スクランスレ@エロパロ板 19話目

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1名無しさん@ピンキー
落ちてたので再び立ててみる
2名無しさん@ピンキー:2009/05/07(木) 07:02:36 ID:dN5wclJK
3名無しさん@ピンキー:2009/05/07(木) 11:27:32 ID:xE8Lw8PA
4名無しさん@ピンキー:2009/05/07(木) 12:20:33 ID:Nn2hNf0d


しかし作品はおろかネタ雑談もないのはさみしいものがある
5名無しさん@ピンキー:2009/05/07(木) 22:29:09 ID:dN5wclJK
Zも最終回らしいからそれがよければ
また賑わうんじゃないか?それでもコレが最後のスレになりそうだが。
6名無しさん@ピンキー:2009/05/08(金) 12:29:17 ID:PlC5QUJ0


とりあえず保管庫の起動を切に願う
7名無しさん@ピンキー:2009/05/08(金) 12:58:23 ID:tvFlY6JO
作品が来ないのに保管なんて・・
8名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 01:17:48 ID:yfQflTw8
<<1 乙

即死の条件って、どんなんだったっけ?
そろそろ、やばいか?
9名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 01:25:38 ID:KhzJfSgN
結局美琴はメガネとくっついたのか?
10名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 02:49:10 ID:yfQflTw8
Zだと、くっついた感じだったが
その過程はどうだったかな?
書かれてないかもしれない
11名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 07:38:06 ID:xqYwq1F1
周防と麻生はどこまでいったのか?
12名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 10:15:44 ID:7bHYYYO3
花井だって八雲をいつの間に諦めたのか分からない
美琴と高野が何らかの手段で花井に八雲を失望させたんじゃないか?
沢近と播磨の仲に横恋慕でみっともないとか
13名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 13:39:53 ID:qqhO8he1
かつて週刊少年マガジンで大好評のうちに連載を終了したスクールランブルと
マガジンスペシャルにてただ今絶賛連載中のスクールランブルZのエロパロを書くスレです。

エロくない作品はifスレでお願いします
スクールランブルIF30【脳内補完】
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1216135416/

801ネタはヤオイ板で、嵐はスルーで、ごった煮SSは絶対禁止!カエレ!
SS書き限定の心構えとして「叩かれても泣かない」位の気概で。
的確な感想・アドバイスレスをしてくれた人の意見を取り入れ、更なる作品を目指しましょう。
マターリハァハァ逝きましょう

新保管庫
http://www31.atwiki.jp/kokona/pages/1.html
旧保管庫
http://www.geocities.jp/seki_ken44/

〜前スレ〜
スクランスレ@エロパロ板 18話目
http://yomi.bbspink.com/eroparo/kako/1230/12305/1230534798.html

とりあえずコレ張ってみる。
14名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 23:26:42 ID:qqhO8he1
あげ
15名無しさん@ピンキー:2009/05/11(月) 23:56:43 ID:uKK8HE9e
旧保管庫で『haunted』を読んできた。

甘い。甘すぎる・・・
16名無しさん@ピンキー:2009/05/12(火) 08:56:15 ID:JL8ktl6w
結構未完になってる奴あるんだな
誰か続き・・・
17名無しさん@ピンキー:2009/05/13(水) 17:03:43 ID:5IgA0vWS
逆レ物って、需要あるかい?
18名無しさん@ピンキー:2009/05/13(水) 19:08:03 ID:+yfeOAv4
前の寝取りもそうだけど対象となるキャラまで教えてもらわんと答えられない

けどまあ多分需要あると思う
19名無しさん@ピンキー:2009/05/14(木) 01:01:52 ID:852JOO1A
絃子×播磨なんだが、ワンクッション置くべきかと思って。
他のキャラも考えてるし、全部書くことにします。
20名無しさん@ピンキー:2009/05/14(木) 23:58:36 ID:w3zWo1oZ
あげ
21名無しさん@ピンキー:2009/05/15(金) 23:58:07 ID:6ftCgbMe
ていうか需要がないのなんてないでしょ。
作品が投下されてマイナスな事なんてありえない。
22名無しさん@ピンキー:2009/05/16(土) 01:58:00 ID:ATCC9iiS
夏のあらしのネタはここでいいんだろうか?
一×潤とか
23名無しさん@ピンキー:2009/05/16(土) 14:54:13 ID:hvmwIKhI
いいんじゃないか?
24名無しさん@ピンキー:2009/05/16(土) 19:42:00 ID:a/00pY3g
クロスはなしだよな?
25名無しさん@ピンキー:2009/05/19(火) 06:52:51 ID:QbrPuGne
クロスでもいいんじゃね
26名無しさん@ピンキー:2009/05/19(火) 23:10:52 ID:QbrPuGne
ていうかスレ伸びないな。

俺はコテの人の作品まち続けてるんだけど
沢近ネタ投下するとかでスレが落ちちゃったから
もう書かないのかな?

次回は夏のあらしスクランと小林尽総合スレにしないとダメか。
27名無しさん@ピンキー:2009/05/20(水) 22:16:00 ID:gh7OGDyq
ベタではあるが、Z最終回でなんとなくインスピレーション



 桜の花びらが風に踊る。
 温暖化によるいいことがあるとすれば卒業式の桜が珍しくなくなったことだ。
 一人、学校の屋上で物思いに耽る男は播磨拳児。

 閉じた瞳の裏に映し出すは一生ものの恋。己の全身を賭け、破れた恋。

 だが後悔はしていない。
 塚本天満による答辞、そこには惚れた女の魅力全てがあった。
 だから後悔はしていない。
 彼女の幸せに自分の入る余地がないとわかっていたとしても・・



 やがて開いた眼下ではあちこちから笑いあう人人人

 教師に抱きついて泣く生徒
 卒業生は証書を手に写真撮影
 別れを惜しむは残される後輩達


 そして拳児は

 1.俺は不良だ。お礼参りに職員室でも行く
 2.どこかで見覚えのある長えリムジンが突撃してきた
 3.プロの漫画家として仕事がある。おや校門のところにいるのは


以上、勢いでやった
28名無しさん@ピンキー:2009/05/21(木) 12:39:30 ID:Z13yaZO4
29名無しさん@ピンキー:2009/05/21(木) 15:28:13 ID:elpl7GIS
2!
30名無しさん@ピンキー:2009/05/21(木) 21:55:11 ID:AdP3cGrc
2 を頼もうか
31名無しさん@ピンキー:2009/05/21(木) 23:00:13 ID:6y98lyia
2だ!
32名無しさん@ピンキー:2009/05/21(木) 23:08:53 ID:zAdmR1QQ
スクラン完結。

沢近ファンが喜ぶ展開だったな。このスレには
沢近ファン多かったんだっけ?
33名無しさん@ピンキー:2009/05/21(木) 23:16:17 ID:iuGODHmd
エロパロはエロければそれでいいって感じ
○○が多いってのはない

3でおねがいしまーす
34名無しさん@ピンキー:2009/05/21(木) 23:20:19 ID:6CMV0OZw
最終回が最終回だけに、2かな
自分が書けないのが悔しい
35名無しさん@ピンキー:2009/05/22(金) 09:26:50 ID:VqYKUv5Z
>>27
1
36名無しさん@ピンキー:2009/05/22(金) 12:45:19 ID:TaB1pdff
2・・・を自分も書いてみていいですか?
37名無しさん@ピンキー:2009/05/22(金) 18:40:08 ID:F/ZI4HBG
横からそれはどうよ
38名無しさん@ピンキー:2009/05/22(金) 20:36:38 ID:DaW8LYlF
>>37
いいんじゃね
もとより27描くなんていってないし
3927:2009/05/22(金) 22:31:20 ID:ZhlttngS
おおこんなに・・2が多い&旬のネタのようなのでとりあえずそれを。
1レスか〜やっぱりもう過疎に〜まあそれでもと3に手をつけていたのは秘密。こっちはまた後で。
自分のネタが他の人につないでもらえるのはとても光栄ですが、内容がかぶったらごめんなさいです。

SSはホントひさしぶり、エロは過去数えるほどしかやってないんで微妙だと思いますが頑張ってみる。
40名無しさん@ピンキー:2009/05/22(金) 23:24:04 ID:ZhJX6eLj
おおっ!
41名無しさん@ピンキー:2009/05/23(土) 09:18:12 ID:/sorpIIO
ワッフルワッフル
4227:2009/05/24(日) 20:12:35 ID:pwkwzuS6
>>27の2ルートでのお話です。
念のため確認しておくと、これは旗展開となります。
本編やZと矛盾したり作者解釈のオリ設定が入りますが、そのあたりは緩い目で流してもらえれば。
んでは、やっぱり作者の力量の底が見えるような話ですがどうぞ。
43名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 20:13:04 ID:pwkwzuS6

 そのとき拳児の耳に入ってきたのは大型の肉食獣のような咆哮音。
 同時、懐の携帯が震えだす。
「ん…お嬢か。 おう俺だ。あ?すぐ来い?」
 見れば校門に見慣れた黒塗の特注リムジン。あんなものに乗る知り合いは一人しかいなかった。
「ったく。落ち着きのねえ女だぜ」

 言葉とともに拳児は屋上を後にする。桜はまだ空を舞っていたが、もう誰の瞳にも映ってはいなかった。


「播磨様、ご卒業おめでとうございます」
「うっーす。こんな日もお勤めご苦労さんっス」
「何言うの。あんたに用があって来たのに」

 執事の中村。その息子(?)マサル。その間に立つのは金糸の少女、沢近愛理。
 鋭さと柔らかさがギリギリで同居しているような瞳が真っ直ぐ拳児に語りかける。
 同じ矢神の制服を纏いながら彼女の持つそれは年頃の少女達と比較しても明らかに異彩。
 女性をつくりや容姿で判断することを好まない拳児であっても、
 よく見知った少女の持つ、異性を惹きつけて止まない魅力は理解していた。

「これから皆で卒業パーティなのは知ってるわよね。ただ…ちょっと……あの」
「…わかった」
 愛理の細い指が拳児の袖を引く。歯切れの悪い態度に少し思うところがあって拳児はそれに従った。
 その当たり前のような流れに周囲の生徒達による雑音はざわっと一層強くなる。
 やがて再び、重低音。リムジンは校門を抜け桜並木を跳ねていく。
 名残を惜しむ間もないまま、三年の日々がこもった母校はあっという間に背後へと流れて行った。
44名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 20:14:05 ID:pwkwzuS6


 どれだけ精を込められ整備がされても機械というものは年月と共にきしみが生じる。赤信号を前にして短い制動が拳児らを揺らした。

「で、どうしたお嬢。何かワケアリなんだろ。あれか、許婚ってのか?解決したんじゃなかったのか?」
「……」
 ブレーキを機に、拳児は誘われた時の違和感を口にした。車内を流れていた高質の音楽が声に反応するように音を落とす。
 広い車内にも関わらず隣に座る愛理以外が知る、顔に傷を負った狂犬の反乱。拳児は己の手が下る余地もなかった事件を思い返しながら反応を待った。
 だが当の本人は珍しく物静かな表情を崩さない。熱でもあるのか頬が少し赤みを帯びているようにも見える。
「若旦那……もとい播磨殿、喉はかわいておりませんか。さ、マサル」
 そして珍しくナカムラが会話を遮るようにマサルに指示を出す。
 沢近家で普段から愛飲していた高級酒。酒といってもアルコールは含まれず、便宜上そう呼ばれているだけである。
 子供が夜会などに出席したとき、家の品格を落とさないよう、大人の雰囲気を演出するために扱われているに過ぎないものだ。
 オウ、と普段どおりの返事をしてマサルから杯を受け取り播磨は一気にそれをあおった。

「――ぬあ!?」

 これは違う。拳児は思った。香りや色は同じだが舌の上での味がまるで違うのだ。
アルコールを直接喉奥に流し込まれたように食道が締めつけられる。とたんにやってくる急激な眩暈。
最後の記憶は、昔見たテレビ放送・・・注射器一本で一秒かからず人間が気を失う映像。そして

「……南アマゾ …秘境……以前から摂 ……お嬢様の香水…共に…………しないと禁断 状」

不吉な言葉が脳裏を横切っては消えていった。


   ◇   ◇   ◇


「オイ」「何よ」「何だこりゃ」
「何言ってるの、ヒゲが急に眠っちゃったんでしょ」
「奇遇だな、俺も急に眠らされた覚えがあるぜ」

 目覚めた拳児が見たものは屋根つきベッドの屋根の裏だった。要するに愛理の部屋の中でフツーに寝ているのである。
 風呂に入った後のように肌はさっぱりとしていて、着ている服は学生服ではなく、肌触りのいい毛皮のガウン。
 視界は薄暗いが愛用のサングラスの存在を感じない。今の部屋自体の明かりがほとんどないのだ。
「ナカムラがちょっと間違えたみたい」
「あのオッサンの仕事は完璧だって以前聞いたんだが」
 上半身を持ち上げて部屋を見回す。なるほど、電気はなく数時間は持ちそうな長めのキャンドルが三本テーブルの上に鎮座していた。
 そしてその隣に座る愛理の姿に拳児は目を丸くした。首から上はいつものツインテールだが・・てるてる坊主?
 一輪の大きなバラの刺繍が与えられたシルクのケープ。首から下の全てが薄手のカーテンに隠されている。奇妙な格好だ。
「全く、もう日付が変わったところよ。本当は卒業パーティがあったんだけどアンタがこーだから仕方なくつきあってあげてたの」
「おいィ!?いつにも増して強引すぎんだろ!」
 拳児は叫んだ。だが。
「あら、不良のくせに楽しみにしてたんだ。……仕方ないわね、今からでよければお祝いしてあげる」
 綽々とした態度で拳児の隣に愛理が腰掛ける。充分な広さのあるベッドは音もなく二人を受け入れた。体を拳児に傾け、愛理は僅かに潤んだ瞳で上目遣いに呟く。

「お祝いよ。私を…あげる」
45名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 20:14:50 ID:pwkwzuS6

 整われた愛理の睫が数えられそうな距離。寝起きの意識に深く入ってくる彼女の香。拳児自身がこの一年で意識するに至った美貌の髄。
 そして発した言葉の意味するところが分からないほど拳児は子供ではない。
「……馬鹿野郎」
 それでも拳児の第一声はそれだった。今まで攻めの姿勢を見せていた愛理の表情に影が差す。
「…強引すぎたかしら。ごめんね」
「おお、大馬鹿だ」
 ごめんね、と愛理は再びより小さな声で侘びる。だが……拳児は少しずつ紅潮しながらも、続けた。
「日本にゃ二度あることは三度あるってことわざがあるんだよ。…また家の事情で大変なことになったと思ったじゃねーか。
 ホントてめーは大馬鹿だ。………心配、させやがって」
「あ…」
 愛理の心と頬に赤みが差す。それは自然に生まれた嬉しさだった。何でこのヒゲはこんな嬉しいことを言ってくれるのだろう。
 中村達との打ち合わせでは断られた場合に備えた仕掛けは多くあった。だが…もうそれはいらない。
 それだけ想ってくれる相手に打算はいらない。ありのままの自分をぶつければそれでいい気がした。

「ごめんね。本当にごめん。でも本当にもう大丈夫だから」
「なら…んな似合わねえ顔、してんじゃねーよ」
「だったら聞かせて。 私を……もらってくれる?」

 拳児と愛理は双方に見つめあう。二人の呼吸は止まっていて互いの瞳の奥を見ていた。
 その中にあったものはすれ違いと誤解を繰り返しながら、接触寸前まで近づいていた二人の距離。そこに至るまでの思い出。
 この後の展開が予想できてしまっていた。2年間の積み重ねが輪郭を描く。

「……悪かねえよ」
「え?何何聞こえない」

 ――何度も何度も聞きたいから。

「悪くねえよ」
「よく聞こえなかったわもう一度」

 ――はっきりとその瞬間を覚えておきたいから。

「悪くねえって!」
「日本語が分からなかったわもう一度!」

 ――本当に自分を愛してくれる人なのか教えて欲しかったから。

「もらってやるっつってんだ!」
「誰を!天満?それとも八雲?」
「お嬢以外にいるわけねーだろーが!」

 変わらないものはないと信じ続けていれば、いつか来ると思っていた日。
 瞬間、愛理は拳児の腕の中に飛び込んでいた。
46名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 20:15:49 ID:pwkwzuS6
「だったら…行動で示してよ。男でしょ」

 目を瞑る愛理に拳児は思う。これだ。この女はいつもガンガン突っ込んできやがるくせに突然しおらしくなりやがる。
 そーいうのがどうにもこうにも俺の心に……そして気付けばその顔を見てしまうのだ。

 そして――とうとう二人の距離はゼロになり、至福の一時が訪れた。


   ◇   ◇   ◇

「んっ……!」

 愛理の表情にほんの少し怖気づくような色が混ざる。肩に置かれた手。触れた唇。これから起こることへの不安。
 だがそれが逆に拳児の感情を燃え上がらせ、そしてわずかに潜む女を扱うことへの憂慮をかき消した。
 やや大きめに口を開き、全てを食べてしまうようにして唇を覆う。
 もごもごと本能で抵抗を見せる愛理の口内に強引に舌を突き入れた。
「……!」
 ぶるっと震える彼女の肩を拳児はより強く抱いて、唇といわず体全体を押し付ける。見つけた小さな舌の先をつつくように絡めあう。
 くちゅ、くちゅり。やがて水が交わる音が二人の間から漏れ出した。
 愛理は初めての口付けに息苦しさを自覚していたが、それ以上の幸せの前には呼吸をすることすら些事に過ぎない。
 こんな行為を人前ではできる人間が本当にこの世にいるのか信じられない程に、嬉しすぎたから。
 キスをする時は目を瞑るべし。それはムード云々ではなく、全ての神経を今最も熱い部分に集中させ愛する人間の存在を感じるためだろう、と知った。
 そして――自身の上半身、首より下。二つのデリケートな部分に男の手の存在を覚える。
 オーダーメイドのダイヤモンドケープは透けて見える程に生地が薄い。肌を直接触られることの違いも慣れなければわからない程に。
 本来は下着代わりにつけるようなものではないこれを選んだのは背水の覚悟と失望させない上品さとの兼ね合いだった。
 しかし愛理は撫でるような指先を感じた瞬間、0.1ミリ以下のシルクに感謝した。
 痺れが奔ったのだ。もし直に触られていればそれだけで体が動かなくなってしまうような刺激が。
「っ…ぁ…」
 恥ずかしさに顔がますます上気する。我慢できず目を開いてしまった。与えられた愛を拡散させるような行為に申し訳なく――
「――ア、アンタ何してるのよ」
 あろうことか目の前のヒゲ男は自分より先に目を開いてしまっているではないか。しかし。
「いや…なんつーかその。悪ぃ」
「歯切れが悪いわね。はっきりしなさい」
「いや実は…お嬢がキレイで可愛いくてな、つい」
「あっ――!」
 ドクン、と高鳴るのは体の奥にある肉の淫炉。自分の中央が震えて熱を帯びるのが伝わってきた。
「あ、ぅ…バカ。慣れない事言わないでよ…すごく、キュンってする……でも、ありがとう。大好き」
「俺もだ。んじゃ、続きすっか」

 結局、会話にもならぬ会話であった。
 けれども愛理はすっと肩の力が抜けていくのを感じながら、額をこつんと厚い胸板に寄せる。
 そしてこれからの行為が自分達の新たなはじまりと自覚して、余計な先入観や知識を忘れ彼の全てを受け入れようと思うに至った。
 拳児も同じであった。愛理の纏う薄布を苦戦しながら外し、徐々に露になる女の部分。愛理は下着もつけていなかった。
 晒される肢体に感動を覚え、自らも与えられていたガウンを脱ぎ捨てながらに考えていた。
 気付いたのだ、このお嬢様をどんな不安からも守ってやりたい。彼女が喜べば自分も嬉しい。
 それはまぎれもなく愛なのだと。ならばそれを今度こそ男として守り通すのみ。
47名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 20:16:31 ID:pwkwzuS6
 愛理の裸体を組み敷くように覆いかぶさる拳児。返事より先に喉が鳴る。雄の熱い視線が守るもののない肌に突き刺さる。
「どう……かな」
 平均よりワンランク大きい程度、おそらく彼女が理想とするサイズに保たれた胸。先程に触れたばかりの先端はやや隆起を見せる。
 過剰な脂肪も筋肉もつかないよう、時間と努力の痕跡が見られる整ったウエスト。
 両手の指先が重なって隠されているのは最も女性を象徴する部分。全てが淡いキャンドルに照らされて、一際美しく眼に映った。
「すげえ綺麗だ」
「! …ありがとう」
 愛理には夢があった。いつか目の前に自分を愛してくれる男が現れてくれる夢。
 家柄と出生の事情からそんな望みはない――いくら自分を磨き上げても現実は残酷で、それはどこかの権力者への供物でしかない。
 そんな影を引きずりながらも育ってきた自分の女としての体。それを綺麗だと言ってもらえて愛理はとてもとても嬉しかった。
「……ヒゲ。私を、抱いて」
 だからこそ、全部を見て欲しい。全てを知って欲しい。愛して欲しい。
 拳児の手が胸の上に伸びる。けれどそれは愛の理由。愛される理由。そう思うと負の感情は微塵もなかった。
「…っ……あ…ぅ…」
 ぐに、ぐにとむき出しの乳房の形が変えられる。左右の手は器用にも別々の動きをして異なるリズムで心臓へ刺激を送った。
 愛理は反射的に体をくねらせるが、ややエビ反りの背が胸を張った体勢に繋がってしまい拳児へのより強い誘惑と化す。
 クレーンのように動く太い指が乳輪をなぞり、くすぐるように這い回る。
「ンっ…そこ……や、はっきり…して」
 円を描くように中心に向かえば、愛理の甘い声が加速する。そして到達するより前に指が止まれば、ねだるようなものに変わる。
「あ…あぁ……もうっ」
 何度ももどかしそうに身をよじる愛理。やがて拳児は確かな柔らかさから指を離し、硬く尖った箇所に顔を近づける。
 ふと思った。じらしているいのはお互い様だ。こちらとて、自身を解き放ちたい欲望と必死で戦っているのだから。

 ―――じゅるっ

「ひゃんっ!や…吸っちゃ……」
 もっとも、全てを委ねようとしてくれている彼女が、先に進んでも苦しい思いをしないようにするための愛撫。
 その行為が苦痛であるはずもないのだが。

「は……は…うぁ。だ、め……ら…め」
 音を立てないで。恥ずかしい。愛理はそう続けたかったができなかった。ちゅ、じゅる、じゅるる。
 二番目に敏感な部分が大きな口に食べられて、たっぷりと喜びに震え、破廉恥な調べに繋がってしまう。
 舌に転がされた先端はピリっと痺れて、唾液に濡れた部分が空気に当たれば冷たくて、指で絞られるようにされる部分は熱い。
 そしてその全てがキモチイイのだ。ドクンドクンと高鳴る胸のポンプに反応するように、一番目に敏感なトコロから何かが溢れてくる。
 その正体を考えるだけで羞恥を覚え、それも受け入れて欲しいとより強く願うのだった。
48名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 20:17:03 ID:pwkwzuS6


  ◇  ◇  ◇

「あっ……う、や、やっぱり濡れて……はぁっ…ん……ふあっ!」

 少女の美声、毒が回ったような苦しい息遣いがこだまする。混じった愉悦が隠し切れず、耐えることなく反響する。
 双丘をなぞっていた手は一本になっていた。そして片手が――開かれたばかりの、けれど蜜に溢れた敏感な割れ目に添えられていた。
 一本の指で透明なバターがかき回されて、クチュクチュと泡立つ淫水の音が糸を引き拳児と愛理の興奮を高める。

「ふぅんっ……! ちょ、ちょっと…やめ…!」

 拳児が愛するのは乳房や乙女の森、奥の泉だけではない。首筋に息を吹きつけてみたり、耳を撫でたり。
 まだ奥までは見ていない処から落ちる雫を掬い上げて、糸引くそれを口に含ませてみたり。
 愛理が先程から体をいやらしくくねらせるだけなのとは対照的に、拳児は両手や体を幅広く使って愛理を愛していた。
 その行為に愛理はプライドで持って抵抗しようとするが、一度流されてしまえば易々と白旗を掲げてしまう。

「はあっ!……ヒ…げ。わた、私……もう…」
「…見せてくれ、お嬢の全部」
「! また…そんなことっ……あっ……あぁ………はあぁっ!!」

 引き金となった言葉に背筋がぴんと伸び、体が強張り、甲高い声。あえて避けられていた肉芽が指の腹にぐぐっと押し込まれる。
 姫貝への刺激が強く強く加速して、飛翔させまいと支えていた意識を弾き飛ばした。
「ダメ、だ……あ、ああああぁ――っ!!!!」

 初めての男がどうして自分の体を操ることができるのだと――それは大好きな男には体が勝手に反応してしまうから――
 丁寧にセットしていたはずの髪を振り回し、子供がいやいやと駄々を込めるように愛理は叫びながら聖なる肉の秘口より白っぽい牝のエキスを吐き出す。
 この瞬間、彼女は初めての絶頂に達した。

 愛理の愛液のしぶきがぷしゅうと拳児の指の間から零れ落ちる。
 漏れっぱなしだった情欲の息が止まったと思うと、少女の全身は空気の抜けた風船のように脱力した。

(ま、待って……何、コレ。こんなにきちゃうの?男の人にされるのって)
 誰かに答えて欲しかったがやがて愛理は自力で答えを見つけるにたどり着く。そうなのだ。
 女にとって、愛する男に抱かれるとはたまらなく嬉しくて気持ちいいことなのだ。
 目には見えない愛という感情を確かめることができる機会。
 答えに満足しつつも視線を移すと、拳児は膝で立ちこちらをじっと見ている。夢見心地な表情のままで余韻に震える唇を動かす。

「…すごく、気持ちよかった」
「みてえだな」
 けれどこれで終わりではない。少し目線を下げると、先程から気にはなっていたソレがこちらを向いていた。
「凄い。私…で、こんなに?」
 普段のサイズを知っているわけではないが、愛理は天を突くような勢いで怒張しきった播磨のペニスを見て呟く。
 思うのは不思議な満足感とこの後の期待、何より熱の冷めない内に繋がり合いたい――ということ。
「責任…とるわ」
「何か変な言い方だが…悪ぃ、頼む。もう限界だ」
 拳児は愛理の体はそのままに、足元のほうへ移動して向かい合って腰を落とす。
 あおむけになった少女の両足を中空に開き、潤滑油に満ちた肉薔薇に自らのそれを突き出すように近づけた。
49名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 20:17:40 ID:pwkwzuS6

(見られてる……近づいてる。私の大事なトコロに)

 恥ずかしさに飛び退きたくなるが、押さえこむ覚悟はあった。あと必要なのは彼の背中をほんの一押しするだけ。
「ヒゲ…」
「あ?」
「大好き。私を――あなたのものにして」
「――くっ」
 挿入の直前、愛理は拳児に微笑みかけた。それを受けて拳児は改めて愛理の美しさに沈む。
 汗か先走りか、わずかなテカりを見せる突貫を膣口に当てて一思いに力を込める。瞬間、子宮に通じる門が左右に一気に開かれた。
「っ! あ…はぁ……入っ」
 直後、ズクンと剛直が突き刺さる。愛理は羞恥と恍惚の声はあげるも、自由な手はシーツを握り締めるばかりで目立った抵抗は見せなかった。
「あ、くぅ、あぁっ!!」
 激しい締め付けが拳児の侵入を拒む。だが拳児にとって処女の抵抗はもはや更なる高ぶりへの燃料でしかない。
 愛理の太腿を両手で掴んで引き寄せるように、また自らも深々と突き入れた。
「はぁっ……入った…全部、ナカに。ヒゲのが…全部」
 愛理の言葉にシンクロするように繋がった隙間から処女の証が流れ出る。
「お嬢…」
「だ、大丈夫…このくら…い。それより、ねえ、私って……どう…なの?」
「…俺も経験ねえけどよ。サイコーだと思うぜ」
 目の淵に涙を溜めながら気遣いを見せる愛理。拳児は今にも動き出してしまいそうな下半身を殺し、
 せめて痛みを紛らわそうと、身をかがめて唇を重ねる。
「んっ!? ん……ちゅ、んむぅ……」
 突然の不意打ちに驚くも、男の愛に応えようと愛理は貫かれながら唇を動かす。
 味わうように、味わわれるように互いに舌を這わす。先程のときよりも、時間をかけて互いの粘膜をかき回される。
 惜しみながら唇を離しても、それは息継ぎ。すぐさま距離はゼロに。再開される愛のついばみ。互いの愛を確かめ合う。

(バカぁ…こんなことされたら、ん、どれだけ愛されてるかって…逆に)
 接吻を何度も続けた後に、愛理の、外部からの異物に本能的な拒絶を見せていた部分がこれまでと違う反応を見せ始める。
 血の色が薄れて奥からの湧き水があふれ出し、硬くなっていた腰がわずかに浮いては引こうという動きを見せる。
 それを悟ったのか拳児自身も前後に運動を開始していた。

 グチュン――グチュッ!

「んっ! ふあっ……お、奥っ!!」
「お嬢…お嬢……!」
「はあっ……ヒゲぇ、あのね、痛みがだんだん………代わりに、気持ち……イイ…よ…あぁっ!!」
 背中に手を回し、熱いくちづけを交わし、隙間なく密着した体勢で互いの口の中を隅々まで味わう。
 ぷしゅ、ぷしゅう――
 下の口で拳児がピストン運動をすれば、愛理はそれに合わせるように愛液を漏らしていた。
「っ…もう一回…ううん、もっと」
「くう……お嬢、中身全部持っていかれちまいそうだ」
 拳児が堪えるような声をあげる。キモチイイのは自分一人ではない。愛理はより一層深く感じてもらおうと、体の内の緩急をきつくした。
50名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 20:18:08 ID:pwkwzuS6

「うお!? お、お嬢……それ…待て……!」

 拳児はより強い締まりを突然見せた女の蜜壺に、脳が痺れそうな快感を味わうことになった。
 元々一度も達しておらず、色々な意味でご無沙汰していた息子である。正直なところ、挿れた瞬間は暴発しそうになったのだ。
「ダメ……もう待たない。待てない。王手よ……だって私ももう……んっ! ひゃっ!!」
 切なげに目を閉じ、喘ぎの混じった言葉をつむぐ愛理。その姿に拳児は待ったの声を無理矢理封じられてしまった。
 求められていることが分かり腰の動きも再開してしまう。
「くう、くううっ……! お嬢、もう……!」
「来て…全部、私に頂戴……おかしく、なる。おかしくしてぇっ……!」

 ぐっちゅん、ぐっちゅん。ちゅぱちゅぱ。じゅくん、トロトロ。
 上下の口による旋律はクライマックスを迎えていた。
 ぶつかりあう、汗ばんだ肌と肌。
 拳児のかつてないほどに膨れ上がっていたペニス。強く脈打ちその内部に情動の塊が集う。
 愛理の膣内は雄の限界に合わせるように収縮し、幾度となく突かれた子宮口はわずかな広がりを見せていた。
 二人は互いの繋がる部分から、一つの頂点へと昂ぶっていく。
「お嬢、く…くうぅっ……出す! 出るっ! イクぜっ!」
 グワッ――
「来る、何か来る……! …ヒゲ……あ、はぁ、熱い、熱いよ、出、ああぁっ―――!」
 鮮烈な光が女の膣の中で瞬いた。互いの声に、快楽に、見せる表情に、二人は確かな愛へと導かれていく。
 子宮が白い涙を流せば、拳児の抑えに押さえ込んできた鯨のごとき欲望がそれを飲み込んだ。


  ◇  ◇  ◇

「……あ…まだ、奥でトロって……ん、やっぱり熱い。ねえヒゲ」
「あ?またかよ。ったく」
 互いに果てて、一通りの情事が終わった後も、愛理はたっぷりと注がれた子種の存在を己の中心に感じていた。
 拳児の胸板に自身の胸を乗せるように弛緩した体で抱きついて、甘えるように時折キスをねだる。
 やれやれと甘えんぼのお嬢様に呆れを見せるも、しっかりとその度に応えていた。
「んちゅ……ぷはっ。ありがとう。ねえヒゲ?」
「おいおいもう寝ろよマジで。明日ぶっ倒れても知らねえぞ」
「分かってる。けど、あのね……お願い。これからも私と一緒にいてくれる?」
「あ?」
「卒業しても、友達とか元クラスメイトとか、元許婚とかじゃなくて。ずっと一緒に…」
「…そりゃお願いじゃねえだろ」
 拳児はぴしゃりと言い切ると、少しだけ気を悪くしたように天井の仰ぎ、そこのよくわからない模様を数え始める。
 その態度に愛理は放心したように固まってしまった。
「俺が惚れた女を離すと思ってんのか?」
「!」
 愛理は泣き笑いの表情で抱きついて、最後にもう一度愛する男とキスをした。
51名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 20:18:54 ID:pwkwzuS6


  ◇  ◇  ◇

 数年の時が経過した。愛理は――かつては沢近、今は播磨という姓を得た少女は成人しアメリカの地にいた。
 腕の中にいるのは、いまや最も大切な存在。半年ほど前に生まれた我が子。
 そして隣にいるのは愛する男、播磨拳児。自分と同じほどにまで伸びた髪が風に流れる。
 今の自分が紛れもなく幸せの絶頂にいるのは間違いないし、疑う余地はカケラもない。しかし――

「納得いかないわ。ありえない。なんなのよ、いくら慣れてるからって…一体あの子は何なわけ?」
「しつけー奴だな…いい加減機嫌なおせ、な?母親なんだから寛大な心でだな」
 中古で買ったオープンカーの運転席にて。拳児は日本とは比較にならない広大な大地を走りながら必死で機嫌取りに徹する。
 アンタが悪いんでしょ、とは愛理の言だがあの事態は収まった。結果オーライではないのか?
 全く、久しぶりに友人達の見舞いと溺愛すべし我が子のお披露目に行ったというのに、何故最愛の女の膨れっ面を見なければならないのだろう。
 そんな文句をぶつくさ続ける拳児の額にあるのはまだ新しい腫れ痕。それを見ながら愛理は回想する。


『これが愛理ちゃんの子供?うわあ〜可愛い〜〜!。見て見て八雲、烏丸君!』
『うん、すごく可愛い…男の子ですか?本当に珠の様な……』

 最初は確かに順調だった。愛理にとっても昔の影を思い出させることもなく、天満とも八雲とも互いに祝福と安らぎの時間があったのだ。
 だが――慣れない大学病院の空気が悪かったのか、再会に喜んでつい赤子の存在をないがしろにしてしまったのが悪かったのかは知らない。
 愛理の抱いていた赤ん坊が突然火がついたように泣き出したのだ。
『あ、こらお嬢何やってんだ!ほれほれべろべろば〜いい子でちゅね〜』
『え?あ?ご、ごめんねつい話し込んじゃって…ほらほらお母さんよ。ちゃんと傍にいるわ、ほらほら』
 普段なら二人であやしていれば次第に収まるのだが…一向に泣き止まない。授乳の時間にはまだ早いしおむつにも問題はない。
 赤ん坊にはそういうことはよくあるし自身も経験しているが、これほどに手がつけられない事態は全くの未知。
『任せて愛理ちゃん! ほらほらお母さんとお父さんがいる、だめだよボク。あ、名前なんていうの?』
 医者となっていた天満も持ち前の笑顔で奮闘するも空回り。ピコピコを動かしても効果はゼロ。
『…お嬢が怖いんじゃねえか?よっしゃお父さんに任せな! ほれほれ泣くな、びろ〜ん……なんてこった泣き止まねえ!』

 そして強引に赤ちゃんを奪ったこの男は、馬鹿面のままとんでもないことを言い出したのだ。

『…妹さん頼む!』
『あっ…は、はい!』
『え?ちょっとだめよ今は泣いてるんだから……え!?』

 ねーんねーん…ころーりよ…おこーろーりーよ…ぼうや〜はよいこ〜だ…ねんね…し…な……

 歌だった。日本の歌。無論、自分だって歌はよく聞かせる。しかし八雲の高らかな声、美しい唇に乗るのは確かな愛。
『……泣いたらだめよ。あなたは多くの人に祝福されてる。素晴らしい人達の子供。それに男の子なんだから、ね?』

 縦に抱きまだ全て見えないはずの瞳を見つめて、初対面の幼児に慈愛でもって接する八雲の姿には正直愛理すらが目を奪われてしまった。
 既に号泣どころかとびっきり機嫌がいいときの笑顔がそこにはある。

『すごーい八雲!どこで習ったの?あ、そっかサラちゃんのトコでいろんな歳の子のお世話してるんだもんね!』
『さすが妹さんだぜ。それに比べぶべらっ』

 確かに――すごい。しかし、それとこれとは話は別。数年ぶりのはずの足技は衰えどころか更なる冴えを見せていた。ゴキッ。

52名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 20:19:24 ID:pwkwzuS6

  ◇  ◇  ◇

『ウチの母親っていつもガミガミ説教ですぐ怒るし、厚化粧で誤魔化してるけどホントはシワだらけ。腹の肉も気にしてるんだぜ。
 けど口と手の出る早さだけは年々成長して親父も形無しでよ〜その点八雲姉ちゃんはいいよな〜
 一歳違いなんて信じられねーくらい綺麗だし遊びに行くといつも優しいし。独身なんだろ?俺、中学になったら家飛び出して絶対』

「ま、待ちなさいっ!!」

 悲鳴とともに跳ね起きる。遅れて束ねた髪が弧を描く。肌に吸い付く滝のような汗。愛理は気付けばホームにいた。
 まだ息吹を感じる自然の香り。少し動くだけで音を立ててしまう粗末なベッド。太いがやや曲がった柱。
 十代の頃に住んでいた所とは比較にならない小ささだが、愛理は逆にそれが気に入っていた。
 充分な自由を不自由のないだけの資産と引き換えにして父方の家を抜け、
 絵描きをする拳児と自分がCAとして働いていていた時期に溜めた貯蓄とで購入した年代ものの一戸建て。
 日本と違い、州を選べば「買うだけ」にそれほどの大金は掛からない。もっとも"T"の力添えあってではあるが。

 家具などの住むために必要な品々は子供が増えて買い替えの多い花井夫婦から譲ってもらえばある程度揃う。
 赤子の養育に掛かる費用は時折届く謎の仕送りで賄っていた。
 『自由は認めたが、孫を愛する権利の剥奪は許していない』添えられた一文である。
 おかげで、拳児の稼ぎはあまり多いほうではなくとも贅沢さえしなければなんとかなっていた。

「うるせーなお嬢……コイツが起きるだろうが。まだ気にしてんのかよ…ったく」
「あっ…わ、悪かったわよ」

 記憶を探る。そう、例の出来事から帰宅したらすぐに自分は寝入ったのだ。安らかに眠る子を抱きしめながら。

「あのよ。あんまり不安にならなくてもいいんじゃねーの?」
「え…」
「……俺はよ。俺は、お前がいい母親になったと思ってる。ほら見ろよ。
 こいつはホントよく笑う。愛されてるってのが、”ママ”も言えねえのによくわかってるじゃねえか」

 播磨の言葉と抱かれた我が子の表情に愛理は少し頭が冷えた。そして悟る。気にしすぎていたのは自分だけだったのだと。

「わ、わかってるわよ。別に……問題があるわけじゃないの。ただちょっと驚いちゃっただけ」
「は?わけわかんねーがまあ、分かったならいーんだよ」

 そう。不安なんて何もない。困難があれば二人で乗り越えていけばいい。
 私はこの子を全力で愛しよう。広い家で一人待つこともないように。親にさえ本当のことを言えない思いをしないように。
 友達に囲まれて、いつか私達のように恋をする日が来るように。
 人を愛し、愛され、理不尽に立ち向かい、自信を持って笑っていられる強い子になるように。

「ねえヒゲ」
「ん?」
「大好き。これからも一緒に頑張ろうね」
「オウ……って、んだよ、今更」
「えへへ」

 二人ならきっと大丈夫。この男ならきっと全てから私とこの子を守ってくれる。愛の確かさ、その理由を教えてくれる。
 愛理は我が子に申し訳ないと思いながらも、横たわったまま目を瞑り、新しくそして幸せな未来に想いを馳せた。



おわり
53名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 20:20:20 ID:pwkwzuS6
・・・まあ、あれですが、こんな感じで。
ライトエロコメっぽいのを目指そうとしましたが無理でした。
お目汚し失礼ー
54名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 21:08:58 ID:Id+kOmqC
なにがライトエロコメだ!>>53
ヘヴィラブエロでいいじゃないか!素晴らしい!

やっぱりお嬢と播磨はいいな
どっちも可愛すぎる
GJ!
55名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 21:10:10 ID:q2NkZDQJ
>>53
乙です
なんか希望があるのか否か未来像は現実的ですねw
56名無しさん@ピンキー:2009/05/25(月) 14:16:58 ID:9m8GTdEd
引いた
57名無しさん@ピンキー:2009/05/25(月) 18:56:08 ID:TMzi+Ehw
保管庫はやっぱり更新されんのか?前スレの作品も収録されてない
これから最終回記念の作品が増えるかもしれないのに惜しい
58名無しさん@ピンキー:2009/05/25(月) 20:59:33 ID:hBCegtc2
増えるか?少なくとも、SS書こう! なんて人はどんどん抜けていったわけで
そういう人らは抜けても戻ってこない

>>53
そんな中で乙
エロ苦手ならIFスレでもいいと思うよ
59名無しさん@ピンキー:2009/05/25(月) 21:12:33 ID:XdgjSK4D
保管庫管理してる者です。
更新しました。
http://www31.atwiki.jp/kokona/pages/1.html

いちおう抜けはないと思うのですが
あったら指摘よろしくです。


あと>>53のお嬢ネタ、大好きです。
>>27の3.のハナシも読みたいなあと個人的には思ったり
60名無しさん@ピンキー:2009/05/25(月) 23:57:51 ID:69feQkBc
保管乙
元気そうで安心した

1、3も読みたいもんだね
61名無しさん@ピンキー:2009/05/27(水) 18:19:55 ID:tcdXDA+l
塚本家お泊りで播磨が突撃したときホントに八雲が寝ていて
それを天満が覗き見して一人で・・

っつー話あった気がするんだが収録されてない?ジーとかそういうタイトル
62名無しさん@ピンキー:2009/05/28(木) 17:35:23 ID:43Mjgsd4
70p程書いてたタイゾウ氏が鬱で完結させれないそうな…。
63名無しさん@ピンキー:2009/05/28(木) 19:16:34 ID:xD611/HT
マジで?リアルで何かあったんか
氏のSSは好きだからなんとかして立ち直って欲しいなー
64名無しさん@ピンキー:2009/05/29(金) 07:43:45 ID:UZTmtIRr
ユカラカキ氏の作品って全部保管庫にある?

屋上でヤるってのが見当たらない。実は未発表?
65名無しさん@ピンキー:2009/05/29(金) 22:57:38 ID:6/2glHRU
古いほうにコテなしで書き込んだ奴があったような。
66名無しさん@ピンキー:2009/05/30(土) 10:24:32 ID:u9Jl2HQj
14スレ目の始めの方に「屋上の小悪魔」って名前であった。
知らんかったからありがたいぜ
67名無しさん@ピンキー:2009/05/31(日) 22:38:48 ID:HgWo7kKg
アソミコを読みたい!
職人さんお願い
68名無しさん@ピンキー:2009/06/01(月) 23:46:14 ID:dR6iqEP1
今のまとめウィキに今までの作品を全部うぷすれば全て解決・・・?
69名無しさん@ピンキー:2009/06/03(水) 06:35:49 ID:UJAaoNPu
てs
70名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 23:40:53 ID:V6MReRVl
ユカラカキ氏ってスクラン以外なんのエロパロ書いてたんだろう?
71名無しさん@ピンキー:2009/06/05(金) 08:35:15 ID:8ZjamS4F
>>70
検索かけたら普通にボーカロイドの百合モノとか出てきたけど
72名無しさん@ピンキー:2009/06/05(金) 12:40:36 ID:1wS0DZT2
ボカロは結構書きやすいよね
キャラ付けもある程度は自由が利くし

ただあそこの住人もカプやキャラで色々と好みが激しいのがめんどくさいが
73名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 12:15:46 ID:r8Ml7Eoz
ボカロにカプがあったのかw
全く知らなかった
74名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 15:08:53 ID:xWrEaCNa
カイトがスクランで言う播磨的立ち位置だったんだけど
がくぽが入ってきて話がややこしくなった
75名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 23:20:41 ID:c18L/0sI
最終巻そろそろ出るけどそこが最後の盛り上がりになるんだろうかね。
76名無しさん@ピンキー:2009/06/07(日) 16:37:51 ID:DiyBEwOZ
おにぎり成立、Hもありの甘々の日々が続く
しかしある日播磨は沢近の許婚の用事で家を留守にする
そこへ申し合わせたように悪漢達がやってきて八雲とサラを…


・・というようなバッドエンドな話はあり?
77名無しさん@ピンキー:2009/06/07(日) 23:33:09 ID:DeX44leG
結局沢近が一番人気あったって事なんだろうかね。
78名無しさん@ピンキー:2009/06/07(日) 23:55:35 ID:kV6iu1It
>>76
人によるかと
俺はNTR苦手だけど好きな人は好きだからなぁ
79名無しさん@ピンキー:2009/06/08(月) 03:45:57 ID:gPbFW7DQ
>>76
それだけはやめるんだ
俺はレイプものも好きだが、嫌いな奴はけっこう多いだろう
スクランってキャラに入れ込む人多いし
旗SSの場合でも、播磨とくっついた沢近がショーンにレイプされようもんなら、俺以外の旗はたぶん怒るw
80名無しさん@ピンキー:2009/06/08(月) 03:46:47 ID:EIMgon/h
>>76
NTR警告書いとけばOKじゃね?
81名無しさん@ピンキー:2009/06/08(月) 07:32:30 ID:C3ecv5Ig
NTRっつーか陵辱じゃないのかそれは・・
沢近だとウツになるけど八雲はそういうのが似合う面もあるから困る
82名無しさん@ピンキー:2009/06/08(月) 14:06:50 ID:viwRImju
キャラ関係なしに受けてによるって
83名無しさん@ピンキー:2009/06/09(火) 00:57:28 ID:DZxi+rsf
>>76
投下なしよりはあったほうがいい。つうわけで期待
84名無しさん@ピンキー:2009/06/09(火) 07:25:40 ID:IfEIt3d0
○○なんだけど〜っていうので続いた話は見たことがない
少なくともこのスレでは
85名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 01:17:01 ID:63bGiuuY
27の3ルート・・すいません
書いてるうちに量が・・そして天満も入ってきた・・
86名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 01:33:08 ID:WTHTZgS6
>>85
いいぞ
やっちまえ
87名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 08:25:05 ID:t3F139pk
>>85

期待してる
88名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 10:44:38 ID:R340/9Bd
原作って
結局沢近とくっついたの?
89名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 11:40:33 ID:0s5QiKoz
お嬢との赤ん坊を天満と烏丸に見せに行ってる
90名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 21:54:55 ID:EfJyntMm
>>85
それは天満ルートありなのかそうでないのか気になるところ

エロい塚本天満さんてめったに見ないから…
91名無しさん@ピンキー:2009/06/11(木) 13:29:09 ID:EaeL8Oba
絶望した!
八雲の子供でないことに絶望した!!
92名無しさん@ピンキー:2009/06/11(木) 18:45:58 ID:CY3UKvs9
そういうSS書けばいいじゃない
9327-3(おにぎりルート):2009/06/12(金) 01:20:41 ID:W3tAuF2n
 ベースはおにぎり。したがって播磨×天満はないです、期待された方すいません。
 あやうく姉妹丼になるところでしたが、Z最終回直後なので烏丸の存在もありなんとかおにぎり+天満で。
 しかし物語の都合上、播磨→天満やHシーンで天満×八雲も若干あり。 
 なのでそういうのが苦手な人はスルーしてもらったほうがよいかと。
 または 27-3(おにぎりルート) ←これをNGに。

 あれこれ説明くさいのも何なので、エロなしの序盤をどうぞー
 例によってオリ設定・解釈がありますが温かい目で流してもらえると。
9427-3(おにぎりルート):2009/06/12(金) 01:21:35 ID:W3tAuF2n
>>27の続きです)


 校門一帯に広がるのは生徒達の海。
 拳児の視線はまるで彼らを沈みかけの夕日を見るように静かだった。
 悲しみと喜びが混ざる浮かれた熱気――彼ら程のものは今の彼にはない。
 羨ましいわけではないが、この学校に残すものが何もないようにも思う。それが拳児には少しもったいない気がした。

 名も顔も知らぬ彼らを右に左に流すと、やがてよく知る相手を見つけてしまいせわしなく動いていた目の筋肉が緩む。
 屋上からでは人間が小指より小さく見えてしまうが、拳児にとってはそれでも足りた。
 (あれは…妹さんか。驚いただろうな〜天満ちゃんが突然出てきてよ)

 塚本八雲。"親しみやすい漫画仲間" "お世話になってる大家さん" "愛した女の妹" "年下ながらしっかりもののアシスタント"
 拳児が彼女を形容する言葉は多々あれど、最も簡潔かつ多くの意を擁し、本人もしっくりくるのは”妹さん”以外にない。
 同じ家で暮らしたこの一年、播磨拳児としても漫画家ハリマ☆ハリオとしても一番多くの時間を共有した少女。
 なので拳児はあまり八雲に後輩という印象をもっていなかった。むしろそんな枠には収められない。
 そしてそれだけのつきあいがあったからこそ、それにしても…と素朴な疑問を抱く。

 (どーいうこった?天満ちゃんは一緒じゃねえのか?)

 確かこの後はメルカドを貸し切っての卒業パーティが予定されていたはず。
 参加予定は…ない。主役は塚本天満と烏丸大路なのだから。こんな男が顔を出しても邪魔なだけである。
 話を八雲に戻す。二人の一時帰国は元2-Cのみが知り得たトップシークレット。家族とはいえ彼女にすら秘中の秘。むしろ最もサプライズ。
 一年ぶりの再会に一緒にいないはずがないのだが。
 
 周りを見てもやはり記憶にない顔ばかり。ふいに――彼女がこちらを向く。
 拳児は八雲のほのかに赤みを纏った眼に見つめられた気がした。だが間には簡単には気付けないだけの距離がある。
 まさかと試しに手を振ってみれば、八雲は照れくさそうに腕を振って応えていた。
 どうやら本当に見つかってしまったらしい。
 (…ま、会ってから話すりゃいいか。さーて色んなモンが終わったし、考えてたネームもまとまってきたところで――うおっ?)
 
 少しは卒業生らしいことをして帰るとしよう。そう考えて拳児が入り口に向かおうとした時、それは起きた。

 ビュウッ
 
 冬の厳しさを思い起こさせる風音、真昼の奔流に拳児は思わず振り返る。
 目の前にあったのは春の嵐。桜色の花びらを中心として辺り一帯全てをグルグル巻き込み天へ天へと飛び立っていく。
 無意識に拳児は空のどこかに桜が残っていないか必死に追ってしまっていた。
 やがて全てが手の届かない彼方に消えて、残ったのは立ち尽くす彼のみであった。

 (何やってんだ俺……終わった。終わったんだよ俺の恋は……そう。後悔してねえ。なら未練もねえ…満足…だろ?)

 それは思い込みなのか、思い込もうとしていただけなのか。このときの拳児には自分の気持ちに判断がつかなかった。

 脳裏にある彼女の残照を振り切るように、その妹のところへ拳児は階段を三段飛ばしで降りていく。
 いつものように携帯電話を使えばいいことなのだが卒業式にそれは無粋というもの。
 拳児は一分とかからず靴裏を大地につけ、あちこち歩き回る元気のいい後輩達をかき分けながら、八雲の元へ急ぐ。
 再び目に留まった彼女は幸いにも屋上で見た場所から動いていなかった。まるでたまたま見つけたのではなく、最初から待っていたかのように。

 口を結び、ただ桜の木の下で空を見上げているだけの少女。人に溢れる世界の中、しかしその手の届く範囲には誰も居ない。
 遠くを見るような憂い気な目元に、かすかに染まった頬。切れ長の、けれど女性らしい優しさをたたえた、見る者を戸惑わせる朱の瞳。
 鮮やかな一枚の絵のようなその存在が、不良者とは別の近寄りがたい空気を生んでいるのだ。
 拳児は思う。誰が最初に呼んだか知らないが、"春の女神"の二つ名は伊達ではない。彼女が自分に近しい存在だということが照れくさい程に。
 そして桜の香りの中で二人は今日初めて出逢った。

9527-3(おにぎりルート):2009/06/12(金) 01:24:01 ID:W3tAuF2n

 「播磨さん……ご卒業、おめでとうございます」
 「ありがとな。妹さんのほうこそいい送辞をサンキュ」
 女神の領域に踏み入った。お決まりの文句が拳児を少し照れくさくする。嘘や世辞が混じらないからこそ余計に恥ずかしい。
 「いえ。姉さんと……多くの先輩達のおかげです。私一人だったら」
 「それそれ。驚いただろ?実は俺もメガネから話聞いたのは最近なんだがよ。いや〜妹さん勘が鋭いからな。
  顔合わせてばれねーよう、夜遅く帰って朝早く出て来いって言われてな。しんどかったけど、まあ我慢した甲斐あったぜ」
 拳児は秘密をそっと漏らすような気分で影の苦労を説明する。八雲は一つ一つを頷きながら聞いてくれた。

 「はい……今日まで内緒にしてもらっていたと、姉さんに聞きました。本当に驚いて…けれどとても嬉しかったです」
 その反応に拳児は満足し、そして疑問が戻ってくる。天満といえばこの子は何故
 「八雲君! それに播磨!」
 …機を逃した。
 
 「あ…花井先輩。おめでとうございます」
 「ちっ、メガネか」
 賑わいを見せる正門前でも一際太く通る声。二人は揃って振り返った。
 八雲は例によって祝福の言葉を口にし、播磨も一年前よりは成長した態度を保つ。

 「播磨、いつの間にか消えたと思ったらこんなところにいたか。
  後始末までこなしてこそ僕達の卒業式だと思わないのか? まあいい…僕も少し抜けてきた身。
  さて! 遅れてしまったが八雲君、君もよく頑張ってくれた。ありがとう」
 「いえ。先輩こそ、ご立派だったと思います。私も本当に多くのことを教えて頂いて…」

 割り込まれた形にはなったが、二人にも話があるだろうと拳児は一歩だけ見えない輪の外に出る。
 それにしても八雲と花井がこのような……生真面目な先輩後輩の関係を築き上げるとは。何度見ても拳児はミステリーサークルを見るような顔になってしまう。
 「あの…姉さん達のことは花井先輩が?」
 「ふむ。先生方には建前でそう言ってあるが、実際は違うな。…元2-Cのほとんど全員だ。誰がということはない」
 変われば変わるものだ、と拳児は一年前には見られなかった光景に感心していた。

 きっかけは何だったのか?やはり八雲が学級委員に立候補を経て就任したことだろう。
 そして現役かつ経験者である花井に八雲が教えを請う姿はまれに学園内で目撃されていた。
 意欲を見せる彼女だったがサラでさえ当初は応援しつつも不安混じりであったし、拳児も同じであった。しかし当の本人が頑張ります、と言えば信じるしかない。
 だが不安は覆され、現2-Dはかつての2-Cほどではなくとも学校行事で優秀な成績を収め、最終的に八雲個人は在校生代表に選ばれるまでになっていた。
 努力の賜物であろうが、花井の影響をゼロと見るのは難しい。結果の度に拳児はライバルのことを認めるようになっていた。
 今思えば喧嘩する機会も減っていったのは単にクラスが違っただけではないだろう。

 「誰一人欠けても嫌だとその場の全員が考えていた。まあ、その集まりに播磨はいくら言っても来なかったがな」
 「そうだったんですか…」
 「い、いやそれはだな、その。俺は天…お姉さんや烏丸と顔合わすのが気まずかったってわけじゃ決してなく!」
 せっかく格好よく決めているのに白い目で見られかねない話をされて、俺は忙しい漫画家だからよ、と拳児は慌てて取り繕う。
 わかっています、と八雲は一瞬間を置き安心させるように頷いた。
 そこからの話は拳児を巻き込む形で一度過去へと遡り――やがて今日へと再び戻っていく。ある時八雲が頭を下げた。

 「送辞のとき…すいませんでした。せっかく何度も練習に付き合って頂いたのに。泣かないと決めていたはずなのに…だめですね、私」
 「……」
 話を聞いた二人は驚いたような表情のまま首を捻らざるを得ない。
 花井が静かな目線で拳児に促せば、その合図に拳児は再び照れくさそうにしながらも語りかける。

 「なあ妹さん…誰かそれを言ったのか? 俺は後ろから見てたけど、泣いてる奴なんて他にもいたぜ」
 「……播磨さん!? ……あ、いえ…」
 「だいたい、最後まで言えねーくらい、強く泣いてくれる奴がいる。そりゃ幸せだろーよ送ってもらえる側としちゃ」
 「……」
 「君の涙で見送ってもらえた僕は幸せだ、八雲君」
 「おうよ。ドーンと胸張っていけ」
 八雲は少しだけ肩を震わせて、今度は涙を見せず二人に感謝を告げた。ほんのわずかだけ別のことを考えながら。
 やがて気を取り直して話を続けようとする――が。
9627-3(おにぎりルート):2009/06/12(金) 01:24:57 ID:W3tAuF2n

 「いやしかし、自らの手で思い出の最後を飾る…か、何ともよいものだ。さて!
  名残惜しいが僕はそろそろ戻らねばならない。片付けと卒業祝いの打ち合わせが残っているからな。 …八雲君、最後に君にこれを」
 「これは……」
 手渡されたものに八雲は驚く。だが花井は用事が済むと八雲が見えていないかのように無視し、拳児に言った。
 「播磨、メルカドでの卒業祝いは参加自由。よって無理に来なくても…むしろ来るな。だが八雲君を一人で来させたりするんじゃないぞ」
 「おいコラって…ん? おい、なんだそりゃ」
 「あの、」
 「ハッハッハ、さらばだ八雲君! …次は君の卒業式に会おう。今度は東大生代表としてな!」
 「先輩……」
 突然大声を出して周囲のまなざしを一心に浴びる花井。だがそんな視線などどこ吹く風と、男は八雲の隣を通り過ぎて学校の中へと消えていく。
 おかげで残された拳児と八雲には何事かという視線が痛い。

 「わ…ワケわかんねー奴。 ……あー、あー、ところで妹さん、お姉さんやサラ達はどうしたんだ? 一緒じゃなかったのか?」
 「……」
 「妹さん?」
 ツン。呆けているような八雲の額を播磨は軽くはじいた。三度ほど繰り返してようやく八雲は意識を取り戻す。

 「あっ…え? す、すいません……え、えっと姉さんとは…卒業式の後で話をして、烏丸先輩のこともありますからメルカドで…家には夜に…
  サラ達はそれぞれに大事な先輩がいますから…それも落ち着いたらメルカドで、と別れました」
 「そっか。んじゃ…よかったら一緒に帰らねえか? 今ならいいネームができそうでよ。
  もちろんお姉さんを待つとかで、全然断ってくれてかまわねえよ?」
 「いえ……姉さんも皆さんと話があるはずです。今日は帰ってきてくれますし、お供します。お昼…用意しますね」

 八雲は拳児誘いに乗り半歩遅れについていく。だが一瞬足を止め、花井の去った方向に振り向き、そして誰にも聞こえないように呟いた。

 「見えなかった……あの時から、ずっと…」

 今日は日が合わない。姉の心も見えなかった。だがそんな偶然のおかげで一生心に残るだろう卒業式になった。
 しかし――もし彼の好意が未だに続いていれば……式が近くなるにつれ、いつかどこかで知ってしまったに違いない。
 チカラはいまだに健在なのだから。彼は大事な気持ちを拒絶されてからもなお、今日この日まで未熟者の女に力添えを続けてくれたのだ。

 「花井先輩……」

 本当にお世話になりました。そう続けて指の中のそれを握り、八雲は来年度も通う母校を後にした。
9727-3(おにぎりルート):2009/06/12(金) 01:25:34 ID:W3tAuF2n




 「…信じられねー」
 「そう?彼らしいじゃない。相変わらずストーカーぽくて」

 去る者と残る者の集団から離れ、後片付けの残る体育館近く。運ばれる大量のパイプ椅子がぶつかりあう音。
 真面目に片付けに励む一方、時には交代で誰彼構わず写真撮影に耽る元2-C達。
 その中の二人の女性が花井を見ていた。
 
 「第二ボタンはくださいって子にやるもんだろ。無理矢理渡すかフツー……」
 「む? おお周防、それに高野か」
 ――周防美琴と高野晶。三年生になっても同じクラスだった三人は今や常に同じ時を過ごす仲である。
 花井とは幼馴染でもある美琴が遠慮がちに尋ねた。
 「なあ春樹。 ……すっきりしたか? 後悔、ないか?」
 「ああ…伝えることは全て伝えたつもりだ。無理なものは無理だが、やれることはやった。出来る限りを尽くして後悔などするはずもない」
 「いいコだったわね。部長としても先輩としても…あのコなら安心して次を任せられる」
 
 三人はこの一年の出来事を遥か昔のことのように思い返していた。
 卒業式の終わった学校にのみ存在する、去って行った日々にただ感慨深く想い浸る瞬間。
 幕を降ろしたり床を拭いたりと後片付けや掃除に奔走する友人らに後ろ髪を引かれつつ、その空気に身を任せ漂う。

 「元々、受け入れられなかった時から考えていたことだ。今日の八雲君を見て最後の踏ん切りもついた」
 「ふうん…よかったわね美琴。近くにいながら待つことになる不安はなくなったみたい」
 「うぉおおおい!? だ、だ、だ、誰がだこのヤロー!」
 「高野…どうして君はそう」
 懸命に否定するも赤面した状態では説得力に欠ける。高野は無言でシャッターを切った。
 それらは全て、知る者には既に馴染みの光景。しかし――周防に比べ花井の否定が薄いことに気付いていたのは高野のみ。

 「と、ところで! …あのさ。播磨ってその、もう塚本のことは……一年経ったんだし、な?」
 やがて周防がごまかしながらも確認するように大事なことを口にする。
 頑固で一途だった幼馴染の最後のカッコつけ。
 その根源に込められた願いは果たして。

 「この一年、播磨君が天満のことを口にするのはほとんどなかったけどね」
 「……あいつが決めることだ。そればかりは僕でもどうにもできん」

  ・・・・・・
  
  ・・・・

 「花井ー!椅子がもう入りきらねーぜ。これ元々どこから集めてきたんだっけ」
 どんな現実も何かがきっかけで終わることがある。この状況においてその役目を担ったのは菅のヘルプを求める声だった。

 「ああそれはだな――」
 卒業生として、また元2-C学級委員として最後の仕事へ花井はのっしのっしと向かっていく。
 虚勢のない元気そうなその背にほっと落ち着いた表情を取り戻す美琴。

 そんな彼女に高野は無言でテープレコーダーを差し出した。スイッチオン。

 『最近八雲ちゃんと春樹がよく一緒にいてさあ。いや何もないのは分かってる。分かってるけどそれでも…』
 「ぎゃああああああ!!」
 響くは、その場にいた全員が振り向くほどのなりふり構わぬ絶叫。卒業生の時間はもう暫く続きそうだった。
9827-3(おにぎりルート):2009/06/12(金) 01:29:22 ID:W3tAuF2n


    ◇ ◇ ◇

 学校から家まで続くゆるりとした春の道。
 今年は特に暖冬で刺さるような肌寒さはもう感じない。
 拳児と八雲を繋ぐのは暖かさと、そして――。

 「伊織がよく家を抜けるっつーんで追いかけたらビックリだよな。ひーふーみー…」
 「よそ様の子に…もう、相談して欲しかったです」

 互いに重ねた一年。
 法律上無関係である年頃の男女が同じ家に住んでいるのだからつくづく異質である。大学生になりルームシェア、の一歩先か。

 「蔵の鍵を伊織が持っていってしまったこともありました…」
 「冬に二人で閉じ込められてやばかった。けど、今考えたらありゃサラがどーも怪しい」

 拳児と八雲、二人の間には数多くの思い出ができていた。いつも二人きりではなかったが、それが逆に良い方向へと働いた。
 大事な人と会えなくなった一人ぼっちが二人、という負の認識をさせなかったのだ。

 「夏の帰りに寄った横浜のサ店。……都会のイチゴは俺の知ってるイチゴとは別物だったらしいな。へっ…」
 「あ、あれはその…というか播磨さん無理して甘いもの食べなくても」

 傷というものは深いものであればあるほど、元の形に戻すためには日常をとりまく環境での確かなケアが必要である。
 一年間は完治に至るまでに十分ではなかったが、拳児にとって真新しい刺激に溢れていた。
 連載という社会に繋がる責任を抱えながら年下の少女達との営む共同生活。
 それは元不良でも安心を覚えるに足る――天満を追っていた日々とは違う意味で満たされた一年であった。

 「播磨さんのおかげで、スキーが楽しくなりました」
 「いや〜妹さんにも苦手なモンはあるんだって思うと嬉しくてな。あれは新鮮だったぜ」

 八雲にとって、姉のいない初めての一年。心配をかけぬよう強い人であろうとした決意の一年。
 どれだけ近づけたかはわからないが、今日の再会から八雲の意識、自足・自立へのは思いはより強いものへとなっていた。

 「一話目は塗りを専門の人に任せたけどよ…マジで初のカラー原稿、どーしていいのやらさっぱりだったぜ」
 「ハイ…私も半端な知識しかなくて。笹倉先生の協力がなかったら……」

 けれども――それだけの交流を経てもなお、拳児と八雲、二人の関係は男女のものには届いていなかった。
 人と人との関係が変わり続ける時間の流れの中でもなお、二人の関係が一線を越えることはなかった。
 拳児は一家を担う責任を果たす一方で、誰に言うこともなかったが、頑なに一途な想いを手放しきれないでいたのである。
 八雲はそんな心の裏を誰より理解し、せめて傍にいることで、時には拳児を一人にすることで、支えると決めていた。
 それが、恋を自覚してまだ幼く未熟な少女の精一杯。
 禁断の地にて眠り続ける魔王に触れる方法はない。ならば――と。
9927-3(おにぎりルート):2009/06/12(金) 01:30:29 ID:W3tAuF2n

 「よ、伊織待ってたか? よーしよし」
 「ただいま伊織。 播磨さん、お昼は私に任せていただいてもいいですか?」
 「頼むわ。俺は…今日考えたネームをまとめとくからよ」
 上機嫌な猫の声が二人を迎える。住み慣れた日本家屋の引き違いの扉が開く。

 「忘れねえうちに……な」
 (……播磨さん?)

 二階へと向かうその姿にほんの僅かな違和感を感じながら、八雲は伊織を受け取って台所へと向かった。



 「ふー……」

 使い慣れた椅子に腰かける。
 疲れないようにと、八雲が手製のシートカバーまで作ってくれた、この世で唯一のハリマ☆ハリオ専用、仕事椅子。
 元々は姉妹の父が使っていたものらしい。
 らしい、というのは拳児本人が勝手にそう思っているためである。
 一応の根拠はあった。実はこの部屋には彼しか知らない(少なくとも本人はそう思っている)秘密が隠されていたのである。

 ある日、漫画の資料が奥の深い戸棚と壁の狭間に滑るように入ってしまったことがあった。
 かろうじて回収に成功したが、その更に奥に何かを見つけてしまった拳児。
 何故か気になり、自慢の剛力でもって家具をずらしてようやく手に入れたそれは古びた写真であった。
 映っていたのは……幼い塚本姉妹。そしてその母親らしき人物含め、庭で土いじりに興じている姿。
 天満の髪型はその頃から変わっておらず、表情も天真爛漫そのものと言える。地面が穴だらけなのは彼女の仕業だろう。
 むしろ驚かされたのは八雲で、髪型こそ変わっていないものの、気の強さを感じさせる強い視線で頬膨らませ天満に怒っていた。
 そして彼女らの母親はまぎれもなく塚本姉妹の母親であると言える。
 腰まで流れる緩やかで真っ直ぐな髪、大きくぱっちりとした瞳は確実に天満に受け継がれていて
 母性を湛えた優しい表情と、大人びた顔立ちは今の八雲を感じさせた。
 どちらにもよく似ていて、正に凛々しい和風美人といっていい。

 ならば撮影しているのは誰だろう。順当に考えれば父親だ。
 長くなったが、これが拳児が部屋の主を特定した理由である。
 自分で撮った家族の写真をこっそりと忍ばせておく。いかにも男の矜持を感じさせるではないか。
 ……まあうっかり者の少女が手を滑らせて戸棚の奥へと無くしてしまい、以降忘れてしまったという可能性もあるのだが。
 そもそも、単純に家の間取りを考えれば、父親が使うであろう場所はここしかない…話を戻す。

 「ふー……」

 再びため息。ネーム紙はやはり真っ白のままだった。
 それをかれこれ十回ほど繰り返した時。やがて止まっていた手が動き出す。

 「…さよならだ、天満ちゃん」
 
 ちなみに、拳児は写真を元の場所に戻しておいた。
 八雲には渡せない。住んでわかったことだが、この家からは両親の息吹というものが感じられないのだ。
 日常雑貨の種類はもちろん、時折届く手紙やダイレクト・メールの類はあて先が全て八雲か天満、或いは塚本様。
 保護者である両親の名前は一切ない。よって、拳児も知らない。年賀状すらが同様である。

 土地の登記や古い電話帳など、公的な情報をたぐれば疑惑が確信になるかもしれないが…そんな真似は御免である。
 拳児は二人が健やかに育ったことを神に感謝しつつ、黙々と線を引いていった。
100名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 01:32:33 ID:W3tAuF2n
 ―――――――――――――――――


 とりあえずここまで。
 しばらくエロがない話になりそうな・・

 細かく投下するよりまとめたほうがいい?
101名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 02:14:36 ID:XTqtvvHX
いやいや

エロがなくてもwktkしてるよ
細切れでもちゃんと続いてくれさえすれば全然OK
102名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 12:12:50 ID:KQVM36iA
おいおい色んなキャラ出す気なのか
花井関係の整理つけたのはいいけど

IFスレもあんな感じだし、まあいいんでね
103名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 16:48:03 ID:oRzj9B2s
IFスレは変な人らが暴れてるせいで、どの派閥ももうあそこではSS書けないだろうしな
エロなしをこっちでやってくれてもいいと思うよ
直接書くのが駄目でもロダのリンクを貼るとかさ
つーかちゃんと最後まで書いてくれるならストーリー物の方が俺は嬉しいんで、OK
104名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 20:22:00 ID:p3An+M5m
>>100

話のどこかに最終的にエロがあるならこっちでいいと思う
途中で投下場所返るのもなんだしね
にしても面白くなりそうでなにより
続き期待してます。個人的には長文をまとめられるより小出しの方が読みやすくていい
ネットで長文読むのって色々しんどいし
105名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 22:12:18 ID:+2pHeuJL
非常に面白かった。続きも期待。
投下に関しては皆も言ってるようにこのままでいいと思う。
106名無しさん@ピンキー:2009/06/13(土) 11:52:06 ID:HPlAmaeQ

気長に待ちます
107名無しさん@ピンキー:2009/06/13(土) 12:54:57 ID:MIxrgIBY
最近投下がなかったぶん小出しの方がモチベーション上がるぜ。期待してます
10827-3(おにぎりルート):2009/06/14(日) 01:15:39 ID:ZAWNyGaF
(>>99の続きです)




 PiPiPiPiPi....

 拳児は一度ネームに取り掛かると長ければ半日は出てこない。こういうときは時間をとらない食べ物が好まれる。
 卒業祝いが控えているなら尚更、お腹の中には余裕を。そう考えた八雲が作るものは決まっていた。
 できたての熱いおにぎりによく冷やしたお茶。具には塩気のあるものを。
 米は腹の中に残るのだが、これが塚本家での定番である。

 PiPiPiPiPi....

 指先の米粒を摘み取り、八雲は先程から鳴っている携帯を手に取り開く。――サラからメールが一件。
 帰宅中、播磨と先に帰る旨を留守電に入れておいたのである。
 ようやく返ってきたとはつまり、それだけ親友にも大事な用事があったのだろう。

 『件名 大好きな人と二人きりな八雲へ
  本文:
  まだこんなに明るいのに!? うっひょ〜大胆! がんばってね(はあと) 皆にはしっかり言っておくよ』

 八雲は少し赤面しながらも用件が伝わったことを確認して(『皆』と『しっかり』の定義が気になったが)携帯を閉じた。
 確かに外は明るい。正午を過ぎて、照りつける光の強さが最盛期を迎えようとしていた。
 だが昼であれ夜であれ、まさか…と八雲は水の張ったボールに手を浸して考える。
 メールの向こうの友人とは対照的に顔に影が差した。

 《退屈だわ。あの男も、あなたも、何も変わってないのかしら》

 突き放すごとき、幼げな少女の声。目に見えぬはずの空気が色と形を持ち、馴染んだ筈の空間を深海のように異質な世界へ変える。
 八雲は振り向くこともせず黙って聞き入れていた。無駄なのだ。届くのは声のみ。少女の姿はどこにもない。
 わかるのは唯一つ、確かにそこに"いる"ということだけ。

 八雲は、見た目通りの年齢ではないであろう、謎の少女の姿を捉えることができなくなっていた。
 感情のない、ただ確認するだけの、自分と同じ色をした眼も。伸縮自在の鋼鉄より硬い髪も。そしてその刃めいた感触に捕らわれるようなこともない。
 異変はある日突然…ではなかった。この一年、接触する機会自体は増えている。
 だが少しずつ少しずつ、陽に照らされ陰が薄れるがごとく、見えなくなっていったのだ。
 そして今ではこうして心での会話をするだけに留まっている。

 (……そうだね。私はまだ……卑怯なことを続けてる)

 そう評する理由は一つ。八雲は今なお拳児が姉を愛していることを肯定的に見ていたのだった。
 一年経ったのだ、普通なら拳児に対し"そろそろいいのでは?"と変化を促す頃だろう。
 二度の失恋を経た周防美琴でもそのように考えたように。

 だが八雲には確信があった。口にこそ出さないがまだ彼の気持ちは変わっていないと。
 もちろん自分を愛して欲しいと思った時も一度や二度ではない。
 しかし拳児のそれは何度も見てきた姿なのだ。
10927-3(おにぎりルート):2009/06/14(日) 01:18:14 ID:ZAWNyGaF



 ――ある日、何の脈絡もなく。

 【あのことはもう忘れ去った。今からはお前だけを見ていたい】

 それは本当に播磨拳児なのだろうか。

 【熱に浮かされ、幻を見ていたような日々だった。はっきり目が覚めた。本当に好きなのは】

 違う。前と同じがそれ以上に悪い。

 【天満ちゃんは大事に考えている。けどその気持ちは時間と共に恋や愛を超えた別の存在に昇華された。だから…】

 …それでも、拒否感が先に来る。

 《わがままね。何が気に入らないの?》

 納得できないのだ。彼が姉以外を好きになることが、ではない。
 人が人を好きになり、誰かと結ばれ、歩みを共にすることは何よりも素晴らしいこと。少なくとも自分はそう思っている。しかし。

 《何が納得できないの?》

 何の前触れもなく…というのもあるだろう。しかし最大の理由は別にあった。
 それは『塚本天満が渡米して烏丸との将来を選んだ。従って拳児の恋が報われることはもうない』という事情を知る全員にとって当然の認識だった。
 誰しもがそう考える。尊敬できる人士達も、心のどこかで思っている。それは間違っていない。事実関係だけを洗えば終わった以外にない。
 拳児の想いがもう実ることは……閉ざされた未来は誰しもが認めるしかない。
 本人すらがそう捉えているかもしれない、冷たくも歴然とした現実。

 しかし八雲は…八雲だけは、違った。
 だからといってそれだけで済ませてはいけないものを拳児の姿に感じ、胸焦がされていたのである。
 その正体が何なのか八雲自身にもはっきりとした答えはない。
 強いて言うなら――穴、だろうか。何かが足りないのだ。塚本天満と播磨拳児の間に何かがまだある、あって欲しいという願いが消えない。
 復縁だろうか?違う。だが完全に違うわけでもない気がした。
 そしてそう思ってしまう度に、八雲はどうしようもない嫌悪感に囚われる。
 部外者の分際で、はっきりした答えも持たず、ただ未練ばかりを抱く、卑怯者だと。
11027-3(おにぎりルート):2009/06/14(日) 01:20:58 ID:ZAWNyGaF

 《そんなにあなたを捨てたあの女が大事?》

 (違うよ。姉さんはそんな人じゃない)

 猛毒のような侮蔑をすぐさま否定した。この少女は、塚本天満を極めて厳しい視線で見ている。何故かは分からない……八雲は分からないことにしている。
 どの道、塚本八雲にとって塚本天満が愛される状況を拒絶しろ、無視しろ、強引に押せというほうが無理であった。
 そして彼女は己に呪わしい人間と烙印を押しつつも、その恋を否定するつもりはなかった。
 愚かな恋だと、誰に何といわれてもいい。そんな彼を愛してしまったのだから。

 もし…沢近愛理のように自分を強く見せることができたなら…違ったのだろうか?
 しかし愛する男の惚れた部分を変えようとする女がいるのか。
 彼が一生懸命に姉を愛し続けたあの姿をきっかけとして好きになってしまったのだ。
 誤解を恐れず真っ直ぐ進もうとするところをいつも見てきた。
 心はひどく傷つきやすい。なのに本当に大切な時には、正しいことを見据え、そして大事なはずの気持ちさえも犠牲にして頑張れる人。そんなところが…

 もちろんそれはきっかけだ。今では姉を絡めずとも拳児を愛するようになっている。
 だが…やはり何かが納得できない。そして、愛した理由を否定することはできない。そこだけは貫かなくてはいけない。
 無視したり、目を瞑ったり、考えないことにして逃げた瞬間、愛する資格すら失う。
 自覚しだした女としての意地が八雲にそうさせていた。

 (もし播磨さんみたいに、私の恋を漫画にしてみたら…)
 暗すぎる、ウチのカラーに合わないと即座に却下されてしまうだろう。八雲はかぶりを振りそれ以上考えないようにした。
 そして表面が乾燥しはじめたおにぎりを皿に並べ、二人分のコップを茶で満たす。

 《……》

 声はもう聞こえない。空気が火気を孕んだように異質な圧力もない。
 八雲は制服の上から使い慣れたエプロンを着たまま、後ろで縛っていた髪を解き、拳児のいる書斎への階段をゆっくり登っていった。
11127-3(おにぎりルート):2009/06/14(日) 01:22:20 ID:ZAWNyGaF


 「播磨さん、失礼します」
 入り口をノックするが返事はない。無視された形だがこれは良い兆候だと八雲は知っていた。
 相当にネームが順調な時でないとこうはならない。喜び混じりにそっとドアノブを回す。
 「すいません遅くなりました。軽く食べられるものを」
 「お!ありがとよ〜でも悪ぃけど丁度だな…」
 
 言い終わるより前に八雲は頷いて、扉を開けたまま回れ右をした。そして原稿の束を抱えた拳児と共に部屋を出る。
 一通りの原案が出来上がってからは八雲も製作に携わる。今がその段階だと察したのだ。
 打ち合わせには一人用の座机を使うより向かい合える卓袱台のほうが遥かに効率的。
 播磨の仕事場は書斎だが二人の仕事場は居間であった。
 トン、トン、と一段ずつ階段を降りていく。

 「朝から考えてた自信作だ。まず妹さんの感想を聞かせてくれよ。 んじゃその間に俺はいただきます、と」
 「わかりました、拝見致します。…でも播磨さんはいつも、自信作だ! って…」
 「そうだっけか? だいじょぶらいじょぶ、ほんろほそ、まひあいれーって」
 一階に降り、食卓を挟んで一仕事終えた後の軽いノリで拳児はおどけてみせる。
 真昼に合わぬハイテンションで口一杯に頬張って話すものだから八雲には何を言っているのかわからない。
 想いを込めてこしらえた手料理を嬉しそうに食べてくれる姿。それだけでも充分に愛しい。目を離すのも惜しかった。
 そして実際に眺めてしまうのだが、早く読んでくれよ、と寂しそうな目でお願いされれば視線を原稿に落とすしかない。

 (朝から考えて…? 実際、あげるのも早かった。本当に私の出る幕がないのかも。少し残念かな…)

 私情だ。彼から信頼され、彼を信頼し、お互いに忌憚のない意見を交えて物語を完成させていく時間を惜しむのは。
 そもそもペン入れからの作業もある。彼の創作に協力することはできるのだ。
 八雲は具体的になりはじめた己の未来を心でイメージし播磨の"自信作"に挑む。
 あどけない、十七を目前に控えた少女の纏う空気は夢を追う人のそれへと変化していく。

11227-3(おにぎりルート):2009/06/14(日) 01:23:07 ID:ZAWNyGaF




 そして。最後まで目を通し。


 八雲は絶望に倒れそうになった。

 「何です…か……これ…」


 否定を望むような震える問いに、拳児はすぐに答えなかった。
 まずは先程までの過剰な――いや、あえて過剰にしていた表情を消す。
 次に指周りや口の中に残った米粒を茶で一気に流し込む。
 最後、サングラスの内側で狼の瞳に戻して。
 拳児はようやく答えた。

 「…見ての、とおりだ」



  ――え? え?  どうして? どうして?  わからない    わからない     わからないよ――――



 「何で……何で諦めるんですか、播磨さん!!」

 ネームといえどハリマ☆ハリオの漫画のヒロインには必ず存在していたトレードマーク。
 髪を両サイドで結ったわかりやすいその特徴が…消えていたのだ。
 省略や書き忘れ、ネームの都合などではないことを、描き方を誰より知っている八雲には理解できた。
 そんな彼女にとってわけのわからない"新キャラ"が原稿の中にいるも同然。故に叫んだ。

 「妹さんっ!」

 同じく拳児もまた叫んでしまった。図星を指摘されたように、突如として八雲の口を閉ざしたくなってしまったのだった。

11327-3(おにぎりルート):2009/06/14(日) 01:25:58 ID:ZAWNyGaF
  ◇  ◇  ◇

 拳児と八雲は机を挟み向かい合っていた。空気が視認できるなら、二人の間では嵐のごとく渦巻いて見えただろう。
 二人の仲を知るものがいれば、張り詰めた雰囲気に耐え切れず立ち去っていたかもしれない。

 しばらくはどちらから声をかけるでもなくただただ不吉な沈黙が続く。
 やがてより深く深呼吸をした拳児がそっと切り出した。

 「その様子だと、妹さんにゃ没みてえだな」
 「はい…これは本当に…播磨さんの自信作、なんですか」

 我慢ならないという風に八雲は断言した。播磨にとって強い意志を見せる八雲は初めてではないが、
 先程のような叫ぶまでに感情的な姿は見たことがない。
 「…聞いてくれるか」
 「教えてください。でないと納得できません」
 播磨は目を閉じ…そしてトレードマークのサングラスを八雲の前で外した。
 とうに知っていた素顔を見る八雲の瞳は、半端な言い訳など聞きたくないとばかりに鋭さを増す。

 「俺が、お姉さんのことが好きなのは…もう知ってるだろ? 漫画のヒロインにかぶせてるってのも。
  なら話は簡単だ、俺の恋は終わった。だからキャラにまで同じ髪型させる必要はなくなった。
  人気ねーって三井の奴にも言われてたしこれからは他の子を」
 
 ガタッ
 
 「播磨さんっ!」
 
 物を大切に扱うはずの八雲の細い手が、日々の食卓を叩くように押さえつけわなわな震えていた。その振動が空の茶碗を揺らす。
 白く揃った歯が見える。強く食いしばられていて何かを必死で訴えていた。
 
 「…んだよ。それ以外ねーよ」

 僅かな凄み。脅すような真似をしてしまった自分に拳児は内心で舌打ちした。

 「言い訳です」
 「言い訳じゃねー」
 「言い訳です」
 
 子供のやり取りに終始する八雲。それが逆に拳児を冷静にさせた。心に、子供に言い聞かせるよう言葉を練るだけの余白が生まれる。
 努めて落ち着いた口調を取り繕うが、その理由が八雲にあるのか自分にあるのかは分からなかった。
 

 「あのよ妹さん……今日の卒業式、覚えてるよな。 家族として、お姉さんの顔はどうだった?」
 「それは…」
 「俺にはすげえ幸せそうに見えた。妹さんもそうだろ?
  海の向こうでわかんねーことだらけ、苦手なことばっかなはずなのにちっともあの子らしさは失われちゃいなかった。
  きっと毎日が楽しくて嬉しくて仕方なかったんだろうな。……烏丸のため、まともに反応しねえ野郎のために生きるのが、だ」

 拳児は一旦、話を午前中のそれに戻す。できるだけ筋道を立てて説明するために。
 慣れない事ではあったが、論理を交え言葉にし、誰かに伝えるで拳児は恋の完全決着を迎えられると信じようとしていた。

 「俺の入り込める余地はねえ。なのに俺はお姉さん……いや、天満ちゃんからはいろんなものを貰った。それについちゃ充分満足してる。
  あの子にしてやれた事も何一つ悔いちゃいねえ。分かるだろ? …だよな。安心したぜ」
11427-3(おにぎりルート):2009/06/14(日) 01:27:05 ID:ZAWNyGaF

 反論の絶えた八雲。そこまでは話が通じたと、拳児は机の下で固めてしまっていた手の力を抜く。
 そして続けようとするが喉まで来た言葉に一瞬息を詰まらせ、止むを得ず一呼吸おいた。

 一方の八雲は、拳児の湿った、そして極力感情を押し殺そうとしている声を…喉の奥から絞らせるその一挙手一投足を。一言でこうだと言い表せない心情の発散を。
 ほんのわずかたりとも見逃すまいと全神経を集中させ待ち続けていた。

 「好きになってよかったと思ってる。惚れることができた俺は幸せだ。 ……けどな………もう一度、言うけどよ……」

 サングラスに閉ざされてはいたが、八雲には拳児の瞳からきらめきが消えたような気がした。


 「……俺の入り込める余地は、どこにも無えんだ………」

 声がより深く懸命に振り絞られる。拳児が自覚のないままに、その腕で胸を押さえ苦悶に悶えているのが八雲には分かった。
 無念を帯びたその口調に八雲はいたたまれなくなって、激しく後悔する。

 「もう…もう、いいです…」
 「今日の幸せそうな天満ちゃんを見て確信した。…嗚呼、もう大丈夫なんだな。
  俺ができることは無え…いや、むしろもう何もやっちゃいけねえ。あとはあの子が自分で幸せになる……ってよ」

 願うような静止が振り切られる。
 もし何かしらの理由で塚本天満への可能性が生まれる場合。
 それは今の笑顔――八雲すらが見たことないほど美しく輝いている塚本天満、その根源である烏丸大路のために生きるという幸福の喪失に他ならない。 

 「俺には天満ちゃんを今以上に幸せに…今以上の笑顔になんてできねえ。それが分かったから俺の恋は終わりなんだ」

 無慈悲なれど事実である。烏丸大路以上の存在にはなれない。拳児にとって今日突然思い立ったことではなく、改めて知らされた事実。
 薄々感じていたことを目の当たりにした彼が認めたのは、まぎれもない恋の終焉であった。

 「だからキチっとケジメつけなきゃならねえんだ。漫画で引きずるのも止めにしねえと。
  好きでい続けるのもアリと思うけどよ。まずは先に、はっきり形にすべきだって俺は思う」
 「…っ……、播磨…さ…ん……」

 拳児の言うことは正しかった。
 どうしようもなく苦しいはずなのに、それをはっきり表明する覚悟に裏づけされた言葉であった。
 運命は果てしなく残酷だと八雲には思えたが、天満の名を出されては納得はともかく反論できない正しさがあった。


 「……くっくっく」

 従って――もし拳児が言葉をここで止めていたら今日この日は全く別のものになっていたであろう。

11527-3(おにぎりルート):2009/06/14(日) 01:28:25 ID:ZAWNyGaF


 「なあんてな!あっはっはっは!あ〜はっはっは!」
 「!?…播磨、さん?」
 「まあまあ妹さん、肩の力抜けって。ははっ」

 突然の高笑い。混乱する八雲を遮って、タガが外れたように、壊れた玩具のように、拳児は続けた。
 その声はとてつもなく明るいのに、八雲の胸には何故かじわじわと群雲のように不安が広がっていく。

 「くだらねえ…な〜に言ってやがる、目ぇ覚ませ俺。あれこれ理由つけてうじうじとみっともねえ。馬に蹴られる横恋慕男のくせによ!」
 否定したのは八雲の言葉ではなく、たった今、初めて自分以外に語ったはずの心境であった。突然の豹変。何故?

 「ピエロのくだらねー踊りを延々と見せつけられて仕方ねえよな? テレビがつまんなかったらチャンネル変えるだろ? ネームだってな」
 「……」
 今の拳児の根幹にあるのは一種の自虐的な感傷であった。
 一つの恋が終わった人間が、あえて思い出の品を粉々にして見せるような。
 大事な玩具を壊してしまった子供が、全身を震わせて泣いた後、いらないと叫んでしまうような。

 しようもないことをしていると拳児も内心では思ったが、一度口にした手前止められない。
 女々しいこだわりだと一笑に伏すように話し続ける。
 そう、この調子で続ければきっと八雲も取るに足らないことだと理解してくれる。そんな後付さえ浮かんだ。

 「一方的な自己満足の塊だ。天満ちゃんだって知れば気持ち悪いって思うだろうよ。
  負け犬根性丸出しでうじうじしててもしょうがねえ、ぱーっと遊んでりゃそのうち忘れもするさ。そうだ、人数集めて週末にどっか行こうぜ」
 「……」
 
 拳児は坂道を転がり落ちるように、全開した蛇口から流れる水のように、嘲るようにかつての恋を否定する。
 一時的な気の迷いではあるが、全てを賭けて敗者になったのなら気持ちすら否定するのも当然と考えるようになっていた。
 そうすることで辛い現実に適応しようとしたのかもしれない。
 建前などではなく、本当にそうなのかもしれないという気持ちが胸に去来した。
 
 「考えてみりゃバカみたいだよな…俺の漫画だって恋だって。誰の記憶の端にも残らねえ。何必死にやってんだって笑われて、そんでおしまいさ」

 だが、そのために出た言葉が逆鱗に触れた。


 「必死になって何がいけないんですか」
11627-3(おにぎりルート):2009/06/14(日) 01:30:00 ID:ZAWNyGaF
 拳児が笑いに染めようとしたはずの場の空気。それが一瞬で危険すぎるものに変質する。拳児の足元からは警戒信号が這い上がり、凍りつくようにして背中を駆けた。
 戻り始めていた春を感じさせる風も、外に見える温かい日差しも絵の中の出来事なのではないだろうか。

 「笑われる?誰ですか。誰に笑われたんですか?播磨さんが姉さんを想う気持ち……誰が、笑ったんですか」
 「な……、…いや。誰が、とかそういうってわけじゃねえ。ただ続けてもよ…恥ずかしいだけだ。なら変えるべき、だろ?」

 どもりながら、驚く。冷やしたガラスのような声。異質な気配の根源はよく知るはずのあの塚本八雲。拳児はそう伝えてくる本能すら疑う。

 「べき? べきって何ですか?本当に播磨さんがそう考えたんですか?何を以って――」

 これ以上は危険すぎる。八雲が八雲でなくなってしまう。そして戻れなくなる。
 炎上したてのテーブルをひっくり返して鎮火させるがごとく、早急な対処のために拳児は動いた。

 「妹さん!! こいつは俺の恋だ! なら終わりを決めるのは俺だろ? どうしちまったんだ、らしくねえよ!」

 信じられない怒気を纏って食い下がってくる少女に、拳児は至近距離からの絶叫を浴びせてしまった。

 「ナー…」
 「伊織!?」
 「あっ……!」

 相次ぐ騒がしさ、たまらぬ居心地の悪さに昼寝を邪魔された伊織が叫ぶように逃げて、両者は目覚めたようにはっとなり静まり返る。
 八雲の表情が瞬く間に後悔に包まれると、伝染したように拳児の胸も痛んだ。

 「わ…………、私……っ……! ……すいませんでした……」
 「いや、俺こそ悪ぃ。…急な話で妹さんも混乱する…よな」

 全ては悪い夢だった。そう願いたいと拳児は思った。だが一生懸命に頭を下げてくる八雲の姿がそうさせてはくれない。

 (…妹さん)

 一見流されやすく自己を強く出さない雰囲気の八雲が、強く譲らないことがある時。
 それは決して軽くない、むしろ絶対に避けてはいけない大事な何かを守る時だと拳児は知っていた。
 二年連続で夏祭りのインチキに騙された稲葉という少女を救ったのは、同席していた自分ではなく八雲だった。
 クラスの代表になるなどと、性分からして難しいと思える役割を譲らなかったのも八雲であった。
 そして今日、わずかな間にせよ人が変わったような様相を見せた彼女が、何を守ろうとしているのかは分からない。

 「キタンなき意見が…俺らの約束だったよな…悪い。妹さん、この際だから何でも言ってくれ」
 拳児は八雲に牙を突き立てられることは初めてであっても、その本質はそれなりに捉えているつもりだったので、
 話を取り下げるつもりはさらさらなかった。
 怒鳴ってしまったが、気を悪くしたわけではなかった。
 僅かに写真の記憶が頭をかすり、むしろ強い興味すら抱く。

 「いえ……私はもう…」
 しかし当の八雲は気落ちしたまま口を閉ざそうとしていた。
 一度目を通したきりの原稿から避けるように目を閉じ、油の切れた機械のように、痛みを堪えるような表情で沈黙を保つ。
11727-3(おにぎりルート):2009/06/14(日) 01:31:00 ID:ZAWNyGaF

 (最低だ…私は何てことを……)

 彼を苦しめてしまった。辛いことを言わせてしまった。
 汚らしい身体の中の汚泥を全て吐き出したくなるくらい、自分のことが嫌になる。
 何を言っても結局は傲慢な第三者でしかないのではないかと。
 もしかして自分はただ拳児の天満への一途な気持ちを何かの言い訳に使っていて、
 それができなくなるのが嫌なだけなのではないかと…心につけこむ、最も汚い女なのではないかと…心は後悔の念に沈む。

 ・・・・・・

 ・・・・

 ・・

 八雲が嫌悪感でこり固まっている最中も、拳児はただ待ち続けた。太陽が雲に隠れてもまた顔を出すように、八雲の強さを信じることにした。
 時には残ったおにぎりに口つけて、茶をセルフでおかわりして。お気に入りの歌を口ずさんだりして。
 様々なことで時間をつぶしたが八雲から見えないところへは動かなかったし、原稿にも手を触れなかった。



 「私は…私には……」

 どれほどの時間が経っただろうか。伊織はいつの間にか戻っていていつもの昼寝に耽っている。
 八雲はいつしか制服の膨らみを強く握っていた。ポケットの中にあるのか花井に貰った第ニボタン。
 彼の勇壮さが思い起こされる。"心に最も近き証"を意味するボタンは勇気のかけらで、彼からの最後のメッセージだと八雲には感じられた。

 「播磨さんが、姉さんのことを…このまま終わらなければいけないと、思い込もうとしてる…そう見えるんです」

 どれだけ同じ後悔を繰り返しても、やはり八雲の結論は変わらなかった。
 大半の人間が平穏な選択をする場面。しかし長い沈黙の末に、少女はどれだけ醜くとも本音を晒し彼の判断に委ね、不可視の心に深く切り込むことを選ぶ。

 「播磨さんが苦しみぬいて、それでやっと決めることができたことかもしれないのに…それが……嫌だと思ってしまいました。ごめんなさい……っ…!」

 ここで逃げたら、例えその後仲直りをし、どれだけ取り繕うことができたとしても…
 抉るような傷を負わせておきながら、相手の心に甘え何もせず、本質をごまかし、謝罪程度に終始する人間はやがて同じ事を繰り返す。
 八雲はそれだけは嫌だった。そして選んだのは拳児が待ち続けてくれたおかげでできた選択であった。

 「そっか…妹さんからはそう見える……か」
 喉の奥から搾り出すような、壮絶さを物語るには十分な八雲の声。
 痛ましさに、落ち着いた口調のままで拳児は静かに呟き真上を仰ぎ見る。

 苦しみぬいて、決めた……のだろうか。見慣れた天井模様の中にユーレイが浮かんでいる気がした。
11827-3(おにぎりルート):2009/06/14(日) 01:33:20 ID:ZAWNyGaF
 ―――――――――――――――――

 今回はここまで。
 様々な感想をもらえてとても感謝。続きを読んでくれた人にも感謝
 期待に応えられる作品になればなと。
 しかし八雲は難しい・・しかもこのストーリーは・・

 大丈夫みたいなので、今後も小分けして投下していくということで。
119名無しさん@ピンキー:2009/06/14(日) 01:36:44 ID:rCRvovgF
ガンバレ
揺れてる八雲の心が切ないなあ

GJ>118

続き待ってるぜ
120名無しさん@ピンキー:2009/06/14(日) 01:37:43 ID:afpp5hzH
せかすつもりはないんだけどエロはいつぐらいになる?
121名無しさん@ピンキー:2009/06/14(日) 02:55:01 ID:DdWfynjc
八雲はあの性格だから難しいってのは分かる
しかしメインで扱う場合は東郷が1番書き辛いと思うw
122名無しさん@ピンキー:2009/06/14(日) 22:49:48 ID:fkITPJIK
GJ!
キャラのやり取りがすごく”らしく”ていいな。
続きも楽しみにしてる。
123名無しさん@ピンキー:2009/06/15(月) 04:50:11 ID:UeTKTvBv
>>118
乙です
中々面白いと思います
124名無しさん@ピンキー:2009/06/15(月) 17:05:35 ID:zI1BPdEH
東郷のエロ書ける人がいたらすげえと思う
相手はララか天満か榛名か、結構候補いるのに
12527-3(おにぎりルート):2009/06/15(月) 23:54:45 ID:4bNYv03m
 エロは・・その・・・今日の投下分を除いて、あと3〜4回後くらい・・・?
 それなりの尺をとろうと努力してますが・・

 そして今回はちょっと長め。うまいところで切れませんでした。すいません。


 >>117からの続きになります
12627-3(おにぎりルート):2009/06/15(月) 23:55:48 ID:4bNYv03m


 "客観的"とは普段の拳児からは程遠い概念である。なにやらそれは仮面をかぶって言い訳をしているようで嫌いだったのだ。
 中立性を保って物事を平等に見つめるとは聞こえはいいが、己の心を偽るだけではないかと思えてならない。
 全ての人間に好き・嫌い、個人的感情があるからこそ人は他人との違いを知り、自己を認識できる。
 だが…拳児はこの場であえて自分の今日一日の行動を、"客観的"に見つめてみることにした。
 心に根付く意地を一度どかして、己を違った角度で見るために。

 (今日は大好きな天満ちゃんが帰ってくる日だった…けど俺はわざと顔を合わせなかった。だから式が終わったら烏丸をすぐ妙さんに預けて屋上へ行った)

 後悔はない。遠目に天満の姿を見たときは心が満たされた。
 それは絶対に偽らざる本心。天満が幸せなのだから。『俺がお前を幸せにしてやる』それが成ったのだから。
 早々に私情を混ぜたわけだが、客観的な評価としても決して大きくずれてはいないと思う。

 しかし。

 突如主人公がヒロインの門出を祝福して別れる。朝から考えていたネームのコンセプト。
 烏丸とともに壇上の彼女を見たときはそれで正しいと思った。…正しいから、表現しなくてはならないと。
 いざ机に向かい時間を要したまではいいが、描き始めてからのことは覚えていない。忘我の際にあったのだと思う。

 ……祝福の気持ちを込めて描くこともできたのではないだろうか。ネーム、だからか?

 それに、屋上で空を舞う桜に目を奪われた時。八雲に何故諦めるといわれた時。
 強がってしまった。熱っぽさを感じながらも病気と思われるのが嫌で虚勢を張る、それに似た強い否定。
 そちらはまだ迷惑はかけまいという意味もあるだけマシであろう。
 否定した姿を"客観的"な視点で見れば…それは八雲の言うように……

 (待てよ。俺は天満ちゃんの幸せが何か知ってる。彼女が今も笑っていると知ってる。俺じゃ無理なんだって世界中の誰よりも理解してんだぜ)

 昨日今日の話ではない。気持ちに整理をつけるだけ、自分を見つめるだけの充分な時間はあったはずなのだ。
 この一年は吉凶多々あったが、天満に会えなくともいい思い出に溢れた一年だったと言える。

 自分では届かない幸せだと理解したなら――届かなくても生きていける自信がついてきたのなら――
 もう終わりを見せてもいい……はずなのに。けれど、違うのだろうか。

 「……播磨さんは…いつも、いつも、どんな時でも姉さんのために真っ直ぐでした」

 拳児が袋小路に直面した頃。八雲が再び口を開いた。
 震えていたけれどもそれははっきりとした声音。細く遠くまで響く少女の調べ。それを聞いて拳児には一つだけ分かることがあった。
 今、八雲が懸命に守ろうとしているのは自分が終わらせようとした天満への恋なのだと。
 全てを賭けた女への想いを咲かすことなく終わらせて本当にいいのかと何度も問われているのだ。
 それに答えない限り、拳児は本当に終わることも続けることも、新たな道を見つけることさえも、どこへ進むこともできない――そんな気がした。
12727-3(おにぎりルート):2009/06/15(月) 23:58:01 ID:4bNYv03m
 
 強く息を吸う音を置き、八雲は続ける。拳児の脳裏をよぎったのは壇上に立っていた彼女の姿。

 「播磨さんが姉さんを愛し、動いたこと。努力したこと。耐えたこと。……どれもすばらしいものでした。
  人が人を愛した時にどれだけのことができるのか…強固な想いがどれほど光り輝く力となるのか、教えてくれたのはあなたと姉さんです」

 拳児が黙って耳を傾けている間、八雲はこの告白が何をもたらすのか、意味するところも理解していなかった。
 よくわからない衝動に突き動かされた。悩みの末に、下唇を噛んで、ただ伝えなければと思ったのだ。

 せめて自分が思うことを。心を覗くこの眼でも視えず、けれど見てきたことを。
 話したことのなかった全てを伝えることが、彼の禁断の領域に踏み入ったことへのせめてもの贖罪なのだと。
 伝えることが大事だと強く思うほど八雲は前へ前へと進んでいく。
 そして一度話し始めれば、もう口ごもることはなかった。彼の目を見て話すことにもためらいがなかった。

 「私に、そんな資格は…ないのかもしれません。けれどお願いです……どうか、あなたの気持ちを悪く言わないでください。
  くだらないとか、笑うとか……そんなこと、全然ありません! 恥じる必要がどこにあるんですか。
  辛くてもずっと頑張ってきたじゃないですか。いつだって…姉さんの誕生日だって…時には自分の気持ちを縛りつけてまで…」
 「……た、誕生日? 妹さん…それって」

 『こうだ』とはっきり言うべきことがわからない。ならば全てを言うしか八雲にはなかった。
 そう――言わなければ伝わらない。受け入れられるには伝えること。それなのだ。大事なことを思い出し、また一歩少女は進む。
 感情の膨張が、あったはずのしがらみを引き裂いていく。秘密の殻を破って包み隠さず本心を曝け出す。サラ達に秘密を打ち上げた時のように。

 「立派でした…素敵でした。なのに、それを悪く言う播磨さんなんて見たくありません。愛したことに胸張って…誇りに思って欲しいんです……」
 「……ほこり…」

 八雲から拾った言葉は、不思議と拳児にはとても痛くて苦しくて、けれど暖かかった。心深へのいたわりがあった。その瞬間、何かが音を立ててはじける。
 もしかして…この子はずっと……歩行祭のときには…? ある仮説が浮かぶ。

 「だって……だってそんな、そんな…そんな播磨さんを私は………私は……!」
 「…待ってくれ…妹さん、もしかして…ずっと」

 わかってしまいましたか? でも待って下さい。私の口から言わせてください。そう、ずっと―

 《あなたはもう知ってるはずだものね。自ら伝えなくてはいけない…でないと、心は通じないって》

 播磨拳児をずっと

 「一体いつから―」
 「私は…好きになりました」

 愛していました
12827-3(おにぎりルート):2009/06/16(火) 00:00:10 ID:4bNYv03m

 どくん。

 鼓動が騒がしいほどに体を叩いている。また一つ、どくん。
 喋り続けたので思い切り息を吸わねばならないのにできない。
 緊張と興奮と、不思議な達成感が苦しみを完全に塗りつぶしていた。
 絞り出したような告白は確かな音となって浸透していく。耳の奥まで深く深く、心の中へ。
 
 「いつ………か、ら…」

 勢いに押され続きを流された拳児は、呆然としながらかき消された語尾を繰り返した。
 八雲には、その呼吸音すらひどく間近にあるように聞こえ、正面にある拳児の言葉や表情の端々からやっと理解が追いついてくる。

 (私……今…うそ)

 伝えてしまった、伝わってしまったという事実は八雲の頭の中を完全な白で埋め尽くす。
 心臓はうるさいくらいなのに体が冷たい。今なら白い息すら出てきそう。

 いつから? そう――いつから好きになったのだろう。
 彼のことを考えるだけで、嬉しい照れくささを覚えるようになったのは何時からなのだろう。

 「…わかりま、せん……」
 「あ、いや。その……だな」

 愛する男はただただ困り果てていた。
 まるで薮をつついて蛇を……考えていた事とまるで違う事態になってしまって、といったところか。
 予感していたのでは…いや所詮その程度――ずぶりと、無垢なる心が冷たい現実の刃に掛かる。
 
 ……波紋一つ起こせず、終わってしまう。
 
 ……彼の心に飛び込んでみても、届くより早く燃え尽きてしまう。
 
 ……それで、満足…?……まだ……まだ言いたいことは一杯あるはずなのに…いつから…
 
 
12927-3(おにぎりルート):2009/06/16(火) 00:01:45 ID:4bNYv03m

 「…夏休みに動物のことで…そして…ほんの少し知っただけの播磨さんは、けれど私にとってただ一人の男の人だったんです。
  心が……苦手なはずなのに、自然に話すことができて…」

 「あ、あぁ。ナポレオン達のことで世話んなったな。いや妹さん、俺が聞きたいのは――」

 「分かっています…播磨さんはずっと姉さんが……キャンプの時から姉さんを大事にしてくれる人だと感じて。
  そして確信しました…漫画のお手伝いをするようになってから、です……」

 瞳の全てに溜めた涙を堪え八雲は静かに話を続けた。言ってから、そういえば視えないことがきっかけだったのかもしれない、と思い出す。
 内面から興奮と熱気が、表面からは汗がみるみるうちに引いていく。
 必死に閉ざし隠してきたものが寒さで痺れる、ひゅうひゅうと白く冷たい風に触れた端から唇が凍りついていく。
 不思議と楽だった。全てを話し、そして氷の壁で覆ってしまえば二度とこんな苦しみもないだろう。

 「私は嬉しかった……播磨さんは…私の一番大事な人を、大切に見てくれる人なんだって…」
 「……」

 一滴のインクがもう消せないように、一度出した言葉は取り消すことはできない。
 掬った水が指先から溢れることを止められないように、全ての気持ちが零れ落ちてしまう。
 もしそんなことをすればもう二度と戻れない――知っている、けれど止め方がわからなかった。

 「だから…だから力になりたいって……私で役に立てることなら何だって…それで、それで……私は…嬉かった…」

 まるで見当違いの努力だった。その時の一生懸命さがあったはずなのに、八雲は今ではそれさえも愚かだと思った。
 それは先程の拳児と同じ。大切なはずの気持ちや思い出を無価値と見ることで納得を得ようとする、自傷行為。
 つう……と瞳からの一筋の涙が、大事なものが失われるようにして堕ちる。
 拳児を見据える八雲はとてもとても悔しそうな表情をしていた。

 「…ばかみたい……相手にされていない、ということなのに喜んで。…分かってて近づいて、離れられなくて、忘れられなくて……それから…悩むなんて……」
 「妹さん…」
 「すいません、私どうかしてるんです。原稿に戻りましょう。もう何も言いません。播磨さんの――」

 それで話を終わらせようとした八雲の唇にあるのは、もう全てを諦めたような――達観しきった氷の微笑み。
 流した最後の紅涙が頬から離れれば、もう一生冷たい先に閉ざされてしまう。少なくとも拳児にはそう見えて、少し前よりも更なる焦燥感に我慢の限界へと達して爆ぜた。
 今日の主人達はやかましいと思ったが、今度は伊織は逃げなかった。

 「頼む! どーか俺にも喋らせてくれ!!」

 いつか頼んだ日と同じように、拳児は身を乗り出して八雲の両肩をつかんで引き寄せた。離さない、離すまいと。
 強いスキンシップの懐かしさが八雲の体を固めた。――瞬間、物悲しい嗚咽が止む。

 「いや………離し…て…私なんか…」
 「だめだ。その。言いにくいんだが……『いつから』っつーのは」
13027-3(おにぎりルート):2009/06/16(火) 00:02:48 ID:4bNYv03m

 今更だが、何故こうも自分はいつもいつもタイミングが悪いのだろう。
 そういう星の下に生まれているのだろうか。

 「…『いつから俺のこと?』じゃなくて。…『いつから俺が天満ちゃんのこと好きだと知ってたんだ?』って意味で、よ」
 「 ぇ?」

 ・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・

 突然止まった時計のように、呆然と固まる八雲――早合点にどれだけ衝撃を受けたのかは拳児には分からない。

 「いやもう聞いたけど。そっか、夏のキャンプから…んで、漫画の手伝いを頼んだ時、か。
  ……そうだな。妹さんは最初から俺を…やること全部応援してくれてた」

 しかしきっと今も聞いてくれていると信じ、眉一つ動かさず、瞬き一つせず、人形のようになっている八雲に話を続ける。

 「…バレそうになったときもあったけど、俺としちゃ、天満ちゃんをアメリカに送るまでは隠し通してきたつもりだった。
  けど妹さん、何だかずっと前から知ってる風に言うから気になって…紛らわしくて済まねえ」
 「い、え……」
 反射気味に八雲は声を漏らす。相変わらず色を失った影絵のままで。

 「…」
 「…」
 
 「あのさ妹さん…俺は天満ちゃんが好きになって後悔はねえけど、その気持ちは俺だけのモンだ……って思ってたんだ」
 「…」
 いや恋なんてそんなもんだよな、手前の気持ちが問題だ、けどよ、と一言置いて播磨は改めて八雲を見つめた。

 「だから…初めてだった。恥じるな、胸張って誇りに思えって……そう言ってもらえたことなんてなかった。
  いろんな奴に励まされたり元気付けられたりした。けど俺の恋に突っ込んで言ってくれたのは妹さんが初めてだ」

 それは本心。従姉である刑部絃子さえが拳児の恋を応援してくれてはいたが、その意義や価値について表面以上に言急することはなかった。
 お節介な他の連中も同様である。もちろん人の恋にうかつに触れるのはご法度である。それは理解しているが。

 「俺の恋がすげえ宝物みてえに思われてんだ……嬉しかった。ちっと、じわっときた」
 「…違……わたしは、かってな……」
 「他の奴ならそうかもな。誰でもじゃねえ。誰でもない妹さんだからだ。誰よりもお姉さんの幸せを願ってるはずの子だからな。…嫌なわけねえよ」

13127-3(おにぎりルート):2009/06/16(火) 00:03:43 ID:4bNYv03m

 八雲は…塚本八雲は誰よりも塚本天満を愛している。
 烏丸大路、播磨拳児のそれとは違う意味での、この世の何者にも負けぬ、決して砕けることのない不屈の愛。
 それを拳児は知っていた。彼女と近づきになった者なら誰でも理解できる事――ではない。ただ拳児は鈍感であれど、真実に近づけた理由があった。

 ――写真の中の家族。幻のように消えた両親。しかし残された二人はすれず曲がらず、周囲の人から愛される人間に育っていた。

 拳児は既に一つの過ちを自覚していた。
 二人を育ませたのは神でもなんでもなく、彼女ら自身。神に感謝する前に、その努力に気付くべきだった。
 親類や地域の人間、お上の補助、他のどんな要素があったとしてもその事実は変わらない。
 天満は八雲を…八雲は天満をがむしゃらに愛した。そんな八雲に天満への愛を認められたのなら、嬉しくないはずがない。

 「言われただけですっげえ嬉しい…するってーと、だ。俺は…」

 今度は自棄に走ることもなかった。八雲が叫んででも支えてくれたから。
 逃げてはいけない。認めなくてはいけない。そういうこと……なのだ。

 「……俺は、やっぱりまだ、好きなんだな…天満ちゃんが。
  烏丸の奴がいても、遠くに行っても、まだ、諦めきれずにいる……何かあるって思ってる。妹さんが正しかった」
 「ぁ……」

 一年の時間があってもなお。幸せを目の当たりにしても。どれだけの無理難題だと目の当たりにしても……


 拳児は己の内にくすぶっているものをはっきりと自覚した。それは天満への見果てぬ夢。
 燃焼しきったはずの愛が未だ何かを訴えている。何なのだろう。
 何かが、隠し切れない何かがある。塚本天満に繋がる重大なことで、己の本願というべきものが。
 正体はわからない。だがそれを消すために終わった恋だと自分に言い聞かせ、ネームを切った。
 そして全力で否定した八雲の眼力は確かであった。

 (何が足りねえんだろうな。天満ちゃんを奪う?違う、そんなことねえよ)

 『そいつはな、お前が惚れてる烏丸からお前を奪わねー限り一生納得しねえよ』

 ――それはあの笑顔の後ではもうできない相談。だが誤解を恐れず言えば、完全に的外れでもない気がした。 

 (……だめか、わかんねえ。けど、今は悩んでる場合じゃねえ)

 自覚しただけで答えはない。結局目の前は閉ざされたままである。足りないものの正体を認め、それが解決しない限り。
 奇しくも拳児は帰宅した後の八雲と同じような困難にぶつかっていた。
 そして彼女と同じく、悩みを置いてでも、今の己が成すべきことを成そうとする。

 「もう一つ、妹さんに言いたいことがある」

13227-3(おにぎりルート):2009/06/16(火) 00:05:20 ID:4bNYv03m

 拳児は八雲の肩から手を離して立ち上がり、食卓の半円に沿って歩く。
 間近で見るのは少女の真っ赤に泣きはらしている顔。近すぎる距離、眼の黒い部分の明暗すら見分けのつきそうな位置に静かに座った。

 「頼む……元気だしてくれ。泣かないでくれ」
 「…播磨、さん……」

 時折しゃっくりをするようにびくつく上半身。
 かろうじて酸素を取り込んでいるらしい口元。
 喪失気味な、はらはらとした涙の痕に崩れた瞳。

 どれもこれもが痛ましい。けれど瞳は今も根源である男の姿を写し続けている。けれどほんのりと紅いその中は、そして涙は透き通っていて綺麗だった。

 「ぇ…あ、あの…何を…」
 「悪い。けど少しだけこうさせてくれ」

 大きな掌が八雲の腫れた目元を覆う。一つ一つの指がそっとかかるように触れて。そして肩を優しく抱いていた。八雲はぴくりと震えたが、抵抗はない。
 慰めもある。けれど拳児は触れることで約二年前の一年間――がむしゃらに追いかけてきた一年を、八雲の視点で振り返ろうとしていた。

 「俺には妹さんの悩みがちっとだけ分かる。天満ちゃんと烏丸には散々悩まされてきたからな」

 自分が時には烏丸に、漫画に、暴力にと行き場の無い気持ちをぶつけたように、八雲も何らかの代換手段で精神の均衡を図ったのだろう。
 例えば、どうしようもなく鈍い男と女のために、自分を気持ちを犠牲にして。

 何をしても見てくれない。気付きもしない。わかっていても、好きになってしまう。そして力になろうとしてしまう。自分と八雲はどこか似ていた。
 加えると、八雲の場合は姉の存在もある。自分には烏丸を恨むことができても八雲には絶対できまい。
 二人の人間の重ならぬ恋を同時に応援してしまう不器用さは、もう少し利己的に動いてもいいと思ってしまうほどに純粋だった。
 逆に言えば味方につけることだってできたはずなのに…しなかった。
 クリスマスの時、彼女はちゃんと否定してくれた。天満との架け橋となってくれた。それができる人間がどれだけいるのだろう。

 「……よく頑張った。辛かったのにな…ありがとう」
 
 「! ――う……ぇ…」
 
 拳児はいつしか八雲の頭を撫でていた。掌を広げ髪の向きに沿ってゆっくりと。自らの体温を伝え、氷の彫像を溶かすように。
 言葉が溢れ、少女の体が涙に崩れ大きく傾く。胸の内、腕の中に熱いものが押しつけられる。

 「ぇ……うえぇぇぇん……」

 拳児の知る塚本八雲は、年頃の割に滅多なことでは感情を表に出さず、落ち着き払った大人のような少女だった。
 けれど今、拳児は自分の腕の中で泣きじゃくるこの姿こそが、本来の彼女なのではないかと思うようになっていた。

 八雲を抱きしめながら拳児は考える。
 ――写真の幼き塚本姉妹。天満は変わらず、八雲は変わった。
 三つ子の魂百までという諺を全て肯定するわけではないが、あまりに違いすぎていた。
 環境が人を変えることは知っている。しかし同じ環境で育ってきたはずの天満は、生のままが保たれていた。
 何故だろう。誕生したときからの資質の差…なるほど、そうかもしれない。

13327-3(おにぎりルート):2009/06/16(火) 00:07:14 ID:Yu6IZqvO

 弟の修治が生まれてから、拳児は両親が様々な苦労を抱えていく姿を見てきた。
 幼さから来る配慮のなさであるが、自分以外を抱く親の姿を見て初めて自分が負担になっていたことを自覚したのである。
 人間を一人育てるということがいかに難しいことなのかを子供なりに理解し、感謝もした。
 中学時代に家を出たのは自由への憧れ(このあたりは絃子の影響もある)もあったのだろうが、負担を軽くしたい気持ちもあったのかもしれない。
 いかにもガキらしい、彼らの気持ちを半分も理解しない行動であったが。
 
 さて。両親の苦労の甲斐あって、弟は小生意気ではあるが健康的に育っている。
 絃子曰く自分と大差ないらしいが、それは不服である…話が逸れた。
 そう。父も母もいたから。もし支えてくれる大人がいない子供が二人、いたとしよう。
 彼らが生きるにはどうすればいいのか――それは親が残していったものを土台とし、子供と子供が支えあうしかない。
 だが小さな体にできることなどたかが知れている。生きるために大人の背の高さが必要ならば、子供などその半分がせいぜいか。
 ましてや、同じ目線の子供が二人いては絶対に無理だろう。
 一人ができることをもう一人がやってはいけないのだ。

 塚本天満は良くも悪くも純真な少女である。感じたことをそのままに行動できる強さがある。
 誰もが成長していく上で恥ずかしい、照れくさいと思っていくうち、やがていつしかできなくなってしまう力。
 それは最も彼女らしさを感じさせてくれる宝物。光溢れる空の真ん中で、どんな宝石より輝くことができる太陽のような力。
 拳児は天満のそんなところが好きだった。

 けれど、いいことばかりではない。天満とて時には間違って失敗してしまうこともあるだろう。幼いならば尚更だ。
 それを支えたのが……八雲なのだと思う。年下にも関わらず、八雲はきっと少しだけ天満より大人だったのではないだろうか?
 俗っぽい器用さ、とでも言うのだろうか。
 心のあり方だけでは立ち向かえない、現実の辛さを請け負うことのできる資質。
 できないことに手を伸ばし、力をつけようと知識や技術を吸収していくための資質。
 誰もが成長していく上で身に着けていくはずの力は、天満ではなく八雲のほうが長けていた。
 そして常に背中を任せられる相手がいるからこそ、天満だけは変わらずに生のままに前を向いて育つことができた。

 そうあろうとしたのではなく、そうしなければいけなかった。
 両親に愛ではなくて悲しみを残されてから、心に大きな穴を穿った二人は極端な分担作業で生きてきた。
 八雲は、天満のできない全てを果たせる人間になろうと。
 そして天満もまた、八雲に大事にされている部分を貫き通して――二人は衝突と和解を繰り返し。
 好き勝手に解釈してしまったが、それ以外に二人が生きていられる術が拳児には思いつかなかった。

 (そう考えると、天満ちゃんが子供っぽいけどたくましくて、妹さんがしっかり者なのに弱いところがあるのもなんとなくしっくり来るんだよな)

 一瞬だけ…拳児は姉妹に哀れみを覚え、すぐ振り払った。
 拳児は嬉しかったのだ。天満のため、八雲にしかできないその愛し方が拳児にはとても嬉しかった。
 八雲が天満を慕う拳児のことを嬉しく思ったように、拳児も天満を慕う八雲を嬉しく思う。
 どれくらいかというと――天満に抱くそれと比較してさえ違うが、紛れもなく―――

 いつしか、響く嗚咽は少しずつ少しずつ短くなっているようだった。



13427-3(おにぎりルート):2009/06/16(火) 00:09:42 ID:Yu6IZqvO


    ◇ ◇ ◇

 ひとしきり泣いた後、八雲はやがて落ち着いた表情を拳児に見せるようになった。
 今は腕の中から離れて台所で天満を迎えるための準備をしている。

 『夜は姉さんの好きなハンバーグにしますね。卒業祝いでお腹一杯になってしまうかもしれませんけど…』

 わずかに伝わってくるのは生肉の生臭さ、ネギの鼻をつく刺激、卵をとく音に何かをこねる音。
 太陽は傾きを見せていて少しずつ空気が孕んだ暖かさが失われていく。
 拳児は卓袱台にネームを乗せ、腕を組んだ体勢で考えていた。
 手の内に八雲の感触を残しながら。

 今日は一体何事かと、伊織がじっと主人の一人を睨みつける。しかしサングラスをしたまま目をつぶっている拳児には気付くことができない。
 山積みの問題が拳児の前に並ぶ。まず原稿。もう一度考えてみる、とリテイクの意思を示し現在練っている最中である。
 次に返事。八雲からの告白に対して今だはっきりとしたことを言えていない。
 聞かずとも分かる――言外に語る八雲の背。けれどそれに甘受し続けるつもりはない。
 そして改めて自覚した、やはり消えぬ、このまま終わらせたくない塚本天満への恋心。

 (…どうした拳児。原稿をこのままにして、妹さんには詫び入れるしかねえだろ。で、天満ちゃんのことはこのまま…)

 三者はどれも複雑に絡み合っている。一つを決めればそのまま全てが決まってしまいそうなまでに。
 ソレはソレ、コレはコレというような器用さがあればもう少し楽に生きられただろう。
 そして最も拳児を悩ませるのは八雲の存在であった。

 (けど…俺は妹さんのことが嫌いか? んなわけねー。好きか嫌いかで言えば……いや、そうでなくても好きなんだ)

 八雲は常に不器用な男の機微やこだわりを汲み取ろうとしてくれていた。
 男女の間にある物の感じ方の違いに否定どころか興味を示し理解しようと努めてくれた。
 何か問題が起きたときでさえ、一緒に暮らしているのですから、と粘り強く諭し決して癇癪を起こすなどはしなかったものだ。
 裏表のない懸命さがよく伝わってきたので、拳児は八雲に心を許していたし力を借りることにも抵抗は覚えなかった。

 ――それでも、昨日までであれば断ることができたかもしれない。
 だが彼女の内面に想像にせよ踏み込んでしまった今となっては。
 そして本心を知ってしまった今では難しい。誤解を恐れず言えば……惚れてしまった今となっては。

 少しずるいやり方ではあるが、八雲は今日これ幸いにと距離を詰めることもできたはずなのだ。
 けれど目の前の好機を好機と見ないで、惚れた相手の本心がどこにあるのか見抜き、正そうとするその姿。
 ナルシズムと言われようとも、一方的な思い込みにせよ、八雲が見せたその意地にひどく共感を覚えてしまう。

 ……好きになってしまった。
 困難に目を瞑らず、それでも前を向く姿。悩んでも苦しんでも辛くとも、正しい道を受け入れる強さ。
 塚本八雲の、その心が好きになった。天満と比較してさえ違う、"好き"ではあるが。初めて感じる"好き"だった。

13527-3(おにぎりルート):2009/06/16(火) 00:12:08 ID:Yu6IZqvO

 では異性として見ることができるだろうか? 触れたくない話題であるが、正直に言えば、できる。というか…せざるを得ない。
 硬派を気取り塚本天満以外は興味のない拳児であるが、見知った女の姿には年相応の興味を覚えてしまう。
 そして八雲の持つ魅力は充分すぎていた。同居を続ければ偶然その部分を垣間見る時が往々にしてある。

 例えば夏、浴衣を着てタライに水を引き足を遊ばせている彼女の姿。
 細い足首や丸みを感じさせる体のラインに無関心でいられるはずもない。
 そのまま彼女が眠ってしまえば崩れた太腿や漏れるつぶやきに赤面させられるわけで。
 絃子のように普段からそういうものだと知っていれば特に気にもならないのだが、日常の八雲は拳児の考える貞淑そのものであるから厄介極まりない。
 サラのように少々子供っぽい部分を見せてくれるなら可愛いものだが、八雲は子供というには艶やかすぎた。

 徹夜で原稿を進めていると、ふいに眼を閉じ動かなくなる彼女。
 かつての天満に覚えたような、何されても文句は言えぬ、無防備極まりないその姿に――。

 (待て! 別にそんな目でずっと見てたわけじゃねえぞ? 俺の自制心は)
 とにかく――そう、播磨拳児は塚本八雲に対し極めて好印象を持っているのだ。今日のことでそれは更に加速された。
 人によってはそれだけで恋に至る、後は時間の問題だと思われる程に。
 だが拳児は一度や二度ではない八雲を感じる瞬間の都度、強く否定しなければという観念に苛まれた。
 それは八雲やサラとの平穏な生活を維持するための危機管理意識でもあったが、一番は自身が持つ天満へのこだわりである。


 最後まで振り向いてくれなかった少女のことを瞼に映す。迷うことなく好きだと言えた。
 その気持ちがいつもより激しく猛っている気がするのは根拠なしではないだろう。
 今日、無理にでも終わらせようとした処を気付かせてもらったのだから。

 (振り出しに戻る…かよ。チクショウ俺はどうすりゃいいんだ)
 八雲といることで安らぎを感じている部分を無くすのが惜しいと思い、結局踏ん切りがつかずにいるのだろうか。
 せっかく築いた彼女との関係、感情を無に還したくないというのが無理な話か。
 自分と八雲では、恋を入れた瞬間割れてしまう関係…なのだろうか。

 (他には…やっぱ天満ちゃんを諦めて妹さんを……?)
 おいおい、と拳児は慌てて否定した。
 そんなことをしても自分も八雲も納得しない。実現しても上手くいかず、八雲のほうから別れを告げてくるだろう。
 「あの、播磨さん…」
 そうこんな風に彼女から別れ話を
 「あの、播磨さん?」
 「んお!?」
 目を開くと台所と居間の中間あたりに八雲が心配そうな表情を浮かべて立っていた。その瞳の周りはまだうっすら赤みが差している。

 「その…あまり悩まないでください。播磨さんが漫画のこれからを真剣に考えて、話を変えていくなら…正しいと思います。
  姉さんについても…けれど、最後の最後で、今までの播磨さんを否定するようなことだけは……」

 原稿の様子を見に来ただけなのだろう。八雲は心配そうな表情でキッチンへと戻っていった。
13627-3(おにぎりルート):2009/06/16(火) 00:13:38 ID:Yu6IZqvO


 今までの播磨さん――とはなんだろう? 悲壮な頼みの意味を考える。
 塚本天満を愛し続けること…だろうか? 少し違う気がする。
 何故ならば、それは悪意で以って解釈すれば永遠に報われぬ恋に走れということに他ならない。
 八雲は一言もそんなことは言っていないし、ひと悶着起こしたのも天満のことを突如諦めたかのような態度だったからだ。

 天満を愛し続けるのは手段であって目的ではない。目的は彼女と結ばれることである。
 そうなると…今の自分は目的を目指していると言えるのだろうか。愛し続けているだけの今の播磨拳児が。
 しかしもう彼女は遠い地で幸せを見つけてしまった。
 何度もくどいようであるが、もうできることはない……はず、なのだ。可能性は潰えた。

 (――! ここだ。さっきも俺はここで詰まった。考えろ、考えろ拳児……)

 …例えばアメリカまで行って彼女を影から見守る足長おじさんにでもなるべきだろうか?
 空回りの多い行動が幸せを壊すことに繋がってしまったら首を吊るしかないが。
 ではせめて天満のために、彼女が日本に残してきた心残り、妹の八雲を支えて生きるのはどうだろう?
 それもだめだ。そんな理由で動く男は八雲からお断りに違いない。

 やはり自分には荷が重すぎる、攻略不能の難題であったか。考えることをライフワークとする学者達の評価が拳児の中で一つ上がる。

 『最後の最後で、今までの播磨さんを否定するようなことだけは……』


 最後…ん? 『最後』?


 天啓を受けた宗教家のように、拳児はキッチンに突撃した。
 居間からわずかな距離なのに肌に汗が立つ。興奮に息が切れて足が笑う。腕の振るえが止まらない。

 「妹さん!」
 「は、はいっ」
 「それだ」
 「?」

 矛盾したパラドックスだと思っていた。
 一人は最良の幸せをつかむ未来を決めた。
 一人は気持ちは未だ断ち切れずにいて。
 一人はそんな男に心を寄せ過ぎている。

 「頼みがある」
 「え…播磨さん?」

 長い長い道のり。遠回りにも程がある。いつも当たり前のようにしていたことが何故できなかったのだろう。
 自分に腹が立つ。けれど拳児はようやく己のすべきことが分かった気がした。

 「…嫌なら嫌だって言ってくれ」
 「は、はい…」


 全てが解決するかどうかはわからない。だがこれが最初の一歩だと拳児は思った。

 「今晩。妹さんの大事な――を、俺にくれ」
 「……播磨…さん」
13727-3(おにぎりルート):2009/06/16(火) 00:14:40 ID:Yu6IZqvO

 ――――――――――――――――


 ここまで。
 なかなか進まない二人で申し訳ない。でも進めた。つもり。
 次回から最後の難関に突入・・予定。
 面白い、楽しみにしてると言ってもらえてとても励みになります。感謝。
138名無しさん@ピンキー:2009/06/16(火) 00:48:00 ID:DCjD+H1X
>>137
そう書き込むだけでこういう良作が出てくるなら何度でも言います。今回も面白いし、続き期待してます。

減ってはいるけど良作家はまだいなくなってないのは嬉しいことっす
139名無しさん@ピンキー:2009/06/16(火) 01:07:05 ID:LFr0oVtL
>>137
乙です
播磨の最後のセリフの真意が気になるw
これだけの量を毎回書き続けることは、骨も折れるでしょうが頑張ってください
140名無しさん@ピンキー:2009/06/16(火) 07:36:33 ID:B/qy0xtf
八雲・・・播磨の天満馬鹿を戻してどうする・・w

押し倒してエロにいっちゃえばいいのにと思った俺は腐っているか
141名無しさん@ピンキー:2009/06/17(水) 23:43:02 ID:VyBCEA2k
最終巻発売したな。書き足しはなしか。無印の最終巻とくらべると
作者のやる気もなかったのか。
142名無しさん@ピンキー:2009/06/17(水) 23:46:18 ID:KwxTyvj0
そんなもんは作者にしか分からないからなぁ
まぁでも、ちゃんと完結させるくらいのやる気はあったんじゃないの
143名無しさん@ピンキー:2009/06/18(木) 00:30:56 ID:fJiPcnBg
今回もとても面白かったです。最後のセリフ気になるw
14427-3(おにぎりルート):2009/06/18(木) 01:16:21 ID:fvw0ndjj
 今更ながら、塚本家の書斎って・・・二階?
 PFによると二階に未設定の一室があるのでそこをイメージしてますが、違っていたら大変失礼を。

 >>136のつづき。いいかげんエロまでを早くしなければと思い、今回も長いです
14527-3(おにぎりルート):2009/06/18(木) 01:17:32 ID:fvw0ndjj


 世の中というものは日進月歩、秒進分歩、千変万化、常に様変わりを続け休むことなくどこかへと進んでゆく。
 桜を切り倒して建てた大きな屋敷は荒地にならされていた。田畑だった場所には建設中の家。懐かしい公園の古いブランコが消えていた。
 剥げかけていた民家のトタン壁は鮮やかな色に塗装されていて、よく利用した田中商店は新装開店セール中。
 数多の小さな変貌は少女に一つの大きな実感を促す。――未来は誰にもわからない。

 これなら、いつかあの人が戻ってくる日もあるかもしれない。あの人は今も生きている。無くしていない、探しているだけ。
 大事なものを取り戻し、あったはずの夢を追う日が来るかもしれない。いや、きっと来る。そう信じている。
 人は先へと進んでいく。私はそれがとても嬉しい。私もその流れへと身を投じたい。

 けれど今日は、今日この日だけは過ぎし日に戻ろう。
 大事な大事なかけがえのない、この世でたった一人の妹のために。
 生涯最大のワガママを何一つ言わずに受け入れてくれたあの子のために。

 ――塚本天満、懐かしの我が家の前に立つ。
 
 
 そこは変わっていなかった。影の輪郭も、空気も、壁の色も、古びたクーラーの室外機も。
 まるでいつ戻ってきても迷わぬよう、大丈夫なように。

 「たっだいま〜!」
 遠慮のない元気さに満ちた声で扉を開け放つ。
 記憶のとおりの玄関には男物と女物の靴が一足ずつ。
 一瞬の静寂。もしかして誰もいないのでは。天満はありえぬ不安に身を振るわせそうになった。
 否定するように伝わってくるのは懐かしの生活感。家族と過ごした、妹と過ごした、日々の記憶の匂い。
 たまらない愛おしさだった。奥からの足音に飛びつきたくて我慢できなくなる程に。
 「姉さん、お帰り」
 「八雲、ただいま」
 今日二度目の再会。いつもの言葉が映画のどんなそれより重い。
 うにゃ…と憂鬱そうな声で伊織が吠える。けれど尻尾は左右にゆらゆら、ゆらゆら。

 「卒業祝い…ごめんね。迷惑じゃなかった? 烏丸さんは…?」
 「ううん、皆ちゃんとオッケーしてくれたから。烏丸君は一緒に日本に来てくれた病院の人に任せてあるよ」
 荷の詰まったトランクを八雲が受け取る。時間はほぼ9時――といったところか。
 高校生の卒業パーティが終わる時間にしては少々早い。ましてやあの2-Cが、である。
 日本で使える携帯がないため、天満が八雲から連絡を受けたのはメルカドにてサラを通してからだった。

 『今日は少し早めに帰ってきて欲しいの。それとコーラはできるだけ控えて』

 どうして卒業パーティに来れないのかは知らない。遠慮というわけではないと思う。
 けれど変なところで強情っぱりな妹に頼まれるのが嬉しくて、天満はクラスメイトに詫びながらも二次会を抜け帰宅を選んだ。

 何故か案内される形で天満は居間へと向かう。
 黒電話も使い古された手書きの電話帳も変わらない。
 けれど途中で、きしむはずのなかった床がぎしりと音立つ。それは自分の知らない確かな一年の重み。
 懐かしいのれんはちょっとだけ色あせていて、くぐればそこは物の並びが記憶とは違う部屋。そしているのは…

 「塚本……久しぶりだな。邪魔してるぜ」
14627-3(おにぎりルート):2009/06/18(木) 01:19:13 ID:fvw0ndjj

 「…播磨、君……うん、久しぶり! そっか、現役の漫画家さんだもんね。八雲もお手伝いしてたの?
  でもちょっとくらい顔ださないとダメだよ〜八雲は人気あるんだから。あ、でも花井君は静かだったかなぁ」
 「うん、ごめんね…ところで姉さんお腹すいてるかな? ハンバーグの用意が」
 「食べる食べる!」
 
 両手を挙げて喜びはねる姉の姿。八雲は久々の機会に微笑んで、いそいそとエプロンを手に台所へ消える。
 あわせるように、拳児は手元の画材をかき集め立ち上がった。

 「あ、それって漫画? 読みたいな〜」
 「風呂の準備してくるわ。ゆっくり万石でも見ててくれよ」
 「え――… あ…う、うん……ありがと」
 冷や水を向けられたようなよそよそしさ。けれど天満はそれも自分の知らない時間による変化だと思うことにした。
 変化…? 彼の、播磨拳児の気持ち…が……? 今はどうなのだろう……

  ◇ ◇ ◇

 懐かしい形と匂いにお腹の中がたまらぬ欲求で突き動かされる。
 天満は我慢できないといった風に、まだ油のはじけるそれを見つめていた。
 素の白ごはんに鯛のお吸い物、そして天満の熱視線を浴びて止まない丸いハンバーグが三人分。
 旬の野菜で彩られたサラダを囲むようにドレッシングが並ぶ。
 「ホラホラ播磨君、早く髪乾かして座りなさい! 八雲のハンバーグが冷めちゃうよ〜」
 「わかってるわかってる! 急かすな」

 ドライヤーのモーター駆動音より騒がしい長女の声。
 一番風呂を済ませ、既にパジャマに着替えている姉を八雲は両手で落ち着かせる。けれど感じる懐かしさが呼ぶ笑顔は止められない。
 やがて、同じく二番風呂を済ませ髪を乾かし終えた拳児が伊織と並んでやってくる。
 共に二人の向かい側に座ることで、家の中の全員が集った。

 「いただきまーす!」
 「いただきます」
 「頂きます」
 「ナーオ」

 三者の合掌に混じるのは猫のあくび。天満は真っ先に妹の力作に手をつけた。
 「……うむ! 八雲殿、おかわりないようで」
 「お代わりはあるでござるよ姉さん」
 「はは、何だそりゃ」
 
 歓迎の食卓を賑わす話題は彼らの一年。
 天満は海の向こうの人達の話を。烏丸と過ごす日々の幸せを。
 拳児は学生と漫画家の両立の厳しさと、そこにある確かな達成感を。
 八雲はそんな二人の話に相槌を打ちながら、形になりだした自らの進路を。
 話せることは山のようにあり、聞きたいことは後から後から際限がなかった。
14727-3(おにぎりルート):2009/06/18(木) 01:20:28 ID:fvw0ndjj


 三者の関係は一種の騙し絵。或いは、変化を続ける万華鏡か。

 口元についたソースを八雲にぬぐってもらう天満の姿を見れば、落ち着いた長女と長男、少し子供っぽい次女の関係に。
 プロとしての矜持を自慢げに話す拳児と尊敬の眼で見上げる二人の姿からは、頼れる父親に支えられた姉妹に。
 頬をうっすら染める八雲、咳き込む拳児、知らずとも笑う天満の姿を見れば夫婦とその子供にも。
 どれも間違いであるが正解だった。そこにあるのは一つだけ――家族の団欒。


 ことん。一番だしの出汁をミツバまでしっかりと頂き、空のお碗が三つ揃う。

 「ご馳走様でした! いや〜どんどんお腹に入っちった」
 「ごちそうさん。しかし数までピタリ、か」
 「播磨さんも慣れればわかりますよ。お粗末様でした」
 「ナオー」

 揃って食事を終えた三人はぞろぞろと食器を持って水場に並べていく(猫皿は八雲担当)。
 後片付けは八雲の役割で、天満はそれを手伝おうとはしなかった。
 今日この日、妹に必要なことは気を使うことではなく過去の日常を繰り返すこと。そう考えていたから。
 至らぬ姉としては拭き終わった皿を食器棚に並べるくらいが丁度いい。

 蛇口の音と布巾の滑る音。作業に徹する八雲の口からは珍しく鼻歌が漏れていた。
 すこぶるよい妹の機嫌に満足気な天満は、寝室を片付けて布団を並べていく。
 前言を早々に撤回することになるが、日常が大事とはいえ特別は特別なので、今日は三人で寝るといつしか決めていたのだ。

 (あれ…三人?)

 数に挙げてようやく、天満は自分が拳児の存在を当たり前のように受け入れていたことに気付く。
 彼が泊まることに不思議と全く違和感がないのだ。同居しているのだから当然といえばそうなのだが、メルカドでサラは今日はお邪魔しませんと言ってくれたのに。
 別に拳児をつまはじきにわけでも、憩いの時間を邪魔されたように感じているわけではない。
 むしろ二人でいるよりもずっと嬉しく思ってしまった。まるで更に過去に戻れたような……

14827-3(おにぎりルート):2009/06/18(木) 01:21:38 ID:fvw0ndjj

 意識を半分ほど考え事に預けたまま、天満は見覚えのない――拳児用の掛け敷き両方まとめて運ぼうとして、よたよたと足取りが危うくなる。
 一年越しの危機を察した伊織は真っ先に退避した。

 「お、重…うわたぁ!」
 「――っと! 危ねえぞ塚本。今日は疲れてるだろうから無理しなくていいんだぜ」
 
 間一髪。天満が伊織のいた場所にダイブする寸前、いつの間にかいた拳児が反対側から支える。
 
 「あ、播磨君ゴメンね。男の人の布団って分厚くて重いんだね。驚いたよ、病院には… あれ、サングラス?」
 「塚本、この後時間あるか?」

 届いていたはずのメロディはいつの間にか絶えていた。そして拳児の眼を覆うサングラスも消えていた。

 「大事な話がある。塚本が日本にいる今日しかできねえ話だ」
 「…え?」
 「姉さん、聞いてあげて」
 振り向いた先には妹がいた。祈るように手を折りたたんで。あったはずの上機嫌さも表情に見られない。
 神仏を前にしたような真剣なまなざしに、天満は逃げ道を塞がれている気すらした。
 
 「え? や、やく…も?」
 「お風呂入ってくるね。伊織も…行こう」
 不自然なほど何の説明もないままに、妹は一瞬だけ拳児と目を合わせ伊織を抱いて風呂場のほうへ向かう。戸が閉まり、伝う僅かな空気の振動。
 汗を流すだけならあんな顔をするはずがない…ただ立ち去りたかった、のだろうか。わからない。
 拳児もまた何も言うことなく、半ば無理矢理に布団を奪い取り、部屋の端に並べて座り込んだ。
 「え? え? あ、あのこれって」
 「座ってくれ」

 明らかに空気が違っていた。帰宅してから食事が終わるまでのそれとはまるで別世界。
 奇妙な緊張感と確かな疎外感に天満は戸惑う。全身の毛がふつふつと逆立って興奮が渦巻く。
 何かが、ある。促されるままに中央にある自分の布団に座した。

 「えっと播磨君?」
 「塚本。いや…天満ちゃん」
 「!っ……」
 呼称の変化に天満は自分をこの後待っている事態を悟った。
 一年前――彼の背に懸命にすがりつき、体が吹き飛びそうなスピードと、ヘルメット越しでも感じる叩きつけられるような風圧の中で届いた言葉。
 確かに知った真実。けれど誰にも言わず伝えず表さず、誇りとし密かな支えとした言葉。


 「俺は君のことが好きだ」

 「……はりま、くん」

14927-3(おにぎりルート):2009/06/18(木) 01:22:33 ID:fvw0ndjj



 「ふう……伊織ごめんね。もう少し時間頂戴」
 「…ナー」
 適温より少し下がった湯船に八雲は体を預けていた。じんわりと一日の疲れが癒えていく気持ちよさでも、その表情を晴らすことはできない。
 今頃起きているであろうことに自らの責を感じずにはいられなかった。
 普段よりおとなしい伊織は濡れた体でこちらを不思議そうに見上げている。

 「我慢して…… あのね…播磨さんは今、すごく大事な話をしようとしているの」

 拳児が八雲に要求したのは彼女の時間であった。
 もう少し正しく表現するなら、姉妹水入らずで過ごすはずの大事な時間。サラとて『今日は教会に泊まるから』と遠慮したはずのもの。
 全ては天満に想いを伝えるために。当初、そんな予定は誰の頭の中にもなかった。
 そもそも拳児はネームをまとめたら夜より先に家を出て、適当な公園で朝を迎える腹づもりでいたのである。
 卒業パーティに顔は出さない。何故か……もちろん、塚本天満と顔を合わせないために。

 当然ながら、今日という日を狙い定め待ち望んでいたわけではない。
 そんな拳児が告白を志したのは、言うなれば一つの決意。
 八雲はその全てを理解できたわけではなかった。
 けれど決意は純粋に嬉しいと思った。

 「恋のカタチは人それぞれだと思う。けどね伊織…播磨さんの恋は、姉さんに伝わらないといけない恋なの。
  だってあんなに好きなんだから…播磨さんは今日も姉さんのために頑張ったんだよ。 伊織、わかる?」

 珍しく饒舌な主人の話を伊織は相変わらずの仏頂面で、けれど猫らしくない忠実さを以って聞いていた。

 「播磨さんは何も言わなかったけど…今日の頑張りを私は知ってしまったの。
  何をって? …『俺は後ろから見てたけど』だよ? …卒業生の人は一番前なのに後ろからなんておかしいよね。
  きっと、今日姉さんのことを知っていたあの人は…門出の日を烏丸さんを見てもらおうとして…力になれればって…」

 車椅子の烏丸はまだ移動もままならない。誰かが付き添わなければいけない。今日のことを知っていた誰かが。
 最初から役割が決まっていたのか、今日突然"彼"が動いたのかまでは判断できない――けれど、
 卒業式後の会話で八雲の中では全てが繋がっていた。

 話が逸れていた事に呼び覚まされて、八雲は両手から水分をきって伊織が冷えていないか背を撫でた。
 「…私は播磨さんに協力することにしたわ。告白すると言われたとたん、悩んでいたものの正体に気付いたの」
15027-3(おにぎりルート):2009/06/18(木) 01:24:09 ID:fvw0ndjj

 天満への告白――それが八雲と拳児の心に残っていたもの。八雲が感じていた穴の正体。拳児が辿りついた答え。
 それを経ず終わらせようとしたために、今日は伊織にも迷惑をかけてしまった。


 「空港で先生達を待つ間、言いたいことは言えたって…けれどすかされたって…播磨さんも、人のこと言えないのにね」
 
 拳児からその話を聞いたのはつい数時間前。誰かに話すのは初めてだ、と姉との別れの際にあったことを教えてくれた。
 それは大きく離れてはいなかった。八雲の漠然と察していた結果と比較して。言葉の選択を誤ったわけでもなく、告白はされなかったのであろう、と。
 強引な手段とはいえ、拳児は空港まで送り届けて諦めかけていた天満に並々ならぬ決意をさせたのだ。
 彼の心にいる女性の正体を、直接聞かずともほとんどの人間は行動で察してしまう。
 そして…それで決着がついたのだろうと思ってしまう。
 
 「けれど……播磨さんは大事なものを残してしまった…」
 
 拳児が天満を連れて飛び出した後、残されていたのは手製の花束。
 元々は告白を決意していたのに。なのに大事な気持ちをまた残して行ってしまった。
 どれだけ辛いことなのか……八雲は全て理解できずとも、それが彼の意思であったとしても、せめていつか届いたらと願っていた。
 一揃いの花そのものは枯れてしまっても、八雲の中ではただ漠然と姉と彼に抱く勝手な未練として姿を変えて…残っていた。
 
 最後の最後――想いが伝わらぬまま立ち消えとなることを、八雲は自覚のないままに拒絶していた。
 せめてあの花のことを自分だけは覚えておこうと決めてから。
 ならばその時が訪れない限り、彼を求めることも、求められることも、また応じることはできないと。

 「播磨さん…辛いのに……せめて想いを続けることはできたはずなのに…私が余計な、ことを……」

 顔を隠れそうになるまでに湯の中に浸し、寒くないのに身を震わせる。
 波紋が広がり、壁際にぶつかってまた押し寄せる波と重なる。

 ――やがて。

 「播磨さん……姉さん……ごめん、な、さ…」

 短い嗚咽が湯気の立ち込める静かな風呂場に響いていった。


15127-3(おにぎりルート):2009/06/18(木) 01:26:29 ID:fvw0ndjj



    ◇  ◇  ◇

 「播磨君…そ、その。私」
 「TPOをわきまえろとか、俺の知ってる天満ちゃんなら言わねえと思う。だから言った。
  もう知ってる…よな。俺達は中学の時に出会ってる。あの頃からずっと好きだった。毎日君の事考えていた」

 一年間――まだ恐れているのかもしれない。
 脈がなくとも想い続けることだけはできるはずだ、と考えている部分があるのかもしれない。
 
 「何もかも後悔してねえ。烏丸のとこに届けたのだって満足してる。塚本、今は幸せだろ? なら悔いなしだ。
  だから今日はそんな予定はなかった。けど無理言って妹さんに時間作ってもらった」

 呆れるほどに繰り返す。しかしならば何故、卒業式が近づく度に終わったと言い聞かせていたのか。
 それは決着がついていないからに他ならない。そして自身の恋を進める決意がどこかでついていなかった。
 正しく言うなら、天満への恋は全てを果たし終えたのではなく、止まり続けていたのだ――終焉へ後一歩のところで。

 「この一年間、怖かったのかもしれねえ。今日だって後片付けさぼって避けてたり、な」

 屋上で心に去来した感情は終わりを受け入れたのではない。むしろ逆。
 この一年、誰にも見せたつもりはなかった天満への心残りが姿を見せ始めていた。
 再会の今日。播磨は当然天満のことを想っていた。けれど漫画だって考えていた。それは確かな変化。
 燃え上がろうとしている気持ちの正体は、いわば墜ちる寸前の流れ星…決着をつけるための燃焼なのかもしれない。

 「あ、あのね……えと…何が、あったの?」
 「やれることは全部やったつもりだったが……たった一つ、残ってた。妹さんに気付かされた」
 「八雲が? あの子が何で」

 整理のつかぬ、言葉を失った状態でも天満は妹の名にはとびついた。拳児はその後を想像してしまい躊躇し、けれど告げた。

 「妹さんに告白された。一年以上前、俺が天満ちゃんを追いかけてた頃から好きだったって言われた」
 「! ――あ…」

 天満の泳いでいた眼がしっかり見開いて、その衝撃の度合いをありありと拳児に伝える。
 とっさに口を抑えた両手の指先はピンと伸び、吐息さえ封じようと固く張って顔の約半分を閉ざす。
 全く存ぜぬ事実を知らされたというより、何となく感じていた予感が当たってしまって…落ちる声にはそんな響きがあった。

15227-3(おにぎりルート):2009/06/18(木) 01:27:42 ID:fvw0ndjj

 「私……そんな」

 否定する要素のほうが強かった。
 高野や絃子といった第三者からの太鼓判。
 同居がいかに有意義な提案かという形でサラを含め説明されていたある日の手紙。
 なにより最大の根拠――播磨拳児の好きな相手を考えれば間違いなどあるはずないと。
 当時の環境も後押しした。烏丸と自分で手一杯の慣れぬ生活。だから本当に健全な関係にあると解釈して…それ以上は何も。

 「…ずっと、前から? 待って…それって漫画のお手伝いしてた頃から? 播磨君のことも知ってて…?」
 ただの噂。漫画のお手伝い。八雲自身も否定していた――当たり前だ。彼の見ていた先を知っていたならあの子が言えるはずもない。
 問題なのは時間のあったときでさえその内なる機微に触れてやれなかった、ということ。
 誤解だった。ならば、妹の心事はどうであったのかと考えすらしなかった、ということ。
 拳児を含めた三人の関係で見ると……天満は背筋が凍る気持ちにすらなった。

 「……じゃあ…まさか、私…あの子に」
 思い込みの強さを悪い方向に働かせ、天満は刃物をそれと気付かず握って迫るような『想像』を『事実』と考えた。
 手足から一気に力が抜けて身がすくみ、地面が傾く。平らな床が海のように曲がる。内側から焼かれるように脳が痺れた。
 口舌の徒。知らぬ間に無二の至宝を取り違えていたような欠落感。
 痛みを堪えるように頭に指を突きたて掻き毟る。

 「何で? 何で? 八雲……!」
 「妹さんは、俺が天満ちゃんを好きなことを喜んでくれた。上手く伝えられねえけど、ホントに心から…だ」
 恐れていたことを現実にしないよう、拳児は必死で言葉を探る。
 だが天満はうしろめたさから抜けられないようでコミュニケーションすらままならない。
 今回ばかりは、こうすべきという問題ではないのだ。何に苦悩しているのか分かっているのに、拳児は手を自然と固めてしまう。
 姉妹の間に割り込もうという行為が無謀すぎたか。だがここで投げてはそれこそ腹を切っても詫びきれない。

 「天満ちゃん! …妹さんを信じてくれ。あの子は弱いところもある。けど強くなろうとしてる子だ。
  特にお姉さんのことにかけちゃ誰よりもだ! だから今は…俺の告白のことを考えてほしい」
 「でも!」
 「色んなこと考えちまうのは分かる。けど、妹さんのためを思うなら、どうか今はしがらみは抜きにして考えてくれ!」
 説明になっていない。無茶苦茶を言ってるのは承知の上で、後ろを見ながら前を見ろと頼むも同然だと知りつつ拳児は叫ぶ。
 だが、体が二つでもなければ無理な話は拳児にとっても同じであった。天満への――そして八雲への感情の両立は。
 「播磨……君」
 「俺は馬鹿だ。二人とも苦しめる事になっちまった。けど、今なら、妹さんに支えられてだが、最後のケジメをつけることができる。頼む、後生だ!」

 不器用で空疎な言葉がどれほど彼女に伝わっただろう。
 拳児は肩で荒く息をしながら立ったままの天満を凝視する。優しく笑ってやれればいいのに食い入るようにしかできなかった。
 しかし――それをぶつけられた天満は、異常な発汗と平衡感覚が収まって、感情の波が静まっていくのを感じていた。
 深い安心に、過去の後悔に破裂しそうであった少女の表情が、魔法にかかったように少しずつ落ち着きを取り戻していく。

15327-3(おにぎりルート):2009/06/18(木) 01:28:55 ID:fvw0ndjj
 天満は何故か、懐かしさに泣きたい気持ちになった。それはまだ彼女が幼い頃に抱いた安息。

 「あ……」
 どれだけ辛いときでもそれのおかげで立っていられた。今の自分の礎となる、大事なことを教えてくれた人。
 震えていた手がすぅ、とうなだれる。暗雲が晴れて天満は自覚した……どうしていつも播磨拳児を特別視してしまうのか。

 (…そう…だったんだ……)

 思い出に抱かれ、決意が宿る。塚本八雲から播磨拳児へ、そして塚本天満に伝わり、宿る。
 八雲の勇気が拳児と――そして天満から与えられたものだとすれば、それは三者の中での勇気の連鎖。ぐるぐるまわる。高く高く、永劫の頂点へ。
 急傾斜していた天満の心はもうすっかりと均衡を取り戻していた。

 「私は…播磨君のこと……」

 楽だった。けれど今だけは忘れよう。
 この場で真実を――実は一年前に伝わっていたと言うのは楽だった。けれど今だけは忘れよう。
 あの時の出来事は、まだ胸の奥にしまうべきで、いつか話すべきなのだと――……やがて心の何処からも迷いは消えた。そして笑顔だけが残った。


 「…嬉しいよ。私ね、すごく大好きな男の人がいるの。
  その人は…とても優しくて、温かくて、私に大事な思い出をくれた人………最期まで、私を守ってくれた人…」

 緩慢に口を開いて、震えながらも力強く。天満は今、全神経を傾注して拳児のことを見ていた。拳児は拳児であって他の誰でもないのだから――

 「そして……っ、…もう、二度と……逢えない人…………っ……播磨君はね…その人にそっくりなの…」

 (…それって、――…か?)
 拳児は口にすることはできなかった。かつて彼女達に何があったのか……知る権利は誰にもない。

 「でも…私が一番好きなのは男の子は、烏丸君だから……」

 (ああ知ってたよ。けど君の口から聞けてよかった)

 「ありがとう…播磨君のしてくれたこと、全部私の大事な宝物…いつまでたっても…っく……わすれ、ない…………ひ…っく」

 (…見たか烏丸。悔しかったらさっさと病気なんざぶっ飛ばして来い)

 「あなたは、わたしのだいじな…………けど……ごめん…なさい……!」

 せっかく帰ってきてくれたのに。大事な日だったはずなのに。

 「ありがとな、塚本」

 辛い思いさせてごめんな。そんで……さよならだ


 ぽろぽろと天満は泣いていた。けれど拳児の大好きなその笑顔のままで。
 拳児はそれが嬉しくて嬉しくて、ずっと自分への笑顔を向けてくれる天満が嬉しくて――同じく笑った。

15427-3(おにぎりルート):2009/06/18(木) 01:30:25 ID:fvw0ndjj



    ◇ ◇ ◇


 「八雲!」
 「姉さん…きゃっ」
 終わったぜ、と拳児から感慨深く言われ八雲はのぼせる寸前だった伊織を引き上げ、身だしなみを整え二人に顔を見せた。
 そこで待っていたのは天満による強すぎるまでの抱擁。
 全身を預けるように飛びつかれ、危うく倒れそうになった。

 「ごめんね! お姉ちゃん、力になってあげられなくて!」

 目の端に映る、拳児が頭を下げる姿。
 八雲は像を結ぶ。今日あったことを話したのだと…そして今度こそ望んだはずの決着がついたのだと…。
 だが物思いより先に、姉の悲しげな姿を見て渋みのようなものが舌の上に広がった。

 「ううん。姉さんは私に大事なことを…充分な勇気をくれたよ」
 「こういう時は遠慮なんていらないの! でも…頑張ったね八雲」

 全ての整理は今日ついた。そう思うと体から力が抜けて楽になり、違う意味で立ってられない。
 何もしてない私がおかしなことだ、と自嘲気味に口元が緩む。
 けれど一日限りの大事な人に、その一日で重荷を背負わせてしまうのは嫌だった。
 永い永い緊張の糸はもう少しだけ伸びていて欲しい。

 「違うよ姉さん…私のほうこそ謝らないといけないの。あのね……姉さんの気持ちを知ってたわ。けど…ね」
 砕けそうな膝に必死で力を込める。
 二人は、通らなくてもよかったはずの辛い壁を強さでもって乗り越えてくれた。
 自分のわがままが発端なのに…だからこちらも、濁すことなく伝えなくてはいけない。

 「もし姉さんが播磨さんと一緒になれたら……そう考えたことがなかったといったら、嘘になるの」
 「八雲…」
 「ごめんね……姉さんが烏丸さんのこと……好きだって…知ってた、のに……私」
 小さくも広く、そして懐かしい姉の背中。抱きしめながら八雲はゆっくりと頬を寄せて語りかける。
 天満の眼は潤んでいて、八雲もまた姉の顔が滲んでよく見えない。

 おあいこ。私達には引け目なんて要らないもの。

 「八雲は…悪くないよ」
 「なら姉さんも…悪くないよ」

 この後のことに備えていた拳児は図らずも見てしまう。
 抱き合う二人の双瞼にある、あまりにも透明な輝きを。
 それを拳児は八雲の髪に含まれた水滴だと思うことにした。
 自分をしばたたかせる目の熱も、サングラスの調子がおかしいのだということに。

 ・・・・

 ・・

 五分。十分。時計の針すら止まりそうな無音の世界。やがて――
15527-3(おにぎりルート):2009/06/18(木) 01:31:32 ID:fvw0ndjj



 「八雲。播磨君のことだけど」
 「…あ……うん姉さん、あのね」
 「ダメッ!」
 いきなり怒鳴られて、八雲は思わず胸をそらす。前兆を感じるのだ。とびっきりのお姉ちゃんパワー。せめて先手を打とうとするが。

 「話を―むぐっ」
 「…そのことなんだが妹さん」
 「八雲はーってあれ、播磨君?」
 爆発、一秒前。何か喋ろうとする八雲の口を天満の手が塞ぐ。そして爆発…するより先に拳児が中間に立った。

 「…妹さんに話がある。五分もいらねえ。塚本は、ちょっと伊織と向こうで遊んでてくれ」
 「ウギャー!」
 "ウギャー"とは伊織。八雲と拳児には死刑宣告を受けた者の叫びのように届いた。
 天満は二人の顔を交互に見つめると、何かを考え、やがて意地の悪そうな笑顔のまま悲鳴のほうへサササと滑る。

 「ね、姉さんあまり伊織を…あれ? あの…は、播磨…さん」
 「妹さん」

 「……」

 「……」

 「……わかりました」

 力を抜いて両手を膝の辺りで交差させ軽く握り、ただじっと言葉を待つ八雲。
 まじろがず、物怖じしないで見据える眼光には拳児から見ても感じ入る凛々しさがある。
 怯えも諦めもない、ただ逃げまいとする覚悟の眼差し。

 時間はない。長々と話すには今日はへとへとである。
 疲労を感じる時、人は余計なことをしたくなくなる――少し違うか。
 とにかく、あれこれと迷い道はしないと拳児は決めた。天満に告白した時のように。

 「無事、終わった。妹さんに言われたおかげで、俺は告白できた」
 「……はい」
 八雲は少し悔しい思いをする。
 自分の心模様がさっぱりわからないから。
 晴れか雷雨か雪か曇りか。喜べばいいのか、泣けばいいのか、称えればいいのか、悲しめばいいのか。

 「……」
 「……あの?」
 沈黙。こう口ごもるときは大抵…と八雲は拳児の性分を思い出す。

 「ダメだった。ショックだ。こうして立ってるのも実は辛え」
 「は、播磨さん」
 「…でも、すげえ嬉しいこと言われたぜ」
 しかし拳児はこらえた。失ったばかりではなかったから。
 その内容までは言えない。八雲にさえ結果は伝えても過程は言わない。伝えたいのは違うから。
 それに、彼女達のかつての日にも何かを言ってしまいそうだったから。

15627-3(おにぎりルート):2009/06/18(木) 01:32:56 ID:fvw0ndjj

 「まあ、それで何が変わるかっていうと俺はきっとほとんど変わらねえ。喧嘩は止めたし漫画は辞めねえよ。天満ちゃんは…やっぱまだ、考えたりする。
  …けど……全然変わらねえのもつまんねえ人生だと思う。なんつーか…岐路に立ってるって奴かな」
 どこへ進むか。どこへでも進める。許されないのは戻ることと止まること。
 一本の道しか見えていなかったのに、それを追う間にいろんな道が見えるようになった。
 貫くのもいいだろう。だが――すぐ近くにいる少女への道も開けている。先も見てみたい。見向きもせず無視なんてことはもったいない。

 「そう…変わらねえんだ。今日俺が妹さんに感じた気持ち…それが変わらねえ。
  俺は恩知らずだからよ、ただの感謝なら、フラれた今変わっててもおかしくねえのにそれが変わらねえ。
  友情か、女の子としてか、別の何かか…よくわかんねえけど……好き、なんだ」
 「え――」
 八雲に抱いた感情が天満への告白で変わってしまうもの…あくまでも天満に根付いたものなのか。
 しかし変わらぬことで拳児は一つの確信を得ていた。頭の裏が痒い。照れくさい。火が出そう。

 「俺は、すぐには……今すぐに…ってのは、俺には難しい。
  けど妹さんと進む道もあるんじゃねえかって…確かめてみてもいいんじゃねえかって思ってる。
  漫画が時間かけてるうちに面白くなってったみてえによ」
 「……」

 決着は、繋がる。次へと繋がる。今日、天満への恋は、最後の恋ではなく次に繋がる恋となった。
 終焉とは新たな始まり。近くにいてくれたからこそそれを見つけることができた。

 「あっさり決まるならどんだけ楽か…だよな。だから俺は今すぐ妹さんのこと!とか、悪いが諦めてくれ!とか、言わねえ思わねえ、して欲しくねえ。
  どんな理由があってもよ、妹さんと壁ができちまうなんて俺は嫌だ。だからこれからもっと…その」
 「それっ…て……」
 「…漫画描くのもいいし、二人でも大勢でも遊ぶのもいい。映画見たりバイクとばしたり、うまいもん食ったり。そうだな後は…」
 「綺麗な朝焼けを…見たり?」

 それだ!と膝を打つ拳児に八雲は以前教えられた言葉を思い出した。そう…彼は覚えていてくれたのだ。
 遥か昔に聞いたような恋の言葉。改めて繰り返すことの意味。
 懐かしさに情をかきたてられ、ただただ嬉しい気持ちになった。

 「私と…播磨さんが…? 私なんかで、いいんですか?」
 「無理にとは言わねえ。優柔不断だって思うなら、俺らしくねえと思うならそう言ってくれ。んじゃ…照れくさいけど言うぜ。妹さん――」

 本当にできないことなのか、確かめてみる。そんな時間を一緒にすることも、つきあうということではないのだろうか。

 「これからも俺と一緒にいて欲しい」
 「――はい!」

 塚本八雲との恋は ここからである。


15727-3(おにぎりルート):2009/06/18(木) 01:34:30 ID:fvw0ndjj




 ――ぴょこん ピコピコッ



 (あ〜あダメだよ二人とも…そういうときは好きって言わなきゃ。ね、伊織)
 (……)
 (そう簡単にはできないかな。播磨君も八雲も…時間いるよね)
 (……)
 (でもね伊織、私思うの。準備はできてるんじゃないかなって。だって、何でもない人と一緒に暮らすなんてできないもん。それが一年間続いたんだよ)
 (にゃー)
 (え? 何? 俺は義姉さんが好きじゃないけど暮らしてた? またまた〜八雲のこと大好きなくせに)


 播磨拳児は塚本八雲の手を握った。彼女となら共にいられると信じ、歩いてみることを選んだ。
 すぐに天満のような愛を持つことはできないと思っていたが、八雲はそれがいいと思ったし自分達らしいと受け入れていた。


 一歩一歩、いや半歩ずつでもいい。初々しいまでの純粋な関係。
 しかし――――結果から言えば、二人はあと数時間で大きな変化を迎えることとなる。しかもとんでもない形で。


15827-3(おにぎりルート):2009/06/18(木) 01:36:02 ID:fvw0ndjj


 ――――――――

 ここまで。山場は越えた・・つもり。
 予定通りいけばHは次々回から。
 ・・本当はあと一年くらい二人にあったほうがいいと思いますが、エロパロなので。天満も行っちゃうので。
 一回目のHシーンが終わるまでは今のペースを保てたら。
 
 思うままにやたら詰め込んでしまった話ですが、毎回丁寧に感想頂けて、とてもありがたいです。
159名無しさん@ピンキー:2009/06/18(木) 08:09:36 ID:Dy6FFLx9
>>158
乙です
今度は数時間後の大きな変化気になるw
160名無しさん@ピンキー:2009/06/18(木) 13:01:53 ID:PFHqjoxd
>>158
おもしろかったよ、次回も期待してる。
けど一つ、八雲もの「〜わ」ってのが気になった。
161名無しさん@ピンキー:2009/06/18(木) 18:49:26 ID:Saj5Quwn
播磨切り替え早ぇw
まあエロ行くためには仕方ない
162名無しさん@ピンキー:2009/06/18(木) 19:07:36 ID:f0EqO2BJ
エロパロはエロパロで縛りがある
一応そっちが主体なわけだしやることはやってくれんと

しかしIFスレが悪い意味で過疎になりエロだけが残ったってあんまりいい傾向じゃないな・・
163名無しさん@ピンキー:2009/06/18(木) 22:31:21 ID:gQN8M813
164名無しさん@ピンキー:2009/06/19(金) 00:46:12 ID:y5Zenj6p
>>158
今回も面白かった。数時間後に何が起こるんだ。

”一回目のHシーン”ということは二度目もあるのかw
165名無しさん@ピンキー:2009/06/20(土) 20:54:16 ID:l9ZjOggM
166名無しさん@ピンキー:2009/06/21(日) 06:58:43 ID:EsvKbb4Y

エロパロ万歳
16727-3(おにぎりルート):2009/06/21(日) 10:45:41 ID:uG9dQOBT

 八雲の「〜わ」は、終盤そういう時があったのでなんとなく用いました。
 けど違和感のほうが強いので以後は控えときます。

 一言一言が嬉しい今日この頃。
 >>157の続き。強引な話。勘弁あれ。
16827-3(おにぎりルート):2009/06/21(日) 10:46:38 ID:uG9dQOBT


 「それでね、それでね八雲〜」
 「もう…何?姉さん」

 甘える猫なで声。これで何度目になるだろう。拳児は枕に頭を預けながら姉妹の会話に耳を澄ます。
 サングラスを外しているが視界は暗い。部屋を満たしていた青白い蛍光灯の光は消えていて、橙色の小さな点りだけが残っていた。


 明日の備えも終えて三人は床についていた。
 敷かれた三枚の布団。左から拳児・天満・八雲。見事な川の字。
 妹に話しかける天満の姿はさながら寝るのを嫌がる子供にも見えて仕方ない。
 八雲は目を瞑っては話しかけられ、その都度いかにもしようがなくという口調で、けれど嬉しそうに返事をしているのだった。
 
 「ほらこれ、今日の卒業パーティのだよ。サラちゃん達も写ってるから、全部コピーしておくね」
 「うん…ありがとう」
 
 天満は今日あったことを擦り切れるように談じていた。デジカメを操作して一枚一枚の写真を八雲に見せている。
 途中、明らかに酒が入っているとしか思えない話も耳に入ってきたが、拳児はこの際なので聞き流す。
 姉妹の時間に口を挟まぬ一方、ねじれた天満の布団を時折そっと整えてやった。
 
 
 「ねえねえ八雲、教えて欲しいの〜」
 「はいはい。今度は…どうしたの?」
 
 本当はもう眠らないといけない時間。天満にも八雲にも明日がある。今日をもう一度、なんて神様でないとできない。
 けれどもう少しだけ。もう少しだけを、もう少しだけ。
 
 「あのね〜いつもサラちゃんがいたわけじゃないと思うの。だってシスターだもんね、あっちにもそういう子いるから分かるの。
  となると八雲は夜、播磨君と二人きりになっちゃったりするわけで。 …ホントに何もなかったの?」
 「ね、姉さん……」
 別に天満は悪意があるわけでも、妹の悩みを忘却してしまったわけでもない。
 ただし、楽しんではいるが。そう…これは塚本天満のもはやどうしようもない性分。
 もちろん八雲はそれは知っている。知っているけれど恥ずかしい。布団を顎の下まで寄せてから少しだけ強めに否定した。

 「姉さんなんて、し…知らない。そんなコトなかったから。もう寝よう」
 「ふむふむ。ないから、じゃなくてなかっ『た』かぁ…むふ」
 「え、あ…姉さんずるい…それは言葉のあやで」
 「妹さん落ち着け。多分あってる」

 恥ずかしさに負けた八雲はもぐらのように布団に顔をうずめ、隠れてしまった。
 天満としても妹が困っているのはよくわかるのだが、恋バナを咲かせるのが楽しくてつい触れたくなってしまう。
 友人達とは何度も繰り返したことでも妹とは初めてかもしれない。それが嬉しかった。

 ・・・・

 ・・

 「八雲…怒ってる?」
 「……そんなわけないよ」
16927-3(おにぎりルート):2009/06/21(日) 10:48:06 ID:uG9dQOBT
 
 訪れた静寂。拳児が目を瞑ろうとした時、天満が少し申し訳なさそうに妹のほうへと向き直る。
 そして八雲もまた顔半分をひょっこりと覗かせていた。

 「あのね…八雲は今、幸せ? 播磨君とお付き合いすることになって嬉しい?」
 「つっ、付き合…!………………うん。 ……ぁ」
 喜びの色も一瞬。しまった、というように八雲は失言に顔を雲らせた。
 
 「…ごめんなさい、姉さんは烏丸さんが」
 「お姉ちゃんから聞いてるのに何いうの。そっか……八雲は幸せ、かあ」
 言い聞かせるような言葉だが、その裏に秘められしはわずかな哀愁。
 妹の返事を思い返すように口にしながら天満はじっと真上を見る。その先には――

 「姉さん……元気だして」
 「塚本、烏丸はきっといつか目ぇ覚ます。俺が約束してやるからよ。だから」
 「あ、ううん! 烏丸君じゃないの! そうじゃ、なくて…」
 トーンが落ちる。今度のそれには庇い立てのできない、はっきりとした気落ちがあった。
 烏丸大路ではない…?
 では今の空元気の向く先は…拳児は心当たりの少女を注視してしまう。

 「ただね。八雲がこれから幸せになっていくところ、見ることができないんだなぁって…そう思ったら少し辛くなったの」

 それは、妹を家族として長年支え続けてきた者の声だった。
 大人びた深い声に感じるのは慈母に抱かれているような安らぎ。
 そして厳父を目の前にして見つめられ、何も隠し事ができなくなるような。

 「姉さん」
 「塚本」
 「それに…たまに、思うの。今このとき…八雲は泣いてないのかなって。手紙や皆からの話ではよくやってるって聞いてるけど。
  でも私は八雲のこと、一番知ってるから思うの。不安で不安で仕方なくて確かめたいってすごく考えちゃう」

 (……)
 今から約半年…いやもう少し前だろうか。拳児は記憶に残るある日の出来事を振り返っていた。
 丁度その頃、拳児の心は抑えきれない渇きに囚われていた。胸の奥が万力で徐々に徐々に締め付けられるように苦しくなるのだ。
 まるで禁断症状のごとく…足りないものは当然塚本天満の存在であった。アメリカにいる彼女に会いたいという発作のような願い。
 そして原因が分かっているからといって、どうにかできるものでもなかった。

 過去最大級のそれを暴力という形で何とか発散していた拳児だが、漫画の締め切りはお構いがない。
 いつものように八雲に手伝ってもらう予定の日、夜の作業(ペン入れである、念のため)の時間になっても彼女がやって来ない。
 体調でも悪いのかと気になって、見舞おうと部屋の前に立ち――

 『…………姉さん…』

 一言だった。けれど確かに泣いていたのだと思う。か細い声の聞こえた扉の向こう側。想像した光景に拳児は恥ずかしさとともに後にした。
 自分同様、八雲にも堪えるしかない日があったのは想像に難くなかった。
 そして次の日。彼女は『いつもの眠くなる癖が』と赤みの残る眼で謝ってくれた。
 その姿を見てからだろう。発作は徐々に収まりを見せ、頻度も下がり、拳児は暴力とも縁遠い日を迎えることとなる。
 もちろん天満への気持ちは続いていたが。
17027-3(おにぎりルート):2009/06/21(日) 10:49:39 ID:uG9dQOBT

 「ダメ…かな? 私…妹を信頼しきれていない、悪いお姉ちゃんなのかな?」
 「違う!」「そんなことないよ!」
 気配りを忘れないのは大事なこと。それを知る二人は身を乗り出して勢いそのまま天満を挟むようにして詰め寄った。
 自然、八雲と拳児の顔と顔が近くなる。
 
 「それじゃあ…八雲は、やっぱりお姉ちゃんがいないとさみしい? 一緒にいたい?」
 「!」
 「え……」
 天満の眼は全てを許す優しさがあった。
 さみしいよ。悲しい、苦しいよ。独りは嫌――助けてよ。もし八雲が望むなら天満はきっと受け入れる。明日からまた共に暮すことを選ぶだろう。
 身の細る思いも、半身を失ったような心の飢餓に悩まされることもない。
 多くを支えあいで耐えてきた二人なのだ。突然掴んでいた手を離すような留学自体がそもそもの…
 
 「姉さん」
 けれど八雲は言を左右せず、返事は風のように早かった。
 誘惑への迷いも取り乱しもなく、動揺の波紋すら失せて落ち着いて当然のように答えてみせる。

 「…私、頑張るから。辛くても泣かないよ。怖いからって逃げないよ。強くなる…絶対に。だから、だから…姉さんも私を振り向かないで」
 
 信じて欲しい。そしてどうか選んだ行路を進んで欲しい。
 拳児が間近で見る少女の高徳な表情には、立ち向かうものの美しさがあった。
 強がりがないといえば嘘だろう。けれど本心を偽るような拳児の嫌いな強がりではなかった。
 大事な人を前にしてそれができるのは、普段から彼女がそうありたいと考えて生きているから。
 もし突然、八雲の前に誰しもが折れるような困難が現れたとしても、拳児は身を挺して庇うのではなく乗り越える姿を見せて欲しいとすら感じていた。
 
 「…………今の言葉が、今日一番嬉しかったかな。…八雲も……大人になったんだね」
 
 天満も拳児と同じように受け止めたのだろう。もう妹に馳せていた不安の色は消えていた。
 笑顔で…そして少しさびしそうに。寄る辺のない最愛の妹を祝って、嬉しく思って、けれどやっぱりさびしくて。
 少しだけ目が潤む。子供が手を繋ごうとしなくなった時、親はこんな表情をするのだろう。
 
 「ねえ二人とも…最後に、一つだけお願いしてもいいかな?」
 「いいよ」
 「おう」
 八雲も拳児も、何でも言うことを聞く気になった。
 どんな約束でも守りたいし、できることなら何だってしてあげたい。
 この人には明日からまた困難の日々が待っている。もし心残りがあるのなら、今ここで全て任せて欲しかった。
 
 「八雲、お姉ちゃんに一番幸せなところ見せて。播磨君、この場で八雲を幸せにしてあげて」

 しかし―――? 意味が分からない。八雲と播磨の意識は同期して互いの顔を正面に見た。

 「へ? え? 塚本?」
 「あ、あの…姉さん。私、とても幸せだよ。笑うこともできるよ。ほら見て…」
 「ノーノー、そうじゃなくて…コホン!」

17127-3(おにぎりルート):2009/06/21(日) 10:51:35 ID:uG9dQOBT


 珍しく咳払い。いつしか海のように包みこむ声は聞きなれた天満のものに戻っていた。
 彼女が紅頬しているのは部屋を照らす橙色の照明のせいだけなのだろうか。

 「まあ平たく言えば二人でエッチして見せてってことかな」
 「ぶっ!」
 「え…っち……?……………ぁ!」
 「意味がわかんないほど子供じゃないと思うけど」


  ◇ ◇ ◇

 八雲は混乱していた。両手をついて上半身を持ち上げながら、その顔はかつてないほど紅潮していている。想像をかき回すように全力で首を振り否定していた。
 「エ、エッ……播磨さんと、して……って……そんな、無理!無理!絶対無理…もう姉さん、変な冗談は」
 「お姉ちゃんは本気です」

 拳児も混乱していた。ありえない。姉に失恋し、妹と歩んでみると決めた日にもう行為に及ぶなどどんな猿だ。しかも"見せて"とはこれいかに。
 「あ、あのよ…俺と妹さんは、だな… !そうだ、塚本だって俺のハダカ見たらマズイだろ、烏丸に!」
 「別に私が裸になるワケじゃないモン。これでも医者の卵だよ、人体は慣れてるし気にしないで!」
 天満は左からの八雲の反論を切って捨てれば、返す刀で右の拳児の抗議を却下する。正に天満無双。天満無敵。


 「待って姉さん…それって…私が…その……///…、最中に姉さんは…」
 「そりゃあ八雲の幸せそうなところぜ〜んぶ、見せてもらうよ。あ、見てるだけじゃないからね」
 「おかしいよ…………ありえない」
 うわごとのように呟いてふらつく八雲。

 「なあ、塚本……今日何があったか忘れてねえ、よな?」
 「うんもちろん」
 「……何でそんな発想が出てくるんだ…」
 同じく頭をかかえる拳児。
 
 何故か既に決定権を握っている天満は譲ろうとしない。
 静まりかけていた床の間は今や緊急の家族会議の場と化していた。
 八雲と拳児はあの手この手で否定し、いかに自分達がまだ歩き始めたばかりで、早すぎるか、不道徳かを切々説くが通じない。
 それもそのはず――上すべりした声でしか喋れない二人に対し、天満のそれは極めて冷静で真面目であった。

 「私は本気だよ。八雲の幸せを見たいと心の底から思ってる。……だっていつ戻ってこれるかわからないもん」
 「で、でも……」
 
 とんでもない"お願い"は決して遊び半分ではなくて……天満は天満なりに(それが問題なのだが)真剣だった。
 タチの悪い冗談としか扱わず、正面から向き合おうとしなかったのはこちらの落ち度。
 忘れたわけではない。戻ってきた過去は一日だけ。ずっと続くものではないのだと。

17227-3(おにぎりルート):2009/06/21(日) 10:53:15 ID:uG9dQOBT

 「あ…」
 「う…」
 二人は一瞬意識してしまう。薄暗い部屋でもお互いの瞳の奥が覗ける距離。
 八雲は反射的に顔をそらして、天満に焦点を戻した。
 
 「そ、それとこれとは…その」
 「一年前の私よりは、八雲は子供じゃないと思う。ね……そういうコト、嫌い?」
 「……姉さん」
 
 沈黙は肯定。少なくとも天満が今学んでいる国ではそれが是。そして八雲は黙らなかった。

 「私はもう、子供じゃないよ。だから教えて。何があったの…?」
 「……」

 数瞬にせよ、今度は天満が沈黙する番だった。やがて――

 「今日ね……皆が幸せそうだった。離れ離れになっちゃう2-Cの皆も、東郷君達も、サラちゃん達も…絶対じゃないけどしばらく会えなくなるのに、だよ?
  それはね、誰もが真っ直ぐ明るい未来を見てるから…それが嬉しくて嬉しくて…勇気が湧いてきて…大丈夫、頑張れるって…安心できたの」
 「塚本」
 「えへへ…だからお姉ちゃん、八雲や播磨君にも安心させてもらえると嬉しいかな。八雲のことは特別に思ってるから尚更、ね」
 「……姉さん」
 
 いたずらっぽい笑みの裏。それを読み取った八雲の頬から鮮紅は引いていて、そして拳児ももう分かっていた。
 天満が求めているのは完全に邪なものではないのだ。半分くらいは。多分。
 
 安心が欲しい…つまり何か恐れるものがある。それは八雲に因ることではないだろう。
 いくら塚本天満といえど、怖くないはずがない。誰よりも困難で真っ暗な霧の中をたった一人で突き進むのことが、不安にならないなんて信じない。
 一番辛いはずの彼女が懐かしの矢神に、学校に、妹に求めたものは……日々の重圧からの解放、満ち足りた安らぎ、先に待つ希望。
 根幹は、拳児と八雲が卒業式で天満に安堵を覚えたのと同じことだった。
 
 少し前に見せてくれた写真や思い出等はほんの一部。メルカドできっと天満は知る人全ての幸福を見てきたに違いなかった。
 二人分――何より大事な妹と、勇気をくれた大切な人の幸せを残して。
 そしてその妹は、少しだけ想像と違っていたのだ。

 「八雲は…今日私が見た八雲は、少しだけ違う八雲だった。頑張ったんだよね…この一年で成長したと思う。今日だってそう。
  花井君やサラちゃんからも色々な話を聞いたよ。だからきっとね…次会うときは、八雲はもっと変わってると思うの。
  それを見たら私……お姉ちゃんパワー、出せないかもしれない」

 姉に認めてもらったことは八雲にとって何よりも勝る喜びだった。最後の言葉さえなければ…
 天満のために強くあろうとしたことが結果的に天満に喪失感を与えてしまった。それが必要な痛みだとしてもやはり辛いことだった。

 「だから…トクベツな思い出が欲しい…のかな。嬉しいけど寂しい。ちょっとだけ隙間ができちゃった…それを埋めてくれるような」

 妹への想いを最後に、天満はもう何も言わずただ見守っていた。
 握っていた決定権をこれみよがしに転がして、互いに見詰め合ったままの二人に委ねている。
 カッチ カッチ。時計の針がいつもよりうるさく感じられた。
17327-3(おにぎりルート):2009/06/21(日) 10:56:59 ID:uG9dQOBT


 できることならなんでも力になってあげたいし、そう言った。もちろん今も変わらない。
 姉の望みも…最初は混乱させられたし、いくらなんでも壁が高すぎる気がしたが、話を聞いた今となっては少しは分かる気がする。
 もしこの場に二人きりであったのなら八雲は天満の胸の中に飛び込んで全てを任せていたかもしれない。

 (けれど…播磨さんは……)
 彼はできるのだろうか。自分への興味の有無よりも、未だ心ある女性の前で、別の女を選ぶほうがより問題のはずだ。
 そして強い拒絶を示せない山のような理由の中に、"天満の望むことを"という部分がないといえば違うはずだと八雲は思った。

 (そんなの卑怯……)
 播磨とのそのものは、今の八雲に以前のような強い拒否はない。彼と姉の間にあった未練は春を迎えた雪のごとく溶け出していて、隙間には花が芽吹きだしている。
 将来――いつか求められたら…恐らく応えただろう。けれども今は成り行きで彼の心を冒す真似をすることにずっと強い拒絶感が先立っていた。
 断るにも元々自分達はある種の歪な関係を是として結んできた姉妹。心で向き合わずして…だがなんと言えばいいのか。
 どうすればいいのかわからず、八雲は彼の顔を見てみることにした。


 できることならなんでも力になってあげたいし、そう言った。もちろん今も変わらない。
 彼女の望みも…いくらなんでも話が飛躍しすぎている気がしたが、二人が身を寄せ合って生きてきたなら別れの儀式が必要という理屈も分かる気がする。
 むしろ場違いなのは姉妹間にいるこちらのほうではないのだろうか。

 (妹さんを? しかも天満ちゃんの前で?)
 決して天満が立場を悪用してるわけではないのはわかる。妹を興味だけで囃し立てていたのを彼女は強く後悔していた。
 真剣と真剣で打ち合うようなこの場面でそれをするような少女ならどこかで興味を失っていっただろう。
 そして八雲がすぐに断れない山のような理由の中に、"姉さんの望むことを"という部分がないといえば違うはずだと拳児は思った。

 愛した彼女が自分を含めて名指ししたのは誰よりも厚い信頼あってのことだ。
 一年前に誤解されていたときとは違い光栄でこそあれ、やり場のないやるせなさは心のどこを探しても存在していなかった。
 天満からベストではなくともベターな言葉を貰い、また八雲との新たな道を選び出したことも影響しているのだろう。

 だがやはり今すぐ天満の前で八雲を、というのはお猿さんと呼ばれなくても抵抗があった。
 自分の気持ちもあるが、乙女である(別に確認したわけではない)八雲にとって今夜だけでも、という言葉はあまりにも重すぎる。
 第一八雲は男女間の交渉についてどの程度の心構えをしているのか……少なくとも解放的ではないだろう。
 押すにせよ引くにせよ誰かが辛い思いをするならばそれは自分であって欲しい。
 どうすればいいのかわからず、拳児は彼女の顔を見てみることにした。


 「……」
 「……」

 拳児は悩む。この場合、男が勇退を決すべきか。だが八雲の反応が読めない。受け入れ失望されたら嫌だし拒否して二人に悲しい顔をされるのも困る。
 八雲も悩む。この場合、女が意思を示すべきか。だが拳児の反応が読めない。受け入れ失望されたら嫌だし拒否して二人に悲しい顔をされるのも困る。

 (……)

17427-3(おにぎりルート):2009/06/21(日) 10:58:19 ID:uG9dQOBT

 場にそぐわないまでに真面目そのものの互いの表情。正視して思ったのは、もしかして自分達は今同じコトを考えているのではないだろうか、ということだった。
 少しだけ近づいて――迷いに震えながらもゆっくりと、互いを見つめる二人の顔がアーチを描くように距離を詰める。
 拳児が近づいても八雲は引かない。八雲が近づいても拳児は引かない。
 天満を間に挟み、互いの上半身が磁石のように引き寄せ合う。
 橋の完成が近いことを、抗えない空気の流れが背中を押していることを奥の鼓動が必死に告げる。
 果たして二人の繋がる視線は両者の意思によるものなのだろうか。

 「…待って下さい」

 かすかにかかる吐息。狭まる距離と状況に観念しかけていた拳児は息を呑んだ。
 空気の壁が息遣いもわかる程に薄くなり、八雲は近づくのを押し留める。
 二人でしてきた砂場の棒倒し。一線を越える決定権。それを最後の最後で拳児に委ねることにしたから。
 一時は恐れさえ抱いた男という性に、最愛の姉の前で身を任せる――普通でない行為への覚悟を決めたのは八雲が先であったから。

 (姉さん……見ていて)

 彼は優しい人。だから断れない。追い詰められれば――きっと最後には譲ってしまう。
 甘い考えなのかもしれないが、選ばれるとしたら出来得る限り公平な選択の上であって欲しい。
 身が震える。けれど臆しているからじゃない。少女は頬の赤みを隠すことなく、大事な願いを正面から静かに綴る。
 恥ずかしいけれどもこれが今できる全てだった。

 「播磨さん…愛しています。それが……私の幸せ…です。あなたは、私を愛してくださいますか?」

 高潔で神聖な儀式の最中であるような真剣さ。真心に拳児は魂が揺さぶられ、震えた。
 今、目にしている少女が本当に人間なのか目を疑う。
 申し出を違う意味で断りたくすら思ってしまった。
 一身を捧げようとするその姿が美しすぎて。
 それは幸せに満ちていた。
 自分達が一緒に過ごした日々は今日この瞬間のためのような気すらした。
 
 「八雲…」
 妹の言葉と表情に天満から驚きの含まれた呟きが洩れる。
 天満にとっては初めての、播磨にとっては二度目の――告白。合わせる様に、拳児は八雲の真意を不思議と落ち着いた頭で少しだけ考えていた。
 恋破れた男を――違う。
 天満の願いで――違う。
 "好き"だから――正解。
 
 八雲が一緒にいて欲しいという頼みを忘れるはずもない。
 姉の言に乗じてなどと、天満を利用するのは最も嫌う行為のはずだ。
 だから図らずも起きたこの状況で、身を捧げる覚悟で以って愛を表明した。色情に走ったのではなく本心を晒すことを選んだ。
 播磨拳児を愛すること。それ自体が幸せなのだと、口にすることで一日しか会えない姉に示した。
 だから――もし今、断られたとしても、それは不幸なことなどではないのだと。
17527-3(おにぎりルート):2009/06/21(日) 10:59:33 ID:uG9dQOBT

 (…多分、俺は断ることも許されてるんだろうな…)

 八雲は勇気を見せた。天満がもう妹のことで後ろ髪を引かれる思いをすることはない。現実…目の端で見た天満はやや呆けて、けれどもう満足気であった。
 遠慮も驕りも企みもない生粋のままでぶつかって、それでも受け入れられなかったなら、妹に恥をかかせたなどと天満は思うまい。
 少なくとも八雲はそう考えたのだろう。拳児には彼女の正直すぎる、愚直なまでの想いがわかってしまった。
 せめて天満の気持ちを汲んで、自分の幸せに嘘をつかず、拳児の魂に何も負わせず、ただ生のままに。
 先ほど感じた神聖さは、それを願う八雲の精神に触れたからだろう。憧れすら抱いた。

 
 三人という不自然な状況。不思議と天満の存在は気にならな――…嘘である。けれど天満は至って真面目であるし八雲も覚悟を決めている。理由にはならない。
 あとは――播磨拳児は春の宵、この場で塚本八雲を愛することができるのか。残るはその一点。
 
 「妹さん…」

 小声にも静かに八雲は反応し、祈りより少し手の位置を下げて、目蓋を開いてじっとこちらを見ていた。
 この"妹さん"という呼び名にもいつかは変化が訪れるのだろうか。それとも"大事な恋人"という意味も込められるのか。

 天満とは違うが、恋する気持ちがある。歩んでみようというはじまりたての恋。
 単純に女の子としての興味の有る無しでは、ある。悲しい話であるが男なのだから。
 だからもっと時間をかけたかった。八雲を人生のパートナーにできるのか、つきあう過程で確かめたい。
 天満と違い恋から始まった関係ではないのですぐに整理がつかないのだ。
 ダメと即答できる相手ではないし、気まぐれが許される相手でもない。

 「俺は…」

 そういう間柄から入る恋愛もあるだろう。けれどもったいない気がする。
 肉体で結ばれてしまったことがカーテンとなり、彼女自身の最も美しい部分に気付くことができなかったら。
 ……? いやそれはもう知ってしまったかもしれない。けれど、もっともっと心が好きになってから愛せたほうが八雲のためにもなるのではないだろうか。
 
 年月の果てに天満を超えることができなかったら…無理なのだろう。
 彼女に伴侶として迎えられるようになったとすれば、自分は幸せ者だ。
 
 (これ以上は…理屈じゃねえよな)

 思い出が先行しすぎていて気持ちが追いついていなかった。
 それを自覚したなら手順を踏み、お互いを知りながら時間を重ねて追いつけばいい。
 二人がそう思っているはずなのに、順序を無視してしまうことを拳児は八雲に心で詫びて、行動で示した。

17627-3(おにぎりルート):2009/06/21(日) 11:00:32 ID:uG9dQOBT


 「好き、だ」
 「あ…」

 天満に重ならないよう腕と背筋を限界まで伸ばす。そして、唇を重ねられた。

 (好き…私も、播磨さんが…好き。そしてこれが播磨さんの)

 少し乾いた、分厚い感触。口の先に初めての男との接触を感じながら八雲は思う。

 拳児のそれは本心ではなかったのかもしれない。
 天満に促され雰囲気に飲まれた偶然が生んだ一言。
 今日これからの時間はともかく、明日になれば言ってもらえないかもしれない。
 だが悲しくはなかった。彼に一度でもそう思って貰えたという事実に、自分達の可能性を見た気がしたから。
 そういえば遠い昔に一度だけ心が視えたこともある。昼頃、今日は視えないことに感謝したはずなのに、我侭にも少し惜しんでしまった。今はどうなのだろう――? と


 やがて彼の一部が離れていく。合わせるだけの、子供のようなキスはほんの数秒で終わった。

 (八雲…播磨君。おめでとう)

 天満は数瞬だけの繋がった橋に祝福を送る。二人の眼には相手しかいないことをほんの少し羨ましく思いながら…

17727-3(おにぎりルート):2009/06/21(日) 11:01:31 ID:uG9dQOBT

 ・・・・

 ・・


 「キス、したな」
 「ハイ…」

 無理のある体勢を止めて膝を崩し、それぞれの布団に座り込み愛の語らいを営む恋人達。
 照れくささの中で当人達は至って幸せそうであったが、天満は自分を挟んで終わってしまいそうな状況に鼻息を荒くする。
 「さーて。お見合いも終わりましたところで…ホラ八雲、お姉ちゃんと場所変わりなさい!」
 「え、姉さん…?」
 そして妹の背後に恐るべき敏捷さで回りこむと、その体を転がすように拳児のほうへ押しやった。
 勢いそのまま彼の腕の中に正面から転がり込む八雲。
 「きゃっ……は、播磨さんすいませ……ん」
 「お、おう……妹さん…大丈夫か」

 ・・・・

 ・・

 再度お見合いタイム開始。天満は義憤に駆られた。こんな調子では朝を迎えてしまう。
 今夜、幸せになるべきなのだ。何故なら…自分はまたこの国を離れてしまうのだから。
 妹は咄嗟のことに驚きながらもなんとか彼の膝の上に着陸成功したらしかった。
 そして妹を更に後押しすべく背後に忍び寄る――が。

 「……播磨さ…ん…」

 (あ…)

 ――どうやら心配することもなかったらしい。
 妹は彼に自らおとがいを突き出し、将来の弟は肩に手を回しながらそれに応えていた。
 白く小さな妹の唇が播磨の大きなそれに飲まれるように覆われる。
 食べられた。薄闇の中、天満の目には比喩ではなくそう映った。
17827-3(おにぎりルート):2009/06/21(日) 11:02:11 ID:uG9dQOBT

 ――――――――――――――――――

 ここまで。
 次回からはHが続きます。
 流れとしては・・


 序盤〜
  播磨×八雲、天満×八雲があって王道がないというアレな話
 中盤〜ラスト
  天満離脱で播磨×八雲の本番

 違和感は避けたいですが誰これ、みたいになりそう。
 けれどやっとエロパロらしくなれれば。
179名無しさん@ピンキー:2009/06/21(日) 11:45:33 ID:6fjsgyjm
キタコレ

とっととケモノになっちまえよ播磨ー
180名無しさん@ピンキー:2009/06/21(日) 11:55:10 ID:Io5+y+CQ
次でHシーンがなかったら、多分切れる
ダラダラ引っ張りすぎだ
181名無しさん@ピンキー:2009/06/22(月) 00:37:06 ID:AJC6+xTs
キレたらどうなんの?荒らすわけ?
182名無しさん@ピンキー:2009/06/22(月) 06:19:15 ID:eTtF3ZTz
ストーリー重視なんだからエロはオマケでいいと思うけどな
183名無しさん@ピンキー:2009/06/22(月) 15:03:10 ID:8CkL5LAT
焦らされるのも楽しめる、これが紳士の余裕
184名無しさん@ピンキー:2009/06/23(火) 17:34:21 ID:VRMHYp4r
>>178
乙です
ただ天満のキャラや、播磨のキャラが違うようなw
185名無しさん@ピンキー:2009/06/23(火) 23:30:56 ID:qm9VSmNS
正座で続き待ち

待つ間、東郷をエロに持っていく方法を考えたが無理だった…


「表に出ろ」「宇宙婚だ」コースも
「お兄ちゃんうるさい!」コースでさえ…!!
18627-3(おにぎりルート):2009/06/24(水) 00:48:09 ID:ruKNNRUT
 >>177続き。
 今度はしばらくストーリー放置になる予感が。
 そしてキャラが。。キャラが。。
18727-3(おにぎりルート):2009/06/24(水) 00:49:28 ID:ruKNNRUT

 拳児は口が裂けても言えないが――ファーストキスではない。
 塚本天満に恋をしてほどなく、彼は収まりのつかない興奮を何かで表現したかった。
 しかしそこは喧嘩一筋でただただ暴れ続けてきた男。腕力は猫の手にもならず当時は漫画のような代替手段もなく。
 悶々とした日々が続いたある日、矢神入学のための努力の一環として、彼は母校へ教職に就いていた従姉である絃子を尋ねた。
 『それで、君は高校に一体何しに行くんだい?』
 『う…それは、言えねえ……けど喧嘩してえとか暴れてえとかと違う! そうだ、聞いてくれよ絃子』

 思春期らしい発想であるが、誇らしげな感情の発散として選んだのは単純に"自慢する"であった。
 恋だとはあえて言わず(実際はあっさり見抜かれていたわけだが)、塚本天満の名も出さず、ただひたすらに当時の自分が持つ熱狂を語って聞かせた。酔っていたのだろう。
 『あらあら拳児君、ずいぶん嬉しそうに先輩に話すのね』
 『俺は本気だぜ。絃子にゃわからねえかもしれねえけどな』
 『ほう、そうかそうか』

 何が悪かったのだろう。まずはファースト。当然のごとくセカンド、サード、そして…。
 キスのカウントはいくつまで許されるのか?おかげでしばらくは何をするにも手がつかなかった。
 ただの暴れ者を卒業し進学を目指す健全な男子学生、播磨拳児更生へのあるまじき妨害行為……例により話を戻す。

 それはそうと、拳児は八雲とキスを交わした瞬間、いろいろな意味で鮮明に残る記憶に感謝した。今度は自分に求められているものだから。

    ◇ ◇ ◇


 「っ……」
 押しつけたに過ぎない唇での愛撫にさえ漏れる甘い息。
 隙間から出した舌先で表面をなぞると、抱き寄せた少女は驚いたように体を震わせ距離をとろうとする。
 「ぁ…播磨…さん」
 二度目の少し深いキス。それが終わって睫毛を震わせながら見上げてくる八雲。
 風呂上りの体温はまだ温かく、いつものシャンプーの匂い。再び目が閉じられて、拳児は三度目の接触と同時に舌を彼女の中に突き入れた。

 つぷ――

 音の立つ、深いキス。八雲の紅の入っていない唇が濡れる。乾きかけていた皮膚は拳児の唾液を吸って瑞々しさを取り戻していた。
 形ばかりの抵抗を見せる歯の間に舌を差し入れて、拳児は八雲の同じそれを真っ先に探しだそうとする。
 中で響くように音を立て求めるように動かすと――くちゅり。やがて目的のものは見つかった。
 奥のほうでおびえる様になっていた女神の愛舌がおずおずと魔王に差し出される。

 ぬる――ちゅぱ―ちゅ、ぱ…

 二人の繋がった口の中にて、天満からはわからないもう一つのアーチが組みあがる。
 姉にも許したことのない部分での深い接触。八雲の脳に、目で見るより手で触るより鮮明なビジョンが流れ込んでくる。

 歯先がかち合うことなく舌を強く厚く重ねられブレンドされる互いの分泌液。
 与えられるトロリとした液体は際限なく溢れ続ける自身のそれと融合し、彼の一部でかき混ぜられる。
 できあがったものを歯の裏側や頬の内壁に塗りたくられて、彼は私を好きなようにしたいのだ、されている、と思い知らされた。

18827-3(おにぎりルート):2009/06/24(水) 00:50:47 ID:ruKNNRUT
 
 ぬちゅり――ぬちゅり――
 
 泡立ち、口の中全体に広がったぬらぬらした汁はどこにも逃せず溜まる一方。
 やり場に困り、たっぷり含んだ舌を絡めて音立て吸われると魂まで持っていかれる気がした。

 「ん…ちゅ…播磨、さん」
 ポタリ。息継ぎの合間を縫って愛しい男の名を綴れば、口の端からぬるりと零れてしまいパジャマに縦長の地図を描く。
 それを恥じて、また惜しくも思った八雲は拳児の変わらぬ求めに応じながらも、そっと細喉を鳴らした。
 二人で練り上げた混合液が食道を伝ってトロトロと胃の中に落ちていく。
 
 (あぁ…体の奥まで…されてる、みたい。姉さんに見られてるのに……私)
 
 背後の存在が無言であるのが逆に不安を掻き立てられる。そう思えばやがてじわぁ、と受け入れた部分が体温よりも熱くなっていく。
 
 やや不器用ながら、男は全てを味わおうと顔の筋肉を動かし女はそれを受け入れようと懸命に努力していた。
 わずかな隙間で音も立てない窮屈な息をして、またすぐ口を重ね互いを飲み込むように貪り合う。
 八雲は帯びた熱が徐々に徐々にお腹の裏側に集まっていくのを知覚していた。
 
 「はぁ…ふぁ……ん……んんっ」
 キスの感想。せがむ様な声を、初めて絞る声を、官能の混じった悩ましげな声を最愛の男女の前で晒す八雲。
 自分の倍ほどにも太くて安心できる彼の腕に肩を抱かれ、できた囲いにすっぽりと五体を預けてしまう。
 狭い空間で唇を奪われたまま、八雲はどうしていいのか分からずもぞもぞと体をくねらせた。
 自然、唇と言わず腕や腰、胸などを使ってマーキングさせるがごとく体の部位を拳児にこすりつける格好。
 その一環として伸ばした手で彼の広い背に触れれば、伝わるのは早鐘を打つ彼の鼓動。
 嬉しさに更に体を密着させれば抱擁は更にきつくなる。
 互いの体の隙間から汗ばんだ匂いが香り立つが、鼻腔をくすぐられても悪い感じはしなかった。

 (あ…すごい……播磨さん…ココ…)

 口膣を何度も味わわれ、更には首筋や耳裏にまで彼の侵食を受ける中。
 接触を重ねるうちに八雲は感じる彼の一部が普通ではない熱を持っている状態にあると、このとき既に分かっていた。
 思うまま、そのふくらみの先端をそっと撫であげようと――。

 「――っ!? は…ぁっ…」
 熱にうなされるような媚声が途切れ、代わりに急に冷やされたような細い声に変わる。彼の部分に触れたからではない。
 八雲がそう思ったように、拳児もまた触れようと思っていたのだ。
 ただしそれは八雲の最も秘匿とすべき部分ではなく――

 「い、妹さん悪ぃ。でもさっきから押しつけられてだな…」
 「え……違…私、そんな…つも…り…っ…」
 艶かしい吐息を吐きながら、八雲は今の自分のしぐさ全てが男をいざなう踊りになっていたと知るのであった。

18927-3(おにぎりルート):2009/06/24(水) 00:51:51 ID:ruKNNRUT

    ◇ ◇ ◇

 慎み深いはずの妹は、初めて故の余裕のなさからかこちらの存在すら忘れるほどに没頭している。
 頬を朱に染め、見せつけるように舞う妹の姿は同じ女から見ても羨むほどに衝撃であった。
 最後まで悩んでいたはずの義弟もキスを繰り返す姿は今やすっかりお猿さん。
 往年来の夫婦のごとく仲睦まじい接吻は充分に合格点と言える。
 しかし彼はどうにも慣れているような気がしたが…仮にそうだとしても何故か驚きが湧いて来ない。
 いかにして二人の世界に入り込むか決めあぐねていた天満だが、やがて妹の様子がおかしいことに気付き、何事かと45度ほど立ち位置を変えてみる。

 (う、うわぁ…脱がさないの?服の上から?)

 横から見ると、なんと妹はいやいやと力なく抵抗するように男の手首を握っているではないか。
 …立派に育った二つの乳房をまさぐる拳児の手を。

 「うお…やわらけえ」
 「だめ、で……す……ぁ…恥ずか、しい……」

 ぐにっ ぐいっ ぐにっ

 服の上から揉みしだかれて、複雑にたわむ豊胸。
 行き場がなくてところ狭しと形を変えるその物体は自分に一生縁のないモノだと思うと少し悲しい。

 「う…あぁ……は、播磨さん…待って下さ…んん…」

 興奮を御しきれないのか義弟は返事することなく、指先を挟み込むような形にし、妹も身体をくねらせながら悶えている。
 ただ――あれでは辛いのではないだろうか。男の拳児に気付けというのが難しいが、狭い空間に最低でも二〜三枚の壁があるはずで。
 直接触ろうとしているのか、胸元の硬いボタンから乱暴に外そうとするもかえって逆効果にしか見えない。
 せめて両手を使えばいいのに片手は接着されたように女の象徴を掴んでいた。
 キスは花丸だが…ちょっとガツガツしすぎである。減点。

 「っ…――い、痛っ」
 妹の声に苦痛が混じると同時、天満は強引に愛の時間に割って入った。安心させるように背中から抱きしめ強引に二人を分かつ。

 「?っ…ねえさん」
 「やーくも♪ ごめんねちょっと待ってて。播磨君、少し後ろ向いててくれるかな?」
 「! あ、ああ…悪ぃ」

 悪気はなかった。けれど夢中になってしまった。
 拳児は天満に声をかけられてからやっと、沈んでいた自分の理性に気付く。
 キスの度に八雲が洩らした、甘さに濡れたあえぎ声。それがとてつもなく心地よく、全て自由にできるような錯覚を覚え――
 繋がりを大事にしたいと考えていた少女に、男の本能だけで触れてしまおうと。

 「姉さん…え、えっと……ひゃぅっ」
 「はいはいお姉ちゃんにまかせんしゃー…ん〜? ……ふんだ。八雲さん、なが〜い成長期ですこと」

19027-3(おにぎりルート):2009/06/24(水) 00:53:05 ID:ruKNNRUT

 拗ねるような天満の文句とごそごそとした衣擦れの音、そして何やら軽くふわりとしたものが部屋の隅に投げられる。
 「あっ…姉さん、返し……!」
 その間、拳児は己の頬をつねって戒めていた。止めてくれなかったら嫌な意味で泣かせてしまったかもしれない。
 ギラギラした欲がにじみ出た顔であのまま――
 「はい播磨君オッケーだよ」
 そう言われてすぐ反応してしまうのは男の性か。
 情けなく思いながらも振り向き――……思い切り、ゴクリ。分かりやすい音を立ててしまう。

 「は、離して姉さん……こんな格好、恥ずかしいよ…」
 
 あおむけの八雲の腰から上を天満が背中から持ち上げていた。正面が拳児へと向けられる。
 邪魔だとすら思った紺の夜着はどこにもない。代わりに透き通るようなきめ細かい柔肌が目に映る。
 隠されているのは――雪のように白いブラに包み込まれている、負けじと白くたっぷりとした膨らみ。
 そのまま視線を下へ移し、ヘソを通り過ぎた先の三角部には清純な八雲らしい、真白の股布。それだけである。
 少女の裸身はそのほとんどが露となってしまっていた。

 「八雲…キレイだよ。ね、播磨君?」

 今まで遠慮なく掴んでいたことを後悔する程に細く、血色の薄い肩。
 全く無駄の感じられない腰周り。可愛らしいまでのヘソ。丸く膨らみのある臀部。
 横たわる細い両脚は内側に向き合い膝で折り曲げられていて、布団の上を這うように伸びていた。

 「…そんな、見ないで下さい……」
 「播磨君。八雲を見てあげて」

 八雲は白い身を硬くして、端正な麗貌を羞恥で染めながらきゅっと布団を握り締めている。
 だがやろうと思えば姉を振りほどいて恥ずかしい場所を隠すくらいはできるはずだった。
 そして天満は好きな男に半裸を晒す妹の心境を考えているのか、袖をまくって手を伸ばし――

 「待って…姉さ、やめて……あっ」

 ふにふにっ たぷんっ

 とうに姉を追い抜いているくせにまだ足らないとばかりに成長を続け、たわわに膨れた女の果実。
 天満は質感を確かめるように下のほうから掬い、持ち上げ、拳児に見せつけた。
 ブラに包まれながらも強く波を打って肉の谷間が開き、一瞬大きく揺れる。

 (…天満ちゃんが妹さんの胸を後ろから揉んでいる。下着だけの妹さんを…)

 「やぁ…………姉さん止め、て…」

 それだけで卒倒しそうな光景であった。天満自身は一枚たりとも脱いでおらず八雲の肩の辺りから顔を覗かせているだけなのに。
 八雲の女性ならではのボリュームが実の姉である天満の手で公にされている。

 「髪の毛が、…くすぐった…ぃ……。離してっ…ふあっ」
 「……ウソ。キモチいいんでしょ。いつの間にこんな子になっちゃったのかな?」
 「え…? ち、違うよ……何言う、の…」

19127-3(おにぎりルート):2009/06/24(水) 00:54:59 ID:ruKNNRUT

 天満の波のように広がる長髪は八雲の胸と顎の間あたりまで届き、肌を隠すようにも弱点を探るようにもゆらゆらしていた。
 浮かんだ汗を吸って固さを得、それが乳肌に軽く刺さり不規則な刺激となる。
 反応を楽しむような手つきに言い聞かせるような指摘。
 
 拳児にとってはノリノリに挑発する天満は悪ふざけをしてるようにしか見えないのだが(彼女流のリラックスか)
 対照的に真剣に受け取ってしまって逆らえぬ八雲。おかげで姉妹を見る目が変わりそうで仕方ない。
 
 「八雲は優しくされたい? それともちょっと乱暴なくらいがいい?さっき播磨君に―」
 「いや……何で、そんなコト言うの…」

 そして拳児の再燃しても仕方のない雄の心は、妹の肢体を使って誘うように見せつける天満へ――ではなく。
 恥ずかしそうに悶え、そのくせ隠そうともせず、誘うように体をくねらせる八雲に向けられた。

 「綺麗だ…妹さん」
 「え…」

 背後の姉は人が変わったように意地悪な言葉を投げかけてくる。
 それだけに拳児が綺麗だと褒めてくれたことが八雲には嬉しかった。
 単語そのものは月並みでも、愛した男が操ればいかなる称揚の言葉より心に響く。
 そして―立ち上がり近づいてくる彼の中央より少し下、突き出た天幕に眼が釘付けにされてしまう。

 (あ……あぁ…なんてコト…播磨さん、私であんな…?)

 男の生理現象は知っている。
 例えば目が覚めた時にはまだ腫れているコト。少なくとも早朝、起こしに行った時の播磨拳児に限ってはそうであった、コト。
 だが今の八雲には彼の膨張がただの自然現象とは思えなかった。
 何故なら彼の荒ぶる視線は激しく自分を射竦めている。
 町に出て時折感じた男達のそれより更に強く…
 彼の視線は自分を明らかにソレを沈めるための相手として…誰にも触らせたことなどないのに――
 「触るぜ」
 その声にピクンと身体が震えるが逃れるような拒否はない。
 しかし彼の手は八雲の思惑を裏切って、甘く疼いた茂みを隠すカーテンを通り過ぎる。
 開かれた両の掌は先ほどの続きを求めて、姉の誘いに乗るように下着の上から乳房にあてられた。

 「はぁっ……」

 切ない喘ぎ。自分で同じように触れたとしてもこんな声は絞り出せない。
 はっきりと言葉にするのはまだ躊躇がある。けれど恥ずかしいのにやめて欲しいとは思わない。
 これからどうされてしまうのか、期待が頭の中から大事なしがらみを外へ外へと押し出していく。

 「播磨君、優しく…ね? ほら八雲」
 「おう…妹さん、痛くねえか?」
 「だ、大丈夫…です……。お任せ…しますから…」

 後ろの天満に何やら促されると、八雲は両足を揃えて横へとずらし、腰から下をひねるようにして拳児がより近づくためのスペースを作る。
 彼のためを思ってとった人魚のようなポーズはひどく扇情的であった。そして続くは彼のためを思っての言葉。

 「……播磨さんの、好きなように…」

19227-3(おにぎりルート):2009/06/24(水) 00:56:16 ID:ruKNNRUT

 聞いた拳児は遠慮気味に距離を詰め、手触りのいいブラの上から、思い切って桃肉を鷲づかみにした。
 ――優しい感触。人差し指と中指が埋まり、間から膨らみのいい肉が盛り上がる。無骨な手の動きに従って乳菓子は縦に横にと引き伸ばされた。
 いびつな形に歪んでしまい慌てて手を離せば、素早く弾け元の均衡あるフォームを取り戻す。
 今度はそっとあてがうが、それだけでも掌全体に感じるのはなめらかなの肌触り。崩さぬように手首を使って撫で回す。 

 「ん……ん…ぁ……しびれ、て……」
 服の上から触った時よりよほど柔らかく、より自由に形が変わる。
 緩く揉めば可愛く揺れて、強く握れば他の部分が大きく膨らむ。下着に収まっている状態を崩さぬよう、慎重に慎重に。

 「マッサージ……されてる、ような……じぃんって……あぁ……んぁ…」
 やがて、八雲のいつもより大きめに開かれた口から喜ばしい言葉が届く。
 怯えや不快の色はまるでなくまどろむ様な吐息。もしかして八雲の見えない部分では既に準備が始まっているのかもしれない。
 両手に彼女の形を覚えこませるように、その輪郭に沿って指先を形作る。触れる、触れないの瀬戸際。少しだけで手を小さくし、そして回転させる。
 力任せに味わいたい欲望を殴り飛ばして押さえつけ、布地のない部分に見える柔肌から、隠された部分への想像を膨らませる。

 「……大丈夫、です……はぁぁ…ぁっ…気持ち…いい」

 はっきりとした愉悦の意思。拳児が自信と確信を得て、いよいよ布越しだけでは我慢できなくなった時――

 「…ひぁんっ! ね、姉さん!?」
 「えへへ…ゴメンね〜八雲。お姉ちゃんも楽しませてね」

 見れば後ろで支えていた天満の唇が八雲の髪を掻きわけてその首筋に這っていた。
 ちゅく――ちゅるっ――音を立てもごもごと動く愛らしい天満の唇。何度も何度も吸いつけているのだと分かった。

 「くすぐっ…た……やぁ、そこ」

 ツツツ―――とうなじから背中へ天満の幼舌が走る。拳児からは見えないが、天満は時折クリクリと穴を開けるように
 妹の肌に舌を突き立てていた。二人の行為から見様見真似で覚えた舌技で以って妹を高みに導こうとしたのである。
 そこにあるのは親切心というより純粋な好奇心と…妹を好きにできる播磨への、ほんの少しの嫉妬か。

 「待って…あ、あのね…今…私、播磨さんと……」
 「お姉ちゃんじゃ、物足りない?」
 「そうじゃ、なくて……っ! わ…私達、姉妹なんだよ。んっ……あんまり、いけない…コト……」

 八雲は姉にされているという恥ずかしさが先立っているのか、拳児に見せたほどの悦びは洩らさなかった。
 しかし背後から責められた上半身は自然と逃げるような――前にいる彼にとっては胸を突き出される形をとってしまう。
 ふわ、と大きく揺れる高低差のある双丘。
 下着の上からでも、拳児には最も弱い場所が分かってしまった。
 それだけ…彼女のまだ見ぬ先端が硬く張ってしまっているのだろう。

 「あー何それ?ふーんやっぱり八雲は私より播磨君にされるほうが気持ちいいんだ?」
 「それ、は……やめて…さっきから姉さんおかし……んくっ」

19327-3(おにぎりルート):2009/06/24(水) 00:57:32 ID:ruKNNRUT

 天満の意地悪を聞き流せず正面から受けてしまって悶える八雲。可憐な表情を崩しながら真っ赤になって身をよじっている。
 せっかく拳児が八雲を羞恥を抑え昂ぶりを伸ばせるように誘導し耐えてきたというのに、ここにきてまた羞恥が勢いを取り戻してしまった。
 紅潮し、汗の滲み出している妹の肌を嬉しそうに味わう姉。肩の振動、それに連れてバウンドする双子山。
 本来であれば今度は自分が天満を落ち着かせる番だと拳児は理解した上で。

 (ぐっ…すまねえ妹さん…もう我慢が)

 八雲が天満に気を取られている間に、拳児は身を低くし邪魔な胸当てを指で下へと押しやる。
 下から支えられるように更に前へと突き出された、質・量ともに男の部分を虜にさせる八雲の果実。
 ようやくお披露目となった桜色の乳頭。感動も早々に、拳児は迷うことなく唇で迎えた。

 ――じゅうぅぅっ

 「ひゃあぁあぁぁぁっ!?…あ…そん、な……播磨、さん…まで……」

 強く弄ばれた瞬間、八雲の体は電流を流されたように大きく跳ねた。
 キスの時にも感じていた、口周りのヒゲに素肌を刺されることで生まれる、身体を熱くさせられる刺激。
 加えて初めて男性に乳房を晒し、中央へキスを見舞われたという事実が与えた衝撃は強い。
 しかし――本当に彼女を想像の外へと突きあげ強い声で叫ばせる元凶は別にあった。

 「じゅっ…じゅるっ…」
 「ぺろ…んちゅ……ぷはっ」 
 「…う、そ……私…播磨さんと、姉さんに……はあぁ……っ」

 最も愛した女と最も愛した男に前後から挟まれて性的な蹂躙を受けている。
 少し前までは姉に優しく抱きとめられて、好奇の的ともなったふくらみも彼にそっと子供のように愛されていたはずなのに。
 身を焼かれるような恥ずかしさ。信じられない事態に頭の中はもう全く追いついていなかった。
 硬くなり過敏になっていた乳首が甘く噛まれれば、注意の逸れた背中に姉の歯が軽く突き立てられる。

 (……私…されて、る…前と…後ろ……)
 「やぁ……ふあ…っ……あ、あぁ…」

 ただでさえ経験のない快感が倍になって襲い掛かってくるのだ。
 二人の前で、と意味するところがわからなかったわけではない。ただ――結局わかっていたつもり、なのだ。経験がないから当然であるが。
 聴覚から伝わってくる滴りの混じった遠慮のない音。眼下で動く彼の頭。肌にかかる姉の髪。感じる二人分の人肌。浮かんだ汗をすすられる。
 津波のような辱めを八雲は拒絶できない。高まっていた羞恥を二人の行為は強引に突破しようとしてきたのだ。
 弛緩したように体から力が抜ける。下腹部が短く音打ち、何かが始まっているのが分かる。
 八雲は首から上だけでダンスを舞った。黒髪を乱し、しがみつくように歯が食いしばられた堪える女の表情で。
 何を堪えるのか?それは――自分が自分でなくなること。

 「はあっ……はあ、あぁ…う、んく、ん…あぁ」
 「んちゅっ。ふちゅ……ん〜ちゅっ! ……ぷはっ。八雲…柔らかいよぉ。もっとさせてね」
 「だめぇ…姉、さん…ら…め」

 天満は妹にドコが有効的な責めなのか、見極めるように指先と唇を動かしていた。
 彼女以外には分からないが、八雲の首周りから背中にかけては既にキスマークで一杯である。ちなみにブラのホックなどとうに外されていた。
19427-3(おにぎりルート):2009/06/24(水) 00:59:10 ID:ruKNNRUT

 じゅぱっ ちゅぱっ じゅるるっ じゅるっ ぐちゅっ

 「ひ、うぅ……だ、め……播、磨、さん……何も、でませ…ん……か…ら」

 吸われる度に、口をつけられる度に背筋が震え爪先に力がこもる。
 はだけた胸に赤子のようにむしゃぶりつく彼の頭を、八雲はいつしか片手で引きつけるように抱いていた。
 彼の頬にも押し広げられ、チクチクしたヒゲに刺激されるやや腫れた性感帯。ふるふると正直に打ち震える。

 ――じゅじゅっ…ちゅぱっ
 「や、ひあぁっ!」

 拳児の唇が離れる。ビクン、と針を抜かれた魚のように乳房が浮動した。
 重力に逆らうように突き出た彼女の小山はテカテカと猥褻な輝きを見せている。
 切ない仕打ちを受けた箇所には愛の証が点々と。それだけ、播磨に愛されているのだ。
 それを認めると八雲は頭の後ろで何かが切れるような感覚がした。
 流れに飲まれまいと必死で掴んでいた大切なロープを、自ら放してしまったような…

 「んぁ…こんな…いっぱい…。べとべとに……私の、胸が…」

 八雲の瞳が一瞬暗くなり、喜悦を湛えたものへと変化する。
 そして拳児も合わせる様に…彼は片側だけでは満足せず、今度は両方の小山を手で可愛がると決めた。
 もう強く握り締めても八雲からは何の拒絶の言葉も出てこない。滑る感触を堪能し無言のままひたすらに鷲掴む。
 
 「あ…まだ……するんです、ね……ぎゅうって……あぁ………播磨、さん…キス、くだ…さ……」

 どっしりとした質量に触れて白い肉が踊る。その先を指の腹でなぞると同時、口が自由になったところで珍しく八雲からおねだりが来た。
 誰からも愛されるはずの女神に寵愛を求められ、魔王が不敵な笑みとともに頷く。

 「はふ…ん……んぐ…ちゅ……ちゅる…んんっ」

 ノックする間もなく開かれた口の中はたっぷりとした泉になっていた。
 かき回すように味わいながら、手では禁断の果実を寄せたり伸ばしたり押したりと、思うままに使わせてもらう。
 拳児はどちらも極上のそれを同時に味わっている内に、一つの成果を見出していた。
 二つの半球を周囲から寄せるように集めて絞り、先端を突き出させてから更に親指で潰す様にぐりぐり押し付けてみる。
 すると八雲の舌先が面白い反応を見せる。呼応するかのように、結びつきを強くしようと強く吸ってくるのだ。
 遠慮なく溜まった唾液を与え嚥下させてやれば細喉がこくんと脈動する。

 「んちゅ…ごくっ……ふあ……あ…何かが…流れて…奥に…」

 力なく落ちた眉、うっとりとした呼吸。やがて逢瀬を名残惜しむように絡めあっていた舌を離す。
 拳児はひととおり接吻に満足し、そしてまだまだ味わいきっていないふくらみへそのまま顔をうずめる事にした。
 その間にもちろん天満からの行為は止んでいない。肩を伝い、鎖骨やうなじ、背の基軸をくすぐられる。
 
 「ねえさ、はりまさ……やめ、て………やめ…ない…で……はあぁぁ……」
 
 八雲は涙をうっすら浮かべ、自由にならない体を精一杯くねらせて、解放を許さぬ二人の弄ぶような愛撫に身を任す。
 芯が熱い。先ほどから強い刺激を受けるたびにアソコから何かが外へ出て行く。自分は一体どうしてしまったのだろう。
 
 (わ…わたし……おかし…く…なっちゃ…)

19527-3(おにぎりルート):2009/06/24(水) 01:00:20 ID:ruKNNRUT

 ―――――――――――――――

 ここまで。
 何だかせっかくのシチュが天満と播磨のターン制みたいになってしまい反省。
 下手な縛りいれるより三人が相思相愛のほうが○だったかも。
196名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 08:35:27 ID:g8t87zea
>>195
乙です
天満がいるっていうシチュは実験的で面白いと思います
ただ難しいし、エロ分は若干薄れてしまってるかも
197名無しさん@ピンキー:2009/06/25(木) 00:42:55 ID:/uGTmJX0
天満自体エロと結びつかないキャラだしな・・
でも頑張りは認める、乙
19827-3(おにぎりルート):2009/06/25(木) 22:40:17 ID:ZCmuLOBk

 >>194続き。前回より多少長いです。
 エロはきちっと一回でまとめるべきでした
19927-3(おにぎりルート):2009/06/25(木) 22:40:53 ID:ZCmuLOBk

 既に妹の壺からはどっぷりと蜜が量産されていた。
 未だ無事なはずのショーツの部分には淡い筋が透けるように浮かぶ。
 触れられていないはずの秘所からの愛液は、滲むを通り越して一気に溢れ染みとなっているのに
 不思議と下品ではなく美しい芸術品のように天満の瞳には映った。

 (う、うひゃあぁぁぁぁ…八雲、すごいことになってる)

 気付いているのは自分だけなのだろうか。義弟は主に上半身の愛撫に終始してしまっているし
 妹はその全てにうっとりと頬を上気させ感じ入っている。
 あれだけ見せていた抵抗も今では気持ちよさに押されているらしかった。
 でなくてはこんな大洪水にはならないだろう。シーツに力作をつくりあげるまでには。
 ちなみにおねしょの卒業時期はほぼ同じ頃、ということに天満はしている。姉の威厳に懸けて。

 (あ、あらかじめ触って濡らしておかないとだめって書いてあったけどこれならきっと…)

 勝手に解釈した天満は次なる目標を妹の双対なる桜の実に決める。
 正直言って後ろからキスを繰り返すだけに飽きてきたからなのだが。
 ねっとりとした糸を引く唇や隠れた泉の部分はさすがに恋人に愛してもらうべき。
 その点を鑑みると義弟が堪能中のものは数二つ。ならば一つくらいこちらにも権利があっていい。
 そう、この時点で熱に狂わされた思考は八雲一人のものではなくなっていた――が。
 (そ〜と…あれ?)
 一年越しにバージョンアップした新兵器の性能はいかなるものか。
 脇下から手を差し入れるようにして、期待感たっぷりに掴もうとしたところ。
 無意識なのかわざとなのか偶然なのか、妹は肘を降ろして隙間を閉ざし、差し入れようとする手を拒んできたのだ。

 「あ、あぁ……はりま、さん…ちくちく、します…はふ……」

 まるで『胸は今、播磨さんにキモチよく使ってもらってるんだからだめ』と暗に言及されているようで。

 (ふ〜ん。八雲がそういうつもりならいいですよーだ)

 いいがかりに近い理由をつけて、天満は狙いを一点に定めた。
 ワンポイントのリボンが特徴の少し幼さの残るショーツの部分。唯一の未開の地。
 妹のお尻の形に合うよう膝を左右に開いて密着し、引きつけるように片手で腰を抱き、残った手の指先を舐めて濡らして――

 「んっ、くぅ……はあっ…ぁ!」
 「い、妹さんどした…うぉ」
 恥骨による膨らみの中央部。下着の上から縦筋を刺激された八雲の、快楽混じりの熱い吐息が拳児の頬を撫でた。
 拳児の愛撫によってじんじんと無視できない痒みを持ち始めていた女の溝が、丁度というタイミングでなぞられたのだ。
 ようやく拳児は愛でた女の下半身で起きていた浸水に意識を巡らせることとなる。そこは既に先客がいた。
20027-3(おにぎりルート):2009/06/25(木) 22:43:22 ID:ZCmuLOBk

 中には侵入していないものの、布越しの聖域を上から下へこすり付けるよう這いずる天満の指。
 ちゅくっと水気ある音。人差し指の爪先から第二間接までをぐっと押し付けられると
 飽和しきっていた布地が圧力に負け、含んだ蜜がじわりと溢れ出てくる。
 八雲の腰がビクビクと震えた。高い快感の波が一度引き、少女の頭には迫ってくるは背徳感。
 
 「ねえ、さ…あぁっ……みない…で、はりまさん…はぅ…」

 原因である天満も既に当初の疎外感など頭から抜け落ちていた。
 布の先に透けて見える控えめな草叢。こぽこぽとししどに溢れる泉。やがて動かしていた指先が淫水に浸かされ糸を引き出す。
 白布を引きつけ食い込みを強くしてみれば、漏れ出す音はより顕著なものへと変わって行く。
 ぬらぬらと愛液が太腿を伝い、八雲のお尻の形に添って濡れた円が描かれた。

 「す、すごい……ねえ八雲…気持ち…いい?」
 「ひゃ……や、めて…そこは…きもち、よく…なんて…」
 「…ウソツキー」

 一呼吸置き、冷たい声。正直なところ拳児も同意であった。無理がある。
 唯一自由になるはずだった口ですら、言葉が不自由のきざしを見せているではないか。

 血の繋がった姉で性的な興奮を覚えることを拒否する理性。
 これがネックなのだろうが、男の行為には甘んじている一方で姉には否定的なのも少し同情してしまう。
 拳児が次なる行為に意識を巡らせ手を止めると、開始してから初めて天満と目が合った。

 (塚本)(播磨君)

 鳴かぬなら 鳴かせてみよう ホトトギス――方向性の一致。
 
 互いの分野に手出しは無用ということで、拳児はそちらを任せ再び頭をかがめる。
 八雲のたっぷりとした乳房を左右から力を入れて前へと絞り出し、薄紅の乳輪ごと強めに吸引した。
 下品な音を立ててがむしゃらに、釣鐘状になるまでに伸ばし苦痛になるより先に解放してやる。音が聞こえそうなほどに激しく揺らぐ拳児だけの宝物。
 そして呼吸を合わせるように天満は人差し指を浮かんだラインへと忍ばせていく。

 ちゅく。クチャ、にちゃ……

 「おねえ…ちゃ…やめっ……! はぁあぁ…ぁあぁ……ソコ、は…まだ…」
 「えへへ。八雲が悪いんですよーだ。素直に、ね?」

 顎を引き身を固め、強く握った拳に噛み付いてでも喘ぎをこらえようとしていた八雲であった。
 だが実の姉に肉の裂け目を下着で擦るように触れられれば。
 ゴムの部分がくいと引かれる。脱がされるのではなく開かれる。濡れそぼった繊毛が空気にくすぐられ秘唇がキュンと冷やされてしまう。
 パチン。指が離れ、湿った生地が反動で元に戻る。まだ包皮に守られている箇所へも波が伝わり、八雲はまた雫を落として強く跳ねた。
 理性をかき集め沈めようと努めても、卑猥な汁で満ち本来の用途に適さなくなった薄布越しに、膨らんだ肉芽を指圧されれば。

 「ふあぁ…ぁ……ねえ、さ…だめ……キモチ…い…っ……」

 我慢することなどできない。快感という形なき熱い奔流の発散を源泉でなく上の口でも求めてしまう。
20127-3(おにぎりルート):2009/06/25(木) 22:44:35 ID:ZCmuLOBk

 じゅるっ ぐにゅっ じゅくっ じゅくっ

 「…っ…んぐっ……ぷは。妹さん、乳首が充血して真っ赤だぜ。ぷるぷる振るえて、誘ってるとしか思えねえ」
 「い、いや…はりま、さん…まで……やっ、あっ、あっ、あっ……っ――!」

 そして愛した拳児にまで己の胸乳を淫らなものとして指摘されれば。
 示すように乳房を乱暴に揉みしだかれて、先の蕾を風船のようにピンと弾かれ、蕩ける官能を注ぎ込まれれば。
 意識が隅々まで溶けていく。膨らんでいく快楽にぼうっとして何も考えられなくなってしまう。
 眩暈がするような恍惚。ぱちぱちと目の前がはじけて白と黒が交差する。
 抑えきれずに情けない声だって挙げてしまう。

 「ひうぅ……ぅっ… も、もう…ゆるし……て」
 「え?何?聞こえないよー」
 「…ゆるし、て……ごめん…な……さい…」
 「もーいっかい♪」
 「ゆ、ゆるひて…いい……きもひ…いい…すごく…あぁ」

 艶やかな唇が官能にわななく。姉が喜びとともにアンコールを要求すれば、妹はそれにあっさりと折れて答えた。
 壊れたように小刻みに奥が蠢いて、大きな果ての予兆を知らされるのも今の八雲にはたまらなく心地いい。
 性感が意識を塗りつぶす。とてつもなく異常な状況という認識も、未知なる甘美な刺激と共に受け入れてしまっていた。
 ほっそりとした体をくねらせ、切なく喘ぎ、反り返り、陶然とした表情で身を任せている。

 「だめ…ぇ……おねえちゃ、…はりま、さ……わた、わらひ……もぅ…らめ…!」

 柔らかな乳房、熟れきった果実にぎゅうっと拳児の指が食い込む。
 全てを飲み込むように大きく開かれた彼の口が絶妙な弾力の頂点を捉え、かつてない強さで激しく吸った。
 そんなコトをされてしまったら――乳腺すら開き爆ぜそうな刺激に八雲は男の頭を両手で抱いて喜びを伝える。

 「!……は…あぁ……よすぎ…て」

 天満の三本に増えていた指がえぐるように突き立てられる。
 陰唇に与えられる刺激に八雲は腰を僅かにあげて、喜ぶように激しく回した。深く、深く、奥まで届くように。
 ずぷ、と充血した肉豆の真上を薄布ごと爪先が抉る。それが八雲の女として最高の昂ぶりへのスイッチとなった。ガクガクと頭が上下に振れる。

 「あ――あはぁっ……あ、あ、あああぁぁっ―――」

 しなやかな肢体は悦びにしなり飛翔感に打ち震え、八雲はごまかしの効かぬ絶頂に達した。
 振動の度に秘所からは愛液がブチュッと吹き上がり、下着を超え添えられた天満の指を更に濡らす。
 源泉のように勢いよく粘り気のある甘い蜜。
 文字通り蜜のようにトロリとしていて見る者に甘い味を連想させた。

 「だ、だめぇ…っ……とんじゃ…と、ぶ…とまらな…い」

 絞られたふくらみの最も硬い場所を摘みあげられて、快感が乳芯にまで遡る。
 二度、三度と連続して痙攣し、汗よりも遥かに粘っこい蜜汁が際限なく流れ出る秘所。
 発情の極みにあって、普段の端正な雰囲気など感じさせない情欲を求める蕩けたオンナの表情。
 戦慄く唇、開ききったその端からはしたなく口汁を奔らせて、眉毛とあわせてハの字を描く緩んだ瞳。

 「あぁ……あ……ぁ」

20227-3(おにぎりルート):2009/06/25(木) 22:47:08 ID:ZCmuLOBk

 腕や膝先から一気に力が抜け落ち、糸の切れた人形のように手足がだらりと垂れる。
 拳児はサンドイッチ状態から解放された八雲の身体をそっと受け止め、天満も慌てて手を差し伸べた。

 「や、八雲?」
 「妹さん、大丈夫か?」

 そのままどこかへ行ってしまいそうな八雲を心配そうに覗き込む二人。
 歓喜の涙をしとしとと流しながら、まだ愉悦の抜け切らないまま八雲はゆっくりと口を開いた。

 「……はりま、さん……おねえ…ちゃん…ありが、と……だい…すき」

 初めての高みに押し上げられて幸せそうにまどろむ八雲。
 最後の力を振り絞って出てきた言葉はまぎれもなく大事な二人への感謝だった。


    ◇ ◇ ◇

 カッチ カッチ

 八雲の一言を最後にし一気に静寂が返り咲いた寝室。
 再度、時計の針の音が刻むリズムすらやかましく思える。

 橙の光は変わらぬ強さで陰影を表現するが、横たわる八雲の乱れきった肢体はその中でも極めて異質である。
 そして彼女を中心として寝室にはできあがった雌の匂いが充満しきっていた。

 「えっと…八雲、眠っちゃった?」

 かすかにだが違う、と陽を浴びれば強く映えるはずの漆黒の髪が左右に振れる。
 正面から拳児に腕を伸ばし首飾りのようにもたれかかって、朦朧とした意識で舟こいではいるが起きてはいるらしい。

 「……」
 「……」

 だがこのままでは眠るのは時間の問題である。
 どうしたものかと拳児と天満の目が合い――天満は焦りを覚えてしまった。

 目の前の男は自分を好きだと言った。
 互いに服こそ脱いでいないが、その彼と協力する形で八雲を挟み情交に猛ったわけで。
 この状況は連帯責任ともいえるが、とりあえず男として彼はまだまだ満足していないだろう。

 繰り返す。目の前の男は自分を好きだと言った。そして今はまだまだお猿さんモードは継続中。

 「あ、あの―」
 「何もしねえよ」

 不安を読んだように拳児は正面から否定してみせる。
 そして彼は八雲の安らぎに浸かった表情を満足そうに見ていて、そっと乱れ放題だった髪を掻きあげ整えていた。

 (播磨君…)
20327-3(おにぎりルート):2009/06/25(木) 22:48:44 ID:ZCmuLOBk
 想定外な形での信頼が天満の心を掴む。
 見れば妹は頬や首下をなぞる拳児の手に心底気持ちよさそうな笑みを浮かべ綻んでいた。
 甘えきった猫のようなその姿。滅多なことでは誰かを頼ったりじゃれついたりしないはずなのに。
 恥ずかしいトコロを見せてもなお…いや、だからこそ余計に固く深く、妹は彼に心寄せているのだろう。
 自分には見せない…いや、見せることができない側面も播磨拳児になら。そして二人ならきっと福遠からじ。
 塚本八雲と播磨拳児なら――

 「…ほら八雲。いつまでも播磨君にひっついてたら迷惑だよ?」
 「ん…」

 なんとなく予見できた返事。より深い眠りの世界に踏み入れてしまっているのか言葉残して無視された。
 それならそれで好都合かもしれない。天満はそっと四つんばいで妹に近づき、距離を詰めて安心に甘える表情をより眼に焼き付けた。
 間にある空気の層がどんどんどんどん薄くなる。いくらなんでも、と拳児が違和感を覚えるより早く。

 ――――チュッ

 小指を挟んでの――ほんのわずかだけの隙間はあれど、刹那の間であっても、確かにクチとクチと、姉と妹の間でのキス。
 八雲はもちろん天満すら瞬間には目を瞑っていたので、見ていたのは拳児一人であった。

 「つ、塚…」
 「…私ちょっと外すね」
 「へ?」
 「最後の一線は八雲と決めて」

 意味深な一言を残して天満は立ち上がり、襖を開けて隣の部屋に姿を消す。そして階段を登っていく音。

 「……? ねえ…さん?

 今の優しく柔らかい感触は一体…そして姉の動向に敏感な八雲がはっきりと意識を戻し上体を起こす。
 「………あ…や、やだ」
 そして今の自分を思い出したのかそっと胸の辺りを庇い身を丸くして、そのまま姉の行方を目線で追う。
 けれど部屋にいるのは愛する男一人。姉の姿はどこにもなかった。

 「播磨さん…? あの」
 「いや。なんでもねえよ」
 拳児には天満の気持ちが少しだけわかるような気がした。
 両親が弟にかかりきりになった時、自分も似たような感傷に囚われたことは多々あったから。


    ◇ ◇ ◇

 同じ空気に触れていることが耐えられなかった。自分がいることがとても場違いなように感じられた。
20427-3(おにぎりルート):2009/06/25(木) 22:50:01 ID:ZCmuLOBk

 (八雲は…播磨君と一緒にいられる今が、もう、幸せなんだ…私と同じ)

 階段を上がった先の廊下にて、天満はどこの部屋に入ることもなく柱を背によりかかっていた。
 感じるのはハメを外しすぎた後悔などではなく…半身を失したような脱力感。
 自分が烏丸大路を選んだ時、この喪失感を妹も感じていたのだろうか。

  いつも一緒にいた。そうしないと耐えられなかった。考えていたのはたった一人の妹のことだけ。
  泣き出したい現実の中で、自分が逃げれば妹を守るものは何もないと知っていた。
  そして、自分が正面に立つことで、妹が背中を守ってくれていたのも知っていた。
  目の前の家族のために強くあろうと。足らない部分は二人で。二人なら生きられた。

 ふと、妹の最後の余韻の残った手をみる。半分以上が乾いているが、そこは確かに女の潮でべったりとしていた。
 改めて冷静になってみれば自分はとんでもないことをしていた気がする。
 ただ思ったままを妹の身体のぶつけて昂ぶった。
 未知の事象にひるむことなく貪り耽った。
 以前からそれを望んでいたかのように。
 「…ん……ちゅっ」
 思わず天満は、妹の蜜汁の残る自らの手に舌を這わした。指先を細く伸ばして固め、まるで別の何かのように見立てながら。
 「これが…八雲の…」
 残った手で水色の子供らしいパジャマのズボンを膝の辺りまでそっと降ろす。
 うっすらとした色濃い部分は、先程の情交が天満に与えた影響を様々と見せ付けていた。
 愛する妹の乱れる姿。男に寵愛を受けて、また自らもそれを演出したという事実に天満は…感じてしまっていたのだ。

  全てを失ってゼロから歩み始めた時、妹と自分は互いが全てであった。
  父であり母であり姉であり妹であり家族で友人で――恋人ですらあった。
  もし同じ女でなければ、世界に背を向けてでも結ばれていたかもしれない。

 「八雲……好き、だよ…今までも……これからも……ずっと…本当に…大好き…」

 おかしいことと理解しつつ、唾液で濡れた指先をそっと差し入れる。
 そこは思った以上にしっとりとしていて、擦り合おうと太腿が勝手に動く。
 自然と内股気味に尻餅をつき、天満は残った手を服の中にある小ぶりな膨らみに這わす。
 純白の豊頬を左右に振り震えながらも、おずおずと幼唇に隠された禁断の真珠を指の腹で触る。
 ピクン! 堪らぬ快美感。とたん、上の唇からは最愛の妹の名前が切なげに洩れた。

 「あん……あっ…八雲……やくもぉ……ご…ごめん…ね」

  陽と陰。自分がお日様に立てば支えるしかない妹は常に陰日向。
  よくないことだとわかっていたのに妹はそれについて何も言おうとはしなかった。
  そんな境遇にあっても強くあろうと、正しき光当たる道を迷わずついてきてくれた。

 「ん…あっ……あぁ……だ、だめ……!」

 清純そのものの少女の瞳から清らかな涙が零れ落ちる。
 一階には届かない程度に、けれど確かな嬌声が…そして別れを惜しむような響きが幾度となく廊下にこだました。
20527-3(おにぎりルート):2009/06/25(木) 22:51:49 ID:ZCmuLOBk


 「姉さんは…気を、きかせてくれたんだと思います」
 「…ああ。そうなんだろな」

 この場は『そういうこと』にしておく。
 無論、拳児も八雲にも思うところはあったがそれが最良の対応だろうと考えて。
 ふと時計を見れば、既に針が中央を越えつつあった。

 まだ腕に残る伸びきったブラを丁寧に巻き上げて転がっていた服を拾いまとめて畳む。
 八雲は片手で乳房の中央ラインを隠すようにし、まだ余韻の消えない下腹部には下着を残した。
 その箇所から恥知らずにもニチャリと淫音を立ててしまい羞恥にまみれうつむく。

 「あ…播磨さん……」

 拳児もまた同じ格好になっていた。
 上着は全てまとめて脱ぎ捨てられて、躊躇なく足首まで引き降ろしたズボンを靴を脱ぐがごとく扱う。
 腰周りのトランクスの中心。雄の昂ぶりをそのままに、隠そうともせず八雲に近づく。

 「……すごい」
 「いや…妹さんの身体、ほんっと綺麗だな」

 見惚れ、驚きと嘆息の混じった深い息吹が両者の間で交わされる。
 八雲は隆々とした筋肉の塊を恥ずかしげに見つめ、けれど頼もしく思った。
 そして見覚えのある黒のカーテンを突き破ろうとしている中身に神秘的な憧れすら抱いてしまう。
 拳児は改めて眺める八雲のボディバランスは完璧だとさえ思った。
 この女神の肢体は魔王へ捧げられるためにある、そんな征服欲さえ掻き立てられてしまう程に。

 「播磨さ――あっ! ……はう…ん……ちゅ…」

 愛の睦言でも、と考えたところで八雲は突然拳児に正面から抱きすくめられてしまった。
 そして驚く暇もなく彼の顔が迫る。慌てて瞳を閉じるのと何度目かもわからない接吻はほぼ同時。
 時間を惜しむようなその動きは八雲の女芯を強く燃焼させた。
 やがて拳児が唇を離し罰の悪そうな表情で八雲を見る。

 「妹さん…俺は悪い奴だ。気の利いたことも言えず我慢しきれねえ、身勝手な男だ…偉そうなこと言って……!?」

 ちゅううぅ――……ちゅぱっ…

 言い終わるより先に今度は逆に八雲が唇を寄せた。彼の不器用さを、自らの愛を証明することで受け入れようとしたのである。
 拳児は一瞬だけ気後れするも、すぐさま丸い肩に手を当て頭の高さをあわし、八雲の身体を抱きしめた。

 (言わないで…私は……幸せですから)

 主導権を探り合うような、互いを弄る情熱的なキスが交わされる。
 ゼロとなった距離で八雲は彼の背を抱き、胸を寄せ、お腹の辺りにその分身を感じた。
 襲ってくる舌の動きを予想して避け、目標を外し迷い子のような彼を横から突くように絡めとろうとする。
 上手くできたらそこから柔らかく擦りつけ、彼を愛する幸福感に酔う。
20627-3(おにぎりルート):2009/06/25(木) 22:52:31 ID:ZCmuLOBk

 「んちゅるっ………? ふあっ!」

 積極性を見せ始めた八雲に対抗すべく、拳児はまだ知らぬ領域に手を伸ばす。
 回りこんだ手が天満によって支配されていた背中を撫で回し、下のほうへと伸びていく。
 ぐにぐにと、八雲の美尻を無骨な腕が揉みしだいていた。
 腰を一層力強く引きつけて、両の肉丘は横に伸び胸板に吸い付くように広がる。
 コリっとした乳首の感触が気持ちよく、拳児は持ち上げるようにして八雲との裸相撲に興じた。

 「あぁ……熱い…っ……あ、あ、……あはっ…は、播磨…さん」

 快感への耐久力は八雲が圧倒的に劣る。
 左右に揺れるヒップを可愛がられ、その近くにある敏感な箇所が音を立てて喜びだしたのだ。
 成す術無しの八雲は悶えるしかない。少女は可憐な美貌を蕩かしながら、懸命に何かを伝えようと唇に間にある粘っこい橋を開閉させる。
 しかしそのいじらしい努力に対し拳児はまるで漫画の質問に答えるかのごとき気楽さで返した。

 「ん? どした、妹さん」
 「お…お尻を……そんな、持ち上げ……やぁ…立ってられなく……」

 なるほど、確かにつまさき立ちはきついだろう。
 拳児は胸板に感じる媚果とはまた違った張りと柔らかさのある豊尻からそっと力を抜き、八雲を寝かせようとする。
 だが臀部に感じる八雲の肌以外の感触…下着の端に指先が触れて、その前のやるべきことを知ってしまった。

 「え……? は、播磨さ…」

 声に僅かな怯えが混じる。そのまま下に――そう言われるはずもないのに、拳児は外の防衛線を一気に引き降ろした。

 「や、やあぁぁっ」

 とろぉぉっ――ぴゅくぴゅくっ

 重力に引かれ、女の園から溜まった愛液が滴った。
 濃密な雌の匂いが拳児の鼻腔を刺激する。蜜汁をたっぷり含んだ秘花が露に咲く。

 「み、見ないで…」

 突然の羞恥に悶える八雲の身体がふらつく。足首までずり降ろされた下穿きが、抜ける寸前の片足にひっかかって体勢を崩す。
 危機を察した拳児が手を伸ばすがそれより早く八雲は尻餅をつく格好で倒れこんだ。
 幸いなことに下は布団。ふわり、と猫のような身軽さで着地に成功する。

 「妹さんすまね――…え」

 …………太腿を閉じて持ち上げ、膝から先を開いた、肉感豊かな桃尻ごと割れ目を見せつける、男を誘うようなポージングで。

 「――〜ッ! い、いやっ」

 部屋は暗い。完全には見られていない可能性のほうが高い。
 けれど拳児が自分のドコを見ているのか理解してしまい、八雲はかつてない羞恥に涙を流し拒否の言葉を吐く。
 普通でない反応に、さすがの拳児も声から余裕が消えた。

 「さいてい…」
 「わ、悪い! つい悪ノリしちまった。許してくれ!」
 「……違います…播磨さんじゃ、ないです…」
20727-3(おにぎりルート):2009/06/25(木) 22:53:32 ID:ZCmuLOBk

 拳児の焦りを否定して、涙で光る瞳で引き寄せる。
 意味が通じず困惑する相手に八雲は観念したかのように閉じられた脚から力を抜く。
 開かれた庭園を、うっすらとした橙色の光が照らした。
 そこでは初心な乙女とは思えぬほどに愛蜜を滴らせる淫靡な花が男を迎えていたのである。

 「…私…おかしいんです…キスされて…お尻を触られて…胸を…先が、擦れて……そ、それだけで……」
 「は?」

 とてつもない罪を告白するかのごとく、涙交じりで八雲は詫びた。

 「………はしたない、女で……すみません」

 間近で見る秘唇はヒクヒクと誘い込むように震えていた。
 視線にさえ反応するように蜜壺から更に恥蜜が脈打ち溢れ出る。
 太腿の付け根までも淫糸が伸び、湯気立ちそうな熱気が今なお漂い、奥から更に援軍が集う。
 けれども乙女であることまでは捨てておらず、ビラビラの形も整っていて色も薄く八雲らしい無垢な外見を保っていた。

 (…妹さん、感じ易すぎて気にしてるのか? 他がどうとかわかんねーし…)

 何事かと思えばそんなことか、と拳児は内心ため息をついた。そして至る。
 安心した――ということは八雲に受け入れられたい、と自分は思っているのだ。
 拳児は立ち上がる。今夜、この少女に込める感情が単なる性欲ではないことを祈りながら。
 そして自身の腰を掴み、隠す布着を同じように一気に引き摺り下ろした。
 呆然と固まっていた八雲も思わずその行動に反応し、初めて見る物体に視線は釘付けとなってしまう。

 「……あ…あぁ……なんて…」
 「俺も一緒だ。妹さん」

 八雲とて一通り性の知識はあるし、好意を寄せる異性の心が読める(同性でも自身が真に心を開けば読める)能力のおかげで
 それなりのいろはを望まない形で教え込まれてきた。
 異常に感じやすい乙女となってしまったのも無関係ではないだろう。
 しかしそれでもなお、目にしたそれは圧巻というしかなかった。

 (なんて…逞しいの…真っ黒で……おヘソにまで届きそう…あ…先に光り…ううん、濡れて…?)

 思わず嚥下する。光源を背にした拳児の位置からは、はっきりした色や細部までは分からない。
 しかし八雲は初めてとなる彼の野太い砲身を、それに連なるふぐりと揃って並々ならぬ存在であると認識していた。
 男の誰もがこんなとてつもない凶器を持っていると想像すると眩暈すら覚えてしまう。
 けれど、誰のどんなモノを目にしたとしても、眼前にある彼の逸物以上に己を愛おしく狂わせるものはないと八雲は思った。
20827-3(おにぎりルート):2009/06/25(木) 22:54:47 ID:ZCmuLOBk

 「私だけじゃ…なかったんですね……」
 「ああ。正直、何度かやばかった」

 (何がやばいのか何となくでしかわからなかったが)八雲は安堵の微笑みを浮かべ、涙痕をぬぐう。
 そっと布団の中心に背中をつけ、足を崩し、手を頭の近くに転がして、拳児に全てを任せるようにして寝転んだ。

 「お願い…します……」

 顎を引き細い首だけでお辞儀をする。
 そのまま両膝を少しずつ持ち上げて、我慢できる限界の角度にまで開く。
 正面から男を迎え入れる格好。八雲の考え得る最良の体勢だった。

 「最初は色々大変だろうし…妹さん、嫌だったらいつでも言ってくれよ」
 「ハイ。でも」

 "播磨さんなら…" 八雲の女神のように優しく奥ゆかしい視線がそう告げていた。
 儀式じみた約束を交わし、拳児は真剣な表情で腰を下ろし膝で進んで距離を詰める。
 間近で見る八雲の聖域。粘膜を引くクレバスにはひどく興奮させられるのに、同時に神仏の前にいるような緊張があった。

 「好きだ…妹さん」
 「! 愛して…います……播磨、さん」

 照れくさいよりもずっと嬉しい。カラダより先にココロの繋がりが生まれ結ぶ。

 ちゅぴ……

 乙女の入り口に今にも暴発しそうな黒棒がセットされる。
 初めての接触に、八雲の芯は淫蕩なる期待で満たされた。

 (熱くて…硬い……まるで、あなたそのものみたい…)



20927-3(おにぎりルート):2009/06/25(木) 22:56:23 ID:ZCmuLOBk


 ――――――――



 ここまで。
 次回で書き溜めてる分もなくなるので一度ペースを切ります。
 色々未熟な部分出てきましたが、あと一話だけ。
210名無しさん@ピンキー:2009/06/26(金) 09:55:59 ID:XF72gBwR
わっふるわっふる
211名無しさん@ピンキー:2009/06/26(金) 10:10:30 ID:9w7MQvaj
おい


こんなところでとめんなww
212名無しさん@ピンキー:2009/06/26(金) 10:31:34 ID:mV9EabFY
>>209
乙です
熱くて硬いのところはなぜか吹いてしまいました
そういえば本編でも結構なエロワードだったよなぁ、とw
21327-3(おにぎりルート):2009/06/29(月) 00:43:07 ID:tiUqPkhZ
 >>208続き。エロは短くまとめたほうがいいと思いつつ今までで一番長いです。
 一旦今回で切ります。
21427-3(おにぎりルート):2009/06/29(月) 00:44:24 ID:tiUqPkhZ


 ずっ…ぷ


 「! あ――っ…か…は…………あ……あぁ…!」

 魔王の鬼金棒――その先端が女神の秘唇に埋まる。
 十分に湿り気を帯びたはずの果肉にあるのは極細の切れ目。
 こじ開けようとする異質の侵略者に対し、肉壁は強い拒絶反応で迎え撃とうとした。
 記憶にあるポルノ雑誌では濡らしておくのが大事だとか書いてあった気がするが、拳児はもう信じない。
 オルガも感じ華蜜に濡れたはずの八雲の秘園は、ほんの申し訳程度の空間を残しぴったりと閉じきっていたのだから。
 サーモンピンクの粘膜が花開き、吸い付くような粘り含んだ甘蜜がトロリと会陰に滴るが、男を受け入れるには到底及びそうにない。
 
 「ぁ……ぁ、ああぁ……は、はあっ……!」

 肩までうねらせ全身で息するようにガクガク揺れる八雲の上体。
 美貌をしかめ、深い呼吸に一瞬遅れて波打つ乳房にも珠の汗がじっとり漂う。
 雌鹿を思わせる二本の美脚が安定を求めて拳児の胴部に絡みつき、腹筋がガクガクと波立たせ喘いでいる。
 数多の性行為に流されていた頃とは明らかに一線を画すその反応に、拳児はそれ以上進むことができなかった。
 熱棒は未だ乙女の聖門にすら届いていない。
 限界が近いというのに番人の相手に終始している場合ではないのだが。
 末端にのみ感じる容赦ない圧迫感に、時間がみるみる奪われていくのを直感する。

 「…はっ……っ、ぅ……っ!」
 
 これ以上の深い繋がりに八雲の体が裂けてしまいそうな恐怖を覚え、拳児は動きが止まってしまった。
 愛撫で意識を逸らそうとするも、身をかがめるだけで動きが伝達し八雲は苦悶に踊ってしまう。
 そしてそれがまた連鎖し新たな責め苦に繋がってしまうのだ。
 
 「…っ…ぅ、……は……ぁ…? は、はりま、さん…?」
 
 付け焼刃の知識と未経験故に訪れた限界。
 入った部分にだけ感じる膣肉の蠢き、ぽってり赤く充血した媚粘膜、感じる柔らかさに期待を煽られずにはいられない。
 極めて厳重な警戒態勢を敷いていながら、その内側は経験のない拳児にさえわかるほど、美味しそうな牝蜜を湧かせ男を招いているのだ。

 (もしこのまま思い切りできたら――だめだ、ふざけんな…)

 獣じみた欲が八雲への保護欲と内面でぶつかり合い均衡を保つ。
 結果、進むも退くも封じられ僅かな繋がりを残したまま動けなくなる拳児。
 
 「あ…あの、大丈夫…です。少し、驚いただけで……ぃっ!」
 「け、けどよ」
 白紙の原稿と締め切りを前にした青ざめるがごとき彼の異変。
 それに気付いたのは必然というかやはりというか、彼の有能なアシスタントであった。
 思うように動けない彼に責任を感じ、八雲は精一杯取り繕って無事を伝えようと上体を起こす。
 しかしその僅かな前進にも潤んでいるはずの発情部は強い抵抗を示した。眦には透明な粒が集まってくる。 
 「ほ、ほら…とにかく今はだな」
 「だい…じょう…ぶ…っ……平気、ですから…」

21527-3(おにぎりルート):2009/06/29(月) 00:45:31 ID:tiUqPkhZ
 
 半身を支える腕がブルブルと痙攣するが、八雲はぎゅっと歯のエナメルをかみ締めてそれを抑えた。
 明らかなやせ我慢であっても耐えなくてはいけない理由があったから。
 
 (嫌…この人に…嫌われたく、ない……つまんない女の子だって…気持ちよくなれない、女の子だって…それだけは嫌…)
 
 突き刺さる膨れた肉剣は何かを堪えるように強い力が込めれらヒクついていた。
 八雲にはそれがなんとなく彼の自分を気遣っての我慢だとわかってしまう。
 自分は先程激しく愛してもらったというのに、彼は望むように愛せないとはなんという不公平。

 (でもどうすれば…お願い、私の体…)

 どれだけの苦虐を与えられても、彼が感じてくれるならばそれでいい。
 どれだけ快楽を享受しようとも彼が苦しいのでは意味がない。
 ままならぬ、未完熟な下半身を堪え、八雲は決断を下した。 
 「………貫いて、下さい…思い切り…」

 少女の哀願は拳児を驚かせた。
 そんなことをすれば――さっと顔が曇りそうになるが、八雲の瞳には抜き差しならぬ覚悟が宿っていた。
 あれこれと話し合う時間も手間も認めない、すぐ後ろに危険が迫っていて逃げ道を探す余裕がないような。
 一度膣口から抜いて舌や指で拡張、などと考えていたが…拳児は開いた左右の太腿を掴み、改めて体を固定する。

 「いくぜ……!」
 「…はい」


 みぢみぢみぢっぶちぃっ……ずぷうぅぅぅっ―!


 「!!っ……!…ぁっ……!…ぁ」
 「ぐうっ!!」

 既に通っていた淫蜜を潤滑油にして八雲の反応を待たず串刺しにする。
 八雲と自分の体を引き寄せるように、腰全体をぶつける勢いで拳児は容赦なく剛直を突き入れた。
 大自然に守られながら悠久の時を経て創られた神聖な岩屋。それを削岩機で採掘するような暴力性。 
 正面で構えていた薄い粘膜状のヒダ。乙女の最後の防衛線を醜悪な肉杭は一瞬で貫き、体重の乗った勢いを失わず更に奥へ。

 「ぇ……ぇ、うぅっ……!」

 過激な電流が子宮を直撃しそのまま脳天まで駆け上がってくる。
 メリメリと粘膜をこじ開けられて蜜壁を自分のほうへなぞられる毎により鮮烈に、より狂おしく。
 真っ直ぐに子宮さえも貫こうとする重い刺激に腹膣が軋み、無理矢理に何かを詰められていくような感覚。
 八雲は言葉や呼吸すら止め、内部から形を変えられるような苦痛を、初物を踏み潰すように散らした蹂躙さえも必死で耐えた。
 体を中央から真っ二つにするような激痛。けれどもそれは自分だけが彼に与えられる特権なのだと信じて。

21627-3(おにぎりルート):2009/06/29(月) 00:47:25 ID:tiUqPkhZ

 「あ、はっ…あ……あぁ…」

 感じる苦痛とは裏腹に、八雲の心は拳児を受け入れることができた幸せで満ち足りていた。
 まるで十七年近い人生で築き上げてきたもの全てを彼に受け取ってもらえたような。
 そんな主の感情と流れるる血の代償に応えるべくか、内部の性感は思い出したかのように花開く。
 至福の悦楽で以って初めての男を咥えこもうと蠢動しようとしていた。
 「っぐ! くおおっ!」
 短い音にしかならぬ拳児の声。
 彼は僅かな膣口に自身を埋め込み、狭さに勢いを殺されることのないよう、
 ごりごりと穴を掘るような感触で奥へ奥へ止まらぬままに肉蛇を突き入れていた。
 最奥に届いた瞬間は、一突きに込めた力を使い切った瞬間でもあった。一際大きく脈打ち止まる、邪な塊。

 「! や、べっ――」
 それはほんの一瞬の脱力を狙ったかのような動きだった。
 八雲の蜜洞が極太根の一方的な支配から逃れようと一斉に締め付ける。
 蜜肉が微妙な凹凸が急所をピタリと捉えて拳児は根元から圧搾されてしまう。
 甘い喜悦が背骨を駆け上がり、拳児の下がっていたリミットをたやすく超えてしまう。

 (幸せ……私は今とても満たされ……え…ぁっ!? ふ、膨ら)

 キノコの鋭角な傘が広がり、結果――

 びゅるるるるっ びゅるっ びゅうっ

 「あ……ああっ…な、なにかが…」

 どぷぷぷぷっ どぴゅるっ ぶびゅびゅっ

 「…暴れて……で、出…っ……」

 びゅぐんっ どぷっ どぷっ どぷ

 「あ…ぁ…と、止まらない…まだ、うごく…」

 二度のない、決定的な契りと喪失。
 守らなくてはいけない純潔を愛する男に捧げた、幸せな感動。
 だが乙女の憧れであるはずのひとときに割り入ってきてのは心さえ犯すような雄汁の注入。

 (これって。これって。私、播磨さんに……?)

 「はあっ はあっ…妹…さん、く…まだ出る」

 (ナカ……だよね? じゃあ私…)

 とくん。意味するところに八雲の心が淫蕩に浸かる。乙女の喪失。奥深くへの、処女には激しすぎた射精。
 ぴゅくっと奥が振るえ、軽い飛翔感。気付けば、あれほど感じていたはずの痛みは嘘のように引いている。
 痛くないわけではないが、直に出されたという興奮と彼を想う愛おしさがそれを塗りつぶすのだ。

 (でも。でも。私は今……すごく、嬉しい……)

 ある種最高、ある種最悪の方向へと……八雲は流されていく。
 人生で一度きりしかない至福に陶酔していた、無防備な精神が意図せず付け込まれた形である。
 脳裏に焼き付けられてしまった。拳児を受け入れてから膣内射精されるまでが八雲の中で幸せの一単位に納まってしまったのだ。
 もし今の衝撃を、火花散るあの忘我の頂点へ高めてもらってから感じたとしたら――処女を失ったばかりの女神は淫らにもそう考えてしまう。
21727-3(おにぎりルート):2009/06/29(月) 00:48:54 ID:tiUqPkhZ

 「播磨さん…あの」
 「く…面目、ねえ。俺は」
 「いえ……あの………それなら、もう一度……お願い…できますか…?」
 「え」

 自然に出た言葉であった。
 その証拠か、八雲は驚く拳児に伝えてからその意味を理解し、かぁっと頬を熱くする。
 愛撫で焦らされ、激しく抉られて、雄の種子を受け開花した女の部分。
 それを八雲はまだ身体になじませることができていなかった。
 少女と女のブレが引き出した言葉。

 「…あの、私、ダされて…おかげで痛みはあまり…ですから……」
 「けどよ」
 「播磨さんも…その、まだ……ナカで」
 「…う」

 くちゅり。それは言葉に反応し、まだ抜け切らぬ、そして保ったままの男根が八雲の中を動いた音。
 それ以上の押し問答は二人には必要なかった。
 自分の中で膨らむ彼の一部。八雲は昂ぶる興奮に早くもうっとりとした表情をして――

 「もっと、播磨さんが、欲しい…です…そして……今度は、一緒に」

 普段の八雲を知っているだけに、拳児にはまるで別人なその顔が更に淫猥なものに見えてしかたなかった。


  ◇ ◇ ◇

 ぐちゅっ ぐちゅっ ぐちゅっ

 「あっ……んあっ………播磨、さん……また、大きく……あっ! ふあっ!」

 ぬちゃぬちゃと粘りのある音が混じり、木霊する。
 八雲の流していた蜜よりも白く濁った液体が彼女のクチから突き入れに合わせて止まることなく吐き出されていた。
 男性器には釣り糸の返しのような部分でもあるのだろうか――八雲は繊細な神経を感電させられながら、おとがいを突き出しぼんやり思う。

 「…痛く、ねえか?」
 「はぁっ…はあっ……ハイ…」
 暴発に近い失態を、拳児は与えられた再度のチャンスで取り返す気でいた。
 元々天満を交えていた頃からの興奮を考えればよく耐えたほうではあるのだが、本人としては納得できない。

21827-3(おにぎりルート):2009/06/29(月) 00:49:26 ID:tiUqPkhZ

 繋がったままの状態で拳児は八雲を抱き上げ対面座位をつくっていた。
 柔らかく強く張った桃尻を掴み、持ち上げたり引き寄せたりを繰り返す。律動を連続して八雲の子宮目指し送ってやる。
 女神の粘膜を一枚一枚押し広げて最奥目指しねじ込んでいく。
 
 「ふぁっ…おくに……ゆ、ゆっくり……少し怖い、です」

 一体どこまで入っていくのか、八雲のまだ初心な部分が待ったをかける。
 ビリビリした激感にどう対応していいか分からず、ともすればそれをもっと確かめてみたいと思ってしまう。
 深く激しい挿入に内に眠る女の官能を掘り起こされようとしていた八雲。
 その心境を知ってか知らずか、ならばと拳児は順方向への進出を止めて転進することにした。

 「そ、そんな……抜かれると…めくれ、ちゃう……あぁ」
 
 奥に沈んでいた拳児が引き抜かれ、差し込みの方向に伸ばされていた粘膜が逆方向に捲り返される。
 彼とともに柔壁や子宮といった体の一部さえもまとめて引きずり出されそうな虚脱感。
 体積が失われ空間が奇妙の違和感として八雲の胎内に残る。
 女としての孔が自分にできてしまったと実感させた。

 八雲の蜂腰を抱き上げる最中、拳児は少し体をずらし、収まっている一物に力を込めて感じる部分を探してやった。

 「ひぅっ…! あ、ぁ……いぃ…………!」

 秘洞を探索する亀頭がザラついたある部分に触れ、一際八雲が感じのいい声を漏らす。四肢を引き攣らせ喘ぎ乱れる。
 Gスポットというヤツを直接、或いはわずかにせよ刺激できたのだろう。拳児はしっかりと息子にその場所を記憶させることにした。
 
 「ふあぁぁ……あっ…そこ…また、胸が……」
 持ち上げを止め、代わりに勃起した左右の乳首を太い指で摩擦する。稲妻のような快美感が八雲の胸の先に集う。
 摘まれてひねられて訪れる激感は乳房から心臓、肺腑、繋がる女の急所へ伝播し膣内で再び彼と合流する。
 一本の線で繋がったような刺激に悶え、背筋を弓なりにする女神の正面、そこに連なる果肉を待っていたのは…

 「あふっ…そんな……舌で、ぐりぐりっ…て」
 魔王の口窟が乳頭に食らいつく。じゅるり、じゅちゅりと音を立てて激しく吸われる。
 それはまるではるか昔から繰り返された行為のように正確で容赦がなかった。
 交互にかみ締められて、むず痒い疼きに更なる乳吸愛撫を求めてしまう。

 「ふぅ、ふぅ、…っ……あ……ああぁっ!」

 その間にも拳児は腰だけでも上下前後に動き、最初の挿入により開きのできた蜜壺を招かれるように打ちつけていた。
 ぐちゅん――びゅるっ。ぐっちゅん――びゅるっ。一突きごとに雄の白濁と雌の桃汁の混合液が隙間から溢れ出てくる。

 「噴水みてえ…繋がってるトコがグショグショだ」
 「あ、あぁ…すい…ません…」

 互いの茂みは淫らな蜜をたっぷりと吸って、強く接触するたびに小さな泉すら完成しかける。
 丸く膨らんだ八雲の肉芽はかすかに毛が触れるだけで甘い痺れを生んだ。
 既に挿入されたままの快楽に蕩け始めている八雲であるが、拳児にとってはまだ足らない。
 より腕の中の少女をキモチよく……天満と二人で強く責めた時のような淫悦の表情をさせたかった。
 そこで少しだけ幼い真似事をしてみることにする。
21927-3(おにぎりルート):2009/06/29(月) 00:50:02 ID:tiUqPkhZ

 「…さっきの天満ちゃんとの」
 「え…あ、あれは…姉さんが意地悪を…んぁっ…」

 腰を抱き、少しだけ出し入れの速度を上げる。
 拳児の触れている八雲の部分から鳥肌の立つ感触。
 それは彼女のくぐもった喘ぎとともにぞわぞわと広がっていく。

 「なあ…もしかしていつも天満ちゃんと?」
 「なっ!? ち、違っ…ふあっ…! ……あ、あれは……、…やあぁぁっ」

 姉に身体を許した記憶が甦り、覚えていた感覚を信号として肌が脳に送る。
 八雲の手が拳児の背中を這って張れた筋肉を強く抱きしめてきた。
 確かな反応を確認すると、拳児は内緒でストロークの速度をまた上げた。

 「けど、あん時もこんな風に声あげてたっけな」
 「あんっ…ああっ! …私、違……そん、あっ……! う…ぁ……ちが、ちが……ぅ」

 先程天満がしたような、はやしたてるような声での言葉責め。
 結果、八雲の意識は現在の激しい膣責めをその時の記憶とリンクさせてしまう。
 姉に抱かれている――ありえない想像に八雲はイヤイヤと首を振るが、非現実的な夢と快感の相性は悪くなかった。

 「……わたし、感じてなんて……でも、今は感じて…ああっ…んぁぁ……は、早く……だんだん、はやく…」

 感じる熱いヌメリは今までの財産ではなく、新たに八雲が蕩かしたものであるらしかった。
 温かな乳房をてのひらで持ち上げて、埋め込んではひっぱり離す。グニグニ揉みまくられて同時に膣奥を抉られて、
 隠そうとも隠せない八雲の淫らな欲情をこれでもかと露にぐいぐい引っ張り出してくる。
 下部は出し入れの速度を緩め、代わりに強く持ち上げては深く落とす動きへと変化していた。

 ちゅぷっ ぬぽっ ずぽっ

 「あ、ああぁっ! こんど、は…おくに……」

 ずぷぷっ じゅぷぷっ ずくんっ

 「はあっ…つよく……あぁっ………イイ…です」

 ずるぅっ ぐぽぽっ ずちゅる ぐぽぉっ

 「んあっ…っ…いぃ…でたり…はいったり…ぁっ…いぃ…また、おくに…」

 八雲は拳児の腰に脚を絡め、より感じようと白尻を闇雲に振り動かしていた。
 高く掲げられては深く刺される。カタチを覚えこますように何度も何度も咥えさせられる。
 淫らにしどけなく開かれた唇で、八雲は誰に命令されるわけでもないのに結合部での突き入れを実況し続けている。
 上下の口によるハーモニーは拳児をより強く興奮させ、更に勢いを加速させた。

 「んっ! あっ…あ…あぁっ! おくに、おく…に…ふれ…て…」
 「くう…妹さんのナカ、まじでやばい…っ」

22027-3(おにぎりルート):2009/06/29(月) 00:50:40 ID:tiUqPkhZ

 まだ乙女の硬さを残している膣孔は、浅い部分では拳児のペニスを拒むのではなく包むように、撫でさするように柔らかく締める。
 だが誘われるままに奥へと突きこめば内肉は怒張をぎっちりと咥え込んで離そうとしないのだ。
 それらを更に押し貫いた先、天井近くではツブツブの突起が待ち構えている。
 正に快楽の多重奏。狩人のような狡猾さで迫ってくる八雲の数の子天井。

 「やぁ……んん……どう…て…、はりま、さん…ぬいちゃ…やぁ……」

 容赦のない蠢動に対し、拳児は力でもって引き抜くが全ては抜け切らず、獣の本能が勝手に八雲を求めてしまう。
 再度、膣内を押し広げながら生殖器が埋没していく。
 キメの細かさと温かさが何者にも勝る安堵を、削られそうな圧迫と摩擦が快楽の痺れを、それぞれが脳へと逆流し拳児にもたらす。
 思わず放出した鈴口からの先走り。それを敏感に察すれば、全体がこそって吸い付くように締め上げてくる。

 「ちゅう…んちゅ…んむぅ…んんんっ……!」

 恍惚の表情で激しくキスをねだってくる八雲の乱れに拳児は深い陶酔に襲われる。
 淫熱に潤んだ少女の瞳は焦点を失って虚ろにさ迷い、ただ目の前の男を映していた。
 上気した頬。汗を吸った髪がそこから首筋、肩へと沿いひっついていて表現される早熟な色気。
 薄暗い部屋の中だからこそ余計に、理性の壁をぼろぼろに崩して倒錯した昂奮へと傾く八雲の姿へ想像力を掻き立てられた。

 「と、とけちゃ…わたし……ああぁっ」

 滑りと抵抗、両方の刺激を際限なく生産し痙攣するように収縮。そしてねだるように絡み付いてくる八雲の肉壺。
 軽く揺らせば強くはじけ、圧すればふにゃりと柔らかくつぶれる。度重なる愛撫にその都度いやらしく弾む八雲の肉鞠。
 性行為に酔い、けれど一定のところで崩れず残る端整な美貌。羞恥を残し、快楽と理性の間を悩ましげに往復し変化するその表情。
 どれもが拳児にとって魅力的すぎて、永遠に抱き続けたい麻薬のような中毒性を醸し出していた。

 「くふぅ…ふぁ、ふあぁ………いぃ…ちゅるっ……きもひ、いい……わた、し…わらひ、もう……!」

 きゅううぅ… ぐじゅるっ ぐじゅるっ ゴッ ゴッ

 「これで、てっぺん届いた…っ!俺もいくぜ。妹さんも、イってくれ。たっぷり、俺の……」
 「くら、さい……はりまさんのぜんぶ……また、イッパイに……!」
 
 今の二人には四肢に感じる筋肉疲労より繰り返される淫らな性交を絶やさぬほうが大事であった。
 ペニスの先端に感じる女神の最奥…正確にはその入り口。酸性が下がり快楽に開いた子宮口。
 拳児は猛烈に込みあがる射精の衝動にあわせ、起伏を擦りつけ、えぐり、かきまわす。
 一方の八雲は足を地から離し重力を頼りに全身を深く落とし、彼に腰を浮かして最奥を一突きにして口づけてもらう。
 最もキケンで、けれど二人が愛し合わなければ届かないトコロ。
 八雲が更なる精をねだるように食い締めると、とたんに拳児の象徴が先程のように大きく脈動した。

 「くおぉっ!」

 ドク、ドク、どくん!

22127-3(おにぎりルート):2009/06/29(月) 00:51:19 ID:tiUqPkhZ

 精巣から吐き出される最初の射精をも超える雄の大群。
 拳児の脳裏を焼くのは過去に感じたことのない快楽と長い射精の予感。
 湧き上がる衝動と共に、まだ16の大事な将来を控えた八雲の子袋目掛け、魔王の子種汁が容赦なく子宮に浴びせられ、汚し尽くす。

 「い、イク…イクぅぅっ…! はあ、あ…あぁぁ……!」

 びゅる、びゅる、びゅるるっ! 

 噴き上がる愛蜜潮。精液を赤子の寝室にたっぷりと流し込まれながら八雲は同時に達することができた事実に酔う。
 これがイク、ということなのだろう。深淵への長い長い脈動に女としてのたまらぬ悦びを感じこそすれ、負の感情など一切生まれない。
 それどころか最初に射精されたときと同じくはずむ八雲の純真な心。
 二度目の膣内射精に、乙女を捧げることができた歓喜が――もう二度とないはずの幸せの絶頂が脳裏に蘇ってくる。
 両者はこの瞬間に、八雲の精神世界で完全に繋がってしまった。

 「おくに、オクに…ナカ……また、デて……ます……」

 決壊した女芯からの勢いが少女の貪っている絶頂の悦を物語る。
 何も考えることができず、頭の中は真っ白で、身体の中心だけがただただ熱い。
 忘我の際、八雲の頭の中で何か大事なものが溶けていく。
 ただでさえ危うくなっていた理性。そこへ止めとばかりに熱くて濃いタンパク汁が注入されたのだ。
 少し前に初めて男を知った乙女の思考の壁など問題にならない勢いと量。
 これでもかという圧流に牝の本能に直結する悦びが目覚めさせられる。
 生まれ変わるような愉悦が女としてのスイッチを入れた。
 レバーが折れて、もう切り替えはできない。

 「はあ、はあ、はあ……くっ……っ!」
 「ふあぁ……あ…ぁ…ま、また…イ……イク…」

 どくん――どっくん。拳児の分単位で続く長い射精。強く抱きしめ合って二人は境界さえなくなってしまうほどに蕩けあう。
 尚も暴れて噴出す白マグマ。コクコクと、発射口が直に押しつけられている子宮口で八雲は特濃ミルクを浅ましくも懸命に啜り飲んでいく。
 その間にも短い絶頂で高みへと何度も押し上げられて、種付けの記憶が快楽と共に刻まれていた。
 逞しい牡に中出しされて子宮の中は精液で溢れ返り、満たされたことにたまらぬ幸福感を感じてしまう。

 (あの、清楚な妹さんが…こんなに、ホントのオンナみてーに……)

 八雲の眉根に刻まれた恍惚の皺。かみ締める歯並びの白さ。精神の糸が寸断され白い光に満たされて水飴のように蕩けた表情。
 拳児は心のキャンパスに自分だけが知る少女の姿を深く深く刻み残した。


    ◇ ◇ ◇

 「播磨さん……」
 「妹さん」
 塚本八雲という真白の原稿に、マグロペンで情熱をぶつけた拳児。やがて彼の筆液――いやホワイトか。
 それをたっぷりと染み込ませた後、二人は心地よい情動の余韻に浸かり、安心と陶酔を残して繋がったまま身を寝かしていた。

 「えっとだな…どう、だった? 今度は…自信作のつもりなんだが」
 「…青年誌に移行ですか?」

 くすりと冗談で返す程度には正気を戻した八雲。
 布団というより拳児の上に寝ている形のまま、胸板の上から顔を上げ、一度唇を強く求める。
 モデルになるのはやぶさかではないが、例え絵でも拳児以外に裸を見られるのは断りたい。

22227-3(おにぎりルート):2009/06/29(月) 00:52:19 ID:tiUqPkhZ

 豊かな乳房がつぶれ温かく、拳児は言葉にできない安らぎを感じていた。
 完全には萎え切らず大きさもほどほどに保ったペニスはまだ彼女に温かく包まれたまま。
 丁度栓をしているような形だが隙間から時折こぽりと混ざった白濁が陰毛を塗らし、一つの懸念を告げてくる。

 「あ、あのよ…避妊とか全然…だからもし」
 「…今更」
 ぼそっとした一言を皮切りに、拳児の額から塩水の粒が噴き出してきた。口にはしないが内心は良心の呵責に苦しんでいるのだろう。
 それは八雲も同じである。学生という身分。生命を育む責任。漫画の編集者としての将来の夢。
 熱に浮かれた部分が冷えて、現実という重みの重要性がのしかかってくる。
 改めて考えると薄氷の上を歩く行為でしかない。
 
 「悪ぃ…」
 「冗談です。大丈夫、だと思います。今日は……たぶん」
 
 際どいタイミングではあるが…指折り数える。
 排卵期であっても一度や二度の関係でできるほうが珍しい…らしい。
 精子は血に弱く、両者共に整った時期が求められ相性もある(悪いと思いたくはないが)
 
 「その…男女どちらもイロイロと条件が…だから一度や二度では、と…本で……読んだことが」
 
 しかし10代の運動が活発な精子をわんさかと注がれてしまったわけで。完全に否定することはできなかった。
 
 「もしできてたら、絶対隠さず教えてくれ。責任…とるからよ」
 「は…はい」 
 だからその一言が嬉しかった。しかし…僅かに、胸が痛む。彼を縛りつけてしまうことにならないだろうか。
 子供は二人の責任である。そして親には我が子を育て幸せにする義務がある。

 (…欲しくないわけじゃないけど……今は、まだ…)

 幸せとは、少なくとも親同士が最愛の相手であることが必要だと八雲は考えていた。自身がそうであったから。
 強引な契りの末に生まれた子が、もし父親が別の女性を見ていると知ったら。
 母の追い詰めるような愛の果てに生まれたのが己だと知ったら。
 
 (私達には早い…よね)
 
 宿したから愛するよりも、愛したから宿った。そちらのほうがずっといい。
 できてしまったから責任を取る、などという後付の理由は嫌だった。

 《何よ今更。茶番ね》

 …響く少女の声に反論できない。しかし、そもそもなんでこんなことに……?
 
 「―あっ! 姉さん」 
 大事なことを思い出しはっとなり、八雲は繋がりの部分を基軸として馬乗りの体勢で上半身を持ち上げた。
 「っ……あ、ぁっ…!」
 
22327-3(おにぎりルート):2009/06/29(月) 00:54:36 ID:tiUqPkhZ
 
 短い間に二度の八雲の悲鳴。
 一つはつい余韻に浸りきってしまい、姉の存在を遠ざけてしまっていた後悔。
 もう一つは――姉のことに触れたとたんに自分の中にいる彼の存在が物理的に大きくなったコト。
 ざらあっと大事なところを突かれて軽く達してしまった。
 「播磨、さん…」
 悲しげな声で八雲が呟く。別に拳児を責めているわけではない。むしろどうしようもなく欲深くてワガママな女と八雲は矛先を自分に向けた。

 (そうだよ……私は恋人のつもり? ちょっと播磨さんとその…えっちな…それで姉さんのこと…)

 拳児が天満を意識して興奮――つまり自分の後ろに姉の存在を見ているのかと思い、最初八雲は悲しい気持ちになった。
 彼の言葉を信じていないわけではない。天満への気持ちも失せてなどいないはずだ。
 実際彼から"好き"という言葉は数えるほどしか聞けていない。
 元々この状況自体が不自然で――
 
 「違う。妹さん…その」
 心を読んだように拳児が否定する。だが後ろのほうは彼らしくなくはっきりしない。
 それもそのはず。今の二人の体位を簡単に説明すれば騎乗位だ。
 拳児は八雲が自ら男の上に跨っているような姿に興奮してしまったのである。
 
 「え…ど、どんどん……」
 膣内がまた押し広げられていき彼の形が伝わってくる。激しく出し入れされていた頃のサイズにみるみるちに近づいていく。
 その動きは八雲に植物が土から芽吹き花を咲かすまでを超早送りで収めたビデオの映像をイメージさせた。
 
 (あ……こ、この体勢…ん……そう、だったんだ)
 
 拳児の勃起が八雲に誤解であることを理解させた。
 少なくとも彼はこの閨事においてはちゃんと自分を愛してくれている。
 疑ってしまったことを八雲は彼に謝りたかった。男として示しに応えるには、やはり女としてだろう。
 そしてこの場面で出来ることといえば一つ。
 
 「……じっとしているだけでも、感じるんですね…」
 静かな行為に浮いたような口調。
 重力に引かれて先程の行為の遡りが下へ引かれているのがわかる。
 力を取り戻した彼のペニスを伝って二人の繋がった茂みを白く演出する。かすかに届く、八雲の知ったばかりの雄のニオイ。
 じん、と体の奥から温められて拳児のモノが自分の体の一部になったような感触。ずっとこうしていたかった。
 けれども男をそれだけで満足させられるだけの力は今の自分にはない。ならば…

 (…姉さんごめんね。もう少しだけ時間頂戴…)

 「今度は…私から……ん、んん…っ」
 ぬちゅり、と八雲の中央が粘つく白濁を滴らせ、拳児の陽根から糸を引いて離れる。
 自分で腰を浮かした八雲はすっぽりと隙間ができた感覚に寂しさを覚えながらも、拳児を半分ほど空気に晒した。
 そして思い切って体を支えていた四肢から力を抜き、自然落下に身を委ねる。

 ずぐ――ぐちゅんっ

 「あっ…あぅ……く…ぁ」
 「くっ―妹、さん…」
 
 一気に奥まで。拳児から気持ちよさそうな声が漏れてきて八雲は悦び微笑んだ。
 カラダを愛されココロが満たされて、多少の痛みなど何でもなさそうに思えてしまう。
 再度腰から上を空に浮かし、秘粘膜を逆方向に抉られる快楽を味わいつつ、抜けそうになったところで自分から腰を下ろす。

22427-3(おにぎりルート):2009/06/29(月) 00:55:32 ID:tiUqPkhZ

 ずぷぷぷぷ――

 「はあぁぁっ…はりまさん……ドウ、ですか?」
 「お、おう。こいつは…いい。…今度は……そのまま、動いてくれ」
 「……ハイ♪」

 勝手な提案だったがそれに乗り気な拳児へ嬉しそうに八雲は返事をし、迷わず腰をくねらせて灼棒を更に奥に押し込もうとした。
 少しだけ上に動き、加速をかけて腰を真下に落とせば、挿入はより深度を増していく。
 自ら起こした鋭い突き上げにも痛みはどこにも感じない。空気にしか触れていない乳果も勢いにぷるぷる揺れる。

 「はあっ……あぅ…!」
 奥までを強く埋められる。その一突きで意識がごっそりと削られて感じ入った声を洩らしてしまう。
 腹の下で彼がスライドする度に火花が散って、子宮を持ち上げようとすると強く煮え立ち、はしたなく粘度の高い熱い淫汁を吐きかけてしまう。
 自分で好きなように快楽を貪れてしまう体勢に酔ってしまいそうになるが、今は拳児により感じて欲しくて再び腰をゆらゆら動かす。

 グチャッ グチュッ パチュッ

 包まれる度、上に跨っている八雲の未熟な秘肉がよりこじ開けられていくのが拳児に伝わる。ひどくきつくてたまらない。
 八雲が舞う度に蜜液が零れて下腹部が更に白く汚れる。女神が自ら剛直を受け入れ奥に当てているのだ。その奉仕に興奮しないわけがない。
 自分からしたいという八雲の意思は尊重してやりたいが、感じる快美に思わず腰が浮いてしまう。

 「ふうっ…! んあぁ……!」
 
 こちらのヘソのあたりに少し八雲の体重を感じた。
 体位が崩れないためだろう。彼女が腕を突き出し添えている。乳房が腕に挟まれぷるんとたわむ。
 たっぷりと味わったそこは大量の汗…そして開かれた美唇からの甘露でぬらぬらとした光沢があった。
 
 「あふっ…ん、んん……あっ」
 
 八雲が上下に動くたびに軽快な音が部屋に響く。合わせるように白い果実もゴムのように弾む。
 形の整ったそれを強く握った時の柔らかさを思い出し拳児はより一層股間に血流を感じ強く膨らませた。
 それを察したのか膣は引き込むように痙攣し収縮。甘美な快楽を次々と生産していく。

 「すげ…く、こりゃ堪えんのも一苦労か」
 「あんっ…! や、はりま…さん……ああっ…!」

 両手を伸ばし八雲の両膝を抱え込む。彼女が降りてくるのに合わせこちらも下半身を突き出し、剛根が最奥を嬲る。
 身震いするほどの情痴の陶酔が脊髄に突き刺さった。突き上げ、引き抜く度に前以上のものが脳を焼いてくる。
 動きに合わせヴァギナから滴る愛液は薄れて透明に近かった。
 再び白濁で染め上げてやりたくなり熱いものが集う。

 「ん…んんっ……! あ…あ、ぁ……! だ、だめぇ……!」

 深く精を浴びせた子宮口をノックしたときだろうか。突然八雲の上半身が痙攣に翻弄される。
 足の指が開いたり丸まったり、背中が折れそうなほどに弓なりになり、引き攣った美貌がふるふると震えて反り返る喉から恍惚の声が届く。
 背に爪を深く立てられる。疼き締め付けてくる膣壁。吹き出る一際強い愛液。動いてるうちに達してしまったのだろう。
 けれども拳児はこれでイーブンだと考えむしろ気をよくし、休憩を入れず次に挑むこととした。

 ぶじゅっ ぱじゅっ じゅぷんっ

 「ふあぁっ…ふあ! ご、ごめんなさ…あ、あなたからツいてもらって………はあっ!あっ!あっ!」

 謝らなくても…だが否定するのも面倒に思い、この際だと八雲を二つの意味で仕置きするべく拳児は更に激しく腰を叩きつけた。
 そんな彼の行為を八雲はくねくねと…拳児と息の合った腰振り披露し、妖艶に応えてくる。
 情事においてもこちらに波長を合わせてくれる彼女の性分は変わらないのかと、拳児はその心遣いを嬉しく思う。
 ぐちぐちと淫らな音を立てる行為も二人には全く不快ではなかった。
22527-3(おにぎりルート):2009/06/29(月) 00:58:26 ID:tiUqPkhZ

    ◇ ◇ ◇

 「んんっ…! あふぅ……!」
 じゅぱじゅぱ。肉の濡れた音にまじって八雲の甘い声が聞こえる。既に何度も達してしまっていた彼女の熱い吐息と匂いで部屋は満たされていた。
 拳児はぬっとりと糸引く陰茎にまとわりつく、桃色のぬらぬらした花弁をなぞり、軽く引っ張る。
 めくれあがってヒクつく肉ビラ。露出した鮮紅色の花芯をゆっくりと擦る。
 「ぷっくり膨れてるな…」
 「ああっ…ふぁっ、んぁっ! だ、だめです……」

 家の外にも届くかもしれない大きな声で悶えるのは塚本八雲。
 学校でも屈指の美少女で、儚げな雰囲気と純真なその性格に多くの男子が心奪われていた。
 入学当初の怯えるようなしぐさはなくなり二年間で大事なことを学び、いつしかクラスの中心ともなっていた少女。

 「あっあっ! やぁ…そこ、は……だ、だめ…あぁ……!」
 「もうちょっと我慢してくれ…くおっ」

 その塚本八雲が今…男の股座の虜になっている。淫猥な音に顔を染め欲情を高められている。
 下から激しい突き込みを受けてかき回されて、ダラダラと雌汁を零し行為に没頭して貪っている。
 腰が浮き沈みして髪が舞い散り、汗を珠のように飛び散らかして。尻たぶを広げられ、後ろの入り口まで指でノックされて。
 自然と教え込まれた締めつけで男根に吸着し、夥しい愛液を溢れさせ、桃色に霞む天井を目掛けひたすらに暴走している。

 ぢゅぶっ ぢゅぐっ ずりゅっ ずぢゅっ!

 「あぁ…いい……熱くて……とどく…こすれて、キモチ…いい……!」

 グチュ! ギュチュ! グチュンッ!

 肉厚のいい尻が浮動されて、牡精をねだられる姿。
 絡みつき、拳児の欲望を全て満たそうと収縮する八雲の膣。白さの増した愛液が接合部から零れる。
 その様子に拳児は前立腺を駆け下りて急激に迫ってきた絶頂を、言葉より先に感じやすい部分を突くことで、それとなく知らせてやった。

 「……あ…こ、これって……?」
 「…また出すぜ、このまま…!」
 「! …嬉しい……」

 膣内射精を宣言されて、掘り起こされる幸福の記憶に全身がわななく。
 腫れていた花芯が更にぷっくりと膨らんで、蜜穴は男をぐいぐい強く締め付け急かす。
 普段の控えめでおとなしい性分とは裏腹に性に関してはひどく大胆で積極的に受け入れてしまう。
 姉が。身分が。赤ちゃんが。いけないことだとわかっていても、体が喜び心がそれを待ち望むようになってしまっていた。

 「おねが…い、です……どうかナカに…イッパイに………!」
 「ああ、いくぜ…くうぅっ!」

 ぐちゅ、ぬちゅ、じゅぷぅぅっ ぐぷんっ!

 繋がりの部分もそうだが、彼女に触れている指先や腰に感じる柔らかな肌さえも毛穴立つ快感になっていた。
22627-3(おにぎりルート):2009/06/29(月) 00:59:27 ID:tiUqPkhZ

 拳児は最後のおねだりに応え一際強く引き、引き寄せるように深く突く。激しい痙攣。厳つい亀頭が膨れ、子宮口に当たって止まる。
 勃起を螺旋状に絞り上げられ、睾丸までせり上がるような勢いを受けこれまでにない逞しさで脈動し――

 「好き…大好きです、播磨さん…愛しています。例え……あぁっ!!」

 何かを言おうとした八雲の意識を淫楽に染め上げ断ち切ると同時、怒涛の勢いで精を放った。

 どぷ、どぷっ、どぷうぅっ―――!

 「ぅあ、はあああぁっ………っ!」

 同時に達し、突き上げる白い奔流。三度目にも関わらず、大量の精子が蜜壺に放出された。
 連続して打ち込まれる牡の弾丸をくぴくぴと蠢き飲み込む八雲の子宮。もはや胎内に子種の味を知らぬ場所などない。
 それどころか行き場を失った以前の遡りが蜜口との隙間から零れ落ちている。

 びゅるるるっ ぶしゅう――

 なおも止まらぬ吐精。八雲の吐き出す噴水のような絶頂潮と激しくぶつかり混ざり合う。
 膣内を炎に焼かれ頭の回路まで包まれて、先程の余韻が消えない状態で八雲は拳児の中出しを放心のままに受け入れ、魂までを沸騰させる。

 「あぁ……イ、イ…ク……っ…! ぁ…ああぁっ……っ!」

 精液で溺れてしまいそうな錯覚に八雲は恥声を発する虚ろな口を半開きにし固まった。
 何度登りつめても飽きない絶頂。気が狂わされる喜悦。最後の最後まで搾り取ろうとヒクヒク動く内壁。
 いつしか自ら揉みしだき、千切れんばかりに上下させていた、先端は天を向きそうな迫力が有る二つの乳房。
 カラダもココロも、牡棒の存在感に女として屈服させられてしまう。自分を埋める部分から電流を流し込まれて脳幹を痺れさせる。
 頭の中が真っ白になって何も分からなくなっていく。

 「あ……あぁ……ぅ……ぁ…」

 しっとりと濡れた声。新しい自分が目覚める魂の産声。拳児に支配されたまま八雲は再び彼の上に倒れ込む。
 二人分の荒い息。皮膚越しの心音。それさえも二人には心地いい余韻として感じられた。それは快楽というより幸福感として――。

 「玉稿……」

 白い靄のかかった意識の中、八雲はそれを最後に満足げに微笑んですぐさま寝息を立てだす。
 褒めの言葉がらしいというか何と言うか。拳児はどうにも気恥ずかしく、汗で滑るピンクの柔らかい肌をきゅっと抱きしめてしまう。
 初体験で激しすぎるほどに乱れたその体からは女神の神々しさと娼婦のような淫蕩さが匂い立つ。
 顔には涎や涙の後が残っていたが、それはむしろ美しさを引き立たせるアクセント。

 (…例え……俺がまだお姉さんを好きでいても……か?)

 少し冷めた頭で拳児は八雲の言葉の続きを考える。正しいかもしれないが、少し悲しい。とことん猿だった自分が言えた話ではないが。
 八雲と自分は明日からどうなるのだろう。忘れたようにいつもの関係に戻るのかそれとも――

 二階から足音がする。天満がそろそろかと降りてきたのだ。聞こえてきたかもしれないし、無性に気恥ずかしい。
 心の整理もつけただろう彼女を(さすがに自慰をしていたとは思っていないが)拳児は同衾の格好のまま迎えることにした。
 幸いにしてその後天満も何か後ろめたいことがあるのか何も言わず、三人は今度こそ眠りにつくこととなるのだが……。

22727-3(おにぎりルート):2009/06/29(月) 01:01:05 ID:tiUqPkhZ


    ◇ ◇ ◇

 ――闇夜。
 流れてきた桜の花びらが空に浮かぶ月の鏡面を横切った。
 空間が人の目には捉えられない速さと次元で歪み、夜の支配者として君臨していた存在に違和感が生じる。
 じわりと黒い雲のようなものが地上と宇宙の間に生まれ、見えるはずの月を覆い隠す。

 《……》

 やがて無形の漆黒が集い始め、一つの形を成していった。
 生まれて間もない赤子のような、千の年を刻んだ老婆のような矛盾した雰囲気を持つ少女へと変貌する。
 身長よりも長い髪。全身を覆う子供の着るような白衣。消えた表情、焦点のない切れ長の見る者を戸惑わせる朱の瞳。
 影もない。重さもない。どんな面から見ても光による影響が変わらない。

 『……』

 伊織はあらかじめわかっていたように、目の前に現れた存在に無言の警告を発した。
 今この家で起きていることは、朝から騒がしかった主人達にとって邪魔されたくない大切なこと。
 猫には猫の、人間には人間の理がある。全ての生物にはルールがあって他のあらゆる存在はそれを侵してはならないのだ。
 そんな鉄の掟であっても物干し竿の近くに浮いた、外見は人間の子供を形とる存在に通じる道理は薄い。
 だからこそ伊織は抗するべくこの場にいる。

 《愛する男と結ばれて…あなたのご主人様は幸せそうね》

 存在は逆らおうとも従おうともしなかった。
 だが人間にしては鋭利な感覚器官を持る、一番の主人が知覚できる範囲には近づこうとしない。

 《そう構えないで……そこまでの力はもうないわ》

 達観した声。一瞬その姿が伊織にさえ半分ほど透けて見える。
 ノイズのように細い線の集まりになり、夜の空気に透けて月の光に溶けそうになったのだ。

 《っ…さっさと消えてしまえって? 冷たいのね》

 感情が見られなかったはずの千年の少女はわずかに顔をしかめ、なんとか元の形を取り戻す。
 その正体を伊織は完全には知らなくともある程度は理解していた。一番大好きな人間である塚本八雲の天敵――精神の侵略者。
 人の力でその存在に抗うのは難しい。過去に何度か主人は接していたようだが、どれだけ危険なことなのかわかっていないのだろう。

 《せいぜい祈ることね……次が最後よ。もう時間がない…私か八雲、どちらかが》

 終わりを待たず伊織は強く吼える。犬のような強い唸り声。するとまるで最初からいなかったように、少女の姿がかき消された。
 最後に笑い声が残っている気がして猫の癇に障り鼻を唸らせる。
 知っているのだ。八雲のためを思うなら自分は明日、手を出してはいけないということを。
22827-3(おにぎりルート):2009/06/29(月) 01:01:57 ID:tiUqPkhZ

 ――――――――

 ここまで。ラストは次の話までへの繋ぎです。
 せめて幽子についてもう少し情報があれば・・
 Hは短いのを入れていく予定です。

 ではでは、ここまで読んでくれた方々、感想くれた方々、参考になる意見をくれた方々、ありがとうございました。
229名無しさん@ピンキー:2009/06/29(月) 07:22:38 ID:qCzEt5SE
>>228
230名無しさん@ピンキー:2009/06/29(月) 20:37:58 ID:7H+6D8YH
>>228
わふーるわふーる
231名無しさん@ピンキー:2009/06/29(月) 21:30:55 ID:YUJa7b1H




だけどおにぎり大好きじゃないとキツいねこれ
232名無しさん@ピンキー:2009/06/29(月) 22:44:43 ID:zc5TQM/w
ところでIFスレと統合とかそういう話が出てるらしいんだが
どうなるの?
233名無しさん@ピンキー:2009/06/30(火) 01:31:36 ID:zaSDwUky
>>228
超力作GJ!!!です。ラスト、楽しみにして待っています。
ところで、>>27の 『1.俺は不良だ。お礼参りに職員室でも行
く』を読んでみたく思います。絃子先生と葉子先生と播磨の3Pと
か・・・。妙先生も巻き込んで4Pも良いですねぇ〜〜〜。
是非とも、ご検討下さい。よろしくお願い致します。
234名無しさん@ピンキー:2009/06/30(火) 04:13:30 ID:FMaAmyxb
>>231
そうだけどさ
創作くらいはこっちの都合で楽しませてほしいぜ…

>>232
統合というか、IFスレを終わらせるだけでいいんじゃないか
このスレだって「エロパロだからエロしか駄目」ってことはない…よな?
235名無しさん@ピンキー:2009/06/30(火) 10:21:19 ID:2Kq4RSrT
>>魔王の鬼金棒
まで読んだ
236名無しさん@ピンキー:2009/06/30(火) 11:15:14 ID:yDV8B+8i
ここでIFスレっぽいエロなしやるなら
IFスレ向け、とかエロ無し、くらいの宣言は欲しいかと思う

>>228

ストーリーとエロの落差が激しすぎw
けどよく頑張った
237ユカラカキ ◆57bPn7v4tg :2009/07/02(木) 01:55:46 ID:jo5wJBi2
スレ、復活した上に素晴らしいSSまで投下されていたのですね。
なんとも喜ばしい限りです。

自分もこっそり復活しましたので、昔書いた播磨のハーレムものの続きを投下させて頂きます。
お風呂で、播磨がミコちんを派手に種付けした後の話です。

◇ ◇ ◇

播磨に"使われ"、程よい疲労にうっとりしている美琴は苦笑しながら播磨の背中を眺める。
本当なら、製図台の下へ潜り込んでしゃぶりたい……等と、あの日以前の自分では考えられないことを思う。
そこへ、インターホンが鳴った。

「まあ、邪魔しちゃ悪いしなぁ……って、あれ、客?こんな時期に……誰だ?」

◇ ◇ ◇

この後の展開ですね。
まずは前編。こちらはエロ無しですがご容赦を。
後編はエロだらけになりますので。
238「親友丼」 ◆57bPn7v4tg :2009/07/02(木) 01:59:16 ID:jo5wJBi2
男といちゃついていた時、親友が深刻な顔をして訪ねてきた。
手には大荷物。切羽詰っているのはすぐに解った。

さて、どちらをとる?

そんな難問を突きつけてくる存在が目の前に立っている。

「………」

以前、美琴は親友――沢近愛理――よりも男を選んだことがあった。
(あー、いや、そういう訳じゃない。あれはだって……)
そう。
別に美琴の"男"という訳でもなかった。
ずっと憧れていて、好きで、告白できなくて、最後のチャンスだったから……。
頭の中で言い訳が幾つも過ぎる。
けれど。あの時の約束を反故にしたのは美琴。友情より恋を選んだのは美琴。
花火の夜に仲直りしたとしても、罪の意識はずっと心の中に残っていた。
だから――。

「取り込んでるの?なら……」
何かを察したのか、冷たい表情のまま目の前の親友が口を開く。
ゾクリ。
なんとなく……愛理をこのまま帰らせたら二度と"同じ愛理"には会えなくなるような気がして慌てて肩を掴んだ。
「ていっ!!」
「きゃぁっ」
勢い余って、肩を掴むだけでなく、抱きしめてしまう。
ふわりと良い香りが美琴を包み、播磨に犯されている時には全く感じることの無い"柔らかさ"に心が跳ねる。
「あ、あはははっ。今日、丁度親いないんだ。泊まってくなら歓迎するよ」
「……それなら良いけど。ちょっと、もう離しなさいよ」
美琴の過剰なスキンシップに頬を染めながら、金髪のお嬢様はやっと笑顔を見せてくれた。

(もう、あんな思いはコリゴリだし。播磨とは……うぅ、沢近が寝たらシてもらうか)
親友の抱き心地を堪能しながら、やはり播磨の肉棒に洗脳された頭は、淫らな予定を立ててしまうのだった。
239「親友丼」 ◆57bPn7v4tg :2009/07/02(木) 02:00:16 ID:jo5wJBi2

◇ ◇ ◇

「遅かったじゃない」
美琴の部屋でくつろぎ、読書に耽っていた愛理が顔を上げる。
「え?いや、ちょっと急な用事が出来てさ。……それより腹減ってないか?」
急な用事とは勿論、播磨に"従業員"としての態度を徹底させることだった。
もし愛理が播磨と美琴の仲に気づいたなら、それは――。
(こえぇぇ!絶対に勘付かれないようにしないと)
しかし、三人しかいないこの家で鉢合わせするのは時間の問題。
だとしたら、変装(?)を絶対に解かないよう厳命するしか手は無かったのだ。
(ま、説明する時間は無かったけど。アノ状態の播磨はホントに解らないからなー、結構男前だし……大丈夫だろ)

「うん…それはいいんだけど…。でも大丈夫?こんな時期に泊めてもらって」
訪ねて来た時とはうって変わっての心配そうな顔。
美琴は愛理のこういう処が好きなのだ。
「あーー、いーんだって」
(こうなりゃ、一人も二人も……)
毒喰らわば皿まで。
格闘家の性か、この火薬庫で踊っている状況にワクワクしてしまっている自分がいる。

「――あ、ちょっと……」
愛理が僅かに頬を染めて立ち上がる。
勿論、美琴も女、すぐに意味を察した。そして、いきなり危機が訪れたことを悟る。
(あ、播磨と鉢合わせしたら……でもなぁ、一緒に自宅のトイレへってのもヘンな話だし)
学校ならば不自然では無いトイレ同行も、ここではマズイ。
それに、数日泊めるのならばいつもそんな奇妙な行動をとる訳にも行かないだろう。
「あ、ああ。場所解るよな」
「ん、大丈夫」
動揺を悟られないよう、気軽に対応する。
(まっ、何とかなるさ)
持ち前の楽天気質で、美琴はパフッっとベッドに横になった。
すぐさま頭の中にあった不安は消えてゆく。考えても仕方ないことは考えない性質ではあるのだ。

240ユカラカキ ◆57bPn7v4tg :2009/07/02(木) 02:01:03 ID:jo5wJBi2

そして。数分後。
パタパタと慌てたような足音と共に部屋の扉が開いた。
「どーした、沢近?そんなに慌てて」
ドアを後ろ手で閉め、息をついている愛理に問いかけると――。
「あーー、ビックリした」
妙に可愛らしい表情で、愛理がふぅっともう一度息を吐く。
揺れるツインテールな金髪が美琴の目を楽しませる。
(やっぱ綺麗だよなぁ、沢近……)
女同士とは言え、ここまで綺麗だと時々ゾクッとすることがある。
例えば今のようなさり気無い仕草でも。
「美琴ん家の従業員さんて荒っぽいのね。あの人住み込み?」
「はっ?ウチの従業員は皆通い……」
と、そこで口を噤む。愛理の可愛らしい姿に見惚れ、うっかり大事な事を忘れていたのだ。
(うわぁぁぁ、あたし何バカ言おうとしてるんだ。あぶないあぶない)
ここに"従業員"と呼ばれる者がいれば、それは播磨以外にいない。
恐らくハラでも減らして冷蔵庫を荒らしてる処でも見られたのだろう。
どう言おうかと迷っていたその時。

カチャ。
再び小さく扉の開く音

「おコーヒーが入りました」
妙に緊張した播磨の声。
「あら、助かります」
愛理はらしくも無く妙に穏やかな対応をしている。
「そそ、それでは失礼します……」
完璧にガチガチに震える播磨の返答に、思わず美琴は喉でくっくっくと笑ってしまう。
かなりの危機にも関わらず楽しい。
どうやら、第一次接触での露見は避けられたようだ。
241「親友丼」 ◆57bPn7v4tg :2009/07/02(木) 02:03:08 ID:jo5wJBi2

「なあ、沢近。ワリーんだけど彼に菓子パン届けてやってくんねーか?」
つい、悪戯心が。
「えっ?私が?」
そう言いながらも、愛理は素直に受け取る。
いつもならば使いっ走りにされるのは嫌がるお嬢様にも関わらず……。
(ふふーん、なるほどねぇ)
ドアを開けて"従業員"を追いかける愛理の背中を見てニヤニヤ。

そして十数秒後。
戻ってきた愛理は少々呆れたような、それでいて楽しげな表情をしていた。

「何も言わずに受け取ったけど……。あの人、いつもあんな感じなの?」
「え? あっ、あ〜〜、そーいやなんか落ち込んでたな」
笑いを堪えながら、なんとか返答する。
どうやら愛理は播磨扮する従業員に興味があるらしい。
(へぇ〜。さすが、正体解らなくても――かね)
自分はその相手ととんでも無く淫らな関係になってはいるものの、そこは別腹で考える。
(あ、あれは、私の食い気みたいなもんだし、うん。そーいうんじゃないよな)
「……ふーん」
愛理が憂いを帯びた表情で答える。それが妙に綺麗で、また美琴は一瞬見惚れてしまう。
そして、再び湧き上がる悪戯心。
「あれあれあれ、沢近さん?何?気になるの彼が?」
思いっきりからかいの言葉をかけると。
「そっそっそっ、そんなんじゃないわよ!!なんでスグ、そーなんの!?」
真っ赤になって慌てて言い返す。これはもう図星。
(あっはっは。沢近ってわかり易いよなぁ)
心の中で大爆笑しつつ、そのフランス人形のような美貌を見ると。
また、憂いを帯びた表情。

「……ただ、あの背中がちょっといいなって」
「へ〜〜〜〜〜っ」
「なっ、何よ!!だからそんなんじゃ!!」

楽しい。
(やっぱ沢近とこうやってバカ言い合ってるのがいいよな)
恐らく、美琴の家に来たのは、愛理の実家で何かあったであろうことは解る。
だからこそ――今だけはと思うのだ。
(だったら、私が一肌脱がなきゃな)
美琴がそう決意した時、既に今の危機的状況は頭からさっぱりと消えていた。

242「親友丼」 ◆57bPn7v4tg :2009/07/02(木) 02:04:35 ID:jo5wJBi2

◇ ◇ ◇

美琴が企んだ作戦は単純。
播磨に愛理を頼んで、そのまま出かけただけ。
(播磨は結構義理堅いし、愛理は猫かぶりモードで播磨を従業員だと思ってる。
それに……私じゃできないことでもアイツなら力になれるかもしれないしね)
これは播磨自身にも言い含めておいた。
かなり嫌がっていたものの……。
「でも、アイツ等結構相性いいよな」

美琴が見上げた先には、一緒に洗い物を取り込む二人の姿。
少しの会話。愛理の視線。
いい空気になっている。

(あとは、ああしてあーやって……。
まずは差し入れのコレと……沢近に頼まれていた稽古済ませた後、播磨へはああ伝えて……よしっ!)

頭の中で陰謀を弄くりつつ、美琴はゆっくりと部屋に向かう。

まだ愛理の帰っていない部屋で隠していた"お菓子"を取り出す。
「絶倫極上カカオ100%」という名のパッケージがおどろおどろしい。
播磨が泊まり込んでから3日間、全く手を出さないので、つい通販で買ってしまった怪しげな媚薬効果ありのチョコレート。
雑誌の裏で宣伝しているようないかがわしいモノだ。
(効果あるとも思えないけど、まー、無いよりはいいよな。
こいつを沢近と一緒に食べて……稽古すれば体も熱くなるし……播磨の方はタイミングさえ合えば)
ゾクゾクゾク。
上手く行った時の想像だけで、美琴の子宮が疼く。
とろりと、熱い液体が染み出る感覚が襲う。
もし、あの美しい親友が"自分と同じようになった"時のことを考えると体が溶けそうになる位、興奮してしまう。

蕩けた表情のまま、美琴は紅茶を用意し、パッケージから出すと何の変哲も無い丸いチョコをお皿に盛る。
あとは――愛理を待つだけ。
(沢近も、絶対喜んでくれるよな)
播磨を彼女ほど意識していなかった自分でさえ"ああなって"しまったのだから。
243「親友丼」 ◆57bPn7v4tg :2009/07/02(木) 02:05:36 ID:jo5wJBi2

◇ ◇ ◇

「美琴……あなた、強いのね」
「まあ、素人よりはね。でもアンタから稽古つけてくれなんて、どういう風の吹き回し?
汗臭くて野蛮なんじゃなかったっけ?」
深夜の花井道場に、美琴と愛理の声が響く。
二人とも汗だく。息も荒い。

「いい汗かいた?」
「うん……」
「よし、じゃあ一緒にシャワー浴びるよ」
「え?……ええと、いいけど」
「はい、決まり。アンタと一緒に入るなんて学園祭の準備以来だね」
「そうね。ふふ、美琴……ありがと」
「ん?」
「ううん。あーーすっきりした!汗すごい、早く入ろう」

自然と会話が弾む。
(ちょっと罪悪感……だけど。こっからが正念場だ)
上気する頬、体に纏う熱気。
愛理がよく注意していれば、それだけでは無い熱っぽさを美琴に感じた筈だった。
けれど今は……愛理自身も自分の体に回っている熱が運動によるものだけでは無いことに気づいていない。

(アレ、結構……効いてる。私、我慢出来なくなってる)

計画は順調。
愛理も妙にハイになって、美琴へのスキンシップが多くなっている。
その度に汗とは別の香りに心を奪われそうになる。整った唇へ、つい口付けたくなる。
(あ、私、そーいう趣味無いと思ったんだけど。うわ、ヤバイ)
でも、まだ早い。
この金髪の愛らしく美しい猫を"逞しいご主人様"の処へ連れてゆかないと。
そんな妄想が熱っぽい頭を過ぎる。

浴場の扉に手をかけた時、既に美琴の頭の中は淫らなピンク色に染まっていた。
244ユカラカキ ◆57bPn7v4tg :2009/07/02(木) 02:10:44 ID:jo5wJBi2

ここで前編終了です。
次回は、親友丼となりまする。
その後の逃避行で、旗オンリーでの種付け予定です。

恐らく週一程度で書けると思うので、今度はそんなにお待たせしない筈です。
ではでは。
245名無しさん@ピンキー:2009/07/02(木) 03:52:26 ID:dgbNBlVJ
きたああああああああああ
246名無しさん@ピンキー:2009/07/02(木) 10:32:50 ID:eUoeH8g2
ユカラカキさんキタコレ
愛理をいただきますしちゃうのか
親友丼いいねいいね
247名無しさん@ピンキー:2009/07/02(木) 10:34:23 ID:+RoE21cD
248名無しさん@ピンキー:2009/07/02(木) 21:31:53 ID:ULUgAFdg

いいよいいよ
続きも楽しみにシテルヨ
249名無しさん@ピンキー:2009/07/02(木) 21:35:23 ID:JhK2aK6x
うひょーーー 大期待!!
250名無しさん@ピンキー:2009/07/03(金) 00:16:24 ID:JOCqCeti
251名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 01:28:47 ID:pHB/P6iN
おぉGJです!!

あと、もし差し支えが無ければ保管庫に保管されていないようですので播磨×三原、冴子の屋上ネタを再度投下していただけないでしょうか?
我儘を言って申し訳ありません…
252保管庫の中の人:2009/07/04(土) 01:47:41 ID:/P4L8L7P
>>251
スレNOとレスNOを教えてください
収録します
253名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 02:31:47 ID:cIIucazZ
もっと過去保管庫ってのは死んじゃってるのか…
254名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 05:21:12 ID:b/4NFjvB
>>252
14スレの74の「屋上の小悪魔」らしい。

参考 >>66
255名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 08:42:06 ID:ms6JKclt
>>244
乙です
最近は活気があって嬉しい限り
256名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 16:11:50 ID:pHB/P6iN
>>254
情報ありがとうございます。
ですがタイトル、作者名でググってもなぜか14スレ目だげ見つかりませんでした…どうやったら行けますか?

>>252
自分の発言からお手数をおかけして申し訳ありません。
257名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 16:52:31 ID:+ufpcmLI
15スレ目のログを探して、そこに張ってある前スレアドレスを
過去ログ変換にでも何でもかければいいんじゃないのか
258名無しさん@ピンキー:2009/07/06(月) 21:07:41 ID:DKGFPflW
保守
259名無しさん@ピンキー:2009/07/08(水) 01:10:47 ID:kerM4XGd
>>244
GJなんだが、この前の話っていつに投下した?
260名無しさん@ピンキー:2009/07/10(金) 06:17:33 ID:G3wmLGsJ
あげ
261名無しさん@ピンキー:2009/07/13(月) 19:03:30 ID:+GTAQoe/
また、スレがとまってしまってる。ネタがないんだよな。
次スレ合ったら小林尽作品総合とかにしないと駄目かな。
262名無しさん@ピンキー:2009/07/13(月) 19:18:12 ID:nMPeqRnJ
なんでもいいから妄想でも小ネタでも投下すればいいじゃん
263名無しさん@ピンキー:2009/07/13(月) 19:52:42 ID:xFLehREy
今更読むに耐えうるような作品が出てくると思ってるの?
さんざん読者はなれる展開やってきておいて
264名無しさん@ピンキー:2009/07/13(月) 23:53:09 ID:so9mwdmi
>>263
誰に言ってんの?
265名無しさん@ピンキー:2009/07/14(火) 18:12:46 ID:Y+BGjfqN
支援age

>>259
>>13の新保管庫でユカラカキさんのやつ読むヨロシ。

ケダモノ播磨の日常―朝(ユカラカキ ◆57bPn7v4tg) 〔播磨×弦子〕
放課後のキス(ユカラカキ ◆57bPn7v4tg) 〔播磨×円〕
「播磨暴走す」(ユカラカキ ◆SNwumj5Nac) 〔播磨×美琴〕

のシリーズとオモフ
266名無しさん@ピンキー:2009/07/15(水) 12:48:19 ID:anbwOSmb
267名無しさん@ピンキー:2009/07/17(金) 02:11:26 ID:l7f1EYtl
>>266
ありがたい
268名無しさん@ピンキー:2009/07/17(金) 16:10:01 ID:VE+FeMyA
職人待ちか。連載が終わった作品のつらいとこだね。
269名無しさん@ピンキー:2009/07/17(金) 21:26:45 ID:l4npGsT9
いや、いないから職人なんて
270名無しさん@ピンキー:2009/07/19(日) 00:53:57 ID:f5IWNjt+
あの、シオください。
271名無しさん@ピンキー:2009/07/19(日) 01:49:36 ID:FLBMO8lk
>>269
なら何しに来てんの?
272名無しさん@ピンキー:2009/07/20(月) 23:11:12 ID:ep9A51Rt
俺のように作品じゃなくて、
かつては毎週毎週名作が投下されていたスクランSS界が
廃れていくのを見守ってる奴もいるぜ
273名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 11:01:17 ID:teu/S/aa
>>272
なら大人しくROMっててくれ。

まぁ>>269はそういう古参じゃなくてただのバカだろうけど
274名無しさん@ピンキー:2009/07/23(木) 00:08:13 ID:4wu2NHyS
>>272
過去倉庫とかみたけどそれほど数ないぞ。そんなに連続して投下されたの?
ていうか過去倉庫も最近の作品の方が質高い気がする。
275名無しさん@ピンキー:2009/07/23(木) 07:33:01 ID:Awasa6Iy
IFスレ含めたことじゃない?
昔は確かに未確定なところがあったからそういう意味で面白い話が多かったな
276名無しさん@ピンキー:2009/07/23(木) 23:18:05 ID:iEHcXPKA
原作がシリアス展開になって書き手に
1ランク上の表現が求められた感じになって
気軽に書き込めなくなったって感じかな。
277名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 09:17:41 ID:4JTSTZSY
SSがないなら書けばいいじゃない
278名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 21:48:49 ID:DBbfvpNC
今、二作品連載中なんだよね?なにかスレの空気が微妙な気もするけど
両作品とも続き期待してます。
279名無しさん@ピンキー:2009/07/29(水) 22:04:23 ID:KI6mwN13
このスレ落ちたら次スレは小林尽総合スレにしようぜ
その方が人くるし
280名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 00:38:29 ID:ryUWVhNn
ユカラカキさんを待っている
281名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 02:57:58 ID:kGotXxio
>>279
異論は無いんだけどあらしでどれだけ人が増えるかはry
282名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 11:47:52 ID:QOq2/RNz
【スクールランブル】小林尽作品でエロパロ【夏のあらし】
スレタイはこんな感じが妥当かな?

>>281
アニメ化もしたのに・・・
283名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 14:06:29 ID:SHkMN/XG
何でもアリな空気が職人に二の足を踏ませてるんじゃないか?
成立カプ専用、原作無視の展開禁止とか道筋をはっきりさせたほうがやりやすいと思う
284名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 20:02:00 ID:LyinDXEf
それはないな
それこそ人が減るだけ
285名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 20:23:00 ID:QOq2/RNz
原作無視でも注意書きしときゃ無問題だろ
286名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 08:39:13 ID:RT+co20F
夏あらのエロパロは想像つかんなー
一がまだ子供だし下松の兄ちゃんやグラサンはちょっとまずい
287名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 15:09:54 ID:OMX6GKFE
戦争も関係してるし純愛じゃなくて悲惨な展開ばっかり思い浮かぶ
終戦直後にとんだあらしやカヤがパートナーを守るために米兵に・・とか

夏あらってスクランよりシリアス寄りなキガス

288名無しさん@ピンキー:2009/08/02(日) 01:17:57 ID:IOXBk0+T
>>287
スクランはただのギャグ漫画だぞwww
289名無しさん@ピンキー:2009/08/02(日) 12:23:11 ID:Kq1o2Fj6
>>282
仁丹がエンドカード描いた奴とか変態仮面も含めてくれ
290名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 03:58:41 ID:8gSP4P7V
あったのか…
291名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 07:50:13 ID:6umdI0yR
この前フィギュアのイベントとか合ったらしいけど
スクランのはあったのかね。
コミケとかもやるらしいがいまだに書く人らいるんだろうか。
292名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 14:33:23 ID:UtQVjDZ+
沢近の次は高野の姉さんですよね
お願いします
293名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 10:32:19 ID:NTF1Xtnb
ドブス(゚听)イラネ
294名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 16:56:51 ID:AFto5eMM
私も高野の姐御を宜しくお願いします
295名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 21:13:29 ID:D7XoJTNW
絃子さんを…
296名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 00:19:23 ID:GkqI0FQG
天満のエロって・・なんでないの?
297名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 07:15:04 ID:8Lraxgi/
播磨が対天満になるとヘタレだからな
298名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 21:10:35 ID:XqiEu1M/
烏丸との「私の事を思い出して…」って感じで一つ
299名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 11:17:52 ID:7sxkCWgh
むしろ理性をなくした烏丸に襲われるんじゃね?
300名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 17:56:04 ID:CZt0XoIp
ユカラカキ神を召喚!
301名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 17:01:28 ID:Mt2F7k27
ああっ、早く「親友丼」の続きが読みたいです
302名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 18:56:46 ID:gCTDbdRg
スクランって結局、播磨×沢近で最終回になったの?
303名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 20:20:56 ID:uWYp1G87
そうだよロシェ
304名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 00:26:50 ID:RYkLiYhu
あれは外人の妄想だがな
まあ八雲が諦めムードだから沢近が大有利なのは間違いない
305名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 01:41:10 ID:wForoEn6
おにぎりわろすwwwwwwwwwww
306名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 10:01:08 ID:9vFFI1pj
コミケとか今でもスクランの同人誌描く奴いるの?
307名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 10:02:44 ID:snpC9HSP
うめ
308名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 23:46:15 ID:CW4Iht0f
ユカラカキさん、お待ちしています
309名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 23:42:32 ID:cfprjSDl
>>265
播磨暴走すの前に播磨と美琴のSSってない?
作中に前に犯された云々ってあったんだけど、保管庫にはなかったし
310名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 01:36:27 ID:nQ0sL7Sg
311名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 05:33:58 ID:b1XmMVrM
八雲が渡米して姉と会っている間に、
家で留守番してる播磨とサラがデキていたSSとかは無いのかね
312名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 07:41:45 ID:SknNSAQ2
>>310
生は最高ですね♪
313名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 09:29:22 ID:m28smPpa
今迄の相手が胸のサイズが大きめの相手なので、
高野の小さめの胸をどのようにしていくかみたいです
314名無しさん@ピンキー:2009/08/18(火) 11:08:13 ID:u73/Zmvw
だからなんで天満があがらないんだよ・・・
315名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 17:29:39 ID:G0IzcxWw
>>244
久しぶりにここ来たらユカラカキ氏が来てた!
もうすぐ8月も下旬に差し掛かっていますが、続編の方はどうなってますか?
大好物のミコちんと初めての種付けとなるお嬢の親友丼楽しみにしています。

>>311
ユカラカキ氏がアップを始めたようです。
氏はそういう淫靡なシチュを書かせたら天下一品だからなwww
316名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 07:18:01 ID:fj3KcZoE
あげ
317名無しさん@ピンキー:2009/08/24(月) 22:58:13 ID:HXohydKV
八雲とサラの親友丼2がいいな
318名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 23:05:50 ID:PWXkc7nj
高野晶嬢も捨てがたいが、親友丼2も捨てがたい
ユカラカキさん、お待ちしています
319名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 15:10:21 ID:p2sjR/5/
晶晶うるさいよw
何考えてるかわからないどブスの何処がいいの?
320名無しさん@ピンキー:2009/08/26(水) 22:49:57 ID:symAFlBs
親友丼2でもいいけど、サラはシスター服着せて教会でってシチュがいいかな。
行為中、礼拝に来た人に見つかりそうになって、必死に声を抑えるサラとか…。
321名無しさん@ピンキー:2009/08/29(土) 06:39:31 ID:723nZYK6
保守
322名無しさん@ピンキー:2009/08/31(月) 10:25:32 ID:iKOxeaAa
前スレ落ちて以来あきらめて探してもなかったんだが、
分岐の一選択ルートとは思えない大作がきててビビった

と思って読み進めてたらユカラユキさんまで

どちらも、フル勃起で全裸待機に決定だわw
323名無しさん@ピンキー:2009/08/31(月) 19:21:52 ID:kz5s517j
いつぐらいに続きがあるのか
そしてその予告は守られるのか
そのへんがなんとかなればなー
324名無しさん@ピンキー:2009/09/01(火) 22:05:32 ID:BgtDUcQx
カレーさん…いや、Hauntedの中の人元気かな
オレにとっては彼が一番の神だった
特に初期の作品には、毎夜悶絶させられたもんだわ

携帯からチラ裏スマソ
325名無しさん@ピンキー:2009/09/02(水) 07:35:51 ID:VOdFDtvF
あげ
326名無しさん@ピンキー:2009/09/06(日) 20:16:01 ID:clFKPK2S
ほす
327名無しさん@ピンキー:2009/09/09(水) 08:13:53 ID:Himt52SK
保守
328名無しさん@ピンキー:2009/09/09(水) 08:45:08 ID:vcBPY6vO
八雲って触手ネタいけるかな?
329名無しさん@ピンキー:2009/09/11(金) 10:28:26 ID:3aNkhzeJ
オレは触手とか無理なんだが、その手の趣味の人にはヤクモンは適任かもね
330名無しさん@ピンキー:2009/09/11(金) 21:01:58 ID:qSKZUmS1
幽霊の女の子でも使うのか?
331名無しさん@ピンキー:2009/09/15(火) 05:58:07 ID:Qok3CO5f
hosyu
332名無しさん@ピンキー:2009/09/16(水) 00:55:35 ID:34C11kkk
そういえば屋上の小悪魔はどうなったのかな?
333名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 07:13:06 ID:K6/J3fyl
ほしゅ
334名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 03:21:06 ID:0qxyKvO9
>>332
>>266

保管はされないんじゃね
335名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 07:32:23 ID:UF8QNLAh
336名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 23:10:37 ID:VV0fcFn4
ほしゅ
337名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 00:58:40 ID:lXdW46Fx
スクランZが載ってる単行本は出てなかったっけ?
338名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 08:20:05 ID:UK0ulnnb
出てるけどなぜか品薄
339名無しさん@ピンキー:2009/10/03(土) 04:11:31 ID:s3u4LruK
340名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 04:14:48 ID:CDEKxwyW
揚げ
341名無しさん@ピンキー:2009/10/07(水) 23:16:32 ID:eqawigV2
いよいよ燃料もなくなって終焉の時か
342名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 16:36:09 ID:yXsxJmhj
IFスレが逝ったようだがこれまでだな
343名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 18:09:31 ID:qfdsPSNy
昔はこういうMADもあったんだよなぁ…
超姉派は少数だったから嬉しかったよ

http://www.nicovideo.jp/watch/sm328433
344名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 22:52:48 ID:6q3J6oyK
IFスレ落ちたしこれからは統合?
345名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 01:31:01 ID:qGwPhVlD
hosyu
346名無しさん@ピンキー:2009/10/12(月) 01:49:06 ID:Dl4+t7Z2
どっちも滅びるのでOK
347名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 13:36:18 ID:Rc1mua0X
統合するしかない流れだね
348名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 22:06:47 ID:U/rbE8fz
統合といってもこっちも既に死に体だがな
349名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 06:57:01 ID:WHx+EoVH
hosyu
350名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 23:40:37 ID:Qt7ypnPj
スクランは何故失敗したのか
351名無しさん@ピンキー:2009/10/17(土) 23:07:32 ID:Oa5Q16BB
あらしネタが来てもおかしくないのに何故来ない?

ユカラカキ待ちage。
352名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 01:25:16 ID:9rnU4SA5
あらしはエロにしにくい
353名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 23:53:54 ID:LvjZbpH1
そもそもあらしはつまんね
354名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 00:12:35 ID:x0fQVnJy
いや・・つまらんというか面白みが無いというか
355名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 00:14:48 ID:x0fQVnJy
次どうなるんだ?とか
こういう話もありなんじゃないか?とか思わせる場面がないんだよね
356名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 05:51:32 ID:/CkXloWw
花井の初めては晶姉さんがいただいたと、
今でも信じている
357名無しさん@ピンキー:2009/10/19(月) 06:44:34 ID:Hr4D/IZv
前はミコちゃんだろ?後ろは晶さんだろうがね・・・
ちなみに播磨は絃子さんが筆おろしだろうね
「ファーストキス『も』・・・」という発言もあったしね
358名無しさん@ピンキー:2009/10/20(火) 02:14:13 ID:wXR5BHYo
晶さんなら仕方ない

播磨は後展開がどうであれそうだろうね
359名無しさん@ピンキー:2009/10/21(水) 21:42:05 ID:VRw1E9pm
ユカラカキさんの新作をお待ちしています
親友丼次は、晶の姉さん。
そして、クラスーメイトが、次々と播磨と関係を・・・。
360名無しさん@ピンキー:2009/10/23(金) 03:29:28 ID:tg+lVQhk
>>359
で、学校の天満以外の全ての女性達がお腹を大きくしているんですね?
わかります
361名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 17:06:48 ID:AImfJlGl
炎の孕ませサングラスw
362名無しさん@ピンキー:2009/10/26(月) 00:52:08 ID:8q++uFQB
>>361
誰がウマイこと言えとww
363名無しさん@ピンキー:2009/10/26(月) 22:20:28 ID:Y38SKyhR
塚本姉妹丼を妄想したら修羅場になった
364名無しさん@ピンキー:2009/10/26(月) 23:06:14 ID:KlNkqyAv
天満を無理矢理→八雲もなし崩しに、という鬼畜な話しか浮かばないぜ!
365名無しさん@ピンキー:2009/10/30(金) 08:17:20 ID:os8A2isH
天満を無理矢理やったら八雲はどういう反応をするのか興味はある
366名無しさん@ピンキー:2009/11/01(日) 23:39:58 ID:URIqBygl
やっぱり、彼氏もちの女の子達も食われるんだろうな
何かしらの流れで
367名無しさん@ピンキー:2009/11/02(月) 02:29:53 ID:fNppzTMz
すでに1アウト
368名無しさん@ピンキー:2009/11/04(水) 12:54:52 ID:VgQvk/5r
播磨に突かれて腰を振る永山が見たい
もちろん田中の目の前で
369名無しさん@ピンキー:2009/11/04(水) 13:08:58 ID:lu0nwATq
いいね
370名無しさん@ピンキー:2009/11/04(水) 21:52:51 ID:ExoWmQBk
欲望をもてあます田中が永山を無理やりラブホに連れ込もうとしたところをフラグ王・播磨が助けに入るんだろうな。
そこから、永山が播磨に堕ちていくということですな。
大和撫子ですからなぁ
播磨がドツボにはまるんだろうなぁ
371名無しさん@ピンキー:2009/11/05(木) 19:30:15 ID:ifD6MaVc
永山と榛名が播磨のお気に入りになるんだな
必死で髪形を変える絃子さんと八雲とミコちゃん
染める沢近
ハラミは脱色しすぎて戻れない
372名無しさん@ピンキー:2009/11/06(金) 23:00:57 ID:PNGJmx4C
いや
播磨は女性に弱いから、平等に逝くだろう
しかし、円は梅津とヤッても満足できなくて、早々と梅津を置いて帰って、播磨のところに行くんだろうな
鬼怒川は自分の家の銭湯で播磨とヤッてしまうんだ
373名無しさん@ピンキー:2009/11/09(月) 02:18:12 ID:By8PziOu
もうおまえら自分で書いちゃえよwww
374名無しさん@ピンキー:2009/11/10(火) 11:54:08 ID:mYkrEUSx
モブキャラの名前が出てるのに名前が挙がらない晶…
375名無しさん@ピンキー:2009/11/10(火) 21:05:23 ID:gA3gjRrl
>>374

> モブキャラの名前が出てるのに名前が挙がらない晶…

晶なら俺の横で寝ているよ。
376名無しさん@ピンキー:2009/11/11(水) 02:37:26 ID:8/+Usq1c
>>375
女子プロレスの北斗晶ですね。わかります。

プロレスといえば一条さんとララも食われるのか
377名無しさん@ピンキー:2009/11/11(水) 02:40:34 ID:lz4UW5gR
まあララはともかく一条さんは今鳥さんをいい感じにフォールして処女喪失してるから問題ないよ
378名無しさん@ピンキー:2009/11/11(水) 08:59:45 ID:O+IvAOGu
晶は、播磨と誰かの隠し撮りしていて、部室でオナっているところを播磨に見られて、そのまま食べられるんだ。
クーデレだろうから、播磨の琴線にふれて、獣のように、むさぼりまくるんだ。
もう抜け出せないんだ。
379名無しさん@ピンキー:2009/11/11(水) 18:16:18 ID:O+IvAOGu
晶は、処女に違いない
播磨は、バージンキラーでもあるからな
380名無しさん@ピンキー:2009/11/11(水) 21:57:52 ID:a0xCwhie
なんかもう播磨である必要性ないな
381名無しさん@ピンキー:2009/11/11(水) 22:28:41 ID:kvuYl3hI
あれこれ手を出す必要ないよね
絃子さん一人いればいい
382名無しさん@ピンキー:2009/11/12(木) 19:41:48 ID:TMNc+uR2
ユカラカキさんの良作はまだでしょうか
383名無しさん@ピンキー:2009/11/12(木) 22:36:51 ID:l3p2ydJk
一応聞くけどIFスレ統合ということで
エロなしでもいいんかな?
384名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 00:32:42 ID:ulwjuyTy
いいと思うよ。過疎ってるし。
385名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 01:05:57 ID:IRrf/kzn
晶は襲われたのではない
口止めとして、口か手でしようとしたら、逆にはまってしまったんだ
386名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 11:43:08 ID:XFv3ksNr
>>383
いーんじゃないでしょうか
387名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 13:15:46 ID:3UDjlq6Z
板違いだろ
いいわけがない
388名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 01:55:05 ID:Lf7v10fZ
389名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 12:54:14 ID:rktk4664
>>387
エロパロでエロ無し書いたっていいじゃん

つか過疎なんだから臨機応変に行こうぜ。
390名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 23:56:25 ID:fNNmk8Q5
播磨は手を出されているという話の流れでいってるんだ。
そのまま、流れに流されて関係が続いてるんだ。
嵯峨野は、播磨が嵯峨野の婆ちゃんを助けたりしているところに遭遇。
店が人手不足?なのでバイトで助けたりしていたりして、
嵯峨野がお礼と称して、播磨に処女をあげてそのまま、続いていているんだ。
391名無しさん@ピンキー:2009/11/20(金) 02:02:20 ID:+xvIPJ9W
392ユカラカキ ◆57bPn7v4tg :2009/11/22(日) 23:35:07 ID:83zoNThZ
や、やっと規制解除されました……。
物凄い長い期間、全裸待機させてしまって申し訳ありませんでした。
今度こそ近々書きたいと思います。
393名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 00:00:56 ID:txNrhSL7
キター!


といわざるをえない
394名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 01:45:30 ID:ymspNR2f
>>393
まて
>>392
>今度こそ近々書きたいと思います。
まだ書いてないんだぞ
期待しちゃダメだよ。





















































全裸待機して待ってます。
395名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 10:05:28 ID:EdcYH5CE
播拳棒撃≪ハリケーンファック≫ テラ期待
396名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 19:08:16 ID:Dm9OmhP/
>>392
きとぅぁー!!!!!!11
397名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 20:49:17 ID:xS2OgPRs
お待ちしていました
398名無しさん@ピンキー:2009/11/25(水) 20:05:28 ID:HKTkBXdl
エロパロってグロもありなんだろうか
399名無しさん@ピンキー:2009/11/25(水) 23:45:51 ID:y7X3AbNY
基本なしだろう
よほど読み応えのあるエログロならどうかしらないが
400名無しさん@ピンキー:2009/11/26(木) 00:17:11 ID:khbK6eTP
>>398
グロは専用スレあるんじゃね。つかスクランでグロすか。
401名無しさん@ピンキー:2009/11/27(金) 18:49:59 ID:tEAJ/qXF
カレーの人が昔書いてたよね、ちょいグロっぽいの
最後は純愛エンドだったけど
402名無しさん@ピンキー:2009/11/27(金) 20:01:37 ID:VKmzBpWM
グロってか鬼畜・陵辱ネタも個人的にはカンベンしてほしい
403名無しさん@ピンキー:2009/11/27(金) 21:00:25 ID:62TcvGSH
第三保管庫にグロあんじゃん
404名無しさん@ピンキー:2009/11/27(金) 23:22:42 ID:c8Z3ZYYI
投下する前に注意書きをすればグロだろうがレイプだろうがスカトロだろうが何でもアリでしょ
405名無しさん@ピンキー:2009/11/27(金) 23:58:04 ID:4SJWXFC/
>>404
まぁ確かに
見るか見ないかは個人の責任になるからな
406名無しさん@ピンキー:2009/11/28(土) 19:56:54 ID:Kv2+VBVu
ダメもとで覗いたらユカラカキさんが…
生きる希望がちょっぴりアップした
407名無しさん@ピンキー:2009/11/29(日) 13:18:01 ID:8sZp+8zG
八雲好きとしては、おにぎりルートの続きも待ってる
408名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 22:14:57 ID:dh/wnJbp
待つだけじゃなくてもっと妄想しようよ
409名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 06:37:04 ID:PyJn/Yv7
それって自分でSSや絵を書こうってこと?
センスも無いしシチュエーションの妄想ぐらいが関の山だな、個人的には。
でもシチュ妄想だけ書いてもリクエストと変わらないからなぁ…

410名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 10:05:41 ID:zf9+7fZW
思わず勃起してしまうようなシチュを三行で
411名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 17:42:55 ID:7SlXau1e
極貧アイルランドの孤児サラはプライマリーの頃から教会で性職者達の趣向を満たす愛玩具として育てられた
従って女性経験のない播磨の下の事情を見抜きお世話するなど赤子の手をひねるようなものである
同居中、いつものように奉仕される播磨。だが寸止めをくらう。「続きは八雲にお願いしてくださいね」
412名無しさん@ピンキー:2009/12/01(火) 18:06:40 ID:PyJn/Yv7


413名無しさん@ピンキー:2009/12/03(木) 17:27:20 ID:Ea7E/ORx


414名無しさん@ピンキー:2009/12/06(日) 23:11:55 ID:5AheImIz
クリスマスか正月ネタで何か来ないかな
415名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 11:25:53 ID:I9PbagQr
>>414
ユカラカキさんの作品により播磨に抱かれた女性陣が、ミニスカサンタ(下着無)の格好で播磨に奉仕するんですね?わかります
で、播磨は子宝というクリスマスプレゼントを皆にあげるんですね?わかります
416名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 23:54:33 ID:YTWJpequ
おお!同志よ!
417名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 01:37:31 ID:buriU9xZ
ユカラカキさんには、まだまだ多数書いて欲しいですね。
晶とか永山とか鬼怒川とか葉子さんとかララとか・・・
う〜ん。ハーレム
418名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 23:02:52 ID:Xm+wCO7N
音沙汰無いけどもユカラカキさんはクリスマス位を目安にしてるんだろうか
419名無しさん@ピンキー:2009/12/10(木) 07:38:06 ID:r3P4XJjY
つブラフ
420ユカラカキ ◆57bPn7v4tg :2009/12/10(木) 12:12:34 ID:Gy+U8JOV
すみません。風邪で倒れてました。
一応、半分程出来ています中篇となってしまいますが、明日辺りには投下できそうです。
最後までとなると、数日はかかりそうです><
421名無しさん@ピンキー:2009/12/10(木) 17:45:00 ID:/lYVSuo+
報告ありがとうございます!
お体お大事にして下さい
無理しないよう執筆の方も頑張ってくださいまし
422名無しさん@ピンキー:2009/12/10(木) 23:49:19 ID:eMbx5U6Q
楽しみにお待ちしています
423名無しさん@ピンキー:2009/12/11(金) 02:32:42 ID:2xYanrM6
ユカラカキさんのエロSSを読むためなら年単位で待つのも吝かではないですぜ。
久しぶりの新作投下、紳士スタイルでお待ち申し上げております。
424名無しさん@ピンキー:2009/12/11(金) 03:43:07 ID:RQhnjIz6
>>423
ユカラカキさんの数日は本当に数ヶ月だからなw
425名無しさん@ピンキー:2009/12/11(金) 21:46:09 ID:qAzwJuez
ユカラカキさん、体に気をつけてください。
作品、楽しみに待っています。
426ユカラカキ ◆57bPn7v4tg :2009/12/12(土) 00:18:27 ID:hQHcBAPb
頑張ってみましたやはり中編までとなりました。
"焦らし"が結構長いですが、ご容赦を><
427「親友丼」中編 ◆57bPn7v4tg :2009/12/12(土) 00:19:36 ID:hQHcBAPb
>>243続き


ガララッ。
道場生や従業員にも開放している美琴の家の風呂は広い。
銭湯並みとは行かないものの数人ならば一緒に入ってまだ余裕がある。
純日本風の造りである為、換気扇も大きくなく沸きたての浴槽からはたっぷりと湯気が立ち上っていた。

「うわぁ〜、美琴の家のお風呂ってホント和風よね」
浴場に愛理の声が反響する。
「そりゃ、道場だからね」
美琴は豊かな胸が愛理の腕に触れるよう近づき、つとめて明るく答える。
広さに言及しない処は、さすが西洋育ちだろうか。

二人ともタオルを羽織ってはいない。
タオルで身体を隠そうとした愛理を美琴が止めたのだ。
”うちの風呂はタオル厳禁!”と。
……勿論、愛理の綺麗な身体が見たいが為の美琴の嘘。
「あ、そうなんだ?」と簡単に受け入れてくれたのは、恐らくチョコの効果もあるのだろう。
愛理も妙に頬が赤らみ、僅かに羞恥心の鎧が解けているように見える。

(やっぱ、肌綺麗だ……髪も)

美琴の身体も男から見たら食べたくなるような豊満な胸と、鍛えられ引き締まったウエストをもっている。
だが、愛理の真っ白で美味しそうな乳房と先端の淡いピンク、自然なカーブを描いている華奢な身体の線。
黄金に輝く金髪がその純白の身体を彩っている姿は、気品と色気に溢れている。
日本のこんな片隅にいるのが嘘のような、現実離れした美しさを愛理はもっていた。
(話さなければ天使、みたいだよな)

「しっかし、なぁ、沢近……胸、結構おっきくなってない?」
「なっ、何言ってるの!美琴に言われたら嫌味じゃない」
女の子同士のじゃれあいを続けながら、美琴は静かに爆弾を落とした。

「アタシは、まあ、ほら。――いい機会だから、アイツにも聞いて見よっか」
その言葉を待っていたかのように、僅かに開けられた小窓から小さな風が入り、湯気が揺らいだ。
428「親友丼」中編 ◆57bPn7v4tg :2009/12/12(土) 00:20:10 ID:hQHcBAPb
湯気が薄まり、浴場の視界がほんの少し良くなると……湯船が見える。
そこに浸かっている体格の良い人物も。

「……え?」
「よっ。いい湯だろ?」
まだ状況が理解できないのだろう、裸のまま前を隠すことも忘れて愛理が可愛く声をあげる。
そこへ重ねるように、美琴が堂々と”当たり前”のように"湯船に浸かっている人物"へ挨拶。

「あ"、いや……これは。ちがっ」
言い訳を口にしようとする湯船の中の男――播磨。
否、別に覗いている訳でもなんでもなく、播磨が入っていた処に美琴達が来たのだから彼に非は無い。
しかし、風呂場に置いて男女平等という概念は存在しない。
悲鳴を上げられて逃げられる、責められる、痴漢扱いをされる。
これが当たり前の反応なのだ。だからこそ、播磨は何も言うことが出来ないのだろう。

「きっ、きゃ……」
やっと状況を悟った愛理が悲鳴を上げようとした瞬間。
「すっ、すまねえっ」
バシャリと水飛沫を上げて湯船から慌てて播磨が立ち上がる。
そして、その筋肉を生かして猛ダッシュ。
(おっと、逃がさないからな)
そこへ美琴がさりげなく石鹸を滑らせる。

「のわっ、どわわわわっ!!!」
見事に播磨の足下へ滑り込んだ石鹸は綺麗に彼のバランスを崩させた……美琴と愛理の方向へ。
(よしっ、ここで……)
拳法で鍛えたバランス能力を駆使し、美琴は迫り来る播磨の身体を受け止めた上で重心をコントロールする。
三人に怪我が無い形で、かつ"美琴が望む体勢"で倒れてくるようにと。
「きゃぁっ!!」
美琴、愛理を巻き込み播磨の身体が倒れる。
否、美琴の巧妙な重心移動技によって"崩された"。
同時に愛理の首元を支えて頭を打ち付けないように受身をとる。
429ユカラカキ ◆57bPn7v4tg :2009/12/12(土) 00:20:59 ID:hQHcBAPb
――結果。
播磨は、見事に二つの身体を下敷きにするような形で倒れ……その頭は美琴の胸へ。
下半身は愛理の太ももへ。
「っと、おーい。危ないだろ」
「……きゅ〜ん」
「お嬢、ちがうんだ、これは……」
三者三様の反応。
愛理は衝撃で目を回しており、播磨は最悪となった展開に焦っているのか、まだ何やら呟いている。
その頭をぎゅっと引き付けて、自分の豊かな乳房に埋もれさせると、美琴は愛理に聞こえないよう耳元で囁く。
『播磨、沢近は気づいてないから。話合わせろ』
耳たぶを噛むように。
身体の関係を持った間特有の甘い意思疎通。
こんな時だというのに、播磨も美琴の乳房を味わうようにぐにゅりと乳肉を歪ませて頷く。
恐らく、愛理に押し付けているアレはかなりの硬度と大きさになっているだろう。
(早く、欲しい……。沢近に入ってるところ見たい……って、あー、あたしは何でこんなエロくなっちゃったかな)
播磨はそこまで考えてはいない筈。
愛理を退散させて、ここで美琴と緊張感に満ちた交尾をするかどうか悩んでいる程度だろう。

430「親友丼」中編 ◆57bPn7v4tg :2009/12/12(土) 00:21:52 ID:hQHcBAPb
「ったく、そんな驚くこと無いだろ。うちは混浴なんだからさ」
「えっ?」
「はっ?」
密着した状態のまま、愛理と播磨は不振の声を上げる。
そんな播磨に目配せしつつ、美琴は当然のことと言うように笑顔を見せる。
(ここは強気にいかなきゃな)
「で、でも、日本のお風呂が混浴なのは、晶の嘘だって……」
混乱しているのか前を隠そうともせず、愛理が文化祭準備の時に騙されたことを持ち出し反論するものの――。
その瞳は甘く潤んでいる。
特に、播磨のアレが当たっているのにすぐ逃げ出そうとしないのは……余程混乱しているというのもあるものの、
"従業員さん"を生理的に受け入れてるという前提が存在してなければありえない。
(ふふふ、いい感じだ〜)
「晶が言ってたのは、銭湯のこと。うちは道場だけあって日本の文化に忠実なんだ」
しれっと大嘘を言う。
「そ、そうなの?」
まだ疑わしそうな愛理へ美琴は更に言葉を重ねた。
「ふーん、沢近がイヤなら、私とコイツだけで入ろーか?」
ニヤリと笑って播磨の頭を引き寄せると――。
「だ、だめっ」
思わずっといった風情で愛理がその手を押さえ……一瞬後、耳まで真っ赤になった。
(くぅぅぅ〜、かわいい)

「んぐ、んぐぐぐー」
何やら抗議の声を上げている播磨だが、美琴の乳肉に埋まって何を言っているか聞こえない。
「んじゃ、沢近の希望通り三人仲良くはいろうか」
「なっ、そんな事希望してないってば!……?!……きゃぁぁぁ!」
律儀に美琴へ突っ込みを入れた後、播磨のアレが密着していることに気づき、愛理は再び悲鳴を上げる。
431ユカラカキ ◆57bPn7v4tg :2009/12/12(土) 00:22:20 ID:hQHcBAPb
「別に驚くことでもないだろ、よっと」
あくまで"なんでもないこと"という態度をとりつつ、美琴はようやく播磨から離れ、愛理を助け起こす。
(――身体、柔らかいな。私と違って筋肉でかたくなってないふわふわの……肌も真っ白で綺麗だ)
愛理を抱きしめるようにして引き寄せると、密着してしまう。
その感触に美琴はゾクゾクと欲望が子宮から背筋に走るのを実感する。
「ちょっ、美琴。顔近いってば」
「あ、あはは。ゴメンゴメン、さ、入ろうぜ。播、じゃない――お前もな」
播磨と言いかけてしまい、慌てて言い直す。
幸い、愛理は気づいていないようで、ぼんやりしたように播磨と美琴を交互に見つめている。
「ね、ねぇ美琴。やっぱり、その従業員さんも一緒に……?」
「いっ!俺は……」
言いよどむ播磨だが、その前髪に隠された目は美琴と愛理の豊かな胸をちらちらと見ている。
(拒否なんてしないよなー。ふっふっふ)
何よりギンギンに隆起しているアレが全てを物語っていた。
「当たり前だろー、裸の付き合いってヤツさ。ほら、まずはお湯で身体流して――」
「きゃっ!押さないでよ、美琴」
ぐっと豊かな乳肉を愛理の背に押し付けて湯船へ。そして、播磨にも来るようにと目で指示する。
"コナカッタラバラス"と。
432「親友丼」中編 ◆57bPn7v4tg :2009/12/12(土) 00:23:38 ID:hQHcBAPb
◇ ◇ ◇

――ちゃぷん。
道場生達が入る為、一般家庭ではありえない程大きな浴場。
今、そこに奇妙な緊張感が漂っていた。
(な、なんでこうなっちゃったの〜)
現在、愛理、美琴が男一人を挟む形で湯船に浸かっている。
つまり愛理のすぐ隣は"従業員さん"なのだ。
普段の愛理ならすぐさま悲鳴をあげて叩いて追い出すなり、逃げ出すなりしていただろう。
なのに――なぜか、イヤでは無い。それどころか……。
(身体が、熱い……見られちゃってもいいかな、なんて)
この"従業員さん"には妙に愛理を素直にさせてしまう魅力があるのだ。
そして、もう一つの理由は……。
(どうせ、私はもう――)
美琴の家に来た理由。逃げ出しても逆らうことなんて出来ないであろう事柄。
それらが愛理の心を刹那的にさせていた。

「ぬおっ!!」

そんな想いに浸っていた中、突然、従業員が奇妙な声を上げた。
はっと横を見ると従業員の逞しい肩と首筋が見えて、愛理の胸に奇妙な電気が走る。
(やっぱり、背中とか肩……いいな。って私何を考えてるの!)
433「親友丼」中編 ◆57bPn7v4tg :2009/12/12(土) 00:24:42 ID:hQHcBAPb

「どうしたー?」
のんびりした美琴の声。
視線を移すとちゃぽん、ちゃぽ。美琴の右手が妙に動いて水面に波紋を立てているように見える。
(美琴の手が、従業員さんの方に……?)
「て、てめぇ」
「ん?もしかして、沢近の胸に見惚れてたとかー?アンタ、おっぱい好きだもんな」
「え、えええっ!」
「ばっ、バカ野郎、何言ってやがる。ぐ、ぅぅ」
愛理の注意は再び従業員へ。反射的に胸を隠すようにしてしまう。
同じく抗議しかけた彼は、美琴が水面で手を動かすと急に変な声を上げて黙ってしまう。
(やっぱり美琴の方が立場が強いのね)
「ほら、沢近、隠さないでもっと見せてあげなって」
「なに言ってんのよっ、もう」
美琴のあんまりな言葉に、愛理は慌てて突っ込むものの、従業員の身体越しなのでどうにも迫力が無い。
「どーせ、身体洗う時、見られるんだし……あ、丁度良いから三人で洗っこしようか」
とんでも無いことを言って、こっちに来ると軽々と腕をとられ持ち上げられる。
そして湯船の外へ強制連行。
「きゃぁ、きゃぁ!見られちゃうでしょ」
「今更何言ってるんだか、ほら、アンタも来なー」
愛理を抱えたまま美琴は従業員の方にも声をかける。
(ぁぁ〜、美琴、本気で三人で……もう、日本の文化ってどうなっているの?)
そんな事を思いつつ、愛理は奇妙な高揚感に包まれて赤くなる。こういう騒ぎも悪くない、と。
434「親友丼」中編 ◆57bPn7v4tg :2009/12/12(土) 00:26:14 ID:hQHcBAPb
「いや、今はちょっと無理っつーか。な、なぁ?解かるだろ?」
奇妙に弱気な言葉を返してくる従業員。
「却下。今すぐ来ないと……」
そんな彼に全裸を見せ付けたまま美琴は奇妙なジェスチャーを送る。

"イマスグ サワチカニ バラシテヤロウカ?"
"ヤメテクダサイ オネガイシマス"

そんな無言のやり取りだったが、愛理に解かるわけも無い。

ザパァァ。
従業員が立ち上がり、湯気が晴れると、そこには……。

「でっか!」
「――ぁ、すご……男の人って……こんな、なの?!」
臍まで反り返った肉棒。
隆々とした肉厚と凶悪なまでに張ったカサが二人を睨みつけるように赤黒く自己主張していたのだ。
その大きさと凶悪さ、そして筋肉が持つような威圧的な魅力につい見惚れてしまう。
「やっぱりこれは……サワチカ効果だよな」
「美琴、何を言って、きゃぁぁ」
抗議しようとした時、ぐいっと引き寄せられると身体の位置を美琴と変えられる。
そこは丁度、従業員の視線のど真ん中。
「効果覿面!あっはっは、ちょっと悔しくなるくらいだよ。全く」
「う、うそ……まだ…?」
愛理の目の前で、従業員の逞しいソレが更に反り上がり、大きくなっているのだ。
「く、何とでも言ってろ!」
この辱めに開き直ったのか従業員はブルンブルンと硬度の増したソレを揺らしつつ、洗い場へ向かう。
(あ…・・・やっぱり背中、大きい)
その逆三角形の背中、筋肉の陰影を見た途端、更に愛理の心はとろん、と溶け出してゆく。
「そう怒るなって。ちゃんと洗ってやるからさ。……沢近が」
「ぇ?」
もはや美琴のやりたい放題だった。
怒ろうにも未経験&従業員の視線が気になって愛理が行動できない内に次々と事を決められてしまう。
愛理はろくな抗議も出来ず、美琴が手を引くままに、彼の前へ。
(ああ、もう。どうにでもなれよっ)
435「親友丼」中編 ◆57bPn7v4tg :2009/12/12(土) 00:27:48 ID:hQHcBAPb
「うぉぉっ、てめぇ、今度はなに……を」
従業員の瞳が愛理の前で止まる。
「ぁ、あの。そんなに見ないで下さい。――ああ、もう!美琴、放してってば」
凝視に耐えかね、もぞもぞと身体を動かすも胸と足の間は隠せない。
美琴が愛理の両腕を軽く抑えてるのだ。それだけで身体が動かせなくなってしまっている。
「ほらほら、沢近。ヤツのそこ見てみな。また……」
心底楽しそうな美琴の声に、愛理はつい従業員の股間を見てしまう。
「ま、また……」
「こんなにシた責任、とらないと」
吐息が耳たぶにかかるような近さで、美琴が囁く。
「せき、にん。私のせい?きゃっ」
すっと囚われていた腕が緩む。途端、軽く膝の裏を押され屈まされた。
目の前には凶悪な男の印。ふわりと刺激的な性臭が漂い、愛理の本能的な部分を刺激する。
(こんなに、なって……私を……必要と…・・・)
媚薬入り(?)チョコレートの効果。度重なる刺激と親友がいるという安心感。
好きだったかもしれない相手を同級生に盗られたという心の痛み。
そして何より――。
(どうせ、無理やり結婚させられるんなら。ここで、私を必要としてくれる人に……)
「お、お……い」
若干絡んだ従業員の声。興奮してくれているらしいということは、未経験の愛理にも解かる。
「ほーら、グロテスクだけど良く見ると結構可愛いだろ?」
美琴の指が目の前で極太のソレに絡んで、ゆっくり扱き始めた。
「そ、そう……ね」
諦観、好奇心、欲情、慕情、全てが混沌としたまま愛理は親友の指で刺激される肉棒を見つめ続ける。
そして思い切って手を伸ばし――真っ白な指を美琴と同じように絡ませた。
「熱い」
「そりゃ、ね」
親友と二人で男のモノを一緒に扱いている。
異常な状況に、愛理の欲情と好奇心はどんどん加速してゆく。
「うっ……く、ぁ」
感じてるであろう男の声が更に愛理を駆り立てる。
436「親友丼」中編 ◆57bPn7v4tg :2009/12/12(土) 00:29:58 ID:hQHcBAPb
「次は、さ」
悪戯っぽく囁く美琴の声。指が止まり、代わりに顔が近づく。
ちゅ。目の前で美琴の唇と肉棒が触れ合う。
くちゅ、ぴちゃ、ぺろ。
唇と舌を使っての奉仕。そして――口をいっぱいに開けて飲み込む。
「ぁ、美琴……」
普段、低俗だとバカにしていたティーン向け雑誌でしか知らない"フェラチオ"という行為。
それが、今、目の前で繰り広げられている。
「うぉぉ、ぐ……やめろって、ぬぉっ」
明らかに先程よりも気持ち良さそうな従業員の声。
ちゅぽん。糸を引いて、美琴の唇と肉棒が離れる。
そして――どうぞ?というように差し出される巨大な肉柱。
すぐさま拒否して、こんな淫らな誘いをしてプライドを傷つけた二人を罵り逃げ出す。
そんな選択肢は、浮かびもしなかった。それどころか――。
「あ……ぅ……ん」
(私のファーストキス……こんな……)
惹かれているとは言え、名も知らない相手の欲望そのものに捧げるファーストキス。
ゾクゾクゾク。
背徳感と被虐心が愛理の全身を震わせる。
有り得ない程の屈辱的な行為を、自ら選ぶという倒錯的な状況に全ての理性が麻痺してしまう。

ちゅ。
桜色の唇が、淫水焼けした赤黒い肉棒へ捧げられた。
そして、チロチロと可愛らしい舌が美琴の唾液と男の我慢汁で濡れた肉柱を清めてゆく。

「うわ……沢近、可愛すぎる……って」
美琴の声と共に、胸とお尻に掌の感触が。
「んっ、んんーーっ!」
抗議しようにも口は塞がっている。奉仕対象の従業員が頭を軽く抑えている為、離せないのだ。
むにむに。
美琴に弄ばれる乳房とお尻から心地よさが全身を巡る。
ぴんっと尖りきった乳首を軽く弾かれると、ビクンッと反応してしまうくらい感じてしまう。

437「親友丼」中編 ◆57bPn7v4tg :2009/12/12(土) 00:31:34 ID:hQHcBAPb
ちゅぽ、じゅぷ。くちゅ、ちゅぅ。
男に唇で奉仕しながら、親友に身体をまさぐられる。
愛理の人生で一度も想像すらしなかった出来事が今、起きている。
それに――心地よさを感じてしまっている。

既に美琴の左手は重点的に愛理の乳首を扱き、右手はお尻から秘所へ移っていた。
とろりと滑る愛液を塗りつけた指がクリトリスを転がすと、愛理の身体は自分の意思と関係なく反応する。
「沢近、ここすごい濡れてる。そんなに美味しいんだ?」
つぷぅ。
女の子の泉に指を埋めた美琴がからかうように言う。
「――っ!!」
愛理の唇は肉棒をしゃぶっている為、声をだせない。
それを良いことに美琴のイタズラはエスカレートしてゆく。
くちゅっ、くちゅ。
膣内を軽くかき混ぜられると奉仕の速度が遅くなる。
イヤラシイ音と共に生まれる甘い痺れが頭の中をピンク色に染めてしまう。

「クチに入ってるのを……ここでしゃぶれるように、ほぐさないとさ」
美琴に淫らな言葉を囁かれ、ゾクっと身体が反応する。
(私ここで、美琴の前で――サれちゃうんだ)
甘い痺れの促すまま、自分の処女を奪うであろう相手を上目遣いで見つめた。
「すげぇ、気持ちいい――。くぅ、ぁ」
従業員の大きな掌が髪を撫でる。その感触になぜかほっとする。
(この人になら、いい……)
「沢近のここも、綺麗な金色なんだな」
しゃりしゃりと愛理の毛を撫でつけ、美琴が笑う。
「っと、もういいぜ。出ちまいそうだ」
そこで、従業員が熱心に舐めしゃぶる愛理の顔を遠ざける。
トロリと粘ついた糸が整った唇と亀頭を繋ぎ、ぷちんと切れた。

「今度はその金髪の中に、入れるからよ」

不良そのものな欲望に満ちた獰猛な言葉。
レイプを宣言するような彼の態度に反発するどころか――身体が期待で痺れて仕方がない。
(私、おかしく……なってる)
自分が今までしゃぶっていた濡れて光る肉棒を見つめ、愛理は身体を巡る屈辱感すら心地よく感じていた。
438ユカラカキ ◆57bPn7v4tg :2009/12/12(土) 00:42:40 ID:hQHcBAPb
途中から ◇ ◇ ◇ を挟んで三人称美琴視点→愛理視点に変化しています。
最後は播磨視点で終わらせたいと思います。
愛理視点で従業員(播磨)の反応がヘンだったのは、湯船で美琴がアレを掴んで扱いていたからです。

尚、非エロが長くなっているのは、お嬢がどういった心の変化でヤるまで至るかを、
前提に無理がありすぎるとしても、なるべく自然に見せたい為です。
(その為に、三人称愛理視点に切り替えました)

次回は後編で、播磨視点での親友丼&種付けで、エロエロ三昧となる予定です。

次々回は……候補としては永山、サラ、晶、妙さん辺りをと思っています。

永山→寝取り描写あり。おまけとして寝取られる側の田中視点も考えていたりします。
サラ→八雲との親友丼2への布石。
妙さん→播磨の噂を聞いて、この人が黙っているわけも無いので。
晶→ごめんなさい。シチュが浮かばないので、公募しようかなと(汗
439ユカラカキ ◆57bPn7v4tg :2009/12/12(土) 00:48:11 ID:hQHcBAPb
後編まで、なんとか数日、せめて年明けまで(弱気)にすませられるよう頑張ります。
数ヶ月にはならない、筈……です。はい。

ではではー。
440名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 01:45:20 ID:E0JE4QCB
GJGJ!!
後編に期待がふくらむばかり

そして永山に一票入れさせてもらいます
そんなカップリング見たこと無いw
441名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 01:56:23 ID:8UGrK+w+
GJ!!でした
後編を楽しみにしてます

公募なら晶で美琴と愛理の様子が
変わった事に気づいて
原因を調べるために播磨に
探りを入れてそのまま食われるでどうだ
442名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 02:04:54 ID:CCUQhZD3
>>439
お妙さんに一票!!
勿論保健室での白衣プレイを
443名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 02:10:22 ID:gu5F2gl6
>>439
GJです。次はサラでお願いします。
444名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 02:31:59 ID:Ot6YHJ33
GJ!!
相変わらず文章のクオリティ高い
そして焦らしのクオリティが高すぎる
後編超期待

個人的にはサラルート希望
445名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 02:38:23 ID:J8fKNVvF
サラルートがいいかなあ
人気あるのに二次が少ないし
446名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 08:39:16 ID:LCqaqr4o
絡ませるのは難しいかもしれんけどサラで
447名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 10:10:35 ID:6dJYC0Ea
葉子先生ルートを通過して、是非絃子&葉子で3Pルートをお願いしたい
448名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 18:57:01 ID:lMqRBixD
親友丼2をするならいっそ1-Dまとめていただけばいいのに
手始めに榛名とか榛名とか
449名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 20:24:25 ID:9197uUhg
GJです。ごちそうさまでした!
450名無しさん@ピンキー:2009/12/14(月) 01:09:12 ID:QWAjlnhM
まってました。
全て読みたいですが、まずは晶でお願いしたいです。
441のシュチュエーションでお願いしたいですね。
スレンダーな体系だが胸が小さいのにコンプレックスを持ってるのを播磨が解消するような話も入れてもらえればなと思います。
451名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 22:55:59 ID:niX5s8b9
台風伯爵さんは元気になったのでしょうか?
452名無しさん@ピンキー:2009/12/16(水) 09:12:59 ID:VpA8vX9n
誰?
453名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 07:32:12 ID:4vLTOxuV
あのひとのHPどこだっけ
454名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 17:21:51 ID:C6GdK2ZN
GJでした。
しかし、どうやって播磨と気がつくかが楽しみです
455名無しさん@ピンキー:2009/12/19(土) 22:10:28 ID:TtBCrVgj
>>453

http://pksp.jp/tz707rr2/novel.cgi?ss=&m=2&km=&o=4&pg=1&ps=&secsn=1
中途半端にシリアスで中途半端にエロイ。
まぁ68ページも書いたんだから、それなりに評価してもいい。
456名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 11:21:34 ID:32YOJmvg
これって続きはないのかな?
なんかオチが中途半端だし・・
457名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 15:52:26 ID:AjLYFPNQ
リアルタイムで見てたが、実は終章は12ページあった。
が、何故か完成しなくて4ページで放置。
晶の設定を矛盾なしに拡大した妄想は大好きなんだな。
458名無しさん@ピンキー:2009/12/21(月) 15:11:34 ID:6C2sGTti
誰か超姉で一本お願いします
459名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 15:03:52 ID:4DOl5e+Q
晶のシチュが思い浮かばないだと?


クリスマス当日、高野は茶道部二階で独り身でもさみしくないもーんとか言いつつぬいぐるみ遊びに興じていた
そのうち上半身が着ぐるみから抜けなくなり出れなくなる
そのころ一階で漫画を描いていた播磨は物音に気づいてやってくる
そこで播磨は上半身がぬいぐるみで下半身が女というUMAを発見した
相手は抵抗できない&自分の正体ばれることはあるまいといたずらする播磨
高野は実質目隠状態で責められて不覚にも達してしまう

汗をかいたおかげで脱出できた高野はお礼に播磨と事に及ぶ
ついでにサラを電話で呼び寄せて三人で楽しむ
更に八雲も呼び寄せて茶道部丼の完成であった
しかし天満は呼んでもらえず花井がくることもなかったのでした
460名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 21:26:54 ID:EFNtGXQO
>>459
一人足りないぞ< 茶道部丼
461名無しさん@ピンキー:2010/01/01(金) 23:30:50 ID:IOV9m1IG
保守
462名無しさん@ピンキー:2010/01/02(土) 22:06:38 ID:2aC9Td6u
NTRはこないかな
463名無しさん@ピンキー:2010/01/05(火) 16:03:54 ID:i4Hz7Lk6
今の未完ってどれだけ??
464名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 12:02:31 ID:EN6QKXNl
465名無しさん@ピンキー:2010/01/17(日) 23:38:23 ID:vBglTMpH
保守
466名無しさん@ピンキー:2010/01/21(木) 06:40:47 ID:z5WaM2Wo
保守
467名無しさん@ピンキー:2010/01/21(木) 18:31:36 ID:7tiUqCt1
マガジン総合スレがあるしそっちに行くべきか
468名無しさん@ピンキー:2010/01/21(木) 21:41:56 ID:p1y84Brd
時間できたら投下するから待って
469名無しさん@ピンキー:2010/01/27(水) 23:20:53 ID:frNwTSB0
保守
470名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 01:21:28 ID:bVdMCtYK
228の続きはまだ需要ある?
エロ少なくなっちったけど
471名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 01:46:47 ID:MlCU4mL6
あるに決まってる!!
472名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 21:24:32 ID:AfcIivXV
>>470
うおおおお!?マジで?
ずっと待ってたよもう読めないかと思ってた!是非ともお願いします!
473名無しさん@ピンキー:2010/01/28(木) 23:12:53 ID:A9SkX+6R
>>470
あるよ!完結期待してます!
474名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 06:52:04 ID:TCZcYDAc
あれ? 完結してたっけ?
475名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 18:02:34 ID:50I3yHaC
 んでは>>228の続き

 待っててくれた人にありがとうございます!と言わせて欲しい
 そして遅れてすいませんでした

 以下、注意点

 ・おにぎり話。しかし八雲好きな人でも???と思うかもしれない
 ・というのも幽子(幽霊の少女)がかなり登場、自己流+エロパロ向けな解釈を交えたためらしくない話になっている
 ・他キャラについても諸所の事情をでっちあげ
 ・そして肝心のエロが宣言に反しやっぱり少ない、ごめんなさい
 ・話としては完結。何度かに分けて投下予定


 あまりに時間をあけすぎたのでまず最初にあらすじを↓

 塚本天満の渡米から一年。元2-C一同は天満を含め全員が矢神高校を卒業した。
 卒業式の日、播磨拳児は卒業を機に天満への想いを終わらせようと漫画を描く。
 だがネームを読んだ八雲にそれを否定され、同時に彼女からの告白も聞かされる。
 改めて自分の心と向き合った播磨。八雲の協力もあり、自己完結せず天満への告白を決行。
 結果、報われることはなかったが黙って終わるよりも得るものはあった。
 天満への気持ちがすぐに消えることはないだろうが、八雲とのこれからを考えるようになる。
 八雲と同じ時間を重ねていきたいと思うのだが、あろうことかその夜に天満公認の下、八雲を抱くことに。
 一方その頃、三者の知らないところでは幽霊の少女が意味深な言葉を発するのであった・・
47627-3(おにぎりルート):2010/01/29(金) 18:08:32 ID:50I3yHaC


 ―――――*―――――



 虚飾なき僅かな陽光。あまりに薄く透けたそれが瞼の裏を優しく撫でてくる。
 はるか彼方、黄金に燃ゆる恒星から遠路はるばる青き星まで、日本国の矢神市にある一軒の日本家屋へ。
 囲いを越え不可視の傷多き窓のガラスを透けて入り込み、使い込まれたカーテンの隙間を縫って、部屋の暗闇を通り抜けようやく届いた微かな光。

 朝の訪れを世界中に告げるためのほんの一部が顔の上に敷かれていく。
 そこから伝わってくるものは単純な温かさだけに限らない。
 明るくて騒がしい毎日の始まり、忙しくも楽しい大人への道。
 自分を大きくしてくれる一歩一歩が、今日もスタート。その合図。

 雀の囀りや縁側をコツコツ叩く小さな足音。瓦の隙間をついばむ烏のくちばし。
 次々と数が増えていくが、朝の運動に励む伊織に追い払われて飛んでいく。
 いつも通りの朝の雰囲気だが――八雲はどこか違う気がした。

 まず温かい。それは自分自身の体温とは違う感じだ。
 嗅覚に戸惑い。台所が近いらしく何故か一階で寝ているのだと分かる。
 謎の半端な浮遊感。体が何か…坂の上に乗りあげているようで…平行感覚が異常を教えてくれる。
 仰向けに眠るのだから、後ろに引かれるように重力を感じるはず。だがそれが逆。
 横? いや、うつぶせ気味に寝ているようだ。それにしてもこんなに寝相は悪かっただろうか。
 どの道おかしな体勢で寝てしまったのは間違いない。体のあちこちが痛いのだ。特に……。
 (あれ……この痛み……)
 肌からの感触もかなり違う。いつものふかふかした肌触りではなく少し硬め。しかも衣類を通さないで直触りしてるようだ。
 畳の上? そうじゃない。もっと強い跳ね返しのあるものにダイレクトで触れている。そして温かいのはこれが理由。
 うっすらと開いた目に飛び込んできたのは壁だった。少し濃い目、陽の赤みを持つそこはあの人の引き締まった胸板のような。
 (よう、な…?)
 上下する肌黒い表面、それを盛り上げる筋肉、浮きあがった骨模様、頬をくすぐる柔毛。
 意外とかわいらしいおへそに、女の自分とは違う隆起の控えめな、小豆のような左右対称の黒ちょぼ。
 例えではない。目の前にあるのは男の体である。

 (……っ、裸!? 男の人の!?)

 意識して開くよりずっと速く、空だった目の中央が面積を拡大していく。
 目の前にあるのが愛する男性のものだと一瞬で分かってしまい、八雲の頭の中が一気に覚醒した。
 目覚めに対し肉体は女芯の痛みでもって返してくる。
47727-3(おにぎりルート):2010/01/29(金) 18:12:33 ID:50I3yHaC

 (!? な、何で私…あ……///)
 元来寝起きがあまりよくない頭だが、カシャカシャと抜け落ちた記憶が埋まっていく。
 嵐のような思考の波がやがて規則正しい波紋となり、周囲の情報を集めた五感が疑問を次々に解決する。
 昨日あった全てを思い出し、裸の拳児に同じく一糸纏わぬ状態で体を預けていると理解した頃には遅かった。
 恥ずかしさとどうしようもない手遅れ感に八雲は固まってしまう。
 姉と拳児と自分との間で色々あった結果、彼に…そう、抱かれ……自分からも求めてしまい…そのまま眠ってしまったのだ。
 体の鈍痛は夢でない証拠。だが痛みを自分のものとして喜ぶより先に、八雲はこれからのことを考えていた。

 (ど、どうしよう…サラは…いない……ね、姉さんは?)

 いたとしても相談(何を? どうして欲しい?)できない。
 脹脛を攣って目覚めた朝より動けないでいると、背中から少し冷たい空気が入ってくる。
 不自然に横に伸びていた腕が布団をはみ出て誰かに先を握られている。その相手はもちろん最愛の姉だ。甲と平を左右の手に包まれているらしい。
 すうすうと感じる懐かしい寝息。一緒に寝ると、目が覚めるのはいつも自分が先。けれど大切なこの人は決して離してはくれなかったのを思い出した。
 「んごーんごー」
 「すーすー」
 緊張を溶かしてくれる、気の抜けたいびき。二人分が合わさって心を落ち着けてくれる。それは奥底の大事な思い出を呼び覚まさせる懐かしさに満ちた旋律。
 八雲は普段の冷静さを戻して少し笑った。そのまま瞼を下げていく。幸せな現状を心に馴染ませようと、頭の芯にまで静かに安らぎを広げるために。

 拳児と重なる部分に感じる夜伽の残照。目に見えぬ薄い衣を、汗を感じる肌の上に纏っているよう。
 愛された数々の行為を不思議とはっきり覚えていた。思い出す度に体の萌芽した部分に幸せが満ちていく。
 初めてを受け入れた部分には、彼と自分がそこで繋がり達した証がまだ存在していた。
 お腹の下にじんと残る痛みも大事なことを忘れず覚えさせてくれているようで。
 再度、確認。傍らにいるのは紛れもなく――

 「……播磨さん」



 播磨拳児。自分が愛する男。自分を愛そうとする男の人。
 二度とない日にもう少しだけ甘えさせて欲しくて、八雲は体を半分ほど重ねた後に完全に目を瞑った。


             *

 「遅刻する〜! も〜何で八雲起こしてくれないの?」
 高い叫び声がエコーがかって残響する。ああ懐かしい、と心引かれたのはそれを耳にした近隣の住人。
47827-3(おにぎりルート):2010/01/29(金) 18:13:49 ID:50I3yHaC

 味噌汁の鍋をコンロにかけながら、天満は妹の携帯を使いお詫びのメールを友人らに送信していた。
 塚本天満の本日の予定――午前中は学校で皆と最後の語らい、そして昼下がりには烏丸とともに空港へ。
 思い出の力をたっぷりと充填して夢に向かって……また、"日常"へと戻る。

 しかしそんな算段を聞き流すように、お日様は既に半分ほど空へと上昇済みだった。
 暖められた気流に押され雲はすっかり大空へ拡散している。要するに彼女は――いや三人は、揃いも揃って思い切り寝過ごしたのだ。

 「ご、ごめんね姉さん。昨日『もうお姉ちゃんはお寝坊さんは卒業したの。任せてね!』って言ってたから安心して…」
 携帯を返してもらい、サラに三人で向かうことを自分もメールする。電話だと長話になってしまいそうだから。
 「うう……で、でもホントだよ! アメリカにいる時はお姉ちゃんね〜」
 昨日は嬉しいことが多くてついうっかり! とわたわた慌てる天満。
 八雲ももちろん疑っているわけではない。責める気はさらさらなくて、むしろ叱られるべきは自分であると考えていた。
 めったにつかないはずの嘘をついているのはこちらであり、裏で舌を突き出しているに等しいのだから。
 「……ごめんね、姉さん」
 「え?」
 「ううん」
 実は天満が起床する以前から八雲も拳児も目覚めていた。
 だが建前上、二人はおおらかに寝過ごしたことに。天満に起こされて初めて目覚めたことに、している。
 拳児が一番の寝坊助で八雲が二番ということに、している。している――というのは何故なら今日の朝に二人は……


 一度過去へと戻る。


             *


 重くないかな? 瞼の裏に朝日を感じながら、八雲は少し心配だった。

 軽いな、食べてるのか? 経験のない状況に困惑する一方、拳児は純粋に八雲を気遣う。

 姉の寝息のする部屋の中で。
 八雲は拳児の背面に手を回し、自分を引きつけるようにして胸と胸をぴったりと重ね合わせた。
 拳児は心臓の上に乗せられたものが八雲の乳房であると分かった。リズムの早い動悸が伝わってくる。
 幸福の音。トクン、トクン――高まる百年機関の一拍、その一波に乗せられたのは互いの気持ちと真情。

 静かな呼吸に徹し、八雲は拳児の、拳児は八雲の心音を感じ取ることに努めた。
 互いの僅かな温度差が溶け合い、高まる命の音が同じリズムに収束し、やがて重なり合って。
 自分と相手の肌と肌との境界が分からなくなり、体はもちろんのこと心も精神もそして命さえも繋がりあって。
 それは、二心一体の存在に生まれ変わったような至福。八雲という存在、拳児という存在に自己を委ね、そして委ねられる随喜。

 とうにお互いの目が覚めていることは察していたが、変に取り乱すようなことはしなかった。
 拳児は言葉にしなくても、八雲は心を視なくても、全てが知覚できてしまいそうで。
 むしろ口を開いたら幸福の瞬間が終わってしまいそうな不安さえあった。
 運命がもたらした二度とない偶然なのではないかと。
 夢と同じく、少し経てば思い出せなくなってしまうのではないかと。
47927-3(おにぎりルート):2010/01/29(金) 18:16:25 ID:50I3yHaC

 八雲は拳児を深く慕う一方、彼にとっての天満が後は思い出へと成り行くばかり、とは夢にも思っていなかった。
 むしろ、これで本当によかったの……? と、自らに矛先を突きつける。拳児の後悔を探そうとする思考を振り払いきれないままでいた。
 身を縮めてより強く抱きつく。こうしていれば音とともに心そのものも全部が知られてしまう気がして。いや、知られていい。知って欲しい。
 自分の中にもし彼にとってふさわしくない、やましい部分があったとしても――それさえも。
 昨日の拳児の勇気と行動、その言葉。想いを馳せ、自分に選ばれる資格があるのか心と向き合う。

 高校生活の全てを賭けた播磨拳児の恋。
 どれほど正面から受け止めることができただろう。
 彼に二度とない愛を寄せる女として、塚本天満を最愛と自負する妹として。
 続けることができたはずの恋を終わらせたその罪。今後も背負う覚悟はあるか。
 行いに卑しい企みはなかったか。無意識だとしても、合理的だとしても。
 偶然と好機を使い分け、汚い部分を隠し美徳のみの同情湧く姿を見せ、心引く真似をしなかったか。
 相反する気持ちと称し、優しさに甘え、権利を主張したあげく、彼の心のある無防備な場所を無視して割り込み、己の都合に満ちた醜悪な感情を根付かせなかったか。
 疑問が次々浮かぶ。一つ一つに答えられるほどの器用さはとても持ち合わせていない。

 (理屈ではないのかもしれない。けれど――)
 ――彼が姉を愛してくれたこと。一途な愛をもってくれたことを疎ましく思ったことは一度たりともない。
 貫かんとするその想いが嬉しいのは、そうだと答えられる。あなたが姉さんを好きでよかったと言うことができる。感謝している。
 自分の弱さから苦しい思いをしたことは数あれど、最愛と称する姉へ、幼少からの信義に反する恥知らずな裏切りをぶつけたこともない。
 これまでも、今も、いつでも、そして――いつまでも。

 (それなら……私は……ほんのちょっぴりだけ、それを……私の自慢にしても……いい、のか、な)

 播磨拳児が播磨拳児であったように、塚本八雲が塚本八雲であれたこと。
 まどろみに溶け込む前に、八雲は心に正直であったことで先程の鬱々とした疑問に答えることができた気がした。

 (あ……眠くなってきた……姉さん、大丈夫だよね? だから…もう一度寝よう。今ならいい夢が見れる気がする――)


 ピクンッ

 (え?)

 そのまま眠ってしまえるはずが、八雲は脚の付け根あたりを撫でられた感触に思わず眉の形を変える。
 問いかけるように指の腹を彼の背で泳がせてみると、ひゅーひゅーと拳児から少々わざとらしい寝息がした。
 (これ…って)
 裸同士で密着しているからこそ、肌と肌で温めあっているからこそ、その部分が特に強く熱を持っていることが分かる。
 触れてくる物体の今の形を調べようと、八雲のたっぷりと柔肉の張った太腿が少しだけ動く。
 女性的な部分を擦り付けられ、拳児の分身に朝の生理現象と合わせて血流が集う。
 グンと隆起したかと思えば力が抜けやや傾きが低くなり、かと思えば反発する。太腿を行き来される感触に八雲はあぁ、と感じ入った声を漏らした。
 (わ、私……朝なのに……姉さんがすぐ後ろで…寝てるのに……いけない、声を)
 再び拳児からふーふーと寝息がする。今度は更にわざとらしかった。
 この人は起きているはずと八雲は思い、ばれているだろうなと拳児も理解していた。
 だが言葉がない。良き家族、良きパートナーとしてある種これ以上ないほどの清廉潔白な関係を築いてきた自分達。
 それがつい昨日に、肉体関係に及ぶ男女の仲に進展したとなれば……怖くて不安だった。これまでの関係が崩れてしまわないだろうかと。
48027-3(おにぎりルート):2010/01/29(金) 18:17:47 ID:50I3yHaC

 八雲は自分の上半身を少し動かして、昨晩深く愛された自分の胸を拳児に余すところなくと押し付けた。
 自己アピールや何かのサインを狙って、というわけではない。
 この状況ではかける言葉が見つからない。なので少し前と同じことを試みたのだ。
 肌を通じドクンドクンと会話することで、言葉を解さず互いを深く知り理解し合おうと。

 案の定、鼓動は高鳴っている。それで二人は悟った。
 お互いが既に目覚めていて、慣れるはずもないこの状況に困惑しつつも、心地いいものとして受け取っているのだと。
 八雲はそれを嬉しく思う。猫のように頬を顎下にすりよせ、片手で拳児の体を深く抱いた。キスマークの残る二つの膨らみがぺったりと胸板に広がっていく。

 (…あ。まだ、大きく……播磨さん)

 意識を下腹部に戻す。乳房の感触を受け、拳児の分身は昨晩同様に活性化し何かを求めるように震えていた。
 どこか苦しそうに脈打つ彼の証。八雲は企みなく思った。――これを癒し、慰めてあげたい。昨晩とは違うやり方で。
 経験はないが、年頃ともなれば少しばかり知識はある。本当は怖い。男子が自分に対して想像し――視てしまった時などは……辛い。
 だけど彼になら。恥ずかしい行為だが……播磨拳児にだけ、なら。彼しかいない、なら。

 (でも、だめ…今は姉さんがいるもの…起こしてしまう……それに、もしもこれが私の勘違いだったら…)

 八雲が窮地に陥る一方で拳児。脳裏には一晩に津波のような勢いで知ってしまった柔肌の感触がこびりついていた。
 女を抱くという行為を知った今では、腕の中に八雲がいるだけで、その豊かに発達した体の隅々までを頭にイメージしてしまう。
 この一年間、八雲に対してはどこか頼りなくとも保護者として、そして兄として接しようしていた部分もあったはずなのに。
 今はもう、薄明かりの中での情事を思い返す度に、また八雲を深く知りたいと思ってしまう。
 できれば今度はもう少し明るい場所がよかった。そのほうが体がよく見える。
 (……いけねえ)
 拳児はぐっと心を抑えた。何故なら、彼女には芸術的な美、庇護意識さえ見出している一方で……自分の裏の貌。即ち――暴力をぶつけたいと考えてしまうのだ。
 大切に大切にと想っていた少女に。決して傷つけてはいけない八雲に。こうしてやりたいああしてやりたいと、殴る蹴るとは違う暴力を。

 キスをしたい。愛らしい舌を絡めとって唾液を飲ませ、内面までを自分のものにしてやりたい。
 両手を動かし、釣鐘型に張り出した胸乳に指を沈めて、欲に任せ弄び思い通りの形に変えてやりたい。
 甘い喘ぎを聞かせて欲しい。普段の清純で禁欲的な態度を崩して自分の前だけで搾り出す女色に満ちた声を。
 (だ…だめだ……堪えろ……)
 宝石のような雪白の肌に瑕をつけたいと願ったとしても、八雲はそれを受け入れかねない。
 だからこそ耐えなくては。生理現象では収まりつかない興奮を抱いている。だが今は我慢しなくてはいけない。
 咲きたての花を思い起こさせる滑らかな肌。拳ばかり受けてきた己の胴体に、癒すようにかかってくる吐息。
 保護本能と破壊衝動の双方が激しく揺さぶられる。
48127-3(おにぎりルート):2010/01/29(金) 18:18:52 ID:50I3yHaC

 「うーん…むにゃむにゃ。からすまくーん、やーくも、はりまくーん……グウ」

 そんな拳児にとって、天満の存在は正に雨季の晴天、乾季の雨。
 布団の擦れ、漏れ出る音、二人分の荒い息遣い…何で起こしてしまうかわからない。
 思い出せ。今日は、そして昨日という日は彼女を置き去りにしていい時間ではなかったはず。そう考えれば理性を優勢に立たせることができるから。
 そして拳児は気合を入れるつもりでついうっかり腹の下に力を入れしまい――

 「! ぁ…っ」

 ひどく敏感で大事な箇所を男性部に触れられてしまったのか、八雲が今あるとまずいものランキング上位――発情した声の露呈を行う。
 拳児は自分の中での軍事バランスが逆転寸前まで覆されるのを感じた。

 (なあに大丈夫。だよな拳児?? ちょっとくらい触っても大丈夫―って違う!)
 (は、播磨さん…だめ……それ以上、ソコを擦られたら、私……)

 合意の上で知った、ひどく魅力ある異性の裸。
 それを前にして何もしてはいけないという不思議なルール。
 拳児は、そして八雲も初めての経験に朝から苦悶させられ崖際に追い込まれる。
 待てば何か解決するというわけでもないのに、時間さえ度外視し狸寝入りを貫く二人。それしかない――それは本当に長く続いた。

 ・・・・・・

 ・・・・

 ・・

 「…ほえ? 今何時? やくも、時計どこ〜〜…あったぁ! ……………」

 コッチ。コッチ。時計の針が静かに時を刻む。

 「うっっっきゃああぁぁ〜〜!!? ね〜す〜ご〜し〜たぁぁぁ!」

 本当に長く続いた。
 天満が叫びながら目覚め、癇癪とともに妹に声をかけ、反応を確かめないままに部屋を出て、
 八雲が姉の離脱を確認、次いで布団から這い出て(四つんばいの彼女を拳児はつい見てしまったが)手早く散らばっていた衣類を身につけて、
 拳児の分は傍にそっと並べ(この気遣いは彼女らしい)、俯き無言で出て行き、ようやく最後に残った拳児が今起きたような声を出し――終わりかけの朝を迎えるまで。
48227-3(おにぎりルート):2010/01/29(金) 18:23:55 ID:50I3yHaC

             *

 (播磨さん、すごく元気だった…もし姉さんがいなかったら私達は一体……って、な、何考えて……)

 いつものように髪を纏め上げて後ろで結う八雲。だが露になった細首の内側は僅かに汗ばんでいた。
 結局、妙な我慢比べは天満が目覚めるまで続いてしまった。だが熱い名残が体から未だ抜け切らない。
 水を飲まない限り消えない乾きのように。そんな、たった一晩のことで? 誰も聞いていないのに八雲は首を左右に振る。
 洗面所からは水の流れる音がしていた。

 桜色に染まった清艶な表情をそのままに、形のいい眉の位置を下げる。
 エプロンを纏い台所に立つ。今は急いで朝食の用意をしなくてはいけない。
 実のところ、てきぱき動くと体の芯が痛んで倒れそうになるのだが、昨日の情事が起因しているのは明らかなので口に出せない。

 冷蔵庫から昨日のうちに用意しておいたゆで卵を取り出して、五つほど殻を剥き四等分にし野菜と並べた。
 予定より手抜きの朝食になってしまうことをやはり詫びて、それでも伊織の分含めて手早い準備を進めていく。
 やがて洗面所、いやその奥の風呂場からの音が止まりとんとんとんと足音がする。

 「ぁ……あー、妹さんもシャワー浴びてきたほうがいいぜ。朝飯の用意は…俺とお姉さんとで、何とかしとくから、よ」
 「は、はい……では、お願いします……」

 湯気を立ち昇らせた拳児がサングラスをつけてのれんから顔を覗かせる。
 今朝の葛藤などなかったように振舞っているが黒眼鏡の下は気まずさに満ちていると八雲は思った。
 何故なら、それは自分も同じだから。さりとて、浮きながら沈む気分を安定させるのにシャワーは確かに適している。
 一度意識したせいか、八雲は今すぐ熱湯を浴びたい気持ちに駆られた。

 (本当はシーツも洗いたいけど……時間的に、帰ってきてからの仕事かな。サラにばれないように隠すだけはしておこう……)

 残りの作業を頼んだ後でそんなことを考えながら、八雲は風呂場へと向かうのだった。


 ・・・・・・

 ・・・・

 ・・


 「はい姉さん。こっちはちゃんと砂糖を混ぜてあるから甘いと思うよ」
 「やたっ! 八雲ありがとう!」
 「妹さんは予想済み…か」
 普段なら八雲は玉子焼きに砂糖などいれないはずである。
 自分やサラの好みがそうだから……と、拳児は普段と変わらぬ玉子焼き、醤油のかかったそれを箸で割り口に運んだ。
 これはシャワーを早めに終え、残りの時間で彼女がわざわざ姉のとは分けて作ってくれたもの。
 後で作ったのに砂糖の甘さが混じることはなく、塩の加減は美食家の皆様はともかく播磨拳児個人がこれ以上ないと感じる味を保っている。
48327-3(おにぎりルート):2010/01/29(金) 18:24:32 ID:50I3yHaC
 「あの、お味は……」
 「うめえよ。いつもと…いや、それよりうめえ」
 「あ、ありがとうございます……嬉しい、です」
 八雲の料理上手は今更だが、熟し具合や卵の皮一枚一枚の厚み、全体の形や切り口の入り方等の、
 もはや個人の細かな好みといえる領域にまで配慮して拘ってくれるのは大変ありがたい。
 これに比較すると、付け焼刃の技術と知識で作っただけ、食べてもらえればそれでいいというレベルの品(自分のことだが)など
 頑張りましたの努力賞さえ恥ずかしくなる程に霞んでしまう。

 胡瓜と白菜のお手製おはづけ、鰹節で出汁をとり一晩寝かせた、スタンダートな豆腐と昆布、椎茸の味噌汁。
 白いご飯に彩りのいい紅鮭が半切れ。昨日の中身にゆで卵を加えた、ドレッシングの違うサラダ。
 玉子焼き以外にもそれなりのものを用意した八雲の手腕に関心しながら拳児は順繰りに味わっていく。
 食事の途中に差し出されたのはこれまた自分好みに熱いお茶。少しずつ口を慣らして食事の最後にまとめて胃に収めると、一日分の熱を得たようで落ち着くのだ。
 息つく間もない朝になったが何とか出発の時間には間に合いそうだった。

 「あ〜ほらほら播磨君、早く準備して!」

 が、少しのんびりしすぎたらしい。早々に食事を終えた天満が荷物を片手に急かしてきた。
 ある種の理想系といえる朝であったが、旅行用のトランクははっきりとこの時間が日常とならないことを明示している。
 止むを得ず拳児は口の中をまとめて流し込んで朝食を終えた。ごちそうさま。
 さて、準備するとしよう。その内容は……。

             *

 「はーりまくーん! 二階でこそこそ何やってるのー?」
 「悪い悪い! 今行く!」

 とんとんとん、と足音。拳児が鞄一つを抱えて階段を降りて来る。

 「遅ーい! ふんだ、私なんて遅刻すればいいと思ってるんだ」
 「違う違う、悪かった! じゃあ伊織、ちょっと出てくるから留守を……ん? どした」

 玄関先にて。家を出ようとした時、朝から姿を見せなかった伊織が横から拳児へと近寄ってきた。
 留守を頼もうとするが、返ってきたのは普段のあくび混じった唸りではなく――。

 《……》
 (へ?)


 「…播磨さん?」
 「はーりまくーん。早く早く〜」
 「ああ悪い。…ありがとよ、伊織」
 固まっていた拳児だが、二人の声に促されはっとなる。伊織の頭を一撫でして立ち上がり背を向けた。
 やがて最後の戸締りを確認し二人を追うべく家から出て行く。
 ぬるめの陽気。清々しい空気。季節の変わり目に合わせたほんの少しの変化が目につく。
 だが拳児の頭のどこかでは、飼い猫の言伝が他の情報に紛れるなく残り続けているのだった。
48427-3(おにぎりルート):2010/01/29(金) 18:25:57 ID:50I3yHaC

             *

 学校までの移動手段ならいくらでもあるが、天満は徒歩にすると決めていた。
 何故なら自分に妹、そこに拳児を加えて三人揃って学校へ行くのはこれが多分最初で最後なのだから。
 記憶に残るべき春の道を一歩一歩、どこからか届く桜の香りに運ばれるように進む。
 そして並んで歩き出して間もなくの頃。
 「そうそう昨日の夜――」
 「ぎくっ」「っ!」
 途中、拳児が分かりやすく声に出して、八雲はその態度で詰まる。
 いよいよ有耶無耶で終わっていた昨晩の出来事について触れてきたのだと――ぴくりと拳児のこめかみ、八雲の肩が張った。
 根堀り葉堀り、あれこれと聞かれてあることないことまくしたてられてしまう。
 そして悲しいことに半分以上は真実できっと否定できない。
 考えるだけで顔の体温が上昇していくのが分かる。

 「……八雲の部屋をちょっと覗いたんだけど凄いね、世界の建物とか動物とか服とか小説、大辞典。漫画のための資料が一杯なんだもん」
 「え?……う、うん。そういうのは私が管理してるから…」
 けどもう少し女の子らしい部屋にしないと〜と続く声にいつもと違う意味で覚える安堵。
 あまりにも無難すぎた想像と違う質問に、八雲は逆にすかされた気分になった。
 「そして夜中に聞こえちゃったんだけど」
 「ね、姉さんそれは…!」
 「最近このあたりに猫増えたの?何だか伊織のお友達がやかましくてね〜」
 「……うん。たまにね、仕事場の窓から入ってきたりもするんだよ」
 なんとか喉を鳴らして返事。フェイントかと思ったがそうでもなかった。結局、なかったことになっているのだろうか。
 嬉しいような、寂しいような。二人がそう考え出した頃。

 「八雲のことも播磨君のことも。私は信じてるから…大丈夫。こんなことしか言えないけれど、応援してるよ」
 「…塚本」
 「姉さん…」

 僅かにまだ溶けた雪の冷気を含む空気の中で、枝々の間から穏やかな幾筋もの日差しが届く。
 その中央で、光を余すとこなく浴びようとくるくると踊り、振り向きながら、少し照れくさそうに話す天満。
 やましい思念を純白の光に清めてもらったようで、二人にはとてもありがたかった。

 「(でも後でチョット教えてね? 妹の初体験、ここはお姉ちゃん的に避けて通るわけには――)」
 「(だ、ダメ……も、もう覚えてない…から)」
 「(うーんじゃあ、恋人っぽくデートの予定とかないの? 春休みだよ、来年度は八雲も受験生だから行っておいたほうがいいよ?)」
 「(それは……うん。今度の日曜日に約束してるよ……恋人というか……その、元々の約束……だけど)」
 妹の首に腕を回し頬擦りできるまでに顔を近づけて、嬉しそうにぼそぼそ話す天満。
 ちょっと真面目になったかと思うとすぐに調子を落とす姉へ、八雲はほとほと困り果てたように違……と告げる。

 「…二人とも、早く行こうぜ」
 急いでるんじゃないか? と拳児は歩きながら助け舟を出すことにした。
 頬を染めていた八雲は慌ててそれに手を伸ばし姉の詰問から逃れる。

 「そ、そういえば播磨さん、家を出るとき伊織は何を?」
 動物の考えていることが何となくわかる――それは八雲が憧れる拳児の美点の一つ。
 サラ達と一緒に動物園に行った時などは、その夢ある力のおかげでただ見るだけとは違った楽しさが生まれたものだ。
 「ああ、大したことじゃねえんだけど」
 朝の会話としては申し分なく健全であるし、実は八雲もあの伊織にしては珍しいことだと気がかりではあった。
 いや、むしろ珍しいからこそ本当に特別な意味があるのではないかと考えてしまう。

 「何だかよくわからねえけど……《気をつけろ》ってさ」
 「え……」
48527-3(おにぎりルート):2010/01/29(金) 18:32:20 ID:50I3yHaC

 意図の分からぬまま進み――そして距離にして丁度学校と自宅の中間に達した頃、だろうか。そのときだった。

 (! この気配……)

 ぴりっと背筋に針で突かれた様な感覚。
 傷にもならない傷から冷気が伝い、背の全面に無視できない震えをもたらす。
 膨大に広がる砂漠をさ迷うような途方もない脱力感。乱れていく方向感覚。何度も感じた、深い海の底を漂う異質な世界。
 その入り口が目の前にあるのが八雲には分かった。意識が眠りに落ちる寸前のように危うくなる。

 「(……あの子?)姉さんごめん。播磨さんと先に行って貰っていいかな?」
 「え? どうしたの、忘れ物?」
 「うん…伊織のご飯忘れてきたのを思い出して」
 嘘をつく自分が正面の姉を見ていないのは承知している。
 その更に向こう側、自分達の進路を阻むように立っている――そう思うのは視える自分だけだろうが――幼き少女に視線は向けられているから。

 声は昨日も聞いたが姿を見るのは約一年ぶりである。こみ上げてくるわずかな嬉しさと懐かしさ、そして緊張。
 空に浮かんではいないため、今なら永い時を生きてきたという彼女をただの幼い子供に見ることができ、ない。
 外見年齢からは考えられない、足まで届くその長髪。
 履物のない、日の光を浴びても一切の色白さが変わらぬ素足。
 成長にあわせた肌の変化や輪郭の形成等、『生きてきた時間』が全く見られない異質な全身。
 必死で人間の世界に馴染もうとしているようにも見えたが無理がある。
 いつもは自分が一人でいる時に現れるのに今日は何故…と八雲は少女が姿を見せたのと合わせ疑問に思った。

 「? 伊織はちゃんと食ってたぜ?」
 「それは…最近あの子はいっぱい欲しがるんです。多分他の子に……走れば間に合うと思いますから、大丈夫です」
 「……わかったよ八雲。でもちゃんと出発までには来るんだよ? ほらほら播磨君、行こう」

 今の妹は自分達以外のものを見ている。そう理解した天満はあえて八雲の提案に乗ることにした。
 拳児の背を両手で支えぐいぐいと押し強引に距離を取る。

 (ありがとう……ごめんね姉さん、播磨さん。必ず行くから)

 二人は自分から離れていく。そして前に進んだ分だけ少女に接近していく。
 視えているのは自分一人だろうが、八雲はその奇妙ともいえる光景をじっと見つめた。

 ちらちらとこちらを見て疑問を口にする拳児も、やがて受け入れるようになったのか、自分の足で歩きだしていた。
 あの二人が少女の隣を通り過ぎ、自分の視界から消えてから大事な対話が始まる。
 八雲は過去の体験を根拠に、疑うことなくそう考えていた。
 次の瞬間、拳児の発した一言を聞くまでは。

 「おう嬢ちゃん。こんなところでどうした? 迷子か?」
48627-3(おにぎりルート):2010/01/29(金) 18:34:58 ID:50I3yHaC


 ―――!?

 「いいえ、違うわ」
 「ねえキミ、このあたりの子? お父さんとお母さんは?」

 ―――――!?

 「……触らないでよ」
 「きゃっ! ご、ごめん……」
 「おいおい。いけねえぞ人の手を」
 「ううん、いいの播磨君。…あ、あれ? あなた、どこかで――」

 目線を合わせようと屈み込む拳児と天満。二人はどう考えても"別の誰か"と言葉を交わしていた。
 二人――いや三人との距離は表情が分かるほど近くはない。けれど八雲にはその瞬間、少女が嘲ったのをはっきりと認識した。
 そこには極限まで悪意と負の感情が込められていて。興味本位で巣穴から外に出る兎の子を空から狙う猛禽が思い起こされて。
 無根拠に信じてしまっていた。心の隙間を狙って亀裂を広げてくる少女の狙いは常に自分、それ以外にないと。

 八雲は悟る。ああ私はなんて愚かな思い違いをしていたのだろう――。

 「姉さん逃げてっ! 播磨さんもっ!!」

 昨日も彼女は姉を何と評していたかを思い出す。
 泣き出しそうな八雲の叫びを引き金とするようにほぼ同時。
 少女の、何とか現実に有り得るかもしれない長さの漆黒の髪は、擬態を止めた。
 叫ぶように倍以上に膨らみ、二人の立つ空間ごと覆い尽くす程の広がりを見せ、獣の口に似た形で、瞬きするより早く八雲の最愛の人間達を喰らう。
 拳児と天満は驚いたようだが逃げる間などない。墨汁が広がるようにその姿が塗りつぶされ八雲からは見えなくなった。
 「やめて!」
 声はきっと届かない。聞き入られない。拒絶あるのみ。分かっていても八雲は叫ぶ。
 叫びながら走り、襲われた二人に向かって駆け寄りながら手を伸ばすことしかできない。
 そして黒の生きた津波が狙うは二人だけに留まらなかった。うねるような大蛇の群れとなって本命であろう自分に迫る。
 逃れられそうにないその量は拘束どころではない。飲み込まれるように、視界は黒で潰れていった。




             *


 卒業式を終えた矢神高校は静かだった。
 今日も授業を受けているのは、残された約七割の生徒。
 だが三年生のいない学校というものは、今までの繋がりが突如断たれたようで物寂しさに包まれていた。

 職員室。現在、ほとんどの教師は授業や各々の用事に出ている。

 「静かですなあ」
 「まったくです」

 その例外たる二人。
 一人は、いかにも口うるさく頑固そうで、生徒からはわずらわしく思われるだろう太く丸い体躯をした男。
 一人は、多くを許容しそうにない細い目に、言葉の隅まで拘りそうな口の形をした、枯れた木を思い出させる男。
 彼らは忘れ物を思い出すような気だるい表情で椅子に腰掛けていた。
48727-3(おにぎりルート):2010/01/29(金) 18:37:23 ID:50I3yHaC

 「いやはや…元2-Cの連中がいなくなって……嬉しくて昨日は飲みましたなあ」
 「まったくです。…嬉しくて、嬉しくて……私など今日、学校へ来ても彼らがいないことを確認したら……泣いてしまいました」
 「ほう。加藤先生もですか」
 「はい。郡山先生もですか」
 合わせてニッと軽く笑うと、二人はそれっきり、天井から吊たれた、埃の積もった蛍光灯を見つめ黙していた。
 昼過ぎの職員室はそれっきり音を失う。パタパタパタ――足音が近づいてくるその時までは。
 ガラッ。乱暴に開かれた扉から入ってきたその人物は、しなびた髪を半分だけ覗かせる。

 「おや谷先生どうしました。そんな息を切らして」
 「すいません、ウチの塚本がまだ来ていないようなのですが、連絡はありませんか?」
 「塚本? ああ二年の…いえ、谷先生のということは留学している姉のほうですか? ……学校には電話もメールもありませんが…それが?」
 「その塚本……いえ、姉妹両方なのですが」


 ――塚本天満と塚本八雲が姿を消したという。最後の足取りは、昼前にった友人への連絡メール。両名は耳を疑った。


 直接空港へ発ったわけではない。最後のメールには学校へ行くとあったし、肝心の烏丸大路は今は保健室、専用の移動車は玄関近くで待機している。
 天満を笑顔で送別するため、卒業したはずの元2-C・2-Dの面々も学校に来ていたのだが、いつまで経っても姉妹はやって来ないではないか。
 家の電話や携帯に連絡しても一切が通じない。やがて誰かが不安を口にするようになった。それを皮ぎりに悪い予感が伝染していく。
 待つことに耐えきれず、沢近愛理や東郷兄妹が家の人間を塚本家へと向かわせるも、確認されたのは飼い猫一匹。そして……

 「家から学校までの道の途中に、塚本八雲の学生鞄が?」
 「なんと…」

 携帯や財布、その他一式が入ったそれは、まるで二人が煙のように消えたことを示すようで。関係者全員の胸に恐ろしい暗雲が広がった。
 休み時間に事情を知った現2-D生徒も授業をそっちのけで心配し、手の空いた教師らも協力し行方を追っているが、未だ何も掴めていない。
 そして学校としてはまずいことに、口の軽い生徒がいたのか尾ひれ背びれのある話が既に学内にまで広がっているという。

 烏丸大路の飛行機の便は今日。だがあと一時間ほどで出発しないことには遅らせることになってしまう。
 だが天満はともかく烏丸はただの旅行客とは違うのだ。病人相応の扱いが求められる。融通を利かせるのは難しい。

 次々知らされる新たな面倒事の気配に、二人の教師は先程の腑抜けとも見えた表情を引き締めた。

 「…分かりました。警察へ連絡するしかありませんな」
 「いいのですか? マニュアルには――」
 「彼女達の安全が危ぶまれています。責任は私が」
 「谷先生に迷惑がかかることはしませんわい」

 この人達も変わったなあと内心思いながら、谷は迷う時間も惜しいといった風な二人に頭を下げ礼を送る。
 代表として加藤が受話器を手にした。骨の浮かぶ指が専用のボタンを押す。

 "はいこちら矢神警察…矢神学園ですね、どうされました? 事件ですか? 救急車ですか? いるならば怪我人の数、発生からの状況を正しく冷静に――"


 「……生徒が二人――行方不明に」




48827-3(おにぎりルート):2010/01/29(金) 18:45:00 ID:50I3yHaC
 ―――――*―――――

 ここまで。実家が規制うけてるので次投下は月曜日に。
 いろんな意味で痛い話が続くので一気にいくかも。
 エロ突入は週末ぐらいには・・
489名無しさん@ピンキー:2010/01/29(金) 22:13:15 ID:qAB+WKYJ
続編乙です!
朝一のエロが寸止めなのは残念
幽霊が襲ってきた上に警察沙汰とは一体どうなってしまうんだw
490名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 09:23:47 ID:MjEf6D8u
月曜にも期待
491名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 20:08:58 ID:lAwLELdx
ごめんなさい
明日の朝になる
二日分
492名無しさん@ピンキー:2010/02/01(月) 23:50:56 ID:usENG1UN
無理しないでも大丈夫だよ。完成したら投下で
OKよ。
49327-3(おにぎりルート):2010/02/02(火) 08:41:45 ID:vO1MZtsQ

 ホントすいません。二話同時は明日にしようかと、構成上。
 というわけで487の続き。

49427-3(おにぎりルート):2010/02/02(火) 08:42:22 ID:vO1MZtsQ

             *

 昼の近い、閑静な町中にいたはずだった。
 足元は硬くアスファルトで整備されていたし、建物の多くが角や直線或いは円で区切られていた。
 どこかの家の枝葉には雀が群を成していて囀っており、それを猫がじっと見つめている。
 おしゃべりに興じる近所の主婦達。たまに見回りの警察官が自転車に乗りやってきて。
 赤色の二輪車にまたがった人が帽子を深く被り郵便受けに手紙を入れていく。
 そんな、素朴で見知った町中にいたはず――だった。

 なのに湿った闇の匂いがする。
 今の頭上は夜のように暗く、宇宙のように奥深い靄が広がっていた。
 すぐ周りには窪みと膨らみ、柱のようなものまであって音を立てて臓器のように震えている。
 それは以前テレビで見た地底の洞窟……いや、生物の体内を特殊カメラが収めた映像に近い。
 目の先で何かが暗くもぞもぞと動く。膨大な量のそれは一本一本が鉄柱より硬いだろう、髪の塊。
 足元はアスファルトの硬さを失っていて南米の湿地帯のようにぬかるんでおり、体が沈む不安さえあった。
 「う…っ……あっ」
 頭よりも高くそこからやや後ろの位置に両手がある。間接部には強い拘束を感じた。それはこの空間では自分にとって数少ない経験あるもの。
 信じられない硬度と長さを備えた髪の縄。その力は他にも足や胴、首元にまで及んでいて体をギリっと軋ませてくる。
 これはかつての状況と同じ状況だった。

 自分よりずっと年上で、遥か以前から子供の姿でさまよっている。初めて会った頃、彼女はそう言った。
 けれども一年程前には自分で生んだ幻、心の映し絵であるようなことを示唆された。結局ただの幽霊と笑われたが…それは本当に、本当?
 どうしても気になって個人的に調べてみたこともあったが、これといった手がかりは得られなかった。
 せいぜいが世間一般で流れている面白可笑しい噂――子供の好きそうな、オカルト雑誌にありそうな、そんなものばかり。
 ――ただし。その中でどうしても怖く思ったものがあった。
 それは得てしてありふれた話。手垢のついたよくある話。
 生前の未練が何かの偶然で人ではなく霊となり、肉体を求めて生者に取り憑き魂を剥離させんと狙っている――というもの。
 それがどうしてか怖かった。
 ……彼女の正体はさておき、その姿を求めて周囲を見回す。
 突然迷い込んだはずのここがどこなのかよく分からない。なのに既視感があった。
 鏡に写る自分を見た時に感じる一瞬の違和感、それをずっと濃くしたような。
 そう――ここは正に、見えるもの全てを恐れた、他ならぬ自分の内面そのものではないのだろうか。
49527-3(おにぎりルート):2010/02/02(火) 08:44:25 ID:vO1MZtsQ

 「なんじゃこりゃあああ!? ぐっ」
 「あ、あうぅ…い、痛いよ…」
 「――姉さん、播磨さん!」
 八雲ははっとなり悲鳴に目を向ける。吸い込まれそうな黒の中にいる二人のほうへ。
 意外と近い距離にいた天満と拳児は同様に手を頭の上で拘束されて、一本の木の枝のように曲がった格好のままかろうじて立っていた。
 足や首の自由も闇そのもののような黒髪に奪われている。そして抵抗できないよう肌に食い込んで締め上げられているのだ。
 訳の分からぬまま、必死で体を動かして逃れようとしているが、相手があの少女では力の強い彼でも通用するはずがない。
 大型の肉食獣が捕らえた獲物を引きずるように、ずるずると髪の束が重たげな音を立て、そこへ三人分の呻きが混じる。

 「何で? 止めて……二人は関係ない……うっ!」
 腕がねじ曲がる痛みを堪えながら八雲は必死に原因であろう少女の姿を黒雲の海に求める。
 今すぐ二人を解放してもらわねば。こんなことは認められない。自分以外は狙われる理由がない。
 過去に姉は会話をしたことがあったようだが危害を加えられた様子はなかった。
 それが今になって何故……愚かな思い込みであっても理不尽を感じる。
 呼び掛けに応えるように、どこかで声がした。

 《こうして会うのは久しぶりね……》

 齢の重ねた何かの声。それは人間が出すものとは絶対的に違った。鳥獣や草木が喋ってもこれだけの違いはないだろう。
 丁度、三人の中央付近に位置する闇の幕間が二つに裂ける。間からは幼くあどけない、だがひどく無機質な表情の少女が姿を現した。

 《お姉さん、あなたは覚えているかしら。そしてケンジ……はじめまして》

 「な……さっきの、ガキ?」
 目の色は鴉色にほんのりと赤。背よりも丈のある白のワンピース。
 少し前の記憶との最大の相違点はその黒髪だろう。頭から地面や背後に伸び、更にそこから空間全体へ蜘蛛の巣状に張っている。
 絡まり合うことなく真っ直ぐに伸び、一本一本のどこを見ても艶やぬくもりはなく色褪せず、色は塗りつぶしたように黒。
 巨大な頭巾のようにも見えるそれが鳥篭の形になっていて、自分達は今そこに閉じ込められている。その一部が身体を束縛している。
 そして自分達を招いたのはこの少女なのだと、拳児や天満は直感のみで多くを理解した。

 「二人を、放して……! 私の、大事な人を……うっ…巻き込ま、ないで……!」
 「八雲?」
 「妹さん!?」
 先に八雲が要求する。痛みを堪え、憤りを押し出した声で。
 何らかの事情を知っているらしい態度に天満と拳児は揃って驚き、酸素さえ絞りとられそうな圧迫感を堪え、優雅にも醜悪にも映る謎の子供を見つめた。

 《そう邪険にしないで。今回で最後だから……用事を済ませて、言いたいことを言わせてもらおうと思っただけよ》
 「最後……?」
 お友達になれたとも思っていた少女。最後、と言葉を繰り返したとたんに八雲に怯えの影が差す。凍ったように抵抗が止んだ。
49627-3(おにぎりルート):2010/02/02(火) 08:46:00 ID:vO1MZtsQ

 《そう、最後。……あなたが私を何だと思ってるのか、どこまで理解してるか知らないけれど、二人のためにも話してあげる。私の目的も合わせて…ね》

 余裕を隠さず飄々とした少女の顔は、長い時間に裏づけされた自信に満ちていた。
 合わせたように沈黙する三人に満足したのか、それぞれ一瞥した後に少女がうっすら乾いた笑みを浮かべる。
 そして八雲に近づき、おとがいを人差し指で持ち上げて呼吸を置いてから囁いた。

 《ねえ……もう、いいでしょう? もう充分に楽しんだでしょ? そろそろ……その体を頂戴》
 「っ――」
 「ふっふざけんなっ! お前はあれか、悪霊ってヤツで妹さんの体を奪い取ろうとか考え――がっ!!」
 「は、播磨君!」
 真上から伸びてきた黒い荒縄が絞首刑のロープにも似た形で巻きつく。首を縦に真後ろへねじられて、拳児は人体構造的に沈黙させられた。
 ミリミリと聞こえてきた嫌な音に天満が腹の奥まで震わせての悲鳴をあげる。だが一方で八雲は静かだった。静かに、ただ下を向いて震えていた。

 《悪霊だなんて失礼なこと……ああ、言い方が悪かったのかしら。ならこう言えばいいのかしら、その体を……『返して』って》

 これでどうだと言わんばかりの口調。結局意味することは同じことだったが、八雲はそれに答えない。
 最初に見せた勢いはすっかり失われ、冬の月よりなお青ざめた顔に肯定を意味する沈黙だけが残っている。

 (この子は、やっぱり…………私、なんだ)
 《半分は、ね。もう半分は最初に言ったとおり、ずっとずっと以前から世界をさまよっている存在よ。もっともあなた達人間とちょっと違う世界だけど》
 「え、え……! 八雲? ねえどうしたの、ねえ…」
 天満は身体に加えられている苦痛以上に心が強く締め付けられた。
 理解が追いついているらしい妹は虚空に取り込まれたように項垂れて無表情。
 吊られた人形と見違える程に体から力が抜けている。記憶にあるどの姿よりも痛々しくて弱々しい。

 《説明してあげる、"おねえちゃん"》
 少女が八雲を離れて天満に近づく。そして秘密を教えるように小さく口を開いた。
 おねえちゃん――自分をそう呼ぶのは八雲だけ。なのに呼ばれた瞬間、少女が口にするのは相応しいと天満の直感が告げる。
 お化け人形のような髪に全身を縛られて、体を返せという意味不明の要求に、凍てつく蒼白さを見せた妹が目の前にいるというのに。

 「おねーちゃん? てめえが、んなこと言うんじゃ」
 《…ヤクモはね、昔から弱い子だった》

 首周りの縛りが少し緩み、荒い呼吸を許されたばかりでも即座に口を挟む拳児。
 だがささやかな野次は無視されて、振り下ろされる刃物のような声に乗りそれは語られた。言葉と同時、どこからか生ぬるい風が吹き抜ける。

 《本当に本当に心が弱くてね。どれくらいかというと……守ってくれる人がいないと立てないくらい。
  いないならいっそと、自分の心が殺せるくらい。自分で自分を否定してしまえる程に。今の姿からもなんとなくわかるでしょ?》

 昔の八雲――拳児は書斎で見つけた写真を思い出す。
 確かにあの頃の彼女からは今と繋がらない雰囲気が感じ取れた。
 だが心を殺したといわれても、納得はおろか八雲が狙われる理由と全く結びつかない。

 《……大小あれど、人の子には自分の心の在り方を定める力があるわ。
  見え始めた目、動き始めた手、届き始めた音、感じる世界の広さとその中にある自分という存在。
  親の瞳に映っているそれは何だろう…見える世界の真ん中にある何か。声を出すと震える部分。自分、そしてそれ以外との境界を知る。
  やがて学習を始めるわ。周りの環境からどうすれば生きられるのか、何をすれば周りが自分の味方になるのか……理解を進め適した心を作る。
  物心つくと同時に失ってしまう力。人の持つ一度きりの力。一度決めた心は成長こそすれ後戻りはできない。ただしヤクモの場合は違った》
49727-3(おにぎりルート):2010/02/02(火) 08:49:54 ID:vO1MZtsQ

 少女はそこで言葉を切ると、重力を断ち切り見えない翼があるように舞い上がる。
 うなだれる八雲の近くへ再び音も立てずに着陸し、袖の下から出てきた自身の手で髪を掴みあげた。
 そして見せしめのように首を拳児と天満にぐいと突き出す。
 「うっ……あ、ぁっ」
 「――!」
 顔の向きを無理矢理に変えられて八雲の顔が激痛に歪む。その乱暴な扱いを見れば胸が熱くなるも、
 当の八雲の漂白しきった顔色に二人は言葉を失ってしまう。彼女だけはこれから先の言葉を理解しているらしかった。

 《この子はね、一度こうだと決めたはずの自分の心を殺して新しいものに変えたの。ずるいわよね、どれだけ嫌でも人は自分以外になれないのに。
  世界を怖がり、自分さえも偽って、全てから逃げる。そんなの、例え生のさなかに死を味わうことがあったとしてもいけないことよ。
  足手まといでしかないおねーちゃんが自分を支えようとしている。何もできないくせに力になろうと必死になっている。
  それは飢えていたこの子にとって早天の慈雨。衝撃だったんでしょう。生まれ変わるように心を入れ替える必要があったんでしょう。
  ……それでもいけないことよ》

 ほんの少し、拳児は話の裏が分かったような気がした。
 幼少から天満は天満のままだった。八雲は違った。だがそれは――。

 「それがどうした! ガキの頃と今が違うなんてよく聞くハナシだろうが! 俺の知り合いには不良の伝説作っておいて教師やってる奴もいんぞ!」
 《そうね、自分の意思と努力で変えた強い人間はそれなりにいるでしょうね》
 「は!?」
 意外なくらいあっさりと肯定されて逆に言葉に詰まってしまう。
 今の話と、このオカルトチックな存在が八雲を狙うことといかなる関係にあるのか理解できない。

 《だけど、殺された側の気持ちを考えたことはある? これからに都合が悪いからって一方的に排除された"心"の気持ち。
  今までこうだと決められてきたのに突然用はないと裏舞台以下へ蹴落とされ、本来の自分と切り離された無念だけが残されて》

 捨てた、殺された、と物騒な表現が続く。
 拳児は顔をしかめるがそれより少々興奮気味の口ぶりが引っかかった。まるでこの少女自身が――。

 《身体から切り離された心はもう消えるしかない……じわじわと削られて少しずつ組み替えられていく自分を見ているだけ。
  ……けど、消える前に誰かが拾ったりもする。器を失って宙に浮き、終わりを待つだけの…それを求める存在だっているの。
  私のように、子供の無防備で色薄い心を……守ってくれる肉体のない心を糧にするモノがね》

 それが本来の自分だ、というように自らの身体に手を当てて少女は目尻を遠くを見るものに変える。
 感慨深げに懐かしむように。それは終わりなき世界に生きる者だけが持つ感情なのだろうか。

 《丁度その頃、私は私の世界を生きる限界に来ていたの。
  永遠に近い時間で世界を旅していた…けれどその間、何もせずただ在り続けることはできない。不老かもしれないけれど不死じゃない》
 
 目を見てしまった拳児は一瞬だけ敵意ではなく同情心が湧きあがってしまった。
 心境など理解できるはずもないが、老いのない生は何となく辛いことのように思えたから。
 めちゃくちゃもいいところで理解の外にある彼女に、ほんの少し触れることができた気がしたから。
49827-3(おにぎりルート):2010/02/02(火) 08:53:09 ID:vO1MZtsQ

 《余裕もなかった私はヤクモの捨てた心と一つになって――…私は彼女の精神も魂も姿も、全てを得たわ。もちろん、記憶も。
  そして"私"がどうして消えなくてはいけないのか、その無念も知った。ねえ、おねえちゃん?》

 「それって……じゃあ、あなたは…やー…っく、かはっ!」
 「天満ちゃん!?」
 何かを言おうとした天満の首を鈍く光る髪がねじり締め付ける。思い出に浸っていたはずの少女の瞳に宿る、明らかな敵意。
 拳児は胸の中に冷たく重たい、汚れた雲が広がるのを感じた。八雲を狙ってきたというこの幽霊の目的。狙いは本当に八雲なのだろうか。もしかして……。

 《けどね……今まで、成長して力をつけてきた二人に話しかけることはあったけど、それはただの興味本位。
  復讐しようとか思ったわけではないの。ううん、最初はそう考えていたのかもしれない。だけどしなかった。どうしてだかわかる?》

 問いかけの後、斑の一つもない白い顔がそのまま口を閉じる。
 返事を待つためでなく考えさせるために時間を空けたのだと分かった。

 《……それは、おねえちゃんが"私"を大事にしてくれたから。
  何もできないくせに一生懸命で、どれだけ嫌っても離そうとしないで。
  そのおかげでヤクモはあなたのために生きようと決めて、それが元の私の死……本来の心の排除に繋がったとしても。
  それが嬉しかったの。本当よ。本当に嬉しかったの。本当に、本当に、"私"を愛してくれたのだから》

 "本当"を繰り返し、長い想いを注ぐ少女。だが彼女はもう八雲を見てはいなかった。話しかけても反応がないために飽きたのだろうか――違う。
 今の言葉は天満に伝えたいものなのだ。話を真に受けるならば、彼女は半分は幼少期の八雲と同じ心を持っていることになる。
 外見年齢とかけ離れて言葉の種類が多いのは、元々から古から生きていたように語るのは、もう半分の幽霊としての長く在った記憶があるためだろう。

 《命を繋いでからは見てるだけ。でも嬉しかったわ。これならいいかなって……心を得ても、所詮は一時的な糧。
  また次の心を得るか、肉体を手に入れない限りだんだん失われていく……だけどそれなりに見届けて、消えてしまうのもいいかと思ってた》

 少女の言葉は矛盾していた。よく夏に噂となる悪霊が持つ、生への執着と憎悪がないのなら……今、八雲の身体を狙う必要がないのだから。
 つまりこの発言は後に撤回されるのだろう。何故か……その理由、恐ろしい予感に脳の芯が突かれて痛む。

 《身を張り、心を削り、互いを支えあう麗しい姉妹愛。
  ……分かれたばっかりの私は、二人の励ましの裏にある心細さがよく分かったし、何よりおねえちゃんの隣にいるのはヤクモだけど"私"でもある。
  だから、二人に免じて何もしないであげようと思った……今から一年前、おねえちゃんが約束を破る前までは》

 嗚呼。胸に兆していたものが的中したことに三人は言葉を無くす。
 本気にする必要のない妄想であってくれたらよかったのに。夢見がちな子供の囃し立てに過ぎないと。
 その中で八雲だけは、以前から少女が姉へ毒を向けていたのを知っていたために、二人とはまた違った感情を自らに注ぐ。
 もっと早く……心当たりのあった自分が、もっと早く止められなかったのかという後悔を。

 《私が甘かったのよね……子供の心しか得てこなかったものだから。恋というものを知らなかったから。
  まさか、おねえちゃんにまで捨てられるなんて思っていなかった。ずーっと一緒にいるよ、なんて言ってたくせに!
  ヤクモ本人を焚きつけてみても、それがおねえちゃんの幸せだからって、受け入れようとしていた!》

 もう少女は……幼い八雲の心を得たという化生は、怒りも憤りも無念も、あらゆる負の感情を隠そうとしていなかった。
 人の理解を離れた少女が初めて見せた人間らしい感情。だからこそそれがどれだけ毒々しくあるか伝わってしまう。
 声の節々に憎しみがあった。ピンと張った髪に込められている力は、我慢ならないと拳を握るように震えていた。
 血潮の瞳は、そこを通して見た世界に真紅を添える映写機かとばかりに充血していた。
 感情を視覚のみで表現しようとすればこんな目になる。拳児はそんな気がした。
 そして少女の話を裏付けるのも、八雲に少しだけ似ているこの瞳だと。
49927-3(おにぎりルート):2010/02/02(火) 08:55:04 ID:vO1MZtsQ

 語らいの間にも絡みつく髪はその力を緩めない。きっといつでも自分達の命を自由にできるのだろう。

 《好きってよく分からないけれど不思議なのね、大事に大事にと言っていたものを突然虫以下に変えてしまうなんて》
 「違うよ! 私は、私はそんな風に思ってない!! でも、でもね。どんなに仲がよくても、いつかは―」

 叫んだのは天満だった。少女に臆することなく抗してみせたのはどうしても否定したかったことがあるからだろう。

 《ふ……ふふ》

 しかし少女は含み笑いで受け流す。
 拳児にはその意味が最初はよく分からなかった。知ったのはその直後。あまりに筋書き通りに進んでたまらないという意味があったことを。

 《……私はいろんな人と世界を見てきたわ。その中にはあなた達に似た姉妹も大勢いた。なので知ってたのよ、やがては別れがあるということを。
  だからこそ期待していたのに。どんな最後、どんな結末になるのか。何が残り、いかなる言葉が間にあるのか。……おねえちゃんに、何て言ってもらえるのか。
  それが……ふ、ふふっ…まさか、まさか……"何もない"なんて。あはははは!》
 「そ、それ…は……っ!」
 少女がたまらないと活気づく。冷徹で狂気の混じる嘲笑。言葉の指す出来事が何のことか……天満にも拳児にも、八雲にも分かった。
 そして三人の中で八雲だけはどうして今彼女がやってきたのかも理解した。待っていたのだ、自分とそして姉が再び出会う日を。

 《ま、それは私の勝手。子供の嘘を評価しすぎた私が愚かだったの。そして、約束が嘘であったなら、遠慮する必要なんてどこにもない。
  正当だと思わない? 元々は私の物を返してもらうくらい。取り返すだけならいつでもできた……でもぎりぎりまで待っていたわ。
  おねえちゃんの目の前で、あなたのために生きてきた妹を奪ってやれるこの日をね!》

 唖然とし動けない天満の前を睨みつけ、裂けそうなほどに口元を開いて少女は宣言する。
 愉快極まりないといった風に笑い転げる子供の理屈と姿は、大人に成長していくことを受け入れられない哀れさが見え隠れした。
 これは童心の暴走。そして八雲に小さな手が迫る。それがどんな刃より危険だと分かっているのに、誰よりも強い力がそこにあるために、少女を止める手立てがない。

 「ま、待てコラ! 何してる、妹さんから離れろっ!」
 「ひっ…や、八雲…」

 ――ありえない光景に拳児は叫び、天満は絶句した。少女の指先が八雲の額に埋まっていくのだ。
 水に人の身体が沈んでいくように……粘土に指が埋まっていくように……ずぶずぶと。最初からそうであるように。
 別々の存在が交じり合う過程でありながら、八雲は八雲の、少女は少女の形を保っている。白と黒が混ざっても各々の色を失わない矛盾。
 それが一層目の前で起きているのは異界の出来事だと強調していた。改めて、目の前にいるのはヒトではないのだと思い知らされる。
 「や…やめて」
 八雲は言葉を失い、呆然と自己を侵す"元・自分"を見ていた。そして僅かに発せられる拒絶の言。
 だが暗く輝く指先に触れられて、虚勢の衣さえ容赦なく剥ぎ取られる。一瞬で心を裸にされてしまった。

 《怖がる必要はないわ。元に戻るだけと考えなさい。きっと新しい私達も今のあなたと同じ人を好きになる。友達も……そして男の人も。
  楽しみだわ、男の人が好きってどんな気持ちになるのかしら。きっと大事な家族なんてどうでもよくなるんでしょうね》
 「い、嫌…あ、あぁ……」
 逃れようと八雲が一瞬だけもがく。だが蜘蛛の巣にかかった蝶の儚さしかそこにはない。
 八雲は自分が一枚の葉なのだと考えてしまった。日の光を浴びほどよく育ち、そして芋虫の大群にむしゃむしゃと食べ尽くされるのを待つだけの。
 自由になる数少ない器官…自分が奪われる恐怖で赤く腫れた眼が彷徨い――天満と合う。

 タスケテ、オネエチャン――そう訴えた。ぼろぼろと涙を流し、幼い哀願で媚びる様に。そして天満は弾かれるように叫んだ。

 「止めて、八雲から離れて! 私が、私が悪かったから! もうどこにもいかない、もう絶対に離れない! だから――」

 その瞬間に天満は確かに選んでしまった。好きな人ではなくてたった一人の妹を。八雲も拳児も望まないことを。失うよりはいいと思って。
 しかし――それを聞いた少女は、天満の尊い宝石のような涙を永久凍土の冷たさで見下した。

 《あ、そ。でもごめんなさい。嘘はもう聞き飽きたから》
50027-3(おにぎりルート):2010/02/02(火) 08:56:29 ID:vO1MZtsQ

 そっけなく、無頓着に。そして却下する途中で何かを思いついたらしい。
 瞳は真円に開かれ、口元が嗜虐的な高揚感で満ち溢れた。そして少女が悪夢が口ずさむ。

 《決めたわ、身体を取り返すだけで終わらせない。その後で嘘つきのおねえちゃん、あんたを殺してやる》
 「――!」


     *

  ――殺してやる?


 あまりに現実離れした話だった。
 身体を奪う。心の分離、目に見えない存在との結合。幼心の復讐。
 そんなことあるはずがない――そう考えて、どこか本気になれなかった。
 申し訳ないことに、二人が崖際に立たされているというのに、映画の中の非現実感が勝っていた。

 けれど……そうか。それが狙いなのか。二人を"そうする"ことが目的。


 ――言い換えられてはっきりしたぜ。言ったな。もう取り消しは許さねえ。

 「……いいかげんにしろテメエ……!」
 《?》
 八雲を、そして天満まで――。絶対に認められない言葉。それが拳児の戸惑いを蒸発させた。
 執拗に邪魔してくる汚らしい髪の塊を引き千切ろうと、腕が力を注がれ膨らむ。荒鷹の瞳をし、鬼気迫る気迫で全神経を活性化させて振りほどこうとする。
 護らなくては。絶対に。こんなお化けにこの姉妹を奪われてたまるものか。

 「が、あぁぁぁ……!」

 突然の別れだったのはそうだろう。充分な言葉も時間もないままに長い別離は訪れてしまった。
 確かに天満のために八雲が受けた苦痛はあるのだろう。
 幸せを選んだのは天満、だが楽を選んだわけではない。
 代償を受けたのは八雲、だが哀の感情に流されなどしなかった。
 それが捨てられたなどという認識にどう繋がる? 本気でそう考えているのか?

 確かにもう少し、もう少し――時間をかけた方法があったのかもしれない。
 それでも八雲は自分が見捨てられたなどと毛ほどにも考えやしない。
 世界の全てが揃って"はい"と答えても、八雲だけは"違う"と答える。
 誰しもが選ぶその道を選べない、ひどく不器用な子なのだ。
 それが分からず半分でも八雲であるかのように語るな。

 天満とて昨日言っていたのだぞ。毎日毎日八雲が泣いていないか心配でたまらないと。
 不安で確かめたくなってしまう。だから一年を経た妹の成長した姿が嬉しかった。
 ――これから、幸せになっていく妹を、傍で見れないのが残念だと。

 二人をずっと見てたのだろう? なのにまだそんな口が聞けるのか。訂正させてやる、絶対に!


 だが、拳児は怒りのあまり気付いていなかった。右肘に一際多くまとわりついた髪蛇を。そして――


 …………ボキッ
50127-3(おにぎりルート):2010/02/02(火) 09:06:44 ID:vO1MZtsQ
 ――――――――――――

 いったんここで切り。あんまり引っ張らず明日一気に投下してついていけない世界の話は終わる予定。
 感想はとても嬉しかったです。もっと早く時間作ればよかった・・と。
502名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 18:15:37 ID:rqD8HJIt
ん〜…乙。
503名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 22:20:22 ID:b1QGJZMG
この設定・状況では仕方無いけど
播磨の幽子に対するトゲトゲしさが少しきついかな…
504名無しさん@ピンキー:2010/02/02(火) 23:18:25 ID:N8fqzSp4
乙です。このスレ過疎りぎみだから、一気に投下するよりは
少しづつ投下したほうが良いかも
50527-3(おにぎりルート):2010/02/03(水) 20:01:44 ID:dRzC4DSb

             *


 昼休みの廊下を歩く。
 騒がしいなと刑部絃子はため息をついた。
 原因は分かっている。塚本姉妹が行方不明になった件だ。
 二人、特に姉のほうにはたかが数時間行方が分からないくらい――では済ませられない事情がある。

 噂の広がりは早い。休日であれば騒ぎになどならないだろうに。
 しかし生憎と今日は平日、しかもつい昨日に記憶に残る卒業式があったばかりとあらば、仕方のないことだろうか。

 絃子は歩速を緩くする。生徒達のひそひそ声を聞き取りやすくするために。
 案の定、耳に届いてくるはどれも同じ話題であった。
 絃子とて二人が気がかりだったが、違うのはある男のことが混じっている点だろう。
 播磨拳児――あいつはどこへいったのかな、と。
 今日になってメールが来ていた。
 準備しなくてはいけないことがあるのだが、時間が無いらしい。それで自分に頼むとのことだ。
 労働の対価は後で請求するとして、現在本人はどこへ消えたのか。
 生徒や教師は姉妹ばかりにかまけているが、自分としては卒業していった彼のことも同じくらい気になる。
 何故なら彼はあの姉妹と一緒にいるからだ。メールにはこうあった。

 "天満ちゃんと妹さんと一緒に学校へ向かう。――、をしなくちゃならねえんだけど、ちょっとできねえ。なので頼む"――と。

 勝手に押し付けていった拳児が今どうしているのか、絃子は気にかけながら次の授業の準備を……。そこで、次は特に受け持ちがなかったことを思い出す。
 どうするか。普段なら茶道部で茶を一杯頂くところだが、頼まれた用件と姉妹の捜索をせねばならない。
 数秒後には彼女は動き出していた。人手は多いほうがいいかと、美術室を目指して。
 もう一度だけ、播磨拳児がどこで何をやっているのか――おそらく面倒ごとであろうが――まさか姉妹が消えた原因になったのではあるまいな、と思いながら。






             *

 嫌な音がした。割れて潰れて、生き物が爆ぜたような嫌な音。

 「っ!? が、あ……ぁ……!」
 「播磨君!!」
 《あら。男の人だし、ちょっと力を込めてみただけなのに》
 「―はりま、さん……や、やめて…」
50627-3(おにぎりルート):2010/02/03(水) 20:04:27 ID:dRzC4DSb

 決意を笑い声が潰す。拳児の奮起は軽い音で否定された。
 用は済んだとばかりに彼の右肘から少女の髪が引いていき長袖の学生服が露となる。
 曲がるはずの肘は、不恰好に重ね合わせた棒のように歪み伸びていた。

 「あ、あぁぁ……」
 「がっ……っ、へ、へへ……。まだ、まだ…天満ちゃん、妹さん……待ってろ。今すぐ、助けて、やっから……な!」

 腕を折られた。だが拳児としてはなおも笑っているつもりだった。なので顔を二人へと向ける。月のない荒れた夜空、轟く雷鳴に怖がる子供を安心させてやるように。
 そのつもりだったのに、天満も八雲も青白い表情で悲しそうな涙を流し、しかも自分に向けているのが残念でならない。

 拳児は理解していなかった。笑顔のつもりだった自分の顔が、苦痛の本心と見せ掛けの余裕が中途半端に混ざったものであることに。

 「こんなもん、すぐに…ぐがあぁぁ……!」
 《……》
 一面に広がり今も視界のあちこちで蠢いているのは、絶望を思わせる無限の影。
 その全てを味方につけている余裕が少女にはあった。一方の拳児には重いハンデがのしかかる。
 おまけに何も改善しない。自分の身体が傷つくことなど度外視して力を込めているのに。命の焔をごうごう燃やし力に変換しているのに。
 毒々しい拘束具は空気を掴もうとしているように手ごたえがない。

 《……一つ聞いていいかしら? どうしてあなたはそんなに頑張るの? 分かるでしょう、無駄よ。私には勝てないって》

 図星だった。今まで叩きのめしてきた強敵達。比較するには余りに小柄な少女が、全員を足してもなお勝る力を有している。
 天王寺や花井、マックスに執事のナカムラ。そして烏丸大路――勝利を収めたことにない絃子や編集長、船長の力を含めても――いや。
 これは力とかそういうものではない。拳児は実感し始めていた。正に人の手の及ばない領域の存在。
 例えミサイルが飛んできてもこの化け物は平然とそこにあり続ける。
 「――それがどうした! が、あああぁぁぁあ〜〜!」
 《好きな人のため? でもおねえちゃんはあなたを求めていない。ヤクモとはたった一日。なのにどうして頑張るの?》
 「う、うるせえ……」
 《あら、勢いが弱くなったわよ》
 急所を的確に殴りつけてくる指摘に、頭の中がかっと熱くなる。ふらつきそうな自分の無力がただただ悔しい。
 大切な少女達を、天満と八雲を護らなくてはいけないのに。熟すことなく二人が別々の道を歩くことになったのは自分も無関係ではない。
50727-3(おにぎりルート):2010/02/03(水) 20:05:09 ID:dRzC4DSb

 (無関係? それどころじゃねえ――!)

 そう。今日になり突然やってきた…いや、姉妹がそれと知らず抱えていた爆弾を……炸裂させた原因は。

 (俺のせい……なのか? アメリカに連れて行ったから――)

 全てが一つの根になった瞬間力が抜けそうになった。迫る事実に全身が裂けそうになる。
 そんな自己否定の後悔に首が傾いた。無力感が怒りを上回ったのだ。

 だめなのか? 自分のような半端者は好きな女を救うこともできないのか。命を護ってやることさえも。
 それどころか逆に不幸を招いてしまうなど……それでは俺は何のためにいるのだ?

 (ち、く、しょ……う)

 鞭のようにしなる黒模様の大群は一向に衰える気配も見せない。少女の呪詛ばかりが脳裏に響く。
 そして瞼が徐々に下りていく。全て閉じてしまった時、本当の終わりになってしまうとわかった。

 体から一つ一つ大事な何かが抜けていく。それは思い出と形容されるはずのもの。
 この世界の何物も惜しいと考えたことはなかった自分。それを変えた少女、塚本天満との。
 なんと得がたい、かけがえのない宝か。彼女がいなくては自分は生涯、愛するということを知らなかっただろう。
 なのに思い出の詰まった箱が抜け落ちていく。決して離してはいけないものが離れていく。何故か――――吸われていくのだ。

 『播磨拳児のせいで塚本天満が死ぬ』

 近くにやってきたその認識が何より巨大で、あまりに重過ぎるために。
 そして塚本天満を失うということはそのまま播磨拳児の喪失に繋がっていく。
 自壊を防ぐには……忘れるしかない。自ら手放し、なかったことにする。

 拳児は失われていく形なきものを必死で抱きしめた。
 と同時に、これを手放せればどれだけ楽だろうかと考えてしまった。
 それはほんの大河の一滴に過ぎない微細な感情。けれど、その意思は僅かだけ神経を唆してくる。

 ――拳児は力を抜いてしまった。それだけで彼女との全てが自分の中から離れていってしまった。
 一瞬だけ楽を感じた後に無限の後悔がやってくる。続いて自分自身もなかったことになり、闇の彼岸へ消えていく。

 抱え切れなかった悔しさに涙を流した。畜生。誰か、誰かそれを拾ってくれ――。

 
 ・・・・・・

 ・・・・

 ・・

50827-3(おにぎりルート):2010/02/03(水) 20:06:54 ID:dRzC4DSb




 “――さん”

 目を閉じる寸前。声がした。はっきりとしないが誰かに向けられた声。
 それはとても優しくて、懐かしい。勇気が篭もっていた。ぬくもりもあった。
 呼ばれたナントカさんとやらは幸せ者だな。

 “――さん”

 また声がする。良い声だった。光の恵み、水のせせらぎ、穏やかな風、育む土、温もりの火、安息の影。生きるための全てを兼ね備えていそうな声。
 おい、やめてくれ。似てるんだよ。この一年で一番よく聞いたあの子の声に。ん? 誰だっけ。

 “――、さん”

 しつこく声がした。だから止めて欲しい。勘違いしてしまうじゃないか、俺が呼ばれているんじゃないかと。
 思い込みの強さは筋金入りで、いつも間違った方向にしか行かないとそれなりに自覚してるんだぜ。ん?
 せっかくもう眠ろうとしていたのに……いや、眠ろうとしたら聞こえてきたんだったな。
 ってことは耳から入ってきたっつーより、オレの内側からの声なのか? いや両方?

 “――、さん”

 ここはどこだ、水の下か土の中か、はたまた空の上か。今何時だ、太陽が眩しい。起きろってか。ああ分かったよ。



 「播磨さん……!」

 光を受ける目のレンズが突然機能を取り戻した。耳がいきなり空気の振動を捉えられるになった。
 鼻から吸う空気は酷く淀んでいる。口の中の渇きを初めて知った。そして右肘がひどく痛い。
 体の自由が全く利かず、何事かと思えば両の手足がガチガチに縛り固められていた。

 「はりま? ……それが俺なのか? あんたは?」

 不気味で、よくわけのわからない世界だった。狭苦しくて息するのも億劫そうな。ああ、空気が肘に染みて痛い。
 すぐ近くには自分(ハリマという。変な名前だ)同様、両手を高く掲げて拘束されたまま身動きできない女の子がいた。
 先程の声の主。きっと本当は美しい容姿なのだろう。きっと、というのは少しだけ彼女の顔が残念なことになっているから。

 何よりもまず目を引くのは額である。太い角がそこから生えていた。ファッション――違う。生えているのではない。
 外から突き刺さっているのべ棒(人の腕か?)が角のように見えるだけ。血は出ていないようだが、痛くないとは思えない。
 次に声からの想像に反し、意外と鋭い紅玉の瞳。生まれつき色素が濃いのか――いや、それもあるかもしれないが、今は泣いているから赤いのだ。
 最後にその、しょっぱい味のしそうな口。涙なんて今はどうでもいいのか、人の顔を見て大切なものを呼び起こすように俺の名を叫んでいる。
 名前はもう知ってる。なので他人に構うより刺さった角のことを考えろと言ってやりたい。俺の肘より痛いだろ?
 なのにその子は止めない。ならば、そこまでして続けたいなら、そんな顔は止めて欲しい。
 泣くよりも笑顔が似合うのに。ん? 何でそう思う、見たことあるのか?

 「播磨さん! 播磨さんっ……!」
 「あんたは、誰だ……?」
 「え…播磨…さん?」
 ああ馬鹿だ。おかしなことを口走ってしまった。困ってるじゃないか。でも原因は分かっていた。
 ひどく自分が空洞なのだ。少し前にまで自分が何をしていたのか思い出せない。だから埋めて欲しくて何かを求めている。
 それにこの子なら、たった一言でも、俺の言いたいことを察してくれるんじゃないかと。何故かそう考えてしまった。
50927-3(おにぎりルート):2010/02/03(水) 20:08:55 ID:dRzC4DSb

 「……」

 本当に何もない自分に理性が焦る。とりあえず、よくわからない理屈で記憶障害は納得させよう。
 そうだな…走馬灯みてーにごく僅かな時間で人生を振り返ることがあるなら、逆に一瞬の間だけ人生を忘れることがあってもおかしくないだろ?
 さあ、これでどうだ。当たっているとすれば、忘れていられる残り時間はきっとない。思い出してしまう前に彼女の口から名前を教えて欲しかった。


 「……私は」

 その子はゆっくりと濡れた唇を動かしていた。

 「私の、名前は――」

 ただの味気ない文字列ではなく、自分の外も内も真実も、全てを晒すよう、生まれて初めてといっていい力を込めて。

 「――八雲です。塚本…八雲……」
 「そっか……いい名前だな」



 ! ――。何かが切れて終わる感覚。水に沈み、また浮いてきたような。それが時間切れの合図だった。
 戻ってきたかと、拳児は瞬間に全てを思い出していた。肉色を帯びて揺らぐ壁。巨大な生物の胎内を思わせる、死にかけた獣のような見覚えのある世界へと。
 何故自分の肘が痛いのか。体中にある、影が伸びたような謎の黒い紐は何か。
 見知らぬ少女が空に浮かび、黙ってこちらにガンをつけているワケ。
 泣きはらした少女の名前…八雲……彼女との関係。間近に迫っている危機。
 そして逆方向にいるのは……。
 「天満ちゃん」
 塚本天満。彼女と自分との関係。八雲と同じように顔の半分を濡らしてこちらを見ている理由。
 この子を泣かせたのは自分なのか、それとも自分のために泣いてくれているのか……どちらなのか。

 昨日は何年何月何日で、どういう大事な日であり誰が戻ってきて誰を迎えて何を祝ったのか。
 今日はここまでに何があったのか。大時代な迷信に出てきそうな少女が突きつけてきた話。
 そして……自分で自分の記憶をなくしてしまいたい――と願うほどに至った理由。
 「播磨君、しっかり!」
 「俺は…間違っていたのか? 妹さん」
 「え?」
 天満の名を呼んでおいて、八雲に尋ねる。その無礼を心で謝った。
 突然それだけを聞かれてもわかるはずない。正に自らの全てを喰われようとしている彼女なら特に。

 「播磨さん……?」

 筋がわからず、少しだけしか答えられない…そんな声。緊張ある場面にはまるでふさわしくない。
 それは拳児も承知していた。彼はただ聞きたかったのだ、八雲の声を。
 どうして天満ではなく八雲の声なのか。理由ははっきりしていた。
51027-3(おにぎりルート):2010/02/03(水) 20:10:45 ID:dRzC4DSb

 それは――自分の天満への愛を、一番に理解し大事に受け止めてくれたのが八雲だからだ。
 天満に繋がる道を閉ざそうとした自分を叱責し、離れていく天満を少しだけ止めてくれたのが八雲だから。

 自分は間違っていたのか? 違う。絶対に違う。それは、一年前の決断を後悔していないからだけではない。

 「播磨、さん……」

 ――八雲が言ってくれたではないか。胸を張り、誇りに思えと。恥ずかしくなるほどの言葉と涙を添えて。

 「播磨、君……」

 ――天満が言ってくれたではないか。全部が宝物。あなたは特別、ありがとうと、求め続けた最大の笑顔で。

 「は、はははは……」

 二人から大事なものを昨日受け取った。何億年生きてようとも絶対に手に入らない宝物を。
 天地をひっくり返しても、宇宙の幾億の星を巡っても、他の誰を見ても決して存在しない宝物を。
 天満が教えてくれた愛するという心。一年前から後は傷つくばかりだったそれを八雲が抱きしめて包んでくれた。

 「なんてこった……」
 《…》


 なのに俺は――たかが、ユーレイごときの声に引っかかって――――すまねえ。
 今すぐ二人を抱きしめたい。涙をふいてやり、笑顔に戻るまで抱きしめてやりたい。
 なのに…できない。何だこれは、邪魔だこの――この、体を縛りつけようとしやがるモンは!

 「お……おおおぉぉっ!!」
 「播磨さんっ!」
 「播磨君!?」

 拳児の両目。その中央に炎が猛る。焼き尽くそうとする意思で漲っていた。
 空まで裂き開く咆哮。裂帛の気合を受けて、天満と八雲もあわせるように彼の名を呼ぶ。
 拳児が何のために抗っているのか。その姿に古い記憶を想起した二人は、涙が更に止まりそうになかった。
 特に天満は諦めるかと拳児を真似て必死でもがこうとする。

 《あっ……まだ抵抗する気?》
 「お? 驚いたか? へへっ…」

 指摘の通り、少女の声に驚嘆の色が混ざる。それは拳児が折れた腕を動かそうとしているのが、触れている自らの器官から伝わってきたからだった。
 そんなことをすれば神経が激痛を返してくるはずなのに。それをこの男はまだ腕が繋がっている証だと肯定的にさえ見ているのだ。

 「おいユーレイ、言ってたな! 何で頑張れるのかって。それはな……報いなきゃ、なんねーからだよ……!
  俺の大好きな天満ちゃん。俺の全部を代わりにしてもいい、大事な気持ち……それを全部汲んでくれた天満ちゃん。
  そして…汲んだ上で、それでもそんな俺を好きだって言ってくれた妹さんにだ!」

 《……それは、誰かのためってことよね? ……そう。一年前の八雲と同じね。わからないわ、人を好きになるって本当に不思議!》

 嘲る少女は皮肉そうに、それでいてどこか楽しそうだった。八雲に突き刺した腕をそのままに、残った片手をタクトのように操作する。
 指揮者の命令に、蠢動していた地面から漆黒の息吹が噴き上がった。その量、拳児を覆っている束縛の倍はあるだろう。
 それらが動物の威嚇のようにうなりをあげると同時に拳児へと襲い掛かる。
 連想させられるイメージは、百獣に食いつかれる一兎。
51127-3(おにぎりルート):2010/02/03(水) 20:14:12 ID:dRzC4DSb

 「ぐっ……まだ増えやがるか!」
 《残念。何の力もないあなたじゃ無理ね。ヤクモだって私に抗えたことはないのよ》

 拳児は届くはずもない拳を握る。少女と八雲は口ぶりからして旧知の仲らしい。
 冗談ではない、八雲がこんな恐ろしい相手とずっと以前から出会っていたなどと!
 それなら尚更にもう二度と化けて出てこないようになんとかしなくてはならない。
 ますます高まる目標と依然変わらぬ現状が腹立たしくてならなかった。

 (おい拳児! 全力を振り絞って、これっぽっちなのかよ……一生後悔するだろうが、播磨拳児!)

 一本一本の影の線が縮んで牙のように食い込んでくる。ぎちぎちと力を込めるほどに引き絞られた。
 それでも、感覚を極限まで研ぎ澄ます。僅かながら構えをとれた。左の拳をハンマーのように握り固め、自分の中に止まず荒れ狂う竜巻をイメージする。

 相手がこちらに触れることができるなら、こっちから相手を殴ることもできるはず。
 この拘束さえ解いてしまえば、挽回はできる。腕一本、脚はなく、腹ばいになっても接近できれば勝てるはずなのだ。
 じりじりとすり足で少女とその傍にいる八雲に近づく。一歩でも、半歩でも傍に。

 《……はあ》

 気だるいため息の後に、しゅるしゅると体の上を蛇が這いずるような音がする。左手の重みが増した。
 極めて嫌なことに少女の考えが分かってしまう。次はこちらを折るつもりなのだ。
 だが折れた右肘、そして両脚からも同じ感覚がした。なるほど、徹底的にやるつもりらしい。

 《黙っていればあなただけは無事に済ませてあげたのに》

 影の流星雨を降らせながら少女は残念そうに呟く。既に過去形になっているのが嫌らしい。
 やるならやれ、けれど負けは認めないと拳児は睨みを止めないまま歯を食いしばった。

 「播磨君に何するの!? お願い、やめて!」

 髪の海に沈みながらも必死で静止を請う天満。幽霊の少女は今のは嬉しい誤算と言いたげに見つめていた。
 そして、ギリチンの刃を模しているのか、これ見よがしに服の下からその手を掲げ――

 「嫌! だめだよ、播磨君は関係ないよ! お願いやーも!」

 それが真っ直ぐに下ろされた。

 (天満ちゃん、俺なんかにありがとな。……あばよ、俺の体――)


 「終わりよ」


 パンッ――
51227-3(おにぎりルート):2010/02/03(水) 20:18:29 ID:dRzC4DSb


 乾いた音を受け、ああどこかがプッツンしておサラバしたのだと、拳児は覚悟していたのにそれでも薄ら寒い気持ちになった。
 まず右手を動かしてみる――既に骨折しているので痛いが、指がなんとか動く。漫画は描けるようだ。
 次に左手――幸運にも問題はない。グーチョキパーどれもできる。
 では足か。右――靴の感触。なるほど左足――違った。


 おかしい。どこが千切れてしまった? 首?胴?そんなはずない。
 興奮状態になっているせいだろうが、痛みに対してひどく鈍感でよく分からない。
 いや……本当に想像通りになってしまったのだろうか?
 思い出そう。耳に届いたのは、骨を砕き肉を引きちぎるあの嫌な音だったか?
 もっと軽い、そうまるで……。


 《っ……そんなっ》

 最初に声を出したのは四肢切断を試みたその執行官。彼女は全てが一番だった。
 驚きも。何が起きたのか理解への早さも。それを信じられなかったのも。
 衝撃に遅れてやってきた痛みに、さらに遅れて痺れが来る。
 "両手を"自分の赤く腫れた頬に添えて、何度も何度も確かめるようになぞった。

 「……はっ…………はっ……」

 ゼィゼィと、"その人物"らしからぬ声がした。


             *


 残された力で造り上げたこの狭い世界には、自分以外の三人は入れないはず。
 従って自分を止める可能性があるのはケンジか、おねえちゃんか、   ――以上に限られる。

 だがケンジは先程から動いていない。抵抗する分だけ徹底的に自由を奪ったので動けるはずもない。
 霊感といったものから程遠い彼が自分と接触できるのは一時的に繋がりを得たからに過ぎない。
 精をやり深く通じることで、霊感の高い   の影響を受けたのだ。
 けれどたかが数回の交わりで抗し得るのは絶対に不可能。

 おねえちゃんは意思疎通程度はこなせても観客以上のことはできないはずである。
 せいぜい動きを封じる程度、代わりに逆にこちらが脅かされることもない。
 実際に呆然したまま、私とその前にいる   を見ているではないか。

 消去法でいけば後は。いや――そんなはずがない――。

 「……もう、やめて。やめよう?」

 元は同じ心。そこから枝分かれした同士だけあって、抗ってくる力は確かにあるだろう。
 だが一度だって自力で解いたことなどないではないか。

 《く……っ》

 頬が痛い。例え人間でない存在であっても痛みはある。そう、痛い――当然だ。自分で自分を叩けば痛いと感じるのは。


 「――八雲!」
51327-3(おにぎりルート):2010/02/03(水) 20:19:24 ID:dRzC4DSb

 おねえちゃんが叫んだその名。そうか、そうなのか。やっぱり私を止められるとすれば私だけ、か――。

 「妹さん……?」

 不思議そうにケンジが呟く。どうやら状況がつかめてないらしい。自分のミスだ。この男に集中するあまり他を疎かにした。
 その隙にヤクモが動いた。生半可な意思では拒絶などできないはずなのに――ケンジを助けるために、蝕みの束縛を振り切った。そして私を止めたのだ。

 「もうやめよう……ね?」

 ヤクモは体のどこも痛めていた様子もなく、私の眼前に立っていた。
 少しだけ肩が上下している。大して移動してないはずなのに、走ってきてぎりぎり間に合ったみたいに。
 伸ばしきったその手。叩いてから硬直し動かしていないらしい。
 睨まれているのかと思ったけれど、表情は何かを訴えたい人間がするそれだった。
 二つの眼光は鋭い刃を合わせたのようなのに、ぽろぽろと、悲しいのか嬉しいのか相変わらず涙を零している。
 泣きながら睨みつけているのだ。

 《……やるわね。でもまだっ――》

 従僕たる漆黒の螺旋を、一目で数えられないほど操作して手足を狙う。今のは偶然。いつものように――

 「だめっ!」

 だが、ヤクモが素早くそこを飛びのいた。おかげで噴き上げた黒の奔流は見事に空振り。捉えられない。
 何よりも手が届く距離まで詰められたままだったのが失策だった。
 身体に飛びつかれて、押し倒されて、馬乗りにされて、肩を地面に押し付けられてしまったから。

 「やった!」

 ケンジが嬉しそうに言う。呆れるほど甘い期待――と、からかってやりたいが、私は無駄な嘘が嫌いだった。
 もうほとんど力も時間も残されていない。

 《……やっぱり、あなた一人にしておけばよかったわ……自分退治、やってみる?》

 私は白旗をあげつつも、最後にそう言ってやることにした。


             *

  未だ自由を奪われたままである。夜空を切り取ったような深くて黒い牢獄は時たま不気味に震えて出られそうにない。
 床は日を待つ胎児のように微動して、相変わらず空気は粘っており冷気と熱気が混在している。
 だがもう勝負は決まったと拳児は思った。あの八雲が…自分と、そして天満を助けてくれた。
 そして謎の幽霊はもう抵抗しそうにない。心残りがあるとすれば自分の手で――。

 「播磨君…八雲……やーも?」

 拳児は八雲の名が二回呼ばれたと思った。
 特に気にせず、天満と視線を合わせ、組み合ったまま硬直している二人を注視する。
 どうやって元の矢神に戻れるのかはよくわからないが…後は八雲とあの少女の問題なのだろう。

 ・・・・

 ・・
51427-3(おにぎりルート):2010/02/03(水) 20:20:54 ID:dRzC4DSb

 二人が何も言わないせいで、怖いほどに静かだった。
 確かに町中にいたはずなのに。昼だったはずなのに。ここは地球の裏側のジャングルか?
 いや、それならもう少し何かの気配がしてもいい。この暗くて先が見えず狭苦しい世界は、多分どこでもない場所なのだろう。

 汗が引いていく。一体ここに来てからどのくらい時間が経ったのだろう。
 連日徹夜で原稿にかかると時間の感覚が乱れ締め切りの危機意識が薄れてしまう。だがここはそんな概念さえ無意味に思えた。

 頭が冷えてくる。拳児はふと折れた部分が気になった。
 少し前から痛いと感じていなかった。興奮のあまり脳からエンドルなんとか――麻薬物質が出すぎたせいだろう。
 麻酔の代わりだったそれが切れ、また痛みの感覚が戻ってくると思ったが、そんな気配はない。
 拳児はもう折れた部分が痛くはなかった。何事もなかったように痕さえ腕から消えている。


 《どうしたの》

 「……」


 一人の成長した八雲と、半分ほどの子供の八雲。抱きしめてもらえるはずの母親に、床に押し付けられている子供。両者の体勢はそのようにも見える。


 《さあ早く。今まで苦しめられてきた相手よ?》

 「……」


 拳児も天満も、その少女さえも開演時間を待つ客の目をする。舞台はもう八雲の独演だった。今はもう誰も泣いてはいない。


 《何もしないの? なら――》

 「子供の頃――」


 迷いが消え凛とした声。怒りの篭もった獣のごときそれではなく、自分の扱える言葉の限界を知りながら、埋まらぬ部分を願いで補おうとする声。
 少女の肩をその手に捉え、大事そうに労わりながら。先の見えないトンネルの中で話すように、八雲の声が反響する。
 怒った拳児のそれとは違う……小さくありながら、広く深い。それを聞いた拳児は先程の心残りを撤回した。
 目に見えない、耳で聞けない、けれどその少女が持つ恐ろしい瞬間の足音が静まっていく。

 「確かに私は……ずっと姉さんと一緒にいたいと思っていた。永遠を望んでいた。
  だから、分かるよ…その気持ちに踏みつけられたあなたが、約束を違えた私や姉さんをどれだけ許せないと考えているか」
515名無しさん@ピンキー:2010/02/03(水) 20:22:13 ID:dRzC4DSb

 静かに続く旋律は、カンの虫を起こした赤子への子守唄にも近かった。
 惨苦に呻くそれではない。極めて柔らかく、遥かに時を積み重ねた存在へではなくて、過去の自分に諭すものだった。
 全ての感情を今の言葉に乗せようとしている。

 《…分かってくれた? なら―》
 「だけど違うの。その頃の私は知らなかった。変わるということ。人は変わるの。辛い事でも、人は逃げないで乗り越えることができるんだって」

 震える手で少女の陶器のような顔を包み、少しだけ赤い箇所を指の腹でなぞる。ごめんね、と小さな囁きがした。

 《……お姉さんがいないと生きられない弱虫が、何か変わった?》
 「変わったよ……夕日をただぼうっと眺め、永遠に変わらない時間を思っていた頃とは違う。
  姉さんと離れて、少しずつ、世界が広くなっていくのがわかるの……。今まで姉さんしか見ていなくて隠れていた部分が見えてくるようになった」

 《それで広くなった世界の感想はどう? 辛いでしょう、苦しいでしょう。またいつ幸せが奪われるかわからないのよ》
 「…そうだね…また、いつ……辛いことがやってくるか」

 肯定すると八雲は両目を閉じた。そして忘れたことのない日を、思い出さなかったことなどない日のことを瞼の裏に映す。
 もし一日だけなかったことにできるのなら、迷わずそれを選んでいただろう運命の日。

 「……それでも……」

 瞼と口が開かれると同時に――乏しく、生気のない、色つやさえない少女の顔を濡らすものがあった。
 この薄暗い空間はどこが光源になっているのかなど分からない。けれど確かにそれは光を受けて。
 涙粒が八雲の頬を伝い落ち、少女の頬を打っていた。

 「それでも、私の決意は変わらないよ……姉さんがいなくても立ち上がってみせる。もう二度と……自分から閉ざしたりしない……!」

 そう紡ぐ唇は震え、涙と合わせ顔全体を陽炎のように儚げにしていた。
 摘まれるのを待つ花のように無防備で、沈む夕日のようにいつまで無事であるか分からない。

 《大した意気込みだけど……それはケンジが手に入るかもしれないから? お姉さんの代わりがいるから?》

 "昨日のことも知っている。結局そういうことでしょう? 上手くいくかもしれないから"――そう言いたげに少女は毒の蓋を開いて見せた。
 
 「播磨さんは……そうだね、確かに私みたいな子によくしてくれた」

 八雲の潤んだ眼は閉じられて、けれど今度はすぐに開かれた。それは瞬き。瞼の裏に像を結ぶ暇もない程の。早さが迷いのなさを表していた。

 「けれど違うよ。そういうのは、もうやめたの。一年前からもうやめた。
  たった一人の誰かにすがるような……その人がいないと生きていけないような、いることが当然の、ひたすらに求める、弱くてみっともない生き方はしない。
  それと……私の大事な人はもう、姉さんだけでも、播磨さんだけでもないよ」

 《あら。他に誰がいるの?》

 言ってみろ。そう問われた八雲の口元は上向いていて嬉しそうだった。
 誇らしい何かを自慢したくてたまらない。言葉に詰まるどころか溢れ出るのを堪えてる。
 そんな決壊寸前の様子が見え隠れして仕方ない、子供のような微笑。
 次の言葉は長くなるのか、八雲は胸いっぱいに息を吸う。
51627-3(おにぎりルート):2010/02/03(水) 20:23:23 ID:dRzC4DSb

 「誰かじゃないよ。……あのね…私の周りには、大勢の人達がいる。
  優しい人、厳しい人、かっこいい人、温かい人、元気な人、真面目な人、不思議な人……。
  その皆が背負っているの。誰かとの関係が終わらないか……悪くならないか、不安を隠して思い悩んでいる。
  家族、友人、好きな人……。大事な人達が全部思い通りになるわけじゃないことを知って、でもその中で幸せを見出している」

 八雲はにっこりと微笑んでいた。おどおどと彷徨うことの多かった瞳には力があった。
 一年の中にあった思い出。それは昨日、卒業式の帰りに振り返っていた拳児といた情景だけではない。
 二人ぼっちではないのだ。皆がいてくれたから。


  サラ・アディエマス。東郷榛名。稲葉美樹。俵屋さつき――閉ざしていたのは私の方だったと、気付かせてくれた親友達。貴方達とは、永遠不変を求めてもいいですか。

  高野晶。沢近愛理。周防美琴――今更ながら悔しく思います。先輩達との間に、姉さんという回り道を作ってしまったことを。ご卒業おめでとうございます。

  麻生広義。菅柳平。結城つむぎ。ララ・ゴンザレス、ハリー・マッケンジー、東郷雅一――知っていますか、サラ達が先輩達のことをどれだけ好きなのか。

  花井春樹――偽りのないその正直さに憧れました。どうか大切に。第二ボタンは大事にします。あと袴ですが、メルカドで一日だけ着たことがありました。

  播磨修治――中学校は大変ですか? 遊びに来てくれる回数が減って少し寂しいです。それと、隣にいるその子は覚えがあるので今度紹介してください。

  伊織――つまみぐいは止めましょう。協力するので、お友達ができたらまた家に連れてきて。子供を授かったならもう決して隠さないように。

  先生方――両親のいない私達姉妹が、公私共に大変お世話になりました。あと一年どうか……あ、でも……その、家で飲み会は、どうかと。目的は播磨さんですよね?


 頭の中を流れていくものが、たった一年間にあったことなのか疑わしい程に凝縮されている。
 だから、何度も何度も確認した。けれどいくらやっても、それは確かに一年という時間に収まってしまう。
 隙間がない程に詰め込まれていて、一つ一つはとても説明しきれない程の密度で自らの中に息づいている。
 姉との永遠だけを望んでいたならば、絶対に得ることはできなかった。
 姉との思い出と比較してもその輝きは全く衰えない。
 八雲は嬉しくてまた泣いた。

 「自分のことでも大変なはずなのに、時には辛い部分を引き受けてでも誰かを支えようとさえする人達。
  その皆に囲まれて…支えられて……たまに私も支えになれて……ちょっとずつ自分が大人になっていくのがわかる。
  臆病なくらいゆっくり……けど確実に。それが嬉しいの……。嬉しいから……今はもう、怖くないの……」


  烏丸大路――今でも世界中の読者が待ち望んでいます。早く、帰ってきてください。編集部も、矢神の皆も、貴方の事を覚えてますから、どうか忘れないで。



  播磨拳児――こうやって私は皆が好きですと八方美人に言いますが……ごめんなさい、やっぱり、貴方だけは特別です。ずるいですか? はい、愛しています。



  塚本天満――手紙にあった、何度も書き直した跡。嬉しかった。一番近く――そして遠かった。求め――そして憧れた。だけど、背中は追いません。大好きだよ。


51727-3(おにぎりルート):2010/02/03(水) 20:24:55 ID:dRzC4DSb


 「でもね、一年前とはちょっとだけ違うの。皆を見てるとね、嫌になってくるの……立ちあがるくらいのことで止まりそうな自分が。
  嫌なの……友達や先輩達のおかげでね、ますますこの人達みたいに……誰かの力になれる私を、目指したくなってしまうから。
  姉さんのため?違う。私がそうなりたい……

  姉さんにしか向けられなかった感情を……

  大切な人達に……向けられるよう!だから。だから。……だから、私は……!」


 八雲はそこで大きく息を吐いた。
 全てを吐露する寸前、これまでの疲労に肩の位置が少し下がる。
 声を発することを堅く戒められていて、それでも堪えきれずに声帯を絞る――そんな際にいた。

 「あなたに、私を渡すことは、できない……! 認めない……絶対に、嫌…………」

 激しい嗚咽と大粒の涙が形成する、八雲と少女の架け橋。
 視界は輪郭を無くすほどに形を変え、混ざり合い、やがて白く濁る。
 レモン色のそれは月光のように柔らかで明るい。

 《……》

 何もかもが見えなくなる一方で、少女を掴んだ手は今までにないほどに震えていた。
 彼女が纏う、一点の染みさえない無地の白へと八雲は強くシワを刻む。


 《……………………もう。汚れちゃったじゃない》

 それだけ言うと、突如束縛に使っていたはずの髪が集まりヴェールのごとく少女の足先までを覆い隠した。
 パシッ。八雲の体が弾かれる。蛹のような形になった少女が空中に浮き、そのまま地を離れ竜巻さながらに回転した。
 遠心力に風が巻き起きるも、激しさは一瞬。勢いづいた髪がからまりを解き、音もなく退き、開花を思わせる優雅さで舞う。
 卵の殻のように髪が割れて、その下から少女の元と変わらぬ姿が露になった。

 「……すごい」

 もうどこも汚れてなどいなかった。服のシワさえが見当たらない。表情にもいつもの冷静さが戻っている。
 これは、天から降りてきた御使いの如き神々しさを持つにも関わらず、彼女にとってはただの着替えに過ぎないのかもしれない。
 それでも八雲は今しがた見た、殻を剥離しての再生を思わせる光景に感嘆のため息を漏らしてしまう。

 《あなたは、皆が大好きなのね……でも最後がおかしいわ。私だけは拒絶するの? 私だけ例外で、独りでいなくなればいいって?》
 「おかしい……? ううん……私がいるよ。だから、独りじゃないよ」
 《それが矛盾してるって――》

 八雲は言葉を制し、立ち上がると迷わず手をさし伸ばす。
 少女の発言をたぐると、このままでは彼女はいなくなってしまうのだろう。

 《何?》
 「独りじゃないよ。全部を渡すことはできないけど、一緒にいることはできるから。それじゃあだめ、かな?」
 《はあ!?》
51827-3(おにぎりルート):2010/02/03(水) 20:27:22 ID:dRzC4DSb

 呆れ返ったといわんばかりの、天を衝く声。だが彼女の――横を向いて頬を膨らました、拗ねる様なしぐさは外見相応に彼女を飾る。
 何それ、調子のいい……そんな呟きがぽつりと漏れる。想像したのか、身震いしたかに見えた。
 《ふー………》
 長いため息。幽霊でも難しい顔をするんだと少し八雲は面白く思った。

 《――まったく。はいはいはいはい、おなか一杯、胸一杯!》
 極めて軽いその声は、ますます年相応の女の子であることを強くアピールした。
 眠りにつくように瞼が閉じられると、少女は一瞬で姿を消す。
 八雲は慌てた。天満も拳児も同じく探す。だが空気に溶けてしまったようにその気配が感じられない。

 「? おいどこへ――おわっ!?」

 消えていたのは呼吸する間もない僅かな間の出来事。
 彼女が次に現れたのは未だに束縛から抜けられない拳児の正面だった。頭突きできそうな程に近い。そう思った本人ももうやるつもりはないが。
 間近に顔を突きつけられて、慌てる拳児をその少女は愉快そうに観察、そして――。

 《もうわかってると思うけど、あの子には普通の人間とは違う力がある。それは私のような本来交わるはずのない存在の世界に繋がっている》

 拳児はつい受身に回ってしまった。漫画のような世界の話をされただけではない。
 明確な殺意さえ抱いたはずの相手と今の晴れ空のようにすっきりした表情の少女を、頭の中で一致させることがどうしてもできないために。

 眼光には迫力があった。心の奥まで貫く程の鋭利な刃は記憶にある誰よりも畏怖を感じさせる。だてに長生きしていないということか。
 けれど全体で見れば少女は嬉々として楽しそうだった。

 《大丈夫? 受け止められる? どんな厄介事を呼び出すかわからない地雷女よ。
  そしてそのことごとくに対し、力のないあなたは何もできない…今日みたいにね。そんな無力感に耐えられる? もう一度言うわ。あなたは何もできない》

 棘のある言い方だった。けれど裏には八雲が心配でたまらないといった意思が込められている気がした。
 もしかして励まされている? いや、試されているような気もする。拳児は迷った。

 《そんなあなたは何をしてくれるのかしら……ふふ。
  応援し見守ることかしら、それとも身体を張って盾になることかしら……精々、覚悟しておくことね》

 そうか、期待されているのか。ならばこうだ。満足してくれればいいが。

 「漫画家にゃ丁度いい。ワケわかんねえ出来事を、こうだったらいいなって面白そうに描くのが仕事だ」
 《あら》
 それっきり、背を向けられてしまう。何も言わないなら期待に沿えたのだと勝手に解釈させてもらおう。
 そして次に少女は天満に顔を寄せていた。彼女の束縛が包帯のように丁寧に解かれたのを見て、俺は無視かと拳児は問い詰めたくなった。
51927-3(おにぎりルート):2010/02/03(水) 20:31:46 ID:dRzC4DSb

 《……》
 「やーも、あの――」
 《その呼び方はやめてって言ったでしょ》
 「ご、ごめんね…でも何て呼べばいいのか」
 《……他にはないの?》
 「ユーレイちゃん?」
 《絶対ヤダ! ああもう…》

 呆れ返ったように少女は足元を軽く蹴り、再び飛んだ。その際に天満を目の端に残して告げる。

 《嬉しかったと言ったのは本当よ。ずっと傍にいてくれてありがとう。凄く、凄く嬉しかった。……今更信じられないと思うけど……本当に、本当だから》
 「うん! 信じるよ」
 《……実はあなたを殺すと言ったのも、そもそも八雲を奪うと言ったのも、最初からそんなつもりなかったって言ったら…信じる?》
 「うん!」
 《……つまらないわね》

 振り向いてもらえなかったが、天満は少女が笑っているのだろうと思うことにした。
 なぜなら、昔の八雲は嬉しいことに限って隠れて見せようとはしなかったから。

 《さてヤクモ。さっさと終わらせ……何よこの手は。握手? そんなので――全く》

 八雲が強い拒絶の意志を持っている以上、八雲に従わなければいけないらしい。
 よくわからないが、そういうルールなのだと少女が説明してくれた。
 拳児の知る八雲は嬉しそうに、幼い八雲の半身は不満げに手を交える。

 ……パチッ。空気が蜃気楼のように曲がり、静電気に近い音がした。
 夢の情景さながらに、二人の間が水を吸った絵のごとく滲んだ。不安定なものに変異していく。
 あわせるように、薄気味悪かった世界も薄暗くあいまいなものへと溶けていく。

 「ちょ、ちょっと怖いね…」
 《大丈夫。寝て起きた後みたいに一瞬よ》

 繋がった二人の間から花火の光が見えた。花火?いや、この世ならぬ光。太陽と月を混ぜたような。それは元は同じ光。

 《元気でね、おねえちゃん。ありがとうヤクモ。ケンジは……まあ、巻き込んで悪かったわ》
 「おい!」
 《冗談よ。ケンジがいなかったら私達姉妹は…だから本当はね、あなたとも話をしてみたかったの。
  時間とらせてごめんなさい。学校までサービスしてあげる》

 少女が少しずつ薄くなっていった。漆黒の髪と純白の服、寒風を思わせる青い肌、原初の火の瞳。それらが色を失い同じものになっていく。
 微妙なグラデーションの波に溶け込むように消えていく。八雲の体に重なっていく。
 魂を混じりこませ、淡い色合いに体が透けていく妹の姿に、天満は思わず声を出した。

 「……ばいばい。やーも」
 《違うってば》
 「あ。うー……」
 《それはもう諦めたわ。でもそういう意味じゃないの。ばいばい? 違うわよ――》


 ――音もなく、眩いばかりの白が爆ぜた。入り口では黒だったのにそれと極めて対照的な白。
   まるで知っていた場所のように懐かしい生誕の色。光より速く太陽より熱いそれに三人は飲み込まれ、そして――




 《……また、会いましょう》


52027-3(おにぎりルート):2010/02/03(水) 20:36:33 ID:dRzC4DSb




             *

 パタパタパタ――。


 "確認のため復唱します。高校二年生と三年生の姉妹が、昼前を最後に、登校中に行方不明。妹の鞄が自宅付近で発見。二人の特徴は――"

 「はい。姉は髪を耳の上あたりで縛って、長さは腰のあたりまで。妹は肩に届くかどうかのショート、こちらのほうが背が高く、160以上…」


 パタパタパタ――。


 "お姉さんのほうが留学中で、卒業式に合わせ一時帰国。妹のほうはそれから一人暮らし、学校では人望ある生徒。トラブル等、何か困っていたような――"

 「いいえ、心当たりは何も…学校でも仲のいい、人気ある姉妹でして」

 パタパタパタ――ばたん!

 「谷先生、塚本姉妹が見つかりました……おまけつきで」
 「「「刑部先生!?」」」

 通報の最中。先程の谷同様に職員室へ走りこんできた刑部絃子のその朗報。
 それはめでたい――が、こういうとき……警察へ敷かれた専用回線まで使っておいて何もしないままに用無しになった時、何といえばいいのか。
 まさか間違えましたはないだろう。

 "は? 今なんと? おさか?? それが犯人ですか?"

 教職という立場に誇り持つ三人の男性教師は、電話の向こう側にいる警察官――負けず劣らず仕事熱心で少々思い込みが強そうな、
 途中に人員の手配も署内へ指示してくれた――しかも一人ではなく複数の気配がする――に対し、何と説明すべきかを悩むのだった。
52127-3(おにぎりルート):2010/02/03(水) 20:44:11 ID:dRzC4DSb

 ――――――――――――

今日はここまで。
あんまり引っ張るべきじゃないと思うのでがーっといきました
いろいろドン引きな話でごめんなさい。不明なところはさらっと流すくらいがよかったと反省。

それでも、ちょっとだけでも、読んでやったぞという皆さんありがとうございました。
522名無しさん@ピンキー:2010/02/03(水) 23:53:40 ID:Y92HhgE3
乙です。もう少しエロ成分大目の方がこの板的には喜ばれるかもしれないですね。
523名無しさん@ピンキー:2010/02/04(木) 07:06:37 ID:q0RBgnRg
乙!幽子が鉄拳制裁されるかと思ってたから和解できてほっとした
524名無しさん@ピンキー:2010/02/04(木) 19:30:26 ID:00ZsIGFH
幽子の触手で播磨含めて三人仲良くやられちゃえばエロパロ的に問題なかった
52527-3(おにぎりルート):2010/02/04(木) 20:05:57 ID:IRRL80cm
エロ成分まではあと○回・・もうしばらくお待たせするかと。
触手ネタは考えていてむしろやりたかったんですがストーリー上おあずけに。
では続き
52627-3(おにぎりルート):2010/02/04(木) 20:06:33 ID:IRRL80cm

             *

 ここは矢神高校の校門前。学校のあちこちの窓からは珍しい光景を覗き見する生徒達の顔だらけ。
 天満だけでなく八雲まで。誰も見たことのない姉妹揃っての平謝り。
 行方不明だった姉妹(本人達は少し前にそう扱われていたと知った)は親友達に必死で頭を下げていた。

 「びっくりしたわよもう、とつぜんドスンと降ってきたような音がして何かと思ったら」
 「ご、ごめんなさいぃぃ〜」
 「けど、正門に私達がいたのにどうやって美術室へ? 何のために?」
 「そ、それはね…えっとぉ……そう、裏門から! 烏丸君の描いた浮世絵でもないかなーって」
 「塚本さん、美術室は施錠しておいたはずなんだけど…」
 「だそうだけど、お姉さんと二人でどうやって入ったの八雲?」
 「え……えっと…あ、開いちゃった…かな?」
 「どーしてそこで目を泳がせて疑問系!? 事件のニオイがするよ八雲っ」
 「そ、そうかな? よくあることだと思うよ…」
 「ないと思うよ八雲」
 「普通はないよ八雲」
 「あーもう、姉妹そろって無茶苦茶なんだから。どれだけ皆に迷惑かけたと思ってるのよ!」
 「ご、ごめんね。怒らないで〜」
 「ごめんなさい……」
 「美術の絵? そんなの、連絡くれれば私達で……全く!」
 「といいつつほっとしている愛理さんです」
 「一番泣きそうだったからなぁ。まあ二人とも、こいつがトゲトゲしてるのは勘弁な」
 「晶!美琴!」
 「許して! 今度メルカドおごるから!」
 「ご迷惑、おかけしました……」

 胡散臭さが増すばかりで要領を得ない二人の言い分に貴重な時間が費やされていく。
 大勢の人間に囲まれる中で、八雲はふいにその中に花井がいないことに気付いて謝罪を止めた。

 (――次は、私の卒業式と言ってたっけ……。でもきっと、話を聞いて町中を探してくれているんだろうな。……あれ?もういいって誰か連絡したのかな?したよね?)

 「まあまあ先輩達もこのへんで。時間なくなっちゃいますよ」
 「……」
 「あっ! 烏丸君、今なんて!? 何か思い出した??」

 天満の声を皮切りに騒動は加速していく。今度の人だかりは姉妹ではなく烏丸大路を中心として。
 自分が誰か分かるかと、全員が我も我もとアピールに励んでいるのだ。
 そして彼らから少し離れた場所にじっと姉妹を見守る男がいた。


 「あの子達をほったらかしてこそこそしてる拳児」
 「んだよ」
 「何があった?」
 「秘密」
 「私に隠すほど大事なことか?」
 「俺が言っていいことじゃねえ」
 「ほう。で、姉か妹どっちだ?」
 「さーてな。いや両方?」
 「そうか、姉妹を食べくらべ――」
 「違う!」
 「あら、拳児君も大人になったんですねえ」
52727-3(おにぎりルート):2010/02/04(木) 20:07:55 ID:IRRL80cm


 美術室で三者が絡み合った状態で発見された、塚本姉妹(ついでに播磨拳児)。
 進入経路や目的の謎その他矛盾などを孕みつつ――再会の時間は僅か。別れの足音は近い。

 ・・・・・・

 ・・・・

 ・・

 小型の救急車のような丸い車両が重低音を響かせて唸りを上げた。
 ガソリンを燃焼させた慣れない臭いが辺りを漂う。

 「皆……ありがとう。ごめんね、ずっと前から準備してくれたのに最後でこんなこと。愛理ちゃんも泣くほど―」
 「泣いてない! もういいわよ…それよか、頑張りなさいよ。これからが本番なんでしょ?」
 「手紙、またくれよ。時間のあるときでいいからさ」
 「私達も東京で新生活が落ち着いたらエアメール送るわ。確かアメリカだと宛先は大学のほうがいいのよね」

 特に親しかった親友達と、天満は最後の会話をしていた。
 涙交えた抱擁や感情を振り絞った言葉のやり取りとは程遠い。
 自身の始まりを控えている彼女達にはそれでよかった。


 ――その一方。

 「……それにしてもさ八雲?」
 「な、何かな美樹…さん? もう行方不明のことは」
 「そうじゃなくてさ……なんていうのかなぁ〜〜八雲、どこか変わった? お化粧でもしてる? 違うよね、でも…」
 「ああそれ、珍しく私も同感」
 「あー二人も? うーん、置いていかれちゃったっていうか。何だろねこの違和感。距離感?」
 「だよねだよね! どこっていうことはないんだけど〜」
 「…………(どきどきどきどき)」
 おかしい。八雲は考えていた。昔は人前に立つだけで顔が強張り、笑いも恥じらいも苦手だったはず。
 仮面の表情と長い付き合いの自分が、そのやり方を忘れてしまうなんてありえない。
 なのに今は……顔が動くのを止められない。困っているし、言葉が見つからず、
 図星を指摘されたらどうしようと不安で不安で倒れてしまいそうなのに。

 「(でも…嫌な気持ちじゃない)あのね皆……あ、あれ?」
52827-3(おにぎりルート):2010/02/04(木) 20:08:47 ID:IRRL80cm

 親友達が気をよくしているのは、今の自分の明らかに心当たりがある反応が面白いからだろう。
 相変わらず気持ちをどう扱えばいいか分からないが、つまらない表情の作り方を思い出すのはやめようかな。
 そんな心境になりかけた八雲の言葉が止まった。
 「皆で集まって何を…サラ?」
 サラ・アディエマスは八雲最後の砦である。その大親友が…携帯を開き、ナイショだよと言い、皆で円陣を組むとは一体。しかも八雲本人は外して。
 「(携帯? ……ぁ!) ま、待っ―」
 「ほほう。播磨先輩と昨日帰ったんだ。お姉さんが帰ってきた日に!」
 「こっちは朝の? 三人で朝一緒ってことは〜三人で夜を過ごしたってことだよね。軍曹殿、匂います!」
 「何があったのかな。『お姉さん、どうか妹さんを俺に下さい』『うぬう無礼な、ならば私を倒してみよ』とか?」
 「そっかあ、八雲、何かと思ったらアダルティーな雰囲気が出てたんだ! オトナになったんだ、いいなあ〜…あぁ花井先輩はどーしていないの??」

 八雲の大親友・サラ(何故だろう、大いに疑問がある)は昨日連絡したはずのことをまだ言いふらかしてなかったらしい。
 いや、情報だけ握って公開の機会を伺っていたのか。紅潮しきってメルトダウン寸前の八雲。
 彼女の放射能の混じっていそうな助けを求めるその視線を、背中に受けつつ少し離れた場所にいた拳児は申し訳なく黙りこくる。

 「相変わらず隠れてる拳児」
 「……」
 「オホン! …まあそう憎からず慕っている若者同士、つい……ということもあるだろう。だが、八雲君はこれから体が第一の受験生だ」
 「……」
 「彼女のことだ、備えなどないだろうし……男のエチケット、あーガキじゃないんだ、分かるな? それは果たしたんだろう?」
 「……」
 「頼むから何か言ってくれ…それか、あの子の目指す大学にお腹の大きな生徒を推薦する方法を教えてくれ」
 「……」
 「おい。どこでもいい、否定しろ。言っておく、私は断定口調だが、実際は適当述べているだけだぞ。まさか君に限って――」
 「……」
 「否定せんかたわけ者〜! ……全く。あぁ、例の件だが準備はしておいたからな。ほら受け取れ」
 「サ、サンキュ…っておい何持って――」
 「本当に、拳児君も大人になったんですねえ」

 パンパンと物理教師の十八番、次いで情けない悲鳴が矢神の空に高く響く。
 だが付近を調査していた、行動が早く連絡の届いていない警察官がそれを銃声と思い込み――。

 一騒動の後、やがてヴンヴンと唸る小型の救急車が校門を発っていった。







             *

 そこは少女にとって二度目となる道だった。一年前に、彼の背ばかり見てしがみついて通った道。
 緑の山があり波立つ海がある。目で追っていた流れ雲。追い越して間もなく視界から消えていく。
 暖房のおかげで寒さもなく窓があるから風の圧力もなく、じっくり堪能することができた。
 こんなに綺麗だったのかと、アメリカの広いばかりのハイウェイとの違いに驚く。

 ただ、それでも、彼がいないせいでどこか足りない。
 それは自分のワガママなんだろうなと少女は思った。彼女の態度から読み取るのは難しいが。
52927-3(おにぎりルート):2010/02/04(木) 20:10:02 ID:IRRL80cm

 「あ〜ん八雲ぉ〜私すっごい疲れたよぅ」
 「ごめん、私もちょっと……」

 肩と寄せ合い天満と八雲は頭を抱えながらも後部座席に座っていた。
 今は空港に向かう最中。元2-Cの友人達とは学校で最後。空港で天満と烏丸を見送る大任は天満に最も近い八雲の肩にある。
 ……拳児は、同乗しなかった。

 到着まで時間があるので眠ったらどうですか、と運転手が親切心を見せる。
 彼は天満のいる大学の事務員で、烏丸付近の事情も当然熟知していた。
 「烏丸君、大丈夫?」
 車椅子ごとの乗る専用の座席に跨り、無言のままの少年に天満は明るく話しかける。
 ……こく。一瞬、姉の声を受けて彼が頷いた様に八雲には見えた。
 「ありがと! ごめんね、えへへちょっとだけ」

 天満は車の中央に設けられた席の烏丸から目を離すと、後部座席の八雲の隣にそっと体を預ける。
 残りの時間を……姉として、妹のために費やすべく。八雲と、もう一人の妹のために。

 「…そういえばさ、八雲? 出発のときに播磨君から何を貰ったの?」
 「あ…まだ確認してなくて……封筒みたいだったけど」

 それは学校を出発する直前。別れの悲しみを吹き飛ばす喧騒の後。
 校門にいたクラスメイト、友達、教師、全員と握手した天満が烏丸大路を連れて乗り込んで。最後に八雲が段をのぼったその時に。
 拳児は鞄から封筒を取り出し八雲に渡す。見れば、彼の鞄にはそれしか入っていなかった。

 (「妹さん」)
 (「え、播磨さん? 何ですかこれ……? 中は――」)
 (「今はだめだ! 渡すかどうか悩んだけど、二人宛だ。車酔いがあるなら、パーキングエリアで開けてくれ」)


 「私でも八雲でもなくて二人にって……? すいません、次のPAで止まって下さーい!」 

 ラジャー、と気さくな返事。そして程なく到着。駐車後、運転手は気を使ったのかわざわざ15分後に戻ると告げて車を降りていった。
 一枚の薄い封筒。前にしたとたん、他の車の起こす騒音やくつろぐ人の談笑がひどく遠くに聞こえる。何故か感じてしまう正体不明の緊張。
 空虚を見つめる烏丸大路だけが空気に呑まれずそこにいる。

 封筒に八雲は覚えがあった。これは漫画の原稿を入れるのにいつも使っているものだ。
 しかしその厚さは数ページ分にさえ満たないだろう。漫画ではないらしい。

 天満は全くない心当たりに首をかしげた。今更ラブレターもないだろう。
 どうやら今朝、拳児が準備していたものはこれらしい。
 面と向かって言えなかったことでもあるのだろうか。

 「(私と姉さんに?)開けるよ……」
 「烏丸君、もうちょっとだけ我慢してね」


 …………ぱらっ

53027-3(おにぎりルート):2010/02/04(木) 20:12:23 ID:IRRL80cm



 「……何で……播磨君……が?」

 それは漫画でもラブレターでもなく。
 あるはずのないもの。消えてしまったもの。失ったもの。

 写真だった。古い写真。本当に子供の頃だった自分達。そして母親。父親が残してくれた写真。

 「――嘘。だってもう全部、全部」
 「どこかに…まだ、残って……?」


 全てを処分したはずだった。
 辛かったから。悲しかったから。
 受け止める勇気が私達にはなかったから。
 見ているだけで苦しくなる。どうして、どうしていなくなってしまったのと。
 自分達はいい子にしてるのに。あの子よりもどの子よりもいい子なのに、どうして自分達だけ。

 家以外の場所が辛かった。例えば、学校。
 運動会で皆の両手には、お父さんとお母さん。
 ある日には自分の名前をお父さんとお母さんがどんな願いを込めて授けてくれたのか、皆が発表。
 忘れ物をすれば、なんでお父さんとお母さんにきちんと持たせてくれるよう頼んでおかないのかと叱られた。

 いて、当たり前。じゃあそれのない私達は何だったんだろう。
 事情を知った大人の人は気まずさにすぐにごまかす。同い年の皆は、何でいないの、と残酷な興味の目で私達を見た。知らない。何で、なんてこっちが聞きたい。

 皆で励ましてあげよう! と、誰かが学級会で言い出した。親切のつもりで…いい人のつもりで。
 けど、子供だったし仕方ないとはもう分かってはいるけれど、こっちを見る目はどこか面白がっていて…優しい事をできた自分達に満足していて。
 今日はとてもいいことができましたと合唱されて、皆偉いねと先生に褒められていて……それが、どれだけ悔しかったか。

 お父さんが今度変わるという子がいて、かわいそうだと思ったけれど……どこかでうらやましかった。


 今思えばそれはほんの短い間の特別なこと。それに施設に行くのを嫌がった私達のせいでもある。
 世の中にはもっと大変な境遇の人達もいると知ったし、一年も半ばを過ぎれば皆が触れないでいてくれた。クラス替えがあるまでは。

 毎日の楽しみとして沢山の写真を眺めることがあった。そして絵を描くのも好きだった。
 お父さん達がそこから飛び出してただいまと言ってくれるような気がして。色んな絵本や童話――世界は夢ある物語で溢れていたから。
 けれどどれだけ願っても、現実に叶うことはなかった。その度に辛くて、けれどまた次の日には今度こそはと考えてしまって。
 ある日、二人は天国で見守っていてくれるよ、見るだけで進めなくなるからもう止めよう、と私達は決めた。
 でも本棚の高い所に置けば椅子を使い、押入れの奥に投げてもよじ登り、蔵の中に隠しても鍵を持ち出して、私達はこっそり写真を覗くのを止められなかった。

 もう嫌だと本当におかしくなってしまう程に追い詰められて、逆にこれがあるから辛いのだと、二人で捨てることを決めた。
 家中のものを集めて、風と雨の強い日、台風が来るという日に思い出を全て川へと投げ捨てたのだ。
 最初はすっきりしたと二人で笑ったけれど、からっぽの家に帰った瞬間に泣き崩れた。とんでもなく馬鹿なことをしたと。
 まだ残っている、拾いに行く、大丈夫泳ぎは習ったと言う八雲を天満は叫んで止めた。噛みつかれても打たれても踏まれても。
 振り回す傘を顔に受けて、血を流す天満を見て八雲は正気に戻り、二人だけの写真が残った。
 それ以来は買ってもらった絵本など、物に思い出の残照を求めるようになった。
53127-3(おにぎりルート):2010/02/04(木) 20:14:08 ID:IRRL80cm

 「……姉さん。古いものだけど税関は通るよね? ……持っていって」
 「だめ! これは八雲が持ってないとだめ! せっかく、せっかく……それに、きっと最後の」
 「ううん。だって…聞いてたでしょう? 私には皆がいるって。でも姉さんは――」
 「私にだって向こうに友達くらいいるよ! でもこれは――そうだ、誕生日プレゼント!」
 「……いらない」
 今よりずっと子供だった自分達。懐かしい母の全身像。
 父親の姿はなくても、映したのがその人であるから存在は感じることができる。
 もう子供の頃とは違う。確かに自分達は愛されていたのだと、今なら――今なら、写真は写真と受け入れて、支えにできる。
 「いらないって…そんなの嘘!」
 「…」
 欲しいのに。欲しいのに。欲しくて欲しくて喉から手が出てたまらないのに。
 だが姉妹は別れる。写真は一枚。コピー? それではだめ。ただ同じ画であればいいわけではない。この一枚でなくては意味がない。
 「お願い……早く、早くそれをしまって……! 忘れるから。あったことを、忘れるから……!」
 「八雲! お姉ちゃんの、お姉ちゃんの言うことが!」
 「聞けないよ!」
 「っ…」
 妹に押し付けられて天満は震えながら写真を封筒に戻す。そして背を向け自分の手提げの中へ。蓋を閉じる瞬間に後ろから、あっ…と、声がした。
 恐る恐る振り向けば、もう妹は反対側の窓を向いて何も言わなかった。目が閉じられていた。本当に忘れようとしているらしい。
 すごく、悪いことをしてしまったのではないだろうか。お姉ちゃんなのに、妹の、たった一つしかない写真をとるなんて。
 見た瞬間はそう、本当に生き返ったような気さえしたのに………涙が出てきた。
 今度こそは、最後に姉らしいことの一つもしてあげたいのに、してやれない悔しさ。

 「八雲、やっぱり…お姉ちゃん…」
 「泣かないで」
 「でも…え?」

 ひどくひどく懐かしい声がした。頬に人の手がかかったのにも天満は気付いた。
 手なんて、遊びくらいにしか使ってみせなかった彼が…烏丸大路が、自分のために涙を拭ってくれていたのだ。
 
 「烏丸君は…いいと思うの?」
 「……」
 返事はない。当然だ、彼が誰かに言葉をかけるなんてことはまだできない。この手だって励ましではなく何か珍しいものを拾おうとしてるだけかもしれない。
 だから……気のせいなのだ。彼の声を聞いた気がしたのは。
 しかし気持ちを伝えることは何も口の動きだけに限られたことではない。例えば、表情。

 「(それでいいと僕は思う。妹さんはきっと君に持っていて欲しい気持ちのほうが強いんだ)」
 
 たまに、烏丸に行う治療行為は医学的な見地から遠いものだと指摘されることがある。
 けれど病気に対してではなく、烏丸大路に対してはそれが正しいという、彼の個を知る自分独特の不思議な自信があった。
 今受け取った気がしたメッセージの解釈も、同じ。なので天満はそれに救われた気がした。



 車内で騒ぐ自分達に気付いたのか、何事かと運転手が戻ってきた。
 妹が少し疲れたみたいですと説明して納得してもらい、彼に目を戻す。もう涙を拭いてくれた手も喋った気がした口も、動いてはいない。
 ……気のせい? いや、違う。でも説明はできない。してくれたことを心に留め、自分も目を瞑る。

 再出発。窓の隙間から僅かに雑音が入ってくる。風を切る音、うなるエンジンは大型トラック。
 やたら大きな音楽を流しているのはオープンカー。子供の声の混じる、家族向けミニバン。
 目を閉じればますます聴覚が鋭敏になる。その情報を子守唄にも思いながら、やがて天満は体が軽くなっていった。
53227-3(おにぎりルート):2010/02/04(木) 20:14:47 ID:IRRL80cm


 「…疲れてたよね。ごめんね姉さん。ありがとう……」

 やがて、天満はすうすうと寝息を立てていた。幸せそうな姉の姿を確認すると、八雲もすぐに真似て目を瞑る。
 夢を見よう。幸せな夢を少しだけ。幼い頃に戻った気分で。そう想い目を瞑った。

 ・・・・・・

 ・・・・

 ・・



  ……ねえ八雲

  何?姉さん

  こうしているとね、思い出さない?

  何を?

  小さい頃、こうやって後ろの席に座ってさ、お父さんの車に揺られて――

  あったね! …そう、スキー場へ行ったんだっけ。あ、そうだ姉さん。私スキー滑れるようになったんだよ

  本当!? じゃあ、いつか一緒に滑りに行こうね! 楽しみだなあ〜

  うん。でも…それっていつになるのかな?

  えっと…烏丸君の病気を治してからだと……ずっと先……かな

  私達が今の倍くらいの年齢になったら?

  オバチャンじゃん! そんなに先じゃないよ、お姉ちゃんに任せんしゃい! 大丈夫、あと10年…お姉ちゃん28だ! ウッヒョー絃子先生より大人!

  ……ねえ姉さん? 私、その頃には何をしてるのかな

  未来に何をしているか! う〜んこれはまた八雲殿、哲学的な質問を……あ!

  どうしたの姉さん。何かおかしなこと…言った?

  ねえねえ、逆に八雲は10年後に何をしていたい? 教えて、そして約束しよう! 私は絶対に烏丸君を治してみせるよ!

  え……そんなまた勝手に……もう。急にそんなこと言われても……

  ないの!? 嘘だぁ、あるでしょ? メガヒットを手がける若きスーパー編集者? 播磨君の若奥様? それともそれとも

  ――あるよ。あのね姉さん、私は――
53327-3(おにぎりルート):2010/02/04(木) 20:17:51 ID:IRRL80cm

             *

 飛行機雲が伸びていた。どこまでも――どこまでも――。
 それは終わりなき旅路を…姉の選んだ未来を象徴しているようだった。

 最愛の人を乗せて飛び立った飛行機はもう、空へ消えた。今頃海の上だろう。
 ロビーでの本当に最後の別れ。だがそこには絵に描くようなドラマチックな要素はなかった。


 ばいばい八雲 うん姉さん 元気でね八雲 うん姉さん また会おうね八雲 うん姉さん。ずっとずっと――待ってるよ。いつかお帰りと言わせてね――


 それだけで、足りてしまった。
 それが寂しいとは八雲は少しも思わなかった。昨日の卒業式からもうここまでに――言葉は尽くしたから。
 自分達が笑顔で別れを受け入れられるくらいに。車に揺られる中でも、夢の中でさえ深く深く繋がりあったのだから。

 《……いつまでそうしてるの? 早く帰りましょう》
 「うん……」
 八雲は空港近くの道路で空を見上げて、頭に響く声に驚くことなく自然に返事をした。
 それは永遠の彼女とこの一年で交わした、会話だけの接触と同じ。
 一年前に、八雲を得るのではなく見守ると決め、以降は姿を見せる力も惜しみ消える日を先延ばししていた少女との。

 あの後。光に包まれて気付いたら美術室で拳児を下敷きにしていた後。
 八雲は自分の中にほんの一部だけ、今までの自分でなくなったのを感じていた。
 だからどう、ということもない。確認した拳児の肘と同じで痛みの欠片さえ全くない。
 外見も内面も――今以上の不思議な力を得たわけでも、元の人格に影響がでるわけでもない。
 塚本八雲は塚本八雲のままで、ただ幼い頃に捨ててしまった心を再び見つけ戻す。それだけだった。
 あるとすれば、欠けていた何かが補われたような満足…充足…一体感…といった、自分しか分からない程度のもの。

 《……まあいいわ。もう少し…飛行機雲が消えるまで、ね》
 「ありがとう」
 こうして常に一つである限り少女が消えてしまうこともないようだ。
 少しだけ彼女のために栄養(幽霊にそう形容するのが正しいか別として)を与える続けることになるらしいけれど。
 自分の能力同様に、一生の付き合いになる。それでいいと八雲は思っていた。
 ああ、でも――いつでもそこに誰かいる、というのはいいのか悪いのかよく分からない。
 こうして普通に会話をしてるつもりの私は、傍から見ればぶつぶつ独り言の変な人だと見られるに違いないし。
 もちろん悪用だけはしないでおこうと八雲は思った。

 姉を乗せた軌跡、飛行機雲が消えていく。見えなくなるまでどこまでも伸びて、風に吹かれて。
 最初に見たときには広い空にあるあまりに確かな存在感に、永遠を感じてしまう程なのに。
 夕日の光を浴びて少しだけその輪郭がくっきり空に映る。
 けれど今、胸の中に広がり焦げつくのは永遠ではなく――刹那の美しさと、思い描く未来だった。

 やがて…本当に消えてしまった。いや、まだあるのかもしれないが、ここは空港。
 飛行機雲なんて数多くあり、幾重にも重なりあってしまう。
 他のものに上書きされて――日も沈んできて――本当にもう、見えなくなってしまった。


 「――よし! うん、帰ろう――」

 私の家へ。
 私と両親、姉さんのいた家へ。
 私と姉さんと。伊織のいた家へ。
 私と播磨さんと伊織とサラの家へ。
 そして――あ。ごめんねサラ。でも、仕返し。それに姉さんと約束しちゃったから。

 いつか。ううん目指せ10年後――私と播磨さんと伊織、そして――姉さんと烏丸さんの家へ。帰ろう。
53427-3(おにぎりルート):2010/02/04(木) 20:20:14 ID:IRRL80cm



 「――ぁ」

 《どうしたの?》


 勢いよく歩き出した八雲は、短く叫び足を止めた。もう止めないと決めた歩みを止めてしまったのだ。

 「私、大事なことを忘れてた……」

 《何? もったいぶらず早く言いなさいな》

 「あのね……きゃっ」

 八雲は俯くとひどく申し訳なさそうに顔を上げ…と。
 その傍を大型のツアーバスが通り過ぎ、舞い上がる粉塵を残していった。八雲は軽くむせる。

 「けほっ……えっと。えっとね」
 《早く》


 「えっと…ここからどうやって帰ろう? そうだ携帯……ない!? ど、どこで落としたのかな……お財布も……そもそも私の鞄、どこ行ったんだろう」
 《……》

 ブロロロロ。第二、第三のツアーバスがすぐ隣を通過していく。団体客がいるらしい。
 健康に悪そうな濁ったガスが蔓延してきて、八雲は再度、けほけほと咳をする。



 ――少しばかり後に。空港の係員に頭を下げ、電話賃を頼み込む八雲の背を見ていた少女が我慢できずに言った。


 《あなた……本当にヤクモ本人? おねえちゃんと入れ替わってないわよね?》
 「……ごめん」

53527-3(おにぎりルート):2010/02/04(木) 20:23:56 ID:IRRL80cm
 ――――――――

 ここまで。
 いやほんとエロから遠い話ばかりですいません。
 ホントホントすいません・・でもちゃんとラスト近くであります。
536名無しさん@ピンキー:2010/02/04(木) 21:05:33 ID:PnCyxqoJ
エロ無くても楽しいから良し
53727-3(おにぎりルート):2010/02/05(金) 19:29:52 ID:O0YGmrf8

             *


 空港の天蓋はひどく高い。外のように広いのに、行きかう人々の熱気で中は温かかった。
 合間を縫い彼らから離れたワンエリアへ。借りたテレホンカードを最近あまり見なくなった公衆電話機に差し込む。

 (そういえば一年前に姉さんもパスポートを……あれは忘れたわけじゃないけれど)


 とぅるるるるる…とぅるるるる…


 《…気をつけなさい。こっちを見てる人がいる。あなた、狙われてるわ》
 「えっ?」
 待つこと数秒後、少女の声がした。狙われている? 物騒な忠告に八雲は戸惑う。
 少し意識を集めてみると、確かにざわざわと何かの気迫……彼、花井春樹が顕著だったが…それを感じる。
 このあたりにない制服を来た何の荷物も持たない女学生が不安そうに徘徊していたせいだろうか。
 警備の人に疑われたのならいざしらず、もしかして旅行客を狙った…係わり合いになりたくない人達だったら。
 今は家への電話をかけている最中だ。ひとまずサラに事情を話して学校なり先生なりに、と考えていたのにこんな時に。

 ガチャ。

 "はいもしもし、塚本です"

 だがどうしようか決断するよりも親友の声のほうが早かった。
 伝えるべきことがまとまらないまま、口を先に動かしてしまう。

 「あ、あの、サラ。私――


 どうしよう何て言えば――ガシャン! つー、つー、つー……ピピー。


 「…え?」


 カードが出てくる。八雲は一連の流れに驚いた。突然背後から手が伸びてきて、上がったレバーを下げたのだ。
 普段は受話器の重みで降りているそれを。そんなことをするからほら、切れてしまった。
 電話せず一文無しがどうやって帰れというのか。タクシー? 県外は人に悪いし金額が凄いことになりそう。

 「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」

 後ろからは荒い息遣いがした。興奮しているのか熱がある。
 本当にすぐ近く、髪の間を通ってうなじにそれがかかってくる。
 過去、そういった人に追いかけられた経験もあって、怖い記憶が戻ってきた。
 肩に手を触れられる。誰!? いやだ怖い。身体をぐるんと振り向かされる。

 「見つけたぜ」
 「あぁっ」

 ――そうか。私は…

 「ごめんなさい……外でずっと、姉さんを見送っていました……播磨さん」

 《くすくすくす。紛らわしかったかしら》

 勘違いをしていた。この人がいないはずないじゃないか。姉さんのまた新しい始まり…それを見届けないなんて。あるはずないんだ。
53827-3(おにぎりルート):2010/02/05(金) 19:30:54 ID:O0YGmrf8


 「外で見てたのか?」
 「はい…播磨さんも?」
 「ああ。便は昨日教えてもらってたからな。先に絃子にバイク頼んでおいて、二人が行った後で追っかけて」

 学校で見た担任教師の姿を思い出す。そういえばあの審問会の最中にマフラーの排気音を聞いた気がした。
 だが、追いかけてきたのならどうして。

 「……どうして最後、姉さんが行ってしまう前に――」
 「いや、まあ……元々、ギリギリの予定だったっつーし。やっぱ家族との別れを邪魔したら悪いだろ……」
 「そんな!」
 話すほど疑問が募る。むしろどうして今まで彼が来ていることを考えられなかったのかと自らを責めたくなった。
 意識さえしていれば群衆の中に彼を見つけて姉と時間を作ることもできたのではないだろうか。
 「……あのな、妹さん――ホントは」

 後悔しているらしい八雲を安心させようと、拳児は口を開く。
 刹那の瞬間、来るまでのことを思い返しながら。

             *


 ・・・・

 ・・


 背中には誰の重みも感じない。
 速度に比例し冷えた風ばかりが熱を奪ってくる。
 座した自動二輪はものぐさな本来の主の手を離れ、久しく走れたことを獣のように吼えて喜んでいた。
 耳を圧する世界の中で、あの子の存在もぬくもりの欠片さえもがないままに、一年前と同じ道を走っている孤独な自分。
 背景は全て幾重の線と化し背後へ流れていく。看板の文字は読む間もなく消えていく。追い抜いた邪魔者の数など覚えていられない。
 激走する黒い車体とそれを操る自分だけしか分からない世界。それは正に、世界とは自分のこと――俺は俺だけのもの――を、体言する瞬間。

 《……おい拳児。お前また何やってんだ?》
 「! ……あ? 空耳か?」

 大事な姉妹が乗った車をもう追い抜いてしまったのか。それともまだ、追いつけていないのか。そもそも道が違うのか……よくわからない。
 それでも拳児は空港を目指して走っていた。従姉の用意してくれた相棒は足回りがよく身体に合う。

 《そーいうの止めろよ。ウゼェ。くだらねぇ》
 「…またてめーか」

 返事と同時、あの全てを異にしていた少女との邂逅を思い出す。描いた絵の中にいたような感覚だった。
 声も姿も風変わりでどこか金属的。人と違うその気配。足も本当の意味では地についてなどいなかったと思う。
 そして終わりのほうに見せてくれた年齢相応のあの表情。姉妹と深い関わりのある、海の向こうより遠い国の住人。

 拳児は今、少しだけ彼女が理解できていた。あの出来事は、自分の知らない世界での話であり、八雲だけが持つ特別な事情に起因するもの。
 そんなラインの向こう側からの視点ではなくて己の経験にもあるものとして理解できていた。
 そう、自分にもあったのだ。

 それは――過去の自分が今の自分を否定してくる声。今、自分に聞こえてくるものと同じ。愛する彼女を送る最中、一年前に聞いた声とも同じ。
 変わろうとする自分と元でありたい自分との喧嘩。そう認識することで拳児は自分の中で整理がついていた。
53927-3(おにぎりルート):2010/02/05(金) 19:34:28 ID:O0YGmrf8

 《追いかけてどうすんだ? まだ未練があるのかよ?》 
 「やかましいぞ!」

 何を言われているのかは分かる。こうして天満の旅立つ空港へ向かっているのを滑稽だと笑いたいのだ。
 自分がいようがいまいが結果は同じ。空っぽの背中で何をしにいくつもりかと言いたいのだ。
 もう天満のためにできることはないと。

 高速道路の外壁を越え、上から強い風が吹いてきた。バランスを崩されないように腰を低くしてハンドルをひねる。

 (天満ちゃん……)

 塚本天満。人生の分岐点とも言える、世界に一人だけの少女。中学時代から数えれば昨日で二度目の再会。そして今日、人生で二度目の別れ。
 彼女がいないと生きられない。出会えずして今の自分はない。一体どれだけ救われたことか。繰り返すまでもなく、全てが肯定できる。
 例え一生、彼女の隣……最も近い場所へ、見えない壁ができたとしても。感謝の気持ちは変わらない。

 《分かった分かった。でももう用はねえだろ?》
 「そうだな。写真も渡しちまったし、二人の邪魔するわけにもいかねえ」
 《なら帰れよ。街へ出て暴れようぜ》
 「だから後は……俺が乗り越えるだけだ。妹さんみたいにな」

 八雲のように。拳児の中にはもう天満一人ではなかった。塚本八雲の姿があった。走る理由には天満のほかに八雲もあった。
 彼女が今日見せてくれた雄図――それはこちらに向けられたものではないと知っている。
 播磨拳児としてはただ聞いていただけ。けれど、しっかり届いてしまったから。

 望んだわけでもない身の環境が辛い、でも頑張る――ではなくて。押し秘めた強い願いがあるのに、伝わらない周りが苦しい――ではなくて。
 世界を悪者とせず、原因を自分の弱さにあると定め、だから今までの自分に勝って克服しようという誓い。それがしっかりと届いてしまったから。

 播磨拳児という男は今まで多くの戦いに勝利してきた。世界に対する苛立ちを爆発させてきた。だが相手は全て他の誰かに限る。
 気に入らない理由が手前にあると思うことはあっても、結局は目に映る誰かにぶつけてしまう。
 それは一人の不良崩れだけに限らない。皆そうするのが当たり前。対人関係であってさえ。
 例えば、好きな人が別の誰かを向いているから、その誰かに嫉妬するように。
 なので八雲が少女に語った言葉は不思議だった。
 誰かにではなく自分に向けたものであるから。
 知らない言語のような新鮮さがありながら、知識ではなく身体と心で理解できてしまう。
 先頭に立った感情は――ひどく嬉しい上向きのもの。

 拳児は百戦錬磨を自負するが、己との争いだけはイメージさえ浮かばない。
 克己心という言葉は知っているが、それは今までの欠点を克服するという意味だろうか。……大外れではなくても正解だとも思えない。
 そもそも、自分との戦いとは、何をすればいいかがはっきりせず、前提となる勝敗の計り方さえがひどくあやふやなものなのだ。
 他人に勝つよりも遥かに難しい。どれだけ困難な行路なのか彼女も分かっているだろうに。だが八雲は明確に言い切った。

 《フカしただけじゃねえ? トートツにそんなヒトゴト言われても、知ったことじゃねーよ》

 前方にバイクの集団があった。暴走族ではない。大学生のツーリングサークルか何か。加速して、初心な走りをしている彼らを一瞬で追い越す。

 「危なっかしいなおい……耳が痛みやがる……で、何だっけ。トートツ? ……ああ、そーだな」
54027-3(おにぎりルート):2010/02/05(金) 19:36:04 ID:O0YGmrf8
 《おっ? 何だ、分かってるってか?》

 ――"こいつ"の言いたいことは分かる。
 もし誰か、いや、それなりの時間を重ねた他人ではない誰かが突然に――本音らしき言葉の発散、自己の奮起を目の前でやってのけたとしよう。
 その当人は極めて一生懸命で、抑えられない感情が爆発し、堪え切れなかった涙もあったとしよう。さながら今日の八雲のように。
 見ればあっけにとられるだろうし意外性に驚くだろうし、それなりに応援したくもなれば、その人物への認識を改めたりもする。
 だが――それだけだ。突然そんなことをされても説得力に欠ける。
 具体的に今まで何をしてきたというのだ? ただ喚き立てるなら誰にだってできる。
 今日この日までに何を乗り越えきたのだ? ないだろう。なら結局その場限りの言葉。
 今まで見せてきたものをひっくり返し、なかったものをいきなり持ってきた都合のよさ。
 できもしないことを勢いで口にするみっともない見栄、こうに違いないという弱い思い込み、ほんの一時の美点を至宝のように見せているだけ。
 そんな疑いを感じてしまう。特に自分のようなアウトロー気取りで業の深い人間は。
 "こいつ"はそう言っている。そして拳児はその意見に逆らおうとはしなかった。

 「トートツなら、そうだな。ヒトゴトなら、な。けどそうじゃねえ」
 《……》

 けれど――八雲は違う。
 そう言えるのはこの一年、彼女を見てきたから。そして見てきたものにあの少女が言っていたような臆病さは映らなかった。
 大勢に背を向け忌み嫌い、本当に親しいごく少数にのみ感情を向ける小さきものは。
 そうでなかったら、卒業式の日に泣くことなんてできはしない。

 八雲の懸命な生き方を一年間目の当たりにしていた。
 心に正直であろうと続けたその姿、彼女が持つ曲げようとも曲げられないものに支えられた日々の姿勢を自分は知っている。
 だからこそ昨日、そして今日という日に……一年間の八雲の姿と、その内にあるありのままの感情を、はっきりと自分の中でかみ合わせることができた。

 トンネルに入る。排気ガスを吸うのが嫌で口を結び息を止めた。明暗が夜になったように逆転し視界がやや狭くなるが、考え事には向いている。

 ――元々、誤った偏見がないはずの八雲をして一年。しかもそれだけが全てではないだろう。
 まだまだ知らない彼女の形はあるに違いない。人を知るということが一体どれだけ大変で先の長いことなのか、思い知らされる。
 それでも若い自分にとって一年とは決して短い単位ではない。そして八雲とは出会ってからを含めれば倍近くを数える。
 おかげで、彼女の強さと志がその場限りでないと理解するには間に合ってくれた。

 世界が偽物だらけに見える自分でも八雲には真実があるのがわかる。何故なら、自分と八雲は同じものを求めたから。
 人生で初めて得た確たる目標が同じだった。何に代えても塚本天満の一番でありたい願い。そのためだけに全てを積み重ねてきた過去。そして、折れた経験。
 叶わなかったという挫折。そこに起因した、決して死ねない毒が体の中に残り続けるような苦しみ。
 日により、環境により、刻々と変化していくその味を自分と……そして八雲は知っている。
 同じ辛さを知っているから理解できるのだ。学がなく相手を思いやるのが下手な自分にとって、共有すること以上の理解できる手段はない。

 そして理解があるから、八雲個人にだけ通用するはずの言葉が、天満以外に許さなかったはずの播磨拳児という男の心の最重要部分まで届いてしまう。
 感情に任せた殴り合いしか知らない自分にはそれが効きすぎるのだ。
 八雲は自分を口下手だと考えているようだがとんでもない。未熟者と考えているようだが……いや。
 日々精進。彼女が満足を得ることはこれからもないのだろう。
 何を続ければいい、どこまで行けばいい、誰を追えばいい……そんな不良の思いつく範疇からは卒業している。一線を画しているのだ。

 息が苦しくなってきたところでトンネルを抜けた。再び昼と夜とが逆転。新鮮な空気を目一杯吸い込む。

 「あれだけの子を俺は知らねえ。それこそ、天満ちゃんだけと思ってたのにな」
54127-3(おにぎりルート):2010/02/05(金) 19:38:25 ID:O0YGmrf8

 折れることなくどこまで続くかの興味?
 自分にはない、八雲だけの強さへの尊敬?
 こちらも負けてはいられないという競争心?
 本当に大丈夫かという、保護者としての不安?

 「全部、なんだろうな……妹さんのことが今まで以上に気になって気になって……、要するに、惚れたわけだ俺は」

 そしてそんな彼女がこれからどうなっていくのか傍で見ていたくて。
 別れの瞬間に泣いてるのではと気になって。
 こうして追いかけているのだ。



 拳児は八雲を意識すると嬉しくなった。
 二人でしか読むことのできない本がある興奮。
 自分と彼女の間にしかない大切なものを守っていける感動。
 世の人々が誰も知ることのできない秘密を一緒に見て行ける期待。
 こう言うと誤解されるだろうが――八雲となら、歩いていけそうな気がするのだ。
 天満への気持ちを濁らせないままに。大事に抱いて、失いかければ目の色を変えて必死にしがみつく程度を当然としながら。

 八雲との恋は天満とのそれと違って、がむしゃらに追えるものではないから。
 一度目の天満への愛、それを永遠に守りながら進む恋。天満との色褪せない思い出が二人分あり、一つ一つ大事に乗り越えていく恋。
 天満を慕いつつも少しずつ、少しずつ……人が新しく別の誰かを好きになる時間の、五倍も十倍もかけて少しずつ。そんな恋。



 拳児は、いつしか過去の自分の声が黙ってしまっていることに気付いた。
 高速道路の出口が見える。もう一走りで着くだろう。天満はもういるだろうか。そして八雲は……?

             *


 広々とした空港で二人の姿を必死に求める。
 チケットを求め並ぶ者。自分のように誰かを探している者。お土産を探す帰りの客に、これから出発を控えた旅人……いた。向かい合って立っている。
 何か、一言二言話している様子。烏丸がいないのは病人なので既に搭乗しているためか。
 そして時間はまだあるだろうに、天満から八雲の傍を離れていった。遠くから見ているせいかそれはあっけないようにも見える。
 いや、案外あっさりした別れなのかもしれない。大事なやりとりは姉妹の間で既に終わっていたのだろう。

 天満がゲートに消えると八雲は外へと走っていく。見つからないよう隠れて追うと、駐車場の離れで止まりそのまま飛行場の空を見上げていた。
 ……そっと、サングラスを外す。八雲とは、彼女が拳よりも小さく見える距離が開いている。これなら見つかることはない。

 やがて飛行機が一機飛び立っていく。八雲が両手を挙げていたのであれに天満が乗っているのだと分かった。
 ああもう本当に逢えない。遅すぎる実感が湧いてくる。ここまで来ておいて何もできないなど腑抜けの所業ではないだろうか。

 「――て」
54227-3(おにぎりルート):2010/02/05(金) 19:40:17 ID:O0YGmrf8



 だが――。その時、風に混じってやってきたのは、この季節によく嗅ぐ香りだった。

 それは万物に"あること"を伝える合図。

 山の雪が陽光に燻され融けたことを。その流れ出た水を吸い、桜の花が咲いた事を。

 清らかな水と香りを受けて、土の中から新たな命が芽生えたことを。自分が、播磨拳児が、命に満ちた春の最中にあることを。

 そして拳児はすぐ近くに塚本天満がいる気がした。『世界の変化』その中に……春風の中に天満を感じたのだった。

 彼女が去っても春は残る。また、やってくるのだ。そして自分は彼女を感じることができる……。

 これでいいという納得が心に広がっていく。拳児はその場で一年前と同じものをたっぷり吸った。そして。手にあるサングラスを――……


 
 投げた。


 ぼとっ――。草の上に落ちた音。八雲が気付いた様子はない。
 飛行機が消えても彼女は人形のように固まっていた。そのまま、飛行機雲が見えなくなるまで。じっとじっと、その先を――祈るように、見つめていた。


             *

 その後は失敗してしまった。八雲が何故か空港へ戻っていったために暫し彼女を見失ってしまったのだ。
 あちこちを走り回って汗を掻き、ようやく見つけた後姿は公衆電話エリアの前。そこで彼女が家を出たときに持っていた鞄がないことに今更気付く。
 駆け寄って肩に手を置いた。怖がったような反応をされるのが少し辛い。サングラスなしが見慣れないせいもあるだろうが。
 自分が来ていた事をひどく驚いたようで、どうして顔を見せなかったのかと尋ねられる。
 ごまかすこともできたかもしれない。けれど、嘘はつきたくなかった。

 「……あのな妹さん――ホントは、試してみたかった。天満ちゃんを遠くからそっと見て、それだけで見送るなんて真似……俺にできるかどうかってな」
 「え――」
 「塚本天満っていう、誰でもない大事な一人の女の子との別れだ。それを妹さんみたいに受け入れられるか、どうかをな」
 「そ……、そう……でしたか。…………あ、サングラスは……?」
 「去年と一緒で外したくなった」

 『――播磨さん』。彼女の自分を呼ぶ小さな呟きが届く。今のやりとりで、ここに来た意図は半分以上伝わってしまったことだろう。

 「…分かりました。色々踏み入ったことをお尋ねして、申し訳ありません」
 「おいおいそんな……じゃ、家に帰ろうぜ。慣れてるだろうけど、かっ飛ばすから油断せず捕まってくれよ」
 「はい」

 空の虚しい背中だと思っていた。送るもののいない、未練の溜まった、風に吹かれるだけの背中。
 けれど今はそうではない。去年、天満を行かせるために乗せた場所に、今年は八雲を帰るために乗せる。ひどく不思議だと拳児は思う。
54327-3(おにぎりルート):2010/02/05(金) 19:40:59 ID:O0YGmrf8



 「――播磨さん」
 「何だ!? もうちょい、でかい声で頼む! 止まって欲しいなら二回叩いてくれ!」
 「お願いが一つあるのですが…」
 「すまねえ、もっとでかい声で! 風があるんだ風が!」
 「…お話があります。今夜、お時間頂けますか?」
 「ん、時間!? よく聞こえねえ、でも妹さんならオッケーだぜ!」
 「ありがとうございます……」


 PAにも止まらず高速道路を矢神を目指し一直線に。それは去年の繰り返し。しかし拳児にとって、違いは二つ。

 それは繰り返された天満との別れを、一年前の痛みを含め、乗り越えることができたこと。一生分愛したはずの――いや、好きだからこそできると知った。

 そして、その背に新しき大事な人がいるということ。同じ辛さを超えられる、君とならきっと大丈夫だと。そう思える相手がいると――知ったのだった。



 山がかすかに赤く色づいている。その一つ一つである花の芽ぶきは、溶け残った雪を押し上げて早く咲かんと欲していた。


 世界の始まり。それが――春。







             *


 遠くで鳥の声がした。
 こんな時間に鳥? そう疑うほどにすっかり辺りは夜の気配に満ちている。
 むしろ自分達のほうが静寂を乱すならず者なのだろう。

 「着いたぜー。妹さん立てるか?」
 「は、はい。なんとか…」
 じゃりっ。久しぶりの地面に八雲は少しふらつく。
 拳児の後ろに乗せてもらうことはよく経験したが、これほど長時間世話になったことは過去にない。

 「バイクはどうすっかな……返すのは、まあ明日にするとして」
 「あ…では垣根の内側へ」
 熱の残るタイヤが地面に擦れる。サイドスタンドが立ち、牛ほどの大きなボディが上下に揺れる。
 とりあえず通行の邪魔にならない程度に隠れたので拳児と八雲はそれでよしとした。

 「あ、おかえりなさい二人とも。お風呂湧いてますからどうですか?」
 サラが姿を現す。ご一緒を希望? うふふ? お湯半分抜いておく?
 そんなからかいの笑みを浮かべる彼女に、確かシスターだよなと拳児は首をひねった。
 そして冷えているはずだからと八雲に風呂を先に促して自宅の敷居をまたぐ。台所のほうからは味噌の良い香りが漂ってきた。
54427-3(おにぎりルート):2010/02/05(金) 19:42:38 ID:O0YGmrf8



 ・・・・・・

 ・・・・

 ・・

 「そう…花井先輩は無事に見つかったんだ」
 「うん。でも何で空太君もいたんだろうね。あ、荷物は先生が家に届けてくれたよ」
 「ありがとう……あ、こんなにメール……返信しないと……」
 「皆もう知ってるよ? 明日でもいいのに、マメだねー八雲」

 八雲は発言を止めて、未読だらけのメールの整理に追われることとなった。
 二人が話すテーブルに配膳されたのは鯖の味噌煮と麻婆豆腐――そこへ何故か赤飯と鯛のお刺身が一人分。
 前者と後者、あまりに統一感のない組み合わせ。半分ほどに箸がつけられていた。それはつい今しがた、八雲が親友に感謝しながら味わった分。
 それはそうと、後者のものは今朝の冷蔵庫の中身では用意できるはずの無いものである。
 サラが急遽用意したとしか八雲には思えなかった。その意味は……
 「冷めちゃうよ、八雲」
 「う、うん……ごめんね。あと一通、部長に送ったら……あっ美樹から着信…もしもし?」

 これはだめだとサラはラップの用意をすべきか思い悩む。
 と、そこで風呂場のほうでガラス戸が開く音。そういえば先輩の着替えは用意したっけ。
 サラは言われる前にやっておこうと立ち上がり親友を置いて後にした。
54527-3(おにぎりルート):2010/02/05(金) 19:43:31 ID:O0YGmrf8



 PiPiPiPiPi...

 「妹さん電話だぜ、ほい」
 「ありがとうございます。今度は……え、花井先輩?」
 「……メガネが?」

 拳児が汗を流し終わり風呂後の一杯(コーラである、念のため)を終えた頃。
 蓋を開けるとほぼ同時、八雲は友人との電話を終えて、残った夕飯に手をつけていた。そしてそこへ更なる電話である。
 花井春樹――今日来なかったのは彼なりの拘りだろう。そう思っていた八雲は彼からの着信だけは想像していなかったため、少しだけ大きな声をあげてしまった。
 だが拳児はそんな八雲へ何故か内心を探るような目をしてしまう。

 「もしもし……えっ? どうして……はい、はい……それで……」
 「ん?」
 「あれ?」
 様子が少しおかしい。八雲は電話に大事そうに手を当てて、慎重に言葉を選んでいるのだ。
 「す、すいません先輩、待ってください……播磨さん、少し外します。サラ、せっかくのご飯ごめんね」
 「!? お、おい妹さー……」
 「いいよいいよ。いってらっしゃーい。ふふ」
 ととととと……。急ぎ足で八雲は二階、自分の部屋へと駆け上がって行った。
 彼女にしては珍しい、まるで他の誰かの前ではできない話をしますというその挙動。
 拳児は隠し事されている気がしてどうにも落ち着かない。それがビンの底に残るコーラ程度の気がかりならよかったのに。
 「……別に、なあ」
 馴染みない疎外感。戸惑いの唐突な出現をごまかすようにぽつり。
 だがぶっきらぼうにせよ口にしてしまったために、普段より八雲に神経を寄せてしまっていると気付く。
 塚本八雲と隠し事。二つの単語の結びつきが弱いせいか。動物や漫画も彼女には打ち明けてきた過去があるからか。いや違う――それは真実と距離がある。
 「気になりますか?」
 「…まあ、相手が相手だしな」
 花井の性分を言い訳にしつつ、少しだけ本音を混ぜた拳児の返事。
 八雲の消えた方向をちらちら見ているその態度は話し相手であるサラに対し無作法にも見える。
 が、当のサラは気分をよくした様に笑顔を向けていた。そして何か迷っているらしい同居人を後押ししようと手を考える。
 「なるほど、女の子として気になると」
 「な! そ、そそそそんなこと言ったか? 口に出てたか? 別に…や、妹さんとメガネになにがあろーが」
 硬派を気取っていた拳児の顔が潰れる。いつもこうだ。サラと話すとすぐにこちらのペースを崩されてしまう。
 元々年下は弟達を思い出して苦手だった。八雲という大の例外に隠れて分かり辛いが。
 「そうですか? じゃ私は立ち聞きに行ってきますね」
 おぉい! そう叫びそうになる拳児の大口に、サラは素早くタオルを詰める。そして子猫を思わせる身の軽さで廊下へと出て行った。
 ペッと吐き出し、拳児も後追う形で二階の八雲の部屋を目指す。二人分の足音を鋭敏な聴覚で捉えた伊織は、本当に最近は落ち着かないとコタツの上で片目を開いた。

 「(結局来るんですね先輩。ずばりジェラシーですか?)」
 「(はあ? 馬鹿いってんなよ、HAHAHA)」
 ぺたり、ぺたり。話し声はもちろん、足音も息をする音も衣擦れさえも、忍びの如き静けさで闇に溶ける二人。ぺたり。妙に息が合っている。
 壁の向こうからは八雲の声が確かにした。それはとても軽くて上向きの声。すこぶる楽しそうである。
 ……みしり。拳児の指先が触れている部分の壁が静かに軋んだ。

 『本当ですか? 嬉しいです……是非、是非お願いします。今度の日曜日……はい大丈夫です、分かりました』

 ドグシャアァッ! 八雲の嬉々とした声に、ヤモリのように張り付いていた拳児は派手な音を立てて崩れ落ちた。
 サラは、あちゃあと額に手を当て、重いはずの拳児を担ぎそそくさと無音で階段を滑るように降りていく。

 「? ……あれ、誰かいるの? ……すいません、何でもないです。それで先輩、はい――」

 扉を開けて廊下をきょろきょろと左右確認。しかし誰の気配もない。八雲は気のせいかと、特に誰かを疑わず会話に戻っていった。

54627-3(おにぎりルート):2010/02/05(金) 19:48:11 ID:O0YGmrf8

 再び、一階。相当に八雲の発言が効いたらしい拳児はうろうろブツブツ落ち着きがない。面白おかしく観察しつつ、サラは話を掘り下げた。

 「デートのお誘いですかね。花井先輩、八雲のことは振られてから静かになったと思ってたのに」
 「……で、でえぇぇぇぇと?」
 「男女がより親睦を深めるために会話などして同じ場所で同じ時間を過ごすこと。広義では同性、家族間でも――あ、"ひろよし"じゃなくてこうぎ、ですからね」
 「んなことは聞いてねえ! 国語の先生かおめーは」
 「花井先輩、もしかして玉砕覚悟…高校生活最後の思い出作りということで、がばっと攻めるつもりなのかもしれませんね。
  『さあ僕の二年越しの猛りを受け止めてくれ。播磨の奴とはもうしたんだろう?』『そ、そんな…でもお世話になったのに何もお返しをできていない…』こんな風に」
 「ふざけんなぁぁァ! 人の負い目に付け込みやがって、てめーの玩具じゃねーぞ!」

 誰の味方なのか分からない(聞いたところでどうせしれっと八雲の味方と言うだろう。ところで中に気になる台詞があった気がする)忍者シスターは置いておく。
 拳児はクールに努めた。今は状況整理が大事だから。さあ考えよう――八雲のあの反応は何なのだ? まず大前提、八雲は自分が好きなはずだ。
 男の自惚れではなくて事実のはず。昨日確かに告白され、腕に抱き、今朝も情愛を覚え空港で見守った彼女と今で違いはないはずなのだ。
 それが突然花井、しかもまもなく東京へ行ってしまう、周防という彼女候補もいる男に!?
 彼女の性格からしてありえない。だがありえないといえば、昼間の幽霊との邂逅である。拳児の脳裏に蟲惑的な笑みが思い出された。

 (ユーレイ? そういえば妹さん…あの子と一緒になったんだよな)

 美術室では"大丈夫です、それよりも今は姉さんを"と言われて他の連中の質問攻めに遭いそれっきり。話している機会などなかった。
 空港からの帰りはもちろん、家についてからも様子がおかしくなかったのでつい前まではそう気にもしていなかったが。

 ただ――あの接触が八雲に何らかの精神的影響を及ぼしていたらどうだろう?
 例えば、あの幽霊は、自分よりもあのメガネが好きで……八雲はその影響を強く受けてしまった。
 泣かず飛ばず、ゾンビのようなしぶとさだけが売りの不良漫画家よりも、赤門くぐる弁護士の卵のほうが将来性はある。
 実家もこちらはごく普通、あちらは道場経営で土地もある。地域住民からも慕われているらしい。
 あの幽霊は子供のようで年長者の風格もあった。シビアな計画性、将来設計がない、とはいえないのではないか?

 (………)
 塚本天満に対して働かせていた、起承転結を無視するそのプラス思考。
 対して、妹には何故かそれを極めてマイナスへと仕事させてしまう拳児。
 「ニャー」
 「伊織…ありがとな。慰めてくれるのか? そうそう今朝はサンキュな、おかげで俺も妹さんも天満ちゃんも……くっ」
 伊織を見て拳児はあることを思い出し、更なるショックを受けた。
 八雲が口にしていた『今度の日曜』――それは確か、自分と一緒に新作漫画のための取材をする予定が入っていたのだ。
 それをドタキャンされる……しかも相手はあのメガネ。こっそりと、八雲の好みを調べ近く迫った誕生日のプレゼントに備えようと考えていたのに。
 「今度の日曜、約束してたんだよな……」
 「えぇー!? じゃあ八雲が播磨先輩にドタキャン? 次の日は首にキスマークあったりするんですかね、そんな漫画が最近ありましたけど」

 ぐぐっ…。拳児は肩に来る重さに徐々に前傾姿勢をとり、額を床にぶつけそうになった。

 「うひゃあ……先輩が八雲にそんなゾッコンだったなんて。まあ、大して好きでもないのに私から奪ったあげく
  破瓜の跡が残るシーツだけを残し人に洗濯させたというのなら、白頭巾被って黒杭とモーニングスターを持ち出していますが。何にせよ先輩、これは重症ですね」
 「ジューショー? ああ、ラーメンに入れる奴か。イーリー飯店で今度おまけしてくれよ」
 「チャーシュー。『シ』と『ー』しか共通点がありませんよ。重症とはこの場合、花井先輩に嫉妬してがっくりって事です。おまけはスタンプ集めてからにしてください」
54727-3(おにぎりルート):2010/02/05(金) 19:49:09 ID:O0YGmrf8

 嫉妬? 馬鹿な、あのメガネに?? 俺が? 元々競い合うことはあったがそれは誤解が殆どの原因。実際に三年生になってからは殴り合いも数える程度。
 過去の全て含め例外はあれど、多くが最初に一言何か告げておけば回避できた争いのはず。
 そう、嫉妬とはあのメガネにこそふさわしい――待て。
 今の自分は正に嫉妬している状態らしい。ということは……

 「そうか…俺が妹さんのこと」
 「? 八雲のことがどうかしました?」
 「……いや、悪い…………なあ、俺もう寝ていいか? 洗濯や皿洗いは明日やるからよ、朝飯の準備だけはすまねえが頼む」
 「ありゃ……まあいいですよ。おやすみなさい」
 「ああ。一人で取材できるように準備もしとかねえと……」

 拳児が立ち上がったのには理由があった。突然頭が冷めたのである。
 花井春樹に嫉妬、あるいは今までにない対抗意識を燃やすということは、あの男が慕う八雲を自分も…ということになる。
 何を今更だ。昨日…そう、好きになった。今日、ますます好きになった。彼女となら――考えた。
 だが考えただけだ。手を出したくせに、だ。本当に八雲を選ぶと口に出していない。
 いや言ったか? それでも八雲は知っているのだ。播磨拳児の卑劣な内面を。
 そんな男に資格があるか? そう思ったら拳児は頭が冷めてしまった。

 眠る前の準備を終え、二階の仕事場に上がる最中。出てきた八雲とすれ違う。
 話しかけてきた彼女の表情は楽しみでたまらないといった風に綻んでいた。だが今はそれを見るのが辛い。
 「あ、播磨さん……あの」
 「悪いな妹さん。俺もう寝るわ…デート、頑張りな。取材のほうは、一人でやっからよ……」
 「え?」
 花井春樹とは拳を交えた仲だ。認めている。八雲を自分とは違った、自分では届かぬ面で支えてきたと知っている。それを認めるくらいの度量はあるつもりだ。
 だから今は頑張れと言った。心配は八雲の体のことと(無責任でいるわけにもいかない)プレゼントをどうしようかということくらいか。
 関係を持ってしまったことは友人達のネットワークで知られてるかもしれないが、相手はそれすらも受け入れる器のある男。
 八雲が嫌われることはあるまい。浮気されたような気分になっている自分がみっともないと拳児は思った。



             *


 「……サラ? あの、播磨さん…なんだか様子が」
 「うーん。まあ個人的には八雲がお姉さんや沢近先輩との距離に悩んだみたく、播磨先輩にもちょーっと考えてもらえる偶然の機会かなと思ったんだけど」
 「?」
 「とりあえず、食べちゃって。そして何の電話だったかを教えてもらっていい? まあ、大体想像つくけれど」
 「うん。サラと…播磨さんも誘おうと思ってたから……」
 「Wデート。複数の男女(同数が理想とされる)がより親睦を深めるために会話などして同じ場所で同じ時間を過ごすこと。集団心理による発展しすぎに注意」
 「あの…デート…って? さっきから二人の話が見えないよ……?」
 「さあ? で、今度の日曜日が何だって?」
 「うん――あ。 ……ねえサラ? 何で今度の日曜日って知ってるの?」
 「は! ……八雲、無表情が怖いよ〜」
 「……」
 「伊織、助けて〜」

             *

54827-3(おにぎりルート):2010/02/05(金) 19:50:55 ID:O0YGmrf8


 今朝方ぶりの仕事場に入る。棚が不自然に傾いていた。それはあの写真を急いで取り出した痕跡。泥棒を連想するより先に思い出す。
 今日渡したのは、昨日の夜を経た結果、あれはやはり二人に渡し姉妹間で判断を任せるべきと考えるようになったから。
 あの幽霊の件もあり、持ちだしてよかった、中々気が利いたのではないかと手前味噌ながら思う。
 二人の間でどんな感想、やり取りがあったのかは知らないが……姉妹のためになっただろうか? それならいい。

 拳児は仕事場の一角に設けられた自分の寝床(八雲は八雲の、サラは元天満の部屋を使っている。自分は一応一階だが面倒なのでここで寝ることが多い)
 に身を固め、二枚の毛布を挟み寒さに備えた。……シーツにいい香りがする。サラの頑張りに感謝するのを最後に、拳児は長い一日を終えようとしていた。

 ・・・・

 ・・

 静かだった。この部屋だけは少々壁が厚い造りになってるのは知っているし、今更だが。
 今は何時だろう。こんなに寝つきが悪かったか? 疲れていたと思っていたのにウトウトすらできない。歯磨きを丁寧にやりすぎたせいだろうか。



 ――ギシッ。


 階段をあがる音。八雲だろうか。サラである可能性もあるはずなのにどうして最初に出てくるのが八雲なのか、拳児は考えないことにする。


 コンコン。木目のある木の扉が叩かれた。いつもの音だった。普段なら、一呼吸の後にどうですかと調子を聞いてくる言葉が来る合図。ごくり、喉が鳴る。


 ――カチャ。仕事場の鍵は、面倒なのでいつも放っておいてある。拳児は耳だけに意識を集中させた。


 「播磨さん…もう、お休みですか?」
 「……」
 「あの……」
 「……」
 「……失礼、しました。おやすみなさい……」

 とっさの言葉が出なかった。声は期待していた彼女のものなのに。
 気心を知った仲。時にはそれは…と見られるような頼みごともしてしまう彼女に話しかけられなかったのだ。
 自分と八雲の間に何か壁が出来てしまっている? 原因は色々あるのだろうが、大本をたどれば昨晩の行為も無関係ではないだろう。
 今にして思えば今朝の目覚めのときもそうだった。それからは暫く息切れするようなスケジュールだったので改めて意識はしなかったが。

 ほんのささいなすれ違い……いや、自分の思い込みか? それならいいのだが。
 けれど、自分と八雲の向かい合う間に、薄い薄い氷の板のようなものが間にはさまっている気がしてならない。
 叩けば割れるだろうが代償として破片で傷ついてしまいそうな障壁が。だが氷なら放っておけば溶けるだろう……明日の朝まで待てば、それで。
 だから今は寝るべきなのだ――。
54927-3(おにぎりルート):2010/02/05(金) 19:51:30 ID:O0YGmrf8


 ・・・・・・

 ・・・・

 ・・


 コンコン。部屋の扉がノックされた。中は暗く、逃げ場ない空気の流れは安定していて、特に動くものもない。時刻は丁度、日が変わる数分前。

 「……伊織?」
 いや、動くものはいる。もそもぞと部屋の角で膨らんだ羽毛布団から手が生えた。掻き分けて、中から影が立つ。
 そして愛猫が専用の揺り籠で眠っているのを確認すると、すっと扉の前へ動く。
 「サラ、どうし――あ…」
 「悪いな、寝るところだったか? けど妹さんと約束したからな」

 八雲の部屋を訪れたのは拳児だった。カチューシャにサングラスのいつものスタイル。だが寝ると言ったはずの彼が何故ここにいるのか。
 それは――思い出したから。空港からの帰りの際、時間を下さいと言われたことを。そして今は丁度日が変わる数分前。拳児はぎりぎりで間に合っていた。

 「あ…は、はい! えっと…」
 突然のことに迷っているらしい八雲。どこで話をすべきか。
 もう寝ているサラや伊織の邪魔にならないよう。適切な場所を求め視線が部屋のあちこちに向く。

 「俺の仕事場でいいか? 暖房つけといた。それに壁厚いし、話しても邪魔にもならないだろ」
 「あ……わ、分かりました……」


55027-3(おにぎりルート):2010/02/05(金) 19:54:05 ID:O0YGmrf8

 ――――――――

 今日はここまで。最後の整理をしてやっと…Hへ。
 ホント、お待たせして申し訳ないのですがもうしばらくスレを利用させてもらいます

 それにしても播磨とサラは結構いいコンビなんじゃないかと。
551名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 10:38:10 ID:ZaMN1L/6
乙です。エロシーンでの幽子はどうなるのだろう
無言で引っ込んでるんだろうか
55227-3(おにぎりルート):2010/02/08(月) 14:08:00 ID:nixAS0ND
週末といいつつ遅れてすいません、今回でやっとエロ突入ですよ、と。
エロいかどうかは別として・・ごめんなさい
55327-3(おにぎりルート):2010/02/08(月) 14:08:33 ID:nixAS0ND


 八雲が仕事場の扉を開いてきたのは暫く後になってからだった。
 その間に何をしてたのか、少なくとも着替えではないらしい。格好は風呂上り後と変わっていない。
 「座ってくれ」
 「はい」
 髪に櫛を通してきたのだと分かったのは、彼女が椅子に座る時に黒髪が綺麗に揃って揺れたのを見たからだった。

 ここへ誘ったのは自分だが元々話があると言ったのは八雲である。
 だから拳児は作業椅子に座って言葉を待った。茶を用意しておかなかった落ち度を悔いながら。
 立ち上がろうとする自分におかまいなく、と制してくる彼女がその背を正す。

 「今日は、色々とありがとうございました。そして……すいませんでした。私の事情に巻き込んで……ご迷惑をおかけして」
 「いや…妹さんのせいじゃねえよ。そりゃまあ、びっくりしたけどよ」
 こうだとはっきり八雲は言わないが、彼女の事情とはあの少女の件以外にない。
 保留になっていた部分をどれだけ教えてくれるのか。じっと続きを待つ。

 「あの子は……その、上手く言えないのですが……私、なんです」
 「そう言ってたな。で、元に戻ったと。体とか頭とかは何ともないか? 乗っ取られそうとか」
 「それは全然……頭の中であの子の声がするくらいなので平気です」
 「……全然平気じゃねえだろ、それ。憑かれてるんじゃね?」
 「あ、怒ってます……失礼なことを、って」
 幽霊には幽霊の人格があって消えないのだろう。
 自分を奪われるのも友人が消えるのも嫌だった八雲が選んだこと。
 しかし一対一で人と話せないというのは本人も大変なのではないだろうか。

 「これから大変だな……あ、でもテストのときとか二人で勉強すりゃ便利かもな」
 「そういうことに……協力するつもりは、ないそうです」
 「ケチだなそりゃ。家賃タダってのはどーよ」
 「あ……また怒ってます」
 「せめて、妹さんに言わせるんじゃなくて自分で言えよ……」
 「え? うん……時間が経って、薄くなってる……だから見えないし聞こえない? ……うん、うん……私と播磨さんの繋がり……えっ……///」
 何故か頬を赤くしてそっぽ向かれてしまう。この謎の挙動は一体。
 ……こんな調子で、他の人間と会話するときやっていけるのだろうか。
 事情を知る自分はともかく他は……。独り言の多い奇人扱いされないか、拳児は八雲のこれからを思いやって少しだけ顔を曇らせる。
 さしあたってサラには話すべきか黙っているべきか。

 「とりあえず、もう疲れたから眠るそうです……」
 「お、おう。ユーレイも寝るんだな」
 むしろこちらが疲れた気分。だが八雲が言うのは少女も大変らしい。
 あまり負担にならないよう、頂く栄養(人間のそれとは違うのだろうが)はぎりぎりを保っているとか。
 「ま……まあ、何かあったら言ってくれ。協力できることがあるなら協力するからよ。わかった、話ってのは―」
 「えっと、すいません。これが本題では……ないんです」
 「……そっか」
 すっと、八雲の表情が引き締められる。拳児もそれとなく合わせた。
 部屋に立ち込める温かな空気がどこかひんやりとしている。昨日と同じく、大事な話をされる場面でのピリッとした雰囲気。
 喧嘩に立会い拳を交わす寸前の刺々しさではなく、大切な告白を控えた……例えば、恋人の父親の正面に立った時。
 結婚式にて一歩一歩近づいてくる伴侶を見る時。こんな過不足のない丁度良い緊張があるのだろう。
55427-3(おにぎりルート):2010/02/08(月) 14:09:10 ID:nixAS0ND


 「あの写真……私達、家族の写真……」

 口調はいつもの八雲のものだった。物腰は穏やかであるし咎めるような含みはない。
 ただ真剣なだけ。それが拳児にとって剣先を突きつけられたような鋭さである。言葉の刃。真っ白なその切っ先を握るのは八雲。

 「どうして、播磨さんが持っていたんですか?」

 八雲の表情は真実を求めていた。物分りがよく、器が広くて、多少のことでは動じない彼女が、濁した言葉を拒絶している。
 少し前の穏やかさがもう、ない。あの写真が持つ意味を理解しているのか――そう言われている気がした。
 「……」
 無言で部屋の隅を指差す拳児。八雲からも棚の位置がずれているのは分かるだろう。長年不動であった成果として、一部壁が変色していた。

 「そう……でしたか……」

 すっと、八雲は再度背筋を正してピンと張った。
 両手を膝の上に乗せて卒業式での生徒達と同じ格好を取っている。

 「前に偶然見つけてな。今日が丁度いい機会だって……っ……妹、さん?」
 「はい?」
 拳児は喉を詰まらせてしまった。
 八雲が目の周りを湿していたから。
 座したまま、整った顔立ちのまま。泣いていたから。
 何でもないのに突然涙腺にひびが入ってしまった。涙はその副産物。
 本気で拳児はそれを考えた。ぬぐう動作さえ見せない今の八雲の様子からは、そうとしか言い様がないものだったから。

 ――つっ。頬を伝う証が幻でないことを教えてくれた。だが八雲の花の唇は何も喋らない。

 (泣いてる…よな?)

 感情が積もりに積もり、もう我慢できなくなった時に起きるもの。泣く――とは、拳児にとってそんな意味がある。
 辛い事・悲しい事での涙はこちらも気が重くなるし、喜びの涙はただ見るだけでも気分の悪いものではない。
 自分のせいで泣かせたら嫌だし、自分のために泣いてくれるのは嬉しい。
 一番好きなのは、今日見た八雲のような涙だ。
 自らが招いた弱さを認め――泣きたくなる辛さ、無力感、やるせなさ、無念や悔しさ――それを受け入れ。
 痛みだけは恐れず、受け止めた上で自分の力で乗り越えようとする……涙の後にある姿勢。それを見せてもらえたらもう言うことはない。
 昨日も確かそんなことを思った。誰もが挫折しておかしくないことを乗り越えていく姿が見たいと。
 図らずもそれは早々に実現したことになる。

 だが……今はどうなのだろう。誰しもがそうしてしまうように、泣いて溜まったものをぶつけてしまうのか。
 押さえ込んで克服しようとして、それでも失敗し泣いてしまうのか。
 拳児に判断がつかないのは、八雲の様子は上記の概念からまるで一致しないためである。
 石の彫像が何かの理由で涙を流せば、変わらぬ能面とのアンバランスさが引き立つ。今の八雲はそれに近い。
 泣く、という行動の影響が顔のどこにもないのだ。顔の歪みや体の細かな揺れ。息苦しい嗚咽も、鼻のすする音さえも。
 その橙の瞳さえ見なければ泣いているとはとても思えなかっただろう。
55527-3(おにぎりルート):2010/02/08(月) 14:10:02 ID:nixAS0ND

 「え……? あ、す、すいません……」
 自分の流しているものに今気付いたとしか思えない返事。少し遅れ気味かもしれないが、声も普段とそう差がない。
 あまりにも自然すぎる涙だったのは、泣くことがもう当然で慣れすぎているから……そんな、持ち出すべきではない嫌な想像をしてしまう。

 「ごめんなさい……少し、時間を頂けませんか」
 顔を拭う八雲。その姿に拳児は話が悪い方向に向かっているのを感じた。
 触れてはいけない大切なものに、無造作に、無思慮で、無意味な手垢をつけた。
 そんな予感を畏怖しながら、向き合い方も分からないままに八雲が落ち着くまでの時間を待つ。


 カッチ――。カッチ――。それから暫くの間、時計が最も大きな音を立てていた。
 涙が止まっても、八雲は目を掌で覆って黙ったままだった。前日、告白を受けた時と同じ。深海で閉ざす貝のように。岩の中で眠り続ける化石のように。
 時々、仕事椅子がぎしりと軋む。拳児はできるだけ音は立てたくなかった。急かしているようで嫌だから。なので身体を動かすのも極力止める。
 暖房のうなり声がうるさい。台所にある石油ストーブのほうがこの場には合っているようだ。
 外の窓が突風を受けガタガタ震える。静寂とは来て欲しい時に来ないものらしい。
 ただ、どんな音がしても気を散らされることなく八雲への凝視は続く。

 (……)

 自分が何か言うべきなのだろうか。あの写真が八雲と、そして天満にどんな意味があったのか教えてくれと。
 それとも聞くのを止めるべきなのだろうか。おいそれと話せないならいい、無理に知らせなくても良いと。
 又は、八雲が話せる範囲を決めて伝えてくれるのを待つべきなのだろうか。姉妹の過去に、何があったのかを。
 迷ってる間に彼女が口が開く。三番目らしい。幸い、瞬間的に腹を決めることができた。

 「――私達の両親は」

 今が夜でよかったと拳児は思った。夜の帳には一日の中でも特別な瞬間がある。
 他の者には知られてはいけない話をするための。
 魂と誇りをかけて取り扱わねばいけない話をするための。
 この世の禁忌を前にして、拳児は八雲の瞳の中にいる自分を見つめる。それが一瞬、うるっと波紋に歪むのが分かった。
 「……」
 八雲の言葉が一瞬切れる。拳児は息をせず待った。長い時間であればそれは生命にも関わるだろう。
 だがこの時に胸を熱いもので一杯に満たされ息が出来ないのは、きっと自分ではなく――。



 「私と、姉さんの目の前で……亡くなりました」
 「……」
55627-3(おにぎりルート):2010/02/08(月) 14:10:33 ID:nixAS0ND

 鈍色の心の泉に波紋が立つ。強く広がり――やがて収まる。
 そうか。そうだったのか。なんとなくそう思っていた。やっぱり。言葉が川のごとく流れて消え、また流れていく。
 家庭の状況や昨日の天満の発言、幽霊の少女の言葉、断片的な情報からも存命ではないのだろうなと思っていたから。
 生きているのならもう少し何かあるだろうから。何かの事情で家に来れないにしても。

 「寒い日でした……本当に寒い日。だけど、声がしたので、私も姉さんも平気でした。
  だから最初は、気のせいだと思いました。少しずつ、少しずつ……励ましてくれる声が小さくなっていくことが。
  けれどてのひらにあるぬくもりが……冷たくなっていって。すごく子供だったのに……わかってしまったんです。
  もうこれっきり……二度と、一緒にいることは、できなくなるんだ……って」

 結果から始まる物語。八雲は下を俯いていた。人と話す時彼女はちゃんと相手の目を見るのに。
 話相手は播磨拳児であるが、同時に八雲自身でもあるのだろう。隠されていた傷痕は表面だけでもとても痛々しく見えてしまう。

 「やがて……泣いても、叫んでも……お願いしても……一度だってそんなことは、なかったのに……」

 話からするに、病気ではなくて事故か事件……だろうか。それでも最期まで父親と母親は大事な子供達を護ったのだろう。
 塚本天満を護った。塚本八雲を護った。その命に代えて。こして二人は反れることなく今も陽の下で生きている。
 名前さえ知らない、"存在していた"というだけの人間に頭を下げたくなる経験は拳児にとって初めてだった。

 「それ以来、二人で生きようと決めて…実際、そうでした。もちろん多くの人達に手厚く助けて頂きましたが…それでも、どこか離れている感じがして。
  本当に心許せるのは姉さんだけ。そう思って戻らない日の甘美を懐かしみ続けた……そんなある日です。写真を全て、捨てたのは。
  ……馬鹿なことをした。今ではそう思います」

 子供は時々信じられないことをする。大人からすれば馬鹿げたことを、分かりきっているのにやってしまう。
 拳児にも失敗の経験はあった。最たるものは、自分の起こした喧嘩で両親が多くの人に頭を下げた事件だろう。
 この時拳児は既にしまった、と形になった一つの失敗を持っていた。八雲の転がす言葉がどんどん早くなる。

 「……その頃はまだ子供すぎて。過去の思い出、そこにある喜びより……現実のほうが……ずっとずっと、辛かった。
  思い出はちっとも温かくない。笑ってくれることもない……撫でてくれることもない。見れば見るほど空しさの穴がどうしようもなく深くなるんです。
  見ていても何も変わらない。胸の穴は埋められない程に大きくなるばかり。……なら、いっそ。
  そう思い、そして……取り返しがつかなくなってから、後悔しました」
 「そっか……」
55727-3(おにぎりルート):2010/02/08(月) 14:10:57 ID:nixAS0ND

 後悔が、拳児の胸に波のように打ち寄せて端から徐々に削っていく。知らなかったとはいえ、もう一歩、裏を汲み取ってやることができれば。
 何故家にあれ一枚しかなかったのか。意味は分からずとも、自分で納得しようとせずサラや絃子に相談するなど別の方法もあったのではないか。

 「なのであの写真を見たとき……。なくしたものが……実は、そうではなかったと知って。――まだあったんだって。だから、まるで、まるで――」

 そう、まるで――。続きは聞かなくても分かる。

 「何度も願った事がやっと叶った……本当に、生き返ってくれた……! そんな気が、しま……し、た……っ」

 それは八雲の意思であり、また、天満も同じ気持ちだったのだろう。
 姉妹の清々しいはずの門出の日に、足を止めざるを得ない過去を暴き想起させる。抱いた悔やみの重さにすぐには動けなかった。
 ぽたぽたぽた。果物を絞ったように、八雲の膝に染みができていく。
 それを見てようやく――立ち上がって傍にあったティッシュで顔をぬぐってやることができた。

 「……悪かった。辛いこと思い出させるつもりじゃなかった。ただ……いつまでも黙ってるのはどうかと思って……いい機会だと考えたんだ」

 言葉なく、八雲はこくこくとひたすらに顔を手で隠して頷いていた。
 責めるつもりはない。心遣いに感謝している。そう言っているのが分かる。
 それで一瞬であってもほっとしてしまう自分が拳児は悔しかった。


 「わたし……っ……!」

 八雲の大きく開かれた口が上下にわななく。
 部屋の中は暖房が効いていて、むしろ効きすぎているほどで、一枚脱いでもいいほどに暖かいのに。その声はどこか時間さえ凍らせる冷たさがあった。
 押し絞ったそれは既に意味のある声ではない。だから本来言おうとしていた事はどうとでも解釈できるはずなのに。
 心を見たように拳児には届いた。八雲のあの写真に込められた本音――


 ――本当は……あの写真が、欲しかった。


 ・・・・・・

 ・・・・

 ・・



55827-3(おにぎりルート):2010/02/08(月) 14:12:23 ID:nixAS0ND


 溶けたガラスで作った碗が、もう二度と同じものができないように。
 血の繋がりに代わりなどない。何人であっても完全に果たすことは出来ない。
 時間と共に隠しきれぬいびつさが際立ち、やがて全てを割ってしまう。
 けれど絆ある家族として。この一年を一緒にいた男として。自分の温もりではだめなのだろうか。
 八雲の頭を手でそっと撫でてやると――反射的に見つめられる。そこには感情があった。よかった、彼女はまだ自分を使い切っていない。

 「ごめんなさい……こんな姿を、見せたかったわけではなくて……」
 「分かってる。けど話してくれてありがとな。…悪かった。俺があんなことしたばっかりに」
 「……いえ。あの子と私、姉さんの問題に巻き込んでしまいましたから。せめて少しでも伝えないといけない……そう、思ったんです」

 話。そう――自分もそうだ。今日は朝から多くのことがあったのに、まだきちんと話せていない。今日、八雲にどんな気持ちを抱いたか。
 少女に襲われ諦めかけた時。八雲がいてくれたから頑張れた。天満への気持ちを含め愛してくれた塚本八雲という子がいたから。
 声を聞き、名前を知り、思い出すこともできた。そして世界を受け入れ自分を克服しようとするその姿は輝いていた。

 空港へ向かう時、過去の自分を相手にして、八雲のことばかり考えたことも話せていない。
 別の男へ幸せそうな表情を向けられて、不安と疑惑を募らせ幼い執着を抱いてしまっていることも。

 一つ一つはとても長くて、ありふれた言葉でしか飾ることができず、伝えられない。
 全部を一度に……たった一言で告げられる魔法があればいいのに。こうして頭に触れることで少しは伝わってくれるのだろうか。
 背負うだけが立派じゃない。本人は迷惑になると思っても、相手には喜びを与えることもある。それを返してやることだって……。
 言葉は色々と腹底から出てきては喉を通らずに消えていく。

 「……すいません。もう一つ、謝らせてください。……泣いていますが、少しすっきりしてしまいました……姉さん以外の誰かに、話してみて……」
 「いや、いいぜ。俺こそこう言っていいのか……嬉しいからよ。妹さんの大事なことを知ることができたからな」
 「……そう言われると、少し……報われました。もう、大丈夫ですから」
 顔を上げる八雲の涙は止まっていた。
 目の周りが蛍光灯の光がよく反射しているが。多少強引なしなりはあるが、無理に彩った声ではあるが――。

 「よっしゃ、もっと楽しい話しようぜ。そんでこれからバンバン写真撮って、元気な妹さんの姿を見せてやろうぜ。な?」
 明るく振舞おうとしている。
 偽りであっても、繰り返すうちに本当に心からの喜びとなるように。
 拳児はその意欲に乗ることにした。そう――自分も八雲と辛い話はしたくない。もっと楽しい話がいい。
 一番最近にあった嬉しそうな八雲といえば……心当たりがあるではないか。
 「ほら、今度の日曜とかメガネとデー、どっか……行くんだろ? 楽しそうにしてたよな。きっと絶好のシャッターチャンスが――」
 「ふふっ」
 「……い?」
 鼻声混じりに笑われる。デートという単語をどもって言い直したのが聞こえたのだろうか。
 それとも強引に明るい話題に持っていこうとしているのが胡散臭くみえたのだろうか。

 「違います。サラから話を聞きました。すいません……誤解されてしまいましたね」
 「誤解……むぐっ?」
 すっと、もういいというように、何か言う前に口元を彼女の掌で塞がれた。触れられていることにドキッと胸が脈打つ。
 興奮から逃げるようにこの行動の意味を考え、指の腹の柔らかさを唇で感じながら理解した。
 「ふがふが?」
 「……はい」
 会話になっていないが、伝わる。――暗い話はここまでにして、楽しい話をしよう。自分のつい今しがたの発言と同じ趣旨。
 姉さんのように前を向いて。そんな気持ちが込められていた。指が離れる。
559名無しさん@ピンキー:2010/02/08(月) 14:13:13 ID:nixAS0ND

 「ご、誤解!? いや、俺はそりゃ…元から妹さんがそんなはずねーと、思ってるんだ……ぜ?」
 「……最後、声が上ずっています……」
 拳児は下手な慰めもここまでにして、次のテーマに話をあわせることにした。そうだ、八雲はいつまでも辛い過去を引きずって同情を誘いたかったのではない。
 ただ知って欲しかっただけ。知れば同情してしまうのは当然だからずるい気もするが……そもそもが自分が踏み入りすぎたから。
 「んじゃ……どーいうことなんだ?」
 「あの、まず電話の相手ですが……花井先輩では、ないんです。電話は先輩のものでしたが……周防先輩でした」
 「は!? けどよ――あ、周防がメガネの携帯使ってか?」
 「はい……」

 話はこうだ。
 矢神動物園の人気者はキリンのピョートルとレッサーパンダの空太に二分される。
 拳児と八雲もある時は二人で、ある時は大勢でよく出かけているが、主な相手はもっぱらピョートルだった。
 理由は空太が拳児経由の動物ではなく、元来の気性の激しさもあってあまり懐いてはくれなかったためである。
 八雲としてはもっと仲良くなりたいと常々考えていた。だが手を振ってみても頓着ない反応。
 こちらから無視したことはなかったが、どうしても他の皆と比較して交流期間は短くなってしまう。
 だがそんな空太が懐く例外が(その巨体から襲われているようにしか見えないが)、花井春樹。
 何故、とそれを知る全員が首を傾げるも、きっと自分らにはわからない理由があるのだろうと納得している。

 そしてそんな空太にもつがいができていた。そして赤ん坊が生まれたのが何と今日だという。
 落ち着かない空太をなだめるためにも、彼は縁ある強敵の記念日に立ち会っていたとか。ちなみに一般人が立ち会うのは極めて少例。
 無事生まれた赤ちゃんの一般公開はまだ先であるが、動物園になじみある八雲達には特別に見せてくれるよう、取り計らってくれたのだ。
 それを連絡してきたのが周防美琴。最初花井に頼まれるも自分でいいのか悩んでしまい、それを見抜いた花井が自分の電話でコールして押し付けてきたらしい。

 「で、当日、メガネや周防はもう東京へ行っちまってるわけか」

 拳児は――信頼置ける強敵を疑ったことを強く恥じた。

 「はい……自分達の分もサラ達と楽しんできてくれって……だから、デートではないんです。
  そもそも……播磨さんとの約束を私が反故にする……そんな風に思われるのは……少し辛い、です」
 「う」
 確かに。場所が矢神動物園なら話は違う。自分達の漫画の取材とは――そもそも次に考えているのは動物の漫画だった。従って取材先も限られる。
 いつもの動物園ならその場所としても申し分ない。約束は守られるのだ。当然だ、八雲はそんな子ではない。
 知っていたはずなのに妙な方向へと考えてしまったのは何故だろう。
 「そもそもサラの奴が……っと、なんでもねえ」
 ぶんぶんと拳児は頭を振った。人のせいにするのはみっともない。

 「悪い、全部俺の思い込みだ……すまねえ」
 「別に……怒ってません。……好き…な、人に……そう思われる辛さ。それは私より、播磨さんが……」
 「――!」

 言葉を呑む。拳児がそうしたのは、天満にされた過去の誤解を指摘されたからではない。
 今の会話の中に、に大事な言葉があったのを、聞き逃さなかったから。
 "好き"という言葉を。異性に対する意味で八雲が口にしたのを、拳児は聞き逃さなかった。

 (好きって……)

 ためらいがあり、自然と出てくるにはまだ難しいようだが、確かに。
 その相手を前にして―ー。相手とはもちろん自分、播磨拳児のことである。
 彼女に好かれていることが確認できたのが、嬉しかった。寝る前にあったはずのもやもやとした悪い感情は既に無い。
 悪夢から覚めた瞬間よりも良い気分。なので、つい。
56027-3(おにぎりルート):2010/02/08(月) 14:13:49 ID:nixAS0ND

 「え…きゃっ!?」

 ぎゅっと。前に飛び腕に中に八雲を抱いてしまう。それは嬉しさの体現としての抱擁。
 スポーツでのハイタッチや、両手を握ってぶんぶん振るのと意味は変わらない。
 ただ恋愛感情と分けられるほど器用な人間ではないから、どちらでもなくて身体を抱いてしまうのを選んでしまう。
 「播磨、さん……」
 ぎゅっと。今度は八雲から腕を回される。喜ぶ自分に合わせるように。
 先程まで泣いていた女の子に何をするのかと、拒絶の可能性も少ししたのは杞憂だった。

 (……)
 衣服を通して、互いの体温が少しずつ上がっていく。知られる緊張、知る興奮に高まりが止まらず頬が上気していく。
 「妹さん。いや、八雲?」
 「……無理に、変えなくてもいいと思います……」
 「そっか……んじゃ、妹さん」
 「はい……」
 「……悪い。せっかくの心意気を無駄にしちまうかもしれねえことを言う」

 彼女は――こうしているだけでも、本当は辛いのではないだろうか。塚本天満を好きな播磨拳児を受け入れて、それでも愛することは。
 天満に向いた拳児という男の気持ちを強く受け止め、天満と離れることにより起きる全てを理解し乗り越えることができ。
 おまけに、いつか気持ちが薄れるのを期待するどころか、徹底的に拘らなくてはいけない。

 拳児は、八雲と顔一つ分だけの間をとり、視界に彼女の顔だけが入るようにする。
 表情から立ち上る体温が手で掬えそうなほどに熱く強い。橙に近い瞳を見つめ重々しく息を吸い、そして――。

 「……俺は、天満ちゃんがいないと世界が焼いた骨みてえな灰色に見えた男だ。けど妹さんは天満ちゃんがいなくても頑張れる、周りにいい奴らはいるって言う」
 「はい。言いました」
 「それは俺も分かってる。けど……やっぱ違うんだ。誰と話をしても、今まで妹さんといた時でさえ、天満ちゃんとは違った。
  違うのは天満ちゃんが特別だからだ。単に恋の対象ってだけじゃない。あの子は俺の太陽で……他の誰とも住む世界が違う。神様や仏様と一緒。他にいねえ」
 「はい。私も、私の中の姉さんの場所は――他の誰にも譲れないと思います」
 「だよな。俺だって、一生心からあの子の光が消えることはねえ。けど、それは妹さんと同じ理由でだと思うか? もしかすると……」


  もしかすると――妹さんと違って、恋を引きずり続けてるせいなのかもしれねえ。だったら……俺は最低だ


 拳児の言葉はそう続くはずだった。けれどそれは八雲により止められた。出掛かった言葉の続きを読んだように、彼女が強く拳児を抱擁したから。
 言わないで、という意味ではなく。大丈夫です、という意味だと拳児は受け取れた。
 彼女の体温は先程よりも熱い。もう暖房などいらないと思うまでに。

 「……私も、姉さんがたまらなく恋しくなる時はありますから。播磨さんがいても、サラがいても……姉さんじゃないと。そう思う時が」

 八雲がそこで言葉を切る。それは意識しないうちに拳児への皮肉じみが言い方になってしまったような気がしたからだった。
 彼にも言えることではなく、自身の弱さを話すべきだと意を決する。
 「……あのとき。私自身が狙われていると知ったとき……心の底から怖くなりました。あの子に、ここまでなんだって言われて……とてもとても、怖かった……。
  そして私は……やってはいけないことをしてしました。抗うことも諦めて、言葉を向けるのも諦めて……姉さんに助けて欲しいと視線で訴えたんです……!」

 静かに叫ばれているのを拳児は耳の傍ではっきり聞いた。
 懺悔のように聞こえる告白だが、拳児はそれが悪いことだと思わない。むしろ逆である。
 「もう、重荷にはならないって……決めていたのに! たった、一日会っただけで……」
 「それは……結局は妹さんが何とかしたじゃねえか」
 「それだけでは……だめ、なんです……」
 「……」

 ああ、塚本八雲という少女らしいな、と思えてしまった。
 あれは仕方ないと多くが自己正当化しそうな場面で。自分に本当に非がなかったか見つめることができる人間を拳児は知らない。
 しかもその言葉に、まさかという意外性や説得力の欠如はない。
 その理由は普段から彼女がその行動を選ぶにふさわしい姿を見せていたから。
 この子は逃げてなどいないのだ。こうして氷雨の中も自分を真っ直ぐ立てている。
 少し考え方が固い気もするがそれが性分なのだろう。
56127-3(おにぎりルート)

 「でかくなったなあ、妹さん」
 「え……?」
 拳児は背の高さを測るように掌で八雲の頭を撫でた。
 「あー悪い。……成長したなって意味だ。いや、俺の中じゃ妹さんは最初から高いんだがよ。ところが……天井がねえ。底も知れねえ」

 たまに忘れそうになるが、彼女は自分より年下だ。だが自己への向かい方については先輩である気がした。
 弱さも辛さも、自分の行い隠さずに認めていて。それが彼女以外の誰かだったら、それにひどく感銘を受けて拍手喝采の笑顔だけで終わっていただろう。
 こうは続かないに違いない――"こういうところが好きなのだ"。こうは続かないに違いない。
 その内面の鏡に映るもの。人とは違うものさえ見通すらしい紅鮮の瞳で見ているもの。共に見せてくれないだろうか。そんな風には八雲以外には思えない。

 「妹さんはカッコよかった。昨日も今日も、一年間こんなこと思ってたんだなって、俺に勇気をくれるくらいにな。俺は今日も妹さんに助けられた」
 「そんな……播磨さんが頑張ろうとしてくれたから、あの子を止めることができたんです。勇気を頂いたのは私のほう――」
 「俺が動けたのも、妹さんのおかげなんだ」
 「え……そ、そんな」
 「そんなはずある。その証拠に俺はこう思ってる。これからも、俺にたくさんの妹さんを教えてほしい……いつまででもない。ずっと、ずっと――ってな」

 拳児は照れながらも嬉しいので笑っていた。本当に嬉しかったのだ。
 共に背負ってくれる人がいることが。依存しきることなく、大事な部分を見失うことなく、互いによく影響しあって横にいてくれるのが。
 笑ったり励ましたりを繰り返し、たまに衝突もして。一時は魔王とさえ呼ばれた人間の傍にいつでもいてくれる彼女がいるというのが。
 同じ痛みを持つために、敏感に心の揺れに共鳴し深く感じ取ってしまう相手がいるということが。
 そんな相手は今までにいなかった。――塚本八雲は誰とも違う。天満とさえ、違う。

 「そういうことなんだな。かっかっか」
 「あ、あの……?」
 拳児は自分の中での彼女がはっきり形になったと思った。
 塚本天満という少女と全く重なることなく、塚本八雲という少女の形とその世界が出来ていく。
 これで先程まで溜まっていた心の淀みは目に見えて小さく感じられるようになっていった。天満と八雲は同じ姉妹でも違うのだと。

 一方で、自己完結していく目の前の相手に八雲は言葉が選べないという様子だった。

 「だからだな、もう一度言うとだな……俺は妹さんに傍にいて欲しいってことだ。好き…だから、よ」
 「え、え……っ? う、うん――いえ――い、いいえ……! ああっ、そうじゃ、なく……」
 困惑――今更で繰り返しな、確認するような告白を受けて。
 色々なことが宙ぶらりんのままになってしまったようで、全てが解決してしまったようでもある。
 だが余所目に分からぬよう上手く孤独を隠すより、世間からいささかぎこちないように見えても、二人で共に歩きたい。

 「――好きだ。ずっと俺といて欲しい」
 「あ……」
 八雲は拳児の告白におずおずと遠慮深い態度を取りつつも、拳児の真摯で純な心情に喜びを隠せず、やがては顔を上げて答えた。

 「……はい。私も播磨さんのことが好きです。――喜んで」

 拳児は間に感じていた薄氷の壁が、心の泉に張った氷が、両側から穿たれて川筋を解けて流れていくのを感じた。
 前に本で読んだ話によると、寒冷地では氷が一度溶けて流れたら最後、大流氷群がこれまで止まっていた分を取り戻すように激しい勢いで放出されるという。

 ――ガタン

 「あっ……」
 全てを飲み込むという表現があったと思うが、合っているな――と拳児は思った。
 正に自分はそれさながら。八雲を持ち上げてその体を抱きしめているのだから。
 少ない理性が先程まで自分が寝ていた場所を選ばせる。八雲を押し倒した先は固い布団となったが、どうか許して欲しい。