【妖精】ちっちゃい女の子でエロパロ【小人】3

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674サイハテノマチ:2011/10/11(火) 21:30:41.15 ID:Wf0phY1F
「私はあまり温度差を感じない。多少寒くても、特に問題は――くしゅ」

 小さくくしゃみ。
 さすがに寒いらしい。
 でもイベリスは鼻を手で撫で、何事もなかったような顔をしている。

「見栄張らないの。おいで、イベリス」

 僕は両手を伸ばして、イベリスを持ち上げた。両手に掛かる、微かな重さ。硬貨数枚分
だろう。大きさの割に軽い。まるで布でできた人形のようだ。それでいて、生物特有の柔ら
かさもある。不思議なものだ。
 感心しながら、僕は上着の胸元にイベリスを入れた。

「ここなら少し暖かいんじゃないか?」

 襟元から肩から上を出している。右手に杖を持ち、左手でずれかけた三角帽子を直した。
羽は左右に広げている。

「ありがとう。暖かい」

 返事は淡泊だった。本人が暖かいと言っているので、暖かいのだろう。イベリスは嘘をつ
く事はない。言った言葉は本心だろう。
 僕は椅子に座り、本を手に取った。

「食べられる植物――」

 イベリスが表題を読み上げる。落ちないように三角帽子のツバを手で押さえ、僕を見上
げてきた。感情は映っていないが、どこか不思議そうだった。

「食べるの? 私たちはここにあるものなら何でも食べられるのに」
「知っておくと便利かな、と思って」

 苦笑いとともに、僕は答えた。
 制限の無い食事。例え無機物質だろうと普通に食べられる。そのルール。それは、僕た
ちに"人"であることを辞めさせる試金石のように見えた。ここで食べ物以外のものを口に
するのが、僕はちょっと怖い。

 ぞくり、と。

 背筋を撫でる寒さに、僕は肩を竦める。

「寒いな」

 襟元に入っていたイベリスが、上着から抜け出した。襟元を両手で掴み、自分の身体を
外に引っ張り出し、四枚の羽を広げて空中へと浮かび上がる。

「でも、おかしい……。まだ、こんなに気温が下がる時期じゃないのに」
675サイハテノマチ:2011/10/11(火) 21:31:03.52 ID:Wf0phY1F
 赤い瞳を天井や床に向けていた。
 気温が下がってきている。さっきまではただ肌寒いだけだったのに、なんかはっきりと寒
くなっていた。二、三時間で気温が一気に下がったような。

「ん――?」

 窓の外を見て、僕は瞬きをした。
 椅子から立ち上がり、窓辺まで移動。イベリスも一緒についてくる。

「みぞれになってないか、これ?」

 さきほどまで降っていた雨。それが少し大きくなっている。雨粒ではなく小さな氷と水の塊。
地面におちた滴には、小さな氷の結晶が混じっていた。みぞれ。

 みぞれが少しづつ固まっていくように思えた。

「雪? 雪にはまだ早いのに……どうして?」

 イベリスが窓の外のみぞれを見ている。
 従者であるイベリスには、この最果ての気候が知識として存在するらしい。その知識で
は雪が降るのはもっと遅く。なのに、既に雪が降り始めようとしている。
 ……異常気象ってヤツかな?
 他人事のように考えていると、入り口のドアがノックされた。

「おーい、ハイロ、いるかー?」
676名無しさん@ピンキー:2011/10/11(火) 21:31:24.70 ID:Wf0phY1F
以上です
続きはそのうち
677名無しさん@ピンキー:2011/10/14(金) 16:18:13.81 ID:uoredcDN
OCN規制でwktkできないとな
携帯からwktk
678名無しさん@ピンキー:2011/10/15(土) 10:30:35.74 ID:6eRP4KNI
679 忍法帖【Lv=6,xxxP】 :2011/10/23(日) 12:49:01.22 ID:CK6fmGP+
保守なのです。
続きは気長に待っているのです。

680サイハテノマチ:2011/10/24(月) 20:54:16.85 ID:vrV2M8ac
投下します
681サイハテノマチ:2011/10/24(月) 20:54:43.53 ID:vrV2M8ac
サイハテノマチ
30話 冬への準備


「失礼するぞ」

 入り口のドアを開けて入ってきたのは、黒い狼だった。
 体高は六十センチくらい。黒い毛に覆われた身体で、お腹側は白っぽい。頭からは髪の
毛を思わせる長いタテガミが伸びていた。毛首と四本の脚には、鋼鉄製らしい金属の輪
がはめられている。
 隣に住んでいる狼のクロノだ。毛に雪の結晶が付いている。
 ドアの外では音もなく雪が降り続けている。
 寒い……。
 ばたりとドアが閉まった。

「こんにちハ」

 クロノ背に乗った少女が右手を挙げる。身長六十センチくらいの女の子。
 外見年齢十代半ば。無感情で機械的な黄色い右目で、左目は白い眼帯に覆われてい
る。ショートカットの紫色の髪の毛。服装は丈の長い薄紫色の上着に白いショートパンツで、
あちこちに歯車が意匠されている。
 クロノの主であるシデン。
 シデンを背に乗せたまま、クロノは部屋の奥に進んだ。

「様子見に来た。この時期にここまで気温下がるのは、予想外だったから。お前は新人だ
し、戸惑ってるかもしれないと思ってな。困った事があったら気にせず聞いてくれ。できる
限り協力するよ」

 窓の外を見る。雨音はしなくなったけど、白い雪が音もなく落ちていた。
 左右に揺れている黒い尻尾。ちょっと掴みたい衝動が湧き出すけど、自重する。
 意識を逸らすように、僕はクロノの背に乗るシデンを見る。

「シデンは寒くないのか? 長ズボンくらいは穿いた方がいいと思うけど」

 黄色い瞳を向けてくるシデン。
 紫のコートに白いショートパンツと、白いブーツ。素地は厚手だが、お腹からへそが見え
ていたり、太股が剥き出しだったり。微妙に露出度が高い服装。それは、つまり冷たい空
気に触れる面積が多いということである。
 しかし、シデンは首を左右に動かした。

「大丈夫。そんなに寒くはなイ。ワタシはあなたたちとハ、身体の仕組みが違うカラ。寒くて
も、身体の動きに支障を来すことはナイ」

 え?

 何か引っかかる事を言ったけど、どういうこだ――?
682サイハテノマチ:2011/10/24(月) 20:54:58.62 ID:vrV2M8ac
 そんな疑問を余所に、シデンの黄色い瞳が、僕の胸元に向けられている。無感情で淡
々とした眼差し。上着の襟元に潜り込んだイベリスを見つめていた。

「あなたは暖かそウ」
「彼の体温を感じることができるから、とても暖かい。自由に動けないのは困るけど、しば
らくこうしていようと思う」

 胸元のイベリスがシデンに応える。
 シデンはクロノの頭を手で撫でてから、

「羨ましいカモ」

 そう頷く。その言葉がどのような意味を持つのか。感情を映さない表情から、読み取るこ
とはできなかった。

「そろそろいいか?」

 クロノが口を開いた。
 シデンがクロノの背から降り、近くの椅子を引いて、その上に座った。先日まで首輪と鎖
で繋がっていたが、いつの間にか外したらしい。
 イベリスが口を開く。

「ここでは雪が降り出すのはもう少し後だと、私の知識にはある。でも、こうして雪が降って
いる。どういう事?」
「おそらくは、ロアとアルニだろうな」

 クロノは一度目を閉じてから、天井を――天井の向こうにある空を見上げた。

「あいつらが入って来た事で、ここの最果てを少し歪ませちまったらしい。この雪と寒さは、
その影響の産物だ。一ヶ月、冬が速くやってきたみたいだ」

 目蓋を下ろし、クロノはため息を付いた。
 この最果ては結界のようなもので覆われ、外界の猛吹雪と隔絶している。ロアたちはそ
の結界を抜け、最果てに入ってきた。その時に外の冷気を連れてきてしまったのかもしれ
ない。僕はそのような理由だと考えた。

「多分、これからもっと寒くなル。だから暖かい服を着た方がいイ」

 椅子に座ったシデンが、クローゼットに人差し指を向ける。

「冬服は一番下に入っていル」

 普段は使わないクローゼット一番下の引き出し。以前見た時は、冬用のコートや服など
が納められていた。おそらく一番最初にシデンが用意したのだろう。
683サイハテノマチ:2011/10/24(月) 20:55:12.01 ID:vrV2M8ac
「あなたたちは冬服は着ないの?」

 イベリスが赤い瞳でシデンとクロノを見る。
 クロノは後足で首元を掻いてから、得意げに笑ってみせた。

「オレは寒さには強いんだよ。毛皮あるし」
「ワタシは平気」

 シデンの答えは短い。
 平気と意って平気なものなんだろうか?

「お嬢は平気だよ」

 僕の考えを読んだように、クロノが口を開いた。呆れたような諦めたような、そんな口調
である。黒い瞳を明後日に向けながら、乾いた笑みを浮かべ、

「雪降ってる夜に、身体に雪積もるくらい外で突っ立ってたこともあるからな」

 シデンを見ると、何故か得意げに胸を張ってみせた。事実らしい。
 もしかしたら、シデンは寒さを感じないのかもしれない。寒いという感覚はあるけど、それ
が苦痛にはならないし、寒さが原因で体機能が低下することもない。
 僕の空想を余所に、クロノはてきぱきと行動していた。

「それより、ストーブ出すぞ」
「ストーブ?」

 木や木炭、油などをもやして熱を作り出す、暖房器具。寒くなる以上、そういうものがあ
るとありがたい。でも、この家にそういうものは無かったと思う。

「一応用意はしてあるから、手伝え」

 クロノは床の板を一枚剥がし、口で取っ手を引っ張り出した。
684名無しさん@ピンキー:2011/10/24(月) 20:55:25.66 ID:vrV2M8ac
以上です
続きはそのうち
685名無しさん@ピンキー:2011/10/25(火) 03:47:59.77 ID:Fq43PY4Q
ワクテカGJ!
686名無しさん@ピンキー:2011/11/03(木) 22:18:15.45 ID:HL9bkOvJ
保守
687名無しさん@ピンキー:2011/11/10(木) 22:20:43.45 ID:3gaTVH2q
688サイハテノマチ:2011/11/13(日) 20:35:04.56 ID:GtrmayiZ
投下します
689サイハテノマチ:2011/11/13(日) 20:35:25.54 ID:GtrmayiZ
サイハテノマチ
第31話 雪は積もり始める

 クロノが床下から引っ張り出したストーブ。
 白い台の上に、ガラスの円筒があり、ガラス内部では赤い石が強い熱を発していた。熱
を作り出す石らしい。燃料が燃えているわけではないようだった。その熱を反射させる金
属の鏡と、手が触れないように作られた金網。
 煙突などは付いていない。

「……不思議なストーブだ」

 僕は椅子に座ってストーブを眺めていた。
 僕の知識にある"ストーブ"には似ているけど、そっちは油やガスを燃やして熱を発生さ
せるもの。このストーブのように、直接熱源を置くようなものじゃない。

「ここにあるものに付いて深く考えても意味はないぞ。そういうものだ」

 ストーブの前に陣取ったクロノ。
 床に敷かれた絨毯に寝そべり、ストーブの熱を全身で受け止めている。前足の上に顎
を伸せ、両目を瞑っていた。力を抜いた尻尾がゆらゆらと左右に揺れている。
 これはしばらく動かないだろう……。

「暖かい」

 ストーブの近くに浮かんだイベリスが、熱を放つ赤い石を眺めていた。

「これなら冬の間も安心できる」
「ねエ」

 ふと目を向けると、シデンがいた。
 隣の椅子に立っている。左目を隠す白い眼帯。黄色い右目で僕を見ていた。

「この間の約束。あなたの肩にワタシを乗せルという約束。あなたの肩に乗ってみたイ」

 少し前にロアに身体を揺らさない歩き方を教えて貰った。そのおかげでイベリスを肩に
乗せて歩けるようになった。その様子を見ていたシデンが肩に乗りたいと言っていたこと
を思い出す。約束をしたのは、僕ではなくイベリスなんだけけど。

「今?」
「今」

 シデンが即答する。
 それに答えたのは、イベリスだった。
690サイハテノマチ:2011/11/13(日) 20:35:46.21 ID:GtrmayiZ
 赤い瞳をシデンに向け、三角帽子のツバを撫でる。

「構わない」
「ありがとウ」

 頷くシデン。
 それは、僕がするべき返事じゃないかな?
 ため息混じりにイベリスを見るが、赤い瞳を向けてくるだけだった。
 シデンが動く。自分が立っている椅子を蹴って一度跳んでから、僕の座っている椅子の
背を踏み台に、僕の肩に両足をかける。肩車の体勢。

「うん。いい感ジ」

 両手を僕の頭に乗せ、そう呟いている。
 クロノが片目を開けていた。目蓋を半分くらい持ち上げ、黒い瞳で僕を見る。前脚で顔
を擦ってから、宙に浮かんでいるイベリスに目をやった。

「イベリスは俺の上に乗ってていいぞ。飛んでるよりは楽だろうし、お嬢の評価じゃ九十八
点らしい。どういう基準なのかは俺も分からないけどな」
「お言葉に甘えさせてもらう」

 指で三角帽子を動かし、イベリスはクロノの頭に降りる。たてがみのような黒い毛。両足
を伸ばして頭に座り、ぼんやりとストーブを眺めていた。
 僕は椅子から立ち上がった。
 窓の近くへと歩いていく。身体をあまり揺らさないように。ロアの歩き方を真似したもので、
普通に歩くのとは少し違う足の動かし方だ。重心を安定させて移動する、格闘の技術らしい。
それを僕が使えるのは、そういう事をやっていたからなんだろう。

「本当に揺れなイ」

 シデンが感心したように頷いている。
 窓の外に見える景色は白く染まっていた。地面や木々、柵や石まで。空は灰色で、雨雲
のようにむらもない。音もなく降り続ける雪が、全てを覆っていく。

「もう積もってるな」
「いつもの初雪は五センチくらい積もル。でも今年はどうなるか分からなイ。すぐにやむか
もしれなイ。もっと積もるかもしれナイ」

 窓に映るシデンの顔。僕の肩に乗ったまま、じっと外を見つめている。感情を映さぬ顔と
淡々とした瞳。人形的というか、機械的というか不思議な感じだ。
691サイハテノマチ:2011/11/13(日) 20:36:07.15 ID:GtrmayiZ
「シデンって、ここに来てどれくらい経つんだ?」

 僕はそう訊いてみた。

「七年目」

 簡潔な答えが返ってくる。
 窓の外では雪が降り続けていた。雨とは違い、音は無い。白い雪の結晶が静かに落ち、
地面に積もっていく。窓辺に落ちた雪は部屋の温度で溶けているけど。
 落ちていく雪。積もっていく雪……。

「ここに住んでいる人って、最後にはどうなるんだろう?」

 あまりそういう事を話す事はないけど、気にはなる。これから先、僕がどうなるのか。単
純に訊くのが怖いというのもあったけど。

「分からなイ。成長もしないし、老化もしなイ、死ぬこともなイ。一番古い人は、百年以上こ
こにいる。ずっと静かに暮らしていル」

 シデンが振り返る。
 ストーブの前で寝そべっているクロノと、その頭の上に座っているイベリス。主と従者。こ
こにはそんなシステムがある。いつも僕の近くにいるイベリス。まるで僕を監視しているよ
うでもあった。

「まるで死後の世界――だ」
「そうなのかもしれなイ」

 シデンは否定もせずに頷いている。
692名無しさん@ピンキー:2011/11/13(日) 20:36:24.23 ID:GtrmayiZ
以上です
続きはそのうち
693名無しさん@ピンキー:2011/11/16(水) 19:31:52.09 ID:Z2ey191T
まったりと続けて下さいGJ!
694サイハテノマチ:2011/12/04(日) 21:49:20.13 ID:NQF49b4L
投下します
695サイハテノマチ:2011/12/04(日) 21:49:39.42 ID:NQF49b4L
サイハテノマチ
第32話 雪夜の記憶


 厚い雲が夜の空を覆っている。
 しかし、地面に積もった雪が白く浮かび上がっていた。家の明かりなどを、雪が反射して
言う。漆黒の空と薄く輝く地面。昼待ちは違った幻想的な風景だった。

「さすがに寒い……」

 帽子とコートを身に纏い、僕はどこへとなく歩いていく。
 足を動かすたびに、雪を踏むくぐもった音がしていた。行き先は無い。ただ、森の中を
気の向くままに歩いているだけである。雪の日の夜。なんとなく散歩したくなり、好奇心の
まま外を歩き回っていた。

「雪は止んだけど、もう夜だから。寒いのは当たり前」

 コートの襟元からイベリスが頭を出している。
 さすがに冬着を着ても、外に出ているのは寒いようだ。僕だって厚着しているのに、身
体の芯に染み込むような寒さがある。身体の小さいイベリスは、それ以上に寒さを感じる
のかもしれない。
 一度足を止め、僕は西を見た。いくつもの大木が並んでいるため奥は見えないが、西に
行くと最果ての果てがある。最果てと外との境界。

「元々ここって猛吹雪の雪原の中なんだよな。普段あんまり気にしてないけど」

 以前、シデンとクロノと一緒に眺めた吹雪の壁。最果ての世界の周囲は猛吹雪の世界
になっている。普通の方法では外に出ることは不可能。逆に、外から入ってくることも難し
いだろう。

「僕――というか、ここに住んでる人ってどこから来たんだろう?」

 それなのに、何故かここは人の住める環境があり、僕やシデンのような住人が暮らして
いる。誰かがそのように作ったのだろう。
 イベリスの淡泊な答えが返ってくる。

「私は知らない。あなたたちがどこから来たのか、その知識を持っていない。ここの住人
は突然ここに現れる。そういうもの」

 冷たい風が頬を撫でる。喉や肺に小さく痛みを感じるほど冷たい空気。 
 眼が覚めた時は、神殿のベッドの上。それ以前の記憶は無い。イベリスも僕がここに来
ると同時か、その直前に作られたようである。本人が言ったわけではなく、これは僕の想
像だけど、そう大きく間違ってはいないだろう。
696サイハテノマチ:2011/12/04(日) 21:49:58.91 ID:NQF49b4L
 吐き出した息が白い靄となって空気に溶ける。

「ロアとアルニは外から来た。外に世界が無いわけでもない。出る方法が無いわけでもな
さそうだ。ロアたちはいずれ出て行くだろうし」
「でも、最果ての住人が外に出ることはできない。そういうルールだから」

 外の世界から来た剣士と妖精の女の子。それは、吹雪のさらに外にある世界を意味し
ている。その世界と、この最果てが行き来可能なことも。
 しかし、最果ての住人は外には出られない。
 そういうルールだ。
 この最果ての住人はルールに縛られ、ルールに守られている。

「出られない理由って何だろうな? あの吹雪の中に飛び出しても、多分死ぬけど」

 僕は一度腰を屈め、右手で雪をつかみ取った。
 無数の氷が集まった白い綿のような雪。何もしなければただの冷たい粉。だけど、雪が
風と組み合わされば、視界と体温を奪う凶器と化す。この最果てを抜け出すには、最低
限猛吹雪の領域を越える必要がある。
 僕は雪を軽く握り締め、放り投げる。
 雪玉が木の幹にぶつかり爆ぜた。

「わからない」

 イベリスの答えは短い。
 いくらか迷ってから、僕は口を開いた。

「ここの住人が過去の事を思い出すって珍しいのか?」

 返事は無い。
 コートの襟に手を掛け、イベリスが外へと身体を引っ張り出した。金色の四枚の羽を広
げ、僕の視線の先へと移動する。赤い瞳が真っ直ぐに僕を見据えていた。

「時々あることとは聞く。でも、過去を思い出した人はいない」

 僕は息を止め、イベリスから目を離す。

「こういう景色に見覚えがあるような気がする」

 月明かりも星明かりもない漆黒の空。立ち並ぶ木々。厚く積もった雪。微かな光を受け
て、淡く浮かび上がる雪明かり。肌に刺さるような寒さ。音のない白黒の闇の世界。

「ここじゃないけど、どこかで僕はこんな雪の夜を見たことがある。詳しくは思い出せない
けど、僕はここに来る前に雪の夜を見ていた気がする」
「………」
697サイハテノマチ:2011/12/04(日) 21:50:16.05 ID:NQF49b4L
 イベリスは無言で三角帽子を動かした。
 赤い瞳を空に向け、地面に向け、口を開く。

「森の住人が、過去の記憶を思い出すことはない」

 声に見える緊張。森の住人、主と従者。従者は主に付き従い、主の生活を手助けする
ことを役割としている。予想はしていたけど、知識の量は従者の方が多い。そして、従者
は主が本来知るべきでないことも知っている。

「でも、絶対に無いわけではない」

 小声で、イベリスは続けた。

「もし、あなたが過去の記憶を思い出したら……おそらく、この最果てにはいられなくなる
と思う。私もあなたとは一緒にいられなくなってしまう」

 赤い瞳は、静かに僕を見据えていた。
 数秒ほど、お互いに見つめあってから。
 僕はそっと右手を差し出した。

「帰ろうか。寒いし」
「そうね」

 イベリスが羽を動かし、手の平に降りる。
 僕はコートの襟元にイベリスを入れ、家に向かって歩き出した。
698名無しさん@ピンキー:2011/12/04(日) 21:50:52.14 ID:NQF49b4L
以上です
続きはそのうち
699名無しさん@ピンキー:2011/12/05(月) 06:42:32.63 ID:au4wyEUk
従者も不思議な存在だなあ
この世界に主人がやって来るのに合わせて
誕生するのだろうか
700名無しさん@ピンキー:2011/12/20(火) 07:47:00.28 ID:rmO1h1Pd
保守
701名無しさん@ピンキー:2011/12/25(日) 16:20:40.60 ID:DVWBOEUI
書きたいのに書けない
702名無しさん@ピンキー:2011/12/25(日) 16:50:37.53 ID:1U7ZfRz1
無理すんな
703一尺三寸福ノ神:2011/12/28(水) 19:35:20.60 ID:ufF4zrn6
投下します
704一尺三寸福ノ神:2011/12/28(水) 19:35:44.57 ID:ufF4zrn6
一尺三寸福ノ神 後日談
ある冬の日の夜

 蛍光灯の照らす室内。
 閉められたカーテンを少し開け、琴音が窓の外を見ていた。夜の九時。暖房の効いた
部屋は暖かいが、肌を撫でる冷たさがある。外はかなり寒いだろう。

「今日は冷えるのだ」

 カーテンから手を放し、琴音が振り返ってきた。
 身長四十センチくらいの女の子である。見た目の年齢は十代後半くらい。赤いリボンで
縛ったポニーテイルの銀髪、赤い瞳には気の強そうな光が映っている。赤い着物は、袖と
胴部分が分かれ、隙間から白い襦袢が見えた。黒い行灯袴と足袋と草履。首には神霊と
書かれた白いお守りを下げている。
 レポート用紙に走らせていたシャーペンを起き、一樹は眼鏡を動かした。レポートを綴じ
てから、窓を見る。

「一月の半ばだからね。それに、寒気が流れ込んでるって天気予報でも言ってたし。日本
海側じゃ大雪降ってるし。暖房付けてても寒いよ」

 西高東低の冬型。寒気が流れ込み、日本海側では大雪。この冬一番の冷え込みであ
る。日本海側は北海道から九州まで大雪とニュースになっていた。
 ようするに寒い。
 フローリングを琴音が歩いてくる。

「オレはまだ本物の雪を見たことないのだ。小森一樹、お前は見たことあるのか?」

 机の横まで歩いて来てから、床を蹴った。
 猫のような俊敏さで跳び上がる。一樹が座っている椅子の縁を蹴ってから、机の縁に腰
を下ろした。机に置かれたレポート用紙と参考書を見て少し眉を寄せる。
 一樹はカーテンを見た。今日も天気は晴れである。

「今年はまだ見てないけど、雪なら何度も見てるよ。関東地方は滅多に降らないけど、そ
れでも年に二回くらいは降ったりするからね」
「むぅ。降るだけではつまらないのだ……」
 銀色の髪を手で梳き、両足を動かしている。

「積もるのは数年に一回くらいだね。二年前だったかな? 二月に大雪が降ってね。窓を
開けると、静かな白と黒の世界。あれはきれいだった。でも、交通機関が止まったり寒か
ったり、大変だけどね」

 左手を持ち上げ、一樹は笑った。
 冬の太平洋側は毎日晴れだが、雪が降るときは降る。単純に降るだけなら年に一回か
二回かはあるだろう。積もることは少ない。数センチ以上の積雪は数年に一度。一樹の
記憶にある大雪は四回だった。
705一尺三寸福ノ神:2011/12/28(水) 19:36:02.23 ID:ufF4zrn6
 琴音は両腕を組み、目蓋を少し落とし、赤い瞳を一樹に向ける。

「羨ましいのだ……。積もった雪は、オレも見てみたいのだ。写真やテレビじゃ見るだけじ
ゃ、つまらないのだ。でも、さすがに雪は降らせられないのだ……」

 自分の手を見つめた。
 琴音の話によると、空の神ならば自由に天候を操れるらしい。積もるほどの雪を降らせ
ることも可能だろう。人間にも天候操作ができる者もいるとかいないとか。一般人には
像が付かない世界だ。
 眼鏡を動かし、一樹は天井を見る。

「積もった雪見るなら、山の方に行かないと」

 この時期、少し高い山に行けば大抵雪が積もっている。

「山……」

 琴音は瞬きしながら、そう呟いた。
 それから、小さく吐息。肩を落として呻く。

「そういえば、あのアホ狼は山神なのだ」

 琴音がアホ狼と呼ぶ、山神の大前仙治。鈴音琴音の依代であるお守りを作り、紆余曲
折あってそれを一樹に渡した男。山神の仕事は霊的な意味での山の管理らしい。私用な
どでこっちに出張に来ることもあるようだった。
 一樹も何度か直接話をしたり、手紙のやりとりをしたりしている。

「茨城の山奥って聞いてたけど、そっちなら積もってるんじゃないかな?」

 頭の中に北関東の地図を広げ、空気の流れを予想する。福島県や栃木県に近い山な
ら、豪雪というほどではないが、十分雪は降るだろう。

「雪の写真送って欲しいって連絡入れれば送ってくれるかも。……あの人のことだから、
雪を箱詰めにしてクール便で送ってきそうだけど」

 そう苦笑いをした。思いついた事をそのまま実行してしまう。仙治はそういう性格だと、
一樹は認識していた。それで余計な災厄を招きやすいようだ。
 琴音は腕組みをしたまま、仰々しく頷く。

「やりそうなのだ。というか、絶対やるのだ」
「雪は気長に降るまで待つしかないよ」

 一樹はそう言って、窓を指差した。
706一尺三寸福ノ神:2011/12/28(水) 19:36:15.20 ID:ufF4zrn6
 冬になれば一回くらいは降るものだ。運が良ければ、いや運が悪ければ大雪となって
交通機能が止まったりする。一樹たちは大人しく待つしかない。

「分かったのだ」

 琴音が頷く。
 一樹は時計を見た。午後十時半。レポートはおおむね終わらせたし、今日は急いでや
ることもない。明日はいつも通りの予定だ。

「そろそろ寝ようか」
「寝る時間なのだ」

 呟いて、琴音がリボンを外した。結い上げていた銀髪が、背中に流れる。微かな音が聞
こえた。解いたリボンを袖に閉まってから、両手を持ち上げる。
 一樹は琴音の腋に両手を差し入れ、人形のような身体を抱え上げた。小さく軽い身体で
ある。重さは一キロもない。柔らかく暖かい抱き心地。

「ぬいぐるみみたいだよな」
「オレはぬいぐるみじゃないのだ」

 一樹の呟きに、琴音がそう言い返した。
707名無しさん@ピンキー:2011/12/28(水) 19:36:31.73 ID:ufF4zrn6
以上です。
続きはそのうち
708名無しさん@ピンキー:2011/12/29(木) 13:46:39.88 ID:0vnrgwrj
どうすれば福の神が我が家に来るのか(´・ω・`)
709 忍法帖【Lv=2,xxxP】 :2012/01/06(金) 07:42:09.53 ID:j6laLQLe
遅くなったけど続きを待ちつつ
あけおめで保守。
710名無しさん@ピンキー:2012/01/09(月) 14:56:07.31 ID:QGWt0jbe
無駄に長い&駄文注意。
一応微スカ、特殊性癖あり。
711名無しさん@ピンキー:2012/01/09(月) 14:56:35.30 ID:QGWt0jbe
森を歩いていると、地面で何やら苦しんでいる妖精さんを見つけた。
衣服の一部……主に下半身の部分が溶かされ、白濁の水たまりに浸かっている。
お腹も膨らんでいる。触手に襲われたのだろうか。この時期にしては珍しい。
優しく拾いあげると、言葉は分からないものの助けを視線で訴えている…気がした。
森の奥に用事があったのだが…仕方ない。また後日に回そう。

俺以外に誰も住んでいない寂しい家の戸を開けて、妖精さんを窓際に置いてやる。
仕事用の棚から妖精さん用の治療セットを取り出す。
近所の金持ち貴族の道楽の為に覚えた技術が約に立つとは思いもよらなかった。
おもちゃのように弄び、病気になったら俺のとこへ押し付けるように持ってくる。
全く、あそこの妖精さんは可哀想で仕方がない。
しかし、医療費として受け取るお金が、家計の大きな足しになっている。
善人面はできない。俺も奴らと同罪だ。

───閑話休題。今はそんなことよりあの妖精さんを救わなくては。
ゴム手袋を嵌めて、消毒用のアルコールをまぶす。
滅菌包装されたパックを破り、細いチューブを取り出した。
片手で妖精さんの身体を押さえると同時に、秘部を割り開く。
綺麗なピンク色から、黄色く変色した白濁がごぷっと溢れてくる。
「──────。」
妖精さんは、自分を救ってくれる人だと認識してくれているのだろう。
喋りはしないが、暴れもしない。とてもいい子だ。
さすがにチューブを近づけると、怖いのかきゅっと目を瞑ったが。

麻酔の混ざった潤滑剤をしっかり塗りつけ、チューブの先端を尿道へ挿入する。
「───────っ!!」
きっと、鋭い痛みだろう。悲鳴からなんとなくわかる。
触手の中には、尿道を好む者もそれなりの割合でいる。穴の区別が付いていないだけかもしれないが。
卵を産み付けられなくとも、粘ついた精液は排出されず、腐り、膀胱を痛めることがある。
そのために、膀胱を洗浄する必要があるのだ。悲鳴には耳をふさぐ他ない。
シリンジを押し込むと、チューブを洗浄液が伝い、膀胱を膨らませる。
そしてシリンジを引くと、おしっこや精液混じりの液体が吸い出される。
他人の意思で尿意の圧が変化するのはさぞかし新鮮に違いない。
実際、シリンジのピストンの動きに合わせて妖精さんの身が縮こまるのは、可哀想だが少し面白かった。
案の定、同じ動作を数回繰り返せば透明だった洗浄液が、真っ白に濁った。
仕上げに洗浄液を新しい物と替えて、もう一度繰り返せば、普通はそれで終わりだ。
今日は、この後の為にぬるま湯を膀胱がいっぱいになるまで注入する。
巷ではオナホール用に不法に販売されているほど、妖精さんの身体は柔軟で丈夫なのだが、
それはあくまでも「大丈夫」だという話。不用意に傷つける必要は無い。
1mlの差で無用に妖精さんが苦しむ可能性もあるので、慎重に様子を伺ってピストンを押す。
……少し深呼吸をしているが、苦しそうな様子は無い。よかった。
712名無しさん@ピンキー:2012/01/09(月) 14:57:15.77 ID:QGWt0jbe
次は腸内の洗浄である。後ろを先にすれば、腹圧で膣内の精液も大部分が排出される。一石二鳥だ。
基本的には、人間で言う浣腸だ。市販のミニチュアサイズの妖精さん用浣腸薬を使えばいい。
「!!…っ!」
菊門に浣腸薬のノズルが触れた瞬間、抵抗された。本来、性交と関係ない不浄の穴だから無理もない。
この子のためだ。心を鬼にして押さえる手に力をこめた。
まるでガラス細工。これ以上力を込めたら壊れてしまいまそうと錯覚してしまう。
手が震え始める前に、浣腸液を絞り切るように腸内へ流し込んだ。

薬液の触れた腸壁が収縮を繰り返し、激しい便意を訴え始める。
妖精さんのお腹がぐるぐる鳴っているのが何よりの証拠である。
ステンレス製のシャーレを隣に置くと、その意味を理解したのだろう。
顔を真っ赤にして、こちらへ抗議の視線を向けてきた。
この辺りも、人間と変わりはしないようだ。
生憎妖精さん用のトイレは無いし、人間のものを使って溺れられても困る。
どうやって伝えるか悩んでいるうちに、妖精さんが限界に達した。
肩をぷるぷる震わせて、背中をこちらに向け、少々下品な音を立ててシャーレに吐き出された。
幸い(?)なことに目視では99%が浣腸液と触手の精液だった。
菊門がひくついているうちに、こちらにもぬるま湯を注入する。
これは身体の内側を暖め、子宮内に産み付けられた卵を産ませるためだ。
無理に卵を剥がすと、子宮を傷付けて最悪、子を成せない身体になってしまう。
まだ幼さそうなこの妖精さん。それはあまりにも残酷だろう。

「〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!!!」
ふぅ、と一息付いた瞬間、甲高い、嬌声のような悲鳴が上がった。
慌てて見上げればイクラをそのまま大きくしたような卵が妖精さんの秘裂をみちみちと広げていた
しまった!思ったよりも早い!
だが産み始めた以上、終わるまで俺にはどうすることもできない。
てっきり妖精さんは苦しいのだと思ったら、そうではなかった。
口はだらしなく半開きで、なんというか……愉悦に満ちた恍惚とした表情を浮かべていた。
膝を震わせ、体液をシャーレに噴き出し、絶頂しているように見える。
ふと、妖精さんにとって出産は最高の幸せ、という話を聞いたのを思い出した。
……………なるほど、そういう意味だったのか。

小一時間後、13個の卵を全て産卵し終え、妖精さんはくったりとへたっていた。
その間俺はと言うと、余りに生々しく艶かしい出産ショーに見蕩れていた。
正直、股間の愚息もはちきれんほどにいきり立ってしまっている。
……しっかりしろ、俺!両頬を叩き、邪な考えを捨てる。
触手の卵を瓶にぶち込み、しっかりと蓋を閉めた。あとで焼却処分しよう。
最後の治療工程は、子宮の消毒だ。

綿棒が一番手軽で、都合がいい。
専用の消毒液を綿に染み込ませて、妖精さんの子宮へ挿入する。
出産直後で頸部が開き切り、抵抗無く、ぬるんと呑み込まれるようだった。
すると、びくん!と妖精さんの身体が仰け反った。
危ない危ない。暴れられて、一番大事な子宮を傷つける所であった。
先ほどまでと同じように、片手で抑えて、治療を続行する。

にゅるっ、にゅりんっ……、ずるっ
愛撫するように緩やかに綿棒を回したり、動かしたり。
いやらしい粘り気のある音と、妖精さんの嬌声が混じり始めるが、無心で続ける。

………ずりゅんっ
「っ゙っ゙っ゙─────────!!!!!!!」
突然、獣のような絶叫を上げて妖精さんの身体が痙攣した。
やばい、やりすぎた!?……慌てて、でも慎重に、綿棒を引抜いた。
綿の部分にはヨーグルト状の白濁した粘液がべっとり付着している。
妖精さんは顔を真っ赤にしたまま、よだれを垂らして、いわゆるアヘ顔状態で気絶していた。
あー………やっちまった。
頭をぼりぼり引っ掻いてから、妖精さんをクッションに寝かせ、治療用具を片付け始める。
とりあえず治療は終わった。結果オーライにしたいが……妖精さんはどう思っているのだろうか。
713名無しさん@ピンキー:2012/01/09(月) 14:58:17.23 ID:QGWt0jbe
─────翌朝、窓を開き、ジェスチャーでもうどこにでも行っていいよ、と伝えようとする。
何度も同じジェスチャーをすると、漸く意味を理解したようだ。
しかし、その答えは、首を横に振ることだった。
人間も妖精も、多分、これの意味するところは共通だろう。
とろんとした瞳で、こちらに熱い視線を送ってきたかと思うと、
羽をはためかせ、俺の胸ポケットへ入り込んだ。

はぁ……参った。こいつは頑固そうだ。

…………………妖精の食費って、月いくら掛かるんだ……?
714名無しさん@ピンキー:2012/01/09(月) 21:32:53.32 ID:sQiXRf/8
715 忍法帖【Lv=3,xxxP】 :2012/01/11(水) 22:11:25.10 ID:T2xVS7IX
>>710
乙。
自分の中では何か目新しく感じたわ。

716一尺三寸福ノ神:2012/01/15(日) 22:24:32.91 ID:Iq/7ZVOE
投下します
717一尺三寸福ノ神:2012/01/15(日) 22:25:00.59 ID:Iq/7ZVOE
一尺三寸福ノ神
第46話 布団の中で


 小さな琴音の身体。身長は四十センチくらいしかないので、枕を抱えているようなものだ
った。寝る時に何かを抱きかかえるということは、不思議と安心できる。
 右を向いたまま、左腕に琴音の頭を乗せ、右手で小さな身体を抱える。

「布団の中なのに、あんまり暖かくないのだ」

 一樹の腕に触れながら、琴音は白い眉を寄せた。

「今日は寒いしね。暖かくなるまで時間はかかるよ」

 電気の消えた部屋を眺め、一樹はそう答えた。
 布団の中はまだ冷たい。暖房を付けていたとはいえ、布団まで暖まるわけではない。体
温で暖かくなるまでは数分かかる。しかし、その僅かな冷たさもいいものだと、一樹は考え
ていた。
 琴音が見上げてきた。赤い瞳で一樹を見つめ、軽く頷く。

「オレたちがここに来てから随分時間が経ったのだ」

 小さな手を、握って開く。
 一樹は頭の中にカレンダーを思い浮かべた。

「鈴音がうちに来たのが十月の終わりで、琴音が出てきたのが十一月の半ばくらい」

 大前仙治を交番に連れていきお礼に貰ったお守り。そこから鈴音が生まれたのが、十
月の終わりの寒い日だった。しばらくした風の強い日に、琴音が現われた。
 そうして、今は一月の半ば。

「大体三ヶ月くらいかな」

 一樹は琴音の髪の毛を指で梳く。指の間をすり抜ける、細く白い髪の毛。
 それほど時間が過ぎた感覚は無い。つい先日の事のようにも思える。鈴音や琴音と一
緒に暮らすようになってから、生活の感覚自体が変ってしまっていた。
 琴音は顎に手を添え、眉を寄せる。

「そんなに時間は経っていないはずなのだ。でも、凄く長く感じるのだ」
「まだ生まれてから一年も経ってないからね」

 琴音の頭に手を置き、一樹は告げた。
 見た目はそれなりに成長しているが、琴音たちは生まれて数ヶ月しか経っていない。子
供が時間を長く感じるように、琴音たちは時間を長く感じる。は二十歳の一樹とは全く違う
時間を生きているのだろう。
718一尺三寸福ノ神:2012/01/15(日) 22:25:19.12 ID:Iq/7ZVOE
「言われてみれば確かに――」

 驚いたような感心したような顔。
 琴音は自分の手を見つめた。

「オレたちはまだ一歳にもなってないのだ。全然そういう自覚無かったのだ。生まれた時
から、普通に動けたし喋れたし色々知っていたのだ」

 人間が何もできない赤ん坊から、琴音たちのようになるまで、十年以上かかるだろう。し
かし、鈴音も琴音も、一番最初から立ち上がり、跳んだり走ったり、会話も普通に交わせ
られる。多少心許ないが、人並みにの知識も持っている。

「そう考えると、凄いな……」

 特殊な式神制作法。仙治が口にした言葉だった。
 人間が数年掛けて覚えるものを、かなりの短時間でひとつの個体として作っている。一
種の人工生物の作成。まるで機械を組み上げるようなものだ。

「術で作られた神なのだ。そういうものなのだ」

 琴音が続ける。
 普通の成長をしていない自覚はあるのか、琴音はあっさりと言った。もしかしたら、鈴音
や琴音のような小さな人工神は多いのかもしれない。
 そんな一樹の思考を遮るように、琴音が呟いた。

「ま、しかし」

 琴音は微かに目を細め、口の端を持ち上げた。何か思いついた表情である。
 その顔を見ながら、一樹はこっそりとため息をついた。

「年齢は赤ちゃんでも、身体は赤ちゃんではないのだ。それに、オレは鈴音よりは成長し
ているのだ。出るところは出てるし引っ込むところは引っ込んでいるのだ」

 左手を胸元に添え、少し胸を持ち上げる。赤い上着を押し上げる丸い膨らみ。鈴音は
ほぼ平らだが、琴音は外から見て分かる程度に胸は膨らんでいる。
 胸を強調するように、両腕を胸の下で組み、不敵な眼差しを向けてきた。

「小森一樹。ちょっとくらいなら触ってもいいのだ」
「なら、遠慮無く」

 その言葉に、琴音が顔を固まらせる。その反応は予想外だったらしい。
 一樹は左腕を曲げ、琴音を抱きしめた。前腕で背中を支え、手で肩を掴む。寝布団の
中で寝転んだ体勢では、逃げるのは難しいだろう。
719一尺三寸福ノ神:2012/01/15(日) 22:25:39.43 ID:Iq/7ZVOE
「何を、するのだ?」

 赤い瞳を一樹に向け、琴音が息を呑む。声に映る、微かな恐怖。
 一樹は右手を琴音の脇腹に乗せた。
 そのまま、くすぐる。

「! あははははは、ひゃははぅ、あはははは!」

 琴音の喉から吐き出される笑い声。
 わきわきと蠢く五本の指が、琴音の脇腹を容赦なく蹂躙していた。一樹の指から逃れよ
うと琴音は身体を捻るが、無駄な抵抗だった。肩を押さえつけられている上、くすぐられて
力が入らず、身体が言う事を聞かない。
 涙を流して笑いながら、琴音は無理矢理身体の前後を入れ換える。
 しかし、それは想定内だった。一樹はすぐさま左腕を引き、腕と身体で琴音の身体を固
定する。脇腹からお腹へと、くすぐる場所を変更する。

「このっ! ふふふふふっ。あはっ。こっ、こもり……かずき……あはははは」

 抵抗はばたばたと足を振り回すだけ。
 琴音の両腕は一樹の左腕に押え付けられ、動かせない。左腕と胸板で挟むように、琴
音は見事に固定されてしまっている。この状態で可能なのは、足を動かすだけだ。
 そして、一樹の右手は琴音のお腹をわさわさとくすぐり続ける。

「はははははっ! はっはっ、苦しい……あははは!」

 一樹はくすぐりを止めた。
 それでもすぐにくすぐったさが消えるわけではない。

「ひっ、ふふっ……!」

 残った余韻に、琴音が悶えていた。肩を震わせながら、荒い呼吸を繰り返している。時
折、小さく身体を跳ねさせていた。
 数分して、ようやく落ち着く。

「うぅぅ。ごめんなさいなのだ……」

 一樹に背を向けたまま、琴音は小声で謝った。

「まったく」

 苦笑しながら、一樹は左腕で琴音を抱きしめる。今度は優しく丁寧に。それから、右手
で丁寧にに頭を撫でる。鈴音や琴音は頭を撫でられると落ち着くらしい。不思議と撫でて
いる一樹も気分が落ち着いてくる。
 乱れていた呼吸が静かになり、身体から余計な力が抜ける。
720一尺三寸福ノ神:2012/01/15(日) 22:25:56.76 ID:Iq/7ZVOE
「布団、暖かくなったかな?」
「ちょっと熱いくらいなのだ」

 一樹の台詞に、琴音が答えた。布団の中は少し熱い。
 やり過ぎたと反省しつつ、一樹は両手で琴音を抱きしめた。ぬいぐるみのように小さく柔
らかな身体。力を入れすぎると壊れてしまわないかと、時々不安になる。本人たちの話で
は、見掛け以上に頑丈らしいのだが。

「こうしてると不思議と落ち着くし、よく眠れるよ」

 琴音の体温を感じながら、一樹は呟く。鈴音や琴音を抱き枕代わりにして寝るようにな
ってから、睡眠の質が上がったように思える。また寝起きもよい。

「オレもこうしてお前に抱きしめられていると、落ち着くのだ」

 囁くような琴音の呟き。琴音も眠くなってきたのだろう。

「じゃ、おやすみ、琴音」
「おやすみなのだ」

 一樹は琴音の頭を撫で、目を閉じた。
721名無しさん@ピンキー:2012/01/15(日) 22:26:14.40 ID:Iq/7ZVOE
以上です

続きはそのうち
722 忍法帖【Lv=4,xxxP】 :2012/01/17(火) 20:53:58.50 ID:PPb671Rd
>>721
乙であります。

意外にも作品中ではそれ程時間が経過していなかったのね。

結構長く読んでいた気がしたから。
723名無しさん@ピンキー

エロいことするかと思わせておいてオモロいことしたの巻