「××」
「なに? 後ろを向けとか?」
伏見は首をふるふると横に振って手帳の紙面を指差した。
『何がしたい』「はてな」
『セックス レイプ 輪姦』「はてな」
「は?」
戸惑っていると伏見は僕の方に近づいてきて、僕の息をする器官を塞ぎに掛かった。それは俗にはキスというらしい。って待て。
「××になら、何をされてもいいから……」
「あの、伏見さ……」
いや、というか合意してる時点でレイプじゃ無いし複数男がいなければ輪姦はできません。意味解って無いだろ絶対。
『勉強したから』『大丈夫』
「いや、それ以前に僕の方がムリ」
『なんで』「はてな」
「諸事情あって性欲無い欠陥品だから」
嘘つきみーくんも天野××も、そんな感情だか欲望だかはとっくの昔に枯死しちゃっているのです。
ってワケで当然ながら健全な青少年よろしくそのテの本やらDVDやらには目もくれず、そんなワケだから精通も勃起さえ未だに無用の長物なのです。
伏見は可愛いし、だから伏見が悪いわけじゃ無いんだけど。
『大丈夫』『任せて』
伏見はしばらく考えて、やがてそう答えて僕の目の前で膝立ちになった。なって、僕の制服のベルトを、だからちょっと待て。
「あの、何をする気ですか」
『勉強してきた』
言うが早いかパンツのファスナーを下ろして、下着のトランクスごと膝の高さまで脱がされた。
当然僕のナニが伏見さんには丸見えで、それを手に取った伏見はゆっくり口に含み出した。瞬間僕の身体を奇怪な感触が走り抜けていた。ってだから待ってってば。
「あ、あのさ伏見」
「力、抜いて」
「いや、汚いか、ら……っ!!」
そう言って僕のソレに舌を這わして口に含む度に、僕の身体が跳ねそうになる。そのくらいの感触が襲ってくる。
下を見ると伏見と目が合って、目が合うと伏見は僕に微笑んだ。
やばい。可愛い。
そう思うと何だか股間の辺りがどきどきしてくる。ずきずきしてくる。やばい。
「伏見。やばいって」
「性欲が無い、なんて嘘。お前のは、ちゃんと固くなってる」
どこか勝ち誇ったように、安心したように、嬉しそうに? 伏見はそう上目遣いに微笑んでいた。
あぁ、ダメだよゆずゆず。そんな表情をしちゃ。なんだろ、なんかスイッチが入りそう。
あ、入ったかな。思いっきり入ったかな。ゆずゆずが可愛いから、ゆずゆずが可愛すぎるから。
ゆずゆずがゆずゆずがゆずゆずがゆずゆずがゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆず
ゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆずゆず!!
あ、ダメだ。僕、壊れた。
「ゆずゆずっ!」
膝立ちのゆずゆずを強引に立たせて抱きつく。しがみつくと表現した方が正しいような乱暴さで。ゆずゆずを感じていたい。ゆずゆずに触れていたい。だから――
「んっ……」
キスをした。唇に。僕の両手はゆずゆずの両頬に。ゆずゆずは固く目を閉じてた。
「……はぁっ」
唇を離すと、そう息が洩れて、お互いの唾液が糸を引いていて、陶酔した表情を浮かべた伏見がいた。
あぁ、だから何でそんなに可愛いかなぁ!!
何もかもが欲しくなって、陶酔して閉じていた目蓋を強引に指でこじ開けて眼球にキスして舌を這わせた。
頬を舐めた。白くて柔らかくて、涙でしょっぱい伏見の頬。気持ち良かった。形の良い鼻を甘噛みした。
伏見のモノなら何でも味わいたかった。口腔に二、三本纏めて指を突っ込んで頬の内側を掻き回していた。
「う、んぐっ……」
さすがに苦しいのか呻く声がした。舌が指に絡みついて気持ちいい。
「××。服脱ぐから、少しだけ待って」
指を抜くと、少しだけ抗議混じりのそんな声がした。確かにやり過ぎてるかもしれない。
伏見の顔はもう僕の唾液で酷くべったべただった。両お下げの髪は頬に張りついたり乱れに乱れてその原型を保ってなかった。
そんなゆずゆずが一枚ずつ服を脱いでいた。どきどきして待てない僕を尻目に。
例えるならエサが鉄格子の向こうに置いてあるのを見てる一週間ご飯抜きだった動物。
無論鉄格子は紙一枚分の良心と言うかプライドというか理性と言うか。残ってるのが意外だけど。
目の前には下着以外は全て脱ぎ終わった伏見がいた。
白い身体に栗色の髪の毛。前の事件から回復しきって無いのであろう骨ばった関節部が目立つ華奢さに磨きが掛かったラインに、
それとは無縁に自身を誇示している胸部の二つの膨らみ。
「わ、私の身体、魅力魅力みりょ……ないないない?」
逆だバカ。ありすぎて困ってるんだろうが。
強引にブラジャーをむしり取るように外すと、その身体つきには不釣合いな膨らみが零れてきた。息遣いが荒くなる。僕も、ゆずゆずも。
「さ、触っていいよ……あっ……は……」
言われる前に我慢できなくて手を伸ばして、その白い膨らみを掴んでいた。柔らかくて温かくて、気持ち良くて。
伏見は僕が触れた瞬間から息を甘く漏らして何かに耐えてるようだった。
なんか頭の中が蕩けてきそうになる。
僕は服を脱いでいた。ズボンが膝の高さでは動き辛いし、下を履いて無いのに上だけ着てるのも妙だった。何より、伏見は既に裸だったし。
「ね、××……」
目線と表情で何となく言いたい事が解る。
「脱がすよ」
「ん……」
さすがに恥ずかしいのか顔を両腕で覆い、でも少しだけお尻を上げて僕の求めに応じる。
それは肯定のサインなんだろう。嘘は……もう言う余裕無いですごめんなさい。
ゆずゆずを隠してた最後の一枚を取り除くと、髪の色と同じ栗色と綺麗な筋があって、それをまじまじ覗き込むとさすがに恥ずかしいのか足を閉じられた。
「お前、あんまりそんな……だめっ」
でも、もっと見たいから顔を近づけたんだけど。足の間に割って入って。
ゆずゆずの性器は綺麗だった。醜悪な僕のとは大違いで。だからキスした。
「んっ!」
途端に伏見の身体が跳ねた。あぁ、僕の時と同じだなって思った。さっき僕のを口に含んでくれた時、伏見がどんな気持ちなのか、なんとなく解った。
最低でも今僕は、凄く伏見の性器が××しくて味わってみたいと思ってるわけで。
「あっ、はっ――」
裂け目に沿って舌を這わす。桃色の襞が見えて、指で広げて、その度にゆずゆずはこそばゆいのか、身体を震わせる。舌を這わせる度に。
そんな行為をどれだけ続けただろうか。
「ね、××。しよっか」
ゆずゆずからそう言われた。
その言葉が何を意味するかくらい知ってた。
「やり方、知ってる。はてな」
「知ってるよ」
やり方は……やった事は無いけどやり方は知ってる。ずっとあの空間で見させられてたから。あの地下室で。
僕の父はその行為について喜々として細かく説明して来たものだ。その行為を行いながら。無論その相手は――ダメだ。さすがにこの話題はパス。
でもそれじゃ伏見は――
「あの、さ、ゆずゆず……」
「謝らなくていい。わたし、お前に汚されたい。それだけ」
そう言って向けてくる視線は真剣で、僕の覚悟は竹刀程度で。そんななまくらで実践に臨むのが失礼に――
「今更、ここまで言わせて迷うなばか」
叱られた。目の前には全裸の伏見柚々。白くて、細くて、アンバランスに胸が大きくて、髪の毛は両お下げが千々に乱れて、
顔は僕の唾液でべったべたで、そんな彼女が部室のテーブルの上で仰向けに横たわって僕を待っていた。
伏見は間違いなく経験は無いだろう。そんな綺麗な存在を、僕が今から汚そうとしている。
「××していいよ」
叱られても躊躇う僕にそう追い討ちを掛けてくる伏見の声。僕の手を握ってくる伏見の手。何より、僕に向かって微笑んでくる伏見の瞳。
「××にならそうされてもいい。安心して。それに、お前も我慢するのか?」
視線の先には僕のそれ。興奮し続けて固くそり立ったままの僕の性器。
全裸になって一番恥ずかしいのは当人の筈、なのに冷静なヤツ。
「わかった。やるよ、ゆずゆず」
言うと自身の性器を伏見のそれにあてがった。理性はクラクラで気持ちはドキドキで欲望はギンギンで、もう抗いようが無かった。
立ったまま、テーブルに仰向けに横たわった伏見の腰と太ももを両手で固定して、自分の腰を少しづつ前に押し出すと、
自分の物も少しずつ入って行って、途端に切っ先に強い抵抗が返って来て、少しだけ伏見が跳ねた。
「もう少し足を広げて……いくよ」
「……うん」
今更拒否されても止まりようが無かったけど、そうとだけ社交辞令をして抵抗を無視して腰を前に押し出す。
「う……あ……はぁっ、はぁっ」
テーブルの上にクロスでも敷いてあればそれを掴んだであろう伏見の指が行き場を失って僕の腕まで辿り着いて、痛苦の為かそのまま僕の肌に爪を突き立ててくる。
でもそれは、今の僕にとっては現状から更に興奮させる一材料に過ぎなかった。
「ゆずゆ、ずっ」
「んっ……んんんぅぅ!!」
僕が名前を呼んだのと、僕の物が伏見の最奥まで到達したのと、伏見がそう声を押し殺したような悲鳴をあげたのは、ほぼ同時だった。
「は、はいった、の?」
息遣いがぜぇぜぇとすっかり粗くなった伏見がそう訊いてきた。腕が震えてて、手は僕の腕を握り締めてて、瞳は不安げに僕を見上げてて、それが堪らなく可愛かった。
「入った……今のゆずゆずが、凄い可愛い」
「口に出すな、ばか」
怒られた。そんな顔で怒られても可愛さが増すだけなのに。あぁ、ダメだ。
「動かすね」
「え……あっ、ぅあっ、いたっ、っっ!!」
答えを聞く前に抽挿を開始した。僕が抜き差しする度に、伏見の胸が大きく前後に揺れて、伏見は片手を僕の腕から離して口元を指で押さえていた。噛んでいるのかもしれない。その、声を出すまいとする仕種が更に僕に火をつけていた。本当に何でそんなに可愛いんだろう。
もっといじめたくなってくる。
もっと色んな表情を見たい。いつもは絶対に見れないだろう伏見の表情。可愛いから見たい。
見て、僕だけが知ってるって悦に浸りたい。
「うっ、はっ、はぁぁ、く、う、んんぅ、んっ」
そんな声を、発する度に恥ずかしがって赤くなるゆずゆずの顔。
普段どおり。いや、口元を押さえている分だけ余計にくぐもって、いつも以上にノイズのように聞こえる伏見の声。
うん。可愛いから許す。
そう即決した。
白い肌はいつの間にか桜色に染まってて、頬は恥ずかしさから真っ赤っかで、
手は力の入れすぎで蒼白で、どれもその部位を維持するのに必死でなりふりも無い状態なのに。
「凄い熱いな。ゆずゆずの中」
「う、うるさい。ばかっ」
涙で潤んだ茶色い瞳だけは、僕を捉えて離す素振りもない。
頬にべったり貼り付いた伏見の栗色の髪。指先で頬を撫でて離してやると、くすぐったそうに息を漏らす伏見。
息を漏らした瞬間に締め付けを増す伏見の中。全部ひっくるめて僕をドロドロに溶かしに掛かってくる。
伏見をもっと近くで感じたくて顔を近づけた。腕も肩の下から頭を抱えるように回すと、伏見も僕の頭に腕を回してきて、
互いに吐息を感じられるまで近づいた。どちらともなくキスをして、そのまま抱き合って身体が密着すると、伏見の身体の蠢きがそのまま伝わってきた。
その快感に負けて、僕の下腹部の更に下辺りから、何だかぞわぞわした物がこみ上げてくる。
「ゆずゆず、ゆずゆずっ。ゆずゆずゆずゆずゆずゆず、ゆずゆず!!」
思わず名前を呼んだ。ドロドロに溶けそうな結合部の抽挿も、呼ぶ度に間隔が狭まっていた。
「あ……××。××、××。××っ、××!!」
呼応するようにそんな声が聞こえて、伏見の腕に籠められた力が増した。抱き合うというよりしがみつかれるようになって、そんな体勢が更に僕を刺激して――
――そして、僕は射精した。
僕自身を伏見の中で迸らせた瞬間、何もかもが伏見に吸い上げられていくような錯覚を覚えた。
ひとしきり欲望を吐き出した僕の肉棒はびくびくとまだ興奮していて、その痙攣の度にそれを包んでる伏見の身体はぶるぶると震えていた。
「××、終わった?」
「ああ。痛かった、だろ」
「うん。……痛かった」
顔のすぐ横でそれこそ耳に息が掛かりながら声がする。僕も伏見もぐったりして、抱き合ったままテーブルの上で横になった。
さすがに抜かなきゃマズいと思って伏見から自身を抜くと、伏見の真っ白な筈の太ももは、伏見の純潔の赤い血と僕の吐き出した不潔な白い液体とでメチャクチャで、
今更ながらに罪悪感がこみ上げてきた。
「でも、こうしてると気持ちいい」
抱き合って、伏見が頭を僕の肩に預けてくる。
「……ごめん」
「謝るくらいなら、もっと抱き締めろ。ぎゅぅぅぅって」
「へ?」
「お前にそうされると、凄く気持ちいいから」
「あ、あぁ」
罪悪感も手伝って言われた通りにする。ぎゅぅぅぅぅうっとだな。ぎゅぅぅぅっと。
抱きつくも抱き締めるも通り越して締め上げるに近いくらいに力を籠めると、伏見がなんだか嬉しそうに息を漏らすのが聞こえて、
僕の後ろに回した伏見の腕も僕を締め付けてきた。
「××。××してる」
改めて、そんな声が聞こえた気がした。
それから暫く二人で横になったまま抱き合っていて、下校時刻も大概に過ぎかけたので服を着て帰宅の途についた。
部室備え付けのティッシュと手洗い場の水道である程度は綺麗にはなったが、校庭に出たらどうにも今までやってた事が恥ずかしくなって、
二人して赤くなって下を向きながら歩いた。手は繋いだままだったけど。
あれ、僕嘘つけてない?
伏見がすっかり薄暗くなった校庭で、灯火を頼りに手帳をかざしてくる。
「お前は」『御園さん』「の」『事は』『好きなのか』「はてな」
「好き? あぁ、勿論××してるさ。世界で一番」
嘘だけど。あ、やっと元の調子になった。
『御園さん』「を」『大事に』「ね」
「それと」『今日の事』「は」『秘密』
「それと」『二号でいい』
「え……あぁ」
「じゃ、××。また明日また明日また明日!!」
ぱっと手を離すと、恥ずかしさが頂点に達したのかこちらを少し振り向いただけで伏見は慌てて走り去って行く。
どこかのはぐれメタル並みだったからそっちの意味で二号か。大概に、嘘だけど。
僕も家路についた。まーちゃんにバレたら撲殺どころの騒ぎじゃ無いなぁとか思いつつ、
感謝とか罪悪感とか思慕とか興奮とか動揺とか歓喜とか自己嫌悪とか達成感とかで頭をごちゃごちゃさせながら。
翌朝、僕はまーちゃんと一緒に校門を潜っていた。晴れてまーちゃんも勉学に勤しめる為の体力を取り戻したからだ。どこまで勤しむかは不明だけど。
「ねーねー、みぃきゅぅぅぅん」
登校中なのにも関わらず「らぶらぶ」なスキンシップを試みてくるまーちゃん「どうしたのまーちゃーん」とベタベタにひっついてバカップルを体現は勿論しない。人目くらいは気にしたいものである。
校庭の中ほどまでそれでも腕を組んだり手を繋いだりで傍から見たらバカップル一直線なスキンシップのままで進むとふと一人の人影が視界の隅に引っかかる。
栗色の髪を両お下げにした色白の肌。その痩躯に不釣合いな膨らみを制服に押し込めた胸部。
伏見柚々だった。
「みーくんにとって、いちばん大事なのはわたし。だよねー」
避けようが無い、とは言え気まずいタイミングだなと思った。まあ、嘘だけど。
「そーだねー。一番きゃわいいのはまーちゃんだと思うよー」
相槌を打ちながらもう一度目を泳がせると、柚々はまーちゃんの死角から僕にコッソリ近づいてきて、
他人の振りを貫きながら僕のポケットに何か入れて、また遠くに戻って行って僕を観察する作業に戻った。
まーちゃんに気付かれないように手を突っ込んで中身を確認すると、手帳の切れ端だった。幾つかの文章と「正」の大群。
その中で僕に伝えたい文章だけ乱雑な丸で囲ってあった。
『二号でいい』『いつでも味方』『あまり気にするな』の上に『読んだら即破棄!!』が殴り書きで書き足してあった。
僕が目を通したのを見届けると、伏見は軽く微笑して少しだけ合図して僕の視界から消えた。
「みーくん。なによそを見てるの?」
不機嫌になったのか僕を問い質すマユ、もといまーちゃん。
「いや、あまり見つめ過ぎるのも失礼かなと思ってさ」
「むー、ちゃんと目を見て言ってなーい!! こっち見ていうのだ!!」
途端にむぎゅぅぅぅとほっぺを両手でキャッチされ、強引にまーちゃんの方に向かされる。僕のナイスと自画自賛な弁解は速攻で打ち消されたようだった。
「さすがに人前だし」
「関係ない。みーくんはまーちゃんだけのものなんだから、わたし以外は見なくていいの」
「あぁ、わかってるよ。まーちゃん。僕はキミだけのものさ」
嘘だけど。スラスラ口に出せる自分をまた少し嫌いになった。
ポケットの中には手帳の切れ端と伏見の言葉。僕を××と連呼し××してると言ったゆずゆずの言葉。
「うみゅうみゅ。それでこそみーきゅんなのだー」
いつか好物だと言った鶏の、それこそ丸焼きでも存分にご馳走したいなと思いながら、まーちゃんにバレないように僕はその紙切れをこっそりごみ箱に捨てた。
完