THE 地球防衛軍でエロパロ4

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1名無しさん@ピンキー
ゲーム 地球防衛軍シリーズのエロパロスレです。

過去スレ
THE 地球防衛軍【エロサンダー】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1114683548/
THE 地球防衛軍【エロサンダー】2
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1139738967/
【ライ3ダーZ】THE 地球防衛軍でエロパロ3【さ、3ダー!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1182606586/

SS保管庫
http://ss.ares-ac.com/edf/
2名無しさん@ピンキー:2008/12/15(月) 23:03:47 ID:5xpJxLyC
ダイナスト乙

前スレ1000行く前にここが流れるなんてことにはならないようにしなきゃな
3名無しさん@ピンキー:2008/12/16(火) 03:59:09 ID:d7zd7+Y2
>>1
スレ勃て乙
4「捕われの翼」:2008/12/16(火) 16:04:18 ID:fpc+xdbP
スレ立てありがとうございます。
13話投下中、前スレが容量オーバーしましたので、こちらに投下します。

1話〜12話 仮保管庫
http://tikyuboueigunss.web.fc2.com/
5「捕われの翼」:2008/12/16(火) 16:06:11 ID:fpc+xdbP

第13話 「仲間」

「マリアから話は聞いたな?」
 ウォレスはユキに尋ねた。
「はい」
「私だってあの話を頭から信じているわけではない。ただ、お前たちが持つ未知のエネルギーの存在は認めている。
 それに、今回の作戦は私の利害とも一致するのでな」

 ウォレスは続けた。
「マリアの思念感知によれば、3人目の能力者は、南米で1ヶ月前に起きた、麻薬組織による人質立てこもり事件に巻き込まれているようだ。
 人質の中にいる可能性が高い。EDFとしても、テロリスト殲滅のために突入作戦を敢行しなければならない」

「それって、どういうことですか?」
 ユキは不安げに尋ねた。
「我々が潰そうとしているテロ組織の中に、人質として思念エネルギー能力者が捕らわれているかもしれないということだ。
 そしてお前の任務は、私の部下と共にテロ組織に突入し、能力者を生きたまま確保することだ」
「そんな!!無理です!」
 ユキは叫んだ。
「心配するな。私の部隊で一番優秀な小隊を護衛に付けてやる。それに私は、お前なら必ず生きて任務を遂行できると信じている」
6「捕われの翼」:2008/12/16(火) 16:07:31 ID:fpc+xdbP
「………」
 ユキは俯いた。
 マリアの寂しげな表情、苦しみの思念が脳内に蘇る。
「(なんだかよく分からないけれど、マリアの力になってあげたい…)」

 ユキは言った。
「一つだけ約束してください」
「何だ」
「もし、連れてくることができても、その人には…薬を使わないって約束してください」

「……」
 中佐の目に、微かに哀れみの色が浮かんだ。
「約束は出来ない。だが、総帥に進言しておく」
 ユキは頷いた。


                                          ◇◆◇

7「捕われの翼」:2008/12/16(火) 16:08:28 ID:fpc+xdbP

 翌日正午、EDF本部飛行場。
 小型の軍用輸送機の前で、ユキは第21独立小隊のメンバーと合流した。
 隊長のジェシカ・ベイル少尉を含め、そこに居たのは僅か6名の陸戦兵であった。
 何も分からないユキに、ジェシカが一人一人チームを紹介した。


「あたしが隊長のジェシカ。昨日会ったね」
「こいつは狙撃手のレオン。腕は間違いなくEDF一だよ」
 長身の若い狙撃兵は、ユキに軽く微笑んだ。
「こいつは突撃兵のアシュレイ。すばしっこくて弾に当たらないのが取り柄さ」
 愛用のショットガンを撫でながら、アシュレイも挨拶を送る。
「このデカイのはブライアン。重火器専門」
 大柄な黒人兵士は、ニッと白い歯を見せた。
「こいつはスコット。どんな武器も上手に扱える天才だ」
「あとはこの眼鏡のトビー。特殊兵器オタクの変態野郎だよ」
 
「ええっと…私はユキ。よろしく」
 ユキは頭を下げた。
「あんた、銃は使えるね?」
 ジェシカはそう言って、ユキに突撃銃AS-18を手渡した。

「訓練はしてるわ。でも、私戦争なんか…」
 ジェシカは鼻で笑った。
「昨日も言ったろ。今回はあんたの出る幕じゃないよ。それ持ってあたしの後ろにいればいいの。
 さあ、乗って」
 輸送機はユキたちのチームを乗せ、南米へと飛び立った。

8「捕われの翼」:2008/12/16(火) 16:10:01 ID:fpc+xdbP
◇◆◇


<パラグアイ シウダ・デル・エステ市郊外>

 目的地に到着すると、宿舎でジェシカが全員に向けてブリーフィングを始めた。
「いいか。敵はジャングルの施設に篭城してる。人質の数は52人。敵は武装勢力6、70人ってとこだ」
「人質が一箇所に集められる夕食時を狙う。ブライアンがゴリアスで正門を爆破。反撃してくる敵主力をあたしが殲滅する。
 アシュレイとスコットは食堂に突入し残りの敵を始末しろ。レオンは後方から援護。トビーは施設から敵を一人も逃がすな。以上」

「ちょ、ちょっと待って!」
 ユキは叫んだ。
「この人数で突入するの!?いくらなんでも…」
 ジェシカは笑った。
「うちの小隊は傭兵時代からこんな感じさ。大丈夫、EDFの最新鋭装備とあたしらの腕がありゃ、5分で片がつくよ。
 あんたは安全を確認したら、人質の中からターゲットを探し出して、報告してくれりゃいい」

 
 その日の夕方、ジェシカたちの部隊は密かにジャングルを抜け、テロリストのアジトに接近した。
「突入まであと少しだ。ビビらず付いて来いよ」
 ジェシカがユキに小声で話しかけた。
 ユキは緊張で混乱していた。自分は何故こんな所へ来てしまったのだろう。

「落ち着けよ。私がこいつで守ってやるよ」
 ジェシカは自分の武器をポンと叩いて言った。

「不思議な銃…何ですかそれ」
 研究所での戦闘訓練でも見たことが無い。
 ライフルではあるが、まるで小型のガトリング砲を思わせるような造りだ。
「こいつはな、まだ世界に一本しかない。試作型のAS-20SSSだ。反動が凄すぎて、あたししか使いこなせないよ。
 ウォレス中佐の部隊に居ると、こういう最新兵器が色々回ってくるんだ」
9「捕われの翼」:2008/12/16(火) 16:11:18 ID:fpc+xdbP

「ジェシカ、時間だ」
 双眼鏡で敵を観察していたレオンから、無線で連絡が入る。

「オーケイ、ブライアン。派手にかませ!!」
 ゴリアスDの轟音が響き渡り、施設の正門が数人の見張りと共に木っ端微塵に吹き飛んだ。
 慌てふためいたテロリスト達が、施設から武器を携えてバラバラと飛び出して来る。
「行くぜ!」
 ジェシカは物陰から飛び出し、無謀にも破壊された正門から正面突入していった。

「喰らいな!!!!!!」
 ジェシカのAS-20SSS試作型が火を噴く。
 
 その威力たるや、正に鉄の暴風だった。
 無数の強力な弾丸が襲い掛かり、敵は反撃する間もなく死体の山となった。
 鉄板や薄い壁までも貫通し、逃れようとした敵も次々に斃れ、迎撃に出た敵主力はあっという間に壊滅した。

「アシュレイ、スコット!突入しろ!」
 SG-5とAS-18を装備した2人が食堂めがけて突進し、残りの敵兵を掃討する。
「行くよ!ユキ。気をつけて付いて来な!」
 ジェシカも走る。ユキは慌てて後を追った。

 食堂では大勢の人質が、床に伏せて震えていた。
「く、来るなっ、殺すぞ!!!」
 生き残りのテロリストが、人質に銃を突きつけて悲痛な声で叫んだ。
 
 だが次の瞬間、テロリストの頭は、窓の外からの正確な狙撃によって吹き飛んだ。
「ヒュー、さすがレオン。トビー!外はどうだ?」
 ジェシカが無線で尋ねる。
「こちらトビー、5人蒸し焼きにした。逃げられた奴はいないぜ」
「こちらレオン、施設にもう敵の姿は無い」
10「捕われの翼」:2008/12/16(火) 16:12:23 ID:fpc+xdbP
「よし、鎮圧完了。アシュレイ、スコット、周囲の安全を確認しろ」
 ジェシカが大きく息を吐き、ニヤッと微笑んだ。

「5分もかからなかったろ、ユキ。さあ、お客さんを探してくれ」
 ユキは、その場にへなへなと座り込んだ。
「ハハハ、情けないね。初陣じゃしょうがねえか」

 ユキは動けなかった。
「これが…戦争…」
 累々と横たわる敵の死体。ユキは吐き気を催した。
「そうさ、こういう馬鹿げたことを繰り返さないために、EDFは勝ち続けなきゃならないんだ」
 ジェシカが言った。
「そんな…私にはわからない」
 ユキはよろよろと立ち上がった。

 周りを見渡す。
 ようやく救われ、恐る恐る動き出す人質たち。
「(この中に、私と同じ力を持つ人が…)」
 どうやって探せばいいのだろう。ユキにはわからなかった。
11「捕われの翼」:2008/12/16(火) 16:13:40 ID:fpc+xdbP


「(殺シテヤル)」

「!!!!!!」
 突然、頭の中に声が響いた。
「ジェシカ!!危ない!!!」
「え?」
 ユキはジェシカを突き飛ばした。
 ジェシカの頭があった場所を、窓の外から一発の弾丸がかすめ、卓上の食器を粉々に砕いた。

 ジェシカが身を伏せ、無線で叫ぶ。
「レオン!!!まだ敵がいやがる!」
「馬鹿な…俺の目を逃れるとは、相当な奴だ。気をつけろ」
 レオンの落ち着いた声が響く。

「いる…あそこよ、塔のある壁の上。隠れてる」
 ユキは窓の外を指差して言った。
「何だって?何も見えないぞ」
 ジェシカが目を凝らして言う。

 無線からレオンの声がした。
「いや…本当にいる。銃口が見えた。今の位置から狙撃は無理だ」
「ブライアン!!ゴリアスで吹っ飛ばせ!」
 ジェシカが叫んだ。
12「捕われの翼」:2008/12/16(火) 16:14:44 ID:fpc+xdbP
「待って!!!!!」
 ユキは慌てて止めた。

「(殺シテヤル…)」

 再び声が響く。
「あいつが…あの人がターゲットよ」
「何だって!?」
 ジェシカが目を見開いた。

「能力者は人質じゃなくて…テロリストだったのよ」
「なんてこった…攻撃中止!!塔の下の奴を生かしたまま捕らえろ!」

「了解。みんなまだ動くな。俺に任せろ」
 レオンが無線で言った。

 
 数分の沈黙……緊張した時間が流れる。
 
 SNR-227Dの発射音が、静寂を切り裂いた。
「こちらレオン、ターゲットの武器を破壊」

 ジェシカが勢いよく立ち上がった。
「よっしゃ行くぜ!落とし前つけてやる。ユキ、借りが出来たな」
 駆け出すジェシカを、ユキは慌てて追った。

(続く)
13「捕われの翼」:2008/12/16(火) 16:20:46 ID:fpc+xdbP

第14話 「奴隷」

 ユキが追いついたとき、ターゲットは既に取り囲まれていた。
「あれが…3人目?」

 小麦色の肌をした、鋭い目の少女。
 歳はまだ13〜15くらいに見えた。

「ガキの癖に味な真似しやがって…半殺しにしてやるぜ」
 ジェシカが指を鳴らしながら詰め寄る。
「やってみなクソババア。後悔すんなよ」
 少女は全く怯まず、ファイティングポーズを取って挑発する。

「誰がババアだっ!あたしはまだ20台…ブッ殺す!!!」
「上等だババア!!!」

 軍隊格闘術の使い手であるジェシカに対し、少女は素早いフットワークで対等に渡り合った。

 ユキや他の人間は、あっけにとられて女の闘いを見つめるしかなかった。
 やがて、レオンとトビーも応援に駆けつけた。

「死ねクソガキ!!!」
 ジェシカの雄叫びと共に、渾身の回し蹴りが少女の胸にヒットし、少女は壁に叩きつけられた。
「うぐぁっ!!!」
「へへっ、大人をなめるとこうなるんだよ」

 少女は蹲り、抵抗をやめた。
 ように見えた。

「いてて…クソッ…でも、全員揃ったな、フフフ」
 少女は懐から何かを取り出した。
14「捕われの翼」:2008/12/16(火) 16:23:21 ID:fpc+xdbP
「げげっ…」
 ジェシカの顔面が蒼白になる。
 少女の手にあるのはHG-13A。直径30mを爆砕するEDF特注の手榴弾だ。

「て、てめえ…どこでそれを!まだ開発中なはず…」
「前攻めてきた馬鹿なお仲間さんが忘れていったんだよ。全員道連れにしてやる」
 少女は手榴弾を振り上げた。

「チイイッ!!くそっ!ユキ、伏せろっ!!」
 ジェシカはユキに覆いかぶさった。
 だが、もうユキはそこにいなかった。
「???」

 爆発は起こらなかった。
 ジェシカが振り返ると、ユキが少女の腕を押さえ込み、榴弾を奪っていた。
「あ……」
 少女は何が起きたか分からず、呆然としていた。
「は…離せっ!!」
「死んじゃダメ。ごめんね…」
 ユキは呟いた。
 ジェシカが素早く駆け寄り、少女は捕われの身となった。


                                        ◇◆◇
15「捕われの翼」:2008/12/16(火) 16:25:02 ID:fpc+xdbP

「ユキ、あんたには二度救われたね」
 帰りの輸送機の中でジェシカが言った。
「あんた、ただ者じゃないよ。何で正規の陸戦兵にならないんだい」
「私は…」
 ユキは口ごもった。何と説明すればいいのだろう。
「私は普通じゃないの。記憶も無いし、戦う理由も分からない。逃げることも出来ない」

「そうかい。そういえば、何となく中佐から聞いたことあったな」
 ジェシカは同情の目でユキを見た。
「でも、あんたはいい奴だよ。眼を見りゃ分かる」
「わからないの……私、生きてる意味も」
「そんなこと言うなよ。あんたのおかげであたしもみんなも助かった。あんたは特別なんだよ」
 他の兵士たちも頷いた。

「ありがとう。そういえば、前にもそんなことを言ってくれた人がいたわ」
 ユキの脳裏に、一人の少年の笑顔が浮かんで消えた。
「会いたいなあ…」
 ユキの瞳が潤んだ。

「生きてりゃ会えるさ」
 ジェシカが微笑んだ。
「何かあったら、今度は、俺たちが助けてやる番だ」
 レオンが言った。
「ありがとう」
 ユキは微笑み、眼を閉じた。
16「捕われの翼」:2008/12/16(火) 16:26:05 ID:fpc+xdbP
                                        ◇◆◇

ユキが目を覚ますと、そこは真っ暗で狭い箱の中だった。
「!!!」
 ユキはパニックに陥った。
 またしても裸にされ、手錠で手足を拘束されている。

 外の振動から、箱に詰められて移動中であることが推測できた。
「(酷い…)」
 家畜か荷物のような扱いには慣れていたが、惨めで不安な気持ちに変わりは無い。

 ふと、手足が柔らかいものに触れた。
「何だろう」
 顔を近づけると、サラサラの髪の毛が鼻に触れた。
 健康的な、太陽の匂い。
 テロリスト組織の中にいた、小麦色の肌の少女だと気がついた。
 少女もまた、裸にされ拘束されていた。

「(ごめんね…)」
 ユキは激しく後悔した。
「(目を覚ましたら、きっと私を恨むだろうな…)」
17「捕われの翼」:2008/12/16(火) 16:28:37 ID:fpc+xdbP
 
 少女は安らかな寝息を立てている。
 ユキは愛しい思いに包まれ、身体を寄せた。
 自分たちはどこへ連れて行かれるのだろう。
 この子を連れて逃げ出せないだろうか。そんな思いが頭をよぎった。

 同時に、激しい頭痛と吐き気が押し寄せてきた。
「(また…苦しい…)」
 SEPの禁断症状だった。
 
 前回の投与から十日以上経っている。
 研究所で、気まぐれに一ヶ月ほど投薬を中断されたときがあった。
 死ぬほどの苦しみを味わい、最後には一睡も出来なくなった。
 長くて半年で死ぬと言われていたが、自分がそこまで持つとは思えなかった。

 今はただ、症状が和らいでくれるのを待つしかない。
 ユキは苦しみの中で、自分が身も心も捕われの奴隷であることを思い知った。

(続く)
18名無しさん@ピンキー:2008/12/16(火) 16:30:40 ID:fpc+xdbP
本日は以上です。
ありがとうございました。
19名無しさん@ピンキー:2008/12/16(火) 22:10:33 ID:NcaPwFbo
ここってエロ要素無しでもいいんだっけ?
20名無しさん@ピンキー:2008/12/17(水) 08:50:49 ID:r0ruY9j7
>>18
乙です!
ジェシカ姐さんかっこえぇなあ

>>19
おk
21名無しさん@ピンキー:2008/12/18(木) 10:52:48 ID:i32E1ERy
続き連投します。(鬼畜注意)
22「捕われの翼」:2008/12/18(木) 10:53:38 ID:i32E1ERy
第15話 「罰」

「何だよこれ!?ふざけんな!!」
 目を覚ました少女はすぐに暴れだした。

 ユキは頭痛と吐き気をこらえながら起き上がった。
 この部屋には見覚えがある。
 また地下研究所に戻されたのだ。
 この悪趣味で薄暗い部屋は、権藤が好んで使う拷問用の部屋だった。

「テメエはあの時の!!」
 少女は壁に四肢を固定されていた。
「近寄んな!!ここはどこだ!?」
「シベリアの研究所よ…」
 ユキは出来るだけ穏やかに答えた。

「畜生!!何がどうなって…おい!説明しろ!!」
 少女は裸の身体とユキを見ながら叫んだ。
「落ち着いて。私はユキ。あなたは―」
「名前なんかどうだっていい!!今すぐこっから出せ!」
 手足を激しく揺さぶって叫ぶ。

「無理よ。私も捕まってるんだから」
「何!?」
「本当よ」
「何なんだよ一体…クソッ」
 少女は悪態をつき、うなだれた。

23「捕われの翼」:2008/12/18(木) 10:54:29 ID:i32E1ERy
「何て言ったらいいか、ごめんね」
 ユキは力なく謝罪した。
「…どうなるんだよこれから」
「実験とか…色々されるの」
「ハア、実験!?何でだよ」
「わからないわ。でも、世界のためになることなんだって」
「何言って…クシュッ」

 少女は小さくくしゃみをした。
「ここは、寒いでしょう」
 ユキは壁に近づき、少女の身体を抱いた。
「…触るな」
「震えてるよ、風邪引いちゃう」
「……」
 少女は黙って横を向いた。


 やがて、権藤が現れた。
「ユキ…何処へ行っていた」
 権藤はユキに近づく。
「…心配させやがって…俺はな、お前がいないと…」
 乱暴に抱きしめられ、ユキは眉をしかめた。
 こういうときの権藤はたちが悪い。

「罰を与えてやるぞ。お仕置きだ」
 権藤は立ち上がり、鞭を構えた。
24「捕われの翼」:2008/12/18(木) 10:56:04 ID:i32E1ERy
「それに今日は、新しい玩具もあるし、楽しめそうだ」
 権藤は少女に向き直った。

「見てんじゃねえよ、変態野郎」
 少女が鋭く睨み返して言う。
「フフフ、生意気なガキめ。こういうのを躾けるのもたまにはいいな。
 よし、お前から罰を与えてやる」
 権藤は鞭を鳴らした。

「待って!!」
 ユキは叫んだ。
「お願い…その子には何もしないで。罰は私が受けます」
「ほほう」
 権藤はニヤリと笑った。

「泣かせるな。だが駄目だ。俺はこいつを痛めつけるのが仕事だ。
 だから鞭で叩く。ただし…」
 権藤は冷酷に言った。
「お前がどうしようと勝手だがな」
「わかりました」
 ユキはためらい無く、壁に拘束された少女を庇って立った。

「馬鹿なやつめ。今日の罰は長いぞ」
 権藤は言うが早いか、立て続けに鞭を振るった。

25「捕われの翼」:2008/12/18(木) 10:59:12 ID:i32E1ERy
「うっ…」
 少女は、自分を庇うユキの荒い息遣いを耳元で感じた。
 鞭が振るわれるたびに、背中のみみず腫れが裂け、血が滲む。
 白い脚の筋肉が震えた。
 それでもユキは、少女を庇って立ち続けた。

「つまらん。どけ」
 散々にユキを打ちのめしておきながら、権藤は息を乱してそう言った。
「嫌…」
 ユキは絶対に動かなかった。
「お前がどうしてもと言うなら、そいつには手を出さないでおいてやってもいい。ただし―」
 権藤が鞭を手放し、卑猥な笑みを浮かべた。
「お前を好きにさせてもらう。上の連中には黙っていろよ」
 
 ユキは権藤の意図を察した。
 権藤は、ユキへの性的な接触を禁じられている。
 しかし、他人の目の届かないところでは、彼女は既に何度も権藤に汚されていた。
 
 ユキは少女の目の前で、四つん這いにされ、後ろから乱暴に犯された。
 事が終わると、権藤は人目をはばかる様に急いで立ち去った。

 次の日も、その次の日も、同じ行為が繰り返された。
 3日目には、ユキは言葉を発することすら出来なくなっていた。
 
26「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:00:10 ID:i32E1ERy
                                           ◇◆◇
 
「ユキ!しっかりして!!」
 2人が解放されたのは、4日目になってからだった。
 リサがユキに駆け寄る。
「何てこと…急いで薬を」
 ようやくユキにSEPが注射された。
「ごめんなさい…私も知らせを受けて、今日ここへ急いで来たの。
 所長が権藤なんかに処置を任せるからこんなことに…」
 リサは涙ぐみながら言った。

「ぅ…ぅう…」
 ユキの眼に、次第に光が戻ってきた。
 同時に、激しい吐き気が襲う。
「ううっ…ぁああああ…」
「ユキ…しばらく苦しいでしょう。可哀想に…うん?」
 
 少女がユキの手を取り、じっと見つめている。
「コイツ…ずっとあたしを庇って」
「分かってるわ。あなたも辛かったでしょう。
 権藤は謹慎処分になったから安心して」
 リサは少女に微笑んだ。

(続く)
  
27「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:01:29 ID:i32E1ERy
第16話 「エリー」
 
 数時間後、ユキの症状はようやく落ち着きを見せた。
「リサ…うぅっ…あ、あの子は?」
 リサの表情に安堵の色が浮かぶ。
「よかった、ユキ…あの子も無事よ」
 
「リサ…お願いがあるの」
「なあに、ユキ」
「あの子には薬を使わないで。あの子は私が捕まえたの。
 こんな目に遭わせたくない。お願い」


 リサは悲しげな目でユキを見つめた。
「そうね。今回は珍しく、出来ればSEPを使用しない方法も検討するよう、本部から指示が出ているわ。でもね」
 リサは続けた。
「あの子の思念感知能力は、あなたやマリアに比べて脆弱なの。SEPでそこを強化すれば、新しい能力が生まれる可能性もある。
 現状ではSEP投与が最善の策なのよ。私だってどんなに辛いか…」
「分からない!リサはどうしてそこまでして」


28「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:04:14 ID:i32E1ERy
「それはね。マリアを信じてるからよ」
 リサはきっぱりと言った。
「私は二十歳の頃、マリアの予知で2度命を救われているの。事故と病気だったわ。
 私だけじゃない。実際に体験していない人は疑うけれど、私はマリアの力を本当に信じてる」
「……」
「マリアはいつも、自分の力がいつか本当に世界のためになるって言ってたわ。
 だから私は、その力を引き出すために最大限の努力をしてきたの。たとえあなたやマリアに恨まれても」

 ユキは黙って俯いた。
「あなたは、マリアを信じないの?マリアと同じ力を持っているのに」
「信じるよ…でも」
「マリアは今、世界の終わりを予知しているかもしれないのよ。
 あなた達の力を必要としてる。私は私のすべきことをするわ」

「わかったわ。リサ」
 ユキは決心したように言った。
「でも、あなただけが恨まれることはないわ。私も恨んでない。
 あの子には私が注射する」

「ユキ…」
 リサはユキを見つめた。
「そんな風に言ってくれるなんて思わなかったわ…ありがとう…でも」
「お願い。あの子の命を助けたのも私。私が死ぬまで責任持つわ」
 ユキの瞳に、再び力強い光が宿っていた。


                                           ◇◆◇
29「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:05:13 ID:i32E1ERy

 部屋に入ってきたユキを見て、少女は一瞬驚いた表情を浮かべた。
「お前…大丈夫か」
「ええ、もう平気」
 ユキは少女の隣に腰掛けた。

「…バカだろ。あたしなんか庇って」
「気にしないで。それより、あなたの名前教えて。私はユキ」
「あたしはエリー。だけど気安く呼ばないでね。あんたのこと信用してるわけじゃない」
「そう…」
「クソ政府の味方をするEDFなんて信用できないよ」
 少女は吐き捨てるように言った。

「私にはよくわからないし、誰の味方でもないけど…目の前で人が殺し合うのは見たくないわ」
「あんたにはわかんないよ。あたしらの世界のことは…」
 少女は急に顔をしかめ、手首をさすった。
 長い間拘束されていた手首が内出血を起こし、腫れ上がっていた。

「酷い…痛いでしょう。大丈夫?」
「何でもないよ、このくらい」
 ユキは優しく少女の手を取った。
「すぐに手当てしてもらうわ。リサに言って…」


30「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:06:36 ID:i32E1ERy
 少女の眼が急に見開かれ、不思議そうに自分を見つめている。
「大丈夫!?どうしたの」
 ユキは尋ねた。
「何か今、頭の中で声が…」

 少女は混乱したような表情になった。
「何か…触られたとき、お前の声が頭の中に…」
「ほんとに??」
 ユキも驚いた。

「前触られたときもあった…気のせいかと思ったけど、今度ははっきり…」
 少女はうわ言のように呟いた。
「声だけじゃない…なんか入ってくる…変な感じ。でも、嫌じゃない…気持ちいい…」
「大丈夫??あの、早く手当てを…」
「待って!もっと…このまま、触って…」

 少女は、ユキの白い手に頬ずりした。
「……」
 子猫が甘えるような仕草をする。サラサラの前髪が手にかかる。
 ユキは優しく少女を撫でた。
 こうして見ると、少女はとても整った可愛らしい顔立ちをしている。
「エリー…」
 ユキの中に突然、不思議な衝動が沸き起こった。
 
 ユキはそのまま、エリーを強く抱きしめた。
31「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:07:33 ID:i32E1ERy
「!!!」
 エリーはまるで、ユキの手が触れたところから感電したかのように、ビクッと背筋を反らした。
「や…やめろっ!」
「どうして?」
「これ以上触られると、変になりそう…」
「わかった」

 ユキがそっと手を離すと、エリーは放心したように天井を見上げた。
「何なんだ…、お前は…」
「何でもないよ。ちょっと特別なだけ。そしてあなたも、特別なんだよ」
 エリーはユキをじっと見つめた。


「…使いたいんだろ、それ、あたしに」
「えっ!?」
 エリーはユキが持ってきた注射器を指差した。

 ユキは動揺を隠せぬまま言った。
「そうなの。でもこれはね、とても…辛い薬で、一度打つと…」
「でも、打たなきゃならない」
 エリーが続けた。

「お前の辛い気持ちが、たくさん伝わってきたんだ」
「エリー…」
「いいよ、打っても」
「!?」

 ユキは絶句した。
 心を見透かされている。

32「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:08:57 ID:i32E1ERy
「あんたはあたしのこと、本気で守ろうとしてくれてた。
 あんたがいなきゃ、あたしは爆弾で自殺してたわけだし。その人がどうしても打たなきゃってんなら、別にいいよ。
 別に死ぬわけじゃないんだろ」
 
「…ごめん、許してね」
 ユキは心を決めた。
「いいって。その代わり…」
「なあに」
 エリーは恥ずかしそうに言った。
「その…これからも時々触ってほしい」
「わかったわ」
 ユキは微笑んだ。

「死ぬほど気持ちよくしてあげる」
 
 ユキは、リサに命じられた通り、10本の注射を全部投与した。
 少女は余りにも強烈な快楽に震え、泣き叫んだ。
 最後には激しく嘔吐し、苦しんだが、ユキは容赦しなかった。

「(あなたは私のモノ…)」

 薄れ行く意識の中、エリーはユキの言葉を聞いた気がした。

(続く)
33「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:09:49 ID:i32E1ERy
第17話 「平穏」

 権藤が処分となり、研究所では比較的平和な日々が続いた。

 所長のフランクは、エリーの戦闘データを見て満足そうに微笑んだ。
「さすがに育ちが育ちだけに、戦闘能力は高いな。特に狙撃と思念誘導の能力がずば抜けている。
 誘導兵器でライフルのように狙撃…イメージが沸いてきたぞ」
「所長。声が高いですよ」
 傍らのイワン博士が呆れたように言った。

「フフフ、優秀なオリジナルも揃った。計画の第2段階への移行を考えてもよいかも知れんな」
「量産化…ですか」
「そうだ。脳外科手術と遺伝子操作による強化兵士の量産。オリジナルのデータが充分に揃えば可能だろう」
「私はあまり興味が沸きませんな」
 博士は肩をすくめた。

「大体、マリアのデータを基にした強化手術は、一般の人間には殆ど効果がありませんでしたしね」
「あの頃よりデータも技術も大幅に向上している。オリジナルの能力に近づけるのは無理だが、ある程度までの強化は可能だ。
 実験体はいくらでも集められるしな」
「やれやれ、廃人量産化にならないことを祈りますよ」


                                      ◇◆◇
34「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:11:00 ID:i32E1ERy
「おはよう、エリー」
「ユキ…んっ…」
 二人は長い口づけを交わした。

 ユキとエリーは、互いに強く惹かれあっていた。
 年下ではあったが、自分を理解してくれるエリーの存在は、記憶を失くしたユキにとってかけがえの無いものだった。

「ユキ、待てってば、わかったから」
「ああ…エリー…もぅ」
「ほんっとにエッチだなあ、全く」

 エリーがユキの柔らかな乳房に口付ける。
 固く尖ったピンク色の乳首を舌でなぞると、ユキの口から甘い吐息が漏れた。

「エリー…あぁ…キモチいぃ…」
 エリーの舌はそのまま、腋の下をなぞり、鎖骨から首筋まで丁寧に舐め尽くす。

「!!!」
 ユキの手が、エリーの顔を捉え、再び口付けをした。
 脳内に直接流れ込むユキの思念。甘い、快楽の波動。
 
 ユキの手が、引き締まった健康的なエリーの身体を撫で擦り、例え様も無いほどの快感を与える。
「ユキっ…やめろっ、ユキに触られるとあたし…」
「駄目。やめない」
「やめっ…あぁ…ダメ…」
「フフッ、エリー可愛い」
 
 ユキは構わず、エリーを後ろから抱きしめ、乳房と秘所を優しく愛撫した。
「ぁああああああ!だめぇっ!!」
「ダメじゃないでしょ。ここはこんなになってるよ」
 エリーの秘所から溢れ出た愛液は、ベッドに染みを作っていた。
「んんんんっ!は、入って…ユキが、あたしに…入ってくる!」
 ユキの手指を通して、下腹部から全身へ、刺激と快楽の思念が入り込む。
 エリーは、あっという間に絶頂へ導かれた。
35「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:12:17 ID:i32E1ERy
                                            ◇◆◇

<アメリカ合衆国 EDFワシントン本部>
 
 ウォレス・バークリーは、目の前の軍服姿の少女を見つめて言った。
「マリア。お前も今日からEDF陸戦兵の一人だ。私の右腕として、優秀な働きを期待している」
「はい中佐。光栄です」
 マリアは誇らしげな笑みを浮かべた。

「もちろん、思念エネルギー強化の訓練や実験は怠るな。お前の特殊な能力は、極力表に出さないよう気をつけろ」
「了解しました」

「3人目の育成も順調だそうだ。お前たちの力が揃えば、EDFはより大きな発展を遂げるだろう」
「はい中佐」
 マリアは答え、目を伏せた。
「ユキには、気の毒なことをしました…一目会いたかった」
「上からの指示だった。仕方がない」
「はい…」
「心配するな。また会う日も来るだろう。同じ任務に就く可能性も高い」
「はい」
 マリアは微笑んだ。


(続く)

36「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:13:10 ID:i32E1ERy
第18話 「審判の日」

<2017年5月7日 アメリカ合衆国 ワシントンD.C.>

 AM7:00のベルが鳴る。
 銀行員のオズウェル・ジェイキンスは、いつもと異なる気分で目を覚ました。
「何か変だ…」

 朝にも関わらず、家中が闇に包まれていた。
 ドロドロと不気味な轟音が、絶え間なく響いている。

 表に出ると、既に何人もの人々が空を見上げていた。
「な、何だあれは…」

 空を覆う、鋼鉄の巨大な円盤。
 中央には、何本かの長い足の様なものが生えている。

 突如、その先端から、まばゆいばかりに輝くオレンジ色の球体が発射された。
 周囲は暗闇から、夕暮れのような景色に変わった。

「これは…ヤバい」
 それが、オズウェル・ジェイキンスの見た最後の光景となった。

                                    ◇◆◇
37「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:14:02 ID:i32E1ERy
<同日 シアトル南部 第3独立大隊駐屯基地>

「ワシントン本部壊滅!」
「ロサンゼルス上空に中型円盤多数接近!生物兵器を投下しています!!」
「極東本部上空に敵巨大円盤出現!」

 混乱した無線が交錯する。
「(一体何がどうなっているんだ!?!?)」
 ジェレミー・エイムズ大尉は冷静さを失っていた。
「とにかく、生き残った隊員を全員呼び寄せろ!敵の動きから目を離すな」
「L.Aが完全に敵の巨大生物兵器によって制圧されました!他の基地からは依然応答がありません」

 ジェレミーは頭を抱えた。
「(くそっ、このままではまずい…こんな時にウォレス隊長がいらっしゃらないとは)」
「敵の大群が移動を始めました!!当基地へ向けて北上中です!!」
「何!?直ちに戦闘準備だ!」

 そのとき、ウォレスがマリアと共に現れた。
「ジェレミー、遅くなったな」
「中佐!ご無事でしたか!」
「ロスの惨状を上空から見た。敵は手ごわいぞ。物凄い数の蟻だ」
「アリ…ですか?」
「ああ、馬鹿でかい奴だ」
 ウォレスはニヤリと笑った。

「連隊長より支援要請!!第1、第2大隊の残存兵力で、海岸に防衛線を張るそうです。」
 通信兵が叫ぶ。
「無視だ。それより、急いで全隊員に移動準備をさせろ。我々は南東に出撃する」
「し、しかし隊長!シアトルを防衛しなければ」
 ジェレミーは慌てた。
38「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:15:54 ID:i32E1ERy
「敵は神出鬼没だ。防衛線など意味が無い。それに」
 ウォレスは落ち着いて続けた。
「私は敵を間近で見てきた。人も戦車も噛み砕く強力な顎を持っている。囲まれたら一巻の終わりだ。
 我が部隊の機動力で翻弄し、おびき寄せて内陸で殲滅するしかない。
 全小隊を集めて、戦車か走行車両に乗せて移動だ。余計な物は置いていく。私の重ギガンテスを用意しろ」
「りょ、了解しました!」

 ウォレスの部隊はよく訓練されており、出撃準備は直ちに整った。

 悲痛な無線が入ってくる。
「第一次防衛線全滅!!」
「敵空母、北東より多数接近!!」
「奴等戦車を…、戦車を人ごと喰ってる…!!!」
 
「ひっ…あ、あれが…敵!?」
 ジェレミーは肉眼で敵を確認した。
 大きな円盤から、無数の巨大な蟻が投下されている。
 海岸線を覆いつくすほどの、真っ黒な蟻の群れ。

 ウォレスが叫んだ。
「全軍出撃!!敵をおびき寄せつつ殲滅する!!絶対に足を止めるな!」
 絶望的な戦力差の戦いが始まった。


                                    ◇◆◇
39「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:17:56 ID:i32E1ERy
<同日 日本 東京>
 
 宮崎優斗上等兵の属する小隊は、3台の軍用トラックに分乗し、敵に制圧された市街地の市民救助に向かっていた。
「(極東本部が壊滅したって…どうなってるんだ。敵は一体…)」
 不安な気持ちになったが、狙撃銃SNR-227を抱いていると、不思議と気分が落ち着いた。

 隊長が叫んだ。
「敵を確認!!全員降りろ!攻撃だ!!」
 優斗達は素早くトラックから飛び出した。

「な…何だあれは!」
「蟻か!?デカすぎる!!」
「おいおいマジかよ…人を喰ってるぞ!」
 真っ黒い巨大な蟻が、逃げ惑う市民に襲い掛かっている。

「優斗!俺達が突撃する。貴様は後方から援護しろ!」
 隊長はそう言い、AS-18を乱射しながら蟻の群れに突っ込んで行った。
「了解!」
 優斗はスコープを覗き込んだ。

「(やってやる…たかが蟻じゃないか)」
 優斗は黒蟻の頭めがけ、正確な一撃を叩き込んだ。

「な!?」
 頭部に銃弾が命中したはずの蟻は、何事も無かったかのように、再び市民を追いかけだした。
「隊長!!AS-18が全く効きません!こいつら、何て固さだ!」
「く…喰われるっ!!ギャアアアア!…」
 突撃した隊員達の悲痛な無線が響く。
40「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:18:48 ID:i32E1ERy
「うわッ!!!」
 優斗がスコープから目を離すと、横のビル陰から一匹の黒蟻が飛び出してきたところだった。
「(コイツ…俺を狙ってる…)」
 近くで見ると、本当に巨大だ。10mはあるだろうか。
 強力な顎が開閉し、シャアアッという耳障りな音が響く。

 優斗は大きく息をした。
 不思議と恐怖は無かった。
「(ただの蟻、ただの蟻だ…どっかに弱点があるはず)」

 蟻は巨大な顎を開き、優斗に襲い掛かった。
 優斗は横っ飛びに攻撃をかわしながら、開いた顎の真ん中に直接銃弾を撃ち込んだ。

「ギョアアアアア!!!!」
 外骨格の内側を破壊された蟻は、物凄い声を発して横転した。
「そこかっ!!」
 優斗は顎の中心にとどめの一撃を放った。

 蟻は動かなくなった。
「やった!!倒した!!」
 優斗は無線に向かって叫んだ。
「隊長!敵の弱点は顎の間です!!」

 返答は無かった。
 突撃隊は全滅していた。
41「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:19:50 ID:i32E1ERy
 市民と兵士を喰らい尽くした蟻が、一斉に優斗に向かってきた。
「くそっ、来い!弱点は分かったんだ!」
 優斗は顎を開いている蟻を狙い、正確に発砲した。
 蟻は断末魔の叫びを上げて倒れた。

「次っ!!」
 立て続けに2匹倒す。
 だが、蟻の群れはもうすぐそこだ。

 優斗は狙撃銃を放り捨て、トラックからSG-5を持ち出した。
 そのまま全力で走り、狭いビル陰に蟻を誘い込む。
「うおおおおっ!!!」
 振り向きざまに、追いすがる蟻の口めがけてショットガンを撃ち込む。
 蟻の頭が豪快に弾け飛んだ。
「次ぃっ!!!」

 優斗は無我夢中でひたすら戦い、気がつけば20匹以上いた蟻の群れは全滅していた。

(続く)
42「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:21:00 ID:i32E1ERy
第19話 「脱出」

<ロシア共和国 EDFコルイマ基地研究所>

「待って。今日は何だか変だわ…動かないほうがいい」
 ユキは、所内に満ちたただならぬ空気を感じ取っていた。
「でも、緊急呼び出しの放送が合ったよ。行かないとやばいんじゃない」
 エリーが答える。
「見張りの兵士もいない。静かすぎる。嫌な予感がするの」

 ユキは決心した。
「エリー、急いで着替えて。ここを出るわよ」
「えっ!?どこに行くんだよ?」
「逃げるの。ここにいてはいけない。なるべくたくさん着込んで」

 エリーはすぐに察して動き出した。

 2人は部屋を出た。
 見張りも居らず、所内は静まり返っている。

「止まって!隠れて!静かに」
 ユキは廊下を曲がったところで、物陰に身を潜めた。
 そのすぐ前を、3人の兵士が銃を持ち、ユキたちがいた部屋に走って行った。

「おい!いないぞ!」
「逃げたか」
「急いで探せ!見つけ次第射殺して構わん」

 兵士達はバラバラに走っていった。
43「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:23:09 ID:i32E1ERy
「聞いたか?やばいぞ」
 エリーが蒼白になっている。
「大丈夫よ。付いてきて」
 ユキはその手を握り、再び歩き出した。

 しばらく歩いたところで、突然声がした。
「おい、お前たち。こっちだこっちだ」
 見ると、ドアの隙間から、一人の初老の科学者が手招きをしている。
「イワン博士!」
「早く、ここへ入るんだ」

 二人は小さな部屋に引っ張り込まれた。
「お前たち、無事でよかった。もう殺されてしまったかと…」
「一体何があったんですか!?」
 ユキは尋ねた。

「いいか、上の世界は今大変なことになっている。正体不明の敵に襲われて、EDF本部が壊滅状態だそうだ。
 ここにも敵がわんさか向かってくるらしい。
 本部からのマニュアルでは、もしここが敵の手に落ちる危険がある場合は、研究結果を敵に渡さぬよう、全てを抹消することになっている。
 あろうことか所長は、オリジナルのデータだけを暗号化して記録し、実験体は抹殺するとの決定を下したんだ」
「それって…どういうことですか」
「その…データだけ残して、お前たちは処分するということだ」
「そんな!!」
「ふざけんな!」
 ユキ達は愕然とした。
44「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:24:11 ID:i32E1ERy
「所長は、精鋭兵士を量産化することしか頭に無い人間だ。だが私の考えは違う。お前たちの能力を完全に複製することなど、実際には不可能なんだ。
 今貴重なサンプルであるお前たちを処分するのは、取り返しのつかない愚行だ。
 だからお前たちを助ける。どうか無事にここから逃げて欲しい」
「わかりました」
 ユキは頷いた。

 イワン博士は地図を開いた。
「研究所のこの一画から、古い坑道に通じる出口がある。長くて険しい道だが、一日も歩けば地上に出られるだろう。
 あとは敵に見つからんように身を隠し、なんとか逃げ延びてくれ」

 博士は用意していた荷物を手渡した。
「当面の食料と水、それに武器だ。武器のことはよく分からんが、強そうなのを適当に持ってきた」
「ありがとう」
 手渡されたのは、AS-18DとSNR-228だった。
「それから、これはSEPの原液だ。処方は書いておいたから間違えるなよ」
 博士は瓶と注射器をユキに渡した。

「博士はどうするんですか」
 ユキは狙撃銃をエリーに手渡して言った。
「私はここでデータをまとめる作業がある。心配せずに行け」
「わかりました。本当に色々ありがとうございました」

 ユキ達は慎重に所内を抜け、坑道へ辿り着いた。
「行くよ、エリー」
「うん」
 二人は小さなライトを頼りに、真っ暗で長い坑道を歩き出した。

                                         ◇◆◇
45「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:25:24 ID:i32E1ERy
<日本 東京>

 優斗は一人、誰も居なくなった市街地を歩いていた。
 もうすぐ夕方になる頃だろう。
 所々に、巨大な蟻の屍骸や、逃げ遅れた人々の遺体が転がっている。

 やがて優斗は、手書きで「避難所」と貼り紙のしてある学校に辿り着いた。
「人がいる」
 外からは全く分からなかったが、体育館の中には、大勢の人間が息を殺して潜んでいた。
 皆怯え、恐怖に慄いた表情をしている。

「早く、扉を閉めろ!奴らに見つかる!」
 血走った目の男性が優斗に言った。
 優斗は慌てて中に入り、扉を閉めた。
  
「優斗君?優斗君だね」
 暗がりの中、一人の男性が声をかけてきた。
「桜井さん!」
「やっぱりそうか」
 男性はほっとしたように微笑んだ。

「無事でよかった。怪我は無いか」
「大丈夫です。桜井さんは?」
「私はかすり傷程度で済んだが、妻がひどい怪我をしてね。救護所に運ばれたよ」
 男性はそう言って、深い溜息をついた。

46「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:26:15 ID:i32E1ERy
「すぐに逃げればよかったのだが、妻は家に戻ってしまったんだ…娘の写真や荷物を取りにね。そこへ蟻が来て」
「ユキ…さんの」
 優斗は男性が大事そうに持っている、鞄や写真を見た。
「そうだ。置いてはいけなかったんだろうな」
 男性は座り込んだ。

「ユキの行方は全く掴めないし、このまま妻まで失ってしまったら私は…」
 優斗は胸が痛んだ。
 2年前、河岸で自分と会話した日を最後に、ユキは行方不明になった。
 ユキの父親と母親は、仕事を辞め、財産も投げ打って、2年間必死の思いで捜索活動を続けてきた。
 警察は犯行状況から、世界各国で横行している、テロリスト集団による組織的な拉致事件と断定した。

「大丈夫ですよ。ユキさんはきっと無事です」
 優斗も2年間、ユキのことを忘れたことはなかった。
 自分のことを友達と呼んでくれた、ユキの優しい笑顔は今でも目に焼きついている。
 その笑顔を奪ったテロリストが許せなかった。だから自分は…

「そうだな。すまない。君にはいつも元気付けてもらってばかりだな」
 父親は微笑んだ。

 そのとき、外からトラックが停車する音が聞こえた。
 窓を見ると、十数人の兵士達が乗り込んでいる。

「桜井さん!僕は行きます。蟻退治は任せてください」
 優斗はそう言って駆け出した。
「気をつけるんだぞ!危ないと思ったら逃げるんだ」
 ユキの父親が後ろから叫んだ。

(続く)
47「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:27:57 ID:i32E1ERy
第20話 「群れ」

「小隊が自分以外全滅か。まあ気にしねえこった」
 トラックに乗った仲間の隊員が、優斗に話しかけた。
「はい。それより俺、やつらの弱点を見つけたんです」
 優斗は言った。

「何だと?弱点?」
 他の隊員達も顔を上げる。
「はい。奴ら、口を開けたとき、顎と顎の間に隙間が出来るんです。そこに撃ち込めば倒せます」

「何言い出すかと思えば、お前馬鹿か」
 兵士達は笑って相手にしなかった。
「そんなに簡単に倒せるんなら、本部が壊滅したり、大隊の連中が逃げ出したりしねえって」
「お前、本当は小隊ほっぽり出して逃げてきただけじゃねえのか」

 優斗はむっとして言った。
「そんなことありません。俺は一人で奴らを20匹以上倒しました」
 隊員達は静まり返った。

 傍らの兵士が、低い声で言った。
「お前な、冗談でもそんなこと言うもんじゃねえ。うちの隊だって、10人やつらに喰われてるんだ」
「冗談じゃありません」
「いいから黙ってろ」

 気まずい沈黙を破ったのは、隊長の声だった。
「前方のFブロックに市民が取り残されている。第37小隊と連携し、日没前に攻撃を仕掛ける。
 敵の装甲は厚い。我々が小銃で足止めし、37小隊のギガンテス砲で止めを刺す作戦だ」
「おお、ギガンテスですか」
 隊員達がどよめく。
48「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:30:08 ID:i32E1ERy
「そうだ。あの強力な120o砲を打ち込めば、さしもの巨大生物も木っ端微塵に吹き飛ぶ。
 しっかり敵を引き付けるぞ」

 トラックが停止し、全員が下車する。
 しばらくすると、一台の戦車が現れた。
 EDFの最新式戦闘車両、E551ギガンテスだ。

 隊長が指示を出す。
「狙撃班は、後ろのビル屋上から狙撃して敵をおびき出せ。突撃班が敵を足止めし、戦車砲で叩き潰す。全員配置に付け!
 新入り、貴様は狙撃班に回れ」
「了解!」
 優斗は3人の狙撃兵と共に、ビルの屋上へ上った。


「へへ、うじゃうじゃいやがるぜ」
 隣の狙撃兵が呟く。
 スコープを覗くと、前方の市街地に50匹以上の蟻の群れが見えた。

「なんだ、お前の銃、俺のより型が古いじゃねえか。換えてやろうか、ハハハ」
 狙撃兵は優斗に自分のSNR-228を自慢した。
「別にいいです。こっちの方が精度がいいんで」
 優斗はSNR-227を撫でた。

 狙撃兵は優斗を睨みつけた。
「生意気な野郎だな。さっきも何か言ってたな。顎が弱点だって?大将さんよ」
「顎の間ですよ」
 優斗は軽く流した。
49「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:31:00 ID:i32E1ERy
 そこへ、作戦開始の無線が入った。
「試してやるぜ。俺の腕を見とけよ、新入り」
 狙撃兵は前方の蟻の顎を狙撃した。
 2、3発顎に当たったが、蟻はびくともしない。

「へへっ、ダメじゃねえか。嘘吐き野郎」
「顎じゃなくて、開いた顎の隙間から、頭の中身を吹っ飛ばす感覚で撃つんです」
「何?そんなこと出来るか馬鹿。お前やって見ろ」
「今狙ってます…あれ?」

 優斗は違和感を覚えた。
 敵は狙撃に反応し、ワラワラとこちらへ向かってくる。
「何だ、今更出来ませんか、使えねえな」
「うーん、あんまり顎を開かない…っていうか、顎の形が、さっき倒した蟻と微妙に違う」
「ボケが。そんなことはどうでもいい!俺達の仕事は敵をおびき寄せることだ。ガンガン撃てっ」
「了解」

 突撃隊が敵の前進を阻止すべく、ライフルを乱射しながら立ち向かう。
 一斉射撃を受けて、蟻の大群の動きが鈍くなった。
「いいぞっ!今だ撃てえぇっ!!」
 隊長が無線で叫ぶ。

 ギガンテスの120o砲が、轟音とともに発射された。
 砲弾は群れの真ん中に着弾し、大爆発を起こす。
「ギョアアアアア!!!!」
 蟻は断末魔の吼声を上げて弾け飛んだ。

50「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:32:02 ID:i32E1ERy
「やったぜ!!ザマあみやがれ!!」
「木っ端微塵だ!さすがはギガンテスだ」
「気を抜くな!次弾装填まで足止めを続けろ!!」
 隊長が叫ぶ。

 優斗は、蟻の動きを注意深く見つめていた。
「やっぱりだ、近づいても顎を開かない。さっきのとは違う!」
 そのとき、一匹の蟻が尻を持ち上げ、そこから黄色い液体を突撃隊に向けて発射した。
 他の蟻も次々とそれに倣い、隊員達の上に黄色い雨が降り注いだ。

「何だこれは、蟻の体液か??」
 突撃隊員の無線が聞こえた。
「う、うわああっ、さ、サンダーーーーーッ!!」
「ギャアアーーーッ!!」
「あ、熱いッ、焼け死ぬぐわああーーッ」
 悲鳴と断末魔は、あっという間に聞こえなくなった。

「ひ…ひでえ…オェッ」
 狙撃兵が口元を押さえた。
 30人ほどいた突撃班は、全員がグチャグチャのゲル状になって溶けていた。

「う、撃てッ、撃てぇーーーッ!!」
 隊長が叫び、再びギガンテスが火を噴いた。
 数匹吹き飛んだが、蟻は構わず後から後から沸いて出てくる。

 戦車はたちまち取り囲まれ、硫酸の雨を浴びた。
「と、溶けるっ…戦車が溶ける!!」
「馬鹿なっ、ギガンテスが…ギャアアアアーーーッ」
 ギガンテスは隊員を乗せたまま、クリームの様に溶けていった。
51「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:32:56 ID:i32E1ERy
「ヒ、ヒイーーッ、全滅だっ!逃げるぞ新入り」
 狙撃兵は逃げ出しかけた。

「馬鹿言うな」
「へ?」
 狙撃兵が腕を強くを掴まれ振り返ると、優斗の目が怒りに燃えていた。

「たかが蟻相手にびびってんじゃねえよ、あんたそれでもEDF隊員か」
「ひっ…」
「必ず弱点はある。顎じゃなきゃ他のどこかだ。俺らが探さずに誰が探すんだっ!」

 その時、3匹の蟻が屋上に登ってきた。
「ひ、ひええええっ!」
「五月蝿い!見とけ!」
 優斗は叫ぶと、蟻の群れに突進した。
 蟻は勢いよく尻を持ち上げ、硫酸の液体をぶちまけてくる。
「当たるかよっ!」
 ギリギリまで接近した優斗には、逆に硫酸は当たりづらかった。

52「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:33:50 ID:i32E1ERy
「顎がダメなら、ここしかない!」
 優斗は、蟻の硫酸発射口めがけて銃弾を撃ち込んだ。
「ギョアアアアア!!!!」
「やった!!」
 内臓を直接破壊され、蟻は倒れて苦しんだ。
 
 残りの2匹が、同時に体液を発射する。
 優斗は素早く、倒した蟻の陰に隠れ、その体を盾にして硫酸を防いだ。
「お返しだ!」
 敵が体勢を立て直す前に、優斗は起き上がって2匹の蟻を撃ち殺した。

「に、人間じゃねえ…」
 狙撃兵は、がたがた震えながら見守ることしか出来なかった。
「次が来る!蟻の陰に隠れろ!」
 優斗は叫び、肩からSG-5を下ろして装填した。

(続く)
53「捕われの翼」:2008/12/18(木) 11:39:49 ID:i32E1ERy
本日は以上です。
ありがとうございました。
やっとインベーダー登場です…
54名無しさん@ピンキー:2008/12/18(木) 18:40:44 ID:gV8QrhZG
乙です!
55名無しさん@ピンキー:2008/12/18(木) 18:45:18 ID:gV8QrhZG
ペイルウィング:ユキは改造人間である。

彼女は彼女を改造した悪の秘密結社EDFから博士の手引きで脱出した。

EDFを倒すその日まで…

頑張れペイルウィング:ユキ!
負けるなペイルウィング:ユキ!







 *   + うそです
  n ∧_∧ n
+ (ヨ(*´∀`)E)
  Y   Y  *
56名無しさん@ピンキー:2008/12/19(金) 09:51:43 ID:c7vEpgQ6
ペリ子と陸男が揃った
作中ではこれが初侵略なのね
57名無しさん@ピンキー:2008/12/19(金) 17:38:58 ID:+6oIMKzR
ちくしょうイワンって言われるとGロボの方を思い出す・・・
58名無しさん@ピンキー:2008/12/19(金) 18:27:05 ID:RfI7/O2s
「さすがはギガンテスだ!」とかthunderフラグwとか思ってたら本当にthunderして吹いたww

連続投稿乙でした。
59第5話予告:2008/12/23(火) 15:46:16 ID:AsvPIt3S
地下鉄の路線内で蟻型巨大生物兵器が多数出現した、との報告が本部に入った。

分析班の見解は”地底に巨大生物の巣が存在する可能性が高い”と出た。

それならば、今までキャリアなしで”蟻”どもが出現していた件の説明がつく。

しかしそれは最悪の事態だ。

EDFは事の真相を確かめる為、強行偵察隊を編成し地下鉄に潜入した。

そこで待っていたものは…

次回、地球防衛軍2 『地下洞』
全ての敵を殲滅せよ!
60名無しさん@ピンキー:2008/12/23(火) 16:06:42 ID:b7JyDbnb
予告編復活GJ!
序盤の稼ぎステージだ
61名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 02:03:16 ID:4A7Uv5dy
ユキには礼賛乙を、予告にはダイナスト乙を進呈します。双方とも乙乙です

EDFラボから逃げちゃったら新型兵器が…って最初は思ったけど、
よく考えたらペイルの存在自体この大戦が終わってからの登場か…
62「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:04:21 ID:tcm86syV
続き投下します。
ストーリーはTHE 地球防衛軍(無印)の設定に合わせてます。
前大戦なので、インベーダーは初侵略で、ペリ子部隊発足もまだ先ですね。
63「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:06:02 ID:tcm86syV
第21話 「山岳戦〜多脚戦闘車」

「2時方向に敵空母!挟まれます」
 マリアが緊張した声で告げる。
 ウォレスの率いる部隊は、追いすがる何千匹もの蟻の群れから必死に逃れていた。
「このまま突っ切る!狙撃部隊、前方の空母を攻撃せよ!」
 ウォレスが即座に指示を出した。

 かれこれ三日以上、休み無く逃げ続けている。
 既に戦力の半分にあたる戦車と兵士が、蟻の群れに飲み込まれてしまった。
 反撃も試みているが、敵の数は増える一方だ。

「南から新手が来ます!すごい数…」
 マリアが双眼鏡から目を離し、額の汗をぬぐった。
 彼女は目視と広範囲の思念感知を利用し、何とか包囲されないよう逃げ道を探し続けている。
 
「デンバーの基地も堕ちたか…もはや生き残っているのは我々だけかもしれんな」
 ウォレスは苦笑いを浮かべた。

 ジェレミーの泣きそうな声が無線に入ってくる。
「あ、赤い奴です!速すぎる…駄目だ!囲まれる」

 ウォレスは戦車から身を乗り出し、周囲を見渡した。
 真っ赤な蟻の波が、前方の逃げ道を塞ぐように大きく展開している。

 通信兵が蒼白な顔で言う。
「完全に囲まれました…ここまでです。防御円陣を―」
「駄目だ!足を止めるな!」
 ウォレスは諦めなかった。
「全機反転!包囲突破だ。正面の敵にありったけの火力を集中して突っ切る。」

 戦車部隊は反転し、背後の黒蟻の群れに唸りを上げて突っ込んでいった。

64「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:08:06 ID:tcm86syV

「左の山岳地帯は、敵の数が手薄です」
 マリアが告げる。
「よし、渓谷を抜けるまで逃げ延びろ。機銃でも火炎放射でも何でもぶつけてとにかく敵を蹴散らせ」
 
「こちら12番機!黒蟻の群れと接触。敵の数が多くて突破できません!」
 先頭車両から連絡が入る。
「各員、12番機を援護しろ!急がないと赤蟻に追いつかれるぞ!」
 ウォレスは大声で命じた。

「私も出ます。中佐、指示をよろしくお願いします」
 マリアがそう言い、グレネードランチャーを抱えて戦車を飛び出していった。
「隊長!赤蟻はもうすぐ後ろです!!」
 ジェレミーから無線が入る。

「速すぎる…駄目かっ」
 ウォレスは歯噛みした。
 前に黒蟻、後ろに赤蟻。狭い道で完全に挟まれる形となった。

 すると、殿のギガンテスが2台、ゆっくりと戦列を離れ後退していくのが見えた。
「ハリス中尉!何をしている!」
「自分の隊で敵を足止めします。皆を突破させてやってください」
 そう言い残し、無線は切れた。
「中尉!くそっ…」
 ウォレスは右手で顔を押さえた。
 無念だが、部下の自己犠牲を無駄にするわけにはいかない。

 しばらくすると、マリアからの無線が飛び込んできた。
「12番機、前進開始しました!」
「こちら12番機、援護に感謝する!」
 戦車隊は包囲を何とか突破し、前進を再開した。

65「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:09:17 ID:tcm86syV
 ウォレスは叫んだ。
「このまま前進!前方の盆地まで到達したら反撃を開始する」
 渓谷を抜けると、前方に広い盆地が広がっていた。

「敵が後方にまとまったぞ。最後のチャンスだ。
 前進しつつ、15番機を中心に、左右に全車両を展開させろ」

 戦車隊は横一列に広がり、渓谷を抜けてくる敵集団の先頭に砲身を向けた。
「まだだ、まだ引きつけるんだ」
 ウォレスが落ち着いて指示を出す。
 盆地に展開した戦車部隊は、突出してくる敵集団を逆に包囲する形となった。

「今だ!!射撃開始!!」
 生き残った全車両が、黒蟻と赤蟻の大集団に向けて一斉に砲撃を浴びせる。
 120mm砲の集中砲火は凄まじく、敵は出鼻を挫かれて大混乱に陥った。
「いいぞ、撃ちまくって押し返せ!狙撃班は敵空母を近づけるな」

 ようやく地の利を得、ウォレスの部隊は反撃を開始した。
 だが、敵は後から後から沸いてくる。
 まるで北米中にばら撒かれた敵生物兵器が、全て集結してくるかのようだった。

 戦いはまだ始まったばかりである。


                            ◇◆◇
66「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:11:22 ID:tcm86syV
 ユキとエリーは、二日がかりでようやく坑道を抜け出し、山の斜面に出た。
 外は寒風が吹きすさぶ、まるで真冬のような状態だった。
 薄暗く、時間すら分からない。

「ユキ!どうすんだよこれから」
「わからないよ。とにかく山を降りて歩くしかないわ」
 二人は手を取って歩き出した。

「(何て寒さなの)」
 暗い坑道を二日間も彷徨い、疲労はピークに達していた。
 追っ手の心配は無いようだったが、このままではいずれ倒れて死を待つばかりである。


 しばらく歩くと、前方の平原に光の帯が見えた。
「エリー、光が見えるよ!何だろうあれ!?」
「待てよ…車かな?車の列みたいだ」
 エリーが狙撃銃のスコープを覗き込んで言った。

「追っ手かもしれないぞ、どうするユキ」
「とにかく、もう少し近づいてみよう」

 近づいてみると、車列の様子がよく分かった。
「ユキ、普通の車みたいだよ。あんなにたくさん…どこに行くんだろう」
「分からないわ。博士が言ってたことと関係あるのかな」
「そう言えば、何かから逃げてるような…な、なんだあれは!?」
 エリーが大声を出した。

「どうしたのエリー!?」
「あんなの見たこと無い…すんごい背の高い化け物だ」
 ユキも目を凝らし、それを確認した。
「何あれ!?」

67「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:12:38 ID:tcm86syV
 四つ足の巨大な移動物体が4体、逃げる民間人の車列をゆっくりと追い詰めている。
 生物ではなく、人工的な機械のように見えた。
 円盤のような胴体から、長大な脚が4本地面に伸びている。
 その脚をゆっくり動かしながら、徐々に包囲を狭めていく。

「あれが、博士の言ってた敵なの?攻撃してるのかな」
 ユキがそう言い終えぬ内に、その機械は頭頂部からまばゆい光を放ちだした。
 その光が収束し、幾つもの光弾となって勢い良く発射される。
 それらは道路に着弾して大爆発を起こし、逃げる車列の動きを完全に止めた。

「戦車…あれは戦車だわ。大変…」
 ユキは銃を抱えてふらふらと駆け出した。
 エリーが慌てて後を追う。

 破壊光線に追い詰められた人々は、車を捨てて徒歩で逃げ出そうとした。
 だが、戦車は既に包囲を固めている。
 そして今度は、戦車の胴体下部が回転を始めた。

「やめて…酷い…何てことを!!」
 次の瞬間、戦車から無数の徹甲弾が発射され、逃げる人々を次々と薙ぎ倒した。
 まるで殺戮を楽しむかのように、外側からゆっくりと射撃を浴びせていく。

「ああああああああっ!!!」
 ユキは怒りに我を忘れ、手近な一体に向けて銃を乱射した。
 AS-18Dの強力な弾丸が当たっても、敵戦車はびくともしなかった。

「ユキ!!馬鹿っ、落ち着け!」
「離してっ!許せない!!」
 エリーは必死にユキを止めた。
 こちらの存在に気がついた敵戦車が1体、ゆっくりと向きを変えてやってくる。

68「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:13:36 ID:tcm86syV
「逃げるぞ!こんな装備じゃどうしようもない」
 エリーはユキの手を引いた。
 しかし、敵戦車が再び頭から光を放ち、破壊光線を発射してきた。
 そのうちの一発が間近くで炸裂し、ユキとエリーは爆風で吹き飛ばされた。

「うわあああっ!!」
「ああっ!エリー!!」
 我に返ったユキが、素早く起き上がってエリーに駆け寄る。

「ごめん!私…大丈夫エリー!?」
「くっ…大丈夫…ちょっと足を挫いたみたいだ」
 エリーは痛みに顔をしかめた。
「ユキ、お前先に逃げろ…」
「馬鹿言わないで!」

 ユキはエリーを支えて走り出した。
 だが、身を隠すものも無い荒野、追いつかれて攻撃されればそれまでである。
 必死に走るが、徐々に距離を詰められてくる。

「ユキ…あたしを置いて逃げろ。お願いだよ」
「駄目、絶対に嫌!!」
 ユキは歯を食いしばって走り続けたが、ぬかるんだ地面に足を取られてなかなか進めない。
「くそっ!!」
 エリーが振り返り、SNR-228を戦車に撃ち込む。
 しかし戦車には全く通じなかった。

 その時、一発の強力な弾丸が空を裂き、敵戦車に命中した。

(続く)
69「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:15:26 ID:tcm86syV
第22話 「旅立ち」

「おかしいな。ライサンダー喰らわせたのに、まだ歩いてやがる」
 若い長身の狙撃手は、重ギガンテスの上で首をかしげた。

「ちゃんと当てたのかレオン。しょうがない、もっと接近して叩くよ!
 主砲はまだだ。ユキに当てたら大変だからね」
 ジェシカ・ベイル中尉が指示を出す。

 ジェシカ率いる第21独立小隊を乗せた重ギガンテスは、敵四脚戦車めがけて加速した。

「よし、そろそろいいな。トビー、一発お見舞いしてやれ。ユキに当てたら殺すぞ」
「任せろ」
 ギガンテスの120mm砲が敵戦車に命中した。
 爆炎に包まれ、敵戦車は大きく揺らいだが、それでも進撃は止まなかった。

「あらら、ほんとに固いね」
「言ったろ。早く倒さないとユキが追いつかれるぞ」
 レオンがライサンダーを再び発射してから言った。

「焦るなって。ブライアン、ゴリアスDDを準備して」
 ジェシカは不敵な笑みを浮かべた。
「敵の前足を狙いな。地面ごとえぐり取るんだ。主砲も手伝え」
「いい考えだ。援護する」
 レオンもニヤリと笑った。

 ロケットランチャーと120mm砲が、敵戦車の前足付近で同時に炸裂し、地面に大穴を開けた。
 敵戦車がその穴に足を取られ、前傾して大きくバランスを崩す。
 そこへ強力な狙撃銃が命中すると、敵戦車は耐え切れず、ついに前のめりに転倒した。

「よっしゃ!とどめは後回しだ。今は任務を優先する。ユキを迎えに急げ!」
 ギガンテスがユキに近づくと、ジェシカは外に飛び出していった。


70「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:16:48 ID:tcm86syV
「ジェシカ!!」
 ユキが叫んだ。
「おうユキ、半年ぶりだな!助けに来たぞ。なんだ、こないだのガキも一緒か」
 ジェシカは笑ってエリーを見た。

「お願い助けて!この子、足を怪我しちゃったの」
「わかったよ、いいから乗りな」
 エリーは黙ってギガンテスに乗り込んだ。
 骨折したのか、右足首が腫れ上がっていた。

 重ギガンテスは、普通のギガンテスより大きめの構造で、6人が乗ってもまだ余裕があった。
「ごめんねエリー、私のせいで…」
 ユキはエリーの手を握って言った。
「いいって。ユキでも、あんなに怒ることあるんだな…」
 エリーはそれだけ言うと目を閉じた。


「ジェシカ、来てくれてありがとう。助かったわ」
 エリーの応急処置を終え、ユキは言った。
「ウォレス中佐に言われて、直接すっ飛んできたのさ。
 敵が襲ってきてすぐだよ。あんた中佐に愛されてるね、フフ」

「ほんとにありがとう。でも一体、何が起こっているの?敵って…」
「地球侵略だよ」
 レオンが真面目な顔で言った。
「そう。宇宙から馬鹿でかい円盤が飛んできて、世界中を攻撃しまくってるのさ」
 ジェシカが続けた。

 ユキは言葉を失った。
 にわかには信じ難いが、先ほど見た戦車は明らかに地球のものではない。
 マリアの予言が頭をよぎる。

71「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:18:31 ID:tcm86syV
「さて、ユキ」
 ジェシカがユキに言った。
「あんたを敵から護衛するのがあたしらの任務だ。
 あんたの行きたいとこまでどこでも行くよ。スコットとアシュレイが、近くで輸送機を守ってる」

「行きたいところ…」
 ユキは戸惑った。
「日本じゃないのか?親だっているんだろ」
 レオンが尋ねる。

「帰りたいけど、本当に何も思い出せないの。日本のこと。それより―」
「それより?」
 ユキの脳裏に、先程の惨状が浮かんだ。
 あんな殺戮が、世界各地で繰り広げられているのだろうか。

「私、あいつらを許せないわ。何とかしてやっつけられないの?」
「そりゃまあ、同感だけど…」
「お願い!あなた達ならできるでしょ。私も頑張るから」
「もちろん、あたしらに出来ないことは無いさ。ただし、戦況は思わしくないよ」

72「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:20:16 ID:tcm86syV
「聞いたか兄弟。しんどい護衛になりそうだぜ」
 眼鏡のトビーがブライアンに話しかけた。
「と言っても、EDFはどこももうめちゃくちゃな状態だしな…」
「たしか、東京に臨時極東本部が設置されてなかったか」
「そうだったな、地方の戦車部隊を集めて、首都圏奪還の反攻作戦を試みているとか言ってたぞ」

「どうするんです、隊長?」
 ブライアンがジェシカに尋ねた。
「そうだな。じゃあその作戦に加わって、敵を潰しながらユキの故郷東京を目指すってのはどうだ」
 ユキは頷いた。

「決まりだな。やれやれ、武器を新調したいよ」
 レオンがライサンダーを肩から下ろしてぼやいた。
「またかよ。金のかかる野郎だ。
 おいユキ、しばらく休めよ。そいつの面倒はあたしが見るから」
 
「そいつ、なかなかいい腕してるな。元気になったら俺の弟子にしてやるよ」
 レオンはエリーの寝顔を見ながら言った。


(続く)
73「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:21:50 ID:tcm86syV
第23話 「巨獣」

 優斗は赤く燃える空を見つめた。
 酸蟻の群れを撃退したのもつかの間、東京上空に巨大な円盤が現れたのだ。
 円盤は中央部から強力な主砲を発射、都心部は一撃で壊滅し焼け野原となった。

 巨大円盤はその後どこかへ姿を消したが、小型の円盤が数多く飛来し、生き残った兵士達や市民に襲い掛かった。
 円盤に発見されるのを避けるため、優斗達は夜間隠れるように移動するしかなかった。

「大将。この先に下水道への入り口があるぜ。あそこを通って本部まで行かないか?」
 偵察に出ていた狙撃兵が、優斗に報告する。

「ありがとう渡辺さん。下水道…気が進まないけどしょうがないか」
 優斗は立ち上がった。
 渡辺と優斗の2人は、東京都内の地下に設置されたというEDF臨時極東本部を目指していた。


「これが下水道…思ったより臭わないもんですね」
「使う連中がいなくなったからな。3日も経てば綺麗になるさ」
 2人は真っ暗な水路を進んでいく。
「上は蟻やUFOでいっぱいでしょうね」
「ああ。地下なら安全だがな」

「止まれ!!」
 突然、前から男の声が響いた。
「おーい!俺達はEDF隊員だ」
 渡辺が答える。

 見張りの兵士が現れた。
「よく生きていたな。この先が極東本部だ。案内する。俺は首都防衛部隊の小林だ」
「助かるぜ。俺は渡辺、こっちは宮崎だ」


74「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:24:22 ID:tcm86syV
 男に案内されて水路を抜けると、地下鉄のプラットホームを改修したような広い空間に出た。
「ここが、臨時本部?」
 優斗は地下空間を見渡した。
 武器や弾薬、物資が数多く積まれているが、隊員の姿は少ない。
「そうだ。人手が足りないんだ。早速働いてもらうぜ」
 小林がそう言うと、奥の方から数名の隊員が出てきた。

「丁度良かった。田中大尉!こいつらを明日の出撃に加えてやってください」
 田中大尉が近づいてきて話しかける。
「いいだろう。今、西日本の戦車部隊が集まって東京を目指している。
 横浜で一時待機し、仙台基地からの援軍も合わせて、南北から一気に首都奪還を目指す作戦だ。
 我々は明日、横浜の野営地の安全確保に出撃する」
「了解しました!」
 優斗と渡辺は敬礼した。


「ちぇっ、いきなり出撃かよ」
 渡辺がぼやく。
「いいじゃないですか。そのために来たんだし」
 優斗は、新しく支給された銃を嬉しげに眺めながら言った。
「これがライサンダー…こんな最新式の武器があるなんて、さすが本部ですね」
「ふん、気楽でいいねえ。お前本当はこの状況を楽しんでるだろ」
「そんなこと無いですよ。怖い気持ちはあります」
 そう言いながら、優斗の顔は笑っていた。


                               ◇◆◇
75「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:26:03 ID:tcm86syV
 翌日、優斗達が横浜の野営地に到着したのは、夕方になる頃だった。
 だが、既に到着しているはずの戦車部隊の姿は無かった。
「何故だ、おかしい。大森大佐の先遣部隊は何処に…」
 田中大尉が困惑した表情を浮かべた。

 優斗は周囲を見回した。
 幾つかの建物が崩れ落ちており、明らかに戦闘のあった形跡がある。

「隊長!!見てください、大変です!」
 偵察に行っていた隊員が叫ぶ。
 優斗たちが駆け寄ると、そこにはぺしゃんこになった鉄の塊があった。

「こ…これは、ギガンテス??」
「蟻やUFOの仕業じゃないな…どうなってんだ」

 その時、不気味な音と共に地面が揺れた。
 夕暮れの道路を、巨大な影が横切る。
 周囲が暗くなった。

「あ…ああ……」
 隊員達は呆然となってそれを見上げた。

 高さ40mはあるだろうか。
 巨大な岩のような生物が、ゆっくりと二本足で立ち上がって優斗たちを見下ろした。

「あ、ありえねえ…なんなんだコイツは…」
 まさに怪獣であった。
 ゴツゴツとした表皮、長大な尻尾、頭には大きな角が生えている。

76「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:27:52 ID:tcm86syV
「ひ、ひええええーーッ!!」
「逃げろーーっ!」
 隊長も隊員も、皆武器を捨てて一目散に逃げ出した。
 残ったのは優斗と、ガタガタ震えている渡辺だけであった。

 途端に巨獣が動き出した。
 信じられない素早さで、逃げる隊員達に迫る。
「ひゃあああっ、来るぞ!!」
「隠れるんだっっ!!」

 巨獣は一瞬停止し、下を向いた。
 口から煙のようなものが出ている。
 次の瞬間、巨獣の口から爆炎が噴き出し、隊員達をあっという間に丸焦げにした。

「くっ!!走れ渡辺っ!」
 優斗は硬直している先輩を呼び捨てにし、その腕を取って全力で走り出した。
 巨獣がゆっくりとこちらに向き直る。
 再び口から煙が出た。

「ヤツの真下へ!!!」
 巨獣の足元に滑り込んだ途端、爆炎が頭上すれすれを掠めていった。
「止まるな!潰される!!後ろ側に走り抜けろ!」

 背後のビル街に逃げ込み、身を隠す。
 巨獣は気づいていない様子だ。
 周囲を見渡し、巨大な吼声を上げると、そのまま道路の向こうへ歩き去っていった。


「お、終わりだ…あんな奴がいるなんて…」
 渡辺が放心状態で座り込んだ。
「さすがにビビりましたね。おっ、あれは―」
 優斗が反対側の道路を指差した。
77「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:29:42 ID:tcm86syV
 黒焦げのギガンテスが20台ほど、同じ方向に砲塔を並べている。
「生存者がいるかもしれません。探してみましょう」
「無理だろあの炎じゃ…しょうがねえな」
 2人は戦車の列に歩き出した。

 戦車はどれも、中まで真っ黒だった。
 だが、一番端に1台だけ、損傷が軽微なものが残っている。
「あれは、まだ使えるんじゃないですか」

 ハッチを開けて中を見ると、3人の隊員が倒れていた。
「この人は…まだ息があります!」
「こっちの2人は駄目だ。もう死んでる」

 たった一人の生存者を、車外へと運び出す。
 優斗が水を飲ませると、隊員は息を吹き返した。
「うう…き、君達は?」

「おい、無理して喋るんじゃね…ないであります!」
 渡辺が、胸元の階級章を見て態度をガラリと変えた。
「大森大佐!?」
 優斗も目を丸くした。

「そうだ…君達は?」
「自分は、臨時極東本部の渡辺であります!もう心配はご無用です」
「そうか、東京の…悪いが先遣隊は壊滅した。あの一匹の怪獣のために…」
 大佐はゆっくりと起き上がった。

「自分達も遭遇しました。何とか逃れましたが、あれはどうしようもないですね」
「戦車砲を何発当てても倒れなかった。そしてあの素早さ、火炎…恐ろしいインベーダーの生物兵器だ」
「失礼します、大佐。あのギガンテスをお借りしてもよろしいですか?」
 優斗が話に割り込んだ。
78「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:32:04 ID:tcm86syV
「優斗。お前何する気だ?」
「あの怪獣を追いかけます。何とかして倒さないと」
「馬鹿言うな!!一人で追っかけて何しようってんだ。やめとけ」
 渡辺が呆れて言う。
「そうだ。西日本からの本隊を待ったほうがいい」
 大佐も止めた。

 だが優斗は引かなかった。
「大勢でかかっても、被害が大きくなるだけです。そうすると反攻作戦が駄目になってしまう。違いますか?」
「……」
 大佐は優斗の目を見つめた。
「本気で言っているのか?」
「もちろんです」
「勝算はあるのか」
「弱点を狙います。手持ちの武器で何とか」

 大佐は首を横に振った。
「馬鹿な。弱点など無い…奴は無敵だ」
「弱点が無いなら作ってやるまでです。やらせてください!」
「……」
「戦車で近くまで乗せていただけるだけでも構いません。お願いします!急がないと―」
「…好きにしろ。どうせもうスクラップ寸前だ」
「ありがとうございます!!」


79「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:33:05 ID:tcm86syV
 ギガンテスのエンジンが唸りを上げた。
「優斗!お前正気か!?」
「大丈夫ですよ。ほら、戦車の中でこんなモノ見つけました」
「げげっ」
 箱に詰められた、1ダースほどの特注手榴弾。
 ラベルにはHG-13改と書いてある。

「時限式グレネードなんかでどうする気だよ!」
「そりゃあもう、特攻です」
 優斗は楽しそうに笑った。

 大佐がギガンテスに乗り込んで言った。
「我々が近くまで送っていってやろう。その後は任せたぞ」
「わ、我々って……」
 渡辺が蒼白な顔になった。

(続く)
80「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:34:22 ID:tcm86syV
第24話 「雪加一号」

 炎に包まれた町並みと、巨大な足跡を辿っていくと、簡単に巨獣に追いつくことが出来た。
「ありがとうございました!後は一人で行けます!」
 優斗はそう叫ぶと、ライサンダーを背負って戦車を飛び出していった。

「さて…果たして作戦通りにいくか」
 走りながら、優斗は不思議な興奮に包まれていた。
 自然に口元が緩む。
 恐怖など微塵も無かった。

「このビルがちょうどいいな」
 優斗は、巨獣より少し背が高いビルを選んで飛び込んだ。
 階段で屋上に駆け登り、ライサンダーを構える。

 巨獣は町を破壊し、逃げ惑う市民を踏み潰していた。
「そこまでだ、喰らえっ!」
 ライサンダーが凄まじい反動と共に発射される。

 強力な弾丸は、巨獣の右目に命中した。
 巨獣が顔をこちらに向ける。
 優斗は同じ右目を狙い、次弾を発射した。
 巨獣はのけぞって叫び声を上げた。

「効いてるな!まだまだっ」
 立て続けに、正確な狙撃を浴びせる。
 怒りに燃えた巨獣が、優斗のビルに向けて前進を始めた。

 7発撃つと、自動装填のカートリッジが切れた。
 優斗がリロードし終える頃には、巨獣は目の前に迫っていた。

「(やべっ!)」
 優斗は急いで、用意していた長いロープを掴んだ。
 その瞬間、勢いそのまま巨獣が突っ込み、優斗のいたビルはあっけなく崩壊した。
81「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:36:05 ID:tcm86syV
「あの馬鹿!!…やられやがった…」
 双眼鏡で様子を見ていた渡辺が、がっくりと肩を落とした。
「いや!飛び移ったぞ!!まだ生きている!」
 大森大佐が興奮して叫ぶ。
「何ですって!?」

 ビルが崩落する寸前、優斗は巨獣の頭に飛び移っていた。
 小さな角のような突起にロープを絡ませ、必死にしがみつく。
優斗は巨獣の右目を見た。
 高威力のライサンダーでしつこく狙撃した右目上部には、僅かだが傷口が開いている。

 優斗は近距離射撃で、さらにその傷口を広げた。
 巨獣は暴れて頭を振ったが、優斗は狙いを外さない。
 傷口はますます広く、深くなった。

「こいつでとどめだ!」
 サイドバッグからHG-13改を取り出す。
 直径30m級の大爆発を起こすHG-13Aを、時限式に改造した手榴弾だ。

 1ダースほど、次々にピンを抜き、右目の傷口にねじ込んでいく。
「(効いてくれよ…)」
 念じながら、ライサンダーの銃床を使って全弾を押し込んだ。

82「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:37:09 ID:tcm86syV
 爆弾を設置し終え、優斗はロープを滑らせて背中側から素早く地面に滑り降りた。
「(3…2…1っ!)」
 頭上から凄まじい爆音が響き渡る。
 巨獣の身体が大きく波打った。

「どうだっ!」
 地面に無事降り立ち、優斗は巨獣を見上げた。
 見た目の損傷は激しくないが、頭蓋の内部を破壊され、目や口から体液が流れ落ちている。
 巨獣の腕がだらりと垂れ下がった。
 そしてそのままゆっくりと、前のめりに倒れていった。


「やりおった…たった一人でっ…!!」
 大佐が飛び跳ねた。
「(何てやつだ…お前のほうが、よっぽど怪物だぜ)」
 渡辺は言葉も出なかった。

 太平洋沿岸の街々を焼き払い、数多くの戦車部隊を全滅させた怪物は、たった一人の陸戦兵によって葬られた。


                               ◇◆◇
83「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:38:16 ID:tcm86syV
<翌日正午 EDF仙台基地>
 
「どうだユキ。久しぶりの日本は」
 ジェシカが伸びをしながら尋ねた。
「うーん。全然実感沸かないよ。まあここには来たこと無いしね」
「そうか。ま、無事に東京まで辿り着ければ、色々思い出すんじゃないか」
「そうだといいなあ」
「心配すんなって。じゃ、あたしは色々めんどくさい話してくるわ」
 ジェシカは司令室の方へ歩いていった。

「エリー、大丈夫?」
 ユキは尋ねた。 
 足の手当てを済ませたエリーは、松葉杖をついていた。
「大丈夫だよ。骨には異常無いっていうし。東京にはちゃんと付いていくから」

「やっぱり心配だなあ。敵もたくさんいるのに」
 ユキの表情が曇る。
「この基地に置いていってもしょうがないさ。全隊員が出撃するらしいからな」
 レオンが言う。 

「それに、こいつの腕はこの先必要になるぜ。狙撃なら杖ついてでもできる。俺がしっかり教えてやるよ」
 レオンはエリーを高く評価しているようだった。
「うるせーな。あたしはやりたいようにやるよ。邪魔したら撃ち殺すぞ」
「無理だな。お前狙撃の才能はあるが、まだまだ未熟だ。先輩の言うことは聞いとけ」
「うぜーんだよもう…ユキ、こいつ何とかしてくれよ」

84「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:40:32 ID:tcm86syV
 ユキは苦笑してその場を離れた。
 基地の中は慌しく、戦車や隊員でごった返している。

「東京…か」
 南の空を見つめて呟いた。
 連れ去られたとき、自分は15歳だった。
 一体何が待ち受けているのだろう。
 今は考えるよりも、身体を動かしているほうが楽だった。

 
「おーい、小隊全員集まれ!ブリーフィング始めるぞ」
 30分ほど経つと、ジェシカが資料を持って戻ってきた。
 8人のメンバーがすぐに集合する。
 一桁の人数で小隊とは大げさだが、チームの戦力は並の小隊を遥かに凌いでいた。
「いいか、早速明日正午から出撃だ。
 作戦名は雪加一号。既に出撃した南方の部隊と連動し、東京奪還を目指して大規模攻撃を仕掛ける作戦だ。
 まあとにかく、気合入れていくぞ!」
 ジェシカの声が響き渡った。

(続く)
85「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:43:06 ID:tcm86syV
第25話 「遭遇」

 翌日、雪加一号作戦が発令され、ジェシカ達は現地の大部隊とともにEDF基地を出発した。

「いやあ、いい天気だ。日本はいいとこだな」
 ジェシカが、窓から五月晴れの空を見上げてはしゃぐ。
「ほんとだね。普通のお出かけなら最高なのに」
 ユキは爽やかな風の匂い、土の匂いを感じた。
 懐かしい記憶が、少しずつ蘇ってくるような気がした。

「遠足気分もあと少しだぜ。5km先に、蟻に占領された街がある」
 戦車を操縦しながらトビーが伝える。
「よし、戦闘準備だ。お隣の小隊と連携して、包囲作戦といこうか」
 ジェシカが無線機に向かって喋りはじめた。
 EDFは、もともとテロ鎮圧などの小規模戦闘を主眼において設立されたためか、小隊や分隊単位での自由な作戦活動が多い。
 したがって、隊長の統率力や個々人の能力が、全軍の戦力に大きく影響してくるのだった。


 しばらく進むと、海に面した小さな街が見えた。
 一見すると普通の街だが、よく見ると黒々とした巨大な物体が幾つか動いている。
「げええっ!あれが蟻かよ」
「気持ち悪い…」
 初めて見る敵に、エリーとユキは驚いた。
 
「もっとよく見てみな。奴らが何喰ってるか」
 トビーが意地悪く笑う。
「え?」

 ユキは双眼鏡で蟻の様子を見た。
 街中央の広場に、何かが積まれた2つの山がある。
 一つの山には、赤黒いダンゴ状の物体が積まれている。
 蟻がその山に、次々と口からダンゴのようなものを吐き出していた。
 そしてもう一つの山には―

86「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:49:37 ID:tcm86syV
「オエエッ…」
 ユキは危うく嘔吐しかけた。
 積まれていたのは、人間の死体だった。
 常識が崩壊する。
 のどかな風景の中で、そこだけが地獄絵図と化していた。

「分かったろ。肉団子にされたくなきゃ死ぬ気で戦うんだよ。敵は全部で50匹近くだそうだ。
 エリー、レオン、トビーは戦車から後方支援。
 残りの5人で突入する。ユキ、大丈夫だね。あたしの側を離れんなよ」
 ユキは口元を押さえたまま頷いた。
「大丈夫…やれるわ、訓練通り」
「そうだっ、喰われてたまるかよ」
 エリーも蒼い顔で頷き、研究所から持ってきたSNR-228を握った。

「オチビさん、そんな出来損ないはゴミ箱に捨てて来な。銃は精度が命だ。これを使えよ」
 レオンがエリーにライサンダーを手渡す。
「いいのかよ、これお前のだろ」
「俺にはこいつがある」
 レオンは笑って新品のSNR-229を取り出した。
「ユキ、あんたはこれだ」
 ジェシカはユキに、AS-19とガバナー0を手渡した。

「さあ、行くよ!あたしらは、西側の住宅街から中央広場を目指す。北側からは2小隊が突入する。
 十字砲火作戦だ」
 ユキ達は戦車を降り、前方の住宅街を目指して走った。


87「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:51:34 ID:tcm86syV
「合図だ!突入開始!!」
 ブライアンが発射したゴリアスSカスタムが炸裂し、前方の蟻を巻き込んで大爆発を起こす。

 爆風の後ろから、大量の蟻が飛び出してきた。
「喰らえ!!」
 ジェシカのAS-20SSS試作型がそれを迎え撃つ。
 轟音とともに、無数の弾丸が蟻の群れに襲い掛かった。
 蟻の前進は止まったが、それでも致命傷を与えるには至らない。

「クソっ!!硬いなコイツら。弾切れだ。全員突撃!」
 ジェシカがリロードに入る。
 アシュレイとスコットが、ライフルとショットガンを撃ちながら蟻の群れに突撃した。
「やるしかない!」
 ユキも奮い立ち、AS-19を持って2人に続いた。

 民家を踏み越え、目の前に迫る巨大な敵。
 ユキは狙いを定めてライフルを連射した。
「(か、硬いっ!)」
 敵は悲鳴を上げて動きを止めるものの、なかなか倒れない。

 そのとき、ライサンダーの弾丸が敵に命中し、蟻を屋根から弾き落とした。


「やった!倒し…げげっ、まだ動いてる」
 エリーが悔しがる。
「敵は相当硬いぞ。頭を使えよ」
 レオンはそう言い、SNR−229を連射した。
 弾丸が蟻の脚を根元から弾き飛ばす。
 左側の脚を2本失った蟻は、巨大な身体を支えきれず、歩けなくなった。
「これでいい。とどめは前のやつらに任せよう」
「すげえ…」
 エリーはレオンの技量に舌を巻いた。


88「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:53:06 ID:tcm86syV
「待たせたな、もう一丁!」
 再びジェシカの銃撃が始まる。
 今度は3匹の蟻が、その弾幕に巻き込まれて絶命した。
 後方の蟻にも、ゴリアスと戦車砲が命中し、纏めて10匹近くを葬り去る。
 ユキはショットガンで2匹の蟻にとどめを刺した。

 戦況は一気に好転した。
「よし!前進しろ。広場まで…何だ?」
 ジェシカが無線に耳を傾ける。
「クソっ、北から突入した部隊が苦戦してるみたいだ。
 あたしが応援にいく。ユキも来てくれ。ここは任せたぞ!」
「了解!」


 ジェシカとユキは住宅街を北に走り、味方の部隊の応援に回った。
「うわっ、こりゃひでえな」
「何なのこれ!?」
 あちこちでアスファルトが溶け、煙が漂っていた。
 溶けた戦車や人の死体が散乱している。
「やつら、尻から硫酸を飛ばすらしい。気をつけろよ」

 味方の部隊はもはや壊滅寸前だった。
「酸だっ、酸が来るっ!!何て飛距離だ」
「畜生!!敵が硬すぎる!逃げるしかない!!」
 酸蟻の群れを前にして、あちこちで悲鳴や怒号が飛び交う。

「逃げるなあ!!ジェシカ様が助けに来たぜ!」
 AS-20SSS試作型が再び火を噴く。
「ジェシカ!上!!」
「おおっと」
 敵の動きは止まったが、頭上から硫酸の塊が降ってきた。
 真横で2人の隊員が、あっという間に骨まで溶かされた。

89「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:54:33 ID:tcm86syV
「畜生、みんな下がれっ!」
 ジェシカが乱射しながら後退する。
 ユキもライフルで応戦するが、一匹倒すのが精一杯だ。


「ぐああっ!!」
「ぎゃああああ!!」
 飛来する蟻酸により、仲間が次々に溶かされていく。

「ジェシカ!このままじゃみんなやられるわ!!」
「やばいな。撤退するか」
「私が引きつけるから、その間に反撃して!!」
 ユキは言うが早いか、右前方に飛び出していった。

「なにっ!待てユキっ!!」
 ユキめがけて、蟻酸の雨が降り注ぐ。
 ユキはそれをギリギリでかわし、至近距離から蟻の脚にガバナー0を撃ちこんだ。
 関節から脚を吹き飛ばされ、蟻は横転した。
 無数の攻撃をいとも簡単にかわし続け、敵に密着してショットガンを放つ。


 蟻の群れはユキに気を取られ、ジェシカ達の前に無防備な横顔を晒した。
「今だっ、反撃開始!!」
 生き残った隊員たちが、一斉射撃を浴びせる。

 更に突然、後方から3台のギガンテスが、丁度ユキのいるあたりに戦車砲を発射した。

「ちょ、馬鹿野郎!!ユキ!!」
 ジェシカは慌てて駆け出した。
 蟻の大量の断末魔が響き渡り、爆炎と土煙が舞い上がる。

90「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:55:59 ID:tcm86syV
「ユキーーっ!!!」
 ジェシカは叫んだ。
 土煙が風で流されると、両耳を押さえて一人立ち尽くすユキの姿が現れた。
「ユキ!大丈夫か!?」
「びっくりしたあ…」
 かすり傷一つ負っていなかった。

「避けた…のか?あれを」
「え?」
 ユキは何事も無かったかのように、大きな瞳でジェシカを見返した。
「い、いや、何でもない!いきなり飛び出すなよ!」
「ごめん」
「オーケイ、全員突撃!畳み掛けるぞ!!」
 ジェシカが命じると、隊員達は残り少なくなった敵めがけて攻撃を再開した。


                                ◇◆◇
91「捕われの翼」:2008/12/26(金) 06:57:52 ID:tcm86syV
 広場まで到達すると、十字砲火が功を奏して、一方的な展開となった。
 戦いには勝利したものの、30名以上が死亡し、3台のギガンテスが失われた。
 戦闘後、ユキ達は戦死者と市民の遺体を荼毘に付し、埋葬するという気の重い作業に追われた。


 ユキは小さな子どもの遺体を、そっとトラックの荷台に載せた。
「(可哀そうに)」
 作業は日が落ちる時間まで続けられた。
 涙は流さないようにしていたが、全てを終えると色々なものがこみ上げてきた。


「ユキ。お疲れ様」
 ジェシカが後ろから、ユキの細い肩を抱いた。
 答えられず俯くユキを、ジェシカは優しく抱きしめてくれた。

「今日はよくやったな。今夜はこの先にちょっと行った所にある町に泊まるよ。
 温泉があるんだってよ、覚えてるか。ジャパニーズ・スパ、っていうの?まあ、さっぱりしようぜ」
 ユキは泣き顔のまま、微笑んで頷いた。

(続く)

92名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 06:59:14 ID:tcm86syV
本日は以上です。
ありがとうございました。
93名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 09:55:47 ID:TFVF3J4Y
いやー読み応えあった!礼賛乙!

序盤で出てきたボーイフレンドがまさか伝説の男と化していくとは…
2年もしたら本部から化け物呼ばわりされる恐ろしいカップルになってそうだなw
94名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 22:04:16 ID:3KfBf1hy
こんなスレがあったことにワロタw
95名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 22:39:18 ID:83n8XbYQ
そう、エロパロなのに戦闘描写が多めな(作者様はお約束を入れてくれるがw)このスレへ






とうこそ
96名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 15:16:24 ID:UwdhsX7M
じゃぁおれも








とうこそ!
97第6話予告:2008/12/29(月) 22:12:19 ID:Q3q7rLYI
悪い予感は的中した。

巨大生物兵器は地下に広大な巣を生成していた。

それによって奴らは飛行能力などの新しい能力を身につけているようだ。

そんな時、深夜の市街地に蟻型巨大生物兵器が出現したとの連絡が入った。

今回出現したタイプは前大戦では出来なかった夜間の行動が可能らしく、昼間と同じように攻撃を行っているようだ。

今度の作戦は初の夜戦になる。
敵の位置を把握する為、常にレーダーから目を離すな!

次回、地球防衛軍2 『漆黒』
全ての敵を殲滅せよ!
98名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 02:01:14 ID:RB++AyJq
明けまして初サンダー!!
99 【豚】 【93円】 :2009/01/01(木) 12:51:19 ID:ir/VOheu
あけおめ保守
100名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 14:15:04 ID:1HPls805
愛する星の未来を〜
101ペイルウイング物語−落日編−:2009/01/01(木) 17:25:02 ID:VUJfeHfn
《西暦2020年2月8日 EDF倫敦病院》

「極秘任務……ですか?」
 智恵理は情報部の高級参謀に対しオウム返しに質問した。
 まだ30前に見える青年将校は、殊更に顔をしかめて智恵理を睨み付けた。
「君にはいかなる質問も許されていない。2月10日正午、倫敦郊外のX地点に出頭せよ。Xについては追って通達する」
 高級参謀はそれだけ伝えると、小娘のような秘書官と共に病室を出ていった。
 結局、名前も名乗らずじまいであった。
「追って通達する……か……」
 智恵理は高級参謀の態度にむくれながら、仰向けにベッドに倒れ込んだ。

 智恵理はバトル・オブ・ブリテンの後、神経に変調をきたして入院を余儀なくされていた。
 恩師を一度は見殺しに、そして今度は自らの手で、2度も死なせてしまったことは重いストレスとなって彼女の心を蝕んだ。
 一時は戦線復帰は無理と思われた智恵理だったが、それを救ったのはマリー大佐の献身的な看病であった。
 大佐は暇さえあれば智恵理の元へと通い、何かと世話を焼いた。
 どんなに忙しい日でも必ず一度は病室を訪れ、その日あった他愛もない出来事を話題に話し込んでいった。

「この人は、まだあたしを必要としてくれている……あんなに反抗したのに……」
 大佐の思いは智恵理に通じた。
「今、戦列を離れるわけにはいかない。この人がいる限り……」
 大佐の期待に応えようという気持ちは、智恵理の病んだ心を浄化していった。
 そして、明日にも退院できるまでに回復した矢先に、情報部からの極秘指令を受けたのである。

「何だろう。隊長にも言っちゃいけない任務って」
 マリー大佐の信頼に応えるべく復活したばかりだというのに、さっそく隠し事をしなくてはならないのは嫌であった。
 しかし、機密事項を打ち明けることにより、大佐に迷惑が及ぶかもしれない。
 それを思うと沈黙せざるを得なかった。


 その日の午後、智恵理の退院準備のため、後輩の蛍野光がやって来た。
「えぇ〜っ。せっかく退院祝いのパーティ、準備してたのに」
 退院が10日以降にずれこむことを告げると、光は面白くなさそうにふくれた。
 可哀相にも思えたが、秘密裏に任務をこなすのには、入院していることにしておいた方が都合がいい。
102ペイルウイング物語−落日編−:2009/01/01(木) 17:26:06 ID:VUJfeHfn
「2小はどうなの? あたし抜きでも無事にやってる?」
 智恵理は話題をそらそうと、自分の小隊について尋ねてみた。
「今更なに言ってんのやら。普段、あれだけ好き勝手にペ単騎やらかしてるくせに」
 光はケッとせせら笑った。
 後輩に揶揄されたとおり、智恵理はこれまでLWのエンジェルに小隊を任せっきりにしていたことを思い返す。
「早く先輩に帰って来てもらわないと、チチョリーナの奴が幅を利かせてたまらないや」
 反りの合わない2人がいがみ合っている光景が目に浮かび、智恵理は思わずクスッと笑ってしまった。
 ようするにいつもと変わらないってことである。

「それよっかさ、先輩……相談があるんだけど……」
 いつになくしおらしい態度で光が言った。
 まだペ科練の新入生だった頃の光を思い出し、智恵理は微笑みで先を促す。
「実はさ……最近あたし幽霊が見えるんだ……セーラー服着た女子高生が、なんか悲しそうな顔でこっち見てやがんの」
 光は声をひそめて告白を続ける。
「こんなこと精神病院入った先輩にしか言えなくて……あぁっ、笑ったら泣かすからねっ。丁度ベッドもあるんだし」

 笑うどころではなかった。
 光が見たセーラー服の幽霊とは、マイティ少尉こと風見舞子の残留思念に違いない。
 アルカトラズにいたころ、智恵理も何度か彼女の思念を感じたことがあった。
 智恵理は自分を導いてくれた先達の端正な顔を思い出す。
 それが見えるということは───
「光ちゃんも覚醒しつつあるの?」

 そういえば東京で光と再会した時、彼女も中野のラボで検査を受けたと言っていた。
 それに彼女には日本製の思念誘導兵器が支給されていた。
 光がEDFの闇の部分が探し出したサイコ・シューター候補生であるのは間違いない。
 それも王女派にも議会派にも属さない、日本独自の機関が暗躍している可能性が高かった。
 しかし、なぜ彼らが光を手放し、王女派の巣窟である旧ペガサス隊に送り込んできたのか。
 智恵理には全く見当がつかなかった。

                                 ※

 その日の午後、ヒースローに到着した東京発のジェット便から、一人の東洋人女性が降り立った。
 矢井羽才子、35歳。
 日本が生んだ超心理物理学の第一人者で、セントラル・グループの特殊兵器部門主任技師の肩書きを持っている。
 才子女史は空港ロビーにごった返す人混みを、虫けらでも見るような目で睥睨していた。
 その物腰には、白人社会に対する劣等感など全く見られない。
 形のよい頭蓋骨の外側にも、そして内側が秘めた才能にも絶大な自信があった。
 それが彼女の態度を尊大にさせている原因であった。
103ペイルウイング物語−落日編−:2009/01/01(木) 17:27:01 ID:VUJfeHfn
 才子が歩き出そうとした時、背後から呼び止める声がした。
「ドクター・ヤイバ?」
 振り返った才子は声の主を捜すために、視線の先を数十センチ下ろさなければならなかった。
 そこにEDF戦技研のミラージュ技官の姿を認めた途端、才子の表情があからさまに不機嫌になる。
「お迎えにあがりました」
 この、自分の年齢の半分にも満たない小娘は、専門分野における──恐らく世界で唯一の──技術上のライバルなのである。
 無論、自分が劣っているとは思いもしない才子だが、そんな存在は絶対に許さないというのが偽らざる本音であった。

「ふぅ〜ん、あなたが……わざわざねぇ……」
 ルージュを真っ赤に塗りたくった唇が動き、明瞭なクィーンズ・イングリッシュが流れ出た。
「明後日のトライアルと何か関係があるのかしら」
 才子女史の口調がシニカルになる。
 彼女がロンドンに来たのは、制式思念誘導兵器のトライアルに参加するためであった。

 EDF首脳は、一度封印したX計画を再び解禁することを決定した。
 これは、不足傾向にある人的資源を強力な兵器力で補おうという、ストックホルム会議の結果を受けたものである。
 表向きはそれとして、BoBにおける王女派の失点が、議会派を勢いづかせる原動力となったのは間違いない。
 聡明なミラージュはそうにらんでいた。

 それにしてもトライアルの相手が、なぜガイスト博士ではなく、セントラル・グループの矢井羽才子なのか。
 王女派の戦技研に対抗するなら、議会派子飼いのガイスト博士が出てくるのがセオリーである。
「議会派が日本の政財界と結託したのかしら」
 もしかすると、次期国連事務総長の椅子あたりを餌にして取り込んだのかもしれない。
 しかし、ミラージュの関心はそんなところにはなかった。


「……で、なんなの。本当のご用は?」
 防音装備の施されたリムジンの後席で、才子女史は同乗したミラージュに対して冷たく尋ねた。
「以前機会があって、サイ・ブレードを拝見させていただきました」
 才子の銀縁眼鏡がキラリと光った。
「私などが言うのはおこがましいのですが、本当に素晴らしい出来栄えでした」
 ミラージュは本心から賛辞を送った。
 事実、サイ・ブレードは彼女のミラージュ5WAYより数段優れていた。
 今回のトライアルに持ち込む新型サイコガン、フェンリルでも敵わないかもしれない。
104ペイルウイング物語−落日編−:2009/01/01(木) 17:27:36 ID:VUJfeHfn
 少し躊躇した後、ミラージュはバッグから小さな部品を取り出した。
「…………?」
 才子は意味が分からず、差し出された部品を見詰めている。
「マイクロ・リニア・ブースター。私が開発した思念誘導兵器の心臓部です」
 ミラージュの真剣さにうたれ、才子は自然にブースターを受け取っていた。

 マイクロ・リニア・ブースターは、微弱なサイコ・エネルギーを昇圧してコンプレッサーに送り込む増幅器である。
 これによりミラージュガンは実用レベルの破壊力を得ている。
 シューターの負担をできるだけ軽減するよう、ミラージュが苦心して開発した極秘部品であった。
 それをライバルである才子に無償で提供しようと言うのである。

「なにが目的なの?」
 才子は渡されたブースターを胡散臭そうに点検した。
 まさかとは思うが、突然爆発するような細工がされているのかもしれない。
「どうしてこれを私に?」
 回路に異常がないと知った才子は、冷たい視線をミラージュに向けた。
「サイ・ブレードは優れた思念誘導兵器ですが、余りにもシューターに負担を掛けすぎます」
 ミラージュはそう言って視線を落とした。
 長大な射程と絶大な破壊力を持ち、その上Sランクの誘導性能を兼備したサイ・ブレードは奇跡の兵器である。
 しかし、その奇跡はミラージュ5WAYの4倍の負担をシューターに強いることにより具現化されていた。

「もし、トライアルで私が負け、サイ・ブレードが制式兵器に採用されたなら、この回路を使っていただきたいのです」
 ブースターを組み込むことにより、威力はそのままにサイコ・エネルギーの消費は3分の1に押さえられる計算であった。
 自分が負け、サイ・ブレードが採用されれば、それを使う智恵理は戦いの最中に死んでしまうかもしれない。
 苦労して開発したブースターであったが、大切な智恵理の命には替えられなかった。
「分かったわ……敵から塩を贈られるのは趣味じゃないけど、ありがたく使わせて貰うわ」
 サイコはそう言ってドライな笑顔を見せた。

                                 ※

 その翌々日、焼け野原と化したウィンザーの地にペイルスーツを着た智恵理が佇んでいた。
 この早朝に病院を訪れた黒服の一団に、拉致同然に連れてこられたのである。
 ヘリで空輸されてきた智恵理は、特別あつらえのトレーラーに押し込められ健康診断を受けた。
 内臓まで覗かれそうな徹底的なフルコース診断が終わると、ちょうど出頭命令にあった正午前になっていた。
105ペイルウイング物語−落日編−:2009/01/01(木) 17:28:45 ID:VUJfeHfn
 4時間ぶりに外気を吸った智恵理は、深呼吸して周囲を見回す。
 何らかの立ち入り規制がなされているのか、地平線まで見える四方に人影は無い。
 目に入るのは医療トレーラーの他に数台の車両だけ。
 それと何故かパイロットもいないのに、20機ほどの戦闘ヘリが並べられている。

 ここがアイスバーン少佐の最期の地であることは、敢えて意識しないよう努力していた。
 ただ、今から何をさせられるのかという不安が彼女に緊張を強いていた。
 目の前にいるのは高級将校らしい軍人が数名に白衣を着た科学者が数名。
 その他にスーツ姿の男が何人かいたが、自己紹介があるわけでもなく正体は分からないままである。
 臭いからして、おそらく軍人ではあるまいと智恵理は思った。
 政治家特有の生臭さがプンプンしている。
 それぞれがグループになり、時折チラチラと智恵理に向けて嫌らしい視線を送っていた。
「感じ悪ぅ……」

 智恵理は小声で呟くと、肛門にぶち込まれた検診カメラの感触と、それに先だって施された浣腸の違和感が残る尻をさする。
 人前で排泄させられた屈辱と、カメラに欲情してしまったことへの自己嫌悪が、智恵理のアヌスを異様に興奮させていた。
 気を抜くと、ぶっといカメラを挿入する時に使われたワセリンの残りが漏れてきそうになる。

 ねっとりとした残便感が耐え難くなり、智恵理がトイレに行こうとした時であった。
 4機のEF24バゼラートに護衛された輸送ヘリが上空に現れた。
 真っ直ぐ智恵理の元に近づいてきた輸送ヘリは、高度を落として着陸態勢に入る。
 ローターが巻き起こす砂塵が、皆の目から視界を奪った。
 輸送ヘリが着陸した後、バゼラートの編隊はしばらく上空を旋回していたが、周囲の安全を確認すると東の空へと消えていった。

 いったい何事かと思って注視していると、3人の男女が輸送ヘリから降りてきた。
 そのうち2人には覚えがあった。
 1人は智恵理に極秘命令を伝えた情報部の高級参謀であり、今1人はアルカトラズ以来の友人となるミラージュであった。
 最後の1人は面識のない──おそらく日本人と思われる女性である。
 無粋なひっつめ頭をした銀縁眼鏡の年増であるのに、妙にセクシーな雰囲気を漂わせていた。
 その眩しさの正体が、彼女が持つ自分自身に対する絶大な自信の発現であることなど、まだ若い智恵理には解らない。

「ミラージュ……」
 智恵理は友人に話し掛けようと中途半端に手を伸ばして止めた。
 彼女の纏った暗い雰囲気がそれを思いとどまらせたのである。
 そのミラージュの元に戦技研の技師たちが駆け寄り、厳重にロックされたコンテナを開く。
 中から出てきたのは見たこともない銃器であった。
 恐らく新型の思念誘導兵器なのであろうと判断し、智恵理が顔を強張らせる。
 今1人、年増女のところにも技術者チームが集まり、ガン・コンテナから大型の銃を取り出していた。
106ペイルウイング物語−落日編−:2009/01/01(木) 17:29:21 ID:VUJfeHfn
「あっ。あれは……サイ・ブレード?」
 女技師が誇らしそうに掲げてみせたのは、光が支給を受けたのと同型の思念誘導兵器であった。
「じゃあ、中野の研究施設で光ちゃんを担当したってのは、あの女の人……」
 智恵理の想像は当たっていた。
 その女技師、矢井羽才子は智恵理の視線に気付き、ニタリと笑いかけてきた。
 智恵理はその笑顔の中に危険な臭いを嗅ぎ取り、背筋に悪寒が走るのを感じた。

「約束の時間だ。よく来てくれたな、チェリーブロッサム大尉」
 いつの間にか高級参謀が背後に立っていた。
「人を拉致った上、あんなエロい検診しといて。よく来たなもないわよっ」
 と、心の中で悪態をつき、智恵理は黙って敬礼する。
 そんな智恵理の心中を見透かしたように、高級参謀はなおざりな答礼を返した。
「想像は出来ているだろうが……本日、極秘で思念誘導兵器のトライアルが実施される。君の任務は用意された2丁の試射だ」
 高級参謀はアゴで2人の技師を示した。
「戦技研のフェンリルとセントラル・グループのサイ・ブレードのいずれが優れているか、その情報収集に協力して貰う」
 高級参謀は、智恵理がサイコシューターであることを周知の事実として話を進める。
 最高機密であるX計画について知っているからには、彼は情報部においてもよほど中枢に近い立場にいるのであろう。

 最初に智恵理に近づいてきたのはミラージュの方であった。
 手にはフェンリルを持っている。
 ミラージュの視線がふと智恵理の左肩に移動し、そのまま暗い顔を俯かせた。
 智恵理は自分の肩口にヘブンズ・ゲートαを見出し、サッと顔を曇らせる。
「ごめん……この前は……」
 智恵理は自分から頭を下げて、先日の非礼を詫びた。
 ミラージュを殴り倒したのは、大事なベアトリーチェを殺されたことへの八つ当たりであったと智恵理は恥じていた。
 彼女はBBの遺志を無駄にしないよう、最善の努力を払ってくれたに過ぎなかったのだ。

「いえ、私は殴られて当然のことをしたのです……」
 ミラージュもまた智恵理に頭を下げ、自らの行為を詫びた。
 彼女は人命を武器に変えるという科学技術に悪魔の意思を見出し、嫌悪感を覚え始めていたところであった。
 人として絶対に許されない愚行に、手を染めていることへの恐怖もあった。
 ふと、幼年学校生徒の天使のような死に顔がミラージュの脳裏を掠めた。
「死んだらあの世で謝りたいけど、無理のようね……私は間違いなく地獄行きですもの……」
 それでも彼女には、生きているうちにやっておかねばならないことが残っていた。

「新しい思念誘導兵器、フェンリルです。お願いします」
 ミラージュは手にしていた小型の銃器を智恵理に託した。
 何度か使用したミラージュガンより軽く、シルエットも可憐な印象を与える。
 設計のコンセプトが、これまでとはまるっきり違っているようであった。
 流石に智恵理の体を知り尽くしているだけあって、彼女の手のひらにしっくりとしたグリップである。
 そして驚いたことに、サイコガンであるにも関わらずトリガーがついていた。
107ペイルウイング物語−落日編−:2009/01/01(木) 17:29:55 ID:VUJfeHfn
「このフェンリルには手動アシストシステムが採用されています。これにより発射に掛かる負担はかなり軽減される筈です」
 智恵理の表情を読み、ミラージュが疑問を解消してくれた。
 それで智恵理にはフェンリルの基本コンセプトが理解できた。
 ミラージュはシューターに掛かる負担を徹底的に取り除こうとしているのである。
「シューターに優しいサイコガンか……」
 智恵理はそんなキャッチコピーを思いつき、一人含み笑いした。


 準備が整うとトライアルが開始され、記録の収集がスタートした。
 何をどうしたらいいものかと考えていると、前方に9機のバゼラートが舞い上がった。
 廃棄寸前の中古品であるらしく、よく見ると機体がかなり痛んでいる。
「向かって右から1番2番とする。リモコン操縦の無人機だ。安心してぶちかますがいい」
 耳障りな高級参謀の声がした。
 なるほど、標的は動く目標ということであろうか。
 号令と共に、バゼラートは智恵理から離れていき、やがて遥かかなたで停止する。
 バイザーを下ろしてバーチャルスクリーンの距離計を確認する。
 標的までの距離は800メートルであった。
 これが戦技研が公表した、データ上の最大有効射程距離らしい。
「すごい、ミラージュ5WAYの2倍近いよ」
 智恵理はその数字に驚いた。

「まずは静止状態での試験を行う。1番から3番までを墜とせっ」
 高級参謀がエキセントリックな怒鳴り声を上げた。
 智恵理は了解の合図を送ると、呼吸を整えて精神を集中する。
 そんなことをしなくても、タップリとアヌスを弄られた智恵理のクンダリニーは充分な高まりを見せていた。
 次々とチャクラが開き、脳下垂体が煮えたぎる。

「起てっ!」
 よほど相性がいいのか、フェンリルは1発で起動した。
 ジェネレータ部から、驚くほど静かな作動音が漏れてくる。
 LEDが点灯していき、やがてアラーム音が発射態勢が整ったことを告げる。
 智恵理は一番右の無人ヘリに意識を集中し、思考から全ての雑念を払いのける。
 そして戸惑い気味に、小振りなトリガーに掛けていた人差し指を屈伸させた。

 思念誘導兵器独特の、淡いピンク色の光線が迸った。
 細い光線が何条も連続して無人ヘリへと伸びていく。
 狙い違わず、1番ヘリに命中した光線は、機体の装甲を次々ぶち抜いて蜂の巣にした。
 飛翔能力を喪失したヘリが頭を下げ、列線から脱落する。
 続いて2番ヘリ、3番ヘリが黒煙を上げて墜落していった。
 初期型ミラージュを上回る、秒間10発の速射性能は上々であった。
108ペイルウイング物語−落日編−:2009/01/01(木) 17:30:29 ID:VUJfeHfn
「よしっ、次は移動する目標に対する射撃だ。4番から6番までっ、連続に墜とせっ」
 高級参謀の指示で、ホバリングしていたヘリが編隊で高速移動を始める。
 智恵理はその動きを目で追いながら思念照準をつける。
「撃てっ!」
 必要もない掛け声と共に、智恵理がトリガーを引き絞る。
 次々に飛び出たピンクの光が、左に屈曲しながら飛び去っていく。
 4番ヘリが穴だらけになり編隊から落伍する。

 智恵理は思念を5番機に移すと、更にトリガーを引く。
 逃げるヘリを6本の光線が追いかける。
 そのうち3本がヘリの土手っ腹に命中し、装甲板をぶち抜いた。
 驚いたことに思念誘導された光線が的を外れた。
 焦った智恵理は黒煙を吹き上げる5番機に向かって更に光線を放つ。
 しかし今度は10本中、ヒットしたのは僅かに2本であった。
 逃げるヘリを追い切れず、8割は機体を大きく外れてしまった。
「……こ、こんな」
 今まで何度も思念誘導兵器を撃ってきたが、狙いを外すのは初めてであった。

「次っ、反航射撃。7番から9番までっ」
 高級参謀の指示で我に返った智恵理は、ユニットを噴かせて宙に舞い上がる。
 進路はヘリの編隊とは逆方向、距離はやはり800のまま。
 智恵理は編隊と平行にすれ違いざま、フェンリルを連続発射する。
 結果は思いもよらぬものであった。
 都合10本発射されたビームは、そのことごとくが的を外してしまった。


 智恵理はミラージュの元に降り立つと、遠慮がちにフェンリルを差し出した。
「ど、どっかおかしいよ。誘導装置が故障してるんじゃない?」
 強化剤に頼らずともサイコガンが撃てるまでに成長した今、智恵理のシューターとしての能力に問題があるとは思えない。
 となると、原因はフェンリルの方にあると考えるのが自然であった。
「フェンリルには補助程度の誘導機能しかないの。だから使用する時はライフルのように狙いをつける必要があるんです」
 それでも射撃の腕さえ確かなら、充分使用に耐えうるよう計算されていた。
 そして卓越した連射機能は、破壊力の低さを補って余りある筈であった。

「ふん、敵味方が混在した乱戦の最中に、ゆっくり照準をつけている暇なんかあるのかしらね」
 才子女史が鼻で笑った。
 狙いもつけられない乱戦において、味方の存在を気にすることなく敵だけを正確に叩けるのが思念誘導兵器の魅力である。
 その意味ではフェンリルは欠陥サイコガンであった。
「ミラージュ……アンタ、どうして」
 これなら射程は短くても、総合力ならミラージュ5WAYの方が上である。
 何故わざわざ性能の劣る新兵器など開発したのか、その理由が理解できなかった。
 シューターの負担を減らすなどといっても、限度というものがある。
109ペイルウイング物語−落日編−:2009/01/01(木) 17:31:01 ID:VUJfeHfn
「それでは、次にセントラル・グループのトライアルに移る」
 高級参謀が新たな指示を出し、セントラル・グループの技師が智恵理にサイ・ブレードを手渡した。
 フェンリルとは対照的に、大振りなサイコガンはズシリと重かった。
「起動、発射それに誘導もオーソドックスな扱いで結構。何の新機軸も導入してませんわ」
 才子はミラージュを横目に、嫌味な口調で説明した。

 新たなリモコンヘリ部隊が舞い上がり、標的エリア方向へとグングン離れていく。
 智恵理はバーチャルスクリーンを展開させ、距離計でヘリ編隊を追う。
「うそぉ……」
 ヘリは軽く1キロラインを突破し、それでもまだ止まらない。
 ようやくヘリがホバリングに入った時、智恵理からの距離は4000メートルに達していた。
 智恵理はバイザーを上げると、目を細めてヘリの挙動を追ってみた。
 光線の加減でほとんど肉眼では視認できない。
 超感覚だけがエンジンの発する電磁波と、ローターが空気を切り裂く振動を捉えていた。

「あのぉ……アレを撃てってことですか?」
 智恵理は才子を振り返り、ヘリが消えていった方角を指差す。
 才子は無言で頷いただけであった。
「あなたなら出来るでしょ」
 才子の目がそう語っていた。
「知らないよ。かいた恥の半分は、アンタのものなんだから」
 以前、サイ・ブレードで大ムカデを討った時でも、射撃距離は1キロ少しであった。
 本当にこの距離で有効打を放てるのか。
 疑問を感じつつも、智恵理は両手でサイ・ブレードを抱え上げた。

「起てっ!」
 能力者の脳波を感知し、機関部に火が入る。
 サイコ・ジェネレータが作動して猛烈な音を立てる。
 生じたエネルギーがコンプレッサで圧縮され、デトネータを満杯にするとグリーンのLEDが灯った。
 発射準備が整うと、智恵理は発射を念じた。
「撃てっ!」
 ズバンッという低い発射音と共にピンク色のブレードが飛び出す。
 撃ち出された光の刃は2秒ほど直進する。
 智恵理は心で捉えた目標に向かって意識を集中させた。
「斬れっ!」
 自動追尾が働き、ブレードは標的へと角度を変えて高速で飛び去った。
110ペイルウイング物語−落日編−:2009/01/01(木) 17:31:51 ID:VUJfeHfn
「目標到達まであと3秒。2……1……弾着っ」
 技師のカウントダウンに合わせたように、遥か彼方で光の爆発が観測された。
 次いで花火は紅蓮の炎に変化する。
 その数は2つ。
 1番機の左にいた2番機が爆破範囲に巻き込まれたのである。
 爆破範囲の広さもさることながら、40ミリ砲の直撃に耐える重装甲を一撃で粉砕した破壊力は驚異であった。
 4キロを飛ぶのに約5秒ということは、弾の速さはマッハ2.3。
 撃ち込みを続けて馴染みさえすれば、更に速くなる可能性があった。
 そして何より注目すべきは、視認すらできない目標に初弾を命中させた誘導性能の高さである。
 いつかアルカトラズでガイスト博士が語った夢の兵器が、現実のものとして智恵理の手の中にあった。

 智恵理が振り返ると、勝ち誇ったような才子の顔が目に入った。
 その横に真っ青になったミラージュの顔があった。
「あ……あ……あぁ……」
 ミラージュの口から意味不明の呻き声が漏れていた。
「……私は……私は何という愚かなことを……」
 ミラージュがその場にガックリと崩れ落ちた。
 彼女はシューターに掛かる負担を減らすことを、新しい開発コンセプトとした。
 才子にマイクロ・リニア・ブースターを譲ったのも、どちらが選ばれても智恵理のためになると考えてのことであった。
 それなのに、あろうことか才子は手に入れたブースターを、破壊力増強のために使用したのである。
 初めから使用者の生命を計算に入れていない武器を相手にしては、フェンリルに勝ち目などあろうはずもなかった。

「如何でしょう、私どもが開発したサイ・ブレードαの性能は。射程4000、ダメージ2000、爆破範囲は半径20……」
 気がつくと才子が高級参謀に向かって胸を反らしているところであった。
「何より苦心したのは、Sランクを保証する誘導性能ですが」
 それを聞く高級参謀の目は爛々と輝いている。

「終わった……何もかも……」
 これほどの性能差を見せつけられては、サイ・ブレードαが制式採用されることは目に見えている。
 トライアルに破れたミラージュには、今後思念誘導兵器の開発をする機会は与えられないであろう。
 予算の返還は当然として、下手をするとラボ自体が取り上げられるかもしれない。
 いずれにせよ、二度とサイコガンの開発に携わることは許されないのである。
111ペイルウイング物語−落日編−:2009/01/01(木) 17:33:12 ID:VUJfeHfn
「それじゃ以後、チェリーブロッサム大尉の身柄は私がいただくとするわ」
 才子が嫌らしい口調でミラージュにトドメを刺した。
 それが彼女が最も恐れていた事態であった。
 大事な智恵理を才子に奪われ、体を自由に弄らせることになるのである。
「さっそく大尉から体のデータを採集させて貰おうかしら。ありとあらゆるデータをね」
 気がつくと、才子が智恵理に向け、ネットリとした視線を絡み付かせていた。


 緊急事態が発生したのは丁度その時であった。
「敵部隊、北西方面から接近してきます」
 機密保持のため、周囲の警戒に当たっていた観測員が叫んだ。
「キャリアーです。敵の機動部隊が接近中っ」
 最悪の凶報であった。
 敵は思念誘導兵器のトライアルを嗅ぎつけ、ウィンザーに機動部隊を進出させてきたのだ。

「むぅ、内部にスパイでもいるのか」
 高級参謀は情報部の将校らしく、まず機密の漏洩に思考を巡らせた。
 しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。
 キャリアーには怖ろしい生物兵器が満載されているのだ。
 一旦それらが投下されれば、ここにいる人数などは一気に呑み込まれてしまう。

「あたしが迎撃します。その間に皆は現場から離脱を」
 智恵理は自分一人でキャリアーを迎え撃つことを提案した。
 オロオロしていた高級参謀は、その言葉に目を輝かせた。
「やってくれるか。頼んだぞ」
 高級参謀はそう言うと、早くも逃げ支度に入る。
 計画の主役である智恵理にもしものことがあれば、現場責任者たる彼の失点になることなど頭に無い様子であった。
112ペイルウイング物語−落日編−:2009/01/01(木) 17:33:42 ID:VUJfeHfn
「いい機会です。今ならサイ・ブレードαの実戦データを採取できます」
 目を輝かせた才子女史が高級参謀に進言する。
 ところが高級参謀の返答はつれないものであった。
「制式採用されていない兵器を実戦投入できる訳がないだろう」
 冗談でも何でもなく、高級参謀は当たり前のように却下した。
 そのお役所的堅さに、才子女史は露骨に侮蔑の表情を見せる。
 しかしミラージュにすれば、今はその堅さが天の救いに思えた。
 かなりの体力を消費している智恵理に、これ以上サイコガンを撃たせる訳にはいかない。
 ともかく、何の命令権も持たない才子は引き下がらざるを得ず、代わって戦技研の技官が制式武器を運んできた。

 1丁は久し振りの再会となるサンダーボゥ20Rである。
 もう1丁は見慣れぬ形のプラズマアーク銃であった。
「レイピアの最新型、プラズマ・ブルームです。まだ実戦投入はされていませんが、一応制式採用されていますから」
 ハンサムな技官は皮肉タップリな口調で説明し、智恵理にウィンクを寄越した。
「対インベーダー用の切り札です。倫敦での戦いで大半のエースが戦死されましたので、使いこなせる人がいなくなりました」
 開発に携わった人間なのであろうか、技官は少し寂しそうな顔をした。
 もしかすると、彼は特定の誰かのためにこの銃を開発していたのかもしれない。
 智恵理も還らざるエースたちの顔を回想する。

「でも、大尉殿に使って頂けるのなら本望です。破壊力は絶大ですが、その分消費エネルギーが激しいので注意して下さい」
 智恵理は20Rを肩に担ぐと、少し躊躇してからプラズマ・ブルームを受け取った。
 これを使用するにはGスラストの時と同じく、また総監部の特別許可が必要なのではと考えたのだ。
 だが、情報部の堅物参謀もそんな内規までは知っていまい。
「それに、これでも一応は総監部に認められたエースの端くれなんだから」
 智恵理は最新型のレイピアを受け取ると、安全装置を外した。

「それじゃ頼んだぞ。私は一足先にウェストミンスターへ戻る。貴重なデータを失うわけにはいかないからな」
 高級参謀は、まるで智恵理自身は失っても構わないようなことを口にして、輸送ヘリに乗り込んだ。
「ご無事で」
 ミラージュは心配そうに何度も振り返りながら、才子女史の後を追ってヘリへと向かう。
 大慌てで逃げていくヘリや輸送車を見送ると、智恵理は西の空を睨んだ。
113名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 17:35:29 ID:VUJfeHfn
正月特赦の規制解除で投下できました
今年もよろしくお願いします
114名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 18:51:09 ID:QdRlUBHO
忘れた頃に続きが来たー!!

おのれサイコ、サイブレードを使う気にならなくなるではないか。
戦時下という極限状態でキ(ry共の考える事は馬鹿の度を超すと言う事ですな。
115名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 22:08:23 ID:sGe+aBFf
久しぶりのPW物語堪能させて頂きますた!

しかし戦時中とはいえ通信統制は勘弁願いたい所ですな。

最悪pink板用のレス代行スレに支援要請をかけてはいかがでしょうか?
116 【豚】 【1850円】 :2009/01/01(木) 22:15:45 ID:sGe+aBFf
支援要請先をお知らせ致します。
もしご存知なら御容赦頂きたい。

http://babiru.bbspink.com/test/read.cgi/pinknanmin/1228573803/l50
☆BBSPINK用 レス代行スレッド☆
117名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 22:22:53 ID:sGe+aBFf
ぬぅ…hを抜くのを忘れてしまった…。orz
ではまたお目にかかる事を期待しておりますぞ!
118名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 01:20:57 ID:nngagNo9
そうか規制されてたのか…ずっと待ってたんだぜ!

刄サイコって名前安直すぎるだろww
まあ無印フェンリルとサイブレαでは確かに到底勝ち目がないけど、
このトライアルは色んな意味でガス欠のことを考慮してないもんなぁ
フェンリル3WAYとミラージュ15シリーズでいつかギャフンと言わせるのを楽しみにしておくぜ
俺サイブレ狂だけどな!
119名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 12:28:46 ID:Zm1pZHAM
なんと更新しているじゃないか
狂気を秘めた天才とはいいのう
120名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 14:09:52 ID:kddtFUAm
とうとうサイブレもαに、レイピアもプラズマブルームになったのね
サンダーボウ30はいつごろに出るのかな
121名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 01:26:52 ID:v9ww7oCC
参謀30はぺイル版馬糞。無ければ後半は話にならない
出るのはかなり後半のミッションじゃないか
122名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 23:17:31 ID:HqBvofaO
これはうれしいお年玉だ。


今年もwktkして楽しみにしてます。
123名無しさん@ピンキー:2009/01/07(水) 01:12:47 ID:utSIJ2kx
おお、久しぶりのペイル物語…。堪能させてもらったぜ
これまた久しぶりにEDF2やりたくなってきた。今年もwktkさせてもらいます
124名無しさん@ピンキー:2009/01/08(木) 12:06:29 ID:RFzVQJPY
これアニメにしてくれないかな……。
エロシーンがあるから、深夜二時に放送くらいで。
125名無しさん@ピンキー:2009/01/08(木) 22:21:33 ID:uKb4uuuo
むしろハリウッドで作ってもらいたい
但しレギーが主役のマッチョ映画で、智恵理はその部下で変な口調のニンジャになっちゃいそうだけど
ストUみたく、原作とはまるで違ったものになるだろうな
126名無しさん@ピンキー:2009/01/09(金) 11:19:00 ID:jK0w3gNQ
>>125 それなら意味ねーw
127名無しさん@ピンキー:2009/01/09(金) 22:12:00 ID:EPpo8zC6
ここは川北紘一の出番だろ。
ダロガが主人公になる可能性があるが。
128「捕われの翼」:2009/01/13(火) 04:39:18 ID:2dVgRh47
第26話 「挟撃」

 その夜、戦いを終えたユキ達が辿り着いたのは、海沿いの小さな温泉街だった。
 住民の殆どは避難していたが、残った人々はEDF隊員に快適な宿舎を提供することを惜しまなかった。

 しかしユキは、食事も摂らず、一人宿舎の個室に篭った。
 そのまま横になる。
 目を瞑ると、吐き気を催すような光景が浮かんできた。

 あれほど大量の死体を見たのは初めてだった。
 まだ臭いがする。
 人が焼ける臭い。


 ユキは恐怖に耐えきれず身を起こす。
 そしてSEPと注射器具を取り出した。
 ベルトで左腕を縛り、静脈に強力な麻薬を打つ。

 視界が歪んだ。
 瞳孔が拡散し、瞳に輝きが宿る。
 全てを押し流し、忘れさせる媚薬。

 そのまま幻覚の世界へと落ちていく。
 体中に電気に似た刺激が走り、痺れとともに感覚が麻痺する。
 肉体の存在が失われ、無限の空間に融けていくような浮遊感。

 意識の闇に引きずり込まれながら、ユキは自分の鼓動を感じた。
 熱く脈打つその場所に、吸い寄せられるように手を伸ばす。
 指先があたたかいものに触れる。
 そこはじっとりと濡れていた。
 薄い布越しに愛液が溢れだし、指が根元まで濡れる。
 下腹部が熱を持ち、鼓動に合わせて刺激が走った。
「あぁ……」
 溜息が一つ漏れる。
 着衣を膝まで下ろし、白く弾力のある下半身を露わにする。
 
129「捕われの翼」:2009/01/13(火) 04:40:26 ID:2dVgRh47
「んんっ…んあぁ……」
 陰核に指が触れると、背中から首筋にかけてぞくっとするような快感が走り抜けた。
 そのまま自分の指で、濡れそぼった秘所を愛撫しつづける。
「あぁ……あぁ……」
 呼吸が荒くなる。
 快感の高まりとともに、SEPにつきものの欲求が湧き上がってきた。
 尿意とは異なる、独特の切ない圧迫感。

 じわじわと絶頂の波が押し寄せる。
「んんっ…もうダメ…出そう」
 内股の筋肉が痙攣を起こし、膝ががくがくと震えた。
「ああっ!!んんんんっっ!!!」
 熱い愛液の迸りが、床に小さな水溜りを作っていく。


「あぁ……はぁ…」
 ユキは荒い息を整えた。
 眩暈がし、目の前に星がちらつく。
 虚脱感に襲われながら、のろのろと下着を元に戻し、愛液の後始末をする。
 
 突然、ドアがノックされ、ジェシカの声がした。
「ユキ、大丈夫か?」
 ユキは慌てた。
「入るぞ。隊長権限だ」
 ジェシカが笑いながら、鍵を開けて部屋に入ってくる。
「やあっ!ちょっと!!……」

「あ……」
 ジェシカは、呆然とユキを見つめた。
 服をはだけた少女の表情があまりに美しく、しばらく目を逸らすことができなかった。

130「捕われの翼」:2009/01/13(火) 04:41:27 ID:2dVgRh47
「す、すまん、いきなり」
 ジェシカは我に返り、卓上に散乱した注射器具に気がついた。
「…これは!麻薬!?」
 ジェシカはその独特の刺激臭に覚えがあった。
 テロリストによって作られ、投与された者を奴隷のように支配し続ける強力な合成麻薬。
 EDFが総力を挙げて撲滅に取り組んだものだった。

「そうよ。研究所で打たれたの…
 隠しててごめんなさい」
 ユキは観念したように俯いた。

 何故EDFの研究機関がそんなことを。
 ジェシカの頭に疑念と怒りが湧き上がった。
「酷いことされたんだな。こっちこそ、気づいてあげられなくてごめんな」
「いいの。私、ほんとは悪い子なんだ。汚れてるの。軽蔑したでしょう」
 ユキは悲しげに言った。
「そんなことない。あんたはほんとにいい子だよ」
 ジェシカはユキを強く抱きしめた。

「大丈夫か?気分とか悪くないか」
 ユキは黙って頷いた。
「そうか、よかった。心配してたんだぜ」
 気まずさを払いのけるように、ジェシカは努めて明るい声で言った。
「そうだユキ、一緒に温泉入ろう。あたしも今からなんだ」
 ユキは、少し戸惑ってから頷いた。



                            
131「捕われの翼」:2009/01/13(火) 04:43:19 ID:2dVgRh47
 脱衣所には、ユキとジェシカの他誰もいなかった。
「ハハっ、貸し切りだねえ」
 ジェシカは笑いながらユキの方を振り返り、そこで息を呑んだ。

 着衣を脱ぎ去ったユキの姿は、同性のジェシカの目をも釘付けにするものだった。
 輝くほど艶やかな白い肌。
 程よく引き締まり、それでいて柔らかさを残す身体の曲線。
 少女から女へ変化する瞬間の、完全な美しさがそこにはあった。

 腰から背中にかけて、細いあざのような傷が目に付いた。
 鞭による傷だろうか。

「ジェシカ。そんな目で見ないで」
 背を向けているはずのユキは、ジェシカにそう言った。
「えっ」
 ジェシカはあわてて目を逸らす。

「傷を見られるの、嫌なの」
 ユキはそう言って、ジェシカの前を通り過ぎた。
「ごめ…いや、そんなんじゃないって」
「わかってる。こんなの全然平気よ。辛いのは私だけじゃないもの」
 ユキはそのまま浴槽に浸かった。

「マリアが教えてくれたわ。私の力が世界を助けるって。
 これ以上死んだり苦しんだりする人が増えないように、もっと強くなりたいの。でも惨めだわ。それに、怖くてたまらない」
「ユキ…」
 ジェシカはいたたまれない気持ちになった。
「ユキ。あんたはまだ子どもなんだ。一人で抱え込んじゃいけない。
 怖い気持ち、あたしはよく分かるよ。そんな時は、仲間の力を信じればいいのさ。
 あたしはチームのみんなを信じてるから戦える。あんたも一人じゃない。
 怖くなったら、あたしがいつでも助けに行ってやるから」

132「捕われの翼」:2009/01/13(火) 04:44:18 ID:2dVgRh47
「ジェシカ…ありがとう」
 ユキはジェシカに寄りかかった。
 胸に顔を埋め、甘い吐息を漏らす。
 ジェシカの胸は高鳴った。
 そのまま抱きすくめて押し倒したくなるような、愛しい衝動に駆られた。


 突如、重々しいサイレンが響き渡った。
「夜襲だ!!ユキっ、出るぞ!」
「はい!!」
 二人は急いで服を着、廊下へ飛び出した。

 レオンとエリーが、銃を持って待っていた。
「敵の歩行戦車だ。海から3機、まっすぐこっちへ来るぞ」
「あの戦車か…硬いけど鈍いやつだな。他にも敵がいるかもしれない。周囲を警戒しろ」
「了解」
 レオンが走り去る。

 ユキとジェシカが外に出ると、水平線の彼方に3つの光点を確認できた。
 狙撃ライフルやロケット砲が、次々に目標へ撃ち込まれている。
「戦車だわ!私たちも援護を…」
「待てユキ。嫌な感じだ。AS-19を持っておいで」

133「捕われの翼」:2009/01/13(火) 04:45:11 ID:2dVgRh47
 その時、レオンから無線が入った。
「南西20キロ地点に、蟻の大群を確認!30分足らずでここにやってくるぞ」
 ジェシカの顔色が変わった。
「ヤバいな、挟み撃ちだ。ユキ、中隊長のところに行ってくる。アシュレイ達と合流して、蟻退治の準備をしろ」
「了解!」

 ユキは武器庫へ走り、自分のライフルとショットガンを装備した。
 そのまま急いで仲間の所へ向かう。

「(うっ、この音は…)」
 ユキは立ち止まった。
 真っ暗な内陸の方角から、不気味な地鳴りが響いてくる。
 蟻の足音だろうか。
 大地が怒りで満ち、自分に襲い掛かってくるような錯覚を覚えた。
 手持ちのライフルが、あまりにも頼りなく感じられる。

「怖くない!戦わなきゃ…」
 恐怖を振り払って、再び走り出す。

 先行したユキたちの中隊は、海と陸からの苛烈な挟撃に晒されることになった。
 
(続く)

134「捕われの翼」:2009/01/13(火) 04:46:23 ID:2dVgRh47
第27話 「神の雷」

 北米の戦場で、ウォレスの部隊は壊滅状態となった。
 圧倒的な数の蟻に追われ、逃げ延びた山岳地帯での戦いは2週間以上続いた。
 武器弾薬は底をつき、これ以上の戦闘続行は不可能だった。

「敵空母の攻撃が弱まった。退却のチャンスだ。地雷を敷設し、闇に乗じて渓谷の西側から脱出する」
 ウォレスは憔悴した表情で命じた。
「無念です。しかし、この地で敵を何百匹と葬りました。悔いはありません」
 ジェレミーが上官の心情を察して言う。

「負けは負けだ。これほどの物量とはな。無事逃げ延びたら、友軍と合流して再起を図ろう」
 ウォレスは遠い目をした。
「しかし隊長、応答があったのは極東の臨時司令部だけです」
「日本か。善戦しているらしいな。敵の超巨大生物兵器を撃退したとかいう噂もある。
 あそこはユキの生まれ故郷だったな。精鋭を集めて支援に向かうか。なあマリア」
 ウォレスは傍らの少女に語りかけた。

「はい。きっとユキも日本にいます。そんな気がします」
 マリアは疲労の色を隠して微笑んだ。
「中佐。どうか中佐だけでも脱出してください。私が敵を引きつけます」
 ウォレスは首を横に振った。
「駄目だマリア。お前は絶対に生き延びなきゃならん。それに、敵の勢いは弱まってる。
 極東攻撃に向けて、主力が移動しているのかもしれん。今なら全員脱出できるはずだ。
 これ以上、部下を失いたくない。
総員退却準備。物音を立てずに移動開始だ」

 出撃時の9割近い隊員を失ったウォレスの部隊は、静かに山岳地帯から撤退した。


                                 ◇◆◇

135「捕われの翼」:2009/01/13(火) 04:47:43 ID:2dVgRh47
 夜が明けるころ、ユキはふらつきながら、海岸を目指して歩いていた。
 蟻の群れと必死に戦ううちに、仲間とはぐれてしまった。
 累々と横たわる蟻の死骸、そしてEDF隊員の遺体。

 海岸の方から、銃撃戦の音が聞こえる。
ユキは必死に丘を登り、仲間の姿を探した。

「うっ!!酷い…」
 海岸線の砂浜は、地獄のような光景だった。
 人や戦車が、原型を留めぬほどの細切れになって散らばっている。
 敵の歩行戦車も2台倒れていた。
 しかし、まだ1台が黒煙を上げながら動いており、生き残った隊員にゆっくり近づいている。



 十分に敵を引きつけ、ジェシカが砂の穴から飛び出した。
「とどめだ!この距離ならっ!!」
 渾身の力を込めて、HG-13Aを敵戦車の胴体めがけ投げつける。
 大爆発とともに、最後の敵戦車が崩れ落ちた。

「ジェシカ!!」
 ユキは仲間のもとに駆け寄った。
「ユキ!!生きてたか!」
 ジェシカは、心底ほっとした表情で言った。

「酷いもんさ。トビーとスコットが重傷だ。ギガンテスもやられちまった。
 たかが敵戦車3台によ。中隊は全滅だ」
 ジェシカは悔しげに砂を蹴った。

「ユキ!!」
「エリー!!無事だったのね!よかった…」
 ユキは少女の無事を確認して安堵した。
136「捕われの翼」:2009/01/13(火) 04:50:30 ID:u+DCPOXI
「…みんなバタバタやられてった…畜生、これからどうすればいいんだよ」
「エリー…」
 ユキとエリーは、すがるようにジェシカを見つめた。

「そうだな。とりあえず生存者を探して介抱しよう。ここで本隊の到着を待つんだ。
 もうすぐ着くはずなんだが、連絡が無いんだ」
 ジェシカの表情にも、不安の色が浮かんでいた。


 攻撃を生き残った隊員は、負傷者を含めても30名足らずだった。
 ジェシカの小隊も、2名が重傷を負い、すぐに動ける状態ではない。
 ユキは懸命に負傷兵の看護に勤しんだ。
 蟻に噛まれた者、蟻酸を浴びて身体が溶けた者、いずれも酷い怪我人ばかりであった。


「おいレオン!いつまでギガンテス調べてるんだ。もう使い物にはならねえよ」
 ジェシカは、長身の狙撃兵に呼びかけた。
 レオンは砂浜に蹲り、バラバラになったギガンテスの残骸を熱心に調べ続けている。
「リアクティブアーマーが形無しだぜ。一体どういう攻撃なんだ…この炸裂痕、ただのバルカンじゃないな」
 呟きながら、懸命に何かを探している。
「後にしろよな全く…クソ忙しいってのに」
 ジェシカは肩をすくめて立ち去った。


「あったぞ!!」
 レオンは、水中でついにそれを見つけた。
 慎重にケースに入れ、ジェシカ達の所に急ぐ。

「ジェシカ!こいつを見てくれ」
「何だよ」
 レオンは、10cmほどの細長い金属をジェシカに見せた。
「敵の不発弾だよ。この形状から見て、恐らく徹甲榴弾だ。
 触るなよ。爆発するぞ。小さいがとんでもない破壊力だ」

137「捕われの翼」:2009/01/13(火) 04:51:47 ID:2dVgRh47
「ふーん。で、これがどうしたんだ」
 ジェシカは興味無さげに尋ねた。
「地球外のテクノロジーだぞ。お前もこいつの威力は見ただろ。
 それに比べて俺達の武器はどうだ?戦車3台にあの有り様だぜ。
 もっと強い武器を開発しなきゃ絶対に勝てん。そのためには、奴らの技術を応用しない手は無いだろうが」
 レオンは興奮気味に語った。

「やれやれ、武器オタクめ」
 ジェシカは苦い顔になった。
「そんなこと言ったって、今はどうにもならんだろ。その弾丸をどうしようってんだよ」
「ここは日本だ。ライサンダーの開発者、結城博士がいる。
 今は東京のEDF本部にいるそうだ。
 この弾丸と、発射装置の一部を持って行けば、新しい武器開発の手助けになるかもしれない。
 頼むジェシカ。俺一人で先に東京に向かわせてくれ。今の装備では、反抗作戦失敗は目に見えてるんだ」
 レオンは必死で訴える。

「ふん、どうせ止めても行くんだろ」
「もちろん、地球のためだ!」
 ジェシカは溜息をついた。
「全く、とんでもない部下だぜ。お前がいないと困るんだがな」
「エリーがいるさ。あいつは優秀だ」
「正規兵でも無いってのに…まあいい。なんとかするさ。
 気をつけて行ってきな」
「すまない隊長!必ず戻る」

 レオンは一人、東京へと向かった。


                             ◇◆◇

138「捕われの翼」:2009/01/13(火) 04:52:58 ID:2dVgRh47
 東京に戻った優斗達は、極東臨時本部防衛の任務に就いていた。
 飛来する空母や小型円盤の数は日を追う毎に増加し、敵戦車の大部隊は悠然と市街地を闊歩している。
 優斗達に出来ることと言えば、地下に身を潜め、散発的な夜襲を仕掛けることぐらいだった。

「畜生。凄い数の敵だ。世界中から敵が集まってんじゃねえのか」
 ビル影に身を潜め、周囲の様子を伺いながら渡辺が言う。
「仙台基地からの増援も音沙汰無しだ。途中で全滅しちまったんだろ。どのみち反攻作戦なんて無理だったのさ」
 優斗は黙って聞き流した。
 もちろん、その部隊の中にユキがいるなどとは想像もしなかった。

「きっと奴らはもう世界中を侵略しちまって、残ったのは俺たちだけなんだ。
 地球は1ヶ月も経たない内にエイリアン共に侵略されたってわけだ」
 渡辺の泣き言は止まらなかった。

「本当にそうでしょうかねえ」
 優斗は誰に言うとなく呟いた。
「何?」
「いや、本当に敵は地球を侵略するつもりなのかなって。俺は何だか違うような気がするんです」

「ふざけんなよ、じゃあ一体何しに来たって言うんだ」
「分かりませんよ。ただ、敵のUFOや戦車と戦ってみて、違和感を覚えるんです。
 うまくは言えませんが、何だか敵と戦ってる気がしないんです。
 俺の考えてた戦いってのは、もっとこう、緊張した命の遣り取りっていうか…とにかくそんな感じが全然しないんですよ」
 渡辺は鼻で笑った。
「そりゃ、お前の頭のネジが飛んでるだけだ。一回弾に当たんなきゃわかんねえんだろ」
 
「そんなんじゃありませんよ。でも思いませんか?敵の動きが雑すぎるんですよ。
 UFOの射撃は直線的で読みやすいし、戦車の動きもワンパターンで、頭悪いのが見え見えです。
 あれはきっと無人兵器です。しかも遠隔操作とかじゃなくて、お粗末なプログラムに従って動いてるだけしょう」
「……」
139「捕われの翼」:2009/01/13(火) 04:54:03 ID:2dVgRh47
 渡辺は黙り込んだ。

 生意気な新人兵士の戯言と一蹴できない説得力があった。
 先日の戦いで、優斗はライサンダーとショットガンだけで30機以上のUFOを叩き落としている。

「俺が思うに、奴らは無人兵器や生物兵器のテストをしているだけなんです。
 地球を使って、実戦形式の戦闘実験を行っているんです」
「フン、もしそうなら」
 渡辺は言った。
「奴らはきっと頭に来てるぜ。大切な実験兵器を潰されてよ。お前が倒したあの怪獣だよ。
 この大軍団、全部ひょっとしてお前狙いなんじゃねえのか」
「まさか」
 優斗は笑った。

「とにかく、敵はまだまだ本気じゃないと思います。
 きっとそこに付け入る隙があるはずです」
「フン、いつでも前向きで羨ましいよ。見てみろよこの現実を―」
「しっ!静かに!」
 優斗が渡辺の言葉を遮った。


140「捕われの翼」:2009/01/13(火) 04:55:37 ID:u+DCPOXI
 上空から、ドロドロという不気味な音が響いてくる。
「敵の母船だっ!真上にいる!!」
 厚い雲の間から、巨大円盤の砲台が姿を現した。

「まずいっ!!逃げましょう!渡辺さん!!」
「あ!?ええ!?」
「急げっ!!死ぬぞっ」
 優斗は叫び、全力で走り出した。

 巨大円盤の下部中央から、数本の長大な主砲が伸びている。
 一瞬で都心部を瓦礫に変えた、強力な主砲だ。

「あれが発射されたら、確実に死ぬ!」
 優斗は必死に、円盤の進行方向と反対へ走った。
 巨大円盤は、本部の方角へと進んでいく。

 しばらく走ると、周囲がオレンジ色の光に包まれた。
 優斗は振り返りもせず、ただただひたすらに逃げた。
 渡辺も必死に後を追う。

 轟音と地響きが、二人を飲み込んでいく。
 巨大な火柱が、街を灰に変えながら迫る。
「くそっ!もう駄目かっ!!」
 優斗は死を覚悟した。

 凄まじい爆風が後ろから襲い掛かり、優斗は吹き飛ばされて意識を失った。

(続く)

141「捕われの翼」:2009/01/13(火) 04:57:01 ID:2dVgRh47
第28話 「女王」

 優斗は頬を打つ雨を感じて目覚めた。
「ぐ……」
 痛む身体を起こす。

 辺りは、霧とも煙ともつかぬ靄に覆われている。
 しとしとと降る雨は、どす黒い色をしていた。

「そうか…たしか巨大UFOの主砲を喰らって…」
 優斗の倒れていた場所を境目に、一面の瓦礫が広がっていた。
 あと少し逃げ遅れていたら、爆炎に包まれて死んでいただろう。

 優斗は、少し離れたところに吹き飛ばされている狙撃兵を見つけた。
「渡辺さん!」
 どうやら渡辺も無事のようだった。
「うぐ…ちくしょう…」
「よかった、なんとか逃げ延びましたね。本部は無事でしょうか」

 敵母船が主砲を発射した地点には、巨大なクレーターが出来ていた。
 身を隠すものが無い瓦礫の砂漠を避けるため、優斗たちは市街地を大きく迂回しなければならなかった。


 灰と瓦礫に覆われた街は、まるで別世界のようである。
 歩き始めてすぐに、方角すら分からなくなった。
「地形が変わってますね。どうやら迷ったみたいです」
「迷ったもクソもねえよ…もう本部も何もかも消えちまったのさ。遠くへ逃げようぜ優斗…」
「やめてくださいよ。多分あの発射位置なら、本部へ直撃はしていないはずです」
 優斗は歩き続けた。

 しばらく進むと、道路の隅に大きな赤黒い塊が落ちていた。
「何だこりゃ?」
 渡辺が近寄る。
142「捕われの翼」:2009/01/13(火) 04:57:41 ID:2dVgRh47
「渡辺さん、触らないほうがいいですよ」
 渡辺は構わず、銃の先でそれを突いた。
「臭えな。何かの肉みてえだ…うっ!!これは!!」
 塊が崩れ落ち、中から眼鏡や衣服、溶けかかった人の腕などがこぼれ出た。
「ぎゃあああっ!!こいつはっ!!人の肉かっ!」

 叫んで尻餅をついた渡辺をよそに、優斗は周囲をすばやく警戒した。
 似たような塊が、周囲に幾つか落ちていることに気がついた。
 
 何処からか、シュッシュッという音が微かに聞こえてくる。
「蟻だっ!!逃げろ!!」
 渡辺は既に逃げ出している。
 優斗も急いで走った。

 ビル街を走りぬけ、反対側の道路に飛び出す。
「わわっ!!」
 道路には、先ほどの赤黒い肉塊が山のように積まれていた。
「ここは、奴らの巣なのか!?」

 渡辺が放心したように立ち尽くしている。
「渡辺さん!!」
「おい…優斗…見たかあれを」

 優斗は渡辺の視線の先を追った。
 道路の遥か先で、靄の中に巨大な影が蠢いている。

「あれは……」
 優斗は絶句した。
 影の正体は、巨大な羽蟻だった。
 横浜で出現した巨獣よりも大きい。
「女王…女王蟻だ!!」

143「捕われの翼」:2009/01/13(火) 04:58:37 ID:2dVgRh47
 まだこちらには気がついていない。
 女王蟻は、肉塊の山に顔を突っ込み、バリバリと音を立てながら貪っている。
 凄まじい早さで、人肉の塊が飲み込まれていく。

「あの野郎……」
「渡辺さん、逃げましょう!ヤバすぎです」
 優斗は渡辺の腕を取り、来た道を引き返そうとした。

 しかし、背後には既に蟻の群れが待ち構えていた。
「ぎゃああっ!いつの間に!!」
「ここは蟻の巣なんだっ!!」

「走れっ!!狭い路地へ!!」
 優斗はすぐに冷静さを取り戻した。
 ライサンダーを構え、目の前の蟻に先制攻撃を仕掛ける。
 弾丸が顎の僅かな隙間を貫通し、その奥の脳髄を破壊した。

 一撃で蟻の息の根を止め、その隙に路地へ逃げ込む。
 だがすぐに、頭上から雨あられと硫酸が襲い掛かってきた。
「くっ!!!」
 完全に取り囲まれている。
 ジュウジュウと建物を溶かし穴を開けながら、回避不可能な大量の蟻酸が降り注いでくる。

 やむを得ず、優斗は広い道路へと飛び出した。
 道路の前方で、蟻の群れが渡辺に襲い掛かるのが見えた。
「やめろおおお!!!」
 優斗はライサンダーで一匹を葬り去った。
 渡辺も必死に応戦するが、敵の数があまりにも多過ぎる。
 前後から蟻が迫り、絶体絶命の状況になった。

 だがその時、蟻と優斗達の間に何かが超高速で割り込んだ。
 疾風のように走り抜けながら、蟻の群れに手榴弾を投げ込む。
 それは一台のエアバイクだった。
144「捕われの翼」:2009/01/13(火) 05:00:21 ID:u+DCPOXI
 蟻の群れを吹き飛ばし、急反転して優斗達の目の前で停止する。
「乗れ!!」
 若い陸戦兵が命じた。
 優斗達は急いでバイクにしがみついた。

 陸戦兵はすぐさまスロットルを全開にし、バイクは急発進した。
 蟻の群れはあっという間に、道路の向こうに見えなくなった。




 安全な場所まで辿り着くと、陸戦兵は2人を下ろした。
「助かりました。本当にありがとうございました。あなたは一体―」
「礼ならこのバイクに言いな。中隊長のをちょろまかしてきたんだ」

 長身の陸戦兵は、そう言ってエアバイクを軽く叩いた。
 ギガンテスの10倍の値段とも言われる、最新式のエアバイクである。
「俺の名はレオン・エッジワース。EDFの臨時本部を探してるんだ。案内してくれないか」
「レオン・エッジワース少尉!?あなたが…」
 渡辺が目を丸くした。

「おや、俺も有名人か」
「もちろんです!雑誌で何度も見ました。私もスナイパーの端くれですが、少尉の腕はEDF一だと思います」
「そうでもないさ。そっちの坊やの方がいい腕かもしれないぜ」
 レオンはそう言って優斗を見た。

「蟻を一発で仕留めてたな。どうやったんだ?」
「弱点があるんです。顎の隙間から脳天を狙えば倒せます」
「本当か?俺も顎の隙間は狙ったことはあるが、効果無かったな…」
 レオンは訝しげに言った。
「ハッタリじゃありませんぜ。こいつは蟻殺しの名人なんです」
 渡辺がフォローする。


145「捕われの翼」:2009/01/13(火) 05:03:21 ID:2dVgRh47
「そうか。俺の狙いが甘かったのかな。いずれにしろ、誰にでも出来る芸当じゃないだろう。
 奴らの硬さは半端じゃない。敵の戦車も相当な硬さだ。仙台基地からの先遣部隊は大損害を受けた。
 あれにはちゃんとした対策が必要だ」
 レオンはそう言って、大きな荷物を取り出した。

 優斗は不安になった。
 やはり援軍は苦戦しているようだ。
 敵の数が大幅に増加している今、南北から首都圏奪還を目指すという雪加一号作戦は、無謀なものに思えた。

「これを見ろ」
 レオンはそう言って、見慣れない形状の部品を優斗達に見せた。
「これは敵戦車の武器と弾丸の一部だ。異星人のテクノロジーが詰まってる。
 こいつを、ライサンダーの開発者である結城博士に分析してもらいたい。本部にいるんだろ?
 俺はこの技術を応用すれば、新しい武器、特にライフルの大幅な強化が出来るんじゃないかと考えている」

「結城博士ですか」
 優斗と渡辺は顔を見合わせた。
「博士なら本部にいます。ただ、めったに顔を見せませんよ。
 何でも唯一の肉親を敵に殺されたそうで、塞ぎこんでいるとも、復讐に燃えているとも聞きますが、はっきりしません」
 渡辺が言った。

「そうか。とにかく今すぐ会いたい。本部まで案内してくれ」
「わかりました!」
 3人は、すぐにEDF本部を目指した。




 東京の地下に設置されたEDF臨時極東本部は、巨大円盤の主砲による破壊を辛くも免れていた。
 レオンが申し出ると、すぐに結城博士との面会が許可された。

「どけっ!!」
 結城博士は、傍らの隊員を突き飛ばす程の勢いで入室して来た。
「どこだっ!敵の不発弾は!?」
 レオンはその剣幕に押されながら、ケースに入った弾丸を指差した。
146「捕われの翼」:2009/01/13(火) 05:04:36 ID:2dVgRh47
「これが!!うむむ…この形状、やはり私の理論通りだ。これほどの小ささとは…」
 博士は目を血走らせ、大声で独り言を連発した。
「博士。この技術を応用して、新しい武器を開発してほしいのです。
 現状の火器では、敵の装甲に歯が立ちません」
 レオンが訴えた。

「誰に物を言っとるんだ!そのぐらい百も承知よ。威力重視の武器開発なら進んでいる。
 これを見よ!」
 結城博士は優斗達の前で、一丁の真っ黒な銃を取り出した。

「それは…ライサンダー!?いや、違う…」
 優斗はその重々しい狙撃銃に、吸い込まれるような魅力を感じた。
「ライサンダーか。あんなものは、開発途上の中途半端な出来損ないよ。
 こいつはライサンダーZ!!最強最高の狙撃銃!…になるはずだったものだ」

 優斗達は呆気に取られて博士を見つめた。
 博士は得意げに続ける。
「そして、これがこいつの弾丸よ」
「な…デカっ!」
 優斗は思わず叫んだ。
 20cmにもなろうかという長さの弾丸は、弾丸と思えないほど、いびつで複雑な形状をしていた。

「これが私の開発した、多段発射式撤甲榴弾だ。どんな装甲でも貫通し、内部で大爆発を起こすのだ。
 …ただ惜しいことに、発射時の強烈な反動と、複雑な弾道制御機構のお陰で、銃として致命的な欠陥を幾つも抱えている」
 博士は肩を落とした。

「10年の歳月をかけて開発したものの、とても人間に使いこなせる代物じゃなかった。
 そこでやむなく、通常の徹甲弾を使用するライサンダー1を発表したのだ。
 だが安心しろ。この不発弾のシンプルな形状を見て閃いたわ。
 こいつをもっと内部まで詳しく調べて、お前ら人間でも使いこなせる新しいライサンダーを開発してやる。
 これで弟の無念を晴らせる…クククッ」
 博士はそう言って、泣いているのか笑っているのか分からないような声を発した。
 
(続く)
147「捕われの翼」:2009/01/13(火) 05:05:32 ID:2dVgRh47
第29話 「覚醒」

 一週間後、優斗達攻撃隊員は、ブリーフィングルームに集められた。
 そこで行われた発表は、隊員達全てに衝撃を与えるものだった。

「仙台基地からの増援部隊が全滅だと!?」
「作戦はどうなっちまうんだ!?」
「私語は慎め!!」
 司令が叫んだ。

「作戦は予定通り決行する!現在、敵の主戦力は東京に集結している。
 またとない攻撃のチャンスだ。横浜には、大森大佐率いる戦車部隊が控えている。
 戦車部隊の攻撃に呼応し、我々攻撃隊は敵の巨大円盤、マザーシップに奇襲を仕掛ける」

「無茶な…」
「敵の数を見てないのか?とても勝ち目なんか無いぜ」
 隊員たちはざわめき出した。

「静かにしろ!戦力差が大きいことは百も承知だ。
 だが、もはや我々には時間が無いのだ。
 北米を始め、世界各地のEDF組織は壊滅的打撃を被った。組織的な軍事作戦を展開できるのは、ここ極東本部だけだ。
 横浜の戦車部隊も、いつまでも安全に待機できるような状態ではない。
 マザーシップが再び攻撃を開始すれば、もはや人類に打つ手は無い。
 本作戦の成否に、人類の命運がかかっているのだ!!」
 司令の言葉に、隊員たちは静まり返った。

 レオンは、北で待機していた仲間のことを思った。
 ジェシカ達ならきっと、無事でいてくれるに違いないという確信があった。

「やってやる…これ以上あいつらの好き勝手にさせてたまるか!」
 優斗は、人類の命運をかけた作戦という言葉に武者震いした。

148「捕われの翼」:2009/01/13(火) 05:06:58 ID:2dVgRh47
 司令が、パネルと地図を指しながら作戦の説明を始めた。
「作戦の目標はただ一つ、マザーシップの撃墜だ。まず戦車部隊が、出来るだけ蟻の軍団を引きつける。
 我々は、集結した敵の歩行戦車部隊と小型円盤を攻撃する。
 その合間に、少人数の部隊がマザーシップに接近し、撃墜を図るという作戦だ。
 マザーシップ攻撃のため、決死隊を組織する。結城博士、説明を頼む」

 前に出てきた結城博士は、一週間前よりやつれて見えた。
 しかし、そのギラギラとした眼光は少しも弱まっていない。
「いいか貴様ら。敵母船の装甲は厚い。空軍のミサイル攻撃にもびくともしない頑丈な円盤だ。
 しかし、どんな敵にも弱点はある。
 撃墜された小型円盤を分析した結果、円盤の中心部に、重力を遮断するエネルギーフィールドが存在することがわかった。
 ここを破壊されれば、奴らは飛行能力を失い、墜落する。
 巨大なマザーシップも、小型円盤と同じ原理で浮遊していると考えれば、その弱点は円盤の中心部にあると思われる。ただし」

 博士は一呼吸置いて、隊員たちを見渡した。
「中心部を攻撃するためには、敵母船の真下付近まで潜り込まなければならない。
 マザーシップの下部には、強力な主砲が備え付けられている。我々はこれをジェノサイドキャノンと名づけた。
 これを撃たれたらアウトだ。発射される前に攻撃し、素早く離脱しなければ殺られる。
 さあ、これを聞いても、攻撃部隊に志願したいという奴はいるか」

 素早く手を挙げたのは、優斗とレオンだけだった。
「ふむ、レオン・エッジワース少尉。あんたは適任だな。
 そっちの少年、君は駄目だ。武勇伝は聞いてるが若すぎる。敵戦車部隊の攻撃に回れ」
 優斗は渋々手を下ろした。

 それに続いて、何人もの猛者たちが名乗りを挙げた。
「うん、10人揃ったか。それで十分。何せ、装備がそれだけしか無いのでな」
 博士はそう言って、新品の狙撃銃を取り出した。

「これが敵マザーシップ攻撃の切り札、名付けてライサンダー2よ!
 私の長年の研究と、異星人の技術が融合して完成した、超強力な徹甲榴弾を発射する狙撃銃だ。
 こいつを巨大円盤の中心部に撃ちこんでやれば、敵の重力遮断フィールドを破壊し、撃墜することができるはずだ。
 失敗は絶対に許されん!奴らに人類の力を思い知らせてやるのだ!」
 博士はパネルに拳を叩きつけて叫んだ。
149「捕われの翼」:2009/01/13(火) 05:07:43 ID:2dVgRh47



 急な出撃命令によって、基地内は慌しさに包まれた。
 横浜で待機している戦車部隊が敵に発見され窮地に陥っていることが、急な出撃命令の原因という噂もあった。
「ふざけんな!始まる前から負け戦じゃねえか。死にに行くようなもんだ」
 渡辺はほとんど泣き声で言った。
 優斗は全く悲観していなかった。
「何言ってんです!敵戦車に一発喰らわしてやりましょう。
 レオン少尉!マザーシップ撃墜をしっかり頼みますよ」
「任しとけ。この銃なら」
 レオンはニヤリと笑い、新型のライサンダー2を構える。

 ふとそこへ、悩み顔をした結城博士が近づいてきた。
「レオン少尉。ここだけの話なんだが」
「はい。何でしょう」
「その…ライサンダー2は、多段発射式撤甲榴弾の発射反動を抑えることに主眼が置かれていてな。
 いやもちろん、威力は折り紙つきなんだが…」
「何なんです?」
「いやその…短時間で敵の重力遮断フィールドを破れる程の威力かという点に関しては、若干の疑問が残る所でなあ」
「何ですって!?」
 レオンは思わず声を荒げた。

「ふざけないで下さい!!こっちは死ぬ覚悟で飛び込んでいくんだ。いざとなって効かなかったじゃ済まないんですよ」
「わかっとるわ!だからこそ、あんたのためにこいつを持ってきたんだ」
 博士は不機嫌そうに言い、レオンに新しい銃を手渡した。

「これは?」
「これは2の設計途上で出来たライサンダー…名付けてライサンダーFだ!
 最初に開発したライサンダーZに近いタイプで、さすがにZ程の欠陥品ではないが、果たして人間に使いこなせるかどうか…」
「と言いますと?」
「原理的には、戦艦の主砲みたいなものだ。威力的にもな。だが発射反動と弾道制御が…」
150「捕われの翼」:2009/01/13(火) 05:09:21 ID:2dVgRh47
「構いません。使わせていただきます。威力が無きゃお話にならない」
 レオンは即座に覚悟を決めた。

「ふむ。では、こちらのライサンダー2は君に譲ろう。勇敢な少年よ、敵戦車は任せたぞ」
 結城博士は優斗にライサンダー2を手渡した。
「やった!!ありがとうございます!!」
 優斗は跳んで喜んだ。

                           ◇◆◇


 ユキは阿鼻叫喚の地獄の中で、己の力が目覚めるのを感じた。
 本隊と合流したのも束の間、常識を超えた悪魔の出現によって全ては灰燼に帰した。
 人も戦車も街並みも、圧倒的な破滅の暴風に押し潰されていく。

「トビー!!スコット!!!あの野郎…な、仲間をやりやがった…」
 ジェシカが叫ぶが、その表情は怒りではなく恐怖に覆われている。
 次の瞬間、ユキがジェシカを押し倒した。
 同時に凄まじい爆発が周囲を包み、一瞬でビル街を瓦礫に変えた。

151「捕われの翼」:2009/01/13(火) 05:10:30 ID:2dVgRh47
「うっ、ユキ……」
 ジェシカはユキを見た。
 澄みきった美しい瞳に怖れの色は無く、それは見ているジェシカの恐怖心までも消し去ってしまった。

「大丈夫よ。私についてきて」
 ユキは一瞬微笑んだように見えた。
 そして炎に包まれた街並みへと駆け出す。
 ジェシカ達は必死に後を追った。

 心臓を凍りつかせるような、悪魔の咆哮が響き渡る。
 耳を塞ぎ、声にならない叫びを上げながら、ただひたすらにユキの背中を追う。
 無尽蔵に発射されるエネルギー弾によって、次々に周囲の街並みが消し飛んでいく。
 生きているのが奇跡に思えた。

 ユキは敵の死角に入り込み、弾道をかわしながら走り続けた。
 熱風と黒煙が肺を焼いたが、足を止めることは死を意味する。
 少しずつ、悪魔の吼声が遠ざかっていく。

 生き残った誰一人として、その悪魔の正体を見たものはいなかった。
 突然海から上がってきた巨大な恐怖、殺戮と破壊の暴風。
 味方の部隊は抵抗もできぬまま、跡形も残さず消滅した。

「ユキ!!」
 力を使い果たしたユキは、意識を失って倒れた。
 ジェシカとエリーが駆け寄り、その身体を抱きかかえる。
 安全な場所へ逃れられたのは、僅かに5人だけだった。


(続く)
152名無しさん@ピンキー:2009/01/13(火) 05:11:26 ID:2dVgRh47
本日は以上です。
ありがとうございました。
153本部:2009/01/13(火) 08:54:45 ID:q0rvIdY+
大量更新しすぎだ
部隊に撤退命令を出し損ねてしまったじゃないか
154名無しさん@ピンキー:2009/01/13(火) 16:37:37 ID:P6D8tFyB
さ、サンダー!

結城博士は出番長そうだね。参謀も作るわけだし
あとサブタイトルは1のミッション名だったのか
いやー続きが楽しみだ、GJ!
155名無しさん@ピンキー:2009/01/14(水) 00:02:34 ID:G7v5dDUm
結城博士IKEMENすぎる・・・
青髪眼鏡なのは確実
156名無しさん@ピンキー:2009/01/16(金) 23:54:44 ID:oyR/DCNL
各隊員へ!
保管庫が更新を再開した模様!
至急、迎撃態勢をとれ!
157名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 17:54:46 ID:S0r9Ow4S
>>156
おう!
158名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 21:09:11 ID:WCEXRJWM
>>156-157
おまえら大切な物資を破壊するつもりかw
159名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 23:14:38 ID:J+JpBS0a
隊長!早まったボルケ教徒が保管庫へ!
160名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 23:20:47 ID:5XoEVUSY
よし、処理落ちしてる間に取り押さえるぞ!
161名無しさん@ピンキー:2009/01/25(日) 01:05:37 ID:deGXE6aR
162名無しさん@ピンキー:2009/01/25(日) 01:32:17 ID:aIHG7Oi2
よくやったぁ!
163名無しさん@ピンキー:2009/01/25(日) 13:57:51 ID:JvqMgdr8
イイ!GJ!!
164名無しさん@ピンキー:2009/01/26(月) 17:30:42 ID:W53W1vmx
アパームッ!!玉持ってこい!!!!!
165名無しさん@ピンキー:2009/01/27(火) 08:07:01 ID:HWfvURjD
それ死亡フラ(ry
166名無しさん@ピンキー:2009/01/28(水) 09:05:56 ID:SAqS+3ya
死んだ虫だけが、良い虫だ!
167名無しさん@ピンキー:2009/01/28(水) 09:32:49 ID:xjP2NltP
逃げるヤツは虫だ!! 逃げないヤツは良く訓練された虫だ!!
168名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 06:59:18 ID:VPldoPPV

会社の飲み会の時に、すごい美人なんだけどどうしようもないほど無口な女が、俺の前にあった唐揚げを
「一個ちょうだい」って言ってきたので、
酔ってたこともあってふざけて唐揚げを俺の口に挟んで
「はい」
って差し出したら、その女が無言で顔寄せて口で受け取っていって(唇は触れていない)
俺含めその場にいる奴全員固まった。

だいぶ間があって、上司が開口一番
「お前らデキてたのかよ!ぜんっぜん気付かなかった!」と言ったら、
どわーっと全員大盛り上がりで話題独占。
その後俺も2次会に行こうとしたのに、「若い二人の邪魔しちゃなんねえからw」とか言われて、二人で放り出される始末。
その女に「ごめん、どうする?」って聞いたら、
「どうするって?さっきのは求愛行動でしょ?わたしはちゃんとOKの意思表示したわよ。」
って言われてビックリした。
今年はたぶんこういうことがある気がしてしょうがない。
169名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 07:21:16 ID:gdCwQhCH
罠です!
170名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 16:21:04 ID:uoIdky1E
フン、目の前の現実をよーく見るんだな
171負傷兵は語る。:2009/01/31(土) 23:27:30 ID:RWEoJToX
ええ、確かに私はあの日あのエリアで戦っていましたよ。あの部隊で戦っていました。

戦闘エリアに向かうときに、私たちはマザーシップが遠くに、山向こうに見えていたものですから半分興奮してマザーに悪態をついて、
残りの半分は・・・死を覚悟していました。

幸い、私たちの進行方向をスーッと横切るような感じでふわふわ飛んでいって、私たちに興味がないようでした。
でも、マザーシップに乗ったインベーダーのやつがもし感情を持っていたなら、こう考えていたでしょうね。
ざまあみろ、ってね。

 戦闘エリアについてすぐに、ダロガを十機くらいとたくさんの円盤を捕捉したので、隊長の命令通り散開しました。
私は前の戦闘でUFOを二機撃墜していて、それが初戦果でもう自分は戦闘に慣れていると思ってました。
使っていたゴリアスも最初は重いと思っていたのが持ち慣れたといいますか、普通に扱えるようになっていました。

 あ、話が横道にそれていますかね。それで、最初に視界に入ってきたのはダロガでした。
私たちはみんな、どうしてダロガが先にやってくるんだろうと疑問に思いました。
いつもならばまずずっとスピードのあるUFOが先に飛んできて、次に蟻みたいなあの化け物が、それがいなけりゃ時間を空けて、
のそのそダロガが歩いてくるってそんな寸法でした。

 その日は違っていたから、誰もが不思議に思っていました。でもとにかくまずは砲撃をしてみることにしました。
いくら勝手が違うからって、UFOが出てくるまでにひとつでもいいから敵を削っておいたほうがいいですし、
UFOがいないならそれはそれで大助かりですから。

 でもそのとき、すでに部隊の一人が見ていたんですよ。
ビルの隙間から銀色の円盤みたいなのがのぞいていて。で、それを報告したので隊の全員が身構えました。
敵の新兵器に違いないと誰もが思っていたんですよ。それで、ダロガがやってくるのにはまだまだかかるわけですし
いっそその新兵器を先に叩こうって話になりました。でも一向に視界に入らない。
敵を視界に入れるためにわざと建物を壊すことはたくさんの部隊で日常茶飯事に行われていたことでしたよ。でもしなかった。
見たことも無い敵ですから、怖かったんです。視界に入れたとたんに、強力なビームを撃ってくるかもしれなかった。
172負傷兵は語る。:2009/01/31(土) 23:28:02 ID:RWEoJToX
 そうこうしてるうちに、ダロガも結構近づいてきていた。あの砲撃は脅威ですから、先手必勝が基本だった。
それで、隊長は迷ったと思います。ダロガを先にやってしまうか、ビルの陰に潜む得体の知れない敵を叩くか。
とっさに隊長は、ダロガを選びました。指示通り戦車も砲撃を始めた。あれが飛び出してきたのはそのときでした。
ビルの陰から出てきたのは、銀色に光る開きかけの傘みたいなやつで、そいつがダロガをかばうために出てきたと最初は思いました。
かばおうとしたというのは事実ですけれどね。 そいつに戦車の弾が当たったとき、金属音がしました。甲高い悲鳴のようにも聞こえた。
と思っていたらば、すぐ近くの戦車の砲塔が吹っ飛んで、車体が爆発したんです。最初は戦車が撃破されたとわからなかった。

 次に第一小隊のほうでも撃ち始めたのがわかりました。敵の新型円盤に一斉に撃った。
そこで始めて私はあいつが弾を跳ね返していることに気がついた。第一小隊はその直後、「自分たちのライフルに」射殺されました。
私は混乱しました。撃ってはいけない、でも撃たなければいけない。あの場にいた全員がどうすればいいのかわからなくなりました。
しばらくして、といっても5秒も立たずに小隊長の指示がありました。
「あの銀色のやつに当たらないようにダロガを狙え」だったと思います。すぐに私もゴリアスを構えました。

 そのとき、撃つ前にビルの隙間からわらわらとやつらが出てきました。30機はいたと思います。すぐに撃つのをやめました。
このまま何もしなければダロガの射程に入りますから、戦車も随伴兵もいっぺん全部後退しなければいけませんでした。
でもできなかった。後ろもやつらに囲まれていました。やつらを越えないと後退もできない。
でも撃ったなら跳ね返されるので誰も撃てない。言葉通り八方塞でした。目の前が凹面鏡ですっぽり覆われたような感じでした。
周り全体がやつらで埋め尽くされたんです。誰かがゴリアスを撃ってしまって、打ち返された弾の爆風で吹っ飛ばされた。
私は大丈夫でしたが、小隊長は大丈夫じゃありませんでした。ダロガの砲撃が始まると、もう何もわからなくなりました。
私は死ぬつもりでゴリアスをぶっ放して、結局自分の攻撃で吹っ飛ばされました。
左足の付け根から先の感覚がなくなって、次に気がついたのが病院のベッドでした。

元第72戦車連隊随伴歩兵中隊第二小隊所属「ガード3」の記録より
173名無しさん@ピンキー:2009/01/31(土) 23:28:26 ID:RWEoJToX
すいません。2の鏡みてたら妄想が飛躍してしまいました。
174名無しさん@ピンキー:2009/01/31(土) 23:36:14 ID:U/E5cOFr
初めて鏡面に恐怖を感じた
蜘蛛とかにただ殺されるより、精神的に極限状態まで追い詰められる方がよっぽど怖ぇよ…

でもあれ明らかに真ん中だけシールドが無いって、ちょっと戦ってればすぐ気付きそうだけどなw
175名無しさん@ピンキー:2009/02/01(日) 00:05:43 ID:br0AKiGv
エロパロ板でエロが無いスレはEDFだけ!

どういうことだ本部
176名無しさん@ピンキー:2009/02/01(日) 04:35:54 ID:Sojv0Cqc
ガチの陸男ばかりのこのスレにエロは無縁だと言う事だ。
177名無しさん@ピンキー:2009/02/05(木) 15:01:37 ID:7O3FWgZn
あれはまるで…保守だ!!
178名無しさん@ピンキー:2009/02/07(土) 10:32:07 ID:gdzj1mhF
人口100人にも満たない南国の小さな島にたった一人配属されていたペイルウイング隊員。
平和な島にもインベーダーの魔の手が迫る・・・

「私が、この島を・・・島のみんなを守ってみせる!」

笑いあり、涙あり、エロあり(!)の驚天動地の新シリーズ
「孤島防衛軍〜たったひとりの蒼い翼〜」スタート!















というのを書こうと思ったんだけどなあ・・・無理だったorz
179名無しさん@ピンキー:2009/02/07(土) 17:47:36 ID:3/hKH1F8
最後の一行読んでなかった
俺の半日を返してもらおう。
180名無しさん@ピンキー:2009/02/11(水) 12:19:05 ID:Dl5K1tUV
裸でwktkしてたわけですね。分かります
181名無しさん@ピンキー:2009/02/18(水) 00:28:19 ID:mNzedVTa
>>178
変に期待させやがって
お前の責任は重いぞ
そして保守
182名無しさん@ピンキー:2009/02/24(火) 08:16:47 ID:0IpDpob1
ぼっしゅ
183名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 01:20:08 ID:FOTewzj6
そんな事よりゆとりはマジすげぇぞ?
いとこの小学生が遊びに来た時、
テストで40℃のお湯と60℃のお湯を同じ量混ぜたら
100℃のお湯になるって答えたら×になったんだけど何で?
とか聞いてきやがった。
もうアホかと思って、
でもね、お兄ちゃんとわたしが一つになったらきっとずっと熱くなるよね?
そう言って服をするりと
184名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 04:20:15 ID:p2v4PyDO
E
185名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 08:57:16 ID:RdIYKGan
D
186名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 12:09:01 ID:Ok7wHZu+

187名無しさん@ピンキー:2009/03/09(月) 09:32:11 ID:N9tYpxdx
保守
188名無しさん@ピンキー:2009/03/15(日) 15:08:31 ID:s8CVG16x
する事ないからオナニーでもしようかと思った30才日曜日の昼下がり
189名無しさん@ピンキー:2009/03/16(月) 07:23:19 ID:2xn7Eob7
ゲーム中では、建物が邪魔+威力が低いお陰でバカスカ撃たれるミサイルだが、リアル路線の『捕われの翼』の世界だとどうなってるんだろうね?
捕捉センサー含めた誘導装置とかやたら高価なはずだから、ゲームん時みたいにアサルトの弾並の数をばら撒いてるとかは流石に無いだろうけど。
実際運用されてるのはプロミ系のみか、ロックオン機能の付いた現実に近い品なのかな?
190名無しさん@ピンキー:2009/03/18(水) 20:43:47 ID:l42BbUme
初期エメロードとかはともかく、
後半の武器は「インベーダーの技術を応用」で全てカタがつくかもしれないぞ
191名無しさん@ピンキー:2009/03/18(水) 20:48:32 ID:9opMT9/Q
人類滅亡の危機でも金の心配するのかな
192凶虫バゥ:2009/03/23(月) 20:06:04 ID:HhrSU32+
193名無しさん@ピンキー:2009/03/24(火) 14:25:04 ID:NEU6sSAz
蜘蛛糸拘束(*´д`*)ハァハァ
194名無しさん@ピンキー:2009/03/28(土) 19:29:19 ID:nFK3tPI5
EDF4まだかなー
195名無しさん@ピンキー:2009/03/29(日) 15:22:08 ID:wOW/gNwb
次回作はペイルウィングの復活に加え、ツンデレオペレーターに女王様インベーダ娘、クールな女上司、オタクなメカニック娘とよりどりみどり
おまけに全員陸男が好き
196名無しさん@ピンキー:2009/04/05(日) 02:10:44 ID:h3/DhNCM
恋愛ゲーか
バゥ子ルートになると糸に巻かれてお持ち帰り
197「捕われの翼」:2009/04/06(月) 00:09:22 ID:uZIGTs4P
ご無沙汰しております。
再び貴重なスペースお借りします。

1話〜29話
http://tikyuboueigunss.web.fc2.com/
198「捕われの翼」:2009/04/06(月) 00:11:33 ID:uZIGTs4P
第30話 「烈火」

 蟻の大群が、西の方角に向かって移動を始めた。
 味方の戦車部隊が最後の反撃を開始したのだろう。
 蟻の群れに続いて、巨大な敵歩行戦車がゆっくりと瓦礫の上を歩いていく。

「総員、攻撃開始!敵主力をこの地に釘付けにするんだ」
 本部から無線が入る。
「行くぞ!!」
 優斗達の部隊はビル陰から飛び出し、敵戦車を目指して走った。
「環状線沿いに6体侵入してくる。脚を狙って動きを止めるんだ!」
 隊長が叫ぶ。
 既に激しい戦闘が始まっていた。
 機関銃とロケットランチャーの一斉射撃によって、たちまち敵戦車群は黒煙に包まれた。
「突撃隊、前進しろ!」
「了解!!」
血気盛んな隊員達が、敵に向かって突進する。
 だが次の瞬間、黒煙の中から光の弾丸が飛び出し、隊員達に襲い掛かった。
「ぐああっ!!」
「畜生!敵は無傷だ!」
爆音と悲鳴が交錯し、巻き込まれた隊員が次々に倒れていく。
 火力の差は歴然だった。
「歯が立ちません!上から狙い撃ちされる!」
 バルカンの掃射が始まると、突撃隊は為すすべもなく全滅した。
 再び静寂に包まれた瓦礫の上を、敵戦車は何事もなかったかのように歩き出した。

「くそ…化け物め」
 隊長が蒼白な顔になる。
「隊長、射撃許可を!射程外から狙撃します」
 優斗は新兵器ライサンダー2を抱え、狙撃可能な開けた場所まで後退した。
 渡辺もそれに続く。
「おい、ライフルなんか効くのかよ。ゴリアスあんだけ撃ち込まれてもびくともしねえ奴だぜ」
「さあねえ。結城博士を信じるしかないでしょう」
 優斗は狙撃姿勢を取り、スコープを覗き込んだ。
199「捕われの翼」:2009/04/06(月) 00:12:38 ID:uZIGTs4P
 敵戦車は、味方の攻撃を全く問題にせず、悠然と歩を進めている。
「喰らえッッ!」
 優斗は狙いを定めて引き金を引いた。
 轟音とともに激しい衝撃が生じ、照準が大幅にずれた。
「くそっ、外したっ!なんて銃だ」
 優斗は痺れの残る肩をさすりながら悪態をつく。

「もう一度だっ」
 深呼吸をし、出来るだけ脱力して銃を構えた。
 発射の瞬間、全神経を集中させ、下半身を踏ん張って衝撃を受け止める。
 二発目は、狙った場所から外れはしたが、敵戦車の下部ぎりぎりを掠めるように当たった。
「おおおッッ!!見ろ、穴、穴が開いた!!」
 渡辺が興奮して叫ぶ。
 敵戦車が歩みを止めた。
 胴体下部に、抉られたような大穴が開いている。
「今度こそ倒してやる」
 優斗は満面の笑みを浮かべながら次弾を装填した。
「(コイツがこんな表情になると、不思議と負ける気がしねえな)」
 渡辺もつられて笑う。
 次の弾丸は、狙い通り正確に、敵戦車の関節部分を吹き飛ばした。
 戦車は狙撃された部分から黒煙を上げ、ゆっくりと前のめりに倒れていった。

 優斗と渡辺は、興奮のあまり飛び跳ねた。
「よしっ!!よくやった!そのまま狙撃を続行しろ」
 無線から響く隊長の声も、活気を取り戻している。
「隊長!Dブロックまで後退してください。俺に考えがあります」
 優斗は無線に叫んだ。
「何だと?」
「敵の動きは直線的です。うまく狙撃位置に誘導すれば、一網打尽にできるかもしれません」
「了解した。総員、攻撃しつつ後退しろ!」

 新型ライサンダーの威力は圧倒的だった。
 一直線に並んだ敵戦車は、次々に黒煙を上げながら、地上部隊に止めを刺されていく。
200「捕われの翼」:2009/04/06(月) 00:13:50 ID:uZIGTs4P
「優斗!空母、上だ!」
 巨大生物を投下する中型円盤が数機、ゆっくりと降下してくる。
「待ってました」
 優斗は表情一つ変えず、敵空母に照準を合わせた。
 5分と経たない内に、敵空母は蟻を投下する間もなく撃墜された。

「いける!勝てるぞ!!」
「落ち着いて渡辺さん。次のターゲットを指示して下さい」
 右腕の激しい痛みに顔をしかめながら優斗は言った。

「こちらX小隊。敵マザーシップを確認」
 無線からレオンの冷静な声が響き、優斗は作戦の目的を思い出した。
 優斗達が敵を引きつけている間に、新型ライサンダー10丁を装備したレオン達の部隊が、敵母船に接近を試みていたのだ。
「マザーシップは西へ移動中。直ちに攻撃を開始する。
 小型円盤の大群がそちらに向かった。注意しろ」
 レオンの無線は切れた。

「まずいな…」
 優斗が呟いた。
「何言ってんだ。いよいよ本丸だぜ。その銃とレオン少尉がいれば大丈夫さ」
 渡辺が珍しく強気である。
「いえ、そうじゃなくて。ヤツの存在を忘れていました。
 もっと強い武器を持ってこないと…それに、ライサンダーの弾丸が残り少ない」
「ヤツか…」
 渡辺も表情を曇らせた。
「よし、俺が本部へ戻って取ってきてやる。弾と、できるだけ強そうな武器だな」
「すみません、頼みます」
「お前は狙撃を続けろ。小林を護衛に呼んでやる」
「ありがとう、気をつけてください!」
 優斗は再びスコープを覗き込んだ。


201「捕われの翼」:2009/04/06(月) 00:16:06 ID:uZIGTs4P
                                   ◇◆◇


 レオン・エッジワースは、前方に浮かぶ巨大な敵母船を見上げた。
「レオン少尉。共に戦えて光栄です」
 若い女性の陸戦兵が話しかける。
「君は?」
「浅野といいます。私は夫を失いました。命に換えても、必ずあのマザーシップを落としてみせます。
 ここにいる9名、全員が同じ気持ちです」
 浅野という隊員の瞳は静かに燃えていた。
「その意気だ。敵の護衛は手薄だ。このチャンスを逃す手はない。
 直ちに射撃準備!」

 レオンの部隊はライサンダーを装備し、配置についた。
 マザーシップはゆっくりと移動を続けている。
「あれが、博士の言っていた重力遮断ドライブか!?」
 円盤の下部中央に、紫色のドームが逆さまにくっついている。
 その周囲には、恐るべき威力のジェノサイドキャノンが何本も配置されていた。

「狙いは中心部のドームだ。攻撃開始!!」
 レオンは、引き金に指を掛けたが、何故か一瞬躊躇した。
 狙撃銃から、禍々しい悪意のようなものが発せられた気がしたのだ。
 レオンの銃は、他の隊員のライサンダー2ではなく、博士から特別に手渡されたライサンダーFという銃だ。
 だが迷っている暇も無く、レオンはそのまま引き金を引いた。

 轟音が響くと同時に、右半身の感覚が無くなった。
「ぐああっっ!!」
 レオンは銃を取り落とし、左手で右目を抑えながら倒れこんだ。
「レオン少尉!!」
 前方にいた浅野が異変に気づき、レオンのもとに駆け寄る。

202「捕われの翼」:2009/04/06(月) 00:17:33 ID:uZIGTs4P
「馬鹿…攻撃を続けろ!」
 レオンは弱々しく叫び、浅野の腕を払った。
「はっ、はい!でも少尉…」
「何だ?」
「攻撃が全く効きません、敵は無傷です」
「馬鹿な!!」

 レオンは絶望的な気持ちで左目を開いた。
 ライサンダー2の弾丸が何発当たっても、紫色のドームには傷一つ付かない。
「クソ博士め…本部を呼び出せ!」
 若いレオンは怒りに燃えた。

「こちらレオン!結城博士!聞いてるか?一斉射撃を浴びせたが敵は無傷だ」
 やや間を置いて、狼狽した声で返答があった。
「こちら結城。そんな筈は無い。決定打とまではいかずとも、その徹甲榴弾を当てて無傷なんてことは…」
「自分の目で確認してみるか?傷どころか埃一つ付いてないぜ」
「なんと…ライサンダーFでも駄目か?」
「その出来損ない銃のせいで、俺の右腕は動かなくなった。貴様がこの場にいたら撃ち殺してやるところだ」
 結城博士はそれには答えず、必死で頭を働かせているようだった。
「もしかすると…まさか…シールド、何かエネルギーシールドのようなものがあるのか。
 そうとしか考えられん」
「何だと?俺たちはどうすればいいんだ」
 沈黙が続いた後、博士は呻くように言った。
「お手上げだ…どうしようもない。急いでその場から逃げてくれ…」

203「捕われの翼」:2009/04/06(月) 00:18:04 ID:uZIGTs4P
「少尉!あれを…」
 浅野が震える声で叫んだ。
 マザーシップ下部の砲台が、長い脚を広げるように動き出した。
「全員退却!!急げ!!」
 レオンは叫び、痛みを堪えて立ち上がった。
 震える右腕には、ライサンダーFが握られている。

「レオン少尉?」
「早く逃げろ。俺は悪あがきをしてみる」
 浅野はレオンの考えを察し、静かに微笑んだ。
「私も残ります。どうせ助からないわ。戦って死にたい」
「……」
 二人は小さく頷き合い、再び巨大な鋼鉄の円盤に銃口を向けた。

 間もなく、全てを焼き尽くすオレンジ色の火球が出現し、辺りを夕焼けのような景色に変えた。



                                ◇◆◇
204「捕われの翼」:2009/04/06(月) 00:18:49 ID:uZIGTs4P
本日は以上です。
ありがとうございました!
205名無しさん@ピンキー:2009/04/06(月) 01:40:00 ID:1BmJuN9V
>>204

206名無しさん@ピンキー:2009/04/06(月) 10:05:55 ID:KcbHAV90
とうとう三種の神器のうち一本が優斗の元に渡るフラグ?
優斗もやがては両手に礼賛F持ってバカスカ撃ちまくるような化け物になってしまうのかな…
乙でした
207名無しさん@ピンキー:2009/04/07(火) 10:35:10 ID:hpOWQoNS
礼讚乙!待ってたぜー
208名無しさん@ピンキー:2009/04/07(火) 17:21:34 ID:EPB+m+Mb
エロ要素ないのに面白くて読ませるなぁ……GJといわざるをえない

そういやオフィシャルで地球防衛軍の小説ってないのかな……?
209名無しさん@ピンキー:2009/04/08(水) 22:45:16 ID:P0AWZPQk
保守
210名無しさん@ピンキー:2009/04/11(土) 00:57:49 ID:FQS4A7X7
保守
211名無しさん@ピンキー:2009/04/12(日) 20:36:12 ID:axGJzAx3
念のため保守っとくか
212名無しさん@ピンキー:2009/04/15(水) 00:58:43 ID:EBxOlPdl
ho
213第7話予告:2009/04/15(水) 04:03:47 ID:DNLUA5Hq
ついにこの日が来てしまった。
巨大生物兵器が再出現してから予想されてはいたのだが…

インベーダーのマザーシップが大気圏を突入し、イギリスへ向かっているとの情報が入った。
奴らは新しいマザーシップを用いて地球侵略を本格的に再開したのだ。

我々の任務は、敵の攻撃目標と推測されるロンドンへ赴き、英国軍を支援する事である。

マザーシップは下部に足のように伸びた8本の高エネルギー弾発射装置:通称『ジェノサイド砲』と、中央部ハッチから放たれる地上掃討用の小型円盤が主力だ。

小型円盤は動きは単純だが、囲まれて十字砲火を浴びれば、相当な驚異となる。
各員、対空装備を怠るな!

次回 The地球防衛軍2 『侵略者再び』
全ての敵を殲滅せよ!
214名無しさん@ピンキー:2009/04/15(水) 04:10:36 ID:DNLUA5Hq
規制が解除されたので、久しぶりの予告で保守です。

書き込めるようなら、過疎った時に保守しに来ます。

ではまた。ノシ
215名無しさん@ピンキー:2009/04/18(土) 00:31:14 ID:PoHHJ+RY
保守
216第8話予告:2009/04/19(日) 15:03:43 ID:/dgOHh7v
ロンドンでマザーシップの第1波を退けはしたが、インベーダーの攻撃は止む事はなかった。

奴らは続けてテムズ川方面に先の大戦でも使用した歩行戦車:通称『ダロガ』タイプを3機も投入してきた。
恐らく市街地を襲撃するつもりだろう。

ダロガは円盤型の上部から延びる触覚のような箇所から放たれる高速プラズマ弾と胴体下部から発射される全方位バルカン砲が主力だ。

但しプラズマ弾はある程度近づかないと打ってこない。
またバルカン砲も近距離にならないと打ってこないため、陸戦兵なら長距離ライフルによる射撃、またはペイルウィング隊なら高速で近づいての接近戦が有効だ。

また奴らはあまり足を上げて移動できないので、川から市街地へ誘い込めば段差で足止めできる可能性がある。

以上を踏まえて各自適切な装備で奴らを迎え撃て!

次回 The地球防衛軍2 『戦機襲来』
全ての敵を殲滅せよ!
217名無しさん@ピンキー:2009/04/20(月) 00:19:45 ID:HVZfFn3h
GJ
218第9話予告:2009/04/25(土) 13:03:15 ID:S5zt1nQJ
ロンドンの戦いはまだ終わらない。

インベーダーはこの島:グレートブリテン島を地球攻撃の前進基地にするつもりらしい。
敵はダロガによる波状攻撃をしかけてきた。

こちらも増援の2機は撃破したが、ついに英国軍との共同防衛線を突破され、数機のダロガの市街地の突入を許してしまった。

もう一刻の猶予も無い。
我々は市街地へと急行した。

次回 The地球防衛軍2 『市街戦』
全ての敵を殲滅せよ!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
規制が入りましたので、しばらく保守できませんのでご了承下さい。
m(_ _)m
219名無しさん@ピンキー:2009/04/27(月) 22:23:10 ID:fVk40cNj
>>218
いつも乙です!GJ
220「捕われの翼」:2009/04/27(月) 22:38:00 ID:JsL6pZRr
第30話「烈火」続き

                                ◇◆◇
 優斗は突然立ち上がった。
「どうした?」
 護衛の小林という隊員が尋ねる。
 迫りくる敵戦車部隊を相手に、優斗達は劇的な戦果を挙げていた。
 主力部隊を撃退し、周囲には殆ど敵の姿は見えない。
 だが、優斗の表情は険しかった。
 雨雲が立ち込める空は、戦場の黒煙のためにいっそう暗くなり、まるで真夜中のような闇に染められている。
「…ヤツが来た」
 うわ言のように呟くと、優斗はふらふらと歩き出した。

「ヤツって何だ、どこへ行く!?」
 小林はそう叫んだ後、不気味な地鳴りを聞いた。
「な、何だあれは!!!」
 地平線の向こうに、真っ黒い巨大な影が見える。

「ぎゃあああ!!蟻だ!!!」
「女王だ、女王蟻だ!!!」
 それはとてつもなく大きな羽蟻だった。
 全長は50mにもなるだろうか。
 しかも、赤蟻や黒蟻の大群を引き連れ、物凄いスピードでこちらへ近づいてくる。

「もう駄目だ!!優斗!!どうすればいい!?」
 部隊は大混乱に陥り、隊長まで少年兵に助けを求める有様だった。
「俺が女王をやります。敵の突進を止めてください」
 優斗は落ち着いて言ったが、その顔はさすがに蒼白である。
「(ユキ…お前に会えずに死ぬのか)」
 優斗は覚悟を決め、ライサンダー2を握り締めた。

 その瞬間、女王蟻が巨大な顎を開け、隊員達の集団に突っ込んだ。
 凄まじい吼え声を上げながら、狂ったようにその顎を振り回す。
 間一髪で難を逃れた優斗は、ただただ呆然とその様子を見つめていた。
 以前、市街地で人肉の団子を貪り食っていた光景が蘇る。

221「捕われの翼」:2009/04/27(月) 22:42:22 ID:JsL6pZRr
「何て食欲だ…」
 女王は逃げ惑う隊員達を捕らえ、噛み砕き、すり潰し、血の一滴も残さず啜り取っていく。
 周囲は蟻の群れに完全に包囲された。
 戦闘というより、もはやただの虐殺である。
「く、クソオオオオ!!!」
 隊長と生き残りの隊員が、悲鳴を上げながら女王に突撃を試みた。
 だが女王は、素早い動きで尻を持ち上げ、大量の蟻酸を隊員達の上に振りかけた。
「があああっ!!!」
「ぐあぁああ!!」
 それは毒霧のように飛散し、喉を焼き、肺を溶かす。
 隊員達は喉を掻き毟りながら倒れ、そのまま貪り食われていった。

「これまでか…」
 気がつけば、生き残っているのは優斗だけになっていた。
 直撃は避けたものの、むせ返るような酸の刺激に、呼吸をすることもままならない。
 目が霞み、意識が遠のく。
「(ユキ…)」
 優斗は目を閉じ、少女の笑顔を思い浮かべた。
 殆ど会話したことも無かったが、ずっと彼女のことが好きだった。
 明るく美しい少女。
 せっかく仲良くなった翌日、忽然と姿を消してしまった少女。
 これで本当に、二度と会えなくなってしまうのだ。

「嫌だ!!!」
 優斗はカッと目を見開いた。
 目の前に、巨大な女王の顎が迫っている。
「この野郎!!」
 顎の中心に、直接ライサンダー2をお見舞いしてやった。
「グオオオオオオ!!!!」
 女王は吼え、顔を上げて苦しがる。
「大人しく喰われてたまるかよ!」

222「捕われの翼」:2009/04/27(月) 22:43:51 ID:JsL6pZRr
 女王は烈火のごとく怒り、信じられないほどのスピードで顎を振り回した。
 避けきれず、優斗は激しい音を立てて弾き飛ばされた。
 ように見えた。
 だが、ガクンと跳ね上がったのは、女王の頭だった。
 激しい音の正体は、優斗が放ったライサンダーの銃声だったのだ。

 女王は横向きに倒れて苦しがった。
「へへ…今のが最後の一発さ。頼むからくたばってくれよ」
 だが女王は、ふらつきながらも立ち上がった。
「駄目か…さすがに、もう打つ手無しだ」
 優斗は力無く笑った。
 怒りに燃えた女王が、唸りながら距離を詰める。

 その時、120mmキャノン砲が、女王の胴体を直撃した。
 女王は呻き、砲弾の飛んできた方角に向き直った。
「ギ、ギガンテス!?」
 優斗は驚いた。
 10台程のギガンテスが、丘の上に並んでいるではないか。

「大森大佐だ!!」
 優斗はその戦車部隊の正体に思い当たった。
 横浜で100台以上待機していた陽動部隊の生き残りだ。
 あの蟻の大群をどうやって突破したのだろうか。
 どれもこれも傷つき、激しい黒煙を上げている。

 女王蟻が重々しい吼え声を上げた。
 すると、赤蟻と黒蟻の群れは一斉に戦車部隊に襲い掛かった。
 優斗はその隙に、蟻の包囲を抜け出そうと走った。
 そうはさせじと、数匹の蟻が前方に立ち塞がる。
「くっ……」
 だがその時、キャノン砲が再び炸裂し、邪魔な蟻をまとめて吹き飛ばした。
「ありがとう!大森大佐!!」
 優斗は絶体絶命のピンチから脱出した。
223「捕われの翼」:2009/04/27(月) 22:46:23 ID:JsL6pZRr
 振り返ると、戦車部隊は蟻の大群に囲まれ、無残に喰い荒らされていた。
「畜生ッッ!!クソ蟻ども!!」
 仲間の死を悼む間もなく、優斗は新たな脅威を目の当たりにした。

「おいおいウソだろ…」
 空を覆い尽くす黒い影。
 その正体は、小型UFOの大群だった。

「おい優斗!!こっちだ!!」
「渡辺さん!?」
 渡辺が、地下鉄の入り口から顔を出し、必死に手を振っている。
 優斗は地下鉄の構内へ転がり込んだ。
 そのまま奥へと避難し、ようやく一息ついた。

「助かりました。渡辺さん、武器と弾は持ってきてくれましたか?」
「もちろんさ。探したぜ。だがな…」
「見せてください!」
 優斗は素早く、渡辺が運び込んだ装備を確認した。
 ライサンダー2のカートリッジを装填し、残りをサイドバッグに詰める。
「これは?」
 優斗は大きな緑色のボックスを指差して尋ねた。
「驚くなよ。携行型ミサイルだ。重かったぜ」
 優斗は箱を空け、中の装備を見てニヤリと微笑んだ。
「すげえ…ピッカピカだ。改良型スティンガーですね。たしか通称プロミネンス…」
「優斗。浮かれてる場合じゃねえ。撤退命令だ」
 渡辺が、苦々しい表情で言った。

224「捕われの翼」:2009/04/27(月) 22:47:29 ID:JsL6pZRr
「何ですって??」
 優斗は唖然とした。
「ついさっき無線が入った。マザーシップ攻撃隊はジェノサイド砲で全滅。戦車部隊も壊滅した。
 もう戦力は残ってないとさ。作戦は失敗した。生き残った奴は逃げ延びて機会を…」
「馬鹿な!!」
 優斗は叫んだ。

「本当さ。始めから無茶な作戦だったんだ。まあ、よく頑張った方さ。
 悔しいが、ここで死んじゃ何にもならねえ。生きてりゃ何とかなる。今は逃げることだけ考えろ」
「嫌だ!俺は逃げない!」
 優斗の目が怒りに燃えている。
「聞き分けの無いことを言うなよ。お前一人で何ができる。冷静になって、目の前の現実をようく…」
「黙れ!!!」
 渡辺は優斗の剣幕に怯んだ。
「悔しくないのか!?何のためにみんな死んだんだ。レオン少尉も、大森大佐も、大佐は俺を助けて…
 無駄死になんかにはさせない!俺は一人でも行きます」
「行くって…お前どこへ」
「決まってます。上のゴミ共を片付けて、それからマザーシップを落としてきます。止めても無駄ですよ」
 
 渡辺はそれ以上、何も言うことができなかった。


(続く)

225「捕われの翼」:2009/04/27(月) 22:48:32 ID:JsL6pZRr
本日は以上です!
ありがとうございました!
226名無しさん@ピンキー:2009/04/28(火) 21:53:14 ID:ntDktLYj
>>225 乙です。
227名無しさん@ピンキー:2009/04/29(水) 22:39:15 ID:se+FMXuI
新作EDF4の情報って何もないか?
3のプレステ移植はやっぱ無理なのかな
228名無しさん@ピンキー:2009/05/02(土) 00:11:52 ID:8f7cCQ4+
>>227
サンドの力で移植なんてまず無理だろ
第一、PS3で出す意味がない
EDFはPS3ご自慢の超画質を全力で否定するゲームだぞ
229名無しさん@ピンキー:2009/05/02(土) 01:38:16 ID:VIxrqqJW
じゃあ4出してくれ
230名無しさん@ピンキー:2009/05/02(土) 16:53:19 ID:jSwwy3QN
3はXBOXさえ処理落ちさせるって聞いたことあるけど
本当なのか?
231名無しさん@ピンキー:2009/05/02(土) 23:35:35 ID:KTeyeNs6
「ハードが処理オチするまで敵を増やす」のがEDFのお約束だろう
232名無しさん@ピンキー:2009/05/03(日) 23:34:17 ID:nvLahJ8y
>230
北米版は処理落ちしてたよ。
ニコ動で確認済み。
233第10話予告:2009/05/10(日) 11:13:50 ID:hviVMVHY
ようやくロンドン市街地のダロガを殲滅した時に民間放送の音声が混線してきた。

それによると我々実戦部隊がいない地域に新種の生物兵器が投下されているとの事だった。
ダロガは囮だったのだろうか。

先遣隊に偵察を任せた所、彼らが送ってきた映像には、おぞましい化け物が映っていた。

キャリアは投下された”それ”は、まるで巨大な蜘蛛のような形をしており、尾の部分から糸のようなものを吐き出し次々と市民を捕食していた。

映像から判断するに”奴ら”に対して接近戦は危険だ。
陸戦兵ならロケットランチャーやスナイパーライフルなど、ペイルウィングならサンダーボウなどの雷撃兵器の最大射程を有効に利用して戦わないと、あっという間に糸に巻かれて死ぬだろう。

我々は市街地へと迎撃に向かった。

次回 The地球防衛軍2 『多眼の凶虫』
全ての敵を殲滅せよ!
234名無しさん@ピンキー:2009/05/16(土) 23:45:39 ID:SSedA4/F
>>233
いつも乙です。
235名無しさん@ピンキー:2009/05/19(火) 22:54:30 ID:2yYiqYPF
保守
236名無しさん@ピンキー:2009/05/20(水) 02:45:19 ID:iodY0Zp/
ジェノサイド
237名無しさん@ピンキー:2009/05/25(月) 18:46:04 ID:vJDhrW60
ほう?
238名無しさん@ピンキー:2009/06/01(月) 17:03:19 ID:JmVEkJCa
下書きしてPC開いたらぶっ壊れてた\(^O^)/
239名無しさん@ピンキー:2009/06/08(月) 08:51:05 ID:QPGxfWIA
保守
240名無しさん@ピンキー:2009/06/15(月) 10:23:25 ID:OruvRN9R
T
241名無しさん@ピンキー:2009/06/16(火) 21:58:03 ID:iqGcWrgW
H
242名無しさん@ピンキー:2009/06/17(水) 00:19:18 ID:BH18zsCd
243名無しさん@ピンキー:2009/06/17(水) 01:46:46 ID:y8CZiANJ
244名無しさん@ピンキー:2009/06/22(月) 10:16:14 ID:OTP4+Aoh
O
245名無しさん@ピンキー:2009/06/22(月) 21:18:35 ID:39xbko8t
今日、生まれて初めて協力プレイなるものをやってみた
なんか一人でやるよりかえって難しいのなw
246名無しさん@ピンキー:2009/06/23(火) 22:11:21 ID:CD0BCp0S
EDFにおける視野の減少は致命的
247名無しさん@ピンキー:2009/06/23(火) 22:41:37 ID:qlmpuxeO
大軍を少数で迎え撃つことを義務付けられるイスラエル国防軍では
「戦車長はかならず肉眼で全周確認すべし、さすれば戦闘力は10倍になる」と教えているそーな

視野の減少は「軍団対、オレ」のシチュでは命取りですなあ
248名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 03:39:41 ID:69dvxU2Z
でも>>245は二人プレイに慣れてないだけだ
二人ならIMPだって余裕でクリア出来るんだぜ?
249名無しさん@ピンキー:2009/06/26(金) 19:59:45 ID:8F4zJXnO
視野は狭まったんじゃない。分かれただけだ。
あとはわかるな?チームワークだ
250名無しさん@ピンキー:2009/06/30(火) 17:33:45 ID:TyaZpT4R
実生活でも、裸眼とフルフェイス被った状態での視野の違いは結構大きい。
それがどこから来るか解らない敵に一瞬の判断を要求される戦場では余計に大きな差になるのは明らか。

まぁ目・頭の保護という意味で、バイザーやヘルメットは必須装備となるんだろうけど。
251名無しさん@ピンキー:2009/06/30(火) 18:38:13 ID:myeHMevB
レーダーや各種メーターをバイザーに映せるんじゃないか?
思念誘導なんてのがあるぐらいだから、バイザーにも戦況を把握・分析するための凄い機能がたくさんありそう

酸飛ばしてくるから目だけは絶対に守らないといけないし、バイザーは必須だと思う
252名無しさん@ピンキー:2009/06/30(火) 18:39:21 ID:qqa4Bs6U
俺としては、戦場で腕まくりしているような奴には言われたくないぞw
253名無しさん@ピンキー:2009/07/06(月) 09:54:33 ID:tuVrxlPH
保守
254名無しさん@ピンキー:2009/07/07(火) 17:12:34 ID:aVWZXX0q
グレシャムの法則か
余りにも残念だ
255名無しさん@ピンキー:2009/07/13(月) 14:00:09 ID:V7DZAsDZ
保守
256第11話予告:2009/07/19(日) 22:54:49 ID:XFYn1XcB
新種の蜘蛛型巨大生物の第1波は殲滅できたが、敵のキャリアは"蜘蛛"を次々と投下してきた。
敵の物量に押され、我々は一時的な撤退を余儀なくされた。

ちなみに解析班により、奴らには”凶虫バゥ”という認識名が与えられたが、我々実戦部隊は奴らを"蜘蛛"としか呼ぶ事はなかった。

また解析班は、奴らは驚異的な戦闘能力を持っているから気をつけろ、と言ってきたが、そんな事は一戦交えた我々には無用なセリフだ。
既に数名の有能な隊員達が奴らの餌食になってしまった。

補給を終えた我々は”蜘蛛”に占拠された市街地へとに向い、街の奪還作戦を開始した。

次回 The地球防衛軍2 『凶虫大挙』
全ての敵を殲滅せよ!
257名無しさん@ピンキー:2009/07/20(月) 00:28:12 ID:25+tu4H/
縛りプレイで今凶虫大挙に苦戦してるぜ…
258名無しさん@ピンキー:2009/07/20(月) 09:33:45 ID:qgqtZn8N
>>256
『捕われの翼』の続きが読みTEEEEEEE!!
マザーシップとどう戦うのかとか、2に繋げるのか兎に角期待しているから保守は任せろ
259名無しさん@ピンキー:2009/07/20(月) 12:43:59 ID:LfR72v6E
ええいチェリーブロッサムはまだか!
260名無しさん@ピンキー:2009/07/22(水) 14:33:57 ID:P55Zql1V
いつまでも待ち続けるさ……
261名無しさん@ピンキー:2009/07/26(日) 11:49:06 ID:j4UHyKA5
E
262名無しさん@ピンキー:2009/07/27(月) 08:21:57 ID:AWsZ7VMm
気持ち〜
263名無しさん@ピンキー:2009/08/02(日) 07:02:08 ID:A0PpLZfv
D
264名無しさん@ピンキー:2009/08/03(月) 16:42:47 ID:Usr6D5V1
R
265名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 23:47:29 ID:UlhPZZfj
E
266名無しさん@ピンキー:2009/08/05(水) 23:50:46 ID:bi8fhL9k
D
267名無しさん@ピンキー:2009/08/06(木) 14:11:49 ID:RLnq4YR3
268名無しさん@ピンキー:2009/08/11(火) 01:04:38 ID:1OvRi9Yd
E・D・F! E・D・F!
269名無しさん@ピンキー:2009/08/16(日) 00:35:20 ID:M+hUjTfw
E・D・F! E・D・F!
270伝説の陸男:2009/08/16(日) 16:44:31 ID:GlX3O04Z
さっき皇帝都市落としたよ。
もちろんあの子も一緒さ。
271easyでも油断すると・・・・・・ 1/2:2009/08/17(月) 02:41:45 ID:61I5eFeS
「捕らわれの翼」まで暇つぶしがてらに。
エロ(?)グロ注意。


醜怪な巨大生物に埋没した市街地の上空を、ペイルウィング隊員が飛ぶ。
その眼下では間断なく大蜘蛛が蠢き、奇声を放っていた。
あちらこちらで爆発が起こり、紫色の飛沫が上がっているのは、
すでに陸戦兵たちが戦闘を開始している証だろう。
彼女は、レイピアを握り締めると、
一際大蜘蛛の密集している一角へ飛び込んだ。
アーク刃の嵐が大蜘蛛を切り刻む。
年若のペイルウィング隊員は手馴れた様子で、巨大生物で屍山血河を築いた。
最初のころはその姿に慄きもしたが、今となっては魚を捌くよりも容易い。
もはや彼女にとって巨大生物は恐怖の対象ではなく、
駆逐すべき嫌悪の対象だった。
目に付く大蜘蛛をあらかた切り刻み、一息ついたとき、
ビルの陰から現れた大蜘蛛が、彼女に糸を吐きかけた。
幸い素肌には張り付かなかったため、致命傷は免れたが、
動きを奪うその糸に、彼女は鬱陶しさを覚えた。
レイピアを握り締め、大蜘蛛に肉薄する。
至近距離で木っ端微塵にするのだ。
生意気な巨大生物は、特に惨たらしく駆除してやる。
そんな思いが彼女を軽率にさせた。
272easyでも油断すると・・・・・・ 2/2:2009/08/17(月) 02:43:46 ID:61I5eFeS
糸の主に飛びつく瞬間、背中を突き飛ばされるような、
強い衝撃を感じた。
振り返ると、寄ってきた新たな蜘蛛たちと、
その尻先から放たれた糸があった。
糸は、彼女の体を捕らえていた。
「逃げないと!」、そう考えた彼女は、
飛行ユニットを噴かして空に逃げようとした。
だが、糸が邪魔をして思うように高度がとれない。
そのまま糸に引き摺られ、彼女は地上に叩き落とされた。
糸にまみれた彼女に、大蜘蛛が殺到する。
彼女の中に、巨大生物への恐怖が蘇り、瞬時に全身を支配した。
大蜘蛛は我勝ちに彼女へと牙を突き立てる。
乳房の間や細く引き締まった腹部にも容赦なく毒牙が埋まっていった。
皮膚を破られ、肉を引き裂き、内臓を乱暴に引っ掻き回す激痛に、
彼女は身を捩り、泣き喚いた。
だが、痛みに悶え苦しみながらも、彼女の脳は激烈な興奮を感じ、
下腹部に収められた女の器官は、目茶苦茶に揉み潰されながら、
不可解な疼きを感じていた。
一匹の大蜘蛛が彼女の股間に、口吻の間から伸ばした突起を突き込んだ。
震えるような断末魔の悲鳴を上げると、
彼女は、脳内で炸裂した感覚の爆発に呑み込まれ、
果てて、絶えた。
痙攣する彼女の肉体を、大蜘蛛たちは原型が無くなるまで引き裂き、漁り続けていた。


エロパロ書くのは初めてだから、どうも勝手がわからん・・・・・・。
273名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 11:25:33 ID:6+CvvuBo
>>272よくやった。何でも好きな酒を飲ましてやるぞ
274名無しさん@ピンキー:2009/08/17(月) 18:22:49 ID:+M+vyHLb
GJ!!
ペリ子はこうじゃないとな。
275easyでも泥酔すると・・・・・・ 1/5:2009/08/19(水) 01:59:52 ID:jTtLtM7l
>>272に着想を得て。
やっぱりエロ(?)グロ注意。


EDF本部に流れる一時の安穏を、警報の音が切り裂いた。
夜陰と共に、巨大生物の群れが市街地を襲い、大混乱を引き起こしているというのだ。
戦闘もさることながら、市民の誘導のため、EDFの動きうる全隊員の出動が命じられた。
非戦闘部門さえも総動員される事態の中、
戦闘の要となるペイルウィング隊の慌しさは、語る必要もないほどであった。
足の速いものから、次々と武器格納庫に駆け込み、
装備を選択して、戦場へと飛び立っていく。
その騒ぎが一段落したころ、一人のペイルウィング隊員がフラフラと、
歩みよりも遅い速さで走ってきた。
制服はヨレヨレに着崩れ、手袋をしておらず、
足元はなぜか、左だけ一本歯の下駄である。
格納庫の前で、怒気を隠そうともせず仁王立ちしていた、
上官らしき女性が、その姿を認めた。
「遅い! 他の隊員はもう出動したぞ!」
「ハイ! 申し訳ないでアリマスでございます!」
叱咤の声が飛び、彼女はそれに答えるも、声に締りがない。
「何だ! そのだらしない格好は!
それにおまえ……、酒臭くないか!?」
「ハイ! 大丈夫でアリマスでござそうろうでございます!
非番だったので飲んでいたのでアリマスでござる!
でも、ダイジョウブでアリマス!
戦えるでございますよ!」
だが、その語りは呂律が回っておらず、答えながらも体が左右に揺れ続けている。
その有様に、上官らしき女性はうんざりした様子で命じた。
「お前は今日はダメだ。部屋に帰って寝ていろ。
お説教はまた後でしてやる。
というか、そもそもお前、成人していたか?」
「青春時代など、あとから夢のようにホノボノ思うものであります!」
意味不明の答えを返しながら、彼女は武装に飛びついていた。
上官らしき女性の制止を振り切り、適当な武器を引っ掴む。
酔っている上に武器を手に取られては、近づくのも危険である。
遠巻きに浴びせかけられる怒声をものともせず、
彼女は、テラス状になった出撃口から、夜空へ勢い良く飛び出していった。
276easyでも泥酔すると・・・・・・ 2/5:2009/08/19(水) 02:02:57 ID:jTtLtM7l
戦うEDF隊員と、避難誘導するEDF隊員と、
混乱してわけもわからず走り回る一般市民と、荒れ狂う巨大生物。
彼女は混沌を極めた市街地を眺め下ろす。
その左足は、すでに素足となっていた。
ここまで飛んでくる途中、どこかに下駄を落としてきたのだった。
彼女は適当な狙いをつけて、雷撃銃を放った。
体液を噴き上げ、絶命する巨大生物の悲鳴に混じり、
明らかな人間の悲鳴が上がる。
だが、彼女はそれを「不運」の二字で片付けた。
これだけゴチャゴチャしているのだ、誤射ぐらいはしかたない、と。
相変わらず、一条の閃光に撃たれただけで絶命する巨大生物の脆弱さに、
彼女は笑いを堪えきれなくなった。
哄笑を夜空に響かせながら宙を舞い、雷撃を放つ。
また、巨大生物の断末魔の叫びと、誰かの悲鳴が月に響く。
無敵を疑うことなく、その優越感に酔いしれる彼女に、
まもなく手痛いしっぺ返しが来た。
277easyでも泥酔すると・・・・・・ 3/5:2009/08/19(水) 02:03:48 ID:jTtLtM7l
彼女は、また新たな狙いを見つけ、トリガーを引いた。
だが、その銃口は輝くことなく、
また彼女自身も重力に引かれて落下していることに気がついた。
飛行しながら雷撃を乱発したため、エネルギーが底をついたのだ。
酔ったままであったため、警告音も耳に入らず、
がむしゃらに撃ちまくった結果だった。
彼女は自分の現在の状況を理解する間もなく、
無防備のまま巨大生物の渦に落ちていった。
突如落下してきた獲物を、巨大生物が見逃すはずはなかった。
たちまち彼女に、恨みを晴らすかのように襲い掛かった。
咄嗟に雷撃銃をうち捨て、レイピアに指を伸ばすも、
酔いのため、不如意になった手はレイピアを弾き飛ばし、
巨大生物の群れの中に放り込んでしまった。
殺到した巨大生物は、彼女の制服に牙を立てると、
次々に引き裂いていった。
だが、いずれの牙も、彼女に致命傷を与えようとしない。
着衣を剥ぎ取ると、一定の距離を置いて取り囲んだ。
彼女は、巨大生物の意図を察した。
こいつらは、自分を嬲り殺しにするつもりなのだ。
揉みくちゃにされた彼女の脳裏に、いつか見た悪夢が甦った。
全身に毒牙を突き立てられ、無残に引き裂かれ、
貪り喰われていく、あの夢を。
恐怖が全身を支配し、意識を酩酊の境から引きずり戻した。
声にならない悲鳴を漏らしつつ、彼女は逃走を試みる。
だが、腰が抜けて立ち上がることが出来ない。
血の気が引いた白い裸身を晒しつつ、彼女は四つん這いになって逃げようとした。
敵に、背ならぬ、剥き出しの尻を向け、無様に這い進む。
だが、その背後から近づいた大蟻が、彼女の右太腿に噛み付いた。
傷は深くはないようだが、噴き出した血と激痛に、
錯乱した彼女は、悲鳴を上げてのた打ち回った。
278easyでも泥酔すると・・・・・・ 4/5:2009/08/19(水) 02:05:15 ID:jTtLtM7l
その様子を巨大生物たちは、感情の読み取れない顔に、
あきらかな喜色を浮かべて眺めている。
巨大生物の包囲の輪が、狭まった。
思考能力を失いかけた彼女の手に、固いものが当たった。
目をやると、それはさっき自分が放ってしまったレイピアだった。
彼女の心に、生還の光が差した。
レイピアならば、チャージしてあるエネルギーがあるから、使用可能なはずだ。
それを使って巨大生物の囲みを破り、付近の仲間に救助してもらうのだ。
彼女はもはや、全裸で仲間の前に躍り出る羞恥心をも忘れていた。
生き残るために。
また包囲の輪を狭めた巨大生物の一角に、彼女はアーク刃の嵐を撃ち込んだ。
瞬時に巨大生物の体液が噴き上がり、千切れた脚や甲殻の破片が撒き散らされる。
酸性を帯びた体液が肌を濡らし、全身にヒリヒリとした痛みを催させる。
思わぬ反撃に混乱を起こした巨大生物の群れを見て、彼女は成功を確信した。
痛む右脚に力を込めて立ち上がると、傷口から鮮血が噴き出した。
激痛に目が眩みそうになりながらも、レイピアを振り回し、突破口を広げる。
巨大生物が崩れ落ちたその先に、そう遠くない位置に、
ロケットランチャーの発砲炎が見えた。
「助かる」、生還への希望が、酸で赤く焼かれた体を突き動かす。
右脚を引きずり、発砲炎の発射元へ近づこうとしたときだった。
巨大生物の間をすり抜けて、火を噴く何かが、
まっすぐ、彼女に向かって飛び込んできた。
巨大な矢のようなその物体は、彼女が何ごとかと認識するより早く、
彼女の胸に突き刺さり、臓腑を潰し、骨を砕き、先端が背中を突き破った。
衝撃が全身を貫き、悲鳴を上げることさえ出来ない。
噴き出した血が視界を潰し、意識を暗闇に引き擦り込まれていくなか、
彼女は自分の胸に刺さったものの正体に気づいた。
「ロケットランチャーの、弾体だ」、彼女の思考は、そこで停止した。
ロケット弾の信管が作動し、彼女の体は、大きく引き裂かれた。
発生した衝撃波が、巨大生物もろとも、その細い体を木っ端微塵に粉砕し、
バラバラに引き裂かれた肉体は悉く焼き尽くされ、炭塊となった。
279easyでも泥酔すると・・・・・・ 5/5:2009/08/19(水) 02:06:36 ID:jTtLtM7l
彼女はそれが何故なのかを考えることはできなかった。
だが、死ぬ前に彼女は、本人も気づかぬうちに、その原因を理解はしていた。
「不運」の二字である。
敵味方がゴチャゴチャと入り混じったなかで起こった、
しかたのない、誤射による事故なのであった。
見る影もなく、炭化した肉片となった彼女を踏み潰し、
ロケットランチャーを抱えた陸戦兵が駆けて行く。
彼もまた、味方による誤射に怯えながら。
280名無しさん@ピンキー:2009/08/19(水) 02:10:23 ID:jTtLtM7l
味方からの誤射って危ないヨネ……。
281名無しさん@ピンキー:2009/08/20(木) 07:28:57 ID:dJtc9jUQ
>>280
君の働きに感謝する
282名無しさん@ピンキー:2009/08/23(日) 08:56:40 ID:2SjJri1r
久々に来てみたらリョナ作品が乙
283特殊合金の秘密 1/4:2009/08/25(火) 01:51:47 ID:sQTAwsoa
EDF本部のモニターには、巨大な蟻の姿をした生物と、
EDF隊員たちの死闘が映されていた。
蟻の尻から噴き出された体液が戦車にかかると、
装甲が崩れるように溶け落ちた。
「気をつけろ! 巨大生物の吐き出す体液は、強力な酸だ!」
恐るべき威力を目の当たりにした隊員の声が響く。
「こんな装備じゃ、ひとたまりもないぞ!」
勝負にならないと見て逃げ出す隊員たち。
オペレーターが、通信機を介して必死に制止するが、効果はない。
駆け出した女性隊員の背後から、巨大生物の体液が浴びせられた。
「キャアッ!」
オペレーターは無残に溶け崩れる同性の姿を、
その目に焼き付ける・・・・・・はずだった。
巨大生物の体液を浴びた女性隊員は、なぜか制服のみが溶け落ち、
あられもない姿を衆目に晒すことになった。
284特殊合金の秘密 2/4:2009/08/25(火) 01:52:44 ID:sQTAwsoa
「よしッ! 成功だ!」
オペレーターの背後で歓喜に満ちた声が上がった。
振り返ると、白衣を着た壮年の男が満面の笑みを湛えて立っていた。
「博士、なぜここに? っていうか、成功って何?」
疑問符を浮かべまくるオペレーターに、
博士は嬉しさを隠し切れない様子で語った。
「何って、巨大生物の体液で溶ける特殊合金と特殊繊維だよ、キミィ」
要領を得ない様子のオペレーターを無視して、
博士は自慢げに説明する。
「巨大生物に襲われて×××なことをされる女性隊員!
これはまさに、男子たるものの夢!
だが巨大生物の前で女性隊員が都合よく衣服を脱ぎ捨ててくれる状況など絶望的!
ならば、そのような状況にするのが科学者たるものの務めではないか!
わたしは三十五年と八ヵ月と二十六日をかけて巨大生物の体液に反応して溶ける、
新たな特殊合金と、その原理を応用した特殊繊維を開発したのだ!
そしていま、わたしの理論は正しかったと証明されたのだ!」
自分に酔いしれたように高笑いを上げた博士を見つめるオペレーターの目が、
段々と険悪なものに変わっていく。
「これを上に通すのにも一苦労だったのだぞ。
溶解するという特性をある者には明かし、ある者には伏せて、
ようやく手に入れた正式採用という日の目だ!
いや〜やっぱ、人生って報われ」
博士の言葉は、彼の口から飛び出した濁音によって遮られた。
オペレーターの拳が鳩尾に埋まっていた。
285特殊合金の秘密 3/4:2009/08/25(火) 01:53:43 ID:sQTAwsoa
「ぐ、ベぇぇ・・・・・・ッ」
蛙のような声を上げてひざを突いた博士を、オペレーターが見下ろす。
「何が夢よ! なにが日の目よ!
命がけで戦ってる隊員達を玩具にして心は痛まないの!?」
「偉大な成功のためには、犠牲がつきものなのだよ・・・・・・」 
腹を抱えたまま彼女を見上げ、博士はニヤリと笑った。
本人はニヒルを気取ったつもりだったが、
その不気味に歪んだ顔がオペレーターの神経を逆撫でる。
「気持ち悪いッ! この変態!!」
スカートが捲れかえるのにもかまわず、彼女は博士の顎に渾身の蹴りを入れた。
「オブゥッ」と叫び、血と唾液を撒き散らして、博士は後ろに倒れこんだ。
怒りの冷めやらぬ面持ちで彼を見下ろすオペレーターに、
博士はなおも余裕を湛えた目で彼女を見上げた。
「何! まだ何か言い訳があるの!?」
286特殊合金の秘密 4/4:2009/08/25(火) 01:55:28 ID:sQTAwsoa
「・・・・・・もっと」
「何!?」
「もっと蹴ってくれ! もっと強く! 激しく!」
頭の中の何かが弾ける音を聞き、彼女は全力で博士に爪先を叩き込んだ。
「気持ッち悪いわね! このド変態!
アンタなんか、キロ五十円の細切れ肉になって巨大生物の餌になっちまえよ!」
「ああ、そうそう・・・・・・。
もっと、もっと激しく罵って」
「死ね!」
全力で飛び込んできた爪先を文字通りに喰らい、
博士は顔面から歯の砕ける音を吐き出して、沈黙した。
その後のオペレーション室には、壮絶な修羅場が繰り広げられた。
モニターに映された映像には、裸で逃げ惑うEDF隊員たちの姿があった。
287名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 14:10:17 ID:HWlc+Yh0
もう同じ奴着せて戦場に放り出せよこの博士www
まぁ非武装ってのもかわいそうだから、SNR-XとAS-20SSSくらいは支給してやろうぜ
予備弾倉? 博士の体力でそんなもん抱えて動けるわけが無いでしょうww
288名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 14:16:21 ID:FQVee/Jw
鳩尾吹いた
GJw
289名無しさん@ピンキー:2009/08/25(火) 19:22:36 ID:qeGkz4d5
服だけ溶けるなら、これを普通のスーツの上に着込めばリアクティブアーマーとして実用化可能かと。
290百目鬼 朝男一等陸佐:2009/08/29(土) 16:01:10 ID:CJ/yZQTT
 ご苦労でしたっ。・・・確かに実用化できますか・・・増加装甲として。
・・・コイツ(博士)を本部から弾き出せっ!渡す銃弾でさえ勿体無いぐらいだっ。
291ペイルウイング物語−落日編−:2009/09/08(火) 02:42:35 ID:8s97SW6l
 
 彼方の空に一点の染みが生じたかと思うと、それは徐々に大きくなり、やがて見慣れたキャリアーの姿となった。
 凶悪な巨大生物を戦地に運び込む、侵略者の主力空母である。
 物質転送装置の移動ターミナル、もしくはミクロ化した昆虫兵器を満載した輸送機ともいわれるが、その実体は不明である。
 いずれにせよ大量の昆虫兵器を投下するキャリアーが、撃破優先度の上位にあることは間違いない。

 先だって行われたバトル・オブ・ブリテンは熾烈を極めた。
 これは空母を市街へ入れるために倫敦上空を制圧しようとした敵と、それを阻止しようとした人類の間に生じた摩擦であった。
 その結果、敵は倫敦の制空権奪取に失敗し、空母を市街上空に進出させることはできなくなった。
 目下、侵略者にとって安全圏と呼べるのは、ギリギリこのウィンザー辺りまでである。

 出現したキャリアーはありったけの赤アリを吐き出すと、一目散に西へと離脱していく。
 投下された赤アリは一塊りになっていたが、長い横隊を形成すると智恵理へ向かって一斉突撃を開始した。
「赤波……」
 赤い津波は智恵理を飲み込もうと、大きくうねりながら押し寄せてくる。
 ハラワ峡谷以来となる赤波との対面に、智恵理は懐かしいものすら覚えた。
 恐怖感など全く無かった。
智恵理はプラズマ・ブルームを構えると、雄叫びを上げて寄せくる波に飛び込んでいった。

 身の毛もよだつ絶叫が連続し、赤アリが片っ端から蹴散らされていく。
 プラズマ・ブルームの威力は確かであった。
 Gスラストも凄いと思ったが、プラズマ・ブルームはそれすら凌駕している。
 四方から押し寄せる敵に対して、ただクルクル回っているだけで対処することができた。
 まるで死んでいったエースたちの魂が乗り移ったかのような切れ味である。
「これは経験のない隊員に任せられない訳だよ……」
 余りに強力なプラズマアークの刃は、むやみに振り回すことにより味方をも簡単に全滅させてしまうであろう。
 そんなことを考えているうちに、サーバ内のエネルギーを撃ちきってしまう。
 チャージに入るとエナジーゲージがガクンと落ち、30パーセント以上のエネルギーが失われた。
 通常のレイピアなら0.5秒で再装填されるところだが、プラズマ・ブルームのサーバーは直ぐには満腹にならない。
292ペイルウイング物語−落日編−:2009/09/08(火) 02:43:09 ID:8s97SW6l
 智恵理は間合いを取ろうと、荒れ地を飛び出て外周道路まで敵を誘致した。
 障害物がなく、足場もよいアスファルトの上を走っていると、独特のアラームがして再充填が完了した。
 チラリと振り返ると、障害物に阻まれた敵はプラズマ・ブルームの射程を大きく外れている。
 智恵理は走りながら武器をサンダーボゥ20Rに持ち替え、振り向きざまに連射した。
 追走していた赤アリどもが、黄色い体液を吹き上げて絶命する。
 オリンピックのマラソン選手並みの走力を誇る智恵理は、逃げながら次々に赤アリを落伍させていった。
 智恵理が外周道路の北西角まで走りきった時、赤波は完全に壊滅していた。
 走ってきた道を振り返ると、赤アリの死骸が累々と横たわっている。

「フゥ〜ッ、フゥ〜ッ……」
 流石に息の上がった智恵理は、肩を大きく上下させて呼吸を整える。
 迎えを寄越して貰おうと考えていると、レーダーが敵の第二派の到来を告げた。
 事態は大群進撃の様相を呈してくる。
「あたし、これでも病み上がりなんだよ。少しは遠慮というものを……」
 軽口をたたく智恵理だったが、フィールドの対角線上の空に幾つもの点を見つけて押し黙った。
「ゲッ……羽根アリ。あいつら嫌い」
 変則的な飛び方で宙を舞い、上空から酸を吐きかけてくる羽根アリは地味に手強い。

 バイザーを上げて額を拭うと、肩のストラップに掛けていたヘブンズ・ゲートαが小さく揺れた。
『あたしを使って……』
 小さな金属の固まりが、そう語りかけてきたような気がした。
「そう……アンタも戦いたいのね……」
 智恵理はヘブンズ・ゲートαを引き抜くと、そっとさすってみた。
 そしてグングン大きくなっていく羽根アリの群を睨み付ける。

「よぉ〜し、頼んだわよBB。ヘブンズ・ゲートα、いっけぇぇぇーッ」
 全力で投擲されたヘブンズ・ゲートαが、羽根アリの突撃進路上で空中停止する。
 一瞬の沈黙の後、突如として光の柱が虚空に出現した。
 眩い光の柱が林立する様は、さながらパルテノン神殿の外壁か。
 否、それこそ雲上にあるという、天国への入り口を想起させる荘厳な美しさに溢れていた。
 そこに羽根アリの群が突入してくる。
 彼らは智恵理の姿しか目に入らないかのように真っ直ぐに降下し、林立する光の柱に激突した。
293ペイルウイング物語−落日編−:2009/09/08(火) 02:43:42 ID:8s97SW6l
 魂も凍りつきそうな絶叫が轟き渡った。
 光の柱に引っ掛かった羽根アリは、未知のエネルギーに灼かれてバタバタと地面に落下していく。
「…………!」
 想像を絶する光景を前に、智恵理は、ただ呆然と立ちつくすのみ。
 やがて光の柱が薄れていき、エネルギーを失ったヘブンズ・ゲートαは智恵理の元へと帰還した。
 その時には、アスファルトは焼け焦げた羽根アリの死骸で埋め尽くされていた。

 支援兵器の破壊力は、献体者の使用者に対する思いの強さに比例するという。
 今更ながら智恵理は、ベアトリーチェの自分に対する愛情の深さに感動した。
 思えばあのバルキリー大佐も、いつも無意識に肩に吊したパンドラをさすっていた。
 あの中には、大佐の思い人の一部が詰まっていたのだ。
 急に大佐がもの凄く身近な存在になったような気がした。
「ありがとね……」
 智恵理はヘブンズ・ゲートαに頬ずりすると、また元のストラップに結着した。

 感動に浸る暇もなく、レーダーが新たな反応を捉える。
 地平線の彼方に無数の凶虫バゥが飛び跳ねているのが見えた。
 しかし智恵理に怖ろしいという感情は湧いてこなかった。
 もう一人きりではないのである。
 常に可愛いベアトリーチェと一緒だと思うと、怖いものなど何もない。
「イクよ、BB」
 智恵理はヘブンズ・ゲートαに優しく語りかけると、地平線目指してユニットを全開させた。


 凶虫バゥの群はジャンプしながら智恵理の方へと殺到してきた。
 噂に聞いた高重力惑星で養殖された新種なのであろうか、ジャンプの飛距離が異様に長い。
 血に飢えた巨大蜘蛛たちは、アッという間に智恵理を射程に捉える。
 そして次々に毒糸を飛ばして獲物を絡めとろうとする。
 一発喰らえば地獄へ直滑降。
 毒糸の前にはアーマーの厚さは意味を持たない。

 だが、智恵理はあくまで冷静だった。
 発射角度を見極めると、バックジャンプで一本また一本と剣呑な毒糸をかわしていく。
 突出してくるバゥには、空中からサンダーボゥ20Rをお見舞いする。
 目にも止まらぬ高速連射の前に、さしものバゥも弾け飛ぶ。
 体液の飛沫が飛び散り、空気が紫色に染まる。
 サーバー内のエネルギーを撃ち切ると、大きいジャンプで一気に間合いを開く。
 そうやってバゥの群を外周道路へと導いていった。
294ペイルウイング物語−落日編−:2009/09/08(火) 02:44:16 ID:8s97SW6l
 外周道路は障害物が無く、後ろ向きになったままでも背後を気にすることなく走れる。
 しばらく走っているとバゥに追いつかれる前にサーバーが回復した。
 同時にサンダーボゥの乱射を再開する。
 それを繰り返しているうちに、バゥはズンズンと数を減らしていった。

 ようやくレーダーの赤点が残り1個になった時、智恵理は異変に気付いた。
 バゥの進撃がピタリと止まっていたのである。
「…………?」
 智恵理は戸惑いながら立ち止まり、肩で大きく息をする。
 奇襲に備えて安全距離だけは保っていた。
 改めてバゥを見て、智恵理はアッと驚いた。
 待機モードに入ったバゥの背中に人間が立っていたのである。
 黒い全身タイツ式のスーツに黒いヘルメット、そして同色のマント。
 もはやお馴染みになった出で立ちである。

「エイリアン・ウォーシッパー……」
 智恵理の目が険しくなった。
 恨みのウィンザーで仇敵と遭遇するのも何かの縁かもしれない。
 彼女には恩師の受けた恥を雪ぐ義務があった。
 サンダーボゥの銃口がゆっくりと上がっていく。
「お待ちを……」
 形の良い唇が動き、落ち着いた口調の声が発せられた。
 智恵理はビクッと身を震わせたが、取り敢えず敵に殺気がないことを理解して銃を下げる。
 エイリアン・ウォーシッパーの女は満足そうに唇の端を吊り上げると、ゆっくりとヘルメットを脱いだ。

 ハッとするほどの美人であった。
 彫りが深く浅黒い肌、緩くウェーブのかかった黒髪は南米系のものであろうか。
 目を閉じたままなので、瞳の色までは分からない。
「私はアコンカグヤ……今日はあなたに用件があって参りました」
 自ら名乗りを上げた女は恭しく頭を下げた。
「アコンカグヤ……聞いたことある名前だ……」
 確か、逆脱走した春嶺尼の追っ手に、そんな名前の能力者がいたような気がする。
「……で、あたしに何の用なの?」
 智恵理は細心の注意を払って相手の挙動を見張る。
295ペイルウイング物語−落日編−:2009/09/08(火) 02:44:47 ID:8s97SW6l
「あなたは我々の敵ではありません。直ぐにこの不毛な戦いから手を引いて下さい」
 口調は柔らかいが、発している内容は脅迫そのものである。
「なに、それってあたしに敵前逃亡しろってこと? 冗談じゃないわ。アンタ達こそ降参したらどうなのっ」
 智恵理は怒りの感情を叩き付ける。
 しかしアコンカグヤは眉一つ微動だにさせなかった。
「さぁ、私と共に参りましょう。あなたの犯した罪は重大ですが、今なら三角木馬の刑くらいで許してもらえるでしょう」
 そう言ってアコンカグヤはクスクスと笑った。
「ふ、ふざけないでっ」
 智恵理は三角木馬に跨ってハァハァしている自分を想像し、真っ赤になって激怒した。

「どうやら説得は無駄のようですね」
 交渉が決裂したと判断した途端、アコンカグヤが瞼を開いた。
 露わになった瞳に青白い燐光が灯る。
 同時にサンダーボゥ20Rが火を噴いた。
 アコンカグヤが乗っていた凶虫バゥが爆発し、飛び散った体液が智恵理の体を紫に染める。
「くっ……」
 智恵理は小さく罵り声を上げ、剥き出しになっている肩口から二の腕をグラブで拭った。
 バゥの体液にも酸が含まれているのか、肌がヒリヒリと痛む。
「火傷した?」
 素肌の部分に無数の水疱ができていた。

 異変は唐突に始まった。
 二の腕にできた水疱が大きく膨らみ始めたのである。
「ひっ?」
 智恵理が驚いていると、水疱はゴルフボール大に膨張し、やがて自然に弾けた。
 破れた皮膚の下から、ドロリとしたリンパ液と共に何かが突き出てきた。
 爪楊枝ほどの太さの棒が8本。
 最初、智恵理にはそれが何か分からなかった。
 その正体が分かったのは、皮膚を破って小さなクモが飛び出してきた後であった。
「ヒィヤァァァーッ」
 絶叫を上げる智恵理の目の前で、水疱が次々に破れていった。
 ゴルフボール一つにつき、一匹の子グモが飛び出てくる。
 しかも破れた水疱の下から、次々と新しい水疱が盛り上がり、無限にクモの子供を生み出す。
296ペイルウイング物語−落日編−:2009/09/08(火) 02:45:21 ID:8s97SW6l
「ひぃっ、たっ、卵ぉ……いつの間に産み付けられ……ひぃぃぃ〜ぃぃっ」
 全身に痒みを覚えた智恵理は武器を放り出し、ペイルスーツとボディアーマーをかなぐり捨てる。
 案の定、疱疹は体中にできていた。
 猛烈な痒みを我慢できずに掻きむしると、全身の水疱から子グモがポロポロと生まれ落ちる。
「ひぃやぁぁぁ〜ぁぁっ」
 信じられない出来事を前に、智恵理は完全にパニックに陥ってしまった。
 地面に落ちたクモの群は、見る見るうちに手のひらサイズになって智恵理の体に這い上がってくる。
 そして股間に柔らかい部分を見つけ、そこに群がりだした。
「ひくっ……は、入って来ちゃう……いやぁぁぁ〜っ」
 智恵理は前後のホールに潜り込もうとするクモを払い落とし、必死になって踏みにじっていく。
 アスファルトの上はたちまちクモの死骸だらけになった。
 あらかたのクモを踏みつぶしたとみるや、智恵理はその場から逃げ出そうと身を翻した。

 ところが、何歩も走らないうちに何かに足を取られて倒れてしまう。
 俯せになったまま振り返ると、人間大にまで成長したバゥの幼体がいた。
「…………!」
 ブーツの足首に毒糸が絡み、ブスブスと煙を上げている。
 バゥの幼体はゆっくり智恵理に近づくと、無遠慮に尻に跨ってくる。
 尾部からは粘液にまみれた産卵管が露出していた。
 産卵管が適所を求めて尻の谷間を探り始める。
「い、いやぁ……やめ……」
 智恵理は相手の意図を理解し、悲鳴を上げて尻を振り乱す。
 しかしガッシリと腰を押さえられていては逃げ出すことはできない。
 やがてアヌスを探り当てた管の先端がピタリと止まる。
「ひっ……ひぃっ……」
 智恵理が身悶えした次の瞬間、野太い産卵管がアヌスを貫き通した。

「ひぎゃぁぁぁ〜ぁぁっ」
 掃除機のホースほどもある管がアヌスを割り、強引に直腸内に進入してくる。
 粘膜が断裂したのか、焼け付くような痛みが走った。
 もの凄い悲鳴が上がったが、バゥがそんなものを斟酌するはずもない。
「……はぐっ……はぐぅぅぅ……う、動かさないでぇぇぇ〜っ」
 クモ自体は動いていないのだが、管の中をゴツゴツした物が幾つも移動していくため、そのたびアヌスが強制開閉させられる。
「産み付けてる……あたしの腸に卵を産み付けてる?」
 余りのおぞましさに全身の産毛が総立ちになる。
297ペイルウイング物語−落日編−:2009/09/08(火) 02:45:59 ID:8s97SW6l
 それでも粘液に何らかの酵素が含まれていたのだろうか、いつしか痛みは失せて、別の感覚が疼きとなって湧き上がってくる。
「か……かはぁぁぁ……あたし……あたし、バゥのメスに犯されて興奮してるぅ……」
 いつしか智恵理はロングブーツとグラブだけのエロティックな格好で、尻を振り乱して悶えまくっていた。
 バゥの苗床にされ、感じている場合ではないと分かっているのに、無限に込み上げてくるA感覚はどうにもならなかった。

 何度目かのクライマックスを迎えた時、バゥの産卵管は一方的に引き抜かれた。
「あ……あン……」
 抜かれる時の感覚が一番気持ちよく、智恵理は鼻声を上げて不満そうにバゥを振り返る。
 しかし振り返った途端、ひそめられていた眉がたちまち開く。
 そこに巨大な生殖器官を露出させたオスのバゥが待機していたのである。
「は、早くぅ……早く受精させてぇ」
 智恵理は自らヒップを持ち上げると、バゥを誘うように嫌らしくくねらせる。
 そして、尻にのし掛かってきたバゥが生殖器をアヌスに挿入するのを、開いた股の間から期待を込めた目で覗き見た。



 アコンカグヤの足元に、失神した智恵理が俯せに横たわっていた。
 時折、思い出したように体をピクピクと痙攣させている。
 目は焦点を結んでおらず、意識は完全に飛んでいるようであった。
 そこに3人の黒ペリ子が現れ、智恵理を取り囲むように着地した。
「ホホホホッ、流石は幻惑のアコンカグヤ。エロ娘のだらしないこと」
 イングリッドが憎々しげに顔を歪め、智恵理の横腹を蹴り上げた。
 智恵理の体が半回転して仰向けになる。
 スカートの裾が割れ、グショグショになったボディアーマーのクロッチ部が露出した。
 それでも幻想世界の住人となった智恵理は、目を覚ます気配すら見せない。
 だらしなくヨダレを垂れ流し、艶めかしい呻き声を上げていた。

「ヒャハハハッ、早いとこ片づけちまおうよぉ。今なら赤子の手を捻るよりも簡単だよぉ」
 アスラがプラズマソードを引き抜き、エネルギーの刃体を閃かせた。
 今一人、ネイティブ・アメリカンのマニトウは、値踏みをするように黙って智恵理を見下ろしていた。
 凶虫バゥの生き残りが我慢しきれないように牙を伸ばすが、マニトウが手で制すると大人しく引き下がる。
 万物の精霊と交感できるマニトウは、異星の凶虫すら手なずけているのだ。
「陰毛の一本もこの世に残しゃしないよぉ」
 アスラがプラズマソードを振りかざし、イングリッドが舌なめずりする。
 光の刃が振り下ろされようとしたまさにその時、背後からアスラを制止する声がした。
298ペイルウイング物語−落日編−:2009/09/08(火) 02:46:27 ID:8s97SW6l
「待って、アスラ」
 振り返ると無慈悲な微笑みを浮かべた天使が立っていた。
 アスラの顔が不満げに歪む。
 天使ファティマはお構いなしに前へと出て、失禁を始めた智恵理を見下ろした。
「可哀相に……許してあげることはできないの?」
 そう言うファティマの顔には、いたわりの色などまるで浮かんでいない。
「あぁ、許してあげられないね。こいつのために、何人の仲間が殺されたか知ってるんだろぉっ」
 アスラが義手になった右手をファティマの鼻先に突き付ける。
「アスラの言うとおりですわ。おおかた、教皇様が手込めになさろうという魂胆なのでしょうが、そうはいきませんことよ」
 イングリッドが鼻で笑って相槌を打つ。

「残念だけど、教皇様のお言葉じゃないの……」
 ファティマの声は柔らかだったが、有無を言わせないものを帯びていた。
「それでは、まさか……まさか皇帝陛下の?」
 イングリッドの声が小刻みに震える。
「今しばらく、その娘を自由にさせよとの仰せよ」
 ファティマが小さく頷いてみせる。
 それに対してアスラの怒りが爆発した。
「なぜだぁっ、なぜに宇宙皇帝ともあろうお方がこんな小娘風情を……」
 収まりのつかないアスラがハァハァと肩で息をする。

「理由は聞いていないわ。多分、ご自分の手駒たるに相応しいかどうかを見極めておられるんじゃないかしら」
 ファティマが事も無げに答えると、他の仲間は黙り込んだ。
 皇帝陛下の尖兵として、他の惑星に降下していく智恵理を想像するだけで背筋に冷たいものが走った。
 それに、その智恵理の姿は、そのまま自分たちの将来に直結しているのだ。
「我々は……新種の生物兵器くらいにしか見られてないのか……」
 マニトウが低く唸った。
「ともかく、今は手出し無用に願うわ」
 ファティマが重ねて仲間たちを戒めたが、返事をする者はいなかった。
299名無しさん@ピンキー:2009/09/08(火) 02:48:40 ID:8s97SW6l
長かった研修所生活もようやく終わり、今月どうにか娑婆に戻ることができました
なにせネットどころか、私有パソコンすら持ち込み禁止の環境下にあったため
ここにも全く顔を出せず、ひょっとしてスレがなくなっているかもと心配しておりました
無事が確認できて何よりです
以前同様、何卒よろしくお願いします
300名無しさん@ピンキー:2009/09/08(火) 03:09:35 ID:TtgtJMfY
ペリ子物語きた!これで勝つる!
301名無しさん@ピンキー:2009/09/08(火) 05:13:33 ID:n/TyXiZj
お勤めごくろうさまです!
302名無しさん@ピンキー:2009/09/08(火) 10:40:34 ID:1KnkFSdC
ペイルウイング物語復活だと…なんという…なんということだ…!

ヘブンズゲートって、現実的に考えると確かに不自然かもね
目の前に光の柱があるのに自分から突っ込む巨大生物って…あぁ、でも虫なら案外そんなもんなのかなぁ
303名無しさん@ピンキー:2009/09/08(火) 13:35:28 ID:4BnhZq7t
全ての仕様が謎に包まれている支援兵器にこんな秘密があったとは
人命を兵器に変えるなんて、決して口外はできないよな
ところでヘブンズゲートβがHARDのクリア特典であることを考えると
舞台は既にHARDESTに突入してるってことか
因みにαは普通に取れる支援兵器の最上位機種だったりする
ゲームでも思い入れのある武器だから活躍してくれて嬉しいよ
304名無しさん@ピンキー:2009/09/08(火) 14:16:03 ID:1KnkFSdC
>>303
ブルームに20Rだからな。ゲームなら標準体力でハデスト灼熱も絶対包囲もクリアできる兵装だ
まあ智恵理がエリートだからこその最新装備で、他の隊員はハード〜ハデスト序盤相当ぐらいの装備なんだろうけど

あと、ちなみにも何もヘブンズゲートαはIMPでも必須の最強武器の一つじゃないか
305名無しさん@ピンキー:2009/09/08(火) 17:25:44 ID:TTuXVOUj
そう言えばプラズマ・ブルームも20Rも直前にレンタルした借り物だったな
戦闘が終わったらやっぱ返すのか、それともこっそり持ち逃げするのかw
それよりも引き替えに大事な人を亡くすのなら、支援兵器なんか要らないよ
306名無しさん@ピンキー:2009/09/08(火) 19:41:37 ID:y+GBl1ZU
相変わらず刹那的な快楽に弱い女だなあw
本心では三角木馬にも興味津々のようだし
307名無しさん@ピンキー:2009/09/08(火) 23:29:56 ID:e2o7mLi1
チェリーブロッサム!これで勝つる!

乙です!
308名無しさん@ピンキー:2009/09/09(水) 00:40:40 ID:HJ9GqEm/
誘導兵器のトライアルから#47大群進撃に繋がるとは思ってもみなかった
しかし#45占拠→#44鉄球→#51重装鉄球→#49空挺集結→#42精鋭の流れを見れば
必ずしも順番通りに進んでいる訳じゃないのな
次こそディロイの出番か
309名無しさん@ピンキー:2009/09/09(水) 01:33:34 ID:qffe0mPX
>>308
赤波なんかだいぶ序盤だったぞ。今回の話にも名前が出てきてるけど
敵の出現順番は話の流れに結構関わるからある程度守ってるだけで(近衛は皇帝から出てくるとかね)
それ以外は好きなようにしてるんだろう。赤波と赤色甲殻虫なんか別々にしても似たような話にしかならないしな
310名無しさん@ピンキー:2009/09/09(水) 02:05:52 ID:v7f2sqF1
「赤波」と「赤色甲殻虫」も上手く一つの話にまとめられていたけど
「地底決戦」をやってる時に、地上じゃ「侵食」が陽動作戦として同時進行だもんな
ちゃんとゲームのエピソードを使用しながら、面白い人間ドラマに仕上がってるところが凄い
311名無しさん@ピンキー:2009/09/09(水) 05:22:43 ID:RROCMlzU
赤色甲殻虫はコンボイの時じゃ・・・
312名無しさん@ピンキー:2009/09/09(水) 05:52:38 ID:qffe0mPX
>>311
そんときに赤波って単語が出てたはず
今回言ってる赤波=それだよ。グロームで頑張ったヤツ
313名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 05:33:32 ID:O0OyY7Qi
保守
314Gの男(微リョナ注意):2009/09/13(日) 07:01:56 ID:xtmJpRe1

「無残なものですな、戦争というのは……」
「……」

40代半ばというところだろうか、疲れた表情の男性は、荒廃した東京の街並みを眺めながらそう言った。
だが、それに応える相手の言葉はつれないものだった。

「俺を呼んだのは……歴史上で何度も重ねられてきた事実を……学校以外の場所で講義する為か?」
「気を悪くされたのであれば、謝罪いたします。貴方に依頼をする際、余計な話は不用でしたな……」

疲れた男性は振り返らず、相手の顔を見る事もしなかった。
その相手の鋭い眼光。冷酷な三白眼。ずっしりした逞しい肉体。
そして……どこかに臆病さを隠し持ったような、その男を……

「“ミスターG”……私には、17になる娘がおりました。このような世の中にならなければ、今頃は年頃の青年と恋に落ち、相応の青春を満喫していたことでしょう」

男性は懐から一枚の写真を取り出す。
そこに映っていたのは、地球防衛軍……EDF先鋭特殊部隊、ペイルウィング隊員のアーマーを身につけ、支給されたばかりのウィングシステムと、ヘルメットを手に、眩しい笑顔を見せる、可愛らしい少女の姿だった。

「娘の死が伝えられたのは半年前でした……覚えておいでですかな?あのロンドンでの悲劇を……娘もあの戦場にいたのですよ……」
「戦争で……人の死はつきものだ……ましてその相手が、人知を超えた相手ならば、尚更だ……」

男性の語る悲劇の物語にも、Gと呼ばれる男は全く感傷を見せず、やはり冷たい口調でそう正すのみだった。
しかし男性は尚も続けた。

「私も一応、元自衛官でしてな……娘がこの仕事を選んだ事にも、敵と銃剣先を交えて討ち死にする事にも、それなりの覚悟を持っているつもりでした……ですが、ですが私の娘は!」
「……」

それまで冷静を装ってきた男性が、ついに堪えられなくなったか、拳を振るえるほどに握り締めて唸った。
Gはその様子をただ黙って見つめていた。

「軍の伝手で、私は娘の死に様を探ろうとしました。軍での私の娘の評価は著しいものでした……ペイルウィング隊の小隊指揮を任せられるのも時間の問題……天才とまで言う教官もおりました。
しかし、その死因に関しては、殆どの者が一切の口を閉ざしてしまうのです!
私は……私は娘の死の真相を確かめたかった!そして、ついに娘の同僚だった、あるペイルウィング隊員が、私に語ったのです!娘の死に際を!」
315Gの男(微リョナ注意):2009/09/13(日) 07:03:34 ID:xtmJpRe1
男性の語った物語は、半年前のロンドンに遡った。
男性の娘……サカキは、EDFに新設された先鋭部隊、ペイルウィング中でも一二を競う勇猛な人材であった。
そして、“一二”を競う以上、その次に迫る人材も存在した事になる……
その人物の名は、ヘンリエッタ。EDF上級幹部の父を持つ、エリート中のエリートであった。
ヘンリエッタは事あるごとにサカキを目の敵にし、時に心無い悪知恵を働かせてサカキを貶めようとした。
しかし、サカキはそんなヘンリエッタに対し、「自分が我慢すればよい」と、憎まれ口一つ返す事はなく、その態度が一層ヘンリエッタの憎悪を膨らませる結果となっていた。
そんなおり、人類史上最悪と評される、あの事件が発生した。
ロンドンに突如現れた悪夢……第二次インベーダー戦争の始まりである。
再び現れた異形の生命体の攻撃により、ロンドン市内は地獄絵図と化したものの、二度目の侵略という事もあって、EDFの反応は素早かった。
機動力に勝る新設ペイルウィング隊がすぐさま展開し、防衛線の確保と市民の避難誘導を同時に行い、火力と決定打に勝る陸戦兵の到着まで時間を稼いだ。
しかし、新設部隊の弱点とも言える、その経験の浅さは、新たな敵との遭遇によって浮き彫りにされた。

「ひぃ!?く、クモ!?」
「いやああ!糸!糸を取ってえぇえ!」

今回襲来したインベーダーは、より人間の憎悪する生物……クモをベースに作られた生物兵器を投入してきた。
最悪な事に、飛行ユニットによる高機動を命とするペイルウィング隊員には厳しい体重制限が課せられ、結果的に殆どの者が女性であった。
新型生物兵器、バウの醜悪な姿の前に、多くの隊員は一目で戦意を喪失し、戦線はすぐさま崩壊してしまった。
そしてそれは、サカキのいた部隊も、例外ではなかった。

「サカキ!助けて!糸が取れない!」
「落ち着きなさいヘンリエッタ!戦士でしょ!」

一時避難所であったバッキンガム宮殿が攻撃をうけ、戦線維持を担当していたサカキの部隊は、市民の移動まで防衛線を展開していた。
ところが、新型生物兵器の姿を目にした小隊長が発狂し、自殺。
残された多くの隊員も、ほとんどが怯えて敵前逃亡するか、取り乱して敵の包囲の中に飛び出し、粘つく糸に絡め取られ、巨大な毒牙にかかって命を落とした。
残る数名の隊員と共に、サカキとヘンリエッタは、満身創痍になりながらも戦闘を継続していた。
本来ペイルウィングは、広い空間を自在に飛び回って立体的な戦闘を行う事に主眼をおかれており、籠城戦はもっとも苦手とする分野ではあった。
しかし、宮殿内には未だ多くの傷ついた仲間や、逃げ遅れた市民が存在しており、彼女たちはどうしても、そこを動く事ができなかったのだ。
もし、サカキの元に集った戦士達が、全て彼女のように勇敢で健全な精神を持ち、友愛に満ちた者達だったなら、結果は違っていたかもしれない。
しかし、サカキの同僚であるヘンリエッタは、サカキにとって致命的な存在でしかなかったのだ。

「ヘンリエッタ、これからレイピアで糸を焼き切る!少し痛いけど我慢して!」
「嫌よ!そんなの嫌!私を殺す気!?誰か助けて!」

宮殿に侵入しようとしかバウとの闘いの最中、一匹の凶虫が死に際に吐きだした糸が、ヘンリエッタの四肢を絡め取った。
糸を放った奴は倒したとはいえ、宮殿の外にはまだまだ、凶悪なクモ達が犇めいている。
身動きの取れないヘンリエッタを救うためには、多少の被害も致し方なかった。
サカキは彼女を救うため、迷わず同僚を拘束している糸を、レイピアのプラズマで焼き切った。
316Gの男(微リョナ注意):2009/09/13(日) 07:06:34 ID:xtmJpRe1

「ひぃい!」

ブスブスとタンパク質の焦げる嫌な匂いが充満し、糸が焦げ千切れていく。
同時に、ヘンリエッタ自慢の美しく靡く長い金髪もいくらかが、それと同じ運命を辿ってしまった。
サカキの判断は的確なはずだった。問題は、助けた相手の人格を見誤った事だけだろう。

「私の髪がぁ!人でなし!パパに言いつけてやる!」

ヘンリエッタは焼け焦げた自分の髪を握りながら、喧しく喚き散らす。
だがサカキは、そんな彼女の悪態には飽き飽きしたかのような態度で返した。

「どうぞご自由に、髪はいつでも伸ばせるけど、アンタの命はこのどれくらい伸びるか!」
「きゃ!」

サカキはヘンリエッタの顔面にレイピアの銃口を向けた。
ヘンリエッタが悲鳴をあげて尻もちをつくと、サカキの放ったプラズマの刃が、ヘンリエッタのすぐ後ろの迫っていたバウをズタズタに引き裂いてしまった。

「立ちなさいヘンリエッタ!ここはもう保たない!私が時間を稼ぐから、その間に皆と市民を避難させて!」

彼女いる部隊で、現在まともに動けるのは彼女とヘンリエッタの二人だけ。
残りは武器こそ扱えるものの、組織的な戦闘を行えるような状態ではなかった。
かといって、一人が囮になって敵を引きつけ、他の者達が逃げる時間を稼ぐというのは、英雄的行動としても無謀すぎると言うほかない。
しかしサカキには、それでも生き残る自信があった。彼女には天性の素質があったし、それは他の多くの者も認めていた。
そう、ヘンリエッタさえ、サカキの実力は認めるほか無かった。
だからこそ、悲劇は起こってしまった。

「勘違いしないでちょうだい。私は生きて帰還する。死ぬつもりなんてないんだから……」
「サカキ……」

ヘンリエッタは姿勢を正して敬礼する。
サカキの勇気ある行動に心打たれた戦友がするように。

「了解、市民の避難誘導は私に任せ、貴女は心行くまで敵をぶっ殺しなさい」
「了解、市民の避難誘導はアンタに任せ、私は心行くまで敵をぶっ殺すわ」

ヘンリエッタとサカキは、ヘルメットから露出した口元を緩ませてほほ笑んだ。
彼女達が同じ部隊に配属され、初めてお互いに見せる表情であった。
そして、最後に見せた表情でもあった。

サカキはレイピアを抱え、バウの侵入口に向けて身構える。
後の事はヘンリエッタに任せればいい。
色々あったけれども、プロとして自覚のある行動をとってくれたヘンリエッタに対し、サカキは初めて心を許せたような気がした。
しかし……
317名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 07:08:34 ID:xtmJpRe1
「私はね、サカキ……あんたのそういう所……本当に、大嫌いなんだよ」

眩い閃光と耳を劈くプラズマ音。
同時にサカキは背中に衝撃を受け、その場にうつ伏せに倒れこんだ。

「あぐ……な、にを……ヘンリエッタ!?」

後頭部を踏みつけられ、冷たい床にヘルメット越しに頭を押し付けられたサカキは、自分が背中を向けてしまった相手の本性を、やっと垣間見る事ができた。
ヘンリエッタは不敵に口元をゆがめ、無様に這いつくばるサカキに、心底不愉快な声色で吐き捨てた。

「気に食わないんだよサカキ、お前のその、お高くとまった態度がさ!」
「ヘンリエッタ!」
「死になサカキ……虫の餌にでもなってさ」

陸戦兵による砲撃が開始され、バッキンガム宮殿の周辺に着弾した爆音によって、サカキの悲鳴はかき消された。
一連の効力射が収まり、一時の静寂が訪れると、サカキの小さな呻き声が響いた。
サカキの両脚は太ももから下が焼き切られ、黒く焦げた断面から、煙が立ち上っていた。
背負った飛行ユニットも破壊され、もはや彼女は、一歩たりともその場を動く事の出来ない状態であった。

「安心しなサカキ……市民は私が責任を持って避難させる……あんたは望み通り、そこで思う存分敵をぶっ殺すといいよ」
「ヘンリエッタぁああ!」

サカキは激痛を堪え、レイピアの銃口をヘンリエッタのニヤケ面に向ける。
しかし、彼女は引き金を引かなかった。

「撃てるわけないわよねぇ……私がいなきゃ、市民や仲間を避難させる事なんてできないもんねぇ……」
「!!」

サカキはヘンリエッタの腐った性根を呪い、同時に最後まで彼女の性根を見抜けなかった自分の過ちを呪った。
だが彼女には、どんな状況におかれても、私情より任務を優先してしまうという、悲しい性があった。
勝ち誇ったヘンリエッタに対し、サカキはヘルメットの下から涙を洩らし、歯ぎしりしながら言った。

「約束しなさいヘンリエッタ!私の命と引き換えに、必ず皆を助けるって!」

ヘンリエッタはそれに応える代わり、サカキの顎を手に取ると、その震える唇に自らのそれを重ねてから、浅ましい娼婦の様な声色で言った。

「違うでしょうサカキ……『お願いします』……じゃないと、私は何をするかわからないわよ?」

サカキはこの時、生まれて初めて心の底から泣き叫んだ。
厳格な父に叱られた時も、学校のクラスで男女と苛められた時も、これほど女々しく泣いた事はなかった。
その様は、ヘンリエッタを心底喜ばせた。
自らが忌み嫌う、あのサカキの、こんな無様な様が見られた!それだけでも、ヘンリエッタの体は芯から疼く程だった。

「お願いします……私は、ここで囮になりますから……仲間を……皆を助けて…………」

サカキの涙が冷たい床に染みを作っていく。
ヘンリエッタは無言でその場を去って行った。
残されたサカキの背後に、バウ達のたてる、ザワザワというおぞましい音が迫っていた。
318Gの男(微リョナ注意):2009/09/13(日) 07:10:52 ID:xtmJpRe1


「……これは、私が手に入れたEDFの録音テープです……後に発見された娘の遺体と共に発見された、ヘルメットに内蔵されていたボイスレコーダーのものです……
 政府は……EDFは、この事実を最後まで私に隠し……娘の死の真相を……あの、ヘンリエッタの行いをもみ消そうとしたのです!!」

男性は懐のプレイヤーに手を伸ばしたが、途端にGは恐ろしい殺気を発して言い放った。

「動くな!」
「わ……私は、ただテープを……」
「ゆっくりと取り出せ、俺に見えるようにだ!」

男性はこの期に及んでも、尚感傷的にならず、プロの信念に徹するGの底知れなさを痛感すると同時に、この男であれば、自分の依頼を必ずや遂行してくれるであろうことを確信した。
男性はGの指示通り、ゆっくりとした動作でボイスレコーダーを取り出し、それをGの目の前で再生した。
内容は、最後の瞬間まで果敢に闘い続けた、サカキの肉声であった。

『「来い、化物!ぶっ殺してやる!!」………ガガガガ………ギャギー!……「こいつをくらえ!お前達なんか怖くないぞ!」……ガガガガ……ギャギー!……ガガガガ……』

サカキは最後の最後まで、命乞い一つせず、闘い続けた。
サカキの飛行ユニットは完全に破壊されており、それはつまり、ジェネレーターに直結したエネルギー兵器の最後をも意味していた。
だが、サカキはレイピアに残された最後のエネルギーをもってして、自らの命を断とうとはしなかった。
彼女はレイピアのエネルギーが切れた後、素手で戦うつもりだったのだ。
彼女は自分が最後まで抗う事で、自分を裏切ったヘンリエッタが逃げる為の時間を稼ぎ続けたのだ。
やがてレコーダーからは、エネルギーの切れた事を警告する警報音に交じり、バウの息遣いが間近に聞こえ始めた。

『「クソ!畜生ちくしょう!おまえらなんか怖くないぞ!おまえらなんっぎゃああああ!!!!!」ジジジジジジジ……』

サカキの悲鳴と、言い表しようのない不気味な音が同時に鳴り響く、
だがGは、その音を何度も聞いて知っていた。
バウの吐く毒性の糸によって、ペイルウィングのアーマースーツと、彼女達自身の肉が焼け焦げる音だ。

『「痛い!痛いよぉ……父さん……母さん……ごめんなさい……ごめん……なさ……」………』

ボイスレコーダーは、ここで途切れていた。
男性はレコーダーを懐に戻すと、感情を押し殺した悲痛な声で言った。

「ミスターG……娘の仇を取っていただきたい……あの性悪女に鉄槌を……報酬は、既にスイス銀行に振り込み済みです……」
「分かった、引き受けよう……」

Gは踵を返し立ち去ろうとした。
だが、男性は彼を呼びとめた。

「お待ちください。もうひとつ、お願いがございます……実は……」
「……」


G……
陸戦兵……
Ground force……
伝説の男……

彼を知る者は少なく。
また、知っている者も、彼については固く口を閉ざしている。
319名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 12:49:29 ID:ZOm5qaJT
エロは?エロはどこ?
320名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 16:25:06 ID:vaBryTJ1
321名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 20:23:51 ID:InEzlNH7
なんというゴルゴっぽい伝説の男。
ともかく、お疲れ様です。
322名無しさん@ピンキー:2009/09/13(日) 20:48:26 ID:E4BQGsZ+
スイス銀行で全部台無しだww
だがとにかく乙
323名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 02:13:38 ID:wVatZz8n
エロとかじゃなく純粋に続きが見たい俺は板的にどうなんだろうか
324Gの男(微リョナ注意):2009/09/14(月) 05:20:05 ID:uWL08cHo
「ヘンリエッタ少尉、彼が本日より君のパートナーとなる、トーゴー少尉だ」
「ヘンリエッタよ、よろしくねトーゴー」
「……よろしく頼む……」

EDFロンドン支部の一室で、ヘンリエッタは初めてその男と対面した。
ヘンリエッタは握手を求めたが、その無愛想な男はそれに応えようとはしなかった。
少少むっとしたヘンリエッタではあったが、トーゴーの醸し出す濃厚な雄の雰囲気と、逞しい肉体を前に体の疼きを覚えずにはいられなかった。


その晩、尻軽のヘンリエッタは早速トーゴーの部屋を訪れた。
すぐさま彼女は上着のボタンを外し、胸元を見せびらかせてトーゴーを誘惑する。
トーゴーは眉ひとつ動かさなかったが、彼の獣のような鋭い眼差しに、ヘンリエッタは一言二言言うまでもなく雌豚となった。

「トーゴー!じらさないで!わかっているのでしょう!?疼いているのよ、私は!」
「ならば脱げ……俺が抱くかどうかは……俺自身が決める……」

ヘンリエッタはもはやプライドを捨て、次々と衣服を脱ぎ捨てると、挑発的な下着だけの姿となり、ベッドの上に艶めかしく肢体を投げだした。
トーゴーも無言で衣服を脱ぐと、その上に体を重ねた。

トーゴーの部屋からは、一晩中ヘンリエッタの嬌声が響き渡っていた。

「オオゥ……オォォ……イイワぁ……最高よトーゴー……こんなの、初めてよ……オオォォっ!」
「……」

ヘンリエッタが身体を許した陸戦兵は、彼が初めてではなかった。
ヘンリエッタは自らの美貌に絶対の自信を持っていたし、仕事上のパートナーとなる陸戦兵には、必ずこうしてセックスを求め、虜にし、都合のよい弾よけとして使い捨ててきた。
それどころか彼女は、陸戦兵に飽き足らず、同性のペイルウィング隊員さえも誘惑し、奴隷として使役していたほどだ。
そして、そんな彼女が絶対に屈服出来なかった人物が、あのサカキと、このトーゴーである。
ヘンリエッタはトーゴーの巧みな技の前に雌としての本性をえぐり出され、感じつつも、あの憎いサカキの泣き叫ぶ様を想い出して、更に背徳的な愉悦を味わっていた。

「おおぉ……サカキ……サ…カキ……最後まで、私に屈しなかったあの女が……オオゥ……」
「……お前の、昔の同僚だな?……」

トーゴーはヘンリエッタの中を抉りながら、重々しい声で問う。
ヘンリエッタはよがりながら、その問いに答えた。

「そうよ……あの気に食わない小娘……オォォっ!……トーゴー、早く!」
「最後まで欲しいのならば……俺の質問に答えろ……」
「いいわ!何でも答えちゃう!だから……オオゥっ!」
「……見殺しにしたのか?彼女を?」
「そうよ!私のものにならないのなら、殺してしまえばいいの!トーゴー、お前もよ!私をここまで狂わせておいて、ただで済むと思わないことね!さぁ、早く!」

トーゴーはそれを聞くと、無言でヘンリエッタの体から離れた。
ヘンリエッタはトーゴーの暴挙に怒り狂い、枕や下着を投げつけて罵声を浴びせた。

「この○○野郎め!絶対に許さないんだから!覚悟おし!」
「……」

トーゴーはさっさと服を着ると、ヘンリエッタにドアの方を指さし、一言
「出ていけ」
とだけ命じた。
ヘンリエッタは憤怒に顔を歪め、歯ぎしりしながら罵った。

「殺してやる!殺してやるわトーゴー!明日の作戦を楽しみにしているがいい!事故はいつでも起こるモノよ!」
325Gの男(微リョナ注意):2009/09/14(月) 05:21:08 ID:uWL08cHo
翌日、二人はインベーダーの大部隊が迫る廃墟にやってきた。
ヘンリエッタは最新式の装備であるサンダーボウ30。
対するトーゴーは、愛用のAS−100Fを独自にカスタマイズした銃を携行していた。

「……罠とわかっていて、本当に来るとはね……愚かな男」
「……作戦……だろう?……事故の起こりやすい、作戦だ……」
「そう、事故よ……例えあなたがここで死のうと、それは単なる事故……」

ヘンリエッタは露出した口元を歪めてほくそ笑むが、トーゴーの表情は一切変化がない。
やがて陸戦兵戦車部隊による砲撃が始まるが、敵の数は無尽蔵、この程度の砲撃では食い止めようがない程だった。
立ち上る爆煙と爆音を背後に、ヘンリエッタは飛行ユニットを全開に吹かして、一気に高高度に飛翔した。

「パパに頼んで用意してもらった特注品よ!加速度は従来の三倍!アナタの目で追えるかしらトーゴー!」

高高度でホバリングしながら、ヘンリエッタは勝ち誇っていた。
このまま頭上から雷の雨を降らしてやる!
私を馬鹿にした男を、天の火で焼いてやる!
ヘンリエッタの心は、サカキを殺した時のように滾っていた。
彼女は舌舐めずりをすると、ベクトルを逆転させ、一気に降下を始めた。
サンダーボウ30の有効射程距離まで、自由落下の速度も加わっての急降下爆撃だった。

「死ね!トーゴー!」
「……」

小さかったトーゴーの姿はみるみる大きくなり、ヘンリエッタはサンダーボウ30の引き金にゆっくりと力を込めた……
が、トーゴーはまっすぐに真上を見上げ、AS−100Fの銃口をぴたりとヘンリエッタに向けていた。
その揺るぎない様に、ヘンリエッタは一瞬にして恐怖の虜となり、表情を凍り付かせた。

「……!!」

トーゴーの三白眼が、ヘルメットのバイザーの下でひときわ大きく見開かれ、彼の銃口からマズルフラッシュが迸り、音速を超えた金属の弾丸は弾き出される。
その弾は迷うことなく、ヘンリエッタのサンダーボウ30の銃口に飛び込んだ。
発射寸前までエネルギーをチャージされたサンダーボウのパワーユニットは一気に暴走し、銃身ごと炸裂する。
幸いヘンリエッタの手は丈夫なアーマースーツによって守られ、指を吹き飛ばされる事はなかった。
しかしその衝撃はすさまじく、彼女はバランスを崩し、減速するタイミングを見誤ってしまう。
ヘンリエッタが飛行ユニットの噴射方向を偏向した時には、既にアスファルトの路面が間近に迫っていた。

重苦しい音と共に、路面にひびが走り、ヘンリエッタはかなりの速度で落下した。
アーマーを着ているとはいえ、彼女の細い脚は、それに耐えきれるほど頑丈ではない。
ヘンリエッタの足首は、鈍い音と共にひんまがり、彼女は激痛にのたうった。
しかし、彼女は自分の命を狙う者の存在を想い出し、あわてて顔をあげた。
涙にゆがむその視線の先には、銃口を自分に向けるトーゴーの姿があった。
326Gの男(微リョナ注意):2009/09/14(月) 05:21:44 ID:uWL08cHo
「ト、トーゴー……嫌よ、死にたくない……何でもする!お金なら幾らでも払う!だから命だけは!」
「……サカキは、お前に命乞いをしなかったそうだな……彼女は、仲間の命や、裏切った貴様を助ける為に、最後まで闘って死んだ……」

ガウーン!ガガウーーン!

咄嗟に自分の顔を隠すヘンリエッタ。
だが、トーゴーの放った弾丸は、彼女の眉間ではなく、背中に背負った飛行ユニットの、突き出たベクターノズルを粉砕した。
助かった?
だが、ヘンリエッタの甘い考えは、すぐさま打ち砕かれることになる。
トーゴーはヘンリエッタに留めを刺す事もなく、踵を返し、あらかじめ用意していた逃走用のエアバイクに跨った。
遠方からは、陸戦兵の戦車部隊が体制を立て直すべく、後退の信号弾をあげているのが見えた。
つまり……インベーダーの大群が……醜悪で凶暴な蟲共が、すぐそこまで迫ってきているのだ。

「ま……待ってトーゴー……私を置いていかないで!歩けないのよ!」
「……」
「命乞いをする女を見殺しにするの!?人殺し!鬼!畜生め!」
「……事故……だろう?……戦争では、よくある事だ……」

トーゴーのエアバイクはみるみる遠ざかって見えなくなった。
残されたヘンリエッタは、震えながら、恐る恐る背後を振り返る……

キシャアアーーーー!
ザワザワザワ……
ギャギャギャギャ!!

インベーダーの斥候だろうか。
一匹の巨大なクモが、幾つもの真っ赤な目でヘンリエッタを凝視していた。
その巨大な毒牙からは、ダラダラと粘液がしたたり、ヒクヒクと痙攣する大きな尻の先には、狂気の様なトゲの幾つも生えた、醜悪な生殖器官が勃起していた。

「い……いや……死にたくない……助けて、パパぁぁ!」

醜い巨体が跳躍し、ヘンリエッタを押し倒す。
彼女のアーマースーツはクモの吐く毒性の糸に溶かされ、その下の白い美しい素肌に、直ぐにも毒牙が付きたてられる。
ヘンリエッタがどれほど無様で浅ましい悲鳴をあげたかは、誰も知らない。
分かっているのは、彼女の遺体は徹底的に凌辱され、惨たらしめられ、元の姿が判別できないほどに引き裂かれた状態で発見されたという事だけだった。
327Gの男(微リョナ注意):2009/09/14(月) 05:22:57 ID:uWL08cHo
一週間後、EDFの情報サイトに、今作戦における死傷者名簿が掲示された。
サカキの父は、その中にヘンリエッタの名前と、作戦中死亡を意味する『KIA』の表記を確認し、虚しくため息を吐いた。
たとえヘンリエッタを殺したとしても、娘が戻ってくる事はない。
彼女の無念が晴らされる事等、けっしてあり得ない。
だからといって、彼は復讐をやめる気にはなれなかった。
そう、まだやる事が残っている……

サカキの父は、その足ですぐさまEDF本部へと向かった。
娘の仇を討つ為……娘の死因を偽り、ヘンリエッタを匿った者を葬る為……

「お久しぶりですな提督、オキナワ以来でしたかな?」

サカキの父がやってきたのは、あのヘンリエッタの父……EDF上級幹部のオフィスだった。
ヘンリエッタの父親は娘に似て傲慢な性格であったが、自分の娘の身を案じる一人の父親に変わりはなかった。
サカキの死を偽ったのも、ヘンリエッタのパートナー達の死因を隠ぺいしたのも、この男の差し金に違いなかった。

「貴様、一体今更なんの用なのだ!私の娘が!可愛いヘンリエッタが死んだ事を笑いに来たのか!」

ヘンリエッタの父は、娘の死を知って悲しみとやり場のない怒りに震えていた。
そう、それでいい……
自分と同じように、貴様も大切な者を失う悲しみを知ればいい……
そして、自分と同じように、破滅すればよい……
サカキの父はヘンリエッタの父の前で、なぜヘンリエッタが死んだのかを、事こまかに説明してみせた。

G……
陸戦兵……
Ground force……
伝説の男……

彼に依頼する事がどういう事なのか……
そして、彼に依頼した結果、どのような義務が己に課せられるのか……
328Gの男(微リョナ注意):2009/09/14(月) 05:24:35 ID:uWL08cHo

「よい天気ですな提督。本当に……娘にも見せてやりたかった。インベーダーに侵略され、めちゃくちゃに街を破壊されても……地球はこんなにも美しかったのだと……」
「黙れ!貴様、絶対に許さんぞ!銃殺にしてやる!」

窓を背にして立つサカキの父に、ヘンリエッタの父は掴みかかった。
その表情は憎しみと怒りに燃える、悪鬼の如き形相であった。
だが、サカキの父は穏やかな笑みを消す事なく、更に続けた。

「本当によい天気ですよ提督……死ぬには良い日だ……窓の外をごらんなさい」
「なに!?」
「私は、あのGに依頼したのです。彼に依頼した内容は、決して誰にも話してはならない……それを話してしまった者、それを知ってしまった者は、たとえどんな理由であろうとも、
必ず彼に始末される……お忘れですかな?Gのルールを……」
「まさか!」

ヘンリエッタの父が、窓から見える向かいの建物の屋上に、一人の陸戦兵の姿を確認した瞬間……

ビシッ!!

窓には小さな穴が穿たれ、彼の額には、AS−100Fの弾丸がめり込んでいた。
ヘンリエッタの父はその場に仰向けに倒れ、二度と動く事はなかった。
サカキの父は満足げにそれを見詰めた後、ゆっくりと背後の窓に振り返った……


向かいの建物から狙撃を行ったGは、サカキの父が自分の方を向き、何かを伝えようとしているのを、その口から読み取った。

「ア・リ・ガ・ト・ウ……ミ・ス・ター・G……」

Gはそれを読み取った後、自らの定めたルールを完遂すべく、照準をサカキの父の額に合わせ、引き金を引いた。


翌日の新聞には、小さな記事が載っていた。

『EDF本部にて謎の狙撃事件……殺害されたのは、上級幹部一名と、元自衛官の日本人男性……EDFは、二人の関係と今回の事件とに繋がりがあるものと見て捜査を……』

G……
陸戦兵……
Ground force……
伝説の男……

彼を知る者は少なく。
また、知っている者も、彼については固く口を閉ざしている。
329名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 06:26:29 ID:QQ+gr+Nk
やべぇおもしれぇw
こんな"伝説の男"もアリですなぁw乙
330名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 15:26:50 ID:OvDhHlyu
夜這いとAS100Fで爆笑してしまったww完全にゴルゴパロディなんだなww
よくやってくれた!君の投下に乙する!
331名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 21:52:45 ID:wVatZz8n
ニヤリとしてしまった・・・
GJを送ろう、敬礼!
332名無しさん@ピンキー:2009/09/19(土) 06:59:02 ID:aviQ3w/K
さいとうプロ絵での脳内再生、余裕でした
333名無しさん@ピンキー:2009/09/20(日) 01:45:22 ID:eDqPapvi
ニコ動か何かにPWSをネタにした動画があるって耳にしたことあるけど、見た人いる?
どんなのなんだ
334名無しさん@ピンキー:2009/09/20(日) 09:12:06 ID:GcLYYeHH
>>333
音MADとかとんでもない編集を加えながらINF縛りをやってる「今更地球防衛軍2本気で攻略」ってシリーズがあって、
それの番外編、スパロボ風味のペイルプレイ動画のことだと思う
↓これとか
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm6224041
335名無しさん@ピンキー:2009/09/24(木) 22:38:07 ID:Fv1aMMSJ
AS100Fは狙撃向けじゃないだろww
まあゴルゴもM16だかを狙撃用に使ってるしいいか

で「捕らわれの翼」続編マダー!!
336名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 12:07:33 ID:b4KxqSQY
ゴルゴがアサルトライフルを使うのは、狙撃と襲撃両方に対応できるように、じゃなかったっけ

気になって調べてみたら明確にそうだと断言されてるわけではないみたいだ
337名無しさん@ピンキー:2009/09/25(金) 12:46:54 ID:mTF1M2QB
「AK-47vsM-16」の回でカラジッチ(AK-47の設計者・カラニシコフがモデル)の命を賭けた
「なぜM-16を使うのか?」という問いに対し
カラジッチに致命傷を負わせてからゴルゴが答えてるね「俺は『一人の軍隊』だからだ」って

というわけで>>336の解釈はほぼ間違ってないと思う
あと現実のカラニシコフはまだピンピンしてますw
338名無しさん@ピンキー:2009/09/29(火) 21:07:58 ID:CkC7MTly
保守
339名無しさん@ピンキー:2009/10/05(月) 21:45:15 ID:NK5nJ2o5
つ フェデロフ、これなら狙撃も可能だしフルオートでも反動的にOKだ
340名無しさん@ピンキー:2009/10/09(金) 18:37:06 ID:Vl/fmzL4
保守
341名無しさん@ピンキー:2009/10/13(火) 21:56:35 ID:ywHm2rl7
342名無しさん@ピンキー:2009/10/16(金) 20:33:45 ID:EtkexZka
精液が弱アルカリ性なのを利用したザーメンコーティング…
ってのをどこかで見た
半角二次元のスレだったかなあ
バカバカしくて好きなネタだったので書こうとしてみたが、
文才がなさすぎて泣けてきた
343名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 00:30:33 ID:BTVj1fMr
文才がなくったって情熱があればなんだっていいと思うよ!よ!
まあ、それにも限度はあるわけなんだが。
344ペイルウイング物語−落日編−:2009/10/22(木) 16:01:13 ID:I8OeUimN
                                 ※

「う……うぅ〜ん?」
 白い天井の下で智恵理は目を覚ました。
「どこ……?」
 周囲を確認しようと首を左右に振ると、強烈な目眩がして吐きそうになった。
 暖房が入っていないのか、意識の回復と共に肌を刺すような冷気が襲いかかってくる。
「あぁっ? あたし裸だ……」
 その時になって、智恵理は自分が一糸まとわぬ姿で仰向けになっていることに気付いた。
 そして、手足を動かそうとして、体の自由が奪われていることを悟る。
 パイプを複雑に組み合わせた拘束台が、智恵理の体を宙に浮かせた状態で固定している。
 暴れようにも、手首と足首に頑丈な革ベルトが食い込んでいてどうにもならない。
「うぅっ、あたしインベーダーに捕まったの?」
 脳裏にアコンカグヤの澄まし顔が蘇ってくる。
 鋭い角度の鞍を持つ三角木馬が頭をよぎり、智恵理は真っ赤になって動悸を高めた。

 その時、頭の上でロックの開く音がし、続いて排気音と共に自動ドアが開いた。
「だ、誰っ? あなた宇宙人?」
 問い掛ける智恵理の声はうわずっていた。
「残念だけど地球人よ」
 しかも発せられた言葉は日本語であった。
 智恵理は首が折れそうなほど後ろに倒し、そこに才子女史の姿を認めた。
 敵に捕らわれたのではないと分かり、智恵理はホッと溜息をつく。
「ご機嫌よう、チェリーブロッサム大尉。本日はお疲れさまでした」
 グロスを塗りたくったルージュが皮肉っぽく歪んだ。
「ここはセントラル・グループ、イギリス支社のラボです」
 才子女史はそう言うと、智恵理の足元へと移動する。

 それを目で追いながら智恵理が問い掛ける。
「あたしウィンザーで戦ってて……あなたが助けてくれたの?」
 智恵理にはアコンカグヤと対峙した後の記憶がなかった。
「さぁ、どうでしょう。双方にとって都合がいいのなら、そういうことにしておきましょうか」
 女史は小首を傾げて曖昧に答える。
 智恵理が失禁してボロボロになった姿で、参謀本部の正面玄関に倒れていたことなど、この時点で言ってみても仕方がない。
 医務室へ搬送される彼女を偶然目にした女史は、情報部長に掛け合ってその身柄を手に入れたのであった。

「脳波に少し乱れがある他、体の方は全く異常なしでしたわ」
 才子女史はコンソールパネルを弄りながら、背中越しに診察結果を伝えた。
「ありがとうございます。それじゃ、あたし本隊に帰らないと」
 智恵理はてっきり拘束を解かれるものと思い、女史を促すように身をよじる。
 しかし、振り返った女史の目に、危険な光が宿っているのを見て息を飲んだ。
 ミラージュやガイスト博士でお馴染みの、マッドサイエンティスト特有の目である。
「診察は終わったけど、調査の方はこれからなのよ。大丈夫、情報部経由でちゃんと許可を貰っているから」
 そう言う女史の手には、何やら妖しげな形をした器具が握られていた。
 ピンポン玉ほどもある金属球が7個ほど連なっている。
 それがネックレスや数珠でないことは確かである。
345ペイルウイング物語−落日編−:2009/10/22(木) 16:02:04 ID:I8OeUimN
「あぁ〜ん、まただよぉ」
 智恵理はこれから自分がされることを想像し、げんなりとなった。
 体の自由を奪っている拘束台が動きだし、油圧で作動するパイプが智恵理の両足を大股開きに固定する。
 そこに白衣を着た一団が入室してきた。
 白衣の一団は智恵理を取り囲むと、体のあちこちにコードのついたセンサーパッチを貼り付けていく。
「ちょっ……ひぃっ……」
 ゼラチンシールの冷たさが智恵理に悲鳴を強いた。

「私は、あなたが持っている謎のエネルギーを科学的に解明したいの」
 女史は金属球を連ねた器具にワセリンを塗り付けていく。
「その秘密さえ解析できたら……人類は無敵の兵器を手に入れることができるのよ」
 次いでワセリンのタップリ残る人差し指を、智恵理のアヌスに無造作に突き入れる。
「ひっ……ひぎぃぃぃっ……」
 ハイ・ミスの骨張った指が易々と内部に潜り込み、直腸をグリグリと掻き回す。
「む……むぅぅぅ……」
 心では指を拒否しているのにもかかわらず、アヌスは欲望に正直な反応を示してしまう。
 アヌスが充分に解れたのを確認すると、女史は指を引き抜いて消毒ガーゼで拭った。

「こ、こっちにも聞きたいことがあるわ……中野のラボで光ちゃんを検査したって人は、あなたなんでしょ?」
 智恵理は眉間に皺を寄せて才子女史を問い詰める。
 女史はしばらく記憶を辿り、ようやく光のことを思い出した。
「あぁ、あの娘ね。素養はあったけど、実戦に使える代物じゃなかったわ。そこで共鳴効果を狙ってあなたに近づけたって訳」
 女史が光にサイ・ブレードを持たせたのも、それが智恵理の手に渡るのを見越してのことである。
「でも、それももういいの。遠回りしたけど、こうやってあなた本人を手中にできたんだから」
 女史はドラフト会議で一番クジを引き当てたプロ野球監督のような顔になっていた。
「この検査が上手くいったら、私と一緒に日本へ帰りましょう。妹たちも喜んでくれるわ」
 一方的な告知を終えると、女史はボールを連ねた器具を手にする。

「さぁ、これを呑み込んで貰うわよ。センサーを内蔵してるから、普通のアナルボールより大きいの……覚悟してちょうだい」
 女史は眼鏡を光らせると、金属球を智恵理のアヌスに押し付けた。
「ひぃっ……む、無理……これ無理ぃ……ひぃぃぃっ」
 智恵理は必死で肛門括約筋を締めてボールを拒む。
「無駄に力を入れてると尻の穴が裂けちゃうよ。それとも筋弛緩剤の浣腸でもしてあげようかい?」
 女史の口調が急に蓮っ葉なものになってくる。
 それでも必死の抵抗を続けるアヌスだったが、やがてワセリンの潤滑作用に敗北した。
 チュルンという感覚と共に、先頭のボールが直腸に呑み込まれる。

「ひぃぃぃっ」
 冷たい金属球の表面には無数の突起が付いていた。
 それら一つ一つがナノテクを使用したセンサーだという。
 一つのボールを受け入れた途端、強情だったアヌスもあっさりと陥落した。
 次々に押し込まれた都合7つのボールのせいで、智恵理の直腸にズッシリとした重みが掛かっている。
「こ、こんなモノで……どうしようっての……ひぐぅっ……」
 智恵理は不安と期待の入り混じった目で才子女史を睨み付けた。

「ミラージュから没収したデータで、あなたが持ってる未知のエネルギーは直腸周辺に秘められていることは分かってるの」
 女史は小馬鹿にしたような目で智恵理を見下ろす。
 全てのデータは頭に保存すると自慢していた天才少女も、上司へのレポートだけは文書で提出せざるを得なかったのだろう。
 智恵理は真っ赤になって口をつぐんだ。
 報告書にはアナルを弄られた自分の反応が克明に記されていたに違いない。
 それを読んだ戦技研のお偉方がニヤニヤしている様子が目に見えるようであった。
346ペイルウイング物語−落日編−:2009/10/22(木) 16:02:46 ID:I8OeUimN
「そのエネルギーがどこに潜んでいて、どういう経路を伝って発現するのか、このボールとセンサーが調べてくれるのよ」
 智恵理のボディと頭部にはセンサーが貼付され、コードで解析マシンに繋がれている。
 神経電流の流れを調べ、エネルギーの伝達経路を拾うつもりなのだ。
「……で、なんでボールなの?」
 智恵理が反抗的な目で女史を睨み返す。
「分かってるくせに。それはね……こうやって使うからよぉっ」
 女史は言うや否や、智恵理のアヌスから伸びているコードを手に取り、思いっきり引っ張った。

 硬いボールがズボボボボボンと連続してアヌスから飛び出てきた。
 そのたび直腸壁は掻きむしられ、肛門は限界を超えた速度での開閉を強制される。
「ひぎゃぁぁぁ〜ぁぁっ」
 今まで感じた中で、最も強烈なA感覚が智恵理の全身を駆け抜けた。
 直腸から発した痺れが脊髄を通って脳に伝達され、頭の中を思いっきり掻き回す。
 開ききったスリットの奥から、熱くたぎった液が迸る。
 一撃で失神した智恵理は、それでも全身をビクンビクンと脈動させる。
 助手が咄嗟にガーゼを噛ませなかったら、舌を噛みきっていたかもしれない。
「すごいっ、メーターを振り切った。計測は不能……」
 機器の監視を担当していた助手が絶句する。
「発生源は尾てい骨周辺……詳細の確認には至らず」
 第1回の検査では満足いく回答は得られなかった。

「もう一度いく。今度は計器の設定を×10に変更。被検体の覚醒を」
 女史の命令で智恵理の鼻先に刺激臭のするガーゼが突き付けられる。
「う……うぅ〜ん……」
 脳まで突き上げてくる強烈な刺激臭が、智恵理の意識を無理やり回復させた。
 それと同時に、女史がボールの再充填を開始する。
「ひぃっ……ま、またぁ……もう止め……ひぃぃっ」
 充血しきった肛門がヒリヒリと痛む。
 女史はそんなことはお構いなしにボールをねじ込んでいく。
 その目は完全にサディストのものになっていた。

 準備が完了し、機器が計測を開始する。
 アヌスから伸びたコードがピンと張られた。
「や、やめ……し、死ぬぅ……」
 智恵理の哀願も才子女史を余計に興奮させることしかできない。
「ひぎゃぁぁぁ〜ぁぁっ」
 2度目の悲鳴がラボ中に響き渡った。


 それから数時間後、体中の筋肉を弛緩させた智恵理は、穴という穴から液を垂れ流しにして失神していた。
「ほぼ予想通りの生体メカニズムだったわねぇ。まさに人体の神秘だわ」
 才子女史は満足そうな顔で、モニターに写った智恵理の姿を見ている。
「少しの修正を加えるだけで、計画通りのスペックは確保できそうね……」
 女史は振り返ると特殊ガラスでできた巨大なシリンダーを見詰めた。
 それは女史が日本から空輸してきたもので、彼女の全てと言っても過言ではない作品であった。
347ペイルウイング物語−落日編−:2009/10/22(木) 16:03:23 ID:I8OeUimN
 4本並べて立てられたシリンダーの中では、培養液に浸された肉塊が気泡の流れに合わせて揺れている。
 それらは女児の上半身であった。
 ある者はへその辺りまで、ある者はみぞおち辺りまでの、いずれも不完全な体である。
 10歳前後に見える少女たちは、固く目を閉じて人工羊水の対流に身をまかせていた。
「タイムスケジュールに変更はない。直ちに日本へ戻り、最終調整に入る」
 女史の眼鏡が妖しく光った。

                                 ※

 その日の夕方前、ようやく解放された智恵理はウェストミンスターの参謀本部に帰ってきた。
 本部庁舎のロビーに佇んでいる智恵理を見つけたのは、偶然通りかかった光であった。
「先輩っ、退院するんならちゃんと言っといてよねっ」
 退院が遅れると聞いて迎えに行かなかった光は、最初の予定通りに帰隊した智恵理を見て少々むくれた。
 それでも大好きな先輩が帰ってきてくれたことは嬉しかったのであろう、直ぐに機嫌を直して笑顔に戻った。
「退院できたってことは、当然明日からでも出撃できるんでしょ?」
 やはり同じ戦場に智恵理がいるのといないのとでは、味方の勢いが全然違う。
 第3小隊長の立場からしても、光が喜ぶのも無理はなかった。

 ところが、当の智恵理の反応は普通ではなかった。
 焦点のぼけた視線を一点に固定し、半開きにした口からはヨダレが垂れていた。
「ちょっと先輩っ……ちゃんと聞いてる?」
 せっかく嬉しがっているところに水を差され、光はムスッとヘソを曲げる。
「へ……?」
 ワンテンポずれて、智恵理が呆けた顔を光に向けた。
 その顔には痴呆じみた薄笑いが浮かんでいる。
「せ、先輩?……誰かに何かされたのっ?」
 ただならぬ様子に、光は智恵理の頬をピシャピシャと平手打ちする。
 それでも智恵理は薄笑いを収めない。
 とにかく、先輩のこんな姿を人目に晒せないと判断した光は、腕を引っ張って強引にエレベータに乗せようとする。

 丁度そこへ2中隊と交替になり、市中詰所から帰ってきた3中隊の面々が通りかかった。
 先頭にいたマーヤ大尉は2人の姿を認めると、にこやかな表情で近寄ってくる。
 ところが、ひと目智恵理を見るなり血相を変えた。
「こ、これは……クンダリニーが全部抜かれている?」
 マーヤ大尉は魂が抜けたようになった智恵理を観察し、直ぐに原因を解明した。
 そして中隊をバーディ中尉に任せると、光に手伝わせて智恵理を自室に運び込んだ。


 マーヤは智恵理の着衣を脱がせてベッドに横たえると、いい匂いのするアロマキャンドルを灯した。
 続いて、様々なエキスをブレンドした香油を手に取ると、智恵理の全身を念入りにさすり始める。
 精神の高ぶりを静めると共に、肉体から毒気を排泄させる、アーユルヴェーダの秘術である。
「魂が汚されて極限まで興奮しきっている。余程の術師による精神攻撃を受けたのね」
 智恵理がアコンカグヤの術に敗れた後、更に才子女史による妖しげな研究の実験台になったことをマーヤは知らない。
348ペイルウイング物語−落日編−:2009/10/22(木) 16:04:08 ID:I8OeUimN
「どういうことなの? ちゃんと説明して」
 置いてけぼりにされた光が、唇を尖らせてマーヤに詰め寄る。
「いいでしょう。あなたには是非とも知っておいて貰いたいことですし……」
 マーヤは光に椅子を勧めると、マッサージを続けたままで語り始めた。

 智恵理の体に秘められた奇跡の力のこと。
 彼女が敵方の能力者との戦いに巻き込まれていること。
 そして、その力が自分の体にも宿っていることを知らされた光は、しばしの間返事もできないでいた。

「そんな力が先輩にあるっていうの?」
 尋ねる光の声はうわずっていた。
「そう、あなたの先輩はそれを何の修行も積まずに手に入れたの。そして次はあなたの身に劇的な変化が起きようとしている」
 大尉の穏やかな目に、少しだけ嫉妬の色が浮かぶ。
「あたしの体にも……」
 光は先日来、自分の身に起こっているおかしな出来事について考えを巡らせた。

 マザーシップ戦では、予知能力じみた力を駆使して敵の射線を回避してみせた。
 そして最近では、他人には見えない不思議な少女の姿を感じるようになってきた。
「それは、おそらくチェリーブロッサム大尉を導いている先達の残留思念でしょう」
 いわば、光はようやくその声を受信できるラジオを手に入れたのである。
 俄には信じられないことばかりであったので、光は混乱した思考を持て余した。
「とにかく、先輩をお願い。ちゃんと戦えるように直しといて」
 光は自分にできることは何もないと判断し、全てをマーヤ大尉に任せて部屋を辞した。


 翌日、智恵理が目を覚ますと、真横に全裸のマーヤが寝ていた。
 気付くと、自分自身も一糸まとわぬヌードであった。
「ひぇっ……なっ……?」
 マーヤを起こすと面倒なことになりそうな予感がしたので、智恵理はそっとベッドを降りて衣服を掻き集める。
 その上でこっそり部屋を出ていった。

「あたし、アコンカグヤと戦った後、変なラボに連れ込まれて……どうやって帰ってきたんだろう」
 どうも記憶が曖昧であった。
 だが、頭はスッキリとしており、思考は晴れ渡っている。
 なぜか肛門が焼け付くようにヒリヒリ痛む。
 そっと触ってみると、香油がタップリ擦り込まれていた。

「まいったなぁ……あたし、マーヤ大尉とやっちゃったのかな?」
 こんなことをアスラに知られれば、八つ裂きにされてしまうかもしれない。
「あっ、そうだ……三角木馬……」
 八つ裂きから股裂き、そして三角木馬の刑へと記憶因子が繋がっていく。
 それを機に記憶が少しずつ蘇ってきた。

「確か、セントラル・グループのラボで、引っ詰め女から変なことされたんだ」
 アナルボールのもたらす鮮烈な快感の記憶が、智恵理に全てを思い出させた。
「あの女、変なこと言ってたな。日本へ帰ろう……妹たちも喜ぶ……だっけ?」
 智恵理には帰国しても喜んでくれる妹などいない。
 結局、ペ科練の後輩たちを比喩的に表現したものだということで折り合いを付けた。
 気がつくと朝食の時間になっていた。
349ペイルウイング物語−落日編−:2009/10/22(木) 16:05:36 ID:I8OeUimN
 智恵理はまだ公式に帰隊したわけではなかったので、欠食扱いになっている筈である。
 自室に戻っても朝食の準備はされておらず、空腹を満たすには下士官食堂に行くしかない。
 食堂に入ると、1中隊と3中隊の下士官が歓声を上げて迎えてくれた。
 近くの隊員たちが手を伸ばして握手を求めてくる。
 5ヶ月前、テュールリーの兵舎で、下士官食堂から逃げるように立ち去ったのがウソのように思えた。

 だが、今の智恵理にはシュレッダー中佐の言わんとしたことも充分に理解できる。
 将校はいざとなれば下士官兵に「死ね」と命じなければいけない立場にある。
 部下と馴れ合うことで「あの優しい大尉がそんな命令するわけがない」などと甘い幻想を抱かせてはいけないのだ。
「でも、たまにはイイんじゃない? こんなに歓迎されてんだし」

 トレイを持って空いた席を探していると、エンジェルとセーラーが手を振って呼んでいるのが見えた。
「どうぞ、大尉殿。こちらのお席に」
 セーラーが椅子を引いてくれる。
「お帰り。これで、ちったぁ楽させてもらえるね」
 エンジェルは少尉に任官したのにも関わらず、相変わらず下士官食堂に出入りしていた。
 反抗的で協調性が全くなかった初対面の頃がウソのようである。
 この5ヶ月間の苦労が、彼女を人間的に成長させたのであろうか。
 もしかすると、こっちが彼女本来の姿であるのかもしれない。
 他人から頼りにされ、それに応えて感謝されることで、彼女はあるべき姿を取り戻したのであろう。
「ただいまっ。2人とも随分羽根が伸びているようだから、今日からみっちり扱いてあげる」
 着席した智恵理は、そう言ってニッコリと微笑んだ。

 そこへいつものとおり、光が慌ただしく突入してくる。
「せんぱぁ〜い。ここでご飯食べるんなら、そう言っといてよねっ」
 光は先輩の独占を許すまいと、強引にテーブルに割り込みをかける。
「おいこらっ。いい加減にしろよ、この脳みそまで脂肪の爆乳娘っ」
 折角のひとときを邪魔されたエンジェルが闖入者を睨みつける。
「なんだ、いたのか。気付かなかったよ、ちっちゃリーナ」
 光も負けじとエンジェルを睨み返す。

 相変わらずのいがみ合いを見せる2人だが、知らぬうちに陰ではファーストネームで呼び合う仲になっているようである。
 2人がレギーとバルキリー大佐のような、良きライバル関係を築いてくれればと智恵理は思う。
「羨ましいな」
 智恵理は互いを刺激し合う、同格の戦友というものを持ってこなかった。
 あの春嶺尼が生きていてくれたらと思うと、智恵理は少しだけメランコリックな気持ちになった。

 そんな感傷を追い散らすように、いきなりガタガタという椅子を引く音が一斉に起こった。
 彼女たちの総指揮官が下士官食堂に姿を見せたのである。
350ペイルウイング物語−落日編−:2009/10/22(木) 16:06:18 ID:I8OeUimN
 何事が起こるのかと隊員達に動揺が走る。
「気をつけぇっ」
 最上級者の智恵理は号令を掛けて自らも立ち上がる。
「よい、食事中に礼式は無用じゃ」
 マリー大佐は皆を制すると、智恵理のテーブルに近づいてきた。
 智恵理は椅子を引いて大佐の席を確保する。
「息災そうで何よりじゃ」
 大佐が席に着くと、ようやく隊員たちも着席する。
 運ばれてきた紅茶を一口すすり、大佐がおもむろに切り出した。

「先だって市中に出た折り、面白い話を耳にしたので教えてやろうと思うてな」
 最近、大佐は暇を見つけては“冒険”と称してお忍びで外出しているようである。
 しばしば訪れるオープンカフェやブティックは、市井の声を聞くための情報源になっていた。
 市民もまさかフランス訛りで喋るあどけない美少女がアン王女の愛娘とは想像もせず、正直な心の内を語ってくれるという。

「で、街の者が申すに、ヒナには過ぎたる物が2つあるそうな。曰く、カリナンのティアラにチェリーブロッサムだとか」
 カリナンのティアラは英国女王ゆかりの逸品で、レッドバロン撃破の功により先日王室から大佐に下賜されたばかりである。
 そんな世界的国宝級のティアラと等価値に例えられ、智恵理は申し訳なさそうに頭を下げた。
「詫びるに及ばぬ。その方は確かにヒナには過ぎたる功臣にして、掛け替えのない戦友なのじゃ」
 智恵理を見詰める大佐の目は、いつしか真剣な色を帯びていた。
「金品などに代えられぬ、一番大事な宝物なのじゃ……よう戻ってきてくれた」
 大佐はそう言って智恵理の手を固く握った。

 咄嗟には返答もできず、智恵理は黙り込んだままその手を握り返す。
 熱いものがジワッと込み上げてきて、大佐の姿が歪んで見えた。
「隊長……あたし……あたし……」
 アイスバーン少佐の名誉のためとはいえ、隠し事をしたことで智恵理は大佐に対する後ろめたさを引きずっていた。
 それなのに大佐は自分を信頼して何も聞かず、そのうえ宝とまで公言してくれたのである。
 部下として上官に望むに、これ以上のことがあろうか。

「あたしは……」
 声が裏返って先が続けられなかった。
「ん……以後もよろしく頼む……」
 マリー大佐も感極まって言葉を詰まらせる。
 見守っていた下士官達もようやく胸を撫で下ろし、食堂に賑やかさが戻ってきた。
351ペイルウイング物語−落日編−:2009/10/22(木) 16:07:27 ID:I8OeUimN
 しかし、それは束の間の安堵に過ぎなかった。
 出撃準備を告げる警報アラームが、無粋な音を立てて響き渡ったのだ。
『大気圏外ヨリ接近スル敵集団アリ。各部隊ハ直チニ迎撃体勢ニ入レ』
 戦闘指揮所からの指令に、智恵理は身を引き締めた。


 戦術会議室の液晶モニターが、刻々と変化する敵の状況を映し出している。
「敵は大気圏外にいて突入の機会を伺っている模様。予想降下地点は紐育、巴里、伯林、東京そして倫敦です」
 フォルテシモ中尉が情報ファイルのデータを読み上げる。
 倫敦に降下してくる敵の落下地点は、セント・ジェームズ・パークと解析された。
「今のうちに攻撃衛星でスィープアウトできないのかい?」
 3中隊のバーディ中尉がもっともな質問をする。
「生き残っている全ての衛星からは死角になります。あらかじめ計算済みってことですね」
 フォルテシモ中尉が間髪入れずに即答した。

「流石に情報が早いのぅ」
 マリー大佐が感心したように目を細める。
「恐れ入ります」
 お褒めにあずかった中尉は、照れたように頬をうっすら染めた。
「ところで、その方……最近CICの主任オペレータといい仲じゃそうな。地獄耳の情報源は案外その辺りかのぅ?」
 マリー大佐がとぼけた口調で尋ねる。
 今度はフォルテシモ中尉の顔全体が真っ赤に染まった。

 ヒューヒューという冷やかしの声とからかうような爆笑が渦を巻く。
「不謹慎ですっ」
「ふざけんなっ、ゴルァッ」
「こいつから先に血祭りに上げちまえっ」
 生真面目なアラベスク中尉の非難と、単に羨ましいだけの光とエンジェルの怒号が被さる。
「はいはい、静かにしましょうね。敵の降下地点が最初から分かってるんだから、迎撃も簡単でしょ」
 幼子をあやすように事態の収拾を図っているのは、ニコニコ顔のマーヤ大尉である。
 相変わらずのバカバカしいまでに賑やかな雰囲気は、久し振りの出撃となる智恵理を落ち着かせた。

「帰ってきてよかった」
 やっぱり自分の居場所はここなんだと智恵理は再認識する。
 最後までずっとみんなで戦って、一緒にこの戦争に勝利するんだ。
 そして戦勝パーティの席上で、夜を徹して思い出話に花を咲かそう。
 自分たちならそれができる。
 智恵理はそう信じて疑いもしなかった。
352名無しさん@ピンキー:2009/10/22(木) 19:40:54 ID:A9N8MchU
続き来たよコレw
もうこの辺登場のキャラは変態しかいないw

ぶっちゃけ、何が作られようがどうしようが、文字通りの地獄絵図しか浮かばないですが。
次回に期待。
353名無しさん@ピンキー:2009/10/23(金) 00:27:25 ID:Ew4qKrrl
女史がいいキャラしてます
次の敵も楽しみです
354名無しさん@ピンキー:2009/10/23(金) 00:58:22 ID:W9N8aUiD
いよいよ落ちて来るのか
355名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 22:27:42 ID:71k//Mae
誰が最初に串刺しの刑かな…
356名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 23:35:18 ID:zKzsVZ8h
遂に…遂に火球が落下してくるのか…
357名無しさん@ピンキー:2009/10/25(日) 23:47:33 ID:MWQPxfe6
なんというフラグ・・・
全員に愛着あるから誰も死んで欲しくないなぁー
そういう訳にいかないんだろうなぁ・・・
358名無しさん@ピンキー:2009/10/26(月) 09:16:35 ID:MwZNLGri
ついに来るのか…
次回も期待してるぜ!
久しぶりにEDF2ひっぱりだしてやろうかな。そしてねんがんのはーきゅりーを手にいれるんだ…
359名無しさん@ピンキー:2009/10/26(月) 19:00:15 ID:c0wTHVbd
伝説の男くる予感
360名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 00:43:41 ID:+MbgbnUE
目付きの鋭い陸戦兵「用件を聞こうか……」
361名無しさん@ピンキー:2009/10/28(水) 13:30:58 ID:mQ0XHxXh
>>358
ちなみにEDF2の武器入手は全シクレで確実に可能になっている
詳細は家ゲACT攻略板の乱数解析スレへ
362名無しさん@ピンキー:2009/11/05(木) 16:35:08 ID:bIuOkIiU
恥丘防衛軍
363名無しさん@ピンキー:2009/11/07(土) 08:12:47 ID:v3MFB11b
子宮防衛軍
364名無しさん@ピンキー:2009/11/08(日) 05:08:32 ID:0HeVm7s6
ペリ子アゲ
365名無しさん@ピンキー:2009/11/12(木) 21:10:43 ID:dTph6Cyt
>>296-297の展開が素晴らしかったのでカかせてもらいました
http://pic-loader.net/view/203edf023.html
366名無しさん@ピンキー:2009/11/13(金) 00:55:45 ID:TXGJNfRR
素晴らしすぎ
感謝
367「捕われの翼」:2009/11/14(土) 01:05:40 ID:ZBfbR63a
ご無沙汰しております。
再び貴重なスペースお借りします。

1話〜30話
http://tikyuboueigunss.web.fc2.com/
368「捕われの翼」:2009/11/14(土) 01:06:39 ID:ZBfbR63a
第31話  「母船攻略」

 優斗は勢いよく地下から飛び出した。
 前方の小型円盤を2機、立て続けにライサンダー2で撃ち落とす。

 すぐさま、小型円盤の大群が反応し、優斗めがけて突進してきた。
 優斗はプロミネンスを構え、一機の円盤をロックオンする。
「喰らえっ!!」
 発射ボタンを押すと、ミサイルがまばゆい閃光を放ちながら、敵に向かって矢のように飛んだ。

 円盤は素早い動きで、簡単にミサイルを避ける。
「お前らの回避パターンは分かってるさ。自動追尾で大量に巻き添え…」
 だが、その表情は次の瞬間凍りついた。
 ミサイルは敵を追わず、そのまま直進して空の彼方へ飛んでいってしまったのだ。

 呆然とする優斗を、何十機もの円盤が取り囲んだ。
「落ち着け、落ち着けよ」
 タイミングを計り、一斉に放たれる敵のビームを横っ飛びにかわして走り出す。

 進行方向に回り込んだ一機が、地面すれすれの位置で攻撃態勢に入る。
 だが優斗はその動きを予測していたように、素早くライサンダー2で叩き落した。
「こいつを落として、次は10時方向…」
 だが次の瞬間、血も凍るような雄叫びが響き渡った。
「しまった!気づかれたか」
 先程の女王蟻が、怒りに燃えて突進してくる。

「畜生…ん、あれは!?」
 光り輝く物体がひとつ、曇り空を割って一直線に降下してくるのが見えた。
「敵?いや違う!!」
 何とプロミネンスミサイルが、反転して戻ってきたのだ。
 優斗は咄嗟に身を伏せた。
 ミサイルはそのまま、密集した敵円盤群の中心を直撃した。
 高熱の爆炎は、あっというまに円盤群を巻き込み、纏めて一気に殲滅した。
「す、すげえ。こいつ、撃ったらしばらく直進するのか。色々使い道あるかも」
369「捕われの翼」:2009/11/14(土) 01:08:14 ID:ZBfbR63a
 優斗は立ち上がり、女王蟻に向き直った。
「来いよ。決着つけてやるぜ!」
 女王蟻は吼え、巨大な顎を開いて襲い掛かってくる。
 優斗は女王の頭めがけ、直接プロミネンスを発射した。
 ミサイルを避けようと動きかけた女王の頭部が、ガクンと跳ね上がる。
 優斗のライサンダー2が、一瞬だけ女王の動きを止めたのだった。
 プロミネンスは女王の顎の中心部に突っ込み、大爆発を起こした。
 女王は仰向けになって吹き飛び、瓦礫に叩きつけられて動かなくなった。

 女王を殺された蟻の群れは、急に戦意を喪失した様子で、落ち着き無く辺りを動き回り始めた。
 優斗は雑魚には目もくれず、全速力で走り出した。
 ただひたすらに、敵母船を目指して。


                         ◇◆◇



「ユキ、大丈夫か。少し休もう」
 ジェシカの言葉に、ユキは首を小さく横に振った。
 仙台基地を発進した部隊は、敵の未知なる生物兵器の攻撃によって壊滅していた。
 ジェシカ達の小隊も、ユキの活躍によって全滅を免れたものの、生き残った戦力はたったの5人である。
 それでも、予定通り東京を目指して進むというジェシカの提案に、反対するものは誰もいなかった。
 ずたずたに分断された高速道路沿いに、廃墟の荒野を幾日も歩き続けた。

「私は大丈夫よ。早くみんなを助けに行かないと」
「そうだ、頑張ろう。レオンも待ってるしね」
 エリーが皆を元気づけるように言う。

 しばらく歩くと、燃えさかる市街地の様子が次第に明らかになってきた。
「人だ!」
 ジェシカが叫ぶ。
 前方から、沢山の人影のようなものがゆっくりと近づいてくる。

370「捕われの翼」:2009/11/14(土) 01:09:10 ID:ZBfbR63a
「…これは…ひどい」
 エリーが顔を背けた。
 どの人間も、酷い火傷のために皮膚が焼け爛れている。
 軍人なのか民間人なのか、性別すらもわからない。
 夢遊病者のようにただ歩き、そして次々に倒れていく。

「一体どんな兵器を使ったんだ…」
 ジェシカが呟いた。
「…行きましょう」
 ユキは空を睨み、人の群れと反対に歩き出した。
 


                                ◇◆◇

 優斗は廃墟の荒野をひたすら走った。
 周囲に殆ど建物は無い。
 熱線と爆風で、全てが溶かし尽くされた跡なのだ。
 地面が焼けるように熱い。

「ん?あんな所に人が!」
 優斗は、前方からよろめきながら歩いてくる2つの人影を見つけた。
 一人は意識が無い様子で、もう一人がその肩と腕を支えて引きずるように歩いている。
 だが、すぐに力尽きたように、二人とも地面に倒れた。
「しっかりしろ!」
 優斗はすぐさま駆け寄った。

 二人の男女は兵士のようだった。
 男を支えて歩いてきた女兵士が、優斗の呼びかけに身体を動かした。
「しっかりしてください!今水を…」
 優斗は彼女を抱き起こして絶句した。
 黒髪の女兵士は美しい顔立ちをしていたが、顔の右半分は焼け爛れて、原型を留めていなかった。

371「捕われの翼」:2009/11/14(土) 01:11:38 ID:ZBfbR63a
「ありがとう…私はもういい…レオン少尉を助けて」
 女は搾り出すような声で言った。
「えっ、レオン少尉!?」
 優斗は驚き、倒れている男の顔を見た。
 長身の若い狙撃兵は、気を失ってもなお銃を握り締めている。

「本当にレオン少尉だ…大丈夫!火傷はそんなに酷くないみたいです」
「よかった…」
 女は安心したように微笑んだ。

「攻撃隊は全滅したわ。君…名前は?」
「優斗です。宮崎優斗…」
「優斗…勇敢な子…お願い、少尉を助けて…」
 懇願するように、彼女は左手を差し出した。 
 生命の灯が消えかかっているのが、優斗にも分かった。
「わかりました。あなたは…」
「私は…浅野理恵………」
 浅野は苦しげに微笑を浮かべる。
 優斗はそっとその手を握った。
「少尉は必ず助けます。あなたの仇も、俺が討ちます」
「うれ…しい…」
 浅野の手が、力なくすり抜けていった。
 薬指のリングが、一瞬だけ夕陽を反射して光った。


「彼女が守ってくれなければ、死んでいた」
 意識を取り戻したレオン・エッジワースは、ぽつりとそう言った。
「必ず仇を討ちます。敵はすぐそこなんだ」
 自分の腕の中で息を引き取った若い女兵士を想い、優斗は力強く言った。

「マザーシップは強力なエネルギーシールドに護られている。
 新型ライサンダーの一斉射撃も全く受け付けない。
 作戦は失敗だ。出直すしかない」
 レオンは言ったが、優斗は首を縦に振らなかった。
372「捕われの翼」:2009/11/14(土) 01:12:56 ID:ZBfbR63a
「駄目です。チャンスは今しかない。
 マザーシップにこれだけ近づけるチャンスはもう絶対に来ません。
 今すぐに攻撃すべきです!」
「気持ちはわかるが、有効な武器が無い。撤退するんだ」

 優斗は唇を噛んだ。
 ミサイルは撃ち尽くし、ライサンダー2の弾丸も残り少ない。
「弱点がどこかにあるはずです。ライサンダー2が効かなきゃ、その銃で」
 そう言って優斗はレオンの持つライサンダーFを指差した。
「こいつは欠陥銃だ。戦車砲みたいな反動で、狙撃どころの話じゃない。完全に危険物だ。
 見ろ、俺の右腕は動かなくなってしまった」
「反動…それなら…」
 優斗は目を細め、ライサンダーFの銃身をじっくりと見つめる。

 その時、再び上空からドロドロという重々しい音が響いてきた。
「来た!!」
 曇り空を割って、ついに巨大な敵母船が姿を現した。
 しかもその下を、護衛の小型円盤が数機飛び回っているのが見える。

「あの小型UFOはどこから来たんだ。さっきはいなかったぞ」
「たしかに、全部引きつけた筈ですが…」
 優斗が言い終わらない内に、母船の下部中央にある紫色のドームが、ゆっくりと2つに割れた。
「あれは…ハッチか!?」
 レオンが驚愕して言った。
 ドーム状の蓋が開き、小型円盤が次々に発進してくる。
「まずいな。護衛がいると、ライサンダーだけでは囲まれて終わりだ」

 レオンはそう言ったが、優斗は眉をしかめ、別のことを考えていた。
「あいつら…シールドがあるのに何で出て来られるんでしょう」
「何?」
「ライサンダー2を弾くほど凄いエネルギーシールドが張ってあるなら、
 中からあんなにスムーズに出てこれるもんでしょうかね」
「さあな。地球外のテクノロジーには詳しくないが」
「ひょっとしたら、小さいUFOを出すときは、母船のシールドを解除してるんじゃないですか」
「………」
 レオンは優斗の目をじっと見つめた。
373「捕われの翼」:2009/11/14(土) 01:14:05 ID:ZBfbR63a
「きっとそうです!ハッチが開いてる間に、重力遮断ドライブを破壊できるかもしれない。
 俺にやらせてください!!」

 レオンはやれやれと首を横に振った。
 こういうタイプの人間には何を言ってもしょうがない。
「やってみろ。俺は援護出来んぞ」
「ありがとうございます!!」

 次の瞬間、上空から物凄いスピードで小型円盤が特攻してきた。
 二人は咄嗟に物陰に飛び込む。

「見つかった!増援が来るぞ」
「打って出ます!ライサンダーFを貸してください!!」
「話を聞いてなかったのか?こいつの反動は…」
「反動なんて、こうしてしまえばッッ!」
 優斗はもぎ取るようにライサンダーFを奪い、物陰から飛び出した。
 数機の小型円盤がすぐに纏わり付き、行く手を塞ごうと回り込む。
 優斗は走りながら、銃をを高々と頭上に掲げた。

「何!?」
 一瞬の出来事に、レオンは目を見張った。
 優斗が勢い良くライサンダーFを振り下ろすと、高速で前方を通過した筈の円盤が、爆炎を上げて叩き落されたのだ。
 優斗は素早く次弾を装填し、全力で右方向に薙ぎ払う。
 左から追い抜こうとしていた一機が、弾き飛ばされるように見えなくなった。
 三機目はかなり上空にいたが、優斗はそのまま体ごとライサンダーFを振り回した。
 雷鳴のような銃声が轟き、三機目も撃墜された。

374「捕われの翼」:2009/11/14(土) 01:15:02 ID:ZBfbR63a
「(まさか、振り回して反動を殺しているのか!?馬鹿な…それより、いつ狙っているんだ!?)」
 狙撃などというよりは、斬り落とすといった表現が相応しい。
 斬撃が一閃する度、敵は移動中だろうが攻撃中だろうがお構いなく墜とされた。
 全機撃墜されるまでに、30秒とかからなかった。

「何なんだ…今のは…」
 レオンは近づいて恐る恐る尋ねた。
「え?ああ、制御装置ぶっ壊れた227Dで遊んでて思いついたんです。
 “流し撃ち”とか言って。でもあれより遥かに凄い反動だなあ」
 優斗は明るく笑った。
「それじゃあ、行ってきます!」
 優斗はそのまま敵母船めがけて走っていった。


 再びハッチが開きかけた一瞬、光の矢が敵母船を貫くのをレオンは見た。
 ライサンダーFの弾丸は空中で炸裂して加速し、凄まじい弾速で巨大円盤の中心部を直撃する。
 マザーシップは急に安定を失い、大きくぐらりと傾いた。


(続く)

375「捕われの翼」:2009/11/14(土) 01:17:45 ID:ZBfbR63a
本日は以上です。
ありがとうございました。
376名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 04:03:30 ID:QcHl+XpR
まさかの流し撃ち…!

こっち小説はゲームの小ネタや定番テクニックを上手く現実的な話に盛り込んでるよね
プロミネンスの直進とかもそうだし
377名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 16:21:51 ID:oWcXTFDx
>>361
詳しく
とっくにクリアしてるのに、どうしても出ない武器があってモヤモヤしてる
378名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 16:39:38 ID:/HcXOLjT
俺も出せない武器が一つだけ
しかもサンダースナイパー15という中途半端な奴が残ってる
379名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 17:11:31 ID:nwHGTeIl
賛砂15くらい普通にやってりゃ出るだろ
380名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 17:24:17 ID:/HcXOLjT
そう思っていたのだが、どうやっても出ない
何故だ?
381名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 17:25:30 ID:QcHl+XpR
>>377
乱数解析で検索するんだ
てかwiki見てこい
382名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 18:28:16 ID:nwHGTeIl
>>380
坊やだからだろうな、やっぱり
383名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 19:08:30 ID:VYm7N9qc
マジレスすると、>>378のディスクには最初から賛砂15は入っていない
384名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 19:14:17 ID:nwHGTeIl
なんてこった
うちの胡瓜と同じじゃないか
不良品として交換してくれないのか
385名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 19:24:15 ID:ccbcCGD1
>>378
俺のM16と交換してやろうか?
この前、灼熱稼ぎで2つ目を手に入れたんでな
386名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 19:43:30 ID:nwHGTeIl
ま、まさか、あなたがMr.Gですか
387名無しさん@ピンキー:2009/11/14(土) 22:52:39 ID:zcgbmSuK
しかし、まあなんというか
普通は胡瓜出ねぇとか礼賛乙出ねぇとか愚痴るモンなのに
よりによって賛砂15かよw
388名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 16:42:18 ID:hftQSmkP
>>386
用件を聞こうか
389名無しさん@ピンキー:2009/11/15(日) 23:31:25 ID:Ed+fTpTh
1万アーマー用意しました
娘の、娘の仇を討ってください
390名無しさん@ピンキー:2009/11/16(月) 00:22:00 ID:ketg7qAs
報酬はEDF極東支部に振り込んでくれ極
391名無しさん@ピンキー:2009/11/17(火) 19:58:10 ID:N2yoJ8uk
Gの新作マダァ?
極東支部のEDF信用組合の指定口座に原稿料振り込むからさあ
392オセロ:2009/11/18(水) 08:26:34 ID:c5jwMYeg
第二次インベーダー侵攻失敗……
空を覆う巨大な要塞都市が、爆円と共に地に堕ちた映像は、生き残った数少ないメディアを通じ、人々を歓喜させた。

数週間後……
国連とインベーダー(既に『侵略者』ではないが)穏健派による和平交渉が結ばれ、全ての巨大生物の機能停止と、飛行円盤部隊の武装解除が行われた。
EDFはその存在意義を失い、解体される予定であったが、幾つかの要因がそれを未遂に終わらせた。
終戦と平和を良しとしない、一部の強硬派によるテロが、人類側インベーダー側問わずに横行したのだ。
人類側のテロリズムは、多くが都市破壊による被害者、インベーダー側のそれは、家族を戦闘で無くした若者達だった。
かくしてEDFは解体を免れ、インベーダーテロリズムに対抗する礎として、世界の警察として機能し続ける事となった。
 「姉さん、仕事に行ってくるよ、母さんの世話をよろしくね」
 「ア……アァ……分かっていル……気を、付けテ」
灰色の肌と、緑の髪を纏った異形の美女が、拙い言葉で言った。
相手は10代半ば、人間の少年だった。
人間の少年は物怖じもせず、異形の美女に満面の笑顔を浮かべると、小汚いバラックを出て、復興に勤しむカオスの中へ駈け出して行った……

“彼女”が、この街にやってきたのは、要塞都市が堕ちる数日前だった。
元々“彼女”はインベーダーの飛行円盤部隊のエースパイロットであり、人類に仇為す為にやってきた、正真正銘の侵略者だったのだ。
彼女の操る飛行円盤は多くの航空機を撃墜し、丸裸になった地球の空から、地上のあらゆる目標を蹂躙しつくした。
戦争中の彼女には、正にそれだけだった。
彼女はただ、コクピットの立体画面に表示される熱源目標に照準を合わせ、モノクロ世界の人型標的を焼くだけだった。
しかし、ある時彼女の対峙した目標は、彼女のそれまでの常識を完全に打ち砕いてしまった。
たった一人の人物が、原始的な物理運動兵器一丁で、次々と味方の円盤を撃墜し、彼女の円盤も、一撃の元に地へと沈んでしまった。
その人物がだれだったのか、彼女は知る由もない。

ともかく、彼女は運よく墜落時の衝撃に耐え、重傷を負ったものの一命をとりとめ、この集落へと落着したのだった。
爆発寸前の円盤から這い出した彼女は、すぐにも死を覚悟した。
そこには生きたヒト……地球の学名でいう『ホモサピエンス・サピエンス』の……気配が感じられた。
それも、一人や二人ではない。
彼女達インベーダーが、あれだけ強力なジェノサイド砲で地上を焼いたというのに、これだけ多くのヒトが生き残っていたは、正直彼女にとって意外であった。
恐らく野蛮人である『人類』は、彼女を発見次第八つ裂きにするかレイプして殺し、見せしめとして吊るしあげるだろう。
だが彼女はただで死ぬ気はなかった。
 『一匹デモ多ク、道連レ二シテヤル……』
彼女は自衛用の小型武器を構え、瓦礫を背に路地の向こうを凝視していた……
そして、彼女が生まれて初めて、生で目にした人間が、例の少年だった。
 『……怪我をしているの?』
言葉は通じなかった。だが敵意も感じられなかった。
その人類は彼女よりはるかに小柄で、明らかに子供であったし、鈍器の様な野蛮な武器も持たず、ただ恐る恐る物陰から彼女の方に何か語りかけているようだった。
彼女は少年の顔に向けて小型武器を向け、威嚇の声を上げ続けたが、少年は一向に遠ざかる気配を見せず、ただ両手を広げて丸腰である事をアピールしていた。
 『大丈夫、何もしないよ……その怪我を何とかしないと』
彼女はわき腹に突き刺さった円盤の破片を抑え、必死に出血による朦朧と闘っていたが、ついに抵抗むなしく力尽きてしまった。
ゆがむ視界の向こうに、水を浸した器と包帯を手にした少年の姿が映ったが、彼女にはそれを拒むだけの気力は残っていなかった。
393オセロ:2009/11/18(水) 08:27:20 ID:c5jwMYeg
 「ゾーイ、ゾーイや……水を少しおくれ」
 「分かっタ……待ってテ」
ゾーイと呼ばれたインベーダーの女は、黒と白が人間とは反転した大きな瞳をキョロキョロさせて、ベッドに横たわる人間の老婆にコップとスプーンを持って行った。
ゾーイはスプーンで器用に水をすくうと、老婆の小さな口に少しずつ水を与えた。
老婆はそれを大業そうにのみこむと、一つ大きく吐息を吐いて言った。
 「ありがとう」
 「ア……気に、するナ……」
 「本当にお前は、私の娘のようだよ……本当だよ」
 「ワタシ、子供ではなイ……」
ゾーイの灰色の肌が深みを増す。それは彼女の鼻先から、尖った耳の先端まで広がった。
恐らくは紅潮しているのだろうが、インベーダーの血液は、鉄を主体としたヘモグロビンによる酸素結合ではなく、銅を主体としたヘモシアニンによる酸素結合により、青白く見えるのだ。
 「お前は優しい子だよ。もう戦争は終わったんだ。お前も自由におなりよ」
 「ワタシ、帰る所なイ……ここが、今の家……」
瀕死の彼女が少年によって、このバラックに保護されて数週間。
治療と暖かい食事……もっとも、地球の食料は彼女の舌には少し味付けが濃すぎたようだが……を与えられる内、彼女の中で人類に対する認識が変化していった。
増えすぎた人工を支える為、彼女達インベーダーが取った手段は、他の惑星への侵出……
多くの場合、知的生命の存在しない移住の容易な原始的惑星だったが、一部の強硬派の後押しによって、知的レベルの高い生物……人類が支配する、この地球への強制移住政策が可決された。
彼女もその強硬派の宣伝するプロパガンダにのせられ、人類を『血も涙もない獣』であると教えこまれ、下等な害虫を駆除するべくこの星へとやってきた。
そして結果はご覧んのあり様だった。
下等なはずの害虫の徹底抗戦により、二度も侵略作戦を打ち砕かれ、作戦の要衝たる要塞都市までも失い、開戦のきっかけとなった強硬派は責任をとって銃殺刑に処せられたというニュースを、地球のメディアによって知った。
彼女に残された生きる支えは、この小さなバラックしかなかった。
心やさしい人間の少年と、彼が世話する病弱な老婆……

少年の本当の両親は、第一次インベーダー侵攻の際に命を落としていた。
それはインベーダーの攻撃によるものではなく、巨大甲殻虫に狙ったEDFの空爆に伴う誤爆であった。
だが例え人類側の誤爆であったとしても、その原因を作ったはずの彼女に対し、少年は一切の敵意を示さなかった。
少年はただ「姉さんも大切な人を戦争で無くしたんでしょ?」としか、答えなかった。
 「ワタシ、助けてくれた……有難ウ、一生世話すルヨ」
 「有難うゾーイ……私が死んだら、あの子をお願いね」
老婆のしわがれた手がゾーイの頬を暖かく包む。
ゾーイはそれに手を返し、穏やかに口元を緩めた。
394オセロ:2009/11/18(水) 08:28:40 ID:c5jwMYeg
 「ひゃっはー!集金に来たぜ屑ども!」
 「あんた達を助けてやった英雄だよ!金目の物を持って来なさい!」
軍用ヘリのけたたましいエンジン音が響き、バラックに住む人々を震え上がらせた。
ヘリから降り立ったEDF治安部隊の隊員達は空に向かって銃を撃ち鳴らした。
彼らは陸戦兵とペイルウィングの二人一組で行動し、各家々を回っては「集金」と称して略奪を繰り返した。
戦争の恐怖と狂気のタガが外れた彼らに、歯止めは存在しなかった。
彼らはただ、何かに怒っていた。
家族を失った怒り。
家や財産を失った怒り。
戦友を殺された怒り。
倒すべき、殺すべき敵を、平和によって失った怒り。
だから彼らは、こうして新たな敵を求め、怒りの矛先を求めていた。
インベーダーテロリズムが横行する背景には、こうしたEDF隊員の不条理な暴力が要因になっていた。

 「ゾーイ、隠れていなさい。枯れた老婆一人相手なら、彼らも馬鹿はしないでしょう」
 「分かっタ……気をつけテ……」
終戦後とはいえ、敗残兵であるゾーイのようなインベーダーを、彼らEDFの治安部隊が見つければ、どんな酷い仕打ちをされるか分かったものではない。
ゾーイはバラックの床板を外し、食糧庫として使っていた地下室に潜り込んだ。
きっちりとふたをしてしまえば、一見して外からは分からない様になっている。
ゾーイは床板の間から、外の様子を見守った。
陸戦兵の固い軍靴の音が近づいてくる……
 「ババァ!まーだ生きてたのか?」
 「失礼な男ね、ノックぐらいなさい」
続いて甲高い女の声……ゾーイにも馴染みのあるペイルスーツ……元々ペイルウィング隊員の装備は、インベーダーテクノロジーを鹵獲したモノをベースとしている……に身を包んだ女性隊員だった。
 「あの小僧がいないねぇ?何処行ったんだい?金に困って売っちまったのかい?」
 「仕事に行っているよ、アナタのような淫売と一緒にしないで頂戴」
 「なんですって!?」
ペイルウィングが地団太を踏んだため、下から見上げているゾーイは顔に砂埃をモロに受けて涙目になった。
 「ババァ、最近ここらでインベーダーの女が出入りしてるって噂が流れてる……何かしらねぇか」
 「知らないわ、早く帰って頂戴」
 「まぁいい、とりあえず今月分のブツを頂こうか」
 「困ったわねぇ、今は持ち合わせがないのよ」

悲劇はその時起こってしまった。

 「母さん、帰ったよ……治安部隊の奴らが来てたみたいだけど大丈b……」
 「おう、邪魔してるぜボウズ」
運悪く少年はその現場に居合わせてしまった。
彼は不幸にも、今日の仕事の稼ぎの詰まった袋を手にしていた。
ペイルウィングが目ざとくそれを見つける。
 「坊や、丁度今集金をしているトコだよ……そいつをよこしな」
 「ダメだ!このお金で母さんの薬を買わなきゃならないんだから!」
 「口答えすると痛い目みるよ?」
395オセロ:2009/11/18(水) 08:29:20 ID:c5jwMYeg
ペイルウィングはつかつかと歩み寄ると、少年の顎を掴んでイヤラシイ目つきで睨んだ。
陸戦兵がそれに合わせてげらげらと笑う。
老婆はベッドから這い上がると、苦しそうにせき込みながら割って入った。
 「いいから差し上げなさい。それで安全に暮らせるならいいでしょう」
 「ダメだよ!そんなのダメだ!」
少年がペイルウィングの手に噛みつく。甲高い悲鳴をあげ、ペイルウィングは悪態をついた。
 「このクソガキ!よくもやったね!」
 「逆らおうってのか!?いい度胸だぜ!」
陸戦兵がAS−99の銃床で少年を殴り倒すと、下にいるゾーイの耳に鈍い音が響いた。
同時に老婆の悲痛な叫び。
そして……

銃声……

ゾーイはもう、隠れている事ができなかった。
 「やめロ!ひとでなシ!」
床板を跳ね上げて飛び出したゾーイの姿に驚く二人。
ゾーイは陸戦兵の銃を奪おうと掴みかかった。
 「てめぇ!やっぱり隠れてやがったな!」
 「薄汚いインベーダーの雌犬め!ぶっ殺してやるよ!」
 「黙レ!お前らだって侵略者ダ!この人たちが何をしタ!」
ペイルウィングの鋭いつま先にわき腹をけり上げられ、ゾーイは激痛にのたうった。
床を転げまわるゾーイの髪を掴んだ陸戦兵が、怒りと憎しみと、そして残忍な笑みを湛えた狂気の表情で言った。
 「結構イイ女だ!ただじゃすまさねぇ!」
陸戦兵は拘束用の樹脂リボンでゾーイの両腕を拘束すると、その上に馬乗りになった。
そして軍用ナイフでシャツを下から切り裂いていった。
ゾーイは悲鳴をあげようとしたが、ペイルウィングがブーツの先を口に突っ込んだ為にそれも叶わなかった。
女性用の下着が用意できなかったためか、シャツの下は素肌だった。
形の良い……しかし灰色の乳房が外気にさらされ、ゾーイは冷たいナイフの感触に震えるしかなかった。
陸戦兵は片方の胸に噛みつくように吸い付き、もう片方を乱暴に揉みしだいた。
ゾーイが暴れようとすると、ペイルウィングがブーツを喉の奥に乱暴にねじ込んだため、口の中に血の味が広がった。
サイズの合っていないホットパンツも直ぐにはぎ取られ、肌と髪と瞳の色以外は人間の女と大差ないゾーイの体は、餓えた陸戦兵の性欲のはけ口と化した。
 「んぐううう!!ぐむうううう!!」
陸戦兵が前戯もなく、ゾーイの女性を貫いた為、ゾーイは激痛にのたうった。
こういった行為には人間もインベーダーもなく、ただ『暴力』という共通の言葉があるだけだった。
涙を浮かべて逃れようとするゾーイの顎を、ペイルウィングがサディスティックな表情を浮かべて何度も踏みつける。
よく見れば彼女はゾーイをいたぶりながら、スーツの下の自分の体を弄って自慰に耽っていた。
ゾーイは屈辱と苦痛にもがきながら、二人の安否を確かめるべく、視線を横に移す。
しかしそこに映ったのは……

赤い血を流して動かなくなっている、老婆と少年の姿だった。
396オセロ:2009/11/18(水) 08:30:00 ID:c5jwMYeg
 「………んんんんん!!!んんんんんっ!!!!!」

一際大きくゾーイの体が跳ね、両目が見開かれる。
目じりに溜まっていた涙は一気にあふれ出し、ゾーイの声にならない悲鳴と共に、虚しく流れ続けた。

 「MPだ、ずらかるぞ!」
陸戦兵とペイルウィングはゾーイの体を好き放題に穢し、バラックの中を奪うだけ奪い、はぎ取るだけはぎ取っていった。
銃声を聞きつけて憲兵隊が駆けつけた時には、バラックは酷い有様だった。
発見された三人の内、老婆と少年はそれぞれ、銃傷と打撲による脳挫傷により既に息はなく、暴行を受けたゾーイもショックで意識不明であった。
幸いにも一命を取り留めたゾーイだったが、彼女が病室のベッドで目覚めた時には、彼女の側でほほ笑んでくれる少年の姿はなく、また彼女を娘同様に愛してくれる老婆の姿も無かった。


半年後……EDF英国ロンドン支部。

 「MI6が何の用だ……ヒューム2世……」
 「君に頼みたい事があるんだ『ミスター・G』……報酬はスイス銀行に振り込み済みだ」
 「要件を聞こう……」
 「EDF内部の虱とりだ……非常に忌々しき事態なのだ。わが軍内部の腐敗は目に余る状況だ。」
 「そういった問題を解決するのが、お前達の仕事だろう?」
 「そうだ、だから我々は幹部クラスの粛清を行っている。秘密裏にだ……だが、それでも末端までは完全に目が届かないのが現状だ」
 「……一般隊員による略奪行為……か」
 「そうだ、一兵卒の問題行為など取るに足らないと考えるかもしれないがな……私は我慢出来んのだ、英国紳士たる我がEDF英国支部の隊員の中に、そういった輩が存在するという事実が……」
 「親子揃っての、ジョンブルか……」
 「父と同じ名を持った事を誇りに思うよ。そして君との関係もだ『ミスター・G』……」

G……
Ground force……
陸戦兵……
伝説の男……

彼を知る者は少なく、
また、知っている者も、彼については固く口を閉ざしている。
397名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 10:04:23 ID:RMl1GdWe
言ってみただけなのに、本当にMr.Gキテタァー
どうしよ。俺、報酬の1万アーマーなんて持ってないぜ
と、となると……次の標的は……
398名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 15:28:05 ID:uFYLrXLU
期限まで灼熱で稼ぎまくるんだ
もしお前が胡瓜を持っているなら
2000アーマーで引き取ってやってもいいぜw
なに? 足元見るなって?
俺は乱数で入手しても構わないんだぜwww
399名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 15:45:25 ID:aiJw0m0S
>>398

ギルティ……
400名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 18:44:32 ID:/qtgKIva
>>398
あこぎな商売企んでるからとばっちりを喰らうんだよw
401名無しさん@ピンキー:2009/11/18(水) 20:25:41 ID:il3qrTC4
むしろ自分が乱数で取って>>398に売りつけるという発想はなし?
402名無しさん@ピンキー:2009/11/19(木) 06:25:47 ID:7tR9uCWw
どっちにせよ、Mr・Gの活躍に期待する。
このどうしようもない暗黒を少しでも晴らしてくれるだろうし。
403名無しさん@ピンキー:2009/11/28(土) 13:24:26 ID:9TQ5v4Gd
捕らわれの翼GJ
wktkする内容だなw
ライサンダーFを容易く扱う優斗、もはや人間ではなくなってきているな

マザーシップ墜落現場付近にいた優斗は戦死扱いで2に続くのかな?
2では生ける戦場伝説として活躍するのかな?
無茶振りっぽいけど、それだけ楽しみにさせる内容だ

レオン「アイツ(優斗)は人ではない、そういう存在だ」
渡辺「ルーデルを超えるの化け物ですよ、奴はカスリ傷一つおわない」

と2人は意味不明な発言をしており…という所まで妄想した
404名無しさん@ピンキー:2009/11/29(日) 15:10:29 ID:ouwoXOby
乱数について誰か分かりやすく説明してくれ
405名無しさん@ピンキー:2009/11/29(日) 15:17:32 ID:oCrT5JiT
乱数解析スレに行け
406名無しさん@ピンキー:2009/11/29(日) 17:59:07 ID:sL5ruWJy
俺もゴチャゴチャしたのは読む気がしない
5行程度でスッキリまとめてくれたら抱かれてやってもいいぞorz
407名無しさん@ピンキー:2009/11/29(日) 22:08:49 ID:YFUcB6jw
397はもうスナイプされちまったのかな
408名無しさん@ピンキー:2009/11/30(月) 00:12:24 ID:tYJcEIfG
依頼主の裏切りは絶対に許されないからな
ついでに>>406も撃たれちまえ
409名無しさん@ピンキー:2009/12/09(水) 21:24:29 ID:HE1FWx80
保守
410ペイルウイング物語−落日編−:2009/12/12(土) 22:49:26 ID:pKan8cZ/
                                 ※

 マリー大佐率いる親衛隊ペイルウイング大隊は、セント・ジェームズ・パークの緑地帯に展開していた。
 出撃したのは大佐直卒の第1中隊とラヴィアンローズ少佐の第2中隊である。
 小隊ごとに分散配置された隊員たちは空を見上げ、敵の出現を今や遅しと待っている。
 敵の大気圏への進入場所と突入角度が判明しているので、降下ポイントは容易に算出できた。
 観測機からの情報によると、そろそろ敵の兵器が落下してくる時間である。

「全て予定どおりなのじゃ。敵には空からの援護がないゆえ、存分に叩きのめしてやろうぞ」
 散開直前の訓辞で、マリー大佐は自信満々に部下を激励した。
 智恵理は持ち場へ向かう途中、第2中隊長ラヴィアンローズ少佐に呼び止められた。
「あなたのこと認めたわけではないけど、いて貰わないと困るわ。でないと、私たちの正しさを証明できないから」
 少佐はニコリともしなかったが、智恵理の帰還を喜んでくれている気持ちは伝わってきた。
 相変わらずの皮肉っぽさが鼻についたが、これでいいのだと智恵理は思った。
 彼女の知ってるラヴィアンローズ少佐はこうでなくっちゃいけないのだ。
「レーダーに反応。上空からきます」
 フォルテシモ中尉の声に全隊員が身を緊張させる。

 それは突如として現れた。
 澄み渡った青空をバックに、真っ赤な炎を引いた5つの流星が落下してきたのである。
 ズズーンという音と共に地響きが伝わってくる。
 噴煙が収まるのを待たず、奇妙な形の兵器が屹立した。
 本体は近衛UFOによく似たシルエットである。
 そして、どんな物理学を応用しているのであろうか、何枚もの金属板を連結した4本の足で重そうなボディを支えていた。
 ちょうど戦車のキャタピラを一直線に伸ばしたようなペラペラの足である。
 それをくねらせるようにして移動する姿はコミカルであり、隊員たちは思わず笑みを漏らしてしまう。
411ペイルウイング物語−落日編−:2009/12/12(土) 22:50:02 ID:pKan8cZ/
 ところが、その笑顔はたちまち凍りついた。
 新型戦車が遠間からいきなりプラズマ弾を吐き出してきたのである。
「散開っ」
 マリー大佐の命令が飛び、手近の隊員たちが素早く四方に散る。
 そこへ正確無比な狙いでプラズマ球が着弾した。

 回避が早かったのが幸いし、負傷者は出なかった。
 息を付く暇も与えず、新型戦車は次々にプラズマ弾を発射する。
「敵の射程は長い、一気に間合いを詰めよ。懐に飛び込むのじゃ」
 マリー大佐が叫ぶよりも早く、智恵理は突撃を開始していた。
 余人に倍する進出能力が彼女の持ち味である。
 とにかくサンダーボゥの射程距離である140メートルまで近づかねばならない。

 だが、新型戦車の装備が、智恵理にそれを許さなかった。
 いきなり幅広の光線が、幾条も束になって襲いかかってきた。
「なにこれっ……あぐぅぅぅーっ」
 強烈な威力を秘めた光線が智恵理を包み込む。
 焼け付くような地獄の苦しみが智恵理を苛む。
 全身の運動機能が麻痺し、光線から逃れることもできない。
 光の手に捕らえられた智恵理は、身動き一つできないままジリジリと灼かれていった。

 智恵理が助かったのは全くの偶然であった。
 落下した智恵理が瓦礫の陰に入り込んだため、光の手が遮断されたのである。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
 九死に一生を得た智恵理だったが、呼吸は乱れ、心拍数は跳ね上がっている。
 ペイルスーツは焼け焦げて、あちこちから薄煙が上がっていた。
「て、手強い」
 智恵理は新型戦車の並々ならぬ性能を、今更ながらに思い知った。
 それでも彼女には第2小隊長として、味方のために突破口を開く義務がある。
「化け蜘蛛や大ムカデだってなんとかしてきたじゃない。頑張れ、あたし」
 それに自分が何とかしないと、後ろにいるマリー大佐が危なくなる。
 荒かった呼吸もようやく落ち着いてきた。

「遮蔽物から遮蔽物へ……それから一気に特攻を……」
 決意すると同時に、智恵理は瓦礫の裏から飛び出した。
 そして公園中央にある記念碑を目指して滑空する。
 だが、敵の反応は智恵理の想像を遙かに超えるほど素早かった。
 新型戦車は、ダロガでは考えられないような素早さで弾道計算を終えるとプラズマ弾を発射した。
「は、速いっ?」
 智恵理は急ブレーキを掛けたが間に合わず、着弾したプラズマの衝撃波に飲み込まれる。
 プラズマの余波に翻弄される智恵理に向けて、無慈悲な光の手が伸びてきた。
「あぁっ、また……アァーッ」
 再び光線に捕らえられた智恵理が、なす術もなく灼かれていく。
412ペイルウイング物語−落日編−:2009/12/12(土) 22:51:29 ID:pKan8cZ/
「くはぁ……」
 ようやく光線が途切れ、智恵理は脱力したままアスファルトに叩き付けられた。
「な……なによ……こんな、きし麺みたいな光線なんか……」
 強がりを言いながら立ち上がろうとする智恵理だったが、全身が麻痺していて仰向けになるのがやっとであった。

 いつの間にか新型戦車が頭上に忍び寄っていた。
 4本ある足のうち1本が高々と上げられ、鋭い銛状の先端部が智恵理を狙っている。
「ひっ?」
 智恵理が思わず身をすくませた途端、もの凄い衝撃が襲いかかってきた。
 最初の一撃は僅かに身を外した。
 続く二撃目が腹部に命中する。
「おごぉっ」
 智恵理の口から、血の混じった胃液が噴き上がる。
 ボディアーマーのフィルムパッドが一発で無力化していた。
 そして最後の一撃は智恵理の左太腿―――絶対領域の僅か10センチ下に食い込んだ。
 偶然にも、それはかつて彼女がアスラに与えた痛撃と全く同じ箇所であった。
「ギャァァァーッ」
 智恵理は断末魔の悲鳴を上げ、そのままガックリと首を折った。

 後方でその様子を見ていた全員が、凍りついたようになって立ちつくしていた。
 あのチェリーブロッサム大尉が、敵の新型戦車の前になす術もなく敗れ去ったのである。
 無敵と謳われ、あのマザーシップをも沈めた英雄が、血と泥にまみれて惨めに転がっている。
 それは彼女を知る者にとっては、信じられない光景であった。

「大尉っ」
 沈黙を破って、真っ先に飛び出していったのはマリー大佐であった。
「なりませんっ」
 アラベスク中尉がセカンドの義務を果たすべく、大佐を羽交い締めにする。
「放せアラベスク。このままでは……」
「もう手遅れですっ。お願いですから……」
 アラベスク中尉は無礼と知りつつ大佐を固く抱きしめる。
 大佐は自分の無謀がこの忠実なセカンドまで殺すことになると気付き、ようやく暴れるのを止めた。
「後退を。後退して遮蔽物に隠れましょう」
 副官フォルテシモ中尉が大佐に代わって指示を出し、中隊は緑地から出て手近のビル街に待避した。

「どうする。正面から突っ込んでも勝ち目はないぜ」
 そう言うエンジェルの顔は真っ青になっている。
 早く敵を叩いて小隊長の安否を確認したいが、いい策が思い浮かばない。
「まともに戦ってもダメ。ビル街に誘き寄せ、遮蔽物を利用して死角に回り込みながら攻撃しましょう」
 光はペ科練で学んだ『対戦車戦闘教範』の市街戦実習を思い出し、マリー大佐に意見具申する。
 それしか戦術が思い浮かばず、さっそく各中隊に指示が飛ぶ。

 だが、彼女たちは新型戦車の恐ろしさを知らなさすぎた。
 新型戦車は速射式のプラズマ砲を撃ちまくり、大佐たちの潜んだビルを次々に破壊していった。
 そしてアッという間に接近を果たすと、長い足を伸ばしてビルの上へと登っていく。
「おい、見ろ。ビルを乗り越えてくる」
 この身軽さ、この走破性こそが新型戦車の真の恐ろしさなのだ。
「なんて奴だ……あ、あぁぁ……うあぁぁぁ〜っ」
「火力が違いすぎる。うわっ、ぐはっ……だあぁぁぁ〜ぁぁっ」
 光の手が伸び、隊員たちを無慈悲に灼いていく。

「こ、これまでなのか……」
 マリー大佐はいよいよ覚悟を決めざるを得なかった。
 無念ではあった。
 それでも実母たるアン王女の楯となって死ねることが、大佐にとってせめてもの喜びであった。
413ペイルウイング物語−落日編−:2009/12/12(土) 22:52:07 ID:pKan8cZ/
 マリー大佐が諦めきったように頭上を見上げた次の瞬間であった。
 新型戦車のボディから無数の火花が飛び散った。
 少し遅れて耳を聾する爆雷が轟いた。
「な、なに……」
 思わず身のすくむような雷鳴であった。
 新型戦車は、と見上げると、ボディのあちこちから黒煙を吹き上げ、足をぐらつかせているところであった。

 再び雷鳴が響き渡り、同時に戦車のボディから紅蓮の炎が噴き上がった。
 完全にコントロールを失った戦車が、ボディを支えきれずに地面に崩れ落ちてくる。
「回避っ」
 ユニットを噴かせて大佐たちが逃げ出す。
 ワンクッションおいて戦車が大爆発を起こして四散した。

「なんじゃ。援軍なのか?」
 マリー大佐がキョロキョロと周囲を見回すと、視界のあちこちで新型戦車が炎上するのが見えた。
「あそこじゃ」
 マリー大佐の目が、ようやく援軍と思われる陸戦兵の集団を捉える。
 彼らは約1キロ先に陣取り、一列横隊の狙撃線を張っていた。
 コッキングの度に銃身が上がり、スコープのレンズがキラキラと太陽を反射した。

                                 ※

 智恵理が目を覚ますと、白い天井が広がっていた。
「……また戻ってきちゃったんだ」
 空気に含まれた微かなクレオソートの臭いが、そこが病院であることを智恵理に悟らせた。

「負けた……スコンクで負けた……」
 固く閉じた目から悔し涙が溢れてきた。
 智恵理とてこれまで100パーセントの勝利を続けてきたわけではないが、ここまで完璧なゼロ敗は初めての経験である。
 如何に未知の新型兵器が相手だったとは言え、何もできないまま半殺しにされたことはショックであった。

「そうだ、奴らは……奴らはどうなったの」
 智恵理はベッドから起き上がろうとして、左足が全く動かないことに気付いた。
 シーツをはぐってみると、ギプスでガッチリと固められている。
 それを見て智恵理は目の前が真っ暗になるのを感じた。
 ロングブーツのお陰でアンカーの貫通は免れたが、骨が砕けるもの凄い音がしたのを覚えている。
「まさか……あたし、もう二度と戦えないんじゃ……」
 途端に焦燥感が襲いかかってきた。
414ペイルウイング物語−落日編−:2009/12/12(土) 22:52:48 ID:pKan8cZ/
 その時、ドアが開く音がして病室に誰かが入ってきた。
「おぉっ、気がついたか」
 医師に伴われたマリー大佐が目を丸くして驚いた。
「まる3日起きてこなんだから心配しておったぞ。意識が戻ったのならもう安心じゃな」
 大佐は確約を取り付けようと医師を促す。
 医師は黙って智恵理の脈を取ると、大佐に向かって頷いてみせた。
 そして体温が平熱であることを確認すると、そのまま無言で病室を辞した。

「隊長、あたし……申し訳ありませんでした」
 智恵理は一の矢である第2小隊長として、新型戦車に敗北したことを詫びた。
「なんの、出会い頭の一撃を食らっただけじゃ。気にやむこともなかろう」
 マリー大佐は智恵理を元気づけようと笑顔をみせた。
「で、隊長……」
「ところで奴らは『ディロイ』と名付けられての。流石は新型だけあって、なかなかに手強い相手じゃ」
 大佐が殊更にゆとりのある態度を見せる。
「あたしの……」
「じゃが、安心せい。今度、新式の狙撃銃を装備した部隊が編成されてのぅ……確か、ライサンダー2じゃとか」
 大佐は窓辺に近づきブラインドを半分開ける。

「アレの一斉射撃はちょっとした見物ぞ。なにしろすぐ近くに雷が落ちたようでの、ヒナも危うくチビり掛けたわ」
「…………」
「じゃがのぅ、ヒナらがディロイを引き付けていたからこその狙撃成功じゃ。陸戦隊だけではどうなっておったことか」
 大佐が智恵理の口を塞ごうと、わざと大声になっていることは明白であった。
 しかし彼女の一人舞台にも直ぐに幕が下りてしまった。
 主演女優が演技を続けられなくなってしまったのである。
 大佐の背中が小刻みに震えていた。

「隊長……もうダメなんですね……あたしの足……」
 智恵理は大佐を思いやり、トーンを抑えた声で質問した。
「す、すまぬ……普通に生活するには支障はないが……兵士としては……もはや……」
 大佐が悔しそうに窓枠を叩いた。
「……やっぱり……か」
 智恵理は嫌な予感が当たったことに強いショックを受けた。
 だが、ここで大げさに騒いでは大佐を悲しませると思い、必死で心の平静を保とうとすした。

 聞けば複雑骨折の方は直ぐに回復するらしい。
 しかし断裂した神経細胞群は、この病院で対処するのは困難だということであった。
 そこで彼女を東京のEDF病院へ転送させるべく、総監部から帰還命令が出ているという。
「隊長、お願いがあります。あたし、日本へは帰りません。このまま隊に残してください」
 智恵理は大佐の背中に対して頭を下げる。
「部隊が大事な時に、あたしだけ離脱することはできません。それに、東京に帰っても必ず治るって保証はありませんから」
 智恵理はこのまま日本へ帰る気など毛頭なかった。
 例え直接戦闘に参加できなくても、できることは幾らでもある。
 自分の持っている戦闘のノウハウを後輩に教えることで、隊の戦力を大幅に上げることも可能なのだ。
415ペイルウイング物語−落日編−:2009/12/12(土) 22:53:32 ID:pKan8cZ/
「当たり前のことを申すなっ。誰がその方を手放すかっ」
 振り返った大佐の目に、涙が滲んでいた。
「その方には、ずっと側にいて貰わねば困るのじゃ……」
 大佐は、それはエゴであると自覚していた。
 しかし大佐はこの際とことんエゴを通す決意をしていた。
「その方は……その方は、実の姉と思うておる……最初に叱られたあの日からずっと……」
 マリー大佐はそう告白すると、智恵理のベッドに腰を掛けた。

                                 ※

『報道をお伝えします。インベーダーの浮遊都市は、恐るべき攻撃を開始しました』
 病院のピロティに置かれたテレビの画面に、深刻そうな顔をしたジェミーが映っていた。
 命知らずの突撃リポートで人気を博した彼女は、今や花形キャスターとして報道チャンネルに出ずっぱりの身であるという。
 現在の彼女には、前線を駆け回って取材する時間すらないのだろう。
「ジェミーさん、今の境遇を喜んでいるかな」
 車椅子に乗った智恵理はポツリと呟いた。

 意識を取り戻してから3日が経過し、体に力が入るようになってくると、智恵理はジッとしているのが苦痛になってきた。
 そこで昼食の後、院内のあちこちを探検するのを日課にしていたのである。
 左足を固定しているギプスはいつ外せるとも知れず、移動するには車椅子を利用しなければならない。
 たとえギプスが取れたとしても、彼女は二度と戦場に立てない体なのだ。
 突撃ジェミーと同じく第一線から退くことを余儀なくされた智恵理は、彼女の心境を聞いてみたい気がした。

『浮遊都市は衛星軌道まで上昇し、そこから戦闘メカを投下し始めました。遥か上空から侵略者の戦闘メカが落下してきます』
 現在までにおよそ数千機のディロイが投下され、彼らに襲われた地域は軒並み壊滅状態に陥っているらしい。
 そして、ディロイの脅威に晒されている地域は世界各地に及んでおり、場所の特定すらままならないという。
 もはや、世界に安全な場所は無くなっていた。
『放送をお聞きの皆様。もし上空から落下してくる物体を見たら、直ちにその場所から遠くへ、できるだけ遠くへ離れて下さい』
 ジェミーは最後にそう結んで画面から消えた。

「矛盾してらぁ。安全な場所は無いって言っときながら、直ちに逃げろもねぇだろ」
 野卑な笑いが背後で起こり、智恵理は首を捻って背後を見た。
 およそ病院には縁のなさそうな大柄の男が愉快そうに笑っていた。
 年の頃なら30前後であろうか、薄汚れた陸戦服の前をだらしなくはだけている。
 大男の陸戦兵は智恵理の視線に気付くと、更に目を細めて歯を剥き出しにした。
「なっ、お嬢さん。アンタだってそう思うだろ。こいつは傑作だぁ」
 男は同意を求めるようにウィンクし、更にガハハと大笑いする。
「不謹慎よっ。怪我人はただでさえ不安になっているっていうのに」
 智恵理は知り合いのジェミーが笑いものにされたこともあり、目を三角にして大男を睨み付けた。
 自分の不注意を認めた男は、エヘンと咳払いして態度を改めた。

「そう責めるでない。こんな風でも、こやつは一応その方の命の恩人ぞ」
 大男の背後からマリー大佐がひょっこり姿を現せた。
 意味が分からず、智恵理は眉をひそめる。
「第11独立狙撃大隊のスタリオン少佐じゃ」
 大佐が智恵理に大男を紹介する。
「こやつらの支援攻撃がなければ、その方を救出することもできなんだ。取り敢えずはヒナも感謝しておる」
「一応とか取り敢えずは酷いんじゃない?」
 スタリオン少佐が顔をしかめて大佐に抗議する。
「調子に乗ってヒナを口説いた罰じゃ。本来なら不敬罪で銃殺刑ものじゃぞ」
 それで貸し借りは無くなったとばかり、大佐は得意満面で男をやり込める。
416ペイルウイング物語−落日編−:2009/12/12(土) 22:55:03 ID:pKan8cZ/
 智恵理は大佐から聞いたライサンダー部隊のことを思い出した。
「それじゃあ、あなたが?」
 いずれお礼に行こうと思っていた矢先、当の相手から見舞いを受けたのであった。
 慌てて座り直そうとした智恵理を少佐が手で制する。
「命令に従って迎撃しただけのこと、礼には及ばないぜ。それにこれでスッキリしたしよ」
 何がスッキリしたのか、智恵理は訝しそうに少佐を見上げる。

「大尉にゃ、俺っちが狙ってたマザーシップを横取りされた借りがあったからな」
 スタリオン少佐はビッグハント作戦に従事した折り、アン王女のユーロスターに同乗していた。
 ところがマザーシップが選んだ標的は王女ではなく智恵理であった。
 少佐は英雄になるチャンスを目の前にして、その栄誉を逃してしまったのだ。
「で、俺っちを出し抜いてくれた英雄サマがどんな女なのか興味があって、わざわざ顔を拝みに来てやったって訳さ」

 その英雄サマが手もなく捻られる姿は、少佐の目にはどのように映ったのか。
 少佐の言葉の端々には優越感が見え隠れしていた。
「で、どうでした? 生意気な女が目の前で滅多刺しされるのを見た感想は?」
 智恵理の頭から湯気が出始める。
「ん? 大笑いした。だってよぉ、アンタ……あのアンカーにぶっ刺されるたんび、オモチャみたいに飛び跳ねるんだぜぇ」
 少佐はその光景を思い出したのか、再びガハハと大笑いを始めた。
 智恵理の顔が悔しさと恥ずかしさで真っ赤になる。

「……まぁ、アンタにあそこで死んで貰うわけにゃいけないんで、直ぐに手下どもにぶっ放させたけどな」
 智恵理は自分が新型兵器の前に惨敗を喫したことで、全軍の士気に悪影響をもたらせたのではないかと心配していた。
 しかし、この男を見る限り、そんな心配は無用だったようである。

「大尉、気にするでない。この男は相手が好みの女と見ると苛めてからかおうとする癖があるでな。小学生レベルの思考じゃ」
 智恵理が見上げると、少佐はバツが悪そうに鼻の頭を掻いていた。
 目が笑っているからなのか、智恵理に対する悪意は無いように見えた。
「それにしても言い方ってモンがあるでしょっ」
 余りのデリカシーの無さに、智恵理は少佐のことが好きになれないと思った。

 その時、正面玄関の扉が開き、私服姿の光とエンジェルが入ってくるのが見えた。
「あっ、ヤベッ……それじゃ俺っちは帰るから」
 スタリオン少佐は急にソワソワし始めたかと思うと、身を屈めて通用口の方へと向かう。
「じゃあな英雄サマ……それとヒナちゃん、機会があったらオッパイ揉ませてくれよな」
 それだけ言うと、少佐は人混みに紛れるようにして消えていった。
417ペイルウイング物語−落日編−:2009/12/12(土) 22:55:41 ID:pKan8cZ/
「隊長っ。今ここに、あのアメリカンゴリラいなかったですかっ?」
 走り寄ってきた光が、目を三角にして周囲を見回す。
 同じくエンジェルも鼻息を荒げて殺気立っている。
「アメ……なんだって? それってスタリオン少佐のこと?」
 智恵理は訳が分からないまま光に尋ねる。
「やっぱりいたんだね、あの種馬野郎ぉっ。チチョリーナ、まだその辺にいるはずだ。探しだせっ」
 光とエンジェルは頷きあうと、その場から駆け出しかける。

「ちょっと、どうしたってのよ。あの人となんかあったの?」
 智恵理は2人を制して説明を求める。
「あいつ、断りもなくあたしらのオッパイ揉みやがったんだ」
「今度アタイらの回りをウロチョロしたら半殺しにしてやるって忠告したのに……性懲りもなく」
 2人が悔しそうに歯噛みする。

「捨て置け、アレはあ奴の病気じゃ。それにプロの陸戦兵の逃げ足の速さは知っておろう」
 マリー大佐が余裕の笑みを浮かべて2人を取りなす。
「けどさ、風紀上悪いぜ。あいつ例のこと恩に着せて、隊の女の子を見境なく口説き回ってるらしいし」
 エンジェルが反論した途端、マリー大佐の態度が一変した。
「なにぃ、口説いたのはヒナだけではないと申すかっ」
 大佐の顔が怒りで真っ赤になる。
「捨て置かぬっ。追えっ、奴は通用口じゃ。ヒナが直々に手打ちにしてくれるわっ」
 合点だとばかり光とエンジェルが走り出そうとし、智恵理が車椅子に座っている現実を思い出した。

 その途端、2人は気まずそうに項垂れる。
 自由に走れなくなったばかりの智恵理に対して、余りに不謹慎だったと気付いたのである。
 マリー大佐も冷静さを取り戻して口をつぐむ。
「やだなぁ。ちょっと……変なトコに気を使わないでよ」
 智恵理はわざと明るく笑ってみせる。
 しかし内心の寂しさまでは隠しようもなかった。
418名無しさん@ピンキー:2009/12/12(土) 22:57:35 ID:pKan8cZ/
投下終了です
419名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 01:08:37 ID:R6z2Fyro
乙であります!
ようやく陸男達の出番が来たか
この辺からペリ子には相性の悪い敵が大量に出て来るからなあ
420名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 14:49:51 ID:ahI0+zDE
浮かれる陸戦と落ち込むペイルウイングの対比が見事
まさに落日のペイルウイング

にしても、ディロイ怖ぇぇっ
421名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 16:22:39 ID:8isLOYJc
きしめん吹いたw

それでもモンスターなら…モンスターならなんとかしてくれる…!
レイピア特攻でリベンジも見たいけど、モンスターとか各種誘導兵器とかの活躍も捨てがたいね
陸戦兵も狙撃や爆撃で出しゃばってきそうだし、ますます面白くなってきたなぁ
422名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 16:48:19 ID:HR97ly6Y
一般兵士(陸戦兵)と飛行兵(ペイルウイング)の力関係が大きく逆転するのが皇帝都市出現以後。
戦闘持久力が低いし、何しろ強力な間接攻撃武器がないですからなぁ。
今後、一同がどうこれを工夫して切り抜けるかがキーポイントになりそうですね。

まぁチェリーブロッサムの敗退は、本人の責任じゃなさそうだし(遠い目)
スタリオン少佐は口が悪くてスケベだが、悪い人ではないみたいだしこれからの活躍に期待。
423名無しさん@ピンキー:2009/12/13(日) 22:43:42 ID:ahI0+zDE
種馬少佐が、実は伝説の男の正体……ってことはないよな
424名無しさん@ピンキー:2009/12/14(月) 21:47:13 ID:o7gVBpKS
串刺しキタァー
でも誰も死ななくてよかった
425名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 20:32:19 ID:VW2zHEBQ
ヒロインが戦えなくなるなんて・・・。
急展開に目が離せなさすぎる!

毎回本当に楽しみにしています。
次回も頑張ってくださいっ!
426名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 21:09:53 ID:tgKzNgPd
新作キテター。乙です!
そういやここらからINFもペリ子つらくなるんだっけなぁ
陸男、頼りになりそうだぜ。続き楽しみにしてるんだぜ
427名無しさん@ピンキー:2009/12/15(火) 21:56:05 ID:B2U8pijf
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 PWS!PWS!
 ⊂彡
428名無しさん@ピンキー:2009/12/23(水) 21:41:21 ID:JiofTqEz
保守
429名無しさん@ピンキー:2009/12/25(金) 19:53:39 ID:VqQLcvAd
お前らMerry Christmasだ
430名無しさん@ピンキー:2009/12/28(月) 06:18:31 ID:R3TLRmDX
そう言えばペリ子の誕生日っていつだ?
431「捕われの翼」:2009/12/30(水) 15:41:39 ID:1khan99t
いつも貴重なスペースありがとうございます。
第32話投下します。
432「捕われの翼」:2009/12/30(水) 15:43:36 ID:1khan99t
第32話 「思念誘導」

絶え間無い爆発音が、紅く燃える空に鳴り響く。
巨大な円盤は、火柱と黒煙を上げながら、ゆっくりと地上に落下していった。

「何が起こったんだ…」
ジェシカが呟く。
ユキは何も言わず、ただ一点を見つめて立ち尽くしていた。

「終わった…のか?まさかな」
巨大円盤は空中で分解し、濛々と立ち込める黒煙の中に消えていった。
同時に強い風が吹き、灰を含んだ生温い雨が降りはじめる。
五人は身動きもせず、ただ黒い雨に打たれていた。

「ん、何だあれ?飛行機か?」
暫くして、エリーが空を指差して言った。闇に包まれ始めた空を、小さく光る点が移動している。
「飛行機だな。降りてくるぞ。行ってみよう」
ユキ達は頷き合い、ジェシカの後を追った。

飛行機が着陸した場所に接近すると、そこは破壊された小さな飛行場だった。
「EDFの輸送機だ。あの制服はたしか…総帥直属の近衛部隊じゃないか。
 こんなところで何をしてるんだ」
ジェシカの言葉に、エリーは不安げな顔になる。
「また捕まるんじゃないだろうな。殺されるのは御免だよ」
「心配ない。あたしはウォレス中佐に、あんたたちを助けるよう命令されたんだ。
 何があっても…」
ジェシカが言い終わらない内に、背後で物音がした。
「誰だ!!」
全員が身構える。

暗闇の中から、五、六人の陸戦兵らしき人影が、ユキ達を取り囲むように近づいてくるのが見えた。
「待て!怪しい者じゃ…」
ジェシカが言ったが、兵士達は根棒の様な武器を振り上げ、一斉に襲い掛かってきた。
「クソッ!狙いはユキ達だ。行くぜブライアン!」
「了解」
433「捕われの翼」:2009/12/30(水) 15:44:52 ID:1khan99t
ジェシカと大柄なブライアンは、微塵の恐れも見せず敵に突っ込んでいく。
ブライアンのヘビー級パンチの効果で、形勢はあっという間に逆転した。
五人を薙ぎ倒し、残っているのは一番後方にいた小柄な兵士一人になった。
 ヘルメットのせいで顔が見えないが、細身のボディースーツに包まれた身体は、まだ子どものようにも見える。

「ハハハ、舐めやがって。残りは一人だ!」
だが、小柄な兵士はジェシカの攻撃をいとも簡単に避け、同時に鋭い左ストレートでジェシカの顎を打ち抜いた。
「ぐはっ…」
激しい脳震盪を起こし、ジェシカが地面に倒れ込む。
「ジェシカ!」
「この野郎!!」
アシュレイとブライアンが、怒りに燃えて突進する。
小柄な兵士はブライアンの拳をかい潜り、右脇腹に強烈なボディーブローを見舞った。
ブライアンの巨体が崩れ落ちるのを呆然と見ていたアシュレイも、同じ攻撃を喰らって悶絶した。
「肝臓に穴を空けたわ。動かない方が身のためよ」
少女の冷たい声が響く。
「その声は…マリア!?」
ユキが叫ぶと、小柄な兵士はゆっくりとヘルメットを外した。
「お久しぶりね。ユキ」
金色のツインテールが夜風にたなびき、美しいロシア人の少女が姿を現した。
「マリア!!どうしてこんな…」
「別に。自分の力を試したかっただけ」
マリアはそう言って、可愛らしい少女の笑みを浮かべる。
「それに事情が変わったの。あなた達を地獄に連れ戻してあげる。
 ただし、今度は前のと比べものにならない程辛いわよ」


「エリー、逃げて」
ユキが立ち上がって言うと、エリーは怯えた様に頷き、後ずさった。
「無駄よ。私の思念感知から逃げられると思っているの」
マリアは両手を広げ、ゆっくりと距離を縮めてくる。

434「捕われの翼」:2009/12/30(水) 15:46:03 ID:1khan99t
「そこまでだ。マリア」
落ち着いた声が響いた。マリアがぴたりと足を止める。
「ウォレス中佐…」
倒れていたジェシカが苦しげに言う。
マリアの背後から現れた若い将校は、構わずに言葉を続けた。
「マリア、そいつの思念感知は、近接戦闘に特化した超短距離タイプだ。
 お前では相手にならん。下がれ」
マリアの青い瞳が、怒りの炎に揺らめいた。
「お言葉ですが、ウォレス中佐。力を示しておく必要があります。私は負けません。
 やらせてください」
 言い終えるや否や、マリアは身を屈めて地面を蹴った。

10m程の間合いを一瞬で詰める。空気を切り裂く稲妻の様な拳を、ユキはかろうじて回避した。
「さすがね。これはどう?」
マリアは、腰から長い鞭の様な武器を外して構えた。
 ユキの表情に緊張が走る。
「ご存知の様ね。強力な電流付き。掠っただけで終わりよ」
「待って!!」
ユキが喘ぐ様に叫ぶ。
「どうしてこんなことするの…マリアと戦うなんて厭よ!」
マリアは答えず、鞭を空中で大きく回転させた。そして舞を舞うかのように、素早く三度腕を振る。

ユキに向かって、ほぼ同時に三方向から鞭が襲い掛かった。飛び退いたユキの逃げ場を塞ぐ様に、あらゆる方向からマリアの攻撃が迫る。
「逃げてるばっかりじゃ死ぬわよ」
壁際に追い詰められたユキに、容赦無くとどめの一撃が放たれた。

「ユキ!!」
エリーが叫ぶ。コンクリートを砕いた様な衝撃音が響き渡った。だが、ユキの姿はそこに無かった。

「無駄だ、見切られているぞ。諦めろ」
安全な位置に逃れたユキを見て、ウォレスが笑う。
435「捕われの翼」:2009/12/30(水) 15:48:52 ID:1khan99t
「バカにしないで!!」
マリアは逆上した。全身から、赤く燃える凄まじい思念エネルギーの波動が溢れ出る。
「何なの…これは」
その波動は、怒り、恐怖、憎しみ、悲しみ等、凶々しい負の感情で満ちていた。
ユキが怯んだ一瞬、先程とは比べものにならないスピードで鞭の攻撃が飛んできた。
 ユキの身体は流れる水の様に反応し、最小限の動きで鞭の先端を避ける。

 だが、避けた筈の鞭は、突然軌道を変えてユキの首に絡み付いた。
「あれは!!思念誘導…」
ウォレスが驚きの表情を浮かべて言う。
「ゲームオーバー」
マリアの言葉と同時に、鞭から高圧電流が流れた。激痛に全身を焼かれ、ユキは耐え切れずに悲鳴を上げる。
「踊りなさい。倒れちゃ駄目よ」
「ああああっっ!!」
ユキは痛みに身を捻らせ、悲痛な叫び声を上げ続けた。

「終わりね。また記憶を消してあげる」
マリアは力尽きて倒れたユキに、更に容赦無く電撃を浴びせる。
「ユキ…」
エリーは耳を塞いだ。凄まじいマリアの思念エネルギーに圧倒され、助けたくてもどうすることもできない。苦しみ叫ぶユキの悲鳴が、段々弱々しくなっていく。

だが突然、大きな銃声と共に、マリアの鞭が途中から千切れた。
マリアは短く舌打ちし、ゆっくりと銃声の方向に向き直った。
「感知はしてたけど、反応が遅れたわ。凄い弾速ね。出ていらっしゃい」

暗闇の中から一人の少年兵が現れた。長い特殊な形状の狙撃銃を構えている。
「いい度胸ね。よくも私の邪魔を…」
「その子に用がある。ずっと探してたんだ」
少年は落ち着いた声で言った。
436「捕われの翼」:2009/12/30(水) 15:49:46 ID:1khan99t
「…優斗…」
倒れているユキが、うわごとのようにその名を呼んだ。身を起こそうとするが、手足に全く力が入らない。
「ユキ!!」
優斗は駆け寄り、その身体をしっかりと抱き寄せた。
「大丈夫か!俺がわかるか?絶対に生きてると思ってた…」
優斗は言葉を詰まらせた。状況はどうあれ、ユキが生きていたこと、自分を覚えていてくれたことが嬉しかった。
ユキは頷き、少しだけ微笑んだが、すぐに痛みに顔をしかめた。

「あら、お知り合い?悪いけど、陸戦兵ごときの出る幕じゃ…」
マリアが言い終えぬ内に、優斗は振り向き様に発砲した。
「貴様よくも、死ねっ!!」
 正確な射撃だったが、思念誘導によって弾道を逸らされ、マリアには当たらなかった。

「調子に乗らないで。私は特別なのよ」
 マリアは再び思念波を増幅させ、ゆっくりと鞭を構えた。
 だが、優斗は構わずにライサンダーFを振り回した。

 弾丸は真上に飛んだ。
「中佐!危ない!!」
 マリアが叫び、ウォレスを突き飛ばす。
 同時に、崩れかけたビルの屋上から、大きな看板用の鉄骨が大量の瓦礫と共に落下してきた。
 周囲はあっという間に土煙に包まれ、何も見えなくなった。
 
「くっ…ウォレス中佐、お怪我はありませんか」
「大丈夫だ。それより急いでユキを追え。絶対に逃がすな」
 マリアは立ち上がったが、ユキと優斗の姿は何処にも見当たらなかった。
「逃げられたか…」
「地下に逃げ込んだようです。ご心配なく、居場所は分かります」
 青い眼の少女はそう言って微笑んだ。

(続く)

437「捕われの翼」:2009/12/30(水) 15:50:47 ID:1khan99t
本日は以上です。
ありがとうございました。
438名無しさん@ピンキー:2009/12/31(木) 00:21:27 ID:Qq202n7V
だんだんニュータイプばりのスーパーチルドレンばっかりになってきたなw
遂に主人公二人が合流、思念誘導も登場か
とはいえマザーはもう倒してゲームでいう1の話は終わったから、ここからどういう話になるのか予想がつかんね
439名無しさん@ピンキー:2010/01/02(土) 21:29:46 ID:KQfGGQXO
1から2への空白の1年間……予想できませんね…乙でした。
440名無しさん@ピンキー:2010/01/04(月) 18:08:49 ID:KHAV2Wd2


マザー弱いな礼賛F1発?1発じゃEasyのマザーすら倒せないぜ
出来ればマザーとの激戦を描いて欲しかったけど
441名無しさん@ピンキー:2010/01/07(木) 16:32:15 ID:Da+oWwY0
もういいのかな?

>>430
つか、ペリ子ってのは特定のペイルウイング隊員の名前なのか?
442名無しさん@ピンキー:2010/01/08(金) 15:13:01 ID:bcDBsu4W
陸男とペリ子っていうしな
あのパケのペイル隊員がペリ子なんじゃないの
443名無しさん@ピンキー:2010/01/08(金) 18:03:48 ID:BDQFXlpS
俺もペリ子というのはペイルウイングの愛称みたいなもんだと思ってた
違うのか?
444名無しさん@ピンキー:2010/01/08(金) 18:36:11 ID:ymwAWyev
陸戦兵→陸男
ペイルウィング→ペリ子
っていう愛称だと思ってた
445名無しさん@ピンキー:2010/01/08(金) 19:24:42 ID:3s3y8U00
あのパケのイラストがペリ子でいいのか
今日まで知らんかった
446名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 14:48:55 ID:bUKUbuP6
普通にペイルウイングのことだろ
447名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 19:32:18 ID:cEDYSziv
男のペイルウイングもいるそうだし
ペイルウイングの女性隊員のことをペリ子って区別するんじゃないの?
448名無しさん@ピンキー:2010/01/10(日) 20:16:56 ID:RElu7oJX
伝説の男と同じで、驚異的な活躍を見せたペイルウイング個人の名前だろ
つまりペイル版の伝説的存在というか、そういうのだよ
449名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 15:57:23 ID:knmLaS4h
俺はペイルウイング隊員の総称かと思ってた<ぺリ子
また、女性オペレーターの総称も。<オペ子
450名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 16:40:31 ID:AtgHt04F
おまえら学校の部活動とかでマネージャーのことをマネ子って呼ぶのを知らないのか
まあ古い呼び方だとは思うけど
451名無しさん@ピンキー:2010/01/11(月) 17:12:04 ID:K8oQ+T/4
実のところ俺は不幸にも男子校だったからなあ
女子マネなんかは見たこともないよ

ペリ子のコスって、スカート部が背面だけ紺色じゃん
俺にはアレがミニスカ女子高生に見えるってのもここだけの秘密だ
452名無しさん@ピンキー:2010/01/17(日) 00:54:05 ID:bAf3xUHX
保守
453名無しさん@ピンキー:2010/01/24(日) 23:49:40 ID:rSzC8stw
保守
454名無しさん@ピンキー:2010/01/31(日) 03:27:53 ID:0A5jVHE6
保守
455名無しさん@ピンキー:2010/02/04(木) 10:09:51 ID:0yY1m7Bd
保守る
456名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 05:58:57 ID:atorkPdk
ところでレギンレイブはやっぱ単独スレ立てた方がいいんだろうか
昔はサンドスレがあったんだが
457名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 21:44:32 ID:kw3dY3KE
取り敢えずSIMPLE2000スレでも立てればいいんじゃね?
ここも次スレ分から合流ってことで
458名無しさん@ピンキー:2010/02/05(金) 22:07:05 ID:UUoYcWGk
シンプル2000だと3が含まれないぜ
サンドスレの方が良いかと
459名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 16:17:05 ID:Af4OuJ6c
3なんか需要無いだろ、ここ的には
460名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 16:26:08 ID:nbK7BWzn
3は需要ないけど、4が出た時のことを考える…のは時期尚早か。
でも、SIMPLE総合よりはサンド総合のほうがいいと思うな。
461名無しさん@ピンキー:2010/02/06(土) 19:30:05 ID:7XCehyof
4は出ないと思うよ
結局は2と同じく1の焼き直しになるだろうし
462名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 07:56:26 ID:KZKFgUkU
保守
463名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 03:18:51 ID:mrcgKk2c
圧縮近いから保守
464「捕われの翼」:2010/02/24(水) 23:49:26 ID:VtNvUHEs
続き投下します。
465「捕われの翼」:2010/02/24(水) 23:54:18 ID:VtNvUHEs
第33話 「夜明け」

 優斗はユキを抱きかかえ、暗い下水道を歩き続けた。
 水は澄んでいたが、あちこちに人の遺体が転がっている。
 空気を求めて窒息死したのか、マンホールの出入口付近には、夥しい数の遺体が折り重なっていた。
「大丈夫か、まだ痛む?」
「少し…でもだいじょうぶ。あまり感覚が無いの」
「そうか、少し休もう」
 優斗は乾いた場所を見つけ、ユキの身体を横たえた。その身体は、まるで羽のように軽かった。
「…いたい…」
「無理しちゃ駄目だ。ゆっくり休んで」
「ありがとう」

 懐中電灯の光で、ユキが小刻みに震えているのがわかった。
 どうしていいか分からず、優斗はそっとユキの手を握った。
「酷いことを…あいつら何者なんだ」
「EDF研究機関の人たちよ」
「EDFだって!?」
 優斗は目を丸くした。
「じゃあ、ユキを2年間さらってた奴等ってまさか…」
 ユキは黙って頷いた。
「そんな!テロリストじゃなくて、EDFがユキを?何のために…
 警察はテロリストの仕業だって断定してた。
 ユキを捜し出そうとEDFに入ったのに、これじゃ…」 
「私を、捜す?」
 ユキが怪訝な顔をして尋ねた。

466「捕われの翼」:2010/02/24(水) 23:55:24 ID:VtNvUHEs
「そ…そう!捜してたんだ」
 優斗は自分の顔が赤くなるのを感じながら言った。
「ありがとう、でも私…」
「みんなユキを捜してたんだ…そうだ!お父さんに会ったか?どんなに喜ぶか…」
「優斗!私ね…」
 ユキは俯きながら言った。
「私、何も憶えていないの。パパやママの顔も…
 電気を流されて、色んなことを忘れちゃったの。
 日本でのことは、もう殆ど憶えてないんだ」

 衝撃的な事実を聞かされ、優斗はしばらく言葉が出なかった。
「でも嬉しい。優斗のことは憶えてた。会いたかったの」
「ユキ…」
 優斗は、ユキと初めて目を合わせた。
 冬の夜空の様に澄み切った、優しい眼差しが優斗を見返している。
 目の前のユキは、記憶の中の少女より遥かに美しかった。

だが突然、その表情は苦痛に歪んだ。
「ううっ…あああっ!!」
「ユキ、大丈夫か!!」
「痛い!いたい…優斗…」
苦しむユキは涙を流しながら、子どものように優斗に抱き着いてきた。
「ユキ…」
「…大丈夫…うぅ」
「くそっ、どうしたらいい」
「離さないで…お願い…」
「わかった、他には?」
ユキは痛みのあまり、そのまま意識を失った。
優斗は力の抜けたユキの身体を、いつまでも抱きしめ続けた。

467「捕われの翼」:2010/02/25(木) 00:04:39 ID:Oc2n35vf

              ◇◆◇


ユキが突然目を覚ましたのは、二時間程経ってからのことだった。
「ユキ!?」
ユキは怯えたように目を見開き、優斗を押し退けて立ち上がった。
「どうした?大丈夫か…」
「誰!?」
「えっ」
ユキは混乱した様に周囲を見渡し、頭を抑えた。

「どうしたんだ?いきなり…」
「ここは、何処!?…どうして私…」
「ユキ!大丈夫、落ち着くんだ」
「嫌っ!!」
ユキは激しく優斗の手を払いのけた。
「誰なの、触らないでっ!!」
「ユキ…」

優斗はただ狼狽するばかりだった。
「まさか、記憶が…俺はユキの友達だよ」
「嘘だ!あなたなんか知らない!」
「嘘じゃない、本当に…」
「来ないでっ!!」
ユキは叫び、暗い地下水路の奥へ走り出した。
「待て、ユキ!!!」
追いかけた優斗は焦るあまり、手に取ったライトを水路に落とした。周囲が暗闇に包まれる。
「ユキ!!!」
優斗は障害物に躓きながら、必死に走った。
 だがユキの足音は、既に遠く聞こえなくなっていた。




468「捕われの翼」:2010/02/25(木) 00:10:06 ID:Oc2n35vf

夜明けが近い廃墟の街並みを、白人の少女が歩いている。
 その足取りには、少しの迷いも無かった。
「この辺りね」
マリアは立ち止まり、崩れかけたビルの中を覗き込んだ。
 そしてすぐに、膝を抱えて座り込む一人の少女を見つけた。

「探したわよ、ユキ」
マリアが近づいても、ユキは無表情のままだった。
「ユキ。どうしたの」
マリアはユキの顔を暫く見つめた後、突然笑い出した。
「わかったわ、ほんとに記憶を失くしちゃったのね」
マリアはユキの顎を掴み、強制的に顔を上げさせて言った。
「何も考えられないんでしょう。安心してユキ。
 やるべきことは私が全部教えてあげる。私のことは覚えているわね?」
ユキは頷いた。

「よかった。ユキ、私にはこの地球を守るという大事な使命があるの。
 あなたは自分で考えることができないんだから、私の言うことを何でも聞いて、私の手足になって働きなさい。
選択の余地は無いわ。このまま放っておけば、あなたはSEPの禁断症状で死ぬ。
 だから私の奴隷になって生きなさい。わかったら返事して」
「…はい」
「忙しくなるわよ。もし私を失望させたら、死にたくなるまで鞭で打ってあげる」
「はい」

マリアはユキを外まで引きずり出した。
地球から撤退しているのだろうか、一機の中型円盤が遥か上空に昇って行くのが見えた。
朝日を受けて輝くその円盤を見つめながら、マリアは言った。
「正直言って、何が起こったのか私にもわからない。
 でも戦いの準備をする時間が出来たのはありがたいわ。絶対に奴らは戻って来る」


 2017年、地球に襲い掛かった異邦人の群れは、来たときと同じ様に突然去っていった。


第二章(完)

469「捕われの翼」:2010/02/25(木) 00:11:25 ID:Oc2n35vf
本日は以上です。
ありがとうございました。
470名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 00:51:56 ID:ZN0swJta
>>459
EDF3は需要ないのか
3はやっていないんだけど、あれって女っ気は全くないのか?
ペリ子が出ないってことは知ってるんだが
471名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 01:00:52 ID:AXfyngZP
>>470
3にも女性隊員はいるはずだぞ
確か無線の台詞があったと思う
472名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 01:08:07 ID:93TLNoGw
>>471
漢たちの熱い掛け声や絶叫に押し潰されてほとんど印象が無いね
473名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 01:16:09 ID:frY1APbq
レンジャー7
474名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 01:18:50 ID:ZN0swJta
やっぱいるんじゃないか
Xbox持ってないから3のことは分からんよ
475名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 01:21:41 ID:frY1APbq
因みにオペ子も健在
476名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 01:30:56 ID:frY1APbq
健在と言えば女王も健在だし
477名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 01:32:56 ID:2Qo3+P32
「敵の巧妙な罠です」
478名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 02:17:41 ID:wpaY5XWo
3で一番印象的な女性隊員というと、最終ステージ「星船」に登場する
レンジャー7の唯一の生き残りの女性隊員かな
マザーシップ攻撃部隊が次々と全滅・戦線離脱する報告が入る中、
たった一人でマザーシップと交戦し続けるストーム1のことを報告する彼女

声的にいうと二十代後半以上の熟練兵っぽい感じで。
479名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 03:06:00 ID:cZzwV86N
>>464
乙乙〜
次から新章か…2的に考えて、ここまでが壮大な序章とも言えるよなぁ…

>>478
その人と砲台の攻撃で悲鳴上げる人以外に女性隊員いなくね?
もしもし言ってくる市民ならいるけど
それに3でエロネタって言ったら連れていかれた妹一択だろJK。次はアナウンサーか
480名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 07:28:08 ID:CfvvG+0q
>>470
需要なし、糞ワロタ
481名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 18:56:02 ID:JLr+jbUl
エロパロというかここまで面白い話が集まってくるともう立派な自作小説投稿スレだな
482名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 20:20:56 ID:C0DtYJG4
>>479
妹好きの俺にとっては聞き捨てならぬレスだな
詳細を教えて貰おうか
483名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 20:59:46 ID:wpaY5XWo
>>482
巨大蜘蛛に妹が糸でやられて連れていかれた、という市民の訴えが通信にまぎれてくるのがある
484名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 22:20:38 ID:C0DtYJG4
ほう、巨大蜘蛛もなかなか分かっているではないか
ちょっと見直したよ
ところで蜘蛛の野郎は3にも出てやがるのか
485名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 22:38:43 ID:wpaY5XWo
3にも出てくるよ、ただし2と比べて体力が微妙に下方修正されてるんで2ほど恐ろしくない
リロードが比較的軽い武器であるロケランで確殺できる体力まで下がってるから
手数で打ち勝てる
486名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 23:54:21 ID:vNqjdxor
2のINFクモ10体=ハデストヘクトル40体
487名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 00:37:27 ID:rKKtlKXw
蜘蛛の恐ろしさは、至近からの攻撃による綿アメにあるからなあ
あの攻撃判定って実のところバグらしいけどね
488名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 18:47:29 ID:6RLkkZdj
>>487
バグではないでしょ
糸は小さな当たり判定が密集した集合体みたいなものだから、一本の糸で複数ヒットするし、
糸はゆらゆら揺れてるから、自分も蜘蛛も動いてなくても複数ヒットすることがある

3の蜘蛛は火力を少し下げるだけに留めて、糸の散布界を大幅に広くしてるね
これによって中距離から超多段ヒットすることがなくなった代わりに、
全段回避はほぼ不可能になってカス当たりしやすくなってる
つまり本来想定していたであろう「足を止められてじわじわ減らされる」に近くなった
耐久力を下げることで蟻と差別化して、ロケランの地位も馬糞と比べて相対的に上がったしね
(蜘蛛はロケランでも一撃、蟻は後半からロケランで一撃は不可能だが馬糞では一撃、という力関係)
馬鹿みたいにジャンプするから、ある意味では隙も増えた
489名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 22:14:42 ID:bZpf5qRb
3は酸蟻が怖いな
一度に出てくる数が増えたのと、群れの中で「遠方から支援射撃」「中距離から狙撃」「ゼロ距離射撃」と
役割分担でもしてるのか、かなり遠方からばしゃばしゃ酸としぶきを浴びて画面が真っ赤、動きがにぶってるうちに
どんどん突撃隊に距離縮められて気がついたら背後からゼロ距離食らってたりするし

490名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 23:13:55 ID:6RLkkZdj
3の酸は威力が倍ぐらいに上がってる。密着で2000近く持っていかれたよ
それから戦車が遅くなって蟻に追いつかれるようにもなった。バイクは設置数自体が少ない
だから相対的に蟻が脅威になってる。今回は蜘蛛と蟻でそこまで強さが変わらないように感じるんだよね
まあ味方殺しなのはやっぱり蜘蛛だが。蟻は数と速さで押してくるイメージ

2と比べてボリュームは明らかに少ないし、機種が違うってのもあってやらず嫌いしてる人も多そうなんだけど、
3ってやればやるほど良調整だってことに気付かされるよ
491名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 01:14:23 ID:o1WaZk4S
それでも2のINF絶対包囲並みの鬼畜さを求めてしまうんだぜ・・・
492名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 12:07:38 ID:kxeb5ouO
>>482->>483
開始後少しして「助けてください!」という切羽詰った女性の通信が聞こえ、
その後しばらくして、男性(兄?)の声で蜘蛛みたいな巨大生物に妹が連れ去られた、という通信が入る

>>488
糸を喰らった時の最終火力がとんでもないんで
「あの火力はありえんだろ。きっと1本1ヒットで攻撃力を調整したんじゃね?」
って話じゃないっけ?
起こってる内容はその通りなんだけど、「(多分)開発者の意図を外れた結果」であるが故「バグ」と言われている…
と考えてた。
493名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 05:03:54 ID:/T0QuP1R
バグみたいな強さとかいう言葉の表現であって、プログラミングのバグではないな
ダメージは1ヒットで10とか20とかぐらいだったか?
IMPで糸がカス当たりしたときにそれぐらい減ってたと思うんだけど
494名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 22:19:21 ID:0hjjjMtD
糸直射で8000削られなきゃいいよ
495名無しさん@ピンキー:2010/03/04(木) 20:11:18 ID:4IF1I9Tb
蜘蛛糸の判定一つ当たりのダメージはEDF2で蟻酸の0.65倍、EDF3で0.75倍
糸の本数は多分蟻酸の弾数と同じ
496名無しさん@ピンキー:2010/03/12(金) 23:34:44 ID:rRW3pTV+
保守
497名無しさん@ピンキー:2010/03/14(日) 20:52:52 ID:/vv+y4F1
いつの間にか斬撃スレが立ってるね
498名無しさん@ピンキー:2010/03/16(火) 12:57:10 ID:FJF5Wfpo
大作家先生様、直々の宣伝乙っす
499「捕われの翼」:2010/03/25(木) 00:11:48 ID:Daeo/SGt
続き投下します。

第二章まで
http://tikyuboueigunss.web.fc2.com/
500「捕われの翼」:2010/03/25(木) 00:13:18 ID:nbH9dUvD
第三章

第34話「夏美」

〈2017年東京 石井夏美(PW-10109BS)の回想〉

「死ねっ!変態野郎!」
放課後、あたしは変態野郎の襟首を掴んで叫んでいた。
「フフッ、失敬な。お前を狙ってたわけじゃない」
ずり落ちた眼鏡を戻しながら口答えしてくる変態野郎は、佐々木英二というあ
たしの同級生。いつも階段下のスペースに隠れて、あたしや美香のパンツを覗
く真性の馬鹿だ。

「黙れ変態!今度こそ退学よっ!」
最近見かけないから油断してたら、文化祭用のハリボテに穴を開けて潜むとは
、手口が悪質すぎる。
おまけに、今日は仲間まで連れている。気まずそうに目を逸らすもう一人の同
級生は、中学の時生徒会長だった塩田啓介だ。
「だから誤解って言ってんだろ!お前狙いじゃないんだ」
佐々木がまた言い訳を始める。
「誤解!?バッチリ目合ったじゃない、どいつもこいつも変態…」
「うるさい!!ナンバー2の分際で」
「なっ…どういう意味!」
「フフフ、残念だったな夏美。お前はもう我がベストオブチラリズムランキング
女王の座から転落してるんだ」

心の底からどうでもいいが、何だか不愉快だ。
「くだらん…」
「ははは、ひがむんじゃない。相手があの転校生じゃ、お前でも勝ち目はゼロだ
からな」
「転校生…って、まさかあの桜井先輩!?」
「そう、桜井ユキ。我が高校には勿体ない最高の逸材だ」
「やっぱり…」
501「捕われの翼」:2010/03/25(木) 00:20:00 ID:nbH9dUvD
ユキ先輩は、一ヶ月前に転校してきた二年生の女の子だ。
 黒髪ショートで色白で、目が大きくて芸能人みたいな可愛い顔してるから、男子も女子もしばらく大騒ぎになったくらいだ。

でも、誰も仲良くなることは出来なかった。
先輩は誰とも話さない。そんな噂が広まった。たしかに、ユキ先輩はいつも無表情で、一言も喋らない。
「ユキ先輩は可愛いけどね、性格悪いんじゃないかって噂だよ。所詮あんたもただの面食いってことね」
「性格?それがチラリズムと何の関係があるんだ」
「………」
「愚か者がこぞって先輩に告白したり、手紙渡したりしているが、挨拶すら返してもらえないのが現実だ。
それに比べて、毎日あのスカートの中身を眺められる俺達は、真の勝ち組なんだ」
「ええっ!!マジで覗いたの?最悪…」
「もちろん。あの絶対領域は色も形もまさに芸術品だ!」
塩田まで頷いている。男は本当にサイテーの馬鹿ばっかりだ。

「ちなみに、今日のクイーンは上品なグレイ。ナンバー2は普通の黒…」
「メモってんじゃねぇっ!!!」
あたしはついにブチ切れて、佐々木目掛けてカバンを振り回した。馬鹿二人組は全力でバラバラに逃げ出した。
でも追いかけなかった。佐々木がメモ帳を落としたのに気付いたからだ。
「証拠を掴んだ!一網打尽にしてやる」

佐々木は、生徒手帳をメモ帳代わりに使っていた。開いてみると、日付や場所や恐らく下着の色などが、小さな字でたくさん書き込まれている。
「さすがに引くわ…あれ、これは?」
表紙に書いてある名前を見て、あたしは驚いた。
「清水美香!?これ、美香の生徒手帳だ!」
以前、美香が生徒手帳を無くしたと言ってたのを思い出した。
「なんで佐々木が持ってたんだろう。ていうか、これどうすればいいんだろ…」
手帳を見るまで美香のことをすっかり忘れていた、自分の薄情さが嫌になった。

502「捕われの翼」:2010/03/25(木) 00:21:20 ID:nbH9dUvD
美香とは小学生の頃から親友だった。
高校生になってから、あたしは陸上部に入り、美香はバレー部を続けて別れたけど、それでも一番の仲良しに変わりなかった。

佐々木は美香のことが好きだったのかもしれない。美香の長くて綺麗な脚に執着してたのは間違いない。
美香が死んだ後、あいつは明らかに落ち込んでいた。あいつもあたしも、両脚が骨ごと無惨に砕かれた、美香の最期の姿を見てしまった。

まだ、あれから半年も経っていない。でもあたしの中で、美香や両親の死は、遠い過去のことになってしまったみたいだ。自分でも不思議なほど、全然悲しくなかった。

ユキ先輩は、少し美香に似てる。色白でスタイルが良くて、佐々木が狙うのもわかる。

「わっ…!!」
手帳から目を上げたあたしは驚いた。
「ユキ先輩…?」
 いつの間にか、ユキ先輩が目の前に立っている。
近くで見たのは初めてだった。本当にモデルみたいに可愛い。
「あ、あの、えっと…」
慌てるあたしに、ユキ先輩は右手を差し出した。
「それ…」
「えっ?」
「……」
先輩は美香の生徒手帳を指差す。
「……」
「え、ああ!これですか?これはちょっと…」
「………」
先輩はじっとあたしの目を見つめたまま、自分の唇を指差し、首を横に振った。
「(ユキ先輩、ひょっとして…喋れない?)」
戦争で心に傷を負って、話せなくなった人はたくさんいた。ユキ先輩も、そんな理由でうまく喋れないんだと、あたしは勝手に思った。

503「捕われの翼」:2010/03/25(木) 00:22:48 ID:nbH9dUvD
「先輩!これ、あたしのクラスの奴が落としたメモなんです。
 ほんと救いようの無いバカで、毎日先輩のスカートの中身覗いてるんですよ」
「知ってる…嫌…」
「えっ!?気付いてたんですか?」
「……」
ユキ先輩は困った顔をして、また手帳を指差した。

「ああ、先輩、大丈夫です!これは明日、先生に証拠として突き出します」
「……」
「厳しく処分してもらうようにうまく話しますから、安心してあたしに任せてください!」

あたしは力になりたかった。ユキ先輩は少し考えた後、頷いた。

「よかった!あ、でもこの生徒手帳、友達のものなんです。どうしてあの佐々木が持ってたのかはわかんないですけど」
ユキ先輩は首を傾げている。
「ま、どうせストーカーみたいに美香から盗んだんですよ」

ユキ先輩が喋らないのをいいことに、あたしは歩きながら長々と自分や美香の話をした。先輩はただ黙って聞いていた。

「先輩はどうして、喋れなくなっちゃったんですか?失礼だったらごめんなさい」
大きくて可愛い目を見ていると、明るい元気な女の子にしか思えない。
「辛いことがあったんでしょう。やっぱり戦争のせいですか」
先輩はあいまいな表情を浮かべた。
「あたしは両親とか友達とか色んなものを無くしちゃったけど、何だか全然悲しくないんです。…薄情な自分が嫌になります」

そんなことないと言うように、先輩は首を横に振った。
「わかってます。カウンセラーの先生は、心が悲しみに蓋をしちゃったんだって言ってました。もっと時間が経てば、あたしも泣けるようになるんだと思います」
ユキ先輩は急に立ち止まって、あたしの顔をじっと見た。
504「捕われの翼」:2010/03/25(木) 00:25:54 ID:nbH9dUvD
「……な…い」
「えっ??」
言葉を思い出すように、先輩は顔をしかめ、何か言おうとしている。

「…ちが…う」
「違うって…?」

「…かな…し…み」
「悲しみ…じゃない?」
先輩は頷き、そっとあたしの胸に手を置いた。

「…い…かり…」
「えっ??」
「怒り…ここに…」

怒り。その言葉を聞いた途端、あたしは雷に打たれたようなショックを感じた。

「…怒り…」
込み上げてくる感情を、暫く理解できなかった。
突然頭の中に、美香の最期の姿が浮かんでくる。
「うっ…」
あたしはその場に膝をついた。
「(怒り!!)」
 考えもしなかった。どうして今まで…
美香は下半身を潰されても、まだ生きていた。悔しくて死に切れなかったに違いない。夢や希望に満ちた人生を、あんな訳の分からない機械に一瞬で潰されてしまったのだ。あたしの大切な親友…

「美香!!!」
頬を流れる熱いものを感じる。あたしは初めて、美香のために泣いた。
半年もの間、悲しみを感じなかった理由が分かった。
美香の最期の姿を見た瞬間から、あたしの心は強烈な怒りに蓋をしてしまったのだ。悲しみなんて入る隙間も無かった。
505「捕われの翼」:2010/03/25(木) 00:26:58 ID:nbH9dUvD
「美香!!美香!!どうして…ッッ!!!」
あたしは周りも気にせず、地面を叩いて号泣した。
怒りと共に、失ったものの大きさを知った。
親友、家族…無条件であたしを愛してくれた人達は、もうこの世にいない。

あいつらを絶対に許さない。あたしの大事なものを全部踏み潰していった敵。
あたしは空を睨んだ。もう怯えて生きるのは終わりだ。



               ◇◆◇



その晩、あたしは電話である人物との面談を取り付けた。
「もしもし、神楽さんですか?」
「はい」
落ち着いた女性の声が返ってきた。
「私、東高一年の石井夏美です。覚えてますか?」



(続く)
506「捕われの翼」:2010/03/25(木) 00:27:39 ID:nbH9dUvD
本日は以上です。
ありがとうございました。
507名無しさん@ピンキー:2010/03/25(木) 00:34:02 ID:aN5IsX+9
リアルタイムに立ち会えたッ…!

さっそく神楽さん登場か。後に戦死することは分かってるから、活躍したとしても複雑な心境だな…
夏美もペイルの素質があるのかな。いずれにしても末恐ろしい10代達だ
508名無しさん@ピンキー:2010/03/25(木) 00:55:02 ID:J+iHuuGD
…………
509名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 03:38:11 ID:a/0eONA9
だから、需要ないって散々言われてるのに……
510名無しさん@ピンキー:2010/03/31(水) 08:22:11 ID:RV+DkuOb
黒髪ショートで色白とな
511名無しさん@ピンキー:2010/04/14(水) 18:44:55 ID:++GvXMz0
保守
512名無しさん@ピンキー:2010/04/14(水) 19:22:01 ID:5c5gPUX1
保守乙。
しばらく予告保守はいらないな…

と言ってみるテスト
513第12話予告 :2010/04/15(木) 21:08:44 ID:6Ivgek2O
ようやくロンドンの支援を終えて極東支部に帰還した我々であったが、我々の担当地区にも敵のキャリア2機が出現した。

偵察班の報告によるとそれぞれ"酸蟻"と"蜘蛛"を投下中との事だった。

どうやらヤツらは徹底的にヤる気らしく一定数投下しても成層圏へ離脱する気配はまったくない。
つまりキャリアを撃墜しない限り戦いは終わらないようだ。

しかし、巨大生物を投下中のキャリアなら狙撃兵器の射程圏に捕捉する事が出来る。
敵の勢力を削ぐ絶好の機会だ。

陸戦隊・ペイルウィング隊共々狙撃兵器でキャリアを撃墜し、巨大生物兵器を掃討せよ!
だが、”蜘蛛”に接近された場合はヤツらの排除を最優先とせよ!

次回 The地球防衛軍2 『空母飛来』
全ての敵を殲滅せよ!
514名無しさん@ピンキー:2010/04/16(金) 15:13:17 ID:KDuJHy/G
久しぶりの予告乙

締めの部分はやっぱ デストロイ ゼム オール ってシャウトするのが正しいの?
515名無しさん@ピンキー:2010/04/16(金) 17:53:42 ID:fyLzLvSr
>>514

どもです。^^ゞ

最初は英語でそのまま書いてたんですが、EDFにはそぐわないなと思い、今の形になりました。

言い方はそれでも良いですが『デストロイゼモー』なら、なお良しです。w
516名無しさん@ピンキー:2010/04/16(金) 22:10:58 ID:KDuJHy/G
なるほど
銀英伝の予告っぽく、落ち着いた感じで再生するよ
517名無しさん@ピンキー:2010/04/16(金) 23:37:42 ID:94xzk63t
地球の歴史にまた1ページ
518名無しさん@ピンキー:2010/04/19(月) 22:48:25 ID:kxVffwnB
規制解除記念の保守!
519名無しさん@ピンキー:2010/05/03(月) 01:52:47 ID:VgmGhbxs
test
520名無しさん@ピンキー:2010/05/04(火) 18:34:32 ID:OUnXMOWc
>>346の描写がストライクだったのでカかせてもらおうと思ったが色々ド素人でござった の巻
ttp://www.pic-loader.net/view.php/?n=572edf025.jpg
521名無しさん@ピンキー:2010/05/05(水) 21:19:38 ID:IAgGBH6n
規制てすと
522名無しさん@ピンキー:2010/05/05(水) 21:45:22 ID:Jh/nm7X5
>>520
いやいや、これはなんという神画像ですよw
523名無しさん@ピンキー:2010/05/07(金) 11:40:18 ID:MZXmmER1
age
524名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 22:55:11 ID:0Z3yUCob
>>520
眼福でござった

果報者の作者としては、嬉しいやら照れるやら
何と申し上げていいのか、お礼の言葉も見つかりません
現在、またも永久規制に巻き込まれて、投下もままならない状態です
モチベが下がりつつあった時だけに、有り難いエネルギー補給になりました
規制が解除になることがあれば、また続きを投下していきたいと思います
525名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 23:54:19 ID:b40a3iuY
永久規制か
p2をオススメするよ。コッソリアンケートで1000モリタポ貯めたら、専ブラから自由に書き込めるようになる
1000モリタポ=100円だから買おうと思えばすぐ買えるしね
526名無しさん@ピンキー:2010/05/23(日) 12:53:10 ID:T4fS+yp3
保守
527名無しさん@ピンキー:2010/05/23(日) 22:01:05 ID:SpBkmcRP
そういや>>525のp2は書き込んだ時点でもう5000モリに値上げされてたって一応言っておく
528名無しさん@ピンキー:2010/06/03(木) 08:24:39 ID:mVS4cLzA
>>524
もう地球防衛軍2をやってこのスレ見つけて何年たつか覚えてないけど
ずっと続き待ってるんだぜ!
テラソラスがちょー楽しみです。ついでに未だにたまに昔のやつとか使用させてもらってるぜ
初めてテラソラス見た時の衝撃が忘れられないw
529名無しさん@ピンキー:2010/06/07(月) 21:58:05 ID:o/Chk+tp
久しぶりにペリ子物語を保管庫から一番新しいのまで一気に読み返した
ほんと面白いわ…。これまた久しぶりにPS2ひっぱり出してINF絶対包囲やってくるか
EDF4って開発してるのかな。次世代機で空飛びながらレイピアと参謀ぶっぱなしてみたい
皇帝都市みたいなのとまた戦ってみたいなぁ
530名無しさん@ピンキー:2010/06/09(水) 04:25:55 ID:Lj0DHnoQ
>>524
いつまでも待ってるわ
531名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 18:35:34 ID:1wQtiZ7g
シンプル2000シリーズなのにCMされた「地球防衛軍2」を手にとってから随分年月がたつけど
いまだに圧倒的な戦力差と初めてINFに挑戦した時の絶望感は忘れられないな

地球防衛軍4は何時出るのかな?皇帝都市やテラヴァラクとの戦いが楽しみな一方、難易度面で不安もある…
ペリ子「この辺りに敵はいる?」
オペ子「いませんよ」
ペリ子「いるじゃない!!」
にも期待ww
532名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 21:39:23 ID:471d8Uk7
そして誰もいなくなった
スレの終わりは得てしてこのようなものである
533名無しさん@ピンキー:2010/07/06(火) 13:22:45 ID:VxM9iEee
支援あげ
534名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 11:54:21 ID:bewJDuzY
一ヶ月規制解除記念保守
すぐ落ちる板じゃなくてよかった
EDF4出ないのかなぁ
535名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 01:32:25 ID:Z7dTgttS
EDF4出るならハードごと買うわ
536名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 09:21:30 ID:pqVbrpxp
>535
俺も
537名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 02:04:15 ID:ZmetmObb
>>509死んでくれ
地味に楽しみにしてたのに

規制されてたからレスれなかった。。
538名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 03:31:53 ID:o0nmukZC
夏休みの間に続きが投下されることを祈って(´∀`∩)↑age↑
539名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 20:15:12 ID:lAqLtDBU
>>537
本人乙w
540名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 07:47:20 ID:y3Q4q5nN
>>539
馬鹿の一つ覚えだな。
おまえ509か?
人の好みはそれぞれってのを理解してくれよ
541名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 10:28:48 ID:lG88+vaE
いや、>>509は問題の作者に対して投下するなとは一言も言ってないだろ
実際>>440くらいから見直してみると、確かに例の作品が投下されてもレスがつかなかったり
しばらく放置のあと無関係の雑談が続いたりしていたろう
単なる予告編にさえ熱いレスが付くスレなんだぜ、ここは
それに>>480みたく、それとなく需要についての嫌味もあったから
509もいたたまれなくなって作者にアドバイスしてやろうと思ったんじゃないのか
余計なお世話であることは間違いないけど
つまらない言い争いをしていたら余計に過疎るだけだ
542名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 12:33:37 ID:y3Q4q5nN
いやさ
>>440みたいな意見ならよくわかるが。。それ以外は煽りでしかないじゃん
基本的に投下に対してはネガティブなこと言わないのが荒れないコツじゃね?
スルーするか、余計なこと言いたくなったら愚痴系スレに行くくらいの理性は持ってほしい

争ってたら過疎るってのには同意できるからもう引っこむよ

543名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 22:02:53 ID:oe4BMlDW
まぁ多少荒れるにせよ、レスがつくのはいい事だ。w

最近忙しいので、つたない予告保守さえ出来ないが、過疎った時に備えて用意はしておこうと思う。

んじゃまた ノシ
544名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 03:43:28 ID:O5CP2lqP
神が光臨されるまで俺は待ち続けるぜ
545名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 05:56:44 ID:0642r/cs
>>541単にもう人が居ないってのもあるんだろうな

どんなものでも需要はあるもんだから好き嫌いはやめとこうぜ
546名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 20:33:39 ID:m3nLKs/r
打ち切りになってまだ荒れる元凶になるか
すごい破壊力だよ
547名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 00:50:57 ID:ynidzloT
>>546
荒らすなよ、以降スルーで
548名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 02:53:54 ID:iWATD8Nq
>>546 アナタはなんの為にここに来てるんですか?
549名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 14:31:11 ID:K6JwixHB
久しぶりに防衛軍やりたくなってハードごと3買ってきた
550名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 00:46:09 ID:VE94Avhy
エロ書こうとしても書けんかった
551その日世界の片隅でX:2010/08/14(土) 00:51:21 ID:VE94Avhy
 EDFの新米兵士アディ・バークは、仲間たちと一緒に2日後にはポルトガルに上陸し、危機に瀕したイベリア半島を救う英雄となるはずだった。
 彼は今、海に浮かぶランチの上で、彼が数日を過ごした輸送艦が炎に包まれ、ゆっくりと傾いていく様子を眺めていた。
 ファイターUFO、映画に出てくるUFOそのものの紫色の円盤が、蠅のようにその周りを飛びまわっていた。海に浮かぶ人間を見つけては、輸送艦を沈めたのと同じ光線を躊躇なく浴びせかけるのだ。
 アーマーを装備していない者は一瞬で焼け死に、装備したものも寿命が少し伸びるだけ。それを止めるものはない。輸送船を守ってくれるはずの艦隊はすでに全滅していた。
 少し距離を置いたとはいえ、アディたちの乗るランチも安全ではなかった。まだ海にはたくさんの生きた人間が浮かんでいるが、彼らを殺しつくした後、円盤は一斉にランチに襲いかかるだろう。
 既に何度かこちらに円盤が近づいてきたことがあったが、兵士たちの何人かが艦から必死に持ち出した数丁のAS銃が彼らの命を繋いでいた。
 何度も円盤を追い払った銃も、一斉攻撃の前には意味をなさないだろうが。
 ランチの上も地獄だった。痛い、助けて、そんな言葉と弱い呼吸の音を漏らすだけの負傷者が、ランチの上に並んで横たわっていた。軍医はいない。もう死んだのだ。
 負傷者にしてやれることは、兵士達なりの応急処置と、励ましの言葉をかけるだけ。
 救難信号に7分で駆けつけると答えた駆逐艦は、10分たっても姿を見せない。海軍軍人が残酷な嘘をつくとは思えないので、おそらくその艦もここにたどり着く前に沈んだのだろう。
 近くに島もない海の上、俺たちはつまりここで死ぬのだ。アディは思った。
「イギリスからの空軍は来ないのか!」
「駄目です、今滑走路に蟻が出て何もできないと!」
 断続的な銃声の中、無線機の前では混乱が続いていた。先ほど一発限りのエメロードSAMを自ら円盤に撃ち込んだ、ランチの実質の最高位であるドーソン准尉は憎々しげに歯を噛み締めた。
 輸送艦隊は護衛の巡洋艦だけでなく、いざというときはイギリスからの航空支援も受けられると彼は聞いていた。最後の頼みが潰えたことになる。
「パトロール艦隊は?」
「到着まで27分! それまで持ちこたえろと言ってきてます」
「間に合わない!」
 ドーソンの怒鳴り声をよそに、誰もが生きることを諦めかけていた。ある者は弾が切れたASを当たるはずもないのに円盤に向けて投げつけ、ある者は家族の写真をより強く握りしめた。
 海上の害虫駆除を終えた円盤達が、ゆっくりと滑るようにランチを目指す。自分も艦から武器を持ち出せていたら。
 闘争本能に理性を侵されたアディは、最高の狙撃銃ライサンダー2を構えたつもりで、腰から抜いた拳銃の狙いを一番近い円盤に定めた。
 その円盤が、今にも光線を放ちそうなほどランチに近づいた。





 閃光。光条。衝撃。




552その日世界の片隅でX:2010/08/14(土) 00:53:46 ID:VE94Avhy
「遅れました!」





 アディは幾筋もの光を見た。それは円盤の放つ赤い光線ではなく、収束する青白い雷光だった。炎を吹いて制御を失った円盤が木の葉のように次々と落ちていく。
 アディが狙った円盤が稲妻に貫かれ、回転を乱された駒のようにふらふらと海に突っ込む。その水飛沫を浴びて、彼は我に返った。
 サンダースナイパー。当時は機密扱いであり、ランチの誰もがその名前を知らなかったが、助けが来たことは誰もが理解できた。
 稲妻の隙間を縫うようにして、雲の切れ目から人のシルエットが急降下。
 その背中から伸びるスラスターは虹色のプラズマ光を放ち、絶体絶命の状況も相まって、兵士達から見れば彼女はまさに天使そのものに見えた。
 天の雷に仲間を墜とされた円盤達は怒り、一斉に天使に向け光線を放つ。彼女は悠々とそれを避け、手に持っていたものをしっかりと構え直した。
 彼女の持つそれは弓矢、引き金のついたクロスボウのようにも見えたが、飛び道具ではなかった。
 重力に推力を上乗せして、彼女は円盤の密集するところへ突っ込んだ。彼女の持つそれ、天使の剣が抜かれた。
 アーク・プラズマの光がサンダースナイパーの稲妻よりもやすやすと、円盤の持つ最低限の防護フィールドを破り、内部機器をずたずたに引き裂いた。
 彼女が反転上昇を始めた時、炎を吹く円盤は柱のように積み重なり、ゆっくりと海へ落ち始めたところだった。
 誰かが叫び、それを引き金にランチに歓声が沸いた。重傷者すら笑顔になり、家族の写真を握り締めていた者は泣き崩れた。
 あれだけの円盤が消えていた。





 彼女は、ゆっくりと低空を飛行した後、ランチの船首に静かに降り立った。歓声と拍手は途端に止んで、空気は軍隊流の落ち着きを取り戻した。
「EDF、駆逐艦リイン付きのペイルウイング、ベル少尉です! 救援が遅れて申し訳ありませんでした!」
 その震える声で、彼女が先ほどの声の主だと知れた。彼女の足は震え、目には涙が浮かんでいた。
 よく見ると、アーマーには焦げ付きが、エネルギーパックには溶けた跡が生々しく、そして彼女の顔は煤まみれであった。無理もない。2重、3重の円盤の包囲網を突破してきたのだから。
「私たちがもっと早く来ていれば……」
 俯いたベルの震える肩に、ドーソンが優しく手を乗せた。階級こそベルが上であるが、その姿は娘をいたわる父親のようにも見えた。
「とんでもありません。救援、心より感謝します。少尉殿がいなければ、我々は生きていなかったでしょう」
 ドーソンの目から、涙が流れた。アディの初めて見る、鬼隊長の涙だった。
「本当に、よく来ていただけました」
「は……はい! ありがとうございます!」
 目をこすりながらもベルは微笑んで見せた。それを待っていたかのように、誰かが万歳、と叫び、再びランチの上は歓声で沸きかえった。その歓声は、いつまでも止むことが無かった。





 そうだ、とこちらも涙を拭いたドーソンが付け加えた。
「うちの小隊に、紅茶を入れる達人がいます。そちらの厨房を借りて、ぜひペイルウイングの皆さんにお茶を御馳走したいのですが」
「ええ、喜んで!」
 アディはやれやれ、と思った。あのときは散々駄目出しされたのが、じつは密かに気に入られていたらしい。
 そう、航海中ドーソンの紅茶を入れていたのは彼だったのだ。

             ―Fin―
553オセロ:2010/08/17(火) 03:27:17 ID:JDHC/9Ww
前回>>392>>396

「ああぁぁ!」
ゾーイの悪夢は、半年経った今も彼女の眠りを蝕み続けていた。
灰色の裸体の半身をベッドから起こし、豊満な乳房と共に、細い両肩をガタガタと震わせた。
大きく見開かれた黒い眼からは涙が溢れ頬を濡らし、大きく開かれた口は酸素を欲して喘いだ。
ウェーブのかかった長髪をかきむしり、その手で両の眼を覆って、焼きついた悪夢の情景を消し去ろうとした。
撃ち殺された老婆と、少年の姿……

「ううぅ……うぅうぅ……うえぇぇ……」
彼女は両腕で自らの身体を包むように抱き、嗚咽し続けた。
彼女の隣で寝ころんでいた人間の男は、そんな彼女に気付き、不愉快極まるといった表情でベッドから起き上った。
「ったく、なんだ?この店は。キチガイの化物しか置いてねぇのか!あっちの方は良くてもこれじゃ気分悪いぜ!」
男は震えるゾーイに皺くちゃの紙幣を投げつけると、床に落ちていたEDF陸戦兵のアーマースーツをさっさと装着して、その部屋を出て行った。
ゾーイは悲しみに潰れそうな表情でうつむき、やがて、目の前に放り出されている紙幣を掴んで、それを胸元で握りしめた。
今の彼女には、それしかなかったのだ。

バラックでの、あの事件から半年。
退院した彼女は、生きる為の手段として、最も原始的な方法を選ぶ事となった。
それは、人類も、インベーダーも、その進化の過程で、最も最初に確立された職業であった。
美女揃いであるインベーダーの雌との性行為は、戦時中からEDF陸戦兵(と、一部ペイルウィング隊員)の間では、割と頻繁に行われていた。
勿論、戦時中に行われたそれは暴力を伴う捕虜虐待に他ならないし、ゾーイの努める売春宿で行われる、料金と合意の上での行為とは意味が違っていたが。

ゾーイは支払われた料金を、売春宿の店主である、人間の中年女性の元に届けた。
性格のきつそうな顔つきの女店主は、くしゃくしゃになった紙幣を引き延ばして枚数を数えながら、ゾーイの方は見ずに口を開いた。
「また悪い夢をみたのかい……そんなんだから、客がなかなかつかないんだよ……困った小娘だね、アンタは」
「あ……ご、ごめン……なさイ」
ゾーイは申し訳なさそうに目を反らす。
売春宿の女店主は口が悪く、金にもうるさいが、給料の支払いだけはしっかりやってくれる、信頼のできる人物だった。
客であるEDF隊員達にはコンドームの使用を徹底させ、また暴力的なプレイも絶対に許さない、“商品管理”の行き届いた有能な上司でもあった。
「ほら、今月の分だよ……悪い夢抱えてたって、誰も助けちゃくれないよ」
「……」
ゾーイは給料を無言で受け取る。
彼女の様な敗残兵が……ましてや、地球外からやってきた異形の者には、それが今の全てだった。

一人の陸戦兵が、人ごみの中を進んでいた。
戦災の傷痕が残る街は、幾らか復興の兆しを見せ始め、同時に人々の活気も戻りつつあった。
テロを警戒中の、EDF治安部隊の車両が、通りのあちこちで睨みをきかせる側で、痩せた子供達がはしゃぎ回り
治安部隊隊員の一人は、チョコバーが幾つも入った袋を、餓えた子供たちの群れの中に放り投げた。
その隊員は、通りを行く例の陸戦兵に気付き、車両から飛び降りて制止を命じた。
「おい、お前……見ない顔だ、どこの部隊だ?」
陸戦兵は立ち止り、低く響く重たい声で答えた。
「本日付で治安部隊に配属になった……トーゴーだ……司令部に向かう途中だ……」
陸戦兵の胸にはしっかり「TOGO」と記され、その肩に付けられた部隊章も、携行しているAS-99も、全て正規の物だった。
治安部隊兵士は、直ぐに司令部に確認を取った。
トーゴーの名は問題なく確認され、治安部隊兵士は、階級が上であるトーゴーに敬礼した。
「司令部でしたら、すぐそこです……車でご案内します」
だがトーゴーは、それを呆気なく断った。
「出頭までは、まだ時間がある……先に、個人的な用事を済ませてから向かう……」
「了解しました……この辺りは物騒です、お気をつけて」
治安部隊兵士はそう言ったが、直ぐにそれは余計な事である事に気が付いた。
その男……トーゴーの身のこなし、装備品に施された完璧な整備、足音一つ立てない歩きかたを見ただけで
その男が、自分等より遥かに高度な錬度を誇る、百戦錬磨の陸戦兵である事を悟ったからだ。
554オセロ:2010/08/17(火) 03:29:46 ID:JDHC/9Ww
トーゴーは、治安部隊の車両から充分距離が開き、視界から消えたのを確認してから、大通りを脇にそれて、人通りの少ない脇道に入って行った。
そこは、EDF治安部隊の兵士でも、危険すぎてそうそう入りたがらない地区で、数々の非合法な店が軒を連ねる場所であった。
トーゴーは、その内の一軒の前で立ち止まり、周囲を一度見回してから、中に入って行った。
その店は潜りの銃砲店であった。
作業台で火花と格闘中の店主は、トーゴーの姿を見つけると驚いた様子だった。
「時間通りだな……流石あんただ!」
トーゴーは無駄口一つ吐かず、用件だけを伝えた。
「例の物は……用意できたか……?」
「あぁ、届いているとも!EDF陸戦兵正式採用、7.8×50o弾、100発!ロッドナンバーのそのまま、正真正銘の正規支給品だ!」
店主の出したケースは、しっかりと「Earth Defense Ground Force.」と記され、その象徴であるエンブレムも描かれていた。
トーゴーは更にケースを開き、中に綺麗に並んでいる弾丸を一つ摘みあげると、その薬莢底部に円状に刻まれた数字を確認した。
それは正しく店主の言うとおり、その弾丸が「EDFによって登録された、陸戦兵専用の銃弾」である事の証明であった。
店主は眉間にしわを寄せて、更に続けた。
「他でもない、あんたからの依頼だ、確実に仕事をさせてもらったが、本当にこの弾でいいのかい?何かの間違いじゃないのか?」
「問題ない……」
「……余計な事は聞くまい……俺の言葉は独り言だから、聞き流してもらって構わんが……」
「……」
「こいつは、足がつくぞ?」
「……分かっている」
トーゴーはそれ以上は答えず、札束をポケットから取り出して作業台の上に置いた。
その額は、普通の銃器店で扱われる額としては、0の数が4つ程多い法外な数字だったが、まぎれも無い、EDFの正式使用弾薬を手に入れると言う、危険極まりない依頼の報酬としては、至極当然な額とも言えた。
トーゴーが弾丸のテストの為、地下の射撃場に向かったのを確認した後、溜息を吐いた店主は、己の心の中で、煮え立つ疑問の鍋の底をかき混ぜた。
『愛用のAS-100F用8×55oではなく、一般兵士向けのAS-99用7.8×50o弾……それも、精密射撃用D型仕様でなく、通常のフルメタルジャケット弾……?
おまけに、すぐ足の付くロッドナンバー入りの弾丸だと……?知りたくはないが……一体何に使うつもりなんだ?』

数時間後……EDF治安部隊司令部。
司令部に到着したトーゴーは、この地区の警備責任者である、“ある陸戦兵”の元を訪れた。
その男は……半年前、あのバラックで、貧しい老婆と少年を射殺し、ゾーイを辱めた、あの悪漢であった。
「あんたが新しく配属になった監視員かい……俺がこの地区の警備担当、ペンウッドだ。仲良くやろうぜ、兄弟!」
「……トーゴーだ」
トーゴーは、ペンウッドの差し出した右手を取る事はせず、名前だけを名乗った。
ペンウッドは手を引っ込め、皮肉交じりに言った。
「へっ……慣れ合いは嫌いってか?監視員ってのは、どいつもこいつも……」
「……」
トーゴーはそれ以上口を開く事はなく、ただ無言のプレッシャーをペンウッドにかけ続けた。
ペンウッドはトーゴーの底知れなさに、言い用の無い恐怖を感じ、それ以上の軽口を叩く事ができなかった。
トーゴーは室内であってもヘルメットを外さなかった為、バイザーに隠れた表情を伺う事は出来なかったが、その下に光る鋭い眼光は、確実にペンウッドの心臓を縮みあがらせた。
『なんなんだ、この野郎は……インベーダー共の歩行戦車を相手にするより、生きた心地がしねぇ……!』
ペンウッドは苦い唾液を呑み込むと、改めて会話の切り口を探り始めた。
「と、とりあえず……あんたの新任祝い兼ねて……警備担当地区の案内、させてもらうぜ!」
555オセロ:2010/08/17(火) 03:31:55 ID:JDHC/9Ww
ペンウッドとトーゴーの乗ったジープは、夜の街を荒々しく走った。
運転するペンウッドの性格からして、その走りには人道さの欠片もなく、ジープは幾度も通りを行く子供たちや、貧しい人々を跳ねそうになった。
ジープは残留インベーダー達の多く住む地区の前で止まり、ペンウッドは、その浅ましい性根を垣間見せる言葉を並べた。
「トーゴーさんよ、ついたぜ!……くっせぇ現場によ!」
ペンウッドの乗るジープが現れた途端、通りに出ていたインベーダー達は、すぐさま建物の中に引っ込んだ。
「ここいらはゴミ虫の巣窟さ……和平締結で捕虜共の解放が決まった途端、奴らの多くが、ここに住みついちまった……ったく、余計な事しやがって!何が『残留インベーダーの生活の保証』だ!」
「地球に残ったインベーダー達の帰還目途が建つまで……それを守るのが我々の……お前の仕事のはずだ……」
「そして、その俺様の仕事を監視しに、あんたが呼ばれたわけだ……けっ!」
ペンウッドはジープを止め、売春宿が多く並ぶ場所で降りた。
店の前に立っている売春婦たちは、多くが人間の女であったが、それに交じって、灰色の肌をもつ、インベーダーの姿も散見された。
「おれぁ好きにやるぜ!……ここじゃ俺は神なんだ」
ペンウッドはそう言い、売春婦たちを物色し始めた。
人間の女達は猥褻に腰をくねらせて彼を誘い、インベーダーの売春婦達は怯えた表情で「自分が選ばれない事」を祈って震えた。
トーゴーが、その様を黙ってジープから見つめていると、彼の元にも数名の売春婦が集まってきた。
人間の売春婦達は口々に卑猥な言葉でトーゴーを誘ったが、彼は見向きもしない。
やがて諦めた売春婦達が悪態をつきながら消えうせると、トーゴーの目には、一人のインベーダー売春婦の姿が映った。
それは、半年前ペンウッドが襲ったバラックで凌辱された、ゾーイだった。
彼女は、憎しみに満ちた目でペンウッドの背中を凝視し、握りしめられた震える拳からは、青い血が滲んでいた。
トーゴーはジープを降りると、ゾーイの元に近づいた。
ゾーイはトーゴーに気付き、その姿に一瞬背筋を震え上がらせたが、すぐに本職を想い出して言った。
「あ……へ、兵隊さン……遊んでかナイ?コック、大好キ……」
ゾーイの美しい身体は、人間の煽情的な服でも難なく着こなし、尚且つ、他の売春婦達が霞むほどの色気を漂わせていた。
彼女の方も、トーゴーの逞しい肉体を陸戦兵のアーマースーツ越しにもはっきりと見抜き、立ち上る雄の匂いに、忘れかけていた女の欲求を呼び覚まされた。
「私の店、ナンバー1……(アァ……なんテ……逞しイ身体……)」

「トーゴーさんよ!なんだい、硬ブツかと思ったら……へへへっ、あんたも好きだねぇ!」
気付いたペンウッドが、両腕に一人ずつ、人間とインベーダーの売春婦を抱いて、嫌らしい笑みを浮かべながら言った。
「明朝、ここで落ち会おうや!……ハメ外しすぎて、財布すられんなよ!……ここのアマ共は、いじきたねぇからよ!ははは!」

30分後、トーゴーの上に跨ったゾーイは、実に4度目のアクメに達しようとしていた。
「オォォ……オオォゥ!……なんテ事なノ……狂ってしまいそうヨ……!」
「……」
トーゴーは情事の最中でさえ、ヘルメットを外そうとはしなかった。
彼は無言で、ゾーイの求める全てを与えるべく、彼女の高ぶった身体を愛撫した。
ゾーイは、実に三年ぶりに、それもインベーダーでなく、かつての敵である人類の雄によって、雌としての快楽を存分に味わわせられた。
トーゴーの上でゾーイの身体が弾け、一際激しく彼女の体が痙攣した。
達したのだ。
556オセロ:2010/08/17(火) 03:36:17 ID:JDHC/9Ww
ゾーイは肩を震わせて息をし、トーゴーの厚い胸板の上に倒れ込むと、その身体に幾つも刻み込まれた傷痕を、一つ一つ指でなぞった。
「……(なんテ男……一回モ、致さなかっタ……)」
トーゴーも、ゾーイのわき腹に残る古傷を見つけ、それにそっと手を触れた。
それだけで、今果てたばかりのゾーイは、背筋にジンと電撃が流れるようだった。
「……パイロットか」
「そウ……円盤型戦闘艇……エースだっタ……」
ゾーイは、惚けた頭の中に響くトーゴーの声に操られるように、濡れた唇を蠢かせた。
「人間を……EDFを、恨んでいるのか」
「人間……恨まなイ……EDF……私モ……お前達モ……沢山失っタ……一杯泣いタ……」
ゾーイの脳裏に、また「あの光景」が浮かび上がった。
途端に彼女は声を裏返し、肩を竦めて泣きじゃくり始めた。
「皆……死んダ……イイ人達……死んダ……罪無イ人達……うぅぅぇぇぇっ……」
ゾーイは高ぶった感情の波の中で、「しまった」とつぶやいた。
またいつもの悪い癖で、上等な客を逃してしまう……と。
だが、トーゴーは、ゾーイの緑色の髪を優しく撫で、突き出た長い耳に、そっと唇を落とした。
ゾーイの脳裏から、途端に悪夢の光景が消しとんだ。
やがて彼女の口からは、静かな寝息が響き始めた。
ゾーイが悪夢から解放され、静かな眠りを手にしたのは、実に半年ぶりであった。

明朝。
朝の冷たい空気に冷めきった身体を暖めるべく、トーゴーの身体を求めて、ゾーイはベッドの上に腕を走らせた。
だが、彼女の隣に、彼の逞しい身体はなく、ゾーイは慌てて目を見開いた。
トーゴーは既に陸戦兵のアーマージャケットを着ており、宿を出る準備を整えていた。
ゾーイは目を……黒と白が人間とは逆転した大きな目を……物欲しげにトーゴーに向けて、ベッドから半身を起した。
自分に悪夢を忘れさせた男が立ち去る……ゾーイの表情は心底暗かった。
だがそれは、トーゴーがベッドの上に置いた紙幣の束を観た途端、驚きの表情に塗りかえられた。
「……これジャ多イ」
「……この次も、お前を選ぶ……二倍払おう」
「えっ!」
トーゴーはアーマースーツを着終え、部屋を出る間際にこう言い残した。
「二度抱きたいと思える女は、そう多くはない……」
「っ!」
一人残されたゾーイは、顔を長い耳の先まで真っ青に染めていた。

                                      ……つづく
557名無しさん@ピンキー:2010/08/23(月) 15:43:12 ID:vNiWb/x1
GJ!
558名無しさん@ピンキー:2010/08/24(火) 00:31:04 ID:Z59wTiSG
GJでごさった!

本当にゴノレゴを読んでるみたいだった。
エロの加減具合とかも w

続編楽しみにしておりますぞ!
559名無しさん@ピンキー:2010/08/24(火) 17:54:54 ID:rgFRKTbt
ゾーイちゃんは最初は日本的萌えタッチだったのに、読んでるうちにさいとう・たかをプロのあの絵柄になっていったよね
560名無しさん@ピンキー:2010/08/29(日) 20:30:01 ID:TUp03HkT
例の作品以外が投下されても不思議と荒れないんだなあ
561名無しさん@ピンキー:2010/08/30(月) 23:57:35 ID:d/XmYU+0
ここはエロパロ住人だけでなくEDF隊員も読んでるからなぁ。

単にエロなだけでなく、硝煙の臭いでむせるというか、戦いの臭いがする作品が好まれるのだろう。

この前のエロ全開の作品が叩かれたのもそういう事なんじゃないかと。
562名無しさん@ピンキー:2010/09/04(土) 23:05:09 ID:7zCTW96h
新作が出るかもって、話なんだわさ。


地球防衛軍4
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/ghard/1283600376/
563名無しさん@ピンキー:2010/09/05(日) 07:06:26 ID:LLxUX5U1
564名無しさん@ピンキー:2010/09/25(土) 20:06:32 ID:ugRVJR2o
かなり間があいてしまいましたが、ようやく長かった規制も解除のようです
またまったりと続けていきたいと思います
565ペイルウイング物語−落日編−:2010/09/25(土) 20:07:27 ID:ugRVJR2o
智恵理を部屋に送った後、マリー大佐たちは直ぐに病院を辞した。
 3人が気まずい雰囲気のまま本部に戻ると、思いがけない客がロビーで待っていた。
 無粋なひっつめ髪をした、30過ぎの東洋人女性である。
 周囲から浮いて見えるのは、場違いな白衣のためであろうか。
「先生っ。才子先生じゃありませんか」
 光は相手が中野のラボで検査担当官だった女性科学者と知り、懐かしそうに挨拶する。
 しかし才子女史の態度は素っ気なく、小さく頷いただけであった。

「セントラル・グループ本社の矢井羽才子です」
 才子女史は指揮官であるマリー大佐に一礼した。
「ほぅ。民間人のその方が、ようここに入れたものよ。して、なに用じゃ?」
 大佐は怪しむような目を向けるが、才子女史は平然としている。
 それどころか大佐を非難するように、上から目線で見下ろしてきた。
「大佐は総監命令に逆らってまで、チェリーブロッサム大尉を日本に帰さないとか。その理由を伺いにまいりましたの」
 女史はペイルウイング総取締役の威を借りて、直接マリー大佐に挑戦してきたのだ。
「その理由を聞く権利が、その方にあろうかのぅ?」
 相手が権力で来るのなら、実母たるアン王女直轄の身である大佐も負けてはいない。

 しかし、その辺りの事情を知った上、敢えて挑んできた女史は一歩も引かなかった。
「大有りですね。何せ大尉の足を完治させるクローン技術は、当社の開発によるものですから」
 女史の眼鏡がキラリと光る。
「ちなみに執刀を担当するのは私です」
 大佐は思わず息を飲んだ。
 もうダメだと思っていた智恵理の足が、完治する可能性があるというのである。
 これには黙らざるを得なかった。

「大尉の細胞から、欠損している箇所付近のクローンを作成します。それを丸ごと移植すれば、あの程度の負傷など……」
 女史は智恵理のカルテを入手しているのであろうか、最後まで語らずに鼻で笑った。
「そのクローン技術というのは、既に確立されていると申すか。大尉を不確かな技術の実験台にするわけにはいかぬ」
 マリー大佐は心の葛藤と戦いながら、なおも女史に食らいつく。
「神経細胞群塊のクローンなど初歩の技術です。私が現在開発している物を知ったら、大佐は飛び上がって驚くでしょうね」
 女史は小馬鹿にしたように吐き捨て、そして喋り過ぎを後悔するように口をつぐんだ。
 気まずい沈黙がしばし流れる。

「セントラル・グループって、あの殺人戦車を作ってる悪魔みたいな企業のことかい? へぇ〜っ、実在してたんだ」
 沈黙を破って割り込んできたのはエンジェルだった。
 彼女はE551ギガンテスが軽量化を追求する余り、著しく安定性を欠く造りになっていることを皮肉っているのだ。
 エンジェルはキスの射程距離まで顔を寄せ、才子女史を無遠慮に見回す。
「死の商人さんが今度は何を売り込もうってんだい? 死なない兵でも売ろうってんなら、あたしも一口乗せてくれよ」

 女史は内心驚いた。
 自分が何気なく発した余計な一言を元に、この小娘は物事の本質に限りなく近い回答を導き出したのである。
「で、でまかせを言ってるだけよ」
 女史はエンジェルを無視することにしたが、自分の迂闊さがどうにも許せなかった。
 そして、偶然にせよ一瞬でも自分をたじろがせた小娘に仕返ししようと企んだ。
「確かにクローン技術を応用すれば、四肢がもがれたって退役せずに済むわね。でも頭のスペアはないもの。それにね……」
 そこで女史は一層人の悪い顔になる。
「……あなたみたいな雑兵は幾らでも替えがきくの。わざわざ高価なスペアを作るより余程安上がりだわ」
 そう言って女史は高笑いした。
566ペイルウイング物語−落日編−:2010/09/25(土) 20:08:16 ID:ugRVJR2o
 その台詞は、目の前にいる小娘のプライドをズタズタにするはずであった。
 ところがエンジェルは眉一つ動かさなかった。
「それであたしを傷つけたつもりかい。こちとら似たような台詞、孤児院で聞き飽きてらぁ」
 エンジェルはアクビ混じりに言った。
「それより、それが本心か。アンタらは結局のところ銭なんだろ? 銭のためには兵隊の命なんか屁とも思っていないんだよ」
 せせら笑うエンジェルの目がテュールリーの頃のものに戻っていた。
 このままでは本当に女史をぶん殴るかも知れない。
 なにせ彼女には、あのレギー・ベレッタにさえケンカを挑んだ前歴があるのだ。

 お世話になった先生と親しい戦友の狭間で、光はただオロオロするばかり。
 マリー大佐も黙ったまま腕組みしていた。
「だいたいテメェら汚いんだよ。まぁセンセは研究者だからラボが戦場なんだろけど、グループのお偉方はどうなんだ?」
 攻勢に立ったエンジェルが、一気に女史を追い詰めていく。
「重役様のご子息ご令嬢の中に、1人くらいは軍務についてる奴がいるのかい?」
 エンジェルは女史の耳元に顔を寄せ、最後のトドメを刺した。
「そんな汚い奴らに、大事な大尉を取り上げられてたまるかってんだよっ」
 それは女史に対して一番の効果を上げる文句の筈であった。
 ところが、今度はエンジェルが眉をひそめる番だった。

「ウフフフッ……なぁんにも知らないお嬢さんのね、あなたって」
 気がつけば才子女史が優しそうな目になっていた。
 憐れみの色まで浮かんでいる。
「東南アジア戦線で戦っているハミングバードって部隊があるのを少尉はご存じかしら?」
 知ってるも何も、ハミングバード隊といえばラオスのジャングルで戦っている、EDFで最も過酷な部隊である。
 地勢の悪さに加え、補給すら滞りがちになる悪条件のため、同隊は常に最悪の損耗率をキープしている。
 士官学校の卒業式において、同隊に配属を命じられた新任少尉が、壇上で失神してしまったことは伝説にもなっている。
 それほど過酷な部隊の存在をエンジェルが知らないわけはなかった。
「ここだけの話だけど……そのハミングバードの部隊長ってね、実はセントラル・グループ総帥、竜崎宗一郎の一人娘なの」
 女史がクスッと含み笑いした。
 その言葉は、エンジェルの口を塞ぐには充分すぎるインパクトを持っていた。

 エンジェルは背中を冷たい汗が流れ落ちるのを感じた。
 セントラル・グループの総帥は、彼女さえ二の足を踏むラオス戦線に自分の一人娘を投入しているというのである。
 世間体とかで済ますには余りにも苛烈であった。
 単に世論を気にするだけであれば、娘を後方の事務職にでも就かせれば事足りる。
 それがペイルウイング隊、それもハミングバードへの配属を認めるとなれば狂気の沙汰であった。
 或いは父の贖罪を果たそうという娘の自発的行動なのか。
 いずれにせよ、物心ついた時から父のいないチチョリーナ・ロッシには、狂気としか理解できなかった。

「下らない腹の探り合いは止めましょう。チェリーブロッサム大尉が、あなた達にとって大事な存在であることは分かりました」
 気がつくとイニシアティブは女史に奪回されていた。
「しかし、そんなあなた達だからこそ、なにが本当に大尉のためになるか分かって頂けるはずです」
 才子女史の声が3人の耳に虚ろに響いた。
567ペイルウイング物語−落日編−:2010/09/25(土) 20:08:51 ID:ugRVJR2o
                                 ※

「えぇっ、東京行きって……隊長、どういうことですかっ?」
 寝耳に水の命令に、智恵理は目を剥いてがなり立てた。
「も、もう決まったことなのじゃ。ヒナとて、いつまでもファランドール総監の命令に逆らってはおれぬわ」
 マリー大佐が突き放すように言った。
「そ、そんな……」

 狼狽える智恵理に今度はエンジェルが追い込みを掛ける。
「命令無視は大尉の十八番だけど、今度のは度が過ぎるんじゃない? 大佐が困ってらっしゃるのに気付かないのかねぇ」
「だいたいねぇ、あたしら下の者に失礼なんだよ、先輩は。あたしらの実力がそんなに信用できないっての?」
 光が憎々しげに唇を尖らせる。
「アンタ達……あたしのこと、そんな目で見てたの?」
 智恵理の唇がブルブルと震える。
「隊長っ。隊長にとって、本当にあたしはもう不要品なんですかっ? ちゃんと答えて下さいっ」
 智恵理は必死で冷静さを保とうと努力して言った。

 黙りこくって俯くマリー大佐を、エンジェルが肘でつつく。
「その方は……元々、隊の役に立っておらぬのじゃ。いつも勝手なことばかりして……若い者の教育上……こ、好ましゅうない」
 大佐は俯いたまま、抑揚のない声で詰まり詰まり答えた。
「目立ちたがりのスタンドプレーは迷惑だって言ってんの、分かんないかなぁ」
 光が大佐の腕を取って後ろに引き下がらせる。
「2小隊のことはチチョリーナに任せて、安心して治療に専念しなよ」
「ケッ、よく言うよ。元々あたしの小隊みたいなもんだし」
 光とエンジェルは廃棄物を見るような目を智恵理に向けた。

 智恵理は悔しそうに唇を噛んでいたが、やがてギプスを殴りつけて怒鳴った。
「分かったわ、もう要らないっていうんなら出てって上げるわ。ただしもう一度帰ってこいって頭下げたって二度と御免だから」
 3人を睨み付ける智恵理の目には涙が滲んでいた。
「さぁ、用が済んだら出てってよっ。あたし寝るんだからっ」
 智恵理はそう叫ぶと、上半身を倒して頭からシーツを被った。


 病院を出ていく3人は、一言も発しなかった。
 エンジェルが智恵理のいる病室を振り返ろうとし、マリー大佐がそれを止めた。
「けど……隊長……」
 光が何か言いかけたが大佐が口を封じる。
「これでよいのじゃ……3人で決めたことじゃろう……」
 2人を制する大佐の目にも涙が浮かんでいた。


 その日の夜、光は帰国する智恵理の私物を整理していた。
 兵員輸送機に乗せる私物の重量は厳しく制限されており、不要物は全て廃棄する必要がある。
 その選別を任されたのは、一番親しい存在である光であった。
「こんなガラクタいつまでも持ってて……仕方のない先輩だよ。なに、このでかいパンツ。先輩、お尻はでかいからなぁ」
 光はブツブツ言いながら、面倒臭そうにゴミ箱を一杯にしていく。
568ペイルウイング物語−落日編−:2010/09/25(土) 20:09:28 ID:ugRVJR2o
 写真の整理に移ると、余りの多さにウンザリしてしまう。
「ったく……わざわざプリントアウトしないでよね」
 いったい何枚あるのかすら分からない。
 その中に智恵理が同期生と一緒に撮った一枚があった。
 ペ科練の校舎をバックに赤ブルマ姿の智恵理がおり、それを左右から挟んでいるのは一条綾と竜崎雅である。
「恨むよ、雅先輩……」
 雅がどこかの財閥のお嬢さまだとは知っていたが、まさかそれがセントラル・グループ本家であるとは思いもしなかった。
 彼女が何を考えてペイルウイングを志したかは知る由もないが、その事実さえなければ才子を負かせていたかもしれない。
 間接的にとはいえ、智恵理と別れる原因を作った雅が憎らしかった。

 取り敢えず、写真は全部荷物にねじ込むことにして、続いて装備品の整理に掛かる。
 消耗品は廃棄するとして、貸与品は装備課に返還しなければいけない。
 制服を片付けているうち、血塗れになったペイルスーツが出てきた。
 あの日、智恵理が身に付けていたものである。
 その痛み具合に、智恵理が喰らった打撃の強さが窺い知れ、光はゾクッとする寒気を覚えた。

 続いてヘルメットを手に取った光は、内装を確認していて中に何か縫いつけてあることに気付いた。
 何だろうと思って糸を引きちぎると、汗にまみれてボロボロになった布きれが出てきた。
「あっ……」
 それが何であるか気付いた光は、思わず絶句していた。

「お守り……あたしがあげたお守り……」
 それは智恵理の卒業記念にと、光が近くの神社で貰ってきた安全祈願のお守りであった。
「……まだ持っててくれたんだ」
 一度は「交通安全は関係ない」と言って突っ返そうとした先輩。
 それでもむくれて取り上げようとしたら「もうあたしの物だから」と返してくれなかった先輩。
 あの日あの時の記憶が鮮明に蘇ってきて、光は涙で前が見えなくなってしまった。

                                 ※

 その翌日、ヒースロー軍用滑走路に智恵理の姿があった。
 車椅子には乗っていなかったがギプスはそのままで、松葉杖をつかないことには歩くこともできない。
 惨めな姿を晒したくないので、人目を忍ぶようにこっそりと機に近づく。
 搭乗口のタラップ前に、半泣きになった光が待っていた。
 光が黙ったまま、ショルダーバッグのベルトを智恵理の首に掛ける。
 智恵理はブスッとした顔でバッグを受け取ったが、やがて我慢しきれずに吹き出してしまった。
569ペイルウイング物語−落日編−:2010/09/25(土) 20:10:02 ID:ugRVJR2o
「なんて顔してるのよ。ホントにお芝居のできない子ね」
 智恵理が呆れたような口調でダメ出しした。
 一瞬呆気に取られた光だったが、直ぐに真っ赤になって怒り出す。
「先輩っ、あたしが演技してるって分かってたんだねっ」
 光は相手が怪我人だということも忘れて、智恵理の胸をポカポカと叩き始めた。

「折角あたしも付き合ってあげてたのに。きょうび、幼稚園の文化祭でももう少し上等なお芝居見せてくれるよ」
 智恵理はそう言いながら、光の耳をつねって体から引き剥がす。
「先輩っ、やっぱり行かないでっ。あたしから隊長にお願いしてみるからぁ」
 光はそう言ってわんわん泣き始めた。
 それを見ているうちに智恵理も貰い泣きしてくる。
 しかし心を鬼にして胸の内を語った。

「ありがと。けどね、こんな体じゃお荷物にしかならないの。それはあたしにとって我慢できないくらい辛いことなのよ」
 智恵理はそこで言葉を詰まらせたが、なんとか後を続けた。
「それにさ……治る可能性があるのなら、それに賭けてみたいんだ」
 智恵理はそう言ってぐずる後輩をなだめた。
「足が治ったら、また直ぐに戻ってくるからさ。それまでマリー大佐のこと頼んだよ」
 光は泣きやまなかったが、それでもハッキリと頷いた。

「……で、隊長は」
 智恵理はマリー大佐が必ず来ているものと信じ切っていた。
 そこに息せき切った大佐が駆け込んでくる。
「すまぬっ。下らぬ所用で来るのが遅うなった」
 マリー大佐は、智恵理が演技を見破っていることなど当然のように振る舞う。
「当たり前じゃろう。ヒナが大尉を邪魔に思うておるなど、何処の誰が信じようぞ」
 大佐は胡散臭そうに睨み付けてくる光を軽くいなした。
 聞けば、エンジェルは初志を貫徹して演技を続けるつもりらしい。
 どこを見回しても彼女の姿はなかった。
 泣き顔を見せたくないのであろうが、それも彼女らしくていいと智恵理は笑った。

「いろいろとお世話になりました」
 智恵理は改まった調子で大佐に敬礼する。
「世話を掛けたのはヒナの方じゃ。その方がおらねば、とてもここまでこれなんだ」
 大佐も気を付けをして敬礼を返した。
「そこで、今までの報償としてこれを授ける」
 マリー大佐はそう言うと、持っていた包みの中からキラキラ輝くティアラを取り出した。
 王室から下賜されたカリナンのティアラである。
570ペイルウイング物語−落日編−:2010/09/25(土) 20:10:45 ID:ugRVJR2o
「とんでもないっ。そんな大事な物、冗談でも頂けません」
 智恵理は飛び上がって驚いた。
「無論くれてやるつもりはないのじゃ。その方に一時預けておくゆえ、大事に持っていてくれい」
 大佐はそう言うとティアラを無理やり智恵理のバッグに入れる。

「カリナンは史上最大のダイヤモンドの原石じゃ。そこから分割されたダイヤは、いずれ一つになろうと引き合うという」
 その言葉に智恵理はハッとする。
「……じゃから、その方も直ぐに戻ってくるがよい。ヒ、ヒナは……いつまでも……待っておる……」
 大佐は喋っているうちに熱いものが胸に込み上げてきて、最後は言葉を詰まらせてしまった。

 見せまいと決めていたはずの涙が溢れてくる。
 そして、遂に堪えきれなくなって智恵理に抱きついてしまった。
 智恵理も大佐を固く固く抱きしめ返す。
 大事な先輩を独占されたというのに、今日の光は嫉妬を控えることにした。
 目の前にいる少女は、自分に過ぎたるものと謳われた大事な宝物を2つとも手放すはめになるのだから。

 やがて出発時間の到来を告げるアラームが鳴り響いた。
 智恵理とマリー大佐は最後の敬礼をかわし、万感のこもった目で互いを見詰め合う。
「お体に気をつけて」
「その方もじゃぞ」
 最後の言葉を掛け合うと、智恵理は杖をついて搭乗機に乗り込んでいく。
 搭乗口の扉が閉まるまで、智恵理は二度と後ろを振り返らなかった。

 エンジンの音が一際高くなり、機体が静かに滑り出す。
 マリー大佐と光は姿勢を正すと、滑走を始めた機を敬礼で見送る。
 みるみる速度を上げたジェット機は、アッという間に滑走路の端まで進むと軽々と離陸した。
 機はグングン高度を上げ、やがて東の空へと消えていった。


 それから10分後、機は早くも海上を飛んでいた。
 自席に座った智恵理は、テーブルに突っ伏して肩を震わせていた。
 目を閉じると、倫敦に来て以来この4ヶ月余りの出来事が瞼の裏に浮かんでくる。
 栄光に彩られた数々の戦歴、ほろ苦さを残した部隊内の軋轢、そしてアイスバーン少佐を始めとする仲間たちとの別れ。
 それらは決して夢などではなく、鮮烈に記憶された事実なのだ。
 そして今、智恵理もまた戦列を離れ、倫敦を後にしようとしている。

「あたし、絶対戻って来ますから。そしたら、また隊長の下で一生懸命頑張りますから……」
 智恵理は心の中で何度もそう誓っていた。

 しかし、その願いは結局叶うことはなかったのである。
571名無しさん@ピンキー:2010/09/25(土) 20:12:58 ID:ugRVJR2o
取り敢えずこれで落日編は終了で、次回からは地獄編を予定しています
またよろしくお願いします
572名無しさん@ピンキー:2010/09/25(土) 21:29:32 ID:iJQQ+u/t
うわああああああああ

やっと投下きたあああ待ってたあああああああ

これからが本当の地獄か・・・
573名無しさん@ピンキー:2010/09/25(土) 23:14:51 ID:688HiQUh
続きキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
完結目指して頑張ってください。
574名無しさん@ピンキー:2010/09/26(日) 02:05:26 ID:kt+tK7PT
うおおおおおおお続編来たー!EDF!EDF!

地獄編…なんという直球なサブタイトル…
ここからはディロイと近衛の大盤振舞い、加えてまだ出てないのは…空爆と超爆、大蜘蛛、メカソラスにテラソラスか…
龍虫復活はあるのかな。そういやインセクトヒルって出てたっけ…読み返そう

切ない展開が増えてきたね…
575名無しさん@ピンキー:2010/09/26(日) 02:13:16 ID:NV8MeNlG
うおおおおおおお
何年かけても待つぜえええええ
ほんとに楽しみにしてるんだ。面白い

なんかEDF4も外国のとは別に日本でも作られるみたいだし楽しみ
576名無しさん@ピンキー:2010/09/26(日) 07:45:18 ID:kt+tK7PT
>>575
夢を壊すようで申し訳ないけど、それはお前どっかで釣られてると思うわ
577第13話予告 :2010/09/27(月) 01:02:53 ID:iPfZblOH
インベーダーの巨大生物兵器は昆虫型だけとは限らなかった。
極東地区の市街地に恐竜型巨大生物兵器が出現したのだ。

先の大戦の時にその巨体を活かした突進や口から放たれる火炎でいくつもの都市を廃墟にしてきた"それ"は『ソラス』と命名されていた。
まさにモンスター映画から飛び出してきたような化け物であるが、勝機がないわけではない。

ヤツの眼を盗んで足元に潜り込んで近接兵器を使えば致命的なダメージを与えられるはずである。
隊員たちは大胆かつ慎重に任務を遂行できるのか!?

次回 The地球防衛軍2 第13話 『巨獣』
全ての敵を殲滅せよ!
578予告人 :2010/09/27(月) 02:32:46 ID:iPfZblOH
こちらも規制解除されたので保守再開です。

今回は銀○伝ぽくしてみました。
ちびまるこのお父さんの声で脳内再生おながいしまつ。w

ではまた ノシ
579名無しさん@ピンキー:2010/09/27(月) 17:13:08 ID:e/tyEHGG
どこまでも待ち構えていたものが次々と……我々はまだ外注作になんか屈していない!
580名無しさん@ピンキー:2010/10/07(木) 16:51:07 ID:mya1ni9E
久々に来たら落日編終わったのか…。
次はいよいよディロイたんがでてくるのかな
581名無しさん@ピンキー:2010/10/07(木) 19:57:52 ID:ciJAC3YC
>>580
ディロイに足をやられた訳だが
582名無しさん@ピンキー:2010/10/25(月) 00:53:57 ID:BnU7KyTt
h
o
s
y
u
583名無しさん@ピンキー:2010/10/30(土) 00:47:06 ID:RljqIY0b
hosyu
584第14話予告 :2010/11/07(日) 23:32:00 ID:PoNy61EC
インベーダーのキャリア2隻が極東地区・日本の山岳部に出現した。
偵察班よりヤツらは蜘蛛型巨大生物兵器を満載して都市部へ侵攻中との報告が入った。

"蜘蛛"を都市部に放たれてしまえば、ロンドンのような壊滅的な被害が予想される。
EDF極東支部は山岳部でのキャリア撃墜を決定した。

隊員たちはキャリア攻撃用の狙撃兵器、そして"蜘蛛"用の高火力兵器を携えて任務へと向かう。
谷底での一斉爆破による一網打尽の計略は果たして成功するのか?

次回 The地球防衛軍2 第14話 『谷間の影』
全ての敵を殲滅せよ!
585名無しさん@ピンキー:2010/11/08(月) 19:40:44 ID:GyLEjC8i
ミッション失敗例
ttp://pic-loader.net/view/711edf026.html
586名無しさん@ピンキー:2010/11/23(火) 15:10:52 ID:o++j8+Op
保守
587名無しさん@ピンキー:2010/12/07(火) 18:31:43 ID:d/Kc6BBC
保守
588名無しさん@ピンキー:2010/12/23(木) 23:41:02 ID:d0ktPhy5
PS3の新作たのしみ
589名無しさん@ピンキー:2010/12/26(日) 10:53:30 ID:hO4r4bP8
正真正銘、地球防衛軍4キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!

http://www.nicovideo.jp/watch/1293166683

EDF!!!EDF!!!
590名無しさん@ピンキー:2010/12/26(日) 13:06:05 ID:JOIWlmKk
PSPのほうは買うが正直XBOXの防衛軍微妙だからなぁ
THEの頃の昭和のB級感がよかったのに、変に世界観とか敵デザインとかリアルにしちゃったせいで逆にうそ臭くなってしまった



でも防衛軍4も買っちゃうけどな!
3のためだけに買ったXBOX360がようやく再び日の目を見る
591名無しさん@ピンキー:2010/12/26(日) 17:14:12 ID:ayvhEc+8
EDFIAは最初にスクショが出たときは絶望したが、次に動画が来たときに予想以上に防衛軍してたから、
今じゃ普通に期待してる
デザインが変わってもワラワラ感と絶望感と引き撃ちと無線があれば防衛軍に変わりない!
592名無しさん@ピンキー:2011/01/11(火) 03:17:56 ID:E5ES2QSw
俺たちは戦い続ける…ペリ子物語が完結するまで
593名無しさん@ピンキー:2011/01/11(火) 04:06:19 ID:7PP+rDPd
>>589
うおおおおおおおおおおおお
EDF!!! EDF!!!
PSP版、テラソラスの処理落ちが気になるな
処理落ちが軽減されてたら、俺、今度こそハーキュリーを手にするんだ…
でもよく考えたらコントローラー2つつなげられないから、絶対包囲稼ぎできないのかな…?
594名無しさん@ピンキー:2011/01/12(水) 03:13:46 ID:v6rtaxWw
このスレ
地球防衛家のヒトビトでエロパロ
かと思った
サーセン
595 ◆VUNwDQ3iOw :2011/01/20(木) 01:53:18 ID:BCbBrvyu
おつかれ
596 ◆H2ZnPqrkJs :2011/01/20(木) 01:55:04 ID:BCbBrvyu
なんどもm(__)m
597名無しさん@ピンキー:2011/02/08(火) 21:47:47 ID:ZhHvhwkX
保守
598名無しさん@ピンキー
保守