郁がなにか怒鳴りながら、手首に手錠をかけている。
「…さすがというべきか…」
なんといったもんだか…。玄田に投げられてたほうがよかったんじゃないかと、一瞬思ってしまったが…。視線を感じたのか、郁が顔を上げて堂上を見る。その顔に返り血を浴びて…苦笑いをする郁も、思い出したことがあるのだろう。
ブラッディ笠原
と、あっ!と短い悲鳴が堂上の真後ろで起こった。
正面玄関から堂上を見ていた郁の顔も瞬間で強張る。
玄田が投げ飛ばし、防衛員が拘束していた新成人の1人が防衛員の手を振りほどき、堂上に突進して来たのだ。
「うぉおぉっーっ!」低い唸り声を上げ倒れ込みながら突進してくる新成人に…堂上はとっさに…。
「…っ?!」
ダンッ!という音と、ガンッ!という小牧の振り落とした警棒が堂上のヘルメットに当たったのは、ほとんど同時だった。
…緒形が渋い顔で堂上を見ていた。その横には進藤が立っている。
「…まぁ…柔術を基本としてるわけだから…」
「…後ろからタックルかけようとする奴を、バク転で回避しちゃいかんとは、いわないが…」
決定打に欠ける小言は締まりがなく…。堂上は今後このような事がないようにと言われて、応接室を出された。
応接室の向かいの壁に、小牧が凭れかかって立っている。
「…湿布いる?」
「いらん」
「…瞼の上、すごいよ。俺力加減してないもん」
「いるか、馬鹿」
「…ヘルメット被ってて良かったね」
事務室に向かいながら、堂上が呟いた。
「すまなかった」
「…二度とするなよ」
小牧にしては低い声で念を押され、堂上も頷く。
「二度としない」
そう答えた時、事務室から手塚の怒鳴り声が聞こえる。何を言っているのか判別はつかないが、怒鳴り返しているのは郁だ。
「…なにやってんだ…あいつら…」
堂上は走り出した。
「おいっ!声がでかいぞっ!」
バンッと扉を開けたのにも、ヒートアップした2人には耳に届かなかったらしい。
「教官がバク中したのが、どーしてあたしの入れ知恵になんのよっ!」
ネタはそれか…堂上が頭を抱えた。
「お前だけだっ!あの状況でガッツポーズしたのはっ」
「なんでよっ!確保したじゃないっ!しかも後ろから滑り込みのタックル躱したのよっ?なんでガッツポーズしちゃいけないのよっ!」
「あんな状況でバク中するなんて、お前の影響がないわけがないだろうがっ!」
「しっ、しっ、失礼ねっ!教官のほうがひどいわよっ!あたしなんか、投げっ放しのジャーマンよっ?!ポイポイ投げられる身にもなんなさいよっ!」
「誰がなるかっ!」
「誰がならすかっ!」
小牧の手が肩にかかる。堂上は、大きく息を吐いた。
「…ほら、影響がでかいから…」
既に、声に笑いが含まれている。
ああ、わかった。本当によくわかった。
事務室の隊員達がニヤニヤ笑いながら、郁と堂上を見比べている。
このまま口論を続けさせたら、絶対に己の為にならない。堂上が怒鳴ろうと息をためた時、バンッ!と司令室の扉が開いた。
「キャンキャンうるせえっ!」
腹の底から怒鳴られて、郁と手塚が息を飲む。
ギロリとそちらに一瞥をくれて、玄田は事務室の入口で固まってた堂上を見た。
「緒形はどこだ」
「第2応接室です」
そうかと呟き、玄田が部屋に戻ろうと身を返そうとして…しばらくなにか考え込んで、堂上を見直した。
「お前は、なんだ。実は猿回しの人間の方かと思っていたが…ほんとは、猿の方だったか」
…玄田が言いたい事だけ言って、扉を閉めた時、ドッと笑いがおき事務室が揺れた。
二度とするかっ!するもんかっ!
怒りと恥で震える肩を、大爆笑しながら小牧がつつく。事務室の中央で手塚とやりあっていた郁が呆然としていた。手塚が申し訳なさそうに顔を逸らしたまま腹を押さえている。
「…わたしは、最初から猿ですかっ?!」
郁の悲鳴とも叫びともいえない声に、事務室が第二陣の爆笑の渦に包まれた。
その後しばらく…武道室でバク中やバク転にチャレンジしようとする防衛員が増えたのは、しかたがないとして…それが見つかり次第、堂上夫妻に締め落とされたのはいうまでもなかった。
おわる
手塚慧 毬江 小牧のパラレル書きました。
今回はエロはないんですが、毬江ちゃんが、手塚慧と知り合って、ちょっと親しくなって行っちゃう話です。
鬼畜じゃないです。でも、毬江ちゃんが、急激に大人らしくなった理由。忙しい小牧に溜め息をつく毬江に、少し大人の世界を覗かせてみせる慧。
今回は、出会った日です。
小牧と毬江に手塚慧が絡むなど許さん!というかたは避けてください。
ちょっと長いです。8スレ使う予定です。
車が停止した。目を閉じていた手塚慧に運転席から声がかかる。
「図書隊と良化隊。始まるようです…」
助手席から軽くモーター音が聞こえ数cm窓が開けられた。
「始まります」
その声と同時に、街宣車の怒号と銃声が窓の隙間から飛び込んで来た。
微かに眉を寄せた慧が片手を上げる。その仕草で窓が閉められ車のなかに静寂が戻った。
「よろしいですか」
「出せ」
車が静かに動き出す。自分より幾許か背の高くなった弟に向って死ぬなよと呟く。できる事なら…いや今でも未来企画に…自分の目の届く場所にいてほしいのだが…。
最近ようやく携帯番号を教えてくれた弟に、薄く笑う。10年たっても、いくら手酷くしても…結局光は、自分を切り捨てられない。甘いからな…そう考えて、苦く笑う。違う…自分が甘えているのだ。弟に。
「ひどい兄貴だ…」
そう呟いた瞬間、けたたましいブレーキ音し、車の前に飛び出して来た女の子の見開いた瞳が慧を貫いた。
「……」
スモーク処理がしてあるガラス越しに視線があうはずもないが、女の子の身体が、フロントから消える。
「…轢いたのか…」
助手席の男が運転席で肩を震わしてる男に聞いた。
「いや、接触した感じはしない」
それでも動揺したのだろう。ハンドルを握った指が白い。
助手席の男が素早く車を降り、車の前面に回る。様子を確認して、後部座席に回って来た。窓を軽く叩かれ、慧が半分ほど窓を開ける。まず耳についたのは、図書隊と良化隊の怒号と銃声だった。
「接触はしてません。気絶したようです」
慧に聞こえるよう、身を屈めて状況を説明する。だからと言って…このまま車道に置いて行くわけにもいかない。
慧は溜め息をついて女の子を歩道に移動するよう指示をだした。男が頷いて、フロントに回る
。抱き抱えられても意識を失ったままの女の子は、細く華奢な身体を男に預けたまま、まるで人形のようだった。歩道に横たわらせるのも気が引けたようで…男が慧を見上げる。
その時、男の腕からカクンと首が落ち…慧が眉を潜めて、車のドアを開けた。
「…障害者だ。乗せろ」
この華奢な女の子の首に好んで着けられていそうにない。それでも、この女の子の助けになるはずのシルバーのホイッスル。
男は慧に言われるままに、女の子を車の後部座席に横たわらせ、助手席に慧が移るのを確認してドアを閉めた。
毬江はちょうど、買い物の途中だった。予備校からの帰り、人込みに紛れながら店舗先を覗いていたため、人がどんどん疎らになるのに気がついていなかった。
気がついていたら始まっていた。補聴器がいきなり拾った怒号そして、なにか揺れる感覚。
何っ?!と思った瞬間、逃げなきゃと身を翻す。でも、どこに?図書館だったら、逃げる場所も分かるし、誘導してくれる人もいる。でも、今は…。回りも逃げ惑う人がどこかに向って走っている。どこに向えばいいの?毬江は、店と店の細い路地を走り抜けた。
小牧さん…小牧さんっ!
必死に心の中で叫ぶ。大丈夫、きっと大丈夫だから…わたしには、ホイッスルがあるからっ…首から下げたホイッスルを握り締めて路地を抜けた瞬間…気がついたら、車道だった。黒い車が毬江に突っ込んで来る。
「ーーーっ?!」
悲鳴は上げたのだろうか…飛び起きた毬江は思わず口許を押さえてガタガタと震えていた。
「大丈夫かい?」
落ち着いた声をかけられ、それでも毬江は動揺した。
ここはどこっ?
暗闇だった部屋に、いきなり灯が灯る。はっと顔をあげた毬江に慧は、様子を見ながら端末をいじった。毬江の寝ていたソファの脇のテーブルの上で、パソコンが点滅する。
『大丈夫?』
画面に現れた文字を見て、ようやくそれが毬江を案じた物だと気がついた。
「…だ…れ…」
首を回してようやく…毬江は扉近くに立っていた慧に気がついた。
目線があったのを確認し、慧がニッコリと笑う。営業用のスマイルだ。ほとんどの女性はこの笑顔で慧に心の垣根を軽々と超えられてしまう。この子には効くかな…そう思いながら様子を伺うと、この女の子は一瞬大きく瞬きし…そして軽く首を傾げた。
「補聴器は、壊れたら大変だから、テーブルの上に置いてある」
声は聞こえなかったようだ。再びパソコンが点滅し文字が並べられる。それを確認し、慌てて毬江は補聴器を耳にかけた。
「側に寄ってもいいかい?」
声にも出して、パソコンも点滅させる。毬江は今度は聞こえたように、大きく頷いた。そして慌てたようになにかを探すそぶりをする。
「バックは足下だよ。」
バックをひっぱりあげて、中から携帯電話を取り出す。メールをうとうとして、驚いた。圏外?
「ここ、電波が悪くて…ごめんね」
表情を読んだように、慧が毬江の前に座りながら申し訳なさそうに頭を下げた。毬江が首を横に振る。毬江にとって携帯電話は、大切な言葉になる。
ものすごいスピードで、文字を打つ毬江に慧は素早く視線を走らせた。どこも痛がってる様子もない。多分、驚いて失神したのだろう。
ずいっと携帯が差し出され、慧はそれを受け取った。
『…わたしは、中澤毬江です。中途難聴者です。状況を教えてください。』
的確な子だ。感心しながら慧が再び端末を叩きながら、ゆっくりやや大きめに口を動かす。
「パソコンの画面と、唇読み、どちらが早い?」
食い入るように口許を見られ、慧は苦笑いした。
「状況を説明しよう。だから、少し身体の力抜かないかい?」
一瞬、キョトンとし…毬江は自分が身を乗り出して慧を見つめていた事に気がついた。
車を走らせていたら、君が飛び出して来て、接触したようすはなかったんだけど、君が気を失っちゃって。どうしたものかと思っていたら、街宣車が走り回り出したので、とりあえずこのままだと危ないと、自分の家が近かったので運びました。
事を掻い摘まんで話せばこんなものだし。慧はあったことだけを、そして、自分はあの時なにがあの地区で起こっていたのかも、なにも知らなかったように毬江に告げた。
毬江が、状況を聞いて幾分かさっきよりはゆっくりと携帯をうつ。差し出された携帯には、慧よりも丁寧な毬江側の説明が綴られていた。
「…そっか…ヤクザの抗争かなんかかもしれないね…」
いけしゃーしゃーと嘘を吐き、毬江を伺う。毬江は疑いもせず首を傾げた。結局、なんの騒ぎだったのかはわからなかったのだ。
「それで、僕が心配なのは、君が…毬江ちゃんが怪我をしていないかということなんだけど…」
そういうと、毬江はパタパタと自分の身体を確かめてみせ、頭を下げた。
心配ないということだろう。
「そう。よかった…」心から安堵した声を出して。慧は立ち上がった。
「安心したら喉が渇いたよ。お茶いれるね」
ガラスのティーポットにハーブを入れ、熱湯を注ぐ。ふあんと広がった香りに、毬江が目を見開いた。
「はい…口に合えばいいのだけど…」
『カモミールですか?』
「あれ、もしかして詳しい?気が落ち着くかな、と思って…。嫌い?」
毬江が大きく首を横に振る。カップに手を伸ばし指先を温めるようにして、押し頂いた。
『美味しい』
携帯の文字に慧がありがとうと、再びにっこり笑ってみせて…。毬江はやはり、なにか引っ掛かる表情をしてみせた。考え考え、携帯をいじる。
『以前会った事がありますか?』
慧は驚いた表情をしてみせた。
「君に一回でも会ってたら、僕のほうが覚えているよ」
未だに訝しげな毬江に苦笑いしながら、でもきっぱりと否定する。
「僕の生活と君の生活では、重なる部分はない。だから、今回は本当に、僕としては、ラッキーだった」
一瞬、何を言われたか分からない様子だったか、言われた事に気がついて、毬江は顔を真っ赤にして伏せた。
「できたら、こういう状況で知り合いたくはなかったな…。毬江ちゃんとは」
頭の後ろから光の怒号が飛んできそうだ。なにこんな小さな女の子たぶらかしてんだよっ!このくそ兄貴っ!
『ごめんなさい』
イジイジと携帯を弄って、差し出す毬江に慧が笑う。
「なんで謝るかな〜。大切にされてるお嬢さんだもん…。それ」
慧は、自分の喉元を軽くついてみせた。
「…毬江ちゃんが大切な人がくれたんだろう?」
言われてはっと、自分の首もとに手をかけた。大丈夫…ちゃんとある…。確かめて、安心したように溜め息をもらした毬江に慧が自分を見るように、手を振る。
「…もし、ヤクザの抗争だったり、ただの喧嘩だったりしても…」
柔和だった笑顔がいきなり厳しい顔になり、毬江は息をのむ。
「毬江ちゃんは、一般人より状況を掴むことがしにくい。わかるね?」
頷く。今日あったことだ。そして…小牧のいる図書館でも…。
「わからないとはいえ、闇雲に走り出したら危ない。それは、パニックだ。恐怖に駆られて走り出すと、さらに恐怖が生まれる」
慧は、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「大切な人がきっと助けに来てくれるから。それはその為の道具だから。お守りじゃないんだよ」
クゥッと小さく喉がなった。確かに、毬江はこれを使わなかった…。使うという事すら気がつかなかった。パニックで…怖くて…。
「今日は…怖かったね」
目の前に座っている男の姿が涙で見えなくなった。
怖かった。怖かった。泣きじゃくり始めた毬江に慧が席を立つ。その柔らかい髪に手を乗せて、優しい仕草で頭を撫でる。
「うん…怖かったね…」
隣りに座った慧に頭を撫でられながら、毬江はしばらく嗚咽を噛み殺しながら泣き続けていた。
門を開けようとした時、肩を叩かれた。振り返ると、肩で激しく息を継ぐ小牧が立っていた。
「小牧さんっ!」
嬉しくてびっくりして、声を上げ慌てて口を押さえる。
「…今日、どこか出かけてたの?」
補聴器のほうに向って小牧が聞く。毬江は頷いた。
「…街に出て。途中でなんか、ヤクザの抗争?みたいなのがあって。逃げ惑っちゃった」
肩を小さく竦めた毬江に小牧が意外だという表情をする。多分その抗争は、図書隊と良化隊の抗争で。1人で出かけてまだ帰らない毬江を心配して、母親から寮や携帯に連絡があったのだ。
「携帯、電源はいってた?」
「電波が悪いところだったの…アンテナがたってすぐに親にはメールしたんだけど…」
まさか、毬江としては小牧に連絡がいってるとは思わなくて、申し訳なくて頭を下げるしかない。
「誰かと一緒だった?」
…毬江の頭に慧のいたずらっぽい笑顔が浮かんだ。
ホイッスルをふいてごらん。きっと大切な人が飛んできてくれる。でも、僕がふいてごらんって言った事は内緒だよ。魔法がとけてしまうから。
送ってくれた車のなかで、芝居掛かった慧の仕草に毬江は笑ったのだ。だって、お仕事中だもんと。
それでも、車のなかで吹いて見せた。なんか、いろいろ迷惑かけちゃったなと思って。
もし、魔法が叶ったら。教えてくれる?ここに。差し出されたメルアドを断る理由もなかった。だって、魔法は叶わないもの。変なの。でも、ちゃんと家に着きましたのメールはしないといけないし。
毬江は、慧の車の助手席で自分の携帯にアドレスを登録しようとして気がついた。
『お名前、お聞きしましたっけ』
「真っ先に伝えたつもりなんだけど…」
運転しながら笑い出す慧に毬江は自分がパニックになってて聞き逃したんだと納得した。そういう事はなんどかあったし、実際、慧は毬江を名前で呼んでいる。
「名前、あんまり好きじゃないんだ…だから、Keiって呼んで」
『K?』
「そう呼んで。魔法使いだから」
ひょうきんな物言いに、また2人で吹き出し…。
毬江は息を吸って小牧に抱き付いた。
「カモミール飲んでたの。驚いて、怖くて。」
飛び付いて来た毬江に小牧が、一瞬身体を固くしたが、慌てて肩を抱いてくれた。
「カモミール飲んでたら、ちょっとぼうってしちゃってた。でも、大丈夫。」
そう言って、首からホイッスルを引っ張り出す。
「これがあるから、大丈夫だったの」
毬江の落ち着いた口調に小牧は、安心したように強く抱き締め、見計らったかのように毬江の母親が玄関から覗いた時には、いつものお兄さんに戻っていた。
上がって行って欲しいとねだる毬江に、今日はごめんと謝りながら駅に向って走って行く小牧。
諦めたように溜め息を吐きながらも、母親に促されるようにして家にはいる。
疲れちゃったと言い訳しながら母親からの小言をうまく躱して。
部屋に入り、後手でドアを閉めながらくすくす笑う。小牧さん、来ちゃった。魔法きいちゃった。
携帯を取り出し、小牧にまずメール。
『心配してくれてありがとう。心配させてごめんなさい。気をつけて帰ってね。また図書館にいきます』
送信。
そして、魔法使いさんにも…
『今日はありがとうございました。魔法がきいたのでびっくりしました。』
お礼を送信。
パタンと携帯を閉じて、そのままベッドに倒れ込んだ。
なんだか…ワクワクする。なんだろう…この気持ち…。
マナーモードで着信。小牧からの返信メール。
『今日は大丈夫そうで安心しました。ホイッスル役に立って良かったです。図書館に来る時はメールして。』
つぎの着信は…魔法使いさん。
『無事に家に着いたんだね。良かった。メールが届かなかったから、魔法の修行のやり直しを考えていたところです。誰にも言えない秘密の話。こんな秘密に付き合ってくれてありがとう。今度、もし会う事ができたら、また一緒にカモミール飲みましょう』
あなたの生活と僕の生活に重なる部分はない。
そう断言した人が、今度会えたらだって…。くすくす笑う。
Kさん、変な人。でも大切な事を教えてくれた人。
道具は使わないと役には立たない。
小牧がくれたものだから…なんか勿体なくて。握り締めるだけで安心してた。でも、違うんだ。多分、小牧さんもKさん…みたいに使う事を望んでいたんだ。
道具はお守りではないよ。
握り締めるだけでは、役には立たない。なにかあった時に、助けを求める為のもの。
『見掛けたら、肩を叩いてください。声かけられても気がつかないかも』
もし、会えたらの話だから。もし会えて、わたしが気がつかなかったら失礼だから。送信。
送ったら、本当に疲れていた事に気がついた。そのままうとうとしてしまいそうになり、ベッドに入る。
おやすみなさい、小牧さん…そして…おやすみなさい魔法使いさん。小さく笑って…毬江は目を閉じた。
駅前で毬江を下ろした後、ちょうど到着した電車から飛び出して来た男がいた。迷う事なく、毬江が歩いて行ったほうに向って駆けて行く。
…見た事がある。手をあげると影から現れた男が後を追う。
車の窓が開き、お寒いですから中にと声がかかる。
慧の後を護身用に着けていた車から、こちらに移ったのだ。
わかったと車に向き直ると、後ろの車から飛び出してきた男がドアを開ける。乗り込んで。携帯が震える。確認して、しばらく文面を考えて送信する。あの子は笑うだろうか。
「後ろの車を出せ。」タイミング的に、あの子の大切な人が戻って来る。今日の抗争で、事後処理は山の様にあるはずだ。
やはり、息をきらしながら駅に駆け込んで行く小牧…とかいったな…光の上官。その手元で携帯の内容を確認し、無防備に笑った。なるほど…な…。
見えない糸が、偶然にこんな形で繋がる時もある。
再び、携帯が震える。内容を確認して携帯を閉じた。
窓が軽くノックされる。小牧をつけていた男が帰って来た。
「乗れ」
無言で助手席に滑り込む。
「出せ」
静かに動き出した車の後部座席にゆっくりと背中を預け…
「会長…」
運転席から恐る恐る声がかけられる。無言で話を続けさすと、考えていたのだろう、自分の為に、未来企画の会長がここまでしてくださってと、声を震わせながら感謝の言葉を連ねた。
「状況を話したら、彼女が快諾してくれた。だが、二度とするな。未来企画に死点は許されない。わかるな?」
ガクガクと頭を下げる。彼女が障害者であるゆえに、話が難しくなるかもしれない。だから、自分独りでおまえの責任を請け負う。
そう言って、部屋を外され、彼女を送って行ったのも慧自身だった。
未来企画の会長が!俺の為に…。
「…それに、私はおまえの運転技術を評価している」
運転席の男は、乱暴に目をスーツの袖で拭った。
「さすがに疲れた。寝るから着いたら起こせ」
目を再び閉じる。目を閉じると毬江の泣いた顔、笑った顔が浮かぶ。
魔法を使って見せましょう。
この糸はどう組まれて行くのか…。
慧は気付かれない様、小さく笑った。
おわります。
おやすみなさい
乙
よかったよー
まだか
うっし、規制が解けた。
第2部です。
小牧×毬江に慧が絡んでたまるかの人は、回避よろしく。
7スレ(レス)?使います。
エロなしです。ほんのりデート?見たいなもんか…。
投下します
私、もう大人だよ?
そう言う度に、あの人は困った様に笑うのだ。
子供だなんて思ってないよ。
じゃあ、なんでダメなの?
なんど繰り返しても…あの人は困った様子で笑うだけで。最後はこう締めくくるのだ。
毬江ちゃんとは、ちゃんとしたいんだ。大切な人だから。
…ばーか…
いない人に向って毒づく事はあまり良くない事だが、いまの状況では、咎める者もきっと居ない。
小牧との久しぶりのお出かけだったのに。急な電話で小牧は呼び戻されてしまったのだ。独りで帰れる?気遣った言い方に、ちょっとひっかかったけど。小牧は今から、もしかしたら…。
毬江は力一杯真面目な顔で頷いた。帰れる。だから気をつけて。そして毬江は空を指差し、笑う。まだ、お昼前だし。大丈夫。
「お昼ご飯も一緒に食べれなかったね…」
言外にごめんを感じて、毬江は首を振る。
「また今度があるから大丈夫。気をつけて」
ありがとうと小牧は笑い、下車したばかりの駅に向って走り出した。その背中を見送りながら、小さく息を吐く。今日は、お昼ご飯を食べて、一緒に美術館に行くはずだったのに。
小牧の仕事上、こんなふうに呼び戻される事は、今まででもあったことだから。祈らずにはいられない。神様…どうか、小牧さんが無事でありますように。
しばらく、小牧と別れた場所に立ち尽くしていたが…毬江は、ビル群に向って歩き出した。
あまり、来る機会のない丸の内。この先は皇居で、その隣りは日比谷公園。石畳が綺麗に並んだ丸の内は、行った事はまだないが…まるで…外国みたい。
ズラリと並んだビル群の一階には、有名なブランド店が軒を連ねて居る。道のあちらこちらにオブジェもあって、ちょっとした美術館みたいだ。
一緒に歩きたかったなぁ…そう思いながら、ふと、そういえばさっきなにかひっかかったのを思い出した。
足を止めると、道行くサラリーマンがちょっど迷惑そうだったので、慌てて脇による。脇に寄ったついでに目の前のショーウィンドウのマネキンの洋服がとても大人っぽく見えたので、よく見るふりをしてガラスに指を当てた。
んーと考え込む。小牧は困った様子でごめんねと言って…言ったっけ?違う…独りで帰れる?って言ったんだ。
んーいつまで、子供扱いされちゃうかな…。溜め息をつく。聞き分けてくれたら嬉しいな。最近、よく小牧が使うようになった言葉。聞き分けがいいのが、大人の証拠なんだろうか…。
なんか、それも違う気がして首を傾げる。聞き分けの良し悪しで大人か子供なんて、やっぱり変だし。それに聞き分けの悪い大人もたくさんいることも知っている。
…小牧さんにヒドい事をした人達だって大人だった。
思い出して、未だにその怒りが消化できていないことに気がつく。小牧はあの事については、触れなかった。そして毬江も触れなかった。あの物語の二人が自分達だと思って良い?それだけで、充分だったから。
…でも、やっぱり…溜め息を吐く。電車で独りで帰れるかって心配させちゃうということは、未だに毬江を子供だと認めたようなものだから…。
…ばーか…
軽く舌をだして。窓に映った自分がアッカンベーってしていて、落ち込む。やっぱり、私子供っぽい?
カランとドアベルが思ったより近くで聞こえて顔を上げた。開いたドアから出て来た顔にさらにびっくりする。おもいっきり笑いを堪えたスーツを着た人は、ゆっくりと毬江に近付いて、その肩を軽く叩いた。
「…あの子…どうしたの」
囁くような店員の声と、ボディガード兼運転手が手塚慧に視線を送ったのは同時だった。「…会長…」
なにも言わずに視線を向けて正直驚いた。
中澤毬江が、ガラスに向って立っていたのだから。昼の陽光のせいで、毬江には自分が鏡のように映っているのだろうが、薄暗い店の中からは毬江の表情が一目で分かる。
あなたとは生活で重なる部分はない。そう断言したぶん、こういうハプニングは想定外だった。
店の奥から、屈強な男が出てくる。店のボディガードだろう。慧はそれを手を上げて止どめた。秘書は、パソコンの端末を弄り、慧に差し出す。図書隊に良化隊の検閲。図書隊に非常召集。小牧も召集されたのだろう。
そして、このお嬢さんは、なにをいったい始めたんだ。
クルクル変わる表情に、我慢しきれずに店員が小さく吹き出した。最後にはっきりわかる口の動きでばーかと言い…小さく舌をだす。
まさか店の中に自分がいると、分かっていないと思うが…慧は驚かせないよう、ドアを開けた。せいいっぱい笑いを堪えて。
ポカンとした表情で、慧を見上げる毬江に、慧が素早く携帯を出して見せた。弾かれたように毬江も携帯を取り出す。
『おひさしぶり。肩を叩いてという事でしたね。お元気でしたか』
慧の携帯を確認して、ものすごいスピードで毬江の指が動く。
『元気です。この間は、送ってくださってありがとうございました。』
顔を真っ赤にして突き出された携帯に、慧が笑う。
「…会長…」
慧が開けたドアを押さえていた運転手が声をかける。人目につきすぎる。慧はちょっと考えて、指を動かした。
『お店に迷惑がかかるので、中に入りたいのですが、よかったらご一緒しませんか?』
慧が携帯を毬江に見せながら、困った仕草で店をみた。女性店員が毬江ににっこりと笑って、軽く頭を下げる。背中に軽く手を添えられ、毬江は促されるまま店に入った。
うわぁ…と思わず息を飲む。間接照明だらけの店内は高級感に溢れ、なんと革張りのソファまで置いてある。低いテーブルには何着かスーツが置かれていたが、女性店員が優雅な動きでそれを下げていた。
「毬江ちゃん、座る?」
補聴器のほうに声をかけられ、慌てて頷く。そして携帯に指を走らせた。
『お買い物途中でしたか?私、邪魔じゃないですか?』
慧が文面を読んで首を横に振る。
「買い物はちょうどすんだ所でした。会計を済ましてくるので、座っていてくれるかな」
革張りのソファに腰をかけさせ、安心させるように縮こまった肩を叩く。
場違いな雰囲気に、固くなってる毬江を見ながら奥に戻った。スーツを片付けていた女性店員の前で足を止める。
「彼女になにか飲み物を」
頷く事で了解した店員がバックヤードに消えた。毬江から見えない所に立っている秘書と運転手に軽く頷く。運転手は裏口から車を取りに向かい、秘書は店のオーナーに今日買った品物を配送するよう指示を出した。
「昼食は」
慧の問いに、秘書が電子端末で確認する。首を横に振り、重要度合を伝える。
「キャンセルします」
「時間は」
「14時までに」
抜けられない会談がある。それを確認し、慧は腕時計をみた。まあ、昼食としてはそんなものだろう。
「これを」
秘書が万年筆の細工釦を押し、慧に渡す。GPS。当たり前のように受け取り胸のポケットに挿した。なにが起こるかわからない。そんな世の中だ。
軽く手を上げると秘書が軽く頭を下げて裏口に消えた。
すっと横からカードが差し出される。
『なにかお飲みになりますか?』
俯いていた毬江が慌ててカードを差し出した女性を見る。女性がカードを裏返すと、コーヒー、紅茶、ミネラルウォーター、オレンジジュース、シャンパン、白ワインと書いてあった。
どうしようと、女性とカードを見比べていたら、その肩に手がかけられた。
「ん…シャンパンは、心引かれるけどね」
戻って来た慧に、毬江がほっとした表情を浮かべる。
「飲んでみる?」
慌てて首を横に振り、携帯に指を走らす。
『未成年です。お酒はだめです』
至極真っ当な文面に慧は目を丸くした。
「そうなの。え…友達とかとも?」
一瞬考えて、文章を作る。
『お屠蘇ぐらい』
その一文を読み、慧は思わず横を向いて吹き出した。
とりあえず、紅茶を頼み、毬江の補聴器側に腰を下ろす。
ちょうどソファの真っ正面が、毬江が張り付いていた窓になる。店の中からは外を歩いている人が良く見えた。
薄暗い店内から、腰掛けて外を見ているとまるで映画のようだ。店の雰囲気を壊さない程度に流れているジャズは、毬江には聞こえないだろう。毬江にとっては無声音のどこか知らない町の風景に見えた。
気配を消した女性店員が慧側から紅茶を置き、消える。
まるで、二人っきりみたい。
そう考えて、ふと横に座る慧を見上げた。初めて会った時にも感じたデジャブ…どこかで会った事なかったかな…本当に。
毬江の視線に気がついて、紅茶を飲んでいた慧が首を傾けた。
「なに?」
『私…もしかして、お買い物の邪魔をしましたか?』
一枚ガラスの向こう側がこんなにはっきり見えるものとは…ちょっと考えてなかった。
「会計をする所だったから、いいんだよ」
心配ないと笑いながら、毬江の頭に手をかけて…思い出したかのように横を向いて小さく笑いを押し殺そうとした。
その仕草は、小牧が上戸に入るのを避けようとする仕草に似ていて。
「…だけど、もしよかったら、ばーかとアッカンベーの理由がきけたら…」
ボンッと毬江の顔に火が付いた。それを見て、笑いを堪えているうちに、慧の身体はソファに沈み込み…。
我慢しきれず笑い出した慧を思わず、そばにあったクッションで殴るという暴挙にでた毬江を、女性店員は恐ろしいモノを見るように伺っていた。
お店に居座ってもね…慧の言う事がもっともだったので、毬江は大きく頷いた。まだ昼食とってないんだけど、毬江ちゃんは食べた?と聞かれ首を横に振る。じゃあ、毬江ちゃんがよければ日比谷公園で食べようか。もし、予定がないならだけど。
その言葉で…ここにいる理由を思い出し、少し悲しくなった。小牧さん…。
急に暗くなった表情に、気がつかない振りをして慧が話を続ける。ランチ付き合ってくれたら嬉しいな。なかなか1人ではレストランとか入れない質でね。年上の男の人、しかも慧の口からそんなことを言われ、小さく笑う。そして頷いた。
店を出る時に、お茶を出してくれた女性が毬江にゴールドの袋を渡してくれた。GODIVAのトリュフチョコ。お土産だと言われ丁寧に頭を下げられる。
慧の笑いっぷりから見て、ガラス越しの自分がいかにお店に迷惑をかけたか…想像するだけで、お土産をいただける状況じゃない。どうしようと、振り返った毬江に慧が笑った。
「チョコ嫌い?」
首を横に振る。
「じゃあ、僕の代わりにもらってて」
そう言われて、ああそうかと納得する。ほんとは慧用のお土産で、私に渡されただけなんだと思えば…。
毬江は、ペコリと頭を下げた。
「では、また」
慧の言葉に、店のオーナー、女性が丁寧にお辞儀をして見送る。見送られ…しばらくして人込みで店前が見えなくなって、毬江は大きく息を吐き出した。
「どうしたの」
「緊張したぁ…」
言葉が零れて。慌てて口を押さえる。回りを見回し誰も自分を見ていない事を確かめて…隣りに立っている慧を見上げた。
「少々大きめでも大丈夫。毬江ちゃんの声は綺麗だから」
そう言った慧に一瞬目を丸くして…嬉しそうにはにかんだ。
「私、おしゃべりあんまり上手じゃないんです」
皇居側から日比谷公園に入る。ゆっくり歩く慧の横に付きながら毬江は告白していた。
「知っている人達の前ではあんまり気にしないんですけど…できたら、話したくない気持ちが強くて」
随分それで辛い思いをしたし、我慢もしたし。
「…自分でうまくしゃべれてるのか…とっさに判断しにくくて…」
場の雰囲気を壊すんじゃないかと思って。
「中途難聴者って言ってたね。」
はい、と頷く。突発性難聴。いきなり水が耳に入ったような感覚。どんどん聞こえなくなる恐怖。
「…引きこもりになって。誰とも会わなくなって。親とも話したくなくて」
…ザラザラした気持ちを掬い上げてくれたのは小牧だった。
メールを口実に。手話、読唇術。ものすごく気にかけてくれて…心配してくれて。
毬江はちょっと考えて慧を振り返った。
「…私、子供っぽいですか?」
「…なるほどねぇ…」
すっかり悩み相談室状態だ。日比谷公園近接のレストランの個室に通されて。慧は何度目かの相槌を入れる。
個室に通されて、声量を気にしなくていいと判断したのだろう。毬江は小牧に子供扱いされてる不安と不満を慧に打ち明けた。
毬江としては、もちろん慧が小牧を知っているとは思ってもいない。もちろん慧も小牧を知っているともおくびにも出さす、頷く。
「…聞き分けてくれたら…って」
むうっと唇をとがらす。確かに、聞き分け云々の話ではないような気がする。だが…30手前の男としては、20手前の女の子…しかも、それがご近所の子となれば…。世間体?
だが、馬鹿みたいだとも思うのだ。小牧に対して。あれだけのヒドい査問という拷問を受けたにも関わらず信念を曲げなかったのは、この子のためだろうに。
なにをためらう?
ためらって…この子が指からすり抜けたらどうする?
「…それ、くれた人だね?」
毬江の首には小牧からもらったホイッスルがあった。毬江が頷く。
「…毬江ちゃんがお姫様に見えるんじゃない?」
守ってやらなきゃいけない義務感。正義感。
チリッとした痛みに気がつかない振りをして、水を飲んだ。
自分の振り翳す正義。その為に目茶苦茶になった家族。自分と違う正義で図書を守ろうとする弟。
理路整然とヌケヌケと必要なら、昨日の味方は今日は敵だ。卑怯?だからどうした。目の前にあるのは、自分の信念だ。
恨むなら…自分の生まれる前のブラックボックスを恨め。
ブラックボックスを解読して吐き気がした。こんな政治と利権で。
絶対に無くしてやる。検閲なんて…。
目の前で指が振られ、はっとした。毬江が心配そうに見ている。
「ごめん。ちょっと考え事してた」
笑っても、毬江は首を傾げる。そんなに怖い顔でもしていたか。
「毬江ちゃんに今度はどんな魔法をかけようかと思って」
慧の言葉に一瞬驚いて。毬江は零れるように笑って見せた。
その笑顔でなにか気がついた。この子は…やっぱり少し、世間から疎く、そして多分…小牧も大切過ぎて、自分が決めた縛りに絡まって動けないんじゃないかと。
有楽町の地下鉄の前で、毬江は慧と別れた。
多分ね。そのお兄さんは自分に呪文をかけちゃったんだよ。
キョトンとした毬江に慧が面白そうに続ける。
自分で自分の首締めちゃったのかもね。
自分だけわかったかのように笑い、慧は毬江の年齢を改めて聞いてやっぱりと頷いた。
さっき未成年って自分でも言ったでしょ。あーゆー呪文。未成年だから、お酒はだめです。お兄さん、毬江ちゃんが大事過ぎて、自分が手出ししないよう呪文をかけちゃったんだよ。
慧の言葉の裏をかえせば…未成年じゃなくなったらってこと?
そう考え付いた瞬間、顔が赤くなるのが止められない。
「ばかみたい…」
私が望んでいるのに…。ばかみたい…。でも…なんか嬉しくて。
地下鉄の階段を駆け降りる。切符を買って携帯を確認したらメールが届いてた。
小牧からだ。
『今日はごめん。もう帰り着いた?』
しばらく考えて、返信をうつ。
『大丈夫です。』
拗ねたり甘えたり。聞き分けよくしてみたり、聞き分け悪くしてみたり。
『今度会えるの楽しみにしてます』
ちょっと大人っぽく送信。
ま、あと何か月しかないから…。
慧はまるで悪い魔法使いみたいに笑う。
その間に自分を磨いて、自分のものだと印付けなきゃ不安にならせるだけの女にならないとね。
印…か…。
何気に自分の左手を見る。
あったら…いいな…。
そうつぶやいて、軽く肩を竦めて改札を通り抜けた。
おわるです。
毬江ちゃんは、多分、お姫様だけど、気は強いんじゃないかとおもうんですが…
多分、4部で終わります。
エロパロなのに、エロがないのが続くので、ここらで、燃料補給。
小牧と毬江の初夜です。
…まあ…痛いって言えば痛いです。
エロ苦手な人は回避よろしく。
373 :
小牧×毬江:2011/01/13(木) 17:04:24 ID:mUgk81qw
「ふっく…ふ、む…」
泣き声と、喘ぎと、悲鳴を押し殺した声に罪悪感が芽生える。
力が入り過ぎて震える肩は、毬江にはどうすることも出来ないのだろう。
「息、して」
はっ、と短い呼吸音がするが、再び固く結ばれる唇に小牧は途方にくれた。
「…今日はここまでにする?」
胸元で握り締められてた指が、小牧の胸に触れる。
「…い…や…」
お願い…と続けられても…毬江の顔色はすでに血の気がない。
小牧はとりあえず、毬江の唇に深いキスをした。
「…じゃあ、少し休も…このままで」
小牧の唇から深い溜め息が漏れ、ゆっくりと毬江の上に身体を重ねた。
「…ごめ…んなさ…い」
毬江の横に頭を並べ、涙を零す恋人に小牧が笑う。
「謝る事じゃないでしょう。どちからといえば、俺が悪い」
毬江は、首を横に振るだけしかできない。
小牧は片腕で自分の体重をかけないようにしながら、ゆっくりと毬江の頬に指を滑らせた。
「辛い?」
そう聞かれて、一回横に振られかけた首が、小さく頷く。
「頑張れる?」
今度の問いには、ためらわず頷いて。
「ありがとう」
そう言って笑った小牧をみて、毬江はポロポロと涙を零した。
「毬江ちゃん…かわいい…」
毬江が聞こえるように、耳元で囁く。
「…触って良い?」
毬江が頷くより先に、指を毬江の顔に走らせる。
こめかみ、眉、涙で濡れた瞼、頬…唇。
「毬江ちゃん…」
唇に当てられた指先に、一瞬ためらったように震えたが…毬江は小さく唇を開けた。
人差し指をゆっくりと咥える毬江に、小牧から表情が消える。
指先に感じる毬江の舌は、怯えたように一瞬縮こまり…恐る恐る小牧の指にキスをする。
「…っ…」
舌の上に乗せられた指が、ゆっくりと引き出され…毬江は思わず唇に力を入れた。
すると、指は再び毬江の舌を撫で…。
「…ん…ん…っ」
しばらく指で唇を蹂躙され…毬江はゆっくりと大きく息を吐いた。
気持ちいい…。
「噛みちぎっていいから」
「あうっ…んっ?!」
目の前に火花が散った。指を毬江に与えたまま、いきなり小牧が体勢を変えたのだ。身体を起こし、毬江の腰に片腕だけ絡めて、引き上げて…
身体のなかで…何かが裂けた。
小牧の息が荒い。手早く、毬江から身体を退け、ゆっくりと身体をおろす。血だらけになった避妊具を毬江に見られる前にゴミ箱に捨てた。
「…ごめん、毬江ちゃん…ごめん」
374 :
小牧×毬江:2011/01/13(木) 17:20:15 ID:mUgk81qw
放心状態の毬江を強く抱き締める。
何度もその髪に、瞼にキスを落とし、軽く揺さぶって正気を取り戻そうとする。
「…っ…ふ…えっ…」
毬江の唇から、小さい子供のような泣き声が漏れた。
小牧にすがりつき、大声で泣くだけ泣いた。痛かった!痛かったのだ。身体が裂けたのかと思ったし、実際、裂けた。
夢描いていたモノとはあまりにも違い過ぎて、毬江はショックが大きかった。
「…ごめん、毬江ちゃん」
すがりつく毬江の背を宥めるように撫でる小牧の口からは謝罪しか出てこない。
毬江は、しばらく大泣きしたあと…カクンというように意識を手放した。
「毬江ちゃんっ?!」
小牧が悲鳴を上げる。ガクガクと揺さぶられ…毬江は小さく呟いた。
「…ねむ…い」
目が覚めたら、小牧が毬江を覗き込んでいた。
「おはよう、眠り姫」
おどけた口調に、毬江が笑う。シーツにくるまったまま、小牧が毬江を抱き締める。
「…びっくりした」
小牧の呟きに、毬江が言葉を促す。
「いきなり、意識なくすんだもん…」
「…ごめんなさい」
急激に襲った眠気にあっというまに意識を手放した。眠い…と呟いたのは覚えてる。
「…大丈夫?」
心配そうに聞かれて、頷く。焼けるかと思った箇所もどうにか…熱を孕んだだけですんだようだ。
「…毬江ちゃん」
小牧が、枕の下からケースを取り出した。何?と聞きかけて思い出す。もしかして…指輪?
「…薬指にはめていい?」
左手をとられて、恭しく小牧が口付ける。毬江はコクコクと頷く事しかできなかった。
指輪をはめて…その指輪の上から小牧が唇を当てる。
毬江の目に新しい涙が溜まる。
「大学卒業したら…結婚してくれる?」
頷いた瞬間、涙が零れた。小牧が、毬江にケースを差し出し、男性用の指輪を毬江が震える指で摘む。小牧の差し出された左手に、少し苦労しながら指輪を嵌めて。
「…毬江ちゃん…」
小牧と同じようにその指輪にキスを落とした。
お粗末でした。
エロといいつつ、エロくない…。
連続投下〜…うざかったりしたら言ってください。
とりあえず、6個落とします。
ちょいエロ。
お目汚し失礼。
「なかなか自然を満喫出来たじゃない」
麻子が、満足そうに頷く。
「甘い。自然はこんなに甘くない」
郁の指摘に、麻子は首を竦めた。恐ろしい…
「特殊部隊の自然と、私達乙女の自然と一緒にしないでくれる?」
ねーっと麻子は隣りに座る毬江に同意を求める。毬江が特殊部隊の自然がよく分からず首を傾げると郁が思い出したかのように、眉を顰める。
「近くのコンビニまで5キロよ?しかも、トイレは穴よ?」
初めて聞く特殊部隊の訓練の様子に毬江が目を丸くする。驚く毬江の表情が嬉しいのか、郁が身振り手振りでいかに図書隊の特殊訓練がハードな物か言って聞かせる。そんな訓練を乗り越えて来た郁にそして小牧にやはり、毬江の目に尊敬という文字が浮かび始める頃。
「…熊出んのよ」
麻子の言葉に、思わず毬江がのけ反った。
「あんたねぇ…」
出ないから!出ない範囲だからっ!出てもツキノワだからっ!
ツキノワでも、出るのか?と麻子が爆笑する。
「まあ、私達か弱き乙女には、これくらいで充分よね」
「結婚したくせ、乙女とかのたまうなっ」
怒鳴りつけて。毬江はころころと鈴が転がるように笑っていた。
「盛り上がってるね」
女性陣にロッジ唯一の畳部屋を占拠され、男性陣はリビング兼キッチンでアルコールを飲んでいた。
「…っとに…」
漏れ漏れに聞こえて来る単語に堂上が頭を掻く。
「…あんまり熊の話題しないでほしいなぁ」
呟いた小牧に、すいませんと手塚が頭を下げた。
「手塚が謝る事じゃないよ。」
ケラケラ笑う小牧にどこらへんまでが許されているのか分からず、手塚は自分のボストンバックから、瓶を差し出しテーブルに乗せた。
「…すごいね…」
小牧が目を見開く。堂上も憧れに近いまなざしでその瓶を見つめる。
「いいのか?」
「…飲んでください」
っというか…手塚がテーブルに突っ伏す。
「なぜか!なぜか!うちに来るお中元、ラインナップが凄いんですよっ」
「酒のか?」
堂上の言葉に大きく首を横に振る。
「人間のっ!」
…しばし沈黙して、呟く。
「ちなみに、兄貴からの中元です…」
一瞬剣呑な空気が流れたが、ま、と執り成したのは小牧だった。
「酒には罪はないってね。封もしっかりしてあるし」
「お前の物言いが既にひどい」
「まあ、そこは、そこで」
グラスだ、氷だと浮き足立つ教官2人の後ろで手塚が呻いていた。
女性陣もアルコールがほんのり回った頃だった。なにかの拍子で郁の恋話しになり、キスだのなんだのと大騒ぎになり、また波が引くように声が小さくなる。
何はなしてんだか…聞き耳を立ててるわけではないが、郁の恋話なんて自分あっての話だから、ゲンナリするしかない。手塚も自分のグラスのをチビチビ舐めながら様子を伺ってる。
「あっち、楽しそうだね」
笑いながら混ざりたいなとのたまう小牧は、絶対に自分の話はしないタイプだ。…ふと、思った。毬江ちゃんは?
「えっ?なんでっ?」
「どうしたの?」
郁の素頓狂な声と麻子の素で驚いた声がし、いきなりガラッと襖が開いた。
「小牧教官!」
郁の声に瞬間で顔から笑みを消した小牧が席を立つ。麻子に手を引かれ泣きじゃくってる毬江に堂上も手塚も度肝をぬかれた。小牧が毬江の前に膝をつき顔を覗き込む。
「飲み過ぎた?」
首を横に振る。オロオロする郁に目もくれず小牧が毬江を気遣う。
「いじめられた?」
「えっ?どして?」
ギョッとした顔をした郁と麻子に堂上が睨みを利かす。泣いているのは毬江だ。毬江は大きく首を振り、そのまま小牧の首にすがりついた。
「…酔っちゃったかな…」
「ワイン、グラス二分の一です」
「ん〜お屠蘇で目回す子だからね…」
下戸じゃないかっ?さすがにギョッとして堂上と手塚が小牧を見る。それは、伝えておきゃなきゃいけないだろ?
「…限度がわかるかなって思ったんだけど…」
首にすがりついて泣きじゃくる毬江に郁がどうしようと呟く。
「先、部屋上がるね。」
小牧は軽々と毬江を抱き上げて階段に向った。
「事情聞いといて」
「わかった」
既に声が臨戦態勢だ。そんなぁ…という悲鳴は郁が上げた。
「先に言っときます」
先制したのは麻子だった。手塚、堂上の前に並んで座らされ郁と2人ぶちぶちつつきあってる。
「なんだ」
「ガールズトークは、男性陣には絶対に耳に耐えれませんが、それでよろしければどうぞ」
言い切って麻子が外方を向く。
「…忠告ありがとう…で、なにをした」
唸る様に声を出す堂上に郁が顔を上げ、落とす。そして手塚を見て、外方を向く。
「…郁…」
「だって…」
いたたまれずに、手塚が席を立とうとして、麻子が噛み付く。
「あたしも連れて行きなさいよっ」
「お前は当事者だろうがっ?!」
「じゃあ居なさいよっ!絶対に居なさい」
「なんでそんな強気なんだよ…」
膝から力が抜ける様に手塚が椅子に座り直す。絶対、俺、ヤバい。きっとヤバい…。手塚は頭を抱えた。
…熊の話になって、カモミールの話になって。一方的にキスをして。告白は、キスで。
「お前の話だけじゃないかっ!」
聞くに耐えんわっ!怒鳴った堂上に郁も怒鳴り返す。
「そっちが聞いたんでしょうっ!」
「なにもかもさらけ出す気かっ?!」
「甘いっ!ガールズトークはまだエグいですっ!」
麻子の郁の援護にギョッとしたのは手塚だ。エグいってなんだっ?!矛先が男性陣に変わる。
「男同士でも似た様な話してるでしょうっ?」
「そーですよっ!どこぞのお店のミミちゃんが可愛いだの!」
「あそこのお店は、サービスがいいだのっ」
ぎゃいのぎゃいの…。この…機関銃の様な口はっ…。
バンッ!と音を立ててテーブルを叩いた。ビクッと身体を竦ませた郁と麻子が口を閉じる。
「…横槍をいれて悪かった。」
謝った堂上に郁が折れる。でも…と、郁は言葉を選びながら堂上を見上げた。
「…本当にわかんない…ねぇ…」
「あたしも、ちょっとだわ…」
でも、郁は言いにくかろうと、麻子がその部分は引き受けた。そもそもキーポイントはここだ。
「処女喪失の話だもんね」
手塚が椅子から転げ落ちそうになる。郁は、不思議そうに首を傾げた。
「でも、小牧教官だよ?それはそれは、優しく…」
「頼むっ!しゃべるなっ!」
悲鳴を上げたのは手塚だった。横で震える堂上の不気味なオーラに腹から震える。
「俺が、優しくしなかったようだなあぁぁっ!」
「何も言ってないじゃないですかっ?!」
郁の悲鳴に麻子がニヤリと笑う。
「そーよねぇ…ムツ…」
言いかけて止めた言葉にさすがに郁も堂上も度肝をぬかれた。
「あんっ…たっ?!売ったわねっ?あたしを教官に売ったわねっ?!」
「郁っ?!おまえっ…ちょっと来いっ!」
首根っこ掴まれて連行されていく郁に麻子が手を振る。その笑顔は果てしなく清々しい。
ドッタバッタと床を踏み鳴らす音が聞こえ、バンッと扉が閉まった。
事の成り行きについて行けず、固まってた手塚に麻子の呟きが聞こえた。
「あら…奮発したわね…」
手塚慧の中元のスコッチの事だ。手塚のグラスを手元に引き寄せ、舐める。アルコール度数の強さに顔をしかめた。
「…ムツ…てなんだ」
「聞かない方がいいわよ」
さらりと言われ、口を噤む。ムツと言われて魚しか出てこない手塚にはどこに話が通じるのさえ分からない。
「…郁の話のどこかで、毬江ちゃんが泣いたのは確かだもの」
猫の水呑みの様にスコッチを舐めながら訝しげに呟く。手塚は溜め息を吐きながら、小牧と堂上のグラスを片付け出した。
「…2階には上がらない方が己の為のようが気がする」
「こーゆー時こそ、弱味とか…嘘よ。そんな顔しないで」
目を剥いた手塚に苦笑いして立ち上がった。「和室で寝ましょ。お布団出てるし」
そういいながら、一端和室に戻った麻子の片手にバスタオルと着替え。
「じゃ、先にお風呂頂くね」
「誰が和室片付けるんだよっ?」
「あら、奥さんが他の男とお風呂でかち合ったらどうするの。」
しれっと言い返されぐうの音も出ない。
「今だったら、双方取り込み中だし、あんたはあっちとこっちで片付けしてたら、予防出来るじゃない。」
それとも…うふんと、艶やかに笑った。
「一緒に入る?」
そりゃ、最初は痛かったけどさ…郁の言葉に毬江も覚えがあるので頬を染めながらも、目線を落とす。
痛いんだ…みんな…そっか…。
でも、ヤバかったのはその後だよぉ〜。も、わけ分かんなくなるし…変な声でそうになるしさぁ…。郁の呻きに麻子がつつく。でも、何だかんだ言って、最後までしたんでしょ。そりゃ、…まあ…一応は、多分…。
じゃれあう二人の言葉が聞こえなくなる。最後…まで?毬江は必死に初めての夜を思い出す。
辛くて、痛くて、でも…優しくて…
でも…小牧さん…は?…。
貫かれたと思った瞬間、固まった毬江はその後大泣きした記憶しかない。小牧を顧みる余裕も無かった。
気がついたら泣いていた。郁と麻子がいきなり泣き出した毬江を見て驚いた声を上げる。その声も聞こえてなかった。
「…あー…」
2人きりになって、小牧の膝であやされながら、途切れ途切れに毬江が言葉を繋ぐ。
ようやく、なんとなく事情がわかった小牧は一瞬、申し訳なさそうに階下にいる四人を思う。たまに、堂上の怒鳴り声が聞こえるが…。麻子に任すか。
責任を放り投げ、小牧は自分の恋人に向き直った。
「ほら…泣きやんで」
目許にキスしながら、スカートのなかに指を走らす。
「んっ…やぁっ」
スカートに滑り込んで来た小牧の手をびっくりした毬江が押さえる。
「…今は、最後までちゃんとしてるでしょ?」
押さえられた場所で、指先だけサワサワと動かす。
「…毬江ちゃんのココ、とても狭いから、俺、いつも大変」
「…大変って?」
手間が掛かるって事?そう言い兼ねない毬江の口を塞いで、わざとイヤらしく耳元で囁いた。
「…俺の締め付けて放してくれないの。俺、結構、余裕ない」
「…馬鹿…」
毬江の手から力が抜ける。するりとその下から抜け出して…
「…なんか、濡れてる?」
「馬鹿ぁ…」
毬江が顔を覆った。その顔を覆った手に指にキスを降らして。
「んっ…」
指先が、下着の上からも分かるよう小さく屹立した芽に触れる。
爪先で引っ掻く様にすると、まだ刺激が強いのか、痛い…と声が上がる。
「こっちは?」
「ふっむっ…」
下着の隙間から、指が一本蜜壺に差し込まれ…毬江の身体が、ビクンと跳ねた。
「さすがに一本は…」
「いやっ…」
小牧の口を押さえようとして、指先を咥えられる。
「かわいい、毬江ちゃん」
刺激を痛みと感じないように、器用にずらしながら…
「ほら、2本でぎゅうぎゅう…」
「あぁぁ…んっ」
クッチクッチとイヤらしい音が響く。
「やっ…やっ…」
毬江の首に舌を這わせる。毬江の足の指が伸びたり縮んだりを始める。
「い…や…」
「ん?なんで?」
「一緒…一緒に…」
一緒がいいとねだる毬江に、んーと考え込む振りをするが。
「いったん気持ち良くなって。」
「やっんんっーーっ」
毬江の中がギュッと締め付ける。それに逆らう様に、指を出しいれしようとして…毬江が身を捩った。
「やっ!」
ぎゅっと小牧の身体にしがみつき、身体を硬直させて…身体の奥の指を咥え込んだまま。身体の力がほどけると、小牧の指に絡み付いていた媚肉も緩む。たまに思い出したかの様に、やんやりと締め付けて…小牧の指を楽しむ様に。
「毬江ちゃん、イク時って…、動かないでって言うよね…」
「いじわる…」
「かわいいって言ってんの…」
キスを交わしながら、ベッドに縺れ込み、ちょっと考える。まぁ、この部屋のベッド配置なら、問題ないと思うが…。隣室から一番離れたベッド。毬江が上げる嬌声の範囲からしたら問題ないだろう。小牧はゆっくりと身を屈めた。
「…だってガールズトークだもん…」
久しぶりにベッドで正座で説教のパターンに郁が唇をとがらす。
「喋ったのかっ?お前、自分が肉食だとか俺がムツゴロウだとか?」
「相手は柴崎ですよっ?あの緩急自在な尋問に耐えれるほどあたし頭良くないですもん!」
しばらく考えて…
「…あの頃は、ドツボに嵌まっていたこともあり、もっと頭が回ってませんでした」
外方を向いた郁に、魔のバレンタインを思い出し、さすがに堂上も溜め息をつく。
確かに、そこらへんで俺も小牧に愚痴を零した。意識のすりあわせがなんとかと…。
「…でも…なんでだろう…」
そうとは言え、やはり心配なのだろう。郁の指が組んだり解けたりする。
「…その、…しょ…」
ムグムグ…言い辛い事このうえない。
「まさか、まだだったとか…」
あり得ない話じゃないかも…と郁が青くなる。嫁入り前の娘になんて事を…。
「あた…し、謝って」
ベッドから飛び出そうとする郁を慌てて掴まえる。
「いいっ!そこは、問題ないっ!」
「だけどっ…」
「問題じゃないんだっ…多分…」
多分、問題なのは…堂上は溜め息をついた。誰にも言うなよ、と固く口止めする。
「…小牧から一回だけ、毬江ちゃんの事で相談があったことがある」
夜中の電話だった。叩き起こされて、何事かと電話をとると、珍しく取り乱した小牧からだった。
病院行った方がいいのかっ?
開口一番で眠気が覚めた。
怪我でもしたのかっ?
怪我なのかっ?
聞き直され、ちょっと考える。ここ二、三日を思い出し、外泊届で、毬江ちゃんとデートだとか…。…怪我って…まさか、そっちの怪我かっ?
まて、落ち着け、落ち着け小牧。その状態で病院とかなると、毬江ちゃん傷つかないか?意識がないっ?って…あ…え…と、お前が性急なわけはないから…ねむい?…えっと…。ものすごく、動転したのを思い出す。
次の日、小牧が左手の薬指に指輪を嵌めて、お騒がせしましたと、ビールの半ダースを届に来た。
「…小牧もパニックだったが、俺も肝が冷えた…そういう状況は、さっぱりだからな…」
いかんせん、そーゆー情報は、いくら男子寮だとはいえ、漠然としたものしかない。出来る限り優しく。ただ、それだけだ。
「…っで、どうしてお前が泣く…」
ボロボロと泣き出した郁に頭を掻いて、引き寄せる。
「…毬江ちゃ…ん」
「まあ、個人の体質というもんもあるんだろう。」
郁の頭を撫でながら。
「…まあ、噛めと言われて歯形つけたのもいるし…」
「ひ…ど…」
お…。堂上はちょっとのけ反った。涙で潤んだ目で拗ねられて。結構、グッときて…
……んっ…やぁ…
ビクッと郁の身体が声をしたほうを向く。
「…え…」
「余所見をするな」
「…え…えーっ?!」
固まったまま、押し倒された。郁の弱点の耳にキスを降らしながら一応、釘をさす。
「あんまり、声あげんなよ。我慢できなかったら、なんか噛んでろ」
「…ぐぅ〜」
いいお返事で。堂上はニヤリと笑って見せた。
和室に布団を敷いて溜め息をつく。二階では先程まで、堂上の声もしていたようだが…。
溜め息をついて、頭を振った。関わるな。関わるな…俺は、関わらん方がいい…。
キッチンに戻り、麻子が飲みかけてたグラスを一気に呷る。喉の焼ける感覚に、顔をしかめた。あいつ…よくこれを猫のように舐めてたな…。と気がついた。
あいつ…風呂から出て来たか?
キッチンと和室のグラスやらおつまみの空などを片付けて、布団まで敷いたのに、麻子が戻ってない。
慌てて、風呂の扉を開ける。
「おいっ?!麻子っ!」
ガラッとすりガラスのドアを開けて手塚は固まった。
綺麗に茹だった麻子が伸びていた。
バスタブから出た所で力尽きたのか、気持ち良さそうにあられもない姿で伸びてる。
阿呆かお前はっ?お前は俺かっ?酒で痛飲した時に、ポカリで目を回した事がある手塚は頭を抱えた。酔っ払ってたなら、風呂にはいるなっ。
手塚は麻子を抱き上げた。キッチンに続く扉の影から階段を窺う。誰も下りて来る気配なし。全裸の麻子のうえにバスタオル一枚で和室まで走り抜ける。
後ろ足で、襖を閉め当たりを窺うが…気配なし。盛大に溜め息が漏れた。
麻子を布団に寝かせ、とりあえずタオルケットをかける。
そういえば…バスタオルを引っ張りだした際、バラバラと麻子の下着類をばらまいた気がする。あーっなんで俺がっ!頭をかきむしるが、このロッジに自分の教官とはいえ、男が二人いる以上、片付けないわけにもいかず。手塚は和室を飛び出した。
息荒く、下着類を片手に和室に戻り…さすがに目が回って手塚は麻子の横に倒れ込む様に布団に伸びた。あーくそ、やっぱり兄貴の酒だ。いらんことばかり起こしやがる。
慧の取り澄ました様な笑顔まで見えた気がして、目を強く閉じる。ちくしょう…少し休んだら、麻子を起こして…着替えさせて…
そこで手塚の意識は途切れた。
朝、目が覚めた毬江は郁と麻子に謝らないとと焦っていた。
せっかくガールズトークで楽しんでいたのを毬江の涙で台無しにした。
まず、同じ階の寝室の扉をノックしようとして、後ろから小牧に止められる。しーと唇に指を当てられ、小牧がドアに耳を当てた。
しばし、中の様子を窺って…小牧は毬江の手をひき、そこを離れた。
「なんで?」
「ん〜取り込み中みたい」
馬には蹴られたくないからね…。そういいながら、キッチンに向かい…あれとつぶやく。
「手塚達は起きてるみたいだよ」
キッチンに電気がついてる。
「…和室かな?」
毬江が麻子の姿を探して襖を開けて…。
「小牧さんっ見たらだめっ!」
「うわあっ?!」
「きゃーあぁぁっ?!」
毬江の悲鳴と、手塚の悲鳴。そして飛び起きた麻子の悲鳴と…
「…っ…と…いっ…ヤァァァァっ?!」
もう一回、麻子の悲鳴が上がった。
階下で連続して上がった悲鳴に、二階から2人が飛び出して来る。
「柴崎っ?!」
「どうしたっ?!」
「あー……」
こちらも、あられのない姿だ。堂上のシャツを肩にかけ、前を押さえただけの郁と、トランクス一枚の堂上。
「キャーっ?!」
今度は毬江が堂上を見て悲鳴を上げる。
「…なにこの大惨事…」
小牧は、天井を見上げて大きく溜め息をついた。
お粗末。
予定より長くなっちゃいました。
慧+毬江+小牧
とりあえず最後の予定。
小牧×毬江に慧が絡むなど許さんの人は、回避よろしく。
二回に分けようかと思いましたが、一気に投下するので、11使います。
個人使用失礼。
あと、毬江ちゃん、ちょいピンチです。苦手な人も逃げて下さい。
痛みを感じる余裕は無かった。だが、撃たれた衝撃は身体を貫いた。バランスを崩して座り込みそうになるが、木にすがりついて立ち上がる。
「バンビちゃんヒットーっ!」
「ばーか、獲物倒れなきゃ意味ねぇんだよ」
パシッと音がして、手をついていた木が赤く染まる。ペイント弾。
「外していて、偉い事言ってんじゃねぇよ」
ゲラゲラ笑う男2人の姿を目の端に捕らえ、毬江は走り出した。
「お、逃げた逃げた」
「10カウントしたら追っかけるからな〜」
毬江は溢れてくる涙を乱暴に拭った。許さない。絶対に許さない。胸元からホイッスルを取り出す。唇に当ておもいっきり吹き鳴らす。
新芽が息吹く前の枯れ山に鋭い音が響き渡るが、その音は男達の嗜虐に油を注いだ。
枯れ葉の山に足を取られ、低い崖から身体ごと落ちる。崖の下に転がり込み、身を縮める。追って来る?分からないっ。耳をすましても、男達の足音も拾えない。
泣き叫びそうになるのを袖を噛んで堪える。声を上げたらダメ。携帯を取り出し、開こうとして指が滑る。崖の斜面を滑り落ちて行った携帯に、絶望的な気持ちになる。
お母さんっ…お母さんっ…小牧さんっ…助けてっ…。
ザッと枝が激しくしなり、男の独りが崖から飛び下りて来た。
「こっちは、ダメだよ。学校じゃん」
ルールは守れよと言わんばかりの口調に睨み付けるだけしかできない。震える足を叱咤し、立ち上がる毬江に男は短く口笛を吹いて感心してみせた。
「このバンビちゃんは、なかなかだね」
「いたかぁ」
「こっち」
もう1人崖から下りて来て。毬江は男達を見据えてホイッスルを口に当てた。
「お、やるね」
男達がエアガンを構える。
毬江がホイッスルを吹き鳴らした瞬間、見計らった様に肩と胸に衝撃が走る。拡がるペイント。まるで血の様な。衝撃に膝から崩れた毬江に男達がニヤニヤ笑いながら構えていた銃を下ろす。
…誰か…助けて…
唇はそう動いた。
「…誰か…助けてっ!」
上げた悲鳴はあまりにも小さく。声を出した毬江に一瞬驚いた表情をした男が肩を竦めた。
「んな声じゃ聞こえねぇよ」
そう言い切る前に、男の膝が鮮血を吹いた。男の悲鳴は無声に近く、倒れて行く様は、スローモーションの様だ。
「おいっ?!」
膝を抱えてのたうつ男に駆け寄ろうとした男の肩から、今度は鮮血が吹く。
「ギャッ?!」
肩を押さえ倒れ込んだ男達の後ろから、スーツに身を包んだ男二人が崖を上って来るのが見えた。
『落ちてました』
毬江を立たせながら、身体の大きい男が毬江の携帯を見せる。
『多分、壊れてます』
携帯は崖を滑り落ちた際にぶつけたのだろう。ヒビが入り画面はブラックアウトしたままだ。毬江は呆然と差し出されるがままに、それを受け取った。
『歩けますか』
そう男の携帯できかれ、頷こうとして膝から崩れた。力が入らない。
毬江を片手で抱き留めた男が、地面でのたうつ男達を見下ろしている方を見る。やや細身の男は、行けというように顎をしゃくった。
『あなたを、ここから出します』
そう言われ、抱き上げられる。不安定感がないまま、藪を突き抜け降りた所は学校の敷地だった。
黒のセダンが二台止まっていた。毬江を見て、後ろに止まっていたセダンから3人崖に消えて行く。
毬江をそっと下ろし、痛ましげに男はその姿を見た。
『けがないですか』
藪を逃げ惑ったからだろう。枝先であちらこちらに傷ができてる。服も裂けていた。
そして赤く染まった身体。自分の身体の惨状に呆然となる。なぜ…ここまでされたのか…なんで…どうして…。
前の車のドアが開いた。
「毬江」
鋭く呼ばれて、緊張した顔をしたその人を見た瞬間、堰が切れた。
手塚慧は胸に飛び込んで来た毬江をためらうことなく、きつく抱き締めた。毬江を抱いて崖から下りて来た男が運転席に回る。
「ここを離れるよ」
毬江に声をかける。毬江は顔を伏せたまま大きく頷いた。
早く、早くどこかに連れて行って!
手塚はもう一度強く毬江を抱き締めると、その肩を抱きながら車に戻った。
カモミールのアロマの香りがする。ゆっくりと、女性が毬江の腕を湯船に戻した。女性の指が肩に回され、毬江の濡れた髪をタオルで拭う。
毬江の身体を湯船の中で回させ、細い項から背中を確かめる様に女性が検分する。足から、背中から腕から…。
まるでお医者様が小さな子にするようにその女性は毬江の傷を調べ、安心させるように笑った。
心配ないわ。唇の動きだけで読み取る。
擦り傷と打撲だけ。そう言って、鎖骨と腰と胸を指差す。その箇所が打撲なのだろう。エアガンを受けた所だ。
痕にはならないから、大丈夫よ。
そう口を動かして、もう一度、蛇口を捻る。熱めのお湯が出てカモミールの香りが一瞬強くなった。バスタブの横に脱ぎ散らかされた毬江の服を集め女性が出て行く。
毬江は投げ出された様に湯船に伸ばされた自分の脚をまるで他人のものを見る様な目で見ていた。
鋭い刃物でつけたような傷が赤い筋になっている。逃げてる途中で枯れ木に引っ掛けたのだろう。特に膝から下…何か所も。見苦しい…そう思った。
『うちの学校、今、なんか落ち着かないんだよ…』
ノートテイクのボランティアが愚痴る様に呟く。
『当麻先生の事があったじゃん…あれから、検閲はいるかいらないのかで学生運動みたいになっててさ…』
大学の至る所にビラが撒かれていた。
ふと思ったのだ。もし、大学でもこういう活動が活発になっているって知ったら、小牧さん喜ぶかな。
小牧のすごいねと褒めてくれる顔が見たくて。
踏み付けられているのもあったが、綺麗なのを一生懸命探しながら歩いていた。
気がついたら、人気がなかった。戻らなきゃ…と身を返そうとした時、口を塞がれ藪に連れ込まれた。
『最近じゃさぁ、図書隊対良化隊とかいって裏の山でサバゲーしてる野戦オタまでいるんだよ。学生じゃないから、学校側も注意ができなくてさ…。たまに、女の子に悪さする奴等もいるって聞くから』
…気をつけてね…。
ザバッと乱暴に湯船から立ち上がる。お湯を止め、髪を巻いていたタオルをそのまま床に投げ捨てた。
髪からしたたる水滴が邪魔で掻き上げたら、曇り止めの効いた鏡に見た事のない表情をした自分が映った。
小牧さん、これだけビラ集めたら喜んでくれるかな…。
バンビちゃん、逃げなきゃ。
気をつけて。
「うるさい」
頭を巡る言葉に思わず呟く。
聞き分けてくれたら嬉しいな…。
「うるさいっ!」
振り切る様に、頭を強く振り、風呂場の扉にかかっていたガウンを羽織り外に出た。
深緑のカーペットにポタポタと毬江の身体から水滴が落ちる。毬江は構う事なく、そのまま歩いた。毬江が歩いた後に水を吸って黒く沈んだ足跡ができる。
風呂場から出て来た毬江を見た慧は微かに苦笑いした。耳に当てていた電話を置き、大きな書斎机の上にばらまかれた様な書類を片付ける。
立派な革張りの安楽椅子から立ち上がった慧に、毬江が机の上の電話を指差す。その先からも雫が落ちた。
「外にかけれる?」
慧が頷き、受話器を取り外線ボタンを押し毬江に差し出す。毬江はためらう事なく家の電話番号をプッシュした。
すぐに電話を取った母親が帰りが遅い毬江にどうしたの?と聞く。
「携帯、落としてしまったの。連絡のしようがなくて…。今、ノートテイクの人の家に寄って電話借りてる。携帯の手続きまでして帰りたいから、遅くなる。心配かけたくないから小牧さんには連絡しないで」
一息に言い切った毬江に、迎えに行こうかと焦る声がするが、早口に言葉を遮った。
「人のおうちの電話からだから迷惑になったらいけないから、切るね。お礼?伝えとく。じゃあ」
受話器を置いた毬江に慧が苦笑いをした。
「…とんでもないお姫様だ」
慧が再び電話の受話器を取り上げ内線を押し、誰も通さないよう秘書に命じる。
慧が電話の受話器を置いた瞬間、濡れた身体のまま毬江は慧の身体に抱き付いた。慧のカッターシャツが水分を含みあっというまに色が変わる。
…着替えたばかりなのに…苦笑いをしながら補聴器に囁かれた。
「脱げば?」
「今、風邪を引くわけにはいかなくてね」
「そうなの」
知った事じゃない。毬江は、目を閉じたまま慧の身体に回した手に力を込めた。大きく息を吐く。
小牧の身体は見た目スラッとしているので、そんなに筋肉があるように見えないが、抱き付いた時、硬いと思った事を思い出した。慧はしなやかで…細い。
慧の身体が書斎机に預けられた。毬江に抱き付かれながら、腕を伸ばし毬江の腰の辺りで指を組む。
慰めるわけでもなく、泣くわけでもなく。毬江の指が無意識に慧の背中を上下する。カッターシャツの生地を確かめる様に…。
「…バンビって呼ばれた…」
「獲物の呼称だろう」
「最悪だった…」
「それには、同情する」
「…誰も助けには来ないと思った」
毬江の指が慧の背中に爪を立てた。
「ホイッスルを鳴らしたわ…鳴らして…鳴らして…」
誰か助けてと言う悲鳴は、誰にも聞こえないよと一笑された。
「…どんな魔法を使ったの」
毬江が低く聞く。目の前で倒れた2人。音は聞こえなかったが…多分、銃。
「明日の新聞には、許可を得ずサバイバルゲームをしていた社会人同士が、諍いを起こし1人が膝に、もう1人が肩にボウガンを打ち込まれ重傷と出る」
ボウガン?そんなものは見えなかった。ただ見えたのは鮮血のみ。
「なお、この二人は以前少女を拉致し追い回し、強姦傷害でも…」
「言わないでっ」
毬江の鋭く上がった制止の声に慧は口を噤む。
「…最低…」
なにが?なにもかも。最低だわ。あの男達も…そして私も。
「あの馬鹿どもは、社会的抹消される」
…いい気味だと口に出そうかと思って止めた。知った事じゃない。そう思った。
「獲物は、手に入れた人の物よ」
奇妙な感覚だった。やめなさい、お行儀が悪い。だからなに。はしたない。だからなによ。みっともない。うるさい。黙れ。
「…私は、もう子供じゃないわ」
まるで自分に対する宣戦布告だった。慧の身体に身を預けたまま…もう一度呟く。
「子供じゃない」
知らない男の香りがした。シトラス?部屋の中には、カモミールのアロマの香りがただよっているのに、慧の身体からは、柑橘系の香りがする。悪くないわ…そう思った。
毬江の腰の当たりで組まれていた指が解けた。
身体を回され、気がついた時には書斎机の上に投げ出されていた。もともと羽織っていただけのガウンは大きく前がはだけ、毬江の身体を照明の下に晒し出す。
「……」
照明が眩しい…。ぼんやりとそんなことを考えていた。投げ出された腕も脚も力は入らず、まるで自分の物じゃない感じだった。
気がついたら、慧が覗き込んでいた。照明の逆光で表情が見えにくい。だが、いつも毬江に見せる柔和な表情ではなかった。どこか…痛ましげな表情…あぁ、日比谷公園のレストランで見た辛そうな…。
慧の手が、毬江の脚に触れた。ピクっとその指の冷たさに身体が慄く。一瞬、慧の動きが止まったが…慧はそのまま身体を毬江の上から引いた。
ゆっくりと毬江の脚の感触を確かめる様に指を走らす。右脚の外側を撫でるように…慧が膝をついた。
「……」
声が上がりそうになった。慧の手が毬江の足首を捉え…唇を当てた。ゆっくりと、毬江の白い華奢な脚に唇を当てて行く。脛…ふくらはぎ…そして膝上…。そこで慧は毬江の右脚から手を放す。左足首を取られ、毬江は小さく身を捩った。
気にかけない様子で、慧は再び足首に唇を当てた。そして当てる場所を変えて行く。
その静かな仕草が…毬江のなにかを呼び戻す様に…。
慧が脚から手を放し、身体を起こした。毬江の身体の脇に手を置いて、逆の手で毬江の投げ出された右手を取る。
「……っ」
慧の唇が毬江の手の甲に走った傷に当てられた。逃げ惑った際、枯れた枝先で掠ってできた傷。毬江が瞬きを忘れた様に見つめる前で…慧はひとつひとつの傷にキスを落としていった。
「…っ…ふっ…」
喉が震えた。力の入らない右手を引き寄せて、口を覆った。
慧の唇が左腕に移る。
…ごめんなさい…
呟きは、涙で零れた。ごめんなさい…ひどいことをして…ごめんなさい…ごめんなさい…
額の傷に当てられたキスが涙に気がつかない振りをして、慧が少し身体を引いて、屈めた。
「ごめんなさっ…いっ」
腰に唇が落とされ、毬江の手が初めて慧の肩にかかった。
「ごめんなさいっ…」
鎖骨に唇を当てられ、毬江は身体を捩る。書斎机の端に積まれていた書類が音を立てて散らばった。
毬江が慧の胸を叩く。だが、慧は頓着しなかった。毬江の抵抗などなんの苦にもならないように身体を起こす。
「止めてっ!…いやっ…」
胸の膨らみに唇を落とされ…きつく吸われ。毬江は泣き叫んでいた。
「小牧さんっ、小牧さんっ…」
目茶苦茶に腕を振り回して…。
ふっと毬江の身体にのしかかっていた体重が退いた。
泣きじゃくりながら、毬江が必死に身を起こし、はだけたガウンを掻き寄せる。
毬江から離れた慧は、ゆっくりと扉に向って歩いていた。
「自暴自棄になってる女には興味はない」
そう言い捨てられ、毬江は嗚咽を上げた。
「…ごめっ…んなさっいっ…」
優しくしてくれた人なのに。助けてくれた人なのにっ…。なのにっ…私っ…。取り返しのつかない事をした。甘えて、つっかかって、自分を傷つける様に仕向けた。なんてことをっ…。
慧の後を追う事も出来ずに、毬江は書斎机の上で大きな声をあげ泣き続けた。
部屋に入って来たのは風呂場で毬江の身体を洗ってくれた女性だった。着替えを手にしたまま、なにも言わず、毬江に手を貸し、書斎机から下ろす。
思わず、すがりついて泣いた。傷つけてしまったの。私、ひどいことをしてしまったの。優しくしてくれた人なのに。助けてくれた人なのに。
女性は宥める様に、背中を撫でていてくれた。毬江が落ち着いた頃、もう一度、風呂場に向かわせる。
顔を洗う様に言われ、冷たい水で顔を洗った。顔を上げた毬江は、ぼんやりと鏡に映った自分を見つめた。行き場を無くした子供みたいな顔をしている。
女性が後ろから毬江の首にホイッスルを掛けた。鈍く光るホイッスルが、行き場を教えてくれる様で…ホイッスルを握り締めて、唇を噛んだ。再び、涙が溢れかけて女性が差し出したタオルで顔を覆った。
女性が揃えてくれた服を着て、風呂場から出ると、男が立っていた。毬江を抱き抱えて崖を下りた男だった。毬江に携帯を差し出す。壊れたはずの携帯は、同じ型の新品に変わっていた。データも全て移して…毬江は男の顔を見上げた。
「消すように言われました。」
慧のアドレスだけ無かった。
「家まで送ります」
女性が白のコートを差し出す。毬江が着ていたコートと同じ物だった。赤のペイント弾でひどい有様になったはずのコート…。
「なんで…」
「…中の服までは揃えられませんでしたが…コートだけは同じ物をと言われました」
「…家を出た時と違うコートでは…親御さんが、心配なさいます」
なにもなかったように。
毬江は再び涙が零れそうになるのを堪えた。これ以上泣いたら、家に着くまでに元に戻らない。
「…もう会えないんでしょうか」
男に聞いた。男は一瞬痛そうな顔をしたが…首を横に振った。
「会長は、移動なさいました。もう、ここには戻られません」
「また、訪ねてきてはいけませんか?」
「おやめください。」
女性が答えた。先程までの優しさをどこかに捨ててきた口調だった。
「迷惑です。」
一言で片付けられ、毬江がクッと唇を噛む。だが…男も思わず唇を噛んだのを見逃さなかった。
「迷惑…なんですか?」
男に聞き縋る。だがやはり…男は頷いた。
「迷惑だと思います。詳しくは話せませんが…」
しばらく逡巡して。やはり首を横に振った。
「送ります」
毬江はゆっくりと頷いて、コートを手に取った。
パス報道が日常になりつつある頃だった。学校のノートテイクのボランティア室で毬江が何気なくテレビを見ていて…。
「……?!」
手からボールペンが落ちたのにも気がつかなかった。思わず、テレビを食い入る様に見る。
「あーこの人…」
毬江のボールペンを拾いあげながらボランティアの人が音量を上げてくれた。
『一か月前ぐらいに学校に来てたね』
ノートに落書きされ、毬江が慌ててペンを走らす。
『なんで?』
『多分、当麻事件の事じゃない?うち、良化法肯定の教授がいるもん』
『肯定なの?』
ボランティアが首を傾げる。いや…と呟きながら。
『…未来企画って、中立派だと聞いていたんだけど…』
すると、テレビを見ていた男子学生が、ノートに混ざる。
『未来企画は、方針を変えたんだ。今、良化法を是正しなければ、日本は民主主義じゃなくなる。テロに国家が屈した見本になる』
あんた、もしかして?と突っ突かれた男子学生はどーでもいいだろうといいながら、テレビに向き直る。
『手塚…慧?なんて名前?』
『てづか さとし』
毬江は、それだけ聞いて立ち上がった。
『帰る?』
頷く。じゃあ、校門まで送ると言われ頷く。なるべく1人では行動しないようにしている。
学校内は、未だに落ち着いてはいなかった。それでも、良化法が必要だと叫んでいた学生を見る事はなくなった。
変わり出している。
そう感じた。小牧が守っている物。図書館の意味。そして、手塚慧。
ふと気がついて、横に立つ男子学生に携帯を見せた。
『あのテレビの人、兄弟いるかな』
男子学生が自分の携帯を出して文字をうつ。
『弟がいる。中澤さんがよく行く図書館の防衛員だと思う』
どこかであったことがあると思った。弟が小牧の部下の手塚なら…。毬江は静かに微笑んだ。確信めいた物が心に浮かぶ。
大丈夫…きっとまた会える。
あなたとは生活が重ならない。いいえ。重なってた。最初から。
だから、きっとまた会える。
隣りを歩く男子学生が眩しいものを見る様に毬江を見下ろしていた。
静かなざわめきがホテルのロビーを満たしていた。あちらこちらに華やかなドレスに身を包んだ女性が笑ってまたお喋りしている。
小牧の側を離れないように気をつけていたのだが…小牧が堂上に呼ばれて席を外した。
しかたがないので、お手洗いにいく振りをして、ブライダルカウンターを覗きに行く。興味はあるのだ。
純白のウェディングドレス。
ワインレッドのカクテルドレス。
ガラス越しに指先をつけて眺めていたら…後ろにふっと影ができた。肩を軽く叩かれる。
「…まだ、中澤さんなの」
一瞬、涙が零れそうになった。何年になるのだろう。ようやく…会えた。
「小牧が大事にしすぎるのかな」
軽いからかいの口調は昔のままで…。
「…大学を卒業したらって約束しました」
振り返った。質の良いダークスーツに白のネクタイ。2年前と変わらない、柔和な笑顔で。
「なになさってるんですか?」
毬江の言葉に軽く肩を竦める。
「新郎より先に、花嫁見て来てクソ兄貴って怒鳴られてきた」
思わず呆気にとられて吹き出した。
「それは、ひどいと思う」
「まあね」
しれっと頷く慧に2人して吹き出して。
「柴崎さん…綺麗でした?」
2人でなんとなくブライダルカウンターの中を見ながら会話が続く。
「月並みだけど、綺麗だとしか言えない。そういう語彙は少ないな僕は」
うーむと悩みながら答える。
「一生に1度の事だから…」
くすくす笑いながら。…会話が途切れた。
「…元気だった?」
「はい」
「会うことはないと、思っていた」
「…私は、会えると思ってました」
ガラスに映る慧が少し驚いた顔をする。
「…あなたと生活で重なる部分はない。そう言われたけど、その後二回会えたから…三度目もあるって思ったんです」
そう言って、小さく笑う。
「私、魔法を使えますから」
二人で小さく笑って。いつの間にか、慧が消えていた。入れ替わるように小牧が走って来る。
「毬江ちゃん」
探したよと言われ、毬江がドレスを指差す。
「毬江ちゃんなら、どんなのでも似合うね」
軽く肩を抱かれて耳に囁かれて笑う。小牧の優しさに甘えて。ふと消えた慧を思った。なんにも…伝えなかった。ごめんなさいも、ありがとうも。
伝える言葉は、タイミングを逃すと兎の様に逃げていく。
「式始まるよ。行こうか」
頷いて、どちらからともなく手を繋いで歩き出した。
おわる。
毬江ちゃん大変でしたが、持ち堪えた。
どーにか、収拾つきました。
お目汚し失礼。
手塚×柴崎、二人の初めて。エロあり少し長いです。
時系列は付き合い始めて4ヶ月後くらい。
NGワードはタイトルでお願いします。
―――何かそんな感じになったみたい。
事件の後、繋いだ手を離さないまま人目に触れた。素直になり時を見失わなかった恋は、同時に振り向いてやっと成就した。
しかし、恋愛下手な二人は、やっとお互いを見つけ出したにも関わらず不器用なままだった。
カレンダーを4枚ほど捲った頃には、キスの数は付き合う前からの10倍くらいは増えた。もうそろそろ、と思われる頃合いなのだが、未だ二人は清い関係のままだ。
「なんていうか、……手を出し難いです」
神妙な面持ちで言う手塚を前に、やっぱりね、と小牧は内心で呟いた。やっぱり、手塚の悩みの種はこれだったか。
このところ、仕事で手塚のミスが目立つようになっていた。目立つと言っても本当に些細なことでしかないのだが、郁を見習ったのかと思う程、同じようなミスを何度も重ねていた。過ちを犯しても、同じ轍を決して踏むはずがなかった手塚だからこそ、小牧は気になっていた。
「なんかあった?話なら聞くよ」
終業間際、誰も居ない特殊部隊事務室で声を掛けたのは、手塚がそんなミスに落ち込んでいるときだった。そしてその日の夜、上官の言葉に甘えるように、手塚は小牧の部屋を訪ねていた。
「まあ、判らなくもないけど。あんなことがあった後だしね」
ビールを片手に、自然と出る励ましの言葉。
付き合うようになって4ヶ月。男性側としては、そろそろ彼女の心も身体も、と思う頃である。そして相手はあの業務部の華とまで言われた柴崎だ。手塚の自制がよくぞここまで持ったと、感心すらしてしまう。
「あいつ、まだきっと傷が癒え切れてないと思うんです」
「何か、感じることがあったの?」
小牧の問いかけに話す事を少し躊躇ったのか、短い沈黙を作った後に手塚が口を開いた。
「少し前に、一緒に見た映画で、女性が乱暴されそうになるシーンがあって」
その言葉で、手塚の言わんとすることが理解できた。
「映画の後の食事のとき、あいつ浮かない顔してて」
一つ溜息を挟む。
「そんなシーンがある映画だって知ってたら、見に行かなかったんですが」
なるほどね。そんな気遣いが出来なかった自分も悔しいわけか。小牧がまた心で呟く。
「まあ、それは仕方ないとして、さ」
少しだけ上官風を吹かせて、諭すように口火を切る。
「お互いもういい大人だから、タイミングって自分達で見つけなくちゃいけないんだけど。君たちはヘンに真面目で不器用だからなあ」
助け舟っていうわけじゃないけど、と言うと、穏やかな表情に戻って話を続ける。
「以前、館内に酔っ払いの男が居座った件、覚えてる?」
唐突な昔話に、手塚が痛い表情をした。手塚にとっても痛い過去なのだろう、あの土下座は。
「忘れたくても忘れられないですよ」
苦虫を噛んだ様に言った手塚に、小牧も苦笑する。
「言いたいのはそのことじゃなくて。あの時、あの男が笠原さんに抱きついて、ちょっと問題になったよね。同情してくれた笠原さんがよっぽど優しい女神に見えたんだろうけど」
「女神ってタマじゃないでしょう、奴は」
相変わらず郁に対しては辛辣な意見が出る。それに少し笑うと、話を続けた。
「抱きつかれた後、笠原さんに堂上が何て言ったか知ってる?」
さあ、と首を傾げる手塚に、小牧は言い放つ。
「そのスーツ、すぐにクリーニングに出せ、ってさ」
手塚は少し考えた後、何かを思いついたように、あ、と小さく漏らした。
「堂上一正が、ですか?」
「そう。思いっきり妬いてたんだよね、堂上の奴。この話は柴崎さんから聞いててさ、いつだったか、からかいの種にしてやったら、堂上めちゃくちゃ怒ったけど」
当時を思い出してか、くくっと喉を鳴らしながら、小牧は続けた。
「柴崎さんに至っては、『直後にスーツ全部ひっぺがしてやりたかったですよね?』なんて火に油注ぐし。あー、あの時は面白かった」
同僚を怒らせて面白かったというのは通常ではあまり考えられないが、これは逆に上官の二人の仲の良さを顕している。その場に居なかった手塚ですら、そのシーンが手に取るように視える。
思い出し笑いがツボに入りそうな直前で自制を効かせて、小牧は息を整えながら可愛い部下に発破を掛けた。
「その時にさ、柴崎さんが言ってたよ。『彼氏なら上書きしたいとい思うだろうし、そうであってほしい。女だって
イヤなことの後に、好きな男に上書きされたいですもん』って。確かに俺だって、彼女がイヤな目に逢ったら抱きしめて忘れさせてあげたいしね」
手塚ははっと表情を変えて、衝かれたように立ち上がると、
「失礼します!」
とバカ真面目に礼をした後、小牧の部屋を後にした。
その背中を見送ると、
「本当に世話が焼ける人たちばっかりだねえ」
と微笑んでひとりごちた。
我ながら単純だと思った。上手く煽られているだけなのかもしれない。でも、笑う正論と言われる上官のことだ、話の内容に嘘はないだろう。
部屋に戻ると携帯を取り出して、メールを早打ちする。今度の公休には、逢って買い物の付き合いをする約束をしていた。思いに至ってしまっては、もうこの限界を延ばせそうになかった。決意を伝えるなら、今しかない。
着信したメールに気付いた柴崎が、内容を読んで眉間に皺を寄せた。
「なにこれ」
すわ、相手を間違えて送信したか?と思える内容に首をかしげたが、手塚のことだ、きっと気付いて正しい相手に送りなおすだろうと思い、そのまま何も告げずに公休日を迎えた。
当日、約束していた買い物に手塚を付き合わせ、夕飯どうしようか、という話題になる頃合に、手塚は柴崎の手を取った。
「なに、どうしたの」
「予約してある」
「なあに?高級レストランでも奮発してくれるのー?」
からかう口調で話し掛ける柴崎を無視すると、手塚はきらびやかなエントランスへと足を踏み入れた。
「ここ?へえ、アンタにしては気が利いてる」
都内の一流ホテルに連れて来られ、柴崎は少しだけ声のテンションを上げた。そんな柴崎の一方で、手塚は一人胸を撫で下ろした。とりあえず第一関門は突破だ。
「食事するんでしょ?ここのフレンチ、食べたかったんだー」
と、軽やかな足で歩き出した。
食事もデザートへと移り、さすがオンナの別腹だと思わせる柴崎の食べっぷりに呆れながらも、途中で席を立ってチェックインすることも忘れなかった。
鍵をジャケットに忍ばせて、さあ部屋へ、と意気込んだとき、
「そういえばさあ」
と柴崎の口が開いた。
「メール、間違えて届いたけど、大丈夫だった?」
意外な言葉に、手塚は次の動作を忘れた。
「間違い?……いや、そんなことないと思うけど」
最近、誰かに間違いメールなんか送ったかな、と手塚は自分の携帯を取り出した。柴崎もそれに倣い、互いに自分の携帯をチェックする。
手塚が首をかしげていると、柴崎がその画面をこちらに見せてこう言った。
「ほら、これ。誰かにファイル作成でも頼まれたんでしょ?」
その画面には、小牧に相談を持ちかけた後に、意を決して柴崎に送ったメールが載っていた。
『上書きするから』
「その人にちゃんと確認したー?」
その言葉にがっくりと項垂れる手塚の様子を見て、柴崎が怪訝な表情を見せる。
「どうしたの」
伝わってない。俺の決心が全然伝わってなかった!その事実は、もう手塚を立ち直らせる術を持たなかった。
「いや、いいよ、もう……」
明らかに落胆した様子の手塚が、精算へと向かう。遅れて到着した柴崎が、財布を出した手塚のポケットからカードが落ちるのを見た。
「手塚、カード落とし……」
代わりに拾おうとした華奢な手が止まる。一見して判る、このホテルの部屋のカードキー。
「あっ……」
見上げる目と、焦る目が合った。鍵の存在が、手塚のメールの真意を悟らせた。
「……バカね。あれじゃ判んないって」
少しおどけた口調で言うと、柴崎はキーを手にして階数を確認し、エレベーターの方に足を向けた。
深い。いつにも増して深く重なる唇。それが、これからコトに及ぼうという前触れのキスだ。今まで、手塚が我慢してくれていたと判る程に、深い交わり。舌が入り込んでくる頃には、柴崎も手塚の背中に手を回していた。抱きしめて、優しくて激しい舌を受け入れる。
経験値が少ないという割には、攻めどころを衝いて来る手塚の唇。呼吸が苦しくて、柴崎は思わず吐息を漏らし続ける。
ベッドに抱き下ろされ、横たわる柴崎の隣に腰を掛けてシャツを脱ぐ手塚を見つめる。
一見すると線が細く見える手塚の体は、しなやかな筋肉で出来上がっていた。戦闘職種と聞けばもっとがっしりした肉体を思い浮かべそうだが、手塚の身体はアスリートのそれを彷彿とさせるようなものだった。
身体の端々に、うっすらと切り傷のような痕が見える。その中には、自分の窮地のとき、ガラス窓を破った際に作られたものも含まれているのだろうか。
「どうした?」
視線を感じて振り向いた手塚の顔をまともに見ることが出来ず、柴崎は慌てて目を逸らした。
「な、なんでも」
「言いたいことは言え。イヤだったら止める」
まさか見惚れていたとは言い難い。しかしこの沈黙は誤解を生む。よってその誤解を解くほうに天秤を傾ける。
「イヤな訳ないじゃん」
「そうか?」
手塚の声にはまだ疑いが含まれている。どうしてこの期に及んで拒否なんかすると思うのだろうと、起き上がって疑問を投げる。
「っていうかさ、どうして今までこういうふうにならなかったの?付き合ってから結構経つし」
「……それは……」
今度は手塚が言い澱む。暫く目線を泳がせていた手塚が、観念したように口を開いた。
「あんなことがあってすぐに触れられるわけないだろ、男に嫌悪感持っても仕方がないような事件に巻き込まれたんだから。前見た映画でもイヤなシーンあって、お前浮かない顔してたし、忘れろったって忘れられないだろうし。でも、上書き……」
言いかけて一つ咳払いを挟む。
「あんなことがあったからこそ、触れて欲しいっていう考え方があるって小牧一正から聞いて。自分でも単純だとは思ったけど」
「けど?」
続きを促されて、困惑しながらも続けた。
「…………やっぱり俺、お前とこういうこと、したい」
プッと噴出して笑う柴崎に、
「笑うことないだろ!」
と、憤る手塚。その背中に触れると、体温が上がっているのか、少し熱い。
「ごめん。あんたらしくて。……心配、してくれてたんだ」
「当たり前だろ」
「映画はね、3Dだったでしょ。あたし立体映像弱かったのね、自分でも気付かなかったけど。ちょっと気分悪くなっただけ。それと、」
背中から抱きしめて、囁く。
「さっきはね、キレイな身体だなーって思って見惚れてたの。あたしの好きになった人が、こんなにカッコよくて、見惚れるくらい整った身体で。さすがあたしって思ってたのっ」
「お前なあ……」
相変わらず自分の功績を賛美する言葉に呆れて振り返ると、柴崎の唇が迎えてくれる。
柴崎からのキスは重なっただけで離れ、
「……あたしもアンタに、上書きされたい」
その言葉が合図のように、柴崎の身体は再度ベッドに横たえられた。
なんだろう、この感じ。
今まで感じたことのない感覚が、柴崎の身体を巡る。
以前、上官と恋愛遍歴をからかったことがある。常に受身で、決して自分からは積極的になることなく終わったであろう手塚の恋。彼の容貌から察するに「初めて」ではないだろうし、同様に自分のことを彼もそう思っているはずだ。
しかし、自分に触れる指から伝わってくる感覚は、今までのどの男からも感じることが出来なかったものだ。
「あっ……」
声が自然に零れる。演技が要らないなんて今までなかったのに。
耳に熱い息がかかる。その息が身を震わせる。
「だめ、っ……てづかっ……」
徐々に殺せなくなる声を、抗いに替えてみる。
「だめなんて言うな」
耳朶を舐られた後、鼓膜に直接響く、低くて熱い声。
「止まらない」
そう宣言した手塚の指と舌は、躊躇いを取り払って柴崎の身体を余すところなく触れ回る。首や鎖骨、二の腕にキスの雨が降る。両胸が手と唇によって占領されていく。もう硬くなっている頂上は、唇で優しく手塚の口内に吸い込まれていく。
指が、柴崎の下腹部へと伸びる。濡れそぼっていたそこは、容易に指を招き入れた。狭い中を探るように、手塚の指が蠢く。少しだけ膨らんだ場所を見つけ出すと、指の腹で軽く擦った。
「んんっ」
一段と大きな声で啼くと、柴崎は足を所在無げに揺り動かした。他の誰とも違う、女ならココが気持ちいいんだろうと識ったような独りよがりではない、その触れ方に思わず反応してしまう。
「やっ……てづか……だめ……っ……」
絶妙な強弱の付け方で、中を攻めてくる。奥底から湧き出る感覚が強くなって、手塚の指を濡らし続けている。
「もうっ……んっ……」
このままでは指で達してしまう。二人の初めては二人で同時に、と思ってたなんて言ったら、きっと笠原はここぞとばかりに反撃してくるだろう。柴崎だって乙女じゃん、と。
もうダメかも、と感じる一歩手前で手塚が指を抜いた。呼吸の間隔が狭かった分、深呼吸をするように大きく息を吐く。
一方の手塚は一度柴崎の身体から離れて背を向けると、ベルトを外して避妊具の準備をした。
ゆっくりと、しかし着実に進入してきた手塚の表情は苦しそうだった。男を受け入れるなんて何年ぶりかという柴崎の中は、確かにキツイかもしれなかった。時間を掛けて全てを柴崎の中に収めると、
「入った」
と、手塚は一息吐いた。
「バカっ」
聞かされた側の柴崎は顔を赤らめて、そっぽを向く。このシーンで言われると非常に恥ずかしいセリフである。
「動くけど、大丈夫か?」
どこまでも真面目な手塚らしい問いかけだが、これも返答に困るものである。大丈夫に決まってるでしょ、とも言えず、柴崎はそっぽを向いたままで頷いた。
抽送が始まると、奥の疼きが手塚をより強く求め出す。自分から動くことなんてありえなかった。でも今、自然と動き出す下半身に、柴崎自身が驚いていた。
次々と溢れてくる愛液が、手塚の足も濡らしていく。そしてそれが響く音となって、二人の耳に届く。
恥ずかしい。
なんでこんなに正直なの、あたしの身体。
こんなに、―――気持ちいい、なんて。
強く動きさえすればいいという考えがミエミエだった、あたしに気持ちよがっている演技をさせていた、以前の男たちが、記憶からキレイに消えていく。もちろん、あの忌まわしい出来事も。
―――上書きって、本当にあるかも。
「……んんっ……んっ……あっ………っ……」
柴崎は声を抑えることも忘れ、軽く意識が飛びそうになるような快感に身を委ね、
―――――気持ち、いい
喘ぎ声と一緒に、思わず言葉にしそうになったとき、
「麻子」
初めて呼ばれた。
はっとして目を開くと、真剣な眼で見下ろされて、もう一度呼ばれる。
「麻子」
彼の唇が、自分の名前を載せる。
彼の声が、自分の名前を紡ぐ。
彼の瞳が、自分だけを映す。
愛情の籠もった、唇で、声で、瞳で。
―――こんな幸せなことってあるかしら。
「光」
自分も応える。愛情を込めて、愛しい名前を呼ぶ。
手塚は安心したように微笑み、ちゅっと軽いキスをした後、速度を上げた。
愛されてるなあ、と思える抽送が、柴崎を高波へと運んでいく。そして、程なくして、二人は同時に一番高い波に攫われた。
「ごめんな」
手塚の謝罪の意図が見えなかったので、首を傾げて聞き返す。
「何が?」
「いや……」
アトでこういうことを言うのはなんだかフェアじゃない気がするけど、と小さく呟いた後、手塚が言った。
「お前、今日、俺がこういう決心して来たって知らなかったわけだろ?……メールの意味、判ってなかったくらいだし」
「そりゃ、まあ」
「女って、いろいろ準備、とか。したかったんじゃないかとか思って……だから、」
下着とか、まあ、いろいろ、と言い難そうに言葉を続ける手塚に、柴崎は、
「判ってないわねー」
とおどけて見せた。
「色々怠るように見える?完全無欠の麻子さんが」
「いや、まあ、そりゃ……」
そんなことはないだろうとは思ってはいたが、やはり心の準備をさせないままに行為に持ち込んだ気がしてならないのだろう、手塚はまだ何かを言い澱んでいる。
「あのね、」
そんな手塚を愛しく思えて、柴崎も思わず本音が出る。
「あたしはデートの度に、いつだって光とこういうこと出来るように用意してたわよ。今日だって、一番のお気に入りの下着だったし」
「え」
「光と早くこういうことしたかったのは、あたしも同じだったってこと!」
早口で言い逃げしてシーツの下に潜り、顔を隠した柴崎を、
「お前、……可愛すぎだろそれは!」
と、唇を奪うために手塚もシーツに潜って追いかけた。
了
有難うございました。
2の改行、一部仕上げてなかったです、読みにくくてすみません。
導入部長い割りにエロが短くてすみませんでした。
でもまた萌えたら来ます〜ノシ
GJ!
GJ!
柴崎かわええ・・・!
正直な身体のとこで悶えました・・・
手塚も大事にしすぎて手が出せないって、手塚らしくてニヤニヤ
またお願いします
こことか、いろんな二次創作サイトを見て回ってたら
どれがどこで読んだのかわからない。
なんとなく、記憶に残ってて、も一回と思っても
読めない・・
自分も読みあさってた時はそうだったな
逆に、なんか読んだことあるようなと思いながら読んでて、
終盤まで来てから既読だったと気付くとかw
あと、話の作り方がうまいサイトさんでの設定読んだりすると
原作の設定なのか、二次の設定なのか、錯覚する時あるよねw
あるあるw上手いとこは原作ネタとの絡め方もまた上手かったりするから余計w
前、プロフ聞いてた人は設定確認とパロ書き順調だろうか
シアター!2を読んで司と千歳萌えが止まらない。
千歳で妄想しようとするとモデルの声優がちらついて先に進めない…。
>>413 同じく、同じく。
1の時からいいなぁと思っていたけど、2でやられた。
何だよ、あの電話のやり取り、反則すぎる…!
フリーターの社長が好きだった自分は司の上司の部長が好きだ。
いつか司が仲人頼みにいったらいいと思うんだww
空の中 高巳×光稀落とします
5です。
お目汚し、失礼
「わかった!取りあえず!ストップ!」
高巳の声にベッドのマットレスの上で暴れていた光稀が肩で息をしながら振り返る。
…あーもう…
乱れた髪の間から光る目が、一瞬にして怒りから驚き、そして哀しみに変わる。
そんな泣きそうな顔をするなら、暴れなきゃいいのに…。高巳は両手を降参というふうに上げ、深く溜め息を吐いた。
「…かわいい下着だねと褒めて、すいませんでした」
再び光稀の瞳に怒りが走る。なんでそこで、怒るかな?俺のためじゃないのか?首を傾げたくなるが、光稀の機嫌を執り成す方が先決と判断し、両手を上げたままさらに、光稀から少し離れた。
光稀がそろそろと上半身を起こす。ある程度まで身を縮めた所で、高巳を睨む。
「…エロじじい…」
ガックンと頭が落ちそうになる。いや、落ちかけて片手で額を押さえた。
…俺は、ただ、そういう雰囲気になった恋人同士が、こう、甘ったるい状態で、…今まで見た事のない可愛らしいブラジャーだったからなぁ…。褒めたらいけなかったのか…。
わけの分からんところで感心しそうになって、光稀の瞳が恥ずかしげに逸らされるのを見て、納得した。
…照れてるだけか…
甘い雰囲気に慣れてない彼女は、甘い雰囲気を取りあえず、ぶんなげて踏み付ける癖がある。
ある程度まで雰囲気に流されたら抵抗は小さいが…今日は、まだ流されてなかったらしい。みごとに、ぶん投げられる所だった。
「…どうしたもんかね」
ふうっと、ベッドの上で胡座をかき、まるで猫の様に逆毛立つ光稀を見てもう一度溜め息を吐いた。
たまにしか会えない彼女とここまで来て、はい、さようならとできるほど、大人ではない。
…またきっと、そう言ったらこの彼女は泣きながら帰るのだ。自分のせいだと後悔しながら。そうさせるのは、可哀相だという気もした。
…だが…さっきのエロじじいの件は…納得がいかない。
恋人同士で彼女にエロで何が悪い。
高巳はもう一度、両手を上げた。
「光稀さん、ならこうしよう。俺は今日光稀さんの背中しか触らない」
妙な事を言い出した高巳に光稀の瞳が訝しげにひかった。
「…背中?」
大仰に頷く。
「背中、揉んだげる。だから、光稀さんはベッドの上に寝てるだけでいい。」
「なんだそれはっ?」
逆に驚いた声を上げた光稀に高巳が苦笑いする。
「俺は今日はそれでいい。…ここで、触れられないで帰るって言われる方が辛い」
高巳の言葉に、光稀の目が違うと彷徨う。だが、構わずに高巳は続けた。
「…下着の件もごめん。触られるのがいやみたいだから、自分で脱いで。そんで、ライトも自分で加減して。」
譲歩されているのか、注文されているのかわからず、光稀はやや唖然と高巳を見た。
「俺からのお願いは、三つ。まず、ここに触らせて」
高巳の指が自分の鎖骨の部位を指す。
「なんで」
聞き返した光稀に丁寧に説明する。
「リンパの出口なんだ。まずそこを軽くほぐしてから、マッサージするのがお約束。テレビとか…見てないね…」
小さく笑われて、睨む。そういうのには興味はない。
「本当だから、誰か詳しい人に聞いてもいいよ」
そう言われ、取りあえず頷く。もう一つ、と高巳が指を立てた。
「このベッドで片側からマッサージだと安定しないから、光稀さんの背中、跨がらせて」
ぎょっとした顔をした光稀に言い含める。
「光稀さんに、もし俺が背中揉んでって頼んだら光稀さんなら、多分そうすると思う姿勢だけど、想像できる?」
背中というより、臀部に近い腰に跨がって自分が高巳の背中を揉む姿は想像できたが…段々視線が上目遣いになる。
「なに考えてる…」
「別に、なんも」
高巳はこう言って首を竦めた。
「三つ目。俯せになったら身体起こさないでね。さすがに、俺、理性きかない」
それだけ伝えると、くるりと光稀に背中を向けた。
「準備ができるまで、見ない。だから、安心して」
光稀はしばらくその背中を不信感たっぷりに眺めていたが…ゆっくりとサイドボードのライトの摘みを高巳が思うよりぎりぎりまで絞った。
「…いいぞ」
しばらくゴソゴソしていた光稀が、結局約束どうり一度も振り返らなかった高巳に声をかけた。
「長いよ…」
待ちくたびれたと言う口調にカッとなりかけて、…自分でも…そう思ったので堪えた。
ベッドに身体を横たえ、白い背中だけ暗闇に浮かぶ。なにに手間取ったかと言えば…念のため、自分の回りにシーツで土手を作っていたからだ。腰から下は布団の中だ。
なるべく隙間がないように。丁寧な仕事に高巳は思わず吹き出しそうになる。逆を言えば…光稀はこのシーツの人型から出られないという事だ。
顔もわざと高巳から逸らして壁を向いてる。
「じゃ、よろしくお願いします」
そう光稀に声をかけて…高巳は人の悪そうな笑いを浮かべた。
ギシッとベッドが軋む。自分の腰の当たりのスプリングが沈んだ感覚に身体に力を入れた。
「鎖骨、触るからね」
静かな声が背中から降りて来る。言われていた事なので小さく頷いた。肩越しに指が下りて来る。指で窪みを探り、二、三度ほぐすように動いた。離れる。本当にほぐすだけの動きにちょっと力が抜けた。
「じゃあ、ゆっくりと指圧していくから、力の加減教えて」
肩甲骨の当たりを押さえ込まれていく。くぅ、という小さな呻きが光稀の口から上がり、高巳が指の力を抜く。
「強い?」
光稀が首を横に振る。
「いや…なんか、痛気持ちいい…」
素直な言葉に高巳が笑った。加減は分かった。
「じゃ、本格的に行くよ。」
光稀の背中の上で軽く高巳が両手の指を鳴らす音が聞えた。
「…結構…凝ってる?」
高巳の言葉に首を傾げる。
「わからん…こういう事はされたことがない」
「…ここ…ゴリッて分かる?」
肩の内側が高巳の指でゴリッと動く。
「…なんだそれは…」
「いや…肩凝りの凝りだと思うけど…」
そうか…凝りってそれの事なのか…。
「…詳しいな」
適格につぼを押していく指に、気持ちがよくなり目を閉じた。
「まあね…俺、肩凝り常連さんだから」
肩甲骨の窪みを押されていく。
「ここにもあるよ…」
確かに今、高巳の指の下でゴリとなにかが動いた。
「偏頭痛とか、ない?」
「…ない…」
頭痛など…空の青さですぐに消える。空の中の美しさ…ここに自分しか…いない。
「…高巳…うまい…」
思わず呟いた。気持ちがいい…。その気持ち良さに…白状したくなった。
「…さっき…すまない…」
「どの事?」
そう聞かれ、声を出さずに笑った。
「…下着…」
あぁと、一瞬指がとまりまた動き出す。
「…店員に…からかわれたんだ…」
それなら彼氏もきっと喜びますわ…思わず余計なお世話だと怒鳴りそうだった。彼氏がいないと、こういう可愛い下着を買ったらいけないのかと…。
だがしかし…そこで躓く事自体が、そういう目的の為で…あると…ぐるぐるしていた所で、可愛いと言われ、変なスイッチが入った。気がついたら恥ずかしさで逆上していた。
「気にしてないけど、なるべく早く可愛いとか、綺麗だねとかいう褒め言葉に慣れてくれたら、俺は嬉しいけどね」
そう言われ…しばらく考えて声を立てずに笑った。
高巳からそう言われる度、身の置き場がなくて憎まれ口か、手か足が出るのは自覚があった。考えたらひどい話だ。でも、きっとそうなる。やや、反射だから仕方がない。
「高巳…少しぐらい体重かけて構わん…」
ん?と苦笑いした気配がした。気がつかないと思っていたのだろう。ずっと中腰で背中を指圧していた。鍛えていないサラリーマンには結構きつい姿勢のはずだ。
「いや…光稀さん、薄くて…」
そう言われ、わからずに首を振る。
「…女性って、こんなに身体薄いのかとちょっと、驚いた」
背中に手の平が当たる。ゆっくりと手の平で身体を押さえられ…あぁと溜め息が漏れる。薄い…そう高巳が呟いた。
「…鍛え方が違う。乗れ…」
何気なく言った言葉に、少し後から後悔した。はしたなかったか?
「…じゃあ…」
ゆっくりと腰の上に体重がかかる。それでも加減している高巳にまた、声を立てずに笑った。
闇に目が慣れて、白い背中が空気のように揺れる。安心しきったように身体をシーツに投げ出し、顔の下で腕を組んでる。
気持ちがいいのだろう…髪の間から覗く口元が柔らかい微笑みを浮かべている。
両肩に流れるように落ちた髪から項が覗き…色っぽかった。
自分の手の平の下に…光稀がいる。あの戦闘機の前の座席に座っていた背中は…こんなに華奢だったのか…。不思議な気がした。
肩幅でも…自分の手の平二つ分ぐらい…。背中を真っ直ぐに走る背骨。二つ丘を作る肩甲骨。括れた腰。
「…光稀さん…」
名前を呼ばれ、光稀が少し眠たげな声で返事をした。
「背中に触ってもいい?」
改めて聞かれ…また声を立てずに笑われた。…一応、了解得たからな…。心の中で小さく舌を出し、さっきと違うタッチで首の後ろの窪みに触れた。
「…ふぅ…ん…」
甘い声が漏れた。でも…気がつかなかった。指が…背中を走る。ゆっくりと…柔らかく…。触るか、触らないかの柔らかい指の走りは、静かに光稀の身体を捩らせた。
目を閉じ、夢うつつのように口元には笑みを浮かべたまま…光稀の唇が小さく開く。
「…気持ちいい?」
囁くように聞くと、少し頬を染めた光稀がシーツに顔を擦り付けるように頷く。その表情が見たくて、光稀の顔にかかっていた髪を耳に掻き揚げた。
頬に触れた指に少し眉を潜める。約束は覚えているらしい…。
可愛いんだか、強情なんだか…高巳は小さく笑った。目を閉じたままの光稀の横顔が闇に浮かぶ。
「…キスは、だめ?」
返事が無かったので、横顔に啄むだけのキスを落とす。んっ…と光稀が息を詰めゆっくりと吐いた。
あやすように首筋を撫でる。すると解けたようにまた口元に笑みが浮かぶ。左の肩に唇を落とした。
背中が…熱い…。
はぁっ…と息に熱が籠る。熱い…。脇腹に添えられた高巳の手が熱い。高巳がゆっくりと唇を背中に当てた後が熱い。その唇の間から伸びた舌先が熱い…。
「…ん…高…巳…」
「動いたら、駄目」
制止されると動きたくなる。
「…あつ…い…」
やんわりと首筋を唇で覆われて、息を吐かれる。軽く甘噛みされて身が捩る。
シーツの土手が崩れた。光稀の腕が堪え切れず上半身を上げようとする。それを背中に置いた手の平で押し返す。
「…今日は、背中だけ」
光稀の喉が小さく唸った。目を閉じて、約束を反芻する。
鎖骨に触るだけ
腰に跨がるだけ
身体を起こさない
「…んなの…知らない」
身を捩るように上半身をくねらせ高巳を見上げた。あらわになった胸を見て、高巳が苦笑いをする。
「…理性きかないって」
光稀の腕が高巳の首に回された。
「そんなの…いるか…」
誘うようにキスをねだり、誘われたようにキスを落とす。
ようやく甘い雰囲気に流れてくれた光稀の耳に囁いた。
「エロじじいって言った…」
「…悪かった…」
謝るように光稀が唇を啄む。女性にしては薄い唇が柔らかく高巳の唇で遊ぶ。
光稀は、深いキスが少し苦手だった。深いキスを光稀から仕掛けても途中、どういうわけか高巳が主導している。いつか、主導してやると思っても、今の所無理なのでバードキスを好きなだけ高巳に仕掛ける。
「…結構、傷ついた」
高巳の珍しく拗ねた物言いに声を立てずに笑う。
「…後でさっきの下着…ちゃんとつけて見せて」
そこか…もう一度、笑って…。ぐいっと自分の方に高巳の身体を引き寄せた。
「好きなだけ…見せてやる…」
高巳の為に買ったものだ。
「…可愛かったか?」
聞いた口を塞がれた。
「中身が、可愛い…」
二の句が告げず、思わず固まる。みるみる赤くなる顔をしっかり見つめて…高巳がようやくすっきりしたように笑って肩に顔を埋めた。
おわる
この二人好きだ。
失礼しました。
おぉwwしばらくみない間にこんなにたくさん投下されてるとは驚きw
いやー嬉しいなw
読ませてもらいました!さんくす!
>412
プロフ聞いたのは自分ですw
今回はあまりプロフ関係ないところに逃げました。
今は玄折目指してますw
こないだアニメ見直したら、一話で玄田の年齢出ててびびりましたww
そうそう。
話がある程度投下されてきてるので
そろそろまとめWikiも編集しようかなと思ってるんですが…載せないで欲しいって職人さん(作品)はおられますかね。
原作スレ向きかもしれないんだが、アニメDVD特典の小説見てちょっと気になったんだけど
手塚っていつから堂郁の恋愛感情気づいてたっけ?
両想いなことには実際に付き合うことになって初めて気づく
+それでもしばらくは尊敬する上官の相手が…と
全面は納得できてない感じかと思ってたから、付き合う前に分かってるような描写あって驚いた
保守の代わりにでも。
「…そう。そのまま腰を下ろせば良い」
「…んっ」
あぐらをかいた状態で座っている俺をまたいだ彼女は顔を真っ赤にしている。
俺の肩に置かれた彼女の両手は微かに震えていた。
「…不安なら止めたらどうだ?無理してやることじゃない」
「だって、正常位ばっかりじゃマンネリ化するで、って…」
無意識のうちに真似てしまった口調から入れ知恵した主に思い至る。
「ゆかりか…」
おかしいとは思ったのだ。
普段どちらかと言えば受け身の彼女が俺のモノを自分から口に含んできたり
蚊の鳴くような声で「上になってみたい」と囁いてきたり。
女性が積極的になることにやぶさかではないが、無理させるのは本懐じゃない。
そもそもマンネリになるほど俺たちはまだ身体を重ねていないんだが。
高ぶりの先端が潤みに到達したものの、決心が付かないのか彼女の動きが止まる。
(…そこで止められるのは、正直キツイんだが)
細い腰に添えた手を思い切り引き寄せて一気に突き上げたい衝動を深呼吸でやり過ごす。
その深呼吸をため息ととらえたのか彼女の表情が一瞬強ばった。
おびえたような視線の中に間違いなく浮かんだ強情さ。
(本当に負けず嫌いだよな…)
意を決したように再びゆるゆると腰を下ろし始める。
「…っく」
「は、んんっ…」
全てが収まったとき、大きなため息をつき彼女が俺にしがみついてきた。
「…よくできました」
労をねぎらうつもりで頭を軽く撫でてやると彼女はガバッと身体を引き離し
「もう!こんな時まで子供扱いしないでください!」
と頬をぶぅっと膨らませた。
「…こんな時、ね?羽田さんは今がどんな時だと思ってるの?」
「えっ…?」
「俺が『子供』相手にこういうことする趣味のある男だと思ってるわけ?」
「っ!ひゃんっ…」
大きく腰を突き上げてやるとのけぞった彼女の柔らかそうな膨らみが目の前で揺れた。
すでに赤く充血していた頂を口に含む。
「っいや…!ちょっ待って…」
「充分待たされた。も、限界」
自分も限界です。誰かこの2人で書いて下さい。
>426
GJ!いいぞもっとやれ!!
gj!!!!!!
限界なんて言わずにそこをなんとか!!