ほむ。GJ!
最近ss読むと何故か勃起する
エロいのなら普通じゃないすかね
おれ最近てきすとが一番使用頻度高いんだけど
>>831使用頻度て。
何に『使用』するんだよ……
もともと別所に序盤だけ書いてたんですが、書いてる内に内容がズレて来たんで、こっちに投下。
※厨二でポエムなんで、苦手な方は酉かタイトル『白と黒のクラウディア』でお願いします。
1
掌が良い。と拳の先人達は言う。
掌底、平拳、正拳、抜手、指拳。
拳の握りは数有れど、掌底こそが相手を選ばず確実にダメージを与える術(すべ)だと。拳の先人達は言う。
その気になれば、女子供でも使いこなせる拳。
筋力では無く遠心力。強靭さでは無く柔軟さ。
外からでは無く、内から壊す掌の拳。気を纏えば浸透勁へと変わる臨機応変な八卦掌。
そこまでにメリットが有り、目立つデメリットは何も無い。なれば拳の先人達は言うだろう。「掌こそが最強の拳だ」と。
しかし、はたしてそうか?
異議を唱えるのは若き拳人。
掌が良いのならば何故、他の拳が存在するのか?
平手、正拳、抜手、指拳。それらが掌と同等に必要だから存在するのではないか?
本来は使い手の修練差だけで、五拳に差は無いのではないか?
そこで若き拳人は、「なればこそ」と思う。
掌と対極の拳、指拳を極める事こそが、新たな拳の開拓に繋がるのではないのかと。
母指(ぼし)、示指(しし)、中指(ちゅうし)、薬指(やくし)、小指(しょうし)。その中で使うのは一本。母指のみ。
「だがしかし」、
それを見た拳の先人達は嘲笑う。
相手の身体が鋼の様に固ければどうするのか?
鍛え上げられた肉体に指一本の指拳は有効なのか?
そう問われ、若き拳人は嗚呼(ああ)と哭く。
拳が衰退していった過程に心から嘆いた。
そんな考えだから拳は衰退するのだと。
だから頼らねばならない、氣に。
だから武の最強の座を渡さねばならない、魔法(ペテン)に。
だから証明せねばならない、最強の武を。
生涯の殆どを鍛練に費し、拳人は拳神と成る。
そして現代、その拳と意志を受け継ぐは一人。
受け継ぐは指拳。完成された拳の集大成。
受け継ぐは証明。引き起こす武の下克上。
「この世に仇成す邪悪を穿つは……」
伝えられし積年の願いが、代弁者を代えてここに成就する。
「拳神四分家が一つ、祁答院家現当主」
さぁ、現代の拳神よ……
「推して参るッ!!」
最強を証明せよ。
2
その早さ、天翔ける星の閃光。
四の腕と四の脚から繰り出される無呼吸連撃。
相手を畳み掛けるべくして放つ無制限弾膜。
『喰らえ』『喰らえ』と、一撃毎に祈りを付加して擲(なげう)たれる会心の一撃達。
されど見よ。
その祈りは高望みである。
そして知れ。
その願いは決して叶わぬと。
「くッ、どうなってんのよ!!?」
責め手は二人、受け手は一人の圧倒的有利な展開。
「全力で飛ばしてるのにっ、どうしてっ!!?」
責め手は二人、受け手は一人の圧倒的有利な展開……だった筈。
優劣は直ぐに五分と成り、
「純粋な殴り合いで、祁答院の名に勝てると夢見るなッ!!」
責め手が一人、受け手が二人に。狩る側と狩られる側が事実シフト。
二人が繰り出す拳と脚は、攻撃する為では無く、攻撃を防ぐ為に出されている。
「ライト、この距離で打ち合うのは!!」
拳神が放つは命奪の拳。
指拳を放てば肉を抉り、
正拳を放てば骨を砕き、
平手を放てば管を裂き、
抜手を放てば臓器を削る。
「姉さんッ!? クソッ!! ボクが押されてる? 引くっての!?」
どれもが必殺。
もし拳神の猛攻を凌ぐ手立てが有るとすれば、それは純粋な身体能力。幾年の歳月を鍛練に費やして得られる身体能力だけ。
百歳やそこらのガキではどうしようもない、まして魔法(ペテン)に頼るなど愚の骨頂。この状況では糞の役にも立たない。
だが、意識を高め、簡単な一節魔法を使うとしての詠唱、魔法の名唱、放つ動作。この四行程を僅か0.5秒で行える者が存在する。
一部の才有る者と人の力を超えた者。拳神と対する二人も漏れずに該当する。これが最速。最速の発動時間。
されど悲しいかな。拳神を前にして0.5秒と言う時間は、秋日に夜を願う蛍の命よりも長い。拳神は0.01秒で相手の喉をブチ破るだろう。
他の武では追い付けない……百分の一、千分の一の世界がここに有る。
神殺しを最良の糧に、最強の武は解答されるだろう。
3
『白と黒 クラウディア』
【白色悪夢〜LightMare Syndrome〜症候群】
12月23日。
ひらひらと初雪が降った。
街はゆっくりと白に染色され、唯一色のメイクアップを施して行く。
「すごいね、ボクを見つけるなんて」
そして一人。
降り続く雪に誘われて、白色の街に導かれて、降り続く粉雪の中、少女と出会った。
「ご褒美に、『君の願いを叶えて』あげるよ。あっ……勿論、代償は貰うけどね」
高層ビル間の細い路地奥。数メートル前後で二人は対峙し、互いに姿を確認し合う。
「さぁ、願い事の準備は出来たかな?」
少女の髪はシルバーアッシュ。根元まで同色の天然ショート。顔の幼さや身長から推測すれば、年齢は15程度だろう。
服は白地の『タンクトップ』で、胸元にアルバのロゴが入り、ホワイトゴールドのスカルネックレスを首から垂らす。
パンツとブーツも白で統一され、白の風景に現れた白の支配者。
「良い夢を……祁答院(けどういん)」
少女は真っすぐ前に左手を翳し、『背中に生えた白い双翼』を大きく広げる。
途端。
「永遠への手向けだ、ボクの名を刻んで落ちると良い」
グラリと、全身の力が抜けるのを実感。
膝から崩れ落ち、視界の中すらも白に侵される。
「ボクの名はライトメア=フィアード。白色悪夢のライトメアだ」
耐え切れず……
思考回路は、闇に落ちた。
4
太陽の様に明るい笑顔を持つ貴女。その活力が僕にまで感染する。今日も頑張ろうって気にしてくれる。
LightMareDays 1日目
眩しい程の白。朝の陽光を浴びて、今日も俺は意識を呼び起こす。
「ふあぁ……っと。ううっ、寒い寒い」
一声を発し、伸びをした処で身体が震える。
「まぁ、寒い筈だよなー」
理由は即効で身に染みる。俺が寝て居たのはリビング。
椅子に腰掛け、テーブルに突っ伏しながら寝て居たのだ。
「12月24日って言ったら、すっかり冬だ」
テレビも点いたまま。朝のニュースでクリスマスイヴ特集が組まれているのを見て、今日で有る日付を知る。
「おはようございます、お兄ちゃん」
「んっ、おはよう紫琉」
聞き慣れた声に名を呼ばれ、腰を上げてから挨拶を返す。
障子を開けて部屋に入って来たのは双子の妹、紫琉(しりゅう)。
黒く長い髪に、白く柔らかな肌に、切れ長でウサギのように赤い瞳。そして女を意識付ける最高のプロポーション。
んなだから、双子なのに俺と全く似てない。
「もうっ、またリビングで寝てっ……ふふっ、こまったお兄ちゃんですねぇ♪」
ここは仙台の街外れ。俺ら家族が経営する温泉旅館。
でも今日から暫くは客も取らず、紫琉と二人きりで過ごす事になっている。
「今日ぐらい、朝から外食にしよう」
友人とも会わない。平坂とも瀬戸山とも霧……きり、キリ、きりかわ、だったっけ?
5
違うな、きりかわじゃない……んっ!? 待て待て。何で名前を間違えるんだ? もう一度、ちゃんと、思い出せ!
いや、『思い出せ』ってこと自体がオカシイ。オカシイ。何かが、オカシイ。
「お兄ちゃんどうしたんです? 固まってますよ?」
紫琉の問いすら答えれない。それまでに不可解。それまでに不理解。刹那で陥った最高級品の疑心暗鬼。
「ふぅぅっ、はぁぁぁっ……」
落ち着け、落ち着け、落ち着け。
即座に深呼吸で気を落ち着かせ、再度その名前を羅列させる。
落ち着けよ、ゆっくりで良いんだ。ゆっくり、ゆっくり、名称しろ。
ひらさ×、せと××、き××……あれっ? さっきと違う気がする。
最初から、もう一度。
な×、も××、×××、××××××××××××××××。
数少ない友人の名が、親の名が、出て来ない。例え名すら出て来ない。
「ッ!?」
一筋垂れて、頬に汗さえ伝う。この寒い冬に汗……どんな意味か自分でも分かっている。
だから俺は、思い出せない不安を拭いたくて、
「紫琉、今日ってみんな何してるんだっけ?」
その解答を紫琉に求めていた。
「えっ……と、お兄ちゃん?」
表情で分かる。これも駄目。これもオカシイ。紫琉はオカシイ台詞を紡ごうとしている。
「『みんな』って、誰の事を言っているんですか?」
畜生。やっぱり言った。紫琉も忘れているのか?
「ほらっ、父さんとか母さんとかさ……」
まだ諦めれない。紫琉が別の意味で解釈した可能性も有る。
頼む、答えてくれ紫琉。俺の不安を払拭してくれ!
「あらっ……お兄ちゃん『何を』言ってるの? 私達は、ずっと二人だけで生活して来たじゃない」
本当に分からないと言った顔で返してくれた問いの答えは、本当に分からない問いの答え。
ずっと、二人で?
ずっと、二人で。
ずっと、二人で……
「そう……だったね。ゴメン紫琉。何だか寝ぼけてたみたいだ」
そうだ。俺と紫琉は、ずっと二人だけで暮らしていたんだった。『みんな』何て最初から居ない。
「もうっ、今日ぐらいはしっかりしてくださいね」
「ああ、わかってるよ紫琉。今日は特別な……日だから」
一年で一度の聖夜。こんな神聖な夜になら神様も目をつむっていてくれる。
例え兄妹でも……愛し合う二人が育む、禁忌とされる行為を。
6
月の様に優しい微笑みを持つ貴女。その気丈な言葉は、僕の身体を落ち着かせ、暑くする。
明日になれば、また太陽の様な笑顔を見せてくれると信じて、今日も僕は眠りに着く。
そんな紫琉に、これ以上何を求めたら良いのだろう?
「寒くないか紫琉?」
サラサラと冬なる冷気の風が、頬と肩を撫でて吹きすさぶ。
「私は暖かいですよ。お兄ちゃんは、寒いですか?」
舞い落ちるパウダースノーは、それだけで冷たさを連想させて体温を低く誘導する。
そんな街中。紫琉はジーンズにブーツ。ダウンジャケットを羽織り、俺もお揃いのダウンジャケット。
「いや、暖かいよ」
街を歩く俺達は、きっと兄妹に見られていない。
紫琉は俺の左腕に身を寄せて、微かな隙間も空けない様に両腕でしっかりと抱いて歩む。
俺の鼓動は紫琉に聞こえて、紫琉の鼓動は俺に聞こえて。相乗効果で心拍数は更に上昇。顔は紅潮し、身も心も暖かく。
「これから、どうするんですか?」
紫琉は俺の上腕に頭を預けながら、ショッピングビルの液晶モニターで『2時30分』と言う時刻を確認して、信号待ちの次行動選択を促す。
「ん……紫琉は行きたい所とか有る?」
二人で同色の黒いダウンジャケットを羽織り、温泉旅館を二人で出て、二人一緒にファーストフードで遅めの朝食を取ったのが11時。
そこからクリスマスイルミネーションの施されたセンター街でウインドウショッピングをして、長い信号待ちの今に至る。
「私は……お兄ちゃんと離れなくて済む所だったら、本当にどこでも良いんです」
俺の顔を上目で見つめ、離れたくないと願う妹の顔は、焦がれる程に愛しく思えて……
「紫琉と離れるなんて、考えもしなかったよ」
甘ったるい台詞を囁き、微笑んで紫琉の瞳を見つめ返す。
「おにい、ちゃん……」
紫琉は潤んだ瞳を静かに閉じて背伸びをし、
「紫琉……」
俺も僅かに顔を下げ、妹の頬に右手を添える。
「ずっと、好きだった」
それに今まで言えなかった告白を加えて、
「「んっ……」」
唇を重ね合った。
温もった声さえも重なる、とても神聖で、禁忌とされる行為。
横を通り過ぎて行く視線を気にせず、気にならず、時間さえも止めて、二人だけの世界で愛を唄う。
「んちゅっ、はぁっ……信号、また赤になりましたね」
惜しむ様に唇の重ねを解き、俺達は揃って目立つ赤を見る。
「ああ、ゆっくり行こうよ。まだまだ今日は長いから」
言い終わる直前に赤は消え、人波を動かす緑に移り変わった。
そして俺は、幸せな時を進む――
二人で恋愛映画を見た。人気が無いのか、客入りの少ない作品だったけど、俺達は充分に楽しんだ。
愛し合う義理の兄妹が、周りの祝福を受けて一緒になる話し。
どんなに幸せなんだろうと、画中の二人に嫉妬しながら、決定済みのハッピーエンドを見守ってた。
兄と妹の結婚式。現実の俺達には決して許されない背徳の儀式。
紫琉は俺の左手に自らの右手を乗せたまま、声を殺して涙を流す。
遠い日の紫琉と交した約束。『大きくなったら結婚しよう』。そんな幼い子供の盟約すらも無に返す、くだらない法律が存在する現実。
ああ……
ああ……神様どうか。
ああ、神様どうか教えてください。いったい俺達は、どこに行けば許されるのですか?
哀れな小羊達は、どこに行けば愛し合えるのですか?
小羊達の愛し方を、どうか教えて下さい……
7
LightMareDays 2日目
眩しい程の白。朝の陽光を浴びて、今日も俺は意識を呼び起こす。
「ふあぁ……っと。ううっ、寒い寒い」
一声を発し、伸びをした処で身体が震える。
「まぁ、寒い筈だよなー」
理由は即効で身に染みる。俺が寝て居たのはリビング。椅子に腰掛け、テーブルに突っ伏しながら寝て居たのだ。
「12月24日って言ったら、すっかり冬だ」
テレビも点いたまま。朝のニュースでクリスマスイヴ特集が組まれているのを見て、今日で有る日付を知る。
確か昨日は紫琉とデートしたんだ。ウインドウショッピング、映画、高級レストランで食事、その後はラブホテルで紫琉と……ん?
何か記憶が抜けてる。紫琉と一緒に寝た筈なのに、どうして俺は自宅で目覚めているのか? そもそも昨日は何でデートしたんだ? デートするなら、『イヴで有る今日』だろうに。
「状況を、把握する必要が有るな」
椅子を引いて起立し、パジャマから着替える為に自室へと向かう。
オカシイ。嫌な……予感がする。
「紫琉、まずは紫琉を探さないと」
行動を起こすなら今だ。
思考能力が『正常』な今だ。
動いて、考えて、結論を出せ。
何を考え、どう動くべきなのかを……
8
「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
深い呼吸で溜め込まれた脳内酸素までが、小休止の無い運動で尽き朽ちる。
「はぁっ、はぁっ、っ……ぐはぁっ!!」
短いインターバルも取らずに走り続ければ、言わずとも出て来る当然の結果。
もう何分走った?
覚えていない。
何時から走った?
考えたくもない。
視線をズラし、液晶モニターで映される時刻が、11時45分。旅館を出たのが11時。
簡単な算数。やっぱり疲れる筈だ、こんなに走ってるんだから。
雪が降り止み、夜の冷感温度でアイスバーンに変化した歩道。
そこを俺は、
「どこ……っはあっ、に、居るんだよ紫琉!」
12時間45分も走り続けたのだから。
「しりゅ、うっ……」
終に両足は動かなくなり、激痛を上げて中断を申告。
日付の変わる空を仰ぎ、異常な呼吸を正常に整える。
街には俺が一人だけ。他には誰も居ない。後は何処かに居る紫琉。
そう。この世界は、俺達二人で出来ている。
後は存在しないし、『後』なんて無い。
記憶回路で覚えてる人名は、自分の名前と妹の名前だけ。たったそれだけなのに、それだけで満足してる。
誰にも咎められない。
誰にも非難されない。
この世界には二人しかいないから。
二人しかいないからオカシイ。
俺が立ち止まった先、横断歩道の向こう側。ソイツは佇む。
全身を白で纏め、視界に現れて異端を晒す。
俺と白との距離は、目測で二桁メートル弱。
読唇術を会得してる訳じゃないし、声が聞こえて来る訳でもない。でも分かる。白は口角を一字一字はっきりと動かし、俺に意味を理解させる。
「う、た……」
言葉は5文字。
「が」
視力は余り良くないし、読み違えてる可能性だって有る。でも解る。
「う、な」
意識下に直接で刷り込むかの如く、白の言葉が頭に響く。
「うた、が、うな?」
奴の言った台詞は、
白の放った初言は、
「疑うな!?」
その存在以上にオカシイ内容だった。
9
「どう言う……事だよ畜生」
分かれ、分かれ、解れ。
この状況を、この現状を!!
「畜生、畜生……」
分かる、分かる、解る。
俺は何をするべきなのかを。
「俺は、俺は……」
今はただ、この溢れる感情のままに。
「俺はぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
仙台の闇を降り払う為の咆哮。それまでに俺の叫びは大きく、
「ダメよ、お兄ちゃん」
俺の驚きは大きかった。
「ッッ!? しっ……りゅう?」
背後から探し求めた声が届き、身体中に小規模な衝撃が伝達。
「この世界が全て。私とお兄ちゃんだけの叶えられた世界」
紫琉の右手が腹部に見える。
「それを『疑う』なんて、絶対に駄目!!」
きっと、紫琉に背中から抱き締められてる。
「し、りゅ……がはッ!!?」
それなのに俺は、最愛の名を呼ぶ事さえも許されない。
代わりに口から溢れるのは、ハイペースで流れ落ちる鮮かな血液。
「もう一度やり直しましょう。直ぐに『元通り』になるから」
確かに紫琉の右手は腹部に見える。
「なに、をいって……」
右手は腹部に見える。
右手は腹部から『生えて』見える。
俺の背面から貫き、『腹部に穴を空け』て血塗れの五指を見せた。
「次は私だけを考えてくださいね、オニイ、チャン♪」
後ろを振り向く事は出来ない。
下を向けば血溜まりが造られ、
前を向けば、
「なっ、ん、で……」
白と紫琉が戦っていた。
白は双翼を広げ、紫琉は長い刀を振るう。
白と戦うのは、『もう一人の紫琉』。
オカシイ。そう思いながら、俺の意識は消えて行く。
痛みなんて全く感じてないのに、死ぬんだなって理解出来た。
ゾプリと腕が引き抜かれ、腹にでっかい風穴が空く。
「お兄ちゃん!!? 嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
駆け寄って来る紫琉の絶叫を聞きながら、俺は雪面の白夢に倒れた。
10
LightMareDays 3日目
眩しい程の白。朝の陽光を浴びて、今日も俺は意識を呼び起こす。
「ふあぁ……っと。ううっ、寒い寒い」
一声を発し、伸びをした処で身体が震える。
「まぁ、寒い筈だよなー」
理由は即効で身に染みる。俺が寝て居たのはリビング。椅子に腰掛け、テーブルに突っ伏しながら寝て居たのだ。
「12月24日って言ったら、すっかり冬だ」
テレビも点いたまま。朝のニュースでクリスマスイヴ特集が組まれているのを見て、今日で有る日付を知る。
そして視線を廊下に向ければ赤。
リビングの入口、
血沼に浮かんで、
仰向けに倒れ、
紫琉が死んでた。
続く。
Next LightMareDays
今回はここまでです。
その4。四回目の投下で完結します。
1レスの量にバラ付きがありすみません。
10レスくらい全部透明にした。反省はしてない。
うーん。何というか…
妙な例だが初見でラーゼフォンを見たときの気分かな
GJ!次に期待
>>846 報告する必要ないよね?その情報
GJ以外の発言は叩かれるぞw
設定がよく解らないので早く続きを読ませて下さい。気になって眠れなくなりそうです
何度もNGさせるのもひどいんで、もう一つ投下します。
NGは一緒です。酉かタイトルで。
11
貴方の笑顔が見たくて、貴方の幸せを考えて、貴方を困らせたくない。
何も変らぬ様にと、貴方が幸せに成れば良いと、震える唇で強がる。
でも本当は、私のココロが欲しいのは、私のカラダが欲しいのは、私を求める貴方の声。
OtherSide 3日目
眩しい程の白。朝の陽光を浴びて、今日も『私』は意識を呼び起こす。
「うぅっ……はぁっ、全く」
高層ビルの屋上。貯水タンクに寄り掛かかり、身体を冷え切らせて起床する。
「昨日の『二択』は失敗したわ」
探すべきは兄。ライトメアじゃない。昨日はそこを間違えた。
だから、また繰り返す……こんな有り得ない現状の日々を。
この世界は偽りに満ちているって言うのに、この世界は疑う事を決して許さず、この世界の真ん中で私の兄は、この世界を繁栄させる為に哀を唱う。
「お兄ちゃん、待っててくださいね」
そう決意を込めて呟き、フェンスの上に飛び乗って仁王立つ。
「そしてライトメア……貴方は殺すわ」
冷風を受けて両腕を広げ、左手には『祁答院の化身』を握る。
「さぁ、It's‐a‐Showtime!!」
私は5秒間の自由を求め、仙台の大空へと跳躍した。
12
「本当に変ってない。旅館が、まだ在るなんて」
旅館の入り口に佇み、懐かしい全貌を垣間見る。今の旅館からは想像も出来ない、古風で暖かな我が家の姿。
「この頃は良かったのに」
玄関を開け、変らぬ内装を覗き、リビングを覗く『私を見る』。
「ッ!? 昨日も見たけど、確かに……ソックリね」
容姿だけじゃない。行動まで酷似して。
だから解る。
ソックリだから解る。
私が現れた事にも気付けず、幸せそうに魅入ってる。
リビングに見える大切な人の寝顔を、微笑みながら見詰めてる。
「ああっ」
きっと私は嫉妬深い。
「ダメだっ」
だってもう我慢出来ない。
「これ以上は」
この世界に来てまで、お兄ちゃんを取られたくない。
「私の思いは……」
眼前の偽りを斬り殺せと、獣の心身が吠え捲る。
「こちらに向き直れ、フェイクドールッ!!」
お兄ちゃんは昼近くになるまで起きない。この世界は『そう言う風』になっているのだ。
だから、多少の咆哮等、問う処じゃ無い。
「女の嫉妬は哀れなだけよ。負け犬の、紫琉ちゃん」
もう一人の私が勝者の駄弁を語り、ゆっくりとこちらに向き直る。
「へぇ……この世界でしか生きられない貴女が、私の何に勝ったと言うの?」
むかつく、ムカツク。ムカツク!!
私を見下す余裕の表情。コイツは絶対にアレを言おうとしてる。
真意はどう有れ、精神的優位に立とうと思えば、ハッタリの一つもカマすだろう。私の最も傷付く最悪の言葉をコイツは……
「だって私、おにいちゃんに抱かれてるし」
笑顔で言いやがった。
13
「そんな嘘、私に付いてどうなるの?」
私は至って平静……を装う。
どうせバレてるのに。
「嘘だと思うなら、指をしゃぶって眺めてればいい。おにいちゃんは今日も私を抱いてくれるわ♪ おもいっきりナカを掻き回してぇっ、子宮がパンパンになるまで膣内射精するのっ♪♪」
「黙れ……」
私は、こんな人外にすら負けてしまうの?
「確かに私はライトメア様に造られた存在だけど、この気持ちは嘘じゃない。おにいちゃんの事、本気で好きなの」
「黙りなさいよ……」
私は負けたんだ。それが悔しい。どうせ無駄だと、告白すらしなかった自分に腹が立つ。
ズルズルと後悔ばかり引きずって、兄は結婚した身だと諦めて、私は何もしなかった。
「Your Looser、さっさと『この世界』から消えて。お兄ちゃんと私の生活を邪魔しないで」
ライトメアの人形は私を左手示指で差し、早く出て行けと罵る。
「黙れってぇ……」
お兄ちゃんを解放する為には、私の偽者も殺さなくてはいけない。
でもそこに感情なんか無かった。
「言ってるでしょッ!!」
でも、でも、でも。コイツを殺したいと全身から殺意が溢れて来る今は、純粋な嫉妬で動いてる。
「だいたい、ガラクタの分際で愛を語るなんて生意気過ぎ……ふっ、くっ、ははっ、は」
あーあ、自笑してしまう。
結局、全然吹っ切れてないんだ。
もう結婚しているのに。自分の姿に嫉妬する程、双子の兄をいつまでも愛しているんだ。
「この愛も本物になるわ。本物の貴女を殺し、お兄ちゃんと二人で生きて行く」
私は誰にも……そう、婚約者にだって、おにいちゃんを渡したくなかった。
聞き分けの良い妹だと思われたくて、お兄ちゃんの為だと思って、あの場は偽善的に「結婚オメデトウ」って言っただけ。「おにいちゃんを殺して私も死ぬ」って言えなかっただけ。
「なれば、その淡い恋心を抱いたまま……」
左手で祁答院の化身、『童子切安綱』の鞘を持ち、右手を柄に添えてガラクタを睨む。
「死に逝け」
14
右半身前で脚を開き、重心と上体を極限まで低く。
「今日から私が本物になる。貴女には、消えて貰うんだからっ!!」
ガラクタも階段に置いて在った抜き身の刀を右手で掴み取り、正眼の構えで私に対峙する。
「人に仇成す悪を滅すは……」
私は気付けた、私の本当の思いに。だから私は、ちょっぴりだけどハイになってるらしい。
こんな饒舌に成り、ガラクタに同情さえ覚えて。
「祁答院家が断罪剣、祁答院 紫琉ッ!!」
さあ、さっさとガラクタを壊し、ライトメアを殺し、お兄ちゃんを救うんだ。
振られても良い。もう一度キチンと、納得の行く様に、告白する。
「参ります!!」
言い終わりと同時、空気は冷気に、冷気は殺気に、油断は墓標に、周りの摂理が瞬間可変。
「負け犬の貴女とは違う。私は本物になって、この愛を叶えて見せるッ!!」
ガラクタから迸る黒い殺気は、痛い程に私の身体を射抜いている。
「私は……本物に成るんだぁぁぁぁぁぁッッ!!」
叶わぬ恋と知りながら、造られた愛と知りながら、二人で生きると夢を見るの? それでも、と。もしかしたら、と。
「無理よ貴女には。だって……」
「五月蠅い!!」
ガラクタは、続く台詞を遮る様に巨声で廊下を蹴り飛ばし、
「死んでよッ!!」
次瞬にして私の寸前で刀を振り落とす。
「だって無理よ……」
ガラクタの初動も、向かって来る剣速も、私と同等に早い。
「死ぬのは、ガラクタの貴女だし」
でもそれだけ。確かに強いだろうが怖くは無い。何故なら、記憶からライトメアが造り出した物は全て……
「えっ?」
無惨成る『機械』だから。
15
「胴体を斬り飛ばしたつもりだったけど、流石は私ね」
勝ったのは、居合い抜刀で切り上げた私の剣。
ガラクタの剣は私に届かない。握った右手ごと廊下に転がっている。
「どうしてよッ!? スピードもパワーも同じなら、先手を取った私の剣が勝つ筈でしょうに!?」
血液に似せた『何か』を垂れ流し、手首の切断面を押えてガラクタが叫ぶ。
「やっぱり……ソコまではコピーされてないのね」
所詮はライトメアの造り出した模造品。上辺だけの三流品だ。
「ふざけるなッ! 硬度や強度は私が上なんだ、人間の貴女より劣ってるモノなんてない!!」
ふっ、硬度? 強度? とうとう化けの皮が剥れて来たわね。そんな人間離れした事を言い出すなんて。
「そうね、夢の島行きの前に教えて上げるわ」
「ちっ!」
ガラクタはバックステップで間合いを取り直し、階段から二本目の刀を左手で掴む。
「普通は、始めに殺そうとする意志が在って、その後に剣が動く」
右腕を肩の位置まで水平に上げ、童子切の切っ先をガラクタへ。
「でもね、祁答院の剣は違う。意志よりも先に剣が動くの」
呼吸を整え、最上級の殺意を込めてガラクタを睨む。
「どう、言う意味?」
兄の平穏を奪う怨敵を倒す為……
「貴女の剣は私に届かない。そう言う事」
我が眼は険しく流移する。
「はっ、ははっ……そうか。私は上っ面だけの粗悪品なのね?」
ガラクタは呆れた声で含み笑い、
「お兄ちゃんに愛される資格すら無いのね?」
先の無い右肩に自らの刀を当て、
「ふふっ、はぁぁははぁぁぁぁぁッッ!!!」
そのまま右腕を切り落とした。
「っ!? バカね。まぁ、威勢と覚悟は買って上げるけど」
斬と音鳴り、断と音鳴って落地で離れ死ぬ。
「いたっ……ははっははははっ。どうせ、今日が終われば私にはリセットが掛かる。本物に成る為だったら、こんな重り! 喜んで捨ててやるわ!!」
私と対する形で残った左腕を上げ、互いに同刀の剣先を向け合う。
同じ構えを取り、同じ刀を持ち、コピーされた愛を信じ、兄が全てと思い込む。
16
「おにいちゃんへの愛を、その思いだけ私が連れて行く。だから……安心して壊れなさい」
この時点で決着は付いてる。語り合う間も無く斬り伏せられた。
ここまで長引いたのは、ガラクタに対する、私に対する、単なる『情け』が在っただけ。
楽に、楽に。
「「ふぅぅぅっ……」」
互いに一つの深呼吸。取った行為は同じでも、その意味合いは全く違う。
落ち着かせるだけの呼吸では、戦闘者としての低域を抜け出せてない。
「このままだと、今日の私は出血多量で死んじゃうから……先に、仕掛けるわよ?」
目認できるガラクタの体重移動。半身で後ろの右脚に体重を乗せ、前脚の爪先を僅かに上げる。
「うだうだ言わずに、さっさと来なさい!!」
その体勢から繰り出されるのは打突のみ。剣技中最速で有る突きの構え。
「疾ッ!!」
人形が血溜まる廊下を跳ね飛び、二度目の攻防。二度目の後手。私の身体は木偶と成り、微動もせずに待ち受ける。
「ンッ!?」
やはり次瞬は眼前、相当に早い。体動のスピードだけで言うなら、私を超えるか? ただ、
「お粗末ね……」
私の剣は別だけど。
「お粗末過ぎるわガラクタァッ!!」
迫る刀と待ち惚ける刀が交錯する瞬間、初聴する金属音が鳴り、私の静はガラクタの動を内側からのパリイで弾く。
「蹴ッ!!」
しかしガラクタは止まらない。
弾かれた左腕の反動を利用し、先に着地した右脚を軸とする胴回し後ろ回転蹴り、『龍迅尾』へと繋げて来る。
狙いは左腹部でしょうが。変化に乏しい、セオリー通りね。
「フッ!」
重心を膝位置まで下げて身を屈め、左逆手の『鞘』を振り上げて龍迅尾を迎撃。
「「ハァァッ!!」」
内脚筋へ決まり、ビタリと完璧に左脚は止まる。一瞬で終始する静止空間。横に働く力は、上へと働く力に殺されたのだ。
「まだまだぁッ!!」
それでもガラクタは止まらない。三撃目は必殺。頭部を狙った打ち落とし気味の右爪先蹴り、『落燕蹴』へと連絡。
この一連の流れこそ、祁答院が得意とする連環討路の一つ。
「単純で」
それ故に読み易い。自技の死角を最も知るのは、それを使う私自身。
だがこれは、それ以前の問題なのだ。
「容易いわ……」
瞬間に、
「ねッ!?」
頭が高速シェイクされる感覚。ベストタイミングで落燕蹴を食らった。左耳前部から打ち抜かれ、頬に一筋血が垂れる。
だけどね、
「貧弱ぅぅぅぅぅッッ!!」
結果はそれだけ。必殺の技が見せたのは、ほんの微かな掠り傷。
「なんでッ!?」
落燕蹴と同方向に首を逸して受け流しもせず、微塵も動かず受け切った。
「私の極技……」
鞘を手放して『硬気功』を解き、全身の集気を左掌に集約。
右脚で地を踏み締めて上体を上げ、ガラクタの晒す背面部に『その掌』を当てる。
「地獄の底まで持って行けッ!!」
後は流し込むだけ。内家から派生した、祁答院式の浸透勁を!
「雷光、短勁ッ!!!」
これがキーワード。
これが断罪言。
これが、ガラクタを無に返す祁答院式の純気功、雷光短勁(らいこうたんけい)。
17
「うがあァァァァァァァッ!!!」
バチバチと雷気が全身を駆け抜け、ガラクタが悲鳴し、爆発音を発して階段へと吹き飛ぶ。
何度も横回転し、腹部を柱に強打して俯せに落ちた。
終わった、わね。例え時間で身体がリセットするとしても、今回に限って言えば終前の一撃。
空腸を、回腸を、胃を、肝臓を、完璧の手応えで完全に壊した。残る作業は、トドメを刺して上げだけ。
「ぁぁ……うっ、ぐぅッ……」
声に成らない声しか出せず、こちらに背を向けて上半身のみを起こすガラクタ。
「やっと、諦めたのね?」
私はゆったりと歩き、再び左掌に気を集める。
ガラクタは、死を認めたのだ。この世界の明日は決して来ない。今日で終わる。即ち、これがガラクタで産まれて祁答院紫琉として迎える最後の死。
「何か言い残す事は?」
真後ろで片膝を着き、左掌をガラクタの後頭部に当てる。
「わ……しいわ」
思えば、
「えっ、小さくて聞き取れなかったわ。もう一度お願いできる?」
勝ちを確信したこの行為こそが、慢心から出た油断。
「私一人じゃ寂しいわ」
だから、
「ッッ!? ぐぎっ、いい加減、おにい、ちゃんをっ……任せ、なさいよっ!!」
僅かな可能性にも気付かなかった。
ドスッ、と。ガラクタは刀を自らの胸に貫通させ、私の腹部に突き刺していた。
「痛ッ、たたた、っと」
身体を後ろに引いて刃を引き抜く。
痛みは有るが大丈夫。血は出てるが大丈夫。肉は切れてるが大丈夫。どれも外見だけだ、深くない。臓器は何一つ傷付いてない。全然と、支障ない。
「あっ、その声……生きてる、のね? ちく……しょう」
ガラクタは断末を吐いて横に倒れ、事を切らせて息を止める。眠る様に、眠る様に。命の鼓動は永久凍結。
私を極限までトレースした機械は、誕生して数日で呆気なく死んだ。
「お兄ちゃんとの思い出を糧にして、やすらかに逝きなさい。もう二度と会う事は無いでしょうけど、一生分の幸せ……貰ったでしょう?」
直立して童子切を鞘に納め、右手で小さく十字を切る。
どれ程に長く生き続けても、後悔しながら過ごす位なら、
「羨まし過ぎるわよ、貴女」
兄に抱かれて死に逝く方が、どれ程に幸せだろうか。
「ふぅぅっ、と。お兄ちゃんもそろそろ起きるし、最後の仕上げを……しなきゃね」
童子切を『もう一人の私』の横に放り投げ、閉目して刮目。お兄ちゃんの寝顔を一瞥し、最重要の覚悟を決める。
18
「お兄ちゃん……私、行って来ますね」
消え気味に呟き、血塗れの廊下を歩いて玄関を出て、存在しない我が家に最後の別離。
「さぁ、ライトメア。クダラナイ私達の関係、そろそろ断ちましょう」
冬の空を仰ぎ、冷感の酸素を吸い込み、
「命乞いしながら待ってろ! ライトメアッ!!」
最大脚力で跳躍。一足で数十メートルを飛び越え、ビルの側面を駆け、仙台を走る風と成る。
嗚呼……
唯々。
唯々、獣為れ。
他に何も考えず。
何よりも早く。
何よりも遠く。
何よりも高く。
それだけを展開。
それだけが展開。
思考はいらない。
唯々。
ひたすらに。
跳べ!!
嗚呼……
だから見落とした。
一途な私は気付かない。
私の命を狙う、鬼の爪が在った事に。
19
LightMareDays 3日目
朝 起きたら 紫琉が 死んでた。何て悪夢。
赤くて(あかくて)、
紅くて(あかくて)、
朱くて(あかくて)、
錆の香を漂わせ(とても)、
狂気を駆り立てる(あかい)。
俺を絶望に叩き落とし、より一層に色付く廊下に横たわる。何て残虐。
死んでる紫琉を見下ろして、嗚呼。と哭く。
部屋に戻り、服を着替えて、リビングに戻り、死体を再見する。
嗚呼、嗚呼。
これは夢だ。と目を閉じて、夢で有ります様にと目を開く。
「はっ……何だよコレ?」
変わらない。
何等カワラナイ。
赤く冷たく色付いて。
廊下の上、血沼に浮かんで、紫琉が、死んでた。
嗚呼、嗚呼。嗚呼……
「ああぁぁああぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!! 紫琉、しりゅ、アァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!」
なんで? なんで? なんでっ!!? どうして紫琉が死んでるんだッ!!?
どうして? どうして!? どうしてっ!!?
「ァァァ……ぁっ、終わっ、た。なにも、かも……」
終わった。この世界も終わりだ。俺の望んだ世界は、紫琉の死を以て幕を下ろす。
幕を? 何でそんな事を思うんだ? まぁ、どうでも良いや。こんな世界。紫琉の居ない世界に意味なんて無いし。
ここに在るのは、静に変わって生を失った最愛の身体だけ。
「し、りゅ……」
ガクリと両膝を着き、両手を着き、わんわんと子供みたいに泣いた。
紫琉の赤い血液で、俺の身体も汚れて染まる。
「しっりゅ……」
涙を指で拭った。
顔も滑り(ぬめり)と汚れた。
「死のう」
決断を。
紫琉の居ない世界で生きて行けるか?
無理だ。
なら、どうする?
このまま生きていても、生きているだけ。身体が動いているだけだ。心は紫琉と共に死んだ。
なら?
共に墮ちるさ。二人で落ちる地獄なら、きっと恐くない。
「待っててくれよ紫琉……今度こそ守るから」
そうと決まれば早かった。
血乾く廊下で正座し、膝の上に紫琉の頭部を乗せる。
「膝枕、で良いだろ紫琉? 抱き合って、とかさ。ガラじゃないって言うか……悲劇の主人公っぽくてさ。だからこれで、なっ?」
後悔無い筈は無い。どうしてこんな事になったのか、真相を確かめたい。ただ、そんな気力が無いだけ。
「みんな、本当にゴメン」
みんな……みんな? みんなって、誰だ?
「みん、な?」
数間で考えてみるが、そんな奴等は分からない。
「どうでも……」
そして、死に際の俺には関係無い事だなぁと思いながら、転がる凶器の柄に右手を伸ばした。
続く。
Next LightMareDays
全部埋めちゃいそうなんでここまでです。
おつ
GJ!
こんばんは。投稿させていただきます。今回は番外編気味です。
「……あの。雫姉、どうしたの?」
「なにが?」
「いや、腕が……」
真琴さんと出かける約束をしてから数日たった。
最近の雫姉はちょっと変だ。どこがとは上手くいえないけれど、たとえばそう――
「何か近くない?」
「そうか?」
放課後の迎えの車の中。雫姉は僕の右腕を抱きしめ、体を預けていた。隙間も出来ないほど。何度かこんなことはあったけど、ここのところ毎日だ。
なんだか、ここ数日で僕に対しての距離が近くなったような気がする。気のせいだろうと雫姉が言っているから自意識過剰なのかもしれないけれど……。
「なあ、広樹。今日は何が食べたい?」
上機嫌の雫姉が訊ねてくる。作ってくれる料理はどれもおいしいから特にこれといった希望は思い浮かばないんだけど……。
それよりも……あのデスね……胸がね。隙間無くきっちりと抱きしめているから、雫姉の胸が僕の腕にデスね。
「ほら言ってみろ。大概のものなら作ってやるぞ」
うっすらと微笑みを浮かべながら体を寄せる。腕が二つのふくらみの真ん中に挟まれる。グイグイ押しつけられるこの感触はまさに……。
「……マシュマロ」
「広樹……それは料理じゃない、材料だ。しかもお菓子だ」
半眼でそう告げる雫姉。
「え、あ……いや……その。」
とっさにカレーなんてどうかなと言いつくろったが、内心はそれどころではない。
それにしても、改めて変だなと思う。真琴さんと会った日はあんなに機嫌が悪かったのに……。
そして……雫姉の横顔を眺める。たぶん夕方だからだろう、ほのかに赤らんだ美しい横顔。絹のようにきめ細やかな肌。芸術家が磨き上げられたような精緻な目、鼻それぞれのパーツ。花のように整った口元。
窓の向こうの夕焼けをバックに佇む雫姉はどこかの絵画のようだった。
挟まれた僕の腕に雫姉の鼓動が伝わり、自然と僕の鼓動も高まる。
ふと締め付けられるような想いが、鼓動に合わせて血液と一緒に胸の中に流れ込んだ。流れ込んだ想いははき出され、より強い鼓動を刻んで再び胸に流れ込む。何だろうこの気持ちは。こんなに雫姉は綺麗だったのだろうか。
そんなことを思ってしまった自分に違和感を覚える。
ちょっと変になったのは、実は僕のほうかもしれない。
「カレーか。それも良いな」
返事をしながらも雫の意識は、抱きしめた広樹の腕に集中していた。細い腕が自身の胸――その先端――をこする。
そのたびに電流のような甘い刺激が体に走る。思わず声が漏れるそうになるのを噛み殺していた。
広樹は気づいているだろうか。制服の下、雫が下着を――上のブラジャーはもちろん、下のショーツまで――着けていないことを。
何故こんなことをしているのかわからない。
いや、理由は分かるのだ。クラスの友人が言っていたのだ。「朴念仁にはあからさまな色仕掛けだよ。たとえば穿いてないとか?」と。そのときは馬鹿にするなと怒鳴って終わりだったが……。
迎えの車がくる少し前に思い出して、気付いたら脱いでいたのだった。
雫は広樹のことが好きだ。言葉なんかでは語り尽くせないほど愛している。
それは広樹と会ったあの日、雫の価値観とプライドのことごとくを、彼が壊したあの日から、ずっと続いている想いだ。いちいち確かめるまでもなく、心の真ん中、その大きな場所を占めている。この想いとともに成長し、生きてきた。
そして先日の真琴――あの穢れた娘だ――との出会い以降、この気持ちが日に日に増しつつある。ほんの1週間前なら考えもしなかったであろう、こんな破廉恥な振る舞いをしている自分に驚く。焦っているのだろうか。私が?生粋の名家、雛守家当主のこの私が?
それはともかく、
最初は直接肌に触れるブラウスとスカートの感触に違和感を覚えていたが、
「……んんっ」
今度は僅かに声が漏れてしまった。
いまでは違和感が気にならなくなっている。いや気にしていられなくなっている。
燃えたぎる釜の中に放り込まれたかのように全身が熱い。特にスカートの中。そこは切ないほど熱を帯びていた。耐えきれずにとろりとした蜜が溢れ、僅かにスカートを湿らせる。
「んはあ!」
どこからか聞こえてきた艶やかな声に驚き、それが自分のものだったことに更に驚く。今更ながら後悔しはじめる。なんだこの様は、痴女ではないか。
このことが広樹に知られたらどうなるだろう。軽蔑するだろうか、無視するのだろうか、喜ぶのだろうか。それとも……。
犯してくれるのだろうか。
ブルリと震えた。彼に突き放されるかもしれない恐怖と、もしかしたら犯されてしまうかもしれないことへの暗い喜び。ごちゃ混ぜの感情が熱を帯びた体を揺さぶった。
そうなったら……と雫は考える。
広樹はあたしが泣いても叫んでも許してくれないだろう。既に濡れている私を見て「なんなのコレ?」って嗤いながら必死に抵抗する私を犯すのだろう。
組み敷かれ、吸われ、奪われ、体の隅々を、髪の先から足の先まで徹底的に蹂躙されるんだろう。
そしてご主人様と呼ぶように強制されて、昼も夜も屋敷の中で弄ばれるのだろう。私は広樹――いや、ご主人様の匂いで染められて、ご主人様は私の匂いに染められる。それがずっと続く。
朝も、昼も、夜も明日も明後日も次の日も次の日も次の日も次の日も次の日も次の日もその次の日も……ずっとずっとずっとずっとずっとずっと続くのだろう。
想像しただけで体が歓喜にふるえた。ガタガタと震え出す。
でも、
広樹がこんなことで迫ってくれることなんてはずがないのに……。頭では分かっているのに。
「……?雫姉、どうしたの」
「!!……ぁん」
すぐそばでささやかれた広樹の声が、耳をくすぐる。ダメだ。こんなことでは気づかれてしまう。返事をしなければ、
「んんっ!!……別に……なんでもない。カレー、だったな。そう…ん…だな。んあっ、シーフードではどうだろう?」
「……? いいね、手伝うよ」
耳と胸。押し寄せる莫大な刺激の波に体が耐えきれない。また蜜がスカートを汚した。
それだけならまだしも陰核が膨れてきているのが分かる。花弁はゆっくりと確実にパクパクと開いて閉じてをを繰り返している。体の自由はきかず、広樹にほとんどしがみつくように、寄りかかったまま動けない。
足は冗談の様にがくがくと震え……このままでは、
「〜〜〜っっっ!!」
急ブレーキで車が止まった。耳障りなブレーキ音が車内に響く。信号無視で飛び出した車にのせいで急停止したのだが、そんなことは雫にとってどうでもよかった。音なんて聞こえていなかった。
それよりも、抱きしめていた広樹の腕がブレーキの勢いで大きく揺られ、指がスカート越しに雫の陰核を押しつぶし、内腿(うちもも)――これは直接――に触れたのだった。
陰核をつぶされ、水気で湿った秘所からほんの5pほどの場所を勢いよく触られる。それだけでもどうにかなりそうだった。さらに、
広樹は広樹で、体勢が崩れると、寄りかかった雫も一緒に崩れると判断したらしい。その優しさのため、目をつぶりながらも、とっさに体勢を崩すまいと手さぐりで何かをつかもうと、力を込めて、手近な、そう『今さっき触れた雫の太もも』をきゅっとつかんでしまった……。
「〜〜〜!!!」
言葉にならず声にすらならない。波なんて穏やかな物ではない。台風クラスの暴力的な快楽に体はがくがくと揺さぶられる。翻弄される。痙攣が始まる。
これまで押しとどめられていた熱が行き場を失い、結果、言葉にも声にもならない音として、雫の口から出たのであった。そして間をおかず、視界は一瞬で白く塗りつぶされ、場違いなふわっとした浮遊感に襲われる。
そのあまりの衝撃に、雫は最初事故で車外に飛ばされたのだと思ってしまった程だった。
「雫姉。大丈夫?」
「んあ……?」
広樹に声をかけられるまで、ほんの少しだが気を失っていた。
「らいじょうぶれす、ごしゅじんさ――」
ろれつが回らない。もうすこしでトンデモナイことをいうところだったのだが。だがそこはさすがの、雛守家の姫。散り散りになった意識を必死になってつなぎ止めると、すぐさま現状を確認。
どうやら、事故でもなく車外に飛び出たわけでもないことを判断。すぐさま自分が『どう』なったかを理解した。
手をそっと座席とスカートの間に滑り込ませ、座席が濡れていないのを把握する――幸いなことに厚いスカートの生地が濡れるだけで済んだようだ。それにこの色の生地なら濡れていても目立たないだろう――。
そしてわずかにたれていた、よだれを芸術的な『さりげなさ』でふき、心配そうに見つめている広樹と中杉(運転手)に向き直った。
それら一連の行動を悟られぬよう、クールな表情のままでやってのけた――もっとも、それでも顔が僅かに赤かったのは仕方なかったのかもしれないが。
ともかく、
「大丈夫だ。心配ない。」
今度はしっかりとした声で答える。我ながら褒め称えたいほどの持ち直し具合だった。
「そうなの?それなら良いんだ。何かうつむいて黙っていたから、ブレーキの拍子にどこか打ち付けたのかなと思って」
さっきの『アレ』はブレーキの瞬間のことだったので目をつぶっていた彼は見ていなかったのだろう。
助かった。本当に助かった。
広樹は安心したように肩の力を抜く。そしてほおを涙が伝った。
なんとそのまま泣き出した。何も言えずに、うつむき、子供みたいにぼろぼろと涙をこぼす。
「お、おい、どうした?」
これには雫が驚いた。涼しげな表情は消え、らしくなく、おろおろし始める。
が、理由に気がつくとすぐさま抱きしめた。
「……そうか、ご家族は交通事故で亡くされたのだったな」
未だ記憶は戻らないまでも、交通事故というのはまだ彼の中で消化しきれない出来事なのだろう。
雫は力一杯抱きしめていた。自分はここにいるから大丈夫だと、何処にも行かないから大丈夫だと。そして、溢れてくる暖かい愛しさをこめて、力一杯抱きしめる。
伝えたかった。ひとりぼっちで取り残された少年に。絶対のものが無く、全て変化してしまう世の中でも、やっぱりそれはあるのだと。
この想い、雫が広樹を想うこの気持ちだけは確かに揺るがず、決してぶれずにいつも広樹のそばにあり続けるのだと。
だから万感の思いを込めて抱きしめる。
「大丈夫だ」と自然に優しい声が出る。
抱きしめる。
やがて、涙も止まり、しゃっくりが収まってしばらくすると、広樹は照れくさそうに雫を見つめた。
「ありがとう。心配するつもりが心配されちゃったね。ははは……」
「ううん、いいんだ。これは私がそうしたいからしているだけだ。だからいいんだ」
もう一度抱きしめる。髪をなでる。くすぐったそうにしていたが知るものか。
「広樹、何かつらいときがあったら横を見ろ、私は必ずそばにいる。だから大丈夫だ」
素直な気持ちを伝える。
「うん、ありがとう。僕も雫姉に何かあったら助けになるから、きっと。ううん、絶対」
「広樹……」
一途に見つめるそのかわいさに胸が締め付けられる。思わずキスしてしまおうかと悩んでいると。
「あ、ごめん。制服が濡れちゃったね」
ハンカチを出して、抱きしめたときに涙で濡れた肩口を拭きだした。
イヤな予感がする。
「あれ?こんなところも?」
妙なところで目ざとい広樹はスカートが濡れていることにも気づいた。ハンカチを近づける。
「広樹、いいんだ。そこは大丈夫だ。ははは、それにしてもお前もずいぶん泣いたものだな。スカートまでぐっしょりだぞ。んなっ! おい、だから、拭かなくていいと言っている。近づけるな!!」
「え?でも」
「お前、女のスカートを弄んでナニする気だ!?」
生粋の華族、雛守家の当主がまさか穿いてないとは、口が裂けても言えない。絶対にばれるわけにはいかない。
「拭くよ」「触るな!!」。そうこうしている内に、
「お嬢様、広樹様つきましたよ」
運転手、中杉の声で自宅に着いたことが分かった。
「ほら、着いたぞ。さっさと降りろ。いいから、これくらい、平気だ」
「分かったよ降りるよ。でも洗濯ぐらいはさせてよ」
「いらん!!」
「………………」
「………………」
「ねえ、降りないの雫姉?」
「私は……」
降りないのではなく、降りられないのです。絶頂(い)ったせいで腰が抜けてまだ動けないのです。
とは口が裂けても言えない。絶対にだ。
どう答えたものか……。精一杯のしかめっ面を貼り付けながら思案する。未だ痙攣している体に鞭を打ちながら、『こんなこと』はもう止めようと固く誓ったのだった。
今日はここで終わります。お目汚し失礼しました。
凄く良かった
ぱぱぱんつはいてないいいだだと!?
GJ
GJ!これは良い!
あと6kbか
空白レスが多いけど後悔はない
ある程度書けたんで投下します。
「…返して、お願い!返してよ私のうさちゃん!」
小さな女の子の鳴き声が公園に響く。
その女の子を3人の男の子が囲んでいる。まぁ幼少時にはよくあることだ。
「へっ何が私のうさちゃんだ!そんなに返してほしけりゃパンツ見せろ〜」
いじめっ子のリーダーっぽい男の子が兎の人形を見せながらそんな事を言う。中々将来有望なクソガキである。
「い、いや…」
「嫌だったら…どうしようかな〜?…おい!」
「はいコレ」
リーダーの横にいたいじめっ子Bは背負っていたナップサックから鋏を取り出しリーダーに渡した。
鋏を受け取ったリーダーは悪党みたいな笑みを浮かべながら鋏と兎の人形を女の子に見せつけた。
「あと三つ数えるからそれまでにパンツ見せろ!でないとこの兎の耳をちょんぎるから」
そう言って兎の人形の耳の近くに鋏を近づけた。
「ハイ、ひと〜つ…」
リーダーがカウントダウンを始める。
うさぎの耳は切られたくないが…。
「ふた〜つ…」
こんな奴らにパンツを見せたくはない。
女の子は思わず強く目を瞑った。
…
……
………?
いつまでたっても三つ目のカウントダウンは行われない。
不思議に思って女の子は目を開けた。
そこには尻もちをついた男の子と、先ほどまでいなかった少女が最も見慣れ、最も信頼している男の子の姿がそこにはあった。
「人形は返して貰うぜ」
男の子は尻もちをついたリーダーの人形を持った手首を思いっきり踏みつけた。
「いたあああああああい」
喚いているのを無視して握力の弱った手から人形を奪い取る。
「ほらよ夏海」
そして、女の子に向かって人形をやさしく投げてやる。
「あ、ありがとうお兄ちゃん…」
「どういたしまして」
ニコッと笑った男の子の顔はその女の子にとって物凄く眩しく見えた。
もう他のものなんか目に入らないくらい。カッコよく、勇ましく…。
「お、オマエ!だだですむと思うなよォ!」
「強がるのはいいけど涙拭けば?かっこ悪い」
「煩い!ぎったんぎたんにしてやる!」
「行くぞ!太郎!義男!」
そういうといじめっ子は3人で襲いかかってきた。
ビックリするほどお決まりのことばかりやってくれる。
「ハッ!上等だ!やれるモンならやってみな!」
「「「覚えてやがれ!」」」
お決まりのセリフを言いながらベソかいて逃げていく三人。
「明日には忘れてるよ」
それと3対1とか不利の状況だったのにも関わらず傷一つない男の子。
因みにこの男の子、通っている幼稚園では喧嘩がぶっちぎりで一番強いそうな…。
「お兄ちゃん大丈夫!?」
「うん。あいつらのパンチ全部避けたからな。」
「ありがとうお兄ちゃん!」
夏海と呼ばれた少女、男の子の妹が笑顔でお礼を言う。
「さっきもお礼言っただろ。まっさっき見たいな連中が来たらすぐにオレを呼べよな!必ず守ってやるから」
「うん!お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん…」
妹は兄の胸に顔を埋めて泣いた。先ほどの悲しみの涙ではない嬉し涙。
兄はそんな妹の頭をそっと撫でてやった。
お兄ちゃん…お兄ちゃん…お兄ちゃん…
お兄ちゃん お兄さん にいさん
「兄さん!起きてください!朝ですよ!」
そこで俺は目が覚めた。というか妹に起こされた。
「…おはよう夏海」
「おはようございます兄さん」
ニコッっと笑顔で返す俺の妹。今日も俺の一日が始まる。
欠伸をしながら妹と一緒にリビングに降りていく。
で、テーブルには美味しそうな朝飯が。ご飯と、味噌汁と卵焼き…と見せかけて出汁巻き卵。
全部妹の夏海が作ってくれたものだ。
で、ここで俺の自己紹介をしておこうか。
俺は上原 和也。17歳の高校2年生。
妹は上原 夏海。16歳の高校1年生。
俺の家には親がいない。母親は俺が小さい時に病気で亡くなり、親父は仕事が忙しく国内、海外問わず飛び回っているため家に殆どいない。…どんな仕事だ。
そんな訳で実質俺と夏海の二人暮らしって訳だ。
ちなみに料理などの家事は全部夏海任せっきりになってしまってる。
夏海が倒れたら共倒れしそうなくらい俺は生活力がない。いい加減不味い様な気がする。
っとそんなこんなで席に着いたことだし飯にしようと思う。
「いただきまーす」
手を合わしてまずみそ汁を飲む。
味噌汁の具は豆腐と油揚げとネギ。これがまた旨い。煮干しでっとった出汁もうまく効いていて見事だ…が、ひとつ難点がある。
「なんか味噌汁ぬるくね?」
「えっ!?本当ですか!?スミマセン今すぐ温めてきます」
「いや、いいよ時間ないし」
「本当にスミマセン」
「…いや、そんなに謝らなくっていいって…」
毎日ではないが一週間に2回くらいは味噌汁がぬるい日がある。
その日は大抵夏海が俺を起こしにくる時間がいつもより若干遅かったりするという共通点がある。まっなんでもいいけどあったかいみそ汁が飲みたいものだ。
さて、次にご飯。さすがの米はすぐには冷めない為、適温で食べられる。
夏海は俺の好みを知ってくれているのかどうかは知らないけど米を少し硬めに炊いてくれる。
その硬めに炊かれたご飯を味海苔で包めて食べるのが俺のジャスティス。うん、うまい!
「あっ兄さんご飯粒ついてますよ。」
そう言って俺の口元に手をのばして口の周りに付いていたらしい米粒を指で取るとそのまま自分の口の中へと運んでほほ笑んだ。
「フフフ、おいしい」
「…お前は俺の彼女か…」
「それでもいいですよ」
「……ダメだろ普通」
学校の連中が一斉に振り向きそうなくらいのかわいい笑顔でそんな事を言うがこいつは俺の妹だ。
肩くらいまで伸ばした黒髪は学校のヤローどもの目を引き、兄でもわかる整った可愛いがどことなくクールな顔にドキっとし、俺の前で見せる笑顔に心を鷲掴みされるとか何とか誰かが言ってた。
そんな訳で夏海は学校じゃ1年から3年まで総じて人気がある。…何回仲介役を頼まれたことか…なぜか全員撃沈してんだけど。
ともかく、最後の出し巻き卵。こいつは絶品だ。
めっちゃ柔らかくて箸で突いたらプルプルしている。口に入れて噛んでてもあんまり噛んだって気がしない。
いったいなんの出汁を使っているのか知らないがどうやったらこんなのが出来るんだろうか。
…この間、なんの出汁使ってるのかと聞いたら教えてくれなかったんだけど何故だぜ?
そんなこんなで飯を食い終わると俺はリビングを出て部屋に戻って学校へ行く支度を始めた。
夏海はもう準備万全である。なぜ兄妹なのにこうも違うのだろうか…。