【友達≦】幼馴染み萌えスレ18章【<恋人】

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713名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 21:00:22 ID:vFADMgCH
>>707
GJ!
ただ、疎遠の期間が長すぎる…。
優子ちゃん、慣れちゃダメだよ!そんなことに。
ここまで離れると、逆に結ばれない方が自然になってしまうから、
ここで秀殿の一念発起が欲しいなぁ。でも、あの意地けっぷりだとなぁ。
切なすぎだぁ。
714名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 05:17:26 ID:3GGZGvoI
せつねぇ…
715名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 12:58:52 ID:Rj3cQpyN
エロねぇ……
716名無しさん@ピンキー:2009/10/06(火) 23:42:47 ID:qAm8rIWa
でもこれ、一旦エロモードになったら凄い事になりそうだぜ!!
717名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 01:22:54 ID:EZSDxrOZ
>>707
百万遍大学総人学部www
京都大学総合人間学部ですね、わかります。
どっちつかずの学部で後悔してる先輩の気持ちもなんとなくわかります。
なんてったって「ヒマ総人」だもんなorz
718難関高校+疎遠幼なじみ=? ◆vAaRO7zj8k :2009/10/08(木) 01:55:51 ID:FG9YZHv5
受験の季節になった。
仕上がりは完璧。模試はA判定。入試直前期は皆が本腰入れてくるので成績上位者が崩れることもありがちだが
私に関してはそんなこともなく、行けば受かるとまで言われた。
規則正しい生活。無理をすることは慎み、体力を温存。風邪などひかぬよう……気をつけたというのに……。

入試二日前。
私はインフルエンザで熱を出した。

ワクチンをうったというのに。睡眠も栄養もたっぷりとって健康だったのに。神様は私にひどい意地悪をした。
40度になったら今年の受験は諦めろと父親に言われたが、なんとかそこまでは上がらず、動くことも出来た。
実家は関西。受験会場は東京。私とすれ違う人はごめんなさい。……本当にごめんなさい。
でも、人生がかかっているの。行かなければならないの。
だって私には、私の人生には、もうこれしか……受験勉強しかないから。だから絶対に受験したかった。
入試前日、ぼんやりとした頭と鉛のように重い体を引きずって新幹線に乗り、私はなんとかホテルについた。
夕食を半分だけ食べて、ポカリスエットを沢山飲んで、泥のように眠った。
行けば受かる……行けば受かる。ただそれだけを念じながら。

その夜、私はホテルの屋上から落ちる夢を見た。

ホテルは学校から集団で予約しているため、同じ学校の子たちがたくさんいる。
友人に助けられ、私は受験会場に行った。
はずだ。

――ならば今、私は一体どうなっているのだろう。

意識が浮上する。夢なのか現実なのかわからないあやふやな感覚の中で、ぼやけた視界ががくがくと揺れる。
頭が揺れているのだ。
温かくて固い何かに体がぶつかって、どうにも座りが悪い。
でも、それは切ないほど懐かしい匂いがする。そう、この匂いは……。
「しゅ……くん……」
「気がついたか、優子」
夢の続きだろうか。秀くんの声がする。
「喋るな、しんどいなら寝といていいぞ。
 もう少しでホームに着く。あと4時間我慢したら家に帰れるぞ」
ホーム?
ここは……どこなの?
「品川駅だ。……って、おい!いきなり動くな!落ちても知らんぞ!」
急に意識がはっきりする。私は、誰かにおんぶされていて、その誰かは……秀くんだった。
719難関高校+疎遠幼なじみ=? ◆vAaRO7zj8k :2009/10/08(木) 01:56:16 ID:FG9YZHv5

「秀くん……どうして……」

秀くんはぴたりと立ち止まった。
「答える前に、お前、立てるか?自分で歩いてくれると助かるんだが……」
私は慌てて秀くんの背中から降りた。足元がふらついた瞬間、腰をしっかりと抱きかかえられる。
熱で熱いのか、それとも他の熱さか……体の奥から熱の塊が溢れて、指先まで震えた。
頭の位置が記憶と違う。記憶よりも高い。私の知っている秀くんと少し違う。
でもそれは、確かに秀くんだった。
「秀くん、どうしてここにいるの?」
秀くんはぴくり、と眉を跳ね上げると、大きくため息をついて首を振った。
何か……怒ってる?
「お前、試験直後に倒れて救護室に運ばれたんだよ。
 そこで何故か俺に連絡がきたんだ……お前が連絡しろって言ったらしいぞ。覚えてないのか?」
私は頷いた。そもそも救護室に運ばれたということすら覚えていない。
……というか、よりにもよって秀くんに連絡?!何を考えてたんだろう、そのときの私……。
「入院した方がいいんじゃないかと思ったんだが、お前がどうしても家に帰ると言い張ったんだ。
 倒れたのは気が抜けたからだろうと医者も言ったんで、荷物を友達に任せてお前に肩を貸して電車に乗ったんだぞ。
 それなのに渋谷出てすぐ寝やがって……俺だって疲れてるってのにおんぶしてやったんだよ!
 なのに覚えてないのか?!何も覚えてないのか?!」
私は恥ずかしさに耐えかねて、目をぎゅっと瞑って頭をぶんぶんと縦に振った。
本当に何やったのよ、私……!!
秀くんは、はあーっ、と長い長いため息をついた。
「荷物は貴重品以外は他のやつに持っていってもらってる。
 財布と定期いれと携帯は抜いたけど、貴重品はそれだけでよかったよな?
 ……いや、やっぱり答えなくていいや。違ってももうどうしようもないし」
「それでいいよ」
普段几帳面なくせに、相変わらず変なところが大雑把だ。私は少しおかしくなった。
すると、秀くんは左手を私に差し出した。意味がわからずに戸惑っていると、焦れたように私の右手を掴む。
「とにかく行くぞ。新幹線が発車するまで後4分だ。次のでもいいが早く帰った方がいいだろ。
 改札まで行くぞ。ほら」
そのまま、秀くんに手を引かれて歩く。
……幼稚園の頃を思い出した。
近所の子にいじめられた時。犬に吠えられたとき。お母さんと喧嘩して家を飛び出して帰りそびれたとき。
いつも、べそべそ泣く私の手を秀くんがひいて、家まで帰った。
なんだか目の奥がツンとする。
「お前、指定とってたみたいだけど、自由席にするぞ。指定だと隣に座れないからな」
そのまま、真っ白で広い駅の中を歩き出す。改札を過ぎて、エスカレーターに乗った。
私を前に立たせて、背中に軽く右手を添える。後ろにひっくり返らないように、だろう。
「自由席に座れない場合には指定に座るが、隣の人に代わってもらえないか頼んでみよう。
 まあ……難しい気がするが、なんとかする。今のお前から目を離すのはよくないからな」
新幹線はありがたいことに空いていて、私たちは自由席で並んで座ることができた。
席についた時、エスカレーターから降りたときにまたしっかりと握ってくれた手を、秀くんが離そうとした。
それが寂しくて、秀くんの手を絶対離すまいと強く握る。
朦朧とした病人が寂しがっていると思ったのだろうか。
小さくふっと笑った秀くんは、空いている手で私の手をぽんぽん、と優しく叩いて、手を繋いだままでいてくれた。
720難関高校+疎遠幼なじみ=? ◆vAaRO7zj8k :2009/10/08(木) 01:57:55 ID:FG9YZHv5

また、体の芯から湧き出すだるさが、私の意識を薄れさせていく。
次に目を覚ましたとき、車窓は名古屋近くの地名をうつしていた。

「秀くん」
「……まだ名古屋手前だから、もう少し寝てていいぞ」
秀くんは通路側だ。空いている手で本を読んでいたらしい。私の顔を見ずに言う。
「秀くん、ごめん」
「全くだ。受験時に体調崩すなんて気合が足りんぞ。昔、濱望塾でも言われ……」
「そうじゃなくて……ずっと前に、秀くんを怒らせたの、ごめん」
怒涛の展開に、なんだか当たり前のように昔みたいに話をしてしまっていたが、私たちはずっと疎遠だったのだ。
朝一緒に行くこともなく、メールも電話もしない。駅であっても目を合わせない、そんな仲だった。
「それから、私と……一緒にいるのイヤなのに、突然倒れて呼びつけて迷惑かけて……」
「ちょっと待てよ」
ばさり、と本を膝の上に置いて、体ごと秀くんが私の方を向いた。
驚いた顔で、なんだか慌てている。
「怒ってたのはお前だろ?いつも駅で目が合ったら、声をかける前に目をそらして逃げるじゃないか。
 実際キツいこと言ったのは俺だし、てっきり……愛想つかされたんだと……」
黙ったまま、お互いに見つめあう。
えっと……つまりそれって……。
「お互いに……誤解してた……ってことか?」
「ご、誤解じゃないよっ!」
私は大声をあげ、思わず咳き込んだ。周りのビジネスマンがびくっとするのが視界に映る。
秀くんは慌てて恐縮したように周りの人たちに頭を下げ、私を睨んだ。
「……だって秀くん、迎えに来なくていいって言って、お弁当もいらないって言ったじゃない。
 私と一緒の学部イヤだって言って、もう構うなって……それって私のこといらないってことじゃない!」
「だから、大きな声は出すな……!
 ……確かにキツいことは言ったが……お前がいらないなんて言ってないぞ。
 お前が俺に構いすぎだから、必要以上に構うなって言っただけだ」
「『必要以上に』なんて言ってない!ひとっことも言ってないよ!
「文脈から読み取れよ!何年一緒にいるんだ?!」
「駅でも目を合わせてくれなかったじゃない!」
「あのなあ……言っとくけど、わかってないかもしれんが先に目をそらしてたのは絶対お前だぞ」
「じゃあメールくらいしてくれてもいいじゃない!」
「なんて書けばいいかわかんなかったんだよ!俺の筆不精は知ってるだろうが!
 お前こそあんなに毎日メールしてきてたくせに、あれ以来誕生日にも連絡なしだったじゃないか!
 いくらなんでも数学オリンピックに出たら連絡くれるかと思ったのに、全く音沙汰なしだし!」
「『元気か?』でいいじゃない!秀くんって、ほんっと昔から想像力と応用力に欠けるよね。
 そんなんだから昔っから読書感想文はズレてて滅茶苦茶だし小論文はテンプレ通りで面白みに欠けるし、
 国語の点数だって一定しないのよ!」
「いやいやいやいや、国語の点数は関係ないだろ?国語はテクニックだって濱望塾の先生も言ってただろーが!」
「そのテクニックの応用がなってないって意味よ!」
721難関高校+疎遠幼なじみ=? ◆vAaRO7zj8k :2009/10/08(木) 01:58:18 ID:FG9YZHv5


「ごほん!」

特大の咳払いと共に、周囲の冷たい視線が突き刺さる。いくばくか好奇の視線も感じるが、それはさておいておく。
私たちは慌てて口を閉じた。
「……秀くんの馬鹿」
「その言い分には納得できない。俺が馬鹿ならお前も馬鹿であるはずだ」
それでも、1年×2人分の鬱憤である。そこで話をやめられるわけがない。
私たちは顔を寄せ、お互いの耳にやっと流しこめるようなひそひそ声で言葉を続けた。
「……やっぱり秀くんは私のことなんていらないんだよ。だってこのまま疎遠になっても良かったんじゃない。
 連絡くれないんじゃない。秀くんは私のことなんて嫌いなんだ」
「そっくりそのままお前に返してやる」
「大体、秀くんはいっつも怒りっぽいんだよ。小学校のときから自分が一番じゃなかったらすぐ拗ねるんだから」
「悪かったな。男にはプライドってのがあるんだよ」
「そういうプライドやめてよね。数学以外で私に勝てるわけないじゃない」
秀くんは絶句してぷるぷると怒りに震えた。……可愛い。
「……お前、お前ってやつは……っ!ほんっと、昔っからそういう可愛くないことばっか言いやがって……っ!
 大体、昔っからああいう喧嘩なんて珍しくなかったじゃないか。
 お前だってよく『秀くんの顔なんて見たくないっ!』って言ってたし」
「そんな喧嘩、小学生のときまでだよ。それに、最初の質問に答えてないよ。
 連絡くれないってことは、私と疎遠になっても良かったんでしょ」
秀くんは、真剣な顔で私の顔をじっと見た。ふい、と目をそらす。
「少し……思ってた」
ズキンと心が痛んだ。
「でも、すぐに後悔した。それで、連絡するきっかけを探したんだが、思いつかなくて。
 ほんとはな、10月にお前の誕生日に電話したんだ。……そしたら繋がらなくって」
秀くんからのナンバーは携帯に残ってなかった。ちょうど圏外か何かだったのだろうか?
なんてタイミングが悪い……。
「……かけなおせばいいじゃない。留守録だってあるよ」
「なけなしの勇気がどっかいっちゃったんだよ!
 そうこうするうちに、なんだか時間が経てば経つほど連絡しにくくなって……。
 それで次には数学オリンピックに出られたら連絡しようと思ったんだが……なんか自慢してるみたいでどうかと」
負けると拗ねるくせに、勝ったら自慢みたいでイヤとか言われたら、どうしたらいいのかこっちの方がわからない。
秀くんってば、相変わらずメンドクサイ性格してる。
そして秀くんは絶対に、誰かに連絡するという場面の選択方法を根本から間違えている。と思う。
「でもな、大学に受かったら、今度は絶対に連絡しようと思ってた。何をしてでも許してもらおうって」
秀くんは、まっすぐ私を見て、真剣な顔で言った。
「お前にあんなことを言った自分を、何度も後悔したよ。
 自分の弱さがイヤだった。だから、変わろうと思って俺なりに努力したんだぞ。いろいろ。
 誰の前でも……お前の前でも、自信が持てる自分になるために」
秀くんは、ぎゅっと、痛いほどに私の手を握り締めて、焦点が合わないくらい近くに顔を近づけた。
キスできそうな距離に、心臓が早鐘をうつ。
「同じ学科は今でもイヤだ。そこを撤回する気はないぞ。
 ……でも俺は、優子と同じ大学に行きたかった。
 今の俺の一番の志望動機は、それだ」
722難関高校+疎遠幼なじみ=? ◆vAaRO7zj8k :2009/10/08(木) 01:58:46 ID:FG9YZHv5
思わず涙が零れ出た。
……嬉し涙ではない。
「秀くん、私」
「……迷惑か?」
「違うの。私……英語のリスニングを受けた記憶がない」
「は?」
秀くんが不思議そうな声を出した。
「今日の記憶が、そこからぷっつり切れてるの。試験をちゃんと最後まで受けたかどうかすら、覚えてないのよ
 多分私、今年はダメよ。一緒の大学に……行けない」
秀くんは一瞬息を飲んだ後、微笑んだ。
「救護室の人が、最後まで試験を受けてたって言ってたぞ」
「でも、書けてたかどうかわからない。書いてても、合ってるかどうか……わからない……」
涙が後から後から頬を伝う。
せっかく秀くんと仲直りできたのに。せっかく、あのプライドの高い秀くんがあそこまで言ってくれたのに。
私たちはきっと、すぐに離れ離れだ。
「お前、何馬鹿なこと言ってんだよ」
何故か、呆れたように秀くんは言った。

「あのな、お前自分が誰だと思ってんだよ。全国模試20位以内常連の阿川優子だろ。
 いいか、お前みたいなのをな『目をつむってても受かる』って言うんだよ!わかったか!」

秀くんは私の手を離し、私の頭を巻くように引き寄せて目を手のひらで覆った。
昔と同じで、その手のひらはひんやりとしていて気持ちよかった。
「病人は弱気になるからな。お前もう寝ろ。新大阪で起こしてやる」
「秀くん……」
「喋らず寝ろ。言いたいことがあるんなら明日以降にしろ。いつでも聞いてやるから」
それは、明日も明後日も明々後日も、また一緒にいるという約束。
その一言で、息が止まりそうなほど……全てを忘れられるくらいに嬉しかった。
「……うん、お休み」

秀くんのぬくもりと心地よい冷たさに包まれて。
私は再び眠りに落ちた。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

以上です。
次回が最終回となります。
ちなみに、赤門大受験当日インフルエンザでリスニングの記憶がない、は知人に本当にあった怖い話です。

>>717
就職無理学部志望の秀にエールを送ってやってくださいww
 
723 ◆vAaRO7zj8k :2009/10/08(木) 02:01:59 ID:FG9YZHv5
補足。
優子のインフルエンザは普通の季節性インフルエンザです。
豚インフルエンザではありません。
724名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 02:12:22 ID:Uf5xf46l
おつっ
イイヨイイヨー続き待ってますー
725名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 07:00:15 ID:Rm681GY4
朝からいいもの読ませて頂いた。
二人の喧嘩がほほえましくって嬉しくなった。
正座待機しています。
726名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 16:38:42 ID:LjVV6e2N
>>722
恋愛無理学部とも言われるが秀には全く関係ないなw
続き楽しみにしてます

ところで722氏の作品がいつもNGで透明になるんだが何故だ・・・
べつにNGワードに該当する語句も入ってないはずなのに毎回NG解除して読む俺涙目w
727名無しさん@ピンキー:2009/10/08(木) 21:55:02 ID:f9Q4QNJC
隣の家の幼馴染に覗かれていることに気付いていながらオナニーして誘惑するシチュを誰か。

写真をネタに脅迫されて肉奴隷にされて、と思いきや、実は逆に掌で転がして操ってました、みたいなの。
728名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 00:43:05 ID:sODDbqpJ
世の中には言い出しっぺの法則ってものがあってだな
729名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 10:29:47 ID:VIgtCQ0V
先生、ふたなり娘は幼なじみに入りますか
730名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 10:48:17 ID:alYTLXE7
>>729
ご随意に。○たなりでも男の娘でも、やだしこの板に該当スレはない場合もあるでよ
731名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 17:31:35 ID:lbELBOKG
>>729
主人公の幼なじみなら。
732名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 22:57:34 ID:uE34X1I3
加賀美はだめだけど、ひだりのふたなりミルクなら有りなんですね。
733名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 08:32:24 ID:2aMn5WH6
むしろこのスレ的には、由紀とひだりか、ひだりと加賀美のどちらかだと思います
734名無しさん@ピンキー:2009/10/11(日) 21:12:31 ID:F72yj8Ia
ゆびさきミルクティは一巻時点で終わってれば由紀×ひだりの理想的な馴染みエンドだったのに
だんだん妙な方向に飛んでいったなw
735名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 01:07:45 ID:vOvOre4Y
幼馴染が報われたって良いじゃないかと思う今日この頃。
736名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 18:44:59 ID:bcFz9Qb+
>>735
そういうSSを君が書けば良いのさ。
737(難関大学+幼なじみ)×2=? ◆vAaRO7zj8k :2009/10/12(月) 19:31:20 ID:L0/dH241
皆様、お久しぶりです。お元気ですか。俺のこと覚えてますか。……覚えてませんかそうですか。
頑張って大学デビューしたら、新歓コンパではっちゃけすぎていきなりひかれちゃった宇野賢です。
どうしてでしょうね。四月に入学してすぐなのに、もうすでに合コンの盛り上げ役&恋の相談役なポジションになっちゃってるのは。
絶対に、秀と優子ちゃんの面倒を見てたせいだと思います。そうに決まってる。
その秀は大学入学と共に優子ちゃんとのラブラブ生活に入ったというのに、俺は未だ女の子と手もつなげないという。
……なんか不公平じゃね?
くそっ!俺も可愛くてらぶらぶな幼馴染みが欲しいーっ!……優子ちゃん以外で。
そしてご存知でしょうか。北山杉のせいで、京都の花粉量はかなり多かったりします。
今は五月初め、花粉症の人間にとっては地獄です。
そんなこんなで花粉症でブルーなシングルの俺はすっかり五月病です。
しくしくしくしくしく。

え?真面目に説明しろと?みんな宇野使いが荒いんだから。全く。
はいはいはい。どーせ俺なんて何にも面白みありませんよ。俺の話なんかどうでもいいんだよな。
何にもドラマないもんな。しくしくしく。でもちょっとでいいから聞いて。お願い。

この春、俺はめでたく百万遍大学医学部に入学し、念願の下宿を始めた。
聖護院近く、9畳バストイレセパレート洗面台つき、家賃6万8千円。水道代管理費コミ。
結構いい寝ぐらで気に入っている。。
しかし、実は一人暮らしなんだが、なんとなく一人暮らしではない状況が続いている。
つまり、一人住まいのはずの俺のマンションに入り浸っている人間がいるのだ。
もちろん、可愛い彼女……なわけない。おなじみ、智恵姉ぇだ。
1年早く同じ大学に来ている智恵姉ぇは2回生。
パンキョー……つまり一般教養のうちは授業が終わるのがそんなに遅くないため、二時間かけて家まで帰っていたのだ。
クラブの飲み会なんかで遅くなるときは、高校の同級生で下宿している子の家に泊めてもらったりもしていたらしい。
しかし、やはりそんなに頻繁に友人の家に泊まるのは迷惑だとかで、俺がこっちに来てからはほぼ毎日のように入りびたりだ。
親も俺なら安心とか言って、女の子の安全のために遅くなったらなるべく俺の家に泊めるように言ってくる始末だ。
俺の迷惑はどーでもいいのかね。まあいいけどさ。どうせ年下なんてどうせこういう扱いだ。
姉のいる人間ならば、ごり押しに逆らえないこの辛さを良く知っているだろう。
まあ、智恵姉ぇは従姉弟で正確には姉ではないが、似たようなものだ。
別に一人が寂しいとかじゃないし、帰って来たら智恵姉ぇがいるとほっとする、なんてことはない!断じて!
いやほんとだって。ご飯とかあんまり作ってくれないし部屋は散らかすし俺のゲーム勝手に続きやっちゃうし!
レベル上げしてくれるのは嬉しいけどさ!
738(難関大学+幼なじみ)×2=? ◆vAaRO7zj8k :2009/10/12(月) 19:32:10 ID:L0/dH241
閑話休題。

この春、秀も優子ちゃんも志望校に合格し、東京に行ってしまった。寂しい。
そして、俺たちのあずかり知らぬうちにこの二人はいつの間にか仲直りして、いつの間にかラブラブになってしまったのだ。こんちくしょう。
なんでも、受験日にインフルエンザで倒れた優子ちゃんの面倒を見て、お互いの熱い思いを確かめ合った(優子談)のだそうな。
そんな面白いもんが見られるなら、俺も赤門大受けにいくんだった。……嘘嘘。理Vなんて受からないから有り得ないって。
その後、秀と優子ちゃんの間にどんな会話が交わされたか、俺は全て知っているわけではない。
ただ、問題なく上手くいってるんだろうとは思う。
前に、1年の疎遠は長かったのではないかと聞いた俺に、眩しいほどの笑顔で、優子ちゃんは言ったのだから。
「そんなことないよ。だって私たちは13年間一緒にいたんだもん。1年くらい、単なる誤差だよ」
と。

まあ、優子ちゃんとの交友を隠していたことに対し、秀に思い切り文句を言われまくったがな!
あいつ機嫌悪くなると本気で扱いにくいんだ。駅前のスペシャルジャンボパフェを泣く泣く奢らされた俺を、誰か労わってくれ。あの甘党めが!
だって、優子ちゃんが言うなって言ったんだぞ?俺はちゃんと誠実に優子ちゃんとの約束を守っただけだ!
とはいえ、聞かれたら言ったかもしれないのにと言ったら、「お前が優子と知り合いなんて知らんわっ!」と思いきり
睨まれて、
それはそうかと納得したけどな。
でも、智恵姉ぇに、
「あんたに話を通したのは、あんたが自発的に優子ちゃんと秀くんをそれとなく取り持ってくれるのを期待したのに!
 秀くんに全く話通してなかったの?!使えない子ねえ!」
とボロクソに言われたのは納得いかん。元はといえばこの騒動は智恵姉ぇのいらんおせっかいのせいじゃないか。なあ。
だからおせっかいは控えたのに。今度はそれで睨まれるとは。
世の中、中々上手くいかないものである。
739(難関大学+幼なじみ)×2=? ◆vAaRO7zj8k :2009/10/12(月) 19:32:37 ID:L0/dH241


世の中が人でごったがえすゴールデンウィーク初日。
実は今日は、一人では広いが二人では狭い我が家にお客さんが二人もいる。
もちろん一人は智恵姉ぇで、もう一人はなんと!優子ちゃんである。
「というか、二人ともなにやってんの。ここ、男の部屋だってわかってる?泊まるつもり?」
「じゃあ、あんたがいなきゃいいんじゃない。実家帰れば?」
「……もしもし智恵サン、アナタここが俺の部屋だって忘れてませんカ?」
くそう、そのうち絶対家賃取り立てちゃる。親にバレないように。
「決まってるじゃない、これからの二人のラブラブライフのために、頑張って知恵を絞ってるわけよ。智恵なだけに」
智恵姉ぇのギャグは関西人のくせに、いつもくそつまらん。

優子ちゃんが秀と仲直りしてからはすっかりお見限りだったのだが、一部屋に三人でぐだぐだ話すというのは、
懐かしい情景である。
去年1年、智恵姉ぇの部屋で、俺たちはこうやってよく一緒に話したものだ。
なんだかんだ言いつつ、俺も実はこういう時間は懐かしいし嬉しいし、前から楽しみにしてたりした。

……しかし、他人の部屋で延々ノロケるのはやめて欲しいと思うのは俺の心が狭いんだろうか。
いやそんなことはないよな。俺だけじゃないよな。そう思うよな!
その証拠に、智恵姉ぇもかろうじて笑顔を保っているが、口元がひくひくと引きつり始めている。

「それで、秀くんが一緒にお部屋探しをしようって言ってくれたんです。
 女の子の一人暮らしって危ないから、オートロックがいいとか、大通りから近い方がいいとか
 電灯がちゃんと明るい道か夜に行って確かめなきゃとか、いろいろ教えてくれたんです。
 それで、不動産屋さんに行ったらちょうどいい新築物件があって、隣の部屋が空いてたんです!
 隣りがいいなあって思ってたら、秀くんが隣りの部屋にするか?って……私は同棲でもいいなあってちょっと
 思ってたんですけど、秀くんはさすがに親御さんに悪いからって。やっぱり一緒に住むなら結婚してからじゃないと
 いけないと思うって。さすが秀くん、真面目に考えてくれてるんだなあって私、感動しちゃったんです!
 それで今、隣りに住んでるんですよ!ご飯をうちで食べたりして、隣りに帰っちゃうのは寂しいんですけど、
 勉強とかしたいみたいだし、秀くん真面目だから。でもほんとはべたべたしてたいなあーとか思うんですけど
 そういうのはちょっと我慢ですよね!」
「……そお、よかったわねえ」
智恵姉ぇの相槌が棒読みだ。これはかなり、キてる。というかこの話、三回目。
740(難関大学+幼なじみ)×2=? ◆vAaRO7zj8k :2009/10/12(月) 19:33:45 ID:L0/dH241
俺は知っている。秀は自分の時間を確保するために、敢えて隣りの部屋という選択肢を選んだのだ。
考えてみろ。同棲しようものなら、秀のプライベートはほとんどなくなってしまう。また逆に遠くに住んでも同じ、
合鍵を手に入れた優子ちゃんは自分の家に帰らなくなるだろう。
優子ちゃんと一緒にいられて、かつ夜は自分の時間を得ることができる……。隣の部屋というのは、秀にとって
ベスト……かは知らんが、ベターな選択肢だったのだ。
勘違いして欲しくないが、秀は優子ちゃんが好きだし、一緒にいたいとも思ってる。
でも秀にとっては、プライベートは必須なのである。四六時中べたべたしていたら、どんなに好きな子相手だって息が詰まる。
そう、どんな二人にだって感覚の違いがある。それは、人と人が一緒にいる上での最初の、そして最大の難関なのかもしれない。
 
「でも……その、秀くん……実は、まだ……」
優子ちゃんが真っ赤になりつつ、口ごもる。
……まさか、この展開は……。
「手を出してこない……と?」
「はい。照れてるのかなーとは思うし、ゆっくり愛し合っていきたいっていう秀くんの気持ちも嬉しいんですけど
 やっぱり早く愛の絆が欲しいかなーって」
やっぱり!恋バナの中でももっとディープなエロバナ!優子ちゃん、俺が男だって、もう完璧に忘れてないか?!
……正直、男の俺の前ではちょっとやめて欲しい。勘弁してつかぁさい!
智恵姉ぇのせいでかなり女性に対する夢は壊れまくってるけど、未だ残るささやかな夢を壊さないで欲しいというのはわがままか?
というか……もしかしてこの展開は……わざわざ俺の家にきたのはもしかして……。
「ねえ賢、あんた秀くんの性癖とか知らないの?これをやれば一発野獣化!とか」
やっぱりそうかあ!俺から秀の傾向と対策を聞き出そうってか。そんなもん言えるかあっ!
……本当は知っている。秀はメイドさんとか調教ものとか好きだ。コスプレとかすっごく好きだと思う。
でも俺は決してそれを言ってはいけないのだ。
秀に恨まれる。言ったが最後、優子ちゃんは実行する。それではダメなのだ。
だってそれってつまりもう調教済みってことじゃないか!
いやだいやだと言いながら快楽に逆らえなくなっていくというのが調教の醍醐味だろう?
……そう考えると、優子ちゃんって、ものすごく調教しがいのないキャラクターだな。
いや、そんなの全く俺には関係ないから心の底からどうでもいいけど。

「そんなもん知るか」
「嘘ね」

741(難関大学+幼なじみ)×2=? ◆vAaRO7zj8k :2009/10/12(月) 19:34:11 ID:L0/dH241
クールに言い放った俺の言葉を、しかし智恵姉ぇは真っ向否定した。
「あんた前に、男子校の男の会話なんて8割はエロトークだって言ってたじゃない。そういう話が出ないわけないでしょ」
出た……智恵姉ぇの無駄な記憶力の良さ。
しかしここでいらんことを言ったが最後、秀には恨まれ、俺は多大な羞恥心と引換えに男として大事な何かが失なわれる。
そう、男として、そして俺の平穏のために!ここでひくわけにはいかない。
俺は子供に言い聞かせるように、至極真面目な顔で言った。
「あのな、確かに男の会話はエロトークがほとんどだが、それは『他人に聞かせるエロトーク』だ。
 本当の自分の性癖とかは、逆に恥ずかしいから隠しておきたいものなんだよ。
 ドぎついネタをわざと振ることによってウケを狙うこともあるし、そういうネタをよく振るからと言って実際に
 そういうのが好きなわけじゃないことだって往々にしてあるんだ」
まあこれは事実である。俺なんか変態キャラで売ってるけど、実際にそういう趣味なわけじゃないし。
「確かに俺は秀がどんなエロトークをしてるかは知ってる。でも、それを実行したいと思ってるかまでは知らない。
 だから俺がその話をすることは、逆に秀を萎えさせる結果になるかもしれないんだ」
これも事実だ。
さっき調教だとかイヤだを快楽で変えるのが醍醐味とか言ったが、実際にそれを楽しめるかは別問題だ。
男ってのは結構純情だ。好きな子が『イヤだ』と言ったら、きっとそれを押してまで……とは思えない。
慣れた男ならそこら辺の見極めもできるかもしれないが、秀も俺も童貞だ。絶対見極めなんかつくか。
それに、俺が巻き込まれたくないという気持ちもあるが、また余計なことを言ってまた秀と優子ちゃんがモメたら
イヤじゃないか。
1年の冬を越えてせっかくラブラブライフを送ってるんだから、何の問題もなく幸せになって欲しいんだ。
しかし、俺の真面目で誠実な精一杯の友情の発露に対し、智恵姉ぇの答えは一言だった。

「つまり、賢はやっぱり役に立たない……と」
オイ。それだけかよ!しかもやっぱりって何だよ!最初からそう思ってんなら家来んな!
「賢くんったら、相変わらずだね」
にこにこと無邪気な笑顔で優子ちゃんまで言う。
なんだか優しげで温かい声でくすくすと好意的に笑いながら言ったが……つまり相変わらず『やっぱり役に立たない』
っていうことだよな?
優子ちゃんと付き合いの浅い人は彼女を楚々とした大人しく純粋な少女と勘違いしがちだが、これがどっこい。
彼女はさらっと毒舌でかなり気がキツく、けっこう図太い女の子なのである。
……本当のこと言うとひどいとか言って非難するしな……女ってズルいよな……。
まあ俺たちも本当のことを言われるとかなりヘコむから、非難したくなる気持ちはわかるけどな……。

というわけで、俺はすごくヘコみました。まる。
……どーせ俺は何の役にもたちませんよ。
742(難関大学+幼なじみ)×2=? ◆vAaRO7zj8k :2009/10/12(月) 19:35:30 ID:L0/dH241
優子ちゃんは、二日俺の家に泊まって京都を観光して行った。人がやたら多かったらしく、目を回していた。
京都の北の方というのは神戸からはちょっと時間がかかる。
同じ関西とはいえ、宿でもない限り中々行こうとは思えない微妙な距離なのだ。
驚いたことに、ゴールデンウィークの間、秀と優子ちゃんは別行動だった。
お互いに行きたいところが違ったというのもあったらしい。
しかし、秀についていくわけでも自分についてこさせるわけでもない、そのあっさりとした行動が、優子ちゃんが
1年で得た変化なのだろう、と俺は思った。

東京に行く前のこと。
「私、少し前まで一人でも生きていけるって思ってたんですけど、やっぱり秀くんを見るとダメです。
 秀くんがいない時間なんて考えられないって思ってしまうんです……」
そう言いながら、少し哀しげな笑みを浮かべた優子ちゃん。
智恵姉ぇに言われた「秀以外空っぽ」の一言がよほど大きな衝撃だったのだろう。彼女はいつもその一言を気にしていた。
でも、好きな人を手放したくないと思うのは、きっと当たり前のことだ。それだけになってしまうと自分も相手も潰してしまうというだけ。
今の彼女はきっと、秀なしでも自分を得ることができている。
何か明確な形や生きがいでなくとも、秀以外の世界を知り、秀のいない時間を一人ですごしたことで積み上げた
『経験』がきっと彼女を埋めているのだ。
今の優子ちゃんなら、秀を幸せにして、自分も幸せになれるだろう。
誰かにしがみつくのではなく、誰かと支えあう、そんな関係を築けるだろう。
そう考えると、智恵姉ぇの思いつきでいきあたりばったりでいいかげんな台詞も、実は結構、正しかったのかもしれない。
……なんて思う。

「あー疲れたーっ!」
そう言いながら智恵姉ぇが俺の膝めがけて倒れこんできた。
俺はベッドに座っていて、智恵姉ぇはそのベッドの上で倒れこんできた。そう、俗に言う膝枕だ。
智恵姉ぇは俺の膝に頭を乗せたまま、うーんと伸びをしてしばらくじっとして……がばっと起き上がった。
「硬くて全然ダメ。男の膝って最低」
「……なんだよそれは。自分で勝手にやっといて最低はないだろ最低はっ!」
俺の至極もっともな抗議を完璧に聞き流した智恵姉ぇは、ベッドのしたからちびクッションを持ってきて俺の膝に置いた。
その上にもう一度倒れこむ。
「うーん、いまいちだけど、まあいっか」
「クッションしてまで俺の膝を使う意味はあるのかよ」
「高さが丁度いいの。だまって枕になってなさい」
「……いえーすまーむ」
智恵姉ぇのわがままに対抗する術なんて俺にはない。俺は黙って智恵姉ぇの枕になった。
膝の上でふわふわ揺れる茶髪を触りたいと一瞬思ったがそんなことをしたら何をされるかわからない。
女が男に触るのは許されるが、男が女を触ったらセクハラなんである。君子危うきに近寄らず。

レースのカーテンを通して、初夏の西日が部屋に差し込む。
西日の差し込む部屋ってなんか言葉だけでも情緒あるよな。なんて思いながら、ただゆったりと、流れる時間を
感じていた。
雛鳥のように心と体を寄せ合い、全部空っぽになれる瞬間。
俺と智恵姉ぇと。子供の頃から変わらない安らぎが、そこにはある。
743(難関大学+幼なじみ)×2=? ◆vAaRO7zj8k :2009/10/12(月) 19:36:16 ID:L0/dH241
ぽつり、と智恵姉ぇが言う。
「優ちゃん、幸せそうでよかったわね」
「そうだな」
なんだかんだ言いながら、あの1年、智恵姉ぇは本当に心を痛めていた。
無責任といいかげんと適当がモットーの智恵姉ぇだが、実はかなりお人よしで責任感は強い。
落ち込むところは決して誰にも見せないが、自分の言葉がきっかけで二人がこじれたことを、本当に気にしていたのだ。
「秀も幸せそうだった。あいつ、文句ばっか言ってたけど、本当にイヤだったらひたすら黙ってるからな」
秀もやっぱり、1年の疎遠は堪えてたみたいだ。

幸せというのは、その最中にいる本人にとっては、あまりに当たり前すぎて、中々気付かないものなのかもしれない。
失って初めて気付く人も多いのだろう。秀は一度失った幸せを、もう一度取り戻すことができたのだ。

「うらやましいでしょ?」
いたずらっぽく聞く智恵姉ぇの頭を軽くこづく。
「うっせえ。あー、俺も可愛い幼馴染みがいたらなあ……」
すると、智恵姉ぇは横向きだった体を仰向けにして、俺の顔をまっすぐ見上げた。
「……ねえ、時々あんたそれ言うけどさ、私は違うの?」
「え?」
確かに小さい頃から智恵姉ぇとはよく会ってたが……幼馴染み……幼馴染み?
「いや、違うだろ。だって俺と智恵姉ぇは『親戚付き合い』だって。
 それを幼馴染みって言ってしまったら、世の中全部の親戚がみんな幼馴染みになっちまうだろ?」
「えー、だって1年に1回とかだったら違うけど、うちは1週間に1回とか、そんな感じだったじゃない」
「だから、それは親密な親戚付き合いってだけだろ。幼馴染みってのはつまり、他人同士だ。
 俺と智恵姉ぇは身内だ。幼馴染みなんてそんなヤワなもんじゃない。全然違うぞ」
「ふーん、そんなもんなのかな」
智恵姉ぇは、また横向きになった。
「うん。そんなもん。
 それに智恵姉ぇ、俺のこと起こしてくれないし、お弁当も作ってくれないし、俺のゲーム勝手にやるじゃないか。
 メール一本で呼び出すし、俺の下宿勝手に宿代わりにするし、俺のこと枕にするしさ。
 昔、結婚しようという話はしたけどな」
智恵姉ぇは真っ赤になって下を向いた。ごつん、と俺の膝を拳固で叩く。
「痛ぇっ!」
「……そんな昔の話持ち出すのやめなさいよ。ちょっとそういうマセたこと言ってみたかっただけなんだから!」
正直、かなり容赦ない痛さだった。俺、涙目。
ちょっとからかっただけなのに、全く智恵姉ぇってば、相変わらず大人気ない。

ああ、世の中ってなんて不公平なんだ。
友人と友人はラブラブで、俺に恋愛相談してきた好みの女の子は別の奴と上手くいってるのに、俺の部屋にいるのは横暴な従姉。
花粉症と五月病のダブルパンチは、俺の繊細なグラスハートを直撃さ。
全く、俺の幸せってどこに落ちてるのかね。どうやったら釣れるのかね。

ああ……誰か、俺に教えてくれないかな、幸せの在り処を。
744(難関大学+幼なじみ)×2=? ◆vAaRO7zj8k :2009/10/12(月) 19:39:33 ID:L0/dH241
以上です。
最初は一発ネタだったのですが、温かい声援のおかげでネタが湧き、ここまで書くことができました。
ありがとうございます。
そして、最初に禿くんネタをくれた人、ありがとうございます。

エロがないという嘆きもありましたので、秀と優子ちゃんのえろえろおまけを
書くつもりですが、ちょっと時間がかかると思います。
それでは、長い間お付き合いくださり、ありがとうございました。
745名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 19:45:16 ID:bcFz9Qb+
>>743
幸せは膝に居るよ!

エロ期待
746名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 20:15:37 ID:qG3OX7bW
747名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 21:18:30 ID:yQxBxLeq
>>743 GJ

賢くん・・・・駄目な子・・・・
748名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 21:35:01 ID:8zCvb/10
GJ!
お疲れ様でした。
エロ話待ってます。
749名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 23:37:16 ID:atnEi1kt
>>743
乙!
エロ超期待

丁度手を伸ばすと届く位置にあるお姉ちゃんのふくらみに
うっかり手を伸ばしちゃう話を期待したい
750名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 00:20:24 ID:rFylrAZF
ケンちゃん、己の中のマグマ力と向き合うだァーッッ”!!
751名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 01:32:08 ID:tc/1BtU0
俺としては賢と智恵姉ぇのえろシーンに期待せざるを得ない
752名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 02:10:01 ID:B1M9tiqC
幸せの青い鳥っていいですね
GJ
753名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 02:45:17 ID:Dd8kRT7Y
賢ぇ…

GJ!
754『窓越しの恋』愛美2 (1/11)  ◆q5zSSkwO.2 :2009/10/14(水) 21:52:48 ID:jbYjvCn/
※ 注:作中の勉強法はテキトーです

>>670続き

「うそぉ〜〜!!!」
 うぎゃー!! 信じられません。
 紀一郎先生(と呼ばないと、どつかれる)改め、神と呼ぼう!
 5月にスタートした英数強化月間。
 私は生まれて初めて定期テストを捨て、ひたすら勉強しまくった。
 紀一郎の指導は「なんだか効果あんのか?」というやり方だったが、蓋を開けたら定期テストは
あまりにも簡単で拍子抜け。
 しかも、夏休み前の先日受けた模試ではとうとう英数国は偏差値60越えと言う快挙を成し遂げた
のだ。
 万歳、ブラボー!
 念願の予備校特待にもう少しと思われたので、紀一郎先生には丁寧にお礼を言ってこの場を辞そう
と考えていた。
 どうにかなるのかもしれない。
 紀一郎が言う東大は考えられないけど、地元駅弁だったら。
 そんな希望が沸いてきた2ヶ月だった。
 うーん、小説のような展開だわ。いや、ギャグ漫画?

「おお〜すげー! ホントに上がってる」
 ってアンタ。もしもし?
 そう言う紀一郎は今回は残念、15位。
 つか、勝ち負けじゃないだろ。模試なんだぞ、模試。
「紀一郎は志望どこなの?」
「うーん、利にか離散で迷ってる」
 意味不明。

 しかし、紀一郎の話を聞くようになって、ホントに上位層は別世界なんだなとつくづく思った。
 中学のうちに高3までの数学を独学で終了させていたり、私立中高に飽きたらず銀翠会だとかいう
中高一貫向けの塾に通っていたり、数学や物理や化学等の国際オリンピックに出てみたり。
 凄い、凄すぎる。
 私なんて、同じタイトルなのに色が4色もあって種類が違う数学の参考書に、何でこんなに種類が
あるの?と目を白黒させている、そんなレベル。
 ビンボーって哀しいな。戦う前から勝負が決まっているのかな。
 ちょっと落ち込んでしまう。いかんいかん。
「そういや、お前に条件があるとは言ったが、内容を言わなかったな。後出しだがいいか?」
 ぐ。そんなこと言っていたな。
 しかし、今更撤回も不可能なので、私は渋々頷いた。
 にやーん。また悪魔のような笑み。
 メフィストフェレスってこんな顔してるんだろか?
「まず予備校。特待取れたとしても授業は要らねーよ。自習室は使ってもいいけど。あそこは情報を
得るところ」
「ふーん、そんなもん? アンタだからそれが可能なんじゃないの?」
「二つ目。夏の間、バイト入れるな。俺がこのまましごいてやる」
 願ったりかなったりだが怖すぎる。
「三つ目は秋になったら話す」
「判った」
 このまま紀一郎に礼を言ってあとは独学って道はなくなったが、まあ、紀一郎と勉強するのは嫌じゃない。現に成績も上がったし、不満はないのだ。
755『窓越しの恋』愛美2 (2/11)  ◆q5zSSkwO.2 :2009/10/14(水) 21:53:20 ID:jbYjvCn/
 紀一郎との軽口も結構楽しい。
 小学生時代の毎日が帰ってきたみたいだ。
 あの頃は毎日ひたすら遊んでいたけど、今はそれが勉強ってだけなのかな。
 もっとも、そんな楽しいもんじゃないけど。(紀一郎は嬉々として問題解いているけど。信じられ
ない)
 最近はいつも一緒にいるように思う。登校まで一緒。でかい紀一郎を見上げることが多くて、首が
痛い。
 夏休み。紀一郎と一緒って久しぶりだな。
 アイツ、夏期講習行かないのかな。
 いや、その合間に私に会うのかな?
 よく分からないけど、楽しそうかも。
756『窓越しの恋』紀一郎2 (3/11)  ◆q5zSSkwO.2 :2009/10/14(水) 21:54:01 ID:jbYjvCn/
 最近、電車の時間を変えた。
 少し早く行けば、愛美(まなみ)と一緒になると知ったからだ。
 何気ない風を装って、朝一緒に駅へ行く。
 この時間は学生も多く、色んな学校の制服で溢れている。
 うちは学ラン。(今は夏服で、Yシャツの下は黒の学生パンツだ)因みに愛美のとこも男子は同じ
で、俺たちは同じ学校の生徒と思われたりするのかもしれない。
 だが、実際は違う。
 女子と一緒の楽しい共学ではなく、俺は野郎ばかりの男子校。
 学校はとても楽しいんだが、愛美が学校で何をしているのかが気になる。
 他の男子に下駄箱に手紙を入れられ、放課後裏庭で告白なんてあったらどうしよう? などと、端
から見たら呆れるようなアホらしい想念に苛まれる。
 吊革に掴まる白い腕の柔らかそうなところも煩悩を刺激する。
 満員電車の中だというのに、暗記ペンで塗られた参考書を必死に見つめる愛美を周囲から守る。
 本人は夢中で気付いていないが、無茶苦茶混んでるんだよ。
 ちっこい身体が、電車の揺れに合わせて左右に傾く。
 吹っ飛ばされないかとハラハラするが、本人は慣れているのか意外としっかり立っている。
 本当なら、俺に掴まれと言いたい。言ってもいいはずだ。
 だが、この小さくていい匂いのする躰に触れて正気を保てる自信がない。
 女に免疫がないせいか、愛美が見せるちょっとの仕草に激しく動揺する。
 男子校生の悲しい性だ。
 こんなことなら、塾で誘われた女子と付き合っとけばよかったのだろうか?

 いつも生意気なのに、たまに見せる笑顔が可愛い。
 戯れで先生と呼ばせてみたら、当初片仮名で『センセ』と呼んでいた、そのひねくれっぷりも堪ら
ない。
 俺を見上げるその瞳も。可愛らしいピンクの唇も。
 その唇に触れてみたい──己のそれと重ね、その柔らかさを堪能したい。
 舌を絡め合ったらどんな感じなんだ?
 制服を押し上げている柔らかそうな双丘に触れてみたい──
 俺は煩悩に苛まれている。
 また、学校で盛んなエロ話が拍車を掛ける。今までは単なるネタとして笑っていられた話が、今は
全てリアルな妄想として毎夜俺を苛む。
 だから、せめて夏休みに、この『お隣さん』ポジションから脱却したい。
 まずは友達でもいい。アイツに俺を必要だと思って欲しい。
 俺のことを男と認識してもらえたらもっと嬉しい。
 恋人同士になんてなれたら──俺、生きてられるんだろうか?



 夜1時頃、愛美は部屋に戻っていく。
 同じ部屋にはパーティションに区切られて弟もいるのだが、野球部で部活漬けの正司は9時半には
寝てしまう。
 屋根づたいに戻っていく愛美を見つめるのは身が切れるような思いがする。
 自分の身が半分に千切られて去っていく気分だ。
 愛美は俺がそんな葛藤を抱えているとは夢にも思っていないだろう。
 こんなに近いのに──こんなに遠い。
 俺の気持ちを判って欲しい──だが、知られるのが怖い。
 自分が臆病だと、俺は生まれて始めて知った。

757『窓越しの恋』愛美3 (4/11)  ◆q5zSSkwO.2 :2009/10/14(水) 21:54:49 ID:jbYjvCn/
 久しぶりに正面玄関からだ。
 間延びしたチャイムの後に出た声は叔母さんのものだった。
「お久しぶりです。隣の斉木です」
 軽いデジャビュ。あ、2ヶ月前の話か。
「まあ! 愛美ちゃん?」
 嬉しそうな叔母さんの声がしたと思ったら、パタパタとスリッパの音がした。
「愛美ちゃん!」
 紀一郎んちの叔母さんが顔を出す。
「おはようございます」
 挨拶する私をニコニコ見つめる。
 うちのお母さんと年はあまり変わらないはずだが、いつも綺麗だ。マダムって言い方がよく似合う。
 この奥様からどのようにしたらあの『俺様悪魔』が生まれたのか謎。
「すみません、紀一郎くん、いらっしゃいますか?」
「あら。今日は図書館で勉強するって言っていたけど──愛美ちゃんと一緒?」
 パアッと頬を染めて、少女のようにはしゃぐ。
 え? 何か勘違いなさっていませんか?
 私と紀一郎がって発想に無理があるし。それに私なんかが相手でもええんかい?
「おふくろ、何はしゃいでるんだよ」
 リビングの扉からのそり、と紀一郎が顔を出す。
「紀一郎、あなた何も言わなかったけど、愛美ちゃんと一緒なの?」
「──どうでもいいだろ」
「もしかして、照れてる?」
 いや、叔母さん。それはないから。
 そんな私のツッコミに反して、紀一郎はなんと目を疑う反応をした。
 微かに赤くなってる?
 オイ! お前!
「どうでもいいだろ」
 そそくさ叔母さんを押し退け、下駄箱からスニーカーを取り出す。
「帰りは多分夕方」
「あまり遅くならないようにね。愛美ちゃん、お母さんの代わりに家事も頑張ってるんだから」
「判ってるよ」
 苦虫を潰したような表情で靴を履き終え、紀一郎は足を踏み出す。
「行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
 ぽかんとその表情を見つめる私を避けるように、紀一郎は先に行く。
「ちょっと、待ってよ!」
 あれは──何だったんだ?
758『窓越しの恋』紀一郎3 (5/11)  ◆q5zSSkwO.2 :2009/10/14(水) 21:57:13 ID:jbYjvCn/
 ヤバかった。愛美は気付いたのか?
 気が付かないで欲しい。いや、気付いてくれた方がいいのか──俺には判らない。
 それにしてもカッコ悪い。親にからかわれて赤くなるなんて!
 おふくろ、ホントいい加減にしてくれよ。悪ふざけが過ぎる。
 今日は、二人で図書館。外出に伴う出費を気にする愛美も気楽だし、本も借りられるし、自習室も
あるし、涼しいし。
 何と言っても楽しみなのは愛美の手作り弁当だ。
 例えファーストフードであっても外食に難色を示した愛美は、弁当を作ると言った。
 じゃ材料費は俺が持つから二人分作ってくれと頼んだら、快く了承してくれた。
 愛美の弁当。それだけで気分が浮き立つ。

 自習室でそれぞれ勉強。たまに休憩で本を見に行く。
 愛美はミステリーが好きらしく、軽めのもの中心に見る。
 俺は歴史小説とか、科学と数学に関する本を見る。
 うーん、うちの学校の方が品揃えがいい。
 仕方がないから、カウンターで予約手続きをする。
 本を借り終えた愛美を引っ張っていって、洋書のコーナーに行く。
「何冊借りた?」
「5冊」
 まだ5冊借りられる。
 愛美は今まで教科書でしか英語を読んでいない。
 だから語彙が不足しているし、前後の文脈で判らない単語も類推して読むという技術を身に付けら
れていない。
 それを打破するため、問題集に平行して多読と言う方法を用いた。
 即効性はないはずなのだが、意外と早く効果が出た。
 何だか、ゲームみたいだなと思う。若しくは、ポ●モン・ブリーダー。
 経験値を上げ、強くする。こういうのは結構面白かったりする。



「美味い!」
 普段、絶対に褒めたりしないのだが──だって、照れ臭いだろ?──愛美の手料理は素直に感嘆さ
せるだけの威力を持っていた。
 見た目はむしろ地味だった。
 飾り切りやレタス等の彩りもない。
 質実剛健。
 だが、その味は俺の胃袋をわしづかみにした。
 すげぇ美味い。
 夢中でがっついていたら、気付いた時には二人分のはずが空っぽになっていた。
「ご、ごめん!」
 愛美、ほとんど食べていないんじゃないのか?
「あーびっくりした。紀一郎、ガツガツ音を立てて食べていくんだもん。私もちゃんと食べたから心
配しないで。明日から倍作ってくるから」
「美味かったから」
 あ、ヤバい。
 普段やりつけないこと──人を褒めるなんてするから、顔が赤くなる。
「紀一郎、今日は何だか違うね。私服だから?」
「お前こそ、違うじゃん。いつも俺の部屋ではジャージだし。朝は制服だし」
「お互い様だよ。紀一郎もジャージじゃない」
「たしかにそうだ」
 俺達は笑い合った。
 何だか、柔らかいこの空気感は心地よい。
 いつものように喧嘩半分でやり合うのも楽しいが、こうして穏やかに笑うのもいい。
 ふと気付いた。
 ベンチで座る俺達の距離。
 周りには誰もいない。
 そっとキスしたら、怒るだろうか?
759『窓越しの恋』紀一郎3 (6/11)  ◆q5zSSkwO.2 :2009/10/14(水) 21:57:54 ID:jbYjvCn/
「いつも紀一郎怖いから、今日みたいに赤くなったり優しく笑ったり。そっちの方がいい」
「そうか?」
 自覚は──まあ、していたんだが、やっぱり遊びすぎていたらしい。
 好きな子相手にどうしたらいいのか、判らないんだよ。
 手も握れないのに、近くで怒ったり笑ったりしているし。
 夜、俺の妄想の中では抱かれてヒーヒーよがって、むせび啼いているというのに。
 目を細めて愛美を見つめる。
 小花柄の半袖のカットソーにデニム。
 ラフだし、愛美に似合っているが──ちょっと勿体ない。
 このひっつめお下げを解いて肩に垂らしたらどうなんだろ?
 野暮ったい眼鏡をコンタクト──せめてもう少し洒落たものに変えたらどうなんだろ?
 夏なんだし、一緒にプールに行きたい。愛美の水着姿も見たい。
 とめどもなく妄想が広がりだした頃、愛美は言った。
「そういえば、紀一郎って彼女いないの?」
「なんで?」
「アンタ、性格はともかく(おいっ!)外見はいいし、頭もいいし。もてそう」
「そういうお前は?」
 訊いてから後悔したが、愛美の応えを聞いてもっと激しく後悔した。
「うん──この前、うちの学校の男子に告白された」
 な、なんだとおーーー!!!
760『窓越しの恋』愛美4 (7/11)  ◆q5zSSkwO.2 :2009/10/14(水) 21:59:29 ID:jbYjvCn/
 目の前の紀一郎は、なんだかぎょっとしたような表情を見せた。
 まあ、意外だよね。私も意外だった。
 つか、私なんかが異性の目に止まるなんて信じらんない。
 最初、質のわるい冗談だと思ったぐらいだ。



 夏休み直前。期末も終わって、周りは長期休みへの期待にざわついている──そんなある日、帰り
支度をしていた私は、今までクラスメイトの一人としか思っていなかった男子から「明日の持ち物っ
てなんだっけ?」みたいな口調で、「斉木さん。僕と付き合わない?」と言われた。
 周りにはまだ何人か残っていた。
 誰も私達を見る人はいないとはいえ、私は慌てた。
「鈴村くん(彼の名を呼んだのも初めてだっ!)ちょっと──取りあえず、教室出ない?」
「何で」
 ああもう。紀一郎といい、私に関わる男子ってどうしてこうなの?
「恥ずかしいから!」
「あー僕は気にならないから」
「あのね。私が気にする。つか、周りも気にするよ。このクラスの雰囲気、目に入らない?」
「目には入らない。今んとこ、僕の最優先課題は君に返事貰うことだけだし」
 ぐはっ。鈴村くん、初めて話したけど、ここまで個性的な人だったとは。
「でも、私は気になるから、お願いだからちょっと屋上にでも行かない?」
 私が強引に彼の手を引っ張って連れ出すと、クラスにまだ残っていてこの成り行きを見守っていた
人たちから歓声を浴びた。
 ああもう。人のことだと思って。しかもっ!ずっと友達だと思っていた奈美!真紀!あんたらもか
いっ!
 後で覚えとけ!!

「鈴村くん。一つ確認する。付き合うって、その──彼氏、彼女の関係で?」
 屋上はちょっと風が強かった。
 ちと、肌寒い。
「もちろん」
「ドッキリとかなしで?」
「本気ってこと? もちろんだよ」
 鈴村くんをまじまじと見つめる。
 中肉中背。いや、男子としてはやや小柄なのかな?
 文武両道を旨とするうちの学校だけど、彼は典型的な文化部タイプだった。
 たしか、化学部だったか物理部だったか。
 顔立ちが可愛くて、結構ファンも多い。
 ただ、浮いた話をあまり聞かないのは──多分この性格のせいと私は勝手に予想する。
「私、鈴村くんと今まで話もしたことないんだよ。私のどこがいいの?」
「うーん、直感? 君を一目見た時からずっと気になっていたんだよね」
 一目惚れとな?
 自慢じゃないが、地味な外見、チビな身体で、そういうのは無縁で生きてきたんですが。
 この人、もしや物凄く変人?
「返事、急ぐ?」
「もうすぐ夏休みだから、その前に貰えると嬉しいな。生殺しのまま夏を過ごしたくないし」
 鈴村くんはにっこり笑った。



「で──なんて答えたんだよ?」
 気のせいか、紀一郎の声が低い。怖い。
「紀一郎には関係ないじゃん」
「ここまで話しといて、それはないだろ」
「まあそりゃそうだね」
 軽く肩をすくめ、そしてそっと紀一郎を見上げる。
「紀一郎──私って、男の人から見て、どうなの?」
761『窓越しの恋』愛美4 (8/11)  ◆q5zSSkwO.2 :2009/10/14(水) 22:00:06 ID:jbYjvCn/
 ぶっ!っと紀一郎はお茶を吹き出した。
 汚いなあ。
「もう、何やってんのよ。で、どうなの?」
「何でそんなこと聞く」
「いやさ。男子に好きだって言われたのも初めてだけど、一目惚れしたって言われて、あまりにもび
っくりしたんだよ」
「驚くことか?」
「私、チビだし、地味だし、性格ガサツだし」
「よくわかってんじゃん」
「未だに信じられないんだよね。まあ、その相手がちょっと変わってる人だってこともあるけどさ」
「お前、自覚無さすぎ」
「ええ──?」
 意外な言葉に思わず紀一郎の顔を覗き込んだ。
 言いたいことが判らない。
 しかも、紀一郎はなんだか哀しげだった。
 何か悪いことしたんだろうか、私?
 いつもはメフィストフェレスな紀一郎だが、今日はなんだか違った。
 朝から変だったけど、こんな顔するなんて──
 なんだか、本当に、怖い。
 しばらく紀一郎は私を見つめていて──それからようやく、視線を反らして言った。
「お前、男と遊んでいる暇、ない筈だろ?」
「うん──だから断った」
「そいつ、何だって?」
「諦めないって言われた」
「そうか──」
「今までさ、私そういうのって全く無かったから、まともに話した男子って紀一郎ぐらいだし。何か
よく判らないんだ」
「お前、今まで好きになった男、いないの?」
「いないよ──興味なかったし。紀一郎は?」
「お、俺?」
 紀一郎は物凄く動揺した。こんな紀一郎、初めて見る。
 また、紀一郎は私から視線を反らし、足元の草花を見つめる。
「いるよ──」
 呟くようにして言ったその意外な言葉に、何故か胸の奥が鈍く痛んだ──。
762『窓越しの恋』紀一郎4 (9/11)  ◆q5zSSkwO.2
 脳味噌が沸騰し、目の前が真っ赤に染まったかのように思った。
 ふざけんな!!
 まだ見ぬ敵──というのも妙な話なのだが──に謂われもない嫉妬を覚えた。
 俺がどんな思いをして今までコイツの傍にいたと思っている。
 そう心の中は荒れ狂っていたが、それは全くの的外れな怒りであり、相手は俺
の存在すら知らず、そして愛美にとって俺は単なる幼馴染みでしかない立場なの
であって、何の文句も言えないのだと──自覚もしていた。
 愛美のことが好きだ。自分だけのものにしたい。
 だが、今俺が愛美に自分の気持ちを明かしたとして、それを受け入れて貰える
可能性は低いと判断している。
 異性として意識されていないことに加え、昔からの関係がそれを阻んでいる。
 愛美に俺を好ましい異性として認識してもらうにはどうすればいいのだろう?
 人の心は難しい。難問テストの何倍も。
 今ここで土下座すれば手に入るならそうする。無理矢理奪えばいいなら襲う。
 しかしそれでは心は手に入らない。
 近いのに遠い俺達の距離。
 荒れ狂う気持ちを必死に抑える俺の顔を見つめる愛美を一瞬睨むように見つめ
、苦労して視線を反らした。



 その晩、愛美は部屋に来なかった。
 俺は結局何も手につかず、ただただ隣の家の灯りを見つめる。
 外に向かって叫び出したくなる衝動と葛藤し、粗い息を吐く。
 その時俺は気が付いた。
 愛美がもしも違う大学に行ったら、俺はまた今と同じ気持ちを味わうことにな
るのだと。
 何がなんでも愛美も連れていく。
 今までのような冗談半分ではなく。
 ではどうすれば?
 愛美の夢とやらの問題もあるし。
 目を閉じる。すると脳裏には愛美の笑顔。
 つい3ヶ月ほど前までは、その記憶と窓越しの息づかいだけで俺は満足してい
たんだなと思い、哀しくなった。
 好きな子には素直になれないわ、優しくできないわ、何も言えないくせに独占
欲は人一倍だわ。
 自分の情けなさが悔しい。
 会えば会うほど惹かれた。笑顔だけじゃ物足りなくて、その全てを欲しいと思
った。
 身勝手な欲望だ。
 そこまで冷静に己を分析しているくせに、やっぱり好きだと言えやしない。今
言って離れてしまうことが怖い。
 弱い──俺は。
 胸が一杯になって、苦しさのあまりに嘆息する。
 今日はもう寝ようとベッドに転がるが──眠れないのは判りきっていた。