【貴方なしでは】依存スレッド4【生きられない】

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1名無しさん@ピンキー
・身体的、精神的、あるいは金銭や社会的地位など
 ありとあらゆる”対人関係”における依存関係について小説を書いてみるスレッドです
・依存の程度は「貴方が居なければ生きられない」から「居たほうがいいかな?」ぐらいまで何でもOK
・対人ではなく対物でもOK
・男→女、女→男どちらでもOK
・キャラは既存でもオリジナルでもOK
・でも未完のまま放置は勘弁願います!

前スレ 【貴方なしでは】依存スレッド3【生きられない】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1219254210
2名無しさん@ピンキー:2009/04/15(水) 05:59:12 ID:7ITuq50Z
数年ぶりの2げと
3名無しさん@ピンキー:2009/04/15(水) 06:44:47 ID:/kq+SIAK
>>1乙です!
4名無しさん@ピンキー:2009/04/15(水) 09:08:26 ID:sIgdHMAE
>>1
乙。發の一桁げと
5名無しさん@ピンキー:2009/04/15(水) 09:43:54 ID:ERgIPdMd
>>1乙しないと生きていけないの
6名無しさん@ピンキー:2009/04/15(水) 19:52:04 ID:yTFtUPmF
1乙職人さんに依存してるの
7名無しさん@ピンキー:2009/04/16(木) 14:11:27 ID:qAXmK1u6

ネトゲ依存話楽しみだ…
8名無しさん@ピンキー:2009/04/16(木) 17:09:33 ID:I1I+rBV1

礼は杞憂と孤独に小さな肩を震わせ怯えていた。

「……とさん……おりとさん……職人さん……」弱々しい呟きは震え、待ち望んでいる人の名を呼んでいた。
夜の静寂は少女の不安をさらに加速させ、その不安が言葉に出る。
「怖いよう……私消えてしまいそう……。」

ガチャリ。

不意に扉の開く音がして、礼はビクリと扉の方を見た。
それは五日ぶりにみる織人の顔であった。
「おう新洲、久しぶりだな。」

その声を聞くと、礼は織人に駆け寄り抱きついた。
「私、圧し潰されて消えてしまいそうで、怖かったんだから!」
目に涙を浮かべながらポカポカと織人の肩を叩く礼。

それを、そっと抱き返し織人は言った。
「いちいち乙夜の不安なんかに怯えるんじゃない、これからは俺が一生ついててやるから。」

その告白に目を見開くと「織人さん大好き!」と抱きしめ、織人の唇に自分の唇を重ねた。
9名無しさん@ピンキー:2009/04/16(木) 19:55:04 ID:qHPCp9Zj
1超乙!

というわけで続き。
10ネトゲ風世界依存娘 七話:2009/04/16(木) 19:55:43 ID:qHPCp9Zj


「うわぁ。こうなってるんだ……。」
 ズボンを脱がした私は、匠お兄さんの下半身を観察します。男性の体のことは授業では習っていましたが
実際に大人の裸を見たのは初めてです。

 こんなことをするなんて数日前には思いもよりませんでした。正直にいうと恥ずかしいのですが、
匠お兄さんのいいつけを守る喜びに比べればどうでもいいことです。
 私は今、あの人がいなければ生きていけません。くしゃくしゃ私の髪の毛をかき乱す優しい手は
病みつきになりますし、背負ってくれる大きな背中は私を安心させてくれます。男らしく強くて優しい。
 ……でも、私のこの想いはどうやら恋ではないみたいです。
 もっと不純な、自分のひとりよがり。
──匠お兄さんはたぶん九朗さんのことが好きだから。

 私がいなくても生きていける匠お兄さんへの重り。
──匠お兄さんがいれば怖い人や怖い怪物から守ってくれるから。

 一人で生きていけない私のはしたなく情けない欲望。
──どうすれば生きていけるのか判らない。さびしいのはいや。

 まるで宿主を枯らす宿木。
 だから、恋なんていえない。そんな綺麗で純粋なものじゃない。だから私は……その醜い想いの代償に
匠お兄さんにどんなことを言われても従います。

 だけど……だけど、その代わり私はがんばるから……ずっとずっと傍にいさせて欲しいんです。

 思考がぐるぐる回って感情が暴発しそうに高まり、私は抑えきれずに笑みをこぼしてしまいます。
 あの人は匠お兄さんの身体を見た事はありません。異変前はここまで脱ぐことはできなかったそうですし。

「すぐに私が綺麗にしますね。」
 私は手に持ったタオルで足から順番に丁寧に拭いていきます。勿論匠お兄さんの大きなあそこも……。

「……大きくなった……。」
 タオル越しにそれを掴みながら、私は驚きました。知識では判ってます。

「こんなの入らないよ。」
 これを私のに入れると子供ができるんです。ということは一番大事な場所。念入りに洗わないと。
 タオルなんて使うわけには行きません。

「……ぺろ……ぴちゃ……」
 タオルを投げ捨て、両手で大事に抱えて根元から舌を使って嘗めていきます。

11ネトゲ風世界依存娘 七話:2009/04/16(木) 19:56:20 ID:qHPCp9Zj

「……ん……はぁっ……」
 身体を固定するために匠お兄さんの右足にしがみ付いたのですが、お兄さんの物を嘗めていると
自然に腰が動いて、さらに擦り付けてしまいます。

「れりゅ……ん、ちゅぷ……じゅる……」
 何だか物足りなくなり、匠お兄さんの物を咥えました。口の中いっぱいになったそれを舌を使って
綺麗にするため、動かします。

「んふ………ん……ちゅ……にゅぷ……」
 静かな宿に私の作る水の音だけが響き渡ります。それも気にせず、一心不乱に上下に口を動かし、
手で根元を擦り、舌で匠お兄さんを味わいます。

「んんっ!!」
 また、太ももが擦ったときの様に快感とともに身体が痺れました。

(私の身体に匠お兄さんの身体が触れていると気持ちよくなるんだ……。)
 大発見です。意識が外に向いた瞬間でした。

「………っけほっけほっ!?」
 ねっとりとした何かが私の口に勢いよく入ってきました。たぶんこれは……。

「う……苦い……。」
 ですが、飲み下します。匠お兄さんの子種を捨てるなんて私には出来ません。

「ごめんなさい。匠お兄さん。」
 綺麗になったので少し口を水でゆすぎ、全くおきない一つ謝ると今度は自分の快楽のために、
再び匠お兄さんに身を寄せます。

 多少痛みが伴おうとも、起きない匠お兄さんのものを私の中にいれることが頭をよぎりました。
 それは私にとって甘美な誘惑ではありましたが、匠お兄さんのいいつけにはない大事なことを私の独断で
するわけにはいきません。残念ですが諦めます。
 それに私の初めてを匠お兄さんに捧げる時は……私が匠お兄さんに命令されて無理矢理奪われたいんです。
 想像するだけでぞくぞくします。
 組み伏せられて、感情のおもむくまま、力任せに獣のように私が泣き叫んでも止めてってお願いしても
大きくて太いものを突きこまれる。何度も何度も。
 私が何か失敗したときのおしおきというのもいいですね。私の初めてなんて匠お兄さんの今の身体での
初めてに比べればそれくらいの価値しかありません。
 お尻を叩いて……私にやってはだめなことを教えるために苦痛を与えるんです。
 そうやって、匠お兄さんは私を匠お兄さんの色に染め上げていくんです。
 そして、私は匠お兄さんの一部になる……。

12ネトゲ風世界依存娘 七話:2009/04/16(木) 19:57:36 ID:qHPCp9Zj

 私は幸せそうに寝ている優しい匠お兄さんの顔を眺めます。自分の好きな風に作れたにもかかわらず平凡で、
だけど、どことなく人の良さの見える顔。私を助けてくれた人の顔。
 このまま何もしなければ九朗さんに取られちゃう人。取られる位なら。
 心は取られても。身体も取られても……私は彼の傍にいる。この先匠お兄さんが誰に裏切られても、
匠お兄さんが私を裏切っても。それでも、私は彼の傍にいる。

 そして、その手段が私にはあります。

 理解のある主人を持つことは幸せだと思わないか?九朗さんは私にそう問いました。

「そんなこと……。そんなこと当たり前じゃないですか。」
 薄く微笑むと私は自分の感覚にしたがって、犬人族ならば一生に一度扱うことが出来る首輪を
躊躇無く召喚しました。

「私は匠お兄さんとずっといっしょにいます。」
 眠る匠お兄さんの手に首輪を持たせて、私の首につけてもらいます。時間は掛かりましたが、なんとか私の首に
首輪を掛けることができました。
 後は誓約の文言と口付けを交わせば、成立します。

「後は朝です。匠お兄さん……私の飼い主になってくださいね。」
 私はもう人間じゃないみたいです。こんな考えを嫌悪感も持たずにできるなんて。私自身の身体と
心を委ねるようなことを嬉しいと思うなんて……。
 恐らく元の世界には戻れませんし、どちらにしろ生きていくためにはこれしか仕方ありません。
 誰もいない寂しい世界で生きていくしかないのですから。それなら、そんな中でも私は自分が幸せと
思えるように生きたいんです。

「これからいけないことをする私を……ちゃんとおしおきしてくださいね。」
 自分で口にしたおしおきという言葉にぞくっとしつつ、匠お兄さんの腕に身体を絡め、腕を一番感じる
ところに擦れるようにしました。
 自分の年齢だと同じくらいの年の同級生より発育していた元の身体より胸も背も幼い身体。
 男性は今の私の身体では喜ばれないかもしれません。そこだけは少し後悔しています。

「……ぁ……」
 匠お兄さんの手の甲に尻尾が触れました。尻尾の感覚っていうのは不思議です。未知の感覚ですが
とても敏感なようです。

「……くぅん……ひぁっ!」
 頭がぼぉっと熱に浮かされるような快感。さっき感じたのと同じ快楽。

13ネトゲ風世界依存娘 七話:2009/04/16(木) 19:58:02 ID:qHPCp9Zj

「……くぅ………ぅっ………」
 大きい声を出すと匠お兄さんが起きるかもしれない。必死で漏れそうな声を抑えながら、駄目な私は
自分が気持ちよくなるためにお兄さんを利用します。お兄さんが私を無茶苦茶にしてくれることを想像しながら。
 これが、頭の悪そうな同級生が話していたオナニーというものなんでしょうか。病み付きになるのも頷けます。

「……ぅ…………あっ!」
 そんなことを冷静に考えていましたが、数分もしない間に快楽に翻弄され、このままだとまずいと
判った私は身体を止めようとしました。が、私の意志に反して身体は止まりません。

「……あ……やだ……っ!」
 怖い……。これ以上気持ちよくなったら……でも、腰はお兄さんの腕から離れず、もっともっと
快楽を貪るために動き続けました。

「いや……」
 私は恐怖を覚え、さらに強く匠お兄さんにしがみ付きます。自分で気持ちいいところを理解し、
さらに強く、早く擦り付けながら。

「……ぅ……匠お兄さん……」
 余裕がもう……。ですが止まりません。ここから先が本当の快楽なのだとわかっているかのように。

「気持ち……いいよ。匠お兄さんもっと…あぅぅっ!!」
 少し身体が反り、一瞬頭が真っ白になって力が抜けました。

「はぁ……はぁ……。」
 息をつきながら匠お兄さんを確認します。が、起きませんでした。余程疲れていたのでしょうか。

 この行為は匠お兄さんの許可を頂いていません。私が気持ちよくなるためだけの行為です。なら、
そんな私には匠お兄さんはお仕置きしてくれるはずです。そして、それが、私達を強く縛り付けてくれるはず。

「明日が楽しみです。」
 何年ぶりかの言葉。今日は良く眠れる気がします。私は匠お兄さんの腕にしがみ付いたまま、
ゆっくりと目を閉じました。


14ネトゲ風世界依存娘 七話:2009/04/16(木) 19:58:54 ID:qHPCp9Zj


                          ■


 翌朝、俺は何故かベッドで眠っていた。ついでに何故か身体が妙にすっきりしており、疲れも殆ど残っていない。
 そんな自分の身体に感動を覚えながらも俺は眼を開ける。

 数日でようやく慣れた、あどけない犬耳少女の幸せそうな寝顔。何だか眺めてるとほっとする。
 一日頑張ろうって気になるのだ。

 俺は九朗の装備を昼までに完成させることを心に決め、がばっと布団を剥がす。

「……え?」
 布団を一度戻す。そして、もう一度がばっと。

「……。」
 あ、ありのままに起こったことを話すぜ!
 床で寝たと思ったら、俺も犬耳幼女も裸で抱き合って寝ていた。何を(略)

「えっえっ!俺まさかついに犯罪を……!?」
 もう一度布団をかぶり、俺は口の中で悲鳴をかみ殺した。ロリコンは犯罪です。

 考えろ俺、考えろ俺!血はついてなかった!
 セーフだセーフ!
 柔らかそうな身体や、ほんの少しだけ盛り上がった胸や、桜色の蕾は……忘れろ俺!

「ふぁぁ……あ、匠お兄さんおはようございます。」
「あ、ああ、おはよう。おい、まだ起きるなよ!」
「はい?」
 きょとんと不思議そうな顔をする犬耳の少女に、なんと説明すればいいやら混乱しつつも言い訳を考える。

「そう、冷静に。冷静に……。」
「匠お兄さん?」
「俺は眼を瞑っているから何も言わずに服を着ろ。大丈夫、俺は何もしていない。……はず。」
「はぁ。」
 蕾は自分が裸であることを寝ぼけて理解していないのか、生返事だ。悲鳴とか上げられて九朗が
来た日には俺の命が終わってしまうので、幸いというべきか。
 彼女は頷いてくれたので、俺は全力で眼を閉じた。

『我誓う。汝を只一人の主人と認め、永遠に従うことを。』
 いつもびくびくと小声で話す蕾の不自然なまでに朗々と謳う声。そして、唇に暖かい感触。──暖かい感触?

15ネトゲ風世界依存娘 七話:2009/04/16(木) 19:59:58 ID:qHPCp9Zj

「……!?」
 慌てて目を開けると、端正な蕾の顔が間近にあった。寝ている態勢なので近かったのもあるが
行動が予測外過ぎて防ぐことも出来なかった。

「なにを……。」
「ごめんなさい。匠お兄さん。唇奪っちゃって。」
「いや、それはどうでもいいんだが。」
 少しだけ身体を起こし泣きそうな顔で謝る蕾の頭を軽く撫でる。

「朝の挨拶にしても過激過ぎるぞ。そういうのは好きな相手が出来たときにやれ。」
「はい。だからしました。」
「……。はぁ?」
 よく見ると、蕾は全裸ではなかった。首に首輪のような、いや、首輪そのものが嵌められている。
 そのせいで子犬のようななりとあいまって、全裸より妖しい雰囲気を放っていた。

「だけど、匠お兄さんはそうじゃないから……。」
 蕾も、俺と同じように身体を起こす。布団が落ち、未成熟な裸体が顕になる。が、俺は彼女の顔の
ほうに魅入られていた。昨日までと違う、何かが決定的に違う笑み。

「ん……。」
「何故。」
「せめて、犬にしてもらうことにしたんです。」
 俺の首に腕を巻きつけて、身体を押し付け再び唇を奪ってから耳元で嬉しそうに小さく呟く。

「そうでした。匠お兄さんにハルさんから手紙を預かっています。」
「あ、ああ。」


 少し時間を置いて我に返り、手紙を読んでからふとドアの方を見ると、部屋の外から九朗が
こちらを驚きの目で見つめていた。

 蕾は全裸のまま俺の腕に自分の腕に巻きつけて、子供っぽい笑顔で無邪気に笑っていた。
16名無しさん@ピンキー:2009/04/16(木) 20:01:20 ID:qHPCp9Zj
投下終了です。
17名無しさん@ピンキー:2009/04/16(木) 20:42:31 ID:NY/i1JAh
続き来た!これで勝つる!


GJ!GJ!GJ!
次回が待ちきれない!
18名無しさん@ピンキー:2009/04/16(木) 21:32:11 ID:I1I+rBV1
圧縮間近でなんとなく保守したら、その日に職人さん光臨とは……
GJであります。三角形成で一層続きが気になりますな。
19名無しさん@ピンキー:2009/04/16(木) 21:35:11 ID:qAXmK1u6
GJ!!
ヤバい蕾可愛い
20名無しさん@ピンキー:2009/04/16(木) 22:35:18 ID:tlq5DuSI
GJ!
いいっスねぇ三角関係についでハーレム形成となってほしいもんです。
21名無しさん@ピンキー:2009/04/16(木) 22:56:36 ID://7DNnv0
GJ! きたない流石蕾きたない
手紙の内容は首輪の効力についてになるのか? とにかく次回が気になります
22名無しさん@ピンキー:2009/04/17(金) 19:23:41 ID:2PAnxsFi
保守
23名無しさん@ピンキー:2009/04/18(土) 05:57:52 ID:Way2S2nr
心の隙間、新作来ねーじゃん…
24名無しさん@ピンキー:2009/04/18(土) 14:48:21 ID:6/zqll7c
いいいいいいいいいいいぇやぁっふうううぅぅぅうううううう!!!!
GJだ!!
25名無しさん@ピンキー:2009/04/18(土) 14:51:00 ID:tNS2oewY
新作が来ないなら自分で書けばいいじゃない
26名無しさん@ピンキー:2009/04/19(日) 08:58:00 ID:zpoiOnD/
前スレが埋まってないぞ
27名無しさん@ピンキー:2009/04/19(日) 23:53:55 ID:FESEgUHc
ここって保管庫ある?
28名無しさん@ピンキー:2009/04/20(月) 09:14:19 ID:ptO4lKN5
29名無しさん@ピンキー:2009/04/20(月) 17:16:03 ID:89qU1FuC
また保管庫保管庫騒ぐ奴が出たか。
30名無しさん@ピンキー:2009/04/21(火) 12:49:13 ID:TlaDyCeC
保存庫
31名無しさん@ピンキー:2009/04/21(火) 18:57:41 ID:GOyBm1BM
新ジャンルを漁ってたらこのスレ向きのものをいくつか見つけた
新ジャンル「絶対服従」 、新ジャンル「独占されたい欲」、新ジャンル「見捨てられ不安」等
ただ、深層意識では強烈に依存してるが表面的には反発したりもする依存ツンデレが好みなので
このような素直依存は個人的に合わんが
32名無しさん@ピンキー:2009/04/22(水) 00:39:57 ID:4gPbGDbv
何回も書き直した。
結局視点を変えてみた。

投下します。
33ネトゲ風世界依存娘 八話:2009/04/22(水) 00:40:47 ID:4gPbGDbv


 気まずい沈黙。
 酷い失敗をやらかすと血が引くってのは本当だった。

「……。」
「……。」
 無言で見つめあう俺と九朗。
 言い訳をさせてもらうなら、蕾に服を着せていなかったのは手紙を読んでいてその内容に驚いていたからで、
積極的にそれを望んでいたわけではない。
 冷や汗が背中を流れるのが判る。

「とりあえず、これだけは言わせてくれ。」
「何?」
「俺は何もしていない。」
 先ほどから九朗は無表情だ。なんか瞳孔が開いている気がするのは気のせいだろうか。
 張り詰めた空気を気にした風も無く九朗に向けて蕾が話しかける。

「ええ。匠お兄さんは何もしていません。」
 頼む!なんとかフォローしてくれ!

「ただ私が勝手に匠お兄さんの雌犬にして頂いただけです。」
 そう笑顔で続ける蕾……余計立場が悪くなった気がする。って!!?

「蕾ちゃん。その首輪まさかっ!」
「はい。主従の首輪です。」
「この馬鹿!早まった事を!!」
 首輪の効果は主人に絶対に服従すること。例え一人で生きていけるようになったとしても、友人は
ともかく恋人を作ったり出来るだろうか。絶対に無理だろう。俺なら無理だ。
 俺には彼女と一生を付き合う勇気は今は無い。だが、彼女は俺から離れることは出来ないだろう。
 彼女の一時の気の迷いで彼女の一生をめちゃくちゃにするわけには行かない。

「九朗。この契約は破棄できないのか?」
 誤魔化したり言い訳している余裕が無くなり、思わず九朗に聞く。

「出来ないことはない。」
 ぽつりと九朗は呟く。

「死ねば消える。」
 感情の篭らない声。

「冗談に聞こえないんだが……。」
「本気。」
 俺としては死にたくないんだが。しかし、何故蕾の方を向いて言うんだ。蕾は狩られそうなことが
本能的に判ったのか俺の背中に隠れた。

34ネトゲ風世界依存娘 八話:2009/04/22(水) 00:41:24 ID:4gPbGDbv

「それは却下だ。」
「残念。」
 顔は無表情だが本当に残念そうだ。

「で、匠。何をしてたんだい?裸で。」
「防具を作っている最中に寝てしまって、起きたらこうなってた。」
 正直俺も何がなにやら。

「いかがわしいことはしてないね?」
「当たり前だ。」
 相手の弱みに付けこんでどうこうするなんてことは自分には出来ない。自信を持って答えると、
九朗は呆れたのか溜息をついた。

「……ならいい。」
「信じてくれるのか。ありがとう。」
 こんなどうしようもない状況でも信じてくれる親友に心から俺は感謝した。そして、ふと思い出す。

「犬人族の契約って一人しか出来ないんだよな。」
「……そう。」
「ということは、九朗とは出来ないな。」
 こくりと九朗は頷く。蕾が自分に首輪を渡した焦り以上に俺は安堵した。この気のいい親友を
奴隷扱いせずにすむことを。

「正直なところ助かった。蕾には命令しなければ済む話だしな。首輪もなんか道具で見えないように
すればなんとかなるかもしれない。それよりも、九朗と今までどおり対等で入れるほうがありがたい。
今回のことはこちらのミスだから条件のことは気にしなくてもいいからな。」
 だが、九朗のほうはそれ程嬉しそうでもなく、無表情のまま首を横に振り呟くように答える。

「なら、代わりのものを差し出させてもらう。」
「九朗!」
 かっと頭に血が上り、思わず叫ぶ。何故判ってくれないのだろうか。俺はお金や物でどうこうしたくないのに。
 今はバーチャルでなく現実なのだから余計に。

「だが、すぐには思いつかない。装備が完成した後で匠のミスによるペナルティも兼ねて一日私に
付き合って欲しい。それで考える。」
「出来れば、物かなんかにしてくれよ。頼むから。」
 何も言わずに振り返り、去っていく彼女をいながら本気でそう願う。
 だが頑固なこいつのこと、あまり期待できそうに無かった。


35ネトゲ風世界依存娘 八話:2009/04/22(水) 00:43:01 ID:4gPbGDbv





 朝起きた。
 頭痛や悪寒のしない、高い熱も出ない健康な身体を持つことは本当にそれだけで恵まれているのだと痛感する。
 獣のような耳や尻尾があることなど、それに比べれば些細なこと。

 ミルガリンの首都、レトの朝は肌寒い。
 シャツ一枚で寝るには季節柄、少し早かったかもしれない。上着を羽織、朝の支度をする。鏡に映るのは
病気のせいで貧弱だった元の世界の自分より遥かに女性らしい身体。
 違和感が全くないといえば嘘になる。けれどそれも問題ない。
 私は元の世界と同じ無表情な顔を鏡に映しつつ、やはり元の世界と同じな長い黒髪を念入りに手入れしていく。
 匠にみっともない姿は見せられないから。

 この世界での私は、九朗という名前の犬人族だ。元の世界の名前は忘れることにした。どうせ死んでいる。

 別に悲しくは無い。私は運がいいのだろう。
 現実であれば、実際に匠に会うことは出来なかった。だが、こちらが現実になればずっと一緒に
いることもできる。男と女だから、読んだ本のように恋愛だって出来るかもしれない。
 今までのように貰った指輪をこっそり左手の薬指につけるなんてことじゃなく、本当に。

 彼は本当にいい奴。無愛想な私にも根気よく付き合って、ゲームの楽しさを教えてくれた人。
 明るくて社交的。頼りがいがあって優しい人。

 私は今まで男としてかなりの時間を彼と過ごしてきた。殆どは私がフォローされるほうだったけど、
私が彼が落ち込んでいるときに励ましたこともある。
 いい友人関係だったと胸を張って言える。

 だけど、物足りない部分もあったのは確か。
 一緒に並んで戦える。だから、私は彼を頼ることが出来ない。
 彼は私を信頼してくれる。だから、彼は私を甘やかしてくれない。
 彼は私に敬意をもってくれる。だから、彼は私をほめてはくれない。

36ネトゲ風世界依存娘 八話:2009/04/22(水) 00:44:10 ID:4gPbGDbv

 こんなことに気づいたのも、あの蕾と名乗る少女を見たからだ。
 彼女はたった数日前、偶然本当に偶然一緒にいることになっただけなのに。
 彼女は匠にべったりだった。
 危ないことがあれば匠に守ってもらえる──私も守って欲しいのに。
 何かすれば頭を撫でてもらえる──私も頭を撫でて欲しいのに。
 疲れたら彼に寄りかかることが出来る──背負ったり腕を組むなんて私もしてもらったこと無いのに。
 彼に甘えることが出来る──我侭を言って彼と一緒にねむ……

 ふぃんっ!

 匠に作ってもらった脇差を一閃、いらつきを鎮めるために空気を切る。
 この身体は確かに素晴らしい。だけど、私は弱くても蕾のように彼にどうしても甘えてみたかった。

 その悩みも今日まで。今日、防具は完成し、私は強引に目的を達成するために契約を結ぶ。彼には
幻滅されるかもしれないが、それでも私は我慢できない。
 このままあの少女に嫉妬し続けるのはいやだから。

 心の中でよしと声を出して匠の部屋へと向かう。私にとっては勇気のいる行為。初日なんてドアの前で
いったりきたりして、中々入ることが出来なかった。

 ばたんとドアを開け、その瞬間目の前の光景に私は固まる。
「……。」
「……。」
 手紙を真剣な顔で読んでいる匠。ハルからの手紙でああいう顔をしているということは何か重大な
事件があったのだろうと思う。
 そんな細かいことは胴でもいい。問題は二人の格好だ。

 全裸。暫く見詰め合っていたが、匠が口を開いた。

「とりあえず、これだけは言わせてくれ。」
「何?」
 どうしよう。どうしよう……聞きたくない!もしこれで匠が……

「俺は何もしていない。」
 続けて告げられた言葉で気持ちが少しだけ軽くなる。こういうことで嘘をつく性格じゃない。

「ええ。匠お兄さんは何もしていません。」
 微笑む彼女の首元に光る首輪。

37ネトゲ風世界依存娘 八話:2009/04/22(水) 00:44:30 ID:4gPbGDbv

「ただ私が勝手に匠お兄さんの雌犬にして頂いただけです。」
 それを見たとき、私の心に沸いた気持ちは間違いなく生まれて初めて抱いた感情……殺意だった。
 匠の隣に座る蕾。そこは私が座る場所なのに!その役目は私の役目なのに!

 一つだけ慰められたことは匠自信がそれを望んでいなかったこと。

「ということは、九朗とは出来ないな。」
 本当にあの少女を殺したかった。だけど、それをやってしまえば匠から嫌われてしまう。それは、何よりの恐怖。
 あの契約が出来なくとも私にはあきらめることは出来ない。

 彼が私を友人だといってくれるのは嬉しい。頼りにしてくれているのも嬉しい。大事にしてくれている
のもわかるのも嬉しい。だけど、私が本当に望んでいるのはそんなことじゃない。
 背が高いのが疎ましい。強いのが疎ましい。感情が顔に出ないのが疎ましい……。

 ────お願いだから気づいてよ。

 だから、私は、

「なら、代わりのものを差し出させてもらう。」
 何かをするために、約束を持ち出す。考えて出た言葉じゃなかった。何か心が溢れてたまらなくなり、
追い詰められて出た言葉。

「だが、すぐには思いつかない。装備が完成した後で匠のミスによるペナルティも兼ねて一日私に
付き合って欲しい。それで考える。」
 そういい捨てて匠の部屋を出た。彼の顔を見ていられなかった。
 顔が真っ赤になってたと思うから。

 だって、これはデートの約束だもの。


38名無しさん@ピンキー:2009/04/22(水) 00:45:33 ID:4gPbGDbv
投下終了です
39名無しさん@ピンキー:2009/04/22(水) 00:53:52 ID:/ujFY2T4
一番乗りGJ!
40名無しさん@ピンキー:2009/04/22(水) 00:58:22 ID:Mgbfveor
腹黒子犬依存娘と奥手クール依存娘に両手に華な賢者
すごく、成り変わりたいです
41名無しさん@ピンキー:2009/04/22(水) 06:35:50 ID:NC+EqmS0
なんかこれ九朗は依存だが蕾はただうざい子な気がする
一生物の契約を勝手に、しかも先客がいるのに結ぶとか
これは一生近づくなと命令されても文句言えないレベルじゃね?
そして九朗カワイソス
42名無しさん@ピンキー:2009/04/22(水) 13:13:27 ID:oRrHW1oY
蕾は蕾で、生き残るために必死ってことだろ?
43名無しさん@ピンキー:2009/04/23(木) 15:11:29 ID:uznScQXr
GJ過ぎます。最高
44名無しさん@ピンキー:2009/04/24(金) 00:27:30 ID:AbhV9er7
ウザイと思うなら読まなければいいのに。
俺みたく作品全体を楽しんで見ている奴もいるのにな。
45名無しさん@ピンキー:2009/04/24(金) 01:16:12 ID:bCoij1s9
>>37の最後の一行

九朗が可愛すぎる
46名無しさん@ピンキー:2009/04/24(金) 01:45:57 ID:obqQzlWa
>>44
いやそういう意味のウザイではないでしょ。
47名無しさん@ピンキー:2009/04/24(金) 08:41:34 ID:7YO2pCjJ
男から見えている姿が本来の女の姿でないというのがイイ
さすがネトゲ世界、こんな事は日常ちゃめし
48名無しさん@ピンキー:2009/04/24(金) 17:03:08 ID:AbhV9er7
>>47
日常茶飯事?
49名無しさん@ピンキー:2009/04/24(金) 18:28:15 ID:RjLnvkHC
し、知ってんだよそれくらいよぉてめぇは国語の先生かよぉぉッ!
50名無しさん@ピンキー:2009/04/24(金) 18:28:38 ID:ObV7Cobh
>>44

お前、読解力無いだろ
51名無しさん@ピンキー:2009/04/25(土) 01:39:32 ID:j9aGTafi
>>50
どういう意味のうざいなんだ?
52名無しさん@ピンキー:2009/04/25(土) 21:44:11 ID:sHlcns/u
>>51(=>>44?)
言わなきゃ解らんか?
作品全体はむしろ好きだが、登場人物の一人だけはウザイ
ってだけの事が
53名無しさん@ピンキー:2009/04/26(日) 00:18:17 ID:rkY4gnPt
ゆとりって怖いね!!
54名無しさん@ピンキー:2009/04/26(日) 00:47:50 ID:WQQEfO92
うん、そうだね

中学卒業した瞬間週休二日制になって
マジギレしてた俺の横で鬼の形相になってた友達くらい怖いね
55名無しさん@ピンキー:2009/04/26(日) 01:51:53 ID:rgEzZVV4
ええい!んなこたぁどうでもいいから俺に新しい電波受信機をよこせ!
自前のでは「子を溺愛(という名の依存)する若母」や「お互いの一部にのみ依存しそれ以外はどうでも良い男女」
などしか出ん!
56名無しさん@ピンキー:2009/04/26(日) 07:53:40 ID:2Wm1JUAo
>>53

いや、俺もゆとり世代だが



こ れ は ひ ど い
57名無しさん@ピンキー:2009/04/26(日) 11:06:27 ID:X+dOgQQO
>>55
表面上はやかましいくらい明るいけど、二人っきりになったり
予想外なことが起こるとすぐ臆病になり、依存する子はどうだ
58名無しさん@ピンキー:2009/04/26(日) 22:25:04 ID:Xob5HPms
>>57
それってツンデレも少し入ってる?
5957:2009/04/27(月) 00:00:26 ID:9FBqBMoF
>>58
ツンデレでは無い。明るく自分を装い、人を引きつけて依存する。
それでいて虚を突かれるとすぐ崩れる。
ACに良くあるパターンだね。
60名無しさん@ピンキー:2009/04/27(月) 01:02:49 ID:GLomYGtj
書き手少ないね
61名無しさん@ピンキー:2009/04/27(月) 01:53:38 ID:POaaIZlJ
>>59
4のオペ子あたり?
62名無しさん@ピンキー:2009/04/27(月) 07:36:05 ID:doNl6URC
依存って何の属性と一緒なことが多いかな?
一途とか依存にに含まれてるやつ以外で
63名無しさん@ピンキー:2009/04/27(月) 08:09:35 ID:/vZcF25E
幼なじみ、姉、妹とか
64名無しさん@ピンキー:2009/04/27(月) 09:41:27 ID:HzYQWYdk
状況によっては甘えん坊スレともかぶるかもしれん。
65名無しさん@ピンキー:2009/04/27(月) 19:26:00 ID:XGnOcrmD
前とくらべて活気づいてきて嬉しいね。
4月15日に俺も投下したかったんだけど、携帯が家出してたから無理でした…5月入るまでに投下するかもしれないんで、よろしくお願いします。
66名無しさん@ピンキー:2009/04/29(水) 12:36:36 ID:By/vhvEH
投下します。今回は装備と手紙の内容。
次回でようやく、九朗さん反撃。

この世界ではうわ幼女つょぃが存在します。多分。
67ネトゲ風世界依存娘 九話:2009/04/29(水) 12:37:44 ID:By/vhvEH



 新しい九朗の装備は結局何事もなく完成した。
 材料の準備、使うアイテムの仕分け、エンチャントの術式、デザインなどは昨日の時点で
全て決めていたので後は組み立てていくだけだったからだ。

「エンチャントは前と同じだ。攻撃力と素早さ、特に素早さを高める術式をメインに。魔法防御を
上げる術式をサブに付与してある。」
 出来た装備一式を置きながら俺は説明する。九朗はそれに一つ一つ頷く。

「アクセサリーの系統は素材を変えた。男のときみたいにあればいいってのは駄目だからな。」
「別に気にしない。」
「言うと思ったが駄目だ。今の九朗に着けても見劣りしない一番九朗に似合うものを作らないと、
一緒にいるとき後悔しそうだからな。」
「……それなら仕方ない。」
 しぶしぶといった面持ちで彼女は頷く。無表情なので実際にはどう思っているのかはわからないが。

「防具の素材も少し変えた。前より少しだけ重くなるが大分硬くなっているはずだ。死んだら
復活できないから守備力を重視してみた。一度全部付けてみてくれ。」
 彼女は一つ頷くと、じっとしばらく俺を見つめ……ぽつりと呟く。

「な、何だ?」
「……後ろ向いて。恥ずかしいから。」
「あ。すまん。部屋から出る。」
「うん。」
 少しだけ照れたように視線を外す九朗。
 そういや、女になんだった。つい、以前と同じように扱おうとしてしまう。いや、そうしないといけないんだが。
 恥ずかしがっている顔は何だか、いつもの格好いいという形容が似合う顔と違って少し可愛らしく見えて、
こんな一面もあったのかと驚かされる。

 がちゃがちゃとした無骨な音が暫く響き、俺は入室を許可された。
 そして、息を呑む。

68ネトゲ風世界依存娘 九話:2009/04/29(水) 12:39:01 ID:By/vhvEH


 動きを阻害しない明るい黒を基調とした半身鎧に白色の魔法の防護服。派手にならないように
少し暗めに落とした赤色のスカート。鎧と同じ色のグリーブ。要所にアクセサリーが付けられている。

 作った自分がいうのもなんだが、それを着た彼女は目の前の犬耳の女性の姿は神々しくすらあり、
有名な名工の作った彫像より美しいと思う。彼女自身の持つ美しさも引き出しているのだ。

「どうかな。」
「似合ってる。」
 質問というより確認といった口調。俺は頷く。

「匠に任せてれば間違いない。安心。」
「着心地はどうだ?」
という質問にはスカートの裾を軽くつまみ、

「少し足元が不安。スカート慣れてないから。」
「む、まずかったか?」
 九朗は首を横に振り、小さく笑みを作った。

「気に入ったよ。」
「そりゃあよかった。」
 正直ほっとした。九朗の好みが判らなかったので不安だったのだ。

「今度は普通の服も作って欲しい。」
「ああ。似合うものを考えとく。」
 九朗は真剣な顔でそういった。社交辞令だろう。以前より彼女は人と人との会話に常に距離を置いていた。
 相手が不快にならない程度に。仲が良かった俺との間でもその身体の距離は1mほどもある。そして、
彼女は冗談でも体に触れようとはしない。
 それが判るから俺もいつも気をつけているのだが。

 それが何故か今日はいつもより近い。
 かなり近い。30cmもない。
 背が低くなり、かろうじで俺より低くなった彼女は見上げるように近くから俺の眼をじぃ〜っと見つめている。
 何を求めているんだろうか。
 ひょっとして、趣味に走ったのがばれて怒っているんだろうか。
 とにかく、話題を変えることにした。

「ところで、今日はもう遅いから休むとして、明日は何をする気なんだ?」
「……馬鹿。」
 小声で本当に小さく何かを呟いた後、九朗は少し考え、

「ゴルゴタの丘。」
と、答えた。某宗教で有名なものと同じ名前を冠した中級の狩場だ。九朗が異変に巻き込まれたときに
闘っていたヘカトンケイルの出る場所に比べれば格段に弱い敵しか出ない場所である。
 装備の慣らしとしては最適だろう。

「わかった。」
 俺は答えて頷いた。


69ネトゲ風世界依存娘 九話:2009/04/29(水) 12:40:52 ID:By/vhvEH


 翌日、俺は一人で目を覚ました。
 最近は蕾と寝ていたのだが、昨日の事で九朗が一人で眠れないなら自分と眠ればいいと連れて行ったのである。
 何やら少し寂しい感じがしないでもないが、女嫌いの九朗がそれでも彼女のことを考えて我慢して
気を利かせてくれたことには感謝していた。

 そして今は、ハルのギルドのたまり場へと集まっている。
 以前は銀行前だったが流石にあんな場所でたむろするわけにもいかず、そこそこ大きい商家の
住宅を買い取っていた。
 家具はハルが選んだらしい。古いが趣味のいい物を選んでいる。

「まぁ、そういうわけで一日こいつを預かって欲しい。」
「それはいいんだが……」
 なにやら、不審げな顔でハルは蕾を見つめて、

「いつから君は幼女に首輪をつけて喜ぶような男に?」
「俺の趣味じゃない。」
 そこはきっちりと主張する。

「私が匠お兄さんの雌犬にしてもらったんです。身も心も。」
「匠。そんなに飢えているなら私が相手してあげるのに。」
「誇らしげに誤解を招くことをいうんじゃない。ハルも変なこと言うな。」
 まるきり変態を見る目に耐えかねた俺は頭を抑えながら呻くように答えた。

「それはさておき、しかし、手紙は読んでくれたのだろう?」
「ああ、勿論だ。」
「あの手紙?」
 九朗は小首を傾げて俺のほうを向く。

「君と九朗にも話合いには出席して欲しいんだがね。」
 ハルが真剣な顔で困ったように、

「私達全員の生死に関わるような事案だからねえ。」
 確かに、この内容が事実ならこの先この世界では大変なことがおこるだろう。

「内容は?」
 九朗が俺に話すように促す。

「主要6王国のひとつ、ここの隣国の和風の国、ヤギュウの国王が俺達のように巻き込まれたプレイヤーに惨殺された。」
「本当に?」
 流石に九朗も驚いたような顔をした。

「ああ。殺したのは俺たちの知り合いだよ。ほらOSの人だ。」
「頼子……本当に?」
 今間違いなく俺は苦々しい顔をしているだろう。九朗が信じられないのも判る。頼子という女性は
控えめで大人しい少女だ。ある種の名物プレイヤーで、お兄さんと彼女が呼ぶ謎の人物が寝るように促しに
ログインすると、大人数でしか闘えないダンジョンでレアアイテムを目の前にしても取り分を放棄して
「お兄さんが寝ろっていっているんで落ちます。ごめんなさい。」とログアウトしていく変な人であった。

 俺たちはそれを影でOS(お兄さん襲撃)といって笑っていた……のだが。

70ネトゲ風世界依存娘 九話:2009/04/29(水) 12:41:55 ID:By/vhvEH

「私にこの事件を教えてくれた人の話だと、お兄さんという人物も巻き込まれたらしいよ。で、何らかの
理由でヤギュウの城に捕まった。後はお察し下さいってことだね。」
 国王を殺したくなるようなことになったってことか。

「ここで重要なのは国王が死んだことじゃない。彼女のギルドの助けもあったとはいえたった数人で、
正面から国王を切り捨てることができたということだ。」
 NPCのスキルは最強の剣聖でも150といったところだ。だが、時は流れ今では悲しいことにその数値では
すっかり雑魚扱いで、例をあげるなら、このゲームトップの刀スキルを持つ九朗は650という
実に4倍以上の強さなのである。
 同じように他のスキルでも、プレイヤーはNPCを遥かに越える能力を持っている者が多い。

「このことが広まれば、全国で似たようなことが起きるのではないかと考えている。その先にあるのは混乱だけだ。
どれだけスキルがあろうが、我々には人を統治することなどできはしないからね。」
 自分に出来る限界をハルは把握しているんだろう。

「いつからこのゲームは国家運営モノになったんだか。」
「自由度が高くなったんだよ。」
 俺の下手な冗談に、ようやくハルはいつもの不敵な笑顔で笑った。

「だが、私には関係ない。」
 九朗はそう呟く。

「国も知らない他人も好きに生き、好きに死ぬといい。」
「やれやれ、九朗ちゃんは相変わらずクールだねぇ。」
 ハルも九朗とは長い付き合いだ。怒った様子も無い。

「私にとってはこれから匠と出かけることのほうが重要。」
 真面目な顔で断言する。男のときはともかく、今は美女なのだから勘弁して欲しいものである。
 秀麗な顔をこちらにむけてそんなことを言われると変な誤解してしまう。

「わかった。でも、私達や他のギルドとの話合いで決まったことには協力して欲しい。」
「判った。九朗。俺からも頼む。」
 俺はこの町をずっと拠点にしてきた。戦争なんかに巻き込まれてぼろぼろになるのをみるのはまっぴらだ。

「……匠がそういうなら。」
 九朗は不承不承ながら頷いた。

「そんじゃ出かけるか。ハル。蕾を頼む。いい子にしてろよ?」
「はいはい。了解―。」
「はい、いい子にしてます。匠お兄さんお気をつけて。」
 ハルが軽々しい感じで了解し、蕾は笑顔でそう頷く。

「九朗。いこう。」
「うん。」
 そして、俺たちは荷物を持ち転送石を用いるために街の外を目指した。

71名無しさん@ピンキー:2009/04/29(水) 12:48:32 ID:By/vhvEH
投下終了です。
裏では色々起こってます。

大人しめの依存娘が極端に強くなるとヤンデレになる気がする。
72名無しさん@ピンキー:2009/04/29(水) 15:37:40 ID:vskf6xV7
GJ!!
OSの意味合いにワロタwwww
73名無しさん@ピンキー:2009/04/29(水) 19:57:59 ID:l//Px/y0
GJ
74名無しさん@ピンキー:2009/04/29(水) 20:28:20 ID:4FM6qT3S
GJ、次回も期待
75名無しさん@ピンキー:2009/04/29(水) 22:31:47 ID:+GX85TNT
OS吹いたGJ
主人公がいい奴だと、心が暖まるな。
76名無しさん@ピンキー:2009/04/30(木) 10:23:31 ID:LzadE/Ha
GJ!
OSには笑ったけど実際そういう同じゲームしている人間
だけに通じる略語とか隠語ってあるよなぁ。

強さのインフレってオンラインゲームとかだとよく起こるからねぇ。
77春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/04/30(木) 22:39:33 ID:5pD8JOAN

 春──春夏秋冬で一番嫌いな季節…この季節になるとよくアイツの夢をみる。
この町に一本しかない大桜の木…子供の頃から二人しか知らない秘密の場所──

甘い桜の匂いに混じってアイツの髪の香り…夢の中のアイツは決まって同じことを口ずさむ。

──ごめんね、ハル…
その一言を残して消えていく。
残された俺は泣き叫ぶだけ…

一緒にいるっていったのに…

──ごめんね…

謝らなくていいから、ずっと一緒にいてよ

──ごめんね…

なんで謝るの?悪いのは──

──ハ─ル─ごめ─

待って…置いていかないで─一人に─し─な─
78春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/04/30(木) 22:41:41 ID:5pD8JOAN

…き…ろ…

「…い…か…ない…」

…おきろ…

「…ん…なん…」


「おきろって言ってんだろ!!いつまで寝てんだ!!」

「ブッホォッ!?」
怒鳴り声と共にお腹に激痛が走った。

「ゴホッゴホッ!?(なんだいきなり!?)」
寝起きと涙で前がぼやけて見えない…オマケにお腹の痛みに加えて呼吸もままならなくなっている。

「時計見ろ!もう8時!遅刻するじゃない!!」
ガンガンッと顔に目覚まし時計を押し当てられる。

「ゴホッ…いきなりゴホッ…なにすんだ!!」
怒鳴っている人物にこちらも怒鳴り返す。
やっと今の現状を把握できてきた…

「はぁ?おこしてもらってその態度なんなの?」

朝からこの女の髪の色は目に痛い…。
金髪に軽くウェーブがかかっており左右の耳にはピアスが一つず。
ヤンキー丸出しの外見、短いスカートにブラウスのボタンを三つ外しており胸元にはシルバーのクロスが光っている…

「誰がおこしにこいって言ったよ!第一起こしかたってもんがあるだろーが!寝てる相手に本気で蹴るんじゃねーよ!!」
79春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/04/30(木) 22:44:24 ID:5pD8JOAN

「第一お前も今起こしに来たってことは、元々遅刻寸前だったってことだろーが!」
家から学校まで40分はかかる…8時30分までに校門をくぐらないと遅刻扱いになるので、家が隣なコイツは元々遅刻決定なのだ。

「うっるさい!!ったく、下で待っててやるからさっさと降りてこい!
それとお前じゃなくて夏美だ!!
赤部 夏美って名前があるんだから名前でよべ!!」
そういうと勢いよく扉を閉めて部屋を出ていった。

「なにが待っててやるだ…ったく」
昔はお兄ちゃんとちまちまついてきて可愛らしかったが、今は見る影もない…
口を開けば死ねだの殺すだの……

「…はぁ…俺じゃなにも言えないわな…」
夏美を見ていると三年前の俺を見てるようで複雑な心境になる…
夏美がああなったのは少なからず俺が関わっているのだから…

「ふぅ〜めんどくさっ…」

クローゼットから制服を取り出す。

「…あっ!」
ブレザーの胸ポケットから一枚の写真がゆっくりと落ちていく。

「…」

アイツの物はこの写真と二人で過ごした最後の誕生日プレゼントのネックレスしか持っていない…

周りのみんなには立ち直ったと思われているが俺の時間は三年前の春で止まったままなのだ。

「おはよう…春香。」

──一人で迎える3度目の春は一度目、二度目と変わらず、いないはずの春香の匂いでいっぱいだった。
80春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/04/30(木) 22:46:04 ID:5pD8JOAN

春香と俺で一緒この制服を着て通うはずだった高校もあんなに楽しみだったのに今では苦痛すら感じるようになった。

一年下に夏美が入学してきたが一緒に通ったのがほんの1ヶ月程度だった…俺の後を追うように悪いほうに進んでいく夏美を俺は止めようとしなかった。

…止めれなかった──

最近では男友達も増えているらしく、よく廊下でたむろってるのを見かける。

邪魔で全員蹴り飛ばしたくなるが、俺が通る時には逃げるように散っていく…その場に残るのは夏美だけ…
なぜ俺を怖がるのかと言うと俺が通う学校の教師である夏美の姉、赤部 秋音の存在と一年前に俺がしでかした出来事が影響しているのだ。

「はぁ……寂しいなぁ…」
本音がポツリとでてしまった。
落ちた写真を眺める…中学の入学式に撮ったものだ。
写真の中の春香はいつも笑っている。

「おはよう…春香。」
毎日の習慣になっている挨拶をすませる。
挨拶が返ってこないのは分かっているがやはり声が聞きたい…この季節はとくに愛おしくなる。

「女々しいな……」

──一人で迎える3度目の春は、一度目、二度目と変わらず、何故かいないはずの春香の匂いがした。
81名無しさん@ピンキー:2009/04/30(木) 22:56:52 ID:5pD8JOAN
ファンタジー物を書こうとしたけど、ここで書いてる人とちょっと話し的にも被りそうだったので、これが終わったら書こうと思います。

まぁこの話しも心の隙間なみに長くなる予感…よろしくお願いします。
82名無しさん@ピンキー:2009/04/30(木) 23:24:39 ID:5pD8JOAN
間違えて>>80の最後の部分を>>79にも書いてしまった…ごめんなさい
83名無しさん@ピンキー:2009/05/01(金) 00:44:13 ID:L9vfVE/2
>>81
GJ!
期待してますッッッッッッ!!
84名無しさん@ピンキー:2009/05/01(金) 20:22:01 ID:zbFL55ta
GJ!!!
続きに期待してます。

これは男のほうが依存なんだろうか。
85名無しさん@ピンキー:2009/05/01(金) 22:30:09 ID:Lt0meRWl
新作期待GJ
86名無しさん@ピンキー:2009/05/02(土) 19:05:59 ID:B+9kS7h3
投下しますー。
87ネトゲ風世界依存娘 十話:2009/05/02(土) 19:07:11 ID:B+9kS7h3


 転送石はモンスターが落とすアイテムで、その落としたモンスターのいる場所へと送ってくれる便利な
アイテムである。ちなみに街に帰る場合には根拠地へ帰還する魔法があるので転送石がなくとも問題は無い。

 街の外で転送石を使用する。俺達を監視していた密偵Aちゃんは気絶させて危なくないように物陰に
隠しておいた。
 実際にはかなりの技術の尾行なんだろうが、今の俺達には何も無い平原でダンボールに隠れて
尾行しているくらいばればれである。
 可哀想に。

 俺の手の上から九朗の少し冷やりとする手が重ねられる。
 今までは俺に触れず、自分の石を用意していたのだが……。

 異変後感じるようになった生々しい身体の感触。動揺を顔には出さず石に魔力を注ぎ込むと光が溢れ、
背の低いひょろっとした木がぽつぽつと生えたごつごつした赤茶けた崖だらけの丘へと移動した。

「ゴルゴタの丘は、街と違って変わってないな。」
「……いや、縮尺が変わっている。」
 今、九朗は俺の作った鎧姿だ。丘に吹く強い風がスカートを少し揺らしている。

「そういやそうか。」
 よく見ると、確かに地形の形はそのままにゴルゴタの丘は数十倍の広さになっていた。
 もとよりかなり広い迷宮のような地形だったが、今では現実世界の映像でしか見たことの無いような
大自然という言葉が似合うような広さになっている。

「目的地は変わらない。それにあれなら多少縮尺が変わっても直ぐに着く。」
「それもそうだな。じゃあ、お客さんも来たことだ。少しテストしてからお前の行きたいところにいこう。」
「わかった。」
 肉の匂いを感じ取ったのだろう。会話している僅かな間に、十数体のモンスターが俺達を囲んでいた。
 がっしりとした筋肉の巨体に角が生えたオーガ、猛毒を持つ爬虫類コモドドラゴン、空には
嘴に麻痺毒を持つ巨大なハゲタカ、コカトリス。

「懐かしい面子だな。」
「ああ。……空の相手は匠に任せる。」
 そう、ここは九朗と初めて会った場所。俺はハル達とパーティを組んで狩りに着ていた。
 当時はここが廃人達の最前線だ。そんな中、九朗は既にここの相手にソロで戦いを挑んでいた。
 数人で生き残るのもやっとという狩場で、一人、しかも苦戦しながらも市販品の刀一本で
戦い続ける九朗に俺は唖然としていた。

88ネトゲ風世界依存娘 十話:2009/05/02(土) 19:07:52 ID:B+9kS7h3

「あんときは邪魔するなって怒られたな。」
「忘れた。そんな昔のこと。」
 からかう様に笑ってそうちゃかすと、九朗は少しむくれて言い捨てる。

 刀しか持たない九朗はコカトリスの処理が出来なかったのだ。弓も一応持っていたらしいが、
次々に沸く強力な相手にその余裕も無い。麻痺嘴は、技量でかわしていたが俺が見たときにはぼろぼろだった。
 ハルが止めるのも聞かずに俺はコカトリスを魔法で横殴りし、九朗に回復魔法を使った。

「余計なことをするな。」
 戦場が落ち着いた後での静かな拒絶の一言。それに対して俺は、

「ざけんなヘタレ。一人で狩りも出来ない癖に無理してくんな。」
 九朗はその言葉に思考停止して驚いていたが、やがて、言葉の意味が染みこんだのだろう。刀を俺に
向け怒りを抑えるような静かな声で、

「群れないと何も出来ないやつが何をいうか。」
「やるか!」
 その後、ハルがやっぱり止めるのを無視して1対1でのPvP戦へ。真っ向勝負を挑んだ。


「あんな出会いからよく仲良くなれたもんだな。」
「結局、あれから始まった匠との戦いも486勝1敗だったね。もう出来ないのは残念。」
 目の前のオーガの首を一撃で刎ね、次のオーガの相手をしながら、少し微笑む。

「お前ほんと負けず嫌いだな。もう少し手をぬいてくれてもいいだろうに。」
「負けず嫌いは匠の方。」
 俺も笑いながら、空中の敵を魔法の矢で打ち落とす。唯一の白星は2戦目だ。徹底して対策を
練って遠距離を確保した。勝ったのはそのときだけ。

「私のことなんてほっておけばよかったのに。」
「負けたまま黙ってられるかよ。」
 確かに、腹は立った。むかついた。
 一回目の戦い以降も、同じ狩場を利用している以上顔を合わせることになる。いつもソロで狩りを続ける九朗。

「多分、こいつなんでゲームやってんだと思ったんだ。」
「……?」
「ゲームは楽しむものだろ。九朗はどうみても楽しんでる風に見えなかったからな。」
「そうかもね。」
 二戦目で俺は条件を付けた。勝者が敗者に一つ何でもいうことを聞かせること。

「そうだね。あの時は必死だったよ。」
 モンスターを全滅させ、刀の血を振り払いながら九朗はそういった。

「だから、ほっとけなかったんだろうな。我ながら自分勝手だけど。」
 九朗は首を横に振る。

89ネトゲ風世界依存娘 十話:2009/05/02(土) 19:09:09 ID:B+9kS7h3

「助かった。本当に。押しつぶされる寸前だった。」
 二戦目に勝利した俺が出した条件は、俺とたまに組むことだった。ペアを組むようになり、
効率が増したからか九朗と俺とが組む機会はどんどんと増えていった。
 市販品しか持たない九朗のために装備を作成し、彼女──当時は彼だが──の、弱点である敵を処理し、補助をする。
 俺達のコンビは割りと有名になり、希に女性PLから変に熱い眼差しを向けられることもあったが、
概ね順調にうまくいっていた。
 九朗も他人と少しではあるが関わるようにもなり、楽しそうな顔も極希に見ることが出来るようになった。

「クロ。装備はどうだ?」
「動きやすい。動きを阻害されないし重さも殆ど感じないよ。流石だね。」
 鎧の様子を確認し、頷く。
 周りに散らばる死体は全て一太刀で事切れていた。刀の調子は聞くまでもなさそうだ。

 俺は敵が周りにいないことを確認し、魔方陣を描いていく。

「我契約に基づき、汝を召喚する。『はと』。」
「……。もっと格好いい名前付けてあげればよかったのに。」
 九朗は少し眉を顰める。轟音と共に現れたのは、いかつい顔の巨大な鷲。ロック鳥と呼ばれる
鳥の怪物である。
 俺としては最高のネーミングセンスだと思っているのだが。
 俺が先にはとに乗り、後ろに九朗が乗る。落ちないようにしっかりと腰に手を……

「手綱そっちにまわそうか?」
「後ろで構わない。」
……。後ろから手を回す。残念ながら胸の感触はなかった。考えたら鎧を着てるから当たり前だ。

「頭やばいな。俺……」
「どうかした?」
「なんでもない。」
 密着した状態から囁くように鈴のような声が聞こえる。耳に少し息がかかる。
 俺は手綱のほうに集中し、はとを飛ばせた。

 ロック鳥は速度はそれほどではないが、多くの荷物を持たせることが出来る。というのが売りだった。
 だが、現在のような状況であればロック鳥のゆったりした速度が丁度いい。
 風圧というのは馬鹿にならない。それに……。

「やはり、データとは違うな。本物は……。」
「そうだね。」
 ロック鳥のもふもふとした感触を味わい、暖かい風を受けながらゆっくりと空から下に広がる雄大な景色を楽しむ。
 どうやってできたのか想像もできない地形。さえぎる邪魔なものが何も無く、遠くに見える地平線。
 日本ではどうあがいても見ることが出来なかった光景だ。

90ネトゲ風世界依存娘 十話:2009/05/02(土) 19:10:09 ID:B+9kS7h3

 暫く飛び、ゴルゴタの丘で一番高い場所へはとを下ろすと近づくモンスターを撃退するように命令し、
あたりに転がる一番大きな岩に並んで腰を下ろした。

「なるほど。ここか……。」
 辺りには無数の岩が転がっており、障害物となっている。
 ここは、九朗と二回目に勝負を挑んだ戦場だった。九朗は隣に座りながら何も話さない。俺も無理に話さない。
 何か話したいことがあるからここに来たんだろうし、向こうから話してくれるだろう。

 並んで遠くを見ながら時間はゆっくりと流れる。不思議と退屈はしない。

「……あの時、初めてPvPで負けて落ち込んでる私にここの光景を見せてくれたね。」
「本当に余裕なさそうだったからな。製作者が頑張って作った綺麗な光景も見られなかったら勿体無いだろ。」
 九朗は頷く。

「怖くて追い詰められて、逃げ道を探すようにこのゲームにのめりこんで……初めて気づいた。楽しむこと。」
「そっか。」
 懐かしいものを思い出している穏やかな顔で九朗は前を向きながら笑う。

「私は他人を拒絶していたし、誰も私と関わろうとしなかった。」
「そりゃそうだ。」
「匠だけだったね。」
「天邪鬼だからな。」
 九朗の手が俺の腕を取るか取るまいか迷うように不審な動きをしていることに気がついた。少し俺は苦笑いする。

「他人が苦手なのは相変わらずか。」
 少し距離を縮めて九朗の手をとり、腕に手を回させる。九朗は少しだけびくっ!として慌てていたが、
小さく息をつくと寄り添って俺の肩に頭を置いた。

「殆ど人に触れたことが無かったから。」
「悪くは無いだろ。俺なんかで悪いが。」
「落ち着くね。」
 寄り添う九朗の重みを感じる。男としてずっと付き合ってきたが不快ではなく、今はもう忘れていた。
 今ある彼女だけが真実なんだと思う。

「ほんとはね。何も言わずに異変の次の日に引退するつもりだったんだ。言うつもりではいたけど多分言えなかったと思う。」
「……そうか。」
 あくまでゲーム。止める日というのは必ず来る。それでも、俺には言ってくれると思っていた。少し残念だ。

「逃げるみたいにやめたくなかった。でも臆病だから何も言わずに逃げようとした。胸が張り裂けそうだった。」
「そうか。」
「ごめんなさい。」
 俺は非難する気にはなれなかった。何かの事情があったんだろうと思う。

「異変が起こったとき、神に初めて感謝した。止めなくてすむって。まだ、匠といれるって。」
「そうか。」
「でも、蕾が着て私はまた匠を失うんじゃないかと怖くなった。」
「だから、あんな無茶しようとしたのか。馬鹿だな。」
 心底心を込めて。

「誰が来ようが、俺の相棒はお前だろうが。」
 臭くて恥ずかしくて九朗の顔が見れない。

91ネトゲ風世界依存娘 十話:2009/05/02(土) 19:11:21 ID:B+9kS7h3

「く…くくっ……ふふ、匠可愛い……。」
 横から笑い声が聞こえる。馬鹿にしたような感じじゃない。幸せそうに。

「こら、くろ……?」
 気恥ずかしくて黙らせようと横を向くと、彼女は涙を流していた。いつもの無表情をくちゃくちゃに崩して笑いながら。

「ごめ……ごめんなさい……止まらない……。」
「あほ。」
 九朗の頭を抱え、子供をあやすように頭を撫でる。暫くそうしていた。落ち着く頃には時間は
流れて夕方になっていた。
 ここの光景は全てが真っ赤に染まる夕方が一番美しい。

「匠は俺なんかで悪いっていったけど違う。」
「……?」
「匠がいないと私は駄目になる。迷惑と思われても重荷になっても私には匠が必要。だから、匠じゃないと駄目。」
「大げさだな。」
 苦笑する俺に九朗は首を横に振る。

「大げさじゃない。」
 真剣な表情で俺を見つめ、俺の頬に両手を当てる。その手はどうしようもなく震えていたが、離す気はないらしい。
 かちこちにぎこちなく、九朗は俺に顔を近づける。

「……ん……。」
 ゆっくりと唇を合わせた。
 驚かなかった。幾ら鈍い俺でも流石にわかる。

「私は匠が好き。匠と一緒にいたい。奴隷が駄目ならせめて恋人になりたい。」
 震える手で俺の手を握り締め、それでも、視線を離さずに告げる。

「有難う。」
 正直に真っ直ぐ、気持ちを告げてくれた親友に俺も誠実に答える。

「今まで男としてみてきたから、正直言うと今は戸惑いがある。」
 九朗の今にも泣きそうな顔。いつもの凛とした雰囲気はまるでない。
 まるで子供のような。

「まだまだ、九朗のことで知らないことも多い……だけど、俺は九朗を好きになれると思う。」
 笑って答える。人付き合いの下手なこいつが頼れるのが俺だけなだけかもしれない。でも、それでもよかった。
 誰かにこいつを渡すなんて俺には考えられないのだから。

「あー……そういうわけでこれからもよろしく頼む。」
「……返事。」
 熱っぽく紅潮させ、九朗は顔を近づける。

「目、瞑れ。」
 俺は荒っぽく九朗を抱きしめると、自分から唇を奪った。

92名無しさん@ピンキー:2009/05/02(土) 19:12:06 ID:B+9kS7h3
投下終了です。
93名無しさん@ピンキー:2009/05/02(土) 20:01:49 ID:PAMQTrUb
イヤッホーウ!!GJ!!!
94名無しさん@ピンキー:2009/05/02(土) 20:16:39 ID:P3v5uUIX
ふぅ、チョコ食いながら読んでたのに読みおわったらチョコがぜんぜん減っていない……


何故満腹感というか胸焼けが…………
95名無しさん@ピンキー:2009/05/02(土) 20:24:45 ID:0Q2UHh57
>>80>>91も最高や!!

クロは結ばれたけど蕾はどうなっちゃうのかね。
対抗しようにも全パラメータで圧倒的な差があるからな。
96名無しさん@ピンキー:2009/05/02(土) 20:33:38 ID:FhzHq+uI
GJ!

蕾はどーなるんやろーね、確かに。
契約は契約だが普通の方法で対抗できないのが分かるだろうしねぇ。
97名無しさん@ピンキー:2009/05/03(日) 05:50:51 ID:c9vCQAiO
GJ!
蕾派だったのに…クロおおおおお!!!!
98名無しさん@ピンキー:2009/05/03(日) 17:34:18 ID:V3D1kGJp
奴隷より恋人だろ!
蕾ざまあW
99名無しさん@ピンキー:2009/05/03(日) 21:41:34 ID:OXuGtnQf
GJ
100春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/04(月) 03:20:12 ID:AFVIsfdA

「おっそいっっ!! 始業式で遅刻するなんて私たち二人だけだぞっ!!」
制服に着替えて一階に降りると夏美が腕組みをしながら玄関で待っていた。

今日は4月8日、春休みが終わって学校の始業式があるのだ。
俺は三年、夏美は二年へと無事上がれたのだが、俺は進学やら就職活動やらで忙しくなる。
(まぁ進学なんかする気はないのだが。)

「朝からでかい声でせわしい奴だな…」
遅刻は確定しているのだからもうちょっと落ち着けないものか…

「誰のせいだと思ってッ…ってどこに行くんだよ?」

「どこってリビングだよ、朝飯食ってないんだから。」

「あほかっ!?遅刻だっつってんだろーがっ!!飯なんか食ってる暇ねーよっ!!!」
不良なら遅刻ぐらいでわめくなと言ってやりたいが、これ以上言い争いをしたら余計に疲れるのでやめておこう…。

「はぁ…それじゃ歯磨いてくるから。」

「ったく、早くしろよ!」
後ろから聞こえてくる罵倒に返事を返さず、手でヒラヒラと言葉のない返事を返す。

新学期早々こんなにも慌ただしく始まると学校にいく気持ちも始めから無いにしろ薄れると言うものだ…
101春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/04(月) 03:20:56 ID:AFVIsfdA

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「はぁ…はぁ…っ危なかったぁ…ふぅ…」

「危なかったじゃねーよ…はぁ…はぁ…おもいっきり走りやがって…はぁ…はぁ」
電車の扉が閉まる寸前になんとか乗れたのだが家から駅までずっと走りっぱなしだったので、心臓がえらいことになっている。

「ふぅ…まさか夏美があんなに足が速かったなんて思わなかった…」
電車の椅子に腰を掛ける、それに続いて夏美も隣に座る。

「顔真っ青だな…タバコのせいだろ?いい加減やめないと早死にするぞ。」

「おまえも吸ってるだろーが。えらそうにすんな。」

裏庭で夏美の男友達とタバコを吸ってるとこを見たことがある。
その時一人の男がなにを勘違いしたのか俺にタバコを渡して「どうぞ」と言ってきた。

俺の場合中三から吸っているタバコはもうやめれない、無いと落ち着かないのだ。
夏美は高校入って半年間は吸ってなかったはず…多分男友達にそそのかされたのだろう。

「私は大丈夫なんだよ…とにかく早死にしたくなかったらタバコを止めろ!」

「おまえはジャイアンかよ…まぁ考えとく。」
102春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/04(月) 03:21:24 ID:AFVIsfdA
この時間帯は通勤、通学ラッシュを過ぎているので電車の中はガラ空き。

普段は俺や夏美のように何人か遅刻者がいるのだが、さすがに始業式に遅刻する者は………いた。


「おい夏美…仲間見つけたぞ。」

「はぁ?なかまぁ?」
ニヤけながら顎でクイッと隣の車両をさすと、夏美もつられてその場所に目を向ける。

「…あっ本当だ!…でもあの子一年じゃない?胸のリボン赤いよ?」
俺たちが通ってる高校は首元についているリボンの色で学年がわかるようになっている。
一年は赤、二年は緑、三年は青と三色にわかれているのだ。

「高校デビュー初日に遅刻する奴なんているんだな…気まずくて学校いけないよな。」

「今のこの状況もかなり気まずいと思うけど?ってゆうかあの子すんごい泣きそじゃない?」
そう言われてもう一度目を向ける……確かにキョロキョロと周りを気にしたり、立ったり座ったりと落ち着きがない。

「なんだろーな?初めてで降りる駅が分からないとかか?」

「さぁ?まぁ、私には関係ないな。」
興味がなくなったのか、そう言うと目線を前に向けてしまった。
103春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/04(月) 03:21:49 ID:AFVIsfdA

少し薄情だと思ったが、どんな理由かも知らないので声をかけるわけにはいかないしナンパだと思われるのも嫌だ。

「まぁ、アナウンス流れるから分かるよな…」

「はぁ…まだいってんのかよ…春兄って本当危なっかしい子に弱いよな、そういや春姉ちゃんもかなり危なっかしかったな。」

「あぁ…そうだな…」
春姉ちゃん…久しぶりに夏美から春香の名前を聞いた…

赤部家は長女の秋音、次女の春香、三女の夏美、末っ子に冬子と四姉妹なのだ。昔はよく5人で遊んだし、どっちが自分の家か分からないぐらい赤部家に入り浸っていたこともあるぐらい親しくしていた…ある時までは…。

「明日…覚えてるか?」

「…忘れるわけねーだろ…」
4月9日は人生が一変した日…忘れるわけない。

「今年も…一人で行くの?私達と行かないのか?」
夏美が複雑そうな顔をこちらに向けてくる。
「あぁ…春香と二人で話したいこともあるしな…」

「……そう…」
そう呟くと反対側に目線をそむけてしまった。
忘れてないのは俺だけじゃない…赤部家のみんなにも今なお大きな心の傷が残っているのだ。
104春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/04(月) 03:22:12 ID:AFVIsfdA

──○○駅、○○駅──

「ん?もうついたのか…」
春香のことを考えていると、いつの間にか目的の駅についてしまった。

カバンをつかみイスから立ち上がり電車から降りる、俺の後に続いて夏美が降りてくる。

「……」

ふと先ほど気になった一年に目を向ける…やはり立ち上がってはいるが降りていいか迷っているようだ。

「……ったく…」
振り返り2車両目の入り口に向かって歩き出す。
夏美は意味が分からず「なにするんだ?」と声をかけてきたが「春香の真似事」とだけ言うと閉まる扉に手を差し込む。

「おい、一年。学校の行きかた分からないのか?」

「ひゃぃっ!?ごめんなさいっ!!」

突然声をかけられてビックリしたのかビクッと肩をすくめて持ってる携帯を下に落としてしまった。
「いや、謝られても…○○高校だろ?俺も同じ学校だからついでに連れていってやろーか?」

「え、えっと…あ…あの…」
なにがおきたのか分からないと言った感じであたふたしている。
まぁ知らない奴に声をかけられたら警戒するわな…

「まぁ、迷惑ならこのまま行くけど困ってるみたいだったからさ。」
このまま扉を押さえてる訳にもいかない…駅員がこちらを睨んでいる。
105春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/04(月) 03:22:35 ID:AFVIsfdA

「おっ降ります!!」

戸惑いながらも元気良く返事をすると
下に落とした携帯を拾い、イスに置いてるカバンをつかむと俺の横をすり抜けるように電車から飛び降りた。

──次は○○、○○駅──

「あ、あの…あた…わたし…」
カバンを胸に抱き、下を向きながら小さな声で呟いてる。
手に持った携帯から着信メロディーが流れているが気づいていないようだ。

「まぁ、俺達も遅刻だから。それと携帯鳴ってるよ?電話じゃないの?」
そう言いながら携帯を指さすと、震えてる携帯に驚いてまた携帯を地面に落としてしまった…。
しょうがなく携帯を拾ってやると、スイマセンと何度も謝りながら頭を下げてくる

「いや、謝らなくていいから電話でたら?」

「え?あっハイ!」
携帯を開いて電話にでると少し離れて小さな声で話し出した。
待つためにベンチに腰掛けると、夏美が「なに考えてんの?」と睨みながら俺の隣に座った。

「大丈──お母さ─心配──いで─」
途切れ途切れだが離れてても会話が聞こえてしまう。
お母さんだとか大丈夫だとか聞こえたので親御さんだと思う。
多分気が気ではなかったのだろう、数分の間でわかったが、かなりの天然か人見知りのようだ。
106春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/04(月) 03:23:00 ID:AFVIsfdA

「あの…電話終わりました…それで…その…」
電話を終えておずおずとこちらに向かって歩いてきた。
やはり目を合わさない…まだ警戒してるみたいだ。

「よし、それじゃ行こっか。」
立ち上がり改札口に向かって歩き出す。
夏美の横を通り過ぎるときチッと舌打ちが聞こえたが無視しよう。

──改札口を出て学校に向かう。
駅から学校までは一直線なので一度歩いたら忘れることは無いだろう。
俺と夏美の後ろをちまちまと小走りでついてくる下級生を見ると初々しく、一年前の夏美を見てるみたいで可愛いくも思う。

「な、なに見てんだよ…顔になんかついてるか?」

「……はぁ」


「なっ!?人の顔見てため息つくんじゃねぇよっ!!」
一年で人ってこんなに変わるのか…一年前の面影がまったくない。

「キミもこんなお姉ちゃんみたいになったらダメだぞ?」
後ろに振り返り一生懸命ついてくる女の子に話かける。

「え?わたしはそy「ふざけんな!春兄も人のこと言えないだろ!!」

女の子の言葉を遮って夏美が割り込んでくる。
第一、女が使う言葉遣いじゃない。
俺に使う分にはいいが他人に使って喧嘩にならないかと少し心配になってしまう。
107春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/04(月) 03:24:11 ID:AFVIsfdA

夏美の小言を受け流しながら歩いていると、見慣れた学校の校門が見えてきた。
少し山中に入った場所にあるので近くに行かないとわからないが今は普段とは違い門には入学式用の造花の飾りが施されている。

「はぁ、疲れた…」
普段学校にくるよりはるかに疲れた。
夏美の小言に新入生の足の遅さ。いつもは一人で来るので自分の歩幅でこれるのだが…やはり女の子と接する時間が開くと女の子に対しての接し方が雑になってしまう…少し反省しなければ。

「すいません、私足が遅くて…」
申し訳なさそうに頭を下げる。

「ん?大丈夫、大丈夫どうせ遅刻だし。なぁ、夏美?」


「…」

「夏美?」
返事が返ってこないので夏美に目を向ける

…なぜか門を潜ったところで固まっている。
横顔は青ざめており小さく「ヤバい…ヤバい…」と呟いている。

「なんだよ?」
夏美の目線を追いかると校舎の扉に誰かが寄りかかっていた。


「…」
目を凝らして見つめる…
髪の色は黒で夏美とは違う真っ直ぐなストレート…
170はある長身に紺色のスーツ…遠目でもわかるぐらいパッチリとした目と薄い唇。

その20代美形の女性は腕組みをしながらこちらを見ている…いや睨んでいる。
108春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/04(月) 03:24:56 ID:AFVIsfdA

──「春、夏美…こっちに来い。」
その女性は小さく呟いたのに、その言葉は20メートル近く離れている俺の耳どころか心臓にとどいた。
夏美を横目で見ると、夏美にも声が聞こえたのか、後ろに後退り逃げようとしている。


「夏美…一人だけでは逃がさないからな…」

後ろから両肩を掴んでその女性のほうに連れていく。

久しぶりに見る夏美の怯えた顔は昔に戻っていた。

後ろからついてくる後輩も俺達の反応にかなりビビっているようで震えながら俺のブレザーの端を小さく掴んでいる。

「だ、大丈夫だって…あの人は学校の先生だけど昔から知り合いなんだ。」
ハムスターのごとく小さくなった後輩を守らなくては。

「はっ春兄!!やめろっ押すなっ!!」
女性に近づくにつれて夏美の抵抗も激しくなってくる…

「……並びなさい。」
女性の前に着くと夏美は完全に固まってしまった。
俺もすかさず夏美のよこに並ぶ。

「今何時かわかってるの?式はもう終わったわよ?」

「「…」」
この声は本気で怒っている…

「遅刻した理由を言いなさい…夏美から。」
いきなり話をふられてビクッとする夏美だが、ここに来て不良の実力を発揮した。
109春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/04(月) 03:25:24 ID:AFVIsfdA

「春兄が起こしてもおきなかったから……私はちゃんと起こしたんだよ!?秋姉さんに言われてたから!!でもねっ!?春兄ぜんぜんおきなかったの!!」

秋音さんの忠実な妹と化した夏美の思わぬ発言に思考が硬直した。

「ふ〜ん…春…なんか言いたいことは?」
秋音さんの静かな怒りが夏美から俺に向けられた。
夏美はふぅっとため息をつき俺とは一切目を合わせようとしない…完全に裏切られた気分だ。
普段は心優しい秋音さんだが

一度怒ると三日ほど機嫌が良くなることは無く。
常に頭を下げて行動しなければならないのだ…。

──「あの…すいません…」
秋音さんになんて誤魔化そうか考えていると、俺の後ろからおずおずと後輩が顔を少し出した。

「ん??なんだキミは?どっから出てきたんだ?」
秋音さんが不思議そうに俺の後ろをのぞき込む。

「あのですね…その…私が迷ってるところを先輩方に助けてもらったんです…だから遅刻しちゃって…だから…本当にすいませんでした!」

秋音さんに向かって頭を深々と下げる新入生。
俺も新入生に続いてごめんなさいと頭を下げる。

「──そうか…わかった…新入生は私についてこい。おまえ達は新しい教室に行け。」
110春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/04(月) 03:28:39 ID:AFVIsfdA

──たすかった…

はぁ〜と安堵のため息を吐く。
夏美も同じようにため息を吐いたが俺はそれを一睨みした。

目線に気がついたのかばつが悪そうにそっぽを向いてしまった。

しかし、あの天然娘に助けられるとは思っていなかった。
逆に守られるとは…情けない。

「あの…先輩…」

「ん?なんだ?」
秋音さんを早く連れていってほしいのだが…

「あの…ありがとうございました!私…山下 美幸って言います…先輩のお名前を教えていただけないでしょうか?。」

ショートボブの髪型や低身長に加えて小動物的な行動…顔を赤く染め、一生懸命背伸びをしながら目を見つめてくる…

「俺?三年の夕凪 春樹。こっちが赤部 夏美で、先生が夏美の姉の秋音さん。」
小さく手をあげて挨拶する夏美。

「今日から三年間よろしくね。」と続く秋音さん。
一応自己紹介をすませたが…なにか初めにあった頃と違う雰囲気を感じる。


「夕凪 春樹さん…春樹さん…ですね…わかりました。」

「あぁ、今日からよろしくな。」

「はい!…それじゃまた帰りにここで!」

「おうっ!頑張れよ!」
久しぶりに良いことをしたら疲れも吹っ飛んだ。







──ん?また帰りにここで?
111名無しさん@ピンキー:2009/05/04(月) 03:30:47 ID:AFVIsfdA
ありがとうございます。
今日の投下はこれで終了です。
112名無しさん@ピンキー:2009/05/04(月) 13:31:39 ID:1asqILwM
113名無しさん@ピンキー:2009/05/04(月) 16:00:44 ID:YMsImBGH
GJ!!
ただ、依存の描写がほしいと思うのは贅沢な願いですね…
114名無しさん@ピンキー:2009/05/04(月) 17:31:30 ID:y0a9BLFc
超GJ!!
>>113
気早すぎるでしょ。
まだ始まったばっかだし。
115名無しさん@ピンキー:2009/05/04(月) 17:40:11 ID:CQoSQkCf
タバコ吸う主人公に感情移入できないのは自分が嫌煙家故なんだろうな
116名無しさん@ピンキー:2009/05/04(月) 21:51:02 ID:fm+fSinl
>>115
人によるんじゃね?
俺もタバコを吸っていたが今は逆にタバコ嫌いにはなっているが小説
の中の登場人物が吸うのには何も気にしていないし。
ゲームの話になってしまうがタバコ吸わないと推理が出てこない某探偵とか
タバコの煙でレーザーセンサー見つけてしまう特殊潜入工作員とかは
気にならないけど感情移入できるからな。
117名無しさん@ピンキー:2009/05/04(月) 22:17:34 ID:MQxx1zGh
>>115
客観的に見てさ、「それは言わなくていいです」って思わない?
118名無しさん@ピンキー:2009/05/05(火) 02:23:14 ID:2c4N27XG
さぁ、ここからどういう依存を見せてくれるのか
楽しみですな
119名無しさん@ピンキー:2009/05/05(火) 12:22:55 ID:UVDmdWOm
>>116
俺は渋いおっさんキャラとかが吸うのは好意的に見れるけど、
少年や青年キャラが吸うのには拒否反応が出るな。
120春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/05(火) 17:40:41 ID:xqtg+eWL
タバコミスった?
まさかタバコに対して言われると思ってなかった。

続きは明日に投下します。
121名無しさん@ピンキー:2009/05/05(火) 18:36:52 ID:vB7s894k
>>120
いや、別に文句を言われたわけじゃないよ
122名無しさん@ピンキー:2009/05/06(水) 12:55:16 ID:fwAKxfI6
物語の中なら全く問題ないと思うな
123春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/06(水) 18:03:34 ID:933yL5G5

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

──「なぁ、春兄なに考えてんの?」

門の前で「ある人」を待つ俺に向かって夏美が不機嫌そうに話しかけてくる。

学校に来たのはいいが授業は無く、担任からの挨拶と少しの予定を説明されただけで終わってしまった。
事実上学校に居たのは二時間弱程度。

「いや、俺もわからないけど、待ってるって言われたからなぁ…」

俺が待ってる「ある人」と言うのは、今年新入生として入ってきた山下 美幸。

待ってると言われたのだが、まだ一年は終わってないらしく、俺が待つことになってしまった。

「はぁ?もう学校まで連れてきたんだから相手にする必要無いだろ?それよりお腹減ったからマックに行こうよ。」
朝飯を食わせなかったくせによく言う。

「友達に呼ばれた時になんで帰らなかったんだよ…友達とどっか行く約束してたんじゃないの?」

先ほど5、6人の男女が夏美に話しかけてきてた。カラオケだとか焼き肉だとか聞こえたので久しぶりに会った友達と遊びに行く約束をしていたのだろう。

断った夏美を必死に連れていこうとしていたが、夏美がイライラしはじめたので諦めて行ってしまった。
124春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/06(水) 18:04:03 ID:933yL5G5

「いや…まぁ、いいだろ?早く行こう、来るかも分からない奴待つ必要ないって…」

「ちょっ!?お、おいっ!」
俺の腕を掴んで強引に引きずっていこうとする。

なぜ今日はこんなに絡んでくるのだろう。最近の会話と言えば挨拶ぐらいだ。
それに様子がおかしい…口調や行動はあまり変わっていないが、全面に押し出ているいつもの強さがあまり目立たない。

友達の間で何かあったのだろうか…。何にしろ久しぶりに夏美からの誘いだから嬉しいことだ。

「わかった、わかったから腕を離せ。」
夏美を強引に引き剥がし歩き出す。

「あっ待てっ!!私に腕組まれる男なんていねーんだぞっ!!ありがたく思え!。」
前言撤回…やっぱりなにも変わっていなかった。
まぁ四姉妹の中で一番でかい胸の感触を味あわせてもらったのは言わないでおこう。

「……」

後ろを振り返り門を見る。
正直このまま帰るのは忍びないが、ああ言ったのは無意識の癖がでたのかもしれないし俺がいなければ諦めて帰るだろう。
後ろ髪引かれる思いで仕方なく学校を後にする。

―――――――――――――――――――――――――





──「はぁ、はぁ…ふぅ〜…お待たせしましッ……あれ?……先輩?」
125春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/06(水) 18:04:32 ID:933yL5G5

──あれ?私置いて行かれた?
なんで?先に待ってなかったから?
いや…あの優しい先輩…春樹先輩なら待っててくれるはず。

「まだ教室かも……どうしよう…見に行ってみようかな…」
まだ会って間もないし図々しく思われるかも知れない。
でも先に帰ってたらいくら待っていてもここには来ない…

「どうしよう…私が教室に行ってすれ違いで春樹先輩が来たら春樹先輩を待たせることになるし……もう少し待ってよっかな…」

生徒の帰る邪魔にならないように端にある花壇のレンガに腰をかける。



──10分。──

「あと少し…」

──20分。──

「もうちょっと…」

──30分。──

「あと10分だけ…」

──一時間──。

「……」

待ち始めて一時間30分。帰る生徒もまばらになってきた…。
生徒の中から先輩を探すが見あたらなかった…もしかして見逃した?
いや、春樹先輩の顔を見逃すわけ無い。

あんなに優しくされたのは初めて…前の中学校でも友達は誰もいなかった…引っ越してきて友達を作ろうと頑張ってみたが空回りするだけで友達なんかまったくできなかった。


唯一友達といえるのは家にいるパルだけ……まぁ、犬だけど…。
126春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/06(水) 18:05:29 ID:933yL5G5

「やっぱり教室にy「こんなとこでなにしてるの?」
声をかけられることになれていないので背後から聞こえる声にビクッとなる…春樹先輩に助けられた時も驚いてしまった。
声がした背後に恐る恐る振り返ると、朝私を教室まで連れていってくれた先生が立っていた。

「あれ?キミ、たしか今朝のハムスター…」

「ハ、ハムスター?」
私のこと?この人はなにを言ってるんだろう…。

「い、いや、なんでもない…それより、どうしたの?もうみんな帰ってるわよ?」
なにか誤魔化したように話をそらす。

「えっと春樹さ…春樹先輩にお礼がしたくて…ここで終わるのを待ってるんです。」

「…お礼?……なんの?」
あれ雰囲気が変わった…?
なにかドロッとした物を体に流し込まされたような感覚に陥る。

「えっと…今朝助けていただいて…ちゃんとお礼もできなかったので…」

「ふ〜ん…でも春帰ったわよ?」

「えっ!!?」

頭を鈍器で殴られたような衝撃が、身体全身を貫いた。
やっぱり置いて行かれたんだ…私を見てくれないのはなんとなくわかっていた…モテそうだし…多分あの金髪の女性が彼女なんだろう…。



やっと向き合える人が出来たと思ったのに…。
127春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/06(水) 18:06:14 ID:933yL5G5

「…本当に春と約束したの?悪いけどあの子は人の約束は絶対に破らないわよ?ましてや女の子を待たせて先に帰るだなんてあり得ないわ。」

そういえば私は春樹先輩とちゃんと約束したのだろうか?
たしか私の言葉に対して反射的な返事だったような…第一初対面で「帰りにまたここで」なんて普通言わない……

「なに、やってんだろ…私。」
今朝のことを思い出してあまりの頭の悪さに涙がでそうになる。
春樹先輩が悪いんじゃなく私の勝手な勘違い。

「…春には私から言っといてあげるからもう帰りなさい。」
先生に肩を叩かれる…先ほど感じた威圧感はもうなくなっていた。

「わかりました…それじゃ失礼します。」
しょうがない…また話せる機会があればお礼を言おう。




──「赤部先生なにかあったんですか?」
門からでようとすると後ろから男性の声が聞こえてきた。
春樹先輩ではなく図太い声。

「いえ、生徒と世間話をしていただけです。」

「そうなんですか?てっきり夕凪 春樹と赤部 夏樹を探しているのかと。」
その言葉に足が止められる…。

「なぜですか…?」

「いや、二時間ほど前にここで見かけましたよ?赤部先生を待ってるのだと思ったんですが…。」
128春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/06(水) 18:07:04 ID:933yL5G5

「ほ、本当ですかっ!!?」
振り返り男性教師に詰め寄る。
「えっ?お、おう…」

「あのな…新入生……」

やっぱり春樹先輩は待っていてくれたんだ!!
さっきの沈んだ気分が嘘のように晴れやかだ。

「ありがとうございました!失礼しますっ!!」
二人の先生に頭を下げて急いで学校を後にする…もしかしたらまだ駅で待っていてくれるかもしれない…

「あ、こらっ!!まちなさいっ!!春に──」
後ろから先生の声が聞こえたが、今の私はそれどころではない。

もう一度会ってお礼がしたい…話がしたい…。

「はぁ…はぁ…春樹先…輩。」
多分もういないだろう…だけど少ない希望でもすがりたい。
この小さな絆を断ち切りたくない一心で走り続けた。
129名無しさん@ピンキー:2009/05/06(水) 18:10:46 ID:933yL5G5
ありがとうございます。
今日は少なくて申し訳ないです…。
これから依存度が加速していくかも。
130名無しさん@ピンキー:2009/05/06(水) 18:16:26 ID:eCDlrNxM
GJ!!

一応投下宣言した方がいいんじゃね?
131名無しさん@ピンキー:2009/05/06(水) 18:16:43 ID:wY0W6czk
リアルタイムGJ!
132名無しさん@ピンキー:2009/05/07(木) 02:17:34 ID:fdP1iDqT
続きが気になるな
GJGJ!
133名無しさん@ピンキー:2009/05/08(金) 01:48:45 ID:FblkvEvs
ine
134名無しさん@ピンキー:2009/05/08(金) 21:53:48 ID:1H6fQtVe
遅ればせながらGJ!
135名無しさん@ピンキー:2009/05/08(金) 23:17:15 ID:JgEu7yqG
GOOOOOD JOB!

ゲーパロ氏と「心の隙間」「ネトゲ風世界依存娘」作者、そして「春春夏秋冬」作者と連作が続いてよきかなよきかな
136名無しさん@ピンキー:2009/05/09(土) 03:07:26 ID:UFIT+mVq
なんか勢い出てきたなこのスレ
137名無しさん@ピンキー:2009/05/09(土) 03:17:35 ID:WuCdAaYP
>>136
いいことだな



ところで、よかったら保管庫つくりましょうか?
138名無しさん@ピンキー:2009/05/09(土) 03:29:53 ID:QWcO+BsE
いつも出る話題だな
139名無しさん@ピンキー:2009/05/09(土) 03:39:07 ID:WuCdAaYP
そうだけど、いつも

保管庫ないの

じゃあお前が作れ

の流れになるから、じゃあ自分がつくろうかなと

多分、反対はされないだろうから、つくっちゃいますね
140名無しさん@ピンキー:2009/05/09(土) 03:52:34 ID:40sbDImT
作ってくれたらマジで嬉しい。
141名無しさん@ピンキー:2009/05/09(土) 11:07:53 ID:QWcO+BsE
期待しています
142名無しさん@ピンキー:2009/05/09(土) 19:33:47 ID:4Hz7xOLd
>>137
ありがとう。本当に助かるわ。
143名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 00:35:30 ID:N8woNCrW
>>139なしでは』依存スレッド『保管も出来ない』
144名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 01:06:17 ID:wekZlejs
そういえば
籠城なんたら言う人の薬物依存の百合の話って
結局なんてタイトルだったの
145137 ◆boay/MlI0U :2009/05/10(日) 08:16:40 ID:SWNVPHeP
とりあえず公開

http://wiki.livedoor.jp/izon_matome/

まだ制作途中なので、“とりあえず公開”ということで(初代スレの作品は全て保管してあります)
今週中には現行スレに追いつけそうなんで、そうしたらまた報告します...
146名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 11:18:30 ID:PN8/iFKR
>>145
まさかの神降臨
147名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 13:17:04 ID:w5r5dKKh
>>145
GJ!乙!
148名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 13:43:19 ID:K4BJMBWZ
>>145さん
ありがとうございます!
149名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 15:03:43 ID:8Nxx51gB
>>145
惜しみないGJをっ!
って、労力かかってるですよね。ホント、ありがとうございます。
150名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 16:30:49 ID:uuO8lyay
>>145
ありがとう!
あなたは神だ!
151名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 16:51:41 ID:TuLVVbbc
>>145
心からありがとう!どこまでもナイスガイな奴だぜ!
152名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 17:11:52 ID:6IxM4jBq
あのね?私>>145がいないと何もできないの。
だから……ずっとずっと此処に居てね?
153名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 17:25:29 ID:qPcslLg5
>>145乙!

> このまとめページ作成の際、3-51氏のSSリストを参考にさせていただきました。

うおぉ……
あのゲーパロ氏のみ関連作品ごと一つのhtmlに放り込まれていたヤツから
よくぞここまで細かく分類したな

これがスレへの愛か
154名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 17:48:24 ID:T0KIZpba
今、このスレの住人全てが>>145に依存した。

「えへへ…もう>>145くんがいないと生きていけないよぅ」
155名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 20:57:26 ID:QeXnIwLn
予想以上に住人がいて吹いたw
156名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 22:36:55 ID:pu2XcS8G
>>145
ご苦労様でございます。
157名無しさん@ピンキー:2009/05/11(月) 00:50:31 ID:W2JxPH+l
>>154
なんだか今後の更新まで>>145氏に依存しそうでちょっと心配。
wikiはみんなが更新してみんなが楽しむ共依存関係が一番美しい。
158名無しさん@ピンキー:2009/05/11(月) 01:33:57 ID:pYmNoxlu
ほう、相互依存とな
159名無しさん@ピンキー:2009/05/11(月) 01:35:31 ID:zWAKqlba
>>145はこのスレの主人公になったな
GJ
160春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/11(月) 05:27:18 ID:ZOYppyvd
投下予告しなきゃ駄目なんですね…失礼しました。

朝から投下です。
161春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/11(月) 05:28:13 ID:ZOYppyvd

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「おまえさぁ…人の奢りだと思って無茶してない?」

「してないよ?朝からなにも食べてないんだからしょうがないだろ?」

学校の帰り、駅の前にあるマクドナルドに入ったのだが、今少し…いや、かなり後悔している…。

バイトの給料が入ったので奢ると言ったら夏美が鬼の如く注文しだしたのだ。
夏美の分だけでも軽く三千円近くいっている…。

「テリヤキとシェイクのバニラとポテトの──」
まだ増えるのか…。
さすがにこれ以上食べられたらたまったものではない…

「もう行こうぜ…夕飯もあるんだろ?今食ったらって…もう遅いけど、夕飯食べれなくなるぞ。」

「えぇ〜……それじゃシェイクのバニラで終わり…。」

なぜあれだけ食べて不満なのか不思議でならない…それ以前にこんな食生活をしていて太らないのが夏美の七不思議の一つだ。

時計を見ると昼の三時。学校をでて二時間近くこの場所にいたことになる。
いつの間にか同じ学校の生徒も今では俺達二人になってしまった。

夏美に目を向けると俺が横取りできないように右手で俺の左手を押さえこんでいる…誰もとらねーよ。
162春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/11(月) 05:29:04 ID:ZOYppyvd

「それじゃ、いくか?」
夏美が食べ終わるのを見て席を立ちあがる。
「あぁ、外で待っててくれ、お手洗いに行くから。」

「お手洗い?…あぁトイレか…あんなに食うからだろ?」

「トイレじゃねーよ!!化粧だよバカっ!!」
まさか夏美からお手洗いなんて言葉がでるとは……成長したな。

夏美に追い出されるように店外に出ると店内とは違い肌寒い風が肌に当たる。

もう一度店内に入ろうかと思ったがなにも買わないのに「いらっしゃいませ」と言われるのは少し気が引ける。

「ふぅ、夏美遅いな…」
ポケットからタバコを出すが中身は空っぽ。
自然と舌打ちが出てしまった。
…最近吸う本数が増えてきた。バイトのお金もほとんどがタバコで消えている。

「夏美はまだっぽいな…」
自販機にタバコを買いに行こう…たしか駅前にあったはず。

「はぁ……吸ってるの春香が知ったら怒るだろうなぁ…あいつ煙草は駄目だったからな…」

こんな時でも春香のことが頭から離れない…多分一生こうなんだろうなと思う。
何かする度に春香ならこうしたかも知れないと考えることが当たり前になってしまった。


「…タバコ…辞めよっかな…」
言葉とは裏腹に足は自販機へと吸い寄せられる。
163春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/11(月) 05:29:57 ID:ZOYppyvd

「あった…」
改札口の横にタバコの自販機を見つけた。
たまに駅員が見回っているのだが今日はいないようだ。

「早く買って戻ろう…。」
財布をポケットから出して財布の中から小銭を出して手に乗せる。




──「春樹先輩ッ!!」

突然後ろから声をかけられた…その瞬間大声にビックリして小銭をばらまいてしまった。

春樹先輩…?声は聞いたことがある…誰か分からないがそいつの顔を睨んでやるために後ろを振り返る。

「あれ?キミ…」
そこに立っていたのは──


「すいませんっ!!いきなり声をかけて…あの…拾いますっ!」
今朝の遅刻の友──新入生の山下 美幸だった。

俺が唖然としていると散らばった小銭を拾いだした。

「あっあぁ、大丈夫だよ。」
少し遅れて俺も拾い出す。
いろんな事が頭をよぎるが、まずこの時間帯になぜいるのか…一年生はもう帰っているはず…友達と遊ぶにしてもカラオケやゲーセンみたいな遊ぶ場所は隣町まで行かないと無いのだ。

「はい、春樹先輩。」

「おう、ありがとうな。」
拾ってくれた小銭を財布に入れる。
再度、山下 美幸に目を向けると走ってきたのか汗が頬を流れており髪も少し乱れている。

「…あの…春樹先輩…。」
164春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/11(月) 05:30:24 ID:ZOYppyvd

「ん?どうした、なにかあったか?」

なぜか真っ青な顔をしながらオドオドしている…手は忙しなく後ろに行ったり前に行ったり…それに加え今にも泣きそうな顔つき。
何かあったのだろうか。

「すいませんでしたっ!!その私っ…なかなか先生の話が終わらなくて…走って門に…」
なにを言ってるのか意味が分からない。
人目を気にせずいきなり頭を下げられても困ってしまう。

「ちょ、ちょっと、どうしたの?いきなり謝られても意味が分からないよ…」

「ウェ…ェ…ヒック…ごめんなさ…い…今日会ったばかりで、ヒック…バカなこと…言って先輩困らせて…ウゥ…でも私、春樹先輩にお礼っていうか…グスッ…お話が…」
涙をボロボロ流しながら話す姿は怒られた子供のようだ…なにもしていないのだが罪悪感と周りの人の視線が容赦なく突き刺さってくる。

それに騒ぎを聞きつけたのか駅員が出てきてしまった…。

「わ、わかったから、ちょっと座れる場所に移動しよう、な?」
あまりこの場所にいたら駅員に声をかけられそうなので泣き崩れそうな山下 美幸の手を引っ張って駅から離れる。

「ほら、足下気をつけて…(なんか、めんどくさいことになりそうだなぁ)」
165春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/11(月) 05:31:07 ID:ZOYppyvd
―――――――――――――――――――――――――

「そっか、悪かったな……ごめん。」
山下 美幸に謝罪するためにベンチから立ち上がり頭を下げる

「春樹先輩ッ!?わ、私が悪いんですからっ!!」
慌てたようにベンチから立ち上がり両肩を掴まれる。

ベンチに座らせ事情を聞くと、やはり今朝の言葉は癖などではなくちゃんと考えて発した言葉だったらしい。
それに加え今まで門の前で待っていたと言うのだ…多分先輩との約束を破らないために待っていたのだろう。

この後輩が門の前で一時間以上も待っていたことを想像すると自分をボコボコに殴りたくなる。

「償いって言ったら重たく感じるけど…俺にしてほしいことがあるなら言ってくれ。出来ることならなんでもするから。」
今の俺にはこれぐらいしか思いつかない。
てゆうかなにかしなきゃ気が済まない…。

この後、後輩と誤り大会に発展し、なにか一つ後輩のお願いを聞くことで話がついた。



「それで、春樹先輩は一人でなにしてたんですか?」

「え?なにしてたって……」
なにしてたっけ?…たしかタバコを買いに行って………あれ?





──「一人じゃねぇよ、二人だよ。」
166春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/11(月) 05:32:03 ID:ZOYppyvd
声がするほうに目を向けると夏美が店から歩いてくるのが目に入った。

「なにやってんだよ…春兄…入り口で待っててって言ったよな?」
喧嘩腰の声に山下 美幸が目をつぶる。
俺ではなく何故か山下 美幸に今にも飛びかかりそうな勢いで詰め寄ってくるのだ。
夏美の声に余裕が感じ取れなかったので、夏美が山下 美幸に近づく前に俺から夏美に近づいた。

「いや、飲み物買おうかと思って自販機に行ってたんだ…悪いな。」
新入生がそばにいるのにタバコを買っていたなんていえない。
それにこの手の女の子は多分タバコに嫌悪感を感じるだろう。

「ふ〜ん…早く行こうよ。」

「あぁ、それじゃ…えっと…山下…帰るか?」

「美幸です…美幸って呼んでくれたら嬉しいです…」

「え?あぁ、美幸ちゃんね。わかった、それじゃ帰ろっか。」

なぜそんなことを言うのか不思議に思ったが、フレンドリーなんだろう。
気にせず夏美の肩をポンッと叩いて改札機にむかおうとする……が夏美が動かない。

「夏美?」
夏美の前に移動し声をかけるが二重の目がギロッと俺を睨む…いや…俺を通り越して美幸ちゃんを睨んでいる。
その目を見て思わず夏美のあまりの迫力に後ずさってしまった。
167春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/11(月) 05:33:42 ID:ZOYppyvd

「あんたさぁ…春兄に対して馴れ馴れしいんだよ…仮にも先輩だぞ?しかも初対面同然の人間にいきなり名前で呼べだなんて親にどんな教育受けてんだよ。」

「夏美っ!!!……ごめんね美幸ちゃん…気悪くしないでね?コイツにはきつく言っとくから。」
なぜ夏美がこれほど怒るのか理解が出来なかった。
俺にキレるのはまだしも美幸ちゃんにキレるのは八つ当たりになる。
それにこんな言い方されれば美幸ちゃんだって黙っていないだろう…これは絶対に喧嘩になると直感した。

「馴れ馴れしかったのは謝ります…でも…でも、お母さんは関係ないじゃないですかっ!!それにあなたじゃなくて春樹先輩に言ってるんですよっ!?春樹先輩が良いっていったんだからいいじゃないですかっ!!」
夏美と違って小さい体なのに夏美に劣らず迫力が出ている。

「なっ!?ふ、ふざけんなっ!!新入生の癖に生意気な態度とりやがって、このチビッ!!」

「そっ、そっちがデカいだけですっ!!き、金髪の癖に!!」
夏美の言葉は悪口に聞こえるのだが美幸ちゃんのは夏美の特徴を言ってるだけ…多分、口喧嘩に慣れていないのだろう。

「夏美いい加減にしろ!!美幸ちゃんも頼むから落ちついてっ!」
168春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/11(月) 05:57:00 ID:ZOYppyvd
俺の声が聞こえないのか二人の喧嘩は白熱していく…早く止めなければリアルファイトに発展しそうだ。
女の殴り合いなんて見苦しくてみたくない。
それに喧嘩なんかしても十中八九美幸ちゃんが負けそうだし…。

「二人とも一度冷静になれって!!夏美向こうに行ってろ!」
まず二人を離す為に夏美の肩を軽く突いて離す。

「ッ!?」
その瞬間、夏美の目から見たこともないような大粒の涙がボロボロと流れ出した…。
夏美が泣いているところなんて、ここ三年見たことがなかったので俺がパニックを起こしてしまった。

「なんでそいつじゃなくて私なんだよ!?春兄は今私と帰ってるんだろっ!?」

「そ、そんなに強く突き飛ばしてッ…な、泣くなってっ!!俺が悪かったから!!」
夏美の頭を撫でなが背中をさする…昔の癖が今でも残っているなんて…夏美が泣けばよくこうやって慰めていたっけ…懐かしく感じるが今はそれどころではない。
騒ぎすぎたのか周りに人が集まってきてしまった…。

「すいません、静かにしますんで…」
周りの人間にペコペコと頭を下げる…野次馬の中から「最低〜」とか「大切にしろよ〜」やら「自業自得」だの事情も知らない癖に刺々しい言葉を投げかけてくる。
169春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/11(月) 05:58:24 ID:ZOYppyvd
2人も周りの視線に気がついたのか気まずそうに睨み合っていた目をそらした。

「ほら、2人とも……帰るぞ。」

「うん…」

「はい…」
学生がいなくて本当によかった…。
同じ学校の者に見られていたら、なにを噂されるか分かったものではない。

改札機に向かって歩き出すと喧嘩の終わりと分かったのだろう。野次馬は蜘蛛の子のように散らばっていった。




──電車の中、俺を挟んで座る2人は気まずそうに明後日の方向を向いたまま目を合わせようとしなかった。

先ほどあんなに目を合わせあっていたのに(睨み合っていた)俺が話しかけても愛想笑いするか頷くだけになってしまった。
2人とも笑ってる姿が印象的なだけあってなんとか笑ってほしい…。
それにこれで終われば尾を引いて後味悪くなってしまう…この先の学校生活も顔を合わせる度にギクシャクするだろう。

それだけは、なんとしても避けたい。

「春兄…」
解決方法を考えていると夏美に肩をつつかれ小さな声で駅に着いたことを教えられた。

「あぁ、それじゃ美幸ちゃん、また明日…って美幸ちゃん?」
夏美と一緒に立ち上がり電車から降りようとすると…何故か美幸ちゃんも立ち上がり降りる準備をしている。
170春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/11(月) 05:59:07 ID:ZOYppyvd
電車からホームに降りる…やはり美幸ちゃんも俺たちについてくる。
夏美もなんで?と言った感じで美幸ちゃんを見ている。


仕方なく美幸ちゃんに理由を聞いてみると。なんと、俺達と一緒のこの最寄り駅から学校に通っているらしい。
朝一緒に乗ったみたいだが、まぁ俺と夏美はギリギリで電車に飛び込んだから分からなくても不思議では無い。
美幸ちゃんも声をかけられるまで分からなかったそうだ。

「それじゃ明日からも一緒に登校になりそうだな。…まぁ、俺は遅刻のほうが多いから、なかなか一緒にはならないと思うけどね。」

「そう…ですか…」

──やはりこの2人を仲直りさせなければならなくなってきた。

夏美は秋音さんの妹。俺と違って遅刻は滅多にしない。
美幸ちゃんだって普段は遅刻なんてしないだろう。

とゆうことは、この駅を使う夏美と美幸ちゃんは必然的に嫌でも顔を合わさなければならなくなる。
その度にギクシャクしていては学校生活にも影響が出るかもしれないし、お互いの精神にも異常を来すかもしれない。

「夏美…こっちに来い。」
改札機に向かう夏美を呼び止める。

俺の声に反応してこちらに振り返る…が、やはり美幸ちゃんの方には目を向けない。
171春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/11(月) 06:04:59 ID:ZOYppyvd

「夏美…美幸ちゃんに謝れ。」


「はぁっ!?ふざけんなっ!!なんで私が謝らなきゃいけないんだよ!!」
先ほどまでの気落ちはどこへやら…食ってかかってくる夏美を落ち着かせる。

「喧嘩ふっかけたのはおまえだったろ?俺が原因だったらおまえに謝るよ…悪かった。」
夏美に向かって頭を下げる。

「後はおまえだ…あれは誰が見ても八つ当たりだったからな。後腐れが無くなるように、ここで美幸ちゃんに謝れ。」

「誰が謝るかっ!!第一、春兄に馴れ馴れしかったのは事実だろ!間違った事なんて一言も言ってないっ!!」
駄目だ…これは日を置かない限り絶対に謝らないな…。
俺の行動は美幸ちゃんの気分を害しただけで終わってしまった。




──「あの…春樹先輩…」
なんて美幸ちゃんに謝ろうか考えていると美幸ちゃんに背中を叩かれた。
振り返ると切なそうな顔で俺の顔を見つめている…その顔が俺の胸を締め付ける。

「もう気にしてないですから…大丈夫ですよ?」
その上気を使わせてしまった…この子にとっては最悪な高校生活の出だしになったに違いない…春香ならもっと上手く和解させたはずだ。
172春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/11(月) 06:06:08 ID:ZOYppyvd
明日なんて春香に報告すればいいんだろう…。
どうしようもないイライラと情けなさが溢れ出てくる。

「ほら、その子も言ってるじゃん。」
当たり前のように振る舞う夏美を見て無性に悲しくなった。
大人になるにつれて人間は変わって行くものだって分かってる…だが昔の夏美は絶対にこんな振る舞いはしなかったはず。

俺ではもう、どうにも出来ないのかも知れない…。

「美幸ちゃん…」

「いや、私もお母さんのこと言われてカッとなっちゃって…すいませんでした。」
美幸ちゃんが夏美にむかって頭を下げる。
夏美は驚いてはいるがばつが悪そうにそっぽを向くだけで夏美の口からは謝罪の言葉を聞けなかった。



──しょうがないか…。
言いたくなかったのだが夏美の為だ。

赤部家四姉妹に対して禁句の言葉…。
俺が荒れた時に一度だけ言い放ったことがある。
…どえらいことになったが…まぁ、なんとかなるだろう。




「夏美……」





「なんだよ?」






「…もう、諦めていいか?おまえのこと。」
173春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/11(月) 06:09:05 ID:ZOYppyvd
ありがとうございました。
今日はこれで投下終わりです。
>>145
おぉ!!マジで感謝します!!。
174名無しさん@ピンキー:2009/05/11(月) 06:13:54 ID:/ohUKmCa
>>173
久々のリアルタイムGJ!
切り所上手いw
続き気になるな
175名無しさん@ピンキー:2009/05/11(月) 08:26:43 ID:g9Skc0ZH
>>173
夏美の涙にドキッとした。
最後のセリフにギョッとした。
176名無しさん@ピンキー:2009/05/11(月) 16:16:24 ID:/ohUKmCa
質問なんですが

心の隙間作者=◆ou.3Y1vhqc氏

でおk?
177名無しさん@ピンキー:2009/05/11(月) 20:04:11 ID:u7QVpRWX
うおお面白い。いきなり破綻寸前でドキドキしたw
なんだこの満足感。エロなんて飾りということなのか。バカなー。GJ!
178名無しさん@ピンキー:2009/05/11(月) 20:14:42 ID:pM5rCdgO
超GJ!続きが気になる終わりかたw
>>176
俺も気がつかなかったけどそうみたいだね。

179名無しさん@ピンキー:2009/05/11(月) 21:24:11 ID:kGe5A7tI
GJ!
夏美が可愛い
180145 ◆boay/MlI0U :2009/05/12(火) 01:49:24 ID:1Ihi/smS
保管庫、現行部分まで作品保管完了し、その他全ての工事が終了しましたので『完成』としてご報告します。
保管庫として必要十分な機能を持たせたつもりですが、なにかご意見がありましたら、ここか保管庫トップのコメントまでどうぞ
出来るだけ対応します

URLは>>145参照で

素早い更新を心掛けますので、ぜひご活用下さい
では長文失礼しました……
181名無しさん@ピンキー:2009/05/12(火) 08:02:26 ID:VkghBpnf
GJ!!
あんたに依存してもいいか?
182名無しさん@ピンキー:2009/05/12(火) 08:37:11 ID:MF85yXD9
依存先の人キタ━(゚∀゚)━!!
183名無しさん@ピンキー:2009/05/12(火) 16:12:50 ID:Aa7/TbJn
ありがとうございます。あなたはここの神です
184名無しさん@ピンキー:2009/05/12(火) 19:42:56 ID:R+t7JmBa
>>173乙&GJ!
最後のセリフはなぁ…
ドエラい嵐の予感がするぜ。

あと>>145氏はレス番どおりのい145とをやってくれましたよ。こっちも乙&GJです。
185春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/13(水) 01:43:52 ID:0R4vDf34
投下しますね。
今回はちょっと依存度少ないかも。
186春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/13(水) 01:44:28 ID:0R4vDf34


「え?…な…んて…」
先ほどまで笑っていた夏美の顔が一変した…。
顔だけではない…体が小刻みに震え、額からは冷や汗のような汗が頬を伝っている。
美幸ちゃんも夏美の異変を察知したようで少し戸惑っている。

「だから、諦めていいか?」

「や、やだッ!!まってよ、春兄っ!!ちゃ、ちゃんと謝るから!、ねっ!?」
歩き出す俺の腕にしがみつき座り込もうとする。
その手を無理やり離し夏美の脇を片手で抱えて立たせる。

「それじゃ謝れ。」

「ごめんなさい…」

「俺じゃなくて美幸ちゃんに謝れっ!」

「……悪かったよ…」

「あ、そんな……はい…」
少し強引だがなんとか夏美に謝らせることができた…

この「諦めていいか?」と言う言葉は3年ほど前に夏美と冬子と秋音さんに言った言葉。

春香の事があった直後、あまりにもしつこく家にくるので。
「みんなと話すの諦めていいかな?」と言った直後、秋音さんからフルボッコを食らい夏美と冬子は大泣きした思い出がある。

まぁ、幼稚な話、おまえがすることに関してすべて無視していいかな?という意味だ。
その言葉は禁句として言わない約束だったのだが……夏美のあまりの態度に口から出てしまった。
187春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/13(水) 01:45:26 ID:0R4vDf34


──「ほら夏美、いくぞ。」
ぐずる夏美の手を掴んで無理やり歩かせる。
約束をやぶれば何か買うと言ってしまったので、後で何か食べさせれば機嫌もも良くなるだろう。

これで夏美と美幸ちゃんの仲がよくなればいいのだが…


──「ところで、先輩の家ってどこなんですか?ここから、遠いんですか?」

「俺?ここが地元だよ。家もここから20分ぐらい歩いたとこ。」

「そうなんですか!?私の家もすぐそこなんです!ほら、あそこに見える赤い屋根の住宅街に一ヶ月前に引っ越してきたんです。」

美幸ちゃんが指差す先には二年ほど前にできた小綺麗な家がいくつも並んでいる。
夏美や秋音さんもこんな家に住みたいとぼやいていたことがある。

「へぇ〜それじゃ近いね。最近引っ越して来たんなら、この辺のこと全然分からないでしょ?」

この地域一帯は住宅が密集しており、始めてきた人は必ず迷うのだ。

「はい…スーパーの場所とかもいまいち分からないです…」

「そっか、それじゃ美幸ちゃんが暇な時案内してあげようか?嫌じゃ無かったらだy「ぜ、全然嫌じゃ無いですっ!ぜひ、お願いしますっ!」
188春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/13(水) 01:46:28 ID:0R4vDf34

「ぁ、あぁ、分かったよ。」

俺の両手を鷲掴み、勢い良く顔を近づけてくる…が、俺と美幸ちゃんの間に夏美の手が差し入れられた。

「美幸ちゃん……だっけ?家、ここなんでしょ?」
話しながら歩いていると知らない間に美幸ちゃんが指差した赤い屋根の家まで来てしまった。

「そうです…ね。」
俺の手を離すと何故か小さなため息を吐き、うなだれている。

「それじゃ、またな。」
美幸ちゃんに手を振り歩き出す。
美幸ちゃんも名残惜しそうに手を振っている。
多分引っ越してきてこっちにまだ友達がいないのだろう。

初日に遅刻すればクラスのみんなからは嫌な意味で目に付くし浮いてしまうだろう。
美幸ちゃんが不安になって俺達と離れるのが寂しい気持ちになるのも頷ける。
まぁ、それも集団生活に馴染んでいくにつれて、解消されるだろう。





──「春兄…」


「ん?なんだ」
美幸ちゃんとわかれて数分…いきなり夏美に後ろからブレザーの裾をクイッと引っ張られた。


「冬子から帰りにスーパーで買い物してきてってメールきたから…だから、ついてきて。」
189春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/13(水) 01:47:10 ID:0R4vDf34

「え?スーパーに行くの?なんで美幸ちゃんがいる時に言わなかったんだよ。ついでに連れて行ってやれたのに。」

「いや…べつに…だって学校初日だから疲れてるだろ…可哀想じゃん。」
まぁ夏美の言うように今日はいろいろなことがありすぎた。

しょうがない…また今度教えるしかないようだ。

「分かったよ、それじゃ行くか…それと約束破ったからなにか買ってやるよ。」

夏美が何のことかわからず「なにが?」と首を傾げるが、意味が分かると嬉しそうに腕にしがみついてきた。

「絶対だからなっ!嘘つくなよっ!」
俺とそう変わらない身長なので自然と夏美の頭が肩に乗る。
その為、夏美の甘い匂いと細い髪が頬を撫でる。

夏美はただ無邪気にじゃれているだけ…なんだろうけど、夏美のいろいろな感触を直で感じてしまうので嬉しいやら恥ずかしいやら…。

「春兄、ちゃんと聞いてる!?春兄もだからなっ!!」

「分かった、分かったから引っ付くなって。」

花より団子…夏美のためにある言葉かもしれない。

190春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/13(水) 01:48:21 ID:0R4vDf34
   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

春兄と春姉…運命の糸があるとするなら間違いなくこの2人を繋ぐ糸のことだと断言できる。


──産まれた病院が一緒。

──産まれた日……誕生日が一緒。

──2人の名前には「春」の文字。

──小学校から中学二年までクラスが一緒。




──いつも…一緒…。

私も運命の糸に繋がれたくて春兄と春姉の後を一生懸命に追いかけた。


だけど運命の糸に結び目なんて無かった…。
運命の赤い糸はお互いの小指に繋がれていると言うけど、春兄と春姉の運命の糸は小指からでは無く心で繋がっていた。


それに嫉妬し強引に間に割り込んだ…その結果、怒ることなく2人は優しく微笑んで手を繋いでくれた。

これが私と春兄と春姉の繋がり……手を離せば切れてしまう細い糸…絶対に運命の糸にはならない糸…。
だけどこの繋がりが私にとってなによりも大切な宝物だった……宝物だったのに。

春兄と春姉の運命の糸は運命の日によって引きちぎられてしまった…。
191春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/13(水) 01:53:11 ID:0R4vDf34



──春香を返して──




お母さんが言い放った言葉…その言葉が言霊になり春兄の心に響く。




その残酷な言葉によって春兄は壊れてしまった。

一切の笑顔を見せなくなり、怒ることもなく、悲しむこともない……ただ生きてるだけ。

母は毎日、春兄に泣きながら謝った…朝から夜まで…しかしその言葉は春兄には届かなかった…
春兄は母を許さなかったのではなく自分を許さなかったのだ。

母も春兄のことを本当の息子のように思っていたはず…お母さんのいない春兄の為に毎日春兄のご飯を作り、愛情を与えていた母が春兄を嫌うはずがない…。

春兄も母を本当のお母さんのように慕っていたはず。

…だけどそれ以上に春姉の存在…実娘の存在がデカすぎたのだ。
192春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/13(水) 01:54:04 ID:0R4vDf34

私達、赤部家はただ泣いただけ…泣いて泣いて…泣き崩れた。
──気がつけば春兄は私達のそばにいなかった…いや…私達の姿が春兄を追いやってしまったんだ。

──運命の日から数週間後、春兄と春兄のお父さんが訪ねてきた…




──大切な娘さんを──



春兄と春兄のお父さんが玄関の前で土下座をして謝った…。


春兄は悪くない!!

悪いのは──だ!!

大声で叫びたかったけど声が出なかった。
春兄の頭を掴み一緒に地面に額を擦りつけるおじさん…それを止めに入るお母さん…


あの時ほど春姉を恨んだことはなかった…。
あんなに愛されてたのに…春兄を独り占めしてたのに…私だって春兄と…。

その気持ちとは裏腹におじさんが放った言葉は私達、赤部家をどん底に突き落とした。


「私が今暮らしているニューヨークに春樹を連れていきます…」
この言葉を聞いた瞬間、私は意識を手放した…。

私が意識を取り戻したのは次の日の朝…自分のベッドの上だった。



急いで一階に降りるとふだんと変わらずいつも見る風景………ただ春兄と春姉がいないだけ……ただ……それだけ……
193春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/13(水) 01:55:01 ID:0R4vDf34


──
───
────
あの日なんの話し合いがあったのか私は知らない…今でも春兄はおじさんについていくことなく私の家の隣に住んでいる。

今では表面上よく笑っているが、やはり昔のように自然な笑顔を私達に見せなくなった。
それだけのことを私達はしてしまったのだ。

春兄と春姉の切れた運命の糸先を今でも探している私は春兄にどう写るのだろうか?。
あわよくば私がその糸先を掴みたい…そして春姉の代わりに私が春兄の運命の相手になりたい。


その日がくるのは春兄が春姉を忘れた時……そんな日が訪れる訳無いのに…小さな希望にしがみつく私は滑稽で惨めな姿をさらしているのだろうか…。

春兄に忘れられないように…記憶に残るように…。

まず第一歩として髪を金髪にした…春兄の前で吸えないタバコを肺に入れず口に含んで吐き出したこともある…。

ピアス穴も自分で開けるのが怖いから秋姉さんに無理を言って穴を開けてもらった…。
慣れないファッション雑誌に目を通してなるべく目立つ格好をする…
すべては春兄の記憶に私を焼き付けるために…。


──私は春姉と同じように春兄の記憶に何時までも残りたいのだ。
194春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/13(水) 01:59:59 ID:0R4vDf34
ありがとうございました
投下終了です。
>180
お疲れさまでした。
これでここも繁盛しますね。
195名無しさん@ピンキー:2009/05/13(水) 12:01:55 ID:/pKwh9vi
GJ!
196名無しさん@ピンキー:2009/05/13(水) 18:36:47 ID:jv8TzIYc
夏美が可愛くなってきて素晴らしい
GJ
197名無しさん@ピンキー:2009/05/14(木) 20:52:34 ID:GgsY+86M
GJを送ろう
198春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/15(金) 04:49:07 ID:dvIVPJqi
仕事から帰ってきたら投下します。
199名無しさん@ピンキー:2009/05/15(金) 05:06:51 ID:GtVyhTu8
>>198
フラグが立ったのか?
200春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/15(金) 19:33:58 ID:dvIVPJqi
投下しますね。
201春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/15(金) 19:35:32 ID:dvIVPJqi

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「はぁ…重たい…」

「男なのに情けないなぁ…それぐらい楽々持てよ。」
パンパンに入った買い物袋を二つ両手に持っているのだが、調味料の類が多くて肩がはずれそうだ。

「おまえは携帯一つ持ってるだけだろ!メチャクチャ重たいんだぞ、これっ!!」
夏美は大事そうに胸元で携帯を握りしめている。
そんなに大事なものならカバンの中に入れとけばいいのに…

「ふふ〜ん、今日の私の手はこの子が独占してるんです…てゆうか、そんな重い物をか弱い女の子に持たせようとするんじゃねーよ!!」

「か弱いって意味分かってんのか…か弱いって言うのは美幸ちゃんみたいな子のことを言うんだよ!」

「い、今そいつのこと関係ないだろっ!?わ、私だって女なんだからなっ!!」

Eカップ(本人談)の胸に挟まれた携帯が苦しそうだ…
それともアレがそんなに嬉しかったのか…まだまだ子供だな…


──アレとは夏美になにか買ってやると約束した物のことだ。
俺は絶対食べ物だと思っていたのだが……夏美も女子高生なんだなと実感した。
202春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/15(金) 19:36:36 ID:dvIVPJqi

説明すると、夏美はスーパーにつくなり食品売場ではなく真っ先にガチャガチャコーナーに俺をつれて行ったのだ。

何十台とあるガチャガチャの中から一台一台調べていき、夏美の目に止まったのは小熊のストラップが入ってるガチャガチャだった。

夏美に食事を奢るより何倍も安上がりなので俺的には有り難かったのだが…その熊のストラップを何故か俺も買うことになってしまった。

「春兄もだからな」と言うのは一緒に食べるじゃなくて、同じ物を買えと言う意味だったらしい。


それに色々な色の熊がいたにも関わらず、引きが悪いのか強いのか夏美と同じ白熊のストラップが出てきてしまった。

意地になり色違いを当てるためにもう一度お金を入れようとしたのだが、お金がもったいないからと夏美から止められた。

そして今に至るのだが、夏美は帰宅途中でもストラップを撫でたり左右から見たり下からのぞき込んだり忙しく動いている。

まぁ…本人が喜んでるからいいのだが、俺を巻き込むのは勘弁してほしかった…。
203春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/15(金) 19:37:26 ID:dvIVPJqi

──
───

落としそうになりながらも、なんとか家まで荷物を持ってくることができた。
袋を置いて手を見ると、ビニールが食い込んだ後がくっきりと残っていた。

──「家の中までよろしく。」


「はいよ…。」
そう言うと俺の返事も聞かず、夏美は駆け足で家の中に入ってしまった。
家が隣同士なので別に構わないのだが、遠慮と言うものを知らないのだろうか…。

「おじゃましま〜す…」

夏美の後に続いて玄関に入る……見慣れた風景。
昔はどちらが本当の実家か分からないぐらい居着いていたもう一つの我が家。
三年前に父と来て以来になるが何一つ変わっていない……。


──「全然変わってないでしょ?」

懐かしさに浸っていると、リビングの扉から学生服の女の子が出てきた…。
夏美と違ってまだ幼さが残る声…しかし見た目はかなり落ち着いているので夏美の方が年下に思えるぐらいだ。

「春くんがこの家にくることなんて、ここ数年無かったから変わってると思った?」

「そうだな…」
靴を脱ぎ、その女の子の横をすり抜けリビングに入ると机の上に荷物を乗せる。

「お疲れ様、春くん。」

「あぁ、それじゃ帰るわ。」
そう言うとまた玄関に向かって歩き出す。
204春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/15(金) 19:39:20 ID:dvIVPJqi

「そんなに急がなくてもいいでしょ?お茶ぐらい飲んでいきなよ……それに春ちゃんに挨拶しないの?」

その言葉に足が止められる。
俺が止まると分かって言い放ったのだろう。
少女はクスクスと目を細めながら近づいてくる。

「どうせ明日、会うから…」

「ふ〜ん………お母さんと最近いつ話した……?」
重い空気がリビングを包む。
この話題がでる前にこの家を離れたかったのに…

「最近話してないな……朝と夜ぐらいしか家にいないから…」

「……もうすぐ、お母さんも帰ってくるから春くんも夕飯食べていけば?」
言葉だけ聞けば明るい会話に聞こえるかも知れない…しかし、俺からしたら脅しにしか聞こえないのだ。






──「冬子、いい加減にしろよ。」

なんて断ろうか考えていると。
私服に着替えた夏美がリビングに入ってきた。

「なっちゃん……」
その声に反応し、少女も夏美の方に体を向ける。

「冬子…おまえ、春兄になにかあるのかよ?。」

「べつになにもないよ…ただ、食事に誘っただけ…昔みたいに仲良く食べたかっただけだよ…」

その言葉は本音だろう…三年前まで、一番夕飯を楽しみにしてたのは他でもない冬子なのだ。
205春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/15(金) 19:40:49 ID:dvIVPJqi
昔、冬子が嬉しそうに話すのを聞いたことがある。

夕方の7時から8時までが私の一番好きな時間帯…一日の中で最も暖かい空気が流れるから──。

俺と春香、秋音さんに夏美、そして冬子とおばさん…毎日6人で囲む団欒は冬子の中で一番大切な時間だったと思う…。
勿論、俺の中でも大切な時間だった。
しかし、それは昔のこと…春香がいない食卓に参加できるほど俺は強くなかったのだ…。

一度、冬子に「俺と春香が結婚すれば本当の冬子のお兄ちゃんになれるな。そしたら、冬子のことも絶対に守ってやるからな。」
と言ったことがある。
その話を聞いた冬子は目をキラキラと輝かせて「春くんが私のお兄ちゃんになるんだ」と一日中騒いでいたのを覚えている。

──しかし、俺は冬子の兄にはなれなかった…。
多分、それが冬子には許せなかったのだろう。

約束を守れず、春香を守れず、冬子の大好きなお母さんを傷つけ、大切な時間を潰した俺を冬子は憎んでいるはずだ。

──俺はこの場所に居ちゃいけないんだ──


「いきなり来ても迷惑だろ…今日は帰るよ。」
冬子の顔が微かに歪むのがわかった…。




「それじゃ、いつ、くんのよ……」
206春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/15(金) 19:42:06 ID:dvIVPJqi
一瞬だが先程と違い冬子の言葉からは怒の感情が感じ取れた。

「どうせ、毎日お母さんの料理を食べてるんだから、一緒に食べても変わらないでしょ?」

夕飯の食事はいつも秋音さんが届けに来てくれるのだ。
自分で作れるし、なにより迷惑がかかるから遠慮しているのだが、おばさんが作るのを止めないらしい…。

「おばさんだっていきなり来られたら困惑するだろ…」

「困惑?するわけ無いでしょ、息子が帰ってきて嫌がる母親はいないんじゃないの、お兄ちゃん?」

この言葉を聞いてはっきりした…冬子は俺のことを確実に恨んでいる…。




──「春兄…もう帰ってもいいよ?今日は、ありがとね。」

夏美がそういうと、俺の背中を押して玄関まで強引に連れていこうとする…今の俺には夏美のこの行動が本当に有り難かった。



「なっちゃんっ!!私まだ春くんと話してる途中なんだけどっ!?」
一際、大きな声が部屋に木霊する…はぁ、はぁ、と肩で息をし夏美の肩を鷲掴みにする。

「なんだよ?会話なんて、始めからしてなかっだろ?」
夏美が冬子の手を振り払い冬子の方に向き直ると威嚇するように一歩前にでる。
207春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/15(金) 19:43:10 ID:dvIVPJqi

数秒間、夏美と冬子がにらみ合った後、夏美が何もいわず不意に冬子の耳元に顔を近づける…。



「春──こと──うしな──いの?」


「ッ!?」
冬子の耳元で何かを呟くと冬子の顔色が一変した…。
冬子が夏美の手を握ると、夏美に何か話している…俺には聞こえない声でヒソヒソと小さな会話が交わされる。

その間俺は立っているだけ。
なにを話しているか気になったが近づける雰囲気ではなかったので、夏美の背中を眺めているだけだった。

──「…春くん。」
話が終わったのか、夏美が冬子の頭を一撫ですると冬子を俺の前に立たせた。

「ん?どうした?」

「あのね…私本当に春くんと一緒にごはんが食べたかっただけで…。」

「ははっ分かってるよ…冬子が悪い訳じゃないから。」

冬子が一緒に食事をしたいのは昔の俺とだろう…。

多分、今の俺は食卓を囲んでも笑えないと思う…その姿を冬子に見せたくないのも一つの理由だ。

「今日は春兄も疲れただろ?休んだほうがいいよ、後で夕飯持っていってやるから。」

「おう、ありが………ん?。」


靴を履くために腰をかけるとドアの外から微かにビニール袋の擦れる音が聞こえてきた。
208春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/15(金) 19:44:24 ID:dvIVPJqi
その音につられ目線を上げると扉の前に誰かいるらしく、人影が写っている。

「…」

「春くん?どうしたの?」
冬子が後ろに立つと俺の首に腕を絡めてきた。

やられた……あの人が帰ってくるまで冬子に足止めさせられていたことに今気がついた。


その人影がドアノブに手を掛けゆっくりと開けていく──。


「疲れた〜。冬子〜夏美〜帰ってッ!?…る…の…」



俺を見るなりビニール袋を地面に落とし固まってしまった…グチャッと嫌な音がしたがたぶん卵か何かが割れたのだろう…。久しぶりに対面するがあまり雰囲気は変わっていない気がする。

「どうも…」

「ど、どうも…」
俺の言葉につられたような返事が返ってきた。
なにが起きてるのか分からないのか、周りをキョロキョロと見渡し忙しなく動き回っている。

「ふふっ、お母さんなにしてるの?早く入らなきゃ風が冷たいよ。」
冬子が俺の背中から離れて靴も履かず玄関の扉を閉めにいく。

「冬子?なんで…ちょっと説明…」
まだ理解していないようだ…

「春くんに家まで買い物の荷物を持ってきてもらったの。だからお礼に夕飯をご馳走しようかなって話してたんだけど………迷惑だからって帰るんだってさぁ…」
209春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/15(金) 19:45:34 ID:dvIVPJqi

「……」

────ガチャッ

おばさんが後ろ手に扉の鍵を閉めるのが分かった…。

「ひ、久しぶりなんだから上がって行きなさい…夕食も作るから。ねっ?」
状況を理解したのだろう。
下に置いてある荷物を無視し俺の腕を掴み片手で靴を脱ぎ始める。

夏美も冬子に、はめられたのか……夏美はオドオドしているだけでなにも言わなかった。

「はい……わかりました…それじゃ、少しの間だけ。」
諦めるしかないか…。

べつにおばさんや冬子を嫌っているわけじゃない…ただ三年のブランクで、何の話をすればいいのか、どう接すればいいのか、まったく見当がつかないのだ…。

「ハル、早くリビングに入りなさい…聞きたい話がいっぱいあるんだから。」
俺が玄関にいる限りこの人は扉の前から離れないだろう…。
小さい手が背中に添えられているだけなのに、後ろにさがれないのはなにか心理的な物が働いているのだろうか…。

「はい…おじゃまします。」
一度履いた靴を脱ぐ為にまた座る…が何故か一緒におばさんもしゃがみ込んできた。





「…私が脱がしてあげる…そこに腰掛けなさい。」
210春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/15(金) 19:47:05 ID:dvIVPJqi

「えっ!?ちょっ、!おばさん!?」
意味が分からなかった…靴の紐ぐらい自分で解けるし自分で脱げる…。

しかし、おばさんは俺の話を聞かず俺の靴の紐を解いていく…解き終わると、足首を掴まれ、靴を脱がされた。

「はいっ、終わり。」
膝をポンッと叩くと満面の笑みで俺の顔を見上げてきた。

「あ、ありがとう、おばさん。」
秋音さんと姉妹に間違われるぐらい若いのでドキッとしてしまった。
切れ目なので普段から笑っているような顔なのだが…このフワフワした雰囲気が昔は心地よかった。

「あら、おばさんじゃなくて昔みたいにお母さんでいいわよ?」

やはりおばさんは失礼だったのだろうか…昔はお母さんと呼んでいたが、流石にこの歳で他人の母親をお母さんだなんて呼ぶことは出来ない…。

「さすがに……せめて名前とかなら……恵さんとか…」

昔、お母さんと呼んでた人の名前を呼ぶのは凄く違和感があるのだが…。

「…そう…呼べないの…」

やはり名前は馴れ馴れしかったのだろうか…後は赤部さんぐらいしか思いつかないが…。

「まぁ…いいわ、早くリビングにいきましょ。」
納得したのか俺のカバンと腕を掴むとリビングに歩きだしてしまった。
211春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/15(金) 19:49:44 ID:dvIVPJqi

リビングに入ると恵さんが買ってきた食料を冬子が冷蔵庫に入れてる最中だった。
俺達が買ってきた物と合わせると相当な量になりそうだが…

夏美はソファーにもたれ掛かり携帯をいじっている。
誰かにメールをしているようだ。

なにもすることがないので仕方なく身近にあったイスに腰を掛ける。

「自分のイス忘れたの?春くんの特等席は真ん中の席でしょ?」

冬子が呆れたよう呟く。

冬子が指さす方向に目を向ける……少し古ぼけた一際でかいイスが雰囲気とは不釣り合いな場所に置いてある。

子供の頃はデカいと言うだけで、みんなより偉くなった気がして一人はしゃいでいた。

「まだ、置いてたんだ…」
静かに座ると古いイス独特の軋む音が聞こえた…俺が成長した証拠なのだろう。

「懐かしいでしょ?家の物は何一つ変わってないのよ?」

そう言えば…テレビ…テーブル…食器…見渡す限りの家具や飾り物も何一つ変わっていない。
なんだか昔に戻った感覚に陥る…。

「あっそうだ、言い忘れてたわ……」


「はい?」
恵さんの手が頬を撫でる…こんなに綺麗に笑う恵さんを春香がいなくなってからは一度も見たことがなかった。






──おかえり。
212春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/15(金) 19:54:32 ID:dvIVPJqi
投下終了です。
213名無しさん@ピンキー:2009/05/15(金) 19:54:57 ID:+P2UqCue
乙 超乙
214名無しさん@ピンキー:2009/05/15(金) 20:21:18 ID:YMi300Cv
誰が誰に依存してるかわからないぐらい複雑だな
GJ!wktk
215名無しさん@ピンキー:2009/05/15(金) 21:29:30 ID:GqWnPG3z
これ、面白いな
続きがすげー気になる
過去に何があったんだ
216名無しさん@ピンキー:2009/05/16(土) 01:05:22 ID:2zokK12d
>>212乙&GJ!!
いい歳した人妻の嫉妬とか依存とかたまんないです。

>>215俺も知りたいけど、知ったら知ったでヘコみそうだ。
良作は登場人物への感情移入が強くなる分、鬱展開が来るとこっちも辛くなる。
217名無しさん@ピンキー:2009/05/16(土) 01:45:01 ID:dxkWbxVm
俺も感情移入するけど鬱が好きだな
胸が締め付けられるのって良くない?
サドなのかマゾなのか自分でもよくわからん
218名無しさん@ピンキー:2009/05/16(土) 10:35:38 ID:imhcycAB
>>217
SだけどMの要素があるって人はいるんだぜ。
219名無しさん@ピンキー:2009/05/16(土) 21:45:54 ID:mI4TISvQ
>>212
おもしろすぎる!!GJ!先の展開が気になる〜どんな展開でも受け入れるぜ!
220名無しさん@ピンキー:2009/05/17(日) 17:22:25 ID:AfLlxTZq
>>218
逆じゃなかった?
MだけどSの気になれるやつでしょ?
221名無しさん@ピンキー:2009/05/17(日) 21:24:43 ID:tRJqhVEH
>>220
逆もというかどっちもありうるって奴だよ。
222春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/17(日) 23:24:46 ID:Hcn0ChsM

せっぱ詰まってる時に限って、スムーズに事が進まないのは何故だろう…。

信号に引っかかる度にイライラする…何故、私はこの日に限って車で来てしまったのか…いつもは電車で通勤しているのに。

「早くしてよ…」
信号機を睨みつけるが赤のままだ。
イライラが溜まっていくにつれてつま先は自然と小刻みに上下してしまう。

「春、大丈夫かしら…」
携帯を開き時間を確認する…。
5時10分…夏美からメールが送られてきて20分が経過している。

「…」

仕事が終わり休憩していると夏美からメールが来たのだ。

『春兄がお母さんと会っちゃった…なんか一緒に夕飯食べることになったから秋姉さんも早く帰ってきて…私一人じゃ、どうして良いか分からない。』
夏美のメールを見てすぐ車に乗ったのだが…私の行動を阻むように一つ一つの信号で止められるのだ。

それに、イライラの原因は一つではない。
もう一つは、私と春が唯一二人で共有できる時間が潰れたこと…毎日、私が母の作った料理を春の家まで届けているのだ。

私が春の家で料理を作れば手っとり早いのだが、私は料理の腕は壊滅的…母のような家庭料理は一度も作ったことがない。


「はぁ…長女なのに情けない。」
223春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/17(日) 23:25:39 ID:Hcn0ChsM

──お姉ちゃんなんだから──

昔から私はこの言葉に締め付けられていた。
どこにいくにも、なにをするにも私はみんなのお姉ちゃんだった…。

──お姉ちゃんなんだから、我慢しなさい。

──お姉ちゃんなんだから、頑張りなさい。

──お姉ちゃんなんだから守りなさい。

うんざりするほど聞かされた言葉…だけど私は反論しなかった。

遊ぶのを我慢した…

勉強を頑張った…

愛しい妹達を必死に守った…。

優秀な彼氏も作った…。

それでも私をほめてくれる人はいなかった。
なにかを終える度に次も頑張りなさい…あなたなら、まだ先に進めるはず…なにが楽しくて生きてるのか本当に分からなかった。

しかし、そんな私にも唯一落ち着ける居場所があった。

それが春…。

始めはほんの些細なことだった。
春が小学生の時、私が春の家で勉強を教えていると「ありがとう、秋音さんってえらいんだね。」と言われたのだ。

たったこの一言…私が一番聞きたかった言葉が、まさかこんな子供の口から聞けるとは思っていなかった。

私はこの日、初めて本当の喜びを知ったのだ。
224春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/17(日) 23:26:11 ID:Hcn0ChsM

それからというもの私は春にほめられたくて今以上に頑張った。

勉強も恋もスポーツも春の自慢になれるように…。

しかし、中学に入るとあんなに私やお母さんにべったりだったのに甘えてこなくなった…思春期だからしかたがない…自分に言い聞かせて寂しい気持ちを紛らわせていた。

ある日、町を彼と一緒に歩いていると春と春香が手を繋いで歩いているところを偶然見てしまった…
それを見た瞬間、彼を置いて二人の間に割り込みたかった…。

その時、初めて嫉妬という感情が芽生えた。

その彼とは結婚の約束をしていたのだがその光景を見た次の日に私から別れを切り出して破局。

その後すぐ春香の事件があり、今でも強く春に愛されている春香がとても羨ましい。

そんな私の嫉妬心が未だに消えることなくいつまでも燃え続けているのだ。

ただ、最近その嫉妬心が春の一言により無くなりつつある…。

「学校の先生って気が張るでしょ?誰かに頼りたくなったり甘えたくなることとかないの?たまには全部忘れて休んでみたら?」

母の手料理を食べながら何気なく言った彼の言葉だが聞き逃さなかった。





「…それじゃ、春が甘えさせてよ…」
225春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/17(日) 23:27:09 ID:Hcn0ChsM

どんな反応をするか怖かったが、少し驚いたように私の顔を見ると、すぐに笑顔に戻り、ご飯食べたらね〜と冗談混じりの返事が返ってきた。

春は私の冗談につきあったと思っているのだろう…ただ私は春と違い大マジメなのだ…。
春が食べ終えるまでどう甘えようかいろいろ考えたのだが…幼稚なもので、人に甘えたことがない私は、抱っこ以外思いつかなかったのだ。

──「ごちそうさま。」
食事を食べ終えると春が食べた食器を流し台に置く。

「それじゃ、私もソファーに移動してっと…」
わざとらしく呟きソファーにもたれ掛かってる春に近づく。
この時、初めて拒絶されたらどうしよう…と考えてしまった。

春は意味が分からず「なにが?」と返してきたが、ここまで来たら私も精神的な問題で引き返せない。
「甘えさせてくれるんでしょ?おじゃましま〜す。」
自分でも声が震えてることに気がついた。

恐る恐る春の膝に腰を下ろす…。

絶対に怒らないで…

私を拒絶しないで…
何度も頭で呪文のように唱えていた。
226春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/17(日) 23:27:48 ID:Hcn0ChsM

「なに?秋音さん、本当に甘えたかったんだ。」
そう言うと子供をあやすように私の頭を二回撫でた。

この瞬間、体の隅々まで満たされたような感覚になり、五歳年下にも関わらず、一時間近く春の膝に居座り続けたのだ。

それに最近は春を前にすると、どうしても甘えたい衝動に背中を押され、醜いとわかっていても駄々をこねたくなる…分かっているから、家の中以外では必要以上に接するのも避けている。

今日入ってきた新入生…あの子は多分春のことが好きなのだろう…
夏美も春に対してあんな態度をとっているが少なからず好意を寄せているはず。
二人には悪いが生まれた時から春のことを見守ってるのは母でも春香でもない…この私なのだ。

ましてや一日、二日顔を会わせただけで私の居場所を潰されては、たまったものではない。

春があの新入生になびくとは思えないが雰囲気が少し春香に似ていたのが気になる…。

「まぁ、いい。…あの新入生のことは後で考えよう…早く、家に帰らなきゃ。」
今はまず家に帰って状況を把握しなければ。
227春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/17(日) 23:28:51 ID:Hcn0ChsM

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「これもテーブルに運んで…あとサラダも。」
恵さんと冬子が台所に立ち40分──シェフ顔負けの料理が次から次へと運ばれてくる。
俺と夏美は邪魔になるのでイスに座り待機する。

「凄いな…少し秋姉さんが可哀想な気がするけど…」

秋音さんがいつ帰ってくるか分からないので先に食べようってことになったのだが…。
恵さんが張り切り、和食、中華、洋食とテーブルの上で喧嘩がおこりそうなぐらいごった返している。

「夏美…普段からこんなに食べてるのか…?」

「な、なんで私に言うんだよっ!?普段はこの半分の料理もテーブルに並んでねーよっ!」

流石にあり得ないか…

「はい、これで最後…それじゃ、少し早いけど食べよっか。」
最後の料理が運ばれてくると、冬子も恵さんも台所からでてきた。
自然と昔から座っているイスに腰を下ろす。

俺を挟んで夏美、春香。
反対側には恵さんを挟んで冬子と秋音さん。
やはり右側…春香の席に目がいってしまう…。
誰もいない春香のイスに手をおく…温もりなんて感じるわけもないのに。
228春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/17(日) 23:29:40 ID:Hcn0ChsM

──久しぶりにみんなで食べる食後は予想以上に楽しかった。

ここ二年まともに話していなかった恵さんに最近あった出来事や学校のことを話した。
恵さんもそれを嬉しそうに聞いてくれていたと思う。
冬子だって笑顔で受け答えしていた…だけど俺の手は春香のイスから離れることはなかった…。

話を聞いていてもどこか春香の気配を探してしまう。

夏美、恵さん、冬子がいるにも関わらず俺には春香の気配があまりにも濃く感じてしまうのだ。




──「ハル?どうしたの?」
キョロキョロしている俺を変に思ったのか恵さんが正面のイスから春香のイスに移動してきた…恵さんに踏まれないように春香のイスから手を引っ込める。

「いや、今何時かなっと思って…時計無いから。」
さすがに春香を探していたなんて言えない…言ったら病院に連れて行かれるだろう。




「……なんで?」

なんでって聞かれれば時間が気になるから…としか答えようがないのだが…恵さんの雰囲気がどこかおかしい。
先ほどの楽しそうな表情は一切なく、まったくの無表情。
真っ黒な瞳に心まで見透かされているような感覚に陥り、嫌悪感を感じてしまった。
229春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/17(日) 23:30:29 ID:Hcn0ChsM

「いや、外暗いですからそろそy「まだ七時よ?今時の小学生ならまだ外で遊んでるわよ…」

今時の小学生のことは分からないがそろそろ帰らないと、精神的に本当に家に帰れなくなってしまう。
家に帰れば一人になる──最近一人にやっと慣れてきたのに、また深く関係を持てば、それだけ長い時間孤独に襲われることになる。

家に帰ってなにをすればいいんだろう?寝るぐらいしか思いつかない…。

「お母さん…春兄も疲れてるから…」

「…」
夏美の声が耳に入っていないのか無視してるのか恵さんは俺の手首を握ったまま離そうとしない。
それどころかより強くなっていく。

「春くん久しぶりに泊まっていったら?勉強教えてよ。」
冬子が洗い物を終え、こちらに近づいてくる。

泊まる?絶対に無理だ…明日からまた一人になるのだから、泊まる意味が分からない。
それに明日春香に会うのだ…下手して泊まれば、みんなで行くことになりかねない。

「そ、そうよっ!今日は泊まりなさい、後で夏美に着替えをハルの家に取りに行かせるから。」

「泊まるのは…それに勉強なら秋音さんを頼れよ。」
教師をしてる姉がいるのだから赤点ギリギリの俺に勉強を教えてもらう必要はない。
230春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/17(日) 23:31:16 ID:Hcn0ChsM

「…聞こえにくいのね…冬子……耳掻き持ってきなさい。」

………耳掻き?


状況がまったく把握できない。
さすがに冬子も意味が分からずキョトンとしている。

「聞こえなかったの?耳掻き持ってきなさい。」
先ほどより強い口調で冬子を急かすと、慌てて冬子はリビングを飛び出した。

「あの…」
恵さんはなにも言わずイスから立ち上がり、隣の和室に向かって歩き出す。
無論、恵さんは俺の手首を掴んでいるので俺も強制的に連れて行かれる。

夏美も後をついてくる…が、猫のように小さくなっている為、あてに出来そうにない。



──「はぁ、…はぁ、…お母さん…これ…」
冬子が二階から耳掻きを持ってきた。
二階まで走っていったのだろう少し息切れしている。

恵さんは冬子の頭を一撫ですると耳掻きを受け取り、畳の上に正座で座る。
腕を掴まれているので俺も自然と横に座らなければならない。

「ほら、座ってちゃ耳掻き出来ないわよ?何のために正座してると思ってるの?」
自分の膝をポンッポンっと軽く叩く。

頭を乗せろって意味何だろうけど、今は高校生……子供の時ならまだしも、はい、そうですかと女性の膝に頭を乗せれるほど女慣していないのだ。
231春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/17(日) 23:32:08 ID:Hcn0ChsM


──どうしたらいいのか戸惑っていると、駐車場のほうから車のエンジン音が聞こえてきた。


「あっ、……秋姉さん帰ってきたんじゃない?」
夏美の声に反応し、みんなが静かになる。
確かに赤部家の駐車場に車が停まった。
赤部家で車を乗るのが恵さんと秋音さんだけ…恵さんは今ここで俺の耳掻きをしようとしているので恵さんではない…だとすると秋音さんしかいないのだ。

「まぁ、帰ってきたとしても勝手にご飯食べるでしょ、子供じゃないんだから。」
興味をなくしたのか、そう言うとまた自分の膝の上をポンっポンっと叩く。
これは耳掻きをしてもらわないと帰れそうにない。



──車のエンジン音が消え、バンッと車のドアの閉まる音が聞こえると、すぐにヒールを履いた人の足音が家に近づいてきた。

「本当に秋ちゃんだ…今日は早いね?…なんで?」
冬子が夏美を見る…が夏美は目を合わせない。
あの時、携帯をいじってたのは秋音さんにメールしてたのか…。

「さぁ?始業式だからでしょ?」
何食わぬ顔で話す夏美に問い詰めても仕方ないと判断したのか、冬子は夏美の横を通り過ぎ、玄関まで秋音さんを出迎えに行ってしまった。
232春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/17(日) 23:35:21 ID:Hcn0ChsM

玄関先でなにか話し声が聞こえるここからでは少し聞きづらい…。

「ハル…足が痺れてきたから、早くして。」
急かすように手を引っ張られる…。

「分かりましたよ…それじゃお願いします。」

観念したと分かったのか俺の手首を離し笑顔で耳掻きを俺に見せてきた。

体を少し後ろにずらして恐る恐る頭を恵さんの膝の上に乗せる…

「ちゃんと、寝なさい。」
首に力を入れて体重をかけないようにしていたのだが、頭を掴まれ膝に押しつけられてしまった…。
スカート越しに、恵さんの肌の温もりが頬に伝わってくる…香水ではない固形石鹸の匂い。
細い指が髪をかきあげ、こめかみに手を添えられる。
恵さんの手は少し冷たくて火照った体には気持ちがよかった。

「懐かしいわね…」

懐かしい…本当に懐かしい。
よく俺と春香で恵さんの膝の上にどっちが座るか喧嘩したっけ…。
喧嘩する度に負けて秋音さんに泣きついて…。
泣き疲れて、寝て……。
起きたらいつも恵さんの膝の上だった。
そして、仲直りする時は決まって春香から…





──ずっといっしょだからね──
233春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/17(日) 23:38:09 ID:Hcn0ChsM

「え…春…兄…?」


「あれ?な…んだ…」
ダメだ…感情が抑えられない…。
悲しいのか懐かしいのか自分でも分からない…ただ、複雑に入り組んだ感情が涙となって流れ出す。
やっぱり深く関わりすぎたんだ…。

「ははっ、悪…い…夏美…ちょ…っと部…屋から出てッ…」

「ッ!?」
見られた…
こんな姿誰にも見られたくない。

「春っ!?」

「春くん…」
なんで次々とこんな時に限って集まってくるんだ?肝心な時には………違うッ!!
こんなことが言いたいんじゃない。


「夏美、冬子、秋音…この部屋から出なさい。」

そう言う意味じゃないんだ…恵さん──

「なんで、お母さんが春に膝枕なんかしてるのよ!?春が泣いてるじゃないっ!!」

違うんだ…違うんだ、秋音さん──

「お母さんが悪い訳じゃないよ!!秋ちゃん今帰って来たばっかりでなにも知らないでしょっ!?」

やめろ、冬子──

「無理矢理、春兄を引き留めたのは冬子だろっ!!」

そうじゃないだろ、夏美 ──。

みんなが喧嘩したら春香が悲しむから…だから俺は極力みんなに近づかなかったのに。
何でうまくいかないのか……理由は分かっている。






──俺が不幸の根元だからだ。
234春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/17(日) 23:40:47 ID:Hcn0ChsM
ごめんなさい。投下予告忘れてました。
今日の投下終了です。
235名無しさん@ピンキー:2009/05/17(日) 23:58:43 ID:h/2AZpK3
236名無しさん@ピンキー:2009/05/18(月) 00:39:27 ID:yi2PmrKb
>>234
乙です。
負のスパイラルっぽくて、緊迫するなぁ。
にしても秋音さんの元彼が可哀想…まあ、あのまま結婚すると更に悲劇か。
237名無しさん@ピンキー:2009/05/18(月) 00:58:52 ID:Poi7grRM
キタキタ〜〜待ってました!登場人物が魅力的すぎる!GJです!
238名無しさん@ピンキー:2009/05/18(月) 01:44:34 ID:JUS3SgHz
ドロドロというか何というか・・・
俺の予想的に、春が何かしてそのせいで春香が意識不明に?
とにかく続き期待して待ってます
239名無しさん@ピンキー:2009/05/18(月) 03:29:29 ID:nLfvLd/G
ペース速いな
いや嬉しいけどさ
240 ◆ou.3Y1vhqc :2009/05/18(月) 07:23:03 ID:r7oCjE6R
ありがとうございます。
>>239
ぐずぐず書いてたら自分自身、感情移入しにくいのと、ほかの作者さん来てるかな〜ってこのスレ見てると、どうしても投下したくなるんです。

まぁ、なるべく早く終わらせるんでご辛抱を。
241名無しさん@ピンキー:2009/05/18(月) 13:34:23 ID:eh0tQBET
GJ!


>ほかの作者さん来てるかな〜

保管庫作ってもらって一週間経ったが、既にカウンターは1000近いわけだし、
一日に100人以上は見てるっぽいから、それなりに住人はいるはずなんだよな
242名無しさん@ピンキー:2009/05/19(火) 00:31:29 ID:RUU3ItHT
>>234
GJ!
オラなんだかゾクゾクしてきたぞ
243名無しさん@ピンキー:2009/05/20(水) 07:30:36 ID:AdYEZ87M
保守
244名無しさん@ピンキー:2009/05/20(水) 19:36:16 ID:luMvmUoZ
春香って死んだんじゃないのか?
245名無しさん@ピンキー:2009/05/20(水) 21:37:08 ID:iJCkppTR
>>244
明日会うとか書いてあるから、あれ?と思って読み返したが、たぶん墓参りとかなんじゃないかな
先読みになるからあれだけど、>>103とかで匂わしてるね
246名無しさん@ピンキー:2009/05/21(木) 02:08:16 ID:rd7NTCS1
先読みされたら書き辛くなって、途中でやめるという法則があるのをしらんのか。
247名無しさん@ピンキー:2009/05/21(木) 04:14:26 ID:MG2A+TKe
ええいネトゲはまだか
248名無しさん@ピンキー:2009/05/21(木) 21:50:46 ID:g+wOCpu+
まあそう急かすなって色々推敲してるんだろ
249名無しさん@ピンキー:2009/05/23(土) 01:37:56 ID:3Agt/aNf
>>246
ハルヒがそのケースという噂が
250名無しさん@ピンキー:2009/05/23(土) 02:27:16 ID:7uz1sjyB
あれはもう過去の産物だろ
251名無しさん@ピンキー:2009/05/23(土) 04:42:45 ID:YEfScNO0
>>249
ハルヒは編集者だか出版社と揉めたからって言われてなかった?
アニメ化もあったから、先の展開について色々口出されたとか
まぁ本当のことなんてわかるわけないんだけどさ
252名無しさん@ピンキー:2009/05/25(月) 07:17:25 ID:Yv7SOxvj
たまにb'zとか聞くと、男の依存も中々ありかなと思ってしまう
253名無しさん@ピンキー:2009/05/25(月) 11:24:27 ID:HJJID/3k
男の依存はあんまりエロくないしそもそも萌えない・・・・・。
254名無しさん@ピンキー:2009/05/25(月) 13:57:43 ID:wkobXQop
> 男の依存

素直クールで有名な氷の花束に
何かファンタジーっぽいのがあった気がする
主人公が貴族の息子をさらって身代金要求するやつ
255名無しさん@ピンキー:2009/05/27(水) 00:20:46 ID:r1NV5vUr
なにかいい依存のネット小説ないかな?
256名無しさん@ピンキー:2009/05/27(水) 04:21:11 ID:sBuJNHR2
そういう時の保管庫じゃないか
257名無しさん@ピンキー:2009/05/28(木) 01:18:02 ID:csmy2AJd
もしかしたら作者さんはそういうつもりではないのかもしれない。
だが俺の依存っ娘アンテナがビンビン反応した。
「小説家になろう」にある「結婚奴隷五箇条」。最近更新が非常に楽しみな小説の一つ。
もし既読だったらすまない。
258名無しさん@ピンキー:2009/05/29(金) 00:47:01 ID:2ESCaT1Y
また作者いなくなったのか
259名無しさん@ピンキー:2009/05/29(金) 13:26:16 ID:8p3KOM+l
よくあることよ。
260名無しさん@ピンキー:2009/05/31(日) 07:49:47 ID:mwffFgJ7
依存保守
261名無しさん@ピンキー:2009/05/31(日) 13:14:44 ID:Ix5O+xnM
保管庫情報スレに貼られていたこちらの保管庫を拝見したものです。
良作多いですね!今後の更新も楽しみにしております。
262名無しさん@ピンキー:2009/05/31(日) 13:27:26 ID:wKCpk/4u

初投下。
他の書き手のように長編を書く根性がないので、短編で。
エロパロなんでエロメインで。
263耽溺する黒白:2009/05/31(日) 13:28:34 ID:wKCpk/4u


 自分の名を、白は殊更気に入っていた。
 己の白髪から安易に付けられた名であろうとも、まるで犬につけるような名であろうとも、その名をつけた男に呼ばれるだけで何やら特別な名であるような気がした。

 薄墨を刷いたかのような夜陰にまぎれて、男の着物に手をかける。
 するり、と衣擦れの音が耳に痛い。

「白、やめなさい」

 穏やかで有無を言わせぬ制止の声に聞こえないふりをして、着物を緩めて露わになった胸板へ頬を寄せる。とくとくと脈打つ心臓の音に耳を傾けた。

(脈拍一つ動じもしない、か)

 ほのかな落胆に白の淡褐色の瞳が翳る。
 右腕を男――時文の背へ回し、不惑を少し過ぎたとは思えぬ、鍛えられた胸板に唇を這わせた。
 頭上で時文が吐息を漏らす。熱を孕まない、呆れの溜息。じわりと涙腺が痛んだ。
 唇を噛み、空いた左手ですばやく着物の下から萎えた陰茎を引きずり出す。柔らかい睾丸をふにふにと唇で食むようにして刺激すれば、時文の腰がひくりと反応した。
 つい先頃まで白を透かして背後を見ていたような男が、確かに自分を感じている感覚にどうしようもなく至福が込み上げる。

264耽溺する黒白:2009/05/31(日) 13:29:04 ID:wKCpk/4u
常日頃からしきりに愛を囁く白に、時文は可哀想にと悲しげな視線を向けた。
 君は無知だ、と。無知ゆえに私のような酷い男に執着してしまうのだ、と。
 その黒々とした闇色の瞳に浮かぶ憐憫の色を思い出し、白は眉を顰めた。知ったことか、と陰茎を強く吸い上げる。
 知ることで時文から離れてしまうのならば、何も知らなくていい。そんな知など自分には何の価値もない。それならば、自分は喜んで無知のままでいよう。

 先端を口中に含み舌先で弄る。時文は時折呻きと吐息を漏らした。
 男の骨ばった手が、白の髪を撫でる。
 奥まで咥えろという無言の要求。それを無視して白は亀頭を責め立てた。

 愛してくれとは言わない。心も、言葉も、口付けもいらない。
 名を呼んでほしい。飽きるほどに、溺れるほどに、名を呼んでほしい。
 制止のために名を呼ばないでほしい。ただ、ただ、無心に私の名を。貴方がつけた私の名を呼んでほしい。

「……くっ、白!」

 余裕なく吐き出された催促の言葉。
 熱を持って紡がれた自身の名に、白は背筋がぞくぞくと震えるのを感じた。全身から力が抜ける。
 頭を緩やかに撫でていた手が、強く白を押さえつけた。硬く反り立った陰茎が、口中に詰め込まれる。

「ん、んぐっ……んぅ……」

 窒息寸前の茹った脳髄で感じるのは、狂気寸前の危うい幸福。
 涙で滲む視界に映る時文は、白を見て、白の名を呼んで、白だけを感じている。そこに、時文の亡き奥方の入る隙は微塵もない。
 それが、何より白を狂喜させた。

「……ぷは、」

 口を離し、どくどくと脈打つそれに口付ける。
 先端がぬめっているのは、白の唾液のせいだけではないはずだ。口中にかすかに残る苦味とえぐ味を唾液とともに飲み干した。
265耽溺する黒白:2009/05/31(日) 13:29:45 ID:wKCpk/4u
「時文様」

 時文様、時文様。
 熱に浮かされたようにその名を呼んで、白は帯を緩める。緋色の襦袢が落ちる前に、時文は白の手を強く引いた。
 胡坐をかく時文の下半身をまたぐようにして、白の身体は抱き寄せられる。
 緋色の衣の狭間からちらつく陰茎が、緩やかに白を刺激する。既に濡れそぼった白の女陰は擦れてにちゃにちゃと卑猥な音を立てる。

「時文様」

 両の腕で時文の首に抱きつく。一つに結わえられた黒髪の、ほつれた毛が白の耳を擽った。

「時文様、好き。大好き。時文様は……」

 白の言葉を最後まで聞かずに、時文は白の腰を掴んで引き落とした。突然の異物感にひゅう、と喉が鳴る。

「あ、あっ、あっ、時文様、ひうっ……!!」

 嬉しいはずの質量も気持ち良いはずの律動も、何故だかひどく虚しかった。意図もせず、ぼろぼろと涙が零れる。
 それらを振り払うように腰を揺らし、快感で全て塗りつぶす。

「は、あっ……もっと、とき、ふみさまぁっ、もっと、ほし、い……」

 白の腕が時文を絞め殺さんばかりに抱きしめる。両足の爪先が敷布を絡めて丸く震える。
 鼻にかかった嬌声とともにびくびくと跳ねる身体をもてあまし、白はきつく目を閉じた。

「ひっ、あっ、もう、……あぁっ!!」

 くぅん、と鼻を鳴らすようにして白は時文の肩に額をあてる。
 収縮を繰り返す膣に容赦なく抽挿を繰り返され、白の弛緩して感覚を失った手足が勝手に跳ねた。

「ひゃうっ、あ、むり、もう、やっ……!!」

 無理矢理押し上げられた二度目の絶頂に白の視界は暗転する。
 その寸前に感じた体内の震えと、足の間を体液が伝う感覚。
 白み行く視界の端で、時文の唇がかわいそうに、と動いた気がした。
266名無しさん@ピンキー:2009/05/31(日) 14:33:49 ID:NF15Q9Bd
>>261
誰かがそっち書き込んだのか
これでもっと盛り上がるといいな

>>265
GJ!
ちょっと悲しげな雰囲気がイイネ!
ぜひスレに定住してくれ
267名無しさん@ピンキー:2009/05/31(日) 15:33:43 ID:BM1Zjs6Q
あげ
268名無しさん@ピンキー:2009/05/31(日) 17:23:18 ID:y18lGfVC
久しぶりに来てみたら保管庫できてるわ面白いのが投下されてるわで良スレやないですか!
春春夏秋冬が俺のツボ(秘孔)を突きまくって続きが気になりすぎるので投下をお待ちしております!!(全裸で)
269名無しさん@ピンキー:2009/05/31(日) 21:43:31 ID:wKCpk/4u
263です。
調子に乗った。
263と同じ設定で世界観はなんちゃってファンタジー。かもしれない。
270耽溺する黒白2:2009/05/31(日) 21:44:46 ID:wKCpk/4u

 強者が正しいと自分に刃を握らせた男の顔を、白は覚えていない。




 ごくごく貧しい農家の末娘に、白は産まれた。兄が三人、姉が二人いた。或いは姉が三人、兄が二人だったかもしれない。
 その頃は白と呼ばれていなかった。しかしやはり、その名も覚えてはいなかった。

「  !」

 母が自分の名を呼ぶ。
 空腹から膝を抱えて地面の蟻を見つめていた少女は、ゆるりと視線をあげた。

「かあさま」

 年始にしか着せて貰えない真っ赤なべべを纏って、少女は上機嫌であった。
 少しほつれた袖を痩せた手で押さえて、母の元へ小走りに向かう。

「かあさま」

 逆光に立つ母の口元が弧を描く。
 その母の背後に、一人の老いた男が立っていた。にこにこと皺だらけの手をこちらへ伸ばす。

「  、おじさんと行きなさい。帰ってきてはいけないよ」

 母は強く少女の手を引く。兄と姉は、綺麗な着物を着る少女を見て口々に不満を漏らす。

「  ばかりずるい」
「  は、どこへ行くの?」
「きっと、  はたくさん飯を食える家に行くんだ」

 ああそうなのか、と少女は一人頷く。
(たくさん、ご飯が食べられるんだ)

 少女は皺だらけの手を握り返した。

271耽溺する黒白2:2009/05/31(日) 21:45:26 ID:wKCpk/4u

******

 初めて、駕籠に乗せられて着いたのは、今まで自分が住んでいた家よりは小さい。しかし、屋根にも壁にも穴のない家であった。
 老人は、少女の小さな歩幅も気にせず廊下を歩く。引かれた肩が痛んだ。

「おい、今日からこいつの面倒を見ろ」

 乱暴に突き飛ばされ、埃っぽい床に転がってしまう。
 痛む膝より、着物が汚れてしまわないか、そればかりが気がかりだった。
 床に打ち捨てられた少女の眼前に、素足が映った。ささくれた床板がぎしりと軋む。

「かっ、アンタは鬼か、そうでなけりゃ畜生だな。こんな小せえ餓鬼に何やらせようってんだ」

 男の爪先が、少女の額を小突く。
 華奢な頸が折れそうなほどに反り返った。

「殺すなよ。こんなチビでも銀五両だ」

 あの優しげな笑顔が嘘のように老人は冷たい目で少女を見下ろす。
 その目が怖くて、怖くて怖くて涙が出そうになるのをこらえて、少女は床を見つめた。

 老人は懐を探り、書状と金子を男に投げ渡す。男は書状に目を通し、ふんと鼻を鳴らした。

「随分とお忙しいようでェ」

 老人は苦々しげな顔をして踵を返した。

「オマエ如きが口を出す事柄ではない」

 へえへえと男は笑う。

「金さえありゃ、なんでもやるさね」

 薄ら笑いを浮かべて老人を見送る男の顔を、少女は見上げる。その視線に気がついたかのように、男は口角を釣り上げた。
 男の無骨な手が少女の顎を掴んで上向かせる。

「餓鬼一人、殺女(あやめ)にする位わけねえよ。なァ?」

 肉食獣のような目で、男は言う。
 あやめ、と聞きなれない単語を反芻する少女に男は酷薄な笑みを向ける。

「そうだ、餓鬼。てめえはなんで此処に来たのか分かってねえな」

「ご飯をいっぱい食べるため……」

 かっ、と男は喉を鳴らす。

「飯なら好きなだけ食わせてやる。その分、人を殺せ」

 その言葉に、あまり感慨は沸かなかった。
 しかし、その後に出された白い米が腹に染みる程に美味かったのだけは覚えている。
272耽溺する黒白2:2009/05/31(日) 21:46:04 ID:wKCpk/4u

 薬師寺時文は、むせ返るような血の臭いに眉一つ動かさずに佇んでいた。

(どうにも、最近は不穏だ)

 血塗れた刀を懐紙で拭い、腰におさめる。
 月夜の喧騒にかすかな金属音はかき消された。

「薬師寺隊長、逃走した者どもは全て捕らえさせました」

 そうか、と低く答えて時文は空を仰いだ。



 国王直属の近衛軍。それの一個小隊長を勤めていた。
 優秀だ、と言われた。精鋭ぞろいの近衛軍で三十弱での小隊長。
 もとより武芸に秀でた家ではあったが、それでも逸材と誉めそやされた。

 しかし、時文自身はあまり今の自分が好きではなかった。
 人を切ることは即ち国を良くする事に繋がるのだろうか。勿論、手段の一つではあるのだろう。
 それでも最近の国王の軍備増強に対する執心ぶりは尋常ではなかった。
 徴兵の年齢を大幅に引き下げ、規制も大分緩めた。町のゴロツキもかたっぱしから徴兵し、混乱すら起きているという。

 確かに、このところ情勢が安定しているとは言いがたい。
 王は名君であった。ここ百年混沌としていた国を絶対的な力で治めてみせた。
 跋扈していた汚吏賎吏を一掃し、私腹を肥やした貴族たちを解体した。
 それがどうにも最近国王は体調を崩しがちである。それを引き金に押さえつけられていた貴族たちの不満が一挙に噴出した。
 一部の貴族たちは徒党を組み、傭兵や暗殺者の類を傘下に招き入れてるという噂さえある。

「父上」

 娘が自分を呼ぶ高い声に、思考の海から浮上する。
 己によく似た艶やかな黒髪を撫でようと手を伸ばしその手をぴたりと止めた。
 娘の丸い瞳が不思議そうに時文を見上げる。

「春音、父上はお疲れでいらっしゃるの。おやすみなさいをしなければね」

 やわらかな声で遮り、妻が穏やかに娘に微笑みかけた。
 白くたおやかな手が、時文の手に添えられた。
 時文の顔を覗き込み、妻――長春はかすかに心配するような風を見せた。
 それでもその美貌に笑みを浮かべて「大丈夫ですよ」と時文の手を撫でる。

「父上、おやすみなさい」

 長春に手を引かれる春音の小さな背中を見送る。
 時文は自身の掌の匂いをかいだ。
 血の、臭いがした。






273名無しさん@ピンキー:2009/05/31(日) 23:43:37 ID:65uIeo1p
終わり?

GJ!……だけど投下終了宣言はした方がいいぞ
それをしないことで叩かれるのもよくあることだし
274名無しさん@ピンキー:2009/05/31(日) 23:52:22 ID:BM1Zjs6Q
申し訳ありません。投下終了です。次から気をつけます。
275名無しさん@ピンキー:2009/06/01(月) 00:54:22 ID:9d06Okg6
GJ
276名無しさん@ピンキー:2009/06/01(月) 13:35:43 ID:QYy80yEf
>>274
GJ!これは続きが気になる

このスレのSSはどれも良作揃いだな。悔しい!でも依存しちゃうっ!ビクンビクンッ
277名無しさん@ピンキー:2009/06/02(火) 00:14:37 ID:GWQVR7sl
どれも続きが気になって寝れないんだけど
278名無しさん@ピンキー:2009/06/02(火) 17:18:05 ID:MXrLgO92
>>277
ちゃんと長く眠れたら依存娘が布団に入り込むはずだ。頑張って寝るんだ!
279名無しさん@ピンキー:2009/06/02(火) 17:29:23 ID:Hn5kMFgd
舞姫でも読みながら投下を待つか・・・
280名無しさん@ピンキー:2009/06/02(火) 20:01:55 ID:8373iBHh
からくりサーカスのエレオノールでも見てニヤニヤするか・・・
281耽溺する黒白:2009/06/02(火) 20:16:20 ID:dk+QvzZf
投下します。
早くもっと依存させたい。
282耽溺する黒白:2009/06/02(火) 20:17:45 ID:dk+QvzZf

「がっ……!」

 胸を突かれて、痩せぎすの矮躯は宙を舞った。男は木刀をぶん、と振る。

「死にてえのか糞餓鬼。避けるぐらいしてみせろ」

 地に伏し咳き込む少女を見下ろし、男は鼻を鳴らした。ずきずきと痛む胸を押さえて、少女は立ち上がる。

 涙は一週間で枯れた。今はただ、淡々と日を送るだけだ。
 今にしてみれば、一日に何度も川と家を往復して水を汲み、白湯のような薄粥をすするより、散々痛めつけられても白い米が食える今の方がよほど幸福なように思えた。

 痣と傷だらけの体を引きずり、死んだ方がマシだと泣いた少女に、男は「ならば死ね」と短刀を放り投げた。
 激情に任せて鞘を払い、自身に向かう刃の鋭さに手が震えた。

 ひゅう、と喉が引きつり空気が漏れる。

 抜き身の短刀を手に震える少女に、男はねっとりと囁く。

 死ぬのは、怖えだろう。
 生きてりゃ、辛い今日がまた来るだけだが、死んだらどうなる?

 男はにたりと笑い少女を上向かせる。

 テメエが死を選んで良いのは、機密を漏らしそうになったときだけだ。

 理不尽だ。子供心にそう思った。


283耽溺する黒白:2009/06/02(火) 20:18:40 ID:dk+QvzZf
「ぼさっとすんな」
 考え事の最中に木刀で小突かれ、思わずよろける。

「飯だ、飯」

 用意しろ、というのだ。午前中は薬や毒、人体についてを叩き込まれ、午後は男に打ちのめされ、その後痛む体を引きずって家の仕事をするのが少女の日課であった。

「はい」

 胸をさすり、痣の具合を確かめる。折れてはいない。

(あとで湿布薬を貼ろう)
 数回咳き込み、少女は家の中へと歩を進める。
 ふと思い立ち、男を呼び止めた。

「あの……」

 男は鬱陶しげに振り返る。

「  」

 眉を潜める男に、少女は胸を押さえて俯いた。

「  です。私の名前」

 餓鬼じゃないです、と訴える少女の言葉を男は遮る。

「忘れろ、必要ねえ」

 結局、男も最後まで名乗ることはなかった。

284耽溺する黒白:2009/06/02(火) 20:19:01 ID:dk+QvzZf
 こんこん、と小さく咳き込む妻の背をさすり白湯を差し出す。長春は弱々しく笑って、椀を押し戻した。

「おおげさよ。少し熱があるだけだもの」

 しかし、と言い淀む時文に長春は薄く白い掌をひらひらと揺らす。

「心配しないで、いつものことじゃない」

 無理に笑った喉がぜえ、と鳴った。
 もともと、体が丈夫とは言えない長春は、春音を産んでから特に寝込む頻度が増えた。最近では寝たり起きたりを繰り返している。

 自分のせいだ、と思う。二人だけで穏やかに暮らしていくだけで良かったのに、子を、過ぎた幸せを望んでしまった。
 その代償がこれだ。

「死なないでくれ、どうか私より一日でも長く」

 弱々しく長春の手を握る。長春は、白くか細い手で力強く時文の手を握り返した。首を傾げて微笑むに合わせて、柔らかな亜麻色の髪がふわりと揺れる。

「本当に、私のこととなると心配性ね。大丈夫よ。私がそう言うんだから、絶対に大丈夫。」

 長春は時文の手を自身の胸元に引き寄せた。

「あなたこそ、ケチな盗賊に殺されたりしちゃ駄目よ。危ないときは、一目散に逃げて帰ってきて」

 二人は顔を見合わせて微笑んだ。
 時文は乳兄弟の妹であった長春を、なかばさらうようにして娶った。

 恥ずかしながら、若い時分の時文は家に定められるままに武人として人を殺すことに戸惑った。
 そこに、時文としての個人はあるのかと苦悩した。
 その荒んだ心を癒したのが、長春であった。

 その名の如く長春花の化身のような可憐な美少女であった。その美貌は、母となった今でも色褪せる気配はない。
 剣胼胝もないすべすべとした白い手は、毎日剣を振るう時文の手より力強く時文を導く。

 長春がいなければ、今の自分はいない。いや、自ら命を絶っていたかもしれない。
 それほどまでに、時文は長春を愛している。愛している、では生温いほどに時文は長春を必要としている。

 時文は長春の柔らかな体を抱き締めた。
 長春に触れるとき、時文はいつも少しだけ躊躇してしまう。
 血と脂に汚れた自身の手が、清廉な長春を汚してしまう気がした。
 それでも傍におき、触れてしまうのは、醜い我が儘にすぎない。

「愛しているよ」

 絞り出された掠れ声に長春は苦笑を一つ零した。

「いつまでも、新婚みたいね」

「そうだね」


 甘やかな薫物の香りが鼻孔をくすぐる。時文の耳元で長春はくすくすと笑った。

285耽溺する黒白:2009/06/02(火) 20:19:59 ID:dk+QvzZf
 くすぐるように体をまさぐられ、少女は肩を震わせた。押さえ切れていない荒い息に耳を塞ぎそうになりながら、室内に視線を向ける。

 立派な調度品、柔らかな絹の寝具、香の薫り。それらは、少女にとって新鮮なものばかりだ。もっとも、ここひと月で見慣れはしたが。

 骸骨のような指が、少女の鎖骨のあたりをかさかさと撫でた。
 不快、かもしれない。

「雪兎」

 目の前の唇が、そう自身を呼んだ。
 此処の“旦那様”は自分を雪兎と呼ぶ。前は蝶子、その前は待宵、白萩、夏緒、皆が好き勝手に少女を呼んだ。
 少女の名を呼んだ者は、皆死んだ。殺した。

「名など記号だ。それ以外に意味など無い」

 男はそう言った。
 
「名があれば馴れ合う、情が湧けば弱る。弱者は悪だ。この世は強い者が正しい」

 乾いた薄い唇が、花の形をした砂糖菓子を挟む。
 促すような視線に、少女はその唇に唇を近付けた。
 口内に広がる上品な甘味。薄い唇に付着した白い砂糖屑まで舐めとると、満足げに大きな掌が髪をなでてきた。

 少女は男に習った過程を脳内で反復する。
 未熟な体を撫で回されるのは初めてで、少女はくすぐったさに小さく身をよじった。
 しかし、この先は幾度となく経験した作業だ。慣れたものである。

286耽溺する黒白:2009/06/02(火) 20:20:58 ID:dk+QvzZf

「雪兎」

 名を、呼ばれた。
 これだけは、まだ慣れない。

「……旦那様」

 身を固くして、虚ろな目を見返す。
 徐々に徐々に下がる瞼を見つめて、少女はするりと寝具を抜け出した。
 抜け殻のように丸まって落ちている着物の、裾に縫い込められた針を抜き取る。
 小さな薬壷にそれを浸して、息をひそめて死んだように眠る“旦那様”の首筋に、慎重に、慎重に突き立てた。

 ぶつり、と手に残る、弾力のない皮膚を突き破る感触。
 やがてゆるやかに止まる呼吸に耳をそばだて、脈をとる。

 やり残しはないか、手慣れた作業を数度思い返す。
 闇がうずくまっているかのような、暗い庭園に降り立った。自身の足音に驚いて、しばし足を止める。

 何かに追われているような気がして急に怖くなった。視界がじわりと歪む。
 足音を忍ばせるのも忘れて、少女は全速力で男の待つ場所へと走った。

******

「我ら国民の敬愛する国王陛下の弟君は小児性愛者とは。いやはや、大徳と名高い彼のお方が!」

 愚痴にも似た呟きを拾い上げ、男は芝居がかった風に天を仰いだ。
 孤児の養育に尽力する人格者とはよく言ったものだ。王に負けじと手前の後宮でも作ったつもりか。とけらけら笑う。

「いや、まあ、おまえを行かせて正解だったな」

 何故かよく分からないが褒められたようで、少女は少しの充足感に唇を綻ばせた。

 ああ、そうだ。と少女は地べたに座り込んだ男の袖を引く。
 振り向いた男の唇にそっと自分の唇を重ねた。

「こうすると、嬉しいのですか?」

 “旦那様”に事あるごとに求められた行為を模倣する。男は、かっと喉を鳴らして笑った。

「それは後で全部教えてやる」

287耽溺する黒白:2009/06/02(火) 20:21:37 ID:dk+QvzZf

投下終了。
288名無しさん@ピンキー:2009/06/03(水) 01:02:29 ID:ihaVUbgr
>>287
GJ!先が見えないだけに気になる。続きをお待ちしております!
289名無しさん@ピンキー:2009/06/03(水) 01:06:28 ID:0nMbYvZN
よかったGJ
290名無しさん@ピンキー:2009/06/03(水) 02:32:19 ID:ZPYhaHi7
これは期待

GJ
291名無しさん@ピンキー:2009/06/03(水) 08:08:03 ID:FaaGsusz
バカだからさっぱりわからない
292名無しさん@ピンキー:2009/06/03(水) 19:22:29 ID:aHUZmZQD
同人のdolls ingram(ドールズイングラム)って横スクロールゲーム
五面ボスステージの台詞が良かった
293名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 00:56:11 ID:hM/OtZd6
>>287
面白いけど誰が誰か少しややこしい
294耽溺:2009/06/04(木) 07:12:03 ID:xD9mlbfh
分かりました。ありがとうございます。
書き直します。2と3を無かったことにしてください。
295ネトゲ風世界依存娘 十一話:2009/06/04(木) 12:44:07 ID:7N9igSaE
すみません転職してました。
落ち着いたので投下。
296ネトゲ風世界依存娘 十一話:2009/06/04(木) 12:46:08 ID:7N9igSaE


 ただ唇を合わせただけなのに俺は年甲斐も無く気恥ずかしくなり、顔を離すと目の前に広がる
光景を二人並んで黙ってみていた。
 小一時間も眺めていただろうか。完全に日が暮れたところで、俺達は帰宅することに決めた。

 九朗と手を繋ぎ帰還の魔法の構成を行なう。ここに来る前のように事務的に繋いでいるだけと
いった感じではなく、繋ぎたいから繋いでいるといった感がある。
 帰還の魔法で街に戻り、そのまま蕾が待つハル達のギルドへの建物へと足を向ける。その間
二人とも口数は少ないが気まずさはなく、寧ろ九朗が近くにいることへの安堵の方が強い。
 向こうもそう思ってくれていたら良いんだが。
 そんな心地よい時間を過ごしているとあっという間に建物に着いてしまった。

 中に入ると、見知らぬ赤毛の小柄な少女と蕾が闘っていた。いや、闘っているというのは正確じゃないな。
 蕾が一方的に攻撃し、少女のほうは指導しながら簡単に受け流している。
 俺はそれをにやにや見物しているハルに声をかけた。

「ハル。何やってんだ?」
「ああ。もう帰ってきたのかい。ぬとぬとのどろどろになっての朝帰りになるかと思っていたけど。」
「あほか。で、これは?」
 薄紫の長い髪を持つ美女は中身が女になっても変わらず発想が下品だ。俺はいつものことなので
気にせず続きを促す。

「君の役にたちたいそうだよ。健気だね。愛されてるね。」
「面白そうにいうな。あの赤毛は……新入りか?」
 見慣れぬ少女が真剣に蕾に闘い方を教えている。蕾もこちらに気づかず真剣な顔で頷いていた。
 新入りにしては腕が良過ぎる。知らない相手にあれだけ親身に教えるような人間がギルドに
今まで入っていないとも考えにくい。赤い髪にショート。いかにも元気ですといったような明るそうな雰囲気。あんなPLは俺は知らないが。

「あれはショウだよ。」
「……は?」
 俺は聞き間違いだと脳が言葉を拒否した。何故ならショウという人間は暑苦しくいかつい
筋肉マッチョな男……いや漢だったからだ。

「薬をくれたから少しでも君に恩返しをしたいそうだよ。朝は魔法を教えていた。」
「……そうか。」
 俺は複雑な顔で頷いた。


297ネトゲ風世界依存娘 十一話:2009/06/04(木) 12:47:18 ID:7N9igSaE


「匠お兄さんお帰りなさい。」
 一段落付くとようやくこちらに気づいたらしい。蕾は尻尾を振りながら走ってきて俺の腰に
しがみついた。こう密着されると今までは少し焦ったものだが今は自然に頭を撫でることができた。
 蕾は気持ちよさげに目を細め、尻尾をぱたぱたふる。子犬みたいで可愛らしい。

「ふぅ……ん。」
 ハルは九朗と俺を見て少しだけ驚いたような顔をした後、いつものにやけ顔に戻る。

「何だ?」
「おめでとうといえばいいのかい?」
 びくっとしがみ付いていた蕾が反応した。

「鋭いな。」
「匠が蕾ちゃんが抱きついてるのに平気な顔してたからね。余裕があるっていうのかな。」
「俺と九朗は恋人として付き合うことになった。」
「そうかい。おめでとう。」
 隠すことでもないので正直に話す。九朗を見ると顔を真っ赤に染めて俯いていたが。そんな
彼女に見蕩れてしまう。いつもの凛とした姿もいいがこれもまた……なんだか、気恥ずかしくなり
赤毛の少女のほうに顔を向けた。

「ショウ。蕾の面倒見てくれて有難う。」
「たいしたことじゃないよ。匠は命の恩人だからね。」
 感慨深げに腕を組んでうんうん頷く。

「大げさな。」
「大げさじゃないよ!あのままだったら……私はあの身体で一生……いやほんと想像しただけで恐ろしいっ!」
 顔を青ざめさせ拳を握り締めて力説する少女に俺は苦笑するしかなかった。てか、女だったのか。こいつも。


298ネトゲ風世界依存娘 十一話:2009/06/04(木) 12:48:55 ID:7N9igSaE


「身体で返そうかと思ったんだけどね。いろいろとえろえろと。」
「いらん。」
「だよねー。」
 にししっと悪戯っぽく笑う。その笑い顔だけは、漢だったときの面影がある気がする。

「あんな可愛い子にご主人様とか呼ばせてるんだもんね。夜はお前は俺のおもちゃだとかいって
ロリなこの子にあんなことやこんなことを……」
「するかっ!」
「もしかして不能?」
「違うっ!」
 やれやれと赤髪の少女は首を横に振る。

「魔法は数種類簡単なのを教えておいた。スキル低くても役に立つ便利系だね。癒し、眠り、
毒消しとか。犬人族だから剣のほうがいいと思って攻撃魔法は省いたからね。剣スキルは数字だと
60ってとこかなぁ。」
「助かる。こいつには自立して欲しいからな。100くらいまでいけば余裕で生きていけるはずだ。」
 ショウは過保護だねーと笑って蕾の頭に手を置いて、

「でもさ、もったいなくない?可愛くて一生懸命でご主人様なんでしょ?」
「こいつの人生はこいつのもんだ。」
「うわ。まっじめー。いつの時代に人間?」
 ショウは呆れたようにいってるが、冗談でいってるんだろう。口調は軽い。

「いいなーいいなー。私も可愛い子にご主人様っていってもらいたいなー。」
「お前は女だろうが。」
「だって可愛いじゃない。可愛いは正義だよ。うん。犬可愛いよ犬。」
 本当に犬ならよかったんだがなぁ。と、ふいにショウが真剣な顔を蕾に向けた。

「可愛い蕾ちゃんにお姉さんが必勝の口説き文句を教えてあげよう。」
「ふぇ?」
「私の処女をぶちぬいてくだ……ちょ!九朗ちゃん部屋で刀抜くのは、反則反則!冗談だよ冗談っ!!」
 変なことを教えるのは本当に止めて欲しい。九朗もそう思ってるのかもしれない。


 俺はこのとき全く気づかなかった。
 絶望に染まっている蕾の顔に。


299ネトゲ風世界依存娘 十一話:2009/06/04(木) 12:49:50 ID:7N9igSaE



 それを聞いたとき、私の思考は一瞬停止しました。
 思考だけじゃなく、心臓も一瞬止まったかもしれません。

 九朗さんが匠お兄さんの恋人になった。それは私が生きる上で一番厳しい出来事です。
 こうなることを予測していなかったわけじゃありません。ですが、思いのほか早すぎました。

 私は甘かったのです。
 九朗さんが匠お兄さんの恋人になることは祝福するべきことです。あの人はいい人だし。
 しかし、そのときには身も心も私は匠お兄さんの所有物になっていなくちゃだめなんです。
でないと、私は無価値なものとして捨てられてしまう。

 そうなれば私は生きていけない。

 今の状況では身体をお兄さんに渡すことを九朗さんはよしとしないでしょう。匠お兄さんも真面目な人だし
九朗さんが恋人としている以上、私を犯してはくれないはず。
 九朗さんを排除しようにも実力ではまず勝つことは不可能ですし、心も長い付き合いのせいで
お互い結びつきが強い。そうなると……

(私じゃどうすることもできない?)

 暖かいお兄さんにしがみ付きながら、私は全身から血の気の引く音を聞きました。


 その日の夜──


 三人で食事を取り、身体を拭き寝る準備をすませると九朗さんは匠お兄さんに挨拶し、何故か
ご機嫌な様子で自分の部屋に戻っていきました。
 てっきり、私に一人で寝るようにいって二人で寝るかと思っていたのに。

 ふと、お兄さんのほうを見るとちょっと苦笑いしていました。あてがはずれたのかもしれません。
恋人の余裕?いや、もしかして……

(あの人は──もしかして知らない?)

 ありえないことじゃありません。あの人の話が本当なら学校にも行ってない筈だし、両親とも
殆ど関わっていない。一人で過ごしてきたはず。
 完全に見える彼女の不完全な部分。彼女以外だと私だけが知っているその弱点。

(えっちなことを知らないのかも。知ってはいるけど自分がするという実感はない?)

 だから、前に裸で寝てたときも怒りはしたけどそれだけだったんだ。
 私は九朗さんの入った部屋のドアを見ながら自然と薄い笑みがこぼれました。何故、彼女が
私を残していったのかは判りません。昨日のように同じ部屋で眠るという選択肢もあったのに。

「あ……部屋しまっちゃいました。匠お兄さん、今日は一緒でいいですよね?」
「しょうがないな。」
「やったー!」
 九朗さんが気づく前に。子供のように無邪気に喜びながら、内心で私は一つの決断を下していました。
300ネトゲ風世界依存娘 十一話:2009/06/04(木) 12:51:48 ID:7N9igSaE
投下終了です。
301名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 12:56:21 ID:gMSCePCC
>>300
うは、昼休みに覗いてみて良かった!投下乙でした。
蕾、イノセント腹黒でいいよいいよ〜
302名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 15:18:52 ID:bBWrj0Om
これはGJ!
303名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 15:58:21 ID:2Zo6eA96
転職と聞くと三十路となって魔法使いになったのかと想像してしまうが何はともあれGJ!
なんか腹黒娘が危険な匂いがプンプンするぜえぇ!
304名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 22:16:09 ID:+iRYfy9p
考え直したら、かなり別の話になったので開き直らせてください。
申し訳ないです。
耽溺は短編ということで…

投下します。
305無題一:2009/06/04(木) 22:17:15 ID:+iRYfy9p
 山本京介は春の麗らかな日差しの下を、何をするでもなく歩いていた。時折、街の喧騒と子供らのはしゃぐ声に足を止めては目を細める。
 京介は物書きである。売れない物書きだ。心のうちでは、八犬伝のような皆に読まれる読み本を書きたいのだが、取り立てて才能があるわけでもなし。子供だましの戯作や御伽噺を書いては、お情けの稿料を貰い糊口を凌いでいる。
 そもそも、京介の家はそこらではちょっと名の知られた呉服商であった。あった、というのは、京介の商才の乏しさに由来する。
 算盤が不得手であるとか、騙されやすいとか、そういうわけではない。ただ、徹底的に向かなかったのだ。
 そうであるから、店を受け継いだ京介はとっとと店を畳んでしまった。誰かに切り盛りを任せて、悠々自適な若隠居をしてもよかったが、そういう気にはなれなかった。父と母に次いで妻まで失い、気が萎えていたのやもしれない。

 幸か不幸か京介に子はおらず、遺すべきものは何もなかった。店に残った品を全て売り払えば、細々とならば食うに困ることのない金子が手元に残った。
 店はそのまま残していたが、自分の使う部屋しか手入れをしないため大部分はここ十年足らずの間に半ば荒屋と化している。それでも引越を考えないのは、妻がいた店で妻の記憶と共に朽ち果てるのも悪くないと思ったからだ。

 京介は妻を愛していた。気乗りせぬ見合いで成った仲であったが、くるくるとよく働き笑顔を絶やさぬ妻を何より愛しいと感じていた。
 二歳年下の妻は嫁いだ頃は十七で、それから五年で世を去った。つまらぬ病におかされて、あっという間に死んでしまった。
 腑抜けた京介を追い立てるように父と母も亡くなった。妻と同じ流感であった。
 自分も同じ病で死ねぬものかと思ったが、その思いを嘲笑うかのように疫病神は京介のもとを素通りした。自分で命を絶つような度胸も彼には無かった。

 そうして京介は今日もねたの収集と称して町をふらついていた。張り合いも何もない毎日だ。死んでいるようで、生きている。生きているようで、死んでいた。

 ふいに聞こえた粗野な声に京介は顔を上げる。火事と喧嘩はなんとやら。京介は文の糧にでもなるかとそちらへ足を向けた。
306無題一:2009/06/04(木) 22:18:25 ID:+iRYfy9p
 人だかりの向こうで、荒々しい男の声が聞こえる。野次馬の話を立ち聞けば、どうやら掏摸が捕まり、殴られているらしかった。
 一際強く殴打する音と共に人垣が割れる。京介の足下に土にまみれた褪せた緋の塊が転がり込んだ。

「――!!」

 一瞬、目が合った。穴のような黒い瞳が京介の表面を撫でる。
 泥と鼻血に汚れ、殴られた頬は腫れていたが、その顔は亡き妻によく似ていた。

「この盗人、同心につきだしてやる!」
 すっかり頭に血が昇った男が、その女――少女と呼んだ方が良いかもしれぬ――の胸倉を掴んで引きずる。白く華奢な鎖骨が露わになる様子を見て、京介は思わず男に縋った。

「なんだ、山本の旦那じゃねえか。邪魔しねえでくれ!」
「いや待ってください。それだけは勘弁してやって頂きたい」

 手を合わせ頼み込む京介に男はきまり悪そうに地面を睨んだ。頭が冷えてみれば、いくら掏摸とは言え女人相手にやりすぎたと思ったのだろう。

「どうか、私に免じてよろしくお願いします」
「……次はねえぞ」

 男は、ふんと鼻を鳴らして踵を返す。京介はその少女のもとに走り寄った。

(ああ、似ている)
 白い顔を汚す血を親指の腹で拭う。このままこの場で口付けてしまおうか。
 邪な思いを見透かしたかのように京介の手が振り払われた。

「さわるな」

 生まれたての馬のような覚束ない足取りで京介のもとを去ろうとする体を押し込める。
 黒い目がぎろりと京介を睨んだ。

「私を助けても何もない」
 返す言葉を探しあぐねた京介に少女は続ける。
「体ぐらいなら、好きにさせてあげてもいい」

 その言葉に頭がカッと熱くなり、それから急激に冷えた。

「女の子がそんなことを言うものじゃない」
 言って、痩せた体を支える。
「私の家においで。怪我の手当てをしなければ」

 手を引くと、少女は案外大人しく京介についてきた。
307無題一:2009/06/04(木) 22:19:17 ID:+iRYfy9p
 京介の家に使用人はいない。呉服屋を営んでいた頃には大勢いたが、京介が暇を出してしまった。家には京介一人である。
 京介は、白い肌を前にごくりと喉を鳴らす。それを面には出さぬように、少女の背を固く絞った手拭いで拭いた。白い背に浮く青痣が生々しい。痣の上を拭うたびに、肩がひくりと震えた。

「ごめんね、痛かった?」

 京介の問い掛けに少女は少し俯くだけだった。
 土埃にまみれた黒い髪をゆすいで梳いてやり、腫れた頬に湿布を貼る。汚れ破れた緋色の着物の代わりに、妻の浴衣をゆるく羽織らせた。
 その姿がますます妻に似ていて、京介は気がおかしくなりそうだった。

「こんなものしかないのだけれど」

 見よう見まねで作った粥を匙で少女の口元に運ぶ。少女はわずかにたじろぎ、匙と京介を数回見比べると可愛らしい唇を薄く開けた。
 そこに冷ました粥を注意深く流し込む。唇の端を濡らす粥を舐めとりそうになるのを必死で抑えて京介は問うた。

「君、名前は?」

 少女は顔をしかめて、ない。とぶっきらぼうに答えた。無い?と聞き返す京介に少女は頷く。
 事実、少女に名はなかった。あったのかもしれないが、名を呼ぶものはいない。

「名前、無いのか。不便だね」
 京介は自分の布団に横たわる少女の顔を見つめた。少女の黒い瞳が京介を見返す。
「小萩、と呼んでいいかな?君の名前だよ」

 妻の名だ。
 少女は驚いたように目を丸くした。私の名前、と口の中で呟く。

「そう、小萩」

 こはぎ、と数回噛みしめるようにして呟くと少女は子供っぽく笑った。嬉しそうな笑顔を見て、京介はひどい罪悪感に押し潰されそうになった。

308無題一:2009/06/04(木) 22:21:10 ID:+iRYfy9p
投下終了です。
行き当たりばったりでもうしわけないです。
309名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 22:48:25 ID:ZmAvZjbD
>>308
おお……GJ! 続き楽しみだ。
310305:2009/06/04(木) 23:01:19 ID:xD9mlbfh
305に間違い発見。
×父と母に次いで妻
○妻に次いで父と母
重ね重ね申し訳ない
311名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 23:14:53 ID:8HT3kljc
GJ!
読者に色々と妄想させる良い作品ですね
312名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 23:28:42 ID:KWK+wrjq
GJ!
良作ktkr
313名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 23:57:23 ID:u4VeH8KX
GJ

長年他人を信用していなかったり、自分の殻に閉じこもっていた奴が一度心を許すと依存になりやすい
ソースは俺の脳内
314名無しさん@ピンキー:2009/06/05(金) 00:24:56 ID:eBIm86/L
春春夏秋冬きてないじゃん…私の心を弄んでるの?ねぇ?

私の悪いとこがあれ ば な
315名無しさん@ピンキー:2009/06/05(金) 11:24:42 ID:oktrnFZF
行き当たりばったりは結末がちゃんと決まってないと途中で行き止まりになりやすい罠

どうも読み手を気にし過ぎというか遠慮っつうか卑屈っつうか弱気な感じがするな
もっと堂々としてりゃいいんだよ。続きが気になる面白そうなの書いてんだからさ
316名無しさん@ピンキー:2009/06/05(金) 18:15:56 ID:QimML7U6
定期的に書いてくれてる作者が作品の続き投下するのを遅れると、こんなこと書かれるの?
317名無しさん@ピンキー:2009/06/05(金) 18:41:26 ID:vau4wyvg
いつもの荒らしが手法を変えただけなんじゃない?
318無題二:2009/06/05(金) 23:16:01 ID:Aj0tYp9X
>>315話の大筋は変わっていないので、最後まで書ききります。大丈夫です。
登場人物が多すぎて、確かに自分では書ききれないなと思ったので変えました。
卑屈なのは性格なのでいかんともしがたいですね。すみません。

投下します。
319無題二:2009/06/05(金) 23:16:27 ID:Aj0tYp9X
 小萩は、自分を連れ帰ろうとする京介が、助けた礼を求めるものだとばかり思っていた。走り寄ってきた京介の目が、獣のような情欲にぎらついていたからだ。
 そういった手合いには慣れっこであったし、何より京介のおかげであることは本当であったから、適当にこの男の言いなりになってやろうと思った。

 通された家は外観こそ朽ちてはいたが、中はそこそこに立派であった。興味深そうにきょろきょろとする小萩を見て京介は苦笑した。足元の覚束ない小萩の耳を、京介の吐息がくすぐる。
 布団を敷いて小萩の着物を脱がせた京介に、小萩はさして驚きもしなかった。ああやはりか、と少しの落胆と共に京介を見上げる。

「ちょっとごめんね」

 京介は小萩の視線に眉を八の字にした。遠慮がちな手つきで小萩の体を拭う。訝しげに見つめられて、京介は言い訳するように笑った。

「ほら、泥とか血とか拭かないとね」
 ぬるま湯に浸した手拭いで指の先を拭く。子に語りかけるように視線を合わせてくるのが気恥ずかしくて、小萩は顔を伏せた。
 慈しむような優しい態度も丁寧に体を拭われるのも初めてで、小萩はなんだかひどくくすぐったいような気分になった。
 温かい手拭いが肌の上を往復する感触に、ついとろとろと眠りに落ちそうになる。小萩はほとんど京介の胸に頭を預けるようにして、ぼうと自分の体が拭かれる様を見ていた。
 両腕と、顔と肩と背を拭き終えると京介の手が止まる。京介は「どうする?自分でやる?」と問う。寝かけた頭でやっと理解して、小萩はふるふると首を振った。男の手が心地よかった。
 京介は返事代わりに頷いて、小萩の鎖骨のあたりを拭う。その手拭いは徐々にさがり、乳房をゆるく撫で回した。
 小さく声を漏らして身じろぎする小萩に、京介は再び「ごめんね」と声をかけたが、小萩は別にそれが嫌ではなかった。乳房を過ぎて腹を拭く手を、惜しいとさえ思う。
 ふいに、京介の体が離れた。柔らかな布団の上に上半身を下ろされる。京介は桶を抱えて小萩の足元に回った。下半身を覆っていた布団を捲られ、右の爪先から拭かれる。
 本当にくすぐったくて京介を蹴飛ばしそうになるのを我慢して、自分の足を清める京介の様子をまじまじと見ていた。
 膝のあたりを拭き終えると、京介は再び困ったように顔を上げた。

「自分でやってもらってもいい?」

 問う京介に再び首を振るといよいよ本気で困った顔をされた。
 小萩は拭きやすいように軽く膝を立てる。下半身を覆っていた掛け布団が腹までずれるのを見て、京介は焦ったように布団を引っ張った。
 京介は意を決したように、手拭いを小萩の大腿に這わせる。内股を覆う温かい手拭いと男の手の感触に酔いしれ、小萩は薄く瞼を閉じた。

320無題二:2009/06/05(金) 23:19:11 ID:Aj0tYp9X


 ぼんやりする頭を軽く振って、上半身を布団の上に起こした。
 殴られた怪我から熱があがったらしい小萩は、死んだように眠る前のことをあまり覚えていない。体を拭かれるのが心地よく、うとうとしてしまいそのまま意識を失った。

「こはぎ」

 熱で渇いた寝起きの喉で発した声は掠れていたが、はっきりと小萩の鼓膜を揺らした。
(私の、名前)
 ばさばさであった髪が綺麗に梳かれたのも綺麗な藤色の浴衣を着せられたのも覚えは無かったが、それだけははっきりと覚えていた。
 こはぎ、こはぎ、と数回口の中で呟くと、不思議と笑みがこぼれる。名があるというのは、そしてその名を呼んでくれる人がいるというのは、これほどまでに嬉しいものだろうか。

 布団から起き上がろうとして、左脚が思うように動かないことに気がついた。布団をどかし、浴衣の裾を割ると左脚に布がぐるぐる巻きにされていた。
 なるほど、これでは動けないはずだ。と一度うつ伏せになり、少々不格好になりつつも起き上がる。びっこを引きながら部屋を横切り、引き戸に手をかけた。

「ひゃ!」
 細く開けた筈の引き戸ががらりと開いたので、小萩は驚いて奇妙な声をあげてしまう。
 向こう側から戸を開けた京介は、そんな小萩を見て目を丸くし次いで笑った。

「おや、元気そうだね」
 京介は穏やかな笑みを人の良さそうな顔に浮かべ「でもまだ寝ていた方がいい」と小萩を布団に押し戻した。

 京介は小萩の顔を覗き込む。骨っぽい指が小萩の右頬を押さえて、左頬の湿布を剥がした。

「腫れもひいたね。あとは左脚だけだ」
 物言いたげな小萩の視線を勘違いしたのか、京介はああと頷いた。
「左脚の筋をいためているらしい。あまり動かない方がいいよ」
321無題二:2009/06/05(金) 23:19:58 ID:Aj0tYp9X

 小萩は小さく首を振る。「名前」と呟く様子に京介は怪訝な顔をして、腑に落ちたように眉をあげた。
「私かい?山本京介というんだ」

 京介、さん?と首を傾げる小萩に京介はそうだよ、と微笑む。
 じいと京介を見上げる小萩に、白湯の注がれた湯のみを差し出した。小萩はおずおずとそれを受け取り口をつける。
 渇いた口の中に染み込むようで美味しかった。指先で湯のみをいじりながら、小萩は京介に声をかけた。名前を呼ぶのが気恥ずかしかったが、同時にふわふわと嬉しいような気分になる。

「京介さん。あの、……」
 言いたいことがたくさんありすぎて、何から言ったらいいのか分からなかった。
 名前をつけてくれたのが嬉しかった。甲斐甲斐しく看病してくれてありがたかった。そして、どうしてここまで良くしてくれるのか。
 様々な事柄がいっきに溢れ出て、頭の中がぐちゃぐちゃになって言葉に詰まる。
 京介は空の湯のみを盆に返し、粥を匙と共に小萩に手渡す。小萩は倒れる前に、まるで子供のように粥を食べさせてもらったことを思い出して顔から火が出そうになった。
 忘れたままでよかったのに!と内心毒づく。
 京介は小萩の頭を撫でた。

「心配しなくてもいい。脚が治るまで、ここにいなさい」
 違う。そんなことが聞きたかったんじゃない。と思いながらも、脚が治るまでに色々と伝えることも出来るだろうと口を噤んだ。

 (変だ。まるで、一緒に居たいみたいじゃないか)

 熱い粥を啜り、そうではないと自分に言い聞かせる。

(こんな体では掏摸も出来ないし男の相手も出来ない。その間はせいぜいこのお人好しそうな男に頼ってやろう)

 小萩は自分を納得させて、もう一口粥を啜る。
 京介にありがとうと言うか迷って、結局言わずに匙を置いた。
322無題二:2009/06/05(金) 23:20:29 ID:Aj0tYp9X
 投下終了です
323名無しさん@ピンキー:2009/06/05(金) 23:47:34 ID:zWnREwxw
>>322
相変わらず良い感じ。なんか静かにえろかった。GJ
324名無しさん@ピンキー:2009/06/05(金) 23:48:11 ID:dEAhFqdc
あんた神だよ・・・
神GJだよ・・・
325名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 01:20:15 ID:Q+k5zn0S
GJ
326名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 12:20:11 ID:DPeUWsSj
すばらしい!
GJ!
327名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 16:46:29 ID:fvmh7mJ/
職人さん全員GJ
明日の希望だわw
328無題三:2009/06/06(土) 20:21:53 ID:GYCzt/JE
投下します。
329無題三:2009/06/06(土) 20:22:24 ID:GYCzt/JE

 昏々と眠り続ける小萩の白い顔を見つめて、京介は言い知れぬ昂ぶりに唇を舐めた。
 時折苦しげに呻く小萩の頭を撫で、額に浮く汗を冷水を含ませた手拭いで拭ってやる。気絶するような眠りは打撲からの発熱が原因だと知り、京介は慌てた。そして、心の底で喜びもした。
 これで、熱が下がるまで引き留めておくことが出来る。

 小萩が小さく声をあげて掛け布団を蹴る。京介は苦笑まじりに汗ばむ細い脚に布団を掛け直してやった。
 触れた白い脚の、その間に潜む生々しい女の肉を思い出し、喉を鳴らした。
 それを隠すには頼りない布団の狭間から覗く赤い亀裂。
 京介の下腹部が熱を持つ。はぁ、と短く息を吐き、勃ちあがりはじめた陰茎に触れた。
 ゆるやかな手の動きで自身を刺激する。邪な性欲に硬くなった陰茎は、先端から透明な欲望を吐き出しながら膨らんでいく。
 京介は欲の命じるままに手を激しく上下させた。

「……はっ、はあっ」

 懐から書きかけの紙を取り出し、にちゃにちゃと水っぽい音をたてるものにあてがった。

「小萩っ……」

 すうすうと穏やかな寝息をたてる小萩に覆い被さる。白い枕の上に散る黒い髪に指を絡ませた。
 股間がじくじくと熱くなり、手の中の陰茎がびくびくと震える。紙の墨文字が滲んだ。受け止めきれなかった精液が小萩の顔を汚す。

「は、……ははっ」

 吐息に混じって自嘲が漏れた。先ほどまでの熱が嘘のように虚しさばかりが京介を蝕む。
 汗を拭っていた手拭いで小萩の顔に散る精液を拭いてやった。小萩が身じろぎ顔をしかめるのを見て、京介は逃げるように桶を手に部屋を後にした。


330無題三:2009/06/06(土) 20:22:49 ID:GYCzt/JE

 依然として死んだように眠り続ける小萩の顔を覗き込む。小萩を助けたのが、昨日の午前中で、夕方にはもう眠り込んでいたから、そろそろ丸一日眠りっぱなしである。

(そろそろ起こした方が良いのだろうか)

 そう思うも、起こしてしまうのは惜しい気がして京介は立ち上がった。

 先日数年ぶりに火を入れた竈。昨日も本当は飯を炊くつもりだったのだが、何を間違えたのかべちゃべちゃになってしまったので、適当に味をつけて粥にした。
 決して食道楽ではない自分が食べても美味いとは言えない粥を、小萩は全て平らげた。それがとても嬉しかった。
 釜の中に残るべちゃべちゃのご飯を鍋に移す。昨日は適当に塩をいれたのだが、今日は味噌にしてみよう。と慣れない手つきで火をおこした。

 白湯と粥を乗せた盆を手に、小萩の眠る部屋へと足を運ぶ。引き戸を開けると、すぐ目の前に小萩が立っていた。どうやら、向こう側から開けようとしていたらしい。
 小萩は「ひゃ!」と短く悲鳴をあげてあとずさる。ほんの少し驚くが、それより愛おしさと可愛らしさが勝る。

「おや、元気そうだね」
 笑ってそう言ってみたが、自分が本当に笑えているかは分からなかった。
 彼女が元気になったら、自分の手元からいなくなってしまう。その不安ばかりが頭を巡る。
 視線を、引きずる左脚へと向けた。小萩を手放したくない浅ましさ故の苦肉の策。

「左脚の筋をいためているらしい。動かない方がいいよ」
 小萩をこの家に縫い止めるための嘘。
「脚が治るまで、ここにいなさい」
 親切めかした欲深い言葉。

 小萩は、妻とは違う。それは分かっていた。いや、分かっていないのかもしれない。
 にこにことよく笑い、弾むようによく喋った“小萩”とは違う。小萩はあまり表情豊かとは言えないし、喋るときもぽつりぽつりと呟くように喋る。
 それでも、妻によく似た唇が己の名を呼ぶ度に、言いようのない至福を覚えてしまう。

 空になった腕と匙を受け取る。まだ熱が残っているのだろうか。触れた手が熱い。

「そういえば、小萩はいくつなの?」

 熱に潤んだ視線に耐えられず、そう話題を振る。小萩は掠れた声で「十八、です」と答えた。
 意外であった。嫁入りしたときの妻よりも幼いものだとばかり思っていた。
 取り立てて童顔であるわけではない。華奢な顎が、細い頸が、肉の薄い体つきが、小萩を年齢よりもずっと幼く見せていた。

「そうなの?もっと年下……私の子供くらいの年かと思っていたよ」

 まあ、子供はいないんだけどね。と笑う。子供、と言ったのは自分が小萩に害を与える人間ではないことを殊更強調するためだった。

「子供……」
 小萩が呟く。黒い瞳がきょとんとした風に京介を見上げた。
 京介はその頭を撫でる。
「そう。だから、安心して」
 白々しくも、そんなことを言う。小萩の裸体に欲情し、あまつさえその寝顔を眺めながら自慰に耽ったことを知ったら、小萩はどんな顔をするだろうか。
331無題三:2009/06/06(土) 20:23:19 ID:GYCzt/JE


 取り留めのない話を二、三しているうちに――もっとも、ほとんど京介が一人で喋っていたのだが――朱々としていた夕日も沈んでいた。
 酔漢の罵声とまだ冷たい春の宵の風が室内に流れ込む。どちらもまだ熱のある小萩の体にはよくないだろうと雨戸を閉めた。
 急に静まり返った室内にいたたまれず、京介は部屋を去ろうとした。
 自分の布団は小萩が使っている。湿っぽい布団を引っ張り出したはいいが、結局昨夜は興奮から眠れずに夜の街をふらふらしていた。
 さて、今晩はどうしたものかと思案する京介の足取りが止まった。
 布団から伸ばされた小萩の手が、京介の着物の裾を掴む。突然のことに返す言葉も思いつかない。

「ここに、いて欲しいです」

 熱っぽい小萩の瞳が不安そうに揺らぐ。
 熱があるといやに心細くなるのに京介は身に覚えがあったので京介は「分かった」と返事をした。
(そういえば“小萩”も風邪をひくといやに甘えてきたっけ)

 部屋の文机の前の座布団に腰掛け、ここにいるからねと声をかける。小萩は枕に頭をこすりつけるように首を振った。

「もっと、近くがいい」
 京介は布団のすぐ横まで座布団を移動させる。

「やだ、もっと」
 小萩の手が、京介の袖を握る。促されるままに、小萩の枕元に座る。

「もっと」
 ほとんど膝が小萩の頬に触れそうな位置にも関わらず、駄々をこねる幼子のように首を振る。
 困り果てた京介の手を、小萩の熱い手が引っ張った。

「うわ!」
 声と共にどさりと布団の上に転ぶ。小萩はごそごそと身動きしながら、横たわる京介の体に布団を被せた。
 小萩の小さな熱っぽい体が、京介の胸に額を付けて丸くなる。

「ちょ、ちょっと……小萩?」
 慌てふためき問い掛けるも返事はない。寝ているのかと思えば、宵闇よりなお黒い目がこちらを見つめていた。

「眠い……の」
 小萩はぽつんと呟き、京介の胸に頬を寄せる。

「うん、おやすみ」
 その体は“小萩”よりもずっと小さくて、“小萩”とは違う香りがした。
332無題三:2009/06/06(土) 20:24:24 ID:GYCzt/JE
投下終了
333名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 20:35:09 ID:zjkgtxaS
GJ!
334名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 20:47:53 ID:WclMPqIj
投下速度早いな!
GJ!
335名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 22:01:22 ID:uq6H5SS4
GJなんだぜ
336名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 22:48:51 ID:NbHvGZU6
GJです!
337名無しさん@ピンキー:2009/06/07(日) 00:36:33 ID:KQD7OKZX
これはGJ!
338名無しさん@ピンキー:2009/06/07(日) 00:37:43 ID:ddrS0N6Y
GJ
作品名がないのが惜しい
339無題四:2009/06/07(日) 12:33:12 ID:ujIKCbLc
作品名は考えておきます。
投下します。
340無題四:2009/06/07(日) 12:33:39 ID:ujIKCbLc
「子供くらいの年」と言われて、小萩は少しだけむっとした。
 何故、むっとしたのかは自分でもよくわからない。京介と自分が親子程とは言わなくても年が離れているのは事実であるのに、そう言われたのは甚だ不愉快であった。
 今日の天気はどうだったとか、粥の出来がどうだったとか、どうでもいいことを話している京介そっちのけで物思いに耽る。
 小萩には父親の記憶がない。物心がついた頃には、酒乱気味の母親しかいなかった。父親は知らないが、男は知っている。小萩は子供がどのように父親に接するのかよく分からない。
 性交渉以外で男と接し、喜ばせる方法を知らなかった。

(私はどうすればいいんだろう)
 あまりに真剣に考えすぎて、室内に沈黙がおりていることにも気がつかなかった。気まずげに部屋を去ろうとする京介の着物の裾を、とっさに掴んでしまう。
 京介は目を丸くしたが、小萩はそれ以上に自分の行動に困惑していた。苦し紛れにここに居てほしいと頼んだが、あながちそれは間違いではなかったようで不思議と落ち着いた。
 寝床に臥した女がここに居てほしいと言うのに、離れた位置に座る朴念仁ぶりも嫌いではない。
(ああ、子供扱いされているからか)
 そう思うと急に不愉快になって、小萩は京介を布団に引き込んだ。そのまま京介に体を貪られても構わなかった。もとよりそのつもりで来たのであったし、子供云々と言われるよりは、しゃぶれと言われた方が余程分かりやすい。

 しかし、予想――或いは願望といった方が適切かもしれない――に反して、京介は縋る小萩の背をとんとんと軽くさすって、おやすみと囁いた。
(もう、いいや)
 男の胸の中は心地よくて、何もかもがどうでも良くなる。京介の胸に頬を寄せて、小萩は静かに眠りについた。


 夜中に目が醒めた。もう熱も下がっているのだろう。いやにすっきりとした頭を軽く振る。妙に息苦しいと思うと、肩の上に京介の腕が乗っていた。丁度、夫婦か恋人のように抱き寄せられているのに気付いて、熱は下がったはずの頬が熱くなる。
 腕を振り払うかどうか悩んで京介の顔を見上げた。規則的な深い寝息に、起こすのは不憫だと思いそれは諦める。代わりに寝顔をじいと見つめた。
 起こさないように細心の注意を払い、京介の顔に手を伸ばす。暗闇の中で形を確かめるように、頬に掌を沿わせる。ぺたぺたと勝手に触り、その唇に触れた。
(口付けて、みようか)
 そろそろと出来る範囲で上体を上げ、頸を伸ばす。吐息を感じられる距離まで顔を近付けた。
(あと、少し……)
 唇に熱を感じられる距離まで近づくと、京介は首をすくめて呻き声をあげる。起きたのかとぎょっとしたが、ただの寝相らしかった。
 なんだか気が削がれてしまって、小萩は溜め息をつき再び京介の腕の中で丸くなる。
 意外に広い胸に体を寄せて脚に自分の脚を絡ませた。京介が眠っているのをいいことに、その背に腕を回す。胸に顔を押し付けて、京介の匂いを胸一杯に吸い込んだ。
 嗅ぎなれた雄の匂いより柔らかい男性の匂い。取り憑かれたように二三度深く息を吸って、自分の行動の虚しさに気が付く。
(……寝よう)
 背に回した腕も絡ませた脚もほどき、冴えた頭を無理矢理寝かしつけた。

341無題四:2009/06/07(日) 12:34:00 ID:ujIKCbLc


 瞼の向こうから光を感じて、小萩はゆるゆると目を開けた。強い光にぼやけた視界が徐々に輪郭を露わにしていく。
「おはよう」
 頭の上で声がして、視線をあげると京介と目があった。

「おはよう……ございます」
 寝起きの声は舌足らずだが、なんとか意味のある言葉に出来た。そして、そのまま黙り込んでしまう。
 こういう時にはどうやって反応すればよいのだろうか。京介を布団の中に引き込んだのは自分ではあるのだが、起きたときのことまでは考えていなかった。
 常であれば一人で目覚めることの多い小萩である。肘を立てて頭を支えこちらを見ている京介に、どう声をかけたらいいのか分からない。

「おはようございます」

 結局無意味にもう一度そう言うと京介は優しげに目を細めた。
「うん、おはよう」
 とんとんと小萩の頭を撫で、京介は布団を抜け出す。掛け布団と敷き布団の間に冷たい風が流れこむ。ぽかりと開いたその空間が、ひどく寂しかった。
 京介は皺の寄ってしまった着物をあちこち引っ張ったり持ち上げたりしていたが、結局さらによれよれになるに終わったようだ。
 表から人の呼び声が聞こえる。京介は表の方とよれよれの着物とを数度見比べ、小萩に苦笑を見せた。
 布団の間から、小萩は少しだけ笑い返す。
 はい、少々お待ちください!と慌ただしく表に向かう後ろ姿を見送り、小萩も布団から抜け出す。寝乱れ肌蹴た浴衣を着直そうと一度ほどいた。
 起伏に乏しい自身の体を見下ろし、ふうと溜め息をつく。
(子供、か……)
 いくら豊かではない胸とはいえ、肌蹴た胸元を見てもあの男はどうとも思わなかったのだろうか。
「……ん」
 乳房を優しく拭かれた感触を思い出し、薄い胸に指を這わせる。何かが違う。あの男の骨ばった大きな手が恋しい。
 小萩はもう一度溜め息をつき、手早く前を合わせて帯を締めた。

 京介の文机に乗せられた数枚の紙を手に取る。京介が書いたものだろうか。半分は理解できないそれに目を通し、結局途中で放り投げた。文机の上に戻して文鎮で押さえる。
 読み書きが不得手であるのを心から悔いたのは、これが初めてだった。
342無題四:2009/06/07(日) 12:34:45 ID:ujIKCbLc
投下終了
343名無しさん@ピンキー:2009/06/07(日) 12:51:30 ID:KtIVv+sK
一番槍GJ!
これからの展開がすげぇ楽しみだ・・
344名無しさん@ピンキー:2009/06/07(日) 13:10:20 ID:xvwwlnmg
二番槍GJ!!やばい、かなりいい!続きが楽しみです!
345名無しさん@ピンキー:2009/06/07(日) 16:20:31 ID:ddrS0N6Y
三番槍GJ
いいね。楽しみ楽しみ
346名無しさん@ピンキー:2009/06/07(日) 16:26:55 ID:3XfbMz3X
GJ!
可愛い……!
347名無しさん@ピンキー:2009/06/07(日) 20:23:33 ID:mcN8RmNL
gj
共依存もいいね
348無題五:2009/06/08(月) 19:38:53 ID:6OelZzn6
題名未だ決まらず。
一人でこんなに消費していいものか。
とりあえず投下します。
349無題五:2009/06/08(月) 19:39:13 ID:6OelZzn6
 雨戸の向こうの喧騒と雀の鳴き声で目が覚める。妻が亡くなって以来、こんなに清々しい朝は初めてであった。
 相変わらず胸の中で丸くなっている小萩に笑みが零れる。額にかかる前髪を払い掌をあてるともう熱はひいたようであった。
 これで、左脚に巻かれた布切れだけが京介と小萩を繋ぐものになる。いつまで騙せるだろうか。脚を動かしにくいように関節に厚手の布を巻いたとはいえ、そうそう長くもつものではない。
(いっそのこと、本当に怪我でもさせてしまおうか)
 視界の端に、大きな花瓶が映る。父が大切にしていた花瓶を京介は気に入っていて、店の物を殆ど売ってしまってもこれだけはのこしていた。重量感のある、青銅色のそれを見つめる。
(駄目だ)
 そんなのは、非人道的だ。思い、それから自嘲する。何を今更、既に人道に悖っているではないか。
 少女に妻の面影を重ね、性欲の捌け口にするなど、獣にも劣る所行だ。いや、或いは人間だから、なのだろうが。

 京介は小萩の頭を数度撫でる。静かな寝息をたてる顔を見つめた。
 見れば見るほど似ている。色白な肌、どこか眠たげな目、細く通った鼻梁、形良い唇。白い頬に指を滑らせると、指先は顎を伝い首筋へ達した。
 華奢な鎖骨がかすかな寝息とともに僅かに動いている。
 細身の小萩には、肉付きの良い“小萩”の浴衣はどうしても余るようで、何度直しても胸元が肌蹴てしまう。寝乱れた胸元は既に大きく開いて、本来の役割を果たしてはいない。
 なだらかな白い膨らみと、その頂さえ垣間見えそうなあやうさ。決して豊満とは言えないその膨らみが、ふにふにと吸い付くような柔らかさを持っているのを京介は知っていた。

 ん、と小萩が小さく声を漏らす。黒い睫毛が震えて、徐々に持ち上がっていく。
 黒い瞳が虚ろに虚空をさ迷う。その焦点があう頃を見計らって、京介は「おはよう」と声をかけた。
 小萩の体がびくりと跳ね上がり、瞳をくるりと丸くして京介を見上げた。
「おはよう……ございます」
 いまだに現状が掴めないのか、目を白黒させている小萩の観察を続ける。ひとしきり瞳が揺れ動くと、小萩は困惑しながら再び「おはようございます」と挨拶をした。
 それにもう一度おはようと答え、京介は布団を抜け出す。小萩に布団へ引っ張り込まれ、着替えることなく眠ってしまった着物は見事なまでにぐしゃぐしゃである。あちこち手直ししてみるが、どうにも上手くいかない。
 そうこうしている間に、表から自分を呼ぶ声が聞こえた。お世話になっている版元の人間が訪ねることを、京介はすっかり失念していたのだ。
 京介は自分の着物と表の方を見比べ、ぐしゃぐしゃの着物で出迎えるのと、待たせるのはどちらが失礼だろうかと思案する。
(どうせ、普段から上等な格好をしているわけでもあるまいに)
 小萩に苦笑を見せて、半ば自棄で表へ向かう。小萩が笑みを返してくれたのが嬉しかった。


350無題五:2009/06/08(月) 19:39:47 ID:6OelZzn6
 版元の藤堂左右衛門は、慌ただしく出てきた京介を見てふんと鼻を鳴らした。
「流石流行作家の山本殿は違う。こんなお日様は高いってのに朝寝かい。さぞお綺麗な女人をはべらせとるんでしょうな」
 五十がらみのこの男は、何にせよ皮肉を言わねば気が済まない。それは分かっているのに、心臓が跳ねたような気分になる。
「からかわないでくださいよ」
 あがりますか、と問うと左右衛門は首を振る。
「手短に済ませるよ」
 細い目でじろりと京介をねめつけ、今月の分は終わったかい。と問う。
 今月の分、とは藤堂のところで出版させて貰っている子供向けの読み本のことだ。
 一人の少年が七つ全て集めると願いの叶う竜玉を集める冒険譚で、京介としてはなかなか面白い話だと思ったのだが、時流が悪いのか筆が悪いのかいまいち評判はぱっとしない。
 それでも今はこれで食いつなげるのでましな方ではある。

「ああ少々お待ちください」
 ばたばたと自室に向かい、文机の上の紙の束を掴んで駆け戻る。小萩が何か言いかけた気がしたが、ごめん後でねとすれ違いざまに答えて走り去った。
 紙に目を通し、左右衛門は、うん?と白髪混じりの眉をあげる。
「あんた、これ変だよ」
 紙をばさばささせながら左右衛門は言う。京介はその手元を覗き込んだ。
「おや……」
 話が飛んでいる。紙が二三枚足りないのだ。ちょっと探してきますと言いかけた京介の肩を、誰かがとんと叩いた。
 振り返ると、小萩であった。家の中には小萩しかいないので当たり前といえば当たり前である。
「京介さん、あの、これ」
 手に提げられているのは、原稿の一部であった。
「ごめんなさい。私、勝手に場所を動かしてて……」
 京介は原稿を受け取り笑みを返す。
「いや、確認していなかった私も悪いのだから」
 もしや自慰の始末に使ってしまったのではないか、と冷や汗をかいたのは心の奥にしまい込む。
「すぐに戻るから、中で待っていなさい」
 何しろ寝間着姿である。色々と差し障りがあろう。はいと頷きひょこひょこと脚を引きずりながら奥へ戻る小萩を見送り左右衛門の方を振り向くと、左右衛門は皺に埋もれた細い目をぽかんと見開いていた。
「驚いた。まさか本当に女人をはべらせとったとは」
 いやはや、類い希な朴念仁だと思っていたのに、あんたも男だったんだな。と感心したように腕を組む左右衛門に、京介は両手を胸の前で振った。
「そんなんじゃありませんよ。最近、面倒を見ている娘でして……」
 左右衛門はにやにやと京介を見て、ふぅんと鼻を鳴らした。煙管の煙をふうと京介に吹き付ける。
「それにしよう」
「はあ……何がですか」
 左右衛門は皺指を立てて得意気に胸を張った。
「妻を亡くしてからとんと女にゃ縁のない一人の朴念仁のもとに、突然現れた一人の美少女」
「……はあ」
「少女はどこかあどけなさの残る美貌に、艶冶な表情を浮かべて男を魅了する」
「はあ、艶冶な……へっ!?」
「亡き妻の思い出と少女の淫靡な誘いとの間での男の葛藤!少女は時に可愛らしく、時に艶っぽく、そして淫らに!」
「みっ、みだ……」
 実はこの男、人の心を読める妖怪なのではないだろうか。左右衛門は妻に会ったことがないので、小萩が“小萩”に瓜二つであることは知らないのだ。
「どうだい?いい線行くと思うんだがね」
 左右衛門は一息に言い切ると、美味そうに煙管を吸った。
「いやあ、それはちょっと」
 あまり、気乗りする話ではなかった。艶っぽい文章など書けないし、何より今の自分の状況を的確に表現しすぎているような気がした。
「意外といけるだろ。あんたの文章、ねちっこいからな」
 だから子供に受けないんだよ、と左右衛門は皮肉っぽく笑った。
「しかし、連載中の……“竜玉七星伝説”はどうするのですか」
「拙者達の冒険は未だ始まったばかりにて候、だな」
「またですか」
 そうころころ趣旨を変えるから売れないのではないか、とは結局言えなかった。

351無題五:2009/06/08(月) 19:40:48 ID:6OelZzn6
投下終了
352名無しさん@ピンキー:2009/06/08(月) 19:53:55 ID:f0iuhbxV
打ち切り吹いたww
GJ!
353名無しさん@ピンキー:2009/06/08(月) 20:01:22 ID:j3iLKe/i
文学的なところにさり気なく入るネタ、実にGJでした!
354名無しさん@ピンキー:2009/06/08(月) 20:59:49 ID:fc4iIyK8
意外とお茶目なのなw
GJです!
355名無しさん@ピンキー:2009/06/08(月) 21:20:04 ID:vbEYpwSZ
男坂は昔からあったのだなwwww
356名無しさん@ピンキー:2009/06/08(月) 22:16:44 ID:95gXRRod
>>350
GJ!
ドラゴンボール吹いたww
357名無しさん@ピンキー:2009/06/08(月) 23:40:33 ID:CaxOpNTE
時流を先取りしすぎたのですね分かります
358名無しさん@ピンキー:2009/06/09(火) 11:29:54 ID:Ft1wkTde
描写が細やかで引き込まれるッ
つづきが楽しみっス!!
359無題六:2009/06/10(水) 01:09:55 ID:uSrCLhIa
一話には短いから繋げたら微妙に長くなってしまった。
投下します。
360無題六:2009/06/10(水) 01:10:21 ID:uSrCLhIa
 京介に拾われてから、もう数日が経った。小萩は、未だに子供らしく京介に接する方法が分からないでいる。
 京介がそれを望んでいるのならば、それに沿いたい。自分が京介を必要としているから、京介にも自分を必要として欲しいのは我が儘なのだろうか。
 はあ、と息を吐いて脚をぶらつかせる。縁側に腰掛け、低い生け垣の向こうの往来を見渡した。
 小萩はこの街が好きだ。人と物で溢れかえり、混沌として埃っぽい街。人々は一人一人が生きるために必死なのだが、こうして傍から眺めてみれば、それはまるで街一つが大きな生き物のようだ。
 一応怪我人としてここに置いて貰っているのだから、外に出るわけにはいかない。そうであるから小萩はよくここに腰掛けて外を見ていた。
「父ちゃん!」
 聞こえた甲高いその声に思わず反応してしまう。頸を伸ばし目を細めて生け垣の向こうを伺うと、五六歳の少女が若い男に走り寄っていた。
「おかえり、父ちゃん!」
 少女は満面の笑みで男に走り寄り、腰の辺りに飛び付く。しがみついたのを窘められるように頭を撫でられ、手を引かれて去っていく少女の後ろ姿に、小萩は見入っていた。
(父ちゃんと呼んでみればいいのだろうか)
 ふと考えて、私は馬鹿かと短く鼻を鳴らす。そもそも京介は父親ではない。
(満面の笑顔で走り寄るか)
 私に出来るか。自慢ではないが、小さい頃から可愛げも愛想もない糞餓鬼と言われ続けてきた。自覚は、ある。
(おかえりなさいと抱きついてみるか)
 それこそ恥ずかしすぎて死んでしまう。帰宅した京介におかえりなさいと言うだけでも相当な心の準備が必要だというのに。そういう、一般的にはごく普通の行為が小萩にはこそばゆかった。
 縁側に上半身を投げ出し、空を見上げる。脚をぷらぷらと遊ばせた。
 筋をいためていたと言われた左脚も、もう特に不具合は感じない。思えば、最初から痛みなどはなかった。
 もともと小萩は体が丈夫な方で、怪我も治りは早い。それが今は恨めしい。
 (縁側から落ちて、骨折でもしてみようか)
 それほど高さが無いとはいえ、当たりどころが悪ければ骨折位はするだろう。骨折ならば、完治するには時間がかかる。それだけ、京介と長く居られる。
 馬鹿みたいだ、と小萩は縁側に寝そべる。きらきらとした陽光が目に痛い。
361無題六:2009/06/10(水) 01:10:48 ID:uSrCLhIa

「ただいま」
 頭上の板がぎしりと軋む。強い光に眩んだ目が、男の人影を映した。
 小萩は少しの間口を噤み、それから零すように「おかえりなさい」と返す。人影は笑うように揺れて、しゃがみ込む。
「いつも外を見ているね」
 京介の言葉に小萩は首を傾げる。その小萩の様子を見て、京介はふうと笑った。
「赫夜姫みたいだ」
 かぐやひめ?と小萩は返す。竹取物語を知らないの?と京介は少し驚いたように目を見開いた。
 小萩は記憶を探る。寺子屋の前で遊ぶ子供がそんな話をしているのを立ち聞きしたことがある。
「……竹の中に入っていた子供が月に行く話ですか」
 京介は困ったように眉尻を下げた。
「うん、間違ってはいないんだけど」
 でも何か違うというか、主題はそこではないというか。とぶつぶつ呟く京介の着物の裾を引っ張る。体を持ち上げ再び縁側に腰掛け、京介にも腰掛けるように促した。
「どういう話ですか」
 京介は優しげに目を細める。小萩の隣に腰掛けて、今は昔、竹取の翁というものなんありけり。と語り始める。
 小萩は淀みなく動く唇を見つめていた。本当はそんな御伽噺に興味は無かったのだが、じっと聞き入る。そうしていれば京介の一部が自身に注ぎ込まれるような気がした。
「ねえ、聞いたことくらいはあるでしょう?」
 一字一句聞き漏らすまいとしていた小萩に京介は問い掛ける。小萩は曖昧に首を振った。
 赫夜姫みたいだ、といった理由は分かった。月を見ては涙する赫夜姫を往来を眺め続ける自分になぞらえたのだろう。
「赫夜姫は、結局何がしたかったのですか」
 小萩は京介に問う。
「結局誰のことも、その……愛してはいなかったのですか」
 京介は面食らったように目を瞬かせた。
「いえ、なんでもありません」
「愛していたのかもしれないね」
 京介の言葉に小萩は一度伏せた顔をあげた。京介は続ける。
「それでも、彼女は帰らなければならなかったんだよ」
 小萩は眉をひそめる。それでも、と着物の膝を握り締めた。
「それでも、物語位はめでたしめでたしで終わればいいのに」
 そうだね、とどこか苦しげに笑って京介は立ち上がる。つきん、と胸が痛んだような気がした。
 赫夜姫には帰る場所があったが、小萩にはそれがない。小萩には京介しかいない。
 気が付けば、京介の背に額をつけて胸に腕を回していた。
「小萩?」
 戸惑うように振り返ろうとする京介の背にしがみつく。今、京介の顔を見たらきっと醜く泣いてしまう。
「おかえりなさい」
 震える声でそれだけ言うと、京介は「ただいま」と小さく返事をした。
362名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 01:11:16 ID:2Wzk97GQ
リアルタイム祭り支援
363無題六:2009/06/10(水) 01:11:15 ID:uSrCLhIa
******


 雑踏をすり抜け、京介は自宅を目指していた。
 先日左右衛門に提案された物語は、早速行き詰まった。行き詰まるどころか、始まってすらいない。
 一応書いてはいるのだが、なかなか左右衛門のお眼鏡に叶うような作品が書けないでいる。曰わく、登場人物に魅力がない。曰わく、情景描写に荒々しさが目立つ。曰わく、勢いが感じられない。
 左右衛門なりにこの話は気に入っているようで、注文が細かいのだ。その割になんとも感覚的な注文で、京介はほとほと困り果てていた。
 だったらおまえが書けばいいだろ、とは思いつつ雇われる側としては唯々諾々と受け入れるしかない。
 今月で連載も終了してしまう。そうしたならば、京介は収入を失うのだ。流石にそれはまずい。
 京介ははあと息をついた。
「おっと、すみません」
 擦れ違う男と肩がぶつかる。会釈を返して足早に去る男を見送り、京介はもう一度息をついた。
 京介はこの街が嫌いである。嫌い、というのは語弊があろうか。人々が皆汗を流して日々を必死に生きる中、両親の遺した財産と半ば趣味のような書き物だけで生きている自分。ひどく、肩身が狭かった。

 ただいま、と戸をくぐるも返事はない。今まではそれが普通であったが、今は小萩がいるはずだ。
 しん、と静かな屋内に京介は背筋が凍った。
 まさか、いなくなってしまったのだろうか。と荷物も何も放り出して家の中を回る。縁側に寝そべる小萩を見つけて、安心のあまり倒れそうになった。
「ただいま」
 言うと、小萩もおかえりなさいと少しだけ視線をあげる。眈々と往来を見ていた小萩の様子に、小萩がその雑踏の中に溶け消えてしまうような気がして不安になった。
「いつも外を見ているね」
 極力穏やかにそう言うと、小萩は首を傾げた。その思わせぶりな態度にますます不安がつのる。
「赫夜姫みたいだ」
 小萩も散々京介の心を乱して、いなくなってしまうのだろうか。
 竹取物語を知らないと言う小萩が、話をしてくれとねだる。そういえば“小萩”もよく寝物語をねだったっけ、と懐かしんだ。京介の売れない戯作の元となったのは、眠る前に“小萩”に語った寝物語である。
 語りながら、京介は瞑目した。小萩が赫夜姫ならば私はなんであろうか。偽りでもって赫夜姫を手中に収めんとする五人の貴公子か。赫夜姫の周りを右往左往するばかりのさぬきのみやつこか。
 気が付けば口から漏れ出ていた物語は終末を迎えていた。無理矢理笑顔を取り繕って、聞いたこと位はあるだろうと訊ねると、小萩は肯定とも否定とも取れる曖昧な返答をよこす。
 小萩は「赫夜姫は結局誰を愛していたのか」と問う。
 それは、京介にもよく分からなかった。帝であるのかもしれない。しかし、京介はふと「華やかな物語に出てこない、地味な男を愛していればいいのに」と思った。
(例えば、自分のような)
 思ってから、馬鹿馬鹿しいと小さく頭を振る。京介には五人の貴公子な帝のように、全てを投げ打って小萩を求めるだけの度量はない。
 妻の幻影と朽ちかけた店に、いつまでもしがみついている。
 物語は大抵めでたしめでたしで終わるが、現実はそうもいかないものだ。仮にめでたしで終わったとしても、そこから先には何が待ち受けているか誰にも分からない。
 京介にとっては妻との結婚がめでたしめでたしで、その先には妻の死が待っていた。

 巡る灰色の思考とともに立ち上がると、背中に小さな衝撃を感じる。しばらくして、小萩の小柄な体に背後から抱きすくめられているのに気がついた。
 震える指が、京介の着物の胸元を握り締める。
「おかえりなさい」
 小萩はぽつり、とそう言った。

364無題六:2009/06/10(水) 01:13:08 ID:uSrCLhIa
投下終了。
365名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 01:18:30 ID:2Wzk97GQ
一番乗り、56歳の少女GJ!!
二人の想いが交わるときが楽しみです
366名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 01:43:09 ID:xbcebNff
小萩可愛い
可愛いよ小萩
何かしっとりとした雰囲気で癒されるよ
367名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 03:49:19 ID:rzw5/ghM
うおお、GJ!
どんどん子萩が可愛くなるなw
368名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 04:07:53 ID:Oh7c2P46
なにこの純愛ラブロマンス。期待せざるをえないじゃないか!

ぐっ、GJだなんて言わないんだからねっ!
369名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 15:35:22 ID:FTA08OKb
続き書くのやめた
370無題七:2009/06/10(水) 19:41:22 ID:uSrCLhIa
投下します。
371無題七:2009/06/10(水) 19:42:12 ID:uSrCLhIa
 京介に拾われてはや二週間。季節は徐々に移り変わりを見せはじめ、じとりと汗ばむような日が続いていた。
 小萩は左脚に巻かれた布に手をやる。折り込んだ端からするするとほどいていく。
 いつもは京介に巻きなおしてもらっていたから、一人でほどくのは初めてであった。布を全て取り去ると、小萩はその場で立ち上がった。左脚には痛みも違和感もない。
(治ってしまった)
 へたり込みそうになるのをぐっとこらえる。
 京介に言おうか黙っていようか、考えた。黙っていれば、一日や二日は長く一緒に居られよう。
(その後はどうなる)
 やはり、小萩はここを去らねばならなくなる。また、道行く人の懐から財布をかすめ、名も知らぬ男に抱かれて、一人で生きていかなければならない。
 京介が自分の名を呼ぶ声を思い出す。その優しい声音に息を詰まらせた。それに慣れてしまった小萩は、もはや一人ぼっちで生きることに耐えられなかった。小萩は自虐的に唇を歪める。
(贅沢な体になったものだ)
 深い暗闇でずっと一人であったならばよかったのに、京介に光を与えられてしまった。自分が盲目ではないことに気が付いてしまった。暗闇を這いずっていれば、小萩はずっと自分は盲目だと信じて疑わなかっただろう。きっと、それはそれで幸せだったのだ。
 しかし光を知り、目に気付いた自分はもはや暗闇で生きることは叶わない。光の記憶を持ったまま、暗闇に落ちるのは怖い。
 両の足を踏みしめながら表へ出てみると、どんよりとした曇り空が広がっていた。湿り気を帯びた温い風が頬を撫でる。着物の裾が湿っぽく脚にまとわりついてきて気持ちが悪かった。
 かつては大店の暖簾がかかっていたという出入り口は既に面影すらない。小萩は黒く汚れた柱をするりと指でなぞる。
 向こうに、京介の姿を見つけた。見知らぬ綺麗な女性と話をしていて、胸が締め付けられたように痛んだ。
 小萩にとっては、京介は唯一無二である。しかし京介にとって、小萩は多数の知り合いの中の一人でしかないのだろう。小萩が居なくても、京介の生活には何の支障もない。
 そんなことは最初から分かっていたはずなのに、やりきれない気持ちになった。
 話し込んでいた様子の京介が、小萩に気が付いて視線を向ける。その後、女性と二言三言交わすとこちらへ足を向けてきた。とっさに逃げてしまいそうになるのを必死で我慢して小萩は竦んだように立つ。
「ただいま」
 京介はいつものように小萩に声をかけた。
「おかえりなさい」
 小萩は京介の着物の袖を握る。そうしていないと、頭がぐらぐらとして倒れてしまいそうだった。
 ぽつりぽつりと頬を水が伝う。もしかして、泣いてしまったのだろうかと頬に手をやる。
「中に入ろうか。雨が降ってきた」
 京介の言葉に杞憂を自嘲し空を仰ぐ。どろりとした雲が耐えきれなくなったかのように雨粒をこぼしていた。
372無題七:2009/06/10(水) 19:42:41 ID:uSrCLhIa

 にわかに強くなる雨足に、家の雨戸を閉めてまわる。まわると言っても大きいのは建物ばかりで、実際使っているのは一部の部屋ばかりであるからほとんどの雨戸は閉めっぱなしだ。
 薄暗い室内で、紙を文机に広げている京介の背後に、足音を忍ばせて近づく。
「京介さん」
 京介は肩を跳ね上がらせて驚き、筆を取り落とした。紙にじわじわと墨が滲む。
「あ、ごめんなさい」
 転がり落ちようとする筆を拾おうと文机に近寄ると、京介は隠すように文机の上の紙を纏める。
「ううん、大丈夫だよ。ああ、雨戸閉めてくれてありがとう」
 なんとなく、その挙動に違和感を感じた。
「京介さん、あの」
 首を傾げ、どうしたのと目で問う京介に小萩は俯きがちに言葉を紡ぐ。
「あの……、足、治りました」
 京介はそう、と一瞬目を伏せた。それから「それは良かった」と笑う。
 小萩は京介と視線を合わせるように膝をつき、京介の首に腕を回す。
「小萩?」
 困惑したように、しかし確かに自身の名を呼ぶその唇に唇を重ねた。
 口内に舌を差し入れ、上顎を舐め、歯列をなぞる。ぴちゃぴちゃと音をたてて唾液吸い上げる。
「……ぷは」
 我を忘れて危うく酸欠になりかけた。呆然とする京介の口の端を垂れる、どちらのものとも知れない唾液を舌でざらりと舐めあげる。
 何か言いかけた京介の口を塞ぐように、もう一度唇を重ねた。唇を食み、舌を弄ぶ。
 どうせ、いずれはここを去らねばならない。大人しくいなくなるくらいなら、嫌われてもいいから、より近く京介を感じたかった。
 「女にはここぞって決断しなきゃないときがあンのよ」と、十ばかりの小萩を置いて男を追った母に、いい印象は持っていない。生きているか死んでいるかも知らないし興味もない。
 しかし言葉の意味だけは、やっと分かった気がした。
 京介の着物の間に手を忍ばせ、下着の上から陰茎をさする。既に僅かな熱を持ち膨らみはじめたそれに、小さく笑みを零した。
「……小萩っ!」
 咎めるように名を呼ぶ京介にも笑ってみせる。
「嫌なら、振り払ってもいいですよ」
 男ならば容易には逆らえない性欲を質にとった狡い言葉だ。案の定、京介は言葉に詰まる。
 京介の耳朶を食み、左手で帯を緩めながら右手は陰茎をさすり続ける。布の上から形を確かめるように、指先でなぞった。
 京介の荒い息を間近で聞きながら、小萩は下腹部がどんどん熱くなるのを感じる。脚の間が切なく疼く。
 京介のものを入れたら、きっとどうしようもなく幸せだ。欠けた何かを埋めるような幸福感を夢想し、小萩は内股を擦り合わせた。 布の下で張り詰めていく陰茎を意識させるように強く指先で押す。
「酷い男。女にこんなことまでさせるなんて」
 京介の耳元でくつくつと笑う。小萩は京介の望むようにはなれなかった。子供のようにと言われても理解できない。
 所詮、自分は女で京介は男だ。女の自分が、愛しい男の陰茎を体内に穿たれたいと願って何が悪い。
 着物を押さえていた帯を緩められ肌蹴た京介の胸元に唇をよせる。二三度口づけ、首筋に顔をうずめた。
「京介さんは私のことを子供のようだと言いましたけど、私は京介さんを父親のように思ったことはないです」
 首筋に何度も口づけながらそう告げる。
「だから、こんなことだって出来るんです」
 刺激をやわらげていた下着を片手で器用にほどいていく。緩んだ下着を熱り立つ陰茎が持ち上げた。
 右手で上下に扱き上げながら、固く立ち上がるそれの血管の一本まで記憶しようと見つめる。
「京介さん、好きです。大好き。本当は、ずっと一緒に居たかった」
 小萩は着物を緩めて脚を広げ、反り返る陰茎に跨り腰を下ろした。

373無題七:2009/06/10(水) 19:43:49 ID:uSrCLhIa
投下終了。
374名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 20:04:23 ID:FZjuLa7k
いやいやいや
ヤヴァイな・・・これは・・・
神GJ
375名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 21:38:48 ID:lF/bv65G
わわ、GJ!
376名無しさん@ピンキー:2009/06/11(木) 00:21:19 ID:Gq1071E4
GJです
さて、どうなるか・・・
377名無しさん@ピンキー:2009/06/11(木) 01:19:53 ID:3TygNQlT
京介がどうでるか……
GJです
378名無しさん@ピンキー:2009/06/11(木) 01:45:51 ID:ShuxCbZQ
グッジョブの嵐を贈りたい
379名無しさん@ピンキー:2009/06/11(木) 01:51:06 ID:qPoX6ozw
GJだけど、まとめて投下してほしい
380名無しさん@ピンキー:2009/06/11(木) 11:33:58 ID:qG4rWXtR
焦らし小出しも一つの粋、GJです!
381無題八:2009/06/11(木) 19:55:12 ID:mlkKpn0h
投下します
382無題八:2009/06/11(木) 19:55:50 ID:mlkKpn0h
 締め切った室内は蒸し暑く、小萩の匂いをより強く感じる。雨の音と小萩の吐息だけが京介の頭の中で反響した。
 自身を扱く小萩の手を見つめる。白く華奢な手が、赤黒い陰茎をいじるのを見て奇妙に恍惚とした気分になった。小萩の手は京介の手よりも的確に京介を昂ぶらせていく。背筋が快感にぞわぞわと痺れた。
 「酷い男」小萩の唇が弧を描く。その言葉に京介は一人笑う。
 そうだ、なんて酷い男だ。もはや、自分が小萩を欲しているのか“小萩”を欲しているのかすらよく分からなくなっている。
 なすがままに快感に身を任せて、京介はあげかけた手を下ろした。
 小萩はつうと目を細める。しゅる、と衣擦れの音とともに帯を落とした。小萩に貸し与えた“小萩”の帯が畳の上に落ち、小萩の白い胸元が露わになる。
 人形のような無表情で小萩は京介の顔を覗き込んだ。薄闇に浮かぶ白い顔が、人間離れして妖しく唇を開く。
「京介さん、好きです。大好き。本当は、ずっと一緒に居たかった」
 言って、小萩は京介の陰茎に手を添え、それを体内に埋め込む。細い頸がのけぞった。
「んう……」
 そこは内股に滴るほどに濡れてはいたが、小萩は眉を寄せる。
 ず、ず、と少しずつ京介を受け入れていく様を見つめていた。
 小萩が自分を必要とし、こうして欲してくれるのは嬉しい。しかし、何か騙しているような気がして目を伏せる。果たして、自分の思いは小萩に向かっているのか。
 やがて京介の陰茎は小萩の内部へ全て呑み込まれる。小萩は柔らかな内腿を京介にこすりつけ、深く息を吐いた。
 京介は久しぶりの女の中の感触に酔いしれる。小萩の女陰はぬるぬるとして熱く、京介全体を締め上げてくる。
 小萩は数度迷うようにしてから手を京介の肩に置き、ゆっくりと腰を揺さぶり始めた。じわじわと上ってくる快感に京介は目を閉じる。
 艶っぽい吐息を京介の耳元に吐き、小萩はゆるゆると腰を揺らす。
「これで最後ですから。もう、我が儘言いません」
 迷惑もかけませんから、最後まで抱いてください。とねだる小萩の頭を撫でる。
 小萩が我が儘など言ったことがあっただろうか。小萩を迷惑だと思ったこともない。しかし自分は小萩を抱くに値する男なのだろうか。
383無題八:2009/06/11(木) 19:57:47 ID:mlkKpn0h
 小萩の腰の動きが徐々に早まる。溢れ出た液体が京介の下腹部を汚す。
 京介は小萩の腰を掴み、激しく小萩を突き上げた。突然の律動に小萩の喉が引きつる。
「やっ、あっ……!」
「やめる?」
 下からがくがくと突き上げられながら小萩は首を振る。
「や、めないで……」
 律動に合わせて小萩は声を漏らす。内臓をかき回されるような衝撃に腰をくねらせた。
 眼前でふるふると揺れる乳房の動きを十分に堪能してから、陰茎を抜き取る。ぬぷ、といやらしい音をたてて体内からいなくなったそれを目で追い、小萩は切なげに鼻を鳴らした。
「あん……、やだ、もっと」
 陰茎に触れようと伸ばされた小萩の指に指を絡ませる。困惑したような小萩の視線を無視して、京介は小萩の頭に手を伸ばす。
 頭の後ろで髪を纏めている髪飾りを抜き取ると、黒い髪がぱさりと小萩の肩を滑り落ちた。髪飾りを文机の上に置き、京介は体を反転させた。
 つい先程まで見下ろしていた京介に見下ろされ、小萩は目をくるりと丸くする。小萩が現状を把握するより早く、京介は小萩の脚を広げて一気に奥まで貫いた。
「ひあぁっ!!」
 悲鳴とも嬌声ともつかない鳴き声を発して、小萩は体を震わせる。激情のままに深く腰を打ちつけた。室内にパンパンという音が響く。
 小萩は頬を紅潮させて、目には涙を溜め、唇を噛みしめている。時折息を漏らす以外は、死んだようにされるがままであった。
「小萩」
 吐息混じりに名を呼ぶ。その途端に小萩の内部がびくりと痙攣した。
「ふっ……うあ……」
 投げ出されていた脚が京介の胴に絡みつく。腕を首に回してきた。噛みしめていた唇は快感に戦慄き、眦からはぽろぽろと涙が零れる。
「や、やだっ!!……あっ、一人はっ、いやな、の!」
 ぎゅう、と京介にしがみつき小萩は泣く。
「あ、あんっ!!京介さんと、一緒がいいっ!!ひゃうっ……」
 小萩の柔らかい肉は淫靡に蠢いて、京介を取り込もうとするように絡みつく。
「なん、でもするからぁっ、ひんっ、一人にしないでっ!!」
 京介の背に痛みが走る。小萩の爪が京介の背に赤く線を描いた。
「いいよっ、ここに居て」
 求めているのが小萩か“小萩”かは未だ判然としないが、一緒に居たいと言われてひどく幸福であった。答えながら、より奥へ侵入しようと陰茎を突き込む。京介ももはや限界が近い。
「小萩っ……」
「あ、あ、あっ、あんっ!やらぁっ、も、あうぅっ……!!」
 京介の胴を小萩の腿が強く挟み、ぶるぶると震えた。熱くとろけた肉は京介の陰茎を食い千切らんばかりに収縮する。
 物欲しげなその中に、京介は精液をぶちまけた。
「あ……あ……」
 体を痙攣させながら茫然と目を見開く小萩に「もしかして中に出してはいけなかったのだろうか」と後悔する。小萩は京介の憂いと裏腹に京介に強く抱きついた。京介は力の入っていない体を支えてやる。
「ひゃ……中、はじめて……中で……いったの……」
 気持ちいいよぅ、と泣き声にも似たような声を漏らす。京介はまだひくついている小萩の中から陰茎を引きずり出した。
 小萩はがくがくと萎えた膝で這うようにして京介の陰茎にまとわりつく体液を舌で舐めとりはじめた。
「ちょっ、いいよ!そんなことしなくて」
 焦る京介を無視して、小萩は射精したばかりの敏感な陰茎を刺激しすぎないように優しく舐める。
「家のこともお手伝いするし、ちゃんと……掃除もしますから、だから……」
 京介はぽんぽんと小萩の頭を撫でる。次いで、はあと嘆息すると小萩の瞳が不安そうに揺れた。
「いいよって、言っただろう」
 ぱっと小萩の表情が明るくなる。京介の腰に腕を回して半裸の腹に頬を寄せた。
「京介さん」
「どうしたの?」
「……大好き」
 京介はもう一度小萩の頭を撫でる。涙の跡の残る頬を親指の腹で拭ってやった。

384無題八:2009/06/11(木) 19:59:15 ID:mlkKpn0h
投下終了。
残念ながらまだ終わらない。
385名無しさん@ピンキー:2009/06/11(木) 20:01:34 ID:hjpWDmWL
一番槍GJ!
しかしここで終わらないとか言われるとなんだか怖いぜ
386名無しさん@ピンキー:2009/06/11(木) 21:52:15 ID:8sIgzbGE
>>384
GJ! 残念なんてとんでもない。ずっと続くがいいさ。
俺達は登り始めたばかりなんだ。この依存坂をな……!
387名無しさん@ピンキー:2009/06/11(木) 23:08:59 ID:4F+j9no5
いやいやいや
これで終わるのは早すぎる
388名無しさん@ピンキー:2009/06/11(木) 23:38:46 ID:aNwZo1oU
>>384
GJ!
これだからエロパロスレ巡りはやめられんぜ。
389名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 01:12:36 ID:UG+yzbpe
もうちょっとだけ続くのじゃと言っておいて長い間続いた漫画を俺は知ってるぞ

確かその漫画は一人の少年が七つ集めると願いが叶う竜玉を集めるという冒険の話だったんだが…まさかな
390名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 01:51:18 ID:FXMT0rIW
なんで少しずつ投下するの?
391名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 01:55:08 ID:BcU330hu
作者さんが楽しみを残してくれてるんだろ
392名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 13:25:08 ID:UG+yzbpe
毎日住民を楽しませようという作者の粋なサービス
もしくは作者がSで焦らしプレイ。Mは依存しやすく住民も依存好きなMが多いため
393名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 17:27:25 ID:uciLkizw
ちょっとずつでも、投下速度早いから嬉しい
394名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 20:17:20 ID:bapr8laq
>>392
ほう、依存好きなMと申されたか

例えば依存君が夫と赤ちゃんを失った若い未亡人の家に呼び出されてだな

依存「お邪魔します」
未亡「依存君、いらっしゃいまし」
玄関で挨拶を交わす。自分が小さい頃から隣に住んでいて憧れだった未亡さんと定期的に会う様になり
しばらく立つ。夫と赤ちゃんを事故で失い、ふさぎ込んでいた未亡さんを慰めて"奇妙な関係"になってから――
未亡「早く来て、依存君」
いつの間にかぼうっとしていた私をせかすように、私の手首をつかみ家の中に引っ張る。こんな関係は早く辞めるべきだ
と思いながらも逆らえない。カーテンを閉め切った居間に通され、未亡さんは正座をして太ももをぱんぱんと叩く。
依存「未だ……出るんですか?」
未亡「ええ、止まらなくて……」
目を伏せ答える未亡さん。夫と生んだばかりの幼い子供を失ったが、しかし未亡さんの母乳は止まることはなかった。
もう赤ちゃんは居ないにも係わらず母乳は止まらない、泣きながら母乳を搾っていた未亡さんが未だ脳裏に鮮明に残っている。
だから、未亡さんが「自分の指や器具では痛いからあなたが吸って」と非常に強く強引に迫られたときに断れなかった。
私は横になり、未亡さんの太ももに頭を乗せる。未亡さんは満足げに私を見つめると、上着をめくり上げると、豊満な胸が零れ落ちる。
最初に吸った時よりも二周りも大きくなった気がする。たしか結婚前には旦那さんが巨乳好きならどうしようと嘆いていた気が――
未亡さんは私の頭の下に手を入れると、そのまま持ち上げ自らの乳首へと口を誘導する。私は乳首を口に含むと、強く吸った。
未亡「ぁん!もう。あせらなくてもいいのよ。……もう一方も、ね」
未亡さんは私の手をもう片方の胸に誘導する。私は荒々しく乱暴に胸をこねくり回した。乳房が形を変えるたびに、乳首から
母乳が噴出し、未亡さんのあえぎ声が漏れる。乳首を舌で転がし、甘噛みし、指で強く絞るたびに、非常に濃厚かつおいしい母乳が
吹き出る。無論、こんな状況で私の股間が膨張していないはずが無い。最初はただ口で吸い出すだけだったが、欲に負けて軽く愛撫
をしてしまった。しかし未亡さんは嫌がることなく受け入れ、今はむさぼるようになっている。私は未亡さんの目を見る。非常に慈愛と性欲と愛欲と……
暗い闇に溢れた瞳と目が合う。未亡さんは狂ってしまっている。一度天涯孤独の身になり、無くなった旦那と再び家族をもち、もう一度
天涯孤独になった事は未亡の心を壊すのに十分だったろう。友人が皆無だった彼女にとって唯一旦那以外で親しかった私が、彼女のすべてに
なってしまった。それに付き合っている私もまた壊れているのかもしれない。
未亡の携帯が鳴る。
「はい、未亡です。――ええ、経過は順調よ。ええ、解ってる。用法容量は守ってるわ。――ちゃんと食生活には気をつけてるわよ。
じゃないと美味しいのがでないもの。――それでだけど、もっと出るようになるお薬は無いかしら?――あるなら出してよ!でないと依存君が
――いえ、なんでもないわ。とにかく、あるなら至急送って。いつも通りお金は――」
未亡さんが何か喋っているが耳に入ってこない。私は乳房から母乳を吸いだすのに夢中になっていた。逸物はぱんぱんで今にも
射精しそうだ。未亡さんはおしゃぶりに夢中な私を見て微笑むと、手を私の股間にもっていきズボンのジッパーを
(貴方を焦らすために省略されました。赤ちゃんプレイの続きを読むためにはわっふるわっふる)

た、たしかに焦らされるとくっ…くやしい…でも……感じちゃう!!ビクンビクン
395前スレの180:2009/06/12(金) 20:18:45 ID:bapr8laq
>>394
名前欄に入れ忘れた
でも私は謝らない
396名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 22:40:23 ID:kNwGVG6M
わっふるわっふる
397無題八:2009/06/12(金) 23:05:19 ID:/A2PQy1k
少しずつ投下するのは毎日少しずつ書いてるからです。
短く区切って書いたほうが書き込める、気がする。
長く考えると色々省略して萌シチュまでとばしてしまう。

まあ他の方の投下を待つ暇つぶしの新聞連載程度に思ってくだされば。
空気読まずにまた少しだけ投下。
398無題八:2009/06/12(金) 23:05:44 ID:/A2PQy1k
 小萩は幸せだった。多分、名前を貰った時と同じかそれ以上に幸せだった。
 掃除の手を止めて、小萩は一人小さく笑う。
 ここにいていい、と言われてどんなに小萩が嬉しかったか京介は分かっているだろうか。その喜びを上手く伝える言葉が選べず、小萩はひたすら京介のために家の仕事に精を出した。
 寂しい一人暮らしの身の上であったからその程度の仕事は苦にならない。むしろ京介の姿を見ながら掃除をしたり、京介の食べるご飯の用意をしたり、京介の着物を洗濯したりするのは、幸せですらある。
 長い廊下に軽快に雑巾をかける。
(ここまで、と)
 心の中で線引きされた場所で足を止めた。ここから先は危険なのだ。京介が使う部屋以外は朽ちるに任せたものだから、あちこち傷んでいる。
 一度、どうにか綺麗に出来ないものかと足を踏み入れたことがあるが、腐りかけた床板を踏み抜いてすっころび、顔を床にぶつけたのでそれ以来一度も入っていない。
 家のことはよく分からないが、一部が腐るとやはり周囲も腐るものではないのだろうか。そのように京介に言ったのだが、曖昧に笑うばかりで直す気はないらしい。
(勿体無いなあ)
 柱も床板も壁も、小萩が住んでいた貧乏長屋とは比べものにならないほど厚いし立派だ。それなのに、腐るままにしておくのは実に惜しい。解体した材木でさえ良い値で売れそうだと言うのに。
 小萩は桶に雑巾を放り込み、水を捨てるために裏へ回る。初夏の日差しがぎらぎらと地面に刺さる。打ち水がわりに埃っぽい地面に水を撒いた。きらきらと水が光を反射して、その眩しさに小萩は目を細めた。
 たまたま通りかかった奥さんの「精が出るね」という声に会釈を返す。こうしたごく普通の町人としての暮らしが何より楽しかった。
 小萩は手を洗い、室内に戻る。
(茶碗は洗ったし、掃除もしたし、洗濯もしたし。午前中はこれでおしまい)
 心の中で指折り確認しながら小萩は軽い足取りで引き戸を開ける。
 いつものように文机に向かっている京介の背後に近付いた。
「京介さん」
「うわっ、小萩」
 足音を忍ばせるのは禁止って言ったでしょ!と少しだけ眉をあげる京介に小萩はごめんなさいとうなだれる。小萩は足音を忍ばせているつもりはないのだが、どうしてもそうなってしまうのだ。
 最近京介の挙動が不審だと小萩は感じていた。勿論、そう長く一緒に居るわけではないからはっきりとしたことは言えない。だが、書き物をしているときに近付くと神経質なまでに紙を見られまいとしている。
 もっとも、見たところで読めはしないのではあるが。
399無題八:2009/06/12(金) 23:06:17 ID:/A2PQy1k
「京介さん。勉強に来ました」
 物書きである京介の話が読みたくて、小萩はこのところ京介に字を習っていた。部屋には京介の文机とは別に、一回り小さい文机が置かれている。
「ああ、ごめんね。今、手が離せないから……昨日の続きをやっていて」
 はいと頷き、文机へ向かう。筆を手に机へ向かっている京介を盗み見た。京介の持つ筆と自分の手の中の筆を見比べる。
(おそろいだ)
 我ながら馬鹿馬鹿しいと思いつつ、なんとなくそれが嬉しい。
 京介が書き損じた紙に、本の字を写していく。たどたどしい字が、紙の上に染みる。
 かな文字だけなら、難なく読めるようになった。京介が昔書いたという子供向けの草紙も、少しずつ読んでいる。白状すれば、あまり面白くはない。それでも京介が書いたというだけで小萩にとっては十分に価値があった。
 小萩の知らない時代の京介の作品を読むことで、京介を知ることが出来るような気がした。
「進んでる?」
 小萩の手元を京介が覗き込む。急に視界を占拠した京介の姿に小萩が目を丸くしていると京介は意地悪っぽく笑った。
「さっきの仕返しだよ」
「京介さん……大人気ないです」
 京介はますます笑って、うるさいよと小萩の額を指で弾く。痛む額が熱を持ったようで、痛い筈なのに嬉しかった。
 小萩の額を弾いた指が、卓上の紙を摘んで持ち上げる。
「おお、優秀優秀。なかなか飲み込みが早いね」
 偉い偉いと頭を撫でられ、幼子へのような態度にむっとしつつも褒められて悪い気はしない。
 小萩はくいくいと京介の袖を引っ張る。前々から言いたかったことを伝えるために、おずおずと唇を開く。
「あの、私いっぱい頑張ってます」
「うん、そうだね」
 家事もほとんどやってもらってるしねえ。と京介は小萩の頭をぽんぽんとねぎらうように撫でる。小萩は京介を窺うように見上げた。
「だから、えっと……ご褒美、ください」
 贅沢な我が儘である。一緒に居るだけでいいと言った筈なのに、より深く京介を求めてしまう。結局肌を重ねたのはあれ一度きりで、小萩はそれ以来京介の肌の温かみを忘れられないでいた。時には京介を思い出し自慰に耽る。
「ご褒美、ねぇ」
 呟く京介に期待が高まる。小萩は京介に膝でにじりよった。
「あ、銭湯行こうか」
「へ?」
 そうだそうだそうしよう。と一人頷く京介に小萩はすっかり置いてけぼりをくった。思わず間抜けな声が口から漏れる。
「銭湯ですか?」
「うん銭湯。ご褒美ってほどでもないけど」
 三十も半ばというのにこの野暮天ぶりはどうだろうか。他の女に相手にされないという点では喜ばしいことかもしれないが、時々本気で心配になる。今回は野暮が完全に裏目に出た。
「銭湯、ですか……」
 先ほどと同じ台詞が溜め息と共に漏れる。
「広いお風呂に入れるよ」
 邪気無い京介の穏やかな笑みにほだされ、小萩は楽しみですと若干しょんぼりと返した。


400無題九:2009/06/12(金) 23:07:06 ID:/A2PQy1k
八ではなく九でした。
投下終了。
401名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 23:30:21 ID:R9n6HKMe

あなたがやりやすいようにしてくださればそれで結構です。
一生あなたについていきます
402名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 23:33:19 ID:1wWx0cda
一番槍GJ!
暇つぶしなんてとんでもありません
403名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 23:33:39 ID:oAY03Mj4
>>400乙&GJ!!
小萩が京介のエロ小説を読んだとき、どう物語が動くか楽しみだ。
しかし京介、この流れでご褒美が銭湯てw
404名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 23:35:08 ID:snlFXfOo
妻が2歳年下で、5年経ったんで24歳だと思っていた。死後10年を見落としてた、、、
あぁ〜京介34前後か
405名無しさん@ピンキー:2009/06/13(土) 00:33:46 ID:rh4mYDys
>>394
乙です
すっかりこのスレのネタ担当ですねwww

>>400
GJ!
406名無しさん@ピンキー:2009/06/13(土) 00:51:51 ID:PrmdisS5
デコピンGJ!

漱石も新聞連載してた、なんらおかしくない
407名無しさん@ピンキー:2009/06/13(土) 01:40:07 ID:nAxxFf/1
あれ、一番槍じゃなかったwwすいません
408無題十:2009/06/13(土) 16:00:52 ID:i/K18MCy
そういえば新聞連載って結構書き手は豪華ですね。なかったことにしてください。
投下します。
409無題十:2009/06/13(土) 16:02:48 ID:i/K18MCy
 あの一件以来よく筆が進む。憂いがなくなったからなのかはよく分からなかったが、自分でも納得のいく文章が書けている。
 左右衛門もなかなか気に入ったらしく、珍しく皮肉も言わずに受け取ってくれた。
 「亡き妻によく似た面差しの少女を拾った男」という設定はそのまますぎるかもしれないが、小萩には自分に妻がいたことも話していない。それでも原稿をのぞき込まれると過剰反応してしまう。
 真剣に机に向かう小萩を盗み見る。小萩の姿を見る度に書きたいことが泉のように湧き出てくる。
 例えば、柔らかい胸をいじるとどんな反応が返ってくるかとか、口の中に精を吐き出したら飲んでくれるだろうかとか。
 四つん這いにさせて後ろから突き込んだらどんな風に感じるのだろうかとか、そんなろくでもないことを妄想しては文章にして紙面に叩き付ける。
 今は小萩の顔を見ながら、硬派で堅物な男の湯浴みに少女が薄着で入り込み背中を流すふりをして体中を撫で回すというこれまた酷い妄想を文章にしていた。
 そんな妄想に股間を膨らませている自分がいたたまれなくなり、筆を置き小萩を覗き込む。小萩は驚いたように目を丸くした。
 とりとめもない言い合いにくすぐったいような幸福感を覚える。すねるように唇を尖らせ、大人気ないと京介を責める小萩の色を含んだ視線に体が熱くなった。
 小萩はしばし目を伏せ言いよどむと上目遣いに窺うようにして唇を開く。
「あの、私いっぱい頑張ってます」
 だから、ご褒美ください。と小萩は京介の袖をぎゅうと握る。京介は固まった。自慢ではないが、自分は自他共に認める朴念仁である。仕事の関係で茶屋へ連れて行かれても芸者そっちのけでひたすら酒を飲んでいる。
 別に女嫌いなわけでも人と話せないわけでもないが、なんとなく色恋が絡むとどうしたらいいのか分からないのだ。
 京介は考えた。考えて出した結論が銭湯であったのは、おそらく先ほどまで書いていた文章が原因に違いない。
 物語の設定で主人公の男は武士であるから内風呂があるが、京介の家は大きいとはいえ商家であったから風呂はない。銭湯に行くしかないのだ。
 そもそも風呂屋は安い。悠々自適な隠居など一日二回入りに行くほど安い。しかし、京介は出不精な質であるから、小萩が来てからは特に家での行水でとどめていた。
 ちなみにこの辺りの銭湯は混浴である。告白しよう。下心がないとは言わない。
 手拭いと糠袋を手に銭湯へ向かう。どことなく拗ねている風の小萩が、京介の後を小走りで追ってきた。
 最初は小萩を外に出すことを躊躇した。“小萩”を知る近所の人に何か言われたらどうしようかと考えたのだ。しかし、予想に反して誰も小萩のことを問わなかった。
 自分のような男のところへ若い娘がいることを訝しく思う人はいたようだが、家事を手伝って貰っていると説明すれば大抵は納得する。
 思えば、“小萩”が死んで既に十年が経とうとしていた。いつまでも“小萩”に縋っているのは自分だけなのかもしれない。それが、少しだけ切なかった。
「お、久しぶりだねぇ旦那」
 銭湯の親父が欠けた歯をむき出しにして笑う。京介は会釈を返した。
「久しぶりだね。親父さん、二人お願い」
 銭湯の親父は、目を剥いて京介の後ろに隠れる小萩をじろじろと見る。にやりと笑って京介の肩を叩いた。
「旦那ぁ、あんまり破廉恥なことしないでくださいよ。湯が汚れますからねぇ」
 そんなことしませんよ、と慌てる京介に親父は冗談だって、と小萩の方に身を乗り出した。
「嬢ちゃん、このおっさんに変なことされそうになったら俺を呼べよ」
 小萩は困ったように曖昧な笑みを浮かべる。
「だから、しませんよ。だいたい他のお客さんだっているでしょうに」
 親父の下品な冗談を受け流し脱衣場へ向かう。
 特有のじめっとした空気や、黴っぽい脱衣場に小萩は興味深そうにしている。どうやら銭湯は初めてらしい。
「脱ぐんですか?」
「そりゃあ、湯船につかるからねえ」
「全部脱ぐんですか?」
「全部脱ぐよ」
 自分で提案したこととは言えいきなり気恥ずかしくなる。手早く着物を脱ぎ捨てる小萩の裸体を見るのは初めてではないのに、ついつい喉がなる。
 手拭いで体の前を隠しただけの小萩がそわそわと京介を見上げる。拗ねてみせても初めての銭湯は楽しみらしい。小萩の目の前で着物を脱ぐのははばかられて、京介は小萩に先に湯に入っていていいよと声をかける。
 小萩は数回迷うような素振りを見せて、早足気味に浴場へ向かう。そこで京介は思い出した。この銭湯、掃除が悪いのか湯垢で床が滑りやすいのだ。
「小萩、足元」
 気をつけてね、と言う前に桶やら何やらぶちまける音が聞こえて、京介はため息まじりに帯をほどいた。
410無題十:2009/06/13(土) 16:03:08 ID:i/K18MCy


「もっと早く言って貰わなくては困ります」
 湯船に肩まで浸かりぶすくれる小萩にごめんごめんと笑いかけた。
 時間が時間であるから人はまばらである。京介とすれ違い様に老人が出て行き、浴場には背中を流し合う親子連れと端の方で湯船につかる芸者風の女しかいない。小萩はしきりに親子連れの方を見ていた。
 やがて親子連れはいなくなり、浴場には自分達と芸者風の女しかいなくなる。子供の甲高い声がなくなると、浴場が寒々と感じる。
「京介さん、背中流します」
 急に小萩はそう言って京介の手を引く。湯船からあがる小萩の腰には痣が出来ていた。京介は椅子に座らせられる。腰に巻いた手拭いだけは死守できた。
 糠袋に湯を含ませて、小萩は京介の背中をこする。「京介さん、気持ちいいですか?」
 背中をこすりながら小萩は言う。この台詞を邪な意味に取りかけた自分に軽い自己嫌悪を覚えた。
「うん、気持ちいいよ」
 答えると背後で小萩の笑う気配がした。ふいに小萩の指先が京介の脇腹をかすめる。気がつけば腰の手拭いも取り去られている。
「こ、小萩!人がいるから……」
 小声でいさめつつ女の方へ視線を向ける。女は京介と目が合うと、ふっと笑いさっさとあがってしまった。
(ああなんて気のきく姐さんなんだ!)
 内心毒づくも、小萩を振り払わない自分も自分だ。小萩は糠袋で京介の胸や腹を擦りながら、指先で乳首をなぞる。背後から腕を回しているから、京介の背中に小萩の柔らかな体が密着した。固くしこった胸の頂が京介の背をこする。
「京介さん、気持ち、いいですか……?」
 胸を刺激され熱い息を吐きながら小萩は問う。答えない京介に小萩は一度体を離し、京介の脚の間に跪いた。
 既に半勃ちの京介の股間を見せつけるように舐めしゃぶる。制止の言葉も聞かずに、京介の陰茎を根元までくわえこんだ。
 水音しかしない浴場に、粘性をもつ卑猥な水音が響く。
 ぐぷぐぷと音をたてながら吸い、舌を絡め、尿道を尖らせた舌先で抉る。小萩の舌技に京介の陰茎は年甲斐もなくあっという間に腹まで反り返った。
(親父さん……。私の方が変なことされてるよ)
 親父も予想外だっただろう。
 小萩の舌は裏筋をねっとりと舐めあげる。
「あ……小萩、出そうっ!」
 京介の訴えに小萩は睾丸に数回口づけ立ち上がり、京介の膝に跨った。熱り立つ陰茎は挿入されずに、京介と小萩の腹の間に挟まれる。
「小萩、人が来るかもしれないから!」
 流石にこの体勢では言い訳がきかない。しかし小萩はそれを無視して白い腹を京介に擦りつける。しっとりと吸いつく腹に、中断された快感がぶり返した。
「入ってないから、性交じゃないんです」
 京介の首に抱きつき腰をくねらせる。
「性交じゃないから恥ずかしくない……です」
「どういう理屈!?」
 京介は小萩の背に腕を回す。滑らかな背を指でなぞると、ひう!と小さな声をあげながら小萩の体がはねる。その拍子に腹の間の陰茎がぐり、と刺激され京介は小萩の腹の上に射精した。
 腹の上の精液を指に絡めとり舐めようとする小萩に湯をかける。小萩はすっかり洗い流されたそれに残念そうな顔をした。
「もう、あがろうか」
 気分転換の筈がぐったりと疲れてしまい、京介はだるい体を引きずって浴場を後にした。
 それでも京介を追いかけて「ごめんなさい」とうなだれる小萩が可愛らしくて「まあ、いいか」と思ってしまう辺り、自分は相当末期的だと思うのだ。

411無題十:2009/06/13(土) 16:03:49 ID:i/K18MCy
浴場で欲情。
投下終了。
412名無しさん@ピンキー:2009/06/13(土) 16:36:45 ID:MnW5G6lw
>>411
この朴念仁!エロス!公衆浴場に行く度に勃起するやろが!GJ!!
413名無しさん@ピンキー:2009/06/13(土) 17:15:02 ID:PrmdisS5
京介よ、お前は中学生か・・・
つか小萩エロいな
414名無しさん@ピンキー:2009/06/14(日) 07:32:13 ID:Nmum+EI6
>>410
ストパンネタ吹いた
415名無しさん@ピンキー:2009/06/14(日) 09:59:39 ID:1ESZFE2S
>>411
G.J.
姐さん空気読みすぎだろww
416無題十一:2009/06/14(日) 18:41:15 ID:LuWFRl2g
投下します。
417無題十一:2009/06/14(日) 18:41:49 ID:LuWFRl2g
 じめじめとした暑さの中、小萩は教本を放り投げて京介の腰に抱きついた。
「暑いです」
 文机に向かっていた京介は「暑いならくっつかない方がいいよ」と消耗した風に答える。
 冷たい床に体を投げ出し、京介の腰にぶら下がるように抱きついていた小萩は、んー……と呻いた。
「いやです。こんなに暑いのに京介さんから離れたら生きるのがいやになります」
「ああ……そう」
 京介の目はどこか虚ろで宙を見ている。小萩も暑さで頭がぼんやりしていた。
「私は京介さんがいないと寂しくて死んでしまうんですよ」
「うん……そう」
 素っ気ない京介の返事に小萩は眉をひそめる。次いで自分がいかに恥ずかしいことを言っていたかに気付いた。
「……今の忘れてください」
「ん……」
 朦朧としている京介にほっとしながら笑みが零れる。
(本当に暑さが苦手なんだ)
 初夏あたりから今年は暑くなりそうだ嫌だ嫌だと言っていた京介は、相当に暑さが苦手らしい。
 最近日が高く暑い日中はほとんど塩をまかれた蛞蝓のような状態であった。
 小萩は虚ろな表情の京介に顔を近付け口付ける。ちゅ、と軽い音をたてて顔を離した。
 ぽかんとしている京介以上に、小萩は困惑していた。ただでさえ暑いのに頬が熱をもつ。
 接吻だって初めてではないし、それ以上のことも色々としているのだがひどく恥ずかしかった。
 それはひとえに慣れの問題なのだろう。恥ずかしい格好で押さえつけられ貫かれるよりも、優しい口付けの方がはるかに小萩の羞恥心を刺激した。
 舌も絡めない児戯のごとき接吻が苦手で恥ずかしくて仕方ないはずなのに、何故かふわふわとした気分になる。
 いまだに茫然としている京介に、呆れたような笑いが漏れた。
(水菓子か氷でも買ってこようか)
 行ってきますと京介に小さく声をかけ、小萩は夕食の買い出しに出かけた。
418無題十一:2009/06/14(日) 18:42:35 ID:LuWFRl2g

 夏の太陽の下、小萩はそれに負けない活気を見せる市場を回っていた。
 とりあえず大根を買おうと思い立ち、野菜をずらりと並べた店を覗く。店番の若い男と目があった。
「あ、いらっしゃい!」
 男はいそいそと小萩に近付く。
「今日は何を買いに来たの?大根?」
 店番にしてはいやに馴れ馴れしく小萩に声をかけてきた。小萩は無言で首肯する。
「それから、瓜を一つ」
 男はにこりと笑って小萩に耳打ちする。
「あと少ししたらさ、仕入れた大根を店に並べるからそうしたらおいでよ。その間に瓜も冷やしておいてあげる」
 なるほど。日除けがあるとはいえ炎天下に並べられた大根はしなびている。ありがとうございますと頭を下げる小萩を男は呼び止めた。
「あのさ、それまでここでお茶でも飲んでいかない?」
 顎をしゃくって奥を示す男に小萩は首を振る。
「他にも用事がありますので」
 ああ、そうか、うん、残念だよと笑う男に会釈をして小萩はその場を離れたら。
 用事がある、など嘘である。今日は大根を買うだけで済ませようと思っていた。
(さて、どこで時間を潰そう)
 やはり、茶でも貰っておけばよかったかと先ほどの男の顔を思い出そうとした。だが浮かんでくるのは、男の着ていた流行りの着物の柄ばかりである。
(最近、京介さん以外の男の顔が覚えられないなぁ)
 少し前までは商売相手の男の顔くらいは覚えていたというのに。ひたすら小萩が京介以外の男に興味を持てないからなのだろうが。
 たまたま通りかかった本屋の店先には派手派手しい「大好評売出中」の文字。それをすり抜けて奥へ向かうと埃っぽい最奥の棚に、京介の戯作を見つける。
 それをぱらぱらと眺めていると、背後から声をかけられた。
「いらっしゃい、何をお探しだね」
 京介と同じか少し年上の男が、丸顔に愛想のいい笑いを浮かべて小萩の手元を覗き込んだ。
「それはお嬢さんが読むような草紙じゃないよ。子供向けだからね」
 言って男は店先に並べてあった赤い表紙の草紙を手に取る。
「これなんか、今すごく人気なんだよ」
 小萩は表紙の字を追う。「原氏物語」と書かれたそれを手に、店主は語り始めた。
「ある一人の妻を亡くした武士がひょんなことから妻によく似た少女を拾うって話でね。ところが男は妻を忘れられない、しかし自分を慕う少女も可愛い。自分は妻を愛しているのか、妻に似た少女を愛しているのか、それとも少女自身を愛しているのか悩むって次第さ。
しかも作者の情報は一切漏らされていなくてね、若い女の子の間ではちょっとした噂の種なんだよ」
 どうだね。と差し出されて、その押しの強さに半身を引いた。確かに面白そうだが、手持ちは京介の稼ぎなので無断で使うわけにはいかない。
419無題十一:2009/06/14(日) 18:42:58 ID:LuWFRl2g

 京介に拾われる前に貯めた小金がないでもないが、もしものときのために取っておきたい。断ろうと口を開きかけた小萩を女の声が遮った。
「おや、いらっしゃい。何をお求めだい」
 その女に小萩は見覚えがあった。小萩が抱いてほしいと、半ば京介を押し倒した雨の日に京介と話をしていた綺麗な女性。
 女はおそらく店主と夫婦なのだろう。若々しい笑みを浮かべて小萩の顔を見、そして目を見張った。
「失礼だけど、あなた小萩さんのご親戚?」
 小萩は首を傾げる。小萩は、自分である。女は慌てたように手を振った。
「いえ、なんでもないのよ。私の死んだ友人にあまりに似ていたから」
 店主は眉を八の字にして女を諫めた。
「あんまり失礼な事を言うんじゃない。誰に似ているって言うんだ」
 女は答える。
「ほら、山本京介さんの奥さんの……」
 ぴくりと指先が震えた。京介に妻がいたのか。知らなかった。いや、気がつかないふりをしていたのだろう。今は跡形もないとはいえ一応大店の跡取りであったのだ。妻がいないはずがない。
 小萩は慎重に唇を開く。
「山本さんの家で、家の事を手伝わせて貰っています……私、帰る場所が無かったので」
 名は、名乗らなかった。女はますます驚いた顔をして小萩を見つめ、悲しげに目を伏せた。
「そうかい。きっと小萩さんによく似たあなたを放っておけなかったんだね。京介さん、小萩さんを愛してらしたから」
 小萩は頭がぐらぐらとしてしゃがみ込みそうになるのを必死でこらえていた。
 京介が小萩を愛していた。では私はなんだ。
 小萩と同じ顔をして、小萩と名乗り、小萩の着物を着ている私は誰だ。
 そして気がついた。「原氏物語」によく似ている。小萩はその草紙を手に取り頁を捲る。
 京介が書いたものだった。
 作者は不明の恋物語。だが小萩には分かる。句読点の位置、よく使われる言い回し。愛しい男の文章に違いがない。
 真っ白になった頭で小萩は、ふと笑った。
(何、今までとなんら変わらない)
 もとより、卑しい娼婦であった。男達は愛しい女の面影を重ねて小萩を抱いた。それと何の違いがあろうか。
(京介さんが望むなら、私は小萩になりきろう)
 小萩は懐から擦り切れた財布を取り出す。
「すみません、これください」
 悲しいと思う余裕すら、小萩には無かった。

420無題十一:2009/06/14(日) 18:43:40 ID:LuWFRl2g
投下終了
421名無しさん@ピンキー:2009/06/14(日) 19:11:50 ID:W/1JEXRc
GJ
ばれちまったか。
なりきろうと決意はしているが・・・
422名無しさん@ピンキー:2009/06/14(日) 19:16:17 ID:NIimfncN
……

(´;ω;`)ブワッ
423名無しさん@ピンキー:2009/06/14(日) 19:28:09 ID:Hhhc0zOk
面白くなってきた。
424名無しさん@ピンキー:2009/06/14(日) 21:05:01 ID:1ESZFE2S
>>420
G.J.
俄然面白くなってきたな。
425名無しさん@ピンキー:2009/06/14(日) 23:33:51 ID:iwhUuxmY
小萩を拾いたい
426名無しさん@ピンキー:2009/06/14(日) 23:38:31 ID:fEISaDQB
>>420

  ( ゚д゚)
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
  \/    /
     ̄ ̄ ̄

  ( ゚д゚ )
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
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     ̄ ̄ ̄

  ( ゚д゚)
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
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     ̄ ̄ ̄

  ( ゚д゚ ) ……GJ
_(__つ/ ̄ ̄ ̄/_
  \/    /
     ̄ ̄ ̄
427名無しさん@ピンキー:2009/06/15(月) 01:54:21 ID:5FthoDS8
なんだこの神だらけのスレは
428名無しさん@ピンキー:2009/06/15(月) 02:22:46 ID:tHFB4/Tw
ネトゲ風も春春夏秋冬も来てないな。

去ったのか…。
429名無しさん@ピンキー:2009/06/15(月) 05:04:26 ID:NElqhCHP
ネトゲ風は転職したって書いてあったし、まだ忙しいんじゃない
430春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/15(月) 13:08:16 ID:2WiexqSH
話の繋ぎ程度だから依存度薄いけど、投下しますね。
431春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/15(月) 13:09:11 ID:2WiexqSH

嗅ぎ慣れた部屋の匂いと暖かい布団の肌触り…時計の秒針音が心地よく耳に入ってくる…。

薄目にして周りを見渡すと、カーテンの隙間からは薄明かりが柔らかく射しており、まだ陽が昇っていないようだ…。

ぼーっとする意識の中、手探りで携帯を探すと、枕元に置いてある携帯に小指が触れる。その携帯を片手で開き時間を見てすぐに閉じる。

泣き疲れた後のディスプレイの光は目に優しくないのだ。



「…はぁ…まだこんな時間か。」

5時──早く起きすぎた……かと言って二度寝する気もないので、仕方なくダルい体を起こしベッドに腰掛ける。

「はぁ〜…」

……思い出すとよけいに体がだるくなる。

──昨日は本当に大変だった……みんなの喧嘩は収まらないし、近所から苦情がくるし、挙げ句の果てには掴み合いになって大幅に話がズレて話がまとまらなくなってしまった。

恵さんは気がつかなかったかも知れないが、俺の耳に耳掻きが入っているにも関わらず喧嘩するので後半は鼓膜が破れるんじゃないかと心配で泣いていたような気がする。


「どうするかな…」

あんなことになってしまった以上、また一段と顔を合わせ辛くなってしまった。
432春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/15(月) 13:10:05 ID:2WiexqSH

──考えるのを止め、春香の写真に挨拶をする。二階の自室から一階に降り、洗面所に向かい冷水で顔を洗う。

サッパリするはずが、気分は重く目を開けるのも辛い状態…。
目の痛みだけでも和らげる為に、もう一度冷水で顔を洗いリビングに向かう。



「さむ…」

リビングに入ると、広い部屋独特の冷たい空気が体を包み込む。
この寒さも最近ではあまり気にならなくなっていたのだが……自分の精神面の弱さに少し苛立つ。

重い足どりでノロノロと歩き、ローテーブルに置いてるリモコンを掴む。そのリモコンでテレビの電源を入れて、一通りチャンネルを回し、天気予報で止める。

「今日の天気は……曇り…か……微妙だな…」
今日ぐらいは晴れにしてくれてもよかっただろうと思ったが、自然に文句を言ってもしかたがない。

諦めてリビングの空気を入れ換えるために窓を開けると、スズメの鳴き声が心地よく聞こえてきた。

「…ちょっと、散歩しようかな。」
春香に会いに行くには時間が早すぎる。
みんなは昼から春香に会いに行くはずなので、俺は朝の7時ぐらいに行けばいい。

春香と二人で話す唯一の日なので、みんなと鉢合わせだけはどうしても避けたいのだ。
433春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/15(月) 13:10:54 ID:2WiexqSH

「公園でもぶらつくか…」
家で時間を潰してもいいのだが、少しでも気分を入れ換えたい。

開けた窓をもう一度閉めて服を着替えると、携帯、財布、だけを所持し自宅を後にする。

再度携帯を開き時間を確認する……5時20分。

家前の歩道に出て赤部家を見ると、もう起きてるのか、一階のリビングと二階の夏美の部屋には明かりがついている。夏美がこの時間帯に起きてるのが不思議だが…。

「…」

気づかれる前に離れよう。


「さて…どう行くかな…」
このまま公園に行っても10分でついてしまう。
最近体が鈍っているので公園のベンチで二時間座り続けるのも時間の無駄みたいで嫌だ。

「まぁ、適当に歩くか…」
春香と散歩する時だって歩く道なんて決めていなかったが、最終的になぜか公園についてしまう。

この町に落ち着ける場所が公園か二人の秘密の場所…大桜の木の下しかないのだ。


「それにしても…この辺も変わったなぁ…」

学校の行き帰りには気がつかなかったが、改めて周りを見渡すと、昔あった工場やスーパーはここ三年でほとんど住宅やマンションに変わっていることに気がついた。
434春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/15(月) 13:11:32 ID:2WiexqSH

大きな変化なのだが春香と行った場所しか強く記憶に残っていないので、俺からすれば小さな変化でしかなかった。

その小さな変化を楽しみながら歩いていると、いつの間にか昨日の遅刻の友、美幸ちゃんの家近くまで来てしまった。

思い出したがここも確か長い間空き地だった…よく夏になると、この場所を使ってみんなで花火をしたっけ…。





──「こ、こら、!待ちなさっ、走ったら──!!」

昔を一人懐かしんでいると、住宅街の中から落ち着きのない犬の荒い吐息と、慌てたような幼い女性の声が耳に入ってきた。

「なんだ?……犬?」
こちらに向かって大型犬が走ってくる…それに引きずられて女の子が……



「え?春樹…先輩…なん…」

「おぉ、朝から元気だね。おはようさん。」
体に合わない大型犬に引きずられていたのは、先ほど話していた人物、美幸ちゃん張本人だった。

「春樹先輩ッ!?、お、おはようございますっ!!」
元気よく頭を下げて挨拶をするが、犬に引きずられ少しずつ俺から離れていく。

「パ、パル!めっ、でしょ!!」
自分よりデカい犬を悪いことをした子供のように叱る美幸ちゃんは小さなお母さんみたいで微笑ましく感じる。
435春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/15(月) 13:11:59 ID:2WiexqSH

パルも美幸ちゃんに忠実?なのか叱られるとその場に座り込んでしまった。

「どうです?」

「いや、どうですって…すごいね…」
誇らしげに笑う美幸ちゃんを横で眺めながらしっぽを振るパル。
…パルは美幸ちゃんの言うことを聞いてあげてるのか…まぁ、こんな笑顔見せられたら言うことを聞かないと罰が当たるだろう。

「それで、春樹先輩はなにしてるんですか?」

「俺?散歩だよ、朝早く起きたからね。」

「あっ私もですっ!それなら──」
見れば分かるのだが…それにしてもこのセントバーナード…デカいな……触っても大丈夫か?…いや…噛むかも……でも逆に怖がるから駄目だって春香が言ってた気が──


「春樹先輩聞いてます?」

パルにどう触るか考えていると美幸ちゃんが怒ったように話しかけてきた。

「え?うん、聞いてるよ〜」
まったく聞いていなかったが突発的に口から出てしまった。

「それじゃ、行きましょう!」

「どこに?」

「は?一緒に散歩ですよ…本当に聞いてました?」

「聞いてた、聞いてたっ!それじゃ、いこっか?」
美幸ちゃんのジト目を華麗にスルーして歩き出す。
それに美幸ちゃんも一緒に散歩するなら、この前約束した案内を今してしまおう。
436春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/15(月) 13:12:53 ID:2WiexqSH

──
───
────
それから、短い時間の中で出来るだけの場所に美幸ちゃんを案内した。
スーパーなどのショップ関係、神社、交番などここから短時間でいける場所はすべて教えれたと思う。

ただ、歩きすぎて少し疲れた…美幸ちゃんも少なからず疲れているはず。
パルも息を荒くしてだらしなく舌を出したまま歩いている。

「それじゃ最後に公園の場所教えるからそこで休憩して帰るか。」

「え?…もう帰るんですか…?」

まだ散歩したかったのか、残念そうに溜め息を吐く。
時間があればいくらでも案内するのだが、もうすぐ学校に行かなければならないはず…。
すでに生服姿なので着替える時間がいらないにしても、余裕を見て行くに越したことはないだろう。

俺はサボるからいいけど、さすがに新入生が二日連続遅刻はアウトだ。

それにパルが限界っぽい…早く水を飲ませてあげなければ…。



「──せ駅で………公園行きましょう!」

「お、おうっ!」
なにかを思い出したように美幸ちゃんが走り出した。それにつられてパルも走り出す。

美幸ちゃんの第一印象は、とても大人しく、人見知りが激しい子だと思ったのだが、1日一緒に居て真逆の性格だと気づかされた。
437春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/15(月) 13:13:31 ID:2WiexqSH


──「も〜、ちょっとパル〜、くすぐったいよ〜。」

「もの凄い勢いで飲んでるな…ちょっと無理させすぎたね。」

「そんなこと無いですよ、この子も楽しそうだったし。」
公園につくと、まずパルに水を飲ませるために水道のある場所まで連れて行ってあげた。
美味しそうに美幸ちゃんの両手に溜まっている水を器用に舌を使って飲んでいる。

「ちょっと自販機に行って飲み物買ってくるね。美幸ちゃんはなにがいい?あそこのベンチで座って待っててよ。」
パルを見ているとこちらも喉が乾いてしまった…たしか公園を出てすぐに自販機があったはず。

パルに引っ張り回された美幸ちゃんに買いに行ってもらう訳にもいかないので、先に休んでもらう為に屋根の下にある青色のベンチを指さし場所を教える。

「いや、そんな…悪いですから…。」

「それぐらい奢らせてよ、逆に断られたら気まずくて一人で飲めないし。」

「……そうですか?…それじゃ…私はなんでも良いので…ごちそうになります。」
少し戸惑っているが納得したように立ち上がりぺこっと一礼すると、もう一度手を洗い、パルを引っ張りベンチに向かって歩いていった。
438春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/15(月) 13:14:17 ID:2WiexqSH

「……」

ベンチに向かう美幸ちゃんとパルを見送り、早々に自販機に向かえばよかったのだが……美幸ちゃんの後ろ姿を眺めていると、何故か懐かしく感じてしまって美幸ちゃんから目を反らせなかった。

夏美が言っていたように美幸ちゃんは少し春香に似ているような気がする。

顔が似てる訳じゃない…行動が似てると言うか、雰囲気が似てると言うか…言葉では言い表せないがとにかく似ているのだ。

「…やめよう…美幸ちゃんに失礼だな…」
美幸ちゃんがベンチに座るのを確認すると、さっきまで動かなかった足が自然と動いてくれた。


頭から春香の顔を無理矢理かき消して、そのまま早足で公園を出て自販機に向かう。

二人分のお茶を購入して公園内に戻ってくると、先ほどまで地面に座っていたパルが、いつの間にかベンチに腰掛けている美幸ちゃんの横に人間の如く当たり前のように陣取っていた。

「パルッ!!春樹先輩来たから下に降りなさいっ!」
首輪を掴みベンチから移動させようとするが全体重をベンチに預けてまったく動こうとしない。

「はぁ、はぁ、どうしたのパル…?」
こんなことは初めてなのか美幸ちゃんも困ったようにパルの鼻を撫でている。
439春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/15(月) 13:14:53 ID:2WiexqSH

「…嫉妬してるんじゃない?」

「え?嫉妬…ですか?」

「うん、犬や猫も自分の主人が違う動物を可愛がったり、知らない人間と親しそうに話してると、それを見て嫉妬するらしいよ?」
少し前にテレビで見たことがあるのだが、ある芸能人が飼育係と楽しそうに歩いていると後ろから嫉妬に狂ったチーターに襲われるという内容だった。

犬とチーターを比べてもアレなのだが、動物の世界でも人間くさい部分があるんだな〜と少し親近感を覚えた記憶がある。

「へぇ〜、そうなんですか?初めて知りました。でもパルは女の子でしょ〜?嫉妬なんてしちゃ駄目じゃないの〜」
嬉しそうにパルに抱きつき頭を撫で回す。
案内している時に少し話したのだが一人っ子らしく、父、母、パルを合わせて四人家族だそうだ。
とゆうかパルはメスだったのか…。


「しょうがないな…それじゃパルの横に座るか…」
4人座りのイスなのでパルが間に座ろうが楽々座れる。
ただパルが怒らないか少し怖い。

「パルなら大丈夫ですよ?絶対に噛みませんから。」
そりゃ主人の美幸ちゃんには噛みつかないだろう…

「うん…分かった…」
パルが美幸ちゃんを見ている隙に恐る恐るイスに腰を掛ける。
440春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/15(月) 13:15:59 ID:2WiexqSH

「ッ!?」

その瞬間、気配に気がついたのか、パルが勢い良くこちらに顔を向けた。

逃げようか迷ったが美幸ちゃんの前もあって逃げる訳にはいかない。
それにしっぽを振っているから大丈夫…だと思う。

「春樹先輩、頭撫でてください。」

「…は?美幸ちゃんの?」

「わたっ!?ち、ちがいますよっ!!パ、パルの頭をですっ!」
冗談に慣れていないのか、顔を真っ赤にしながら否定している。

「顔真っ赤だよ?。」

「…先輩…いじわるですね…」

「ははっ、ごめん、ごめッ……ん?」



──そんな楽しいやりとりをしていると、右ポケットから携帯の着信音が聞こえてきた。


「?…こんな朝早く誰だよ…」
少し苛立ちながら携帯の画面を見る。


「…」


画面を見た瞬間、金縛りにあったように体が硬直してしまった。

携帯のディスプレイには見慣れない「冬子」という文字…。
冬子から電話なんて珍しい…昨日の出来事もあり、少し鼓動が早くなってきた。

美幸ちゃんに一度頭を下げ、大きく息を吐き、緊張で震える指を無理矢理動かして、通話ボタンをゆっくりと押す。




「もしもし…?」






──春くんも散歩?
441春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/15(月) 13:23:51 ID:2WiexqSH

その綺麗で透き通るような声は、携帯からではなくハッキリと耳元で…肉声で聞こえてきた。

真っ先に反応したのがパル…少し遅れて俺と美幸ちゃんが後ろを振り返る。



「ふふっ…ビックリした?」


「え?な、なんで…」
ビックリしたどころか、呼吸の吸い方も忘れるぐらい心臓に悪かった。
後ろから声をかけられたと言うより、レンガでいきなり殴られた気分だ。

「なんでって、私は散歩だよ?春くんも散歩……じゃないのかな?」
冬子がちらっと美幸ちゃんの顔を見る。
美幸ちゃんも驚いたのか心臓の鼓動を静めるように胸に手を当てたまま固まっている。

「春くん…この人は?」

「え?あ、あぁ、今年入ってきた後輩の山下 美幸ちゃん。」

「そう……初めまして、赤部 冬子です。」
冬子が美幸ちゃんに小さく頭を下げる。
夏美とは違いしっかりとした冬子は秋音さんに似たのだろう。なんでもそつなくこなす秋音さんを尊敬していると昔聞いたこともある。

「あっ、こちらこそ…。」
それを見て我に返ったのか急いで立ち上がり冬子に挨拶をする。
美幸ちゃんは案外、冬子や秋音さんみたいな人となら友達になりやすいのかも知れない。
442春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/15(月) 13:24:47 ID:2WiexqSH

「美幸ちゃん、昨日会った二年の夏美と教師の秋音さん覚えてる?この子はその二人の妹なんだよ。」



「夏…美さん……そうですか…」
美幸ちゃんと冬子が仲良くなれば友達の輪が広がり、夏美とも普通に話せるようになるかも知れない。そうなれば新しい土地の不安も少しは安らぐだろう。

「…なっちゃんの友達なんですか?」

「え?いや、友達ではないのですが…夏美さんって……春樹先輩の彼女さんのことですよね?」

「………はぁ?」

──小さく震えた声だったがハッキリと聞こえた。
俺が夏美と付き合ってる?美幸ちゃんの発言の意味が分からない…。

そんなこと美幸ちゃんに言った覚えなんてまったく無い…とゆうか夏美と付き合うって考えたことがまず無い。

だとすると美幸ちゃんの勘違いか…。

そう言えば夏美ちゃんと話をする時は決まって夏美が側にいた気がする。
あの口喧嘩の内容も美幸ちゃんからすれば夏美が嫉妬したと勘違するかもしれない。

「…どういうこと?春くん、なっちゃんと付き合ってるの?」
固まっていた冬子の視線が美幸ちゃんから俺に移動する。

無表情の冬子の声からは怒ってるのか喜んでるのか、感情はまったく読みとれなかった。
443春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/15(月) 13:25:11 ID:2WiexqSH

「い、いや、付き合ってないから!!美幸ちゃんの勘違いだろ?昨日ほとんど夏美と一緒に行動してたから。」

「ふ〜ん…」

信用してないなコイツ…。

「え、?そうだったんですか?仲良さそうだったんで、てっきり恋人かと…」

「違う、違う、家が隣なんだ。幼なじみってヤツだよ。」
数年前まで夏美と一緒に歩いても恋人に間違われたことなんて一度もなかったのに…これからは気をつけよう。
周りの男子が勘違いして夏美に彼氏が出来なくなると夏美がかわいそうだ。

「…恋人じゃないんですか?それじゃ、あの、昨日言ってたお願い……迷惑じゃなければ今…だめですか?」

「お願い?」
少し気まずそうに上目遣いでモジモジしている。この子を見ていると本当にハムスターに見えてくる。

「あの…駅の時…なんでもいいからって…」

「あぁ、門で待たせた時の…べつにいいよ?なにすればいい?」
思い出した。
確か何か一つ言うことを聞くと言ってしまったのだった。
美幸ちゃんの性格上無茶なこと言わないと思うけど…美幸ちゃんの意を決した顔は嫌でも俺の不安を煽る。




「あの…春樹先輩の携帯番号を教えてもらえないですか…?」
444春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/15(月) 13:29:38 ID:2WiexqSH
遅れてスイマセンでした、投下終了です。
445名無しさん@ピンキー:2009/06/15(月) 13:45:24 ID:RYybmfzq
ふふふ、まさかこの時間帯にリアルタイムで見ている者がいるとは心にも思うまいて…
GJですぞ!GJですぞッ!
446名無しさん@ピンキー:2009/06/15(月) 14:31:28 ID:XMI3OsPL
おぉ、来たキタ!
GJ!
447名無しさん@ピンキー:2009/06/15(月) 14:35:18 ID:K4auWRXI
いいよいいよGJ
448名無しさん@ピンキー:2009/06/15(月) 21:20:39 ID:Ewcatiuq
やはりつねに春香の事考えてるのな
それにしても美幸ちゃん、積極的だなぁ
GJ
449名無しさん@ピンキー:2009/06/16(火) 03:02:07 ID:huW2c6pi
GJ!

>>429
転職ってリアルの話だよな
まさか『ネトゲでクレリックからソルジャーに転職した』とかじゃ……
450名無しさん@ピンキー:2009/06/16(火) 13:36:35 ID:d1fD31dk
GJ
今は亡き愛しい人に面影を重ねてしまうってのは王道だね
451夢と時間 1話 ◆6ksAL5VXnU :2009/06/17(水) 03:44:41 ID:YeDRB/kV
何か触発されて書いてみました
短めだと思いますが、よかったらどうぞ
投下です
452夢と時間 1話  ◆6ksAL5VXnU :2009/06/17(水) 03:45:18 ID:YeDRB/kV
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
「はぁ、はぁ、はぁ」
 夜のワンルームを、2人分の荒い呼吸が支配する。両親は出払っており、俺たちを止める者は何もなかった。お互いに裸のまま強く抱き合い、火照った胸や太ももが、俺の体に絡みついていった。
「あっ……ん」
 艶っぽい声を出す彼女。その声だけで、俺の興奮はどんどんと昇り詰めてゆく。
「疾人っ」
「入れるぞ、三月」
 俺、中島疾人(なかじま はやと)の彼女、菱谷三月(ひしたに みづき)は言葉では答えず、暗闇の中でコクリと頷いた。それで俺はもう止まらなかった。
 びゅぶ。そんな淫らな音とともに、俺の物は三月の膣内に侵入してゆく。
「あああっ、んん」
 彼女の喘ぎに苦痛の影は全く存在せず、簡単に俺を受け入れた。慣れているのだ。
 俺から告白して、付き合うようになってから、俺たちはほとんど毎週こうして肌を重ね続けてきた。三月は始めこそ処女で素人だったが、数をこなすうちにテクニックを磨き、今や俺はすっかり虜になっていた。
「は、疾人の……あんっ、びくびくいってる……そ、そろそろ?」
「ああ、そろそろだな」
 我慢の限界を感じて、三月の膣から物を抜く。そして自分で2、3回しごいて、近くのティッシュを取ってその中に精子をぶちまける。
「あっ」
 そのまま中出ししてほしかったのか、三月がそれを名残惜しそうに見つめている。残念だが、今はまだ責任を背負える年齢じゃない。だが将来はきっと……。
 服を着る彼女を見ながら、俺は漠然とそんな事を考えていた。
「卒業か。早かったな」
「うん、あっという間だった」
 俺の呟きに答えてくれる。
453夢と時間 1話  ◆6ksAL5VXnU :2009/06/17(水) 03:46:16 ID:YeDRB/kV
彼女と知り合ったのは高校1年の時、初めて見たその時からまるで魔法に掛けられたかのように、俺は彼女に魅了された。そして、努力の甲斐もあって、付き合いだしたのが2年の夏。それからというもの、ずっと自慢の彼女だ。
 だから、彼女と離れることが何よりもつらい。
「行っちゃうんだよね、東京に」
「夢、だったからな」
 田舎者という事に対する不満足感というのが、俺の中には存在していて、それで小さい頃から、東京で生活するという事が目標だった。だから、東京の大学に合格したときは嬉しくて小躍りしたものだった。
 だがそれは、夢への第一歩であると同時に三月との別れでもあった。はっきりいって、考えないようにしていた。そのツケがここでまわってきたのだ。
「疾人は頭良いから。きっと、あっちでもうまくやれるよ」
「お前は大丈夫なのか、高卒で就職って厳しいぞ?」
 進学できうるだけの力はあった。しかし家計の都合で彼女は断念したのだ。
 やや自嘲気味に彼女は笑った。
「私の家って貧乏だからね。仕方がないよ」
 それでは蟻地獄だ。俺は彼女を少し哀れに思う。
貧乏だから、進学もできない。できなければ当然、良い就職先に就くことは難しくなってくる。そして、そのスパイラルから抜け出すには、経済力のある男と結婚するしかない。短縮的かもしれないが、俺はそう考える。
 だから俺は……。
「でも東京か、ちょっと遠いなぁ」
「手紙書くよ。電話だって毎日……ってそれは迷惑か」
「ううん。うれしい」
「……東京に行って、でっかくなって、それでお前の所に帰ってくる」
「うん」
「待っていてくれるか?」
「うん。……ずっと待っている」
 彼女はそう言って、また笑った。
 青い高校生でいられる最後の日の夜だった。
454夢と時間 1話  ◆6ksAL5VXnU :2009/06/17(水) 03:47:45 ID:YeDRB/kV
終了です
プロローグみたいな感じです
455名無しさん@ピンキー:2009/06/17(水) 09:44:23 ID:Gss2OVzl
乙。続きもwktkしてます
456名無しさん@ピンキー:2009/06/17(水) 21:37:20 ID:NxCRBJp5
GJ!
457名無しさん@ピンキー:2009/06/17(水) 22:24:20 ID:rvoz1T8h
まだ始まりだけど面白そう。
GJ
458名無しさん@ピンキー:2009/06/17(水) 22:36:24 ID:lb+5g7jZ
>>452
GJ。
悪くないな。続き待ってる。
459無題十二:2009/06/17(水) 23:53:42 ID:r9Hb2Evw
投下。
460無題十二:2009/06/17(水) 23:54:19 ID:r9Hb2Evw
 「原氏物語」とは最近出版した物語の題である。言わずもがな、源氏物語を模した題だ。
 妻を亡くした原光之進という武士が、妻によく似た紫という少女を拾うという筋だ。最初は題も人名も違うものであったが、左右衛門の勧めでこうなった。
 売れ行きは上々らしい。近頃では評判の絵師の挿し絵入りのものまで出版された。稿料も桁外れに上がったが、あまり浮かれることもなかった。
 それよりも、まるで湧き上がるかのように浮かんでくる自分の文章に酔っていた。
 小萩と肌を重ねる度に文章が浮かび、触れなければ触れないでまた文章が浮かぶ。
 暑さに茹だった脳は呆けてはいたが、文章だけは冴え冴えと途切れをみせない。

 控えめに開けられた玄関の戸の音。買い出しから帰ってきた小萩だろう。
 空き部屋の一つ――尤も大半の部屋は空き部屋ではあるのだが――を私室として小萩には貸し与えていた。小萩はその部屋を就寝時くらいにしか使わない。家の事をしているとき以外はもっぱら京介の部屋で過ごしている。
 だから、小萩がいつものようにまっすぐに京介の部屋へ来ると思っていた。ところがその足音は一向に近づかない。
 どうしたのだろうか、とも思ったが、別に帰宅したら京介の部屋に来いと強要しているわけでもない。わざわざ小萩の部屋まで出向くこともないだろうと筆を持ち直した。
 ふと小萩がいなくなったら、と考える。今までのように文章が書けるだろうか。書くだけなら書けるのだろう。しかし、京介が自分でも驚嘆するような瑞々しく鮮やかな文章は書けない。
 小萩の面影だけを搾り取り薄めたような、味気ない文章になるだろう。それは文章だけだろうか。小萩のいない生活は、もはや京介の想像の範疇を超えていた。
 はあ、と息をつき天井を仰ぐ。今まで気がつかなかったが、雨漏りで染みと黴が酷い。染みと黴が人の顔に見える部分を探していると、表から京介を呼ぶ声が聞こえた。
 暑さとだるさに居留守を使おうかと思ったが、その声が左右衛門のものだと気付いて跳ね起きる。だるい体を引きずるようにばたばたと表へ走った。

「よう、先生。進み具合はどうだい」
 左右衛門は上機嫌にそう言った。
 最近左右衛門の身なりは派手になった。羽織りも袴も一目で上等と分かるし、装飾品も技巧を凝らしたものだ。吐き出す紫煙すら薫りから高価なものと分かる。
「ぼちぼち、ですよ」
 笑って返す京介の肩を左右衛門は大仰な仕草で叩く。
「またまた、そんなこと言って」
 ところで、と左右衛門は京介にずいと詰め寄った。
「あんたの草紙が欲しいって注文が来てね。どこからって聞いて驚くな、大奥よ」
「は、大奥」
 大奥といえば将軍家の女の園。自分のような一般庶民には一生関係の無い場所と思っていたが、分からないものである。
 左右衛門は皺を引き伸ばすようにしてにいと笑う。
「高嶺の花とは言え、やっぱり女なんだ。ああいう娯楽も欲しいわな」
 主題が主題であるからあまり上品な草紙とはいえない。露骨な性描写もある。 口を挟む隙も与えぬ左右衛門の喋りに京介は押し黙った。
「しっかし、あれを書いているのがこんな冴えない朴念仁と知ったら世の乙女達は涙にくれるだろうよ。知ってるかい、あんた、光源氏ばりの色男だと噂になってんだ」
 は、と京介は目を剥いた。色男?誰が?
 京介はほんの少しの嫌悪感を抱く。皆、こうして勝手に他人の像を作り上げる。山本京介は滅多に声を荒げない穏やかで地味な男だという認識。そして、無意識的か意識的かそれに沿おうとする自分。
 たとえ物語の中で光之進が紫に強気に迫っても、京介にはそれが出来ない。せいぜいが妄想しているだけだ。
 それは小萩が見ている“山本京介”という人物像を壊したくないからなのだろう。
 “大人で優しい京介さん”という人物像に向けられる、小萩の憧憬や思慕を失うのが怖いのだ。
461無題十二:2009/06/17(水) 23:55:27 ID:r9Hb2Evw

「そんな話をしに来たわけではないでしょう」
 鬱々とした気分になりついつい口調も刺々しいものになってしまう。左右衛門はそれにも気付かずにそうだったそうだったと風呂敷を掲げた。皺首を伸ばして家の中を窺う。
「ほれ、あの娘さんがいただろう」
 小萩のことだ。左右衛門が小萩のことを気に入っているのは知っていた。特に羽振りがよくなってからは差し入れと称して様々な菓子など置いていく。
(いい年をしてみっともない)
 思い、そして自らを顧み自嘲する。三十半ばの寡男にそれを言う権利があるか。周囲からしてみればどちらも同じだけ滑稽に違いない。
「今は外出していますよ」
 平気な顔をして嘘をつく。小萩に出会ってから、自分がどんどん俗っぽくなっていくのは感じていた。生きているか死んでいるかも分からないような以前に比べればましなのやもしれぬが、自身の感情の起伏に怯えているのも事実である。
 本当は小萩を外に出したくない。小萩は自分しか知らないから、自分に懐いているのではないかという危惧。痩せぎすであった体も最近は女性らしいしなやかさを帯びた。
 若くて綺麗な小萩は、京介でなくても若くて良い男を選ぶ余地がいくらでもあるのだ。
「そうかい。ああ、これ差し入れだよ。暑いからな」
 手渡されたずしりと重い風呂敷の中身はよく熟れた瓜だった。ありがとうございますと言う京介に左右衛門はそっと小さな包みを握らせる。中から赤い飾りのついた簪がのぞいた。
「若い娘にしちゃ身なりが質素すぎるだろう」
 京介は機械的にありがとうございますと頭を下げ、顔面に笑顔を貼り付けた。
 左右衛門の小さい背中が揺れながら遠ざかるのを見送り家の中へ戻ると、部屋から出てきた小萩と出くわす。
「左右衛門さんですか?」
 風呂敷包みに目をやり、小萩は問うた。京介は中身をのぞかせる。
「瓜を貰ったんだよ。冷やして食べようか」
 小萩は何故か瓜を見てきゅうと眉を寄せた。そのまま俯きがちに首をふる。
「いえ……あまり食欲がないので」
 ごめんなさいと俯く小萩の頭を撫でると華奢な肩がふるえた。やや上目遣いに京介を見上げた小萩の視線が、京介の持つ小さな包みにとまる。
 小萩に渡さずにいようと思っていたのはおくびにも出さず、京介は包みを差し出した。
 おずおずと開けられた包みの中の簪を見て小萩は目を丸くする。
「あの……これ」
「左右衛門さんが、君に」
 そう告げると小萩はそうですか、と簪を握りしめた。浅いため息が形良い唇から漏れる。
「ありがとうございますとお伝えください」

 その日から小萩はあまり笑わなくなった。
462無題十二:2009/06/17(水) 23:56:05 ID:r9Hb2Evw
投下終了
463名無しさん@ピンキー:2009/06/17(水) 23:58:04 ID:11kL8QsV
>>462
GJ
464名無しさん@ピンキー:2009/06/18(木) 00:30:31 ID:4CCQ/+e9
>>462
ワクワクしてきた
GJ
465名無しさん@ピンキー:2009/06/18(木) 09:43:10 ID:ovx3r4It
こういうすれ違い大好物です
GJ!
466名無しさん@ピンキー:2009/06/18(木) 10:04:44 ID:ZmDV92gQ
>>465
やっべ、オラわくわくしてきたぞ!
467名無しさん@ピンキー:2009/06/18(木) 10:05:51 ID:ZmDV92gQ
やっべ、オラアンカー間違えたぞ!正しくは>>462だ!
468 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/18(木) 19:36:06 ID:dlrqwJX3
投下します
469春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/18(木) 19:36:33 ID:dlrqwJX3


──「パル、これ見てっ!!」

嬉しい気持ちを隠しきれないまま自宅に到着した私は、家に入ろうとするパルを捕まえて鼻先に携帯を近づけ、見せつけた。

嬉しそうにしっぽを振っているけど…「なにが?」と言った感じで顔を傾げている。

「ふふっ、パルにはわからないかぁ。」

玄関先で携帯を見ながらにやけている私を他の人が見たら変人だと思うかもしれない。
しかし、人生で一番幸せな日を迎えている私にはこの顔を戻せそうにない。

私の携帯に初めて家族以外の人間…それも異性と同性の二人の名前が加わったのだ。

その異性と言うのは昨日助けてもらった春樹先輩。

お願いを聞いてもらうという口実がなければ無理だったけど、多分今までの中でも一番勇気を振り絞ったんじゃないだろうか。

もう一人の同性は赤部 冬子ちゃん。

私より二つ年下の女の子…夏美さんと秋音さんの妹さんで中学二年生らしい。
初めて見たときは、私より年上だと思ったぐらいしっかりとした女性。

身長も私より高く、見た目も可愛いと言うより綺麗と言った感じ…良い意味で中学生には見えなかった。
470春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/18(木) 19:37:18 ID:dlrqwJX3
そんな感じで、私とはまったく異なった女の子なんだけど、番号を交換することになった理由が、私自身イマイチ分からない。

春樹先輩と番号を交換した後に、冬子ちゃんから「よかったら、私も友達になってくださいよ。」と言われ、戸惑いながらも春樹先輩からの勧めもあり交換することになった。

あの短時間で私と友達になりたいと思ってくれたのなら嬉しい…だけど私にそんな魅力的な物があるのだろうか…。


「なに考えてるんだろう…私。」
私の悪い癖…近寄ってくる人をすぐに疑ってしまう…。
私と友達になろうとしてくれてるのだから感謝しなきゃいけないのに。

「はぁ…用意しなきゃ…また、遅刻しちゃう。」
こんなことしてる暇無かった…急いで家に入り、部屋に置いてあるカバンを取りにいく。

昨日、教室に入った時のみんなの目は哀れんでるのかバカにしているのか…恥ずかしさを通り越して体中を針で刺されたように痛かった。

昨日の遅刻がなければ春樹先輩とお友達になることも無かったかもしれない。そう考えれば遅刻をしてよかったのだけど…。

さすがに二日連続となると、小心者の私では教室に入るどころか、学校に近づくことすら怖じ気付いてしまう可能性がある。
471春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/18(木) 19:37:50 ID:dlrqwJX3

──初日に悪い事と嬉しい事があったけどもう一つ、嬉しいことがあった。

それは夏美さんが春樹先輩の彼女では無かったこと。
私が浮かれている理由の大半がそのことなのだ。

夏美さんが彼女なら番号を聞けなかったし、二人で散歩する事だって偶然会った今日の一度きりで終わっていたはず。
出来れば、また春樹先輩と一緒に散歩をしたい。

また二人で…どこかに出掛けてみたい…。
これが恋かなんて恋をしたことが無い私には分からない。
ただ、いつの間にか春樹先輩の顔や声が脳に焼き付いて離れなくなっている。

この気持ちが純粋に春樹先輩を想っているモノなら大事にしたい…ただ、春樹先輩は私のことを異性として見てくれているのだろうか?

危なっかしい後輩…ぐらいにしか想われていないかもしれない。
今はそれでも良い…やっと掴んだ人の繋がりを絶対に切りたくない。
その第一歩としてまず春樹先輩に嫌われないようにしないと…。


「私…汗臭くなかったかな…」
自分の二の腕を鼻の前に持っていき汗臭くないか確かめる。
自分では分からないが、隣で歩いてた春樹先輩はどう思ったんだろう……。
472春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/18(木) 19:38:19 ID:dlrqwJX3

「シャワー浴びなきゃ。時間は…。」
時間は7時10分。20分でシャワーを浴びれば7時40分の電車には間に合うはず。

春樹先輩と一緒に行くなら、なるべく早く駅に着いて待たなきゃいけないんだけど、春樹先輩大丈夫なのかな…。

確か遅刻のほうが多いって聞いたような…でも今日は早く起きたから散歩してたって言ってたし、寝坊の心配は無いんだから遅刻の心配も無いと思うんだけど…。

「それに、駅に春樹先輩がいなくてもメールすれば良いだけだもんね。」

そう…私も一歩春樹先輩に近づいたはず。
小さな悩みなんて今の私には何ら問題は無い。
春樹先輩の携帯番号を知っている特別な人間なんだから…だから何時だって声が聞ける……話ができる。



「…夏美さんも春樹先輩の番号知ってるんだろうなぁ…」

ふと、春樹先輩と夏美さんが腕を組んでいる場面を思い出した。
幼なじみで隣に住んでるって言ってたし、始めて会った時は本当に恋人同士だと間違えるぐらい仲が良さそうだった。

春樹先輩も楽しそうに夏美さんの相手をしていたと思う。


それに、もう一つ恋人と間違えた決定的理由がある。
473春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/18(木) 19:38:56 ID:dlrqwJX3

それは昨日の駅での出来事…。

あの時の夏美さんの目…物凄く怖かった。

春樹先輩が間に入ってくれていなければどうなっていたか……大袈裟かもしれないけど、人との関わりが少ない私には、少しの威嚇でも体が震えるほど恐怖し、座り込みたくなってしまうのだ。

母のことを言われてカッとなり、夏美さんに言い返したけど今考えるとアレは私が悪かったと思っている。

夏美さんのことを春樹先輩の彼女だと思っていたにも関わらず、無意識に出た言葉にしろ夏美さんの目の前で
「名前で呼んでほしい」なんて私も相当空気が読めない人間なんだと考えさせられた。

だけど私のこの空気の読めない行動で一つ分かったことがある。
夏美さんは彼女では無かった…。それなのに夏美さんのあの反応…。


私が春樹先輩と話してる時も春樹先輩の意識を自分に持ってくるように話の間に割り込んだり、春樹先輩の体に触れたり、私と話す度に春樹先輩にかまってほしいような行動をとっていた気がする。



そう……嫉妬深い恋人のように…。
474春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/18(木) 19:39:55 ID:dlrqwJX3

あの姿を見て夏美さんと仲良くなれるか不安になったけど、それも私の頑張り次第だと思っている…。
まだ一日しか会ったことがないんだからこれから少しずつ…私なりに頑張って近づいていこう。

誰も私を見てくれない人生なんてもう嫌だ。



「…って、あぁ〜っ!!!てゆうか、こんなことしてる場合じゃっ、!早く行かなきゃ!!」

時計を見ると7時20分…。急いでパルにご飯をあげて風呂場に走る。

まず私の鈍さを直さなきゃいけないかもしれない…。

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇


「…ただいま〜」

「…」

散歩と言う名の春くん追跡ごっこを終えて家に帰ると、昨日の出来事の尾を引いてるのか、家を出た時と同様、暗い空気が家の中一面に漂っている。

「はぁ…しょうがないかぁ…。」

よほど昨日のことがショックだったようで、あんなに言い争いをしていたのに、春くんが帰ると、魂を奪われたようにみんなが放心状態に陥り、自分の部屋に閉じこもってしまった。

さすがに、私も春くんの涙なんて見たことなかったから驚いたけど…。
それでも、私がしたことに間違いや罪悪感はまったく無いと思っている。
475春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/18(木) 19:40:41 ID:dlrqwJX3

春くんはまだ仲良く「家族」とはいかなかったみたいだけど、春くんがお兄ちゃんになる…これだけは誰にも譲れない。

私は絶対に春くんを家族に引き入れる…。それでお母さんも喜んでくれるはずだし、春ちゃんもそれを望んでいるはず。

それに、春くんも私達とまた「家族」になりたいに決まっている。

昨日の事もあり、少し日数を置いて話し合いをするつもりだったけど、偶然今朝、春くんが散歩に出掛けるのを見てしまった。

挙動不審にコソコソしていたので後を追いかけたら、待ち合わせをしていたのか途中から見知らぬ女の子が散歩に加わった。

この時点で春くんに話しかけようか迷ったんだけど、女の子が誰か分からないし様子を見るために尾行を続行することにした。

春くんとその女の子は普通に散歩してるだけで特に変わったことは無かったと思う。
それに、春くんがいろいろな場所に案内してたので、女の子はこの土地に来てまだ日が浅いらしい。

最後は公園で休んで帰るだけったし、これといって怪しいこともなかったけど…。ただ、あの女の子…確か美幸ちゃんだったっけ…。

明らかに春くんしか目に映っていなかったし、私が携帯番号を聞いた時も一瞬表情を曇らせた。
476春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/18(木) 19:41:09 ID:dlrqwJX3

私はその表情を見れただけで、番号なんてどうでも良かったのだけど、春くんがどうしてもと勧めるので仕方なく交換することになった。

それだけなら我慢できたのに…。

あの子と別れた後、春くんにあの子に気があるのか聞いてみた。

すると「昨日会ったばっかりで好きとか無いけど、危なっかしくてな…分かるだろ?小さい子供とか妹みたいな…。」と返してきたのだ。

その言葉を聞いた瞬間、あの女を信号待ちの時に突き飛ばしとけば良かったと真剣に悔やんだ。

そんなことすれば人殺しになるし、お母さんを悲しませることになるからしないけど、嫉妬を通り越して殺意を覚えたのは紛れもない事実。

春くんが口を滑らせたことに気がつき、私に遅すぎるフォローを入れた時には、私の顔は苦笑いどころではなかったはず。

苛立ちが収まらず、嫌味を込めて「春くん一人っ子だから妹できてよかったね。」と言うと。慌てたように弁解していた。
その行動がより一層私の苛立ちを煽るとも知らずに…。

「はぁ………なっちゃんに後で言っとこ…」

なっちゃんも少なからずあの子と知り合いらしいので、後でそれとなく遠ざけるようになっちゃんに言っとけば、諦めるだろう…。
477春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/18(木) 19:41:39 ID:dlrqwJX3

あれだけ男心をくすぐる容姿をしているのだから、すぐに彼氏もできると思う。

そう………春くん以外の彼氏が。



少し不安要素があるとしたらあの子…少し似てた気がする。
多分勘違いだと思うけど、用心だけはしとこう…なっちゃんが無理なら私がなんとかするだけ。

あの子のアドレスも知っているし、人の男を寝取るような女の子には見えなかったから、最終手段として春ちゃんの名前をだして、あの子に春くんが彼女持ちだと吹き込めばいい。

後々あの子が春くんに直接確かめても春くんは彼女がいると断言するはず。


──まだ大丈夫…。
春くんは今でも春ちゃんのことを想っているはずだし、間違いなく、これからも想い続ける。


いつか春くんが私の本当のお兄ちゃんになれば、お母さんも昔みたいに笑ってくれる。
なっちゃんも不良なんか辞めて素直になると思う。

秋ちゃんもお母さんと昔みたいに仲良く暮らせるはず。

私も春くんとお母さんにいっぱい甘えて、いっぱい誉めてもらえるんだ…。
478春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/18(木) 19:42:08 ID:dlrqwJX3

子供の頃を思い出す…。

なにもねだらなかったけど、あの時の私なら何でも手に入ったと思う。

末っ子独特のワガママと甘えっ子気質。

お母さんの膝は私専用…たまに春ちゃんと春くんに貸してあげてたけど、春くんはほとんど座れてなかった気がする。

春くんが中学校に入学すると、春くんの大きくなった手は私を守る為にあり、成長した春くんの背中は、私が甘える為のおんぶ専用となった。

寝心地が良くてヨダレまみれにしたことなんて何度あったか…。
だけど、春くんやお母さんに怒られたことなんて一度もなかった。

それが当たり前だと本気で勘違いしていた…。

無くなって初めて気がつく当たり前のように過ごしていた「日常」の大切さ。
私が気づいた頃にはもう遅かったけど、今でもあの時の温もりが忘れられない…。


「……バカみたい…。」

最終的に丸く収まればなにも問題は無いのだけど、私の思いとは裏腹に、収まるどころか現状は溝が深まる一方でなにも解決していない……。
そんなことは私自身一番分かっている。

だけど、そんな悩みもかき消すぐらい私の未来は明るいと信じている。





そう……明るい未来が待っていると信じきっていた──。
479 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/18(木) 19:45:05 ID:dlrqwJX3
投下終了です。

書き手さんがいっぱいだっ!!
480名無しさん@ピンキー:2009/06/18(木) 19:58:23 ID:uJOkOmTT
GJ
481無題十三:2009/06/18(木) 23:06:48 ID:wBOq/cKV
GJ
でも空気読まずに投下。
482無題十三:2009/06/18(木) 23:07:11 ID:wBOq/cKV
 自室の隅で膝を抱えて小萩は草紙の頁を繰る。満月の光の下で踊る文字を目で追う。続き物で何冊か出ていたようだが、生憎買い揃えるだけの金子を持ち合わせていなかった。
 ともかく一巻だけを買い、読んでいる。
 読んでみれば、紫という少女が小萩であることはすぐに分かった。小萩は、主人公光之進の亡き妻の描写を探す。
《ああ、こんなことがあるだろうか。光之進は少女を見て慄然とした。その顔は光之進の愛した妻の面影を宿していた。》
「愛した……」
 自分の顔が映る鏡台を指先でなぞる。おそらくはその“小萩”の所有物であっただろうそれに映る顔をまじまじと見つめた。
《光之進は思い出す。よく笑いよく話す、心優しく清廉にして慈愛に満ちた妻を。結い上げた髪の艶やかさを、そして項の白さを。》
 (似ているのは顔だけか)
 髪など後ろで纏めているだけだし、何より自分はそんな出来た人間ではない。
 小萩は頭の後ろへ手を伸ばし結い紐の片方を引っ張る。紐には潰れひしゃげて音の出ない鈴がついていた。それが机の上に転がりからからと音をたてる。
 慣れない作業に四苦八苦しながら、髪に櫛をいれ結い上げた。そして、左右衛門から贈られた簪を挿した。
 鏡の中の自分は死人のような無表情であったのに今にも泣きそうな顔をしているように見えた。深く息を吸うと、鼻の奥が震える。じわりと涙腺が痛んだ。
 十年前にもその鏡が同じ顔を映していたかと思うと、やり切れない気分になる。髪を上げただけなのに、その見慣れぬ自分に吐き気がした。
(これでいい)
 京介がそれを望んでいるならば、小萩に“小萩”の代替を求めるならば、喜んでそれに沿おう。
 京介がそれを喜ぶならば、京介がそれで幸せならば、京介がそうして自分を傍に置いてくれるならば、小萩など死んでしまっても構わない。
「ふっ……う……」
 何故か次から次へと涙が零れた。熱い水滴が頬をとめどなく流れ落ちる。
(なんで、なんで、なんで、なんで)
 今まで、一度だって泣かなかったのに。我慢したのに。京介とずっと一緒に居られる方法が分かって幸せなはずなのに。
(そうだ。幸せで幸せで幸せで仕方がなくて涙が止まらないんだ)
 目を袖で拭い、鏡に向かう。“小萩”はいつだって笑顔なのだ。笑わなくては、駄目だ。小萩は鏡に笑ってみる。
 それでも鏡に映るのは陰鬱で無様な泣き顔で、小萩は鏡を床に叩きつけそうになった。
「うっ……うぇ」
 意図していないのに嗚咽が漏れる。袖では抑えきれなくなって、布団に顔を押し付けた。
 “小萩”は今わの際に何を見ただろう。泣きはらした京介の顔か、それとも心配をかけまいとする笑顔か。或いは、視界もままならぬ程に衰弱していたのか。
 何にせよ、きっと京介が隣に居たのだ。
 小萩はそれが心底羨ましい。自分も京介に看取られたい。京介に先立たれてまた一人になるくらいならば、京介に殺されたっていい。
 京介に捨てられるくらいなら死んだ方がましだ。だから、小萩は小萩を殺す。
 小萩の死を見届けるものなど誰もいなくて、死に行く小萩が最後に見たのは自身の泣き顔であった。
 “小萩”が羨ましい。妬ましい。最後の最後まで愛されて幸せだった“小萩”は狡い。
(駄目だ。こんなんじゃ駄目だ)
 心優しい“小萩”は、そんなことは思わないはずだ。自分のためではなく皆のために涙を流すだろう。少なくとも、京介の“小萩”像はそうだ。
(泣くのは、今日で最後だ)
 明日から小萩は幸せな“小萩”だ。
(そうだ。京介さんの子を産もう。“小萩”の代わりに私がたくさん産もう)
 小萩は平らな下腹をするりと撫でた。
 庭先で遊ぶ子らを眺めて微笑む京介と、京介に寄り添う小萩を夢想し喉をふるわせる。
 それはきっと京介が十年前に夢見た幸せな未来だ。小萩は“小萩”に代わってその未来を叶えてやりたい。
 出来るだけの幸せな想像だったはずなのに、胸がちくちくと痛んだ。
「ふぐっ……うぅっ……」
 小萩は窒素しそうなほど布団に顔を押し付ける。そうでもしないと京介に嗚咽を聞かれてしまう。
(なんで。私は幸せなのに)
 愛しい男と暮らし、子種を注がれ、子を孕む。女としてこれ以上の幸せがあるのか。
 小萩はそれ以上の幸せを知らない。京介の傍に居る以外の幸せを知らない。今更知りたくもなかった。
「京介、さん……」
 小声で名を呼ぶと一層涙が溢れ出て、小萩は声を押し殺して泣いた。泣いて泣いて泣き疲れて、そして眠りに落ちた。
483無題十三:2009/06/18(木) 23:07:36 ID:wBOq/cKV


 瞼の向こう側からかすかな朝の光が透かして見えた。小萩は薄目を開けて、丸くなる。
(起きたくない)
 このままもう一度眠って、心配して見にきた京介を布団に引きずり込もうか、と考えて息を吐く。
 駄目だ。京介のために朝食を支度せねばならない。昨日まで小萩がそうしていたように、その前は“小萩”がそうしていたように。
 小萩はずるずると体を起こし、鏡を覗く。
(酷い、顔)
 腫れた瞼や赤い目を見て小萩はため息をついた。
 顔を洗おうと水場へ向かう。朝早く誰もいない其処で、夏だというのに冷たい水を汲み上げ、小萩は瞼を冷やし顔を洗う。
 盥の水面に映る自分の顔に笑いかけた。水面が揺れているせいか、それは酷く優しげな微笑に見える。
 小萩は部屋に戻ると着物を着た。いつもよりぴしりと裾を合わせ、襟も抜かず、帯もきちんと締める。品良く貞節を重んじる“小萩”は、賤しい淫売のような格好はしない。
 鏡台に向かい、昨夜したように髪を結う。二度目とあって、昨夜より早く綺麗に仕上げられた。
 鏡に映るきちりと着込んだ着物と結い上げた髪の毛の女が見知らぬものに思えて小萩は鏡から目を背けた。
 米を炊き大根を煮て、出来上がるまで手持ち無沙汰な小萩はぼんやり外を眺めていた。時折火に視線を向ける。
「おはよう」
 意識をどこかに飛ばしていたところに急に声をかけられ、小萩は肩をびくつかせた。
「お、はようございます」
 途切れがちに応えると京介は興味深そうに小萩を覗き込む。
「髪型、変えたね」
 小萩は俯き首肯する。京介の顔を見ていられない。
「暑いから、髪を上げたのかな。よく似合うよ」
 京介がどんな表情でそれを言ったのか、小萩には分からなかった。
(私は幸せだ。ずっと、京介さんと一緒に居られるんだから)
 ――たとえそれが、小萩としてでなくても。
 小萩は少しだけ顔を上げた。京介の胸あたりを見つめる。
「そうなんです。あ、朝食出来たらお呼びしますね」
 なるべく明るい声音でそう言って、慣れない作り笑いを顔に浮かべた。

484無題十三:2009/06/18(木) 23:07:58 ID:wBOq/cKV
投下終了。
485名無しさん@ピンキー:2009/06/18(木) 23:58:48 ID:AEuci0YH
GJが止まらない・・・
486名無しさん@ピンキー:2009/06/18(木) 23:59:00 ID:ZmDV92gQ
>>479>>484
GJ!なにこのご褒美!?今日って俺の誕生日だっけ?お二方良作すぎるわい



しかし、しかしだ…。>>484よ。俺は>>484の作品が大好きだ。かなり依存している。
でもな、スレのルールでなくとも板全体の暗黙のルールってものがある。
こんなことは言いたくない。だがな、どんなに心苦しくても言わなければならない…。
それはな、他の作者が投下し終わった直後に投下するのはよろしくないってことだ。
せめて半日〜一日の時間を置いてから投下してほしい。
わがままなのはわかっている。俺は>>484の作品を心待ちにしていたし早く読みたかった。
でもな、それでも暗黙の了解ってのはあるんだ。それだけはわかってほしい。
投下されたのは本当に嬉しい。これからも素晴らしい作品を投下してほしい。
487名無しさん@ピンキー:2009/06/18(木) 23:59:49 ID:CKMfm/Mq
イイヨイイヨー
488無題を書いている奴:2009/06/19(金) 00:36:02 ID:uujFvW0B
知らなかったとはいえ失礼いたしました。486さんにはなんだか気を遣わせてしまったようですみません。

479さんも申し訳ありませんでした。
決して479さんの邪魔をしようと思ったわけではありません。
今、心の隙間から読んでいて春春夏秋冬は我慢しているので、感想をお伝え出来ないのが心苦しいですが、これからも応援しております。


半日から一日あけるとなると、あまり連投しすぎると他の方がタイミングを失ってしまうかもしれないのでこれからは二日に一回程度の投下にします。


我慢ができれば。
489名無しさん@ピンキー:2009/06/19(金) 00:36:32 ID:xnBJ/Rn4
あー、すぐ後に投下するとその投下する前の作品へのコメントが減るからね。
モチベーションやら、読んでる人の反応を知りたい作者さんが困るし・・・

ん?なにが言いたいかって?

お二人ともGJ!!続きが楽しみだ。
490名無しさん@ピンキー:2009/06/19(金) 02:19:17 ID:68v7qwhg
まあ、投下タイミングは各自空気を読んで……ってことだな

とにかく作者さんがたGJ!
491名無しさん@ピンキー:2009/06/19(金) 03:14:22 ID:JhhQ2ye9
お二人ともGJ!
このスレ覗くの楽しみすぎる><
つ、続きが気になるだけで依存なんてしてないんだからねっ!

492名無しさん@ピンキー:2009/06/19(金) 08:56:28 ID:yk+LuA2E
>>479
GJ!! 冬、実に素晴らしいな。妹型の依存で来たか! ツボすぎる!
恋人狙いじゃないから一歩下がったところにいそうだけど、今後が楽しみ。

>>484
GJ! 小萩泣ける。しかしエロシーンまで読み進んで欲しい自分もいるw
簪が左右衛門から貰った物というのも微妙に心をチクチクさせられる。
でも寝取られだけは簡便な!

>>486
俺がいるwww嬉しすぎて誕生日かと思って書こうとしたら先越されてたwww
それくらいGJでした!
493名無しさん@ピンキー:2009/06/19(金) 17:00:21 ID:VTwe47kw
>>479>>484もGJ!

投下して数分とかならまだしも3時間ぐらい間が空いてんだから問題ないと思うんだけどな。
暗黙の了解って言っても書き手が全員半日〜一日間を空けて投下するスレなんて
板全体でも数えるほどしかないんじゃね?
まあ依存自体マイナーだから人が少なくてGJつきにくいのはあるかもしれないけど
494名無しさん@ピンキー:2009/06/19(金) 17:13:48 ID:gKdmWhlF
この過疎スレで連続で二作品も投下されたという
事実に感動している俺がいる
495名無しさん@ピンキー:2009/06/19(金) 21:33:00 ID:C4fZg2XH
時間帯にもよるだろうが俺がここに書き込んでいるのだって大体5時間
程度は経ってからだからな。
書き込みが頻繁なスレならあれだけど次の書き込みまで半日って事も珍しくない
のだから半日空けてくれるのは正直ありがたいよ。
隙間無く連投されるのは嬉しいのだが、読むほうとしては切れ目がわかりにくく
なるしな。
496夢と時間 2話  ◆6ksAL5VXnU :2009/06/20(土) 02:43:43 ID:rUpLgMSv
コソコソと投下
497夢と時間 2話  ◆6ksAL5VXnU :2009/06/20(土) 02:47:50 ID:rUpLgMSv
道路は生き物だ。というのは、自動車教習所で世話になった教官の言葉である。勿論、場所と言うのは動くことはない。この生きていると言うのは、変わると言うことである。朝と夜、晴れの日と雨の日、交通量に事故。
まったく同じ場所でも、俺たちドライバーに見せる顔はいつも違う。
この街は特にそうだ。深夜だろうが明け方だろうが、道路から人が絶える事は絶対にない。そういうのを見てきて、俺は人海の中にいるのだなと思うことがある。
「さっさと帰ろう」
信号が青であるのを確認して、アクセルをやや強く踏み込む。乱暴だと言われるかもしれないが、3時間もサービス残業させられたのに免じて許して欲しい。
「ちっ……はぁ」
舌打ち、そして大きなため息。
眼前には赤い列が途方もなく続いている。工事中らしかった。
「……はぁ」
またため息。いまさら進路変更など出来るはずもなく、俺はただ前の車の赤いランプを見つめることしか出来ない。
苛立ちがあった。だがそれ以上に疲れていた。
大学に通う為、田舎から来た俺にとって、この街は全くの異世界だった。まず驚くのはその人の多さである。主要な地区に出ると所狭しと往来する人、人、人。その中でも特に衝撃的だったのは、電車である。
俺は大学へ車で通うわけにもいかず、通学には電車を利用していたが、人が多くて身動きが取れないというのは初めてだった。
やがてそんな生活に慣れていくうちに、俺の中に怠慢もみえ始めていた。親元を離れ自由気ままに出来るようになったからか、よく朝方まで遊ぶといった事が多くなった。
それで結局、大学では教員免許を取ったくらいで特に何もなかった。
そして、免許が役にたったかは分からないが中堅クラスの企業に就職。今に至る。そこに小さい頃からの、俺の憧れだった東京はなかった。俺は東京と言う街に夢を見すぎていたのだ。
498夢と時間 2話 ◆6ksAL5VXnU :2009/06/20(土) 02:49:25 ID:rUpLgMSv
グゥーン、グゥーン、グゥーン
 ポケットに入れていた携帯が震える。メールだ。
「誰からだ?」
 俺は携帯をポケットから出して片手で開く。チェーンメールだった。なんともやるせない気分になってしまおうとしたときにふと、貼り付けてあるプリクラが目に入る。映っているのは高校時代の俺と、そして三月だ。
「懐かしいな」
 もう何年も前の物で、ぼんやりと白くなってしまっているが、その時の事は思い出せる。お互いゲームセンターなどには行かない人間だったが、デートの時に行った水族館で見つけ、せっかくだからと撮った物である。
「今何してんだろ」
 三月とは殆ど疎遠のようになっていた。田舎と東京という距離と仕事で時間が取れず、会えるのは数ヶ月に1度。こんな生活だから電話もゆっくりと出来ず、何時の間にか壁が出来ていた。
 緑の案内板が目に入る。高速道路の入り口だ。俺はそれをぼうと見つめて考える。いますぐに高速に入り、休憩無しで走り続けたら何時間くらいで三月の家に着くだろうかと。
 そんな考えが浮かんでは消えていく。
「情けねえ、いまどき女だってこれくらい耐えるのに」
 どうにも疲れている。情け有ろうが無かろうが、実際俺は疲れている。このまま事故でも起こしたら洒落にならないと思い、俺はコンビニへ寄った。田舎だと、原付にまたがったヤンキーがカップメンでもすすってそうなものだが、流石にいなかった。
 眠気覚ましのコーヒーと、ついでに次の日の朝食となるパンをひとつ。必要なものだけ買って外へ出る。商品を見て回るような事は何時の間にかしなくなった。
「……はぁ」
 何度目だよ。
 自分に突っ込みながら、俺は買ったコーヒーを開けて一気に飲む。喉も渇いていたようで丁度良かったかもしれない。1分も掛けずに飲み干し、車へ向かう。
 彼女に声をかけられたのはその時だった。
「もしかして……先生?」
 そして、俺は彼女を知っている。
「……川崎さん?」
499夢と時間 2話  ◆6ksAL5VXnU :2009/06/20(土) 02:52:29 ID:rUpLgMSv
投下終了です
2レス目が手違いで読みにくくなってます。申し訳ありません
500名無しさん@ピンキー:2009/06/20(土) 02:52:37 ID:JxK3dorP
支援?
501名無しさん@ピンキー:2009/06/20(土) 03:09:50 ID:JxK3dorP
タッチの差だったか。乙。だんだん動いてきそうだね
502名無しさん@ピンキー:2009/06/20(土) 03:50:41 ID:Hh+7Ll9u
乙!
続きに期待
503無題十四:2009/06/21(日) 14:26:03 ID:N989jIil
最新投下日時指差し確認!
投下します。
504無題十四:2009/06/21(日) 14:26:35 ID:N989jIil
 ぼんやりと外を眺める小萩を見て、京介は心臓が止まるかと思った。
 いつもは頬にかかる髪の毛が結い上げられ、輪郭が露わになった子は儀は幾分か大人びて見える。
 それが、妻の面差しに重なった。
 もともと顔立ちがよく似ていたから拾ったのだ。それだけのために、小狡い手を使って小萩を引きとめもした。
 京介は溜息をついて筆を投げ出す。小萩は笑わなくなった。あまり感情表現豊かな娘とは言いがたかったが、それでも時折見せるはにかむような笑い顔は可愛らしかった。
 それ以来、京介は文章が書けなくなった。以前は湯水のように書きたいことが湧いたのが嘘のように筆が止まる。
 調子のいい頃に書き溜めたものがいくつもあるから当分は心配が要らない。しかしもう一週間近く何も書いていないのは由々しき事態である。
「暑いなあ……」
 呟いてみたが、別段暑いわけでもなかった。ここ数日のうちで一番涼しいともいえる気温である。
 京介は掌で額を押さえた。
 小萩は可愛い。小萩が好きだ。しかしそれが小萩が小萩だからなのか、小萩が"小萩"に似ているからなのか、京介はもはや分からなくなっていた。
「京介さん」
 小萩が遠慮がちに襖を開く。青白い顔がおずおずと室内を覗いた。
「夕飯、どうしますか」
 暑さに弱い京介であるから、夏場の食事は簡単に済ませることもある。この時期明日においておくことも出来ないので、小萩は毎日必ず京介に伺いをたてた。
 今日は涼しい。いつもであればここぞとばかりに美味しいものでも食べたいと思うのであるが、そういう気分にもなれなかった。
 京介は無言で首を振る。小萩は心配そうな顔をして京介の隣に膝をついた。
 白い手が京介の頬を撫でる。それはひんやりと冷たくてとても心地よかった。
「大丈夫ですか」
 京介はそれに答えずその白い手をとる。指を絡めてゆるゆると手を引きおろす。
 掌を畳に押し付け縫いとめて小萩の方に上体を傾けると、小萩はついと目を伏せた。
 着物の上から薄い乳房を撫でると、ふうと熱っぽい息を漏らす。胸元のあわせから手を入れ柔らかな肉に指を沈める。
「んっ……」
 手探りでその頂をさすると鼻にかかった声をあげた。徐々に固く立ち上っていく乳首を押しつぶす。
 着物は既にその役目を果たさずに、白い胸元を晒している。
 むしゃぶりついてその身体を隅々まで蹂躙したいのをこらえて、あくまで優しく撫で回す。
 小萩は以前のように京介を求めなくなった。
 三日に四度ほどの頻度で京介の寝所に忍び込み、布団に潜り込んでいた。そのまま大人しく添い寝をねだることもあったが、大抵は京介の寝巻きの下に手をいれてきた。
 小萩は京介の陰茎を美味しそうに口に含み、京介の上で淫らに腰を揺らす。
 それが今では京介が誘わなければ交わることがなくなった。
 誘えば断らない。しかし、自分から口淫に及ぶようなこともない。
 京介が絡める舌に応え、律動に合わせて声をあげる。それが普通なのだと分かっていても物足りない。
 それでも自ら口淫を強要するのは余裕がないように思われて言い出せなかった。
 京介は小萩の下腹部へ手を伸ばす。
(あとは、ぶちこんで、腰を振って、吐き出して終わり、か)
 どこか冷めた頭で考えて苦々しく唇を噛む。こんなのは自慰と変わらない。
 快楽を貪りたいのか、奉仕される優越感に浸りたいのか。どちらも正しくないに違いない。ただ寂しいのだ。
 最近の小萩は京介を透かして向こう側を見ているような気がする。それが、たまらなく寂しい。
 事後に押しつぶされそうな虚脱感に苛まれることは分かっているのに、小萩を求めてしまう自分はもはやどこか壊れているのかもしれない。
 そのとき、表の方から京介を呼ぶ声がした。それが左右衛門の声だったので、しぶしぶと立ち上がる。本当は救われたとほっとしていた。
 瞳を潤ませる小萩の髪を梳き、乱れた着物を簡単に直してやる。
「ごめんね」
 何に対して謝ったのだろうか。中断することに対してだけではないことは確かで、京介は硝子玉のような小萩の瞳を見ていられなかった。
 全部知っているぞ、とその瞳が冷ややかに嘲笑っているような気がした。
505無題十四:2009/06/21(日) 14:27:04 ID:N989jIil


「よう、先生。調子はどうだい」
 いつものようにそう言う左右衛門に京介は曖昧に笑って見せた。左右衛門はふうと煙を鼻から出して続ける。
「あんた、最近元気がないな」
 京介はぎくりと肩を揺らす。そうですか、とぎこちなく笑うと左右衛門はああと頷く。
「いけねえな。仕方がない、俺が茶屋にでも連れて行ってやるか」
「はあ……」
 酒は嫌いではない。だが静かに飲むのが好きだから、女人を侍らせたがる左右衛門の気持ちはよく分からない。
「遠慮しなさんなって。あんたのお陰でこちとら儲けさせてもらってんのよ。まあ慰労だと思ってさ」
 ばんばんと肩を叩かれ京介はよろける。面倒ではあるが、家にいるのは気まずかった。久しぶりに美味い酒を飲むのも悪くはないだろう。
「ありがとうございます」
 そうと決まればとはしゃぎ出す左右衛門を横目に見て京介は心中を渦巻くもやもやとしたものに溜め息をつく。
(私は逃げてばかりだ)
 戸を挟んで小萩に「出かけてくるよ。帰りは遅くなる」と声をかける。かすかな身じろぎの気配を感じて京介はまた「ごめんね」と呟いた。


 左右衛門と自分とそれから数人の物書き仲間で座敷を借り切り酒を飲む。
 華やかな着物と化粧の芸者達がきゃらきゃらと楽しげな笑い声をあげた。それに合わせるように男達も笑う。
 それを聞きながら京介は酒杯を煽った。手酌で飲み干す澄んだ酒はいつも飲んでいる濁酒の数倍美味い。しかしどこか味気なかった。飲んでも飲んでも酔った気がしない。
「京介、飲みすぎだぞ!」
 仲間の一人がからかい半分にそう言うとまた一人が声をあげる。
「放っておけ。京介は茶屋に酒を飲みに来ているからな。それしかやることがないんだ」
 言いながら隣で酌をしていた女の肩を抱くと、女はころころと笑った。
 その話を聞いて酔っ払い顔を真っ赤にしていた左右衛門が箸で京介の方を示す。
「ところが聞いて驚くな。この朴念仁の大先生、とびきりの別嬪を囲っておるのよ」
 左右衛門のおどけた口振りと常日頃の京介の様子から冗談と判じたのか座敷はどっと湧いた。
「別に、家のことを手伝ってもらっているだけで」
 言い淀む京介を囃し立てる。
「おう、で、その別嬪を食うたのか」
「馬鹿。京介がそんなこと出来るわけがないだろう」
「では、俺に紹介してはくれんか」
 口々に騒ぎ立てる男達の話題は徐々に違うものにすり替わっていく。
 京介はまた一息で酒杯をあける。一人の芸者が京介の杯に酌をした。
「旦那様は、無口でいらっしゃる」
 ゆらぐ水面を睨みながら京介は首を振る。
「こういう場で喋るのが苦手なだけです」
「皆、旦那様のことを素敵だと言っておりますよ。女には見向きもしないあの方を振り向かせてみたい、と」
 女はくすくすと笑って京介の膝に手を置いた。
「場所を変えましょ。二人きりでお話がしたいの」
 京介はちらりと喧騒を見やり、無言で立ち上がる。酒と女に夢中の左右衛門達は京介と芸者が一人座敷をあとにするのに気がつかないようであった。
 こちらに、と小さな部屋に招かれる。女は酒の用意をし、京介に酌をした。
 女は杯に手を伸ばす京介の手をとり、自身の胸元に押し付ける。
「ほれ、このように。旦那様と居るだけでこんなに乳房が熱うなって」
 京介は焦り、それを面に出さぬように目を伏せた。
「生憎ですが」と、酒杯に目を向ける。からからの喉を酒で潤した。
 女はむっとしたように眉をひそめ、それから京介にしなだれかかる。
「好いた女人がおりますか」
 問いに京介の手が止まる。それを見て女はにいと笑んだ。
「それならば、灯りを消して抱いてくださいまし」
 ――女など、皮を剥がせば皆同じ。貪欲な雌でございますよ。
 女はそう言う。その言葉は京介をちくりと傷つけた。
(では私の中身はなんだ)
 べったりと貼り付いてくる女が鬱陶しくて苛々する。
 どうせ、朴念仁の私をからかってやろうというつもりなのだろう、と女の指に指を絡め、片手で帯をほどいて脱がしていく。
 予想外に手際が良いのに驚いたのか、女は目を丸くした。毎日小萩の相手をしていればいやでも慣れるし技術だって身につく。
 心は冷めきっているのに男の性か体だけは反応し勃起しはじめているのが虚しかった。
 口づけようとする女を押しやり灯りを消す。小萩よりずっと肉感的な乳房を翻弄しながら女の体を組み敷いた。

506無題十四:2009/06/21(日) 14:27:44 ID:N989jIil
投下終了
507名無しさん@ピンキー:2009/06/21(日) 15:19:00 ID:5DUi6lNR
これは酷い!!
破滅の足音がもりもり聞こえてくる!!
まさにGJ
508名無しさん@ピンキー:2009/06/21(日) 15:48:52 ID:LOaorww8
なにこのやるせなさ?昼の連続ドラマなみにすれ違う男と女すぎるぞ
だがしかしGJだ!早よう続きを…早よう続きを…ッ!!
509名無しさん@ピンキー:2009/06/21(日) 17:02:03 ID:jBmRf5/s
GJ。暗雲立ち込めてきたな。
3日に4度とはエロい娘め。
510名無しさん@ピンキー:2009/06/21(日) 20:54:28 ID:uKZeZWAp
おまいさんを待ってたGJ!
しかし喉の乾きはますます酷くなったじゃまいか
続きプリーズ!
511名無しさん@ピンキー:2009/06/22(月) 04:30:16 ID:7ZK3u1yb
GJ
512名無しさん@ピンキー:2009/06/22(月) 22:45:26 ID:URcgB56j
うああああGJうああああああ
513名無しさん@ピンキー:2009/06/23(火) 02:15:07 ID:Z9xsy9NW
こはぎの反応楽しみです。GJ!
514無題十五:2009/06/23(火) 23:07:02 ID:78aJrHtk
投下します
515無題十五:2009/06/23(火) 23:07:36 ID:78aJrHtk
 小萩はぼうとして肢体を投げ出していた。中途半端な愛撫で高められた身体は妙に火照っていたが、今はもう何も感じない。
 京介の部屋の畳に寝そべり、部屋の中が朱に変わり、次いで紺青に染められていくのをぼんやりと眺めていた。
(夕飯はいらない。寝床の準備をしなくては)
 だるい身体を持ち上げようとして、結局寝返りを打って目を閉じた。
(……遅い)
 刃のような鋭い三日月も空の真ん中に浮かんでいるというのに、京介が帰ってくる気配はない。京介がこんなに長時間、しかも夜中に家を空けるのは初めてであった。
(私が、駄目なのか。私が至らないから)
 京介が帰ってこない。その事実が小萩を苛んだ。
(もしかして、捨てられた……)
 広い家に一人取り残される恐怖に小萩は身震いする。途端に心臓がどくどくと脈打ち手足が震えた。一人はいやだ、とそればかりが頭の中をぐるぐると回る。
「ひっ……ひ……」
 ひゅう、と喉が鳴った。半狂乱の小萩は京介の温もりを求めて部屋の中を膝で這う。部屋の隅に無造作に丸められた京介の寝間着を手に取った。
 夜気に冷えたそれを抱きしめ顔を埋める。
(京介さんの、匂い)
 嗅ぎ慣れているその匂いが愛おしい。小萩は何度も深く息を吸い、下半身に手を伸ばした。
 既に湿り気を帯びたそこを指でなぞり、指に溢れ出る体液を絡める。左手で京介の寝間着を抱きしめ、右手は自身を責め立てた。
 ぷくりと膨れた陰核を指でなぶると、勝手に腰が跳ねる。
「ん、……んっ……」
 温かみのない京介の寝間着にすがりつき、脚の間の手を徐々に激しく動かしていく。
「ん……あ、京介さ、んっ……」
 はっ、はっ、と犬のように息を荒げ小萩は寝間着に頬を擦り寄せる。にちゃにちゃといやらしく響く水音がかすかに鼓膜を揺らした。
「京介さんっ……き、もちいいよ……京介さん、京介さん!んうっ、んっ」
 京介はどのように触ったか、体に染み付いた感覚を頼りに指を強くこすりつける。じわじわと腰に力が入らなくなっていく。
「あっ、あっ、あうぅ……!」
 ひくり、と陰核が震えた。下腹部を締め上げるような快感に小萩は背をのけぞらせる。
(足りない)
 膣内に指を潜り込ませ掻き回そうとするが思いとどまる。小萩の中を弄んでいいのは、京介だけである。
 収縮を繰り返す下腹部から意識を離し、濡れた手を畳の上にぱたりと落とした。じとりと膝の裏が汗ばみ、ふくらはぎを伝う。
 京介の寝間着を体の上にかけて小萩は天井を見つめ続けていた。汗が冷えて、寒さで身が震える。
(もう一回だけ……)
 寝間着に鼻先をおしつけ、乾きかけた割れ目を指先で広げた。
516無題十五:2009/06/23(火) 23:08:27 ID:78aJrHtk
 がたん、と表の方で物音がした。小萩は先程までの倦怠感が嘘のように跳ね起きる。もつれる足で表へ向かう。
 廊下の隅、暗闇の中にうずくまる人影に「京介さん?」と声をかけた。人影は答えず、ゆっくりと立ち上がる。ふらふらと足元が覚束ない京介に小萩は駆け寄った。京介の体がぐらりと傾く。
「うあ!」
 倒れ込んできた京介を抱き止めた。京介は小萩の首筋に顔をうずめたまま、動こうとしない。強い酒気が小萩の鼻腔を刺激する。
「酔ってますか?」
 京介は黙って首を横に振る。際立って体格がいいわけではないが、それなりに重さのある男の体を支えきれず、小萩は膝を廊下の床板についた。
(珍しいこともあるものだ)
 小萩はぐったりと寄りかかる京介の背をさする。何度も酒を飲んだことはあるが、京介がここまでぐでぐでに酔うのは初めて見た。
「お酒臭いですよ」
 無反応な京介の耳元で続ける。
「あと……女の人の匂いがします」
 ぴくりと京介の体が震えるのが分かる。腰のあたりにまわされた手が、一層強く小萩をの着物を握る。
「白粉の、」
 匂いが。と言う前に肺から空気が漏れ出た。背中に衝撃が走る。廊下の冷たい床に押し付けられる。
 京介の手が乱暴に小萩の着物を乱した。
「京介……さん?」
 見たことのない京介の荒々しい様子に、小萩は困惑する。それをよそに京介は着物の間から陰茎を引きずり出した。それを小萩の濡れてもいない割れ目にあてがう。
「京介さんっ!布団敷きますから!せめて部屋の中で……!」
 小萩は身をよじり京介の下から這い出す。四つん這いになり京介から遠ざかろうとする小萩の腰が、強い力で掴まれた。
「うあ゛、っ……」
 そのまま着物を捲りあげられ、自慰の余韻の僅かな湿り気を頼りに京介の陰茎がねじ込まれる。
「う……あ、……京介さんっ痛いです!やだ!」
 乾いた肉を引き千切るように腰を突き込まれ、小萩は悲鳴をあげた。陰茎はぎちぎちと抉るように体内に埋められていく。
 途中まで侵入したところで、京介の腰が止まった。湿り気が足りずこれ以上中に入れることができない。
 京介は背後から小萩の乳房を乱暴に弄んだ。京介の手の中で白い乳房が形を変え、乳首も指で抓りあげられる。
「……小萩」
 それでも名を呼ばれると――それが、かつて愛した妻の名だと知っていても――容易に身体が反応してしまう。じゅくん、と身体の奥の方から熱を持った体液が分泌されるのが分かる。
「はっ……あ、京介さん、酔って、ますねっ」
 痛みと快感に眉をひそめて抗議すると京介の腰の動きが再び止まる。小萩は床に伏せていた上体を両腕で持ち上げた。
「水、持ってきましょうか」
 いたわるようにそう声をかける。白粉の匂いも何も、全て後から聞けばいい。
 ゆるゆると抜かれていく陰茎に小萩は胸を撫で下ろす。と、ぎりぎりまで引き抜かれたそれは、一息に最奥まで叩き込まれた。
「くああっ……!!」
 ずん、と身体の奥底を抉られ、子宮を震わせられて小萩は声をあげる。衝撃と快感と痛みの全てを小さな身体で受け止める。身体を支える手がぎゅうと握られた。
517無題十五:2009/06/23(火) 23:09:05 ID:78aJrHtk


「酔ってないよ」
 急なことに茫然とする小萩に上から声がかけられる。その声は穏やかで呂律もしっかりしていて、酔っている様子ではない。それがひどく怖かった。
 いつも小萩が京介を押し倒しからかえるのは、ひとえにそれを京介が容認していたからだ。でなければこうしていとも簡単に自分は押さえ込まれてしまう。
「女の人をね、抱いたよ」
 なんでもない風に、笑みさえ漏らして京介は言う。小萩は理解できずにただただ揺さぶられていた。徐々に快感が痛みを上回っていく。
「いや?私が他の女を抱くのは」
 いやだ。死ぬほど嫌だ。それでも、それが、京介の意向ならば、自分を殺すことなど容易である。
 答えない小萩に業を煮やしたように京介は続ける。
「私は、いやだよ」
 腰の動きが早まる。乾いていた筈の結合部からはじゅぷじゅぷと水音が響いた。足を体液が伝う。
 ぞわぞわと下腹部からのぼってくる痺れに小萩の腕が折れた。胸の先が冷たい床にこすれ、それさえ気持ちよくて腰をよじる。
 京介は激しく劣情を叩きつけてくる。奥まで勢いよく叩き込まれるせいで、小萩の白い尻がほのかに赤く熱を持った。
「あっ、あっ、あんっ、はげしっ、……おく、に……やぁんっ」
 考えることを放棄した小萩の頭は真っ白で、白痴のように涙を流しながらただただ快感を求めて腰を振る。
 貞淑な妻を演じ続けた反動のように、淫らに京介を求めた。
「京介さん京介さん京介さん京介さん!ああんっ、あふっ、……気持ちいいよう!」
「……はっ、小萩出すよ」
「あぁぁんっ!」
 宣言するが早いか小萩の体内で精液が迸る。中でひくんひくんと震える陰茎の感触と愛おしさに、小萩の身体が痙攣した。
「……あ、……あ」
 意図もしないのに突き上げた尻が勝手に跳ね上がる。陰茎が抜かれる感触だけで、もう一度達してしまう。
 小萩は茹だった頭を冷たい床に押し付ける。荒い息を整えている最中に無理矢理身体を引き上げられ、唇にべとべとの陰茎を押し付けられた。
 小萩は黙ってそれに舌を這わせる。久しぶりの京介の味に一度上り詰めた身体が再び熱をもった。しゃぶりついて吸い尽くしたいのを我慢して優しく汚れを舐めとる。
 普段ならばそうしているうちに萎えていくはずの京介の陰茎は小萩の手の中でますます大きくなった。
 京介は小萩の結い上げた髪を勝手に解き、華奢なつくりの木製の簪をばきりとへし折った。
「君は、ずっと私と居たいんだろう」
 問うというよりは確認するように京介は言う。奉仕を続けながら何度も頷く小萩の頭を掴み、口を性器に見立てるように激しく揺らす。
「んうっ、んっ、んっ、うぶっ!」
 喉を突かれて苦しそうにする小萩に構わずに、京介は熱に浮かされたように腰を振る。
「じゃあ、どうして私を苦しめるようなことをするんだろうね、君は!」
 目に涙を浮かべて首を振る小萩の顔を覗きこむ。
「君が私から離れて行ったら、そのときは……」
 酔いも激情も浮かばない瞳はいつもの優しげな光もたたえていない。その瞳に小萩は怯えた。
 京介はその続きを言わずに小萩の身体を床に押し付ける。二人の体液が入り混じるそこに陰茎を突き立て、より質量を増したようにも感じられるそれで思い切り刺し貫いた。

518無題十五:2009/06/23(火) 23:10:26 ID:78aJrHtk
投下終了
519名無しさん@ピンキー:2009/06/23(火) 23:38:58 ID:7LBc7CaN
GJ
520名無しさん@ピンキー:2009/06/23(火) 23:41:52 ID:4DgeNLhX
GJ!エロい
521名無しさん@ピンキー:2009/06/23(火) 23:46:38 ID:ZGiIHXRu
どちらかが精神的に病みそうでハラハラするわ
522名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 01:25:38 ID:g1Eixz7S
GJ!
萌 え た w
523名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 22:39:17 ID:IWfbKTuf
>>518
GJ。まさかこんなことになってしまうとは……
524名無しさん@ピンキー:2009/06/27(土) 02:47:36 ID:nKgtZ1jo
まだかな
525夢と時間 3話  ◆6ksAL5VXnU :2009/06/27(土) 13:02:17 ID:iS7TCFxY
繋ぎ的な
526夢と時間 3話  ◆6ksAL5VXnU :2009/06/27(土) 13:02:53 ID:iS7TCFxY
 私は先生の事が好きだった。細く開いた目蓋に濃い眉毛。細長い輪郭と普通の人ならちょっと嫌がる癖毛も含めて。要は先生のなら何でも好きだった。それは今でも変わらない。何でも受け入れられる自信がある。
 私がまだ高校生だった頃。先生は教育実習生として私の前に現れた。でも、一目惚れだったわけじゃない。最初は何の興味もなければ関心もなかった。
 私の家は今もだけど、酷く貧乏だった。父が早くに亡くなって、それ以来母が1人でここまで育ててくれたのだ。
 だけど、限界だった。授業料が払えなかったのだ。仮に卒業まで居たとしても、大学や専門学校へ進むなんて選択肢はありえない。私は退学して働くしかなかった。低所得者の悲しきスパイラル。それに抗う事は出来ない。
 話が決まれば、後は早かった。学校側も受け入れて、クラスメートにもHRで近いうちに退学する旨が担任によって伝えられた。そうなれば不思議なもので、彼等は皆同じ様な事を言うのである。
「頑張ってね」
「負けるな」
「応援してる」
 有難いと、その言葉に感謝するのが礼儀だろう。でも、私にはその礼儀が出来なかった。
「目」だった。私の事を上から見て、嘲笑うでもなく、哀れむような目。その、怪我をした動物を見るような目で見られる事が、何より屈辱で、そして恐ろしかった。それは気のせいだったかも知れないけれど、絶望的な気分だった私からすれば、そういう風にしか見れなかった。
 私は、その理不尽さへ向けるべき矛先を母へ向けた。母だけでなく、友人や、そして生生にも。
「なによ教師でもない癖に! 鬱陶しいからあっち行ってよ!」
 確かこんな事を言った。今から考えると、先生には何の関係もないのに滅茶苦茶な事を言っている。もし私が先生の立場なら、こんな生徒に深く関わる事はしないだろう。けれど、先生は私の中に入ってきてくれたのだ。
「自棄になるな」
「いいご身分だよね先生!? 先生は私と違って、立派な大学へ行ってるんだからね!」
「……川崎さん」
527夢と時間 3話  ◆6ksAL5VXnU :2009/06/27(土) 13:05:04 ID:iS7TCFxY
「……」
 私は答えなかった。それでこの先生も、愛想つかして私から離れていくと思った。だから、先生の次の言葉で私はかなり困惑することになる。
「勉強、するか」
「は、はァ? 何でそうなるのよ?」
「一般教養は身に付けといて損はない、退学するなら尚更ね」
 教室には2人しかおらず、ある意味、授業をする準備は整っていた。
「意味ないわよ、今更勉強なんて」
「おいおい、その様子じゃ学費があっても退学だったんじゃないか?」
「そんな訳ない!」
「じゃ受けるな?」
「……バカみたい」
 でも、何時の間にか私は先生のペースに飲まれていって、ついにその授業を受ける事になった。
 傍から見れば奇妙な光景だっただろう。先生は教卓に立って、私は自分の席で授業を受けた。先生と目が合う。そして、その細い目蓋の奥を見たとき、私はやっと気が付いた。
あの嫌な「目」がなかった。先生は私を1人の生徒として見ていたのだ。動物でも何でもなく、数十人いる中の1人の、普通の生徒として。
 私は涙が出そうなのを必死に堪えた。先生は唯一、私を相応の人間として認めてくれたのだ。
「いいかここ重用だぞ? 労働者には3つの権利があってだな」
 授業内容は公民だった。私はどちらかと言うと、地理や歴史の方が好きで、公民は難しくあまり好きではなかったが、この時ばかりは大真面目に先生の話を聞いていた。
 先生はその時の私にとっての、一番必要な知識を与えてくれたのだ。私は胸が熱くなって、泣き出しそうになった。先生は本当に私の事を考えてくれていたのだ。
 どのくらいそうしていて、どう別れたかは、はっきりとは覚えていない。覚えているのは労働なんとかの知識と、そのとき先生を好きになった事くらいだった。
 数日後、私は退学した。
528夢を時間 3話  ◆6ksAL5VXnU :2009/06/27(土) 13:05:55 ID:iS7TCFxY
終了です
529名無しさん@ピンキー:2009/06/27(土) 14:41:11 ID:afR4NB3y
GJ
なんか切ないね…
このスレの話ってヤンデレっぽいのが多いからこのままノーマルな方向で進んで欲しいッす
530 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/27(土) 16:17:18 ID:SPhJhzoN
超GJ!!

ヤンデレと依存は紙一重みたいだよ?
531529:2009/06/27(土) 16:39:04 ID:afR4NB3y
>>◆ou.3Y1vhqc さん
そですね、貴方の書かれている春春夏秋冬とか心の隙間とかはまさにそんな感じですが、
(それが悪いってんじゃないです。あれはあれで好きです。)
依存っていうか独占欲っていうか、そういう志向ってどうしてもヤンデレ方向に行きやすいですよね。
家族間の愛情よりも個人的独占欲が勝っちゃうとかそういうのって紙一重のあっち側だと思います。
ネトゲの蕾なんかも結構腹黒かったりしてるし…

でも。紙一重のこっち側でギリギリ踏みとどまったお話も読んでみたいんです。
一人の男を巡って母と娘がいがみ合うとかじゃなくて
出来ればみんなまとめてハーレム状態でウハウハするような感じで、
女性陣みんな主人公にメロメロなご都合主義のお話でも良いんです。
他の女を排除するとか存在を認めないとかのネガティブな依存じゃなくて
他にも女がいるのなら自分の魅力でオトコを振り向かせる、
っていうようなポジティブな依存があってもいいと思うんです。
わがままですみません。
532名無しさん@ピンキー:2009/06/27(土) 17:13:24 ID:ZgKq17G6
はぁー。sageろよ・・・
533名無しさん@ピンキー:2009/06/27(土) 18:58:37 ID:qVIPqrio
>>531
ハーレムスレいけばそういう作品ごろごろあるんでない?
そういうプラスチックの表面みたいな作品。
534名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 01:08:51 ID:9LdNBkdU
>他にも女がいるのなら自分の魅力でオトコを振り向かせる
そんなこと考えてられるレベルなら依存とは言わないような……
535531:2009/06/28(日) 02:45:52 ID:Dr8TpVVL
>>534
そうかなぁ?
先に書いたネガティブさってのは依存そのものって言うより、
そこから派生した強迫観念だと思うんですよ。

1.彼無しでは生きられない

2.捨てられたくない 

3.他の女がいたら捨てられるかもしれない

4.邪魔者は消す

結局こういうことでしょ?
2.から3.もしくは3.から4.のところって
必ずしも繋がらないと思うんですよね。
前スレで依存とヤンデレの違いを「私は貴方のもの」と「貴方は私のもの」との違いだと看破した方がいましたが
まさしくそのとおりだと思います。

ヤンデレに見られる情愛すら破壊するような強烈な独占欲ってあまりにエキセントリックすぎるというか、
家族とか親友とかのように互いに友愛関係にある間柄ならその辺上手く折り合いつけてもいいんじゃないかって。
ある意味主人公とだけじゃなく周りもひっくるめた関係に依存するというのも有りだと思うんです。
たとえば、春春夏秋冬でいえば冬子ちゃんなんかはそれに近いものがありますよね?
536名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 06:01:03 ID:AIMsM8Gs
夜遅くに長文ご苦労様です
537名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 09:01:38 ID:yLtp5h1b
>>528
GJ
538名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 09:43:05 ID:jLwku071
こりゃ相手しないでNGIDした方がいいかもしれんね
539名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 10:11:07 ID:/NE49JOe
人様の作品をダシに俺様嗜好語りをするのはやめれ
540名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 10:24:58 ID:mbEBWrxI
依存をヤンデレなんて軟派な単語で一括りにしないでほしいわぁ
541名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 10:41:19 ID:cwS6Ke/o
これが依存だ。
以下コピペ

38 :優しい名無しさん:2009/06/07(日) 01:49:07 ID:hwKwSUMk
自分の価値は依存相手を通した価値でしか見ることが出来ない。
相手が感じてる価値=自分の価値だから相手に必死になる
嫌なことも何でもして尽くしていい子いい子と褒められることこそが喜び
元カレのことはご主人様って呼んで慕ってた。
今でも愛してる…。
まず普段自分が着る洋服から髪型から1日の買い物や家事などの行動まで、相手にどうしたらいいか決めて頂いて、命令がないと行動出来ない生活してた。
次第に彼なしで外に出ると不安で仕方なくなって、どんどん依存が深くなってく。
そして相手のキャパシティを食いつぶす域まで達し喧嘩としがみつきの繰り返し。
辛かった。
相手がいなくなる、相手が自分を見てくれない、消えてしまう恐怖との闘いだった
消えそうになるたび、心を切り裂かれる想いでどうかおそばにおいて下さいと懇願する日々。
でもあの自分の全てを委ねた安心感、守られてる幸せもとてつもなく大きくて相手の為なら死んでもいいと思える。
すれ違って、相手には結果としてとても酷いことを沢山したし、私もぼろぼろになったけど
依存したい
私の身を心も全てお仕えしたい…自らを賭して甘い依存の誘惑に溺れたい
今はご主人様にどうしたらもう一度お仕えさせて頂けるか必死で考えてる
まるで飼い主がなくなった犬
主体性がない
自分の価値は依存相手に認められた分だけの価値
542名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 10:51:52 ID:G2NXZdjP
酒とタバコに依存してる俺はこの2つがなければ生きていけないレベル
生きていけないレベル=これさえあれば十分=この為に生きてる=依存
モノでも人でも依存ってのはこんなもんで十分だろ。細けえこたぁいいんだよ!
543名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 12:11:51 ID:RrPcXVr4
このスレの作品の続きが読みたくて
一日に数度スレを確認する俺は依存の気がありますか?
544名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 12:36:44 ID:K2BtkpDr
「先生・・・>>543の容態ですが」
医師「・・・もはや様子見をしている暇はない。彼女を呼べ」

>>545が登場する
545名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 15:45:59 ID:cwS6Ke/o
    |┃三     , -.―――--.、
    |┃三    ,イ,,i、リ,,リ,,ノノ,,;;;;;;;;ヽ
    |┃    .i;}'       "ミ;;;;:}
    |┃    |} ,,..、_、  , _,,,..、  |;;;:|
    |┃ ≡  |} ,_tュ,〈  ヒ''tュ_  i;;;;|
    |┃    |  ー' | ` -     ト'{
    |┃   .「|   イ_i _ >、     }〉}     _________
    |┃三  `{| _;;iill|||;|||llii;;,>、 .!-'   /
    |┃     |    ='"     |    <   話は全部聞かせて貰ったぞ!
    |┃      i゙ 、_  ゙,,,  ,, ' {     \  >>543はシベリア送りだ!
    |┃    丿\  ̄ ̄  _,,-"ヽ     \
    |┃ ≡'"~ヽ  \、_;;,..-" _ ,i`ー-     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
    |┃     ヽ、oヽ/ \  /o/  |    ガラッ
546名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 19:00:37 ID:rNJj1SCx
今頃543は、シベリアで木の数を数えたりスコップで地面に穴を掘って、埋める矯正教育を受けてるんだろうな・・・
俺もKGBに密告されたらただじゃすまんな。
547名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 19:03:26 ID:QjzT4qPu
なんだこの流れ
548無題十六:2009/06/28(日) 19:06:46 ID:YsyXNveI
旅行に行ってきました。
投下します。
549無題十六:2009/06/28(日) 19:10:55 ID:YsyXNveI
 京介は小萩の小さな身体を蹂躙し続けた。
 小萩はどこか虚ろな目をして京介の胸にしがみついている。されるがままに突かれて、時折思い出したかのように身体を痙攣させ何度目とも知れない絶頂を迎える。
 なぶられ続けた女陰と乳首は赤く腫れ上がっていた。女陰からは二人分の体液が混ざり泡立ち零れ落ちる。
 小萩を“小萩”の代替として愛しているならば、その小萩の代替として他の女を抱いてもそう変わらないのだろうと思った。
 しかし実際は抱けば抱くだけ虚しさと渇きが増した。
 京介は吐精感に身を震わせるが、空っぽの睾丸がひくひくと痙攣するばかりで何も出てきはしない。
「あっ……」
 汗と、もはや得体の知れなくなったぬるつく体液にまみれて小萩は小さく声をあげた。半分萎えた陰茎を女陰が弱々しく刺激する。
「小萩」
 名を呼ぶと小萩の硝子玉の瞳がゆるゆると京介を捉えた。小萩の瞳には京介だけが写っていて、それがたまらなく幸せだった。
 小萩は妻のいない十年越しの寂しさを埋めたが、やはりそれは小萩でしかなしえなかったのだ。
「馬鹿な子だ。私以外に幸せにしてくれる男は山ほど居るのに、自ら世界を狭めてしまって」
 小萩は理解しているのかしていないのか、久しぶりにふうと笑って京介の背に手を回す。
「ねえ小萩、ずっと一緒にいよう。二人で、此処に」
 小萩の目の縁から、透明の雫が一筋つうと流れ落ちた。顔についた精液を洗い流して、涙はぽろぽろと零れ落ち続ける。
 小萩が泣くのを、京介は初めて見た。
「泣くほど嬉しい?」
 小萩はこくこくと首をふる。京介がふやけた陰茎を小萩の中から引きずり出すと、小萩の内股にどくどくと体液が溢れた。
 小萩は萎えた陰茎にまとわりつく体液を舐めとる。幸せそうに、嬉しそうに、自身の陰茎をしゃぶる姿を見ていると、親の財産を食い潰す自堕落な物書きが、やっと誰かに必要とされているような気がした。
「馬鹿な、子」
 そして不幸な子だ。
 もう一度呟き、髪を指で梳いてやる。
 亡き妻に顔が似ているというだけで、こんなどうしようもない男に拾われてしまった。
 一緒に居ても、双方のためにならないということは分かっているのに、やめることが出来ない。
 互いに互いの精神を蝕みながら、自分の心を磨耗していく。
「小萩、愛してるよ」
 本当はそんな陳腐な言葉ではどうしようもない程に小萩を欲していた。戯れのように発した言葉に、小萩は目を見開いた。
 焦点の合わなかった目が、京介を見る。
 一旦は引いた筈の涙がぽたぽたと京介の膝を濡らす。そのまま京介の腹に顔を当てて、子供のように声をあげて泣く小萩を抱き寄せた。


550無題十六:2009/06/28(日) 19:11:44 ID:YsyXNveI


《光之進は紫の震える体を抱きしめた。「愛している。共にあろう」
 紫は黒い瞳からぽたぽたと涙を零す。「嬉しい」と涙ながらに光之進にすがりつく。》

 そこまで書いて、京介は筆を置いた。
 先ほどから京介の足の間で丸くなり、京介の陰茎を勃起させては萎えさせをくり返している小萩の頭を撫でる。
「何してるの」
 呆れたように言うと小萩はくしゃりと笑って、適当に舌を這わせるのをやめ、陰茎を口に含みいっきに吸い上げる。
「ちょっ……!」
 十分に焦らされた陰茎は突然の刺激に小萩の口内に吐精した。
「最近、口淫ばかりだね」
 精液を飲み下し、小萩は少しだけむくれた。
「赤子は、いらないです」
 二人だけでいいから、と俯く小萩。可愛い嫉妬。可愛い我が儘。可愛い独占欲。
 小萩は、草紙を焼き捨てた。全て見なかったことにした。京介の真意がどうであろうと、この幸福を享受することに決めた。
 京介は、「原氏物語」を終えることにした。左右衛門はかなり渋ったが、それでもやめた。
 この後、自分達がどう転ぶのか分からないから、せめて物語だけでも幸せなめでたしめでたしで終わらせたかったのだ。
 賛否両論があるだろう。巷では、嫉妬に狂った紫が光之進を殺すだとか、光之進が紫を監禁するだとかいう物騒な予想が横行している。
 今更めでたしめでたしで終わるなど、と批判を受けるかもしれない。
 それでも京介はこの終わり方を後悔することはないだろう。いつかの小萩の「物語くらいめでたしめでたしで終わればいいのに」という言葉の真意がやっと分かった気がした。
 小萩はぼうと考え事に耽る京介が気に入らないようで、眉を顰めて京介の膝の上に体をもたせかけた。
 京介は苦笑して小萩を抱き、着物の合わせに手を忍び込ませる。小萩は吐息まじりに京介に問うた。
「京介さん……夕飯、どうしますか」
 夏も終わりを迎え、秋の気配すらする涼しい午後。本来ならばきちんと夕食をとるのだが、京介は首を振る。
「君は、どうするの」
 小萩は小さく首を傾げる。
「京介さんがいらないなら、いりません」
 毛羽立った畳に小萩を押し付け、帯をほどきながら口付ける。
「小萩、愛しているよ」
 決まり文句のように言うと、小萩は頬を赤らめてにこりと笑った。




 果たして、この家が朽ち果てるのと、二人の関係が崩壊するのはどちらが早いのだろうか。

551無題十六:2009/06/28(日) 19:12:41 ID:YsyXNveI

終わり。

とりあえずあと二つ書きたい短い話があるのでお付き合いください。
552名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 19:24:54 ID:QjzT4qPu
ありがとう
GJ!!
553名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 20:08:24 ID:yLtp5h1b
GJ

だんだん病んできやがった……
続きが気になる
554名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 21:13:00 ID:8fZfpw1x
GJGJ!!
京介と小萩はこれでおしまいですか?
555名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 23:18:31 ID:m8XBcCEs
だめだ、GJすぐる。
556名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 23:59:36 ID:G2NXZdjP
GJ!
557春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/29(月) 14:41:09 ID:iAfU/Myl
投下しますね。
558名無しさん@ピンキー:2009/06/29(月) 15:45:19 ID:L/5LesTF
今か今か
559名無しさん@ピンキー:2009/06/29(月) 17:37:02 ID:I6jw6j4h
wktk
560春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/29(月) 18:13:09 ID:iAfU/Myl

「…暑っついな…。」
4月だと言うのにこの暑さ…。
お天気お姉さんの天気予報では、曇りだと断言していたのに、太陽はそんなの関係無いと言った感じで眩しく照っている。

太陽から目を背け、鬱陶しく額から流れ落ちる汗を二の腕で拭き取る。

立ち止まっている俺の横を学生や社会人が小走りで通り過ぎていく。
俺も学生なのでいつもならあの人混みの一部なのかも知れないが、今日は春香に会いに行くために学校を休学している。
だからなのか急いで駅に向かう人達を他人事のように客観的に見ることができた。

「美幸ちゃん大丈夫かな?」
先ほど別れたばかりの美幸ちゃんを思い出す。
駅に行く道の途中で美幸ちゃんと遭遇すると思ったのだけど、全く見当たらなかった。

もう駅に着いてるのか、まだ家なのか…。
別れ際、美幸ちゃんに遅刻はするなよと忠告はした。
だから大丈夫だとは思うんだけど…だけど、また、遅刻したら…。



「……メールしとくか。」
今朝教えてもらった美幸ちゃんの携帯アドレスにメールを送信する。

「……よしっ、これで大丈夫だろ。」

少しお節介かと思ったが、これぐらいのメールなら大丈夫だろう。
561春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/29(月) 18:13:48 ID:iAfU/Myl

なぜこんなに美幸ちゃんの事が気になるのかと言うと、多分美幸ちゃんのお母さんと同じで、危なっかしくて目がはなせないのだ。

母性なんて持ち合わせていないけど、女の人で言う、母性本能をくすぐられるってヤツだと思う。

実際は立派な女性なのだが、どうも美幸ちゃんは女と言う部分が少し薄い気がする…。



「…そういうとこが春香に似てるんだよなぁ。」

来た道を振り返り200mほど離れた場所にある美幸ちゃんの家を見る。美幸ちゃんに春香の面影を重ね合わせているからなのか、少し寂しく感じる。

「…早く行こっと。」
自然と小走りになる。

春香に会ったらなにを話そうか…美幸ちゃんのことは黙ってたほうがいいな…嫉妬深いヤツだから変に疑われたら機嫌を損ねるかも知れない。



「…」

ふと道路に目をやると散った桜で道路が綺麗な桜柄に染まっている。
まだ車が通っていないのか、桜独特の綺麗な花びらの形のまま地面に落ちている。




「……落ちるんなら木の下だけにしとけよ…」


――この季節になると嫌でも目につく桜の木…。
散る桜が綺麗な赤色なのはそれだけ多くの血を吸っているからだと、どれだけの人間が知っているのだろうか…。
562春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/29(月) 18:14:14 ID:iAfU/Myl


   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「はぁ、はぁ、どうしようッ。」

シャワーを浴びていると念入りになってしまい、気がつくと7時35分。あと5分で電車が出てしまう。
その電車を逃せば、また遅刻…さすがに春樹先輩も呆れて待ってくれる訳が無い。

だから、全速力で走っているつもりなのだけど…なぜか隣を小走りする人に追い越されていく。

運動音痴の私には、なぜみんながあんなに速く移動できるのか不思議でならなかった。

歩幅が狭く、短い足…私の体に合った足なのだけど、夏美さんみたいなスタイルがいい人に本当に憧れる。



「はぁ………んっ?」

ふとブレザーの右ポケットが震えてることに気がついた。
なにか分からず右ポケットに手を入れず上から恐る恐る触れる。


「携帯だ……」
私の携帯に電話やメールがくることなんて家族か、なにかの勧誘しか考えられないので常に私の携帯はマナーモードになっている。

一度、メールでHなサイトを見たからと何万円もの請求がきたことがある…。
勿論私には記憶がないし、そんなサイトを見ていないと神に誓って言い切れる。
563春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/29(月) 18:15:25 ID:iAfU/Myl

内容が内容なだけに親にも相談できず、そのアドレスに一通、『人違いじゃありませんか?』とメールを送ると、なん十通と催促のメールが返ってきた。

さすがに意味が分からず泣きながら母に相談すると、アドレスを変えなさいと一言いわれ、母の言うようにアドレスを変えると嘘のように催促のメールが無くなった。

母は呆れたようにため息をついていたが、メールが来る間は、恐怖のあまりにご飯も喉に通らなかった。

だから着メロや画像をダウンロードすることも無くなり、私の携帯は今でもずっとマナーモードなのだ。

「誰だろう……お母さんかな?」
朝、家を出る時にはなにも言ってなかったけど……ポケットから携帯を取り出して恐る恐る携帯を開く。






――「……えええぇッッ!?な、なんでッッ!!!?」

周りの歩行者が私の大声に反応し、奇怪者を見るようにチラッと一見してから何もなかったように歩き出す。

小さく、すいませんと謝罪をして、もう一度画面に目をむける。


「…本人かな…?。」

信じられないが、私の携帯画面に大きく四文字……『春樹先輩』という文字が写し出されている。
564春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/29(月) 18:15:56 ID:iAfU/Myl

「ふぅ………よしッ」
息を大きく吐き、興奮する気持ちを落ち着かせ、春樹先輩からのメールの内容を確認する。

「…」



『もうすぐ電車くると思うけど大丈夫?遅刻するよ〜。』

――メールの文が春樹先輩の声となり、頭に優しく響き渡る。


「やっぱり、春樹先輩だ………先輩……春樹先輩…。」

春樹先輩が私のことを心配してくれている…体から全ての力が抜け落ち、座り込みそうになるのを踏ん張る。

「……んっ。」

春樹先輩の顔を思い出し携帯を胸に押し付けると、春樹先輩の温もりを感じるような気がして、身体が火照る。

「あれ?…でも、これって…」

春樹先輩のことを考えていると、1日中楽しめるかもしれないが、残念ながらそんなことをしてる暇が無い。

春樹先輩のメールの内容をもう一度確認する。

「…私……待たせて…る?」
春樹先輩はもう駅についてるんだ。私が春樹先輩を待たせてる…。



「ッ!?」
言葉の意味を深く理解すると、先ほどまでの火照った体温が一気に低下するのが分かった。
私はまた、春樹先輩に迷惑かけている。
もしかして私に呆れて…。



そう考えると自然と私の足は先ほどよりも速く走り出していた。
565春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/29(月) 18:29:07 ID:iAfU/Myl
◆◇◆◇◆


――「はぁッ 、はぁっ…。」

電車は…まだ来ていないみたい…。時計を確認すると7時39分、ギリギリもいいとこだ。

間に合ったのはいいけど、慣れないことをしたから呼吸が落ち着かず、心臓も先ほどからずっと警告音を鳴らし続けている。

それにシャツが汗を吸って気持ち悪い…シャワーを浴びた意味が無くなってしまった。

「…」

改札口の前で立ち止まり、ハンカチで拭ける部分を全て拭きとる。

春樹先輩には絶対に汚れた部分を見せたくない……絶対…。




――「痛ッ!」

突然腕に強い痛みを感じ、腕に目を向けると、二の腕に赤く二本線切傷ができている。
無意識のうちにハンカチを強く擦りつけていたようだ。


「よし……うん…。」

汗を拭き取り、髪を整え、引っ掻いた場所を軽く撫でると、財布から定期を取り出し、改札口へと歩き出す。






――「……ん?」
ふと、視線を左にずらすと、20mほど先を歩いている私服の男性が視界に入ってきた。

普通の通行人…ただ、何故かその後ろ姿から、目を離すことができなかった。


――どこかで見たことあるような後ろ姿……あれってまさか……。
566春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/29(月) 18:29:29 ID:iAfU/Myl


――「春樹先…輩?」
間違いない…間違えるはずがない。
あれは間違いなく春樹先輩だっ!

走って駆け寄ろうかと思ったけど、小さな疑問が脳裏に浮かび上がり、急かす足を止めさせる。


「なんで、私服なんだろ?」

そう…春樹先輩は制服を着ておらず、今朝一緒に散歩した時と同じ私服で歩いているのだ。
今日は平日だし、同じ制服を着た人を何人もみたから登校日なのは間違いない。


それに不思議なことに、春樹先輩は改札口を通り越して、駅からなんの迷いもなく遠ざかっていく。

「…どこ、行くんだろ…」
さりげなく口から出た言葉だけど、私の頭の中は春樹先輩の事でいっぱいで、遅刻と言う言葉は嘘のように綺麗に消え去っていた。

「…」
春樹先輩と同じように、私も自然と駅から離れていく…。


――私にはもう一つ悪い癖がある。

それは、気になることがあれば自分が納得するまで、その事が頭から離れないこと…。
それが、春樹先輩のことなら尚更、気になってしょうがないのだ。

「大丈夫だよね……」
誰に呟いたのか自分でも分からない。

――ただ、感情を押さえられなくなっているということだけが、唯一自分でも自覚できることだった。
567春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/29(月) 18:31:08 ID:iAfU/Myl

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「ふふっ、また彼女さんにですかぁ〜?」

「……まぁ、はい…」
毎年買いに来てるけどこればっかりはいつ来ても恥ずかしい…。

中学に入って初めて春香の誕生日にプレゼントした物…

「彼女さんも幸せね〜、毎年、毎年、花束を贈られるなんてぇ〜。」

「はは、そうですかね……」

4年前からこの店で春香に贈るために花を買っているのだけど、年に一回しか来ないのに何故か顔を覚えられてしまった…。

「そうに決まってるじゃない。優しい彼氏が彼女の為に花束を毎年買っていくなんて……羨ましいなぁ。」

「ははっ、でも、お姉さんも綺麗ですよ?彼氏の一人や二人ぐらいいるでしょ?」
見た目は大和撫子と言う言葉が当てはまるぐらい黒髪が似合う日本美人だ。

秋音さんも日本美人の部類に入るのだが、しっかりとした秋音さんと違って、話し方や雰囲気が少しおっとりし過ぎている。
断言は出来ないが、男はこういう女性に弱いはずだ。
568春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/29(月) 18:31:56 ID:iAfU/Myl
「あら?嬉しいこと言ってくれるわねぇ〜。でも、今は彼氏いないのよねぇ……はぁ…」
大袈裟に落ち込むと、いきなり座り込んで、膝を抱え込んでしまった。

「ま、まぁ、お姉さんなら男なんて選びたい放題ですよ。だから大丈夫ですって。」
当たり障りの無い返事を返し、項垂れているお姉さんの背中に手を置き軽く慰める。

「……優しいわねぇ…本当に彼女が羨ましいなぁ……別れたらお姉さんの所においでね?私は何時でもOKだからねっ!」

「ははっ、その時はお願いします。それじゃ。」
名残惜しそうに手を振っているお姉さんに手を振り替えし、春香の元に急ぐ。

時計を見ると8時40分。30分近く花屋さんと話し込んでいたことになる。
一刻も早く春香のもとへ向かいたいのだが花束を持っているので走る訳にはいかない。


「春香、怒ってるかなぁ…」
いつもなら、もう春香に会っている時間帯だ。

自分は時間にルーズな癖に俺が遅刻するとすぐに拗ねてしまう。
まぁ、花束を渡せばいつもの笑顔に戻るのだけど…。

「機嫌治すのもめんどくさいし、早く行くか…」

――口から出る言葉とは裏腹に、俺の顔は今、気持ち悪いぐらいに緩みきっているのかも知れない。
569春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/29(月) 18:32:34 ID:iAfU/Myl


――
―――
――――

「はぁ……疲れた。」
花屋から歩き続けて20分。やっと見えてきた…。花束を長い時間持ち続けていると鉛のように重く感じるのが不思議だ。

「一年ぶりかぁ……」
花束から目を離し周りを見渡すが、この辺一帯はまったく変わっていない……まぁ変わるはずも無いか…。

「ふぅ……そろそろ行かなきゃ…」
景色なんて楽しんでる暇なんて無いんだった…もうすぐ春香に会えるんだげど一年ぶりなので少しドキドキする…。

会ったらちゃんと話してくれるだろうか?

俺の問いかけにちゃんと答えてくれるだろうか?

…俺の事を忘れていないだろうか…

――「…よしっ…」
いつまでもこんな所で突っ立ってる訳にもいかない…。
大きく深呼吸をして、花束を両手で持ち、春香のもとへ歩き出す。





――「よう…遅くなって悪かったな…春香。」
570春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/06/29(月) 18:43:17 ID:iAfU/Myl
遅れてすいません。なんか投下できなくなってた…
投下終了です。
571名無しさん@ピンキー:2009/06/29(月) 18:51:54 ID:4fssuKjs
こんなに焦らされたの初めて・・・

GJ!!続きが気になるな!
572名無しさん@ピンキー:2009/06/29(月) 19:17:24 ID:mO8ZixeI
まさにGJでした
573無題を書いているやつ。:2009/06/29(月) 21:27:43 ID:HEG8oUMJ
一応完結です。
574名無しさん@ピンキー:2009/06/29(月) 22:55:11 ID:GIRU221F
>>573
GJ!いいラストだったけど終わっちゃって寂しいです
575名無しさん@ピンキー:2009/06/30(火) 16:18:21 ID:RnY1bTWk
お2人ともGJ

小萩終わったか・・・楽しませていただきました
春香は一体・・・続き待ってます
576名無しさん@ピンキー:2009/06/30(火) 17:14:36 ID:6mzpbyl9
無題終わったか…なんとも言えない余韻の残る終わりだったな。素晴らしい依存だった

楽しませてくれてありがとう。また新しい作品を投下してくれるのを楽しみにしてます!
577名無しさん@ピンキー:2009/06/30(火) 21:45:30 ID:sqocAohV
578名無しさん@ピンキー:2009/07/03(金) 05:40:33 ID:3YhMdvS+
依存的保守。
579名無しさん@ピンキー:2009/07/03(金) 16:28:18 ID:jPijqpUX
誰もいない…
580名無しさん@ピンキー:2009/07/03(金) 18:32:23 ID:QjslqIG4
そういえば保管庫の過去ログdatありがとう!
これからも頑張ってください
581名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 00:45:21 ID:WLurfXdY
ねぇ、私、貴方がいてくれなきゃ駄目だよ……。
SSが投下されなくてもいいの。ううん、投下は凄く嬉しい。
貴方が、一生懸命書いてくれた作品があるから、何でもない日も楽しく過ごせるんだよ?
 
でも、このスレさえあれば、私はずっと、ずっと待ってるから……。貴方の作品の続き、楽しみに待ってるから……。待ってても、いい、よね……?
 
 
保守
582名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 22:23:58 ID:ZCRWlxeV
・・・ごめん。
僕、依存さんの他にも、
・ヤンデレさん
・幼馴染みちゃん
・盲目の美少女
・病弱な少女さん
・甘えん坊な女の子ちゃん
がいるんだ。
だから・・・・。
ハーレムは駄目ですか?
583名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 22:31:03 ID:bpptLWt3
ヤンデレに皆殺しにされるわw
584名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 22:40:17 ID:IOGqBkoB
ヤンデレ=人を殺すという認識は如何なものかと
585名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 23:15:08 ID:k7eAGzk7
無口スレはどうした
586名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 23:34:47 ID:bVySem/v
依存も度が過ぎればヤンデレの一種だと思う
587名無しさん@ピンキー:2009/07/04(土) 23:37:20 ID:slpV1Rot
どうでもいいからそういう事
588金蚕蠱:2009/07/04(土) 23:40:02 ID:t4cIpSi9
無題を書いていたあいつです。
短編投下します。

エロ薄めグロ有り注意。
589金蚕蠱:2009/07/04(土) 23:40:24 ID:t4cIpSi9
 男は一人であった。かつては祖父母と父と母と五人の弟妹がいたが、全て失ってしまった。
 きしきしと廊下を軋ませて、山ほどの柘榴をのせた銀の盆を手に歩を進める。最奥の戸を開けると、ふわと香の薫りが鼻腔を擽った。
「長順、おはよう」
 空気に溶けて消えそうな、柔らかな声が耳に心地良い。
 男――長順は、盆を傍らの卓に置いて、銀ねずの寝所にくるまる少女の背を支えて起こしてやる。
「おはよう、華鬼」
 華鬼は美しい顔に笑みを浮かべて、ことりと長順の胸に額を寄せた。
「お腹、減ったの」
 絹糸のような黒い髪がさらさらと長順の膝の上に落ちる。
 長順は指で柘榴の赤い実を摘み、華鬼の唇まで持っていった。華鬼は唇を薄く開けて、ぱくりと赤い実を口に入れた。
 華鬼は酷い偏食で柘榴しか食べない。柘榴と人しか食べないのだ。


 狭い牢に少女達を閉じ込めて、暗い地中に封じてしまう。数ヶ月して牢を開けると、少女は一人しか残っていない。しかしそれは、最早人間ではないのだ。
 それの世話をしてやれば、それは主に巨万の富を与える。だがその対価として、一年に一度贄を捧げねばならない。それを怠れば自身が少女の餌となってしまう。

 まず、父がいなくなった。
 父は地主であった。たくさんの店を持ち、周辺一帯を治めていた。
 父の異変に気が付いたのは長順が十にも満たない頃であった。
590金蚕蠱:2009/07/04(土) 23:40:47 ID:t4cIpSi9

    ******

 長順は、夜中に用を足したくなって部屋を抜け出していた。ひゅうひゅうと吹く風や、遠くの方で聞こえる野犬の声が怖くて身を縮める。
 ぱたぱたと足早に廊下を歩くと、庭の方を灯りが横切った。漏れそうになる悲鳴をこらえる。
 父が、灯りを片手に庭を歩いているのだ。長順は父を驚かせてやろう、とそっと父の後を追いかけた。
 背後からかけられる大きな声に灯りを投げ出して驚く父を想像して、長順はしのび笑う。
 ところが父はこそこそと辺りを気にした様子で蔵へ向かった。錆び付いていた筈の鍵が、きらりと灯りを反射する。
 やがて父は蔵の中へと姿を消した。長順はそっと近寄り蔵に入ろうとしたが、内側からつっかえ棒をしているのか開けることが出来なかった。
 明くる日、父に尋ねた。「蔵の中には何があるの」と。父は一瞬怖い顔をして、それからいつものように穏やかに笑う。
「たくさん、荷物が入っているんだ。危ないから入ってはいけないよ」
 父のその様子に、幼い長順は「きっと何かすごい宝物が入っているのだ」と確信した。そして、蔵の中に忍び込むことを決めたのだ。

 長順は父の鍵束から盗んだ鍵を蔵の南京錠の鍵穴へ差し込む。がちゃん、と音がして手の中に重い錠が落ちてきた。それを蔵の中にそっと置いて、暗がりに灯りを翳す。
 ぼんやりとした光の中に箱や葛籠の影が浮かぶ。時折揺らぐ自分の影に怯えながら、長順は歩を進めた。 ふいに小さな吐息が聞こえる。ほう、と控え目なそれに長順は飛び上がった。しかし幼さ故の無謀か勇気か、長順はその元に足を向ける。
 軋む扉の向こう側、夜の薄闇の直中に、ぼんやりと少女の白い顔が浮かび上がった。
「だれ」
 飛び上がって逃げ出しそうになった長順に、静かに声がかけられる。その場にへたり込んでしまった長順の目の前に、その少女は近寄った。するすると衣擦れの音が耳に痛い。
「食べて、いい?」
 近付いてくる少女の顔を見て、長順は目を見張った。
 同じ年頃のその少女は、長順が見たことも無いほどに美しかった。
 美人と評判の従姉の鈴明よりも綺麗な顔をして、髪が綺麗と誉められる妹の李陽よりもさらさらと流れる黒髪。色白で可愛い友人の珀よりも白い桃のような肌。
 まるで少女達の美しいところをかき集めたかのような、非の打ち所のない美貌である。
 ただその陶器のような無表情が、その少女を人形じみた無機質なものたらしめている。
 ぼうと呆けた長順の耳を、少女の赤い舌がざらりと舐めあげた。
「食べて、いい?」
 抑揚の極端に少ない声が長順の鼓膜を揺らす。やっと脳が言葉の意味を理解して、長順は後ずさった。
 「喰い殺される」ととっさに思い、懐に手を入れる。おやつにと渡された柘榴の実を取り出した。
「お腹が減ってるの?」
 震える声で問うと、少女はこくりと首肯する。長順はおずおずと柘榴を差し出した。懐の中で潰れてしまった実が長順の手の中でだらだらと汁を零す。少女は、すんと鼻をひくつかせた。
 花弁のような淡い赤の唇が長順の手に寄せられる。唇をより濃い赤に染めて少女は長順の指に滴る赤い液体に舌を這わせた。
 ぴちゃぴちゃと水音をたてて一心に指を舐める少女の姿に、長順は幼いながらにある種の淫靡さを感じ、茫然としてその姿を見つめる。
 綺麗に果汁を舐めとられた長順の手を、少女は名残惜しげに吸い上げた。
 逃げ出そうと腰を浮かせた長順の手に、白い手が絡みつく。少女の穴のような黒い瞳が長順の目を覗き込んだ。
「もっと、ちょうだい」
 ふいに長順の中で恐怖よりも憐憫が勝る。こんなに綺麗なのに、こんな暗い場所に閉じ込められているなんて。長順は少女を可哀想に思った。
「また来るよ。そうしたら、また柘榴を持って来てあげる」
 じいと長順を見つめる少女に長順は笑いかけて見せた。
「僕、楊長順。君は?」
 少女はそんなことを聞かれたことがないかのように、ことりと首を傾げた。
「かき」
 およそ名らしくない単語に戸惑う長順に、少女は白い指で床に字をなぞる。
 ――華鬼
 それが美しい鬼という意味なのか、人間離れして美しいという意味なのか判断しかねたが、その少女にはこれ以上無いほど似合っているように思えた。
「華鬼、また来るよ」
 何を思っているのか分からない硝子玉のような瞳が長順の背を見つめる。
「また」
 華鬼は呟いた。

    ******
591金蚕蠱:2009/07/04(土) 23:41:29 ID:t4cIpSi9


「何を、考えているの」
 華鬼の白い指が長順の頬をなぞる。同じ年頃であった筈の華鬼は、十四、五で――少女と女性の丁度合間で――年をとることをやめてしまった。
「ん、君と初めて会った時のことをね」
 最初は同じ年頃であったのが、徐々に兄妹のようになり、今では親子のようになってしまった。
 長順はたくさんの高価な鞠や人形に囲まれて遊び方が分からないと戸惑う華鬼にそれらの遊び方を教えてやった。読み切れぬほどに積み上げられた本を読み聞かせてやった。
 菓子や桃を持ってきたこともあったが、華鬼はそれに手をつけることはなかった。ただ、柘榴だけは喜んだ。
 薄暗い蔵の中で華鬼と二人いるのが何より至福であったのだ。人形のようであった華鬼は笑うようになり口数も増えた。それが誇らしかった。
 最初は秘密で犬を飼うような、或いは綺麗な人形を独り占めするような優越感であったのかもしれない。しかしそれが恋に似た何かに変わるのにそう時間はかからなかった。
 長順は膝の上の華鬼の黒く流れる髪を結ってやる。

 長順がいなければ一日中ぼうと虚空を見つめ続けているだけの華鬼である。華鬼には、自分がついていなければならぬのだ。
 長順の前は、父がそうしていた。だが、父は華鬼を笑わせることは出来なかった。だから、きっと、華鬼にとっても自分は特別であるはずなのだ。
「赤いのがいいの」
 結った髪に挿そうとした、桃の花を象った珊瑚の簪を持った手を止められる。
「我が儘だなあ」
 言うと、華鬼はふいとそっぽを向いた。その様子に嘘だよと苦笑を一つ零し紅玉の簪を挿してやる。
 部屋には、たくさんの着物や髪飾りがある。華鬼は長順に莫大な財産を与えたが、長順はそんなものが欲しかったわけではない。貯まり行く一方の金で華鬼にたくさんの品物を買い与えたが、華鬼が喜んでいるのかどうかはよく分からなかった。
 きらきらと輝くそれらはとても綺麗だけれど、華鬼はもっとずっと綺麗だ。長順は目を細める。
 華鬼を養うのには着物も髪飾りも必要ない。一年に一度人間を与えればいい。
 一人、また一人と消えて行った使用人の行方も今ではよく分かる。父がいなくなってから、母が消え祖父母が消え弟妹らも消えた。おそらく父以外に華鬼の存在を知る者がいなかったのだろう。贄を与えられなくなった華鬼は家族を喰い始めた。
 蔵で血塗れた着物の切れ端や人骨を見つけたときも、長順はさして驚かなかった。やはり華鬼は人ではなかったのだ、と妙に腑に落ちたほどだ。
 長順は華鬼のために――華鬼と一緒にいるために――家族を華鬼の餌にした。華鬼の所行に見て見ぬふりをした。
 それどころか、それらの証拠を焼き捨てすらしたのだ。華鬼が鬼ならば自分は何であろうか。鬼以下だ。
「ねえ、長順。お腹がへったの。とてもお腹がへってるの」
 ぼんやりと華鬼の髪を梳いていた長順の膝の上で華鬼はまろぶ。
 華鬼は長順の股間に顔をうずめた。
「長順、ちょうだい。お腹へったの。ねえ」
 擦り寄せる頬に熱と硬さを感じたのか、華鬼はふと笑みを浮かべる。
 いきり立つ陰茎をそろそろと取り出して、華鬼はそれをぱくりとくわえた。
592金蚕蠱:2009/07/04(土) 23:41:58 ID:t4cIpSi9

 長順は目を閉じる。
 長順の屋敷の周りに人は居ない。あまりに失踪する人間が多く、皆長順とその屋敷を気味悪がって逃げてしまった。
 だが、屋敷は丁度街と街を結ぶ道の中ほどにあり、旅人が頻繁に軒先を借りに来たから華鬼の餌に困ったことはあまり無い。
 華鬼はぐちゃぐちゃと長順の陰茎を扱く。どこで覚えたのか、否、これは華鬼にとって生きる手段の一つである。赤子が母の乳を吸うように、華鬼は長順の精液を吸う。
 贄を与える日が迫ると華鬼の食欲は増した。柘榴では足りぬと長順の血と精液をねだる。
 長順は、一週間前に旅人を一人逃がした。故あってのことだ。
「うっ……華鬼、出るよ」
 どくどくと溢れ出る精液を飲んで、華鬼は不服そうに首を傾げた。足りないのだ。長順はもう若くない。昔のように濃厚な精液を大量に出すことは叶わない。

 養いきれぬならば、華鬼を人に譲れば良い。
 しきたりにのっとって、華鬼に与えられた財産に利子をつけて道端にでも放っておけば良い。
 幸い財産の殆どは手付かずであるし、土地家屋を売れば使った分と利子を補って余りある。
 それでもそうしないのは、華鬼の主は自分だけであって欲しいからだ。
 長順は華鬼の唇に人差し指を押し付ける。
「食べて良いよ」
 ぴくん、と華鬼の肩が震えた。首を横に振る華鬼の唇の間に無理矢理指をねじ込むと鋭い歯に指が触れる。
 長順はこれ以上老いさばらえた姿を華鬼の前に晒したくは無かった。いずれ自分は華鬼を置いて死なねばならない。ならば、少しでも好い姿で華鬼の記憶に残ろうと思う。
 しきたりにのっとらねば華鬼はこの屋敷から出ることは出来ない。主も何も失った華鬼は飢えて渇いて死ぬだろう。死ぬ間際、華鬼は自分のことを考える筈だ。
 長順が華鬼を思いながら死ぬように。
「食べなさい」
 強い口調で言うと華鬼は数度迷ったが、食欲に勝てなかったのか鋭い歯を長順の指に突き立てた。
 ぼきり。
 長順の指先が欠ける。不思議と痛みは感じない。じわじわと甘やかな快感が指先から広がる。
 華鬼は泣きながら長順の体を貪り続けた。
 ばき。ぼき。ごきり。
 みるみるうちに長順の右腕は華鬼の胃袋に消える。小さな体のどこに入るのだろうか、と下らないことを考えて長順は笑った。
 華鬼の泣きはらした目が長順を見る。血に染まった唇がゆっくりと動いた。血を流しすぎたせいか視界が霞む。耳もよく聞こえない。
 ――だいすき
 そう、言った気がした。
 華鬼は口付けるように長順の首筋へ唇を寄せた。
 ぶちり。
 何かが千切れる音と噴き出す血の音を聞いて長順の視界は暗転する。



 一旦さよならだね、華鬼。地獄で待っているよ。
593金蚕蠱:2009/07/04(土) 23:43:54 ID:t4cIpSi9
投下終了です。
おじさんと少女が好きです。
理不尽でやるせない話とかも好きです。
ヤンデレ、無口、盲目、みんな大好きです。

投下が増えればいいと思います。
594名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 00:19:42 ID:dVXrdel+
GJ!
毎回、不思議な世界観に引き込まれてしまいます。

あと今、頑張って依存×盲目を書いているので、上手く出来たら投下します
595名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 00:33:46 ID:CfJaYMRS
マジですか!?
今投下してるやつ最後まで書き終わったら俺も盲目書こうかと思ってたが…ん〜っお願いしますっ!!
596名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 00:33:54 ID:hyceh3Sy
>>593
こういう雰囲気が良い!
依存という歪な関係は甘い果実、歪な依存関係は暗い牢を思わせる。GJでした!
597名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 21:51:50 ID:j2eda3b3
GJ!
耽美な世界をありがとうございます。
598春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/07(火) 16:03:01 ID:rjnVwqiA
駄目だ…投下出来ない。
599春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/07(火) 16:07:35 ID:rjnVwqiA
あれ?書き込みできた…。
すいませんが念のため、ちょっと時間おいて投下しますね。
600名無しさん@ピンキー:2009/07/07(火) 19:33:47 ID:9/qZJCGx
まだかね
601春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/07(火) 19:42:31 ID:rjnVwqiA
すいません…なんか俺の携帯がおかしいみたいです。
書きためたヤツ全部消えたから心がへし折れました。
602名無しさん@ピンキー:2009/07/07(火) 20:21:02 ID:eeSftQon
ええええええええ!!!!!!!!

俺は何もできないですがあなたの作品が大好きです。無理しないでください。
603名無しさん@ピンキー:2009/07/07(火) 20:41:03 ID:869aqNdV
>>601
携帯は辛いですね。
ゆっくりと休んでください。
604名無しさん@ピンキー:2009/07/07(火) 20:58:23 ID:5Zk1MDb/
>>601
PCにバックアップを取っておかなかったのか・・・。
機械だからバックアップを怠らない方がいいんだけどな。
無理しないよーにしてくだせ。
605名無しさん@ピンキー:2009/07/07(火) 21:14:40 ID:Yvzhp9YL
携帯で文うてるのってすごいわー
俺なんて打った文逐一確認しないと日本語でなくなるしとてもじゃないが携帯では文打てない
606名無しさん@ピンキー:2009/07/07(火) 22:27:27 ID:1J6dlMbo
携帯だと、指がすぐに疲れてくるんだよな…。
607名無しさん@ピンキー:2009/07/08(水) 01:30:06 ID:rNeJehWq
ボタンを押す回数が圧倒的に違うもんなー
予測変換があって良かったよ、全く
608名無しさん@ピンキー:2009/07/08(水) 12:16:32 ID:JurVo+yG
ローマ字入力は偉大だよ。
これが無ければやってらんない。
609名無しさん@ピンキー:2009/07/08(水) 18:50:33 ID:kkOtKN4y
フー
610名無しさん@ピンキー:2009/07/08(水) 20:21:42 ID:+1tR/kqw
クー
611名無しさん@ピンキー:2009/07/08(水) 22:40:03 ID:q1K8tS+D
の法則
612名無しさん@ピンキー:2009/07/08(水) 23:42:46 ID:hG1pHZwp
ブー
613名無しさん@ピンキー:2009/07/09(木) 21:00:47 ID:gU0foL8V
今日も投下無し…か…
614名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 09:02:28 ID:1sym9NUr
保守
615名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 11:37:10 ID:dnF3qy1J
点検
616名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 13:39:23 ID:XU+ku4Vd
整備
617名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 15:42:45 ID:0+IS3PzN
今日も一日ご安全に
618名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 00:21:32 ID:VECoHLmP
保守
619 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/12(日) 01:27:13 ID:X8GdzVKs
もう一度書いたので投下します。
620春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/12(日) 01:29:05 ID:X8GdzVKs

――「…遅い……春樹先輩、何を買ってるんだろ…」
物陰に隠れ、携帯をいじるふりをして、誰にもばれないように様子を伺う…。
春樹先輩がお店に入って、もう20分近く経過している。私がいるこの地点からでは何の店かも分からない…。


―――改札口から春樹先輩の後を追いかけて30分。嬉しいやら、悲しいやら…身長が低い為か、電信柱に隠れていても、春樹先輩どころか、通行人の誰にも怪しまれずここまで来ることができた

今は春樹先輩が入った店から30m近く離れている電信柱の影に潜んでいるのだけど……かれこれ20分間ずっと待ちぼうけ。
私的には歩きっぱなしだったので、休む時間が出来て嬉しいのだけど、すぐそこにいるのに春樹先輩が見えないのが、とても歯がゆい…。



――(あッ!!春……違う……店の人かぁ…)
店から人が出てきたから春樹先輩かと勘違いした…。
出てきたのは白いエプロンに赤いメガネをかけた優しそうな成人女性。黒髪を後ろで一つにし、綺麗な花の入ったバケツを両手で大切そうに持っている。
621春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/12(日) 01:30:07 ID:X8GdzVKs

「花……お花屋さん…かな。」
店員さんの姿と持っている花の量で真っ先に思い浮かんだのがお花屋さんだった。
でもお花屋さんに何の用だろ?

学校休んでバイト?
だとするとこの場所で待機していても意味が無くなってしまう。
さすがに春樹先輩のバイトが終わるまで待つことなんて出来ない。
「……なにやってんだろ…」
コソコソと隠れて追いかけて…まるでストーカーみたいに。

「しょうがないか…」
反対車線に回って春樹先輩の顔を見て帰ろう…。

はぁ〜っと大きくため息を吐き、携帯を雑にブレザーのポケットに放り込む。

電信柱の日陰から出て、目立たないように左右を確認し、前の横断歩道を小走りで渡る。

こっちからだとよく見える…。店の前には手入れされた沢山の花が綺麗に並んでいる。

あの女性が並べたのだろうか…だとすると物凄く花に愛情を注ぎ込んでいるのが感じ取れる。


私も花は大好き…だけど今は春樹先輩のエプロン姿が見たい…あわよくば携帯で写真を…。




――(もう少し……もう少し………もう少っ、あッ!見えたっ!!)
店内が覗ける位置まで来ると、外で花を並べている店員さんに話しかける春樹先輩が視界に入ってきた。
622春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/12(日) 01:31:18 ID:X8GdzVKs

春樹先輩を視界にとらえた瞬間、体を隠す為に地面に座り込んでしまった…。何故かと言うと、ガードレールしか隠れる場所が無かったからだ。

向こうからもガードレールが邪魔で私の姿は見えないはず…。

しかし裏を返せば座りっぱなしでは私も春樹先輩の顔を見ることが出来ないと言うことになる。
仕方なく、写真を撮るためにもう一度携帯を取り出して、ガードレールから少し顔を覗かせる。

「…あれ?」
春樹先輩のエプロン姿を激写するために携帯をカメラモードにしていたけど、残念なことに春樹先輩はエプロン姿ではなかった。

それに、親しそうに話してはいるが、春樹先輩は一切店員さんのすることを手伝おうとしていない。だとするとバイトではなく純粋にお客さんとして来ていたのかも…。
それと、もう一つ気になることがある。

それは、春樹先輩が一束の大きな花束を大切そうに両手で抱え込んでいること。

いや、おかしいことなんて何一つない…お花屋さんなのだから花を買って当たり前。





――誰に?



その言葉が私の頭を支配し、言いようもない気持ちが胸を締め付ける。

私は春樹先輩のなんでもない他人。ましてや花束なんて貰える間柄でも無い。
623春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/12(日) 01:32:12 ID:X8GdzVKs

(あの花束を貰える人はどんな人なんだろう…)

春樹先輩のお母さん?

それとも、夏美さん?

そうじゃないなら、入院している友人のお見舞いに?


理由が何にしても、なにか大きな出来事が無い限り、あんな大きな花束を普通は買わない。

(もしかして……なにかの記念日とか…)
そういえば、夏美さんが恋人では無いとは聞いたけど、春樹先輩に恋人がいるかどうかなんて聞かなかった。


「……嫌だな…」

昨日会った男性にこんなことを考えるのはおかしい…?

気になってコソコソと後を追いかけるのはストーカー?

春樹先輩に触りたいと思うのは変態?




――あの花束を渡される見知らぬ人間に嫉妬しているのは私自身が春樹先輩を――



(…あっ……そっかぁ…私は―――)
薄々分かっていたこと…だけども、ふわふわしていてなんの気持ちか自分でも確信が持てなかった。


今はっきりとわかった。




――昨日のあの瞬間……春樹先輩が私の前に現れた時から、私は春樹先輩に人生で初めての一目惚れをしてしまったんだ。
624春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/12(日) 01:32:58 ID:X8GdzVKs

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇


また、悲しませてしまった――。あの時で懲りたはずなのに……。

昨日、春兄は私達に涙が見えないように右手で目を隠し、何も言わず家を出ていった。冬子が、無言で出ていく春兄を止めようとしたが、秋姉さんの顔を見て気まずそうに目線を下に落としていたが、あれは正しいと思う。

あの時、冬子が春兄を無理にでも止めていたら間違いなく秋姉さんの怒りが爆発していたに違いない…。
冬子もそれを感じ取ったから出ていく春兄を何も言わずに見送ったのだろう。

春兄がちゃんと家に帰るか、リビングの小窓から眺めていたが、家に向かって一直線に歩いていくのが暗がりの中でも見えたので少し安心した。

家に入るのを確認すると、はぁ〜っと大きなため息を吐く……同時に後ろからも、どす黒い大きなため息が聞こえてきた。

何となく想像はついたが、後ろを振り替えると、みんなが私の真後ろで座り込んで項垂れていた。
多分みんなも私と同じことを考えていたのだと思う…。

春兄が家に帰らず、そのまま何処かに言ってしまうのではないかと、不安を抱いてしまったのだ。
625春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/12(日) 01:33:44 ID:X8GdzVKs

春兄が私達に呆れて見放されるのは仕方がないのかも知れない…だけど、春兄がいない日々がどうしても想像できない…いなくなるなんて考えられない――




「…春兄もう行ったかなぁ…」

今日は春姉の日――

春兄と春姉が唯一話せる日であり、年に一度春兄が「本当の笑顔」と「本当の涙」を見せる日でもある。

手に持っている携帯のストラップに目を向ける。春兄とお揃いの熊のストラップがゆらゆら揺れている…。
春兄と春姉のペアネックレスのように、私もなにか春兄と同じ物を持ちたかった。
まさか二回連続で同じ物が出てくるとは想像していなかったけど、私とまったく同じストラップが春兄の携帯についていると考えると体の芯が熱くなる。

(…今度春兄が見ていない間に私と春兄のストラップ交換してみよっと……そうすれば私の携帯に春兄のストラップが……春兄の携帯には私のストラップが…)





――「なっちゃん……そんな物、口に入れちゃダメだよ?ペッてしなさいペッて…。」

「なッ!!?お、おまっ、お前なにしてんだよっ!!!!」


後ろを振り返ると、ジャージ姿の冬子が不思議そうにこちらを眺めていた――。
626春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/12(日) 01:34:38 ID:X8GdzVKs

物音すらしなかったのにいつの間に入って来たのだろうか…たまに冬子はこういう心臓に悪いイタズラをしでかす。

一度、私以外に秋姉さんにもこの手のイタズラを仕掛けたことがあったけど、突然の声にビックリした秋姉さんが、反射的に冬子のアゴに裏拳をいれてしまい、気絶させた事がある。
それから冬子は秋姉さんの後ろに立つことは無く、秋姉さんに対してこの手のイタズラはしなくなった。

「何してるって…ここリビングだよ?なっちゃんこそ、ストラップなんか口に入れちゃ駄目じゃない……お腹空いてるんなら何か軽食作ろうか?」

「く、口に入れてたんじゃねーよっ!」

「それじゃ、なにしてたの?」

「なっ、なにしてたって……そんな…どうだっていいだろ…」
何してたかなんて言えるわけがない…冬子のことだから一生涯いじられるに決まっている。

「ふ〜ん…まぁ、別にいいけど。」
興味を無くしたのか、暑そうにジャージを脱ぎながら冷蔵庫に向かって歩き出した。

「…なんでジャージなんか着てるんだ?どっか行ってたのか?」
私と違って几帳面な冬子は、ジャージやスウェットではなく、上下ピンクストライプのパジャマに着替えて毎日寝ているのだ。
627春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/12(日) 01:35:21 ID:X8GdzVKs

「ん?あぁ、散歩してきたの。」

「冬子がさんぽぉ??」
朝早く起きるのは知っていたが、冬子が散歩なんて聞いたことがない。

「えぇ……春くんとね。」

「…」
今なんて言った…?
春兄と冬子が散歩?
二人で?
意味がわからない…。

また冬子の悪い冗談?なら笑ってやらないと。軽い感じで受け…流…して…。




あれ――どうやって笑うんだっけ――?


「まぁ、一緒に散歩したっていっ………なっちゃん?」
なんで私じゃなくて冬子なんだよ?

同じ物を持ってるのに…私のほうが春兄を――

「なっちゃん!」

「ッ!?」
ぼーっとする頭の中、冬子に肩を掴まれ現実に引き戻された。

脱力感が体の力を奪い、先ほど座っていたソファーにもう一度座り込む。

「なっちゃん、大丈夫?」
心配そうに話しかけてくる冬子に顔を見ないで片手をあげ大丈夫だという意思を告げる。

「……なっちゃん、勘違いしないでよ?別に春くんと一緒に散歩するのが目的じゃないからね?春くんと一緒になったのは帰りだけだから。」

「はぁ?何いってんだ?」
意味が分からず冬子の顔を軽く睨む。
628春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/12(日) 01:35:52 ID:X8GdzVKs

「だ、か、らぁ、今朝早く、春くんが一人でコソコソ家を出ていくのが見えたから隠れて後をつけたんだって。」

「……おまえ、まだそんなことやってんのか…」

「べ、別にいいでしょっ!」
小さい頃、見つからないように後を追う探偵に憧れを持っていた冬子は、春兄の後を隠れて尾行する遊びをしていたことがある。

家に帰ってくると、春兄が何時に何をしていたというクレヨンで書いた報告書を毎日見せられたのはいい思い出。
まさか今でもしてるなんて……姉としてストーカーと言う言葉の意味をしっかりと教えてやるべきか。

「なっちゃん…今失礼なこと考えてるでしょ…?言っとくけど、たまたまだからね?妹からすれば挙動不審な兄を見つければ気になるものでしょ?」

「そ、そうか……まぁ、ほどほどにな…?」
根本的に間違っているが、訂正しても聞かないだろう。

「それで、挙動不審ってなんだよ?春兄、なんかしてたのか?」
冬子と同様、春兄も一人で散歩なんて絶対にしない人間だ。
昔は春姉に連れられてよく散歩していたが、今となっては春兄が朝早く起きることは皆無に近いはず。

冬子が言うようにそんなことがあれ私も気になって後をつけるかも知れない。
629春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/12(日) 01:37:04 ID:X8GdzVKs

「山下 美幸ちゃんって…知ってる…?」

「はぁ?山下 美幸ぃ?だれだよそッ……美…幸…?」


――思い出した…確かあの子がそんな名前だった気がする…。


「まぁ、多分知ってると思う……そいつがなんだよ?」

「…今さっき、春兄と散歩してた…」

「………はぁ〜っ!!?なんでアイツが春兄と散歩なんかしてんだよ!昨日会ったばっかりだぞッ!!?」
一瞬意識が遠退いた…。
あいつが春兄と散歩?春兄から誘うことはまず無い…だとするとあの子から?

いや、ありえない…まず電話番号も知らないしアドレスも知らないはず。
昨日ずっと一緒にいたからそれだけは断言できる。

「だとしたら偶然会ったのかな?だからさっき春くんの携帯番号を聞いてたんだね、あの子。」

「は、春兄が番号教えたのかっ!?」

「うん、美幸ちゃんから番号交換してくださいって感じで交換してたよ?」
不覚も不覚…やっぱりあの時なんとかしとけばよかったんだ。

言い方が悪くなるが、あの子はどこか、少しおかしい気がする…。

会ったその日に校門で待ってろだの、名前で呼べだの、次の日には番号教えろだの、私からすれば、いやでも嫌悪感を抱かずにいられないのだ。
630春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/12(日) 01:41:12 ID:X8GdzVKs

「………そんなことより、なっちゃん…ちょっと、聞きたいことあるんだけど……?」

「んっ?なんだよ……ってゆうか、なに、怒ってんだよ?」
春兄から山下 美幸をどうやって遠ざけようか考えていると、冬子が深刻そうな顔をしながら話しかけてきた。
深刻と言っても冬子の深刻そうな顔と言うのは無表情のことだけど…。




――「なっちゃん……春くんとつきあってるの?」

「………はぁっ!?な、なにっ!おま、なにいってっ!!?」
冬子から唐突な質問に頭が真っ白になった…。いや、私の願望をまともに言われたので頭の芯が熱を持ったように真っ赤になっているのかもしれない。

「……やっぱり……いつから…?」

「つきあってねーよっ!」

「じゃあ、なんでそんなに慌ててんの?」

「い、いきなり、つきあってるって言われたら誰だってビックリするだろーがっ!てゆうか、なんで私と春兄が……その…なんてゆうか……こ、恋人同士だと思ったんだ?」
自分の口からでた「恋人」と言う言葉に対して、顔に熱が集中するのがハッキリと分かった。
自分で言ってても、かなり恥ずかしい…。
631春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/12(日) 01:42:05 ID:X8GdzVKs


「美幸ちゃんが言ってたんだけど…まぁ、違うならいいよ。春くんも違うってハッキリと言ってたし。多分、美幸ちゃんの勘違いなんだね。」

「…うん…そうだよ…違うに決まってるだろ…」
――息苦しい…春兄の彼女は今も昔も変わらず春姉だけ…。
最低限、恋人になれなくてもいいから春兄の側に私を置いてくれないかな…。だけど、春兄の横に知らない人間が立つのは絶対に嫌。

他人が聞けば、なんて自己中心的な考え方だと呆れるかもしれない…だけど正直な気持ちなのだから仕方がない。簡単な話し、私は春兄に必要とされたいのだ。

「まだ、時間早いね…なにも食べてないんでしょ?何か簡単なもの作るね。」

冬子になにか返答をしようとしたが、私の返答を聞く気が無いのか、ソファーから離れて、そそくさと台所に向かって歩いていってしまった。

時計を見ると7時20分。私達が家を出るのが11時なので、まだ時間に余裕がある。

いつもなら、秋姉さんも、お母さんも、この時間になるともう起きているはずなのだけど、昨日の疲れでまだ寝ているのだろう…。今日はまだ姿を見ていない。
632春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/12(日) 01:43:20 ID:X8GdzVKs

私はと言うと、昨日から春兄の泣き顔が頭からまったく離れず、そのせいで一睡もできなかった…。

(…化粧で隠せるかなぁ…?)

テーブルに置いてある手鏡を掴み目元に持っていく。
綺麗に無くなるように願いを込めて、鏡に写る目元のクマを小指で軽く擦る…。
…こんなことをしてもクマが無くなるわけがない。

幸い今日は春兄に会うことはないので少し安心している。
こんな顔、春兄には絶対に見せられない…。





――「あぁ、それと、なっちゃんさぁ…。」

「なんだよ…?まだ、なにかあるのか?」
鏡から目を離し、少しイラつきながら台所にいる冬子に問いかける。


台所からは水の流れる音と、まな板の上で何かを切る包丁の音が、心地よく聞こえてくる―――。






――「美幸ちゃんの事だけど……春くんにあまり近付けないでね。」

ここからでは、冬子の顔どころか姿さえ見えないので、どんな表情をしてるかなんてまったく見えない――。

ただ、この言葉を聞いた瞬間、まな板と包丁のぶつかる音が一際大きく部屋に響いたのをはっきりと感じ取れた。
633春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/12(日) 01:51:17 ID:X8GdzVKs
投下終了。なぜ違う人の投下がないのだろう…。
寂しいです。
634名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 01:52:37 ID:t/Cv4gQW
乙かれさん。
俺も寂しいぜ...
635名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 01:52:38 ID:GEK4mGGq
冬 子 怖 い


GJです!
636名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 07:12:47 ID:bGI7VAVQ
GJ
書き直しご苦労様です!夏美の依存度がいい!
637名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 14:02:11 ID:hSkm//a3
「弟、朝ごはんができたぞ」
「着替えも用意しておいたぞ」
「ほら、髪の毛はねてるぞ」
「やれやれ、姉にここまでしてもらってるとは」
「ふふっ、弟は私がいないと駄目だな」

「え…? 一人暮らし?」
「そ、そんなのまだお前には早いだろ」
「学校が遠いなら私が送ってやるから」
「私は社会人だからな、それくらい朝飯前だ」
「お前はまだまだ子供なんだ」
「もっと私に甘えていいんだぞ?」
「『これ以上姉さんに迷惑かけられない』なんて言うな…」
「迷惑だなんて思ってないから」
「お前は私がいないと駄目なんだから…」
「一人にしちゃいけないんだ……」


「なあ、本当に行くのか?」
「ここからあんなに遠いところなんだぞ?」
「いざという時頼れる人がいないじゃないか」
「家事も一人でしなくちゃいけない」
「すごく大変なんだ。な? だから……」
「お願いだ、行かないでくれ」
「お前がいない生活なんて考えられない」
「私はお前がいないと駄目なんだ……」



「おはよう、弟。朝ごはんができたぞ」
「どうした? 弟、そんなに驚いて」
「『どうしてここにいるのか』って? ふふん、聞いて驚け」
「今日から私もここで暮らすことにした」
「私は社会人だからな、会社くらいここから通える」
「それにしても、弟はだらしないな」
「部屋の掃除も自炊もできてないじゃないか」
「やっぱり、弟は私がいないと駄目だな」

みたいな彼は自分がいないと駄目なんだって思ってて
でも実際は彼がいないと駄目になっちゃう
そんな依存娘が見てみたい
638名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 21:47:43 ID:N8y3yXlR
>>637
それ姉である必要は全くなブツッ

うんわかったよおねえちゃん
おれおねえちゃんがいなきゃだめなんだ
639名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 23:50:45 ID:ELllRmG3
>>637
んがー、そんな姉が欲しい。
640春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/13(月) 20:35:57 ID:V1R06cjV
誰も投下しないようなのでK1終わったら投下します。
ちょっと長いのであしからず。
641名無しさん@ピンキー:2009/07/13(月) 21:34:18 ID:G7Lw8bYo
支援age
642春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/13(月) 23:05:23 ID:V1R06cjV
私には血の繋がらない息子がいる。

私から産まれて来なかった息子が一人…。

だけど、そんなことは関係無いぐらい私は愛情を注いできたし、今でもその気持ちは忘れていない。

朝の弁当を作り、寝ている子供達を起こしに行き、家族みんなで朝食、夕食を食べ、みんなでお風呂に入り、寝る。

私のことをお母さん、お母さん、と甘えてくる息子は、私の自慢でもあり、本当の母親には申し訳なくもあった…。

実母はハルが2歳の時に病気で亡くなったのだ。
あまり体が丈夫な人ではなく、よく入退院を繰り返していたのを覚えている。
私達夫婦が、見舞いに行くと、必ず嬉しそうに笑顔を見せてくれる。あの人の笑顔は一生忘れることはないと思う…。

亡くなる間際、私達夫婦に「春樹をお願いします」と言い残しこの世を旅立った。
一人息子なのだから心配だったのだろう…。

気心しれた私達だからこそ、ハルを任せれると思ったのかも知れない。
私達もその気持ちを受け取り、ハルを育てることを約束した。
643春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/13(月) 23:09:42 ID:V1R06cjV

ハルの父は仕事柄、長期出張が多く、外国と日本を忙しなく行き来するような人だったので、家に帰ってこれ無いことが多かった。

かといって、家族サービスを怠ることはなく、なにかの記念日や休みの日には旅行や買い物にと少ない時間の中で積極的に行動していたと思う。

だからこそ、ハルの母も甲斐甲斐しく家族を支えていたのだろう。理想の家庭と言うのはああいう家族のことを言うのかもしれない。

あの人の言葉を胸に、私は実の子供と同じようにハルに愛情を注いだ。
休みの日には子供達を遊園地や動物園につれていき、平日はハルの家にお邪魔して、洗濯、掃除、食事までを全てこなしていく…。

いつしかそれが私の生き甲斐になり、子供達といる時間を積極的に作るようにした。

しかし、子供達に愛情を注げば、注ぐほど私達、夫婦の中は悪くなっていった。

旦那は女ではなく、母の喜びを得た私をよく思わなかったのだろう…。


次第に旦那といる時間が苦痛になり、ハルが6歳になる頃には私達夫婦は寝室も別々になっていた。


ある日リビングでテレビを見ていると、家に入ってくるなりハルが大泣きしながら私に抱きついてきたことがある…。
644春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/13(月) 23:11:47 ID:V1R06cjV
泣いてる理由が分からず、頭を撫でながら「どうしたの?」と聞くと真っ赤に充血した目で私の目を見つめ、小さく震える声で呟いた。



――僕のお母さんは、お母さんじゃないの?

この言葉を聞いた瞬間、私のすべてを否定された気がした。
今までの思い出も、これからの未来も、今まで注ぎ込んできた愛情を一瞬ですべてかき消されたのだ…。

ハルが逃げないように腰に手を回し抱き締めた後、なぜそんなこと言うのか聞いてみた。

すると、涙ぐみながら小さな声で、途切れ途切れに語ってくれた。

ハルの話しを聞くにつれて、私の感情は悲しみから怒りに変わり、ハルが話し終わる頃には、すべての感情を忘れるぐらいに激怒していた。


――業を煮やした旦那がハルの実母のことをすべてハルに話し、実母のお墓までハルを連れていったのだ。

その日は子供達をみんなハルの家に泊まらせ、旦那と私とハルの父親と三人で話し合いをした。



――一ヶ月後…私達は離婚した。

愛情が無いと言えば嘘になるけど、私は子供達と生きていく。

旦那も他に女がいたらしく、離婚に関してもめることは一切無かった。
645春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/13(月) 23:15:11 ID:V1R06cjV

いまだに、よりを戻したいと旦那から度々電話がかかってくるけど、私にはその気がまったく無いのでハッキリと断っている。

離婚に関しても娘達から何か言われることは無かった。多分、上手くいってないのが分かっていたのだろう……今でも申し訳なく思うし、パートに出る私の代わりに夏美と冬子を守ってくれた秋音には本当に感謝している。


だけど、実際、離婚したからといってなにか変わるわけでも無かった。
ハルとも始めはギクシャクしてしまったが、いつの間にか元に戻っていた。

また、始めから積み重ねていけばいい…愛情ならいくらでも与えられる…。
それからというもの私達は前にもまして幸せな日々をおくっていた。

パートに出始めてから忙しくてあまり時間を作れなかったけど、私が帰ってくればコップに冷たい麦茶を注いでくれたり、ソファーに座れば後ろに立ってみんなが私の肩を揉んでくれたこともある。


――小学校の入学式、卒業式、私は胸を張ってハルの母親として出席した。

――中学校の入学式、ハルと春香の学生服姿が誰よりも初々しく、母親として誇らしかった…それと同時にどこか寂しくもあった…。
それでも母としては誰よりも幸せだった。
646春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/13(月) 23:17:17 ID:V1R06cjV

本当に幸せだったのに…


――その幸せはある日を境に大きな音をたてて崩れ落ちた。

その瞬間、私の心は血の繋がり以外の物をすべて拒絶してしまったのだ…。
そう…家族であり、愛してる息子のハルのことさえも…。


あの時…ハルに罪は無いと抱き締めてあげればと何度後悔したか…しかし、あの時の私の両手は春香でいっぱいだった――

何も考えず言い放った言葉はハルの精神を破壊し、喜怒哀楽をすべて奪い去った。
何度謝罪しても、私や娘達を目の端にも入れなくなり、春香の写真を眺めるだけ……ただ…息をしているだけ…。


話を聞き、駆けつけた元旦那はハルの顔を見るなり容赦無く殴り付けた…泣きながら…何度も何度も…秋音が止めるまで。

それでもハルは泣きもせず、怒りもせず、ただ殴られ続けた…殺してほしそうに…。

――この時、初めて娘と息子の二人を失ったんだと実感した。
647春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/13(月) 23:19:35 ID:V1R06cjV

――あれから三年。

ハルは高校三年生になっている。

最近ではハルの顔すらあまり見れないが、隣に住んでいるのだけは確か。
私の夕食を今でも食べてくれているのはハルなりの罪滅ぼしなのか…。
いや…ハルにとって隣に住んでいること自体が罪滅ぼしだと思っているはず…。

あの日、ニューヨーク行きを必死に止める私と秋音に対してユウの口から出た言葉…。



――俺がこの家にいることが償いになるのなら、この家にいるよ…



あの時はこの言葉がどれほど嬉しかったか…。
ハルの言葉の重みなんて、まったく考えないで喜んでいた私は、またあの頃のよう戻れると本当に勘違いしていた。


大人のエゴに巻き込まれた子供達に罪はない…。
本当に罰せられるのは私達、「大人」のほうなのだ。
648春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/13(月) 23:20:09 ID:V1R06cjV

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

あれから、花屋さんを後にした春樹先輩を、懲りずに尾行しているのだけど、途中大きな道路から外れ、獣道のような脇道に一人で入っていってしまった…。

軽く周りを見渡すが、これといって特徴ある看板や建物は見当たらない。
当人の春樹先輩はと言うと、細い一本道をなんの迷いもなく歩いていく。
(一本道だから迷いようが無いけど…)

どうしようか迷ったが、ここまで来たのだから目的がなにかこの目で確かめなければ気がすまない。

春樹先輩の後を追いかけ、私も脇道に入っていく。
自然に出来たであろう、草木のトンネルの中を春樹先輩に追い付かないようにゆっくりと歩く。






――「………んっ?」

5分ほど細道を歩いていると、広い場所に出るのか、20mほど先から強い光が差し込んでいるのが見える。

正直、早くこの気味が悪い細道を抜け出したい…。
そう考えると、少し歩くスピードが早くなった。



「あれ……駐車場…?」
細道を抜けると、そこは車を十台ほど置ける駐車場になっていた。

何処から車が入ってくるのか不思議に思ったが、別の入り口が他にあるらしい。
649春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/13(月) 23:21:13 ID:V1R06cjV

「そんなことより…春樹先輩は………いたッ!」

そう…ここまで来て春樹先輩を見逃すわけにはいかない。

この場所からでもハッキリとわかる、一際大きな門が春樹先輩の前にそびえ立っている。

その門の前で春樹先輩は考え込んだように、動かなくなってしまった…。

(もしかしてバレた…?)

逃げようか隠れようか迷っていると、駐車場の脇にある、白い看板が視界に入ってきた。

もしかして、あの看板を見れば春樹先輩の用事がわかるかも知れない…。
春樹先輩に意識を向けたまま、看板の前までゆっくりと歩いていく。







―――「…高…島…墓地……えっ?……墓地って…」

――看板を二度見てやっと分かった。
花束のモヤモヤもすべて消え去った。
だとすると、もう春樹先輩を追いかけることが出来ない。
私が面白半分で踏み込んじゃ行けなかったんだ…。


春樹先輩に目を向ける…意を決したように門をくぐり抜け、静かに奥に入って行ってしまった。

それを見届けると、先ほど春樹先輩が立っていた場所まで歩いて行き、地面に落ちている赤いバラの花びらを軽く指で摘まむ。




――その瞬間、自分がどれだけ惨めかを嫌と言うほど思い知らされた。
650春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/13(月) 23:21:39 ID:V1R06cjV

◇◆◇◆◇◆

「…」

春香が眠る場所…墓石にはハッキリと春香の名前が書かれている…この下で眠っていると言う証拠。

定期的に恵さんが来ているのだろうか…綺麗に掃除されているのが見てわかった。

「…はい、これ。」
両手で持っている花束を春香にプレゼントする。
いつ何度やっても恥ずかしい…。

「遅くなってゴメン…理由は…まぁ、聞くな…浮気じゃないことだけは言っとく。」

春香の声は聞こえない…だが心の声は風に乗って聞こえてくる…。

「ん?最近のこと?最近はなぁ…夏美がヤンキーになったぞ?髪の毛金髪でさぁ、ピアスなんてあけちゃって…。そういやアイツ、寝てる俺の耳にピアス穴開けようとしたことあるぞ?後で来るから、その時ちゃんと注意してやってくれ。」

――わかった、任せて…お姉ちゃんの私が言い聞かせといてあげる――

「マジか?ありがとな。あと冬子…アイツのイタズラも心臓に悪いからあれも注意してくれ…」

――冬子はまだ子供でしょ?遊びたいのよ――

「そうなのか?まぁ、何度もされる訳じゃないからいっか…」

――頑張れお兄ちゃん!――

「分かってる、頑張るよ。」
651春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/13(月) 23:22:08 ID:V1R06cjV

――ハルは?病気とかしてない?――

「俺?俺は元気だよ、風邪も引かないし、大きな怪我だって無し。」

――そう、よかった。くれぐれも気をつけなきゃダメだからね?それと、浮気もほどほどに――

「わかったよ…てゆうか、浮気なんかするかっ!…それより……なぁ……春香…」

――ん〜、な〜に〜?――

「……顔…見に行っちゃ…ダメかな…?」

――…

「いやっ、まぁ……なんでもない…」

この話しをすると決まって春香からの返答が返ってこない…。
まだ、こっちの世界で償えと言う意味なのだろうか?


「…古い花、捨ててくるからちょっと待っててな?」
春香にそう告げると、墓石の両側に供えてある枯れた花を取り除く。後で恵さんが花を供えてくれるはず…。


枯れた花をビニール袋に入れ、ゴミ箱に放り込む。





――「……ん?」

春香の元に戻ると、黒いスーツ姿のサラリーマン風な男性が春香の墓石の前で手を合わせているが目に入った。

その男性もこちらに気がついたのか、春香から目を離し、ため息を吐きながらこちらを向く。
652春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/13(月) 23:26:53 ID:V1R06cjV

――その顔は嫌悪感一色。

「なんだ…来てたのか?」
声からも苛立っているのがハッキリと分かった。

「えぇ…まぁ…」

細いフレームのメガネを掛けてるからか、元々鋭い目付きをしている人なので、睨めばよりいっそうキツく見える。

手を見ると小さな花束を持っている。
そりゃ手ぶらで娘の墓参りには来ないだろうな…。

「…この、花束…おまえのか?」

「はい。」
気まずい…まさかこの人と会うとは思わなかった…
春香の墓参りに来てることすら知らなかった。
三年前から一度も顔をあわせていなかったので、少し老けたような気がする。

「…チッ」

「なっ!!?なにするんですか…」
俺の顔を一睨みし、墓石に置いてる花束を見ると、俺の花束を片足で蹴り飛ばした。

「殺された相手に花束なんか渡されても、春香が喜ぶわけないだろ?」

そう言うと俺の花束があった場所に、自分が持って来た花束をソッと置いた。

「…」
なにも言い返せない…
それだけのことをしているのだから…

「まだこの町にいたんだな…この町から出ていくんじゃなかったのか?」

「……別にどうでもいいじゃないですか…」
653春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/13(月) 23:27:44 ID:V1R06cjV

「はぁ?…どうでもよくないんだよ…お前がいると、あいつらもずっと苦しむんだよっ!!!」

「ッ!!」
突き飛ばされ、地面に背中からモロに激突してしまった。

「早く出ていけっ!!おまえがいると俺だって戻れねーだろッ!!」

「がはッ!!!」
倒れている俺の腹に向かって蹴りが放たれる。
息が出来ない…それに倒れた時、変な倒れ方をしたのか、右手がおかしい…。

「おまえがいなければ、俺達だって離婚することは無かったんだよっ!!」

「ぐッ!!!」

あぁ…そういうことか…女を作って出ていった人間の癖にまた、あの家に戻ろうとしているのか。

「あの時、お前も父親についていけば俺もっ!」
何度も何度も、俺を蹴りながら汚い言葉で怒鳴り散らす…
春香が死んだことを責めるんじゃなくて、離婚したことを責めているのか?


――春香がいる目の前で――




――「な、なにやってるんですかっ!?やめてくださいっ!!!け、警察呼びますよ!!?」

「はぁ?……なんだ、お前?」
暗い意識の中、震えた声が男の足を止めさせた。
どこかで聞いたことがある声……どこだっけ…?
654春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/13(月) 23:28:25 ID:V1R06cjV
「他人が口出しするなっ!!」

「た、た、他人でもっ口出しますっ!!早く足を背中からどけてください!!!」

「チッ!!」

背中にのし掛かっている重みが無くなり、痛みが和らいでいく…。
…一体誰なんだ?

震える声のほうに目を向ける…太陽が逆光になり、顔は見えないが震える手に携帯が握られている…。

そう言えば警察に電話するって…。

「……おい…」
先ほどまで蹴り続けていた男が、倒れ込んでいる俺に話しかけてくる。

男の顔は見えないけど、見下ろしているのが雰囲気で分かった。

「もう、ここには来るなよ…目障りだから。」

「…」
男はそう言い放つと、倒れている俺の横を通り過ぎ、階段を降りて墓地裏から出ていった。

「大丈夫ですかっ!?病院にッ…きゅ、救急車ッ…!」

男がいなくなると、助けてくれた人がこちらに慌てたように駆け寄ってきた。

「救急車は…呼ばないでください…お願いします。」
助けてくれたのは有り難いが警察沙汰はシャレにならない。

「でもッ!…春樹先輩、怪我が…血も…」

「大丈ッ…夫…です…」
柵に手を掛け立ち上がる。
お礼を言わなければ…。





――ん?……春樹先輩?
655春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/13(月) 23:29:19 ID:V1R06cjV

「えっ?なんで…いるの?学校は…?」

「え…なんでっ…て…?…あ……ああああああぁぁぁ〜ッ!!!」
その小さな女性は何かを思い出したように、大声で叫びながら俺から距離をとった。



――何故か分からないが、俺の目の前には学校に向かっているはずの美幸ちゃんが立っていたのだ――

「あ、あの…私も用事があって…そしたら怒鳴り声が聞こえて…き、来てみれば春樹先輩が…」
用事?こんな場所に?学生服を来ているのは学校に行くためじゃないのか…?。それに目が泳ぎまくっている。

いろんな疑問が頭に浮かんだが、体の痛みでそれどころではなかった。
美幸ちゃんに見えないように唾を吐くと、真っ赤な血が唾に混じっていた…。顔も何度か蹴られたので口の中も切れているのだろう。少しの間食べるのに困りそうだ…。

「そっか…恥ずかしいところ見せたな…ありがとね。」

柵から手を離し、美幸ちゃんに向かって頭を下げる…。まさか後輩にこんな場面を見られるなんて。
昨日といい、今日といい、なぜ悪いことに限ってこうも続くのだろうか。
656春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/13(月) 23:30:29 ID:V1R06cjV
「いえ、私は別に…それより怪我の手当てを。」

「あぁ、俺は大丈夫だよ…」

春香の父親に蹴られた花束を拾い、もう一つの花束の横に並べる。

「ごめんな、春香…」
今年の墓参りは最悪だったな…まさか父親と会うなんて…。
こうなれば、もう春香の声を聞くことは出来ないだろう。


「また…来るから…その時はまた二人でいっぱい話そうな…」
もう少し春香の側に居たかったが今この場所で夏美達と鉢合わせしたらもっと最悪だ…。

「用事はどうしたの?」

「え?用事?……あッ!私の用事はもう終わりました。」

「そっか…暇ならなにか食べにいく?迷惑じゃなければ、助けてくれたお礼になにかご馳走するよ。」

「私は迷惑じゃないですけど…いいんですか…?」

「あぁ、いいよ。」
これぐらいなら春香も怒らないだろう…
春香の墓石にもう一度目を向ける。

春香の事を忘れたことなんて一度も無い…春香の父親になんて言われようが、春香の声が聞こえるうちは何度でもくる。

――春香…俺はまだお前を愛し続けてもいいのか?




嬉しいのか、悲しいのか…。俺の問いかけに対して「声」ではなく、強くて優しい春風で俺の体を包み込んでくれた。
657春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/13(月) 23:36:42 ID:V1R06cjV
投下終了です。
てゆうかここだけじゃなくて、最近どのスレでも投下少ないね。

これは盛り上がるように…投下の嵐にするしかないな。(俺以外が)
658名無しさん@ピンキー:2009/07/13(月) 23:40:33 ID:NBEhtz9L
GJ!!親父さん、あんたって人は・・・

きっと暑いから投下が少ないんだよッ!秋になればみんな本気出す
659名無しさん@ピンキー:2009/07/13(月) 23:40:54 ID:CTdPRnte
GJです。
春香が何故亡くなってしまったのかが気になる…。
660名無しさん@ピンキー:2009/07/14(火) 00:03:16 ID:G7Lw8bYo
GJです。
クソ親父がぁ!!!春香が死んだ理由が気になりすぎるから続き待ってます。
661名無しさん@ピンキー:2009/07/14(火) 00:04:18 ID:KbEsLdSC
>>657
GJだぜ!
引っ張って引っ張って引っ張ってようやく墓参りと確定したか〜。
あ〜なんかスッキリ。これで心置きなく今後の展開を楽しめるぜ!

いっこだけ質問させてくだされ。

> あの日、ニューヨーク行きを必死に止める私と秋音に対してユウの口から出た言葉…。

これって、ハルの間違いなのかな。気になるんだぜ。GJでした〜。
662春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/14(火) 00:14:04 ID:tVkk47P0
あああああぁぁぁぁぁ〜!!
心の隙間のキャラ入ってしまった…本当にごめんなさい

>>647

> あの日、ニューヨーク行きを必死に止める私と秋音に対してユウの口から出た言葉…。
ユウではなくハルの間違いです…。


心の隙間と春春夏秋冬のキャラを混ぜた話を書こうとしていたので…
663名無しさん@ピンキー:2009/07/14(火) 01:57:48 ID:SDAql9QK
GJ!
自分もちんたら書いてるんですが、なかなか上手くいかないですorz
664名無しさん@ピンキー:2009/07/15(水) 16:11:18 ID:s0WeVwqz
>>662
まだ続くの?(;´ρ`)
665 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/15(水) 19:15:13 ID:fhWd397r
連続で投下して申し訳ないけど、投下させてもらいます。
666春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/15(水) 19:16:33 ID:fhWd397r


春樹先輩が門をくぐり抜けた後、門の前で春樹先輩を待つことにした。

別に春樹先輩の尾行を続けるとかそんな気はまったく無く、単純に春樹先輩の背中を見ながら歩いてきた私は、帰り道が分からなかったのだ…。

簡単に言えば迷子。

春樹先輩が門をくぐり抜け20分が経った頃、私が通ってきた細道とは違う道から一台の乗用車が駐車場に入ってきた。
迷うこと無く墓地から一番近い駐車スペースに車を停車すると、車内から綺麗に着こなしたスーツ姿の男性が降りてくる。

手には小さな花束を持っており墓参りに来たのだと一目で分かった。

案の定、スーツ姿の男性は、春樹先輩の後を追うように門をくぐり抜け、奥へと歩いていく。


それから5分ほど経つと、突然墓地の中から怒鳴り声が聞こえてきたのだ。
周りの草木がスピーカー効果となり、私の場所までもはっきりと男性の声が響いてくる。
その怒鳴り声に私の心臓は一際大きく脈打つのがはっきりと感じ取れた。

私の頭に真っ先に思い浮かんだのが、喧嘩。

巻き込まれないように何処かに避難しようと思ったのだが、どうしても気になる事があり、逃げることが出来なかった。
667春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/15(水) 19:17:27 ID:fhWd397r

「春樹先輩……」

――そう…当たり前だけど、春樹先輩も墓地にいるのだ。

もしかして、春樹先輩の事だから仲介に入って巻き込まれているかも知れない…。

そう考えると、自然と私も門をくぐり抜け墓地に向かって歩いていた。

歩いてる間も怒鳴り声が止むことはなく、それどころか奥に進むにつれ、怒鳴り声は大きくなる一方だった。

「…」

――怖い。

怒鳴り声が近づくにつれて、私の恐怖も増していく。


門から50mほど進むと、少し大きなゴミ置き場が見えてきた。
怒鳴り声はその先から聞こえてくる。

立ち止まり、深呼吸をしてから意を決して先に進む。



――そこには、先ほど乗用車で来たスーツ姿の男性が誰かに向かって怒鳴り散らしているのが視界に入ってきた。

視界に入ってくると同時に私では絶対に無理だと直感した。
その男性の顔があまりにも怖くて、その場にしゃがみこんでしまったのだ。

何かを蹴り飛ばしながら怒鳴っている…ここからでは墓石が邪魔で見えづらい。


――この時なぜ自分でも逃げなかったのか分からない……。


ただ、強い胸騒ぎが私を締め付けていて、その胸騒ぎが逃げる事を許さなかったのだ。
668春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/15(水) 19:18:29 ID:fhWd397r

極力、男性の視界に入らないように体をずらして、恐る恐る確認する…。





――「なッ!!?」


私の不安が的中してしまった。
怒鳴り散らされ、何度も何度も蹴られている相手……それは、春樹先輩本人だった。



「だ、誰かッ!!誰か!…誰……か…助け…」
平日だからか……周りを見渡しても、最悪なことに人は私たち以外、誰一人いなかった。

私が戸惑っている間も春樹先輩に対する暴力は続けられる。

このままでは本当に春樹先輩が死んでしまう。
(春樹先輩!!早く…早く助けなきゃっ!!)

助ける方法は一つしか無い…私が助けなければ…。

携帯を取り出し、すぐに警察に電話できるように、通話ボタンに手をかける。

流れ出る涙を拭き取り、震える手を無理矢理押さえつけ、走り出す。




――「な、なにやってるんですかっ!?やめてくださいっ!!!け、警察呼びますよ!!?」

「はぁ?……なんだ、お前?」

その後も春樹先輩を助けるために必死に何かを男性に向かって叫んだのは覚えている…。

ただ、何を言ったか、何を言われたか、男性が裏口から出ていくまで、その間の私の記憶は損失したように何も覚えていなかった。
669春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/15(水) 19:19:27 ID:fhWd397r

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「うわ〜凄いっ!凄いですよッ春樹先輩!!」

「そうだね。」

墓地からの帰り、俺と美幸ちゃんは、とあるファミリーレストランに足を運んでいた。

「見てくださいっ!!……これは……凄い…ですよね?」
俺の反応が薄いと感じ取ったのか、共感を求めるようにその「凄い物」を俺の前に持ってくる。

「うん、凄いな。でも、早く食べなきゃ溶けるぞ?」
美幸ちゃんが先ほどから凄い、凄い、と感動している物…それは高さ30センチの特大「パフェ」のことだ。

「本当に食べて…」

「いいよ、食べな。」
何故美幸ちゃんがこんなに興奮しているのかと言うと、16年間生きてきて、一度もパフェを食べたことが無いと言うのだ。
それを聞いた俺が、お礼を兼ねて、地元有名なファミリーレストランにある特大パフェをご馳走することになったのだ。

「それじゃ…いただきます。」
恐る恐る、スプーンで生クリームをすくい、ゆっくりと口の中に運んでいく…。
670春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/15(水) 19:20:14 ID:fhWd397r

「…お…お、おお…」

「お?」





――「美味しいいぃぃぃ!!!!」
初めてのパフェは本当に美味しかったようで、スプ―ンを握ったまま立ち上がり、好奇の声を店内に響かせた。

幸い客は俺達二人しかおらず、変な目で見られることは無かった…。
ビックリした店員さんがこちらの様子を見に来たが、「すいません」と言うと何も言わず頭を下げ厨房に入っていったので、問題はないだろう。

「すいません…つい………物凄く美味しかったので…。」
よほど恥ずかしかったのか、俺に一礼すると頬っぺたを赤く染め、もじもじしながらイスに座り直した。

「そう?それじゃ、いっぱい食べてね。」

「はいっ。」

おとなしくなったり騒がしくなったり、本当に感情豊かだなと改めて実感した。

食べてる姿は本当に子供のようで、口にいれる度に笑顔になり、その姿を見るだけでお腹一杯になってしまう。

夏美の食べる姿も見てるだけでお腹一杯になるが、美幸ちゃんは夏美と違って微笑ましく感じる。


「春樹先輩は食べないんですか?」

「いや、俺はお腹空いてないから。」
実際は春香の父に蹴られて口の中が切れまくっているので、物を食べれる状態では無いのだ。
671春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/15(水) 19:24:15 ID:fhWd397r


「…まだ、痛みますか?」
察してくれたのか、スプーンをテーブルに乗せ、心配そうに話しかけてくる。

美幸ちゃんも怖かったと思う…人があんなに蹴られるところなんて初めて見たんじゃないだろうか…。
近寄ってきた美幸ちゃんは、怪我をしている俺が心配になるぐらい顔が真っ青だった。

「あぁ…ちょっと、痛いけど、明日になれば治ってるよ」

これは嘘だ…この痛みは一週間無くならないだろう。

特に右手は少しの間使えそうにない…何かを持とうとすると激痛が走るのだ。

「一応病院に行った方がいいですよ…?軽い手当はしましたけど、体の中までは分かりませんから…」
ここに来る途中、薬局で絆創膏と消毒液と包帯を買い、美幸ちゃんに手当てをして貰ったのだ。

「うん、明日病院に行くよ。だから心配しないで早く食べな。」

溶けて生クリームが垂れてしまっている…。それを見た美幸ちゃんは慌てたようにティッシュで拭き取り、またパフェを食べ始めた。

食べ出したのを確認すると、美幸ちゃんから目線を外して窓の外を眺める。

一週間学校を休んで体を治そう…その間、誰も家にいれなければ、怪我を見られることは無い。
672春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/15(水) 19:25:34 ID:fhWd397r

学校のことは秋音さんに任せれば大丈夫だろう…。
不思議なことに、何故か学校で秋音さんに逆らう人間は誰一人としていないのだ。

一度、それとなく秋音さんに聞いてみた事がある。

結果、意味深な笑みを浮かべ「私から伸びているパイプは誰よりも凄いのよ。」と、秋音さんの口から下ネタとも思える返答が返ってきた。

それ以来、秋音さんの裏の繋がりが少し怖くなり、それに関して俺からは何も聞かないようにしている。

ただ…心配なのが一週間でこの手が治るかどうか…。
捻挫とかなら良いのだが、骨でも折れていたら最悪だ…。

一番の問題は夕食だ…夕食を貰う時、どうすればいいのだろう…。
毎日秋音さんが持ってきてくれるのだが、顔を合わせずに貰う訳にもいかない…何か考えないと―――


「春樹先輩…?」

「ん?なに?」
外の風景に意識を持っていかれていると、突然美幸ちゃんから声をかけられた。

「あの…ごちそうさまでした…。」

「早ッ!?」
食べ始めて、まだ5分も経っていないのに、パフェが入っていた容器は空っぽになっている。

もしかすると夏美より暴食なんじゃ…
673春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/15(水) 19:26:10 ID:fhWd397r

◇◆◇◆◇◆

――それから、暇潰しに二人で一時間ほどファミレスで世間話をした。

ほとんど美幸ちゃんの忠犬、パルの話と母親の話だったが、楽しそうに話していたと思う。
まぁ、俺も赤部家が絡んでいる話ばかりなので、人のことは言えないけど…。

美幸ちゃんの話が途切れた瞬間を狙って携帯に目を向ける。
10時40分…あまり長い時間、この場所にとどまる訳にもいかない。パフェ一つで長い時間居着いているからか、店員の視線が少し痛くなってきた。

「それじゃ、そろそろ外に出ようか?」

「そうですね、行きましょう。」

席から立ち上がり、レジに向かって歩き出す。
テーブルの上に置いてあるベルで店員を呼ぶと、ベルを鳴らすと同時に待ち構えていたように厨房の中からウエイトレスが笑顔で出てきた。

レジでお会計を済ませ、外に出る。

「本当にありがとうございました。」
外に出てすぐ、再度美幸ちゃんからお礼を言われる。親から言われているのだろうか?礼儀が少し過剰な気がする。

「いえ、こちらこそ。気に入ったんなら今度友達と来たら?女の子ならみんな喜ぶと思うから。」

「はい……でも、私…親しい友達がいなくて…」
674春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/15(水) 19:26:45 ID:fhWd397r

「あぁ、そっか…」
そう言えば引っ越してまだ間がなかったんだった。
ミスった…先ほどの笑顔はどこえやら…一変して暗い顔になってしまった。

「ま、まぁ、すぐに友達ぐらい出来るさ。なんなら俺がもう一度、一緒に来てもいいし。」
言った後、変に勘違いされる言い方をしてしまった事に少し後悔した。

「本当ですかっ!?また、一緒に来てくれますか!?」

「あ、あぁ、いいよ。」
嬉しいのか、悲しいのか、俺の言葉をあまり気にしていないようだ…。

大きなクリクリとした目が色々な期待でキラキラと輝いている。

もしかして、美幸ちゃんの中で俺は友達と言う部類にすでに加わっているんじゃないだろうか。別に嫌な訳ではない…むしろ嬉しい。
「さぁ、帰ろう。」

「はいっ。」

じゃあ、なぜ躊躇するのかと言うと、春香の声が聞こえなくなることが怖いのだ…。

「…」

「春樹先輩?――(ハル)」

――春香の声と美幸ちゃんの声の区別がつかなくなった時…





――精神は罪の重さに耐えきれず消滅する。
675春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/15(水) 19:30:44 ID:fhWd397r
投下終了です。

>>664
まだまだ終わらないけどなるべく早く終わらすから我慢してね。

今まで足踏みしてるような投下をしてましたが、次からなるべく早く話を進めていくのでよろしくお願いします。
676名無しさん@ピンキー:2009/07/15(水) 20:04:48 ID:IUxYWbgI
GJ
続きが楽しみだ。
677名無しさん@ピンキー:2009/07/15(水) 21:02:07 ID:Rs1J/ys0
GJです。
続き楽しみに待ってます
678名無しさん@ピンキー:2009/07/16(木) 00:29:53 ID:S1xMyeeq
最高です!GJ!!
679名無しさん@ピンキー:2009/07/16(木) 16:26:00 ID:j2e+C0kr
GJ!期待してるよ
680名無しさん@ピンキー:2009/07/17(金) 02:33:41 ID:D9/LOivN
心の隙間の時もそうだったが、何て言うんだろう…ピンポイントに俺の萌えポイントを刺激するのが上手いな、あんたは…GJだぜ!。
>>662
気になってしまったのだが、心の隙間と春春夏秋冬のキャラを混ぜるとは?
違う話を書くの?
681名無しさん@ピンキー:2009/07/17(金) 13:43:28 ID:/IUoOyuF
主人公の名前を間違えたってことでしょ。
682名無しさん@ピンキー:2009/07/18(土) 01:01:51 ID:UZ9uX3qQ
作品間でリンクさせたかったってことじゃないの?
683名無しさん@ピンキー:2009/07/18(土) 09:33:14 ID:iTAi4mqC
>>682
とりあえず お前が何も読んでないってことは理解した
684名無しさん@ピンキー:2009/07/18(土) 12:07:51 ID:0f6nrxSt
>>662より
>心の隙間と春春夏秋冬のキャラを混ぜた話を書こうとしていたので…

>>683が何も読んでないってことは理解した
685名無しさん@ピンキー:2009/07/18(土) 21:47:33 ID:8zmzy0wP
続編期待age
686名無しさん@ピンキー:2009/07/20(月) 02:40:38 ID:N2GS9YCM
本当に書き手いないね。
依存好きだから寂しい。
だから保守。
687名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 00:10:01 ID:X1HKbvWf

どうでもいいけどIDが全部大文字
688名無しさん@ピンキー:2009/07/21(火) 20:53:34 ID:6kFOgxjo
まとめ更新乙
689春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/21(火) 21:10:05 ID:eTzvAkXM
保管庫更新お疲れさまです&ありがとうございます。
保管庫できたおかげで物凄く書きやすく(読みやすく)なりました。

明日投下出来るかも知れないので、なるべく早く投下します。
690名無しさん@ピンキー:2009/07/22(水) 00:20:40 ID:SYq+PtBv
期待してます
691名無しさん@ピンキー:2009/07/23(木) 23:55:37 ID:U8mvT9wI
期待してま…あれ?
692名無しさん@ピンキー:2009/07/23(木) 23:59:24 ID:ufJ1LmE5
いや、投下しようと思ってたんですが20レスぐらい使いますよ?
693名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 00:21:54 ID:AI9ZWbhx
>>692
すでに全裸で待機済みです
694名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 00:23:41 ID:wTxHEQSb
>692
焦らさないで・・・っ。
695名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 00:27:42 ID:9SyfAahp
ハリーハリー!
696名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 00:29:03 ID:9SyfAahp
って容量大丈夫かな?
697春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 00:56:05 ID:J1lOWaaF
それなんです、俺携帯だからよく分からない…できるなら早く投下したいんですが…
698名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 01:07:40 ID:l4prCrfs
まだいけるだろ
699名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 01:16:49 ID:kPrUMP7/
20レスぐらいなら大丈夫
700名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 01:41:28 ID:nv90jmKZ
残り414KB、だな。
701名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 02:11:41 ID:cGhLdrAA
つ、つっこまないぞ!?
702名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 02:31:32 ID:nv90jmKZ
ウボァ
残り86KB、だな。
703名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 02:55:53 ID:etJmSEt2
容量は余裕だな
さあどんと来い!
704春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 04:13:10 ID:J1lOWaaF
わかりました、今日の16時か17時には投下しますね。
投下寸前の投下予告はもうしません(無駄になるんで)
長引いてしまい申し訳ないんですが、21スレとめちゃめちゃ長いんで気長に読んでください…では。
705名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 10:48:40 ID:h9nhRm3+
>>704
なんという大長編。何年でも通うぜwww!
706名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 12:40:24 ID:mEY0dZQI
21スレか。どれだけ支援しても足りなそうだなw
707名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 13:46:48 ID:kKgoisey
大河ドラマ並みと聞いて
708名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 15:02:42 ID:9SyfAahp
スターウォーズ級の長編ときいて
709春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 17:03:47 ID:J1lOWaaF

「いや〜、まさか私に彼女を紹介しにくるとは思ってなかったわぁ〜。あぁ〜ムカツク…。」

「だから後輩ですって…今そこで偶然、会ったんですよ。それで家が近いから一緒に帰ってるんですって。ね、美幸ちゃん?」

「は、はい…」
そう美幸ちゃんが気まずそう呟くと、近くにある花に目線を落とした。

「なんで隠すの?私に気を使ってるのかなぁ〜?」
この空気の読めない女性のせいで居心地が悪くなってしまった。



――墓地からの帰り道、必然的に花屋の前を通らなければならないのだが、俺たちは今その花屋さんで嫌がらせに近い足止めをくらっていた。


花屋の前を通りすぎる際に店内で花を整理しているお姉さんと目があったので、頭を下げて通りすぎようとしたら、走ってきたお姉さんに腕を掴まれ店内に引きずり込まれたのだ。

それをこの女は……嫌がらせで彼女を紹介しにきただの、年上をからかって楽しいのかだの、私はどうなるのかだの、先ほどからずっと騒ぎ立てている。

「だから本当に恋人同士ではないですって…花束だって持ってないでしょ?」

「まぁ〜確かにそうだけど……。」

「それより、話し込んでて大丈夫なんですか?お客さん来てますけど?」
710春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 17:04:28 ID:J1lOWaaF
呆れ気味に店の外を指差すと、つられてお姉さんが外に目を向けた。
店の外に飾ってある花を老夫婦が仲良く眺めている。

「あっ、いらっしゃいませぇ〜」

営業スマイルに切り替えると俺たちをほっぽりだして老夫婦の元に歩いていってしまった…。

「凄い人ですね…。」
花に目を向けていた美幸ちゃんがこちらに歩み寄ってきた。

「悪い人では無いんだけどね…まぁ、帰ろっか?」

「はい、あの…その前に少し花を買っていきたいんですけど…。」

「ん?なに買うの?」

「えっと…これを…」
美幸ちゃんが指差す先に目線を向ける。
目線の先にはバケツにいっぱいのカーネーションが入っている。

「今日はこの赤のカーネーションを母に買って帰ります。」
色は白と赤の二色しかないが(他に色があるのかも知らない)美幸ちゃんは赤のカーネーションを買うようだ。


「今日はってまた来るの?」

「もうすぐ母の日ですよ?母の日にはこれとは別に白のカーネーションをプレゼントしようと思ってるんです。」

「へぇ〜お母さん愛されてるんだねぇ〜(もうすぐって母の日までまだ一ヶ月あるんだけど…)」


「はいっ!大好きです!!」
711春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 17:04:56 ID:J1lOWaaF
本当に好きなのだろう…お母さんの事を話す美幸ちゃんは常に嬉しそうな顔をしている。

俺も昔は母の日になると恵さんにカーネーションをプレゼントしていた思い出がある。
今はしていないが確かにあの時は笑顔で受け取ってくれると、こちらが何かプレゼントをされた気になるぐらい嬉しさで舞い上がっていた。

「母親…か…」
母で思い出したが、そう言えば産みの親である本当の母親はどんな人だったのだろうか…?
俺が二歳の頃に亡くなったと父親から聞かされたが、墓参りにも行ったことがない…。
一度春香の父親に連れていかれたが、その一度だけで俺から進んで行こうとは思わなかった。
何故かと言うと、育ての親である恵さんが本当の母親だと思っていたからだ。

「…難しいな…」

「えっ?なんですか?」
美幸ちゃんに聞こえないように小さく呟いたつもりなのだが聞こえてしまったようだ。

「いや、なんでもないよ……店員さん呼んで来るから少し待っててね。」
美幸ちゃんにそう告げると出口に向かって歩き出す。
712春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 17:05:32 ID:J1lOWaaF

産んでくれた本当のお母さんに、育ててくれたもう一人のお母さん……この歳になるまであまり深く考えなかったが、俺には二人のお母さんが居たんだ…二人とも、面と向かってもうお母さんと呼ぶことは出来ないだろう…。
少し寂しく感じるが、しかたない…。

「あの〜すいません…後輩が花を買いたいっていってるんですが。」

「あっ、ちょっと待って。それでは欲しいものが見つかれば、いつでも気軽に声をかけてくださいね。」
お姉さんに後輩が花を買うことを教えると、老夫婦に礼儀よく笑顔で頭を下げ後輩の元へと戻っていった。

「ふぅ〜…」

――ゆっくりと傷口を指でなぞる。

今日は本当に疲れた…まだ昼間だが家に帰ったらすぐに寝よう…。多分起きたら顔がパンパンに腫れているんだろうなぁ…。

傷を見るためにガラスに近寄る。








――「…なに、してるの?」

ガラス越しに顔の傷を確かめていると、後ろから優しく…だけど少し冷たい女性の声が聞こえてきた。

反射的に後ろを振り返り、声がしたほうに目を向ける…。


――誰の嫌がらせなのか…。

――日頃の行いのせいなのか…。

――改めて悪いことは続く物だと実感させられた。
713春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 17:06:56 ID:J1lOWaaF

「えッ!?どっ、どうしたの、その怪我ッ!!?」
なぜかわからないが、俺の目の前には見知った女性達が立っている。

それは今一番会いたくない人達であり傷を絶対に見られたくない人達…今日墓参りをしてきた春香の家族、赤部家のみんなだった――

声をかけてきた夏美が俺の顔を見るなり、口に手をあて後ろに後ずさってしまった。

――なんで、この時間にこの場所にいるんだ?
あまりにも唐突すぎたので、傷を隠すことも出来なかった。

「ちょ、ちょっと!?どうしたのよッ!!なんで傷だらけなの!!!」
後ろに居た秋音さんが夏美を押し退け、駆け寄ってくる。

ダメだ…頭が上手く回らない――。

いつもは車で行ってるんじゃないのか?
花屋だって、ここじゃ車を停めれないから違う花屋に行ってるはず…。
色々な事が頭の中を駆け巡り、言葉が出ててこない。


――「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!あんまり騒ぐと春樹先輩の傷に響きますから!!」

店内から出てきた美幸ちゃんが慌てたように俺と秋音さんの間に入る。

「なッ!?おまえッ……なにしてんの?まだ、春兄の周りうろついてんのか?」
今度は夏美が秋音さんを押し退けて前に出る。
714春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 17:07:38 ID:J1lOWaaF
「う、うろついてなんて…ただ、偶然会ったので…」

「こんなところで偶然…?ふざけるなよ?」
夏美の気迫に押されて美幸ちゃんが少しずつ後ろに下がってくる。
昨日といい今日といい美幸ちゃんはかなり追い込まなければ、相手に歯向かうことが出来ないようだ。

「偶然会ったのは本当なんだって…墓参りの帰りに会ったから一緒に帰ってるんだよ。」
複雑そうな顔をしているが、分かったようで夏美はうつ向いてしまった。

「そんなことはどうでもいいのよ……春…なんでそんなに傷だらけなの?理由を言いなさい。」
秋音さんは教師なのに美幸ちゃんの事が気にならないのかまったく目を合わせようとしない。

「理由って…そりゃあ…」
美幸ちゃんのほうをチラっと見て、なんとか誤魔化せるか目で確認する。

無責任だが今の俺の脳では何も考えられないのだ…。
俺の確認を美幸ちゃんがしっかりと受け取ってくれたようで、真剣な顔でこちらにコクッと一度だけ頷いた。

(頼む美幸ちゃんッ!)
願いをこめて美幸ちゃんが話し出すのを待つ。






「それが、いきなりスーツ姿の知らない男性に蹴り飛ばされたんですよっ!!」

――今日、初めて本物の天然を見た気がする。
715春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 17:08:30 ID:J1lOWaaF



「なんだそれ?なにもしてないのに、知らない奴が一方的に春兄を蹴飛ばしたのかっ!?」
夏美がイラつきながら美幸ちゃんに聞き返した。

「えぇ、まったく知らない人でした、一方的に暴力をふるってましたね。私が止めに入ると逃げていきましたが…。」
そりゃ美幸ちゃんは知らないだろう…

「警察は…?」

「え?いや…春樹先輩が止めてって……あれ?そう言えば、なんでですか?」

「はは、そうだね…(知らねーよ!てゆうか話ふってくんな!!)」
美幸ちゃんに任せた俺がバカだった…あのコクッはいったいなんだったのだろうか?

私が全部見たことを話せますって意味か?
だとすると蹴られた張本人のほうがはっきりと解りやすく話せる。

「まぁ、向こうも酔ってたし、いちいち警察に行くことでもないかな〜って…」
美幸ちゃんに任せた俺の罪か…聞き苦しい言い訳に自分でも耳を塞ぎたくなった。

「ちょっと春兄ッ!?そんなんじゃy「ハル…今から病院にいくから来なさい。」
先ほどまで黙っていた恵さんが、夏美の声をさえぎり冷たい声で話しかけてきた。
その顔は無表情でなにか鬼気迫る物が感じ取れる。
716春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 17:09:10 ID:J1lOWaaF


「…」

秋音さんも同じように、俺の顔から一切目を背けようとしなかった。
多分この二人には気づかれてしまったのかもしれない…。
俺を殴ったり蹴ったりする人物は春香の父親以外、身近な人間にはいないのだから。

「いや、病院には一人で行けますから…だから春香に会いに行ってあげてください…」
俺のことよりまず春香に顔を見せてあげてほしい…春香も楽しみにしているはずだ。

「私は一ヶ月に一度春香に会いに行ってるから大丈夫よ……秋音…冬子と夏美をよろしくお願いね。」
そう秋音さんに伝えると、俺の左手を掴み歩き出してしまった…。その後を美幸ちゃんが遅れないように小走りでついてくる。

この時右手を掴まれていたら、痛さで失神していたかもしれない。
それぐらい腫れていたのだ。

「春兄ッ!家に帰ったらちゃんと電話しろよっ!!」

「おぉ〜わかった。んじゃな。」
夏美が心配そうにこちらを眺めているが秋音さんに急かされて墓地へと歩き出した。

恵さんに手を引かれながら考える…。
もう言い訳は出来ない…。
717名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 17:49:10 ID:LUXPkICU
猿ROCK
718名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 18:23:00 ID:LyOXI9Jw
連投規制って他スレに書き込むと大丈夫だったりしない?
自分はよく誤爆スレあたりにお世話になってるけど
気のせいかな?
719名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 19:39:12 ID:LLtrkG3g
まだ途中だよな?支援age
720春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 19:39:29 ID:J1lOWaaF
かといって夏美と冬子に知られる訳にもいかない…。

あの二人が事実をしれば確実に悲しむだろう。特に冬子は家族の絆や愛といったことに反する出来事が起こると、最悪精神を壊す恐れだってあるのだ。

「ほら、早く乗りなさい。」

「あれ?なんでこんな所に車あるんですか?」
一度家まで帰るのかと思っていたけど、何故か花屋の近くのコンビニに車を停めていたようだ。

「いつも行ってる花屋さんがいつの間にか潰れてたのよ。だからここに車を停めて、春香の所まで歩こうってなったの。」
なるほど、だから遭遇したのか。間の悪い潰れかたするな…。

「あの…春樹先輩…私…」
あぁ、そう言えば美幸ちゃんもいたんだった…。カーネションを握りしめ、戸惑うように返答を待っている。

「恵さん、美幸ちゃんを先に送ってあげてもらえないですか?」

「送っていくのは構わないけど、病院が先ね。それでもいいかしら?」
恵さんが美幸ちゃんに問いかける。

「あっ、はい、私も春樹先輩が心配なんで…」

「それじゃあ、行きましょう。」

そう言うと、後ろのロックを外して車に乗り込んだ。
恵さんに続いて俺は助手席、美幸ちゃんは後部座席に座りコンビニをあとにする。
721春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 19:40:29 ID:J1lOWaaF

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

母と春の背中を眺め、考える。

春は誤魔化そうとしたが多分春に暴行したのは私の知ってる人…。あまり考えたくないけど、あの人だろう。

別に私達の前からいなくなるのは構わない。私はあの人に父親らしいことなんて何一つされたことがないからだ。

ただ春に手を出すのだけは許さない。
春香が亡くなった後、父が春を殴った時も母ではなく私が止めたのだ。
多分母はどこか止めれない気持ちがあったのだろう…所詮本当の息子にはなれないと言うことだ。

だけど私は違う…いつでも春を守れるし、私が春を連れて逃げることだってできる。

――春香と違って私は春の体に触れるのだ。

「ねぇ、秋姉さん…」

「ん?どうしたの?」
隣に立つ夏美が目を潤ませながら話しかけてくる。
金色の髪に派手なピアス…端から見れば不良の一言ですまされるかも知れないが、私達家族の中で一番愛情深いのは他の誰でもない夏美だと私は思っている。

「春兄、大丈夫かな?やっぱり私達もついて行ったほうが…」

「大丈夫よ…。見たところ擦り傷ばっかりだったし顔色も悪くなかったから。」
722春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 19:42:05 ID:J1lOWaaF

夏美に言い聞かせてはいるが、正直私も夏美と同じように、春の事が気になってしょうがないのだ…。
しかし私がここで取り乱したら、夏美と冬子は私以上に混乱するはず。

そうなれば年に一度の春香の墓参りを断念して春の元に行きかねない。それだけは絶対に許されない。

「お花買ってきたよ?早く行こうよ。」
いつの間に花屋に入ったのだろうか…花屋から出てきた冬子の手には小さな花束が握られている。

すっかり忘れていたが私達は花を買いにここまで来たのだ…冬子がいなかったら花を持たずに春香に会いに行ってたかもしれない。

「そうだね…。」
春の姿を目に焼き付け春香の元に歩き出す。



――私はいつになったら春の横を堂々と歩けるのだろうか?

教師になり、春と顔を合わす機会だって前よりは増えているはず。
学校では教師として春に接しているが、たまに教師という立場を忘れて、学校で理由も無しに春を呼び止めてしまいそうになることもある。
だけど春と私の立場上絶対に人目につく行動はしてはならない。

「はぁ…」
目を閉じもう一度春を想像する。





――悲しいことに何度想像しても、春の横を歩くのは私ではなく春香が歩いているのだ。
723春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 19:43:03 ID:J1lOWaaF

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「ほら、ご飯作ってあげるからそこに座りなさい。」

「はい、お願いします。」

病院から帰ってきた俺達は今、恵さんの好意により昼食を食べる事になった。

何故か、俺の自宅で…。

「本当に図々しくて、すいません…」
隣に座る美幸ちゃんが申し訳なさそうに頭を下げる。

「いや、いいよ別に…」
何故美幸ちゃんが俺の家に居るのかと言うと、この時間帯に家に帰ると母親が心配するらしい。やはり美幸ちゃんも学校をサボっていたようだ…。

その事について咎める気はまったく無いのだが、学校に電話をしていない時点で学校から美幸ちゃんの家に電話がいくんじゃないの?と聞くと、そうなんですかッ!?とビックリしたように聞き返してきた。

一応恵さんにバレないように俺が美幸ちゃんの父親のふりをして学校に電話しといたけど、どうなるかちょっと俺も分からない。
724名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 19:49:09 ID:kPrUMP7/
支援
725春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 19:57:36 ID:J1lOWaaF


「手、痛くない〜?あまり力強く握ったりしたら駄目だからね〜?」
台所から何か作っているのだろう…恵さんの声が水の音に紛れて聞こえてくる。

「はい、大丈夫です。」



――右手に目を向ける…やはり捻挫ではなく骨折していた。右手首の骨が二本ポッキリ折れているらしく、ギブスを外すのに一ヶ月と20日ほどかかるらしい。

他の外傷はそれほど酷くはなかったので少し安心したが、後々痛みが増すのは骨折した右手ではなく、体にできた切傷や痣のほうだと断言された。

「ふぅ〜…流石に疲れたね?美幸ちゃんも疲れたでしょ?」

「え?あっはい、少しだけですが…」
珍しそうに周りを見渡しているがなにか面白いものでもあるのだろうか?

美幸ちゃんに話しかけてもあまり会話になりそうになかったのでリモコンを掴みテレビをつける。

料理…ニュース…昼ドラ…この時間帯、家にいることがないのでテレビを見ても暇な番組しか流れていない。
小さく舌打ちをし、リモコンでテレビの電源を消しもう一度美幸ちゃんの様子を伺う。

まだ落ち着きなく周りを見渡している。
726春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 19:58:20 ID:J1lOWaaF

そんなことをしてる内に恵さんが料理を終え、テーブルに食事を運んできてくれた。

テーブルの上に美味しそうな料理が次々と並ぶ…。昨日と同様、豪華な食卓となっていくのが他人事の様に思えてしまう。
嬉しいのだが口の中が正常な時に食べたかったかも…。

「秋音達遅いわね…」
恵さんがタオルで手を拭きながら壁に掛けてある時計に目を向ける。その姿を何故か自然と目で追いかける自分がいた…。


「まったく…先に食べてて良いわよ?ちょっと秋音に電話するわね」
そう言うとポケットからピンク色の携帯を取り出し慣れた手つきで秋音さんに電話をする。

「先に食べてろだってさ。食べよっか?」

「あの、私は大丈夫なんで…先にどうぞ…見てますから。」

「いや、ここで気を使われると…」
それに見てるってなんだ?俺の食べるところを見てるってことか?
これも天然なのかよくわからなくなってきた。

「あら?まだ食べてなかったの?」
電話を終えた恵さんが椅子に座る。

「秋音達もう家についてるんだってさ。荷物置いてすぐにこっちにくるみたい。」

「へぇ〜、そうなんですかぁ。」
自然と流してしまったが、なぜ恵さんは俺の隣に座ったのだろうか…?
727春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 19:59:11 ID:J1lOWaaF
席は俺の横じゃなくてもいくらでも空いているし、恵さんと美幸ちゃんに挟まれ、物凄く窮屈で息苦しい…。
それに何故か恵さんは俺の箸を嬉しそうに握っているのだ。

これは…そう言うことか?

美幸ちゃんがいる前でまさか…

「あの…恵さん…なんで俺の箸掴んでるんですか?」
恐る恐る隣にいる恵さんに問いかける。

「だって左手で食べれないんでしょ?一人じゃ食べれないから私くるまで待ってたんじゃないの?」
予想が的中してしまった…まさか美幸ちゃんがいる前で言ってくるとは思っていなかったので、ビックリしたと言うより呆れてしまった。

「ほら、秋音達も来たみたいだし…食べよっか?」
玄関から数人の話し声と同時に家に上がり込む足音が聞こえてくる。
その間、ただ俺は恵さんの顔を眺めながら固まっているだけだった…。

「お邪魔しま〜す。」
ガチャッとリビングの扉を開けて真っ先に入って来たのは夏美、少し遅れて秋音さんと冬子がリビングに入ってくる。
入って来た三人がリビングの光景を見た瞬間、時間が止まったようにピタッと停止した。

異様な空間に押し潰されそうになる…。
そんな地獄のような中、真っ先に口を開いたのが夏美だった。
728春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 20:00:11 ID:J1lOWaaF


――「…春兄の隣……私なんだけど…」
唐突な言葉に皆が夏美の方に目を向ける。

他人なら意味が分からないだろうが、夏美が言ってるのは食卓を囲む席の場所のことを言っているのだろう。
夏美の目線は美幸ちゃんを捕らえているので、美幸ちゃんが座っている椅子が私の場所だと言いたいようだ。

まぁ、どっちにしろ今言うことではない。

「しょうがないじゃない。ハルは手を怪我してるんだから私が食べさせてあげなきゃいけないし、美幸ちゃんはハルの友達なんだからあんたらの間に座らせる訳にもいかないし。」

「春、その手…骨折してたのッ!!?」

「ははっ、ちょっと変な転びかたしたから…」

「だから、警察に通報しろって言ったじゃねーかっ!!てゆうか春兄、家についたら携帯にメールしろっていったよな?なんでしなかったんだよ!?」

収拾がつかなくなってきた……みんな美幸ちゃんが居るのを忘れているのだろうか?

「てゆうか春に食べさせるってなに!?」

「なにって?ハルに一人で食べろって言うの?」

「そ、そんなこと言ってないでしょ!なんでお母さんが食べさせるのかって聞いてるのよっ!?」


「母親だから。」
729春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 20:01:17 ID:J1lOWaaF

美幸ちゃんを無視して本気の口論を始めだした。仲が良いのか悪いのか…どうでもいいがいつまで続くのだろうか…?

「あの〜早く食べない?せっかく作ってくれたのに…料理冷めるよ?」
赤部家の口論に横から割り込む。このまま続けていても空気が悪くなるだけだ…。それに美幸ちゃんもかなり居づらそうにしている。

「そうよ、せっかく作ったんだから早く座りなさい。」
先ほどまで口論していた張本人の恵さんに言われ渋々椅子に座りだす。
冬子は一人だけ椅子を持ち上げると、恵さんの隣まで持っていき何も言わず腰を下ろす。

こんなんで食卓を仲良く囲むことなんてできるのだろうか?
食べる前から不安になってきた…。




――各々小皿を取り、食事を始める。

食事は思った通り美味しかった。口中の傷も熱い物は食べ辛かったが、少し冷まして食べると全然食べれたので安心した。

…ただ、食卓を囲む空気はお世辞にも良くはない。
冬子以外の皆が、俺に話しかけてくるので食べると言うより話を聞くほうが忙しかった。

「お母さん、これ美味しいね!」

「そう?ありがとう。ほらハル、あ〜ん。」

「…」
730春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 20:02:05 ID:J1lOWaaF
みんなと違い、冬子だけは恵さんに一生懸命話しかけており、恵さんの返答が薄いと寂しそうな目で恵さんの横顔を眺めている…。その姿が一番心苦しかった…。

「ほら、冬子…これも美味しいから食べてみ?」
手前に置いてある、唐揚げを冬子に勧める。

「うん、ありがとう…」
複雑そうに笑いながら小さく唐揚げを食べる。
本当は俺じゃなく恵さんに声をかけてほしかったに違いない。
その恵さんは俺の口に食事を次々と運んでくることに必死でまったく気づいていない。

後で恵さんにそれとなく言っとこう…さすがに冬子が可哀想だ。



――「それじゃ、片付けるからソファーにでも座ってなさい。美幸ちゃんもくつろいでて良いわよ?」

食べ終えると、テーブルに並んでいる空の食器を各々流し台に持っていく。洗い物を済ませるために恵さんと冬子が流し台に立ち、秋音さんは自宅に戻り洗濯をすませに行ってしまった。

「いや、疲れたからちょっと二階で休みます…二人とも、行こっか?」

「あぁ…。」

「はい…わかりました。」
残った夏美と美幸ちゃんに声をかける。
なぜ二人が近づくとこんなに雰囲気が悪くなるのだろうか?

まったく分からない…
731春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 20:02:49 ID:J1lOWaaF


せめて、普通に話せるぐらいに二人を近づけたい。始めの印象がお互い悪かっただけで、いがみ合う理由なんて無いはずなのだ。
恵さん達がいる前で話そうか迷ったが夏美の性格上、逆撫でするだけなので、俺の部屋に場所を移すことにした。

「はぁ〜、疲れたぁ〜…」
部屋に入ると夏美は馴れたように俺のベッドに寝転んだ。
昔から俺の部屋をもう一つの自分の部屋のように使っていたので、何年経っても夏美にすれば落ち着ける場所になるのだろう。

ただ、俺の枕に顔を擦り付けるのはやめてもらいたい…。

「なんか、珍しい物でもあった?」

夏美と違って美幸ちゃんは遊園地にでも来たように目をキラキラと輝かせている。
別に嫌な訳では無いのだが、なにか良からぬ物を見つけられないかドキドキしてしまう。

「いえ…男性の部屋にお邪魔したことがないので…少し…あのっ……すごくドキドキします…。」

「あ、そうなんだ?」
魔性の女とは美幸ちゃんの様な女性の事を言うんじゃないだろうか?
美幸ちゃんの仕草にドキッとしてしまった。

――「へぇ〜、……そう言えば私も春兄以外の男の部屋に入ったことないなぁ〜。」



「ははっ、嘘つけ。」
732春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 20:03:54 ID:J1lOWaaF


「なッ!?なんで私の場合は嘘になるんだよ!!!」

「いや、だっておまえ…男のツレいっぱいいるだろ?」

ウケを狙って言ったんじゃないのか?
反射的にツッコミをいれてしまったが、友達が多い夏美なら恋愛絡みじゃなくても普通に男の部屋ぐらい入ったことがあると思っていた。

「私の友達じゃねーよ!周りのヤツが男をつれてくるんだよっ!!」

「わかった、わかったから大声だすな、傷に響く。」
ベッドから乗り出し、う〜っと唸る夏美の頭を押し戻す。

「…?」
夏美から目を離し、美幸ちゃんに視線を戻すと俺の机の前で何かを見ている…。もしかして何か変な物が見つかったのかと美幸ちゃんの横から覗き見る。

「あっ!?すいません!!」
そう言うと手に持っている物を机に戻してしまった。

「いや、別にいいよ。」
美幸ちゃんの手に持っていたもの――それは春香の写真だった。

別に見られても困らないから大丈夫なのだけど、凄く恥ずかしい。






――「…その写真の人…春兄の彼女だよ?」
後ろから聞こえる夏美の声に美幸ちゃんが振り返る。何か言いたそうに夏美の顔を見ているが、何も言わずまた写真に目を向けた。


「…恋…人…」
733春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 20:05:41 ID:J1lOWaaF
聞き慣れない恋人と言う言葉に少し首筋がくすぐったい。

「まぁ…てゆうか、夏美、どけっ。」
我が物顔で夏美がベッドを独占しているので座ることもできない。

「ん?あぁ…ほら、これで春兄も寝れるだろ。」
そう言うとめんどくさそうに、ベッドの端まで転がっていく。

「…顔真っ赤にして、なにいってんだおまえ?」
表情は無表情に近いのだが、頬っぺたどころか顔全体がタコの如く真っ赤になっている。

「う、うるさい!!わ、私だって、いっぱいいっぱいなんだよ!バカッ!アホっ!!」

夏美の発言の意味がわからない。また枕に顔を埋めてしまった。


「はぁ…ったく…」
立ちっぱなしも疲れたので、イスに腰を降ろす。
何気なく美幸ちゃんに目を向けると、まだ写真を眺めているようだ。



「美幸ちゃん、まだ見てッ……」

――美幸ちゃんに話しかけようとした時…なぜか美幸ちゃんに違和感を覚えた。

「…」

美幸ちゃんはただ無言で写真を見ているだけ…じゃあ、なぜ俺は美幸ちゃんに対して戸惑っているのか――






――それは、美幸ちゃんの目を見た瞬間、小柄な女の子だと忘れてしまうぐらい何か異質な物を感じ取ってしまったからなのだ――
734春春夏秋冬 ◆ou.3Y1vhqc :2009/07/24(金) 20:16:09 ID:J1lOWaaF
遅れてすいません、終了です。
規制…規制でもう……キーッ!!!ってなる。
次かその次には春香の話し書くかもしれないです。


>>704
21スレだってよwこいつ超ー元気w
735名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 20:16:42 ID:LLtrkG3g
終わりかな?乙です。
しかし続きが気になる終わり方ですな
736名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 20:22:43 ID:kPrUMP7/
737名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 20:39:57 ID:Nj8aUV19
>>734
乙でしたw
そしてGJ
738名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 20:44:31 ID:843FP7ds
イイヨイイヨー
739名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 21:09:13 ID:EU7wAT1f
規制でひっかかりながらも投下ホントにおつかれ。
これからも応援してる。

考えてみるとこの作品ってまだ3日かそこらしか時間が経ってないんだよね


740名無しさん@ピンキー:2009/07/24(金) 21:47:43 ID:RrYj0z+u
もう少し経ってないか?
しかしそう考えると後輩の行動力は凄まじいな
741名無しさん@ピンキー:2009/07/25(土) 07:47:01 ID:WR7cQAa5
次も期待!
742名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 02:33:50 ID:OT9iNYck
期待期待!
743名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 07:32:56 ID:z9TasAaY
ちっくしょう、楽しいな。>>734 GJ! 構ってもらえなかった冬子萌え。
皆そこはかとなく依存で常にいっぱいいっぱい感があるのがたまらないw
744名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 11:50:26 ID:tIS/2gDA
>>734乙っす!

いやしかしこれ皆幸せになれるのか心配になってきた
大丈夫ですよ…ね?
745名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 13:34:37 ID:HCxotAF3
全員精神科通院した方がいいと思う。

冬は特にwwww
746名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 03:57:58 ID:9vEP04mw
依存しまくり保守
747名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 22:19:20 ID:rw3wk+tN
「お待たせしました。お部屋をお探しでよろしいですね?」
「「はい」」
「ええと、お二人は……」
「「カップルです。同棲したいと思っています」」
「ああ、はいはい。あー、では部屋のご希望の条件などは……」
「拓也くんがいてくれればいいです」
「……はい?」
「拓也くんさえいてくれればどこでもいいです」
「は、はあ……。で、では、その……そちらの貴方は何か」
「沙織さえいてくれればどんな劣悪な部屋でも結構です」
「……」
「「逆に、私たちは、離れてくらすことなんて出来ないんです!」」
「帰れよ」


保守
748名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 03:15:27 ID:6WrJpvav
ナイス保守
749名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 04:12:18 ID:6HWmb+I/
どこのスレもそうだけど、途中で諦める作者多すぎ。短編にしてもいいからちゃんと終わらせてほしい。
750 ◆MkmoheL0Rc :2009/07/31(金) 00:16:21 ID:1Lh3qtlq
投下します。一応長編です。
ぶつ切れではなくても、投下する量が少しずつかもしれません。ごめんなさい。
初投稿なので、文章など拙いところが多いと思います。
ひま潰し程度に読んでください。

注意書き
ヒロインが盲目です。
今回はまだ依存するところまで到達しません。
苦手もしくは不快に思われる方がいらっしゃいましたらスルーしてください。
751名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 00:19:23 ID:EA4igqP7
レイプ云々はやめろよ
752盲月  ◆MkmoheL0Rc :2009/07/31(金) 00:19:39 ID:1Lh3qtlq
ざくり、ざくり。
靴の中に砂が入らないよう、気を使いながら歩く。
「はぁ・・・何で僕はこんな島にいるんだろう」
僕は夜中の浜辺で一人、深く溜息をついた。

何でこんな所に引っ越してしまったのか。
事は2週間前に遡る。


「優歌、引っ越すぞ」
夜中の2時過ぎ。
自室で黙々とエロゲをやっていた僕に、義父が突然そう告げた。
義父は民俗学の学者をしていて、研究の為にあちこち引っ越すことが多い。
だから僕はさして驚かず、画面から目も離さずに聞いた。
「どこですか。あんまり遠くは嫌なんすけど」
「安心しろ。一応東京都内だ」
「なんだ、都内か。じゃあどこでもいいです」
「お、そうか。じゃあ1週間後引っ越すから、準備しとけ」

ーーーーーーーー

それから1週間後。
準備を整え、僕らはタクシーに乗るところだった。
義父が運転手に言う。
「成田までお願いします」
・・・・・!?
「え・・・ちょっと。なんで空港へ行くんですか」
「ああ、まあフェリーで行けないこともないが・・・石垣島までは飛行機で行けるからな。使わない手は無い」
「そうじゃなくて・・・・どうして都内にある場所に向かうのに飛行機を使うんですか?」
「いや・・・行き先は東京都に属してはいるが、島だぞ。飛行機や船を使わないと移動は厳しいだろう」
島・・・・。
そりゃ、都内ではあるけどさ・・・。
「・・・てっきり僕はここら辺の近くだと・・・」
「お前の勉強不足だな。東京都にも島はあると覚えとけ」
確かにそれは事実だ。
「はぁ・・・改めて聞きますが、どこに行くんですか?」
「白夜島という島だ。これと言った観光スポットもないから、ほとんど自然や民俗文化がそのまま保存されている」
「・・・要するにド田舎、と」
「まあそうだ」
義父はあっさり肯定した。
しかし僕はそう簡単に現実を認められない。
「電気は?」
「大丈夫、自家発電装置を持参している」
「・・・・ガスはありますよね?」
「無いだろうな」
「フェリーは何日ごとに来ますか?」
「・・・1ヶ月に1回、天候が良ければ来るらしい」
「何ですかそれ・・・・・」
・・・とりあえずその島に何も無いということは分かった。
がっくりとうなだれると、慰めるように義父が言った。
「まあまあ、その島は美人が多いらしいぞ?」
「そんなのに釣られるか!」
「・・・島ではずいぶんと過疎が進んでてな、若い男の子は歓迎されるぞ・・・色々な意味で」
「・・・え・・・本当ですか?」
753盲月  ◆MkmoheL0Rc :2009/07/31(金) 00:24:30 ID:1Lh3qtlq
ということがあって、僕ーーー深山優歌(15歳)は白夜島という島に来ている。
幸いにも島民の方は皆親切そうだった。
悪天候による遅延もあり、島に着いた頃には夜がずいぶんと更けていたのだが、何人かの島民が嬉々とした表情で出迎えてくれた。
明日はきちんとした歓迎会をするらしい。
「歓迎会、か・・・・」
幼い頃から転校と移住を繰り返して来たが、そんな経験は初めてだ。
まあ、どうせ僕は馴染めないのだろうけど、それでも嬉しい。

「はぁ・・・」
ふと辺りを見渡す。
何も無い。
ただ白い砂浜と、限りなく黒に近い群青色の海がどこまでも広がっているだけだ。
波が浜辺に打ち寄せる音を聞きながら、僕はやけに淋しくなって、そのまま立ち尽くしていた。
754盲月  ◆MkmoheL0Rc :2009/07/31(金) 00:25:42 ID:1Lh3qtlq
どれほど時が経っただろうか。
「・・・帰るか。あのボロい民宿に」
そう呟いて踵を返すと、一人の少女が目に入った。
少女ーーーと言っても僕よりは年上のようで、不適切な表現かもしれないが。
後ろ姿がやけに哀愁を漂わせていた。
僕自身、寂漠とした気分だったので、
「こんばんは」
と、声をかけてみた。
彼女はやや驚いたように、びくり、と肩を震わせて、こちらを振り向いた。
アージエンスのCMに出れそうな長い黒髪。
無機質なように思えるほどの白い肌。
すらりとした体型。
黒いガラスのような瞳。
美少女。
そしてーーー盲いているようだ。
盲目の美少女。
ふむ、なかなか個性的じゃないか。
と思っていると、恐る恐るといった感じで訊ねられた。
「だ・・・誰ですか?」
僕はスマートに挨拶する。
「今日この島に引っ越してきた、深山 優歌、です」
「みやま、ゆうか・・・」
彼女は味わうようにゆっくりと呟き、それから、
「白峰雪灯(ゆかり)です」
と自己紹介した。
「白峰さん、か。高校生かな?」
「あ・・・16歳ですけど、学校は通っていないです」
「そっか。変なこと聞いてごめんね」
「いえっ・・・全然そんなことないです。それより・・・その・・・」
「ん?」
ファスナーが開いてます、とか言われたらショックだなあと一瞬思ったが、彼女は盲目だから分かるはずがない。
「と・・・友達になっていただけますか?」
友達?
予想外だ。
「別にいいけど、そn「ありがとうございますっ!」
そんなにいいものでもないよ、と言おうと思ったのだが、彼女の歓声に遮られた。
「そんなに嬉しかった?」
「はい、すごく!そこらじゅうを駆け回りたいくらい!」
「ちょ・・・夜中だから自重して」
本当にどこかに飛んでいきそうな白峰さんの袖を掴みながら言う。
「家はどこかな?送っていくよ」
「え・・・あ、ありがとうございます」
「そんな・・・”友達”なんだからお礼なんて言わなくていいよ」
僕は照れる振りをしながら言う。
「は・・・はい」
白峰さんは頬を赤らめた。
・・・よし。
これで島民は1人攻略した。
って、そんな訳がないけど、少なくとも好感を持たれたことは間違い無い。
そのまま彼女を家に送りーーーやたらと大きな家だったーーー僕も民宿に帰った。

755盲月  ◆MkmoheL0Rc :2009/07/31(金) 00:27:09 ID:1Lh3qtlq
そして今。
僕は自室で机に向かっていた。
いつものように便箋を取り出し、今日の出来事を綴る。
ーーー日記ではない。
「彼女」への、手紙だ。
届くあてなど無い。
それでも、僕は書かなければならない。
贖罪が終わるまで。
756 ◆MkmoheL0Rc :2009/07/31(金) 00:31:01 ID:1Lh3qtlq
終了です。
757名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 00:34:16 ID:sEU03PXD
期待込めGJ!
758名無しさん@ピンキー:2009/07/31(金) 01:34:48 ID:jIOmt3JM
盲目書いてくれるって言ってた人かな?
とにかくGJ!!!
続きが気になるッ!
759名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 12:54:41 ID:v8wr4puR
GJ
760名無しさん@ピンキー:2009/08/01(土) 17:45:29 ID:fRCvjVbL
良スレ
761名無しさん@ピンキー:2009/08/02(日) 01:46:44 ID:2NYvW72B
初投下を思い出すと死にたくなる今日この頃
762名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 00:25:02 ID:RuhN1JtN
>>756
白峰さんが気になるGJ!!

>>761
あなたはまだ生きている!
だから新しい作品を投下できるはずだ!!
頑張れ
763wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 05:33:20 ID:akbjiVuW
流浪投下、前編(予定)まだエロなし。
ヒロイン鬱気味の人なので、苦手な人はスルーで。
-------------------------------------
              わたしの棲む部屋(1)

 もそもそと身をよじり布団から抜け出すともう日も暮れかけ
ていた。随分水で薄めたオレンジジュースのような光が、わた
しの棲むロフトへと斜めに差し込んでいる。マットレスベッド
にひいたタオルケットから抜け出して、冴えない頭のまま時計
を確認。ああ。もう18時だ。18時っていうのは午後6時のことで、
それはつまり18時のことなんだよ。わたしは自分でも頭が悪い
と思えるようなことを考える。

 くんくん。

 寝汗の匂いがする。昨日はお風呂には入っていない。杜守さ
んが家にいないと手抜きをしてしまう。あんまり良くない傾向
だ。お風呂に入らなくてはいけない。わたしはロフトの片隅に
あるキャスターボックスから着替えを出す。ハーフパンツに
Tシャツ。お出かけ出来る衣装ではないが、わたしはあまり衣
装をもっていない。引きこもりだからだ。
 洗濯済みの下着をもってお風呂に向かう。
 シャワーで良いかと思っていたが、いざ風呂場に入ってみる
と、湯船が恋しくなる。お湯を張ってしまう。勢いよく出てく
るお湯をながめて、お風呂場で三角座り。
 じわじわと、暗くて陰鬱な気持ちがわき出してくる。

 わたしは相当ダメな女子だ。
764wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 05:35:02 ID:akbjiVuW
 「相当ダメな女子だ」と云う言葉はわたしにとっては効果覿
面の呪文で、脳裏にその言葉が浮かぶと延々とループが開始さ
れてしまう。そもそも、年頃の女子としてお風呂を飛ばしてい
るあたりもダメだし18時にもそもそ起き出すのもダメなのだが、
それに輪を掛けてダメなのは、こうやってお風呂に湯を張って
いるあいだ、水道からでる水流を眺めているあたりだと思う。
 べつに水が流れているのを見ているのが好きなわけではない
のだが、他にやることもないから見ているのだ。
 やることがない、と云うのが、とにもかくにもわたしがダメ
な中心点だ。本当にやることがないのかと云えば、そんなこと
はない。部屋の掃除をしても良いし勉強をしても良いし、何だ
ったらTVを眺めてたって良いはずだ。でも「相当ダメな女子」
であるわたしはそう言うことが、上手に出来ない。

 ――というか、上手に出来る何かほとんど無い。

 わたしこと野村眞埜(のむらまの)は相当ダメである。中学
くらいまでは普通の女子だった、と思う。
 でも、高校に入って何か、ずれてしまった。わたしには姉が
一人いて、その姉というのは、わたしよりも出来がよい。両親
の興味は姉に向かっていた。でも、だからといってそれが原因
だとは思えない。わたしはわたしなりに学校の友達や知り合い
がいて、適当に勉強して適当に遊んで、適当に楽しくやってい
たのだ。
765wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 05:35:42 ID:akbjiVuW
 しかし、なんだかあるとき、ずれてしまった。もうそれは
「ずれた」としか云いようが無く、まず、勉強がダメになった。
確かに優秀な訳じゃなかった成績は急降下爆撃のように落下し
て、わたしは授業について行けなくなった。
 当時付き合っていた友人たちが悪かったのかもしれない。盛
り場に出入りするようになって、学校に行かなくなって、お酒
だったりナンパだったりしちゃうようになるのに時間はかから
なかった。
 当然のようにわたしは人間関係の――男性がらみのトラブル
に巻き込まれて、酷い目にあった。でも、その時にはもう何週
間も家に帰っていなくて、助けを求めようと思える相手なんて
誰もいなくなっていた。

 それでも、それは「ありがち」なダメ話。

 そんな話、夜の盛り場に行けばいくらでも聞ける。男と付き
合って酷い目に合うだなんて、遊んでる女子だったら全員経験
している。レイプされちゃったなんて話だってざらにある。携
帯小説なんてそうゆう話しかないくらいだ。

 わたしのダメっていうのは、そういうダメではなくて――そ
う、もっとすごく格好悪くてショボイ意味でのダメなのだ。
 5人の女の子がドラッグパーティーに誘われて無理矢理えっち
されちゃってる最中に、もう、みんな理性を失って獣さんになっ
てしまっているって云う状況なのに、さえてない一人の女子が
一番後回しにされたまま、そんでもって全員に忘れ去られちゃ
うような種類のダメさだ。

 自分で考えててへこんできた。
766wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 05:37:08 ID:akbjiVuW
 指先で半分がた貯まった湯をかき混ぜながら考える。
 まぁ、とにかく、トラブルがあって、わたしは自分のダメさ
に気がついた。道を踏み外すことも出来ない、いわゆる不良に
もなれない種類のダメな女子だと云うことが身にしみて判った。
わたしから憑き物が落ちたかのように遊ぶ気力もはしゃぐパワ
ーもなくなってしまった。

 そうなってしまうとあとは早い。
 家にも戻れないわたしは一ヶ月も漫画喫茶に泊まって、毎日
ソファーでめそめそと泣いていた。派手に泣く事も出来ないほ
どしょぼい女なのだ。当時のわたしは、まるで自分で落とし穴
を掘って、その落とし穴に頭から逆立ちでもするかのように突
っ込み、暗闇のパニックで泣き出しそうなのに、その姿のあま
りの格好悪さに他人に接近されることを恐れて大声で泣き出す
ことも出来ないような種類の、まさに自業自得なこの世の地獄
にいた。

 17歳の女の子にとって未来は輝かしい、というのは嘘だ。

 わたしは断言出来るけれど、17歳ってこの世の地獄だ。もし
世間の17歳が明るくて楽しそうに見えるのならば、それは明る
くて楽しそうにしてないと、つまり一瞬たりとも休まずに脳内
性麻薬物質を出していないと、自分が地獄にいると気がついて
しまうからでしかない。
767wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 05:39:30 ID:akbjiVuW
 だって17歳なんですよ。

 短く見積もってもあと50年ものあいだ、ずっとしょぼいまま
なんですよ。進学はともかく、就職できないまま50年とか。ま
ともな友人も出来ないまま50年とか。誰からも褒めてもらえる
ことなく50年とか。何かになれないまま50年とか。

 ――そう、誰からも相手にされない50年とか。

 わたしはネットカフェで毎日そう言うことを考えていた。毎
日は暗くて辛くて寂しくて希望が無くて、全面的にじわりじわ
りと悪い方向へと滑り落ちていた。
 家に帰っていなかった数ヶ月できっとわたしは家族にも愛想
を尽かされていただろうし、そもそも姉のいる家にはわたしの
居場所はない。学校だって首になっているだろうし、トラブル
があって友達のほとんど全てを振り切ったわたしに頼るべき人
はいない。体当たり同然にそこらの男性に頼み込んで転がり込
むのは出来るかもしれないけれど、それで何かが変わる気もし
ないし、そもそもわたしなんかにそんな商品価値があるとも思
えない。

 ちゃぷん。
 お湯が貯まったのを確認して、わたしは服を脱ぐ。

 そんなに不細工では無いと思う。けれど、わたしは地味だ。
 どことなく冴えなくて、しょぼくれて、日陰っぽい印象がす
る。
768wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 05:41:37 ID:akbjiVuW
 体型だってスリムと云えば聞こえは良いけれど、それはただ
単純に胸とお尻にボリュームがないと云うだけだ。その証拠に
ウェストのくびれだって、ムーミン谷のにょろにょろと親戚か
というような程度である。
 では少年っぽい中性的魅力があるかというと、そんなことも
ない。アウトドアは嫌いだし、遊んでいた時期ならともかく、
いまは真性の引きこもりなので体力もない。

 お湯で何回か流したあと、熱めの湯につかる。
 それでもこの家に来た当時よりは、ずっと肌がきれいになっ
た。繁華街にいたころも、ネットカフェにいた頃も生活は乱れ
ていたし、ジャンクフードばかり食べてたから、肌が黄ばんで
荒れていたけれど、この家にきてからは白くなった気がする。
栄養状態も良くなったのか、肌もつるんとして(肉がついてき
た気がしてちょっと怖いが)すべすべだ。

 この家は……杜守(ともり)さんと云う人の家だ。
 杜守さんは30歳手前の男性で、つまり、わたしより10以上離
れていることになる。わたしは、漫画喫茶から杜守さんにテイ
クアウトされて、この家でもう半年ほどお世話になっている。

 住む場所もそうだし、食事も、洋服も、家にある色んな環境
も全面的にお世話になりっぱなしで、それはもう本当に申し訳
なくて申し訳ないんだけど他にどうしようもなくて、そのくせ
杜守さんは「気にしないで−」なんて何とも気の抜けるコメン
トしかしてくれない。
 これは世間ではいわゆる「お持ち帰り同棲」と云われている
もののはずなんだけど、どこか決定的に齟齬があるような気も
する。
769wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 05:42:23 ID:akbjiVuW
 だって同棲という気は全くしないのだ。

 これに関しては、何回考えても、毎回のように自分でも自分
の顔にごっそりと縦線が入っているのが実感できる。
 同棲になってない。そういうらぶらぶというかえろえろんな
雰囲気は全くない。それは一面楽ちんなのかもしれないが、逆
方面では耐えられないほど苦痛だ。

 何もなかった……訳ではない。この半年で二回ほど、した。
 普通にした、と思う。

 普通えっちをすれば、もっと気楽になる気がする。つまり、
えっちをしたのだから、ここはわたしの居て良い場所だ、と云
うような安心感を得られるのじゃ無かろうか……のだけれど、
それはわたしの経験が拙いせいの気もするので確信はないのだ
けれど、兎にも角にも、そういった安心感はない。

 杜守さんは、相当にすごい人だ。
 服装や髪型が地味(社会人だから当然だと彼は云っていた)
なので、そのすごさというのは、すぐには判らない。でも、相
当すごい。特別だと言っても良い。
 多分、頭が良いというジャンルに含まれるすごさなのだろう
けれど、わたしは杜守さんに似た「頭の良さ」というのを見た
ことがない。杜守さんは落ち着いていて、観察力があって、ち
ょっと意地悪だけどわりと公平な人だ。
770wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 05:43:57 ID:akbjiVuW
 杜守さんのどこがすごいかはちょっと表現が難しい。とにか
く異常なまでの要領が良いのだ。「要領が良い」といっても、
たとえばごますりが上手いとか云う意味ではなくて、本当の意
味で物事を滑らかにこなせるという意味。
 杜守さんは何でも覚えてるし、自分がやってるありとあらゆ
る事の最高級なマニュアルをもっているみたい。どんなに忙し
いときでも余裕を持って、最初から予定していたように物事を
処理できてしまう人だ。

 正直、わたしは杜守さんが何でわたしをテイクアウトしたの
かさっぱり判らない。2回したのだって、なんというか……しか
たなし? やらないのも不自然だからやった、みたいな。ちっ
ともがっついていないのだ。
 密かに確信しているのだが、あんまりやらないとわたしが居
心地が悪いと感じそうなので、仕方なしにやってくれたのでは
無いだろうか。まさにお情けで。

 すごい勢いでへこんできた。

 わたしは、百年たっても杜守さんみたいになれる気がしない。
それどころか、杜守さんの10分の1でも、何かが上手になれる
気がしない。杜守さんみたいに流通系の仕事で社会人として自
活が出来るかどうかじゃなくて、料理とか洗濯とかそんなジャ
ンルですらかなう気がしない。
 いや、もっとずーっと些末なこと。たとえば目が覚めたらテ
ーブルの上にメモを残すとか、そんなことですら杜守さんにか
なう気がしない。もしこの世の中に杜守さんと同棲できる女の
子ランキングがあったとしたら、わたしのランキングってミジ
ンコよりはちょっと上だけど、柴犬よりは下なんだと思う。柴
犬って可愛いし。つまり、人間としての順位ではないと思う。
771名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 05:57:55 ID:CDwPT+wE
支援いる?
772wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 06:01:48 ID:akbjiVuW
>>771 さんきゅ
-------------------------------------
 一縷の望みを掛けて杜守さんに聞いたことがある。
 もしかして杜守さんはロリコンなんですか? って。そうし
たら「眞埜さんの年齢はロリータと云うには中途半端じゃない
かな」と云われた。
 じゃぁ女子高生マニアなんですか? と聞いたら「眞埜さん
は学校に行ってないから女子高生じゃないでしょう」といわれ
てしまった。

 へこみすぎて半日ほど布団からでられなかった。

 髪を洗って身体を流したわたしはお風呂場から脱出する。
Tシャツとハーフパンツ。よし、大丈夫。時間は19時過ぎ。
杜守さんは多分20時過ぎてから帰ってくる。何かを用意しよう
……わたしは台所へと移動する。
 冷蔵庫をあさると、冷製パスタを発見。メモを読むと「お
昼ご飯にどうぞ。飲み物は野菜ジュース。あと冷凍庫にアイ
スがあるよ」――なんか、またへこむ。

 その冷製パスタを無駄にするわけにも行かないので、テー
ブルに出す。トマトと桜エビの和風味で最高に美味しそうな
んだけど、これはいったい何時作ったんだろう? 朝出かけ
る前に? ――そのあたりはもはや魔法の領域に思える。

 冷蔵庫をさらにあさる。野菜室にはキャベツ。豆腐と、あげ
と、絹さやと……。ひとしきり悩んだわたしは、回鍋肉と冷や
奴とお味噌汁という当たり障りのない夕食を企画してみる。お
肉あるかなー。豚肉、豚肉。あった! 材料をごそごそ並べる。
回鍋肉はキャベツとお肉とネギを炒めて、合わせ調味料を入れ
れば出来上がりの簡単料理だ。
773wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 06:03:11 ID:akbjiVuW
 中華風の調味料が必要なんだけど、この家ならあるんじゃな
いかな? 何を探せば良いんだっけ? ノートパソコンを起動
してレシピを検索すると、甜麺醤と豆瓣醤らしい。
 わたしはキャベツを半分野菜室に戻すついでに、冷蔵庫をあ
さる。――発見、発見。二種類の茶色い調味料は仲良く冷蔵庫
の扉にしまってあった。その脇にはニンニクもある。卸しニン
ニクも必要なのだった、と先ほどのレシピを思い出しながら調
子よく作る。

 熱した油で豚こまを炒めて、キャベツとネギを入れて、合わ
せ調味料を入れて。わたしもちゃんと料理できてる! お店で
食べるほどじゃないけれど、ご家庭で出る料理ならこれで十分
だよね、なんて思う。この家の台所は広いし、冷蔵庫は整理さ
れていて判りやすいし、料理はいつも上手に出来るから気持ち
いいのだ。

 ――なんて。
 考えてわたしはぎくりと動きが止まる。

 判りやすいし……? 判りやすい冷蔵庫……?。そもそも、
甜麺醤って中華風の甘い味噌なんだけど、何に使う? 回鍋肉
だよね。でも回鍋肉以外には? 使い道が少ないマイナーな調
味料のはずだ。

 で、そのマイナーな調味料が、何で冷蔵庫を開けたら目につ
く扉の内側に置いてあるの? その甜麺醤の隣に豆瓣醤がある
のはいい。似たような調味料だから一緒にしまうのは判る。
 じゃぁ、何でその隣にニンニクが半分置いてあるの? 野菜
室でもないのに。
 わたしは口をぱくぱくさせながら本当にへこむ。
 いや、これはわたしのせいじゃないよ。
 わたしは確かに「相当ダメな女子」だけど、杜守さんのこの
種の超能力的な洞察はわたし以外だって十分へこませるよ。本
当にそう思う。
774wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 06:04:53 ID:akbjiVuW
「いただきます」
「どうぞ……」
 20時過ぎ。
 スーツの上着を脱いだだけの杜守さんはわたしの作った回鍋
肉を食べ始める。口が大きい。すごい勢いで白米を食べる。

「んまいね」
 もぐもぐと咀嚼する合間にそんなことを云う。いえいえ。そ
んなお世辞を言わなくても良いですよ。キャベツは全般的にぱ
りっとしてないし、その割には所々焦げてたりするし。

 ――この回鍋肉はわたしによく似ている。
 食べられないほどまずいなんて事はない。家庭の夕食に出て
くるのならば、かろうじて許せるレベル。でも、センスも感じ
られないし、技術も見あたらない。お店で出てきたらお客が怒
ってしまう。そんな味だ。しょぼい。それ以外に云いようがな
い。

 わたしはサラダ代わりに半分こにした冷製パスタを食べなが
ら思う。結構時間がたつはずなのに、すごく美味しい。さっき
盛りつけるときに、杜守さんがぱぱっとちぎったレタスの上に
のっけて、さらに上からゆずドレッシングをちょっぴり掛けた
りした、すごく無造作で、適当に。それが何でこんなに美味し
いのか。しんなりしたトマト、桜エビの香ばしい感じ。センス
があるとはこう言うのを言うのだ。少なくとも、コンビニのよ
りは5倍美味しいし、お店で出しても文句が出なさそう。

「どしたの? 美味いよ?」
「ええ、すいません。その……」
775wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 06:05:55 ID:akbjiVuW
 わたしはもそもそと言い訳とも何ともつかない言葉を絞り出
す。こうしてうじうじと云いたいこともいえない自分が嫌いだ。
格好悪い。しかしこの格好悪さはどうしようもない。美味しい
料理を作りたければ、練習するなり努力するなりすればいいの
だ。だいたい、それが居候であるわたしに出来る最低限の労働
ではないか。
 しかし、それも上手に出来ない。ダメな女子め。

 食事が終わる。
 杜守さんはシャワーを浴びに立ち上がる。わたしは後片付け
をしてから、もそもそとハシゴをあがる。居間に存在するハシ
ゴは4畳ほどのロフトにつながっている。そのロフトが現在の
わたしの自室というか、ねぐらだ。マットレスベッドにタオル
ケットに、衣装入れ代わりのカラーボックス、本とか漫画とか。
そしてお下がりのノートパソコン。私物はさしてない。

 液晶画面の中で、回鍋肉を調べる。
 肉は下味をつける。キャベツは油通しをする。この2つが味
のポイントのようだ。でも、油通しって一般家庭で出来るのだ
ろうか? 揚げ物に使うほどの油が必要だ。毎回そんなことを
していたら大変だよね。
 調べてみると、水を足してちょっと蒸してやるのも良いらし
い。でも、だとすると回鍋肉とは結構複雑な料理ではないか。
きざんだ材料を全部炒めて調味料を入れればよいわけではない
らしい。
 このようにわたしはものを知らないのだ。へこむ。

 ダメな女子というのは、我ながらうざったい性格の存在だ。
 以前、頑張って餃子を作ったが、80%は焼いているうちに蓋と
いうか包みが崩れて中身がでてしまった。全部崩れるならそれ
は料理が下手であり、もはや個性というものだろう。ドジッ娘
とかなんとかいうやつだ。
 80%崩壊というのがわたしっぽい。
 地面に激突はしない程度の低空飛行。それを50年。気が遠く
なる。
776wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 06:06:39 ID:akbjiVuW
 ――ちかり、ちかり。

 カーソルが点滅する明かりで不意に我に返る。
 回鍋肉に思いをはせながら、少しだけうとうとしてしまった
らしい。調べ始めてから2時間ほどが立っている。23時過ぎだ。

 なんだか毎日沢山寝てるのに、いくらでも寝れてしまう。こ
れが引きこもりというものなのだろうか? ネットでいくつか
のサイトを巡り、掲示板を見て回る。書き込みはしない。
 わたしなんかが書き込んで、この楽しそうな雰囲気を壊して
しまっては申し訳ない。

 何回かは書き込んでみたのだ。
 ネットでならばわたしのぱっとしない容姿もハンデにはなら
ないはずだと。でも、結果から云うと、ダメだった。
 掲示板でも美人は判るのである。断言する。掲示板でも、美
人は美人なのである。
 同じように何気ない書き込みをしてても、たかが10行程度の
メッセージであっても、「なんとなく好ましい感じ」の文章と
いうのは存在するのだ。それとは逆に頑張って気持ちを込めて
2ページ書いても「薄っぺらくて冴えない文章」も存在する。
つまりわたしのことだけど。
 わたしは、どこに行っても何となくさえない。

 それはそれで、仕方ないのかもしれない。冴えないのは仕方
ない。けれど、寂しいのはつらい。恋愛相談の掲示板なんか見
てしまうともうダメだ。それが高校生同士のキラキラしちゃっ
たものだったりすると、最悪だ。
 酸っぱいブドウだと思いたい。酸っぱいから美味しくないと
思いたい。でもそもそも、ブドウは愚か果実らしい果実がわた
しなんかの人生にやってくるのだろうか?
 そう考えると恐怖で背筋が凍てつき、呼吸も出来ないほど胸
がふさがってしまう。
777wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 06:07:49 ID:akbjiVuW
 舌が口蓋にへばりつき、マットレスの上で丸まっていても高
いビルの上から永遠に落下していくような底なしを感じる。今
はこうして面倒を見て貰っているこの家だが、迷惑以外掛けて
いない自覚がある。迷惑、と云うほどドラマチックな存在です
らなく、それはつまりお荷物であると云うことだ。
 「相当ダメなお荷物」であるところのわたしは、毎晩気持ち
悪くなるほどうなされている。こんな夜が50年続くと考えると、
その恐怖はいっそ際限がないほどに膨らんでしまう。
 わたしは「相当ダメなお荷物」だ。でも、なんでなんだろう。
わたしはそのような存在としてあと50年も過ごさなくてはいけ
ないほど何か酷いことをしてしまったのだろうか。
 考えれば考えるほど落ち込んでゆく。

 わたしはもそもそとハシゴを下りる。
 冷蔵庫からバドワイザーを取り出して、凍らせてあったグラ
スと一緒に杜守さんの部屋に宅配をする。

「こんばんわ」
「どうぞー」

 杜守さんは部屋の中で仕事中だった。というか、仕事中に見
えた。複合プリンタは何かのファイルを印刷中だったし、杜守
さんは何かの文章をすごい勢いでタイピングしている。
 わたしはその巨大なデスクのはじっこにグラスとバドワイザ
ーを乗せる。邪魔をするのは気が引ける。とはいえ、一人でい
るのは嫌だ。本日のへこみは最大級で、寂しさが台風のように
やってきてる。
 寂しさというのは、秋の雨のようにしとしとやってきたりは
しない。そんなのは演歌の世界だけだ。寂しさって云うのは、
暴力的でどうしようもないものだ。少なくともわたしにとって
はそういうものなのだ。
778wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 06:09:14 ID:akbjiVuW
「よぅ」
 それから数分、杜守さんは打ち続けていたキーボードから指
を離して、プルトップを引きあげるとともにこっちに視線をく
れる。グラスの注ぎながら、わたしの返事を待ってくれる。
「どうした?」

「あの……」
 ごくごくと喉を鳴らす杜守さん。美味しそうだ。杜守さん曰
く、仕事中に飲むビールはバドワイザーに限るそうだ。仕事を
切り上げるつもりなら他のビール――エビスとかと交換するか
ら、まだ作業が残っているのだろう。寂しさが余計に疼く。

「ちょっと、えっと」
「ごろごろしたい? いいよ。俺はまだ仕事残ってるけど。
1時間くらいかな−。そこのベッドで遊んでれば?」
 杜守さんは気安く云ってくれる。わたしは、はいなんて返事
をして、杜守さんのベッドへと移動する。うん、ちょっと安心
する。一人でいるよりは寂しくない。

 それに杜守さんの背中を見ているのは好きだ。
 杜守さんのベッドで、杜守さんの背中を見て過ごす。これは
現在のわたしの生活の中では、幸福度のかなり上位にランキン
グされる状況だ。
 杜守さんはかなりの速度で仕事をこなしていく。後ろで見て
いて、停滞というものが全くない。考えたり戸惑ったりしない
のだ。なにをやっていても、杜守さんは自信があるように見え
る。でも以前そう聞いたときには笑い飛ばされた。そんなこと
はないって。失敗したらその時考えればいいって諦めてるだけ
さ、なんて云っていた。わたしには、どっちも信じられないよ
うな話だ。自信を持って生きていくのも、失敗を覚悟するのも、
どちらもハードルが高すぎる。そんなこと受け入れられたりす
るものなんだろうか?
779wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 06:10:18 ID:akbjiVuW
 そんなことを考えながら、わたしはとろとろとまぶたが緩く
なってくるのを感じている。杜守さんのベッドは大きめで、わ
たしには大きすぎるが、居心地は良い。ここで微睡むのは大好
きだ。でも、けじめとして杜守さんがいない間、わたしは杜守
さんの自室に入ったりはしない。
 わたしがここで横になったりできるのは、杜守さんがいる間
だけだ。特別な場所で大事にしなければならない場所。そう考
えると、じんわりとした幸せが身体に満ちていくようで、余計
に枕に頬をこすりつけてしまう。

「うー」
 いつの間にか杜守さんが立ち上がって、大きく背伸びをして
いる。熊のようなひとだ。わたしももそもそ起き上がって、ベ
ッドの端っこに待避。なんといってもここは杜守さんのベッド
なのだから。

「終わりましたか?」
「終わったよー」
「ビールのおかわりもってきますか?」
「ううん、もういいや」
 肩をぐるぐる回しながら杜守さんが近づいてくる。

 ばふっ。
 派手な音を立ててベッドに倒れる杜守さん。疲れているのだ
ろうか、いきなりうつぶせだ。
780名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 06:19:02 ID:CDwPT+wE
思ったより長いな。

頑張れ支援。
781wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 06:20:43 ID:akbjiVuW
「……うー」
「痛いですか?」
「大丈夫」
 散文的な会話を交わす。わたしは喋るのが上手ではない。
 喋りたい欲求は人一倍あるのだが、話しても空気が読めなかっ
たり、空回りしたり、逆に押しつけがましいことを言ってしまっ
たり――何回かの失敗のあと、それくらいなら黙っていた方が
まだましだと云うことを学習した。杜守さんは喋るときには結
構雄弁なのだが、普段必要がないときは黙っているタイプだ。
なので、二人で居ると会話がぶつ切れになってしまうことが多
い。

 指先から手のひらへ進む。キーボードを叩く仕事の杜守さん
の指の筋は硬い。念入りにしてしすぎると云うことはない。そ
の後、手首から肘に向かってじわじわと進んでいく。
 やっぱりがちがちだ。ぐにぐにと揉みほぐしてゆく。杜守さ
んの背中が呼吸に従って動いている。それを見ているのがくす
ぐったくてふわふわした感情を呼び起こす。

「眞埜さんさ」
「はい?」
「もしかして、本日は情緒不安定の波来てます?」

 杜守さんの背中の上でぎくりとする。
 お見通しだった。
 お見通しされてしまっていた。

 実を言えば、わたしは寂しいの大嵐に巻き込まれて、取り乱
すほど泣く、と云うのを杜守さんの前でやっている。杜守さん
には放り出されても文句が言えないような迷惑を何度か掛けて
いるのだ。
782wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 06:21:39 ID:akbjiVuW
>>781 ミス、こっちが先だ
>>780 あんがと!

--------------------------------
「お疲れですか?」
「余は疲れた」
 お疲れらしい。わたしはグラスを下げに台所へ行くと、目元
用ひんやりアイスノンをもってくる。パソコン仕事の杜守さん
の愛用品なのだ。杜守さんにそれを渡すと、うつぶせのままご
そごそと装着して、寝返りをうつ。杜守さんとわたしは30cm近
い身長差がある。わたしから見ると、杜守さんは熊のように見
える。

「で、本日はどしたの? 眞埜さんや」
 杜守さんがぐってりとしたまま聞いてくる。一人で居るのが
耐えきれないので邪魔をしに来た、なんて流石にいえない。

「背中とか揉みましょうか?」
 だからわたしはそんなことを口走る。わたしは杜守さんには
どうにも勝てないという敗北感が染みついてしまっていて、自
分でも判るのだが面の向かうと腰が引けてしまうのだった。
 嫌いとか苦手とかではない。むしろ、とてもとても、その反
対なのにだ。

「おー。さんきゅ」
 なんていって杜守さんは背中を向けてくる。わたしはその背
中にまたがって手を伸ばす。背中を揉む、なんていったけれど、
いきなり背中を揉んではいけない。最初は指先だ。疲労物質?
というのは、血液で運ばれて掃除されるそうだ。
 だから、心臓に遠い場所から中央へと進まなければならない。
わたしはマッサージが上手なのだそうだ。これは杜守さんが褒
めてくれたことだ。だからもっと上手になりたい。
783wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 06:22:13 ID:akbjiVuW
「……うー」
「痛いですか?」
「大丈夫」
 散文的な会話を交わす。わたしは喋るのが上手ではない。
 喋りたい欲求は人一倍あるのだが、話しても空気が読めなかっ
たり、空回りしたり、逆に押しつけがましいことを言ってしまっ
たり――何回かの失敗のあと、それくらいなら黙っていた方が
まだましだと云うことを学習した。杜守さんは喋るときには結
構雄弁なのだが、普段必要がないときは黙っているタイプだ。
なので、二人で居ると会話がぶつ切れになってしまうことが多
い。

 指先から手のひらへ進む。キーボードを叩く仕事の杜守さん
の指の筋は硬い。念入りにしてしすぎると云うことはない。そ
の後、手首から肘に向かってじわじわと進んでいく。
 やっぱりがちがちだ。ぐにぐにと揉みほぐしてゆく。杜守さ
んの背中が呼吸に従って動いている。それを見ているのがくす
ぐったくてふわふわした感情を呼び起こす。

「眞埜さんさ」
「はい?」
「もしかして、本日は情緒不安定の波来てます?」

 杜守さんの背中の上でぎくりとする。
 お見通しだった。
 お見通しされてしまっていた。

 実を言えば、わたしは寂しいの大嵐に巻き込まれて、取り乱
すほど泣く、と云うのを杜守さんの前でやっている。杜守さん
には放り出されても文句が言えないような迷惑を何度か掛けて
いるのだ。
784wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 06:22:50 ID:akbjiVuW
「……えっと、少しだけ」
 杜守さんは、わたしの「寂しい」とか「泣きわめく」とかを、
直接的な言葉ではわたしに示さない。「情緒不安定」と云って
くれる。たぶん、そこはかとない気遣いなのだろうと思う。10
歳も上の杜守さんにすれば、小娘のわたしの「それ」は、まさ
に「情緒不安定」に過ぎないのが事実であったにしても、だ。

「ため込まないで、爆発する前に来たのは進歩だね」
 へ?
「そうでしょうか」
「うん、そうじゃない? 意地を張りすぎると、後が大変でし
ょ?」

 そうなのだろうか。あまり進歩したような気がしない。自分
の気持ちも自分でけりをつけられないで、杜守さんの所に甘え
に来てるわたしは本当にダメ女子だ。絶世の美人だったり家事
のエキスパートだったりすればまだしも救われるけれど、わた
しは本当に箸にも棒にも引っかからない「平均以下」だったり
するので、甘えるような権利なんて何一つ持ち合わせていない
のに。

「こっちも」
 杜守さんが左手をにぎにぎしてる。わたしは左手にうつって、
その指先から丁寧に力をこめて揉み始める。
「ふわぁ、しゃーわせ」
 杜守さんがほふうと大きな吐息を突く。うつぶせのまま横に
向けた表情は、すごく満足そうだった。10も年上だというのに、
その横顔だけならそこらにいる男子高校生と大差がない。
785wkz ◆5bXzwvtu.E :2009/08/03(月) 06:24:51 ID:akbjiVuW
「そうなんですか?」
「仕事は終わった。ビールも飲んだ。おなかはいっぱいだし、
ベッドでごろごろで、ビキビキになってた指もマッサージして
貰ってる。幸せだろ? ふつーに考えて」

 わたしは少し考えてから、頷く。
 よく判らないけれど、杜守さんがそう言うのならそうなんだ
ろう。杜守さんの幸せの末席に自分が居るのならばそれは僥倖
だ。そんな場所に座る女の子としてわたしはあまりにも出来が
悪い。もっとどこかのお嬢様とか、仕事ばりばりの美人OLさん
とか、じゃなければ美少女とかが座るべき席の気がする。こん
な高校中退の家出ダメ女じゃなく。

「平気か? 泊まっていくか?」
 自分の家に居候しているわたしにそんなことをいう杜守さん。
この「泊まっていくか?」は、このベッドで一緒に寝るか? 
という意味なんだろう。その奇妙な気遣いがおかしくて、ちょ
っとだけくすりと笑ってしまう。でも、面白かったのより嬉し
い気持ちの方がずっと大きかった。一人でいると、無制限にへ
こむ気持ちも、杜守さんと一緒ならば感じないで済む。
 ふわふわと温かい気持ちでいっぱいだ。

「よろしければ……」
 だからわたしの声はほんわり幸せ色だったろう。あいかわら
ず腰が引けた臆病者の返事だった癖に。

-------------------------------------
以上初回投下終了。次回からはちゃんとエロ入りで書けるはず。
支援感謝。長くて済まぬ。
786名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 06:31:43 ID:CDwPT+wE
>>785
リアルタイムでGJでした。
久々にがっつりした話を読んだよ。
エロい後編楽しみにしてます。
787名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 08:15:54 ID:uJsN2xTz
これはGJ。

「若いから無限の可能性が」じゃなくて「若いから延々と続く不幸が」待ち受けているという閉塞感で
きゅうっとしたよ。後編も期待してます。
788 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/03(月) 22:00:08 ID:Fjwqw4RG
春春夏秋冬と違うファンタジー物を2ヶ月前に書いてたんだけど、近々投下していいかな?
まだ依存者すら出てきていない触り程度だけど…。
789名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 22:15:14 ID:P183ygaG
全裸ネクタイ正座でお待ちしております
790名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 01:00:27 ID:y5qIapUT
靴下を忘れるなとあれほど言ったのに

投下期待
791名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 01:15:18 ID:iX1J+lsK
ネクタイをどこに着けてるかが気になる
792名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 02:29:52 ID:B9aEwn1p
そろそろ次スレか

テンプレは取り合えずwikiアドレス追加かな?
793名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 04:04:07 ID:Gxd0yg9A
>>785
文章が丁寧で表現力があって面白い。キャラの個性を上手く書いてるから続きが楽しみです。GJ!
ダメな女の子が年上の出来た男に依存するってのが良い!

>>788
とりあえず春春夏秋冬が終わってから投下してほしいです。短編ならともかくさわり程度なら尚更
春春夏秋冬も何処まで進んでいていつ完結するのかわからないのにさわり程度の新作を投下するのは少しどうかと…
794名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 04:45:05 ID:j376y/gO
わかってないな…書くのが詰まったら違う作品を書いて息抜きしたくなるんだよ。長作を書いたことある人ならわかるはず。

まぁ2つの物を同時進行で書くと何故か叩かれやすいけどね。
>>793みたいに嫌がる人間もいるから我慢出来なかったら違うスレにでも投下したらいいよ。ファンタジースレとか
795名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 04:46:51 ID:ioLN9Cnm
このスレって、そろそろ投下は危険かな?
796名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 06:53:26 ID:Gxd0yg9A
>>794
いや、俺も長編書いてて息抜きに別の書いてるからわかるよ。ここじゃないけどさ
物語を作って他人に見せる以上は一本終わらせてから、または終わりかけから新作を投下ってのが
自分のスタンスなんですよ。同時進行できる天才肌じゃないんで

個人的な意見だし期待してる人の方が多いなら投下すればいいんじゃないかと思います
797名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 08:18:54 ID:gR7/acgq
>>795
よっぽど長くない限り大丈夫なんじゃないか?
798名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 12:57:53 ID:SivyOROF
本職の物書きだって数本平行して書いてんだ。
外野がごちゃごちゃ言っても職人のモチベーション下げるだけだろうが。
黙ってGJと言えんのかおまいらは。
799名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 13:21:54 ID:mw993FYN
まあ、投下は職人さんの自由ということで

次スレ建てるかい?
800 ◆ou.3Y1vhqc :2009/08/04(火) 13:27:26 ID:hTt/n4vF
投下したいけどもう次のスレまで待ったほうがいいよね。

次スレたったらまた来ます。
801名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 15:21:25 ID:82BFJR7W
連れ子が継父を寝取るとか最高すぎる
802名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 00:21:31 ID:K9Ic+4IO
803名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 01:31:09 ID:zewRlDip
・身体的、精神的、あるいは金銭や社会的地位など
 ありとあらゆる”対人関係”における依存関係について小説を書いてみるスレッドです
・依存の程度は「貴方が居なければ生きられない」から「居たほうがいいかな?」ぐらいまで何でもOK
・対人ではなく対物でもOK
・男→女、女→男どちらでもOK
・キャラは既存でもオリジナルでもOK
・でも未完のまま放置は勘弁願います!

◆boay/MlI0U氏が作成されたエロパロ依存スレ保管庫
http://wiki.livedoor.jp/izon_matome/

前スレ 【貴方なしでは】依存スレッド4【生きられない】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1239737590/

こんな感じでどうかな?
804名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 02:22:13 ID:lKuE+bwO
>>803
シンプルでバッチリかと。
805名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 08:42:52 ID:+lRtvhCX
【貴方なしでは】依存スレッド5【生きられない】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1249429297/
誰も建てないから建ててみた
806名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 09:28:10 ID:KhbpfTT4
>>805
乙!
807名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 00:25:11 ID:5pmkpFRs
埋めネタ待ち
808名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 02:37:13 ID:uyoSAPwW
埋め

ある夜の夕食の席でのこと。
「・・・埋め埋めプレイがしたいだって?」
里歌はこくん、とうなずいた。
「残念だけど、僕は寡聞にしてそんなものの存在は知らなくてね、やり方も分からない。今日はもう疲れたし、勘弁してくれ」
僕は、子犬のような目でこちらを見上げてくる里歌をスルーして席を立った。全く、里歌にはホント、付き合ってられない。埋め埋めプレーって何だよ、もう。
僕はてきぱきと着替えて寝室に向かった。
すると。
「な・・・これは一体・・・!!」


・・・・・。
ごめんなさい。
よろしければ続き誰かお願いします
809名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 02:43:09 ID:rNkHiRH6
無茶言うな。
810名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 03:00:16 ID:rNkHiRH6
二人がゆったり眠れるサイズのベッドの上には、子供でも持てそうな小さな壷が鎮座していた。
洋室のベッドの上に置かれた和のそれは、部屋の雰囲気を侵食するような存在感を放っている。
呆然としていると、僕の隣をフラフラと通り過ぎた里歌がその壷を大切そうに持ち上げた。

愛しい赤子を抱くように優しく壷を撫でさすり、頬を赤らめる。
恍惚に震えるように上気した頬と、とろけるように潤む瞳が艶かしい。
里歌はふるふると震える指で壷の中から紅い塊を摘まむとそれを口に含んだ。
期待にわななく唇の隙間から覗く唾液が、ねっとりと部屋の光を反射している。
そして咽喉をふるるっと歓喜に震わせると、恍惚とした吐息をはいた。

「……ふひゃ……んちゅ……らめぇ……梅、うめぇの……」

なんてことだ。初めて知ったが、里歌は無類の梅干し好きだったのだ。
くらりとする僕の前で、里歌が味が移った指先をぺろぺろと舐めている。
その姿は発情したメスの子犬が奉仕しているような淫靡さを醸しだしていた。
そして、里歌ははしたなくとろけた表情をそのままに、僕に誘いをかけてきた。

「ねえ、……いっしょに、梅、食べようよぉ……」


・・・・・。
ごめんなさい。
よろしければ続き誰かお願いします
811名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 04:44:58 ID:EFiBPu7R
>>810がとんでもないの振りやがったな
こっからどう繋げんだよw
812名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 14:48:45 ID:TQcIZnyH
「何を言ってるんだ!」
僕は里歌の頭を軽く叩いた
「うぅ。痛いよぉ」
里歌は涙目も僕を見つめた。軽く叩いただけなのにすごく罪悪感を感じさせる。
「ほら梅干し食べてないで寝よう。今日は一緒に寝てあげるから」
里歌は笑顔になり、急に梅干しを戻し、僕の近くに来て僕目掛けてダイビングジャンプした。
僕は里歌を抱きしめてうまく里歌をキャッチ出来たがバランスを崩しベッドに倒れてしまった。
「ちょっとどいてくれない?」
僕は里歌に言ったがしかし里歌はいっこうに離れてはくれない。逆にぎゅうと抱きしめてくる。
「やだ。エッチしてくれないと離さない」
「今日はダメだって。僕はもう疲れたからさ。明日はするから今日は勘弁して」
今日は残業でいつもなら12時前にはベッドにはいれたが今日はもう12時を過ぎている。
「なら強行手段をとる・・・ん」
里歌は僕にキスしてきて里歌の手が僕のチャックを開き・・・




すまん頑張ってここまでしか無理
813名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 16:27:03 ID:LiHPHIRl
いつものように押し当てられた里歌の唇――柔らかで、熱く、そして白米が欲しくなる酸味がほんのりときいていた。
いつもと同じ、里歌の味。僕は、梅なんて口にしたくない。
「ほら……もうこんなになったよ?」
その味は、僕にとって里歌そのもので、一度舌に乗せたら止められなくなってしまう。
このままじゃ、いけない。でもどうしたら良い? いくら考えても良案が浮かばない僕の脳味噌はきっと小梅大。
「えへへ。じゃ、入れるね」
そう言って里歌は雰囲気のせいか粘着く空気に触れる僕のモノを、スカートの中へと導く。
「私もね、君といっしょ。帰って来てからずっと埋め埋めプレイがしたくて、ずっととろとろになってたの」
言葉どおり、なのだろう。太ももを伝う汁が証明している。
「ね、良いでしょ?」
熱を帯びた里歌の瞳が、僕を絡め取る。酷く紫蘇の匂いがした。里歌の、匂い。
814名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 12:08:19 ID:EcZ1wnFH
埋め
815名無しさん@ピンキー:2009/08/08(土) 17:45:22 ID:2qdVj4mt
梅ぇの
816名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 21:34:07 ID:PKoyE1qo
梅梅プレイは俺には糖尿病のリスクがあるぜ…
もっと暑くなれば汗が止まらなくなるからリスクは減るが

という訳で梅
817名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 22:02:15 ID:sYxH7Ays
すっかり白米が欲しくなるスレになってしまったなw
818名無しさん@ピンキー:2009/08/09(日) 23:24:40 ID:dgdwXTUF
埋め埋め埋め埋め埋め埋め埋め埋め埋め埋め埋め埋め埋め埋め埋め埋め埋め埋め埋め埋め埋め埋め埋め埋め埋め
819名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 16:15:14 ID:C3/jYT5u
産め
孕め
820名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 14:43:45 ID:29DqMLcE
test
821名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 14:44:42 ID:IveTjg/E
妊婦のオレが産めてみる
822名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 17:45:05 ID:31aYZ5co
>>821
おめでとう!よくやった。と褒めてみる
823名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 22:24:34 ID:hjuXbOSv
824名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 01:14:17 ID:llC6U7eC
貴方なしでは生きられない
825名無しさん@ピンキー:2009/08/13(木) 02:47:53 ID:CdpU9B/Y
一生に一回で良いから言われてみたいよな、そのセリフ
826名無しさん@ピンキー:2009/08/14(金) 20:50:50 ID:mUxEFEjW
ヤンデレ、キモスレにかまけて
依存スレをすっかり忘れてたー
こんな俺に依存してくれる依存女性はいない、か。
827名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 09:39:48 ID:V6RS/Zmi
828名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 01:11:49 ID:gKp/oj0+
まだ埋まってないのか
829名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 14:21:01 ID:7jU2Ag9P
埋めネタすらこないしねぇ
830名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 21:14:39 ID:cyKhRTv6
じゃ、とりあえず>>824的に埋めテーマ「依存っぽい一言」

「…ぃで……置いて、行かないで……」
831名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 02:47:38 ID:vPy1XqSI
「私がいないと、ダメなくせに……!」
832名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 03:32:40 ID:ayBHwa1h
「金返せよ!」
833名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 05:06:38 ID:ytHxsjTs
「夫が逮捕されて動揺した。携帯は故障したので棄てた。」
834名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 07:36:46 ID:4Dkukn/7
これは殺人犯の精神鑑定に 使われた話らしい。

お父さん、お母さん、息子のある平凡な3人家族がいました。
ある日、お父さんが不慮の事故で亡くなってしまいます。
その葬式で、お母さんは何を思ったのか、葬儀に来ていたお父さんの会社の格好いい人に一目惚れしてしまいます。
数日後、お母さんは自分の息子を殺してしまいました。
なぜ、お母さんは自分の息子を殺したのですか?
考えた人は下の結果に進んで下さい。
       ↓
「息子が邪魔だから」90何%の人がそう答えるそうです。
そう答える人は正常らしい。
       ↓
でも宮崎努と酒鬼薔薇聖人はそれとは違う答を言ったらしい。
しかも2人とも同じ答。
       ↓












































「息子の葬式で、またあの人に会えるから」
835名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 07:40:15 ID:4Dkukn/7
俺の祖父は医者だった。
っていっても金はなく家はボロボロで食事なんか庭の野菜とお茶漬けと患者さんからの頂き物だけ。
毎朝4時に起きて身寄りのいない体の不自由なお年寄りの家を診察時間になるまで何件も往診して回る。
診察時間になると戻ってきて待合室に入りきらないで外まで並んでる患者さんを診察していく。
昼休みはおにぎりを片手にまた往診。
午後の診察をこなし食事をすませてまた往診。
夜中に玄関口に患者が来たり電話があればいつでも駆けつける。
一年365日休みなど無かった。
自分の体調が悪くなっても自分を必要としている人がいるからと病院にもいかず診療を続け無理矢理家族に
病院に連れて行かれた時にはもう手遅れ。
末期がんだった。
でもどうせ治らないなら入院はしないと痛みをごまかし死ぬ間際まで往診続けてた。
遺産なんか何もなし。残ったのはボロボロの家だけ。
聞けば治療費を支払えない人ばかりを診察・往診していてほとんど収入なんか無かったんだって。
でも葬式のとき驚いた。
患者だけで1000人ぐらい弔問に訪れ、中には車椅子の人や付き添いの人に背負われながら来る人もいた。
みんな涙をボロボロ流して「先生ありがとう、ありがとう」と拝んでいた。
毎年命日には年々みんな亡くなっていくからか数は少なくなってきてはいるけど患者さんたちが焼香に訪れる。
かつて治療費を支払えず無償で診ていた人から毎月何通も現金書留が届く。
いつも忙しくしてたから遊んだ記憶、甘えた記憶など数えるぐらいしかないけど今でも強烈に思い出すことがある。

それは俺が厨房のときに悪に憧れて万引きだの、恐喝だの繰り返していたとき。
万引きして店員につかまって親の連絡先を教えろと言われて親はいないと嘘ついてどうせじいちゃんは往診でいないだろ
と思ってじいちゃんの連絡先を告げた。
そしたらどこをどう伝わったのか知らないけどすぐに白衣着たじいちゃんが店に飛び込んできた。
店に着くなり床に頭をこすりつけて「すいません、すいません。」と土下座してた。
自慢だったじいちゃんのそんな無様な姿を見て自分が本当に情けなくなって俺も涙流しながらいつの間にか一緒に土下座してた。
帰り道はずっと無言だった。
怒られるでも、何か聞かれるでもなくただただ無言。
逆にそれがつらかった。
家にもうすぐ着くというときふいにじいちゃんが「おまえ酒飲んだことあるか?」と聞いてきた。
「無い」と言うとじいちゃんは「よし、着いて来い」と一言言ってスタスタ歩いていった。
着いた先はスナックみたいなところ。そこでガンガン酒飲まされた。
普段仕事しているところしか見た事がないじいちゃんが酒飲むのを見るのも、なによりこんなとこにいる自体なんだか不思議だった。
二人とも結構酔っ払って帰る道すがら川沿いに腰掛けて休憩してたらじいちゃんがポツリと
「じいちゃんは仕事しか知らないからなぁ。おまえは悪いことも良い事もいっぱい体験できててうらやましい。
お前は男だ。悪いことしたくなることもあるだろう。どんなに悪いことをしても良い。ただ筋の通らない悪さはするな。」
と言われてなんだか緊張の糸が切れてずっと涙が止まらなかった。
それから俺の人生が変わった気がする。
じいちゃんのような医者になるって決めて必死で勉強してもともと頭はそんなに良くは無いから二浪したけど国立の医学部に合格した。
今年晴れて医学部を卒業しました。
じいちゃんが残してくれたボロボロの家のほかにもうひとつ残してくれたもの。
毎日首にかけていた聴診器。あの土下座してたときも首にかかっていた聴診器。
その聴診器をやっと使えるときがきた。
さび付いてるけど俺の宝物。
俺もじいちゃんみたいな医者になろうと思う。
836名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 07:48:06 ID:4Dkukn/7
楽しかった記憶というと、いつも思い出すのは、高校時代のことだ
それ以前にも幸せな記憶はあるのだけれど、一番って決めてしまうと、
高校時代しか思い浮かばない。

私は父親がずいぶんなDQNだったらしい。生後10ヶ月程度で父母は離婚し
母は私と2歳上の姉を連れて祖母の家に戻った。
祖母は私たちの世話はやってくれたが、基本的にねじくれた性格の人で
物心付かない私たちを捕まえて「お前は人間じゃない!絶対に幸せに
なんかなれない!」等ストレス解消にわめくのはしょっちゅうだった。
姉は朗らかな性格で学校内の人気者になったが、私は陰気な性格で
あまり友人も出来なかった。姉が私のことを面白おかしく周囲にばらまくので
年上の人が何故か私のことを知っていて、からかわれたりもした。
(全学年が聞くクラス放送で「私の妹はゴジラみたいです」と流された
恨みは一生忘れられない)
小4になったとき、姉が網膜剥離になり、手術が必要だと聞かされた
友達は少ないながらも、平和な毎日を送っていた私は、引っ越しによって
状況が一変した。
その引っ越し先で、今でも馬鹿だと思うのだが重大なヘマを犯して、
私はいじめられっこになった。
いじめられっこになった私は、昔の写真ばかり懐かしむようになった。
それが「自分だけが不幸」な姉には気に入らなかったらしい。古い
友人の写真をこれでもかと破かれた。学校でしかもらえなかった、
行事の写真で、小4で引っ越した私には卒業アルバムもない、そういう
写真だった。特に妹なので写真は少なく、今残っているのは数枚だ。
そんなとき、誰が助けてくれただろう、親も助けてくれなかったのに。
そう、誰も助けてはくれなかった。

姉の病気は何度も再発し、中学で(成績のことで)ちょっとした有名人になった私は
性的ないじめを受けた。男の子とろくに話も出来ないような子だったのに。
それについては、姉が「妹が迷惑を掛けた」と思い込んで謝らせる、という
異常事態があった
時過ぎて高校、部活に入った。漫画イラスト研究部だ
優しい先輩や同級生に恵まれて私は幸せだった
そんななか、病気病気で追いつめられた母親が、私の頭を金槌で殴るという
異常事態が起きた。
1週間は意識不明だった。誰も病院になんて連れて行ってくれる筈もなかった。
2週間は経って、やっと部活に戻れた。そして昼、先輩はこう言った。
「なーお(仮名)、フライいるー?」
一番安いからあげ定食を頼んだ私への言葉だった。
私はぽろぽろと涙をこぼした。
837名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 07:49:07 ID:4Dkukn/7
馬鹿みたいだ。何で泣ける?私の家は姉の病気で苦労ばかりで、
私はたくさんの友達をもてるほど良い子じゃなくて……
そう思ったら、ぼろぼろ泣けてきた。本当に泣けた。先輩は困ってた。だけど嬉しかった。
あの時の嬉しさは、何とも形容できない。
「アホやなぁ。なおは」
普段なら高いプライドが邪魔する言葉も、自然に受け入れられた。

そこ(学食)で泣いたことが噂になって、何人か理由を尋ねに来たけれど
受け入れなかった。周囲の何人か、放っておいてやれという言葉を聞いた、
その人達には分かりそうな苦労が、あの子達には分からなかっただろうから。
10年は経った今では、分かっているのかも知れないが。

あの日から、からあげ定食が大好きになった
今でも心からへこんだ時、からあげ定食を頼む。
悲しい記憶と、優しい記憶が合致していて、少し悲しい
838名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 07:56:15 ID:4Dkukn/7
その昔、俺がまだリア工だったある夏の夜・・・
晩飯を食った後だったので8時頃だったか、部屋でひとり漫画を読んでいた。
暑い日だったので窓は当然網戸でそこから心地よい涼風を感じていたのだが、ふと気付くとその風が生暖かくなっていることに気付いた。
普段ならば特に気に留めることもなかったのだが、その時は風の生暖かさとは裏腹に背筋だけが寒いような・・・悪寒と云うべきかも知れないが・・・
で、何の気は無しにカーテンを開けてみた・・・

そこには・・・
網戸越しにもはっきりと確認できたのだが、全身白装束の・・例えると仏さんが着ているものと云えばイメージしてもらえるだろうか・・・
老婆が立っていた・・・いや総白髪だったので一瞬、そう思ったのかも・・・顔は中年女性だったかも知れない。
だが、その顔を確認するべくもなく、私は「わっ!」っと大声をあげてしまった。
その女は私の大声に驚いたのか、すぐさまその場から立ち去ったようだった。
ほどなく、私の大声に驚いたのか居間にいたと思われる父が「なんだべ、でっかい声出して〜」と私の部屋に入ってきた。

「今、へんな女が居たんだって!」興奮気味の私が答えると、
「どこに?」と父、「外!白い服着てた!」と私。
怪訝深げだった父だが、私の態度が尋常じゃないと思ったらしく、すぐさま玄関から外に出て見に行ったようだった。
私も少し遅れてその後を追った。
外に出ると、何故か父の側に隣のMさんも立っていた。
どうやら隣のMさんもその「白装束の女」が自分の家を覗いていたのだという。
父は私に「Mさんとここらへん見回ってくるわ、お前家に居ろ」と言い放つやいなや、Mさんと家の前の通りを進んでいった。
私はそれに従い家の中へ戻った。

暫くすると父が家に戻ってきた。
私がどんな様子だったかを聞くと・・・父は口重に話してくれた・・・
父とMさんは農業開発(現農業技術センターだったか?)の前でその女を発見したらしい。
その女は道路の横を流れる川(夏場なので水は少ない)の中を歩いていたとのこと。
父とMさんが恐る恐る近付くと、士幌線の橋下の辺りで一瞬こちらを振り向き、そのまま橋下の闇に消えるように吸い込まれていったという。
そのときの顔は般若のような険しい顔つきだったとのこと。

以上、実話なのでオチらしいオチはありません・・・あしからず・・・
839名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 07:57:16 ID:4Dkukn/7




実はオチがあるんです

この2年後にMさんが
更にその1年後に私の父が亡くなりました。
二人ともちょうど同じ夏場に。。。死因は二人とも癌でした。
私はそれから夏が来る度に次は自分の番では、と
840名無しさん@ピンキー
ちょっと昼寝してたら酷い悪夢みた
友人を名乗る白衣を着た男と一緒に俺がステーキ食ってるんだが男がある話を始める
戦時中(といっても日本かどうか定かでではないが)、劣勢に立たされた国で
ある三人の若者は強くなるためにに思案する
自分たちの肉体がもっと強ければ戦争に勝てるのに
そうだ!この体を棄てて鋼鉄の体に出来ないか?
若者達が上司に相談してみるとすぐに採用
護国の希望に燃えた若者達は鋼鉄の体を得るために自らの体を放棄
何所までなくなったのか定かではないが特別に敵性音楽などを楽しむことが出来ているらしい
しかし鋼鉄の体が完成する前に敗戦
若者の元の体も占領の混乱で破損してしまう
その上プロジェクトの博士はマッドサイエンティスト
事業主体が無くなっても体を失った若者三人と体を連れ出して独自に研究
しかし占領軍に追われながら研究を続けていくのは簡単ではない
不要になった若者達の体はそういう嗜好の人間に少しづつ高値で売られた
しかし資金がまだ足りずそのまま何十年の歳月が経っている…
最近では若者達が「早く敵を蹴散らして国の為に尽くしたい」「早く鋼鉄の体で縦横無尽に動き回りたい」
と反応しているらしいがマッドサイエンティストは「毒が回っているようだ(意図不明だがスゲェ怖かった)」
とか言っているようだ

ステーキ食ってる俺はこの話に気分が悪くなって席を立つ
まぁその後俺が色々命を狙われるんだが省いてついに捕まる
捕まった先には前述の友人を名乗る男
「実は君に懸賞金を掛けてたんだよ。」
「僕は食人家でね。君がこないだ食べた肉もそうやって捕まえた奴の肉さ」
「友人の俺を何時疑うのかわくわくしてったのに何時まで経っても脳天気なまま」
「あの話は食人業界では有名な話で実際にいるがそんな話したんだから疑る要素はあっただろう」
「友人といえども時には疑って掛からないと」
知るか!とも言えず調理され掛かる所で起きた

俺の夢にしてはやけに一本筋の通った話なんで起きた後もリアル感があってやけに怖い
話の元ネタとしては多分、超人ロックのサイバー・ジェノサイド読んだせいだな