【空を】MUNTOでエロパロ【見上げる】

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3335:2009/05/15(金) 01:33:19 ID:M1a1mnRa
お久しぶりです
「ユメミは少女じゃいられない2」第7回/全9回
今回は14節うpします
注意事項は>>266を参照願います

では、どぞ
334ユメミは少女じゃいられない2(48):2009/05/15(金) 01:34:13 ID:M1a1mnRa

アクト危機が回避された次の朝、ユメミは天上を去った。
彼女との一夜を重ね、ムントは満ち足りていた。彼女の与えてくれた想いに、彼はかつてない充実を抱いていた。
しかし、ひとつが満たされてしまえば、求める情は強くなり、渇きに似た寂しさを知って彼の心は迷う。
彼女と離れたくなかった。それでも、彼は彼女を引き留められなかった。引き留めるべきではないと、ムントは考えた。
彼女には、帰るべき場所がある。アクトの循環を取り戻す中で自己を確立した彼女の生きる道は、天上にはない。
彼女を産み、育んだ世界――彼女がそこでいつかっきりとした夢を見つけ、生き生きとした日々を送ってくれる事。
この心の繋がりの為だけに人生を費やす彼女になって欲しくはない。言葉を交わす以前より彼女を見守ってきた彼は願う。
しかし、それでも、ユメミの世界に自分が行くという選択肢は、彼の前には無い。
彼女を望み悩んで想う本心は別にして、ムントには安易にその選択を取れないふたつの理由があった。

そのひとつは、魔導国の王たる彼の立場にある。
国主の責を全うする事を捨て愛する女のもとに走るなどという所業は、使命感の強いムントには肯定しにくいものだった。
また、彼自身が許しても、周囲が、国民が許しはしない。彼が側近や国民の立場ならば間違いなくそう考える。
それに、アクトの循環を得たこの天上界が、どのような道を辿っていく事になるか、見届けなければならない。
天上人が無限の力を以て戦乱に及べば、世界がアクトに満ち返ったとしても、何ら意味も変化も無い。
根本的に、ムントがアクトの循環を目指したのは、アクト枯渇で乱れた天上人の調和を取り戻す事にある。
かつて、父王は幼い彼に全てを託してアクトの海に還り、その後を継いだ彼を見て連合諸国は離反、長きに渡る戦乱が勃発した。
グリドリのような野心の王がいた以上、ムントに責任は無い。天上を鑑みて離反を叩き付けた酋長達も、肚の内は定かではない。
ただし、いかに口実とは言えど、彼を原因として戦乱が始まったのは事実。これを収める事は、ムント自身の意志であった。
自らに課され自らが課した使命を投げ棄てて彼女を選ぶ――彼女の存在は大きいが、到底比べられるものではない。

もうひとつの理由は、彼女の世界へ行く為の必要条件となる、時空を超える事自体にあった。
アクトの循環によって、力だけは無限に供給される。時空の壁を破る時、その点だけは何ら問題は無い。
だが、その際に何よりも必要なのは、アクトの量の大小よりも集中力。超える最中に半端に乱れれば、彼の存在が危うくなる。
これまで成否を問わず数度試みた彼は、それに要求される集中が生半可なものではない事を理解している。
過去に成功した時は、何も考えていなかったと言っていい。少なくとも、彼女を望む意志が不安を凌駕していた。
理屈の上では、その時と同程度の集中が得られれば可能なのだが、その同程度を再現するのが難しい。
また、ユメミの世界はこの天上とは違い、大気中のアクトの性質は、エネルギーに直接変換できるものではない。
たとえあちらの世界に行ったところでアクトを練られなければ、彼女を見守る事はおろか各種代謝も失い生きる事すら叶わない。
また、過去の成功は時空に干渉できる局外者の助けが大きく、単独で成し得られるかも微妙な所であった。

どちらかが時々、もう片方の世界へ行く――理想的なのはこのかたちなのだが、この選択もまたムントには肯定できない。
一時的にユメミのもとを訪れるにせよ、時空の壁を破る時点で膨大なアクトを消費し、力が練られなければ戻っては来られない。
その逆に、ユメミをこちらにその都度呼び寄せるにしても、時空の壁を超える行為は安定性を欠き、事故の危険性が高い。
呼び寄せる側のムント、実際に超えるユメミ、どちらかの集中力が欠ければ、彼女の存在は双方の世界から消失される為だ。

そこまで整理すれば、ユメミの事に当たってムントが取れる選択肢は、思い浮かぶだけで4つ存在していた。
ユメミと再会する事を諦め、たとえ彼女が他の男と情を通じる事になろうとも、ただ見守り続ける存在と成り果てるか。
魔導国や天上のこれからを無視し、短い間だけであっても時空を超えて彼女のもとに飛び、その目前で命を散らすか。
或いは、報われない苦悩の日々を送るならいっそ、再会だけではなくユメミ自身のことを忘れ、世界の為に生涯を捧げ続けるか。
最後に、決断を果てなく先送りにし、煩悶にとらわれ続ける人生を送る、又は、時間が解決するのを待つか――
ムントは迷っていた。迷う事になるのは、あの一夜の中でもわかっていた。それでも彼女を忘れられずにいた。

335ユメミは少女じゃいられない2(49):2009/05/15(金) 01:37:27 ID:M1a1mnRa

しかし、王たる国責は、彼に迷い苦しむ事を許さない。
ムントは周囲に気取られないよう、戦後の復興に尽力し始めた。その矢先、連合から講和の使者が来た。
使者曰く、天上の危機が解決し、アクト消費を抑える為に眠っていた連合諸国の王達が目覚める事となり、
諸王は今後の天上の在り方について、危機を払ったムントと協議の場を持ちたいと希望していると言う。
天上の調和を重んじる彼にとって、避けられない話。ムントはその意に応じ、諸王と会談の席を持った。
会談の中でムントを含めた王達の共通の認識として挙がったのが、無限大のアクトを用いて世界が暴走する事への恐れであった。
かつての天上人は、他の世界からアクトを収奪して築いた退廃的な理想郷に酔い、天上を含めたあらゆる世界を悲惨に陥れた。
そして先日、一時的に回復したアクトに任せ、古代天上人と似た狂気に憑かれ戦乱を広げたホルグウズ王グリドリの例もある。
これは過ちであり禁忌である――連合に復帰したエンダ国の女王・ラルコの発した見解は各王も認める所であった。
とは言え、その自浄統御の為に、天上はどうあるべきか。答えを模索するには、一度の議論、数国の判断では限界があった。
また、連合諸国以外にも紛争を抱える国家や部族は依然残っており、天上の調和にはそれらの共同体も無視はできない。
会談の回数を重ね、そこに加わる国家も次第に増えて増やしていく中で、天上の元首達は結論を出した。
一部大国のみによる旧連合を解体し、天上の大小全国家を巻き込んだ、『大連合』の設立。その目的は、紛争調停と、相互監視。
各国の統治には関与せず、その時々に疑惑の挙がった国家が軍事行動を起こさぬよう中立的に抑制する役割を持つ機関であった。
国家の垣根を取り払ってひとつにまとまれば古代と同じ末路を辿るのが予想でき、また、天上に国と国とが分かたれて幾久しく、
同じ天上人であっても慣習等をそれぞれ違える為、かつての天上のような一国家として再統一するのは不可能であった。
それでも、各国が全く連結を持たないまま野放図で居続ければ、野心を持った者はいずれ天上の調和を破壊する事になる。
必ずしも調和の完成を保証できない機構ではあるが、当時の状況のままで良いと思っていなかった王達はこれに乗った。
アクトを用いた兵器群や各種の術によって軍事力が拮抗した大国や、弱小の共同体、永世中立の賛同を掲げた国。
大連合結成が齟齬なく進んだのには、そのいずれも、本心では戦乱に国情を掻き乱される事に倦んでいたという所も大きい。
かくして、アクト危機の真の回避から程なくして、大連合構想は各国から称賛され、加盟の意を積極的に表す元首が出始めた。

だが、大連合の本格的な結成にあたり、問題が4つ生じていた。
1点目は、大連合を取りまとめる役割を、どの国の元首が担うのか。
大連合はあくまで支配が目的ではなく、天上を総括する中立的な立場に拠った機構である。
一国が盟主であり続ければ、古代の天上と同じ事。それでは本末転倒である為、その選出や任期は協議を重ねる必要がある。
2点目は、各国の軍縮。真の調和を目指すのならば、各国の軍事力格差を埋めなければならないという方向で話は進んでいる。
ただ、兵器や術といった、質の異なる戦力と相対的な物量をどう評価し、いかなる監視体制を作っていくかが焦点となる。
それらよりも懸念されている3点目は、目下最大の軍事力を誇るホルグウズの参加が得られていない事。
先代の王・グリドリは各国と戦端を開き、魔導国との戦役において局外者により時空の歪みに幽閉される事となったが、
その後を継いだ反グリドリ派の現王は、旧連合の再三の要請にも関わらず会談に参加する意志を見せていなかった。
最後の4点目は、ホルグウズの参加の意志に関わらず、その現王に確認を取らなければならない事がひとつだけあるという点。
それはアクト危機の後始末にして、現在最大の脅威。王の回答如何では、大連合はホルグウズと敵対する事になりかねない。
336ユメミは少女じゃいられない2(50):2009/05/15(金) 01:38:04 ID:M1a1mnRa
ホルグウズ現王・カリシカ、天上の国際社会で認知されて間もないが、ムントはその人となりを伝え聞いていた。
聡明先見の才も聞こえの高い若者であり、ホルグウズが連合に参加していた際に彼国の長老の施策に異論を唱えていた。
野心に駆られた先代のグリドリの暴走を諌めようとしたが、その怒りを買って拘束され、前戦役にカリシカは参加しなかった。
その後、ホルグウズはグリドリの幽閉とアクトの循環による戦乱の終結により、混迷を極めて内紛状態に陥っていくが、
その状況下、反グリドリ派の非戦論者達に担ぎ出される形で王となり、先王由来の武闘色に苦戦しつつ内政を固めているようだ。
それ程の人間が他国に干渉を持たず沈黙を保っていれば、その裏に野心ありと各国の元首が懐疑的になるのはやむを得ない。
とは言え、真意は話してみなければわからない。ムントは協議の席でカリシカ説得に名乗りを上げた。
説得は得意ではないが、疑心が前提の旧連合諸国や、武力に欠ける他の小国の代表が赴くよりは、客観的で対等に話ができる。
各国の承認を受け、ムントはカリシカに二国間会談の場を求めると、カリシカは二つ返事でこれに応じた。

実際に会ってみれば、確かに若い。自分と変わらない年代の王に、ムントは親近感を抱いた。
それはカリシカも同様で、ムントの勧めるように大連合にも参加したいとも思っていたらしい。
だが、決断を渋る彼国の王は、ムントに論陣を張る。
「ムント王、私が牢から解き放たれて今日ここにあるのは貴方のお陰だ。その恩を返す意味で、幾つかご忠告致しましょう。
 大連合構想は確かに素晴らしいが、その実現の為には検案すべき事項が山積みになっているでしょう。
 まずひとつは、大連合による調和が永続的に守られるかどうか。代を重ねれば、いかな精神も失われていく恐れがある。
 これはどのような組織であっても生じる話です。ホルグウズとて、あのグリドリを王に頂かざるを得なかったのだから。
 ただし、魔導国は代々高潔な王を守ってきた。貴方は連合を敵に回しながらも、断固たる意志でアクト危機から天上を救った。
 魔導国とホルグウズ、この二国違いは何だったか――詰まる所は風土ですが、その風土を培わせたのは教育です。
 天上全ての共同体が画一化すべきではないと考えますが、統治に携わる者に邪心を芽生えさせてもならない。
 この一点において、子々孫々、天上は弛まぬ治世に勤めなければならないでしょう。各国の監視よりも重く見るべき課題です。
 続けて2点目ですが、大連合の盟主にいずれかの酋長を据えれば、それだけで中立性は失われてしまう事。
 ただ、共同体の元首以外で政治に優れた者を選ぶにしても、その者も何処かの共同体に属している以上、中立ではなくなる。
 これに関しては、論議は平行線を辿る事になるでしょう。割り切って、公正公平な人物を選ぶように進めなければならない。
 最後に、私が最も案じている事ですが、軍縮は性急に推し進めない方がよろしい。大連合発足直後は、特に。
 戦力を並び立てれば、善きにつけ悪しきにつけ、確かに拮抗はします。ただ、戦力を減じられる強国の不安は増長される。
 かく申し上げるのは、何を隠そうこのホルグウズがそうだからなのです。我が国が参加を決め切れないのはそこにある。
 非力な身の恥を曝す次第で恐縮ですが、先代から私に遷位する前後、この国はふたつに割れてしまいました。そして、今も。
 ひとつは、先代・グリドリに同調し、力を以て天上を支配せんとする武断派の人間。大連合の軍縮案に揃って反対している。
 もうひとつは、私を擁し、各国との協調を重んじようとする講和派の人間。参加には賛成ですが、細かい論拠は異なります。
 武断派の中には大連合参加を唱える者はおりますが、講和派にも軍縮には反対と訴える者も数多く、意志統一は困難です。
 かく申し上げる我が国は特異例ですが、軍縮に関しては国の中でも大なり小なり分かれてしまう。慎重に進めるべきです。
 願わくば、それらの議論の推移を見て、参加の是非を決めさせて頂きたい。下の者を説き伏せる材料を集める為にも」
337ユメミは少女じゃいられない2(51):2009/05/15(金) 01:38:47 ID:M1a1mnRa
その忠告はムントの懸案事項でもある。噂に違えぬ知性を見れば、グリドリとは互いに相容れなかった事は想像に難くない。
ただ、正論を取り繕いながらホルグウズの軍縮抑制を織り交ぜている以上は、その全てを鵜呑みにするわけにもいかない。
大連合に参加するにしても、より有益な条件が出て来るを待っている――実に巧みな外渉力だと、ムントは素直に感じ入る。
今ここでこの王と独断で話を進めれば、ムントは大連合の他国の信を失いかねない。
カリシカはそれも計算して、忠告と銘打った要求を試みている。そして、ムントが返答を保留する事も、また。
自国の武力を背景に、慎重姿勢を取る大連合の足元を見られる余裕がある。その有効性も認識し、待ちの一手を張ってきている。
しかし、ただで引き下がるわけにはいかない。彼にはまだ、確かめたい事がひとつ、残っている。
最後にムントがカリシカに尋ねたのは、時空の歪みに封じられた先代ホルグウズ王・グリドリの事だった。

歪みの口は徐々に広がっている。グリドリが亜空間から天上に舞い戻る為に取っている行動だと、各国首脳は認識していた。
時空の歪みが開いて天上に帰ったグリドリは、果たしてどう動くのか。恐らく、天上の支配を再び画策しようとするだろう。
圧倒的な力を持ったホルグウズ先王・グリドリ。天上が一丸とならなければ到底敵する事も叶わない程の狂神。
大連合側では、グリドリが復活して天上に仇なすようであれば、これを協力して排除する方向で話が進んでいる。
現ホルグウズ政権はその先代をどう見なしているのか。カリシカの参加よりも大連合が案じているのは、まさにその点にある。
グリドリの帰還が、そう遠くない時期、最短で次の冬と予測が立っている事は、カリシカも察知しているはずである。
かつて縛したカリシカが現在の王となっていれば、グリドリの性格上、カリシカもホルグウズもただでは済まない。
それを見越してホルグウズがグリドリを黙殺し、いずれ来る大連合とグリドリとの戦いに不干渉の立場を取れば及第。
或いは、ホルグウズが大連合に協力し、共にグリドリ討伐の為に戦う道を選ぶのならば善しと言える。
問題なのは、ホルグウズがグリドリに従い直し、逆に天上世界を脅かそうとする場合である。
グリドリがカリシカに跪かせようが、グリドリを崇拝する武闘派がカリシカを廃して旧主を迎えようが、
とにかくホルグウズの大戦力が再びグリドリの手に渡って天上の被害をやたら拡大させようとする事態こそ最悪なのだ。
カリシカの肚を見定めなければならない。ムントがホルグウズへ来たのは、大連合への参加催促よりも、その為であった。
カリシカが悪夢の如きグリドリの畏怖に屈するか克てるか、同様の恐れを抱く配下達を御する指導者であるかどうか。

「カリシカ、グリドリが天上に戻れば、ホルグウズはどうする?」
ムントが尋ねると、カリシカは即答して見せた。
「大連合がグリドリを弑するつもりである事は理解しておりますし、私個人はそれを望んでいます。
 あの王には統治など不可能です。武力に基づいたカリスマで他者を心酔させる事はできるのでしょうが、
 天上が彼の手に落ちた時、その絶大な武力は向かう矛先を失い、純粋な欲望と恐怖による治世が始まります。
 ホルグウズには今もグリドリを求める声がありますが、私が抑える。そこについては安心して下さい。
 しかしながら、グリドリ討伐の為の軍は出せません。
 かつての敵と共に、かつての王と戦う。いかなる大義があろうと、我が軍の兵達が納得し切る事は難しい。
 そうなれば、たとえ強兵であろうとも、全体の統率を害して妨げになるばかり。どうかこの心中をお察し下さい」
理路整然とした返答。これはホルグウズのひとつの現状なのだろうが、その先を見据えた戦略の表れに外ならない。
詰まる所は、グリドリとの決戦で疲弊するであろう大連合より優位に立てるよう、戦力を温存したいという事でもあるのだ。

338ユメミは少女じゃいられない2(52):2009/05/15(金) 01:39:29 ID:M1a1mnRa

次の合議において、ムントがカリシカとの会談の仔細を諸王に伝えると、様々な問題でぶつかり合っていた彼等は決断を早めた。
足並みを揃えないホルグウズを抜きにして、あらゆる自体に備える為の、大連合の正式な発足。
そして、その盟主たる議長に、彼等は満場一致でムントを指名してきたのだ。
理由は、天上のアクト危機回避における随一の立役者であり、そこに至るまでの行動力と決断力を評価するというもの。
任期については意見が分かれたが、任期自体を持たず、議長としてのムントを見てその都度動議に掛ける方向に落ち着いた。
ただし、彼は即答せず、思案する為に次回まで留保するように求めた。諸王もこれに応じ、その場は散会となった。
分不相応だとムントは思う。だが、誰かが天上の道筋を束ねなければならないのも事実。
ただし、カリシカの言う通り、一国家の王を議長とする事には、彼も抵抗があった。それが彼自身ならば、尚更の話。
そして、カリシカの話は、王が議長となれば参加しない意向をも示唆している。
グリドリへの対処が残っている現段階で、ホルグウズをむやみに刺激して敵に回してしまうのはよろしくない。
ならば、彼以外の人間、王以外の人間が議長となり、諸国の信を得られるのか。
彼もまた指名候補を絞れずにいた以上、全会から指名された自分が引けば、他に誰もが一致して名指しできる候補はいない。
そうして議長選出が長引けば、大連合構想は瓦解する。果てに、最悪の場合、天上はまたも戦乱に塗れる事となるだろう。

肚を決めたムントは、リュエリやルイ以下、魔導国の主立った者を集め、大連合議長就任の為に王位を退く事を表明した。
これまでのあらましを話しながら懇々と説諭するうちに、聞いていた者達の中からは涙を流す者も出始めた。
国民に発表するのは、大連合の正式な発足と彼の議長就任が承認された後。混乱を避ける為、事実が定まってからの発表となる。
ムントは次王に国民の信頼も厚いリュエリを指名し、リュエリもまたこれに応じた。
彼が保持していた最高軍事責任者としての権限はルイに付託、ただ、対外軍事決定権はリュエリが監督する評議会に委ねられる。
先王となるムントの立場は、名目上は魔導国の最高顧問ということになり、魔導国の国政には直接参与しない。
また、議長を罷免された場合も王位には還らず、評議会の一員となり、国政を監査・指導する側に立つ方向で決まった。
父から継いだ王位を退く――いかに冷静を心掛ける彼とは言え、去就の情が湧かないわけがない。
だが、天上に満ちたアクトを邪の道理に転用させない為、天上に調和と安定をもたらす為。
同じ状況にあれば、恐らくは父王もこの選択を取ったはず。そう思えば、彼に後悔は無い――

協議を解散し、心を鎮めるムント。
「ムント」
そんな彼を呼び止めた、ひとりの男。
「少し話がある。私の執務室へ来てくれないか?」
ルイ。常に真剣を保つ彼の参謀の微妙な顔色を、この時のムントは読み切れないでいた。

339ユメミは少女じゃいられない2(53):2009/05/15(金) 01:43:38 ID:M1a1mnRa

ルイの執務室。人払いをした部屋には、ふたりだけ。
夜も遅い刻、空間を照らすのは石壁の篝火。ムントは応接用のソファーに腰掛け、ルイと対面する。
「…………話とは、何だ?」
尋ねる彼に、ルイはなかなか言わないでいたが、意を決したように瞳を厳しくさせ、答えながら問い返す。
「……ムント、王位を退いた理由を言え」
それは先の協議でも話している。だが、ルイの表情から真意を掴みかね、ムントは同様の説明を繰り返そうとする。
「…………天上の調和の為だ。大連合を束ねるには――」
「――違う。私が聞きたいのは、お前が隠しているであろう、本当の理由だ」
「本当の理由?」
その理由に本当も嘘も無い。ムントは訝しがりながら、ルイに答える。
「……退位を決めたのは、それ以外に理由は無い」
「本当に、天上の為だと言うのか!?」
「……何度も言わせるな。天上の為だ」
神経質な参謀の、常軌を逸した執拗さ。ただ、何かを疑っているのは彼にもわかる。
疑念を重ねるルイ。その理由を窺いつつも、言葉を選ぶまでもなく率直に答えるムント。
平素より、このふたりのは会話には緊張がある。それは王と参謀という立場以上に、それぞれの気質がそうさせている。
だが今回、ふたりの間に流れる空気は、質が異なっている。互いを否定し阻み、先へ進ませまいとするかのように。
長い長い、時の膠着――睨み合いの果てに、先に緊張を破ったのは、ルイの方だった。

「その決定に、本当に、ユメミ様の事は関わっていないのか!?」
「――――な、何だと!?」
何故そこで彼女の名が出て来るのか。反射で尋ねたムントは、驚きと怒気を意識せぬままで口調に孕ませていた。
「何度でも聞く!!ユメミ様に関係なくお前が出せた結論か!!?」
再び聞き返すルイもまた、彼に負けじと声を荒げ、彼女の名を突き付け続ける。
「あれ以来ずっと、お前がユメミ様の事を考えているのは、私にもわかる!!嘘は言わせん!!答えろ!!!ムント!!!!」
吠えて、ルイは黙った。黙り込み、答えを待っていた。
待たれる彼は、ルイが何を聞こうとしているのか、何が知りたいのか、何を言いたいのか、その意を暫し考える。
今回の件に、ユメミの事は一切関係無い。その点については、ルイの勝手な誤解であろう。
しかし、ルイが言うように、彼女を巡る葛藤が、自身の日頃の振る舞いに表れていたのかも知れない。
それが誤解の一端であれば、ユメミへの心象も明かした上で解かなければならない。王を退く大事、ルイにも知る権利はある。
この厳しい参謀の事である。いつまでも彼女にとらわれ過ぎるなと、自分に詰めるのが目的なのだろう。
ただ、ユメミについて迷っているのがわかっているなら、こうして詰めるのはもっと前でも良かったはず。
なのに何故、もっと早くこうした話をしてこなかったのか。迷える王への忠告が意図なら、尚更のはずであろう。
その一点のみ、釈然としないまま。けれども、厳しく睨むルイに何も答えないわけにもいかず、
ムントはこれまで誰にも口外せずに伏せていた内心を、全てさらけ出して語ってみる事にした。
340ユメミは少女じゃいられない2(54):2009/05/15(金) 01:44:15 ID:M1a1mnRa
「…………確かに……お前の言う通り、あいつの事を考えない日は、あの日以来一度たりとも無かった。
 アクト危機が解決されたあの日の夜、俺様はユメミに約束した。いつもあいつを見守っていると。
 あいつの心に触れ、俺様は……嬉しかった。あいつも、俺様と同じ想いでいると、わかった。そして――――」
ルイの表情が一瞬歪む。
「――――それが、俺様を未だに迷わせているのだろう。たとえ、この心情は邪ではないと否定したとしても。
 ユメミに傍にいて欲しいとは、今でも思う。しかし、あいつには、自分の世界がある。
 それを奪ってこの世界に留めるような真似は……俺様には出来ん。どんなにあいつを求めようとも、俺様には出来んのだ。
 それに、俺様は魔導国の王だ。いや、王だった。国を、天上の安寧を守る責任がある。ユメミの世界に渡る事は選べない。
 加えて、この世界と向こうの世界は違い過ぎる。向こうに飛べば、俺様は生きられない。それでは話にならない。
 俺様のこの内は、いつか決着をつけなければならない。いずれ、何らかの形で。
 だが、それにかかずらって、王としての責を怠り、逃げるわけにはいかない。国民の為、お前達の為にも。
 退位すると決めたのは、大連合の折衝において必要があると判断しての事。連合の協議が終わった直後の事だ。
 ルイ、お前とリュエリならば、この国の統治を安心して任せられる。俺様よりもより良く、皆を導いてくれると期待している。
 だからこそ、今一度言う。この退位に、ユメミは関わりない。猜疑は、無用だ」
落ち着かせるように語るムントに、ルイもいくらか自身の猛りを整え始めていく。
「………………ユメミ様を、常に見守っていると、言ったな…………?」
「…………ああ……」
「……それは、今、お前と話しているこの瞬間も、そう解釈して、いいんだな……?」
対面する人間の話を無視して他所見に興じていると、ルイの気分を害したやも知れない。ムントは答えを躊躇う。
「………………どうなんだ……?」
業を煮やしたルイ。謗りを受けるのを覚悟し、彼は答える。
「…………そうだ」
硬く握られるルイの右手。
「………………そうか…………」
その口調は震える拳とは正反対に、落ち着きを保ったままで躊躇いながら、繋げる。
「…………確認したい。お前は、ユメミ様と………………一夜を共にして………………男女の仲になった。そうだな?」
「っ!?」
あからさまに尋ねられるとは思わなかった。答えにくい。だがしかし、答えなければ先へ進まない。強いられている。
ここまで、何を企図した問いなのか、問われる彼は理解に苦しんでいた。それでも、この腹心が本気である事は理解している。
余人ならば言いにくいが、この男にここまで迫られては、致し方無い。ルイの拳を見ながら、ムントは意を決した。
「………………ああ…………そうだ…………」
ルイ。震えが止まった。
「……………………そうか………………」
長い長い、一息。参謀の沈黙は、ふたりのいる一室を、耳鳴りさえ響かせる程の静寂へ満たし変えていく。
安堵かどうかわからない、ムントがルイに倣い息を吐いた一瞬――
「――――ふざ…けるなぁっっ!!!!」
青髪の男は挟み合う卓を乗り越えてかつての王に飛び掛かり、その右手で、力を篭めた右の拳で、彼の頬にその怒りを見舞った。
341ユメミは少女じゃいられない2(55):2009/05/15(金) 01:45:08 ID:M1a1mnRa
「――ぐうぅっ!?」
ルイは殴る。
「……ムント、貴様は!!貴様という男はっ!!!」
「っ!!」
伸し掛かるルイは殴る。
「ユメミ様に会えなくなると知っていながら、ユメミ様と……ユメミ様を……!き、貴様っ!!!」
「くっ……!!ルイ……!」
伸し掛かるルイはムントを殴る。
「それ程までにユメミ様を慕っていながら、何故だ!?何故帰した!!?」
「っ!……あいつにはあいつのいるべき場所がある!それがわからんお前ではなかろうが!!」
伸し掛かるルイは腕を盾にするムントを殴る。
「ならば貴様は本当に納得しているのか!!何かと理由を託つけて、貴様自身が諦めようとしているのではないか!?」
「納得せざるを得ないではないか!!」
伸し掛かるルイは叫びながら、腕を盾にするムントを殴る。
「貴様が王だからか!!王だから姫様を捨てるのか!!!」
「っ!?誰が捨てると言った!!!」
「貴様は今も迷っている!!貴様、それだけで半分は、ユメミ様を既に捨てている!!」
伸し掛かるルイは叫びながら、腕を盾にするムントの顔面を殴る。
「ぐっ!!」
「『いつか決着を』だと!?ああ、着くだろうな!!貴様はユメミ様を捨てる!!!」
「っ………お前の知った事ではないっ!!」
「知らんさ!!だが、貴様はユメミ様の為にこの日まで、一体何をして差し上げられたと言うんだ!!?」
伸し掛かるルイは叫びながら、腕を盾にするムントの顔面を力を篭めて殴る。
「……な、何だと……!?」
「ただ見守るだけか!?貴様、貴様はっ!!ユメミ様の寵愛を受けていながら、お傍でお守り差し上げようと思わんのか!!!」
「お……俺様はこの国の王だ!!!この国を、治める責任がある!!!」
「それでもっっ!!!!」
伸し掛かるルイは叫びながら、腕を盾にするムントの顔面を拳に力を篭めて殴る。
「貴様はユメミ様をお守りしたいとは思えないのか!!!!」
伸し掛かるルイは叫びながら、腕を盾にするムントの顔面を血の滲む拳に力を篭めて殴る。
「国も何もかも捨ててでもいい!!!ユメミ様を守りたいとは思わんのか!!!!」
ルイは殴る。
「貴様の迷いを見続けている人間の気を考えた事があるか!!?彼等の、私達の心中を、考えた事が一度でもあるか!!?」
ルイは殴る。
「ユメミ様を見守っているなら、貴様なら、ユメミ様がどのようなお気持ちであらせられるか、察しているはずだ!!!」
「!?ぐっ……!!」
ルイは殴る。
「時間を共にさせて頂いたのは僅かだが、ユメミ様のような方の御心は、この私の分際にも……理解できてしまう!!」
ルイは殴る。
「私にも!!貴様程の力が…………貴様程の力が、私にもあれば…………!!
 もしも、もしも……ユメミ様のお気持ちを頂いたのが私であれば……っ!!!
 どれだけ時を費やそうとも、いかような手段を尽くしてでも、ユメミ様と再びお会いすると言い張るものを!!!!」
殴る手が止まる。
「……っ!………ル、ルイ…………」
ムントは見た。彼の参謀が、常に涼やかに構えるはずのルイが、大粒の涙を流して咽ぶ姿を。
342ユメミは少女じゃいられない2(56):2009/05/15(金) 01:46:21 ID:M1a1mnRa
「………っ…!!」
「…………ルイ……!?」
男の涙。その意味するものを、ムントは敢えて確かめてみる。
「………お前……ユメミを…………?」
問われて我に返ったルイは、自らの涙に気付いて袖で拭いつつ立ち上がり、彼に背を向ける。
「……………ああ………お慕い申し上げている」
瞬間、ムントの中に何かが湧き上がる。
「………そうか……」
それが何なのかはわからない。だが、快く受け入れがたい情動だという事は確かで、相槌と共に外へ出そうと試みる。
切れた唇の血を拭う彼を見ず、ルイは呟く。
「…………すまない、ムント……」
向けた背中が震えている。ムントは気を鎮め、参謀を安んじるように返す。
「……これくらいは、何ともない」
「違う!そうではない……そうではないんだ………私は……!」
ルイの後ろ姿を見るムントの眼。否定に篭められた意を解しあぐね、視線は戸惑い焦点がぶれる。
「……ムント………お前のユメミ様への想いを知りながら、私もまたユメミ様に……ユメミ様に惹かれた。
 お前がユメミ様を忘れられないのには及ばないだろう。だが、私もまたお前と同じだ。お前の心中は理解していた。
 お前には、いや、天上全ての人間に隠し通そうとは思っていたが、このような形でお前にぶつけてしまうとは…………」
「…………」
「………許せ……ムント…………臣下でありながら、私は………!」
立ち尽くすルイ。座するムントは考える。
先程から感じている悪意的な何か、今のルイの謝罪を機に、その正体をはっきり掴めていた。
(………これは、嫉妬か……)
自分の愛する者を、この男も密かに思っていた事に。そして、秘めた感情を曝す事のできる、この男の勇気に。
彼女への恋心を口に出して誰かに表す――ムントは、自分にはできないと思う。王の立場が、自由な発言を許さない。
しかし、仮にそのような制約が無かったとして、自分もルイと同じように誰かに言えるだろうか。その勇気が自分にもあるのか。
(……俺様には、無理かも知れん)
自信は無い。自他共に自信家を認める彼だが、こればかりは自信が無い。要される自信の質が、明らかに違い過ぎる。
そう思うと、彼の心はかつてない程に揺れ惑う。
本当にユメミと再び会う事など叶うのか。
叶えられないのならいっそのこと、この苦しみごと彼女の事は忘れてしまった方が良いのではないか。
とは言え――本当に忘れられるのか。忘れてしまっていいのだろうか。
俺様が真に望むのは、忘れてしまう事なのか――――
343ユメミは少女じゃいられない2(57):2009/05/15(金) 01:47:06 ID:M1a1mnRa
このルイという男は、王の腹心として様々な建策を立て、ムントの歩みを補佐してくれている。
国王の彼が掲げる国家理念に基づき、目的を逸脱しない柔軟な方策を提案しながら厳しく監督する、優秀過ぎる参謀。
しばしば、互いの肚に収めた長期的な見通しや戦術自体の是非によって意見を戦わせる時もある、万事に徹底した軍略家。
そのようなルイだが、王の在り方や彼自身の生き方についてムントに苦言を呈するような事は、これまで一度たりとも無かった。
王に対して恐れ多いが為に言上を控える――などという概念はこの男には皆無である。それはムントがよく知っている。
また、ムント自身も、これまで自らの情の内をルイに明かした記憶は全く無い。王たるが故、意識して秘匿していた。
なのに、参謀も自分も、今回は違った。生の感情を口述して曝し合ったのは、長い付き合いの中でも恐らく初めてだろう。
自分の苦悩を、この男ならばどう向き合うのか。苦悩の理由と痛みを最も近く共有するこの男ならば――
「――――ルイ」
参謀の名を呼ぶ。振り向かぬまま黙って頷くルイを認め、ムントは繋げる。
「人に初めてこうした質問をする。お前が俺様の立場なら、ユメミを諦められるか……?」
「ムント!?」
振り向くルイに、ムントは尚も尋ね続ける。
「正直な所……ユメミの事を諦めるべきか、迷っている。だが、決して……決して、忘れたくはない。
 お前の言う通り、見守り続けるだけでは、考え続けるだけでは、俺様は満足できん。
 それでも、ユメミの世界で俺様は存在を保てず、ユメミをこちらに留めるわけにもいかず、現実には…………。
 どう考えるべきか、どうするべきか……情けない事に詰まってしまっている。ルイ、お前が俺様ならば、どう考える?」
言いながら、神妙に構えるムント。聞き終えたルイは噛み付く素振りも見せず、ただ考え込む。
笑いもせず邪険にせず真剣に思案する参謀を、これ程有り難いと思った時は無い。彼は心からそう感じる。
ただ、思索を重ねて放つルイの見解がどのようなものであれ、果たして自分は受け容れられるのか。それだけが不安でならない。
諦めてしまいそうになっている自分。諦めの悪い自分。そのどちらも、ルイの一考を素直に聞けるのか。
(………いや、違う)
意見を求めた以上、聞かなければならない。結果をどうするかはともかく、過程だけは変えられると信じなければならない。
同じ少女に想い焦がれた男。常にこの自分を助けてきた男。その男の言、信じられなければどうすると言うのか。
信じる。信じられる。迷うムントがそこだけ定めた時、ルイがおもむろに口を開く。
「私がお前なら…………ユメミ様を絶対に諦めない」
「ルイ……?」
「ユメミ様をこの世界にお招きするのが能わぬならば、私があちらの世界に行く。
 たとえどれだけ時間がかかったとしても、この世界の後顧を断ち、あちらで存在を保つ方法を見つけ出して、な……」
そこでルイは黙った。
「どれだけ時間がかかろうと、か…………」
反芻するムントに、ルイが尋ねる。
「どのくらいかかるか定かでない間、お前がユメミ様を諦めずにいられるか、ユメミ様がお前を忘れずにいて下さるか、か?」
それは外ならないムントの不安。当たっているが、ひとつ足りない。彼は自ら付け加える。
「……それと、その間、俺様がお前達とどうあるべきか、だ。
 天上を去るならば、黙っているわけにはいかない。いずれは、皆に話さなければならん。それに、今更だが……」
ムントは躊躇いつつも、言い切る。
「………俺様が天上を去ると知れば、皆はどう思うのだろうな…………」
344ユメミは少女じゃいられない2(58):2009/05/15(金) 01:47:53 ID:M1a1mnRa
決して自意識過剰などではない。それは、一国の主として責任も期待も背負うからこそ、考えなければならないもの。
突然の事由、或いは理不尽な理由で主を失う国は、須らく混乱する。グリドリからカリシカに代わったホルグウズがその例だ。
一時的なものにせよ、自らの勝手でそのような事態に陥るのは避けたい。そこに抱くのは恐怖。
(………そうではない、だろうな…………)
気付いた。それより自身が恐れるのは、これまで慕ってくれた民が一転して自分に絶望し批難する事。
いつも見てきた笑顔達が怒りに変わってしまう――それを思えば、辛く痛い。ユメミへの苦悩に苛まれるのと同じくらいに。
「……皆は、俺様を外道だと、裏切り者だと罵るだろうな……………」
口にすれば沈んでしまう。だが、言わずに耐える事はできない。
「……かも知れん」
答えるルイは、俯くムントを見ながら、問い返す。
「しかし、ユメミ様への心を失い諦める事もまた、あの方への裏切りではないのか?」
「――そ、それは…………」
意外な言説に、またもやムントは答えに詰まってしまう。
「お前は実の所、自分の行為で誰かを傷付けてしまうのが耐えられなかったから、今まで悩んできたのだろうな。
 何せ戦闘にあっても、味方の被害を出すまいと、単身で敵に切り込んでしまう危険極まりない男だ。
 そのような王だったからこそ皆も慕ってきた。どれだけ高慢で強引であろうと、そんなお前が見えていたから。だが――」
慰撫する語調が途切れ、ルイの眉間に再び険しさが戻っていく。
「――ユメミ様のもとに馳せるにせよ、天上の為に諦めてしまうにせよ、どちらかを捨てる。
 これが、お前に突き付けられた現実であり、選択しなければならないお前自身の道だ」
「……っ!」
選択。ユメミが去った後にリュエリから呈された予見を思い出すムント。
『近いうちに、貴方は、選択を迫られます』
『重要な選択を、幾つも求められる事になるでしょう』
『その選択を何を以て選ぶのか――選択それ自体よりも、その所以が、貴方にとって大切なものとなるでしょう』
これはその、幾つあるか定かではない選択のひとつ。そして、選ぶ所以は、自分自身で決める。
「どちらが重い、などと、量りにかけられるものではない。それでも、量りにかけなければならん。
 それに責任を負うのは、誰でもない、ムント、お前自身なんだ。誰が傷付く事になったとしても、選ばなければならない」
理解していた。あの夜からずっと、最良の選択などあり得ないと。
だからと言って、どちらか選ばないのか。選べないままで良いのか。
「…………そうだな、ルイ」
「ムント…?」
訝しがる参謀を尻目にムントが考えるのは、愛してやまない彼女の事。
彼女は天上から去った。それは彼との別れを望んだからではない。絶えず見守り続けてきた彼にはわかる。
いつかまた、再び会える時を期待している。来るか来ないかわからないその時を良いものにしたいと願い、日々を励んでいる。
天上を去るにあたり、彼女は何も言わなかった。何も言わず、去る事を選んだ。
(………そうか……)
あの夜、最良の選択云々と思っていながら、自分は何も選んでいなかった。ただ、ユメミの選択に従っただけだ。
345ユメミは少女じゃいられない2(59):2009/05/15(金) 01:48:52 ID:M1a1mnRa
ならば何故、彼女はその選択を選んだか。何故その選択の理由を語る事さえ無かったのか。
それは恐らく、今の自分と同じで、誰かを傷付けてしまう事を恐れたから。ここに来て、ムントの脳裏に確信が過ぎった。
離れたくない。しかし、そうすれば離れ離れになってしまう家族や友人達を彼女は傷付けてしまう事になる。
逆に、彼が彼女の世界へ行けば、王を慕う国民を傷付ける。それ以前に、アクトの性質上不可能だと察していたのかも知れない。
ユメミはその選択で誰がを傷付けてしまうとわかっていたから、敢えて何も言わずに去った。離れたくない、その本心を隠して。
つまりは、ユメミは自分の望みを押し殺し、誰も傷付かない選択肢を取った。そして、今は彼方の地から、密かに願うだけ。
今からすれば、彼女らしいと思う。誰より優しく、求めてばかりの自分を受け容れてくれた彼女だから、確信は納得がいく。
そんな彼女だから、本当の願いを殺せるだけの勇気も決断力も備えていた彼女だからこそ、自分は惹かれた。
ムントは思う。これまで悩んでいたなどという事は無い。自分はただ、彼女に甘えて時間をいたずらに過ごしていたのだ、と――
「――ルイ」
参謀の名。呼ぶムントの瞳から、惑いは消えていた。ルイも察して無言で頷き、促す。
「俺様は、ユメミのもとへ行く。ユメミの世界で生きる方法を、どれだけ時間がかかろうと、いや、急いで見つける」
「ムント……」
ルイの驚きに批難の色は無い。構わず、ムントは続ける。
「だが、天上には成さねばならん事、やり残している事も多い。それらを全て果たしてから、ユメミの世界へ渡る。
 これは、退位を明らかにする際に、魔導国の皆にも、それから、天上の各王にも話す」
「……同意は、得られるのか?」
問う反面、参謀の顔からは疑問の色を全く感じない。知りながら、聞いている。
「ああ、得る。俺様が天上を去るには、避けられない」
「………そうか…………」
黙り込むルイに、ムントは尚も言い、尋ねる。
「俺様が天上を去った後は、お前達に任せるしかない。ルイ、頼んで、いいか?」
尋ねられたルイ。ふっと笑みを微かに零せば、
「いいだろう。お前はお前のすべき事に、心して取り組めばいい」
彼が知ったいつも通りの参謀の姿がそこにある。
「…………すまない。だが――」
彼女への確信に猛り、認めるルイにいくらか安堵しつつも、根本的な問題が残っている以上、ムントの心は休まらない。
「――だが?」
「ユメミの世界で生きる方法、それが見つからない事には……な…………」
「………またいつか、決意が鈍ってしまいそうか?」
「いや……絶対に諦めない、これだけは確かだ。ただ………いつ見つけられるか……正直、焦らずにはいられん」
「………そうか……」
虚心なきムント。参謀は暫く考える素振りを見せていたが、何やら頷き、
「ムント」
「……何だ?」
一瞬躊躇いつつも、ルイは言い放つ。
それは、天上の運命を決める言葉。
それは、彼女の運命を変える言葉。
それは、彼の運命を決定的に変革させる言葉。
「………………方法なら、ある」
346ユメミは少女じゃいられない2(60):2009/05/15(金) 01:49:29 ID:M1a1mnRa
「……な、何だと?」
ルイの言に我が耳を疑ったムントは、動揺しながら、尋ね直す。
「お前がユメミ様の世界へ渡り、且つ、そこで生き続ける方法だ」
ルイの答えは変わらない。時間を割いてそれとなく探していたムントが見つけられなかったもの。何故この男は知っているのか。
「ルイ、お前、どうしてそんなものを知っている!?いいや、それよりも、どうして俺様に黙って――」
はっと言い留まって、ムントはルイの意を悟った。
この参謀の事、これまで言わなかったのには、必ず理由がある。そして恐らく、それはこの自分にあるのだろう。
迷ったままの自分にその方法があると言った所で、ユメミのもとへ行く事を選ぶとは限らない。むしろ、選べなかったと思う。
この男はそれを見越した上で、自分がはっきりと意志決定をするまで伏せていたのだ。
「――細かい詮索はどうでもいい。ルイ、その方法とやらを教えてくれ」
尋ねるムントにルイが平然と答える。
「具体的にどうすればいいかはわからん。古代天上人の秘法らしい。だが、確かに存在する方法だという」
この男がその手に持つ情報ではない。情報を握り、ルイにもたらした人間は、別にいる。
「…………魔導国外の人間か?」
頷くルイ。魔導国で管理する古代天上人の遺物に、そのような秘法は無い。管理者である王、ムントは全て把握している。
ならばそれは、魔導国以外の国家が管理する遺物。しかも、ルイの口ぶりからすれば、その存在を教えた人間が誰か別にいる。
「存在する、というだけで、他には何も聞いていないか?」
「その秘法の概略だけ、だな。詳しい部分までは、流石に教えてはもらえなかった」
古代の技術等は各国に散逸したまま、それぞれで厳重に管理されている。その目的は保護などではなく、封印と呼べるだろうか。
現代の天上世界の文明のバランスを著しく破壊してしまう、極めて危険な代物である。
漏洩防止の為に下手に破棄する事はできず、厳重に管理せざるを得ない。国内外を問わず固く守る事が暗黙の了解とされている。
だからこそ、国外の人間がルイにそのような秘法を教えた理由、経緯に一抹の疑念はあるが――聞き得る限りは聞いてみたい。
「どのような話だった?」
「かつて、天上が様々な世界を支配し腐敗堕落を極めた折り、その天上から逃げようとした天上人達が研究していたものらしい。
 概念的には、時空の壁を超えた瞬間に、逃げ込む先の、天上人が手を出せない世界――
 即ち、アクトを力に変換できない世界で暮らす者達と同じ形質を持つ人間へと自らを作り替える……というものだそうだ。
 もっとも、その準備に要する時間は、超える人間、超えた先の世界によって左右されるということで、
 仮にお前がユメミ様の世界へ行く為にどのくらいの時間がかかるかは、お前でなければわからないという。
 誰にでも可能というわけではなく、やはり莫大なアクトと、それを使いこなす許容量を持った人間でなければ不可能らしい。
 私にその秘法を教えた人間が言うには、今の天上でそれが成せるのは、実際に時空の壁を破った、ムント、お前だけだ、と。
 ただ、その者もその秘法を分析する上で憶測に任せている部分もあるようで、実際には行使してみなければわからんのだろう」
347ユメミは少女じゃいられない2(61):2009/05/15(金) 01:51:20 ID:M1a1mnRa
考証するムント。その秘術の概念、開発されたいきさつ、とりあえずの筋は通っているように思える。
古代の天上人は、他世界から収奪したアクトを用いて絶頂を極めたが、反面、その欲は留まる事はなく、精神を廃れさせた。
全ての古代天上人がそのような状況を享受していたわけではない。故に、逃避を考える天上人が出るのも道理だ。
そして、時空を超えた人間を天上から観測し続ける事で、研究成果を短期長期的に取得し、精度を高めた――という案配だろう。
観測に必要なアクト許容量は、時空の壁を破れる分の量があれば問題は無い。彼が今、ユメミを見守るのと同様のやり方でいい。
ルイの話は信用できる。この男は迷える自分を見て、その動ける範囲内でユメミの世界で生きる方法を探そうとしたのだろう。
だが、ルイに秘法の存在を教えた人間は、現時点では信用できない。
その人間が、何を意図してルイに教えたか。
その人間が、秘法を巧みにでっちあげてルイに話したのではないか。
また、仮にそれらが信に値するとして、その秘法の完成度は確かなものか。研究途中で放棄されたものではないか。
「………やはり、信じるには難しいか…?」
尋ねるルイに、ムントが答える。
「……期待は、したいな………。しかし、それとは別に、あらゆる可能性からの警戒も考えねばならんだろう」
「そうだな………それについては、私も同意見だ」
ルイはムントの対面に座り直し、見解を繋げる。
「秘法の根拠となる現物を見たわけではないから、信用はし切れない。秘法を私に紹介した、その者も、また………。
 だが、現状で――いや、後にも先にも、お前の望みを果たし、ユメミ様にお前を届ける術は、これしかないかも知れない」
確かに、ムントが今まで調べても出て来なかったもの。自力で探すには限界がある。
もし、ムントが他国に協力を仰いだとしても、秘匿すべき古代物である以上、各国が快く応じるとは思えない。
そんな事情もありながら、ルイはここまでこぎつけた。常に慎重を期する男の事、並大抵の苦労ではないはずだ。
「いずれにせよ、ユメミ様のもとへお前が行ける確率は、あるか無いか、だ。ムント……私を信じてはくれまいか?」
信じる、信じない――これもひとつの選択。
「――勿論、信じる、ルイ。だが、今しばらく考えさせてほしい。迷う事はもう、無いのだが、な………」
選択自体は決まっている。しかし、意志を固めてからこれ程早く、ユメミの世界へ渡る事が現実味を帯びるとは思わなかった。
大事な返答になる。だからこそ、勢いで言いたくはない。心を少し整理させてから、ルイに答えたくなった。
「………………そうか……………わかった………」
肩を下ろし、長い息をつくルイ。安んじて脱力する表情に、険しさは全く見られない。
「……ルイ、いつまでに、答えればいい?」
「3日後、次回の大連合の会議までに。それ以降でも構わないが、お前がその人間に接触する名分を作るのが難しくなる」
次回の会議の開催地は、旧連合の一国。接触すべきはその国の人間で、名分と言うからには、王ではない一臣下なのだろう。
古代の秘法が絡む接触であるからには、おおっぴらに動く事は確かに難しい。最上の提案をするルイの懸念は恐らくそこにある。
「わかった、それまでに、考えよう」
答えつつ、ムントはふと考える。
自分が王でなくなれば、ルイの建策を受けるのは、きっとこれで最期なのだろう。
当たり前のように思ってきたが、今振り返れば、どれだけ助けになったか。そして今も、道を切り開いてくれている。
最愛の少女と再会できるかも知れない喜びと同時に、いずれ来る別れの予感を抱かずにはいられない、赤髪の青年がここにいた。

348名無しさん@ピンキー:2009/05/15(金) 23:14:54 ID:aMjnz2gG
ルイ・・男だねぇ。
かっこいいー、泣ける。
349名無しさん@ピンキー:2009/05/17(日) 15:05:22 ID:nKqRil5w
5氏・・・絶対ルイ好きだなww
350名無しさん@ピンキー:2009/05/19(火) 03:22:11 ID:cdtqath+
GJ!!
続きは次スレ?
351名無しさん@ピンキー:2009/05/19(火) 03:23:36 ID:cdtqath+
ageてしまった
ごめんなさい
352名無しさん@ピンキー:2009/05/23(土) 10:18:17 ID:CSFGEPsY
保守待機
353名無しさん@ピンキー:2009/05/23(土) 19:10:12 ID:oFlQ/27C
GJ!!
354名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 10:02:20 ID:HrQVgFoo
ムントスレで見つけて一気に読んでしまった。
エロもシリアスも両方いけるとは...この文章力ただものじゃないな
ルイ好きとは5氏とは話が合いそうだ
そして続編におおいに期待
355名無しさん@ピンキー:2009/05/28(木) 20:31:18 ID:JrgKUgUz
保守age
356名無しさん@ピンキー:2009/05/29(金) 09:28:59 ID:Vb/6WjNj
>>5氏さん、お忙しいのかな?

ほしゅ
357名無しさん@ピンキー:2009/05/31(日) 08:46:36 ID:NbaCixw+
近日中に次スレ立てます。
保管庫の方もやらなきゃですね。
気付くの遅れて申し訳ない。
358名無しさん@ピンキー:2009/05/31(日) 08:58:37 ID:1dxL3o2r
>>5氏、保管庫に収録申請してもよろしいでしょうか?
359名無しさん@ピンキー:2009/06/01(月) 06:58:15 ID:7M+aR83R
保守age
360名無しさん@ピンキー:2009/06/01(月) 06:58:39 ID:7M+aR83R
今度こそ保守age
361名無しさん@ピンキー:2009/06/01(月) 22:08:07 ID:+7WykMB2
ageついでに思ったこと。カプ表記について。
ムント×ユメミっていいにくい

とはいえムンユメってのも語呂悪いしな…

そうだ!ムントの「ム」とユメミの「ユメ」で「夢」ってのはどうだろう?

眠かっただけです。とりあえず>>5氏、あなたは神だ
362名無しさん@ピンキー:2009/06/02(火) 00:22:05 ID:NkYjJSBX
>>361
いやー、さすがにそれは…ヘンだとオモw
363名無しさん@ピンキー:2009/06/03(水) 00:04:21 ID:AC7UC7zN
あうー、続きが気になるー。
ハッピーエンドなら何でもいいから早く終わらせてくれー。
お願いー。
364名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 02:02:10 ID:PeN95RTH
365名無しさん@ピンキー:2009/06/05(金) 08:09:35 ID:nBYLXv4x
ほしゅー
366357:2009/06/05(金) 14:59:09 ID:UvuJUMAr
5氏から反応がありましたら次スレ立てることにします。
367名無しさん@ピンキー:2009/06/08(月) 10:34:46 ID:tJfAgLAw
スレ落ちは勘弁。続きまだー?
368名無しさん@ピンキー:2009/06/08(月) 11:29:38 ID:Quu7bGUO
飽きちゃったのか?続きが浮かばないのか?
369名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 22:57:29 ID:av1xv8Vl
370名無しさん@ピンキー:2009/06/11(木) 11:30:41 ID:0GluzpvW
あーあ、もう終わりかな
371名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 01:14:36 ID:mT+kzlgH
あと3日書き込みがなければ、おいらが書こうかな。
いーい?
372名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 05:57:10 ID:cH+LGzFG
>>371
書いていただけるのなら是非お願いしたいです。
次スレ立てた方がいいでしょうか?

それにしても5氏はいったいどこに…。
373待ちきれずに書いた人:2009/06/13(土) 01:25:40 ID:jC1PLKIw
暗闇の中でユメミは目覚めた。
「ここどこ・・・?」
体を起こし、瞳には見渡す限り闇が広がる。恐怖が心を支配し始める。
「誰か・・ここはどこなの・・・!!」
叫びは虚空を掴み、辺りに響き渡る。

いや!こんなの・・誰か・・・・!!!

ユメミは地面に突っ伏してしまった。すると闇に光が灯った。
「ユメミ・・・。」
懐かしい声、優しい響き。忘れもしない愛しい人の声音。
「ムント様!!」
顔を上げ、涙に濡れた目を声のする方に向ける。
「ユメミ!」
今度は、はっきりと聞こえた。目の前にムントの姿が。
「ムント!!」
ユメミは彼に抱きついた。しっかりと、もう離さないというかのように。
「ムント、ムント様・・・!!」
彼の匂いがする。あの夜と同じ。ユメミは顔をすり寄せた。
「会いたかった!ずっと・・もう会えないかと思ってた。ああ・・・。」
「すまない、ユメミ。お前にこんな思いをさせてしまった。許してくれ・・・・!!」
「いいの、ムント。あなたを好きになって良かった。だってこんなにも幸せな
気持ちになれるんだもの。私、こんなの初めてよ・・・。」
「俺様も・・こんな苦しい想いをした事はなかった。胸が張り裂けそうだ!
それなのに何故こんなにも幸せなんだ・・・・・!!」
磁石が引き寄せられるように唇を重ね合う二人。やがてゆっくりと倒れて
いった。
「ムント様・・・。」
ユメミの閉じられた瞼に水晶のような涙が一筋流れた。
たとえ夢でもいい。今この時を感じていたかった。
彼の存在を。


374待ちきれずに書いた人:2009/06/13(土) 03:00:15 ID:jC1PLKIw
「あ・・・・。」

闇の中に浮かび上がる男女の裸体。男に抱かれ、少女は震えていた。
それは未知なる世界への怯えではない。与えられ、満たされていく愛の悦び。
彼の冷たい唇が、妖しい舌が肌を這う度に、少女は何度も細い声を上げた。
ユメミの胸の頂にムントの唇が触れ、淡い薄桃色の実を含んだ。
「ああ・・・!!」
反り返り、形の良い胸を天に突き出すユメミ。
舌で転がし、甘噛みする。時には強く吸う。母性本能を擽るような行為。
彼女の性感帯の一つ。
「んっ・・やっ・・・そんなにしたら・・・・!!」
「どうなる?見せてみろ。」
微かに乳首に唇を触れさせながら言葉を漏らし、再び実を弄ぶ。
右手は乳房を揉みながら、時々人差し指で乳首に触れる。
電流とも、くすぐったさともいえぬ甘い刺激にユメミは酔いしれた。
「あんっ・・いや・・・あぁん・・んぅ・・・・!」
ユメミの声が何とも甘い響きになる。その声が男を狂わせる。

ちゅうっ・・ちゅぱ・・ぴちゃ・・・。

「んっ・・・はっ・・う!んん・・・。」
ようやく唇が離れ、その濡れた唇から蜘蛛の糸のような筋が引く。
そう、今のユメミはまさに蜘蛛の巣に囚われた美しい蝶のようだった。
ムントの微かに照らつく赤い舌がユメミの白い胸からゆっくりと腹に
這い、小さな臍の中を優しく舌先で愛撫する。
「ん・・ふっ・・・あ・・・・。」
そんな事をされたのは初めてで。滑りのある生き物にお腹を掻き回されて
いるようだった。
彼の右手はユメミの白く細い足に触れ、太股から爪先まで掌で辿っていく。
背筋がゾクゾクするような感覚。
ムントの唇はユメミの足に移動し、微かに触れさせながらキスをし、爪先を
啄ばむ。そして足の指の間に舌を這わせた。
「だめ!そんなところ汚い・・・!!」
「お前に汚いところなんてない・・・・。」
濡れた生温かい感触。その生き物は次の指へと移動する。

くち・・くつ・・・。

跳ねるように指の裏、爪、足の裏へと移っていく。好き勝手に暴れる生き物。
異様な滑ったくすぐったさと、悪寒のような快感に苛まれる。
「ああ!やだ!!ムントぉっ、ああんん!!」
少女の喘ぎに満足したのかムントの舌が離れ、しなやかに獲物に近づく獣
のようにユメミの耳に唇を寄せ、その可憐な耳に舌を這わせた。
「まだまだこれからだよ、ユメミ・・・。」






375待ちきれずに書いた人:2009/06/13(土) 04:13:24 ID:jC1PLKIw
耳元で囁くムントの声。それは更なる攻めの幕開け。
くちっ・・くち・・・・。

耳の穴、耳たぶを舐り、頬を舐める。彼の息が掛かる。
その息すらも春の風のように思える。心地良い感覚。
だがそれは、ほんの一瞬の事。
舌がそのまま右の首筋に引かれ、冷やりとした感覚を残し、そこにムントは
そっと口付けた。
「あん!ん・・・。」
ユメミはここも感じる。強く唇が押し付けられ、貪るように強く吸った。
噛み付くように。食らうように。
「あふんっ・・・ふっぅ・・う・・・・。」
甘えるような声。誘われるように次は左の首筋を攻め、痛みすら感じるほどに
きつく吸い上げた。
「んっくっ・・あう!あ・・ああ・・・!!」
少女の頭が反り返る。荒々しい男の攻めに応えるように。
「はあ・・はっ・・・!」
彼の荒い息。
ムントはユメミの胸に顔を埋め、両頬を強くすり寄せる
「好きだ!ユメミ!!愛してる・・・!!!」

愛している。

それはとても待ち望んでいた言葉。一番聞きたい確かなもの。
目をうっすらと開け、夢見ごこちで響いた彼の想い。
「私もよ、あなたが大好き。」
ムントの頬に手を添え、顔を上げる彼と目を合わせる。
愛しさと切なさを秘めた彼の瞳。
「愛しているわ・・・。」
嗚咽を含んだような誠実なユメミの声。
少女の瞳から涙が零れる。
二人は激しく唇を重ねた。お互いの存在を確かめ合うように。
やがて入り込む柔らかいムントの舌。流れ込んでくる唾液をユメミは飲み下した。
目を閉じた少女の口の端から透明な雫が一筋流れ落ちる。

大好き・・・ムント。

口腔に広がるムントの舌が暴れ回る。それに応えて、少女の可愛らしい舌も
彼の舌に絡む。
彼の舌が歯列をなぞり、歯肉を舐める。
少女は激流のような男の熱い口付けに、ただただ、酔いしれていた。







376待ちきれずに書いた人:2009/06/13(土) 05:48:31 ID:jC1PLKIw
「ん・・・あ・・・・。」
既にユメミの秘所は濡れ、蜜を滴らせていた。
痛みすら感じるほどに、熱く疼いている。
ムントの頭が徐徐に下がっていく。
彼の唇が一番触れてほしいところに触れた。少女の体が強張る。
薄い草むらにキスをし、ユメミの足を大きく広げた。
「あっ・・!やっ・・・!!ムントぉ!!!」
愛撫によって濡れたそこは、光る泉が湧き出て、男を誘っている。
憑かれるように見つめ、それに引かれるようにムントは唇を寄せた。
「やだ!やめてムント・・・!!」
「もう遅い・・・!」
「あああ・・・・・・!!!」
制止も利かず、彼の舌が肉芽に触れた。
電流のような刺激が少女を襲う。

ぴちゃ・・くちゅ・・・。

舌が敏感な赤く熟れた部分を舐め、舌先でつつく。
「あっ、んっ、はぁ・・・!」
芽の上から舌をゆっくりとずらしていき・・・。
口に含まれた。
「やっ!いやぁ!!そんな・・あん!!」
アメ玉をしゃぶるような舌の動きに少女はただ翻弄され、喘ぎ、涙を流すしかなかった。

ちゅぷっ・・・・・。

可愛い芽から唇を離し、舌を矢じりのように尖らせて秘所の奥を抉る。
かつて自分が愛し、貫いたそこを。舌で少女の花園を犯していく。
それは強い刺激となり、愛液の分泌を促す。
湧き出る泉をきつく吸い上げ、人差し指を突き入れた。
「あう!ああうっ!あ・・ん、あはぁぁ・・・!!!」
次第に慣れていき、腰が浮いていく。
彼に捧げるように。もっと愛してほしいと。
指を2本に増やし、舌を更に奥へとねじ込み、抉っていく。
愛液がムントの顎を伝い、地面に滴り落ちる。

貪欲に、獣のように。

ちゅぴっ、ちゃぽっ、くちゅうぅ、ちゅるっ、ぐちゅううう!!!

「あん!ああ!!ああうっああああああああああ!!!!」

快楽の証を噴き出たせ、少女は絶頂を迎えた。

「はあ、は・・ぁ・・・。」

愛らしい果実のような唇から漏れる息。

何とも妖艶なその姿が、ムントの下腹の熱を煽る。


ユメミ・・・もう、容赦しない・・・・。





377待ちきれずに書いた人:2009/06/13(土) 06:44:15 ID:jC1PLKIw
ユメミが欲しい。

もうムントの自身は限界に達していた。
彼の自身は熱く尖端から流れる液で濡れそぼち、猛々しい鎌首を擡げていた。
ムントはユメミの両脇に手を添え、近づく。
少女は意識を取り戻し、うっすらと目を開けた。
彼女の美しい瞳。彼だけを見つめている。
卑しくもそんな彼女に欲情してしまう自分がいる。
灼熱の棒で早くユメミの中に入りたいと。
そんなムントの荒ぶる心を察したのか少女は心得、自分からゆっくりと足
を広げていく。
少し恥じらいを込めて。
「いいよ・・ムント。来て・・・。」
秘裂を指でなぞり、その細い指で花弁を広げていく。蜜に濡れたそこを。
大胆な少女の行動に少年は戸惑う。
「ユ、ユメミ!」
「お願いムント。」
「俺様はお前を壊してしまうかもしれない。それでも・・・!!」
「いいの、私を壊して。あなたの好きにして。めちゃくちゃにして・・・・!!」

この体に刻み込んでほしい。
あなたの全てを。








378待ちきれずに書いた人:2009/06/13(土) 07:22:41 ID:jC1PLKIw
「ユメミ・・・!!」
少女の足の間に体を滑り込ませ、熱く滾った尖端を潤みきった秘所に宛がう。
そのまま一気に貫いた。

ずッ!!

「ああ!!」
少女は歓喜とも悲鳴ともつかぬ声を上げた。
愛しさを込めて。
「はっ・・くっ・・・!」
ムントは自身から伝わる痛みにも似た刺激に耐えた。
あまりにも強い快感。すぐに達してしまいそうだ。
一旦身を引き、再び穿つ。根元まで埋めて。

ずぶ・・ぐちゅぅ・・・・。

「あ・・はあ・・・んん・・・。」

少女は快感に身を捩じらせ、胸が悩ましく揺れた。

ずずっ、ずぶっ、ずぶちゅぅ、ずぷ、ずりゅう・・・。

「ユメミ・・ユメミ・・・!!」
「ああ・・、は、ムン・・ト、ムントぉ!!」
お互いの名を呼びながら快楽に身を委ねる。
ユメミの中は熱い。彼を締めつけ、からみつく。
ムントの自身は硬く、猛獣のようにユメミの中で暴れた。
「あ、熱いよムント!ムント・・の、とても熱い・・・!!」
「俺様も・・だ!お前が俺様にからみつい、て、う、ああ・・・・・!!!」
少女の両足を抱え上げ、更に深く、深く貫いた。
「あ・・恥ずか・・し、い、こんな、ああ!!」
「綺麗だユメミ!こんなに乱れて・・、もっと、もっと声を聞かせてくれ!!」
妖しい笑みを漏らし、ユメミを攻めたてるムント。もう止まらない。


379待ちきれずに書いた人:2009/06/13(土) 08:02:58 ID:jC1PLKIw
「あん、ああん!う・・あっあ・・・、ああ、んん、はっあっ・・・!!」
動きはまだ止まない。彼が満足するまで。猛った赤黒い剣は、衰えを見せようとは
しなかった。

そんなにも私を求めてくれるの?

激しく腰を突き動かすムント。

嬉しい・・ムント様・・・。

気も狂わんばかりの快感に、少女は涙を流す。
彼の首に抱きつきながら。

ああ、どんなにこの日を待ち焦がれた事か。
これは夢・・・?それとも・・・。

「あああ!うう・・ああん!!あふぅ!!!」

ムントは捉えた唇を貪る。サクランボのような唇を吸う。

「あっ・・・!」

唇を離し、彼は体勢を変えた。ユメミを四つん這いにさせ、背後から貫く。

ずちゅっ、ざっぷ、ずぐちゅうっ、ずずっ、じゅょぶっ、!!

「あはあっ!ふっう・・ん、ああ!あふ!あああ!あん!!」

後ろからは初めてだが、すぐに慣れていく。愛液が滑りを良くし、少女
を悶えさせた。
ムントは右手で自分の体を支え、左手でユメミの胸に触れた。
「ユメミ・・こんなに乳首を硬くして・・・いけない娘、だな!感じて
いるの・・か!?」
「あ・・、いや!言わないで!!やだぁ!!」
「そんな娘、は、こうしてくれる!!!」
貫きながらユメミの敏感な実を摘み、捏ねくり回す。
「あう!あん!!」
ムントの汗がユメミの背中に滴る。

先ほどと変わらぬ妖笑と、魔性を秘めた微笑で。

380待ちきれずに書いた人:2009/06/13(土) 08:46:49 ID:jC1PLKIw
白い肌を羞恥に染め、少女は色めきたつ。
残酷なまでに少女の中に眠る女を引きずり出す男の手によって。

「あう!あ・・」

ムントはユメミの体を起こし、後ろから貫いたまま互いに座るような格好
をとらせた。
ムントの顔が見えない。少し寂しい気がする。
彼の右手は少女の胸に、そして左手は繋がっている秘所へと伸ばす。
「こちらのも・・硬くなっている。可愛いよユメミ。この下もこんなに
濡れて・・・しっかり俺様を銜えて・・・・。」
「ああ、ムント・・・そんな事、口にしないで・・やだよぉ・・・・。」
嫌と言いながらも、少女はどこか背徳的な危険な気分に陥りそうになっていた。
再びムントが動き始めた。
「あ!はっ、ああん!!」
「ユメミ、どこを突いてほしいか言ってみろ!!」
「え・・あ・・、そ、そんな・・・!あああん!!!」
彼の手が、指が、少女の胸の可愛い実を摘み、擦る。
秘所に潜む芽を探りあて、摘み、引っ張り、押しつぶす。
「さあ、言うんだユメミ!!」
「わ、わかんない!言えないよぉっ、ムントぉ!!」
男によって少女の花が開く。女という花が。
ユメミはまだそれを知らない。




381待ちきれずに書いた人:2009/06/13(土) 09:32:17 ID:jC1PLKIw
ムントの自身は確実に少女の気持ち良くなるところを突いていた。
ユメミはそれに気づき始める。

「どうだ・・ユメミ。俺様の・・・。いいだろう?」
熱い息を吐きながら、少女の耳元で甘く囁く。
「あ・・ム・・ント。」
蕩けるような目をし、音楽が響くような心地で彼の言葉を聴く。
「どこがいい?言ってごらん。」
荒い吐息と汗にまみれたムントの整った顔。赤い髪に汗の雫が滴って、男ながら
妖艶に見せた。
魔性の微笑みを湛えて。
「そ・・こ・・、右のほ・・う。」
「ん・・・?そこを?どうしてほしい?」
「うごい・・て・・・」
「聞こえないぞ。もっとはっきり・・・。」
「もっと・・・動いて!そこを強く突いてぇ!!」
少女の中の彼のものは、そこを目がけて動き出す。
熱く激しく、壊れるまで。
「ああ!いい、いいの!!そこよ・・ムントぉ!!」
「・・ぅ・・ここがいいのか、んっ・・・!」
愛しき人の締めつけに、ムントもまた快感を感じていた。
「そこ・・そこなの。ああ!!ムント様ぁ!!!」
「ユメミ、ユメミ!!俺様の・・可愛いユメミ!!!!」
二人を切り離せない部分から愛液が飛び散る。
ユメミは叫んだ。心から。光る涙を流して。
「ムント様・・愛して、愛しています!!あなたを、あなただけを・・・!!」
その言葉にムントの化身が硬さを増した。張り裂けんばかりに。
「ああ、ユメミ・・お前は・・・!!」


何故こんなにも愛おしい。


彼を愛の淵に落とし、狂わせ、虜にする。

どこまでも。









382待ちきれずに書いた人
気持ちいい・・・。こんなの初めて・・・・・。

最初に彼に抱かれた時とは違うエクスタシーを感じていた。

犯されるような抱かれ方をされているのに、嫌じゃない。
寧ろ、もっとしてほしい。
ムントあなたの・・・。

「あっあっ!あああ!!」
意識が現実に引き戻される。
彼の激しい躍動によって。
「ユメミ・・出すぞ!俺様の想いをお前の中に・・・!!」
「ああ、ムント!ムント・・・!!」
彼の頭に左手を添える。
一際強く穿つ。
「あ!・・あああああ!!!」
「う、ううっ・・・・・・!!!!!」

ドクン。

ビクンと少女の美しい肢体が震えた。
繋がった場所から白い液と半透明の液が混ざり合って流れ出す。
二人の想いを一つにして。

「あ・・はあ、はあ・・・ん・・・。」
息を整え、ユメミは後ろのムントの方を振り向く。
ムントもまた荒い息を吐いていた。
「ムント・・・。」
ユメミへの愛しみと情欲に濡れたその面。
少女は艶かしい瞳で男を見つめる。濡れた葡萄のような唇をして。
彼は堪らず、少女の唇を奪っていた。
少女は男の頭にやった左手に少し力を入れて、自分に押し付けた。
この瞬間を逃すまいと。
ムントによって女になったユメミの、確かな成長であった。