【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part19【改蔵】

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423名無しさん@ピンキー:2009/05/25(月) 20:30:57 ID:k77Ug/wJ
ああそういうことか
ここはエロパロなんだから、もう少し想像力豊かになったほうが楽しめるぞ
仮に君の想像力が貧困でも投下されたカップリングにいちゃもんつけるのやめてね
これ以上職人さん減らしたくないんだよ
424名無しさん@ピンキー:2009/05/25(月) 22:40:43 ID:+aC7lM2t
原作でほとんど接点無いキャラがSSでは初めから既に仲良いとかだと萎えるが、
仲良くなるまでの過程をSS中にしっかり書いてれば無問題
425418:2009/05/25(月) 22:54:22 ID:7U9J77Y8
保管庫の万世橋芽留SSにざっと目を通した
妹が色々な漫画で俺からすると無茶に思えるカップリングを口にしていたので
少し過敏になりすぎていたかもしれない
今までは、ちょっと了見が狭かったかもしれん
色々と想像して楽しむのもありなんだな
とりあえず万世橋芽留は良かった
お騒がせして申し訳ない
426名無しさん@ピンキー:2009/05/25(月) 23:30:01 ID:Lvt1QtHy
このスレはとっくに手遅れなんで気にしなくていい
427名無しさん@ピンキー:2009/05/26(火) 00:03:19 ID:F2NAiGSG
千里ヲタは失せろよ
428糸色 望 ◆0CUHgEwUxE :2009/05/26(火) 06:00:19 ID:L2d7ZIgl
カップリング・・・。

流体継ぎ手のことですか?1段2要素の構成で、タービン・ランナー、
ポンプ・インペラーの構造となっており、筐体には油が充填されており、
入力軸でポンプ・インペラーを回すと、油がかき回され、タービン・ランナーが
油の流れを受けて回り出します。もちろん、トルクの増大には使えませんので、
流体クラッチあるいは、簡易な液体変速機としての使用ですね。

この継ぎ手の中に、ステーターと呼ばれる機械部品を入れると、トルクの増大が出来、
その代わり出力軸の回転数が下がります。これが液体変速機です。液体変速機の構成は
基本的には1段3要素です。
429名無しさん@ピンキー:2009/06/03(水) 16:36:45 ID:96SyD8Mr
>>428
糞キャラハンは巣に帰れ
430名無しさん@ピンキー:2009/06/03(水) 18:16:45 ID:Fenpn0Q6
絶望の『倫と同じ所』と書かれた住民票を見て、嬉しそうな倫様の話はまだかね?
431名無しさん@ピンキー:2009/06/03(水) 20:10:15 ID:V8o5F5EE
>>430
それは霧
432名無しさん@ピンキー:2009/06/03(水) 20:29:47 ID:aryGOn2L
っていうか、倫ちゃんが貧乏ごっこを続けてたのにびっくり
433名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 19:23:57 ID:waWSk1Hq
絶望が住民票移してるのを知ってたからじゃね
434266:2009/06/04(木) 20:09:29 ID:TpguXFdh
描いてきました。
エロなしで短いですが、枯れ木も山の賑わいという事でどうか。
景×千里で、以前書いた>>329-341の続きです。
それではいってみます。
435266:2009/06/04(木) 20:10:58 ID:TpguXFdh
とたとたとた、とせわしない足音がアトリエの中に響き渡る。
それを背中に聞きながら、糸色景はキャンバスの上に無心に筆を走らせ続ける。
「これはこっち、それからこれはあっちの戸棚へ……最後に、これはどうしようかしら?………う〜ん、景先生!!」
「ん…?ああ、千里の好きにやってくれ」
景の絵のモデルを引き受けた事がきっかけになって、千里はアトリエ景を何度となく訪れるようになった。
特に用事があるというわけではないが、アトリエに無造作に置かれた景の作品を見たり、
景と他愛も無い会話をするのが千里の日常の一部になろうとしていた。
今日は決してキレイとは言えない景のアトリエを掃除しようと、千里はやってきたのだがこれがなかなか進まない。
実はこれまでも何度か挑戦してきたのだが、千里が景の家の掃除を終える事が出来た例は一度もない。
どうして、そんな事になってしまうかというと………
「こ、この黒いのはどうすれば……?」
「おお、それをずっと探してたんだ!ありがとう、千里!」
正体不明のナマコのような黒い物体を景に手渡しながら、千里はため息をつく。
これまで、大掃除の度に他人の家を掃除して、ついでに必要ないと判断したものは容赦なく捨ててきた千里だったが、
正直、このアトリエ景では、今までとは少し勝手が違うようだ。
千里が必要不必要を判断しようにも、正体すら不明な物品がそこかしこに隠れているのだ。
一抱えもある異常に巨大な巻貝の貝殻、
どの角度から見ても目が合ってしまうどこかの部族の儀式用の仮面、
黒く、しかし透き通った石を磨いて作られた23の面を持つ多面体、
解読不能の文字列の並ぶ羊皮紙に書かれた古い本、
ぐにゃぐにゃと曲がった奇怪な金属パイプが絡まりあった謎の物体は、景曰く時代の最先端をいく楽器なのだとか。
さっきの『なんか黒いの』にしたって同様である。
あんなもの、ゴミに出すとしても、燃えるゴミなのか燃えないゴミなのか、それともまさか資源化ゴミだとでもいうのか、
きっちりハッキリ決断を下す千里でさえ迷うようなものばかりなのだ。
そんなわけで、千里は幾度かアトリエ景の掃除に挑戦しようとして、あえなく挫折を強いられてきた。
だが、それでも千里は今日、再びアトリエ景の大掃除に挑んでいる。
胸に抱くは不退転の決意。
次々と出てくる不可思議な物品を前にして戸惑いながらも、千里はそれが現在の景に必要かどうか判断をくだし、部屋の中を片付けていく。
「さてと……画材とか、絵の道具は基本的には必要なものだけど、もう使えないものもあるだろうから、まずはそこを整理しようかしら」
景の仕事道具、様々な画材やら、いくつものイーゼルが立てかけられた区域にまで千里の掃除は進んでいた。
絵画道具についてはほとんど知らないが、ほとんど崩壊寸前で修理のしようもないイーゼルや、完全に毛の抜けてしまった筆、
完全に使い切った絵の具のチューブや、空っぽのテレビン油の壜なんかは捨てても問題ないはずだ。
だが、そうやって道具の山を崩して整理している内に、千里はまたもやとんでもないモノにでくわす羽目になる。
「ええっ!!?」
埃だらけの巨大なキャンバスをどけた向こうから、じろり、二つ並んだ目が千里の姿を睨みつけていた。
今回の品は正体不明というわけではない。
それは、千里も歴史の教科書なんかではお馴染みのものだった。
「け、け、け、景先生!?…こ、こ、こ、こ、これぇええっ!!?」
「ん?どうした、千里?…お………おお、ソイツは…懐かしいなぁ……」
「なんでこんな物がここにあるんですか!?」
「なんでって……掘ったら出てきたんだよ」
見間違うはずが無い。
皇帝の永遠の眠りを守るため、地下の空間に整然と並ぶその姿を知らない人間はいないだろう。
「これ、兵馬俑じゃないですかっ!!!」
千里が叫ぶのも無理はなかった。
秦の始皇帝陵の一部である兵馬俑抗、そこに収められている等身大の兵士人形が、この部屋の隅っこに当然の如く突っ立っているのである。
千里の手の平がそっと兵馬俑に触れる。
436266:2009/06/04(木) 20:11:53 ID:TpguXFdh
何事にも完璧主義の千里は当然の如く、本物の兵馬俑の特徴についても知っている。
身につけた鎧や兜の形状、ちょっとやそっとでは壊れないほど硬く焼き上げられた土の手触り。
悠久の年月の経過を表すように、退色してしまった塗装の色合い。
どう見たって本物である。
仮に複製だとしても、相当なレベルのものである事は間違いない。
「………どこで掘ったんですか?」
「一度、風景画を描きに中国を旅行した事があってな……で、どっかの町の近くで見つけたんだが……」
「もしかして、その町って、西安市の事じゃありませんか?」
「おお、それだっ!!その西安の近くの農家の裏山を描いてた時の事なんだよ………」

景によると、大体このような事と次第であったという。
突然、ふらりと姿を現した長身長髪無精ひげの怪しい男。
ろくろく中国語も扱えないが、やたらと陽気で人懐っこい彼に、最初は警戒していた地元の住民もだんだんと打ち解けていった。
その男、糸色景は自分は日本の画家であると言い、近くにどこか絵を描くのに良い場所はないかと住民に尋ねた。
『なるほどなるほど、糸と色と景、繋げると絶景というわけか。面白い名前だな』
『あはは、そうかい?ところで、件の絵を描く場所の事なんだけど……』
『ああ、それならアンタの名前に相応しい、とっておきの場所があるよ!!』
カタコトの中国語と筆談、後は身振り手振りに表情だけで自分の意図を伝えた景は、地元住民の男にある場所を紹介された。
『ウチの畑の裏から見える山は、ちょうど今頃花盛りでね。きっと気に入ると思うよ』
男の言葉に喜んだ景は、男に連れられて彼の畑にまでやってきた。
斜面に作られた畑を登りきって、その向こうに見えた風景は、まさに絶景と呼ぶに相応しいものだった。
山そのものを埋め尽くしてしまいそうな満開の花、舞い散る白い花びらのせいで辺りの風景が白く霞んでいた。
『コイツは凄いな……これならいい作品が描けそうだ!』
『へへへ、だろう?この山はここらの住人の自慢だよ』
景はスケッチブックを開いて、凄まじい勢いでこの風景を紙の上に描き写し始めた。
日が暮れるまで描き続け、満足のいく量のスケッチを描き終えた景はその後、
この場所を紹介してくれた男を初めとした地元の住民達と酒場で飲む事になったのだが……
『なるほど、画家先生ってのは伊達じゃないなぁ。アンタ、大した絵描きだよ!!』
景の描いたスケッチを見た住民達は、口々に彼を褒め称えた。
画家としての景の作風は不可解で自己完結しまくりのものだが、基礎的な画力については右に出るものがいないのだ。
住民達の賛辞にさすがの景も照れくさくなってきた頃、例の場所を景に紹介した男が質問してきた。
『ところでよ、先生……ここの所なんだが……』
『ん?そこがどうかしたのか?』
『いや、ここの所に何だかたくさん人がいるみたいに描いてあるけれど、あそこに人なんていたかい?』
男が指差したのは花盛りの山の麓の一角である。
そこには男の言う通り何十人もの男や馬が描かれている。
『ん、まあ、いなかったと言われればそうだけど、でも、いるような気がしたんだよな?』
『ますます、わからねえなぁ』
『勘、インスピレーション、そういうもんかな……いるような気がしたから描いてみた。それ以上は、俺もよくわからんよ』
男は納得のいかない顔だったが、とりあえずその場では話はそこまでで終わった。
だが、景が滞在している間に、絵に描かれた謎の集団が事が気になった男は住民達の同意を得て、その場所を調べる事にした。
特に目立つ建物や、木や岩などの自然物もないその場所を、住民達はとりあえず掘り返してみる事にした。
すると、いくらか掘り進んだところで穴の底が、がらんどうの空間にぶち当たった。
そして、そこから見つかったのは………
『こ、こ、こ、こ、こりゃあ!!!!?』
発見されたのは件の兵士人形をはじめとした数百体に及ぶ鎧姿の人形達。
その日の内に地元近くの大学の考古学者達も押しかけ、辺りはとんでもない大騒ぎになってしまった。
437266:2009/06/04(木) 20:13:14 ID:TpguXFdh
「で……?」
「『で……?』って、なんだ千里?コイツを見つけたときの状況はこれでわかっただろ?」
「どう考えても貴重な文化財じゃないですか!!どうしてコレが景先生の手元にあるんですか!!?」
「あはは、いやぁ、たくさんあるからって、お礼に一つくれたんだ」
深々とため息を吐いて、千里は頭を抱え込む。
どうしてこの人が関わると、こんな非常識な事態になってしまうのだろう。
大体、こんな文化財、税関を通るわけがないのだが……
「あの時は帰りの飛行機のチケットが急に二人分必要になったから、随分と苦労したなぁ……」
「……って、乗客として飛行機に乗せたんですか!?」
どうやら空港のゲートでは荷物として、機内では乗客として扱ったらしい。
ルパンも真っ青の大胆犯行である。
あまりに突拍子も無い話を聞かされて、すっかり疲れた千里がその場に座り込むと、
景が千里によって既に整理されていた様々な物品に手を伸ばして、懐かしむような眼差しで眺め始めた。
どうやら、兵馬俑くんとの再会が景のノスタルジックな感情を刺激してしまったらしい。
「おお、これも懐かしいなぁ……」
黒くて透き通った23面体を窓から差し込む日の光にかざして、景はうっとりと呟く。
「千里、コイツはな、アメリカの廃教会でオバケと対決して手に入れたんだぞ」
疲れきった千里は、キラキラと瞳を輝かせながら想い出語りを始めた景の横顔にそっと視線を向ける。
無邪気なその笑顔に、いつの間にか千里の表情もほころびはじめていた。
「じゃあ、コッチの本はどうなんですか?」
「ああ、これは挿絵を見て面白そうだから買ったんだが、見ての通り何語で書いてあるかもわからなくてなぁ……」
「それなら、まといちゃんの持ってる暗号解読器で読めるかもしれませんよ。今度お願いしておきましょうか?」
廃教会でのオバケとの対決の話や、解読不能の本を手に入れた霧に覆われたどこまで行っても古書店しかない町の話、
異常に巨大な貝殻ばかりを扱う露天商の話(3メートルはあろうかという巨大な二枚貝の貝殻も売っていたが値段も高額で景には手が出せなかったそうだ)
究極の金管楽器を開発しようとして夢半ばで死を迎えた楽器職人の息子から、試作品の一つを譲り受けた時の話、
そんな様々な思い出話を、景は千里に向かって実に楽しそうに話して聞かせた。
めくるめく夢のようなその話と、なんとも愉快そうな景の顔を見ているだけで、千里の心は満たされていくようだった。
「……あっ!?…もしかして、また掃除の邪魔をしちゃったか?」
「はい。景先生のお話のお陰で、あれからかれこれ3時間も経ってしまいました」
「そうか……せっかく頑張ってくれていたのに、悪かったな、千里……」
千里の言葉にションボリと肩を落とす景。
だけど、千里はそんな景ににっこりと笑いかけて……
「でも、とても楽しかったです。景先生のお話に夢中になって掃除を放り出したのは私ですから、ほら、そんな顔をしないで……」
見つめる先の景の顔に、もう一度笑顔が戻る。
それを見る千里の心に湧き上がるのは、何とも言えない満足感と愛おしさ。
今日も結局、掃除を終える事が出来なかったというのに、千里の顔に浮かぶのは笑顔ばかりで………。
「ほんと、景先生には参っちゃうわね」
再び思い出話に花を咲かせ始めた景を横目に見ながら、優しげに、千里はそう呟いたのだった。
438266:2009/06/04(木) 20:13:59 ID:TpguXFdh
以上でお終いです。
それでは、失礼いたしました。
439名無しさん@ピンキー:2009/06/04(木) 20:41:33 ID:tR/gWP6R
おつ
千里が優しい
440名無しさん@ピンキー:2009/06/05(金) 16:32:53 ID:ehXUzBm6
どうも絶景のキャラに違和感を感じるのだが、自分だけ?
441名無しさん@ピンキー:2009/06/05(金) 22:14:03 ID:rWxV0ZIt
黙って乙しとけよ
442266:2009/06/10(水) 02:11:44 ID:+kD2EE7W
書いてきました。
久藤×マリアという、またもや妙なカップリングですが……。

それでは、いってみます。
443266:2009/06/10(水) 02:13:15 ID:+kD2EE7W
毎日、日没近くの時間になると、西の空に沈んでいく夕陽を眺める彼女の姿をよく見かける。
その日によって場所は違うけれど、彼女がいるのは決まって高い場所だ。
学校の屋根の上、高い木の枝、どこかの教室の窓枠に腰掛けている事もある。
少しでもバランスを崩せばたちまち転がり落ちてしまいそうな危なっかしい場所で、
彼女は足をぶらぶらさせながら、ただずっと西の空がだんだんと赤く染まっていくのを見ている。
鼻歌を歌いながら、実に楽しそうな様子で、ただ一心に空を見つめているのだ。
そうでなくても、やたらと高い場所や危ない場所に行きたがる彼女の行動を、僕も、クラスのみんなも、最初は随分とハラハラしながら見守っていた。
彼女の身体能力、すばしっこさやバランス感覚の良さを知った今となっては、そこまでの心配はしていない。
(勿論、彼女の行動に慣れたというだけの話で、なんだかんだでやっぱり心配なのは今も変わらないのだけれど……)
そうして、ハラハラした気持ちが落ち着き始めたからだろうか。
僕はだんだんと、夕焼け空を見つめる彼女の横顔に、不思議と惹かれるようになっていった。
朗らかな笑顔を浮かべて、空の向こう、遠く遠くを見つめる彼女の瞳を、いつの間にか僕もじっと見つめるようになった。
彼女は遠い国からやって来た。
褐色の肌と小さな体。
年齢は不詳だけれど、彼女の外見を見れば僕たちと同じ高校に通うような年齢でない事はわかる。
愛らしい姿の影には平和なこの国に生きる僕なんかには想像も出来ないような壮絶な記憶を宿している。
だけど、彼女はいつだって、変わらぬ笑顔で笑うのだ。
最初は僕自身が子供好きだった事もあって、学校に紛れ込んできた小さな女の子を世話するような気持ちで関わった。
だけど、今、その認識は徐々に揺らぎ始めている。
夕焼けを見つめる彼女の瞳の深い色に、僕の心が揺れ始めている。
最近は暑くなってきたからだろうか、日光に焼けた屋根ではなく太い木の枝に腰掛け西の空を見つめる彼女、マリア。
それをじっと見つめている僕の事を、久藤准というクラスメイトの事を、彼女はあの深い色の眼差しで一体どんな風に見ているのだろう?

本を読む事。
物語を語る事。
それらは僕という人間の中心を為す柱となっている。
特に、物語を作りそれを人に聞かせる行為は、僕自身にも制御できない部分がある。
普段は人に頼まれて、誰かのリクエストに応えて物語を話す事も多いのだけれど、
それと同じくらい、いやもしかしたらそれ以上に、何かの瞬間に生み出されたインスピレーションに従って衝動的に物語を作ってしまう事が多い。
去年のクリスマスの頃には、クラスメイトの日塔さんに『石田純一に靴下の話したら』と言われた瞬間、
湧き上がる衝動に背中を押されるまま、道のど真ん中で物語を話し始めてしまった。
何とも迷惑な話だけれど、こればっかりは僕自身にも止める事が出来ないのだ。
一応、僕の話す物語をクラスの仲間や先生、その他の多くの人たちは喜んでくれるけれど、
流石に暴走して話してしまった場合には後で随分と後悔してしまう。
そしてもう一点、僕の話にはある特徴が存在する。
それは、主役クラスの登場人物が物語り上で命を落としてしまう事だ。
僕自身は、そういった死にまつわるイベントを意図的に盛り込んで、物語を盛り上げようとする事もある。
だけど、基本的に物語というのは生き物だ。
いかにキャラクターを入念に作り込み、計算高く配置する事でストーリーを作るのだとしても、
やはりそれらのキャラクターたちはそれが計算によるものであれ、何であれ、それぞれの個性を持ち行動する生きた存在であると僕は考える。
最後に主人公が死んで感動させる、そんな話を作るために、あらかじめそういった性格に作られた登場人物だったとしても、
その最後の死の瞬間まで、彼・彼女は自分の信じるままに行動する。
その結果が死であったとしても、それは登場人物達が彼らの生を全力で生きた結果なのだと、僕は考えている。
だから、これまで僕は僕の物語が、みだりに登場人物を死なせるような話であると指摘されても、自信を持って話し続けてきた。
だけど、その自信が最近になって危うくなり始めている。
その原因は、彼女の、関内・マリア・太郎の存在にある。
444266:2009/06/10(水) 02:14:07 ID:+kD2EE7W
「どーしタ、准?続きハ話してくれないノカ?」
「ああ、ゴメン…どこからだっけ?」
そんな僕の思考を、当の彼女、マリアの声が断ち切った。
「オオツノジカの柳太郎が池に落ちたところからだよ。だいじょーぶか、久藤のにーちゃん?」
いつも通りみんなの前で物語を披露していた筈が、いつの間にか考え事をしてしまっていたらしい。
窓際に寄りかかって話をしていた僕を、周囲を取り囲んで座っていた聴衆達が少し心配そうに見上げてきていた。
僕はその中で、一番最初に声をかけてきたマリアの姿を見つめる。
「ホントにどーしたんダ?准、様子がヘンだゾ」
「いや、何でもないよ。柳太郎が池に落ちたところの続きからだったね」
僕は死を語る。
だけど、彼女に比べて僕はあまりに死を知らない。
彼女が時折口にするシニカルな言動や、過去を臭わせる数々の発言。
彼女は僕なんかの想像もつかない様な深く暗い世界を通り抜けて、今を生きている。
「オオツノジカの柳太郎は三日間も水を飲んでいませんでしたから、それはもう喉はカラカラです。
柳太郎は喜び勇んで池の中へ飛び込みました。その池が、実は少し進むと一気に深くなる事なんて知りもしないで……」
僕は後ろめたいのだ。
背中に刃物を押し当てられたかような、ヒリヒリとする死の実感と共に生きてきた彼女に、軽々しく死を語る事に罪悪感を感じているのだ。
彼女はいつも楽しそうに僕の話を聞いている。
実際に尋ねてみても、彼女は僕が拘っている『死』に関するアレコレなど、気にしてもいないだろう。
僕は話したいように物語を話して、彼女もそれを聞いて楽しんで、そこにはきっと何の問題もないはずだ。
だけど、目の前の彼女の笑顔と、夕陽の沈む空を見つめる彼女の瞳の色がないまぜになって、僕はひどく混乱してしまうのだ。
だって、あの瞳は、間違ったやり方で触れてしまえば、瞬く間に砕け散って消えてしまいそうで……。
「オオツノジカの柳太郎は走ります。池で助けられた恩を返すため、走って、走って、ひたすら走り続けます」
たぶん、惹かれているのだろう。
「走り続けて疲れ果てた柳太郎ですが、進行方向に凍った池を見つけます。『しめたっ!!池の氷の上を走れば、もっと早く子グマ達のところに行ける!!」
いや、もっと端的に言うのならば、僕は恋をしたのだ。
「柳太郎は勢いよく氷の上を走ります。思えばここは昔柳太郎が溺れた池、子グマ達と出会った池。
あの時、柳太郎が溺れた池が、今は最高の近道になっているのです。ところが………」
僕なんかよりずっと遠い場所を見つめて、それでも無邪気に笑う小さな女の子から目を離せなくなった。
色んなモノを心の内側に秘めて、それを映したかのようにくるくると変わる彼女の瞳の色に、僕は魅せられてしまった。
だけど、だからこそ、僕は思うのだ。
「ところが、もう少しで岸に辿りつくというまさにその時、柳太郎の足元の氷が音を立てて割れました」
こんなにも無知な僕が、実感としての死すら知らない僕が、平然としてその死を扱う物語を語る。
そんな事が許されるものだろうか?
いいや、事はそれだけに限らない。
彼女がこれまで通り抜けてきた地獄を受け止めるには、僕の無知はあまりに致命的なのだ。
「『もう少しで薬を届けられるのに……』もがけばもがくほど、周囲の氷は割れて、柳太郎の体は池の中に沈んでいきます。
だけど、柳太郎は凍えた脚を必死に動かし、せめて岸まで薬を持っていこうと、冷たい水の中で脚を動かし続けます。そして……」
まさに息を呑む、といった感じの表情で物語のクライマックスに聞き入る彼女。
だけど、僕は自分の語っているモノの意味さえ、ろくに知りはしないのだ。
遠すぎる。
彼女の世界と、僕の世界は、あまりにも遠く離れすぎている。
「『柳太郎、ありがとう、キミのおかげで兄さんたちはすっかり元気になったよ。キミともうお話したり遊んだりできないのは、とてもとても辛いけれど…』
柳太郎の亡骸を囲む子グマ達はみな、ぼろぼろと涙を流していました。だけど、無事に薬を届けた柳太郎の顔はどこか安らかに微笑んでいるようでした」
物語が終わり、万雷の拍手が僕を包む。
その中には、彼女の、マリアの拍手も混ざっている。
僕は、油断するとすぐに顔に出てしまいそうな自嘲的な感情を笑顔の仮面で押さえつけて、彼らの喝采に応えたのだった。
445266:2009/06/10(水) 02:15:10 ID:+kD2EE7W
今日モ学校が終わっタ。
昼休みには准が得意のお話ヲ聞かせてクレテ、ミンナでそれを聞いタ。
この国に来てカラノ毎日は、イツダッテ楽しい思い出でイッパイで、ダカラ、マリアもあの国にイタときの事を忘れそうにナル。
日本人は優しい。
クラスのみんなモ、マリアにたくさん良くしてクレル。
お腹が空いテ死ぬ事モ、日本デハぜんぜん心配しなくてイイ。
一緒に日本にやって来タ、同じ家デ暮らすミンナも親切デイイ奴らばかりダ。
今のマリアはトテモトテモ幸せで、あの頃、村を焼け出されてジャングルをさまよった時が本当にウソみたいダ。
今、マリアは学校の校庭の隅っこに生えた木に登って、夕焼けを見てル。
世界中どんな所デモ、空は同じ空なハズなのに、生まれ故郷の村で見た夕焼けと日本で見ル夕焼けは少し違って見えル。
先生にこの事を話したラ、
「専門じゃないのでよくわかりませんが、やっぱり空気が違うと空の見え方も違うものなんでしょうね」
ッテ、教えてくれタ。
マリアにはあんまりよく解らなかったケレド、本当に遠い国に来たんダッテ、それだけは解るような気がシタ。
遠い国、生まれ故郷とは大きな海を隔てタ、少し前までは行く事になるナンテ想像もできなかった国。
夕陽でさえも、マリアの国とは違う国………。
ポロリ、マリアの頬を突然涙が零れていっタ。
「ア、アレ………?」
ポロポロポロポロと、マリアの目から涙が流れ落ちてイク。
拭いても拭いても、止まってくれないソレは、いつしかマリアの顔を覆いつくして、ぐしゃぐしゃにシテしまった。
マリアは日本にいて、クラスのミンナや、仲間と一緒にいられて、本当に幸せ。
ダケド、それでいいのカナ?
燃え盛る炎と、絶える事無く撃ち込まれ続ける銃弾の嵐に、マリアの村は壊された。
デモ、マリアは運よく生き延びて、今はこの国で元気に暮らしてる。
ソレナノニ、ソレでいいはずなのに、時々トテモ悲しい気分になる。
そんな時、マリアはある人の名前をつぶやく。
いい人ばかりの日本人の中でも、とびきり優しい人。
マリアが2のへにやって来てから、ずっと良くしてくれる人。
アノ人が話してくれたお話を、寝る前に何度頭の中で繰り返したか、モウわからないくらいだ。
「准…。准……」
呟いた名前が胸の中に染み込んでいく。
ずっと必死で生きてきて、これがどういうキモチなのかも良くわからないケレド、
たぶん、きっと、マリアは好きなんだ。
准のコトが、大好きナンダ。

とぼとぼと下校途中の道を歩いていると、後ろから声を掛けられて、僕は振り返った。
「おい、久藤っ!!」
「あ、木野、どーしたの?そんなに走って…」
「いや、どーしたのって言われると、アレなんだけどよ……」
僕に聞き返されると、木野はなんだかバツの悪そうな表情をして、視線を逸らせた。
「……その、な…昼にお前がいつものお話してただろ。あの時のお前の様子がなんだか妙だったから……」
やっぱり昼間の僕の様子がおかしかった事は、誰が見てもわかる事だったらしい。
それを木野が心配してくれたのが嬉しくて、僕は彼に少し微笑んだ。
「…いや、一応、何かあったんじゃないかって気になっただけだから!あくまで、一応、だからっ!!」
しきりに『一応』を、木野は強調する。
わざわざ木野の方から心配してくれて、コッチは嬉しかったのに、どうして木野はあんなに恥ずかしがってしまうのだろう。
まあ、それが木野らしいといえば木野らしいのだけれど。
「で、やっぱり何かあったのか……?」
「うん……何かあったっていうか、悩んでる事があるんだけど……」
僕は、走って追いかけてきてまで、僕のことを心配してくれたこの友人の厚意に甘えてみる事にした。
「僕のお話では、ラストによく登場人物が死んじゃうよね……」
「ああ、俺もどれだけ泣かされたかわからないな」
「でも、それを語る僕は、死ぬっていう事について何も知らない」
僕はそこで一拍置いてから、自分の考えている事を木野に伝えた。
「僕が今まで触れた死は、おじいちゃんと親戚の伯父さんの葬式、それから道端で車に轢かれた猫や犬ぐらいだ」
無論、今の日本人の死に関する経験なんて似たり寄ったりで、大した差はないだろう。
だけど、僕はそんな人間としては、死を語りすぎているのではないか?
知りもしない事を、延々と口にし続けるのは、無責任な態度ではないのか?
446266:2009/06/10(水) 02:16:37 ID:+kD2EE7W
僕の話を一通り聞いてから、木野は真面目な顔で口を開いた。
「なあ、久藤……ダンテって実際に地獄に行ったのか?」
「えっ!?」
木野が言っているのはおそらく有名な『神曲』の事だろうけれど、どうしてだしぬけにそんな事を言うのだろうか?
「紫式部は色んな女性と付き合いまくったりしたのか?」
「それは…ないだろうけど……」
「夏目漱石って、猫になった事があるのか?」
「……………」
だんだんと、木野の言わんとしている事が僕にもわかりはじめた。
「実際に見た物しか書けないんなら、作家なんてとうにいなくなってるさ」
「でも、それじゃあ、間違ったお話を作ってしまうかもしれない」
「間違っててもいいじゃねえか」
そこで、木野は僕に向けてニヤリと笑って見せた。
「確かに『死ぬこと』について、俺もお前もよく知らないし、だから間違った事を言ってしまうかもしれない。だけどだ!!」
木野は僕の肩をぐいと掴み、力強い表情でこう言った。
「そのお話の中でお前が言おうとした事まで間違いだって言うのは、少しおかしいんじゃないか?」
心の奥で、僕を縛り付けていたロープが千切れる音を、確かに聞いた気がした。
そうだ、完璧な知識は持っていなくても、それでも表現し得るものは存在する。
どんな作家だって、そうやって物語を編み上げて来た筈なのだ。
間違って、迷って、それでも生み出された作品に込められた魂は、だけど決して恥じ入るようなものじゃない。
そもそも、いつも彼女は、マリアは僕の話を聞き来てくれていたじゃないか。
彼女から見れば、僕の死に関する観念は稚拙な部分もあるのかもしれない。
それでも、お話に込められたモノを、彼女はしっかりと受け止めてくれていた。
「というわけだ!!お前も納得できたみたいだし、これで万事解決だな!!」
僕の表情が晴れていくのを見ながら、ふんぞり返って木野がそう言った。
本当に助かった。
木野がいなければ、僕はずっと思考の迷路をさまようハメになっていたかもしれない。
………だから、僕は思い切って、もう一つの問題についても木野に相談してみる事にした。
「ああ、ありがとう。よく解ったよ……でも…」
「でも……なんだ?」
「問題の核心は、実は別のところにあるんだよ」
怪訝な表情の木野の耳元に口を近付け、僕は自分が彼女に対して抱いている気持ちについて打ち明けた。
目を丸くして、呆然と僕を見る木野。
「マジ……なのか?」
「うん、マジ」
「本当の本当に、マジなのか?」
「本当の本当に、ウソ偽りなく完璧に、マジ」
木野はゆっくりと空を仰ぐと
「うそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
これ以上ないくらいの大声で、そう叫んだのだった。

「本気、なんだな……」
「うん。自分でもちょっと信じられないけど………こういう事、ほとんど無かったから……」
僕のマリアに対する感情、それを抱く事となった今日までの経緯。
僕がその全てを打ち明けたのを聞いてから、木野は難しい顔をして腕を組んだ。
「あの目が、ね……」
「うん?」
「色んなものを見たり聞いたりしたとき、キラキラって輝いて、一瞬だけとてもとても深い色が見えるんだ。
それがとても綺麗だったから………なんて、こんな抽象的な理由しか言えないのが、自分でもどうかと思うけど……」
「いーや!そりゃあ、やっぱり好きって事なんだろ。そこだけは自信持てよ、久藤」
木野の言葉はいつになく優しく頼もしかった。
「俺は、お前がそういう気持ちならそれは悪い事じゃないと思う。長期戦で考えるなら、アイツがもっと大きくなるまで待つのもアリだし」
それから、木野は名探偵よろしく、顎に手を当てて、うむむ、と考え始めた。
「周りからの非難とか、そういうのが激しいのは当たり前として、もう一つやっかいな問題があると思うんだ」
「どういう事?」
「お前とマリアの今までの関係そのものだよ」
447266:2009/06/10(水) 02:17:24 ID:+kD2EE7W
今までの僕と彼女の関係は、小さな子供と、それの面倒を見る年上の男子、それ以上でもそれ以下でもない。
そんな関係の中で、いつの間にか僕がこんな感情を抱いてしまう事など予想もしなかった事だ。
さらに言うなら、子供にとっては一つの年の差さえ大きな壁になってしまう。
恋愛はその二人が互いに対等の立場で、足並みを揃えて歩いていくものだ。
マリアはどんな大人にだって遠慮なしに大暴れするけれど、年齢の壁から感じる抵抗感はそれとはまた別のモノだ。
見てきたものや経験したものの違いだけじゃなく、僕と彼女はその立場においても遠く離れた場所に立っているようだ。
「要するに、向こうがお前をそういう対象として見るかどうか、つまり、スタートラインに立てるかどうかもわからないんだ」
「ううん………」
この分析に、僕も木野もすっかり途方に暮れてしまう。
冷静に考えれば、やはりその可能性は高い。
しかも、この場合、年月が経過してもそういう立場の隔たりだけは残っていたりするものだ。
彼女の成長を待つにしても、これはどうにかしなければならない問題だ。
「そうだっ!!」
突然、木野が叫んだ。
何かアイデアを思いついたらしい。
「どうしたの、木野?」
「年の差の年齢といえば、一番身近に最高のサンプルがいるじゃねえか!!!」

「で、こんな所に呼び出して、一体何の用ですか?復讐ですか!?恫喝ですか!?それとも単なるストレス解消にひ弱な担任をフルボッコですかぁ!!?」
木野の言う最高のサンプルというのは、糸色先生の事だった。
宿直室でこの話をするのはマズイという事で、僕たちは先生を校舎の裏まで連れてきたのだけれど、
臆病で警戒心の強い(って書くと、なんだか森の小動物みたいだ)先生は、それだけで若干パニくってしまっている。
まあ、確かに、先生は10歳以上も年の離れたウチのクラスの女子達の多くから熱烈な好意を寄せられているけれど……
「どうやったら先生みたいに、年下の女子生徒からの好意を受けつつ、しかもまるで教師じゃないみたいな雑な扱いを受ける事ができますか!!?」
「ひ、ひどいっ!!!木野君、それはあんまりですっ!!!確かにそんな感じの日常を送ってますけど、何もわざわざ口に出して言わなくてもっ!!」
涙目の先生と、真剣な表情の木野が言い争う。
一方の僕はすっかり蚊帳の外だ。
そもそも、先生の今の境遇って、先生自身の性格や行動のせいである割合が高いわけだから、果たして僕の参考になるかどうか……
と、その時、先生が何かを閃いたような表情を浮かべ、こう言った。
「あれ?それって何だか物凄く年下の女の子、木野君の年齢なら下手したら幼女ぐらいをターゲットにした発言に聞こえるんですが……」
「ギクゥ!!」
「って、何を青ざめてるんですか!?まさか、木野君、あなたは加賀さんが好きなのだとばかり……」
「いやいやいや、それは違います。何ていうか、あくまで一つの参考として先生の話が……」
木野がどうしてこんな事を聞こうとしているのか、それに先生はおぼろげながら感づいたらしい。
それでも木野は僕の事を何とか隠そうとしてくれていたが、僕はついに覚悟を決めた。
「先生っ!!」
「は、はい?どうしたんですか、工藤君……?」
「お、おい、久藤、早まるなっ!!」
木野の声が聞こえたけれど、僕は止まるつもりはなかった。
これはやっぱり、僕自身の問題だ。
「木野が先生に相談してたのは、僕に関する事なんです……」
「工藤君に…?」
それから僕は、先生に全てを打ち明けた。
「ふむ……」
僕の話を聞き終えた先生は、そう呟いて目を閉じた。
しばらく、そのままの状態で何事かを考えていた先生はゆっくりと瞼を開き、まっすぐと僕を見つめた。
いつもの先生とは違う、真剣な眼差しだ。
「なるほど、それで年の差がどうとかと、そんな事を私に聞いたわけですね」
「はい」
「それなら、工藤君には是非知っておいてもらいたい事があります」
それから、しばしの沈黙の後、先生はその事を口にした。
「年の差を気にする以前に、おそらく、そもそも関内さんの年齢はあなた達が考えているほど幼くない、と私は考えています」
「そ、それって、どういう……?」
「彼女自身から私が聞いた話からの類推に過ぎませんが、関内さんの年齢は………」
448266:2009/06/10(水) 02:19:42 ID:+kD2EE7W
その日のマリアは、仲間たちの待つ我が家に帰る事も無く、どこかのビルの屋上からぶらぶらと脚を垂らして、眼下に広がる夜景を眺めていた。

生き残った理由はカンタン。
マリアが臆病だったカラ。
マリアより少し年上の男の子や、マリアと同い年の女の子達は、勇気を振り絞って家族を助けに村に行って、二度と帰って来なかっタ。
生き残ったのは、震えながら生まれ故郷が焼き尽くされていくノヲ何もできずに見ていたマリアと仲間の6人ダケ。
ミンナミンナ、死んでしまった。
それからの事はよく覚えてイナイ。
村を焼いたヤツらから逃げたくて、必死でジャングルの中を歩き回った。
喉が渇いタラ泥水を飲んで、村のオトナたちが教えてクレタ食べられる木の実や、虫、トカゲでお腹を膨らませた。
ダケド、ある日、イツモの食べられる木の実を見つけて、喜んでかぶりついた仲間が一人、食べたばかりの木の実を口から撒き散らしナガラ死んだ。
ソレハ、マリアが知っている食べられる木の実とよく似た、毒のある別の木の実ダッタ。
ジャングルの中を歩いているウチに、マリアたちはいつの間にか自分達の知っているコトの通じない場所までやってきたミタイだった。
ソレカラハ、何を食べるにもビクビクして、コレを食べたら死ぬんじゃないかと怖くてタマラナクテ、ソレデモ泣きながら色んなモノを食べた。
そうしている内に、タクサンタクサン下痢をして、仲間がもう一人死んだ。
ジャングルの中を、ドッチを向いているのかモ解らないママ、たくさん歩いた。
マリア達の敵は、毒のある食べ物の他にも、村を焼いたのと同じようなタクサンの武器を持ったコワイ奴らがイタ。
人が住んでるトコロにはその跡が残ってるカラ、それを避けてイツカ安全な街や村にたどり着けると信ジテ歩き続けた。
だけど、そんな場所に着くヨリ早く、マリア達はある日、鉄砲を持った怖そうな男に会ってしまった。
マリア達は全員でソイツに飛び掛った。
鉄砲を使わせないヨウニ、最初に手を踏みつけて鉄砲を蹴っ飛ばした。
ダケド、全員子供で、しかもロクに何も食べてなかったマリア達は軽々と男に吹き飛ばされた。
それから、ケホケホと咳をしながら立ち上がってから、マリア達は気付いた。
マリア達はその時合わせて五人、ダケド立ち上がったのは四人。
「ア、アアア――ッ!!!!」
その一人は、お腹からドクドクと赤黒い血を流しナガラ、地面に倒れてイタ。
男は右手に刃こぼれだらけのナイフを握っていた。
ジリジリと、マリア達は男に追い詰められた。
男は、マリア達をさんざんに痛がらせてカラ殺すつもりみたいだった。
男がナイフを振り上げて、モウ駄目だ、ミンナがそう思った瞬間。
タタタタン!!!
そんな音が聞こえて、男はマリア達の方に向かって倒れタ。
ナイフにさされた仲間が、最後の力で鉄砲を撃って、マリア達を助けてクレタみたいだった。
引き金を引いたときには、もうその仲間は死んでいたミタイだった。
残された鉄砲は一番仲の良かった、マリアのトモダチの女の子が持つようにナッタ。
それからも、飢えと乾きに苦しんデ、ジャングルをあるく生活が続いた。
ゲリラにも何度も出会って、何度も死にそうな目にアッタ。
そして、運命の日、お腹が空いてもう一歩も進めなくなったマリア達は、木の根元に生エテイタ毒キノコを見つけた。
ソレがドレダケ恐ろしいキノコで、どんな事があっても食べちゃイケナイ事は村のオトナ達に何度も言われていたケレド、
マリア達はモウ一歩も歩く力がナクテ、生きるタメには何かを食べなければイケナカッタ。
結局、マリア達はキノコを食べた。
二人が死んで、マリアとトモダチの女の子だけが残った。
マリア達が小さいけれど平和な村にたどり着いたノハ、その次の日だった。
『もう少しだったノニ……』
そう言いながら、マリアはトモダチと二人でタクサンタクサン泣いた。
それからマリア達は、大きな街のスラムで暮らすようになった。
そこもヒドイ場所だったケレド、ジャングルをさまよったアノ生活にくらべれば天国だった。
毎日のヨウニ聞こえる銃声も、村を焼いたアイツラのマシンガンのコトを思えば、まるで子守唄だった。
お腹が空くコトも多かったケド、毒のある食べ物はなかった。
悪いヤツはタクサンいたけど、イイヤツも少しはイテ、マリアとトモダチの女の子はそんな人たちの仲間になる事ができた。
それからの生活はズット幸せで、日本に来てからはモット幸せだった。
ダケド………。
449266:2009/06/10(水) 02:21:09 ID:+kD2EE7W
「ウアアアアアアッ!!!!!」
「いやぁ、助けてぇええええっ!!!!」
目を閉じると、頭の中であの時燃え上がっていた村が、ジャングルの中で次々に死んでいった仲間の顔が浮かび上がる。
ダカラ、マリアはずっと考えている……。
「いいのカナ?マリア、こんなに幸せでいいのカナ?」
ミンナミンナ死んだノニ、マリアだけ幸せで、本当にいいのカナ?
震えてる手の平で、ギュッとスカートの裾を握った。


「関内さんの育ってきた環境は劣悪そのものでした。彼女の出身国の人間が経験した中でも最悪の部類でしょう。だから……」
「ああ、そういう事なんですね……」
先生の説明で、僕にも大体の事はわかった。
僕が肯くと、先生は辛そうな表情で続けた。
「命の糧である食料も得られない状況で、マトモに成長なんて出来るハズがないんです。
ほんの子供にしか見えない彼女ですが、あなた達との年齢差は考えている以上に少ない筈。
そして、普段があんな調子だから気付きにくいですけど、過酷な環境を生き抜いてきた彼女の心も我々が考えるよりずっと大人です」
それから先生は僕の肩に手を置いて、僕の顔をじっと覗き込みながら言った。
「今、私は工藤君の存在が関内さんの支えになるのなら、それでいいと思っています。……全く以って、教師失格ですが……
ただ、覚えておいてください。彼女とあなたの間の距離は、単なる年の差なんかよりずっと深くて遠いものです………」
「はい……」
僕が真剣な顔で返事をすると、先生はようやく少しだけ安心したような表情を見せた。
「でも、結局具体的にはどうすればいいんだよ?久藤とマリアの間がそんなに遠いんなら……」
そこで、木野が少し途方にくれたような様子でそう言った。
すると、先生はにこりと笑って
「それなら、私より、私の周囲のあの娘達の方が参考になるんじゃないでしょうか?」
「はあ?」
「辿りつきたい場所が遠いなら、走っても、歩いても、這ってでも、どうやってでもそこに辿り着けばいい。
論より証拠、行動あるのみ、やってみるしかないでしょう!!工藤君なりのやり方で少しでも関内さんの近くに寄り添うんですよ」

結局のところ、僕がマリアに感じていた距離のいくらかは、僕自身の心が作り出してしまったものだったのだろう。
最初から、心のどこかで届かないと思い込んでいたから、余計に彼女を遠く感じる事になってしまったんだ。
やり方はわからない、彼女の胸の内も相変わらず全く見えない、でも、僕は僕なりに彼女の少しでも近くにいようと考えた。

ある日の放課後。
「こらーっ!!マ太郎、待ちなさーいっ!!!」
「待てないヨーっ!!!!」
木津さんに追いかけられたマリアがこちらに走ってくるのが見えた。
彼女が何かをやらかしたのか、それとも、木津さんが例の如く暴走しているのか、どうにも話が見えなかったのだけれど……
「木津さん、片手にパンツもってるね………」
「あ、ああ…なるほど……確かに、きっちり穿いていてほしいところだからな……」
気恥ずかしくて、その場にいた僕と木野は下を向いてしまった。
だけど、これが良くなかった。
「准ーっ!!国也ーっ!!ソコ、危ない、ドイテよーっ!!!」
全速力のマリアは僕たちへの激突コースを辿っていた。
この時僕達が取るべき行動は下を向く事なんかじゃなくて、彼女に道を譲る事だった筈なのだ。
だが、時既に遅し……
「ウワァ――――――ッッッ!!!!」
僕達二人と、マリアは思い切り正面衝突してしまった。
遅れて反応した僕はようやく事態を悟り、激突で吹き飛ばされた彼女の体に必死で手を伸ばした。
そして、間一髪、僕の両腕は廊下に叩きつけられる寸前でマリアの体をキャッチする事ができた。
「ア、アウウ〜……って、アレ?…准、どーシテ?」
「いや、僕達が避けてればぶつからなかったんだし、マリアに怪我をさせるのも嫌だからね…」
僕がそう言うと、フッと彼女の頬に恥ずかしげな色が浮かんだ気がした。
そのまま思わず、彼女の顔を見つめてしまったのだが
450266:2009/06/10(水) 02:22:01 ID:+kD2EE7W
「マぁ太郎ぉ――――っっっっ!!!!」
木津さんの叫び声が間近に聞こえてきた。
「マ、マ、マ、マズイヨーっ!!!」
それに反応して、マリアは僕の腕の中から飛び出した。
木津さんに追いかけられて、彼女の姿が廊下の向こうに消えていく。
それを見ながら、僕は先ほどマリアが見せた赤い顔を思い出す。
恥ずかしかったのかな?
やっぱり、女の子だものな。
よくよく考えれば、僕はマリアの存在をどこか遠い物のように思い込んで、そんな当たり前の事にさえ気付かないでいたんだ。
少し、ほんの少し、僕はまた彼女に近づけた気がした。
「何を感動してるかよくわからんが、こっちの事も少しは気にしてくれー」
僕の背後で、ひっくり返ったままの木野がそう言ってうめいた。

千里からヨウヤク逃げて、マリアは学校の校舎の屋根の上で一休み。
シンゾウがまだドキドキしてるのは、キット千里との追いかけっこダケのせいジャナイ。
「准……受け止めてくれタ……」
アノ瞬間ダケ、まるで時間が止まったミタイだった。
准は驚いてるマリアの顔をじっと見つめて、ソノママ時間が止まってしまうんジャナイカと思った。
だけど、スグに千里が追いついてきたせいで……
「ウ〜……バカバカバカッ!!千里のバカァ〜!!!!」
アノママが良かった。
アノママ、准の腕の中にいられたら良かった。
だけど、モシ、ズット准の腕の中にいたら、アノ後、マリアは一体どうなっていたんダロウ?
ずっと考えていると、グルグルグルグルと頭の中を、色んな想像がウズマキみたいにかき回す。
アノ後、准の手で抱き起こされて、ソノママ、准の腕に抱きしめられて、ソレカラ、ソレカラ……
「う〜にゃぁああああああああああっ!!!!!!」
いつのまにか、自分がスゴク恥ずかしいコトを考えてる気がして、マリアは大声で叫んでしまった。
と、その瞬間……
「見つけたわよ、マ太郎〜」
「ウワッ、千里ダヨ!!?」
屋根の上までヨウカイみたいに這い登ってきた千里に追いかけられて、マリアはまた走り出した。
ダケド、マリアの体の中にはサッキまでと違う、なんだかウズウズしてくる不思議な感じでイッパイになってイタ。

まずは相手を知ろうとする事、自分の事を知ってもらう事。
人と人との距離を詰める方法なんて、まあ、そんなにあるものじゃない。
僕は、相手の心をグイと鷲掴みにして引き寄せてとか、そういうタイプじゃないから、前よりマリアと話すようにするしか方法はなかった。
実際、これまでの僕はマリアを対等な存在というより、庇護すべきものとしてしか見ていなかったのだと思う。
同じ目線に立って言葉を交わすと、今までよりたくさんの彼女の表情を見ることができた。
「あのコンビニの裏の鍵、カンタンに開くから食べ物手に入れ放題ダヨ」
「でも、それだと競争率も激しいんじゃない?」
「うん、ダカラ、これはマリアと准だけの秘密ダヨ!」
人差し指を口の前に立てて、シーッとやる彼女に合わせて、僕も人差し指を立てる。
彼女の視線で、町の景色が色を変える。
「僕のおすすめの本はこれかな?」
「分厚くないカ?」
「でも、読みやすいし、面白いよ」
「ウゥ〜、マリア、頑張って読んでミルヨ」
僕がよく知っていた筈の世界でさえ、彼女といると少し違って見えてくる。
どこか隔たりのあった他人行儀な関係から、少しずつ彼女に近付いている事を実感する。
「上手くいってるみたいじゃん」
「まあね」
話しかけてきた木野に、僕は笑顔で肯く。
「しかし、まさかお前がロリに転ぶとはなぁ」
茶化した様子で木野がそう言う。
「違うよ。僕が好きなのは、マリアだよ」
だけど、僕がさらりと答えたその一言を聞いて
「ホント、言うようになったよ、お前」
木野も嬉しそうに笑ってくれた。
451266:2009/06/10(水) 02:24:07 ID:+kD2EE7W
最近、准とタクサン話せるようになってスゴク嬉しい。
マリアは自分の家で准の選んでクレタ図書館の本を読んでる。
「准のウソツキ、全然読みやすくナイヨ〜」
わからない漢字や言葉がタクサンで、ページはなかなか進まない。
デモ、面白い本だっていうのは、准の言ってたとーりダッタ。
ペラリ、ペラペラ、何度も同じページを繰り返し眺める。
わからないトコロは明日、准に教えてもらおう。
先生の授業も悪くはナイケドやっぱり退屈。(これは先生には秘密ナ)
准ならきっと楽しく判りやすく、マリアのわからないトコロを教えてクレル。
そうやって、明日のコトを考えているダケデ、今は嬉しくて楽しくて仕方なくなる。
ダケド、ふっとある言葉が、マリアの中で引っかかった。
『明日』………。
今日の次にやって来る日。
ダケド、村の中で焼かれたミンナや、ジャングルの中で死んだ仲間には二度とやって来ない日のコト。
「あ……うぁ……あああっ……」
手の平の中で、准の選んでくれた本が震えル。
息が苦しくナッテ、目の端に涙がニジンデ、頭の中を色んなコトがぐるぐると回る。
「ドウシタ、マリア?」
一緒に住んでいるオトナの一人が、心配そうに声をかけてクレタ。
でも、今のマリアには答えられない。
ミンナは死んだ。
ダカラ、ミンナはもう幸せにナレナイ。
ソレなのに、マリアだけ幸せにナッテル。
いつの間にか、マリアは准の選んでくれたアノ本を投げ出していた。
膝を抱えて、震えながら、マリアは何度も何度も呟いた。
「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ………」
何度も何度も、家族に、仲間に謝り続けた。

「ゴメンネ、准、この本、マリアには難しすぎたヨ」
いつも通りの笑顔でぺこりと頭を下げながら、マリアは僕にこの間図書館から借りた本を渡した。
それから彼女は逃げるようにして、僕の前から駆けていった。
それ以来、僕はマリアとじっくり話をする事ができないでいる。
マリアは休み時間になると、楽しそうに声を上げながら校舎の中を走り回るようになった。
彼女らしい気まぐれならば問題はないのだけれど、なんだか今の彼女の行動には彼女らしくない痛々しさがあった。
放課後、学校の帰り道で僕と木野は彼女の変化について話し合った。
「………避けられてるのかな?」
「……もしかしたら、そうなのかもな。でも、マリアはお前と一緒にいて、いつも楽しそうにしてた。多分、何か理由があるんじゃないか?」
僕も木野と同じ意見だった。
だけど、その肝心の理由が僕には見当もつかない。
彼女が経験してきた世界に比べれば、僕の見てきたものはあまりに薄っぺらだ。
少しずつ少しずつ、彼女との距離を縮めてきたつもりだったけれど、結局は届かなかったという事だろう。
わかりもしないで無責任に言葉を発すれば、それは結局相手を傷つけてしまう。
彼女を苦しめている原因が僕ならば、今はきっと静かに彼女から離れる事が最善の策なのだ。
452266:2009/06/10(水) 02:25:17 ID:+kD2EE7W
「帰ろうか、木野」
「いいのか、アイツ、多分まだ学校にいるぞ?」
「今の僕に出来る事はないよ」
そう言って、足早にその場を立ち去ろうとしたのだけれど……
「もしかして、また自分には相手の事がわからないから、何もしない方がいいなんて思ってるんじゃないだろな?
そんな事、人間同士なら誰だって同じようなもんだろう?」
木野が言った。
「そうだね。でも、マリアと僕の間の溝は、きっと普通より深くて大きい。一般論じゃどうにもならないよ」
「……………」
木野の沈黙は、おそらくは同意の意味だろう。
僕だって、出来ることがあるなら彼女に何かしてあげたい、力になってあげたい。
「でも、その溝は前よりは狭く浅くなった筈だろう?」
それでも、木野は諦めないつもりらしかった。
「その分だけ、ほんの小さな、つまらない事でも、前よりはマリアの事をわかってやれるようになったんだろう?」
「それは……そうだけど…」
「それで十分なんだよ。前も言ったろ、きちんと相手を理解できていなかったとしても、お前の話にはお前の心がこもってて、
きっとそれだけで意味がある。前よりもマリアに近づけたんなら、きっともっと、お前の言葉はアイツに届くよ」
「木野………」
「それからお前、まだ肝心な事は一つも言ってないだろ?」
木野はニヤリと笑ってこう言った。
「行って来いよ。伝えて来い。お前が腹の内をさらけだせば、お前とマリアの間の溝とやらだって、もう少しは埋まるだろ?」
「ああ……」
それから木野は僕の鞄を強引にぶんどって、
「コイツはお前の家まで責任持って届けとくから安心しろ!!」
そう言って、駆けて行ってしまった。
残された僕は、くるりと踵を返し学校へと戻る道へと視線を向けた。
行かなければ、彼女の、マリアの所へ。

真っ赤な太陽が西の空に沈んでイク。
マリアは教室の窓に腰掛けて、それをボーっと見ていタ。
空の赤の中に、死んでいったミンナの姿が繰り返し横切った。
「准には悪かったケド、これでいいんだよナ」
呟いてみると、今のマリアは准から遠ざかったんだと、改めて身に沁みて胸が苦しくナル。
太陽はドンドン傾いて、教室はドンドン暗くナル。
ダケド、マリアはいつまでも、この窓から離れる気分になれなかった。
俯いたまま、ぷらぷらと揺れる自分の足を見ている、そんな時間がどれだけ過ぎたダロウ。
ガラガラガラッ!!!!
突然、教室の扉がイキオイ良く開いた。
そして、廊下の暗がりのムコウから、マリアの良く知っているヒトがゆっくりとコッチに歩いてくるのが見えた。
「准……」
准はイツモ通り優しく笑っていた。
准から離れナクチャ、そう思うのダケド、マリアの体は全然動いてくれない。
ソノウチ、マリアの近くにまでやって来た准は、マリアの座っている窓に手を掛けて
「よっと……!」
「あ……」
窓枠を乗り越えて、マリアと同じように、窓の外に足を向けて座った。
ウデがくっつくぐらい近くに座って、准がマリアの事を見下ろしていた。
ソレカラ、窓の外の空を見て
「綺麗な空だね……」
そう言って、笑った。
その笑顔を見ただけで、今まで胸が苦しくてイッパイだったのが、ウソみたいに消えてなくなった。
一瞬、准が隣にいるのが嬉しくて、准に抱きつきたくて甘えたくて、そんな気分でイッパイになったケド……
(駄目ダヨ、だってミンナは……)
ミンナの事を思い出してガマンした。
ソレなのに、今度はマリアの両目からぽろぽろと涙が零れ出して、瞼をぎゅっと閉じても止まってくれなくナッタ。
ダケド、その涙の流れたアトを、そっと優しい感触が拭った。
准の手の平ダ。
マリアは今、准が側にいてくれて、ホッとしていた。安心していた。
でも、マリアにはそんなマリアが許せなくて、頭の中がグルグルで、ワケがわからなくって、
必死で准のソバから離れようとしたそのときに……
453266:2009/06/10(水) 02:26:22 ID:+kD2EE7W
「あっ……!!?」
マリアはバランスを崩して、窓の外に投げ出されそうにナッタ。
ダケド、そのマリアの腕を准の手の平が、強く優しく、しっかりと掴んでクレタ。
「マリアぁああああっ!!!!!」
准が力いっぱいにマリアを引き上げる。
マリアと准はソノママ、もつれるみたいにして、教室の中に転がり込んだ。
「あ……准……准…」
助けられたマリアは准の腕の中にイタ。
そこはあったかくて、ホッと安らいで、ダカラ、マリアは今まで堪えていたものがガマンできなくなって……
「…准っ!…ウワアァ……准っ!!准っ!!!!」
涙と鼻水でグチャグチャの顔を、准はその胸で受け止めてクレタ。
優しくてあたたかい両腕で、震えるマリアのカラダを抱きしめてクレタ。
そのヌクモリの中で、マリアは思い出した。
昔、ずっと昔、マリアの村が焼かれて無くなるよりも前。
ジャングルの中で味わった地獄の記憶のせいで、思い出せなくなっていた昔のコトを思い出した。
食べ物はそんなにナカッタけど、家族がいて、トモダチがいて、ミンナが笑い合ってたころのコトを。
ミンナが幸せだったころのコトを………。
突然奪われ、消え去ってしまったケレド、幸せはアソコにあった。
ミンナの笑顔がマリアに教えてくれる。
マリアが幸せにナルのはぜんぜん悪いコトじゃないって……。
マリアは幸せの中で笑っていてもいいんだって………。
(ミンナ、アリガト……)
そうやって、ヨウヤク泣き止みはじめたマリアの頭を撫でながら、准が優しく語り掛けてきた。
「マリア、今日、僕は大事な話があってここに来たんだ……」
准の言葉が気になって、涙で濡れた目を擦って顔を上げると、ソコにはマリアの事をまっすぐ見つめる准の顔があった。
そして、ソレカラ准が言った言葉は、マリアの考えもしないモノだった。
「僕は、マリアの事が好きだ……」
最初、言葉の意味がわからなくて、まだ日本語がよくわからなかった頃みたいに、准の言葉だけを頭の中で繰り返した。
ダケド、それに被せるように、准の言葉が続く。
「マリアの事、ずっと見てたんだ。ずっと、綺麗だなって思ってた。………いつの間にか、好きになってた」
マリアの心臓の音がドンドン大きく早くナル。
頭の中がカーッと熱くなって、カラダがふわふわと浮かびあがりそうだった。
准が、マリアの事を『好き』?
「僕はマリアの事が大好きだよ…………マリアは僕の事、どう思ってる?」
准はマリアにそう尋ねた。
その答えは一つっきりだってわかってるノニ、マリアの頭はグルグル回って、上手くその言葉が出てきてくれなくて……。
ダカラ、マリアはその気持ちを伝える一番の方法で、准に応えた。
「准……っ!!」
「マリア……っ!?…ん……あ…マリア……」
重なった唇をゆっくりと離すと、照れくさそうな准の顔が見えタ。
ソレを見てると、マリアもやっと自分の気持ちが言えそうな気がしてきた。
「准……」
「うん?」
「マリアも准のコト、好きだヨ……」
ソレを言われたときの准の嬉しそうな顔を、マリアは一生忘れないと思っタ。

「准、好きだヨ……大好きだヨ……」
今まで言えなかったコト、伝えられなかったキモチ、それを口にしながらマリアは准に何度もキスをする。
「マリア…僕も好きだ……」
そう言いながら、准の右手が制服の上カラ、マリアの左胸を撫でる。
准の手の平に触られると、カラダが痺れて、頭のナカがとろけそうで、何度も准の名前を呼んでしまう。
マリアも必死に手を伸ばして、准のカラダに触って、思い切り抱きしめる。
准のカラダはマリアの知ってるオトナの男の人より細いけど、それでもやっぱりガッシリしてて、
大きな木にしがみついてるみたいに安心デキル。
キスをして、キスをして、またキスをして、数えきれない、一生分ぐらいのキスをスル。
舌も口のナカもとろけそうで、息が苦しくなっても、それでも准のキスが欲しくて次をねだる。
「はぁはぁ……准……准…」
「ああ…マリア……」
454266:2009/06/10(水) 02:28:01 ID:+kD2EE7W
「ああ…マリア……」
准の腕はマリアのちっちゃな体を何度もツヨク抱きしめた。
ソレは少し痛いぐらいに強いチカラが込められていて、キット准もマリアの事をずっと抱きしめたかったんだと思っタ。
准の手のひらが、ユビが、マリアの体中に触れる。
平らなオッパイの先を准のユビが撫でると、それだけで体中が痺れてマリアは崩れ落ちそうになってしまう。
おへそに、クビに、脚に、准のユビが丁寧に触れて、それから何回もキスをする。
「ふあっ…あああっ…うアァアアアアアッ!!!!…アアッ…准っ!!!」
ビリビリと、マリアの体じゃないみたいに、全身がケイレンして踊る。
准に触られてると思うダケで、カラダがスゴク敏感になって、准の息ひとつ、動作ひとつにも反応してシマウ。
体中にキスマークを残されて、体中をキモチヨクされて、まるでマリアが溶けていくミタイだった。
マリアが溶けて、准も溶けて、混ざり合ってヒトツになってしまうみたいだった。
「…ッアアアアアア!!!…マリア…モウ…ワケわかんないヨ…うアアアッ!!…准っ!!!」
「マリアっ!!…僕も…頭のナカ…マリアの事だけでいっぱいになって……っ!!!!」
准からデモナク、マリアからデモなく、まるで磁石がくっつくみたいに何度もキスをシタ。
准の指は太ももと太ももの間から、ゆっくりとマリアの一番熱くナッテル場所に近付いていく。
ソコを撫でられたトキ、マリアの頭のナカで白い火花が散った。
「…ックゥ…ヒアアアアッ!!!…ソコぉ…ふああああっ!!!!」
「あ…だ、大丈夫?…」
「…はぁはぁ…ううん…平気ダヨ……それより、准のユビでもっとタクサン、ソコを触って……」
准のユビがちっちゃく閉じられたソコを何度も撫でて、浅いトコロに入ってきてくちゅくちゅとかき回す。
サッキまでよりずっと凄い刺激に、マリアはただ必死に准にしがみついて、声を上げるダケになる。
「……クアアアアッ!!…アアッ!!…准っ!!…准っ!!!!」
頭の上までデンキみたいのが駆け上がってきて、ソレがマリアの体中を気持ちよく痺れさせてしまう。
そのイキオイと、気持ちよさがあんまり凄くて、恥ずかしいハズなのに、マリアの声はドンドン大きくなってイク。
ドレダケそうしていたかワカラナイ。
いつの間にか、マリアは准にぐったりとしたカラダを抱きしめられていた。
少しダケ、意識がトンダみたいだった。
ダケド、マリアの体も、心も、まだこれぐらいでは止まってくれないみたいだった。
マリアの髪を撫でながら、マリアの顔を見下ろしていた准の耳元に、そっと口を近づけて、ドキドキしながらこう言った。
「准……欲しいヨ…」
「えっ…!?」
「准が欲しい……ヒトツになりたい……」
准は少し驚いたような顔をしてから、ゆっくりと肯いた。
それから、准がマリアに優しくキスしてくれた後、ついに准とマリアがヒトツになる時がやってきた。

「マリア…いくよ……」
「うん…准…来てもイイよ…」
ゆっくりと、准の一部がマリアの体の中に沈み込んでくる。
熱くて、おっきくて、マリアの中を埋め尽くしていく准の感触。
それだけで、心も体もどこかに吹き飛ばされてしまいそうで、マリアは准のカラダに必死にしがみついた。
ソレカラ、奥まで入ったところで、准はゆっくりと腰を動かしハジメタ。
「大丈夫……マリア?」
「ウン、…少し痛いけど、へーき……准がマリアの中に来てくれて、スゴク嬉しい……」
モウ一度、准はマリアとキスをして、だんだんと腰の動きを早めていった。
准が動く度に、マリアのお腹の中で熱さのカタマリが弾ける気がした。
優しく、激しく、准がマリアのカラダをかき混ぜるたびに、マリアは大きく声を上げてしまう。
「ふぅ…アアアアアッ!!!…アアンッ!!…准っ!!…准―――っっっ!!!!」
「マリア…綺麗だよ…マリア……っ!!!」
ズンッ!ズンッ!!
准が動くたびに、衝撃の波がマリアの全身を貫いていく。
目に見えるスベテは涙でぐしゃぐしゃに濡れて、気持ちよさと熱さのナカで息もドンドン荒くなっていく。
マリアの汗と、准の汗が絡み合って、混ざって、マリアは准の、准はマリアのカラダの色んなトコロに触れて、その全部がどんどん熱くなってイク。
455266:2009/06/10(水) 02:28:41 ID:+kD2EE7W
洪水みたいに押し寄せる准の感触に、頭の中まで真っ白にされて、マリアは何度も准の名前を呼んだ。
准はそれに応えてマリアの事を呼んでくれて、それからマリアの唇や、体中のあちこちにキスをしてくれた。
マリアもお返しに准のカラダにキスをして、准のカラダを強く強く抱きしめた。
熱いのも、気持ちいいのも、マリアが准を好きなコトも、准がマリアを好きなコトも、
全部大きなナベのナカでかきまぜられて、ヒトツになっていくみたいだった。
そして、マリアと准のナカでぐるぐる回っていたそれは、ドンドン熱く激しくなっていって、破裂寸前にまで膨らんでいった。
「…マリアっ!!…僕は…!!!」
「准っ!!…あああっ…マリアも…もう……っ!!!!」
准の熱がマリアのお腹の奥をズンと強く突くのを感じた瞬間、マリアの中でギリギリで繋がっていた糸が切れるの感じタ。
その途端、怒涛のように押し寄せた熱くてたまらない何かがマリアと准を押し流していった。
「くあああっ!!!マリアぁあああっ!!!!!」
「…ふァアアアアアアッッッ!!!!准っ!!…准っ!!!…准――――っっっっ!!!!!!」
ぎゅっと抱きしめあいながら、マリアと准の心と体は高い高いところまでとばされていった。

僕とマリアが互いの思いを確かめたその翌日、僕達がしたのは一度は図書室に帰したあの本をまた借りる事だった。
そして、今は放課後、マリアが本を読んでいてわからなかったという部分を、図書室の席に二人並んで教えてあげているところだ。
「なー、准、ここ、どういう意味だ?」
「……夏目漱石…ああ、これは人の名前だよ。少し昔の日本の、小説家の名前」
「うー、漢字って、どれも同じみたいで難しい……!!!」
「それはこれから少しずつわかっていけばいいよ、マリア……」
それからしばらく二人で、少しずつ少しずつ本を読んで、気がつけば下校時間になっていた。
「もうそろそろ帰らなきゃね。マリア、僕の説明で参考になったかな?」
「うん、また新しいところを呼んで、明日准に質問スル!!」
図書室の鍵を閉めて、くるくると踊るように歩くマリアの後について、僕は廊下を歩く。
僕とマリアの間にある溝は、きっと多分消えないもので、それはどんな人にしても同じ事なのだろう。
だけど、大事なのはその溝がなくなる事じゃなくて、その溝が少しずつ埋まって、少しずつ二人の心が近付いていく事なんだ。
傍にいようとする事、寄り添おうとする事、近くにいる事じゃなくて、近くにいようとする事が、きっと二人の世界を変えていく。
人は死ぬときにはみな一人だなんて言うけれど、僕はそれを信じない。
かつて、自分に寄り添おうとしてくれた誰かの気持ち、ただそれだけで孤独の闇はきっと晴れてしまう。
「おーい、准!!早くしないと置いてくゾーっ!!!!」
廊下の先で、彼女の呼ぶ声がする。
だから僕は走っていく。
心と体を少しでも近くに、二人で一緒に行きていくために………。
456266:2009/06/10(水) 02:29:21 ID:+kD2EE7W
以上でおしまいです。
失礼いたしました。
457名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 06:59:03 ID:gbq14Ukv
>>456
GJすぎる!
前々から読んでみたい組み合わせだったんだ…ありがとう
458名無しさん@ピンキー:2009/06/10(水) 17:12:59 ID:6zzVeUbI
>>456
いろいろとキャラ保管もできて、普通にエロなしでもイケる作品だな。
つまりはGJということだ!!また何か書いてくれ、じゃなくて書いてください!!
459名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 20:07:48 ID:aHwN0nZ8
久々に来たら良作が二つも投下されていた
460266:2009/06/12(金) 21:07:00 ID:tVj2Z/lx
書いてきました。
何というか、今回のは好きに書きすぎてます。
文章量も多すぎて、容量オーバーもあり得るんじゃないかと思います。
内容的には、望達が高校の頃の話で、命×倫がベース、エロなしになります。
迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。
461266:2009/06/12(金) 21:09:17 ID:tVj2Z/lx
春を彩った満開の桜の花々もあらかた散り終えて、空の青と鮮やかなコントラストをなす瑞々しい新緑が辺りを覆い始めた頃。
信州蔵井沢随一の名家、糸色家の大きなお屋敷の中の一室に、何かを言い争う母娘の声が響き渡っていた。
「おかあさまの事なんて、もう知りませんっ!!!」
「コラっ!!倫、お待ちなさいっ!!!」
勢い良く障子を開け放って部屋から飛び出してきたのは、年の頃は五つほどの着物姿の小さな女の子だった。
波打つ滑らかな黒髪と、幼いながらも整った顔立ちの美しい少女は目に涙をためて廊下を走っていく。
続いて部屋から出てきたのは、同じく着物姿の美しい女性、さきほどの少女が『おかあさま』と呼んでいた人物である。
母は娘を必死に追いかけようとするが、廊下を通る使用人をひらりとかわして走る娘に母は追いつく事が出来ない。
走って、走って、広大な屋敷の中を走り抜けて、娘が逃げたと思われる彼女の自室の前まで母はようやくたどり着いた。
母はコホンとひとつ咳払いをしてから、部屋の中に居る筈の娘に呼びかける。
「倫、きちんと私のお話をききなさい!あなたは糸色流の華道を学ぶ身なのですよ。あんな活け方では……」
だが、母は気付く。
部屋の中から感じる気配が少しおかしい。
障子の向こうからは、わずかに風の吹き込む音が聞こえてくる。
まさか……!?
母が気付いて障子を開け放った時には既に遅かった。
部屋の中はもぬけの殻、娘が幼稚園で使っているカバンと、彼女の全財産の入ったがま口がその場から消えていた。
娘の不在を確認して、母の体からフッと力が抜ける。
「倫…どうしてわかってくれないの……」
力なく呟いた彼女の遥か上で、一部始終全てを見下ろしていた鳶がくるりと宙に輪を描いた。

「で、なんで、倫を尾行するのが僕達なんですか、命兄さん?」
「使用人のみんなは着物か、黒のスーツを着てるかで目立つんだ。普通の服で街に紛れ込める俺達が行くしかないだろ」
倫が家出してしまった。
その知らせを命と望、糸色家の三男と四男がすぐに聞きつけたのは幸運だった。
普段から何かと妹である倫の遊び相手をしている二人には、倫の逃げ込みそうな場所、行きそうな場所もある程度絞り込む事が出来たのだ。
早速、母親である妙の頼みを受けて、二人は倫を探して街に飛び出した。
そもそもが小さな女の子の足での移動である。
倫が家を出てからまだ一時間強、さして遠い場所に行ける筈もない。
ほどなくして、命と望は探し人の後姿を糸色家の屋敷から少し離れた住宅街の一角に見つけた。
「この辺りには倫がよく遊びに来る公園もあるしな。ここに狙いを定めたのは正解だったな」
「あの公園、そういえばコンクリートのドームみたいな遊具がありましたよね?そこで一晩過ごすつもりだったんでしょうか?」
二人が小声で話しながら倫を追いかけていくと、案の定、倫は件の公園へと向かっていった。
そして、公園にたどり着いた倫は、望の予想した通りドーム型の遊具の中へと隠れてしまった。
「倫には悪いけど、あの娘をこんな公園にいつまでも放っておくわけにはいかない。倫の気持ちは僕達からも母さんに伝えてあげよう」
「僕はどうでもいいんですけどねぇ…。最近、倫のやつ、僕の事をほとんど玩具みたいにしてるんですから……」
言いながら、忍び足で命と望はドーム型遊具に近付いていく。
遊具の出入り口となる部分はいくつかあったが、その内4つはドーム屋根の曲面に開けられた子供がやっと潜り抜けられるほどの大きさのもの。
(ドームの色んな場所から出たり入ったりするのが、この遊具の正しい遊び方なのだろう)
命達が入っていけそうな入り口は地面近くの一つきりだった。
「じゃ、命兄さんが行って下さい」
「どうして?」
「これ以上、倫に恨まれたら、今度は何をされるかわかりません!!」
「お前、妹に何をされてるんだ?」
嫌がる望の代わりに、命はドームの入り口にしゃがんで、その中を覗き込む。
薄暗いドームの中、命はそこに倫らしい人影ともう一人、同じくらいの年恰好の女の子の影を見た。
(えっ…二人!?)
そして、命が驚くよりも早く、その薄暗がりの中に銀色の光が閃いた。
ヒュンッ!!
「うわぁああああああああっ!!!!」
ドームの中から命の頬スレスレを鋭い刃が通り抜けた。
刃の正体は日本刀、チャキリ、金属音を立てて命の首筋にヒヤリとした感触が触れる。
462266:2009/06/12(金) 21:10:31 ID:tVj2Z/lx
そして………
「まんまと罠に掛かりましたわね。命おにいさま、望おにいさま……」
ドーム型遊具の中から二人の幼い少女が姿を現した。
着物姿の倫と、日本刀を携えて髪を頭の後ろでまとめたおとなしそうな少女。
(そ、そういえば、倫の幼稚園の友達にいつでも日本刀を持ち歩いている子がいたっけ……)
首筋に当てられた刃の感触に胸を締め付けられるような気持ちを味わいながらも、命はようやくそれだけの事を思い出していた。
チラリと背後を見ると、望も完全に腰を抜かして身動きが取れない状況のようだ。
「倫、これはどういう事なんだ?」
「命おにいさま、おにいさま達は倫の捕虜になっていただきます!」
どうやら、全てが倫の計略のようだった。
倫の自室の近くには糸色家本宅にいくつかある電話機の一つがある。
倫はこれを使って頼れる友人を呼び寄せ、さらには自分の追っ手が街中でも目立たない格好の兄達になる事を予測。
自分の行動範囲から兄達が彼女の行方を探し出そうとすると考え、逆にこの公園で罠を張ったのだ。
今回の家出が突発的なものであった事を考えれば、見事と言う外ない頭の冴えである。
「命おにいさま、望おにいさま、お二人には倫の家出を手伝っていただきます!!」
追っ手であるはずの兄二人を味方につければ、確かに家出の成功率は増すだろう。
しかし、我が妹の女傑ぶりに肝を抜かれた命であったが、倫のその言葉には肯かなかった。
「倫、駄目だよ」
「命おにいさま、おにいさまは倫の味方にはなってくれないのですか?」
思いがけない拒絶の言葉にたじろいだ倫に、命はゆっくりと首を横に振ってから
「違うよ。家出の話じゃない」
そう言って、微笑んだ。
そして、首筋に当てられた日本刀をそっと掴み、倫とその友人の二人を見つめて優しく語り掛ける。
「こんな風に人に刃物を突きつけて言う事を聞かせようなんて、良くない事だ。倫なら、わかるよね……」
「あ………」
その言葉に、倫と友人の二人は初めて自分達のしている事に思い至ったという表情を浮かべた。
「まずは、僕に母さんとの事を話してくれないかな?」
命の穏やかな言葉を聞いて、幼い少女二人は顔を見合わせて肯いた。
そして、カチャリ、音がして命の首に当てられていた日本刀が地面に下ろされた。

糸色の母娘、糸色妙と糸色倫の諍いの原因は、妙が倫に手ずからに教えている糸色流華道が原因だった。
母の厳しくも的確な指導を受け、だんだんと華道の技術を身につけつつあった倫であったが、
今日、彼女が渾身の力を以って活けた活花を、妙は糸色流華道の基礎が全く出来ていない悪い作品だと言い切ったのだ。
「……それは、倫のお花はまだおかあさまみたいに上手には活けられませんけれど、今日のあれだけは………」
厳しい練習を重ねてきた倫にとって、今日の活花を無下に否定されるのは辛すぎた。
反論した倫の言葉に、妙がさらに言葉を重ねる。
そうしている内に互いの感情がヒートアップしてしまい、ついには今のような事態に至ってしまったのだ。
一通りの話を聞いてから、命はうむむと考える。
事の発端は糸色流華道の専門的な問題であり、命には何とも言えないが、その後の言い争いは喧嘩両成敗でしかるべきだろう。
妙は気の強い人物であり、一度こうと決めたら絶対に曲げようとしない。
おそらく、今回も倫の方から謝るまで許すつもりは無い筈だ。
だが、それはやはり不公平ではないかと命は考える。
娘である倫は、親である妙に対してどうしても立場が弱い。
既に命は心の中で、どんなに母の機嫌を損ねようと、倫の側に立って弁護してやるつもりになっていた。
「倫、やっぱり家出は良くないと僕は思うよ。ただ、母さんと倫の喧嘩を放って置くつもりもない。
………僕は最後まで倫の味方をするつもりだ。みんなもきっと心配してる。一緒に家に帰らないか?」
「………やっぱり、命おにいさまは倫の家出には反対ですのね……」
「うん………だけど、全力で力になると約束するよ……」
命からの、家に帰ろうという提案に、倫は不安そうな表情を見せた。
そこに、望の声がかぶさる。
「そーですよ、倫!父さんや母さん達と争ったって、ろくな事にはなりません。ここは素直に家に帰って謝っちゃいましょう!!」
望らしい弱腰な発言。
だが、命はそんな望を睨みつけて
「望、そうやって俺に同意してくれてる割には、さっきからのその体勢はなんだ?」
「はい……?」
463266:2009/06/12(金) 21:12:00 ID:tVj2Z/lx
命達は先ほどの公園のベンチに腰掛けて話をしていたのだが、その内、望の座っている位置が問題なのだ。
平面上で見ると、倫と全く同じ点の上、要するに望は倫の体を膝の上に抱えて、ぎゅっと抱きしめながら話していた。
その体勢と目つきは弱腰な言葉とは裏腹に、倫を死んでも離さない、倫と一緒に今から家出してやるとでも言いたげな様子だ。
「文句を言ってる割には、お前、倫には甘いんだよな……」
「倫さんはおにいさまと大変仲がよろしいのですね」
10歳以上も年齢が離れているにも関わらず、倫と望の関係は年の近い兄と妹のような遠慮のないものだった。
倫は命の事をとても慕ってはいるが、望との間のような気安さはない。
その辺り、実のところ自分も倫が大好きな命は、二人の関係に少し嫉妬してたりもしていたのだが……
(参ったな。あの二人、このままじゃ梃子でも動きそうにない……)
正直、命だって倫の家出を手伝ってやりたい気持ちは持っていた。だが、それは蔵井沢最大の名家、糸色家を敵に回すのと同義なのだ。
広大な屋敷内には、ボディガードを兼ねた黒スーツにサングラスのいかつい使用人達が150名待機している。
本格的に家出をするというなら、まずは屈強な彼らから逃れなければならない。人数に体力に情報網、到底自分達のかなう相手ではない。
そして、家出を強行した上で家に連れ戻されれば、倫の立場はますます不利になってしまう。
「…………倫だって、ほんとはこんなのいけないってわかってます。……でも、おかあさまが話を聞いてくださらなかったのが悲しくて……」
「倫………」
倫は母である妙に対して、自分の意思をキッパリと伝えたいのだ。
そのための倫に可能な最大の抗議行動、それが今回の家出だったのだ。
「倫……倫は家出してから、その後どうするつもりだったんだい?」
「…………おばあさまの所に行くつもりでした…」
おばあさま、妙の母は既に他界しているので、父である大の母親の事であろう。
「おばあさまに倫のお花を見ていただいて、それからおかあさまとお話しようと思っていました……」
なるほど、と命は心中で手を打った。
祖母は先代の糸色流華道の師匠でもあった人物である。
倫はその祖母の目を通して、自分の花のどこが良くて、どこが悪かったのか、公平に判断してもらおうという考えだったようだ。
(本当にすごい妹だよ……。そんな事まで考えてたなんて……それに比べてコッチは…)
じっとりとした視線を、命は弟の望に向ける。
「何ですか……?」
「いいや、何でもない」
「何でもないわけないでしょう、この角眼鏡」
「お、やるつもりか、丸眼鏡」
「お、おにいさま達が喧嘩して、どうするんですの!?」
倫の声を聞いて、ようやく二人は我に返る。
「………そうか、倫はそこまで考えていたんだな……」
命は思う。
ここまでの決心をして決行された倫の家出を無下に台無しにしていいものなのか?
倫が求めているのは自分の活けた花に対する公平な再評価だ。
無分別に自分の主張を押し通そうとしているわけでは決してない。
考えてみれば、命自信も母や父に対してでも、譲れないものがあるときはキチンと主張していた筈だ。
命は倫と、倫をぎゅっと抱きしめる望の姿に目をやる。
この二人の覚悟は既に決まっている。
それならば………
「わかったよ。倫がそのつもりならとことんまで付き合おう」
「命おにいさまっ!!!」
倫が心底嬉しそうな表情で歓声を上げる。
(さて、腹を括ったのはいいけれど、相手はあの我が家の面々だ。気合を入れてかからないと……)
目指すは蔵井沢から離れた祖母の家。
ろくな交通手段を持ち合わせていない命達がそこへたどり着くには、やはり鉄道を使うのが手っ取り早いだろう。
ここはまだ蔵井沢市街の奥の方にある糸色家本宅の周辺だ。
蔵井沢駅まではここからそれなりの距離を走り抜けなければならない。
「まあ、やってみるさ……!!!」
覚悟を決めて、命は立ち上がる。
それから、ベンチに腰掛けた倫の友人に顔を向けて
「ご家族も心配されるだろうし、君は戻った方が……」
「いいえ!!わたしは倫さんと最後まで一緒に行くって決めましたの!!!」
どうやら、こちらも梃子でも動かない様子だ。
「よしっ!それじゃあ行こうか、倫!!」
「はいっ!敵は糸色本家、相手にとって不足なし、ですわっ!!!」
倫も立ち上がり、命の言葉に頼もしく応える。
ここに、糸色の少年少女達の熾烈な戦いが幕を落とされたのだった。
464266:2009/06/12(金) 21:13:10 ID:tVj2Z/lx
糸色家本宅の一室、ここでは当主である大と妻の妙が倫を連れ戻しに行った命と望が戻って来るのを待っていた。
「まったく、あの娘はどれだけみんなに心配を掛けていると思って……」
「まあ、命と望なら倫を説得できるだろう。三人とも仲が良いからな……。説教はその後だ」
「あなた、びみょ〜に…楽しそうにしていませんか?」
「そ、そうか?そんな事は……」
「望が最近、どこかの小さな女の子と遊んでるなんて話を聞いたときも、あなたは面白がるばかりで……」
「いや、アレは望と遊んでるというより、望が遊ばれてる感じだったからなぁ……ついおかしくて…」
「ほら、やっぱりそうじゃありませんか!糸色家の当主がそんな事でどうするのです!!」
「む、むう……だがなぁ…」
痛い所を妙に突かれて、なんとも居心地の悪そうな大。
二人がしばらく言い合いを続けていると、今度は執事の時田が部屋に入ってきた。
「時田……倫は見つかったのか?」
「はい、ですが旦那様……」
どうやら、命と望は無事に倫を発見したらしい。
しかし、時田の曇った表情を見れば、どうやら事態は一筋縄ではいかない状況に陥っているようだ。
「どうしたのです!倫は、倫はどこにいるのですか!?」
「はあ…実は……」
急かすように問いかけた妙に、時田は額に汗を浮かべながら答えた。
「蔵井沢市内を命ぼっちゃま、望ぼっちゃまとご一緒に走っている倫様のお姿を近隣の住民が目撃したようです……」
「そ、それは……?」
妙が青ざめた表情で頭を抱える。
大はそんな妙に見えないようにニヤリと笑い、兄二人を味方につけ見事に家出をなしとげようとしている娘に心の中で喝采を送る。
「命ぼっちゃまと望ぼっちゃまは倫さまの側に寝返りました。お三方は今なお逃亡中です!!」

というわけで、糸色家のご令嬢の家出という非常事態に、糸色家本宅詰めの使用人兼ボディガードである黒スーツ150人の内、
120人までが倫達の捜索と確保のために動員される事になった。
だが、ここにも罠があった。
時にとんでもない我がままを言い出し、そのお転婆な性格で周囲を振り回す倫であったが、糸色家の使用人達には礼儀正しく優しかった。
何かあるとすぐ行方の知れなくなる長男・縁、奇人変人を地で行く次男・景、三男の命こそ普通だったが、続く四男・望はネガティブ一直線。
糸色家の子供達に苦労させられてきた使用人達の中で、そんな倫の人気は異様に高かった。
今回の家出の発端となった糸色流華道の修行にしても、子供ながらによく頑張っているものだという評価が大半を占めていた。
というわけで、今回の倫捜索に対する黒スーツ達の士気は総じて低かった。
無論、彼らもプロである以上、仕事はキッチリとこなすだろうが、戻ってきた時には全員で倫を弁護するぐらいの事はやりそうだった。
そこで、当主・糸色大は彼らとは別に倫達を確保する役目を、この二人に頼む事にした。
「倫が家出ですか……」
糸色家長男・縁、文武両道に秀でた糸色家の名に恥じない人物であったが、あらゆる縁に見放される不憫な人でもある。
「そうか……しかも命と望も一緒、やるもんだなぁ……」
糸色家次男・景、糸色家きっての変人である。
画家を志し修行に出ると言って一年余り、東アジアを当人曰くヒマラヤの地下深くシャンバラ経由でぐるりと一巡り、
日本に戻ってきたばかりの彼は髪は伸びっぱなしで顔も無精ひげだらけである。
命、望、倫の三人を良く知る実の兄弟であるこの二人ならば、より確実に彼らを連れ戻す事が出来るだろうという考えである。
「わかりました。命と望もついていますが、二人ともまだ高校生……できるだけ連れ戻した方が良い」
「うーん!あの三人相手に鬼ごっこっていうのは燃えるなぁ!!!」
「縁、景、二人ともくれぐれも倫達の事を頼んだぞ」
大の言葉を受けて、縁と景は並んで部屋を出て行く。
その後姿を見送る大に、妙が心配そうな顔で耳打ちをする。
「あなた……どうして縁まで……」
「ううん……だって、お前には絶対、倫を見つけられる縁なんてないから諦めろなんて言えないだろ?」
糸色本家の倫捜索作戦は前途多難のようであった。
465266:2009/06/12(金) 21:15:19 ID:tVj2Z/lx
一方、糸色家本宅から少し離れた雑木林の中、糸色家使用人の黒スーツの若い青年が何やら小さな機械に向けて話しかけていた。
「だから言ってんだろ、千載一遇のチャンスなんだよ!!今なら使用人連中に紛れて糸色の末娘を攫える!!
予定よりは早くなっちまったが、カモフラージュ用の黒スーツはもう用意してあるんだろ?」
男が話しかけていたのは、糸色家の人間が使っているタイプとは違う小型の無線機だった。
青年は黒スーツ達の中でも礼儀正しく、人当たりも良く、同僚達からの厚い信頼を得て糸色家本宅の警備の仕事を請け負うまでになっていた。
だが、今の青年の顔には普段の穏やかさは欠片も見当たらない。
その瞳に宿る光はどこか飢えた肉食動物を思わせた。
「ああ、わかってる……全てはオヤジの復讐の為だろ?ソッチもへまするんじゃねえぞっ!!!」
それだけ言って通信を打ち切ると、青年はクククと不気味に笑い、懐から一本の銀色に閃く刃を取り出す。
刃渡り30センチ以上、カーボン製のグリップとチタンの刃を持つ巨大なナイフである。
「さぁて、せっかく糸色のお嬢様から始めてくれたお祭りだ。せいぜい楽しませてもらうさ……」

走る。走る。走る。
なるべく人目につかない通りを選びながら、倫達は蔵井沢の町を走り抜けていく。
彼女達に立ち止まっている暇はなかった。
恐らくは命と望が倫の味方について逃走している事は、既に屋敷にまで伝わっている筈である。
蔵井沢の住民からの糸色家に対する信望は厚く、黒スーツや普通の使用人達など
糸色家に関わる人物から尋ねられれば彼らはすぐに倫たちに関する目撃情報を話す筈である。
そして、糸色家が現在家出中の娘を探していると聞けば、協力を惜しむような事はするまい。
ハッキリ言って、現在の倫たちは蔵井沢中からの監視を受けているようなものなのである。
「はぁはぁ…せめて、自転車を持ってくれば……」
「だらしないな…望…これくらいでへばってるようじゃ……」
というわけで糸色家の中でもインドア派の命と望の二人はもう息も絶え絶えである。
「おにいさまたち…早く行きますわよ〜!!!」
一方、歩幅の分だけスピードは劣るものの、倫はまだまだ元気イッパイという様子であった。
倫の友人に至っては重い刀を持っているにも関わらず、息切れひとつしていない。
さすがにまだまだ小さな妹に負ける訳にはいかないと、命と望は気合を入れる。
と、その時である。
「ああ、倫様っ!!」
「こちら第七班、根賀3丁目付近で倫様達を発見しました。至急応援をっ!!!」
行く手の曲がり角から飛び出してきた4人の黒スーツ、糸色本家の放った追っ手についに追いつかれてしまった。
「命兄さんっ!!」
「わかってる!悪いけど、倫を渡すわけにはいかないっ!!」
命と望は一気にスピードを上げて、倫達をかばうべく前に飛び出し、そのまま黒スーツの一人に二人同時の体当たりを食らわせる。
いかに鍛えられた黒スーツといえど、男子高校生二人分の体当たりは支えきれなかった。
一人目の黒スーツが吹き飛ばされたのを見ると、残りの三人が命と望を取り押さえようと一気に飛びかかってきた。
命はその内一人と激しいもみ合いになる。
「お、思っていた以上にやりますな。命ぼっちゃま……っ!!!」
「こう見えて武道経験者なんだよ。小さい時には散々、父さんにしごかれた!!」
「なるほど……っ!!!」
一進一退といった感じの両者だったが、残りの黒スーツは二人、望一人の手には負えるはずもない。
だが……
「命おにいさまをお放しなさいっ!!!」
叫び声と共に命と組み合っている黒スーツの両脚を衝撃が襲う。
「り、倫様!?」
「命おにいさまに乱暴は許しませんっ!!!」
かぷり!!
倫の小さな口が黒スーツの足に噛み付いた。
実際のダメージ以上に倫から攻撃を受ける戸惑いのせいで、黒スーツの足元は少しふらついてしまう。
その隙を命は逃さなかった。
「でりゃあああああああああああっ!!!!」
柔道で言うなら変形版の大外刈りとでも言うべきか。
命の投げによって宙を舞った黒スーツの体が地面に叩き付けられる。
一方、倫の友人をかばいつつ、二人の黒スーツから逃げ回っていた望だったが……
「命兄さんっ!!全員と相手をしても拉致があきませんっ!!僕が隙を作りますから、一気に逃げましょうっ!!」
「隙!?…だけど、どうやって?」
疑問に思う命の前で、望は両袖から何やら液体の入ったボトルを取り出す。
どうやら、それぞれ有名な塩素系と酸性の洗剤のように見えたが……。
466266:2009/06/12(金) 21:17:14 ID:tVj2Z/lx
「望式旅立ちパック・試作品その一っ!!混ぜても安全な洗剤っ!!!!」
ボトルから流れ出た洗剤が路面で混ぜ合わさった瞬間、紫色の毒々しい煙が一気に立ち上がった。
周囲を覆う煙の中から、命と倫のところへ倫の友人を連れて望がやって来た。
「望、お前いつの間にあんな物を……」
「あれはヤバそうな煙が出るだけで完全無害な代物です。さあ、今のうちに逃げちゃいましょうっ!!」
「ああ、わかってる……」
望の言葉に肯いた命。
そんな彼らを命が投げ飛ばした黒スーツが、どこか嬉しそうに目を細めて見つめていた。
「みなさま、やるものですなぁ……流石は糸色家のご兄弟ですよ…」
「すまない。それでも僕達は倫の家出を全うさせてやりたいんだ……」
応えた命の言葉に、黒スーツは肯いて
「ええ、こちらも全力、手加減はいりません。………ここだけの話ですが、倫様、応援していますよ」
にこりと笑顔を浮かべた。
そして、命達はその場から駆け出し、黒スーツ達が呼んだ応援が到着した頃には、その姿は影も形もなかった。

その後も倫達一行は何度か黒スーツ達に遭遇しながらも、それをかわして蔵井沢駅を目指して走っていた。
「この調子なら、駅まで行けるんじゃないですか、命兄さん?」
「だといいがな……」
笑顔で言った望に対して、命の声は少し暗い。
「ど、どういう事なんです?」
「望おにいさま、私達はもう何度も黒スーツ達と出会っていますわ。その場所をたどれば、だいたいどの方向に向かっているか見当はつきます」
「な、なるほど……」
「さすがですね、倫さん!」
確かに、ここに来るまでに徐々に黒スーツ達との遭遇頻度が上がっている気がした。
「それじゃあ、このまま進み続けて、僕達の目的地が蔵井沢駅だってバレたら……」
「ああ、駅前で待ち伏せされて一網打尽、だな……」
「というか、その前に私達の走ってる方向に集まってたら、それだけで……」
望、命、倫、三人が息を呑む。
その時である。
「倫お嬢様、お坊ちゃま方、お待ちくださいっ!!!!」
進行方向にあった十字路の左右から、それぞれ六人ずつの黒スーツ達が飛び出した。
これまでは一班四人単位としかぶつからなかったのだから、一気に三倍の人数と出会ってしまった事になる。
「ひ、ひぃいいいいいっ!!!言ってたら、ホントに来ちゃいましたぁ!!!」
「倫、一気に駆け抜けるよっ!!!」
「はい、命おにいさまっ!!あなたも遅れないで!」
「もちろんです、倫さんっ!!」
これまでは体格に勝る命と望が最初に突っ込んで活路を開いてきたが、今回は相手を強引に突破するため四人全員で突撃を行う。
糸色家の子供達に乱暴は振るえないという気後れもあるためか、真っ向の激突では倫達がなんなく黒スーツを打ち破る事ができた。
しかし、それからの黒スーツ12人の追跡は今まで以上にしつこく、ねちっこかった。
「ま、ま、まだ追いかけて来ますよ〜!!!」
「しかも、こっちは走りっぱなしでクタクタだ。マズイぞ……っ!!!」
黒スーツ達を突破してからしばらく後、歩幅が小さくてどうしても早く走れない倫とその友人のために、
倫を命が、倫の友人を望がそれぞれ抱えて走っていたのも、体力の消耗に拍車をかけた。
「すみません、命おにいさま……私のせいで……」
「いいや、倫、いいんだ。これは僕達が好きでやってる事だからね」
とは言ってはみたが、望の混合洗剤煙幕などを使いながら距離を取ってはいたものの、そろそろ命達の体力は限界だった。
(いざという時には、俺と望が盾になって、少しでも遠くに倫を逃がしてやらないと……)
命はすでに頭の隅で、最悪の事態に向けての算段をし始めていた。
「ひっ、ひっ、ひぃいいいっ!!!もう駄目ですっ!!限界ですっ!!!」
「倫さんのおにいさまってすごいんですのね。弱音が多くなるたびにスピードが上がってる!!」
一方の望も必死で足を動かし、スピードはむしろ前より上がってはいたが、これは火事場のバカ力といったところだった。
いつしか追いかけられる四人は、住宅と住宅の間に入り組んだ狭い道を走っていた。
道が狭い分、横から回りこまれる事を心配しなくて良くなったが、だんだんと命達の方向感覚もおかしくなり始めていた。
「み、み、命兄さんっ!!僕達、ちゃんと正しい方向に走ってるんでしょうか!?」
「すまない、望っ!!俺もよくわからなくなってきたっ!!!」
逃げ回る四人の頭の中はもはや不安でいっぱい。
走りっぱなしの足は悲鳴を上げ、追っ手の黒スーツ達は背後近くまで迫っている。
命、望、倫、倫の友人、それぞれの心が諦めに捕らわれはじめた、そんな時である。
467266:2009/06/12(金) 21:19:32 ID:tVj2Z/lx
「ふ、ふわぁあああああああっ!!!?」
四人がある曲がり角を通り抜けた直後、そこから小さな女の子が飛び出したのだ。
すぐ後ろを猛スピードで走っていた黒スーツ達もこれには驚いた。
このまま12人もの屈強な男達に激突されては、あの女の子はひとたまりもない。
「止まれぇええええええっっっ!!!!!」
先頭の一人の号令で、黒スーツ達は緊急停止を試みた。
だが、今まで全力で走っていたスピードをすぐに殺せるはずもなく、黒スーツ達は道端にドミノ倒しのように山になって転げてしまった。
それでも、一応、女の子が無事であった事にホッと胸を撫で下ろしながら、先頭の男が彼女を見ると……
「えへへ、ごめんなさい……」
女の子は楽しそうに笑って、そう言った。
この表情、まるで悪戯を成功させた時のような……
「あ、あなたは……」
そして、黒スーツ達の声を聞いて立ち止まった四人の中、望が驚愕の表情を浮かべていた。
「ど、どうして、あなたがここに……!?」
高校に入学したばかりの望が舞い散る桜の下で出会った幼い少女。
無邪気な笑顔と裏腹に、とんでもない悪戯の連続で望を参らせる女の子。
彼女・『あん』はにっこりと望に笑いかけて答えた。
「おにいちゃんを助けに来ましたっ!!!」

「もう黒い服の人たちは追いかけてこないと思うよ。わたしが仲良しのおじさんやおばさん達に頼んで、ウソを言ってもらってるから」
「そ、そこまでの影響力を持ってたんですね、きみは……」
あんの言葉通りすっかり黒スーツ達による追撃が無くなったため、倫とその友人は地面に下ろしてもらって歩いていた。
(なるほど、あれが例の……)
命は、望が高校に入学して以来、なにやら悪戯好きの小さな女の子と仲良くしていると聞いていた。
その少女・あんの悪戯は過激極まりなく、望は警察のお世話にさえなった事もあったが、それでも変わらずに仲良くしているらしい。
父親・大もその件については『面白いから』という理由で本気で怒った事がない。
そんな二人の様子を初めて間近で見た命だったが、なるほど確かにまるで本物の兄妹のような仲の良さだ。
(いや、ああいう風に少し変わった人間とも打ち解けられるのは、望の才能かもしれないな……)
なんて考えていると、あんはこちらを向いてニコリと笑った。
正確に言うならば、どうやら命の足元にくっついて歩く、倫に笑いかけたらしい。
さっきから不機嫌だった様子の倫は、その笑顔にぷいとそっぽを向く。
どうやら、望を取られた事が不服であるらしい。
それから、倫は、今度は命の足にすがりつき、あんに向けてあっかんべーをしてみせる。
どうやら、『みことおにいさまはわたしませんわ!!!』という事らしい。
(うう……倫には悪いが、ちょっと嬉しいかもしれない……)
ともかく、蔵井沢に張り巡らされた『あんのお友達ネットワーク』によって、黒スーツ達の情報は完全に混乱しているらしい。
既に四人は駅までの道のりの半分弱を歩いていた。
あまり目立たない、人通りの少ない道を選んでいけば、駅にまでたどり着くのもそう難しくは無い筈だ。
さきほどまでの全力疾走の疲れも抜けて、命も今回の家出の成功について楽観的な見方をし始めていた。
倫達一行は人目を避けるため、左手に雑木林、右手に畑の広がる山沿いの道を歩いていた。
少し遠回りにはなるが、ここから駅の近くの道まで歩いて、後は一気に突っ切ってしまえば、家出は成功したも同然だ。
命や、幼いながらも用心深いあん、ネガティブ思考の望までもがそう信じていたその時、それは起こった。
「えっ!!?」
倫が驚きの声を上げた。
進行方向左手の、少し斜面になっている雑木林の中から、ズザザザザッ!!!!と音を立てて数人の男達が現れたのだ。
五人の前後にそれぞれ三人ずつ、合計で6人、全員が糸色家のボディガード達が見につける黒スーツを着ていたが、どこか様子がおかしい。
「こんなところにいらっしゃったのですね、倫お嬢様……」
語りかけてくる口調こそ丁寧だったが、その声には怜悧な響きが篭っていた。
命はきな臭い様子の男達を警戒して、倫をそっと抱き寄せる。
(黒スーツは四人一組で行動していた筈……それにこいつら、どれも見覚えのない顔だ……)
150人もの数を誇る黒スーツ達とて、毎日会っていれば、自然と顔を覚えるものだ。
だが、この6人とは屋敷の中ですれ違った気さえしない。
「命坊ちゃま、倫お嬢様を渡していただけますか……?」
そして、次の発言で命の疑念は確信に変わる。
語るに落ちる、とはまさにこの事だ。
よりにもよって、倫を渡せなどと、邪心を持った人間の言葉でしかない。
468266:2009/06/12(金) 21:20:29 ID:tVj2Z/lx
「いやいや、使用人のみなさんにそこまでお手を煩わせるわけにはいけませんよ。倫は最後まで僕が面倒を見ます」
「………そうですか、それは残念ですねぇ」
自分の失言に気付いたのか、バツの悪そうに笑った男は懐に手を入れ、ある物を取り出した。
シャキン、と音が響いて伸びたのは、黒く塗られた金属の棒。
「と、特殊警棒って!!?」
望の顔が青ざめる。
残りの五人も各々が懐に手を入れて、自分の得物を取り出す。
三人が最初の男と同じ特殊警棒、そして二人がバチバチと火花を散らすスタンガンを持っていた。
(くっ……これじゃあ、今までのように取っ組み合いでどうにかするのは無理だな……)
命の顔に焦りの表情が浮かぶ。
特殊警棒だけでも厄介だが、接触自体が命取りになるスタンガンを使われては、命達にほとんど勝ち目はない。
ジリ、ジリ、6人の男達が前後から間合いを詰めていく。
命と望は三人の少女達をかばうように前後の男達を阻む壁になるが、命の手も望の手も恐怖と緊張のためかすかに震えていた。
「それじゃあ、手早く終わらせてしまいましょうか……」
男達の一人が言った。
(く…来る……!!)
命と望は覚悟を決めて、男達に飛び掛ろうとする。
だが、それよりも一瞬早く……
「うおりゃああああああああああっ!!!!!」
ドカッ!!
大声と共に放たれた一撃で、倫達の背後にいた男の一人が倒された。
全員の注目がその声のした方向に向けられる。
そこにいたのは……
「命ぉ、望ぅ、この物騒な連中、お前らの友達か?」
「景兄さんっ!!!」
先端の湾曲した奇妙な棒を肩に担いで、髪を伸ばしっぱなしにした無精ひげの男がそこに立っていた。
糸色景、芸術家を志す糸色家の次男坊である。
「なるほど、お前が一年以上も海外でフラフラと遊んでいた、糸色家の次男か……」
「別に遊んでいたつもりはないんだがなぁ……」
「いいだろう、まずはお前から黙らせてやるっ!!!」
二人の男が、それぞれ警棒とスタンガンを手に景に襲い掛かった。
「どうやら、友達じゃないみたいだな……」
だが、景は少しも慌てる事無く、まるで蛇のように身をくねらせて二人の男の初撃をかわす。
そして、斜めに傾いたその体勢のまま、次はスタンガンの男に蹴りを繰り出し……
「うおわっ!!?」
その手からスタンガンを叩き落す。
そして、その隙を狙って打ち込まれた、もう一人の特殊警棒の一撃を手に持った棒で軽々と受け止め……
「てありゃぁあああああああっ!!!!!」
そこから一旦、棒を引いて、男の鳩尾に容赦のない突きを入れる。
「望っ!今だっ!!俺達もっ!!!」
「は、はいっ!!」
景が後方の三人を相手にしている間に、命と望は前方のもう三人に挑みかかる。
「望式旅立ちパック・試作品、安全首吊り用ロープっ!!!」
望が、またどこから取り出したのか、長いロープを巧みに操り男達の動きを阻む。
ロープが巻きついて、せっかくの得物が使えない男の一人に、命が強烈なパンチを見舞う。
「「うおぉおおおおおおおおおっ!!!!!」」
さらに、今度は望も加わって、残りの二人に体当たりを食らわせ、三人を地面に倒す。
その隙を見て取った景は、後方の三人にとどめとばかり一撃ずつ突きを食らわせてから叫ぶ。
「命っ!望っ!!こっちは子連れだっ!!これ以上やりあっても仕方がない、逃げるぞっ!!!」
景の言葉を受けて、命を先頭に一行は走り出した。
469266:2009/06/12(金) 21:51:34 ID:tVj2Z/lx
すみません。
容量がほぼいっぱいまで使ってしまいました。
新スレッドを立てようとしましたが、出来なかったので誰か他の方、お願いできますでしょうか?
ご迷惑をかけて申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。
470名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 22:54:46 ID:DX4wnzsu
やってみます
471名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 22:57:16 ID:DX4wnzsu
472名無しさん@ピンキー
                             ,. ----- 、
     _                   ,.  '"´        }
.   ,.'´ `ヽ     ,.. -――‐- 、 _,. '"       /    !   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
.   ,'     ヽ  /        `ヽ、      _/       ,'  <  次スレ 【絶望先生】久米田康治エロパロ総合 Part21【改蔵】
   ;      V´  /      ,ヘハ   ヽ.-‐   ̄ /      /   |        http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1244814980/
   ! ヽ    '.  i      i「´ |    ハ    /     /     \_________________________
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      \     V / / ,仁`   ,.iじ1 ト、二>    /
       ヽ     V /,.辷ク    、 ¨ ||| | /      /
        '.    V/ ¨´    i7 从V       /
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      /  '.    マ、>  __,.イり∠j    \ |                        /   `ヽ、
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