7THDRAGON/セブンスドラゴンでエロパロ 第三帝竜
彼女のその様子に、彼らの内、一人が説明する。
――【ロスト】化。人としての“理性”を失い、行きつくその先に待つ。一種の、【進化】。元は人であるとされているが、よくは分かっていないらしい。
進化と言うには余りにもおぞましいその姿に、彼女は吐き気がこみ上げてくる。獣が死んだその姿はもう見慣れた。今では解体だってできる。
だが、“アレ”は違うのだ。もはや生き物として見なさない。いや、ダメなのだ。“アレ”を生き物として肯定してはいけないと、彼女の本能が告げている。
先の一人が静かに言葉を続けた。
――これらはあってはいけない。あってはならない姿。しかし、ヒューロ氷洞では当然の帰結。だと。
彼女はその言葉にもう一度だけ、“アレ”を見た。
未だわずかに息があるのは、堅牢たる竜の皮膚のおかげだろうか。それとも人であるから彼らが手加減したのだろうか。
血のような紅い目で息絶え絶えにこちらを見ていた。
人でもなく、獣でもなく、竜でもない。生き物としての一切を否定するその姿。
彼女は思う。
(これが……彼が、望む姿……?)
彼はヒューロ氷洞を知っていた。ならば、この事だって知っていいたはずなのだ。そう考えても正しい。
いやむしろそれは正解なのだろう。彼はこの事を知っていた。知らないでこんな山奥の村に来られるわけがない。彼らだって、一人を抜かして知らなかったのだから。
なればこそ、これが彼の望む最後なのだ。人としての姿を捨て、いつ死んだか分からないような死を、彼は望んでいたのだろう。(こんな……こんな姿に、彼もなる、の……? ダメ! そんなの、絶対ダメ! 助けなきゃ……! 私が――)
そこまで考えて、彼女の脳裏にある光景が映った。
それは、昔の思い出の内、思い出とは呼べないもの。それは彼女の記憶であり、忘れてはいけない汚れであり――罪であった。
彼女は震えが止まらなかった。思い出したくない光景がありありと思い出してしまう。
(――嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 思い出したくない! 思い出したくない! こんなの……思い出したくない!)
それでも、彼女は思い出してしまう。どんなに否定しても、それは現実に起こった過去であると告げるかのように。
◆◆◆
『助けて……誰か……助けて……』
それは彼女の声だった。それは記憶の声だった。それは彼と出会ってからの叫びだった。
誰も助けたくれなかった。誰も救ってくれなかった。誰も。誰も、だ。
だけど彼女は助かった。
同時に彼女は失った。
彼との日々を。彼との平穏を。彼との未来を。全部。その日に捨てた。捨てざるを得なかった。
捨てたくなかった。ずっと、ずっと彼といたかった。
でもいられなかった。いてはいけなかった。
だから、彼と再び会った日は死んでもいい位に嬉しかったが、決して自分だと気付かれない様にすると、心に誓った。
全ては、彼のため。
彼がいたから、彼女は生きてこれた。
彼が生きていたから、彼女は生きようと思った。
彼が幸せであるならば、と思ったから、彼女は自らを殺せた。
だから彼女は彼から逃げた。汚れないと誓ったのに、汚れてしまった自分が許せなかったから。
彼女は、誓う。
――捨てたのに。全部全部捨てたのに。
――何故彼を突き放さなかったのだろう。何故彼と親しくなってしまったのだろう。何故。何故。何故?
――捨てなければ。こんな自分を捨てなければ。
――捨てなければ。彼のために全部捨てなければ。邪魔なものを全部、捨てなければ。
――今まで培った倫理も。道徳も、正義も、仁義も、愛も。全部。全部、全部、全部捨てなければ。
――何を恐れるのだろうか。私は一度捨てた。あの時に。全部捨てたんだ。
――あの日。私が【殺人】でこの手を染めた、あの日に。
――全部、捨てたんだ。
――捨てるんだ。もう、自分なんか……いらないんだ。
◆◆◆
体の震えが止まると彼女は自然と、腰のナイフに手を伸ばす。そして、
「……こんなの」
“アレ”に力を込めて、刺した。そのまま引き抜き、もう一度、ナイフを刺した。
「こんなの……こんなの、こんなの!」
彼女は護身用のナイフで“アレ”を思い切り刺す。何度も。何度も何度も何度も何度も何度も。
その光景に、彼らは一瞬何が起きているのか分からなかった。
「こんなのに、こんなのにっ! 彼を奪われるものかっ! 私が彼を助ける! 私が彼を助けるんだ!」
“アレ”の皮が裂け、肉を潰し、骨が砕けても、彼女はやめない。この“アレ”は別に彼を殺したとかいうのではない。
しかし、何故か彼女はまるで百年来の敵とばかりに何度もナイフを振り下ろす。
まだ息があったために凝固していなかった“アレ”の血が、彼女の服を紅く染めていった。
「そうだ、助けるんだ……。今度こそ……! 今度こそ、彼を! 私が彼を! 絶対……! 助けるんだ――!」
何十度刺したのか分からなくなったところで、とうとう“アレ”は動かなくなった。
彼女の眼は血走り、息は荒く、よもや鬼かと間違えるほどの憤怒の表情。その表情は、ピクリとも動かなくなった“アレ”を見て、徐々に狂喜の笑顔へと変わっていく。
「あは、あはは、あははははははははははは!! 死んだ! 死んだ! 私が! 私が殺したんだ! また殺したんだ!
気持ちがいい! 気持ちがいい! あぁ……今すごく、すごくすごくすごく――気持ちがいい! あはははは! あははははははははははははははははははははははははは!!」
彼女の狂った叫びと笑い声が洞窟内に響く。彼らは突然の彼女の変貌に動きを止めていた。止めざるを得なかった。
彼女はふと、笑いを止め、焦点の合っていない瞳で彼らを見る。
「どうしたんですか? ……あぁ、そうですね。ふふふ、すいません。つい、足を止めてしまって。久しぶりなものですから、つい」
抑制の無い彼女の言葉に、洞窟に入る前の温かい感じは一切感じられない。むしろ、氷のような冷酷さが見て取れた。
彼女はやんわりと笑いながら、彼らへ近づいていく。しかし、その笑顔には今までの癒しの色はない。代わりに、無邪気な意識――悪意が感じられた。
「ふふふ、本当。簡単そうなのに、意外と難しいものなんですよね」
彼女が彼らの目の前まで来て、彼らは後悔した。自らの愚かさを嘆いた。
彼らは忘れていたのだ。ここがどんな場所か。
最初にするべきだったのは、彼を助けることではなく、洞窟に入ることではなく、彼女を洞窟の手前に残すべきだったのだ。
「さぁ、行きましょう? 彼がきっと待っていますから。私の助けを待っているんですから」
全てを捨てた彼女の目は、既に――血のように紅くなっていた。
以上です。
終わるまで何日かかるのか……。自分がちょっと嫌になります。
では、また会いましょうノシ
KOEEEEEEE
怖いよ!黒いよ!
GJ!明るいのも暗いのもエロ有りも無しも大好きな自分には、このスレに作品投下してくれる職人さんが神すぎる
スレ立て乙です〜
あと早く規制解けろ。
ちょ、少女落ち着いて!ダークサイドに行かないで!
次スレ乙です!4帝竜……早いものですねぇ……
補
ここも過疎ってるね…
うん……
一週間から二週間前は雨季だった
今は乾季だ
乾いてるなら、なんかエロい話をして濡れさせればいいじゃない
みんなの脳内設定では、ルシェ♀に発情期はある派かね、ない派かね?
ルシェの♀はエビフライに麻薬的依存性を示す
ルシェファイター→発情期あり・胸がとても弱い
ルシェ侍→発情期あり・耳と胸が弱い
ルシェメイジ→発情期無し・耳がとても弱い
ルシェプリンセス→発情期無し・全体的に鈍い
ルシェローグ→年中発情期・全身とても弱い・アブノーマル
ルシェヒーラー→年中発情期・絶倫
ルシェナイト→発情期無し・ノーマル
自分の中ではこんな感じかな
アリエッタも教えてくれたら非常に嬉しい
主に俺のムスコが
うちのルシェ姫は「戦時中だし、なにより年齢的にまだ早い」と緑ナイ子さんに薬を投与されて抑えられてる
本人は気づいていない
で、探索中にドラゴンに奇襲されて緑ナイ子とはぐれ、物陰に隠れて
震えているうちに効果時間が過ぎて発情
自分の体の異常に驚き、敵におびえ竦み、啜り泣きと体液を漏らしながら
ひたすらここにはいない緑ナイ子に助けを求めるんですねわかります
あんたにならうちの子を任せられそうだ
一応保守。
>>438 今号連載分でナナドラとDSの話題になった時、
このスレのことを思い出してニヤニヤしたのは俺だけでいいと思ったのに
げ、変な所で途中送信してる
何が言いたいかと言うと感じ出てます、好みです
>>438 おぉう、ナイス配役…!GJ!
しかしもしかしてうpろだ10件までしか保存できてない?前の放課後の漫画やドット父上の絵
とか一部作品が消えているんだが…
保管庫管理人さんはやくきてーはやくきてー
保守
ごめん、放課後プレイってどんな話なのです
電撃PS買ってないから向こうのスレ行っても読み取れなくて
話についていけない
まあ、後半ゲームあんまり関係なくなってきて、
脚フェチ唾液フェチ向けの描写が増加したのが
一部のマニアに大受けしたワケだがなw
先週木曜日に立ち読み出来る店があったから読んでみた
確かにナ●ドラって言ってるね
でも、この間のサンプルのとキャラ違うけど、今はどんな話ですのん
今は言うなれば二期
慢研の先輩(そばかすっ娘)と後輩(ギザ歯)がひたすらオタトークをしつつ、
時々距離が縮まって、心が触れ合っちゃったりする話
一期が「つきあってる最中」を書く話なのに対して、
二期は「つき合うまでの話(に、なるんだろうと思う)」なので、あんまりエロくないw
ちなみに一期の男と二期の男はツレ
>>447 ツレとか言うから二期の男x一期の男とか想像しちゃったじゃないか
ギザ歯に攻められる彼氏さんかわいいよ彼氏さん
>>448 バカじゃないの!!
バカじゃないの!!
バカじゃないの!!
バカじゃないの!!
なんかプレロマがビッ●●イトに見えてきた。西館と東館に分かれてるし。
>>450 マスカミの無限書庫はアイテルさんのお宝同人誌保管庫説
アイテルが腐の人ならタケハヤ×ドリスとか考えて鼻血出してそう。
てかその本読んでEX覚えるメイジもどうなんだ。
ここなんでまだ埋めないのかと思ったら保管庫にまだ保管されてないからか・・・
アップローダー100件まで保存できるならここのアップローダーに移動させればいいんじゃね?
アップローダーが100じゃなくて、10件で消える仕様になってるんよ(誤設定?)
ただ、あんまり同一作品が二本スレを占拠するのも良くないし
いいかげん保守はあきらめて落としたほうがいいのかもね
誰かがlivedoorwikiあたりを借りてくれればそこに仮保管できるんだけどねえ…
あいにく自分はもう借りれないんよ…
457 :
覇王:2009/09/07(月) 01:55:32 ID:21uIkb/f
圧縮が迫ってきてるぽいので、こちらを埋めます。
ということで埋めSSにふさわしいものを。
ちゅういがき
・全力でネタです。
・エロ? 何ですそれ?
・麻雀わかんないと多分わかんないです。
・NG指定は「覇王」でお願いします。
・もしかしたらスレに収まりきらないかも! そのときは中途半端に終わります! だって埋めだもん。
458 :
覇王:2009/09/07(月) 01:56:10 ID:21uIkb/f
その日、学都プレロマには各国の首脳が集っていた。
カザンからは、ドリス大統領。
ミロスからは、エメラダ女王。
アイゼンからは、ソウゲン王。
ネバンプレスからは、ジェッケ代行。
マレアイアからは、セティス女王。
プレロマからは、ノワリー学長。
円卓のはずれには、オブザーバーとしてインビジブル子。
世界を動かす、そうそうたる面々であった。
拡大するグローバリズムのなか、もはや一国だけで国家は成り立たない。
ゆえに彼らはこの場に集い、自国の威信と権益を賭けて戦うのだ。
「次の議題は、マレアイアの入国条件緩和に関する提案です。
発案者のソウゲン王、詳細をお願いしますです」
司会進行を勤めるファロがソウゲン王を促す。
「マレアイアの政策は、時代錯誤的な逆差別であり、不平等だ。
マレアイアに男性が入島できないことによる機会損失は、日に日に拡大している。
マレアイアは因習を捨て、近代化すべきである。以上」
「セティス女王、反論をお願いするのです」
「マレアイアは、行く場を失ったすべての女性に対して開かれています。
あなた方の社会が、そういった哀れな女性を今後一切生み出さないというのであれば、
私たちは入島規制を見直しましょう」
セティス女王は毅然として言い放った。
「では、決を採るのです。ケツと言ってもお尻とは関係ありません、ドリス大統領」
「そこで俺か!?」
「ソウゲン王の提案に賛成の方は挙手を願います」
ソウゲンとノワリー、エメラダが手を挙げた。
プレロマはマレアイア遺跡の学術調査に男性職員を送り込めないことに、強い不満を持っている。
エメラダは、話はよくわかっていないが、とりあえず「不平等」に反応したらしい。
「ソウゲン王の提案に反対の方は挙手を願います」
セティスと――インビジブル子が手を挙げる。
「オブザーバー投票権を行使させてもらいます。あの温泉を無駄に混雑させたくはありませんので」
「そのほかの方は、棄権ということになるのです。
ではソウゲン様とエメラダ様、それからノワリーは卓につくのです。
セティス様とインビジブル子さんもお願いするですます。
数が合いませんので、規定によりセティス様とインビジブル子さんはおのおの1名、打ち手を召喚できます。
またソウゲン・エメラダ・ノワリーチームは、相談の上、1名を召喚してください」
「では、シャンドラを」
「ドリス大統領に入っていただきます。雪辱戦も兼ねたいものですから」
「雪辱って、インビジブル子、今回は仲間――いやすまん。俺が悪かった」
「我々はエメル様をお呼びしている」
「……いいのか、それ」
「ルール上、違反ではありませんです。ノワリーらしい陰険で陰湿で重箱の隅を突いた作戦です。
とっとと、A卓とB卓にご着席するです。ノワリーは特にさっさとするです」
かくして、A卓にはソウゲンとエメラダ、セティスとシャンドラが座った。
B卓はエメル・ノワリー、ドリス・インビジブル子が着座する。
「では、決議を開始するのです」
ファロの合図とともに、洗牌が始まった。
459 :
覇王:2009/09/07(月) 01:57:08 ID:21uIkb/f
A卓では、開始早々に壮絶な激突が始まる。
口では何のかんの言いながら、中身は徹底した男尊女卑のソウゲン王。
その手合いの男を生理的に受け入れないシャンドラ。
この二人は、文字通り、水と油だった。
6順目、ソウゲンからリーチが入る。セティスとシャンドラに緊張が走った。
(セティス様――!)
(動揺してはなりません、シャンドラ。打ちあわせ通りに)
(は、はい)
シャンドラが白を切り、それをセティスが鳴く。一発が消えた。
「ほう、ほう、ほう、ほう、一発消しか! 目先の点棒が大事なのですな。
だが、目の前に見える1飜を追ったところで、悠久の大河の流れは変えられん」
言いながら、ソウゲンがツモ牌を卓上に滑らせる。
「ツモだ、お嬢さん方。8000」
「ツモったというなら、牌を倒してから言うんだな。
そもそも、まだツモ牌が何かを見ていないうちからツモ宣言とは。チョンボは12000だぞ」
シャンドラが食ってかかる。
「ほう、ほう、ほう、ほう。ならばご覧に入れよう」
ソウゲンが手牌をパタパタと倒していく。高め3色ドラ1の聴牌。
「そして――ツモだ」
ソウゲンがツモ牌を表に返すと、確かにそこには3色を成立させるツモがあった。
「うわあ、凄いですねぇ、ソウゲン王! これ、盲牌ってやつですよね!」
「似たようなものです、エメラダ女王」
無邪気にはしゃぐエメラダ。シャンドラは苦虫を噛み潰したような渋面をしている。
だが、セティスの心はその程度では折れない。
初手の@をツモ切ると、それ以降、手出しで河にA、Bと並べていく。
Hまで並んだところで、ソウゲンがたまりかねて声を荒げた。
「セティス女王陛下、あなたは――舐めていらっしゃるのかな」
セティスの目が正面からソウゲンの双眸を捕らえる。
「何を怯えておられます?」
ソウゲンは押し黙った。そして不機嫌なまま、\をツモる。ドラ。だが、使いようのないドラだ。
(頭になるのを待つ――それはない。既にメンツオーバー気味なんだ)
(単騎。ありえん。タンヤオしか知らんエメラダは放銃するかもしれんが、エメラダから上がっても意味がない)
(切る。それもない。シャンドラがチャンタ気味に見える。鳴かれてはかなわん)
(セティスは……無視していいだろう。あんな麻雀があるか)
(ならば、抱え死に。それでいい。どうせたいした手ではない。オリだ、オリ)
考えがまとまろうとしたそのとき、するりとセティスの声が心に忍び込んだ。
「悩むなら切ってしまえばいいのに」
促されるように、ソウゲンは\をツモ切る。
「――ロン。チャンタ、ドラ3、8000」
セティスが牌を倒し、ソウゲンは何気なく8000点を支払って――
そのとたん、ソウゲンの顔が真っ赤に染まった。
(この魔女め、仕掛けおった!)
一通を河に並べることで生まれた、疑いと、わずかな、わずかな恐怖。
そこに、魔力を持った声が、「リクエスト」したのだ。
ソウゲンは歯軋りしながらも、洗牌をはじめる。
たとえイカサマだろうと、現行犯で挙げられなかった以上、手遅れだ。
それに、これがイカサマであると、どうやったら証明できるというのか?
460 :
覇王:2009/09/07(月) 01:58:38 ID:21uIkb/f
一方B卓は、別の意味で荒れていた。
「ツモ。タンヤオ、1000」
「ロン。タンヤオ、1000」
「ロン。中のみ、1000」
インビジブル子の速攻である。
3〜4順あれば役満イーシャンテンが当たり前なメンツのなか(除くノワリー)、
インビジブル子は5順目にはほぼ確実に上がりきっている。
一度はドリスがダブリーをかけるも、ツモを鳴き崩して3順でタンヤオを上がりきった。
もちろん、ドリスは今回に限っては味方であるのだから、ドリスのダブリーを蹴る意味などない。
だがインビジブル子は、自分が勝つこと以外、眼中になかった。
エメルは苦笑いしながら直撃を避けて慎重に打ち、
ドリスは愉快そうな笑みを浮かべて大役を狙い続ける。
インビジブル子は無表情のままタンヤオを上がり続ける。
彼らは、ファロ曰く「雀力カウンターが振り切っちゃう人たちなのです」なのだ。
ノワリーおいてけぼり。
だが、ついにエメルが動いた。
A卓は配牌も全自動で行われるが、B卓は卓が旧式のため、配牌は手動で行っている。
ドリスの鷹のような目は、エメルがインビジブル子の4トンに何かを積んだのを見逃さなかった。
だが、手を掴むには遅い。それに、仮に手を掴んだところで、あまり意味がない。
インビジブル子の手牌を開けて、それが5シャンテンだったとして、「だからイカサマだった」と言えるだろうか?
何かが積まれるたびに、エメルの手が常軌を逸して良くなっているなら、まだいい。
それすら2シャンテンだったりしたら、言いがかりをつけたほうが不利だ。
エメルは3回に渡ってインビジブル子の4トンに細工をしたが、ドリスはそれを見逃すしかなかった。
ドリスは手牌をもう一度確認する。チートイのイーシャンテン。格別良くはないが、悪くもない。
ならばスーアンを狙いつつ、最低でもチートイドラ2か、ホンイツチートイを狙う。そう決めて、五を切った。
ノワリーがツモり、河に@を落とす。
インビジブル子は、黙ってHを手出し。
エメルは軽く微笑むと、南をツモ切り。
(エメル――何を考えている? 何を仕掛けた?)
ドリスは必死で思考をまとめようとする。
だが、まるで想像がつかない。山をいじったのだから、テンホーか、それに近い何かがあっても不思議ではない。
いや、山をいじるというリスクを犯したからには、それくらいの何かがないというのは、むしろ異常だ。
ただ単にインビジブル子の速攻を封じるために山に触ったのなら、
インビジブル子の配牌を乱すより、自分の配牌を良くしたほうがいい。
(おかしい。何かが――何かがおかしい。何だ? 何が起こっている?)
エメルの仕掛けは、すぐに判明した。
「ツモ。タンヤオ」
インビジブル子が手を倒す。
BB CDE DEF 三三三 VVV
ドリスはぎょっとしてインビジブル子の河を確認する。
Hが3枚ある。河だけみれば、彼女が不調なときに出現する河。だがHはいずれも手出しだった。
――おそらく、インビジブル子の配牌+第1ツモは
BB DDE HHH 三三三 VVV
こういう状態だったのではないだろか?
彼女はここでDを切ってダブリー三暗刻を狙ってよいし、
常識的に言えばEを切ってツモスーを狙ってもよかった。
ツモスー聴牌にとってBで出上がりでも、勝負は決まる。
だが、これが罠であることを、彼女は瞬時に見抜いた。
おそらくエメルは、DE待ちで手牌を調整していたのだろう。
(かといって! ほぼ間違いなくアタリだと分かっていても、四暗刻聴牌を1000点に崩せるか!?
Bに手をかけて三暗刻に浮気しながら回るのでもなく、純粋に速度だけを求めてタンヤオに、だぞ!?
いかんな、ドリス! もう少し、真剣にやらねば。インビジブル子に申し訳がたたんぞ)
461 :
覇王:2009/09/07(月) 01:59:17 ID:21uIkb/f
A卓は、少しずつソウゲン王が卓を支配しつつあった。
セティスとシャンドラにとって、ソウゲン王は、実はあまり問題ではない。
本当に問題なのは、エメラダだった。
エメラダは、タンヤオとホンイツしか知らない。
だが意味不明なまでに大量に絡みまくるドラのせいで、その打点は恐ろしく高い。
エメラダへの振り込みを恐れて手を縮めると、ソウゲンが走って上がる。
この繰り返しは、マレアイア組の気力と体力を着実に奪っていた。
(セティス様、このままでは――)
(耐えなさい、シャンドラ。麻雀は忍耐のゲームです)
(で、でも、どうにかして反撃しないと)
(シャンドラ!)
セティスの叱咤を感じつつ暗澹とした気分で手牌を開いたシャンドラだが、
そこに広がっている風景を見て一気にその表情が明るくなる。
(いける! ホンイツチートイのイーシャンテン!)
と、そこでソウゲンが笑いながら声をかけた。
「ほう、ほう、ほう、ほう、随分良い手が入ったようですな、警備兵どの。
あなたは実に女性らしい分かりやすさがあって、助かりますぞ」
「隠し事をしないのはとても素晴らしい美徳ですわ、シャンドラさん」
エメラダの屈託ない声がシャンドラの神経を逆なでする。
ソウゲンの挑発だけだったら、彼女は耐えただろう。
だがエメラダの一言が、彼女の忍耐の鍵を吹き飛ばした。
(ふざけるな! ふざけるなよ!)
(貴様ら――貴様らのような――貴様らのようなやつらが、
その笑顔の下で知らず知らずに踏みつけにした人々を――
何の力もなく、最後に残った勇気をかき集めて逃げてきた彼女たちを――
守っているのは、私たちだ!)
(貴様らは、いつだってそうだ!
はじめは、「女の子なんだから、そんなに頑張らなくていいんだよ」
それでも努力すれば、「女の子なのに、よく頑張るね、すごいね」
けれど血の滲むような訓練の先に、対等以上に渡り合える力を手に入れてみれば、「女のくせに」だ!)
(弱ければよかったのか!?
適当に自分の優位を見せ付けられる程度に弱ければ、それが良かったのか!?
女は、貴様らの価値を引き立たせるための、飾りだとでも言うのか!?)
怒りのままに、シャンドラは第1ツモを取る。
そこには、まるで天命のように聴牌した牌姿があった。
流れるような動作で牌をとり、横にして卓に叩きつける。
「ダブル・リーチ!」
――だが、ソウゲンは不敵な笑みを浮かべていた。
「ほう、ほう、ほう、ほう。怖い、怖いな。実に怖い。何が安全牌かも分からんなあ」
そういいながら、シャンドラが切ったZを河に放る。
「はん、回ったところで、私は確実にツモる」
「ほう、ほう、ほう、ほう、勇ましいな。だが、その自信はどこからくるのかな?」
「ええと、お話中すみませんけど、それカンです」
エメラダの声がかかった。ドラ4。
さっと、シャンドラの顔から血の気が引く。セティスは天を仰いだ。
「えい、と。ああ、残念。じゃあこれいらなーい、でーす」
エメラダが白を河に置く。
「ポン。ではもう一度回らせていただくかな」
ソウゲンがZを放った。
セティスがようやく初ツモを取り、白を捨てる。
エメラダがツモって、嬉しそうに「カン!」と叫ぶ。ドラは8になった。
顔面蒼白になったシャンドラが、震える手でVをツモり、ぽろりと河に落とす。
「ロン!」
エメラダから元気の良い声がかかった。
シャンドラの両目からどっと涙がこぼれ、卓をぬらした。
462 :
覇王:2009/09/07(月) 02:00:22 ID:21uIkb/f
B卓は、終盤にさしかかっていた。
点差は、無いに等しい。けれどインビジブル子の速度は、点数的な僅差などものともしなかった。
ドリスはついに決断する。このままでは麻雀にならない。なんとかして、彼女を止めねばならない。
ドリスはエメルと目配せし、そこに同意が成立した。
ここは、人間の首脳会議だ。竜がトップを取るなど、許すわけにはいかない。
ドリスとエメルが、インビジブル子の4トンに次々に「仕掛け」をしていく。
老練の技を持つ二人である。わずかな怪しさを感じさせはしても、手を掴ませるような失態は犯さない。
そうするうち、配牌が終わった。
インビジブル子の手には、ヤオチュウ牌とオタ風がランダムに集まっているはずだ。
そしてそれは、国士にはあまりに遠く、かといってチャンタにもまた遠い、そんな手のはずだ。
――はずだった。
牌を開く、その一瞬、風が動いた。
卓の全員(除くノワリー)が、何が起こったかは理解した。
だがそれでもなお、彼女はあまりにも速かった。
「こざかしいですね、人間というのは。これが瞬動(ゴッドスピード)というものです」。
インビジブル子が、そっと呟く。
グダグダになっていた彼女の手牌は、目にもとまらぬ早業で、山とそっくり入れ替えられていたのだ。
人間界では「ツバメ返し」として知られるイカサマである。
「さすがに……ここでテンホーにはならないですね。ニャア姉さんみたいにはいかない……」
そう呟きながら、インビジブル子がダブリーをかける。
当然のような顔をして、ノワリーが一発で振り込んだ。
「ダブリー、一発、ドラ1裏1で8000。小細工をしたわりに、つまらないエンディングになりましたね」
「……どうかな? まだ勝負は終わっちゃいない」
「終わったも同然です。もちろん、あなたにはたっぷりと警戒させていただきますけどね、ドリス大統領」
南4が始まった。親はドリス。
だがドリスは配牌を閉じたまま、動かない。
両目を閉じ、物思いにふけっている。
「……どうしました、ドリス大統領。親が打ち始めないことには、ゲームは始まらない」
ふっと、ドリスが目を開けた。
「失礼。はじめよう」
ドリスが手牌を開ける。インビジブル子は、食い入るようにドリスの手元を見ている。
すり替えでテンホーはさせまいという意気がありありと分かる。
が――ドリスの手牌は、テンホーからは程遠かった。それどころか、聴牌にも遠い。
(やはり、か。くだらん小細工をした直後、こんな流れになっていても不思議ではない)
(だがこれを受け入れねば。まずは現実を見るのだ、ドリス。
受けるべき罰は受けよ。そして――そこからが戦いだ。
インビジブル子より、速く。速さそのものを体現する彼女より、速く、だ!)
このとき、ドリスの手牌は実に
@ B C F H 四 八 八 \ \ 東 南 北 白
地平線の彼方に辛うじてチャンタが見える、そんな手だったと、記録は伝えている。
463 :
覇王:2009/09/07(月) 02:01:16 ID:21uIkb/f
だが、ドリスは\を切った。
ノワリーがツモって、ツモ切り。インビジブル子は北を落とし、エメルは八を切った。
「ポン」
ドリスの声がかかる。
ドリスの額には、うっすらと汗が滲んでいた。わずかに震える手で@を落とす。
(速度。より速く。だが、絶対的な速度でインビジブル子に勝てるはずがない)
(ならば、次元の違う速度こそが勝負の要諦。速度という概念よりも、速く!)
再び手順が巡り、ドリスは白をツモってくる。
(信じろ。自分の技を、速度を、信じるんだ)
6順が回って、インビジブル子が一瞬、牌を切る手に躊躇いを見せた。
が、すぐに手から白を落とす。
(聴牌か。常識ならば、あれをポン。だが、それではインビジブル子には勝てん。
その速度は、インビジブル子の速度。そのレベルで張り合う限り、勝ちはない)
そしてドリスのツモは――図らずして、手の中には白があった。ドリスは静かに四を河に放つ。
ノワリーはツモ切り。
インビジブル子も――ツモ切った。
エメルが\を切る。
そしてドリスがツモを取り、
牌を倒した。
BCD FGH 白白白 (八八八) \ \ツモ
場が凍りつく。
「……そ、そんな、安い、マグレみたいな、手なんかで――
しかもフリテン――な、なんで\――普通に考えて四……」
「だがお前より速かったぞ、インビジブル子」
「ふーむ。ドリス、これはまさか、伝説の」
「知っているのか、エメル。そうだ。これが亜空間殺法。
単純な速度で勝てないなら、亜空間で勝負すれば、と思った」
「……たかが、たかが、わけのわからない鳴き麻雀で、
ちょっとくらい点棒を取り返した程度で――」
「そうだな、その通りだ。では続きをやろうじゃないか」
ドリスはにやりと笑った。その笑みに、卓は再び凍りついた。
そして――
「御無礼、天和だ。俺の勝ちだな」
464 :
覇王:2009/09/07(月) 02:01:45 ID:21uIkb/f
そのころ、A卓もまたゲームは終わりかけていた。
シャンドラの心は完全に折れてしまっていて、
「魔女」セティスといえども一人ではエメラダの圧倒的リードを崩すことなどできなかった。
だが、セティスは、負けられなかった。
ここで負ければ、マレアイアの平和は終わる。
何としても、勝たねばならなかった。
どんな手段を用いてでも。
彼女は、覚悟を決めた。
初手、手からドラのFを落とす。
2順目、またしてもFを切る。
エメラダはきょとんとしている。彼女にとってドラは自然発生するものなので、その価値がイマイチわかっていない。
シャンドラは、女王のすることを呆然と見守るのみだ。
そしてソウゲンは一人、わずかなおびえを感じ始めていた。
(これは、国士。それ以外あり得ん)
ソウゲンは、自分の能力の限界を知っている。
そんじょそこらの平民どもや、ろくな血筋を引かぬ貴族どもに、負けるソウゲンではない。
だが、このレベルの戦いとなったとき、彼は何度もその傲慢を現実のハンマーで打ち壊されてきた。
特にドリス=アゴートとかいう成り上がりには、徹底的に痛めつけられた。
だから――だから、彼はもう、自分がスーパーヒーローではないことを知っている。
リッケンがソウゲンを支持するようになったのも、
ソウゲンがそのことを心の奥底でちゃんと理解したからだ。
(落ち着け、ソウゲン。これは魔女の姦計。怯えを抱けば、また振り込みを要求される)
(恐れるな、ソウゲン。つけこまれてはいかん。お前は偉大なアイゼン皇国の王なのだから!)
(だが、それでもワシのこの心は、恐れを感じずにはおれん! 所詮、そういう男よ、己は)
(否。よいのだ。それでよい。そう理解していれば、それでいいのだ。だから、ワシは負けぬ)
ソウゲンはひとつ深呼吸をすると、南を切った。
(リクエストは、されるだろう。ワシは魔女に屈する。だがそのとき、振り込むべき牌がなければどうだ)
(姦計には、王道を持って戦う。降りてやろうではないか、この勝負から。堂々と、王者のオリを見せてくれる)
三枚のFがセティスの手から放たれ、ようやくシャンドラの目にも生気がもどってきた。
(間違いない――セティス様は、国士を張っていらっしゃる。
そしてソウゲンはそれを恐れてる。この勝負、もらった!)
だが、彼女の顔は自分のツモを見て蒼白になる。
彼女の手の中には、4枚目の白があった。
(なんで……なんで、こんな……ひどい。ひどすぎる。
私がセティス様に差し込んでも、チームトータルの点数は変わらない。
でもこれでは、セティス様の国士は成立しない)
場は淡々と進み、そしてついに運命の刻は訪れた。
「リーチ」
セティスの美しい声が響き、点棒がおかれる。
シャンドラの顔は、もはや死人のそれだった
エメラダは難しい顔をして自分の牌とにらめっこをしている。
ソウゲンは、自分の手牌を見て、そこに1枚もアタリがないことを確認する。
ソウゲンの口から、長い安堵の溜息が漏れた。
(ふははは、情けないが予想通りワシの心は隙だらけじゃ。
来い、魔女。好きなことを言うがいい。
だが、ワシがお前に振り込むことは、物理的に不可能だ!)
セティスが、そっとソウゲンに囁いた。
「ソウゲン様は、女性がお嫌いですか?」
「もちろん嫌いではないですよ、女王。あなたのように若くて美しい方であれば、なお。
ただまぁ、所詮、婢(はしため)の類ではありますな」
465 :
覇王:
ソウゲンが自分を取り戻すのに、数秒の時間が必要だった。
(魔女め! いったい何を――)
そして、ソウゲンは自分がとてつもない窮地に立ったことを知る。
「……ソウゲン様。今のお言葉、見逃すわけにはまいりませんわね」
エメラダの周囲に蒼い怒りのオーラが立ち上っている。
「い、いや、そ、その、い、いまの、は、ですな……」
「言い訳無用。セティス様があなたにその言葉そのものを無理強いしたわけではないのは、私にもわかります」
(クソ、クソ、クソ、クソ、クソ、このクソアマどもめがああああ!
落ち着けソウゲン、お前のやることはひとつ、降りろ。
堂々と、降りろ。王者にふさわしい、華麗で荘厳なオリを)
(セティスは国士、エメラダは――タンヤオかホンイツしか知らん。
そうだ、Gのアンコを崩すのはどうだ。
Fの壁がある以上、タンヤオの危険はほぼない。いや、ありえん。
エメラダの河はピンズで一杯だ。ホンイツも、ありえん。
当然、国士のセティスにもあたらん。そうだ、それで3順稼げる。Gだ。Gしかない)
ソウゲンの手からGが零れ落ちた。
「ロン」
セティスが澄んだ声を発する。
「メンホン、中、ドラ1。12000」
「セティス様! 国士じゃ……」
「ご覧の通り、ただのホンイツです」
「っく、この魔女め。だが残念だったな、12000ではワシのトップは動かん」
「本当にそう思われます?」
そのとき、エメラダが牌を倒した。
「ロンでーす」
ソウゲンがびくりと身体を震わせる。
「えへん。ヴォルグに新しい役を習ってきました。トイトイ、でーす。トイトイのみー。
あ、ドリス大統領、そっち終わったんですかー。すみません、これ、何点ですか?
ドラが全然なくって、マンガンにとどかなかったんですよー」
ドリスは首を振りながら苦笑いする。
「おお、わが麗しき女王陛下。最初に、ヴォルグ殿を罰しないとお約束ください」
「え? ええ、そりゃあ、まあ、いいですけど」
「その手は、四暗刻単騎といいます。役満です。ここのルールではダブル役満」
「ええええー。だって、ヴォルグは、『安くて簡単な手です』って」
「ですから、その、まあ、ヴォルグ殿のことは」
「はーい。なんか難しいんですね、トイトイって! 今度から気をつけます。とりあえずダブル役満でーす」
ソウゲンには、ぽかんと口をあけることしかできなかった。
「ソウゲン様のトビで終了ですます。トンだチームは自動的に主張権を失うのです。
B卓もマレアイア組の勝ちでしたので、この議題につきましてはソウゲン王の提案は却下されましたです」
ファロが議事終了を告げた。