( ∴)攻殻機動隊でエロ 5thGIG(∴ )

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1名無しさん@ピンキー
(過去ログ一覧)

【草薙】攻殻機動隊のエロ【素子】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1089470674/

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( ∴)攻殻機動隊でエロ 4thGIG(∴ )
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1221407935/
2名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 20:48:38 ID:3izrzEIA
   _,,....,,_  _人人人人人人人人人人人人人人人_
-''":::::::::::::`''>   ゆっくりしね!!!         <
ヽ::::::::::::::::::::: ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
 |::::::;ノ´ ̄\:::::::::::\_,. -‐ァ     __   _____   ______
 |::::ノ   ヽ、ヽr-r'"´  (.__    ,´ _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、_ イ、
_,.!イ_  _,.ヘーァ'二ハ二ヽ、へ,_7   'r ´          ヽ、ン、
::::::rー''7コ-‐'"´    ;  ', `ヽ/`7 ,'==─-      -─==', i
r-'ァ'"´/  /! ハ  ハ  !  iヾ_ノ i イ iゝ、イ人レ/_ルヽイ i |
!イ´ ,' | /__,.!/ V 、!__ハ  ,' ,ゝ レリイi (ヒ_]     ヒ_ン ).| .|、i .||
`!  !/レi' (ヒ_]     ヒ_ン レ'i ノ   !Y!""  ,___,   "" 「 !ノ i |
,'  ノ   !'"    ,___,  "' i .レ'    L.',.   ヽ _ン    L」 ノ| .|
 (  ,ハ    ヽ _ン   人!      | ||ヽ、       ,イ| ||イ| /
,.ヘ,)、  )>,、 _____, ,.イ  ハ    レ ル` ー--─ ´ルレ レ´
3名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 20:50:15 ID:xWXG5QW3
最終書き込みから一週間も経っていないのに、前スレが圧縮で落ちました。
まだ連載中の作品もあるようなので、新規に立てます。
4名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 20:51:47 ID:xWXG5QW3
(∴)ノさんっはい!
しょうさのほうまんな〜ばすとあんどひっぷ♪
ヽ(∴)人(∴)人(∴)人(∴)人(∴)人(∴)ノ

お約束、貼っておきます。
5 【大吉】 【592円】 :2009/01/01(木) 16:39:55 ID:wPqJbZPP
新年おめでとう(∴)ノ今年もよろしく!
6名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 18:08:44 ID:UFI1Po12
保守おめ!
7名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 21:17:30 ID:pSV/Nr5N
保守
8名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 19:24:54 ID:VrAEbxKe
保守しとく
9名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 14:10:18 ID:miLDweFS
保守るわよ!
10名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 17:15:15 ID:/ehDqSrh
ふたばのほうも攻殻絵がなくなってしまったね
11名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 15:51:47 ID:e79g+yS/
補習
12名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 23:01:18 ID:4IUUo9HV
職人の降臨を望んで…





攻殻奇乳隊age!
13名無しさん@ピンキー:2009/01/07(水) 18:46:30 ID:O+Z6o8dO
早く、誰か書くのだ。
14名無しさん@ピンキー:2009/01/08(木) 22:44:24 ID:ZILMwi6O
遠慮なく書いて下さい。
15名無しさん@ピンキー:2009/01/11(日) 20:00:16 ID:KV1tt2hV
もう職人さんらは去ってしまったのかな…
やはりオフィシャルの燃料投下がないと過疎って行くんだな。

仕方ないことだが、一抹の寂しさを感じるね。
『攻殻SAC続編制作決定!』てスレ見つけて、wktkしながら開いたらバーボンだったし。
なんか、地味に凹んだわ。
16名無しさん@ピンキー:2009/01/11(日) 20:05:17 ID:oEmmjHCr
>>15
ノシ
バーボンに行ったよorz
17名無しさん@ピンキー:2009/01/11(日) 20:41:28 ID:WUzNhWBC
誘い受けはしない主義ですが・・・
自分も含め、二人はいるはずです(ご懐妊の人は除く)
スレ立ってすぐには無理です。
書く時間というのが必要ですから。
小ネタでもいいから、新規の人が来てくれるといいけど。
18名無しさん@ピンキー:2009/01/12(月) 10:27:47 ID:W88Wabwz
もう一人です ノシ

現在余所で壮絶修行中につき、もうちょっと待ってね。
19名無しさん@ピンキー:2009/01/12(月) 15:22:22 ID:Ze46HxDZ
せかしてしまったみたいで、本当に申し訳ない。
前スレも落ちちゃったし、もう住人も殆どいないのかなと思ったんだ
(´・ω・)

まだ職人さんが居てくださったとは…
安心して待機に戻れるというもの。
のんびり保守りつつお待ちしております。

=只  =ヽ( ∵)ノ
20 ◆SrzpdufPJY :2009/01/13(火) 12:30:35 ID:s99i4T1E
お正月に某板にアップしました。
けれども、センチメンタルであまりエロくはないです。。。
それでよければ、ここ専門の職人さんがいらしてくれるまで
場つなぎとしてアップしましょうか?
21名無しさん@ピンキー:2009/01/13(火) 13:27:14 ID:UFbNGYCK
センチメンタル大好物です。
お願いしたいです。
22名無しさん@ピンキー:2009/01/13(火) 18:48:48 ID:HOoHMSr5
めずらしく、鳥つきの方が来てるね。
よろくお願いします。
23名無しさん@ピンキー:2009/01/13(火) 18:49:19 ID:HOoHMSr5
ごめん、よろしくの間違えだよ。
24 ◆SrzpdufPJY :2009/01/13(火) 19:39:44 ID:W9G1Gkv1
では僭越ながらアップさせていただきます
全部で12回に分けてアップしますね
途中連投規制が入るかもしれませんが、その時は時間を置いてお待ちくださいね


「廃墟に咲く白き花に寄せて」


1
「この詩を書いたの、旦那ですか?」
トグサは紙片を見せながらバトーに問いかけた。
「顔に似合わず意外とセンチメンタルなんですねぇ、旦那も」
「う、うるせぇっ!」
大急ぎでバトーはトグサから紙片をひったくった。
まずい奴に見つかってしまった。
九課の連中に俺が昔こんな詩を詠んだことがばれたら
散々冷やかされるだろう……。
「心配しなくても大丈夫ですよ。他言はしませんから。
その代わり、この詩を書いたいきさつについておしえて
くださいよ」
トグサの目は興味津々に輝いている。
「……参ったなあ」
バトーは苦虫を潰したような顔をしながらつぶやいた。
「俺がまだレンジャーに入りたての頃の話しさ」
遠い記憶をたぐり寄せるようにして、バトーは
ボツリポツリと語り始めた。
25 ◆SrzpdufPJY :2009/01/13(火) 19:42:42 ID:W9G1Gkv1
2
バトーは身もこころも疲れ果ててていた。
レンジャーの任務遂行は頭脳戦、体力戦ともになかなか
ハードであり、屈強さを誇る彼もさすがに根を上げていた。

赴任先の小さな町で、バトーは苛つきながら戦車を猛スピードで
駆っていた。
飛ばす必要などまったくないのだが、連日の強行軍で頭が
ヒートアップしていたのである。
曲がり角でいきなり飛び出してきた人影があった。
「危ないっ!」
あわててハンドルを切った。
「バカヤロー! 死にてえのかっ!」
戦車から乱暴に降りると、道路にうずくまっている人影に向かって
怒鳴った。
「……ご、ごめんなさい」
痩せていて怯えた目をした少女だった。
少女の回りには野菜、果物、パンなどが散乱していた。
卵は無惨にもすべて割れていた。
バトーの苛つく視線のなかで、少女はそろりそろりと食材を
手にした籠にかき集めていた。
「あーあ、割れちまったな……」
バトーは卵のかけらを手に取り、飛び散った野菜を集める作業を
手伝いながら良心がちくりとうずくのを感じていた。
26 ◆SrzpdufPJY :2009/01/13(火) 19:45:12 ID:W9G1Gkv1
3
「すまんな、卵を弁償するよ」
少女は無言のまま必死に頭を横に振った。
「いいから乗りな」
バトーは少女を促して助手席に乗せた。
少女は観念したように怯えながら身を固くしていた。
「心配すんな。取って喰おうとしてるわけじゃねえし」
バトーは苦笑した。
大男で荒っぽい自分がこんなことを言っても身にそぐわないことを
とうに知っていた。
幾つかの路地を抜けてようやく一軒の食料店に辿り着いた。
「ここで待ってな」
バトーはそう言い残すと、ひとりで店に入っていった。
少女は大人しく縮こまったように助手席を動かなかった。
しばらくすると、大きな段ボール箱を抱えてバトーは店から
出てきた。
中には卵のほかに肉、チーズ、缶詰、チョコレートも入っていた。
少女は箱のなかを覗き込んで目を丸くした。
「こんなにいっぱい……!」
「お詫びに家まで送ってやるよ。場所をおしえてくれ」
少女はもじもじしながら場所を告げた。
そこは郊外にあるとりわけ貧しい人々が住む地区であった。
27 ◆SrzpdufPJY :2009/01/13(火) 19:48:08 ID:W9G1Gkv1
4
戦車は町なかを抜け、野原に出た。
ふとバトーの視界にひと群れの白い小さな花が入った。
バトーはいきなり戦車を止め、降りていった。
「これ、あんたに」
バトーは少女に小さな白い花束を差し出した。
「わたしに? ……あ、ありがとう」
少女は耳朶まで赤く染めて、うれしそうに微笑んだ。
バトーは少女の笑顔に久々に美しいものを見たような感動に
とらわれた。
レンジャーは命懸けの軍務であり、寝ているときも気が抜けない。
神経はささくれ立ち、気は荒っぽくなる。
他の仲間に誘われて商売女のところで遊んだりもしたが、
気休めはほんの一時のことであり、いつも虚しさしか残らなかった。
28 ◆SrzpdufPJY :2009/01/13(火) 19:50:26 ID:W9G1Gkv1
5
少女の住んでいるところは家とは呼べないしろものだった。
バラック建てですきま風を防ぐのが精一杯の狭い住処で
母親と弟が出迎えた。
「この人が送ってくれたの。それに、食べ物もこんなに」
母親は目を丸くしてバトーに丁重に何度もお礼を言った。
「いえ、礼には及びませんから」
生来照れ屋のバトーはしどろもどろになって早々に辞して
外に出た。
戦車に乗ろうとしていると、少女があとから追いかけてきた。
ほどいた髪には先ほどの白い花が飾られている。
貧しい彼女なりの精一杯の正装なのだろう。
少女の豊かな長い黒髪に清楚な白い花はよく映えていた。
バトーは一瞬目を細めた。
「本当にありがとうございました」
少女は深々とお辞儀をした。
29 ◆SrzpdufPJY :2009/01/13(火) 19:52:37 ID:W9G1Gkv1
6
宿舎へ帰る道中、バトーのこころはあたたかいもので
満たされていた。
あの娘の黒髪に白い花は本当によく似合っていたな、
今度また寄るときがあったら食糧のほかに髪に飾るリボン
でも買って行ってやるか、きっと喜ぶだろうな……。
バトーは楽しい空想に耽っていた。
レンジャーは赴任地で特定の住人と親しくなることは固く
禁じられていた。
親しくなった結果、軍の機密が漏洩することがあるからである。
まあ、でも相手は年端もゆかない女の子なんだし、、、
バトーは店で白い絹のリボンを包んでもらいながら
自分を弁解するようにひとりごちた。

その夜、命令が下った。
この町は早朝未明に隣国が襲撃するので今夜中に撤退する、
それが指令だった。
バトーの属している本部からの援護はとうてい間に合わない
から、それが撤退理由であった。
30 ◆SrzpdufPJY :2009/01/13(火) 19:54:46 ID:W9G1Gkv1
7
バトーを始め何人かが抗議の声を上げた。
少数精鋭の自分たちで隣国と戦うことも可能だ、
撤退なんて卑怯だ、と。
けれども、上からの指令は絶対だった。
撤退が決まると皆は速やかに荷造りを始めた。
煮えくり返る思いをしながらバトーも、荷造りを終えた。
2時間後、夜の闇のなかを何台もの戦車が走り去った。
戦車のなかでバトーはリボンの入った小箱を握りしめていた。
……どうか生きていてくれ、無事でいてくれ、と祈りながら。

バトーがふたたびその町を訪れたのは半年後だった。
町はあとかたもなく焼き尽くされていた。
廃墟となった町には人の影はなく、風が吹き渡っているだけだった……。
31 ◆SrzpdufPJY :2009/01/13(火) 19:57:26 ID:W9G1Gkv1
8
――風が野をわたるとき、ふいになつかしい歌声を耳にする
歌声は白い野の花のささやき
名前も知らぬ小さき花よ
おまえは今もあそこで咲いているのだろうか
誰にも知られず 誰にも顧みられることなく
ひっそりと咲いているのだろうか
果たせなかった約束
おまえは最期に何を想ったのだろう
おまえは最期に何を見たのだろう

あの日がふたたびやってくる
あの日、硝煙と弾雨に打たれて小さな町は消えた
名前も知らぬ小さき花よ
野に咲く白いひと群れの花よ
おまえは今日も闇のなかで語りかけてくる
無力さに打ちひしがれた暁に
虚しさで自棄を起こした白昼に
孤独で凍えそうな夜半に

おまえは、これからも胸のなかで咲きつづけるだろう
俺のこの命ある限り――


詩が書きつけられた紙片は白いリボンで結わえてあった。
そう、あの少女に贈るはずだったあの白いリボンで……。
32 ◆SrzpdufPJY :2009/01/13(火) 19:59:39 ID:W9G1Gkv1
9
バトーが話し終えてしばらくの間、トグサは無言のままだった。
やがて、ぽつりとつぶやいた。
「……何だか、やりきれないですね」
「ああ。あれからすぐ俺は軍を辞めた。軍のやり方に疑問を抱いた
んでね」
「それに比べたらこの九課は独立した個別の九人の意志を尊重し、
いざとなったらそれぞれが自己の判断と責任で動けますからね」
「そういうこと!」
ふたりの横顔はいつしか夕闇に包まれていた。

数日後、トグサはバトーに一枚のルーズリーフを見せた。
「いやぁ、旦那の話しを聞いてたら詩ごころがない自分でも
何だか詠んでみたくなっちゃって……。よかったら、読んで
もらえませんか?」
トグサは頭を掻きながら照れくさそうにルーズリーフを渡した。
33 ◆SrzpdufPJY :2009/01/13(火) 20:04:29 ID:W9G1Gkv1
10
――あれほど夢見ていた春に
あれほど待ち望んでいた春に
僕はひとりで廃墟に立ち尽くしている
僕の頬を撫でる風はまぎれもない春の風なのに
僕のこころはかたくなに春を拒絶している
たとえ白い花が野にふたたび咲いたとしても
その花はあの日の花ではない
自らの手で摘んで差し出した、あの花ではない
僕のためにほどかれた長い黒髪、一瞬の微笑み、
僕を見上げて染められた頬、
若さに彩られたまっすぐな瞳の色、

遠い記憶のなかに封じ込めるには
あまりにも鮮やかだ

風よ吹け
思いのままに吹くがいい
立ち止まることなく吹きつづけよ
こころのなかに 眠りのなかに吹くがいい

風に身を任せて 僕は今日もひとりで廃墟に立ち尽くす――
34 ◆SrzpdufPJY :2009/01/13(火) 20:06:52 ID:W9G1Gkv1
11
「……ありがとう、トグサ。これは俺のために詠んでくれたんだな」
「いや、あんまり上手くはないんですが……」
そのとき、ふいにドアが開いて少佐こと草薙素子が現れた。
「悪いけど、この間の話し全部聞かせてもらったわ。
ふたりとも思考システムの回路を遮断するの忘れてたでしょ。
全開だったわよ、不用心ね」
うわっ、まずい。
大の男がふたりして感傷話しに浸り、挙げ句の果てに自作の詩を
詠んだことが鉄の女にバレバレとは。
バトーとトグサは互いに顔を見合わせてしばし絶句したままだった。
「わたしを誰だと思ってるの? れっきとした日本人よ。
大和撫子の奥ゆかしい血が流れているの。
まあそれはいいとして、日本には昔から和歌という短詩があるわ。
わたしも、ちょっと和歌を詠んでみたくなったのよね」
少佐は和紙をふたりに差し出した。

和紙には香が薫き染められており、見事な筆使いで歌が三首ほど
したためられていた。
35 ◆SrzpdufPJY :2009/01/13(火) 20:12:01 ID:W9G1Gkv1
12
「野の花を摘む無骨なる君の指 いと細やかにりぼん結びぬ」

「花束をわれにあたへし人ありて 黒髪匂ふ乙女の日かな」

「白き花髪に差したる夜の夢は 甘き香りに夢も染まりぬ」



***終わり***



お目汚し失礼しました
エロくなくてごめんなさい……
36 ◆SrzpdufPJY :2009/01/13(火) 20:16:57 ID:W9G1Gkv1
あとがきに代えて

少佐の初恋編(相手はクゼヒデオ)は放映されてましたが、バトーに
関してはないんですよね……。
恋愛というよりは、エロスを意識する以前の、ふとした瞬間に
魂が揺さぶられるようなそんなエピソードを書いてみたいと
思いました。
こころが動く瞬間は何も大仰なことでなくてもいいのです。
ごくごく小さなありふれた出来事が後々もずっとその人のこころに
残り、大切にしまわれる、そんな物語を。


では、ごきげんよう
読んでくださってありがとうございました。
37名無しさん@ピンキー:2009/01/13(火) 21:56:34 ID:HOoHMSr5
>>36
(・∀・)イイ!!
詩と和歌がすごくいいです。こういうのは、個人的に好みだな。
せつない結末だけど、良い話です。
38 ◆SrzpdufPJY :2009/01/13(火) 22:18:06 ID:W9G1Gkv1
>>37さん
ありがとうございます
そのように言っていただけてとてもうれしいです(*^_^*)

BGMには宇多田ヒカルの「Eternally」が似合います♪

特に二番目の歌詞「戦いに出かける前のひと休み あなたと過ごしたい 約束は今度逢えた時に」のところ泣けました……


http://jp.youtube.com/watch?v=U9cIhStMqik
39名無しさん@ピンキー:2009/01/13(火) 23:25:37 ID:llgwKdBe
>>36
センチメンタルなバトーさんっぽい話ですね。
素子もw

また書きにきてください。
40名無しさん@ピンキー:2009/01/14(水) 01:19:43 ID:4x78YRbX
こういうのめっちゃ好きやわ!!

マジ乙でした、次回作待ってます
41名無しさん@ピンキー:2009/01/14(水) 03:27:07 ID:kPTJN8z0
>>36
GJ!!
42 ◆SrzpdufPJY :2009/01/14(水) 10:11:01 ID:oXSpsSPu
>>39さん
>センチメンタルなバトーさんっぽい話ですね。
>素子もw
センチメンタルさを楽しんでいただけたようで、うれしいです♪
素子の意外な(?)大和撫子の素顔、書いてみたかったんですよ〜
また、機会がありましたら書かせていただきますね。
ありがとうございます。

>>40さん
>こういうのめっちゃ好きやわ!!
ありがとうございますぅ。
気に入っていただけたようで作者冥利に尽きます♪
アップする前はエロくないから、ドキドキものでしたので……

>>41さん
>GJ!!
おおっっ! 何と素敵な感嘆符♪
ありがとうです!
43名無しさん@ピンキー:2009/01/14(水) 14:32:06 ID:DLT9yYtD
よかったです。
素子、大和撫子なんですね。

でも、このタイミングでやられちゃ、ちょっと嫌みかも。
44 ◆SrzpdufPJY :2009/01/14(水) 19:15:47 ID:GKI5wyoD
>>43さん

ありがとうございます

>でも、このタイミングでやられちゃ、ちょっと嫌みかも。

わぁっ! 鋭いですね〜
そうなんです
実は素子はバトーとトグサに対抗意識を燃やしたんですね
というのは、素子は美貌で頭脳明晰、判断力、行動力すべてが9課のなかで
群を抜いてるんですよね
加えて教養もぐんと高い女性です
バトーもトグサもおよそ詩に縁などなさそうなのに
少女のために詩を詠んだ
ここはひとつ大和撫子の誇りにかけても
和歌を披露しなくては、、、
というわけです

それともうひとつ
素子は少女にかすかなジェラシーを感じたのですね
バトーと少女の出逢いはほんのひとときのものでした
にもかかわらず、バトーのこころの片隅を今もひっそりと
占めているのですから……
45名無しさん@ピンキー:2009/01/15(木) 08:25:15 ID:n/xspoKB
攻殻のエロ画像スレってもうなくなっちゃった?
前に見た覚えがあって、スレタイ検索したんだけどそれっぽいの見当たらないんだよね…
46名無しさん@ピンキー:2009/01/15(木) 09:05:29 ID:FxJfHBHk
>>45
それなくなったの大分前じゃなかったかねー

しかしいくら過疎化しようともこのスレと少佐についていくよ
4745:2009/01/15(木) 09:27:37 ID:n/xspoKB
あんがとー
やっぱり落ちてるかぁ…

エロコラ作ろうと思ったんだけど、やっぱこのスレにはったらまずいよね。
どこか適当なスレ探してみるわ。
48名無しさん@ピンキー:2009/01/15(木) 13:31:22 ID:aYjpXNiI
結びたし 我が手に残る白きリボン 花さえ残らぬ瓦礫野に立ち
49 ◆SrzpdufPJY :2009/01/15(木) 17:25:35 ID:+2LYMU1r
>>48さん
ありがとうございます。
こころに染み入る短歌ですね。

詩はどこから生まれるのでしょう?
詩はどのようにして生まれるのでしょう?
ひとつの詩がこの世に誕生するにはさまざまな背景があります。
それはひとりひとりの物語といってもいいでしょう。
普段は無骨でまったく詩に興味のない人が、あるとき、ある瞬間、
詩をつくりたい衝動に駆られることがあります。
わたしはひとつの詩が生まれるまでの物語を書きたいと思いました。
>>48さんも、もしかして同じ想いをされた方なのでしょうか。
バトーの少女への淡い思慕がせつせつと伝わってきますね。。。
50 ◆SrzpdufPJY :2009/01/15(木) 17:26:26 ID:+2LYMU1r
彼はどんなにかあの少女にリボンを結んであげたかったことでしょう……
照れながらも大男で無骨なバトーの指が、少女の髪にぎこちなくりぼんを
結わえている光景が目に浮かぶようです。

照れくさそうに少女に白いリボンを差し出すバトー。
少女はうれしそうに、まさに花が開いたようにはにかみながら微笑むでしょう。
それから少女は、バトーの手で直接自分の髪に結わえてほしいと
お願いするでしょう。
バトーは戸惑い、困ったような顔をしながらも、少女の願いを叶えて
やろうとします。
……そう、少女は初めてこころを許した異性に甘えてみたかったのですね。
バトーは照れながらも少女の髪にリボンを結びます。
リボンを結ぶ彼の指先はとてもこまやかに動き、それはそのまま
少女を愛おしいと想うバトーの心情でありました。。。

ここ、やさしい方が多いですね♪ このスレ大好きです。
51名無しさん@ピンキー:2009/01/15(木) 22:45:42 ID:H/vUTyTN
>>50
>48です。お褒めに預かり光栄ですが、短歌は今日の歌会始めであの方の短歌があまりにアレだったので、
素人でもできるものかと作ってみただけです。ごめんなさい。

職人多忙&産休中他etcで過疎っているスレに投下ありがとうございます。
読ませていただきました。GJですよ。

ところで、このスレ、本来、職人もタイトル名以外のコテはあまりつけない、
過ぎた雑談もあまりしない、
もちろん作品への思いのつれづれなど、あまり語ったりしないスレです。

皆さん大人だし、お願いして投下して戴いたので、
多少の語りは大目に見ているようですけど。
(スレの最初なので、雰囲気掴めていないでしょうし)
それで、もしモリタポでもお持ちでしたら、過去ログを一通りごらんになって、
スレの空気を感じていただいた上で、またよろしかったら作品を投下していただけないでしょうか。

過疎り気味だし、最近はエロ無しでもまあ、みたいな雰囲気なので、
新規の職人さんがいらして下さるのは大歓迎ですよ。
私も基本はバド×素なのですが、書き尽くした感があるので、
新しい切り口をみせていただけると、また勉強になると思います。

この書き込みに対するレスは結構ですので、よろしくお願いしますね。
52名無しさん@ピンキー:2009/01/15(木) 23:01:33 ID:H/vUTyTN
http://wiki.livedoor.jp/motoko9k/d/

ところで、まとめwiki、場所確保したから、誰か宜しく。
編集者制限無しだし、私wikiわかんないんだよ。

要らなかったら来週消す。
53名無しさん@ピンキー:2009/01/15(木) 23:07:51 ID:f608TQSr
>>52
乙です。wiki使ったことないからよくわからないけど。
時間があったら、過去ログ一覧編集できるかもしれない。
54名無しさん@ピンキー:2009/01/15(木) 23:17:43 ID:H/vUTyTN
>>53
おお!!
心強い。

今んとこ、誰でも編集できる設定なので、みんなでのんびり作っていこうぜ。

ってことで、当分放置するから。
55名無しさん@ピンキー:2009/01/15(木) 23:27:41 ID:f608TQSr
>>54
でもね、平日は仕事忙しいから暇な時限定でヨロ・・・
56名無しさん@ピンキー:2009/01/15(木) 23:37:38 ID:H/vUTyTN
>>55
うん。だからみんなで、ね。
本業が大事だもん。
本業>自分の事>自分の趣味>雑魚(wiki)
だから、誰でも編集にしたんだよ。
私も勉強するから。
年度変わりだから、みんな忙しい時期だし、
半年ぐらいたって稼働してないようなら消すから。
57名無しさん@ピンキー:2009/01/16(金) 23:16:12 ID:lM1HsQII
wikiの最初のテンプレを作ろうと思って、各スレの保管庫を参考にしてるんだけど、
スレ毎にずいぶん違うんで驚き。保管やめてるとこもあるし色々あるね。
一番大きい2chエロパロ保管庫のやつを参考にしようかと思う。
こんな感じで↓

・ここは、BBSPINKエロパロ板の「攻殻機動隊」エロパロスレの保管庫です。
・非公式二次創作であり、著作権は、それぞれの作品の作者に帰属します。
・無断転載は禁止します。
・原作のイメージを壊されたくない方は読まないで下さい。
・18歳未満は閲覧禁止です。

58名無しさん@ピンキー:2009/01/16(金) 23:23:49 ID:lM1HsQII
追加だけど、小話は全部保管した方がいいの?
あと未完のSSも色々あって、1レスで終わってるのもあるし、
前編だけ投下されて未完ってのもある。
判断が難しいところなので、多少なりとも御意見を伺いたい。
59名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 00:27:27 ID:SFUGUw+1
>>57
乙です。
頑張りましたね。

テンプレはそんな感じでいいのではないかな。
あとは、みんなから意見があれば追加で。

そして、保管作品は完結優先でいいと思います。
小ネタは完結を保管し終えて、余裕があればでいいと思います。

未完は、職人のほうも持て余したから未完だと思うので、今のところは放置で。
小ネタ集めが終わって、まだ纏めたい時でいいと……

どうせ、過去ログのスレッド自体も保管するでしょ?
だったら、過去ログ読みの楽しみに、少しは取りこぼしを置いておいたほうがいいかな。

それで、纏まったら、職人のほうで自分の作品をひとくくりに、
とか思ったら、また申告なり、自分でいじるなりしてくださいな。

でも、いくら過疎スレとはいえ、ここで業務連絡はウザイかもしれないね。
専用BBSを設置したほうがいいかな。
スパムの来ないのがいいよね。タダでさえエロだから。
いいとこ、知ってる方がいたら、教えて下さい。
アカウントは取ります。

ところで、画像も貼れるんだよね。
>45さんみたいな方にも使ってもらえるといいよね。

以上が私>52の意見です。
以後、wikiのアカウント保持者としての私の名は『52』で。

という事で、他の方のご意見もお待ちしています。

60名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 00:36:32 ID:XjCYXZez
>>59
52さん、したらばのエロパロ避難所に連絡スレを立てたらどうでしょうか?
61名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 01:00:13 ID:SFUGUw+1
>>60
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/2964/1232121471/l50
攻殻機動隊エロパロスレ@避難所

立てました。
汎用のタイトルにしておきましたので、業務連絡以外にもお使いください。
62名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 14:01:02 ID:crESEgZ5
サノーさんのエロって過去ログにある?
63名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 14:49:58 ID:TtJx7ExL
64名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 23:07:12 ID:j/p7Xs50
>>52
業務連絡はしない約束ですが、とりあえず始動しました。
5話まで収録済みを告知します。
一部不具合が出て申し訳ないです。
時間があったら更新していきますから、よろしく。
65名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 23:33:37 ID:+IrYGTcg
>>64

おk
66名無しさん@ピンキー:2009/01/18(日) 15:05:30 ID:EWmVlEqY
エロなしで微妙な関係のままでも
心はしっかりつながってる

そんなバト×素が見たいです。
67名無しさん@ピンキー:2009/01/18(日) 23:25:50 ID:WiyrH4zB
エロありで微妙な関係でもいいよ。
どっちもおいしい。
68名無しさん@ピンキー:2009/01/20(火) 10:34:11 ID:QUV2ulkx
クゼ×素ってあんまり人気無さそうだな…
しおらしい少佐が好きだから俺は結構好きな組み合わせなんたが
69名無しさん@ピンキー:2009/01/20(火) 12:01:14 ID:dyGSMNGi
このスレ的には割と人気。
70名無しさん@ピンキー:2009/01/20(火) 12:38:38 ID:QUV2ulkx
>>69
うん。過去ログみたらそうみたいだな

ネット全体での評判はよろしくない様だったから気になった
71名無しさん@ピンキー:2009/01/21(水) 16:54:21 ID:SG/Pweum
(∴)ノさんっはい!
しょうさのほうまんな〜ばすとあんどひっぷ♪
ヽ(∴)人(∴)人(∴)人(∴)人(∴)人(∴)ノ
72名無しさん@ピンキー:2009/01/24(土) 01:12:38 ID:Uv3YbSFq
フェムを見たい
73名無しさん@ピンキー:2009/01/24(土) 13:01:54 ID:CFusN8r0
ああー、イノセンスで一本書きたい。


ビデオが見つかんねー。
仕方ない。TSUTAYA行ってくる。
74名無しさん@ピンキー:2009/01/25(日) 22:31:55 ID:wu4VZ3MV
イノセンス、それは↓
75名無しさん@ピンキー:2009/01/26(月) 00:27:56 ID:Vsz/4rws
猪木
76名無しさん@ピンキー:2009/01/26(月) 14:46:01 ID:n7Of2RkT
ボンバイエッ
77名無しさん@ピンキー:2009/01/28(水) 17:46:55 ID:xj5U6SsH
トグサをハッキングして、バトーとセックスする素子

どうだい?
78名無しさん@ピンキー:2009/01/29(木) 13:52:59 ID:F12Vfdfh
で、それは810の範疇にはいるのか?どうなのか?
79名無しさん@ピンキー:2009/01/29(木) 19:34:50 ID:vMQDSdtM
(∴)ノトグサ君が電脳自殺すると思いまーす
80名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 09:06:07 ID:RIPk4ye2
>>78  801に入るかどう?
     言葉遣い=素子  体の反応=トグサ
    
   例) 「ああ!バトー・・・いいわよ・・・」
       そう言って、素子の陰茎の先から先走り汁が滴り落ちる
81名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 10:03:33 ID:/zhT1QWQ
(∴)ノ801って?わかれば経験値上がるかな?
82名無しさん@ピンキー:2009/02/02(月) 00:34:04 ID:zBiSIiOf
>>81
専用板があるだろ。そこ逝け。
エロパロでは禁止だ。
83名無しさん@ピンキー:2009/02/02(月) 10:06:59 ID:Aiq/XbFQ
>>82
801投下はゴメンだが
ちょっとは言葉遊びするぐらいの余裕を持てよw
84名無しさん@ピンキー:2009/02/02(月) 23:04:13 ID:zBiSIiOf
>>83
余裕なくて悪かった。
前にググって出てきたのが、トグサとパズの801でね。
個人サイトだったけど、読んで激しく後悔したのを思い出したもんでw
85名無しさん@ピンキー:2009/02/03(火) 02:00:31 ID:56zLEJ4Q
攻殻ものは801が多くて、
ぜんぜん801っ気のないこのスレの存在こそが希有だと聞いたことがある。
86名無しさん@ピンキー:2009/02/03(火) 11:03:06 ID:VijViLCE
mjd?
そっち方面に想像力を働かせられるのって驚くやら呆れるやらw
87名無しさん@ピンキー:2009/02/08(日) 21:47:28 ID:Lo0EUzcO
保守
88名無しさん@ピンキー:2009/02/11(水) 00:39:18 ID:RyJAf8tm
wiki、だいぶ充実してきたよ。
遊びに来てね!!

http://wiki.livedoor.jp/motoko9k/
89名無しさん@ピンキー:2009/02/15(日) 08:57:53 ID:vkoQmeE6
乙です!
百科辞典みたいだー!w
にしても皆、1本分の話の分量が半端ないね。読み応えあって大いに結構。
90名無しさん@ピンキー:2009/02/17(火) 01:03:28 ID:IjyyxzgM
未完の人もよかったら続き書いてね。
91名無しさん@ピンキー:2009/02/19(木) 01:34:57 ID:NTv1crP6
age
92名無しさん@ピンキー:2009/02/21(土) 21:38:29 ID:MhrTct57
あげ
93名無しさん@ピンキー:2009/02/24(火) 19:21:13 ID:xI++uOXC
保守
94名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 22:55:45 ID:iUFbH4AA
保守
95名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:05:56 ID:iUFbH4AA
なんか保守ばかりじゃあれなんで、たまには雑談でもふってみる。
wiki読んでひとこと。
傭兵時代のサイトーと、このスレにも投下されたレンジャー時代のバトーの話。
サイトーの相手はは同僚で、バトーはどこかの少女。
らしい話だと思う。
逆はありえないと思ったけど、少佐は一応同僚なんだ。
でも、サイトーに少女ってイメージはないね。
96名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 23:41:34 ID:iUFbH4AA
誰もいないんで、しつこく連投してみる。
シロマサ漫画の女性主人公考察を読んでみて、別の考察をしてみよう。
2ちゃんねるの作品スレで、バトーの事を「90のネカマ爺さんにだまされるほど恋愛ベタ」
だと言ってる人がいたけど、実は、クゼも同じくらい恋愛ベタじゃないかと思ってる。
個別の11人に感染してるし、ボーマと同列に語られたっていいくらいだ。
それなのに、初期は金城武をモデルにしたらしいイケメンなんで、あまり突っ込まれない。
一番経験豊富なのが少佐で、次がバトー、そしてクゼという順番になるんじゃないかと思ってる。
つまらない話でごめんね。
97名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 00:34:43 ID:oxwd9A/w
経験値予想

1位 素子 高性能義体で副業もしている。バイセクシャルもいける。でも生身は未経験?
2位 パズ 同じ女とは二度と寝ないという臭い台詞を平気で吐けるってことは・・・
3位 イシカワ 年の功
4位 サイトー 色気が・・・女はほっとかないと思う
5位 トグサ 普通に恋愛、普通に経験(5〜6人くらい?)。結婚後は妻一筋。
6位 バトー 好きじゃなくても義理で何人かと寝てるそういう感じ 
7位 ボーマ 電脳ファックはお手の物?体はどうなんだろ?
8位 クゼ 今だ未経験
謎 荒巻 この人配偶者いるの?いたの?どうなの?
98名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 01:57:18 ID:Bre9We0+
トグサはいいとこ2、3人とオモ
99名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 00:30:24 ID:DrIqTPsL
>>97
1stの第1話で「お孫さんは元気かね?」って聞かれてるから結婚してるだろね。
トグサの元カノは、原作に出てる。
100名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 09:05:43 ID:yO+dX5eb
原作に出ていたのはトグサの元カノではなく、不倫相手だと思っていた私。
考え方が腐ってやがるぜ・・・。
101名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 22:46:39 ID:ILBSoDkR
>>100
同じくw
原作のトグサには、真面目なイメージが余りない。
102名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 23:42:20 ID:xjHWxWNy
投下がないようなので、書きあがってるところまで落とします。
3rdスレで書いた少佐とクゼの再会後の話です。

(注意書き)
・設定に無理な部分があり、勝手な過去話などを含みます。
・スレの雑談を参考にした部分があります。
・元作品、特に「草迷宮」が好きな人はスルーでお願いします。


103春節1:2009/03/06(金) 23:45:46 ID:xjHWxWNy
 陽も沈みかけた灰色の冬空の中、水上バスは海から吹き荒ぶ寒風の中を河口へと
向かって進んで行く。
 バッグの中から携帯端末を取り出し、送り主不明のメールを開いてみた。
 題名は何も無く、地図上に示されたポイントが画像として貼り付けてある。
 書いてある事といえば日にちと時間だけで、あとは何も無い。
 いたずらかspamだと思い、そのまま削除してしてしまおうかと思った。
 本物の誘いだとしても、携帯端末とは些か無粋なやり方だ。
 念のために示されたポイントのアドレスを探って見た。
 
 真夏の海からこの街に戻り、半年が過ぎようとしている。
 住む場所も替え、義体も時々乗り換え暮らしていた。
 依頼された仕事を引き受け、年末に海外から戻り、久し振りのオフを楽しんで
見ようかと思っていたところだ。いたずらだとしても、行かない手はないだろう。
 あの店――
 確か地図に示された場所辺りで見つけた筈だ。
 あの店へ来いという意味ではないにしろ、私は、またこの船に乗ってしまった。

 水上バスを降り、川岸に沿って歩いた。
 子供染みてる――
 何を期待してるのか……誰かのいたずらかもしれないのに……。
 見覚えのある道を進み、ようやく入り口らしい建物を見つけた。
 確か、この階段を上ってすぐの所にあの店に続く道があったはずだ。
 階段を上がると、通りに続く出口が見えてきた。

 出口を抜けると、目の前の光景が変わっていた。
 多くの人が行き交い、道の両側には軒先に赤いランタンを吊るした屋台が並んでいる。
 家々の戸口には春聯、倒福の赤い文字が貼り付けられ、街はランタンの灯火に照らさ
れて赤一色の世界に染まっている。
 前に来た時は人影もなく普通の町並みが続いていたはずだが、河向こうにある中華街と
見紛うばかりの様相だ。
 場所を間違えたわけでもなさそうだが、とりあえず心当たりの方角へ歩みを進めた。

 しばらく行くと心当たりの場所までたどり着いたが、例の店は見つけられず、代わりに
その場所を塞ぐように物売り達が屋台を並べている。
 どの店にも赤や白の布地が敷き詰められ、その上に菓子や果物、煌びやかな布地等が
並べてある。
 私は、それらの店ひとつひとつを眺めながら歩いてみた。
 眺めて歩くうちに、一軒の店の前で立ち止まった。
 赤い布を台一面に広げ、その上には動物をかたどった陶製の人形や中華風な凧、歌留多、
お手玉やおはじきまで並んでいる。その店の軒先にも赤いランタンが吊るされていた。
 そのランタンと一緒に吊るされている金色の折り紙の鶴――
 私は、暫くその鶴を見つめていた。
「買う?」
 目の前に店番らしい十五、六歳の少年がいた。
「ごめん、見てただけ。今日は何かの縁日?」
「春節だよ」
「春節? ああ、中国の旧正月の事ね。今日はその日なの?」
「おねえさん、祭りを見に来たんじゃないの?」
「違うわ。人探し……みたいなもの。この辺りに中華街なんてあったかしら? 中華街は、
河の向こうにあると思ってたけど」
「向こうにあるのは、大陸から来た人達の町だよ。ここは、俺達台湾人の町」
「台湾?」
「そう。前は向う側より、ここの方が大きな町だったらしいよ。今じゃ住人は少ないけど
ね。それでも、春節の祭りが始まると皆ここへ戻ってくる。俺は、おととしここへ来たば
かりなんだけど」
「そう……」
 台湾――あの男がいた場所だ。
 私は、再び目の前に吊るされた金色の鶴を見た。
104春節2:2009/03/06(金) 23:50:38 ID:xjHWxWNy
「おねえさん、日本人でしょ? 鶴がめずらしいの?」
 いつまでも鶴を見つめる私に、少年は不思議そうな顔をしてそう聞いた。
「春節でランタンと一緒に鶴を飾る習慣なんてあった?」
「ないよ。それは俺のお守りみたいなもの」
「お守り?」
「そっ、お守りだよ。俺、台湾に住んでた頃、一度病気で死にかけた。難しい手術が
必要だって医者に言われたけど、うちに金なんかなくて親はあきらめかけた。でも、
お金を出してくれる人が現れて俺は助かったんだ。その鶴は、お金と一緒にその人が
見舞い代わりにくれたものだよ。それ以来、ずっとお守りで持ってる」
「そう……」
「おととし日本に来て……その人、日本人だったから俺も日本の学校に行きたくて……
まあ、金はないけどね」
 少年は笑いながら、そう言った。
「それで、お礼代わりにおととしの春節にその人をここへ呼んだんだ。会いに来てくれ
たよ。去年も呼んだけど、忙しいからって来なかった。でも、来年は必ず行くからって
約束してくれた」
「その人の名前は、なんていうの?」
「日本の名前は知らないけど、俺達はみんな彼の事をロウと呼んでた」
「ロウ……」
 この少年はクゼヒデオという名を知らない。おそらく、彼が出島で難民の英雄と呼ば
れた事も、その後のクゼが辿った運命も知らないのだろう。
「ロウは、来ると思う?」
「おねえさんの探してる人って、もしかしてロウ?」
「さあ、名前は同じだけど、同じ人だとは限らないわね」
「おねえさんって、彼女かなんか?」
「まさか……」
 私は、少年の言葉に苦笑してしまった。居所もわからない男の彼女だと名乗るほどの
関係だと言えるのだろうか……。
「ふうん……そう。でも、彼はきっと来るよ」
「自信を持ってそう言えるの?」
「来るさ、きっと。彼は約束を守ると信じてる……って言うか、もう来てる」
「えっ!」
「おねえさんの後ろに」
 私は、急いで後ろを振り向いた。
 そこには、半年振りに見る懐かしいあの男の顔があった。

105春節3:2009/03/06(金) 23:51:17 ID:xjHWxWNy
「久し振りだ」
「ロウ!」
 少年の弾んだ声が男の名前を呼んだ。
 そこには、出島で出会った時のままのクゼがいた。
 他人の姿を借りたのではない、紛れもないクゼの姿そのままだ。
 私は呆けた様にその姿を見つめ、クゼは微笑を浮かべて私の肩を軽く叩くと、屋台に
いる少年の前にしゃがんだ。
「元気にしてたか?」クゼはそう言って、少年の頭を撫でた。
「うん、この通りだよ」
 少年は満面の笑みを浮かべ、クゼにそう答えた。
 二人はしばらく話をしていた。私は、そんな二人を黙って見つめていた。
「ねえ、聞いてもいい?」
「何を聞く?」
「あのさ……耳貸して」
 少年はクゼに顔を近づけ、耳元で何か囁いた。
 あのおねえさんさ……確かにそう聞こえた。
 クゼは、頷きながら少年の問いかけを聞いていた。
「それで、あの人はなんと答えた?」
「多分、まさかって言ったから、違うという意味だったんじゃない?」
「そうか。おねえさんが違うと言うのなら、そうじゃないんだろ」
「それって、フラれちゃったって事にならない?」
「そうかもしれないな……」
 クゼは、笑いながらそう言った。
 どうやら、少年はクゼに私の素性を確かめているらしい。
 少しだけ体が熱くなり、それは違うと否定の言葉を口にしようとしたが、何も
言えなかった。
「そろそろ行く」
 クゼは、そう少年に告げ立ち上がった。
「また来てくれる?」
「明日、また来る」
「これからどこへ?」
「このおねえさんを連れて……」
 そう言いかけ、クゼは私の方を見た。
「祭り見物だ」
106春節4:2009/03/06(金) 23:55:15 ID:xjHWxWNy
「行こう」
 クゼは私にそう言うと、少年に片手を上げて別れを告げた。
 少年は、明日待ってると言い手を振った。
 店を離れ通りに出てみると日は暮れていた。来た時よりも見物人が増え、私達は
人波の中を流される様に並んで歩いた。
「その体はどうした?」
「これか? 前の義体ではない。よく見ろ」
 私は横を向き、並んで歩くクゼの顔を見つめた。似ているようだが、確かにどこか
違う。あの造顔作家が作ったとかいう顔とは微妙に違っている。だが、前の顔によく
似せてはある。
「あの少年は、まだ電脳化はしていない。実体も持たずに意識だけで会うわけにもい
くまい」
「あの子、置いてきて良かったの? 約束してたんじゃない?」
「おまえが心配する事じゃないだろう。俺が決める事だ」
「相変わらず強引ね。勝手だわ」
「勝手か……否定できないな」
「あんなメールひとつで誘いを匂わすなんて、誰だってそう思うわ」
「原因はそれか……女の誘い方はよくわからない。そんなものとは、ずっと無縁で
いたからな。怒ってるのか?」
「怒ってるわけじゃないけど……」
「十分怒っているように見えるが。はっきり名乗ったところで、おまえが来るという
確信もなかった。なにしろおまえは……」
「私が何?」
「疑り深いからな」
 クゼは、そう言って笑った。
「疑り深いわけじゃないわ。用心深いだけよ」
「用心深いのなら、しっかり歩け。さっきから人にぶつかってばかりだな」
 クゼはそう言いながら、私の肩を抱いた。
「はぐれるなよ」

107春節5:2009/03/06(金) 23:56:15 ID:xjHWxWNy
突然、爆竹の音が鳴り響き、辺りは火薬の臭いと白い煙に包まれた。
 立ち込める煙の向こう側から、打ち鳴らす鉦や太鼓の音に合わせて京劇の仮装を
した一行が近づいて来る。見物客は皆歓声を挙げ、無数の爆竹が炸裂した。
 クゼは私の肩をしっかりと抱き、仮装行列の流れとは逆の方向に歩き出した。
「どこへ行くの?」
「もっと良く見える場所へ行こう」
 人ごみに押されながら通りに沿って歩いて行き、一軒の店の前に来た。
 その店は、屋根の上に赤茶色の瓦をのせた三階建てで、壁は白い漆喰で塗られて
いた。入り口には『紅楼茶館』と書いた看板が掛けられ、低い石造りの階段の上に
続いた入り口の扉は、両側に開かれたままだ。入り口の端に置かれた椅子の上には、
居眠りでもするような格好の老婆が座っていた。
「ここだ」
 クゼは、私にそう告げると石の階段を上った。
「おかえり、ロウ」
 クゼの姿を見た老婆が声を掛けた。
「家人は店を空けたまま留守か? 物騒だな」
「店主も客も、皆祭り見物に行ってしまったよ。私は足が云う事をきかないんでね。
小銭をもらって店番さ。祭りはもう見ないのかい?」
「ここの三階の方が眺めはいい」
「違いない。泊り客も皆出かけてるよ」
「そうか。何かあったら知らせてくれ」
「わかった」
 クゼはそのまま店の奥へ入って行った。私もその後に続いて階段を上がった。
 老婆の横を通り過ぎる時、彼女は私に一瞥をくれたが、興味は無いとでも言いたげ
にすぐに顔を逸らした。
 だが、ほんの一瞬、老婆の口元が冷笑を含み僅かに歪んでいるのを見逃さなかった。
 ――嫌な気分だ。
 この老婆が頭の中でどんな妄想をめぐらせているのか、何も言わなくてもわかって
しまう。

「こっちだ」
 クゼは、店の奥にある狭い木の階段を上がって行った。後ろについて上がってみると、
足を乗せただけでミシッと嫌な音を立てる。
「ここは、茶館ではないのか?」
「上は宿になってる。おととしも世話になった」
「何かあったらとは?」
「妙な奴が訪ねてきたら知らせろという意味だ」
「あんな年寄りに、見張りまで頼むの?」
「当てにはしてない。気やすめの様なものだ」
「気やすめなら、何も頼まないほうがましね」
「確かに、自分で言うとおりの女だな。用心深い……おまえは」
 クゼは、私の方を振り向いてそう皮肉を言いながら、階段を上っていった。
108春節6:2009/03/06(金) 23:58:15 ID:xjHWxWNy
 三階まで階段を上りきると、そこには廊下を挟んで四つの部屋が並んでいた。
 クゼは、左側一番奥にある部屋の前へと進み、鍵を開けると中へ入った。
 古びた外観とは違い、部屋は小奇麗に整えてある。窓の横には、ベランダに続く扉が
あり、クゼはその扉を開け外へ出た。
「ここへ座れ」
 促されるままに外へ出てみると、余り広くもない。彫刻の施された木製の手摺りの前に
背もたれの無い長椅子が置かれ、その前に丸い小さな中華テーブルが置いてある。
 テーブルには白いクロスがかけられ、その上には中国式の茶器が置いてあった。
「下に行って湯をもらってくる」
 そう言い残して、クゼはそこから出て行った。
 私は、長椅子に座り、手摺りから身を乗り出して下を眺めた。
 先程の仮装行列は行ってしまったのか、獅子舞が始まっている。赤や黒、黄色と
鮮やかな色彩を纏った獅子の群れが、店先に吊り下げてある採青と呼ばれる祝儀を
取りながら通りを進み、時々見物客の前で大きな口を開けてみせる。
 目の前で大きな口が開くのを見た子供が、母親にしがみついて泣き始めた。
 その可愛らしさに思わず笑ってしまった。
 いつもは忘れているが、自分もあんな小さな子供だったはずだ。

 しばらくすると扉が開き、クゼが旧式な電気ポットを持って現れ、私の隣りに座った。
 そのまま、茶柵の上に置かれた『茶壺』と呼ばれる朱泥の急須に湯を注ぎ、続けて茶海、
茶杯へと湯を注いでいく。そして、頃合を見計らって茶柵へと注いだ湯を空けた。
「お茶まで淹れるのか? そんな特技があったなんて知らなかった」
「見よう見まねだ。正式なやり方は知らない。台湾にいた時は、自分で淹れた。皆そう
するからな。もっとも、こんな面倒な淹れ方はしなかった。今日は特別だ」
 クゼは、温まった茶壺の蓋を開け、茶杓で葉をすくうと、それを茶壺に入れた。
 茶柵に置かれた茶壺に勢いよく湯がかけられる。
 白い湯気が茶柵の下からゆっくりと立ち上った。
 そのまま数分の時間を置き、更に茶壺から茶海へと茶を移し変える。
 そして、漸く茶海から茶杯へと茶が注がれた。
「気の遠くなりそうな手間ね……」
「手間はかけたが、味は保障しない。飲むか?」
 そう言って、私の前に茶杯を差し出した。
 白磁に青い花模様が描かれた器には、翡翠色をした液体が満たされている。
 口元に器を近づけると蘭の花に似た香りが漂い、一口啜ると甘味を含んだ味が広がって
いった。
「どうだ?」
「よくわからない……美味しいとは思う」
「そうか……」
 クゼは自信のなさそうな笑顔を浮かべ、私はその顔を見て少しだけ微笑んだ。
109春節7:2009/03/06(金) 23:59:02 ID:xjHWxWNy
 茶杯を持ったまま通りに目を落とすと、相変わらず獅子舞が続いていた。
「いい眺めだろう?」
「ここからだと、良く見えるわ」
「あれが過ぎれば次は蛇踊りが来る。そうすれば、花火が上がる。新年の合図だ」
「何故、私を呼んだ? あの物売りの少年と約束していたからか?」
「それもあるが……おまえ、春節を見るのは初めてか?」
「前に何度か河向こうの祭りなら行った事がある。こんな場所に祭りがあるとは知らな
かった」
「ここにいるのは台湾の華僑達だ。先の大戦が終わって住む者が少なくなったそうだ。
今は親中派の茅葺が政権を取ったからな。大陸との関係が正常化したとはいえ、住み
心地が悪くなったと聞いている」
「そう……それでも、春節の時には戻ってくるのね。あの少年がそう言ってたわ」
「この街で春節を見るのは二度目だ。今年とおととしと……最初に見たのは、俺が暮らし
た街だ」
「おまえの暮らした街?」
「子供の頃の記憶は余り無い。街の名前も覚えていないが、俺が住んでいた街にも中華街
があった事を思い出した。いくつの頃かは忘れたが、親に手を引かれ春節を見物した記憶
がある。
 初めて見る祭りに俺は浮かれて、親の止める声も耳に入らず走り回った挙句、獅子舞に
驚いてひどく転んだ。泣き叫ぶ俺を父親が抱き上げ、母親が泥だらけになった俺の顔を
拭いてくれた。そんな事しか覚えていないが……」
「そう……」
「一緒に見たいと思った……おまえと。だが、誘い方が無粋だったな。おまえが怒るのも
無理はない」
「もう、気にしてないわ」
 私はそう答え、軽く首を振った。
110春節8:2009/03/07(土) 00:00:08 ID:bSyE3MQe
 弾けるような爆竹の音が響き、鉦や喇叭の音が一際大きくなった。
 下を見ると、目の前を光る鱗を持った青い龍が通り過ぎ、金色に光る珠を身をくねら
せながら追いかけて行く。

「おかわりは?」
 手にした茶杯は、いつの間にかカラになっていた。
「いただくわ」
「二杯目は、最初より時間を置くといいそうだ」
クゼはそう言いながら、茶壺の蓋を開け湯を注いだ。
「おまえ、公安は辞めてしまったのか?」
「よく知ってるな……」
「おまえの事なら、なんでも知っている。年末に海外から戻った事も」
「見張られているのか、私は?」
「見張っているつもりはないが、おまえがネットにアクセスすればその気配を感じる」
「情報の海は、おまえの意識の上にあるというわけか……それとも、おまえ自身がその
情報の一部に成り果てたのか……」
「どちらだと思う?」
「わからない……肉体を捨てた事で、心の葛藤は無くなったのか?」
「無くなったと言えるのか……俺自身、この世に未練が無いとは言い難いのかもしれん」
「未練? 何故?」
「その答えは、おまえの存在にあると言う事だ」
「……私の存在」
「おまえこそ、もう公安に何の未練も無いのか? 後悔も?」
「戻るつもりはない。二度と」
「俺には、そうは見えないが。引き止める者もいないと?」
「引き止める? 何故そんな事を聞く?」
「心を許せる相手がいなくはないと言ったな。身近にいる誰か……そう思っただけだ」
「……確かに言ったわ。どう言えばいいのか……生き死にを共にした相手を簡単に忘れる
事などできない」
「そうか……そうだな……つまらん話をしてしまったな。忘れてくれ」
 クゼはそう言うと、茶壺を取り茶を器に注いだ。

「知ってるか? 台湾では、朝まで茶を酌み交しながら話をする。日本では酒になるとこ
ろだが、台湾では皆茶を飲みながら議論をするんだ。労働者も学生も老人も若者も」
「茶を? 変わってるな。何度かそんな事があったのか?」
「あった……今では、懐かしい想い出になってしまったが」
「そうか……」
「春節祭は夜明けまで続く。俺達も、このまま朝まで茶を飲みながら話をするか?」
「たまには、それも悪くないわね」
 そう答え、私はクゼに微笑んだ。

 二杯目の茶を口にする時、夜空に大輪の花火が上がった。
 通りに面した家の窓からは、赤や白や桃色の紙で作った花びらが撒かれ、花吹雪の中を
青い鱗の龍がゆっくりと練り歩いて行く。
 花火を見た人々からは歓声が上がり、夜空を明るく照らす火花が私とクゼの顔を暗闇の
中に浮かび上がらせた。
 このまま、ここで二人きりで朝まで話をしても良いと思っていたのは本当だ。
 いつの間にか、長椅子の上についた私の手にクゼの手が重ねられるまでは。
「素子―」
 ――クゼが私の名を呼び、どちらからともなく半年振りに唇を交わした。
 長いキスを繰返し漸くお互いの唇が離れた時、私は少し意地悪く聞いてみた。
「朝まで話をするんじゃなかったの?」
「嫌か?」
 私を見つめ、クゼはそう言った。
「嫌じゃない……」
 そう答えると、クゼの首に腕を絡ませ口づけた。

(後半へ続く)
111名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 00:03:23 ID:bSyE3MQe
ごめんなさい。書式設定が悪くて書き込めなかったので、変な分割投下になりました。
続きはできあがってから投下します。
112名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 09:23:35 ID:QFIqXsSF
ひっそり待機
113名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 13:52:50 ID:bUxm17Ma
久しぶりに新作キター

ドキドキしながら待機
114名無しさん@ピンキー:2009/03/13(金) 02:55:38 ID:OOn82VRC
素敵なクゼ素がきてる!

全裸で続きを待つとしよう
115名無しさん@ピンキー:2009/03/14(土) 02:54:18 ID:OHG124n6
GJ
クゼがテラ紳士だなw
116名無しさん@ピンキー:2009/03/15(日) 06:59:59 ID:0wH3nM4P
GJ
クゼ素は大好きだからメッチャ嬉しい

全裸待機中
117名無しさん@ピンキー:2009/03/17(火) 12:48:10 ID:cLF/Eb0A
GJ!ズボン脱いで待ってる
118名無しさん@ピンキー:2009/03/23(月) 18:34:26 ID:3DE45yJQ
保守
119名無しさん@ピンキー:2009/03/28(土) 02:12:25 ID:uSysdiZ9
ほしゅ
120名無しさん@ピンキー:2009/03/30(月) 00:46:09 ID:EJmjnGFi
>>110
間が空いたけど、続き投下します。
121春節9:2009/03/30(月) 00:49:30 ID:EJmjnGFi
 新年を告げる花火が上がった時、私はクゼの腕の中にいた。
 半年振りの口づけを交わした後は、半年分の口づけを交わす番だ。
 心よりも先に、体の方が昂ってしまう。
 興奮の極みの中、荒々しく服を脱がせるクゼの手つきはあまり器用だと言えない。
 自分で脱いだ方がましだとも思えたが、手の動きに合わせて体を捩りながら漸く服を
脱いだ。
「あっ!」
 露わになった乳房に、直ぐに乾いた熱い唇が吸い付く。
 夏、飽きるほど体を重ねたわけだから、私のどこをどう扱えば良いのか感覚で覚えているらしく、
服を脱がせる不器用さとは違い、慣れた手つきで私の乳房を貪り始める。
 滑りとした舌は心持ち熱く、何度も私の乳房をなぞっていった。
「ん……っ…」
 溜息にも似た声が洩れると、いつの間にか下半身に伸ばされた手が、私の閉じた部分を
探り当てた。太い無骨な指がその中に差し込まれると、もう自分でも分り過ぎる程その場所は
蜜を滴らせている。
 私の内側に滑り込ませた指は何度もその場所を生き物の様に蠢くが、そんな刺激は必要以上に
私を焦らせいらつかせる。
「っん……あ……来て……早く」
 クゼの膝が閉じたままの太腿を割ると、硬い肉塊が私の体を貫いた。
「ん…あっ、あぁ……あっ!」
 クゼは私の唇を強く吸うと激しく腰を動かし、私に一瞬の快楽だけを与え、直ぐに果て
てしまった。
 耳元でふっと息を吐く音がすると、ゆっくりと私の体を離れ、萎えた肉塊がまだ蜜を溢れさせた
ままの場所から抜け落ちるのを感じた。
 クゼはまだ息も荒く、私は何の渇きも癒される事なくそのままひとり置かれた。

 窓の外では喧騒が鳴り止まず、幾つもの花火が続けざまに打ち上げられ、相変わらず見物客は
歓声を上げていた。
 ――私は、ゆっくり起き上がった。
 二人の体を包んでいた茶杯と同じ青い花模様の掛け布団はするりと落ち、裸のまま仰向けになった
クゼの体を露わにした。
 ――打ち上げ花火が、部屋の中を明るく照らす。
 クゼは、少し疲れた様子で目を閉じていた。
 私は、迷う事なく剥き出しになったクゼの下半身に顔を近づけ、草叢の中に埋もれ萎えた物を舌で
すくうとそれを口に含んだ。
 口に含んだ物は柔らかく、私はそれに舌を絡め愛しんだ。
 クゼは、私の与える刺激に呻く様な声を上げたが、そのまま身動きひとつせずにじっとしていた。
 萎えた物はゆっくりと膨らみ、私の口の中で序々に硬さを取り戻していった。
 唇を離しクゼの体から離れると、クゼはゆっくりと上体を起こし、回復した己の逸物を眺めた。
「なんだ……もう、次か。気が早いな」
「早いもなにも無いわ。まだ、何も感じていないもの」
「フフ……そうか。それなら、どうして欲しい?」
「愚問ね―」
 私がそう答えると、クゼは腕を伸ばし私の体を引き寄せ膝の上で抱いた。
122春節10:2009/03/30(月) 00:53:57 ID:EJmjnGFi
「ん……あっ、あぁ!」
 向き合ったまま膝を開かれ、再び熱く硬い物が私の体を貫く。
 私はクゼの背中を抱きしめ、クゼは夢中で私の乳房を貪り舌を這わせた。
「うっ……あ、ぁ…いい」
 下から上へと貫く物は、肉襞のひとつひとつを激しく嬲り、半年振りの快感を感じた私は
体を後ろへと仰け反らせ、逞しい両の腕が背中をしっかりと支えていた。
「あ、ん……もっと、奥まできて…」
「こうか?」
 下か上へグッと突き上げる感覚が私を襲う。
「あ、あぁっ!」
 私は、クゼの体に我を忘れ夢中でしがみつき喘ぎを上げた。
 意識は二人を結びつける一点だけに集中し、無我夢中で行為に没頭した。
 乾いた皮膚が擦れ合い、二人の放つ熱気が冷え切った部屋の空気を熱くしていくと、
その放出された熱に浮かされ、私は絶頂を迎え叫びを上げていた。
 私が頂点まで達した事を知ったクゼは、私を背中の方へ押し倒し、自ら激しく肉体を律動させると
肉塊の先端から熱い物を放った。
 体の奥底で放たれた物は、私が流す蜜と交じり合い、結びついた一点からそれは溢れ、太腿を
伝い落ちていった。
 私は、その溢れるほど熱い液体で体中を満たしてしまいたいと、そう思っていた。
 まだ呼吸も乱れたまま、お互いに見つめ合い口づけを繰返した。
 漸く唇を離した時、クゼは私に聞いた。
「これで満足か?」
「まだよ。まだ足りないわ」
 私はそう答え、くすっと笑ってみせた。
「呆れた奴だな……」
 クゼは、そう言って苦笑した。

 ドンという音が聞こえ、夜空に今日上がる花火の中で一番大輪の花が咲いた。
「きれい……」
 私はそう呟き、窓の方を振り向いた。
「大玉が上がったな。春節の花火は、あれが一番最後だ」
 クゼはそう言うと、後ろから私を抱きしめた。
「なんだ、花火ばかり見て。こうしているより、花火の方が良かったのか」
「花火なんて一年に何度も見る機会はないわ。でも、どっちも悪くない」
 そう答えると、クゼはいきなり私をベッドにうつ伏せにし背中を覆った。
 耳朶に熱い息が掛かり、首筋から背中まで舌を這わせてくる。
 背後で、クゼの逸物がもうなんの手を貸さずとも、また硬くなっていくのがわかった。
 突然腰を引き寄せられ、後ろから行き成り秘所に挿入される。
「あっ!」
 間を置かず、激しく秘所を突かれる。
 予想外の行為に一瞬戸惑い、思わずそれを拒否する言葉を口にした。
「い、嫌っ……やめ……」
「嫌だと? 物足りないなら、満足するようにしてやろうか」
 そう言って、また激しく秘所を突き始めた。
 私はうつ伏せになったまま白いシーツを掻き毟り、快楽に身を躍らせ声を上げても、
外界の喧騒に総て掻き消されていった。
 力が漲るクゼのやり方は荒々しく、余り洗練されたやり方だとは言えないのかもしれない。
 それは、余り女というものを解っていないのだという事を十分に想像させる行為なのだが、
今はそんな不器用な仕草さえ愛しく思えてくる。
123春節11:2009/03/30(月) 00:57:01 ID:EJmjnGFi
 三度私の中で果て、その後もあの真夏の蒸し暑い夜にそうした様に欲望のままにお互いを求め合った。
 クゼが仮宿の義体にいる事を忘れさせるほど肌は密着し、無骨さを補って余りある快感を何度も感じた。
 それは単に体の相性でも技巧でもなく、ゴーストの求める相手と交わるエクスタシーなのかもしれない。
 それでも、身も心もこれ以上ないほど満たされた私は、いつの間にか自分の持つ冷静過ぎる部分という
ものが目を覚まし、心は束の間の休息を求め始めた。
 何度目かにクゼの唇が近づいて来た時、私はそれを軽く片手で止めた。
「少し休ませて……さっきから、ずっとじゃない」
「そうだな。悪かった……」
 クゼは、私の体を離れ仰向けになった。
 少し冷たい言い方だったかもしれないと思い、クゼの胸に手をあて、甘える仕草をしてみせた。
「素子」
「何?」
「俺と一緒に来ないか」
「……夏には、連れて行かないと言ってたのに」
「余り乗り気ではなさそうだな」
「今は行けない。それに……」
「それに何だ?」
「一緒に行ってしまえば、もう待つ楽しみも無くなってしまうわ」
「待つもどかしさは感じないのか……いや、待たされてるのは俺の方だな」
 クゼは、私の髪を掻き揚げじっと見つめた。
 その顔を見た時、一緒に行くと言えば良かったのかもしれないと思ったが、何故か今は行く気にはなれない。
「勝手にすればいい。俺は気長に待つ」
「そう。フフフ…」
「何が可笑しい?」
「思ったより、優しいのね」
「そうか?」
 クゼはそう言って、微笑を浮かべ私を抱きしめた。

 花火は終わり外界はいつの間にか静かになったが、まだ見物客のざわつく声がし、時々爆竹を鳴らす
音が聞こえていた。
「花火、終わったわね」
「ああ、そうだな」
「もっと早く出会っていたら、ずっとこうしていた?」
「答え難いな。だが、そうなったかもしれないな……多分」
「来年の春節はどうするの? あの少年に会いに来たように、また私を呼ぶの?」
「もう来年の話か……気が早いな。春節を待たなくても、また逢える。必ず」
124春節12:2009/03/30(月) 00:59:10 ID:EJmjnGFi
 ――おかえりなさい。

 そう呼び掛けられ、我に帰った。
「あなた、なかなか目を覚まさないのだもの。心配したわ」
 私は、少年の義体からプラグを引き抜くとコードを首にしまった。
「時間にしてどのくらいだった?」
「そうね、一時間……いえ、もっとだったかしら」
「一時間……」
「ずっと立ったまま、身動きひとつしないんだもの、心配したわ。一体何だったのそれは?」
「多分どこかの電脳空間……昔見た擬似記憶の体験に似てたけど、もっと違うものかも
しれない。リアル過ぎるわ」
「その義体はカラの義体でしょ? どこかに繋がってるというの?」
「この義体自体、外界と通じるデパイスの様な役目をしていると思うけど……」
「まあ、難しいお話ね。私の様に電脳化も何もしてないおばあちゃんには、よく理解できないわ」
「電脳化はしていない? それじゃ、メッセージは何処から?」
「私の通信手段といったら、せいぜい電話か手紙くらいのものよ。今朝、ドアの隙間に挟んで
あった手紙を見つけたの」
「手紙……」
「この少年の義体を訪ねる人があれば義体に繋がるように指示して欲しいと、それだけよ。
義体を預けた人なのかとも思ったけど、名前も何も書いてないし、違う人なのかもね。それでも、
来るのはきっとあなただと思ってたわ。あなた以外この義体に興味を持った人なんていないもの」
「そうなの……結局、手掛かりは何もないのね」
「それより、お茶を淹れたの。疲れたでしょう、一緒にいかが?」
 私は、老婦人の招きに応じ椅子に座った。
 目の前に差し出されたカップに角砂糖を落とすと、表面に小さなあぶくが立ち、カップの底で
砂糖の形が今見た夢の様にゆっくりと崩れていった。
「それでどうだったの?」
「何が?」
「擬似記憶の体験なら夢を見たでしょ? いい夢だった?」
「なんだか興味津々ね……」
「そりゃ、こんな店で一日中店番をしてたら退屈もするわ」
「そうね……少なくとも悪い夢じゃなかったと思うけど」
「そう、良かったわね。それでどんな夢を見たの?」
「内緒よ。とても人に話せる様な夢じゃないもの。フフフ……」
「まあ! でも、その顔を見れば良い夢だったと察しがつくわ。ところで、前から聞いてみたいと
思ってたんだけど……」
「何?」
「あの義体の女の子……あれは、もしかしてあなたじゃなくて?」
 私は、この好奇心の強い老婦人の問いには答えず、ただくすりと笑った。
125春節13:2009/03/30(月) 01:02:50 ID:EJmjnGFi
 店を出てみると、日はすっかり暮れていた。
 来た時と同じ人影のない道を出口に向って歩いて行った。
 ――誰も来ないし、誰もいない。
 元々そんな約束など無く、ただ子供染みた期待に縋ってこんな場所まで来てしまった
だけなのかもしれない。
 逢いに来ない言い訳を夢で誤魔化された様な後味の悪さを感じてしまうが、それでも、
一時でも見た甘い夢は、楽しくなかったとは言えないのだけど……。
 立ち止まり、もう一度辺りを見回した。
 ――帰ろう。
 そう思った時、突然背後で爆竹が炸裂した。
「えっ!」
 私は、急いで来た道を振り返った。
「これは……」
 道沿いの家々には赤いランタンが吊るされ眩しいほど辺りを照らし、大勢の人が行き交う
街は、いつの間にか赤一色の世界に染まっていた。。
 私は踵を返し、今出て来たばかりのあの店に向った。

 ――店は何処にもなかった。
 代わりに物売り達の屋台が無数に並んでいる。
 私は屋台の前を歩いて行き、夢で見たあの少年のいる店を探した。
 そして見つけた。赤いランタンと一緒に吊るされた金色の折り鶴を。
 ――金色の鶴が夢を現実に変えていく。
「それ売り物じゃないから」
 目の前に夢で見た十五、六歳の少年が座っていた。
「売り物じゃない、お守りだったわね」
 少年は驚いた顔をして私に言った。
「なんで知ってるの? お姉さん誰?」
「この鶴を折った人を探してるの」
「お姉さん、その人の知り合い?」
「そうよ。多分ね」
「待ち合わせ?」
「そのつもりで此処へ来たんだけど」
 少年は私の言葉を聞き、にっこりと笑った。
「それじゃ、もう待たなくていいよ。後ろに……」
 私は、ゆっくりと後ろを振り返った。
 懐かしい顔が、私を見て微笑んだ。
「どうした、ぼんやりして……半年も逢わずにいたから、顔を忘れてしまったか?」
「ロウ!」
 少年の弾んだ声が、男の名を呼んだ。
「忘れるですって? 忘れてなんかいないわよ」
 私がそう言って微笑むと、男は私の肩を軽く叩き少年の前にしゃがんだ。
 いつまでも懐かしそうに話す二人を私は黙って見つめていた。

 ―忘れてない。
 ―忘れるはずもない。
 ―忘れられるわけもないけど。

―終わり―
126名無しさん@ピンキー:2009/03/31(火) 09:42:59 ID:ijHVGSDI
GJ! すごく良かった!
なんかクゼが報われてて;;
虚実相混じる感じが攻殻っぽいな!
127名無しさん@ピンキー:2009/03/31(火) 13:18:45 ID:DdKk136o
GJ
情景描写うまいな
128名無しさん@ピンキー:2009/03/31(火) 23:50:10 ID:Eo6yoov/
GJ!表現が見事だ。
情景描写に上手く感情描写が乗っている。

文章にご馳走様しちゃうぜ、この野郎。
129名無しさん@ピンキー:2009/04/02(木) 22:13:59 ID:RD/IePEu
圧縮回避保守age
130名無しさん@ピンキー:2009/04/04(土) 16:44:56 ID:1QbNf7hq
http://wiki.livedoor.jp/motoko9k/d/%a5%dc%a1%bc%a5%de%a5%aa%a5%da%bb%d2
これの続きが普通に見てみたいな。
未完らしいから残念・・・
131名無しさん@ピンキー:2009/04/04(土) 23:19:23 ID:ITm15cuq
>>125
GGGGJ!!
良質なもの読めて久しぶりにムッハーしたぜ!
132名無しさん@ピンキー:2009/04/06(月) 21:24:36 ID:XF7kF4HV
保守
133名無しさん@ピンキー:2009/04/08(水) 19:20:57 ID:MeFGfdB8
>>130
忙しいから、時間できたら書くってレスがあったね。
それ面白かったから、続き読みたかったんだけど。
134名無しさん@ピンキー:2009/04/10(金) 00:28:04 ID:yI4vX59i
保守
135名無しさん@ピンキー:2009/04/12(日) 00:07:48 ID:zlFC4mjN
hosyu
136名無しさん@ピンキー:2009/04/15(水) 18:40:23 ID:n9pdPjTO
圧縮回避保守
137名無しさん@ピンキー:2009/04/17(金) 01:31:53 ID:eJXUavqK
GJ過ぎる!
よくこんなSS書けると思うよホント。
138名無しさん@ピンキー:2009/04/21(火) 00:37:54 ID:OFJePjOF
保守
139名無しさん@ピンキー:2009/04/23(木) 22:11:46 ID:f1XFgkEd
バトー女体化のバト素読み直してからの疑問なんだが…
義体は男でも女の義体に、女でも男の義体になれるわけだから、
どっちも味わいたいという人のためにふたなり義体が発売されててもおかしくないよな?

くるたんが物足りなさそうだから、やっぱり男の体のがいいのかしらと悩んだ少佐が、途中で一物ありの素子の義体に乗り換えてしてみるとかいうのはどうだろう
140名無しさん@ピンキー:2009/04/23(木) 23:07:51 ID:QsrHlt/n
少佐が男体化の話はまだないね。
その場合は、男体化百合になるのか?
141名無しさん@ピンキー:2009/04/24(金) 02:31:45 ID:1Gj8WEGX
>>140 体は男だろうと女だろうとゴーストの性が女同士なら百合になると思うんだ

少佐の完全な男体化は腕時計がネックだよな…
義体は部分部分でバラ売りしてるようだから、腕時計がはめられるように体は少佐のまま男性器だけ装着だとふたなりに、胸を外して女性器の機能OFFで男性器装着すれば一応男性体素子、になれる気がするが
142名無しさん@ピンキー:2009/04/25(土) 04:24:10 ID:8y6pzQmE
腕時計のチェーンを調節しろよ
143名無しさん@ピンキー:2009/04/26(日) 22:31:50 ID:yypPuGzu
普通にはずせば無問題
144名無しさん@ピンキー:2009/04/29(水) 20:44:13 ID:h2smLvym
誰か、JELIxマクラクランか素子xチャイ(ホテルフロント係の妄想って事でw)やってくれないかなぁ〜
145名無しさん@ピンキー:2009/04/29(水) 21:55:17 ID:Q9n2cPr0
素子xチャイが普通の生身同士の人間なら素子騎乗位でやさしくチャイのDTをいただき!
ってパターンがありうるけど、素子最低でも150kgぐらい有るだろうから無理だよな。
まぁ素子レベルになるとそれはとっくに克服してて膝で自重支えながら挿入って
なってもおかしくは無いんだろうけど。
146名無しさん@ピンキー:2009/04/30(木) 01:08:43 ID:tKJ+5+w4
age
147名無しさん@ピンキー:2009/05/05(火) 01:49:23 ID:EzpYDiji
保守
148名無しさん@ピンキー:2009/05/07(木) 00:43:45 ID:B0XwvQsz
パーツ交換の話だけど、ちょっとサイト回ってたら
少佐とバトーがパーツ交換するSSがあったW
1stのセーフハウスの妄想に続けてある話。
最初と最後にごめんなさいの謝罪付きで。
149名無しさん@ピンキー:2009/05/09(土) 19:53:34 ID:cViu0N06
いいから誰かバト素かけよ!!
150名無しさん@ピンキー:2009/05/09(土) 20:20:58 ID:l5fai7Du
バトーのちんこって生身なのかしら
でもあんな危ない仕事してるのに弱点残しとくって不合理だよね
まぁバトーくんならそういう不合理をあえてしそうではあるけど
151名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 05:29:59 ID:Icq3zeqj
公式設定でバトーさんにはついてないよ
152名無しさん@ピンキー:2009/05/10(日) 15:11:00 ID:0bDRZ3d2
てぇ事は電脳つないでヴァーチャルセックスか。
性別逆転とかもありそうだな。
153名無しさん@ピンキー:2009/05/16(土) 00:27:25 ID:uE4kPiHE
保守
154名無しさん@ピンキー:2009/05/24(日) 22:16:54 ID:pEtHrZZR
保守
155名無しさん@ピンキー:2009/06/01(月) 00:59:01 ID:dXSTuf6d
保守
156名無しさん@ピンキー:2009/06/05(金) 14:18:40 ID:IaeqfLtS
9課のオペ子に脱ぐように言ったら脱ぐんだろうかwリアクションが気になる。
157名無しさん@ピンキー:2009/06/05(金) 23:22:32 ID:OPN2TKIi
>>156
制服の下は剥き出しの機械に違いない。メンテに手間がかかるようでは困る。
158名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 18:27:08 ID:bzBrhIK4
保守age
159名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 20:06:49 ID:qfNxnIMK
>>157
ジェリが全身皮膚で覆われてるのに高級機のオペ子で省略されてるのは無いと思うよ。
160名無しさん@ピンキー:2009/06/06(土) 20:40:41 ID:81iUNhhG
>>159
オペ子とジェニじゃ用途が違うだろ
161名無しさん@ピンキー:2009/06/07(日) 07:25:13 ID:mHYrQkOy
オペ子は手が割れるしな
162名無しさん@ピンキー:2009/06/07(日) 13:02:36 ID:LMznQi/4
オペ子お茶出しぐらいはできるよね。

で、その時手を洗ったりすると、あの割れる手の防水性が気になるところだ。
163名無しさん@ピンキー:2009/06/09(火) 18:02:32 ID:px62qdS2
汚れと防水性を考えたら全身人工皮膚は、一般的にデフォなんじゃ。
164名無しさん@ピンキー:2009/06/11(木) 19:52:50 ID:4MV+0WWu
少佐がコドモトコで10代の男子と付き合ったりする恋愛ネタを考えた事あるな。
エロに結びつける必要は無いんだけど。
165名無しさん@ピンキー:2009/06/17(水) 20:13:46 ID:4W3NNgzl
ほしゅ
166名無しさん@ピンキー:2009/06/22(月) 20:44:50 ID:Ir4Lm5YT
ここはあえてナース×子供クゼを押すべきか
167名無しさん@ピンキー:2009/06/23(火) 10:57:22 ID:hW/d3R9v
文章でもペドは規制されるのかしら
168名無しさん@ピンキー:2009/06/27(土) 13:00:54 ID:baxYiW01
ほす
169名無しさん@ピンキー:2009/07/05(日) 21:28:57 ID:lCkR+Cwj
保守
170名無しさん@ピンキー:2009/07/08(水) 00:56:59 ID:5uV4+EBO
バトーさんの天然オイルじゃないとやだー!!!
171名無しさん@ピンキー:2009/07/11(土) 21:28:10 ID:yrGyVz9F
9課に入った新人が少佐に現を抜かすってのどうだろう。
172名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 01:16:34 ID:WfhBCozM
いいね!

9課に入った新人が少佐に搾り取られるのもいいな
173名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 12:00:01 ID:IvGvtuv+
タチコマ同士のエロはありますか
174名無しさん@ピンキー:2009/07/12(日) 20:16:06 ID:WfhBCozM
a「最近バトーさんに天然オイルいれてもらってないなぁ…
うう〜なんだか体がむらむらするぅ〜」

b「おおっそれは欲求不満というやつでは?」

c「じゃぁみんなで慰めてあげよう!」

一同\お〜/

a「うわっなにをするやめrqあwせdrftgyふじこlp」
175名無しさん@ピンキー:2009/07/13(月) 22:54:55 ID:pIzvShK0
>>171-172
そのネタどっちもうまいwwww
176名無しさん@ピンキー:2009/07/15(水) 18:24:13 ID:uHVTscUy
茅葺ネタ浮かんだよう

クソ忙しいのにぃ

もう言語化するしかないようだ……
177名無しさん@ピンキー:2009/07/16(木) 01:12:53 ID:QKo4UTFh
>>176
言語化してくださいお願いします
178名無しさん@ピンキー:2009/07/18(土) 09:38:17 ID:9qRLIHW0
ほす
179タチコマ:2009/07/18(土) 11:08:33 ID:1N6Vd/32
>>176
ふーん・・・君って大人なんだなあ。今のデータ、並列化させてよ。
180名無しさん@ピンキー:2009/07/20(月) 18:04:44 ID:G+icisJb
SACの1stの4話でトグサが「うちのやつもやってんな、これ」って言いながら女の人が下着で転がってる写真見てるけどどういうこと?トグサ嫁なにやってるの?教えてくださいお願いします
181名無しさん@ピンキー:2009/07/20(月) 19:42:58 ID:0AwZmdU5
>>180
美容体操っていうか、ストレッチやろ。
この体操なら、うちも嫁もやってるねって話。
182名無しさん@ピンキー:2009/07/20(月) 19:53:53 ID:G+icisJb
>>181
ありがとう
美容ストレッチか。納得
183名無しさん@ピンキー:2009/07/23(木) 00:20:22 ID:qDdcFuz/
あげよう
184名無しさん@ピンキー:2009/07/23(木) 12:19:33 ID:us4JKkeX
バトーはそのまま挿入に備えろ。
イシカワ、高画質の記録を頼む。
パズ、ボーマ、サイトーはぶっかけの用意、トグサはいつも奥さんにしていることを言葉まで忠実に再現しろ。わかったか?
185名無しさん@ピンキー:2009/07/28(火) 01:01:31 ID:uHxc6RZk
ほしゅ
186名無しさん@ピンキー:2009/07/30(木) 23:20:35 ID:nNyfmbcC
素子はあはあ
187名無しさん@ピンキー:2009/08/04(火) 11:55:21 ID:lBkGgATC
モトコー
188名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 00:44:25 ID:ZztuktQe
モトコ「まずいわね…予想以上の過疎っぷりだわ。」
189名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 00:58:31 ID:WclcLGd/
素子「仕方ない。私が脱ごう。
イシカワ、ライトの操作は任せた。
ボーマは音楽を。
バトーは入り口で手入れに備えろ。

トグサはベルトのバックルを外して舞台に上がる用意を。

行くぞ!!!!」
190名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 08:00:46 ID:R0h9CkN1
メスゴリラの裸には何か有り難みが足りない・・・ここは総理とオペ子で
191名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 11:14:03 ID:ZztuktQe
茅葺「仕方ありませんね…私が脱ぎます。バックダンサーに9課のオペレーターを全裸で配置させてください。人数は荒巻さんに一任します。頼みましたよ」
192名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 13:25:16 ID:WclcLGd/
アオイ「僕も脱ぎまーす!!!」

タチコマA「え?アオイくんも脱ぐの?」
タチコマB「脱いで、どうすんの」
タチコマC「脱いだら、みんな喜ぶらしいよ」
タチコマB「そーなんだ。なら、いつもみんな脱いでたらいいのに」
タチコマA「じゃ、ボクもやってみようかな」
タチコマB「ボクもやるやる」
タチコマC「赤服さーん、ドライバーかして。
       外殻パネル脱ぐから!!!」
193名無しさん@ピンキー:2009/08/07(金) 15:35:59 ID:gqx4GU9y
>>192
何か和んだわ。
194名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 04:39:32 ID:VaVlDd43
タチコマかわいいなぁ
195名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 08:07:55 ID:pEtHrZZR
つか、なぜうれしそうに脱ぐんだ、アオイ
196名無しさん@ピンキー:2009/08/10(月) 22:27:21 ID:omhfMYPr
モトコ「(女性型の私よりアオイのほうが需要があるなんて…悔しいけどさすが超特A級ハッカーだわ…)」
197名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 16:24:43 ID:ThWTov2O
ほす
198名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 00:26:16 ID:AX5G33UE
ほす
199名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 01:30:24 ID:V26QAoq8
トグサとその嫁の情事が気になるがトグサってそもそもコードネームだからプライベートでは奥さんから何て言われてるのかわかんないし奥さんの名前もわかんないし何かセクロス中とか想像し難い。
200名無しさん@ピンキー:2009/08/21(金) 23:04:22 ID:2mXAccRp
子供までいる夫婦者だし奥さんに「あなた」とか呼ばせるだけで
後は阿吽の呼吸でやってけるような気もするな
それでも困るようなら子供の前で呼ぶみたいに「ママ」と呼んじゃって訂正されるトグサ、とか

夫婦の普通のセックスもそれはそれでいいものだ
201名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 03:43:49 ID:mVDXQieM
そうなんだ。
結婚すると、名前部分が消えるんだ。

日本人だけなのかな、と思う。
202名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 16:36:05 ID:5G56Irzw
皆様、お忘れでしょうが、前に(リアルで)妊娠したと書いた者です。
先日、無事に女の子を出産しました。
暫く育児で忙しい日々が続きますが、ひと段落したらまたこちらに書き込ませていただきますので、その時はよろしくお願いします。
スレ違い書込で申し訳ありませんでした。
203名無しさん@ピンキー:2009/08/22(土) 23:00:11 ID:c0KtFAjn
>>202
おめでとう。健やかな成長をいのってます。

ところで、最近、避難所スレできたんだ。

http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/2964/1232121471/l50
攻殻機動隊エロパロスレ@避難所
スレに関係ない話題はそっちでね。
お祝い云いたい人も、避難所に書き込んでね。

新作wktkで待ってるけど、無理しないでね〜〜〜〜
204名無しさん@ピンキー:2009/08/27(木) 23:35:26 ID:tQwBR3G9
保守
205名無しさん@ピンキー:2009/08/28(金) 09:18:23 ID:bfHIV8Kc
田所会長が夜這いにきたようです
206名無しさん@ピンキー:2009/09/03(木) 19:33:18 ID:8PwR1nH3
保守
207名無しさん@ピンキー:2009/09/09(水) 00:28:37 ID:H8wC7zQZ
保守
208名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 00:47:15 ID:q70eqIyZ
age
209名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 22:00:33 ID:Ky5bMyeE
保守
210名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 23:52:29 ID:Rgs1SVWC
静かだな
211名無しさん@ピンキー:2009/09/17(木) 00:43:48 ID:O02FozG+
少佐のほうまんな〜♪
212名無しさん@ピンキー:2009/09/17(木) 10:08:12 ID:K3GyjoNT
ばぁ〜〜すとあんどひ〜〜〜っぷ♪
213名無しさん@ピンキー:2009/09/17(木) 21:31:46 ID:6nwsF6xr
制服姿の少佐が人形になるというネタを思いついた(2nd3話的な意味で)。
誰か作品にしてくれw
214名無しさん@ピンキー:2009/09/21(月) 19:48:07 ID:0jXB0ExM
保守
215名無しさん@ピンキー:2009/09/28(月) 00:22:06 ID:Mth4l5At
>>213
ハダリで我慢汁!
216名無しさん@ピンキー:2009/10/01(木) 22:55:39 ID:pseo4m2p
少佐の電脳をハックして、感覚器官の感度を服が触れるだけで感じるくらいにすれば・・・

それ以外にもやること山積み・・・というか焼き殺されそう^^;;;;;
217名無しさん@ピンキー:2009/10/02(金) 20:50:10 ID:/LfpOmBo
つまり、不感症にされるのか。

(つД`)
218名無しさん@ピンキー:2009/10/04(日) 16:00:56 ID:7xIZopiH
新人が人気の無くなった夜にオペレーターを呼び出して……

オペレーターの変に人間臭い時があるのと首から下が少佐と同じスタイルだってのはネタとして面白そうだけどなw
219名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 03:52:17 ID:D36SxUPI
夢オチでも最後に大逆転でフルボッコでもいいから少佐凌辱ネタが読みたい…
同人とか見ても最初から淫乱モードとか、途中で堕とされて壊れちゃったりとか…
強い少佐が最後まで抵抗しつつやられちゃうってのが最高だと思うんだが
220名無しさん@ピンキー:2009/10/10(土) 20:58:36 ID:QS5Zf8eJ
保守
221名無しさん@ピンキー:2009/10/14(水) 00:22:55 ID:UORMGCck
保守
222名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 06:07:59 ID:mIZb7aOv
ほしゅ
223名無しさん@ピンキー:2009/10/30(金) 22:47:38 ID:4VBDu3ov
保守
224名無しさん@ピンキー:2009/11/04(水) 01:07:48 ID:j5GmD6m2
ほしゅ
225名無しさん@ピンキー:2009/11/10(火) 06:25:32 ID:hiCMd4Ip
保守
226名無しさん@ピンキー:2009/11/16(月) 17:44:13 ID:WjY7u8C5
保守
227名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 00:47:39 ID:sLdI3gMr
書く人は、誰もいないの?
228名無しさん@ピンキー:2009/11/23(月) 02:00:54 ID:iMVmKXf2
いない…
229名無しさん@ピンキー:2009/11/29(日) 20:46:11 ID:BrLlA5WV
一応保守かな
230名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 14:52:29 ID:s4Y+UrDy
アニマックスの再放送で、今更ながら攻殻にハマって、ぜひ書きたいのですが、過去作とシチュやらかぶりまくるのもなんだかアレなので、投稿作のまとめサイトなどありましたら、拝見したく、どなたか、教えていただけないでしょうか?
231名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 15:03:52 ID:tuceljM3
ありますよ。スレ名でググれば出ると思います。
232230:2009/12/07(月) 18:37:44 ID:s4Y+UrDy
>
233230:2009/12/07(月) 18:40:36 ID:s4Y+UrDy
>>231
さっそくのお返事ありがとうございます。
探してみます。

あと↑間違って投稿しました、ごめんなさい。
234名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 22:17:32 ID:LdKSVEn5
wktk
235名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 22:58:34 ID:B4jjSgd3
漫画連載も始まるし、盛り上がってくれればいいな…
236名無しさん@ピンキー:2009/12/07(月) 23:01:30 ID:lAtNdAMZ
>>233

保管庫の場所
>>88
237230:2009/12/08(火) 21:32:47 ID:u9ofNZpq
ありがと〜。

いっぱいネタは有るんだけど、書くのが遅くって。

こんな小ネタにも、1時間以上かかった。

バトーさんの生殖器がどうなっているのか解らない!
公式には設定無いんだろうけど。

取りあえず、王道(素子×バトー)から、かきはじめてます。頑張ります。

238小ネタ :2009/12/08(火) 21:34:43 ID:u9ofNZpq
調べ物の大仕事を終えて、トグサは3日ぶりに帰宅するべく、廊下を歩いていた。
ふと見ると、数機のタチコマが、集まって騒いでいる。
「うーん、わからないよ。」
「もしかして、格闘技の一種??」
「アップが多すぎて全体像がわかんない。」
「道具は使ってないようだし、球技じゃないね。」
「でもさっき、みたことない道具を使ってたよ。」
「うーん。」

「おーい、なに騒いでるんだ。」

「あ、トグサくん。」
「ねえねえ、スポーツ詳しい?」

「まあ、普通に知ってるくらいだよ。格闘技ならバトーに聞けばいいじゃないか?」

「格闘技かどうかも解らないんだ。」
「バトーさんがけちょんけちょんに負ける試合だから、バトーさんには見せるな、って。内緒だって、イシカワさんが。」「とりあえず見てよ」

いきなり始まった映像は、少佐の顔のアップだったが、その顔は上気し、トグサの見たことの無い、表情だった。
口唇から、甘いため息がこぼれ出る。

(ちょっと待てよ、こりゃ、まさか…ご老体の奴、タチコマになんてものを…!?)

トグサの不安は的中した。それはおそらく、バトーの目を盗んだか、脳内の記憶をハッキングしたものらしく、映像全体、ぼやけ気味だったが、それが格闘技の試合なんかじゃ、無いことは、トグサにはすぐにわかった。

目をそらすことも出来ず、バトーが少佐を愛撫し、さらに深く交わるところまで、しっかり見てしまった。

タチコマをごまかし、大急ぎで帰宅したトグサは、今夜三人目の子供を授かるかもしれない。
239名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 22:12:04 ID:oFUUR7cP
GJ!!!
バト素大好物なので、ご飯三杯はいけそうです!
タチコマかわええなぁ〜
240名無しさん@ピンキー:2009/12/08(火) 23:38:36 ID:fOq/Ca47
GJです。かわいい
241Liar major -1-:2009/12/11(金) 14:42:46 ID:8Tyj1/Gs
「おそらく9課のメンバーで、捕らえられていないのは、私達だけだ。
二人で生き延びて、私達がやろうとしてきたことの、記録を残しましょう。」
「目的を遂げずにゃ、死に切れねぇかんな。」


 バトーは、素子の腰にさりげなく、腕を回したが、素子はそれを拒否はしなかった。
 そのまま、二人は隣室に移動する。
 先程までいた部屋と同じに、シンプルで無機質な内装の部屋だ。が、窓はなく、
飛び回るヘリコプターのライトに脅かされることはなさそうだ。
 手前側にやたら豪華な皮張りの応接セット、奥側にクイーンサイズと思われる巨大なベッド。

 部屋の端に向かって、歩いていく素子を見送って、バトーは、ゆったりとしたソファに、
どっかりと腰を下ろす。素子の真意をはかりかね、バトーは大きく深呼吸する。

 先程、窓辺で素子をかばって、謀らずも素子にかなり接近し。バトーはその瞬間、素子を
その場に押し倒し、口唇を重ねたい、と、いう衝動を、素子の時計を持ち出して、ようやく
抑えたのだ。わざわざ下着姿で自分の前に現れた素子に、どう対応したら良いのか、
ずっと悩み続けていた。たしかに、下着姿同然の露出で、素子は普段から働いている。
下着姿をバトーに晒すことに、意味などないのかもしれない。

「飲まない?」

 部屋の隅のワインセラーから、ワインの瓶を取り出し、それを一方の手に、もう一方の手に
ワイングラスを2つ、持って来た素子は、バトーの隣に座った。

「おいおい、余裕だな。」
「そう?」
「ここだって、いつ奴らにバレて、攻め込まれないともかぎらんだろう?」
「まあね。その時は、その時よ。」
「そりゃそうだ。」
「明日死ぬかもわからない。飲んだって罰はあたらないと思わないか?バトー。」

 素子は、ワインの栓を抜き、グラスに注ぎ、バトーの前に起いた。自分は注いだグラスを、
そのまま口に運び、一気に飲み干す。

「おまえは死なせない。俺が守る。そして、俺も死なない。」

 バトーも、一気にグラスを空にすると、瓶をつかんで、注ぎ、ふたたび空けた。

「旨い。」
「そうね。」

 一本めの瓶が、すぐに空になる。
 バトーは立って行って、セラーから適当に三本取り出すと、テーブルの上に並べた。

「心配してた割には、自分のほうが、余裕有るじゃない?」

 素子がからかう口調で言うのを無視して、バトーは無言のまま、ワインをグラスに注いでは
飲み干し続けている。
242Liar major -2-:2009/12/11(金) 14:45:22 ID:5MXq6DZV
「私にも寄越せ。」

 バトーは、グラスを差し出す素子の腕をつかみ、身体を引き寄せ、口唇を重ね、ワインを
口移しで注ぎこんだ。

『バトー…』

 素子の声がバトーの脳内に響く。

『すまん。』

 口唇を重ね合わせたまま、バトーの声が素子の脳内で囁く。

『謝る必要はないけど…自分のほうが、よっぽど余裕有るわね。』
『少佐、俺は…。』
『この状況で、”少佐”は、ちょっと酷いんじゃない?』

酔いも手伝って、バトーは衝動を抑え切ることに、失敗した。

『素子…。』
『いろいろ考えるな。』

 二人の口唇は重ね合わされたまま、素子の舌がバトーの口腔内へと侵入し、バトーの舌に絡み付く。
 素子の両手が、バトーの身体を優しく包む。バトーは、片手で器用に素子の身体を抱え上げ、
ベッドまで運んで行った。素子の身体をそっと横たえると、バトーもその横に並んで横になった。無
事なほうの腕で、素子の身体を抱き寄せる。
 素子は上半身を起こすと、今度は自分から、バトーの口唇へ、自分の口唇を重ねた。素子の舌が
ふたたびバトーの口唇を割り、口腔内へと侵入りこむ。甘い。素子の唾液が。ワインが残っている訳
もない。だが非常に甘く感じる。そして触れ合う舌の接触部分がピリピリと痺れるようだ。

 バトーが抑えつけてきた、素子への想いは、突然行き場を与えられ、一気に、まさにたがが外れた
ように、噴出した。

『素子…素子。』

バトーはずっと、素子の名を呼び続けていた。 素子は、わずかに肉体を被っていた下着を、自ら脱ぎ
捨て、バトーの身体の上に上った。その手が、バトーの服を脱がせにかかる。

『おい、待て。』
『これ以上は怪我で、辛いか?』
『そうじゃない、自分で…。』
『片手のおまえが、不器用に脱ぐのを、待っていられるほど、私は気が長くない。』


素子が妖しく微笑む。バトーは絶句し、なすがままに任せた。素子はあっという間に、バトーのズボン
からベルトを引き抜き、ファスナーを下ろし、脱がせた。そのまま手早くバトーの下着をも引き剥がし、
バトーのペニスを口に含んだ。

そういえば、女性とこのような行為に及ぶのは、一体、何時ぶりだろう。バトーはもともと、さほど
欲求が強いほうではない。それでも若い頃にはそれなりに、人並みだったとは、思う。だが、軍を離れ、
9課で働き、そして素子への気持ちに気付いてからは、年単位でご無沙汰していた。

『バトー。』

いきなり、激昂した素子の声が脳内で響く。

『こういう時には、私の事だけ考え、私の事だけを見ていろ。全く…まあ、いい、何も考えられなくして
あげる。』
243Liar major -3-:2009/12/11(金) 14:48:31 ID:N4K+NS2F
 バトーはいきなり激しくなった、素子のペニスへの刺激で情けなく、声を漏らした。

 素子の事を考えていなかった訳ではない。ただ、いきなり訪れた事態に、現実感がなく、自分と素子が、
という事を直視することに照れていたのだ。

『解ってる。』
 
 素子の声は妖しく冷静なものに戻っていた。

『おい、勝手に覗くな。』
『嫌よ。』

 全ては素子のペースだった。バトーの脳内を覗き、的確に一番効果的な場所へ、攻撃を仕掛けてくる。
闘っているのと、これでは変わらない。どうしても、甘い恋人同士の睦事、というよりも、手練れ同士の
勝負になってしまう。 バトーは苦笑し、状況を打開するチャンスを狙っていたが、その間にも、素子の
攻撃は、激しさを増してくる。

『意外ね。』
『何だ?』
『てっきり義体化してると思ってた。』
『悪かったな。』
『悪いなんて言ってないじゃない。』

 素子が薄く笑う。
 様々な機能や大きさを求め、悪くも無いのに、生殖器を義体化する者も多い。特に軍人であれば、
はっきりとわかりやすい急所を嫌って、その確率は上がる。バトーがそこをそのままにして置いたのは、
単にタイミングを逸したに過ぎない。だが、どうやらそれは、素子のおめがねにかなったようだ。

『頑張るじゃない?バトー。』
『当たり前だ。』

 いくら何でも、口だけで終わる訳にはいかない。しかも、まだバトーは、素子にほとんど攻撃出来て
いない。
 素子が態勢を変えようと、身体を動かしたチャンスに、遂にバトーは素子の背後をとることに成功した。
 素子の首筋から、腕の付け根に舌を這わせ、豊かな乳房を片手で揉みしだく。

『残念ね。片手で。』
『うるせぇ。』

 もう何時間こうして素子と裸で絡み合っているだろう。はじめの緊張が解けてきている。バトーは
なんとか素子を感じさせようと、やっきになりはじめていた。

『もう十分感じてるわよ。』
『そんな冷静に言われてもなあ。』

 素子の両手が、バトーの腕をつかみ、自分のすらりとした足の付け根へ、その手を誘導する。
 バトーは素子の秘所へ指を這わせる。
 素子のそこは、間違いなく義体のはずだが全く本物としか思えない、吸い付くような熱さを持って、
バトーの指を迎え入れた。

『そうやって、比較するのが、そもそも失礼だって、解ってる?』
『ああ、いや、すまん。』

素子の指がバトーのペニスを強く握った。

「い、痛ってぇ!」
244Liar major -4-:2009/12/11(金) 14:51:02 ID:BSX24BLA
素子はバトーに有線した。

『おい、勝手に…。』

 バトーが全てを言い終える前に、バトーの脳内に素子の感じているものが流れ込んでくる。
 素子のクールな物言いとは裏腹な、情熱的な熱さ…原色に煌くような快感の映像化。

『ちょうだい、バトー…。』
『素子…。』

 バトーは、素子の背後から、素子の秘所へ、ゆっくりとおのれのペニスを沈めていく。素子のなか
が熱く蠢き、バトーを締め付ける。バトーはゆっくりと抽送を開始した。バトー自身が、素子とひとつに
なって、溶けていくような快感。素子の快感と、バトー自身の快感が合わさり増幅し、なにもかも、
どうでもよくなっていく。

 空が明るさを取り戻し、夜が終わっても、二人は抱きあい続けていた。
さすがに昨日の朝、素子の時計を取りに行って、その後の激しい戦闘、そして逃亡。その後の素子との時間
…バトーの体力もそろそろ限界だった。バトーは深い眠りに落ちていった。



・・・・・・・・・

「課長?」
「少佐か。」
「状況は?」
「ふむ、あまり良いとは言えない。委員会ではおまえの射殺命令を出した。」
「そう、か…。」
「だが、そこに居る限り、奴らには手は出せない。バトーは一緒か?」
「ああ。」
「バトーは大怪我だと、聞いたが。しばらくそこで、休んでいれば良い。」
「けど、そうしたら、この件は終わらないのよね?」
「ふむ…。」
「バトーは大丈夫、片腕だけど元気なものよ。明日には移動するわ。飛行機を手配してもらえる?」
「それはかまわんが…そこを出たら、殺してくれと言っているようなものだぞ。」
「良いわ。盛大に殺してもらいましょう。早く終わらせないと、捕まっている皆のことも、心配だ。」
「バトーに説明しておかなくて良いのか?」
「敵を欺くには…ってね。」



Liar major -end-
245名無しさん@ピンキー:2009/12/11(金) 20:41:44 ID:2QVsWP2r
少佐に浣腸したいよう!

あら☆まき
246名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 01:38:45 ID:kYl9KwB+
>>241-244
バト素神小説キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
すごく良かったです!!!
職人さん、ありがとう!!!
247名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 14:53:45 ID:JDzQjs6B
GJ!!!!久々に新作北な
やはりバト素はええのお
248名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 16:07:18 ID:uOpZmR27
白ブリーフ一丁の合田一人に顔面騎乗してもらって、更に屁をこいてもらいたい。んで
「いかがかな?」
といってもらいたい。
249プロローグ 1:2009/12/13(日) 21:49:11 ID:zXU0GTPY
ホテルの一室。
部屋の中は、女の甘い香りに満ちている。
女の白い身体が二つ、ベッドの上で重なり合い、甘いため息と、ハスキーな囁き声が交差する。
互いの豊かな乳房をもて遊び、お互いの溢れる蜜を舐めあい、確かめると、一人の女が、醜悪なまでに男のかたちを模した、巨大なディルドーを装着し、もう一人の女の内奥をえぐり始める。激しく突き上げられるたび、女の嬌声は悲鳴に近いものになる。
女の悲鳴が、断末魔のような叫びとともに、途切れ、ぐったりとベッドに倒れこむ。
もう一人はその様子を確認してから、静かに立ち上がった。
シャワーを使う音が微かに聞こえてくる。
ベッドに倒れていた女も、ゆっくりと起き上がり、タバコに火を着け、ベッドに座った。
「なんだ、止めたんじゃ無かったのか?」
シャワーを終えて、出て来た女が、ベッドの上の女に向けて言った。
「一本だけ…だってモトコ…今日凄いんだもん。」
「それとタバコ、関係有るの?」
「んー、無いけど。それより、ねえ、モトコ。」
「何。」
モトコと呼ばれた女も、タバコに火を着け、女の隣に座る。
情事の残り香が、タバコの煙でかき消されていく。
「ゴメン、私ね、赤ちゃんが出来たの。 」
「それは、おめでとう。」
「でね、彼が結婚しよう、って。だから、モトコとは、もう会えない…。」
「そうか。幸せにな。」
「ありがとう。」

モトコにとって、女はただひとりの相手という訳ではない。たくさんいる、セックスフレンドの一人、だ。
そして、女に彼氏がいることは、以前から知っていた。
モトコにとっては日常茶飯事と言えるような別れだった。
たまたま、帰っていく女を、迎えに来たらしい、車を運転している男の顔を見てしまうまでは。
当然それは、プロポーズしてきたという、婚約者だろう。
男をモトコは知っていた。
(あれは確か、本庁特捜部の…。)
モトコは、今見た男の顔を、データと照合する。
「トグサ…。」
250プロローグ 2:2009/12/13(日) 21:51:52 ID:zXU0GTPY
……………

その朝トグサは、ひどく緊張して、とある部屋のドアをノックした。
(名高い公安9課の課長から、直々の呼び出しなんて!一体何だ?)

「本庁特捜部、トグサ警部、入ります。」
「よく来てくれたな、トグサくん。」
「お話とは、一体……。」
「単刀直入に言わせてもらおう。君にうちの一員になって貰いたくてね。」
「え…??俺…いや…本官は、ほとんど生身ですし、軍隊経験もありません、公安9課の仕事が勤まるでしょうか?」

「いままでのメンバーとは違う、そういうおまえを必要なのだ。」

手前のソファに座っていた、目つきのするどい女が言った。

(ああ、この人が有名な、9課の女隊長、草薙素子…′少佐′…。)

「そう、少佐の言う通りだ。情報戦でも、実際の戦闘でも、うちの右にでる部署は警察内部には無いだろう。だが、そういうものとは違う、現場の刑事のカン…とでもいうのか、それをうちで活かしてもらいたい。」
「軍隊上がりの私達に無い力を、おまえに発揮して貰いたいってことだ。」
「わかりました。少し考える時間をいただけますか。」
「良い返事を待っている。」
251名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 23:24:30 ID:TDRZIYFl
支援age
252名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 23:43:57 ID:zXU0GTPY
>>249-250は、もしも、トグサ夫人が、草薙素子の元カノ〜元セクフレだったら、という、世界の話です。

続きを書いておりますが、素敵な奥さんのイメージを大切にしたいかたは、読まないように、お願いします。

253名無しさん@ピンキー:2009/12/14(月) 00:04:14 ID:LcNzY9cu
つづきを超wktkで待ってます!
254Team Work -1-:2009/12/16(水) 14:56:46 ID:9xcoui0U
「さて、帰るか…。」

 誰にともなく呟いたパズは、椅子から立ち上がって、ドアに向かう。
「お疲れさん。」
少し離れたところで、銃のメンテナンスをしていたサイトーが、顔を上げて言った。
比較的、何事もなく、一日が終わった。
下手をすれば、帰れないまま、休みがないまま、一週間でも一ヶ月でも過ぎてしまう
職場だ。帰れる機会は大切にしなくてはならない。だが、パズが開こうとしたドアが
勝手に開いて、見慣れた女が立ちふさがった。

(しまった…バトーの奴は、トグサと一緒に出張中か…。)

「飲みに行くぞ、付き合え、パズ。」
「…」
「何だ、先約でも有るの?」
「いや…。」
「なら、行くぞ。サイトーも来い。」
「了解。」

パズとサイトーは声を揃えて返事をした。

この女…草薙素子と飲みに行って、ただ、飲むだけでは、終わらない。もう、何度も
同じ目に遭って、パズは既にあきらめている。
そもそも、自分は基本的に、同じ女と二度寝ない主義だ。
女とは、知り合って、互いに名前も素性も知らぬまま、一夜を共にし、別れる…その
位が、理想だ。それ以上の係わりをもつと、ろくなことは無い。パズは常々そう考えて
いる。
 表も裏も知りつくした、同じ職場の、ましてや上司とそんなややこしいことになるな
んて、まっぴらだ。
 しかも同じ職場に、そんな彼女を崇拝している奴がいる。
どう考えても、越えたいと思えない、越えるべきではない一線を、なぜ越えてしまった
のか。成り行きと言ってしまえばそれまで、だが。そして、一度越えてしまえば、二度
も三度も同じだと、言われるまま、流されてしまった自分が、たぶん一番悪いのだ。
パズは一通り、反省と懺悔(彼女を崇拝している同僚=バトーに対して)を心に浮か
べてから、それを振り払う。
 そんなややこしいあれこれさえ無かったら、彼女、草薙素子という女が非常に魅力的
であることは、間違いない。いや、ややこしいあれこれがあってさえ、機会が与えられ
れば、断りきれないほどの魅力が、素子にはある。

ビルの外にでて、タクシーを拾い、移動した。
 市街の中心部にある、超高級ホテルは、芸能人や政財界の大物の密会や密談にご用達
の場所である。パズも、潜入捜査、尾行など、何度となく足を運んではいる。だが9課
の給料がいくら破格でも、そうそうプライベートで、来ようと思える場所ではない。
 だが素子は、プライベートでも、ここの常連だ。
 仕事柄ここのセキュリティの表も裏も穴の場所も知りつくしているから、安心なのだ
と言う。素子との情事の回数が、2桁を越えてからは数えるのを止めたが、全て場所は
ここだ。そしてそれは、バトーが不在の時に限られている。素子はバトーの気持ちを知
りすぎる位に知っているはずだ。パズは素子に、何故か、と聞いた事がある。 何故バト
ーではないのか、それなのにバトーの目を盗むようにするのは何故なのか、そして何故
自分なのか、と。
255Team Work -2-:2009/12/16(水) 15:00:30 ID:liQW7VqL
「バトーは、私に、‘草薙素子‘でいる事を休ませてくれない。二人きりで過ごしてい
 ても、私は‘草薙素子‘で、いなくちゃならない。バトーがそう望み、私も奴のため
 に、そうありたい、と思うから。けど、それが辛くなる時も有る。パズには申し訳無
 いけれど。おまえなら、そういう私の気持ちを解ってくれると思った。それに、9課
 のメンバー以上に、身許がしっかりしていて、信頼できる人間は居ないからな。」

 それは、素子自身、バトーを愛している、と、言うことだろう。ただその愛が酷く幼
いものだから、自分を相手に、相手の理想通りの存在と、信じさせたいだけだ。愛し合
っていれば、相手が、自分の思う相手と違っていたとしても、まるごと受け入れられる
ものだろう。
 確かに、そんなふうでは、バトー相手は、さぞかしセックスも、はりつめた状態だろ
う。疲れもするだろうと思う。同情はするが。

 ホテルに入る。直接部屋には向かわず、展望階のバーに、3人で入る。素子の様子は
既に変わっている。
 淫蕩で、刹那的な、快楽至上主義者。仕事の時の冷静で果断な天才肌の指揮官とは、
別人としか思えない。
 パズは、はじめ、二重人格か、誰かにゴーストハックされているのでは、と疑った
くらいだ。だが、どちらも、同じ彼女自身の、表裏。他にも、パズの知らない、別の面だって
あるかもしれない。
 こちらの彼女を見せたところで、バトーが動じるとは、パズには思えないのだが、
素子自身が見せたくない、と、言っているのを、他人が口をはさむ筋あいではない。

 バーは個室になっていて、目の前に新浜市街のまばゆい夜景がひろがる。端末から注
文をすれば、注文の品はウエイターロボットが運んでくる。彼女が後で全ての記録を改
ざんし、この場所を訪れているのは、彼女ひとり、ということになるのだろう。
 素子を真ん中に、右にパズ、左にサイトーが座り、それぞれの酒が運ばれてくると
乾杯した。パズが一瞬考えに沈んでいるうちに、隣の素子とサイトーは、いつのまにか、
つないだ手をテーブルの上で絡み合わせ、素子の指がサイトーの手を弄んでいる。
 サイトーもこの素子にこういう目に遭う事に慣れていることは、サイトーの態度でわ
かった。

「なんだ、うらやましいのか、パズ。」

 サイトーと手をつないだまま、空いたほうの手で、素子はパズの顔を自分の方に向け
させると、そのまま立ち上がって、自分の顔を近づけ…くちづけした。
 自分に背を向けた素子を、背中からサイトーが抱きしめ、その細い身体には豊かすぎ
る乳房を優しく揉み、すぐに硬く立ち上がってくる乳首を、指先で弄ぶ。
 パズは素子とくちづけしたまま、手を素子の足の付け根へと伸ばす。パズの手を受け
入れ易いように足を開いた素子の秘密の場所を覆った布地の上から、裂け目に指をすべ
らせる。すぐに裂け目は甘い蜜を滴らせはじめる。下着は紐を解けば外れるデザインだ。
パズは紐を解いて下着を床に落とすと、自分も下半身を露出させ、背後からサイトーに
抱かれ、立っている素子のヴァギナへ、自分のペニスを挿入する。

『お先。』
『どうぞ。』

 短い電通をサイトーに送ると、同様に短い返事が返ってきた。
 素子の甘い嬌声を聞きながら、パズは激しく腰を打ち付ける。どうせ、この一回で終
わるわけじゃない。サイトーも待っているし。普段よりもずっと早く、パズは放出に至
った。そのまま、背後からサイトーが挿入する。パズはサイトーのバックアップに回る。
素子の首筋から舌を這わせ、サイトーのモノが収まっている入り口の近くの小さく硬い
場所を指先で摘んで擦る。素子の乳房を激しく愛撫しながら、サイトーが腰を打ちつけ
る。聞きなれた素子の喘ぎは、脳の奥まで響いてきて、終わったばかりのパズのペニス
に、血流が流れこむ。

256Team Work -3-:2009/12/16(水) 15:02:36 ID:Rnh7tx9Q
 サイトーが終わると素子を両方から抱えるようにバーを出て、直通のエレベータで下
階の客室に移動する。広々とした2ベッドルームのスイート。奥にベッドルームが2つ、
手前のリビングには、バーカウンター、ソファ、大画面のホームシアターセット。

 部屋にはいると、奥から盛大な悲鳴のような嬌声が響いてきた。

(今夜もか。)

 素子とここで密会する際、二人きりとは限らず、少なからず、もうひとり女がいる。
何度目かの密会の時に、はじめて紹介された女。

「こんばんは。欲求不満の淫乱な人妻と申します。」

 ひどく、身も蓋も無い自己紹介をした女は、言葉どおり、快楽をむさぼることに貪欲
だった。素子とパズの二人から責められ、一晩じゅう求め続け、パズは翌日、体調不良
を言い訳に仕事をサボる羽目になるほど、だった。

「モトコなのぉ?」
「お楽しみね。」

 素子がホームシアターの画面のスイッチをオンにすると、奥の部屋の様子が映しださ
れ、ベッドの上で、巨体の男が、女を組み敷き、激しく腰を動かしている。

(ボーマ、か…。)

 こんなところで、9課のメンバーのうち、3人まで集合とは。小さくため息をついて
パズはソファに座った。

(ボーマは知ってるのか。知らないんだろうな。)
 
 パズは何度か素子と共に、女と交わった。
 それは、それとして、普段は記憶を封印していたのだが、ある日、トグサと共に、聞
き込みに出た時、たまたま見てしまったのだ。トグサの携帯の待ち受けに、女が子供を
抱いて、微笑んでいるのを。たしかにいつも暗い場所で、女の顔をまじまじと見たこと
があるわけではないが、見間違えようがなかった。
 
 パズの目の前で、サイトーが素子の身体を抱え上げた。

『先に行くぞ。』

 サイトーからの電通。サイトーは、素子をもう一つのベッドルームへと、運んでいった。
パズはゆっくりと歩いて、その後を追った。
 サイトーは素子の服を脱がせ、自分も服を脱ぎ捨てると、パズの目の前で行為を開始
した。素子の唇を貪るように吸い、両手で激しく乳房を愛撫している。
 パズはベッドの足元にひざまずいて、素子の足を引き寄せ、その足指を舐めはじめた。

「早く…早く入れて…入れて、サイトー。」

 素子の求めに応じて、サイトーが挿入する。ゆっくりとした抽送に、焦らされて素子
は激しく自ら腰を動かして、快楽を貪ろうとしている。
 
(ここはいったん、サイトーに任せるか…。)

 パズは、部屋を出ようとしたが、ふと思いついて、服を脱ぎ始めた。
 サイトーの身体に跨り、自ら腰を使っている素子の腰を掴むと尻穴に、挿入した。
 
(スタンドプレーの結果としての、チームワークって奴かな。)

 パズは普段課長が自分たちに言う訓戒を思い浮かべ、苦笑した。
257名無しさん@ピンキー:2009/12/16(水) 15:05:44 ID:Rnh7tx9Q
「凄い…。」

 前後から挿入され、2つの間の壁に、サイトーとパズのペニスが、それぞれ擦り付け
られる。素子は意味の無い言葉を断続的に叫びながら、絶頂を迎える。
 ぐったりと、力を失った素子の身体を抱え、ペニスを抜き取ると、パズは素子を抱き
上げる。サイトーも、今、放出したようで、素子の体が離れても、そのままそこに横た
わったままだ。

 パズはバスルームに素子を運び込み、バスタブに湯をはりながら、そこに素子の身体
を横たえる。放心していた素子は、パズのペニスがまだ立ち上がっているのを見た。

「綺麗にしてあげる…。」

 パズの腰に腕を回し、パズのペニスの全体を舌で舐め上げ、それから全体を口に含ん
で口のなかの先端を舌で撫でる。舌先で尿道口を刺激し、全体を吸うように喉の奥まで
受け入れる。

 パズは、我慢できずに素子の口からペニスを抜くと、バスタブの素子の身体に覆いか
ぶさり、湯の中で、明らかに湯とは違う、粘質の液体を溢れさせるそこへ、ペニスを挿
入した。パズの腰の動きによって、湯が激しく波打つ。素子は貪欲に受け入れながら、
自らの乳房を己の手で激しく揉んでいる。

『さっきの所に欲しい…。』

 素子の電通に応え、パズはペニスを尻穴に挿入する。同時に片手で素子のクリトリス
を、刺激しながら、ヴァギナに指を差し込んで、掻き回す。素子の激しい嬌声を聞きな
がら、パズは放出が近いことを感じていた。

『かけて、顔に…汚して…。』

 パズはペニスを抜き取ると同時に、素子の顔に放出した。
 ゆっくりと、パズの放出した液体が、素子の顔の上を流れ落ちていく。それが口元に
流れおちてくると、素子はそれを舌で舐め取った。

 パズが素子とリビングに戻ると、ボーマがそこで1人、酒を飲んでいた。

「どうした?」

 パズが声をかけると、ボーマは寝室のほうをあごで示した。
 素子はボーマの隣にすわり、自分も飲み始めた。
 パズは漏れ聞こえてくる、盛大な嬌声から、事態はほぼ予想がついたが、怖いもの見
たさに、ベッドルームを覗くと、サイトーの上で、件の女が激しく腰を使っている最中
だった。

 リビングに戻ると、ボーマと素子が、ディープキスの最中だった。
 パズは二人から少しはなれて、ソファに座ると、煙草に火をつけた。

「パズもこっちにいらっしゃい。」

 パズは煙草を一本吸い終えると、素子に呼ばれるまま、移動した。素子はソファに座
ったボーマに跨り、挿入されはじめている。パズは素子の背後から、その乳房を激しく
揉む。
258Team Work -5-:2009/12/16(水) 15:08:18 ID:Rnh7tx9Q
「また、あそこに入れて欲しいのか。」

 パズが囁くと、ボーマに突き上げられながら、素子が大きく首を縦に振る。
 ボーマはパズが挿入しやすいように、素子の体の位置を変えてくれる。
 ゆっくりと、パズは素子の尻穴へと己のペニスを沈めていく。ボーマのペニスは、サ
イトーのペニスよりひと回り大きく、パズが挿入していくと、さっきよりもさらに狭く
感じる。パズが動かし始めると、素子はこらえきれずに大声で嬌声を上げ始めた。

 気がつくと、サイトーと女が行為を終えて、リビングに入ってきていた。女はサイト
ーのペニスを片手で扱きながら、素子の様子をうっとりと見つめている。

「ねえ、モトコ、終わったら替わってね。」
 
 女はソファに座ったサイトーのペニスを咥えて、激しく扱きながら、楽しげだ。
 素子に放出したボーマが、女の背後から、女の足を抱え上げて、尻穴にいきなり挿入
した。負けじとサイトーも、ヴァギナへペニスを沈める。
 身も世も無い叫び声を女が上げ始める。

 パズは素子の尻穴に挿入をしたまま、そのまま素子の身体を抱えて部屋を出て、ベッ
ドルームへ移動する。
 
「お前、知ってるのか、パズ。」
「こないだ、たまたま。」

 パズは知ってしまった以上、あの女…トグサの奥さんとは、もう、あまり、やりたく
なかった。
 知る前から、知ってからも、もう充分に、流されるまま、言い訳不可能な回数、あの
女を犯してはいるのだが。まあ、あの場はサイトーとボーマに任せて、参加せずに済む
ならラッキーだ。

 素子はパズの意図に気づいたようだった。
 
『私とバトーは結婚している訳ではないからな。』

 ややこしい、めんどくさいというレベルで言えば、それほど変わらないのだが。素子
の細身で筋肉質ながら、必要なところは女性らしい豊かな曲線のほうが、あの女の全体
的にやわらかく、筋肉のない、しまるところはしまっているが、素子のそれより、さら
に豊かな乳房よりもパズの好みである、ということなのかもしれなかった。

 そのまま、パズは眠ってしまったらしい。
 目を覚ますと、隣の寝室から声が聞こえてくる。

 「うん、出張もう少し長引きそうなのね…身体に気をつけてね。子供たちは元気よ。
  そう、私、今日出かけちゃったから…おばあちゃんちにね。さっき電話したわ。
  あなたも、時間が出来たら、子供たちにも電話してあげてね。ええ。それじゃあ。」

 電話している女の胸を、素子が愛撫している。
 
 「モトコぉ、邪魔しないでよ。」
 「全く、凄いな、おまえは。」

 パズは見なかったことにして、身支度をしてそっと部屋を出た。

- Team Work : end-
259名無しさん@ピンキー:2009/12/16(水) 15:10:05 ID:Rnh7tx9Q
すいません。>>257にタイトル入れ忘れました。
正しくは、Team Work -4- です。

この世界、続くかもしれないし、続かないかもしれません。

260名無しさん@ピンキー:2009/12/16(水) 16:51:03 ID:0xVwG4Wn
GJ!!!
是非続けて!
にしてもちとバトー&トグサが哀れW
261名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 00:22:54 ID:OTkcmuSY
GJ!すごい
262名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 18:40:08 ID:XGa6LOXf
ご要望が有るようなので、引き続き書かせていただきます。
この後短いのがひとつ、長いのがひとつで完結予定です。バトーの処遇で悩んでおり、ラストが2パターン有るのですが、どちらに落ち着くかは未定です。

ずっと俺のターンで良いのかな…と、思ってます。
俺の拙いSSで、刺激を受けて、自分ならもっと良いの書いてやる、という職人さんが出てくると良いなと思ってます。
過去ログ保管庫を拝見していますが、力作揃いで…。
もう少し早く、攻殻に出会っていたかった。

(∴)/個人的には超バトーファン。
263名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 19:16:32 ID:a3yd/aCG
なんでもいいからはよ書けいや書いてくださいお願いします
このところ過疎過ぎたんで飢えとるんです

個人的にはバトーさんが報われてほすい
264名無しさん@ピンキー:2009/12/17(木) 21:46:04 ID:arKmHhGo
自分もバトーさんが報われるのを希望!

最近スレがにぎやかで嬉しいよぅ
265名無しさん@ピンキー:2009/12/18(金) 05:56:56 ID:uzZwyRiw
待ってます!バトーさん幸せにしてw
266名無しさん@ピンキー:2009/12/18(金) 06:58:59 ID:lnWL1YHq
おまえら、タチコマだな!!
267interval -1-:2009/12/19(土) 22:08:27 ID:axZIRCwi
「おはよう。」
「おはよう、あなた。」
「パパ、おはよー。」

トグサ家の今朝の朝食は純日本風。
白飯、ワカメと豆腐の味噌汁、焼き魚(アジの開き)大根おろし、だしまき卵、納豆、ほうじ茶。
トグサは妻の料理の上手な事を、ひそかに自慢にしていた。おおっぴらに自慢しようにも、9課の面々は独り者揃いだし。本来、9課の仕事の性格上、独り者であるほうが望ましい、いやあるべきなのかもしれないが。

ふと、妻の着ている襟ぐりが広く開いたカットソーから覗く胸元に、小さな朱いあざのようなものに気が付いた。

(虫刺されかな…。)

トグサは妻の胸元を指差し、目配せした。

妻は胸元を手鏡で見て、頬を朱に染めた。

「あなた、これ、夕べ…。」

瞬間、トグサの脳内に昨夜の妻との情交のの映像がフラッシュバックした。
トグサは妻以上に赤くなりほうじ茶を一気飲みした。

_____

夫は仕事に、娘は幼稚園に出かけて、トグサの妻はひとりになった。
朝食の後片付けと、掃除を終え、パソコンの前に座る。
2日前の日付のメールを開き、眺め、待ち合わせの日時、場所を確認する。

(どうしようかな…。)

彼女は少しだけ考えたが、パソコンの電源を落とすと、立ち上がり、シャワーを浴びるため、浴室へ入って行った。

_____
268interval -2-:2009/12/19(土) 22:21:32 ID:axZIRCwi
待ち合わせのカフェには、15分前に着いた。
相手の顔が解らない以上、既に来ているのか、まだ来ていないのかは解らない。
ドキドキしながら、席につくと、テーブルの上に目印の本を置く。
”ライ麦畑でつかまえて”古い小説の復刻版だ。

それにしても今朝は可笑しかった。
あんなにやすやすと、信じ込んでしまうなんて。

昨日の昼間、出会い系サイトで知り合った男に、目立つ位置にくっきりとしたキスマークを付けられてしまったため、
仕方なく、夜、帰宅した、疲れた様子の夫をベッドに誘った。

結婚して数年、それ以前の交際期間も含めて、夫にキスマークを付けられた事はない。
夫の愛し方はいつも優しく、彼女を少しでも傷つける可能性の有ることは、基本的にしない。
優し過ぎるくらい優しい夫。その優しさが、彼女が夫との結婚を決めた一番の理由だが、夫の一番嫌いな部分でもある。
仕事が忙しい夫は、帰宅しないことも多い。
それでも、妻の浮気を疑ったりせず、留守中の行動について、根掘り葉掘り聞いたりもしない。
信頼されている、と言うことなのだろうが、もう少し、ヤキモチを焼くとか、束縛するとか、してくれても良い。
自分が彼にとって、必要な存在なのか、解らなくなってしまうのだ。

(まあでも、亭主元気で留守が良いってね。)

「あの、こんにちは。失礼ですけど、もしかして『ナナ』さんですか?」
若い男の声がした。
彼女は声のしたほうを見上げた。
「キミが…『アオイ』くん? 」
本当に若い。思った以上だ。
「ハンドルネームで呼び合うのってやっぱり少し照れるね。」
「そうですか?僕はいつもの事だから、別に。
むしろ、本当の名前を急に言えって言われてもかえって困ります。」
「まあ、座りなよ。何か飲む?」
「アイスティー。」
ちょうど近くにいた、ウエイターを呼んで、注文する。
「若いよねぇ。何歳?学生さん?」
「働いてます。義体の換装サボってるから、若く見えるかもしれません。
もしも、法律上犯罪行為になることを恐れて言っているなら、戸籍上ちゃんと18歳以上です。
とはいえ、戸籍をハッキングして書き換えるくらいの事はいまどき、ちょっと勉強した高校生くらいでも出来ます。
だから本当に意味が無い…第一、僕が今、ここで、本当の年齢を言ったら
、お姉さんも教えてくれるんですか?」

彼女は辟易した表情を隠し、笑顔をとり繕った。

「解ったよ。それにしても、オバサンでびっくりしたでしょう?」
「見た目の年齢に、意味が無いと言うことは、
今言ったつもりなんですが、もう一度最初から言いましょうか?」
「変わってる、って、言われるでしょう?」
「ええ。」
「そうでしょうね…。早速だけど、ホテル、行こうか。」
「いいですよ。」


269interval -3-:2009/12/19(土) 22:27:47 ID:axZIRCwi
支払を済ませ、二人で路地裏のラブホテルに入る。
そもそも、この青年とは、出会い系サイトで知り合った。
′僕の初体験の相手をしてください′′30代の大人の女性希望′
という、有りがちなトピックについつい、ひかれてしまったのだ。
実は、彼女の好みは、少し特殊で、‘巨体好き‘である。
相撲取りや格闘家の、筋肉もしくは肉のみっしりついた身体が好きで、顔はほとんどどうでも良い。
しかし、夫は全然違うタイプで、むしろ細身なくらいだし、
出会い系で知り合って、情交に及ぶ相手のすべてが、好みのタイプという訳でも無い。
だが、純朴な体育会系学生を想像していた彼女は、少なからずがっかりした。
けれど、そんなことはおくびにもださなかった。

「先に、シャワー良いよ 。」
部屋に入るなり、彼女は言った。
「えっと…そういうもの、なんですね。」
「まあね。カップルの数だけ、それぞれの手順が有ると思うけど。
清潔は基本。
私達の場合、他人だしね。
まあ、キタナイことを楽しむ、マニアックなプレイもあるけどね。」
「初心者ですから。」
青年は、素直にシャワールームへ向かった。
その背中を確認してから、彼女はハンドバッグから、携帯端末を取り出し、
いつもの出会い系サイトに接続した。
青年への手ほどきは、サクッと済ませ、夕方から口直しに誰かと…。
気になった数人にアポイント申し込みメールを送る。
今日、この後逢えなくとも、後日のアポイントでもとれれば良いのだ。
昼間の時間を毎日もて余している、彼女にとっては。

シャワー室のドアの開く音がして、彼女は慌てて端末をハンドバッグにしまった。

「あの〜服はどうすれば良いですか? 着たほうが良いですか?」

彼女は苦笑して立ち上がり、シャワー室の前まで歩いて行く。
全裸で立っている青年の姿をちらりと見てから、
にっこり笑って、バスローブを手渡す。
270interval -4-:2009/12/19(土) 22:35:09 ID:axZIRCwi
(意外に良い体じゃない。)

女が予想していたよりも、青年の体は筋肉質で引き締まっていた。

青年がバスローブを着終える。女は青年に挑むように、言った。

「脱がせて。」

青年は無言で、女の着ているカーディガンを脱がせ、
ワンピースの背中に手を伸ばして、ファスナーを下げた。
ごく、薄く軽い生地のワンピースが女の身体から離れ、床に落ちる。

「全部ですか?」
「全部よ。」

女の肩からスリップの肩紐を腕に向かって下げると、スリップも床に落ちた。
青年はふたたび女の背に手を伸ばし、ブラジャーの止め金を外す。
肩紐を両手で持って、ブラジャーも床に落とす。
同時に女の豊かな乳房が、いましめを解かれ、大きく揺れながら、青年の目の前に姿を見せた。
最後の一枚に、青年は躊躇したが、女が黙って待っているので、左右の紐を解いた。
それも床に落ちると、女は全裸でにっこり笑うと、シャワー室へ入って行った。

「脱がすの上手よ。」

取り残された青年は、床に散らばった女の衣類を拾い、畳んで籠にいれた。
それでもう、する事が無くなり、青年はベッドルームまで歩いて行って、ベッドに腰を下ろした。
女のハンドバッグと一緒に置いてあった、目印の本、”ライ麦畑でつかまえて”を、手に取り、パラパラとページをめくる。
中身は読まなくても、ほとんど暗記してしまっている。

しばらくして、女が部屋に戻って来た。
バスローブではなく、裸に直接バスタオルを巻いている。
青年は見ようとしなくても視線に入ってしまう、女の巨大な双丘から視線を外そうとしていた。
しかし、そうするとかえって、見ていないふりをしながら、チラ見をしているようで、なおさらいやらしい気がした。
女は青年の隣に座った。

「見て良いよ。うん、それより触ってみて。」

女はバスタオルをとって、青年に微笑みかけた。
青年は、女の乳房に手を添え、そっと持ち上げるようにした。
女の乳房は思ったよりも柔らかく、思ったよりもしっかり中身が詰まっている感じがする。
重たいな、と、青年は思った。

「どう?」

言いながら女は、ベッドに横たわる。

「思ってたより、柔らかいな、と。あと、重たいですね。」
「でしょう?重たいのよ、これ。
胸が大きい女は、例外なく、肩コリなのよ…ねぇ、もっと触ってみて。」

青年はベッドに座ったまま、横たわる女の乳房に手を伸ばした。
あらかじめ、予習してきた知識に基づき、ゆっくりと柔らかい乳房を揉んでいく。
女の乳首が立ち上がってきたのを確かめ、片側を指先で摘むように刺激しながら、もう片方の乳首に口をつける。
舌先で軽く舐め、力を入れ過ぎないように気をつけながら、吸う。
271interval -5-:2009/12/19(土) 22:46:02 ID:axZIRCwi
「上手だね。」
「褒められてますか?」
「褒めてるよ。」
「少しは勉強して来ましたからね。」
「勉強してたって、センスが悪かったら、全然駄目なんだよ。アオイくんはセンスが良い。才能が有ると思う。」
「そうですか。」
「でも、なんで、君がこの子と初体験しようとしているのか、解らない。」
「貴方に会えると、思ったからですよ、クサナギモトコさん。」
「解る?」
「どこから、貴方だったんですか?」
「脱がせて、からかな。でも、どうして、この子と知り合ったの。」
「出会い系です。」
「あら、そう。」
「リモート義体、じゃ、ないですよね…
やっぱりハッキングなのかな。この人、生身みたいだし。」
「私に会いたかったら、そんなややこしいことをしなくても、9課あてにメールでも、くれたら良いのに。」
「スカウトを断った身ですし。貴方が、自分の愛人たちを使って、
何をしてるのかに、ちょっと興味があった。」
「そこまで調べてれば、立派だと思うけど。
と、いうより、あんまり首を突っ込むと、記憶を消させて貰うことになるから。」

モトコは上半身を起こし、アオイの唇を奪った。

『せっかくだから、貰ってあげる、君の初体験。』
『それは、どうも、ご親切に。』

無音の部屋に、二人が口唇を貪りあう音が響く。

『この身体は、貴方のものじゃないから、正確には、
貴方に貰ってもらうことにはならないのでは。』
『じゃあ、止める?』
『ここまで来て、止めるってのは、ずいぶん酷な話だと思いますが。
『なら、静かにしろ。』

女は命令口調で言い放ち、それから微笑をアオイに向ける。
その手が、既に固さを持って立ち上がっている、アオイのペニスに伸びる。

『そもそも、本当に初めて、な訳?』
『残念ながら。』
『その割には、上手。』
『ネット上の知識と…あと何人かは、
実際に行為を行っているところに、ハッキングさせて貰ったから。』
『そういうの、未体験て言えるのか。』
『さあ?でも、僕のこの、本当の身体で、
女性と接触するのは、初めてですからね。』

272interval -6-:2009/12/19(土) 22:57:56 ID:axZIRCwi
女の手の刺激で、アオイは小さく声をあげた。
アオイは手を伸ばし、女の乳房への攻撃を再開した。
大きい割に、感度の良い乳房を揉まれ、女も微かに声をあげはじめた。
女の身体の上をアオイの指先が滑り降りていく。
女の秘所を確かめる。

『ああ、濡れる、ってこういう感じなんですね。
これは、自分でやってみないと解らない。』
『実際やってみないと解らない事だらけでしょう、現実なんて。』
『そうですね』

女の指に先導されて、アオイのペニスは、侵入するべき場所に到達し、
ゆっくりと、中へと入って行った。

『熱いですね。』

アオイの意思に反し、女の内部に侵入している、という緊張からか、
アオイはあっという間に、射精してしまった。

『はやかったわね。』
『仕方ないでしょう、初めてなんだから。』

傷ついた表情のアオイを、女の腕が優しく包みこむ。

_____

「おかしいな〜どうしたんだ?」

バトーが運転する車内で、トグサは携帯端末で、電話をかけていた。

「どうした?」
「いや、女房が電話に出ないんです。
今日は早く帰れそうだから、家族で外食でもしようと、思ったのに。」

トグサのかけた電話の着信音で、妻は目を覚ました。
自宅の居間のソファの上で。

(あら、寝ちゃったのね、珍しく、ダンナとセックスとかしちゃって、寝不足だったから…?
せっかくの待ち合わせ、行き損なっちゃった。
と…ダンナから電話ね。
またかかってくるでしょ、きっと。)

interval -end-
273名無しさん@ピンキー:2009/12/19(土) 23:21:45 ID:M9zFBHrp
GJ!少佐ひどいなw
274名無しさん@ピンキー:2009/12/19(土) 23:32:47 ID:axZIRCwi
はい、以上、本当は最初のプロローグくらいの長さの予定で書きはじめたのに長くなってしまいました。

実は自分はいつも、携帯で書いて、それをパソコンに転送、修正してから、投稿しているのです。

ですが、早く投稿したくて、携帯から投稿してしまいました。

改行とか変で、読みにくくてすみません。

275名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 01:39:02 ID:k7NuKNjO
GJ!!
読みやすかったよ
アオイのキャラがよく出てた!
276名無しさん@ピンキー:2009/12/20(日) 22:50:04 ID:4YxQtUtR
合田一人に顔面騎乗してもらって、更に屁をこいてもらいたい。
んで、
「いかがかな?」
といってもらいたい。
277名無しさん@ピンキー:2009/12/23(水) 20:55:31 ID:Llm19vcv
ほしゅあげ
278名無しさん@ピンキー:2009/12/23(水) 20:55:52 ID:Llm19vcv
てあがってないし。
279名無しさん@ピンキー:2009/12/23(水) 22:37:21 ID:50jswC42
かくいう私も童貞ですのよ

http://www.nicovideo.jp/watch/sm1710057

今夜のネットは大変な人手ですこと、皆様。
280名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 22:43:37 ID:U27k89pI
>>274
もしも、今日投下予定だったらごめんね。先に投下させてもらいます。

・去年書いた、少佐とバトーのクリスマスから一年後という設定です。
・エロなしです。会話だけが続くような小話なので、嫌な人は回避して下さい。

(補足)
アンナっていうのは、SACじゃなくてGITSのラノベ「STAR SEED」に出てる人で、
バトーの昔の恋人です。オリキャラではありません。
読んでない人の為に補足しておきます。
281聖夜の晩餐1:2009/12/24(木) 22:48:49 ID:U27k89pI
 その店は、素子の想像とは違っていた。
 市街地の中心から少し離れているせいか、、店の中には家族連れが二組ほどいて、
あとは会社帰りのサラリーマンや落ち着いた雰囲気の男女が数名いるだけだった。
 イブにつきものの鬱陶しい若いカップルや、騒々しい連中もみあたらない。
 クリスマスらしいものと言えば、店の入り口に置かれたツリーとテーブルの上に置かれた
クリスマスキャンドルくらいだろうか。
 店の外にはウッドデッキが広がり5,6席のテーブルが用意してあるが、流石に今日は寒すぎて、
外で食事をしようという客はいないようだ。
 デッキの先には新浜の港が広がり、外国船籍らしい白い大型クルーザーが停泊している。
その隣りには、高速旅客艇が泊まっている。
 湾内には、おそらく船上パーティーの真っ最中であろう数隻の船が航行していた。
 夜空には星が瞬き、クリスマス気分を盛り上げる市街地のイルミネーションが、湾を囲む様に
眩しい光を煌めかせている。
 目の前に視線を移すと見慣れた男の顔があった。
 ニヤニヤと笑いながら、「どうだ?」と言わんばかりの勢いで座っている。
「バトーにしちゃ、上出来ね」
「だろ? 俺もそう思う」
「それで、誰に聞いたの」
「俺を見くびるな少佐。俺は情報戦のプロだぜ。これくらいの店の情報を持ってなくてどうする」
「嘘ばかっり」
「バレたか……仕方ねえ。確かに情報源はある。誰だと思う?」
「そうね、パズと言いたいところだけど、彼、この手の店はあまり趣味じゃなさそうだし、
想像するにトグサあたりかしら」
「いい勘してるな。当たりだ。正確に言えばトグサの嫁さん」
「奥さん? なるほど、そういえば主婦に受けそうな店ね。料理は美味しいイタリアン。
適当に落ち着いてるし客層も悪くない。それにリーズナブルな価格。
昼間はウッドデッキでランチでも取ると楽しいかも」
「味にうるさい我儘な義体女を連れていく店を教えてくれと言ったら、トグサの奴、それ少佐だよね
とかなんとか言って、奥さんに聞いてくれたのさ」
「なんだか引っかかる言い方ね……あなたもトグサも。我儘な義体女って当然私の事よね」
「おまえ以外に誰かいるか?」
「いいわよ、もう」
「怒るなって。せっかく店まで予約したんだ、楽しもうぜ少佐。料理はあそこから取ってくるシステムに
なってるらしい。ご招待したからには取ってきてやるぜ。何がいい?」
「まかせるわ。バトーのセンスにね」
「持ってきてから、色々と文句言うなよ」
 そう言い残して、バトーは、料理の並べてあるカウンターへ上機嫌で行ってしまった。

――余り期待できない。
 そんな事を思い、素子は腕を組んでくすっと笑った。

「おい、少佐。今日はあいてるか?」
そんな言葉で誘いを受けたのは、退庁1時間前だった。
「別に予定はないけど」
「メシ食いに行こうぜ」
「今日はクリスマスイブじゃない。また、去年みたいに散々歩き回るつもり?」
「いや、予約がある」――バトーにしては、珍しく気が利いてる。
 特別な予定は何もなかった。世間でよくやるクリスマスイベントなど興味はない。
 バトーの手回しの良さを十分不審に思ったが、どうせ食事をするだけだし、
最近は新人と組まされる事が多く、ろくに話もしていなかったなと思った。
 すぐにオーケーするのは癪に障るが、居酒屋程度の店なのだろうと思って、
とりあえずイエスと答えて店までやって来た。
 予想外に雰囲気の良い店だったのは、嬉しい不意打ちといってもいいだろう。
282聖夜の晩餐2:2009/12/24(木) 22:52:28 ID:U27k89pI
 暫らくすると、白いエプロンをつけたバイトらしい店員がワインを運んで来た。
「あら、これ注文したの?」
「ええ、お連れ様が」
 そう言って、店員はテーブルの上にワインボトルとグラスを二つ置いた。
 ボトルを見ると、食前酒には甘すぎるが、女性好みのイタリア産スパークリングワインだ。
 素子には知っている銘柄だったが、バトーが知っているとは思えなかったので、
おそらく店員に尋ねたのだろうと考えた。
「これ、あなたが選んだの?」
「えっ? はい」
――やっぱり……
「栓を抜いてもいいですか? それとも、お連れ様をお待ちになりますか?」
「そうね、あとでもいいわよ」
「そうですね。やっぱりふたりで飲む方が楽しいですよね」
 店員は、素子の方を見てにっこりと笑った。
 なにか勘違いしているらしいと思ったが、爽やかな笑顔のイケメンだ。
 バトーとは180度違うこの青年に特別文句を言う必要もないと思って、そうねと適当に答えておいた。
「あなたも一緒にここで飲まない? ふたりで飲むのが楽しいなら、三人いればもっと楽しいかも」
「えっ……」
 店員は、カウンターの方をチラリと横目で見て、遠慮しときますと小さな声で答えた。
「ああ、彼? 怖いの?」
「あっ、あの、そういうことじゃなくて……仕事中ですから」
「あん……ああ見えても、ただの強面じゃなくて、一応れっきとした警察官よ。私もだけど」
「えっ! 警察の人ですか……ハハ……なんか笑えないですよね」
 爽やかな笑顔は一瞬で凍りつき、引きつった笑顔を貼り付かせたまま、
イケメン店員はぷるぷると震えだした。
 その貼り付いた笑顔を見た素子は、少しからかい過ぎたと思い、
「もういいわよ。ありがとう」と言ってにっこりと笑った。

 怯えた店員が去ってしまっても、バトーはまだ戻ってこない。
 退屈しのぎに、もう一度ガラス越しに港の方を見た。
 ここへ座った時から気になっているあの高速艇は、船体の横に記してある船名を読めば
行き先が北端である事は分かっていた。
 もう数年経ってしまったが、あの男を追いかけ北端を目指した迷走劇は、矢野を死なせて
しまった事共に、素子には忘れ難い苦い思いの一つだった。
 いつまでも過去に捉われたままでいるのは愚かな事だといいきかせてみても、自分はまだ忘れて
いないのだと、嫌でも思い知らされてしまう。
 自分らしくないと思いながら、ため息をつき目の前を見ると、いつの間にかバトーが座っていた。
「気に入らねえな」
「何が気に入らないのよ」
「外ばかり眺めやがって」
「別に外くらいいいでしょ。いつまでも戻らないから退屈したのよ」
 バトーは顔を背け、素子の視線の先を追った。
「北端行きの高速艇か……こんな時は、おまえは実に分かりやすい女だな」
「何が言いたいの。喧嘩でもするつもり?」
「別に喧嘩しようなんざ思わねえよ。せっかくのイブだ。乾杯しようぜ」
 素子のグラスは、いつの間にかワインで満たされていた。
 お互いにグラスを持ち上げ、カチリと乾いた音を立て乾杯した。
「ハァ……腹に染みるぜ」
 グラスの酒を一気に飲み干したバトーは、片手で口をぬぐった。
 素子もバトーの勢いにつられて、グラスの酒を一気に呷った。
283聖夜の晩餐3:2009/12/24(木) 22:56:16 ID:U27k89pI
「いい飲みっぷりだ。まあ、なんだ、誰にでも忘れ難い想い出の一つや二つあるさ」
「忘れ難いか……それに引きずられてるような気がしないでもないけど。
 そう言えば、前に話してくれた事があったわね。なんて言ったかしら、あの……」
「はぁ? 俺か?」
「ほら、名前は……ああ、思い出したわ。アンナ、アンナって名前だったかしら」
 素子の言葉を聞いて、バトーの顔が一瞬固まった様に見えたのは、素子の気のせいではない。
「……その名前を今ここで聞くとは思わなかったぜ。人が悪いな少佐。俺、おまえに話したか?」
「なにとぼけてるのよ。聞きもしないのに、酔いにまかせてしゃべったのはそっちじゃない」
「まいった……酔うとロクなこと言わねえな、俺は」
「聞きたくない名前だった? フフフ……」
「聞きたくないってわけじゃない。今しがた思い出してた頃だったから、少し驚いただけだ。
俺の心を読まれてるみたいでな」
「今? 何故?」
「おまえ、あの北端行きの高速艇を見てただろ。それは間違いないな?」
「まあね……」
「おまえがあの船を見てた時、俺は隣りの船を見てた」
「隣りの船? あの白い客船の事ね」
 そう言って、素子は港の方を見た。
 外国船籍の豪華な白いクルーザーは、確かに一度は視界に入った筈だった。
 高速艇にばかり気を取られて見過ごしていたが、船体に書かれた文字を見た素子は言った。
「ロシア語? あれは、ロシアの船なのね」
「ああ……彼女が生まれた国だ」
「そういうことか。彼女、今どうしてるの」
「一緒に暮したのは、もう十年以上も昔の話だ。大戦中はずっと一緒にいて別れた。
その後彼女は帰国して、それっきりさ」
「今でも懐かしく想うのなら、何故別れたの」
「あの頃は、俺もアンナも今よりずっと若かった。些細なすれ違いってやつさ。
今なら気にもしないような事でも大ごとになっちまう。そんなもんさ」
「会いたい? 彼女に?」
「ハァ? あぶねえな。彼女は結婚してる。帰国した後、便りがきたんだ。会えるわけねえだろ」
「それでも、会いたいんじゃない?」

 バトーは腕組みをして、素子をじっと見つめた。
「おまえ、なんか勘違いしてるな。忘れねばこそ、思い出さず候って知ってるか」
「あなたを忘れる事はないから、思い出す事もない……裏を返せば、あなたの事はいつも
忘れないほど好きだって意味でしょ」
「ん……まあ、そんな意味だ。
思い出すって事はな、もう忘れかけてる……忘れかけてるから懐かしく思う。
気持ちのどこかでケリをつけてると……俺はそう考えてる」
「なんだか、うまく誤魔化してない?」
「好きなように思えばいいさ。おまえの自由だ」
 バトーは、ボトルを取り上げると、カラになった二つのグラスに酒を注いだ。
 素子は、そのグラスを取り、それをゆっくり回しながら酒を口に含んだ。
 そして、グラスを手にしたまま、黙って新浜の夜景を見つめた。
 バトーもグラスを持ったまま、新浜の夜景を見つめていた。
「私の事は……」
「あ……なんだ?」
「私がいない二年の間、少しは思い出してくれたの?」
「おまえをか……いや、思い出さない」
「一度も?」
「ああ、一度もだ」
 素子は、フッと笑ってバトーの方を見た。
「それは、残念ね」
284聖夜の晩餐4:2009/12/24(木) 23:01:21 ID:U27k89pI
「なにが残念だ。何処のどいつが鬼みてえな上官の顔を思い出す」
「酷い言い方……でも、私がバトーだとしても、きっと思い出さない」
「一度もか?」
「そうよ。一度もね」
素子の返事を聞いたバトーは、腕組みをして、じっと何かを考えていた。
「なによ、黙って。何か言う事はないの」
「どう解釈すべきか迷ってる」
「何も迷う必要なんてないわ。どう受け止めようとバトーの自由だもの。
 忘れねばこそ、思い出さず候――もともと覚えてないから、忘れる事も
ないって意味かもね。フフフ……」
「……結局それかよ」
「あら、何か期待してたの?」
「しちゃいねえよ。おまえに何を期待しろって言うんだ。もう、いいから飲めよ。そして食え!
食い物の文句ばかっり言いやがって」
「サイボーグ食はおいしくないのよ。それにこれ……」
 素子は、テーブルの上に幾皿も並べられた料理を見た。
 店に入る時に見たカウンターの上には、奇麗に盛り付けられて如何にも美味しそうな料理に
見えた筈だったが、バトーが適当に選んだらしいそれは、とても破壊的に凄まじく並べたという代物に変わっていた。
「もっとどうにかならなかったの」
「文句言うなって言っただろ」
「料理に文句はないわ。せめて食欲をそそるような盛り付けはできなかったの……」
「うるせえな。見てくれは良くなくても、うまいって物はあるだろ」
 そう言いながら、バトーはピザを一切れ摘まむと口にほうりこんだ。
「おっ、いけるねえ。サイボーグ食にしちゃ良くできてる。おまえも早く食えよ」
「言われなくたって、食べるわよ」
「口開けてみろ、ほら」
 バトーは、ピザを摘まみあげると、素子の目の前に差し出した。
「いいわよ。食べるのくらい一人でできるわ」
「いいから、ほら」
 ピザを持ったまま、バトーはじっと素子をみつめた。
 どうにも引き下がる雰囲気ではないなと思った素子は、チラッと周りを見回して、
他の客は誰も自分達の事など気にかけていない様子だと思って、少しだけ口を開けてみせた。
 素子が口を開くと、バトーはニヤリと笑った。そして、ピザをぎゅっと素子の口に押し込んだ。
「ぐっ……」
「クックッ……」
 素子は、無理やり押し込められたピザを噛み砕き、ようやくそれを飲み込んだ。
「どうだ? いけるだろ?」
「いきなり……何を……でも、いけるわ」
「見てくれなんざ、どうでもいいんだよ。うまけりゃ、どうって事ない」
「確かにね」
「おまえが、誰とつき合ったって半年しかもたねえのは、食いもしないうちに
文句ばっかり言ってるからじゃねえのか」
「失礼ね。何も関係ないでしょ。それに8ヵ月だってもった事はあるわよ」
「たった? おい、たった8ヵ月かよ」
「私の8ヵ月は、バトーの2年にも匹敵するのよ。今、そんな話を持ち出すなんて、どういうつもりなの」
「おまえだって、昔の女の話を持ち出したじゃねえか」
「言われてみれば、そうだったわね」
「だから、おあいこだ。少佐」
「分かった。おあいこね」
 二人はみつめ合い、にっこりと笑った。
「ボトル、あいちまったな。乾杯のやり直しといくか」
「いい考えね」
 新しいワインを注文して、乾杯のやり直しをした。
 それから、お互いに好き放題な話をしながら食べて飲んだ。
 二人とも、もう港を眺める事はしなかった。
285聖夜の晩餐5:2009/12/24(木) 23:05:55 ID:U27k89pI
 あきるほど食べて飲んだ頃、時計の針は深夜を回っていた。
「ああ、食った、食った。もう、これ以上は入らねえな」
「私も、久しぶりだわ」
「ところで、腹も満たされたところで話がある」
「話? 何の? 今じゃなきゃだめなの?」
「ああ、今聞いてもらいたい」
「何よ、改まって。聞くわよ、今聞いてほしいなら」
「うん……実はな……」
「何もったいつけてるの。早く話せば」
「ああ……」
「バトー?」
 バトーは、腕を組み、むっつりと下を向いていた。
 素子は、首を傾げ、そんなバトーをみつめた。

 バトーは、顔をあげると素子の顔を見て言った。
「少佐、俺、明日……」
「明日?」

「休みだ――」

 そう言うと、バトーはニヤッと笑って見せた。
 一瞬、素子はあきれた様にバトーをみつめ、そして眉間に皺を寄せてバトーをにらんだ。
「話ってそれ……」
「フフフ……どうだ、悔しいだろ。おまえ、明日仕事だったよな」
「これって、もしかして去年の仕返し? 別に悔しくないわよ。それにしても、手の込んだ真似をするのね。
こんな店まで予約して」
「いや、店を予約した理由は別にある」
「その理由とやらを聞いてみたいものだわ」

「一緒にいたかった……それは、理由にならないのか」

 素子は黙った。そして、バトーをじっとにらんだままだった。
「そんな顔して俺を見るなよ、少佐。冗談も分からねえほど、なまくらになっちまったのか」
「バトー!」
「大きな声出すなって。他のお客さんがびっくりしちまう」
「ふざけてるわ」
「悪かった。お詫びといっちゃなんだが、来年のクリスマスもお互い独りモンでいたら、
ここよりいい店に連れてってやるぜ。高級ホテルのレストランでも三つ星でもな」
「ありがたい申し出だこと。もっとも、それが実現しない事を願ってるけど」
「ああ、俺も実現しない事を願ってる。あの手の店はバカ高い上に服装だのなんだとうるさいからな」
「誘っておいてそれなの……」
「そうだ。いざ行くとなればな、おまえもそんな不良みてえな格好して来ねえで、マシな格好して来いよ」
「時と場所を弁えるくらいできるつもりだけど。バトーこそ、その汚い革ジャンで行くつもりじゃないでしょうね」
「何言ってんだ。田所のパーティーに行った時の俺を見たろ? 自分でもなかなか決まってると
思ったけどな。あん時は、正直言って鏡の中の俺にみとれたぜ」
「呆れた……意外とナルシストだったのね」
「自慢じゃないが、あれは自前の衣装だ。他のヤツはどうせ貸衣装かなんかだろ」
「自前だのレンタルだの、あんまり捜査と関係ないと思うけど」
「おおありさ。浮いた服装で行ってみろ。囮捜査だとひと目でわかっちまう」
「そうかしら。あの時は確かパズとボーマはそれなりに……一番きまってたのは課長だけど。
バトーとトグサは……似合ってたかしら? そうは思えなかった」
「そうかぁ? 俺はベストだと思ったがな」
「一度、その目を徹底的に調べるべきね」
「なんでだよ。メンテナンスならいつも必要以上にやってるぜ」
「いいわよ。言っても無駄みたいね」
286聖夜の晩餐6:2009/12/24(木) 23:12:07 ID:U27k89pI
 素子は、ほうっと溜息をつきバトーをみつめた。
「ねえ、バトー」
「ん? なんだ?」
「私……別にここでもいいわ」
「ここ? 何がここなんだ?」
「この店でもいいって言ってるのよ。なにも無理して三つ星なんか行かなくてもいいでしょ」
「何故だ? 人がせっかく……」
「私は、ここが気に入ってるの」
「そうかぁ? 欲がねえな、おまえも」
「そうじゃなくて……いいわ、もう」
「まあ、来年の事は分からねえしな。急に出動なんて言われた日には、予定もなんもねえし」
「そうよ。だから来年まで……」
「おとなしく待つとするか。それじゃ、そろそろ行くか」
「どこへ?」
「どこって……おまえ、明日仕事だろ?」
 バトーは、ポケットに手を突っ込むと、チャリっと音を立てて車のキーを素子の目の前にぶら下げてみせた。
「送るぜ、少佐」

――車が街角に停まった時、時計の針は午前0時を回っていた。
「着いたぜ。ほんとに家の前まで送らなくていいのか」
「特定されるような行動はとらない――これ、私達のルールだったでしょ。
ここならセーフハウスまでそう遠くないし」
「うん、まあそうだな」
 素子は車を降り、助手席側を見た。
 助手席のウインドウがスッと下り、バトーが顔をのぞかせた。
「送ってくれてありがとう。それに、ごちそうさまだったわね」
「ああ……少佐」
「何?」
「明日仕事がんばれよ。俺は休みだけどな」
 バトーはニタリと笑い、パワーウインドウを閉じると、車を急発進させ闇夜の向こうへ走り去った。

「なによ……馬鹿みたいに笑って。そんなに休みが嬉しいのかしら」
 素子は、踵を返すとセーフハウスの方角へ歩き出した。
 コートのポケットに手を突っ込み、歩きながら夜空を見上げてみると、新浜にはめずらしい満天の星空だ。
 立ち止り、しばらく星空を眺めてみた。
 去年の今頃は、確か雪が降っていた筈だ。今年の冬は少し暖かい。
 結局、食事に誘った理由は、何も聞いてないなと思った。
 聞くべき言葉を聞かず、告げるべき言葉もなにもないままに今年のクリスマスイブは
終わってしまった――ような、気がする。
「それでも……」

――来年の約束が実現しない事を心から願うわ

 おそらく自分は、今のこの気楽な心地良さを捨てたくはないと思っているのだ。
 そう考えると、あれほど嫌っているクリスマスイベントに、自分も十分踊らされている事になる。
 そこまで思ったところで、フッと笑みがこぼれた。
「そうね、来年の事はまた来年考えればいいじゃない」
 そう独りごとを言って、再び夜道を歩き出した。
 日付は変わり、数時間後には、また自分は9課の草薙素子に戻らなければならない。

―おわり―
287名無しさん@ピンキー:2009/12/24(木) 23:23:13 ID:s4wGiRsh
GJ!
クリスマスプレゼントありがとう
素直じゃなくて可愛いね二人とも
288名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 00:18:08 ID:hShKG6NJ
GJ!イブにいいもの見れた
289名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 19:54:26 ID:lKTfA58O
GJ

オペ子ネタもやって欲しいな。
290名無しさん@ピンキー:2009/12/26(土) 20:26:12 ID:5QnNOWU2
>>281-286
GJでした(∴)/

オペ子ネタとゆーと3rdGIGにあった奴が、面白かったなあ。

東のエデンも嫌いじゃないが、キャストが全員生きてるうちに、続編やってくれないか、神山監督。
291AN ACCOMPLICE -1-:2009/12/27(日) 23:06:54 ID:xoiYWZ8t
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TODAY,15:00PM

(全く…。)

 眠りこけている女を助手席に乗せ、素子は車を走らせた。
 女を家に送り届けたら、女の記憶を書き換え、今日は一日家で寝ていた、
とでも、思ってもらおう。
 女はかつて、素子の愛人だった。一旦は別れたものの、今はヨリが戻って
いる。そして、女の夫は素子の部下だ。裏の世界で、知らぬものは無い、
”公安9課”そのメンバーの妻で、隊長の愛人。本人は全く自覚が無いが。
害を加えたり、拉致して9課を脅す材料にしたりと、いくらでも利用価値を
見出だす輩はいるだろう。

(それなのに、出会い系サイトをうろちょろして、見知らぬ相手と遊んだり
するのが、どれだけ危険か。そもそも、自分がIRシステムに映りこむ心配
はしないのか?いや、知らないのか、そんな物が存在していることすら。)

 現に、今回、ちゃっかりアオイにひっかかってしまうし。アオイほどの
ハッカーでなくとも、ちょっと調べれば解ってしまう事だろう。
 素子がいつも同じホテルを使うのは、IRシステム対策でもある。今回の
ような場合は、事後、詳細にIRシステムのログを調べ、彼女が映っている
ときは、全て改ざんする。

 素子の車は、トグサ家のある、公営集合住宅区画へと、入って行った。

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TODAY,17:00PM

「イシカワ、頼んでいた、データの解析、出来てるか。」
「ああ。名簿みたいだが、何だこりゃ?聞いたような名前も沢山有るよう
だな。」
「ああ。」

(これで、ようやく、やつらの上を追い詰められるか。)

 トグサの妻の出会い系遊びに絡んで、素子は大規模な主婦売春組織の存在の
事実をつかんだ。たったひとりで、調べを行った過程で、組織自体は単なるネ
ズミ講である事が解ったが、組織上位に位置し、大量の資金を集めている、黒
幕…政治家がいる。その誰かを、素子は捜していた。

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TODAY,19:00PM

「お前が知りたがっていた、私が愛人たちを使ってやってることを、お前にも
追体験させてあげる、と、言ってるんだ、少しは有り難がれば?」
「何言ってるんですか、僕はそもそも、貴女の愛人じゃないですよね?」
「あら、あの日の事、忘れたとは言わさないわよ。」
「10000歩譲ったとしても、なんで僕があんな、トドゴロンと。」
「大丈夫、戸籍上も、生物学的にも完璧に女だ。トドゴロンじゃないぞ、田所
夫人だ。亭主がアンドロイド狂いで有名だが、妻がトドだから、亭主がアンド
ロイドに狂ったのか、亭主がアンドロイドに狂っているから妻がトドになった
のかは、わからんがな。」
「勘弁してください…。」
「最初だけ、ちゃんとしてくれれば、後は私がハッキングして、なんとかして
やる。」
「一発の代償としちゃ、高すぎやしませんか?」
「一発とか言うな、馬鹿。ちゃんと私があの女の面倒見ている間に、色々調べ
ておいてね。頼んだわよ。」
292AN ACCOMPLICE -2-:2009/12/27(日) 23:08:11 ID:xoiYWZ8t
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TODAY,21:00PM

 素子は、愛人たちの電脳をハッキングして、身体を操り、特定の情報を得る
ために、情報を持った相手を篭絡するという方法を、今回の組織の探索のため、
用いていた。
 事に及んだ上で、相手の弱みにつけこんで、情報を得ることも出来るし、相
手の文字通り懐に入って、電脳のハッキングも出来る。本来、相手を選ぶ方法
だが、なかなかの成果が得られた。
 アオイの身体が田所夫人と情交の最中、アオイ本人は夫人の電脳に潜って、
様々な情報を引き出した。素子はアオイの代わりに、夫人の暑苦しいオーダー
に献身的に応えていた。

 かつて、別の事件の探索時に、結婚前のトグサの妻は、少なくない回数、
素子の潜入に身体を貸す役割を担った。彼女が素子と別れ、結婚すると言いだ
した時、素子は彼女と結婚するなどという、奇特な相手に興味をもち、相手が
警察官だったため、より詳しく情報を得ることができた。
 そして、結婚相手の男=トグサ本人を9課にスカウトすることに決めた。
 一方、彼女が結婚を機に乱行から足を洗うと、素子は思っていた。だが、妊
娠期間、おさまっていただけで、子供が生まれてしまうと、すぐにもとのもく
あみとなった。彼女の乱行復活を知ったモトコは、コントロール下に置くため、
偶然を装ってヨリを戻した。

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LAST WEEK 14:00PM

「ね、聞いてるのぉ、モトコ?」
「ああ。」
「どうしても、無理?」
「ああ。」
「あきらめきれな〜い。だって、別にモトコの恋人、って訳でも無いんでしょ?」
「まあな。」
「だったら。」
「まあ、出来る限り、やってみるから、期待しないで待ってて。」

 トグサの妻に対しては、ほとんど一方的に借りがたまっている。
 多少のわがままは聞いてやるに吝かではないが、よりによってあいつを、とは。
293AN ACCOMPLICE -3-:2009/12/27(日) 23:09:12 ID:xoiYWZ8t
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TODAY 23:45PM

 そろそろ日付が変わろうか、という時刻。
 タチコマたちの格納庫で、ひとりバトーは、今日届いたばかりの新しい筋トレ
マシンを試していた。なにやかやと、話し掛けてくる、タチコマたちをあしらい
ながら。今日は、これといった事件も調査もなく、赤服<カンシキ>たちさえ、
もう、帰ってしまったようだ。

「バトー。」

 一切、気配を感じさせることなく、唐突に現れた声の主は、バトーの上司であり、
公安9課を束ねる女隊長、草薙素子だ。

「おう、少佐、どうした?」
「また、新しい筋トレマシンか。」
「ああ。」
「全く…そんなに暇をもて余しているのなら、これから、一杯付き合え。」
「珍しいな。おまえのほうから誘ってくるなんて。明日は雪だな。」
「馬鹿なことを…そんなに、珍しいことでも無いだろう。しょっちゅう、一緒に飲
みに行ってるじゃないか。」

 とはいえ、確かに飲みに誘うのはもっぱらバトーのほうだった。
素子のほうでは、どちらが誘ったのか、などという瑣末な問題はどうでもよかった
というだけだ。

「じゃあ、行くか。いつもの店か。」
「いや、今日はちょっと行きたい場所が有る。」
「車、出そうか。」
「ああ、頼む。」

 体内プラントのおかげで、どんなに飲んだとしても、帰り道に飲酒運転をすること
にはならない。

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MIDNIGHT 1:00AM

「おい、まさか、仕事か?」

 市街中心部の超高級ホテルの駐車場に車を止めさせ、おりようとする素子の背中に、
バトーが言った。

「まさか。高価いお酒を浴びるほど飲みたいだけ。」
「そうか。」

(そういえば、バトーとは此処で飲むのは、初めてかもしれない。)

 バトーに内緒の、他の9課メンバーとの乱痴気騒ぎは、いつもこのホテルで開催
される訳だが、それゆえ、バトーを連れて来る、ということには、素子といえど、少
し抵抗があったのだ。

 会員制の展望フロアのバーまで、直通の専用エレベータで一気に上がる。
 新浜市街の煌めく夜景が眼下に広がる個室。初めて来ると、大概の者は圧倒される
ようだ。

「すげえな。よく、来るのか?」
「ひとりでね。」
294AN ACCOMPLICE -4-:2009/12/27(日) 23:10:44 ID:xoiYWZ8t
 同じ酒を飲んでも、いつもの店の5倍くらいの値段だろう。 だが今夜の素子の
ペースは速い。一本数万円〜下手をすれば数十万円はするであろう、ワインのボトルが、
凄い勢いで空になっていく。仕事熱心なウエイターロボットが、空になるそばから、
どんどんボトルを片付けてしまうので、一体何本飲んでいるのか、バトーにさえ解らない。

「今ので37本めぇ〜。」
「おい、大丈夫か。」
「へいき〜だいじょぶ〜。」

 本当かどうかは解らない。だが素子の事だから、本当に正しい本数を把握しているのかも
しれない。ただ、体内プラントの処理が、全く追い付いていないようだ。

 素子が何度めかの化粧直しに立った。バトーは夜景をぼんやり眺めている。
 素子があんな状態では、自分が酔うわけにはいかない。泥酔する素子、というのは珍しい。
飲んでいてさえ、基本的に素子は素子以外になることはない。例外が無いわけではないが。
 飲みに誘ってきたことといい、こんな超高級ホテルのバーで飲んでいることといい、飲み方
といい、全てが普通ではない。

(一体、どうしたんだ、あいつは。)

 素子が戻ってきた。どういう訳だか、着替えている。白い薄手のスリップドレス。ほとんど
隠しているようで、全部見えている。ドレスの下で、豊かな双丘のてっぺんの紅色が、固く立
ち上がっているのが解る。素子はバトーに、背中から抱き着く。豊かな乳房が、背中で押し潰
される感触。

「部屋を用意してある、行こう、バトー。」

 吐息とともに、耳元に囁きかけられる、素子の甘い誘惑。

「どうした、大丈夫か。」

 背中から抱きしめられながら、バトーは冷静に問う。
 素子は答えずに、手をバトーの股間へ伸ばす。素子がもう片方の手で、バトーの顔を自分の方
に向けさせる。素子の瞳が目に入った瞬間、バトーは女の腕を振りほどき、そのまま後退して距
離をとった。拳銃を取り出し、まっすぐ女の額に狙いを付ける。

「お前、誰だ。」
「酷いな、バトー。私は私だ。それとも、こういうのは、嫌いか。」

女はゆっくりとドレスの肩紐を下げる。素子の豊かな乳房があらわになる。

「お前は違う。確かに、義体は少佐の物かもしれないが、ゴーストが違う。その位、解らないと
思っているのか、少佐。」

 どこかで見ているはずの素子にバトーは叫ぶ。

「俺を試そう、っていうのか?」

 女はドレスの肩紐をもどし、カウンターの椅子に腰かけた。

「あーあ、つまんない。素子の予備の義体を借りて、脳核ののせかえまでしたのにな。」

 女は、素子の飲みかけのグラスに残っているワインを、一気飲みした。

「素子は部屋で待ってる、行きなさいな、色男さん。」

295AN ACCOMPLICE -5-:2009/12/27(日) 23:13:23 ID:xoiYWZ8t
 女をバーに残し、受け取ったカードキーの部屋に向かう。
 部屋に着いて、バトーは油断なく拳銃を構えたまま、扉を開ける。薄暗い部屋の中、夜景輝く
窓際に、人影がある。立っている、その手にはワイングラスがある。

「少佐か?」

 拳銃を構えたまま、バトーが叫ぶ。

「もったいない。二人の私と、3Pのチャンスだったのに。」
「まだ酔っ払ってるのか。」
「冗談だ…怒ってるのか。」
「機嫌が良い訳が無いだろう?俺を試して楽しいか?」
「すまない…。」

 バトーは拳銃をしまい、ゆっくり窓辺の人影に近づく。 素子はシンプルな下着姿だった。
それは、バトーが最初に素子と結ばれた夜を思い出させた。それから、時折素子と愛し合う機会は
あったが、あの夜についての、ひとつの疑念を、バトーは素子に聞けないままでいた。

「どうした、しおらしいじゃないか。」
「あいつ、どうしてもバトーと寝てみたい、って聞かなくて。絶対にバレるから無理だと、言った
んだけど。結果として、試すような事になって、本当にすまない。」

 バトーは素子の瞳を見つめ、そのしなやかに細い身体を抱き寄せる。

「俺が解らないと思ったのか?」
「解らない訳がない、って思ってた。」
「それなら、良い。」

 素子の口唇に、バトーの口唇がそっと重なる。

『許してくれるのか?』

 素子の電通の声が、バトーの脳内に響く。

『二度と、俺を試すような真似をしないでくれ。』
『了解。』

 バトーは素子の身体を抱き上げ、ベッドまで運んでいく。

「ひとつ、聞いていいか?」
「なに?」
「お前のリモート義体が狙撃された、あの日、いつからお前はリモート義体だった?」

バトーは素子の身体をそっと横たえ、ふたたび口唇を重ねる。

『私は、バトー、お前とだけは、いつだって、』
『もういい、解った。』

 素子の言葉を遮り、バトーは素子の乳房に手を伸ばす。丁寧に揉み、先端に口唇を付ける。舌先で
刺激すると、素子の口から甘い喘ぎが洩れる。

 先程の問いは、バトー自身が素子を試すような問いだったと、バトーは気づいた。お互い、ただ
ひとりの、心を許し合える相手だというのに。
 
 バトーは素子の身体を自身の上に乗せ、乳房を揉む。素子の手が、バトーの股間へ伸び、ペニスを
掴む。
296AN ACCOMPLICE -6-:2009/12/27(日) 23:16:28 ID:xoiYWZ8t
『早く、欲しい。』

 バトーは素子の腰をに手を添え、ゆっくり下ろさせながら、挿入していく。一度、一番奥まで沈めて
から、抜く、を繰り返す。奥にバトーが突き入れるたびに、素子の口から激しい喘ぎが洩れる。バトーは、
素子の中を掻き回すように激しく突き上げる。

『素子、愛してる。』
『私もだ、バトー。』

 言葉に嘘は無い。だが、お互いの罪悪感を払拭するための言葉と、言えないこともない。
 共犯者の気分で、いつになく激しい行為が続いた…。

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TO BE CONTINUED…
297名無しさん@ピンキー:2009/12/28(月) 00:57:36 ID:rvQ4ES5r
>>296
少佐の鬼畜度が上がったw
298名無しさん@ピンキー:2009/12/28(月) 01:50:36 ID:96l5icUG
乙!待ってたかいがあった
バトーは純情すぎるのが不幸だな
てかトグサ涙目ww
もういっそ課長と石川も混ぜて9Pしようぜ
299名無しさん@ピンキー:2009/12/30(水) 03:05:25 ID:haM6y/vV
>>291-296
GJ!GJ!!
こういうの待ってたんです、ありがとう!!
切ない感じがバト素らしくていいです
300名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 01:55:39 ID:U0rlwkAk
良かった
301 【豚】 【1568円】 :2010/01/01(金) 00:36:06 ID:5QiJEBss
年内に完結させるつもりだったのに・・・仕事が忙しすぎて無理デスタ。

元旦にエロss書いてる俺って・・・

ともあれ、あけおめです。

302 【豚】 【329円】 :2010/01/01(金) 02:29:28 ID:pSOyoLSc
あけましておめでとう〜

>>301
良い元旦じゃまいか!w
気長に待ってるから、じっくり書いてくれ
303AN ACCOMPLICE -7-:2010/01/01(金) 14:13:59 ID:n+O1iXft
 過ぎて欲しくない時間ほど、あっという間に過ぎていくものだ。
 広い部屋には、二人の息づかいだけが満ちて、いる。
 時折、肌と肌がふれあい、ぶつかる、やや粘質の音が混じり、素子の喘ぎとともに、バトーを昂ぶらせ続ける。
 バトーはベッドの上に座り、自分の上に素子を座らせる。指先で、蜜を滴らせた場所を探りあてる。素子の尻
を軽く上げさせ、蜜穴に自身のペニスをあてがい、挿入する。蜜に塗れたそこは、バトーのペニスをするりと
のみ込み、蠢く肉壁が、それを逃すまいとするかのように、締めつける。

 窓の外、空の端が、赤く、明るさを増しはじめている。
 しっかりと、腕の中に捕らえていてさえ、ひとつに繋がっていてさえ、一瞬目を離せば、素子がそこから消えて
いる不安。いわれのない不安にさいなまれ、バトーは、いっそう腕に力を込める。 
 信じられるものは、現在の、この現実のみ。
 言葉をいくら連ねても、重ねても、刻々と変質していくもの。

 素子の身体を後から抱きしめるような形で、バトーが何度目かの放出を終えると、素子はバトーの腕の中から
すり抜け、立ち上がった。

「素子。」
「もう、朝よ。」 

 バトーも立ち上がり、素子を再び抱きしめる。 

「今日も仕事なんだから、ほどほどにしておかないと。」
「関係ねえ。」
「ダメよ。」 

 素子はふたたび、バトーの腕から抜けだすと、シャワールームに去っていった。
 外は、もうすっかり明るい。
 太陽がビルのガラスに反射し、眩しく光を放っている。
 バトーは座って、その光をぼんやり眺めている。

「バトー。」
「ん?」

 既に素子は衣服を身につけ、ほんの1時間ほど前の様子など、微塵も感じさせない。

「お前は?」
「ああ、そうだな。」
「じゃ、私は行くわ。」
「送らなくて、良いのか?」
「ちょっと行かなくちゃならないところが有るから…仕事、遅れないでね。」
「当たり前だ。」 

 素子が部屋を出て行った後、バトーは1人取り残され、しばし放心していた。
 しばらく考え込んでいたが、振り払うように頭を振って立ち上がり、衣服を身に着けると、駐車場に向かい、車に
乗り込む。 
 朝とはいえ、まだ早朝だ。しかし、帰ってしまうと、寝過ごしかねない。
 そのまま車を9課本部へ向ける。 

 素子が何かを隠している。それは今に始まったことではないし、いつでも素子には謎が多いのだ。9課に仕事が無
い今、何をしているのだろうか。考えても仕方が無いことは、とりあえず考えないことにする。
304AN ACCOMPLICE -8-:2010/01/01(金) 14:14:48 ID:n+O1iXft
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 素子は車を走らせていた。
 指定された住所は、かつてのアーネスト瀬良野邸だった。
 現れたアオイは、こともなげに言った。

「いえ、実は僕、瀬良野社長の隠し子だったんですよ。」
「嘘をつけ。」
「真実です。戸籍もDNAも全てそれを証明してくれますよ。」
「お前…。」 
 
 素子はあきれ果ててアオイを見つめる。アオイの腕をもってすれば、戸籍やDNAデータの書き換えなど、赤子の
手をひねるようなものだろう。そうやって、瀬良野の息子になりすましたのだろう。証明はたぶん出来ないが。

「まあ、そんなわけで父が死んだ後、遺産は遺言で僕のものになり、会社のマイクロマシン研究の実験体として、
僕はこの身体を提供した。」
「で、電脳硬化症ながら未だに生きてるって訳か。」
「村井ワクチンも使ってますけど。」
「まあ、いい。で、こないだの中身、整理出来た?」
「大変でしたよ、整理するの。電脳の中があんなにめちゃくちゃな人、はじめてです。」
「だろうな。」
「けど、名簿上のトップはこないだのトドな訳でしょう?」
「それが、表面上のことなのは、解りきってるだろう。トドから手繰って、真実のトップ、組織の黒幕を探し出す。
そのためにお前に苦労して貰ったんだから。」
「もう、ああいうのは勘弁してくださいね。」 

 アオイは心底辟易した表情で言った。

「だったら、はじめから私の愛人に接触したりしなければ良かったのに。」
「そうですね。後悔しています。好奇心猫をも殺すってね。」
「で、わかったのか。」
「ええ。」 

 トド、こと田所夫人が、夫の親しくしている派閥の領袖とは違う、別の政治家と、この売春組織の運営と、そこ
から発生する利益を秘密裏に献金することで、深く繋がっていた証拠が、きちんと系統だって整理されていた。
 そうやって、連合与党内で、どちらかの派閥に偏らず、トド、いや、田所夫妻は生き残りを工作していたのだろう。

305AN ACCOMPLICE -9-:2010/01/01(金) 14:16:14 ID:n+O1iXft
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 素子の指定してきた場所にたどり着いたパズは、あたりを見回す。

「こっちだ、パズ。」 
 
 いつもの義体とは違うものだが、すぐに少佐だと解る。

「何事です、少佐。誰にも秘密で出て来いなんて。」
「ちょっと、お前に頼みたいことがあって。」
「なんです?」
「頼みたいことというのは、まあ、いってみれば違法行為だし、なるべく9課のメンバーは巻き込まずに済ませたかった
んだが。」
「何をしろと。」
「女を1人、口を割らせたい。私が男性型義体を使っても良いんだけどな。お前の方がそういうのは、得意なんじゃない
かと。」
「不得手とは言いませんよ。ま、9課の中で、他のメンバーに勝てること、って言ったらそれくらいかもしれません。」
「ずいぶん謙虚だな。」 
 
 素子はパズに、今までの経緯と、事の概要、そして、アオイを使って知りえた黒幕の疑いの有る人物について、説明する。
 田所たちの組織は、出会い系サイトを偽装し、主婦らに客を斡旋するばかりではなく、金の有る主婦たちに、金で解決出
来る浮気相手の斡旋もしていた。むしろ、ごく普通の主婦たちを相手にする客の斡旋より、浮気相手の斡旋のほうが、より
儲かる商売だったようだ。組織を運営する幹部たちによって、身元が保障された、さまざまなタイプの男性が用意され、ニー
ズに応じて、極秘裏に届けられる。しかも、その件で強請りなどをされる心配も無い、というのを、売りにしていたが、もち
ろん幹部たちは、必要に応じて、紹介料以外にも、浮気の事実を弱みとして、相手を脅し、金を引き出していた。

「どうだ、やってもらえるか。」
「その黒幕の政治家に逢って、認めさせれば良いわけですか。」
「そうだ。お膳立てはする。」
「お役に立てるよう、努力しますよ。」
「頼む。」

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市街中心部に広い敷地をもつ、前世紀から続く、政治家御用達の老舗料亭。

「少佐。」
「ここから先は、奥様と呼べ。」
「了解。しかし、使い慣れない義体は今ひとつ落ち着かないですね。」
「仕方あるまい、相手の好みと、お前の正体を知られないためだ。」
「こんなのがお好みとはね。」

 パズは片手で、自分の頬をひっぱる。

「私は好き嫌いは無いがな。」
「あー、はいはい。存じております、奥様。」 

 素子は、長い黒髪をアップにし、上品な留袖の和服姿。義体はいつもの物より、10歳ほど年長に見える。 
 パズは、俳優かモデルとみまごう美形の義体である。 
 素子の義体はリモート義体で、素子は料亭の別の部屋で、義体をリモート操作しながら、部屋の様子を窺っている。
 二人が席に着き、5分ほどして、仲居が待ち人の来訪を告げてきた。

「おみえになりました。」
「ありがとうございます。」 

 入ってきた女は、素子同様、留袖の和服姿。赤を基調に、季節の花がデザインされた、かなり高価なものと思われる。
 年齢は20代後半から、40代まで幾つにも見える。 
306AN ACCOMPLICE -10-:2010/01/01(金) 14:17:27 ID:n+O1iXft
「ごきげんよう、奥様。」
「お会いできて、光栄ですわ、議員。」
「田所様が体調を崩されて、代わりを奥様がお勤めになるとのことでしたね。」
「ええ、なにかと行き届かないことも、有ると思いますが、どうぞご指導ご鞭撻のほど、お願い致します。」
「こちらこそ、田所様には、お世話になってばかりでしたのよ。よろしくお願い致しますわ。」

他愛も無い会話を続けながら、和食のコース料理を食べ終え、素子は視線をパズのほうへ向ける。 

「議員、彼は、今回のほんのお礼の印として、連れて参りました。」
「まあ、お気遣い頂いて。」

 食事の間から、パズは女の視線をずっと感じていた。

(ま、お好みのタイプってことなんだろうな。)

「どうぞ。」

 素子が立ち上がり、襖を少し開くと、隣室に、時代劇でのお約束、布団が延べられ、枕元に行灯が燈っている。

「あらまあ。レトロな趣向ですのね。」
「私はこれで失礼致します。」
「ありがとう。」 

 女と二人きりで部屋に残されたパズは、そのまま隣室に移動するようなことはせず、改めて女の隣に座りなおし、
 杯に冷酒を注いで、女に勧める。女は杯を受け取り、飲み干すと、パズを見つめ、口を開いた。

「名前は?」
「お好きなように。」
「無いの?」
「今は。貴女が決めた名が私の名前です。」
「あら、そうなの。どうしようかしらねえ…少し考えさせてね。」
「もう少し、お飲みになりますか、奥様。」
「ええ、頂くわ。」

 パズは杯をふたたび冷酒で満たすと、女に差し出す。一見しただけでは、生身か義体かは解らない。素子とは全く
別種の色気が有る。改めてデータを見直す。衆議院議員、茅葺よう子。およそ虫も殺さぬような、とは、こういう女
のことをいうのだろう。だが、美しく整った顔、絶やさぬ微笑みの下に、どんな真実が隠されているのか、何を考え
ているのか、全く解らない。
 女はパズの手をとり、自分の頬に触れさせる。

「運んで行ってくださる?」

 酔いが女の頬を染めている。
 パズは黙って、女の身体を抱え、隣室に移動する。
 抱えられた女は、パズに顔を近づけ、その口唇を奪う。
 そのままパズは女の身体を布団の上にそっと下し、その身体の上に覆いかぶさって、口づけを継続する。
307AN ACCOMPLICE -11-:2010/01/01(金) 14:19:51 ID:n+O1iXft
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 二人を残し、部屋を出た素子のリモート義体は、廊下を数歩、歩いたところで、ダークスーツにサングラスの男たち
に取り囲まれた。
 指揮官役らしき1人の合図で、男たちは素子を拘束し、そのまま部屋に連れ込む。
 数人がかりで床に押さえつけられ、和服を乱暴に剥ぎ取られる。
 全裸の女を取り囲み、男たちの口元が、嗜虐の笑みを浮かべる。
 
「いったい何を…!」

 素子の言葉をさえぎり、口元をマスクで覆って、素子の言葉を奪う。
 暴れる素子の身体を、数人がかりで押さえつける。男の1人が、素子の身体に覆いかぶさり、豊かな乳房を激しく
揉みしだく。そのまま、あわただしく、下半身を露出し、乱暴に侵攻させる。全員が交代で一通り行為を終えてから、
男たちは大ぶりな刃物を取り出して、素子のリモート義体をめった刺しにする。
1人の刃物が、頭に向けられ、素子は慌てて接続を切った。

(臨死体験をそうそうしたくはないわね。しかし、脅かす材料を得るためかと思ったら、口まで封じるか。もともと
の命令は口封じで、輪姦は奴らの余禄ってやつかしら。)

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 パズは女の和服を手際よく脱がしていく。本来ならきちんと畳んでやりたいところだが、そこまでこの義体に慣れて
いないのと、そうまでしてやらねばならない相手とも思えない。しかし、和服が皺になったりしないように脱がしてい
く手際に、女は感心したようだった。
 長襦袢だけにして、女の胸元を開き、乳房を取り出す。口をつけ、舌先で刺激し、立ち上がらせる。
 そっと腰紐をほどき、開いた襦袢の間に手を差し込み、秘所を探る。指先で入り口の近くの肉芽を刺激する。
 肉芽の刺激で、秘所はとろりと液体を分泌する。指を液体に塗れさせながら、女の中へと指を侵入させる。

『パズ。』

 素子からの暗号通信だ。

『すいません少佐、ちょっと今、手が離せません。』
『私の義体、殺られたわ。』
『え?』
『注意なさい。』
『了解。』

 パズは親指で肉芽を刺激しつつ、残りの指全部を女の中に差し込み、中を激しく掻き回す。
 最初は自分の指でその口を押さえ、喘ぎをこらえていた女が、喘ぎを開放する。止まらず続く悲鳴のような喘ぎ。

「ああ、もう、焦らさないで。」

 女の声を合図に、女の中から指を抜き、代わりに自身の男根を取り出すと、女を刺し貫く。激しく腰を打ち付けると、
女は全身を震わせ、快感を貪る。
 激しい行為のさなか、襖の向こうに多数の殺気を感じ取り、パズは油断なく身構える。
 ひときわ激しい女の喘ぎとともに、女が達すると、パズが女の身体を離すか話さないかのうちに、一斉に男たち
が部屋になだれ込んできた。
 女は長襦袢の前をかき合わせ、部屋の隅に後退する。

 男たちは手に手に刃物を構えていたが、またたくまに全員がパズによって床に打ち倒されていた。

「あなた、只者じゃないわね。」
「いったいこれは、どういうことです。」
「あなた、このことを忘れてくれる?」
「どういう意味、ですか。」
「今頃は、さっきのあなたの連れも、この世には居ないはず。あなたの事もここで片付けたかったけど、こう手際よく
やられちゃあ、そう簡単にあなたを片付けることは出来無いようだし。忘れてくれるなら、好きなだけお金をあげる。」
「意味がわかりませんね。」
「組織はもう、おしまいなのよ。充分に利益も得たし。私ね、次の総理大臣に内定したのよ。まあ、組織を使って、懐柔
したやつらもいっぱいいるんだけどね。党のじいさん連中がうるさくてね。総理になるなら、組織は止める様にって。
まあ良いわ、証拠はもう、私の頭の中の記憶だけ。でもそれももう、無くなるわ。」
308AN ACCOMPLICE -12-:2010/01/01(金) 14:21:15 ID:n+O1iXft
 茅葺は、言葉を切ると、電脳の記憶を焼き切った。
 そのまま、気を失って、倒れた茅葺を残して、パズは部屋を出て、素子の待つ部屋に戻る。

「すいません。」
「見てたわ。記憶を消されちゃ、もう、どうしようもないわね。」
「まさか、あそこまでするとは…。」
「田所夫人も、消されたようよ。他にも何人かね。交通事故やら、病死やら、いろいろ偽装されているようだけど。」
「あの女がそこまで…。」
「たしかにあの女はしたたかだけど、そこまでしたのは多分、連合与党の上層部、あの女を神輿として担ぎ上げるのに、
不都合を取り除くためにしたことね。高倉あたりが怪しいけど、証拠を見つけるのは難しそうだわ。」

-----
 本部のカフェスペースで、素子がひとりで考え事に沈んでいると、バトーが現れた。
 
「少佐。」
「おい、どっか潜ってる最中か?」
「違うわ、ちょっとね。」
「これから、飲みにいかねえか。」
「また?」
「嫌か。」
「いいえ、ちょうどくさくさしてた所。いつものお店に行きましょう。」
「おう。」

 素子とバトーは連れ立って歩いていった。

 AN ACCOMPLICE -end-
309 【大凶】 :2010/01/01(金) 14:43:44 ID:n+O1iXft
ていせい〜

正しくは

-----
 本部のカフェスペースで、素子がひとりで考え事に沈んでいると、バトーが現れた。
 
「少佐。おい、どっか潜ってる最中か?」
「違うわ、ちょっとね。」
「これから、飲みにいかねえか。」
「また?」
「嫌か。」
「いいえ、ちょうどくさくさしてた所。いつものお店に行きましょう。」
「おう。」

 素子とバトーは連れ立って歩いていった。

-----

でした。「」つける場所間違えました。

あと、途中で削ったんですが、バトーに素子が悪質な悪戯を仕掛けるネタも有りました。
このシリーズはこれで終了です。

話の時期としては、1期終了後、9課のメンバーが再結集した後、無期限待機命令によって
活動を制限されている時期の話のつもりで書きました。

まだまだ書きたいネタはいっぱいです、が、とりあえず暫しの休息を。

・サイトーのアフリカでのエピソード(SSSの)
・イシカワと素子の過去話
・パロディものいろいろ
 *時代を江戸時代に移した「隠密機動隊」
 *ブラックラグーン×攻殻機動隊

これらのネタでなにか天啓を受けた方が居たら、是非俺を待たずに書いてください。

310名無しさん@ピンキー:2010/01/02(土) 00:59:43 ID:GYtYdCTA
GJ!
パズかっこいいな
311名無しさん@ピンキー:2010/01/02(土) 19:08:04 ID:O18J0OUw
予想外の結末GJ
312名無しさん@ピンキー:2010/01/03(日) 21:26:35 ID:IVOp/woQ
あげ
313名無しさん@ピンキー:2010/01/03(日) 21:34:08 ID:IVOp/woQ
去年のお正月に>>24-35を書いたものです。
あまりエロくないですが、バトーと素子を書いてみました。
まだ去年に引き続き二作目なので、、、

読んでくださる方、いらっしゃいますか?
314名無しさん@ピンキー:2010/01/03(日) 21:38:03 ID:Pey3r61r
>>313
こんばんわ。なんていいタイミング!
感想レスを書いた一人です。
ぜひ、ぜーひお願いします(∴)/
315名無しさん@ピンキー:2010/01/03(日) 21:41:01 ID:IVOp/woQ
>>314さん

ありがとうございます!
感想書いてくださった方とまたこのスレで1年ぶりに
お目にかかれるとは!

では、アップさせていただきますね。
316青い月影1:2010/01/03(日) 21:42:16 ID:IVOp/woQ
「〜青い月影〜」


1
水上バスの上でバトーは素子の潜水が終わるのを
待っていた。
……それにしても遅いな。遅すぎる。
苛立ちながらバトーはもうこれ以上待ちきれないと
いうように上着を脱ぐとデッキに立った。
「相変わらず短気ねえ。お待ち遠様」
潜水服に身を包んだ素子がからかうように声をかけた。
「おいっ! こっちは本気で心配したんだぞ」
「あら、それはそれはどうも」
言いながら素子はバトーの目の前で潜水服を脱ぎ始めた。
文句を言いかけたバトーはとっさに後ろを向く。
いつもそうだ。こっちが本気で心配してるのに素子と
きたらどこ吹く風だ。
……俺が本気であいつのことを想ってても、あいつのほうでは
俺のことなど九課のメンバーの一員にしか過ぎないんだろうな。
バトーの胸の奥がちくりと疼いた。

ふたりで並んで座ったまま水上バスの上から夕焼けを見る。
バトーは素子に缶ビールを差し出し、ささやかな乾杯を
した。
317青い月影2:2010/01/03(日) 21:43:10 ID:IVOp/woQ
2
「休暇もこれで終わりね」
「ああ」
素子の横顔は夕映えに照らされて茜色に染まり、瞳の色も
夕陽を宿していた。
「それにしてもどういう風の吹き回しだ? 休暇中にいきなり
呼び出すなんて」
「迷惑だったかしら?」
「……いや、そんなことはないが、、、」
素子はビールをひと口飲むと真っ直ぐにバトーの方を
向いた。
「ねえ、わたしのこの義体が消失しても、政府はわたしの
脳殻だけは取り戻そうと躍起になるでしょうね」
「なんだよ、それ」
「だってそうでしょう? わたしの脳髄にはこれまでの
政府からの指令や、データや機密事項がまるで記憶の図書館の
ようにずっしり搭載されているんですもの。なかにはかなり
危険なデータもあるわ。下手すると世界中を巻き込んで
第五次世界大戦を起こしかねないようなものもね」
318青い月影3:2010/01/03(日) 21:44:16 ID:IVOp/woQ
3
素子は一気に言うと深い溜め息をついた。
「任務を遂行するのが重荷になったのか?」
「……よくわからないのよ。重荷ではないけれども、
結局のところ政府が守りたいのはわたしの脳殻だけってことが
なんだかね。自分が誰かに必要とされているのは、
完璧な記憶のデータだけ、というのがどうもね、、、」
「政府の役人にとっちゃあ、俺たちは所詮使い捨ての駒
みたいなもんだからな」
「ねえ、バトー、ゴーストについて考えたことある?」
「うん?」
「ゴーストはわたしの魂そのものであり、たとえわたしが義体を
いくら変えようと、あるいは、政府がわたしの脳殻だけを
保護し、わたしを切り捨てようとも、わたしがわたしである
最後の砦。それがゴースト」
「ああ」
「ねえ、バトー。外見が変わり、記憶のデータが破壊されても
わたしがわたしであるためのゴーストがある限り
本来のわたしであり続けることができるのでしょう?」
「無論そうだ」
「……だけど、ゴーストだけのわたしを必要としてくれる
人間なんて、果たしてこの世の中にいるのかしらね?」
素子は自嘲的な笑みを浮かべた。
319青い月影4:2010/01/03(日) 21:45:11 ID:IVOp/woQ
4
「……いるさ」
「え?」
「おまえの目の前にな」
「バトー」
「頭の切れる少佐のことだから、また、何だかんだと理屈を
こねるんだろな。だけどな、これだけは言っておく。
愛ってやつだけは理論や理屈じゃ説明できないんだ」
「愛、ですって?」
「おかしいか? 笑いたけりゃ笑ってもいい。
じゃ、聞くけどな。
誰がどう見ても相手に何の価値もないのに、その人間を
大切にし、守り、つねにそばにいてやろうとするのは
何でなんだ? 自分には何の見返りもメリットもないのに」
「……」
「それが愛ってやつの本質なんじゃねえのか?」
「そうね、言葉でだけなら何とでもいえるでしょうね。
だけど、この先わたしの外見が変わり、記憶のデータが
抹消されたとき、わたしのゴーストを愛していると
自信を持って言えるのかしら?」
「さあな、正直俺にも先のことはわからない。
だけどな、見もしないそんな先々のことまで考えていたら
人類はとうに滅んでいただろうよ」
「それはそうね」
320青い月影5:2010/01/03(日) 21:46:00 ID:IVOp/woQ
5
「人間は過去と今この瞬間のことしかわからない。
未来はあくまでも予測だ。だからいいんだ。
盲滅法に進むことができるんだろ?」
「ふっ。いつになく能弁なのね」
「からかうなよ。俺なりに本気で言ってるんだぜ!」
バトーの声は怒りを帯びていた。
「悪かったわ。長い間こんな仕事をしてるとつい……」
「まあな、俺の片想いだってことはわかってるからな」
「誰が片想いだって?」
「……だからさ、俺が素子のことを。。。」
「バトー、あの少女のことは? バトーのこころを今も片時も
離さずにいるあの白い花の似合う少女は?」
「あの娘は、、、」
不意を突かれてバトーは言葉に窮した。
素子のいう通りだっのだ。
バトーの記憶のなかであの名前も知らない少女の面影は
片時も忘れたことはなかった。
少女はいわばバトーの「良心」であり、「善悪の基準」となる
聖なる存在でもあったのだ。
321青い月影6:2010/01/03(日) 21:46:53 ID:IVOp/woQ
6
バトーは黙ったまま素子に自分の上着を脱いで掛けた。
「そろそろ、帰るよ」
素子に背を向けると肩を落としてデッキを降りて行った。
「待って、バトー!」
素子は叫んだ。
バトーがゆっくりと振り向く。
「ちょっとだけ、あの娘に嫉妬したの」
「少佐らしくないな……」
「そうね、ちょっと大人げなかったわね」
「少佐のなかでは今でもクゼヒデオの存在は消せないだろ?
俺のこころのなかでもあの少女は消せない。
あの娘は俺が何か踏み外そうとすると、悲しそうに
大きな目でじっと俺のこころの奥底まで見つめるんだ。
だから……、わかってくれとはいわないが、これ以上は
どうか踏み込まないでくれ」
「ごめんなさい、バトー。あなたのこころの大切な領域に
踏み込もうなんて、わたしが傲慢だったわ」
「今度はやけにしおらしいじゃねえか」
322青い月影7:2010/01/03(日) 21:47:58 ID:IVOp/woQ
7
素子は自分に掛けられたバトーの上着を弄びながら
ぽつりと言った。
「わたしは十歳になるかならないで、事故に遭い、全身を
義体化した。わたしは生身の身体のとき、初恋もまだだったのよ。
この義体は確かに美しいわ。永遠に年を取らない。
どんどん義体を乗り換えていけばいいのですものね。
だけど、美しく完璧に義体化されたわたしではない、
本来のわたし、ゴーストをそのまま受け入れてくれる人が
一人でもいるのかしらって思うと、疑心暗鬼になるのよ」
「……だから、俺の言葉も疑うのか?」
「わからない、、、ただね、バトー、あなたはわたしにとって
永遠の絆、揺るぎない同志だということは確実にわかるわ」
「ああ、それでいいじゃないか」
バトーの目が寂しそうに笑う。
「それにしても、こんなわたしのゴーストを愛してくれる
なんて、バトーも奇特な人よね」
「まあ、な」
323青い月影8:2010/01/03(日) 21:48:58 ID:IVOp/woQ
8
「バトーはわたしにとって大切な存在であることは確かよ。
絶対に失いたくない存在。だからこそ、愛というありふれた
言葉は使いたくないの」
「素子がその言葉を使いたくないのなら、それでいいさ」
次の瞬間、赤い閃光が走り、咄嗟に素子を庇ったバトーは
狙撃された。
バランスを失ったバトーの姿は海面に消えていった。
「バトーッッッーーーー!」
素子は動揺を隠せない声で必死にバトーの名前をありったけの
ちからを込めて呼んだ。
「バトーッッッーーーー! どこなの!」
いくら呼んでもバトーの姿は海面には現れなかった。
思考回路をオンにして呼びかけても応答はなかった。

日はすでに暮れて、暗い海面を素子は呆然としながら
見ていた。
……わたし、本当は自分の気持ちに気づいていた。
バトーを愛していることに。
なのに、わざと気づかないふりをしていた。
初めて逢ったあの日から、レンジャー上がりのバトーは
わたしにとって特別な存在だった。
豪放さも、短絡的なところも、情に脆いことも、、、
それらはみな、わたしが持ってないものばかりだった。
324青い月影9:2010/01/03(日) 21:50:24 ID:IVOp/woQ
9
口下手で不器用だけれど、いつもわたしの背後にいて守って
くれるのは決まってバトーだった。
バトーの気持ちに応えるのをわたしは怖れていた。
なぜなら、わたしは生身の身体で誰かを好きになったことが
ないまま、今日まで来てしまったのだから。
それは、わたしのコンプレックスでもあったのだ。
だけど、バトーはそんなことはものともせずに、わたしを
守り、包んでくれた。
そう、わたしを、わたしのゴーストを愛してくれた!
ああ、今頃になって気づくなんて……。
バトーを失ってしまったら、わたしはいったいどうすれば、、、

いつしか素子の頬には知らぬ間に涙が流れていた。
少佐と呼ばれたこのわたしが泣くなんて……。
最後に泣いたのはいつだったろう?
飛行機事故で両親を失った日以来だろうか。
あの日から、わたしは女として泣くことを自分に禁じたのだ。
325青い月影10:2010/01/03(日) 21:52:06 ID:IVOp/woQ
10
そのとき、真っ暗な砂浜を歩く足音がゆっくりと
近づいてきた。
それは耳慣れた癖のある足音だった。
ふいにベンヤミンの言葉が素子の脳裏をよぎった。
《夜の中を歩みとおす時、助けになるのは、
橋でも翼でもない、友の足音だ》
まさに、ともに夜を歩み通したい人の足音が素子の
すぐ後ろで止まった。

「少佐が泣くなんて、明日は雨だな」
振り向かなくてもわかる。
なつかしいその声。わたしが誰よりも欲している人の声。
バトーの声。
「バトー……」
言いたいことは山ほどあったはずなのに、名前を呼ぶのが
精一杯だった。
「素子を泣かせるなんて、どんな色男なんだろな」
バトーは素子の肩をそっとやさしく抱き寄せた。
「……目の前にいる男よ」

波は凪いで海は静かだった。
青い月だけがふたりを見守るように照らしていた。



ーー終わりーー
326青い月影・あと書き:2010/01/03(日) 21:55:11 ID:IVOp/woQ
お目汚し、失礼いたしました。
この作品は福山雅治さんの「最愛」をBGMに
しながら書きました。

「最愛」 福山雅治
http://www.youtube.com/watch?v=n6Wk9VhGVIY&feature=related
327名無しさん@ピンキー:2010/01/03(日) 22:29:31 ID:Pey3r61r
>>326
GJ!!です。前の話の続きなのね。SACとGITSをプラスしたような話。
「最愛」の愛さなくてもいいから、遠くで見守ってっていうのがバトーみたいでいいね。
328326      :2010/01/03(日) 23:06:54 ID:IVOp/woQ
>>327さん

ありがとうございます♪
気に入っていただけたようで、とてもうれしいです!

>「最愛」の愛さなくてもいいから、遠くで見守ってっていうのがバトーみたいでいいね。
ありがとうございます。
まさに、そのフレーズをイメージして書きました♪

スレのみなさまにとって、よい1年でありますように。

ではでは


329名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 21:13:43 ID:OdZTMbti
春雨の季節にちなんでいきなり投下します。

「**雨に消えた初恋** トグサの初恋編」

1
トグサは帰ろうとして窓の外を見ると、すでに煙るような
やわらかな春の雨が降り出していた。
「春雨か……」
つぶやきながらトグサは遠い日を思い出していた。

トグサは物静かな少年で、勉強もスポーツも平均以上では
あっても 決して目立つ少年ではなかった。

ある雨の日の帰り道。
バス亭から家までの道を傘をさしながら歩いていると、
少し前方に傘をささずに歩いている少女がいた。
制服からするとトグサと同じ高校だ。
彼女は雨に濡れることを楽しむように、歌うような足取りで
軽やかに歩いていた。
一瞬だけ少女の横顔が見えた。
歌でも歌っているのか、唇がかすかな動きを見せている。
いや、歌っているのではない。
彼女は雨と話をしているのだ。
夢見るような遠くを見るようなまなざしで。
ふいに彼女が振り向き、トグサと目が合った。
ふたりの至近距離は数メートル。
330名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 21:14:33 ID:OdZTMbti
2
「入ってく?」
まさか自分にこんな勇気があろうとは!
トグサ自身が一番驚いていた。
「ありがとう」
彼女は素直に言い、トグサは傘を半分さしかけた。
それからふたりは黙ったまま、雨の中を歩いた。

道が二差路に分かれている。
「……ありがとう、わたし、こっちだから」
彼女はおじぎをすると雨の中を歩き出した。
トグサは呼び止めたい気持ちをぐっと抑えながら、
彼女の後ろ姿を見送った。
次の瞬間、後悔した……。
学年も名前も知らないままだ。
どうして聞かなかったのだろう?

トグサは彼女にふたたび会うことはなかった。
あれから、あの日と同じ時間帯で同じ道を
何度も歩いた。
学校でも同じ地区の少女がいないか、それとなく
気をつけていた。
けれども、彼女の姿はどこにもなかった。
雨の好きな少女、トグサに残された記憶は
それだけだった。
331名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 21:15:14 ID:OdZTMbti
3
妻とは友人の紹介で出逢った。
ころころとよく笑う、向日葵のような女性、それが妻だ。
ふたりの恋愛は穏やかに進み、何の支障もなく結婚した。
家庭的な妻に満足している。
自分はしあわせだと思う。
……けれども、仕事に疲れたときや、人生にやりきれなく
なったとき、雨の日にふと蘇るあの雨の日の少女。
ひとことも交わさなかったのに…、
彼女のことは何も知らないのに…、
今でも胸をせつなくしめつけるこの感情は
いったいどこから来るのだろう?
なつかしさだろうか?
もはや失ってしまった少年時代の純情を愛しく思う
ほろ苦さからだろうか?
いや、それだけではない。
雨と話すとはどういうことなのだろう?
あの日、ほほ笑みを浮かべながら彼女は雨と
対話していた。
ぼくに現場を見られたことを少しも恥じるふうでもなく、
彼女は雨のなかに、風景の一部として溶け込んでいた。
それも、ごく自然に……。

公安九課は電脳人間がほとんどだ。
電脳は素晴らしい。
けれども、電脳は記憶することはできても、
雨と対話することはできない。
それはもしかすると、神の、魂の領域なのかもしれない。。。


**終わり**
332名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 23:28:48 ID:nXgt9Fwm
>>331
GJです。トグサくんらしい話だね。
333名無しさん@ピンキー:2010/01/17(日) 17:55:02 ID:cJSi6IMp
保守
334名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 21:44:36 ID:ItvTjMKI
保守
335名無しさん@ピンキー:2010/01/30(土) 21:42:58 ID:2HgAgR4d
保守
336名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 00:07:05 ID:rCz+hNS5
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/04(木) 23:21:58.37 ID:WJ0GGA/K0
誰かに似ているような…
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org622682.jpg
337 ◆??? :2010/02/10(水) 13:00:50 ID:wLK6hSG9
見れんぞ…
338名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 01:39:11 ID:BqI25wMb
バレンタインだけど少佐はチョコばら蒔いたんだろうか
339名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 00:13:43 ID:ljE322sa
バラまくんじゃなくて、たくさんもらうほうだよ。
340名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 00:24:57 ID:eBy3guiT
セフレから高そうなチョコ貰えるのは確実として
タチコマやオペ子からの手作りもあり得るな
341名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 00:44:45 ID:ljE322sa
バトーやサイトーからも手作りチョコを・・・気持ち悪いかなw
342名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 02:03:39 ID:STIL9Yq2
>>340
オペ子のは欲しい
なんとなく綺麗な板チョコ作ってきそうだけどw
343名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 02:18:57 ID:tZNCn7w+
344名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 03:14:23 ID:aP0DX0eM
タチコマの「ぶーぶー!」ってブーイングと
並列化した時の「でぃゆぅ〜(プルプル)」が好き
345名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 03:52:44 ID:aP0DX0eM
はわわわ…たった今、強烈な毒電波を受信してしまった。

ハックされて、幼児退行ウィルスを仕込まれたバトーさんが少佐に甘えまくる。
完治するも、ウィルス除去の間に、少佐に甘えていた記憶が外部記憶装置に…。

そして一人静かに、広大なネットの海へと漕ぎだしたバトーさんでした。

あの声で甘えられたら拒めない。少佐の母性本能も大爆発まちがいなし。
346名無しさん@ピンキー:2010/02/19(金) 02:10:17 ID:mSBZaVAH
S.A.C.見てると、やっぱ少佐は露出少ない服着てる方がセクシーに見える
背中ばっくり空いた奴もたまらんが

(∵)ノしょーさのくちびるー
347名無しさん@ピンキー:2010/02/23(火) 23:29:13 ID:2pNewma5
保守
348名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 01:39:57 ID:Pm4ddV0y
しょーさのほうまんなー
349名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 07:00:32 ID:vduIVGEj
ばすっとぅあ〜んどひっぷ!
ばすっとぅあ〜んどひっぷ!
350天の声1:2010/02/28(日) 21:21:27 ID:eq9u1lq9
「天の声」

1
昨日、九課でバレンタインのチョコレートをいくつもらったかとみんなに
聞かれた。
いつものことだが、サイトーが一番多かった。
街の女たちや、人妻までも、サイトーに夢中になる。
サイトーは何も仕掛けなくても、女たちのほうで寄って来るのだ。
サイトーのモットーは「同じ女を二度抱かない」。
これは今も昔も変わらない。
「出逢った女は必ず落とす」、これもサイトーのモットーである。
……いや、昔、ひとりだけ落とせなかった女がいたな。

外はもうとっぷりと暮れていた。
サイトーは任務を終えて冬の空を見上げてつぷやいた。
「こんな都会でも星が見えるんだな」
頭上には冬の大三角と呼ばれるみっつの星が輝いていた。
全天で一番明るいといわれるおおいぬ座の一等星「シリウス」
こいぬ座の一等星「プロキオン」
オリオン座の赤い一等星「ベテルギウス」
シリウス、プロキオン、ベテルギウスで「冬の大三角形」と呼ばれている。
星空を見上げながら遠い昔の記憶が蘇った。
351天の声2:2010/02/28(日) 21:22:09 ID:eq9u1lq9
2
サイトーが草薙素子に射撃の腕を認められ九課に入ったのは周知の
事実であるが、実はその前のことはあまり知られていない。
サイトーも話したがらない。
実はサイトーはさる科学者たちの世界規模の集まりの護衛をしていた。
その集まりとは極秘のものであって、非公開であった。
世界中から名のある科学者、天文学者、物理学者、数学者が
あるひとつの計画のもとに集められていた。

その計画とは天の声(マスターズ・ヴォイス)計画と呼ばれていた。
その頃、宇宙の一点からある声というか信号が送られてきていた。
参加した学者たちは躍起になって暗号解読に努めていた。
莫大な資金と膨大な資料、コンピューターを駆使し、
連日徹夜の作業が行われていた。
……しかし、作業は一向にはかどることなく、終焉を迎えた。
352天の声3:2010/02/28(日) 21:22:40 ID:eq9u1lq9
3
サイトーの任務はこれら、お偉方の学者たちを護衛することだった。
世界的に名だたる学者ばかりが集められたマスターズ・ヴォイス計画。
地球連邦政府が先ず懸念したのは、険悪な国同士の学者の命が
何者かによって狙われ暗殺されることだった。
マスターズ・ヴォイス計画は非公式なため、護衛も同じように水面下で
秘密裏に集められた。
つまり、サイトーを始め、護衛たちはみんなわけありの人間ばかり
だったということだ。
サイトーはマスターズ・ヴォイス計画が実施されている間は、昼夜を
問わず任務を真面目に遂行した。
誰かがどこかの国の学者を暗殺しようと目論むと、事前にその情報は
必ず漏れ、サイトーは暗殺者を狙撃した。
十発十中の腕前は護衛仲間にも恐れられるほどだった。
353天の声4:2010/02/28(日) 21:23:30 ID:eq9u1lq9
4
ひとりの盲目の女が、ある日森のなかを歩いていた。
彼女は雨や風のささやきを楽しんでいた。
耳を済ませれば自然はいつだって彼に語りかけてくる。
彼女の聴覚は目に見えないものたちの発する声に対して
いつも開かれていた。
そして、見えないものたちも彼女を仲間と見なしていた。
そこにあるのは、まったき交流であった。

森を抜けて帰途につく頃にはすでに日が暮れて、
空には星が瞬き始めていた。
盲目の彼女は星を見ることはできないが、星たちの声を
聴くことができた。
空にも四季があり、季節ごとの星座たちとの対話を楽しみにしていた。
初冬ではあったが、この日は不思議とあたたかく、
彼女はいつものように天空に向けて顔を上げた。
354天の声5:2010/02/28(日) 21:24:06 ID:eq9u1lq9
5
そのとき、かすかな信号が彼女の聴覚をとらえた。
信号は不規則な間隔で発信されている。
どうやらその信号は冬の新13星座に加えられた
へびつかい座の辺りから発せられているようだ。
……信号? いや、これはまぎれもなくひとつの≪声≫だ。
彼女はそう確信した。
さらにその≪声≫に耳を傾けていると、≪声≫は友好的な
ものに変化しつつあった。
試しに彼女は語りかけてみた。
アナタハ ダレ デスカ?
数秒の沈黙のあと、≪声≫は応えた。
タイワ ヲ キボウ シマス。
彼女はすぐに対話に応じた。

彼女は≪声≫とさまざまなことを話した。
≪声≫の発信者の星のこと、文明のこと。
彼女は語りかけてくる≪声≫を何の疑問を抱くこともなく、
違和感もなく受け入れた。
なぜなら、彼女にとってそれは別段珍しいことではなく
ものごころついた頃からあたりまえのことだったのだから。
355天の声5:2010/02/28(日) 21:24:43 ID:eq9u1lq9
6
サイトーが「天の声」と通信した人間がいることを知ったのは
マスターズ・ヴォイス計画に終止符を打ってひとつき後だった。
サイトーは信じられなかった。
何人もの天才科学者たちが最新の技術を駆使しても
解読できない「天の声」をその盲目の人物は一瞬で交感し
解読したという。
しかも、「天の声」はその盲人にはかなり友好的だったという。

サイトーが真っ先に思ったのは、幻聴ということだった。
さらに、その盲人は狂人ではないかという疑問を抱いた。

サイトーはその盲人に逢うことにした。
小さな村の外れに住む彼女はつつましい暮らしをしていた。
高等教育は受けていないようだが、知的好奇心に富んだ
こころの豊かな人物であることはひと目でわかった。
356天の声6:2010/02/28(日) 21:25:23 ID:eq9u1lq9
7
彼女はサイトーの威圧的な質問にも何の警戒心もなく答え
「天の声」との対話がいかに楽しかったかを話してくれた。
「それで、君はその声から何か有益なことを聞きだせたのか?」
「有益?」
「つまりだ、人類よりも高度な生命体かどうか、とか」
「わたしたちより高度かどうかはわかりませんが、
非常に友好的な対応をしてくれました」
「なにをもって友好的だと判断したのだ?」
「≪声≫はわたしとの対話を希望したからです」
「それが、判断基準?」
「はい。拒絶したい相手、それも相手が未知の存在ならば
通常、対話など望まないでしょう」
「うむ」
「難しいことはわかりませんが、≪声≫が望んでいたのは
対話であることだけは確かです」
357天の声8:2010/02/28(日) 21:26:29 ID:eq9u1lq9
8
帰途につく途中、さまざまな想いがサイトーの胸を
駆け巡った。
おそらく、科学者たちは自身の威信にかけて、ひとりの素人
(しかも盲目!)が声を解読した事実を認めようとすまい。

あの盲人の彼女のことは俺の胸のなかにだけしまっておこう。
彼女を頭脳がちがちの学者たちの場に出して、集中砲火を
浴びせるのは忍びない。
盲目な目でまっすぐに見つめられたとき、サイトーは彼女をこころない
連中から守りたいと思った。
人は誰だって平穏な暮らしを侵害されたくないものだ。

今まで味わったことのない想いが、彼女への愛だったことを
知るのはずっと後のことであった……。
358天の声9:2010/02/28(日) 21:28:40 ID:eq9u1lq9
9
ふと立ち止まってサイトーは満天の星空を仰いだ。
「天の声」は、届くものには届く。
そして、届かないものには永遠に届かない。
何とシンプルなことだろう!
もしかしたら、宇宙は学者が思っているより
ずっと平易で単純なものなのかもしれない。
難しくしているのは、学者たちのほうだ。
学者は虚栄心に彩られた名誉欲に邁進する。
謙虚でいることをいつの間にか忘れてしまった……。
ふいに、アインシュタイン博士の言葉が脳裏をよぎった。

「私の成功の秘訣がひとつだけあるとすれば
ずっと子供の心のままでいたことです」


あの盲目の女は今も星や風と対話しているのだろうか?
俺とは何と住む世界が違うことだろう……。
サイトーは自嘲的に笑うと路地裏に入り、そこにたむろしている子供
たちにチョコレートを全部分け与えた。
ひとりの子供の女親がサイトーに色目を使って合図している。
サイトーは女の誘惑を無視し、踵を返すとさっさと路地裏を後にした。

その盲目の彼女こそ、トグサの初恋の少女であることを
サイトーもトグサも現在もなお、知らないままである。



***了***

359天の声?:2010/02/28(日) 21:30:18 ID:eq9u1lq9
途中、「天の声」の名前欄の番号がだぶってしまったことを
お詫びします……
360名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 02:00:21 ID:pXX4sdGh
乙!
でもパズじゃなくてサイトーなの?
361名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 05:44:45 ID:lj24V6LJ
うわっ、間違えた
すみません
ご指摘ありがとうです
サイトーではなくパズです
キャラがごっちゃになってました

すみません
逝ってきます…
362名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 21:20:58 ID:SEAmHUjW
>>361
GJです!トグサの初恋の人の続きですね。
面白い結末で良かった。

ところで、この話についての業務連絡なのですが、
よかったら避難所へ返事をいただけますか?
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/2964/1232121471/l50
攻殻機動隊エロパロスレ@避難所
363名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 13:53:48 ID:vKGq9CNs
前回はキャラを混同してしまったため、今回再度リベンジします!
今度こそ、サイトーが主人公です。近日中にアップします。
よろしくです。
364春愁1:2010/03/05(金) 12:20:23 ID:95LFDbdc
番外・サイトー編、upします。
ちなみに前編は15レス、後編は4レス、合わせて19レスあります。
(長くてすみません…)
ここはエロパロ板ということで、後編4レスは、エロあります(汗、汗、
ところで、この板は連投が何レスまでなのか皆目不明です。。。
途中で連投規制がかかっても、規制が解除され次第、
必ず最後まで続投しますので、よろしくお願いします。


前編 「春愁」

1
三月三日、雛祭りの夕刻。
トグサはいつになく浮き立った気持ちで九課を出た。
急な事件も入らなかったし、定刻に九課を出られたことに
トグサはほっとしていた。
今日は言わずと知れた雛祭りの日だ。
トグサは娘のために雛祭りのケーキを買って帰る約束をしていた。
妻は昨夜たっぷり愛し合ったせいもあり、機嫌よくトグサを
送り出してくれた。
ドグサは顔がにやつかないようにわざとしかめ面をして一日を
過ごした。

トグサがいつも雛祭りのケーキを買う店は決まっていた。
街角の小さな店だ。
この店でトグサはクリスマスケーキや誕生日ケーキを予約し
毎年買っていた。

信号が青に変わり、渡ろうとした瞬間、その店から大きなケーキの箱を
抱えたサイトーが出てきた。
確か、サイトーは甘いものは苦手だったような……?
ということは、誰かへのお土産か。
トグサは手を挙げてサイトーに合図しようとしたが、ポーカーフェイスの
サイトーの顔色がいつもよりさらに沈んでいるのを見て、呼び止めるのを
ためらった。
365春愁2:2010/03/05(金) 12:20:52 ID:95LFDbdc
2
サイトーはそのまま停めてあった車に乗り込むと、見る間に
走り去っていった。
トグサはサイトーの固い表情が気になったが、すぐに気を取り直して
ケーキ店に入っていった。
「トグサ様。ご予約の雛祭りのケーキ、ご用意できてます」
てきぱきとした若い店員は手際よくケーキをトグサに渡した。
「あの、今出て行った男の人、彼もケーキ買ってったよね」
「はい。毎年ご予約いただいてますよ」
「……毎年?」
「はい。もう五年になります」
「えっと、それってやっぱり雛祭りケーキ?」
「はい」
サイトーの姪だろうか? でも、変だな、サイトーに姪っ子がいるなんて
聞いたことないな……。
まあ、普段から無口だし、ポーカーフェイスだしなあ。
まさかサイトーの子供ではないと思うけど、、、
いや、これ以上他人のプライバシーを詮索するのはやめよう。
誰にだって踏み込まれたくない領域があるんだし。
トグサはサイトーへの好奇心を追い払うと、勢いよく車を発進させた。
366春愁3:2010/03/05(金) 12:21:16 ID:95LFDbdc
3
家に帰ると娘も妻も上機嫌でトグサの帰りを待っていた。
特に娘はトグサの買ってきたケーキを見るとさっそく飛びつき
美味しそうに頬張った。
桃の花をかたどったピンクの生クリームが何とも愛らしい菱型ケーキだ。
妻もここのケーキは大好きで、ダイエットしているにもかかわらず
この店のケーキに限り解禁のようだ。

その夜、妻はほてった身体で何回もトグサを求めてきた。
トグサも妻の要求に応えて思い切り妻の身体をひらく。
こんなとき自分は九課のなかで唯一の妻子持ちであることを、
幸福に思う。

妻がこらえきれずに声を出す。
「どよしよう、聞こえちゃうわね」
「いいさ、娘も大人になれば、僕たちが愛し合ってたことがわかるさ」
「夫婦が仲良しっていいことですものね」
「ああ」
トグサは妻を後ろ向きにさせると、思いきり何回も突いた。
367春愁4:2010/03/05(金) 12:21:50 ID:95LFDbdc
4
翌朝――。
九課の駐車場に車を停めるとサイトーが立っていた。
「お早う、珍しく早いじゃないか」
「……ああ、ちょっとな。ところでトグサ、今日時間取れないか?」
「うん? いいよ」
「じゃあ、仕事終わったらミモザというバーに来てくれ」
サイトーはミモザのマッチをトグサに渡すとすたすたと歩み去った。

夕方、トグサがミモザに行くとすでにサイトーは来ていた。
トグサはウィスキーの水割りを頼んだ。
「俺のこと、昨日ケーキ屋で見ただろ?」
「ん? ああ」
「毎年あの店で雛祭りのケーキ買ってるんだ。もう五年になる」
「……」
「ある事情で施設に入っている女の子がいて、その娘のために
買って持っていくんだ」
「あそこのケーキはうちの娘も大好きだし、その娘も喜んでるだろな」
「……昨日、もう来なくていいと言われた」
「え?」
「断っておくが、その娘は俺の隠し子とかそういうんじゃない」
「ああ」
「五年前、その娘の母親は俺に狙撃されて死んだんだ」
368春愁5:2010/03/05(金) 12:22:17 ID:95LFDbdc
5
「五年前って、まさかあのときの……?」
「ああ、あの事件さ。トグサが九課に配属される三ヶ月前だった」
「いや、でも政府の公式発表では撃ったのは仲間割れしたテロリストの
一人だと言ってたぞ」
「表向きはな、でも実際に撃ったのは俺だ」
「……」
外はいつの間にか雨が降り出していた。


――五年前。
「闇の時代」と呼ばれ、反政府の過激派テロが横行した日々があった。
政府はどのようなテロも決して許してはならない、その場でテロリストは
即刻射殺して可、という命令を下した。
中には武器らしい武器ももたない穏健派の反政府地下組織もいたのだが
政府はそうした反分子もすべてテロリストと見做し、射殺してよしとの
指令を出した。

サイトーには当時気に入っていた小さな定食屋があった。
その店は夫に先立たれた女主人がひとりできりもりしていた。
店の壁には、サンゴ礁や深海でしか見られない珍しい魚たちの写真が
四方に飾られていた。
その中の一枚にサイトーは目を留めた。
藍色の海中に綿のような白い雪が一面に舞っている。
369春愁6:2010/03/05(金) 12:22:42 ID:95LFDbdc
6
「マリンスノウっていうのよ」
女主人の十歳になる娘がサイトーに話しかけた。
「マリンスノウか、きれいだな……」
「パパが撮ったの。パパはダイバーだったのよ」
「いい写真だな」
女主人はサイトーと娘のやりとりを微笑みながら聞いていた。

サイトーが足繁く通うので女主人はお惣菜を一品おまけでつけてくれる。
サイトーはそんなささやかな心遣いがとてもうれしかった。
娘もサイトーになついた。
「おじちゃん、なにしてるひと?」
「う〜んとね、ビルの管理人」
「かんりにん?」
「ビルのなかでいろんなお世話をしてくれる人よ」
女主人は笑いながら娘に言った。
370春愁7:2010/03/05(金) 12:23:04 ID:95LFDbdc
7
たいていの定食屋は夜になると飲み屋になるのだが、その店は朝昼夜の
三食のみの酒なしの定食屋で通していた。
酔っぱらいが大嫌いなサイトーはそれがその店を気に入っている理由の
ひとつだった。
店はだいたい夜の九時には看板を下ろしていた。
女主人はサイトーに好意を抱いていたし、サイトーもまた彼女が
好きだった。
看板を下ろし、娘を寝かしつけたあと、ふたりがひそかに大人の秘密の
時間を持つようになるのにさほど時間はかからなかった。
普段は無口でポーカーフェイスのサイトーの愛しかたは激しかった。
女主人が、もうこれ以上無理と懇願しても何度も何度もイカせるのが
サイトーのやり方だった。

小さなテロは日常茶飯事に起きていたが、そのほとんどは公安に未然に
抑えられ、しばらくは平穏な日々がつづいていた。
テロの情報はことが起こる前に公安九課の諜報がほとんどおさえていた
からだ。

平穏な日がつづいていたということもあり、また、季節も少しずつ春めいて、
そんな気の緩みを突くように、その事件はある日突然起こった。
371春愁8:2010/03/05(金) 12:23:25 ID:95LFDbdc
8
その日、新トーキョードームでは大きな催し物が行われていた。
新トーキョードームは旧ドームの倍以上の30万人を楽に収容できる
大きなドームである。
催し物の最終日ということもあり、ライヴでテレビ中継が行われていた。
実はこの日、某国の大使が極秘でドームを訪れていたのである。
お忍びということで護衛はほんの数人のみ。
入場の際のチェックもいつもより緩やかなため、一般人たちも気軽に
訪れていた。
大使の護衛たちはものものしくならないよう細心の注意を払いながら
周囲に目を光らせていた。

大使はとあるブースに目を留めた。
ブースの四方は水槽で占められており、その水槽には毬藻が入って
いた。
大使は愛らしい毬藻を見ると目を細めた。
国にいる娘にぜひこの毬藻を見せたいので毬藻を持ち帰りたい旨を
付き人に話した。付き人はさっそくブースの責任者と交渉に入った。
護衛も愛らしい毬藻に一瞬だけ見とれた。
その隙を突くように大使は水槽の陰から飛び出した黒ずくめの武装服
姿の何人かによっていきなり後ろから羽交い絞めにされ、銃口を頭に
突きつけられた。
372春愁9:2010/03/05(金) 12:33:46 ID:95LFDbdc
9
武装服のひとりがドームの天井に向けて威嚇発砲した。
つんざくような悲鳴、我先にと出口に向かう人々の群れ。
しかし、時すでに遅し、出口はすべて扉が閉められており、扉の前には
武装したテロリストたちが銃を構えて立ちはだかっていた。
大使に銃口を突きつけた武装服の人間が帽子とマスクを外した。
女だった!

女はマイクを持つとテレビカメラの真前に悪びれもせずに立った。
「われわれは腐敗したこの国を再起動させることを願うものだ。
政府に要求することがある。
ひとつ、直ちに内閣総理大臣を更迭せよ。
ひとつ、大臣、高官、役人はすべて退任せよ。
ひとつ、そのものたちが退任するにあたり、私有財産をすべて
没収する。
以上の要求を呑まないなら、この場で大使を射殺する。そして、ここにいる
30万人の命も道連れとして抹殺する。
われわれはすでに爆弾を仕掛けた。以上だ」
373春愁10:2010/03/05(金) 12:34:24 ID:95LFDbdc
10
公安九課にも直ちに出動が要請された。
「いいか、決してテロリストに屈してはならい。そのためにはいかなる手段を
使ってもかまわない。大使と30万人の命を救うのだ!」
新巻の目は怒りに燃えていた。

サイトーは食い入るようにテレビ画面を見て愕然となった。
あの定食屋の女主人ではないか!
いつものたおやかな笑みはそこにはなく、黒い武装服に身を包んだ
彼女は女豹のような鋭さを漂わせていた。
サイトーの驚愕した顔を見て草薙素子は声をかけた。
「どうした? 知っている人間か?」
「ああ、知っているもなにも俺の行きつけの店の女主人だ」
「なに? それは本当か?」
「間違いない……」
「行くぞ!」

イシカワは爆弾の仕掛けてある場所を探り当てた。
爆弾はドームのS扉のそばの火災報知機に仕掛けてあり、遠隔操作で
爆破するようになっていた。
素子「イシカワ、解除できそうか?」
イシカワ「今やってる。しかし、これはまた随分古い仕掛けの装置だ。
古すぎて最新のコンピュータの起爆装置解除コードはてんで歯が立たん」
374春愁11:2010/03/05(金) 12:34:56 ID:95LFDbdc
11
素子「パズ、ドームの最適な射撃位置はどこだ?」
パズ「天井にステンドグラスが一箇所だけ嵌め込まれている。
狙撃するとしたらそこからだ」
素子「ステンドグラスの硬度はどうだ?」
パズ「たいして硬くない。このステンドグラスを作った職人はこだわりの
職人で、安全面を考えた強度な硬質ガラスは断固拒んだそうだ。
外からの光が自然な色に反射しないからと」
素子「よし! よく調べた。イシカワ、そっちはどうだ?」
イシカワ「あと5分もあれば解除できる。ガキだった頃を思い出したぜ。
俺も伊達に年はとってねえ。俺のアナログ趣味がこんなところで役に
立つとはな」
素子「サイトー、イシカワが起爆装置を解除すると同時にあそこから
ステンドグラス越しに女を狙撃する」
サイトー「……」
素子「サイトー、返事は?」
サイトー「了解」
375春愁12:2010/03/05(金) 12:35:21 ID:95LFDbdc
12
サイトーは葛藤しながらもステンドグラス越しにゆっくりと銃の照準を合わせた。
照準はぴったりだ。1ミリの狂いもない。
俺が引き金を引けばあの女はたちどころに死ぬ……。
娘は、残された娘はどうなる?
素子はサイトーのこころの迷いを見透かしたように言い放った。
素子「いいか、あの女はおまえの知っている女ではない。
あれは女である前に卑劣なテロリストだ。私情を捨てろ!」
素子にイシカワから解除の一報が入った。
素子「撃て!」
サイトーは引き金を引いた。

銃弾は女のこめかみを正確に打ち抜いた。


娘は名前を変えさせて都心から車で二時間ほどの養護施設に引き取られた。
入園当初は重度の記憶障害に陥っており、誰とも口を聞こうとしなかった。
サイトーは毎年雛祭りになるとケーキを持って園には訪れるものの、
園長にケーキを渡して帰るだけだった。
園長にケーキを渡す際にも自ら名乗ることは決してしなかった。
376春愁13:2010/03/05(金) 12:35:53 ID:95LFDbdc
13
そして、今年――。
サイトーがいつものように園長にケーキを渡し、施設の門から出ようとした
ときだった。
「……やっぱりあなただったのですね。毎年雛祭りにケーキを届けて
くれたのは」
目の前に十五歳になった娘が立っていた。
五年も顔を見ないうちに随分と背丈も伸び、大人びている。
サイトーは動揺を隠せなかった。
「……」
「ここではわたしの母がテロリストだったことを、知っている人はひとりも
いません。園長先生もよくしてくださいます」
「……」
「ここに来たおかげで中学も無事に卒業できます」
「卒業したらどうするんだ?」
「K町の水産加工場で働くことに決めました」
「進学しないのか?」
「はい。園長先生は進学することを勧めてくださいました。
わたし勉強は好きです。でも、わたしは働きたいんです。
それにね、働きながらでも勉強はできますよ。大検は受けるつもりです」
「……それにしてもなぜK町なんだ? 働きながら勉強するなら都市部の
ほうがなにかと便利だろ?」
377春愁14:2010/03/05(金) 12:36:28 ID:95LFDbdc
14
「K町には海がすぐそばにあるでしょう? あの海は父が生前によく
潜った海なんです。母が昔、わたしに話してくれました。
わたしも父の愛した海に潜ってみたいんです。そして、マリンスノウを
この目で見てみたいんです」
「マリンスノウって、店にあった写真の?」
「そうです。よく覚えていてくださいましたね」
「……あの写真はきれいだったな」
サイトーは遠い目をしてつぶやいた。
「母はこの国を変えようとして間違った方向にいってしまったけれど……、
わたしには父が愛した海もあるし、やさしかった母の思い出もあります。
だから、どうかわたしを可哀想だなんて思わないでくださいね」
「ああ」
「わたしは、一週間後にはK町に行きます。園長先生には本当によくして
いただいたから、年に何回かはわたしもここを訪れようと思っています。
でも、サイトーさんはもうここへは来ないで欲しいんです」
「……」
「だって、誰も知らない町でひとりでがんばろうってやっと思えるように
なったのに、帰ってくるたびにサイトーさんの顔を見たら、わたし決心が
揺らいじゃうから……、だから、だから、どうか……」
セーラー服の細い肩がふるえている。
泣くまいと必死にこらえている娘がいじらしい。
「わかった。約束するよ。二度とここへは来ない」
サイトーは愛おしさで胸がいっぱいになり、抱きしめたい衝動をぐっと
おさえた。
忘れるな! 俺はこの娘の母親を殺したんだ、この手で!
いかなる正当な理由があろうとこれはまぎれもない事実だ。
378春愁15:2010/03/05(金) 12:37:07 ID:95LFDbdc
15
外の雨はいよいよ激しくなり窓には雨滴が滝のように流れている。
「……春の雨は、こうしてひと雨降るたびにあったかくなっていくんだろうな」
話しを聞き終えて、トグサが外を見ながらつぶやいた。
「K町の春はどんな春なんだろうか……」
サイトーが沈んだ声で言う。
「海面がどんなに荒れてようと、ひとたび海のなかに潜れば、静かだと
聞いたことがあるな」
「うん」
「海に降る雪、マリンスノウか。俺も一度見てみたいものだ」
「ああ」
「聞きかじりの知識なんだが、マリンスノウはプランクトンの死骸なんだね。
マリンスノウは1日に数十mから数百mの速さで沈んでいき、
やがて深海に生息する生物の餌となる。
深海は太陽の光も届かないため、浅い海に比べて生息する生物の数が
極端に少なくなるので、深海に生息する生物にとっては貴重な栄養源と
なるんだそうだ」
「……」
「その娘の父親の死も、そして母親の死もその娘にとっては決して無駄な
ものではないと思う」
「それは、マリンスノウという骸(むくろ)が深海の生物たちの命を生かして
いるのと同じように、ということか…?」
「ああ。こじつけと思われるかも知れんが、俺はその娘の両親の死が
今後もその娘を生かすんだと思ってる」
「死は終わりではなく、生へと還っていくんだな……」
379春愁16:2010/03/05(金) 12:41:37 ID:95LFDbdc
16

サイトーは娘にもう一度逢いたいと湧き上がる気持ちを懸命に抑えていた。

トグサもそのまま黙り込み、ふたりはそれぞれの想いに耽っていた。
……薄暗い店内には雨音だけが静かに響いていた。




***「春愁」・了***

380マリンスノウ1:2010/03/05(金) 12:56:22 ID:95LFDbdc
後編 「マリンスノウ」


≪1≫
娘がK町に発って半年が過ぎていた。
サイトーは娘のいる町に行くことを決めた。

K町に降り立つと、空は澄み渡り真夏の濃い緑が美しかった。
サイトーは水産加工場には寄らずにまっすぐに海に向かった。
海は凪いで穏やかだった。
車からダイバー用具一式を取り出し、潜水服に着替えた。
そのときふいに岩陰から出てきた人影があった。
「サイトーさん! どうしてここに?」
「……海に潜ってみたくなって」
「わたしもこれから潜るところなんですよ。よかったら一緒に
潜りませんか?」
「そうしてもらえると助かる。実はまだ二回目なんだ」
娘はサイトーが酸素ボンベを装着するのを手際よく手伝ってくれる。
「わたしと手をつないでくださいね。一緒に海に入りましょう」

海の中は幻想的で神秘的な美しさに満ちていた。
ゆらゆらと揺れる海草たち、紅淡色、トパーズなどさまざまな彩りを
見せる誇らしげなサンゴ礁。
優雅に尾ひれをくねらせて踊る魚たち、そして、淡いぼたん雪の
ような色合いの海の中一面に降るマリンスノウ。
マリンスノウはサイトーと娘の全身にも次から次へと舞い降りてくる。
381マリンスノウ2:2010/03/05(金) 12:56:51 ID:95LFDbdc
≪2≫
そこは言葉のない世界だった。
無口でポーカーフェイスのサイトーには最高の世界だった。
なぜなら、言葉のない世界では、愛を伝えるには言葉は不要だから。
サイトーは娘と手をつないだまま、無言のまま互いの目と目を
水中メガネ越しに合わせた。
それはお互いを欲しているまなざしだった。
サイトーが娘の手を強く握り直すと、娘も応えるように強く握り返してくる。
それだけで充分だった。
海のなかでは、言葉はいらない。

ふたりはゆっくりと海面に浮上した。
互いに潜水服を脱ぎ捨てると、無言のまま激しく唇を重ねた。
弾力のある娘の身体はまだ硬さを残している。
幼なさを宿した乳房はそれでもサイトーの手に余るくらいに膨らんでいた
サイトーの指はせわしなく動き、娘の乳首を捻るように摘まんだ。
「ああっ!」娘は身体をよじらせる。
サイトーは、さらにもう片方の乳首を音を立てて思いきり吸った。
かなり長い時間をかけて焦らすように乳首を甘く噛み、交互に
吸ってやると、娘の顔が上気してきた。
もっと、もっととせつなげにサイトーを求めているのがわかる。
サイトーは手を下のほうへと伸ばした。
目的地を探り当て指で開くとすでにしっとりと潤っている。
銃口をぴったり照準に合わせるのはサイトーのもっとも得意とする技だ。
サイトーは身体を密着させると娘の両脚を開き、ゆっくりと挿入した。
382マリンスノウ3:2010/03/05(金) 12:57:17 ID:95LFDbdc
≪3≫
「ううっ……!」
娘の顔は苦痛に歪み、初めて経験する痛みに声をあげた。
……そうだよな、まだ十五だものな、無理もない、、、
「……やめておくか?」
労わるようにサイトーはかすれた声でたずねた。
娘はいやいやするようにかぶりを振る。
「つづけても、いいのか?」
こっくりと娘は頷いた。
サイトーは根元までぴったり挿れると少しずつ腰を動かし始めた。
娘は必死に痛みをこらえている。
ひとたびオスの本能に火がついた若いサイトーの欲望は
もう誰にも止められなかった。
娘のなかはあたたかく湿って、サイトーをすっぽりと包み込んだ。
……ああ、まるで海の中にいるようだ。

実は潜水中、サイトーの理性は海に包まれてすべて吹き飛んでしまっていた。
原始、最初の生命体は海で宿った。生殖行為を肯定するのは昔も今も
まぎれもない海だ。だからヒトは海のなかではあらゆるものから、倫理からも
解放される。
サイトーが娘の母親を撃ったことも、娘が未成年であることも、
海はヒトの欲望には限りなく寛容であり、すべてを許した。
383マリンスノウ4:2010/03/05(金) 12:57:46 ID:95LFDbdc
≪4≫
サイトーの欲望はとどまることを知らない。加速していくのみだ。
サイトーの動きがこれ以上にないほど速まり、クライマックスが訪れた。
「茉…莉…花、茉莉花ーーーーーっっっ!!」
サイトーはうめきながら、茉莉花のなかで一気に果てた。
茉莉花の目からひとすじの涙がこぼれている。
「……うれしい、初めてわたしの名前、呼んでくれたのね」
自分の性急さを後悔していたサイトーにとって、茉莉花の言葉は
彼にちからを与えてくれた。
「このまま、ずっとずっと一緒にいたいの…」
俺はひとりの男として茉莉花に求められている!
サイトーの肉体はみるみるうちに猛り立った。
自信にあふれたサイトーはふたたび茉莉花を求めた。
茉莉花もサイトーに応えた。
野生の獣のように、幾度も幾度もサイトーは茉莉花に挑んだ。

いつしか夕闇が辺りを包み、空には一番星が煌めいている。
ふたりの肉体は身じろぎもせず、ぴったりと重なり合ったままだった。


***「マリンスリウ」・了***

384名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 12:59:20 ID:95LFDbdc
以上です。
長編、失礼しました。

お・ま・け♪

マリンスリウです

http://image.blog.livedoor.jp/dcespadon/imgs/c/1/c1118eb8.jpg
385名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 21:01:44 ID:AF7REfd0
>>384
GJ!とてもよかった!
386名無しさん@ピンキー:2010/03/06(土) 23:36:19 ID:idvmm2Pg
>>384
感動しました。GJ!
ところで「茉莉花」って名前…コピペしましたが、なんて読むんでしょうか^^;?
387名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 00:05:03 ID:BGBeECzV
>>386
人名ならマリカ
花の名前ならマツリカ
388依存 1:2010/03/07(日) 01:06:20 ID:KDZUQwPl

 9課が自分の唯一の居場所のような気がして、ある日突然その事が怖くなった。
 ただの職場、そう、ただの職場である。
 なのに、私は9課の「少佐」であることにいささか依存しすぎていたのかもしれない。

 蜩の声が大気より零れるほどにうるさい季節に、私はその依存に気づいてしまった。

 気づいてしまってからそれは徐々に大きくなってゆき、私の中で溢れかえる。

「素子……」
 バトーの腕の中に、私は在った。
 唇を浅く、幾度が吸い合って、そして相手の中に割り込んでゆき、いつしか貪るように交わしあうキス。
 私は、この男にも依存しているのだろうか。
 首筋を型どおり降りていく舌の感触を、次に含む胸元の桜桃さえ期待してうずき出す。含まれる瞬間に小さく声をあげて、秘肉の内側を潤ませる。
 口元にあるバトーの耳を噛み、突き上げる欲望に煽られる声を耐える。そして耳朶をちゅうちゅうと吸い、溝にそって舌を這わせて、そっと感じる場所を囁いてあげる。
 開いた腿の内側にバトーを挟んで、目覚めかけた秘部を押し当てる。再び舌を絡ませて、口腔内の感じる場所を探り合い、ピチャピチャと音を立てて煽る。
 舌で濡らされた乳首の周囲をぐるぐると指で園を描きながら、バトーは私を背中から抱き治す。うなじから背中へ、舌で嘗められ、吸われ、甘噛みされて全身が色情を帯びて熱くなり、秘部はゴクンと喉を鳴らす。
 なのに指先すら与えられず、欲しがる場所は溢れる愛液に濡れてしまって。
389依存 2:2010/03/07(日) 01:07:46 ID:KDZUQwPl

「ねえ、バトー」
 その指でも舌でもいい。
 その場所を嘗め上げてくちゅくちゅとたかめて、欲しがって揺れる腰に憐れみと、熱情をと。

 素子はそれにも依存している。
 依存せねば確立しない魂なら、この場を去れば、私はどうなるのだろう。

 相対としての肉体を求めて、バトーの身体に縋り付く。
 やがて交接し、打ち付けられ、より深くと穿たれるその思いは、果たして愛と呼んでいいのだろうか。
 穿たれる思いから零れ出す絶頂に、酔わされて零す涙はもそれは素子の愛なのだろうか。

 他者との意識の交流を重ねた蓄積が見せる、束の間の共同幻想。

 人は、その快楽の果てに、愛を求めるのだ。

 愛に依存して、身体を重ねるのだろうか。

 ならば確かめてみるのも悪くない。

「バトー……私は9課を辞める」

 逝くという代わりに、そう喘ぎを漏らす。

 バトーは驚いた顔をする。その顔にキスを落としながら、私は騎馬位でまた愛を求める。

  
 お わ り
390名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 22:34:11 ID:JTmlNm3x
>>385-387さん
ありがとうございます。

>>386さん
>>387さんのご指摘通り、名前は「まりか」と読みます。
花の名前の場合は「まつりか」=ジャスミンの花のことです。
ちなみに、茉莉花茶はジャスミンティーです。

>>387さん
代弁、ありがとうございます!

>>388-389
GJ! です。
 バトーと素子のショートショートですね。
バトーとの愛を確認するため、交接のさなかに9課を辞めると
つぶやく素子の葛藤がせつないですね・・・


391名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 23:49:22 ID:OlR4Lk40
というわけで、9課を辞めさせていただく。

新職人にあとは任せた。
みんなで温かく育てて欲しい。

私もみんなのおかげで、よい書き手になれたぞ。
ありがとう。



8へ 保管庫格納時は
>園を描きながら、バトーは私を背中から抱き治す。


>円を描きながら、バトーは私を背中から抱きなおす。
に修正、

>私は騎馬位でまた愛を求める。


>私はまた愛を求める。
に修正。

以上。

最後までドジなんだな、私は。
それでは ノシ
392390です:2010/03/08(月) 01:25:51 ID:cOXv5Nck
>>391さん
えっ!
辞めてしまわれるのですか…?
そんな…、寂しいです
上の方に辞めてしまわれると
ものすごく心細いです…
茉莉花の気持ちそのものです…
まだ書き始めたばかりで学びたいことや教えていただきたいことが
たくさんあります
時々は様子を見にいらしてくださいね
お待ちしております
393名無しさん@ピンキー:2010/03/14(日) 18:28:22 ID:+M42irc6
保守
394春の夜の夢1:2010/03/14(日) 20:33:59 ID:xXeq4H+O
「〜春の夜の夢〜」


1
9課で使われているオペレーターは人型汎用AI、アンドロイド03である。
通称オペ子と呼ばれている。
03は9課に配属される前はとある大手の会社に配属されていた。
当時、クゼヒデオはまだ「個別の11人」のリーダー格でもなく、その他大勢の
ひとりであった。
顔も、後に知られる「隙のない整った顔立ち」ではなく、どこにでもいる平凡な
顔立ちの青年であった。

これから語られるエピソードはその頃の話である。


街路樹には少しずつ固い芽が吹き始めていた。
街を行く人たちは冬のコートからスプリングコートへ衣更えし、
軽やかな春風を纏うように歩いている。

03は頼まれた書類を届け終えて、街なかを歩いていた。
書類を先方に届けたらそのまま直帰してもいいと許可を得ている。
ウィンドゥには春らしい色合いの洋服がディスプレーされている。
03は人間ではないので、寒さや暑さとは無縁だ。
一年中同じ制服を着用している。
ふと一軒のショーウィンドゥが目に留まった。
春らしい淡いピンクのワンピースが飾られている。
03はウィンドゥ越しのドレスに見とれた。
「よかったらご試着できますよ」
若い店員が03に声をかけた。
「い、いいえ、ただ見ているだけですから……」
「着てみたら?」
いきなり声をかけた男がいた。
395春の夜の夢2:2010/03/14(日) 20:35:43 ID:xXeq4H+O
2
振り向くと、背の高い男が立っていた。
「……いえ、本当にいいんです」
男は03を促しながら、店員に試着の旨を伝えている。
わけもわからず03はいつの間にか試着室に案内されていた。
こうなったら着てみるしかないわ。
制服以外は着たことがないので、戸惑いながらワンピースに腕を通す。
「いかがですか?」
試着室の外から店員が声をかける。
03はおずおずとカーテンを開けた。
ほっそりとした03にその服はよく似合っていた。
「まあ、よくお似合いですこと!」
店員は感嘆しながら言った。
「うん。まるであつらえたみたいだ」
男は目を細めた。
「これを買おう。あ、包まないでいい。このまま着ていくから」
男は03の戸惑いを無視して勝手に交渉している。

男はカードで支払いを済ませると、03の手を引いて外に出た。
支払いのとき、03はちらりと男のカードの名前を盗み見た。
クゼヒデオ、それが男の名前だった。
クゼは03の髪に手を触れるとポーニーテールを解いた。
「うん、このほうがこの服には合うね」
実はクゼは03の髪を解きながら、03の外部との通信回路をオフに
したのだ。
396春の夜の夢3:2010/03/14(日) 20:37:00 ID:xXeq4H+O
3
クゼは停めてあった車に03を乗せるといきなり走り出した。
「……誘拐ですか?」
「まあ、誘拐といえば誘拐かな」
「断っておきますが、身代金とか要求しても無理ですよ」
「ご心配なく。ほんの少しだけつきあってくれればいいんだ」
車は高級なホテル街に入っていく。
……どうしよう。
03は身を固くした。
車は意に反してホテル街を走りぬけた。
どこへ行くつもりなのかしら?

車は郊外へ向かって走り続けている。
しばらくするとこんもり茂った森が見えてきた。
クゼはスピードを緩めると森の小道のなかに入っていった。
夜の森はしんと静まり返っている。
クゼは一本の木の下で車を停めた。
「おいで」
先に車を降りたクゼは03に声をかけた。
ワンピースの裾を汚さないように03は車を降りた。
397春の夜の夢4:2010/03/14(日) 20:38:33 ID:xXeq4H+O
4
クゼは03の手を取ると歩き出した。
月だけがふたりを照らしている。
ふたりは黙ったまま歩いた。
闇の中なのにクゼの足取りには迷いがない。
義体化しているのかしら?
不思議と03はクゼがこわくなかった。

森林公園と呼ばれる森のなかはライトアップされた梅の花が満開であった。
梅の花は薄闇のなかに白くぼうっと浮んでいる。
「すごい……!」
03は感嘆の声を上げた。
「だろう?」
ふたりは梅林のなかを小一時間ほどかけて観賞した。
クゼはベンチを見つけると03に掛けるように促した。
「……僕は桜より梅のほうが好きでね、こんな春の夜にひとりで観るのは
味気ないしね」
「だから、わたしを?」
「ああ、ワンピースはつきあってくれたお礼」
「ありがとうございます」
「君は他の女たちのようにあれこれ質問しないんだね」
「それは、わたしが……」
「ストップ。僕は君がAIであることをとっくに知ってるよ。ごめんごめん
意地悪なこと言っちゃったね」
398春の夜の夢5:2010/03/14(日) 20:39:57 ID:xXeq4H+O
5
AIにはゴーストがない。
見かけは変わらなくとも、それは義体化した人間との決定的な違いだった。
03はクゼの言葉に何ともいえない気持ちになった。
「僕は明日完全な義体を手に入れる。この身体でいるのは実は今夜が最後
なんだ」
「そうなんですか……」
「めめしい奴だと笑ってくれてもいい、ちっぽけな感傷とでもいうのかな、
さすがに今夜はひとりでいたくなくてね」
「……」
「君を選んだのは理由がある。誰でもいいってわけじゃないんだ」
「え?」
「僕は桜のような華やかな人は昔から苦手でね。清楚で控えめな梅の花の
ような人が好きなんだ」
「ごめんなさい。わたしに搭載されているイメージはわたしが選んだもの
ではなくて、汎用AIをつくった会社がいろんな企業に適するように
してあるだけなんです」
「いいんだよ、そんなことは。僕は今晩君とこうしていられるだけで充分
満足だから」
普段は寡黙なクゼなのに、今夜はいつになく饒舌であることに一番驚いている
のはクゼ自身だった。
今晩限りでこの身体とさよならすることも、饒舌の理由のひとつかも
しれなかった。
399春の夜の夢6:2010/03/14(日) 20:41:28 ID:xXeq4H+O
6
それに、相手がなまじ生身の女だと後々面倒なことになるが、AIだと本心を
語っても相手の外部記憶装置を抹消すればいいだけなので、気が楽だった。
「僕にはこれからやらなければならないことがある。日本を変えるための革命だ。
革命ってわかるかい?」
「……詳しくは知りません」
03にはこの国の平和を乱すような不穏なデータは一切搭載されていない。
「やっと同志たちも集めた。あと少しだ」
クゼはいきなり立ち上がると一本の梅の木肌に触れた。
「かなりの老木だ。冬を耐えてよくここまで来たな……。
そうだ、飛梅(とびうめ)って知ってるかい?」
「はい」
03は自分に搭載されている飛梅に関するデータを淀みなく答える。
「飛梅(とびうめ)は、福岡県太宰府市の太宰府天満宮の神木として
知られる梅で、樹齢1000年を超えるとされています。
菅原道真の京都の邸宅に植えられていましたが、901年(延喜元年)、
道真が大宰府権帥として左遷されると、あとを慕って一夜にして
大宰府に飛んだという伝説で知られる梅のことです」
「うん、その通りだ。じゃあ、この歌も知っているね」
『東風吹かば匂い起こせよ梅の花 主なしとて春な忘れそ』




7
「はい。大意は、春になり東風が吹いたら、たとえわたしがいなくなっても
咲いて欲しい。主のわたしがいなくてもどうか春を忘れないでおくれ、
という意味です」
「人はやっぱり自分がそこに居たことを誰かに覚えていてほしいんだな。
たとえ、明日死ぬ運命であっても……」
クゼは長いこと黙ったまま、梅の木の下で立ち尽くしていた。
夜半の月がクゼの横顔を照らしだした。
クゼの目尻にはかすかな皺が刻み込まれているのを、03は見つけた。
それは自然なとてもいい感じの皺だった。
03はそのことを口にだそうかと迷ったが、とうとう言わず仕舞いだった。
「さてと、そろそろ帰るか。つきあってくれてありがとう」
クゼはそう言いながら03をやさしく抱擁した。
そして、抱擁しながら03の今夜の外部記憶を抹消した。

気がつくと03はAI保管センターの前に立っていた。
AI保管センターとはAIを管理するためのセンターであり、AI保管専用の
管理会社が一括してAIを管理している。
管理人は03を識別すると保管庫に入れた。
翌朝、03はいつもの制服ではなくワンピースを着ていることが不思議で
ならなかった。
管理人はいちいちAIの服装までは管理していない。
というのはAIはいろんな企業に斡旋されているため、私服あり、制服あり、
企業の態勢によって着用する服がすべて異なるのは当然だからだ。
400春の夜の夢7:2010/03/14(日) 20:44:43 ID:xXeq4H+O
8
ただ、ひとつだけクゼが意図的に03の外部記憶を残しておいたものがある。
それは梅の花だった。

あの夜から数年後、03は高性能化されて公安9課に配属されてきた。
毎年春になると03は妙な気持ちになる。
「あのう、みなさんは桜と梅とどちらの花が好きですか?」
素子「桜のほうよ。あの潔い散り際が見事だし」
バトー「決まってるだろが、さ・く・ら!」
トグサ「やっぱ日本人なら桜でしょう」
サイトー「桜だ」
パズ「断然桜だな、華がある」
マーボ「桜ですかね」
荒巻「桜じゃ。私は戦争体験者だからな」

『東風吹かば匂い起こせよ梅の花 主なしとて春な忘れそ』
03はぼんやりと口ずさんでみる。、
……梅の花が咲いたら、僕の顔が今君が見ている僕の顔でなくなって
しまっても、どうか君よ、僕のことを覚えていてほしい……。

遠い昔、桜より梅のほうが好きだと言った人がいた。
その人はわたしを梅の花のようだと言った。
顔も、性別もわからないけれど、確かにそんな人がいた。
しかし、なぜこんなにも梅の花が気になるのか、あの夜の記憶をすべて
抹消されてしまった03にはわからない……。



***了***


あまり、エロくなくてごめんなさい・・・
401名無しさん@ピンキー:2010/03/14(日) 22:26:20 ID:+M42irc6
>>400
GJです。クゼとオペ子なんてめずらしい話。

梅はつぼみが、桜は散り際が美しいというから、
梅はオペ子のイメージで、華やかな桜は、やっぱり少佐のイメージですね。
402名無しさん@ピンキー:2010/03/14(日) 22:30:12 ID:+M42irc6
保管庫情報

ttp://wiki.livedoor.jp/motoko9k/d/%a5%c8%a5%c3%a5%d7%a5%da%a1%bc%a5%b8

>>389までのSSを更新保管しました。
>>400さんのSSも保管しています。今日の分は、少し待って下さい。
403400:2010/03/15(月) 13:05:55 ID:O9Eczcmp
>>401-402さん
ありがとうございます!
>梅はつぼみが、桜は散り際が美しいというから、
まさにその通りですね♪
オペ子はサポート的な役割ですので控え目な印象を持ちました。

保管庫の更新、お疲れ様です。
今回の分の保管は急がなくても大丈夫ですよ。
404名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 15:02:47 ID:tUc9PWNe
>>400
GJ
自分は選り好みで読んでいるのですが、これは楽しめました。よい作品をありがとうございます。
405400:2010/03/15(月) 17:15:41 ID:O9Eczcmp
>>404さん
ありがとうございます!
楽しんでいただけたようで、大変うれしいです♪
まだまだ未熟者ですが、励みになります。
406名無しさん@ピンキー:2010/03/21(日) 21:18:15 ID:BNsodS7P
保守
407ジェリにさよならを1:2010/03/22(月) 16:19:41 ID:vyh5CglY
1
「ジェリにさよならを」


カナダ大使の令息、マーシャル・マクラマランが汎用人型アンドロイド「ジェリ」と
同じ型番にウィルスを仕掛けて次々と自壊行動に至らしめた事件は、記憶に
新しい。
あのとき、ジェリにゴーストが宿ったのではないか? と9課ではもちきりだった。
バトーはタチコマを見ていて「Yes」の方向へ意見が傾きかけていた。
彼らは並列化できるまでになったが、それ以上に個々の嗜好というか、
自我のようなものが芽生えつつあるのを感じとっていた。
それは9課にとって好ましい状況なのか、あるいは、好ましくないものなのか
未だ判断がつきかねていた。

「そういや、大使の息子が恋人として使っていたあの最後の型番のジェリは
どうしたんだろ?」
バトーはジェリの最期が気になって誰にともなく質問した。
「ああ、あれなら製造会社のほうで解体したんじゃないですか?」
トグサがカップにコーヒーを注ぎながら答えた。
「そうか、解体されたか……」
「まあ、あんな事件の後だったし、会社は回収して即行処分てとこでしょうね」
「確かにジェリは旧型だったしな。新型が出てくると取って代わられるってことか」
「人間の欲望や利益のためだけにつくられて、不要になればポイ捨てって
何だかやりきれませんね」
「製造会社が儲けるための使い捨てアンドロイドってとこがなあ……」
「ほ〜んと。マッチョな男の嗜好にのみ合わせてつくられるなんて、ね」
素子がふたりの会話を耳にしてつぶやいた。
408ジェリにさよならを2:2010/03/22(月) 16:20:28 ID:vyh5CglY
2
あの事件があった後、ジェリは製造会社の解体処理用の倉庫に積み込まれていた。
そこには使い捨てられた少女型セクサロイドや新型の恋人用人型のアンドロイドたちが
がらくたのように山積みされていた。
作業員たちは毎日何百体と運び込まれるアンドロイドを乱暴に放り投げていく。
処分されるアンドロイドにはもう商品価値がないので、扱いも乱暴になるのだ。
その日は作業がことのほか早く終えたようで、作業員たちは残業することもなく
倉庫を出ていった。

わたしはあとどれくらいで解体されるのだろう?
ジェリは積まれたときのままの格好でじっとしていた。
倉庫の前を走り抜けた車から古い映画の主題曲が聞こえた。
マーシャル・マクラマランが映画を好きだったこともあり、ジェリの記憶には映画の
さまざまなテーマ曲が記憶搭載されたままだった。
どうせ近いうちに解体されるのであれば、その前にひとりで街に繰り出してみたい、
そして、ひとりで映画を観てみたい、ジェリは唐突に思った。
ジェリの行動は素早かった。
瓦礫の山からするりと抜け出、スカーフで顔を包むと倉庫の天窓からひらりと
外へ舞い降りた。

国道を避けて細い裏道ばかりを何時間も歩き続けた。
そして小さな古びた映画館をどうにか探し当てた。
ジェリはチケットを買うと、映画館に入っていった。
409ジェリにさよならを3:2010/03/22(月) 16:21:26 ID:vyh5CglY
3
館内にはひと気はほとんどなかった。
上映していたのは「シベールの日曜日」という古いフランス映画だった。
戦争でこころに傷を負った青年と家族から捨てられた少女の至純の愛を
描いた、とても悲しい物語だった……。
映画が終了したあともジェリは座席から立つことはなく、じっとしていた。
「映画史上に残るラストシーンだよね」
後ろの席から、ふいにジェリに話しかけたのは若い男の声だった。
男はフード付きの青いパーカーを羽織っており、まだ学生のようにも見えた。
「今夜はここ、僕たちのほかは誰もいないんだね。まるで貸切状態だ」
「そうね」
「ここ、オールナイトだけどこのままずっと朝まで観続けるの?」
「ええ」
「いいね! 実は僕もそのつもりでいるんだ」
15分の休憩のあと、次の回の映画が上映された。
「ローマの休日」、「ライムライト」、「カサブランカ」、朝まで数本の名画が次々と上映
されていった。

すべての映画が終わり、ジェリは席を立った。
男の姿はどこにもなかった。
途中で帰ったのかもしれないわ。
映画館から出ると朝日がまぶしかった。
410ジェリにさよならを4:2010/03/22(月) 16:22:41 ID:vyh5CglY
4
さて、これからどうしようかしら。
映画は観たし、いくら解体される予定とはいえこのまま倉庫に真っ直ぐ帰るのも
何だし……。
「君、家出してきたの?」
先ほどの映画館の男がふたたび声をかけてきた。
「……」
「ご心配なく。警察に通報するほど野暮じゃあないよ」
男の青いパーカーには「AOI」のロゴが入っている。
この人の名前かしら?
「ああ、これね。アオイ、他の人たちは僕をそう呼んでいる」
ジェリの視線がロゴに留まったのを見てとるとアオイは答えた。
「わたしは、ジェ……」
言いかけてジェリは口をつぐんだ。
「ジェリ」はこの間の自壊事故が頻発した旧型アンドロイドの品名だ。
ニュースになってしまった以上、いくら旧型とはいえ、すでに認知度の高い
名前だ。
「そうだな、君の名前はアンでいいかな?」
「アン?」
「ローマの休日のアン王女、素敵だったよね? シベールでもいいんだけど
少し呼びにくいしね。だから、今から君の名前はアン。僕が命名者だ」
アオイはジェリをそう呼ぶと歩き出した。
そうか、この若い男はアンという名前のわたしにお芝居を演じさせようとして
いるんだわ。
これまでしてきたように恋人の役割でいいのかしら?
ほかの役割はしたことがないし……。
411ジェリにさよならを5:2010/03/22(月) 16:23:40 ID:vyh5CglY
5
アオイはジェリの手をつなぐこともせず、また、エスコートするでもなくひとりで
どんどん歩いていく。
恋人用につくられたジェリはアオイの行動に困惑してしまった。
たいていの男たちは恋人用のアンドロイドであるジェリに甘い言葉をささやき、
花束を捧げ、キスをし、ベッドに誘う。
ジェリはつねに男の言うことに従い、簡単な料理をこしらえたり、部屋を掃除したり
疲れている男たちを慰め、決して逆らわない。
ジェリはいつも綺麗な格好をして、上品にほほ笑むことをのみ強要されてきた。
それが恋人用のアンドロイドの役割であり、製造会社もそれだけの機能を搭載
している。事実、ジェリはこれまで男を失望させたことは一度もなかった。

アオイはジェリの思惑などまったく構わずに、書店に立ち寄ったり、CDショップに
ふらりと入って新曲の試聴をしている。
公園に入ってさっさとベンチに座ると先ほど書店で買って来た本を読み始めた。
まるで、わたしなんかいなくてもいいみたい……。
今までこんな仕打ちは受けたことはなかった。
男たちは「恋人」用にジェリを購入した以上、それなりにジェリを大切に扱って
くれた。無視されたことは一度もなかった。
「わたし、帰るわ。お邪魔なようだし」
ジェリはそう言うとアオイに背を向けて歩き出した。
「え? 帰るの?」
アオイは不思議そうな顔をしてジェリを見つめた。
「だって、あなたはひとりのほうがいいのでしょう? わたしがいてもいなくても
いいみたいだし」
「ごめんごめん、僕、ずっとネットや本ばかり相手にしてたからこういうとき
どうしたらいいのか、女の人との接し方がよくわからないんだ」
頭を掻きながらアオイは謝った。
412ジェリにさよならを6:2010/03/22(月) 16:24:51 ID:vyh5CglY
6
「あなたは、わたしに何をしてほしいの?」
ジェリは単刀直入にアオイに訊ねた。
「う〜ん、そうだなあ、君は君の好きなことをしてていいよ。
そして、時々は一緒に映画観たり、公園のベンチでお互いにそれぞれ好きな本を
読んだり、意見交わしたりするのがいいな」
「男と女がふたりで共有する時間てもっと甘やかなんじゃないのかしら」
「それは恋人たちの関係だろ?」
「……わたしは、あなたの恋人じゃないの? わたしに恋人役を求めているんじゃ
ないとしたら、残念ながらあなたのお役には立てそうにないわ」
「ああ、そうか。もしかして、君は恋人用のアンドロイドなの?」
「知らなかったの?」
「そういうことにはものすごく疎くてね、、、ごめん」
ジェリは自分が間もなく解体されること、倉庫から映画を観るために脱走してきた
ことなどを打ち明けた。
「……だったら、僕の家に来ない? 倉庫からアンドロイドが一体くらい失くなっても
誰もわからないよ」
「わたしはあなたの家で何をすればいいのかしら……?」
「そうだなあ。ともだちになろうよ!」
「えっ! だけど、わたしの搭載機能では、、、」
「僕だってともだちつくるのは初めてさ。お互いに初めて同士なんだ。
試行錯誤しながら一からともだち関係を築いていこうよ」
ジェリはこくりと頷いて握手するため手を差し出した。
それは、初めて自分で示した意思表示だった。
恋人同士にはいつか別れが訪れるが、友情には終わりがない。
そんな思いが、ふいにジェリの脳裏をよぎった。
ならば、わたしはこれから恋人としてではなく、ともだちとしてこの人のそばに
いよう。

「アン、着いたよ」
今日から恋人用の名前のジェリではなく、わたしの名前はアンなのだ。
わたしは今日、生まれ変わる!
さよなら、ジェリ、さよなら、恋人役のわたし……。
「初めましてアオイ、よろしくね」
「初めましてアン、こちらこそよろしく」

葉桜がやわらかなみどりの風をふたりに送っていた。


***了***

413名無しさん@ピンキー:2010/03/22(月) 16:27:18 ID:vyh5CglY
SAC3話「ささやかな叛乱」、その後の顛末です。

葉桜の季節にはまだ少しありますが、若草が萌え出る季節です。
新学期、新学年と新しい季節を意識して、若いふたりの出逢いを
書いてみました♪
414名無しさん@ピンキー:2010/03/22(月) 21:41:25 ID:adjzBMOB
GJです!
415名無しさん@ピンキー:2010/03/22(月) 23:40:52 ID:wbvyVWh/
>>413
GJ!いつもありがとう。
416春風は桜色1:2010/03/27(土) 17:35:59 ID:Fx8V/ecz
「春風は桜色」


1
公安9課では毎年恒例で花見をすることが行事となっている。
もはや慣例といってもいい。
場所取りはくじ引きで当たった者が朝早くから陣取るのであった。
今年の花見の場所はT川の土手に決定した。

「えっ! 自分かよ……」
ボーマは引いたくじを開いて絶句した。
「よろしくな!」
バトーがボーマの肩を叩いてニヤリ、と笑う。
「わかりましたよ」
「いい場所、頼むぜ」
トグサがウィンクしながら言う。
「あ〜あ、こんなときこそアンドロイド使えばいいのにな……」
ボーマはため息をついた。
「なに言ってるの! お花見はね、この日本国の国花である桜を観賞
するという神事に近い行事なの! だ・か・ら、アンドロイドではなく
人間が自分の時間と足を使って桜を拝ませていただく場所を確保しなければ
意味がないの! 爆発物処理だけでなく、これも大切な仕事のひとつよ」
素子は鼻息荒く言い放った。
「……わかりましたよ」
「素直でよろしい。さ、3日前から場所取り開始よ」
素子がにっこりと笑う。

ボーマはいったんセーフハウスに帰ると、徹夜するためのテントや花見用の
シートを取り出した。

ミキちゃんはこの春から小学生になったばかりである。
初めて背負うランドセルはまだまだミキちゃんには大きい。
愛犬ロッキーの死は悲しかったが、時の流れは少しずつであるがミキちゃんの
悲しみを癒しつつあった。
学校の帰りに土手の上を通るとお花見の場所取りをしている人たちが何人か
見えた。
そういえば、ロッキーが死んだのも桜の咲くころだったわ……。
今でも在りし日のロッキーの姿はミキちゃんのこころにしっかりと根を下ろした
ままだ。
417春風は桜色2:2010/03/27(土) 17:37:44 ID:Fx8V/ecz
2
ねえ、ロッキー、天国からこの桜が見える?
お父さんとお母さんと、そしてロッキーもいっしょにこの土手でお花見を
したのよね。
ロッキー、天国はどうですか? 天国ってどんなところなの?
天国には桜があるの?
……ロッキー、あいたいよ。

手すりにもたれながらぼんやりしていると、いたずらな春風がミキちゃんの
帽子をあっという間にさらっていってしまった。
帽子はボーマが広げたシートの隅のほうに舞い降りた。

ミキちゃんは大急ぎで土手を駆け降りた。
ボーマはシートに舞い降りた帽子をひょいと拾った。
帽子の内側には「MIKI」と刺繍の縫い取りがある。
「ありがとうございます。それ、わたしのです」
ミキちゃんは息を切らしながらお礼を言った。
「はいよ、ミキちゃん、だね?」
ミキちゃんはボーマにぴょこんとおじぎをすると帽子を受け取った。
「お花見の場所とってるの?」
「うん、そうだよ」
「だったら、わたしもっといい場所知ってるよ」
言いながらミキちゃんは早足で歩き出す。
つられてボーマもミキちゃんについていく。
ミキちゃんは緩やかな斜面をどんどん歩いていく。
ふいに展望が開けた。

土手の桜並木も、対岸の桜並木の両方の見通しがよく、町並みが一望できた。
そこは場所取りのシートはまだ一枚も敷かれていなかった。
「いい場所だなあ! ありがとう」
「帽子を拾ってくれたお礼」
「しかし、よくこんないい場所を知ってたね」
感嘆しながらボーマは言った。
「……ロッキーと最後にお花見をした場所なの」
「ロッキー?」
「ミキが大好きだった犬の名前。ロッキーはもう死んじゃったの……」
「……」
「死ぬって、ある日突然いなくなるってことなのね」
「そうだな」
「ロッキーのお墓はね、あそこの海の見える丘公園にあるの。
冷たい土の中でひとりぽっちで眠っているの」
桜の花びらがミキちゃんの髪に舞い降りた。
418春風は桜色3:2010/03/27(土) 17:39:17 ID:Fx8V/ecz
3
「ミキはね、ロッキーが死んじゃったことを知ったときはとても
悲しかったけど、がまんして泣かなかったの」
「どうして?」
「だって、わたしが泣くとパパとママも悲しくなるでしょう?
だから、がまんしたの……」
「ミキちゃん、それはまちがってるよ」
「え?」
「悲しいときにはちゃんと泣かなくちゃだめだ。大切なものが
この世からいなくなったときは、大人も子供もみんな悲しいんだよ」
「大人になっても、やっぱり悲しいの?」
「ああ。だから、悲しいときはうんと泣くんだ」
「……泣いてもいいのね?」

ボーマは自分の子供の頃のことを思い出していた。
日曜学校の帰りに、必ず立ち寄っていた牧場で可愛がっていた牛や、
ポニーや羊や豚が売られていった秋の日の午後を。
大好きだったともだちが両親の離婚のため、突然遠い街へ行って
しまった夏休みの早朝を。
理科の実験で初めて褒めてくれた教師が転勤することになり、
別れの挨拶を交わした春の夕暮れを。
……あの頃、ボーマは牧場主に泣きじゃくりながら喰ってかかった、
引っ越していくともだちの目の前で外聞もなく大声で泣いた、
遠ざかっていく教師の背中を、誰もいない理科室の窓から見送り、
実験台の陰で男泣きに泣いた。。。

人生で大切なのは、なにが悲しいかではなくどれくらい悲しいかだけなのだ。
子どもの涙が大人の涙より小さいなんてことは絶対にない

そう言ったのは、児童文学者のエーリッヒ・ケストナーという作家だったな。
ミキちゃんはこれから先、もっと大きな悲しみを体験していくことになるだろう。
大きな悲しみに向き合うためにも、悲しみは全身で受け止めなければならい。
そのためには悲しみの涙は我慢してはならない。
その瞬間瞬間できっちりと涙を流さないと、人のこころは悲しみの行き場が
なくなり、迷子になってしまう。
419春風は桜色4:2010/03/27(土) 17:40:10 ID:Fx8V/ecz
4
「ミキちゃんは、ロッキーのことを思い出すとどんな気分になる?」
「思い出し終わったあとに、ものすごく悲しくなる。
……もう、いないんだなあって」
「ロッキーは悲しい思い出をくれた?」
「ううん、ロッキーはミキに楽しい思い出ばかりくれたわ」
「だったら、ロッキーも今頃は楽しい夢を見ているね」
「お墓の下で?」
「ああ」
「ひとりぽっちでさみしくない?」
「ミキちゃんと過ごした楽しい日々の夢を見ているから、さみしくないよ」
「……だと、いいな」
春風がミキちゃんの髪に吹きつけ、りぼんが風に揺れた。
「大きくなったら悲しいことって忘れられる?」
「……忘れちゃいけないこともあるんだよ」
「そう…、そうよね、ロッキーのこと、わたし絶対に忘れたくないもの。
どんなに悲しくても、わたしロッキーのことは一生忘れたくない」

ボーマは、ミキちゃんが生まれて初めて「死」がもたらす悲しみと向き合って
いることが痛いほどわかった。
悲しみと向き合うことが7歳の少女にとってどれだけつらいことか、
手に取るようにわかった。
それでも、人はそれぞれのやり方で悲しみを乗り越えていかなければならない。
ある人にとっては、悲しみを乗り越えていくことが一生の仕事になるかも
しれないのだ。

花冷えの言葉通り、川から吹きつける風が少しずつ冷たくなってきた。
「そろそろ、帰らなくちゃ」
「うん。気をつけてね。いい場所をおしえてくれてありがとう」
ミキちゃんはさよならと言って手を振りながら土手を上がっていった。

お花見の当日の土曜日、空は晴れて絶好の花見日和となった。
「ボーマ、よくこんないい場所見つけたわね」
素子が上機嫌で言う。
「うむ。ご苦労であった」
荒巻も満足気だ。
「今までの場所で一番いいんじゃないか?」
とバトー。
トグサやサイトー、パズ、たちも口々にボーマに労いの言葉をかけた。
タチコマは久々に戦闘以外の場所に出られたのではしゃぎまわっている。
オペ子たちはかいがいしく酒やおつまみを所狭しとシートいっぱいに
並べている。
420春風は桜色5:2010/03/27(土) 17:40:51 ID:Fx8V/ecz
5
「あ、ミキちゃんだ!」
土手の上で赤いランドセルを背負った学校帰りのミキちゃんが手を振っている。
タチコマはミキちゃんの姿を久々に見つけるとうれしそうに叫んだ。
「タチコマーっ、久しぶりね!」
ミキちゃんは駆け下りるとなつかしそうにタチコマを撫でた。
「あれっ、タチコマもミキちゃんを知ってるのか?」
ボーマはミキちゃんとタチコマを交互に見た。
「こんにちは。この間はどうもありがとうございました」
ミキちゃんはボーマにお辞儀をしながらお礼を言った。
「いやいや、こちらこそ。ミキちゃんのおかげでこんないい場所が取れて
みんな大喜びだよ」
「ということは、ボーマくんもミキちゃんとお知り合い?」
タチコマが不思議そうにふたりを見た。
「うん。ミキちゃんがこの場所をおしえてくれたんだ」
「あらそうだったの。いい場所をおしえてくれてありがとう」
素子はにっこりと微笑みながらミキちゃんにお礼を言った。
ミキちゃんは素子の成熟した女としての色香、ふくよかな胸と豊満なヒップ、
くびれたウエストに圧倒されて声も出ない。

ミキちゃんはボーマの袖を遠慮がちに引っ張ると、9課のメンバーから少し
離れた川岸へと促した。
「あれからね、ロッキーのお墓参りに行ってきたの。
そしてね、ロッキーのお墓の前でわんわん泣いたの」
「そうか、泣いたんだね」
「ママはびっくりしてたみたい。だけどね、こう言ってくれたの。
泣きたいだけ泣きなさい、今までよくがまんしてたわね、って」
「うん」
「そしたらね、泣き終わったあと、何だか少し元気がでてきたみたいなの。
どうしてかな? ふしぎね」

涙を流すという行為は人にカタルシスをもたらす。
涙は悲しみ多い人生を生きていくための浄化手段であり、こころの傷を
回復させる大切な役割を持っている。
泣いてもいいのだ、と大人が声を大にして言わなくなったのはいつ頃から
だろう?
悲しいときに涙を見せるのは決して恥ずかしいことではないのに、
たいていの大人たちは、いい年してめめしいとかみっともないと体裁ばかり
を気にするようになってしまった。
泣くことでこころが軽くなるのなら、誰にも遠慮なく思う存分泣けばいいのだ。
421春風は桜色6:2010/03/27(土) 17:42:07 ID:Fx8V/ecz
6
……そういえば、前に素子が狙撃された瞬間、バトーは素子の名前を
叫びながら本気で泣いていたな。
後で9課の連中にさんざんからかわれていたけれども、ボーマはあの瞬間の
バトーの涙をとてもいいと思った。
大切な人を失って悲しくない人間なんかこの世にいやしないのだ。
男は人前で涙を見せるななんてどこのどいつが言ったのか?
男の美学? 痩せ我慢がいいだと? そうやっていくうちに人はいつしか
感性が麻痺していくんだ。
まあ、サイトーのようなポーカーフェイスは許せるが。。。
あいつもいろいろあったからな。

「そうだ、これ、渡そうと思ってたの」
ミキちゃんは、ボーマに「タマちゃん」というネームのついたアザラシの
ぬいぐるみのキイホルダーを渡した。
「ありがとう! かわいいな」
「でしょう? ミキとおそろいなのよ」
ミキちゃんはランドセルにつけられた自分のキイホルダーを見せた。
「おそろいということはね、いーい? ボーマさんはミキのものよ」
「あ?」
ボーマはいきなりの展開についていけず、口をあんぐりと開けた。
どうやらミキちゃんは、先刻、素子の完璧な大人の女性の姿態を目の当たりに
して、素子にひそかなライバル心を燃やしたらしい。
小さな女の子でもその辺はやはり女なのだ。
「いいな、いいな、ボーマくんだけずるいな」
いつの間にかタチコマがふたりをぐるりと囲んでいる。
ブー、ブー、ブー、ブー、ブー、、、
「ごめんね。タチコマの分はないの……」
「まあ、いいか。たまにはボーマくんにも花を持たせてあげないとね。
ボクにはバトーさんがいるから」
「じゃあね。わたしそろそろいかなくちゃ」
ミキちゃんはバイバイと言いながらスカートの裾を翻して土手を軽やかに
登っていった。
422春風は桜色7:2010/03/27(土) 17:43:02 ID:Fx8V/ecz
7
ボーマがミキちゃんの初恋の相手だということは瞬く間に9課全員の
知ることになった。
「だけど、なんでボーマなんだよ……?」
これは9課全員の素朴な疑問であった。
温厚でイケメンのトグサ、女を虜にするパズ、男の色気満載のサイトー、
純情で一途なバトー、余裕と貫禄で女を口説けるイシカワ。
彼らではなくなぜボーマなのか。。。

しかし、あるときこの疑問はひょんなことから解決した。
テレビをつけたらリアルタイムでワイドショウが放映されていた。
T川に現れたアザラシの子供、通称「タマちゃん」が無事に保護されて、
海に還されたという。
若い女性キャスターは、「タマちゃん」は今、女の子に最も人気があり、
ヌイグルミを始め色々なグッズにもなっていてひとつの社会現象になって
いると報道した。

9課全員がボーマと「タマちゃん」を交互に見比べた。
に、似ている……!
すべての謎は解けた!
ボーマだけが未だ「タマちゃん」と自分が似ていることに気づかないままで
いる。

……そう、世の中には知らなくていいことがたくさんあるのだ。


***了***
423名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 17:44:18 ID:Fx8V/ecz
SAC「第12話 タチコマの家出 映画監督の夢」に登場したミキちゃんの
初恋編です♪

お・ま・け
「タマちゃん」です

http://www.geocities.jp/tama_grace3/pictures/082seino100_name.jpg
424名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 21:19:04 ID:rrVqmceT
>>423
Gjです。ボーマワロスw
425 ◆8uE/CVNjew :2010/03/30(火) 22:54:04 ID:7r9i6j2r
★保管庫移転のお知らせ(長いので適当に読んで下さい)

 保管庫及びしたらば避難所の管理人52氏が、>>391で、ここを離れると宣言されました。
 管理人は続けてもらうようにお願いしました。
 多分、避難所の連絡は読んでいると思いますが、どうも無理みたいで返事がありません。

 このまま今の保管庫に作品収録を行っても良いのですが、昨年の5月以来、管理人が行うべきトップページの更新も
保管庫のバックアップも行われていません。

 管理人のパスワードが必要な画面以外はページは自由編集状態のままなので、収録SSを勝手に書き換えられても
どうする事もできません。
 各職人さん達のSSを預かっている以上、このまま放置するのは余りにも無責任な状態で、保管編集を行った自分と
しても責任を感じています。

 それで、無断で申し訳ないですが、同じlivedoorwikiに保管庫を新しく作りました。
 今現在稼働中です(規制で報告が遅くなりました)
⇒新保管庫のURL  ttp://wiki.livedoor.jp/motoco8/  【攻殻機動隊エロパロ保管庫】



(変更項目)
・自由編集は廃止し、当分の間管理人のみで行います。
 自作の保管編集を希望する方は連絡をお願いします。
・タグをつけました。
・コメ欄は復活しました。最新コメントはサイドメニューに表示されます。

・したらば避難所での保管連絡は行いません。
・保管への連絡は、保管庫内の掲示板で行えます。
・掲示板を利用したくない人は、管理人へのメールも可能です。

・保管庫情報があれば現行スレにレスする場合もあります。ご了承下さい。
 その時は、必ずトリ付で行います。

 したらばの避難所は、書き込みがなければスレッドは落ちると思います。
 他の方が利用されるのは自由です。
 旧保管庫の削除権限は52氏にありますから、彼女に総てを任せて今の状態のままにしておきます。
 収録作品は削除済みです。

 最初に保管庫を作って下さった52氏には感謝します。お疲れ様でした
426 ◆8uE/CVNjew :2010/03/30(火) 23:01:54 ID:7r9i6j2r
>>394
>>407
「春の夜の夢」と「ジェリにさよならを」の作者さんへ

早速で申し訳ないのですが、収録する前に訂正確認箇所がありそうなので連絡をお願いします。
保管掲示板の連絡スレッドをお読みください。ttp://wiki.livedoor.jp/motoco8/bbs/1325/l50
427名無しさん@ピンキー:2010/03/31(水) 00:05:39 ID:maXd4dBe
>>423
GJ!ミキちゃんとタチコマがすごく可愛いです
ボーマがちょっとだけ可哀そうw

>>425
保管庫移転ありがとうございます
お疲れ様でした
428394、407:2010/03/31(水) 02:04:25 ID:IOYxUFTC
>>426さん

新保管庫の移動作業お疲れ様でした
いつもありがとうございます
誘導先の新保管庫の管理人連絡サイトに携帯から何回か
書き込みしたのですができませんでした…
つきましては避難所のほうにお返事しました
よろしくお願いします


>>427さん
ありがとうございます♪
楽しんでいただけてうれしいです
429 ◆8uE/CVNjew :2010/04/01(木) 18:22:17 ID:FsG/06R4
>>428
お疲れ様です。とりあえず>>394だけ保管しました。

攻殻保管庫の情報をハーレムスレの管理人さんのサイトに載せていただきました。
他のSS保管庫情報としてもご利用下さい。

エロパロ保管庫情報のサイト⇒ttp://marie.saiin.net/~mcharem/hokanko.htm
430名無しさん@ピンキー:2010/04/04(日) 03:48:06 ID:z9cVRILC
携帯からです

>>429さん



他サイトに転載の作業お疲れ様でした。

ひとくちにエロパロといっても実にいろいろなサイトがあるのですね!

いつも、ありがとうございます。

新作先ほど書き上がったのですが
規制されていてアップできません……
431遠い夏草1:2010/04/11(日) 21:14:07 ID:EhVGgUB+
1
「遠い夏草」



列車は小さな駅に滑り込むようにして入ってきた。
この駅はほぼ無人駅に近い。
降りた乗客はイシカワひとりだけだった。
もっとも、車両にもほんの数人の乗客しかいなかった。
目に染みるようなあざやかなみどりの木々がイシカワを出迎えてくれた。
イシカワは駅前の鄙びたレンタカーショップに入ると車を借りた。
行き先は決まっていた。
神咲小学校。
イシカワが四十年前に卒業した小学校だ。
当時は木造校舎で、午後になると強い西陽が当たった。
あれから過疎化が進み、隣町の小学校との合併をしたことくらいは風の
たよりで知っていた。
イシカワは神咲小学校を卒業した春に、父親の転勤で違う県に引っ越した。
引っ越した先は都市部に近く、その都市部の中学、高校、そして大学へと
進学した。

今回、イシカワがこの神咲町を訪れたのは、あることがきっかけだった。
内閣情報庁の合田一人が「個別の11人ウィルス」を作成し、難民を
煽動した事件のことがずっとイシカワの脳裏に引っかかっていた。

合田一人、――ごうだ かずんど。
珍しい名前だ。苗字はともかく、名前はかなり珍しい部類に入る。
イシカワの記憶の中でひとりの少年が浮かび上がった。
あれは小学校四年のちょうど今頃の季節だった。
都会から転向してきたひとりの色白で大人しい少年がいた。
苗字は忘れてしまったが「一人(かずんど)」という下の名前は当時でも
かなり珍しかったので記憶の片隅に残っている。

前方に鉄筋の青い建物が見えてきた。
あれだな。
イシカワは車を停めた。
建物の門札には「神咲会館」と出ていた。
そうか、もうここは小学校じゃないんだ。
四十年も経っているんだ、人口も減っているだろうし、あたりまえといえば
あたりまえか。
当時をほうふつとさせるものは何ひとつとしてなかった。
それでも、このまま立ち去るのも忍びないのでイシカワは裏手の原っぱを
散策しようと思い立った。
432遠い夏草2:2010/04/11(日) 21:14:49 ID:EhVGgUB+
2
桜並木はすでに葉桜となっており、イシカワにみどりの風を吹き送ってくる。
……ここでよく遊んだな。
当時、アマチュア無線を趣味としていたイシカワはここでよくジュニアハム
仲間とやり取りしたものだった。
「ハロー・CQ」と相手に呼びかけ、自分のコールサインを名乗る。
イシカワのコールサインはJA2W5K「ブルーリバー」だった。
映画「スタンド・バイ・ミー」を観てリバー・フェニックスのファンになり、
コールサインはリバー・フェニックスの名前から取った。
今でこそインターネットが普及し、世界中の情報が家にいながらにして、
簡単に手に入るが、あの頃は、無線で仲間と通信できることは画期的な
ことだった。

イシカワは子供の頃から早くも「情報」や「無線」、「通信」に興味を
持ちジュニアハムの検定にも一回で合格した。
小遣いやお年玉を溜めて初めて無線機を買ったときはうれしくて一晩中、
枕元に飾って寝た。
メールがなかった時代、無線機を使って交信することはイシカワにとって
唯一の楽しみであったのだ。
のちに、無線機を自分でつくって完成させたときは感涙ものだった。

そういえば、ハム仲間のひとりに確か一人(かずんど)もいたな……。
大人しくてひ弱で目立たなかった彼をイシカワが覚えていたのは、まさに
彼がハム仲間のひとりだったからだった。
ええっと、あいつのコールサインは確か「ヒーロー・オンリーワン」だったな。

「ハロー・CQ、ハロー・CQ、こちらJA2W5K・ブルーリバー。応答せよ」
なつかしさのあまり、思い出しながら口づさんでみた。
「ハロー・CQ、こちらヒーロー・オンリーワン」
いきなり背後から応答の声があった。
合田一人だった。
「イシカワ、ここで逢うのは何十年ぶりかね」
「やっぱり、あの転校生は合田だったんだな」
「当時のハム仲間のリーダーから覚えていてもらえるとは光栄だね」
「どうしてここへ?」
「隣の県で陸自のジガバチの演習があってね。ついでだからここにも
立ち寄ってみたくなってね」
「……俺たちは互いに国を守る組織に所属しながらも、まったく別のところに
いるようだな」
「さよう。私は正式な国家の認定する公的組織に、君は非公式組織だ」
「……」

433遠い夏草3:2010/04/11(日) 21:15:24 ID:EhVGgUB+
3
「私に聞きたいことがあるのだろう?」
「ああ」
「私は本来はプライベートな質問は一切無視するのだが、昔のハム仲間の
君になら答えてもいいと思ってる」
「なら、話はわかりやすい。単刀直入に聞く。なぜ、その顔の傷を治さない?」
合田は哄笑しながら答えた。
「随分と素朴な質問だね。もっと突っ込んで国家権力について問いただされる
かと思っていたよ。よろしい。答えよう。私の顔の傷は大日本技研時代に
負ったものだとは君もとっくに知っているだろう。
私が顔の傷を治さないのは、私にとって顔はどうでもいいものだからだ」
「しかし、人に与える印象というものがあるだろう?」
合田はフフンと鼻で笑った。
「印象、ね。確かに。クゼのような完璧な隙のない顔は女たちに受ける顔だ。
しかし、私は異性にはまったく興味がないし、私は国家公務員という営利追求とは
無関係の職に就いているので、顔の傷は仕事をする上で支障を来たさないんだよ」
「結果がすべてか」
「そのとおり」
「君が抱いているもうひとつの疑問があるだろ? なぜ私が童貞なのか、
それも聞きたいんだろう?」
「……ああ」
「私は小学校6年の夏休みに高熱を出し、そのときに打った武本ワクチンが
原因で男性器の機能が不能になったんだ」
イシカワはあまりの衝撃に言葉が出なかった。

「せっかく、ここへ来たんだ。散歩でもしながら話そうじゃないか」
合田はイシカワを促すと線路へ降りていった。
「この駅の列車は一日で上りが1本、下りも1本だけだ。さっき下りの列車が
行ったから当分上り列車は来ない」
そう言いながら合田はさっさと線路の上を歩き出した。
イシカワも無言のまま合田に従った。
……そうか、合田は12歳で男としての機能を失ったのか。
武本ワクチンの安全性を確認せず認可した当時の厚生省をさぞかし
恨んでいることだろうな。
異性との接触もできず、またその上、顔に傷まで負って。
だから、今回「個別の11人ウィルス」をばら撒き、国家へ復讐したってわけか。
合田の半生は私怨――怨念に次ぐ怨念で塗り固められているのだろう。

434遠い夏草4:2010/04/11(日) 21:16:00 ID:EhVGgUB+
4
「私はね、男性機能が不能になっても少しも恨んでいないのだよ」
イシカワのこころを見透かしたように合田は淡々と答えた。
「それどころか、むしろ感謝しているぐらいだ」
「一生、女を抱けないことに感謝してるだと?」
「ああ。君たちは中学生になったあたりから異性の身体に興味を持っただろう?
自身の身体にも変化が訪れたはずだ。そして、来る日も来る日も自慰行為に
ふけり、妄想で下半身は爆発寸前だっただろう。中には自制心が効かなくて
性犯罪行為に走った奴もいたはずだ。それもみんな男性機能のなせる
性欲のせいだ。ちがうかね?」

そのとおりだった。
あの頃、親にナイショでともだちから回されたエロ本を見たり、エロビデオを
見ながらひたすら自慰行為にはまっていた。
クラスの女の子たちの夏のブラウスの背中から透けて見える下着の線や、
水着や体操着姿に欲情し、授業中などかなり困ったものだった。
やりたくてやりたくて仕方ないのに、実際には相手がおらず悶々とエロ妄想に
浸っているしかなかった。
大きな声では言えないが、クラスの女の子をひとりひとり毎晩思い浮かべては
オカズにしていたのである。
妄想の中だけとはいえ、それはほとんどレイプに近い行為だった……。
妄想の中で女の子たちは、イシカワに下着を剥ぎ取られ、泣きながら抵抗
するも、最後はなぜか全員イカされてうっとりした表情になっていた。

「私はそうした肉欲に悩まされたことは一度もない。妄想ともまったく無縁でね。
だから、勉強に打ち込むことができたし、志望の大学にもさほど苦労もなく合格
できたんだよ」

風に乗って、青葉の匂いがあたり一面に充満している。
この青臭い匂いはまるで精液の匂いそっくりだ!
「なあ、今日まで射精したことはないのか?」
「一度もない」
男性機能を失った合田は射精の瞬間の快楽も知らない分、射精を抑制しようと
する悶々とした苦しみも知らないのだ。
理性と本能の葛藤を知らないまま、今日まできた男、
それが合田一人だった。
「私は子供の頃から英雄にあこがれていてね」
「だからハムのコールサインはヒーロー・オンリーワンにしたのか」
「さよう。英雄はひとりでいい。そのためには国家権力は不可欠だ」
「だが、難民たちはあんたではなくクゼヒデオを英雄視している」

435遠い夏草5:2010/04/11(日) 21:16:34 ID:EhVGgUB+
5
「あの男は不愉快だ!」
吐き捨てるように合田が言い放った。
「そうかな、少なくとも俺はあんたよりもクゼのほうが英雄にふさわしいと
思うぜ」
「君たち公安9課とクゼは敵対する立場ではないのかね?」
「ああ、そうだ。だけど敵ながらクゼの論理は筋が通っている」
「私には通っていないと?」
「さっきから聞いてりゃ、怨念はないだとか、男として不能であることに
感謝してるだとか、ゴタクばかり並べてるが、結局あんたは人としての
大切な何かが欠けているんだよな」
「早くからハムという無線による情報交換に興味を持ち、ネットの到来を
当時すでに予見していた君からそんなことを言われるとは心外だ」
「確かに俺はガキの頃から情報や通信、暗号に傾倒していた。
だからといって、ゴーストをないがしろにしたことは一度もないぜ」
「……おそらくは、それが私と君の決定的な差異なのだろう。
君はデジタル崇拝の理数系少年でありながらもみんなから人望があったね」
合田はイシカワに背を向けながらつぶやいた。

「イシカワ、私はあの頃、君にハム仲間に誘ってもらえてうれしかったよ。
転校生だった私はなかなかクラスに馴染めずにいたからね。
君が声をかけてくれたおかげでクラスの仲間とも交流がもてた」
「別に俺はたいしたことはしてないよ」
「今日、この線路を君とふたりで歩けて私も果たせないでいた望みを果たせたよ」
「何だよ、それ?」
「君は、映画の『スタンド・バイ・ミー』が好きだったろ?」
……思い出した!
あれは小学校6年、12歳の夏休みだった。
イシカワはハム仲間の少年たちと4人で互いに無線機を持ちながら
この線路の上を歩いたのだ。
そう、あの映画の4人の少年たちを真似て。
映画の少年たちも12歳の夏休みという設定だった。
だから、イシカワも12歳の夏休みにこだわり、ハム仲間とともに
この線路の上を歩いたのだった。
436遠い夏草6:2010/04/11(日) 21:17:03 ID:EhVGgUB+
6
イシカワなりに、特別な夏休みにしたかったのだ。
あのとき、合田は熱を出して誘えなかった。
夏休みが明けて新学期が始まったとき、合田は「僕も熱さえ出してなければ
みんなといっしょに線路の上を歩いてみたかった」と残念がっていた……。
ワクチンのせいでまさか男性機能を喪失していたとは、想像すらしなかった。


――12歳の夏休み。
イシカワはハム仲間とともに探索することを思いついた。
上り列車が行ったあと駅に集合し、仲間とともに線路に降りた。
「いいか、これからみんなでこの線路から外れて、好きなところへ身を隠す。
そして、互いにこの無線機で連絡を取り合うんだ」
スズキ「OK。面白そうだね」。
タニ「で、どうするのさ?」
イシカワ「そうだな。今8時だから、11時にまたこの線路の上に集合だ。
それまでの間は互いの位置は無線機で知らせる」
マチダ「了解」
イシカワ「じゃあ、開始!」
4人の少年たちはそれぞれ線路から外れて散っていった。
イシカワは畑の畦道を歩き野川のほとりに出た。
真夏の日差しは強くなりつつあり、イシカワのTシャツは汗びっしょりになっていた。
「ハロー・CQ、こちらクイーン」
スズキからのコールサインが入った。
イシカワ「ハロー・CQ、こちらブルーリバー、どうした?」
スズキ「あのさ、カズンドも誘わなくてよかったのかな?」
イシカワ「ああ、今朝連絡したら熱だしたらしい」
スズキ「そうか。了解」

437遠い夏草7:2010/04/11(日) 21:17:37 ID:EhVGgUB+
7
「ハロー・CQ、こちらボウイ」
タニからだ。
イシカワ「ハロー・CQ、こちらブルーリバー」
タニ「草むらで珍しいものを発見。ついては全員集合をかけたい」
イシカワ「了解」

4人の少年たちはタニのいる草むらに集まった。
「何だよ、珍しいものって」
みなが口々に叫ぶ。
「あれ」タニがそっと指でさした。
草むらのなかには全裸の人体が仰向けに横たわっていた。
イシカワ「何だよ、ただのマネキンじゃないか」
タニ「いや、ほら、あのマネキンの指……」
マネキンの指には赤いルビーの指輪が嵌められており、真夏の太陽の
光を受けてきらきらと輝いていた。
スズキ「あの指輪、本物かな?」
イシカワはおそるおそるマネキンに近づいてみる。
そっと指輪を抜き取ってかざして見た。
イシカワ「あ〜、これはただのガラス玉だ」
マチダ「なんでわかるんだよ?」
イシカワ「カットがまったくされてないんだよ」
マチダ「カット?」
イシカワ「ああ、これは鋳型に嵌められて人工的につくられたまん丸のガラス玉。
本物の宝石はこんなに完全に丸くない。細かいカットがほどこされてるんだよ」
スズキ「ふうん、よく知ってるな」
イシカワ「知り合いに宝石店に勤めてるおばちゃんがいるんだ」
タニ「そっか、本物じゃなくて残念」
スズキ「あ〜、だけどスリルあったよな。最初見たとき死体が転がってるのか
と思ったよ」
438遠い夏草8:2010/04/11(日) 21:18:10 ID:EhVGgUB+
8
マチダがマネキンをしげしげと見ている。
イシカワ「どうした?」
マチダ「……なあ、本物の女の身体ってさ、こんなんじゃないよな。
おっぱいの先っちょとかさ、アソコとか」
イシカワ「あったりまえだろ! これはただの人形、ニセモノ」
スズキ「女のアソコってどうなってんだろな?」
この問いには全員黙ってしまった。
4人とも興味こそあっても、せいぜいグラビアでしか知らないのだから……。
「カズンドも来れたらよかったのにな」イシカワがつぶやいた。
彼にも同じようなスリルや秘密の共有の楽しさを味わってほしかった。
何しろ、小学校の最後の夏休みなのだから。
4人は朝と同じように再び線路の上を歩いた。
イシカワ「よし、本日の探索はこれにて終了! 解散!」

あの夏休みの日、俺たちが草むらで裸のマネキンを見ながら女体への
妄想をたくましくしてた頃、合田は熱を出して、ワクチンを打たれ、
そのまま男の機能を失った……。


頭上でいきなりヘリの音がした。
「そろそろ時間だ。迎えが来たようだ。では、私はこれで失礼する」
合田はヘリに乗り込んだ。

あの映画の主軸となっていたのはふたりの少年だったな。
12歳のときの友情は永遠だ
『スタンド・バイ・ミー』のラストに流れたナレーションだ。
当時、俺のなかで合田はハム仲間のひとりであって、決してそれ以上では
なかった。
しかし、合田は俺をともだちと思っていた……。
イシカワは空を見上げながら遠くなっていくヘリを茫然と見送った。


***了***


お・ま・け♪ 映画「スタンド・バイ・ミー」よりダイジェスト
ttp://www.youtube.com/watch?v=2zLFP1QpBeg&feature=player_embedded
439名無しさん@ピンキー:2010/04/11(日) 23:40:31 ID:lXyfM63W
>>438
GJです!なんか深い話だな…良いです、とっても。
440438:2010/04/12(月) 13:34:59 ID:i6cpludX
>>439さん
ありがとうございます♪
気に入っていただけて、とてもうれしいです!

保管庫の管理人さんへの連絡サイトに画像を添付いたしましたので
よろしくお願いします
441銀の翼1:2010/04/17(土) 19:00:49 ID:+x95fQJk
1

「銀の翼」


トグサはアサギの手を取ると都庁の地下深くにある原子力開発施設跡から
間一髪で逃げ出した。
執拗に追ってくるアームスーツを振り切り、ようやくホテルに落ち着いた。
トグサは埃まみれのアサギを労わるように、シャワーを浴びるように勧めた。
浴室からアサギが出てきた。
「どう? 落ち着いた?」
「ええ。ありがとう」
憂いのある美しい横顔を見せながらアサギは礼を言った。
先刻までアームスーツに追われ、逃げることで精一杯でろくにアサギの顔を
見ることもなかったが、こうして間近で見ると黒目がちの目が際立って
美しい女だ。伏せられた睫毛が長い。
「コタンの様子がおかしいと気づいたのはいつ頃から?」
「……半年ほど前かしら。いくらメールを送っても返事が来なくなったの。
それまでは、たいていすぐとは言わないまでも必ずメールに返事をくれたのに」
「危険だけど高額の報酬が得られる作業場に、コタンが加わっていたのは
無論、お金が欲しかったからなんだろうけど、それは君との結婚資金を
溜めるだけだったのかな?」
「コタンもわたしも生まれ育った家が貧しくて、、。だからあの人は結婚と同時に
自分たちの家をすぐにも現金で買いたがっていたわ」
「コタンは自分たちの作業が極秘裏に行われていることに気づき、
おそらくは作業の目的に気づいたんだろうな」
「……そして、政府の役人を強請った」
「多分、な」
「ばか! コタンのばか! わたしは家なんていらないって言ったのに。
小さな部屋を借りて、そこからふたりで一から始めましょうって、あれほど
言ったのに」
「コタンは男として、君に少しでもいい思いをさせたかったんだろな。
結果として裏目に出てしまったわけだが、、、」
「コタンは生きてはいないわ。あの原子力開発施設跡を見たら、最後の望みの
綱も断たれてしまった……」
442銀の翼2:2010/04/17(土) 19:01:44 ID:+x95fQJk
2
トグサはアサギにかける言葉がなかった。
下手な慰めや中途半端な希望の言葉は今のアサギにはかえって白々しく映る
だけだ。
トグサは労わるようにアサギの肩を抱いた。
「今日はもう何も考えずに休むんだ」
アサギはトグサに言われるままにベッドに身を横たえた。
「何かあったらここに連絡くれればいい。時間は問わないから」
トグサは携帯の番号を書いた紙片をアサギに渡した。
アサギはこくりと頷くと目を閉じた。
トグサはしばらくアサギのそばにいたが、眠ったことを見届けると静かに
部屋のドアを閉めて外に出た。

アサギは夢を見ていた。
コタンが何者かに追われ、行き止まりで追い詰められたまま銃殺される夢
だった。
「コタン! 逃げて! 逃げて!」
夢の中で何度も叫んだがアサギの声は届かず、アサギの見ている目の前で
コタンは身体に何発もの銃弾を受け、瞬殺された。
追っ手はコタンの死体を崖の上から犬の死体を扱うかのように放り投げた。
そして今度はアサギに目を向けると獣のようにぎらついた目つきで
襲い掛かった。
服は乱暴に引き裂かれ、男たちはヨダレを垂らしながら代わる代わる
アサギを陵辱した。
夢の中なのにリアルな痛みが感じられた。
アサギは絶叫し、自分の声で目が覚めた。
枕元の時計は深夜の2時を指していた。
443銀の翼3:2010/04/17(土) 19:02:43 ID:+x95fQJk
3
「……もし、もし」
簡易宿泊所で仮眠を取っていたトグサは寝ぼけた声で携帯に出た。
「こわい、たすけて! たすけて!」
アサギの取り乱した声が聞こえた。
トグサは急いでホテルに駆けつけた。
アサギはトグサが部屋に入ると同時に抱きついた。
「コタン、生きていたのね。やっと来てくれたのね! 」
アサギは精神が錯乱しているようで、目の前のトグサをコタンだと完全に
思い込んでいた。
トグサは自分が今否定してしまったならアサギのこころは壊れてしまうだろうと
危惧し、あえて否定しなかった。
「ねえ、コタン、わたし髪が伸びたでしょう?」
「……ああ」
「あなたは思ったよりやつれていないみたいで、安心したわ」
「うん」
「そうそう、うちの猫のサティがまた子供を産んだのよ」
アサギはひとりでどんどん勝手にしゃべりつづけている。
トグサはただ相槌を打つしかできなかった。
「喉が渇いちゃったわ。こんなにおしゃべりしたの、久しぶり」
アサギは冷蔵庫のドアを開けると、ミネラルウォーターを取り出した。
「コタンも飲む?」
「いや、いい」
アサギはグラスにミネラルウォーターを注ぐと一気に飲み干した。
水滴が一滴アサギの喉元に伝わっている。
細くて白く抜けるような首筋の線が美しい。
トグサはアサギの喉元が、水が嚥下するたびに動くのをじっと見ていた。
急いで飲みすぎたのだろう、ふいにアサギがむせた。
「大丈夫か?」
トグサはアサギの背中をやさしくさすった。
アサギが頷いた瞬間、トグサの手が滑ってアサギのガウンがはだけた。
アサギはガウンの下には何も付けていなかった。
444銀の翼4:2010/04/17(土) 19:03:34 ID:+x95fQJk
4
「ごめん」
トグサはあわてて手を引こうとしたが、アサギは引こうとするトグサの手を
咄嗟に押さえた。
「……コタン、会いたかった」
アサギは潤んだ瞳でトグサを見つめた。
このままアサギをひとりにしておくわけにはいかなかった。
次の瞬間、トグサはアサギに唇を重ねていた。
それから、ふたりはベッドに倒れ込んだ。
トグサはアサギの乳首を舌先で転がしながら音を立てて激しく吸った。
「ああっ!」
アサギは思わず声を漏らした。
硬く屹立したアサギの乳首はトグサの唾液でぬらぬらと濡れ、窓からかすかに
差し込む月の光に照らされている。
トグサは自分の唾液で濡れたアサギの尖った乳首を思い切りひねり、
つづけて、人差し指の腹で旋回するように乳首の先端を押した。
アサギは身をよじり、あえいだ。
「コタン、コタン」
せつなげな甘い吐息を漏らし、アサギはトグサにしがみついてくる。
下のほうにそっと指を入れてみると、すでに潤っていた。
アサギの脚をゆっくりと大きく広げた。
そこはトグサを迎え入れるのを待っていたようにひくひくと痙攣している。
左腿の内側に3センチくらいの傷跡があるのが目に留まった。
……子供の頃の傷だろうか? 随分前の傷のように見える。
縫合された跡があるが、肉が盛り上がっていてさほど目立たない。
トグサは労わるように傷跡にそっとキスをした。
「あっ!」
アサギは身をよじった。
トグサの脳裏に妻の顔がちらりと浮かんだが、下半身を抑制するには
すでに遅すぎた。
もうあとには引けなかった。
一気に挿入した。
「あああっっ!」
アサギは声を上げてトグサを受け容れた。
勢いのついたトグサが腰を激しく動かすと、アサギもまた自ら腰を動かした。
ふたりは何度も何度も交わった。

窓から明け方の光が差し込んでも、ふたりは身体を重ねたままベッドにいた。
明け方の光のなかで見るアサギの肌は、昨夜とは別人のように上気し、
うっすらと紅(くれない)に染まっている。
何て美しい女だろう……!
コタンに対するかすかな嫉妬がトグサの胸に疼(うず)いた。
445銀の翼5:2010/04/17(土) 19:04:29 ID:+x95fQJk
5
アサギはゆっくりと目を覚ました。
「おはよう」
「……おはよう」
「よく眠れたかい?」
「ええ」
「シャワーを浴びてくるといいよ」
アサギはトグサに促され浴室へ行く。
トグサは鞄の中から、女物の下着と洋服を取り出した。
夕べ、このホテルから帰りがけに万が一のことを思って、買い求めたものだ。
アサギが着替えもないことを恥じるだろうと。
浴室から出てきたアサギに着替えの服を渡すと、アサギは「ありがとう」と
言いながらうれしそうにほほ笑んだ。
きれいな笑顔だ。
そういえば、アサギの笑顔を見るのは初めてだな。
ずっとこの笑顔を見ていたい…。トグサのこころは揺らいだ。

アサギが着替えて出てくるのを待つ間、トグサはどこか安全な場所に彼女を
移すことを考えていた。
このホテルも間もなく嗅ぎつけられるだろう。。。
そうだ、あそこなら大丈夫だ!
トグサがアサギを匿ったところは、使われていないセーフハウスの一室だった。
木を隠すなら森の中とはよく言ったものだ。
相手は政府の手下であり、その政府に最も近い場所にあえてアサギがいるとは
向うも想像すらしないだろう。
トグサは食糧や日用品を買い求めるたびに、帰りにアサギの部屋に行った。
アサギはトグサに手料理をふるまい、それからふたりはあたりまえのように
身体を重ねた。
トグサがアサギの乳首を吸うたびにアサギの快感は大きくなり、待ちきれないのか
自らトグサの上に跨って激しく腰を振った。
そのたびにトグサはアサギのなかに幾度も発射した。
この交わっている瞬間だけが生きている証しであるかのように、ふたりは際限なく
互いを求め合った。
「コタン、ああ、なんていいのかしら、もっと、もっとよ!」
アサギはあの夜以来トグサをコタンだと思い込んでいる。

……俺はアサギの記憶が錯乱しているのをいいことに便乗して、こうして毎回
彼女を抱いている。俺は妻を裏切り、警察としてのモラルも放棄している。
良心の呵責が胸をよぎるが、もはやアサギに会いにいくのを止めることは
できなかった。
アサギはトグサのちょっとした指の動き、舌触りに敏感に反応する。
快感に声をあげ、身をよじり、トグサを求める。
そうしたアサギの率直な反応はトグサに男としての自信を与えた。
446銀の翼6:2010/04/17(土) 19:05:35 ID:+x95fQJk
6
エネルギー省の政府高官が逮捕されたニュースが報道されたのは、
アサギをセーフハウスに匿ってちょうど二週間後だった。
高官はいくつかの民間企業から莫大な賄賂と引き換えに原子力開発の極秘情報、
ウラン鉱のリサイクルに関することや、原子力開発施設を建設予定の海底都市に
関する極秘場所の情報を提供していた。
黒幕が逮捕され、すべてが明るみになったことで、アサギの身の安全は保証された
ことになる。
つまり、もうセーフハウスに隠れている必要はないということだ。
公安9課も黒幕が逮捕されたことで空気がやわらぎ、連日のハードな業務から少し
だけ解放された。
トグサは早退を申し出た。

昼下がりにトグサが会いに行くとアサギはいつものように迎えてくれた。
「ねえ、コタン。わたし久しぶりに外に出てみたいわ」
「ん? ああ、そうだな。東京に来てからずっと室内に閉じこもりきりだったものな」
「海が見たいわ」
トグサはアサギを車に乗せると三浦半島へ向かった。
潮風が気持ちいい。
アサギは身も心も解放されたように伸びをし、快活に砂浜をはしゃぎ回っている。
真昼の明るい光のなかではしゃぎ回るアサギはまるで少女のように見える。
激しくトグサを求める夜の顔の彼女とは別人のようだ。
海の上では銀色に輝く真っ白な翼を広げてウミウが舞っている。
「……わたしも、鳥になりたいわ」
「うん?」
「翼を広げてどこまでもどこまでも、行きたいところに自由に飛んでいってみたい」
「……」
「そして、ちからが尽きたら静かに翼を休めて、そのまま永遠の眠りにつくの」
アサギは突然立ち上がると両手を左右に広げ、潮風を両手いっぱいに受けた。
「ね、こうして鳥になるの」
「ああ」
ウミウがアサギの頭上すれすれに飛び交う。
それに応えるかのように、アサギは大きく両腕を旋回させる。
アサギが旋回しながらウミウと戯れるたびに、真っ白なスカートの裾が
潮風に乗ってくるくると翻る。

……まるで『智恵子抄』の詩の一節のようだな。
トグサはつぶやくと、まぶしそうに目を細めた。
447銀の翼7:2010/04/17(土) 19:10:50 ID:+x95fQJk
7
翌日、セーフハウスを訪ねるとアサギの姿はなかった。
部屋はきちんと片付けられ、人の気配はまるでなかった。
トグサは浴室や寝室など隈なく探したがどこにもアサギの姿は見あたらなかった。
寝室のドアを開けて中に入った。
ベッドの脇のスタンドに手紙が置いてあった。

「この二週間、コタンのふりをしてくれてありがとうございました。
初めて逢った夜、わたしが錯乱し、そんなわたしを慰めてくれたことに感謝して
います。どんなにかうれしかったことか……。
錯乱したわたしはあなたをコタンだと思い込みました。
でも、あの夜、途中でわたしは気がついたのです。
あなたはコタンではない、と。
あなたはわたしの太股の内側にある傷跡にやさしく口づけをしてくれましたね。
あの傷はわたしが子供の頃、転んだ拍子につけてしまった傷です。
コタンは傷跡にこれまで一度も口づけしてくれませんでした。
あの瞬間、わたしはあなたがコタンではないことに気づきました。
けれども、わたしはあなたのやさしさがうれしくて言い出せませんでした。
そして、このままあなたをコタンだと思い込み、正気を失った女を演じようと
思いました。あなたに甘えたかったのです。
ずるい女だと思われるでしょうか? 
そう思われても仕方がありませんね。
わたしはあなたとともに過ごしたこの二週間、ほんとうにしあわせでした。
コタンとともに過ごすはずだった夢は、脆くも破れてしまいましたから……。
政府高官の黒幕が逮捕された以上、わたしがここに隠れている必要性は
まったくなくなりました。
ここを立ち去ることは身を切られるように悲しいです。
……あなたには奥様とお子様がふたり、いらっしゃるのですね。
ごめんなさい、携帯の待ち受け画面をつい見てしまいました。
わたしのことは心配しないでください。
ともだちのところに行きます。そこでこれからの日々を送ろうと思っています。
そこは小さな村ですが平和な村です。
わたしのともだちは盲目ですが、とてもこころのやさしい純粋な人です。
二週間、ほんとうにありがとうございました。
あなたのことは、生涯忘れません。                アサギ

追伸
奥様とお子様、お大切に。どうかしあわせなご家庭でありますように。
――祈りとともに。



ひと月後の夕方、公安9課のビルの屋上でトグサはもの想いに沈んでいた。
自分もまたアサギを愛していることが苦しかった。
「そう、しょげるなよ。生きてりゃ、いろんなことがあるさ」
パズだった。
パズは今回のアサギとトグサのことは、すべてお見通しだった。
「どこかで彼女もこの夕焼けの空を同じように見ているといいな……」
「きっと見てるさ」
パズは慰めるようにトグサの肩をたたいた。


***了***


アサギの盲目の友人とは、トグサの初恋の少女であると同時に、(>>329-331
パズが今まで落とせなかったただ一人の女です。(>>350 -358)
448名無しさん@ピンキー:2010/04/17(土) 19:12:07 ID:+x95fQJk
S.A.C. 2nd GIG 第06話 「潜在熱源 EXCAVATION」より、ホテルの一室での
トグサとアサギのその後の展開です。

何だか、わたしばかりが場つなぎで連投しているみたいで、すみません……


おまけ♪


「風にのる智恵子」 ――高村光太郎 『智恵子抄』より

狂った智恵子は口をきかない
ただ尾長や千鳥と相図する
防風林の丘つづき
いちめんの松の花粉は黄いろく流れ
五月晴れの風に九十九里の浜はけむる
智恵子の浴衣が松にかくれ又あらはれ
白い砂には松露がある
わたしは松露をひろひながら
ゆっくり智恵子のあとをおふ
尾長や千鳥が智恵子の友だち
もう人間であることをやめた智恵子に
恐ろしくきれいな朝の天空は絶好の遊歩場
智恵子飛ぶ



「千鳥と遊ぶ智恵子」 ――高村光太郎 『智恵子抄』より

人つ子ひとり居ない九十九里の砂浜の
砂にすわつて智恵子は遊ぶ。
無数の友だちが智恵子の名をよぶ。
ちい、ちい、ちい、ちい、ちい――
砂に小さな趾(あし)あとをつけて
千鳥が智恵子に寄つて来る。
口の中でいつでも何か言つてる智恵子が
両手をあげてよびかへす。
ちい、ちい、ちい――
両手の貝を千鳥がねだる。
智恵子はそれをぱらぱら投げる。
群れ立つ千鳥が智恵子をよぶ。
ちい、ちい、ちい、ちい、ちい――
人間商売さらりとやめて、
もう天然の向うへ行つてしまつた智恵子の
うしろ姿がぽつんと見える。
二丁も離れた防風林の夕日の中で
松の花粉をあびながら私はいつまでも立ち尽す。

449名無しさん@ピンキー:2010/04/18(日) 21:56:51 ID:xq4OIFam
>>448
GJです。なんか悲しいよ・・・トグサくん。
450448:2010/04/19(月) 15:42:07 ID:t6tvBcTi
>>449さん
ありがとうございます。
公安9課のなかでは一番モラリストで優等生的なトグサ。
とはいえ、彼も人の子。
こころが揺らぐときもありますよね。。。

保管庫の管理人サイトにコメント書きましたので、よろしくお願いいたします。
451名無しさん@ピンキー:2010/04/25(日) 00:50:08 ID:pmu9b+it
age
452飛翔する季節1:2010/04/29(木) 14:23:46 ID:ua4ZOp5X
「飛翔する季節」


1
ファーストフード店の店内は制服姿の女子高生たちでにぎわっている。
新学期になり、まだひと月も経ってはいないが、新しいクラスでそれぞれの
ともだちを見つけたようだ。
彼女たちの話題はもっぱら男の子、部活、芸能人、ドラマ、ファッションで
占められている。
女が三人寄れば姦しいというが、まことにそのとおり。
箸が転んでも可笑しいという年代だけあって、店内は彼女たちの嬌声で
あふれていた。

素子はファーストフード店の向かい側にあるティールームのふかふかのソファに
腰を埋めながら、ガラス越しに彼女たちを眺めていた。

……もし、わたしが十歳になるかならないで、飛行機事故に遭っていなければ
あの娘たちのように屈託のない十代の日々を送っていたんだわ。
毎朝鏡に向かって髪型を気にしたり、制服のりぼんをできるだけきれいに
結べるよう工夫したり、好きな男の子と廊下ですれ違ってどきどきしたり。
わたしの十代は痛くて慣れない義体を使いこなせるように、来る日も来る日も
練習とリハビリで埋められた。
母に泣きつきたくても、すでに両親はあの事故で亡くなってしまっていたし、
わたしはたったひとりで義体に慣れるしかなかった。
世界で屈指の義体使いと今では言われているけれど、正直言ってあまり
うれしくない。
夢見がちな十代を送れなかったことは、やっぱり悲しい……。
いつもなら、ハードな業務に追われてこんな感傷的な想いに浸ることは
滅多にないのだが、今日はどうしたことだろう?
通りの桜並木がすっかり葉桜になってしまったからだろうか?
逝く春を惜しむこころが、こんなセンチメンタルな気持ちにさせるのかもしれない。
でも、まあ、たまにはいいわよね。
わたしだって、いつも鋼鉄の女でいられるわけじゃないんだし……。
テーブルに飾られたさくら草に向かって素子は小さな声で語りかけた。
453飛翔する季節2:2010/04/29(木) 14:24:43 ID:ua4ZOp5X
2
「草薙さん、草薙素子さん」
素子は背後から呼び止められた。
三年A組みのクラス担任であり、倫理社会担当でもある茅葺よう子教師だった。
「茅葺先生、お早うございます」
「お早う。夏休みはどうだった? いよいよ新学期ね」
「はい。わたしは夏があまり好きではないのでこれからの季節が一番
過ごしやすいです」
「ところで草薙さん、志望校はもう決めた?」
「はい」
「あなたの成績なら、現役東大合格まちがいなしね。
クゼ君といい、草薙さんといい、学年トップのふたりがわたしのクラスに
いるなんて教師冥利に尽きるわ」

クゼヒデオ。
生徒会会長、テニス部のキャプテン、学年トップの座をつねに素子と争う、
哲学書を携えた憂い顔の隙のない整った顔立ちの青年。

草薙素子。
鋭利な刃物のように鋭く切れる頭脳、鋭い洞察力、完璧な論理思考、
抜群の行動力と他に類を見ない瞬発力の持ち主であり、加えて息を呑むほどの
美貌の少女。

全校集会のときなど、生徒会の役員をやっているふたりが並んで壇上に
立つとひと際目立つ。
このふたりは皆の羨望の的であり、公認の仲としてよく噂に上る。
しかし、素子もクゼも良きライバルではあっても互いに恋愛感情を抱いては
いなかった。
クゼは元々華やかな美少女よりも、サポート的なタイプの女の子のほうが
好きなのだ。
素子はといえば、張り合うタイプの異性はただのライバル以上のなにものでもなく
自分をいつも背後から見守ってくれる異性を求めていた。
つまり、ふたりは周囲がお似合いのカップルと騒ぎ立てても、当人たちは
どこ吹く風だったのである。

454飛翔する季節3:2010/04/29(木) 14:25:21 ID:ua4ZOp5X
3
図書館の窓からはテニスコートが一望できた。
クゼが後輩の女の子たちの手を取ってスマッシュの指導をしているのが見える。
三年生のクゼは九月いっぱいで部活から引退し、後輩の二年生にキャプテンの
座を譲り渡す。
女の子たちは頬を染めてクゼの一挙手一投足に全身を傾けて聞いている。
「きゃあっっっ♪ クゼ先輩の腕に触っちゃったぁ〜♪♪」
女の子たちはクゼに指導を受ける毎にはしゃぎまわっている。
……どうしたら、あんな風に無邪気になれるのかしら?
素子はクールというか、同じ年頃の少女たちのように誰かに熱を上げて
はしゃぐということをしない。
というのは、素子は学内問わずいつも異性から注目を浴び続けてきたので、
自分から異性を好きにならなくても、想ってもらえる立場なのだ。

「草薙さんは聡明で正義感が強いわね。大学卒業後、将来どんな方面に
進みたいの?」
素子は進路指導室で茅葺教師から尋ねられた。
「国連に入ることを希望しています」
「あなたなら難なく入れるでしょうね」
「ありがとうございます」
「ねえ、草薙さん。あなたはおそらくこれまでの人生で挫折というものを一度も
経験したことがないんじゃなくて?」
そのとおりだった。
経済的に恵まれた家庭に生まれ、両親の愛情を一身に受け、成績も抜群、
どこに行ってもリーダー的存在であり、偏差値の高い志望校にさほど努力
しなくても入れた。
草薙素子のこれまでの十八年の人生の軌跡は一点の曇りもなく、
また、これから先の未来は前途洋々に輝いていた。
「あなたがとても努力家であることは担任であるわたしが認めるわ。
ただ、あなたのような完璧な少女は一度何かに躓いたら、立ち上がるまで時間が
かかるタイプね。わたしはそれが心配」
「躓くって、例えば……?」
「具体的にはいえないけれども、人生には思いがけない出来事が突然降って来る。
そのとき、どうやってそれを乗り越えるか、今後の課題ね」
「……」
「何だかお説教くさくなってしまったわね。ごめんなさい」
「茅葺先生の高校生のときの将来の夢って何だったのですか?」
「笑われるかもしれないけど、あなただから言うわ。
わたしはね、政治家になりたかったの。それも、内閣総理大臣にね」
素子は笑わなかった。
茅葺教師の目が熱を帯びて少女のようにきらきらと輝いていたからである。
455飛翔する季節4:2010/04/29(木) 14:26:18 ID:ua4ZOp5X
4
「何だよ、深刻そうな顔して」
ボクシング部の主将バトーが素子の肩を叩いた。
高校生とは思えない大柄でごつい体躯の持ち主であり、素子と遠慮なく溜め口で
話せる唯一のこころ許せる男ともだちだ。
「うん、ちょっとね」
「どうした?」
「バトーは卒業したら体育系の大学行くんでしょ? それから先はどうするの」
「そうだなあ、俺は一般の企業には就職しないな。アメリカあたりを貧乏旅行
というか放浪して、それからゆっくり考える」
「成りゆき任せか。それもいいわね」
「俺はさ、素子やクゼみたいに頭が良くないから、身体が資本なわけよ。
だから、この体格をフルに活かせるところで働くさ」

自分はいろんなことを理詰めで考えすぎてしまうのだろうか?
学年トップの座を争うクゼも確固とした信念を持ってはいるが、バトーほど
豪放で風任せではないにしても、明日は明日の風が吹くさ、というような
ところもある。
茅葺教師が懸念するのもまさにその素子の理知すぎる点にあった。
ある日突然、素子を取り巻く環境が一変してしまったら、、、
想像するだけでぞっとした。

その事件は新学期が始まって11日目に起きた。
後に言われる「9.11事件」である。
世界貿易センタービル・ツインタワーの北棟は、8時46分にアメリカン航空11便の
突入を受けて爆発炎上した。
続いて、9時3分に南棟がユナイテッド航空175便の突入を受け、爆発炎上。
2機目の激突は1機目の激突後に現場のテレビ中継を行っていた際に発生し、
世界各国に1機目の衝突を臨時ニュースとして国際中継していた間に起こった
事件であったため、前代未聞の衝撃的な映像を多くの人たちがリアルタイムで
見る事になった。

素子はジェット旅客機が世界貿易センタービルに突入し、ビルが崩壊していくさまを
テレビで見て呆然となった。
……どうしてこんな悲劇が起こるのだろう?
映像があまりに衝撃的なため、混乱し、何も考えることはできなかった。
456飛翔する季節5:2010/04/29(木) 14:27:05 ID:ua4ZOp5X
5
学園祭も終わり校庭の銀杏並木は黄金色に色づき始めた。
クラスのほとんどは志望校が決まり、センター試験を目指して最後の追い上げ
をしている。
東大法学部を受験予定の素子の先月の模試の結果は、A判定であった。
クゼも素子同様、上位のトップを安定したままキープしている。
クゼは普段から憂い顔であるが、9.11事件の後、ますます沈み込み
何かを深く考え込んでいるようである。
素子が教室に入っていくとバトーが熱心に新聞を読んでいるのが目に入った。
「お早う。へえ、バトーでも新聞読むことあるのね」
「おう、素子か」
新聞の一面記事には、青年海外協力隊の募集年齢が現行の二十歳から
十八歳に引き下げることが国会で可決されたというニュースが載っていた。
正式な施行日は来年の三月一日、とある。
「ついでに選挙権も十八歳に引き下げちゃえばいいのにね」
「うん? そうだな……」
バトーは上の空で返事をした。

放課後、生徒会室には素子とクゼのふたりだけが残った。
他の生徒会役員たちは生徒会が終わるや否や受験勉強に勤しむため、
さっさと家に帰って行った。
晩秋の黄昏時はどことなくうら寂しい。
ふたりの間に流れる沈黙がぎこちなかった。
最初に口火を切ったのはクゼだった。
「草薙、君は予定通り東大の法学部に現役合格するだろうな」
「それはクゼ君だって同じでしょう?」
「僕は東大には行かない」
「えっ!」
「モスクワ大学に国費留学することにした。昨日、合格通知がきた」
「クゼ君の成績ならハーバードだって、オックスフォードだって行けるでしょ?
なぜ、ロシアなの?」
「なあ、草薙。テロが起きるのはどうしてだと思う?」
「……それは、各国の思想の違いからでしょう?」
「思想は確かに千差万別だ。だが、反思想、つまりテロが生まれる根っこに
あるものはたったひとつだけだ」
「……」
「貧富の差だよ」
「これはどの国も同じだ。レーニンは世界で最初に成功した社会主義革命である
ロシア革命の成立に主導的な役割を果たし、ソビエト社会主義共和国連邦及び
ソビエト連邦共産党(ボリシェヴィキ)の初代指導者に就任、世界史上に多大な
影響を残した偉大な思想家だ」
「でも、結局ソビエト社会主義は崩壊したわ」
457飛翔する季節6:2010/04/29(木) 14:27:49 ID:ua4ZOp5X
6
「貧富の差がないはずの平等主義の社会政策がなぜ失敗したのか、
僕はそれを徹底して学んでみたいんだ」
「失敗の原因を突き止めて、新しいものを編み出そうってこと?」
「ああ。そして、真に人々が平等に暮らせる社会の仕組みを考えてみたい」
「まるで新・ロシア革命ね。クゼ君は将来、革命家にでもなるつもり?」
「革命というのは支持してくれる人民がいてこそ成功するものだからね。
僕はね、人民の声を国の最高責任者に届けたい。人民と政府との架け橋に
なりたいんだ」
クゼにしては珍しいほど熱っぽく将来のことを語った。

それからの日々、クゼは留学の準備で多忙なはずなのに、そうした私的な事情は
おくびにも出さず、淡々と授業を受け生徒会の仕事もこれまで通りきちんとこなした。

バトーはボクシング部の主将の座を二年生に明け渡し、放課後は早く帰ることが
多くなった。
前は生徒会の役員会議を終えた素子と帰り道がいっしょになることが多かったが
最近ではほとんどない。

素子が自転車を引いて校門を出ると、大柄なバトーの姿があった。
「おつかれ」
「あら、まっすぐ帰ったんじゃなかったの?」
「うん、まあ、な。久々に素子といっしょに帰ってみたくてさ」
「どういう風の吹き回し?」
からかうように素子は言った。
ふたりは学校町を抜けて、郊外へ出た。
「俺今日は電車の時間を2本ほど遅らせるわ」
「?」
「一応、お前にはちゃんと報告しときたいからさ」
「何よ、改まって」
「俺、青年海外協力隊に行くことにした」
「いつ?」
「来年の四月。募集年齢が十八歳からになったろ? 試しに試験受けてみたんだ。
そしたら、合格した」
「バトーは体育大学を受けるつもりじゃなかったの? そして大学を卒業したら
数年間、アメリカを放浪するって」
「うん。だけど9.11事件が起こったろ。俺、ものすごくショックだったよ。
アメリカをあんなにも恨んでる国の人たちの行為にさ。。。
俺はもう前のようには単純に手放しでアメリカにあこがれられない」
「……どこの地域に行くの?」
「東南アジア。カンボジア」
458飛翔する季節7:2010/04/29(木) 14:28:31 ID:ua4ZOp5X
7
素子の胸に鋭い痛みが走った。
高校を卒業してしまえば、それぞれ志望大学は異なるから離れ離れになる
ことは素子なりに承知していたが、それでも国内であれば連絡を取り合えば
逢える距離である。
それが国外、しかもカンボジアとは!
クゼからモスクワ大学への留学を聞かされたときも驚いたが、クゼのときは
痛みはさほど感じなかった。
いつもトップの座を争っていた彼があの瞬間大人びて見えたことが、先を
越されたようで、悔しかったことだけを覚えている。
バトーが日本からいなくなる。
なぜ、彼がいなくなることがこんなにも胸をしめつけるのだろう?
素子は自分が動揺している理由がわからなかった。
いろいろな思惑が一度に素子の脳裏を駆け巡った。
「前にも言ったろ。俺は体力だけが取り柄だって。アタマを使うことは不向きだから、
あっちの国で道をつくったり、井戸を掘ったり、橋を架けたりするほうが性に
合ってる。それで、少しでも途上国のみんなの役に立てたらいいなって」

橋を架ける、か。
クゼ君もそういえば同じようなことを言ってたわ……。
いつも何も考えていないように見えるバトーが、そんなに他国に対して友愛の
精神に富んでいたとは。

……どうして男の子たちはいきなり遠くへ行ってしまうのだろう?
ふたりの勇気ある飛翔の前では、わたしなど霞んでしまう。
クゼの野心といい、バトーの友愛といい、素子は自分がふたりに到底及ばない
ことを思い知らされた。
「素子はさ、国連に入って、世界平和を維持してくれよな。俺やクゼは直接、
その国の民のなかに入る。クゼは思想で人民を動かし貧富のない国をつくる。
俺は力仕事をして現地の人たちに奉仕し貢献する」
「わたし、大学を卒業したら国連には入らない」
「……!」
「警視庁に入る。それもキャリア組ではなく、現場を希望するわ」
「おい、国連に入るのがおまえのたっての希望だったんじゃないのか?」
「ええ、でもやめたの」
「それにしても、よりによって警視庁とは……。いったいいつ決めたんだ?」
「たった今よ」
「おいっ!」
「クゼ君やバトーが格差のない社会をつくり、現地の環境を整えるのなら、
わたしは直接現場に立って市井の人々の平和を守ることに従事する」
「相変わらず熱いな、おまえは」
「バトーが熱くしたのよ」
「俺はそういうおまえが好きだよ。きっとまた逢おうな!」
素子の胸にひたひたと、あたたかいものが広がっていった。

三月、卒業式当日――。
三人はそれぞれの想いを胸に未来への一歩を踏み出していった。
459飛翔する季節8:2010/04/29(木) 14:29:12 ID:ua4ZOp5X
8
「お客様、お連れの方がお見えになられました」
素子はティールームのウエイターに起こされた。
どうやらまどろんで夢を見ていたらしい。
「よお、待たせたな」
バトーが目の前に立っていた。
ついさっき夢に出てきたバトーは学生服に大柄な身体を窮屈そうに包んでいた。
素子はくすっと笑ってしまった。
「何がおかしいんだよ?」
「ううん、ちょっとね」
そのとき店内にS&Gの「明日に架ける橋」が流れてきた。

「この曲、改めて聴くといい詩よね」
「僕はいつもすぐ君の後ろにいよう、
荒ら巻く海に架ける橋のように、君のためにこの身を投げ架けよう……」
バトーはしみじみとした口調で詩の一節を口づさんでみた。
「なあに? 今の、愛の告白?」
素子がからかうように言う。
「バ、バカヤロー!」
バトーは真っ赤になってグラスの水を飲むと、思い切りむせた。

夢のなかで約束したように、わたしたちは同じ仕事仲間としてこうして組んでいる。
わたしが9課で仕事に専心できるのは、バトーがいつもその身を挺して橋を架けて
くれるからだわ……。
バトー、ありがとう。
素子はこころのなかでそっとつぶやいた。


***了***


動画 「明日に架ける橋」〜Bridge Over Troubled Water〜 Simon Garfunkel
ttp://www.youtube.com/watch?v=elWwI_DSp_E&feature=related
※ 動画のほうは一応、「埋め込みコード」可、となっています。
460名無しさん@ピンキー:2010/04/30(金) 16:23:18 ID:7SzPEvob
GJです!
461名無しさん@ピンキー:2010/04/30(金) 21:00:30 ID:Yo7C/vv+
GJです!三人の顔を思い浮かべながら読むと、結構おもしろいw
462459です:2010/05/01(土) 16:00:55 ID:V2lylU/x
>>460-461さん
ありがとうございます♪
楽しんでいただけたようでこちらもうれしいです。

セーラー服の素子、学生服姿のクゼとバトー、想像すると (* ´∀`*)♪
若者よ、大使を抱け!

なんだか、わたしばかりが書いているようですみません……
463名無しさん@ピンキー:2010/05/07(金) 22:48:44 ID:UiDhzWDs
保守
464風のささやき1:2010/05/08(土) 22:27:04 ID:WIfGzBYk
「風のささやき」


1
霊園にはやわらかなみどり色の雨が降り注いでいた。
木々のみどりはすっかり濃くなり、ひと雨ごとに夏の訪れを告げている。
荒巻大輔は墓の前に白い百合の花を添え、線香を焚くと静かに手を
合わせた。
今日は荒巻の亡き妻、志乃の命日である。
荒巻の娘夫婦は娘の夫の赴任先が海外なので、今年は一人でここに来た。
……志乃、お前がこの世から去ってもう十年になる。
娘の和歌子も結婚し、孫も生まれた。
和歌子の夫は温厚な性格であり、外交官としてもかなり優秀だ。
もう、私も思い残すことはないよ。
お迎えが来れば、いつでもお前のところに行くよ。
私は生涯の半分以上を陸上自衛軍や公安部の任務に費やした。
任務の遂行のためには命を危険にさらすことも多々あった。
お前には心配をかけ通しだったな……。
志乃、お前はそんな私と一緒になって幸せだったのだろうか?


荒巻大輔が志乃と初めて逢ったのは、荒巻が防衛大学の四年次に進級した
春のことであった。
荒巻は、同じ防衛大学の僚友であり朋友でもある桜木真治の故郷の信州に、
春休みに招かれたのである。
ちなみに、桜木は荒巻とともに後の「赤鬼一等陸佐」の異名を持つ殿田大佐の
愛弟子、”殿田塾三羽烏”の一人で、優秀な軍情報部員であった。
つまり、三羽烏のうち二人が同じ寮で寝起きし、机を並べて講義を聴いていた
ことになる。
当時、殿田大佐は陸上自衛軍で指揮を執る傍ら、防衛大学の講壇に立って
意欲的に講義をした。
戦術、参謀、敵との心理戦、など殿田大佐の講義は理論と実践に基づいた
多岐にわたる高度な内容のものであった。
冷静沈着な荒巻と瞬発力抜群の桜木は実にいいコンビであり、つねに首席を
争っていた。
しかし、ひとたび講義を離れてしまえば、ふたりは信頼しあえる、良き朋友
であった。
465風のささやき2:2010/05/08(土) 22:28:02 ID:WIfGzBYk
2
桜木には郷里の信州に許婚(いいなづけ)がいた。
相手は彼の幼馴染であり、桜木より三歳年下の老舗の造り酒屋のお嬢さんである。
名前を八重子といった。
ふたりは親同士が決めた約束には頓着せず、子供の頃から仲良く一緒に遊び、
桜木が高校生になると中学生の八重子に英語や数学を教えたり、八重子が
家庭科実習で編んだマフラーを桜木に贈ったり、まことに仲睦まじいふたりで
あった。
八重子は大人しくておっとりとした性格であり、桜木は帰省するたびに八重子に
安らぎを感じるのであった。
桜木が大学を卒業して、陸上自衛軍に入隊すると同時に式を挙げることが
決まっていた。

汽車の窓から、林檎畑に真っ白な花が咲いているのが見える。
「信州はちょうど今頃が林檎の花が開く頃なんだ」
桜木がなつかしそうに目を細めて言った。
「いい季節だな。白い林檎の花は初めて見るが、きれいだ」
「秋もいいぞ。林檎の実が赤く染まる」

桜木の生家は材木問屋であった。
家の門を開けると木の匂いがした。
「ああ、木の匂いか、いいなあ」
荒巻は背伸びするようにして木の香りを思い切り嗅いだ。
「だろう? 毎日、大学の実践や実技で硝煙の匂いばかり嗅いでいると
たまらなく木の匂いが恋しくなるんだよな」
桜木の両親は荒巻を快く迎えてくれた。
桜木の部屋でふたりは枕を並べて、とりとめのないことを話しながら
眠りについた。
466風のささやき3:2010/05/08(土) 22:28:48 ID:WIfGzBYk
3
翌朝、朝食を済ませた後桜木は所用があるので出かけなければならないという。
「昼には帰ってくる。すまないが、適当に時間をつぶしていてくれないか」
「ああ、わかった」
荒巻はぶらぶらと散歩に出た。
林檎畑が一望できるところまで来ると足を止めた。
林檎畑の脇には千曲川が流れており、遠くに聳え立っているのは雪を抱いた
浅間山である。
なんと風光明媚なところだろう! 実に美しい!
荒巻は感嘆した。
荒巻は林檎畑の畦道に腰を降ろすと、信州の清々しい朝の空気を堪能した。
ふと、視界に映る人影があった。
林檎の木の下にひとりの娘が立っていた。
娘は詩を暗誦していた。

「まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり

やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり」

娘の澄んだ声は朝の清新な空気のなかで朗々と響き渡っていた。
荒巻の位置から娘の横顔だけがちらりと見えた。
すっと通った鼻梁、流れるような黒髪、娘の佇まいはあたりを払うような気品に
満ちていた。

夜、荒巻と桜木はそれぞれ持参した本を読みふけっていた。
ふいに桜木は荒巻の方に身体を向けて言った。
「明日、君に僕の許婚を紹介するよ」
「ああ。君の子供の頃からのマドンナだものな」
桜木は照れながら頭を掻いた。
467風のささやき4:2010/05/08(土) 22:29:43 ID:WIfGzBYk
4
桜木が八重子と待ち合わせした場所は、小さな神社の境内であった。
女学校は春休みに入っており、八重子は琴のお稽古の帰りであった。
琴のお稽古ではいつも友人の志乃と一緒になる。
志乃は八重子と同じ女学校の同級生である。
面倒見のいい志乃を八重子は姉のように慕っていた。

「八重子さんたら、何を考えているの? 頬が真っ赤になっていてよ」
八重子の頭はこれから逢う桜木のことでいっぱいだったのだ。
桜木のことを思うとひとりでに頬が赤らんでしまう。
「だって、ほら、ここの石段結構きついでしょう? だから息が切れてしまうのよ」
「あら、わたしは全然平気よ」
志乃は素早い身のこなしで石段を軽々と登っていく。
石段を登った横手の道を少し入ると小さな神社がある。

ふたりが石段を登ってひと息ついた時だった。
ひと目で不良とわかる三人の男たちにいきなり囲まれた。
男たちは目をぎらつかせ、舌なめずりするようにふたりを上から下まで
睨め回した。
志乃は咄嗟に八重子を自分の後ろにして庇った。
「俺はこっちの女をヤル。おまえはあっちな」
男のひとりがにやにやしながら八重子に近づいてきた。
「誰か、来て! 真治さん、助けて!」
八重子は絶叫した。
その時、ちょうど石段の入り口に差しかかった桜木と荒巻は八重子の悲鳴を
聞きつけると大急ぎで石段を駆け上った。

志乃は八重子を後ろに庇いながら、瞬く間に次々と襲いかかる男たちを
倒していった。
敏捷な身のこなし、切れのいい背負い投げ、袂からすらりと伸びる腕は竹刀の如く
飛び、男たちのみぞおちを正確に突いた。
荒巻と桜木が駆けつけたときには、男たちは捨てぜりふを残して退散していた。
荒巻は駆けながら、数十メートル先の志乃の豪傑ともいえる活躍ぶりに
圧倒されていた。
「八重子、大丈夫か?」
「真治さん!」
八重子は一目散に桜木の胸に飛び込んだ。
468風のささやき5:2010/05/08(土) 22:30:40 ID:WIfGzBYk
5
「志乃さんが不良たちを追い払ってくれたのよ」
「ありがとうございます。あなたは八重子の恩人です。
僕は八重子の許婚で桜木真治といいます」
「杉村志乃と申します」
「実にお見事でした。僕は荒巻大輔といいます」
志乃はまっすぐな瞳で荒巻を見た。
凛とした佇まい、きりりと結んだ意志の強そうな唇、血色のいい頬、流れる黒髪。
林檎の木の下で詩を暗誦していた娘だ! 間違いない!
詩を暗誦していたときは女学生らしい乙女に見えたが、今、改めて目の当たり
にする志乃は鋭敏さと柔軟さを持ち合わせ、しなやかな若竹を思わせた。

四人はひと息ついてからその辺を歩いた。
桜木と八重子、荒巻と志乃という自然な組み合わせになった。
荒巻「素晴らしい身のこなしでした。何か武道でもされておいでなのですか?」
志乃「合気道と剣道を嗜んでおります」
荒巻「それは頼もしい! 僕はあなたの動作のひとつひとつに釘づけでしたよ」
志乃「ありがとうございます。……実は、わたしの父は士族の出でして、
父はわたしに幼い頃から武士道の精神をよく語り聞かせてくれました」
志乃の父は出世欲に薄く忠義に篤い人物であり、何よりも正義感が強かった。
忠とは私心があってはならないを信条としていた荒巻にとって、まさに
お手本となるような人物だったのである。
荒巻「お父上は素晴らしい方のようですね」
志乃「そのように言っていただけてうれしいですわ。
――武士道といふは死ぬ事と見付けたり」
荒巻「『葉隠』の有名な冒頭の一節ですね」
志乃「はい。朝起きたら死ぬことを覚悟して今日一日を真剣に生きよ、
父の口癖ですのよ。防衛大学ということは、荒巻さんも日本を守るために、
真摯に日々を送っておいでなのでしょうね」
荒巻を見つめる志乃の瞳はきらきらと輝いていた。
荒巻は一瞬で志乃に惚れた。
荒巻「数日前の早朝、詩を暗誦されていましたね。あのときの志乃さんは
夢見がちな女学生のようで可憐でしたが、今日の凛々しい志乃さんもこころから
感動しましたよ」
志乃「荒巻さんて、おかしな方ですわね」
荒巻「は?」
志乃「だって今日初めて逢ったばかりですのに、こんな男勝りのわたしを
褒めてくださるなんて」
荒巻「おかしいですか?」
志乃「……いえ。うれしかったです。そんなふうに言われたこと初めてなもので」
志乃はうっすらと頬を染めた。
つい先刻見た凛々しい志乃も美しかったが、恥じらいを含んで目を伏せる志乃も
いかにも乙女らしくて初々しく映った。
この人は何といくつもの魅力的な表情を持っている人だろう!
決めた。
志乃さんを嫁にしよう。
469風のささやき6:2010/05/08(土) 22:31:42 ID:WIfGzBYk
6
荒巻は滞在中、四人でよく連れ立って散歩した。
短い春休みはあっという間に過ぎていった。
桜木とともに東京へ発つ前の夕方、荒巻は志乃とふたりだけで逢った。
林檎畑の畦道をふたりは時を惜しむかのように、並んでゆっくりと歩いた。
林檎の白い花びらが時おり春風に乗ってふたりの肩に舞い降りた。
千曲川のせせらぎが聞こえる。
荒巻は志乃の手を取ると一本の林檎の木の下に導いた。
「志乃さん、僕は最初にあなたに逢ったときから、あなたが好きです。
来年防衛大学を出たら僕は陸上自衛軍に入ります。
大学を卒業したら僕と一緒になってくれませんか」
「はい。わたしでよければ」
「本当ですか?」
「はい。わたしも大輔さんのこと、好きです」
志乃は荒巻の目をまっすぐに見て言った。
「ありがとう、ありがとう、志乃さん。陸上自衛軍という仕事柄、あまり家には
帰れないかもしれませんが、それでもあなたはついてきてくれますか?」
「はい。この日本という国を守るための大切な任務ですわね。
家はわたしがしっかり守ります。大輔さんはどうかお仕事に専念なさって
ください」
何と肝の座った女性だろう! まるで古武士のようだ!
荒巻は志乃の肩を抱くと抱擁した。
そして、唇を重ねた。初めて触れる荒巻の唇は熱くて力強かった。
……ああ、これが接吻というものなのね。おそらく八重子さんも経験している
に違いないわ。
若い荒巻の自制心は次第に抑えられなくなりつつあった。
春本や春画でしか知らない女体が荒巻の脳裏をよぎる。
今、まさに目の前には本物の女の身体がある!
「志乃……」
荒巻の声はかすれていた。
呼び捨てにされて、志乃は身体の芯が痺れるように熱くなった。
荒巻は接吻だけでは我慢できず、志乃の着物の胸の膨らみの上にそろそろと
指を這わせた。
志乃は一瞬、身を硬くした。
荒巻は志乃の身に走った緊張を察し、それ以上指を動かすことはなかった。
志乃は荒巻に抱かれたいと欲望した。
……わたしってこんなに、はしたない娘だったのかしら?
お父様から武士道や士族の娘の心得を幼い頃から朝な夕なにおしえ聞かされて
きたというのに。
志乃は退こうとする荒巻の指の上に自分の指を重ねた。
荒巻は志乃の目を見た。
志乃の目はうっすらと熱を帯び潤んでいる。
荒巻は着物の合わせ目から手を入れると、志乃の乳房を揉みしだいた。
志乃の乳房は青林檎のような硬さを残している。
着物の前をはだけると両の乳房があらわになった。
林檎の花のような真っ白な乳房、その頂きには薄紅色の姫林檎を思わせる
つんと尖った実がその存在感を誇示している。
荒巻は尖った胸の実を強く吸い、甘く歯噛みした。
「ああっっ!」
志乃の身体に電流が走り、快感のあまりのけぞった。
荒巻の手は性急に帯を解いていく。
朧月が志乃の白いふくらはぎを照らし出した。
荒巻は志乃の両脚を大きく開いた。
今まで誰にも見せたことのない秘所を露わにされ、志乃は羞恥のあまり身体中、
薄桃色に染まった。
470風のささやき7:2010/05/08(土) 22:33:17 ID:WIfGzBYk
7
荒巻はゆっくりと腰を沈めていった。
志乃の顔は一瞬、苦痛に歪んだが、それでも途中から荒巻の動きに合わせて
自らも快感を求めて腰を動かし始めた。
武道で鍛えているだけあって、志乃の腰は正確に敏捷に動く。
志乃の小刻みな腰の動きは、荒巻を絶頂へと導いた。
荒巻は志乃のなかで果てた。
志乃は初めての体験で頭のなかは真っ白だった。
荒巻は志乃の着物の乱れをやさしく直すと、ふたたび志乃に接吻した。

林檎の花が甘く香り、若い恋人たちを見守っていた。



……志乃、お前といっしょになって私は本当に幸せだったよ。
墓前で手を合わせたあと、荒巻は静かに立ち上がった。
突然、風が若葉を揺らした。
そのとき、風に乗って志乃の声が聴こえた。

……あなた、あなた、わたしも幸せでしたよ。
あなたも好きだった『葉隠』の言葉、武士道といふは死ぬ事と見付けたり、
あなたが日本を守るために毎朝死を覚悟して出かけられたように、
わたしも、毎朝今日が最後の日になってもいい覚悟であなたを愛しました。
こんなにも日々真剣に生きられたのは、あなたといっしょになったからです。
わたしは、他の奥様方のように退屈や倦怠とは無縁な毎日でした。
あなたといっしょになったおかげで、わたしは何と濃厚な人生を送れたことでしょう!
ありがとう、あなた。
こちらにおいでになるのはまだ早いですわ。
あなたの力を必要としている人たちがそちらにはたくさんいらっしゃるわ。
だから、あなたはもう少しそちらの世界にいてくださいな。

今のは幻聴だろうか?
いや、あの声は間違いなく志乃の声だった。
「わかったよ、志乃。私はもう少し、こっちの世界で頑張るよ」

そよ風が荒巻の背中をやさしく吹き送った。


***了***
471名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 22:34:56 ID:WIfGzBYk
【参照】

「初恋」 島崎藤村


まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり

やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり

わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな

林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ


【出典】『ウィキペディア(Wikipedia)』
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8B%A5%E8%8F%9C%E9%9B%86

【動画】「初恋」歌 舟木一夫 
ttp://www.youtube.com/watch?v=GJGPDJ4n3fM&feature=related
※ 動画のほうは「埋め込みコード」可、となっています。

472名無しさん@ピンキー:2010/05/09(日) 18:34:55 ID:Q/hqdxpE
>>471
GJです。
荒巻らしさが出て良い。
473名無しさん@ピンキー:2010/05/12(水) 00:47:14 ID:yO+RzI0U
>>471
GJ
474471:2010/05/13(木) 15:37:08 ID:xzhCdsn7
>>472-473さん

ありがとうございます♪
475初夏凛々1:2010/05/15(土) 20:05:06 ID:IZQw675E
「初夏凛々」

1
わたしの名前は草薙素子。
所属は警視庁の非公式組織、公安9課。
十歳になるかならないで、飛行機事故に遭い、生きるには生身の身体を捨て
全身義体にするしかなかった。
人はわたしを世界で屈指の義体使いと呼ぶ。
公安9課でのわたしのコスチュームは、かなり際どいハイレグだ。
以前、部下のバトーから、なぜ男義体にしないのか? と聞かれたことがある。
行動するには確かに男義体のほうが煩わしくなくて便利ではある。
わたしは、特に女義体にこだわってはいない。
ある日突然、公安9課全員は男義体にするように、と上から指令が下れば
何の不満もなく、わたしは従うだろう。
では、なぜわたしが未だ女義体でいるのか、
今日は、そのことについて打ち明けてみたいと思う。

皆さんは、今、どんな状況でわたしの告白を読んでいるのだろう?
夜、食事も入浴も済ませ、寝るまでのつかの間の息抜きだろうか?
あるいは、朝、通勤列車を待つホームで携帯から待ち時間潰しに読んで
いるのだろうか?
もしくは、会社でお昼休みや三時の休憩のひとときに、ブックマークのお気に入りの
ページを開いているのだろうか?
草薙素子という名前が皆さんの脳裏をよぎるとき、豊満なバストを強調した
半カップのビスチェと豊かなヒップに食い込む切れ込みの鋭いハイレグに身を包んだ
挑発的な女が真っ先に浮かぶだろう。
そして、おそらくたいていの男性は、そんなわたしの姿態にあれこれ妄想して
下半身を熱くしているはずだ。
エロ妄想されて、不快ではないかって?
いいえ、とんでもない。
わたしの狙いはまさにそこにあるのだから。
わたしの悩殺コスチュームは、確信犯なのである。

初めて公安9課に配属された日のことは、今でもはっきりと覚えている。
その日、わたしは当時支給された制服――パンツスーツにストライプのタイ、
きっちりと第一ボタンまで留められた白いワイシャツに身を包んで出勤した。
予想はしていたが、9課はわたし以外は課長を始め全員が男性だった。
彼らは初顔合わせであるにも拘らず、課長とトグサのスーツを除いて
残りのメンバーは私服だった。
476初夏凛々2:2010/05/15(土) 20:06:31 ID:IZQw675E
2
そう、9課は緊急時に出動要請が下らない限り、基本何をしていても自由である。
緊急時、戦闘時には全員が指定された黒い戦闘服、通常忍者服を纏う。
だからといって普段から戦闘服を纏っている必要はない。

わたしは最初の一週間はパンツスーツで通した。
戦闘服は9課のロッカーとセーフハウスにそれぞれ1着ずつ置くことにした。
いつ出動要請が来てもいいように、である。

初めて戦闘服を纏ったのは9課に配属されてから10日目であった。
人質を取って銀行に立て籠もる事件が発生した。
イシカワとボーマはさっそく正確かつ詳細な情報を集めた。
それから、わたしたち9課は全員が揃いの戦闘服を身に纏い、空からヘリで
銀行の真向かいのビルの屋上に降りた。
サイトーが犯人を狙撃すると同時にわたしたちは銀行の窓をぶち抜き、ワイアーで
吊った身体ごと強行潜入した。
わたしが先制攻撃をかけ、バトーが援護してくれた。

初めての9課総出動は実に見事なチームワークだった。
わたしもほかのメンバーたちも自分たちの活躍に満足していた。

それから、何回か要請が来て、そのたびにわたしたちは素晴らしいチームワークを
発揮して危険な事件を次々と解決していったのである。
最初はぎこちなかった9課のメンバーたちも、ひとつき経ち、ふたつきが経ち、
半年も過ぎる頃には溜め口で軽口を言い合えるほどになっていた。
けれど、わたしはあるとき、ふと気づいたのだ。
事件が起これば見事なチームワークを発揮するが、それ以外の日は皆、
不機嫌であったり、どことなく苛立っている。
荒巻課長とトグサはそれほどでもないが、他のメンバーたちの気分のアップダウン
がかなり激しいのだ。

わたしは「少佐」と呼ばれ、参謀を立て、戦闘の場で皆の指揮を執ることは
難なくやってのけられるが、それはあくまでも戦闘の場に限られていた。
9課のメンバーは戦闘の場では如何なくチームワークを発揮できるが、
ひとたび戦闘の場を離れた途端、殺伐とした空気が流れる。
なぜなのだろう?

ある日、ささいな事で諍い(いさかい)が起こった。
バトーはお気に入りのタチコマという9課に配備されている小型の思考戦車の
一台に天然オイルを与えている。
477初夏凛々3:2010/05/15(土) 20:07:30 ID:IZQw675E
3
本来は天然オイルは禁止されているのだが、バトーは機械に対して特別な
愛情を抱いており、公認の秘密として与えていたのだった。
ボーマがタチコマで移動したとき、いつになくスピードが遅いと感じられたので
ボーマはもう少しスピードを上げてほしいと頼んだ。
タチコマが「天然オイルをくれたら、速くしてあげてもいいよ」と軽口を叩いた。
普段はあまり怒ることのないボーマだが、なぜかその日は妙に苛立っていた。
「なら、いい! 他の戦車に乗るまでだ」
ボーマはそういい捨てると降りてしまった。
タチコマから事のなりゆきを聞いたバトーはいきなりボーマに怒りをぶつけた。
「ボーマ、俺がタチコマに天然オイルをあげてるのは確かに悪いとは思う。
だがな、俺なりのタチコマへの愛情なんだよ。わかってくれとは言わないが、
怒るなら俺を怒れ。タチコマは悪くない」
「そうですかね。バトーが甘やかすから戦車ごときのタチコマが付け上がるんじゃ
ないんですか」
「おいっ!」
バトーはボーマの胸倉をつかんだ。
「まあまあ、やめろよ、ふたりとも」
サイトーが止めに入った。
「そういえばさ、サイトーも愛用の狙撃銃は特別扱いしてるよな」
ボーマにふいをつかれてサイトーはムッとした。
三人を取り巻く雰囲気は一気に険悪になり、白けた空気が流れた。

素子は深く考え込んでしまった。
違う個性を持った人間同士が集まれば、必ず諍いは起こる。
最初の頃は互いに遠慮していても、時が経つにつれて気を遣わなくなり、
相手に不満を覚え始める。

小さな亀裂はやがて大きな断崖になり、もう収拾がつかないところまできたら
その集団は終わりである。

素子はU公園を考えながら歩いていた。
男ばかりの公安9課のメンバーをまとめるにはどうすればいいのだろう?
公園の突き当たりは美術館だった。
……息抜きにたまには絵でも観ようかしら。
素子は美術館に入ることにした。

館内はひと気がなく、素子は一枚一枚の絵画をゆっくりと観て回った。
とある一枚の絵の前で素子は足を止めた。
478初夏凛々4:2010/05/15(土) 20:08:24 ID:IZQw675E
4
絵の題名は「草上の昼食」。作者はエドゥアール・マネ。
不思議な絵だった。
四人の男女が森の中でピクニックしている。
湖で水浴びをしている女は薄物を纏って腰を屈めている。
手前にいるふたりの男たちはモーニグにタイをきちんとつけている。
このふたりの男を前にして、ひとりの女は全裸なのだ!
ふたりの男たちはくつろいで足を投げ出している。
そして、全裸の女の片足はひとりの男のちょうど足と足の間、つまり股ぐらに
向かって遠慮なく投げ出されているのだ。
女の顔に恥じらいは見られない。
まるで、男を挑発して楽しんでいるようではないか。
……男たちは服装から察するに上流階級のようであるが、全裸の女は
娼婦なのだろうか?
男は女を指差しながらもうひとりの男に向かって何か言っている。
「おい、こいつのおっぱい見てみろよ。すごいよな」
「うん。ランチのあとのお楽しみだな」
想像するにこんな会話だろうか。

それにしても、この男たちの満足げなくつろいだ様子はどうだろう!
草の上にどっしりと座った落ち着き具合といい、今にも靴を脱ぎそうな気配
さえ感じられる。
若い全裸の女を昼間の陽光の下で目の当たりにすれば、たいていの男たちは
欲情で目がぎらつくはずなのに、なんと伸び伸びと振舞っていることだろう。

素子は絵に釘づけになり、しばらく絵の前から離れることはできなかった。

森の木陰。
全裸の女。
女の余裕ある表情。
白日の明るい光。
木立ちの色を映した湖の翠色。
吹き送る緑風。
男たちの正装とくつろいだ表情。
絵の中の光景は牧歌的ですらある。

ああ、そうだったのか!
ふいに素子のなかで天啓がひらめいた。
なぜ、わたしは気づかなかったのだろう?
こんな簡単なことだったのに……。
479初夏凛々5:2010/05/15(土) 20:09:15 ID:IZQw675E
5
翌朝――。
素子が出勤すると9課のメンバーたちは口をあんぐりと開けたまま、
素子の衣装に釘つけになった。
誰も言葉を発するものはなかった。
最初に沈黙を破ったのは荒巻だった。
「草薙、今朝の君の服装はいったい……」
「課長、わたしはこれからこの服装で通します」
「しかし、、、」
素子はメンバーたちに向かって艶然とした笑みを送った。
「ねえ、みんなはどうかしら?」
誰からも反論は出なかった。
素子のナイスバディに圧倒されていたのである。
「じゃ、全員了解ということで♪」
素子はにっこりほほ笑んだ。

素子が身につけていたものは、上半身は半カップのビスチェと、
下半身はかなり際どい切れ込みのハイレグの白いボディスーツだった。

素子はひらりと椅子を跨いだ。
ハイレグが豊満なヒップに食い込み、ヒップは丸出しだ。
上半身を屈めるようにして、パソコンをオンにする。
少し上体を屈めただけで豊かな胸が露わになり、そのたびに胸が揺れる。
その瞬間のメンバーの反応は以下のとおりである。

荒巻は苦虫を潰したような顔をしながらも、どこかうれしそうである。
イシカワはニヤニヤしながら、からかいの表情を浮かべている。
パズはそんなものは飽きるほど見慣れてる、と余裕の顔。
サイトーはいつものポーカーフェイスだが、スケベごころを必死に抑えている
のが素子にはバレバレである。(心理戦ではいつも素子が勝つ…)
トグサは横目でちらちら見ながら、しょっちゅう咳ばらいをしている。
ボーマに至っては顔を真っ赤にして、今にも泣き出しそうである。
バトーはといえば、怒ったような顔で素子を仏頂面で睨みつけている。

9課のメンバーはしばらくは困惑していたが、やがていつも通りに
それぞれの任務にかかった。
そして、ひとたび任務にとりかかると誰もが真剣な顔で仕事に没頭した。

素子は戦車置き場に降りていった。
480初夏凛々6:2010/05/15(土) 20:09:58 ID:IZQw675E
6
「少佐、お早うございます」
タチコマは普段と変わらない口調で挨拶をした。
「お早う」
タチコマは素子の過激な悩殺ハイレグ姿にまったく動じないようだ。
素子はわざと足を組み替え、上体を反らして胸とヒップを強調した。
「ねえ、タチコマ。この衣装どうかしら?」
「ええっと……、下のほうの小さな三角形の布はですね、省エネ効果抜群でして、
布が少なくてまことに経済的であります。クールビズに貢献しています」
「はあ?」
そうか、タチコマにはエロスの欲情が搭載されていないのね。
素子は両手をすくめた。
まあいいわ。9課の男たちに通用すればいいことだから。。。

素子がハイレグの衣装になってから、9課の男たちは以前ほど諍いを
しなくなった。
比較的、みな平常心で仕事をしている。
例外としてバトーだけは不機嫌さを隠さないが……。

素子は「草上の昼食」の絵画を観てわかったのだ。
少数精鋭とはいえ、素子以外は全員むさ苦しい男ばかりの部署で彼らを
統率するのに必要なのは、鋭い頭脳でも、ずば抜けたリーダーシップでもない。
エロスなのだということが。
荒巻がなぜ、オペレーターたち全員を若い女性型アンドロイドにしたのか。
彼女らは生身ではない以上、事務処理は性別を問わないはずである。

それなのに、あえて女性型アンドロイドにした。
トグサや荒巻が他のメンバーと較べて比較的、いざこざを起こさなかったのは、
トグサも荒巻も妻帯者だからだ。
ふたりは家に帰れば妻という異性と毎日接している。
荒巻はともかく、トグサは妻と性交渉しているのだ。

男だけの殺伐とした部署には、紅一点の強烈なエロスが必要なのである。
ならば、彼らの欲望が溜まりに溜まって苛立ちが頂点に達しないうちに
うまくなだめてやらねばならない。
そのためには、直接、性交渉することも大切であるが、それ以前に女の裸体を
ぎりぎりまで露出して、日夜男たちの欲望を満たし、発散させてやることが
必要なのだ。
だから素子は新しい義体にするたびに、バストとヒップはより豊満に、
ウエストはより一層くびれた細い肢体を特別に注文した。
481初夏凛々7:2010/05/15(土) 20:10:47 ID:IZQw675E
7
また、ハイレグはぐんと際どく、ビスチェはふとした角度で乳首が見えそうな
ものを身に着けるようにした。
乳首はいつ丸見えになってもいいように、つねにぴんと屹立させておいた。
世界屈指の義体使いである素子にはそのくらいのことは容易にできるのだ。
そうすることで、9課のモチベーションが上がるからである。

「草上の昼食」の全裸の女は娼婦などでは決してない。
男たちと同じ階層に属する淑女だ。
彼女は、男たちの恋人ではない。――仲間なのだ。

おそらく彼女はふたりの男たちの前で惜しげもなく裸体を晒すのは、
今回が初めてではないのだろう。
なぜなら、男たちの目はぎらついてない。
裸体の女性に向けるまなざしは、柔和なやさしさにあふれ、賞賛している。
彼女はふたりの男と寝ても寝なくても、男たちのこころをとらえて離さないだろう。
それを確信している彼女の顔は何と誇らしげであることか!

皐月晴れの日――。
素子は9課に出勤するといきなりピクニックを提案した。
素子がハイレグ姿で出勤して、ひとつき半が経っていた。
「だけど、なんでピクニックなんだ?」
バトーが素朴な疑問を発した。
「公安9課発足からひとつき半後の懇親会よ。夜の居酒屋も悪くないけど
たまには昼間もいいでしょ」
素子はサンドイッチや海苔巻き、果物、飲み物を山ほどタチコマに詰め込んだ。
メンバーたちはわけがわからないまま、それぞれ戦車に乗った。

行き先はM公園。都内でも一番面積が広い自然公園である。
素子は葉桜の並木にぐるりと囲まれた芝生広場の木陰にシートを広げた。
瑞々しい新緑の木々はささやくように緑風を送ってくれる。
空は抜けるように青く澄み渡り、若葉のみどりは実に鮮やかだ。
「あ〜、久々だなあ。気持ちいい、こういうところだと食欲も旺盛になるなあ」
メンバーたちはシートに並べられた食べ物を次々と平らげていった。
草上での昼食も終え、みなが満足感を味わっていた。
素子はいきなりビスチェを外した。
みなはあっけにとられている。
ビスチェの下からは形のいい双の乳房と薄桃色の尖った乳頭が現れた。
続けてハイレグも脱ぎ捨てた。
482初夏凛々8:2010/05/15(土) 20:11:48 ID:IZQw675E
8
「……!!!!!」
全員が素子の裸体を凝視した。
誰一人、言葉を発するものはなかった。
さらに素子は腰を降ろすと片足をバトーの広げた両脚の間にもろに投げ出した。
バトーの目は点になった。それから、あわてて目を逸らした。
メンバー全員が硬直しているのと正反対に素子だけがくつろいでいる。

荒巻「ええっと、どれ、私はその辺を歩いてくるかな」
イシカワ「俺は、、、トイレ」
トグサ「僕は、家内から携帯にメールが入ってるみたいなので、返信してきます」
パズ「さてと、花でも摘んでくるか」
サイトー「……ちょっと、失礼」
ボーマ「自分はですね、そのぉ、あ、生ゴミを捨ててきます」
バトーは憮然とした表情のまま、黙って素子に自分の上着を脱いで掛けた。
メンバーたちは全員、そそくさと席を立っていった。。。

あとに残されたのは素子とタチコマだけであった。
素子は溜め息をついた。
……現実はあの絵のようにはなかなかいかないものね。
9課の男たちはあの絵の男たちのようにリラックスするどころか、
全員逃げの一手を決め込んじゃうし。まったく、みんな、意気地がないんだから。
素子はタチコマにしみじみとした口調で話しかけた。
「お前だけが残ってくれたのね。ありがとう、タチコマ」
「少佐、ボクには9課の事情はよくわからないのですが…。
映画や小説によりますと、女性が裸になると男はうれしそうに近寄ってきて、
自分も服を脱ぎ始めることがほとんどのようです。
それから、男と女の身体は密着してハアハアするみたいです」
「あっ、そう。じゃあ、今の場合は何て解釈すればいいのかしら……?」
「そうですね、、、ボクが知ってるなかで、ひとつだけ例外がありました。
アマゾネスという裸の女戦士です。
アマゾネスが裸で男に近づくと男たちはみな怖がって森の奥に逃げ込んでいました」
「タチコマは当分天然オイル禁止よ。わたしがバトーに厳命しておく!」
素子は憮然と言い放った。
「ひょええっっーー! し、少佐ぁっっ、それだけはどうかご勘弁をっっ!」

……タチコマにはなぜ素子が急に機嫌を損じたのか皆目わからないのであった。


***了***

【参照】
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より
「草上の昼食」 エドゥアール・マネ
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Edouard_Manet_024.jpg
483名無しさん@ピンキー:2010/05/15(土) 21:43:10 ID:KagAWG1u
>>482
乙です。少佐大胆すぎwww
484龍虹1:2010/05/23(日) 13:41:24 ID:qnNXN5yo
「龍虹―りゅうこうー」

1
造顔作家殺し、バーのママ殺しの一連の事件の犯人はかつてパズと関係のあった
カワシマ・カオリであった。
カオリは造顔作家に頼んでパズそっくりの顔をつくり、パズの身体を手に入れた。
つまり、ゴーストは女のカオリ、身体は男のパズである。
カオリはこの時点ですでに正気ではないことが窺える。
パズは偽者をナイフで止めを刺したが、事件後も何ともやりきれない気持ちだった。
カオリがパズを深く愛しすぎた結果ともいえる。
出逢った頃のカオリはそんな女ではなかったのに……。

事件が終わっても、素子はパズが沈鬱な顔をしているのが気になった。
パズをスカウトしたのは自分だ。
地道な聞き込みはパズが図抜けている。ナイフの腕前も群を抜いている。
私生活については詮索しない、それが9課のルールであった。
しかし、今回のような女がらみの事件が起きるとやはり黙って見過ごすわけには
いかないだろう。
素子はパズを警視庁の会員制のバーに誘った。
このバーは警視庁の職員のなかでもごく限られた人たちしか入れない特別なバーであり、
オールナイトで営業している。地階であるため表通りから見られることはまずない。
それゆえに、内密の打ち合わせをするときのみに使われる。

「少佐、今回の事件についてはすべて俺の不徳の致すところだ。
9課にも迷惑をかけてすまなかった」
「……女遊びもほどほどにな」
「今後は自重するよ」
「それしても、カワシマカオリという女はまるで『安珍と清姫』の物語に出てくる
清姫そのものだな」
「……」
「パズの女の趣味をとやかく言うつもりはないけど、今回の女はいただけないな」
「カオリは出逢った当初はあんな女ではなかった……」
「ふうん。で、パズに冷たく去られておかしくなったってこと?」
「まあ、わかりやすく言えばそうだ」
「わかりやすいも何も、それ以外の理由なんかないんでしょ」
パズは新しい煙草に火をつけた。
「それとも何? 他に気になる女でもできたとか?」
「……俺は当時ビルの警備やら、工事現場やらで、どうにか食いつないでいた。
カオリはデパートの販売員をしていて、俺は半分ヒモのような暮らしだった」
パズは重い口調で話し出した。
485龍虹2:2010/05/23(日) 13:42:16 ID:qnNXN5yo
2
パズがカオリと初めて逢ったのは、ある雨の降る日の駅の改札口だった。
突然の雨に、電車から降りてきた人たちは困惑顔だった。
タクシーは行列が並んでおり、カオリは途方に暮れていた。
雨はなかなか止みそうにもない。
仕方ないわ、カオリは雨の中を駆け出した。
「これ、差していきな」
パズはカオリに傘を差し出した。
ひと目で女物とわかる傘だった。
「いいんですか?」
「ああ、この傘はもう使わないから」
同じ女とは二度寝ない、この傘の持ち主の女とも二度と逢うことはない。
俺にとっちゃ、この傘は女と同じだ。
「ありがとうございます」
カオリはお礼を言うと雨のなかを歩き出した。
……要らない傘でも人様の役に立ってよかったぜ。
パズは重い荷物を降ろしたように、ホッとしながらカオリを見送った。

数日後――。
パズは改札口を抜けたところで声をかけられた。
「この間はありがとうございました。助かりました」
カオリが立っていた。
「ああ、あのときの」
「これ、お返ししようと思いまして」
カオリは傘を差し出しながら言った。
「それ、俺は使わないから。。。」
「でも、この傘、かなり高そうなものですよ」
「そうなのか?」
「はい。デパートで二万円はします」
「う〜ん、そんなに高価なのか。たかが傘なのになあ」
「傘にこれだけお金をかけられるということは、かなりお金にゆとりのある方ですわね」
カオリの指摘は正しかった。
この傘の持ち主は、金満家の未亡人だった。
未亡人は金と暇に任せて毎日趣味のスクールで時間を潰していた。
そのスクールの入っているビルで、パズはビルの守衛をしていたのである。
未亡人がスクールに通うのは、ありていにいえば情人を探すためだった。
未亡人はパズに目をつけると、さっそく誘惑しにかかった。
後腐れのない大人の関係。
一度きりの情事をパズも未亡人も楽しむだけ楽しんだ。
486龍虹3:2010/05/23(日) 13:42:52 ID:qnNXN5yo
3
夫を亡くした欲求不満の未亡人はとにかくねちっこかった。
自分の欲望が満たされない限り、パズを解放してくれない。
髪を振り乱して馬乗りになり激しく腰を振る形相は鬼気迫るものがあり、己の欲望に
ひたすら貪欲であろうとする様は食い殺されるのではないかと懸念するほどだ。
やっと解放されてホテルを出ると雨が降り出していた。
未亡人はタクシーを呼ぶとパズを送ると言ったが、パズは断った。
あまりに強固にパズが断るので、じゃあこの傘をあげるわ、と言って
未亡人はパズに傘を渡した。
未亡人を乗せたタクシーは一気に走り去っていった。
翌日、パズはビルの守衛を辞めた。
以来、未亡人とは逢ってない。

「高い傘らしいが、とにかく俺はその傘は使わないし、あんたも要らないんなら
捨ててくれないか」
「だったらこうしましょう。駅員さんに言って、雨の日はご自由にお使いくださいと
雨の日の貸し出し専用傘にしてもらいますね」
カオリはさっさと駅の事務室に入っていった。
パズはそのまま帰ってもよかったのだが、何となく気になりカオリが出てくるのを
待っていた。

その夜パズはカオリの部屋に泊まった。
そして、その日からいっしょに生活するようになった。
「あなたは無理して働かなくてもいいのよ。わたしが生活費は稼ぐから」
「……しかし」
「いいの、あなたは好きなことをしていて」
カオリは朝起きるとパズの朝食と昼食をつくり、自分の弁当もこしらえた。
勤め先のデパートの社員食堂でも食券を買えば食べられるのだが、つつましいカオリは
必ず弁当を持参していた。
夜は勤めの帰りがけに食材を買い、ふたり分のささやかな夕食をつくった。
パズはカオリから渡される小遣い銭でパチンコに行ったり、射的でお金を増やした。
パズの射的の腕前は百発百中であった。
「あなた、すごいわね、名人みたい」
「まあな」
そう、パズは射的もそうだが、ナイフ投げはプロ級の腕前であった。
ヒモ男としてパズは夜はカオリを歓ばせることに神経を集中した。
パズの指の動きは神業といってもいい。
ナイフを投げるとき必要なのは、標的との距離を正確に目で測ることだが、
投げるときの一瞬の指の動きが命中の決め手である。
命中するかしないかは、人差し指の動きで決まる。
487龍虹4:2010/05/23(日) 13:43:30 ID:qnNXN5yo
4
微妙なちからの込め方、さじ加減、指の示す方向、これを一瞬で判断する。
狙撃銃には光学照準器が装備されており、スコープ越しに標的を正確に狙えるが
ナイフは自分の目と指のみが勝負だ。
パズの指はカオリの一番敏感なところを徹底して攻める。
それだけでカオリはいつもイッてしまう。
カオリは高ぶってくるとパズの背中に爪を立てた。
「……つっ!」
パズが顔をしかめるとカオリは一層身体を密着させて爪を食い込ませてくる。
爪跡の深さがまるで自身の愛の深さでもあるかのように……。

カオリと暮らし始めて半月ほど経ったある日、パズは顔見知りの射的仲間と飲んで
朝帰りをした。
パズがアパートのドアを開けるとカオリは一睡もせずに待っていた。
隈のできた目で半狂乱になって抱きついてきた。
「どこへ行ってたの? ものすごく心配したのよ!」
「……すまない。ちょっと仲間と飲み明かしてしまった」
「仲間って誰?」
「いつも行く店で顔を合わせる射的仲間だよ」
「本当?」
「ああ。心配かけて悪かったな」
カオリは安心するといつものように食事の用意をし出勤した。
しかし、この日以来、カオリが帰ってきて部屋にパズがいないと、カオリの精神状態は
極度に不安定になるのだった。
そして、その度にパズを執拗に問い詰めるのである。
――どこへ行ってたの?
――誰といっしょだったの?
宥めるためにパズはカオリを仕方なく抱く。
カオリは一瞬でもパズを離すまいと必死になってしがみついてくる。
パズの身体には毎日新しい爪跡や、噛み傷や、ひっかき傷が増えていく。
近頃ではカオリのほうがパズをベッドに強引に押し倒してくる。
そして、事後には決まってこう尋ねられる。
――わたしを愛している?
――今までの女とわたしとどっちがいい?
――あなたはわたしのものよ、他の女には絶対に渡さない!
――ほかの女にこころを移したらあなたを殺して、わたしも死ぬ。
初めの頃は適当にあしらっていたが、こうも毎回問い質されるといい加減うんざりする。
確かに俺はカオリの金で食わせてもらっているヒモだ。
だからといって、こうも執拗に四六時中行動を管理されるのはたまったものじゃない。
次第にパズはカオリの愛が重たく感じられ、鬱陶しいと思うようになっていった。
488龍虹5:2010/05/23(日) 13:44:05 ID:qnNXN5yo
5
カオリから少し離れたいと思っている矢先に、その仕事は入った。
ひとりの射的仲間がパズの腕前を見込んで持ちかけてきたのだ。
場所はアメリカ。仕事内容はありていに言えば護衛。期間は今のところ限定してない。
世界中の有名な物理学者や数学者たちが集められて、非公式組織で何かを
研究しているという。各国の小競り合いによる学者たちの暗殺を未然に防ぐために
公的組織に属さない腕利きの護衛を募集しているというのだ。
報酬はパズが予想した額よりはるかに上回っている。一も二もなくパズは引き受けた。
カオリに仕事が入った旨を告げると、カオリが引き留めるのも構わず即刻出発した。

その非公式組織は科学者の集まりで、宇宙のどこか一点から発せられている声、
天の声が何であるかを解読しようしていた。
各国の学者には個別の部屋が与えられており、パズの仕事は学者たちが研究所に
いる間と、夜就寝してからの彼らの身の安全を守ることであった。
仕事仲間はみなパズと似た境遇のものたちがほとんどだった。
つまり、凄腕ではあるが、前科者、住所不定、前歴不明、の者たちの集まりだった。
しかし、パズにとっては居心地がよかった。
というのは、パズはもともと一匹狼であり、どこかの公的な組織に所属し、束縛される
ことを極端に嫌っていたからである。
護衛仲間とは個人的なやりとりはいっさいせず、ただ、黙々と自分の仕事に没頭して
いられるのは気が楽だった。
結局、科学者たちは天の声のメッセージを解読できず、非公式組織は解散となった。
パズの仕事も組織解散と同時に終わりであった。
そのまま日本に帰る気にはなれず、かなりの大金が入ったのでそこにしばらく滞在した。
3ケ月後、ひとりの人物が天の声を解読したと聞き、パズは仕事はとうに終わりを告げて
いたのだが好奇心からその人物を訪ねてみることにした。

天の声を解読した人物は盲人の娘であった。
娘は地図にも載らないような寒村に住み、朝な夕な風や雨や草木や星の声を
聴いて暮らしていた。
娘は盲目ではあっても卑屈なところは少しもなく、パズの質問にもまっすぐに答えた。
盲目ということもあるが、娘はパズがこれまで関わってきた女たちのように色目を使う
ようなことは決してなかった。
娘は星や風について驚くほどよく知っていた。
娘が子供の頃から被造物たちは娘に語りかけていたという。
だから娘は目が見えなくても空の星座がささやく声で四季がわかるのだった。
今回の天の声も、声のほうが先に娘に語りかけてきたのだという。
パズは娘と話していて、なつかしい気持ちになるのを感じた。
子供だった頃の無垢なこころ、先入観を持たずに人に向き合えた日々がふいに蘇ってきた。
今の俺はあの頃と何と隔たってしまっていることか……。
489龍虹6:2010/05/23(日) 13:44:38 ID:qnNXN5yo
6
初冬だというのに娘の着ているものは薄手で靴もかなり古びていた。
……あれでは好きな野山を歩くとき寒いだろうな。
パズは娘の家を辞して帰る途中で一軒の雑貨屋に立ち寄ると、女物の暖かそうな
ショールとボアがついているブーツを買い求め、娘の家に届けてくれるよう店主に頼んだ。
実直そうな年配の男店主に、お名前は? と聞かれパズは煙草を1本抜き取ると差し出した。
「これを添えてくれれば、わかると思う」
店主は一瞬怪訝そうな顔をしたが、それ以上はあえて聞いてこなかった。

店主は娘にショールと靴を届けた。
「……誰からの贈り物でしょうか?」
「これを名前の代わりに置いていかれました」
店主は1本の煙草を娘に差し出した。
娘は煙草の匂いを嗅ぐとすぐにパズだとわかった。
ああ、あの人だわ。わたしに天の声や星について尋ねてきた人。
愛煙家のパズは娘と話しながらその間ずっと愛用の煙草をくゆらせていた。
五歳のときに亡くなった父が愛煙家だったこともあり、娘はパズの煙草の匂いが好きだった。
一度逢っただけなのに、随分親切な人がいるものだわ。
でも、うれしい! もふもふしたショールはこれからの季節に必要だし、ふかふかの靴も
足元が冷たくならなくてありがたいわ。どなたか名前も知らないけれど、ありがとう!

パズは日本へ帰る船の上で潮風に吹かれながら波間を見ていた。
そういえば、俺が女にものを贈るのは初めてだな。いつも、女たちのほうで何かしら
俺にものをくれる。いつしかそれがあたりまえだと思うようになっていた。
本音をいえば、この目であの娘の喜ぶ顔が見たかったな……。
俺も焼きが入ったかな、ちっぽけな感傷ってやつだ。やくざな俺には似合わない。

パズは日本に帰ってからも、カオリのもとへは二度と戻らなかった。
カオリの度を越した執着と束縛に尋常ではないものを感じたせいもあるが、盲目の娘に
逢って、自分もまっとうな生き方をしてみたいと思ったからである。
いつまでもだらだらと女のヒモでいる自分にほとほと嫌気がさしていた。
カオリには今までの滞在費(食費、生活費)にかなりの額を上乗せしたお金を封書で
送った。世話になった、とひとことだけ書き添えて。
それから真面目に職探しをした。
パズが就職したのはリサーチセンターである。
ナイフ投げの凄腕を持つ一方、パズは情報を聞き込むリサーチにも長けていたのである。
それもコンピュータという最新の機器を使うのではなく、地道に自分の足で時間をかけて
聞き込みをするのが得意であった。
就職、結婚、浮気調査。極秘で依頼したい調査のリサーチはネットでは限度がある。
パズの綿密で丁寧な仕事ぶりは好評であった。
490龍虹7:2010/05/23(日) 13:45:16 ID:qnNXN5yo
7
なぜなら、聞き込みでだいたいしゃべってくれるのは女である。
女はもともとおしゃべりであり、おしゃべりが大好きなのだ。
パズが女を相手に聞き込みをすると、たいていの女たちはパズと親密になりたいあまりに
余分なことまで話してくれる。女たちからの聞き込みはパズにとっては天職だ。
パズは女たちと一線を引きながらも、毎回確実に依頼主の望む情報を提供した。
素子がパズをスカウトしたのも、まさに彼が聞き込みに長けていたからである。
初めパズは素子のスカウトを真に受けず、過去に関係した女のひとりだと思い込んでいた。
カオリの一件で、パズは女にはかなり用心深くなっていたのだった。


素子はパズの話を聞き終えると深い溜め息をついた。
「なるほど、そういう事情があったわけね。それでわたしがスカウトしたとき、
『俺は同じ女と二度寝ない』と言ったのね。このセリフ、今では9課のギャグになってるけど」
「俺が部屋を出ていってからカオリは本格的に壊れたんだろな。まあ、前からそうした兆候は
あったが、まさかあそこまで壊れるとは……」
パズの行きつけのバーのママを殺し、ママの脳殻と義体を乗っ取り、次はパズの顔と義体を
手に入れ、最終的にはパズを殺してパズの脳殻を奪い、パズ本人になること。
それがカオリの描くパズとの永遠の愛のあり方だったのだ。
脳殻も義体もカオリ自身がパズになりきってしまえば、パズは永遠に自分だけのもの。
「何だか哀しい女よね」
「……」
「ねえ、ひとつ聞きたいんだけど、パズはその盲目の娘とは何もなかったんでしょ?」
「ああ」
「だったら、日本に帰ってきたときカワシマカオリを安心させるためにも、今後の話し合いも
兼ねて彼女を納得させるためにほんの少しでも一緒に暮らしてやればよかったんじゃない?」
「いや、カオリはそういうことに関しては異様に嗅覚が鋭い女だ。俺がたとえ盲目の娘と何も
なかったにしても、俺のこころにカオリ以外の女がいることぐらいすぐに嗅ぎつける」
「……確かに、嫉妬に狂った女は鋭いわね」
「俺がカオリから逃げたのは、ヒモのような暮らしをつづけている自分に嫌気がさしたからだ。
あそこにいたらますます怠惰になり自分がダメになりそうだった。男としてのプライドもあるしな」
「それは表向きの理由よね」
「え?」
「本心は、盲目の娘をカオリから守りたかったんでしょう?」
「参ったな。さすが少佐だ」
執着心の強いカオリのことだから、パズのこころに住む盲目の娘の存在をすぐに嗅ぎ当てた
だろう。狂って壊れたカオリは娘の居場所を嗅ぎ宛てて娘の息の根を止めてしまうに違いない。
パズはあの盲目の娘をとにかく守りたかったのだ。
それは男として絶対譲れないパズの義侠心からくるものであった。
491龍虹8:2010/05/23(日) 13:46:07 ID:qnNXN5yo
8
「カオリは今までの女と一緒くたにされることがイヤだったのね。ワン・オブ・ゼムよりも
オンリー・ワンになりたかったのよ。たいていの女はそうだけどね」
「……」
確かにあの事件さえ起こらなければ、カオリはパズにとって時が経てば忘れられてしまう
その他大勢の女の一人に過ぎなかった。だからカオリはオンリー・ワンになりたくて、パズの
義体を乗っ取り、脳殻を手に入れようと殺人まで犯して必死だったのだ。。。
「ねえ、パズ。こんな詩、知ってる?

退屈な女より もっと哀れなのは かなしい女です
かなしい女より もっと哀れなのは 不幸な女です
不幸な女より もっと哀れなのは 病気の女です
病気の女より もっと哀れなのは 捨てられた女です
捨てられた女より もっと哀れなのは よるべない女です
よるべない女より もっと哀れなのは 追はれた女です
追はれた女より もっと哀れなのは 死んだ女です
死んだ女より もっと哀れなのは 忘れられた女です

マリー・ローランサンという女流画家の『鎮静剤』という詩よ」
「……いや」
「伝説の清姫がひとりの僧に執着するあまり蛇に化身して焼き殺してしまうのは何とも恐ろしく
哀れだけれども、カオリだけが特別じやないのよ。すべての女にはそうした要素があるわ」
パズは新しい煙草に火をつけるとそのまま黙り込んでしまった。

ふたりが地階の会員制のバーから出ると外はすでに夜が明けていた。
夜の間に雨が降っていたのだろう、明け方の空には大きな虹が架かっている。
パズはふと足を止めると魅入られたように虹を見た。
そういや、何かで読んだが中国のある地域では虹のことを、「龍虹」と呼ぶんだったな。
確か、蛇が空に昇ると龍になるんだっけ。昇天した龍は人々に神として崇められる。
蛇から龍=神にまで昇格する女はほとんどいない。蛇のまま終わる。
妄念に執り憑かれた清姫が日高川で蛇に化身して僧を焼き殺したように、カオリも俺を殺した
かったんだろな。蛇と化して男を恨む女。男の身勝手さや裏切りが女を蛇に変えてしまうのだ。
……カオリ、すまなかった。俺が悪かった。
虹は少しずつ薄くなっていき、消える一瞬はまさに龍が空を昇っていくようだった。
その光景はまるでカオリの魂が浄化して天に昇っていったようにパズには思えた。
「どうした? 行くぞ」
素子が呼んでいる。
パズは踵(きびす)を返すと9課のビルへ向かって朝の光の中を歩き出した。


***了***


【参照】
※ 攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG #13 「顔 MAKE UP」のプロローグです。
※ 盲目の娘については『天の声』を参照 (>>350-358)

「安珍清姫」 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%89%E7%8F%8D%E3%83%BB%E6%B8%85%E5%A7%AB%E4%BC%9D%E8%AA%AC

【動画】 Beautiful Rainbows 〜美しい虹の光景〜
ttp://www.youtube.com/watch?v=n4C03DrfhzQ&feature=related
※ 動画のほうは「埋め込みコード」可、となっています。
492名無しさん@ピンキー:2010/05/24(月) 21:08:07 ID:NqbNv8UL
>>491
GJ!カオリンこわいです・・・でも面白かった。
493名無しさん@ピンキー:2010/05/25(火) 19:07:36 ID:BKu5QzP2
>>483
ありがとうございます(*^_^*)
前から素子の悩殺コスチュームは素朴な疑問でしたので
あえて書いてみましたよ

>>492
楽しんでいただけてうれしいです
それにしても女はこ・わ・いですよ〜
みなさまもくれぐれもお気をつけあそばせ…(^^;)
494星空浪漫1:2010/05/29(土) 23:44:20 ID:/+Wvxlyo
「星空浪漫」

1
故・辻崎英雄の息子である辻崎ユウは、亡き父から陸自のデータライブラリの管理防壁の
パスワードが入った携帯端末を16歳の誕生日付けで送られ、携帯端末を使い陸自の
データライブラリに繋いで、沖縄の真実を知り、母親(イツコ)の死の真相を知ったことで
復讐心を持つようになり金外務次官の暗殺計画を企てた。
公安9課は金外務次官の暗殺を未然に防ぎ、無事に護衛はできたが、
その後、辻崎ユウは昏睡状態に陥ったままである。

ユウの親代わりである姉のサオリは、心身ともに疲れ果てていた。
病室を出ると病院の中庭のベンチに腰を掛けた。
空は少しずつ茜色に染まり、雲はすみれ色に染まっていた。
……いつになったらユウは昏睡状態から覚めるのかしら? 仮に意識が戻ったとしても記憶は
回復するのかしら? ユウがこのまま目を覚まさなかったらわたしはひとりぼっちになってしまう。
サオリはやるせない想いを誰かにぶつけたかった。
しかし、友人たちはみなそれぞれの生活があり、大変そうであった。
父が亡くなり、母も第三次世界大戦時に中国による沖縄核攻撃で被爆して亡くなった。
以来、サオリはユウとふたりだけで身を寄せるようにしてひっそりと生きてきた。
幸いにも父が元陸自調査部の一佐であったため、父の死後、生活に困らないだけの恩給と
保険金が入った。
サオリは勤めに出ることはせず、家の中のことを親の代わりにし、ユウの面倒を見ていた。
高校に入るまでのユウは明るくてごく普通の少年であった。
それが、ある日を境に急に変わってしまった。
学校にも行かず一日中父の書斎に閉じこもったままだ。
食事もそれまではリビングでサオリとふたりで食べていたのに父の書斎のドアの前において
欲しいと言う。
目は落ち窪み、日に日に痩せて、まるで別人のようになってしまった。
そして、あの金外務次官の沖縄訪問時の暗殺未遂事件が起きた。
あの時公安9課の人たちが暗殺を未然に防いでくれなかったら、ユウは今頃殺人罪で起訴
されていただろう。
16歳ということもあり未成年ではあるが、ユウの企てた暗殺計画を後に知らされたサオリは
ぞっとした。
父から送られた携帯端末がユウを別人にしてしまった。
母が核攻撃で被爆して亡くなったから、父はユウに復讐してほしかったのだろうか? 
……お父さん、ユウが復讐することを本当に望んでいたの?
ユウを殺人者にしても、平気だったの? それがお父さんの本心なの?
サオリの顔は真っ青だった。誰かに大声で叫びたい気持ちでいっぱいだった。
「大丈夫か?」
ふいに声をかけられた。
495星空浪漫2:2010/05/29(土) 23:55:58 ID:/+Wvxlyo
2
顔を上げると髭面の男が心配そうにサオリを覗き込んでいた。
イシカワだった。
「あなたは、確かあのときの……」
「大変だったな。ユウ君の容態はその後どう?」
「相変わらず昏睡状態のままです」
「そうか……」
「みなさんにも多大なご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした」
サオリは頭を垂れて深々と詫びた。
あれからひとつき余り経っていたが、サオリは一層痩せて細い肩はさらに細くなっている。
ベンチから立ち上がったサオリはふらつき、そのまま意識を失った。

目を覚ますと見知らぬ天井が見えた。
「目が覚めた?」
イシカワはサオリを気遣うように声をかけた。
「……ここは?」
「俺の宿泊してるホテル」
公安9課ではメンバーは不定期ではあるがまとまった休みがとれることになっている。
その間、緊急出動要請がくればいつでも応じられるように万全の態勢で休暇に入る。
イシカワが休暇申請を出したのはあの事件のひとつき後だった。
休暇の場所に選んだのは、沖縄。
辻崎ユウという少年がイシカワはかなり気になっていたのだ。
父から送られた携帯端末を使い陸自のデータライブラリに繋ぎ、そして知った驚愕の事実。

そういや、俺が自分で組み立てた無線端末で警視庁のデータライブラリに侵入しアクセスした
のは確か、18歳のときだったな。。。
小学校のときにアマチュア無線の資格を取り、自分で無線機もつくった俺はさらに性能の
高い無線端末機を18歳のときに組み立てた。
そして、その無線端末の性能を試したくてこともあろうに警視庁のデータライブラリに侵入し
アクセスしたのだ。
警視庁のデータライブラリは驚愕の事実の宝庫だった。
現役の政府高官たちの黒い過去、大手企業から政治家への賄賂と膨大な資金の流れ、
政治家の令息たちの夥しい不品行の黒歴史、、、
ユウ少年のように鉄槌を下すとまではいかなかったが、若かった俺は義憤に駆られた。
俺の正義感はあの瞬間に培われたといっても過言ではない。
あの頃の俺は一歩間違えばユウ少年と同じことをしでかしていたかもしれないのだ。
16歳というユウの若さや純粋さを思うと、枯淡の境地に近い今の自分の心境との隔たりを
まざまざと思い知らされる。
……まあ、もう俺は若さから遠くなってしまったってことだ。
我が身の老体を思うと一抹の寂しさがイシカワの背中を通り抜けた。
496星空浪漫3:2010/05/30(日) 00:08:03 ID:J+e/annD
3
今のサオリには休養が必要だ。
ユウの安否を気遣うのもいいが、このままではサオリのほうが参ってしまう。
「少し休んだらどうだ?」
イシカワはサオリのためにルームサービスでとったオムレツの皿を勧めながら言った。
「……そんなこと、できません。ユウにはわたししかいないんです! あの子が目を覚ましたとき
そばに誰もいないなんて、そんな、かわいそうです」
「よし、わかった。じゃあ、こうしよう。俺がしばらく病院につめる。何かあったらすぐに連絡する
からあんたはゆっくり身体を休ませるんだ」
「でも」
「いいから。休みな」
イシカワは言い聞かせるようにサオリの肩に両手を置いた。
サオリは最初はためらっていたが、仕舞いにはイシカワの好意に素直に応じた。

イシカワが病院につめている間、サオリは自宅のベッドでたっぷりと眠った。
睡眠をとることで少しずつ体力も回復し、食欲も出てきた。
また、精神的にも落ち着きを見せ始めた。
サオリが久々に病室に行くと、イシカワがユウの病室の窓を開けて風を入れているところ
だった。病室の空調はすべて病院のほうで適温に管理されているので、本来は勝手に
病室の窓を開けることは禁じられている。
しかし、イシカワは眠り続ける患者にこそ時おり外の風を感じさせるべきだと思っていた。
だからイシカワは毎日ほんの数分だけ窓を開けて外の風を入れていたのである。
イシカワはサオリの顔色がいいのを見て安心した。

ふたりは中庭を並んで歩いた。
「だいぶ血色がよくなってきたな」
「ありがとうございます。おかげさまで体力もついてきました」
「ユウ君のことは、ま、気長に構えるんだな」
「はい」
「ユウ君はまだ若いし、回復力があるからな」
「せっかく沖縄にいらしたのに、観光もほとんどされてないんですよね。
わたし、なんだか申し訳なくて……」
「そんな気にすることはない。沖縄という地は特別に観光しなくても、空も海も日々目に触れる
すべてのものが沖縄を体現してくれている。あえて観光地に赴く必要はないさ」
サオリはイシカワのさり気ない気遣いがとてもうれしかった。
思えば母を亡くし、次いで父を亡くしたサオリはユウの親代わりとして今日まで来たのであった。
ユウはまだ未成年ということもあり、ひとりで気を張って生きてきた。
学生時代からつき合っていた恋人は本州に就職し、いつしか連絡は途絶えた。
サオリのともだちは企業に勤めたり、結婚して子供ができたりして、逢うことはあまりなかった。
両親の死後、サオリはユウとふたりだけで身を寄せるようにして生きてきたのである。
497星空浪漫4:2010/05/30(日) 00:08:51 ID:J+e/annD
4
「今日はわたしがついていますので、イシカワさんはどうぞホテルにお帰りください」
「俺の泊まってるところ、あそこだから」
イシカワが指で示したのは病院の中庭につくられた簡易宿泊所だった。
簡易宿泊所は建設当時、病院の職員の寮として建てられたのだが、その後、病院内で
当直の医師や看護士専用の当直室を用意したので、今ではほとんど使われていない
のが実情である。
イシカワが病院に宿泊希望の旨を申し出たら、意外にもあっさりと承諾してくれたのだ。
警察手帳がモノを言ったともいえる。今も昔も警察手帳には威力があるのだ。
「……ユウのためにホテルを引き払われたのですね」
サオリは申し訳なさで胸がいっぱいになった。
「うんにゃ、俺はご清潔すぎるホテルって昔から苦手なんだよ。簡易宿泊所のような簡素な
つくりのほうが俺の性に合ってる」
イシカワは宿泊所の前まで来ると、気にするな、というふうに手を振った。
「中に入ってもいいですか?」
「うん? どうぞどうぞ」
イシカワはドアを開けてサオリを中に入れた。

簡単なつくりつけのベッドに食器棚、ミニキッチン、ユニット形式のバスとトイレ。
ミニテーブルにはイシカワの小型ノートパソコンが置かれていた。
ベッドの上に放り出されたボストンバッグの中からは下着類やエロ雑誌がはみ出していた。
イシカワはあわてて雑誌と下着をボストンバッグに押し込んだ。
まるでいたずらを見つけられた子供のような様子に、サオリは思わずくすりと笑った。
「すまんすまん、見苦しいものを見せちまった」とイシカワは頭を掻きながら謝った。
「食事はいつもどこでされているのですか?」
「ん? ああ、近くのコンビニで買ってここで済ませてた」
イシカワはこの宿泊所と病室とコンビニだけを往復していたのだ。ユウのために。。。
「ここはキッチンもあるから、今日はわたしがつくりますね」
「そんな、気を遣わなくてもいいのに……」

ミニテーブルにはゴーヤチャンプルー、ソーキ蕎麦、豚肉料理などが所狭しと並べられた。
「すごいな! これはうまそうだ!」
「どうぞ、たくさん召し上がってくださいね」
ここに来てからずっと味気ない食事だったので、イシカワはうまいうまいと連発しながら
大喜びで次々と平らげていった。
イシカワのあまりの食欲にサオリは目を丸くしながらもうれしかった。
ユウが父親の書斎に引きこもる前は毎晩ふたりで食卓を囲み、ユウは食欲旺盛だった。
こんな楽しい夕食は久しぶりだわ……。
サオリが窓を開けると目の前には海が広がっていた。夕陽は今まさに海に沈むところだった。
窓から入ってくる潮風が気持ちいい。ふたりは楽しい夕食を終えた。
498星空浪漫5:2010/05/30(日) 00:09:53 ID:J+e/annD
5
「あんたの親父さんがユウ君に送ったこの携帯端末のことなんだが、いいかな?」
「はい」
イシカワは故・辻崎英雄がユウに送った携帯端末を自分のノートパソコンに繋いだ。
真っ先に出てきたのは辻崎英雄からユウへのメッセージの文面だった。

【――ユウへ
羅針盤の針の示す方角を天命として、私は自らの生涯を今日まで突き進んで来た。
馬車馬と呼ばれても一向に構わない。私は陸自に入ったことを少しも後悔してない。これを
書き記すのはお前にそのことを知って欲しいと思ったからだ。ふと耳を澄ますと外には
12月の木枯らしが吹いている。……思えば私が陸自に入ることを決めたのは、ちょうど
19歳の春だった。あの若き旅立ちの日の朝の風の匂い、陽光を今でもはっきりと覚えている】

「次をクリックすると陸自のデータライブラリへのアクセス手順とパスワードが示されている。
……この親父さんのメッセージには実はもうひとつの意味が込められてることに気づいたんだ」
どういうことだろう? サオリはしばらく文面に見入っていた。
「折句だよ。縦読みしてごらん」
「羅馬書1219」

羅馬書とは「ロマ書」、すなわち、新約聖書の「ローマ人への手紙12-19」を指す。
――「ローマ人への手紙」12章19節
愛するものよ。自分で復讐してはなりません。神の怒りに任せなさい。
それは、こう書いてあるからです。
「復讐はわたしのすることである。わたしが報いをする」と主は言われる――

サオリは息を呑んだ。
「親父さんはユウ君に沖縄の真実を伝えはしたが、復讐は決して望んでなかったんだよ。
ユウ君がこのメッセージを解読できていたらな……。データの作成日を調べてみたんだが、
ライブラリへのアクセス手順は数年前の日付、メッセージのほうは亡くなる2日前だ」
「電脳硬化症に冒されて闘病していた父は最期の3日間はほとんど意識がありませんでした。
2日前ということはほんの一瞬だけ意識が戻ったとき、最後の力をふりしぼって書いたということ
ですね……」
「そんなところだな」
「でも、だったらなぜこんな回りくどいやり方でメッセージを残したのかしら。真相を伝えはしても、
復讐心を育ててはならないとはっきり書いてくれればよかったのに」
「母親の死、つまり沖縄の真相を一方的に知らされて、その上復讐するな、って言われて、
16歳のユウ君がはたして納得するだろうか?」
一本気のユウのことだ、納得するはずがない。だったら最初からこんな真相など知らせるなと
憤るに違いない。
「親父さんはこのロマ書の言葉をいつかユウ君が必ず解読してくれると信じてたんだろな」
499星空浪漫6:2010/05/30(日) 00:11:15 ID:J+e/annD
6
父はユウに復讐させるためだけに携帯端末を送ったんじゃないのね。よかった!
張りつめていたサオリの気が一気に緩んでいくのがわかる。

イシカワは窓越しに夜空を眺めながら、サオリに声をかけた。
「……見事な星空だな。波の音もよく聞こえる」
サオリはイシカワの隣に来て一緒に空を見上げた。
こころは穏やかだった。
そういえば、昔、母がまだ生きていた頃、家族そろってこんなふうにして星を眺めたことが
あったわ。あれはわたしが小学生のときで、ユウはまだ幼稚園に上がる前のこと。
当時、父は仕事が忙しくて家族そろって旅行に行くこともままならなかった。
夏休みも数えるほどになった頃、父は突然ドライブに行くと言い出したんだわ。
外はとっくに暮れていて、母はこんな夜更けにドライブすると言い出した父に困惑していた。
父はとにかく一度言い出したら聞かない性格で、母はわたしとユウが夜風に冷えないようにと
大急ぎで毛布を押入れから出して車に積んだ。
車は街なかを抜け、郊外を抜けて、小さな入り江に辿り着いた。
父はいきなり車を停めると何も言わずに車を降りた。
母はわたしとユウの手を引いて車を降りると、父のあとについて海岸を歩き出した。
「ここでは、南十字星が見えないんだな。残念だ」
父はわたしのほうに振り向くと、ぽつりと呟いた。
――南十字星。その星の名前なら知っている。
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の最後に出てくる星の名前だ。
銀河鉄道の旅は銀河に沿って北十字(=白鳥座)から始まり南十字で終わる異次元の旅。
旅の終着地が南十字星だ。そこで銀河列車に乗っていた人たちは全員降りていく。
そこは、天上へ行く場所。神さまに召される場所。
北十字星(=白鳥座)が生の象徴なら、南十字星は死の象徴だ。
目には見えないその南十字星がまるで父には見えているようだった。
それは、父がそう遠くないであろう自分の死を予感しているように思えて、わたしは
思わず父にしがみついた。
「どうした、サオリ?」
わたしは不安を脳裏から追い払うように必死で頭を横に振るのが精一杯だった……。

「俺の同僚にパズという男がいるんだが、そいつが惚れた娘は星の声を聴くことができる
らしいんだ。最初にその話を聞いたときは眉唾ものというか半信半疑だったけど、こんな見事な星空を見てると何だかこころも素直になれて、本当のような気がするなあ……」
星の声を聴く? 
サオリはふいに納得した。ああ、そうか。あのとき父は目には見えない南十字星の声を聴いて
いたのかもしれない。あの夏の夜、おそらく父は知ったのだ。自分の死期を。
南十字星は父の死期を父にだけ聞こえる声で告げたのだろう。
そして、父は受け入れたのだ。
500星空浪漫7:2010/05/30(日) 00:12:22 ID:J+e/annD
7
『銀河鉄道の夜』の最後で、ジョバンニが親友カムパネルラの死を受け入れたように……。
「イシカワさんは、同じ十字の形をしている白鳥座と南十字星とでは、どちらが好きですか?」
「うん? そうだなあ、まだ南十字星は実際に見たことがないんで何とも言えんが、
白鳥座のほうが好きだな」
「どうして?」
「天の川を渡るように翼を広げている白鳥座は、雄々しい感じがするだろ? 
何かさ、天の川の激流にひるむことなく堂々と翼をはためかせているようなんだよなあ」
「それは、生の困難に立ち向かって羽ばたいている、ということですか?」
「うん、まあな」
「……父は母の死に懸命に耐え、自分の病とも必死に闘っていました」
「泣きたかったら思う存分泣くといい」
イシカワはサオリの両肩に手を置くと、自分の胸に抱き寄せた。
サオリはイシカワの胸の中で子供のように声を上げて泣いた。
……こうやって誰かの胸で泣きたかったの。ユウの親代わりとしてしっかりしなきゃって
涙は見せちゃいけないって、ずっと、ずうっと自分に言い聞かせてきたの。
だけど、だけどね、泣くのをガマンしてると、生きてることの実感さえ薄らいでくるの。
わたしは生きてても死んでても同じなんだって、わたし、生きててもいいの? って。
イシカワはサオリの髪を子供をあやすように撫でた。
それから、サオリの顔を上向きにさせると、サオリの頬の涙を指でそっとぬぐった。
ふたりは無言で見つめあった。
イシカワはサオリの唇にゆっくりと自分の唇を重ねた。
イシカワの指がサオリのブラウスのボタンをひとつずつ外していく。
露わになったサオリの両の乳房はイシカワの大きな手にすっぽりと包み込まれた。
「俺は老体だから、若いやつらのような性急な動きはできん……」
サオリの身体はあまり自分を主張しない控えめな白い花のようだった。
それでいて白蓮のような気高さを思わせる真っ白な胸の膨らみ。
真っ白な蓮の花弁を一枚一枚めくっていくように、イシカワは丁寧に指を這わせる。
青白く冷えたサオリの身体がイシカワの指の動きに合わせて、少しずつ紅に染まっていくのが
わかる。

……母の死後、サオリは電脳硬化症を発症した父の看病に日々明け暮れ、ユウの母親代わり
として努めてきた。女である前に母親でなければならないと自分に言い聞かせてきたのだ。
父が亡くなってからは、特にその意識が強くなっていた。何よりもユウはまだ未成年であったし、
ユウの保護者として気を張りつめて生きてきた。
毎日、父を病院に見舞う。そして、消毒薬の匂いの染みついた着替えを持ち帰り家で洗う。
ユウの食事の世話と家事。未婚であるのに、サオリには一日たりとて休日はなかった。
女であることを放棄したわけではない。
けれども、日々の雑事に追われていつしか女であることから遠く隔たってしまっていた。

501星空浪漫8:2010/05/30(日) 00:15:05 ID:J+e/annD
8
そして、今――。
サオリは、イシカワに抱かれて女であることを取り戻していく。
決して性急ではないイシカワの指の動きによって、女としての顔が一気に花ひらいていく。
サオリの頬も、指先も、爪先もほんのりとワイン色に染まっていく。
イシカワは自分の指の蠢きによってサオリの身体が息を吹き返したように、薄紅色に染まって
ゆく瞬間を見られるのは、男として誇らしく、うれしかった。
「……ああっ」
サオリはイシカワの指の動きに耐え切れずに声を上げる。
「もっと声を出してごらん」
イシカワがサオリの耳元で低くささやく。
厳格な父のもとで育てられたサオリは自分を解放するすべを知らない。
「いいから――。もっと、そう、そうだ。いい子だ」
髭がサオリの耳朶を掠め、イシカワの太い指はサオリの髪をうねるように愛撫する。
サオリの息遣いがこれ以上にないほど荒くなる。イシカワはゆっくりと腰を沈めていった。
「……んっ、はあぁ!」
叫ぶと同時に上体は湾曲し、大きく広げられたサオリの両脚はぴんと突っ張った。
イシカワは硬直したサオリの足の指先をほぐすように、1本1本丁寧に開いてやった。
……何て気持ちいいのだろう、この人の指遣いは。細かいところに神経が行き届いている。
熱い液体がサオリの股の間からあふれ出した。
イシカワはあふれ出る泉の内側の襞にそっと口づけをした。
こすれる髭の感触がサオリの皮膚にさらに快感を呼び込む。
い、いやっ! そんなこと、恥ずかしい!
サオリは脚を閉じようともがいたが、イシカワは閉じることを許さなかった。
イシカワの舌が熱い襞のなかにねじり込むようにして入り、音を立てて吸い始めた。
光が弾け飛び、サオリの頭のなかは真っ白になった。
わたしは女だ! ほかのなにものでもない、わたしはまぎれもなく生きている女なのだ!
イシカワが果てると同時にサオリの思考は宙の彼方へと飛んだ。
その瞬間、サオリは意識の中でひとつの星をはっきりと見た。
それは、今まさに生の歓びに輝く新たな星の誕生だった。


***了***


【参考】
※ 攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 第18話 暗殺の二重奏LOST HERITAGE
のプロローグです。

〜銀河鉄道の夜〜  出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8A%80%E6%B2%B3%E9%89%84%E9%81%93%E3%81%AE%E5%A4%9C

【動画】 「桃色吐息」
ttp://www.youtube.com/watch?v=iX1AODoPpoc&feature=related
※ 動画のほうは「埋め込みコード」可、となっています。
502名無しさん@ピンキー:2010/05/30(日) 00:18:08 ID:J+e/annD
間違えた!
以下に訂正です・・・すみません

>>501
× プロローグ
○ その後の顛末
503名無しさん@ピンキー:2010/05/30(日) 00:25:32 ID:J+e/annD
>>498

※ 折句(おりく)とは、ある一つの文章や詩の中に、別の意味を持つ言葉を織り込む
言葉遊びの一種。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8A%98%E5%8F%A5
504名無しさん@ピンキー:2010/05/30(日) 21:40:30 ID:ZMy8afgx
>>503
投下乙です!いろんな話が書けてすごいね。
505名無しさん@ピンキー:2010/05/31(月) 00:06:52 ID:0UJjNonn
脇キャラどーでもいい
バト素希望
506名無しさん@ピンキー:2010/06/02(水) 19:07:57 ID:YuxZ4vK/
>>491>>503
乙です!!それにしてもあの『星の声を聞く盲目の少女』・・・気になって仕方ありませんw
507名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 18:42:17 ID:/71HSDUn
保守
508名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 23:28:20 ID:yErKCVWj
保守
509名無しさん@ピンキー:2010/06/24(木) 00:17:23 ID:iV7F9nW/
ほしゅ
510名無しさん@ピンキー:2010/07/01(木) 00:44:35 ID:c5/kCckq
保守
511名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 19:36:27 ID:4FxAAHLo
ほしゅ
512名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 20:26:44 ID:UdbVECNN
ageてみるか
513名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 23:05:03 ID:5x5p9SdQ
保守
514名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 02:41:50 ID:0XoSmvCe
ほしゅ
515名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 19:20:39 ID:3wqUPiqa
ほしゅ
516名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 00:14:50 ID:QVw4hLQV
なんてことだ
517名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 22:28:31 ID:x6++GZbm
捕手・・・左利き用のキャッチャーミット
518名無しさん@ピンキー:2010/08/19(木) 23:03:11 ID:nz/SfM5Q
規制長かった。。。ここだけじゃなくて、過疎スレ大杉
519名無しさん@ピンキー:2010/08/27(金) 00:20:19 ID:ldBwYWRs
ほしゅ
520名無しさん@ピンキー:2010/09/06(月) 00:20:38 ID:Kw+GS4Te
保守
521名無しさん@ピンキー:2010/09/14(火) 21:40:25 ID:Te9CuSwz
ほしゅ
522名無しさん@ピンキー:2010/09/23(木) 21:56:41 ID:dS4bHNE6
保守
523名無しさん@ピンキー:2010/09/25(土) 19:04:06 ID:qkC9ssKg
タチコマのゴーストの前身って6月13日に帰還した「はやぶさ」に宿ったものと
同じものだととらえています
オリジナルの「はやぶさ物語」なら創作したものがワードに保存されてるけど
ここ、需要がある?
エロくないし…
524名無しさん@ピンキー:2010/09/25(土) 22:01:52 ID:yWEb8kmT
>>523
このスレは他所と違って寛容でやさしい人が多いよ。
良かったらよろしく!
525名無しさん@ピンキー:2010/09/25(土) 22:22:09 ID:23Xb5CIO
>>523
自分も読みたい!
526名無しさん@ピンキー:2010/09/26(日) 01:20:28 ID:p/9WshlY
ごぶさたしました。

上のほうで一連の創作「春愁」「マリンスノウ」「春の夜の夢」「雨に消えた初恋」
「ジェリにさよならを」「春風は桜色」「遠い夏草」「銀の翼」「飛翔する季節」
「風のささやき」「初夏凛々」「龍虹」「星空浪漫」の一連の作品を書いた者です。
6月13日のはやぶさ帰還以降、ずっとはやぶさ熱に憑かれてごぶさたして
しまいました……。
以下の作品は流星となって消えていったはやぶさへのわたしなりのオマージュです。
タチコマにはゴーストが宿っていますが、まさにその前身こそが探査機「はやぶさ」
であるとわたしは信じております。

ここ、一応「攻殻機動隊」のスレですので、わたしの原本オリジナルの前後に
バトーとタチコマの会話を加筆しました。
527希望の翼1:2010/09/26(日) 01:21:17 ID:p/9WshlY
「希望の翼」

1
タチコマのAIにゴーストが宿ったのは確かだ。
しかし、いったいいつどこでそのようなことになったのか、九課の誰もわからなかった。
タチコマを機械としてではなく「同志」「相棒」としてこよなく愛するバトーでさえ、
タチコマのゴーストがどのようにして誕生したのか首をひねるばかりだった。

六月のある日のこと。
バトーはK県の資料館に行くときタチコマを連れて行った。
そこは今はほとんど使われていない資料館で、ただ、形としてのみ存在する
文字通りの「資料館」だ。
バトーは荒巻に頼まれた資料をコピーし終えるとロビーに降りた。
「おう、待たせたな。行くぞ」
タチコマに声をかけたが返事がない。
タチコマはそこに展示されている模型を食い入るように見つめている。
「ああ、小惑星探査機≪はやぶさ≫の実物大の模型だな。そういや、昔、日本が初めて
小惑星のサンプルリターンしたんだよな。世界初ということで大変な騒ぎだったらしい」
金色に輝く本体と、青い太陽電池バドルを両翼に広げた「はやぶさ」。
後ろには四つのイオンエンジンが搭載されている。
はやぶさはバトーの声が聞こえないかのように、尚もはやぶさに見入っている。
いや、魅入っている、というべきか。
「おい、どうした?」
「……バトーさん、ボク、当時のはやぶさに会ったことがあるよ」
「えっ! いや、だって、お前がつくられるずっと前の探査機だぞ」
「ううん、ボクにはわかるんだ。ボクとはやぶさは同じ核を持っている。
ボクたちの始まりこそ、このはやぶさなんだよ。はやぶさこそ、ボクたちの祖先なんだ」
……そういや、地球帰還時のはやぶさにはまるで魂が宿っていたようだと、当時の
メディアでかなり騒がれたらしい。
宇宙研の研究者や技術者たちさえも、そう思っていた節があると読んだことがあるな。
科学の最先端を行く学者たちでさえ、そう思わせるものがはやぶさにはあったのだ……。
館内には当時のはやぶさ帰還の映像や、資料が展示されている。
その資料のなかに、はやぶさに寄せた一般人によるさまざまな文書があった。
ぱらぱらとめくってみる。
ひとりの少年の手記を立ち読みしていると、足元でタチコマがバトーの足をつついた。
「ねえ、バトーさん。それ、ボクも読みたいからコピーしてくれないかなあ」
パトーは応じるとすぐにコピーを取りタチコマの背中の扉を開けると中に入れてやった。

以下は、資料館の文書に掲載されていた少年の手記である。
528希望の翼2:2010/09/26(日) 01:21:57 ID:p/9WshlY
2

僕は今年14歳になった。
僕は今、“魂”の存在について考えている。

はやぶさ、君が内之浦からM-Vロケットで打ち上げられたとき、僕は7歳だった。
小学校に入学してようやくひとつきが経った頃だった。
担任の先生が星や宇宙が大好きで、ホームルームのとき僕たちみんなに君の
出発のことを教えてくれたんだ。僕はそのとき初めて君のことを知った。
イトカワという小惑星も初めて聞く名前だった。
「はやぶさ」にまつわる名前の由来や、なぜ君の向かう小惑星の名前が
「イトカワ」なのかも僕たちの担任の先生から聞いたんだ。

……僕の母方の祖父は1935年に生まれた。
そう、戦争体験者なんだ。戦争が終わったとき、祖父は10歳だった。
夏休みに母の田舎に行ったら、祖父は戦闘機「隼」のことを話してくれたよ。
君の名前の由来となった戦闘機のことをね。
日本の宇宙開発の父と謳われる糸川英夫さんという人が、戦闘機「隼」の
設計者であることもね。
はやぶさ、君は自分につけられた名前についてどんなふうに思っていたのだろう?
誇らしさだろうか。
痛ましさだろうか。
希望だろうか。
僕は「希望」だと勝手に思っている。
君が今年の6月13日にオーストラリアのウーメラ砂漠の空で燃え尽きて
流星になった最期の姿を見たとき、僕はそう確信した。
君が最期に放ったあまりにも鮮やかな光、渾身の飛翔、故郷・地球を
写した涙でにじんだ写真。
……君はカプセルを切り離すと炎となり、散って、遥か空の彼方に消えていった。

君が打ち上げられた日から君のことはずっと僕のこころのなかにあった。
僕は今、部活は天文部に所属している。
天体や宇宙が大好きな仲間たちや顧問の先生といっしょに、ずっと君の動向を
見守っていたよ。
夏休みや春休みには相模原の宇宙研や、筑波、野辺山に行った。
観望のため、夏から秋にかけての週末は天文部の顧問の先生やみんなと
校庭で一晩中星空を眺めた。

君が流星となったあの日、宇宙研のみんなを始め、誰もが君の最期の姿に涙した。
僕も例外ではない。
6月13日夜、君の最期の姿をネットで見て大泣きした。
涙が枯れるかと思うくらい泣きに泣いた……。
腫れた瞼のまま翌日学校へ行くと、天文部のみんなも目が真っ赤だった。

はやぶさ、僕は今年の夏、母の郷里に行きペルセウス座流星群を観てきた。
いつもなら、天文部のみんなと校庭で寝転がって流星観測をするのが恒例なんだけど、
今年はどうしても僕ひとりで観たかったんだ。
8月8日から12日にかけての連夜、合計で100個以上は観測できたよ。
母の郷里で望遠鏡も双眼鏡もなしで、あの日ウーメラの砂漠で流星となって消えて
行った君のことを想いながら、ただただ一晩中、夜空を眺めた。
夏の大三角のひとつ、天の川に架かる「白鳥座」の真下でね。
僕は、白鳥座の真下で、今はもういない君に想いを馳せていた……。

ねえ、はやぶさ、知っているかい?
白鳥座って宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」で、ジョバンニが最初に乗ったステーションの
名前なんだよ。たくさんの十字架が立っている駅。
あの物語のなかでは、「幸せ」について語られているね。
529希望の翼3:2010/09/26(日) 01:29:34 ID:p/9WshlY
3
――ぼくはそのひとのさいわいのためにいったいどうしたらいいのだろう。
ジョバンニは首を垂れて、すっかりふさぎ込んでしまいました。
「なにがしあわせかわからないです。ほんとうにどんなつらいことでもそれがただしい
みちを進む中でのできごとなら峠の上りも下りもみんなほんとうの幸福に近づく
一あしずつですから。」燈台守がなぐさめていました。
「ああそうです。ただいちばんのさいわいに至るためにいろいろのかなしみも
みんなおぼしめしです。」
青年が祈るようにそう答えました。――

――僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸のためならば僕のからだ
なんか百ぺん灼いてもかまわない。」
「うん。僕だってそうだ。」
カムパネルラの眼にはきれいな涙がうかんでいました。――
(※「銀河鉄道の夜」より抜粋)

はやぶさ、君は「みんなの幸せ」のために満身創痍で飛び続け、
カプセルを地球に落とした後、炎に包まれ、消えていった。
人に何といわれようと僕は君のなかに“魂”が宿ったと確信している。

僕が最初に君の“魂”の存在に気づいたのは、第一回目のイトカワ着地のときだった。
ここで初めて君は管制室から指示を仰ぐのではなく、自ら判断して着地し、弾丸を撃ち、
砂を採取しなければならなかった。
君は着地寸前にイトカワの地面が岩のように硬いことに気づいたはずだ。
そして、直径1cmの弾丸を発射するくらいではとうてい採取不可能だと判断した。
弾丸を撃つくらいでは採取できない…!
次の瞬間、君の脳裏をよぎったのは、生まれて初めて経験する言いようのない
深い悲しみだった。
君を育て上げ、君のために人生の大半を捧げた宇宙研のみんなの顔が浮かんだだろう。
君は咄嗟に判断した。
あの人たちを悲しませてはならない! と。
君は体当たりでイトカワに着地した。何回も何回も機体を岩盤に打ちつけ、
太陽電池パドルが傷つくのも構わずに。
イトカワの砂を採取すること、それは君に課せられ、与えられた重要な使命だった。
しかし、君はあの瞬間「与えられた使命」としてでなく、「自らの意志」で自発的に
採取に取り組んだ。
それがたとえ自らの身体に致命傷ともいえる傷を負うことであっても……。
530希望の翼4:2010/09/26(日) 01:30:11 ID:p/9WshlY
4

僕が次に君の“魂”の存在を確信したのは、君と管制室との通信が途絶したときだ。
君は暗い宇宙の闇のなかで、ひとりぼっちで味噌擦り運動をしていたね。
管制室では君と何とか交信しようと数え切れないほどの周波数を気の遠くなるほど
送り続けていたんだ。プロダクト・マネージャーはあちこちの神社に参拝した。
君は心身ともぼろぼろだった。
……疲れた、少しだけ眠らせて、お願い、ほんの少しでいいから。
僕にはそうつぶやく君の声が聞こえたような気がした。
君はひとつきとちょっとの間、眠りに入っていた。
束の間の戦士の休息だ。
昏々と眠り続ける君の耳が最初にとらえたのは、プロジェクトチームのみんなや
君の帰りを待っている人たちの「祈り」の声だった。
「祈り」は時空を超えて君のもとに届いたんだね。
君を目覚めさせたのは、文明が編み出したハイテクな先端の科学技術ではなく、
人々の「真摯な祈り」だったのだ。
君はようやく目覚めた。
そして、臼田アンテナに向けて応答した。
「ここにいます。これから還ります」と。

……イオンエンジンがすべて故障したとき、チームのみんなが今度こそだめだと絶望した。
君はエンジン担当の先生が事前に回路をそっと繋いでおいてくれたのを知っていた。
イオンエンジンは君の足であり、エンジンが壊れたら君は飛翔すらままならない。
君にとって、チームのみんなにとって、とてもとても大切な心臓そのものなんだよね。
エンジン担当の先生のおかげでイオンエンジンは息を吹き返し、君は再び地球を
目指して飛び始めた。

ねえ、はやぶさ。君はイオンエンジンが蘇ったとき、君が地球の大気圏内で
燃え尽きることをすでに知っていたよね。
あのとき、なぜ君はいやいやと首を振らなかったのだろう?
なぜ、自らの寿命を終えるという決死の帰還をつづけることを選んだのだろう?
君に“魂”が宿ったことが僕のなかでまったく揺るぎない事実となったのは、
まさに君が地球に向けて正確な軌道を飛行し始めたこの瞬間からだ。

君の名前である「はやぶさ」=「隼」という戦闘機は、かつてたくさんの若者たちの
“魂”を乗せて大空に羽ばたいていった。
プロジェクト・チームのみんなは君を精魂こめてつくり上げ、人生を賭けて
ありったけの情熱を傾け、君に“魂”を吹き込んだ。

はやぶさ、君の名前が表わしているのは“魂”そのものであり、
君に“魂”が宿ったのは、必然だったんだよ。
僕は今年、相模原キャンパスで初めてこの目でイオンエンジンを見たよ。
世界で初めてつくられた他に類のない素晴らしいエンジンだね!
僕は丁寧に説明してくれた担当のお兄さんの前で不覚にも涙ぐんでしまった……。
本当に感激したんだ! 君はこんなにも素晴らしいエンジンを搭載してイトカワと
地球の往復飛行を果たしたんだね。
531希望の翼5:2010/09/26(日) 01:31:36 ID:p/9WshlY
5

君は消えてなんかいない。僕のなかで君は今も尚、生きつづけている。
マリンスノウって知ってるかい?
今年の夏、僕がペルセウス座流星群を観測したのは母の郷里なんだけど、
母の郷里は海辺にあるんだ。そこは毎年ダイバーたちでにぎわう。
深海にマリンスノウが降る海域なんだ。海の中に静かに降る雪、マリンスノウ。
マリンスノウについてちょっと説明するよ。
マリンスノウの正体はプランクトンの死骸であり、海中に沈んでいって、
やがて深海に生息する生物の餌となる。
深海は太陽の光も届かないため、浅い海に比べて生息する生物の数が
極端に少なくなるので、深海に生息する生物にとっては貴重な栄養源となる。

僕は、母の郷里の砂浜で流星を観ながら思ったんだ。
はやぶさ、君は大気圏内で散っていったけれど、君は大気そのものになり
風になり雨になったんだね。
君はまさに深海に降るマリンスノウのように、地上に生きる生物たちにとって
なくてはならない大切な水や風になったんだね。
ひとつの固体の死は、ほかの固体のさらなる生へと導かれ、繋がっている。
実に見事な生と死の円環だ!
君は、季節の訪れを告げる季節風や穀物の成長を促す雨に姿を変えた。
日本には美しい雨の名前や風の名前がたくさんあるんだよ。
君を思わせる雨と風の名前を書き出してみようか。

【慈雨】 日照り続きのときに降る、恵みの雨。甘雨。
待ち望んでいた物事の実現、困っているときにさしのべられる救いの手にたとえる。
【鷹風】 雲を凌ぐほど、天高く勇壮に飛ぶ鷹を秋風が乗せるところからきた。

君を見ていた7年間、僕は折りある毎にいつも君のことを夢想した。
テストの成績が悪く親に叱られて落ち込んだ春の夜、自分の部屋で、
いたずらが先生にばれ注意されて凹んだ初夏の放課後の職員室で、
ともだちと喧嘩して自己嫌悪に陥った秋の夕暮れの河原で、
初めて好きになった女の子に振られて見上げた真冬のオリオンの下で。
僕のこころが塞ぐとき、いつも君は僕を鼓舞してくれたね。
僕のところからでは、3億3000万kmも離れた君の飛翔は見えるはずは
ないのだけれど、僕のなかで、君はいつだって雄々しく羽ばたいていた。
そんな君の姿は僕の胸を熱くさせてくれた。

僕はこれからもいろんなことに躓くだろう。
だけど、僕は自分の人生を完走するよ。
君が君の人生を完走したようにね。
これからも僕はいろいろな出来事に遭遇するたびに、さまざまな場面で君を想うだろう。
そのたびに君はあの碧い翼でもって僕に手を振ってくれるんだね。
532希望の翼6:2010/09/26(日) 01:32:21 ID:p/9WshlY
6

最後になったけど、僕の名前を君に打ち明けるよ。
僕の名前は、隼人。
そう、はやぶさ、君の名前と同じなんだよ。
小さい頃はみんなにからかわれたし、古臭い感じがして自分の名前が
あまり好きじゃなかった。でも、今は君と同じだなんてものすごく誇らしく思えるよ。

はやぶさ。僕があと数十年後に自分の人生を完走し終えるとき、君は僕を必ず
迎えに来てくれると信じているよ。
僕は君の背に乗り、僕らは一体になる。永遠にね……。
僕の人生はそのとき完成する。
最期のとき僕と君が一体化し、融合することは僕の名前が示している。
隼人、はやぶさ(=隼)と僕(=人)
ありがとう、はやぶさ。
君は僕にとって唯一無二の友だ。これからもずっと……。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


バトーは少年の手記を読み終えると、九課の屋上でタチコマとともに空を見上げていた。
「……読んだか?」
「はい。やっぱりボクのなかには、はやぶさの魂が生きていることを確信しました」
「そうだな。俺もそう思うよ。はやぶさの魂はタチコマのゴーストとなってこうして
今も生きつづけているんだな。
いや、お前のなかだけじゃない、俺たちを包むこの大気のなかにも生きてつづけている」
「バトーさん、自己犠牲って皆が言うような苦しいものではないとボクは思うんです。
それは喜びから生まれるものなんですよ。みんなの幸いのために、はやぶさは
燃え尽きて散って行ったけど、根底にあるのはやっぱり喜びなんです。
それこそが、真の喜びなんです」
タチコマの目が夕陽に赤く染まっている。
それはまるで泣きはらして潤んだ瞳のようにバトーには映った。
……そういえば、当時のはやぶさチームのリーダーも、はやぶさが最期に撮った地球の
映像のかすれた一枚を「涙でにじんだような写真」、と語っていたな……。

ふたりは黙ったままいつまでも空を仰いでいた。
空にはすでに一番星が瞬きはじめていた。


≪了≫
533名無しさん@ピンキー:2010/09/26(日) 01:33:28 ID:p/9WshlY
☆☆参照☆☆
はやぶさが最期にとらえた地球の映像…涙でかすんだようなような…
http://osaka.yomiuri.co.jp/zoom/20100614-OYO9I00278.htm

「はやぶさ+PLANETES 」
http://www.youtube.com/watch?v=05-qpQoW5kg

探査機「はやぶさ」の軌跡 舞〜前編
http://www.youtube.com/watch?v=me-kYu-ikKw

探査機「はやぶさ」の軌跡 舞〜後編
http://www.youtube.com/watch?v=EuXuZLq5fVY

2010年8月 ペルセウス座流星群
http://www.youtube.com/watch?v=OjKrSIAcvH8&feature=player_embedded#!
534名無しさん@ピンキー:2010/09/26(日) 05:29:26 ID:4GZR9mZy
GJ!
タチコマがタチコマである所以を改めて認識した気がするよ
535希望の翼の作者です:2010/09/26(日) 12:16:30 ID:4OgnMaCU
>>534
ありがとうございます♪
この作品を天文板の某スレにアップした数時間後、カモメサーバーが飛んでしまいました…(つд`)
今は飛んだサーバーの復旧をひたすら待っている次第です
天文板にも攻殻ファンはそれなりにいますよ〜

タチコマ「ぼ〜くらはみんな〜 い〜きている〜」

このセリフのみをはやぶさスレに書いた方がいましたが
攻殻ファンであること間違いなし!(^-^)v
…まあ、このスレの存在を知ってるかどうかはわかりませんが……(^^;)
536名無しさん@ピンキー:2010/09/26(日) 17:26:48 ID:4T6ofHgV
>>535
GJです!なんか久々に感動的な良作読めて嬉しかったよ。
タチコマの話、また書いて下さい。
537希望の翼の作者です:2010/09/26(日) 21:00:30 ID:4OgnMaCU
>>536
ありがとうございます♪
この作品は本来はやぶさへのオマージュとして書いたものであり
こちらのスレにアップすることは念頭になかったのですが
書いてるうちに「これってタチコマのことだ!」と思い当たりました
特にSAC.2ndの25話
タチコマは核ミサイルとともに爆発して消えて行きました…
あの自己犠牲の精神はまさにカプセルを地球に投下して
自分は流星として消えていったはやぶさそのもの…
こちらこそ丁寧に読んでいただいてとてもうれしいです
538名無しさん@ピンキー:2010/10/05(火) 23:19:53 ID:UR7I8wfj
保守
539名無しさん@ピンキー:2010/10/07(木) 13:16:00 ID:OLe8Ahrw
>>537
あれ…おかしいな、画面が曇って見えないや…
GJ…です…!!
540「希望の翼」の作者です:2010/10/08(金) 12:56:53 ID:ycYQ9smV
>>539
ありがとうございます♪
人生のなかでもっともこころがやわらかい少年期を
「はやぶさ」とともに送ったひとりの少年。
初めて「はやぶさ」を知った7歳のそんな少年の、7年後のこころの軌跡を
書いてみたいと思いました。


☆☆お・ま・け☆☆ (連休中にお楽しみ下さい♪)

「はやぶさの最期 流星になった瞬間……」
http://www.youtube.com/watch?v=lu974Jv68x8&feature=related

はやぶさの大気圏突入&タチコマのラスト (攻殻機動隊から)
http://www.youtube.com/watch?v=8NBSQ70EZ2M&feature=related

[はやぶさ]今度いつ帰る 〜はやぶさ探査機〜
http://www.youtube.com/watch?v=k0Ey3dNeCeM&feature=fvw
541名無しさん@ピンキー:2010/10/14(木) 23:04:30 ID:UuX8UxMe
保守
542名無しさん@ピンキー:2010/10/21(木) 00:08:29 ID:DiIeLRtk
保守
543名無しさん@ピンキー:2010/10/28(木) 23:58:08 ID:Q2L5zZxF
ほしゅ
544名無しさん@ピンキー:2010/10/31(日) 00:21:11 ID:mnH/C6o1
age
545名無しさん@ピンキー:2010/10/31(日) 11:00:47 ID:xd0BPkwz
丁度上がってたんで、ついでに質問。
シロマサ原作って建前のRDってここに投下していい?
2年前のリアルタイム放映時に「スレがない作品」スレに投下したら「シロマサスレで良かったんじゃ?」と言われた事があるもんで。
ここが駄目ならまたあっちに行きます。
546名無しさん@ピンキー:2010/10/31(日) 18:51:03 ID:mnH/C6o1
>>545
前もシロマサ原作のSS投下したいって人がいたからOKだと思うよ。
547名無しさん@ピンキー:2010/11/08(月) 01:00:09 ID:Ey62eWbU
ほしゅ
548名無しさん@ピンキー:2010/11/16(火) 00:30:31 ID:s+g5gy3l
保守
549名無しさん@ピンキー:2010/11/18(木) 00:34:10 ID:y5fwPb+1
>>545
もしかして波留×ミナモを投下した人かな?あのSSとても気に入ってるよ!
よかったらまた作品を読ませてもらえるとありがたい
550名無しさん@ピンキー:2010/11/28(日) 23:14:03 ID:2Lp5m6g1
保守
551名無しさん@ピンキー:2010/12/04(土) 00:48:40 ID:caSRAxKz
ほしゅ
552名無しさん@ピンキー:2010/12/12(日) 02:05:38 ID://MSqXEZ
保守
553名無しさん@ピンキー:2010/12/19(日) 23:42:43 ID:pRoozwiU
保守
554545:2010/12/24(金) 06:33:36 ID:Cf554ZXg
以前RD投下のお伺い立てた>545です。
アレから何やかんやでクリスマスネタでの波留×ミナモが書けたんで、ちょろっと投下します。

・シロマサ原作との建前のアニメ「RD 潜脳調査室」より波留×ミナモ
・最終回後の話のため、波留が若返っています
・具体的に言うと、ミナモ18歳のクリスマスです
・そうなると波留さん肉体年齢35歳かようわーい

以下レスより投下。しばし適当にお付き合い下さい。
555若返り波留×ミナモ18歳:2010/12/24(金) 06:35:14 ID:Cf554ZXg
 ――ミナモさんは、クリスマスは御家族と御一緒ですよね?
 質問系ではあるのだが、まるで当然のようにそう言ってきた相手に対し、問われた側は一瞬口篭もった。
 蒼井ミナモが波留真理と付き合い始めてから、早いもので今年で3年目になる。
 それも当初の4月には彼は81歳の白髪の老人で、ミナモは彼の介助担当として出会っていた。そして8月を迎える頃に彼は先着していた親友に会うために深海に消え――戻ってきたら何故か32歳の黒髪の青年へと若返っていた。
 だから、今となっては青年の姿との付き合いが長い。それに容貌が変化しても、性格は穏和で紳士的で礼儀正しいままなのだから、15歳の少女にはあまり違和感はなかった。
 そんな彼女も今年には18歳を迎えた。
 介助士を志したまま高校へ進学し、専門知識と技量とを蓄えて行っている。これからは、大学へ進学し更に専門を突き詰めるか、それとも専門学校へ進学して現場へと先んじるか――彼女はその岐路に立っていた。
 ミナモの進路を決定したその老人は、今は介助など全く必要とはしていない肉体である。しかし何だかんだで付き合いを続け、その少女の成長を暖かく見守っていた。
 そこで、先の問いである。
 ミナモはこれまでの3年間、波留にそんな事を訊かれた事はなかった。
 彼女の家族は電理研勤務だったり世界を飛び回る海洋学者だったりで、なかなか家に寄りつかない。年中そうなのだからクリスマスが特別と言う訳でもなく、ミナモはいつも通り独りで過ごすか、或いは親友達と騒ぐ日となっていた。
 波留は波留で、この常夏の島でダイビングのインストラクターをやっている。クリスマスと言う特別な日を彩る思い出作りに貢献する年もあっただろう。或いは副業の電理研委託メタルダイバーとして、年末進行に付き合う事もあったに違いない。
 そうでなければ、あんなに格好いいんだから――と、ミナモはちょっと厭な考えに至る事もある。そしてそれを「厭」と認識した自分に、更に嫌悪するのが常だった。
 今まではそうだったのだが、今年に限っては事情が異なった。
 今年に限って波留がそんな事を訊いてきたのもそうなのだが、そもそもの前提条件が異なっている。
 それを思い出すと、ミナモとしてはこんな事を訊かれても当然なのかと思う。だからと言う訳でもないのだが、彼女は正直に答えていた。
 ――お父さんもソウタも電理研に詰めてるから、24日も25日も私独りです。
 ――なら、サヤカさんやユキノさんとは?
 ――ユキノちゃんは一足先に新年旅行に行っちゃいました。サヤカは、今の彼氏と予定があるそうです。
 嘘はついていない。中学生時代ならいざ知らず、成長した今、親友達もそれぞれの生活を過ごしているのだから。しかし、余計な横槍が入らない今年の状況に、ミナモはほっとしてもいた。
 ともかくミナモからそれを訊いた波留は、いつものように朗らかで安心感溢れた顔で微笑む。そして、18歳の少女に告げた。
 ――なら24日、僕の家でクリスマスの夕食会でもしませんか?色々料理を揃えるとなると夜遅くなると思いますから、泊まり掛けで。
556若返り波留×ミナモ18歳:2010/12/24(金) 06:36:34 ID:Cf554ZXg
 結局ミナモは、24日の夕方には波留の自宅を訪れていた。
 誘いを断る理由は何もなかったからである。彼女には他に差し当たっての予定は何もなく、心情的にも誘われて嬉しいのは確かだったからだ。
 ミナモが訪問前にチキンやピザと言ったクリスマスの定番総菜を買い持ち込めば、出迎えた波留は単純なイチゴのケーキを焼いてデコレートしていた。ミナモはそれに笑い、キッチンを借りて揃えてきた材料で付け合わせのサラダを作る。
 そうやっているうちに、夕方は夜へと至っている。
「――波留さん、お酒飲まないんですか?」
 リビングのソファーに並んで座りながら、ミナモは怪訝そうにそう訊いていた。お互いのコップには100%天然もののオレンジジュースが注がれている。
 波留はミナモの方を向き、微笑む。リラックスした風に、答えた。
「ミナモさん、まだ未成年じゃないですか」
「私はそうでも、波留さんは大人です」
「いえいえ…独りだけ飲む訳にはいきません」
 波留は左手を横に振りつつそう応じていた。それを訊き、ミナモは両手でコップを支えて持つ。抱えていると、掌に冷たく結露した水滴が付着してきた。その冷たさを感じつつ、思い返す。
「――この前、うちでソウタと一緒にワイン開けてたでしょ?」
「ええ。彼も色々と悩む事がおありのようでしたから」
 その言葉に、波留もその晩の様子を脳裏に再生したらしい。微笑みが一段と深くなった。
 楽しげな彼の顔を見やり、ミナモはコップを両手で持ち上げた。唇を縁につける。子供のように唇を尖らせると、甘酸っぱい液体が口に及ぶ。
 それを僅かに口にした後に、彼女は縁から唇を剥がす。至近距離にオレンジの匂いを嗅いだまま、呟いた。
「私も早く波留さんと一緒にお酒飲めるようになりたいなあ…」
「ミナモさんは後2年お待ち頂ければと」
 微笑んだ波留の顔が、ミナモの隣にあった。彼女はそれを横目にするのみで、またオレンジの液体を口にした。
 たまに帰宅したソウタが、これまたたまにやってくる波留と酒を酌み交わす日がある。
 最初の方はいいのだが、深酒が進むと彼女の兄は波留に愚痴混じりに絡み始め、波留はそれを優しく受け流すのが常であり、正直妹としては見ていて面白味も何もなく、醜態を晒す兄をみっともないと思ってしまう。
 しかし、そんな兄が、何処か羨ましいと思ってしまうのも、事実だった。
 とは言え常識的な事については波留は厳格で、こんな風に未成年の飲酒を認めようとはしない。優しく諭して交わしてしまう。それは大人の態度として全く正しいのだから、後2年待つしかないのだろう――。
557若返り波留×ミナモ18歳:2010/12/24(金) 06:36:59 ID:Cf554ZXg
「――私、波留さんにしてみたら、まだまだ子供ですもんね」
 そんな思考に至ると、多少いじけた風な言葉がミナモの口から漏れる。
 自分としては、兄のソウタも同様に子供であって欲しいのかもしれないと思う。そうすれば波留さんはソウタにも同じ一面しか見せていない事になるのだから。しかし、現実は違ってきている。
「そうですねえ…」
 微笑み波留はコップをテーブルに置く。それぞれの取り皿にはサラダが残っているし、1ホールのイチゴのケーキもまだ半分カットされずに残されていた。互いにパーティを中座している格好である。
 波留は穏やかな笑みを浮かべ、右手を自らの右頬に沿わせた。指でその中央を指し示す。
「ミナモさん…クリーム、ついてますよ」
「え」
 その指摘に、少女の口から短い声が漏れる。それは予想外だった。そんな事をするような、汚い食べ方をしていたのだろうか――反射的に右手が頬に伸びる。それこそ子供っぽいにも程があると恥ずかしい想いがした。
 しかし、その手をやんわりと波留が押さえた。柔らかな態度で制止する。
 そのままの表情で、波留の顔がミナモに近付いてくる。状況が良く飲み込めないまま、ミナモは思わず首を竦めた。
 波留はミナモの右手を押さえたまま、左手で彼女の顎に触れた。僅かに力を込め、彼女の顔を横に傾かせる。そうやって自らに少女の右頬を晒させた後、更に顔を近付けた。
 ミナモの右頬に、僅かにざらついたような、湿っぽい感触がした。それは頬の1ヵ所を通り過ぎた後、もう一度やってくる。
 横目では至近距離にある波留の顔が判る。しかし何をされたのかは、視界に捉えきれない。頬の一部が冷たく濡れたような感触を覚えると、ミナモは右手が強ばった。左手に持ったままのコップの冷たさに、そちらの手は悴むような感じがする。
 そのうちに、波留の顔が剥がされた。彼はミナモに迫ったままで覗き込む体勢のままだった。
 彼はミナモの手を離すと、すぐに少女はその右手を持ち上げた。恐る恐る、右頬に触れてみる。すると、そこには濡れた感触が確かにあった。
「…波留さん、あの」
「クリームが勿体ないので、舐めて頂いてしまいました」
 悪びれもせず、波留はミナモに告げる。その表情は相変わらず穏和なままだった。
 その態度に、ミナモは僅かに口を開く。何かを反駁しようとした。そこに、波留は穏やかかつ冷静に示唆した。
「ジュース、零しますよ」
「…あ、はい」
 気勢を制され、ミナモは思わず反射的に頷いてしまう。俯いて左手のコップの存在に気付き、慌ててそれをテーブルに戻した。かつんと音を立て、強ばった冷たい手からそれを解放する。
 それを見守っていた波留は、唇に更に深く笑みを閃かせた。ミナモを見下ろし、見つめる彼だったが、困ったように笑い、眉を寄せる。
「――ああ…ここにもクリームが」
「え」
「また舐め取らせて頂きますね」
 ミナモの声を遮り、波留はそう告げた。そして間髪入れず、彼の顔がミナモの首筋に潜り込む。
 唇が首筋に吸い付く心地がした。そうやって音を立てた後に、そこを舐め上げる感触がする。
 ミナモは思わず首を竦めた。口元からは反論よりもまず、吐息が漏れた。
 身体が強ばる。両手を握り締め、彼女は視線を下に向けた。そこにはひとつに結んだ黒髪がある。室内灯を頭上から受けて綺麗な輪を作り出している髪が、さらりと流れるのを見た。
「――波留、さん」
 執拗と言っていいレベルで、丹念に首筋を舐められている。それを感じ取りつつも、ミナモは彼の名を呼んだ。呼びつつも、その合間に妙な吐息が漏れる。
「波留さん」
 もう一度呼ぶ。少し首を横に振ってみた。背筋にはぞわりと来る感触があるのだが、彼女はどうにかそれを無視する事に成功した。
 すると、隣の男が顔を剥がした。舌先をゆっくりと引き剥がし、最後にもそこを舐め上げる。そして彼女に向き直り、相変わらずの無害そうな微笑みを浮かべた。
「――何でしょう?」
558若返り波留×ミナモ18歳:2010/12/24(金) 06:37:32 ID:Cf554ZXg
「波留さん…」
 笑顔で相対されると、ミナモは段々と腹立たしくなってきた。目元に涙が滲んできている自覚もある。幾分涼しさを覚える首筋を部屋の空気に晒しつつ、両手に拳を作り、声を荒げた。
「私…絶対、頬にも首にもクリームつけてなかったですよね!?」
「どうしてそんな事を仰るのです?」
 困ったように笑う波留は、どう考えても抗議を交わそうとしている。そう思い、ミナモはますます顔を真っ赤にした。怒りたいやら恥ずかしいやら、色々な感情が彼女の中に渦巻く。
「波留さん!」
 その感情の勢いのままに、ミナモは両手を伸ばした。隣に座って覗き込んできている男の顔を掴んだ。両手で挟み込み引き寄せ、今度は彼女から覗き込む。微笑む口許をじっと見つめた。
 何かを見定めるような突き刺すような視線をミナモは波留に注ぐ。それに波留は微笑みを絶やさないまでも、少し不思議そうな光を瞳に浮かべていた。
 1分弱の間の後、ミナモは納得したように大きく頷く。口から大きな声が漏れた。
「――ほら、やっぱり!」
「…何がです?」
「波留さん、口にクリームとかつけてないし!」
 両手で波留の顔を掴んだまま、ミナモはそう断じてきた。――私から舐め取ったのなら、口許にクリームつけてなきゃおかしい。彼女の中ではそう言う思考があった。
「…ああ――」
 彼女の弁に、波留も納得したように頷いた。口許を指さし、微かに唇を開いてみる。
「なら、ミナモさんも確かめてみてはいかがですか?」
「え?」
 唐突な言い分に、ミナモは怪訝そうな声を漏らす。目を瞬かせた。そんな彼女に、波留は笑いかける。
「僕と同じように、ここを舐めてみたらいいんですよ」
 波留はあくまでも穏やかに告げてくる。しかしミナモは、その台詞を自らの思考で咀嚼してゆくと、目に見えて顔を赤くしていった。その動揺は、言葉にも現れてゆく。
「…波留さん…それって…――キスって言いません…?」
「ええ」
 当然のような顔で、波留は笑い、頷いた。
559若返り波留×ミナモ18歳:2010/12/24(金) 06:38:01 ID:Cf554ZXg
「つまりは、舐めた箇所に本当にクリームがついているかどうかを問題になさってらっしゃるのですね」
 波留は笑ったまま、鷹揚に納得してみせた。
 そのまま右手がテーブルに伸びる。広げた手が中央を掠めると、伸びた3本程度の指が半ホール残っていたケーキの上部に至っていた。
 彼の手がクリームでデコレーションされていた箇所に触れ、指にべっとりと付着する。彼はその甘い香りを漂わせる手を自らに戻しつつ、爽やかに笑って言う。
「では、これをミナモさんにつけさせて頂いて、そこを僕が舐めれば丸く収まると言う事で」
「波留さん!」
 その行動に、ミナモは慌てた。しかし、彼女の感情は、今までとは別の方向に動かされている。反射的に、台詞が口から突いて出た。
「いくらクリスマスだからって、食べ物を粗末にするのはどうかと思います!」
 蒼井ミナモと言う少女は確かに家族と共に居る日は少ない。しかし注がれる愛情は嘘ではなく、また幼少期には祖母に面倒を見られていた。躾もしっかりとしたもので、道徳観念に乏しい事もなかった。だからこの波留の行動には、速攻で制止の弁が出ていたのだろう。
 その態度に波留は首を傾げた。未成年の飲酒を制止するように、彼の道徳観も低くはない。しかし、他者からこの状況でそれを振りかざされると、不思議な気分に陥った。
 ――咎める事が、明らかに違うような気がした。確かに彼女は昔から不思議言語センスを持っているが…。
 しかし、やがて彼は再び微笑んだ。その感情に、悪戯気分が打ち勝っていた。
 怒っているミナモの前に、波留はそのクリームに汚れた手を持ってくる。まるで宣誓でもするかのように広げたその手を、彼女に見せつけた。
「勿体ないと仰るのならば、ミナモさんが舐めたらいいんですよ」
560若返り波留×ミナモ18歳:2010/12/24(金) 06:38:24 ID:Cf554ZXg
「え…」
 ミナモはその台詞に戸惑った。怒りが一気に冷めた。
 良く考えたら、外堀を着実に埋められている。私の態度を逆手に取って、こんな悪戯してくるなんて――。
 少女の視界には波留の大きな右手が広がっている。その向こうに垣間見える波留の顔は楽しげに笑っていた。
「さあ…どうぞ」
 瞳にいたずらっぽい印象を煌めかせ、波留は首を傾げる。軽く指を動かし、ミナモへと示した。
 それを眺めていると、ミナモの心臓が徐々に早鐘のように鳴り始めていた。顔が赤くなってきているのは、今度は怒りのせいではないはずだった。
 ミナモは、おそらくは無意識に唇を舐めた。そして意を決したように、ぎゅっと瞼を伏せる。右手を波留へと伸ばす。勘で彼の右手首を掴み、自らへと引き寄せた。
 瞼を伏せたまま、震える舌先で、人差し指の先端辺りを舐めてみる。すると、クリームの甘ったるい味が口の中に広がった。それを口に含みつつ、ミナモはその指を大きく舐め上げる。指の付け根から爪先までを感じた。
 クリームの味と共に、男性の大きな指の感触が舌先に敏感に伝わってくる。瞼を伏せているとそんな感覚が倍増して感じられた。と言って目を開けると、波留の顔を見てしまう。どんな顔をして見ているのか――それを確認するのが怖い気がした。
 ミナモはとりあえず、クリームを舐め取る事に専念する事にした。それを終えてしまえば「勿体ない」事はないのだから。波留の手首を掴んだまま、自分が舐め易いようにその手の角度を変えたり、自らの顔を傾けたりした。
 眼を閉じて視界を隔絶したままのため、クリームが付着した場所を的確に舐めているかどうかは判然とはしない。味を頼りにしようにも、既に口の中に甘い味が広がってしまっていた。
 舐めて自分が立てるぴちゃりと言う水音や漏れる吐息が、自分の中に篭って聴こえる。それを感じていると、明らかに妙な気分になってきた。
 不意に、開いた口に、何かが差し込まれた。
 波留が自ら右手を動かし、指を彼女の口に突っ込んできた。
 瞬間、彼女は喉に詰まる感触を覚える。手首を強く掴み、引き抜こうとした。口内では舌が逃げようとする。しかしそれに構う事なく、波留は指で彼女の舌を挟み込んだ。やんわりと絡め取る。
 口を塞がれて息苦しい。何も言えなくなったミナモは、波留の手を掴んで抵抗しようとした。
 すると、すぐにその蹂躙してくる指が引き抜かれた。息苦しさに涙目になったミナモは大きく息を付く。ソファーに背中を大きく預けた。口許に唾液とクリームが絡みついている。
 そこに、波留が覆い被さってきた。
 彼は両手でミナモの両肩を掴んだ。荒々しく圧し掛かり、息付き半開きになったままのミナモの口を、自らのそれで塞いだ。
 歯列を割り、侵入してきた舌に自らを絡め取られてゆく。ミナモは苦しい息の中、それを感じた。目を見開いた後、細める。
 涙に濡れた視界には天井が広がっている。そこを掠めるように黒髪が流れてきて、彼女の首筋をくすぐった。自らの褐色の髪とは違う、美しい長い髪が近くにある。そして自分の上には広く逞しい背中があった。
 ――この前もそうだったっけと、ミナモはぼんやりと思った。
 しかしその傍観者めいた感情もすぐに流される。口を吸われ、舌を絡め取られ、角度を変えて何度も口付けされると、背筋がぞくりとする。意識が飛びそうになった。
561若返り波留×ミナモ18歳:2010/12/24(金) 06:39:48 ID:Cf554ZXg
「――…ああ、確かにミナモさんの口からはクリームの味がしますね。御馳走様です」
 長いキスがようやく終わる。圧し掛かったまま上体を引き剥がした波留は微笑み、言った。右手の甲で口許を拭う。その手は濡れていた。
「…波留さん。酷いです」
 ミナモは唇を尖らせて抗議している。すっかり濡れてしまった口許を右手で押さえた。
 波留は楽しげに笑い、そのまま彼女の右頬に唇を落とす。ちゅ、と軽い音が立った。
 その感触にミナモは首を竦めた。そして、拒絶するように勢い良く首を横に振る。
「波留さんにとっては結局、私は子供なんでしょ?」
 言いながら涙が溢れてくる。衝動的な感情が、彼女の心を支配した。それはここ2ヶ月程度、彼女の心に突き刺さった楔だった。
「ミナモさん?」
 その態度に、波留は怪訝そうな声を上げる。良く判っていない顔をしているとミナモは思い、それが更に腹立たしかった。
「この前、私達はあんな事になったけど――また、こうやって、私をからかってそんなに楽しいんですか!?」
 涙を浮かべてミナモはそう訴えていた。そのまま顔を両手で覆う。天を仰ぐ視界を遮りつつ、声を殺して泣いた。
 ――私は何でこんな事を言っているのだろう。彼女自身、良く判らないまま。
 あの時、何を考えていたのかは、自分の事ながら良く覚えていない。只必死で大変で――良く判らない感覚に意識が吹き飛ばされた事だけは確かだった。そしてその直後の奇妙な浮遊感と心地良さも。
 ともかく3年目にして初めて波留と関係を持った。それは彼女にとって特別な事だった。
 しかしその後、波留の態度は特に何も変わる事はない。今まで通りに優しいままだった。決してそれが悪い訳ではないのだが、少女にとってはもっと何かが違ってくるのかと思った。
 ――波留さんは大人なんだから、あれは大した事じゃないのかもしれない。そう自分を納得させてはみた。
 あんな事があった後に、今までで初めてクリスマスに誘って来たが、結局は今まで通りと態度は変わらないようでいて――こんな風にからかって来るのだから、性質が悪いと思う。
 ミナモを見下ろす波留の顔からは、笑みが掻き消えていた。それは今晩初めての事である。
 手を解いてその顔を見上げるミナモは、その彼の顔が怖いと思う。真剣な整った面持ちがそこにある。
562若返り波留×ミナモ18歳:2010/12/24(金) 06:53:33 ID:Cf554ZXg
「…そんな事ありませんよ。ミナモさん」
「波留さん」
 やがて顔を近付けて囁いて来た波留に、厭がるようにミナモは身体を捩らせる。そんな彼女を制止せず、波留は自らの胸に右手を置いた。伏し目がちに、言い募る。
「僕はこの時代に独り目覚め、ミナモさんに出会いました。そしてあなたの成長をずっと見てきました。親友を省みずに拗ねていた僕が立ち直れたのも、あなたのおかげなんです」
 穏やかな低い声がミナモの耳をくすぐる。少女は傾けた顔のまま、横目で男を見た。
「好きなんですよ、あなたの事が――おそらくはあの4月から、ずっと」
 すっと、爽やかに波留は笑う。そこには何処か照れたような印象をも含ませていた。
「でもまあ――…ああもう、男ってどうしてもそう言う方向に行きがちで、全く厭だな」
 そして波留は何かを言い掛けたが、それを中断して独りごちた。どうやら考えが纏まらなかったらしい。顔を歪め、右手で前髪を大きく掻き上げる。そのまま荒っぽくがしがしと擦り上げた。
 やがて、溜息混じりにその前髪を解放する。元々癖のついた髪形をしていたが、更に乱れてしまっていた。彼はそのまま、自嘲気味の言葉を続けた。
「いくらメタルが発達しても、気持ちを表すって難しいものですね。人間同士の関係とは、繋がろうにもなかなか上手く繋がれない。そりゃまあ…仕事なら乱暴にクラックしてでも情報を頂くんですが」
 ミナモは彼をぼんやりと見上げていた。もう泣き止んでいたが、目許は涙に濡れたままである。そんな彼女を見下ろし、波留は苦笑した。
「…いや、僕はこんなおじさんですけどね。お若いあなたは今後もっと釣り合う男と出会うのでしょう」
「そんな事言わないで下さい!」
 瞬間、ミナモは声を荒げた。波留の言葉を遮る。
「え?」
「波留さんはとっても素敵な人です!逆に、私なんかでいいのかなって位に」
 自分は一介の女子高校生なのに対し、相手は世界クラスのメタルダイバーで同様レベルのリアルの海のダイバーである。そして相手は既に世界基準を残しているのに対し、自分が同じ歳になった頃にそんな事が出来ているだろうか?
 ――歳の差以前に、人間のレベルとして、全くもって釣り合う気がしない。ミナモが抱く感覚とは、そう言うものだった。
 その態度に、波留はぽかんとした。唖然とした表情を浮かべる。そして、頬を指で掻いた。明らかに照れ笑いを浮かべる。
「…何と言うか…男冥利に尽きるんですが。凄い殺し文句ですよね、それは」
 帰ってきたその反応に、ミナモは赤くなる。ようやく自分が凄い事を言ってしまったのだと察した。
 しかし、悪い気はしない。何故ならそれは、彼女が感じたそのままなのだから。
 互いに照れ笑いを浮かべる。
563若返り波留×ミナモ18歳:2010/12/24(金) 06:54:26 ID:Cf554ZXg
「――何だか、お互い汚れて来ちゃいましたね」
「はい…」
 ひとしきり落ち着いた後、ふたりはそんな事を会話している。確かに舐めたりクリームをつけたり、果てにはそのクリームを舐めたりとしているのだから、肌がべとついてきていた。
 更にはミナモは自分の状態を自覚すると、頬が赤く染まるのを感じる。そう言う意味でも汚れてきてしまいそうで――。
「じゃあ、これからバスタブにお湯を張りますので、一緒に入りましょうか」
「――ええ!?」
 何気ない口調でさらりと述べられた波留の提案に、頓狂な叫びがミナモの全身から発せられた。
 そんな彼女を物ともせず、一瞬波留が沈黙した。そしてすぐに笑いかけて来る。どうやら自宅メタルに接続して、バスルームの給湯設備に指示を出したようだった。メタルへの常時無線接続を社会基幹と成す人工島のシステムとは、こういう時にも役立つらしい。
 それから波留は何処かにやりと笑った。目を細め、ミナモに身体を預けてくる。ゆっくりと圧し掛かってきた。
「まあ、お湯を張るにも時間が掛かりますし…それまでに多少汚れるような真似を重ねててもいいですかね?」
「波留さん…そんな事してちゃ、お湯溢れちゃいますよ!?」
「大丈夫です。状況に応じて注水量を調節しますから」
 ミナモの首筋に唇を寄せつつ、波留は笑う。世界的なメタルダイバーならでわの言葉とも言えるかもしれない。その位のコントロールは楽勝なのだろう――ミナモにしてみたら、とんだ技量の無駄遣いだと叫びたい心境だった。
「――ああ…ここはクリームを付けなくても、とても美味しそうです…」
 上着を捲り上げ、そこにあった下着はずり下げ、波留はミナモの右胸を露わにしている。張りのある大きな乳房を手で揉みしだいた末に、その先端を口に含んだ。音を立てて吸い付き、舐める。
「…波留さん」
 その最中にミナモは熱い吐息を漏らしつつ、呼びかけた。波留は手を止めず、顔を上げないまま続きを促す。
「はい?」
「――私、波留さんの事、ずっとずっと大好きです」
 息つきつつ、引っくり返りそうになる声を懸命に制御しつつ、ミナモはそう言った。今更ではあるのだが、今までに言いたかった事を吐露してみせた。
 波留は顔を上げた。ミナモの顔を覗き込む。そして、微笑む。
「…それは良かった」
 彼はそう漏らした後、ミナモと唇を重ねた。軽く吸い、舌を絡める。少しだけ音を立てた後、互いに舌を差し伸べたまま口を離す。優しいキスにミナモは震えを覚えた。目を細め、波留を見上げて言う。
「私達、ずっと両想いだったって事でいいんですね」
「ええ」
 波留の単純な答えに、ミナモは満面の笑みを浮かべた。その答えで、とても楽になれた気がした。
 そのまま彼の背中に腕を回し、そっと抱き締める。
 18歳を迎えて熟れた少女の、柔らかな身体の感触が波留に伝わってくる。――これは没頭し過ぎて給湯システムのコントロールを忘れないようにしなければならないなと、彼は一抹の不安を覚えた。
564545:2010/12/24(金) 06:58:16 ID:Cf554ZXg
以上で終了。じゃ、撤収!
これ発覚したら電脳自殺に走りそうなソウタはともかく、
久島は案外泣いて喜んで仲人やりたがるだろうなと思わないでもない。
何が何でも波留一番の男だから。
565名無しさん@ピンキー:2010/12/25(土) 10:21:21 ID:O2ozaugB
乙!
波留に翻弄されるミナモカワユス!
久々にRDを1話から見直したくなるなぁ
566名無しさん@ピンキー:2011/01/06(木) 02:39:10 ID:v3Q+76Lc
あけましておめでとう、少佐
567名無しさん@ピンキー:2011/01/08(土) 19:43:42 ID:pxZRqUDh
田所コレクションのセクサロイドに責められる少佐
実は人間相手には攻めだがフェラーリより高価なお人形さん相手には受けだったのだ!
568名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 00:22:01 ID:v623CFlR
保守
569名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 00:01:54 ID:0lduIvKN
なんか良く分からんの書いた、投稿するぜ
570名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 00:04:55 ID:0lduIvKN
「ちょっと待てトグサ、一体どういう事だこれは」
「こういう事ですよ」
全身を駆け抜けるような電気的な悪寒の後、身体に出力されるはずのパワーが唐突に減少した。何とか立っていられるものの、身体を支え切れない。
力が入らない、とでも言うのだろうか。
生理的ではない、プログラム的な負荷に、素子はトグサの思惑が捉え切れず、その端正な顔を歪めた。
犯人が目の前でへらっと笑うこの男である事は明確だった。仲間だからと思って気を許した、流石に裏切られる事はないだろうと。
しかし機密度の高い情報だからと有線すれば、この様である。
「何を企んでいる」
相手の顔を睨みつけると同時に、義体の出力設定を舐めるようにチェックしていく。その内の3つのプログラムが、別のプログラムに乗っ取られていた。
幸いな事に元のプログラムが破壊された訳ではないようだ。不正プログラムをクラックした後に、不具合が残る事はなく手早く元の状態に戻せるだろう。
571名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 00:06:48 ID:0lduIvKN
しかしそのプログラムは前回のメンテナンスの時には見当たらなかったはずの不正プログラム。
やはりこいつが。
でも何の為に。
「一緒に、遊びたいなと思って」
不正プログラムをクラックするのにかかる推定時間は、600秒弱。
だがその間、自分は何をされる羽目になるのだろう。
そう思い、素子は舌打ちした。
572名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 00:09:07 ID:xPHF3j3Z





「・・・とまぁ、こんな感じ?」
「珍しいな、トグ素?」
「おお。図らずも原作のトグサっぽいだろ?」
「確かにGISの俺もSACの俺も少佐にどうこう出来るとは思えないけどさ」
「自分で言っちまうか、それ」
「まぁな。でも少佐がSACの少佐っぽい」
「そこなんだよなぁ。物語的に有り得ん」
「まぁ俺と旦那がずっこんばっこんやるよりは、有り得るんじゃね?」
「同感」
「何?楽しそうね二人とも」
「「しょ、少佐・・・」」
「ふーん。この後私、何されちゃうのかしら」
「さ、さぁ?マッサージとか?」
「そ、そうそう」
「でもまぁ、仮に10分弱体の自由を奪われてしまったとしても、トグサに何か出来るとは思えないし?」
「で、ですよねー?」
「何か複雑だなトグサ」
「それに゛ソレ゛の私はその後どうするつもりかしら」
「え?」「あ?」
「きっと、どこかで見物してるバトーと合わせて、二人を懲らしめるんでしょうね」
「ひ、ひぃ」「ぐ、具体的に何を?」




「貴方達にずっこんばっこんさせるのよ」
573名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 00:12:29 ID:xPHF3j3Z

おわり
全体像ー



攻殻同人読む二人

バトグサは有り得ん

バト素ヨシ!←

あれトグ素なくね?
(素トグ、スルー)

俺(バトー)が書いちゃる

書いたー!

見つかったー!!

なんていうメタ具合
ていうかまさかのオチなしエロなし
ホントは前半だけで書きたかったんだ、
エロ繰り広げたかったんだ、
無理だったんだorz
誰か書きたかったら書いてノ
574名無しさん@ピンキー:2011/02/18(金) 16:40:45 ID:Pb2Pfe78
プロトってバイオロイドなんだよね。
ってことはアンドロイドと違って生殖可能なんだろうか・・・?
と考えてしまった。

そして、やり方がよくわからないプロトに実技プログラムを提供する素子姉さん。
という妄想をした。
575名無しさん@ピンキー:2011/02/19(土) 03:09:10 ID:Qn9Cfvz8
>>573
乙!
576名無しさん@ピンキー
>>574
確か前スレかこのスレにそんなのあった気がする。