ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。
○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。
■ヤンデレとは?
・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
→(別名:黒化、黒姫化など)
・転じて、病ん(ヤン)だ愛情表現(デレ)、またそれを行うヒロイン全般も含みます。
■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫 @ ウィキ
http://www42.atwiki.jp/i_am_a_yandere/ ■前スレ
ヤンデレの小説を書こう!Part20
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1226635080/ ■お約束
・sage進行でお願いします。
・荒らしはスルーしましょう。
削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。
■投稿のお約束
・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
・版権モノは専用スレでお願いします。
・男のヤンデレは基本的にNGです。
3 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/08(木) 23:48:18 ID:BBHtzqf8
5 :
tuktukZ:2009/01/08(木) 23:59:58 ID:2x3Kc5/6
なんか作ってくださいよー
初心者です
6 :
sage:2009/01/09(金) 00:21:24 ID:m1hB8xQQ
いちもつ
11 :
乙>1:2009/01/10(土) 15:42:44 ID:uRJk/BY5
ヤンデレの焔 1
少しいじめっ子だけど、みんなのリーダー
そんなノブ君の周りには、いつも元気な友達がいっぱい
ノブ君に恋心なのはミッチャン
周りが見えない性格のミッチャンは時にやることが行きすぎちゃうことも…エヘ
ノブ君とケンカした子を追い込んで消しちゃったり、ノブ君の親友に嫉妬して腐った魚食べさせようとしたり
でもでもミッチャンはいつも真剣
こんなにノブ君のこと想ってるのはミッチャンだけだもん
そんなミッチャンはライバルのことが気になります
最近何かとノブ君にベタベタするのはランちゃん
ノブ君もその子が気になってるようだけど…
絶対にノブ君は渡さないんだから
…え? 今度その2人がお泊まり旅行?
絶っっっ対に許さないんだから!
あんな泥棒猫に盗られるくらいなら……
12 :
乙>1:2009/01/10(土) 15:44:04 ID:uRJk/BY5
ヤンデレの焔 2
天正10年6月2日
山城国本能寺にて明智光秀の謀叛により織田信長戦死
過去スレの雑談で似たようなネタあったなあ
皆考えることは同じなのかw
14 :
変歴伝:2009/01/10(土) 20:00:22 ID:eka351fP
初投稿です。
歴史物で、史実の人物も出てきます。
エロは、まったく自信がありません。
では、どうぞ
15 :
変歴伝 1:2009/01/10(土) 20:44:52 ID:eka351fP
五畿七道の一つ、山陰道は多くの旅人達でごった返している。
それに目を付けた商人が水や食べ物を路上で売っているのが見える。
所変わってここはとある森の中。
「…迷っ…たこ…こはどこ…だ…」
「業盛(なりもり)様、食べながらしゃべるのは止めてください」
口の中を干し葡萄でいっぱいにしていた業盛に、平蔵は水を差し出した。
業盛が水で口を潤すと、今度は干し柿に手を出し始めた。
この二人、さっきまでは都を目指して山陰道を歩いていた。
大江の関も越えて、後少しで都に着く所だった。しかし、途中の道で、
「平蔵、見てみろ。あの森を」
業盛の指差す方を見てみると、赤松がうっそうと茂った森があった。
「あの森がどうかしたのですか?」
平蔵は訳が分からず聞いた。
「まったく、お前も鈍いな。今の季節は秋。秋といえば松茸だろ。
あれだけ赤松が生えていれば松茸もたくさん生えているに決まっているだろう」
業盛はにやにや笑っていた。きっと松茸を売って大金持ちになった妄想でもしているのだろう。
この性格はいつまで経っても変わらないな、と業盛は思った。
「業盛様、いけませんよ。私達は平清盛様の元に行かなければならないのですよ。
都まで後少しなのですから早く行きましょう」
「まったく、お前は糞真面目だな。その松茸を手土産にすれば、我々の心証も上がるだろう。
私が、ただの金儲けのために松茸を採る訳ないだろう」
そうは言っているが、業盛の顔には金という字が書いてあった。思わず、思います、と言いそうになった。
「ですが業盛様、赤松が生えているからといって松茸が生えているとは限りませんよ」
平蔵はごく当然のように言ったが、
「あれ…?」
そこに業盛はいなかった。
業盛は平蔵の話に飽きて、とっとと森に向かって行ってしまったのだ。
「業盛様…人の話は最後まで聞きなさいと、あれほど言ったのに…まだ分からないのですか。
まちなさーい」
平蔵も、業盛を追って森に向かった。
そして、今に至るのである。
16 :
変歴伝 1:2009/01/10(土) 21:12:28 ID:eka351fP
「まったく、松茸は採れぬわ、迷うわ、最悪だな」
業盛は不機嫌そうに言った。
あなたのせいでしょう、と平蔵は言いかけたが、疲れるだけなので言うのを止めた。
さっきからどれほど歩いただろう。平蔵は空を見上げた。日は傾き、もうすぐ夜になろうとしていた。
「もう日が暮れます。これ以上動いては余計に迷いますので、今日はここで野宿にしましょう」
平蔵は辺りに落ちていた枝を拾ってくると焚火を始めた。
平蔵は乾燥米を、業盛は未だに干し柿にかぶりついていた。
「まったく、とんだ災難ですよ」
平蔵は焚火に枝を突き刺し、いじくりながら言った。
「ま…いいで…はない…か。明…日辺りに…は出ら…れるだ…ろう…」
干し柿で口の中がぐちゃぐちゃになり、しゃべりにくそうに話している業盛に、平蔵が水を差し出した。
「食べながらしゃべるのは止めてください、と何度も言っているではないですか。
それに、いい加減その呼び方止めてください」
平蔵はそう言ったが、業盛はなにがなんだか分からない。
平蔵は、やれやれと頭に手を置いた。
「私の名前は赤井源蔵景正。いったいどこから平蔵なんて出てきたのですか」
「あれ…お前の通称って、源蔵だったんだっけ。てっきり平蔵だとばっかり…」
「…もう…いいです…平蔵で…」
平蔵はひどく傷ついたようだ。
こんなくだらない口論を、二人はしばらく続けたが、だんだん馬鹿らしくなってきたので、
どちらからとなく、この口論は終結した。
17 :
変歴伝 1:2009/01/10(土) 21:43:08 ID:eka351fP
夜も更けてますます寒くなった。平蔵は焚火に枝をくべて暖を取っていた。
業盛はその内眠ってしまった。平蔵も残りの枝をくべると眠りについた。
次の日、二人はすさまじい体のかゆみで目が覚めた。蚊やダニが、業盛と平蔵の体を蹂躙していたのだ。
歩いている時、業盛はひたすら体を掻きむしったので、血がにじみ出てしまい、
平蔵は出来たぶつぶつを、爪で押し潰し、体じゅうが十字の爪痕だらけになってしまった。
しかし、本当に悲惨な目にあったのは業盛だった。
獣の糞は踏むわ、蜘蛛の巣に突っ込むわ、蚊が執拗にたかってくるわで散々な目にあった。
怒り狂った業盛は、刀を抜いて枝を伐採し、森に火を付けようとして平蔵に止められた。
日が暮れる頃、二人は虫の息だった。特に業盛が。
「見てください業盛様、虫の死骸の山ですよ」
これは比喩でもなんでもなく、本当に虫の死骸の山が出来ていたのだ。
「一騎当千ですね、業盛様」
「それは…嫌みとして受け止めていいか…平蔵?」
「いえいえ、どんなことでもここまでやればたいしたものですよ」
「嫌みと認識して間違いないようだな…」
二人はこんな会話を交わしたが、この夜も蚊やダニにやられ、二人は惨劇を繰り返してしまった。
その日、業盛の歩いた後には虫の死骸の山が出来たのは言うまでもない。
業盛が虫の死骸の山を築いて五度目になった時、今日も今日とて業盛は虫の死骸の山作りに精を出していた。
虫の死骸の山も三合目に達した頃、二人は歩いている道が整備されていることに気付いた。
街道に出られるかもしれない。二人はそう確信した。
しかし、しばらく歩いていると、街道ではなく村に出てしまった。
二人は少し落胆したが、街道に出る道が分かるかもしれないと考えを改めた。
幸い、すぐ近くに家があったのでここから攻めることにした。
「誰かー、誰かいませんかー」
業盛が戸を叩きながら言った。すると若い女性の声が返ってきた。
「どなたでしょうか?」
出てきた女性は長い髪が印象的な美しい女性だった。二人とも思わず見惚れてしまった。
「お侍様ですか…」
刀を見た女性は一瞬顔をしかめた。
「私達はまだ誰にも仕えていないから、まだ侍ではないな。
この刀だって、使ったといえば木の伐採と、虫の死骸の山作りぐらいだ」
業盛が笑いながら言った。それに釣られて女性も笑い出した。
「面白い人ですね。それで、ここになにか…?」
「実は私達、道に迷ってしまい街道に出る道を探しているのですが、
もし知っているのならば教えて欲しいのです」
「街道に出る道ですか…今すぐ教えてもいいのですが、今日はもう遅いのですし…どうでしょうか?
今日はここに泊まっていきませんか?」
彼女はそう言うが、実際はまだ日も沈んでいないので遅いとはいえないが、
せっかくの好意を無駄にするのもよくないので、二人は彼女の提案を受け入れることにした。
18 :
変歴伝 1:2009/01/10(土) 21:44:36 ID:eka351fP
今日はここまでにします。
変な文章になっていたらごめんなさい。
投稿の仕方にも多少不安がありますが、間違っていたらご指摘ください。
お願いします。
歴史モノって珍しいんで楽しみというか。
ところで書きながら投下してるんですかねえ?
不都合が無いのであればある程度事前に書いておいてからまとめて投下の方が良いと思うけど
GJ!!
次回に期待!!
今さらヤンデレとか
22 :
変歴伝 1:2009/01/11(日) 18:09:26 ID:LSgCYW8W
いまさらですが、出来たら修正お願いします。
書き出しの17行目の、
この性格はいつまで経っても変わらないな、と業盛は思った。
の所を、
この性格はいつまで経っても変わらないな、と平蔵は思った。
に修正してほしいのですが、お忙しくなければお願いします。
23 :
変歴伝 :2009/01/11(日) 18:28:11 ID:LSgCYW8W
投稿します。がんばります。
24 :
変歴伝 2:2009/01/11(日) 18:56:48 ID:LSgCYW8W
軽い感じで来てしまったが、いまさらになってこの女性になにか不安を感じてしまった。
男二人を家の中に入れることになんの躊躇いもない所が、その際たる所である。
もしかしたら、寝込みを襲って身包みを剥ぐつもりなのかもしれない。
だが、それならば常に警戒をしていればいいのであり、襲い掛かってくるのなら、
その時は軽くひねって街道への道筋を聞き出して、さっさと村から出てしまえばいいのである。
まあ、日頃から鍛えてきたので、そこらへんのごろつきと戦ってもかつ自信はある。
業盛は考えを改めることにした。
女性は菊乃(きくの)と名乗った。ニッコリ笑って、警戒心もなにも抱かせない笑顔だった。
「菊乃さん、旦那さんとかはいないのですか?」
平蔵よ、なぜそのようなことを今聞く。
「いいえ、いませんが、それがなにか?」
菊乃の答えになにを満足したのか、平蔵は右手を握り締めていた。狙っているのか?彼女を?
「菊乃さん、私達になにか手伝うことはありませんか?」
平蔵がまたなにか言い出した。なにを言っているのだ、こいつは…。
「せっかく泊めて頂くのに、なにもしないというのも、後ろめたいですし…ねぇ…」
平蔵がこっちを向いて目配せしてきた。なぜこっちを向く。
「そうですか…でしたら明日、お米の収穫があるのでそれを手伝ってもらいたいのですが、いいですか?」
「喜んで!」
俺に選択の余地はないのか?
「決まりですね。明日はよろしくお願いしますね、菊乃さん」
有無を言わさず平蔵が決め付ける。こいつ、こんな性格だったけ、と今更ながら平蔵にそんな疑念を持ってしまった。
菊乃は所用があると言って出て行ってしまった。二人きりになり、平蔵が話し掛けてきた。
「いやー、業盛様のわがままも、たまにはいいことがあるのですね」
そうだな、と業盛もそのことに同意した。そして、自分の性格に嫌気が差してきた。
一時の利益に目が眩み、このような事態を招いてしまったのだ。
いい加減、この性格を本気で直したいと思った。
平蔵の遠回しの嫌みを聞き流していると、菊乃が帰ってきた。帰ってくるなり夕食の支度を始めた。
ですから書きながら投下するのはお控えください
ここはあなたの専用スレではありません
ちゃんと一定量書き終えたものをまとめて投下してください
26 :
変歴伝 2:2009/01/11(日) 19:11:37 ID:LSgCYW8W
料理が出来ると真っ先に平蔵が食い付いた。業盛はしばらくそれを眺めていた。
どうやら、痺れ薬などは入っていないらしい。入っていたら、さっきの嫌みの仕返しが出来るのに…。
「あの…お気に召しませんか…?」
菊乃が心配そう聞いてきた。
痺れ薬が入っていないのなら、食わないなんて法はない。業盛は野菜の汁物を啜った。
味は…美味かった…。
やることもなかったので、明日の収穫に備えて早めに寝ることになった。
二人の寝息が響く中、業盛は少し離れた所で寝ている菊乃の動作に意識を集中させていた。
なにかおかしな動きをしたら、すぐにでも行動できるようにしていたが、そのような素振りはまったく見せなかった。
やはり思い違いだったようだ。そう思うと急激に眠くなってきた。
明日は収穫の手伝いがある。早く寝なければ。業盛はゆっくりとまぶたを閉じた。
業盛が寝息を立て始めた頃、菊乃はふと起き上がり、業盛の方を見た。
顔は暗くてその表情を伺うことは出来なかった。
そして、なにかを呟いたようだが、声が小さくて聞き取ることは出来なかった。
しばらくして、菊乃は再び横になった。それから再び、菊乃が起きることはなかった。
さすがにスレのテンプレを守らない人にはNGしておいた
許容できる範囲を越えている
28 :
変歴伝 2:2009/01/11(日) 19:47:28 ID:LSgCYW8W
寝起きは最悪だった。まだ日が上がらぬうちに平蔵に叩き起こされたのだ。
俺は無駄な警戒のせいで寝不足だ。こいつはいいな、得な性格をしていて。
準備は着々と進んでいく。野良仕事用の服に着替え、鎌を持ち、出発した。
田畑には既に人が集まっていた。まずは稲刈りである。平蔵は、業盛と田畑を一つ隔てての作業となった。
業盛はひたすら稲を刈り取っていった。しかし、刈り取るというよりむしろ、引き千切っていると形容した方がいい。それに、刈り残しも目立った。
そんなことも業盛は気にせず、あたかも黄金の野を駆けるイナゴのごとく田畑を蹂躙した。
さすがに危機感を感じた菊乃が止めに入った。
「あの…鎌はそんなに力を込めてやるのではなく、もっと力を抜いて、引くように切って下さい。こんな風に…」
そう言って、業盛の手を取り教えてくれた。肘が菊乃の胸に当たった。意外と…でかいな…。
これが俺ではなく、平蔵だったら昇天ものだろう。あいつ、菊乃さんのこと狙っているみたいだし。業盛は少し面白く思った。
菊乃の教えを踏まえて、業盛は稲と格闘していた。少し前より、かなりマシになっていた。
慣れてきたので刈り取る速度を上げようとすると、ちょうど休憩の時間になった。
業盛は菊乃から渡された握り飯にかじりついていた。
なんとなく横の田畑を見てみると、平蔵が他の女性と親しく話しながら握り飯を食っていた。乗り換え早いな、あいつ。
そう思いつつ、少しからかってやろうと平蔵の元に向かった。
「平蔵、誰と話をしているのだ?」
「な、業盛様!」
平蔵がこちらを見て言った。なんだその「いい所なのだから邪魔しないでくれ」と言いたそうな顔は。
あいにく、お前の邪魔をするために声を掛けたのだから、そんなことは百も承知で話し掛けているんだよ。
「で、平蔵。誰と話しているんだ?」
そう言って横の女性に目を向けた。
目に掛かる程伸びた前髪で暗いという様な印象を受けたが、鼻筋ははっきりしているし、体も引き締まっていて、菊乃とはまた違った美しさを醸し出していた。
言ってしまえば、菊乃を陽の美と例えれば、彼女は陰の美と例えられた。
「彼女は葵(あおい)さん。さっき知り合いました」
業盛と目が合った葵は、目を逸らしてしまった。警戒されてるなぁ、おい。
「…景正様…この人…誰…?…あと…平蔵って…?」
人見知りが激しいらしく、蚊の様な声で平蔵に話し掛けた。通称ではなく、忌み名(実名)の方で呼ばせている様だな、平蔵よ。
「この方は天田業盛。私の主人です。あと…平蔵はなんでもありません…」
「…そうですか…景正様のご主人様ですか…。…私…葵です。…初めまして…」
「そんなに構えなくていいよ。改めまして、私の名前は天田三郎業盛。三郎と呼んでもらっても構わないよ」
そう言って微笑み掛けたが、彼女はまた目を逸らしてしまった。とことん警戒されているらしい。
「…ふぅ…どうやら嫌われてしまった様だな。まぁ、後はお二人、仲良くしてくださいな」
そう言って業盛はその場から離れた。ささやかな殺意と共に。
29 :
変歴伝 :2009/01/11(日) 19:49:58 ID:LSgCYW8W
今日はここまでです。出来れば一日これぐらいのテンポで進みたいです。
頭と腰が痛いです。へんなところがないか不安です。
>>29 次から書き終えてから投下しような?大抵みんなコピペで投下してるだろうし
変なところといえばそのくらいだ。GJ
まあ、過去にも書きながら投下していた人はいたし完全に悪いってわけじゃないんだが、
やっぱり間が空きすぎなのでそこは改善してもらえれば。
話はどこか暗い雰囲気があって面白そうなので期待。
ヤンデレ家族は来ないか。
書きながら投下禁止なんてテンプレのどこにも書いてないけどな
それどころかぶつ切りでの作品投下もアリとまで書いてるし
>>33 書きながら投下だと他の作家さんが投下しづらくなるからかな
マナーってやつです
まさか、紙に書いたやつを直接スレに打ち込んでるのか?
にしては時間かかりすぎだが
まあ紳士は待つのも仕事のうちだ
人気あるスレは言うことも違うね。
普通書き溜めてからコピペして投下するだろ
みんな病んでるな
ぽけもん 黒 投下します
第11話です
しばらくポポの頭を撫でた後、もういい時間だったので一度ポケモンセンターに戻って昼食をとった。二人に尋ねたところ、二人とも体力はまだまだ余裕とのことだったので、フラッシュを部屋に置くと僕はジム戦に挑むことに決めた。
この城都地方には八つのポケモンジムという施設があり、その施設でジムリーダーと呼ばれる国から任命されたプロのトレーナーにバトルで勝って、
勝った証であるバッジを八つ集めないと石英高原へと続く唯一の道であるチャンヒオンロードには入れないようになっている。
当然、石英高原に行けなければチャンピオンリーグに参加は出来ないわけであって、となれば当然チャンピオンとなって殿堂入りすることもできないわけである。よって、トレーナーはまずこの城都地方の八つのジムを制覇しなければならないわけだ。
ポケモンセンターを出発した僕たちは、程なくしてこの街のジムに着いた。白塗りの大きな体育館みたいな形をしていた。体育館と歴然と違う点は、壁面に大きく赤い文字で「ポケモンジム」と書かれている点か。
分かりやすいな。僕たちがジムに入ろうとすると、ちょうど二人の人間がとぼとぼと出てきた。うち一人は腕に包帯を巻いて、首から吊るようにしている。大方、ジムリーダーに挑戦して返り討ちにあったのだろう。
さすがジム戦、といったところか。やはり一筋縄ではいかないだろう。気を引き締めないと。
ドアを開けた僕の目に映ったジムの内観は、外観とは異なり異質なものだった。
床は土で出来ていて、白線が大きな長方形を作るように引かれていた。さらに白線の内側の地面は、低部と高部を比べると僕の背丈の半分はあるだろうと思われるほどの大きな凹凸がなだらかにあり、平らな場所がほとんどない。
確か桔梗市のジムリーダーであるハヤトさんは鳥ポケモンをパートナーにしていたはずだ。それにあわせて、飛べる者に有利に働くようにジムを作ってあるのだろう。自分に有利な環境で戦うってことは戦術的には正しいことなんだろうけど、なんだか卑怯な気がする。
「お、君も挑戦者?」
入り口の向かい側、正面の壁のすぐ傍に片目を覆い隠すほどの長い前髪を持った男と、ポポに似た見た目のポケモンが二人いた。つまり相手もポポと同じ種族ということだろう。
ジムリーダーの使うポケモンはある程度規制されていて、序盤のジムではジムリーダーはそんなに高い経験を積んだポケモンは使えないようになっている。
しかしポケモンの年齢や経験自体は低くてもジムリーダーによって鍛え抜かれている上に、ジムリーダーの的確な指示と道具の使用があるから、決して侮れはしない。
「はい、そうです」
僕はその男の呼びかけに答えた。
「じゃあ、早速始めようか。ハタ、クウ、大丈夫だね?」
彼は脇に控える二人のポケモンに指示を出している。この様子からすると、彼がジムリーダーのハヤトさんみたいだ。
「大丈夫です」
「はい、行けます」
そう答えて二人の少女が進み出た。年齢の低いほうでもポポよりは年上に見える。なにより、二人ともうちのポポより大分賢そうな顔つきをしている。いや、賢そうな顔つきをしているから年上に見えるだけなのかな。
「いいんですか? 先ほどバトルがあったみたいですけど」
「構わないさ。先ほどの彼、気絶してしまって、しばらくここで休ませていたんだよ。だから僕らは十分に体力を回復している。それに、最初から相手にもならなかったしね」
随分と自信があるようだ。そしてこの自信は実力による裏づけのないものではないだろう。
「僕はハヤト。見てのとおり、ここ桔梗市でジムリーダーをしている。知ってのとおり、鳥ポケモンをこよなく愛する、鳥ポケモン使いさ」
愛するって、この人は何で自分のフェチを告白しているんだろう。それ以前に、一夫多妻制を公言してはばからないような人だな、この人は。そりゃあ、ジムリーダーだから多くの女性を養えるような財力は持っているんだろうけど……。
そういえば、ジムリーダーという人種は皆パートナーとするポケモンにかなりの偏りがあるんだっけ。そう考えると、なんだか変態集団みたいだ。
……いやいや、僕は何を考えているんだ。目の前の人のせいで、一瞬パートナーイコール恋愛対象、みたいなおかしな錯覚を覚えてしまった。そ、それはおかしいぞ! そしたら僕だってそういうことになってしまうじゃないか!
ハヤトさんは僕の葛藤など知る由も無く、話を進める。
「それに、僕のパートナーで今回君達の相手をする、ハタとクウだ」
「ハタです」
そう言って、年下のほうの子が軽く会釈した。こっちがハタさんか。すると年上に見えるほうがクウさんだな。
「クウです。よろしく」
「僕はゴールドです。よろしくお願いします。こっちが僕のパートナーの香草さんと、ポポです」
僕が紹介するのにあわせて、二人も軽く会釈した。
「ほう、君も中々話の分かる人間みたいだね。いい趣味をしている。しかし、そっちの草ポケモンはないんじゃないかい? 草ポケモンなんて所詮は鳥ポケモンに踏みにじられる存在、それ以外に価値はないね」
「き、聞き捨てならないわね。何か言った? 鳥なんて劣等種族好きの変態」
ハヤトさんの変態的かつ挑発的な発言に香草さんが噛み付いた。
香草さん、それブーメランだよ。身内にもダメージだよ。劣等種族って、それじゃあポポの立場はどうなるのさ。
「劣等種族ってなんですか?」
そう思っていたらポポが僕に小声で尋ねてきた。よかった、無知は罪って言うけど、時には身を助けることもあるんだね。
ハヤトさんはやれやれ、といった様子で、香草さんの発言を意に介していないようだ。
「とにかく、誰が戦うか決めようよ」
「私がいく!」
「ポポがいくです!」
僕が言うと、二人同時に名乗りを上げた。はあ、予想通りとはいえ、困った。
「何よ、アンタみたいなバカじゃ相手にならないわよ!」
「香草サンのほうがバカです! あいしょうを考えてないです!」
「な、アンタだけにはバカって言われたくないわよ! このバカ!」
「バカじゃないです! バカは香草サンです!」
「そもそも、アンタ、サンまで含めて私の名前だと思ってるでしょ! 私の名前は香草チコなんだから!」
「で、でもゴールドは香草サンって呼ぶですよ?」
「さんは敬称だよ。ええっと、敬称っていうのは、丁寧な言い方っていうか……」
「分かったです。じゃあチコって呼ぶです」
「……アンタに呼び捨てにされるのもなんか癪ね」
「あー、二人ともやめようよ」
「ハハハハハ、随分と愉快な子供たちだね。まだ僕に挑むには色々と早いんじゃないかな?」
ハヤトさんが野次を飛ばしてきたが、いちいち構っていては話が進まないので無視する。
「じゃ、じゃあじゃんけんで決めよう! じゃんけんで! それで、勝ったほうが先に戦う、負けても勝っても一回交代。これなら文句ないでしょ?」
「あるわよ!」
「あるです!」
予想通りの二人の返答に、僕は額を抑えた。
「二人とも、自分一人で十分だって言いたいのは分かるけど、相手はジムリーダーなんだよ? こんなことでもめてる場合じゃないよ」
「ふん、あんな変態、私の敵じゃないわ!」
「おお、頼もしいね。せめて彼女達のウォームアップになればいいけど」
ハヤトさんはこっちの発言が聞き捨てならないのか、単純に暇なのか、さっきからいちいち口を挟んでくる。
もうハヤトさんうっとうしいんでしばらく黙っててください。
「分かったから、はい、ジャンケン――」
と、ここまで言って気づいた。
「そもそも、ポポはジャンケンできないね」
翼だしね。手ないしね。
「ジャンケンってなんです?」
ポポは不思議そうに小首をかしげている。尋ねてくるのが遅いよ……。
「このバカ!」
香草さんはポポに向かって怒鳴る。このままだとまた口げんかになるのは目に見えていた。だから僕は再び喧嘩になる前に慌てて打開案を打ち出した。
「じゃ、じゃあクジで決めよう! 赤い色がついていたほうが先に戦う、それ以外のルールはさっきと同じで」
というわけで、僕はティッシュを使い急遽即席のクジを作った。
「はい、じゃあ同時に引いて――」
と、ここまで言って気づいた。
「そもそも、ポポはクジを引けないね」
翼だしね。手ないしね。
「クジってなんです!」
今度は抗議するように翼をバサバサと震わせる。どの道遅いよ……。
「……もう黙ってなさい」
香草さんも、もう馬鹿にする気力もないらしい。
「しょうがない、香草さんがクジ引いて、あまったのがポポのってことにしよう」
「ホントに……しょうがないわね」
香草さんは手で半眼を覆いながら、クジに手を伸ばした。引かれたティッシュの先には、赤いインクがしみこんでいた。
「赤ね」
「赤だね」
「赤です」
「じゃあ香草さんが先行だね」
ようやく順番が決まった。
まさかバトルじゃなくてバトルの順番を決めるだけでこんなに疲れることになるなんて。
僕は安堵の息を吐きながら香草さんの肩に手を置いた。
「やった! さあ来なさいでかいほう! ギッタギタにしてやるわ」
香草さんはとても嬉しそうに白線の内側に入る。
「おいおい、鳥ポケモンに対して草ポケモンを出してくるとは。この僕も随分と舐められたものだね」
ハヤトさんは前髪を掻き揚げながら言った。
「うっさい! 早くしなさい!」
「君みたいな品のない子供相手に本気を出すのは大人げないってものだね。いっておいで、ハタ」
ハヤトさんの言葉を受けて、ハタさんも白線の内に進み出た。
「では、これより若葉町出身ゴールド対桔梗市ジムリーダーハヤト、試合を開始します。」
突然、そんな言葉がアナウンスされた。驚いてあたりを見回せば、ちょうど両者の中間あたりの端に、審判と思しき、赤と白の二つの手旗を持った男が立っていた。胸にはピンマイクと思しきものが付けられている。さすがジム、なんだか本格的だ。
彼は続けて、試合のルールを説明した。ルールと言っても、普通のバトルのものと特に変わらないものだった。
違うところといえば、白線の外に出てしまったら負けになってしまうことくらいだ。同意を求められたので、僕、ハヤトさん共に同意した。僕達の同意を受けて、審判は赤い旗と白い旗を高く掲げ、一気に振り下ろした。
「試合、開始!」
そのアナウンスがなされるやいなや、ハタさんはすぐに上空へ飛び上がった。
「香草さん、蔦で相手の足を掴んでそのまま地面に引き摺り下ろすんだ!」
「言われなくても!」
「ハハハ、ハタはそんな蔓なんかにつかまるほど遅くは……」
ハヤトさんが言い終わらないうちに、ハタさんは蔦につかまりそのまま地面に強烈に叩きつけられていた。
地面に叩きつけられたハタさんは小さく痙攣するのみで、ハヤトさんの呼びかけにも、審判のカウントにもまったく反応しない。
「ふん、目障りな小鳥ごときが、この私に勝てるとでも思ったわけ? 生物として格が違うのよ、格が」
香草さんはハタさんを見下ろすと、そう吐き捨てた。
「は、ハタ戦闘不能!」
審判がテンカウントを終え、そう宣言すると、救護班と思しき人たちが慌ててハタさんを担架に載せてフィールドの脇に運び出した。
「やりすぎだよ香草さん! 引き摺り下ろすだけだって言ったじゃないか」
僕は思わず香草さんに怒鳴る。ハタさんの様子はただ事ではなかった。気絶くらいで済んでいればいいけど、もし命に関わるようなことがあったら一体僕はどうすればいいんだ。
「アンタはいちいちやり方が消極的過ぎんのよ! 敵に容赦なんていらないわ! それに、殺すほど強くはやってないわよ」
その自信は一体どこから来るのだろうか。でも、ポケモンは人間と違って丈夫だし、香草さんがそういうのなら大丈夫なのかな……。
僕は白線の外でハタさんに応急処置なのか治療なのかを施している救護班の人を見やる。救護班の人はスプレーのようなものをハタさんに浴びせている。
傷薬の類だろうか。スプレーを浴びせられること数十秒、どういう原理かは分からないけどハタさんは意識を取り戻した。僕はほっと胸を撫で下ろす。
「ほら。言ったとおりでしょ。さあ! 早く来なさい次の鳥!」
香草さんは語気荒くハヤトさんに呼びかける。なんと好戦的なのだろうか。
「約束が違うです!」
もう香草さんは誰にも止められない。僕にはそう思われたが、そう思ったのは僕だけだったのかもしれない。自分に代わらず再び対戦しようとしている香草さんにポポが食って掛かった。
「知らないわよそんなの!」
見事な否定だ。めちゃくちゃなことを言っているというのに、ここまでくるといっそ清々しくすらある。でもあっさりその清々しさに従うわけにはいかない。
「香草さん、ルールは守らないと」
「……分かったわよ」
香草さんは僕の予想に反してあっさりと引き下がった。絶対にまた一騒動起こすかと思ったのに。
「クウ、早く相手を倒してあの女をフィールドに引きずり出してやれ。敵討ちだ」
ハヤトさんは心中穏やかではないらしい。口調はまだ冷静だけど、雰囲気からは怒りの感情が透けて見える。自分の自慢のパートナーがあっさりと一撃昏倒させられたことにプライドが傷つけられたのか、それとも自分の愛するものが酷く痛めつけられたことに対して怒ったのか。
「はい、マスター」
クウさんは凛とした表情で、フィールドに足を踏み入れた。
両者がフィールドに出揃うと、再び審判によって戦闘開始が宣言された。
今回は間違いなく空中戦になるだろう。それなら先に後ろをとったほうが有利になる。
僕の予想通り、二人ともバトル開始直後に宙に浮いた。
「ポポ、電光石火で相手の後ろに回りこめ!」
「クウ、電光石火で回避」
ハヤトさんが僕の仕掛けるのを待っていたのか分からないけど、僕たちが初手を取ることができた。ポポは素早くクウさんの背中側に回り込む。しかし相手も高速で回避した。だが、電光石火のキレはクウさんよりポポのほうが上に思える。
「ポポ、追いつけるぞ! 追いついたらそのまま背中に飛び掛るんだ!」
僕はこのまま一気に押し切れると踏んで、ポポにそう指示を出した。
僕はこの時点ではまだ気づいていなかった。ハヤトさんの戦略にまんまと乗せられていたことに。
クウさんは素早く、上下左右、縦横無尽に、自然界に比べれば圧倒的に狭いジムの内部を器用に飛び回る。最高速度はポポのほうが上なのだが、急な方向転換の所為で中々追いつけない。
しかし僕は彼女の動きを見ているうちに、急な方向転換をとる前にはある程度減速することに気づいた。これでクウさんの行動を少しだけど先読みできる。僕はそれを踏まえてポポに指示を出す。
僕の指示のお陰か、クウさんに攻撃がかすり始めた。後一歩。後一歩で相手に大きなダメージを与え、地面に落とすことができる。
何度目か、再び壁が迫ったときだった。このまま進んでいけば確実に壁に激突する。しかもクウさんの飛んでいる角度からして、彼女は急な方向転換をせざるを得ないと思われた。
これはチャンスだ、と思った。クウさんが減速したところに突っ込んでいけばいいだけだ。実際、ポポにはそれができるだけの速さがあった。
「ポポ、速度を上げるんだ!」
だから僕はこんな指示を出した。
いよいよ壁が迫ったとき。クウさんは今までと違い、まったく減速することなしにV字に曲がって壁を回避した。僕は勝ちを確信して、完全に油断していた。
嵌められた。そう気づいたときには、もはやポポはすぐに止まれるような速度ではなかった。しかもポポはクウさんと違い、急カーブの類の技術を持っていない。
ぶつかる!
僕は怖くて目をつぶった。しかし、衝突音は聞こえてこない。僕は恐る恐る目を開けると、ポポは壁の手前でかろうじて止まっていた。僕はホッと胸を撫で下ろす。
「ポポ、場外! 勝者クウ!」
が、レフェリーの声によって僕はすぐに現実へと引き戻された。なんとか壁にはぶつからなかったものの、白線からは明らかにはみ出していたのだ。
「ゴールド、ごめんなさいです……」
ポポは明らかに肩を落として、ふらふらと戻ってきた。目の端には涙の粒が浮かんでいる。
「謝るのは僕のほうだよ……あんな見え見えの策略にまんまと乗せられて……。周りが見えていなかった。ポポは良くやったよ。お疲れ様」
そう労いの言葉をかけたものの、ポポは相変わらず落ち込んだままだった。
今回の敗北の責任は明らかに僕にある。慰めとかそんなのじゃなくて、本当にポポが落ち込む必要は無いのに。
溜息を吐きそうになるのを寸でのところで堪えた。今溜息をついたりなんてしてしまったら、ポポが負けたことでポポに落胆しているのだと誤解されかねない。
「ハハハ、バトルは単純な強さばかりでやるものでないことが分かってもらえたかな。特に、そちらの凶暴なお嬢ちゃんには」
勝ったハヤトさん上機嫌だ。
その挑発を受けて、香草さんは目を細めてハヤトさんを睨みつける。
「殺……」
「殺しちゃダメだよ香草さん!」
物騒な単語を吐きながら、ゆらりと体を相手のほうに向けた香草さんをすぐさま宥める。
彼女なら、本当にやりかねない。
「だってあいつら卑怯じゃない!」
香草さんは僕の制止を振り切ろうと僕に食って掛かる。
「ハハハ、卑怯でもなんでもない、ただの戦略さ。まあ君みたいな野蛮な子には分からないかもしれないけどな」
またこの人は余計なことを……。
「殺……」
もうすぐさま飛び掛らんばかりの香草さんの進路を塞ぐようにして香草さんを抑える。
「だからダメだって香草さん! アレは僕が迂闊だったのもいけなかったんだ」
ハヤトさんの言うとおりだ。バトルは単純な強さばかりでやるものではない。もしそうなら、トレーナーなんて何の価値もない。
相手の種族、性格、相手トレーナーの傾向、そして自分のパートナーの種族、性格、自身の傾向、そして持っている道具、地形、天候、他諸々。
それらを考慮し、最善と思われる作戦を考え、パートナーに分かりやすく指示を与え、パートナーが自分一人で戦うよりも有利に戦えるようにする。
それこそトレーナーの役割だ。僕は、ポポや香草さんの強さに甘えていたのかもしれない。なにせ二人ともとても強いから、僕が特に何も考えず、何も指示を与えなくても彼女達は結果を出せてしまった。
そのことが僕自身の怠慢を生んだのかもしれない。しかし、同じ失敗は二度は繰り返さない。
クウさんの能力、ハヤトさんの考え、香草さんの能力と性格、それらを考慮し――それをすべて考えられていたというのは僕の思い上がりかもしれないけど――、僕は作戦を考えた。
「だから今度は……」
僕は作戦を伝えようと香草さんに顔を寄せる。一瞬、香草さんが驚いた顔をしたかと思うと、次の瞬間には僕の腹部に香草さんのボディーブローが突き刺さっていた。
こうかは ばつぐんだ!
「ご、ゴールド!?」
体中からいろんな体液を噴き出しながら地面に倒れた僕に、目線を合わせるように彼女も屈みこむ。
体重の乗ったいいパンチだった。格闘技のことは良く知らないから、本当のところどうなのかは分からないけど。
僕の属性は間違いなくノーマルだな。一撃で瀕死になりそうだ。
「ち……違うんだよ。ちょっと……耳打ちをしようかと思って……」
僕は自分の目に浮かんだ涙を拭いながら、誤解を解こうと説明する。
香草さんは僕にあまりいい感情を持っていないのを忘れていた。でも、さすがにこんな力で思いっきり殴られるのは想定外だったな。
「大丈夫!? で、でも、急にあんなことしたアンタがいけないんだからね!」
彼女はツンと僕から視線逸らす。
そうだよね、好きでもない相手にいきなりにじり寄られれば、そりゃあボディーブローだって出ちゃうよね。しょうがないよ、うん。
「うん……そのとおりだよ。昼ご飯が喉の辺りまで上がってきたけど、もう大丈夫だよ……。それでさ、ちゃんと耳打ちするから、香草さんには絶対に指一本触れたりしないから、だからちょっと耳を貸してください」
僕はそう言いながら起き上がると、荒い呼吸を整える。
「だ、だからそういうつもりじゃなくて……」
香草さんの弁明は嬉しいけど、今はそんなフォローを長々と聞くつもりはなかった。
香草さんの耳に口を近づけると、僕は今回の作戦を説明する。
香草さんに近付くと、彼女の頭の葉っぱから漂ってくる甘い香りがことさらに強調されて感じる。
それに、ただ耳打ちしているだけなのに、香草さんは「ひゃ!」とか、「はうっ!」とか、悩ましい声をあげてくる。耳が弱いのかな。でも、こう、僕の精神衛生上あまりよろしくないから、できれば抑えてもらえると嬉しいんだけどな……。
「焼き付け刃の作戦が俺に通用するかな?」
「やってみなくちゃ、分かりませんよ」
不敵に微笑んでくるハヤトさんに対して、僕も笑みを返してやった。
香草さんとクウさんはフィールド上で互いに睨みあっている。
「挑戦者ゴールド、チコ対ジムリーターハヤト、クウ……バトル開始!」
今度も、審判のバトル開始の宣言と共にクウさんは空中へと飛び上がった。
「香草さん、蔦で捕まえて!」
僕の命令に答えて、香草さんは無数の蔦をクウさんに向けて伸ばす。が、クウさんの速度はポポよりは遅いとはいえハタさんより上、しかもハタさんのときのように油断してないときた。
クウさんは先ほどのポポとのバトルでの疲労もあるはずなのに、まったくそれを感じさせない。先ほどのように何もせずに捕まえることは難しそうだ。とはいえ、ここまでは予想通りだ。
「香草さん、眠り粉!」
僕が指示を出すと、香草さんの頭の葉っぱと袖口から、無色の粒子が噴出した。
細かい粒子に太陽の光が乱反射して、香草さんの周りがキラキラと輝く。
それは、とても戦闘中とは思えないような幻想的な光景だった。
「フフ、自分の周りを眠り粉で覆ってしまえば攻撃されないと考えたのかい? 甘いね! クウ、風起こしで彼女の周りの眠り粉を吹き飛ばせ!」
クウさんは空中で激しく羽を羽ばたかせることによって香草さんの周りに立ち込めていた眠り粉を吹き飛ばした。しかし、これこそ僕の狙いだった。風を起こすために羽ばたいている間は、彼女の移動は制限される。
「香草さん!」
「分かってるわよ!」
香草さんは強風の中で瞬時に数本の蔦を束ね、クウさんに向けて勢いよく伸ばす。
「風起こしで身動きがとり難くなっている内に蔦で捕らえる作戦か。甘いね! そんな柔な蔦ごとき、この風で容易に切り裂ける!」
「この私を、その辺の柔なのと一緒にしないでよねぇ!」
確かに、一本じゃこの風に耐えるのは難しいだろう。でも、何本も束ねた蔦ならば、多少の風じゃ容易には切り裂けないはずだ!
僕の予想通り、蔦は見事にクウさんを捕らえた。
「何!」
「おおおおおおおおおおおおおおお!!」
ハヤトさんは慌てるが、もうすでに勝負はついていた。香草さんは雄叫びと共に、クウさんをブンブンと振り回し、勢いをつけて壁に向かって投げつけた。壁にしたたかに叩きつけられたクウさんは、そのままずるずると地面へと落下した。
「ク、クウ場外! 勝者チコ! よって挑戦者ゴールドの勝利!」
審判によって、僕の勝利が高らかに宣言された。
「今度はちゃんと加減したわよ?」
またやりすぎだよ、と諌めようとする僕を制するように彼女は言う。
加減したといっても、相手は今度も気絶してるみたいだけどね……。
戦いを終えた僕とハヤトさんは、フィールドの中央で向かい合った。
「クソッ、俺の負けだ。草ポケモンだからといって、甘く見ていたようだ……。だが、彼女達の実力はまだまだこんなものじゃない。それを誤解しないで欲しい。
それと、これがこのジムのバッジ、ウイングバッジだ。それにこれも持っていくといい。これは技マシン31、泥かけだ。君のパートナーに覚えさせるといい」
「ありがとうごさいます」
僕はハヤトさんからバッジを小包を受け取った。
「ウイングバッジ、ゲットだぜ!」
僕はバッチを高く掲げると、天井に向かって大きな声でそう言ってみた。
「どうしたの突然」
香草さんに怪訝そうに見られた。僕は慌てて弁明する。
「い、いや、なんだかこう言わなきゃいけない気がしてさ」
「ふーん。変なの」
そう言って、香草さんは上機嫌にクスクスと笑った。
投下終了です
サブタイトルはあまり考えずにつけてるので、本文の内容とそぐわなくてもご了承ください
待ってました!GJ
グッジョブ!!
GJ−
キター!!!!!!
GJ!
やはり、ヤンデレはレナみたいな女の子に限るわ
GJ!
そういやジムリーダーで思いだしたけど
金銀にはアカネにミカンが・・・ゴクリ。
56 :
変歴伝 3:2009/01/12(月) 13:59:19 ID:+i2fP80o
投稿します。
前回は管理者、閲覧者の人たちに迷惑をかけて申し訳ありませんでした。
コピペの意味がよく分からず、しばらく考え込みました。
次からはこのようなことがないようにがんばります。
ではどうぞ。
57 :
変歴伝 3:2009/01/12(月) 14:01:12 ID:+i2fP80o
休憩時間が終わり、作業が再開した。
こつをつかんだ業盛は、速度を上げて稲を刈り取っていき、さらに刈り取った稲を干す作業も行った。
全作業を終わらせ家に帰る頃、すでに日は沈んでいた。
「あーよく働いた。今日はぐっすり寝て明日の出発に備えるとするか」
「…そうですね…」
なにやら平蔵が暗い。その理由は考えるまでもない。少し鎌をかけてみるか…。
「そんなに葵さんと離れるのが嫌か?」
「い…いえ、そんなことは…」
動揺しているな。分かり安すぎる。
「そう隠すな。今日、お前等二人を見ていたが、よっぽど気が合った様に見えたぞ」
「た…確かにそうですが…これ以上出発を延期するのは…」
まったく、そんなことを心配しているのか。だったら仕事を手伝うなどと言わなければいいものを…。
まあ、仕方がない。少し助け舟を出してやるか。
「菊乃さん、もうしばらくここに滞在したいのですが、よろしいですか?」
「えっ…まあ…いいですけど…どうかしたのですか?」
「いえいえ、たいしたことではありません」
平蔵は驚いて業盛を見ている。ここは一つ、いいことを言っておかないと。
「お前の決心が付くまでここにいるがいい。お前が葵さんとどうなろうと、私はなにも言わないよ。まあ、悔いを残さないことだな」
そう言うと、平蔵が泣きながら「ありがとうございます」と頭を下げて言った。
そんな顔を見て、いまさら見返りを期待しているなど口が裂けても言えない、と業盛は思った。
次の日から、平蔵がニコニコしながら農作業に向かっている。
農作業は葵さんと話すための口実でもあるが、まあ、作業自体はやっているので文句は言われないだろう。二人の仲が深まっていくのは、遠くから見ていても察することができる。
そして、見ているこっちは非常にいらいらした。
帰り道、平蔵が駆け寄ってきて言った。
「業盛様、明日、葵さんに家に招待されることになりました」
速いなあ、おい。平蔵、お前、彼女になにを言ったんだ。いくらなんでも展開が速すぎるだろう。
「これも全て業盛様のおかげです。本当にありがとうございました」
平蔵が笑顔で頭を下げた。前言撤回。やっぱり見返りを要求しよう。それも倍の量を。
家に帰ってから、平蔵から散々のろけ話を聞かされ続けた。むかむかしてきたので業盛は夜風に当たりながら散歩にしゃれ込むことにした。
58 :
変歴伝 3:2009/01/12(月) 14:02:07 ID:+i2fP80o
急がなくては。決心が付くのに時間が掛かってしまった。
私は胸の辺りを少し撫でた。冷たい、ひんやりとした感触が伝わってきた。
これは決別の証。今までの全てと決別するための証。
あの女はまだ待っているのだろうか。私は待ち合わせている森に向かった。あそこならば誰にも見られる心配はないからだ。
女は待っていた。腕を組んで、さぞ不機嫌そうな顔をして。
「あんた、私をこんな時間に呼び出してなんの用だい」
女の顔は怒りで酷く歪んでいる。醜い。彼はなぜこのような女に声を掛けたのだろう。こんな女と話すのも虫酸が走るが、言わなければならない。
「…あ…あの…」
このような時に、私はいつものようにどもってしまう。それが口惜しかった。
「…もう…これ以上…景正様に声を掛けないで…ください」
言った。途切れ途切れだけど言えた。すると女の顔が少しずつ赤くなってい
った。
「はあ、あんたなに言ってんの?私が誰に声を掛けようと私の勝手でしょう。なんで私があんたにそんなことを咎められなきゃなんないのよ」
やはりこれだけでは分からないらしい。低脳な女だ。ならば低脳でも分かるように説明しなければなるまい。
「…どうしても…どうしてもなんです…。…私…景正様が他の女性と話しているのを見ていると…胸が苦しくて…苦しくて耐えられなくなるんです。…だから、もう景正様に声を掛けないでください。それだけでいいんです。お願いします」
「はあ?あんた、頭おかしいんじゃないの?そんなことで胸が苦しくなる?医者に見てもらったほうがいいんじゃないの?そんなくだらないことに呼び出して…時間の無駄だったわ」
これだけ言っても分からないか…。所詮はけだもの。けだものは男に腰を振るしか能がないのだ。私が理解を求めたのが間違いだったのかもしれない。
女は私に背を向けている。考えるより先に、私は胸から包丁を取り出して女にぶつかった。
女が振り向いて驚いたような顔をした。その顔は滑稽だった。
最初からこうすればよかったのかもしれない。けだものと交渉してもなんの進展もないことぐらい初めから分かっていた。でも、やはりどこかに良心が残っていたのかもしれない。でも、それも吹っ切れた。
私は包丁を捻りながらさらに深く、深く突き刺していく。グチュ…グチュという嫌な音が響く。
女は私に抵抗らしいことをしなかった。ただ「やめて…助けて」と、か細くつぶやくだけだった。
いい加減その声も聞き飽きてきた。私は突き刺している包丁をえぐるようにして引き抜いた。勢いよく血が噴き出してくる。包丁には太い管が巻きついていた。
「…見て…包丁引き抜いたら、あなたのはらわたも出てきちゃった。…もう、助からないわね…」
私はおどけて言ってみせた。女はこの世の終わりでも見るような顔をして自ら血の海にその身を浮かべた。
私は女の脇腹からはみ出ているはらわたを踏み潰した。グチャ…という音と鼻を突き刺す悪臭がした。
私は笑っていた。変わった。変われたのだ。今だったらなんでも出来そうだ。こんなにすがすがしい気持ちは何年ぶりだろう。
「あーあ、服が汚れちゃった」
服は女の返り血で黒く染め上げられていた。
「この服はまたいつかのために取っておこっと」
またいつか、この服を着なければならないときが来るかもしれないし…。
そういえば景正様、いつも菊乃さんと一緒に来てたなあ。あの人とはどんな関係なんだろう?
…もし付き合っていたら…どうしよう?その時は…。
私は月を見上げて笑っていた。月は狂おしいほど美しい満月だった。
59 :
変歴伝 3:2009/01/12(月) 14:04:39 ID:+i2fP80o
とんでもないものを見てしまった。あの葵さんが…蚊も殺せそうにない葵さんが人を殺したのだ。
森に入っていく葵さんを付けてみただけなのに、なぜこのようなことになってしまったのだろう。
このことを平蔵に告げねば。そして二人を別れさせなければならない。
恨まれるだろうなぁ。しかし、これも平蔵のことを考えてのことだ。
家に帰るなり、平蔵に今さっきあったことをすべて告げた。平蔵はポカンと口を開けている。
「業盛様、なにを言っているのですか?葵さんがそんなことをするわけないでしょう」
「本当のことなのだ。葵さん…いや、葵に近付くのは危険だ。明日は葵に話しかけられても無視しろ。家にも行くな。いいな」
「なんで業盛様にそのようなことを言われなければならないのですか。業盛様、言いましたよね。
『お前が葵さんとどうなろうと、私はなにも言わない』と。あれは嘘だったのですか?」
「嘘じゃない。本当だったさ。しかし状況が変わったのだ。お前がこのまま葵と付き合ったら、お前は間違いなく殺される。
私はお前のためを思って言っているのだ。頼むから言うことを聞いてくれ」
これだけ言っても平蔵は首を縦に振らなかった。再び説得しようとしたが平蔵は聞きたくないとばかりに横になって寝てしまった。
こうなってしまっては平蔵はてこでも起きない。仕方がない。明日、時間いっぱい説得しよう。それで駄目なら強硬手段に出るしかない。
来てほしくない朝が来た。今日、平蔵が帰らぬ人になるかも知れないのだ。
目の前で知人が死ぬのはとても後味が悪いことだ。朝起きて再び平蔵を説得する。しかし平蔵はしつこいとばかりにさっさと支度して出て行ってしまう。
人がこれほど言っても話を聞かない平蔵にいい加減いらいらしてくる。
平蔵は今、葵としゃべっている。今まではなんとも感じなかったが、葵の平蔵の見る目がおかしい。目に輝きがなく、まるで底なし沼でも覗くかのように淀んでいる。
それは背筋をなめられるかのような嫌悪感を抱かせた。
もう時間がない。早く説得せねば。
「平蔵、考え直したか?」
葵の家に行く準備をしている平蔵に問い掛ける。
「まだ言っているのですか?いい加減にしてください。私は考えを改める気はありません。そろそろ時間なので失礼します」
やはり駄目か…。仕方ない。やはりこうするしかないらしい。
「平蔵…」
平蔵に呼びかける。平蔵が不機嫌そうに振り向く。
俺は平蔵の腹部に殴り掛かった。
「な…業盛様、なんのつもりですか!」
平蔵は跳躍して避けた。当然のように平蔵が驚き、非難の声を上げる。
「もはや…もはやこれしか方法がないのだ」
再び一歩踏み込んで平蔵に殴り掛かる。しかしそれは誘いの手だ。本命は平蔵が一歩引いた直後に回し蹴りを叩き込むことだ。だが平蔵はこれを読んでいた。回し蹴りを腕でいなした。
「業盛様、あなたがそこまでして私と葵さんの仲を裂きたいのは分かります。ですがお願いします。行かせてください」
「駄目だ。何度も言うが行ったら殺される。私は助けられる友を助けずに後悔をしたくないのだ。そのためなら、私はお前の手足をへし折ってでもこの村から出て行く」
平蔵は構えを崩さない。今まで平蔵と組み手をして、平蔵が俺に勝ったことはない。構えを崩すことは敗北に繋がる。
しかし、平蔵が構えを解いた。諦めてくれたのだろうか。
「業盛様、私があなたと戦って勝てるとは思いません。今まで何度も負けているのですからね。…ですけど、私にもあなたに勝てるものがある」
平蔵が足元を蹴り上げた。砂が舞い上がり一瞬平蔵を見失った。平蔵はその隙に逃げ出した。
しまった。平蔵は俺より足が速かったのだ。くそ、撒かれたら探すのが面倒になる。
そう思い走り出そうとすると誰かに手を掴まれた。
「き…菊乃さん…」
手を掴んだのは菊乃さんだった。
「放してください。このままでは平蔵を見失ってしまう」
「業盛…様、行かないで…ください…」
なぜこのような時そのようなことを言い出すのだろう。菊乃さんは保護欲を掻き立てるような潤んだ瞳で見つめてくる。しかし、今はそれ所ではない。平蔵の…友の危機なのだ。
俺は菊乃さんの手を振り払った。後ろから声が聞こえる。泣き叫ぶ悲痛な声だ。胸が痛くなったが、今はそれを拭い去り平蔵を追った。
60 :
変歴伝 3:2009/01/12(月) 14:06:40 ID:+i2fP80o
投稿終了です。
とりあえずこれでいいのでしょうか。
非常に不安です。
また、少し忙しいので、しばらく書けません。
では、またいつか。
GJ
>>60 乙乙、盛り上がってまいりました。
菊乃さんにもぜひ病んでもらいたいw
パソコン慣れしてないのかな?
ともかく応援するぜ
お久しぶりです。
本来ならもうすこし間隔をあけて投下すべきなんですが、
パソコンの利用時間が限界に迫っていて、次はいつ使えるか分からないので今投下します。
ご容赦下さい。
GJ!!
葵さん病むの早いなw
「迎えに来たよ、お兄ちゃん。」
声の主は身長145cm・茶髪のツインテールで、フリフリのスカートを身につけた幼女…そう、明日香だった。
お兄ちゃん、なんて呼ばれたのは小学校時代以来だ。懐かしいなぁ。
「こんな時間に一人で出歩くなんて、変なオジサンに捕まっちゃうぞ?」
俺は軽くジョークを飛ばす。こういうときの明日香のリアクションもお決まりだ。
「私だっていつまでも子供じゃないんだからね!」
「いや子供だろ、見た目は。」
すかさず的確な突っ込みを入れる。明日香は「もー!お兄ちゃんてば!!」と怒って―――
ばふっ、といきなり俺に抱きついてきた。かすかに石鹸の香りが漂う。月明かりに照らされた茶髪が、とてもきれいだ。何で今日はそんなことが気になったんだろう……
「お兄ちゃん…すき。」
「…俺もだよ、明日香。」
くしゃくしゃ、と髪を撫でてやる。明日香はまるで額を撫でられた猫のように身をよじる。猫にしては少々大きいが…かわいい。
だが、次の言葉で俺の中からそんな余裕は消し飛んだ。
「ちがうの…私はお兄ちゃんを、お兄ちゃんとしてじゃなくて…」
「…え?」
「異性として、一人の男の子として……神坂飛鳥を………、愛してます。」
―――おい明日香、冗談にしてはちょっと重すぎないか?
たしかにちっちゃいときはよく「大人になったらお兄ちゃんとケッコンする!」なんて言ってたけど、
大きくなるにつれて、この国の婚姻制度を詳しく知るようになってからは言わなくなったはず…俺の記憶が正確ならば。
「ずっと昔から…ううん、産まれた時から好きだったのかもしれない。いつでもお兄ちゃんとひとつになるのが夢だったの。
……でもお兄ちゃんはいつもいつも、私を妹としてしか見てくれなかった! もう我慢できないの…胸が痛くて苦しくて裂けちゃいそうで…。」
「………本気、なのか? ―――だとしても、それだけはだめだ明日香! 俺たちは兄妹だぞ!?」
俺は明日香の肩をつかんで、引き離した。明日香の眼からは涙が流れている。…おかしい、明日香の瞳はもっと澄んでいた。なのになんで、こんなにくすんでいるんだ?
……分からない。いったい何を考えているんだ?
「やっぱりお兄ちゃんはそう言うんだね? でも大丈夫だよ。お兄ちゃんをばかにする奴がいたら私が消し去ってあげる。
こんな婚姻制度を作ったやつらがいけないんだよね、だったらみんな殺してあげる。お兄ちゃんは私だけのもの……誰にも渡さない。」
それだけ言って明日香は、俺の眼前に手をかざしてきた。そして瞬いたのは…黒い光だ。
なんで"黒い光"なんて言葉が出てきたのかは自分でも分からない。だが、もっとも近しい表現だと思う。
―――もしかして……俺は、この光を知っているのか?
* * * * *
次に目が覚めたとき、俺はベッドに横たわっていた。起き上がろうとする、だが、それは叶わなかった。手首足首を何かでベッドの脚に拘束されていたからだ。
じゃら、と金属質の音がする。これは…極限まで実用性を重視した以下略の………
「おふぁよ、おにいひゃん。」―――明日香だ。
さっきまで身に纏っていた可愛らしい服はどうしたんだろうか。何で明日香は裸なんだろうか? そして、ソコで何をしているんだ?
ぴちゃ…ぺろ…じゅる…
とても卑猥な音がする。そして、俺の相棒に何か生温かい、ぬるぬるした感触が与えられている。―――っ! ダメだ、もう!
どぷっ…びゅる… 俺は迸りをそこに…明日香の口内に放ってしまった。明日香はソレを、実に旨そうに飲み下した。
その上気した表情はもはや妹などではなく、立派に一人の女としてのものだった。その姿に、俺の情欲も掻き立てられてしまう。……だめだ、妹に感じるなんて絶対に!
「…まだ、できるよね。ほら、見てお兄ちゃん。」
明日香は俺に跨がり、自分の大事な部分を俺に見せびらかすようにして拡げた。
初めてみるソコはピンク色で、お漏らししたかのように糸をひきながら粘液が垂れ落ちている。産毛すら見当たらない分、細かいところまでくっきりとわかる。
そして、その真下には俺の………
「――――もうやめろ、明日香! 今ならまだ引き返せる!」
「引き返して、どこに行くっていうの? 私の帰るところはココだよ。」
明日香は、ゆっくりと腰を落とした。その狭い入り口に尖端が埋まり、徐々に進行してゆく。そして、とうとう………
「――――っ!」
純潔の証である鮮血が流れた。もう引き返せない、俺たちは…堕ちてしまった。
「…うふふ……やっとひとつになれたね、お兄ちゃん。」
明日香の目尻にはうっすら涙がにじんでいる。痛いのだろうか、もしくはそれ以上に感動しているのか…?
ゆっくりと、運動が再開された。
はっきり言って、首を締め付けられかのようにきつい。明日香のなかは、体格相応に狭かった。
「〜〜〜〜っ!! はぁ、はぁ…っ…ああああああっ!」
「……やめてくれ…明日香、痛いんだろう!? なんでそこまでするんだよ!」
「はぁ…はぁ…きまって、るじゃ、ない…っ! すき、だから…あああっ!」
もはや苦痛をこらえるその姿を見てはいられなかった。だから俺は顔を背けた。………後悔したよ。またもや信じられないものを見つけたから。
そこに転がっていたのは、結意だった。ただし、ナイフを心臓の部分にに突き立てられた状態の。
…もう訊くまでもないだろう。誰がやったかなんて、明白だ。
「…ああ、そいつね…邪魔だか、らっ……ころ、しちゃった……あぁん!いい!もっと、もっと突いて!お兄ちゃあん!」
いつの間にか苦痛をこらえた声は、嬌声に変わっていた。さっきまでよりスムーズにピストン運動が行われている。分泌される液も、徐々に量が増している。
明日香が動くたびに、にちゃ、にちゃと粘っこく糸をひく。…俺は悪い夢でも見ている気分だった。夢なら早く覚めてくれ―――
「ふふふふ…あは、あはははははははっ! 気持ちいい、気持ちいいよお兄ちゃん! あはははははは!あはははははははははっ!!!」
この世のものとは思えない、不気味な笑い声を上げながら欲望をぶつけてくる明日香。
…もう、我慢できなかった。俺は再び迸りを、今度は明日香のなかに直接放つ形になった。
「あはっ…いーっぱいでてるねぇ…お兄ちゃん。」
明日香は再び、結合部を見せつけてきた。そこは、明日香の透明な粘液と俺の迸とわずかな鮮血とでべとべとになっていた。
そして明日香は、もう一度手を額にかざしてきた。
―エピローグ―
あれから1ヶ月が経った。
明日香の力は私のソレを上回っていた。なぜなら、対象物を消滅させるだけではなく…
自らの力によって消し去ったものに限り、もとどおり再生できる力を持っていたのだから。でも、その力には心当たりが有る。……彼が、その力の持ち主だから。
あの日からずっと明日香は、飛鳥を完全に手中に納めていた。朝は普通にご飯を食べ、学校へ行く。帰宅し、夕食を済ませたあとで記憶を"すり替える"。
それがどういうことなのかって? 簡単よ。今の飛鳥は、二つの別の記憶を交互に与えられてるの。
昼は今まで通り、仲の良い兄妹。その中に、妹と"繋がった"記憶は含まれていない。
夜になれば、再び…いえ、飛鳥にしてみれば、あの日以来ずっと犯され続けているようなものね。明日香はうまい具合に、夜の記憶だけを繋げているの。
ちゃんと学校には行っているから、行方不明なんてことにはならないし…
飛鳥も、そのときは記憶自体がないのだから振る舞いも至って普通、誰にもバレはしない。さすがは私の妹ね。
でも、それも長くは続かないだろう。
なぜなら、明日香の命は……もう長くはないから。
もともと、私の中にある3本の染色体は突然変異によるもの。遺伝性のものなのか、そうではないのか、未だにはっきりしない。では飛鳥と明日香は?
二人目まではまさに奇跡だった。都合よく、私と同じように3本多く持って生まれたのだから。
ただ、私とは能力が異なっていたはず…当然ね。そう簡単に全く同じとはいくはずもないわ。
でも、母さんはその子を実験の道具にはさせたくなかったみたい。だから当時父さんの研究グループの一員だった、斉木博士にその子を託した。それが、斉木 隼くん。
飛鳥は、もともとは斉木博士の子供。交換を提案したのは、むしろ斉木博士からだった。隼くんと同い年だし…もちろん染色体は46本、一般的な人間。
飛鳥と明日香は、実は血が繋がっていなかったの。ただ、それは絶対に秘密にしなければいけなかった。今となっては、多少後悔しているけれど…
では明日香は? その答えは簡単だ。私と瓜二つな容姿。加えてほぼ同じ能力、成長の停止…ことごとく私と同じ。
もうお分かりでしょう。明日香は、父さんが私のバックアップとして造り上げた、クローン体。
ただ今の技術では完璧なクローンなんてものは造れない。結果、明日香の細胞はあちこち穴だらけ、欠けたパズルのよう。
もうすでに細胞の劣化が始まっているわ。このままなら、あと数ヵ月で……
でも、お兄ちゃんと幸せになれて幸せよね、明日香。大丈夫よ…ちゃんと、あとから飛鳥も同じところに送ってあげるから。そうしたら、独りぼっちじゃなくなるでしょ?
私が全ての罪を背負ってあげる。だから…精一杯今を生きなさい、明日香。
-Bad end-
明日香ルート終了です。
お騒がせしてすみませんでした、以後気をつけます。
>>60へのgjは僕をすっ飛ばしてお願いします。
>>60 gj! wktkで期待してます。
72 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/12(月) 22:30:36 ID:16arPOqI
GJ!!!
明日香…ブワッ
sage忘れ…orz
>73(´;ω;`)ブワワッ
>>71 GJ! 結意派の俺にはつらいけど、別ルートでの救済を……!
あと、いろいろ残ってる謎が気になります。続き待ってます。
GJ!!
携帯からです。
>>70の"幸せになれて幸せよね"を、"幸せになれてよかったわね"に脳内保管しといてください。
日本語おかしいことに気付きましたorz
前スレの埋めがちょっと怖い
いつもまとめサイトの更新だけチェックしてこのスレにはあまり来ないんだけど
更新された作品読んでたら笑ってついこっちに来てしまった
スレ内のちょっとした揉め事も一緒に転載されるんだなw
>>71 GJ!
ちょっと弟くんに冷たくない?って思ってたが実弟じゃなかったのか
あれ、じゃあ子ども作れないってのは嘘? 続き気になります
書くのここじゃないかもだが、保管庫にログを置いてくれた方に激しくGJといいたい!マジ嬉しい。
そういやpart16以降のログは保管されてないの?
ヤンデレ家族と傍観者の兄楽しみだわあ
最終話も近いみたいだし裸でいるのも我慢できそうだ
なんと甘い見通しだろうか
貴様にヤンデレの心が読めるのか
84「読めない・・・けど、85の考えてることは分かるよ」
って事だろ。
裸で待機の84(*´Д`)ハァハ(PAN!!
>>85 ブログにオチは考えてあるって書いてあったからつい分かったような気になっちまったようだ
ちょっとヤンデレの邪魔して刺されてくる
朝歌さんを待ちくたびれたんですが…
久々なのでID間違えてるかも、はわわっ。
投稿予告で、いいんだっけ。投稿しますよー。
TIPS
金城康二 保菌形態β 主人公
金城さとる 保菌形態α ヤンデレ好きのキ▲ガイ科学者。
金城篝 αの感染者。
佐藤亜麻 βの感染者。
蒲公英:該当情報、皆無。
外見的にちょっと背が伸びて精神年齢↑なとらドラの大河・・・ロングヘアーが好きなだけですサーセン。
誰だってハレムの夢を抱くことが、ある/あった/あるかもしれない。
だが、このウイルスの保菌者は墓穴を掘ることになりかねない。
俺だって好きで何股してる訳じゃないんだ。
人は問うだろう。「ならば何故なんだ」と。
<s>単純明快。ハーレムを築きたいから。</s>
感染者を一人でも放置プレイすることは、悲惨な結末を招くからだ。
異性とは彼にとって爆弾。感染者の扱いはさながら無数のリード線。
ただ爆発を解除することができず遅延させるだけの効果しか意味を成さない。
それしか期待できないのは、映画と違い皮肉ではあったが。
『運命に、邂逅する夜』英訳の如く結末が転がりかねる状況で彼は生きる。
「え?結末ってデッドエンドのことですよ。」
金城康二のとある独白。
「はははぁー、やぁ蒲公英ちゃん。お久しぶり」
「・・・どうも」
金城夫妻の家にして、悟の研究所であり、康二の実家。
研究室を彷彿させる長方形型な白の建物の目前には、悟と篝二人、それと年頃の女性がいた。
たんぽぽ、タンポポ、蒲公英。
可憐だとか、飾り気のない栗色の髪は色艶やかなものではなく、
むしろ粗暴な様を際立だった顔立ちに、肩口に掛かったくせっ毛の少女だ。
「しかし、蒲公英さんも変わりましたね」微笑む金城篝。
「・・・いつまでも子供では要られませんから」ぷいっと顔をそらす蒲公英。
目は吊り上っており、そこはかとなく猫か虎を連想させた。
全体的な体つきはパーカーによって遮られるが至って平均的に見える。
「ささっ、とりあえず入ってよ」手招きする悟。
「ぇ? 」吃驚した様子で開口したままの蒲公英。
「ささ、どうぞ」篝に背を押され、仕方なく玄関へと。
おっとりとした容姿と雰囲気の篝だが、
意外にも押しが強いことを今更ながら蒲公英の脳裏に浮かび上がる。
「あ、ちょっ・・・えっ?」
「ははは、いっつもギャップで驚かれるんだよねー」
白のコントラストな病院ちっくな外見とは打って変わって和風な作り。
彼女が悟を訝しげな表情で睨めば篝がお盆を持って開口一言。
「ふふ、悟さん。でもこれ以上感染させたら八つ裂きにしますよ」
「ははは、母さんや。果物ナイフが首に当たってるんですけど?」
「当ててるんですよ」「さよですか・・・あ、一応定員にはなってるけど」
まったく顔の笑ってはいない伴侶に、苦笑いしつつも悟はコーヒーを啜った。
「なら、今回勘弁してあげますね、あなた」
「さて、こんかい呼んだのはだね・・・」
かなり使い込んだ様子の大学ノートを取り出す悟。
その表面にはでかでかと"にっき。かねしろこうじ"と明記してある。
「実は、我が息子に面白いことを発見してねっ。まぁノートなのだけれども」
「古ぼけた日記帳じゃないですか?それがどうしたと?」
したり顔で悟は少女の眼前でプラプラと左右に振らした。
案の定に蒲公英は顔こそ伏せれど、目はノートを追っている。
「昔、うちの息子が君を不用意に傷つけたことはなかったかい?
遠ざけたことは? 嫌悪したことは? 無視したことは?」
思い当たる節があるのだろう、彼女の瞳は意識的にとある方向へと向く。
眸には明らかな困惑と、一握りの焦燥の色が浮かべられた。
半ば奪い取ろうとする蒲公英の手から逃れると、
悟はさらにはもったいぶるような素振りで。
「その事実は、ここに入っている。
もっとも、私が知ってはいるのだけれども君が見たほうが面白いだろしね」
「も〜悟さんったら悪趣味ですね〜♪」
万年バカップルの二人を見やって蒲公英は訝しげな表情。
「精々面白い展開に発することを祈るよ。そろそろ、かn」
「あいつ、・・・いや、そんなわけ、・・・でも・・・」
沈黙が場を制すること数分、少女の顔には驚愕、焦燥、恥辱、安心、様々なモノが入り混じっていた。
「さて・・・」
悟が眼鏡を掛け直し、口を開いた瞬間。
蒲公英は茶渋の立たない茶に眸を写すと呆然とした少女の顔が浮かんだ。
湯飲みを包み込むと振動を表す波動が起きていた。
上方を見上げようとして顔を上げると勢い良く和室の戸が開く。
バタンッと地を振るわす轟音が和室に響く。
「おいっ、親父。なんなんだっ、バイト先に電話までして呼び出して!!
今日給料日だってのにッ!」
「おお、当事者が来たことだし、失礼するよ」
ノートの持ち主が現れたのだ。
当の本人は息子の心情などそ知らぬ様子で離れへと移動する。
息が荒くなった青年は、久しい幼馴染を視線の端に捕捉して。
「っ!? お前、それは俺の」なにやら拙い事だけは理解し。
「ふぅ〜ん、そんなに見られたくないのか」
長らく顔を合わせなかった彼方の顔が驚愕のあまり目を見開く。
その様子に満足してか見せびらかして蒲公英はニヤつく。
「ッ!!!てめぇ、人んちに入って何をしているっ!?」
彼は、蒲公英に近寄って手ごとノートを掴む。
蒲公英の手からノートを弾いたことに安堵して前のめりで畳みにぶつかる。
足を払われたことに気づくのは世界[しかい]が九十度変わってから。
畳の上に無様な受身を取る康二に対して、蒲公英はすぐ馬乗りになって彼の両手を塞いだ。
こころなしか、彼方の表情が崩れ、朱色に染まっている。
彼の心臓は、ドクッ、と少し異常な速度で鼓動を早めた。
ドクッ、ドクッ、ドクッと異常動作を繰り返す臓器に、
ハッと我に返って康二は蒲公英を振り払おうとする。
幾ら中肉中背の青年とはいえ、馬乗りになって両手を封じる少女に。
否、少女の真実を知りたいという決意に、青年は勝てないのだ。
「この感覚っ!! たんぽぽっ、どけっ!」
自らの体[たいえき]がうごめくような感触。
わだかまる不可思議な感触、感覚を、彼は理解っている。
ヤンデレ、ウイルス、タイプβ
だが突き放そうとするも、鍛える筈の身体でも暴力幼馴染の方が腕力で勝っていた。
「おいっ、これ以上近寄るなよっ!!」
「なんだって、こーじ君? え、どけたらいいじゃ、ぐすっ、ないか」
彼女から雨が降ってきた、ぽつり、ぽつりと。
次第に、どしゃ降りへと変わり、康二自身は辿りそれが何なのかを知る。
「お前、泣い――――」
「―――泣いてなんかないっ!」
「大体、なんなんだよっ! あの日記。
お前はあの時も、オレ様の思いを踏みにじってっ!!」
「仕方ないじゃないかっ!」
「人の想いを切り捨てることが仕方ないっていうのかよ、テメェは!?」
(あの時は愛おしかった君が歪むのを恐れて。
でも、不器用な助け方しか俺にはできなかっんだよっ)
金城康二の事情を知らない。だからこそ、よりあの行為は最低最低だった。
「さて・・・」
悟が眼鏡を掛け直し、口を開いた瞬間。
蒲公英は茶渋の立たない茶に眸を写すと呆然とした少女の顔が浮かんだ。
湯飲みを包み込むと振動を表す波動が起きていた。
上方を見上げようとして顔を上げると勢い良く和室の戸が開く。
バタンッと地を振るわす轟音が和室に響く。
「おいっ、親父。なんなんだっ、バイト先に電話までして呼び出して!!
今日給料日だってのにッ!」
「おお、当事者が来たことだし、失礼するよ」
ノートの持ち主が現れたのだ。
当の本人は息子の心情などそ知らぬ様子で離れへと移動する。
息が荒くなった青年は、久しい幼馴染を視線の端に捕捉して。
「っ!? お前、それは俺の」なにやら拙い事だけは理解し。
「ふぅ〜ん、そんなに見られたくないのか」
長らく顔を合わせなかった彼方の顔が驚愕のあまり目を見開く。
その様子に満足してか見せびらかして蒲公英はニヤつく。
「ッ!!!てめぇ、人んちに入って何をしているっ!?」
彼は、蒲公英に近寄って手ごとノートを掴む。
蒲公英の手からノートを弾いたことに安堵して前のめりで畳みにぶつかる。
足を払われたことに気づくのは世界[しかい]が九十度変わってから。
畳の上に無様な受身を取る康二に対して、蒲公英はすぐ馬乗りになって彼の両手を塞いだ。
こころなしか、彼方の表情が崩れ、朱色に染まっている。
彼の心臓は、ドクッ、と少し異常な速度で鼓動を早めた。
ドクッ、ドクッ、ドクッと異常動作を繰り返す臓器に、
ハッと我に返って康二は蒲公英を振り払おうとする。
幾ら中肉中背の青年とはいえ、馬乗りになって両手を封じる少女に。
否、少女の真実を知りたいという決意に、青年は勝てないのだ。
いつの間にか彼女の手からノートが零れ落ちていた。
『○月△日、キチガイからおしえられた。
ぼくのからだはへんだって。だれかをふこうにするって。
たんぽぽをきづつける? いやだ、いやだ。そんなの。
それぐらいならっ』
「なぁ、オレ様がどんな思いしたと思ってんだッ!?
どれだけお前のことを考えていたと思ってるんだ!?
幾星霜の月日がお前への告白で埋め尽くされたっ!
オレ様がどんな思いでお前からの告白を、
待ち望んで、渇望して、あの日をになったと思う!?
思いもしなかったさ!
拒絶をこめたものだなんてよっ!」
目を逸らそうとした俺に覆いかぶさるようにしながら。
蒲公英は一度言葉を切り、口調を変え―――否、戻した。
それは、青年が過去に知っていた、少女そのものの貌。
興奮した様子の少女は、むしろ幅を狭めるように。
近づく唇、高鳴る鼓動、うごめくウイルス。
馬乗りになった幼馴染を俺は、
振り払うことなんて出来るはずもなかった。
「ボクは君の事とても好きだったよ。今でも愛しています。
君が遠ざけた理由なんてもうどうでもいい。
君がたとえ亜修羅の道を、悪道の道を進もうとも、
私はあなたのためだけに、尽くし続けます。
だから、ボクに誓いの口付けをさせて下さい」
そして少女からは自らの花言葉を篭めて永久の誓言となる、
青年からは好いているからこそ危惧した最悪の口づけを交わした。
無垢な生娘のぎこちない仕草のまま、
だけども濃厚で、淫妖に貪るように。
接吻を終え、たらり引いた銀糸を拭うと彼は独白するように、口を滑らす。
「俺は、お前をまきこみたくなかったのに・・・」
「なんで? ボクなら君のウィルスに掛かってもいいよ。
ねぇ? 知ってる、ボクの、蒲公英の花言葉って」
「どーでもいいっ、お前はコレの凶悪さを知らないからいえるんだよ」
生を享けてから、四捨五入して二十年。
彼はウイルスを自意識である程度抑えることは可能になった。
だが、自意識を制御できない条件下、それも粘膜接触となれば感染を免れない。
頭が蕩けたように、視線が定まらない表情で蒲公英は虚空を見つめていた。
目が濁ったように、どろどろした何かを以って少女は彼方を睨んでいた。
「はーい。おめでとー。」クラッカーを鳴らす馬鹿が登場する。
『カップル誕生おめでとー☆』と掲げる母親、篝もいた。
「ッ!? ・・・糞親父ぃーーー!」
「あらあら、大変わねーあなた。でも、お腹を痛めた子と旦那がするなんて母さんうれし泣きしちゃうわ」
どうにも今回の主犯格だと確信し、蒲公英を押しのけて。
「蒲公英良く聴け。ここ、数日。多分胸が心理的に締付けられるような感覚になるが、気にするな。
それはまやかしだ。いつわりだ。何一ついい事などない」
だが、遅かった。
すでに彼女の胸には感染が相乗して、恋慕が募り、そして―――.
ヤンデレウイルスとは感染者にとってみれば麻薬そのものだ。
母さんたち慢性的な感染者になれば異なるが初期の感染は重い。
躯の芯まで蕩ける快感、保菌者への緊縛する一筋の喪失感。
一度感染すれば保菌者との接触を是が非でもしたくなる。
だが、感染者が一定期間距離を保つことで死滅させることができる。
だが一定期間保菌者との接触を行えば定期的な菌の育成が出来てしまう。
次第に、想いは黒く冥く、濁った想いが拡張させていくのだ。
そこが恋患いと違う最大の点である。
金城さとるの効果は十人というリミッターが掛かるが、
金城康二の場合は無尽蔵に感染を広めていくことが可能だ。
先天性遺伝子 ・・・固体値によった誤差。
金城康二が安全に暮らすには感染を最小限に留めておきたいのだ。
それだから洗脳ともいえる選択肢の誘導や心理学で亜麻を左右させた。
善悪を置いてなお、彼が生き残るためには仕方の無いことであろう。
少なくとも行動を起こすのは彼の目の届く範囲だけと確約させている。
むしろだからこそ亜麻一同のようなに過激行為を起こす場合があるのだが。
「あなたの体の一部ホルマリン漬けにさせて」とか
「私の体(もしくは体液)入りのご飯食べて」とか
「あの、・・・その、私いじめられたいから切り裂いてください」
とか
自己主張をやんわりと趣向を改悪して、正して。
とりあえず血液の見ない方向へ回避している事実はあったりなかったり。
感染が一次症状となった幼馴染を押しのけて。
白衣姿の父親を鷲掴みにして外へと連れ出した。
「てめぇ、好い加減にしろよ」
「お父さんに向かっててめぇはないでしょぉ♪」
「・・・もう一度繰り返す、好い加減にしろ」
「なーんのことっかなー♪」
「とぼけるな。何故だっ!てめぇ、あんなモノ模造しやがった!」
金城康二に日記を綴るメルヘン染みた趣味はない。
ならば、だ。巫山戯たことを仕出かす人間に検討が付く。
「何故、お前があんなもの書きやがった」
「おやおや、僕は嘘をついた覚えは無いよ?
蒲公英ちゃんには『ここに事実が入っている』とはいったケド、
でもしかし康二自身が書いた日記だとは言ってない」
「それが僕お手製の悪戯でもネ」すっ呆けた様子の実父。
「はハHA、葉刃派ハhaは。ふざけ」
渾身の一撃を見舞おうとして康二が躯を捻ると、
的確な掌底が水月へと間髪なく打ち込まれる。
「かハッ!?」肺から消費するはずだった空気が吐き出され膝を突く。
「やっぱり君は理解してないね・・・」
「はぁっ、何がだ、糞親父」強がる位みせるのが男の意地だ。
達観した眼差しで、眼鏡を押し上げる
光が乱射する硝子の向こうで覗くのは漆黒の眸。
「君は我が愛しのヤンデレ篝との息子だ。
だが、それと同時に君は永遠の研究材料なんだよ」
否。漆黒と云うには違和感がある。
濁り。
精神を摩耗しきったような、
濁りきった濁流のようなその眸――――深淵[ふかみ]に覗きこまれ。
それはそう、実験対象を見る冷静な/冷徹な/冷酷な瞳で。
にこやかな表情とは裏腹に感情の篭ることを知らない。
背筋に伝う冷気と、何かを感じた康二は悪態をつく。
「ほざいてろ、キチガイマッド」
「うん、ありがと〜♪ 天才とキチガイは紙一重なのだよー」
自らが望むのは振り切れた所だ、と称すキチガイ。
燦然たる夕日から逃げる吸血鬼のように、
混濁とした闇黒へ生者を誘うかのように、
白衣を翻して玄関の戸をゆっくりと開ける。
悟の背中からは何も察することはできない。
「本当にね、人間って二種類しかいないんだよ。
異常を許容するか、それとも異物と知りながら奥底に仕舞うか」
世界一大嫌いで、異物である筈の親父の背中が、
扉の向こう側へと消えていった実父のそれが、
何故か少しだけ寂しく感じ取れたのだった。
金城康二、つまり俺は已むに得ない状況で、遺憾なくヤンデレウイルス送信中。
なお公共電波では感知できないので無視してよろしい。
拝啓、天国に逝って欲しいお父様、蒲公英は真心の愛を意味するらしいです。
――――――管理人さんへお願い―――――――――――
<s></s>のタグなっているところは、取り消し線が表現できるようお願いします。
>>95 ミスりました、すいません。_|~|○
二話目もお疲れ様だじぇー。というわけで、お疲れ様でした。
ぐっじょぶ!
ヤンデレウイルス大好きだ!
GJ!
よかった
GJ
105 :
変歴伝 4:2009/01/16(金) 19:51:43 ID:kcgAUQqH
余暇が出来たので投稿します。
お願いします。
106 :
変歴伝 4:2009/01/16(金) 19:53:01 ID:kcgAUQqH
ここまで来れば大丈夫だろう。業盛様は葵さんの家を知らない。
撒いてしまえばこっちのものである。
それにしても業盛様はどうしたのだろう?あれほど応援してくれていたのに。
業盛様は嘘を言うような人ではない。
だから葵さんが人を殺したと聞いた時、
馬鹿なという気持ちと、もしやという気持ちが同時に浮かんだ。
しかし、その気持ちはすぐに消えた。
葵さんがそんなことをするはずない。きっと業盛様が見間違えたのだ。
そうでも考えないと自分の考えを正当化できなかった。
葵さんは今まで見たこともないような笑顔で出迎えてくれた。
この笑顔を見ると葵さんが人を殺したなどとは露にも思えない。
やはり、業盛様の勘違いなのだろう。
中に入ると料理が準備されていた。囲炉裏には鍋が掛けられている。
そこから食欲をそそるいい匂いが漂う。
早速料理にがっつく。
旨い。それしか言えなかった。菊乃さんの料理も旨かったが葵さんの料理はもっと旨かった。
食べながら葵さんが尋ねてきた。
景正様、き…菊乃さんとはどんな関係なのですか…?」
「菊乃さん?菊乃さんは私達が今滞在している家の主人だよ。それがどうかしたのですか?」
「い…いえ、景正様は菊乃さんのことをどう思っているのかな、と思いまして…」
「どう思うって…それはやっぱり美人だと思うけど…」
「…私よりも…ですか…?」
平蔵は彼女の放つ威圧感に一瞬圧倒された。なんなんだ。このどす黒くて嫌な空気は。
「ねえ…景正様…。私、今日奮発してお酒を買ってきたのですけど…飲みますよね…?」
この時、彼女の言動、仕草に気付くべきだったのだ。
平蔵は気付けなかった。単なる嫉妬だと思ったのだ。
しかし、それは嫉妬の一言で片付けられるようなものではなかった。それはなにもかもを憎悪し、そして破壊する狂気だった。
平蔵は酒が飲めなかった。しかし、断れるような空気ではなかった。
仕方なく、平蔵は猪口に注がれた酒を一息で飲み干した。
飲み干した時、葵の口が半月の様にゆがんで見えた。
「あ…あれ…?」
手から猪口が滑り落ちた。…体が…痺れて…。
「景正様…どうしたのですか…」
葵が言った。心なしかその言葉にはおかしみが含まれていた。
「あ…あお…あお…い…」
舌が痺れてうまくしゃべれない。目もかすんできた。
「景正様…眠たければ眠ってもいいのですよ…。
これからは私が…いつまでもずっと…ずっと…ずっと…一緒にいてあげますから…」
その場に崩れ落ちた。指先一つ動かすことも出来ない。
ああ…業盛様…申し訳ありません…。
あなたの言葉を聞いていれば…こんなことには…こんなことには…。
もう…私は…私は…私は…
視界がどんどん薄れる中、最後に聞こえたのは葵さんの心底嬉しそうな笑い声だった。
107 :
変歴伝 4:2009/01/16(金) 19:54:02 ID:kcgAUQqH
「くそ、平蔵の野郎、どこに行きやがった」
いらいらして思わず素が出てしまう。
もう平蔵は葵の家に行ってしまったのだろうか?だとしたらもう手遅れだろう。
もう殺されているだろうか?いや…違うかもしれない。
わざわざ家に招くのだから、もしかしてじっくりと殺そうとしているのかもしれない。
拷問だろうか…。
竹串、やきごて、鞭打ち、爪剥ぎ…考えてみればいろいろな拷問が思い浮かぶ。
考えるだけで指を隠したくなる。
業盛は嫌な想像を振り払い、再び葵の家を探す。
日が暮れて始め、辺りの家が蝋燭に火を灯し始めた。
うっすらとした蝋燭の火の光が星の様に見えた。
「どうすればいいんだ!ちくしょう」
お手上げだった。もう少しで完全に日が暮れる。
そうなれば葵の家を見つけるのは不可能だ。業盛はその場にへたり込みたくなった。
完全に日が暮れて、空も地上も星だらけになった。
業盛は松明を片手に葵の家を探していた。
いい加減に諦めようと思っていると、おかしなことに気付いた。
行灯の付いていない家が一つあったのだ。
直感だったが、業盛はその家に足を運んでいた。
戸の近くに来てみて、業盛はその異変に気付いた。
戸を通しても漂ってくる、鼻を刺すような…血の臭い。
葵の家はここだ。どうやら拷問ではないらしい。
しかし、遅かったのには違いない。
それにしても、どんな殺され方をすればこんなに臭いが漂ってくるんだ。
打ち首か?串刺しか?もしくはバラバラか?
見たくはなかったが、せめて平蔵の墓ぐらい立ててやらねばならない。
意を決して戸を開けた。
108 :
変歴伝 4:2009/01/16(金) 19:55:13 ID:kcgAUQqH
目の前には葵がいた。いや、倒れていた。
頭はいびつな形にゆがんで、目玉が飛び出し、歯も折れている。
背中は何度も刺され、際限なく流れる血が血溜りを作っている。
戸を何度も引っ掻いたらしく、爪は剥がれて、戸には引っ掻き傷と血が生々しく残っていた。
平蔵はいなかった。家の中は激しく争ったらしく、鍋や椀が散乱していた。
平蔵がやったのだろうか。一瞬の隙を突き、頭を砕いて逃げた…。
あれ…おかしいぞ。平蔵ほどの力のある男が、
女性のような柔らかい頭を殴れば一撃で殺せるはずだ。
しかし、この死体は殴られた後、激しく抵抗しているのだ。
平蔵がわざと力を抜いた。いや、ましてや平蔵がここまでやるはずがない。
せいぜい気絶させるぐらいだろう。
平蔵ではないのなら、これは第三者がやったのだろう。
だとすれば、ずいぶんと残酷な性格であることが分かる。
力を抜いて何度も何度も、まるで、いたぶるかの様に殺している。
よっぽどの恨みがあるのか、もしくは無差別か…。
だとすれば、平蔵はどこにいるのだろう?
その第三者が殺してしまったのだろうか?
ならばここに平蔵の死体があるはずなのに…。もしくは連れ去ったのかも…。
だが、なんのために…?
さまざまな考えが浮かんでは消えていく。
結局分かったのは、葵が誰かに殺され、平蔵が消えたということだけだった。
109 :
変歴伝 4:2009/01/16(金) 19:56:28 ID:kcgAUQqH
投稿終わりです。
今回は少し調整するため少し短めです。
申し訳ありません。
GJ!
投下します。
注意点として、
・擬人化のような表現がありますが、擬人化ではありません。そこは後々…
・主人公の設定上、女装する場面がのちのち出てくるかも。アッーな展開には絶対しませんが。
佐久本 朱里(しゅり)は、一言でいうと風変わりな男だ。
中性的…やや女性的な顔立ち。加えて、肩にかかるくらいの長さで、生まれつき色素が薄いのか、やや茶がかった色をしている髪の毛。
そのせいで幼少の頃から頻繁に女子と勘違いされ、高校一年になった今でもそれは変わらずにいる。
文化祭の出し物として、朱里の属する1年3組ではメイド喫茶を開いたが、そこで男子生徒のなかでただ一人女装させられてメイドとして働かされたことは有名だ。
何しろ、3組の売上高はその年では2位以下に倍以上の差をつけたのだから。
朱里は世間で言う、いわゆるモテるタイプだが、女子に告白された回数と男子に告白された回数はさほど変わらないという事実が、朱里がそこいらの女子生徒よりも美女…も
とい、美人であるという裏づけとなっている。
両親は朱里が4歳のときに交通事故で他界。祖父に引き取られ、今の今まで育てられてきた。当時、朱里を引き取ろうという親族はいくらでもいたのだが、
財産目当ての者は一人としておらず、生前朱里の両親に世話になったというあるという人ばかりだった。
しかし祖父が名乗りを挙げれば、あっさりとそれに従った。否、それがベストだと皆思ったのだ。
祖父の教育の賜物か、はたまた両親に似たのか、朱里は人当たりのよい性格を持っており、誰とでも分け隔てなく接することができた。
それは昨今の社会情勢からしたら希少価値、天然記念物クラスといえよう。
朱里がモテるのは単に容姿だけではなく、そういった要素が手伝っている部分もあるのだろう。
そんな朱里がソレの存在を知ったのは、東京に今年初めての雪が降り積もった二月半ばのこと。――祖父、佐久本 武雄の葬儀が執り行われた日であった。
葬列は式場いっぱいにまで及び、その中にはテレビニュースなどでよく見かける、財界の顔ぶれもわずかながら含まれていた。
式自体はとてもシンプルなものだった。武雄は晩年より「儂は昔から念仏というものが退屈で仕方なかった」と愚痴をこぼすかのごとく言っていたので、
念仏はまるごと省略されることとなったのだ。にも関わらず、焼香を済ませ、遺影に一礼をして席に戻るという行程だけで二時間は費やされた。
朱里は武雄の人徳を、今更ながら実感したのだった。
夜、宴会室を借りきって行われた、いわゆる"故人を偲ぶ会"。生前の武雄を懐かしむ人もいれば、涙を見せる者も…
まさに、十人十色を体現したかのような空間となっていた。
だが、朱里は浮かない表情をしていた。彼の頭に今あるのはひとつの思念だけ。それは、武雄のことではなく…ある一本の刀のことだった。。
その刀は、代々佐久本家に伝えられてきた逸品だ。鍛え上げられてからすでに三百年は経っているらしいが刃こぼれどころか錆びひとつなく、
鞘から抜けばぬるりとした鈍い光沢…見事な職人業だ。
鍔のすぐそばにはこう刻まれている。それはこの刀に付けられた名前なのだろう。
<松代 鳩蔵作 / 御影>
祖父の遺言は、"偲ぶ会"の直前になって顧問弁護士より親族に伝えられた。残された遺産は法にのっとり分配。当然、孫である朱里は多く受けとることになるが、
反対するものはいなかった。これも朱里の両親、そして武雄の育て方がよかったからだろう。朱里は、十分すぎるほどに信頼されていたのだ。
財産分与については何の滞りもなく完了した。だが、最後に弁護士が伝えた一文には、一同はわずかにどよめいた。
「"御影"を朱里に継がせること。ただし、これに関しては代理人ではなく必ず本人が所有せよ、とのことです」
朱里は誰に対してというわけでもなく、漠然とこう呟いた。
「みかげ、って何?」
御影は、祖父の居間に飾られていた。実は朱里も何度か目にしたことはあるのだ。しかし、ソレ=御影だとは思わず、今の今まで全く気にも止めなかった。
だからこそ、御影が何であるかが分からなかったのだ。
その疑問に答えたのは祖父の弟であり、代理人として朱里の継ぐ財産を預かり成人するまで管理する財産管理人を選任された、仁司(ひとし)だった。
仁司の語るところによると、御影とは300年以上昔、江戸時代末期に松代 鳩蔵という職人によって鍛えられた太刀だそうだ。
しかし鳩蔵は御影を鍛え終わると、完成したばかりのソレを使い、実の娘を殺害するという凶行―むしろ、狂行というべきか―を犯し、自らもそのまま腹を斬り、果てた。
それ以来御影は色んな…主に侍と呼ばれる人たちの手に渡ることとなるが、所有者となった者たちは皆、変死している。
変死というのは、乱心し御影を辺り構わず振り回し、血の海を作ってなお飽きたらず、自害して果ててしまうという悲惨な死に方を指している。
御影は俗に言う、"呪いの太刀"というものなのだ。
だが唯一例外があった。それこそが武雄の…そして朱里の先祖にあたる、矢坂 晋太朗という侍だ。 彼はこのいわくつきの刀を手にしたが、
終生誰一人として殺すことはなかった。故に、御影はその男の一族に代々受け継がれることとなった。
実際、晋太郎の血を引く者のなかで、御影に"飲まれた"ものは今日まで一人も現れなかった。この話をそのまま受け止めるなら、
次の御影の継承者には確かに朱里こそが相応しいが…彼はまだ成人すらしていない。
皆が皆、太刀の呪いなんてものの存在を鵜呑みにしているわけではないが、単純に、刀なんてものを与えていいのだろうか、という思慮がこの空間を占めていた。
だが一同は朱里を見やり、そして安堵すを覚える。この子なら大丈夫だ。呪いが実在したとしても、ちゃんと己を御せるだろう。
そういった、確信めいた期待を朱里に抱いていた。
そして今に至る。朱里はテーブルに盛られた料理のなかから、好物である鶏料理を皿にとり、もぐもぐと食べていた。
これも武雄が生前から言っていたのだが、「儂は葬式でしけた面をされるのはごめんだ。せめて、料理くらいは豪華にしよう。満腹は人を笑顔にするものだ」と。
故人の意思を尊重したのか、宴席に出された料理は懐石弁当なんて無粋なものではなく、本格的なバイキング形式のものだった。
武雄のこういった性格も、親子三代に遺伝しているのだろうか。武雄は長い生涯のなかで、明確な敵対関係を作ったことはなかった。
その息子…朱里の父親、佐久本 健司(けんじ) も然り。朱里は、冒頭で説明したとおりだ。
定められた全ての日程が終わり、家路につく朱里。頭の中には未だに"御影"のことが巡っていた。
――どうすればいいんだろう…とりあえず、僕の部屋に飾っておけばいいかなあ。朱里はそんなことを考えていた。祖父に比べると割と能天気な性格のようだ。
がちゃり、と玄関のドアの鍵を回し開ける。日付が変わって午前一時、家のなかは真っ暗だ。外同様に冷えた空気が充満しており、廊下は氷のように冷え切っている。
素足で踏み入ると、とたんに足が冷たくなる。
慣れた手付きで電気をつける。十年以上ここで暮らしているのだ。目を瞑ってもこれくらいたやすい。そのまま朱里は祖父の居間の襖を開いた。
武雄が入院して以来、この部屋へは久しく入らなかったが…御影の存在が気になったのだ。なんだかんだ言っても朱里も年頃の青少年、好奇心は人並みにある。
ただ、珍しいことにそれが性的関心に向けられたことは一度もないのだが。
そして、ソレはすぐに見つかった。掛け軸の下に飾ってある、黒い鞘に納められた太刀。朱里はそれを手にとり、抜いてみた。
ずしり、と手に伝わる重さ。きっとそれは御影自身の重さに加えて、今までに御影によって流されてきた血の重さも含まれているのだろう。
見つめていると、吸い込まれそうなほどの艶。朱里はとたんに身震いし、すぐに鞘に納めようとした。だが――
「――痛っ…」
わずかに指先を切ってしまった。この程度なら絆創膏で大丈夫なのだが、朱里は、必要以上に狼狽してしまった。
朱里は決して臆病なわけではない。むしろ、どんな困難にも立ち向かう、祖父譲りの強い精神の持ち主だ。
その朱里がこれなのだから、常人なら足が震えて立てなくなるだろう。
朱里は、御影をもとの場所に置き、自室へと向かった。普段の朱里ならそんなことはないのだが、今は家に独りきりという、この状況が怖かった。
だから、部屋に入ってすぐお気に入りのアーティストのCDをかけ、特に何を見るというわけでもないのにテレビをつけた。
たとえ電気がもたらす擬似的なものでも、人の声がするというのはそれなりに心強いものだ。
朱里はそのままベッドに伏し、恐怖心が薄くなるにつれて、逆に増してくる睡魔に身を任せ、夢の世界に墜ちた。
―――朝、朱里は目覚まし時計が鳴るより早く目を醒ました。昨晩からつけっぱなしだったテレビは、ちょうど星座占いを映し出していた。
それによれば、今日のワースト1位は乙女座。奇しくも、朱里の生まれ月だった。挽回のラッキーアイテムは、紫のニーソックス……朱里は朝っぱらから複雑な気分になった
。
とりあえず朱里は、学校の制服に着替えることにした。クローゼットからエンジ色のブレザーとチェック柄のズボンを取りだし、代わりに喪服を収納する。
……一瞬、星座占いの解説を思い出した朱里。今日はその通りに紫色のニーソックスを履くことに決めた。
なぜそんなものを持っているかというと、文化祭にて女装メイドに扮したときに用いたからに他ならない。
着替えを終え、パンでも食べようと台所に向かった。時計の針は6時57分を指している。学校に行くときははいつも7時半に出発しているのだ。
少し時間がなかったため、今日は買い弁にしようと考えていると、台所の方から香ばしい薫りが漂ってきた。
――なんだろう…ここには今は僕しかいないはず。誰かいるのか? 朱里は歩を早め、台所にいる侵入者の姿を捉えた。
その侵入者…いや、少女は腰まで長く伸びた銀色の髪をもち、すらりと引き締まったスタイルをしていた。背は朱里と同じくらい、170センチ前後といったところか。
きりっとした切れ長の瞳をはじめとする、端正な…まるで人形のような顔立ち。まさに、美少女という呼び名がふさわしかった。
「おはよう、朱里」美少女は口を開いた。「朝ごはん、今できたところなんだ。温かいうちに食べてほしいな」
「…君は、いったい誰?」
当たり前の質問だ。朱里の記憶の中には、この少女の存在は含まれていなかったのだから。しかも、飛びきりの美少女だ。
そんな少女がいきなり朝ごはんを作ってくれているなんて、まったく意味が分からないだろう。
だが…次に少女の口から発せられた名前は、聞き覚えのあるものだった。
「ボクは美景だよ。美しい景色って書いて"みかげ"って読むんだ」
「……みか…げ…!? まさか、そんな!?」
「そう、君が思ってるとおり。ボクの父は松代 鳩蔵。銘刀・御影を作ったそのひとだよ」
「じゃあ君は…御影なのか!? 本当、に…っ」
朱里の唇に、突然温かく、柔らかいものが触れた。…それは美景の唇だった。舌を無理やりねじ込み、朱里の口内を食いつくさんばかりに舐め回す。
朱里はわけがわからず、ただなすがままにされる。
ちゅ…といやらしい音を立てて唇が離される。唇と唇に、唾液の橋がかかっている。朱里は、自分の心臓の鼓動が激しくなっているのを感じた。
「つれない顔しないでくれ。ボクはもう、キミだけのものなんだよ。自分で言うのもなんだけど、こんな美少女を独占できるんだよ?
それとも、オンナノコには興味ないのかな?」
「そ…ういうわけじゃないよ。…わけがわからないだけ」
「そう…じゃあ、期待して待ってるよ。とりあえず、学校に行かなきゃ、だね。ほら早く食べて? 今朝は朱里の好きな鶏肉にしたんだよ」
美景から離れた朱里は、おぼつかない足取りで椅子に座り、コップに注がれた牛乳を流し込み、料理に箸をつけた。
夢か現か、今の朱里にはわからないことだらけだ。だが、そんな中でもひとつ発見があった。
美景は、料理が上手だ。
(続)
終了です。
「天使のような」の方は完成しだい投下します。
GJ
これはいいお嫁さん
なんてうまやらしい。
馬がやらしいとな!?
雌馬
これは新しい
馬はどちらかというと男に使う感じだよな、種馬、馬並とか
女が男に馬乗りになって
「あなたの…馬並みに大きい……」
「私だけの種馬になって下さいね…」
ここまで浮かんだ。
「私の愛馬は凶暴です」
「なるほど…エロい事…するんだ…」
「そう…エロい事だ。」
不愉快だわ
どこかにヤンデレ美少女に変化する妖刀落ちてないかなと思いました。
>>117 ストーリー的には面白そうだし、全然GJなんですが、気になった点を一つ。
>御影とは300年以上昔、江戸時代末期に松代 鳩蔵という職人によって鍛えられた〜〜
大政奉還が1867年。
現在が西暦2009年。
300年前は幕末(江戸時代末期)ではありえません。
重箱の隅をつつくようで申し訳ないのですが、
ヒロインの出自に関わる重要な設定事項だと思ったので一応申し上げました。
お気を悪くしたら申し訳ありません。
では、続編期待しております。
家に日本刀が2本あるが可愛い女の子に化けてくれないかな?
ついでに言えば、飼ってるクロの縞縞柄のぬこがぬこまたとかになって、(性的な意味で)襲ってくれないかな?
ついでに言えば、できればヤンデレで(ry
木刀と模擬刀ならあるんだけどだめかな?
小太刀はロリになりそうだけど
刀擬人化は修羅場スレの九十九の想いがあるな
>>131 猫又とかババアじゃねえか
お前も物好きだな
>>134 人間に10年ぐらい買われた猫が・・・じゃ、なかったっけ?
猫にとっての10年ではない、人間にとっての10年なのだ。
つまり、炉利ッ子というわ(ry
>>135 20年じゃなかったか?
10年くらいだと普通に生きるだろ
ほう?20年とな!食べごろではないか!(以下自重
擬人化と言えばこのスレでは妖しの呪縛が近いか
一話で中断してるのが惜しい
>>133 あれ好きなんだけど止まってるなぁ
と言うよりあのスレ全体が止まってると言った方が良いかな・・・
全盛期は勢い50以上あって日に投下5本とか来てたのにな…
悲しいもんだ…
他スレの話はその辺りで止めとけ
擬人化+ヤンデレか…
物凄く良い…
そういや自分は3スレとも見てるけど何で分割したんだろう・・・
キモ姉妹スレは分かるけどココと嫉妬ではどういう風に
使い分けてるのだろうか?
>>144 ここ…ヤンデレならOK
嫉妬スレ…嫉妬や三角関係などが絡んでいればOK(病んでなくても)
キモウトスレ…キモ姉・キモウトが出ればOK
深く考える必要はないと思われる。現状でも混合してるし。
とりあえず、ここに居る俺らは皆ヤンデレが大好きだ!それで十分じゃないか!
とキモウトヤンデレ好きな俺が叫んでみる。
まぁもともとはスレ数からみてもわかるように嫉妬修羅場が最初にできたんだが
ヒロインが2人以上いて修羅場をしなくてもいいから
ヤンデレを出せと言うことで分派してヤンデレスレができて
そのヤンデレスレからキモウトキモ姉スレが特化スレとしてまた分派した感じじゃね?
キモスレはあそこの初代
>>1が荒らし誘導で勝手に立てたんだ、
おかげで初期は重複だなんだで散々揉めた。
今もあるかは知らないが荒らしが便乗してストーカースレとか言うのも立ててた。
148 :
144:2009/01/20(火) 09:50:35 ID:vweVORex
成る程 そういう棲み分けだったのか
アリガト エロい人方。
ヤンデレに『さっきのどういう事ですか?ねぇねぇ』とか言われたいものだ
姉か妹、もしくは従姉妹と一緒に外出してるところをヤンデレに見られたい
誰かいますか?投下しようと思うのですが・・・
>>151 何をしている?早く投下したまえwktk
>>152 ありがとうございます。生意気にも、初投下で長編です。
前置き
・内容はすごく浅い。あくまでみなさんの作品が投下されるまでの繋ぎ的なものとして見てください。
・gdgd
・なにも始まらないくせに長い一話
・登場人物無駄に多い
・批判/指摘はガンガンください。直せる限り努力します。
・でもキツイと凹みます。ダメ人間です
・ぶっちゃけ作者の自己満
以上を踏まえて読んでいただけると幸いです。
では投下します。
「はい、じゃあ各自念入りにダウンしといて。レギュラー外の一年は手伝うか片付け。最後の子は戸締りをして、一階のラウンジに集合」
今日も部活が終わった。相変わらずの完全不燃焼で、不満が募るばかりだ。
季節は冬、12月。ごく普通に中学を卒業した俺は、ごく普通の高校に、特に何の波乱も無く入学し、大きな変化も無いまま一年が終わろうとしていた。
現に、今年の授業は今日で収めとなり、明日からは冬休みが始まる。冬休みはカレンダーで見るよりもずっと早く、あっという間に年が明けるだろう。
「さて、と」
散らばったボールを籠に戻すと、俺は体育館を見渡した。梅ちゃんが舞台のほうへと向かったので、おそらくモップを持ってくるはずだ。
シバちゃんがコーンを片付けており、続いて、ネットを下ろしている佐藤の姿が目に入ってきた。小走りでそちらへ向かう。
「お、悪いな」俺を見て佐藤が笑ったので、気にすんな、と言って俺も笑った。
俺は中学校からずっとバレーボールを続けており、自慢じゃないが中学生の頃は主将を勤めていた。
ただ、高校では普通にやれれば満足なので黙っているつもりだったが、アイツが━━浅井の野郎が新入部員の歓迎会でわざわざ言いやがった。
幸い、悪い方向には転がらずにすんだが。
「たいしょ〜。マッサージして〜」
「あ、俺も、大将」
「はいはい。今片付けっスから、ミーテの時にしますよ」
結果、これだ。念のため言うが、俺の名前は“大将”ではない。
主将をやっていたことが転じ、気付けば周りの人間は俺をそう呼び始めた。まぁ、これだけなら一向に構わないのだが、これに託けて、何かと俺に甘えてくる。
もしそれを断るものなら、「え〜。だって主将やってたんでしょ」という意味のわからない責任を押し付けられる。1年生は5人もいるのだから、俺以外にも頼めばいいだろうに。
「モテモテだな、大将」佐藤登志男(さとう としお)はネットを支えるポールによじ登り、高い位置の紐を解きながら言ってきた。
「お前まで言うかよ」
「まあまあ、プラスに考えろよ。先輩に好かれてるなんてオイシイじゃないか」
「先輩だけなら、な」 事実、先輩だけではない。
我が校の部活は互いに関係が深い部活が多く、特に同じ競技なら尚更である。
男子バレー部と女子バレー部もその例に漏れず、非常に友好的だ。健全な高校男児なら手放しで喜ぶところだが、今の俺には不愉快としか言い様が無い。
部活同士で仲がよければ当然、部活の枠を越えてカップルが出来たりもする。
バレー部では、二年の池松先輩と城崎先輩がそれにあたり、主に二人を掛け橋にして関係が築かれている。“大将”は、その掛け橋を本人の知らぬ間に渡ってしまい、橋から橋へ、部活から部活へと一人歩きを始めたことに気付いた時には、もう手遅れ。
学年どころか、学校の大半の生徒に知れ渡ってしまった。『斎藤憲輔(さいとう けんすけ)=大将=なんでも頼める人』という式は、もう崩せそうにない。
佐藤がネットを取り外すと、いつのまにか戻ってきたシバちゃんがネットを丸め始めた。
俺と佐藤はポールを運ぶ事にした。最近のはアルミだかなんだかで作られており非常に軽いのだが、歴史が深いらしいこの学校は未だに鉄製のものも所有し、男子バレー部はそちらを使わされている。
顧問曰く、これも筋トレの一貫らしいが、女子バレー部の若いコーチに言い寄られ、最新のは女子が使っちゃってください、と顧問が言っていた現場を俺は見ていた。あの時のイイ笑顔は忘れられそうにない。
「ほっ、と」若干、ふらつきながらもポールを倉庫の定位置に置いて固定した。横でも佐藤が同じ作業を終え、右手のこぶしで腰を叩いていた。
「かぁ〜、腰にくるなぁ。そういや、今日はりおちゃん来なかったな」
「ん?・・・あぁ、そういえば」
「うわっ、今の間は何よ。聞いてたら傷つくぞ」
「今日はいないから大丈夫」
そう言いながら倉庫を出た矢先、彼女の声が聞こえた。
「遅れて申し訳ありませんっ」体育館に入るや否や、土下座でもしそうな勢いで頭を下げている。
そこへ、現主将の浦和先輩が寄っていく。「もっぉ〜、りおっち遅いって〜。今日は終わっちゃったよ」
「ご、ごめんなさいっ。なかなか用事が済まなくて・・・」
「ま、いいからいいから。今日はお休みってことで」
「いえ、せめて片づけだけでも手伝いますっ」
「・・・りおちゃん、スゲーな」舞台横の時計を見ながら、佐藤が言う。
つられて見ると、時刻は6時過ぎだった。「俺だったから確実に来ねーよ、なぁ?」
「それよりも、6時間部活やって汗をろくにかいてない自分にびっくりだよ」
言いながら、俺は体育着の首元をひっぱり、匂いを嗅いだ。未だに洗剤の匂いがした。
「ん?・・・冬だからジャン?」
「お前、それ本気で言ってたら殴るぞ」
「んなこと言っても仕方ねぇだろうよ。俺らレギュラー外だもん」
佐藤は、俺の最大の悩みをあっさりと口にしてくれた。
そう。俺は大将と呼ばれているクセに、レギュラーではない。
部員数が100を超えていたり、全国に名を轟かす強豪校だというのなら、俺は甘んじてこの状況を受け入れよう。
ただ、現実は1,2年生合わせて20人ちょっとの部活で、全国どころか、地区大会を勝ち抜いたことすらない。
顧問の高橋先生は、俺のことが嫌いだ。ミーティングの時に俺の顔を見ないし、練習のときは俺に対する球筋がやたら緩い。
あんなもん、素人でも取れる。差し入れを持ってきたときは俺の分だけ足りなかったし、俺がいるのに体育館の鍵を閉めたこともあった。
りおちゃんがいなかったら確実に一泊していただろう。元大学選抜選手らしいが、その御眼鏡には俺のことが悪く映っているらしい。
確かに、俺はそれほどバレーが上手いわけではない。弱小校で頭を張っていただけで、主将に選ばれた理由も、おそらく実力ではないだろう。
バレーに限らず、スポーツ全般において優劣を分ける体格も、恵まれているとは言い難い。
一言で言うなれば、平平凡凡。誉められることも、怒られることもなくここまで成長してきた俺は、たかだか16年間生きただけで、己の人生の行く末を把握した。
ドラマティックも、スペクタクルも俺には用意されていない。
遠い、隣の世界の話だ。
「大将、ギャラリー頼んでもいい?」
ナーバスになっていたところ、突然後ろから声を掛けられて、思わず体が跳ねた。
向き直ると、大川俊(おおかわ しゅん)先輩がいた。大川先輩はバレー部だということを疑うほどに身長が低く、無駄に声が高い。
「ああ、はい。大丈夫っス」
「ホント?悪いねぇ。俺ちょっと、今日は用事があってさぁ」先輩は満面の笑みを浮かべると、そのまま走り去った。
はぁ、とため息を一つ吐く。
「俺が行こうか?」心配したのか、佐藤が気を遣ってくれる。
「私がっ。私が行きますっ」また後ろから声がして驚く。そこにはりおちゃん、窪塚りおが高く右手を挙げて立っていた。
「あ、いや、いいよ」二人の申し出を断ると、りおちゃんはどこか悲しげな表情をし、佐藤はあからさまに呆れていた。
「頼まれたのは俺だし。それに、りおちゃんは今日休みな、って言われてたでしょ」
「でも・・・」
「ムダムダ、りおちゃん。コイツは人一倍意地っ張りだからさ」やれやれ、と言って首を振る。
「あぁそうだよ。どうせ俺は意地っ張りだっつうの」
「で、でも、でも・・・」りおちゃんは両手を胸の前で擦り合わせながら、モジモジとしている。
俺もたいがいだが、りおちゃんもなかなかだ。そしてりおちゃんは胸がデカイ。
「ほら、ミーテ始まるから先に行ってくれ。鍵も俺が閉めとく」
雑念を振り払って舞台袖へ向く。後ろから佐藤が「無理すんなよ」とふざけたトーンで言ってきた。それがどれだけありがたいか、アイツ自身は知らないだろう。
集会などで使われる舞台の下の両脇に、扉がある。
そこから裏方へ上がり、さらに階段を上ることで、大会などの時に保護者が来たり、横断幕を張るような通路、通称ギャラリーへと行ける。窓ガラスに沿って体育館の二階を、ぐるりと一周している通路だ。
バレーボールは、稀に、球を弾き過ぎてボールが乗ってしまうことがある。部活が終わってから、カーテンをしめたり窓を閉じたりするついでにまとめて回収するのだ。
また、今日はたまたまいないが、体育館で二つの部活が活動するときは、反面ずつに分かつ網状のカーテンをギャラリーから下ろすため、それをしまうこともこの時にする。
扉を開けて裏方に入ろうとすると、モップをしまっている梅ちゃんと目が合った。「あ、ギャラリー」
数秒待ったが、続きを言おうとしないので、解読することにした。
つまりは、俺が来たことでギャラリーという仕事を思い出し、もしかしたら、そのことを謝ったりもしているかもしれない。
「ああ、いいよ、気にしないで。俺いくから」できるかぎりの優しい顔と口調で返事をした。
「あ、う、あり、ありがとう」そう言うと、梅ちゃんは走っていってしまった。
お礼を言われるとは、予想外だった。同学年である梅本賢三(うめもと けんぞう)は内向的な性格のようで、いつも小動物のようにビクビクしている。
それでも、俺の努力の甲斐あって、先ほどのように心を開きつつある。
あれだな、テレビでやってる動物と触れ合いを中心に据えた番組。なんたら動物園。
あれでよくやっている、芸能人が珍しい動物を飼う企画。最初は脅えたり、拒絶していた動物が、初めて飼主の足元に擦り寄ってきた瞬間、あの時のような感動が今押し寄せてきている。
そうか、そのうち梅ちゃんも動物園に帰ってしまうのか、と不謹慎なことを考えながら階段を上った。
薄暗い階段を抜けて視界が開けると、またもや驚いた。体育館の入り口に、りおちゃんが立っている。先にミーティングに行きなと言ったのに、なんと律儀なことか。
歩きながら暫く彼女を見ていたが、彼女はこっちに気付いていないようだ。ここぞとばかりに直視してみる。
りおちゃんは丸い。太っているというわけではない。普通よりほんのりと丸い程度で、体型的には普通といっても問題ないかも知れない。もしかしたら、雰囲気なども相まって、そう見えるのかもしれない。
クリクリとした瞳と割と大きめの唇が印象的で、黒のショートヘアーは爽やかさを醸し出している。身長は低めだが、その割には胸が・・・
りおちゃんと目が合い、慌てて逸らした。バカか、俺は。マネージャー、それも人様の彼女になに欲情してやがる。
もういちど見ると、彼女は笑顔で手を振っていた。濃い緑色のブレザー越しに、胸が揺れる。俺のバカ。
りおちゃんは主将、浦和好紀(うらわ よしき)先輩の彼女で、推薦での合格が出ているものの、まだ高校生ではない。
中学での授業が終わるとかけつけ、マネージャー業務をしてくれているのだ。正直、ありがたすぎて足を向けて眠れないが、やはり愛する彼氏のためなのだろう。
しかし、こうして一端の部員でしかない俺にまで優しくしてくれているあたり、浦和先輩がうらやましい。
「うしっ、完璧」
体育館の各所にある扉、窓、足元の小窓。順に指差し確認をしてから、防犯システムのスイッチを入れ、入り口の鍵を閉めた。
今なら某偉人に「してますか?」と訊かれても胸を張って返事が出来る。
「お疲れ様です」横にいるりおちゃんが微笑む。花が咲くよう、とはまさにこれで、一瞬見とれてしまった。
「ありがと。じゃ、行こうか」と言うと元気良く、はいっ、と答えてくれた。
ミーティングはもう始まっているだろう。ぜひとも走りたいのだが、りおちゃんがいる手前、それはやめておく。
柔道場と剣道場の前を通り、本館に移る渡り廊下を抜ける。あとは道なりに、視聴覚室、図書室の前を行けばラウンジがある。
下駄箱の前にあるラウンジは、壁が一面ガラス張りになっており、昼間はラウンジ全体が柔らかな日差しに包まれる。逆に、夜は不気味なことこの上ない。
柔道場を通り過ぎたあたりで、りおちゃんが急に言う。「先輩は好きな人とかいないんですか?」
「いきなりだねぇ」
「ダメですか?」
「ダメ、というか」『“彼女”いないんですか?』では ないあたりが寂しい。
「どうなんですか?」
「好きな人ね、いないよ」
「ホントですか〜?」上目遣いで、少し近づいてきた。
口元に手を当てて反対側を向く。これ、だれかに見られたら誤解されるな。
「りおちゃんは・・・って、いるか。浦和先輩だ」相当混乱しているみたいだ、俺。
「ん・・・そうですね」りおちゃんは急にテンションが下がり、俯いた。上手くいっていないのだろうか。
苦し紛れで、浦和先輩が羨ましいね、と言うと、りおちゃんは勢いよく顔を上げ、何故、と言うような顔で俺を見てきた。
「りおちゃんは気が利くし、優しいし、か・・・たづけも上手いし」『可愛いしね』と言おうとして止めた。他人の彼女に言うのもどうかと思ったからでヘタレだからではない。断じて。
「私、優しくなんかないですよ。そうだな・・・例えば、好きな人に彼女がいたら、その人をころ・・・押しのけてでも付き合うだろうし」
「すごいなぁ」一瞬、マズイワードが聞こえそうだったが、空気を呼んで、ここは流す。ヘタレだからではない。多分。「じゃあ、もし好きな人が付き合うのを拒否したら?」
言ってから、後悔した。りおちゃんはいつも通り、いや、いつも以上の笑顔を浮かべたが、目は一切笑っておらず、瞳の黒がより濃く見えた。「どんな手を使っても、好きになってもらいます」
「すごいなぁ」具体的にどんな手を使うのか気になったが訊かなかった。ヘタレだからだ。絶対。
学校から電車に乗って最寄駅まで帰り、そこから自転車に乗った。学校までも自転車で行けるのだが、朝はどうもテンションのせいでその気にならない。
冬の夜は、朝のような刺すような寒さとは裏腹に、どこか清々しい、気持ちのいい寒さと言える。
ミーティングはいつも通り行われ、いよいよ5日後に控えた地区大会についての説明があっただけだった。
今年は高橋先生の存在もあってか、期待がかかっているそうだ。メンバーもここ最近では最も粒揃いで、地区大会は勝ち抜ける、と先生は言っていた。俺はといえば、どうせ出ない試合なので興味が無く、りおちゃんへの失言をいつ謝るかを悩んでいた。
話の流れから推察するに、浦和先輩と上手くいっていないのだろう。そこへ、あの言い方はなかった。怒るのも当然だろう。
ミーティングが終わり、すぐ謝ろうとしたのだが、先ほどマッサージを約束した先輩につかまり、結局、りおちゃんは帰ってしまった。
電車の中、メールで謝ろうかとも思ったが、電池が切れていることを確認させられただけだった。さすがに、そろそろ替え時だろうか。
十字路を抜け、坂を下る。寺、酒屋、和菓子屋がいつも通りの順番で流れていく。信号で止まり、ふと横を見ると、一軒家の窓からあたたかな光が漏れていた。
帰る家に、あのような光が灯っていたのはいつまでだったか。車用の信号が黄色になった。赤になる前に、答えは出た。最初っから灯ってなどいない。
母は介護関係の仕事をしており、朝6時から、早くても夜9時まで家を開ける。
父に至っては、母よりも早く家を出て、母より遅くに帰るというハードスケジュールだ。
それ故、俺とは週に一度程度、それもニアミス程度の関わりしかない。何の仕事をしているか、知りたくても訊く機会が無いので諦めている。
3歳上の姉もいる。いや、いた。
母に代わって、我が家の家事全てを受け持っていたが、大学進学を機に県外に逃亡してしまった。それでも、「寂しい〜」と泣きながら電話してきたり、「寂しかった〜」とか言いながら、頻繁に帰ってくる。
断っておくが、家族間の中は悪いわけではなく、むしろ模範的な仲の良さである。
父か母、どちらかが休みだと聞けば、誰が言い出すでもなく全員が休みを合わせ、一日中一緒に過ごすというのも、もはや習慣となっている。姉は彼氏との約束をドタキャンしたほどである。逆に、その仲のよさが辛いと思うこともある。
いかんせん、父と母は忙しすぎるのだ。幼稚園の頃は閉園まで待っても誰も俺を迎えに来なかったし、小学校では授業参観などあったかどうかすら曖昧だ。
そのため、家に帰ったら家族が食卓についていて、遅いじゃないか憲輔、お疲れケンちゃん、今日はお鍋よ〜、うふふ、あはは。などというのに憧れていたりはする。
「せめて、おかえりくらいはなぁ」
ぼんやりと呟いた言葉は白い靄になって浮かび、すぐに見えなくなった。
案の定と言うべきか、いつも通りというべきか、家は暗かった。母の中途半端なガーデニング趣味が災いし、壁には正体不明の蔓が巻きついているのは相変わらずだ。
明かりの無いまま、おぼつかない手つきで鍵を開けると、まずは玄関、廊下、階段、居間、キッチンの電気を点ける。玄関の明かりを点けた時、大きめの何かがあったが、気にしないことにした。どうせ母が通販でまた何か頼んだのだろう。
「洗濯物入れて、掃除機かけて、風呂やって、飯作って・・・」居間でカバンを下ろしつつ、やるべきことを反芻する。こうでもしないと、スイッチが切り替わらない。
庭のほうからどんっ、という激突音がした。目をやると、シベリアンハスキーがガラス戸に前足をのせ、後ろ足で立っている。「待ってろ、マエダ。飯食ったら散歩に行くから」
ある日、突然にシベリアンハスキーを貰ってきたのは父だ。
その数日後、帰省した姉は黒いラブラドールレトリーバーを抱えていた。
飼い始めてから知ったのだが、我が家はどうも動物好きの血が流れているらしい。
帰りの遅い母が、帰ってきてから散歩に行ったり、ただでさえ家を出るのが早い父は、わざわざもっと早くに起きて散歩に行っている。
犬の世話に熱中して倒れて貰っても困るので、自粛するように呼びかけているが、あまり聞いてくれていない。
ちなみに、ハスキーがマエダで、レトリーバーがルイス。さらに言えばレトリーバーはメスで、どちらとも名付け親は俺だ。
とりあえず、先に二人にえさをやろう。そうでもしないと鳴き始めて大変なご近所迷惑になる。
こうやって、いつもどおりの一日が終わり、いつもどおりの明日が来る。そう思っていた。
テーブルの上の書置きと一枚の切符を見てから、少しだけ、捩れ始めた。
数時間前、彼女の人生は大きく捩れ、ブツリ、という音を発てて引きちぎれたのを、まだ知らないまま。
とりあえず、終わりです。
何も始まってねぇし、意味わかんねぇし、ヤンデレいねぇし
とお怒りでしょうが、長い目で見てあげてください。
今日中に2話めも投下できると思います
GJ!!!
wktkwktw
>>160 りおちゃん可愛いしこれは続きに期待
あと、あまり自虐的になる必要はないと思われ
165 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/21(水) 20:29:07 ID:oT4LIDKF
>>160 GJっす!
wktkしながらお待ちしております
>>160 GJです
ところで題名が『Tomorrow Nver Cmoes』になってるのは携帯で見てるせい?
GJ!!
でも、最後の行の彼女って誰のこと?
みなさん、応援ありがとうございます。遅れ申し訳ないです。
2話をなんとか書き終えたのですが、「あれ、話進んでねぇ・・・」と気付いたため、急遽、3話も書き上げました。
これでようやくスレの意義に追いつけた感じです
>>164 悪い癖ですね。申し訳ないです。
・・・りおちゃんがメインじゃないなんて言えない(ノω;)
>>166 いいえ、作者がアホだからです。ごめんなさい、修正します。
>>167 それは2話3話で・・・むふふ
では、投下させていただきます
大きな、壁のように圧倒的な何かを見たのを最後に、私の意識は一度途絶えた。
熱さと生臭さで目が覚めた私が最初に見たのは、赤。左頬が赤い何かにぐっちょりと浸かっていた。
鉄のような匂いと生暖かさから、血だと理解するのに、時間はかからなかった。
反射的に退いて、横になった体を起こそうとしたが、体はまったく持ち上がる気配が無い。頭だけでも、と思い動かすと、想像を絶する激痛が顔の右側を襲った。
今の私は、左半身を下にして横になっている。激痛と血を考慮すると、私は怪我をしているのかもしれない。
ただ、起き上がれないのは怪我のせいではないように思える。右側に何かが圧し掛かってきているのを感じているのだが、何故か視界が黒く、よく見えない。それで起きようとすれば激痛。八方塞とはこのことか。
私は今どこにいるのだろうか。確か、今日は学校が終業式だった。家に帰るや否や、父と母は満面の笑みを浮かべ、私を制服のまま車に押し込んだ。
今日はお出かけよ。
なんでも欲しいものを買ってあげるからな。
そう言った両親は本当に嬉しそうで、私はクリスマスが近いことを思い出した。普段は助手席に乗る母が、今日は後ろの私の右側に座り、私の頭を撫でてくれて、父は運転席で羨ましそうな声をあげている。
少し遠くのショッピングモールへ行くため、車は国道に乗った。
━━そして、壁を見た。
あの壁は黒かった。目のようなライトがあった。口のようなバンパーがあった。フロントガラスがあった。トラックだった。
血の気が引く、というのをリアルに体験する。体を恐怖が占領する。心臓が唸る。
ずるっ、という擦れる音がすると、右側の重さがなくなった。
同時に、何かが前のシートとの間に落ちる。
栗毛の髪、白い肌、ピンクのセーター、ベージュのロングスカート。
普段は助手席に乗る母が、今日は後ろの私の右側に座り、私の頭を撫でてくれた。
━━ハハガ、ワタシノミギガワニ。
運転席に目を向ける。
ヒビだらけフロントガラスの向こうには、ひしゃげたエンジン部分と、トラックの一部があった。というより、トラックはすでにこちら側まで入ってきており、運転席は完全に潰れている。
一本、血まみれで、所々ガラス片の刺さった血まみれの何かが間から伸びている。
父は運転席で羨ましそうな声をあげていた。
━━チチハ、ウンテンセキニ。
母と、目が合った。
テレビを点けると、過剰なまでに脚色された再現VTRが流れていた。テレビを信じるな、と唯一教え込まれてきた俺は、すっかりアンチマスメディアとなってしまった。
庭ではマエダとルイスが、軽く引いてしまうぐらいの勢いでドッグフードを貪っており、ガラス戸越しでも、はっきりと聞こえている。まぁ、朝7時に食べて、今まで何も食べないというのは辛いだろう。
言っておくが、昼を食べさせないのは普通のことである。犬は一日二食、朝と晩だけだ。何故かは知らない。
何も手を加えない、生まれたままの姿の食パンを咥えながら、二階へ上がろうとした所でようやく、ソレに気付いた。
「なんだ、これ?」テーブルの真中に置かれた紙を持ち上げる。一枚は掌と同程度のサイズの横長で、『東京−岡山』と大きく書かれてあり、『サンライズ出雲』とも書かれてあった。
「切符、だよな」時刻的には、あと二時間もすれば出発する。「なんでこんなタイムリーなもんが・・・?」
次に、A4サイズの紙を手に取る。家にあるコピー用紙と同じ感触がしたので、それだろう。紙には腹が立つほどの丸文字で一言、『乗れ』とだけ、太いマジックで書いてあった。
「意味わかんねぇよ、母さん・・・」
丸文字が母のものなのはわかるが、意味がわからない。
突然、マエダが吠えた。
直後、チャイムが鳴った。
「お待たせっ。ほら、時間ないから、早くっ」
訪問してきたのは股引姿に鉢巻を巻いた、どこかで見たようなおっさんで、いきなり俺の腕を掴むと軽トラックに引き込もうとした。当然、抵抗する。
「ちょっ、まっ・・・待て、よっ」
手を振り解こうとするも、おっさんはなかなか離れない。自称スポーツ少年の高校生が、股引鉢巻のおっさんに翻弄されている姿は、さぞかし茶の間の笑いを誘うことだろう。
「待てないって。電車が出ちゃうでしょうが」
「電車、って」俺が抵抗を止めたからか、おっさんも引っ張るのを止めた。俺は手に持ちっぱなしだった切符を見せる。「もしかして、コレ?」
おっさんは目を細め、顔を近づけたり離したりを何度か繰り返してから、これだよ、とだけ答えて俺を車に押し込んだ。
「のぉっ」頭からダイブした座席は、きんぴら煮の匂いがした。
「荷物は・・・これかな。ほいよっ」
ドサリ、という音と共に、車体が僅かに揺れた。すぐにおっさんが運転席に乗り込んできて、再び揺れた。
「ほらほら、シートベルトしないと。おじさんが罰金取られちゃうよ」
身の安全よりも金とは。どこか物悲しい気分で、シートベルトを締めた。・・・じゃない。流される所だった。
「っつうか、おっさん、」
「舌噛むよ〜」おっさんがそういい終わるよりも早く、俺は強烈な衝撃を受けて、シートの背もたれに叩きつけられた。
「っは・・・」
あまりに突然で、一瞬、呼吸すらあやふやになってしまった。
落ち着いてから窓の外を見ると、ありえないとしか言い様が無かった。景色が流れていく、というような甘っちょろい表現じゃない。景色が認識できない。
あ、街灯。あ、傘を差した人。そんなのが車だと思っていた。
あ、青っぽい何か。あ、赤っぽい何か。俺の目がおかしいのではないかと疑うが、背もたれからビクともしない体が、そうではないと告げている。軽トラがこんな速度出せるわけねぇだろ。
さらに信じられないのが、車線という、交通ルールの基本を完全に、全快バリバリにシカトしているということだ。
夜とはいえ、それなりに車は走っている。こんなバカみたいな速度で走っていれば追いつくのも当たり前なわけで、そのたびに反対車線に乗り上げ追い抜かしている。
まるで魔法のように、車の間を縫うように走っていく。魔法の軽トラに乗った、股引鉢巻の魔法使い。吐き気がする。
「おっと、俺のクリスチーナに吐くなよ」
「吐きませんよ」この速度なら、吐いたら顔面に戻ってきそうだ。「っつうか、クリスチーナって」
「おじさんの愛車よ。奥さんと同じ名前付けてんの」
「グローバルですね」
「ぐろー・・・?ちがうちがう、クリスチーナ」どうやら会話は出来そうにない。
状況を冷静に考えようにも、頭が回らない、回せない。マジでGがパネェ。
ヒントを得ようにも、相手は魔法の国出身なので会話が出来ない。
何なんだ、この状況は。今日は終業式で、昼飯を食べたらすぐに部活だった。レギュラーではない俺は、いつものようにサポートばかりの退屈な部活で、それで家に帰ったら謎の切符があって、魔法使いに拉致られた。
シュールだ。
右手に持ちっぱなしの切符を見る。『東京−岡山』『サンライズ出雲』の他に、『寝台券』『個室』と言ったワードも書かれていた。
切符、というからには何かに乗るための物で、『寝台』という言葉などから考えるに、電車だろう。つまり、岡山行きの夜行列車か。
岡山と言えば、降水量少なかったり、備中松山城、桃や葡萄、吉備津神社など、色々あるだろうが、我が家では黒崎家が一番最初に挙がる。
黒崎は母の弟、つまり俺にとっての叔父さんの家族だ。今となっては、母にとっての唯一の血縁になってしまった。そのせいか、昔から仲が良く、なかなか遠い距離でありながらも、黒崎の一家が我が家によく訪問してきた記憶がある。
斎藤の一家はというと、覚えている限り、一回しか行った記憶がない。
「あ・・・」唐突に思い出した。
「漏らしたか?」
「いや、大丈夫です」
「よかった〜」
「わかりましたから、前を向いてください」クリスチーナが電柱と浮気しますよ、と小声で付け足して、俺は意識が途絶えた。
「起きんしゃい、ほら、起きんしゃいって」
「んっ・・・」ゆさゆさと体を揺すられる度に、きんぴらの匂いが強くなる。
寝ぼけ眼が最初に捉えたのは古くなった明太子のような色の唇だった。吐き気がする。
「うぅっ」勢いよくドアを開けると、遠慮なく吐いた。昼から何も食べていないのに、驚くほど出た。
「いやぁ、車の中ではしっかり我慢するなんて、偉いねぇ」
愛車が汚れなかったのがそんなに嬉しいのか、おっさんはやたらと素敵な笑顔を浮かべ、フェンスの金網を掴みながら戻し続ける俺を見ていた。
「目的地についたら助手席の前に袋が出るシステムを投入したらいかがですか」
「おっ、それいいかもねぇ」
「冗談でしょ?」そのうち荷台にロケットエンジンでもつくのではなかろうか。
辺りを見渡すと、ここが駐車場だと言うことは理解できた。背の高いビルに挟まれているせいで薄暗く、スペースも4台分しかないという狭さ。
建物の隙間からは、止まない轟音とともに絶え間なく行き交う車が見えた。さらにその向こうには、目を疑うほどに高いビルが乱立してる。
「ここ、どこっスか?」
「ほら、急いで」おっさんは質問には答えずに、荷台に乗って、大きなスポーツバッグを投げてきた。
慌てて受け止めると、合宿の時に買ったものだと気付いた。「玄関にあるから持ってきたけど、それであってるよね?」
あってる、というのは俺の物、という意味だろうか。よくわからないまま中を見てみると、入れた覚えのない部屋着や歯ブラシなどがあった。
なんとなく、状況が理解できてきた。
「おっさ・・・オジサンは、もしかして父の知り合いですか?」
「そうだよ、さっきいきなり電話で頼まれてねぇ」
ようやくことの全貌が見えてきた。要するにこれは両親なりの気遣いで、独りで冬休みを過ごす寂しい俺に、せめて家族同然の黒崎家で楽しく過ごさせようとしているのだろう。
それならば、わざわざ寝台特急に乗せる理由もわかる。
もしかしたら、両親も後から駆けつけるかもしれないし、姉は既に行っているという事もありうる。ただ、俺に予定がないと決め付けられているのは寂しい。
父にはどういう繋がりか、変な友人が多い。このオジサンもそうだろう。類は友を呼ぶ、だ。こんな変人を呼び寄せるのは父しかいない。
「ほら、早く早く。電車出ちゃうよ」
そうとわかれば割り切ろう。部活には葬式がどうとか言えばいい。俺は冬休みを満喫させてもらう。
駅へと走りながら、いったいオジサンの奥さんはどれだけ恐い人なのかを想像していた。
間一髪とはまさにこれで、俺が乗車してから、座席を見つける前に電車は出発した。
夜行列車、というと何故か物悲しいイメージがあるが、このサンライズ出雲は違う。いや、もしかしたら最近のは全部そうかもしれないが、俺はコレにしか乗ったことがないので比べ様がない。
内装は細部まで気が遣われており、そこら辺のしょぼいホテルよりは格段良い。シャワー室や、時間は限定されているが売店もある。談話室や喫煙室、なかにはツインベッドの二人用の部屋まである。
部屋を見つけるのに、大した時間はかからなかった。親切な案内図の存在もあるが、やはり二度目というのが強みだ。
昔、たった一度だけの家族旅行が、このサンライズ出雲に乗っての旅行だった。幼かったので記憶は曖昧だが、物凄くテンションが高かったのだけは覚えている。
そのせいか、まだ9時間以上もあるのに、高揚して眠れなかった。
なんとなく談話室に赴くと、一人の男性がいた。ハイになっている俺に、恐いものはない。「こんばんは」
男性は突然の訪問者に驚き、ビクついたものの、すぐに「こんばんは」と返事をしてくれた。ほんの少し、警戒しているよう見えるのは、俺が制服姿だからだろうか。
初見はどこか梅ちゃんを彷彿とさせたが、弱々しくも、全てを許容するような笑顔は、男の俺でさえドキリとするものだった。
目にかかるほどの黒髪に隠れがちだが、よくみると瞳はくすんだ色をしている。端整とまではいかずとも、どちらかと言えば美形に入る顔つきだろう。歳は二十歳ぐらいか。
テーブルを挟んで向かい合う形で座ると、彼は佐藤と名乗った。一瞬、佐藤登志男が浮かぶが、佐藤という苗字は五万といるので、関係はないだろう。
何より、登志男は美形ではない。
彼が苗字だけ名乗ったので、俺も斎藤とだけ名乗った。彼は、似てますね、と笑った。
夜行列車という場所がそうさせるのか、お互いに聞いてもいない身の上話を交互に語り、気付けば日付は変わっていた。
そろそろ退散し様かと思った所で、突然女性が現れた。
長い黒髪を頭の横で一本に束ねている彼女は、アマネと名乗った。
佐藤さんとの会話を聞く限り、二人は知り合い、もしくはそれ以上の仲らしい。パッチリとした瞳と笑顔が可愛らしい。
流石にお邪魔かとも思ったが、彼女が話したいと言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。
結局、一睡もできないまま、岡山駅のホームに下りた。閉まった扉を見ると、変わらぬ笑顔のアマネさんと、会ったときよりも若干やつれて見える佐藤さんが手を振ってくれていた。
二人を見送ると、俺は改札へ向かった。
あれから7時間ちょい。アマネさんのマイクパフォーマンスは素晴らしかった。話を途絶えさせない質問の嵐と、意欲をそそるような聞き方、そして退屈させない巧みな話術。
是非ともMCとして、最近の低迷気味のバラティ番組をを改革していただきたい
半ば眠りながら改札を抜けると、明らかに異端な黒服が目に付いた。
黒い上下のスーツに、黒いサングラスをかけた角刈り。避けたほうがよさそうだが、さっきから写真を片手にチラチラこちらを見てくる。
挙句、人を押しのけながらこっちまで来る。「斎藤憲輔さんですね」
「ええ、まぁ、はい」
こちらへと言って、再び人の波をかき分けながら進む黒服についていくと、駅前のロータリーでタクシーを拾った。運転手に行き先を告げていたが、あとから乗り込んだ俺は、他の車の音でよく聞こえなかった。
走り出したタクシーの中、なんとなく気まずい空気に戸惑う。
身を細くしながら扉によりかかり、この人も父さんの知り合いだな、とぼんやりと、しかし、確かな自信を持って考えていた。
「この度は、残念でしたね」
黒服が突然言うが、意味がわからなかった。顔を合わせると、黒服が首を傾げた。「ご存知でない?」
「なんのことかさっぱり」先ほど、チラリと見た売店の朝刊に『米大統領、就任前の期待は何処へ』という一面があったが、まさかそんな話題を高校生には振るまい。
「お父上からご連絡は?」
「連絡・・・あ、昨日から携帯の電池が切れっぱなしで」
「なるほど、そうでしたか」口調は丁寧だが、目は明らかに俺に失望していた。仕方ないじゃないか。メールを2通受信したら電池が2になるようなオンボロだぞ。それに、終業式という退屈なイベントもあったのだ。
黒服が実は、と切り出した所で、タクシーは停車し、俺のほうだけ扉が開いた。
「・・・ご自身でご確認するべきでしょう」そう言って、紙切れを渡された。302、とだけ書いてある。「行って下さい」
タクシーは駐車場に止まっていた。最初に見えたのは、少し汚れた白い壁で、見上げて初めて病院だと理解した。
楽しい気分や、うきうきした気持ちで病院に来ることは少ない。僅かに、胸が苦しい。
こんな時間から面会はしてないんですよねぇ、と言う白髪の医者を押し退けた。
エレベーターを待ちきれず、階段を駆け上がる。4階は大した高さではないが、息切れを起こすには充分だった。
息を整えようともせず、また走る。番号が若いわりに、302号室は遠く、たどり着いたときには過呼吸になりかねないほど酸素を求めていた。
扉に手を当て、息を整える。吸って、吐いて。顔を上げる。
表札には『黒崎くるみ』と書かれていた。
ヒュッ、という音が聞こえたかと思うと、呼吸が出来なくなり、膝を突いた。本当に過呼吸になりやがった、このアホ。
「憲輔さんっ」エレベーターの扉が開いた音の後、黒服が駆け寄ってくるのが分かった。どんだけ遠回りしてたんだよ、俺は。
彼は俺の手を取ると、両手で口を覆わせた。さらに、その上から黒服の手が覆い被さり、指と指の隙間が完全に隠れた。
1分せずに、俺の呼吸は落ち着きを取り戻した。今のは、ビニール袋を当てるのと同じ原理だろうか。
「ありがとうございます」
人より過呼吸になりやすい体質とはいえ、情けない。不安や衝撃もあったが、それにしたって・・・なぁ。
「いえ、それよりも」彼は表札に目をやる。
もう一度見ても、書いてある文字は変わらない。
『黒崎くるみ』
私は外で待ちます。
そういった黒服を置いて、病室へと入った。意を決してスライドさせたドアは軽く、どこか空回りした気分だった。
真っ白な空間。壁も、天井も、ベッドも、備品も。ゆったりとした個室を見て、多分、俺の部屋より広いな、と場違いなことを考えた。
大きなベッドの枕もとには、小さな山が出来ていた。いわゆる体育座りをして膝に顔を埋めており、長い栗毛だけが見えた。
再び過呼吸になりかねないほどの締め付けを胸に感じ、それに堪えながら、口を開く。「くるみ」
栗毛が揺れ、顔が上がる。
中学3年生の割に、まだ幼い顔つき。細く、小さい体。一家全員がおそろいの亜麻色の髪。
━━そして
「・・・お兄ちゃん?」
久しぶりに見た従妹の顔には包帯が巻かれていた。
(続いて、3話いきます)
C
目が覚めると、見覚えのない天井にたじろいだ。周囲を囲む全てが白で、その不自然さに恐怖を覚えた。
しばらくぼんやりと辺りを見回して、ここが病室で、自分がベッドの上にいることを理解した。
そして、事故に遭ったことを思い出した。
母の目を、父の腕を思い出した。
━━右目が、みえない。
震えた指先で右眼の位置にそっと触れると、ザラリと布の感触がした。包帯だ。
「あ゛ぁぁぁあ゛あ゛ぁぁあ゛ぁぁぁぁあ゛ぁあ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!」
叫びたくもないのに、声が出てきた。お腹の奥の方から、内臓を、喉を押し退けながら、黒くドロドロとした叫びが溢れてくる。
さながらFBIのように突入してきた看護士によって取り押さえられ、注射を打たれたことでまたもや私の意識は飛んだ。
次に目覚めたのは、朝日がゆっくりと昇り始めた時間帯で、明かりのない暗闇にぼんやりと浮かぶ白い部屋は、さっきとは違う恐怖があった。
頭が幾分か冷静になったのを確認してから、恐る恐る右目に触れた。
感触は変わらない。湧き上がる衝動を押さえつけて、深呼吸をした。
右目が見えない。その事実は、昨日まで何の不自由もなく生きてきた私にとって、この世の終わりとも言える程の絶望だった。
そう、何不自由なく生きてきたのだ。
母は私の相談を何でも、真摯に受け止めてくれた。時に笑い飛ばし、時に叱り、時に泣いてくれた。
父は母よりも、誰よりも大きな愛情を私に注いでくれた。風邪をひけば会社を休んで看病し、虐められれば肩を怒らせて乗り込んでいき、欲しいものがあれば何でも買ってくれた。
両親は私には過ぎるものだった。二人は私を宝物と言ってくれたが、むしろ逆で、私にとっての宝物が両親であった。
さらに、私にはもう一つ家族があった。少し変わり者だが、優しい伯父さんと伯母さん。いつも元気なお姉ちゃん。
そして、私を可愛がってくれるお兄ちゃん。
断言できる。私ほど恵まれた環境にいる人はいなかった。
今、かつての私ほど恵まれた環境にいる人はいない。
膝を抱えるように、自らを抱きしめるようにして座る。
もういないのだ。かつての私は、もういない。
見えるはずのない右眼に、あの惨事が映る。左眼を開けようが閉じようが、決して消えない光景。
「恐いよぉ・・・お母さん、お父さぁん・・・・」
左眼から、涙がボロボロと零れる。顔をシーツに埋める。
「助けて・・・お兄ちゃん・・・・」
ズドンッ、という重い音が病室に響く。刹那、あの惨事が目だけでなく、体全体に染み渡る。ひっ、と小さな悲鳴をあげ、より強く自分を抱きしめた。
「くるみ」
恐怖が霞む。何か暖かなものが、私の心を優しくノックしてきた。
「・・・お兄ちゃん?」顔を上げる。
顔を真っ赤に高揚させ、涙目で息を切らした、私が兄のように慕っている人物。
斎藤憲輔がいた。
状況は俺の予想より、遥か上空にあった。 俺の予想がツバメの低空飛行なら、現実はスペースシャトル。そもそも、ベクトルが違う。
くるみの病室に飛び込んだ後、くるみは大声で泣き叫びながら俺の胸に飛び込んできた。かろうじて受け止めたが、俺の頭は完全にフリーズしていた。
袖の長い病院服を着ているのでその下は分からないが、露出している手、首にはいくつかの痣があるのが見えた。何より、顔に巻かれた包帯に目が行ってしまう。
額から少しだけ上下した位置までの幅で、頭を一周する形で巻かれたものと、顔を斜めに突っ切っているものの二つだった。その内、後者のほうが問題だ。右目を完全に覆い隠している。
それが意味するのは、右目に怪我をしているということ。シンプルだ。シンプル故、最悪の事態を簡単に想像できる。
泣いているくるみに対して、何も出来ずに立ち尽くしていた。くるみは俺の体に顔を埋め、時折「お兄ちゃん」とか、「恐かったよぉ」と言いながら泣いている。
5分と経たずに、医者が来た。白髪混じりの初老の医者で、先ほど俺が押し退けた医者だ。
無理矢理に進入したことを咎められると思い身構えたが、医者は、状況を説明したいので部屋を用意しました、と懇切丁寧に言ってきた。
断る理由も必要もなく、俺は頷いた。部屋を出る医者について行こうとすると、くるみが俺のブレザーの裾を掴んだ。「・・・ヤダ」
医者の方を見やると、医者はゆっくりと首を横に振った。当然と言えば、当然かもしれないが、今のくるみには酷だ。
俺はくるみに対して向き直ると、強く抱きしめた。栄養が足りないのでは、と不安になるほどに身体は細く、背は低い。包帯がずれないように気を遣いながら、頭を撫でた。
「大丈夫、すぐに戻ってくるから」
「でも・・・」
「大丈夫、大丈夫だから」
繰り返し言い聞かせると、くるみは不安げな表情のまま、わかった、と言ってくれた。もう一度撫で、部屋を後にする。
「私は外で待ちます」
何度言ってもその返事しかしてくれないので、いい加減、俺が折れることにした。
彼は俺が高圧的だろうが低姿勢だろうが、『一緒に来てくれ』という言葉を聞き入れない。
「優しいのですね。ですが、私になど気遣いは無用です」
優しい?気遣い?
━━違う、俺はただ・・・
中に入り、扉を閉める。奥の壁が大きくガラスになっており、目覚め始めた街がよく見えた。部屋には大きな机と、それを囲むように配置された椅子があることから、会議室か何かだろう。
左の壁に沿って簡易的なキッチンのようなものがあり、蛇口とコンロがあるのが分かる。
ただ、会議室の備品まで白にする必要はなくないか?目がチカチカしてきた・・・。
「コーヒーでいいですかな?」俺は頷く。
コンロの近くのコーヒーメーカーを手に取ると、2つのコップに注ぎ始めた。「ありゃ、もう冷めてるよ。冷めたコーヒーは苦手かな?」
首を横に振る。段段イライラしてきた。
「そりゃあよかった、私は苦手だから遠慮するけどね」医者は声をあげて笑う。限界だ。
「っいい加減にしてくれ!あんたはふざける余裕があるかもしれないけど、こっちそんなもんはねぇんだよ!!」
全力で叫んだにも関わらず、医者は表情一つ変えずにコーヒーを差し出してきた。
「キミこそ、余裕を持ちたまえ」
頭の中で何かが弾け、手が出そうになった瞬間、医者は蛇口の方を指差した。「見なさい、いいから、見なさい」
訝りながらも、差す先を見ると、驚いた。
肩で息をしながら、顔を真っ赤に染め、血走らせた目は今にも泣き出しそうな、太めの眉を皺にしている男がこちらを睨んでいる。あ、俺か。
医者が先ほどより大きな声で笑い出した。俺は顔を抑えて、ため息を吐いた。鏡には、情けない男が一人映りつづけていた。
冷静になった頭に、彼は容赦なく事実を叩き込んでくる。
事故は、黒埼一家が車で移動中に起きた。国道を走っている途中、反対車線を乗り上げた大型のトラックが一家を襲った。
トラックは運転席へ、斜めに突撃してきた。ただぶつかっただけなら、もしかしたら誰も死なずに済んだかもしれない、救えたかもしれない、と医者は嘆いた。
国道は両側二車線で、高い位置にあるため、どちらの車線の外側にも壁が建てられていた。たまたま左側を走っていた叔父さんたちの車はトラックに押され、そのまま壁に挟まれた。壁が崩れなかったのは、不幸中の幸いと言える。
衝撃で運転席は潰れ、さらにこぼれた資材が天井を押し、天窓を割った。その破片がくるみの右眼に混入したのだと言う。
「治る可能性は?」目眩を堪え、机に手をついて何とか身体を支える。
「ゼロではありません」腕から力が抜け、机にもたれかかる。
━━優しいのですね。
違う。
━━気遣いは・・・
違う、違うんだ。
おれは、ただ恐かった。一人でこの事実を受け止めなければいけないことが。
大丈夫ですか、と訊かれたので、平気です、と強がる。机に全力を込めて、立ち上がる。
医者は患者に希望を持たせるように表現する。不治の病に対し「時間がかかるけど、きっと治るよ」、薬の副作用に対し「お薬が利いてきた証拠だよ」。くるみの場合、希望を持たせても、ゼロではない、だ。
また立ち眩みがした。
「次に退院に関してですが、恐らく、あなたが考えているよりずっと早く出来ます」
「本当ですか?」
「ええ、ガラス片を取り除く手術自体は問題なく終わりました。他には目立った外傷がないので、精密検査の後、本人が望むなら通院を条件に何とかなります」
小さな、ほんの僅かな光が差したように感じた。「ありがとうございますっ」
「いやぁ、最初とえらい違いですなぁ」頭を下げると、笑いながらそんなことを言ってきた。こういう大人には敵わない。いろんな意味で。
くるみの病室に戻ろうとしたら、医者はまた鏡を指差した。さっきよりかはマシだが、未だに情けない男が立っている。
「顔を洗いなさい。そんな顔では、あの子が不安になりますぞ」
確かに。さっきのくるみの不安げな表情は、このせいだったのだろうか。
「ほらほら、王子様はシャキッとしなさい」顔を洗う俺の背が叩かれる。本当に、敵わない。
俺はどこか父を思い浮かべていた。
病室は再び静寂に包まれた。明かりは点けていないので、相変わらず薄暗いし、右目は見えない。
それでも、私の心は色とりどりに飾りつけられている。
お兄ちゃんが来てくれた。それだけで、私の世界に太陽は昇った。
━━あんなにやさしかったお母さんは死んでしまった。あんなに私を愛してくれたお父さんも死んでしまった。家族だと思っていた伯父さんと伯母さんは来てくれない。お姉ちゃんもだ。
━━でも。
「お兄ちゃんは来てくれた・・・」
あんなに必死になって、来てくれた。
瞳は充血していた。その下にはうっすらと隈があった。制服だったから、もしかしたら知らせを聞いて、急いで飛んできたのかもしれない。
━━うふふっ。
思わず声がこぼれた。
いつも私を可愛がってくれたお兄ちゃん。
いつも私を愛してくれたお兄ちゃん。
「大好き・・・大好きだよ、お兄ちゃん」
春のお日様に照らされたように身体が暖かくなってきた私は、無意識に、自らのの最も熱い部分へと指を伸ばしていた。
支援?
とりあえず、以上です。
やたら長くてごめなさい。掲示板の時間もかなりいただいてしまいました
とりあえず、なんとか同じ土俵に立てた気分です。
それと、サンライズ出雲に始まり、多くのものが改変されて使用されています。ご了承ください
批判・指摘はいくらでもしてください
長文失礼しました
乙〜
いや、これは先が楽しみだw
話の展開も、くるみのこれからの病みっぷりもw
GJ!!
2話連続乙かれ様です
GJ!お疲れ様です。
今後の展開にwktkがとまらない!
これはいいなwwwwww
従妹ってのがいい
投下します。
第十五話『カナメ様の憂鬱』
「あなた様の存在に心奪われたものです!!」
騒々しかった校庭が、一瞬で静まりかえる。
曰く、「キシドー……? 何いってんのあの人」「ってか、女の声じゃん。また千歳の被害者か、うらやましい」「いや、あれであいつは苦労してるよ」などなど。
仮面の変質者ことミス・キシドーはそんな群集など意にも介さず、槍をなれた手つきで振り回し、構えを取る。
その型に、千歳は見覚えがあった。
はっきりとは思い出せないが、蒼天院流と同じく古くから伝わる武術の一種だろう。
だとしたら、先ほど清水拳を貫通した理由も説明できる。闘気系の防御を、さらに貫通性と凝縮率のたかい闘気攻撃で打ち破ったのだ。
それができるほどの貫通性を槍で生み出すことのできる流派の使い手。それが女。
理科子のような才能の持ち主はそうそういないと思っていたが、案外近くにいるものだ。
しかし。千歳は疑念を覚える。
闘気の性質があの『狙撃者』とは違う。あちらは殺意を全面に押し出した荒々しいものだったが、このミス・キシドーに殺意は感じない。
むしろ――
「――俺を試しているのか」
「ご名答、と、言わせていただきますわ。千歳様」
千歳の呟きに、ミス・キシドーが応えた。
蒼天院清水拳の構えを取る千歳と一定の距離をとりながら相対している。
(くそ、この変質者、隙が無い。防御が貫かれるとなっちゃ、攻めのほうが有効だってのに……)
変態的な装いをしながらも、ミス・キシドーは戦闘力に関してはかなりの水準に達しているらしい。千歳ですら、この攻め気に押されている。
「何が目的だ」
「試すのです。あなた様が、今おっしゃったとおりでしょう」
「俺を試して、どうする気なのか。それを訊いてんだ」
問答により、相手の意図を聞き出すと同時に、できたら隙を生み出す。千歳の立てた作戦がこれだ。
通用するとは思えないが、もしこの変質者が別の人間に襲い掛かってもまずい。注意を常に自分に向けなければ。
「ふふっ。それこそ、愚問ですわ」
「何だと……?」
「ならば、あえて言わせていただきましょう……」
ミス・キシドーは、ゆっくりと手を仮面にかけた。
すっと上にずらしていく。徐々に、白い肌があらわになっていく。
「あんたは、まさか……」
そして、現れたのは、千歳にも見覚えがある顔だった。
白い肌に、お上品なブロンドの縦ロール。エメラルドグリーンの透き通った瞳。
すっと顎が細く、しかし張りのある頬の肉付き。すべてガラス細工のように透明で、繊細。
そう。彼女は……。
「御神 枢(みかみ カナメ) であると!!」
♪ ♪ ♪
二日前までさかのぼる。
御神家のお屋敷で、趣味のB級ホラー映画鑑賞にいそしんでいたお嬢様、御神カナメ。
今日はブレインデッドを視聴している。お屋敷の中にはもちろん特設映画館があり、超大画面で内臓の飛び散りを楽しむことができる。
ブレインデッドをみた回数はもはや記憶にあるだけで30回を越しているが、それでもこの映画は名作と言わざるを得なかった。
……とはいえ、いつものように集中して映画を鑑賞することができない。何かの病に憂いているかのように。なにもかも上の空だった。
そう、彼女は病気だった。
恋わずらい、という。
「ああ、千歳様。わたくしのいとしいヒーロー。アメリカンコミックにたとえるなら、まるでスポーンのようにたくましく、強いお方」
夢見る瞳は、もはや画面の向こう側の妄想の世界に向いていた。
ちなみに捕捉すると、日本のこの年齢の少女で、スーパーマンやスパイダーマンではなく、スポーンをカッコイイヒーロー像として真っ先に思い浮かべる人間はおそらく彼女だけである。
それもそのはず。スポーンは名作B級映画となっているのだ。『ブレインデッド』とあわせて、こちらもお勧めしたい。
さて、作者の個人的趣味はここまでにして、カナメの描写に戻ろう。
「ああ……千歳様。わたくし、あなたが忘れられなくてよ。一度あっただけのわたくしをここまで堕落させてしまうなんて、なんて罪深いお方。あなた様の罪は、身体で払っていただいてよ」
映画画面の中では、首が取れかけの看護婦のゾンビと、カンフーに長ける神父のゾンビが性行為を振り広げ、赤ん坊ゾンビ生み出す衝撃映像が繰り広げられていた。
「そう……この官能、わたくしも、千歳様とこの官能を。秘めやかなこの情動を分かち合いたい……!」
画面内では、主人公が赤ん坊ゾンビを必死で子育てする物語が展開されていた。
「すばらしいわっ! 千歳様とわたくしの子も、かのように元気な子がよろしいのですわ!」
カナメはお嬢様として育てられてきた。故に、男女の関係について学ぶ機会など全くと言っていいほどになかった。そんなカナメがこれほどに歪んでしまったのには、理由がある。
あるとき、親や侍女の目を盗んで見た深夜映画。もともと映画鑑賞(幼少期なので、ディズニーアニメ程度のレベルだったが)が趣味だったカナメは、興味心身で食い入るように見てしまった。
それが、『バタリアン』である。
そして、その時以来、カナメの脳みそは悲しいほどに変化してしまった。まるで『トライオキシン』を浴びてしまったかのように。
それ以来、隠れてB級映画を見るようになったカナメは、B級映画にあるエロシーンのような歪んだ関係こそ、男女関係なのだと。そう、無意味に錯覚した。
無論、それは幼少気のことであり、現在、聡明に育ったカナメはそれが間違いであることがわかっている。
しかし。
それはもはや『治療不能』の領域だった。カナメの性的興奮は、確実に歪んでいた。
カナメにとって、憧れは嫉妬と同じである。好きは嫌いである。
御神カナメにとっては、愛と憎しみは同じだった。
遠まわしな表現になったが、カナメはつまり、極度の加虐趣味を持つのである。
千歳という存在に憧れを抱いたカナメは、千歳と戦うことでしかそれを表現できないとすぐに悟った。
もちろん、それが全くの無意味な行為であることは分かっているし、そんなことをしても千歳の心を手に入れることができないということもわかる。
しかし、カナメは分かっていた。
もし千歳がカナメの、痛みを伴なう愛を乗り越えることができる強さをもつ男なら。
愛しても壊れない男なら。
それは、カナメにとって、唯一無二の存在になるのではないのか。
「カナメ様」
黒服の男。高崎がカナメの隣にたつ。
「鷹野千歳氏のデータが出揃いました」
「速かったですね。ご苦労様です」
高崎の差し出した書類をぱらぱらとめくる。
「なるほど。記憶しました」
ぱたりと、数秒で閉じる。
これが、御神グループ総裁の地位を勝ち取り、さらにグループを財界の頂点にまで引っ張り上げたカナメの一つ目の能力。『瞬間記憶』である。
じつはカナメの固有能力ではなく、これはある種の『コツ』があり、脳を上手に鍛えれば誰にでも可能なことだ。
サヴァン症候群の患者が時折こういう能力を得ることが、それを証明している。カナメはそれを知らないうちに苦も無く実践していた点が驚異的なのだが。
「交友関係に、懐かしい名前が載っていましたね……。まあ、それはいまは保留しましょう。あの男など、千歳様とは比較対照にもならない」
カナメは一瞬顔をしかめたが、すぐに平常に戻った。この切り替えと割り切りの速さも、カナメの能力のひとつ。
「それにしても、高崎。好んで視聴している番組に、気になるものが」
「なんでしょうか」
「がんだむだぶるおー。とは、どういうものですか?」
「そ、それは……」
言葉に詰まる高崎。
「もちろん、ガンダムという名は、わたくしも聞いたことがあります。しかし、未だチェックはしていませんでしたね」
「ガンダム00というのは、鷹野氏の妹である、『鷹野 百歌』氏が好んでいるのを、兄妹仲良く毎週かかさず見ているアニメのようですね」
「やはり、千歳様とお話をあわせるには、見たほうが良いでしょうね。高崎。手配できますでしょうか」
「それに関しては、既に」
高崎は懐に手を突っ込むと、ガンダム00ブルーレイディスク全巻をカナメに差し出した。
「まあ! 用意周到なことね。さすがですわ、高崎」
「いえ、これは……じつはというべきか、私の私物でして……」
「……?」
カナメは知らなかったが、高崎は隠れオタだった。
「と、とにかく、名作ですので、きっとカナメ様にも楽しんでいただけると思います。スクリーンに映しますので、しばしお待ちを」
そう言うと、すっと高崎は消えた。
「高崎がガンダムマニアだったなんて、わたくし微塵も存じ上げませんでしたわ……。あの強面には似あわぬたおやかなご趣味……。まあ、それは今は不問に処しましょう。とにかく、ガンダム00とやらを見なくては」
ブレインデッドが中断し、画面が切り替わる。
銃声の飛び交う戦場。中東の内戦かなにかなのだろうか。巨大兵器に残酷にも蹂躙される少年兵たち。
その中に、一人の黒髪の少年が走っていた。――この世界に、神なんていない。
そう、繰り返しながら、なおも少年は戦いつづける。
やがて、訪れる死――そして、再生。
ガンダムによって死から救われ、そして、それでも戦うことを選んだ少年は。
「俺が……!」
「俺達が、ガンダムだ!!」
十二時間後。御神カナメは大粒の涙を流し、嗚咽をもらしていた。
「なんと……なんと、素晴らしい。遂に、世界の歪みを破壊したのですね……! 刹那さんはもう頑張ったわ……もう、戦わなくていいのですわ……!」
と、カナメは感動に浸っていた。
が、それだけではなかった。
突如変わる音楽。アレンジはされているが、絶対音感を持つカナメには、それが一体何を意味する音楽なのか、すぐにわかった。
「会いたかった……会いたかったぞ、ガンダム!」
乙女座の男。最後の敵だったはずの国連大使を倒してもなお、世界は歪んだままだった。
それは、主人公である少年と、ガンダムが新たに生み出した歪み。
愛が憎しみに変わる瞬間。
「ようやく理解した……この気持ち、まさしく愛だ!」
カナメは息を呑む。
この男の愛は、わたくしと同じだ!
愛するということは、戦うということ。強いものに憧れるということ。憧れは、やがて怒りを生み出す。
そして、戦いの末に得るものは……。
それを示さないまま、ガンダム00は終了した。
「これが、わたくしの愛……! そして、千歳様の愛……!」
結局の所、御神カナメはその凶悪なまでの理解力と記憶力によって、あらゆるものに急激に影響を受けるのだった。
それが、ホラー映画から、ガンダムに変わっただけだ。
故に、このような過程を語ることは意味をなさない。
これは、御神カナメの不定形な人格を語る上での、ひとつの例である。
♪ ♪ ♪
「わたくしは御神カナメ……。あなたさまの存在に心奪われました」
「あんたはあの時の……。なんで、こんなことを」
「心奪われた、といいました」
「理由になってねえよ!」
「わたくしの行動理由を決めるのは、わたくしです……」
言いながら、カナメはすっと動いた。滑らかな動きで、即座に間合いを詰める。
「あなたではありません!!」
槍による打突。先ほどと同じ、凶悪なまでの速度。
(避けられない……ならば!)
千歳は一気に前にでる。
(腕を止める!)
槍を止めるのではなく、カナメの腕を直接蹴り上げ、槍の軌道を変えた。
槍は千歳の頬をかすり、血を噴出させる。
「ちーちゃん!」
イロリが叫んだ。今まであっけにとられていたが、いざ千歳が傷付くと、動揺して気を取り直したようだ。
が、冷静ではない。
イロリは無策でミス・キシドーこと、御神カナメにつっこんでいった。
「やめろ、イロリ!」
千歳は叫ぶが、間に合わない。イロリはカバンをカナメに向かって振り下ろそうとしていた。
「あら、雑魚はひっこんでいなさいな」
――相手に向かって武器を振り下ろすより、直線に武器を突き出したほうが、遥かに速い。
イロリの動作のスピードなどまるで無視して、後から動いたカナメの槍が、イロリの心臓に吸い込まれるように……。
「イロリ!」
すんでのところで、横から割り込んだナギがイロリを抱き抱えて避けていた。
「この馬鹿、考えなしに突っ込むな! あいつはお前なんかと比較にならんほど強い!」
ナギはイロリを叱責する。かなり怒っていた。
本気でイロリを心配したようだ。
「あの千歳が苦戦するんだぞ。お前は足手まといだ」
「う……でも……」
涙目になって反論しようとするイロリ。
「でもじゃない! お前の命が一番大切だ!」
「ぁ……ごめんなさい……」
イロリはしゅんとして下を向いた。
ナギは安心したように立ち上がり、千歳の隣に立つ。
「千歳、ここは私に任せて欲しい」
「なっ……。ナギ、わかってんだろ、あいつは……!」
「任せろ、と言った」
「……無理はすんな」
そうして、ナギは千歳の前に立ち、カナメと対峙した。
「おい、変態仮面」
「それは、わたくしのことですの?」
「それ以外誰がいるというんだ」
「……無礼な口は不問にいたします。何の御用なのでしょうか?」
「なんの事はない。お前は私の友人……千歳と、イロリを傷つけた。その罪を償わなければ。私が言いたいのは、それだけだ」
「傷つけた……? 何を言っているのですか? これは、私と千歳様の愛。さっきの女性は、それを邪魔しようとした不届き者ではございませんか」
ナギの眉がつりあがる。赤い髪が燃えるように輝いていた。
そうとう怒っている。
「愛……愛……どいつもこいつも、愛! それが憎しみになって、人を傷つける……。それは、許されることではない。それは、罪だ。自ら正当化されるものでもない」
ナギは、怒っていた。
まるで、自分の罪と、カナメの罪を重ね合わせるように。
「だから私はお前を裁く。お前は私だ。私の罪を裁くのは、私しかできないことなのだから」
「何をいっているのか。さっぱりですわ。所詮、愚民は愚民ですこと。せめて義務教育終了レベルの脳みそをつけてからいらっしゃいな」
「ならば、お前にも分かるように、あえてはっきりと言ってやろう」
ナギは、小さな胸に目一杯空気を溜め込むと、耳を裂くような大声とともに一気に放出した。
「キシドーが陣羽織じゃだめだろ!!!」
「あ……」
カナメは、みるみるうちに顔を真っ赤にし、涙目になると、「覚えていらっしゃい!」と、どこかに走って逃げていった。
グダグダのうちに始業チャイムがなり、全員が教室へ戻っていった。
♪ ♪ ♪
「とういわけで、転校生の御神カナメさんだ。まあ、今朝の出来事は水に流し、みんな仲良くするように」
「御神カナメと申します。皆様よろしくお願いいたしますわ。まずひとつ、皆様に主張したいことが」
「なんだ……」
教師があきれながら訊く。
「このクラスにいらっしゃる鷹野千歳様はわたくしのお婿さんですので、手をださないでいただきたいのですわ!」
クラス全員が疲れきったようにうなだれる。「またかよ……」と。
もはや、美少女転校生にたいする新鮮な驚きなど無かった。イロリに続いて、今度はこれか、と。
破天荒な美少女はもうたくさんだった。これなら、ガチムチ系の男が千歳のケツを狙いに来たとでも言ってくれたほうがまだましだ。
当然、カナメに近づこうとするものは、いない。
昼休み。
御神カナメは、苦悩していた。
(なぜ、皆様わたくしを避けるの……?)
周囲を見回しても、誰もが目を逸らす。
仲良しグループで集まって、黙々と弁当を食べている。ちらちらと、警戒するようにカナメを見るものもいる。
自らの美しさによって、当然ちやほやされることを想定していたカナメにとっては、全くの不意打ちだった。
(そんな……わたくしは、また……また、失って……)
カナメの目に涙が浮かぶ。
好きな人と、楽しい学園ライフを満喫できると思って、ここに転入したのだ。
それなのに、なぜ。
なぜ、それすら許してくれない。
そのとき。
突如、乱暴に机をくっつけてきて、前に座るものがいた。
「千歳様……!」
「よっ」
千歳はひらひらと手を挙げると、百歌の手作り弁当を広げて食べ始める。
「千歳様、どうして……?」
「別に、深い意味はないけどな。あと、さっきは言ってなかったけど、久しぶり、カナメさん。元気してた?」
「え、ええ。もちろんですわ。その節はお世話に……。でも、わたくしなんかに近づいて、いいのですか? 千歳様まで、あの視線に……」
「そうか? そうでもないと思うぜ」
「えっ……?」
はっとしてみると、カナメの後ろから、肩をぽんと叩く手があった。
「やあやあ、カナメちゃん。私もまぜてよー」
イロリが気さくに机をくっつけて、座った。弁当ではなく、購買の一番不人気メニューであるコッペパンだ。
なぜか美味しそうにふもふもと食べている。好物なのだろう。
「あなたは……」
「西又イロリ。ちーちゃんの未来の嫁!」
「よ、嫁……!? それはわたくしの……!」
「残念ながら二号さんになってもらうしかないね。キミには」
楽しそうに、イロリは笑った。
「そ、そんな嬉しそうに……。しかし、わたくしは敵では……」
「そう? 敵なんて、いないよ。だって」
――ちーちゃんを好きな人に、悪い人はいないから。
イロリは、全く疑いもないような表情で、平然と言い放った。
少ししてから、照れてえへへと笑った。
その笑顔にとまどっている間に、また次の客が現れた。
「私も仲間に入れてもらおうか」
赤い髪の少女。ナギである。
「か、勘違いするな! 千歳とイロリがいなくなったら、今度は私がぼっちなんだ!」
ナギは訊いてもいないのに解説した。
「それに、お前の気持ちも、少しは分かるからな……」
遠い目をするナギ。その意味を考える暇もなく、来訪者のラッシュは続いた。
「あら、こういうのは、委員長の役目だと思ってたんですけど」
苦笑いをしながら、委員長こと、井上ミクが席についた。
「私は井上ミクと言います。どうとでも、気安く呼んでください」
そう言って笑いかける。邪心は微塵も感じられなかった。委員長として、クラスに馴染めないものを救済する。
ただ、そんなあたりまえの働きのために、いまここにいるようだ。
「ほら、もう友達ができただろ」
千歳が得意げに言った。
「このクラスは、いいひとばっかりだよ。カナメちゃんが話し掛けたら、みんな優しくしてくれるよ」
イロリが続く。
「強敵と書いてともと読む。これは常識だ。イロリとも、戦わない道を探すんだな」
ナギ。
「とまあ、そういうことらしいので。まあ……歓迎ってことでひとつ」
ミクがまとめる。
「皆様……!」
歓喜。
こみ上げてくる感情に、カナメは涙をこらえることができなかった。
今まで聞き耳を立てていただけだったクラスの者たちも、今では息を呑んでカナメを見守っている。
「皆様、わたくしは、学校に通ったことが無くて……。それで、どう振る舞えばいいのか、わからなくて……。それで……こんなことを……」
カナメは、顔を上げて、涙を拭き、赤くなった頬と振るえる声を、なんとかしてこらえながら、言った。
「学校って、暖かいのですね……」
その瞬間、不可解なことが起こった。
「っ!」
カナメが、糸が切れた人形のようにふっと倒れたのだ。
「お、おい!」
千歳が手を差し伸べる。が、そのときにはすでに意識を取り戻したようで、カナメはさっさと立ち上がっていた。
「どうした……?」
千歳が心配そうに聞くが、カナメは答えず、きょろきょろと周囲を見るだけだ。
と、少しして、千歳を含むクラスの者たちが、気付いた。
――違う。
エメラルドグリーンだったカナメの瞳が、金色に変色している。
「あたし……」
カナメが口を開いた。
「あたし、戻ってる……」
♪ ♪ ♪
教室の最前、普段は教師の立っている場所に立つカナメ。その様子は、さっきまでの高飛車で不安定な性格と、まるで違う。
普通の、一般的な少女のそれのように見えた。
「改めて自己紹介します。あたしは、『宮崎 カナ』といいます」
教室中がざわつく。それはそうだ。御神カナメが、急に宮崎カナになったのだ。意味がわからない。
「信じられないかもしれませんが、あたしの中には、『御神 カナメ』と、『宮崎 カナ』の二人が存在しています」
「どういうことだ。簡潔に説明しろ」
ナギが急かした。すかさず千歳がナギの頬をつねり、言い直す。
「ゆっくりでもいい。わかりやすく、説明してくれないか? 言いたくない部分は伏せてもいい」
「ありがとうございます。千歳さん。……あたしは、もともとは普通の家の生まれで、御神グループの後継ぎでもなんでもなく、ただただ、平和な家庭で暮らしていました……」
♪ ♪ ♪
あたしは、裕福ではないにしろ、皆さんと同じく普通の、幸せな暮らしをしていたと思います。本当に、なにもない日常があって、退屈なくらいで。皆さんと同じ、運命的な出会いや、発見や、事件との遭遇を夢見ていたりもしました。
あたしのなかにあった憧れは、だれにでもあるもので、でも、その蓄積はほんの少しのきっかけで崩壊してしまう、危ういものでした。
ある日、あたしがまだ小さかったとき。
「今日はお兄ちゃんととテニスするんだ。はやく帰ろー!」
いつもと同じ。退屈な日常の中で、唯一の楽しみであった、双子の兄との……お兄ちゃんとのテニスのため、あたしははずむように帰宅しました。
「ん、なんだろ、あれ」
家の前に、黒い車が――ものすごい高級車が止まっていたのです。怪しいとは思いましたが、その頃のあたしはやはり子供で、家の中で大切な話をしているのだろうと気を利かせることもしませんでした。
あたしの家なのだから遠慮はないと、ずかずかと家に乗り込むと、黒服の男とお父さん、お母さんが言い争っていました。
「ですから、このようにDNA鑑定の結果も……」
「なにがあろうが、あの子たちは私たちの子です。仮に遺伝子上御神家の子だとしても、あの子達を育てたのは私たちです」
「しかし……!」
「しかしもなにもありません! 断固として、あの子たちは渡しません!」
お父さんは、凄く怒っていました。事情のわからないあたしは黒服の男の人が可愛そうになって、ついその場に入っていきました。
「おとーさん、いじめちゃだめだよ……?」
「カナ……! きちゃだめだ! 部屋にいなさい!」
お父さんがあたしをどなったのは、すごく珍しいことでした。いつも優しいお父さんが豹変するのを見て、あたしは生理的な恐怖を覚えてしまいました。
「いやいや、感心しませんな。娘を怒鳴りつけるなど。良い親のすることではない」
だれかが、いつのまにかあたしの後ろに立っていて、あたしのあたまを撫でていました。
見上げると、それは初老の男性でした。柔和な顔つきで、何もかも見通しているような深いエメラルドグリーンの瞳が特徴でした。
「当主様!」
黒服の男は、その男性に驚き、即座にひれ伏しました。
幼いあたしでも理解できました。この男性は、只者ではないと。
「カナメちゃん」
男性は、優しくあたしに話し掛けました。
「あたしは、カナだよ。カナメちゃんじゃないよ」
そう返すと、男性は優しく笑って、言いました。
「いや、君は『御神 カナメ』。正真正銘の、わしの孫じゃよ」
「え……」
「カナ、聞くな! それはでたらめだ!」
「でたらめかそうでないかを決めるのは。わしについてくるかどうか決めるのは、この子が決めることですぞ」
「くっ……」
あたしは、困惑していまました。
意味がわからない。
「孫って、どういうこと?」
「カナメちゃんは、わしの家の子だったが、赤ん坊のとき、ある手違いで行方不明になってしまったのじゃよ。それを拾って育ててくれた親切なご夫婦が、宮崎夫妻、君の『お父さん』と『お母さん』なのじゃ」
「それって……つまり……」
「そう、君はこの家の本当の子ではない」
「え……まってよ……そんな……いきなり……」
「君は、この私、『御神 皇凱(オウガイ)』の孫、『御神 カナメ』なのじゃ。これは、まぎれもない事実。偽りの家族に育てられた君に与えられた、唯一の『真実』なのじゃ」
「真実……?」
御神オウガイは、あたしの目を、エメラルドグリーンの瞳で覗き込みました。
「そう、真実じゃ。真実を知る人間は、一握りしかいない。それは『クオリア』とも呼ばれているが――名前なぞ、どうでもよい。重要なのは、自分自身がどのような世界で生きようとするのか。それだけじゃよ」
「あたしが、どの世界でいきるか。それを、あたしが……あたしが、きめるの?」
「そう。君を取り巻く世界は、変わる。それが良い方向であれ、悪い方向であれ、真実に近い形に、のう。君は、おそらくこの家で何一つ不自由なく育てられたのじゃろう。しかし、それはどれだけ居心地が良かろうが、夢に過ぎんのだ。ただの、夢に」
「夢……おとうさんも、おかあさんも、夢?」
オウガイに徐々に言いくるめられていくあたしに、お父さんは何か叫んでいたと思います。
しかし、当時のあたしは。子供でした。うそが嫌いで、綺麗な姿でいたいと思う、ひたすら若い、子供でした。
だから、そんな言葉は、届かない。
「もうひとつ付け加えて言うなら、わしら御神家に来たなら、君の努力次第で、世界を動かせるようになるかもしれん。それだけの潜在能力は持っているつもりじゃ。君は、『王の器』を持っているのだから」
「おうさま……?」
「そう。真実を手に入れるのは、断った一握りの人間じゃ。それが、王と呼ばれる。君には、その資格がある」
「でも、でも……あたしは、ただの……」
「……なら、ひとつだけ、この場で真実を見せてあげようか」
オウガイは微笑み、あたしの頭をまた優しく撫でました。
「例のものを」
オウガイが指示すると、黒服が車に戻って、なにかの書類を持ってきました。
「これはのう、君のお父さんのお仕事についての情報じゃ」
「そ、それは……!」
「あなたがどういおうが、それが真実ですぞ。この子には、それを知る権利がある」
オウガイは、あたしに紙を渡しました。
「うーん、むずかしいよ……わかんない」
「つまり、君のお父さんの会社は、うまくいっていないんじゃ。多額の負債を抱え込み、今にも潰れてしまいそうなほどに」
「それって、つまり……」
「心配はいらない。君が戻ってきてくれれば、これまでの謝礼として、わしが資金援助をしよう。それで、皆が幸せになれる。どうかな、お気に召さないかな?」
「……あたし」
「ん?」
「あたし、いくよ。帰る。御神家に、かえる」
お父さんが、全身から力が抜けたように倒れました。
お母さんも、立ち尽くすだけ。
「ほんとうのことは、変わらないよ。だから、変えなきゃ。……あたしは、ほんとうのことがみたいの」
――だから、サヨナラ、お父さん、お母さん。
「交渉成立、じゃな」
オウガイはそう言って、あたしの手を引いて車に乗りました。
「君はこれから御神カナメという、真実の名前に戻る。宮崎カナは、君の『夢』に過ぎない。わかるかな?」
「はい……」
そうして、車が出ようとしていたとき。
「まって! まってよ!」
「お兄ちゃん……?」
息を切らしながら、学校帰りのお兄ちゃんが追いすがってきて、黒服はエンジンを止めました。
「カナ、なんで、そんなやつらに……!」
「お兄ちゃん、このひとたちが、あたしたちのほんとうの家族なのよ」
「そうじゃ。君も、御神家の一員に戻る権利がある。どうじゃ、戻ってくるかの?」
「ぼくは……!」
お兄ちゃんの目には、強い意志が宿っていました。
「ぼくは、あの家で育った。それだって、りっぱな真実だよ!! ぼくがお父さんとお母さん、カナを大好きなのも、嘘じゃない。全部、ぼくの中で本物の記憶として生きてる!」
「それでも、それは夢だよ。いくら居心地が良くても、お父さんとお母さんに、あたしたちは騙されてた。あたしは、知りたいの。ほんとうのこと」
「ぼくが、ずっと側にいるよ! カナがお父さんとお母さんがキライになったって言うなら、ぼくを信じればいい! そうすれば、いつかぼくの言っていることが分かるようになる! だってぼくは、カナのお兄ちゃんなんだ!」
「……あたしは、お兄ちゃんのこと、大好きだよ。でも、一緒にいるなら、御神家でもできる。お兄ちゃんがこないなら、それはできないよ」
「カナ……ぼくより、いままであったこともないような、御神ってひとのほうがすきなのかい……?」
「お兄ちゃん、真実とは、人間感情より優先されるべき『絶対価値』なの。だから、あたしは、それを手に入れたい。生きていることに、自信を持ちたい」
「生きていることに確信が持てなくなったの? 宮崎カナって名前が、嫌になった? ……でも、カナはそれでも、笑っていたじゃないか。おかしいよ。知った途端、それがキライになるなんて……。好きって感情はさ……愛情ってさ、そんなんじゃ、ないだろう!?」
「お兄ちゃんは、なにもかも信じすぎるんだ。だから、遠くのものが見えてない」
「隣の人と手を繋いでいたい! そんな願いの、どこがいけない! ぼくはまだ、カナを抱きしめることもできる! 帰ってきなよ、カナ! まだ、引き返せる。カナは、宮崎カナ。ぼくの、大切な妹なんだ!!」
「……もう、わかった」
「交渉決裂、じゃな」
オウガイは、黒服に指示して、車を走らせました。
お兄ちゃんはそれでも追いすがって、後ろから叫んでいました。
「いつか……ぼくが御神家なんかより強くなって……! カナを迎えに行くよ! だから、忘れないで! ぼくのこと、忘れないで……!!」
♪ ♪ ♪
「それからでした。あたしの人格が不安定になってきたのは。記憶もあやふやになって、おそらく、御神カナメとしての記憶を自分で作り出したんだと思います」
「なぜ……そこまでして……」
苦々しげな顔で、千歳が訊いた。
「真実が、あたしと御神カナメ、そのどちらにも、大きな価値があったからです。あたしがこうして今まで封印されていた理由も、それです」
カナは、目を伏せながらも、告白を続ける。
「御神家の後継ぎとしてあらゆる学問を強要されたあたしは、その環境を地獄のように感じました。それでも、あたしは、帰ろうとは思いませんでした。真実に到達するために、決して諦めませんでした。しかし……あたしの能力は、御神家当主には足りなかった」
「だから、現実を『変えた』ということか」
ナギは、心得たかのように言った。
「そうです。あたしは、ストレスで一度完全に人格を崩壊させ、そして目覚めたときには、『御神 カナメ』となっていました。御神カナメの能力は人間の脳の持つ潜在能力を限界まで引き出したもの。つまり、『王の器』に相応しいほどの超人でした」
「それは、お前自身の願いが作り出した力だと思って差し支えないんだな」
ナギには、もう大体のシナリオが分かっていたようだった。
が、ナギ以外はまだ全く理解していない。
御神カナメ……いや、宮崎カナという人間が御神カナメと言う『別人』に変わったというのは分かったが、そのプロセスも、そして、御神カナメが今、なぜここにいるのか、宮崎カナが、なぜこのタイミングで現れたのか。
何一つ、分からない。
「おそらく、助けをもとめていたんだと思います。全てを凌駕した先にあるクオリアの存在に、御神カナメは一度触れたことがあるのではないでしょうか。だから、自分の能力に恐怖を抱いた。そして、その恐怖から救い出してくれる存在に気付いた」
「つまり、御神カナメが千歳に執着した理由は、千歳が自分を凌駕する存在なのではないかという考えに思い至ったから。と、そういうことか」
ナギの言葉で、皆の中でまだ少しずつ、ばらばらだったパズルのピースが繋がり始めていた。
おおまかなシナリオはこうだ。
宮崎カナという少女は、御神家の過酷な環境に適応するため、御神カナメという人格を作り出した。
もともと『真実志向』だったカナに加え、さらに極端なスペックを与えられたカナメの精神は、暴走の末にある種の『クオリア(世界の真理)』に触れた。
真理とは、現実に生きる人間にとっては、あまりに無情であり、存在の全てを否定されるような情報であり、それに触れたカナメも、何らかの恐怖を抱いた。
そんな、世界の全てに存在しているような、強大すぎる恐怖の塊に怯えていたカナメは、あるとき、強い力を持ったヒーローの存在に気付いた。
鷹野千歳は、カナメの力を凌駕し、カナメを救い出してくれる存在なのではないか。
カナの推論は、こうなっている。
教室中がざわめく。
いきなり来た転校生が異常な暴走をしたあげく、今度は突拍子もない電波話。信じられるものも信じられない。
眉唾だ。
「信じられないのは、しかたがないことだと思います。でも、あたしは、御神カナメの心を救って欲しいんです。同じあたしだから、もう傷付くのを心の中から見つめているだけなんて、嫌なんです……」
半信半疑で、周囲を見るだけのクラスメイトたち。
(ああ……やっぱり、だめなんだ)
カナは、希望を失ったように、床を見下ろす。
(一回裏切った夢のなかに、また迎え入れてもらおうなんて、むしのいい話なのよ……。みんなは、あたしじゃない。真実なんて、いらない。だって、しあわせだもの)
幾度となく、カナとカナメは外の世界に助けを求めた。だが、それは虚しくからぶるだけだった。
今度も、同じなんだ。
希望が無い。それが、カナメのみつけた真理なのだから。
「俺は、信じるぜ」
「えっ……」
顔を上げると、目の前にたっていたのは千歳だった。
「俺は、あんたを信じる。宮崎カナの存在も、御神カナメの存在も、嘘じゃない。だって、俺はこの目で見て……」
千歳は、荒々しい動きではあるが、優しい手つきでカナの手を握る。
「こうやって、触れてるだろ。だから、あんたは確かに俺のクラスメイトだな」
「あっ……」
その、包み込むような優しさに、カナは涙をこらえられなかった。
「ああ……ありがとう、千歳さん……。あたし……あたし……」
「あんたは、その涙を止める努力を十分したよ。友達に、助けを求めたんだからな。だから、俺はそれに応えようと思う」
「とも、だち……? こんなあたしを、ともだちって、思ってくれるんですか……?」
「あたりまえだ。だってここは、学校だからな。いろんなやつがいて、馬鹿も天才もいるかもしれないが、わかってんのは、みんな同じじゃない。
違う心を持った、一人の人間だってことだ。その中で、一緒に学んでいくんだよ。生き方ってやつをな。そうやって、俺達は強くなっていくんだ」
「さんせーい!!」
声を張り上げたのは、イロリだった。
「ここにカナちゃんとカナメちゃんが転校してきたのも、なにかの縁だよ。だから、私は全力でアタックする。カナメちゃんたちにだって、未来を掴み取れるように」
「お人よしどもが……」
腕を組みながら口を開いたのは、ナギだった。
「まあ、暇つぶしには悪くない。人の心を救うだなんて、一口に言えるほど軽い話じゃないが。本人が望んだことだ。私たちが、頑張ってみる価値はあるだろう」
クラス全体が、ざわつき始める。
そしてそのざわめきは、徐々に負の方向から正の方向に変わっていく。
「やっぱ、俺も、しんじようかなぁ……」
「嘘を言っているようには見えないしね」
「千歳君が言ってるんだから、間違いないわ!」
「ナギちゃんが言ってるんだから間違いない!」
「イロリちゃんが(以下略」
「うおおおおお!!! 俺はカナメちゃん親衛隊になるぜー!」
「ちょ、俺が先だ!」
「俺だっての!」
「じゃあ、俺が」
「どうぞどうぞどうぞ」
急に騒々しくなった教室のなかで、ぽかんと立ち尽くすカナ。
「まあ、あいつらもあんたのことが分からなかっただけで。いいやつらなんだ。頼ってやってくれ。あんたも、あんたの中のカナメさんもな」
「はい……ありがとうございます。みなさん、ありがとうございます!」
カナが声を張り上げると、教室はしんと静まり返った。皆、カナの言葉に注目している。
「たぶん、あたしが表に出ている時間はもう、終わりです。もう少しで、御神カナメに戻ると思います。だから皆さん。少しの間でしたが、お世話になりました。カナメにも、やさしくしてやってください。あの子は、ちょっと高飛車だけど、本当は優しい子なんです」
「ああ」
千歳が頼もしい返事を送ると、カナは安心したようににっこりと笑い、ふっと倒れた。
そのとき。
どどどどどどどどどどどどどど。
「そういや、誰か忘れてなかったか……?」
ナギが、急に呟く。
「待てよ……この年代で、宮崎という苗字は、聞いたことがあるぞ……」
どどどどどどどどどどどどどど。
廊下に響く、足音。徐々に近づいてきている。
「まさか……!」
「ぎりぎりせーーーーーーーーーーーーーーふ!!!!!」
「――彦馬!!!」
昼休みも終わりごろになって飛び込んできた彦馬。
だが、「せーふじゃない」というツッコミの前に、皆の頭にはある疑念が浮かんでいた。
そんな中、グッドタイミングで宮崎カナ――いや、エメラルドグリーンの瞳に戻った、御神カナメが立ち上がり、彦馬を一瞥し、言い放った。
「あら、ヘタレお兄様。久方ぶりね」
「カ……カナ……! どうして……!」
――宮崎彦馬。
彼もまた、『クオリア』の生み出す絶対運命に導かれる一人だった。
終了です。
>>208 ワイヤードキター!
GJ!!お疲れ様です
GJ
こりゃ893の娘さんの登場も近いかな
徹夜ついでに投下します。
誰も見ていない時間を狙うのが俺クオリティ。
>>191さんとはいい酒が呑めそうです
12月31日。年が暮れる寸前に、くるみは退院した。
右目以外には打撲や擦り傷程度の怪我しかなく、後遺症や重度の欠陥は見受けられなかった。
俺が病院に駆けつけたあの日、病室に戻った時に見たくるみは、顔を真っ赤にしており熱があった。
慌てた俺は、くるみを担いであの初老の医者のもとへ行き、検査をしてもらった結果、傷口から感染するたぐいのウィルスなどではなく、暖房にあてられたんでしょう、と医者は笑った。
後日、病院に行くと、職員らに『王子様』と呼ばれるようになってしまった。明らかにあの医者が一枚かんでいる。取り乱していたとはいえ、人生で一度するかしないかの失態だ。
心配してくれてありがとう、と慰めてくれたくるみは、まだ顔が赤かった。しかし、鏡に映る俺はもっと赤かった。
父さんと母さんは、ようやく、今ごろになって休みが取れた。ちょくちょくフルーツの盛り合わせやら服やらを送ってくれていたが、だからって許されない。
俺が角を立てて怒ろうとしたところ、くるみが気にしなくていい、と言ってくれたのでくるみのお願いを一つ聞かせることで勘弁してやった。
肝心のお願いだがもう決まっているようで、訊くと、まだ秘密だよ、と笑っていた。
くるみが笑ってくれるのは、本当に嬉しい。
医者が言うには俺が来る前、くるみは大声を上げて発狂したそうだ。
無理もない。くるみ本人が言うには、事故の瞬間を今でも鮮明に覚えているらしく、退院の少し前までもフラッシュバックすることがあった。
最近は少ないようだが、一生もんの傷になりかねない。右目と同じくらい、俺は心配していた。
しかし、くるみは笑えている。傷を乗り越え、右目の不便さも克服し、今を生きている。俺にとって、これほど嬉しいことはない。
そう、嬉しいんだ。絶対に。
「キミ」
あの後に移った相部屋の人や、病院の職員の人にお礼を言いに回っていた俺は、ロビーで例の医者に呼び止められた。
「この度は、ありがとうございました」
俺が深深と頭をさげると、いいからいいから、と笑った。
「いやぁ、王子とお姫様がいなくなると寂しくなるねぇ」
「勘弁してください」やっぱり広めたのはアンタか。
「ご家族は?」
「お姫様を車に誘導してます」
「うん、だったら丁度いい」座って、と言って順番待ち用のソファーを手で指した。
俺が座ると、医者も隣に座る。「あのこと、彼女に言えたかな?」
何かが、俺の胸にチクリと刺さる。
「言えてないっス」ため息。
「そうか・・・なら、もう言わないでくれ」
「え?」
「いいかい。君自身は意識していないかもしれないが、彼女はキミに依存しきっている。非常に不安定だ」
医者は短く息をついた。
「今、その事実を伝えれば、どうなるかわからないんだよ」
異常とまではいかないが、くるみが俺に依存し始めているのは気付いていた。
明け方には必ず電話があった。今日は来てくれるのか、何時に来てくれるのか。
訊かれるまでもなく、俺は毎日お見舞いに行った。冬休みで、地元ではないということから、俺には見舞いしかすることがなかったのも事実だ。前日にくるみが欲しい物を聞いて、それを買って病院へ。
面会の開始から終わりまで、くるみの傍らで過ごすと言うのが日常と化していた。お陰で、この小さな病院で俺はちょっとした有名人だ。若干、不愉快でもある。
変化といえば病院に行く時間、帰る時間ぐらいなもので、それもくるみによって左右された。病院で有名人、というのはこういうときには便利で、早くに行くとこっそりと裏口から入れてくれたり、一晩泊まらせてくれたこともあった。
その場合、相部屋の人には迷惑がかかるので話したりはしなかったが。
多くの大人に助けられるたび、つくづく自分がガキだと認識し、同時に、ガキのままではもういられないのだと意識した。
ただ、意識するならガキでもできる。それをこの身で証明してしまった。
「それって、俺が言うタイミング逃したから?」
「まさか。ほんの8割くらいしかキミに責任はないよ」
「大半・・・」
「いや、冗談冗談」
どこまで本気かは分からないが、俺に責任があるのは確かだ。「俺は、どうすればいいんですか?」
「今は、彼女の傍にいてやりなさい。一番近くに、だ」
キミに出来ることは、キミにしか出来ないことなんだよ。
その一言で、踏ん切りがつく。
「うっス」俺は大きく頷く。
「よし、頑張れ王子様っ」
あの日のように、強く背中を叩かれた。
「ああ、そうだ。右足、大丈夫かい?」
「え?」耳を疑った。
昔、ちょっとした事故に遭い、俺の右足にはその後遺症がある。とはいえ、本人にしか分からない程度で、その本人ですら時折忘れてしまうような怪我だ。
それを見抜くとは、やはり年の功というヤツか。俺は、問題ありません、とだけ言った。
「治療ならいつでも請け負うぞ、格安で」
「結局は金ですか」
亀の甲ではなく、金の功ということか。
入り口から、俺を呼ぶ声がする。立ち上がり、歩き出す前にもう一度振り返る。
「俺はただのヘタレっスよ」多分、今の俺はすごく頼りない笑顔をしている。
「ヘタレで結構、未熟で結構」
彼は一段と大きく笑った。俺はその姿に、もう一度深く頭を下げ、くるみのもとへ歩く。
「少年よ、野望を抱け。がっはっは」
笑い声に背を叩かれた気がした。野望じゃねぇって。
叔父さんと叔母さんはいずれも公務員だった。
休みが安定しているのが公務員の良い点で、二人は旅行を趣味とした。くるみと三人で各地を旅し、その度に絵葉書やキーホルダーなどが贈られてきたものだ。
車内でそんな思い出話をしている時、ぼんやりと、もうもらえないんだなぁ、と呟いた。直後、助手席からCDケースが飛んできた。避ける暇などない。
「っっ!!なぁにすんだよっ」面だったからよかったものの、角だったらシャレにならなかった。
「うっっさい、バカタレッ」
黒崎家の遺伝なのか、母も亜麻色の髪をしている。歳のせいか、くるみのような可愛さはないものの、昔はなかなかだったらしい。細く逆三角形の顔と鋭い目つきを見るに、たぶん昔とはまだ狐だった頃の話なのだろう。
助手席の母は、これぞ、というほどの鬼の形相を披露していた。血の気がひき、冷静になったことで自分の失態を理解した。
「う・・・あぁ、わ、悪い、くるみ」
しどろもどろになって謝り、くるみを見る。
包帯が取れたため、白い肌がよく見える。体格と同じく顔も小さめで、ブラウンの瞳と肩下までの栗毛が可愛らしい。ただ、右目には大きめのアイパッチがある。
「いいんだよ」変わらない笑顔のまま、彼女は言う。「一緒に行こうよ、旅行」
変わらない、昔のままのくるみだ。
他人の罪を許し、慰める。それをいとも簡単にできる人間はそう多くない。ましてや、無意識では尚更だ。
だからこそ、俺は昔から目が離せなかった。人を気遣い、自分より高い位置に置く。いわゆる自己犠牲。俺はそんなくるみがずっと心配だった。ついでに言えば、理由は違うが姉のことも心配していた。
姉。
「そういや、姉ちゃんは来てないの?」
「ん?ああ・・・来なさいって言ったんだけどねぇ」
「薄情だなぁ」親戚の一家の大問題だというに。
「仕方ないよ。お姉ちゃんも忙しいんだよ」
くるみが笑う。嬉しいことだ。喜ばしいことだ。
━━なのに、俺の胸からは不安が拭いきれない。むしろ、くるみが笑顔を浮かべるたびに、不安は身を揺らし、その存在を示す。
くるみは元気すぎる。
たかだか15歳で、あの惨事を目にし、右目の視力を失った。俺なら、立ち直れない。
あの医者の言うように、俺が傍にいることの効能ならば、何も文句はない。ただ、俺には、くるみが心配させまいと強気に振舞っているのではないか、と感じてしまうのだ。
「・・・お父さん、どうしたの?」ふと、母が呟いた。
母が狐なら父は狸、と言いたい所だが、父はゴリラだ。マウンテンゴリラ。
大きな腹はメタボかと思いきや、服を捲るとそこには目を疑うほどの筋肉が広がっている。顔も厳つく、街を歩けば10人に1人が泣く。
そんな父は車を運転しながら小刻みに震えている。
「・・・くるみちゃん・・・・・」
「は?なに?」
父はボソリと話し、母は常に怒鳴り気味。これが普通の光景だと言うのが、自分でも変だと思う。
「・・・くるみちゃん、抱きしめてぇなぁ」
「バカタレっ」小声とはいえ犯罪スレスレの言葉に、母は容赦ない鉄拳で対応した。
くるみはと言えば、このどこか狂った普通を見て、苦笑いを浮かべていた。
黒崎家は、大きいか小さいかといえば、大きい。
安定を約束された収入ゆえ、黒崎夫婦は若くしてマイホームを買うことが出来たのである。それも駅に近く、割と栄えた場所にありながら、大きな庭まである。
ここまで考えて、我が家とは真逆だということを知った。
安定した収入に、確実に取れる休日、定時で帰るため、家にはいつも明かりが灯る。
対して、我が家はと言うと、最近は若干の余裕が出てきたとはいえ、相変わらずの経済危機。休日は不安定で、いつ休めるかなど予想もつかず、ギリギリまで残業をして帰ってくるため家はいつも冷たい。
あれ、俺って少しだけ可哀相だ。
「あれ、なんだろう」くるみが呟く。
黒崎家の前には、大きな人だかりが出来ていた。半分くらいは予想通りだが、もう半分は予想外だ。ある種、予想はしていたが。
「あぁ、来ました、帰って来ました」
「あの事故から奇跡の生還を果たした少女が、今」
「黒崎さん、今出てきちゃダメだからね」
「こっち、こっちに視線ください」
車はあっという間に囲まれ、車庫を目前にして動けなくなった。
あの事故を、テレビは連日、過剰な演出を加えて放送した。新聞やインターネット、あらゆる媒体を利用するのが今の手法で、なにかに限らず、メディアでくるみのことを見ないことは、ここ最近はない。
病院にも多くの報道陣が詰め掛けたが、姫を護るナイトを自称するだけあって、看護士と医者が築いた壁は強固なものだった。
それでも、どこから漏れるのか、退院の予定日や治療の進行度、挙句の果てには窓から外を覗く写真を撮られた事もあった。
今は窓にスモークがかかっているから大丈夫だろう。
調子に乗って連投規制
本当に申し訳ないです
「お兄ちゃん・・・」ジャケットの袖が、ギュッと握られる。
メディアの猛攻の結果、くるみは軽い対人恐怖症となってしまった。知らない人に対してビクついてしまう。
「大丈夫」
くるみの頭を撫でた。
心の準備をしていると母が振り返り、お見舞いの品の中からりんごを取り出した。「持ってく?」
アホか、と一蹴してから深呼吸をすると、一気に車外へ飛び出た。もちろん、中を撮らせる暇は与えず、すぐに閉める。
一瞬、空気がどよめく。
自分では普通のつもりだが、人様から見れば、俺の目つきはよろしいものではないらしい。利用できるものは利用するのが俺の主義だ。
「テメェら、いい加減にしろよ」より目つきを鋭くする。難しい。
一度、マスコミに向かって本気で怒鳴ってしまったことがあった。俺自身がしつこくインタビューされるのはなんとか流せるが、くるみの心に傷を増やしたことが許せなかった。
結果、マスコミは退散し、ほんの少し、本当に少しだけ自重するようになった。翌日の朝のワイドショーでは俺が容赦なく虐められたが。
「そろそろ俺も我慢の限界なんだよ」頑張って声にドスを利かせる。一生懸命です。
だが、効果はなかった。
「あぁっと、少年です、あの少年が出てきました」
「地元では不良グループの頭を飾る、通称“大将”と呼ばれる少年が、今」
「おい、早くもう一台カメラ回せって」
今では俺も興味の対象の一つで、まったくの逆効果だった。やべっ、涙出てきた。
後ろで、ドアの開く音がした。マナーのなってない大人が開けたのかと思い、慌てて振り向くが、どうやら開いたのは運転席のようだ。
ゴリラが今、大地に立った。
一瞬で、空気が入れ替わった。
父が右手を高く掲げると、報道陣が一歩退く。何故か俺も下がってしまった。
手には先ほど母が差し出した、真っ赤なりんごが握られている。
「ぬぅあっ」瞬間、りんごが形を失った。
果汁が辺りに飛び散り、果実が父の肩に落ちた。
「いや、ちょっと待て、ちょっと待てって」どん引きする周囲をよそに、俺はただ、うわ言のように繰り返していた。
「では、くるみちゃんの退院を祝って」
「乾杯っ」
小気味のいい音の後、皆が一斉にグラスを傾ける。黒崎家の庭を舞台に、立食パーティーが始まった。
父の知り合いが手配した葬式に来た人は、存外少なかった。だからこそ、俺はくるみの退院祝いの話を持ちかけることが出来た。
ただ、葬式のときに話したせいなのか、何故か坊さんまでもが出席している。よく見れば、あの黒服もいる。
葬式には出席していなかったくるみの友人にも呼びかけたところ、こちらは嬉しい誤算、多くの人が来てくれた。
だというのに。
「黒崎さん、大丈夫?」
「・・・ん」
「皆心配してたよ」
「・・・ありがとぅ」
くるみは家に着いてからずっと俺の後ろに隠れ、尻すぼみの返事ばかりしている。友達も心配はしているが、俺のことをあからさまに警戒して近づこうとしない。
マスメディアをそんなに信じちゃいけません。
ちなみに、玄関先で荒業を披露した父は、多くの人に囲まれ、賞賛を受けていた。なんだ、この差は。
りんごのネタバレをすれば、あれは母があらかじめ芯をくり貫いていたものだと、後で分かった。あの短時間で作業をした母こそ賞賛に値する。
その母はというと、隣で父を睨み続けている。
なんだか父の顔色が悪い。足元に目をやれば、母は地面に埋まるほど、父の足を踏みつけていた。あの歳で嫉妬とかどんだけー。
肩越しにくるみを見ると、俯きながら、左手は俺の腰辺りで服を摘み、右手はアイパッチを擦っている。
「恐いか?」
「えっと・・・」
「部屋に戻ってもいいんだぞ?」主役がいないのは寂しいが、それは優先度が違う。
「やだっ」思いのほか強い返事に驚く。「大丈夫、だいじょーぶだから」
すーはーすーはー、と可愛らしく深呼吸をすると、俺の右側に踏み出した。相変わらず、左手は俺の背にある。
パーティーが止まる。友達はかける言葉を探し、大人は遠目にこちらを見ている。赤い顔を俯かせ、小刻みに震えるくるみに、俺も固まった。
沈黙を破ったのは父だ。
「この通り、この子は元気です」くるみの頭に手を乗せ、笑う。
それを皮切りにして、同級生の女の子が泣きながらくるみのもとへ走り寄る。よかった、よかったね、と。それを見ていた大人達は優しく微笑み、パーティーはまた動き出した。
俺は、また何も出来なかった。
頭に何かがズシリと乗る。父の腕だ。
「今のは、お前の仕事だな」
歯を剥き出しにして笑う父は、幼い頃に見たように大きく見えた。
あのぉ、という甘ったるい声が聞こえた。
くるみはすっかり主役として溶け込んだが、相変わらず俺から離れようとしない。
俺が空気を呼んで離れようとすれば、上目遣いでジッと見つめてくる。俺の服は今日だけでだいぶ伸びた気がする。
今はトイレに来たくるみを、こうして廊下で待っている。そこに、声がした。
見ると先ほど泣いていた女の子で、まだ目を真っ赤に染めている。
「トイレは今くるみが使ってるよ。洗面台はあっち」
「顔なんか洗ったらお化粧が落ちちゃいますよ」15歳で化粧、その事実を受け止めるのに少し時間がかかった。「そうじゃなくて、えっと、大将さん」
「大将じゃなくて・・・まぁいいや」
「最近、くるみちゃんとメールするとよくあなたの話しが出るんですよ。今日はお兄ちゃんが何を買ってきたとか、こんなことを話したとか。っていうか、大将さんの話しか出ません」
「そう」照れ隠しで、短く返事をする。
「それで・・・お二人は恋仲だったり」ドアが弾ける音がして、言葉が途切れた。
ドアを壁に叩きつけ、顔を真っ赤に染めたくるみが立っていた「ヨッちゃんッッ!!!」
「ごめんっ」ヨッちゃんと呼ばれた少女は脱兎のごとく逃げだす。
「気にしないでね?気にしなくていいからね?」
手をばたつかせながら必死に弁明するくるみは可愛かった。
パーティーの片付けも終わった頃、くるみが急に切り出した。
「お兄ちゃんの家に住みたい」
皿拭きを俺に押し付けて玄米茶を啜る母は、父に向けて、某プロレスラーの毒霧のように噴出した。父が椅子から転げ落ちる。
「それって東京に来るってこと?」うっさい、と母が一喝すると、悶えていた父はまた、静かに椅子に座りなおした。母がSなのは構わないが、父がMというのは素でイヤだ。
「ダメ、ですか?」無意識でやっている上目遣いは凶器。
流石の母も押されているようだ。
「でもねぇ、学校とか、色々あるでしょう」
母の言うことは当然だ。中学三年生という受験シーズンに引っ越すと言うのは、向こうで受験資格が得られるかどうかも危うい。それも、受験は目前まで迫っている。
この家のことや、通院。問題は山積みだ。
「まぁ、大抵のことは何とかなる。というか、できる」茶を啜りながら、父がポツリと言う。
今回の騒動を経て再認識したが、父はとんでもないチート野郎だ。ミステリーで言うなら探偵。登場人物の誰よりも、果ては読者よりも高い位置から物事にあたる姿は、正直ずるい。
「お前は、くるみちゃんをこちらに一人で残すつもりか?」
「それは・・・」父の問いに母が口篭もる。
今しかない。言え、俺。
「あの・・・」ゆっくりと手を挙げると、くるみを含め全員が見てきた。
「俺、こっちに残ってもいいかな」言えた。よく頑張りました。
「却下」
「却下だな」
そんな二人してつぶさなくったっていいじゃないか。泣けてきた。
「あまり言いたくはないが、こっちはもうダメだ」
「何がさ?」
「マスコミもうろついてるし、周りの人がくるみちゃんを知りすぎている」
なるほど。確かに、今日は何とかなったが、時間がたてばすぐ、マスコミは父を俺と同じように扱う。それに、くるみの知り合いの気遣いが重荷にならないとも言い切れない。
そういった点では、知人のいない場所で再スタート、というのもアリかもしれない。無論、リスクは多い。
「今日は憲輔が大人を適当にあしらっていたからよかったがな」父が優しい笑顔を浮かべる。
「そうね、憲輔がいなかったら誰が我が家の家事をするか分からないもんね」話を一切聞いていなかったかのように、母は場違いなことを言う。
隣でくるみがクスクスと笑う。
「まぁ、大口叩いたからには、あなたにはしっかり頑張ってもらうわよ」
「おう、任せとけ」
夫婦の間で結論が出た以上、俺は従うしかない。むしろ、俺としては喜ばしいことだ。
「なぁ、くるみ」
「ひゃぅっ」小声で耳元に話し掛けると、くるみは奇声をあげた。
両親の視線が痛い。「手ぇだしたら殺すわよ、アンタ」
「わかってる、わかってるから」必死に弁解し、二人は渋々と引いてくれた。
くるみを見ると、顔を茹蛸のように赤くしていた。
「いいか?」頷いたので、また近づく。
「あぅ・・・」
「もしかして、今のがお願い?」
「あ、うん、そうだよ」
赤い顔のまま元気に頷く彼女を見て、そうか、とだけ言った。
ただいま、おかえり。それが普通になる日は近いかもしれない。
この数十日の間、俺はこの家に滞在していた。しかし、主不在の家というのはどうも気が引けて、俺はリビングのソファーで眠っていた。
「一緒に寝よう」
そう言われた時、葛藤はあったが、最近こってきた首が何もしていないのにポキリと鳴ったので、甘えることにした。
くるみの部屋はどこかシックな感じの木目調で、落ち着いた雰囲気を醸し出している。そこに、淡いピンクのクローゼットやガラスの机、白いベッドがあった。
白いベッドというのは、こうやって見るとあまりいいものではないように見えてしまった。
「最後に来たのはいつだったでしょう」ベッドに座りながらくるみが問う。
「去年・・・いや、一昨年かな」
二足歩行の猫のキャラクターが書かれた座布団に腰をおろす。
「違う。去年の8月9日」くるみは不満を顕にする。
「そうだっけか」
「『夏期講習がいやになった』って言って、いきなり来たんだよ」
「去年の俺は行動力があったなぁ」
夏期講習がイヤなのは確かだが、去年までの中学生特有のテンションがあったから成せた業だろう。っていうかそんなに近くないよな、岡山。
「変わらないよ。だって今回も一番にきてくれたもの」
「ああ、あれはな」来た、というより来させられたのだと言おうとすると、ふいに抱きつかれて言葉を失った。「くるみ?」
「嬉しかった。誰よりも早く来てくれて、誰よりも心配してくれて。あんなに取り乱したお兄ちゃんは初めて」
顔のすぐ横のくるみの顔がある。細い腕は俺の肩を包み、全身は俺へと委ねられている。顔が沸騰するのがわかった。
「さっきも残るって言ってくれた。ありがとう」
抱き返そうかしまいかと腕が空を漂っていると、くるみの方からゆっくりと離れた。
「大好きだよ、お兄ちゃん」
目の前の少女は美しく、どこか儚げだった。
「無理、するなよ」頭を撫でてやると、目を細めてまた、大好き、と言ってくれた。
くるみの誘いを押し切り、床に布団をひいて眠ることにした。
幸せそうに眠るくるみに、俺は一つ嘘をついた。
叔母さんは生きている。
ただ、あくまでそれは道徳に則った言い方で、正しくは生死の境を彷徨っている、だ。それも、“死にかけている”のではなく、“死にきれていない”というほうが正しいと医者は言った。
肉体的には死んでいて当然の状態のはずなのに、心臓は動いている。
くるみを一人にしまいとする強い意志の権化か。くるみが両親と比べて軽傷で済んだのも、叔母さんが庇うように覆い被さったお陰だという。
俺は久方ぶりの母をみて、少し尊敬した気持ちになった。
周りの大人はこの事実を知っている。だから今日、俺は出来るだけ大人をくるみから遠ざけ、ここ数日、彼女にニュースの類は見せていない。
医者は敢えて最も近しい俺に伝える役を与えたのだが、完全な人選ミスで、結局俺は言えずに何時の間にかタイミングを失った。
また一つ、いや、二つ、俺は罪を背負った。
それでもいい。俺はこの子を支えると誓った。俺に出来ることは俺にしか出来ないこと。医者の言葉が頭を過ぎる。
「とはいえ、いつかは言わなくちゃな」叔母さんが蘇生しようが死亡しようが、だ。
ふいに、昼間の少女を思い出す。
“お二人は恋仲だったり・・・”
「・・・いかんいかん」
揺らぎかけた誓いを建てなおす。聞こえてきた除夜の鐘が煩悩を払ってくれるのを願う。
この子を支えてくれる人が現れれば、喜んで身を引こう。
かつての罪を償えない限り、俺には愛する資格も、愛される資格もないのだから。
連投に引っかかるにおいがプンプンするので携帯から
とりあえず、投下終わりです
なんかいまいち始まらないのはごめんなさい
おつかれさまでした。
もしかしなくても大作になりそうですね。応援してます
GJ!
くるみ可愛いなあw
依存する子はイイ
GJ!!
だが勝手なこと言わせてもらうと、場面の移りがあやふやで
「あれ?さっきまで病院にいたんじゃないの!?」
とか思ったりすることがちらほら・・・
もし、こんなこと思うのが俺だけだったら気にせずスルーしてくれ。
長文スマソ。
ヤンデレもいいが、依存もいいな
みなさん、温かいお言葉ありがとうございます
>>232 指摘ありがとうございます。
文章の区切りが悪いせいでしょうか。場面場面で投稿をずらすよう心がけてみます。
とはいえ、俺の拙い文が一番の原因ですね。精進いたします。
>>233 依存+ヤンデレという新境地を目指して・・・別に新しくもないですね;
書き忘れました。
今日の夜か、明日の昼頃にまた投下しに来ます。
よく言われる事だけど作者が語ると叩きの元になるから自重した方がいいかも。
後投下予告は直前にした方がいいと思う。
うざかったらごめん。そしてGJ!
237 :
変歴伝 5:2009/01/23(金) 19:20:41 ID:ebzUy26Q
久方ぶりに投稿します。
238 :
変歴伝 5:2009/01/23(金) 19:21:30 ID:ebzUy26Q
八方塞とはまさにこのことを言うのだろう。
肝心の葵が死んでしまったのが痛かった。生きていれば、情報ぐらい聞き出せただろうに。
最早、平蔵のことは諦めるしかないだろう。
生きていようがなかろうが、場所が分からなければ探しようがない。
冷酷な判断だが、いつまでもここにいるわけにはいかない。
ここに滞在していたのは、平蔵の恋の成就のためだ。肝心の平蔵は消え、葵は殺された。
もうここにいる理由はない。
葵に殺された女性や、殺された葵のことは心残りだが、
そのことに関して俺はまったく関与していない。
平蔵に関しては、生きていればまた会えるだろう。
そう楽観的に考えるしかなかった。
悲しいと言えば悲しい。平蔵は俺より二歳上だったが、
話も合ったので一緒にいても退屈しなかった。
出来ればこれからもずっと一緒にいたかった。しかし、それはもう叶わぬこととなった。
落ち込んでいたので下ばかり見ていた。
すると、ふと横の溝から流れる水の音に気付いた。これは農作業用の用水路だ。
なんの変哲もないただの用水路、普段だったら無視して通り過ぎるものだが、
業盛はそれに天啓を得た。
「そうだ、これを溯っていけば川に行き着く。
あとはその川に辿って行けば森の外に出られるはずだ。
あーくそ、なんでもっと早く気付かなかったんだ」
自分の遅知恵にあきれてしまった。
もっと早く気付いていれば平蔵もいなくなることもなかっただろう。
しかし、今は嘆いている暇はない。
とりあえず、菊乃の家に帰ることにした。
彼女にはこのことを言っておかなければならないだろう。
239 :
変歴伝 5:2009/01/23(金) 19:22:10 ID:ebzUy26Q
家路の途中、業盛はふとあの時の菊乃のことを思い出した。
彼女はあの時、なぜ俺のことを止めたのだろう。
彼女とはこの四日間、まともに話したことはない。
せいぜい、ええ、まあ、はい、などといった義務的なことしか言っていない気がする。
むしろ、平蔵の方が彼女に話しかけていた方だ。
ならば、平蔵を止めるのがしかるべきだ。なぜ俺なのだろう…。
しばし考えてみる。考えてみて出た答えが、寂しがりだからだった。
彼女は今まで一人で暮らしてきたのだ。そこに急に男二人の旅人が現れた。
彼女は寂しさのあまりその二人の旅人を家の中に入れた。
これならば彼女がなんの警戒なしに男二人を家の中に入れたのも納得できると言えば言えるが、
それでも納得がいかない。
もしも、この二人の心根が腐りきっていて、
寝込みを襲う様な輩だったら、彼女はどうするつもりだろう。
女性の細腕で男の力を跳ね除けることなど出来るはずない。
それに、二人はただの旅人ではない。
刀を持った侍である。その刀で脅されたら、逆らうことなど出来ないだろう。
嫌な考えが浮かぶ。実は誘っていた、だ。
男旱が長く、男ならば誰でもよかったとしたら…いや、そんなはずはない。
業盛はその考えを捨てた。彼女は見るからに淑女の鏡のような女性だ。
そのような淫乱な精魂をしているはずはない。
そのようなことを肯定する男がいれば、それはきっと頭に蛆が湧いた、
下半身直情型のいかれた男に違いない。
分かるはずもない女心を延々と考えていて、菊乃の家の前を通り過ぎていた。
まったく柄でもないことをするものではない。
240 :
変歴伝 5:2009/01/23(金) 19:22:46 ID:ebzUy26Q
戸を開けてみると菊乃は袖を顔に当てて泣いていた。
まさかあれからずっと泣いていたのかと思い、
声を掛けると思った通り目の下が赤くなっていた。
菊乃は業盛を見て、さっきまで絶望の淵にいたかのような表情をしていたのに、
今はまるで後光でも見ているかのような表情で業盛を見ていた。
「戻ってきて…くれたのですか…?」
その目は希望に満ちていた。
でも、次に自分が放つ言葉が彼女を傷付けるのは間違いないだろう。正直、言いたくない。
「菊乃さん…私…明日、出発します」
分かりきっていることとはいえ、言うのはやはり辛かった。
菊乃の目が思いっきり見開かれている。とんでもなく怖い。
「そ…そんな…。
でも…この森は入り組んでいて…案内なしで出て行くなんて…無茶ですよ」
「それが、この森から出る方法を見付けたんですよ。
今日はもう遅いので無理ですが明日出発します。四日間、本当にありがとうございました」
菊乃の顔色が目に見えて悪くなっていく。
「…なぜ…もう行ってしまうのですか…。
まだ…ここにいても良いではないですか…。
…私が…なにか気に触る様なことでもしましたか…?
したのでしたら謝ります。だから…ここにいてください…お願いします…お願いします…」
今にも泣きそうな声で捲くし立てる。でもここで引いたらまた押し切られてしまう。
「私が出発を延期したのは、平蔵と葵の恋愛の成就のためです。
ですが、それももう出来なくなりました」
次の言葉に詰まってしまう。他人に話すには悲惨すぎるからだ。
でも、言わなければならない。
「葵は…殺されました。平蔵はその場にいなかったので、今どこにいるのかさえ分かりません」
一瞬、時間が止まった。
「な…業盛様。嘘はいけませんよ。昨日は葵さんが人を殺して、
今日は葵さんが殺されてるだなんて、冗談にしても性質が悪いですよ」
「嘘ではありません!昨日のことも、今日のことも、本当のことなのです。
だから私は今日、平蔵にあれほど葵の家に行くなと言ったのです。その結果がこれなのです」
思わず怒鳴ってしまった。本当のことを言っているのに、
嘘だと言われ続けていらいらしていたのかもしれない。
菊乃は怒鳴られて少しおどおどしている。
「じゃあ、それが本当なら、葵さんを殺したのは…」
菊乃がそこまで言って口を噤む。
「いえ、平蔵は殺していません。
あいつとは長い付き合いなので、そのようなことをするような人間ではないと信じています。
たぶん、殺したのは他の奴だと思います。信じてもらえないでしょうが…」
「…ごめんなさい…」
菊乃は謝った。別に彼女が悪いわけではないが、謝らなければならないと思ったのだろう。
「…私が信じれば…私が信じてあげれば…業盛様はこんなに…傷付かなくても…。
ごめんなさい…ごめんなさい…私が…私が…。
…そうだ…私が彼を…してあげれば…そうだよ…最初からそうすれば…そうだったんだ…」
なにか言っているようだが、声が小さいので聞こえない。
「あの…大丈夫ですか?」
「業盛様、もう一日だけここにいてくれませんか?」
心配になり声を掛けて、帰ってきた答えがこれだ。
「ですから、私はもう出て行くと…」
「今から行っても遅れることに変わりありません。
あと一日だけでいいのです。お願いです。ここにいてください」
「ですからね、私は…」
「いてくれるんですよね?」
どうやら話を聞いてくれないらしい。さっきから話が堂々巡りしている。
「分かりました。あと一日だけですよ。それ以上は延期しませんよ」
折れてしまったが最後、しまった、と思った。
菊乃は菊乃で、嬉々とした表情で業盛を見ていた。
あー、またやっちまったよ…。なんでいつもこうなるのだろう。
布団に横たわりながら呟いた。
241 :
変歴伝 5:2009/01/23(金) 19:23:38 ID:ebzUy26Q
夜中、外では虫が鳴いていた。
業盛は腹部に強烈な圧迫感を感じた。
誰かが馬乗りになっている。顔を見ようとしたがぼやけて見えない。
手を動かそうとしたが、両手首を凄まじい力で抑え付けられ動かせない。
ただ、足をじたばたさせるだけだった。
影が近付いてくる。
止めろ、近寄るな。
首を激しく振って抵抗するが、手で押さえ付けられた。
あれ、確かこいつは今両手を押さえ付けているんだよな。じゃあどうやって頭を押さえ付けているんだ。
もしかして…化け物…。
思わず、叫び声が上がりそうになった。しかし、叫び声が上がる前に口を手で塞がれた。
押さえ付ける手が増えていく。
ついに両足も押さえ付けられ、体が動かせなくなった。
影は首筋辺りで止まった。
なにをするつもりだ…。
そう思っていると、首筋に生温かい物を感じた。
首筋を…舐められている…。
なんともいえない感覚が全身に走る。
だが今度は首筋に激痛が走った。水音と共になにかを咀嚼する音が聞こえてくる。
こいつ、俺を食っているのか…?
それを合図に全身に激痛が走った。二の腕、脇腹、太腿になにかが食らい付いている。
部屋中に水音と咀嚼音が響く。
痛い…止めてくれ…。
口に出したいが声が出せない。
意識が遠くなる中、影が息継ぎでもするかのように頭を持ち上げた。
…愛している…。
影はそう呟き、頭と口を押さえていた手を離した。その手が首に伸びてきた。
凄まじい力で首を絞められる。
急速に意識が遠のいていき、目の前が真っ白になった。
遠くでなにかが砕ける音がした。
しかし、それはどうでも良いようなことのように思えた。
だって、それは自分には関係のないことなのだから…。
242 :
変歴伝 5:2009/01/23(金) 19:25:17 ID:ebzUy26Q
投稿終わりです。
まだ続きます。
ところで、ヤンデレ小説の主人公は、
平凡で、純粋で、朴念仁でなければならないのでしょうか?
どうでしょう?
>>242 今更主人公の設定とは、次回作の予定ありか?
投下です。
また規制に引っかかったらごめんなさい。
>>236 みなさんに優しくされて天狗になってましたね。申し訳ないです。
次からは自重するようにします。
「がえっでぎだー」
二十歳を目前に控え、犬に囲まれながら、鼻水と涙で顔をゆがめた女性をどうしろというのか。
年明け早々、高速道路が混みだす前に東京へ帰った。細かい手続きは後にし、挨拶など、手短に済むことは済ませて戻ってきた。
病院には診断書と紹介状を書いてもらい、あの医者とはメールアドレスを交換した。俺よりも新しい携帯を使っていることが若干、頭に来た。
家に着いたのは夕方で、玄関に明かりがついていることを訝ったが、旅立ちの様子を思い出すと納得した。
元々天才だったが、事故かなんかでバカになってしまったアニメのキャラクターみたいな姿をしたおっさんに拉致られたのだから、電気を消す暇などなかった。
ちなみに、あの時の荷物は、仕事の合間を縫って一時帰宅した母が準備してくれたらしい。
「光熱費が・・・」と嘆きながら鍵を取り出したところで、待てよ、と自分に問いを投げかけた。「父さんと母さん、向こう行くまでは普通に帰ってきてたよな?」
「ええ、そうよ」
「・・・消し忘れたのはアンタらかよ」
「ちょっと待ちなさいよ。あたしがそんなミスをするとでも思ってるの?」
反論しようとするが、理性が止めにかかる。財布の中身を1円と狂わずに把握している人物が、値上がりしつつある光熱費を甘く見るとは思えない。
「じゃあ、誰だよ」
母とくるみは論外、父は母と共にいたため、除外。
「マエダとルイス、もないよなぁ」そもそも家の中に入っていない。
ちなみに、この不在の間、二人の食事に関しては万全を期してあった。
俺が夏に合宿に行った時に購入した『プルプルワンワン』のお陰だ。決まった番号に電話をかけることで一定量のドッグフードが皿に盛られるというハイテクマシーンだ。この際、ネーミングには目を瞑る。
「じゃあ、誰だよ」大事なことなので、もう一度繰り返す。
くるみが俺の背に回った。いけない、頼れる人を演じなければ。
「2人は下がって。父さん、一緒に」
「ん?あぁ、俺はいいよ」
「いいよ、って、『コンビニ行くけどアイスいる?』って訊いてんじゃないんだから」
「あたし、あの高いヤツね」
「いかねぇよっ」何故こんなに緊張感がないのだろうか。思わずため息をついた。
母は天性の余裕だろうが、父はというと、何かを知っている素振りを見せている。
「まぁ、開けてみろよ。俺はなんとなくオチが読めたから」
女性2人は首を傾げ、父を見る。この人だけは人生の台本か何かをどこかで手に入れたのだろうか。もしくは、攻略本を。
意を決して鍵を差し込む。その刹那、家の中で何かが動く音がした。これは本当に迎撃する準備をするべきかもしれない。
飛び出してきたニット帽とサングラスの男の顔面にスパイクを打ち込むイメージを膨らまし、扉を開いた。
実際に飛び出してきたのは隈と牛の着ぐるみパジャマの女だったが、容赦なく掌を頭頂部に叩きつけてしまった。
それから、姉、斎藤憲美(さいとう かずみ)だと気付いた。
「ケンちゃん酷い・・・」
姉が部屋の隅で、マエダとルイスに囲まれながらこちらを睨んでいる。
「仕方ないでしょうが」誰だってあの状況では同じ事をするはずだ、多分。
「いいよいいよ、どーせねーちんはその程度の扱いですよぉ」
マズイ、あの人マジで泣き出した。マエダとルイスが非難の目を向けてくる。
俺1人に姉を押し付けて、母と父は居間でコーヒーを飲みながらクイズ番組を見ている。
ウケを狙ってる場所では少しぐらい笑ってやってください。ボケに対して冷たく、バカじゃないの、と言い放つ母は恐い。
ふと、くるみが姉のもとへと踏み出した。体育座りをする姉の背に、そっと手を乗せる。「ごめんね、お姉ちゃん」
弾けたように姉の顔が挙がる。やはり涙でぐしゃぐしゃだ。
「くーちゃぁん」姉は飛び掛るようにくるみを抱き締めた。「心配したんだよぉ、ニュースでいっつもくーちゃんのこと言ってて・・・あたし眠れなかったよぉ」
「お父さん、くるみちゃんが牛に襲われてるわよ」
「うん、うらやましいな」小気味の良い炸裂音と共に、父が吹っ飛んだ。
これが俺の望んだ家族団欒だろうか。否、断じて否。
「集ぅ合っっ!!」
リビングの机に家族全員が集合したの何年ぶりだろう。さらに新しい家族もいるのだから、これほど喜ばしいことはない。
和室、風呂場の二つと隣接するリビングは、見まごうことがないほどに完璧なリビングだ。長めの机にキッチン、炊飯器、冷蔵庫、レンジにテレビ。さりげなく飾られた花が、これまたにくい。
長机の右側に手前から、母、父。左側に姉、くるみ。俺はその全てを見渡せる机の端で、腕を組んで立っている。その両脇には、マエダとルイスが鎮座している。
「本年度第一回斎藤家緊急家族会議を始めます。まず1つめは、なぜ家がこれほど乱れているかです」
「あたしはスルーなのっ?」姉が嘆くが、構っていたら話が進まない。
「私も、斎藤家?」くるみが左眼を輝かせて聞いてくる。
「あぁ、もちろん」手続きが大変だから、正式には黒埼のままだが。
「そっかぁ、斎藤くるみかぁ」
えへへ、と幸せそうに笑うくるみには、さすがに和む。左頬を赤く染めた父の顔も、どこか柔らかいものに見える。
久しぶりに帰ってきた家は見違えるようだった。悪い意味で。
流しには食器が溢れ返り、コンロには焦げ付いたフライパンと鍋が放置されている。洗濯物は洗濯機からはみ出ており、風呂場は髪の毛が流し口に詰まり、和室には空き缶や空き袋が散乱していた。
「やったやつら、手を挙げろ」苦笑いの父と、半泣きの姉がそろりと手を挙げた。「あんたもだろ、母さん」
部屋に響き渡る特大の舌打ちと共に、母が仕方なさそうに手を挙げる。
「・・・そこの二人はともかく、姉ちゃんは家事できるだろうに」
「だって、だってぇ」鼻を鳴らし、またぐずり始める。
都内でトップクラスの学力を持っていたにも関わらず、夢をかなえるためと言ってそれほどレベルの高くない大学へと進学した姉は、去年から一人暮らしをしている。
元々、我が家の家事を昔から担ってきた姉は、どちらかと言えばしっかりとしている方である。
そして、ガキだ。軽く波打つ黒髪と長い睫毛は大人の魅力を醸し出しているにも関わらず、くるみと競うほどの平らな体型をしている。
ギリギリ勝っている、というレベルか。身長は平均並なので余計、貧相に見えるということは黙っておこう。性格や服のセンスも見てのとおり子供的で、まだくるみの方がしっかりとしている。
「泣くなって。聞くから、な?」
腕でごしごしと目を擦ると、姉は頷き、話し始めた。
「あのね、この前いきなりおかーさんからメールがあったの。見たら『帰って来い』って書いてあって・・・ねーちん、超特急で帰ってきたんだよ?
そしたら家に誰もいないし、連絡も何もないのに、ニュースじゃくーちゃんとかケンちゃんが毎日・・・ふぇぇ」言い切る前に泣き始め、くるみに抱きつく。
・・・ツッコミどころはいくらでもあった。たが、とりあえずは母を睨む。首をぷいっ、と横にして、あからさまにしらばっくれられた。
「オイ、オイ、おぉぉいっ」
「やっかましぃっ。聞こえてるわよ」
「聞こえてるならこっち見ろよ、なぁ」
「マエダは相変わらず恐い顔ねぇ」
「こっち見ろ、そして俺と会話しろっ」
不毛なやりとりを繰り返し、ようやく母はこっちを向く。
「あたしの責任ね」
「知ってるわ、んなもん」
とりあえず、姉が薄情ではないことは証明された。
「電話ぐらいすればよかったのに」
「だって、どこにいるかわかんなかったし」
・・・なんか今のやり取りは変だ。
「電話番号は知ってるよな?」
「だから、どこにいるかわかんなかったから、どこにかければいいかわかんなくて・・・」
・・・たった今、姉がバカだと証明された。
「どこって、携帯だろ」
「・・・・ふぇぇっぇぇ」
「それ以上泣くとくるみがふやけるからやめてくれ」
「ねーちんじゃなくて!?」
泣くのか憤るのか、どちらかにして欲しい。
C
少しおいてから、姉がまたポツポツと話し始めた。
「ニュースでくーちゃんが出たときは、本当にどーしようかと思ったよぉ・・・その目、ほんとーに見えないの?」
「うん・・・」くるみは物憂げに俯く。「でも、ありがとう、お姉ちゃん。心配してくれて」
「ううん、こっちこそ、生きててくれてありがとうだよ」
男と女の差というヤツか、俺では踏み込めない領域を、姉は軽く飛び越していった。姉の人柄と言うものもあるのだろう。
「それと、ケンちゃんっ」
突如振り返った姉に指を突きつけられ、たじろぐ。
「いつの間に不良に・・・それも500人を引き連れたヘッドになっちゃったのっ。最後に見たときはフツーだったのに・・・もしやっ、あの頃から!?」
マスメディアを信じるな、と俺と同じように教え込まれたはずが、なぜこうまで鵜呑みにしているのだろう。っていうか、500人って。2学年分くらいじゃないか。
「俺がそんなタマに見えますか」
「タマ、たま・・・命(たま)っ!?」よく分からないが、年頃の女性がタマを連呼するのはよろしくない。
「はっきり言うぞ。俺は、不良じゃない。善良とも言い難いがな」
「・・・ねーちんに誓える?」久しぶりに見る姉の真剣な表情。
ああ、そうだ。この人はこうやって心配してくれる人だったな、と思い返す。
「誓います」
「いい子だぁ、ねーちんがハグしてやろうっ」言うが早いか、俺の首元に突進してくる。
「あぁ、ハイハイ、どうもね」
「嬉しくないの?」
「嬉しいですよ、はい」半ば首にぶら下がるような姉の頭をポンポンと、優しく叩く。顔が熱い。
━━瞬間、全身を悪寒が包む。
慌てて姉を引き剥がし、見渡す。
父は優しい微笑みから、何事かというような顔に変わった。
母は興味なさげにテレビを観ている。
くるみは俺から視線を逸らした。
姉はきょとんとした顔で俺を見ている。
・・・いや、まさか。
疲れているのだ。そう言い聞かせ、今日は眠ることにした。
四月になる頃には、住民登録などの面倒な手続きも終わり、斎藤家での暮らしにすっかり慣れていた。
といっても、家事の大半はお兄ちゃんがやってくれるので、未熟な私が出来るのはそのお手伝いくらいだ。
帰ってきたお兄ちゃんを玄関まで迎えに行き、おかえり、と言った時のお兄ちゃんの嬉しそうな顔は、私を蕩けさせてしまう。ただいま、と言われると、骨がなくなったように力が入らなくなる。
一緒にご飯を作ったり、お兄ちゃんが、手が荒れたらいけないからと言って代わりに洗ってくれた食器を、私が拭く。
そんな時、どうしても新婚気分になってしまい、お兄ちゃんに顔を向けられなくなってしまう。これで苗字も斎藤に出来たら最高なのにな。
苗字を変えるのは、お兄ちゃんが反対した。理由はわからないが、お兄ちゃんが言うなら仕方ない。それに、結婚すれば自然と変わるのだから、焦る必要はない。
お兄ちゃんは本当に優しい。
私が自室で目覚めた時━駄目元でお兄ちゃんと同じ部屋でいいと言ってみたが、案の定却下された━、どうしようもない不安に襲われることがある。
そんな日は、お兄ちゃんがいないと崩れてしまいそうになる。助けを求めると、お兄ちゃんは笑顔で、じゃあ今日は休もう、と言ってくれる。一日中一緒にいてくれ、時には私を外へ連れ出してくれる。
ああ、お兄ちゃん。大好き、本当に大好き。私は優しいお兄ちゃんが心の底から大好きだ。
だからといって、我侭も度を越えれば嫌われてしまう。時にはぐっと堪え、笑顔でお兄ちゃんを見送る。
いってきます。
いってらっしゃい。
無情なドアが閉まると、胸が締め付けられ、息が出来なくなる。
恐い。このままお兄ちゃんは帰ってこないのではないか。
お兄ちゃんはあんなに魅力的なのだから、発情期の雌が放っておくわけがない。中には、無理矢理お兄ちゃんを手に入れようとする輩もいるかもしれない。
だけど、そんなのはそんなことは些細なことに過ぎない。常識人であるお兄ちゃんがおいそれと騙されることはないだろうし、みんなは知らないが、お兄ちゃんは強いのだ。
目先のものに引き寄せられただけの雌など、容易くあしらってしまうだろう。
一番恐いのは、事故。
私を捨てた、私を裏切った両親のようなことを、お兄ちゃんはしない。するはずがない。
お兄ちゃんは傍にいてくれると言った。私にはそれを信じるしかない。
それなのに、一人でいる時 、私の右眼は視力を取り戻し、あの惨劇とお兄ちゃんの姿を重ねる。
━━やめて、やめて、やめてやめてやめて壁が迫るやめてやめてやめてやめてやめてやめてお兄ちゃんが前のシートとの間に落ちるやめてやめてやめてやめてやめて右側に座り、私の頭を撫でてくれたやめて
やめて血まみれで、所々ガラス片の刺さったやめてやめてやめてお兄ちゃんは運転席でやめてお兄ちゃんと、目が合ったやめてやめてやめてやめて・・・やめてよぉ・・・お願いだから、もうやめてぇ・・・
部屋を暗くしようが、毛布に包まろうが、状況は変わらない。右眼が、私の一部が私を責め立てる。
右眼を潰せばいい。そうすればきっと、解放される。お兄ちゃんももっと優しくしてくれる。
シャープペンシルを握る。
ペン先の進路を定める。
振りかぶる。
金属の擦れる音を聞いて、私はシャーペンを放り投げた。続いて、扉の開閉音。
階段を駆け下りて玄関へ向かうと、少し驚きながらも笑顔のお兄ちゃんがいる。
ただいま。
おかえり。
特別措置、という名目で、私は高校を受験した。もちろん、お兄ちゃんの高校だ。
3学期分の出席日数が足りなかったが、こっちに引っ越してきてからは、やはり特別措置ということで通信制の学校に臨時入学して、必要な出席日数をカバーした。
お兄ちゃんの高校は都立で、学力的には丁度、真ん中くらいの所だった。勉強を怠っていた私には多少きつかったが、お兄ちゃんと一緒にいられない恐怖を思えば、そんなものは恐るるに足らない壁だ。
私は晴れて、高校生になった。
伯父さんと伯母さんは誉めてくれた。一月以来、忙しくて帰って来れなかったお姉ちゃんは、この時ばかりは帰ってきて、私を抱き締めてくれた。
肝心のお兄ちゃんはというと、隈を伴った眼を潤ませながら、おめでとう、と何度も言って私の頭を撫でてくれた。なにより、嬉しかった。
「くるみ、忘れ物は?」
「ん、大丈夫」
教科書、ルーズリーフ、筆箱、体操着、ハンカチ、と一つずつ声に出して確認する。
「弁当は?」
「えへへ〜」カバンを置いて、中からお揃いのバンダナに包まれたお弁当箱を出す。
一回り大きいのがお兄ちゃんので、もう1つが私の。今回は私が作ったものだ。
「よし、じゃあ行くぞ」
お兄ちゃんとお揃いの色をした制服の裾を揺らし、後に続いて家を出る。
「いってきます」
「いってきま〜す」
暖かく、優しい太陽が照らしている。
お兄ちゃんは、私の太陽だ。
とりあえず、投下終わりです。
途中の支援、ありがとうございました
後ろの作者さんのために、もう少し投下間隔空けてあげた方がいい気が…
まあでもGJ
>>242 菊乃さんの変質的な執着心がイイ!
>>258 姉スキーの俺には憲美が可愛すぎるんだが……微妙に死亡フラグ立ってる?
>>242 純粋で、朴念仁で、コマンドーみたいに女に何をされても死なないような主人公もいいと思います
>>258 くるみはかわいいなあ
>>258 GJ
前田とルイスって聞くとカープが思い浮かぶ
最近ヤンデレという言葉自体を知った者です
レベル低い上に長編を投稿されている玄人の方の後なので気が引けますが
投下してみます…
264 :
雨の夜:2009/01/24(土) 09:00:25 ID:9A2dkKLH
関東地区内陸部某養護施設
女子棟202号室
右側の窓の方
私に与えられた場所
私は孤児
赤ちゃんの時熱帯夜の深夜にここの玄関の前に捨てられ泣いていたらしい
名前は美雨
スタッフの人達が相談して決めたみたい
私が生まれた頃、社会はバブルとか言うのが崩壊して、
私みたいな子達が急に増えたってどこかで聞いた
お母さんとお父さんがいる生活が普通で
私の日常が普通じゃないことは自然と理解して生きてきた
自然と同世代でグループができて、学校でも外でもどこか浮いた感じの私達は結局一緒にいることが多かった
義務教育最後の年
夏休み前
突然の雨
「雄輔……」
日本語は面白い
ハラワタガニエクリカエル?だっけ…?
憎しみが限界を越えるとお腹が熱くなってくるのか…
こんなの始めてだよ…
雄輔…
雄輔は私の二つ上で震災遺児
親戚の紹介でここに来たらしい
ボランティアの人が言ってた
「まるで大家族ですね」
家族…?
雄輔のクラスの人が言ってた
「お前ら本当兄弟みたいだな」
兄弟…?
クラスの女子が言ってた
「いいなぁ〜カッコいいお兄ちゃん」
お兄ちゃん…?
小さい時ケンカして雄輔スタッフの人に言われてた
「あなたのかわいい妹みたいな子でしょ!?何で泣かせるの!?」
妹…?
何でこんなことばっか思い出すんだろう…
偏差値が3も落ちた
やっぱり難しいよ勉強
何で偏差値70もあるんだよ雄輔…
誰だよ…
あの女…
同じ学校の女か…
楽しそうに話してんじゃないよ…
今団地で一人暮らしだよね…雄輔
やったんだろ…!?
あの女と…
やったんだろ……
お腹痛い……
生理じゃないのに……
お腹痛い……
また吐いちゃった……
痩せるなんて簡単じゃん……
何でみんな苦労してるんだろ……
「ええ…中学生です」
「はい…西山中学校に通ってます」
「3年生で…C組です」
「…ですから最後に姿を見たのは昨日学校に行く時で…はい」
「はい…160は無いと思います…えっ?髪の毛の色ですか…?黒ですけど…」
「…所持金?いやそんなには…せいぜい一万円位だと思います…はい…どうか…よろしくお願いします…」
受話器が置かれる
「やっぱり携帯つながりません…どうしましょう…」
「思い当たる所は全部探しました…家出なんてする子じゃないですし…まさか…」
「警察の方が今こちらに来てくれます」
「とにかく私達の出来ることをしましょう…子供達はもっと不安を感じているはずです」
「あなた達がそんな風じゃ子供達をさらに不安にさせるだけですよ…」
「さぁもう一度彼女を探しましょう…」
「ったくあのバカ…」
図書館に本屋にペットショップ…あとはどこかの化粧品売り場にauショップってとこか…?
いや…雨降ってるし、やっぱ電車かバスでどこかへ行ったのか…?施設の佐藤さんが警察呼んだみたいだし、それにしてもただの家出ならいいが……いや無事ならなんでもいい…
21時 県営団地302号室
ガチャガチャ
「あれっ…」
施錠したはずのドアが開いている
恐る恐る部屋に入り電気をつける
「………!!」
散乱させられた部屋
床に座り込むずぶ濡れなよく知っている存在
昨日の格好のまま何かを1人でぶつぶつと喋っている異様な光景
「美雨…!!美雨……!?」
「何だよ…すげー心配したんだぞ…」
「おい美……」
「…………!!」
近付く声
顔が急に上を向き、雄輔の姿が目に入る
急に立ち上がり、後ろへ体を移動させ、壁に体をぶつけ再び床に座り込む
「ハァハァハァ…」荒い呼吸、焦点の定まっていない視点、何かにおびえた表情
「何してんだよお前…傘無かったのか…?」
「ちょっと待ってろ…今タオルを…」
「他人じゃない!!」
「はっ…?おい美雨…どうし…」
「家族とか兄弟とか妹とか……」
下を向いたままだが表情が憎悪と怒りに満ちたものへ変化する
「なっ何を言っているんだ…?とにかくそのままじゃ風邪引くぞ…だから…」
「あ亞あぁアア嗚呼亜ぁ!!」
ガツンガツン
突然叫び始め
自らの額を壁と床に打ち付け始める
「………!!」
「何してんだ止めろ!!」
「おい止めろよ!!美雨!!聞け!!聞けよ!!美雨!!」
背後から男性の力で抱き付かれ、自傷行為を制止させられる
「離せ!!離せよ!!」額が切れ少量だが血液が流れ始める
「離せ…!!離せ…離せ…」
必死に抵抗するが体力が底をつく
両目から涙が一気に流れ始める
「………」
「…美雨…よく分かんねぇけど、体大切にしろよ…」
「俺も施設のみんなも本当に心配したんだぞ…」
「施設…みんな…心配…」
沈黙が続く
「あの女…あの女…」
「あの女って…?お前は何を言っているんだ…?」
「一昨日駅前で楽しく歩いてた女……殺す殺す殺す…」
「あっ……
お前それは…先輩で部活のマネージャーやってる…坂井さんだ…」
「坂井さんは大学生の彼氏がいるらしいんだ……」
「嘘を付くな嘘を付くな嘘付くな…」
「死ぬか殺すか死ぬか殺すか死ぬか殺すか死ぬか殺すか……」
「美雨……」
「…………!!」
腕の中で体を回転させ、仰向けの体の上でうつ伏せになる
体が密着し、胸と胸が重なる
ビリッ
体を浮かし、自ら着ているYシャツのボタンを引きちぎり、下着が露わになる
「ハァハァハァ…」「どう……!?結構大きいでしょ…!?」
「私でオナニーしてる男子だっているし…付き合ってくれって3人から言われたし…スカウトされたこともあるし…エロオヤジから声掛けられたし……」
「私のがいいに決まってるでしょ!?」
「許せないっ!!本当に許せない…」
雄輔の首を両手でつかみ締める
「うっ…!おい!!止めろっ!!」
バタン
男性の力で首に絡まる腕を振り払い、私の体を突き飛ばす
「ハァハァハァ…」「ハァハァハァ…」
「ハァ…美雨ぅ…お前……」
「抱きなさいよ!!」
「はっ……?」
「あの女とはやれて私とはやれないのかよ!?」
床に座り込んだままスカートの中の短パンだけを脱ぎ始める
「美雨…」
視線を背けるがあらゆる感情が溢れ胸の中が締め付けられる
立ち上がりスカートを自らめくり
「男子ってスカートはいてた方が興奮するんでしょ…」
「早く抱けよ!!雄輔!!」
「……」
バサッ
私の体が雄輔の体に包まれる
「ゴメン…本当に知らなかった…」
「お前がそんな風に考えてたなんて…」「確かに他人だよな…お前も俺も…みんなも…」
「でもずっと一緒だったじゃねぇか…」「前にも話したよな…俺元々一人っ子で震災遺児だって…」
「施設に来たばかりの時は本当にいろいろ面倒くさくて脱走もしたけど、お前や他のみんながいてくれたから、楽しくやってこれたし…それに外の奴らには何かバカにされたくないっていうか…負けたくねぇって思えて、いろいろ頑張れたんだ…」
「そんな話いいから早く抱けよ!!」
「坂井さんとは何にも無い…ってゆうか今まで本当に何にも無い…」
「うっ…」
口唇が重なる
口唇が離れる
無言のまま床に寝そべる2人
「………」
私の下着だけが外される
「すげーきれいだ…美雨…」
「早く…しろよ…」
ファスナーから男性器が露出される
「ゴメン…やっぱり無理だ…」
「ふざけんな!!」
固くなっている男性器を右手でつかみ
雄輔の上に馬乗りになる
「おっきくなってんじゃん!!」
「ねぇ…ねぇ…!!ねぇっ!!」
グチュチュ
いきなり雄輔の局部を口に含みしゃぶる
C
「何してんだ美雨!!」
口の中で固くなった局部に舌を絡ませる
「………」
顔を押さえる手
口から男性器が抜き出される
押し倒される
無理矢理私の下半身に始めて男性器が入ってくる
「うっ……」
「………!!」
苦悶の表情
無造作に腰が上下に動く
「あっ…うっ…」
「嗚呼…!!」
激痛が下半身を走る
「ハアハアハア…美雨」
痛みに耐えるだけの時間が過ぎる
「阿ア嗚呼アアああッ!!」
体が離れる
再び出血
「ハアハアハア…」
「ハアハアハア…」
「美雨…シャワー先に入れよ…」
完
投下終了します
>>271 支援ありがとうございました
>>273 GJ!
ところで投下間隔ってどれくらい空けるのがベストなんだろ?
別に連続投下でも感想書きたきゃ個別にアンカー付ければいいしどーでもいい。
むしろ「間隔あけろ、前の投下から○時間は投下するな」とか言い出す自治厨の方が邪魔
確かに
てか改行しすぎ
スレの流れとか空気っつーかさ、暗黙の了解的なもんがあるんだよ。スレによって違うけどさ
投下した者じゃないとわからないけどさ、自分の作品に対するレスがくる前に別の投下がきて、そのとき自分がどう思うかじゃないかね?
たまに自分の後に大人気のSSがすぐに投下されて自分のSSがなかったことのように……
>>276の言うとおりなんだけどさ、投下する側としてのマナーってか気配りってーかね、けっこう大事だと思うよ。うん
ま、間隔空けろなんていうのは書き手側の理屈だよな
ただ書き手無しにはスレは成り立たないというジレンマ
確かに携帯小説なみに行間あけすぎで見づらい
小説風とは言わないからせめてラノベ風に仕上げてくれ
ぶっちゃけ個々のヤンデレの妄想をSSやネタで表現してニヤニヤするスレだからなあ。
それぞれの作品に必ず感想付けたり、そういうことでSSを評価するようなスレでもないし。
感想もらえたら嬉しい、でも無くても自分の妄想を見て貰えただけで満足、という方針でいたほうが良いと思われ。
投稿時に間隔空けなくても良いに一票
どーでもいいわ
いやなら飛ばせばいいそれだけ
ヤンデレおねえさまに思いっきり甘えたい
>>287 ヤンデレが287を好きでない場合
「こっちくんな!キモオタ!(PAM!!」
→死亡フラグ
ヤンデレが287を好きな場合
「よしよし、いい子いい― ・・・ 女の―匂いがするよ?どういうこと、かな?287君?」
→死亡フラグ
こうですか?わかりません><
>>287 お姉ちゃん型ヤンデレはいいよな
膝枕状態で頭撫でられて「ほかの女とこんなことしたら殺しちゃうからね〜」とか言われてまったり過ごしたい
>>289 いやいや頭撫でられるより耳かきされながらだろ
他の女の子のことを話しでもしたら、そのままズボッと……
投下します。
第十六話『イロリ汚いなさすがイロリ汚い』
「ん、ちーちゃん、もう帰っちゃうの?」
「ああ、ちょっと野暮用でな」
「ええー。カナメちゃんの親睦会をしようと思ってたのにー」
頬をふくらませるイロリに苦笑いしつつ、千歳はぷらぷらと手をふって教室を出て行った。
「前から思っていたが、お前は千歳をそんなに好きだというのに、必要以上にべたべたくっついていかないんだな」
「うん。ちーちゃんに、迷惑かけたくないから」
「……?」
イロリの返答の意味を図りかねたナギは、首をかしげたがその後は追及をしなかった。
ただ、イロリは過去に起こった何かが原因で、千歳に若干遠慮をしているのだということはかろうじてわかった。
「とにかく、本題は、カナメだ」
「さんをつけなさいな、デコスケおちび」
「サイクロン掃除機に吸い込まれたような髪形のやつが言うな」
ひたすらに高圧的なカナメと、それに真っ向から噛み付くナギ。
相性はあまりよくないようだ。
いや、むしろ似たもの同士なのかもしれない。
「ま、まあまあ」
いつもは周囲を振り回す側のイロリが、今は仲裁役に回っている。カナメの登場は、人間関係を良くも悪くも変えてしまったようだ。
「とにかく、繁華街にでようよ。そのほうがいっぱい遊べるから」
「まあ、それがいいだろうな」
「賛成ですわ」
なんとか二人も納得してくれたようで、イロリはほっと息をはいた。
♪ ♪ ♪
屋上。立ち入り禁止のその場所だが、警備もなにもあったものではなく、千歳は頻繁に出入りしていた。
もう一人の住人とともにだべるのが目的である。
そして、もう一人の住人は、今もここにいて、寝そべり、空を見ていた。
「やっぱここかよ、彦馬」
「……千歳。やっぱり、君がきてくれるんだね」
「カナメ……いや、カナさんじゃなくて、不満か?」
「ううん、そういうわけじゃないよ。僕は、千歳のことも大好きだから」
身体を起こし、彦馬が千歳に笑いかける。
彦馬は決して男として格好が良い部類ではない。ほそっこいし、背も低いし、全体的に軟弱だ。
性格も、お調子者だが基本へたれであり、空回りしがちで報われない。運動も成績も普通だ。これといった長所はみあたらない。
が、女性的な顔つきはどこか美しさを感じさせる部分があった。今では、それがカナメの双子であるからだと納得できるが、他の誰も気付いていなかった要素だろう。
「なんだよ、男同士で大好きとか……。恥ずかしいやつだな、お前は」
悪態をつきつつも、優しい表情のまま隣に座る千歳。長い付き合いだ。互いに、『分かっている』。
「ははっ、そうかもね。いい男が二人集まったら、一部の女性達の妄想は始まるから」
「いい男って、自分で言うもんじゃねえよ」
「それもそうか。……それに、僕は……いい男じゃ、ないしね」
沈んだ顔になる彦馬。
珍しい。長い付き合いだが、千歳はここまで心から打ちひしがれた彦馬を見るのは初めてだった。
いつもはなにかあっても三十秒で回復するようなやつが、ここまで。
――あたりまえか。
(俺だって、人のことはいえねえもんな。もし、百歌と別れちまって、次にあったときには別人で……)
考えたくも無い。百歌は、ばらばらになってもう滅多にあえない家族の中で、唯一一緒にいてくれる。
それが、消えてしまう。
俺の世界が、消えてしまうんだ。
「お前の泣いたとこ、見たこと無いな」
「そういう千歳だって」
「俺は……影では泣き虫だったさ。ただ、百歌に涙を見せたくなくてな。だから人前では泣かない習慣がついた」
「僕は……たぶん、本当に泣いたこと無いのかもね。たぶん、カナがいなくなってからずっと泣いて、尽き果てたんだと思う」
「そうか」
彦馬の顔を横目にちらりと見ると、確かに泣き顔のようなくしゃくしゃした表情をしていたが、涙は流れていなかった。
意識的に耐えているわけではない。すっからかんで、もう出ないような。
そんな、歪んだ顔。
「なら、お前は前に進め。涙が止まったなら、もう止まるな。強くなれ」
「……!」
「おーおー、驚いた驚いた」
「だって……だって……」
「お前、俺が慰めに来たとでも思ってたのかよ。俺がそんな優しい奴に見えたか? 俺は努力してるやつにしか手は貸さんぞ」
「……ちがうよ。千歳の言葉が、あまりにも僕の予想通りだったから」
「……」
「だから、嬉しいんだ」
「……そうか」
二人は顔を見合わせ、不器用に笑いあった。
♪ ♪ ♪
「げ……げぇむせんたぁというのは初めてきましたが、なんと言うべきか、壮観ですわね」
ゲームセンター『シューティングスター』に訪れたイロリとナギとカナメ。
カナメは、その強大な威圧感――それは逆説的な言い方だが、本来的に言うなら、閉鎖性の生み出す圧力の大きさに圧倒された。
このシューティングスターは、関東でも屈指の強さを持つゲーセンである。
選りすぐりの精鋭たちがひしめき合い、腕を競っている。
「わたくし、ビデオゲームはあまり経験が無いのですが」
「徐々に慣れればいい。お前は見たところ、センスがありそうだ。脳をフルパワーで運用できるんだろう?」
「そうですが、なぜそれを?」
「気にするな」
ナギはそう言いつつも、北斗の拳の筐体にコインを入れた。
「とにかく、見ているといい。北斗は初心者には敷居が高いが、慣れればこれほど面白い物は無い」
カナメはとまどい、隣をみたが、イロリは真剣な目でナギを見つめている。
カナメもそれに従い、それきりだまった。
ナギのトキはレイで遊んでいたモヒカンを即行で瞬殺した。
「うん……。やるね、ナギちゃん!」
「当たり前だ。私は中野でも修羅の称号は持ってる」
イロリとナギがいろいろ納得している中、カナメはあまりついていけていない。
(格闘ゲームというのは、かのような奇怪な動きをするものでしたかしら。わたくし、ウメハラ氏が『小足見てから昇竜余裕でした』といったことくらいしかしりませんわ)
カナメも、昔――カナだった時代には、ストリートファイター2などはやったことがある。
その時は兄の操るザンギエフを待ちガイルでフルボッコにしていたが、この『北斗の拳』は、そんなものとは次元が違うように見える。
「ふむ……だれか、このゲームのデータのようなものを持っていないでしょうか」
「お嬢様」
突然現れたのは、黒服の男、高崎である。
「ここに、このゲームのシステム、キャラクターごとの詳細データ。コンボレシピ、バグ、技フレーム、判定、全ての数値系が記録してあります」
「まあ、仕事が早いのですね!」
「い、いえ……私はここの常連でして……」
「……わたくし、あなたの私生活が気になって仕方がなくなってきましたわ」
「それはまた後ほど。今はご学友との交流をお楽しみください。では」
すっと高速移動して、高崎は消えた。このスピードがあればオリンピックにでても余裕で優勝なのではないかと思うが、高崎はそういう興味は無いらしい。
運動能力はカナメ以上だというのに、もったいないことだ。カナメは少し残念だったが、まあそれは保留として。
「ふむふむ……」
ぱらぱらと、分厚い紙束をめくる。
すっと目を通しただけで、具体的なキャラクターの判定の形状、スピードなど、全てはが頭の中で思い描かれる。
「完全純化した理論値では、ユダと、レイというキャラクターが強いようですわね。しかし、人間同士の闘いではトキというキャラクターのスピードが最強と……。なるほど」
だが、どこか気に入らない。
もっと、自分の性格に合致したキャラクターが欲しい。
「拳……王……!? これですわ! ラオウ様こそが、わたくしには相応しいわ!」
強烈な攻撃力と、永久コンボ。目押しが重要な、職人系のキャラクターだ。
まだ経験の浅いカナメには、慣れとアドリブが必要な別キャラより、差し込みさえ成功すれば永久を狙えるキャラのほうが望ましい。
なにより、王という名前に惹かれる。
「よし……キャラ対策などのデータも覚えました。あとは実戦あるのみ、ですわ」
カナメはずかずかと2P側に座ると、コインを投入してナギに乱入した。
「ほう、初戦で私にいどむか。いい度胸だ」
「わたくし、自慢じゃございませんが、勝負事で他人に負けた覚えはなくてよ」
「自慢だろうが……」
戦いが始まる。
ナギのトキは、ナギを使わずに攻めを開始する。いわゆるひとつの舐めプレイだ。
が、ナギ無しトキの固めはナギ有りよりよほどぬるい。カナメはかろうじて対応していた。
(レバーとボタンに慣れることができれば、わたくしの能力で『理論値による運用』が可能なはず……!)
耐えつつも、立ち回りによる勝負に持ちこむカナメ。初めて故にぎこちない動きだが、ナギなしトキの火力の低さに救われる。
1ラウンドがナギに先取された。
「どうだ、北斗は楽しいだろう」
ナギがふふんと鼻をならしながら、優越感丸出しで話し掛けた。
「本当に、そうですわね。しかし……」
「?」
「これからが、もっとおもしろくなりましてよ」
2ラウンド目からのカナメの動きは明らかに違っていた。まるで、何年も鍛錬をつんだ修羅のごとき動き。
軽々とトキに差し込み、サイを入れる。長い長い目押しコンが。自分との闘いが始まる。
「なっ……こいつ、まさか……! いや、そんなはずはない。素人が目押し完走など……!」
「そういう舐め発言は、死亡フラグでしてよ」
「何……!」
裏サイにも成功し、カナメのラオウは見事永久コンボを完走してしまった。
がやがやと、ギャラリーが集まってくる。
「おい、初心者が目押し完走したぞ……!」「天才じゃ、天才の出現じゃ!」「北島マヤ、恐ろしい子!」
「まさか『ミス・ファイヤーヘッド』が負けるなんて……」「名前の由来から考えると不自然じゃないけどね」
ちなみに、『ミス・ファイヤーヘッド』とは、ナギのこのゲーセンでのリングネームである。
由来は、ウルトラ戦士隊長ゾフィーの、『ミスターファイヤーヘッド』という異名から。
彼が某鳥っぽい怪獣に頭を燃やされた挙げ句ぼろっかすに負けて殺された衝撃シーンから、そう呼ばれる。
つまり、ナギのリングネームは死亡フラグ満載だった。
「馬鹿な……!」
「そろそろ、お認めになっては? わたくしが、『王の器』だということを」
「くっ……なるほどな。認めねばなるまい。お前は確かに『天才』と呼ばれる部類の人間らしいな。ならば、本気をだそう。その強さに敬意をもって」
ナギの雰囲気が、目に見えて変化する。
深紅の髪は鈍い発光を始め、その瞳も怪しく光る。
(なるほど。野々村ナギさん。どれほどのものかと思いましたが、千歳様のご学友だけあります。……底知れないですわね)
カナメは、ナギから発せられる力がどういうものか、はっきりと今わかっていた。
(この方もまた、『王の器』ということ……。面白くなってきましたわ)
♪ ♪ ♪
「さて、なんだかんだで、彦馬には解決できないこともあるしな」
手伝ってやらねばなるまい。千歳はそう確信し、ある場所へ向かっていた。
学校の裏にある山の、最奥。相当な樹齢に達するという神木。
その根元の部分に、よりそうように眠っている少女がいる。
「やっぱ、ここか」
千歳はあきれたようにふんと息を吐いてから、少女のもとにかけより、肩を揺さぶる。
「起きろ、久遠(くおん)」
少女は応えない。死んだように眠っている。
千歳は冷静に脈を確認する。死んでいない。
「久遠、俺だ、千歳だ」
「……うぅん……いま、ねているから、おこさないで」
どう考えても起きている口調。
「……どうすりゃ起きる? 前みたいにチューペットでも買ってやろうか?」
ふるふる。
少女は頭を横に振った。どう考えても起きてるだろ、これ。
「ちとせ、ちゅーしれ」
「……はぁ?」
「ちゅーしれ」
目を閉じながら唇をとんがらせる少女。
「……」
千歳は、冷静に、なぜか都合よく持っていた激辛めんたいこ(!?)を取り出し、少女の口に押し付ける。
「ちゅー……っ!? ――ん――!!」
瞬間、目を見開いて飛び起きた少女。
しばらく周囲を走り回って、やっと戻って来たかと思うと、千歳の胸にダイブした。
「ちとせ! ひさしぶりっ! くちびる、からいね!」
「アホか」
「ちとせ、くおんバカっていった。くおんバカじゃない。ちとせまちがい。ちとせバカ」
「うるせぇよ。ツッコミだろツッコミ」
「ならなっとく! くおんかしこい?」
「ああ、賢いよ。久遠は賢い」
「くおんかしこい! ちとせすき!」
「ああ、ありがとな」
「すきだから、ちゅーする」
「どこで覚えたんだよ、それ」
「すいーつ!」
「携帯小説のことね……」
――極限まで出来の悪い妹を相手にしているみたいだ。
千歳は自分の体力が順調に削られているのを実感した。自分の実妹が百歌でよかったとも思う。
「おらぁ、てめぇ久遠姐さんになにしとんじゃ! ……って、千歳さんか。ご苦労様です」
「ん?」
いきなり現れていきなり納得した男。どうみても893。千歳には見覚えがある。というか、顔見知りだ。
「ああ、久遠の護衛の人か。悪いけど、しばらく二人っきりにしてくれ」
「へい、もちろんですぜ! それと、親分から伝言です『久遠を女にしてやってくれ。そのかわり俺の家を継げ』とのことです!」
「……おっさんに、『余計なお世話だくそじじい』って言っといてくれ」
「む、むちゃな注文ですぜ……」
「まあ、それに類することを頼む」
「合点承知!」
男はさっさとどこかへいってしまう。
「ふぅ……お前の家のやつは疲れる」
久遠が首をかしげる。
「ちとせ、どうしたの? くおんになにかよう?」
「ああ、ちょっと、訊きたいことがあってな」
「くおんをおんなにしてくれるんじゃないの?」
「そういうことを白昼堂々言わないように教育すべきだったな」
「じゃあ、どうしたの……?」
「うーん。話すと長くなるな。近くに山小屋があったろ。そこで話そう」
「うん!」
♪ ♪ ♪
白熱した第3ラウンドは、ついに終わった。ナギを解禁し、かつ経験の差とキャラ性能の差をしっかりと活用したナギに、当初はカナメが押され、体力は瞬く間に一ドットにまで減らされる。
が、その一ドットが果てしなく長い。
固めの中、甘えたバニシングを放ってしまったナギのトキに対し、カナメのラオウは見事に無想転生を発動。
そのまま永久コンボに移行し、見事に逆転勝利を収めたのだ。
沈黙。
誰もが、二人の熱すぎる闘いに口をあんぐりと開けることしかできなかった。
ぱちぱちぱち。
その沈黙を破ったのは、にっこりと満面の笑みを浮かべたイロリだった。
つられるように、徐々に拍手が増えてゆく。
誰もが、二人の闘いをたたえていた。
「……私の、負けだ。お前は、すごいな、カナメ」
「久々に、ここまで緊張しましたわ。どのような勝負事でも軽く勝って来たわたくしですが、ここまで本気になれたのは久しぶりです。ありがとうございました。ナギさん」
どちらからでもなく、二人は手を前にだし、互いに握り合った。
「さーて、勝ったカナメちゃんには、もれなくエクストラステージが待っています!」
「え……?」
「この私、西又イロリがお相手するよ!」
カナメも、ナギも顔を見合わせ、ぷっと吹き出す。
今更行く所まで言ってしまった自分達に対し、イロリごときがついてこられるのかとでも言っているようだった。
――王の器でもないくせに。
少なくとも、カナメはそう思った。
が、ナギはすぐに考え直していた。
(いや、イロリなら、あるいは、この天才にも……)
イロリは決して才能溢れるタイプではない。
だが、それ以上に何か、もっと深い……もっと大きな。王の器など、問題にもならないような何かが。
確信も無いし、証拠もなにもないが、ナギの感覚にひっかかる、何かがある。
もしかしたら。
「あー、私を舐めてるなー! これでもめっちゃやりこんでるんだからね! ハイスラでぼこってやる!」
「まあ、お相手いたしますわ」
カナメは明らかに馬鹿にした動作で2P側に座る。
イロリはナギに変わり、1P側に座った。
キャラ選択。先ほどに引き続き、カナメはラオウ。既に、最上級者の域に達している。生半可なレベルのラオウではない。
対して、イロリはシン。世間的には弱キャラとして扱われている彼である。
ギャラリーは、半ばイロリに対し、「死んだな」とでも言いたげな同情の目を向けていた。
第一ラウンドが始まる。
(さあ、どうきますの……?)
弱キャラを使うからには、慎重な攻めが要求される。カナメは、イロリはまず様子見からくるであろうと見越して、開幕は慎重に入った。
が、イロリは違った。
ゴクトをぶっぱしたのである。
「か、開幕ゴクトだー!! 汚い、このシン、汚い!」
「恥知らずなシン使いがいた!」
だれともつかないギャラリーの一人が、興奮して叫んだ。
(な、なんですの、この人、データとは全く違う……予測できない動き……!)
ペースを完全に乱されたカナメは、次の差し込みもイロリに負けてしまう。
やりこんでいると言うだけあってコンボをミスらないイロリ。体力をごっそり奪っていく。
そのまま壁に追い詰められ、起き攻めを連続される。
「くっ、このままだと思わないことね!」
カナメは反撃を開始……できない。
ラオウの技を、パワーゲイザー、もとい、ライシンで見てからつぶしてしまったのだ。まさに超反応。
そのまま汚い攻めにあい、ダメージは加速した。カナメは瞬く間に1ラウンドを失っていた。
「そんな……わたくしが……!」
「ふふーん。私を舐めた罪は重いよー。次は、開始四秒でやっつけてやる!」
「な、何をいって――っは!?」
第二ラウンド開始と同時にブースト投げ。そのまま一撃。そこにはぼろぼろになった金髪の雑魚がいた。
瞬きする暇もなく、イロリのシンがカナメのラオウを倒してしまっていた。
「そ……そんな、バカなことが……」
わなわなと震えるカナメ。カナメの寿命はストレスでマッハだった。
そんな彼女に、イロリは優しく話し掛ける。
「ジュースを奢ってやろう」
と。
「きー! くやしいー!! これではっきりしましたわね、わたくしの恋のライバルは西又イロリ、貴女なのですわ!」
「ようやく気付いたようだね。そう、私こそがちーちゃんのハートを射止める(予定)女よ!」
「千歳様と添い遂げる未来を掴むには、まずあなたから倒さねばならないようね。勝負ですわ!」
「望むところっ!」
テンションが上がってゆくイロリとカナメ。
「なんなんだこいつら……」
ナギは、若干置いてきぼりになるのを感じていた。
(ボケキャラばかりでツッコミがいない……。千歳、これほどお前が恋しくなったことはない)
が、ナギは、千歳がかつて無いボケキャラと相対している事実を、まだ知らなかった。
十六話 終
第十七話『遥か久遠の彼方に・前編』
この山は久遠の家、九音寺家の持ち物である。
それだけではない。この山のふもとにある千歳たちの通う私立高校も、もとを辿れば九音時家が出資して作られたものだ。
今は経営者が変わっているが、この辺りの地域を切り開いて活気付けたのは、九音寺家の功績だった。
故に、彼らの権力は強く、商店街などはいまだ主導権を握っている。
ヤクザというとあまり聞こえがよろしくないが、彼らは進んで汚いことに手を染めたりはしないし、人道に外れた行いもしない。
彼らは、カタギの人々が思っている以上に暗黒に包まれているこの日本の裏社会の波から、街を守っているのである。
さて、今千歳と久遠が入ったこの小屋は『旧九音寺跡』と呼ばれる場所で、たいそうな名前だが単なる庵だ。
もともと、何代か前の九音寺家の党首が出家した際に引きこもったとされる場所で、寺と言っても一人分の質素な居住すスペースに過ぎない。
隠者とは本来そういうものであるとは言え、この山奥で一人どうやって過ごしたのか。千歳は想像すら出来なかった。
街に下りていたのだろうか。が、九音寺組の親分が一度話してくれた伝説によると、久遠聖人とよばれたその僧侶は、ずっと野山で山菜をとって生活し、冥想にふけり、そして悟りを開いたのだという。
千歳は仏教家ではないがどれがいいかと質問されると三大宗教の中では仏教を好んでいると答える性質だ。
故に、むしろ疑問だった。
シャカは確かに偉大だ。が、それ以外の人間に果たして悟りなど開けるのか。
人間が、それほどに『真実』を究めることが出来るのか。
どうも、千歳には信じられなかった。
だが、久遠とつきあううちに、変わった。
久遠は、どの人類よりも『真実』に近いだろう。千歳は、そう思っている。
二人の出会いは、7年前までさかのぼる。
♪ ♪ ♪
「死んでやる……死んでやる……」
千歳がある『妄想』に取り付かれていた時期だった。
「俺は、何も救えない。俺は、神が見えた。だから、限界を知った。だから、救えない」
ちとせはある事件の影響で、ある種の真実に触れた。故に、無力感のあまり精神崩壊を起こしたのだ。
病院を抜け出した千歳は、ぶつぶつとネガティブな言葉を発しながら山の奥へと進んでいく。
この森で、誰にも見つからず死にたい。
「俺は、頑張っても神にはなれない……。だから、死んだほうがましだ」
虚ろな目からは、涙が絶え間なく流れていた。
秋。枯れ葉がつもり、足がとられる。苛立ちと悔しさと、枯れ葉とともに積もる無力感に打ちひしがれながらも、千歳は先を目指した。
本当は、どこで死のうなどどいう目的はない。
ただ、奥へ行きたかった。
真実に触れた今、ただ盲目的に前に進むことが何を招くか。それを知りながらも、進もうとしていた。
明確な終着点がなくても、ただ、立ち止まるのは嫌だった。
「しぬの?」
そのときだった。
上から、小さな声が落ちてきていた。
かほそく、森の沈黙の中にかき消されてしまいそうな、そんな声。
雛鳥の鳴き声にも似た。
「ああ、死ぬ」
千歳は、声の主を探り当てようともせず、応えた。
声の主が、人間であるとは、なぜか思えなかった。死後の世界からの迎えが来たのであろうと、千歳はなぜか思っていた。
妄想だったのだろうか。それとも。
その答えは、誰にもわからない。
「ころしてあげようか?」
「ああ、できるなら、そうしてくれ」
「そう……じゃあ、ここからおろして」
「はぁ?」
ここでやっと千歳は声の主のいるであろう方向を見た。
見ると、巨大な木があった。樹齢は相当なものだろう。その上に、小さな影。
千歳と、同い年くらいの少女だった。
「お、お前、そこにのぼったのか!?」
「そう」
「そんで、降りられないのか?」
「そう」
「のぼったんなら、降りられるだろ!?」
「ちがうよ、ぜんぜんちがうよ」
「なにが違うってんだよ!」
「まえにばっかりすすんでたら、いつのまにかうしろがみえてなかったの」
「お前なに言って……」
――いや。
千歳は気付いた。
それは、俺のことだ。
前しか見えていなかった。だから、大切なものを見落としていた。
何かにこだわって進むのはいいことだが、たまには立ち止まって、周りをみていなければ。
隣にいて、手をつないでいたい人も、いつの間にかいなくなっているかもしれない。
そうだ、そうやって……。
(そうやって、俺は守りたいものを失っていったんだ……!)
守るために戦って、その結果、守りたいものを壊した。
退かないことも、媚びないことも、省みないことも、強くなるには必要なことだ。
しかし、逆もまた、然りだった。
時に、退かねば。時に、媚びねば。時に、省みねば。本当の強さは得られない。成長しない。
(そうか……俺は……!)
「わかったら、うけとめてね」
「はっ……? え……。ええっ!?」
少女は千歳がその事実を認識する前に、木の枝から飛び出していた。
軽いからだはふっと落下する。このままでは大怪我だ。
「蒼天院清水拳・柔水盾(やわみずのたて)!」
ギリギリで落下点に追いつき、清水拳による空気の壁をつくってやんわりと減速させる。
ゆっくりと地面に近づいた瞬間千歳が見事キャッチし、そのまま倒れた。
地面が枯れ葉で覆われていて、良いクッションになってくれた。幸い、二人とも無傷だ。
「お、お前……あぶねーぞ! いきなり飛ぶなんて!」
「でも、ちとせはつかまえてくれた」
「ああ、俺だからできたけど、他の奴は……。あれ? なんで俺の名前を……?」
「かおにかいてる」
「顔に……?」
顔を触ってみるが、何もついていないし、顔に落書きした記憶もなければ、された記憶もない。
「ありがと、ちとせ。だいすき!」
少女は魅力的な微笑みを浮かべて、千歳にだきついた。
♪ ♪ ♪
現在。
小屋の中の机にすわろうとする千歳だったが、久遠に「ちとせちとせ」と呼ばれ、振り向く。
久遠はベッドの中にもぐり込んでおり、傍らをぽんぽんと叩いていた。
「ちとせ、おんなにして」
「お前、それどこで覚えた?」
「すいーつ!」
「まさに世も末だな」
あきれながらも、千歳はベッドに歩み寄り、腰をおろした。
「ちとせ、ひざまくら!」
「してくれる……わけねえよな。俺がするんだよな」
「ちとせのにおいー」
「さりげなく股間の匂いをかぐな。犬かお前は」
「わんわん♪」
「……ああ、ツッコミきれんわ」
膝に久遠を乗せながら、千歳はそろそろ本題に移ろうとしていた。
「それで、お前に聞きたいことなんだが」
「うん、なんでもきーて」
「お前は、『クオリア』を見たんだよな」
「くおりあ……?」
「真実ってことだ」
「ほんとうのこと……? それなら、たぶん、ちょっとだけ、みた」
「俺とお前以外にも『クオリア』を見たやつが出た。それで聞きたいんだが、クオリアによって崩壊した人格を直すには、どうすればいい?」
「……どうして、くおんにきくの?」
「俺は、お前がいないと立ち直れなかった……。思うに、自力で回復できたのはお前だけだ」
「……ううん、ちがうよ。ぜんぜんちがうよ」
久遠は悲しそうに首を振った。
「くおんも、ちとせがいたから、いきられた。ちとせも、くおんがひつようだった。それと、おなじ」
「同じ……? 同じって、どういうことだ」
「ちとせとくおんとおなじ。そのひとにも、つがいがいる」
「つがい……。対になる存在がいるということか」
カナメにも対になる存在がいる。なるほど興味深い意見だ。
カナメはそれを千歳に感じ取ったから、千歳に救いを求めてきたらしいが、千歳はそうは思っていない。
久遠と千歳の例をとってみるなら、互いに救い会える関係こそ、『つがい』なのだろう。
「そう。ひとはみんな、ささえあっていきてる。だから、くおんはちとせがすき!」
「意味深なこと言っといて、結論がそれか。まあ、助かったよ。ありがとな、久遠」
「おれいはいい! ごほーび!」
「ああ、わかったわかった。今度はなんだ。ハーゲンダッツか?」
「くおんこどもじゃないもん! おやつより、あまいもの!」
「おやつより甘い……?」
千歳がその謎懸けに悩み始めた瞬間、久遠が千歳を押し倒し、強引に唇を重ねていた。
「ん――!?」
千歳は、拒絶しようと思ったが、できなかった。いや、しなかったのだ。
久遠は恩人だ。大切な人でもある。ここで無理に拒絶して、もし、久遠を失ってしまったら。
それを考えると、久遠の唇を受け入れざるをえなかった。
「……ぷは。……おいしい。ちとせ、おいしい」
「こういうことを強引にするのは良くないって教えたはずなんだがな」
「ちとせ、いやだったの?」
急に涙目になる久遠。千歳が受け入れていることを疑いもしていなかったかのようだ。
「いや……ただ、心の準備ってやつがな」
「なら、もうできた」
「お、おい!」
再び、久遠が千歳の唇をついばみ始める。
さっきよりねっとりと、過激に。
(くそ……まじでどこで覚えたんだ!?)
舌をねじ込み、絡ませ始める久遠に、千歳の心は揺さぶられていた。
(だめだ……。心を強くもて、俺。久遠は……!)
少しして、久遠は名残惜しそうに唇を離し、悲しそうな目で千歳を見つめた。
「きょうはもう、おしまい。でも、つぎは、ちとせからね」
「……ああ」
♪ ♪ ♪
再び七年前。
久遠に連れられて小屋に入った千歳。
「お前、ここにすんでんの?」
「うん」
「どうしてだ?」
「ここが、おうちだから」
「答えになってねえよ……」
苦々しくツッコミをいれる。
「家族は? 両親は?」
「ときどき」
「会いにくるのか? じゃあ、家は?」
「まちに」
「街に家があるのに、なんでお前だけここに住んでんだよ」
「ここが、いばしょだから」
「答えになってねえよ……」
千歳は、久遠と名乗った少女の姿を見つめる。
浮き世離れした美しさをもつ少女だ。千歳も、百歌などその他多数の美女美少女をみてきた覚えがあるが、その誰をも遥かに超越していた。
むしろ、人というよりは天女のような風貌だ。いや、こんな暮らしをしているのだから、仙人か。
狐が化けたとでもいってくれるほうが、まだ説得力がある。魔性をひめた瞳。
黒いセミロングの髪は、髪形にこそ特徴はないが、よく似合っている。いや、どんな髪形をしても良く似合っているのだろうが。
千歳はこれほどの美しさの人間は始めてみたが、不思議と恐れや驚きは感じなかった。
であった状況が状況だからむしろあたりまえなのかもしれないが、不思議な縁を感じていた。
「でも、やっぱ変だ」
「へん? くおん、へん? それなら、よくいわれる……」
その時、そこまで表情豊かではないその顔が確かに悲しみに歪むのを、千歳は見逃さなかった。
「人と違うから、ここに閉じ込められたんだな」
「……うん」
「でも、お前は変じゃない」
「……?」
久遠は首をかしげる。
「間違ってるのはお前じゃない。お前の家族だ。ちょっとついて来い」
「どこ、いくの?」
「下山するぞ。お前の家に行く。案内しろ」
「でも……」
「でもじゃねえよ! 家族は一緒にいるのが一番なんだ! お前をこんなとこに閉じ込めるなんて、間違ってる!」
「……うん」
「なんじゃぼうず。うちの組になんかようかいな。ああ?」
久遠に聞いた苗字、『久遠寺』。それを聞けば、久遠がどの家の人間であるかなど、すぐに分かった。
だから、今久遠寺組の親分の屋敷にきている。この街で、その場所を知らない人間はいない。
「ああ、用がある。久遠のことでだ」
千歳は、自分の陰に隠れさせていた久遠をひっぱりだす。
ヤクザ男の目の色が変わった。
「おどりゃ、このクソガキ! 親分の娘さんを!」
拳を振り上げ、襲い掛かる男。
「蒼天院清水拳・竜虎飛砕拳」
千歳が掌で拳を止めたと同時に、男の拳が砕けた。
「がっ! ぎゃあああああああああああ!!!」
手を押さえてのた打ち回る男を全く省みず、千歳は久遠の手を引いて、中に進入した。
門での騒動が聞こえていたのだろう。次々と手下が出てくる。
しかし、こちらは子供だ。見事にみな、油断してくれている。
拳を振り上げ、向かってくる男が数人。清水拳によるカウンターで、一瞬にして昏倒させる。
「ちとせ、つよいつよい!」
「そうじゃなきゃ、こんな無茶はしない!」
さすがに千歳の厄介さに気付いたものが、刃物を取り出し始めた。
「ちとせ……あれは、いたいよ」
「わかってる! つかまってろ!」
千歳は久遠を抱き抱え、そのまま蒼天院炎雷拳によって地面をけった。すさまじい衝撃に吹っ飛んだ千歳と久遠は、屋敷の屋根の上に着地する。
「こっから、お前の親父の部屋までいくぞ!」
「うん、いちばんおく」
「おう!」
縮地法により、高速で到着。そのまま炎雷拳で屋根をつきやぶり、真下に大穴を開け。久遠を抱えたまま中に飛びいった。
見事に着地。
しかし、そこには刀を持った多くの男が待ち構えており、千歳にそれを突きつけていた。
「ちっ……!」
「おうおう、とんだ大立ち回りをやらかしてくれたじゃねえか、小僧」
そして、部屋の最奥で断っている男。明らかにオーラが違う男が、千歳に声をかけた。
「あんたは……?」
「俺かい? 闇に生きる隻眼の虎、久遠寺轟三郎とは、俺のことよ!」
かっこうつけて自分を親指で指す轟三郎。なるほど、きどった態度は鼻につくが、それでもほかとは違う。
圧倒的な存在感がある。
「それで、小僧。俺の娘を連れて何しに来たって訊いてるんだ」
「そうだ。そのことだ……。久遠を山に閉じ込めるのは、何故だ!」
「小僧、それじゃ零点だ。俺は質問をしてるんだぜ。質問で答えちゃあ……」
轟三郎が一歩踏み出す。
どっ!
鈍い音が響きたる。轟三郎の踏み出した足が床の畳に大穴をあけたのだ。穴の中心からは衝撃が熱に転化された跡の、煙が上がっている。
「だめってことよ」
(あれは……炎雷拳か? どうにせよ、このおっさん、かなりの使い手だな)
臆する事無く、冷静に分析する千歳。
場合によっては実力行使もしなければならないのだ。今のうちに相手の戦力を分析すべきだろう。
実際、千歳は自分を囲む帯刀の男達を、あまり脅威には感じていない。自分に向ける殺気のていどが、たかが知れているからだ。
刃物を持っているが故に、逆に油断して負けるタイプ。武道家にとっては最もやりやすい。
だが、目の前のこの男、轟三郎は違う。千歳と同等か、それ以上の技術。
そして、千歳を大きく凌駕する闘気。
千歳は攻めを主体とする剛の拳になら、何があろうと絶対にかてる、と、清水拳に自信を持っている。
が、今、この男はそれすらも打ち破る可能性を秘めている。
どこまでも、千歳は慎重だった。
「久遠を山に閉じ込めることは間違っている。そう思って俺はここへ来た」
「そうかそうか。そういうこと。……小僧、お前は立派だよ。ああ、俺の負けだ。久遠とは、仲良く……」
どっ!
もう一歩、踏み込んでくる。今度は先ほどより畳の損傷が大きい。
「とでも、言ってくれると思ったのかい? ええ、小僧」
「俺が間違っているというなら、久遠をあそこに閉じ込めた理由を教えろ」
「理由? はっ! 理由なんてねえよ! 世の中、皆がみんな理由があって生きてると、まさかほんとに思ってるわけじゃあるめえな? 腹が減ったから飯を食う。バナナの皮が落ちてたから転んだ。本当にそうだと思ってんのかい?」
「なにが……なにがおかしいんだ」
「俺はよぉ! 誰の指図もうけねぇぜ。俺がそうしたいからそうする! 俺がこうやって生きてんのも、誰のせいでもねえ、俺が選んだからだ! なあ、小僧、強いって、そういうことだと思わねぇか?」
「なに言ってんだよてめえ……。てめえの理屈でてめえは人を傷つけんのかよ……。てめえの理屈で娘を悲しませんのかよ……!」
「悲しい、だ? 俺が悲しませた? 小僧、あんたは俺のいうことを、何にも理解してねえな。久遠が悲しいって思ったなら、久遠が悪いんだろうよ。悪いが俺の家はそういう教育方針でね」
「うるせぇ!!」
千歳の闘気が爆発した。
衝撃で、千歳を取り囲んでいた男達が吹っ飛び、壁に激突する。
「ほう、ガキにしちゃ、やるな」
「俺は……あんたを倒してでも、久遠を救う」
「救う、ねえ。しょんべんくせぇガキの正義で、何を救うって?」
「しんべんくさくても、泥臭くても、青臭くても……。どんなにかっこ悪くてもな。俺は、前に進む。久遠の悲しい顔を見ちまったんだ。涙は流れていなくても、久遠は泣いていた……。だから、俺がその涙を止めてみせる」
「……なら、もう言葉はいらねえ。こいや、小僧」
「はああああああ……!」
闘気を溜め始める千歳。
「ちとせ……だめ……」
涙目になりながら、千歳の服を引っ張って止めようとする久遠。
「止めるな、久遠。俺は、お前の幸せをつかむ」
「しあわせ……? しあわせって、なに?」
「知らないなら、俺が掴んでやる。俺が教えてやる。……だから、信じろ!」
千歳が前にでる。
「おせえ!」
轟三郎がカウンターで拳を突き出す。
「うおおおおおおおお!!!」
こちらが完全に直線的な攻めを振ったのだ。相手もそうしなきゃ、打ち破ることはできない。
千歳はその読みを的中させた。
発声と共に闘気を解放し、轟三郎の拳を清水拳で受け止める。
――俺の勝ちだ!!
互いの闘気がぶつかり合い、強烈な発光。
家具、畳が吹き飛ぶ。
……。
そして。
「そんな……。ちとせ……」
立っていたのは、轟三郎だった。
第十八話『遥か久遠の彼方に・後編』に続く
終了です。
おつ
おつです
wktkwktk
おつ
ワイヤード待ってました
GJ!!
乙だけど九音寺なの九遠寺なの?
すみません。九音寺は誤字多いです。「九音寺」で正解です。
久遠とまぎらわしいので……。失礼しました。
(作者 携帯より)
インドア派で休日は2chやニコニコ動画に草を生やしているような男ならともかく、
スポーツやツーリングが好きで外に出たがる男を監禁するのはかわいそうだと思いませんか?
>>314 雌豚どもがいるやもしれない場所にいるほうがよっぽどかわいそうです
だからたとえアウトドア派の人間でも、この部屋の中にいるのが一番の幸せなのです
>>315 返信ありがとう
俺は圧倒的に前者だから、なんともないぜ!
証拠にこんな時間なのにヤンデレに惹かれて作品を読み漁っているのだから
317 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/25(日) 01:59:07 ID:rNsZJoP0
つまんないからもう投下すんな
それは困る。俺の楽しみが減って景気に悪影響が出る。
>317
つまらんのならとばせ
そしてsageろ
嫌ならNGすればいいだけ
321 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/25(日) 08:44:01 ID:LMfTn2pf
ヤンデレなのか?
ブロントwwwww
おいやめろ馬鹿
早くもこのスレは終了ですね
>>321 私がどうやってヤンデレだって証拠だよ
言っとくけど私はヤンデレじゃないから
あんまりしつこいとバラバラに引き裂くぞ
とりあえず落ち着こう
作家さんが住みづらくなったら困る
ヤンデレブロンティストという電波を受信した
327 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/25(日) 16:46:46 ID:0yz3DqQQ
ワイヤード最高!
ワイヤードはヤンデレ成分が低すぎるからな…だから叩かれるんじゃね?
厨二臭い
こんどはこっちで荒らしかもう秋田このナガレ
スルーしとけよ
332 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/25(日) 18:18:19 ID:rNsZJoP0
入れ食いだ
333 :
変歴伝 6:2009/01/25(日) 19:42:08 ID:K0KWI/lq
投稿します。
334 :
変歴伝 6:2009/01/25(日) 19:44:52 ID:K0KWI/lq
「はっ…」
目が覚めた業盛は首に手をやった。
なんともない…。
「夢か…」
最悪の夢だ。これほど疲れた夢はそうはない。着ている服は汗でぐっしょり濡れている。
水浴びがしたい。
外を見てみると空が少し白んでいた。まだ早朝なのだろう。
業盛は菊乃を起こさないようにそっと外に出た。
外は涼しかった。汗を掻いた業盛にはそれが心地よかった。
水路を辿りながら、業盛は夢の内容を思い出していた。
別に夢占いを信じるほど業盛は信仰深くはないが、気になったのは夢の中のあの声である。
「あの声は…菊乃さんの声だった…」
あの夢は俺が彼女に殺されるという暗示なのだろうか?
しかし、業盛には菊乃に殺される理由はない。
考えすぎか…。
そう思ったが、なぜ夢の中に菊乃が出てきたのかということが頭の中に引っかかった。
しばらくすると川のせせらぎが聞こえてきた。
業盛は歩く速度を速めた。川のせせらぎが近くなると、
今まで何度となく嗅いだ臭いも強くなってきた。血の臭いだ。
よせばいいのに、業盛は血の臭いがする方に向かって歩き出した。
血の臭いが強くなるにつれて、川のせせらぎ以外に別の音が聞こえてきた。
川のせせらぎとは違う水音。まるで汁気の多い物でも食べているかの様だった。
水音はこの草むらの先から聞こえてくる。
のぞいてみると川原で倒れている男の横に、女がうずくまっているのが見えた。
女は血まみれだった。両手にはなにか管みたいな物を持っていた。
その管は…男の腹に繋がっていた。
女は口の周りを血だらけにし、恍惚の表情ではらわたを食べていた。
「…あは…あなたの…いしいよ…。…ふふ…様…好き…愛してる…。これか…も、ずっと一緒…」
遠くからで聞き取り辛いが、そのように聞こえた。
目を逸らしたくなるような光景だった。正直、逃げたかったが、体が硬直して逃げられなかった。
すると、さっきまで虚空を向いていた男の顔が業盛のいる草むらの方を向いた。
あれは…平蔵…。
業盛は声が上がりそうになった。
平蔵は虚ろな目でこっちをじっと見つめていた。
死んでいるのだから当然だろうが、業盛にはそれが生きているように見えた。
業盛はその場から逃げ出した。耐えられなかった。
平蔵が何者かも分からない女に食われるのを見ているのが辛くなったのだ。
このまま逃げるべきだったのかもしれない。
しかし、業盛は菊乃の家に向かっていた。既に夢のことなど忘れていた。
335 :
変歴伝 6:2009/01/25(日) 19:46:28 ID:K0KWI/lq
菊乃は既に起きていた。
「業盛様、どこに行っていたのですか」
すさまじい形相で聞いてきたので、思わず後退りしてしまった。
「あ…汗を掻いたから…水浴びを…」
「なんで私に言ってくれなかったのですか」
「ぐっすり眠っていたので…」
「そんなことは関係ありません!」
そのすさまじい気迫に声がだんだん小さくなっているのに気付いた。
これでは川のことなど口にも出せない。
「起きた時、あなたがいなかったから心配したんですよ。
また私を置いてどこかに行ってしまったのかと思ったんですよ」
とにかく、ここは謝り通したほうがいい。
そう判断し、ひたすら頭を下げた。菊乃から放たれる気迫が、
少しずつだが和らいでいくのを感じた。
「とにかく、これからはどこかに行くときはちゃんと言ってくださいね」
菊乃はそれだけ言うと、朝食の準備に取り掛かり始めた。
参ったな…。
完全に言い損ねてしまった。いまさら言うのも気が引けてしまう。
次に言う機会を考えていたが思い浮かばない。
そうこうしている内に目の前に料理が並べられた。
「さっ、どうぞ」
菊乃が業盛に笑みを向ける。
正直、食べる気にもならないが、
それでも食べられるのは武士の家に生まれた賜物なのかもしれない。
とにかく、今はしょっぱいものが食べたいので最初に漬物に手を付けた。
歯ごたえが良く、味も昨日のよりも染みていた。
続けざまに玄米を口に入れた。少し固めだが、ちょうどいい炊き上がりだった。
噛んでいると甘みが広がり、漬物のしょっぱさを中和した。
ここでひとまず口の中を潤そうと野菜汁に手を出した。
野菜汁のお椀に口の前に近付けた時、菊乃と目が合った。
菊乃の目は笑っていた。しかしその目は、今までの菊乃の目ではなく、
葵の時のような、淀んだ目…警戒心を煽り立てる様な目をしていた。
「どうしたんですか、飲まないんですか?」
菊乃が業盛に問い掛ける。
嫌な予感がする。これを飲んでしまえば取り返しが付かない様な気がする。
しかし、飲まねばもっと取り返しのつかない様なことが起きそうだ。
どうするべきか…。
野菜汁のお椀は、業盛の口の前で止まっている。
「業盛様、冷めてしまいますよ…」
菊乃が今度はじれったそうに言った。
さすがにこれ以上延ばすと、菊乃が怒鳴りかねない。
仕方がない…。
業盛は腹を括って、口の前で止まっていたお椀を傾けた。
菊乃はそれを見てまた笑った。
「おいしいですか、それ」
菊乃の目には未だにどんよりとした光が宿っている。
「ええ、とても。これほどおいしい料理が作れるのなら、どこに嫁に行っても大丈夫ですね」
とりあえず、ここは刺激するよりも誉めておいた方が得策だと思い、そう口走った。
「あ…すいません。余計なお世話でしたね」
少し厚かましいと思ったので、多少補った。
「ふふ、そんなことありませんよ。そう言ってもらえて嬉しいです」
まんざらでもないみたいだ。
このまま、何事もなく終わればよかったのだが、
「業盛様…私、あなたに言わなければならないことがあるのです…」
突然、菊乃が改まった口調になった。
その目はえらく真剣だった。
336 :
変歴伝 6:2009/01/25(日) 19:47:07 ID:K0KWI/lq
「業盛様…私には夫はいない…と、最初に言いましたよね。
…実は…あれは嘘だったんです。…私には夫がいました。本当に…本当に短い間でしたけど…」
なにか言おうとしたが、舌が痺れてうまくしゃべれない。
やはり、野菜汁の中になにか入っていたようだ。
「六年前の夜…夫は私の目の前で野盗に殺されました。
私は…その時、野盗に体を犯されました。
…夫に捧げるはずだった操を…汚らわしい野盗に奪われました…」
手が震えだした。箸も椀も床に落としてしまった。思いのほか薬の進行が早い。
「しばらくして、私…身ごもっていることに気付きました。
相手は…私を犯した野盗でした。…産まれてきたその赤ん坊…私、どうしたと思いますか。
ぎゃあぎゃあうるさいから…首を絞めてやったんです。
そしたら…赤ん坊って脆いんですね…簡単に首の骨が折れちゃったんですよ…」
目がだんだんおかしくなっている。目の前の菊乃が三人に見える。
「その時から、私…男というのが信用できなくなりました。
今までにも何人かの男が寄ってきました。少し優しい声を掛けただけで勘違いして、
馬鹿な奴は婚姻を迫って来て…あまりにもうるさかったから、
寝ている時にちょっと強く叩いただけでしゃべらなくなって…本当、
処理するのが大変だったんですよ…」
不味い、本当に不味い。なんとか意識を保ってはいるが、もうそろそろ気力も限界だ。
「ですが、あなたを見た時、私は驚きました。あなたが死んだ夫にそっくりだったんですから…。天の思し召しかと思いました。けど、同時に単なる勘違いかもしれないと思いました。
…だから私、試したんです。私がわざと無防備な女を演じて、
あなた達が手を出したら、ずっと眠っていてもらおうと…。
ですが、あなたは私に手を出さないだけでなく、仕事も手伝ってくれました。
私は確信しました。あなたになら…この体を差し上げてもいいと…」
菊乃がゆっくりと立ち上がった。
「もう…絶対に離しません。大丈夫…怖くなんてありません…。
ただ、昔の生活に戻るだけなんですから…あなた…」
服の帯を緩め、その白絹の様な肌と、椀の様な胸を見せ付けながら歩を進め、
菊乃は業盛の目の前に立った。
「愛しています…業盛様…」
そう言って、業盛を抱きしめようとした。
337 :
変歴伝 6:2009/01/25(日) 19:47:39 ID:K0KWI/lq
その時、業盛は菊乃に思いっきりぶちかました。
菊乃は小さく悲鳴を上げて吹っ飛ばされた。
業盛はふらつきながらも外に出た。そして、すぐさま口に指を突っ込んだ。
すると吐き気がこみ上げてきて、胃の中の物が吐き出された。
漬物やご飯、それに野菜など、いまだに原型を留めていた。
しばらく続けると胃液しか出てこなくなった。
少し、体が楽になった。口に含んで飲んだふりをしただけでこれなのだから、
一口でも飲んでいたら取り返しの付かないことになっていた。
なんとか切り抜けたが、早くここから去らなくては。
業盛は未だに痺れる体を引きずりながら歩き出した。
なんとか川原まで来た。ここまで菊乃は追ってこない。あれで気絶してくれたのなら幸いだ。
川には未だに血の臭いが漂っていた。
見てみると、平蔵の死体にさっきの人食い女が折り重なるように倒れていた。
ぴくりとも動かないのを見ると、どうやら死んでいるらしい。
たぶん、平蔵のあとを追って自害したのだろう。
業盛はそれから目を背けると、川に沿って歩き出した。
しばらく歩いていると、やっと森の外に出ることが出来た。
十二日ぶりの外界は、十二年ぶりに故郷に帰ってきたのと同じ気持ちにさせる。
あとは近くの家で都への街道を聞くだけだ。
少し安心した業盛は、懐から久しぶりに干し柿を取り出し、かじり付いた。
思えばずいぶんすさまじい体験をした。
相手に好意を抱かせ、誘い出し、殺す女。好き、愛してると呟きながらはらわたを食べる女。
殺された夫に似てるから監禁しようとする女…絶対に人に話したくない体験だ。
いったいなにが彼女達をそうさせたのだろうか。
とにかく、言えることはもうこのような女とは関わりたくないということだ。
そんなことを考えつつ、業盛は都に向かった。
338 :
変歴伝 6:2009/01/25(日) 19:48:07 ID:K0KWI/lq
二日後の夕刻、やっと都に着いた業盛は、すぐさま清盛のいる六波羅に向かった。
どうやら、清盛は所用でどこかに出かけているらしく、
応対したのは家宰(家事を取り仕切る人)だった。
「お前が業盛か…。ずいぶんと遅かったな」
家宰は紹介状を見ながら言った。
「少し、道中で問題がありましたので…」
道に迷ったなど口が裂けても言えない。
「ふむ…そうか…。まあよい。お前のことは清盛様に伝えておく。
それと早速、お前には仕事に取り掛かってもらう」
そう言いながら家宰が案内したのは池だった。
「あの…なにをするのですか?」
「今日より、朝と夕に鯉に餌を与えるのがお前の仕事だ。
清盛様が飼っている大切な鯉だ。餌をやり忘れるなよ」
「それが終わったら、次になにをやれば…」
「ない。それが終わったら、あとはお前の自由だ。好きにするがよい」
「あの…それだけですか…?」
「不服か?」
「いえ…別に…」
なぜか威圧された。こうゆう人嫌いだな、俺。
とりあえず、池に餌を撒き、今日の仕事は終了した。
業盛はあてがわれた部屋で寝転がっていた。
「暇だ…」
思わず呟いた。
武士の仲間入りをしたのだから、生活も劇的に変わるのだろうと思っていたが、
大して変わらず、これでは部屋住みの頃と大して変わらない。
「俺…ここでうまくやっていけるかな…」
不安と失望を抱いた業盛は、そのまま目を瞑った。
「戦争でも起きればいいのに…」
そんな不謹慎なことを考えたのを最後に、業盛の意識は夢の世界に旅立った。
339 :
変歴伝 6:2009/01/25(日) 19:49:24 ID:K0KWI/lq
投稿終わりです。
少し手間が掛かりました。すみません。
このままでは生還エンドですが、まだ続きます。
今日の内にかけるかもしれませんので、
あまり期待しないで待っていてください。
おつです
おつ
wktk
342 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/25(日) 20:26:15 ID:LMfTn2pf
gj
344 :
変歴伝 7:2009/01/25(日) 22:49:52 ID:K0KWI/lq
有言実行。
投稿します。
345 :
変歴伝 7:2009/01/25(日) 22:50:29 ID:K0KWI/lq
清盛に仕えてから、ちょうど一年目の初秋。
業盛は朝の鯉の餌やりが終わり、暇を潰すべく都に行こうとすると、家宰に止められた。
「おい、業盛、自分だけ仕事が終わったからといってどこかに行こうとは、
お前は仕事を舐めているのか」
最近、この家宰がなにかと突っかかってくる。
「ですが…」
「口答えするな!」
怒鳴り声が、業盛の耳を貫いた。
「お前、いつから俺に口答え出来る立場になったんだ。調子に乗ってんのか!」
「………」
あまりにも理不尽な言葉に声も出ない。
「なんだその目は」
「…いえ…なんでも…ありません…。…すみません…」
「ちっ、使えねぇ…。お前みたいな奴が戦いの時に真っ先に死ぬんだ。
まあ、俺としては、そっちのほう目障りなのが消えてくれて清々するんだがな」
家宰はそれだけ言って、呵呵大笑しながら去っていった。
…本当になんなんだあいつは。俺がなにをしたというのだ。
目障りな奴だ?
目障りなのはお前の方だ。あいつ、戦争で死なないかな…。
それとも…いっそ、ここで…。
「おーい、三郎―」
不謹慎極まりない考え事をしていると、後ろから声を掛けられた。
「またあの家宰に捕まったみたいだな」
「あぁ…あいつ、俺を見るたびになにか言ってくるからな。
こっちは殺意を抑えるので精一杯だったよ。で、なんのようだ?弥太(やた)?」
「あぁ、今都で唐からの貿易品が来ているんだとよ。知ってたか?」
「いや、でも、俺はそうゆうのには興味がないし…」
「なんでも唐の果物も来ているらしい…ぞ…」
弥太郎が話し終えた時、業盛はその場にいなかった。
「三郎…話は最後まで聞こうぜ…」
弥太郎は長大息を吐いた。
346 :
変歴伝 7:2009/01/25(日) 22:51:22 ID:K0KWI/lq
朱雀大路にやって来て、
それっぽい店を手当たりしだい探し、貿易品を扱う店を見付けた。
「唐の貿易品を扱っている店はここか?」
「はい、そうですが。なにかお探しの物でも?」
「唐の果物がほしいのだが、お勧めの物はないか?」
「お勧めですか…。そうですね…。ライチなんてどうでしょうか?」
「らいち…?この小さいやつか?」
「はい、唐の華南で取れる果物で、その上品な甘さで唐の国では人気があります」
「三つしかないのか?」
「保存が難しく、ここまで持ってくるのにほとんどが駄目になってしまったのです」
「いくらだ?」
「一つ三斗(一斗は一万円)でいかがでしょう。三つ買うのなら、九斗の所、七斗に負けますが、
どうでしょう?」
「まぁ…それでいいや。買おう」
「毎度あり」
しばらく歩いていた業盛は、早くライチを食べたいという気持ちが抑えられず、
近くの茶屋に腰掛け、一つライチを口に入れた。
うん…確かにこれは美味い。癖は強いがしつこくなく、後を引く甘みがたまらない。
もう一つ食べる。至福。ちょっと前までのいらいらが消えた。
最後の一口、業盛はライチの皮を剥こうとした時、後ろからぶつかってきた客のせいで、
ライチを落としてしまった。
ライチはころころ転がって、大通りを歩く人々の股下を潜り抜け、そして、踏み潰された。
「あ…あああああああああああああ」
思わず叫び声が出てしまう。ライチが…。最後の一つだったのに…。
七斗もしたのに…。高かったのに…。高かったのに…。高かったのに…。
347 :
変歴伝 7:2009/01/25(日) 22:51:52 ID:K0KWI/lq
…許さない…。ライチを踏み潰した奴を…絶対に許さない。
業盛はライチを踏んだ奴を目で追った。
あのデカブツか…。
顔を確認した業盛は、走り出した。
「おい、どこ見て…」
さらに加速する。
「兄貴、この女…」
かなり近付いた。なにやら取り込んでいるらしいが、そんなことはどうでもいい。
「あ、兄貴、あれ!」
デカブツの横にいたチビが、俺の存在に気づいた時、俺は跳躍し、さらに捻りを加えた。
「なんだ?」
デカブツが振り向いた時、ちょうど目が合った。
俺はデカブツの鼻に全身全霊を込めた一撃を叩き込んだ。
破裂音と鮮血と共にデカブツは吹っ飛んだ。横にいたチビも巻き添えを食ったようだ。
ライチの恨みだ…。ざまあみろ。
業盛は白目を剥いて気絶しているデカブツとチビを見下ろし、その場を去ろうとした…
「ちょっと、あんた、待ちなさいよ」
が、凛とした声に止められ、振り向いてみると、
いかにも性格のきつそうな目付きをした女性がいた。
「あんた、なに余計なことしてんのよ」
余計なこと…?彼女はなにを言っているのだろう?
「あんた…分からないって顔してるわね。
今あんたがぶちのめしたそこの二人のクズのことよ」
彼女が倒れてる二人のクズを指差した。あぁ…こいつ等のことか。
「あんたの力なんか借りなくても私はこいつ等に勝てたのに、
なに余計なことしてくれてんのよ」
どうやら、さっき取り込んでいたのは彼女のことだったらしい。
「あんた、こんなことで私に近付こうと思っているんじゃないでしょうね?
馬鹿にしないで。私、そんなことで恩義を感じるほど安い女じゃないわ」
彼女はなにかを勘違いしているようだが、その誤解を解くのも面倒くさい。
彼女は話に夢中になっているようだし、ここはずらかることにしよう。
「まったく…お父様も…私は…」
彼女はまだ話し続けている様だ。元気だな…。
348 :
変歴伝 7:2009/01/25(日) 22:52:31 ID:K0KWI/lq
日が暮れてきた。そろそろ餌やりの時間だ。
業盛は両手に干し柿と干し桃を持って帰ってきた。
「あっ、三郎。お帰り」
弥太が門前で待っていた。
「どうした弥太?そんな所で?」
弥太郎には珍しかったので、思わず聞いてみた。
「さっきまで姉上が来ていてさ、散々愚痴ってやっと帰ったんだ」
「愚痴?」
「なんでも、昼間にごろつきに絡まれている所を、
見ず知らずの人に助けられたんだってさ。
でもその男、姉上がお礼を言っている最中にどこかに消えてしまったんだとよ。
それで姉上、大恥かいたって、わざわざ俺の所まで来て、愚痴ったって訳。
まったく、とんだとばっちりだよ」
「それは災難だったな、弥太」
「まったくだ」
二人は笑いながら門内に入っていった。
349 :
変歴伝 7:2009/01/25(日) 22:53:55 ID:K0KWI/lq
投稿終了です。
新キャラ出しました。
いろいろ込み合ってきたので、そのうち
登場人物を纏めようと思います。
では、おやすみなさい。
350 :
sage:2009/01/25(日) 23:00:59 ID:c+XGxQQe
乙
そしてとりあえず酉つけろ
やっちまった、酒が入ってるからってことで
スルーしてくれ
おつ
こういうのも好きだ
前によく見た書き手を最近見ないな、と思いながらモニターを眺めていたら。
「パソコンと私どっちが好きなの?」
って、彼女が言った。
ヤンデレ家族来ないなぁ
余程大作のプラモでも作ってるのだろうか
そりゃやっぱりヤンデレに監禁されてるんだろ
いいなぁ
葉月さんの下の名前が明かされるまでは死ぬわけにはゆかんのじゃ
まぁオチは決まってるらしいし
>>356 「パソコンだよ」
「あはははは、このパソコンがいけないんだ!」パソコン死亡
「お前だよ」
「じゃこんなパソコンいらないよね」
パソコン死亡
ドンマイだな
ヤンデレ「携帯電話の着信音をあなたの声にしたいから、なんか言って欲しいな」
我々「 」
なんと言う?
二度と僕の前に現れないでくれ
我々って書くと違和感あるな
ヤンデレの愛が複数の男に向いてるような
368 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/27(火) 16:02:06 ID:SKp9TwIL
護くんじゃないか。
ゾンダー許せない
ヤンデレが「光になれぇぇぇ!」と叫びながら泥棒猫に金槌を打ちつけまくるんですね、わかります
右手にロープ
左手に怪しい注射器
そんな監禁ヘル・アンド・ヘブン
まさに地獄かつ天国!!
374 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/27(火) 21:02:26 ID:5GKHocmp
『ヤンデレ家族と傍観者の兄』
続きが超気になります。
「ゴ●ディオンハンマー発動承認!」と親父さんの声がどこからか‥
「光になれぇぇぇぇぇぇ!」
ソ連もビックリのハンマー登場
サブに鎌「デスサイズ・ヘル!!」
そんな熱く燃える某機械大戦な彼女が居たら欲しい。
愛の力でどんな壁もぶっ壊すよりボロボロになりながらも何度も攻撃する方がキュンキュンする
何が言いたいかと言うとヤンデレが超人過ぎる、普通の女の子でいいじゃない
>>376 何言ってんの?
彼女達のどこが普通の女の子じゃないわけ?
冗談はさておき、人間、死に物狂いになればある程度常識を外れた力を発揮できるもんだからじゃない?
ヤンデレに戦闘能力を持たせちゃいけないって、何で分からないんだ!
ヤンデレ好きだけど、殺しが好きじゃない自分は異端?
誤認や自傷みたいな静かに病むのが好きなんだが。空鍋や空電話みたいに。ヤンデレ好きとして失格かな…?
異端じゃないと思うが
てかヤンデレだからって殺しが必ずなければいけないとか決まってないと思うが
おいらは監禁しちゃうヤンデレが大好きだ!
ヤンデレの幼馴染みに、コミケで二時間並んで買った同人誌をやぶられて
ついついキレて出て行けと叫んでからの意識が途切れていつのまにか
ベットに手足が縛られていて、「この本があるから私をみてくれないんだよね?」
といわれて、俺の今まで買ってきた同人誌全てを燃やされた
という妄想してしまった・・・・ちょっと吊ってくる
>>362 目障りなんだよ!僕の目の前から消えてしまえぇぇっっ!!!!!!
>>379 俺も殺しはそんなに好きじゃない
監禁は好きだな
ヤンデレってひたすら一途で他の男(女も?)を見下してて家畜程度にしか思ってない、っていうイメージあるんだけどさ
好きな相手以外に少しは心許してて少なくとも「友達」である男が一人位は居てもいいと思うんだ
女友達ならともかく男は嫌だなあ
想い人に手を出さない絶対の保障が無ければ男だろうと女だろうと信用されない予感
難しいんじゃないか? そうすると男に女友達がいるのを認めないといけないし
つまりそれはつけいれられる隙になるし
まあ病む前がそれで病んだ後は完全に主人公一筋で「私以外といちゃだめぇぇぇぇぇぇぇ!!」ならいいが
>>385 なんでそう思ったのかは知らんが、それメリットがないような気がする
想い人だけってほうが見ている俺たちからすれば、依存やら執着やらが強いように感じるだろうし
既に病んでるのに他の男と仲良くしてたら、何このメンヘラって思うだろうし
もう暫くここ見てなかったけど、今基本ヒロインが障害持ちっていうSSはあるんかな。
主人公が医者もしくは教師で、病院か養護学級で障害持ちヒロイン達と接していくうちに、
ヒロイン達が主人公無しではいられなくなるという電波を受信してしまったのだが。
主人公が盲目とか後半でヒロインが障害持ちになる作品は有った気がするんだけどな。
作品が被っても申し訳ないしどうしたものか。
>>362 「愛してるよ、○○。」
ポイントは、ヤンデレの名前じゃなく他の友達(男もアリか)の名前を呼ぶこと
>>392 男の名前を言ったら尻狂いに調教されそうだな
ペニバンを使うヤンデレって意外といないような気がする
ヤンデレだったら自分の体のみを駆使して尻を責めると考察。
ベアー・クロー!
某エロゲでは、BADENDでヤンデレヒロインに女装させられて、
主人公が手を使わずにバイブをひり出す事が出来る変態に調教されてたな。
それkwsk
俺たちのリアルよりよっぽどハッピーエンド
ここの過去作品でヒロインが弓を使って恋敵を攻撃したり、車に轢かれたりするのってなかったっけ?
タイトルが思い出せない……
ヒロインが千里眼みたいなのもってるやつか?
なんだったかなー・・・
沃野かな?
たしか修羅場スレの作品だったはず
>>400 それです
確か恋敵の策略で轢かれるんだけど、追ってきて弓で追撃だったような
>>401 修羅場スレでしたか
最近覗いてなかったから間違えた……、サンクス
このスレができるまではヤンデレものもあのスレの管轄だったからなぁ
投下させてもらいます。
6話「学園急降下(スクールデイズダイブ)・入り口」.txt
今日が普通だからといって、明日に変化がないとはいえない。
宝くじに当選し、大金を手にする人もいれば、突然視力を失う人だっている。
ただ、平平凡凡を地で行く俺だけは、そこから外れている存在だと思っていた。
黒崎家を襲った悲劇は、俺たち斎藤家の人生まで変えてしまった。だが、俺たちにとっては悲しむと同時に喜ばしいこともあった。
黒崎くるみが、家族になった。
多分、一番喜んでいるのは俺だ。 家を出るときはいってらっしゃい、家に帰ればおかえり。これがどれだけ俺の心を幸せにするか、分かるまい。
しかし、くるみの状態は良いとは言い難い。 朝に突然、俺の部屋に駆け込んできて、泣きじゃくることもあった。学校から帰ると、目を真っ赤に腫らしていることもあった。
その度、俺は自分の至らなさを痛感するはめになった。
くるみが俺と同じ高校を受験すると言ったとき、思わず胸を撫で下ろした。同じ高校ならばこまめに気を遣ってやれるし、一緒に登校も出来る。
ただ、兄としての分は弁えているつもりだ。恋愛事情には首を突っ込まない。
それと、叔母さんが目を覚ます可能性を考慮して苗字は変えなかったのだが、ヘタレな俺は未だに事実を言えていない。信じたくないが、俺は時折、伝えるということを忘れる。
今の状況に浸り、甘えている証拠だ。身を引き締めるため、冷水に顔を漬けて、両頬を引っ叩く。
状況を見極める、というのは悪いことではない。これほど重大なことならば尚更だ。・・・重大にした責任の8割は俺にあるのだが。
変化といえば、俺自身にも直接、いくつかの変化があった。
俺は生徒会長になってしまった。
平平凡凡と、耳にタコが出来るほど言っている俺が自ら立候補などするはずがなく、立候補者を募るボックスに『推薦・斎藤憲輔』と、まるで脅迫状のように新聞の切り抜きが貼られていた紙が入っていたせいだ。某魔法学校にでも通っている気分である。
そのままなし崩し的に行われた選挙はテレビ効果もあってか、俺がストレートで当選してしまった。受かってしまった以上、やるしかあるまい。
半ば道連れのように佐藤登志男と梅本賢三を引き込み、あとは自分から立候補した人たちが無事当選し、その中にはくるみも含まれていた。
連日のニュースとアイパッチの影響が不安だったが、最近の高校生は割と何でも受け入れる気概があるようで、ごく普通に溶け込めたみたいだ。
こうして今、4限目の真っ最中に俺が生徒会室にいるのは、決して俺が学校の改革に奔走しているというわけではない。何度でも言うが、平平凡凡を好む俺は現状に充分満足している。
生徒会室という空間の魅力に囚われたのだ。
管理室で集中管理をしているエアコンは、ここと職員室だけが自由に操作できる。さらに、扉に鍵をかけることも可能で、その鍵の管理は顧問の先生と俺、副会長の内の一人、計三人だけなのだ。
楽園、楽園である。
学校に慣れてきた2年目が色々と勝負、と聞いたことがあるが正にその通り。慣れてきた俺は物事の上手い避け方を学び、サボり癖を身につけてしまった。
特に、月曜日には弱い。今日のように。
さて、そんな楽園の鍵が今、開こうとしている。
先生なら慌てるところだが、俺には確信があった。
「うわ、やっぱりいたよ」顔を引きつらせた彼女がいた。予想は的中だ。
彼女は後ろ手にスライド式の扉を閉めると、手際よく鍵も閉める。 なんとなく、このシチュエーションはエロい。シチュエーションだけなら、だ。
「生徒会長が授業をフケていいのかしらねぇ」軽く腕を組み、椅子に埋まりかけている俺を机越しに見下してくる。
「副会長もマズイだろうよ」
「うぐっ」
「っていうか、途中から抜けてきたのか?」時刻は4限目の中ごろ。眠気という獣が最も牙をむきやすい時間帯だ。
「板書してるスキにね。ほら、アタシって廊下側の一番後ろだから」
「なるほど」出席をとられた上で、サボる。なんと効率のいい。
机に潜りかねないほどだらけた身体を起こすと、胸元に乗せた本を机に置いた。
生徒会室は狭い。普通の教室の半分ほどしかなく、机と棚が大半を埋めている。
入り口へ向けて口を開けたU字の机がある。その両脇に3つずつ椅子が並び、全体を見渡せる一番奥に、窓をバックにして会長用の席があった。
会長席から見て右側の壁は資料用の棚で、左側の壁一面にホワイトボードが広がっている。右側の副会長用の席に、会議でもないというに、遊佐杏(ゆさ あんず)は定位置である俺に一番近い席に座った。
「なんの本?」断りもいれず、遊佐は本を取り上げた。「・・・?題名、書いてないんだけど」
「最後まで読むと分かるらしいんだ」
古本屋に置いてあったこの本は、どこか興味を惹いた。真っ白いカバーに黒い兎が一匹だけ描かれており、他にはバーコードすらない。
挙句、古本屋の店員は値段が分からない、データベースに存在しないと焦っていた。最終的に、じゃあ500円くらいで、と言った店員のアバウトさに驚いた表情をすると、300円です、とまけてくれた。
読んでみると、最初に抱いたのはフワフワした、空を漂う綿毛のような印象だった。占いでよくやられるような、核心に触れない抽象的な表現で溢れていたが、不思議と読み続けてしまう。
「ふ〜ん・・・」
パラパラと捲っていく遊佐を、なんとなく観察していた。首下まである赤茶色の髪を後ろで上に向かって折り曲げ、大きな止め具で止めている。正面から見ると、後頭部からちょろりと飛び出ているのが見える。
前髪は右側に寄せ、軽く目にかかるぐらいの長さとなっている。巷では、これを『田舎ヘアー』と呼ぶらしい。なかなか可愛らしいと思うのだが。
ただ、ブレザーやカーディガンの代わりにジャージを羽織るのはどうかと思う。やや切れ長の目をしており、鼻筋の通った顔はお世辞を抜きにしても綺麗だ。
「・・・あによ?」性格を除けばだが。
「別に。天は二物を与えないなぁ、と」
「撲殺と絞殺のどっちが好き?」
「死なないほう」
「じゃあ消滅」
「消えるのもいやっス」スタイルもいいのに、本当にもったいない。
遊佐とは中学からの付き合い、らしい。というのも、俺が遊佐を知ったのは高校に入学してからで、遊佐は俺を中学から知っていたと言うからだ。
バレーボールに限らず、大会というのは男子と女子の部を並列して行うことが少なくない。その大会の一つで、ということらしいが俺にはまったく覚えがない。
まぁ、知らない人との会話の糸口を掴むのが苦手な俺としては、向こうからフレンドリーにしてくれるというのはありがたい限りだ。
さすがに、男子・女子バレー部の親睦会で、ここであったが100年目、とベタに言われた時はたじろいだが。
「へぇ〜。なるほど、こういう終わりね」何時の間にか、遊佐は一番最後のページに目を通している。
「ばっ、おまっ、言うなよ、絶対言うなよっ」
「むっふっふっ〜」
楽しげに、本当に楽しげに笑う遊佐からは、最悪の結果しか想像ができない。
「事件でござる〜」
チャイムが鳴った直後、階段の方からやかましい足音と共に、聞きなれた声がしてきた。
「事件、事件でござるぞ〜」
「ござるぞ〜」
2人分の足音は声と一緒に段段と近づき、案の定、生徒会室の前で止まった。だが、鍵のかかった扉は開かない。
「むむっ、閉じこもろうがそこにいるのは分かっていますぞ」
「いますぞ〜」
「開けてくだされ、御大将。逢引の最中と言って下されば邪魔は致しませぬぞ」
「逢引〜」
「頼むから黙ってくれ、そして出来れば死んでくれ」嫌気が差しながらも鍵を開け、扉をスライドさせた。
そこに立っているのはやはり、佐藤登志男と梅本賢三だった。
もう一つの変化がこれだ。
俺のあだ名は“大将”から“御大将”へとクラスアップしてしまった。
それはやはりテレビの報道のせいで、お陰で今年のバレー部の新入部員はどいつもこいつも厳つい。まぁ、素直に従ってくれるのはありがたいが。
大将の名付け親である大川俊先輩がこのクラスアップも行ったようで、彼の笑顔はかつてより輝いて見えた。
「事件ですぞ、御大将」
「シカトですか」
佐藤はいたっていつも通りだが、梅ちゃんは高揚し、丸顔が赤く染まっている。
「佐藤、梅ちゃんをあんまし引きずりまわすなよ」
「かしこかしこまりましたかしこ〜」
「・・・梅ちゃんも嫌なら嫌って言えよ?」
梅ちゃんの顔を覗き込むと、まだ赤みが引いていない。夏手前とはいえ、逆上せるほどの暑さと言うにはまだ早い。
「だい、だいじょーぶだよ」ランナーズハイというのだろうか、心なしか、いつもより声が大きい。
二人は中へ入ると佐藤は副会長側の席の、遊佐とは逆の端に、梅ちゃんは佐藤の反対側に座った。
「で、事件って?」入り口の近くに立ったまま訊く。
「ああ、それなんだがな、まずは今が昼休みで、俺は腹が減ってると言うことを踏まえて聞いて欲しい」そう前置きして、続けた。「だから、先に飯を食う」
「お前っていつ死んでくれるのかね」
予め知っていたら、カレンダーにハートマークを書き込んで指折り数えてしまうだろう。
「アホが揃うと手におえないわ。1年生、早く来て〜」歯に衣着せぬ物言いで、遊佐が嘆いた。
「ん、そうか・・・じゃあ」と佐藤が何かを言いかけたところで、 噂をすれば何とやら。
「こんにちはー」
扉が開いて遊佐の期待通り、1年生の役員が来た。元気よく入ってきたのは1年生の書記、窪塚りおだ。それに少し遅れて、同じく1年生で会計の黒埼くるみが入室したことで、本年度の生徒会メンバーが集合した。
手短におさらいすれば、会長が俺、斎藤憲輔。副会長に遊佐杏、佐藤登志男。書記には梅本賢三、窪塚りお、そして会計は黒崎くるみという、俺にとっては仲好しクラブみたいなものになってしまった。
ちなみに席順は、俺の席から見た右側に、手前から遊佐、空き、佐藤。左側はくるみ、りおちゃん、梅ちゃんとなっている。
昼休みに集まって何をするかといえば、別に何もしないのである。俺は居心地が良いから生徒会室に篭る。そうすると自然に2年の3人が寄ってきて、さらにそれにつられるようにして、1年の2人が来るのである。
結果、打ち合わせなどなくても自然と全員が集合するのだ。1人は好きだが、独りが嫌いという我侭な俺からすれば嬉しいことだ。
手探りで出航した船は乗組員に助けられ、何とか潮の流れに乗れている。特徴がないのが特徴である俺は、周りに助けられてばかりで、特に何もやっていない気がするのが申し訳ない。
「で、佐藤君。事件って何?」
購買の人気No'1商品であるブルーベリークリームチーズパイを食べながら、遊佐が訊いた。
「ん・・・ああ、そういやそんなのもあったようなかったような」あからさまに言葉を濁したかと思うと、急に笑顔になる。「例えば、ここで俺がそのパイのカロリーを発表したら、事件じゃないか?」
「んぐっ」
どう考えてもヤバイ咽かたをした遊佐に対し、同じ物を食べてるにも関わらず、りおちゃんはどこか余裕すら感じられる。
「私は知ってますよ。カロリー計算してますから」
「りおちゃんのワガママボディの陰なる努力が明らかになったな」
「ちょっ、言わないでよ、カロリー。これ以上食べれなくなっちゃうから」
「カロリー」
楽しげな4人をよそに、くるみは不思議そうな顔で俺を見てきた。
「あれって、そんなに美味しいの?」
「さぁ。俺も食ったことなくてな」遊佐が食べてるのを頻繁に見るが、くれた例がない。「まぁ、すげぇ並んでるからそれに見合うぐらいの味じゃないか?」
「ふーん」
「・・・食いたいのか?」興味なさげに振舞っているつもりだろが、バレバレである。
「いいよ、並ぶの大変だし」
顔を少し赤くしながらそっけない振りをするくるみに、俺が並んでやるよ、と言おうとしたところ、りおちゃんが勢い良く遮った。「私が行ってきますよ、先輩」
「いや、でも悪いよ」勢いに少し、たじろぎながら返事をする。
マネージャーとはいえ、流石にパシる様な真似はしたくない。
「いいんですよ、先輩。自分の分を買うついでですから」
高校に入ってから少し伸びたショートヘアーは、前髪にピンをクロスさせて付けることで邪魔にならないようにしているようだ。
ニコニコと、屈託のない笑顔を浮かべるりおちゃんを見ていると、こっちまで表情が緩んでしまう。
ふいに、机の上に置いていた左腕がこぼれる。机の下に目をやれば、くるみの右手が俺のワイシャツの袖を握っていた。
顔を上げてくるみを見ると、驚きで身体が僅かに跳ねてしまった。
顔を俯かせているせいで栗毛が目元にかかり、表情が読めない。だが、俺を睨んでいるということは分かった。ハッキリとした、敵意のようなものを感じ、鳥肌が立つ。
「そだ、くるみちゃん。食べかけだけど、いる?」遊佐が向かいのくるみに、パイを差し出した。
顔を揺すり、髪を掻き分けてから遊佐を見る。右手は俺の袖を握ったまま。
「・・・いいんですか?」
「いいのいいの。あたしはいっつも食べてるし、それに、今日は食べづらくなったからね」今度奢ってもらうから、と言いながら遊佐は俺を見る。
「・・・なんで俺だよ」
平生を保つよう努めるが、背中には変な汗がびっしょりだ。
「ありがとうございます、遊佐先輩」
くるみはようやく袖から手を離し、両手で受け取る。
「あぁ、まどろっこしいなぁ。杏でいいよ」
「はい、杏先輩」
笑顔で返事をして、くるみは3分の1ほどしかないパイをほお張った。「・・・美味しいっ」
「そうでしょう、そうでしょう」
「いやぁ、くるみちゃんの仕草は和むなぁ」
「なぁ〜」
「梅本くん、いつまでそれやってるの・・・?」
あれは、誰だ。
くるみはあんな風に感情を剥き出しにしたことは一度もなかった。昔、近所のガキ大将に虐められたときも、くるみはそいつに向かって弱々しく微笑んでいたほどだ。なのに、ましてや俺に対して。
俺が何かしただろうか。くるみが不快に思うようなことをなにかしたか。ない頭を振り絞って考えを巡らす。
和やかな空気の中、俺の体は未だに冷え切っていた。
━━あの女だ。
高校に無事入学したことで私は油断していた。
あんなにも近い位置にいるヤツがいるとは、まったく知らなかった。
とはいえ、やるべきことは変わらない。
邪魔なのを1人ずつ消していき、一番最後に私が傍にいればいい。
そのためにも、まず最初のターゲットはあの女。
さて、どうやって殺してやろうか。
とりあえず、投下終了です。
題名の「.txt」はミスです。
前回は自分のマナーのなさでみなさんに迷惑をかけてしまったようです。本当に申し訳ありませんでした。
GJ
>>411 乙乙
これはくるみ怖……いや、可愛くなってきたなw
憲輔「月光蝶であるッ!(子安)」
くるみ「Let's Party!!(中井)」
あんまおもしろくない
( ⌒ ⌒ ) ( ⌒ ⌒ )
(、 , ,) (、 , ,)
|| |‘ || |‘
_,,....,,_ ここはおにいさんとのゆっくりぷれいすだよ!
..,,-''":::::::::::::`''\ ゆっくりできないおねえさんは ゆっくりしないでどっかいってね!
ヽ::::::::::::::::::::::::::::::\
|::::::;ノ´ ̄\:::::::::::\_,. -‐ァ __ _____ ______
|::::ノ ヽ、ヽr-r'"´ (.__ ,´ _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、_ イ、
_,.!イ_ _,.ヘーァ'二ハ二ヽ、へ,_7 'r ´ ヽ、ン、
_..,,-"::::::rー''7コ-‐'"´ ; ', `ヽ/`7 ,'==─- -─==', i
"-..,,_r-'ァ'"´/ /! ハ ハ ! iヾ_ノ i イ iゝ、イ人レ/_ルヽイ i |
,i!イ´ ,' | /__,.!/ V 、!__ハ ,' ,ゝ レリイi (ヒ_] ヒ_ン) | .|、i .|
( `! !/レi' (ヒ_] ヒ_ン レ'i ノ !Y! "" ,‐―( "" 「 !ノ i |
y' ノ ! '" )─-、 "' `、.レ' L.',. L」 ノ|.|
ノノ ( ,ハ 人! | ||ヽ、 ,イ| |イ/
( ( ,.ヘ,)、 )> ,、 ________, ,.イ ハ レ ル` ー---─ ´ルレ レ´
ヤンデレ「饅頭の分際であの人に取り入ろうなんて、バカな饅頭」
_,,....,,_
-''":::::::::::::`\
ヽ:::::::::::::::::::::::::::::\
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|::::ノ ヽ、ヽr-r'"´ (.__ _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、_ イ、
_,.!イ_ _,.ヘーァ'二ハ二ヽ、へ,_7´ ..::::::::::::::.、ン、
::::::rー''7コ-‐'"´ ; ', `ヽ/≧- -─==', i
r-'ァ'"´/ /! ハ ハ ! Σiヾ iゝ、イ人レ/_ルヽイ i | スパッ
!イ´ ,' | /__,.!/ V 、!__ハ ,' i (◯), 、(◯)::::| .|、i .||
`! !/レi' (◯), 、(◯)Σ'i !て ,rェェェ、 ".::::「 !ノ i |
,' ノ !'" ,rェェェ、 "' i .レ',.く |,r-r-| .::::L」 ノ| |
( ,ハ |,r-r-| 人! :||ヽ、 `ニニ´ .:::::,イ| ||イ| /
,.ヘ,)、 )>,、_`ニニ´_,.イΣハ ル` ー--─ ´ルレ レ´
ホラーwww
ワロタwwww
投下します。
「天使のような」のほうです。
「ふふっ…飛鳥くん、こんばんわ。」
声の主は、やはりというかなんというか……いつものストーカー少女、結意だった。
……後ろ手に何かを隠し持ってるみたいだな、なんだろう? 暗くてよく見えない。
「顔も見たくない、って言ったの忘れたのか?」
「ううん、覚えてるよ。飛鳥くんは優しいから……」
「………は? おれが優しいから、何だってんだ。」
「そう、優しいから、仕方なく言わされたんだよね?」
………相変わらずこいつの言動は支離滅裂つうか……全くもって意味のわからないものばっかりだ。
そういや、今まで結意とまともに会話が成立したことって、一回もなかったような気がするな……。
それにしても、こいつの適応力というか、自分に都合いいように事実を曲解するスキルはもはや尊敬に値するな。
―――だが、俺のそんな余裕も長くはもたなかった。
「でももう大丈夫だよ。飛鳥くんを縛り付けてた邪魔者はもういないから。」
「邪魔者? なんだそりゃ………え?」
隠れていた月が雲の谷間から顔を出し、暗い路地に一筋の光が落ちる。月明かりに照らされた結意は……真っ黒な血で汚れていた。
後ろにまわされていた手が前に出される。握られていたのは、同じく血で染まった木刀だった。
「お前……一体何したんだ!? 邪魔者ってなんだ!? ―――まさか、明日香に何かしたのか!?」
「あすか……ああ、あの雌猫のこと? 紛らわしい名前だね。安心してよ、そいつならもう殺しちゃったから。」
「……おい、嘘だろ!? 嘘だって言えよ!」
「あははっ……ほんと、飛鳥くんってば優しいんだね。あんな雌猫の心配なんかしちゃって。でも、ダメだよ。飛鳥君には私がいればいいじゃない。
これからはずっと、ずーっと一緒だよ? もう離さないから………ね? うふふふ……あはっ……」
けらけらと不気味な笑みを浮かべながらそう言った結意の目は、暗くよどんでいた。
俺に拒絶されて、ここまで歪んでしまったのだろうか……だが今の俺には、結意の心配なんぞしている暇はなかった。
頭の中にあったのは明日香の安否、それだけ。俺は自宅へと向けて足を動かした。
「おっと……行かせるわけにはいかないぜぇ。」
俺の行く先には、ついさっき別れたばっかりの隼がいた。いつものひょうひょうとした態度で通せん坊をしている。
「………隼? なんでお前がここにいるんだ?」
「言わなかったっけ? 俺は結意ちゃんの協力者だって―――ああそうか、亜朱架さんのせいで忘れてるんだったっけ。」
「忘れて……何の話だ!? お前ら、よってたかって何なんだよ! わけわかんねぇよ!」
「大丈夫、すぐに思い出させてやるよ。」
言い終わると隼は、俺の額に手をかざしてきた。奴の手のひらが触れた瞬間、光が瞬いた………様な気がした。
刹那、頭の中がごちゃごちゃと掻き混ぜられる感覚に苛まれ、そのまま俺は意識を手放した。
* * * * *
「これでもう大丈夫だよ、結意ちゃん。」
斎木君は、気を失った飛鳥くんを抱えて私にそう言った。
「……本当に? もう飛鳥くんいなくなったりしないんだよね!?」
思い出すだけでも体が震える。大好きなひとに完膚なきまでに拒絶されたときの恐怖で。……本当に、大丈夫なんだよね?
「―――ああ…やっぱり、結意ちゃんって俺の姉さんによく似てるよ。」
「…え、斎木君のお姉さん………?」
「そう…そうやって大好きな人に依存しきってるとこなんて、まるっきりそっくりだ。おまけに姿も……写真があれは見せてやりたいくらいだよ。」
依存。斎木君の言ったその一言が気になった。
たしかに私は、飛鳥くんに依存している。それは自分でもよくわかる。じゃあ、斎木君のお姉さんは誰に依存してたのかな? 私はそれを訊いてみた。
「いいぜ、結意ちゃんになら話しても。……同じ過ちを繰り返させないためにも、ね。」
「うん、お願い。」
私たちは、歩き始めた。行く先は斎木君に任せてる。彼曰く「誰も2人の邪魔をできないところ」だとか。
道中、彼の口から昔話を聞かされた。
彼のお姉さん……といっても義理の。斎木君は養子で、そのお義姉さんは、「優衣」って名前なんだって。―――私と同じ名前だね。
優衣さんは斎木君に依存してて、斎木君もまた優衣さんを一人の女性として愛していた。
そして、なるべくしてというか……いつしか二人は心身共に結ばれた。それから二人は毎晩のように互いの愛を確かめ合っていた。
優衣さんは斎木君の子供をひどく欲しがっていた。愛の結晶だと言って。それに応えて、お互いに避妊もしなかった。ちなみに当時の優衣さんは高校3年で、斎木君は中学生だとか。
でも、二人が結ばれて半年がたっても子供はできなかった。優衣さんは自分を責めた。子供ができないのは自分の体のせいだと。
斎木君はそんな優衣さんを見て、2人で検査を受けることにした。研究者であり、飛鳥くんのお父様の同僚でもある父親の手引きによって、内密に。
血がつながってはいないとはいえ、姉弟で愛し合っていたことに対しては、世間の目は冷たいからね。
そこで分かったのは、原因は優衣さんではなく…斎木君にあったということ。
斎木君の遺伝子構造は普通の人間とは異なっていて、優衣さんはおろか他のどんな異性とつながったとしても子孫を残せないという事実が知らされた。
3日後、優衣さんは死んだ。そのとき斎木君は初めて飛鳥くんのお姉さま……亜朱架さんと出会った。
彼女はこう言ったらしい。「優衣さんは自分を責めていた。死んで、今度こそ隼くんの子供を産める体になって生まれ変わりたいと言った。だから望むとおりにしてあげた」と。
そのとき、斎木君は亜朱架さんを恨んだだろうか……さっきも、私の手伝いをしてくれたし。
実際、斎木君が亜朱架さんの力を相殺してくれなければ私は逆に殺されていたと思う。
「さて…昔話はここまでだ。着いたぜ、結意ちゃん。」
私たちが足を止めたのは、暗い森の中にある大きな建物の前だった。もう何年も使われていないみたい。建物中に走っているつたを見るだけでそれが分かる。
「それと飛鳥ちゃん、寝たふりをしてるのはとっくにバレバレだぜ?」
「まったくもう…飛鳥くんもひとが悪いなぁ。斎木君しんどそうにしてたよ?」
「……悪りいな、まだ体に力が入らないんだ。でも、全部思い出したから。」
飛鳥くんはよろめきながら斎木君の背中から降り、地面に立った。私はとっさに肩を貸してあげる。
飛鳥くんの体温がすぐそばに感じられる。それだけのことなのに私は、嬉しくて……嬉しくて……
「ごめんな結意、今まで忘れてて。俺は今も、お前をちゃんと愛してるから。」
「……ぐす……ばか…ばかぁ……あぁぁぁぁあぁぁぁ……」
もう声にならない。涙が止まらない。やっと、やっと帰ってきてくれた。私の最愛のひと。
泣きじゃくる私を、飛鳥くんはただ黙って抱きしめてくれた。そこには、私が今までずっと待ち望んでいた温かさがあった。
もう絶対離さない。ずっと一緒だよ、飛鳥くん。
―エピローグ―
『次のニュースです。二ヶ月前より行方不明になっていた男女二人が、昨日○○市○○区の山中で死亡しているのが発見されました。
警察の発表によりますと、遺体の状態がひどく、所持品と思しきものからようやく身元を割り出すに至ったとのことです。
死亡していた男性は神坂 飛鳥さん、女性は織原 結意さん。神坂 飛鳥さんは二ヶ月前にあった女子中学生殺人事件の被害女性の家族とみなされています。
どちらも私立白曜学園高等部の制服を着用しており、織原 結意さんの制服からはさらに他の人物の血痕が検出されたそうです。
警察の見解では心中事件としており、女子中学生殺人事件との関連性を裏付ける方針で捜査を続ける模様です。
では次のニュースです。
今日未明、人気ロックバンド"フォース"のボーカル、柏木 冬真さんとマネージャーの赤城 羅刹さんが都内のマンションの一室で死亡しているのが発見され………』
俺こと斎木隼は、亜朱架さんとカフェテリアで落ち合っていた。天井に備え付けられたテレビからは、ちょうど今回の件の報道が流れている。
あれからもう二ヶ月になるのか……時が過ぎるのは本当に早いな。クリスマスがついこないだのように思える。今はもう、節分を通り越してチョコレートの季節だというのに。
といっても、13日の金曜日の次の日が某クローン羊の命日、などと言えばきっとそんな熱も冷めちまうだろう。
特に亜朱架さんは二ヶ月前に自分の分身を殺されたばかりだし、単なる皮肉とは聞こえないだろうけど。
「お客様、お待たせいたしました。」
ウェイトレスが注文の品を運んできた。俺は紅茶のホット、亜朱架さんはコーンスープだ。それぞれ口に運び、一息ついたところで亜朱架さんの方から口を開いた。
「これで満足なのかしら、あなたは?」
「ええ…欲を言えば、あなたにも消えていただきたかったんですけどね。」
「無理言わないで。私が死ねない身体だってこと、わかってて言ってるんでしょう? まあ、全身を木刀で殴られ続けたときはさすがに死ぬかと思ったけど。」
「俺もさすがに死んだと思いましたよ、あの時は。どうです? 二人で溶鉱炉にでも飛び込みますか?」
「素敵な提案だけど…辞退させていただくわ。これでも人並みの感情はあるの。きっと、直前で足がすくんでしまうわ。それに、弟と心中なんてあまり美しくないしね。」
「よく言いますよ。あれだけのことしておきながら……悪魔みたいなひとですね、姉さん。」
「悪魔のような…ね。知ってた? 悪魔って、元々は天使が堕天したものが始まりだって。」
「知ってますよ。神話において初の悪魔…堕天使ルシファーは少女漫画の世界では有名ですよ。無駄にビジュアル化されてはいますがね。まさか…かつて自分も"天使"だった、なんて言いたいんですか?」
「ふふ…違うってことは自分でも良く分かっているつもりよ?」
「そうですか……それじゃ、俺はこの辺で。」
財布の中から紅茶代の180円を取り出し、テーブルの上に置く。
亜朱架さんは「それくらい奢るわよ」と言ったが、俺はたとえどんな形でもこの人に借りを作りたくなかったので、やんわりと断って、カフェを後にした。
外は雪が降っていた。今年に入って初めての雪だ。カフェの前に飾られた季節はずれのクリスマスツリーが妙にしっくりくる。
ああ……そういえば今日は2月9日、飛鳥ちゃんの誕生日だった。花でも……いや、飛鳥ちゃんなら新発売のCDを供えた方が喜ぶだろう。
少し歩いた先に、飛鳥ちゃん行きつけのCDショップがあったはず……そこで買っていこう。
なあ、飛鳥ちゃんに結意ちゃん。向こうでも仲良くして…………愚問か。
―True end―
終了です。
伏線回収用のルートも考えてます。
もう少しお付き合いください。
GJ!!
結意派の自分としては大満足なんだぜ
GJ!
俺も結意派
投稿します。トリップというものはこれでいいのですか?
いいのなら、前の作品のトリップもこれでお願いします。
家宰の業盛いびりは日常的なことである。
業盛にとって、これほど鬱憤の溜まることはない。
いつかは家宰のことを思う存分殴り倒し、溜飲を下げたいと思い描いてきた。
だがそれは、叶わぬ夢であると思い諦めてきた。
しかし、それは思いの外あっけない形で実現した。
清盛の気まぐれで、武術大会を開くことになったのだ。
対象者は館にいる兵士などで、家宰もそれに参加することが分かった。
業盛ももちろん参加した。目指すは優勝ではなく、打倒家宰だった。
大会当日、参加者四十八人は一組十二人に分けられ、勝ち抜き戦をすることになった。
弥太郎はイ組、業盛はロ組、家宰はニ組に分けられた。
外野は既に兵士達で埋まっていた。
だが、聞こえてくるのは誰が優勝するかという賭けの話し声だけだった。
業盛としては家宰と同じ組になりたかったので、この組み合わせは大いに不満だった。
とにかく、業盛はロ組の代表にならない限り、家宰と戦うことが出来なくなった。
業盛は一回戦、二回戦、三回戦と相手を一撃で沈め、勝ち進んだ。
ふと、イ組の試合を見てみると、弥太郎が外野で応援していた。
どうやら既に敗退していたらしい。家宰の方も順調に勝ち進み、今四回戦の相手と対戦中である。
俄然やる気が出てきた業盛は、四回戦、五回戦、六回戦と快勝し、ロ組の代表になった。
家宰の方もニ組の代表になった様で、後は決勝戦で戦うのみとなった。
外野では賭けが未だに続いているらしく、家宰が優勝候補であった。
「弥太、お前はどっちに賭けるんだ?」
外野で応援している弥太郎に、観客の一人が話し掛けてきた。
「俺か?俺は三郎に賭けるよ」
「三郎?確かにあいつも強いが、俺は家宰の野郎が勝つと思うな。
あいつ、口は悪いが、腕は本物だしな」
「さぁ…それはどうかな?世の中、なにが起こるか分からないし…」
弥太郎はしたり顔で答えた。兵士は怪訝な眼差しを弥太郎に向けていた。
一回戦、相手はイ組の代表だった。しかし、業盛の敵ではない。
相手の振り下ろしてきた木刀を躱し、相手の首筋に手刀を打ち込み、昏倒させ、勝利した。
そして決勝戦。
相手はハ組の代表に圧勝した家宰。外野の熱気も最高潮になっていた。
業盛の握る木刀に力が篭もる。
「なんだ、俺の最後の相手がお前だとわな」
家宰は心底馬鹿にした様な目付きと口振りで言った。
だが、業盛は俯いて黙っている。
「なんだ?怖くて声も出ないのか?怖かったら降参して、
さっさと母親のおっぱいでも吸ってるんだな」
家宰の卑下た笑い声がこだました。
「まぁ、仮にお前が降参しても、俺は認めないけどな。
せっかく、この様な公式の場でお前を滅多打ちに出来るのだからな。
せめて、少しぐらいは楽しませてくれよ」
家宰の挑発に業盛は終始無言だった。家宰も挑発を止め、木刀を構えた。
そして…試合開始の太鼓が鳴り響いた。
家宰は先手必勝とばかりに業盛に袈裟切りを仕掛けた。
業盛はそれをしゃがんで躱し、相手の勢いそのままに、鳩尾に突きを打ち込んだ。
家宰の口から空気が漏れる音が聞こえ、持っていた木刀は手から滑り落ちた。
更に業盛は、家宰の利き手を掴み、背負い投げを仕掛けた。
家宰は抵抗することも出来ず、地面に叩き付けられた。
再び、家宰の口から空気が漏れる音がした。
この時点で試合終了だが、業盛にしてはこれでは面白くない。
業盛はおもむろに握っていた家宰の腕をへし折った。
ただでさえ息も整ってないのに、更に追い討ちをかける様に腕をへし折られたのだ。
家宰は悲鳴を上げることも出来ずに、のた打ち回った。
業盛はそんな家宰を見下す様に見ていた。
こんなカスに馬鹿にされ続けていたのかと思うと、馬鹿にされ続けた自分が哀れに思えた。
業盛は家宰に木刀を向けた。
家宰は涙ぐんだ目で、媚びる様に業盛を見つめた。
まるで、今までの無礼の許しを請うかの様な必死の眼差しだ。
「家宰殿…駄目ですよ…」
業盛はニッコリと微笑み掛け、
「そんな目をしたって…誰も助けてくれませんよ。
せめて最後くらい、武士らしく…散ってくださいな」
残酷な最終宣告の後、木刀は家宰の頭上に振り下ろされた。
「三郎、お前やりすぎだ」
武術大会が終わり、館から出た所を、待っていた弥太郎に言われた。
「そうか、あれでも手加減したんだぜ」
「家宰を再起不能にして手加減って…」
「死ななかっただけマシだろ。それに、今はあの家宰に感謝してるんだぜ。
あんなお遊びで、清盛様から大金が貰えたんだからな」
業盛が袋から金の小粒を取り出した。
「これだけあれば、しばらくは果物が好きなだけ食える。
そういえば、この時期の旬は蜜柑だったな。さっそく買ってこよう」
業盛は嬉々として走り出した。
「まぁ…こっちも儲けさせてもらったから、人のこと言えないんだけどな…」
業盛がいなくなって、弥太郎はぼそりと呟いた。
投稿終了です。
主人公が病んでる様に見えますが、
それは気のせいです。
乙かれさん。
トリップはそれでおk、おk。
何だこの投下ラッシュは…
みんな乙
>>433 乙
>>435 しばらく静かだったのに急に三人きたなぁ
また投下の間隔がどうとかの話にならなければ良いけど
誰か死なな気がすまんのかね
死なば諸ともですよ
>>425 GJ
結意ルートに進んでもBADENDで第3のルートが存在するような予感はしてた
願わくば全員幸せに…とまではいかなくとも不幸にならない結末であらん事を
>>433 こっちもGJ
追跡者が現れるのかそれとも新キャラが現れるのか楽しみだ
投下します
第十八話『遥か久遠の彼方に・後編』
「ちとせ……」
膝をつき、がくがくと振るえる千歳。久遠が不安げにその名を呼ぶが、答えない。
轟三郎は得意げに千歳を見下す。
「足が動かねえだろ。小僧、それがお前の覚悟の軽さだぜ」
「……違う」
うつむき、呟く千歳。
「ああ? なんだって?」
「俺の覚悟なんて、確かに所詮こんなもんかもしれねえ。でもな……。違う……! 俺は……」
「久遠のためにやった。ってか? だからよ、小僧。そんなもん理由になりゃしねえんだ。お前がやりたいからやった。ただそれだけだろ」
「そうだ。俺は俺の考えを押し通しただけだ……。だけどな……!」
床に手をつき、ゆっくりと身体を起こし始める千歳。
「やめときな、小僧。これ以上動くと二度と足がうごかねえ身体になるぜ」
「それでも……!」
轟三郎の忠告を無視して、千歳は動かない足を鞭打ち、無理矢理立ち上がった。
「ほー。やるもんだな。小僧が」
「それでも……許せないんだよ! 親が子供を見捨てるっていうのはな!!」
「そんなお前の正義が、なんの力になるってんだ」
「なににもなりゃしない。だけどな……。それがあるから、俺は今、立ってる」
「……なら、さっさと沈めや」
ごっ!
轟三郎の拳が千歳の腹部にめり込む。
そのスピードと重さに、千歳の胃液が逆流し、口から吐き出された。
その中には、赤い色も混じっている。
「弱いやつが肩肘張って、久遠を守るナイトにでもなったつもりかよ」
今の一撃で内臓を傷つけた千歳。当然、倒れるべき場面だった。
だが。
「……だとしても」
千歳は、立っていた。
「くだらねー。くだらねえよ、小僧。なんでそんなに頑張る? 俺が気に入らないからか? 久遠に惚れたからか? それとも……お前はお前が守らなきゃならねえ確かな『何か』があるって、本気で思ってんのか?」
「その、どれでもない……それと、どれでもある」
「……」
「俺は……別に誰かを救える人間じゃねえ。誰かに尊敬されたりもしない。だけど……俺は、それでも……」
千歳はそれ以上言わなかった。それ以上の言葉がなかったのか。
それとも、あったのに言えなかったのか。それは定かではない。
だが、轟三郎もそれ以上は聞かなかった。
「じゃあ、そのまま死んでいけよ、小僧」
轟三郎の拳が迫る。凶悪なまでの闘気が込められた一撃。
当たれば、千歳の身体など一瞬で粉みじんになる。
千歳は防御姿勢をとることもままならないまま、その攻撃を、ただ見ていることしかできなかった。
(――俺は……やっぱり……)
そうして、千歳の短く、幸福ではなかった人生は閉じようとしていた――。
――その瞬間、千歳の目に、信じられないものが映った。
千歳の身体を破壊しようとしていた拳が、『吹っ飛んだ』。
腕が。
腕が、肘から切り取られ、回転しながら宙を舞っていた。
目を疑う。
だが、目を擦るまでも無い。武道家の千歳には、これが現実であることがわかった。
「なっ……がっ……!!」
無い腕を押さえ、うずくまる轟三郎。
「な……なんで……」
それを問いかけ終わる前に、千歳の目には答えが映りこんでいた。
久遠が、いつのまにか轟三郎と千歳の間に割り込んでいたのである。
その手には、血塗られた刀が握られている。
――久遠が、轟三郎の腕を切ったのだ。
「ぱぱ……」
久遠から発せられた声に、千歳の背中が粟立つ。
父を呼ぶその声の、あまりに冷徹で、高圧的で、感情がこめられていないことか。
千歳は、久遠の顔をそっと覗き込む。
無。
傷付いた父を見下ろす久遠の瞳には、何の感情も浮かんではいなかった。
口元だけが、ゾッとする程に魅力的な笑みを浮かべていた。
「ぱぱ、ちとせきずつけた」
事実を淡々と述べる久遠。裁判官が判決を述べるかのように、なんの感慨もない、事務的な、抑揚の無い声。
「だから、しんでよ」
そう言ったと同時に、畳と、その先の壁が真っ二つに分かれた。
久遠が刀を振り上げたことも、振り下ろしたことも、千歳には全く近くできなかった。
驚異的な速度の斬撃。
轟三郎は反応したらしく、腕を押さえながらも受け身をとり、ギリギリのところでそれを避けていた。
「親分!」
さっき千歳が吹き飛ばした、轟三郎の部下達と、さらに警備担当の者達が一気に押し寄せてきて、千歳と久遠を取り囲む。
数人の男が刀を振り上げ、久遠に振り下ろした。
「じゃま」
本当に邪魔臭そうに久遠はつぶやく――と、同時に久遠の姿が消えた。
千歳が驚くまもなく、久遠は男達の後ろに現れていて、男達の刀と足が切られていた。
「チャカ持ってこい!」
ヤクザの中の誰かが避けぶ。
すばやくそれに答えた者が拳銃を取り出し、久遠に向けて発射していた。
久遠は発射後にそれを認識した。にも関わらず、恐るべき速度で刀を銃弾の進行方向と入射角度にあわせて向きなおし、銃弾を弾いた。
そのまま銃を持つ男に瞬間移動のごときスピードで接近し、銃ごとその腕を切り裂いた。
(……うそだろ)
千歳は腰が抜けて動けなかった。
ぽやっとしてふわふわして、砂糖菓子みたいだった久遠が。こんな。
「や、やめろ、久遠!」
ぴたり。
千歳が思わず声を張り上げると、久遠の動きが嘘のようにとまった。
「……ちとせ」
「久遠、お前は……。親を傷つけたいのか?」
久遠はふるふると首を横にふった。
「ちがうよ。ぜんぜんちがうよ。ちとせがすき。ちとせがすきなだけ」
「なら、もうやめてくれ……。俺は、お前に親を殺させるためにここに来たんじゃない」
「……うん」
あれだけ強烈だった気迫も消え、久遠は最初と同じ、おどおどした少女に戻っていた。
♪ ♪ ♪
騒動は終わり、九音寺轟三郎の部屋には、轟三郎、千歳、そして千歳にぴったりとくっついて離れない久遠が残された。
久遠は傷つけた親を前に萎縮しているのか、振るえたまま動かない。さっきの剣幕はどこへいったのか。
「……おっさん。病院いかなくていいのかよ」
「なんだ、心配してんのかよ。小僧」
「あ、当たり前だ!」
「変わった奴だな、お前さんはよぉ」
轟三郎は肘から先を失った腕を、平気そうにぷらぷらとふる。
「止血はした。お抱えの医者も呼んだ。こんな痛みでは俺はどうもしやしねえ。それで充分だろうがよ」
「で、でも。この業界は腕っ節が命なんだろ!? 俺のせいで、腕が……」
「うぬぼれんなよ、小僧が。さっきから言ってんだろうが。俺の腕がどうなるかは、俺が決める。俺の腕一本をささげる価値が、お前さんにあったってことよ」
「俺に……?」
「お前さん、名前は?」
「千歳……。鷹野、千歳」
「千歳。おめえはもう小僧じゃねえな。立派な男だぜ」
轟三郎は懐からキセルを取り出し、吹かせ始めた。
「女のために、殴られても立ち上がる。俺の組のやつにも、そこまで気概のあるやつはいねえ」
「……勝ったのは久遠だ。俺じゃない」
「いや、お前だよ、千歳」
轟三郎は、優しい目で千歳を見つめる。
「この『目』はよ」
そして、潰れているほうの目を指差した。
「こいつは、久遠にやった」
「どういうことだ……?」
「久遠はな。『鬼』だ」
「鬼……?」
「時々、さっきみてえにあばれやがんのさ。そのたびに、久遠は何人も怪我人を出してやがる。――死んだ奴もいた」
「死んだ……」
「まあ、今日ほど強くなったのは今日を含めて二回目だ。いつもは俺が止めてる。前は、俺の目がぶっ潰れてやっと取り押さえた」
千歳は目を伏せる。
久遠は『鬼』。つまり、計り知れない凶暴性と戦闘力を秘めた存在ということだろう。
だからだ。だから、九音寺家は久遠を山に閉じ込めた。被害者をださないように。
――間違ってたのは、俺だ。
「久遠は山が好きでよ。特に、あの御神木が好きだ。あれにふれてりゃ、あばれねえ。だから、あそこに閉じ込めてるってわけだ」
「……おっさん」
千歳は頭を畳につけた。
「なんだ? そりゃ」
「俺が間違ってた。俺が勝手に思い込んで……。勝手に、久遠のしあわせを作ろうとした。……親のあんたが、それを一番望んでいるはずなのに」
「……バカが。なんで謝る? 千歳、お前の行動を評価すんのは、俺じゃねえ。久遠だ」
「久遠……」
千歳は久遠に向き直る。そして、また頭を下げた。
「久遠……。俺が悪かった。俺が……」
「ちとせ。くおん、ちとせのおかげでここにいる。ちとせ、くおんしんぱいしてくれた。だから、すき」
久遠が千歳の頭をそっと撫でた。
「ちとせ、わるくないよ」
そう言って、久遠は父に向き直り、千歳と同じく、手をついて頭を下げた。
「ごめんなさい、ぱぱ。ちとせ、ゆるして!」
轟三郎は、一瞬微笑んで、照れたように口をとんがらせた。
「別に、怒っちゃいねえよ。ただ……。ひとつだけ、お前らに言っておくことがある」
「……?」
「ここまで見せ付けてくれたんだ。もちろん、千歳、お前は男らしく責任とって、久遠を嫁にすんだよなぁ?」
「なっ!?」
「じゃねえと俺の腕の分、ゆるさねえぞこらぁ!」
「え、ええ!?」
「くおんもさんせい。くおん、ちとせのおよめさんになる!」
♪ ♪ ♪
そんなこんなで、千歳と九音寺家の付き合いは始まった。
結局山で暮らすのが一番いいとされた久遠は、山小屋に逆戻りとなった。
ただ、九音寺組は千歳の意見を聞き入れ、ある程度は久遠のもとに人をやって、久遠が淋しくないようにすることとなった。
轟三郎も、以前よりもずっと多く久遠のもとを訪れるようになったという。
また、ろくな教育を受けていなかった久遠は、千歳が教育することとなった。これは九音寺組の受けた被害の賠償だとのことだ。
久遠はぽけっとしているが、知能は低くは無い。覚えも早いほうで、学力自体は年齢相応になった。
ただ、話し方はもともとのぽやぽやしたものが引き継がれている。
さて、久遠が『鬼』だとされる根拠について、補足しなければなるまい。
数百年前のことである。
九音寺家党首だった久遠聖人は、若くして出家をし、山奥の庵へこもった。
人柄もよく、仏道の知識も多く、もしや悟りに近いのではないかと囁かれ、一部の伝承では晩年悟りを開いたとされる彼だが、九音寺家に伝わる、ある伝説では、全く違う人生を辿っている。
久遠聖人は出家をしたが、その目的は悟りではなく、妖魔たちに苦しめられる人々の救済だったという説。
その説話では、久遠聖人の住む山には『鬼』が住んでおり、時折村に下りてきて人々を苦しめたという。
これは農作物を食い荒らす虫の大群を意味しているのだろうと言われているが、事実は不明だ。
とにかく、久遠聖人は、その生涯を鬼との闘いに費やした。そう語られている。
その末路には、救いが無い。
久遠聖人は鬼を自らの体のうちに封じ込めることに成功するが、鬼の意思は死なず、久遠聖人の子孫代々に乗り移っていったという。
僧侶である久遠聖人がなぜ子を残したのかは全くわからないが、悟りが目的ではなかったという説である、無い話ではない。
轟三郎が言うには、実際に九音寺家に生まれる子の中には一人だけ必ず他を遥かに超越した力を持つものが現れるという。
それが、轟三郎であり、久遠なのだった。
久遠は特にその傾向が顕著で、幼少時から卓越した力を持つがその代わり感情が爆発した時の凶暴性も半端ではないのだ。
それが、久遠が『鬼』と呼ばれる所以である。
ただ、千歳はその説を疑わしいと思っている。
久遠が何らかの爆弾を抱えているとはいっても、久遠の屈託のない笑顔をみていると、そんな話も笑い話に思えるのだった。
久遠は、血生ぐさい世界から、本人の努力次第で切り離せるのではないか。
それを信じて、千歳は久遠を育てていくのだった。
だが、それは久遠が千歳に依存していくことを促進しているだけだという事実には、まだ、だれも気付いていない。
第十九話『イロリ日記』
高崎は、あるアパートの『西又』という表札が掲げられた一室の前にいた。
(鷹野氏の学友に、一人不可解な経歴を持つものがいた)
それが、『西又イロリ』。先ほど高崎は主人のもとにゲームのデータを渡しに行ったが、その際に主人と一緒にいたのも、その人物だった。
本来カナメに指示されたのは鷹野千歳のデータだったが、高崎は長年裏社会で働いてきた中で養った感覚に、何かひっかかるものを感じていた。
この西又イロリという人物のデータはほとんどが闇につつまれている。
先ほどにも述べたように主人に指示された範囲では不必要な人物でもあるのだが、高崎にとってはもはやそうではなかった。
――あの女には、何らかの邪悪がある。
高崎が初めて西又イロリの現物をみたとき抱いた感想である。
純粋無垢な笑顔と振る舞いにかき消されているが、その本質は、なにより邪悪な、凶悪な狂気に包まれている。
高崎は当初自身の疑心暗鬼ではないかともちろん疑ったが、その疑念は完全には消すことが出来ない。
故に、こうして未だ調査を続けている。
無論、この行動には全く意味が無いかもしれないし、カナメの利益になるようなことではないかもしれない。
故に、この調査はあくまで高崎個人の、独断によるものだと、そういう建て前にしている。
さて、高崎はこのアパートをよく観察したが、高崎の感覚にはセンサーや、見えない範囲のカメラは感じられない。
あまり警戒しなくてもよさそうだった。
なにより、鍵が旧式であけやすい。
ちょいちょいと、数秒作業すると、イロリの部屋の鍵は簡単に開いた。
「失礼」
盗聴器、カメラ、赤外線センサーの類いの波長は、高崎の感覚にも、高崎の持つミカミエレクトロニクス社製の高感度センサーにも引っ掛かっていない。
あまり用心はされていない。
西又イロリは一人暮らしで、今はカナメと遊んでいるということは知っている。
誰かが中にいることも無いだろう。
中に踏み込む。
暗い部屋。今まで調査してわかっていたが、カーテンは常に閉められている。
独特の湿っぽい雰囲気がただよっている。
「ふむ」
狭い部屋であり、中が人目で見渡せる……わけでもない。暗すぎて見えない。
高崎はペンライトでスイッチを探し当て、オンにした。
「っ……!? これは……!?」
思わず、高崎は声をあげて飛びのいた。
異様な雰囲気だとは思ったが、蓋を開けてみると、高崎の予想を遥かに越えた混沌がそこにあった。
イロリの部屋の一面に、写真が張ってあったのだ。
それだけなら、ジャーナリスト的な意味合いがあると、無理に納得できるかもしれない。
しかし、その写真の内容は、もはやどうあがいてもイロリの異常性を弁護できないものにしていた。
「これは……鷹野氏か」
その全てに、鷹野千歳の姿が映っていた。
写真はほとんど幼少期のころのもの。高崎は千歳のデータを隅々まで調べたため、幼少期でも判別することが出来た。
写真は、壁だけではなく天井、床、中に置かれているテーブルの上、裏、イスにまで貼り付けられている。
ご丁寧に透明なシートで保護までされて、だ。
よく見ると、ほぼ全ての写真に小さな文字が書き込まれている。
高崎が目を近づけてみる。
"ちーちゃんかわいいよちーちゃんかわいいよちーちゃんかわいいよちーちゃんかわいいよ……"
延々と繰り返されている。めくり上げて裏を見ると、裏にもびっしりと書き込まれていた。
他の写真を見る。
幼少時のイロリと千歳のツーショット。
"お似合いの二人! 結婚確定だね!"
裏を見ると、イロリの可愛らしい丸文字で、千歳とイロリのどこがどう相性がいいのか、ご丁寧に説明がなされていた。
性格や容姿はともかく、性的なことまで書き込まれている。性的な相性など、交渉をもったことがないのにどうやって知るのだろうか。
――恐らくは妄想だろう。
高崎はそう結論づけた。そしてそれは間違いではない。
他の写真を見る。
珍しく、最近の写真。苦笑いの千歳と、千歳に無理矢理だきついて満面の笑みのイロリ。
"帰ってきた記念の一枚!"
裏を見ると、京都から帰ってきて千歳を見たときの感想のようなものが書かれていた。
ちーちゃんが非常にかっこよくなっただの、やっぱり優しいだの、天才だのフルーツポンチだの、実に甘ったるい内容。
と、そこに気になる文言を見つけた。
"大人になったちーちゃんの良さは語り尽くせない! 続きは日記に!"
「日記……か」
ここで写真を見るのをやめる。高崎は小型のカメラを取り出し、かしゃかしゃと部屋の全体像と、何枚かの写真の書き込みを写した。
そして、『日記』とやらを探し始める。
日記はすぐに見つかった。端の本棚にびっしりと詰め込んであったからだ。
書き込み癖のあるらしいイロリらしく、『日記』は数十冊にも及んでいた。
左斜め上、おそらく最初の日記をひっぱりだす。
『いろりにっき・いち』とかわいらしい文字でかかれたそのノート。高崎は一ページ目を開いた。
"すてきなおとこのこにあったよ。だから、いろりはにっきをつけて、そのかんどうをのこします"
一ページ目は大きくそれだけ書いて終わっていた。
ページをめくる。
"たかのちとせ。としはあたしとおなじ。かおはかっこいい。こえもかっこいい。なにもかもかっこいい。せいかくはかわいい。やさしい。にっくねーむはちーちゃん。いっかげつまえにあった。さいしょは、だいきらいだった"
大嫌い。
イロリらしからぬ表現に、一瞬疑問を感じる高崎。だが、次の瞬間にそれは消え去った。
"あたしは、いっかげつまえのあたしをけしたい。ちーちゃんをすきじゃないあたしなんて、さいてー。ごみ。ちーちゃんをすこしでもきらいだったあたしは、ほんとうにはずかしい"
やはり。高崎はある意味納得した。
"いまは、だいすき。あいしてる。けっこんしたい。する。けっこんする。あたしとちーちゃんは、ぜったいけっこんする。まだやくそくはしてないけど、いつか、こんやくしちゃう!"
ほほえましいじゃないか。子供なのだから当たり前だ。高崎は自分にツッコミを入れた。
パラパラとページをめくる。
"ちーちゃんは、あたしをいっちゃんとよんでくれる。いっちゃん。ちーちゃんだけだよ。そうよんでいいのはね"
"ちーちゃんとあそんだ。ちーちゃんはあたしをいろんなところにつれてってくれる。たのしい! どこでもたのしい! ちーちゃんといっしょなら、どこでもたのしいよ! ちーちゃんも、そうでしょ!"
"あたしがわるいことをしちゃった。ちーちゃんはあたしをおこった。あたしはないてあやまった。ちーちゃんはゆるしてくれた。ちーちゃんのかお、かなしそうだった。あたしはちーちゃんにそんなかお、してほしくない"
"あたしはわるいこ。だから、かみそりでてくびをきってみた。おいしゃさんにおこられた。おとうさんとおかあさんにおこられた。あとでちーちゃんにもおこられた"
"ちーちゃんはあたしがきずつくのはいやだっていった。ちーちゃんも、あたしがすきなんだね! じゃあ、しにたくない!"
"ちーちゃんがかわいいいちにちだった"
"ちーちゃんはおはしのもちかたがまちがってる。こんどただしいもちかたをおしえてあげよう"
"ちーちゃんにおはしのもちかたをおしえてあげた。ちーちゃんのてにふれると、なんだかむねがどきどきした。しばらくてをあらわなかったら、おかあさんにおこられた"
などなど。始終この調子だった。
千歳を好きすぎる感はあるが、危険というほどでもない。イロリの人格の本質に迫るには、不十分らしい。
『イロリにっき・5』まで、飛ばしてみる。この時期からカタカナと数字を使うようになっている。
"ちーちゃんはかくとうぎをはじめた。どうじょうにかようらしい。あたしとあそぶじかんがすこしへった。うらめしい"
"ちーちゃんのうで、ちょっとたくましくなった。さわりたい"
"ちーちゃんのからだをなめまわしたい"
"ちーちゃんがおんなのこをつれていたのをみた。だれ?"
"しね"
"しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね……"
それ以降のページは、全て涙の跡と、『しね』の文字で埋まっている。ご丁寧に赤鉛筆でだ。
『イロリにっき・6』に移行する。
"そうてんいん りかこ。にっくきどろぼうねこのなまえ。あたしはこのこをころしたい。でも、ころすのはわるいこと。わるいことをしたらちーちゃんがかなしむ"
"ちーちゃんは、りかこをあたしにしょうかいした。ちーちゃんのどうじょうのおししょうさんのむすめらしい。くやしいけどかわいい。くさってしまえ"
"ちーちゃんはりかこを、りっちゃんとよんだ。ちーちゃんにしたがってあたしもりっちゃんとよぶ。りっちゃんはうれしそうなかおをした。ともだちになったとおもってるのか。こういうのをあさはかっていうらしい"
"りっちゃんはかわいい。くやしい。ちーちゃんのめは、りっちゃんをむいてる"
"りっちゃんをころす"
"りっちゃんとおりょうりをした。てがすべったふりをしてりっちゃんにほうちょうをさそうとした。そしたら、りっちゃんはすででほうちょうをくだいた。くやしい! くやしい! くやしい!"
"りっちゃんはバケモノだ。ころせない"
"ちーちゃんは、りっちゃんのこと、すきなのかな……"
"こわいよ"
"ちーちゃんがりっちゃんのことすきになったらどうしよう"
その後は、イロリが蒼天院理科子に対して抱いた嫉妬と不安と、理科子を殺そうとして全て失敗したことが長々と書かれていた。
さらに飛ばし、『イロリにっき・9』。
"もうなにもこわくない"
"ちーちゃんとキスしちゃった。ちーちゃんがねてるときに、こっそりくちびるをくっつけた"
"ながいことそうしてたら、たりなくなってきて、ちーちゃんのくちびるをしたでなめた"
"それでもまんぞくできないから、ちーちゃんのくちびるをむりやりあけて、したをいれた"
"ちーちゃんのくちのなかでしたをうごかした。くちのなかはあったかくて、あまくて、すごかった。とにかくすごかった"
"ちーちゃんのしたをぺろぺろして、ちーちゃんのくちびるをすった"
"ちーちゃんはおいしい"
"やめらんない"
"それから、くせになった。ちーちゃんはねるとなかなかおきない。ちーちゃんがおひるねすると、いつもあたしはちーちゃんとキスする"
"あたしはりっちゃんよりもちーちゃんをしってる"
"りっちゃんにかった!"
はいはい、良かった良かったと、高崎は次の日記を手にとる。『イロリにっき・13』。
"ちーちゃんとおわかれ……"
その日記は、それだけぽつんと書かれていて、あとは涙でぐしゃぐしゃになっているだけだった。
次の日記からは、散文的だった今までと変わり、日付けがかかれている。千歳と幼稚園の終わりごろに分かれてから、数年後のようだ。
『イロリ日記・14』。この頃から漢字が徐々に使われ始めている。
"ひさしぶりに日記を書く。私は京都大学のけんきゅうじょで、変なおくすりのじっけんだいになっている。とうごうきょうだんっていうグループと協力しているらしい"
"お父さんとお母さんは、それでいっぱいおかねをもらえるらしい。そんな理由で、あたしとちーちゃんを別れさせた。人間のクズ"
"でも、かまわない。お別れの前に、けっこんするって約束した。ちーちゃんは約束をまもるひとだから!"
"ちーちゃんのことを思い出すと、胸がドキドキする"
"ちーちゃんに会いたい"
比較的まともな人間になっている……のか? それほど過激ではない内容で、その日記は終わった。
が、次の高崎は次の日記を見て、思わず吹き出しそうになった。完全に油断していた。
"ちーちゃんを想うと、おまたがむずむずする"
"ちーちゃんのくちびるにふれたことを思い出すと、おまたがむずむずする"
"ちーちゃんの手にふれた私の手を見ていると、おまたがむずむずする"
"あまりにもむずむずするから、手でさわってみた。なんだかあつくて、ビクッとした。でも、きもちいい。私、変になっちゃったかも"
"ちーちゃんのことを思い出すたびに、おまたが変になる。しめってきて、ぱんつがぬれちゃう"
"あまりにもむずむずするから、机のかどにこすりつけてみた。そしたら、すっごくきもちよかった!"
"もしかしたら、私は変なのかもしれないと思うけど、きもちよくてやめられない"
"ちーちゃんのくびすじがたまらない"
"ちーちゃんの指はきれい"
"ちーちゃんの足にさわりたい"
"ちーちゃんの……おまたにも、ふれてあげたい。こんなにきもちいいことがあるんだから、してあげたい"
その後、延々とイロリのオナニーライフが綴られていた。
それ以降の何冊かも、似たような内容だったので、高崎は再び飛ばした。
『イロリ日記・23』
"一応、学校には行かされる。けど、友達はいない。いらない"
"女の子は好き。かわいい。けど、将来ちーちゃんをたぶらかす可能性をみんな持ってると思うと、なんかやだ"
"男の子はどうでもいい。ちーちゃん以外の男の子はみんなバカ。ちーちゃんみたいな紳士はいない"
"今日、男の子に告白された。「好きな人がいるから、ごめん」と言ったら、次の日、教室中で、私の好きな人が誰なのかをみんなが勝手に予想していた。はっきり言うけど、この学校にはいないよ"
"学校の中で一番かっこいいとか言われている男の子が、私に告白してきた。自信たっぷりでうざったらしい。「好きな人がいるから」と断ったら、「僕のどこがいけないの?」と訊いてきた。「全部」と答えた"
"ちーちゃんの好きなところはどこかって訊かれると、「全部」って答えると思う。詳しく答えてたら、一生かかっても終わらない"
"いつのまにか、私は学校で一番かわいい子ってことになっていたらしい。そんなあだ名いらないから、ちーちゃんが欲しい"
"私がいくらかわいくても、ちーちゃんに振り向いてもらわないと意味無い"
"ちーちゃんが気に入る見た目じゃなかったら、私はただのブスだ"
"そもそも、この学校の子は、誰も人の内面に興味が無い。私が勉強ができることとか、私が運動ができることとか、私の見た目が美しい部類だとか、そういうことにしか目がいかない。子供っぽすぎる"
"学校で性教育を受けた。私は、子供の作り方と、私が今までちーちゃんを思ってしていたことが、その欲求を自分で満たすための行為だと知った"
"ちーちゃんの子供が欲しい"
"ちーちゃんと、子作りしたい"
"ちーちゃんとえっちなことをしたい"
その後には、千歳との初夜の妄想が100ページ近くにも渡って書かれていた。
それからの数冊は、何度も繰り返される初夜妄想によって消費された。
"もちろん、えっちな意味だけでちーちゃんが好きなわけじゃない。ちーちゃんの心を好きになったのが、始まり"
最後にそうかかれ、初夜妄想ラッシュは沈静化した。
『イロリ日記・31』
"二次性徴が始まったらしい。おっぱいが大きくなってきた"
"みんなが私のおっぱいを見る。気持ち悪い目線。身体の芯からくさってきそう"
"ちーちゃんに見て欲しい。ちーちゃんは、私の今の身体を見たら、どう思うかな? えっちな気分になるかな?"
"まあ、そういう人じゃないのがちーちゃんなんだけどね。私はわかる"
"でも、男の人はほどんどがおっぱい大きいほうが好きらしいから、嬉しい。ちーちゃんが特殊な人じゃなければ、これは武器になる"
"それと、おっぱいを揉んでると気持ちよくなった"
『イロリ日記・38』
"夢にちーちゃんがでてきた。最高の一日!"
"でも、統合教団の実験はきつくなってきた。もうやだ……"
"どうしよう。逃げたい"
"でも、味方はいない。お父さんもお母さんも、最低な人間だから"
"こんなときちーちゃんがいたら、私を助けてくれたのかな……?"
"でも、ちーちゃんは東京にいる。私がなんとかしないと"
『イロリ日記・39』
"統合教団に、私と同じくらいの歳の女の子が入ってきた。アリエスという名前らしい"
"アリエスは真面目で堅物だけど、学校の女の子たちよりよほど良い子で、強くて、頼もしくて、ちょっとちーちゃんに似てるかな"
"もちろん、ちーちゃんと比べてしまうと一気にゴミ以下なんだけどね♪"
『イロリ日記・40』
"アリエスと友達になった。いろんな話を聞いた"
"アリエスは、家族をみんな殺されてしまったらしい"
"私もアリエスにいろいろお話をしたけど、ちーちゃんのことは教えなかった。ちーちゃんのような素晴らしすぎる男の子を知って、普通の女の子は正気じゃいられない"
"おろかにも、ちーちゃんを好きになってしまったら大変だ"
"アリエスは見た目も性格もいい。ちーちゃんをたぶらかしてしまったら、危ないかも"
『イロリ日記・41』
"アリエスと会ってから、ちょっとだけ気がまぎれたけど、なんだか不安。ちーちゃんがピンチな気がする"
"ちーちゃんのことが気になって仕方ない。いつになったら、統合教団を出て東京に帰れるのかな"
"たぶん、あの親がいる限り、無理かもしれない"
"どうやって殺そうかな"
"今の私には、その力がある"
『イロリ日記・42』
"とりあえずお母さんを殺してみた"
"お父さんが「誰がこんなことを……」と言ったので、「私だよ」と言った。目を見開いて動かないお父さんに、私はお父さんの罪深さを説明した"
"ちーちゃんと別れさせたことが、どれだけいけないことか。わからないまま死なせるなんて、やだ。後悔したまま死んで行け"
"できるだけ痛めつけて殺した"
"これは、ちーちゃんに会えなかった私の心の痛みだよ。受け止めてね"
『イロリ日記・43』
"統合教団が、私を処分しようとし始めた。そりゃあ、飼っていた実験動物が人を殺したら、処分する。あたりまえ"
"でも、処分されるのはあなたたちのほう。私を死神に変えたしっぺがえしをくらうのは、あなたたちのほう"
"やった……やっと全滅させた!"
"あとは、アリエスだけ"
"アリエスは、仲間になってくれるかもしれない。ちーちゃんと会わせたくは無いけど、唯一の友達なんだ"
『イロリ日記・44』
"アリエスは私を拒んだ。悲しいけど、私はアリエスを倒した"
『イロリ日記・45』
"とりあえず色々して、東京へ自力で帰れるようにした。これでちーちゃんにあえる!"
"ちーちゃん、待ってて!"
"ちーちゃんに会えると思うと、ぱんつが湿ってくる!"
『イロリ日記・46』
"やったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!"
"ちーちゃんかっこいい! 大人ちーちゃん最高! 想像の何千倍もいい!!!"
"もうちーちゃんしか見えない!!!!!!"
"しかも、相変わらず優しい! 変わってない! ちーちゃんかっこいい! 最高! もう、とまんない! トイレでオナニーしちゃった!!!"
"でも、私とちーちゃんの間に入ってくる女の子がいた"
"野々村 ナギ"
"新しい泥棒猫"
"消そうかと思ったけど、色々あって友達になってしまった"
"胡散臭い女の子だけど、妙に説得力がある。「自分が頑張れば、他人を排除しなくてもいい」という主張は、確かに正論だと思う"
"そうだ……。これ以上人殺しをしちゃったら、ちーちゃんに迷惑がかかる"
"ちーちゃんに迷惑をかけたくない。だから、殺さない"
"そうしよう"
"それにしてもちーちゃんは相変わらずイイ。何がいいって、全ていい。見てるだけで発熱する。脳みそ沸騰しちゃう!"
"これからずっと一緒にいられるんだと思うと、もうね! 言葉ではいいあらわせない!"
"ナギちゃんの扱いは、今は保留。邪魔になったら消しちゃおう"
(以下、千歳との初夜妄想で埋められている)
『イロリ日記・47』
"ナギちゃんは思ったより何倍も手ごわい。テニスで負けるなんて、思ってなかった"
"ちーちゃんも、この子が好きみたいだ。でも幸いだったのは、ナギちゃんはちーちゃんを諦めちゃっているということ"
"この子から、ちーちゃんに好かれる要素を学び取ったら、消そう。それからでも遅くない"
"それにしてもちーちゃんはすばらしい。何がすばらしいって、全てすばらしい。見てるだけで発情する。おっぱいではさみたい"
"正直、たまんない。ちーちゃんのおちんちんを舐めたい"
(以下、千歳との初夜妄想で埋められている)
『イロリ日記・48』
"ちーちゃんが貧乳好きだったらどうしよう。ナギちゃんには魅力がたくさんあるのはわかるけど、ちっちゃいところとか、貧乳なところとか、毛が生えてないところが好みとかだったら、勝ち目が無い"
"ナギちゃんは、私の知らないちーちゃんをいっぱい知ってる。……私は、ちーちゃんのことを一番良く知ってるとは思うけど、もしかしたそれすらナギちゃんに負けるのかと思うと、怖い"
"怖い……ナギちゃんを殺したい"
"でも、まだだめ。それは早計。あくまで自然な形で死んでくれないと。ちーちゃんにも私にも不都合だ"
"それと、りっちゃんにまた会った。りっちゃんは相変わらず強かったけど、ちーちゃんとの仲は進展していない"
"警戒の必要は、さしてない。よかった。りっちゃんは消さなくて大丈夫みたい"
"殺しは、本当は好きじゃない。けど、必要になったら躊躇はしてられない。私は、ちーちゃんを諦める気は毛頭ない。だれかがちーちゃんを奪ってしまったら、実力行使も辞さない"
"本気を出せば、私は誰だって殺せるはずだ"
"押し入れのお父さんお母さん。イロリに力を与えてくれてありがとう。私が幸せになるの、見守ってね"
ここで、高崎は読むのをやめた。
「押し入れ……?」
高崎はそれが頭に引っ掛かった。押し入れを探す。
写真が邪魔で分かりにくかったが、一応すぐ見つかった。
そっとあける。
「……これは……!」
仲良く寄り添った二つの白骨死体。
おそらく、イロリの両親。西又夫妻のものだろう。
「ばかな……!」
静かな狂気に満ちた日記。そして、白骨死体。
西又イロリは……。
自覚はしていないだろう。精神異常や精神疾患の類でもないだろう。
西又イロリは、あくまで純粋に鷹野千歳を追い求める、それだけの存在。
そのためだけに生き、そのためだけに殺してゆく。
人間が、自らの基本的な食欲を満たすために他の生物の命を奪うように。
生きることと、千歳を求めることが、当価値なのだ。
この日記は、確かに極端な狂気は見当たらない。文面もまともだし、文字も丁寧。一見、異常者の日記に見えない。
そうだ。西又イロリは異常ではない。普通だ。
西又イロリの普通こそが、異常であり、それを忠実に実行している西又イロリはある意味究極の普通人であり、同時に比類なき異常者。
イロリは幼少期から一貫して、表面上はどうあれ、千歳のことが脳内のほとんどを占め、千歳と比較すると他の全てがくだらないものに見えている。
そして、邪魔なら殺す。そこになんの躊躇もない。
人殺しは悪いことだからしないのではない。人殺しは、千歳に迷惑がかかるからしないだけだ。
全てが、千歳を基準にして動いている。
それだけだ。
そこに、何の疑いもないだけだ。
"あたしは、いっかげつまえのあたしをけしたい。ちーちゃんをすきじゃないあたしなんて、さいてー。ごみ。ちーちゃんをすこしでもきらいだったあたしは、ほんとうにはずかしい"
この文章が、イロリの全ての行動原理を端的に表している。
鷹野千歳を愛していない西又イロリなど、存在自体が無意味なのだ。
イロリは、千歳なしには、もはや自分にすら価値を見出さない。イロリが価値を見出すのは、千歳のみ。
自分よりも、千歳が重要なのだ。
「そろそろ時間が……」
高崎は、日記の写真と、白骨死体の写真をいくつか撮影してから、痕跡を完全に処理してから部屋をでた。
鍵を閉め、これで完璧だ。
(カナメ様が危ない。報告し、早々に対策せねば……)
このままでは、主人の命も危険だと判断した高崎は、早足に……。
「まだ、終わっていませんよ」
その背中にかけられたのは、女の声。
――見られた!? 西又イロリか!?
「失礼、どなたでしょうか」
表面上は落ち着き払って振り向き、話し掛ける。
見ると、黒のショートヘアに眼鏡の、一見地味な女子高生だった。
「私、西又イロリさんの友達なんです。あなたは、ご家族の方ですか?」
どうする。高崎は考える。話をあわせるべきか。
――いや。
この少女の目を見れば分かる。こちらを完全に見下した目。
不法侵入者であることくらい、わかっている。
「いえ」
正直に答えた。
「賢明ですね」
少女は魅力的な笑顔を浮かべた。
「では、不法侵入者ということになりますね。『高崎 忍(たかさき しのぶ)』さん」
「なぜ私の名を……?」
「情報は武器ですよ。あなたがよく知っているはずです」
「あなたは一体……」
「高崎さんは私のことを知らないでしょうけど、私はあなたのこと、たくさん知っていますよ。千歳君を小うるさくかぎまわっていましたね、あなた」
「……」
そこまで知っているというのか。場合によっては、『処理』しなければならない。
高崎がそこまで考えたところで、少女はさらに邪悪に笑った。
「私を消しても無駄ですよ。あなたの御主人様を危険にさらすだけです」
「どこまで知っている……!」
「必要事項は、ほぼ全て。少なくとも、高崎さんとその御主人様――御神カナメさんに対しては、圧倒的有利に立てる程度に」
「何が、望みですか」
「理解がはやいですね。そうです。取り引きしましょう……。ですが、ここはまずいですね。喫茶店にでも行きましょう」
♪ ♪ ♪
のんきに紅茶をすする少女に、高崎はいらだち始めた。
「あの……!」
「せっかちですね。女の子は雰囲気を重視するんです。あなた、だからモテないんですよ」
「くっ……!」
少女は紅茶をおき、本題に移る。
「私が持っていない情報は、西又イロリさんに関してのものです。外形は大抵把握できましたが、あなたのように家に踏み込む所までは行きませんでした――だって、私は命がおしいですから」
「どういうことですか」
「高崎さんと、御神カナメさんは、命の危機だということですよ」
「それは、我ら御神家の力を知っての発言ですか?」
「そう、もちろんです。世の中、お金でも権力でもどうしようもないものがあります。それは、『個人の意思』です」
「それは……」
「金で買える、といいたいんですか。確かに、あなた方の世界ではそうでしょうね。でも、それはあなたが『意思』を持った人間に会ったことがないからいえることですよ」
少女は紅茶に砂糖を追加した。
「人間の意志には自由がある。そう言われたのは近代思想が浸透して以降ですが、その言葉は上っ面だけ見ていても本質を掴み取ることはできません」
少女は非常にあまったるくなったであろう紅茶を、おいしそうに一口すする。
「人間は社会に常に埋没しています。人間が自由意志を持ったと勘違いするその行為そのものも、それは社会意思を反映した結果の域をでません」
ここまできて、やっと高崎にも理解できた。
こうして遠まわしに少女が表現した『個人の自由意志』とは、西又イロリの人格についてだ。
「西又イロリさんは、あなたがた御神グループの手に負える存在ではありません。貴方達は個人同士のつぶしあいがどういうものか、理解していない」
「統合教団が壊滅した事実を指しているのですか……?」
「はて、なんのことでしょうか。そんな組織は聞いたことが無いので」
はっとして口をつぐむ高崎。統合教団という組織と西又イロリに関連があると知ったのは、今自分が部屋に侵入し、日記をみたからだ。と、思い至る。
つまり、これはこの目の前の少女に対する『カード』。巧みに引き出されては意味が無い。
こうして話している間に、こちらが不利になる。
結果的にカナメを不利にしてしまえば、高崎の失態ということになる。
(それは避けねば)
高崎はあくまで慎重にしようと、堅く決心した。
「――つまり、西又イロリの個人の力は、御神家ではなくあくまでカナメさま個人の命の危機に直結すると、そういう意味ですか?」
「はい、そうです」
なるほど。少女の持つカードは、それだ。
少女はこの口ぶりだと、おそらくだか組織力を持たない。あくまで個人。
何者かは分からないが、一人ですでに組織を凌駕するような、気迫がある。
それは、カナメと同じ。『王の器』とでも呼ぶべき……。
「ここで主張する私のカードは、『西又イロリによる御神カナメへの危害の阻止』です。これはおそらく、あなたや御神家の人間には不可能であると思っています」
「あなたになら、可能だと?」
「そういうことですよ、高崎さん」
自信に溢れた表情。
真意が読めない。この少女は、西又イロリと同等の厄介さを秘めているかもしれない。
「そして、先ほどにも行ったように、私が高崎さんに要求するカードは、『部屋の中に秘められた、西又イロリの情報』です」
「……少し、お時間を」
「いえ、即決してください」
「カナメ様に報告しなければ……」
「私は、御神カナメさんと取り引きしているのではありません。高崎さん、あなたと取り引きしているんです」
「私と……?」
「そう、あなたがカナメさんを守りたいか。判断基準はそこです」
「……」
「さらに言うなら……。私は西又イロリさんと友人なのですが、あなたが部屋に侵入した事実をイロリさんに漏らしてしまったら、どうなりますかね? 想像してください」
高崎の脳裏に、最悪の状況が思い浮かんだ。
例えば、西又イロリとカナメが共にいるはずの今、この少女がもしメールかなにかで高崎のことを西又イロリに漏らしたら……。
カナメが、その場で殺される可能性も無くは無い。
「……わかりました」
♪ ♪ ♪
(これで、良かったのか……?)
高崎は、結局あの少女に情報を与えた。嘘が通用しないだろうあの少女には、全て本物の情報を伝えてしまった。
リターンは、意味があるのか無いのかもわからない、あの少女によるカナメの保護。無いに等しい。
むしろ、カナメを人質にとられて情報を垂れ流した形となった。これは、カナメにとって有利に働くのは、不利に働くのか。現時点ではわからない。
絶対的優位とは、こういうことか。
あの少女は、カナメと同じ制服を着ていた。調べればすぐに素性は割れるだろう。
だが、おそらく意味は無い。
カナメと同じタイプの、圧倒的なまでの勝負強さ。それを感じる。
記録に残るような何かをやらかすタイプではない。むしろ、あの少女は記録上はできるだけ特筆事項のない地味なタイプとして生きているに違いない。
手ごわい。
だが。
(だが、何が起ころうが、カナメ様を守るのが私の任務だ……。命を捨ててでも)
その決意だけは、高崎の胸の中で、静かに燃えているのだった。
十九話、終わりです。
終了です
>>454 GJ
しかしイロリここまで執着していたのか、だがそれがイイ
456 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 14:45:41 ID:caTusap1
つまんね
これがヤンデレなのか疑問
もうすぐ病みが出てくるのさ
GJ!!
十九話でもうすぐか…
なっがい前フリだな
>>454 乙乙〜イロリ黒すぎ怖ええw
充分病んでるだろw
461 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 17:17:33 ID:QN4HujVQ
ヤンデレなのか?
十分病んでる気がする
みんなハードル高すぎワロタwww
とりあえずGJ!!
イロリに萌えた!!
GJ!!!
作者がヤンデレだとおもうならソレはヤンデレなのです。
「いや、その理屈はおかしい。」
,. -──- 、
/ /⌒ i'⌒iヽ、
/ ,.-'ゝ__,.・・_ノ-、ヽ
i ‐'''ナ''ー-- ● =''''''リ _,....:-‐‐‐-.、
l -‐i''''~ニ-‐,.... !....、ー`ナ `r'=、-、、:::::::ヽr_
!. t´ r''"´、_,::、::::} ノ` ,.i'・ ,!_`,!::::::::::::ヽ
ゝゝ、,,ニ=====ニ/r'⌒; rー`ー' ,! リ::::::::::::ノ
i`''''y--- (,iテ‐,'i~´ゝ''´  ̄ ̄ヽ` :::::::::::ノ
| '、,............, i }'´ 、ー_',,...`::::ィ'
●、_!,ヽ-r⌒i-、ノ-''‐、 ゝ`ーt---''ヽ'''''''|`ーt-'つ
( `ーイ ゙i 丿 ;'-,' ,ノー''''{`' !゙ヽノ ,ヽ,
`ー--' --'` ̄ `ー't,´`ヽ;;;、,,,,,,___,) ヽ'-゙'"
(`ー':;;;;;;;;;;;;;;;ノ
``''''''``'''''´
病んでいて、デレてれば、それはヤンデレではないのかね?
病むほどデレれてるのもヤンデレだろう。
病んだ人間がでれてればヤンデレとかいうならひぐらしのレナも空の境界の式もヤンデレになるだろうが・・・
病み原因が深い愛情でないかぎりヤンデレじゃなくてヤンデルだろ
ひぐらしのレナこそがヤンデレ
ヤンすぎたからデレなのではない
デレすぎたからヤンなのだ
>>469 病院にいこう、な?付いていってやるから
SAW4を観たんだ。
あのシチュエーションを捕えられた男とゲームに参加させられたヤンデレに置き換えると
確実にヤンデレは90分以内に男の居場所を突き止めて、最悪の結末を迎える
「執着を捨てろ」って無理だろ
投下します
7話「学園急降下(スクールデイズダイブ)・上昇」
国会討論というのを、最近は特に目にするようになった。 国民の政治への興味低迷のためか、ニュースなどで頻繁に取り上げられるようになったからだろう。
いい年下した大人たちが互いの揚げ足をとっては野次を飛ばしあう光景は、子供の教育上よろしくない。
もっと生産性の高い討論もあるだろうに、ニュースというのは見苦しい言い訳をするシーンだけを切り取って見せてくる。
ただ、今目の前で行われている質疑応答の様子を見ると、全部あんな感じなのでは、と思えてしまう。
遊佐はくるみにパイを食べさせた後、すかさず話の軌道を元に戻し、ぐだぐだと誤魔化し続ける佐藤を問い詰めるのを、既に10分近く続けている。
特殊なスキルでも持っているのか、遊佐の追及とツッコミは半端なものでなく、佐藤が四方八方へと投げる球を捕っては投げ返し、また捕っては投げ返すのを続けた。
しかも、全て顔面狙いなので佐藤の体力は余計に削られていく。
その間、どことなく居心地の悪い俺は椅子を立ち、入り口の近くの資料棚をあさることにした。
創立44年を迎えるこの高校の歴史は深く、生徒会の日誌だけで相当な量がある。どこか尊敬心を抱きながら手にとって見てみると、意に反して空白のページや落書きなどが多く見受けられる。
中には、一冊丸々が生徒の恋愛事情で埋められたものさえあった。尊敬の使いどころを間違った気になった俺は棚のほうを向いたまま、横のごみ箱へ静かにその日誌を捨てた。
2人の討論がどこか遠くのものに感じるのは、背後にいるくるみとの距離やたら近いからだろうか。
棚の戸はガラス張りなのだが、自分が邪魔で背後は確認できない。それでも、俺が席を立ったときにくるみも続いて立ったし、今もすぐ後ろから気配を感じているので間違いないだろう。
先ほどと同じ、敵意にも似たものだ。肌に感じる冷たさは、クーラーが原因ではあるまい。
鈍感だ、朴念仁だと言われたことはない。意識して他人に気を遣うようにしているため、お節介だ、お母さんだと言われたことならある。勘違いを多くして恥もかいてきた方だ。
だのに、俺がくるみに敵意を向けられている理由がわからない。何か酷いことをしてしまったなら、今すぐに謝る。いや、きっとその時に謝っているはずだ。
「なぁ、そんなとこで何してるか知らんが助けてくれよ、斎藤」
佐藤の呼びかけに、俺は身震いをした。続けて遊佐が何か言ってるが、脳まで届かない。
これはチャンスだ。先ほどから何度も振り向くタイミングを見計らってきたが、己の直感以外の情報がない以上、見出すのは難しかった。ここで振り返れば、本心とまではいかずとも、その一片ぐらいは除けるかもしれない。
意を決し、勢い良く振り返る。俺が目にしたものは━━
ごく普通の、普段と何も変わらない生徒会の面々だった。
相変わらず遊佐と佐藤は言い合いをし、飛び交う会話のボールが見えているかのように目線で追う梅ちゃん、小さなメモ帳に覆い被さるようにして何かを書きつつも、
時折自分へ向けられる会話の矛先に相槌をうつりおちゃん、そんな様子を優しげに見守るくるみ。
何も、変じゃない。くるみがいつの間に席についたかは分からないが、背後に感じたものは勘違いだった。とすれば、さっきのも俺の思い違いである可能性が高い。
くるみが突然に俺の体や服を掴むのは今に始まったことではないし、俯きがちになるのも癖のようなものだ。
そう、いつも通りだ。
「・・・なにニヤけてんのよ」気持ち悪い、と遊佐は言い捨てる。
今は変に安心してしまった。
「言葉を選ばないと友達無くすぞ」
「友達は選ぶわよ」
「やったな斎藤、俺たちは選ばれた人材らしい」佐藤が横から入ってくる。
「あら、あんた達いつから友達に昇格したの?」
「予想外の答え!?」
「俺はなんとなく予想してた」
「あたしのこと友達じゃないいて言うの!?」
「いやいや、どんなボケよ、それ」
くるみが笑い、りおちゃんも笑う。ついでに、梅ちゃんも笑った。俺は平和だなぁ、と誰にも聞こえないよう、口に出して確認した。
平和は続かないものである、という世界の常識を、この時だけは忘れていた。
「いい加減に話しなさいよ」
幾度かの問答を経て、遊佐に限界が訪れた。よくもった方だな、とは間違っても口にできない。
「いや、だからな、その・・・」
佐藤はといえば相変わらず曖昧で、席に戻って本を読む俺や、メモを書き続けるりおちゃんの方をチラチラと見ている。俺はいいとして、りおちゃんにまで助けを求めるなんて、堕ちたな佐藤。
とはいえ、流石に潮時だろう。「遊佐、とりあえずその辺で、な」
立ち上がり憤慨する遊佐の肩を、俺も立ち上がって叩く。その手を振り払うように肩を回すと、遊佐は俺と向き合った。やばい。
「あんたは気になんないの?あんだけ騒いでたくせにいざ訊いてみたらもったいぶるし・・・あたしはもう限界っ」
やけに紅潮した遊佐の矛先は、案の定俺へと向かってきた。
「いや、とりあえず落ち着けって、顔真っ赤だぞ」
「うるっさいっ」
流石にこの状態の遊佐は俺でも手におえないので、方法を変えるしかない。
「佐藤、吐け」
「裏切んのはえ〜」
「仕方ないだろ、撲殺も絞殺も消滅も、俺は全部嫌なんだよ」
「でも・・・なぁ」横目でりおちゃんを見る。
俺に裏切られて遂にりおちゃんに全面的に頼るつもりか。堕ちれるだけ堕ちたな。
肝心のりおちゃんは、やはりメモ帳と対決している。最近は頻繁に書いているのを見るのだが、中身を知っている者は1人としていない。 「佐藤、助け舟を期待するな」船が来ても、今の遊佐なら粉砕しかねない。
「いや、違って、その・・・」
「そうだ、梅本君は何か知らない?」
ふいに、遊佐が攻め方を変えた。ただの思いつきか、気配り上手な遊佐なりのうめちゃんへの気遣いだったのか。
これが功を奏した。いや、結果的には悪いほうへ転がるのだが。
「うら、浦和先輩が行方ふめいんぐぉっ」半ば机の上にダイブする形で佐藤が口を塞ぐが、手遅れだった。
「浦和先輩が」
「行方不明?」
「だから・・・はぁ」
座りなおす佐藤から、思わずりおちゃんへと視線を移す。りおちゃんはペンを置き、クリクリとした目を見開いてこちらを見ている。
バレー部主将、浦和好紀(うらわ こうき)先輩とりおちゃんの交際は今年も継続されていた。
俺が感じ取った2人の問題を乗り越えたのか、はたまた俺の勘違いだったのか、とにかく、マネージャー業を続けていることから順調なのは火を見るより明らかだった。
昨日、つまり日曜日にも練習があったので、浦和先輩のことは目にした。相変わらずのキレの良いスパイクを披露した先輩は、誇らしげにりおちゃんへとピースサインをしていた。
午前のみの練習だったので昼頃に終わり、俺と佐藤は駅前のラーメン屋へ向かったのだが、途中で浦和先輩が合流した。
なんでも、りおちゃんは今日一日用事があるらしく、しょぼくれていたところに偶然俺たちがいたらしい。昼食後も公園でキャッチボールなどをして先輩が、眠くなったから帰るわ、と言うまで一緒だった。
とすると、りおちゃんは昨日の昼から会っていない状態で、いきなりこの話を聞かされたことになる。結局、ずるずると夕方まで一緒にいた俺でさえ衝撃的なのに、りおちゃんのそれは計り知れない。
「・・・詳しく言ってみて」
「おい、遊佐」
「分かってる。けど、もし本当なら放って置けないでしょ」
遊佐の顔は真剣そのもので、俺の止める気も腕と共に払われてしまった。
遊佐が佐藤に向き直ると、2、3回頭部を掻いてから、佐藤は諦めたように話し始めた。
「昨日の夜から家に帰っていないらしくて、携帯も家に置きっぱなしだそうだ」
「警察は?」
「まだ動いていないらしい」
「何よそれ。こうなったら、あたし達で、」
「いい加減にしてください」
机を叩く音と同時に、りおちゃんの声が響く。
「放って置けないとか、自分たちでとか・・・ごっこ遊びじゃないんですよ!?」
初めて見るりおちゃんの怒りの感情に、俺は言葉を失った。
「いや、その、あたしは・・・」
「もういいです」
遊佐の言葉をぴしゃりと断ち、そのまま生徒会室を後にしてしまった。
扉の閉まる残響の響く中、全員が黙りこくった。いつもの自信に満ち溢れた表情から一変、弱りきった顔の遊佐が小さく、どうしよう、と呟きながら俺を見てきた。
「心配すんな、あとでフォロー入れとく」そう言ったが、正直なところ、自信はない。
放課後、りおちゃんが早退したと聞いた俺は、中学校の頃にバレーを始めて以来、一度たりとも休まなかった部活を休んだ。
遊佐のため、りおちゃんに謝りに行くのではない。そりゃあ、男として女性からの好感度は上げたいが、今はそれどころではないのだ。
校門まで行くと、門の前の花壇に座るくるみを見つけ、驚いた。
くるみは部活に入らなかった。元来より運動が苦手だった上、右眼の障害があっては体育会系の部活は難しい。文化部やマネージャーも薦めてみたが、首を縦に振ることはなかった。
それでも、くるみは一緒に帰ると言い張り、部活が終わる7時や8時まで生徒会室に篭っている。その際は俺が鍵を貸し、予め用務員の見回りの時間を調べ、隠れる準備もしている。
いっそバレー部のマネージャーになれば良かったのだが。
くるみは俺を見ると、スカートの後ろを叩きながら立ち上がった。
「先に帰れ、ってメールしなかったっけ?」
「うん、来たよ」
「用事があるとも書いたよな?」
「うん、書いてあった」
「じゃあ、なんで?」
「お兄ちゃんと一緒に帰りたかったの」風にそよぐ花のように首を傾け、にこりと笑った。
こうして改めてみると、やはり可愛い。地毛だという証明が出来たため、髪の色は変えていない。強いて言うならりおちゃんと同じく少し伸び、相変わらず遊ばせているということか。
上下紺色というただ地味なだけの制服も、くるみが着ると淑やかに見えてくるから不思議だ。最も、最近は気温も上がり始めたので、ブレザーではなくノースリーブの黒いベストを着ている。
右眼には見慣れてきたアイパッチがあるが、そのお陰でより左眼が綺麗に見える。これなら入学早々、全学年から分け隔てなくラブレターを貰ったのも頷ける。
首もとのチョーカーが目に付く。
「気に入ってるみたいだな、それ」
「うんっ、大好きだよ」
ワイシャツの中へ指先を入れ、取り出したチョーカーの飾り部分を見せてくる。大小異なった指輪大のリングが二つ、小さいほうが大きいほうの内側に入り、上から見るとクロスしているデザインとなっている。
去年と引き続いて忙しい両親は、くるみの入学祝と称して金だけを置いていった。好きなものを買えばいい、と言ってやったら、くるみは俺に選んで欲しいと頼んできた。
残念ながら俺にそんなセンスはなく、結局はくるみ先導で決めたのがこのチョーカーだった。
「チョーカーって、首輪みたいなやつかと思ってたな、俺」
「首元にぴったりしてるのを全般的に、チョーカーって言うんだよ」
へぇ、と相槌を打ちながら、再びくるみを観察する。
俯きがちになる所は若干暗く感じてしまうかもしれないが、それが儚さを増長して魅力となっている感もある。抱き締めれば折れてしまいそうな細さや白い肌は、護ってあげたい、と思わせる力を充分に備えている。
ただ。
「お兄ちゃん・・・そんなにじっと見られると恥ずかしいんだけど・・・」
「くるみって、着物が似合いそうだよな」平坦、と表現できてしまう身体を、控えめに表現してみた。
「えっ、ホントに?」
本来なら殴られて当然の台詞に、くるみは明かりが点いたような表情で喜ぶ。この天然というかあどけないというか、これもくるみの魅力なのだろう。
「捜すんでしょ?」
駅へと歩き出してから、突然くるみが言った。「え?」
「部活の先輩、えっと、うら・・・」
「浦和先輩?」
「そう、その人。お兄ちゃん、捜すつもりなんでしょ?」
驚いた。突拍子もない話題にではなく、心を読まれたことにだ。
一応言っておくが、自分の手で犯人を捕まえようだとか、ましてや遊び半分なんてこともない。俺はただ、佐藤の話を聞いて確認したいことがあっただけだ。深く首を突っ込むつもりはない。
「・・・なんで分かった?」
「分かるよ、お兄ちゃんのことだもの」俺の前で振り返り、一段と笑顔を強める。
「身長173cm、体重65kg、足のサイズは27.5、9月2日生まれのおとめ座のO型、名前の由来は父親の憲典から一文字を拝借、特技はペン回し、趣味はバレー・読書・野球、バレーのポジションはセッター、
好きな球団は広島東洋カープ、垂直跳びの記録は校内で1番、握力は右40、左35、好きな色は青、食べ物は餃子とシチューと魚介類が好きで、嫌いなのは梅干、得意科目は国語、苦手は数学、
ピロウズやバックホーンなどの割とマイナーなバンドが好きで、犬が大好き、座右の銘は行雲流水、好きな言葉は平平凡凡」
1つ1つ指を折りながら一気に言うと、1度深呼吸をした。
「そして、私にすごく優しいお兄ちゃん」
どう?、と確認してくるくるみに、しばらく返事が出来なかった。大半は広く知られているものとはいえ、ここまでスラスラと言える人は他にはいないだろう。多分、俺も無理だ。
俺が表情を崩さないで固まっていると、くるみは小首を傾げた。
「信じてない?じゃあ、外じゃ言えない事も言おうか?」
「いや、ここ外だし」外でも中でも勘弁していたきたい。
「むぅ・・・ホントだよ?ホントにお兄ちゃんのことなら全部知ってるんだよ?」
「あぁ、分かった、信じるよ」
これは俺もくるみのことをもっと知るのが礼儀だろうか。
身長はひゃくよんじゅう・・・ご?いや、よんだったような。体重は、知らないな。あとは・・・
「まずは、家だよね」
「あぁ、そうか。えっと、実家は岡山駅の、」
「・・・お兄ちゃん、話きいてる?」
「そりゃあ」言いかかけて、我に返った。「いや、なんでもない。そうだな、まず家だよな・・・誰の?」
「はぁ。うら・・・わ、先輩?を捜すなら、まずは家に行くべきだと思うんだよ」
「あぁ、なるほど」
それは俺も考えていたことだ。
「手掛かりがないから、スタート地点に行くのが1番良いと思うの」
「そうだな、そうしよう」
「じゃあ早速、しゅっぱーつ」
何時の間にか同行する流れになっていたが、俺は何も言わなかった。嬉しそうなくるみを見ていたかったからで、決して“外では言えないこと”にビビったわけではない、断じて。
夏直前、6月の終わり頃のことだった。
終わりです。
目を疑うような展開の遅さですので、今日中に次も投下させていただきます。
GJ
GJ
GJ
続きに期待
485 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/31(土) 19:31:36 ID:3aKhJxOR
GJ!
投下させてもらいます。
8話「学園急降下(スクールデイズダイブ)・落下」
「あら、久しぶりねぇ、佐藤くん」浦和先輩のお母さんはいつもと変わりない。
先輩の住むマンションは学校から近い。やや田舎チックなこの辺りでは割と栄えているエリアで、高層マンションが乱立する一角、ごく普通のマンションが先輩の家だった。
5階建ての横長なマンションは建設中の高層マンションのせいで陰になっており、エントランスには『洗濯物が乾かない』という切実な旗が立てられていた。
やたらと狭いエレベータに乗って5階まで昇り、やや老朽化した廊下を歩く。中ほどに『浦和』と書かれた表札があった。俺は、迷わずチャイムを押す。
「何かご用かしら、佐藤くん」
黒髪を後ろで束ね、エプロンを身につけた先輩のお母さんが問う。
「ええ、先輩に少し」部活を休んだようなので直接、と言うと、おばさんは申し訳なさそうな顔をした。
「そう・・・でも好紀、昨日から帰ってなくてねぇ・・・あら、その子は?」
「あぁ、俺の従妹で、くるみって言います」
ほら、と促すと、後ろに隠れていたくるみは少しだけ前に出た。「こん、にちゎ・・・」
「あらあら、可愛い子ねぇ」
元々人見知りの気があったくるみは、今回の事故で、というかマスコミのせいで余計に恐がるようになってしまった。どうにかしてあげたいものだ、という考えを一旦置き、おばさんへ向き直る。
「実は、先輩が今日提出する試合の資料を持っているんです。俺が見れば分かると思うので、部屋に上がらせてもらえませんか?」
「あら、そうなの。まったく、好紀ったら・・・好きなだけ荒らしちゃっていいわよ、佐藤くん」
おばさんが中へ入っていくのを追おうとすると、くるみが俺の袖を握った。「どうした?」
「えっと、その・・・」不安げに俯き、モジモジとしている。「あの、お兄ちゃんは、さいとう・・・だよね?」
「当り前だろ?斎藤憲輔だよ」
「だよ、ね。でも、あの人」
「ああ、よくあることだよ」あの人の天然っぷりには参る。
浦和先輩は、昨日のラーメンやりおちゃん然り、学年の壁を越えた交際をする人だった。特に後輩の面倒見がよく、俺や佐藤は何度も先輩のお宅にお邪魔した。
その際どういうことか、おばさんは斎藤と佐藤を間違えて覚えてしまったようで、何度も訂正したが効果はなかったのだ。いい加減アホらしいので、もう何も言うまい。
「そう、なんだ・・・よかった、私が間違えてるのかと思ったよ」
胸を撫で下ろすくるみを見て、こいつも天然だったな、と思い出した。
先輩の部屋は最後に来たときから変わりなかった。
白い壁に貼られた海外のバレー選手のポスター、しばらく使われていないであろう木製の勉強机、漫画だらけの本棚にあらゆるハードのゲームが接続されているテレビと、引きっぱなしの布団。
綺麗好きなためか、掃除機も置かれている
台所にいるから何かあったら呼んでね、と言っておばさんが去っていったのは僥倖と言える。俺は迷うことなくしゃがみこみ、枕を持ち上げる。当たりだ。
「携帯・・・よくわかったね、お兄ちゃん」
「まぁな」ここしか心当たりがなかった、というのは黙っておく。
先輩は早起きを日課としていたのだが、この壁の薄いマンションで大きな音を出すのはマズイ。そこで考案したのが、携帯電話の目覚ましだった。
予めマナーモードにしておき、薄めの枕の下に置く。目覚ましが起動すると携帯は身を揺らし、同時に枕、そして頭が揺すられて目が覚めるという仕組みだ。
テレビでやっていた昔の刑務所で、丸太を枕に寝かせて朝になったら大きな槌で丸太の端を叩く、というのを参考にしたらしい。
下の階からの苦情はないので続けている、という話を前に聞いていた。さらに、そのまま忘れてしまうこともある、というのも耳にしていた。
昨日の夜からいないということで、可能性は低かったものの、佐藤の“携帯も家に置きっぱなし”という話と、“眠くなった”という浦和先輩の言葉から、それなりに確証はあった。
これが手掛かりになるとは思えないが、手の届く位置にある以上、俺はどうしても確認しておきたかったのだ。なかったら、それでもよかった。元々、深く関わる気はなかったのだから。
「中身は?」
ワクワク、ではなく、かなり冷静なくるみに少し気圧されながら、携帯を開く。
「まずは不在着信か・・・なんだこれ?」
不在着信は14件もあり、名前は『莉王』と書かれていた。
「りおう・・・もしかして『りお』か?」
某世紀末覇王の知り合いかと思ったが、すぐに理解した。周りに知られぬよう、浮気相手を男の名前で入れるというのは聞いたことがあるが、彼女の名を当て字とはいかがなものか。
「時間は・・・全部昨日の夜だね」
くるみの言う通り、全て昨日の夜、それも5分以内のものだった。数日前にもチラチラと『莉王』は載っているが、中には友人らしき名前や、女子バレー部の名前もあった。
「もしかしたら、この時間から既に家にいなかったのか?」
「どうだろう。ね、次はメールを見てみよう?」くるみが俺の背にくっついてきた。
「く、くるみ?」
「な、なに、お兄ちゃん?」俺はテンパっていたが、くるみも何故かそうだった。
離れる気配がないので、心臓を静めつつ、メール画面を呼び出す。 昨日のメールは一通だけで、返信マークがついていなかった。差出人は不在着信と同じで、内容はこう。
『いつもの竹林で待っています』
「竹林、分かる?」
「ああ、多分」
とりあえず、次の手掛かりは見つかった。
ただ、謎もある。
「りおちゃん、昨日は一日用事じゃなかったのか?」
本人から聞いたわけではないので確信はないが、先輩が言っていたのだからあながち間違ってはいないだろう。もしかしたら早めに用事が終わり、急に会おうと思ったのかもしれない。
先輩がそれに喜び、携帯すらも忘れて走って駆けつけた、というのは高校生のカップルにはいかにもな展開だ。
突然、携帯が振動した。
俺のではなく、手に持った先輩の携帯だ。驚いたが、心配した友人からの電話だろう。何気なく画面を見た時、俺は完全に機能停止した。
数年前から、着文字という機能がある。電話をかけた相手に、『緊急』だとか、『暇ならでて』、『斎藤です、番号変えました』など、いってみれば題名のようなものを表示するのだ。
この着信にも、それがあった。電話をかけてきた相手の名前の下に着文字がある。
『莉王
その疑問、答えますよ』
戦慄が走る。意味がわからない。りおちゃんが今電話してくることも、この着文字も。
どうすることもできずに固まる俺から振動し続ける携帯を取り上げると、くるみは思いっきり振りかぶって、奥の壁へと投げた。
壁にぶつかった携帯の外殻が砕ける音と、続いて精密機械が床に散らばる音。あぁ、携帯って意外と脆いなぁ。
じゃない。
「くるみっ、いきなり何を」くるみの細い指が、俺の言葉を遮る。
「あの女は、ダメだよ」
何も言えない。言えるはずがない。
今のくるみからは、何度か感じた恐怖以上のものが発せられている。静かに、だが強く言うくるみは、隠されているはずの右眼からも睨んでいるようだった。
俺の唇に当てられた指は、ゆっくりと唇全体を撫ぜる。
「あの女はダメ、お兄ちゃんに相応しくないよ」
相応しいとか、そもそも話が理解できない。なんだ、何の話をしている。
「お兄ちゃんはね・・・」
━━ふいに、足音が近づいてくるのに気付いた。
冷え切った俺の頭は迫る人物を断定し、散らばった先輩の携帯の上へとダイブした。
「佐藤くん、今のおと・・・は・・・」予想通り来たのはおばさんだったが、この事態は想定できなかった。
おばさんの目から携帯を隠そうと、まさに身を挺した俺に対し、くるみは足を使って見えづらい位置に払おうとしたようだ。結果、地べた に這いつくばる俺の頬をくるみの足が直撃することになった。
やけに長く感じた沈黙を破り、おばさんが言う。
「あの・・・そういうプレイは、出来ればお家で、ね?」
「いやちょっと待ってください」足が乗ったまま、首をひねる。
「ああ、わかるわよ?外とか、知らない場所でヤるのは燃えるわよね」
「分かりません。ってか、わからんでください」
「でもねぇ、やっぱり落ち着く場所が一番よ?こう、ゆっくりと愛を確かめ合うのが・・・」
「そろそろお暇します」
見上げたくるみの顔の赤さと、純白の下着がよく映えていた。
俺が部屋を出てから、くるみが来るまでに多少のラグがあった。それは、俺がおばさんを引きつけておく内に片付けをすると言う理由からだ。
ついでに誤解を解こうとしたのだが、おばさんは、分かってるわ、と言うだけで取り合ってくれなかった。
お礼とお詫びを言ってから帰ろうとしたら、おばさんがくるみを捕まえ、耳打ちをした。最初は疑いの表情を浮かべたくるみだったが、驚いたように肩を挙げ、顔色は茹蛸の如く、みるみるうちに変化した。
満面の笑みで手を振るおばさんから逃げるように走ってきたくるみは、横に並び、カーディガンの肩辺りをギュッと掴んできた。
「・・・あんま訊きたくないけど、なんて言われたの?」
「・・・とこ・・・・って」
「なに?もう一回」声が小さい上に俯いてしまっては聞こえない。
「・・・いとこ同士は、結婚できるって」
くるみの頭からあがる湯気が見えた。おそらく、俺はその倍の湯気を出しているに違いない。くるみが小さく、知ってるもん、と呟いたのを聞いてからは、さらに倍の湯気が出たと思う。
ふと見た夕焼けは、オレンジというよりは深紅だった。
例の竹林は、マンションから10分ほど歩いた所にあった。
先ほどとは打って変わって平屋が多く並ぶこの地域は、巷では『未開発村』なんて呼ばれている。確かに、車の通りもなければ、自販機すら見当たらない。そんな中、竹林は周囲とさらに一線を画すようにあった。
家々の並ぶ場所から奥へ行くと、いきなり竹林が現れる。異常なまでに竹が密集していて、林の周りを一周まわっても、入り口と呼べるものはここ1つしか見当たらない。
時刻は夕刻だが、そんなのは関係無しに年中薄暗い竹林を見ると、奥に魔物が住むという与太話も、あながち嘘には思えなくなってしまう。日も暮れかけているというのに、ここはやたらと湿気が高い。
りおちゃんはここに先輩を呼び出し、どうしようとしたのか。確かに、ここは地元民ですら近寄るのを躊躇う場所なので、薄暗さと相まって恋人同士にはうってつけだろうが。
身近な人でそういう妄想をするのは、あまりいい気分ではない。
「ダメだよ、お兄ちゃん」携帯を取り出した俺を、くるみが止める。
「・・・だけど、あの子が何か知ってるのなら」
「ダメ」
細い声で、それでもハッキリと断定するくるみには逆らえなかった。
ポケットにしまおうとした時、携帯が揺れた。「うぁっ」
情けなくも恐怖心から携帯を投げ捨ててしまった。草の上を転がる携帯に狙いを絞ったくるみが、右足を挙げる。
偶然、液晶が上を向き、内容が見えた。
「待てッ、くるみっ!!」
あと数センチというところで、足が止まった。ブラウンの瞳がいつもより色濃く見える。
「・・・なんで?」
「よく見ろ」腰を曲げて振動の止んだ携帯を拾うと、くるみに画面を見せた。「佐藤からのメールだ」
すっ、とくるみがいつも通りに戻る。
「なぁんだ、ごめんなさい、早とちりしちゃって」
裏を返せば、『りおちゃんからだった場合、踏み潰すのが最善の判断』ということか。
時折見せるくるみの暴走は、次第に頻度を増している。医者の言葉が過ぎる。
━━彼女はキミに依存しきっている。非常に不安定だ。
やはり、これは俺のせいなのか。俺がくるみを支えきれず、不安にさせているのだろうか。
「・・・?メール見なくていいの?」
ハッと我に返り、慌ててメールを開く。
『今日部活に来ねぇのは、やっぱり先輩のことか?
そうじゃなかったら流してくれて構わねぇ
部活のツテやらを使って先輩の交友関係をあさったが、匿ってるヤツはいなさそうだ
“御大将”の名前を出したから嘘ついてるヤツはいないと思う
ただ、昨日の夜、先輩が竹林のあたりに行くのを見たヤツがいたんだ ほら、あの“魔物の巣”だ
ま、参考までにな
明日は部活来いよ 遊佐がうるさくてうわなにをするやm・・・』
最後と4行目は流すとして、有用な情報だった。
「なんだって?」
「いや」覗き込もうとするくるみから携帯を遠ざける。
今までのことから考えるに、くるみは俺が他の人と仲良くするのを嫌っているのは間違いない。冗談とはいえ、最後の1文は危ないかもしれない。
「・・・なんで隠すの?」
「いや、佐藤のヤツ、下品なこと書いててさ、くるみのスリーサイズ教えてくれって」苦しい言い訳だ。
だが効果はあったようで、くるみは咄嗟に胸元を手で隠しながら遠ざかった。
「だ、だだだだだ、ダメだよ!?」
「わかってる、そう伝えておくから」
メール画面に、『ありがとう、そしてごめん』と打ち込んで返信した。
さて、ここからはふざけてはいられない。蜘蛛の糸にすがる気持ちで、というよりは、なんとなしに触れたワイヤーにずるずると引きずられた感じでここまで来てしまったが、佐藤の話によって急激に現実味を増した。
最後に消息を絶ったのがここならば、きっと手掛かりがある。浦和先輩も、りおちゃんのことも。深く関わらない、と言ってた俺だが、1度深くまで行ったら意地でも引き返さないのも俺である。
「こうなったら行けるとこまで行くさ」決意を拳に込める。
その拳は腕ごと、ひょいと持ち上げられてしまった。くるみが俺の手を振り回している。
「あの、ね。お兄ちゃんがどうしても知りたいっていうなら・・・いいよ、教えても」
もう出し切ったはずの湯気が、再び夕焼けに溶けていった。
竹林、通称“魔物の巣”は、外目よりもずっと深く、暗い。そのせいで360度あちこちから気配を感じ、自分が踏んだ草の音さえ恐怖を煽る。
笹の匂いという非日常も、どこか感覚を鈍らせる。右手にある携帯の明かりだけでは、心もとない。
くるみは俺の左腕にしがみ付き、たまにビクつきながらもついて来ている。格好的に胸が当たっているはずだが、恐怖心からか単に体型の問題か、よくわからない。
「恐いか?」
「ん、大丈夫。お兄ちゃんがいるから」
「そうか」“か”が裏返った。
幼い頃の記憶を信用するならば、そろそろ奥の行き止まりだ。暗闇は一層深さを増し、くるみの顔でさえハッキリとは見えない。思わず立ち止まる。
「ど、どうしたの!?」
「いや、多分、もうすぐ奥だ」
「うん、じゃあ」
「戻ろう」
「え?」表情は見えないが、声で驚いているのがわかる。
「ここまで暗いと、何も出来ない」
「あぁ、じゃあライトを持ってくるの?」
「いや、警察ごっこはここまでだ」
これ以上は踏み込むべきではない。直感がそう叫びつづけている。何か、俺では手におえないものが奥にはある。この空間に呑まれたか、俺は脅えるように震えていた。湿気と汗でべたついた額を拭う。
「で、でも、せっかく来たのに」遮るように、携帯が震える。
本日3度目の奇襲に身体が跳ねるが、隣のくるみはやけに冷静だった。震えたのは、くるみの携帯だというのに。
スカートの位置から、光が漏れる。目が慣れてきたとはいえ、くるみのこともぼんやりとした輪郭しか見えなかったが、携帯の液晶を見る際、電子的な光に照らされたが見えた。
━━同じだ。くるみはまた、俺から遠ざかってしまっている。
「おい、くるみ」
「ちょっと待ってて、すぐ終わらせるから」無機質な声で答えると、通話ボタンを押し、耳に当てた。「なに」
くるみは耳を当てたまま、黙りこくった。携帯からは時折声が漏れてくるが、認識できる大きさでもない。
突然、自分の指を唇に当てて、静かに、というジェスチャーをしてきた。
「ごめんなさい、電波が悪くてよく聞こえないの。もう1度最初からお願いします」
そう言うと携帯を耳から離し、スピーカーボタンを押して、俺に向ける。
相手の声が竹林に響く。
「・・・下等な生き物はこれだから。いいわ、もう1度言ってあげる」
なんだ、この声は。
「いい?よく聞きなさい。アンタはあの人に相応しくないの。あの人と同じ空気を吸うことさえ罪なのに、その汚らわしい腕で触れて、『お兄ちゃん』なんて媚びるなんて」
嘘だろ?
「私はアンタとは違う。ずっと見てきたのよ、あの人を。嬉しい顔も、悲しい顔も、怒った顔も・・・ずっと近くで見てきたの」
そんなはずがない。この声、この声の主が、こんなことを言うはずがない。
「今日もあの人の手を握ってたわね・・・私への牽制のつもりかしら?ご生憎だけど、明らかに引かれてたわよ、アンタ」
握っていた・・・生徒会室で袖を掴まれた時の話か。
「優しくいしくれるからって、調子乗るんじゃないわよっ!!アンタなんかね、『事故に遭った可哀相な子』ていうレッテルがなきゃ見てももらえないほど下層の存在なんだからっ」
聞きたくない。耳を塞ごうとするが、暗闇からの、ダメ、と言う声に威圧され、手が動かない。
「・・・まぁでも、今回の件でアンタのそれもお終い。だって、私は『彼氏が殺されて悲しみに暮れる可哀相な子』になったんだから」
高らかな笑いが響く。絡みつく笑いを拭おうとするが、汗で手がすべるだけだった。
「ねぇ、今もずうずうしく近くにいるんでしょ?知ってるんだから。・・・代わりなさい。早く、先輩と代わりなさいよっ!!」
間違いない。
━━りおちゃんだ。
「ごめんね、お兄ちゃん」
狂ったように、代わりなさい、と叫び続ける携帯を自分のほうへ向けてから呟く。
「聞き苦しかったよね」
━━でも、これで分かったでしょう?
叫び続けるりおちゃんの声より小さいはずのくるみの声が、脳内を木霊する。1度響くたびに、思考が少しずつ奪われる。
そこにいるのは誰だ。お前が魔物か。
スピーカーを切ると、くるみは耳に当てた。叫びは未だに小さく漏れ続けている。
「ごめんなさい」叫びが止まった。
くるみはゆっくりと顔を上げ、俺を見た。右耳に当てた携帯に照らされ、顔が浮き上がる。
色の濃い瞳は大きく開かれ、口元は歪に、それでも明らかに優越の表情を示してゆがんでいる。
━━お兄ちゃんは、私だけの人だもの
「う゛あ゛ぁぁぁあ゛あ゛ぁぁあ゛、お前ぇぇ、おまえぇえ゛ぇぇえ゛ぇえ゛ぇぇぇえ゛え゛え゛ッ!!!!!」
スピーカーボタンなど必要がないほどの叫びが竹林を包む。それもつかの間、くるみがボタンを押すと、一瞬で静寂が舞い戻った。
表情は見えない。それでも、くるみが笑っているのはわかった。身体から自由が失われた俺は、引きつったように笑っていた。
「帰ろう、お兄ちゃん」
後日、あの竹林の奥から、浦和好紀が変死体で見つかった。
と、いうことで投下終了です。
お時間いただきました。
GJ!
乙
続きに期待
GJ!
びっくりした。まさかくるみちゃんより先にりおが…
それにしても顔を赤らめる二人を想像してニヤニヤしてしまった。初々しくて微笑ましい
GJすぎる…
くるみとりおちゃんがどっちも怖過ぎるぜ
GJ!
こういうのを待っていた
乙
これは6話の最後はくるみじゃなくてりおちゃんだったってことだよな?
これは……すげえ
予想外ってか度肝抜かれた、でもこれでりお派になってしまった俺ガイルw
>>494 GJっす!
まさかりおちゃんまでお兄ちゃんを狙ってたとは…
投下間隔、これくらい空ければ大丈夫ですかね?
似せ者第三話投下します。
第三話 〜亡くし者〜
別れの言葉を言う事は寂しい
別れの言葉を言えない事は苦しい
「おめでとう」
朝練に参加するや否や、杉下に言われた。
朝のあいさつは、おはよう、だろうとツッコミをいれようかとも思ったが、気分がいいので止めておこう。
「伝わるの、随分早いんだな」
告白した日の次の朝。まだ24時間も経っていないというのに…
「仁衣高校三大美女と付き合うっていうのはそういうことだ。今じゃお前はこの学校の大半の男子の敵だぜ。俺も含めてな」
「お前は姉さん狙いじゃなかったっけ?」
「お前さえよければ狙うけど?」
「俺の家に招待してやるって話、無しにしようか?」
「冗談だよ、未来の弟よ」
おどけて笑ってみせる杉下。こいつがそういう事を言うと本気に見えるから怖い。
「さて、のろけ話でも聞かせてもらおうか。昨日は一緒に下校して、その途中で喫茶店に寄って一時間近く談話で合っているか?」
「おいおい…。そこまで知れ渡っているのか?」
「いや、これは俺が個人的に尾行して知っただけだが」
「…」
昨日は部活がオフ。だから少しでも親交を深めようと優奈を誘って一緒に帰ったのだ。
しかしただ尾行するだけならまだしも、何故、喫茶店に居た時間まで把握しているんだ?
「あそこのカフェラテ美味いよな〜。あ、お前はキャラメルラテを頼んでいたっけ?」
「…。全部見ていたのか?」
「もう何から何まで。会話の内容は聞き取れなかったけどな」
「…」
「おいおい、怒るなよ。結構近くで見ていたんだぜ。気付いておかしくない距離だった。んで、気付かれたらちょっと茶化して去ろうと思っていたんだが…。あまりにお前が気付かないから、引っ込みがつかなくなっちゃってな」
「緊張していて、周りなんて見えてねーよ」
「いやいや悪かった。素直に謝ろう。この通りだ」
頭を深く下げる杉下。まったく…、調子のいい奴だ。
「でも、お似合いのカップルに見えたぜ。お前も藤堂優奈も本当に楽しそうに笑っていた。幸せオーラばんばん振りまいていたな」
「お似合いに見えたか?」
「そりゃもう。お前と藤堂優奈ってどことなく雰囲気似ているしな」
「雰囲気が似ている…、か」
優奈の兄と俺が瓜二つなのだから当たり前と言ったら当たり前なのかもしれない。
「まぁお前の妹さんに少し似ているもんな、藤堂優奈って」
「え?」
「なんだよ、突拍子もないことを言われた〜、みたいな顔して。自分で気付いてなかったのか?」
「いや、全然」
「お前が藤堂優奈が好きだと聞いた時に自然とそれに納得出来たのも、俺がお前の妹さんの顔を知っていたからだったんだが…」
優奈が唯に似ている。まったく気付かなかった。
確かに優奈の兄に俺が瓜二つなら俺の妹と優奈が似ているのも必然だ。
「俺が唯の面影を求めて藤堂優奈に惹かれたと?」
「俺はそう思っていた」
「俺が好きなのは藤堂優奈。唯の偽者ではないよ」
「さらに妹さんに瓜二つの女の子が居ても、藤堂優奈を選ぶと?」
「もちろんだ」
俺はきっぱり言い放った。
「そろそろ行こうぜ、俺はともかく、お前は昨日、たいした練習してないだろ?」
杉下との会話に終止符を打ち、ランニングに向かおうとした。
「あ、ちょっと待った」
「何だよ?」
「お前の家に行くって話、明日でもいいか?」
明日は土曜、学校はない。部活も午前中で終わる。姉さんは居るか知らんが…
「分かった、姉さんにそれとなく明日の予定聞いておくよ」
「感謝する、我が弟」
まったく、抜け目のない奴だ。
少し長話が過ぎたので俺らは急ぎめにそれぞれの練習を始めた。
昼休み、俺は屋上に向かい優奈と合流した。
「兄さんの弁当を作らせてください。私の料理の腕、さらに上達したんですよ?」
と昨日言われたのだ。
好きな子の弁当を食べる学生生活。絵に書いたような青春だ。
「悪い、優奈。待ったか?」
「いえ、今来たところです」
二人でベンチに腰を掛ける。
「さて、さっそく見てもらえますか?私の作った弁当を」
「おう、楽しみにしてたよ」
持っていた二つの弁当を順に開けていく。
一つは主食のサンドイッチとおかずのステーキ・マリネの3品をメインにして、人参やパセリで彩りを整えた洋風の弁当。
一つは梅干が乗ったご飯と、鮭・ほうれん草の御浸し・黒豆・漬物などの日本の昔ながらのおかずが入った和風の弁当。
「洋風と和風、兄さんがどちらを食べたいか分からなかったので二つ作ってきました。どちらがいいですか?」
「ちょっと待って。これ全部、優奈が作ったの?」
「すみません、こっちの弁当の黒豆は買ってきたものです」
「いや、そういうことじゃなくて…」
凄すぎる。その一言だ。これだけの品数を朝一日だけで作ったのだろうか。しかも一つ一つクオリティーが高い。
「本当に料理上手いんだなー」
「そういうことは食べてから言ってください」
「じゃこっちの和風の弁当を貰うよ」
俺は弁当と箸を受け取った。
「いただきます」
好物のほうれん草から口に運ぶ。
優奈は合格発表を待つ受験生のような顔で俺を見ていた。
「うん、美味い!物凄く美味い!」
「それは良かったです」
優奈の顔がパァーと輝く。やっぱり可愛い。
優奈も洋風の方の弁当を取り、食べ始めた。
「友達付き合いとか大丈夫でしたか?昨日の今日で昼休み呼び出してしまって」
「優奈のこの弁当を食べられない方が大丈夫じゃないよ」
俺は夢中になって食べていた。
「兄さん?」
「うん?」
「私の事、恨んでいませんか?」
「え?」
「いえ、何でもないです」
どういう意味だろうか?
「こっちの弁当も少し食べてくれませんか?」
「いいの?」
「私こんなに食べられないですよ。それにこのハンバーグ、自信作なんです」
言われるがままにハンバーグをとる。
「美味い!俺の姉さんの百倍は美味い!」
「姉さんの?」
「俺の姉さんな、料理にはまってるんだけど、これがもう下手で…。この前はハンバーグ食べさせられたんだけど、焦げているわ味付けおかしいわで…。もう勘弁してください、って感じだったよ」
「絵里さんがですか?」
「あ、知っているの?」
「知っているも何もこの学校で絵里さんのことを知らない女子は居ませんよ」
笑いながら言った。
「姉さん、そんなに凄かったのか…」
「でも絵里さんにそんな弱点があるなんて知りませんでした。あまりの完璧ぶりから女神様という通り名まで付いているんですよ」
「食関係はめっぽう駄目なんだよ。作るのは駄目だし、食べるのも瓜科のものは何も食べられない。だからサンドイッチもハンバーガーも食えないんだぜ」
「驚きです」
「瓜科のものは95パーセント以上が水分だからそんなもの食べる腹の空きがあるなら栄養豊富な緑黄色野菜でもとりなさい!なんていつも俺に言ってくるよ」
姉さんの口調を真似しながら言った。俺と優奈から笑い声がこぼれる。
「でも、不思議ですね」
「え?」
「私の兄さんの姉さんは、私の姉さんじゃないなんて…」
「あ…」
「私、頭では分かってるんです。兄さん、いや赤坂君が兄さんの生まれ変わりでもなければ、もちろん偽者でもないって。でも今はまだ…」
「分かってる、優奈の気持ちの整理がつくまで、俺は優奈の兄さんだ」
「ありがとう。兄さん」
ちょっと切なそうに、でも嬉しそうに笑う優奈。
この笑顔が見られるなら、俺はいつまでも偽者で構わない。
いや本心ではそんなことないのかもしれない。でも今の俺には優奈の彼女になることよりこっちの笑顔の方が大事だ。
「なぁ、もう一個ハンバーグくれないか?」
「はい、どうぞ、兄さん。また作ってきますね」
優しく笑う優奈。
うん、今はまだこれでいい…
その日の深夜、妹の墓参りに行った。
学校帰りに行く事もあれば、ランニングウェアでトレーニングついでに行く事もある。
かなり定期的に妹の墓には通っていた。
「唯。俺な、彼女が出来たんだ。まぁ正確には彼女ではないんだけど…」
墓石に向かって話しかける。もちろん返事はない。
「藤堂優奈って言うんだ。仁衣高校三大美女って呼ばれるほど可愛いんだぜ」
そう言って墓石に優奈の写真を向ける。
「杉下がお前に少し似ているって。お前も三大美女並みだってことだぜ。嬉しいだろ」
唯も姉さんに負けず劣らず相当モテた。兄として、誇らしくもあり、気に入らなくもありとそんな感じだった。
「高校生になったお前、見たかったな。きっと可愛かったよな」
もう涙は出てこない。でも依然、虚しさは湧き上がってくる。
「話、まだまだあるんだ。陸上部の話とか、姉さんの料理の愚痴とか」
映太だけには
「お兄ちゃん」
きっと、そんな声が聞こえている。
死んだ人間はこの世から居なくなる。
この世界に赤坂唯という人間は居ない。
墓石は確かに死者のものだ。
しかし墓参りは死者のためだけのものでない。
生者のためのものでもある。
映太の墓参りは週2・3回。
赤坂唯の死から一年少し。今もそのペースは落ちていない。
深夜の墓場の真ん中に、男が一人。
墓石達はいつもの来客を気にもせず、しんみりと眠っている。
今日も映太の墓参りは長い。
支援?
終了です。
病み化まではもうしばらくお待ちください。
後、第四話の前に追加TIPSを入れます。
近いうちに投下する予定です。
>>509 支援気付きませんでした。感謝です
(作者携帯)
乙乙
投下間隔はそれほど気にしなくて良いと思われ
乙
GJ!!
516 :
名無しさん@ピンキー:2009/02/01(日) 20:44:49 ID:7kLJOZU5
次回に期待!
投下します。
夢。
夢はいつか終わる。
朝になれば人は起き、そこで夢は終わる。
しかし、目が覚めてもそこが現実だとは限らない。
それが『目が覚めた夢』でないとは限らない。
今の俺は『夢』と『現実』どちらにいるんだろう……
最近、妙な夢を見る。何が妙なのかというと『分からない』のだ。
その夢は、俺の日常をそのまま映したかのような世界。
朝起きて学校へ行き、退屈な授業を受け、放課後に友人と遊ぶ。
夢の中の人々は皆、現実と同じ人だし、通っている学校も一緒。
まさに、もうひとつの『日常』だった。
なのに、何かが違う。
朝起きるたびに俺は夢の内容を思い出し、モヤモヤとした気分になっていた。
「どうしたの? 迎えにいった時から冴えない顔してるけど」
「どんなシチュエーションでお前に告白しようかと一晩中考えてた」
「へー、わたしに告白……ってえぇえええぇぇ!!
こっこ告白だなんてそんなだめだよ急にいやでもわたしは別にいいんだけど
できればわたしからしたかったというかなんというか計画が台無しとか」
「いや、嘘なんだけど」
「へ? ……いや分かってたよ? そんな簡単な嘘にこの奈菜様は引っかかりません」
「嘘つけ」
「う、嘘じゃないもん!」
「じゃあ…… 奈菜、好きだ。俺と付き合ってくれ」
「え!? え、えっとあのよよよろこn……はっ!?」
「思いっきり引っかかってんじゃん」
「うぅ、ひどいよ祐介……」
朝から俺とアホアホトークをしているコイツは恩田奈菜。俺の幼馴染である。
ちょっと頭が抜けているが、容姿は良いほうで、けっこうモテてるらしい。
肩まで伸びた茶髪を頭の横で二つに縛っている。いわゆるツインテールってやつ。
毎朝迎えに来てくれるコイツをからかいながら登校するのがこの俺、清水祐介の日課だ。
「で、なにかあったの? 話してくれれば相談に乗るよ?」
「ああ、最近、変な夢を見るんだよ」
「変な? なにが変なの?」
「それが分からないんだ。だから変なんだよ」
「?? うーん……よく分からないや。それより、その夢にわたしも出てる?」
「分からないってお前……出てるぜ。夢の中でもお節介な幼馴染ってな」
「むぅー……祐介はいつも一言多いんだよ」
「それが俺だ。ま、早く行こうぜ。ゆっくりしてると学校遅れちまう」
「うぅー……」
「あ、そういやさっきお前俺の告白に『よろこんで』って言おうと……」
「わぁー!! い、言ってない! そんなこと言ってないよ!!!
ほら早くしないと学校遅れちゃうよ!!!」
「ちょ、おい、わかった! わかったから押すなって!」
(ふぅ、あぶないあぶない、ばれちゃうとこだった。でも、私のこと
すきって言ってくれた……うれしかったな……ふふふふふふふふふふふふ……)
「つっかれたあ〜〜!」
部屋に入るなり鞄を傍らに投げ捨て、ベッドにダイブする。あ〜気持ちいい。
この行為をするためだけに俺は学校に行ってるな、うん。
「さて、晩飯まですることないし……寝るか」
そこで勉強という単語がでないのかよ俺。と一人ごちるも、
溜まっていた疲れからか、結局すぐに夢の中へ落ちていった。
――ぇ
夢。
―ぇ――――?
これは夢。
―――てば
夢って自分が認識できるのって確か…明晰夢……だっけ?
ねぇ、だい――ぶ?
まあどうでもいいか。ここは夢、現実じゃないんだし。
「ねぇ!聞こえてるの!?」
「そんな大声で呼ばなくても聞こえてるよ」
「だって祐介、さっきからずっと空返事ばっかりなんだもん」
そう、ここは夢。現実じゃない。だったら思いっきり楽しまなきゃ損だ。
「悪い悪い。さ、早く学校行こうぜ。由紀」
そう言って俺はお節介な幼馴染――松本由紀へ手を差し伸べた。
短いですが、投下終了です。
乙
ちょっと待て。え?これヤンデレ?誰がヤンデレなん?
>>522 現在トップギアな娘だって(作中で語られているいないは別として)序々に病んでいった結果だぞ
今病んでいなくても未来がある
GJ!後が楽しみだ!
GJ!!
>>522 経過を楽しむのもいいものだぞ
最初からヤンデレ全開なんて
それに行き着くまでの楽しみが無くなるじゃないか
だよな
ヤンデレになるまでの過程がいいんだよ
おおぅ……一話完結だと思いきや続きがあんのかよ…orz
なんという早とちり!なんという先走り…ッ!一生の不覚……ッ!!
マックスの22話思い出した
ほトトギすの続きを全力で待っているのは俺だけではないはず。
俺もまってる
カチカチ山もまってる
俺も待ってる
首吊りラプソディアと氷雨デイズの続きも待ってる
最後から一年も経たないうちに続きねだるとか……
idealを二年待っている俺のように我慢しろw
よづり……
待ち人を文句も言わずに待ち続けるとか……
お前らこそがヤンデレなんじゃないか?
私は死ぬまで待つわよ、ことのはぐるまを
じゃあ、俺は姉ちゃんが体育教師のやつ
和菓子と洋菓子のB、Cルートを待つ
俺はいない君といる誰か……
しかし長編って未完多いな、それだけ大変って事なんだろうけど
俺はことのはぐると真夜中のよづりを死ぬまで待つよ
オレモ コトノハグルマ ヲ マッテル
542 :
名無しさん@ピンキー:2009/02/02(月) 22:28:34 ID:3g5eMINL
俺は『ヤンデレ家族と傍観者の兄』と『上書き』を待つ。
投下しにくいしモチベーションも下がりかねないからこういう話題はやめないか?
俺はほトトギすを紳士的に待ってる
まだ寒いからヤンデレスキーな紳士は風邪やインフルに気を付けて下さい
あんまりプレッシャーかけるのもねぇ
あみんの待つわってヤンデレっぽいな。
ヤンデレ家族みたいに作者の生存確認ができればどんなに待たされても
心配ないけどねえ。
溶けない雪も最後が4月4日でもうすぐ一年にになりそうだし。
そういえば、goodのこはるの日々ってヤンデレになりそうだな。
>>547 おい、お前の所為でその漫画が気になってしょうがなくなっちまったじゃねえか
どうしてくれるんだ
予告通り追加TIPS投下します。
TIPSは視点が映太以外だったり過去の話だったりします。
おまけというよりは3.5話みたいな感じに思って頂いた方がいいかもです。
では投下します。
TIPS サッカーゲーム
映太から来訪OKの返事が来たので俺は赤坂家へと向かった。
赤坂家は白が基調の一軒家だった。それなりに広く、庭もある。俺の家より遥かにいい家だろう。
「いらっしゃい」
「はじめまして、杉下隆志です」
「映太から話は聞いているわ、どうぞ上がって」
迎えてくれたのは姉さんの方だった。
赤坂絵里。三年生。弓術部所属。仁衣高校三大美女の一人。
容姿端麗、頭脳明晰、活溌溌地。「女神様」という通称の通りのパーフェクトウーマン。
力強さ・可愛さ・美しさの全てを兼ね備えている。
そのため、俺のように惚れている男子は非常に多い。
しかし、より特筆すべきは女子からの人気の高さであろうか。女子全員の憧れであり永遠の目標。彼女を慕って弓術部に入った部員は数知れず。
本人は自覚してないみたいだが映太もかなりモテる。
ただ、これは純粋に、映太の顔が良いからというのもあるのだが、赤坂絵里の弟という理由もかなり大きかったりする。
赤坂絵里の影響力の高さはそれほどなのだ。
三大美女の一人という位置付けではあるが、生徒への影響力という意味では、彼女は間違いなく仁衣高校一だった。
「いらっしゃい。五分遅れだ」
居間に上がると映太がいた。
「人の家に来る時はそれが礼儀なんだよ」
まぁ純粋に遅れただけなんだが。
「って言っても、俺も菓子やら飲み物やらを買い忘れていたから今から買いに行くんだがな。まぁそこでゲームでもして待っていてくれ」
「了解」
これは、メールで打ち合わせした通りであった。絵里さんと二人の時間が欲しい。そう伝えておいたのだ。
「姉さん、ちょっと相手していてよ。サッカーゲームなら出来るだろう」
「OK、いいわよー。杉下君。私、結構ゲーム強いから覚悟してね」
「望む所です」
映太が外出していく。さて始めるか。
俺は、ゲームのセッティングをしながら絵里さんに話しかけた。
「さて、鋭い絵里さんなら気付いていると思うのですが」
「映太が私と杉下君を二人きりにしようとしたことかな?」
「御名答です」
流石、「女神様」と言われる事なだけはある。話が早い
「その目的の一つはもちろん、絵里さんのことを好きな僕が絵里さんと親交を深める、というものなんですが…」
話しながらゲームの電源をつける。
「随分と正直なのね」
「隠し事とか出来ない性格なので」
笑いながらコントローラーを絵里さんに渡した。受け取る絵里さんも笑顔だ。
「女神様」な面と、こういうお茶目な面のギャップもまたいい。
俺はやっぱりこの人が好きなんだと、改めて実感した。
「まぁ本当はそっちの目的のために絵里さんの趣味とか聞いていきたいところなんですが、時間に限りがあるので最優先の方の目的を済まします」
「最優先の方の目的?」
「映太のことです」
ロードが終了しゲームがつく。俺はマッチモードを始め、日本をセレクトする。
「映太が絵里さんと同じ仁衣高校三大美女の一人と付き合っているのはご存知ですよね?」
「もちろん、知っているわ。藤堂優奈ちゃん、だっけ?」
絵里さんもチームを選ぶ。アルゼンチンクラシックスだった。
「日本相手にアルゼンチンクラシックスとは容赦ないですね」
「勝つためには最善を尽くすというのが私の主義なの」
それぞれフォーメーションを微妙にいじった後、キックオフがされた。
「では藤堂優奈の顔はご存知ですか?」
「昨日、友達に見せてもらったわ」
「妹の唯ちゃんに似ていると感じませんでしたか?」
「あら、唯のことまで知っているの?驚いたわ」
「あいつの財布の中の写真を見ました。墓参りも一緒に行ったことがありますし」
「まぁ確かに少し似ているわね」
「あいつは今でも妹に罪悪感を持っている。今でも妹を求めている。僕はあいつが藤堂優奈に惹かれたのは唯ちゃんに似ていることが原因だと考えています」
「それを伝えたかったの?」
「いえ、それだけなら良いんです。藤堂優奈が唯ちゃんに似ていると言っても、あくまで似ているのレベルですから」
また、パスをインターセプトされた。自分で強いというだけあって本当に手強い。チーム力の差も相まって俺は押されて行く。
「実は藤堂優奈は同学年の従姉妹と一緒に住んでいるんです。名前は吉岡瑠衣。この従姉妹も仁衣高校に通っていて、藤堂優奈に負けず劣らず可愛いので、仁衣高校三大美女の一人になっています」
「それで?」
きわどいシュートに襲われるがバーに助けられた。こぼれ球をクリアに行く。
「吉岡瑠衣の顔はご存知ですか?」
「いや、知らないわ」
アルゼンチンクラシックスのコーナーキックになって、一度プレーが切れる。
「これが写真です」
俺は携帯の画像を見せた。
「嘘!?」
絵里さんの声が大きくなる。
「どう思います?」
「どう思うも何もこんなの…」
プレーはまだ再開されない。空白の時間がしばし流れた。
「僕がこの事を知ったのはあいつが藤堂優奈に告白した日の昼休み。丁度、告白をしていた時です。あいつが藤堂優奈に告白するようトリガーを引いたのは僕なんですが、今はそれを心底後悔しています」
「…」
「それだけ伝えたかったんです。絵里さんに謝っても仕方ないかもしれませんが謝罪をします、すみません」
「杉下君は悪くないわ。いや、誰も悪くない」
「すみません」
「ゲームの続き、やりましょう?」
二人は画面に向き直った。
「ねぇ、杉下君。サッカーゲームのクラシックチームが異常に強いのは何でだと思う?」
「分母が多いからですか?」
「それももちろんあるかもしれない。でも一番の理由は、人が過去を美化する生き物だからなのよ。偉人は世界を退いてから偉人になる」
アルゼンチンクラシックスに一点入る。マラドーナの左足からのボレーシュートだった。
「だから現代のサッカーにも美しい過去を追い求めて、マラドーナ2世とかペレ2世とか作り上げるのよ。今はメッシがマラドーナ2世でしたっけ?」
「メッシはマラドーナを超えますよ」
「あら、メッシのファンなのかしら?」
俺が強く反論したのを見て、絵里さんがクスクスと笑う。
「私もマラドーナ2世とかいう呼び名は好きじゃない。どんなにプレースタイルがそっくりでもそれは似ているだけ。似せ者でしかないのよ。
そう、杉下君が言う通り、メッシがマラドーナを超える可能性もある。もちろん、結局マラドーナには及ばない可能性もある。でもどんなに頑張っても、メッシがマラドーナになることは出来ないわ」
俺はまだアルゼンチンクラシックスの猛攻を受けている。
「あ、最後に僕の自己満足で、これだけは言わせてください」
「何かしら?」
「僕は現在生きている絵里さんが好きですよ」
「あら、私を狙うのは大変よ?」
「覚悟のうえです」
これで一応は二つ目標を達成出来たかな?
今日、俺なんかが出来る行動はここまでだろう。絵里さんのことも、映太のことも。
ここからは話しを止めて、逆転のため、ゲームの方に集中することにした。
なんとかボールを奪い、日本の良さを最大限生かすパス中心の早くて速い展開で攻め立てる。
結果は1―2でアルゼンチンクラシックスの勝利だった。
しえん
終了です。ちなみにウイイレのクラシックチームは本当に異常に強いです。
このTIPSに出てきた吉岡瑠衣でメインキャラクターは全部です。
絵里はお気に入りのキャラクターです。残念ながら病みませんが。
ではまた。
>>554 支援感謝です!
GJ!!
ここはエロパロだと何度言えば
続きを全裸でお待ちしています
>>555 なんだ絵里さんは病まないのか残念。だがGJ!
絵里さんが病み化したらヤバそうだな
投稿します。
行き付けの青果店に向かう途中の業盛に、子供がぶつかってきた。
子供は謝ることなく、その場から走り去ってしまった。
怪訝そうにそれを見つめていた業盛は、ふと腰の辺りが軽く感じた。
「あれ…ない!袋がない!」
なんと、金が入っていた袋を盗まれていたのだ。
「あの餓鬼…。逃がすか!」
業盛は凄まじい速さで子供を追った。
子供の足で大人を撒けるはずはない。子供はあっという間に捕まった。
「は…放せ〜!」
子供は足をばたつかせ、必死に逃げようとする。
「誰が放すか馬鹿め!このまま役所に突き出してやる」
「放せ、放せ、放せ〜!このままじゃ…姉ちゃんが…」
「姉さん?姉さんがどうしたというのだ?」
急に涙声になったので、思わず聞き返してしまった。
「姉ちゃんが…病気なんだ。でも…お金がないから…だから…だから…」
「両親がいるだろう。お前の両親はなにをしているんだ?」
「父ちゃんも母ちゃんも、とっくの昔に死んじゃったよ。
今までだって姉ちゃんが稼いでなんとか生きてきたんだ。
でも、姉ちゃんが倒れちゃったから…、だから…こうするしかなかったんだ!」
なるほど、だからスリなんてことをしたのか。
業盛は子供を降ろしてやった。
「おい、お前の名前はなんて言うんだ?」
「…一郎…」
「一郎か。お前、こんなことやっていいと思っているのか?」
「…駄目だってことは…分かってるけど…」
「確かに姉を助けたいと思うのは分かる。
だが、盗んだ金で助けたって、お前の姉が悲しむだけだぞ。
それぐらい分かるだろ?」
一郎は黙って俯いてしまった。
「とにかく、お前にはやることがある。未遂とはいえ、スリはスリだ。
ちゃんと罪を償うんだ」
業盛は一郎を連れて、役所に向かった。その間、一郎は無言だった。
役所に着くと、一郎を役人に引き渡した。
「おい一郎。お前の姉さんの病状と場所を教えてくれ」
役所に連行される一郎に、業盛が声を掛けた。
「熱か出て、咳が止まらなくて、寒いって言ってた。
場所は都から北に進んだ山だけど…なんでそんなことを…?」
姉を救えないと思ったのか、一郎の声は震えていて今にも泣きそうだ。
業盛としても、このまま無視してしまうのは人倫に反するクズであると思っている。
だからこの言葉は、一郎にとっても、自分にとっても救いになる言葉だと思って言った。
「助けてやるよ。お前の姉さん。
このまま放っておくのも夢見が悪いんでな」
思った通り、一郎の顔色が明るくなった。
門が閉まる直前、一郎が深くお辞儀をしたのが垣間見えた。
門が閉まるなり、業盛は門衛に近寄り、金一粒を握らせた。
「これは…」
「あんたに頼みたいことがある。聞いてくれたらもう一粒やる。どうかな?」
「な…なにをすれば…」
「なに、簡単なことだ。この金を役人達と獄卒達に渡してくれるだけでいいんだ。
これだけ言えば分かるだろ?」
門衛は頷き、渡した金を持って門の中に入っていき、しばらくすると帰ってきた。
「言われた通り、配ってきました」
「本当に配ってきたのか?途中でくすねたりしてないだろうな?」
「ばっ…馬鹿なこと言わないでください。ちゃんと配ってきましたよ」
「そうか…?…懐が少し膨らんでるぞ?」
「えっ…あっ…!」
門衛が慌てて胸に手を当て、そして、自分がはめられたことに気付いた。
「やっぱりな…。今度そんなまねしたら…分かってるよな?」
少し刀を抜いてみせる。門衛は小さく悲鳴を上げ、再び門の中に入っていった。
またしばらくして、門衛が帰ってきた。
「今度はちゃんと渡してきたんだろうな?」
「はい、ちゃんと渡してきました。だから、命だけは…」
「嘘付け、お前、まだ隠し持ってるだろ。白々しい芝居しやがって」
業盛は刀を抜き門衛に向けた。門衛が再び悲鳴を上げ、その場にへたり込んだ。
「ほ…本当です。今度はちゃんと渡してきました。
こ…この金も、もういりませんから、どうか…命だけは…」
門衛がさっき渡した金一粒を差し出した。
「どうやら本当の様だな。いいだろう、信じよう」
そう言うと、門衛から金を受け取り、その場から去った。
「思いの外、簡単に引っかかるものだな。
さぁてと、優しい門衛さんから『返してもらった』この金で、薬でも買うとするか」
業盛は結構したたかであった。
薬を買った業盛は、いったん清盛邸に戻った。
弥太郎にしばらくの間、鯉の餌やりを頼もうと思ったのだ。しかし、一向に見つからない。
「どこにいるんだ、弥太は?」
しばらく歩き回ると、部屋から微かに話し声が聞こえてきた。
「この声は清盛様…もう一人は誰だ…?」
ふと、好奇心から部屋の戸に耳を近づけようとした…
「そこでなにをしている!」
が、後ろから怒鳴り声を浴びせられ、慌てて振り返った。
そこにいたのはしたり顔の弥太郎だった。
「どうだ、びっくりしただろ」
「お…驚かせるなよ。心の蔵が飛び出るかと思ったぞ」
「ふふ、お前の驚いた顔は見物だったぞ。それにしても、盗み聞きとは悪趣味だな〜三郎」
別に叱責する訳でもなく、茶化した様な口振りで、業盛に皮肉を言う弥太郎。
少しむかつく。まるで平蔵だ。
「そ…そんなことより、お前、今までどこにいたんだ?館中探したんだぞ」
話の流れを変えるべく、もとい照れ隠しのため、文句を言った。
「ちょっと野暮用でな…。所で、探していたということは俺になにか用か?」
「あぁ、実は用事ができてさ、
しばらく俺の仕事を代行してくれないかと頼もうと思ってな…」
「そんなことか。いいぜ。代わりに、なにか奢れよ」
「分かっているよ」
許可が取れた業盛は、弥太郎に別れを告げて、北の山に向かって走り出した。
投稿終了です。
なかなか進まないし、歴史的出来事も起こらない。
最低なヤンデレ小説ですね。
少し、自分の頭に自信がなくなります。
GJ!!
>>565 いやいやGJだぜ!歴史物書こうというのがそもそも凄い!
>>559 単なるワガママだけど、俺も絵里さんの病みがみたい!病んだ女神様とかツボすぎる!
女神様→ああっ!女神様→ベルダンディがヤンデレ→いやむしろスクルドがヤンデレ
何か幸せな気分になった
スクなんとかはいりません
確かベルダンディーって嫉妬心半端なかった奴か
訂正お願いします。
563の文章を562の文章に一行空けて入れてください。
お願いします。
慰めてくださった皆さん、ありがとうございます。
Wikiなんだから自分でやれ
本当は、お金なんていらない。謝罪もいらない。
ただ、あなたの気を惹きたいだけ。
私が一番あなたの近くにいるんだよ。
私だけがあなたのそばに在り続けることができるんだよ。
だから、他の人なんかと仲良くしないで。
ずっと私だけを見て――――
そんな韓国なら萌えるのに
O 。
, ─ヽ
________ /,/\ヾ\ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|__|__|__|_ 〃__((´∀`\ )< ・・・というお話 / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
|_|__|__|__ /ノハ,,ハゝ/''' )ヽ \_____< お断りします
||__| | | \ ゚ω゚ )/ 丿/ \_____
|_|_| 从.从从 | \__ ̄ ̄⊂|丿/
|__|| 从人人从. | /\__/::::::|||
|_|_|///ヽヾ\ / ::::::彡:ゝ/||
────────(~〜ヽ::::::::::::|/
女神様で思い出したが神話っていいヤンデレ多いよな。
ブリュンヒルデとか最高だぜ!
ってかもう残り50KBか、速くて素晴らしい。
>>576 ギリシャ神話最高だぞ。
キモ姉、キモウト、ヤンデレよりどりみどりだ。
ヘラ姐さんは少し嫉妬しすぎだがね。
弟がレイプした相手にまで嫉妬してとんでもないことするからな
被害者哀れすぎw
最近劣化してきたな
聖書に出てくるカインもヤンデレかな
俺の頭の中ではカインとアベルは女になってるが
581 :
名無しさん@ピンキー:2009/02/05(木) 06:05:35 ID:sOgM6HT9
最近長編ばっかで短編ないですよね
カインと言えばFF4のアレだろ。
最近携帯コンテンツの方で配信された奴だと、
スタッフが悪ノリしたのか更に大活躍だ。
た んぺ (ん)
タウンページ
>>584 大好きな584君の住所どこだろう…
そんな時!タウンページ!
これで侵入・待ち伏せし放題!
って良純が言ってた。
チン☆⌒ 凵\(\・∀・) まだぁ?
質問なんだがただのキ○ガイ紙一重な上にグロ
でもそこに愛があればおk?
俺個人の意見だが、完全NG。
グロやら殺しを書きたいためにヤンデレを使っているようにしか見えん。
手段のために目的を選んでいるというか。
そもそも読みたいのは「男が女の狂った愛情に飲み込まれていく」ことであって、
「男が自分以外の誰かと仲が良い→そいつ殺す」なんてただの異常な人じゃんw
まー、それがヤンデレだっていうのならそれでいいんじゃないの?
ツンデレだって最初は「みんなの前だとツンツン、二人きりだとデレデレ」とかいろんな説あるけど
今じゃ単なる素直じゃない性格のことを言うしw
それって猟奇系スレとか悪女系スレとかあるからそっちのほうがいい
ヤンデレにグロはいらないとまではいわないが
その書き方だとグロを出すためにヤンデレとかいってるように確かに見える
それだともうレナはヤンデレryの流れになっちゃうからな
ただのキチガイが愛情に芽生えるのと
愛情に目覚めたが故に病んでしまうのとでは
結果が似ていても根本が違う
まぁ、俺からしてみれば
心が病んでるとはいえ、一途でいいと思うんだけどな
ツンデレははっきり言ってキモくて、やかましくウザイだけ
あんなののどこが良いのか、理解に苦しむ
まあ今までも「節子、それヤンデレやない。ただの殺人鬼や」なSSが何本もあったけどな
“愛故に病む”がヤンデレの原点だと思う。グロとか殺人は可能性の一つの結果であって、それが
ヤンデレだから起こす結果ってわけじゃない
>>587の質問自体がヤンデレの認識をどこか間違ってる気がする
まぁラブラブで箇条書きにすればバカップルっぽいSSでも
実は彼女はヤンデレっていうのもあるしな
要はどれだけ狂った愛情を見せられるかということであって
狂った行動を取らせるのはその手段でしかない
>>587はなんか手段と目的が逆転してるきがする
587です
ただ普通に憧れてたのにアプローチの仕方が判らず、出来ずに歪んでしまい結果アプローチするがそこがグロで…っていう感じで別に殺人とかいれるつもりじゃないんだけどね
俺も愛しすぎるが故に病んでしまうのがヤンデレで、何かしないといけないとは思ってない。ただ悲しいかな俺の文章力・創造力じゃそうしないとただの束縛のキツい変な女にしか見えず…
答えてくれた方々ありがとう
もうちょい力つけてから出直すわ
逆に元々狂ってる娘が一途な愛情で自分の狂気を押さえつけて
精一杯普通なふりをするのっていうもなかなかいいもんだと最近思い始めたな
投下します
――受動。
ひたすらに、受動的。
それが、日ノ本創の性質である。
生まれついてのものか。或は生きて往く上で確立された能力なのか。
自分では知ることが出来ないし、あまり興味もなかった事柄だ。
だけど、僕は生まれて初めて。
そんな自分を忌み嫌っている。
僕の受動は、多分そのままの『弱さ』なのだと思う。
強弱とは相対的なもので、また流動的な現象でもある。
けれど、総じて。
或はトータルで、『僕』と云う人間は、虚弱なのだ。
強く出られると逆らえない。
痛みには抗えない。
恐怖には耐えられない。
心が酷く痛がりだ。
臆病だから、傷ついて。
臆病だから、傷つける。
大切に思っていたはずの従妹と『あんな事に』なったのは、僕の弱さが原因だろう。
慕っていた先輩と『あんな仲』になったのは、僕の弱さが招いた結果だ。
僕はこの『弱さ』をどうするべきだろうか。
人は急には変われない。
簡単に強くなどなれるはずもない。
だから、弱さとの決別など出来るはずがない。
ならば、一体何が出来るだろうか。
一ツ橋朝歌は、結局何も聞かなかった。
僕に何があったか、どうしてふらついていたのか。
何も問わず、何も尋ねず。
朝食と熱いお茶を勧めただけで。
「好きなだけここにいて下さい」
そう云って、何事もないように振る舞う。
けれどいつまで経ってもも登校しようとしないのだから、僕に気を遣っているのは、明白だった。
澱んだ瞳と擦れた声で僕は尋ねる。
学校へは往かないのかと。
傍らで本を読む痩せた少女は、興味なさそうに呟いた。
必要があればそうします、と。
膝を抱えて俯く兄貴分に、彼女は何も語らない。
ちいさく寄り添うように、傍にいるだけ。
それは、幽かであっても、確かに貴重な温もりであった。
太陽が頂点に昇り。
この家に来て二回目の食事を終えても。
僕は。そして一ツ橋は外へは出なかった。
陽の射すソファでぼんやりしているだけの僕と、その膝の上に座って本を読むだけの一ツ橋。
交わすべき言葉は何もなく。
語るべき言葉も何もない。
唯、時間だけが過ぎていく。
或はこれは僕の思い込みかも知れないが、一ツ橋はこうやって、僕が癒えるのを待っているのではない
だろうか。
だとすれば、随分と気を遣わせたものだ。
高校一年生と呼ぶには、あまりにも細い腰に腕を廻した。
一ツ橋は一瞬だけピクリと身体を跳ねさせたが、後は微動だにしない。何事もないように読書を続けて
いる。
僕は無抵抗の後輩を弄びながら、瞳を閉じて考える。
これまでとこれから。
そして、理想と現実。
僕の願望はシンプルだ・・・と思う。
以前に戻りたい。それだけだ。
けれど、それが無理な事は、莫迦な僕でも判っている。
シンプル――
C
そう。
誰であっても、願いくらいはシンプルなものだ。
『彼女』や『彼女』の願いだって、きっとシンプルだ。
僕とは違った意味で、良好な関係を築きたかっただけなのだろうから。
もしも彼女等を愛せたら、或は愛する事が出来たのなら、もう少し結果は変わったろうか?
否。
そうは思えない。
そうは思えないからこそ、問題がより複雑になる。
感情の暴発による他者への排撃は、僕に御し得るものではない。
御し得なかったからこそ、今の僕等の状況があるのだが。
(感情と云えば――)
この痩身の少女は、今現在をどう思っているのだろうか。
深深と身体を沈めて来ている姿を覗き込んだ。
一ツ橋朝歌はあまり表情が変わらない。
それは『すぐ顔に出る人』の逆位置にあるだけであって、内面には僕等と同等の世界が広がっている、
と思っているのだが、確証はないし、仮に合っていたとしても、彼女の心象風景を見つめる事は不可能
だろう。
せいぜい、迷惑になっていなければ良いなとは思うけれど、迷惑であるに決まっている。
(そもそも、ここに居る事自体がもう迷惑なんだよな)
今更ながら、思い至った。
自分の事だけ見て。
自分の事情だけで落ち込んで。
誰に負担を掛けているかなんて、考えもしなかった。
その点において、僕は織倉由良や楢柴綾緒と何等変わらない。
覗き見る後輩の頬は赤く腫れている。
云うまでもない、僕の為に暴力に晒されたが故である。
織倉由良に殴打されたのは昨日の昼だ。腫れが引くはずもないのに。
そんな事にも、気付かなかった。
今の今まで。
礼を云う事も。
謝る事すらも。
「頬は・・・痛くないのか」
自分でも驚くくらい、情けない声だった。
死に往く病人のような弱り切った声。
そんな半死人に一ツ橋は瞳も向けず、
「お兄ちゃんが気にする事ではありません」
ちいさく一言だけ呟いた。
僕の所為で殴られたのに、僕の所為では無いように振る舞う。
怪我をさせて。
遅刻をさせて。
結局、僕は一ツ橋に迷惑しか掛けていない。
今も。
その前も。
このままでは、これからも。
僕に関わるだけで、この娘は被害に遭うのだろう。
(居るべきではない。ここに)
それが僕に出来る、せめてもの行動。
せめてもの責任の取り方だ。
「――帰る」
呟くと、一ツ橋はこちらを向いた。
「そうですか」
と、いつもの言葉が返ってくると思っていた。
だが、一ツ橋は膝の上で身体の向きを180度換え、
「止めた方が良いです」
珍しく首を動かした。
「戻れば状況が悪化します」
「そう思わないでもないけどな」
だからと云って、居候じみた状態に甘んじるを良とは出来ない。
それは更なる迷惑を掛ける事と同義だから。
「駄目、です」
身を起こしかけた僕を、一ツ橋は押さえつけた――のだと思う。
彼女にしては珍しい、能動的な所作は。
端から見ると、抱きしめられていると勘違いされるかもしれない。
そういう体勢だった。
「一ツ橋・・・」
「朝歌です」
表情のない瞳に、不可視の意識が見えた。
本当に、どこまでも気を遣ってくれているのだと判る。
だからこそ、これ以上巻き込む訳にはいかない。
あの時。
一ツ橋朝歌を殴りつけた織倉由良は、多分、本気だった。
本気・本当の憎しみをもって、年下の矮躯を殴りつけたのだろう。
憤怒と激情のみに支配された瞳には、気遣いや手加減の文字が見えなかった。
あの鶯にしても、一度敵対者を定めてしまえば、呵責無く責め立てる事、疑いない。
綾緒は織倉由良の名は口にした事があるが、一ツ橋朝歌の名を呼んだ事はない。
つまり、今はまだ、あの鶯には敵視されてはいないと云う事。
ならば、『そうなる』前に関わりを断つべきだろう。
一ツ橋が僕を助ける限り、綾緒に誤解される可能性は付きまとうのだから。
迷惑を掛けて、掛けて、掛け続けて、その果てに一生を左右する瑕疵を残すことになった時、僕はその
現実を受け入れられるのだろうか。
誰よりも弱い僕が。
消えぬ傷。
或は障害。
無関係でいられた人間が自分の所為で癒えぬ疵痕を残すような事態に直面した時、僕は正気でいられる
自信がない。
そんな事態は避けねばならぬ。
だから、この場からの辞去は一ツ橋への気遣いなんかじゃなく、唯の逃避。
僕自身の弱さを、走らせるだけの行為。
けれど、それでも起こりうる大きな災いを未然に防げるのならば、まだマシな逃避と云えるのではない
か。
そう思う事にして、僕は立ち上がった。
組み付いている一ツ橋は恐ろしく軽い。
吹けば飛ぶようなこの少女を、嵐の中へ巻き込む訳には往かないと改めて思う。
「一ツ橋・・・もう、充分だ」
もう充分救って貰った。
もう充分、癒して貰った。
痩身矮躯を引き離し、床の上へと降ろし置く。
掌を乗せた頭は、こんなにも低く、ちいさくて。
「充分とはどういう意味ですか」
「・・・」
言葉通り。
答えるべき何ものも無い。
「私が邪魔ですか」
「邪魔じゃない」
「・・・」
「邪魔じゃないから、帰るんだ」
お前は『外』にいるべきだ。
今まで通り、傍観者でいるべきだ。
嵐の中に、来てはいけない。
僕は背を向ける。
「待って、下さい」
細い指が、服を摘んだ。
力が込められている様子が感じられる。
僕はそれを振り払う。
「ごめんな」
そう呟いたつもりだけれど。
ちいさすぎた僕の声は、多分彼女には届かなかった事だろう。
振り返って考える。
今の今まで、僕は一体、何をどうして来たのかと。
傍観している者が居れば、唯一言。
右往左往。
そう、評する事だろう。
否定はしない。
そもそも出来ない。
能力と実績と、その両方で拵えた結果であるからだ。
どうせ過去の改変など出来はしない。
ならば、これから先をどう生き、どう過ごすかが重要だ。
思い出してみれば、幾度あの後輩に助けられていた事か。
直接的に間接的に。
或は積極的に消極的に。
フォローと云い援助と云うべき行動で、事ある度に救われて来た。
これからは、『それ』が無い。
差し伸べられた手を、自ら振り払った。
その行動自体に間違いは無いと考えたいし、妥当であったと思いもするが、僕の決断が正しかった事と
今後起こりうるであろう事象に対する困難性の増大とは、また別の問題である。
たとえば、今。
現在のこの瞬間。
僕の自宅で僕を抱きしめているこの人を掣肘してくれる人間は、もういない。
「日ノ本くん、どこへ往ってたの?心配したんだから」
幽かに怒気を孕む織倉由良の声は、それでも安堵の方が、より主立った成分であっただろう。
僕の背に回る腕が、ちいさく蠕動している。『情愛』が伝わる所作ではあった。
聞けば昨晩の電話の後、真っ直ぐここへ来て、ずっと留まっていたらしい。
心配されもされたり――と云うべきではあるのだろう。
しかし鬱鬱として楽しまない。
彼女の好意を、重く感じる。
そう考えてしまうのは、僕の傲慢なのだろうか。
ともあれ、家を空けたのは、結果的に正解であったように思う。
昨夜の精神状況では、とてもこの人の相手は出来なかったであろうから。
勿論今も度し難いし、御し得るとは思えない。
けれど、これ以上一ツ橋を巻き込む事の出来ぬ僕である。
自分の力一つでもって、事態に当たらねばならぬ。
どれ程それがぎこちなく、不格好であろうとも。
「日ノ本くん・・・何があったか聞かせて欲しいの。鍵も掛けずに家を空けるなんて」
「・・・」
それは、彼女の立場からすれば、尤もな疑問であったろう。
僕と彼女の中の僕の齟齬は置いておくとして、『恋人』が――いや、知己が一晩行方を眩ませているの
だから、気にしない方がおかしい。
そういう意味で、先輩は正しい。
けれど、どうにも対蹠的な態度を取った矮躯の少女と比較してしまう。
何も聞かない。
何も云わない。
その上で他所の男を自宅に上げる。
無防備に過ぎる後輩の態度の方が、気が休まった。
無論それは僕にとって都合が良いと云うだけの、身勝手な云い分に過ぎない。だが、確かにそれで救わ
れたのは事実だ。
――その結果として、無口な少女は休学と云う名の迷惑を被った訳ではあるが。
織倉由良も、今日は欠席のはずだ。本人の弁を信じるならば、昨晩も家に戻っていないのだろうし、品
行方正で通っているのだから、それは流石にまずいだろう。
「先輩・・・」
「なぁに、日ノ本くん」
「学校へは往かなかったんですか」
「今はそんな場合じゃないでしょう?日ノ本くん、凄く窶れた顔してる。事情を聞かないと学校どころ
じゃないわよ」
「・・・」
方向性が異なるとしても、僕を心配してくれているというのは間違いないようだ。
C
元来、彼女は面倒見の良い好人物だった。それがいつの間にか変質しただけで、本質的には善良なのか
もしれない。
蓋し、性格の善悪と、行動の善悪と、結果としての善悪は、総て別のものだ。
――強き想いは善であるか悪であるか。
等と云う問いには、答えられるはずもない。
悪心が発端で幸福をもたらす事もあろうし、その逆もあるであろう。
善悪とは事象の周囲と影響にこそ付いて回る言葉なのだから。
だから、いや、だからこそ、何があったかなんて話せる訳もない。
話せば、そこから先は、奈落だけ。
誰も望まぬ暗い滝壺だけが、筏に揺られる乗員達の往き先となるだろう。
『妻』と『恋人』の凄惨な争いを目にするつもりは更更無い。
だから僕は、昨日失踪した理由と、それ以前――『恋人』をほったらかしにして『別の女』と昼食を取
っていた理由を再三、再四問われても答えなかった。
唯、擦れた声でこう云った。
「先輩・・・兎に角、今日は休ませて下さい」
疲労は事実ではあるが、欺瞞である事も判っている。問題の先送りである事も。
だが、先延ばしであったとしても、何も云わない事が正解であると信じた。
必要なのは時間であると思いたかった。
僕の顔には覇気も生気も無い。
元からそんなものは具備していないが、昨日の出来事で根刮ぎ消えた。
それが顔に出ている事は、後輩の家を出る時に確認している。
陰鬱な表情が、この場合は発言に重みを与えてくれるであろうと思われた。
「・・・」
織倉由良は黙って僕を見ている。
暫くそうしていたが、やがて変化が顕れる。
強ばったような、けれど笑顔でも作ろうといているような、不思議な顔であった。
「・・・判ったわ。日ノ本くん、本当に疲れてるみたいだし、今は何も聞かない。でも、約束して?何
があったか、今度話してくれるって。それから、何かあったらすぐに私を呼んで欲しいの。私は日ノ本
くんの恋人なんだから。日ノ本くん為だったら、命だって掛けられるんだから」
そう云って、彼女は包帯の巻かれた腕を押さえた。
生命が流れ出した跡の残る、細く綺麗な左腕。
命を掛けられる――
それは多分、本気なのだろう。
心配していると云うのもそうだ。
だけど、僕には彼女の気遣いがどうにも横滑りして往く。
噛み合わないから、心に響かない。
失礼な云い分だとは思うけれど、織倉由良が思う程、僕は彼女と相性が良いわけではないみたいだ。
ともあれ、今は二つの嵐を引き離す必要がある。
この人と綾緒を逢わせてはいけない。
『妻』と『恋人』の問題は、あくまで別個の件に留めねばならない。
個別な対処ならば、まだ望みはあるだろう。
どうするかを考える為にも、今は時間が必要だ。
だから、心配を寄せる先輩を丁重に送り出す。
「傍にいる」、と云い張られでもするかと思ったが、彼女は意外な程アッサリと帰宅を了承した。
(先輩を“否定”するのではなく、“納得”させれば、ある程度行動を律する事が出来るのかも知れな
い・・・)
誤った認識かも知れないが、もしもそうならば、貴重な発見である。
その点、閲する為にも、時間と空間が必須であろう。
去り際、織倉由良は何度も何度も振り返りながら、こう云った。
「夜にでも、また様子を見に来るからね?」
「・・・・・・」
ああ、成程。
簡単に引き下がる訳だ。
僕は力なくに肩を竦めるだけだった。
一体、疲労とは思考を鈍らせるものである。
今後の身の振り方を云云する前に、今の身体を休める必要がある。
そう思って休もうとした矢先、来客があった。
ここのところ色色あった所為か、恐怖と警戒とが付きまとい、来訪者の確認に手間取った。
「綾緒お嬢様より、創様の御世話を私が仰せつかりました」
玄関先に居た人物は、そう云って恭しく頭を垂れる。
相手は僕の既知で、源逆灯(みなさか あかり)と云う少女であった。
穏やかな雰囲気と外見を持つこの女性は、楢柴家の使用人だ。
使用人と云っても、タダノヒトではない。
従者の身分が『一般人』と云うのは、『普通の名家』だけである。『名家の中の名家』である楢柴家で
は、従者になるにも一定以上の『資格』が必要だ。
源逆家は、北面の武士を先祖に持ち、更に遡れば、その血は嵯峨源氏に突き当たる。当然のように長い
長い家系図を持った、『血統書付き』の人物――要はお嬢様である。
名家の子女が他家へ奉公へ出るのは、心身の修養と、そしてそれ以上に政治的な配慮が働くが故だ。
彼女もそんな両親の思惑から、楢柴家へ仕えている。
尤も、本人は本気で社会勉強兼、花嫁修業と考えている節がある。
楢柴の当主は、嘗て彼女を評して、『善人』と云った。
「灯は無邪気ですから――」
綾緒も嘗て、彼女をそう評した。
これ等は褒め言葉ではなく、若干の皮肉を含んでいる。
あの従妹は、たとえ使用人であっても、それが女性ならば、僕に近づく事を好まない。
それなのに源逆灯を寄越したのは、ある意味で安心されているからだ。
それが、彼女が『善人』であり『無邪気』であると云う事。
彼女は両親の政治的意図も知らず、財閥が大を成すには影を纏う必要があるという事も知らない。
花嫁修業も“いつか現れる素敵な殿方”を夢想してのものだと云うが、源逆家クラスの家ともなると、
往き着く先は政略結婚である可能性が高い。
尤も、楢柴の当主である伯父の文人氏は完全な政略結婚であったにも関わらず良好な夫婦関係を営んで
いるから、一概に政略結婚が駄目と云う訳ではないだろうが。
だが、それでも一般的な恋愛が困難なのは云うまでもない。
文人氏は人間的に煉れた人柄ではあるが、それでも未だ僕の父を憎悪する事一方ではない。
それらを付き合わせて考えると、恋愛観含め、源逆灯がやって往くには、この先大変であろうなとは僕
も思うところである。
疲労の極みにあった僕は、この来訪者を受け入れる気にはなれなかった。が、門前払いを食らわす訳に
も往かない。
取り敢えず、あがって貰うことにした。
少し話してみて判ったのだが、彼女は綾緒が謹慎させられた事は知っていても、謹慎させられた理由は
知らないらしい。
単純に、綾緒の替わりとして僕の世話をしに来たのだと。
これは他者が堅く口外しなかったからではあるのだろうが、彼女自身に周囲を察する能力が欠けている
事を示唆するものでもある。
この際、それは僕にとっては有り難い事ではある。
鋭い人間、事情を知る人間では、気が休まらない。
尤も、察していても気を遣ってくれる人物でもいるならば話は別だが、そんな者はそうは居ない。
「綾緒の様子はどうですか?」
表面しか見えない人に聞いてみる。
表層だけを見る者には、今のあいつは、どう映るのだろう。
「この間までは凄く落ち込んでいましたが、今日はとても晴れやかなお顔をしておりましたよ。穏やか
で、心が凪いでいるようでした」
兎に角、幸せそうでした。
源逆灯はそう云って笑った。
(幸せそう、か・・・)
想い人と身も心も結ばれた――
少なくとも、綾緒はそう思っているはずだ。
だから環境が同じでも、形相は変化する。観測する側も、また。
「伯父さんの方はどうですか?」
「旦那様ですか?旦那様とは連絡が取れていないので、何とも・・・申し訳ありません」
「連絡、取れてないんですか」
「お忙しい方ですからね」
答えながらも、身支度を調えて往く。若年の頃から奉公に出ているだけあって、様になっているし、ま
た、手早い。
「綾緒お嬢様は私等より余程家事に秀でています。至らぬ点はあるかと思いますが、精一杯務めさせて
頂くつもりですので、よしなにお願い致します」
家事の腕が綾緒に劣る。
それは事実だろう、と思う。
純然たる大和撫子である綾緒は、良妻賢母の鑑のようだと以前は考えていた。
技量的には、源逆灯の上を往くのは、経験として知っている。
だが――
包帯の巻かれた左手を見つめる。
能力的には充分でも、精神的にはどうなのだろうか――
多少、複雑な気分になる。
楢柴綾緒と云う妹には端倪すべからざる面が多多あって、諸事判断が難しい。
従妹は貴種である為か、『下等』な血統を蔑む傾向がある。
ただしそれは完全な平民に限られ、下級下位でも『貴族』相手には穏当であるらしい。
源逆灯との仲は良好であるし、光陰館でも面倒見が良い事で評判が良いと聞く。
多くの人間に慕われているのは僕も目の当たりにした事実だから、それは正しいのだろう。
一方で、同校の在学生でも『雑種』には冷淡極まりない。
光陰館は貴種の学舎なのであって、有象無象の民草が来て良い場所ではない、というのが、その思想の
根底であろうと思われる。
爵位や階級が分かれ、整備されているのは、序列を明らかにする事で秩序を守る為。
それが、多くの光陰館に通う生徒の共通認識であるらしい。
だから、卑賤の身で光陰館に通う者は、肩身の狭い思いをするようだ。
綾緒自身、肩身の狭い思いを“させる側”なのだ。
だが、その一方で従妹は在学する『雑種』に尊敬されている。
身分の尊さと外見の美しさは単純に憧れを抱かせるに充分であったが、事実、実績を挙げた事も尊崇さ
れる大きな理由である。
その実績とは、中等部に所属している時、下級生を暴漢から守った事。
不審者二人を叩きのめし、或女生徒を危地より救ったのだ。
光陰館には貴種と平民の間に大きな溝があるが、これによって彼女は両者から賞賛され、慕われる存在
となった。
更に、一部の『雑種組』には、身分を問わず接してくれる人物であると幻想を抱かせたようである。
この話を聞いた当時、僕は綾緒を褒めたのだが、従妹は内容的には喜ばなかった。
僕に褒められたと云う一事だけで終始満足げで、頬を染めて微笑んでいたのだが、内容に関しては褒め
られるべきものではないとハッキリと云い切った。
「護民は我我の責務ですから」
我我――つまり、貴種である。
諸外国でもそうだが、貴族は平民と己を同格とは考えない。
にもかかわらず、戦があれば真っ先に先頭に立って剣を振るう。
それは、牧畜をする人間が家畜を保護するのに近い心情であっただろう。
noblesse oblige 、と云う訳だ。
高貴なる義務、と云えば、彼女――源逆灯の通う聯鏡院(れんきょういん)にも独特な制度がある。
聯鏡院は、光陰館と双璧を為す名門校である。
軍服を思わせる黒白の制服は、「華麗」「秀麗」「壮麗」と讃えられ、院の内外より評価が高い。
その聯鏡院には、他の学院とは大きく異なる制度がひとつある。
それが、『礼装』と呼ばれる武装の権利。
生徒が武器を所持すると云う現実である。
半世紀以上昔――当時の聯鏡院で陰惨な猟奇殺人が起こった。
聯鏡院は、名門の子弟の通う場所。
警察に捜査を任せ、後は無為無策でいる等、許される訳がない。
学院側は調査に乗り出すと共に、自衛の為の手段を講じた。
それが『礼装』――即ち、生徒の武装である。
家格高く、血統も尊い“別世界”故に、それはすんなりと受け入れられた。
在学生の親族達が、持てる“力”を使い、『外』に認めさせた結果がそれだ。
治外法権の誕生である。
爾来、聯鏡院の生徒は、その身に武器を帯びる。
しかし武器とは諸刃の剣だ。
自身を。
或は他人を。
望むと望まざると、傷つける可能性を内包する。
だから、時代が進み平和が当たり前になると、『礼装』の役割は変化していった。
大切な我が子に危険な武器など持たせられない。
その思いが『礼装』の伝統だけを残し、制度を形骸化させた。
現在の聯鏡院在学生が帯びる『礼装』の多くは、装飾を施され、刃落としされたサーベルであったり、
デザイン重視の優美なナイフ等、実戦に耐えるものではなくなっている。
『礼装』は身を守る術ではなく、その家の格を表す為の道具となった。
『礼装』は noblesse oblige.
そして、stutus symbol.
そう定義付けられ、用いられることになった。
正しく、飾りとして。
しかし、中には現在も“本物”を用いる者がいる。
“実戦”に耐えうる、正真正銘の武器。
“殺傷”を可能とする、本物の兇器。
その持ち手がいる。
身に合わぬ袈裟。
唯持っているだけならば、そう嘲笑される事だろう。
故に、“本物”の所持者達は、器物に相応しい技量を持つよう鍛錬される。
従って、本物の『礼装』持ちは、かなりの確率で、その武器の熟練者である。
この少女も、そんな一人であった。
「そういえば、創様にお願いがあるのです」
目の前に紅茶を置きながら、源逆灯は云う。
来訪者はこの家の使用人でもあるかのように、僕の傍に立っている。
「お願いですか。何でしょう?」
「綾緒お嬢様を訪ねて頂きたいのです」
「――」
その言葉に。
僕の身体が震えた。
昨日の今日で綾緒に逢える訳がない。
何故そのような事を云うのだろうか。
恐怖混じりの疑問を問う前に、彼女は言葉を続けた。
「本日は機嫌良くありましたが・・・それ以前は本当に塞ぎ込んでおりました。それはもう、痛痛しい
くらいに。肌身離さず持っている創様のお写真を、じっと見つめておいででした・・・」
「・・・」
「綾緒お嬢様にとって、創様は総てです。謹慎を申しつけられてからはお逢いになっていないのでしょ
う?どうか、お嬢様を元気付けてあげて下さい」
(逢っていない?)
知らない。
この少女は、僕が昨夜楢柴邸に居たことを知らないのか。
だとすれば、昨日あった事も知らないのだろう。
源逆灯は従妹の命でここへ来た。
当然、言葉を交わしたはずである。
なのに、彼女は知らない。
綾緒はアレを口外していないと云う事なのか。
(他人に語るようなものではないから、それは当然か・・・)
「どうでしょうか・・・?」
不安そうに僕を見つめる。
綾緒に対する好意と善意が伝わる瞳だった。
しかし、彼女の提案を受け入れる訳には往かない。
無策のまま綾緒に逢っても、状況が悪化するだけであろう。僕には従妹を御す法がない。
何より、今はまだ、怖い。
「・・・今度、暇を見付けて逢いに往きますよ」
拒絶すれば角が立つし、またその理由を話せねばならないので、そう答えた。
当たり障りのない、引き延ばし。
善処しますと誤魔化した。
目の前の『善人』はそれをどう取ったのだろうか。
目を輝かせて、柏手を打つ。
「本当ですか!?綾緒お嬢様を訪ねて下さるのですね!お嬢様、きっと喜びます」
「・・・」
その今度がいつになるか判ったものではないが、それを云う必要は無いだろう。
それよりも、今は今で別の問題がある。
源逆灯をあげてから気付いたのだが、厄介な事がひとつある。
織倉由良。
あの、僕の恋人だ。
彼女はさっき、夜にでも様子を見に来ると云った。
つまり、この人と鉢合わせする可能性がある。
源逆灯は専業で使用人をやっている訳ではないから長居はしないタイプだが、万が一織倉由良と遭遇し
てしまった場合、あまり良くない結果になるのは目に見えている。
自分以外の女とは口をきかないで欲しいと提案する人物だ。
僕の傍に女性が居ると云うだけで怒り出す可能性は高い。そうなったら、僕には対処の術が無い。
元元疲労している僕である。
その事を理由に、早めに引き取って貰うが上策だろう。
「あの・・・」
口を開きかけた瞬間。
「きゃぁっ」
源逆灯は飛び退った。
「どうかしましたか?」
「え、ええ・・・その・・・」
彼女は硝子戸の向こうを見ている。
視線を追っても何もない。
いつも通りの、狭い庭が見えるだけであった。
「今――そこに誰かが立っていたんです・・・」
「そこに、って、庭にですか?」
戸を開け、顔を出すが、姿は勿論、気配もなかった。
「誰もいないみたいですが?」
「いえ・・・でも、確かに・・・」
「・・・」
改めて見るが、人影はない。
気のせいか。それとも本当に何かがいたのか。
どちらにせよ、判断できるほどの情報はない。
源逆灯は強ばった面持ちで呟いた。
「お、お化け・・・じゃないですよね?」
「お化け?」
不審者や見間違いの可能性を素通りして、いきなり超常的な可能性を示した少女に首を傾げる。
「まだ昼間ですよ?どうしてそう思うんです?」
「だって・・・ちっちゃな女の子が見えました。泥棒さんには思えませんから」
「ちっちゃな女の子って・・・なら、ここいらに棲んでる子が何かの理由で通り過ぎただけでは?」
それならば、既に姿がない理由も説明出来るというものだ。
だが、少女は首を左右する。
「歩いてなんかいませんでした。こう、ぼーっとして、存在感が希薄で、表情の無い女の子が、じぃっ
とこちらを見つめてたんです」
源逆灯の声は必死さの熱を帯びていたが、それ以上に恐怖を抱いていることを感じさせた。
もしかしたら、彼女はオカルトやそれに類することが苦手なのかもしれない。
しかし、と、僕は考える。
源逆灯が見た『幽霊』。それは、本当に実在したのではないか。
「灯さん」
「は、はい?」
僕に向ける表情に穏やかさはない。不安そうに肩を縮めている。
「そういえばこの間、近所で交通事故がありましてね。小学生の女の子が亡くなったそうです」
「っ・・・」
判りやすいくらい、身体が震えた。
今見たモノと、今聞いた話を脳内で直結させているのは明白だった。
源逆灯はオドオドと落ち着き無く周囲を見渡している。
少し可哀想なことをしただろうか。
だが、彼女がこの場に居辛いというのであれば、酷い話ではあるが、僕の望みに適う。
来たばかりの少女に、こう云った。
「実は、一寸疲れてまして。少し休みたいと思っていたんです」
これは本当のこと。
もとから、そのつもりだったのだ。
「折角御世話に来てくれたのになんですが、横にならせて貰っても良いでしょうか?」
恐怖心を利用し、仮病じみた理由で追い払うというのは無礼にも程があろうが、こちらも形振り構って
はいられない。
彼女を織倉先輩と逢わせる訳には往かないのだから。
結源逆灯は僕の身体を気遣って辞去することを承諾した。
綾緒に僕の世話を厳命されていたらしく、その事を随分気にしてはいたのだが、休みたい、の一言を改
めて口にすると、身辺を騒がせる訳には往きませんものねと引き下がった。
荷物と、そして台所から一撮みの塩を持った源逆灯は、何度も何度もお辞儀して、申し訳なさそうにこ
の場を去った。
悪いのはこちらなのだから、非礼はいずれ詫びねばならないだろう。
ともあれ、鉢合わせを避けることが出来たのは事実だ。
織倉由良の時もそうであったが、塞翁が馬と云うべきなのだろうか。
静寂を取り戻した居間のソファに凭れ掛かる。
交通事故云云の件は全くの創作であるので、少女の幽霊等いるはずもないが、源逆灯は確かに『誰か』
を見たのだろう。
振り返る庭先には誰もいない。
けれど、そこには多分。
迷惑を掛けられて。
怪我までさせられて。
それでも尚、誰かを心配してくれた誰か。
そんな少女が、いたはずなのだ。
聞こえるはずはない。
自己満足だと云う事も判る。
それでも――僕は呟かずには居られなかった。
目を閉じて、意識が暗黒に沈む、その前に。
唯一言の、ちいさな謝意を。
「ありがとな、一ツ橋」
投下ここまでです
支援の方、感謝します
では、また
GJ
待ってました
GJです!
待ってました!
何気なく更新したらまさにちょうど来てたので興奮しますた!
ありがとうー神様作者様ー
信じて待ってました、GJですー
とりあえず気配の主が先輩かと思ってしまってちょっとホラーだったぜw
朝歌とのハッピーな結末を望みたいが
朝歌が病んでしまうってのも見たい気もする…
GJ!
しかし、改めて勝てる気がしないなぁ
GJよー!朝歌かわいいなぁ、堪能しました。
でも創君が何時壊れてもおかしくなくなってきたので早く助けてやってください
無形氏GJ!!
>>595 うれしい事いってくれるじゃないの
キタ――――(゚∀゚)―――――!!
そして、GJ!!
無形氏が降臨したのか
まだまだ捨てたもんじゃないなこのスレも
GJ!!
>>619 わざわざそういうことを言わない
GJ!
容量的にこのスレ最後かな。次スレもいい作品が多いといいなー
>>620 最近の作者さんの中にも好きな人いる俺的にはここ数日の風潮で作者さんが居なくならないか心配。
>>609 乙。そしてあけましておめでとう。
日ノ本が哀れ過ぎる。
この主人公が安心して眠れる日が来ることを切に願う。
>>547 今更読んできたが、確かにコレは病みそうだ
定義厨って言えばいいのか、そういう輩はだいぶ前から居付いてるけど。
まあSSとかネタ雑談はテンプレから大きく外れてなければ特に気にしなくていいんじゃないかなあ、そういったスレのルール以外の事柄はもう個人の趣味趣向の範疇だしね。
といいつつ次スレ立ててきます
エロパロ板にある他の版権スレで、オススメのヤンデレ小説ありませんか?
スレを開いた瞬間ホトドキしゅー! と叫んで危ない人になりましたGJです!
埋まってないな
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梅ー酒ッ
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埋め埋め埋め埋め埋め立ててあげますよ。この泥棒猫。
633 :
名無しさん@ピンキー:2009/02/11(水) 02:06:41 ID:PsA/0hDi
うめ
梅
ヤン
「こんなに苦しいのならば、愛などいらぬ!!」
デレ
「お師さん……もう一度、ぬくもりを」
全然埋まってないじゃん
637 :
うめ:2009/02/11(水) 13:38:33 ID:AVx+lLu6
妹「おっっにぃちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(中略)ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんっッ!!!!!
あっそっぼーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっッ♪♪♪」
638 :
うめ:2009/02/11(水) 13:45:22 ID:AVx+lLu6
妹「私とプロレスごっこしようよ♪♪ えっ、なに……イヤなの?
へぇっ、なら、そんな身体いらないね? 切り刻んじゃおっか?
んっ、そうよね! おにいちゃんは私と遊ぶよねっ!!
でね、私ねっ、凄い必殺技を考えたの♪♪ 受けてみて♪♪♪
その名も、超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超
超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超
超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超
超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超(中略)超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超
超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超
超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超
超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超正中線五段突き!!
それじゃあ行くわよっ!! 超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超
超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超
超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超(中略)超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超
超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超
超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超……」
埋
640 :
うめ:2009/02/11(水) 14:06:27 ID:AVx+lLu6
妹「ごめんねお兄ちゃん。身体、倒れたまま動かないよね?
でもね、安心して良いよ! 後10分もしたら普通に動けるから。
うんっ、そうだよー♪♪ 後10分したら、お兄ちゃんはハンザイシャになるのん♪♪
六歳の女子幼稚園児を、しかも妹をっ、大人チンポでレープして、ゴーカンマになるんだよぉっ♪♪
嬉しいよねロリコンさん♪ えっ、ヤメろって? もー、うるさいなー! おにいちゃんは、ぬぎたての園児パンツでも咥えててくださーい♪
あははははははははっ♪♪ やっぱりロリコンじゃーん♪♪ 子供の、幼稚園児の、それも実の妹のパンツを口に入れて、どーして……おちんちんがおっきくなるの?
んっ? ほらぁっ、ゆってみてよ? 言いなさいよロリコンハンザイシャ!!!
口に物が詰まってるなんて、そんなヘリクツ聞きたくないよっ!!
ふふっ、じゃあねっ♪ 私ねっ♪ みゆねっ♪ おにいちゃんのオチンチンを使って、勝手に大人へなっちゃうね? おにいちゃんのオチンチンにレープされちゃうからねっ♪♪
これからも、ずっと一緒だよ。オニイチャン?」
キモウトスレじゃね?
姉「んっ? 勝手に部屋に入ったくらいで、何をそんなに驚いてるの?
だって仕方無いじゃない、弟のオナニーが煩くて寝れないんだから。
ふふっ、なーに。聞こえてないとでも思ってたの? あんなにっ……はぁっ、お姉ちゃん、お姉ちゃんって名前呼んでぇっ♪ そんなにおちんちんカチカチにしちゃってぇっ♪♪
毎日、まいにち、熱の篭った声でオナペットにされちゃったら、私……ふふっ、それだけで妊娠しちゃいそうよぉっ♪♪
ねっ、どうなの? お姉ちゃんを孕ませてどうする気なの?
ほらっ、シコシコし過ぎて赤く腫れ上がってるじゃない……かわいそう。
そうだ弟、付き合ってる幼馴染みと別れなさいよ。彼女がセックスさせてくれないから、私をオカズにしてオナニーしてるんでしょ? 彼女より、私の方が好きなんでしょ?
考えるまでも無いと思うけど? 彼女と付き合って、いつかゴム付きセックスをするか……
それとも、今から電話で別れを告げて、お姉ちゃんと生セックスで……ちつないシャセイするか。
弟にとって、どっちが幸せかしら?
うん、そうね。大好きなお姉ちゃんよねっ♪
ふっ……ハハッ……ザマアミロ雌豚がっ! お前がカマトトぶってる間に、弟は私が貰うわっ!!
あはははははははははははっ♪♪」
酉つけちまった……
うめ。
>>641 どーせ、直書きの埋めネタだしね。
うめ
>>641 私が貰うわっ!!!より、
弟は返してもらうわっ!!!のほうがよりキモくって素敵な気がする。
触手子「ちょっと男さん、ワイシャツの襟にキスマーク付いてるわよっ!!
あの女ねっ!? 人が下手に出てれば調子に乗りやがってぇっ!!
もう許さない!! 穴と言う穴に触手突っ込んで、二度とセックスできなくなるぐらいガバガバにしてやるわっ!!!
安心して、何回浮気しても、男さんにはなにもしない。その代わり相手は、女としての役割を果たせなくなるまでボロボロにしますから」
むしろ触手がヤンデレに追いまわされるんじゃね?w
愛犬「ワンワンッ!! ワンワンワンッ!!!
キャンキャゥーン……クーン、クーン、クーン。
ワゥッ、キャ、キャッ、キャワアァァァァァン!!!
ワウワゥッ! ワオッ、ワオォォォォォォン!!!」
日本ヤンデレ物語り。
『桃太郎』
昔々、お爺さんとお婆さんが住んでいました。
お爺さんは山へ芝刈りへ、お婆さんは川へ洗濯に行きました。
しかしお婆さんは、川へ行かずにお爺さんの後を着けると、山奥でお爺さんの心臓を抜き手で貫いてしまいました。
そうです。お爺さんは末期癌だったのです。
もうしばらくすると、お爺さんは症状が表れて苦しい闘病生活が始まります。
お婆さんは、愛するお爺さんを苦しませたくないと言う、愛故に、お爺さんの心臓を抜き手で貫いたのでした。
その後、お爺さんの亡き柄を抱え上げたお婆さんはさんは、二人で川に身を投げ、都は鬼に滅ぼされましたとさ。
でめたし、でめたし。
久々の埋めネタがテラカオスw
日本ヤンデレ物語り。
『桃太郎2』
桃太郎は子分の犬子、猿絵、雉美を連れて、鬼ヶ島に乗り込みました。
しかし子分の三人は、鬼の大群を前に、誰が桃太郎を一番愛しているかで、殺し愛を始めてしまいました。
桃太郎の周囲を、子分の三人が凄い早さでグルグルと回ります。
その内に竜巻が起こり、三人はメタリックに輝き出しました。
すると桃太郎の頭に、ファイナルフュージョン昇任! と声が聞こえます。
それに合わせてファイナルフュージョンと桃太郎が叫ぶと、雉美は戦闘機、猿絵は新幹線、犬子はドリルクラッシャーに変形しました。
そして次々と合体して竜巻が止むと、そこには……勇者王ヤンデレガイガーが聳え立っていました。
これには、流石の鬼達も驚きます。みんな急いで逃げ出しますが、空間湾曲のディバイディングドライバーで、島ごと沈められてはたまりません。
鬼達は一匹残らず海の藻屑と消えました。
こうして、都の平和は守られたのです。
でめたし、でめたし。
___ ━┓ ___ ━┓
/ ― \ ┏┛ / ―\ ┏┛
/ (●) \ヽ ・ /ノ (●)\ ・
/ (⌒ (●) / . | (●) ⌒)\
/  ̄ヽ__) / . . | (__ノ ̄ |
. /´ ___/ \ /
| \ \ _ノ
| | /´ `\
世界ヤンデレ劇場
『アルプスの少女ハイジ』
○月×日
今日も、ハイジに車椅子を押して貰った。嬉しい。
クララはハイジが大好きでした。セックスしたいと思っていました。
だからと言って、クララがレズな訳では有りません。
ハイジが男の娘なのです! 女装子好きの変態お爺さんに女として育てられ、本人は女だと思い込んでいますが、おちんちんの付いてる男の娘なのです!!
クララはハイジと一緒に居ると、子宮が疼いて、お腹の卵がキュンキュンして堪りません。
なので、クララは足が動かないフリをして、ハイジに世話をして貰っていたのです。
ですが、クララの怒りゲージはMAXでした。
○月△日
今日、ハイジに言われて、仕方なく立った。バレないように、最高の演技をして。
私の幸せな生活は消えた。
きっと、あの糞ジジイが何か吹き込んだんだ。
寿命が残り少ないと思って、仏心で生かしてやってたのに……
コ ロ シ テ ヤ ル ジジィィィィィィッ!!!
宮崎ヤンデレお
『もののけひめ』
猪神の頭部は返還され、森に緑は還元された。
戻したのは二人の男女。アシタカとサン。
「アシタカ……私と一緒に居ろ。私とたくさん……コウビをするんだ」
二人は山の中、密着した状態で、獣姫は青年を誘う。
青年は全裸に剥かれ、大木に胸部と腹部を腕ごとグルグルに巻かれ、足首め同様にされて、起立の体制で身動きを封じられていた。
更に口には、幾つも重ねたツタを噛まされ、声を出す事もままならない。
そんな状態で、青年は脅されていたのだ。私の下を去れば殺すと。私とツガイいになれと。
「お願いだ、ここに居てくれ……私が、なんでも、するからっ」
獣姫は青年の前で膝立ちになると、目を細め、頬を染め、唾液をいっぱいに溜めて唇を開き、
ぢゅぷぢゅぷ、にゅくにゅくにゅぷ、ぢゅぷり……
何の躊躇いも無く、股ぐらに顔をうずめた。
上目で青年を見上げ、舌と唇で揉みほぐすようにペニスを咀嚼する。
「ん、ん、んっ、んっ、んっ……」
熱くトロトロにヌメる咥内は、縮まっていた青年の雄を簡単に呼び起こし、瞬く間にガチガチの棒状に変えてしまう。
血管を浮かび上がらせ、咽の奥深くまで突き刺さって埋まる……
埋まる
埋まる
埋め。
ヤン坊マー坊、天気予報っ!!
ヤン坊「明日の天気は雨よ! なによ、そんな顔して? えっ、私と遊園地に行くのを愉しみにしてたですって!?
何言ってるのバカっ! そ、そんなの別に……あ、あんたと二人でいれるなら、どこでも……ゴニョゴニョ」
マー坊「あーーーーっ!! ヤンがデレたーーーーーっ!!!」
埋め
ヤンバルクイナ「クギュゥゥゥゥゥゥッ!!!」
男「ヤンバルクイナが、デレ(ry」
埋め。
疲れた。
ラスト埋め。後はバトンタッチ。
ちょwwwwwwwww
ここまで来たんだから最後まで頑張れよwwwwwwwwwww
1
鬼浜爆走愚蓮隊・三代目総長、太刀川 玲奈(たちかわ れいな)。
でも、それは去年まで。誰もが恐れるレディースのヘッドは、十七の冬、初恋の開始と共に終わった。
去年の十二月。弟の誕生日。九歳になった、弟の誕生日。
デパートで安い服を買って上げた時、弟が初めて私に笑顔を向けた。
私は、それを見た瞬間、フォーリンラブ。
左手で弟の口を塞ぎ、右腕で後ろから羽交い締めにして、試着室に引きずり込んだ。
半ズボンをズリ下ろして、パンツを引き裂いて、そのまま、弟のおにゅんにゅんを……
>>659 / ̄\
| |
\_/
|
/  ̄  ̄ \
/ \ / \
/ ⌒ ⌒ \ >乙よくぞこのスレを埋めてくれた
| (__人__) | 褒美としてオプーナを買う権利をやる
\ ` ⌒´ / ☆
/ヽ、--ー、__,-‐´ \─/
/ > ヽ▼●▼<\ ||ー、.
/ ヽ、 \ i |。| |/ ヽ (ニ、`ヽ.
.l ヽ l |。| | r-、y `ニ ノ \
l | |ー─ |  ̄ l `~ヽ_ノ____
/ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ-'ヽ--' / オープナ /|
.| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/| | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/| ______
/ ̄オプーナ/|  ̄|__」/_オーブナ /| ̄|__,」___ /|
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/オナプー ̄/ ̄ ̄ ̄ ̄|/ オプーナ /| / .|
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/l ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/| /
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄