1 :
名無しさん@ピンキー:
ごめんだれかあとやって
☆☆狩野すみれ兄貴の質問コーナー☆☆☆
Q投下したSSは基本的に保管庫に転載されるの?
A「基本的にはそうだな。無論、自己申告があれば転載はしない手筈になってるな」
Q次スレのタイミングは?
A「470KBを越えたあたりで一度聞け。投下中なら切りのいいところまでとりあえず投下して、続きは次スレだ」
Q新刊ネタはいつから書いていい?
A「最低でも公式発売日の24時まで待て。私はネタばれが蛇とタマのちいせぇ男の次に嫌いなんだ」
Q1レスあたりに投稿できる容量の最大と目安は?
A「容量は4096Bytes、一行字数は全角で最大120字くらい、最大60行だそうだ。心して書き込みやがれ」
Q見たいキャラのSSが無いんだけど…
A「あぁん? てめぇは自分から書くって事は考えねぇのか?」
QこのQ&A普通すぎません?
A「うるせぇ! だいたい北村、テメェ人にこんな役押し付けといて、その言い草は何だ?」
Qいやぁ、こんな役会長にしか任せられません
A「オチもねぇじゃねぇか、てめぇ後で覚えてやがれ・・・」
ふたりだけの(修学)旅行
つづきはー?
続きはまだかね
>>1乙
…で、修学旅行の続きが気になってあまり寝れてないんだが
17歳と165カ月
なんという気になるところで……
…続きは?
新スレたったの知らないとかじゃね?
続きまだぁ?
全力で+(0゚・∀・) + ワクテカ +
しかしフルメタスレでもしばらく次スレに移ったことを知らずに過ごしてたから……数日は見た方がいいかもね。
まぁ、あの終わり方でも良いけどね。
多くの学生はスキー場に軟禁
彼と彼女は彼の家で仲良くいちゃいちゃとお勉強!?
でも、その事をやっちゃん納得するのかな?
ええい、修学旅行の続きはまだか!?
やっちゃんには花嫁修業といっておけば
二人だけGJだった
竜児の前だけでは寂しがったり、照れる亜美は本領発揮だな
でも別にそれぞれ自分の家で課題やれよ、とか
大河は残りの金は少なくても竜児の分の費用ぐらいたてかえそう、とか
泰子は友達やオーナーに土下座しても借金しても竜児を修学旅行にいかすね
なんてのを、読みながら夢想してしまったのは内緒だ
規制でもかかったのか?
……とでも書き込もうとしたら、500kb越えしてたことに気づいたw
早く気づいて前スレ764さん。
自分のSSは13レス目なのにまだエチに入れないからまだまだ
時間がかかりそうだよ……。
ちょっ///続きまだ〜(_´Д`)ノ~~
まだかな♪
他の職人さんが投下しにくい空気になるから、できれば早めに…
おいぃぃぃ!! 続きは、続きはどこだーーーーー!!!???
まあ何スレか前にもスレ最後に中途半端に終わらせてる作品あったよね
確かに・・・この空気は新スレになったら投稿しようとしている他の職人さんにとってあれだな
あれで実は完結!?
全裸にネクタイ待機は辛いです
活動時間帯が特殊みたいだから、明日の朝5時頃に続きがくるかもな。
っていうか来て下さいw
27 :
98VM:2009/03/29(日) 22:15:26 ID:yhWIPf4t
やっと書き込み可能になりました。
こんばんわ、こんにちわ。 自分の初SSが職人様方の作品にまじって保管庫
に入っているのを見て感動している98VMです。
修学旅行の続きの経過観察後、折を見て亜美ママ続編投下したいと思います。
というわけで・・・
修学旅行の続き来てーw
>>27 もう先に投下してしまっては如何でしょうか
念のため何時に投下すると予約して
tst
まだかまだか
そろそろ風邪ひいちゃいます(<>)
>>27 先に投下頼むよ
待ってたら他の職人まで投下できねえし
もう完成してて投下したい人からすればいいと思うよ
途中で切れることとかよくあるし
>>1乙です。
投稿が来ないみたいなので、みのドラで特攻かけちゃいます。
タイトルは「温泉に行こうと僕は」で、文量は5レスです。
時機を逃した感は否めませんが、クリスマスイブ後が舞台です。
「……はぁ。」
居間のテーブルにうつぶせて、朝から盛大にため息をつく。
今日はクリスマス。
子供たちがプレゼントにはしゃぎ、恋人たちが桃色の空間を生み出す日。
そんなキラキラした景色の一部になれたら、なんて少しは思ってた。
けど、今はそんな淡い希望すら持てない。
――UFOも幽霊も見えなくていいって思うんだ。
一晩中、そして今も脳内に響き渡っているのは、昨夜の櫛枝の言葉。
櫛枝が何でそんな風に思うようになったのかはよく分からねえ。
けど、それよりも。
フラれた、その事実が重くのしかかる。
真っ暗に閉ざされた、太陽のない世界をさまよう感覚。
このまま病気にでもなりそうな精神状態の中……
全ては一枚の紙切れから始まる。
「――何だこりゃ?宿泊券、か?」
テーブルに置かれた紙切れ、もとい宿泊券の持ち主である大河に問いかける。
正直、あまり興味はないというか、放っておいて欲しい。
「それなりの温泉宿の宿泊券みたいね。私もよく分かんないけど。」
確かによく見れば、紙質が高級感を醸し出している、ような気がする。
が、やっぱり興味は沸かない。
今は何も考えずに、朝食の用意でもしていたい。
「んで、何でそんなもんをお前が持ってんだ?」
「……部屋を整理してたら出てきたの。多分、結構前に親父から貰ったヤツ。」
親父、の言葉に一気に目が覚める感じがした。
大河は気にした風もなく言い放ったが、やっぱり気まずい。
「そ、それで、その券で旅行して来るんだな?ま、まぁ楽しんで来いよ。」
「違う。要らないから、あんたの家で捨ててもらおうと思って。」
淡々と受け答えする大河の言葉に……俺の思考が止まった。
「……は?」
覚めた頭をいきなり蹴飛ばされたような気分。
ワケが分からん。
「アイツから貰った宿泊券なんて使いたくもないし。
かと言って、自分ちで捨てたら呪われそうだし。
だから、あんたんちのゴミ箱に入れさせて。」
それに対して、当然だと言わんばかりの真顔で俺を見る大河。
「お前っ、そりゃ幾らなんでもMOTTAINAIだろが!」
旅館の相場とか知らねぇけど、二人分なら何万円相当になるんだ!?
つーか、それよりも、俺と泰子は呪われても構わねぇってのか!
「てな訳で、あんたにあげる。」
俺の反応を予想してたかのように素早く切り返してくる……って。
「今、何つった……?」
「竜児にあげるって言ったのよ。何?勿体ないんじゃないの?」
確かに勿体ないとは思う。けど、
「お、俺だってアイツから貰った宿泊券なんか使いたくねぇ、と思う。」
少なくとも、使って良い気はしないってのも確かだ。
「あ、そ。じゃ、捨てて。今すぐ。」
そりゃMOTTAIN……って、キリがねぇ!
「だぁーー、分かった!行く!行かせて下さい!」
「ふん。最初からそう言えば良いのよ。」
「――にしても、よく見たらペアって書いてあるじゃねぇか。誰と行けってんだ?」
大河から貰った宿泊券を眺めながら考える。
一人で行っても良いが、やっぱMOTTAINAIしな……
「……って、あぁ。分かった。泰子と行けってことか。
最近、仕事も大変みたいだし、慰安旅行に丁度良いかもな。」
「違う。まぁそれでも悪くないとは思うけど。でも……」
大河の真剣な眼差しで俺を見る。そして……
「今回はあんたとみのりんの二人で行きなさい。それ以外の用途は認めないから。」
――爆弾を投下してきた。
「は!?く、く櫛枝と!?」
「そう、みのりんと。それで今度こそ告白しなさい。」
「いや、だから……」
付き合っても居ない、っつーか自分が振った相手と二人で旅行に行く訳ねぇだろ。
あぁ、思い出しただけで心の傷が……
「あたし思うの。本当は竜児とみのりんは両想いで、結ばれるべきなんだって。
なのに、私があんた無しじゃ生きていけないってみのりんに誤解させてるせいで、
それで上手くいってないんだって思う。だから、これくらいはさせて。」
悲痛な面持ちでこちらを見つめてくる。
「大河……」
「だから、竜児はみのりんから別の答えを聞くまで、絶対に諦めちゃダメ。」
大河の励ましに何かが奮い立たされた気がした。
暗く閉ざされた世界に一筋の光が差し込むような感覚。
大河にここまで言わせて、櫛枝を誘えなかったら……嘘だろ。
そう思った。
「分かった、誘ってみる。……その、サンキューな。」
「……あー、お礼は良いから、さっさと電話する!」
俺の感謝の気持ちを踏みにじりながら、ケータイを渡してくる。
それでも、仏頂面の大河に向けて心の中でつぶやく――ありがとな。
「いや、俺が掛けても多分……つーか、お前のケータイを渡してどうす」
「もしもーし。大河?」
大河のケータイから聞き慣れた声が――っ!?
「く、櫛枝!?」
「へ?高須君?」
櫛枝も間の抜けた声をあげる。
こ、これは……ハメられた?
振り返って大河を見る。
とりあえず何か文句でも言わないと気が済まねえ。
いや、こんな時に何てことしやがる。
が、大河は真剣な表情で、口パクで何かを伝えようとしている。
……というか、とある三文字を発しているとしか思えない。
「さ・そ・え」と。
――いや、落ち着け。
いきなり誘ってどうする。
ま、まずは挨拶から始めるべきだろう、うん。
「お、おう。お、お……おはろう。」
何とか声は出せた。が、見事に噛んだ。
「やあ、高須君。オハロー。で、どーしたの?
しかも、何で大河のケータイから?朝から突っ込み所満載だぜ?」
櫛枝が普通に接してくれるのに、ひとまず安心する。
けど、どうやって旅行に誘えば良いんだ。
いや、そもそも何を話せば良いんだ。
「いや、その……」
自分の声が震えているのが分かる。
電話なのに、膝までガクガクしてやがる。
逃げるように大河を見る。
……律儀に「さ・そ・え」と口パクし続けてやがる。
つーか、もはや声が漏れてるから、口パクとすら言えない。
「もしもーし?高須君、大丈夫?」
受話口から櫛枝が俺の心配をしてくれる声。
視界からは大河が櫛枝を誘えと圧力を掛けてくる。
何だか頭がグニャグニャになってきて……
――えぇい、ままよ!
「あ、あのさ。今度、旅行に行かないか?」
「……え?」
櫛枝の声が止まった。
「――りょ、旅行?」
一瞬の沈黙の後、櫛枝が確認するように聞いてくる。
「お、おう。な、何か温泉宿の宿泊券が余っちまって。もし良かったら…」
大河から貰ったとは言っちゃいけない気がしたから、適当に言い繕う。
何となく罪悪感はあるけど、話を拗れさせたくない。許せ。
「い、良いんじゃないかな?それで、また五人で行こうってことかね?」
好感触と思ったのも束の間。
早速、核心に迫る質問が来る。
「い、いや、それがだな……」
「まさかとは思うけど……二人で?」
……核心をつかれた。
どう答えりゃ良いんだ、これ。
大河を見る――が、大河は頷くばかりで何も答えない。
「お、おう。二人で…だ。」
結局、言い訳のしようもなく、そのまま肯定しか出来なかった。
ケータイの向こうでは、櫛枝が固まる音が聞こえた……気がした。
――受話器から声が聞こえてこない。
マズイ、雲行きが怪しい。
そのまま、数秒たって、
「た、たた高須君!二人で旅行って一体、ナニを……ぶほぉ!は、鼻血が……」
櫛枝の混乱する声が耳を駆け巡る。
だ、大丈夫か!?
というか、なんか誤解してねーか!?
「い、いや、違うんだ、櫛枝!そんなんじゃなくてだな。とにかく……誤解だ!」
「ご、豪快!?そ、そんなアグレッシブな……ぼほぉ!や、やば。マジで止まんねー……」
櫛枝の暴走が止まらない。
ていうか、どうやったらそんな聞き間違いするんだ!?
ま、まずい。
このままじゃ断られるどころか、変態扱いされてずっと避けられることに……
「……竜児。ちょっと代わって。」
明らかに呆れた表情で、大河がケータイを取り上げる。
「もしもし、みのりん。私。」
「ティッシュ、ティッシュ……って、大河?」
スピーカーホンに切り替えたらしく、櫛枝の声が聞こえてくる。
つーか、本当に大丈夫か?櫛枝は。
「みのりん、お願い。竜児と旅行に行ってあげて。」
「え?あ、や、その……」
いきなりの大河の申し出に、櫛枝が明らかに戸惑いの声を上げる。
「素直になれなくて苦しんでるみのりんをこれ以上、見たくないの。」
が、大河は攻撃の手を緩めない。
「いや、大河。違うんだ。わ、私は……」
「ううん、分かってる。だから、一緒に行ってあげて。
とりあえずでも何でも良い。お願い、みのりん。」
櫛枝に反論する暇も与えず、どんどん切り込んでいく。
大河の並々ならぬ意志というか、想いのような何かが俺にも伝わってくる。
「大河……」
ケータイのスピーカーから櫛枝の声が聞こえなくなって、部屋は沈黙に包まれる。
その間、俺はただ立ち尽くすことしかできない。
胃が縮まる思いってこういうのを言うんだな――とか思いながら。
「……分かったよ、大河。行かせて貰うよ。」
数十秒にも、数分にも感じた長い静寂の後、櫛枝の声が部屋に響く。
って、OK?
「ありがとう。みのりん。」
「あ、ありがとな、櫛枝。」
それと、本当にありがとな。大河。
「どう致しまして、というかよろしく。ってか、スピーカーホン?
丁度いいや。それでだ、高須君。日程についてなんだけどさ……」
「おう。さ、先に櫛枝の予定を……」
「あ。この券、明日までだ。」
券を見てつぶやく大河――って!
「「明日!?」」
俺と櫛枝の声が部屋中に響いた。
続く
あまり話が進みませんでしたが、以上です。
あと、文量は5レスじゃなくて、7レスでした。すいません。
それでは、長文・駄文失礼しました。
ニヤニヤが止まらない……
好きなシチュエーションなので期待しちゃいます
>>42 新スレ初投下だな・・・GJ過ぎる
続き期待します
GJ
新スレの存在にさっき気がついたwww
あみドラの続きまだ?
46 :
98VM:2009/03/30(月) 19:48:59 ID:dyv6dC9N
こんばんは、こんにちは。 98VMです。
さて、予告どおり「川嶋安奈の憂鬱・3」を投下したいと思います。
実は本作については、投稿するべきかどうか悩みました。
というのも、書き上がってみたら、エロでもパロでもなく、あまつさえ
とらドラメインキャラが「誰も出ていない」という状況だったからです。
でも、続編だし、そんなに硬く考えなくてもいいかな〜と、思い直し
投下してみることにしました。
ラブラブモードの作品の最中、ちょっとした気分転換にしていただけ
たら嬉しいです。
「ん、あっ あぁぁぁぁぁ〜〜っ」
何度目かの絶頂を迎えて、ベッドに沈む。
いつに無く乱れているのが、自分でもはっきり解る。
久しぶりの逢瀬を楽しむ夫婦、ではない。
黒を基調とした落ち着いた広い寝室に己の吐息が耳障りに響く。
枕元の壁では、金色の帯に縁取られた男女が私を見下ろしている。
見つめ合う男は暗い背景に溶け込むかの如き黒をまとい、女は対照的に白に包まれている。
今まさに口付けを交わそうとする様子はロマンティックだが、それ以上に悲壮感が漂う。
彼らを背後から覗く顔はこの上なく不吉で、金色の帯に描かれた薔薇だけが救いだ。
「Liebe(愛)」と名付けられたその絵は、なんだか今の自分に妙にあっている気がして、笑ってしまう。
「久しぶりで君の役に立てたかな?」
夫は左の唇だけに笑いを浮かべてガウンを羽織る。
そして軽くキスした後、つかの間、光が差し込み、やがてドアが閉まる音がした。
気を利かせてくれたのだ。
月明かりが僅かに差し込むだけの部屋で黒に抱かれる白い女をもう一度見上げた。
「Liebe(愛)」
画家はこの絵で一体何を表現したんだろう。
・・・バカな私には、とても解りそうになかった。
考えるのは止めよう。
どうせ、また朝は来るのだ。
そして、私はゆっくりと、眠りに落ちていった。
『川嶋安奈の憂鬱・3』
昨日は、仕事を早く切り上げて帰ってきた。
私の不機嫌に監督は困り果てていた。
予定されていたカットの半分も取り終わらぬうちに帰ることを宣言した私。
今の私は、こんな我侭さえ許される。
――――自己嫌悪の極みだ。
きっと、亜美が苦しんで、苦しんで、辿り着いた我侭を、私は赦さなかったのだから。
夫は私の様子がおかしい事にすぐに気がついてくれた。
下手な慰めや、気遣いは無い。
私の「違い」をただ、黙って受け入れてくれるだけ。
けれど、昨晩ばかりは、其れが無性に悲しかった。
私にはこうして支えてくれるヒトがいる。
だが、きっと亜美にはいないのだ。
私に出来ることはなんだろう。
シーツだけを巻きつけて、だらしなくリビングのソファーに沈んだ。
体がひどくだるい。
年甲斐も無くがんばりすぎたせいか。
過去の男共が口をそろえて言うには、私はそっち方面は普通より弱いらしい。
演技と思って、勝手に落ち込む馬鹿な男も過去にはいた。
私には比べようも無いが、きっと本当なのだろう。
リビングには昨晩帰ってきたとき投げ出したバッグが忘れ去られている。
夫は私のこういう所は大抵放置する。 ちゃんと自分で面倒を見ろということなんだろう。
だらしない、とは思ったが、それ以上に動くのが億劫だった。
そのバッグからはみ出た携帯が光を点滅させている。
時計を見た。
当然、夫の姿は無い。
当たり前だ。 時計が示す時間は、もうすぐ昼だった。
今日の仕事はキャンセルだ。
事務所の皆には今度埋め合わせをしないといけないな、と考えながら立ち上がる。
シーツはしばらく乳房にひっかかっていたが、面倒になって押さえるのは止めた。
どうせ、家には誰もいない。
ストッカーを開いて氷を引っ張り出し、グラスに入れる。
冷蔵庫を開くと視界に入ったミルクに独り言ちた。
「最近のお気に入りは、はちみつ入りホットミルクです、か。」
・・・やってみよう。
湯気を上げるマグカップを抱えてソファーに戻る。
ちかちか点滅する光が目障りだ。
視界から消したくて、携帯を拾った。
着信履歴を確認する。
マネージャー、マネージャー、プロデューサー・・・・・・。
あと数分で入りの時間だ。どうやってももう間に合わない。
おそらく既に嘘をついているだろうが、一応断っておこう。
それにしても・・・ドタキャンなんて何年ぶりか。
以前は確か本当に熱を出して倒れた時だったと思う。
まぁ、今日だって病気みたいなものだ、と自分に言い訳しながら、
両手に抱えたマグカップからちびちびとミルクをすする。
なるほど、少しだけ、温かくなった気がした。
嫌味なぐらいに美しく色づき細くたなびく雲を、金色に輝く飛行機雲が横切っていく。
夕刻になって、ようやく空を見上げた。
役者がソデに消えて、初めてそいつが今日の空の主役だったことに気がつく。
それほどまでに、昨夜から今日に掛けての私は鬱に入っていたようだ。
結論から言えば、今日のドタキャンは大正解だった。
そんな状態じゃ、どうせいい仕事は出来なかったろうし、嘘の辻褄も合う。
昼過ぎからひっきりなしに電話が掛かってきた。
もちろん、ドタキャンの件ではない。
体調の悪い時や、不機嫌な時の私に文句を言うような猛者は数少ない。
だから、すべての電話の中身は今一番聞きたくない内容の方だった。
適当に言い訳して、体調が悪いから詳しくは後日にしてくれ、と言い逃れる。
後から後から、皆同じ事を聞く。
「なぜ・・・、」「なんで・・・、」「どうして・・・、」
「そんなの、私に解るかけないでしょ、こっちが聞きたいくらいよ!!」
と何度叫びそうになったことか。
体調が悪い、という嘘のおかげで、そこまでの勢いが付かなかったのが功を奏した。
皆、娘とも連絡を取りたがっていたが、当然学校に連絡するのは厳禁にしている。
娘の仕事用の携帯は当然のごとく繋がらない。
電源すら入ってないのは明白だし、そもそも『携帯』しては居まい。
それでも、その番号しかしらない事務所の連中は何度も掛けたらしい。
ご苦労なことだ。
そんなことをするくらいなら、娘が引退宣言したその時に拉致れよと。
だが、事務所の連中も私同様、いきなりの引退宣言に混乱したらしい。
その後、契約関係の話は親権者じゃないと出来ないから、私に確認するのが先決と判断したようだ。
判断としては間違っていない。
あくまで私が承知していた場合においては、だが。
電話の嵐も、日が沈むと一段落した。
「まったく、家の我侭娘は・・・ 何を考えているやら。 はぁぁ・・・。」
芝居がかった独り言を呟いてみる。
もちろん、それで心が軽くなる訳も無い。
静かになると、またけだるさが私を包み込んだ。
カウンターには氷が溶けて水だけになったグラスがとり残されている。
自分のだらしなさを責められている気がして、堪らず、ソファーに身を横たえる。
横たえた視線に今度はマグカップが映った。
マグカップには飲みかけのミルクが少しだけ残っているはずだ。
瞼が妙に重い。
ぼやける視界の中、
殆ど無意識に指が伸び、カップの縁をなぞっていた・・・。
何度目かのインターホンの音で覚醒する。
あたりはすっかり真っ暗になっていた。
時計を見る。
夫が帰ってくるにはまだまだ早―――
・・・混乱しているらしい。 夫ではありえない。
自嘲気味に笑いながら、インターホンを覗き込んだ。
インターホンのカメラには同じ事務所の10歳くらい年下の俳優が映っていた。
一人のようだ。
花束をちらつかせ、口の端に笑いを浮かべる。 ・・・本人はニヒルなつもりらしい。
門前払いする気満々だったが、一応出ることにした。 花には罪はない。
扉を開けると、早速お預けをとかれた犬のようにソレは喋り出した。
「いやぁ、具合が悪いのに、押しかけてしまってすみません。 でも、安奈さんが、仕事に穴を開ける
なんて、珍しいから、心配で心配で、つい・・・」
話し始めてすぐにソレの視線が慌しくなって・・・ ああ、そういえば昼にシャワーを浴びたあと、シルクの
ガウンを引っ掛けてそのままだった。 下は当然生まれたまま。
光沢のある薄手のガウンは出るべき所が出ているのがはっきりわかる。
下着を着けていないのも、その先端を見れば一目瞭然。
ちょっとからかってやろう。
この二世俳優は私を抱くことだけが目的で、いつも私の前では手を擦っているような奴だ。
けれど、私の体が欲しいわけじゃない。 欲しいのは私の『名前』だ。
『川嶋安奈と不倫』ともなれば、暫くは黙ってテレビや週刊誌に引張りだこになる。
下心が見え見えなのに、気付かれていないと思っているあたり、拙い演技力以上にお頭の中身も
気の毒な男だった。
そういえば、コイツは私の事を、ババァの癖にもったいぶりやがって、俺に抱いてもらえるんだから
喜んでケツ振りやがれ、くらいに思っていると誰かに聞いた。
ならば、遠慮は無用だ。
憂い顔を作り、髪を中途半端にかき上げる。
けだるく目を伏せ、こぼれた髪は一片二片、頬に舞い戻る。
適当に話しに答えつつ、耳の下に添えた指先の動きで首筋へと視線を誘導する。
鎖骨を覗かせ、胸が苦しいかのように添えられた手は、喉もとのくぼみを指し示す。
徐々に降りていく指先。
ゆっくりと、じっくりと女の体を見せ付ける。
花束を受け取りつつ、止めとばかりにガウンの隙間から先端が見える程度に、体を傾けた。
男は頬をひくつかせ、唾を飲み込むためにのどを鳴らす。
ババァと侮っていた相手に欲情しているとは情けないにも程がある。
微笑みながら―――少しばかり笑みに意地悪さが混じってしまったかもしれない。
「ありがとう、ツヨシクン。」 わざと名前を間違えた。
「へっ? お、俺は」
「あら、ごめんなさい、違ったかしら。」 言わせない。
「っく」 流石に顔色が変わった。屈辱に顔を赤らめている。
「こんなくだらない事も思いだせないなんて、やっぱりぼーっとしてるみたい・・・。 ごめんなさいね、
休ませてもらってもいいかしら? えーっと・・・。」
「ええ、お大事に! どうぞごゆっくり、別にあんたが2・3日休んでも誰も困りませんから!」
くだらない事と言われたのが余程気に障ったらしい。 捨て台詞よろしく背を向ける。
馬鹿なくせにプライドだけは高いなんて、実に滑稽な男だ。
その上堪え性もない。 縦社会の芸能界で私を「あんた」と呼ぶなど、普通なら有り得ない。
それ以前にこんな男に名前で呼ばれる事すら不愉快なのだが。
「ふふふ。 本当に綺麗な花有難うね、ミチタカクン。」
立ち去り際、あえて芸名じゃなく、本名で呼んでやる。
親の七光りで生き残ってこれたのに、芸名だけを変えて虚勢を張っている。 この男の一番の急所だ。
挫折を知らないボンクラにはこの位でちょうどいい。
扉を閉じたちょうどその時。
―――地面を蹴り飛ばした気配がした。
男が帰ると、少しだけ気分が晴れた。
やっぱり、私は悪い女だ。
毒を吐かないと気がすまないとは。
しかし、ちょうどいいスケープゴートがいてくれて助かった。
さすがの私も、誰彼かまわず毒を撒き散らしたのでは拙い。
リビングの空いている花瓶に花を生けながら、思考を再開する。
私に出来ることはなんだろう。
娘の事は言えない。 私も逃げを打ちそうになっていた。
やっぱり、親子だなと、微かに笑う。
さて、採り得る選択肢はいくつかあった。
一つ、説得を試みる。
一つ、無理やり仕事を入れる。
一つ、娘の意思を尊重する。
一つ目は、一番建設的だ。 だが、当面の問題は回避できない。
説得がすんなりいくとは到底思えないからだ。
娘はあれで結構、意固地になる性質だ。
この案は長期計画として、おいおい考えよう。
二つ目は、雑誌に予告を載せたり、プレス発表して、既成事実を作ってしまう作戦だ。
あの子の性格を考えると、私に対しては兎も角、出版社等には迷惑を掛けられないということで、
嫌々でも仕事はしてくれるだろう。
実際、今日聞いた話だと、直近の撮影何件かを最後に仕事を辞めると言ったらしい。
せめて、大きな仕事だけでもこの方法でひっぱろうか、と思わない事もない。
だが、昨日の様子を考えれば、これをやったら親子の絆さえ危なくなりそうだ。
却下。
仕事の上ではベストな選択だが、私達親子にとってリスクが大きすぎる。
三つ目、考えたくないが消去法でこれしか残っていない。
娘にとっては花マルだが、私にとっては茨の道だ。
現役女子高生という看板と、17〜18歳という年頃をみすみす棒に振るなんて、ビジネスとしては
ありえない選択だ。 契約によっては違約金も発生する。
今回のCMの件だって、亜美あっての企画だ。 広告代理店もスポンサーも結構乗り気だし、こちら
から持ちかけておいて、娘の都合で「できなくなりました」では激怒するだろう。
その他にも・・・
次から次へと娘のスケジュールが頭に浮かぶ。
娘は未成年なので、契約関係はすべて私が関わっているし、色々手を掛けてもいた。
そうだ、本当に、色々手を尽くしていたのだ。
ふつふつと娘の我侭に怒りが再燃してくる・・・が。
これまでの根回しを思い返していると、ふと、さっきの二世俳優が頭に浮かび、急激に心が冷え込んだ。
―――『親の七光り』
その言葉が頭に浮かんだ時、私の心はむしろ恐怖に満たされていた。
―――あの子が嫌っているのは『川嶋安奈の娘』なんじゃないか?
それは恐ろしい考えだった。
だが、思い当たる。 あの子はなんと言っていた?
「わたしはママじゃない、ママと同じには出来ない」
いやな汗がどっと流れ出す。
確かに色々手を回してきた。 だがそれは切欠を与えているだけ、幸運に頼らずに済んでいるだけ。
感受性の鋭いローティーンの女子のカリスマになれたのは、亜美自身の素養と努力によるものだ。
モデルにせよ、役者や歌手にせよ、立派な舞台装置や衣装が用意されていれば頂点に立てるほど
オーディエンスは甘くない。
事実、鳴り物入りでデビューして、二年も経たずに消えていく者のなんと多いことか。
しかし、そんな話をあの子にしたことがあったか?
私は、あの子の努力を称えた事があったか?
さも、当然のように「流石は私の娘」だと、言ってはいなかったか?
拙い、拙い、拙い、拙い、拙い。
いまさら誤解だといっても説得力が無い。
実際、裏から手を回しているんだから、どうにもならない。
劇団の件も・・・。 ああ、そうだ、役をあてがった・・・。
普通は素人同然の亜美に役がつくなんてありえない。
どんどん繋がっていく。
確かに自分自身も覚えがある。 ちょうど、自分のあり方を考え出す年頃だ。
昨日、あの子は「やりたいことができた」と言っていた。
それが何かは解らない。
私のやり方に反発して、自分なりの目標を決めたということか。
きっとそうだ。
そして、そんな娘の決心に私はどう応えた?
答えは・・・ヒステリーだ。
笑ってしまう。 どっちが子供なんだか。
昨日、何を言ったかは覚えてないが、けれど私は、激情に駆られて自分勝手な思いを曝け出して
しまったんだろう。
誓って言うが、娘の為を思ってやってきたというのは嘘じゃない。
でも、それがかえってあの子を傷つけてしまったのも、どうやら嘘じゃない。
そしてそれは、私が思う以上にあの子の心に突き刺さったのかもしれなかった。
だって、
亜美のあんな、・・・あんな絶望したかのような表情なんて、見たこと無かったのだから。
覚悟を決めよう。
これであの子の為に何も出来なかったら、自己嫌悪でどうにかなってしまいそうだ。
自分の決めた道なら、たとえ傷ついてもそれは自身の責任だ。
聡明なあの子なら、そんな事は解っているだろう。
だから、これからの事はいい。
今は、娘が野ざらしに放り出していく全ての事柄を綺麗に収めることが大事だ。
これは、私の責任でもある。
こうなったら、土下座でもなんでもして見せよう。
娘を傷つけた罪悪感に悩むより、そっちの方が全然楽だ。
単なる代償行為だが、娘の為になると思うことで、気分は少し楽になった。
眠りこけた時に倒してしまったのだろう、マグカップとミルクを片付けながら、
『覆水盆に返らず』を英語ではあふれたミルクがどーのこーのと言ったような・・・
と、つまらない事を考える。
こうなってしまっては、もう前に進むしかない。
とはいえ、これからやるべき事を具体的に考えると・・・
胸の代わりに、胃と頭が痛くなりそうなのだが・・・。
--------------------------------------------------------------------------------
全てが一段落したのは桜が散る頃だった。
娘は相変わらず親戚の家から高校に通っている。
私の苦労も知らずに、のうのうとまぁ、と思わない事も無かったが、あの子はあの子で大変なようだ。
もともと進学を希望していたが、何かに取り付かれたように猛勉強を開始した。
頭のいい子だったが、学校の勉強はろくにやってない。
成績ははっきり言って良くなかったから、適当な私大に放り込むつもりだった。
多分、それも気に喰わなかったんだろう。
なんとか親子関係は修復したが、私を見る目は明らかに変わってしまった。
とにかく、私が決めた事は全て否定するつもりのようだ。
夫のほうはそんな私達を見ても泰然としている。
「亜美はとても優しい子だからね。 いつか君の気持ちも解ってくれるさ。」
「母親になる頃に?」
「はっはっは。 そうだね。 それだって、あっという間かもしれないよ?」
「いやだわ、そんなの。」
「相変わらず、君は我侭だね。 やっぱり、母娘そっくりだ。 ・・・だから、僕は心配していないよ。」
ずるい人だ。 こんな風にいわれたら何も言えなくなる。
でも信じてみてもいい。
今回、亜美は「廃業」という言葉を使わなかった。
事実上は廃業だが、あくまで字面では「休止」にした。
きっと、あの子にできる私への最大限の譲歩だったのだろう。
反発だけが全てではないのも、また確かなのだ。
一通り片付いたとはいっても、余波は残っている。
自分では全部「親の七光り」と思ってしまったのかもしれないが、確かに実績は残したのだ。
業界内でも川嶋安奈の娘としてではなく、純粋に期待していた関係者も確実にいた。
「学業の都合により、長期間活動を停止する、復帰については全く未定」
これがプレス向けのコメント。
業界では皆、暗に復帰が無いことを感じ取っていた。
本気で残念がってくれる人もいれば、ムカつく事を言う奴もいる。
「いんや〜 川嶋さん、亜美ちゃん、ほーーんと残念だわぁ。 もう、一番脂が乗ってるって時にねぇ〜
なーに、もしかして男関係とか・・・ なーんちゃってぇ〜。 でーも、おかげでうちはほくほくだしぃ〜
亜美ちゃんにはちょっと感謝かなーって。 川嶋さんも残念だと思うけど、元気だしてねぇ〜。
最近、うちのタレントも、川嶋さん、ちょっと怖いってぇ・・・ うふふふ。 それじゃぁ ねー。」
例の化粧品のCM、年間契約はあの福笑いが取った。
この件で広告代理店には散々嫌味を言われたし、私自身の仕事にも悪い影響がでた。
亜美から福笑いに変わった事で、契約条件がつめなおしになって、スポンサー側が金額を出し渋った
らしい。 それだけ広告代理店の儲けは減った訳だから、恨まれるのは当然だった。
一方、オカマ野朗は大喜びだ。 亜美から仕事を奪ったと、風説の流布に躍起になっているが、心ある
ものは相手にしていない。
それはそうだ。 福笑いが亜美に勝っているのは乳のでかさくらいなのだから。
亜美の引退時期を考えればだまされる奴など居はしまい。
しかし、CMの出来は良く、福笑いの露出は最近順調に増えていた。
時間が無かったので、結局ほぼもとの企画のまま作られたにもかかわらず、だ。
それは、私にとって、特別な意味のあるCM。
本来、そこに映っていた筈の少女を想い、やるせなさに溜息をつく。
それにしても、『川嶋さん、ちょっと怖い』か。 話半分にしても多少自覚はある。
気をつけよう。
亜美のことを責めるように言う者も実際、少なくは無い。
なんの根回しも無く、突然殆どの仕事をキャンセルしたのだから仕方が無い。
そんな不満は、どこでどんな形で表面化するかは解らない。
根も葉もないゴシップでも、金にはなるのだ。
私は弱みを見せられない。
亜美を巻き込まない為にも。
そんな日々を過ごせば、いつもよりも神経が磨り減るのも道理だ。
ぐったりと疲れて、家に辿り着く。
今日は久しぶりで夫よりも早く帰って来れたようだ。
・・・甘いお酒が飲みたい。
グラスにクラッシュアイスを叩き込み、無造作にボトルを探る。
捕まえたのは1975の数字が書かれたカルヴァドス。
ちょうどいい。
一度グラスに火を入れると、芳醇な香りがさらに引き立つが、今はどうでもいい。
琥珀の液体は、分け隔て無く安らぎを与えてくれる。
ただ、それだけだ。
シャリシャリと音を立てるグラスを片手にソファーに腰掛けた。
夕刻から降り始めた霧雨のせいか、使い慣れたリビングがいつもより暗く静かな気がする。
カウンターの小さなダウンライトは、さらに暗さを引き立たせ、
もっと強い光と、雑音が欲しくて。
なんとなく手元のリモコンを操作した。
馬鹿でかい画面が突然、福笑いを映しだす。
アルコールのせいなのか。
それとも疲れていたからなのか。
誰もいないと、こみ上げて来るものを抑えるすべが無い。
耐え切れなかった。
私の、思い出のCMは、たった15秒で流れ過ぎていく。
けれど、溢れ出した涙は
いつまでも、いつまでも、
流れ続けていた・・・
55 :
98VM:2009/03/30(月) 19:57:32 ID:dyv6dC9N
以上です。
やっぱり鬱展開になりましたw ダメだ俺w
でも、ちゃんと泣けたから、きっとママはもう大丈夫です。
たぶん亜美ちゃん同様、弱くて、でも、強い人ですから。
本作とあと一編、番外編をもって「川嶋安奈の憂鬱」シリーズは
終了です。 番外編も既に完成しておりますので、そのうち投下
いたします。
稚作にもかかわらず読んで頂けた方々には感謝いたします。
有難うございました。
もし、需要があるようでしたら、続編で「あみママ!」シリーズを
立ち上げるかもしれませんww ニッチ産業バンザイ。
>>46-55 GJ! なんか他のssとは違うというか、いや知ったキャラが出て来ないとかじゃなく、
描写が濃いというか本格的で、しかも文章が流れるように淀みがなく、とても読み易かった。
参考にしますわ。
>>55 GJ&乙
なんだ・・・?主人公が大人なせいか本編とは違ったリアル感が・・・
>>55 オリキャラなのに、とらドラワールドを作り上げていらっしゃる…!
GJ。親子の和解を心よりオマチしております
>>42 GJ
2828しながら続きを待っています
>>55 GJ
鬱ながらなかなかであった…亜美ママ…
奈々子様かわいい
>>55 GJ、ただベタな萌え好きのダメ人間としては
亜美ママが竜児の存在を亜美をとおして感じるシーンが欲しかった
まぁ今回のお話読むかぎりそういう部分はあえて排除してある感じはあるし
アフターや後日談、亜美に成長、今までに無かった強さを見たママみたいな話は
職人さん的には蛇足なのかな?
>>55 GJ、こうなると竜児は、川嶋安奈にとって敵も同然www
実際、弁理士とか、医者ぐらいにならないと、亜美の相手として認められないでしょうねぇ
それにしても復笑いって、「有田しおん、でありま〜〜す」だったら笑えるな
このスレは来る者拒まずなのか?
だったら少し話を創ってみようと思うのだが
拒む理由がどこにある
さあ来い、どうぞ、お願いします
どんどん来るんだ!
まぁグロとかだったら先言った方がいいけど
構わずカモォーーン
いつまでも、どんな状態でも待ってます。
69 :
64:2009/03/31(火) 19:01:55 ID:e/6K8BnS
んじゃ、ちょっと書いてみます。近いうちに上げますのでお待ちを。
すぐ上げれなくてすいません…
全裸靴下待機してます
>>69 さぁ、ズボンは脱いだ。いつでも投下したまえ。
>>42 何となく寂しいから自分でGJつけさせてくれ。
俺GJ!
…って、余計寂しいわorz
>>69 全裸はきついけど・・・待機頑張るぜ
>>71 俺が1000のGJを送るからそんな悲しいことは止めて続きを書くんだ!
>>72よ…その話、俺も乗ったぜ!!
>>71よ!!
俺からも1000のGJを送らせてくれいっ!!
続きを…待ってるぜ。
>>72、
>>73の優しさに目から涙とネタが溢れ出てきた…サンクス!
2000のGJ!で腹ん中がパンパンだぜ…
あと、誘い受けみたいなことして、すいませんでした。
男は黙って作文!というわけで、作文してきます。失礼しました。
75 :
64:2009/03/31(火) 23:38:51 ID:e/6K8BnS
とりあえず書いた。
竜児×実乃梨
みのりん派の俺としては納得できない原作エンドにちょっと続けてみた。
こんな駄文でお目汚しでしょうがどうぞよろしくお願いします。
タイトル「竜と姫の24時」
76 :
64:2009/03/31(火) 23:39:23 ID:e/6K8BnS
―ねぇ大河、高須君を、一日だけ…その…貸してくれない?
絆は永遠を約束された。
それが自分の幸せだった。
そうだと信じていた。
なんとも言えない曇った表情を浮かべた櫛枝実乃梨は、教室の窓からぼんやりと外を眺めていた。
この教室には、大親友もかつての想い人もいない。
大河と竜児は、ずっと一緒に居ると誓っている。大河も今は「竜児と結婚するのだ」とはっきりと言っている。
それが私の選んだ道の結末だと、選んだときにはもう分かっていた、はずだった。
ところがどうだ
一時期ほどではないとはいえ、今だ燃え残る想い。
2人の幸せを心の底から祝福しているはずなのに、その感じが全然しない。
未だに夢に浮かぶその姿。
「…なんなんだろう…これ…」
自分の素直な思いと自分の決めた道とを比べてみる。
燃え残る、微かな想い。
燃え残ってるなら、燃やし尽くしてしまえ。
「…という訳なんだよ大河〜」
はっきり理由を説明されても困るものは困る。
なんせ「婚約者を一日だけ貸してくれ」なんて言われてるのだから。
「いくら親友のみのりんでも、竜児は…」
と言いつつ大河はちらりと実乃梨のほうを見る。
全てを話しきって真っ赤に俯く大親友の姿がそこにはあった。
ため息を一つ小さく吐いて大河は
「…本当に一日だけだよ?」
と仕方なさそうに答え、それを聞いた実乃梨は目を輝かせながら
「うぁりがとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
大河に飛びつく。
約束は取り付けた。日曜日0時から月曜の0時まで。その間だけは【高須竜児は櫛枝実乃梨のもの】と。
77 :
64:2009/03/31(火) 23:40:36 ID:e/6K8BnS
竜児は大河の頭を軽く叩いた。
「何すんのよこの馬鹿犬!」
「こっちのセリフだっての!人を物のように貸したりすんなよ!俺は悲しいぞ…」
そうは言いながらも大河の必死の説得で何とか了承した竜児は、
「仕方ないな…まあ、俺も櫛枝と話したいことあるし」
と一言。
「ま、ま、間違ってもへ、へんなコトしちゃ駄目だからね!」
わかってますよ。と竜児。「この心身はもう大河のものだっての。」と大河の頭を撫でてやった。
いくら日曜の0時からと言っても健全な高校生がそんな時間に行動を起こすわけも無く、迎えた午前9時
「んじゃ大河、フィアンセ借りるよ〜」
そう言い残して実乃梨は竜児の手を引っ張り走り出した。
「お、おいどこ行くんだよ!」
「それは秘密ですぜ旦那〜」
いつものふざけたやり取りで始まる1日。
駅から電車に乗り、降りたらバスに乗り、最後に少し歩く。高須家を出て2時間半
着いたのは最近オープンしたばかりのショッピングモール。
「…これまたでけぇな」
「でしょ〜??」
恋人のような(まあ今日だけはそうなのだが)会話をしつつ中に入る。
「早速だけど、私はお腹が空いたぁぁぁぁ!ご飯にしようぜぃ!」
Vサインを作って微笑む実乃梨を見た竜児の顔も思わず緩む。
「ああ。そうしようか」
実乃梨の働くファミレスなんかよりもおしゃれなレストランに入る。
実乃梨の食欲に圧倒されそうになりながらも、ここで竜児は聞こうと思っていたことを聞いた。
「なんでまた、俺を誘ったりしたんだ?」
「私もわかんない。」
竜児は、それ以上聞くことはしなかった。聞いても、絶対に答えない。そんな気がしていたから。
78 :
64:2009/03/31(火) 23:41:21 ID:e/6K8BnS
レストランを出た後はひたすら実乃梨の買い物に付き合わされる。
何袋もの服と、鞄と、靴と…
竜児は思った。
―ひょっとして、俺はただ荷物持ちのためだけに呼ばれたのか…?
「まあ、大河に手土産もできたし、それもそれでいいか…」
午後6時半。タイムリミットまであと5時間半。
ショッピングモールを出た2人は来た道を戻るように歩いていた。
会話は、減っていった。
元気も、無くなっていった。
バスに乗って、電車に乗って、戻っていく。
ところが、降りる予定の前の駅で、実乃梨は竜児の手を引っ張り、電車から引きずり下ろした。
「おい、降りる駅はもう1つ先…」
「まあまあ〜いいからついてきてよ〜」
実乃梨の声に明るさが戻る。
しばらく歩くと、そこにはとても高級なレストラン。
「ここの料理、すっっっっごくおいしいんだよ!?」
「本当に、食べるの好きだな。」と竜児が笑いながら返す。
「食は女の欲望番外地〜」
実乃梨の答えは彼女らしいものだった。
…
……
………
「…なんで何にも喋らないんだ?」と、間に耐えかねた竜児が問う。
「え?ほら?カニを食べてると無口になるって」
「カニ食ってねぇじゃん!」「あれれ?そだっけ…」
まともな会話はできそうにも無かった。
1時間半。そこで過ごした。午後10時半。あと、1時間半。
電車で移動して高須家まで歩いて45分。後45分。
「今日は楽しかったぜ?本当にサンキューな。櫛枝。」
実乃梨は何も言わずに俯いたまま。
「…櫛枝?」
79 :
64:2009/03/31(火) 23:42:19 ID:e/6K8BnS
無言のまま時が流れる。
―最後のチャンスが、腕からすり抜けていく
実乃梨は竜児の服の袖をつかんだ。
「おい、どうしたんだ」と言って言葉をつなごうとする竜児を遮るように
「お願いだから。ついてきて。お願いだから。」
言われるがままについてきた近くの公園。この時間じゃもう人影は無い。
「…どうしたんだよ、本当に」
心配そうな竜児。
意を決した実乃梨が、口を開く。
「大河がもし、高須くん無しでも生きていけるなら、私は高須くんの告白も、しっかり聞いてたんだよ。きっと。」
「…どう答えるつもりだったんだ?」
「言わなくてもわかるでしょ?私は高須くんが好きだったのに、断る理由がある?」
「…それはお前の幸せの形なのか?」
「…それが、わたしにもわからないんだぁ。」
…しばし無音
「私も、今日はすっごく楽しかった。夢のようで、でも現実で。
そして、恋人になれればこんな日々がいつまでも、永遠に、永遠に続くと思ってたんだ…」
実乃梨は声を詰まらせながらも搾り出した。本当の気持ちを。
「っ…」
竜児は声が出ない。かつて大好きだった彼女は、こんな未来図を描いていた。自分よりも、はっきり。くっきり。
80 :
64:2009/03/31(火) 23:43:04 ID:e/6K8BnS
「『一日だけ恋人になれる日』だから、私の描いた夢の日々の一日を現実にしてみたんだ。
これで、燃え残った想いを燃えつかせることができると思ったんだ。」
―燃え残る想いは、燃やし尽くせ
そう考えていた。
考えていたはずだった。
しかし、現実はどうだ?
頬を伝う大粒の涙は何だ?
この苦しい胸は何だ?
「でも何で!?燃え盛ってるよ!ずうっと一緒に居たいんだよ!
高須くんが…高須くんが…だ、大、大好きなんだよっっ!!」
竜児は、ただただ呆然とするしかなかった。
皆に後押しされて決めた道だった。
皆の中には実乃梨もいた。
つまり、誰もが幸せで、誰も傷つけないやり方など、無かった。
大切な人が傷ついている。今。目の前で。
竜児は、実乃梨を抱きしめてやった。
それが、何も変えることができないとしても。そうしてやりたかった。
時計は、11時50分。後、10分
「後10分で…終わっちゃう…夢から醒めちゃうよ…」
まるで、シンデレラのように。夢は、もう醒めようとしていた。
実乃梨も、抱きしめていた竜児も、ただ涙を流し続ける以外の夢の終焉を迎えることはできなかった。
81 :
64:2009/03/31(火) 23:43:54 ID:e/6K8BnS
午前0時12分、竜児、帰宅。
「お帰り。…みのりんに何もしてないでしょうね」
「ああ。何もしてない。何もしてない。何もして…ない…」
大河は気づく。竜児は泣いている。
「何も…してやれて…ない…」
「竜児?何があったの?全部言うのよ。」
大河の質問に答えず、竜児は叫びだす。
「俺は…俺は何もわかってなかった!
俺は大河と逃げて、そこには皆の後押しがあって!皆の笑顔があって!
大河が帰ってきたときもそうだ!皆笑顔で!それが幸せだと思ってた!
でも実際はどうだ!?たくさんの笑顔の裏には、たくさんの悲しみがあったじゃないか!
皆が手を取り合って幸せだなんて、ただの幻想じゃねぇか!
人の幸せなんて…本人すらもわかんないのに…」
泣き続ける竜児を見て、大河はある決心をした。
82 :
名無しさん@ピンキー:2009/03/31(火) 23:45:30 ID:e/6K8BnS
…とまあここまでです。
改めて自分の文才の無さに気づくorz
そして少し恥ずかしい。
いまさらながら非エロでした。すいません…
83 :
98VM:2009/04/01(水) 00:02:11 ID:IXKyUMGj
なにやら、沢山のお褒めの言葉、嬉しいかぎりです。
こんばんは、こんにちは。 98VMです。
>>62 様
貴重なご意見ありがとうございます。
ですが、「川嶋安奈の〜 1」並びに「同・2」の描写が現状せいいっぱいです。
一本にあんまり詰め込みすぎると、続編で書く事が無くなっちゃいますしw
というわけで、喜ばしくもある程度の需要があるようですので、
ちょっとがんばって本当に「あみママ!」編を書いて見ようかと思います。
憂鬱シリーズ直後からの続編になるかと思います。が、まだアイディアが
湧かないので、近く投下予定の番外編でお茶を濁しますので、気長にお待ち
いただければと。
>>82 同士よ…やばい…冗談抜きで涙が止まらない…
なんてものを書いてくれたんだ…
ところでこれ、続くの?
85 :
98VM:2009/04/01(水) 00:07:02 ID:IXKyUMGj
うひゃ、ごめんなさい。
ひどいタイミングで書いてしまいました。
>>82 鬱作家の自分的にはこういう展開は好物ですw GJ
>>82 ちくしょーGJだぁ〜。
つか悲しすぎるだろこれ?みのりんLOVEの俺の心を砂漠化させるつもりか?
少しでも、ホント少しでもいいから笑顔の実乃梨を思い描かせてくださいorz
そんな続きを期待しちゃうぞ、こんちくしょ〜(┰_┰)
>>82 GJ・・です。
自分もみのりん派だけど
この展開は正直、複雑です。。
悲しすぎる・・・涙が・・。
>>82 うわ〜〜〜GJだよ
みのりーーん
悲しいよ悲しいよぉ・・・一緒になって泣いちまったよぉ 続き期待だぜよ
をいをい、
早くも短編発売決定かよ、こりゃ期待すんぞ
>>90 短編は短編でも田村くんの短編だぞ
詳しくは電撃HPで
エイプリルか
華麗に釣られた
うほっ!!エイプリルかぁ〜orz
4月馬鹿かよorz……さっそく引っかかっちまったorz
ショックで自棄書きしたよ…
以前バレンタインIFで『重なる手』という実乃梨×竜児ものを書いたのですが、
今回は実際のバレンタインはこうだったんだろう、というのを書いてみた。
レスは4くらい。タイトルは『今だけは』
「お、おいっ待てよ櫛枝!」
12月24日。雪こそ降らずホワイトクリスマスにはならなかったものの、凍てつくような夜。
足早に去る自分の腕を竜児が掴んで、振り返る前に勢いで叫んだ。
「おまえが……おまえのことが好きだ!」
「………っ」
「幽霊もUFOも、見えなくていいなんて……やっぱり言わないで欲しい。
そんなこと、思わないで欲しい」
「………」
「迷惑かもしれないけど…お、俺には、幽霊が見える。見えてる。
……おまえが、す、好きだっ!」
「………っ」
泣き顔を見られたくなくて振り返らずに、ニット帽を無理矢理さらに深くかぶった。
……嫌だよ。そんなこと言われたらこの腕を振り払うことも出来ない、
それどころか振り返ってしまいそうになる。
でも、もし振り返ったらどうなるだろうか。
竜児の想いに答えたなら?
自分も本当は幽霊が見えている。君が好きだと言ったらどうなるだろう?
全員が幸せになる未来を期待していいのだろうか。
「た、高須くん」
「おう?」
ああ、ダメだ言ってはいけない。親友の叫びを、泣き顔を見たではないか。
「あのね、私……私も」
言っちゃダメだ。ダメだダメだダメだ……。
「本当は………幽霊、見えてるよ」
「―――え?」
だけど溢れ出す想いは止まらない。
伝えたい、自分の想いをただ届けたい。
「高須くんのことが……好き、だよう」
ニット帽で押さえつけた目元から涙が留めなく溢れ、手を、頬を流れる。
「く、櫛枝?……っ」
少し離れていた竜児の温もりが近づいてくるような気がした。
掴んでいた手が少しづつ前に伸ばされて、
自分の体を包み込んでくれるような―――
「………っ………あ」
視界は真っ暗だった。星はひとつも見えない。いや、見えるはずがない。
なぜならそこは屋内で、自分が見ているものは夜空ではなく壁なのだから。
「……ゆ、夢…かよ」
窓からは今年最初の雪――初雪が静かに降り続いているのが見える。
枕元の時計を見るとあと数分で日付は変わるところに来ていた。
亜美宅から帰って来て疲れて早めに寝てしまったのだが、
この時間を見ると大して時間は経っていないのだと分かる。
2月14日。
ホワイトバレンタインデー…まるでホワイトデーのような響きだけど、
その今日こそが、人生においての初めての恋が終わった、つまり失恋記念日なのだ。
……そんなの、記念にしたくはないのだが。
鼻筋に生暖かいものが流れ、視界がかすむ。
流れ出たそれは右の頬を濡らしながら枕に吸い込まれていく。
右を向いて寝ていたせいで、枕の右側だけがぐっしょりと冷たくなって
いて不快になり目を細めた。
駆け落ちをすると言った竜児と大河は本気で、だからこそ自分は賛成なんて
しないけれども反対もしないと、二人を支援した。
――どこにいるのかな、二人とも。
「………っ」
先よりも一層、視界が強く霞む。
何が悲しいのか何に対する涙なのかもよくわからず、でもどうしても止めることはできない。
もう泣かないと決めた、辛くてもどんなに悲しくても、そう決めた。
しかし実際はどうだろう。なかなか上手く出来るのもではなく、本日2回目の涙だ。
「…うっ……ひぅ…」
嗚咽まで出てくると、いよいよ自分ではどうにも抑えることが出来なくなってくる。
情けない、情けないけどどうしても無理なのだ。
『おまえのことが好きだ!』
脳内再生される夢の中の竜児の声。
「うぅ…うぁっ……た、たかすっ…くん」
心地よい夢だった。優しいその声も温もりも、全てが自分に向いていた。
覚めなければいいと思うくらいに、幸せな夢だったのだ。
――ああ。
涙を手の甲で拭い、一度目を閉じる。
もう一度あの夢を見ることは出来ないけれども、フラッシュバックするあの日の光景。
夢で見た光景こそが、あの日、あのクリスマスイブの夜に
自分か本当に望んでいた光景なのではないかと、実乃梨はふと思ってしまう。
本当は心のどこかで、過ぎ去る自分を追いかけて来て欲しかったのではないかと。
そしてそれは恐らく本当だったのだと思う。
本当は、本当は……少しだけ期待していた。
我儘以外の何物でもないけれど、竜児がその腕を掴んでくれることを、期待していたのだ。
優しい声を、その腕の温もりを感じたくて仕方なかったのだ。
その願望がこうして夢に出た、それだけの話。
「ぅくっ……た、高須くん…高須くん、たかす、くんっ」
ジャイアントさらばで何にさらばしたのだか全くわからないほど、
自分の中の彼への未練はたらたらだった。
名前を呼ぶ度に強くなる竜児への想い。
寂しさと悲しさと、そして流れる涙の量だけは次第に増えていく。
いくらなんでもこのままではいけないと、布団を剥ぎとって起き上がった。
何度も何度も涙を拭いベットから起き上がり、
冷たい外気に体を振るわけながらも電気をつけ部屋を意味もなくうろつく。
ふと、机の上に置いてある、 あるもの が目についた。
止めておけばいいのにそれに手を伸ばし、中身を開く。
「………っ」
予想はついていたのだが、また情けなくも涙があふれてきた。
あるものとは生徒手帳。そのなかには自分でいれた1枚の写真が挟まれている。
生徒手帳に挟んだ1枚の写真。文化祭、副男レースの記念写真。
竜児に一緒に買おうと言って、そうして買った、
自分が持っている最初で恐らく最後であろう二人の思い出の品。
握り合った手の熱さ。何度でも蘇る。何度でも何度でも。
それが、無性に嬉しい。
「……うあっ…やべ」
流れ落ちた涙が写真の上に垂れ、慌てて服の袖でふき取る。
大切な思い出を、自分の涙で汚すわけにはいかないのだ。
「………」
そっと生徒手帳を胸に抱いて数秒、そしてそれを閉じると机の上に置き、
電気を消し再び布団に潜り込む。
流れる涙は止まらない、でもそれでいい。
今日だけは、それでいい。
悲しみはいつの日か消えるかもしれない。
この想いも、いつの日にかは無くなってしまうのかもしれない。
だけど、まだ……。
今だけは、この想いを捨てることは出来ないから。
そっと唇にあてた拳は、自身の涙がして胸に切なさが満ちた。
―――2月14日、PM11時58分
一人きりのホワイトバレンタインデーがもうすぐ終わる。
END
以上です。鬱っぽいですがこれが現実ですねorz
明日からは強く生きてください、みのりん
因みに『重なる手』がみのりんの夢落ち(笑)とかはさすがに可哀そうなんで…
あれは完全なIFということにしておいて下さい。
その頃大河と竜児はチュッチュしてるんですね…
目汚し失礼!!
おっと…忘れるとこだったぜ…みのりんLoveだぜよ〜〜
>>99 俺の馬鹿!!チュッチュッは次の日じゃねーか…
全く…恥ずかしいミスを犯したぜorz
連レスすまん…では
>>99 GJです
切ないですね・・。
みのりん・・
>>99 治まった涙がまた出てきたジャマイカ
GJだった・・・
>>82 GJ!今後の展開が超絶に気になりますがな!!
>>99 「重なる手」の人、乙!待ってたんだぜ。
引き込まれるような文章が大好きなんだぜ。
急遽開催されたみのドラ祭りに、予告編ながら便乗させて頂きます。
タイトルは「オレンジ」で、1レスお借りします。
――3年の夏、実乃梨率いるソフトボール部が念願の全国大会出場を果たす。
元クラスメイトの晴れ舞台。元2−Cメンバーは受験勉強そっちのけで応援に駆けつける。
初戦の相手は、大会屈指のスラッガー率いる強豪校。
実乃梨のホームランで先制した大橋高校は1点リードのまま最終回、7回裏へ。
が、最後の最後で相手チームの怒涛の粘りにあい、2アウト満塁に。
一打サヨナラの場面で、バッターは4番、実業団も注目するスラッガー。
応援席のボルテージも最高潮になる中、実乃梨は――右手の甲にキスをする。
それを見た竜児に衝撃が走る。
――ジャイアントさらば。
いたずらに成功したみたいに笑う櫛枝の顔。
階段を駆け下りながら聞いた、櫛枝の本音。
意地張って頑張るといった時の櫛枝の笑顔。
あの日の櫛枝の姿、言葉が一瞬で脳を駆け巡る。
あの時、保健室で櫛枝のことを知ることが出来た、なんて思った。
けど、それは間違いだった。アイツの苦しみ、痛み……そんなこと考えもしなかった。
櫛枝は辛い時、泣きたい時にこうやって自分自身を鼓舞していたなんて思いもしなかった。
俺の幻影、幽霊にすがって、ひたすら頑張り続けてたなんて……
そんな櫛枝の気持ちも考えないで、無責任に応援するって言ってそれっきり、なんて……
――俺はなんて大バカ野郎なんだ。
全てを理解した時、竜児は応援席を立っていた。
そして、大河の制止もそっちのけで最前列へダッシュし、思いきり叫んだ。
「櫛枝!俺は信じてるぞぉーーーーー!!!」
――実乃梨の夢、大河の想い、そして竜児の行動。
三人の想いが交錯する。
『オレンジ』近日、投稿予定。
予告編ですいません。
本当は「デラウェア」とかいう別の話の完結後に投下する予定でしたが、
ちょっと自重できなくなりました。すいません。
それでは、スレ汚し失礼しました。
>>104 期待しています
デラウェアの作者さんか・・・どちらもwktkだ
つか好きな職人さんが連続とは・・・興奮して寝れんな
おぉっ今日は切ない実乃梨Dayか(´・ω・`)
9巻の保健室で実乃梨が、、前向きに頑張ろう、現実はどうであれ、そうあろう
って言ってたから大河や竜児の見てない所では、職人さんのSSのような話はありそうだな
しかし本編に忠実にいくならそういう時
亜美が痛みを分け合ってくれるSSで、救いがあるバージョンもよろしこ
107 :
M&S:2009/04/01(水) 06:46:27 ID:R46qqqZZ
規制に巻き込まれるって萎える…
みのりん派にとっては嬉しい流れが来てますなぁ
『月と太陽2』書いてみました
よろしくお願いします
管理人さんへ
前作で可能ならば
『竜児と実乃梨は同じ大学に進学』を
『竜児と実乃梨はそれぞれ志望校に進学』に変えていただけないでしょうか?
やはり無理やり感があるので
108 :
M&S:2009/04/01(水) 06:51:46 ID:R46qqqZZ
「お願い!ね?」
女の子のお願いを、
大好きな彼女のお願いを、
片目上目遣いのかわいい実乃梨のお願いを、
断れる竜児ではなかった。
「デート、デート、デート〜〜〜嬉しいな、デトゥ〜〜」
最後のタロウのヵ所にデートという歌詞は合わなかったらしい。何だよデトゥ〜って…
そう思いながらもニヤける竜児。
もう何か、見た目はまんま893。
あれは特撮物であり、極道物ではない…
ブランチも終え、今日のデートプランを決める。
「じゃあ、映画でも見に行くか?何か見たいのあればだけど。」
「おぉ、この前CMでやってたヤツが見たかったのだよ!
超〜怖そうなヤツ!」
即答だった。そうだ、怖いものスキーなのだった、コイツは…
しかし、
『史上空前の超弩級SF時代劇メルヘンアクションロマンチックハートフルアドベンチャーミステリーホラーサスペンスラブコメ』って…
怖いかどうか以前に大丈夫なのだろうか?
「良いけどよ、幽霊はもう見えたって言ってたろ?
他に見てぇのは無ぇのかよ?」
「ヤだなぁ、アレは恋愛とかの例えだよ、た・と・え!
本物はまだ見てないもんよ、竜児くんだってそういうの見るって言ってたっぽ?」
見ることは見るが、怖いのはあまり得意ではない。
彼女の前で、ビビるのは避けたいのだ。
「…アレじゃ嫌かい?」
「いや、俺も気になってたんだ、アレ。」
不安…だが見たくない訳じゃない。
なにより、実乃梨の太陽の笑顔を見られるのなら、つまらないプライドなど、捨ててしまった方がマシなのだ。
というわけで、今日は映画を見て、買い物をして、最後には二人であま〜い………
バケツプリンを作る事になった。
同棲なのにデートに入るのか?これ…
実乃梨が頼み事をすると思ったら…
『バケツでプリン、それは女の欲望番外地!
竜児くんと一緒なら、きっと!夢は!世界は!この手に!』
劇団櫛枝絶賛公演中である。
「よし、そうと決まればオジサンはチャチャッと準備してくるぜ、チャオ!」
実乃梨は体育座りの姿勢で横になると、泰子の部屋にコロコローっと転がりながら消えていった…
多少呆れながら、竜児も自室へと着替えにいく。
109 :
M&S:2009/04/01(水) 06:53:41 ID:R46qqqZZ
誰もいなくなった居間…
いや一人、正確には一匹いる。
インコちゃん。
『イ、イ、イィ〜、インコちゃんも、
お、おで、お出掛けしたいぃ。』
……動物は人のいないところで実は…
なんて想像は、ペットを飼ったことのある人なら夢みた事があるのではないか。
インコちゃんの場合、夢か現実かは分からないが…
パパッと着替えを済ませた竜児は、あるものを取り出す。
実乃梨にも隠している……
エロほ…ではなく、Aぶ…でもなく、
妄想が詰まった段ボール箱。
実際にエロいのがあるかどうかは……
竜児だしなぁ…
妄想箱から取りい出しましたるは妄想デートプラン。
それを見つめ口元を緩ませている竜児。
ヒャハ!今日はコイツで辱しめてやるぜ。
とか考えているわけではない。
あぁ、今日も一つ現実になっていくんだなぁ。
とニヤついてるだけだ。
居間に戻ると程なくして実乃梨も出てきた。
「おまたへ。そいじゃ、GOだぜ!」
「おぅ!」
再びおねむの泰子とインコちゃんを残し、
「「いってきま〜す!」」
二人仲良く階段を降りていく。
また一匹になったインコちゃん、喋るのだろうか?
そして、映画館に到着。
で、一応確認、実乃梨の光を曇らせないよう、いかにも思い付きっぽく、
「お?今日から公開のが他にも色々あるぞ?アレなんかもいいんじゃない、…か……」
何も考えずに指差した看板…
『仁義!泣きバトル!!』
これは墓穴…というかある意味フ
「おいおい、こりゃあオジサンに対するフリかぁい?
冗談は顔だけにしな。坊主が見てたらあっという間にファンに囲まれちまうぜぇ?」
首に手を廻し低音で鳴らす。
ボケ時のスキンシップ≧手を繋ぐ
であっても実乃梨的にはノーカウントらしかった。
…ていうか仮にも彼氏の顔を……
冗談みたいで悪かったな…
110 :
M&S:2009/04/01(水) 06:56:07 ID:R46qqqZZ
結果から言うと色々と不安な映画ではあったが、あまりビビることもなく、けっこう楽しめた。かなりカオスっていたが…
「いやぁ、この櫛枝、すっかり見入っちまったよ。
映画って本っ当に良いもんですなぁ。
…あの降霊術、帰ったらやってもいい?」
「…やめてくれよ…本当に来たらどうすんだよ…」
「ちぇ〜、そっかぁ〜残念…」
「あ〜、そ、そのかわり、と言っちゃあなんだが今度心霊スポットに行ってみよう、な?」
「本当に?やった!
……竜児くんのそういう優しいところ、実乃梨は大好きでごさいますぞ、エへへ…」
「………」
竜児は、頬を朱に染めそれを俯いて隠す実乃梨を見逃した。残念。
なぜなら、竜児は今まさに天にも昇る気持ち、幽霊の仲間入り一歩手前であった。
「…そういえばさ、」
「はっ…なんだ?」
実乃梨の言葉で我に帰る。危ない所だった。
「さっきの映画で思い出した、
あーみんの別荘にお泊まり。
あの時、私の幽霊話を、竜児くんはちゃんと聞いてくれた、分かってくれた、それがすっごく嬉しかったんだ。」
「あぁ…でもそれは、お前がちゃんと話をしてくれたから…
聞くのが普通なんじゃないか?」
「ん〜ん、その普通がなかなか出来ないことなんだよ。
あれがあったから、今、こうしてられるんだ、多分。」
「そういうもんですか。」
「そういうもんですよ。」
「そうか…そしたら、キッカケを作ってくれた川嶋には感謝しなきゃなぁ。」
「うん。エライね竜児きゅんは。
あ、これは竜児きゅんが私を
『きゅしえだぁ!』
なぁんて呼んだから生まれたものなんだぜ?覚えてるかい?」
「懐かしいなそれ。そして恥ずい…」
「くぅ〜いっちょまえに照れやがって、かわいいじゃねぇか。か・わ・ウィ〜!」
「ぐっ…」
竜児もカミカミの名前を返そうとするのだが、
111 :
M&S:2009/04/01(水) 06:57:35 ID:R46qqqZZ
(※櫛枝実乃梨、通称みのりんは変な子です。長期間接種するとボケたい気分になることがあります。)
『みにょり』って何か変だな…と、やめてしまった。
「竜児きゅん、竜児きゅん。」
「ん?なんだよ?てかそれ恥ずいんだって…」
「ん〜ん、呼んだだけ。竜児きゅん、竜児きゅん、竜児きゅん、きゅん♪」
それから実乃梨は『竜児きゅん、竜児きゅん、竜児きゅん、きゅん♪』と楽しそうにリズムを刻んでいた。
勝手に『高須竜児召喚曲』を作られてしまったようだ…何だ召喚って?
……実乃梨はデュエリスト、なるほど、
闇属性悪魔族ってヤツか……めげそうだ…
112 :
M&S:2009/04/01(水) 07:01:16 ID:R46qqqZZ
「ん?アレは!?」
実乃梨が遠くに何かを見つけたらしい。目がキラキラしている。幽霊かUFOでもいたか?
「おーい、あーみん!」
「おぅ!?」
幽霊どころか悪魔……がたまに乗り移るような人物―川嶋亜美がそこにはいた。
「実乃梨ちゃん!」
「お久ッス!おぉう運命を感じるぜ!」
「よ、よう、川嶋。」
噂をすればなんとやら、
亜美は、お馴染みのスドバの前に佇んでいた。
大学生になり色気も増し、微妙にパクり感のあるカフェをバックにしてもなお、亜美はモデルオーラ全開で、道行く人が皆振り返る。
「二人とも久しぶりじゃん。高須くんなんて嫌でも毎日のように会ってたのに。」
「何だよ、俺と会うのがそんなに嫌だったかよ。」
「だってぇ、亜美ちゃんのかわいさに、高須くんの顔面凶器は毒なんだもん。」
…再びめげそうだった。
竜児をからかうのは変わってない…
しかし前より爽やかなのは何故だろうか……
馬鹿には分からない…
「おいおいあーみん、いくらなんでも言い過ぎであるぞ?」
あぁ庇ってくれてありがとう。
と感謝しかけるが、
「顔面凶器でも竜児くんの性格は知ってるだろう?毒ではないさ。
まったく、イヤだよこの娘は。」
フォローになってない。
てかさっきも言われてた。そういえば。
113 :
M&S:2009/04/01(水) 07:04:32 ID:R46qqqZZ
「まぁ…ね。んで?今日は何?デート?ちゃ〜んと仲良く恋人やってる?」
「おぉ、さっきも映画を見てきたんだ。な?」
「おぅよ、もう二人でウフフアハハって感じで。」
「ふ〜ん?」
亜美は微妙に納得いかなそうに、人の心まで覗くような不思議視線を向けてくる。
「……一線は越えてません。…って?」
どうしてこうも色々見抜けるのだろう。コイツは…
「キ、キスはしたぞ!な?」
「へ?そんなのいっ…あぁそだね!流石にね!ワッハッハッハッ!」
「アハハハ!」
…亜美でなくともバレバレだ。
そして一線=キスと考える辺り竜児らしさが窺える。
「うわぁ…キスもかよ…高須くんってオクテだとは思ってたけど…引くわぁ…」
「なっ…」
「実乃梨ちゃんはこ〜んなにかわいいんだよ?しかも一つ屋根の下でさぁ…」
亜美は実乃梨をジャジャ〜ンという感じに振る舞う。何か通販で見たような仕草。
「か、かわいいってそんなこと…オラ照れるっぺよ。
こ、これはあーみんが教えてくれたメイクをしてるだけで…そんな…」
ナチュラルメイクの太陽で照れ笑い…
そりゃあもう!
「メイクも前より上手だけど、やっぱり恋は乙女をかわいくするんだねぇ…うんうん。
高須くんもそう思うでしょ?」
「おぅ!」
「『おぅ!』じゃねぇよ…じゃあ何でキスもしてねんだよ?…ヘタレ?」
「ぐっ…そ、そういう川嶋はどうなんだよ?そういう経験あんのかよ?」
「まぁね、なんせ亜美ちゃんてばかわいいから、機会も多くて、自分でも気を付けてるっての。」
114 :
M&S:2009/04/01(水) 07:07:18 ID:R46qqqZZ
亜美はどうよとばかりにサイフからゴム用品を覗かせる、が…なんかずっとサイフに入れっぱと言うか、少しボロいと言うか…
ん?もしかして…
「なぁ、ちょっと…」
「ふぇ?」
「ゴニョゴニョゴニョ」
「え?まっさかぁ〜」
何やらコソコソやっている二人を、亜美は訝しげに見る。
そんな二人は悪戯っぽい笑みを浮かべ、亜美に近づくと、
「なぁ川嶋?お前の言う通り俺はヘタレで恥ずかしいことに童貞なんだ。」
「うんうん。そんな竜児くんと付き合ってるオイちゃんも恥ずかしいことにバージンなのだよ。」
と耳元で囁く。
……オイちゃんがバージンってなんだよ。
「だ、だからって何だってのよ?」
「あぁ、だからそれを付けるタイミングってのが分からなくてよ、いつかのために教えてくれねぇか?」
「そうそう、あーみん大先生にそこんトコご教授願いたく候う。」
「へ?いや、え〜と、それは、ね…」
竜児の予想が正しいのなら答えるのは難しいだろう。
そう、亜美が持ってる理由は、
『持ってますけど?普通でしょ?』
という中学生と同じ理由。
つまりは自慢みたいなもので、持っているだけ、使うことのないものなのだ。
と、前にどこぞのアホが言っていた。
偉いぞ春田。もう例の単語は書けるか?
「…あ、そういえば、もうすぐ麻耶達が来るよ?
からかわれるし、もう行ったら?」
「ん?そうなのか…
そういえば川嶋、教えてくれないか?」
「くれないか?」
「っ、なんだよ、話聞けよ!
……あぁもう、悪かったわよ。嘘つきました、ごめんなさい。
…なんかたち悪くない?」
「おかげさまでな。」
「ったく、こういうのセクハラってんだよ?
…麻耶達の事は本当だから行った行ったもう。」
亜美は不満顔でシッシッと二人を追い払いかけるが、
115 :
M&S:2009/04/01(水) 07:10:17 ID:R46qqqZZ
「あっ、実乃梨ちゃん!」
「ん〜なんじゃらほい?」
今度は亜美が耳打ちをし出す。
「ヘタレとは言わないけど、高須くんはまぁ、あんなだからさ、
実乃梨ちゃんから攻めてかないと、進展しないままだよ?」
「いや、でも、今のままでも十分だし…
それにそんな…恥ずかしいよぅ…」
「高須くんは実乃梨ちゃんが大切だから何もしてこないんだよ。
思い切ってさ、バシッといっちゃいな!」
亜美は実乃梨の背中を押すとそのままに手を振って、背中を向けて元に戻っていった。
「どうしたんだ?」
「へ?いやなんでも、色々頑張れってさ。」
帰り道、実乃梨は何かを考え、朱に染まる頬を俯いて隠していた。
「む、これは…隠し味にコーヒーを使っておるな?」
「おぅ、バレたか…流石だな。
えと……コ、ココ、コイツは褒美だ、受け取れ。」
竜児は実乃梨の頭を少し乱暴になでなで。
この程度はノリでいけるかと思ったが、心臓は歓喜するかのように鼓動し、全身に熱い血液が流れていく。
そんなドキドキを隠そうにも顔は真っ赤で、ゆでダコ状態とはこのことだろう。
「へへへ。ありがとうございます…
じゃあ今度は俺のターンだ!
竜児くんみたく隠し味とかはないけど…
いかがでしょうか?」
「うん、ウマイ!ちょうどいい甘さ加減だ。舌触りも滑らかだし、バニラエッセンスもほのかに香る感じで最高だ。」
「えへへ、あ、ありがとう…ゴッドタン認定いただきました…
よし…お礼にコイツをくれてやるよ!」
「!?」
116 :
M&S:2009/04/01(水) 07:13:22 ID:R46qqqZZ
それはまさに触れただけで稚拙なもの。
実乃梨の唇と竜児のそれ。
「なっ…なっ…なっ…」
「りゅ、竜児くんがいつまでもしてくれないから…
いくらみのりんでも耐えきれねぇよ…」
消え入りそうな、竜児だけがかろうじて聞き取れた言葉。
そんな普段からは想像出来ない“女の子”な実乃梨はかわいすぎた。
竜児の中で何かがはち切れるくらいに。
「!?」
今度は竜児から。
しかしそれは先程のとは確かに違う、ちゃんとしたキス。
まさか竜児が、という事に驚く実乃梨だったがそれと同時に、
“竜児から”
それが嬉しくて、本当に嬉しくて。竜児の背中に腕を廻す。
はじめてのキスはプリンの味。
竜児と実乃梨のが混ざり合い、甘くてほろ苦い、そんなまさに初恋のような。
竜児はさらに実乃梨が欲しくて、いとおしくて、舌を実乃梨の口へと進める。
「!?」
最初は戸惑ったものの、実乃梨は竜児をそのままに受け入れる。
恥ずかしいのだろう、実乃梨は舌を絡めるものの、外へは進めようとしない。
頭が蕩けそうになる瞬間、竜児が離れていく。
117 :
M&S:2009/04/01(水) 07:15:24 ID:R46qqqZZ
「ぷわっ……りゅ、りゅりゅりゅ、竜児くん、エ、エロいよ、18禁!」
「お、おぅ…ていうか俺も実乃梨も18禁はもう違うだろ……
ん?何だよ?」
「へへへ、は、恥ずかしいけど、嬉しいな。竜児くんからエッチなのしてくれるなんて…」
「…お前も俺としたいって思ってくれてるって分かったから…
ずっと傷付けたらって、出来なかったし…」
「傷付く分けないじゃん。付き合ってるんだし、私だって憧れるよ、こういうの。
………ずっと出来なかったって…もっとエッチな事とかも考えてたりする…の?」
「そりゃ…まぁ、な…男だし…」
「りゅ、竜児くんはエッチさんだね。
…エッチ、スケッチ、ワンタッチ…
もっとエッチなのは…よくないと思います…まだ。」
「確かに考えてはいた…ただ、考えてたのとは違過ぎる…
今でもヤバイのにこれ以上は心臓が持たねぇ。」
「だ、だよね。よかった、私もこれ以上はドキドキし過ぎてヤバそうだもん。
でも…嬉しかった。」
「俺も。」
「………」
「………」
「好きだ、実乃梨。」
「ヘヘヘ、私も。」
その後、バケツプリンは見事に完成。
しかし作ったはいいものの、やはり最後の方は若干飽きが来て…
MOTTAINAIので全部食べたが、暫くはプリン自体の需要が無さそうだ…
そして当然の事ながらダイエット戦士には大ダメージを与えていった。
ダイエット戦士―実乃梨とそれを支える竜児。
それはまた別のお話。
118 :
M&S:2009/04/01(水) 07:21:56 ID:R46qqqZZ
以上です
妄想は有り余るのに文章にするのは難し過ぎますね
いやホント拙い文章ですみません
アドバイス等どんどんお願いします
続・幽霊話もそうですが別荘でのシーンが大好きです
書いてて思った…最初の普通のキスで互いのカラメルと本体を感じられるか?という疑問は無しの方向で…
今回から名前付けました
まんま月と太陽です
デラウェア、重なる手の方
あまあまみのりん分を下さい
119 :
M&S:2009/04/01(水) 07:34:34 ID:R46qqqZZ
訂正
ゴム用品→ゴム製品
管理人さんお手数ですがよろしくお願いします
…なんだゴム用品って…
みのりんクラッシュ!
今、新スレの作品を一気読みしたんだが・・・
なんだこの涙腺崩壊ラッシュは
>>82の所で限界来てリアルに泣いちまったじゃないか
アニメも原作も終わって若干とらドラ熱が下がってたが一気に巻き返したよ
職人さん全員GJ
>>83 あんたのssを読んで感じる川嶋安奈のイメージは、俺の勝手なイメージとしては、
峯富士子みたいにとにかく顔に皺の一本もない、スタイル完璧、ちょっと尊大な感じの
年齢不詳のグラマー美人かな
みんなGJ〜!!
みのりんLOVEだぜよ〜♪
な、泣いてなんかいないんだからねっ//
だ、誰かアドバイスをくれんかね?
みのりん祭が続きますように
我らが同志と修学旅行の続きまだかよ
いい加減風邪ひいちゃう
>>126 とりあえず風呂にでも入ってこいww
最近は寒いんだから
なんだ・・・あーみん派の俺だけど・・・
これとてもいい・・・みのりんに乗り換えてしまいそうだ・・・
どうも64です。
たくさんのコメントありがとうございました。滅茶苦茶嬉しいです。
邪魔ならここで打ちとめと思ってあえて途中できりましたが、調子に乗って続き考えて見ます。
んじゃ、ちょっと書いてきます
トリップあるのは気にしないでください(笑)前にちょっと困ったことがあったので保険と。
>>125 そ〜だね〜、アドバイスはできんけど、この書き手さんはアニメ前半の頃の
明るくて屈託のないみのりんが好きなんだろうなぁ…とは思った。
表現がややもすると情緒過多に流れるきらいがあるかなぁとは思うけど、
このスレのssはむしろそれが普通だし。
というわけで、自分の書きたいものを好きなように書いたんでいいんでないかい?
かく言う私も”あみドラ”しか書きません。
>>125 序盤の作者の感想みたいな、竜児だしなぁ、はとらドラっぽくないかなぁ
あと最後のとこ、会話だけなのは何故?
あえて台詞だけにしたのかもしれんけど
そうだとしても序盤の台詞と地の文のバランスくずしてまで、何を意図したかわからん
>>130-131 どうもです
良い悪い関係なく反応がないと不安で堪らなくなりますね…
自分の書きたいように書きました
大河きっかけでとらドラ!読み始めたハズなのにみのりん派になってる自分です
成程、感想はらしくないですね…
セリフばっかりになったのはああいう場面の描写が下手、かつ脳内補完で好きな甘々をして欲しかった やっぱり妄想に勝るモノはないかと…
不快でないor一人でも需要があるようならまたみのドラ!書いてみます
ここは皆優しい…とらドラ!読んでる人に悪いのはいない? 長文失礼っす
>>132 同じみのりん派として楽しみに待ってるよ♪
僕もまた新しいみのドラを構想してみます。
お互い頑張ろうね!!
>>118 GJ!
読んでる間ニヤニヤが止まらなかったW
あーこの二人好きだー!
ダイエット戦士みのりんの話期待してるぜ 笑
新作はこないのかね?
お前等神デスカ?
来るときは1日に2、3作くるのに来ないときは全く来ない
まるでジェットコースターのようなスレだな・・・・しかしそんなここが好きだ
まあそれでもエロパロ板では屈指の勢いをキープしてるな
流石だ
皆さん御久し振りです。
[伝えたい言葉]
の続きが出来たので投下しに来ました。
次レスから投下します。
[伝えたい言葉(3)]
「ふあぁっ…あっ…」
啼く…。
「んうぅっ…はふっ!」
私は啼く…。
「やぁあ…!あくっ…あっ!」
高須君に可愛がられ、発情しきって甘えた声で啼く…。
初めは恐る恐る、まるで壊れ物を扱う様に、丁寧に秘部を擦られていただけだった。
「はっ!……はっ!あっ!んは!」
でも…徐々に私の『キモチイイ所』を探り当てて、押しては引き…上に下に…更に甘い刺激をくれる様になってきた。
「…川嶋のここ…柔らかい。なっ、指入れてみて良いよな」
私は彼の愛撫を受けて大胆になっていく。
「っふ!いいよ…、っん!いれて…」
いつの間にか、抱き抱えられる体勢が床に寝かせられ、彼の身体の下で甘えていた。
胸を吸われ、舌先でねぶられる。そして…
下着の中で高須君の指が躍る。
「ふあっ…くぅ!う…んっ!」
高須君もやっぱり男の子なんだよね…。
周りと比べて、こういう事への興味をあまり表さなかっただけで、立派に『男の子』だった。
ほら…その証拠に私を…しっかり乱して、無垢な身体を彼の色に染めていってる。
一つの例外を除いて、手順を踏んで…私を切なくさせているの。
「んっ…ん…。…ふあぁっ」
秘部にゆっくり挿入てきた指の予想以上の快感に、私は身体の力が抜けていく…。
彼のジャージの胸元を、しっかり握って『初めての異物感』を受け止める。
「はっうっ…、たかすくぅうん………切ないよぅう」
気持ち良いの…初めて受け入れた指が奥へ奥へと進んで来る毎に…
私の『亜美』をトロトロに溶かして堪らなくさせている。
その快感は、身体の奥から外に向かって抜け出る感じ…かな?
上手く言い表せない。
だから高須君に『切ない』と紡いで、首を反らせて吐息を吐く。
半端に脱がされた下半身に寒さなんか感じない、むしろ暑い。
「ん…じゃあ、こうしたらどうだ?…切なさは消えるか?」
そう言って、膣内を優しく優しく掻き回す高須君。
だぁめ…そうしたら、もっともっと切なくなっちゃうよ?
理由は二つ。
一つ目は御察しの通り、それが気持ち良くてキュンッてなっちゃうから。
二つ目は…
まるで『トモダチ』と戯れ合う様な手付きから、微かに…『愛情』を感じる愛撫に変化している気がする…から。
後者の心理的な要因が重きを占めている。
それは一番嬉しくて……一番辛いこと。
だって…それは私に対して情が湧いてきたからだと思うから。
それが苦しいのだ。
確かに嬉しい。
舞い上がってしまいそうな程。
でも…この『触れ合い』が終われば、彼の中から消えてしまう感情なのかも知れないと気付いたから…。
それが心配損で済めば結果良し。
その可能性は半々といった所だろう。
「んっふ…!はあっ…あ!」
こんな事を考えるのは杞憂なのか。
そもそも、こう考えるのは失礼だよね。
彼なりの答を持って、私の願いを聞き入れた結果が今だ。
それはまだ途中で、終わっていない。
そりゃあ欲を言うなら…これで気持ちが通えば良いなって…。
私がこんなネガティブな事を考えていたら、結果は悪い方に転がってしまう。
あ…そっか。分かったよ。なら気持ちが通う様に…彼の中に『情』を刻めれば良いのだ。
そうすれば……私だって見て貰える。
大河や実乃梨ちゃんの様に…見て貰える。
「ふあっ!っくぅ…う!はっ!はっ!」
問題は、どういった方法を使えば良いのか…だ。
彼の後頭部に手を回して抱き寄せる。
甘く疼いて堪らないから…。
そして、まだ足らない。
だから
『…もっと切なくさせてよ』
と耳元で囁く。
「っは!んはぁ!あっ!ひうぅっっっ!!」
彼が小刻みに指先で膣奥をくすぐる。
それと同時に、器用に親指で……クリトリスを転がされる。
高須君に可愛がられて…嬉しくてアソコが泣いている。
くちゅくちゅ…って。
ほら、飛行機が離発着する時って身体がゾワゾワ〜ってするよね?
それに似た感覚が良いの、……癖になってしまいそう。
凄く気持ち良いから、お腹の中がジンジンと熱を帯びて…
『サカリ』
がついちゃうの…。
そうだ………高須君にも、この『ゾワゾワ』を教えてあげよう。
それは高須君に『川嶋亜美への情』を刻める事だと気付いた。
きっと
『川嶋は初めてなのに、こんな事をしてくれるんだ。
…本当に好いてくれているんだ』
と認識してくれる。
「ふっ!ふっ!……っん、たかすくぅん……ここ…んあ…苦しそうだね」
私は喘ぎながら高須君の股間に右手を伸ばす…。
「んっ!か、川嶋…そこは」
手がそこに触れた瞬間、彼がビクッと震える。
熱い……それに凄く硬い…。
わ、わわ…ビクンビクンしてる…。
「さっきから…すっごく我慢してたよね?……高須君にしてあげよっか?」
ジャージにテントを張っている高須君の大事な大事な部分。
その形を確かめる様に、人差し指と親指で隆起した『高須君』を撫でる。
「で、でも…うぅ」
うわずって……期待した声で高須君が啼く。
『して欲しいけど、そんな事をさせて良いのか?』
とか考えているのだろう。
「良いよ。おちんちん…パンパンにしちゃって苦しいんでしょ……
さっきだって亜美ちゃんのお尻にスリスリさせてたし…」
胸の中に彼の頭を抱いて優しく手櫛しながら、甘い声で囁く。
「ねっ?だから…させて」
そう優しく言うと高須君が頷く。
高須君を仰向けに寝かせ、私は彼の足の間に正座して座る。
「う…っ」
手の平で軽くおちんちんを揉むと彼が微かに呻く。
キモチイイんだ…。
じゃあ、もっとしてあげるよ……モミモミ…。
そうして数度、強めに揉みしだいた後…私はジャージを下着ごと膝まで脱がす。
「う…わぁ、…………おっきい、ね」
こんな風になってるんだ。
太さは丁度、人差し指と親指で輪を作った位で長さは…う〜ん、高須君の名誉の為に内緒にしておく。
だが決して…小さい訳では無い筈。うん…比較対象が無いから分かんない。
短いスプレー缶位とだけ言っておく。
「そ、そんなに見るなよ。…恥かしいし」
そう呟く彼を見て、私はちょっとした悪戯を思い付く。
「気にしないの、高須君だって亜美ちゃんの…見たでしょ」
身体を倒して、おちんちんに顔が付きそうな位に近付けて、ジ〜っと見ながら言ってみる。
「…見てねぇよ」
「へぇ〜…」
私は舐める様な視線を通わせながら、おちんちんから目を離さず生返事を返す。
ふふっ…恥かしい?
こんな間近で凝視されて…あれぇ?
何でおちんちんヒクンヒクンさせてるの?
亜美ちゃんは純粋だからわかんなぁ〜い。
……もしかして…高須君ってマゾっ気がある?
あ、だから大河に罵倒され、殴られても、蹴られても一緒に居るの…かな。
恥かしくて痛い事をされて堪らなくなって癖になっちゃってるんだぁ?
『御仕置』と書いて『御褒美』って読みます。
っていう感じ?
…と、罵倒している自分を想像してみる。
でも実際は…自分でも分かる位…顔も身体も熱くほてって無言で見るのが精一杯。
だって見るのなんて初めてだし…高須君の…り、立派だし…。
それでも、何とか伸ばした手で優しく撫でる位なら出来る。
「っん…ふ、う。は…あ」
え〜と…何て言うのか?
竿だっけ?
そこをゆっくり掻いて、
おちんちんの頭の下、窪んだ所をスリスリしてあげると高須君が喘ぐ。
目の前でピクンピクンって跳ねて暴れる姿は、どこか小動物を思い出させる。
「高須君、気持ち良い?痛くない?」
言葉にして三言。
微笑みを浮かべ、愛情を込めて愛撫しながら問う。
「っふ。お、おうっ!」
そう返事を返し、気持ち良さそうに身体を震わせる彼が愛しい。
私が高須君を悦ばせているんだ…。
大河でも実乃梨ちゃんでも無く、この川嶋亜美が…。
嬉しいなぁ…。
だから…更に悦ばせたくなるのは自然な流れだった。
「は…あ。っ!?くあっ!」
私はおちんちんの頭に甘く口付けし、そのままゆっくり口内へと受け入れる。
週刊誌か何かで知った
『恋人同士のスキンシップ』
をしてみるね。
初めは舌や唇で優しく愛撫するとか書いていたけど……いいや。
初っ端から…良い事してあげる。
初めてだから…上手く出来ないかもしれない。
だけど頑張るから…。
「ん…む。くちゅ…ふ、あふ…」
確か、歯を当てない様にして目一杯呑めば良いんだよね?
「う…あぁ…か、わしまぁあ…!っくう!」
そして舌先でペロペロって…、あ…良いみたい。
「くちゅっ…ふ、ちゅぱっ…ちゅぱっ」
歯が当たらない様に注意し、優しく抽出を繰り返す。
これが結構難しい。
簡単そうに見えるんだけどね…。
まず、意外と顎が疲れる。
そして上手く舌を動かせない。
あとは手でおちんちんの根元を支えてないと、口の中で暴れて喉に当たりそうになる。
「っんう…。あ…。ちゅっぷ!ちゅっぷ!」
上目遣いで彼の反応を確かめながら、何度も繰り返すと段々とコツが分かってきた。
唇で甘噛み、優しく吸い付き、舌全体を使ってねぶる。
そしておちんちんの先から呑めるギリギリまでのストロークで抽出する。
それらを強弱を付けてランダムに繰り返すと良いみたい。
「っはぁ…。っふ…、どう?気持ち良い?」
時折、こうやって口を離しては高須君に聞いてみる。
『どうして欲しい?』
って意味を含めて。
「お、おうっ!もう少しっ…吸って……、っはぁ」
「んふぅ…、ちゅっ!ちゅくっ!……ちゅぱっちゅぱっ!」
高須君が望む愛撫に合わせて、小刻みに抽出を繰り返して舌先でチロチロ。
良くて堪らないのだろう。
彼が震える手で私の頭を撫でて褒めてくれる。
私も…堪らないよ。
興奮しちゃってアソコの奥がジンジン疼いて…熱いの。
頑張って舐めたら…また高須君は優しく愛撫してくれるかな?
そう考える内に『亜美』の熱い涙が内太股を伝うのを感じ、太股をモジモジと擦り合わせて耐える。
「っ…ひゃっ!あ…うっ!」
急に身体に走った甘い刺激に私は啼いてしまう。
そう。上体を起こした高須君が、乳首を摘まんで転がし始めたから。
「あんっ!んあ!あうぅっ!」
私は愛撫する口を離して啼く。
全身を駆巡る高須君の御褒美の甘さに酔い痴れ、高揚した気持ちに拍車が掛かる。
「は…川嶋もう時間も無いし、そろそろ…」
そう言われ私は身体を引き寄せられ、寝かしつかされる。
「た、かすくん…」
膝小僧に手があてがわれ、左右に足を開かれる。
丁度、私の腰の下に膝を差し入れる形で高須君が割って入った。
狭い跳箱と壁の隙間で二人の身体が重なる…。
「そういや…ゴム持ってねぇや…」
急な事だったから準備なんてしてる筈無い…。
膣内に出さなければ………大丈夫だよね?
「…外に出したら大丈夫だよ。ねっ…そんな事より」
私はおちんちんを掴んで、熱さを湛えた秘部に添える。
怖くないのかって?
ぜっんぜん。
そりゃあ本音を言うなら有るよ。……ほんの少しだけ。
でも大好きな人に『初めて』を捧げるんだもん…。
尊い事だから…頑張れる。
チワワみたいに震えてなんかいられない。
「亜美ちゃんのバージンあげる。…忘れられなくなる位…強く刻んで?」
「おうっ。じゃあ…優しくするから…行くぞ」
その言葉に頷き返し、大きく息を吐く。
「んくっ!!んっっ!ふっ!あぁ…くっっ!!」
数度、おちんちんの先で膣の入口を啄む様に押された後、鈍い痛みが走る。
「あくっっ!!はっ!はっ!っっう!!」
私の身体を女にして貰う痛み…。
膣口から内部へと広がって行く熱さと鈍痛…、私は酸素を求めて口をパクパク開けて喘ぐ。
「っ…は。だ、大丈夫か?ふ…痛いか?」
頬を伝う涙を指で拭ってくれる高須君の手を取って強く繋ぐ。
そして両足を彼の腰に絡ませ力一杯引き寄せる。
「んんっ!!……はぁっ!!はあっ!!」
それは…彼への求愛。
『やめないで…高須君を頂戴?』
そう紡ぐ代わりの求愛行動…。
「うぅっ…は、入っちゃったね…」
彼の背中に手を回して抱き寄せ耳元で囁く。
奥まで貫かれ、絶え間なく襲う痛みを堪えながら頬を擦り合わせる。
熱い…高須君のおちんちん…熱いよう。
彼の大きな背中を撫でて確かめる。
想い人に…高須君に抱かれているんだって…。
気持ちが繋がるかは私の頑張り次第…、私は刻んで貰ったから、次はこちらが刻む番。
「んっう!!ん…あ…っは」
私は彼にしがみついたまま腰を上下に捩らせる。
身体が縮まってしまいそうな痛みを我慢して喘ぎながら…。
「お、おい。無理すんなっ…あ。まだ痛いんだ、ろっ?」
私は彼の身体にしっかり抱き付いて、頬を擦り寄せて喘ぐ事で返事とする。
緩やかな動きで膣肉でおちんちんを絡めとり、互いの熱で溶け合う…。
「ふっう…くうぅっっ。っあぁ!た、かすくぅんっ、ひうっ!!」
高須君も腰をグイグイ押し付けて膣肉を掻き回し始める。
背筋に走るゾクゾクとした震え…痛みに微かに混じった甘い甘い快感…。
優しく、甘く、強く…互いに初めての異性を味わうかの如く、ゆったりと均していく。
「うぅんっんっ。ひっあぁぁ……」
シェーン
次第に私の啼き声に艶が混り、彼の下で弓なりに身体を反らして夢中になって甘える。
「か、川嶋…もう大丈夫、か?…ふ、う…」
「あはぁ…あ、あと少しっ!ふっ!」
この蕩けて消えてしまいそうな快感…それを感じていたくて私は両足で更に強く寄せる。腰を捻ると膣壁がおちんちんの頭に抉られ…引っ掛かって堪らない。
同時におちんちんが膣内でおっきくなって跳ねるの…。
高須君も蕩けちゃってる…浅く息をしながら身体を震わせている。
「んあ♪…すっご…。アソコがジンジンして…身体の中が熱いっ…はぁんっ…」
私の後頭部に腕を回して腕枕をしてくれた彼が、壊れ物を扱うかの様に優しく抽出を始める。
硬い張り出しが膣壁を擦りながら抜ける…。
微かに残った痛みと、新たに味わう『雄の味』…身体も頭も沸騰してしまいそうな熱を伴った刺激。
「あふぅっ…。は…う!ああぁ…っ」
抜け出るギリギリになると、まだ狭く閉じられた膣肉を掻き分けて拡がる圧迫感。
お腹の中が疼いて微熱を帯びて蕩ける。
「くふうぅんっ!んあっ!あっ!」
そして、私の奥に達したおちんちんの先がコツコツと力強くノックする。
何回も何回も…子宮口を突かれるの。
その度に私の膣内でおちんちんが跳ねる。
私も…ビクンッてなっちゃうんだ…。
ふふっ…おかしい。二人共、同じ様に喘ぎながら身体を震わせてさ。
…凄く嬉しいよ。
今、私達は一つに溶けているから…。
「ど、どう?亜美ちゃんの中…っん…気持ち良い?」
私は熱に浮かされて汗ばんだ身体を撫でながら問う。
「い、いいぞ。お、おうっ!や、やべぇな…マジですげぇ…よ」
高須君が夢中になって私を貪る。
おちんちんを小刻みに抽出し、腰を打ち付ける。
徐々に速く、強くなる彼の動きに蕩けて正常な判断がつかなくなる。
だから…こう言ってしまった。
「っは!あんっ!キ、キスして?」
私の中の女が欲しがっていて…もう我慢出来なかった。
彼の初めてを貰っても、まだ足りないと貪欲に欲している。
口付けは、せめて高須君の想い人にって…でも一つを手に入れたら、次も欲しくなる。
愛情が込められたスキンシップを…。
もちろん…高須君にとっては今だけの感情だと…擬似恋愛だと分かっていても…。
…欲張りな亜美は高須君の全てが欲しくて堪らない。
反則…かな?
この状況で女の子におねだりされたら、男の子は断れない。
そう分かってるのに…。
「んむっ。…っふ…、あふ」
触れ合った唇を啄まれ、舌先同士が触れる。
それだけで私は高ぶって更に発情してしまう。
甘酸っぱい雄の汗の匂いに鼻をヒクつかせ、頭がボーッとするのを感じる。
口内に侵入して来た舌に絡め取られ、おずおずと自身も真似して絡める。
膣から伝わる甘ったるい快感。
唇で味わう高須君の味。
そして密着した身体が教えてくれる暖かさ。
全てが合わさって、私の身体はフワフワと飛んでしまいそうな気持ちになる。
「くふぅっ!あっ!あっ!!」
高須君が強く腰を打ち付ける。
さっきより奥へと侵入するおちんちんの硬さに私は甘く啼く。
更に強く一打されると私の身体が悲鳴をあげて、跳ねる。
目の前で白い光が爆ぜて消える。
一瞬だけ息が詰まって、疼く膣奥がキュンッと切なさを訴える。
「ひあっ!あっ!あっ!やあぁっ!」
それが連続して休む間も無く続く。
切なさは強い欲求と入れ替わり、私は貪る様に彼に合わせて躍る。
本能に刻まれた雌が勝手に腰を振らせるのだ。
覚えたての甘い疼きを更に味わうために…。
すぐ近くで友人や下級生達が準備をしているのに…私達は『いけない事』をしている。
その羞恥と高須君に抱かれている事実が合わさって、私は淫乱の様に大胆になる。
「ひっ!んんっ!!はっ!はうっ!」
『もっと私を見て。
全部…見て、感じて?
大好きな高須君に知って貰いたいの』
彼の胸板に胸を押し付け、唇を吸う。
唾液と共に舌を潜り込ませておねだりする。
その間も腰を夢中に振って求愛して刻んでいく。
そう高須君の身体に川嶋亜美の味を刻んでいく。
膣壁のヒダの絡み付き、柔らかさ、熱さ…甘えん坊な声、仕草…言い出したらキリが無いけど…。
彼が思い出したら堪らなくなってしまう位に…いっぱい教えてあげる。
私も身体に刻まれたんだから…これで対等に並び立てる。
「っあ!くちゅっ!ちゅっ!んんっ!!んっ!ぴちゅっっ!!」
舌で戯れ合う内に高須君の身体に変化が起きる。
膣内でヒクヒクとおちんちんが跳ね回るのだ。
「あっ!あんっ!くふぅっ!あんっ!!」
荒々しく突き上げられ私は首を反らして息を詰まらせる。
「くうっ!か、かわしまぁ!も、もう我慢出来ね…出そ、うっ!」
私は拘束の手を緩め、上体を上げた高須君に突かれる。
腰を掴まれ、ガツガツとおちんちんで乱打される。
気持ち良い…気持ち良いようっ。く、癖になっちゃう…。
「んあぁっ!!あっ!!あっっ!!ひあうぅっっ!!!」
私の頭の中をストロボの様に光が爆ては消え、目の前が蕩ける。
「ふっ!うぅっ!!ふっ!ふっ!!」
膣内でおちんちんが大きくなったと思った瞬間、一気に引き抜かれる。
「あんっ!」
下腹部から胸まで掛かった熱い飛沫…。
それを感じて理解する。
『高須君が射精…してる』
おちんちんをビクンビクン跳ねさせて熱い体液を吐き出す様を、ボーッとしながら見詰める。
カラカラに渇いた喉で生唾を飲み込み、
事後の高揚感に身体を震わせながら…満たされた気持ちで大きく息を吐く。
.
「よ…いしょっと。んっ。よしっ!」
私は下着を履き直し、乱れた服装を整える。
傍らに落ちている丸まったティッシュをポケットに突っ込んだ後、
髪を軽く手櫛して高須君の側に座る。
「ありがとう高須君。……気持ち良かったよ」
微笑みながら、彼の手を撫でる。
「おうっ。初めてだから必死になっちまった。すまん」
「ん。そんな事言わなくて良いよ」
そう言って私は彼の手を引いて立ち上がる。「あまり遅いと皆に怪しまれるし…行こっ?」
ちょっとだけ痛む腰を手で押さえながら、幸せな気持ちで扉に向かって足を進める。
種は蒔いた。
上手く開花するかは高須君次第。
きっと芽吹く。
それが何かは今は秘密にしておく。
賽は投げられたんだ。
大河…実乃梨ちゃん…アンタらには負けないよ?
続く
今回は以上です。
続きが出来たら、また投下させて頂きます。
では
ノシ
ノシ
160 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/03(金) 00:46:28 ID:PNgqeNgG
GJ
162 :
98VM:2009/04/03(金) 01:36:19 ID:V7Fj7xvL
こんばんは、こんにちは。 98VMです。
「あみママ!」のプロットが全然思いつかないw
気分転換にちょろっと殴り書きしたら、すらすら超絶鬱なのが出来た。
せっかくだから、落としてみます。
登場人物はオリキャラ+あーみん。
ビバ鬱作家。
需要は、たぶん無いww
練習帰りのコンビニで、ファッション雑誌を手に取る事がある。
雑誌に載っているようなブランド物は買えないけど、貧乏な私だってオシャレはしてみたい。
いつも見ているティ−ンズ向けのファッション雑誌。
その子が表紙の時には、ついつい買い物籠にぶち込んだものだ。
輝くような笑顔。
彼女が着ているのと同じ服を着たら、自分もそんな風に輝けるような錯覚に陥る。
まんまとメーカーの罠に嵌められてるな、と思いながらも、どこに行ったら買えるのか
しっかりチェックしてしまうのが乙女心。
私もこんなに可愛かったら、すぐに役が貰えるんだろうな、なんて、ひがみっぽい事を
考えながら、ボロアパートに帰ったものだ。
しかし、どういう運命の悪戯か、ある日突然、その美の化身みたいな少女が私達の劇団に現れた。
その子の母親は、私達役者の卵にとっては憧れの一人だった。
母親の後を継いで、女優を目指すのだろうか。
男の子たちはみな舞い上がって、まるでお姫様を扱うみたいに、もてはやす。
最初の日は挨拶と軽い発声練習。
その子は雑誌で見るよりずっと綺麗で、可愛くて、声まで素敵だった。
そして、想像していたのと違って、謙虚で、一生懸命だった。
けれど、発声は全然駄目。
ごく簡単な台詞もまるで様にならない。
ちょっとほっとした。
いくら大女優の娘でも、いきなり何でもできちゃうなんて無いんだ、って事が、正直嬉しかった。
なんで、こんなに嬉しいんだろうってくらいに。
・・・・・・その時に気がついていたらよかったのに・・・・・・。
何度目かにその子がやってきた時、年嵩の団員が話しているのを、私は聞いてしまった。
次の舞台で、その子が役を貰う、という事を。
ショックだった。
『こんなに可愛かったら、すぐに役がもらえるんだろうな』 そう自分でも考えてたのに。
現実になったら、憎しみしか湧いてこない。
芝居がやりたくて、親に反対されながら、一人東京に出てきた。
バイトと夜学と芝居。
それだけの毎日を重ねて必死になって練習してきた。
それがたったの2〜3日、2〜3日練習に参加しただけの女が。
ただ、綺麗だってだけで、ただ、有名な女優の娘だってだけで。
全てを飛び越えて行ってしまった。
―――許せなかった。
同じ思いの子は多かったのだろう。
休憩室にある自販機に向かう途中に出会った子と、すぐにその話になった。
正直に思った事を口に出す。
間違いなく、彼女はここに居る誰よりも演技が下手なのだ。
だから、どんな悪口でも嘘にはならなかった。
だが。
調子に乗った矛先は、彼女の美しさにまで向かう。 それは最早、ただの嫉妬でしかない。
そうだ。 本当は、最初から彼女の美しさに、嫉妬していたのだ。
けれど、そうすることで無意識に劣等感を拭おうとしていた私達には、たぶんもう止められなかった
のだろうと、今ならわかる。
ガタン
と音がした。 いくつか並んだ自販機の方から。
そこはちょうど死角だった。
けれど、それ以前に。
絶世の美少女が、こんな薄暗い休憩室の、自販機の間に挟まっているなんて、誰が想像できる?
プロのモデルなんだから、表情を作るのなんかお手の物の筈。
でも、失敗している。
愛想笑いになんかとても見えない歪んだ表情。
手した台本がバサバサと揺れている。
まるで凍えたように、体が震えているのに・・・
驚いたことに、彼女自身が全然気がついていない。
何事かを話そうとしたようだが、言葉にはならなかった。
ただ、ぎこちなく会釈をして、休憩室から消えていった。
そして。
その、ひび割れた後ろ姿が、私が生で彼女を見た最後になった。
あの日、一緒になって悪口を言っていた子とは気まずくなって、滅多に話をしなくなった。
だから、今一緒に休憩室でだべっている子達は、あの日の此処での事は知らない。
「ぇー 亜美ちゃん、モデル辞めちゃうの〜 ねー、これ、長期休止、復帰未定だってさ。」
「急に劇団に来なくなっちゃったのって、こういう事だったのかなー」
「え、もう来ないの? うっそ、私友達に自慢しちゃったよ。 亜美ちゃんに演技教えてるんだって。」
「あんた、それ亜美ちゃん来てても嘘じゃね?」
だから、こんな会話が出来るのだ。
人生でたどる道があり、それが誰かの道を横切る度に、その誰かを傷つけていく。
そして、その誰かよりも自分自身が傷付いていく。
こんな陳腐な歌なんか共感できなかった。
でも、今なら解る。
きっと彼女は何年か経ったら、私の顔を見ても何も思い出さないだろう。
でも、私はダメだ。 あんな風に人間がひび割れてしまうなんて知らなかった。
忘れたいのに、気が滅入ると、あの時の彼女の様子がはっきりと浮かんで、私を責める。
謝る事も出来ない。 たぶん、もう会わないから。
だから、私はずっと彼女の歪んだ顔を、忘れられない。 ―――忘れない。
ボロアパートに帰る途中、いつものようにコンビニに寄った。
雑誌がおいてあるコーナーに、彼女の顔が並んでいる。
多分、彼女が表紙を飾るのはこれが最後。
目を逸らした。
私がそのファッション雑誌を手に取ることは、もう無い。
166 :
98VM:2009/04/03(金) 01:40:05 ID:V7Fj7xvL
以上・・・
うっは、暗い。 暗いよ。
すんませんでした。いや、マジで。
つか、あーみんかわいそ過ぎるなコレ。
GJ
本当にもう、ね…
鬱を書かせたら君は一流だよ、鬱系な話が好きな俺にとっては大歓迎
上手いな
巡回していて良かった
GJ…割り込みしてスマソ(´・ω・`)
>>166 心情や情景の比喩描写が上手すぎる
マジでどっから湧いてくんの??
めちゃめちゃGJでした
ご馳走さまです
171 :
arl:2009/04/03(金) 11:49:51 ID:X/mrzmEm
みなさんお久しぶり、arlでございます。
ちわドラ!物を書いてみたんで、投稿します。
ただ、オチもへったくれもない文章になってしまったので、途中からイラつくかもしれません。
そんな時はもう一気にスクロールバーを下へ下へと下げてくださいまし(苦笑)
では投稿します。
172 :
arl:2009/04/03(金) 11:50:42 ID:X/mrzmEm
「2-C崩壊の時」
春もそろそろ姿を見せ始めた三月の朝のホームルームのこと。
高校生活の二年目ももうじき終わろうかというこの時期に、ここ二年C組では、不穏な空気が漂っていた。
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
扉を開けて目に飛び込んできたのは、これでもかと言うくらいにがしがしと頭を掻き毟る手乗りタイガーこと逢坂大河だった。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その傍ら、大河の友人である櫛枝実乃梨もまた、大河と同様に苛立ちを含んだ声を上げながら、太陽のように赤い髪を掻き毟っている。
二人とも美しい顔立ちをしていたため、思わず目がいってしまったが、二人から目を離し周りに向けてみると、二人みたいに髪を掻き毟っている者や、声を上げているもの、蚊に刺された時のように体を思いっきり掻いているものもいた。
一見一言で言えば、わけわからん。
とある内閣総理大臣の言葉を借りるならば、『複雑怪奇』。
教室中が苛立ちと『羨望』であふれていた。
「……うお!?どうしたんだ皆!?」
いつもならのどかな朝の一時を満喫しているはずだった。
その『いつも』が見られない様子に、生徒会関係で一番遅く教室に入ってきた北村裕作が驚きの声を上げた。
しかし誰も反応しない。
「おい!春田!?」
たまたま近くにいた春田浩次に話しかけてみる。
すると僅かにだが反応があった。
「あ……、大先生…?」
春田は北村に顔を向けると、そう呟くようにいった。
その目は虚ろで、生気が感じられない。いつも纏っている馬鹿なオーラも、微塵も感じられない。
これはそうとう重症だ、と事の深刻さをひしひしと感じながら、北村は春田に尋ねる。
「何があった!?お前もだが、みんなおかしいぞ!?」
「……おかしいのは俺たちじゃないよぉ…」
虚ろな瞳に涙を浮かばせながら、春田は答えた。
「? いや、どう見てもお前たちの様子はおかしいぞ?」
「本当なんだよぉ…。おかしいのは俺たちじゃないのぉ…」
わけが分からず北村は戸惑う。春田の言っている事がさっぱりわからないのだ。
「すまん、もう少し詳しく教えてくれ…」
なのでもう少し詳しく、と再び春田に説明を催促。
173 :
arl:2009/04/03(金) 11:51:42 ID:X/mrzmEm
しかし春田には二度も説明する気力は残されていなかったのだろう。
「……あれを見てれば分かるよ、大先生でもさ…」
窓際の方を指で指しながら春田はそう呟くと、「気分悪…。俺保健室行ってくる」と言い残して教室を後にした。
するとその言葉を待っていたかのように、クラス中から「俺も…」「私も、ちょっと保健室に…」「てか俺、帰るわ…」との声がぼそぼそと上がってきた。
「ちょ、ちょっと待てみんな!なんだ!?ほぼ全員が保健室に行きたいのか!?」
教室を出ようとする足の数の多さに、さすがの北村も戦慄を覚えた。
何故なら、先ほど虎の咆哮を上げていた逢坂大河までもが、顔色を悪くさせながら教室を出ようとしているのだから。
「どうしたんだ…。一体、何が…!?」
思わず起った鳥肌に体をぶるっと震わせながら、「そうだ、春田の!」
春田が指差した、窓際のことを思い出した。
「きっと、それが原因に違いない…」
みんなの様子がおかしかった原因は、そこにあるはずだ。
幽鬼のようにふらふらと教室を出て行ったクラスメイトたちの憔悴した姿を思いながら、ごくりと喉を一つならし、意を決してその方向へ目を向けた。
そこで、北村が目にしたものは。
「――――っ!?」
目に飛び込んできた光景に、北村は言葉を失った。
大橋の町が見渡せる、見晴らしの良い窓際の後ろ側に、『それ』はあった。
今日は天気が良く、暖かな日差しが窓から差し込まれている。
北村の目に最初に入ってきたのは、その日差しに照らされ、美しく輝いた幼馴染の顔だった。
いうまでもない。川嶋亜美その人である。
モデルという職業に就いてるだけあって、くっきりとしたボディーラインが制服越しからでも見て取れた。
幼馴染である北村も、息を飲んでしまうほど。
しかし北村が言葉を失ったのは、そんな亜美の美しさに見とれていたからではない。
・・・・・
亜美の状態に、唖然としてしまったからだ。
174 :
arl:2009/04/03(金) 11:52:13 ID:X/mrzmEm
亜美は自分の席――最後尾の窓際。つまり春田が指差した場所――に座っていた。
とても機嫌が良いらしく、鼻歌を口ずさんでいる。
それはいい。何故ならもう少しで、朝のホームルームが始まるから。
機嫌も、悪いより良いほうが良いに決まっている。
問題は、腰掛けている『者』だった。
「………亜美?」
恐る恐る、北村は幼馴染に話しかける。
しかし、言葉は返ってこない。
「……亜美!」
しかし、北村はめげない。
再度、声を荒げて名前を呼ぶと、ようやく亜美の顔が北村に向けられた。
「………?あれ、裕作じゃん、おはよー♪」
そしてニッコリ、と。その仕草に北村は思わず身震いした。
あまりにも『素』な笑顔を向けられたから。
もしかしたら初めてじゃないだろうか。
しかし、本来ならば喜ぶべきその出来事も、今の現状では素直に喜べない。
理由は目の前にある。そして彼は、今からその理由を確かめるのだから。
「……な、何をしてるんだ?お前『達』は」
声が震えた。なるほど、これはクラスがあんな状態になるわけだ。
「んー?やだ、見て分からないの?座ってるのよ」
「何に?」
北村の再度の問いかけに、亜美は相も変わらない笑顔で答えた。
「高須君の、お・ヒ・ザ(はぁと」
「何でだ!?」
そう、亜美は確かに席についていた。
・・・・・・・
だがなにも、自分の席の椅子に座っているとは限らなかったのだ。
いや、普通は限るのだが、今の彼女の状態は、その限らない部類に属していた。
亜美の小ぶりなお尻が乗せられていたのは、無機質な木の板の上ではなく、温もりのある男子生徒の太腿だったのだ!
「だってぇ、亜美ちゃんはぁ、竜児の傍にいたいんだもーん」
「高須も!お前ともあろう者が、何をしてるんだ!?」
北村に言及され、亜美に膝を貸している恐ろしく目つきの悪いその男子生徒は、照れくさそうに答えた。
「お、おう…!その、お、俺も亜美と離れたくなかったし、HRになったら自分の席に戻るつもりだったから、今くらいはいいかな、と…」
175 :
arl:2009/04/03(金) 11:53:13 ID:X/mrzmEm
高須竜児。生まれつきである三白眼故にヤンキーと誤解されている彼は、中身はとっても優等生であった。成績優秀、学校行事にも一生懸命取り組み、何よりも彼一人の手によって2年C組の清掃評価が常にA判定であることは、もはや伝説となってきている。
そんな外見と中身が全く違う彼は、川嶋亜美の彼氏であった。
彼らが付き合い始めたのはつい最近だ。
バレンタインデーを過ぎた辺りから、なにやら二人の間の空気が変わり、間もなく二人は付き合い始めたのだ。
これには学年、いや学校中が驚いた。
ヤンキー(誤解)と名高い高須と、学校のアイドルである川嶋亜美が付き合い始めたのだから。
亜美に憧れを抱いていたものはもちろん、容姿に自信があったにも拘らず、亜美にあしらわれたイケメンたちは、ショックの海に沈んだ。ざまぁ。
川嶋亜美が何故高須竜児を選んだのか、それは亜美自身にしか分からない謎だが、とにかく二人は恋人同士だった。
(そんな事はどうでもいい)
誰にしているかも分からないこれまでの経緯を頭から振り払って、北村は二人を見た。
相変わらず亜美は幸せそうに竜児に身体を預けているし、HRには自分の席に着くといった竜児は、離れるそぶりも見せずに、恐ろしい三白眼を細めながら亜美の頭を優しく撫でている。
「ねぇ竜児…?」
「ん?どうした、亜美?」
そんな二人は、もう眼前の北村が見えていないのか、その場に二人しかいないかのように互い見つめあいながら言葉を交わし始めた。
「あのね、お願いがあるんだけど」
「おう、なんだ?欲しいモンがあるなら、あんま高くない物ならかってやるぞ」
「本当!?じゃぁ、あの…、竜児が良ければタダなんだけど…」
「何!?タダならいくらでも買ってやるぞ!」
それはもはや買うことにならないんじゃないか、というツッコミはなしにして。
竜児の言葉に、亜美の顔がぱぁっと輝いた。
「じゃあ、本当にいいの!?」
「おう!言ってみろよ」
「うん!私……、――――が欲しいな」
「え?」
「だから、その…。りゅ、竜児のキスが欲しいな、って…」
北村の思考が硬直した。
は?おい、今目の前の幼馴染はなんといった?
176 :
arl:2009/04/03(金) 11:55:03 ID:X/mrzmEm
キス?あの、猫かぶりの我侭の自分が一番主義のお姫様思考の川嶋亜美が?
「えっ…そ、それは、その…」
「ダメなの?昨日の夜は………あんなに激しかったのに…」
ハツカネズミのように思考がぐるぐる回っている北村には幸い、亜美の呟きは聞こえなかった。
しかし竜児は顔が真っ赤だ。
「お、おい…!き、昨日はお前がもっとって…」
「えー!竜児、亜美ちゃんのせいにするの?昨日は絶対、竜児がケダモノだったんだから!
」
次々と交わされる爆弾発言の渦中にも拘らず、北村の思考は復活の兆しが見えない。
「もういい!竜児は亜美ちゃんの事が嫌いなんだ!」
「ちょ、ちょっと待て!?どうしてそうなる!?」
「だって…!言い訳ばっかり言って、竜児は亜美ちゃんとキスしたくないんでしょ!?」
「そんなわけあるかっ!好きな娘とキスしたくない男はいないんだよ!」
「ウソ!だったらどうして!?」
「俺だってお前とキスしたいよ!どうどうと!!何回でも!!」
竜児が自棄気味に言い放った言葉に、大きな瞳を涙で滲ませていた亜美の動きが止まる。
「……本当?」
「あぁ、そうだよ!俺が躊躇したのは、その…」
「? その、何?」
なみだ眼で首を傾げる彼女は、なんて可愛いんだコンチクショウ。
竜児は後ろから亜美を抱きしめ、言葉を続けた。
「その…キスしちまうと、止まらなくなっちまうから…」
「――――。」
恥ずかしかったのだろう、呟かれるように発せられた言葉に、不安げなだった亜美の表情が喜びに変わる。
作られたものではなく、その笑顔は亜美の『素』。心からの笑顔。
「そんなの……」
「え?」
「別に、我慢しなくていいんだよ」
その笑顔のまま、亜美は竜児に向き直し、竜児に思い切り抱きついた。
そうすることで、亜美の顔は竜児の胸に埋まる。
「だって私も…、その、竜児がそうなるの、嫌いじゃないし……」
「亜美……」
制服越しに感じる彼女の吐息に胸を躍らせながら、竜児は愛しい彼女の名を呟く。
「お前は……。お前は、いいのか…?」
177 :
arl:2009/04/03(金) 11:56:11 ID:X/mrzmEm
「…うん。だって亜美ちゃん、竜児の事が大好きだから」
――そう、呟かれた瞬間、竜児は亜美の唇に、己の唇を重ねた。
柔らかく甘い感覚が、竜児の思考を鈍らせる。
「ん…。んぅ…」
「んはっ…、はぁ…っ、ん…」
亜美は竜児を抱きしめる腕に力を入れ、もっと、もっと、と竜児の唇を求める。
それに答えるように、竜児もまた亜美を強く抱きしめ返し、唇を重ねる。
まるで貪るかのように、幾度も唇を重ねては、離す。
「ね……竜児…私、もう…っ」
荒い息をつきながら、亜美が切なげな声を出した。
竜児は一つ頷くと、そのまま亜美を押し倒し、
「…あぁ、わかった。正直、俺も限界だ…!!」
ここが教室であることも忘れて、二人は―――!
クラスは呆然自失、頼りの北村も目が虚ろで、あてにならない。
もはや学級崩壊となってしまった2‐C組に響くのは、境目を失くした恋人たちの、嬌声のみであった。
BadEnd(?)
178 :
arl:2009/04/03(金) 12:01:29 ID:X/mrzmEm
これで終わりです。
最後まで読んでくださった方々、本当にありがとうございます。
途中でアウトされた方も、途中まで読んでくださりありがとうございました。
改善点などがございましたら、是非教えてください。
正直、書いている自分としては、どこに問題があるのかが曖昧
なので、そういった意見がもらえると嬉しいのです。
とらドラ!Pの亜美ルートを全てクリアしたら、また書いてくるかもしれません。
その時は、よろしければこの馬鹿(arl)にお付き合いくださいましm(__)m
おもろいw GJ!
でも途中までは竜児が四つん這いで人間椅子やってるのかと思ったがww
>>139-158 とてもエロイ。今は会社なので今夜楽しむ。
>>162-166 なんという不幸体質。ゆゆぽ女史言うところの「かわいそう萌え」という奴か?
実際、美人って同性の僻みやら振った異性の嫉妬やらで大変な目に遭ってたりする。
>>171-178 寡作の書き手さんキタ。長いこと寝かせてじっくりと推敲しまくった感じで読みやすい。
この方もいよいよもって「あみドラ派」ですね。
>>180 俺もそう思たww
むしろそっちキボンヌwww
>>178 GJ!
とりあえずお二人さん、独神のタタリにご注意ください
>>178 GJ!
独神が血の涙を流して見てるぞw
>>171-178 GJ、笑いを書きたかったのかエロを書きたかったのかわからんが
自分が読みたいって思ってるパターンの作品と全然違うのに凄く楽しく読めたぜ
あぁこういうパターンも自分の中でありだったんだなと
北村が唖然としてるとこで爆笑しつつ思っちまった
竜虎ものってここでいいの?
専用のスレじゃなくて…
キャラスレに投下するかこっちに投下するかは自由だよ
俺としてはどっちも見るから問題なし
ありがとう、がんばって書いてみる
こいこいこい俺がぜんぶうけとめてやる
俺も俺も
192 :
M&S:2009/04/04(土) 20:48:31 ID:u0Ync8Tj
今スレ最初から見直したけど
痛いなぁ…自分…
ここの人は皆優しい
ありがとうそして色々ゴメン!
このスレはみんな優しいなww
194 :
98VM:2009/04/05(日) 00:19:20 ID:Ofbgm5ZS
「『あみママ!』のプロットを考えていたら、またしても鬱な作品を
気分転換と称して書いていた。
人、それを『適応機制:逃避』と呼ぶ!」
「な、何者だ!」
「貴様らに名乗る名前など、無い!!」
嘘です。 こんばんは、こんにちは。 98VMです。
すんません、またやっちまいました。
一応投下してみます。 結構物好きな方がいるようなので(爆)
「ある劇団員の告白」と対になる作品。
登場人物はあーみん。
195 :
雫 1/3:2009/04/05(日) 00:20:22 ID:Ofbgm5ZS
誰かに縋り付きたいような夜。
そんな日に限って、伯父も伯母も居ない。
泣きついたり、甘えたりするわけじゃない。 ただ、自分以外の人が近くに居る。
それだけでもいいのに。
思えば、今に始まったことじゃない。
いつだって、いつだって、誰かに助けて欲しい時に限って、あたしは独りだ。
―――多分、神様に嫌われているんだ。
あたしは嘘つきで、皆を騙し続けているから・・・。
稽古場から逃げるように飛び出して、一目散に家路を辿る。
逃げるように・・・・・・って? 笑っちゃう。
実際、逃げ出したくせに。
自分がみてくれだけの空っぽな偶像だってのは、知っているつもりだった。
演技が下手なのだって、最初なんだから仕方ないと言い聞かせてた。
だから悪口を言われても平気だと、我慢すればいいんだからと。
けれど、ずっとがんばっていた子達をなんの苦労もせずに踏みつけていくなんて、
そして、そんな子達の恨みを突きつけられるのが此れほど痛いなんて、
あたしは、耐えられなかったんだ・・・。
鍵を持つ手が震えて、なかなか家に入れなかった。
上ずった自分のうめき声がキモイ。
やっと扉を開くと、一目散にバスルームへと向かった。
乱暴に服を脱ぎ散らす。
どこからか、ボタンがちぎれ飛んで、床に落ちる音。
冷たいバスルームに飛び込んで、頭からシャワーをかぶる。
なんとか間に合った。
最初の冷たい水に竦み上がりながら顔を上げ、顔面でシャワーを受ける。
ぎりぎり、泣かずにすんだ。
お湯の勢いが強くて、下を向いた顔を、熱い液体が流れていく。
これは、涙、なんかじゃ、ない。
体を滑り落ちるお湯が、凍えきった体を溶かしていく。
体を打つ水音が、己の醜いうめき声を消していく。
それだけでも、少しは救われるような気がして。
あたしは身じろぎ一つ出来ないまま、シャワーを浴び続けていた。
けれど、心を洗い流すことは出来ない。
お湯の温もりも、心までは届かない。
・・・助けてよ・・・
・・・誰か・・・
・・・寂しいよ・・・
・・・寂しくて、寂しくて、寂しくて、寂しく、て ・・・堪らないよ・・・
196 :
雫 2/3:2009/04/05(日) 00:21:45 ID:Ofbgm5ZS
―――誰も居ない家。
少女はただひたすらに土砂降りの雨に打たれている。
自然の雨なら、激しさの中にも、生命を労わる優しさを秘めている。
だが、今少女を打ち据えている人工の雨は、ただ、激しいだけだった。
どれほどの時間が経った頃か。
やがて少女は、激しい雨から身を守るかのように、己の肩を抱く。
幼い頃から、その少女には『あるべき姿』が決められていた。
その姿でいる限り、少女は褒めて貰える。 皆にもてはやされる。
皆、少女にその姿を求めているのだ。
―――それは、確かにその少女の一部ではあったが、決して全部ではない。
いつしか少女には『影』が生まれていた。
『あるべき姿』が輝けば、輝くほど、『影』もまた、存在を確かにしていく。
少女に惹かれた者たちも、『影』を知ると皆離れていく。
少女は己の『影』に戦慄し、より一層『あるべき姿』に固執した。
―――それらは、確かにその少女の一部ではあったが、決して全部ではない。
だが、少女は『影』を見られる度に失われる繋がりに、意義を見出せなくなっていた。
いずれ消えていく繋がりなど要らない。
『あるべき姿』で付き合うだけで、それでいい。
諦観。
そして訪れる孤独。
もしも、全てを曝け出して、それでもなお、少女を抱きしめてくれる者に出会えたなら。
少女はきっと、救われるのだろう。
しかし、今は誰も居ない。
縋り付くべき腕も、飛び込むべき胸も、少女の手の届くところには、無い。
だから、それは必然だったのであろう。
少女を抱きしめる腕は、少女自身の腕だった。
濡れた唇が、誰かの名前を紡ぐ。
それは完全に名前の形を成す前に、きり、と結ばれた少女の唇に遮られる。
俯く少女の頬には繊細な髪が張り付き、白い大理石のような滑らかな肌に模様を成す。
伏せられた睫毛に絡んだ水滴が、揺れる瞳と輝きを競う。
その大きな琥珀がかった双眸も、高すぎない筋の通った鼻梁も、紅玉の如き唇も、
奇跡のようなシンメトリーを成し、小さく美しい輪郭にバランスよく収まっている。
古のギリシャの彫刻家が彫ったかのような相貌は、シャワーで温まった故か、
あるいは、別の理由か、桜色に上気している。
肩を抱きしめていた少女の指は、滑るように贅肉を一切廃した鎖骨を横切り、少女の体脂肪の
大部分を占めるのではないかと思わせる、美しい膨らみに流れ着いた。
双丘は少女の指によって自在に形を変える。
潰され、持ち上げられ、離れ、あるいは寄せられ、跳ねる。
やや褐色がかったピンクの先端はたちどころにその体積を増やし、天を突き刺す。
少女の唇から、微かに甘い声が漏れ始める。
やがて、少女の右手は乳房を離れた。
拘束を逃れた右の膨らみは、先ほどまで、まるで液体のように形を変えていたというのに、右手
の支持を失っても、美しい半球形を保ったままだ。
少女の右手は、微かにあばらの線が見える胸郭から、滑らかに窪んだ鳩尾を過ぎ、腹筋の存在
をうかがわせる腹部、臍、細くくびれた腰を過ぎ、腰骨の突起も、緩やかな曲線を描く下腹も通り
過ぎて、ついに茂みに覆われた小高い丘に達する。
茂みをかき分け、丘を均すように右手が弄る。
足の付け根から見れば唐突に盛り上がったそこは、少女の手によって、切なげに変形する。
そして、堪え切れなくなった様に、丘の中腹から始まる渓谷に指が滑り込んだ。
少女の体が震える。
肉感的だが、その長さ故、寧ろ細く見える足が、体重を支えることを拒否したのか。
少女の水を含んで重くなったロングヘアーが、雫を撒き散らしながら、沈む体の後を追った・・・。
197 :
雫 3/3:2009/04/05(日) 00:22:20 ID:Ofbgm5ZS
あたし、何をしているんだろう。
お湯で温まった特殊樹脂の床は表面は暖かかったが、体を横たえてしまえば芯から冷たさが
伝わってきた。
自分の体に当たってはじけるシャワーのお湯が煩くて、細目で浴室の天井を見ている。
何度ものけぞり、痙攣した体は、もう力が入らない。
飛び散った己の体液を思い出し、ここが浴室でよかったとか考えてる。
やっぱり、あたしって万年発情チワワなのかな、とか自嘲したくもなるというものだ。
第一、こんな事をしたって寂しさなんて紛れやしないのだ。
頭が白くなる一瞬だけ、本当にその一瞬だけ、救われる。
そしてその後、襲ってくるのは・・・
圧倒的な寂しさ・・・
変わらない。 なにも解決しない。 ただ快楽が欲しかっただけ。
やっぱり、あたし、最低だ。
寂しくて・・・
あの人の事が頭に浮かんで・・・
優しくして欲しくて・・・
―――夢の中に逃げただけ。
「た・・・か・・・」
駄目だ。 その名前を口にしたら。
何度も、何度も、思い知らされてきたじゃないか。
彼の心の中に、あたしは居ない。 居ないんだ・・・。
そのまましばらく虚ろな目で横たわっていた。
今のあたしの姿を誰かが見たら、死体と勘違いしそうだ。
無理やりに体を起こして、シャワーを止める。
水道代、バカになんないよね、なんて、今更思いついた。
ここに来る前の自分なら、そんな発想なんて無かった。 お金は湯水のように使うものだったから。
でも、湯水のようにって・・・あれ? 矛盾してるや、なんて、可笑しくも無いのに笑い出す。
だって、そうでもしないと立ち上がれそうにもない。
シャワーを止め、ふらつく体をなんとか支えて膝立ちになる。
自分自身の存在の空虚さとは裏腹に、体がひどく重い。
鏡に映った自分の顔を見て、いっそぐちゃぐちゃにしてしまいたい衝動に駆られる。
そうすれば、本当にあたしには何も無くなる。
・・・ばかばかしい。 あたしにそんな勇気なんてあるわけない。
もう、寝よう。
今なら眠れそうだ。
脱衣所に散らばった衣服を見て呆れた。
無様な女。
こんな姿を見たら、誰ももう、『大人っぽい』なんて言わなくなるだろう。
実際、あたしは大人っぽくなんかない。
ただ、皆の近くに行けないから、遠くから見ているしかないから、だから色々見えるだけ。
ただ仲間に入りたくて、自分を見てほしくて、首を突っ込んでぐちゃぐちゃにした。
何をやっても上手く出来ない。
ちぎれたボタンを付け直すことすら、あたしはできないんだ・・・。
バスタオルを体に巻きつけ、さらにもう一枚バスタオルを頭から被る。
脱ぎ散らされた衣服に混じって、台本が落ちていた。
拾うつもりで屈んだ時。
台本がポツポツと濡れていく。
それはきっと、
きっと・・・
洗い髪から滴る ―――― 雫だ。
198 :
98VM:2009/04/05(日) 00:24:34 ID:Ofbgm5ZS
以上です。
本当にすまんかった、あーみん。
別にいじめてるわけじゃないんだ。許してくれwww
PSPでは絶対に幸せにすると、約束する。
199 :
SL66:2009/04/05(日) 01:15:54 ID:hU0Y/TS9
98VM様 GJです。
こういう耽美的なのは、私、書けませんので、正直すごいです。
で、お待たせ致しました(?)
「我らが同志」の後編をトータル55レスで、明け方から投下を開始する予定です。
今しばらく、お待ちください。
なお、前回は途中で規制にひっかかり偉い目に遭ったので、
まず5時ごろに半分投下し、2時間30分後に残りを投下する予定です。
>>198 乙!PSP同感だぜ!
>>199 神キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
マジ期待
>>198 鬱神降臨、あんたの作品は文学的とすら言えるぜGJ
202 :
98VM:2009/04/05(日) 01:35:57 ID:Ofbgm5ZS
>>199 ありがとうございます! 大御所からのお褒めの言葉、恐悦です。
続編、超待ってました。 楽しみでなりません。
>>192 とらドラ!の類友が優しい人多いのかも知れんよw
何か居なくなりそうな雰囲気だが大丈夫か?
最近で珍しい2828みのりんなのに
SL66さんはもう文庫出せる量じゃないか
早く朝になれw
204 :
SL66:2009/04/05(日) 05:08:03 ID:hU0Y/TS9
では、時間となりましたので、まずは28レス分投下を致します。
なお、途中で、10分以上、当方から応答がない場合は、連投規制に
やられたものと看做して、次に投下予定の方を優先してくださって
構いません。
では、次レスより、「我から同志」(後編)のスタートです。
「お、おい、待て、川嶋ぁ!」
恐慌を来し、逃げるように走り去った亜美へ向けた竜児の叫びは、虚しく闇へと吸い込まれていった。
時刻は午前1時近く。終電はとっくに終わり、駅のロータリーの照明も消され、人影もまばらだ。
その人影が、「触らぬ神に祟りなし」とばかりに、鼻血を吹き出しながら跪いている竜児を避けて足早に過ぎ去っていく。
「くそっ!」
竜児は立ち上がって亜美を追いかけようとした、しかし、鼻血はなおも止まらず、竜児の胸元と、直下の地面に滴り続
けている。とてもじゃないが、全速力で逃げ去った亜美を追える状態じゃない。
血塗れの手を黒いデニムのポケットに突っ込み、長年使い込んだ青い携帯電話を取り出す。フリップを開ける暇ももど
かしく、リストから亜美の番号を選び、通話ボタンを押した。プツプツという無味乾燥な呼び出し音が聞こえてくる。
竜児は、亜美が応答してくれることを願いつつ、その携帯電話を左耳に押し当てた。
--川嶋、早く出てくれ。
鼻血が絶え間なく吹き出してくる。竜児はそれを右手の甲で拭ったが、何滴かが携帯電話の操作盤に滴り落ちた。
ジュッ! という音が微かに聞こえ、何かが焦げたような臭いがした。ボタン回りが何もシーリングされていない旧式の
携帯電話、そのボタンの隙間からしみ込んだ鼻血が、基盤をショートさせていた。
「ちくしょう! 何てこった」
携帯電話は、うんともすんとも言わない。何て迂闊な…、と竜児は自身を呪った。
平常心ならこんな失態はなかっただろう。塩分を含み、ただの水よりも電気を通しやすい血液が電子機器にかかった
らどうなるかぐらい分からないはずがない。亜美のことで狼狽した竜児も又、持ち前の冷静さを欠いていた。
竜児は、役立たずになった携帯電話を左手で握りしめ、右手でなおも鼻血を吹き出し続ける鼻面を押さえながら、よろ
よろとバスロータリーに設置されているベンチに向かった。
そのベンチへ大儀そうに腰を下ろすと、顔面を上に向ける。次いで、手探りでバッグのサイドポケットをまさぐってポケッ
トティッシュを取り出すと、それを丸めて左右の鼻腔にねじ込んだ。
最早、亜美と連絡する手だても尽きた。亜美の携帯電話の番号は憶えてもいないし、メモに控えてもいない。携帯電話
に記録されていれば十分だと思っていたのが裏目となった。公衆電話があったとしても、これではどうにもならない。
じれったいが、このまましばらく上を向いて、鼻血が治まるのを待つことにした。
竜児が見上げたその先には、街の明かりと梅雨時の湿気を帯びた大気のせいで、薄ぼんやりとした星空が広がって
いた。その星の乏しい夜空を見ていると、亜美とのやり取りの数々が思い出され、ますます気分が滅入ってくる。
竜児は、それ以上星空を見ることにいたたまれなくなって瞑目した。だが、まぶたを閉じても亜美の姿が浮かんでくる。
『あんたって、本当に“気遣いの高須”なの? まぁ、既に看板倒れもいいところだけどさぁ』
と、怒りを通り越して呆れ果てている亜美の姿。
『据え膳を食べて貰えなかったっていうのは、女にとって屈辱なの。その点は分かってちょうだい』
努めて冷静さを装ってはいるものの、屈辱感から今にも頽れそうな亜美。
『もういい! 高須くんは、やっぱり亜美ちゃんのことなんか好きでも何でもないんでしょ! ラブホは不潔だ、別荘に行
くのは現実逃避だって、そんなことを口実に高須くんは、あたしから逃げて、逃げて、逃げてばっかりじゃないのぉ!!』
そして、竜児に拒まれたことで泣き叫んでいた先刻の亜美の姿が脳裏に浮かぶ。
「受け入れてやるべきだったのかな…」
鼻血のせいで鼻全体が腫れぼったい感じがする。それに呼応してか、頭の芯はぼやけていて、考えがまとまらない。
慢性的な睡眠不足に加えて、鼻血による出血のせいもあるのだろう。気を抜くと、視野が暗転し、意識を失いそうになる。
「しっかりしろ、俺!」
自ら喝を入れるつもりで、竜児は両頬を両手で挟むようにして強めに叩いた。
今、気遣うべきは亜美の安否だ。取り乱して発作的に自殺するような奴ではないと思いたいが、何せ今の亜美は尋常
な状態じゃない。それに、事故や何らかのトラブル、考えたくもないが、通り魔的に暴行を受ける危険だってある。そん
なときに亜美を救ってやれるのは竜児しか居ないのだ。
竜児は、鼻腔に詰め込んでいたティッシュペーパーを引き抜いてみた。どろりと、ゲル状に半ば固まった鼻血が、こって
りとしみ込んでいる。この様子なら鼻血は止まっている。何とか亜美の後を追って歩くことぐらいはできるだろう。
竜児は、バッグを持って立ち上がった。数学の専門書や条文集、さらには一キロ半を超える重さの青本が入ったそれ
は、ずっしりと重い。
竜児の鼻先をかすめた亜美のショルダーバッグもこれと似たような重さだったに違いない。まともに喰らっていたら、
間違いなく鼻骨が折れていた。その点だけは僥倖だった。
そのバッグを肩に掛けて、竜児は歩き出した。
「待ってろ…、川嶋、今、助けてやる…」
当てなどはなかった。亜美が闇の中に消えていった。だから、その闇の中を探るまでだった。
闇雲に走り回った亜美は、息苦しさから立ち止まり、鉄のフェンスにつかまった。そのフェンスは、大橋の欄干だった。
「こんなところに来ていたなんて…」
駅からはだいぶ離れたところに来てしまっていた。時刻が時刻だけに、辺りには人影がない。ただ、ヘッドライトを輝か
せた長距離便のトラックが通り過ぎていくだけだ。
亜美は、そうして行き交うトラックを物憂げに眺めながら、欄干にもたれて乱れた呼吸を整えようとした。
本当に無我夢中で走ったせいで、心臓が限界近くまで脈打ち、胸全体が重苦しい。
「うっ!」
不意に突き上げるような吐き気を覚え、亜美は口元を掌で押さえた。酔いが完全に覚めていない状態で走り回ったの
だから無理もない。
「き、気持ちわ・る・い…」
亜美は、欄干から身を乗り出して、暗い川面に顔を向けた。墨を流したように真っ黒に見える水面が、橋に備え付けら
れている街灯の青白い光を映し出している。
その淀んだ川面から水が匂う。
だが、それは、水質が良好ではないことを示す腐ったような臭気に、初夏になって繁茂した藻の青臭さが加わった、胸
がむかつく異臭であった。
「う、うううう、は、吐きそう…」
その汚臭がとどめとなって、亜美は、川面に向かって胃の内容物をぶちまけた。
「うえええええっ!」
胃酸を思わせる刺激臭を伴ったそれは、虚空を飛散し、ぴちゃん、という水音とともに水面の光を揺らめかせ、そして消
えた。
水面の揺らぎはほんの束の間で収まり、再び先刻と同じように街灯の光を映し出す。その様を、亜美は茫然として見送
るように眺めていた。
思い出すのは、顔面を血塗れにして、跪いている竜児の姿。その傷つき血を流している竜児を見捨てて、亜美は逃げた。
『高須くんは、あたしから逃げて、逃げて、逃げてばっかりじゃないのぉ!!』
そう竜児を詰った亜美だが、その亜美こそが、いざとなると竜児から逃げたのだ。
血塗れの鬼気迫るような竜児に恐れをなしたというのもあるが、何よりも竜児を傷付けた己の行為に戦慄し、その場
に居るのが耐え難かった。
「終わった…」
何もかもが破綻したような壊滅的な気分だった。泣きたくても涙すら出てこない。
何であのとき、竜児の傍に寄り添って手当をしてやらなかったのだろうという悔恨が、今となっては、切なく虚しい。
「う、うふ、うふふふ…」
亜美の顔が笑ったように引きつった。決して笑っているわけではない。精神的に追いつめられて、顔面だかの神経がお
かしくなっている感じだった。
そういえば、恋ヶ窪ゆりも、勢い込んでデートに行った翌日、こんな状態だったことがあった。それを、麻耶や奈々子と一
緒に陰でくすくす笑ったものだ。それが、よもや、自分が同じような境遇に置かれるとは…。
こんなの、全然、笑えない!
亜美は、街灯の青白い光を映す水面に吸い寄せられるような気がした。このまま飛び込めば、全ての懊悩から解放さ
れるに違いない。泳ぎの心得がある亜美だが、ショルダーバッグには青本をはじめとする分厚い専門書が詰まってい
る。水がしみ込めば、格好の重石になってくれることだろう。
亜美は、欄干の上に突いた両手を支えに川面の上へと身を乗り出した。川面の光は妖しく揺らめき、亜美を誘う。取り
合えず吐くものは吐いてしまったせいなのか、青臭い汚臭も今は全く気にならなかった。
その光は、竜児の顔となり、母親である川嶋安奈の顔となり、麻耶や奈々子の顔となり、北村祐作の顔となったように
亜美には思えた。
「みんな、そこに居たの…」
このまま飛び込めば、竜児たちに会える。そんな思いで、亜美は、欄干から大きく身を乗り出した。
後は、この手を欄干から離せば、全てから解放されるのだ。
不意に一陣の川風が舞った。川面に生じたさざ波が、川面に揺らめく妖しい光を打ち消した。
亜美は、はっとした。
さざ波が収まり、元のような光が川面に戻ってきたとき、その光は、先刻、亜美を辱めた瀬川の意地悪い笑顔に見えた。
「あんちくしょう…」
亜美を利用して、サークルを分裂させた憎むべき女。ここでむざむざ死んだら、あの女のことだ、さぞや憎々しげに笑う
ことだろう。
何よりも、死んでしまったら、あの女への報復ができない。
生きていてこそ、弁理士試験にも合格し、あの女の鼻を明かすことができるというものだ。
光は再び妖しく揺らめき、今度は櫛枝実乃梨の容貌を映し出した。
きらきらと太陽のように輝かしい笑顔は、天性のものなのだろう。どこかに翳りを秘めた亜美のそれとは全くの別物だ。
それも道理。亜美の天使のような笑顔は、女優の娘として、モデルとして、人工的に与えられたものなのだから。
本来の地味で陰気と言ってもよい性格では、女優川嶋安奈の娘にはふさわしくない。そのために、母を含めた周囲の
大人たちの要求に応えた演技に過ぎない。
実乃梨は太陽、亜美は月。与えられた明るさを反射するだけの月は、本来、太陽には敵わない。
しかし、太陽である実乃梨にだって、黒点のようにどす黒く醜い負の感情があることを亜美は知っている。
何より竜児を巡る諍いで負けるわけにはいかない。竜児も月なのだ。月と月こそが結ばれるべきではないか。
月が月を求めて何が悪い。
そのためにも生きるのだ!
「きゃっ!」
正気に戻った途端、欄干から今にも落ちそうなことに気付き、亜美は短い悲鳴を上げた。
乗り出していた上体を、そろそろと元に戻し、両足を橋の路面に着地させた。
束の間気にならなくなっていた青臭い汚臭が鼻を突く。
「本当に何やってんだか…」
危うく命を粗末にするところだった。おさまっていた動悸が、今度は恐怖から再び激しくなり、全身にアセトンのような
嫌な臭いのする汗が吹き出している。
自殺なんて、ほんの出来心というか、その場の状況や勢いで簡単にできてしまうことに思い至り、亜美は、両腕を抱え
て、ぶるっ、と身震いした。正気に戻って眺めてみると、深夜の大橋は不気味だ。過去に飛び込み自殺があったという
のも頷ける。
オカルトめいた迷信は信じない口だが、過去に自殺した者の霊が招くというのも、あながち出鱈目ではないのかも知
れない。
亜美は、バッグを肩に掛け直し、その場を足早に後にした。なさねばならないことがあった。たとえ、それが徒労である
ことが明白であってもだ。
競歩のように早足で歩きながら、亜美は竜児の携帯に電話をする。だが、聞こえてくるのは、電波の届かないところに
居るか、電源が入っていない旨の愛想のないアナウンスだ。
「どういうことぉ?」
竜児が携帯電話の電源を切っていたことなど、少なくとも亜美の記憶にはない。
一瞬、亜美は竜児に拒絶されていると思い込みそうになったが、それなら着信後に誰であるかを確認した上で、電話
を切るなり、携帯電話の電源を切るはずだ、と考えた。
我田引水な解釈ではあったが、そう思わないと、気持ちが萎えてしまう。
それに、亜美を拒絶するために、竜児が携帯の電源を切りっぱなしにしている、という根拠もないのだ。
「高須くん…」
亜美は、駅へと急いだ。
竜児が負傷してから都合三十分が経過していたから、もはやその場には居ないと考えるべきではあったが、とにかく駅
に戻りたかった。駅の方に戻れば、竜児に会える、そんな気がした。
駅から大橋までの道順にそれほどのバリエーションはない。それに、竜児のことだ、鼻血が治まったら、亜美が走り去っ
た方向へ向かうかも知れない。そうであれば、途中で遭遇する可能性はある。
駅へ向かうには、片側二車線の幹線道路の歩道を行く。その幹線道路は、昼間の渋滞を避けるためか長距離便の
トラックがひっきりなしに通っていた。
「あっ!」
その亜美の居る反対側の歩道に、見慣れた長身の人影があった。
「高須くん!」
大型トラックが地響きを上げて通過した。その轟音で亜美の声が届かないのか、竜児は、反対側の歩道には目もくれ
ない。
「高須くぅ〜ん!!」
声を限りに叫んだが、無情にも上下線に大型トラックが通り、亜美の願いはかき消された。
−−渡ろう! 渡って、高須くんのところに行くんだ。
亜美は周囲を見渡した。信号も、横断歩道も、歩道橋もない幹線道路。しかも、ひっきりなしに大型トラックが通過する。
そのまま車道を突っ切るのは自殺行為と言ってよい。
そのもどかしさで焦燥しながらも、竜児の姿を認めたことで亜美は嬉しかった。
ひとまず竜児は無事だ。鼻血も本人が直後に言ったように大したことはなかったのかも知れない。
それに竜児の家はこっちの方角ではない。竜児も又、亜美のことが気がかりで、亜美を探しているのかも知れないの
だ。
「たぁ・かぁ・すぅ・くぅーん!!」
亜美は再び叫び、飛び上がりながら両手を振った。お願い、あたしに気づいて、あたしはここよ、と念じながら…。
また一台、大型トラックが通り過ぎていった。テレビのCMでお馴染みの宅配業者の商標をでかでかとペイントしたそ
のトラックは、何かの威嚇か、大型車特有の腹に響くようなクラクションを轟かせた。
その音に驚いたのか、竜児がその顔を車道の方に向けてきた、そして反対側の歩道で必死に手を振る亜美の姿を認
めた。
竜児の三白眼が驚きからか大きく見開かれ、その口唇が言葉を紡いだように見えた。行き交うトラックの騒音で、その
言葉は亜美の耳には届かなかったが、唇の動きというか全体の雰囲気で、亜美には分かった。
「か・わ・し・ま」
涙が溢れ、頬を伝って落ちた。今すぐ竜児の元へ行きたい。何なら、この大型トラックが頻繁に行き来する幹線道路を
走って強行突破したかった。
亜美のそうした衝動を知ってか、竜児は、両掌を前に突き出した。『早まるな、ここを渡るのは危険だ』というつもりなの
だろう。
亜美が、そのゼスチャーの意味を理解したつもりで竜児に頷くと、竜児は、右手で大橋駅方面を指呼した。竜児が指し
示した二百メートル程先には、幹線道路の下をくぐる歩行者専用のトンネル状の通路がある。そこを渡って落ち合おう
というのだろう。
亜美は、了解したという意思表示の印しに、右手を大きく振った。竜児もそれに応えるように右手を振ってきた。
竜児が歩き出した。亜美も歩き出す。車道で隔てられた二人は、反対側の歩道に居る相手の存在を確かめるように、
時折、視線をそちらの方に移しながら、競歩のように早足で歩いて行った。
本当は駆け出したかった。しかし、焦ることはない。もうじきだ。通路に行き着けば竜児にめぐり会える。会って、先刻の
ことを謝罪し、実乃梨とも決着をつけるつもりで、実乃梨の練習試合に赴くことも告げねばならない。
歩行者専用のトンネル状の通路が、その部分だけ歩道よりも一段高くなっている幹線道路の下を貫通していた。その
反対側の入り口に長身のシルエットが浮かび上がった。
「高須くーん!!」
そのシルエットに亜美は駆け寄った。
「川嶋!!」
シルエットの主も亜美に向かって駆け出し、通路のほぼ中間地点、仄暗い蛍光灯の光の中で二人は抱き合った。
「心配かけやがって…。どこも何ともないか?」
『それは、あたしの台詞よ』と亜美は言いかけたが、やめにした。竜児はどこまでも『気遣いの高須』であるつもりなの
だ。その気遣いのベクトルが多少ずれてはいても、亜美のことを思ってくれていることに違いはない。
「う、うん、大丈夫…、どこも何ともないわ…」
「そうか、よかった…」
「あ、あの、高須くん…」
亜美が、おずおずと謝罪の言葉を口にしようとした。しかし、竜児は、淡い笑みを浮かべて首を左右に振り、亜美の口唇
に人差し指をあてがって、その言葉を封じた。
「何も言うな、川嶋。この通り、俺は何ともねぇ。鼻血はすぐに止まったよ。俺も無事だし、お前も無事だ。それだけで十
分じゃねぇか…」
「あたしを叱らないの?! 高須くんに散々わがままを言った挙句に、高須くんを傷付けたんだよ、それでも平気なの?!
鼻の周りには血がこびりついているし、そのシャツだって、血の痕がはっきりしてるじゃない!」
竜児は、瞑目し、スレンダーな亜美の身体を、ぎゅっと抱きしめた。
「強いて、お前を非難するとしたら、パニックになって飛び出したことだ。まるで飛び込み自殺でもしかねない勢いだっ
たから、心配したんだぞ。でも、何ともなくて本当によかった…」
まるで、先刻の大橋での振る舞いを想定していたような竜児の言葉に亜美は、ぎくりと驚悸し、頑是無い子供のように
竜児の身体にしがみついて哭泣した。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「お、おい、川嶋…」
亜美の激しいリアクションに竜児は一瞬たじろいだが、すぐにその意味するところを悟ったのか、無言で、長い指を亜
美の長い髪に絡め、その髪を梳くように二回、三回と撫で下ろした。
通路上の幹線道路を、かなり大きなトレーラーでも通ったのか、通路全体が軋むように揺らぎ、コンクリートの天井か
らは、細かい破片のようなものがパラパラと落ちてきた。
唯一の照明である蛍光灯は、寿命が近いのか、チカチカと不安定に明滅している。時刻は昔で言う丑三つ時が近い。
そんな中で、竜児と亜美は互いにしっかりと抱き合っていた。
通路内での抱擁は、時間にすれば、ほんの二、三分であったかも知れない。
亜美の様子もだいぶ落ち着いてきたと判断したのか、竜児が亜美に問い掛けた。
「川嶋、歩けるか?」
「う、うん…。大丈夫…」
本当は、ちょっと足元がおぼつかない。でも、これ以上、竜児に甘えるのは、さすがに心苦しかった。
そんな折にも、上の幹線道路を再び大型トレーラーが通過したのか、竜児たちが佇む通路全体が揺れる。
「であれば、長居は無用だな…」
竜児は、亜美を促して、亜美が入ってきた側の出口を目指した。その出口の方が、駅に行くにも亜美の家に行くにも、
方角としては都合がよい。
オレンジ色のナトリウムランプが眩い幹線道路沿いを、竜児と亜美は並んで歩く。車道はトラックの往来が激しいもの
の、歩道を往く者は竜児と亜美以外には居ない。辺りはコントラストが強いオレンジ一色に染められ、存在するもの全
てが無機的に見えてくる。
「ねぇ…」
「ん?」
「やっぱり、あたしって間違っていたみたい…」
「間違っていたって、何が?」
亜美の唐突な問い掛けが意味不明だ、と言わんばかりに、竜児が怪訝な顔をしている。
その竜児を亜美は上目遣いで見上げ、瞑目して、口元に淡い笑みを浮かべた。
「色々とね…、特に問題なのは、高須くんの気持ちを理解していなかったこと…。その次に、まずかったのは、高須くん
の真意を知らずに、あたしが焦って空回りしていたこと…」
「なんだい、思わせ振りな物言いだな」
亜美は、竜児の横顔を見た。その顔は、目を細めて苦笑しているように見えた。
「本当は、分かってるんでしょ? あたしの言いたいこと…。まぁ、いいわ。はっきり言うと、高須くんが本当はあたしのこ
とを好きじゃないんじゃないか、ってあたしは思い込んでいた。これが第一の過ちね…」
「もう、その話はいいよ…。今日は色んなことがありすぎて、川嶋は疲れている。これ以上、あんまり自嘲的なことは言わ
ない方がいい」
だが、亜美は首を左右に振った。
「ううん、この場ではっきり言わせて。でないと、多分、同じ過ちを繰り返すんじゃないかって思うの」
「過ち? 大げさだな」
「過ちどころか、罪だと言ってもいいくらい。だから、懺悔のつもりで言わなきゃいけない…」
「そうか…、それなら川嶋の気の済むまで話せばいいさ…。俺も、ちゃんと聞いているよ」
亜美は、「うん…」と、頷いた。許可は得た。後は努めて冷静に思ったことを述べるまでだ。
「実乃梨ちゃんが現れたことで、あたしは動揺した。そして、高須くんの真意を疑い、焦った。ものすごく簡単に言えば、
こうなるかしら…」
「なんだい、えらく簡単な説明だな」
「いきなり微に入り細に入りな説明じゃ、分かりにくいと思って要約したのぉ!」
のっけからの竜児の素っ気ない返事に亜美はむくれたが、気を取り直した。ここで臍を曲げては懺悔も何もあったもの
ではない。
「まぁ、いいわ…。とにかく、あたしは実乃梨ちゃんと高須くんとの関係を疑った、そういうことなのよ」
「櫛枝のことなら、俺の方では、もう決着はついている。川嶋が怪しむようなことは何もないよ」
竜児は伏し目がちだが、その態度は落ち着いている。
亜美は、そんな竜児を涼やかな瞳で見ながら、その言葉に嘘はなさそうだと思った。
「でも、あたしの主観では納得できていなくて、もやもやしていたのね。そのもやもやな部分が、月曜日に現れた実乃梨
ちゃんのあんたに対する馴れ馴れしい態度で噴出した。後は、もう本当に悪魔の仕業じゃないか、っていうくらいトラブ
ルが重なって、今日みたいなことになっちゃった…」
「いろいろあったよな、今週は。それについては、鈍感な俺に非があるし…。それに、今日のコンパで、よもやあんな上級
生が出現するとはな…」
竜児の『鈍感』の文言に、亜美は突っ込みを入れようかと思ったが、ひとまずは自粛した。重要な論点ではあるが、取
り上げるのはもうちょっと後にしたかったからだ。
「あの瀬川って上級生には、ほんとにびっくり…。あそこまでの徹底的なワルは、あたしにとっても、高須くんにとっても、
前代未聞だったわよね。あんなのが、法律職に就くかも知れないなんて、ちょっと空恐ろしいかも…」
「ああ、卑劣な手段も辞さないところが嫌らしいな」
「でも、あの上級生は外的な要因…。あたしたちが弁理士試験に合格すれば、あいつの鼻を明かしてやるぐらいにはな
るだろうけど、それ以外では、どうにもできないわね」
亜美は、何気なく言ったつもりだった。しかし、竜児はただでさえ精悍な表情を、さらに引き締めていた。
「いや、そうでもないんじゃないか? 仮に俺たちが弁理士になれたとすれば、ありがたくはないが、関わってくる可能
性はありそうだ。何せ、弁理士は全国に八千人程度しか居ないんだよな? であれば、瀬川が審判や訴訟で敵方とし
て現れることだってあり得る」
亜美は、はっとした。
「そっか! そうだよね。もし、無効審判とかで瀬川が相手方の代理人だったら…」
「おぅ、俺たちのタッグで、ぐうの音もでない程、懲らしめてやることだって夢じゃない」
そう、弁理士の業界は狭いのだ。であれば、仕事の上でぎゃふんと言わせる機会はあるのかも知れない。
そのためにも、弁理士試験には合格しなければならない。
「あたし、やる気出てきた!」
「俺もだ。遠い遠い未来の話だろうが、今日の屈辱は何倍にもして返してやろうじゃねぇか」
「うん!」
問題は、学内のサークルが、当の瀬川たちによって潰されてしまったことだが、何も弁理士試験はサークルや予備校に
通わないと絶対に合格できない、というものでもない。
弁理士が個人的に主宰する受講料が低廉な私塾の類はいくつかあるので、これを利用する手もある。あるいは、青本
をはじめとする法学の専門書で普段は自学自習していて、予備校等が行っている答練と呼ばれる模擬試験で、定期
的に実力をチェックするという学習方法だって考えられるのだ。
「学習方法については、一から考え直さないとダメだろうが、当面は川嶋と俺とで一緒に青本と条文を読んでいくって
ことでどうだろう?」
「それでいいよ。決定的な学習方法とかは、青本を読みながら、じっくり考えていこうよ」
「そうだな…」
道は幹線道路と大橋駅へ向かう通りとの交差点に差し掛かった。竜児と亜美はその交差点を左に曲がり、大橋駅へ
と向かう。通りは閑散としていて人影はない。
「ねぇ…、話を蒸し返すようだけど、さっきの続きを話してもいいかしら?」
通りに入ってすぐ、亜美がまた問い掛けてきた。
「うん?」
もう、亜美の懴悔話は終わったと思い込んでいたのか、竜児は無防備な生返事をよこしてくる。
亜美は、その曖昧な返事を、竜児の肯定と受け取ることにした。
「さっきだけど、あんたは自分のことを『鈍感』って言ってたよね?」
「ああ、川嶋には『女心の機微が分かってない』って、散々に怒られたからなぁ。それについては、否定できないし、弁解
のしようもねぇだろ?」
亜美は、「そうね…」と言い、一瞬瞑目して微笑した。竜児にも一応の自覚はあるらしい。
「でもね、あたしも高須くんの気持ちには鈍感だった…。それが、あたしの過ちね。あたしは、高須くんを万事に鈍い機
転の利かない朴念仁だって決めつけていたんだわ」
「手厳しいな…」
「でも、高須くんが色恋沙汰に疎いっていうのは確かじゃない? だからあたしは焦った。鈍い高須くんは、あたしの気
持ちを理解できずに、また、実乃梨ちゃんの方へなびいちゃうんじゃないかって、ものすごく不安になった。それで…」
亜美は、羞恥からか、言葉を詰まらせた。竜児との絆が不安だったから、肉体的に竜児と結ばれたかったのだ。それを
明言することに亜美は一瞬、躊躇した。
「それ以上はさすがの俺にだって分かるよ…。だから、無理に言わなくたっていい」
竜児の気遣いが亜美には嬉しかった。だが、言わねばなるまい。重要な論点は、むしろここからなのだ。
「うん、でも言わせて。あたしがバカなのは、エッチしないと高須くんとは結ばれないって思い込んでいたこと。もちろん、
あたしはそうした焦り抜きで、高須くんとはいつだってエッチしたい。本当は、今、この場でだって高須くんが望むなら、
やってもいいくらい…」
「お、おい、おい…」
竜児が困惑した表情で亜美を見ている。先刻、駅前で『ラブホに行こう』と竜児に迫った時と同じだと思っているのだ
ろう。
「でも、違うの。肉体の結び付きは確かに大切だけど、それは心の絆とはイコールではないということ…。心の絆を軽視
して肉体で結び付いても、それは、所詮、刹那的なものなんだわ。そんな簡単なことも、あたしは理解できていなかった
のね…」
「そうか…」
竜児が、少しほっとして呟くように言った。
「実乃梨ちゃんが現れたことで、あたしは高須くんの愛を疑った。その焦りと不安から高須くんの肉体を求めた。それは、
あたしの方が高須くんとの心の絆を軽視していたからなんだわ。でも、高須くんは、あたしのせいで怪我をしているの
に、自分よりもあたしの安否を気遣ってくれていた…。高須くんとの間には心の絆があったのに、それに気づかず、
むしろそれを否定すらしたあたしは、本当にバカで鈍感だわ…」
「よせやい、川嶋が俺を疑ったのは、俺の方が態度をはっきりさせなかったからだ。川嶋でなくても、誰だって、俺みた
いな態度があやふやな奴には怒って当然だよ」
「高須くん…」
「それに、この前のデートで『永遠の愛』を誓ったのはマジなんだろ? その誓いを俺の方から勝手に破るわけにはい
かねぇ」
「どうしてぇ? あたしは高須くんに怪我をさせたんだよ、もう、あの誓いなんて無効だとは思わなかったの?」
竜児は瞑目して、ふっ、と苦笑した。
「永遠は少々のトラブル程度で滅しないからこそ永遠なんじゃねぇのか? だから俺は、鼻血が出ても川嶋を放ってお
けなかった。自分の怪我が大したことなければ、真っ先に川嶋を救いに行かなきゃいけねぇ。そんなのは当然だよ…」
愛すべき愚か者とは、竜児のような人間を言うのだろう。愚直なまでに相手を信じ、そのためには自己犠牲も厭わない。
何があっても、この人にはついて行こう、あたしもこの人とは『永遠の愛』を誓ったのだから、と亜美は思った。
「な、泣くなよ…」
予期せぬ亜美の涙に狼狽して、竜児はハンカチを取り出した。だが、それが自分の鼻血まみれなのに気付き、嘆息し
て、握り締めた。
「ハンカチだったら、いいよ…」
亜美は、手の甲で目頭を拭い、「はい、これでオッケイ!」と強引に微笑んだ。
二人は、大橋駅のロータリーにたどり着いた。客待ちのタクシーが二、三台止まっているのを除けば、人っ子一人居ない。
「川嶋の家は、駅の向こう側だったよな。タクシーでそこまで送るよ」
「タクシー代がもったいないからいいよ。それより、高須くんさえよかったら、歩いて帰ろうよ。その方がエクササイズにな
るし、何よりも、もうちょっと高須くんとお話ししたいし…」
「そっか、じゃあ、歩こうか…」
ゴーストタウンのように無人の駅前商店街を通り、亜美の家を目指す。
「ねぇ、明日っていうか、もう今日なんだけど、実乃梨ちゃんの練習試合、あたしも高須くんと一緒に行くよ」
竜児は、ちょっと驚いたような顔をして、亜美の顔を覗き込んだ。
「いや、お前、木曜日には行かないって…」
亜美は、覚悟の程を示すかのように、まなじりを決して竜児の視線に応えた。
「実乃梨ちゃんの試合を見に行かないっていうのは、あたしが実乃梨ちゃんから逃げているってことなんだわ。それじゃ、
何にもならない…。だから、あたし行くの。行って、状況によっては、高須くんの伴侶である覚悟を示してくる。そのつもり
なの…」
「ちょっとテンション高すぎじゃねぇのか? 俺は、もう櫛枝とは吹っ切れたし、櫛枝だって、俺のことは何とも思っちゃい
ねぇさ」
竜児がなだめるような口調で亜美を諭した。だが、亜美は引き締めた表情そのままに、竜児の顔を見つめている。
「彼女は、あんたに未練がある。それは、高須くんが気付かないだけ、ひょっとしたら、気付いていても、それを認めるこ
とを恐れているだけ…」
「お、おい、川嶋、考え過ぎだって…」
亜美は首を左右に、ゆっくりと、しかし大きく、二度、三度と振りながら、きっぱりと宣言するように言った。
「だから、あたしの考え過ぎなのかどうかを確かめるためにも行くの。そして、場合によっては、実乃梨ちゃんと差しで話
し合ってくる…。そのためにも、あたしが行かなければ何も始まらないわ」
「でもなぁ…、月曜日の昼みたいなことにならねぇとも限らねぇし…」
竜児が、珍しく眉をひそめて不安気な表情を示している。
「大丈夫だって! 月曜日は覚悟がないまま実乃梨ちゃんの急襲を受けたから迎撃に失敗したの。こちらの方に覚悟
があれば、あんな失態はしないわよ。だから、あたしを信じて、あたしも練習試合の観戦に連れて行ってよ」
「急襲とか、迎撃とか、櫛枝をもろに敵扱いなんだな。本当に大丈夫なのか?」
なおも、不安気な竜児を少しでも安心させようと、亜美はできるだけ明るい笑顔を心がけ、朗らかな声で竜児に言った。
「そう、彼女は敵だわ。それも敵ながら天晴れな。ソフトボールの選手として精進している姿勢は、弁理士を志すあたし
たちが手本にしたいくらいじゃなぁい? だから、これを機会に、彼女と向き合ってみたいのよ」
竜児は、亜美の言葉に納得したのか、「そうか…」とだけ呟いた。
「それと、気になることが未だあったわ…」
しえん
「何だ?」
「ねぇ、高須くんの携帯、電話しても『電源が入っていない』って、アナウンスされたんだけど、どうかしたの?」
竜児は、ちょっと困惑したように、眉をひそめ、一瞬の間を置いてから話し始めた。
「ああ、実はな、壊れちまった…」
「え、えっ! 火曜日に見せてくれた青い携帯電話でしょ。別に問題なく使えてたみたいだったけど、一体どうしたの?
もしかしたら、あたしが壊しちゃった?」
「い、いや、もうとっくの昔に機種を変えてなきゃいけないような旧式だから、とうとう寿命が来たってことなんだろうな」
「ふーん…」
竜児が下手な嘘をつくときに特有の、冷や汗が額に浮き出ていることを亜美は認めた。竜児の携帯電話が壊れたの
は、間違いなく顔面に亜美のバッグを受けたことと何らかの関係がある。それを、亜美に隠しているのだ。竜児なりの
気遣いのつもりなのだろう。
「じゃぁ、午前中は講義があるし、午後は実乃梨ちゃんの練習試合の観戦があるから、それが終わったら大橋駅前の
携帯電話ショップへ一緒に行って、代わりの携帯電話を買いましょうよ」
「お、おう…」
亜美は、ちょっと意地悪そうに、にやりとしていたに違いない。
「で、その壊れちゃった携帯電話には、いろいろ大切なデータが残っているんでしょぉ? 例えば、この前に撮った亜美
ちゃんの写真とか…。そのデータをサルベージしなくちゃいけないから、どっちみち何が故障の原因かは突き止めなく
ちゃ。ねぇ、高須く〜ん」
「……」
嘘がバレているらしいことに気付き、表情をこわばらせている竜児をよそに、亜美は、うふふ、と笑った。
『あたしを謀るなんて十年早い。でも、故障の責任はあたしにありそうだから、機種を変更するのに必要な料金は代わ
りに負担してあげよう』、と亜美は思った。竜児が素直に了承するとは思えないが、それでこそ竜児だと思う。ほいほい
と亜美から金を貰うような軽薄な男ではないからだ。
二人は亜美の家の前に辿り着いた。
「高須くん、今日は本当に色々とごめんなさい、そして本当にありがとう…。あたし、高須くんのことをもっとちゃんと信じ
てあげてれば、こんなことにはならなかったような気がする。でも、その過ちが高須くんのおかげで漸く分かった…。
だから、明日は大丈夫。いつものように、あたしが理学部旧館へ高須くんを迎えに行くから、そうしたら一緒に実乃梨ちゃ
んの練習試合を見に行きましょ」
「ああ、今日は、俺も色々と済まなかった。でも、川嶋に信じてもらえるのは嬉しい。明日は櫛枝の試合でよろしく頼むよ」
「ええ…」
竜児は、それだけ言うと、亜美に背を向け、自宅へ向かって大股で歩み去った。その姿が闇に溶け込んで見えなくなる
まで、亜美は玄関に佇んでいた。
竜児の姿が闇に完全にかき消えた時、ふと夜空を見上げた。先ほどまで、薄い雲のようなベールに覆われていた夜空
には、街明かりにもめげずに瞬く星々があった。
明日は、うまくいけば絶好の観戦日和になるかも知れない。そう思いながら、亜美は玄関の鍵を開けた。
翌朝、連続する電子音で亜美は目を覚まされた。寝ぼけ眼で目覚まし時計を手に取って鳴っていないことに気づき、
おっかしいなぁ、と思いながら重いまぶたを無理矢理に開いて見渡すと、時計ではなく机の上の携帯電話が鳴って
いた。あわてて取り上げ、若干の期待感を込めてフリップを開く。しかし、液晶画面を見た亜美は、腫れぼったいまぶた
を物憂げに半開きにして、嘆息した。
「何だ、麻耶か…」
考えてみれば、竜児の携帯は壊れているのだ。であれば、彼からの電話かも知れないと期待する方が間違っている。
それに、麻耶からの電話だって悪くはない。何と言っても、彼女は気を許せる大切な友人の一人なのだから。
「もしもしぃ~? 麻耶ぁ~? おひさぁ~~、元気してたぁ~~?」
寝起きであることがバレてしまいそうな、語尾を不自然に伸ばした話し方で、亜美は電話に出る。案の定、亜美の本性
というか習性を既に看破しているに違いない麻耶に、その話し方を突っ込まれた。
「おんやぁ~? もう八時過ぎだってぇのに、何か眠そうじゃん。さては、寝起きだなぁ~」
「う~ん、そだよ、だから、すっげ~眠いの…」
バレちゃしょうがない。
それに、寝起きで血の巡りが悪い脳みそで嘘や屁理屈をこねくり回しても、ろくなことはないからだ。
昨夜は、竜児にエスコートされて帰宅したのが午前二時半、就寝は三時過ぎだった。その上、八時半までは寝ている
つもりだったのを麻耶からの電話で予定より三十分ほど早く起こされてしまった。少々睡眠不足なのは否めない。
面倒臭いから麻耶には説明しないけど…。
「あはは、正直でいいねぇ。でさぁ、突然なんだけどぉ、よかったら、今日の午後、駅前のホテルのケーキバイキングに行
かない? なんかさぁ、日頃ダイエット意識していると、無性に甘いものが欲しくなるんだよね」
亜美も思い出した。大手の名の通った系列のホテルでやっている奴だ。バイキングに出てくるケーキだから質より量か
も知れないが、それでも一応は有名ホテルである。それなりのものを出してくることだろう。以前から気になっていたが、
行ったら最後、際限なく食べまくって、その後、しばらくは自己嫌悪に陥ることは必至と思えたので、敢えて無視してき
た。しかし、気心の知れた友人からの誘いとなると別である。
それに、夕べはコンパだったが、ビールは飲んだものの、ダイエットを気にして、枝豆や豆腐等の高蛋白で低カロリーな
ものしか口にしていない。それも、尾籠な話だが、大橋の上から吐いてしまった。従って、夕べからの摂取カロリーは、
胃壁からすぐに吸収されたであろうアルコールを除けば、限りなくゼロに近い。だから、多少、ケーキを食べ過ぎても、
今日に限っては大丈夫だろう。しかし…。
「う~ん、あたしも、すっげ~行きたいんだけど…、今日の午後は先約があるんだわ…。だから、奈々子とでも二人で行っ
てきなよぉ」
「え~っ、先約ぅ? あんた、未だ土曜日の午後は高須くんとのプチデートやってんの? いい加減、飽きないのぉ?
もう、ほぼ毎週でしょ?」
呼吸音にも似た不自然なノイズが混じっている。麻耶があきれてため息を吐いているのだ。
ちなみに麻耶が言う『プチデート』とは、土曜日の午後、講義が終わった竜児と一緒に大学から徒歩で出かけられる
範囲を散策することである。エクササイズも兼ねて、可能な限りバスや地下鉄には乗らず、フリーマーケットを冷やかし、
根津等の下町で買い物をしたり、果ては神田、日本橋を経て銀座まで足を伸ばすこともある。かなりの運動になるので、
おかげで亜美もジムに行かなくても、以前のスレンダーな体形を維持できているというわけだ。
なお、『プチ』ながら『デート』であることを意識しているのは専ら亜美であり、竜児の方は単なる買い物か町中の探検
程度の認識でしかない。
「う~ん、ほぼじゃなくて完全に毎週なんだけどぉ、今日だけは違うんだ。今日はさぁ、あたしらの大学と実乃梨ちゃん
とこの大学とのソフトボールの試合を見に行くことになってるぅ…」
「えっ~、あんたと櫛枝って、結局、高校のときに高須くんを巡って決裂したじゃん。大丈夫なの? 真っ赤な雨が降っ
たりしないよね? あんたが櫛枝の頭をバットでボコって、警察のご厄介になるような真似はしないでよ、頼むから」
半ば冗談混じりながら、電話口での麻耶の声には、亜美を咎めるような雰囲気があった。何せ、酔って竜児宅で一升
瓶を振り回したり、ストーカーを追撃して撃退したり、何よりも並の男よりも腕力がある実乃梨と本気の取っ組み合い
をしたりと、それなりの武勇伝がある亜美だけに、麻耶が危惧するのも無理はない。
「大丈夫だって、そんなことしないってぇ」
「それなら、いいけどさぁ…」
電話口の麻耶は半信半疑のようだ。
しかし、今日ならば大丈夫だ。実乃梨と差しで穏便に話し合うことを竜児にも宣言したのだ。何があっても諍いなしに
済ませる。それが絶対条件でもある。
「まぁ、あたしも、最初、あんまし気が進まなかったんだけどね、祐作が是非って言うもんだから、高須くんと行くことになっ
ちゃった。てへ…」
「何よ、結局はプチデートじゃん。それに、まるおも居るの? それに櫛枝か…。何だか、大橋高校の面々が揃うのねぇ」
まるおこと北村祐作が居ると聞いて、麻耶はちょっとだけ心がときめいたのか、電話の声が急に明るくなったように
亜美は感じた。
「そだよ、麻耶も来るぅ? 来れば祐作とプチデートになっからさぁ」
と言って、麻耶をからかうつもりなのか、亜美は、あひゃひゃひゃ…と笑った。
「い、いや、遠慮しとく…。この前のピクニックで、ちょっとアレだったから…。やっぱ、まるおは…」
「え~と、あれか? 『まるおが、丸出しぃ~』って奴がトラウマになっているのかなぁ~?」
「う、うわぁ~っ! 勘弁してよぉ! もろに見ちゃたんだからぁ」
「おんや、ギャル系を標榜するあんたらしくもない。あんなもん、いずれ誰だって、入れポン、出しポン、片手でポンじゃな
い、どうってことないわよ」
「うううう…。あんた、高須くんとそこまで行ってるんだ…」
実は、竜児とはB止まりなのだが、取り敢えず見えを張った。本当は亜美だって、あんなグロいもんを突っ込まれるのは
怖い。初めて自分の指を入れた時だって、こわごわと挿入したほどだ。でも、竜児のだけは別だ。昨日のこともあるが、
やっぱり竜児との初エッチは、できるだけ早いうちに済ませたいと思う。それも中出しで…。
「ま、それはさておき…、せっかくのお誘い、あんがとなんだけど、ちょっと義理で試合を見に行くことになってんのよ。で、
さぁ、悪いけど、奈々子様とお二人で楽しんできてよ。あたしも今日は思いっきりケーキ食いたいけど、世間のしがらみ
でそうはいかねーんだわ…」
「奈々子かぁ…」
何だか麻耶の電話の声がすぐれない。
「奈々子がどうかしたのぉ?」
「いや、あの子なんだけどさ、最近、すっごく付き合いが悪いんだ。強いて言えば、あんたくらい…」
「どういう意味よぉ~」
「もう、そのまんまだけどぉ? 毎週土曜日、高須くんとのプチデートに夢中な、色ボケ亜美ちゃんと同じくらい付き合い
が悪いんだ。奈々子は…」
「色ボケって、あんた…」
傍からは、そう見えるのだろう。ちょっと恥ずかしいが、それはそれで悪い気はしない。周囲からも亜美が竜児を好きな
ことがはっきり分かるのは、嬉しくもあるし、ストーカー紛いのキモオタ除けにもなる。
問題は奈々子だ。亜美にも奈々子の急変ぶりが気になってきた。
「奈々子の付き合いが悪くなったのはいつからなの?」
「う~んとね、例の祐作とのピクニックの翌週、つまりこないだの土曜日から急変した。いつもは土曜日なんて暇してた
はずなんだけどぉ~、先週に加えて今日もダメなんだよね…」
亜美は、「ふ~ん、たかが二週連続なだけじゃん」と間延びした合いの手で、表向きは興味がなさそうに聞いていたが、
急にあることを確信した。
「あ~っ、そりゃ、男だね。奈々子の奴、毎週土曜日、男と遊んでんだよ」
「え~っ! やっぱりそうなのかな…。誰なんだろう」
亜美には竜児が居るし、奈々子にも男が居るとなると、大橋高校の美女トリオで、麻耶だけが売れ残りということにな
る。そんな焦りが、電話口の声にはにじみ出ているのだ。
一丁、からかってやっか、と亜美は思った。
「誰なんだろうねぇ~、案外、祐作とかだったりして~」
亜美は、「うひひ…」と、『人の不幸は蜜の味』を地でいくような笑い声を添えて言ってみた。
「うわぁ~ん、勘弁してよぉ~。まるおが奈々子と? そ、それは、ちょっと悲しいかも…」
電話口の麻耶は、何だか泣き出しそうなほどに意気消沈している。亜美は、やりすぎたか、と少々ばつが悪くなった。
「まぁ、祐作が奈々子の相手だってのは冗談だって。だってさぁ、落ち着いて考えてみなよ。奈々子は今日も付き合いが
悪いんでしょ? で、祐作は、あたしや高須くんと一緒に、実乃梨ちゃんの試合を見る。祐作にはアリバイがあるってこと
になりそうだから、あいつじゃないわよ」
「う、そっか、そうだよね。うう、よかったぁ~」
電話口の麻耶は、心底安堵したのだろう、亜美の携帯にもはっきり聞こえるほどの大きなため息を吐いている。
それにしても、麻耶は北村の変態性を嫌悪しながらも、諦めきれていないらしい。あんな変態、やめときゃいいのに…と、
亜美は内心思うが、『蓼食う虫も好き好き』なのだろう。それは、三白眼の竜児とつき合っている亜美にも当てはまる。
--それにしても、奈々子の相手は誰だろう、もしかして能登? まさかね…。
そんなことを考えながら、亜美は時計を確認した。もう、何だかんだで三十分も話していたことになる。そろそろ、シャワー
を浴びて、遅蒔きながら朝食をとり、大学に向かう準備をしなければならない。
「ごっめ~ん、そろそろ大学に行く準備しないと。せっかくのお誘いなのに、ほ~んと残念。また、今度よろしくねぇ~」
「う、うん。じゃあ、まるおと高須くんによろしくね。それと…」
「それと?」
麻耶の付け足しめいた問い掛けが気になって、亜美は思わず聞き返してしまった。
「亜美は、土曜日は講義がないのにもかかわらず毎週大学に行くんだね。高須くんとのプチデートのためだけに…。
それを高須くんは知ってるの? 私の知ってる高須くんなら、亜美にそこまでの負担はかけさせまいとするだろうから、
高須くんは、土曜日は亜美も講義があるものと思い込んでいるんだろうね」
「そ、そんなことはないわよ…」
図星だった。
「そう? ならそれでもいいけどぉ~。なんかさぁ、亜美って健気だよね。悪く言えば、頑固か…。何だか高須くんみたい
だね、似た者同士ってことなんだろうけど、お互いに気ぃ遣いすぎないようにしたほうがいいかも…。あ、ごめん、こんな
こと言うつもりじゃなかった。勘弁してぇ~」
「ううん、気にしてないから。それとせっかくのお誘いを無下にしたしたから、この埋め合わせに、今度は、高須くんや
祐作、それに奈々子と、可能であれば奈々子の謎のお相手を交えて、どっかでホームパーティーでもしない?」
「あっ! それそれ、それいいねぇ!! じゃ、長電話になっちゃって、ごめんねぇ。またぁ~」
北村を交えてのホームパーティーで機嫌が直ったのか、朗らかな声で、麻耶は通話を締めくくった。それを合図に、男
が聞いたら女性観が覆るほどの下品な、いや違った、忌憚なきギャルトークは終了した。
「頑固者、似た者同士か…」
ちょっと嬉しそうに呟いて、亜美は携帯電話をショルダーバッグに仕舞った。
その言葉をリフレインのように何度も呟きながら、亜美は手早くシャワーを浴びて朝食を取ることにした。
家の中は閑散としていた。伯父も伯母も仕事に行っているらしい。シャワーを終えた亜美は、髪の水分を吸水性のよい
タオルでできるだけ拭い取り、形を整えた。ブローは髪が痛むのでできるだけ使用しないのがポリシーだ。
そして、いったん部屋着にしているTシャツとジャージ姿になると、台所に立って、朝食の準備をする。と言っても、簡素
なものだ。竜児から伝授された、大根、人参、牛蒡、筍、椎茸、それに鶏肉を昆布と鰹の出し汁で、ごく薄味に仕上げた
煮物と、焼いた甘塩鮭、それに炒り卵だ。ご飯は煎り大豆と、小豆と、麦とを混ぜて炊いたもの。ただの白米よりもミネ
ラルや繊維素が多く取れる。これも竜児からの受け売りだ。
今では伯父も伯母も、亜美が作り置きしている煮物を喜んで食べてくれている。
何でも、竜児直伝の煮物は、出汁のうま味を極力引き出すことで、低塩分でも十分に美味しい点がいいらしい。
さすがに、二人とも医療関係の従事者というだけのことはある。
亜美は伯父と伯母には『この煮物は、お友達から教わったの』とだけ言っている。その友達が男だとは、夢にも思うまい。
朝食を終え、手早く食器を片づければ、後は着替えてメイクを整え、大学へと出かけるだけだ。
今日は、日差しが強そうなので、コットンの長袖ブラウスに、下もスリムなコットンパンツにする。
ちょっと暑いかも知れないが、半袖の形がくっきり残るような日焼けをするよりはマシである。
メイクも紫外線対策がメインだ。ついでに日傘も持った。
午前九時半。戸締まりをして大橋駅に向かう。あの蒸し暑い理学部旧館では竜児が一時限目の線形代数学の演習を
受けている頃だろう。
大橋駅から私鉄電車に乗り、その私鉄とJR山手線と地下鉄が接続する駅で地下鉄に乗り換える。大学最寄りの駅で
下車すれば、キャンパスの門は、もう目と鼻の先だ。
キャンパスには十一時前に到着した。午前の講義が終了するまで、しばらく時間がある。
亜美は、門をくぐると図書館に向かった。時間が少しでもあるのなら、細切れでもいいから弁理士試験に関わることを
調べておきたかった。本当なら、青本を使った勉強が一番なのだが、青本は初学者には難解ということもあって、一時
間程度拾い読みしただけでは大した学習効果は期待できない。青本に限らず専門書は腰を据えて読まないとダメな
のだ。
だが、一時間程度しか時間がなくとも、できることはある。それは、名著と呼ばれる専門書に触れてみることだ。亜美は、
『特許・実用新案法』というプレートの掛かった書架から『特許法概説』を取り出した。合格者の多くが『歴史的名著』
と絶賛する書籍である。しかし、著者は既に他界し、その後は法改正に対応できていないままの古い版で発行されてい
たが、数年前に絶版となって、今では古書の入手も困難となっている。亜美も、インターネットのオークションでこの『特
許法概説』が出品されているのを見たことがあったが、新刊時に七千円程度だったものが、三万円ほどで取引されて
いることに驚かされたものだ。
「これがそうなんだぁ…」
古い時代の専門書に特有の黒い表紙が格調高い。背には金文字で『特許法概説 吉藤幸朔著』と記してあった。
ずっしりと重いその本を手に取って、おもむろにページを繰る。特許法第四十一条の『国内優先権制度』のページが目
についた。細かなフォントでびっしりと情報が詰め込まれたそのページを、ちょっとだけ読んでみる。
『…技術開発の成果を包括的に漏れのない形で特許権として保護することを可能ならしめるものである…』
的確な表現と格調高い言い回しが心地よい。
「何だか、青本よりも文章が上手でわかりやすい…」
同じような記述は青本にもあるのだが、どうもあちらは官僚の作文臭くて、いまいち頭に入りにくい。しかし、この『特許
法概説』はさすがに名著と言われるだけあって、青本よりも読み手に配慮した書き方がなされているような気がする。
これはいい本だ、と亜美は直感した。難解な事例や、抽象的な概念も比喩を交えて分かりやすく説明しているのがい
い。たしかに法改正には対応していないが、そうした些末とも言える部分よりも、もっと法に関する根源的なことを論じ
ているという印象だ。できることなら、手に入れたいものだとも思った。
「おお、川嶋さんじゃないか」
なおも『特許法概説』を立ったまま読みふけっている亜美の背後から聞き覚えのある豪快な声がした。その声だけで
当人の目星はついたが、亜美は振り返って、その人物を確認した。
弁理士試験対策のサークルのリーダーだった榊が笑顔で立っていた。
「あ、リーダー、おはようございます」
亜美の『リーダー』という台詞を否定するつもりで、榊は右掌を亜美に向けて左右に振った。
「ああ、その『リーダー』ってのは、もうなし! 君も知っての通り、昨日のクーデターで政権の座を追われたからさぁ。
何よりも、君がいじめに遭ったりで、本当に申し訳なかった。俺が至らなかったばっかりに…」
「あ、リーダー、待って下さい! そんな、頭を下げられても、あたし困ります」
榊がお辞儀をするように頭を垂れたので、亜美は慌て、その榊の目線に合わせるように、自らも中腰になった。
私怨
「ほらほら、言ってるそばからリーダーなんて…。こそばゆいよ。単に榊でいいよ」
榊はお辞儀をしたままそう言って、悪戯っぽくにやりとすると、姿勢を戻した。亜美も、榊に従うように元通りに姿勢を正す。
「それじゃ、榊さん、で、いいんですよね?」
榊は、笑顔で頷いた。
「うん、それでいいよ。というか、今やそれ以外に呼びようがないだろ?」
「はい、すいません。以後、そうします」
榊は、笑いながら「うんうん」と頷いていたが、亜美が手にしている本を見て、「おっ!」という感嘆詞を漏らした。
「川嶋さん、その本読むの?」
質すような榊の口調に、亜美はちょっと狼狽した。
「は、はい、じゃなかった、すいません。ちょっと手に取ってみただけです。初学者のあたしに読めるかどうか興味があっ
たものですから…」
初学者ふぜいが読むとはけしからん、と榊が思っているのではないか、と亜美はびくついた。
「いや、いい本だよそれは。青本よりも読みやすいし、青本よりも説明が詳しいからね。俺も持っている。ただ、法改正に
対応していないから、たしかに初学者がその本だけを読むってのは宜しくないな…」
「やっぱり、あたしなんかには過ぎた本ですよね?」
見えを張って背伸びをしすぎたのかも知れなかった。
「う~ん、そうでもないよ。青本を軽視してきた俺が言うと説得力があんまりないけど、青本を読んでみて、よく分からな
いところを調べるには今でも適しているよ。というか、未だにこの本を完全にしのぐ特許法の名著は現れていないと言
うべきかな」
「そ、そうなんですか? 辞書みたいな使い方ならいいってわけなんですね? で、あたしみたいな初学者がそういっ
た使い方をしてもいいんでしょうか?」
「ぜ~ん、ぜん、オッケイだよ。特に、川嶋さんは、レジュメには頼らない青本中心の骨太な勉強を指向しているみたいだ
から、そういう人には勧められるね」
レジュメとは、青本等から重要な部分を抜粋した受験勉強専用のツールで、資格試験対策の予備校等が発行している。
「そ、そうなんですか…」
榊の意外な言葉に、亜美はちょっと嬉しくなった。
「で、川嶋さん、その本をちょっとだけ読んでみた感想は? 未だ感想を述べられるほど読んでないなら、これには応え
なくていいけど、どう?」
突然の榊の問い掛けに、亜美は「えっ?」と絶句した。変なことを言ったら、昨日、瀬川に突っ込まれたように、榊にもい
じめられるのではないか、と不安になった。しかし、目の前に居る榊の柔和な表情から、そのようなことは決してないと
思うことにした。
「は、はい、青本よりも文章が上手で読みやすいです。それに、抽象的な概念も比喩を交えて分かりやすく説明して
あると思います」
榊は、腕を組んで、満足そうに頷いている。
「うん、川嶋さん、君はなかなか大したもんだ。一読しただけで、その本の長所を見抜いている。正直、俺なんかよりも
素質がありそうだ。君なら、弁理士試験にも短期間で最終合格できそうな感じだな」
「ええ? でも、昨日は、瀬川さんに、こてんこてんにやられて…、あたしなんか弁理士試験を受験する資格がないよう
な言い方をされて…、そんなあたしですけど、合格できますか?」
榊は、首を縦に振った。そして、亜美に囁いた。
「瀬川の言うことは気にしちゃダメだよ。あいつは君を凹ますために、根拠のないことを言ってるに過ぎないのさ。それ
どころか、昨日の君は大したもんさ。だって、瀬川が出した特許法の問題は、三次試験の過去問だからね。普通なら勉
強を始めたばかりの君が分かるはずがないんだ。実際、瀬川たちも君が正解した直後、血の気が失せていたからね」
「でも、民事訴訟法の問題でやられました」
「あの問題だって、完全に説明しようと思うとかなり大変な代物だよ。今年も前期試験には出題されるだろうけど、それ
までに完全に説明できるようにしておけば十分だ。気にすることはない」
「そうなんですか…」
榊は、自己の発言に嘘がないことを強調するつもりなのか、大げさなポーズではなく、「ああ…」とだけ、軽く頷いた。
「それどころか、昨日の君の奮闘ぶりに、俺やサブリーダーの小林くんは、むしろ感動してね。来月の二次試験は、本当
に背水の陣で臨むつもりなんだ」
「いえ、そんな…、大げさすぎます。あの特許法の問題だって、たまたま青本で最近読んだ部分だったんです。その意味
するところも完全には分かっていないんですよぉ。だから、そんな、感動だなんて…」
当惑してうつむいた亜美に榊は優しげな笑顔を向けている。
「たまたまであっても、青本の内容を諳んじることができたのは、やっぱりすごいことだよ。並の受験生にはできない
芸当さ。それに、やっぱり基本は青本だな、っていうのを俺たちも痛感したんだよ。だから、今回の二次試験は、俺も
小林くんもレジュメばかりに頼らずに、青本と、その『特許法概説』を含めた専門書で、『包括的に漏れのない形で
二次試験対策を可能ならしめる』つもりだよ」
と言って、にやりとした。
亜美は、榊の最後の『包括的に漏れのない形で二次試験対策を可能ならしめる』が、『特許法概説』の国内優先権
制度の説明をもじったものであることに気付いて、思わず「ぷっ」と吹き出した。
「お、最後の台詞の元ネタが、その本の記載だってのが分かったんだ。ますますもって頼もしいや」
亜美は、笑いをこらえながら、「は、はい…」とだけ応えた。静粛な図書館で、大口開けて笑ったら、司書につまみ出され
てしまうだろう。
「まぁ、そんなこなんで、今度の二次試験は造反した瀬川たちに負けないためにも、俺たちは必死なんだ。それに、
コンパでひどい目に遭わされた君らの仇を討つという意味合いもあるし」
支援
しえん
『仇討ち』とは少々物騒な物言いではあるが、榊なりに亜美と竜児を気遣ってくれていることの顕れなのだと理解した。
豪放で、少々大雑把な感じはするが、本当に思いやりがあって、優しい人のようだ。それだけにサークルが分裂してしまっ
たのが惜しまれる。
「あのぉ、サークルは、完全に分裂したままなんですか?」
その質問にだけは、榊にとって手痛いものだったのか、ちょっとばかり顔をしかめた。
「うん…、残念だけれど、このままだな。瀬川とは君らも反りが合わないだろ? それは俺たちも同様だ。あの本性は、
俺たち院生も知らなかった。あそこまでのワルだとは夢にも思わなかったよ。だから、彼らをもはや同志として認めるこ
とはできない」
「そうなんですか…」
質問の仕方がまずかったのかも知れない。亜美も瀬川と一緒の勉強なんぞ御免蒙りたいが、榊や小林たちと今後も
一緒に勉強できないかというつもりで訊いたのだ。だが、それを察したのか、榊は、再び笑顔を亜美に向けた。
「サークル活動は、共通の目的を持つ同志がいる、ってのが心強い反面、それで安心し切ってしまい、真摯な学習が疎
かになるという欠点もある。加えて、俺なんかは、メンバーの自主性を尊重するという名目で放任状態だったからなぁ…。
今さらだけど、サークルに対する君らの第一印象は、『手ぬるい』とか『半分お遊び』とか、そんなもんだったんじゃない
かな?」
「そ、そんなこと、あ、ありません!」
図星を指されて、亜美は迂闊にもどぎまぎしてしまった。
さすがに榊は元リーダー、洞察力もまんざらではないようだ。
「まぁ、瀬川たちが造反したのも、俺のこういったいい加減さが原因みたいなものだからね。君がそう思わなくても、俺
自身は自分のいい加減さを反省しているんだ。それに君や高須くんは、既に青本や条文集を使った、ごまかしのない
勉強を始めているようだ。であれば、レジュメに完全に頼っている者が中心の我々と一緒に勉強することにあまりメリッ
トはないだろう。これまで通りに、青本や、条文をしっかり読む勉強を続けていけば、自然と実力は身に付くよ」
「はい…」
突き放されたような気分もしたが、ポテンシャルを認めてもらえたような気もする。それに、亜美には竜児が居る。榊の
言うように、竜児と二人で頑張っていくべきなのかも知れない。
「なあに、これは昨日、高須くんにも言ったんだけど、俺たちは未だ学内に居るから、何か勉強で困ったことがあれば、
いつでも相談に来てくれ。答えられる範囲で対応するつもりだ」
「はい! ありがとうございます」
手近なところに指導してくれる者がいるのは心強い。それも人格が円満そうな榊であれば申し分ないだろう。
「それと、話はその本に戻るけど、買う?」
榊は亜美が手にしている『特許法概説』を指さした。
「あ、これですかぁ? 購入できるのなら何とかしたいです。でも、インターネットのオークションを見たら法外な値段が
付いていて、ちょっと悩みますね…」
「ネットオークションはダメだよ。概して相場よりも高い値段で売られている。インターネットを利用するにしても、オーク
ションよりも安くて確実な方法があるよ」
そうして榊は亜美に、「よかったらついて来て…」と言って、先行した。亜美は勝手が分からず、本を抱えたまま榊の後
を追った。行く先はパソコンが設置されているブースだった。
榊は設置されているパソコンの一台に向かうと、ブラウザを立ち上げ、『Google』のサイトにアクセスし、検索欄に『日
本の古本屋』と入力して、『Google検索』のボタンをクリックした。
その検索結果から『日本の古本屋トップページ』を選択する。
「これこれ…。このサイトは、日本中の古書店の在庫を検索してくれるんだ」
榊はそう言いながら、『古書検索』の欄に『特許法概説』と入力して、『GO』のボタンをクリックした。全国の古書店で
の『特許法概説』の在庫が表示される。
「川嶋さん、ラッキーだよ。神田神保町の古書店に第九版が二冊ある。値段も六千円とお手頃だ」
亜美は手元の『特許法概説』を見た。その本は第十三版だった。
「あのぉ~、図書館にあるのは第十三版なんですけどぉ、第九版って古すぎませんか?」
榊は亜美の突っ込みももっともだと言わんばかりに軽く頷いたが、言うことは違っていた。
「その第十三版だって法改正には対応できてないんだから似たようなもんだよ。それに、知的所有権の分野で有名な
N大法学部のG先生がうちの大学に来たときに、この本のことが話題になったんだけど、G先生は『特許法概説』は、
著者の吉藤先生が存命中に発行された第九版あたりまでがベストなんだそうだ。どう? 俺が君のような立場だった
ら買うけどな…」
「そうですねぇ…」
六千円という価格も手頃だ。しかも同じ第九版が同じ店に二冊ある。それでも、古そうなのが気になるのだ。
「今となっては第十三版も第九版も、古いってことに違いはないさ。それに、本は、買わずに後悔するより買って後悔し
ろ、だよ。身銭を切って買わないとありがたみがないから真剣に読まない。どうしても入手できない本は図書館とかで
借りるしかないが、古書店で買える本だったら、購入しておくべきだ」
亜美はそれでも躊躇していた。それを見抜いてか、榊が声をひそめて囁いた。
「それに、だ…。見ての通り、同じ第九版が二冊も同じ店にあるんだぜ? 君と君の彼氏の分がちょうど用意されて
いるようなもんさ。これは天の配剤と言っていい」
「は、はい!」
密かに思っていたことを指摘され、亜美は照れて頬が火照ってくるのを感じた。
それが榊にも分かるのだろう、流し目でちょっと意地悪そうに微笑している。
「決まりだな、君と高須くんの分が等しくあるってのは奇跡だね。おっと、このページをプリントアウトしとこう。
何なら、今すぐにでも予約の電話を入れといた方がいいだろう」
プリントアウトされた書面が亜美に手渡された。店の場所は神保町の交差点のすぐ近くのようだ。
「何から何まで、すみません」
亜美が礼のつもりで深々とお辞儀をすると、榊は、それを押し止めるつもりなのか、「まぁまぁ…」と言いながら右の掌
をヒラヒラと翻した。
「君らは俺たちのサークルに来てくれた。これも何かの縁だよ。それにお互い弁理士になったらなったで、付き合いが
あるだろう。狭い業界だからね、できれば敵としてではなく、味方としておつき合いしたい」
そう言って、持ち前の笑顔を見せた。弁理士の業界が狭いことは竜児も言っていた。瀬川のような悪辣な奴は願い下
げだが、榊のような善人なら、おつき合いは大歓迎である。
亜美は時計を見た。時刻は十二時近い。
「俺は、今日はここでずっと勉強しているけど、君はどうするの?」
「は、はい、実は、あたしと高須くんの共通の友人に誘われて、ソフトボールの練習試合を観戦する予定です。これから
理学部の教室に行って、高須くんと合流する予定です」
「そっか、じゃぁ、今日ぐらいは勉強のことは忘れて楽しんで来なよ」
「はい、色々とありがとうございます。それと、二次試験の合格をお祈りしています」
「うん、川嶋さんに祈ってもうんだから、今度こそ絶対に合格するよ」
亜美は軽く会釈をして榊と別れ、手にしていた『特許法概説』を書架へ元通りに戻すと、図書館を出た。
携帯電話を取り出し、榊がプリントアウトしてくれた古書店の番号に電話する。
「はい、こちら……古書店でございます」
古書店というイメージを裏切るような意外にも若々しい声がした。単なる若い店員なのかも知れないが、責任感を感じ
させるはきはきとした口調に店の跡継ぎといった雰囲気が感じられた。亜美は、その相手に『特許法概説 第九版』
の在庫の有無を尋ね、次いで、二冊とも予約する旨を伝えた。
図書館を出た亜美は、時間を稼ぐようにゆっくりと歩く。土曜日に法学部の必須科目の講義はない。竜児に対しては
『ある』と、要は嘘をついているのだ。そうでもしなければ、麻耶が指摘した通り、亜美のことを変に気遣って、プチデー
トのために毎週上京してくることを止めさせるに決まっている。
亜美は時計を見た。時刻は十二時十五分、この頃合いで今から理学部の旧館に行けば、講義の後に法学部の教室か
らやって来たように見せかけることができる。
木立の中に古色蒼然とした理学部旧館が見えてきた。大正か昭和か知らないが、とにかく戦前の建物であることは疑
いようがない。一応は鉄筋コンクリートで、竣工直後は白亜の殿堂のような偉容だったに違いないが、歳月を経て平
成の世となった今では、うらぶれ、薄汚れ、老朽化した哀れな姿を晒している。
もうちょっとメンテナンスにお金を掛けていれば、こうはならなかったのであろうが、予算が乏しい上に、理系学部は実
験や研究の施設に莫大な予算が必要なため、ついつい学舎の整備が疎かになるのだろう。
それにしても、LANケーブルが設置されているというのに、エアコンどころか扇風機すらないのは亜美もどうかと思う。
今は未だ何とかなるが、これから夏本番を迎えたら、ほとんど地獄だろう。
館内に入ると、むっとする湿っぽい暑さが亜美の身体を包み込んだ。その暑さで、長年建物の隅に溜まっている埃やカ
ビが臭ってくる。高須棒をあちこちに突っ込んだら、大変な量の埃やカビが掻き出されてくるだろう。だが、大学は高校
と勝手が違う。学舎の掃除やメンテナンスは業者に一任されているから、一学生の勝手な行動は許されない。
「高須くん、ストレス溜まりまくりだろうな…」
竜児の影響で、料理や掃除をできるだけ自力でやっている亜美も、隙間に高須棒を突っ込みたい衝動に駆られる。
竜児であれば、亜美以上に歯がゆい思いで薄汚れた学舎を見ているはずだ。
数学科一年の必須科目である線形代数学の講義は、その旧館の二階で行われていた。現に二階からは暑さと講義で
ぐったりとした感じの数学科の学生らしき一団が、黒っぽいリノリウムが貼られた階段を下りてくる。その一団の流れに
逆らって、亜美は階段を上った。
階段と同じような黒っぽいリノリウムが貼られた廊下に出る。窓は全て開け放たれていて、風通しは階段付近よりも
マシではあるが、それでも少々蒸し暑い。エアコン完備の法学部の教室とはえらい違いだ。
その廊下にも、講義が終わってほっとした表情の学生が散らばっている。
だが、亜美は廊下にたむろする学生の中に、悪意を放射する切れ長の双眸を認め、ぎくりと驚悸した。
「あらぁ~、川嶋さん、来たのぉ?」
「せ・が・わ・さん?」
昨夜のコンパで亜美と竜児を利用して、榊が率いていた弁理士試験対策のサークルを乗っ取った四人の女たちが
そこに居た。
「また会えてうれしいわぁ~、川嶋さぁ~ん。それにしても講義がないのに毎週彼氏をお迎えとはねぇ~。
ほんと、ご苦労さん。よほどご執心みたいね、高須くんを~」
そう言って、瀬川は、ほほほ、と甲高く笑った。知的美人であることは認めるが、所作の全てに相手を小馬鹿にしている
ような傲慢さが微かに見え隠れしている。それが、底知れぬ意地の悪さを感じさせ、亜美は思わず身震いした。それに
何よりも、昨夜のコンパでは、意地の悪い出題で亜美を這いつくばらせた張本人なのだ。
それにしてもお目当ては竜児だろうか。そうでなければ法学部二年であるはずの瀬川が理学部の旧館に居る理由が
見当たらない。いや、『それにしても講義がないのに毎週彼氏をお迎えとはねぇ~』という発言が気に掛かる。
何なんだ、どうしてそんなことを知っているんだ、この女は!
亜美は、憎悪を込めて瀬川の顔を睨み付けたが、それ以上は関わらないことにした。まともに相手をしてもろくなことに
はならない。こんな連中は無視して、竜児と一緒にさっさと練習試合が行われるグラウンドに行ってしまうに限る。
だが、無言で瀬川の傍らをすり抜けようとした亜美は、瀬川の取り巻きの女子学生三人に行く手を阻まれた。
「あらぁ~、川嶋さん、先輩である私たちを無視するのぉ~? ほんと、あなたって、粗野で礼儀知らずねぇ~。
それだから、高須くんを元カノに奪い返されちゃうんだわぁ~」
「瀬川さんたちには関係ありません! ここを通して下さい。それに、高須くんが元カノに奪い返されるとか、
根拠のない妄言はやめて下さい!!」
「根拠のない妄言かどうかは、教室を覗いてみれば分かるんじゃなぁ〜い」
嫌味たっぷりの猫なで声で、瀬川が亜美をそそのかすように言った。
「どういう意味ですかぁ、それ!!」
「お〜、怖い怖い…。本当にあなたって育ちが悪いのねぇ〜。そんなにカッカして、私なんかに食ってかかるよりも、早く
教室の中を覗いた方がいいんじゃないかしらぁ〜〜」
昨日と変わらぬ悪意丸出しの物言いに亜美はムッとしながら、前にバリケードのように立ちふさがる上級生越しに、
つい先ほどまで線形代数学の講義が行われていた教室を見た。藤色のポロを着た竜児の後ろ姿が目に入る。
だが、視野に飛び込んできたのは竜児の姿だけではなかった。
「祐作、それに実乃梨ちゃん! どうしてここに」
着席している竜児の傍らには、北村祐作と櫛枝実乃梨が立っていた。
「うふふ、そら、ご覧なさぁ〜い。私の言った通りでしょぉ〜? 高須くんはどうやら、あの元カノとよりを戻すみたいねぇ。
まぁ、容姿はそこそこだけど、勉強も料理もまるでダメなあなたよりも、明るくて元気そうな元カノの方が高須くんには
ふさわしいんじゃなぁ〜い?」
甲高く哄笑する瀬川たち四人に囲まれて、亜美は茫然としてその光景を目にしていた。予期せぬ実乃梨の出現、その
理由が亜美には分からない。これから試合に出るというのに、実乃梨の荷物は小さなポシェット一つだけ。その格好も、
薄い黄色でボディラインにフィットしたシルキーなブラウスに、赤が際だつチェック柄のスカートという、ジーンズばかり
着るはずの普段の実乃梨らしくない。
まるで、これからデートにでも出掛けるような雰囲気がする。
「ほらほら、ボケッと突っ立っているだけじゃ、元カノに彼氏を奪い返されちゃうわよぉ〜。さっさと彼氏の元に行って、
月曜日の喧嘩の続きでもしてくれないかしらぁ〜。それも警備員が駆けつけるような大乱闘を…。退屈な土曜日の
午後のいい刺激になるでしょうねぇ〜」
「あ、う…」
瀬川たちが意地悪くそそのかす中で、亜美は、理不尽とも言える実乃梨の出現に混乱していた。実乃梨とは穏便に話
し合うつもりだった。しかし、それは亜美が言うところの『迎撃準備』、要するに相応の覚悟がある状態での話である。
このような不意打ちとも言えるような状況は想定外もいいところだ。
「ほらほら、三人とも楽しそうに談笑しているじゃなぁ〜い? もう、みんなあなたのことなんか眼中にないみたいねぇ〜」
耳元で囁く瀬川の声も亜美には聞き取ることができなかった。ただ、「どうして…」という呟きを、蚊の鳴くような声で
繰り返していた。
「北村に、櫛枝に…、一体全体どうしたんだ?」
亜美が現れるものと思って、講義が終わった後も教室で待っていた竜児は、意外とも言える顔ぶれが目の前に居る
ことに当惑した。北村なら未だ理解できる。しかし、実乃梨というのは全くの予想外だ。それにしても亜美はどうした
のか、と竜児は訝しんだ。
「高須が驚くのは無理もないな。実は櫛枝から昨夜電話で頼まれてな、月曜日の亜美との諍いに手を打つためにも、
四人揃ってグラウンドに行きたいってことなんだ。で、亜美は毎週土曜日にはここに来るって聞いていたから、櫛枝とやっ
て来たってわけさ」
「というこって、高須くん、あーみんが来たら、みんなで電車に乗ってグラウンドに行こう。まぁ、私は試合に出る関係上、
ちょっと早く行かないといけないから、それに合わせてもらうと、私らが着替えたりミーティングしている間は、ちょっと
待って貰うことになるけど、メンゴ!!」
軽い謝罪のつもりなのか、実乃梨が敬礼するような仕草をした。そのため、肩に掛かっていた小さなポシェットが揺れた。
「い、いや、別にそんなことは気にしねぇけど…。櫛枝、バットとか、ユニフォームとかグラブとかはどうした? 見たところ、
ほとんど手ぶらじゃねぇか」
竜児の問い掛けに、実乃梨は、にっこりと微笑んだ。
「ああ、荷物は大学の寮からチームのみんなが乗るバスに乗っけてもらうことになってんのよ。他のメンバーには申し
訳ないけど、せっかく高須くんたちと出掛けるんだから、いかにも体育会系っていう大きな荷物を持って行くのは避け
たかったんだ」
「そんなことして、大丈夫なのか? 櫛枝は新入生なんだろ」
実乃梨は、ちょっと得意そうに胸を張った。
「私はこれでも今回のチームのキャプテンだからね。今回は一年生だけのチームなんだよ。で、ちょっとばかし、特権を
行使させてもらったのさぁ」
「お、おう…。そ、そうなのか」
それにしても、何でスカート姿なのだろう。実乃梨のスカート姿は、高校の制服以外では、もしかしたらこれが初めての
ような気がする。これはこれで似合っているし、正直、目の保養にもなるのだが…。
それと引き替えというわけではないだろうが、亜美が来ない。いつもならとっくの昔にこの教室に来ているのだが、
そうではないということは、何らかのトラブルか、と竜児は心配になった。
「なぁ、北村、北村は川嶋と同じ法学部だよな。川嶋は、午前中の講義に出てなかったのか? あいつが言うには、
土曜日の午前中には必須科目の講義があるから、こうして土曜日も出てきている、ってことらしいんだが…」
その竜児のコメントに、北村は鳩が豆鉄砲を喰らったように目を丸くした。
「必須科目の講義? 土曜日にはそんなもんありゃしないぞ? 選択科目なら土曜日にも講義があるが、
亜美は土曜日には選択科目も設定していないはずなんだが…」
「何だってぇ?!」
教室の外では亜美が茫然とした面持ちで竜児たちを見ていた。
「ほらほら、どうしたの川嶋さぁ~ん。何だか三人とも浮き足だってきたみたいだし、この分だと、高須くんと、元カノと、
もう一人の男子と一緒にすぐにでも出かけそうな雰囲気じゃなぁ~い? このまま、私たちと、教室の中の三人を交互
に睨んでいても何の問題解決にもならないわよぉ~。今すぐ彼氏の前にすっ飛んで行かないと、何だが取り返しのつ
かないことになるんじゃないかしらぁ~」
瀬川の言うことにも一理ある。竜児が実乃梨と一緒に出かけるところなんて見たくもない。それを見たら、しばらくは立
ち直れなくなりそうだ。しかし、いざとなると、足がすくんだように動かない。竜児の前で屈託なく笑う実乃梨は本当に
太陽のように輝いて見える。昨日の深夜、『実乃梨から逃げない』と宣言したのに、実際にはこのざまだ。
−−あたしは、結局、実乃梨ちゃんが怖いんだ…。
より正確には、亜美には備わっていない実乃梨の明るさや屈託のなさ、それに竜児が惹かれることを恐れているのだ。
それ故に、竜児をめぐって実乃梨と対峙すると亜美は平常心を保てず、皮肉を言ったり、茶化したりで、その場を煙に
巻こうとする。思えば、月曜日だって、最初に皮肉で兆発したのは亜美ではなかったか。
「ほぉ〜ら、川嶋さぁ〜ん、どうしたのぉ? 顔色が悪いわよぉ〜。まるで何かに怯えているみたぁ〜い、あははは!」
それに瀬川たちと居合わせるなんて、最悪だ。もう、彼女らの目当てが何であるか、亜美にもはっきりと分かった。竜児
ではない、他ならぬこの亜美だ。
「瀬川さん…、あなたって人は…、何が目的なんです?! 何のために、わざわざ理学部の旧館に来ているんですか?!」
亜美は、持ち前の大きな瞳で、瀬川の切れ長の双眸と対峙した。その冷たい悪意を秘めた瀬川の両の眼の禍々しさに、
亜美は正直ぞっとする。陽の実乃梨とは対極の、陰の極致とでも言うべきか。虚勢を張って睨み付けてはいるものの、
本当は亜美ごときが敵う相手ではない。
その証拠に、瀬川は、先ほどと変わらぬ冷やかな笑みを崩さない。
「あらあら、そんなことも分からないのかしらぁ〜、おばかさぁ〜ん。平たく言えば、昨日あれだけ痛めつけたあなたがど
うなったのか、確かめに来てあげたんじゃないのぉ〜。光栄に思いなさぁ〜い」
「それ、どういう意味ですか?!」
「あら、あれだけの精神的なダメージを受けたんだから、もしかしたら世を儚んで自殺くらいしているかと思ってぇ〜。
でもぉ、川嶋さんって、粗野だけあってしぶといのねぇ〜、あれだけ恥をかいたのに、おめおめと生き延びているんです
ものぉ〜」
何て奴だ、こいつは本当の外道だ、と亜美は憤怒よりも戦慄した。昨夜、まかり間違えば、本当に身投げをしていた
かも知れないというのに、こいつは亜美がそうなる可能性を承知の上で、あのような意地の悪い出題をし、さらには、
実乃梨を引き合いに出して陰湿に亜美をいたぶったのだ。
「あたしが自殺って、あんたって、どこまで非道なの! それでも法律職を志す者なの? それどころか、人として許され
ないわよ!!」
「それが何? 昨日も言ったけどぉ〜、利用されたり騙されたりする方がバカなのぉ〜。で、利用されるようなバカは、
聡明な私たちから見れば、その利用以外に存在価値は無に等しい。生存権なんか認められない、って言い換えてもい
いかしらぁ〜。だから、どうなろうと知ったこちゃないわね、基本的にぃ〜」
「何ですってぇ〜!!」
「それに、未だ参っていないようなら、とどめを刺す必要があるんじゃなぁ〜い? 私って、何事も徹底的に、っていうの
がポリシーなのぉ。そのおかげで、学業でも、何でも、そこそこ成功しているってわけぇ〜。だから、昨日程度のことで、
あなたが死ぬなり何なりしていたら、その程度の雑魚ってことだし、今日みたくしぶとく生きているようなら、とどめの
刺し甲斐があるってもんだわぁ〜」
「人でなし!!」
亜美は怒り心頭の面持ちで、瀬川の胸ぐらを掴もうとした。瞬間だが、瀬川に対する恐怖よりも、憤怒が勝った。だが、
亜美は、瀬川の取り巻き三人に両腕を掴まれ、押さえ込まれた。
瀬川は、亜美のショルダーバッグに手を突っ込んで、携帯電話を取り出し、その電源を切った。
「何、人の電話をいじくってんのぉ! それよりも放してよ!」
「あら、あら、本当に粗暴なこと。所詮、芸人なんて成り上がりだから、その娘も品がないのねぇ~。まぁ、あなたが騒ぐ
のは勝手だけどぉ~、ここであんまり大きな声を出すと、あなたが逃げるように避けている元カノにあなたの存在が知
られちゃうわねぇ。ぞれも、粗野で、野蛮で、下品丸出しのぉ~」
怒りに我を忘れそうになっていた亜美は、再び、瀬川の恐ろしさにぞっとした。人の弱みに付け込むことがあまりにも
巧みすぎる。
講義が終わった直後ということもあって、教室や廊下はその余韻のようなざわめきがあるため、未だ竜児たちは亜美
の窮状を察知していないらしい。竜児には助けて貰いたい。だが、実乃梨には、今、窮地に追い込まれている状況を見
られたくない。
「あそこに実乃梨ちゃん、あんたが言う元カノが居るのも、まさか、あんたの差し金じゃないでしょうね!」
「あらあら、いくら私だって神様じゃないから、そこまでのお膳立てはできないわね。偶然よ、偶然。やはり、人を支配する
に足る器の私には、こうしたチャンスが巡ってくるのかしらぁ~。うふ、人の運命を弄ぶって、ほんとに痛快ぃ~」
「神様ですってぇ?! 冗談じゃない、悪魔も裸足で逃げ出すわよ、あんたなんかを目の前にしたら!!」
「おやおや、この私を悪魔以上に邪悪だと言いたげねぇ~。でも、それも悪くないわ。だって、あなたのような凡庸な
雑魚とは明らかに格が違うってことになるんだからぁ~」
瀬川は、口元に右手の甲を軽くあてがって、ほほほ、と鈴を転がすように笑った。
「くぅ!」
悔しくて涙が出そうなのを、亜美は必死で堪えていた。それにしても、どうして、瀬川は亜美がここに来ることを知り得た
のだろう。
「まぁ、状況がある程度思い通りになるのは、独自の情報網を備えているからなんでしょうねぇ~。それも法学部だけで
なく、理学部や工学部からも情報が入ってくる。その情報源は私たちの色香目当てのバカな男どもなんだけどぉ~。
まぁ、適当にあしらって利用しているだけ…。要らなくなればポイだわぁ~」
「じょ、情報源って…」
瀬川は、亜美を理解力のない幼稚園児か何かのように嘲笑った。その視線は氷のように冷たく、亜美の心胆を
寒からしめた。
「モデルだったあなたにだって経験あるんでしょぉ~。女の武器を最大限に使うのよぉ~。ま、イケメン男子限定だけ
どぉ、ペットにして一回だけセックスしてやるだけ…、よほどセックスが上手じゃないと、もう二度目はないのにねぇ~、
それでも次を期待して、いろいろ無茶なことをやってくれるから、ほ~んと、面白くってぇ~」
「けがらわしい! 冗談じゃない、あんたみたいに、ふしだらな女じゃないわよ!」
亜美は嫌悪感で鳥肌が立つ思いだった。確かに、中学、高校の時に、男子をからかったことは幾度となくある。
恋愛寸前の経験も皆無ではない。だが、キスも、愛撫も、本当に心を許した相手、竜児以外は御免だ。
「ふん、何を清純ぶっているんだか。まぁいいわぁ〜、その情報源のおかげで、月曜日に学食で騒いだあなた達の素性
がすぐに分かったわぁ~。それだけでなく、あなたが講義もないのに毎週土曜日に律儀にここに現れるということもねぇ~。
何でも高須くんとのプチデートですってぇ? ほんとに幼稚なままごとねぇ~」
「何とでも言うがいいわ。でも、自分たちが特別な存在だって思い上がって、そんなことばかりしていると、いつかきっと
痛い目を見るわよ」
両腕を押さえつけられたまま、亜美は、瀬川のぞっとするような瞳を睨め付けた。
しかし、瀬川は、相変わらず亜美を侮蔑するような冷たい笑みを崩さない。
「川嶋さぁ~ん、今の自分の状況が分かって言っているのかしらぁ~? 高須くんの目の前には元カノが居て、あの
浮き足立っている様子からすると、今にも一緒に出かけそうな感じがするじゃなぁ~い? そうなったときの、あなたの
精神的なダメージが見物だわねぇ~」
「どういうことなんだ、土曜日は講義がないって? 川嶋は、どうして? ありえねぇ…」
鈍い竜児にも、それが何を意味するのかは、さすがに理解できる。ただ、あまりにバカげていて、現実味がないのだ。
「それはお前にも、今は分かったんじゃないか? 亜美は、土曜日にお前に会うためだけに上京しているんだろう。
だけど、それを正直に言えば、お前のことだ、亜美の負担を気にして、それを止めさせようとする。亜美もそれを分かっ
ているから、敢えてお前に嘘をついていたんだな…」
北村は、諭すような口調で竜児に言った。
「そんな、土曜の午後なんて、単に二人で昼飯食って、それから下町で買い物したり、フリーマーケットを冷やかして、
他愛もないことを話して、夕方に大橋の町に帰ってくる、ってだけのことだぞ。そんなことのために、あいつは貴重な
時間を費やして講義もないのに大学に来ているって言うのか? バカな…」
実乃梨が、ちょっと寂しそうな笑顔を、竜児に向けている。
「高須くんは、あーみんとの土曜の午後を単なる買い物としか思ってないようだけど、あーみんにとっては違うってこと
さね。あーみんは、土曜の午後は高須くんとのデートのつもりで出かけているんだよ、きっと。でも、それを正直に言った
ら、さっき北村くんが指摘したように、高須くんに止められちゃう。だから、あーみん本人も、高須くんにはデートだって
言わないし、できるだけそんな素振りは見せないようにしているんだねぇ」
実乃梨の言葉で、竜児は改めて土曜日の記憶をたぐってみた。言われてみれば。いつも亜美は楽しそうだった。下町
の老舗での、彼女にとってはつまらないであろうはずの買い物の最中にも、瞳を輝かせて竜児と一緒に行動していた。
もちろん、下町だけでなく、銀座や原宿、青山にも行くことがあるが、それでも元モデルが好みそうなきらびやかな
ブティックなどが目当てではない。
「そんな…、デートだなんて、あり得ねぇ。俺と川嶋が行くところは、地味な老舗とかばっかで、とてもじゃねぇが、川嶋
みたいな女子が喜ぶようなところじゃねぇよ」
北村が、やれやれ、という感じで嘆息した。
「なあ、高須、お前は亜美という女をどんな奴だと思っている? 昨日や今日の付き合いではないお前なら、あいつの
気持ちが分かるんじゃないのか? 意外にも、あいつは服装とかも地味な配色が好きだからな。うわべは派手そうに
見えるけど、内面は決してそうじゃないことは、お前だったら俺よりも分かっているんじゃないのか?」
「そうかもしれねぇけど、そうでないような気もするんだ」
「なぜ、そうでないような気がするんだ?」
「いや、実は、つい先週の日曜日に川嶋と初めて本格的なデートをしたんだが、そのデートの行き先を決める時に、俺
は、浅草付近とかを提案したんだ。しかし、川嶋はそれを『地味だ』って嫌がったんだよ。それで、川嶋は地味な場所が
好きじゃないけど、土曜日は俺に無理につき合ってくれている…、そんな気がするんだ」
「本当にそう思う? 私も女の子だから、あーみんの気持ちはちょっとだけ分かるような気がするんだ。本当は、
あーみんは浅草でもよかったんだよ。ただ、初めての本格的なデートだから、いつもとは目先の変わった場所に行きた
かっただけなんだ。浅草が地味だっていうのは、あーみんのうわべの口実だと思うよ」
「どうなんだろうな…」
曖昧に否定したが、実乃梨の言うことに思い当たるふしがなくはない。
台所でピクニック用の弁当を一緒に作っていた時のことだ。台所仕事をしながら竜児は亜美に買い物がてらのデート
を申し出た。竜児が提案した行き先は浅草と調理器具なら何でも揃う浅草近隣の合羽橋だったが、その時、亜美が、
『どうせなら、横浜に行こうよ』と言い、『浅草は大学から近いから、いつでも行ける』ということで、横浜に行き先を変更
したのだ。
今にして思えば、『どうせなら』という言葉は、『目先を変えて』程度のつもりだったのかもしれない。
237 :
SL66:2009/04/05(日) 06:25:11 ID:hU0Y/TS9
予定では28レスでしたが、もう少し行けそうなので
キリが良いところまで投下します
「あいつは、高須、お前に出会って変わったんだ。世話になってる親戚の影響もあるんだろうけど、堅実な生き方を指向し
ているように傍目には感じられる。というか、あいつの外交的な面は、女優の娘ってことで、後天的に身に付けたものな
んじゃないかな。だから、今、高須と一緒にいる時の、地味な感じの亜美こそが、あいつの素の姿なんだろう」
北村の言葉に、竜児は考え込むように、しばらく「うーん…」と唸った。
美貌や、元モデルというステータスに、竜児も幻惑されていたのかも知れない。だから、地味なところや、生活臭が感じ
られるような買い物などは、亜美が喜ばないと思い込んでいたのだ。
「そうかも知れねぇ…。俺は、川嶋の内面を見誤っていたようだ。高校時代の派手な印象が強すぎて、そのイメージを
未だに引きずっていたんだな。結局、俺は、あいつのことを何も分かっちゃいなかったんだ…」
「身近に居すぎると、相手の変化は分からないものさね。あーみんも、急に変わったわけじゃなくて、本当にここ二年で
徐々に変わってきたんだと思うよ。月曜日には、私もさ、売り言葉に買い言葉で、料理もできないバカ女とかって、
あーみんを罵倒しちゃったけど、後で北村くんに聞いたら、高須くんに料理教わっていて、自宅でも料理しているって
知って、ちょっと申し訳なかったかなって、反省してるんだ、これでも…」
実乃梨が、眼前に手刀を構え、「あーみんと高須くんに、メンゴ!」と呟いて、きゅっ! と目をつぶった。
「おっと、櫛枝、そろそろ行かないとまずいんじゃないか?」
北村は腕時計で時刻を確認した。時刻は十二時三十五分になろうとしていた。
「ほんとだ、こいつぁヤバい。じゃ、私は行かなきゃ、北村くんと高須くんは、どうするの?」
「俺は櫛枝と一緒に行くよ。高須は? どうやら亜美は来ないみたいだし、一緒に行くか?」
「その前に、北村、すまねぇが、川嶋に電話してくれねぇか? 俺は不覚にも携帯電話を昨夜壊しちまって、あいつに
連絡できねぇんだ」
北村は、「ああ、なら、ちょっとかけてみるか…」と呟いて、亜美に電話した。
「出ないぞ、亜美の奴。何だか、携帯の電源を切っているみたいだな」
「何だって? おかしいじゃねぇか。あいつが携帯の電源を切っているなんてのは、そう滅多にはねぇぞ」
「そう言えばそうだな。でも、そうなると、ますますこっちとしてはどうしようもない。亜美には悪いが、そろそろ出掛けた
方がよくないか?」
竜児は、首をはっきりと左右に振った。
「あいつは、昨日、櫛枝と差しで向き合うために、ここへ来るって言ったんだ。だから、俺はあいつのその言葉を信じる。
いや、信じてやらなきゃいけねぇんだ。それに、何か嫌な予感がする。俺は、あと五分待ってみて川嶋が現れないような
ら、探しに行くなり、学生課に飛び込んで、呼び出しをして貰うつもりだ」
「嫌な予感だなんて、考え過ぎじゃないのか?」
「いや、ちょっと思い当たることがあるんだ。だから、北村に櫛枝、悪いが先に行ってくれ。俺も川嶋と合流したら、すぐにグラウンドに向かう」
「そうか…。高須がそうするなら、それでいい。じゃあ俺たちは先に行くよ」
「ああ、すまねぇ…」
呟くような竜児の一言に、北村と実乃梨は軽く頷いた。
「ほら、ご覧なさぁ〜い。あなたの彼氏は、あなたを見捨てて元カノと一緒に出かけるところだわぁ〜」
「ううう…」
瀬川の取り巻きに押さえつけられて、唸り声を上げている亜美にも、そんな雰囲気が察せられた。三人は、やがて亜美
のいる廊下に出てくるはずだ。そうなると、今の無様な姿を実乃梨に見られてしまう
「今の川嶋さんの姿を元カノに見せたら、どうなるかっていうのも興味深いけどぉ〜、私たちが川嶋さんを痛めつけて
いるのが彼氏とその友人に分かっちゃうのは、まずいわねぇ〜。ということで、隣の空き教室に連行よぉ〜」
「ちょ、ちょっと!」
見れば諍いだっていうのが明らかなのに、廊下に居合わせた数学科の男子学生は、我関せず、とばかりに無視してい
る。大学は高校と違って、個々人の結び付きは希薄だ。故に、女子同士のトラブルに、わざわざ首を突っ込む男子学生
は居ない。
両腕の自由を奪われた亜美は、引きずられるように隣の教室に連れていかれた。そうして、押さえ込まれたまま、席に
着かされ、顔を廊下に面した窓に向けられた。
「もうじき、あなたの彼氏と元カノがここを通って行くでしょうねぇ〜。どう、見捨てられたってのが、間もなく証明される
気分はぁ〜」
「まだ、そうなると決まったわけじゃないわ!」
そうならない、という保証もない。竜児は、亜美が土曜日の講義のついでに会いに来ていると思い込んでいるとしたら、
亜美が来ないということに、さほどの疑念を抱かず、実乃梨と一緒に行ってしまう可能性の方がむしろ高いだろう。
「ほら、来たぁ〜」
瀬川が、鼻歌でも歌いそうなほど、呑気な口調で呟いた。
廊下に面した窓越しに、北村の頭が左から右へ移動しているのが見えた。次いで、実乃梨のショートカットの頭が通過
していった。
だが、それまでだった。
「あの子が来ない!」
瀬川が、予定が狂ったことに当惑して短い叫び声を上げると、一人、隣の教室を覗きに行った。
戻ってきた瀬川は、忌々しそうに眉をひそめている。その表情を見て、亜美は竜児が未だに自分を待ってくれていること
を確信した。
「思惑通りにはいかなかったようね」
亜美が、瀬川の顔を睨め付けて言った。瀬川は、そんな亜美を冷たい瞳で一瞥したが、無言だった。狙いが外れるとは
思ってもみなかったのだろう。
もうしばらくの辛抱だ。実乃梨がこの建物を出てしまえば、大声で竜児に救いを求めることができる。
だが、この女には、言うべきことがあった。
「高須くんは、あんたが考えているような軽薄な人間じゃない。だから、あたしとの約束は必ず守る。後は、ここで大きな
>>238 小文字で伸ばさないでくれ今は…ウザイ奴を思い出す…
支援
声を出して、高須くんに助けを求めるだけ。覚悟なさい」
瀬川が、きっ! と亜美を睨み付けた。
「うるさい小娘ねぇ。ちょっと、当てが外れることなんて珍しくないじゃなぁ〜い。それに、顔つきが険しいだけの一年坊
主なんかどうってことないわぁ。何なら、既にセックスで手なずけたペットの男どもにボコらせればいいんだしぃ〜」
「セックスで手なずけたとか、ボコらせるとか、本当に下品ね。あたしなんかよりも、あんたの方がよっぽど育ちが悪いん
じゃないの。陰険で卑怯だし、ほんとにあんたって最低な女ね。現に、あたしや高須くんみたいな初学者に三次試験の
問題を出すような卑劣な奴じゃない、あんたは!」
「ちょっとルックスがいいだけの劣等生が、口のきき方に気をつけなさい。ほんとに生意気な小娘ね。減らず口ばかり叩
いていると、セックスに飢えているペットどもの慰みものにしてやってもいいのよ?」
瀬川が語尾を伸ばす独特のしゃべり方を止めている。その瞳からは侮蔑の色が消え、亜美に対する怒りと憎悪がたぎっ
ていた。
「やれるもんなら、やってみなさい! そんな犯罪行為が許されるわけがないじゃない。本当にふしだらでおぞましい女
ね。あんたみたいな信義則に真っ向から反するような存在が法律職を志すなんて、どうかしてるわ!」
「信義則なんて糞喰らえだわ。試験の結果が全てなのよ。で、知力に秀でた私たちは、今年にも合格する。それだけの
ことなんだわ」
「受かるもんですか! 世の中を嘗めきって、相手を見くびっているあんたたちが、最終合格なんかするもんですか!
合格して弁理士になれても、どうせあんたみたいな卑劣な女は法に触れることをしでかして逮捕、弁理士登録も抹消
されるのがオチだわ。そんなクズにあたしも高須くんも負けない、負けてたまるもんですか!!」
「ほんとにむかつく小娘だわ。どうやら本気でペットどもの肉奴隷になりたいらしいわね」
瀬川が、顎をしゃくって取り巻きに指示をした。亜美の背中を押さえていた女が、ポケットからハンカチを取り出して亜
美の口に押し込もうとする。
首を振って抵抗しながら、亜美は、実乃梨がこの理学部旧館を出て行った頃合いだろうと考えた。
「たすけてぇ!! た・か・す・くーーーーん!!」
声を限り亜美は叫んだ。この声なら、壁の向こうにいる竜児にも聞こえるはずだ。
瀬川は、舌打ちすると、亜美を押さえていた三人の女子学生に「その小娘はほっといて、退却よ!」と叫び、竜児が居る
教室からは遠い方のドアを指差した。
亜美の叫びを聞きつけた竜児が空き教室に飛び込んで来たのと、瀬川たち四人の女子学生が、竜児が入って来たの
とは別のドアから出て行こうとしたのは、ほぼ同時だった。
「お前は、瀬川!」
ドアから出ようとする刹那、瀬川は、にやりと竜児に妖艶な笑みを返してきた。
その瀬川たちを竜児は追いかけようとしたが、座席にぐったりともたれている亜美に気づき、駆け寄った。
「川嶋、大丈夫か?! 奴らに何をされた?! 怪我はねぇか?!」
竜児に抱き抱えられながら、亜美はうっすらと目を開けた、
「け、怪我はないけど、怖かったよぉ〜。人の弱みをねちねちと陰湿にいたぶって…。あいつ、瀬川って、本当に悪魔か
も知れない。あたしが、毎週ここに来ることを知っていて、待ち伏せしていたんだわ…」
そう言って、身震いし、竜児に縋りついた。
「もう大丈夫だ。心配いらねぇ。しばらく、ここでじっとして、落ち着いてきたら、今日はこのまま帰ることにしよう」
だが、亜美は、ゆっくりと首を左右に振って、竜児の提案を拒絶した。
「昨日のあたしの覚悟を翻すわけにはいかないよ。あたしは、実乃梨ちゃんから逃げないって約束したんだ。白状する
とね、瀬川たちに捕まったのは事実だけど、実乃梨ちゃんが祐作と一緒に先に来ていることで、高須くんが居た教室に
入っていく勇気がなかった…。そこを瀬川たちに付け込まれたんだよ」
「て、おい、川嶋…」
「今度は、あたしは逃げない。あたしだったら大丈夫。だから、高須くん、あたしを実乃梨ちゃんのところに連れてってよ」
「川嶋…」
竜児は、亜美を、きゅっ、と抱きしめてから、亜美を立たせてみた。
「歩けるか? 川嶋」
亜美は、ふっ、と脱力したような笑みをたたえて竜児に頷いた。
「高須くんに抱いてもらって、高須くんのパワーを貰ったから大丈夫。歩けるよ…」
「そうか、でも、無理はするなよ」
「ありがとう、でも、実乃梨ちゃんとのことは決着をつけておきたいの。だから、あたし行かなきゃいけない…」
竜児は亜美のショルダーバッグを持とうとしたが、それは亜美の手によって遮られた。
「ほんとに大丈夫だから。バッグぐらいは自分で持てるよ」
亜美は、「よっ!」という軽い掛け声とともに重いバッグを肩に掛けたが、その瞬間に足元がふらついた。
「言わんこっちゃない…」
竜児が亜美の肩を支えてやろうとしたが、亜美は首を左右に振って拒絶した。
「今回、瀬川たちなんかに付け込まれたのは、あたしが思慮なく高須くんに甘えていたところを連中に目撃されたのが、
いけなかった…。大学は高校に比べて、みんな互いには我関せずといった雰囲気が強いから、多少は高須くんに甘え
ても大丈夫って油断していたのね」
「川嶋…」
「でも、大学って、高校と違って、教職員が学生を学業以外ではほとんど束縛しないから、一般社会と同じように悪意の
ある人間も野放しになっているんだわ。社会に悪意ある人間がいることぐらいモデルの仕事を通じて分かっていたは
ずなのに、どっかにここは学校だから、何かが起こるにしてもたかが知れている、って嘗めていたのね…」
「それは俺もそうだよ…退屈だけど平穏な学園生活が続いていくものだとばっかり思っていたんだ」
しかも、大学には警察が滅多に介入してこない。一般社会以上の無法地帯であるかも知れないのだ。瀬川のような
適時あみドラ!来てたー!
非常識なほど悪辣な女が存在することが、それを端的に物語っている。
「そうよね、でも、それはあまりにも無防備だったんだわ。だから、四六時中、高須くんに甘えるような子供っぽいことは、
そろそろ卒業しなくちゃいけない。白状するとね、あたし、高須くんが本当にあたしことを好きなのか不安だったから、
必要以上に高須くんにベタベタしていたんだと思う」
「おいおい、信用ねぇんだな…」
「高須くんの真意は分かっている。だけど、思考と感情は別物なんだわ。だから、いざとなると、不安になるのね。そこを
瀬川たちに狙われた。でも、そんなものから、いい加減脱却しなくちゃいけない。そのためにも、今日は実乃梨ちゃんと
差しで話して、自分自身の心に決着をつける必要があるんだわ」
「そうか…」
亜美の決意は固い。であれば、好きにさせてやるのが一番だ。
二人は、空き教室から廊下に出た。廊下からは既に学生たちの姿は消えていた。退屈で難解な講義から開放されて、
帰宅するなり、ショッピングに行くなり、あるいは今日以外の竜児と亜美のようにプチデートと洒落込んでいるのかも
知れない。
古い建物らしく、傾斜が急で滑りやすいリノリウムの階段を慎重に下り、埃っぽい理学部旧館から外に出た。
竜児は瀬川たちが待ち伏せしていないか気になった。それは亜美とて同じだった。
「気をつけて、高須くん。瀬川たちも怖いけど、あいつらのペットが高須くんを狙っているかもしれないから」
「そう言えば、昨日、瀬川も言ってたけど、あいつの言うペットって何なんだろうな」
亜美は、羞恥からか嫌悪からか、頬を赤く染めていた。
「瀬川たちだけど、ほんとに最悪! あいつらの言うペットって、男子学生を、そ、その、セ、セックスで手なずけて、
言いなりにさせた連中のことなんだって…」
「うへ、まじかよ…」
「で、そのペットをけしかけて、高須くんをボコるとか、亜美ちゃんをペットたちの肉奴隷にするとか言ってたよ。
ほんとおぞましい。狂ってる、あいつら…」
「たしかに、冗談じゃねぇな…」
竜児は、感覚を研ぎ澄ませて、理学部旧館入口付近を伺った。だが、さすがにそこまではしつこくないらしく、瀬川と
そのペットらしい者が潜む気配は感じられなかった。
「ねぇ、瀬川たちは、また狙ってくるかしら?」
亜美が、大きな瞳を不安そうに見開いている。
「どうなんだろうな、多分、連中にとって俺や川嶋は、からかい甲斐のあるオモチャみたいなものなんだろう。その程度
のものに、犯罪行為そのもので報いるとは常識的には思えねぇ」
「それは、そうなんだけど…、あたし、あいつらに『そんなクズにあたしも高須くんも負けない、負けてたまるもんです
か!!』って啖呵切っちゃった…」
さすがにやりすぎた、と亜美は思った。相手の恐ろしさを考えずに、宣戦布告をしたようなものだからだ。
「そっか…」
竜児は、深くため息をついた。
「ごめん…、軽率だったね…」
「仕方ないさ、俺が川嶋と同じような状況だったら、同じようなことを言っただろう。ああいう連中に対して妥協は禁物
なんだろうな。妥協すればするほど、要求が苛烈になってくる。だから、川嶋は悪くねぇよ」
「でも、これからどうしよっか…」
「そういうことなら、なりふり構わず俺たちを潰しにくるかも知れない。頼りになりそうもねぇけど、今日実際にあったこと
を学生課に相談するぐらいはしておこう。後は、自衛だな、できるだけ単独行動は避ける、俺や北村と一緒に行動した
方がいいだろう」
亜美は時計を見た、時刻は一時を過ぎていた。
「土曜日のこの時間では、学生課は閉まっちゃったばっかりね。月曜日に出直すしかないわ」
「ああ、その時は、二人で一緒に行こう。複数人が同じようなことを訴えれば、話に信憑性が出てくるし、さっきも言った
ように単独行動は危険だ」
「そうね…。それと、合法スレスレだけど、あたし防犯スプレーを用心のために持ち歩くことにする…」
「えっ! 犯罪なんかで悪用されているあれか?! 入手できるのか?」
「ママに相談する。さすがに肉奴隷とか言ったら、ママはこの大学を辞めさせるだろうから、ストーカーがキモいぐらい
の理由にしておくつもり。ママだったら、いろんな分野に顔が利くから、多分大丈夫。高須くんと祐作の分も『お友達も
ストーカーに狙われているから』って言って手配してもらうよ」
唐辛子の成分で相手の目を眩ます防犯スプレーは、一種の武器でもある。それを使用すれば、正当防衛に当たるか
否かは判断が難しい。相手が素手の状態で使用すれば、武器対等の原則に違反して、相当防衛にはならない。だが、
まともな奴が相手ではないのだ。戦うためには、武器も必要となる。
「そのスプレーを使うのは、よっぽどの時なんだろうけど、あった方がよさそうだな…」
竜児の問い掛けに亜美は「うん…」と小声で言って、頷いた。
竜児は、亜美と並び、駅を目指してキャンパスをゆっくり歩く。土曜の午後ということもあって、人影はまばらだ。
「なぁ、川嶋…」
「なぁに?」
竜児の唐突な問い掛けを、亜美は反射的に訊き直した。
「北村から聞いたんだが、お前、土曜日には講義なんてないそうじゃねぇか…。それなのに、毎週律儀に出てきやがって、
それも、法学部の教室から理学部の旧館まで歩く時間まで考えて、わざとちょっと遅れて俺の居る教室に現れていた
んだな」
亜美は、ふっと嘆息すると、瞑目した。
なぜそんな表現を平然と出来る!
ファンです、羨ましい。
支援
「ついにバレちゃったか…。そう、そうでもしないと、土曜日の午後は高須くんとデートなんてできないからね。高須くん
には悪いけど、ちょっと嘘をついてたの。ごめんなさい…」
そうして、薄目を開けて、隣を歩いている竜児を観察した。竜児のことだから怒りはしないだろうが、不快に思っている
かも知れない。
「いや、川嶋の気持ちに鈍感だった俺の方に問題があったんだ。何よりも、土曜の午後の散策を、俺は単なる買い物
程度にしか思っていなかった。出かけるところは下町の老舗とかの地味なとこばっかりだったし…。それで、川嶋は、
義理で俺に付き合ってくれていると思い込んでいた…」
「高須くんには、土曜日の午後、あたしが楽しそうには見えなかったんだ…」
「楽しそうには見えていた、でも本当に楽しいのか確信できなかったんだ。だから、無理に付き合ってくれているとかっ
て思っていたんだな…」
「でも、それは間違い。それに気付いてくれた?」
「ああ、俺は川嶋亜美という女のことを少々誤解していたらしい。川嶋は、人目を引く外見とは裏腹に、思慮深くて堅実
だったんだな。それを示すサインは、一緒に行動していて、いくらでも目についたのに、文化祭のステージとかの派手な
印象が強すぎて、感覚的には納得できなかったんだ…」
竜児は、眉を苦しげにひそめている。亜美に対して懺悔するようなつもりなのだろう。
亜美は、淡い笑みをそんな竜児に向け、首を左右に振った。
「感覚的に納得できていなかったのは、あたしも同じ。高須くんは、本当はあたしじゃなくて実乃梨ちゃんのことを好き
かも知れないって、感情が拭いきれていなかったのね。理屈の上では納得できても、感情ではそうじゃなかった…。
愚かなのは、あたしの方だわ」
その一言で、眉を苦しそうにひそめていた竜児の表情が、ほんの少しだけ和らいだ。
「川嶋には詰られるとばっかり思って、内心はビビっていたんだ。でも、川嶋に逆に慰められちまった感じだな」
「慰めるだなんて、本当のことを正直に言ったまでだよ…。でも、そうした感情も今日限り。高須くんは、あたしが土曜日
の散策をデートのつもりで楽しんでいることを理解してくれた。あたしも、これから実乃梨ちゃんと向き合って、自分の
気持ちに決着をつけてくる。これでいいじゃない」
「ああ、そうだな…。だがよ、これだけは言わせてくれ」
「なぁに?」
竜児が言わんとすることは、亜美にも何となく察しがついた。
「今回、瀬川たちが待ち伏せしていたってことからも、毎週土曜日に大学で落ち合って出かけるってのは、止めた方が
いいだろう」
「そ、そうね…」
残念ではあるが、竜児の言うことはもっともなのだ。今日と同じような行動パターンでは、瀬川一派に狙ってくださいと
自ら訴えているのと大差ない。
「だから、こうしよう。毎週待ち合わせ場所を変更して落ち合うんだ。その場所も、何か不具合があったら、携帯で連絡
を取り合って、安全な場所に変更する。これなら、どうだ?」
「う、うん…」
亜美は目を丸くして驚いた。
「おい、おい、意外そうな顔をするなよ。この俺だって、川嶋とのデートは楽しい。こんな楽しいことを簡単には中断でき
ねぇだろ?」
「う、うん、ありがと…」
心が、何とも言えない暖かなもので満たされていくような感じがした。無理に理由を付けるとすれば、互いが同じ気持
ちだったから、とでもなるのだろう。だが、陳腐な理由付けなんて意味はない。幸せだ、この一語に尽きる。
これなら、太陽である実乃梨にも対峙できる。
電車に乗って、郊外のグラウンドを目指す。
竜児と亜美の大学のグラウンドは、大橋へ向かう私鉄沿線にあり、それも大橋駅から三駅ほど東京寄りの駅が最寄り
駅だった。
その駅を降りて、徒歩でグラウンドへ向かう。十分ほどでグラウンドには到着した。
「おぉ、高須に、亜美ようやく来たか」
竜児たちの大学側の内野席には北村祐作が待っていた。
「ちょっと、川嶋がトラブルに巻き込まれていてな、それで遅くなっちまった」
「トラブル?」
北村が怪訝そうな顔をした。
その北村の顔を伺ってから、竜児と亜美は互いに目配せした。あまりにも異常な出来事なので、正直に打ち明けるべ
きか迷ったのだ。
北村の存在は、瀬川たちも知っている。連中であれば、いつ何時、北村を当事者として事件に巻き込んでくるかも知れ
ない。そのためには正直に打ち明けるべきだろう。だが、今は竜児と実乃梨、亜美と実乃梨、のそれぞれについて決着
をつけるのが先決だ。
「ああ、詳しくは追って話す。それよりも、櫛枝はどうしている?」
「もう試合が始まっているよ」
見れば分かるのだが、北村はグラウンドを指差した。
「ピッチャーびびってる、ヘイ! ヘイ! ヘイ!」
よく言えば、明るく元気。悪く言えば、無遠慮に大きく、いくぶんは音痴かと訝るような歌声が、湿っぽい空気を震わせ、
グラウンドに響いていた。
竜児と亜美は、北村祐作と一緒になって、内野席からその声の主を注視した。
オレンジを基調にした派手なユニフォームを身にまとい、黒いバットを構える櫛枝実乃梨の姿が打席にあった。
「構えは一段とよくなった感じだな…」
北村は、雲間から気まぐれに射し込んできた薄日で眼鏡のレンズをテカらせ、解説者口調で呟いた。
「そうなのか? 俺にはその辺はさっぱり分からねぇ…」
竜児も亜美も、ソフトボールの技術的なことが分からない、ということもあるし、竜児にとっても過去の彼女がどういっ
たフォームであったのかが記憶にない、と言うべきなのだろうか。
竜児にとっては、はっきりと実乃梨に『ジャイアントさらば』されてからというものの、努めて彼女の姿は目で追わない
ようにしていたから、もはや彼女のフォームは記憶の中にないということなのだろう。
スパーン!! 黒いバットが相手方の第一球を芯で捉えた。白い打球が、明らかにホームランと分かる勢いで飛び去っ
て行く。守備側の選手たちがなす術もなく、その打球の行方を見守るように目で追う中、打球は外野のフェンスを軽々
と越え、ほぼ無人の芝生席に突き刺さるように飛び込んでバウンドした。
「一発かましたれ、ヘイ! ヘイ! ヘイ!」
打者一巡の満塁ホームランだった。
当のバッターは、してやったりの笑顔を浮かべ、ヘルメットも脱がずに、ジョギングするような風情でダイヤモンドを楽し
そうに回っている。
守備側の内野手は、何の屈託もなさそうに、ちょっと調子が外れた歌声とともに喜色満面で往く彼女に気圧されたの
か、遠巻きにするかのように道を譲った。
竜児や亜美、北村たちとは別の国立大学に体育専攻で進学し、今もなお、ソフトボールの選手である櫛枝実乃梨は、
グラウンド上で、きらきらとした太陽のような存在感を放っていた。
「やるな…」
「そうね…」
「ああ、櫛枝は男顔負けのパワーヒッターだからな。当たれば間違いなくホームランだ。それにスキルも高い。さっきの
構えから、そのスキルも相当に向上していると予想できたが、まさかこれほどとはな…」
一時はソフトボール部の部長でもあった北村が、自らの予測の正しさが立証されたことに満足したかのように、口元を
ほころばせて呟いた。
「…早くも勝負あった、てぇ感じだな」
竜児はスコアボードを見た。一回表、打者四人目にして既に実乃梨のチームは四点を獲得していた。
この先も、竜児たちの大学のチームは容赦なく滅多打ちにされることだろう。ピッチャーズサークル上の選手の顔が、
もう泣きそうな様に見えるのは気のせいではないのかも知れない。
「まぁ、うちの大学のホームゲームだが、こっちは関東五部リーグ。櫛枝の大学は一部リーグ。実力差は当然だな」
北村が言うには、竜児や亜美、北村が通う大学の女子ソフト部は、一部リーグのチームとの練習試合によってレベルアッ
プを目指すとのことらしい。しかし、いきなり一軍との対戦は無理なので、実乃梨をキャプテンとする一年生のみのチー
ムとで試合をすることになったようだ。迎え撃つこちら側は、二年生、三年生を中心とした主力部隊である、のだが…。
「にしても、実力差がありすぎだろ? 一回の表でこのざまじゃ、先が思いやられるな…」
亜美も、『そもそも五部リーグって何?』と言いかけて、その言葉を飲み込んだ。体育がらみの推薦入学制度とは無縁
の竜児や亜美たちの大学の運動部は、概ねこの程度のレベルでしかない。
例えば陸上部。その新入生勧誘のポスターには、『来たれ新入部員! 目指せ箱根駅伝!』などと勇ましいことが書い
てあったが、箱根駅伝への参戦が叶うことは未来永劫ないだろう。
「まぁ、しょうがないさ。うちの大学は、文系でも必須科目を落とすと留年しかねないから、みんな結構真面目に勉強し
ているからな。体育会系のクラブに所属していても、単位取得について何もインセンティブはないから仕方がない」
それでは、実乃梨のような体育専攻の推薦入学者、亜美が言うところでは『脳みそ筋肉』な連中に敵うわけがなかった。
亜美は、自分の大学のチームの選手と、実乃梨が率いるチームの選手とを見比べた。明らかに体のつくりが違う。
例えば、実乃梨たちは、二の腕等が筋肉ではちきれんばかりに充実しているのに対し、亜美たちの大学の選手は、
ほっそりとして見た目からして非力だった。
これは、ソフトボールの技術云々以前に、基礎的な体力からして次元が違っている。
「祐作ぅ〜、何なの、この違いは。実乃梨ちゃんたちは筋肉のかたまりみたいな感じだけど、あたしたちの大学の選手
は、みんなガリガリ、下手すればメタボなのが混じっているよ」
亜美のもっともな指摘に、北村はちょっと困ったような顔をしている。
「向うはフルタイムで練習できるエリート選手、こっちは、片手間の趣味の領域の運動部員、その違いだろうな。
言うなれば二軍とはいえプロに、草野球のチームが挑むようなものさ」
例えとしては、的を射ているが、それほどまでに差があるのでは、双方ともにメリットはないだろう。実乃梨のチームは
手応えがなさ過ぎて、ウォーミングアップにもならないだろうし、竜児や亜美たちの大学のチームには、一年坊主が
主体の二軍にも負けたという屈辱感しか残らないだろうからだ。
案の定、その後の展開も、『なぶり殺し』という表現がしっくりくるようなもので、竜児、亜美それに北村たちの大学の
チームは、実乃梨の好投の前に一本もクリーンヒットを許されず、毎回毎回、三振の山を築き、守れば乱打され、
その焦りから凡ミスを連発し、それによっても失点を重ねた。
終わってみれば、二十一対ゼロ。試合前には竜児や亜美たちの大学のチームから、点差が開いてもコールドゲームに
しない、という申し出があったそうだが、皮肉なことに、そのために屈辱的なトラウマを自ら背負い込むことになったに
違いない。
そんな中で、実乃梨たちは、投げて、打って、走って、グラウンドを縦横無尽に暴れ回り、敵チームを文字通り粉砕した。
特に、一年生チームのキャプテンを努める実乃梨の暴れようは、鬼神の如く、と言うべきものであり、鬼の形相での
全力投球、全力疾走、フルスイングは、観戦している竜児や亜美をして、「やりすぎなんじゃないか」と思わせるのに
十分過ぎる迫力があった。
ともあれ、竜児や亜美たちの大学の選手にとっては、想像を絶する惨敗ではあったが、延々と打たれ続けるという地獄
の責め苦は終わった。
「なぁ、高須、ちょっといいか?」
試合終了後、北村が、竜児を呼び止めた。
「どうした北村?」
「話があるんだ。よかったら、ちょっと一緒に来てくれ」
竜児は、北村の真意を計りかねたが、いつになく真面目な表情の北村を見て、「あ、ああ…」とだけ、頷いた。
「よし、じゃあ、決まりだな」
北村は竜児の腕を掴んで、ベンチから立たせた。
「祐作ぅ〜、高須くんをどうするつもりなの?!」
竜児を連れていこうとする北村に、亜美が不安気に訴えている。
だが、北村は、例の人畜無害そうな笑顔を亜美に向け、言い放った。
「いや何、櫛枝たちがミーティングを終え、シャワーを浴びて着替え終わるまでには時間がある。だからってわけじゃな
いが、ちょっと高須と男同士で話し合いをしたくてな」
「ちょっと、ちょっと…」
亜美の抗議の声も虚しく、竜児はグラウンドに併設されているレストハウスに連行された。レストハウスといっても
殺風景なもので、昔の学食を彷彿とさせるような貧相なスチール製のテーブルにパイプ椅子が並んでいるという
ような場所だ。壁はコンクリートが打ちっ放しで、フロアの隅には、清涼飲料水の自動販売機が二台置いてあった。
その一角に二人は差し向かいで腰を下ろした。フロアに居るのは、竜児と北村だけだ。
「どうしたんだよ、いきなりこんなところに引っ張り込んで」
「実はな、高須。今さらで悪いんだが、お前は亜美のことをどう思っているんだ?」
単刀直入な問い掛けで、出鼻をくじかれた。おかげで、月曜日に実乃梨を亜美に予告なしで会わせたことを抗議する
タイミングを逸してしまった。
それどころか、竜児にとって言いにくいことを、いきなり訊いてくる。
「どうって言われてもなぁ…。まぁ、見ての通りだ」
北村の質問をはぐらかせないことは承知の上で、竜児は適当に言い繕った。
「それじゃ答えになっていない。お前は亜美のことをどう思っているか、と訊いているんだ」
案の定、突っ込まれた。
北村は、もったいを付けるつもりなのか、おもむろに眼鏡のレンズを拭き始めた。必要があればこういう所作によっても、
相手に威圧感を与えることができる。キャリア官僚か政治家に向いているな、と竜児は思った。
「まぁ、憎からず思っているよ。そうでなけりゃ、毎朝、同じ電車で通学し、文理共通の科目を一緒になって予習して、
昼飯は俺が作った弁当を一緒になって食べ、講義が終われば、待ち合わせて一緒に帰るってことにはならんだろ」
「そうだったな、お前と亜美は、少なくとも付かず離れずの関係にあることは明らかだ。だが、それだけの関係か?」
「い、いや、違うと思う。もうちょっと深い関係だろう…」
「どんな風に深いんだ?」
「単なる友人としての関係を、ちょっとばかり超えているかもしれねぇ…」
言うべきことは明らかなのだが、それを口にするのは、シャイな竜児には少々厳しい。
「歯切れが悪いな、もっと明確に言えないのか?」
柔和な表情ながら、北村の追及は厳しかった。そもそも親友と言うこともあって、ごまかしが効くような相手ではない。
竜児は、観念した。
「か、川嶋は、俺を愛している…」
北村が、眼鏡の奥に光る目をしばたたかせた。
「それは、俺も亜美の幼なじみだ。それくらいは、あいつの雰囲気で分かる。で、肝心のお前はどうなんだ?」
そら来た、言うべきことは一つしかないのに、しかも相手は親友の北村だというのに、それを口にすることがものすごく
気恥ずかしい。だが、竜児に逃げ場はないのだ。
「お、俺も、川嶋が好きだ…」
言い終えて、額が汗でびっしょりなことに気が付いた。そう言えば、亜美との恋愛関係を男の友人に漏らすのは、
これが最初ではないか。
「ということは、お前は亜美を愛している、ということだな?」
「何だか、娘を嫁に出す父親みてぇなことを言ってるな」
「おい、おい、混ぜっ返すな。質問には、ちゃんと答えてくれ」
眼鏡越しに見える北村の目つきが心なしか険しくなった。こういうことは、長い付き合いの竜児にもあまり経験がない。
下手に逆らわない方が無難だろう。
「ああ、愛している。こないだの日曜日には二人で横浜に行ったんだが、川嶋への永遠の愛を、港の見える丘公園で
誓わされた」
「誓わされた? 消極的だな…」
「い、いや、川嶋に言え、と強要されたのは確かだが、誓いの内容自体は俺の真意だ。これに嘘はねぇ」
「そうか、永遠の愛を誓ったということは、お前たちは結婚するということだな?」
北村の追及は実にしつこい。法曹、それも検事あたりにも向いていそうだ。
「ああ、お、俺たちは、べ、弁理士になったら、け、結婚する」
亜美との結婚は、泰子も知らない。だが、勘の鋭い者であれば、察しが付くようだ。現に、横浜では、初対面の女子高生
たちに竜児と亜美が結婚することを見破られている。北村だって、分かっていながら、念のために訊いているのだ。
それでも、さすがに正直に言うのは気恥ずかしい。竜児の額には再び汗が吹き出てくる。
北村は、竜児の狼狽ぶりと、そのしどろもどろのコメントに一瞬相好を崩したが、すぐに表情を引き締めた。
「なぜ弁理士になってから結婚するんだ? 別に学生結婚でもかまわんじゃないか」
竜児は、瞑目して頭を大きく振った。
「いや、学生結婚なんてのは論外だ。恥ずかしながら、俺の家と、川嶋の家とじゃステータスが違いすぎる。しかし、家が
ダメでも、当人が社会的に評価される資格を取得すれば多少はマシになるかもしれねぇ。それに川嶋も、このままだと
母親の思惑で局アナにされちまうらしい。それで、川嶋も弁理士になって、母親の企みを粉砕するつもりなんだ」
「お前は、亜美との結婚のために、弁理士になろうとしているのか?」
「概ね、その通りだ。もっとも、俺のような外観で先入観を持たれやすい人間は、何らかの資格でその能力を客観的に
示した方がいい、という判断もある」
「なるほど…、お前が真剣に亜美との結婚を考えていることが分かった。であれば、お前は、亜美のどこに惚れたんだ、
容姿か?」
「容姿がいいに越したことはねぇ…。元モデルで女優の娘でもあるあいつの容姿は、まぁ、月並みな表現だが、まれに
見る美人と言っていいだろう。しかし、見た目は決定的な要素じゃねぇな。例えは悪いが、今ならばあいつがオカメや
ヒョットコでも、俺はあいつを伴侶にするだろう」
「では、お前の言う決定的な要素とは何だ?」
竜児は、「う〜〜ん」と唸りながら眉をひそめた。正直なところ説明が難しい。要は、亜美が以前言ったように、
『気が合う』ということだろう。しかし、それでは客観性に欠け、説得力がない。
竜児は、しばし考え、言うべきことを吟味して、慎重に説明することを心がけた。
「うまく説明できねぇけどよ。あいつとは、ずっと同じ道を歩んで行けそうな気がするんだ。さっきも言ったように、俺たちは、
弁理士試験に挑戦しようとしている。本当に健気だよ、あいつは。弁理士試験は法律の資格試験だから、どうしたって
法学部の川嶋の方に分がある。でも、あいつは威張ったりせずに、ダメな俺をフォローしてくれている。
一方では、フランス語とか、あいつが苦戦している大学の科目もある。それは、俺との共同戦線でしのいでいるところだ。
俺と川嶋は、互いに支え合って、共鳴し、進歩し、成長していける。これが、決定的な要素だ」
北村は、腕を組んで、竜児の説明を聞いていたが、やがて「納得した」というつもりなのか、大きく首を縦に降って頷いた。
「今のお前の説明で、俺はお前の真意が理解できた。後は、その真意を、櫛枝にも明確に示してくれ」
「示すも何も、俺と川嶋が付き合っているのは、もう周知の事実だろ? いまさら、それを明確にしてどうするんだ」
北村は、ちょっと困ったような顔をして嘆息した。
「なあ、高須。現象面から他者が高須の立場や考えを判断するのと、高須自らがその立場と考えを明確にするのとで
は、どちらの方に重みがあると思う?」
「そりゃ、後者の方だ」
何を当たり前のことを、と竜児は思った。
「だろ? であればだ、高須が亜美を愛しているということを、櫛枝に宣言してくれないか」
「宣言ってのは何だ? 大声で川嶋が好きだー、とでも叫ぶのか?」
「違う違う、宣言というのはだな、お前の立場や考えをはっきり示せ、ということだ。この後、櫛枝とお前が差しで話し合
う機会を設けるつもりだ。その場で、お前の揺るぎない立場と考えを櫛枝に示して欲しい」
それだけ言うと、北村は竜児に「そこで待っていてくれ」と言い残してて立ち去った。
「お、おい、いきなり俺と櫛枝の面談かよ!」
竜児の抗議にも似た問い掛けは北村に無視された。後に残された竜児は、仕方なく言われた通りに待つことにした。
月曜日に実乃梨を伴っていきなり現れた北村。そして今日という日に実乃梨の練習試合に竜児と亜美を半ば強引に
誘った北村。これまでのところ、その北村のせいで、ろくなことが起きていない。竜児と亜美との絆が以前よりも深まっ
たとは言えるが、その過程に瀬川というとんでもない外的要因が絡んだこともあって、一歩間違えば破滅しかねない
危うさを孕んでいた。
「失恋大明神め、危なっかしい真似をしやがる…」
さらに北村は、竜児の立場や考えを、竜児自らが実乃梨に示すことにより、実乃梨の未練を断ち切り、
亜美と実乃梨の確執に終止符を打つつもりらしい。
竜児が実乃梨との差しでの話を終えたら、次には亜美と実乃梨を差しで話させるに違いない。そうであれば、実乃梨
に明確に自己の真意を伝えるとともに、次に予定されている亜美との面談が穏便に進むように配慮して実乃梨と向き
合わなければならない。
朴念仁の自分にそれが可能か? と竜児は不安になったが、最早土壇場、と腹をくくった。
それに、実乃梨と向き合うのに、小細工はいらない。誠心誠意をもって、対応するだけだ。
北村が中座してから十分ほど経過しただろうか、その北村が実乃梨を伴って戻ってきた。
その実乃梨と竜児は目が合い、思わず、他人行儀のように会釈をしてしまった。見れば、実乃梨も竜児に対して会釈し
ている。実乃梨もそれなりに緊張しているらしい。
「じゃあ、高須に櫛枝、後は二人で思う存分に話し合ってくれ。もう、二人とも何を話すかを心得ているだろうし、それを
話す覚悟もできているはずだ。では、俺は、お邪魔だろうから、暫く退散するよ。ただし、話が一段落したら、高須はグラ
ウンドの内野席に戻って来てくれ」
「お、おい、北村、ちょっと、待ってくれ!」
先ほどと同様に、竜児の呼び止めは一切耳に入っていないかの如く、北村は振り返らずに、レストハウスを出ていった。
「え~~と…」
目の前には暖色系のブラウスとスカート姿で、持ち前の明るさに可憐さが加味された実乃梨が座っている。
今までになくキュートな実乃梨を前にして、どうやって話を切り出そうかと、竜児は思いを巡らせた。
「こうして話すのは、本当に久しぶりだね…」
「お、おう…」
不意に実乃梨から話し掛けられ、竜児はちょっとばかりうろたえた。
高二の時に完全に袖にされてからというもの、こうした機会はついぞなかったように思う。
「試合は見てくれた?」
「ああ、川嶋や北村と一緒に、お終いまで見させて貰ったよ」
亜美の名を出したことで、実乃梨の表情が僅かにこわばったように見えた。しかし、それはほんの一瞬で、竜児がその
変化に気付いた時、実乃梨は元のにこやかな表情を取り戻していた。
「あーみんも来てくれたんだ。そっか、大学で待っていた時には、てっきり来ないものだとばっかり思ったけど、ちゃんと
来てくれたんだね」
「ああ、俺も川嶋も試合開始には間に合わなかったけど、櫛枝が一回の表で満塁ホームランを打ったのは見たよ」
「いやぁ、照れますな、あのホームランは…」
そう言って、本当に気恥ずかしそうに、人差し指で頬を軽く引っ掻いた。
「でも、すげぇ戦いっぷりだったな。もう、情け容赦なくこてんこてんつぅか、もう完膚無きまでに叩きのめしたっていうか…。
櫛枝のチームが強いからだが、俺たちの大学のチームが弱すぎたってのもあるな」
「それって、いっちゃあ悪いけど、弱い者いじめに見えた?」
実乃梨がドングリ眼をさらに真ん丸にして竜児を凝視している。一応は笑っているようではあるが、少々剣呑な感じは
否めない。竜児は、思った通りのことを口にするか否か、少しばかり躊躇した。
「う~ん、そうだなぁ、『いじめ』とまでは思わねぇけど、少々、やり過ぎっていうか、なんつぅか…。もう少し手加減してやっ
てもよかったんじゃねぇか、という気はしないでもない…」
言い終えてから、まずったかな? と思いつつ、実乃梨の表情の変化を窺った。
しかし、実乃梨の笑顔はそのままだ。
「うん、うん、そだよね、それが常識的な感覚だと思うよ。だから、高須くんの言うことの方がもっともなんだよ。でも、私
は、スポーツっていうのは、相手が全力で戦う気力があるのなら、こっちも全力でそれに応えてあげるのが礼儀だって
思っているのさ。相手が弱いからって、手を抜いて戦ったら、それはその相手に対して、ものすごく失礼なことなんじゃ
ないかって思うんだよ」
「お、おう…」
「だから、この私と高須くんとの話し合いも、手加減なし、嘘偽りなしの真剣勝負でいくよ」
「そうだな…」
変化球ではなく、小細工のない剛速球での真っ向勝負。それでこそ櫛枝実乃梨だ、と竜児は思った。
「ちょっと、ちょっと、祐作ぅ、高須くんを拉致ったきりだと思ったら、今度はあたしまで、一体どういうつもりなの?
大体が、月曜日に実乃梨ちゃんを連れてきて、それが元であたしも高須くんも偉い目に遭ったんだからぁ!」
亜美は、自分の手を無理やりに引いて先導する北村祐作に抗議したが、当の北村はそれを完全に無視していた。
それに加えて、亜美をどこへ連れていくのか、なぜ連行するのかすらも説明してはくれない。
「さてと…」
二人は、レストハウスの裏口にたどり着いた。その裏口は、所々に錆が浮いている鉄製の扉で無愛想に閉ざされている。
「亜美、お前は、高須の真意を知りたかった、違うか?」
何を今さら当たり前のことを、亜美は半ば呆れて北村を見た。頭はいいが、どっかずれたアホなところがあるのが、
北村祐作である。それを幼なじみである亜美は、竜児と同様、よく知っていた。
「そ、そりゃ知りたいわよ。でも、この一週間で、あたしと高須くんとの間には色んなことが起こってね。それを通じて
互いの気持ちを確かめ合えた。だから、今となっては、以前ほど切実な問題ではないわ」
「まぁ、そう言うな。それにお前の言う、『気持ちを通じ合えた』というのは、高須との間だけの話だろ。違うか?」
「そりゃそうだけど…。それで何が不足なの?」
「お前が一番不審に思っているのは、高須と櫛枝の関係だろ? お前とは気持ちが通じ合えたかも知れないが、実は
櫛枝とも通じているんじゃないか、と疑っている。そうなんだろ?」
気になるところを突かれて、亜美は一瞬、「うっ!」と絶句した。
「そ、そりゃ…、そ、そうかも知れないわね。でも、いまさら高須くんと実乃梨ちゃんの関係をどうやって確認するの?
二人をウソ発見器にでもかけるの?」
「そんな迂遠な手続きを踏まなくたって、もっと手っ取り早い方法があるだろうが…」
北村は、眼鏡の奥に光る瞳をキョトンとさせて、亜美を見ている。皮肉のつもりで言った『ウソ発見器』を真に受けてい
るらしい。こうした常識離れした面はあるが、時折、恐ろしく即物的で現実的なことを言い出したり、しでかしたりする。
そうしたところは、油断がならない。
「祐作、あんたまさか…」
「まさか、というほどまずい方法ではないと思うがな。とにかく、この裏口から中に入る。入ったら、物音を立てずに高須
と櫛枝が居るテーブルのすぐ近くにあるコンクリートの太い柱に身を隠すんだ。そこまでは、余計なおしゃべりさえしな
ければ、二人には気取られずに接近できる」
北村は、左手で亜美の手を引き、右手を裏口のドアノブにかけた。
「ちょっとぉ、祐作ぅ〜、これって覗きに、盗み聞きじゃない。誉められた行為じゃないわよ。第一、高須くんや実乃梨
ちゃんたちは、あたしたちが立ち聞きしていることを承知するわけがないじゃない。こんなの明かにアンフェアよ!」
「だが、こうでもしないと高須と櫛枝の関係がどうなのかは確認できないし、今後、こうした機会は最早ないだろう。
どうする? どうしても気が進まないというならやめておくが、それだとお前は、心のどこかに納得できないもやもや
したものを抱えながら生きていくことになる。それでもいいんだな?」
「う、うう…」
北村の脅しとも、すかしとも受け取れそうな言葉に、亜美はたじろぎ、言葉を失った。
「お前が気が進まないというのであれば、それでいいだろう。ただし、それなら、今後、高須が櫛枝と未だに何かあるん
じゃないかっていう勘ぐりは一切なしだ。約束できるか?」
「そ、それは…」
「どうなんだ?」
畳み掛けるような北村の言葉と視線から逃れるように、亜美は無言でうつむいたが、やがて決意の程を示すかのよう
に、瞳を大きく見開いて、北村に向き合った。
「いいわ…、あたし、二人の会話を聞く! どこか納得できないもやもやを払拭するためにも、高須くんと実乃梨ちゃん
の会話をしっかりと聞き届けておきたい」
「よし、決まりだな」
北村は裏口のドアノブを回し、鉄の扉を慎重に開け、亜美を伴って内部に侵入した。安っぽいリノリウムの床は足音が
立ちやすい。亜美と北村は、泥棒のように息を殺して抜き足差し足で、竜児と実乃梨が向き合っている席の間近に立
つコンクリートの太い柱にたどり着いた。
北村が、口元に人差し指をあてがって、微かに「しっ…」と囁いた。亜美は無言で頷いて、耳を澄ませる。
その柱から五メートルほど離れた場所に座っている二人の会話が聞こえてきた。
「ねぇ、高校時代の私って、変な子だったでしょ? しょっちゅう意味不明なことばっか言ってたし、体育会系丸出しの
がらっぱちでさ、まぁ、それは今でも同じなんだけど、もうちょっと高須くんの前では、女の子っぽい感じでいるべきだっ
たかなぁ、なんて、ちょびっと後悔してるんだよ、これでも」
実乃梨が、「えへへへ」と、照れ笑いなのか、苦笑なのか判じがたい笑みを浮かべている。
「そうでもねぇよ。櫛枝が個性的だったのは確かだけど、それが櫛枝の魅力でもあると俺は思っている。それに、櫛枝の
その屈託のない明るさが、俺には今でも眩しいんだ」
「眩しい…、そんな感じで高須くんは私を見ていてくれてたんだね。そっかぁ、眩しいんだぁ」
実乃梨は、目を細め、目尻を下げて、うふふ…、と笑った。その笑顔は、高校時代と何ら変わらない。竜児があこがれ、
胸をときめかせていたあの時と寸分違わぬものだった。
「俺だけじゃねぇ、川嶋も、櫛枝のことを『太陽』だって言っていた。あいつにとっても、櫛枝は眩しかったんだ」
昔の話や四方山話は十分だ、そろそろ本題に入らせて貰う、というつもりで、竜児は亜美の名を挙げ、実乃梨の反応を
窺ってみた。
実乃梨も、そろそろ核心に迫る頃合いと思っていたのだろう、笑顔をちょっと苦しげに引きつらせたような感じがする。
輝く太陽に薄雲が覆い被さったような趣だ。
その実乃梨が呟くように言った。
「あーみんかぁ…、月曜日は、あーみんにも高須くんにも本当に申し訳なかったよね。あんな風に喧嘩するつもりじゃ
なかったんだ。本当に、あの件は、メンゴ!」
実乃梨は米搗きバッタのようにぴょこんと頭を下げた。そのコミカルでキレのいい動作も高校時代を彷彿とさせる。
「いや、月曜のことなら、あれは川嶋にも非があるからいいよ。それに川嶋も、もうそのことは気にしてねぇと思う」
「そっか、それならいいんだけど…。でもね、本音をいうと、月曜日に高須くんの大学の学食で、高須くんと仲良くお弁当
を食べているあーみんを見たら、何か複雑な心境になって…。で、つい、あーみんといざこざを起こしちまった、っていう
感じなんだ」
--複雑な心境ときたか…。
亜美の言うように、実乃梨には未だに未練があるのかもしれない。その実乃梨に亜美と結ばれることを宣言するのは、
非道とも思えた。しかし、北村と約束した以上、避けては通れない。
「な、なぁ、櫛枝からは、弁当を食べている俺と川嶋はどんな風に見えたんだ?」
「ものすごく仲がよさそうに見えた…、っていうのは月並みだけど、あーみんが高須くんのことを大切に思っているこ
とが伝わってきたし、高須くんもあーみんのことを大事に思っていることが何となくわかるんだ。それで、ちょっと、ね…」
実乃梨の表情がさらに苦しげになった。彼女にとって、この話題の核心に触れることは、やはり辛いのだ。
「櫛枝…」
だが、実乃梨は気丈にも笑顔を竜児に向けてきた。
「あ~っ、やだなぁ! こんな風にウジウジ言うなんて、全然櫛枝実乃梨っぽくない。そうだよ、言いにくいことはずばっと
言う!!」
まるで自分を叱咤するかのように叫ぶと、実乃梨はドングリ眼をぱっちりと開いて竜児を凝視した。
「お、おい、櫛枝…」
戸惑う竜児にはお構いなしに、立ち上がって声を張り上げた。
「えーい、畜生! もう、やけのやんぱち、破れかぶれ、恋に破れた哀れな乙女、諸般の事情で別れてみたが、未練たら
たら、た〜ら、たら。忘れてみようと努力はすれど、切ない思いは消えやせぬ。月日が流れ、相まみえれば、振ったつもり
が振られてた! 恋に破れた哀れな乙女、救いを求めてソフト三昧。白球追いかけ猛練習。されど心は満たされず、
女一匹どこへ行く! あ〜こりゃ、こりゃ」
声を限りに叫んだのだろう、実乃梨は膝に手をやって、うつむき、息を整えている。打ちっ放しのコンクリートが殺風景
なレストハウス内に、「はーっ! はっー! はーっ!」という実乃梨の荒々しい呼吸音が残響する。
「櫛枝…、お前…」
実乃梨は竜児の問い掛けにも応えず、うつむいたまま、ひたすら荒々しい息遣いを続けている。
「ご、ご免、ちょ、ちょっと息が続かなくなっちゃって…」
そう言って、実乃梨が顔を上げた時、その林檎のように艶やかな頬が濡れていた。
「お前、涙が…」
その涙で濡れた頬をほころばせて、実乃梨は竜児に微笑んだ。
「いやぁ、人間、年をとると、涙もろくなっていけねぇや。まぁ、白状しちまえばぁ、ざっとこんな具合。私は高須くんとは
ジャイアントさらばしたはずなのに、やっぱ未練があるんだよ。で、月曜日に、あーみんと仲睦まじい高須くんを見て、
なんかむかっ! というか、むらっ! というか、そんな気持ちになっちゃったんだね。で、あーみんと大喧嘩、
笑っちまうぜ」
実乃梨は、右手の甲で涙を無造作に拭った。
「櫛枝…」
「でもさぁ、高須くんとあーみんを見て思ったのは、悔しいけど、私じゃ今のあーみんには敵わないってこと。月曜日に
あーみんと高須くんを見たのと、今日、あーみんを信じて待つ、って言ってた高須くんを見て、もう、私の出る幕じゃないっ
ていうのを思い知らされたんだよ。恥ずかしい話だよね。さっきの即興の台詞そのまんま。私が高須くんを振ったつもり
が、結果的には振られていたんだよ…」
「もしかして、お前…」
その先は、『スカートとかで女らしくしてきたのは、俺への未練故だったのか』と、続けるつもりだった。だが、涙を拭い
ながら、無理矢理に笑顔を作り上げている実乃梨を慮って、竜児は口を噤んだ。
実乃梨は、そんな竜児の思いを察したのだろう。
「そう、今日、私がこんな格好で来たのは、高須くんの気を引くためなんだ。もう一度高須くんと仲良くなれたらっていう、
下心があったから。勝手にジャイアントさらばしておきながら虫のいい話だけど、それでも高須くんともう一度やり直し
たい、今度は親しい友人で終わらずに、今のあーみんみたいな立場になりたいって思っているんだ」
実乃梨は、鼻をすすった。涙は止むことなく実乃梨の頬を濡らし続ける。
「でも、ダメ、今のあーみんには全然敵わない。あーみんは変わったよ、高校の時とは…。美貌を鼻に掛けるような
雰囲気は全然ないし、上辺だけの派手さがなくなって、落ち着いた感じがする。そして、何よりも高須くんのことをもの
すごく大切にしていることが、嫌でも分かっちゃうんだ。それに高須くんも、もう私のことなんかどうでもよくて、あーみん
を一番大事にしている。もう、私には全く勝ち目がないのにね、それでも高須くんへの未練は消えないんだ」
「どうでもいい、なんて俺は思っちゃいない。俺だって、今でも櫛枝のことは…」
竜児は慰めのつもりで実乃梨に語り掛けた。しかし、実乃梨は竜児の眼前に掌を突き出して、それを制止した。
「ダメだよ、そっから先は言っちゃいけない。あーみんのためにも言っちゃあいけないんだ。高須くんにはあーみんが
要る、あーみんには高須くんが必要なんだよ。だから、私がこんな未練なんか捨てっちまえばいいのさ」
実乃梨の言動があまりに痛々しく、竜児は耳を塞ぎたくなった。だが、彼女の言葉を聞き届けることが、彼女の願いで
あると思い、一言一句聞き漏らすまいと、神経を集中させた。
「ただ、人の心は、スイッチを切り替えるように簡単に割り切れるものではないし、そこにある未練を消すこともできない。
でも、押さえ込むことはできるかもしれない。そのためには、現実を思い知る必要があるんだよ。だから、私は高須くん
の口から現実を知らなきゃいけない。お願いだよ、高須くん、今、ここで高須くんの真意を高須くん自身の口から聞きた
いんだ」
そうやって長広舌をふるった実乃梨は、「はい、高須くんのターン」と呟いて、涙を手の甲で拭った。
「お、おう…」
いかし、如何に切り出すべきか、竜児は未だに迷っていた。いくら何でも、『いや、実は、川嶋と結婚することになった』
では、実乃梨に対して済まないし、あまりに芸がなさ過ぎる。
「何でもいいよ、あーみんとののろけ話でも何でも…。そうだ、高須くんはあーみんのどこが気に入ったの? やっぱ、
あの美貌? あーみんは可愛いからねぇ…」
話し始めない竜児に業を煮やしたのか、実乃梨が呼び水よろしく話題を振ってきた。竜児にとっては渡りに船である。
「美貌っていうか、見た目は、俺にとってはそれほど重要じゃねぇ。問題なのは中身なんだ。でも、最初、あいつを見た時
は、正直、なんて嫌な女なんだろうって思った…」
「どうして、あーみんが嫌な女だって思ったんだい?」
「実は、櫛枝がバイトしてたあのファミレスで、あいつと初めて会った時、北村と一緒に物陰に隠れて、あいつが本性を
出すのを見たからなんだ。そのときの印象が後々まで尾を引いて、なかなかあいつの良さが分からなかった…。その点
はあいつに、川嶋に済まないと思う」
柱の陰では、亜美が柳眉を逆立てて憤慨していた。
「ちょ、ちょっと、祐作ぅ、今の高須くんの話はどういうこと? あたしがタイガーにビンタを喰らった時のことでしょ?
それを高須くんと一緒に隠れて見てたのぉ?!」
「ああ、そんなこともあったかな?」
素なのか、とぼけているのか、北村は、上目遣いで「う~ん」と唸った。
「なんで、そんなことをしたのよぉ、そのおかげで最初、高須くんに嫌われていたんじゃないのぉ。道理で高須くんが
亜美ちゃんの誘いに乗って来なかったわけだわ。とにかく、祐作ぅ、あんた、これが終わったらリンチにしてやるからね」
言うが早いか、北村のつま先を靴の踵でグリグリと踏みにじった。
「痛い、痛いじゃないか。お前の怒りはもっともかもしれんが、今は頼むから静かにしてくれ。あんまり騒ぐと、高須と
櫛枝に俺たちが隠れていることがバレてしまう」
「分かったわよ…」
業腹ではあったが、北村の言うように二人にバレては一大事だ。亜美は、不満げに頬を膨らませたまま、竜児と実乃梨
の話を大人しく聞くことにした。
「だから、最初、川嶋から『あたしたち気が合うじゃない』って言われたときは、何かの冗談だと思ったくらいだ。でも、
それから、あいつの本当の良さがだんだんと分かってきた…。川嶋とは一緒に受験勉強してきたんだが、その過程で、
あいつの健気さや、俺への思いが伝わってきたんだ。川嶋はモデルの仕事が忙しくて自主的な勉強はできなかった
から成績はあまり良くなかったし、俺も高二の時はいろいろあって、学力が一時停滞していた。そんな俺と川嶋は、
二人で励まし合いながら、二人三脚のようにして何とか合格までこぎ着けたんだよ」
「あーみんは健気だからね、その点でも私はあーみんに敵わないや。私は協調性がないから、あーみんみたいに高須
くんと二人三脚はできないよ。きっと、鉄砲玉みたいにあさっての方向にすっ飛んでって、高須くんに迷惑をかけるのが
オチだから…」
それはそうかも知れない、と竜児は思った。同時に、亜美が言った、『月である竜児は、太陽である実乃梨に焼き尽く
されるだけ』の意味が漸く分かったような気がした。
「そして、俺と川嶋は、今また、新たな共通の目標に向かってスタートしたところだ…。櫛枝は弁理士って知ってるか?」
実乃梨は、怪訝な顔をして竜児を見た。
「弁護士じゃないよね? 弁理士? 聞いたことないなぁ」
実乃梨の反応は、竜児も想定済みだ。知的所有権が重要視されるようになった昨今であっても、弁理士は一般には
理解されていないと言ってよい。
「英語では『patent attorney』、直訳すれば『特許弁護士』ということになる。実際には、弁理士になってから、さらに
特定侵害訴訟代理業務試験という試験に合格しないと弁護士のように訴訟の代理人にはなれねぇが、
まぁ、知的所有権に関する代理人ということで、『特許弁護士』と言ってもいいかも知れねぇ」
「弁理士になるには、試験とかに合格しないとダメなんだよね?」
竜児は顎を引くようにして軽く頷いた。
「ああ、弁護士になるには司法試験に合格しなければならねぇが、弁理士も弁理士試験に合格しないとダメだ。しかも
この弁理士試験は司法試験に準ずる難易度だとされている。とにかく大変な試験であることは間違いねぇ。
その弁理士試験に、俺は川嶋と一緒に挑戦するつもりだ」
「そうして、大学の受験勉強の時と同じように、あーみんと励まし合いながら頑張っていくんだね…」
実乃梨が憂いを帯びた淡い笑みを浮かべている。
「ああ、そうだ。俺と川嶋は、互いに同じ道を、同じ志を持って歩んでいく。二人とも弁理士になれたら、事務所を共同で
経営するのが夢なんだ。俺と川嶋は私生活だけじゃなくて、仕事の面でもずっと、ずっと、一緒なのさ。
単に惚れた腫れたにとどまらない、俺と川嶋は同盟者であり、同志なんだ」
言うべきことを全て言ったと思い、竜児は改めて実乃梨を注視した。実乃梨は、竜児の視線に応えるかのように、
微笑みながら微かに頷いた。
「ありがとう、高須くんとあーみんが、もう互いに離れられない存在だってのが嫌っていうほど分かったよ。でも…」
「でも?」
「高須くんは、『単に惚れた腫れたにとどまらない』って言ってたけど、あーみんのことを愛しているって、言ってない」
そう言えばそうだった。『単に惚れた腫れたにとどまらない』だけでも十分意味は通じるということと、無意識な照れが
あって、言えなかったのかも知れない。
「高須くんが、あーみんを愛していることを私にきっちり伝えてくれないと、私は未練を制御できない。頼むよ、高須くん。
あーみんを愛しているんなら、それをこの場ではっきり言っておくれよ」
それは、『とどめを刺してくれ』と言わんばかりの要求だった。だが、それで実乃梨のためになるのであれば、
告げるしかない。
「そうだな、言葉が足りなかったようだ。俺は川嶋を誰よりも愛している。川嶋も俺のことを誰よりも愛してくれている。
そして、二人とも弁理士になれたら、結婚する。以上だ…」
その瞬間、一時は枯れていた実乃梨の涙腺が再び溢れ、大粒の涙が滴った。実乃梨は、しばらく無言のまま茫然とし
て、涙が流れるままにしていたが、やおらポシェットから取り出したハンカチで、顔面をごしごしと、ちょっと乱暴に拭った。
「へ、ちょ、ちょっと、このレストハウスは暑いから、目から汗が出ちまったぜぃ! まぁ、とにかく、高須くんにはおめでとう
と言わせて貰うよ。高二の夏休みに高須くんは幽霊を見たって言っていたけど、その高須くんにとっての幽霊が誰で
あるかがはっきりしたわけだ…」
「お、おう」
「そして…」
実乃梨は、間近にあるコンクリートの柱を指さした。
「高須くんの幽霊は、そこに居る!」
その宣告を受けて、柱の陰からは、「祐作のバカ! あんたがへまするから実乃梨ちゃんにバレちゃったじゃないのぉ」、
「いいや、お前がくだらん過去のことで俺を詰るから櫛枝に気取られたんだ!」という言い争いが聞こえてくる。
「川嶋に北村か? お前ら、いつの間に…」
その柱の陰からは、亜美と北村が、きまり悪そうに這い出てきた。
「や、やぁ、高須に櫛枝、ちょ、ちょっとお前たちの話の展開が気になったもんでな。そ、それで、悪いが、ちょっと立ち聞き
をさせてもらった」
図々しいところがある北村も、さずがに動揺しているのか、どもりがちだ。
北村ほどの図々しさを持ち合わせていない亜美は、青菜に塩といった塩梅でうなだれている。
「あははは、北村くんらしいや。北村くんは、私と高須くんの会話を、あーみんに聞かせるために、こんなことをしたんだ。
でも、策士策に溺れるだね、まさに」
「ま、まぁ、そういうことなんだ…。正直な話、亜美が高須の本当の気持ちを知りたがっていた。それでちょっと問題の
あるやり方だったが、二人の会話を聞かせて貰ったというわけだ。済まなかったな、高須に櫛枝」
「ちょ、ちょっと、祐作ぅ! その言い方じゃ、まるで亜美ちゃんの方からあんたにお願いしたみたいじゃないのぉ。
あんたが説明もなく強引にあたしをここへ連れてきたんでしょ!」
亜美は北村に詰め寄ったが、北村は上を向き、亜美とも、竜児とも、実乃梨とも、目線を合わせずに、素知らぬ顔を
決め込んでいる。
「いいってことよ! 今回は、あーみんが高須くんのほんとの気持ちを確かめるってのもあるけど、私の未練をどうにか
するっていうことも大事だったからねぇ。内緒のつもりで話した本音を、あーみんや北村くんに聞いてもらった方が、
結果としてよかったんだよ。だって、あーみんや北村くんに聞かれたら、もう、未練を押さえるって言ったことに引っ込み
がつかなくなるからねぇ」
そうして実乃梨は、また屈託なく笑うのだった。竜児は何か声を掛けるべきかと思ったが、その実乃梨の目にうっすらと
涙が光っているのを認め、言おうとした言葉を慌てて飲み込んだ。
その代わり、竜児は亜美に向き直った。
「川嶋、まぁ、聞いての通りだ。俺はお前のことを誰よりも愛している。嘘も偽りもなく、だ。これだけは信じてくれ。それと、
櫛枝とも和解してくれ。たしかに、お前が危惧したように櫛枝には俺への未練があった。だが、櫛枝は、それを制御する
つもりでいる。その点は櫛枝を信じてやってはくれねぇか」
亜美は、涼やかな瞳を竜児に向け、その言葉に聞き入っていたが、やがて納得したつもりなのか瞑目して頷いた。
「そうね、祐作が余計なことをしたけれど、あんたや実乃梨ちゃんの真意を知ることができたのはたしかなんだわ。高須
くんがあたしを愛してくれているように、あたしも高須くんのことを愛し、高須くんの愛に報いなくちゃいけないわね…」
そして、亜美は、いくぶん遠慮がちに、実乃梨と向き合った。
「実乃梨ちゃん、月曜日は喧嘩ふっかけるようなことをして、ごめんなさい。それと、祐作と一緒に盗み聞きしていたのも
ごめんなさい…。でも、そのおかげで、あたしも実乃梨ちゃんの気持ちが理解できた。月曜日は、実乃梨ちゃんが言って
いたように、あたしも突然現れた実乃梨ちゃんを見て、複雑な心境になったんだよ。で、大喧嘩なんだから、あたしって
どんだけバカなんだか…」
実乃梨は、「いや、いや…」と呟きながら首を左右に振った。
「月曜日の一件は、そもそも私が北村くんに無理言って、あーみんと高須くんに引き合わせてくれって、お願いしたのが
いけなかったんだよ。だから、責任の一端は私にあるし、さっきも言ったように、高須くんと仲睦まじくしているあーみん
を見てむかついたのも事実なんだ。それに笑っちゃうよね。高須くんへの未練を断ち切ることができないのまでバレ
ちゃったし、ほんと格好悪いや」
「でも、それは、あたしも同じ…。人は機械じゃないから、嫌なことや苦しいことを簡単に忘れたりなんかできないんだわ。
だから、あたしは実乃梨ちゃんの言葉を信じる。未練は断ち切れないけど、現実と向き合って、それを克服するっていう
のはすごく重みのある言葉だった。そして…」
亜美は、おずおずと右手を差し出した。その手が微かに震えている。
「み、実乃梨ちゃんとは、い、色々あったけど、で、できれば、昔のようにまた友達でいたい…」
差し出された右手が、実乃梨の両掌に包まれた。
「私も、昔みたいに、あーみんと友達になりたいよ。正直言うとね、今は、未だ辛いんだ。高須くんと一緒のあーみんが
やっぱり羨ましくてしょうがないんだよ。でも、それは現実を理解した上で克服しなくちゃいけない。だから、勝手だけど、
私の気持ちの整理がついたら、昔のように、あーみんや、高須くんや、北村くんたちと一緒に遊ぼうよ」
「う、うん…」
亜美が左手を口元に当てて、声を詰まらせている。泣きたいのを懸命に堪えているのだ。
「よし、予定では、この後は亜美と櫛枝の面談だったが、この様子だとそれは蛇足だな。どうする? 亜美と櫛枝に異存
がなければ、これで手打ちということにしたいのだが…」
失恋大明神こと北村祐作が、場を取り仕切ろうとした。意味もなく裸でうろついたり、人の話を盗み聞きするような、
公序良俗に少々難ありな人物だが、たしかにある種の統率力めいたものは備わっているらしい。
亜美も実乃梨も、その北村に無言で頷いて賛意を示した。
「じゃあ、きょうはこれでお開きということにしよう」
「俺と川嶋は、このまま電車に乗って大橋に帰るけど、北村と櫛枝はどうするんだ? 特に櫛枝は、他県にある大学の
寮に戻らないとダメなんじゃないか? 荷物とかもあるし…」
竜児の問いに実乃梨は微笑した。
「いやぁ、またキャプテンとしての特権を行使させてもらってね。私の荷物はチームのメンバーが寮に運んで行ってくれ
たのさ。もう、みんなバスで私の荷物と一緒に出発しちゃったよ。何せ、実家近くまで来たんだから、今日は実家に泊ま
るつもりだよ。すでに寮には外泊許可もらってるし」
「じゃ、じゃあ、高須くんや祐作ともども、みんなで帰りましょうよ」
「いやぁ〜、あーみん、メンゴ。失恋しちまったおいらは、ちょっくら失恋大明神様を拝みたいんだ。第一、おいらは
お二人さんにとって、お邪魔虫だから、別行動とさせてもらうよ」
「そ、そう…」
北村が無言で頷いている。こうなることを予想して、実乃梨と北村の話し合いは最初から予定されていたのだろう。
「そういうことなら、悪いけど、櫛枝に北村、俺と川嶋は、お先に失礼するよ」
竜児と亜美は、荷物を持ち、居残りの二人に軽く会釈をしてレストハウスを後にした。
レストハウスの窓から、歩み去っていく竜児と亜美の後ろ姿が見える。それを茫然と見送りながら、実乃梨がぽつりと
呟いた。
「やっぱり高須くんって、いい奴だったよ…」
「そりゃ、そうさ。俺の親友だし、かつてはお前とも恋仲だった。そんな奴が悪いわけがないじゃないか」
「あーみんも、いい奴なのかも知れない…」
「そうだな…」
「畜生! あーみんは果報者だぜ。あんな優良物件を旦那にできるんだから。やっぱり羨ましくってしょうがねぇや」
実乃梨は、北村に背を向けたまま、鼻をすすり上げた。もう、未練は押さえ込むという約束だが、人の心は機械仕掛け
じゃない、そんなに器用に制御なんてできないことを今さらながら思い知らされる。
「櫛枝、今は未だ気持ちの整理がつかないかもしれないが、高須と亜美の行く末を良かれと思ってくれ」
「う、うん、未練はあるけど、あーみんのことを恨んだりしないよ、それは約束する…」
「亜美は母親に反発して女優にならずに高須と同じ大学に行き、高須と同じように弁理士を志している。それは、母親
である川嶋安奈にも認めてもらえるだけのステータスを二人揃って手に入れるためなんだ。二人が行く道は想像を絶
する困難の連続だろうし、高須ともども弁理士になっても、亜美の母親は二人の仲を認めないかも知れない。しかし、
それでもあの二人は頑張るつもりなんだ。」
「そうなんだ…」
北村には、実乃梨の後ろ姿が一瞬、萎んだように感じられた。
「どうした、櫛枝?」
「やっぱり、あーみんには敵わないや。私だったら、親に反発してまで好きな人と一緒になれない…。あーみんと私とじゃ
覚悟が全然違うんだ…」
「櫛枝、そんな弱気はお前らしくない。今は気持ちが萎えているからマイナス思考に陥っているが、ゆっくりでいいから
気持ちを切り替えて、元の明るさを取り戻してくれ」
「う、うん…」
「それに、櫛枝。失恋の特効薬は、新たな恋だ。明るくて屈託のないお前なら、ふさわしい相手が必ず現れるさ。その時
には、きっと辛い思い出も癒される」
「私みたいな子に、ふさわしい相手って、見つかるの?」
そう、力なく問いながら、実乃梨は溢れてきた涙をハンカチで拭った。一日でこんなに何度も何度も泣いたのは、一生
のうちで初めてかもしれない。
その実乃梨の後ろ姿を労るように、北村は穏やかな口調で語り掛けた。
「大丈夫だ、この俺が保証する。何せ、俺は失恋大明神なんだからな」
「ねぇ、明日は何をやるのか、覚えている?」
駅へ行く道すがら、亜美が出し抜けに訊いてきた。もちろん、何をすべきか竜児も分かっている。
「おう、川嶋さえよければ、予定通りデートだな」
亜美が、それまでのこわばった表情を、安堵したかのようにほころばせた。
「そっか、覚えていてくれたんだね。そう、月曜日に約束したように、明日はデート。で、どこに出掛けるか決めてくれた?」
「はっきりとは決めてねぇけど、映画を見てランチしたり、テーマパークで遊ぶってのを考えてるよ」
竜児が、ちょっと照れたような表情をしている。その表情には、『どうだ、これならいかにもデートっぽいだろ?』という
つもりもあるようだ。
しかし、亜美は、わざと眉をひそめて、竜児の提案を一蹴した。
「え〜?! そんなの月並みじゃん。つまんないってぇ」
「え、そ、そうなのか?」
亜美の反応は、竜児にとって予想外だったのだろう。三白眼をきょときょとさせているのが、亜美はおかしかった。
「もう、高須くんはセンスないんだからぁ〜。しょうがないから、明日は亜美ちゃんが考えている通りにいこうよ」
「お、おう。で、明日はどうするんだ?」
亜美は、目を細めたお馴染みの性悪笑顔で竜児の顔を覗き込んだ。
「そうねぇ…。まずは神田神保町の古本屋、そこでデートしましょ」
「ふ、古本屋?!」
竜児が理解不能といった面持ちで目を白黒させている。
「そしてぇ〜、次は浅草を散策」
「あ、浅草ぁ?! ちょ、ちょっと待て、お前、以前は浅草なんかババ臭いとかって毛嫌いしてたんじゃねぇのか?」
亜美は困惑した竜児の反応を楽しむように、意地悪くとぼけてみせた。
「え〜っ? 亜美ちゃん、そんなこと言ってねぇんですけどぉ〜。高須くん大丈夫? 亜美ちゃんと一緒に居られる幸せ
で、興奮して脳みそが茹だっちゃったんじゃないの?」
「バ、バカ言え!」
「ふぅ〜ん、まぁ、異常な人ほど自分は正常だと思い込むらしいから、しょうがないわね。で、浅草の後は、合羽橋で高須
くんは中華鍋、あたしは包丁を買う、ってのを考えてるので、よろしく」
「合羽橋ぃ?! しかも包丁だとぉ?! なんか危ないな…」
「うん、高須くんも、異存はないよね? ほら、先週の中華街での買い物が、ものの見事に不発だったからさぁ。だから、
もっといい品が揃っていそうな合羽橋に行くわけ…」
「そ、それは、いいけどよ…」
竜児が妙に落ち着きをなくして、キョドっている。亜美はおかしくなった。一度は亜美が拒絶した合羽橋行きを亜美の
方から提案してきたことが不可解であることに加え、亜美が『包丁』と言ったことを剣呑に思っているらしい。
たしかに、その包丁を、昨日のショルダーバッグのように振り回されたら、物騒でかなわない。
「特にぃ、包丁の購入は外せないわねぇ。うちの包丁は、ステンレスの奴だから、高須くんが使っているのとじゃ切れ味
に雲泥の差があって、使いにくいのぉ。で、亜美ちゃんも本格的に家で調理するために、マイ包丁を買っておくってわけ」
「お、おう、そ、そうなのか?」
竜児が、心なしかほっとしたような表情を浮かべている。本当に分かりやすい人だと、亜美は思う。だから、もうちょっと、
からかってあげたくなる。
「そう、包丁って、色々と使い道があるじゃない? 切れ味が良ければ良いほどぉ…」
「い、色々って何だよ?!」
竜児が、今度は、訝るような眼差しで亜美を見ている。それが亜美にはおかしくてたまらない。
「う〜ん、そうねぇ。例えばぁ、高須くんが、亜美ちゃんへの永遠の愛を違えたときは…」
そう言って、竜児の脇腹へ、指をまっすぐに揃えて包丁に見立てた右手を、「えいっ!」とばかりに突き立てた。
「うわぁ! 冗談じゃねぇよ。勘弁してくれぇ!!」
左脇腹を押さえて、亜美の傍から逃げるように飛びすさった竜児を見て、亜美は腹を抱えて笑い転げた。
「あはは! 冗談よ、そんなこと絶対にしないわよ。本当に臆病者なんだからぁ!」
「お、おう…」
「まぁ、今日の調子だと、当面、高須くんは、あたしを裏切ることはなさそうだし、あたしも高須くんを裏切ったりしない
から、そんな刃傷沙汰には、なりっこないわよぉ」
「そ、そうか。でも、今のは洒落にならないほど、びっくりしたぜ…」
未だ動悸が治まらないのか、竜児はちょっと呼吸を乱している。普段は沈着冷静なくせに、妙に小心なところがあって、
そんなところが、かわいらしいと亜美は思うのだ。
「まぁ、ちょっと悪ふざけが過ぎたけど、真面目な話、神保町の古本屋には行かなきゃいけないの…」
そう言って、榊がプリントアウトしてくれた書面を手渡した。
「『特許法概説』、たしか、多くの合格者が絶賛していた本だよな。二冊あるようだが、これを買いに行くのか?」
「そう、今日の午前中、サークルのリーダーだった榊さんに会って、この情報を教えて貰ったんだけど、榊さんが言うに
は、青本や条文中心の勉強をしているあたしたちには必要な本なんだって」
竜児は、その書面を見て、ちょっと難色を示している。
「『第九版、1991年発行』って、何か古いな。役に立つのか?」
同じような質問は亜美も榊にした。従って、榊が亜美に言ったことを、今度は亜美が竜児に告げることになった。
「何でも、その第九版あたりまでは著者が存命してたから、その後の版よりも出来がいいんですって。それに、本は
買わずに後悔するよりも買って後悔しろ、って、榊さんに言われたわ。それに、もう、あたしと高須くんの分は
予約しちゃったから、買わなきゃいけないの」
『予約』と聞いて、竜児は「しょうがねぇなぁ…」と、苦笑した。
「でも、『買わずに後悔するより買って後悔しろ』か、たしかにそうかもな。よっしゃ、お前と榊さんを信じて、明日は
古本屋でデートだ」
「そうね、その後は浅草散策と合羽橋での買い物ってことにしようよ」
「おう、そうしよう!」
駅に辿り着いた時には、日は西に傾き、辺りを赤く染め始めていた。ホームに上がると、ほどなく電車がやって来た。
支援ラスト
大橋駅までは三駅、時間にして十分ほどで到着するだろう。
「大橋駅に着いたら、携帯電話のお店で高須くんの携帯電話を何とかしないとね。携帯がないとお互いに連絡も取れ
ないし」
「そうだな」
竜児は否定したが、竜児の携帯が壊れたのは、亜美がバッグを振り回して、竜児に鼻血を出させたことに因果関係が
ありそうだ。だから、竜児が何と言おうとも、買い替えに必要な料金は亜美が払うつもりでいる。
「それと、今夜は、家には誰も居ないから、高須くんの家で晩ご飯を食べたい。台所仕事は、あたしも手伝うから」
「おう、いいとも。だったら、何を作ろうか…。どっかのスーパーで食材を吟味しながら、考えることにするか」
三白眼を輝かせて、料理のことに思い巡らしている竜児を、亜美は頼もしげに見上げた。
「ねぇ、スーパーに行く前に、稲毛のおじさんのお店、『稲毛酒店』に行かない? 今夜はちょっと、ワインでも飲みたい
気分なんだ」
竜児が、「えっ?」と言って、三白眼を丸くした。
「いや、未成年で飲酒はまずいって。それに、稲毛のおじさんは俺たちが未成年だって知っている。売ってくれねぇよ」
亜美はそんな竜児の肩に縋った。
「固いことは言わない! 今日ぐらい乾杯したっていいじゃない。それに行ってみれば分かるけど、稲毛のおじさんは、
多分オッケー、亜美ちゃんにはお酒を売ってくれるはず」
以前、稲毛のおじさんに般若顔で迫って酒を売って貰ったというのは、ひとまずは内緒だ。
「そうなのか?」
半信半疑な竜児の肩を抱き寄せ、亜美は艶麗な笑みを向ける。
「うん、多分大丈夫、任せておいて…」
「そうか…」
「そう、我らが同志に乾杯よ」
そう言って、竜児の瞳をじっと見た。それに促されるように竜児も唱和した。
「そうだな、我らが同志に乾杯だ」
(終わり)
270 :
SL66:2009/04/05(日) 08:20:51 ID:hU0Y/TS9
以上です。
結局、全部投下してしまいました。
次回作ですが、ちょっと話を脇に逸らします。
一部にリクエストがあった、能登×奈々子様の予定です。
SM奈々子様に拒否反応がありそうなら、自粛します。
>>270 GJ
もう、一つの作品だこれは
次回は胸くそ悪い奴が出ないと思うと安心だ!
自粛?SL66さんのならどんなでもokすよ
みのりん派には辛かった今回…泣いたのは内緒
それとSL66さんは理系?文系?
アセトンの匂いを知ってたり、弁理士について知ってたり…
てか駅とかの関係からしてT大?
んでもいっちょGJ
あ
ドラ×奈々子が見たいです
275 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/05(日) 09:09:30 ID:t8bFUR6n
瀬川ならプリントした紙をパクルぐらいすると思ったのにしなかったからビックリだぜw
277 :
98VM:2009/04/05(日) 10:02:52 ID:Ofbgm5ZS
>>270 お疲れ様です。
誰かが幸せになると、誰かが泣くのはとらドラ!の構図ですが、みのりん、
よかったです。ちょっと大人になると、急にいい女になると思うですよ。
みのりんは。
亜美と竜児って似てますよね。 外面的な特徴や技能は丁度正反対だけど、
精神性は驚くほど似通ってる、というのが原作の感想でした。
続編楽しみです。 がんばってください。
あと、個人的には瀬川のキャラ、最高www
>>270 GJです!
個人的にはみのりんの描写がすごい切なかったです。
>>270 今回も乙です
二人の関係が成長していくさまが感じられていいですね
相変わらず嫌な人間の描写もうまい…
みのりんはT大学かな?
みんなこんなキャラだったっけ
>>280 そこはつっこんじゃいけないぜww
>>270 GJ&長い間乙!
瀬川さんとか・・・マジ悪役だったのな
>>280 ぶっちゃけキャラの皮を被せただけのオリキャラ物だけど
面白ければ別にいいかと思って楽しんでる
ななどらの影響で新生活は自炊を選んだんだが
スーパーマーケットトークなんてホントにあるの・・?orz
>>283 フラグ1は立ってても、フラグ2は満たしてないんじゃないか?w
>>283 いやおそらくベントールートに入ってるから、恋愛イベントは起こらないんだな
やめれwwwwwww
283だが今日スーパーでおばさんに話しかけられました
なぜか結構意気投合したお\(^o^)/
ななどら続き期待ですorz
>>289 おばさんの娘さんとフラグが建つんですね、妬ましい
>>289 いや、そのままおばさんとのフラグだろ?www
熟女B(弁当)ですか?
これは大河ママ、亜美ママ、みのりんママ、独神など熟女の作品が投下される前触れに違いない!
296 :
M&S:2009/04/06(月) 01:14:33 ID:Qo7cRxHq
>>203 少しの間、色々と考えようかと思ってます
どうもです
SL66さんGJ過ぎです
297 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/06(月) 01:28:46 ID:fRNcFAPN
>>277 >亜美と竜児って似てますよね。 外面的な特徴や技能は丁度正反対だけど、
精神性は驚くほど似通ってる、というのが原作の感想でした。
確かに。結構共通点はあるなぁと思ってた。
あと竜児も亜美も、よく大河に犬に例えられることが多かったし。
<竜児=バカ犬・駄犬、亜美=ばかちー(バカチワワ)>
大河あたりは、意外と二人は似てると思っていたのかも。
俺様用しおり。193まで読んだ。
人權 Human Rights 民運 Democratization 自由 Freedom 獨立 Independence 多黨制 Multi-party system
胡耀邦 趙紫陽 魏京生 反共 法輪功 北京之春 激流中國 大紀元時報 九評論共産黨
獨裁 專制 壓制 侵略 掠奪 破壞 屠殺 民族淨化 内臟器官 蛇頭 遊進 走私 六合彩 賭博 色情
中華民國 Republic of China 西藏 Tibet 達ョ喇嘛 Dalai Lama 東突厥斯坦 East Turkistan
奈々子がでてきたらななどらの続きよみっちゃくなった・・・
あと能登X奈々子は認めません!!
>>270 二次創作なんてオナニーしてなんぼなんだろうけどこれはやりすぎでは?
亜美のキャラがおかしいと思うのは俺だけか?
ちゃんと投下予告してたし、途中まで読んで嫌なら名前とかIDでNGできるんだからいいんじゃない?
キャラぶっ壊れのSSなんてあげたらキリがないし、そもそも違和感を感じない人もいるわけで
303 :
98VM:2009/04/06(月) 07:20:39 ID:vVTRTqth
>>301 原作だと亜美はあくまで脇役ですし、主に変化を起こすときのトリガーに
過ぎませんでしたし。 あまり「語らない」キャラなんですよね。
なので、自分の考えとか話し出すと違和感があるんじゃないかと。
書き手として、亜美の難しさを感じるのはその点ですかね。
私としては、2年後かつ、竜児と同じ学校に入るくらいの知識を溜め込んだ
亜美としてはかなりいい線いってると思います。
>>297 ついでに言えば大河も似てると思いますが、二人の大きな違いはコンプレックス
の向きかなと。 亜美は内側に向かうタイプ(暗い子)。 大河は外。
乙です
SL66様、GJです
変なのが湧いていますが、お気になさらずに
次回作の、奈々子様と能登のエピソード、楽しみしています
SL66氏お疲れさま
凄いとしか言い様のない
密度と完成度
次作も楽しみにしております
どこまではOKでどこからがNG、なんて言うと、結果的に書き手の妄想の自由を縛ってしまう
SL66氏の文才に嫉妬しているんでしょう。
SL66氏の作品のクオリティは、優秀な職人さんが揃っているエロパロ板の中でも際立ってますからね。
創作系の板にはこの手の人が稀に沸きますが、良くあることなのでスルー推奨です。
気にせず次作も頑張って下さい。
評価なんて書き手本人が気にするかしないかだから、外野がとやかく言う
必要ないんじゃね?
>>301もこういう感想もあるだろう程度のもので、そこまで噛み付くほどの
ものじゃないし。売ってないケンカを買うはめになるのはよろしくないですよー。
しかし、まだ300レス程度なのにもう300KBか……。
活気ありすぎだぜこのスレ。
ななどら続き欲しいです^q^
ななドラって何気に人気あるなぁ
鼻血で携帯壊れるって状況がすげぇファンタジーに見えた
そんな携帯、雨の日とかでとっくに壊れてそうじゃね
手の中にある携帯に鼻血が垂れたとしてもびちゃびちゃになるまえに
気付いて拭くと思うんだが、昔の携帯はそんなんで壊れんのかね?
しょっぱなそういうエピソードだったから???って感じで読んだ
>>308 文才に嫉妬?
いやいやただの感想を書いただけだよ。アンチのつもりもないよ。
ただ無駄な知識ひけらかすくらいならその文才で早くセクロスまで持っていってくれ
とエロパロ的願望をね
>>313 ほら、こうやって売り言葉に買い言葉の応酬になるでしょ、という典型例。
別に
>>308、
>>313のどっちが悪いとかじゃなくて、ていうかどっちも悪くなくて、
相容れない意見は「そういう意見もあるんだ」程度でスルーしとけって。
>>270 GJ!!
長文にして秀文、ありがとうございます!!
あみドラなのにみのりんで泣かすなんて卑怯ですよぅ・・・
みのりん派として震えずにはいられません!
でも最高でした♪
「暴発」や「ピクニック・パニック」の頃はドタバタ・ラブコメ風で「長いんだけど面白い」という感じだったのが、
「横浜」から、エンターテイメント性が乏しくなって、硬派な作風に変わったように感じます。
書き手さんの書きたいものが変わったのかもしれませんが、私は、以前の作風が好きです。
感想に対する感想はいらないと思うんだ
書いた職人さんに対して言ってるもんだしね
つーかキャラのイメージが云々言いだしたら、暴発の麻耶やピクニックの能登の頃から十分におかしかったわけで。
自分の好きじゃないキャラのイメージはどんなけ壊しても良いけど、自分のお気に入りのキャラのイメージは尊重してねってのはどうよ。
ある程度の閾値はあるでしょ
こういうスレの場合3人くらいの限界を超えてしまうと無駄に荒れる
まぁ落ち着こうよ
投稿しづらい雰囲気になってるし、一つの作品についていつまでも語るのは控えた方がいいような・・・
まぁ、特定の作品に不満がある人は、それを超える作品を書けばいいだけじゃないの?
不毛な議論なんかやめてさ
ただの意見に過剰反応する奴が引き金になってるよ
上にしても、作者が自分の意見を返しているのに無視して叩いているんだから
意見感想は人それぞれなんだから、それを否定するのはよくないさー
誰かの萌えは誰かの萎えって名セリフを知らないのかよ
誰かななどらで妄想してるひといないの?
325 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/06(月) 22:30:58 ID:n3eZ33Kh
ななドラはすごく需要あるよね。
自分もその一人だけどw
まとめサイトに更新されてるのも不完全燃焼のがあるから余計に高くなってるんじゃないかな?
ななドラ見てからとらドラ見る目が変わったなあw
またななどら投下されないのだろうか。。。
期待しています
ななドラいいよな。
大河のラブレター入れ間違いフラグが起きなければ、
木原→北村を軸にななドラ展開は割と無理なくいける。
てか同じ作品希望、何人も重複して書き込みいらんだろ
ななドラ人気あるのなんか過去ログみりゃわかるし
最近別カプの作品の後でななドラ、ななドラ騒いでるの見ると煽りにしか見えん
まぁ確かにななドラ!は希望が若干しつこい気がする…希望以外書かないってのもあるかもだけど
DVDさぁマジ実写いらないよ
ショートアニメ頑張ってくれよ…
DVD特典ラストはショートアニメの他に最終回での大河の手紙…
がちょっと見てみたい
他の巻は会長へのハガキも少し欲しい
みのりん派の俺は竜児との写真が欲しいんだけど
狩野さくらがあんなにも可愛いのに、彼女を題材とした作品がこれほど少ないと言うのはあまりにも幸太が可哀想だと思わんか!
というわけで誰か書いて下さい
兄貴はPSPに期待している
これより連投します。以前投下した「高須棒姉妹」の続きです。
あかん、長文のコピペは駄目みたいや。何で?
すいません、明日の昼に挙げます。
行数制限か容量制限、もしくは一行の長さ制限に引っ掛かったんだろう
337 :
SL66:2009/04/07(火) 01:10:59 ID:i3gg/9DG
じゃ、かわりに小ネタを一本。
「なぁ、川嶋。俺たちみたいなキャラを援用しての二次創作ってのは、著作権の侵害にならねぇか?」
「高須くん、著作権法の保護対象は何だか分かってるのぉ?」
「いや、俺は法学部じゃないから、知らねぇ…」
「ダメじゃない。著作権法は、弁理士試験の一次の試験科目の一つでもあるんだからぁ。そのくらいのことは、常識だと
思って理解してなくちゃ…」
「俺を貶すのはいいけど、著作権法の保護対象は何なんだよ、結局」
「著作権法の保護対象は、思想または感情の創作的表現であって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの
なのよ」
「じゃぁ、キャラを流用しての二次創作は、著作権法に違反するんじゃねぇのか?」
「文学のキャラクターはアイディアレベルの存在で、アイディアは、さっき言った創作的な表現ではないの…。だから、
文学のキャラは著作権法の保護対象じゃないから、キャラの流用そのものは著作権の侵害にはならないわ」
「お、おう、そうなのか?」
「漫画とかのビジュアルなキャラの場合は、そのキャラそのものを模写すると、そのビジュアルの表現に依拠したとして
著作権侵害を構成する場合があるから、ちょっと事情が違うけど、文章で表現されているキャラを援用しても、表現に
依拠しているとは言えないわね。だから、基本的には大丈夫」
「じゃ、どんな場合でもキャラを流用しての二次創作は大丈夫なのか?」
「どうかしら、判例によって基準がまちまちで判断は難しいけど、パロディということになると、場合によっては侵害にな
るから、要注意かもね。確実なのは、夏目漱石の『明暗』の続編である『続明暗』みたいな、本編後の続編は、他者が
原作者に断りなく書いたものでも侵害にならないことがはっきりしているわね」
「なんだ、文学上のキャラってその程度の扱いなんだ…」
「よくある誤解は、文章で人物像が共通しているのであれば、キャラクターが利用されているのだから、著作権の侵害
だというものね。しかし、文字による表現の場合、読み手が思い浮かべるキャラクターのイメージは読み手の過去の
体験を反映するため千差万別なのよね。そんな、それぞれの読者でとらえ方が違ってくるものを著作権で保護できる
わけがないでしょ?」
「よく、キャラ崩壊だって、騒ぐ奴がいるけど、なんか、下らなくなってきたな」
「そうよ、所詮、文学のキャラなんて、 個々の読み手が想起するイメージに過ぎず、他者がその感覚を共有できるもので
はないわけ。それを崩壊しているって、騒ぐのはバカバカしいわね」
「華麗にスルーが一番だな」
「そういうことよね」
(出典:『著作権法概説 [第2版]』田村善之著 有斐閣、『著作権法』中山信弘著 有斐閣)
なにこれ?
340 :
98VM:2009/04/07(火) 01:23:20 ID:ATG2h9fG
法律関係はやっぱ有斐閣だよねw って、なんか変な流れになってますねー
こんばんは、こんにちは。 98VMです。
ここらで流れを変えましょうか。
このスレでは予定外に衝動書き2本いれちゃったので自重しようかと
思ってたんですが、なんか動きが弱含みなので、投下しますわ。
『川嶋安奈の憂鬱』シリーズ 最終回になる番外編です。
本物の駄作、思い知るがいいww
登場人物はオリ+2C三人娘。
可愛さあまって、憎さ100倍。
そこまで憎くはないが、いや、全然憎くはないんだが・・・
でもなんとなく面白くない。
そんな事ってあるだろ?
子供っぽい感情だってのは承知さ。
でもな、そういう原始的な感情ってのは、理性で止まらないらしいんだよ。
少なくとも俺の場合は。
一応、誤解の無いように言っておかなくちゃいけない事がある。
俺にとって、いや、俺くらいの世代にとって、
本当に特別な存在だったんだ。
とにかく輝いてたんだよ。
いや、他のタレントの方がいいって奴も結構いたよ、確かに。
でも、誰一人としてスゲー美人だってのは否定しなかったさ。
とにかく、そんな存在だったんだよ。
―――『川嶋安奈』は。
川嶋安奈の憂鬱 −番外編−
俺がこの業界に入った切欠ってのは、そんな不純な動機だった。
当時はさ、夢中になっちまってたんだろうな。
要するにガキだったって事なんだろうが、結局俺はこの業界でそれなりに成功してるんだから、
まぁ、運はいいんだろう。
だから、今でも間違った選択とは思ってない。
実際、今は念願叶って、スタジオとかの廊下で出会えば気軽に声を掛けることが出来るんだゼ。
「あっら〜、川嶋さん、元気〜。 なぁーんか、最近お疲れみたいだけどぉ」
「お気遣いありがと。 じゃ。」
「・・・・・・」
そっけねー。 笑える位にそっけねー。
いや、まぁ、俺が悪いんだけどよ・・・。
俺がこの業界に入って、まだ何の芽も出ねー頃だった。
アコガレのその女が結婚した。
男がいるなんて噂すら無かった。 まさに電撃結婚。
アコガレの女とは違う事務所にしか入れない、偶々現場で見かけても、当然近づく事も無理、
それどころか、じっくり見ることすらできねぇ。
そうこうするうち人の女になっちまった。
もちろん、そもそも俺がどうこうできる相手じゃねーんだが、それでもがっくりくるのが男心。
現実ってのはそういうもんだった。
その上、なんとかプロデューサー見習いになったと思ったら、出産休業中だった川嶋安奈の対抗馬を
売り出せ、と来たもんだ。
その後も、どういうわけか俺にはアコガレの人に敵対するような仕事ばっかり回ってきた。
そうして現在に至る。
俺はめでたくいっぱしのプロデューサーになった。
だが。
もう、なんていうかさ、犬猿の仲っていうか。
ずっと前の事だが、俺も若気の至りで、つい嫌味っぽい事を彼女に言っちまった。
互いの立場が敵同士だったんだから仕方ない。
当時の俺なんか、彼女に睨まれたら業界に居られないと思ったけど、彼女はそういう事をする人間では
無かったようで、ちょっと惚れなおしたんだが。
それっきりだ。 一発で嫌なやつ認定。 こっちもこっちでついイライラと来ちまって・・・
これまでに築き上げた軋轢はどうにもならない。
本当は嫌われたくなかった。 仲良く仕事してみたかったんだよ。
ある意味、夢だったんだろうな。
いや、俺だってちゃんと現実に目覚めて、嫁をもらったし、子供もできたさ。
それでも、心のどっかに引っ掛る女ってのは、やっぱいるもんなんだ。
そんな訳で、最近、川嶋安奈が気になって仕方が無い。
なんでかってーと、ついこの間、彼女の娘が突然仕事を辞めて、周辺が急にゴタゴタしたせいで、
やたらお疲れモードなのだ。
珍しくNG連発した話も聞こえてきた。
この女、普段気が強いせいか、こういう弱々しい所が垣間見えると、めちゃくちゃそそる。
マスコミに追っかけまわされて、ゴシップ記事載せられても、鉄壁を誇っていたんだが、今回の娘の
造反はよほど堪えたんだろう。
その娘は、亜美っていうんだが、ファッションモデルとしてはそれなりに有名だった。
母親の若い頃に瓜二つなもんだから、ルックス的にはほぼ最強だったし、親のコネもある。
しかも、最近の若者らしく日本人離れしたスタイルも併せ持っていた。
川嶋安奈としても、ファッションモデルで終わらせるつもりはさらさら無かった筈で、相当期待していたと
思われる。
ところが、なんの相談も無しに突然仕事を辞めたもんだから、色々立ち上がってた企画とか、撮影予定
とかが大幅に狂って、各方面、怒り心頭だったようだ。
そのうち一つは、亜美ちゃんのCMデビューで、大手化粧品メーカーとの年間契約って大物だった。
他の化粧品メーカーのCMには出れなくなるが、そもそもタレントを前面に押し出したCMの仕事なんか、
普通、新人にはこない。
CMは一番儲かる仕事だ。 契約料がバカ高い上、今回の場合、年間で商品、バージョン違いを
計16本も予定しており、その分出演料が上乗せされる。
出演料の相場は一本あたり契約金の10%、つまりトータル収入は契約額の260%にもなる。
たった5〜6分のフィルムで馬鹿馬鹿しい程の金が動く。
なにより、1年間確定でCMが入るのは売り出し中のタレントには美味すぎるほどの仕事だ。
うちはコイツを横取りした。 っていうか、棚ぼたか。
正直、俺は気が進まなかった。 今売り出そうとしてるタレントは、ぶっちゃけイマイチなのだ。
こいつにやらせるなら、中堅どころ使った方がまだいい。
顔の作りはまぁ、そこそこだが、川嶋亜美と比べちまったらどうにもならない。
胸はでかいが、体とのバランスは今ひとつ美しくない。 しかも、その両方が『改造済み』だという
訳だから、言っちゃ悪いが短期商品なのは見え見えだ。
川嶋安奈のあのCMは今でもよく覚えている。 いいCMになりそうなのに、こんな短期商品を売る
のに使うのはもったいないオバケが出るってもんだ。
まったく、プロデューサーなんて名ばかりだ。 大事なことは上のほうで勝手に決めやがる。
それでも、会社の方針なら従わない訳にもいかない。
俺が矢面に立って、広告代理店と交渉していたが、案の定、スポンサーがモデルのプロフィールを
見て大幅に金額を下げてきやがった。 実に川嶋亜美の4分の1、1000万ぽっきり。
というか、亜美ちゃんの値段がすげぇ。 スポンサーは『絶対来る』と思ったんだろう。
確かに、この企画を嗅ぎつけた時、俺も、やられた、と思ったもんだ。
それだけにスポンサー側の落胆も大きく、交渉は困難を極めた。
なんとか契約には漕ぎ付けたものの、相当無理を通したおかげで、あちこちに借りをつくっちまった。
・・・その上、川嶋安奈はこの態度だ。
前は嫌味交じりでも多少は会話になった。 それが最近の彼女の台詞は平均5秒って所だ。
なんとか纏めた俺の手腕を高く評価してもらわにゃ、やってられんと思っていた所に、会社からまた
トンデモな指令が舞い降りてきた。
―――川嶋亜美をゲットせよ―――
いや、もう、考えたの誰だよ、と。
脳みそついてんのかよ、と。
っていうか、なんで担当俺なんだ。
普通スカウト担当の仕事だろが。
確かに、俺はけっこう亜美ちゃんとも話ししてっけどさ。 若い頃の安奈さんにそっくりだし・・・。
でもな。
こういっちゃなんだが、俺、亜美ちゃんにマジ嫌われてる自信満々なんだよ。
大体、進学するんで芸能界辞めたのに、スカウトに応じる可能性なんか絶対ねーって。
しかも、グラビアアイドルとしてってなー。
亜美ちゃん、グラビアには全然興味無いって公言してんだろーに。
こりゃきっとあれだな。
CM取った分をこのスカウト失敗で相殺して、俺の評価を据え置きにする策略だな。
もし本気で亜美ちゃんを採りたいと思ってんなら、上の連中の頭を疑うぜ。
それとも、例のCMでのスポンサーの評価の高さに、いまさら驚いたってのか?
俺が何度も『川嶋亜美は儲かる』って言ってたのには一顧だにしなかったくせによ。
クソ面白くねーから、川嶋亜美から仕事を奪ったってデマを流してやろうか。
自分とこのアイドルのイメージアップを図ろうとしてるように見せかけて、実際は笑い者になるって寸法さ。
人気ファッションモデルってのは単純なルックスに関しちゃ大概の奴が半端なアイドルなんか目じゃねー。
誰が見たってイマイチちゃんと亜美ちゃんじゃ勝負にならねぇんだからな。
タレントの人気にゃ影響ねーが、業界内じゃ晒し者だぜ。 自爆攻撃だが事務所への嫌がらせにもなる。
こんな仕事、これくらいのお茶目がなかったらやってらんねーって。
あーもう本当、・・・頭いてぇ。
------------------------------------------------------------------------------
それでも俺はサラリーマンなので、会社の言うことには従わざるを得ない。
担当タレントの予定が空いたときに、こうしてわざわざ亜美ちゃんの学校の近くまで来てる訳だ。
交友関係はある程度調べた。
まずは、幼馴染の北村祐作。
あとは二年の時に親しかった、木原麻耶と、香椎奈々子。
この三人は今でも親交が深いようだ。
とりあえず、亜美ちゃんがなんで急にモデル業を辞めたかってのがキーポイントだ。
これが掴めれば、あるいは攻略法が見えてくる可能性は、ある。
ゴビ砂漠に落とした星の砂一粒を見つけるくらいの可能性はたぶん、ある。
そりゃ、ゼロの漸近線じゃないかって? ・・・・・・そうとも言うな・・・・・・。
まぁ、それはともかくだ。 本人から理由を聞き出すのは流石に無理。 なんせ、俺嫌われてるし。
そしたら、友人から聞くしかない。
いきなり猛勉強を開始したってのは普通に不自然なんだから、その切欠ってのがある筈。
友人が知っているかどうかは定かでないが、実質、可能性があるアプローチは恐らくこれのみだ。
『須藤コーヒースタンドバー』
・・・俺ってさ、パチモン大好きなんだよ。 ここのオーナーとはマヂ気が合いそうだよ。
って、えーと。
よく訴えられねーな、と思わせるその店は、亜美ちゃんが通ってる大橋高校の子達の御用達の店らしい。
その店でとりあえず待ち伏せを始めて、今日で延べ7日目になる。
スケジュールの合間を縫ってなので、まとまった日数が取れない以上、延べ日数にたいして意味は無い。
ただ、ちゃんと努力はしてんだぞ、って主張したかっただけだ。
当の亜美ちゃんは学校が終わると毎日予備校通いで、ひたすら勉強しているとの情報。
だから俺のターゲットは・・・・・・
ついにそのチャンスがやって来たようだぜ。
女子高生が二人、窓際のカウンターに腰掛けた。
亜麻色の髪のやや釣り目の美少女が木原麻耶。
黒髪でおとなしそうな感じの美少女が香椎奈々子。
・・・・・・
おいおい、二人ともうちのイマイチちゃんより可愛くね?
何、類友なわけ? 美人の友達はやっぱカワイコちゃん?
俺が学生時代は美人の取り巻きは残念な子達って相場が決まってたんだけど、世の中変わった?
写真より全然可愛いじゃんよ。 ってか、ちっさいの拡大した写真だからか。
おかげでどうやって声掛けるか悩んでたのが無駄になったぜ。
これなら普通にスカウトでいーわ。 別に不自然じゃねぇ。
そうと決まったら早速突撃だ。
「失礼。 君たち、ちょっといいかな? 僕はこういうものなんだけど。」
彼女らの答えも聞かず、名刺を差し出す。
「え?」
「芸能プロダクション?」
「な、なに、これって・・・」
亜麻色の髪の少女が目を丸くする。
「君たちを見て、ちょっとお話しがしたくなったんだけど、今時間大丈夫かな?」
「あ、は、はい!」
「ちょっと、麻耶、名刺くらいで信じちゃだめだよ。」
わぉ、こっちのおっとり系は結構シビアなのね。 でも期待通り。
「はい。 IDカード。 これなら写真つきだから、信憑性あるんじゃないかな? それにスカウトって
訳でも無いんだ。 僕はプロデューサーだしね。 もっとも、最終的にはそういう話もあるかもしれない。
ともあれ、場所を変えよう・・・・・・なんて言わないから安心して。」
二人ともじっとIDカードの写真と俺を見比べ、一応納得したかのような表情になった。
「だったら、なんの話がしたいんですか?」
こっちの茶髪はストレートな性格のようだ。 そうそう、ちょっと不審に思ってくれなきゃ困る。
本当にスカウトしようって訳じゃないんだから、簡単に話が収斂したら拙い。
「そうだねぇ、君達の事が知りたい。 今はね、見た目だけじゃスカウトってしないんだよ。」
黒髪の子が『やっぱり、ナンパなんじゃないの?』という目で俺を品定めする。
やべぇ、この子色気あるわ。 本気で使えるかもしんね。
おっとりしてるようで、実はシビア。 しかもワガママボディ。
「へー、それって、見た目だけなら合格って事?」
こっちの子もちょっと生意気そうな感じで、直球勝負。 今時は減ってきたキャラだ。
スタイルも少し絞ればスレンダー系でいける。 身長も十分だ。
「そうだね、そういう事になるかな。 少なくとも僕からみたら、ね。 もし、僕がスカウト担当だったら、
もう、君達のご両親の連絡先を聞きだした頃かもしれない。 はははは。」
ここは白い歯がキラリと光る所だ。 漫画だったらな。
実際はそんなことはないし、それ以前に俺の容姿は十人並みだ。
「おじさん、本物かどうかは知らないけど、見る目はあるじゃん。」
茶髪の子は世辞に気付きながらも、ちょっと嬉しそうに破顔する。
・・・いや、あんた普通に美少女だわ、と言い掛けてしまった。 おぢさん不覚すぎるぜ。
「もちろん、プロだからね。 そうだな、先ずは名前、聞いてもいいかな?」
「うーん、名前くらいならいいよね、奈々子。」
「うん、そうね。」
「えっと、私は木原麻耶。 で、こっちのちょっとエロいのが」
「な、なに言ってるのよ、エロくないよー。」
「香椎奈々子っていうの。」
「へー 麻耶ちゃんに奈々子ちゃんか。 可愛いね。 芸名いらなそうだ。」
いや、エロいです。 奈々子ちゃん。 とくに胸のあたりが。
「芸名!?って、やっぱなんだかんだ言ってマジスカウトなわけ?」
「でも、私達でも知ってるようなプロダクションなら、亜美ちゃんに聞いてからの方が。」
よっしゃ、キターーー。 待ってたぜ、その名が出るのをなぁ!
しえん
「亜美、ちゃん? もしかして、川嶋亜美ちゃん?」
我ながら白々しい。
「あ、はい。 私達、同級生なんです。」
「へぇーーーー。 それは驚いたなぁ〜。 亜美ちゃんってこんな所に住んでたのか。」
「プロデューサーさんってけっこう立場偉いと思うんですけど、それでも知らなかったんですか?」
巨乳様が不審を漏らした。 賢い子だな。
「いや、彼女、ストーカー被害で引っ越したから、引越し先は業界内でも秘密だったんだよ。 そうか、
この街に住んでたのか。 亜美ちゃんを送りたいって奴は山ほど居たんだけど、彼女ガード固くてねぇ。
住んでる所は謎だったんだよ。 ま、今となっては、もう遅いんだけどね・・・。」
真っ赤な嘘だ。 巨乳様の言うとおり、プロデューサークラスは把握してないとおかしい。
「やっぱ、亜美って凄いんだね・・・。」「だね。 モデル辞めるのもったいないよね・・・。」
だが、この反応を得る為の言葉の罠だ。 まんまとはまってくれたゼ。 俺って天才?
「そうなんだよなぁ、なんで辞めちゃんだろうね。 君たちは亜美ちゃんと仲がいいのかな?」
「ええ。 っていうか、親友って感じかな?」
麻耶ちゃんがやや得意げに言う。
「へー、そうなんだ。 それは僕もついてるね。 めったに聞けない話が聞けそうだ。」
「週刊誌とかにゴシップ売るつもりじゃないですよね?」
奈々子ちゃん・・・・・・
「まさか。 はははは。 そんな訳ないじゃない。 僕は記者じゃないよ。 寧ろ彼らは僕達の敵さ。」
「まぁ、確かに言われて見れば・・・。」
「信じてくれた? ところで、学校での亜美ちゃんってどんな感じなのかな? 人気者だとは思うけど。」
「当然だけど、男子には凄い人気。 女子は複雑って感じ? 亜美って大人っぽくてカッコいいし、
みんなを喜ばせるのが上手いよね。 でも、やっぱ女の子同士だと、ちょっと嫉妬しちゃう所もある
じゃん? 私らは亜美も弱い所あるの知ってるから、そうは思わないけど、そういう人もいるかな。」
「うん。 亜美ちゃんって口は悪いけど、根は凄く優しいし、あれで結構デリケートだから。 そういう
の解ってる人はみんな好きだと思うけど、遠くから上辺だけ見てると嫉妬しちゃうかもね。 完璧
超人に見えて。」
「へー。 じゃ、たまに苛められちゃったりとかするのかな? ほら、彼女、なんていうの、二面性って
いうか、そういうの学校ではどうなのかな?」
一瞬、二人が微妙な表情で向かい合った。 どうやら、学校ではバレてるようだ。 仕事場じゃ上手く
立ち回っていて、表の顔しか知らない奴が殆どだが、流石に学校では油断するってことか。
「その辺も、最近は変わってきたかなぁ。 最初はなんか排他的っていうのかな、なんか諦めてるって
いうか、そんなイメージあったけど・・・」
「なんか、『どうせ、あんたたちにはわかんないでしょ』って感じ。」
と、ジェスチャー付きで語る麻耶ちゃん。 やっぱいいキャラだぜ。
「そうそう、そんな感じ。 でも、今は違うよね。」
「だね。 相変わらず猫被ってるけど、時々黒くなっても、なんか毒が弱くなったっていうか。」
「で、たまに地が出ると凄く可愛かったり。」
「うんうん。 でも、男子って馬鹿だよね。 猫っかぶりに騙されてさ、本当に可愛い所に気がつかない
んだもんね。 あははは。」
・・・予想以上だぜ。 小娘と思って馬鹿にしてた俺が恥ずかしいってか。
きっちり人間見えてるじゃねーかよ。 今時の女子高生っていっても結構ちゃんとしてんだな。
っていうか、亜美ちゃん、いい友達もってんじゃんよ。
「じゃ、学校生活は至極順調ってことかー。 仕事のほうも大きい仕事入りそうで、僕の目から見たら
近いうちに大ブレイクしそうだったんだけどねぇ・・・。」
「大ブレイクって・・・。」 目を大きく見開いて麻耶ちゃんが喰いついて来る。
「ああ、もう一気に有名タレントになってたと思うんだよね。 全国ネットのTVCMだから。 あ、でも、
麻耶ちゃん達にとっては、そうならなくて良かったかもね。 流石にそうなってたら、めったに会えなく
なっちゃうかもしれないしね。 そもそも亜美ちゃんって、あのかわし・・・」
「あ、」
「あ。」
ん? なんだ?
「へ〜〜。 大山さんって、普通に話せたんですねぇ・・・。」
え?
後ろを振り返る。 なんなのよ、このドリフみたいな展開は、なんて思いながら。
「げぇ、 亜美ちゃん・・・。」
「なーに、亜美ちゃん、銅鑼でも鳴らせばいいのぉ?」
わかってるな〜。 って、予備校どうしたのよ、予備校は。 休みじゃ無いのは確認したのに。
「亜美、おっそーい」
「ごめん、麻耶、奈々子。」
「やっぱ、本物なんだぁ、亜美が知ってるって事は。」
「本物? なんだかわかんないけどぉ、この人はプロデューサーさん。 業界ではわりと有名なほう?」
「ふぇ〜〜〜。 本当だったんだー。」
「で、大山さん、あたしの友達と何話してたんですかぁ〜? 亜美ちゃん、ちょっと聞きたいかも。」
うっは、ヤベ。 流石親子だぜ。 この微妙に蔑むような視線、マジ最高。
「あーら、亜美ちゃん、奇遇じゃなーい。 別に特別なこと話してたわけじゃないのー。 ただ、この子
達があんまり可愛いから、ちょっと下調べしちゃおうかな〜って。」
・・・・・・なんで俺は川嶋親子を前にすると、こうも極端にカマっぽくなるんだろうな。
いや、普段から仕事のときはおねぇ言葉を使っているんだが。
むしろさっきまでの普通の喋りが演技といってもいい。
「それって、大山さんの仕事じゃないですよね?」
「うーん。 そうかも?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
気まずい空気。 麻耶ちゃんと、奈々子ちゃんはオレの豹変ぶりにドン引きしてるぜ。
でもって、見る見るうちに亜美ちゃんの顔に疑念の表情が浮かんできた。
「もしかして、ママになんか言われて来たんですか?」
「え?」
これは純粋に予想外のアルゴリズム。 声も今までに無いくらい真剣な調子だ。
「な、なんでそうなるのぉ?」
「だって、大山さん、ママとしょっちゅう仲よさそうに話ししてるって。」
「はぁ? そ、そんな筈ないじゃなーい、あ、亜美ちゃんたら、な、な、なーに言ってるのぉ。」
超動揺しちまったぜ。 傍から見てると俺は川嶋安奈と仲がいいように見えるって事なのか?
だが、亜美ちゃんは、オレの動揺を別な意味に捉えたらしい。
あからさまに不機嫌な表情になっちまった。
「あたし、今は進学の事で精一杯ですから。 そう、ママに伝えて下さい。 それと、私の友達に
変なちょっかい出さないで下さい。」
「行こ。 麻耶、奈々子。」
「えっ。 あ、うん・・・。」「亜美ちゃん、どうしたの? なんか急に不機嫌になって・・・。」
全くだ。 奈々子ちゃんの言うとおりだぜ。
「もー、亜美ちゃんったら、つれないなー。」
別れの言葉はいつもの定番だった。
二人を引き連れてずんずんと店を横切って手早く会計を済ませると、俺に鋭い一瞥をプレゼント。
返すは愛想笑いと、やっぱりいつものように小指から順に指を折ってバイバイの挨拶。
なーんてこったい。 せっかく上手くいきそうだったのに。
でも、ま、いいか。
なんとなーくだが、モデルを辞めた原因は、母親との確執にあるような気配だな。
やっぱ、ヤメだヤメ。
どう考えても、亜美ちゃんをうちで雇うってのは無理だ。
そもそも、川嶋安奈を亜美ちゃんに説得してもらわないと無理な計画なのに、その母親が仕事を
辞めた事に関わってるんじゃ、箸にも棒にも掛からねぇ。
さてさて。 帰って報告書でも作るか。
ま、文言は散々考えてある。 とっととこんな仕事終わらせよう。
ふんっ、それにしても、すっかり葉桜になっちまったってのに、今日はやけに寒いぜ・・・。
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「おっはよーうぅ」
「よっす、大山、最近大変らしいな」
無精ひげのやせぎすの男が、ゴミ置き場のようなデスクにふんぞり返りながら声をかけた。
「おぅ。 時田ちゃん、珍しいね〜、昼からいるなんて〜。」
「川嶋亜美かー、お前にうってつけの仕事だよなー。」
「あぁ〜、それね、失敗。 今上に報告してきたのー。」
「あ? おいおい、なんだよ、あっさりしてんな。 もっと粘ったってよかったんじゃね? 亜美ちゃん、
好みだろ? マジで似てるもんなぁ。 もうちょっと楽しんでも罰はあたんねーと思うぜ?」
「え、なんすか、それ。」
まだ二十代前半の男が鋭く反応し、椅子から立ち上がったが・・・
「田辺、アンタ、引っ込んでなさい。」「・・・サーセン。」
大山の一言で、椅子に戻る。
「あのねぇ、時田ちゃん、そんなの全然ないって。 第一、亜美ちゃんに失礼っしょ。」
「そーかぁ? でも、万一亜美ちゃんがうちに来たらよ、お前、絶対担当すんだろ?」
「だぁからぁ、そーんな事、ないってぇ。 まぁ・・・もっともぉ、あの子面白そうだし、今抱えてる子よりは
百倍売りやすいだろうから、担当しろって言われたら断らないけど。」
「はっはっはっは。 ところで亜美ちゃんとはちゃんと話せたのかよ?」
「ん。 ま、ね。」
「ふーん。 決心は固いってか。 もったいねーなぁ。」
「そうだけどね。 でも、本人が望んでないんなら、無理にやらせる訳には、ね。」
「・・・・・・ふーん、なるほどねぇ〜。 押しの大山がねぇ・・・。 くっくっくっ・・・。」
「・・・なによ。」
「いーや、なんでもね。」
「時田、あんたそういうの、いやらしいって・・・」
「お、大山プロデューサー!」
「なによ、田辺!」
「い、いや、あの、かっ、川嶋安奈から、電話・・・」
「はぁ?」
「なんか、むっちゃ怒ってますよぉー。 大山さん、なにしたんですか。」
「ちょ、マジ?」
「やっぱ、大山先輩すげーなぁ。 川嶋安奈っていったら、けっこう大物じゃないですか。 苦情と
いえど、直接電話かかって来るなんて・・・。」
「あいつは、昔から川嶋安奈とは因縁があってな。」
「因縁?」
「あいつな、会社入った頃はな、川嶋安奈の熱狂的ファンだったんだよ。 ・・・ってか、今もか。
それがさ、どういう因果か、川嶋安奈を潰す作戦ばっかあいつに流れてな。」
「潰す・・・ですか。」
「ああ。 でも、向こうが常に一枚上手でな。 結局勝てなかった。 その過程で、あいつは彼女に
とって敵以外の何者でもなくなっちまって。 哀れなこった。」
「あちゃー。 気の毒な話ですねぇ。」
「ま、でも災い転じて福となすってな、逆にこうして直接対峙してもらえるってのも事実でよ。
あいつは結局それを選んだんだろうなぁ。 いまでも会う度にチクチクやりあってるって訳だ。
まー、なんだ、好きな子をついつい苛めちまう、アレににてるかもしれねーな。」
「そうなんですか。 大山さんも結構子供っぽい所あるんですね。」
「ばーか、田辺。 お前、そんなだから青二才って言われんだよ。」
「え、なんすか、時田さんまで。」
「あのな、心ってのは18のガキも、40過ぎたオヤジも大して変わんねーんだよ。 恋なんか正に
その典型だ。 ただ、歳をとると色々臆病になってな、折り合いをつけちまうんだ。 それだけさ。」
「ほれ。」
そういって時田は顎の先で、電話口の大山を指し示す。
「・・・大山さん、笑ってますね・・・」
楽しい事を話しているわけではない。 言葉は笑顔とは程遠い。
「たぶん、自分じゃ気がついてねーがな。」
しかし、確かに田辺には大山が楽しげに見えた。
川嶋安奈の怒りはどうやらすぐには治まりそうにも無い。
眠気を催す昼下がりのデスクで、嫌な汗を流しながら対応する同期を見ながら、
時田は誰にとも無く呟いた。
「―――みろよ、あの幸せそうな顔を、よ。」
>>338 理解しやすい例でいくと金田一やルパンなんかがそうだろうな。勝手に孫だしてるあたり。
>>335 持ち上げて落とすとはDDTでつねわかります
352 :
98VM:2009/04/07(火) 01:33:40 ID:ATG2h9fG
以上で〜〜んす。
鬱作家がほのぼのにチャレンジしてみた。
ほのぼのほのぼの・・・ してますか?
ではしばしおさらば。
次回作は予告どおり「あみママ!」
またそのうち書きたまったら来ます。
では!
353 :
SL66:2009/04/07(火) 01:41:03 ID:i3gg/9DG
GJ!
宮仕えはつらいですな。
結局、竜児が元凶であることは、この段階では第三者は不知ということですね。
>>338 キャラクターを十巻程度書き続けてきて、ある程度のパーソナリティーが
読者に伝わってないとしたら不幸なことだな
もちろん個々の人により受け取り方は違うだろうから
よっぽど逸脱してない限り良識ある読み手はキャラ崩壊とまでは書くべきではないけど
で今回はどうなのか、それは職人自身が「胸の内で」判断すればいい
>>341 GJ、ほのぼの…なのかな?
亜美、麻耶、奈々子の関係もスピンオフとかでもう少しやってほしかったから
そういう雰囲気を感じられる場面があるのは良いね
355 :
98VM:2009/04/07(火) 01:52:31 ID:ATG2h9fG
>>353 >この段階では第三者は不知ということですね。
でぃすね。
あ、そうそう。
あみママでは3年生の空白の1年、使わせてもらいますw
寄生してしまってすみません。
>>237 SL66氏のは面白すぎて一気に読むのが勿体無い
いやほんと
重くて面白いわ
GJ杉!
これより連投します。以前投下した「高須棒姉妹」の続きです。
俺がはじめて川嶋亜美に会ったのは高校二年生の春だった。彼女も同じ歳で、別の高校から転校してきたのだった。
彼女を紹介してくれたのは俺の仲の良い友人の北村で、彼と彼女は恋人同士だった。二人は小学校時代からの
幼な馴染みで、家も二百メートルとは離れていなかった。
多くの幼な馴染みのカップルがそうであるように、彼らには二人きりでいたいという願望はあまりないようだった。
しょっちゅうお互いの家を訪問して家族と一緒に食事をしたりしていた。俺と櫛枝との四人でダブル・デートしたことも何回かある。
でも結局俺の方のささやかな恋愛はあまりぱっとした成果をあげなかったので、なんとなく俺と北村と亜美の
三人だけで遊ぶようになった。
立場としては俺がゲストで彼が有能なホスト、彼女は感じの良いアシスタントであり同時に主役、というところだった。
北村はそうゆうのがとても得意だった。いくぶん露出狂的な傾向はあったが、本質的には親切で公平な男だった。
彼は俺に対しても亜美に対しても同じように冗談を言ってからかった。どちらかが黙っていると、すぐそちらに
しゃべりかけて上手く相手の話をひきだした。彼は瞬間的に状況を見きわめ、それに対応する能力があった。
彼はまたたいして面白くもない相手の話の中から面白い部分をいくつも見つめていくという得がたい才能も
持ちあわせていた。だから彼と話していると、時々俺は自分がとても面白い人生を送っているような気分に
なったものだった。
しかし一度北村が席をはずしてしまうと、俺と亜美は上手く話すことができなかった。二人ともいったい何を
話せばいいのかわからなかったのだ。実際、二人のあいだに共通する話題は何ひとつなかった。
我々は大抵何もしゃべらずにテーブルの灰皿をいじったり水を飲んだりしながら彼が戻ってくるのを待った。
彼が帰ってくると、また話が始まった。
その五月の午後、俺と北村は高校の授業を途中ですっぽかしてビリヤード場に寄って四ゲームほど玉を突いた。
最初の1ゲームを俺が取り、あとの3ゲームを彼が取った。約束どおり俺がゲーム代を払った。
北村はその夜、彼女の伊豆の別荘のガレージの中で死んだ。カワサキKH400の排気マフラーにゴムホースを
つないで口の中に入れ、口の周りをガム・テープで目貼りして、鼻を洗濯バサミでつまんでからエンジンをふかしたのだ。
死ぬまでにどれくらいの時間がかかったのか俺にはわからない。あちこち探し回っていた両親が駆けつけた時、
彼は既に死んでいた。全裸だった。
遺書もなければ思いあたる動機もなかった。最後に彼に会っていたせいで、警察に呼ばれて事情聴取された。
そんなそぶりは何もありませんでした、いつもと同じでした、と俺は言った。
いや。これ違う
すいませんやり直し
今度こそ「高須棒姉妹」の続きです。
−これまでのあらすじ−
クラスメイトの川嶋亜美に誘われて、彼女がモデルを勤めるファッション雑誌『Can Vi』の撮影会に同行して、
素人モデルとして参加する木原麻耶と香椎奈々子のボディガード役をすることになった高須竜児。
ところが、このべっぴん三人組、なにやら良からぬコトを企んでいるようであるが、はたして…
ドアの向こうから漏れてくる音楽とクラスメイトたちの嬌声。
メインスタジオで亜美たちが撮影を続けているあいだ、竜児は撮影に使われていないベッドルームに引っ込んで、
一人仰向けでベッドに寝っ転がっていた。
現場のスタッフが亜美と仲良さそうにしたり、麻耶と奈々子をチヤホヤしたりするのを見ていて、自分でもどうしようもなく
イライラを募らせてしまった竜児。
自分の極悪ヅラが平和な市民生活の場に及ぼす深刻な影響については日頃から充分自覚し、自重している彼であったが、
知らず知らずのうちに己の魔眼のリミッターを解除してしまい、見た者全てが震え上がるほどの凶悪な目線を周囲に浴びせかけてしまった。
その結果、ベテランのチーフカメラマンはカメラを持つ手をガタガタと震わせてシャッターミスを連発し、
アシスタントの兄ちゃんは恐怖のあまり膝をガクガク震わせてカメラの備品を盛大に床にばら撒き、
うら若き女性スタイリストは怯え切ってライトの傘の陰に隠れて『御免なさい御免なさい』と、しくしく泣きだし、
雑誌『Can Vi』の女性編集長に至ってはトイレに篭ったきり、幾ら呼んでもそのまま出てこなかったりと、
現場の進行に大いなる支障を来たしてしまい、この事態を重く見た亜美に、
「高須君… ちょっと、頭冷やそーか…」と、しかめっ面でスタジオを追い出され、大人しくベッドルームに引きこもっていた。
白い天井をぼんやり眺めながら、ふと、ここで撮影されたビデオを俺は見たことあるんだろうかなどと考える。
「あ、高須君いた、みてみてこの格好」
いきなり部屋のドアが開き、ヒールの音をカツカツと響かせながら、バニーガール姿の麻耶と奈々子があらわれた。
麻耶がキュートな赤バニー、奈々子がセクシーな黒バニーだ。
二人の見事にくびれたカーヴィーなボディライン。股のところがV字型に大きく切れ込んだハイレグスーツとお揃いのハイヒールが、
網タイツを穿いた脚をさらに長くみせている。
「どーすかこれ、男子的には」と赤バニーが言った。
ごっくん。
自分がなま唾を呑み込む音が部屋じゅうに大きく響きわたるようだった。
さっきのビキニ姿にくらべると肌の露出は少なめなのに、どうしてこんなにエロいんだろう。
いつも学校でかぶりつきで見ている、櫛枝実乃梨の競走馬のように躍動感溢れる太腿とは違い、JKっぽい、のほほんとした脚線美。
網タイツが織り成す立体的なグラデーションが、腿やふくらはぎのなだらかな起伏をさらに生々しく強調している。まるで性的なオブジェみたいだ。
彼女たちの下半身をついつい視姦してしまうのを何とか堪え、視線をあてどなく泳がせながら、表向きは、そんなもん興味ね〜よ的な硬派を装う。
「なぁ、衣装がエロティックすぎるぞ、…これってティーン向けのファッション雑誌の撮影なんだろ?」
「スタッフさんたちが持ち込んだ衣装の中にあったんだー。面白そうだから着させてもらっちゃった」と黒バニー。
「なんだよそりゃ、未成年にこんな格好させんなよな」
「いいじゃん、こんくらい」と赤バニー。
「ねぇ、ほんとにここでAVの撮影してるのかなぁ」
そう言いながら、奈々子は前屈みになって巨乳をたゆんたゆんとバウンドさせながら、何度も男女の淫らな行為が演じられたであろう
舞台に上がり込んだ。そのまま四つん這いになると、豊かな乳房が見事な釣鐘型になる。なんと言うかもう、目が眩むような光景だ。
彼女のそのポーズは、竜児にアダルトビデオの『女尻』シリーズのパッケージ写真を連想させた。
「そーみたいだよ」
そう言いながら、麻耶もその細身の身体をベッドにぼよーんと投げ出して、
「…あたし、編集の人に携帯の番号聞かれちゃった〜。スカウトされたらど〜しよ」
「あたしもー」と奈々子。
「奈々子はおやぢに超受けてるよねぇ。みんなかぶりつきで見てるもん」
まるで紅月カレンのようにスレンダーな赤バニー姿の麻耶は、長い腿をがばっと開いてあぐらをかき、頬杖をついている。まるでオッサンだ。
むちのようにしなやかな麻耶の赤バニー姿と、胸の辺りがもうパッツンパッツンでヤバい香椎の黒バニー姿を間近に見ながら思う。
なんか夢みたいな光景だよな。バニーガールの格好した同級生の女子ふたりと、ベッドの上でダベッてるなんて。
…いやまてよ、たしか期末前に春田が『〜という夢をみたんだよ〜』とか言ってて、そのときの夢ってのが確か、こんな風に
クラスの女子がバニーガールになって出てくるって内容じゃなかったか?… なんかこれって、その夢の話そのまんまじゃねぇか?
…もし、もしも、この上さらに亜美がミニスカサンタの格好で出てきやがったりしたら…
実はこの世界は春田が見ている夢で、この俺はその中の登場人物に過ぎなくって、ふと気がつくと自分も裸エプロン姿になっていた…
…なんてことになったりしねぇよな?
などと、突如襲ってきた非現実感に、まるでフィリップ・K・ディックの小説みたいに己のアイデンティティがガラガラと音を立てて
崩壊していく竜児であった。
「あら、三人でもう始めちゃった?」
亜美がベッドルームに顔を出した。
竜児がほっとしたことに、彼女はミニスカサンタの衣装ではなく文化祭のミスコンの司会で着たボンデージスーツでキメていた。
「お、俺はなにもしてねぇ!」
「ふうん」
露出の多い衣装をまとったスタイル抜群の身体が、大またを開いて竜児の前に立った。
美しい顔立ち、陶器のようにつるつるの肌、手入れされたさらさらの黒髪、一目で鍛えているとわかる引き締まった身体。
そのあまりのナチュラル・ボーン・ビューティー振りに、業界内では“フォトショップ要らず”とも称される、若き日本のファッション・アイコン川嶋亜美は、
かつて大橋高の男子全員を興奮と熱狂の渦に叩き込み、一夜にして同高校のセックス・シンボルとなったあの女王様スタイルに、
そのワールドイズマインな肢体を包んでいた。まじかで見ると、裸でいるほうがまだマトモなんじゃないかと思えるほど、たまらなくエロい。
お椀を伏せたようなかたちの二つの乳房がくっきりと強調され、そのあいだに深い谷間をつくっている。
もちろんおっぱいだけではない。
スーツの隙間から覗く美しい縦長のおへそ。赤い網タイツを穿いた長く細い脚。絶対領域を横切るスーツと一体化したガーターベルト。
どのボディパーツひとつとってもポップでフェティッシュ。まるで等身大のフィギュアが立っているかのよう。
そもそも、放つオーラが他の同級生二人とは違った。彼女のヒールのコツコツという音すらまるで違う音のように聞こえる。
竜児は、この目の前の美しいヒューマノイドは、ほんとうに生物学的に自分と同じ人類という種族なのかと、不安になった。
平成生まれの美のモンスターは、しかし半日の撮影のあとでかなりお疲れのご様子だった。表情をつくるのもダルそうに、
その悩殺的な出で立ちとは裏腹に、いささかたるんだ表情で、ぐるりと室内を見回した。
「…な〜んかここってさぁ〜、アダルトビデオの撮影にも使われてるっぽいよ〜? 高須君って〜、そーいうの好きそーだよねぇ〜」
いつものからかい半分の口調と違って、別にどうでもいいのよ〜といった感じの物言い。
彼女が見せるその素の顔が、竜児はちょっと嬉しかった。
「そりゃまぁ、人並みには見るぜ」
「ふふん、ど〜ですか〜、そのAVを実際に撮影してる場所に、こんな風にクラスの女子と一緒にいるっつ〜のは」
竜児は考え、正直に答えた。
「…正直たまりません」
こんな場所に女の子と一緒にいるというだけでも、頭がどうにかなっちまいそうなのに、こんなきわどい格好されたらそりゃ〜もう。
そう言うと、亜美は頬を赤らめて恥ずかしそうな表情になって、おずおずと切り出した。
「ねぇ高須君、せっかくだし、記念にあたしたちとその、ちょっとだけ… そーゆービデオ撮ってるふりとかしてみない? 」
「…はい?」(突然何をおっしゃるんですか?)ぽかんとする竜児。
「いやだからホントにエッチするんじゃなくって、してるふり。ただのおふざけ。抱き合ってその、…股間を合わせて、腰とか振っちゃって、
いかにもヤッてるようなふりして、それを撮影してるまねして、現場の雰囲気だけ味わってみるの」
前屈みになった亜美の黒い髪が竜児の頬を撫でる。
(なん……ですと……?)性的魅力溢れる異性の友人からの性的過ぎる提案に、日頃から性的な男子高校生としては応ずる言葉もない。
「そうそう、あたしたちが女優役で〜」と赤バニー。
「高須君が男優役」と黒バニー。
二人して左右からすり寄って腕を絡めるという、性的なアプローチを猛然と開始する。と、何やら肘のあたりに柔らかい感触。
(うおおぉぉぉ〜〜〜〜〜!! こ、これは、おっぱい!!)と、肌に吸い付いてくるような優しい感覚に動揺と狼狽を隠せない。
これは、なんというハーレム的状況…。
半日の撮影で彼女たちは汗をかいていた。いつもの芳醇な乳製品のような甘い匂いに、なにやらザラリとした苦い味が加わっている。
体育のあとの教室のようなその匂いと、しっとりすべすべして弾力のある肌の感触が、竜児をまだ知らぬ大人の世界へと誘った。
(済まねぇ櫛枝…大事にとっておいた俺の童貞… もう、お前に捧げられねぇかも)
高まりゆく快楽への予感に、まるでいそぎんちゃくに囚われた小魚のように身体がじんと痺れ、理性が薄れていく。
思わず、ヤらせてくださいと言いかける。
「ヤ、ヤら」
「え?」
「ヤらすぇ…」
「どうした、高須君?」
「…ヤらしい」
「…インコちゃんかあんたは。つ〜か、いま別のコト言いかけたでしょ?」
同級生の肢体に見とれている自分。それを見つめているもう一人の自分が問いかける。
お前はなぜここにいる? 彼女たちの保護者役としてだ。それなのに何を考えている? 彼女たちをどうしたい? なにをしたい?
…それじゃあ、あの大人たちと同じじゃないか。そんなことをしていいと思ってるのか?
一回だけ。それがどういうものか分かればいいんだ。
頭の中のもやもやを振り払って竜児は言った。
「三人とも、すげぇ嬉しいんだけど、俺はこう見えても、その… 常識的な人間なんだ」
「ほっほ〜う?」
「それに、俺にとってセックスってのはさ、…その、遊びじゃなくって神聖なものなんだ。女の子を好きになって、その娘と愛し合って、
その先にあるものなんだ」
てっきり鼻で笑われるかと思ったが、亜美は神妙な面持ちでそれに聞き入り、そして言った。
「もう、高須君たら、そんなに実乃梨ちゃんのことが好きなの? 他の女の子にはな〜んも興味ないってこと?」
竜児は考えた。
実乃梨は可愛らしい顔立ちをしているが、とびきり美人というわけではない。クラスの男子たちに人気はあるが、一番ではない。
「そうじゃねぇ。興味はあるさ。前にも言ったろ、俺はおっぱい星人だって」
麻耶が竜児の肩にあごをちょん、と乗せてきた。亜麻色の髪が首すじに触れ、息が吹きかけられる。その感触に思わずうっとりとする。
「櫛枝って胸おっきいから、そこがいいんじゃね?」
奈々子が竜児の心を見透かしたように言う。
「べつに実乃梨ちゃんを裏切るわけじゃないわ。これはただの悪ふざけ、所詮はAV『ごっこ』なんだしさ」
しゃべるたびにメロンサイズのバストがぷるぷると震える。とてもじゃないが目の毒だ。
情け容赦の無いお色気の波状攻撃。…もうやめて、男子高校生のライフはもうゼロよ!!
「でもよ…」
亜美が見下ろしながら挑発。
「そんなに構えなくてもいいじゃない。タバコやお酒と同じ、日常からのほんのちょっとした逸脱って奴よ」
しかし竜児には、ヤるならヤるで一応確認しておきたいことがあった。
「あのさぁ、木原はその、北村が好きなんだろ? …いつもあいつのコトで相談をふっかけてくるくせに、俺なんかとそんなことしていいのかよ?」
麻耶はにたにたしながら、
「だってさ〜、ダチが二人とも初体験を済まそうってのに、あたしだけバージンのままっつーのも、な〜んか寂しいじゃん」
「何だって!?」(…こいつら、最後までヤる気なのかよ!)とビビる竜児。
「あっヤベッ」口を押さえる麻耶。
亜美が早口であせったように、
「だってほらぁ〜、祐作ったら、こっちからどんなにコナかけても知らんぷりで、麻耶のコト、な〜んもかまってやらね〜し」
と言いつつ、(…あんたもさ〜、あたしのこと全然かまってくんね〜けどな…)と少し落ち込む。
それを聞いた竜児も、(俺と同じだ、櫛枝は、…アイツは俺の気持ちを受け入れてくれねェ)と仲良く落ち込んだ。
奈々子が解説めいたことを言う。
「女の子ってさ、その… 一方では性格の良いスポーツマンでしかもハンサムな生徒会長にココロ惹かれながらも、
もう一方で、目つきが鋭くて家事と料理の得意なクラスメイトの男の子が何とな〜く気になっちゃたりするもんなの」
「んなもんか〜?」と疑わしげに竜児。
「そうそう、そ〜なんすよ」と頷きながら麻耶がくっくっくっと笑う。もう逃がさへんで〜、とでも言うように。
迫り来る貞操の危機。…危機と言ってもぜんぜん痛くも痒くもない、逆に凄く気持ち良さそうな危機だが…。
…どうする? ヤらせてもらうか? しかしながら、さっき木原がポロッと漏らした本音によれば、亜美の言うように「セックスのまねごと」ぐらいでは
とても終わりそうにない。まさに絶体絶命、交戦は回避不能。
(…ここは彼女たちの顔を立てて、形だけお触りして勘弁してもらおう)
そう意を決した竜児は掴まれていた腕をすっと振り解き、彼女たちの腰にするりと回してぐいっと抱き寄せた。
麻耶が小さく「きゃっ」と言い、奈々子がはっと息を呑む。
「三人ともサンキューな。…でも俺、今日のところはホラ、みんなのボディガード役だからさ。こんくらいで止めとくわ」
そう言いながら、自分でもとんでもねぇコトしてんなと思いつつ、目の前のモデルの胸元に何度も口付けした。
「うひゃっ!?」
恥ずかしがる亜美をそのままにして、返す刀で両脇のバニーガールの胸元にもキスの雨を降らせる。
「ひゃわっ」「ふえっ」
身を強張らせて固まってしまう二人のバニーガール。その初々しい反応を見ながら竜児は言った。
「今のでバイト代、チャラにしとくわ」
そんな風に表面上は余裕オーライぶっコキつつも、実際のところは初めて触れる女体の柔らかさや、押し付けた唇をやんわり押し戻す乳房の弾力、
そして、やや酸味がかった皮脂の味わい、それらのめくるめく感覚に身も心もとろけそうな竜児であった。
『……』三人がバツが悪そうに俯いて黙り込んだ。
呼び覚まされた乙女の恥じらいに彼女たちが困惑しているそのスキに、
「俺、コーヒー飲んでくるわ」と言って、竜児は席を立った。
(キマった。…なんとか窮地は脱したぜ…)と一人ごちる。…が、勿論そんなハズなどないのであった。
撮影が終わり、スタッフからの『これから食事でも?』というお誘いをやんわりと断り、亜美は三人をスタジオの外に連れ出した。
あたりはもうとっぷりと暮れている。明滅するネオンの光が、三人の娘たちの横顔を青や赤に彩っている。
「ふわ〜 終わったぁ〜」奈々子がぼやいた。
「あたし、顔の筋肉が疲れたっつーか、痺れた」麻耶が頬っぺたを揉みほぐす。外の冷気が火照った頬に心地よい。
「二人ともお疲りゃしたぁ〜、ほんじゃ、行きますか」
「どこへ行くんだ、川嶋?」
「食べに」
四人で繁華街を歩いていくと、道行く男たちが次々にこっちを振り向く。
無理もねぇ、と竜児は思った。こんなキレイどころが三人も連れ立って道歩いていたら、誰だって見る。
男たちの感嘆と賛美のこもった視線が連れの同級生たちに遠慮なく浴びせかけられる。
麻耶と奈々子が左右からぴったり寄り添ってきた。すがり付くようにがっちり組んだ腕から、彼女たちの緊張が伝わってくる。
竜児の肩ごしに亜美が囁いた。
「…高須君を呼んでおいて正解ね」
「うお〜メガマック!!」
「ほいひ〜」
ファストフード店でハンバーガーをほお張る麻耶と奈々子。
そんな級友たちを見守りながら、亜美はナゲットをひとつつまんで、マスタード&ケチャップをつけて口に放り込む。
「節制のあとって、このいかにも身体に悪そ〜なトランス脂肪酸がたまらなく美味しいのよね」
うんうん、と頷く二人。
聞けば三人とも今日の撮影にそなえて、この2週間ずっと節食していたのだそうだ。
「もうね、町歩いてるとショーウィンドウの中の食べ物が光り輝いてみえるんだもん」と麻耶。
「そーそー、スドバのケーキとかパンとかもう、目に突き刺さってくるみたいな」と奈々子。
「そのうち夢に出てくるから」と亜美。
竜児が『あしたのジョー』の減量みたいだと感想を述べると、驚いたことにみな知らなかった。
「文化祭で櫛枝がズラ被ってやってたあれだよ」
「つうか、あしたのジョーって、あんなハゲのおっさんなわけ?」櫛枝の名を聞いて亜美は、その美貌をほんの少し曇らせる。
「違う、あれは力石」と自信たっぷりに麻耶。
「…丹下段平」竜児が訂正する。
彼女たちは見るからに消耗し、疲れきっていたが、同時に浮かれてもいた。竜児にもその気持ちはなんとなくわかった。
スタジオの中で、彼女たちはカメラの前に立ってポーズを取りながら、かつて経験したことのない自己愛と高揚感と自惚れの海のなかにいた。
美しく生まれた女だけが享受できる悦び、他者からの賞賛と肯定、その余韻がまだ抜け切っていないのだ。
残ったナゲットをつまみながら亜美が言う。
「それじゃ、腹ごしらえも済んだことだし… もういっちょ行きますかね」
「まだ食うのかよ?」
亜美はその美貌に肉食系の笑みを浮かべ、竜児に向かって言う。
「お次はデザートよ」
麻耶もにたにたと悪戯っぽく笑っている。
「実はメインディッシュだったりして〜」
香椎が竜児を指差しながらウィンク。
「高須君、あ・な・た」
竜児は溜息をついた。スタジオでのアプローチから、とりあえずは『覚・悟・完・了』できていた。
終わってしまったお祭りの後。このまま今日という特別な日を終えてしまうのはもったいない。もう少し非日常を引っ張りたい。
そんな気分を抱いているのは竜児も同じだった。
しかし、いざ初体験、それも一度に三人を相手するとなるとつい緊張して、身体が震えてくる。
三人は竜児をじっと見つめて了解の返事を待っている。
返事しようにも声が出ない。竜児は残ったフライドポテトを無理やり口に詰め込んで、ブラックコーヒーで呑み下した。
部屋の明かりを点けないまま、四人は裸になった。
締め切ったレースのカーテン越しに、歓楽街のネオンの色とりどりの光がホテルの室内をやんわりと照らしだす。
その光が彼女たちのなめらかなシルエットを薄闇の中にぼんやりと浮かび上がらせ、肌の隆起にしたがって青や赤のグラデーションを描いた。
服を脱ぎ捨てる衣擦れのするするという音だけが室内に響く。
シャワー室に四人がぎゅうぎゅう詰め。
女子の甘ったるい体臭が竜児の鼻腔を満たした。
「ひゃーちべたぁーい」
「手ぇ、高須君、手!」
「あっははは、手が早ぇぞ男子!」
「男子のカラダってゴツゴツしてて当たると痛ぁい〜」
「さっきからケツばっか触り過ぎだろゴルァ!」
「あっ、おっきくなった!」
「高須キモイ!」
少女たちの弾けるような嬌声が割れんばかりに響く。
もはや自分が、道徳的な人間とは思えなかった。
目の前のモデルの肉体に、ためらわずに手をのばす。
竜児の指に触れられて、亜美は嬉しそうに喉を鳴らした。
手のひらで腿の内側を上下に撫でまわすと、彼女は陶酔したように腰をくねらせた。
「あんっ、たかすっ、クンッ」
竜児の肩に額を押しつけ、甘い息を吐いて身をよじる。
量感と美しさを兼ね供えた乳房が、まるで悦んでいるように揺れる。
太腿のあいだに長い指がもぐり込み、秘所をまさぐりだすと、それに反応して大きく震える。
「ダメよ亜美ちゃん、彼を独り占めしちゃ。…私にもして、高須君」
奈々子の濡れた髪が胸元にだらしなくまとわりついて、その肉体をさらに官能的にみせている。
それを見た竜児は思わず手を伸ばし、その巨乳を思いっきり鷲掴みにしてしまう。
指にねばりつくような乳肉の感触が、残っていたわずかな理性を吹き飛ばした。
そのままぐいっぐいっと荒々しく揉みしだいてゆく。激しくこねくり回すと弾力のある肉がむにゅっと悩ましく歪む。
「そうッ、もっと強く揉んで、もっと… 気持ちいいわ、高須君」
豊満な乳房をいたぶられ、真っ白い肌が艶めかしく上気してゆく。
「…奈々子ちゃんったら、おっぱいで誘惑するなんてずるいっ」
「だって、こうでもしないと、亜美ちゃんには到底敵わないんだもの」
そのまま亜美の美乳と奈々子の巨乳に押しくら饅頭され、揉みくちゃにされていった。
柔らかい肉のクッションにずぶずぶと埋もれてゆく。深く息を吸い込むと乳製品のような甘酸っぱい香りがする。
「高須クン、両手に花だね〜」
もう一人の同級生、木原麻耶が背中から抱きついて密着してきた。形の良い胸を摺りつけながら、可愛い唇で首すじにむしゃぶり付いて甘噛みする。
六つの優しい手が、竜児の体じゅうをくまなくまさぐり、優しくつねり、引っかき、愛撫してゆく。
「高須君、二人ともずっと我慢してたんだよ。遠慮しないで、いっぱい可愛がったげて」
ギンギンに勃起した高須棒に麻耶の細い指がそっと触れる。そのまま握られて、あまりの快感に竜児はうめいた。
「ちょっと木原、ダメだそこは!」
「へっへー、離さないも〜ん、高須君のおちんちん」
麻耶の手が茎の部分を握り締めて上下に擦り上げ、もう片方の手の指先で亀頭を優しく包み込んで撫でさする。
やわらかい二つの手で肉棒を揉みくちゃにされ、痺れるような快感が背中を駆け上ってくる。
「うふっ、タイガーや櫛枝は、こんな気持ちイイことしてくれないでしょ?」
「あっ、当たり前だろ。木原、もうそれ以上はッ…」
膝が震え、腰が砕けそうになる。足の裏側が熱くなっていく。絶頂へと至る坂道を引き返せないところまでどんどん駆け上がっていく。
もう立っていられず、亜美と奈々子に両手でしがみついた。娘たちが優しく手を合わせて指を絡めてくる。
「うあぁっ、…木原、もう、…イきそうだっ」
「…どうする亜美ちゃん?」
「そうね、…高須君、あたしたちにかけて」
そう言うと亜美は、すべすべした下腹部を押し付けた。
体中の血液がまるで沸騰するように感じられたその次の瞬間。目の前の裸体に向かって白濁液を噴出した。
性経験のない三人から驚きの声が挙がる。
なめらかな下腹部や腿にどろりとした粘り気のある汁が飛び散り、汚していく。
実は臭いフェチである奈々子は、自分の腿にかかった精液を指ですくい取り、その刺激臭をまじかで嗅ぎながらうっとりとしていた。
「すっごい匂いだったね〜」
「なんか、コツが掴めました、あたし」
「うふふっ、高須君のあのときの顔、可愛かった」
続きます
>>368 ヤバい、GJすぐるwww
まじで最高だ
続きに期待!!
>>368 ノルウェイ乙!じゃなくてエロ過ぎる!
羨ましす…GJ!ぜひ続きを!
全裸で待機してます
「×××ドラ!」の続きを投下
下手なくせに更に下手っぷりに磨きがかかって非常に読み辛いのはもう本当すみません。
「おっかえり〜、本日もお勤めご苦労さま! シャバの空気はうめぇかい?」
玄関を開けると、櫛枝が満面の笑顔で出迎えてくれた。
仕事を終えて帰宅して、櫛枝のこの笑顔を見て、それでようやく家に帰ってきた気になれる。
最近だと特にそうだ。
「おぅ。ただいま、櫛え・・・・・・・・・」
靴を脱ぎながら返事をしようとして、途中で止まってしまった。
しまった、また・・・・・・やばい、櫛枝の顔から笑顔が消えている。
いや、顔は笑ってるけど目だけまったく笑ってない。
流し台の方に向けていた体をこっちに向けた櫛枝が、腕を組んで仁王立ちになる。
この後は・・・・・・
「・・・も〜・・・そろそろ名前で呼んでほしいんだけどな」
やれやれっていう風に手を広げ、首を振る櫛枝。
最早見慣れたポーズに、耳にタコができるほど繰り返したやりとり。
こんなやりとりをして、ここが我が家だと妙に実感できるほどになってる俺も、かなり櫛枝に染められたんだろうな。
「まったくー・・・昨日今日から一緒に住んでるんじゃないんだからね? しっかりしてくれよ〜。
私なんて、ちゃ〜んと高須くんのこと高須くんって・・・はっ!?」
自分も俺の名前が言えてない事に気付いた櫛枝が、大げさに両手で口を押さえた。
悪いかなと思いつつ、ついつい苦笑が漏れるのを我慢できなかった俺を見て、更に汗まで流し出す。
今日こそはって思ってたんだろうけど・・・あのリアクション、きっと素で間違えたな、櫛枝。
「・・・え〜っと・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・う〜んと・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・へたこい」
どんな風に誤魔化すのか見ていると、櫛枝が落ち目の芸人みたいな動きを始めたから慌てて止めた。
お腹だって大分大きいんだから、そろそろそういうのは勘弁してほしい。
体当たりって言うか、体を張るのにも限度があるのを何度説いても、櫛枝はテンパるとたまにそういうのを忘れてしまう。
その度に俺の寿命が縮まる思いだ。
・・・・・・お腹の子供の寿命も縮んでやしないだろうか? ・・・そ、そういうのを考えるのは止しとこう。
今は目の前の櫛枝をどうにかしろ。
「言えてた! 櫛枝はちゃんと言えてたぞ、高須くんって・・・それはもうしっかりとした発音で・・・・・・」
「・・・それ、わざと言ってるの? ・・・・・・高須くんのいぢわる・・・」
くそ、失敗した・・・・・・
ジト目で見てくる櫛枝の目に涙が・・・お、俺そんなに酷い事を言ったか? 言ってないだろ?
精々セリフのチョイスを間違えた程度で・・・
そうは思ってても、涙目で見上げられていると軽く罪悪感が湧いてくる。
そして思い知らされる。
・・・・・・俺は一生この目には勝てない・・・・・・
「・・・そんなつもりじゃ・・・」
「そんなつもりじゃないんだったら・・・どういうつもりだったわけ?
私が名前で呼んでほしいって言ったすぐ後に、高須くんのことを高須くんって呼んじゃったことをネチネチと・・・
まるで姑の如く突いて突いて突きまくるつもり以外に、どんなつもりだったの!?」
いや、訂正した方がいいな。
・・・・・・俺は一生櫛枝に勝てない・・・・・・
尻に敷かれるでもいい。今が正にその状態だ。
「だ、だから俺は・・・櫛枝の事をだな」
尻に敷かれるダメ亭主よろしく、言い訳を始めてあたふたする俺。
みっともない事この上ないと自嘲しつつ、それでも今この誤解を解けるならと必死に弁明していると
「・・・分かってるって。高須くんがフォローするつもりで言ってくれたってこと、私はちゃんと分かってるから」
不意に、口元に手を添えてクスクス笑い出した櫛枝がそう言った。
・・・櫛枝をフォローするつもりが、逆に櫛枝にフォローされちまった・・・
俺はホントにダメ亭主か。
「櫛枝・・・・・・」
「・・・私も高須くんも、慣れるまでもうちょっと時間が要りそうだね、これじゃ」
───うちで一緒に住む事になった時に色々と決めた約束事の中で、
櫛枝が「お互いを名字じゃなくて名前で呼ぼうよ」というものを提案した。
俺が18になったら戸籍上だって家族になるんだし、反対する理由なんてあるはずもないから、
その日からお互いがお互いを名前で呼ぶ事に決めた。
決めたのだが・・・
いざ櫛枝を目の前にするとどうしても恥ずかしくなるのと、意識していない時はつい今までの癖で「櫛枝」と呼んでしまう俺と、
「これだけは絶対にするからね! 絶対だかんね!」と、提案する時に頑として譲らないという姿勢でいた櫛枝も・・・・・・
櫛枝がうちに来てからしばらく経つが、結局今みたいな事を繰り返しているだけで、まともに名前で呼べた事は一度も無い気がする。
ただ、今みたいになる度に何か言って、雰囲気を良くしようとしどろもどろになっている俺をからかう櫛枝という流れみたいな、
所謂『お約束』みたいなものもできてて・・・正直、今はまだこのままでいいって思ってるところがある。
俺も、きっと櫛枝も。
「・・・・・・悪い、櫛枝・・・・・・」
とりあえずさっきの櫛枝の言をとれば「姑の如く」な事には謝っておこう。
俺にはネチネチと櫛枝をいじめるつもりなんて無かったけど、そう取られたんなら謝って、
それで今日はこんなやりとり終わりにしてとっとと飯を・・・・・・
「はえ? ・・・・・・高須くんが謝ることってなんかあったっけ? ・・・ひょっとして浮気!? いきなりのカミングアウト!?
・・・・・・そしてこの先、身重の身体で高須くんを満足させられない私は家政婦同然に・・・・・・そんなのいやさねー!」
だが、櫛枝はまだ続ける気満々でいたらしい。
「はぁ!? ち、違うぞ!! 俺はそんな、謝ったのはやましい事があるからじゃなく・・・て・・・・・・」
「へ?」
「あ・・・いや、その・・・・・・」
咄嗟に反応してしまってからその事に気付いた。
しまった、露骨に否定しすぎた・・・櫛枝のやつはまだ俺をからかって・・・
最後まで落ち着いて聞いてれば、櫛枝が俺をま・・・満足させるだのとか、十分冗談だって分かったものを・・・・・・
これだと、俺が図星を突かれて慌ててるようなもんじゃないか。
見ろ、櫛枝のやつがポカーンと口開けてこっちを・・・だめだ、見ていられない・・・早とちりした挙句に怪しまれるような事言うなんて最悪だ。
目を合わせているのも恥ずかしい。
・・・・・・と、とにかくここは誤解を与えちまったかもしれないから、そんな浮気なんてしてないことを・・・そうだ。
逸らしていた目線を、今度は俺の方から櫛枝に合わせる・・・櫛枝はどこか上の空って感じだ。
もしかしたら怪しすぎる程動揺していた俺を疑って・・・もしそうなら、早く言わないと。
「き、聞いてくれ櫛枝・・・・・・お、俺は、櫛枝の事が一番・・・・・・その・・・大切なんであって・・・」
「・・・・・・・・・」
「櫛枝以外は目に入らないっていうか・・・・・・それに櫛枝のお腹には・・・だから、浮気なんて絶対しねぇよ。
したこともないし、これからだって・・・」
「・・・・・・・・・」
よし、言い切った。
かなり恥ずかしいけど、後は誤解の発端になった事をキチンと説明すればいいはずだ。
「あとな、俺が謝ってたのはさっきの」
「・・・・・・・・・・・・プッ」
プッ?
「プッ・・・プハッ、アハハハハハハハハハハハハハ!
た、高須くん顔真っ赤! も〜真っ赤っかだって! し、しかも、ものすっごい勢いで赤くなってって・・・クククク・・・
今の高須くん、茹でたタコよりもよっぽど・・・ちょ、アハ、アハハハハハハハ!! だ、だめ、こっち見ないで、お腹苦しい〜〜」
突然櫛枝が笑い出した。
笑い出したなんてもんじゃない、大笑いだ。
それも泣くほどの・・・・・・目が合っただけで、肺から空気を全部搾り出すような勢いで・・・・・・
「・・・・・・・・・」
「アハハハハハ・・・ハハ、ハ・・・あ、ありゃ?」
「・・・・・・・・・」
掴んでいた肩から手を離して、慌てて櫛枝に背を向けた。
こっちは真剣に・・・そりゃあ、いつも通りのおちゃらけのつもりだったんだろう櫛枝の冗談に気付くのに一瞬遅れて
本気で弁明してた俺も俺だけど・・・
冗談だって事に考えがいって、途端にどんどん顔が赤くなってく自覚もあったけど・・・
それでも櫛枝に誤解されるのも耐えられないから肩まで掴んで引き寄せて、大真面目に恥ずかしい事言ったってのに。
いくらなんでも、腹まで抱えて笑い出す事ねぇじゃねぇかよ。
しかもなんだよ「茹でダコよりもよっぽど」って・・・「こっち見ないで」って・・・・・・
・・・そもそも最初に謝ってたのだって、さっき櫛枝が「いぢわる」なんて言った事に対してだな・・・なのに櫛枝ときたら・・・櫛枝のやつが・・・
ポスン
やり場のないやるせなさと、のた打ち回りたい程の恥ずかしさを抑えるためにグチグチと頭の中で言い訳と愚痴を繰り返していると、
背中に誰かが寄りかかってくる。
今この家には俺と櫛枝しかいないし、なんとなく覚えがあるような柔らかい物体が二つ背中に・・・まぁ、櫛枝だよな。
「ごめん、ちょっと笑いすぎちゃったね・・・怒ってる?」
「・・・そんな事ねぇよ」
怒ってる訳じゃない。
俺はただ、消えたいほど恥ずかしいだけだ。
「ホントに?」
「・・・・・・おぅ」
「・・・そっか」
背中に寄り添っている櫛枝が、以前に比べれば少しだけ・・・
お腹の中にいる赤ん坊が大きくなった分、少しだけ重くなったように感じる櫛枝が更に体を預けてきた。
「あのさ、笑っちゃったのは私もほんと〜に悪かったって思ってるんだけどね・・・
あれって高須くんも悪いんだよ」
「・・・櫛枝がそう言うんなら、そうなんだろうな」
「うん、そうそう。高須くんも悪い・・・いやぁもう全部高須くんのせいだね。
みんな高須くんが悪い。この私が言うんだから間違いないよ」
「・・・・・・・・・」
謝ってきたと思ったら、突然俺の方にも非があったと言う櫛枝。
それはそれで別にいい。俺自身、変な風に早とちりなんかしたからこんな事になったんだって思ってる。
でも、今櫛枝が言いたい事はなんなんだ。
「・・・・・・だって高須くん、私が冗談半分で浮気してるのって聞いたら必死になって否定するしさ・・・肩まで掴んで引っ張って。
あれって、あれだけ動揺してたら逆に怪しくなるよ。マジだったのかい! って」
「だから、あれはだな」
「だけどさー・・・高須くん、すぐに変な顔して真っ赤になっちゃって・・・そこで私も気付く訳なんだな。
『お、高須くんやっと冗談だって分かってくれたかな? んん〜? じゃあ今の冗談本気にしちゃってたの?』って」
「・・・・・・・・・」
櫛枝には全部お見通しだったらしい。
俺の顔はそんなに考えてる事が顔に出るのか・・・自分じゃ分からないな。
それに知り合い以外の人間は俺が顔を向けると慌てて顔を逸らすし、知り合いからだって今の櫛枝みたいな事を言ってくる奴はいなかった。
・・・ひょっとしたら、櫛枝だから俺の表情や仕草なんかで俺の考えてる事が分かるのかもな。
そうだとしたら、少し嬉しい反面、悔しくもある。
俺には櫛枝が何を考えてるかなんてさっぱりだ。今だって。
櫛枝が何を言いたいのか考えを巡らせている俺に、櫛枝は更に続ける。
「そこでこのみのりん・高須・ジョースターは考えた。
『お前は次に『い、今のは違うんだ櫛枝・・・ちょっと早とちりしたっていうか・・・とにかく俺、勘違いしてて』と言うよ!』って・・・
だけどね、高須くんは私の考えの斜め上を行ってたよ」
そこで一旦区切った櫛枝は、俺から離れると回り込んで今度は正面から寄りかかってきた。
俺も自然と腕を櫛枝の背中に回すと、櫛枝は顔を上げて・・・ゆっくりと口を開いた。
「あそこで私のこと、一番大切だって言われるなんて思ってもみなかったよ。
・・・私の冗談真に受けて、急に慌てたりして・・・高須くんだってあれが冗談だって分かってたんでしょ? 途中からでも。
それなのに、そのまま私に『一番大切だ』って・・・『私以外は目に入らない』って・・・」
「・・・・・・・・・」
また顔に血が集まってきた。
櫛枝の目に映る俺の顔がみるみる赤くなっていく。
だけどそれ以上に目を引くのが、俺よりも赤く染まっていく櫛枝の顔で。
「・・・・・・照れくさかったけどさ、嬉しかった・・・うぅん、まだ嬉しいな・・・
それこそホントに浮気されちゃったら、嬉しかった分悲しくって、死んじゃかもしれないから・・・
・・・・・・このまま、ずっと嬉しいままでいたいな・・・ずっと・・・・・・」
「・・・・・・櫛枝」
「・・・ぁっ・・・」
背中に回していた腕に力を入れると、櫛枝の背が軽く跳ねた。
そうすると、見上げたまま見つめてくる櫛枝は瞳を潤ませて・・・・・・
すぐにいつも通りの笑顔に戻ると、やたらニヤニヤしながら目線を逸らせた。
・・・これは・・・なんだかさっきのような、俺をからかう雰囲気が櫛枝から・・・
「だけど・・・あ〜んな真剣な、それに真っ赤っかな顔して口説き文句言ってるくれてる原因が私の冗談っていう・・・
しかも場所は台所・・・それ考えちゃうと、なんだかおかしくって・・・今思い出しても・・・フフ・・・・・・」
ほらな・・・・・・櫛枝が、腕の中でまたクスクス笑ってやがる。
マイペースにも限度があるだろ。なんだって櫛枝はいい空気をぶち抜いて、ここでその話を蒸し返すんだ。
「・・・そんなにおかしかったか。大真面目で櫛枝に嫌われまいと泣きつく俺は」
「ごめんごめん、怒んないでくれよ〜・・・それだけじゃなくってぇ・・・」
「それだけじゃなくってなんだよ」
「・・・・・・高須くんは怒った時とベッドの中だけはいじわるだよね・・・私が言いたかったのはー・・・
『あぁ、この人は私が言った些細な事にも本気になってくれるんだ。
冗談だって分かっても、どんな考え方したか分かんないけど私に変な気を持たれたって思ってへこんで、
必死になってそれは違うんだって伝えるために・・・私のことを一番って言ってくれるんだ・・・』って、そう思っただけ・・・それだけ」
「・・・・・・・・・」
ふて腐れたように唇を尖がらせる櫛枝に対して、言葉が出ない。
櫛枝がそういう風に思っていてくれていたなんて全然・・・・・・・・・
だめだな、まったく・・・櫛枝にはこっちの考えてる事はお見通しなのに、俺には櫛枝が何考えてるかなんて本当にさっぱりだ。
こんなにしっかり抱き合ってるってのに。
これじゃあ俺だけ櫛枝のことが分かってみたいで、本気で悔しくなってきた。
・・・悔しいから、今は櫛枝をいじめよう。
俺は意地悪だそうだし、好きな子ほどなんとかって言うしな。
「・・・・・・櫛枝・・・・・・」
隙間なんてないほど抱き合ってるのも構わずに、更に櫛枝を抱く腕に力を込めて抱き寄せた。
すると櫛枝の様子が変わった・・・気がする。
「ぇ・・・あ、だめだよ高須くん、今ご飯作ってるとこなんだから・・・それにまだ・・・赤ちゃんだって・・・」
やっぱりだ、さっきまでふて腐れてた櫛枝が焦りだした。
見えないからどんな顔してるかまでは分からないが、それでも驚きが混じる声と・・・
服越しに伝わってくる櫛枝の鼓動が、今もどんどん早くなっていく。
思い起こすと、俺は今までからかわれてばかりだったから、少し楽しくなってきた。
これで十分と思っていたけど・・・だめだ、もうちょっといじめてやろう。
「俺は意地悪なんだ。櫛枝がそう言ってたじゃないか。櫛枝が言う事に間違いなんかないんだろ」
「そ、そうなんだけど、そんなの・・・・・・もう! 高須くんのいぢわる・・・私が言ってたの、ちゃんと覚えてる?
高須くんは怒ってる時とベッドの中以外は優しい・・・あれ、ベッドの中でも優しいような・・・けどいぢわるだったような・・・まぁいっか。
それでね、そもそもここはベッドじゃないし、高須くんももう怒ってないんでしょ。私にはまるっとお見通しだぜ」
「・・・・・・まるっとか?」
「うん、まるっと。そしてこの実乃梨ブレーンがそこから導き出した答えは一つ!」
ちょっとだけ調子に乗って、怒ったフリして強引に抱き寄せていたずらしようとしたら、これも櫛枝には筒抜けだったようだ。
スルリと腕の中からすり抜けた櫛枝は、初め戸惑うように、次に怒り顔で・・・
「・・・・・・・・・高須くんのえっち・・・・・・・・・」
最後は頬を染めてプイッと横を向きながら放ったこの一言が、これ以上櫛枝をいじめてやろうなんていう気を完全に削がせた。
むしろ罪悪感が沸き立ってきた・・・改めて振り返ってみると、けっこう無理やりな事したかも・・・
・・・あ、謝っとこう・・・
「ま、待ってくれ櫛枝、確かに俺も悪乗りしすぎたかもしれないけど・・・」
「言い訳は見苦しいぜ、『えっち』で『すけべ』で『けだもの』な高須くん。
いくらなんでも、こんなとこで・・・もう、ホントにえっちなんだから・・・それにとってもいぢわるだよ」
「ぐっ・・・」
要所要所を強調させながら、櫛枝は何事も無かったように流しに向き直ると
俺が帰ってきてから止まりっぱなしだった夕飯の支度を再開しだした。
何か声をかけようにも、櫛枝は背中で語っている・・・「弁解は受け付けないよ」・・・って・・・
「・・・おいたばっかりしてるエロ須竜児さんにお願いがあるんだけどいいですか?」
「エ・・・な、何だ・・・何でも言ってくれ」
追い討ちまでかけてくる櫛枝。どことなく他人行儀な言葉遣いなのは拗ねてるのか? ・・・拗ねてんだろうな、やっぱ。
しかもエロス・・・いやエロ須って・・・それだと、近い将来櫛枝も赤ん坊もエロ須姓になるんだけど。
口が裂けても言えない事を考えながらも表向き素直に返事をしておく。
これ以上拗れるのはさすがに厄介だし、俺が調子に乗りすぎたのは事実だ。
何を言われても従っておこう・・・こ、小遣い減らされる以外だったら、何だって。
どんな事を言いつけられるのか戦々恐々と待っていると、やや間を空けてから櫛枝は口を開いた。
「・・・・・・よ・・・夜はね、ちゃんとベッドでなら・・・だけど、今みたいなんじゃなくって・・・優しくしてほしいっていうか」
「は?」
何て言ったんだ?
一気に声のトーンを落とされて殆ど聞こえなかったんだけど・・・夜? 夜って言ってたのか?
夜が一体どうし・・・・・・
「・・・・・・っな、なんでもないなんでもない! やっぱりなんでもないから! ・・・急いでご飯作るから、着替えて待っててよ」
ボソボソ言ってて聞き取りづらいと思っていたら、急に大声になって捲くし立ててきた櫛枝。
心なしかさっきよりも顔が赤い気がするけど、何でだ。
「おぅ・・・え、だけどお願いって」
「だからなんでもないってばぁ! さささ、お疲れなんだからゆっくり休んでてよシャチョーさん。
今晩のメニューは高須くん直伝の肉じゃが私アレンジだから、期待してていいからね」
あまりの櫛枝の慌てように、何を言いたかったのか尋ね返すタイミングを完全に失っちまった。
「あ、あぁ・・・分かった。ありがとうな、櫛枝」
一体何だったんだ・・・お願いって言うからてっきり皿を出しといてくれとか、テーブルを拭いとけなんかの雑用だと思っていたのに
櫛枝は特に何も言いつけないし、さっきのつっけんどんな態度とは打って変わって妙によそよそしい。
何だったんだろう、櫛枝が言おうとしてたお願いって・・・まぁ、本人があれだけいいって言ってるんだからこれ以上聞いても仕方ない。
俺が疲れてるのも本当だし、櫛枝も、思ってたほど機嫌も悪くないみたいだし・・・とりあえず着替えて、後は櫛枝の手伝いでもしてよう。
それでいつも通りだろ。
「あ、高須くん」
「ん?」
ガラガラ・・・
居間と台所を仕切っている戸に手をかけたところで櫛枝に呼び止められた。
なんだ、やっぱり何か手伝いでもあるのか?
「私も、高須くんのことが・・・高須くんとこの子が一番大切だから・・・高須くんしか目に入らないから。
・・・・・・どう? 高須くん、嬉しい?」
「・・・・・・急にどうしたんだ」
振り返っても、櫛枝は背を向けたまま。
「う〜ん・・・言いたくなったんだよ、急に。で・・・高須くんは、嬉しい・・・・・・?」
その質問に、俺は
「・・・おぅ・・・」
「・・・へへ・・・」
聞かれた事に答えても櫛枝は特に何も言わずに調理を続けているだけで、それ以上会話が続かない。
「・・・・・・着替えたら手伝いにくる」
突っ立っててもしょうがない。いい加減着替えよう。
言って、居間に片足を突っ込んだ時、櫛枝の声が聞こえた気がした。
「高須くんがいれば、私はずっと嬉しいままでいられるよ」
「・・・・・・? 櫛枝、何か」
ダンッ!
何か言ったか?
そう言おうとしたら、居間の向こうから聞こえてきた、何かを叩きつけるような音によって阻まれた。
ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ! ダンッ!!
矢継ぎ早に聞こえてくるその音は、一際デカイ音を最後に、それ以上聞こえなくなった。
数瞬置いてから、反射的に瞑っていた目を恐るおそる開けてみる。
今は櫛枝と俺しか居ないはずのうちに誰が・・・まさか俺ん家に上がるような泥棒なんているわけ・・・・・・
「おかえり、竜児」
視界に入ってきたのは、長い髪の毛を首の後ろで一まとめにして、ドレスみたいにふわふわのレースをあしらったエプロンを身に付けた
「た、たたたたたたたた・・・た、たい・・・たいが・・・・・・」
大河がいた・・・・・・
ただそこに突っ立っているだけじゃない。
まな板の上に乗せたジャガイモを、包丁を使っていつかのように四角形にしながら皮をむいている。
さっきの騒音の正体はこれか・・・どれだけ荒っぽいやり方でむいてやがんだ。
後で階下の大家から文句を言われそうだ。
そもそもそれじゃあ皮ごと切ってるのと大差ないだろう。
「今日はずいぶん遅かったじゃない。寄り道なんかしてないでしょうね?」
「・・・・・・は? ぁ、えっと・・・お、おぅ・・・・・・?」
そしてさっきから気になってしょうがなかったことがある。
・・・・・・ここ、台所だよな・・・居間はどこいった・・・・・・
生返事しながら振り返ると、後ろにはちゃんと居間と台所を仕切る戸と、その奥には台所で料理をしてる櫛枝の背が
ピシャッ!
見えた途端、慌てて戸を閉めた。
いつからうちの間取りはこんな不便極まりない・・・居間をとっぱらって、台所と台所を向かい合わせるなんて物になってんだよ・・・
一昔前の料理番組じゃあるまいし。
あの、『私の記憶が確かならば』っていう・・・むしろ俺の記憶が確かなら、ここには居間があったはずだろ。
なのにどこをどう見ても、完全にさっきまで櫛枝といた台所そのものだ。
どれだけ落としても消えない壁の汚れから、廊下の奥にあるトイレも洗面台も、何もかも再現されている。
いや、それ以前にどうして大河がここに・・・・・・
「本当かしら・・・・・・痛っ」
混乱している俺の耳が、小さな声を拾う。
振り返ると、水道から流れる水に指を突っ込んでいる大河がいた。
「ど、どうした?」
「・・・また切っちゃった」
「またって・・・」
大河は傍に置いてあった救急箱から絆創膏を一枚取り出して、軽く血が滲んでいる指先に巻いていく。
・・・傍に寄ってみると、大河の左手の指には全部の指に絆創膏が巻かれている。
やけに用意がいいと思ったら、こんなに・・・
「たく・・・どうして指まで切っちゃうのかしら・・・ねぇ、包丁の持ち方ってこれで合ってるでしょ」
持ち方は問題ない。
問題はないが、包丁を持った手を見せてくる大河から、後ずさりして距離を空けた。
・・・切っ先を自分に突きつけられたら、誰だって俺と似たり寄ったりな事するだろ。
見た目だけなら間違いなく美少女が、ふわふわのエプロンを着けて包丁を向けてくるなんてどんなホラーだ・・・
「あ、あぁ・・・だけど大河、何してんだ? ジャガイモなんかぶった切ったりして・・・」
「はぁ? なに言ってんのよ。見りゃ分かるでしょ、ご飯作ってんのよ。晩ご飯。
・・・そ、そりゃ、竜児が作ったご飯ほどおいしくできないけど・・・」
大河は当然の事のようにそう言った後、悔しいんだか恥ずかしいんだか判断付かない顔をして、小さな声になってしまっている。
その事は別にいいんだけど、なんでまた急に飯なんか作る気になったんだ。
「どうしたんだよ、大河が飯なんて・・・・・・そんなに腹減ってたのか?」
「そんなんじゃないわよ、バカ・・・その・・・竜児、疲れてるだろうと思って・・・ご飯できてたら、喜ぶかなって・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
チラチラと、目を合わせたり逸らせたりを繰り返しながらそう呟く大河。
労おうとしてくれてたのか・・・?
指、絆創膏まみれにして・・・痛い思いして、それでも。
思いもよらなかった大河の言葉に何て返すべきか黙っていると、大河が誇らしげに胸を張った。
「それに私だって、もうすぐママになるのよ?
料理でも掃除でも、ママならなんでもできるようにならなきゃ笑われちゃうわ」
「・・・・・・大河・・・・・・」
そんなことねぇよ。
できなくったって、誰も笑いやしない。
大河を笑う奴なんていないし、万が一いたら、大河が止めたって俺がぶん殴ってやる。
できない事をできる事にしようとがんばってる大河を、誰も笑う訳ないだろ。
それに笑われるとか、そんな事だけじゃあそんなに一生懸命にならないだろ。
人に笑われるからって・・・そんな小さな事を、大河は胸張って言うようなやつじゃない。
「・・・・・・なぁ、大河・・・・・・」
そんなことで焦らなくっても、お前は立派なママになってるぞ
「なに・・・・・・あっ!? ・・・・・・今、お腹蹴ったかも・・・」
───そう言おうとした直前、大河が声を上げた。
「きっと気合入れてくれたのよ、赤ちゃん。『パパみたいなおいしいご飯作ってね』って。
竜児もそう思うでしょ? きっとそうだわ」
「・・・・・・そうだな」
お腹に手を添えながら、興奮した様子で・・・心底嬉しそうに笑う大河を見て、やっぱり言うのをやめた。
大河は頑張ってる。
なら、したいようにさせてやろう。
考えてみたら止める理由もない。
大河は楽しみなんだ。
大河なりに気を遣って、何度も指切ってもめげないで。
生まれてくる子に恥じないように、自慢のママになれるように。
今か今かって首を長くして楽しみにしているんだ。
家族が増えるのを・・・逢えるのを楽しみに──────
だから野暮な事を言うのは止そう。
大河なら、きっと理想のママってのになれる。
「えへへ・・・待っててね、もうすぐご飯だからね」
頬を染めて、お腹の子供に語りかけている大河を見てるとそう信じられる。
それにこうして見ると、髪を後ろに束ねただけだってのに随分と大人びて見えるな。
いや、母親らしいっていうのか・・・意外って言ったら本人は怒るんだろうけど、家庭的でけっこう似合っている。
・・・・・・こういうのも、いいな。
大河と並んで台所に立つのは新鮮だし、大河が飯を作るなんて考えても・・・そうだ。
大河に任せっきりってのもなんだから
「・・・・・・手伝ってやろうか?」
「だめよ。今日は私が一人で作るんだから、あんたは待ってるだけでいいの」
「だけどよ、お前指とか」
「だめったらだめ。私一人で作んなきゃ意味ないんだもん」
申し出は素気なく断られた。
だけど、そんな指してなぁ・・・・・・・・・見てるだけじゃ不安だ。
握りなおした包丁にしても力が入り過ぎているし、まな板なんてザックリ入った傷が片手じゃ数え切れない。
野菜の皮をむくとか、そんな事に使ったようには到底思えないほど痛んでいる。
・・・・・・そういえば、何を作ってるんだかまだ聞いてなかったな。
「なぁ、何作ってたんだ」
「肉じゃがよ。こないだみのりんに教えてもらったの」
ガタタタ・・・
「な、なによ、倒れたりして・・・竜児、肉じゃが嫌いだった?」
「・・・・・・気にすんな、足が滑っただけだ・・・・・・・・・」
あ、あんまりにも大河から出ていた空気が自然すぎて・・・忘れてた訳じゃない、自然すぎてこれが普通だと思っちまったんだ。
でもよくよく・・・考えなくても分かるだろ、一目瞭然だ。
何で大河がうちに居て、しかも居間があったはずの場所に台所がそっくりそのままできてるんだよ。
・・・あれ? どうして櫛枝がうちに居て、居間があったはずの場所に台所がそっくりそのままできて・・・ど、どっちだ!?
何故だかどっちとも生活していたような記憶が・・・じょ、常識的に考えてある訳ないだろ、そんなの!
落ち着いてよく思い出せ、俺・・・・・・帰ってきたら、最初は櫛枝と一緒にいて
『今晩のメニューは高須くん直伝の肉じゃが私アレンジだから、期待してていいからね』
そうだ、櫛枝も作ってたんだった・・・・・・肉じゃが。
思い出した途端腰が抜けた。
ビックリしたなんてもんじゃねぇよ。
「・・・疲れてるんじゃないの? ・・・あんまり無理しないでよね・・・
それでね、その時みのりんったら竜児に教えてもらえばいいじゃんって言ってたんだけど・・・」
流しの縁に手をかけながら立ち上がる俺に、大河は他の具材をおっかない手つきで切りそろえながら続きを話し出す。
その度に驚きでまた腰が抜けていく。文字通り腰抜け呼ばわりされても否定できない。
さっきから寝耳に水な事ばっかりだ。
それでも立て、立つんだ・・・この程度で立てないようじゃ、これ以上のモノが降ってきたらどうするつもりだ。
俺は竜だ、竜になって立ち上がれ・・・竜になれたら飛んで逃げ・・・違う、そうじゃねぇだろ。
「竜児の驚いた顔が見たくってって言ったら、アツアツですなーご両人って・・・みのりんったら茶化してくるんだから。
恥ずかしいったらなかったわよ。ホントやんなっちゃう」
「へ、へー・・・そんな事が・・・・・・」
どこぞのアルプスの少女の友達のように、プルプルと震えながら立つ俺を知ってか知らずか
大河は言葉とは裏腹に、満更でもなさそうな顔で櫛枝に肉じゃがの作り方を教わった時の事を語っていく。
「だけどみのりん、ちゃんと教えてくれたの。何度も失敗しちゃったんだけど、最後にはこれならバッチシだよって言ってくれて。
・・・結局作り終わる前に竜児が帰ってきちゃったから、驚かせられなかったのがちょっとだけ悔しいわ」
何言ってんだ大河、俺をよく見ろ。
さっきからずっと驚きっぱなしなんだけど顔に出てないのか?
もしかしたら驚きすぎて表情筋が麻痺してるのかもしれない。本気でそう思えてきた。
と、あらかたの下準備を終えて、水と具材を入れた鍋を火にかけている大河を横から見ていると
ガチャン
「あ゛ぁ゛〜疲れた・・・ったく、あのクソカメラマン・・・そりゃお腹も出るわよ、こっちゃあ妊婦様だぞ。それをあんなに笑いやがって・・・
撮影直前にモデル苛つかせるって、テメェそれでもプロかってーの。あんま舐めてっと潰すぞ。
それにここの階段、エスカレーターにでもなんねーのかよ。メンドーすぎてマジウゼェんだけど」
ドアが開く音と同時に聞こえてくる愚痴交じりの声。
少なくとも、今入ってきたのは泰子じゃない。
泰子だったらあんなに辛辣に、且つペラペラと愚痴ったりしない。
言ったとしても、愚痴る気があるのかすら疑わしいふやけた顔で「聞いてよ竜ちゃ〜ん、やっちゃん今日ね〜」って程度だ。
櫛枝かとも考えたが、この声にしろ口調にしろ櫛枝の物じゃない。
だけど聞き覚えは絶対にある。ありすぎるくらいある。
声もそうだし、なによりあの口の悪さ・・・
この際、どうして? だの、何故? だのという疑問は何の意味も持たないから横に置いておく。
そんなこと、いくら考えたって始まらない事はもう分かってる。
大河も櫛枝も出てきたんだ、インコちゃんが人間になってたって・・・驚くけど、こんなに脂汗は掻かない。
そんな事が起こったらまず逃げ出す。今みたいに恐怖やその他諸々で固まったりはしない。
錆び付いてしまったと思える体を無理やり動かして振り返ってみると、
以外にも声の主は、あの毒舌を吐いたとは思えない落ち着いた感じのするゆったりとした服を着ている。
靴も、踵の全く無いサンダルで・・・あぁ、妊婦って言ってたもんな。気を遣ってんだな、そういう所も。
なんで妊婦なんだ
嫌な予感がする。
上手く言えないけど、なんか・・・前倒しっていうか・・・早くないか? ・・・何がだ?
「・・・・・・・・・ぇ、りゅ・・・・・・ねぇって・・・・・・」
後ろから誰かが話しかけてくる。
・・・やけに遠くから聞こえてくる気がするな。
何だよ、俺は今とてつもなく・・・・・・
「ねぇ、竜児っ!」
「うおっ!?」
根拠不明の違和感にばっかり気をとられていると、いきなり耳元で怒鳴られた。
それと同時に襟元が引っ張られて、転びそうになる直前で踏ん張って耐えた。
何がどうなってんだよ。
「無視しないでよ! 何度も声かけてんのに、シカトしまくって・・・」
「た、大河!? 無視って・・・・・・」
目の前には、フリフリのエプロンから制服姿に変わっている大河が・・・よく見ると俺も制服を着ている。
隣で苦笑いしている櫛枝もそうだ。
それに俺が立ってるのも家の中じゃない。
道路の、すぐそこに学校が見える所まで来ている道のど真ん中だ。
横切るうちの生徒が、ジロジロこっちを見ながら歩いていく。
・・・・・・夢? 夢か? 今のは夢だったってのか?
「・・・・・・・・・」
なんて夢を見てんだ、俺は。
ほとんど一睡もできずにいたからって、歩きながら寝ていたなんて・・・それもあんな夢を見ながら。
脱力感と倦怠感がどっと押し寄せてきた。
まだ朝だってのに体中に纏わり付くそれらが鉛みたいに重く感じて、半端じゃないくらい体力を持っていってる。
まるで夢遊病患者じゃねぇか、こんな若い内から。
・・・・・・今までのが夢なら、昨日からの事も
『・・・ねぇ、竜児・・・ここにね、赤ちゃんがいるの・・・』
『・・・・・・ここに居る子と、私と・・・高須くんが一緒にいるところを、私は見てみたいの・・・・・・
・・・・・・私、妊娠したよ・・・高須くんの赤ちゃん・・・・・・』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さっきまでの、自分の精神状態を疑いたくなるような物は夢だ。
一緒に暮らす大河も櫛枝も、全部。
勿体無い気もしないでもないが、あんなのが現実だったらそれこそ精神に異常をきたしそうだ・・・ストレスとかそっち関係で。
だから、あんなのは夢なんだ。夢でいい。夢であってくれ。
だけど、昨日からのことは夢じゃない。
手にはまだ昨日の大河の体温が残っている。
今朝の事にしろ・・・・・・
「・・・・・・・・・」
今朝・・・櫛枝が俺に妊娠って・・・三振じゃなくて妊娠・・・・・・・・・
思わずくだらないことこの上ないギャグが頭に浮かぶほど、櫛枝が告げた内容は俺にとっては衝撃的で・・・
だって、あの櫛枝が・・・いつも元気過ぎるほど元気で、過剰なほど明るくて、部活もバイトも一生懸命両立させて・・・
俺には太陽みたいに思えた櫛枝が・・・・・・妊娠・・・・・・しかも子供の父親は俺・・・
大河と櫛枝のお腹の中にいる子供の父親は俺・・・・・・
「・・・・・・頭痛ぇ・・・・・・」
「まだ痛いの・・・? ・・・氷、また買ってきてあげよっか?」
顔を向けると、心配そうな顔した大河がこっちを見ている。
さっき・・・櫛枝に押し飛ばされて頭を打ち付けたときにできたタンコブが、まだ痛むと思っているんだろう。
そっちの方は元々大したコブでもなかったし、大河が買ってきてくれた氷を当てていたからもうほとんど痛みは無い。
その後からの記憶が無いのは、多分その後すぐ寝たんだな・・・歩きながら・・・
「・・・いや、それはもう平気だ・・・わざわざありがとうな、大河」
大河が息を切らせて戻ってきた辺りはハッキリ覚えてる。
なんせ1Kgもある氷のパックを三つも買ってきたんだ。中々忘れられる物じゃないだろう。
どれだけ冷やすつもりだったのか、そんなに俺は重症に見えたのかは知らないが、そういう事は一切言わなかった。
・・・心配してくれて買ってきてくれたんだ、文句なんて言えねぇだろ・・・
だから感謝の言葉だけを伝えて、必要そうな分以外は仕方なく捨ててきた。
問題なのは・・・
キュッ・・・・・・
「・・・・・・・・・」
「・・・ど、どうしたのよ、今度は汗ビッショリじゃない・・・竜児、やっぱり無理してるんじゃ・・・」
「な、なんでもねぇ・・・」
「ホント?」
やめてくれ・・・そんな心配げな眼差しを向けないでくれ・・・
ホントに頭は痛くないから、頼むからこっちを見るな、大河。
「へ、平気だって・・・ほら、早いとこ行こうぜ? 遅刻するぞ」
「・・・あんまり我慢しないでね、竜児。辛くなったらちゃんと言いなさいよ」
頭は痛くない、マジで全然痛くない・・・が・・・胸の方が痛すぎる・・・
大河が心配してくれる度に後ろめたくなっていって、今じゃ心臓が握り潰されてる気すらしてきたほど胸が痛い。
痛すぎてそれ以外の感覚が無くなったんじゃないかと錯覚しそうだ。
・・・・・・いいや、それでも手から伝わってくる何かが・・・・・・
大河の方を向きながら話していたら、反対側で制服の袖を抓まんだいた櫛枝が指に力を入れてきた。
思わず噴き出た汗を拭いたくても、片方の腕は大河がガッチリ組んでいて動かすことができず、
もう片方は櫛枝が抓みながら引っ張っていて・・・
この程度なら腕を動かせるだろうけど、そうなると振り解くみたいになりそうで心苦しくてできない・・・
櫛枝の方に向き直っても、櫛枝は照れくさそうにはにかんでいるだけで手を離してくれない・・・
・・・こんないじらしい櫛枝を突き放せる奴がいるのか?
少なくとも俺には無理だった・・・
大河は腕を離そうとはせず、櫛枝は裾を抓み続け・・・
結局俺達は三人並んで登校した。
・
・
・
・・・・・・やっと教室まで来れた・・・けど・・・明日からもう学校なんて来たくねぇ・・・・・・
大河は言うに及ばず、俺も校内では顔も名前も知られている。
櫛枝だって、ソフトボール部の部長なんだからそれなりに有名だったようだ。
学校に着くまでだって、見た目だけで不良だのヤンキーだの思われている俺が、女子二人と並んで歩いているだけでも
注目を集めていたのに・・・校内に入ったら更に・・・
(お、おい見ろよ・・・ヤンキー高須と手乗りタイガー、腕組んでないか? ・・・やっぱあいつら付き合ってたんだ)
(マ、マジだ・・・・・・あれ? けど、タイガーの反対側で高須くんの手ぇ握ってるのって・・・あれソフトボール部の部長じゃね?)
(ホントだ・・・はっ、なにそれ・・・二股かよ! しかも堂々と!! テメェヤンキーだったら何してもいいだなんて思ってんじゃねぇぞ!!)
・・・・・・周りからの視線は、表を歩いてる時の比じゃなかった。
男子は手の親指を下に向けるか中指だけを持ち上げて、女子はキャーキャー言いながらこっちを見てくる。
俺はただ歩いてるだけなのに・・・・・・
このまま三人並んで教室に入ると、また何かと・・・もう遅い気もするが・・・それでも、少しは注目を逸らした方がいい。
教室に入る手前で用を足しに行くと言って、半ば無理やり大河と櫛枝から手を離してもらい、時間を開けて教室に入ろうとしたが・・・・・・
「遅かったじゃない、竜児」
「高須くん、早く入ろうよ」
大河も櫛枝も、教室には入らないで廊下で俺を待っていた。
何でだよ・・・そんな所で待たなくても、先に教室に入っとけばいいじゃないか・・・・・・
再度トイレに逃げようとすると、その前に腕を掴まれた。
観念して、大河と櫛枝と並んで教室に入ると
「・・・よ、よぉ高須・・・今日はまたどうしてそんな・・・・・・」
「た、高っちゃん・・・女侍らしてる高っちゃんって、なんか似合い過ぎて恐ぇんだけど・・・」
待ち構えていたように能登と春田が声をかけてきた。
他の連中も、こっちに神経を集中させてるのがあからさまに伝わってくる。
多分、俺達が並んで歩いてるのを直接見てた奴がいるか・・・もう口コミで広まってるのか・・・
あれだけ派手に登校して来たんだ、このくらいは予想してたけど
・・・・・・お前ら、ほんのちょっとでいいからプライバシーってものを尊重しろよ・・・・・・
「・・・・・・聞くな、能登・・・聞かないでくれ・・・・・・」
目を向けながらそう言うと、能登は一言「・・・・・・がんばれ」とだけ言って下がってくれた。
間が空いたのは、きっと俺の意を汲んでくれた上に、心配してくれたんだと思う。
間違っても隣にいる大河の方を見て怯んだからじゃないと、そう信じたい。
そして春田・・・・・・それはどういう意味でだ? ・・・・・・いや、聞くな俺・・・どうせろくでもない答えが返ってくるのは目に見えている。
「・・・俺、ちょっと寝不足なんだよ・・・じゃ・・・・・・」
そう言って、能登と春田から離れて自分の席に座った。
これ以上話してると大河が口を滑らせてしまうかもしれない。
登校中だって、そこら辺を人が歩いているにも関わらず妊娠した事を口にして・・・
あの場にはうちの生徒だって居たのに・・・その話が広まって、クラスの誰かが聞きにきたらどうするつもりなんだ。
・・・・・・どうもしないで、嬉しそうな顔して「そうよ。私、ママになるのよ」って言いそうだ。
いや、絶対言う。
目を瞑ると、満面の笑みで俺の手を取り、幸せそうな空気を周りに振りまいてる大河がありありと浮かぶ。
実際、昨日・・・晩飯の後からの大河はこれ以上ないくらい機嫌が良くて、その前にあったイザコザなんて無かったように
まだ目立たないお腹に、そこに居る赤ん坊に楽しそうに語りかけてて。
その横顔は、紛れも無く幸せそうで───────
その事に不満も、ましてや不愉快になる理由なんてありはしない。
大河が幸せになれるなら、何でもしてやりたい。
赤ん坊ができたって大河に言われた時も、父親が俺だって言われた後も、その気持ちに嘘はない。
大河が幸せで、子供も幸せになってくれるなら、俺だって・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・? どうしたの? 私の顔、なんか付いてる?」
首を上げて右を見ると、こっちを見ている大河と目が合った。
自分の机にカバンだけ置いてきて、さっきから俺の横に居る大河。
いつだったか、『竜として、大河の傍らに居続ける』って言った事がある。
その時は今のような関係になる事も、大河にこんな気持ちを抱く事も考えてもみなかった。
ただ、傍に居てやりたいって、そう思ったから。
・・・・・・あの時、誰かに『それは同情だろう』と強く言われたら、否定はできても納得してしまう部分があったかもしれない。
今となっては、だけど。
けど、あの時大河は並んで歩く事を許してくれた。
それからは家族みたいに過ごしてきて、大切だって思えるようになって。
今みたいに、自分から横に並んでくれるようになって・・・・・・
そんな大河との間にできたって言われた赤ん坊の事を、嬉しく思わないなんて事・・・ある訳ない。
だけど・・・・・・・・・
大河から目を離して、今度は左側を見上げると
「・・・・・・? どうかした? 私、変な顔してるかな?」
大河と一緒で、反対側からずっとこっちを見ている櫛枝。
俺が自分を見てると分かると、目の前まで顔を近づけてきていろいろと表情を変えてみせる。
笑った顔も、怒っている顔も、寂しそうな顔も。
今目に映る櫛枝は形容しがたい顔を作っているけど、大河と過ごし始めてから、櫛枝の色んな表情を見てきた。
それまでは、俺は遠くから見ているだけで・・・目にする櫛枝の表情は笑顔くらいだった。
いつも元気一杯に笑う櫛枝も、大河の事を真剣に想って怒っていた櫛枝も、どこか寂しそうに幽霊の話をしていた櫛枝も。
それまで目にしてきた櫛枝を、俺は一面だけしか知らなかった事を知って。
それでも、櫛枝に友達以上の何かの感情を感じていた。
そんな櫛枝が、妊娠したって・・・相手が俺って言われて、途惑う反面、少し喜んでいる自分がいて。
だけど・・・・・・・・・
櫛枝からも目を離すと、机に突っ伏して頭を抱えた。
・・・・・・・・・どうして・・・・・・・・・
・・・・・・・・・なんで・・・・・・・・・
俺は肝心な部分を覚えてないんだ・・・・・・・・・?
「・・・・・・・・・」
妊娠したなんて冗談で言うような事じゃないし、大河は最初俺の態度に激昂して、泣いて・・・櫛枝だって、嘘を吐くようなやつじゃない。
あの検査薬にしろ、疑うような代物じゃ・・・・・・大河もアレが来ないって言ってたし。
二人が妊娠したって言って、検査薬にもそういう反応が出てるんだから、そういう事なんだろう。
だけど・・・・・・
俺、いつ大河とも櫛枝とも、そんな事を・・・・・・
「ほら、やっぱりみのりんが竜児に酷いことしたから・・・・・・」
「だぁかぁらぁ、それはもう言わないでよ・・・大河、ちょっとしつこくない?」
必死に思い出そうとしていると、両隣に居る大河と櫛枝が、頭を抱える俺を挟んで言い争いを始めてしまった。
大河はまだ今朝の事を気にしてるみたいだ。
俺はそれどころじゃなくなったし、元より櫛枝を責めるなんて考えてなかったけど、大河はずっと櫛枝にチクチク文句を言っていた。
櫛枝も申し訳なく思ってるんだろうけど、さすがに我慢できなくなったらしい。
「しつこいって・・・みのりんが悪いんじゃない。いきなり竜児のこと突き飛ばしたりして」
「それはそうなんだけど・・・けど、高須くんに怒られるんならいいよ? なに言われても我慢するよ、私が悪いもん。
けどね、なんで大河にブツブツ言われなきゃいけないのさ」
散々責め続けられて、櫛枝もイラついてたんだろう。
大河も、そんな櫛枝に触発されたのか段々と不機嫌になっていく。
「私は、竜児がみのりんに気を遣ってハッキリ言わないから」
「それおかしいよ。どうして大河が高須くんの代わりになって私を怒るんだよ」
「・・・・・・そ、それは・・・・・・」
大河が言葉を詰まらせた。
それはそうだろう、今の櫛枝の言い分に大河が言い返せる理由は無い。
・・・・・・待て、何か嫌な予感がしてきた・・・・・・
「だってそうじゃん。私は高須くんにはケガさせちゃったけどさ、大河にはなにもしてないよ」
「・・・・・・・・・」
ケガっていうケガでも・・・せいぜいコブが脹れただけだし、もう痛みも無いから気にしなくてもいいのに。
黙ってしまった大河を無視して、我慢していた事もあり、熱くなってしまっている櫛枝は責め返すのを止めない。
「なのに大河ったらさ、私のせいでーってブチブチブチブチ・・・そういうの、なんだか姑みたいだよ」
「・・・・・・だって・・・・・・」
「それに、ずっと高須くんと腕組んで歩いて・・・なにが『肩貸してあげるね』だよ。
それも『みのりんがぶつかってきて』って私をダシにして・・・そういうの卑怯だと思うんだけど」
・・・そんな事まで言ってたのかよ・・・
櫛枝からしたら堪ったもんじゃないかもしれないな。
まぁ、大河からしたら知る由もない・・・むしろ知らないままでいてくれ・・・ん?
「・・・・・・だって・・・だって・・・・・・」
反論できずにいた大河がフルフルと震えだした。
机の端を両手でギュウっと掴んで、何かに耐えるように・・・・・・違う、溜めている。
「・・・・・・ズルイよ、大河ばっか・・・・・・私だって」
櫛枝がそう呟いた途端、顔を下に向けた大河が深く息を吸った。
マズイ・・・・・・言う気だ。大河のやつ、今この場で言う気だ。
元から大河は、妊娠した事を隠そうとするどころか逆に言う気満々だった。
櫛枝の指摘に返す言葉と、その適当な理由が見つけられなくって・・・・・・
目を伏せて何か良い言い訳を探していた大河が、この場を乗り切れる言い訳を思いついたんだろう。
「わ、私は竜児の奥さんだもん。こ、こここ、婚約だってしたし、赤ちゃんだってできたんだから! だからいいんだもん!!」
正直このくらいは言いそうだ。もっと大胆な事を言うかもしれない。
理由らしい理由にはなってないけど、櫛枝を黙らせるのには十分な威力を持っているはずだ。
その後何を言われようとも、これと似たようなセリフで押し切って・・・・・・
止めなきゃ、とにかく大河を止めないと・・・・・・・・・俺、ひょっとして死ぬ?
何故だかそんな強迫観念みたいなものに襲われた。
大河を止めろ、でなけりゃ死ぬぞ・・・・・・と。
「た、大河っ! 少し落ち着け!」
止めに入ったのと同時に、勢い良く顔を上げた大河が大きく口を開けた。
ダメだ、聞いちゃいねぇ。
俺を無視して、大河は櫛枝に目線を合わせると、まるで勝利宣言でもするように・・・・・・
「わ、私は竜児のおく」
「どけよ、クソチビ」
言い切らない内に、大河は背中側から伸びてきた手によって強引に横にずらされた。
ずらされたなんてもんじゃない、突き飛ばされたように大河は床に転んでしまっている。
それにより、なんとか大河という爆弾が爆発する事は阻止された。
・・・・・・先送りになっただけかもしれないけど。
・・・それにしても、途中まで俺が考えていたセリフと恐いくらい一緒だった。
あのまま先を続けられていたら・・・・・・
胸を撫で下ろしつつも、もしあのまま止まらずに大河が喋っていたらと思うと、背中に冷たい物が流れた。
俺はどれだけ焦ってんだよ。
ギュッ!
「・・・・・・は?」
内心にかなり気を取られていた俺の腕を、誰かが掴んだ。
ハッとして、俺の腕を掴む手に目を走らせていくと・・・俺の手を握りっぱなしのそいつは、教室の外に向かって歩き出す。
訳が分からず、それでも転ばないよう引っ張るそいつに併せて足を動かす俺の耳に、大河の声が
「・・・朝っぱらからかますじゃない・・・今いいとこなんだから邪魔すんじゃないわよ、ばかちー・・・・・・」
・・・・・・届いた瞬間、俺を引っ張る川嶋は全力で走り出した。
「・・・あ、あれ? 竜児・・・・・・
ばぁかぁちぃぃぃぃぃぃぃぃいい!! 竜児を返せぇぇぇぇぇぇぇぇえええっ!! 竜児ぃ──────っ!!」
大河の絶叫を背中に受けながら。
・
・
・
どこをどう走ってきたのか全く覚えていない。
たまに他の生徒にぶつかったのは分かってるのに、何で自分がこんな所に連れ込まれたのかさっぱり理解できない。
追いかけてくる大河を撒くためとはいえ、どうしてここなんだ・・・・・・
そりゃあ川嶋からしたらこっちの方が普通なんだろうけど、何で俺まで・・・・・・
「エホッ! はぁ、はぁ・・・うぇ・・・・・・ちくしょう・・・なんであたしがこんな思い・・・・・・」
女子トイレの個室の中、様式の便器に向かってえずく川嶋の背中を摩りながらそう思った。
こんな所、居るだけでも恥ずかしくって気が気じゃない・・・気が気じゃないといえば
「か、川嶋? 大丈夫かよ、お前・・・・・・」
個室に隠れてからまだそんなに経ってないが、川嶋はずっと苦しそうに悶えている。
どうしたってんだ・・・
便座を上げたままの便器に向かい合いながら、時折吐いてはすすり泣いて・・・・・・あの、川嶋がだ。
「・・・・・・・・・」
それに、さっきから声をかけているのに反応が返ってこない。
ほぼずっとこの姿勢の川嶋の背中を摩っているのだが、いくら話しかけても無視され、川嶋から俺に話しかけることもなく・・・
「・・・・・・ねぇ・・・・・・」
いや、急に向こうから話しかけてきた。
「お、おぅ。どうした? っていうか川嶋、調子悪いんならこんなとこじゃなくて保健室に行った方がいいんじゃないのか?」
「・・・外・・・他の人、いる・・・・・・?」
聞かれて、注意深く外の様子を探ってみる。
幸運にも人の気配はしない。
「誰もいないみたいだぞ」
「・・・・・・そう・・・・・・」
それだけ言うと、今まで便器にもたれ掛かっていた川嶋は立ち上がった。
フラつく体で個室から出ようとする川嶋は、倒れないよう支えてる俺が何を言っても聞かず、備え付けの手洗い場で口をゆすいで
「・・・・・・なにしてんの、行こうよ」
駆け込んできた時同様に俺の手を引きながらトイレから出ると、どこかに向かって歩き出した。
「───っはぁ・・・あーうめぇ・・・あ、高須くんも飲む? けっこうおいしいわよ、これ」
「いや、遠慮しとく・・・・・・」
行き着いた先は自販機コーナーだった。
既に登校時間も過ぎて、殆どの生徒は教室に行っているため辺りは静まり返っている。
そんな中、川嶋は自販機で・・・こんな物今まで飲んでたのか? っていうかこんな物売ってたか?
『クエン酸120%増量! PAKURI SWEAT ビタミンガード〜あの時のレモンテイスト〜』を買うと、やたら美味そうに飲んでいる。
こっちは見ているだけで口の中が酸っぱくなりそうだ。
「・・・なぁ、川嶋」
「ん? ・・・なによー高須くん、やっぱ飲みたいんじゃん。はい、一口ならいいよ」
「・・・そんなんじゃなくってだな・・・・・・」
口を付けたペットボトルを何の躊躇も無く寄越す川嶋。
こんな状況でもドキリとさせられるが、今はそんなことに気を取られている場合じゃない。
「何があったんだよ・・・今日の川嶋、絶対おかしいぞ」
教室に入ってきた時に、無言で大河を突き飛ばしたのはまだいい。
相当機嫌が悪かったと思えば納得できなくもない。
普段だってそんなことしたりしないけど、よっぽど機嫌が悪い時ならありえるかもしれない。
だけど、突然俺を連れ出したりして、トイレに隠れてる間中苦しそうに咽こんでいたり、泣きながら吐いたり・・・
そうかと思ったら、今度は何事もなかったようにいつも通りになってる川嶋を見たら、誰だって何かあったと思うだろう。
「べつにー、亜美ちゃんはいつもと変わんないと思うけど。ほら、今日も超ぷりちーじゃん」
だったら何で俺から目線を逸らすんだ。
自販機の間に埋まって座る川嶋は、明るい台詞とは対照的にどんどん表情を硬いものにしていく。
「いつもと違うだろ。だから聞いてんだよ」
「・・・あれよ、亜美ちゃんわりと気まぐれだし・・・・・・」
「・・・・・・気まぐれで、トイレで泣いてたのか? それに戻してた・・・お、おい・・・川嶋?」
その事を指摘すると、川嶋は一層表情を曇らせた。
その顔を、俺はどこかで見たような気がする。
今にも泣き出しそうな顔をしている川嶋が、昨日の大河に重なる気がして、そして───
「・・・・・・なによ・・・なによ、なによなによなによ!! 分かるわけないじゃない、あたしだって訳分かんないのに・・・・・・
どうしたらいいかなんて分かんないのに、そんなの高須くんに説明できる訳ないじゃない!」
───両の目から涙を溢れさせた川嶋は、昨日の大河とピッタリ重なった。
「か、川嶋!? 急になにを・・・・・・」
いくら廊下に人が居ないとはいえ、川嶋の絶叫は廊下の先にある教室まで届いたかもしれない。
反射的にそっちの方に目をやった隙に、立ち上がった川嶋は俺に何かを投げつけてきた。
顔に当たったそれは、廊下に落ちると乾いた音を立てながら転がっていく。
「ちょっと遅れてるだけなのに・・・そうよ、遅れてるだけなんだから・・・
なのになんでそれには出ちゃってるのよぉ・・・マジありえねぇ・・・さいあく・・・・・・」
独り言のようにそう言った川嶋は、言い終えるとすぐまた座り込んでしまった。
立てた膝の間に顔を隠して、縮こまって震える川嶋。
そんな川嶋を視界に収めつつ、その時俺は
「・・・・・・・・・」
床に落ちていたそれを拾い上げて絶句していた。
何でこれを川嶋が持ってるんだ・・・いや、持ってる事その物が不思議なんじゃない。
持ってるだけでもいろいろと危ないけど、昨日から頻繁に渡されて、もはや見慣れつつある手の中の物体には
それよりも危ない印が一本の線になってくっきりと出ている。
櫛枝の時もそうだったけど、何でこれを川嶋が俺に・・・・・・
「な、なぁ・・・遅れてるって・・・」
何か言おうにも、何を言えばいいのか分からない。
だけどこれだけは聞いとかなきゃだめだろ。
相手が誰かっていうのは後回しに・・・そんな大事な事、後回しにするのもどうかと自分でも思うけど・・・
それと同じくらい、これも確認しておかなきゃいけないだろ。
・・・・・・決して相手が誰かを聞くのが恐いんじゃない。
「・・・・・・一月半ぐらい・・・うぅん、遅れてるんじゃないわよ、止まってんのよ・・・アレ・・・・・・」
聞いた瞬間、目眩がした。
なんだって大河も櫛枝も川嶋も・・・そういうのって個人差とかでマチマチなもんなんじゃないのか?
なのに示し合わせたみたいに・・・・・・
からかわれてるんじゃないのか?
「・・・・・・ねぇ、高須くん・・・・・・」
頭の隅で何度目かの疑惑が首をもたげ掛けたが、速攻でへし折った。
からかい目的で、川嶋はこんな事をしたりしない。大河だって、櫛枝だって。
・・・・・・だから、からかうだとかいたずらだとか、そんな事はどうでもいい。
「どうしよう・・・あたし・・・・・・あたし・・・・・・」
見上げてくる川嶋の目は涙で濡れている。
「・・・・・・子供・・・高須くんの子供、できちゃった・・・・・・」
その目に映っているのは、妊娠検査薬を握り締めたまま妙に真剣な顔をして・・・
だけどよく見れば震えながら汗を掻いているという、マヌケにも程がある俺だった。
「・・・突然酷い吐き気が続くようになって・・・ご飯の臭いでも戻しちゃうし・・・
四六時中ムカムカするわイライラするわ・・・おまけに・・・なんか、太ってるし・・・・・・」
間を置いて・・・ポツリポツリと、聞いた訳でもないのに川嶋は自分の不調を語り始めた。
普段の物とは程遠い暗い声色の、小さな声を聞いてると、自然と川嶋の手前に置いてあるペットボトルに目が行く。
───『クエン酸120%増量! PAKURI SWEAT ビタミンガード〜あの時のレモンテイスト〜』
商品名からして既に見る者の唾液を溢れさせるほどのインパクトを放つ清涼飲料水を、
川嶋は砂漠を歩いている時に見つけたオアシスの水の如く、それは美味そうに飲んでいた。
・・・・・・いつだったか、晩飯の時に流していたテレビの事を思い出した。
その番組は健康問題を取り扱っていて、確かその回はレモンをテーマにしていたんだ。
あの時、一緒にテレビを観ていた泰子は確かこう言っていた。
『レモンかぁ・・・やっちゃんも、竜ちゃんがお腹にいる時はたくさん食べたなぁ。
よく妊娠したら酸っぱい物が欲しくなるって言うけど、あんなにおいしくなるなんて驚いちゃったっけ』
・・・・・・何故か詳しく聞いてくる大河に、泰子は楽しそうに他の事も教えていたけど何の気なく聞いてた俺にはそれ以上思い出せない。
男の俺には関係ないだろうからって、どっち道忘れてたかもしれないけど。
重要なのはそこじゃない・・・川嶋が言ってるのって、もしかしなくてもつわりだよな・・・
つわりの知識なんて漠然としたイメージでしか知らない俺でも、川嶋が言ってる事は全部当てはまってると思う。
「頭痛も・・・頭ん中割れそうで寝れたもんじゃねぇから、それでまたイラつくし・・・病気かもって思うとスゲェ怖かったし・・・
もうなにやってもストレスばっかり堪ってってさ・・・冗談じゃないわよ・・・」
「・・・・・・それ、治ったのか?」
自然に治るものなんかじゃないのは分かってるが、それでも一応確認してみた。
結果は・・・力なく首を横に振る川嶋を見れば、無駄な質問だった。
「酷い時に比べれば、今日はまだマシな方かな・・・けどさ、自分でも分かってんのよ・・・
情緒不安定ってーの? もう自分が自分じゃないみたいで・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「今日だって、高須くん見た瞬間に周りなんか見えなくなって・・・気が付いたらタイガー張り倒してて・・・
トイレでも・・・っ! あんなとこ、絶対見られたくなかったのに!」
そうだろうな・・・人一倍外面を気にしてきた川嶋が、どうしようもなかったとはいえ他人の前で・・・
「・・・もうイヤ! うんざりなのよ! 気持ち悪いのも、痛いのも、イライラするのも! ・・・怖いのも・・・全部イヤぁ・・・・・・
・・・・・・こんな思いするくらいなら、いっそ・・・・・・」
「・・・・・・川嶋・・・・・・」
「え・・・・・・・・・っ・・・!」
話しかけると、急に顔を引き攣らせる川嶋。
血の気まで引いた顔は青褪めて・・・落ち着き無く床と俺とを交互に見て、子供みたいに頭を抱えている川嶋が・・・見ていて痛々しい。
こんなに追い詰められた川嶋なんて、今まで見た事がない。
そんな川嶋に、不穏な空気を感じた気がした。
「ち、ちが・・・ちがくて、今のはそうじゃなくて・・・・・・やだ・・・やめてよ・・・聞きたくないわよ・・・そんなのやだぁ・・・・・・」
「・・・・・・? ・・・俺はまだ何も言ってねぇ。川嶋、少し落ち着け・・・」
混乱してるせいか、取り乱す川嶋が何を思ったのか、俺には分からない。
分からないけど・・・きっと、とんでもない勘違いをした川嶋は
「・・・・・・堕ろせなんて言わないでよぉ・・・・・・」
とんでもない事を口走っていた。
「ちょっ・・・お前・・・・・・」
今なんて言った・・・・・・
おろすって・・・堕ろす!?
「あ・・・頭痛いのも、気持ち悪いのも、イライラするのもイヤよ・・・イヤなんだけど・・・
赤ちゃん・・・そうよ、赤ちゃん殺しちゃうなんて、そんなの・・・・・・そんなの・・・・・・」
「か、川嶋! 誰もそんなこと」
俺の制止を無視した川嶋が、大きくかぶりを振った。
「そんなのもっとイヤァッ!!」
「・・・・・・川嶋っ!! 俺の話を聞け!!」
「ッ!? ・・・・・・・・・」
学校中に響くような大声が、廊下に反響している。
自分でも、こんなに大きな声を出していたなんて事に驚いている。
川嶋も・・・さっきまでドコを見てるんだかハッキリしない視点を、今は俺の目にしっかりと合わせている。
その目に向かって、俺はなるべくゆっくりと近づくと腰を下ろして・・・
見上げるでもなく、見下ろすでもなく
俺と川嶋の目線が、同じ高さにになった。
「・・・どうして、そんな風に思ったんだ?」
「・・・・・・ぇ・・・?」
俺の言いたい事は上手く伝わらなかったらしい。
だけど、川嶋から出てる雰囲気は危ないほど重かったさっきよりは幾分か軽くなっている。
顔からも、少しは険が取れたように思う。
「その・・・子供の事・・・どうして俺が堕ろせだなんて言うと思ったんだ?」
「・・・・・・それは・・・」
言いよどむ川嶋。
言葉を選んでいるのか暫しの間を開けた後、震える声で訳を語りだした。
「だってさ・・・男ってそういうのできたら、普通嫌がるって・・・重たいって・・・」
「それは川嶋の考えなのか?」
「・・・・・・モデルやってる娘とかとそんな話しても、みんなそう言ってて・・・雑誌とかにも・・・だから・・・・・・」
「それだけなのか?」
「・・・・・・・・・」
段々と尻すぼみになっていって・・・川嶋はとうとう口を噤んでしまった。
それでも真っ青だった顔にはどんどん赤みが差してきている。
今までの様子を見てても、川嶋がどれほど苦しんでいたか、俺には想像もつかない。
いろいろな体の不調の原因が、つわりから来る物だなんて事は川嶋が一番知っていたはずだ。
それでも、その原因を・・・赤ん坊の事をどうこうするなんて川嶋はしたくなかったんだと思う。
だけど・・・
他人の話を鵜呑みにしていた訳じゃないんだろうが、川嶋は男はそういう物だっていう固定観念みたいな物を持っていたんじゃないか?
俺がどんな態度をとるかを、その固定観念と重ねて考えて・・・
その事が、不安がっている川嶋を余計に不安にさせてたのは、さっきの川嶋の取り乱しようが証明している。
・・・・・・ひょっとしたら、川嶋はその事で一番悩んでいたのかもしれない。
川嶋がどういう風に考えていたのかなんて、俺には全部分かるはずがないし、
今俺が分かっていると思っている部分も、本当は全然見当外れなのかもしれない。
でも俺にはそう思えてしまうほど、さっきまで暗かったはずの川嶋の放つ空気が、ガラリと変わってきている。
「・・・高須くん・・・聞いてもいい・・・・・・」
不意に、何かを尋ねてくる川嶋。
その表情はまだ硬いままだ。
「堕ろせって・・・言ったりしない・・・・・・?」
だけど、その目は何かを期待していて
「・・・・・・おぅ」
「・・・・・・・・・」
───次の瞬間、大粒の涙を流しながら、顔をクシャクシャにしながら
それでも川嶋は笑っていた。
・
・
・
ひとしきり泣いた後、川嶋は俺が渡したハンカチで目を拭うと立ち上がった。
ずっと狭い自販機の間に挟まっていた体を伸ばして、
『クエン酸120%増量! PAKURI SWEAT ビタミンガード〜あの時のレモンテイスト〜』を二本も買い、腰に手を当てて二本とも一気飲みすると
「あ〜あ・・・これで亜美ちゃんの人生、決まっちゃったな〜・・・けど、悪い気しないな」
空のペットボトルをゴミ箱に突っ込みながら、俺に背を向けている川嶋はそう言っている。
俺はというと
「・・・・・・はぁ・・・・・・」
事の大きさに、今更ながら頭を抱えていた。
落ち着きを取り戻した川嶋の事は素直に喜ばしい。
あんな状態でいたら、それこそ体を壊して・・・取り返しのつかない事になっていたらと考えると、今の川嶋の方が全然いい。
が、それ以上に一つも解決していないどころか、山積みの問題の上に更に増えていく問題は全然よくない・・・
だってありえねぇだろ、こんなに一遍に・・・
どうしたものかと思い悩んでいると、振り返った川嶋が手を差し出してきた。
顔を見ると、涙の跡が残る物の、いつも通り・・・いつもより少しだけ機嫌の良さそうな顔になっている。
「さってっと・・・そろそろ教室戻ろっか、高須くん」
「・・・・・・もういいのか?」
「うん・・・高須くんに全部話したら、けっこースッキリしちゃった・・・誰にも喋らないでよね、こんなこと。
それに泣いてたのも・・・あ、亜美ちゃん泣かせる男なんて、世界中探しても高須くんだけなんだから・・・そのこと、忘れないでね」
・・・・・・また一つ問題が増えた気がするのは、俺の気のせいだろうか?
来た時よりもしっかりと手を繋ぎながら見上げてくる川嶋の、照れによるせいで染まった頬を見ているとあながち間違ってないような・・・
「・・・そうよね。体のラインなんて崩れても、後でどうとでもすればいいんだし・・・
いっそのことマタニティドレスとかのモデルでもやってみよっかな? うわ、いいかも・・・」
多分無意識に口に出してるんだろう、横で着々と人生計画を立て直してる最中の川嶋は幸せオーラ全開になっている。
元々川嶋に惚れてる生徒が見れば、惚れ直すくらい良い笑顔だ。
横に立ってるのが俺じゃなければクリスマスなんかのイベントデーよりも告られてるだろうよ。
間違ってなんかいねぇ、問題は現在進行形で増えていってる。
それも加速度的に、俺なんかじゃ追いつけなくなりそうなほどの速さで。
・・・今の内に、少しでも片付けておいた方がいいか?
とりあえずは、大河達の事とか・・・い、言ったらどうなるか分からないが、黙っててもバレるのは時間の問題だし・・・
・・・バレるっていう表現から既に嫌だ・・・俺自身見に覚えないことばっかりなのに・・・・・・
「か、川嶋・・・? その・・・」
「うん? なぁに、高須くん・・・あぁ、心配しなくってもいいよ」
心配・・・確かに子供の事にしろ他の事にしろ、心配事なんて数え切れないほどあるけど
川嶋には何か考えがあるのか。
「学生結婚だもん、指輪とか式とか・・・そんなのしなくっても、亜美ちゃん全然気にしないから。
愛の証とかって言っても、結局誓い合うのは二人なんだし・・・傍にいてくれればいいかな〜って・・・」
っ・・・そっちかよ・・・・・・
いつもはいがみ合ってるのに、そういう所の考え方が大河とそっくりなのは何故なんだ・・・・・・
もしかして同属嫌悪的な物でも感じてたのか? ・・・ありえそうだ・・・
「けっ・・・こんって・・・川嶋、それは」
「ほら、もう教室着くんだからシャンとしてよね。そんなんじゃ亜美ちゃんが恥ずかしいじゃん、嫁として」
気がついたら教室が目と鼻の先という所まで来ている。
マズイ・・・既に授業が始まっているだろう教室に、今の川嶋と一緒に入っていくのは・・・
他の奴等からおもいっきり怪しまれてるに決まってるのに、何を言い出すか分からない。
なにより教室の中には、おそらく戻っているだろう大河と櫛枝も・・・
「悪い、俺」
「おっはよ! みんなごめ〜ん、今日の亜美ちゃん、なんだか調子悪くってぇ」
何か言い訳を言って逃げようとする前に、川嶋は教室の戸を勢いよく開けてしまった。
っていうか調子悪いやつはそんなに元気そうに挨拶なんかしないだろ・・・
・・・こうなったらもう仕方がない。
なるべくいつも通りを装っているしかない。
授業だって始まってるはずだから、いきなり誰かに何があったかなんて聞かれないはずだ。
できるだけ動揺を顔に出さないように・・・それには平常心が大事だ。俺達は何も無かった、そんな顔を崩すな。
何事も無かった風にしてれば、もしかしたら誤魔化しきれるかも・・・
「わ、私は竜児の奥さんだもん。こ、こここ、婚約だってしたし、赤ちゃんだってできたんだから! だからいいんだもん!!」
「なに言ってんの大河!? そんな嘘信じられる訳ないし、赤ちゃんなら私だって!!」
「嘘なんかじゃ・・・あっ、竜児!!」
「!? 高須くん!?」
誤魔化し・・・きれる訳ねーだろ、こんなの・・・
どの辺に誤魔化しようがあるってんだよ・・・そんな余地、針の先程も残っちゃいないだろ。
俺が居ない間に一体何があった・・・・・・
川嶋が教室の戸を開けた瞬間、教室の外にまで響き渡る大河と櫛枝の声。
てっきり授業中かと思っていたのに、そんな雰囲気は微塵も感じられない。
教室の真ん中で向かい合う大河と櫛枝、それを囲みながら見ている春田や能登、木原に香椎に他のクラスメート達。
そいつらが大河の声に合わせて一斉に教室の入り口を・・・俺と川嶋を見ている。
「・・・・・・高須くん・・・あいつらさー、なに吹いてるのかしらね・・・赤ちゃんとか、つまんない嘘言っちゃってるんですけど。
そんなのあたしとだけだよね? そうでしょ、高須くん」
「「 はぁ・・・? ・・・・・・・・・ハァッ!?」」
そして骨を砕かんばかりに力を入れて手を握ってくる川嶋のセリフに、敏感に反応する大河と櫛枝。
痛みで飛び跳ねたいのに、動く事もままならないほど痛いってなんだよ・・・動けたら動けたで、死に物狂いで逃げてたんだろうけど。
そう、動く事さえできたら俺は逃げ出す。
たとえその先に地獄という名の大河達による物理的な何かが待っていようと、今この場から助かる事ができるんなら絶対に逃げる。
なんだってする。泰子が助けてくれたら、行きたがってたデ○ズニーランドなんて泊りがけで連れてってやる。
外国だっていい。確か泰子はハワイに行きたいとか言ってたから、永住する覚悟で行ってやる。高飛び? 知るか、なんとでも言え。
とにかくこの場から生きて出れるんなら、なんだって・・・だって見てみろよ。
教室中の奴等はもとより、大河も櫛枝も川嶋も、目が据わりきってて・・・誇張や脚色じゃなく、本気で鬼みたいに見えてきた。
皆、俺と目を合わせてる時ってこんな感じなのかもな・・・ヤバイ、恐くて泣きそうだ・・・
とりわけそんな目をして近づいてくる大河と櫛枝、逃げ道を塞ぐ川嶋は一層恐ぇ。
誰でもいい、助けてくれ。俺をここから・・・・・・
「・・・・・・竜児・・・・・・」
「・・・・・・高須くん・・・・・・」
「・・・・・・高須くん・・・・・・」
窒息するんじゃないかというほどの圧迫感を放つ三人が、ジリジリと迫ってくる───
「「「 ・・・・・・・・・これ、どういうこと・・・・・・・・・? 」」」
───その事を肌で感じながら、俺は逃げる事が不可能になった事を悟って・・・本当に止まっていた呼吸を根性で再開させた。
続けます。っていうか続けたいです・・・
2月中に上げたいとか言っておいて、気付けばもう春に・・・欝。
みのりん分が薄いのも欝。あんまり明るくなってないのも欝。
アニメが終了した日に上げようとしてたやっちゃんSSが、書き終わる直前でPCがフリーズして(上書き前だったため)半分ほど消えたのも欝。
それのおかげでこれに本腰入れられたのは欝中の幸い。
これ、投げ出すつもりはないけど・・・夏までに終われればいいなぁ・・・
次からはどうにかしてテンション上げていきたいと思い、
とりあえず今日は欝脱出も図って泡盛解禁。
GJ!!
続きが楽しみすぎる!!
どれだけ掛かってもいいので、じっくり納得の行く物を書き上げて下さいな。
ゆっくりお待ちしておりますので。
締め切りを意識するあまり肝心の内容が中途半端になってしまったら本末転倒だしね。
>>399 謎だ…謎すぎる展開にGJ
そしてなんか怖いぞ…汗
割り込みスマソ。
そして乙!
乙 そしてgood job・・・
いやGod jobなんだぜ
竜児は一体何をしたんだ……
ナニを、したのか?
おもしれー
しかし夢落ち回避フラグなげえなw
今後の竜児は
1 最高にイカす高須はうまく逃れる策を思いつく。「俺本当に好きなのは独神なんだ」
2 北村に助けられる。北村の妊娠宣言によって。
3 三人の詰問タイム。現実は非情である。
さてどれだ
>>372-399 GJ! …というかご苦労さん。やはりこういう不条理ネタは落とし所が難しい。
さてどう料理されますか。
あと、酒に気をつけろ。
>>399 ヤバい楽しみ過ぎる!
>>400さんと同意見 締切気にせずじっくり書いて下さい!
それと続きが見たいです
64さん(時間制限がある悲しさは一番鬱)
M&Sさん(久しい2828)
続きますか?続きますよね?続かないなんて言わせません!続くと言って下さい!
―ん?この感じどこk…
408 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/08(水) 00:34:18 ID:YlFi2e3k
>>399のどこがGJなの?
もう10回は読んだけどまったく理解できないわ
>>408 10回も読んでしまわせる効果がGJなんじゃね?
大河とみのりんの関係がちょっと色々悲しいが・・・頑張って続き書いてくれ
>>407 誤解を招きそうなので…
64さんみのりんが幸せになる続きを期待してまする
>>408 どこがGJなのって聞いてる人が
何が理解できないのかちゃんと書いてないってどうよ
多分10回も読んじゃう位だから、GJ程度じゃたんねえよ!
ってこと言いたいのではなかろうか
この曲20回以上聴いてるけど中毒性はないな的なレスでしょ
>>408はある種のネタですよね。十回も読み直すくらい面白い、という意味かと。
ツンデレめっ
415 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/08(水) 08:05:43 ID:eWrD+uCF
GJ!!
しかしネタにマジレスしすぎだろうwww
ならばあえて言おう・・・GJであるとっ!
>>399の前のがどこにあるかわかる人いる?
いたら教えてくれまいか。
まとめの更新もだいぶ止まってるみたいだし。
まとめ保管庫にある「×××ドラ!」
「ね、ねぇ、高須くん。こ、この前、亜美ちゃんが高須くんの家に脱ぎ忘れていった、パ、パンツ…、あ、あれって、
どうしちゃったのかなぁ…」
エッチ寸前までいったものの、コンドームがないことで未遂に終わったあの夜(『我らが同志』前編参照)、迂闊にも
亜美は自分のショーツを竜児の家に脱ぎ忘れてきてしまっていた。
何せ、エッチ寸前という興奮状態で、そのショーツは愛液でぐしょぐしょだったということもあり、その後の処置が
どうなったのか、亜美ならずとも気に掛かる。
「お、おう、あ、あれか…」
「そ、そう…、あれ…」
竜児も亜美も赤面しながら周囲を見渡した。スドバの店内には、午後だというのに珍しく他の客が見あたらない。
「あ、あれなら、その日のうちに、手早く洗っといた。いつでも返せる」
「そ、そうなんだ…」
それを聞いて亜美は安心したが、不満にも似た軽い失望感を禁じ得ない。赤面はしていたが竜児のコメントは極めて
事務的であり、例えるならば、母親が自分の娘の下着を洗ってやったという感じだ。
仮にも若い男が、好きな女の、その女の愛液がしみ込んだ下着を直に扱って、何の劣情を催さなかったらしいことが、
亜美としては何か許せない。
「ねぇ、高須くぅん。亜美ちゃんのパンツは、どうやって洗ったのぉ? 亜美ちゃんのパンツだけ洗濯機に放り込んで洗っ
たりしないよねぇ?」
『MOTTAINAI』精神の権化ある竜児が、そんな水も電気も無駄になるようなことはしないと思うが、念のため訊いてみた。
「いや、手洗いだ。その方が、生地が薄い下着とかは無難だ。それに、あの汚れ方だと、すぐに手洗いしないとシミに
なっちまう。実際、川嶋があの日帰ってから、川嶋がショーツを脱ぎ捨てていることに気がついて、すぐに手洗いさ。
おかげで、綺麗になったよ。実際、シミにはならなかった」
竜児は、ほっとしたような笑顔を浮かべている。その笑顔は、手早い処置で、シミにならなかったことを喜ぶ、
主婦のそれだ。
「そ、そう。ありがとう…」
亜美は、顔では笑っていたが、内心絶句した。竜児が、亜美の愛液で芳しい香りがするはずの下着を洗っていて、
全く興奮しなかったらしいことが本当にショックだった。
「気にするな。洗濯は日常茶飯事だからな、どうってことないよ」
「そ、そう、どうってことないんだ…」
−−お仕置きよ、お仕置きが必要だわ。だが、念のため…。
亜美は、次のコメントに竜児がどう反応するか、ちょっと試してみることにした。
「ねぇ〜ん、亜美ちゃん、高須くんのパンツ借りたままなんだけどぉ〜、ご免ねぇ、未だ洗ってないのぉ。亜美ちゃんの
あそこの部分がシミになっちゃったみたいだけどぉ、いいかしらぁ〜?」
竜児の耳元でそう囁くと、ちょっと屈んで、両脇を締めた。二の腕で圧迫された乳房が、その存在感を主張するように
盛り上がる。
だが…、
「何だ、しょうがねぇなぁ。そのまんまでいいから、都合のいいときに返してくれ。普通の洗い方じゃダメだけど、
酸素系の漂白剤で晒せばオッケイだろう。まぁ、任せとけって」
落ち着き払ったその態度には、照れも羞恥も何もなく、ただただ、これから下着を洗うという作業にのみ興味があると
いうことが明白だった。それも、漂白剤で…。
亜美の怒りは爆発する。
「高須くん、そんなに働いてばかりじゃ、肩がこらない? ちょっとマッサージしてあげよっか」
「お、おう…、でも気遣いはいらねぇよ」
亜美はそれには応えず、竜児の背後に回り、二度三度、竜児の肩を揉む振りをした。
「ほんとに、いいってのに…」
竜児がマッサージだと思い込んで脱力したその瞬間、亜美は両の拳を竜児のこめかみに力一杯ねじ込んだ。
「う、うわぁ!!! いてぇ、いてぇよ」
「あんたは、本当に女心の機微が分かってない! この朴念仁!」
静かな憩いの場であったはずのスドバの店内に、阿鼻叫喚さながらの竜児の絶叫が響き渡った。
(終わり)
SL66様
さすがのGJ!
楽しかったです。
×××ドラの続きが気になるのは確かだが
拙にはときみのの続きも気になって仕方ないでござる
おいおい、もう430KBか。
……今書いてるのが入りきりそうにないんだが。
高須棒姉妹の続きマダー('∇')?
>>426 無理にまとめたりしないで、自分の思うまま書いてほしいのですよ。
ええ、僕は平気です。靴下ははいてますから。
429 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/08(水) 23:23:20 ID:eWrD+uCF
アニメ終わったってのにスレ早いなw
PSP発売されたらさらに加速するんだろうなぁ
そういや続編のある作品ってどの位あるんだろ?
PSPの映像店頭で見たけど、あれなんか微妙にヒロインが主人公から目を逸らしてないか?w
竜虎スレの方にも相当職人流れてるのにこの速度だしな
合わせたらどんだけ活気あるのかと
433 :
98VM:2009/04/09(木) 00:01:57 ID:az5wGUJG
>>421 GJです。
こういう短編も楽しいですね。
楽しいのが書けない自分は当面隠棲します。
当スレでは4本も落としてしまったので。ニッチ作家にあるまじき所業w
otita
atito
otika
竜児「もう、君にチャーハンを作ってやる事はできない」
大河「カッコ付けてんじゃないわよ、このバカ犬!」
ユリカは誰になるねん?
しーさーやいびーみ?
441 :
ユートピア:2009/04/09(木) 19:22:04 ID:Epnob2qp
今から連投します。今回はあみドラ!ではなく、みのドラ!です。
アニメの実乃梨を見て、みのドラ!を書かずにはいれませんでした。
全3話を予定しています。事情により、長くなるかもしれないし、短くなるかもしれません。
「心のオアシス」はもう少し待って下さい。待っている人はいないかもしれませんが……
では、連投します。
442 :
ユートピア:2009/04/09(木) 19:26:00 ID:Epnob2qp
太陽の煌き
燦々と照らす太陽の陽光がなりを潜めて、辺りは夕焼けによる茜色に染め上げられている。
長いようで短い6時間の授業も終わり、今は各々の部活に精を出している。
グランドからはバットにボールが当たる小気味いい音が聞こえ、体育館からはバスケットボールをドリブルする音や、キュッキュッという
シューズの摩擦音、バレーのスパイク音などが響いている。遠くからは楽器を演奏する吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。
そんな中、高須竜児は教室を見渡していた。
別にこの教室に爆弾を仕掛けて生徒を血祭りに上げてやろう、と思って見ているわけではない。達成感に浸っているのだ。
何故竜児がこの様にしているかというと、理由は少し前まで遡る。
◇ ◇ ◇
「じゃあ、今日はここまで。クラス委員さん」
「起立、礼」
クラス委員の号令に合わせて、クラスの皆が一斉に頭を下げる。そして、すぐにガヤガヤと騒がしくなる。
「この後どこ行く?」「あたし今月財布ピンチなんだ〜」「おい、早くしろ!部活に遅れるぞ!」「ヤベッ!遅れたら顧問に何て言われる
か……!」
皆それぞれ、思い思いの会話をしながら、教室を後にしている。竜児も例外ではない。
いつも一緒に帰っている半同居人は、用事がある、と先に帰っていった。よって今日は久しぶりに一人だ。
帰ったら何をしよう、と頭で考えながら、教科書などを鞄に入れていく。そして入れ終わった鞄を持って帰ろうと、教室を出ようとする。
その時、偶然にも教室の隅に溜まっているゴミを見つけてしまった。そしてその瞬間、足を止めてしまった。
443 :
ユートピア:2009/04/09(木) 19:27:27 ID:Epnob2qp
(俺は何も見ていない、俺は何も見ていない……)
見て見ぬふりをしようとした竜児。止めていた足を再び動かし、そのまま教室から出て行ってしまう。
しかし、ほんの少しして、竜児は再び教室に現れた。両手に掃除道具を持って。いや、両手に装備して、と言ったほうが正しいか。何せ今
の竜児の顔は獲物を見つけたハンターの目だ。
知らない人が見たら犯罪をする直前の凶悪犯に見えただろう。
「高須、掃除道具なんて持って何しているんだ?掃除はさっきした筈だが……」
竜児に話しかけてきたのは、2−Cのクラス委員長にして、大橋高校の現生徒会副会長の北村祐作だ。
成績も良くて運動神経も抜群、おまけに顔も良い。だから男子からも女子からも人気も高い。だが、たまに裸になるのがたまにキズだ。
「ゴミが俺を呼んでいるんだ……」
「……そ、そうか、何だか分からんが、とにかく頑張れよ」
竜児の意味不明発言に、流石の北村も対応に困ったのか、そそくさと教室から出て行ってしまう。生徒会室に向かったのだろう。
そして、教室には竜児一人になった。
これから竜児の掃除、いや、戦いが始まろうとしていた。
いざ掃除を始めると、他の場所のゴミや汚れも気になってしまい、最終的に教室全体を隈なく掃除してしまったのだった。
竜児が教室を眺めてたのは、こういうことが理由だった。
「よし、これだけやれば充分だ」
額に流れている汗を拭いながら、満足げな声を漏らす。
教室はピカピカだった。今まで掃除を雑にやってきて汚れっぱなしだった教室の面影は微塵も無かった。
埃やゴミは一欠けらも落ちておらず、床にこびり付いていた黒い汚れも綺麗さっぱり無くなっている。黒板もチョークの粉が一粒も付いて
おらず、黒板消しも白い汚れが全く付いていない。
これだけの掃除を一人でやったのだ。竜児の達成感や満足感も相当なものだろう。
そして何気なく今の時間を確かめようと時計を見る。
444 :
ユートピア:2009/04/09(木) 19:28:35 ID:Epnob2qp
「げっ、もうこんな時間か。早く帰らねえと泰子が仕事に遅れる」
そう言いながら、帰り支度をする。
鞄を肩に担いで、小走り気味に昇降口に向かう。靴に履き替え、茜色に染まった世界に踏み出す。
「えーっと、今日は確か魚が残ってたから……」
晩御飯のことを考えながら歩いていた竜児の耳に、「カキーンッ」という音が聞こえた。
音のした方に向いた竜児の目に、ある一人の少女が写った。
夕日に輝くグランドの中でも、竜児の目にはその輝き以上の眩しさが写る。
常にある太陽のような笑顔はなりを潜め、今まで見たことも無いような真剣な顔つきだ。
バッターボックスに立っている姿は、普段とは全くの別人だ。女子高生としてではなく、一人の選手として、その少女は練習に臨んでいる
のだ。
その少女こそ、高須竜児の想い人である、櫛枝実乃梨だ。
◇ ◇ ◇
現在竜児は一枚の白紙と睨めっこしている。別に眼力だけでこの紙を燃やそうなどとしているわけではない。考えているのだ。
少し逡巡してから、ペンを持って白紙に文字を書く。書いた文字は『コスプレ喫茶』。書き終わった紙を、書いた面を中にするように折り
、回って来た生徒、春田が持っているビニール袋に入れる。
他の生徒も竜児と同じく紙に書いてビニール袋に入れている。
445 :
ユートピア:2009/04/09(木) 19:29:33 ID:Epnob2qp
ロングホームルームの時間を使ってしているのは、文化祭でのクラスの出し物の話し合いだ。議長は春田と亜美。春田は亜美と一緒に議長
をやることが出来て顔がさっきから緩みっぱなし。いつものアホ面が今では三倍増しのアホさだ。
そんなアホ面の春田は、見た目通り頭のほうもアホだ。頭のネジが何本か抜けているんじゃないかと思うほど、アホだ。
そんなアホな春田は、どうしても文化祭でやりたいことがあった。それは、コスプレ喫茶。
いつも制服姿かジャージ姿しか見たことが無いクラスの女子の『非日常的かわいい姿』が見たいというのだ。
そのことをクラスの男子に言ったところ、男子は食いついてきた。そこで、春田が自分の作戦を皆に話した。その作戦というのは、クラス
の過半数に男子は達しているから、単純に多数決にすれば良いと。
男子によってその案は実行されたが、そんなの女子が許すわけではなく、今こうして決戦投票として出し物を決めようとしている。
そんなことしても男子の数のほうが女子の数より勝っているのだから、結局同じなんだよ、とクラスの男子はほくそ笑んでいる。
しかし、そんな男子の余裕は、生粋のアホの春田によって見事に打ち砕かれる。
「おっしゃ、皆書いたな!?ちゃんと書いたな!?じゃあ行くぞー!くーじ引き!一発勝負だ!コスプレ喫茶になっても誰も文句言うなよ
!?」
「はーい!」
春田の発言に、返事をしたのは女子だけだった。男子の皆は、今の春田の言葉に一瞬思考が止まった。故に、だれも何も言えなかった。
「ちょ、待て……!」
いち早く動いた能登が春田を止めようとしたが、時既に遅し。春田はビニール袋から一枚の紙を取り出し高々と頭上に上げていた。
あまつさえ、「イェーイ!」とはしゃいでいる。春田の頭の中では既に出し物がコスプレ喫茶に決定しているのだろう。
男子は全員うな垂れていた。
「よーし、では発表!我が2−Cの出し物は〜……んん??」
紙に書いてある物を読み上げようとした春田が、首をかしげた。
「どうした春田、まさか書いてある字が読めないなんて言わないだろうな?」
446 :
ユートピア:2009/04/09(木) 19:30:42 ID:Epnob2qp
竜児がそう春田に言った。竜児の言葉に、クラス全員が頷いた。皆思っていることは一緒なのだった。
「んーとね、読めないっていうか、なんていうか……」
「何だよ、歯切れが悪い。貸してみろ。」
そう竜児に言われて、春田は首をかしげたまま紙を渡した。
その紙を見た竜児は、目を細めた。そんな竜児を見た大人しい女子の一人が、「ひっ!?」と短く悲鳴を上げた。
「誰だ、こんな紙を提出したのは……?」
竜児が紙を皆に見せるようにヒラヒラさせた。
その竜児の手に持っている紙には、
「白紙……?」
北村が呟いたように、何も書かれていない白紙の状態だった。
「あ、私のだ。」
そこに、間の抜けた声が響いた。
クラスの視線が一斉にその声の主に集まる。その主の正体は、逢坂大河。その容姿はまるで人形を思わせる、小さくて可愛らしい。何もし
ないで真剣な顔をしていたら、大橋高校でも1、2の可愛さだ。
しかし、外見とは裏腹に、性格は極めて怒りやすく、男子にも構わず拳を上げる。そんな小さくて可憐な容姿なのに凶暴な性格から、周り
からは『手乗りタイガー』と呼ばれている。
そして、竜児に生活の大半を依存している。朝昼晩の食事から、朝の起床まで竜児に任せている、生活力ゼロの女子だ。
447 :
ユートピア:2009/04/09(木) 19:31:21 ID:Epnob2qp
「お前な、何で白紙の状態で出してるんだよ……」
「面倒くさかったからしょうがないじゃない」
私が当たるなんて思わなかったし、と大河は全く悪びれる様子が無い。今も文化祭には興味が無いように、髪の毛を指でいじっている。
「でも、決定権はお前にあるんだから、何かに決めないと。」
「んー、そうねぇ……」
髪の毛を指に絡めながら、面倒くさそうに考える。
「あ、さっき何か喫茶店がどうとか言ってたけど……」
ハッと、気付いたように大河は言った。
「うんうん、言ってたよ〜。」
春田が返事をする。
「じゃあ、それで。」
「…………」
一瞬の静寂の後、教室には男子の歓喜の声と女子の悲鳴が響き渡った。
「ヨッシャー、メイド喫茶だー!」「タイガー分かってるなー!」「なんで、何でなのタイガー!?」「どうして男子の味方するのー!?
」
今や教室の中はカオスの楽園。誰が何を言っているのか全然分からない状態だった。
バンッ!!
そんな大声の中、教室に机を叩く大きな音が響き渡った。その音を出したのは、大河だった。
再び、クラスの視線が大河に集まった。
448 :
ユートピア:2009/04/09(木) 19:32:23 ID:Epnob2qp
「ただし……」
教室に、大河の声が響く。
「男子共が騒いでる、メイド喫茶、そんな馬鹿げた事はやらないわ。
ウチのクラスは、純粋に喫茶店。味で勝負するの。」
胸を張りながら、言い切った。
そんな大河の発言に、男子が抗議の声を上げた。
「何だよそれ!?」「そんなもの面白くも何とも無いじゃん!!」「そんなんじゃ客集められないよ!」
「ああ?」
大河の一睨みで、勢いづいていた男子が全員黙り込んだ。
「決定権は私にあるの。あんたたちが何を言おうと、私は考えを変えない。それに、私にも考えぐらいあるわ。」
そう言って、大河はある女子に視線を向けた。そして、ニッコリ、と優しい笑みを浮かべた。
「みのりんがいれば、パフェとかのデザート系は全部任せられるよね?」
「おう、任しときなって大河!バイトで散々こき使われた経験を全部出し切ってやるぜ!」
眩しい笑顔で、親指を立てた拳を突き出しながらそう言ったのは、櫛枝実乃梨。大河の親友の、天真爛漫で元気がある女子だ。
そんな実乃梨に、満足そうに笑う大河。
「それに、」
今度は、竜児に視線を向ける。
「他の軽食とかのメニューは、竜児がいれば大丈夫。皆も、竜児の料理の腕前、知ってるわよね?」
クラスの皆に同意を求めるように、大河は言った。
449 :
ユートピア:2009/04/09(木) 19:33:01 ID:Epnob2qp
「確かに高須の料理の腕前は凄い。男子高校生とは思えない程の腕前だからな。」
北村が、うんうんと頷きながら言う。
その他のクラスの皆も、うんうんと首を縦に振る。
竜児の料理の腕前は、家庭科の調理実習でクラスに知れ渡った。驚くほどの手際の良さ、料理の味。どれをとっても一級品だった。
「だから、ウチのクラスの出し物は、レストランに決定!ウェイトレスもコスプレなんてしない。良いわね、男子共?」
男子の皆も、渋々だったがOKした。女子は勿論文句は無い。メイドのコスプレをしないのなら何でも良いのだ。
「だったらさぁ、店の名前は何にする?」
春田が珍しく、本当に珍しく議長らしいことを言った。
「それももう考えてあるわ。」
大河が不適な笑みを浮かべながら言った。
「レストランの名前、それは……」
ここで一旦言葉を切る。皆がこちらを注目していることを確認する。
「『ドラゴン食堂』よ!」
エッヘン、とばかりに胸を張りながら言い放つ大河。大河の中ではこのネーミングは自信があったのだろう。得意げな顔をしている。
「……『レストラン』なのに『食堂』なのかよ」
450 :
ユートピア:2009/04/09(木) 19:33:54 ID:Epnob2qp
クラス全員、いや、春田以外のクラス全員が思ったことを、竜児が代弁する。
竜児に指摘を受けた大河は、頬を赤くしながら、
「う、うるさい!そんなのどうでも良いでしょ!?文句あるの!?」
照れ隠しに、大声でそう言った。
「まあ、名前なんてどうでもいいか。」
竜児はため息をつきながらそう言う。
「じゃあ、クラスの出し物は『ドラゴン食堂』で決まり〜!文句は無いよな?あと、高っちゃんと櫛枝に大半を任せちゃうけど、良い?」
春田が、纏めにかかる。誰も文句も反対もしなかった。竜児と実乃梨も「おう」、「任せときなって!」と応じた。
こうして、2−Cの出し物はレストラン、『ドラゴン食堂』になった。
料理は主に竜児、デザートは主に実乃梨が担当することに。料理を出したり会計したりするのは主に女子担当。裏方は主に男子が担当する
ことに。
余談だが、クラスから一人、ミスコン出場者を出さないといけなかった。最初は亜美が出るようにクラスからは言われたが、亜美はミスコ
ンの司会をすることになっていたので、大河が出場することになった。
こうして、2−Cは文化祭に向けて動き出した。
様々な運命が交錯し、絡み合う、激動の文化祭に向かって。
451 :
ユートピア:2009/04/09(木) 19:39:02 ID:Epnob2qp
これで1話は終了です。みのドラ!なのに竜児と実乃梨の絡みが少ないです(汗)
次から、色々と絡ませていきたいと思います。
あと、「心のオアシス」もそうですが、文才が無いのでエロは入れれません。そこは理解しておいて欲しいです。
では、今回はこの辺で。自分の拙作を読んでいただき、ありがとうございます。
シェン
>>451 みのドラ!
これわ続きを期待せざるを得ない!
GJです
春田
…みんなに字が読めないとか思われてるのか
…まぁしょうがないかw
>>451 GJだよ
続き待ってます
しかしこれ・・・大河の父親の話が絡んだら主な二人が喧嘩して食堂どころで――ゲフンッ、いや、なんでもない
456 :
ユートピア:2009/04/09(木) 22:55:35 ID:Epnob2qp
申し訳ありませんが、大河パパは出す予定はありません。
っていうか、出せないっていった方が正しいですね。原作と全然違う流れになると思うし。
体育館もう一個作れよ
昼バド作って
誤爆orz
失礼した
>>457 まったくどういう状況なのかわからんww
>>457 俺は頑張ってこの状況を理解しようと思う。
>体育館もう一個作れよ
これはおそらく、その通りの意味で、体育館が計二つになることだろう。
>昼バド作って
これは、「昼休みにバドミントンがしたいから作って」。
ということかな。おそらくすでにある体育館はバスケやなんだで使われているのだろう。
で、二つを組み合わせると、
「昼休みにバドミントンが出来るために新しく体育館を作って!」
となるのか…。
そこにこのとらドラ!エロパロ風味を加えると…
「竜児!昼休みにバドミントンで勝負よ! 場所は問題ないわ。専用の体育館が出来たんですもの!」
「おい大河。何を言ってるのかさっぱりわからねぇ。だが、バドミントンでの勝負は受けて立とう」
という風に竜児と大河の二人っきりの空間が出来るわけですね。わかりました。
さらにそこにみのり、亜美、北村、木原、香椎、春田、能登が出てきて、大河が「出てけー!!」
という展開でしょう。わかります。
なんか変なこと書いてスイマセン…。てかもう450kb近くか… 早いなぁおい。
イニGのみのりんが神がかってる……
466 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/10(金) 03:09:37 ID:b2wpOC1V
神速で保存した
いやまずsageろ
このスレは何故エロ無しが異様に多いのだ?
だがそれがいい
もっと麻耶ドラを…
奈々子は多いのに何故だ?
麻耶は北村スキー設定があるからじゃね?
エロなしでも良い!
面白いから!
それがとらドラ!クオリティ?
「我らが同志」の前編で、亜美が忘れていったパンツでちんぽしごいて、
「間接エッチだな…」と、射精しまくる竜児を妄想した漏れは外道でつか?
>>472 むしろ14時にそんな書き込みしてる点が外道
なんか
>>462に感化されて変なもの書いてしまった……。
とりあえず投下します。3レスほど。
475 :
『昼バド』:2009/04/10(金) 19:09:44 ID:eTdZ1T+/
「おい、バカ犬。今すぐ体育館もう一個作れよ」
昼休み。実に気持ちのいい日差しの刺し込むのどかな教室で、何の脈絡もなくそんな
ことを言ってくる虎一匹。
「お、何、何よ」
竜児はそんな大河の脇を抱えて、ちょこんと椅子に座らせる。
「まあ、飲めよ」
まだ口をつけていないブリックパックのカフェオレを差し出す。
遠慮なくストローをぶっ差し、ちゅうちゅうと飲み下す大河。
「……落ち着いたか?」
「はなから落ち着いとるわ」
「そうか。なら今すぐ病院行け」
大河はじゅる〜〜〜〜とカフェオレを一気に飲み干し、
「何を失礼なこと言ってんのよこの駄犬、まずお前が行って来い!」
「いてっ!」
ぱこんっ、竜児の眉間に空のパックをヒットさせて吠えた。
「あのな、お前の言ってることは思わず精神状態が心配になるくらい無茶苦茶だっつってん
だよ!」
床に転がったパックをゴミ箱に片しながら竜児は大河に言う。
「何がよ。非常に理路整然とした要求だってば」
「じゃあその整然とした理路とやらを言ってみろ」
席に戻りどかっと腰掛け、大河の発言を促す。
「私達はね、フリスビー追いかけてりゃ満足のお犬様とは違って、昼下がりにバドミントンで
爽やかかつ健やかな汗を流そうとしたわけよ」
別に竜児が何をしたというわけでもないというのにこの言われよう。そろそろ法に訴える
ことができるんじゃないかと最近思う。
「なのにね、体育館はバカ面下げたアホどもによるトンチキバスケに支配されていたわけよ。
私達がシャトルをリレーさせる空間は残されていなかったのよ……!」
「そうか」
「だから、もう一度言う。今すぐ、」
「わかった、お前の話はよくわかった」
「うむ」
「救急車呼ぶなら119だ。間違えんなよ」
「ふんっ!」
「ぐおぁ!」
大河はひゅんと風切り音の立つ突きとともに強力なデコピンを見舞う。
476 :
『昼バド』:2009/04/10(金) 19:10:42 ID:eTdZ1T+/
「犬には語るだけ無駄だったようね」
「いっってぇ……。か、皮めくれた! あのな、そんなもん完全に個人的な事情じゃねえか!
そんなもんのために……」
「いやー、しかしそうとも限らないのだよ高須君」
後ろからぽわっとした明るいトーンの声。
「……櫛枝」
「ども、はぐれJKバドミントン派、櫛枝実乃梨です」
あいや失礼と、手刀を切りながら竜児の隣に座る。
「な、なんだよ。そうとも限らないって?」
ちょっとドキドキしながら実乃梨に問いかける竜児。
「いや、それがね。実際不満漏らしてる生徒も多いんだよ。お昼に人がいっぱいで体育館が
使えないって」
「そうだったのか」
「みのりんの言うことなら素直に聞くのよね。ほんとによく調教された犬だこと」
「お前のは単なる自己中心的なワガママじゃねえか」
無言でデコピンを連打してくる大河の手を、竜児は巧みによける。
「だとしてもだな、それで体育館もう一つ建てろだなんて発想が飛躍しすぎだ。我慢しろ、
ガマン」
「高須君冷たいのー」
「く、櫛枝まで……。だから、俺らなんかでどうにかなる話じゃ」
「いや、そこまで無理のある話じゃないぞ高須」
いつの間にか話の輪に混じっていた北村が、メガネをくいと直しながら言う。
「き、北村君!」
「話は聞いたぞ逢坂。バドミントンはいいよな。俺も大好きだ」
「きた、北村君も、スキ……」
「大河落ち着け。北村、どういうことだよ」
「ん? ああ、先日、この学校の来年度の予算案を見たんだが、かなりの額が老朽化した
体育館を新築するための準備金として蓄えられているんだ」
「マジかよ」
なんとまあ都合のいい。
「それよ! さっさと新しい体育館を建てるように駆けあいましょう! そして、新体育館が
建った暁には、昼休みの使用権を私達が占領し、昼バドミントン部を結成するの!
略して昼バド! 今風に言えば『ひるばど!』ね! これは大ヒット間違いナシよ!」
「なんだよヒットって……。新体育館の話が本当だとしても、無理がありすぎ……」
呆れる竜児を睨みつけながら、大河は溜息をつく。
「あんた、そんな態度でいいわけ?」
「何がだよ」
477 :
『昼バド』:2009/04/10(金) 19:11:21 ID:eTdZ1T+/
大河はそっと竜児に耳打ちする。
「日がな昼休みに、みのりんと一緒にバドミントンできるのよ?」
「櫛枝と……」
「シャトルの突つき合いよ、つつきあい」
「つ、つつき……」
『ほ〜らぁ、たかすきゅ〜ん、それぇ☆』
『はははっ、こいつぅ。それっ!』
『うわっ! もう高須君そんなの取れないよぉ……!』
『あははっ、悪い悪い!』
『うふふふふ☆』
『あはははは☆』
「……いいかもしれない! 大河っ、……あれ?」
「き、北村きゅんと、つ、つつきあい、えへへ」
そこには自らの術中にはまり悦に入る大河が不気味な笑みを浮かべていた。
「ともかく、確かに悪くない話だなそれは! なんか俺もいけそうな気がしてきたぞ!」
「お、高須君も火がついたみたいだね! けどなんか鼻の下伸びてるよ!」
「うむ、ここは俺も副会長として話に乗るぞ!」
熱い視線を交わした4人は、がちっと熱い握手を交わす。
「じゃあ行くか、まずは」
「ええ、あのクソ生徒会長に」
「4人で力を合わせて」
「新体育館、そして昼バドミントン部の設立を!」
おー! と高らかに掛け声を上げて、4人は生徒会室へと駆け出した。
「……何やってんのあいつら?」
「俺達の!」
「明るいバドミントン生活のために!」
4人は、生徒会室のドアを勢い良く開け放った。
「「「「今すぐ体育館をもう一個作ってください!!」」」」
「寝言は死んでから言えこの馬鹿カルテットどもが!!」
ばちこーん、と辞書が脳天にクリーンヒットする音が4回ほど響き渡った、ある日の
昼下がりの一幕だった。
「……亜美ちゃん混ざらなくて良かった」
以上。即興ものながら、楽しんでいただけたなら幸いです。
あ、トリ付け忘れた……。まあいいか。
一番乗りGJ! 誤爆からネタにするとは、もはやなんでもありだなw
GJワロタwww
誤爆からここまで想像するとは
とらドラは愛されてんなあw
GJww
特に最後の1レスくそワロタww
482 :
478:2009/04/10(金) 23:09:03 ID:eTdZ1T+/
楽しんでいただけたようで幸いです。
ごめんよ
>>457、ネタにしちまって……。
さて、実は書きあがった別のSSがあるのですが、ちょっと残りのスレ容量だと
入りきらない(50KB超)のでどうしようか悩んでいるところです。
前後編には分けづらく、かと言って次スレ立てるにはまだ容量が余ってるし……。
もうしばらく待ったほうがいいですかね?
待った方がいいかもね。誰かが短篇か埋めネタ辺りを投下してくれるかもしれないし
>>482 とりあえず投稿してみたら?
入り切らない部分は次スレに投稿すれば・・・?
俺が起きてる間なら例えスレが埋まっても次スレが立たないことはない
486 :
478:2009/04/10(金) 23:55:12 ID:eTdZ1T+/
>>483 >>484 どこで切っても中途半端になるので、とりあえず待つことにします。半裸で。
>>485 やだ……なんか背中を預けたくなっちゃう……。
そろそろななどらが復活してもいいんジャマイカ?
次スレあたりからでもさぁ
ななどら、おばさん男、腹黒様の内、どれか1つでも良い。
復活してください。マジで。
489 :
462:2009/04/11(土) 00:22:44 ID:Sne1mFnY
>>478 GJ!
ID変わっているから名乗ってもアレだが、462です。
まさか、こんなに広げられるなんて…
2828してしまったじゃないか!サンクス!!
容量切れで思い出したけど、修学旅行の人はどこへ行ったんだろう。
ななこいの続き読みたいです^q^
ななどらが面白いことや続きがよみたいことに何ら異論は無いけど、いい加減続きがどうのとうるさい連中自重しろ
だいたい、なんでななこなんだろうな?
〜のカプが見たい
〜の作品が見たい
荒れ防止の為に上記の書き込みは控えた方がいい
多くのエロパロスレでもテンプレになってるし
そうだな、あんまし投下後に奈々子奈々子行ってるとあてつけに聞こえて醜い
>>493片親、主婦で竜司と会いやすいからじゃね?
>>495 そうか……。
今度からテンプレに加えないか?
「作者&カプ希望は控える」ってのを。
あと、他のスレでもよくある、
「ジャンルとカプを明確にする」ってのも。
でも「続きが読みたい」って言われるのは嬉しいもんなんだぜ
節度持ったリクなら禁止しなくてもいいんじゃね
とは言っても、一人が書いたら連鎖反応起こして次々書かれるのはこれまでの流れから明らかだし・・・。
思うに、作品が投下されたときにその作者に対して“続きを〜”“次回作を〜”というのは全く問題ない。
ただし“GJ、ところで○○まだ?”みたいなのは、とりあえずGJ書いたけど一番言いたいのは○○まだ?の方です、
とも受けとれるからなるべく控えるべきではないかと思う。
>>498の意見は確かだな
実際そんなことやられたら職人さん萎えるだろ
某書き手ですが、
>>498さんの意見には同意です。
ただ、2ちゃんのスレだしこういう意見もあるよなあ、程度に捉えてます。
以前にも違うスレで、じゃあ線引きはどうするんだ、という議論でしばらく荒れた
経験があるので(その方がいや)、「続き希望&リクは節度を持って」程度の
注意書きでいいと思います。このスレの人たちはいい人多いし。
【結論】
マナーを守れ
あんまりやってると職人さんが離れて行っちまうよ
本末転倒にならないうちに切り上げよう
住民の良心に任せる
このスレなら出来る
竜児って誰かに似てると思ったらクレしんの園長先生だ
幼稚園児の告白に
「(君の思いに答えられないのは)僕は妻を愛しているからです」
と答える強面
うむ、確かに竜児だ
ちょww
園児おっさん趣味かよww
幼稚園ネタ、保管庫にある竜虎が子供の世話をする話を見て
竜虎の子供が女の子の場合、顔の恐い人も気にしない
外見に惑わされない良い子に育ちそうだが、それはそれで子供としては危険だなとオモタ
いやいや、案外顔つきに惑わされずに本質を見抜く
悪党センサーみたいな子供になるかもしれん。
こんにちは。早速ですが、みのりん視点の小ネタを投稿します。
タイトルは「あまドラ」で文量は5レスです。
「あまえたドラゴン」ってことで、竜児のキャラが壊れてるかもです。
私の彼はあまえんぼ。
こんな彼のこと、クラスの子たちが知るはずない。
教室じゃ真面目そうにしてるから。
大河とやっちゃんだって知らない。
竜児君ちで晩ご飯を食べるときも、今まで通りだから。
私しか知らない竜児君の本性。
それは二人きりになると、いきなり現れる。
「みのりぃ〜。」
やっちゃんが仕事に出かけて、大河が先に帰った後。
甘ったるい声が隣から聞こえてくる。
そりゃーもう、みんなが聞いたら耳を疑うこと間違いなしって感じの甘々ボイスだ。
実際、私も初めて聞いたときは、ビックリして耳がでっかくなったりしたもんさ。
でも、こんなのまだまだ序ジョの口。
「なーに、竜児君?」
何言われるかなんて分かってる。
でも、何となくこう聞き返すことにしてる。
「ひざ。」
擦り寄りながら告げてくるのは、予想通りの単語。
その鋭い目はキラキラと輝いてる。なんか、本物のお子ちゃまみたい。
普段のぶっきらぼうな竜児君を思い浮かべて、今とのギャップにため息をつく。
……ま、仕方ねー。これもホレた弱みってヤツだ。
崩していた足を正座に近い体勢に戻して、ももをポンと叩く。
二人の中じゃ、OKのサインってことになってる。
ちなみに、断ると不機嫌になる……よーな気がする。
ま、断ったことないから知らねーけどさ。
「いつも悪ぃな。」
悪びれた様子もなく、無邪気な笑顔で言う。
そんで、いつものように横になって私のももに頭を置く。
――そんなわけで。ほい、膝枕の完成なり。
膝枕の体制のまま、まったり過ごす。
何の音も聞こえてこない、他に誰もいない、二人だけの空間。
ちょっとでも前かがみになると、胸が竜児君の顔に当たる。そのくらいの距離。
竜児君の頭の重さが心地よくて、なんだか落ち着く。
やることもないから、ふやけた顔でのんびりする竜児君の横顔を上から眺める。
……かわいいから、ナデナデしてやろうじゃねーか。
竜児君はくすぐったそうにしながら、私を見てくる。
正確に言うと、私の――胸を、なんだけど。
バレてないなんて思ってるんだろうけど、ちゃ〜んとお見通しだ。
その時の竜児君、えっちな目、してるから。
つーか、膝枕って普通、反対向くんじゃないかねー?
モロにこっちを向かれちゃー、さすがにハズイぜよ。
……なーんて、言いたくもなるけど、スルーしてあげることにしてる。
悪い気はしないっちゅーか、母性本能をくすぐられる感覚だわな。
私みたいなガキにも母性本能があるなんて驚き桃の木だけどさ。
しっかし、竜児君のこの豹変ぶりは何なんだろう?
男の子は恋人(自分でゆーな、私)の前じゃ幼稚化するもんなのか……?
いや、ひょっとしたら、ただのムッツリスケベなのかも知れない。
神竜のとっておきの本もいらない、ってなかなかだな。おぬし。
でも、まー多分、色んなものが溜まってたんだって思う。
今まで家事とか勉強とかが忙しくて、誰かに甘えたりする暇がなかったんだと思う。
とりあえず、理由はなんであれ、やっぱり悪い気はしない。
私だけに甘えてくれてる……なんて思うと、むしろ気分は上々だ。
それに、竜児君を独占できるのは正直うれしい。
要するに、あまえんぼうの竜児君も大好き。こう言いたいわけだ。
そんなことを考えていたら、魔が差したのかも知れない。
前かがみになって、竜児君の顔に胸を当てていた。
「み、実乃梨!?」
「うわっち、ご、ごめん!?」
慌ててのけ反る。
けど、謝りながらも、脳みそは全く別のことを考えていた。
こんな時だけキョドっちゃって〜、とか。
ここらでギャフンと言わせたる〜、とか。
第一さ、膝枕で満足されるって乙女としてはどーなの?って気もしてたわけだ。
……ここはいっちょ、乙女のプライド見せてやろーじゃねーの。
「お、おい。実乃梨?目が血走ってるぞ……?」
戸惑いながらも、竜児君は私の顔をまっすぐ見つめてくれる。
そんな竜児君の真っ赤な顔を見た瞬間。私の中のナニカがプツンと切れた――
「……ふふふ、竜児君。覚悟したまえよ?君は私を欲zy」
――カチャ。
「わっすれもの、わっすれものー……ぬぉ!?」
「「へ?」」
ふいに聞こえたドアが開く音、そして間の抜けた歌声が……って、た、大河!?
「な、なな……」
私らを指さして、ワナワナと震える大河。
あえて言わせてちょーだい。チョーMW(間が悪い)だぜ、大河――
「な、何で、あんた、みのりんにも膝枕させてんのよ!?」
「――は?」
時が止まった。
「い、いや、大河。これは……」
目に映るのは、今にも噴火寸前って感じの大河の真っ赤な顔。
そんで、私のすぐ下から聞こえてくるのは、竜児君の戸惑う声。
――そして、時は動き出す。
「……で、大河?どーゆーこと?」
「み、みのりん。それは……」
返事がない。ただのゆでだこ状態のようだ。
思い出しただけでそれかよ。ダメだ、こいつ。早く何とかしないと……
「……んじゃ、竜児君。どーゆーことかな?かな?」
あえて、満面の笑顔で聞いてあげよう。
おー、ビビってる、ビビってる。つーか、顔が青いよ、大丈夫?
「い、いや。その……」
「ふーん?答えられないんだ、そうなんだ。なら――」
「再現しますっ!」
私の言葉を遮って、高らかに宣言したのは……
「い、インコちゃん?」
インコちゃんを見る。
よっぽど自信があるのか、豪快に羽を広げてる。……ふつくしい。
「な!?い、インコちゃん!?や、やめ……むぐっ。」
「竜児君はちょっとマホトーン状態になってもらおうか……?」
竜児君の口も塞いで、準備万端だ。
さぁ言え。言うんだ、インコちゃん!
「たいがぁー。ひざ。」
「また?もー、竜児は甘えん坊なんだから……」
器用に二人の口調をまねて、そのシーンを再現するインコちゃん。
その忠実さと言ったら、真っ赤な頬に両手を添えて悶絶する大河が目に浮かんでくる程だ。
……なんだ、この感情は。嫉妬か?いや、そんな生温いもんじゃ済まされねー。
「……竜児、君?」
首をギシギシ鳴らしながら、竜児君を見下ろす。
一応、弁明の機会を与えてあげよーじゃまいか。一応。
「い、いや、これはだn」
「あみぃー。ひざ。」
「「は?」」
インコちゃんの言葉に再び振り返る。今度は大河も一緒に。
あみ?……って、あーみんかよ!?ま、まさか、竜児君……
「おまっ、またかよ……ほら。亜美ちゃんのももの柔らかさにむせび泣くがいいわ。」
ツンケンしながらも、優しい微笑みで受け入れるあーみんが浮かんでくる。
何だこのツンデレは?つーか、何だ、このフツフツと湧き上がる感情は……?
「「……」」
あまりの事態に言葉が出てこないのは大河も一緒みたいだ。
口を開けてポカンとしてる。
二人して、黙って動くことができない。
竜児君の顔から血が引いてってるように見えるのは、間違いなく気のせいだ。
「ななこぉー、ひざ。」
「「!?」」
「うふふ。仕方ない人ね、高須君は……」
この後もインコちゃんの音声再現は続いた。
「まやぁー、ひざ。」
「ちょ、ちょっと、高須君?……もぅ。ちょっとだけだからね。」
「やすこぉー、ひざ。」
「いや〜ん☆竜ちゃんとこうしてると、パパとの熱い日々を思い出しちゃう〜。」
「北村ぁー、ひざ。」
「やれやれ、仕方ないやつだ。今、ズボンを脱ぐからちょっと待ってろ。」
次々と暴かれていく竜児君の本性。
……これはひどい。ひどすぎるから、最後のはスルーしてあげよう。
私の中の竜児君が音を立てて崩れ去っていく……
キャラ崩壊ってレベルじゃねーぞ、おい。
「こ、これは……そうだ、これは罠d、むぐっ!」
「……どこぞの神のような言い訳は許さんよ?」
この期に及んで言い訳しようとする竜児君の口をもっかい押さえる。
ついでに、身動きが取れないように、身体もがっちりロックだ。
さて、と。そろそろ判決の時間だね。
「竜児。覚悟はいいかしら……」
「竜児君。少し頭冷やそうか……」
主文。被告人、高須竜児は――
***
次の日、なんだか教室がうるさい。
竜児君を見てヒソヒソ話すクラスメイツ。
わざわざ聞き耳なんか立てなくても、その内容が聞こえてくる。
本物のヤンキーに絡まれたとか、暴力団の抗争に巻き込まれたとか、好き放題言ってる。
でも、クラスの子たちは知るわけない。
竜児君の顔がアザだらけになってる理由を。
おしまい
以上です。気分転換に甘々みのドラを書くはずが、なぜかこんな結果に。
それでは、長文・駄文失礼しました。
ありゃ?大河が実乃梨ひざ枕目撃の後の展開は、間の文章とか無いの?
いきなり大河が実乃梨に追求されてて読者には文章が飛んでる感じが…
520 :
519:2009/04/11(土) 16:50:12 ID:ZBB1EPuO
ごめんなさい、よく読むとみのりん『にも』って書いてあった(´・ω・`)
>>520 自分で読み返しても超分かりにくかったですorz
ご指摘ありがとうございます。
次はもう少し練習・推敲してから投稿するようにします。
お目汚し、スレ汚し失礼しました。
せめてすみれのアニキもいれてほしかった
甘えん坊竜児って意味でキャラ崩壊かと思ったらこんな展開かよぉお(TT)
前半でみのりんが喜んでる描写がある分泣いてしまった俺がいる・・・
>>522 せめてメ欄にちゃんと半角でsageといれてほしかった
>>521 GJでした。
この竜児クンはしばき倒しても法で許されますよね?
つかこの話って本当にみのりんと竜児は付き合ってる設定なの?
大河が先に帰っちゃう辺りそうだと思うけど・・・
だったら大河が竜児を怒るのは何か違う気がするのだが・・・
なぜだ、なぜ高須園子が入っていない!?
肉親なら合法なのに!
>>521乙。
470kb越えたね。
次スレ待ってる人もいるみたいだし、もう立てた方がいいのかな?
にしても早いなあ・・・。
529 :
517:2009/04/11(土) 18:36:40 ID:vmxa5vem
数々のご指摘、ありがとうございました。
甘々みのドラを無理やりハーレム調に変えて投稿した所、
矛盾だらけの意味不明な文章になった次第です。
不快な思いをされた方、本当にすみませんでした。
自己満足ではあるのですが、元の甘々な方を日を改めて投稿したいと考えています。
保管庫管理人様へ
この作品は保管しないで頂ければと思います。すみませんが、よろしくお願いします。
それでは失礼しました。
530 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/11(土) 18:41:52 ID:puVfyDcu
やっちゃん大好きー
ギャグハーレムものとして面白かったよ!
誰か一人に決まってないのがハーレムの旨みだしね
473かぁ〜
速いねぇ
早いねぇ。
にしても、あんまり人いない・・・?
良ければもう新スレ立てちゃおうと思うんだけど。
>>533 新スレになったら投稿しようと思ってる人いるし、出来れば立ててもらいたいけど・・・
過去スレ表記といいどんどんテンプレが改悪されていくな
>>537 乙〜
テンプレとかこれで構わないと思うぞ、
>>537 スレ立て乙です。質問コーナーの追加分も良くできててGJ!
書き手さんだけあって素晴らしい仕事ぶりですな
なんか変な子も湧いてますが気にせず作品投下もお待ちしております
どもです。
テンプレ勝手に追加しちゃったので、OKもらえてよかったです。
あとは次スレ待ってた書き手さん待ちですね。
>>517 俺も結構好きだったよ。
ハーレムギャグとすればいい出来だと思います。
甘い方も期待してます!!
545 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/12(日) 04:22:30 ID:Y+4jY3AR
うめ
sage忘れました
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
ごめんなさい
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ささ
>>549 それにはまず君が狩野すむれに会いにアメリカへ行く必要があるな
552 :
SL66:2009/04/12(日) 19:15:13 ID:AWkKV8CE
学会発表で狩野すみれが秋頃来日し、北村と再会。
その時、、一夏の経験で、竜児とは「うふふ、あはは…」な関係になっている亜美に、
狩野すみれがエッチを指南してもらう、ということもありえる。
555 :
SL66:2009/04/12(日) 19:41:55 ID:AWkKV8CE
瀬川への因果応報も含めて、大学時代の話の一端で書く構想は当初からあり。
(ちょうど弁理士試験の二次試験合格の発表と重なるので、
善人の榊と小林は合格、瀬川率いる悪女連合は全滅、で、ペットに反逆されて…ry)
先の話になりますが、当方でよければ、書くつもりです。
>>555 待ってるw
みのりんスレのまとめサイトもあったのか…
知らなかったわ。
私たちは田村くん
二人で嫁に行ったのか
田村君ウラヤマシス
とりあえず埋めネタを。
>>549 これで今は我慢してくれ。では次レスから。
「今は反省している」
日直の号令がかかり、皆荷物を片付け、教室から出てゆく。
その中の二人、竜児と大河は帰路に着こうとしていた。自宅が近いため帰り道は一緒だ。
「ほら、駄犬!早く行くわよ!」
「へいへい」
バッグを肩に書け、席を立つ竜児。その目は今から討ちこみに行くのか、人を殺しに行くのかという目つきと風貌だ。
だが本当は夕方からの特売セールを狙って今夜のメニューを考えている。本人はいたって真面目な青少年だ。
その隣の席、丸いメガネを掛けた青少年。北村祐作は竜児に話しかける。
「高須!この後久しぶりに遊ぼうじゃないか!」
「別にいいが… 北村は部活があるんじゃないのか?」
「いや、今日は無いんだ。それに生徒会の仕事も無いからな」
「ちょ、ちょっと竜児!なんであんたが、キ、キタ、キキキタムラクンと遊ぶのよ!」
「はぁ???別にいいだろ??なんなら一緒に遊ぶか?」
竜児が小声で大河の耳元でささやく
(そしたら北村と遊べるだろ?)
「!!!! キ、キタムラクンと…!!!」
逢坂大河こと、学校中から手乗りタイガーと呼ばれる暴力少女は顔を真っ赤にしたまま頬が緩みっぱなしだ。
「キタムラクンと… キタムラクンと…」
「おい大河!しっかりしろ!」
「はっ!!」
「とりあえず北村、この後俺は夕方にスーパーにやらなきゃならねぇ。それと遊ぶのは大河も一緒だが、いいか?」
「かまないぞ高須! それなら久しぶりにお前の作った料理が食べたいな!お邪魔してもいいか!?」
「あぁ、いいぜ。今日は月に一度の『かのうや 超スーパーセール!』の日だからな!」
「なら決まりだな! じゃあ俺は一旦家に行って着替えてから行こう。大体何時くらいがいいかな?」
「じゃあ…」
北村が竜児の家に向かう時間を合わせ帰路に着く。
帰宅途中、大河はずっと「キタムラクンとお遊び… キタムラクン…」「はっ!!!」と繰り返しながら歩いていた。
そして日も暮れる頃、北村が竜児家の呼び鈴を押す。
「おぉ、北村よく来た。入ってくれ」
「お邪魔します!」
「い、い、いらっしゃいませキタムラクン!!!」
「大河!もう少し声を落とせ!ご近所に迷惑だろ!」
「ははは!」
北村は靴を揃え高須家へあがる。
「相変わらず綺麗にしているな。高須」
「まぁな。だが、最近大河がゴミを増やしていくから困っダホァ!」
「いい加減なこと言ってんじゃないわよこの駄犬がぁ!」
「いてーな大河! おっと、こんなことしてる場合じゃねぇせっかくの料理が冷めちまう。北村、居間に来てくれ。後はよそって運ぶだけだ」
「早いな高須。それではいただこう」
「こ!こちらへドーゾ!キ、キタムラクン!」
* * *
竜児は、将来店を持つとしたら、こんなウェイトレスは雇わないようにしよう、と思った。
「私が料理を運ぶわ!」と息巻いた大河は緊張しすぎたのか、手元足元口元がおぼつかない様だ。ガチャガチャ行っているのは食器なのか、口なのかわからない。
竜児は大河に大皿を渡した後、居間へ運ぶ大河の後姿で確信した。あぁ落とすだろうな。と。そしてグラつき倒れてゆく大河を見て景色がゆっくりとなる。
何で何も無いところでこけることが出来るのだと。
よく事故の当事者は、事故のあった瞬間、目の前がスローモーションになるというが、こういうことだろう。
ゆっくりと飛んでいく大皿。飛び出す中身。宙を舞う八宝菜。形の良いうずらの卵がクルクルと綺麗に回転し、北村のおでこにあたる。
そして追撃とでもいうように白菜、しいたけ、タケノコ、人参、鶏肉が北村を襲う。そして止めと言わんばかりのアツアツのあんかけが顔全体、さらには肩にまでかかる。
大河は大の字に倒れる。
竜児は口が開き体が止まっている。
北村は肩から上が美味しそうだ。
「あ、あついーーーー!!!」
「だ、大丈夫か北村!?」
「あついあついあついあてゅいーーー!!」
「お、落ち着けぇ北村!と、とりあえず風呂で冷水を浴びろ!こっちだ!」
竜児は暴れる北村を抑え、急いで風呂場へつれてゆく。とにかく冷やさなければ!と一心不乱に北村の上着を脱がしお辞儀させるように上半身を倒す。
そして冷水のシャワーを北村の頭めがけて当てる。
「どうだ北村!?」
「…」
「とりあえずシャワーを持て!俺は火傷に効く薬を用意する」
そう言うと竜児は居間へ戻り救急箱を取り出す。空けた瞬間大河から声が聞こえてきた。
「ううう… 北村君にヒドイことしちゃった… 絶対嫌われたわ…」
「大河!そんな事言ってないで火傷薬持ってないか!?切らしてるみたいだ!」
そう言いながら竜児が大河のほうを振り向くと、そには鼻水ダラダラの涙で目が真っ赤の大河が座っていた。
「おい大河、お前大丈夫か…?」
「…大丈夫なわけ無いでしょ!! …こんな醜態さらして…!! グスッ」
鼻を啜りながら止まらない涙を拭きつつ、声を抑えながら泣く大河。
これじゃあどうしようもねぇ。と竜児は立ち上がる。
「大河!俺はこれから火傷薬を買ってくる。お前は北村の様子を見てくれ。床に落ちた料理はまだ熱いからくれぐれも火傷に注意するんだぞ」
「…」
竜児は家を出て一番近い薬局へ向かう。
「そうだわ… 嫌われるよりも北村君が火傷してるほうが大変よ!大丈夫かしら!?」
風呂場へ向かう大河。鼻も涙も止まらないが北村のことが心配だ。火傷を負わせたのは私自身なのだから責任を取らなくちゃ!
「大丈夫!?北村君!」
「…逢坂か?」
「今竜児が火傷に効く薬買ってきてくれるからもうちょっと待っててね!」
「逢坂…」
「ど、どうしたの北村君!私に出来ることがあるならなんでも言って頂戴!」
北村はシャワーを止め俯いたまま喋る。
「逢坂、患部は冷えたみたいだ。だが、シャワーを浴びすぎてズボンがビッショリだ。悪いがあっちを向いていてくれるか?」
「え!?あ?う、うん」
大河はとっさに振り返り北村に背を向ける。
カチャカチャとベルトをはずす音がする。次にジッパーが下がる。ババッとなにか落ちる音がした。風呂場にベルトの金具と床の擦り合わさる音がする。
大河の心臓が早くなる。まさか自分が好きな相手が今後ろで裸になっているなんて。
「逢坂、もういいぞ。またせたな」
大河は振り向いてもいいものか考えたが、とにかく今は北村の容態が心配だ。と思い振り返る。
そこには
___
, .:'"´::.::.::.::.::.:` 、
/::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::`丶、
,. :.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::\
/::.::.::.::.::.::.::..:........::.::.::.::.:::.::.::.::.::.::.::.::ヽ
′::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.l::.::.::.::.::.::.::..... ',
i::.::.::.::.:.i::.::.::.::.:!:.:::.::.::/|:::.::.::.::.::.::.::.::i::.::.::i
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い、 ヽ`¨__rク¬{/ツ ',小「
V::「i iヽ.__ムイ
}::! /
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| \ ` / とりあえずさっき高須に脱がされてちょっと興奮してしまったんだ。
! 丶. /
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. i / `ヽ、
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′ ', /: : :j: : }: } !
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以上です。オチが最悪ですいません。北村の人格崩壊させてすみません。変なもの書いてスイマセン。もう寝ます。
保管庫の方は保存したいと思ったらしてください。されなくても私はかまいません。ではノシ
>>549だがまさかきまぐれに貼ったAAでここまで妄想してくれるとはw
オチもクソワロタwwwGJです
修羅の双星
ちょおwwwwwwwwwwww
>>565 高須ルートにしようか迷ったが、喜んでもらえて何よりだ。ネタをありがとう。
しかし次スレ住人は何で前スレを埋めようともしないんだか
480KB超えてるから日曜日にはこのスレ児童消滅するから
次スレaruno??
次スレに奈々子様降臨したのでなんとなく埋め
しかし色んなカポの職人様がおられるが皆さん上手いなぁとしみじみ思った
みんな凄いよね。
読んでると自分も書きたくなるが、文才の無さがもどかしくなる。
今495KBだからあと5KBね。
短編なら投下できそうだね。
そういやまとめの
ビストロSMOPと星の下が内容同じなんだけど
星の下どこいった?
なかなか埋まらないな
奈々子様がエロすぎるからだな、けしからん
お色気ボクロめw
もっとやれ!
/: : : : : : : : : : : : : : : : :`: : .、
/ : : : : : : : : : /: : : : : : : : : : : : ヽ
,/ : : : : : : : : : : / : : : : : : : : : : : : : : : ヽ
/: : : : : : : : : : : ,': : : : :/ : :i : : : : :|: : : : : ',
/ : : : : : : : : : : : |: : : : :{: : :|: : : : : |: : : : : : |
|: : : : :i : : : : : : : |,:」l:_;lTiニ;トL:_: : l|: : : :i: : :|
,| : : : : l : : : : : : : :|,ィぅテ圷ミ `` L: : ソ: : /
|: : : : : | : : : : : : : |代z::ソ ィぅミ,ン: :ノ
|: : : : : | : : :|: : : : |ヽ 、、 ヒツ,!/:|´
| : : : : :| : : :| : : : |l, | `` , ,ri|
| : : : : :| : : :|: : : :|v 丶 ``| |
! /: : : :|: : : :| : : :| \ 「 フ ,|, | 高須君を落とすためだったら
,|/: :i: : :|: : : : l : : | ヽ ゝ. / / なんでもするわ
/ : /: : :| : : : :ハ : :| | / /|
/: : :/ : : :|: : : : : ヽ :|\ ll`i ´ /: : |
: :, イ‐-:、 |: : : : : : : : ヽ|、 代 |、: : : |
/:::::::::::::::::ヽ: : : : : : : : ト 、` ヽ|:|, / 入,: :|
::::::::::::::::::::::::\ : :ヽ: : |:::::::::`ヽ! 、, /::::\:|
:::::::::::::::::::::::::::::\ :ヽ: |:::::::::::::::::o::|o:::::::::::::\
:::::::::::::::::::::::::::::::::::\: |:::::::::::::::::o::|:::o::::::::::::::::\
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::`|::::::::::::::::::::::|::::::::::::::::::::::::::::\
このスレに入り浸るようになってから奈々子が好きになって仕方ないんだが
っん?
なんだ小悪魔か…
よし、高須を落とすにはまず外堀を埋めるんだ
つまりここを埋めるんだ
おう!わかったぜ!インコちゃん!
>>582 /: : : : : : : __ : : : : : : : : : : \
/ : : : : ,: ':":´: : `:ヽ : : : : : : : : ヽ
/ : : : : /: : : : : : : : : : `: :, :‐: 、 : : :ヽ
/: : : :/ : : : : : : : : : : : : : : : : : : ヽ : :ヽ
,': : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :ヽ: :ハ
| /: : : : : : : : ,' : : : : : : :/ : ヾ: : : : : : :ヽ :|
,| | : : : : : : : : | : : : : : : ,'`` ´ヘ: : : : : : : :',:|
|: |: : : : : : イ : |: : : : : : :| |: : : : : : : :|:|
|: |: : : : : :/| :メ : : : : : :| / |: : l : : : : |:|
|: :| : : : : |ト<、ヾ : : : :k,´ _, ャヤ|: : : : ソ |
|: :ヘ : : : | |i:::んリ\: |ヾ ´fi:::んリi,': : : ン: : |
,|: : : ヽ : ヽ弋:シ ` ゞzシソ: : /: : : |
,': : : : i:ヽ_:\ , ∠ ;イ:| : : : : | 超誰うまなんですけどー
/: : : : :| : : ヾ´ ,rヽ イ: i | : : : : |
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ハ::::::::::::::::::::::::::::::| | | | |二,、ィ´ /::::::::::::::::::/:::::::::〉
/:ヘ::::ヽ:::::::::::::::::::::| |. ! |rv入 /:::::::::::::::/:::::::::::::/
|: :ハ::::::\:::::::::::::::::| |/ヽヘ /::::::::::::/:::::::::::::::::/
へへへへ、へ、へいもーん
499とは。。。
もう何も出来ないなwww
投下がないただの屍のようだ
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! |: : !: : : | !`ト、 _」: :」 _!: :ハ: : :.|: : : : : !: : : : : : : :.!
! |: : !: : : | | ! ヽ | !:i |:`ト V :.|: : : : : |: |r‐、: : :.:|
! |: :.:|: | :ハ. f卞ト、 / |/ 从! !: :|: : : : : !: |イ }: : : :|
|: : !VV ハ. Vrリ れ示ト、V|: : : : : !: ! /: : : : |
ヽ:!ハ: : : ハ///// Vz少 〉| / : :/: /イ: : : : : : !
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, -―|: 込、 |: /: :./: : |: : : : : : | かわいいハァハァ
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