☆☆☆狩野すみれ兄貴の質問コーナー☆☆☆
Q投下したSSは基本的に保管庫に転載されるの?
A「基本的にはそうだな。無論、自己申告があれば転載はしない手筈になってるな」
Q次スレのタイミングは?
A「470KBを越えたあたりで一度聞け。投下中なら切りのいいところまでとりあえず投下して、続きは次スレだ」
Q新刊ネタはいつから書いていい?
A「最低でも公式発売日の24時まで待て。私はネタばれが蛇とタマのちいせぇ男の次に嫌いなんだ」
Q1レスあたりに投稿できる容量の最大と目安は?
A「容量は4096Bytes、一行字数は全角で最大120字くらい、最大60行だそうだ。心して書き込みやがれ」
Q見たいキャラのSSが無いんだけど…
A「あぁん? てめぇは自分から書くって事は考えねぇのか?」
QこのQ&A普通すぎません?
A「うるせぇ! だいたい北村、テメェ人にこんな役押し付けといて、その言い草は何だ?」
Qいやぁ、こんな役会長にしか任せられません
A「オチもねぇじゃねぇか、てめぇ後で覚えてやがれ・・・」
1乙
あ、あとこれはテンプレじゃなくて個人的意見っていうかお願いなんだけど、
登場人物の誰かが死んだり
鬱展開になるときは冒頭にその旨の注意書きを書いておいてくれると嬉しいし、
そういうのキライな人は読まなくて済むから反発を食らうことはないと思うのでよろしくです。
8 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/13(土) 23:43:48 ID:qM3WdIZv
1乙です。
1さん。乙です。
乙
これは乙なんかじゃなくてポニーテールがうんたらかんたら
乙
14 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/14(日) 01:18:01 ID:bj01G5Qt
乙!
今から2レスくらい駄文投下
「なあ大河」
俺は隣を歩く大河に声をかける。
「もうすぐ誕生日だろ。 何が欲しい?」
「んー? そうねえ」
大河はそう言ってしばらく考え込む。
そんなに経たない時間の後に俺に左手の甲を向けて
「指輪。指輪が欲しいわ」
とニッコリ満面の笑み。
指輪、と聞いて俺は何気なく目の前に差し出された大河の左手と下ろされている右手に目をやった。
右手の薬指には以前俺から大河へ贈った指輪がはまっている。
そして差し出された左手は当たり前だけど全席空席。
おや、これは。
そう思った瞬間に大河は俺の心を読んだのか
「小指よ、小指。別に薬指でもわたしはいいんだけどね」
と、瞳に悪巧みを思いついたような子どものような光を浮かべ、口元は悪戯っぽくニヤリとし
「学生結婚は色々大変よ」
なんてさらりと言ってくれたもんだ。
「薬指はもうちょっとかかりそうだな」
本当は今すぐにでも空席を埋めたいところだけど学生の身分の俺にはまだそんな資格はない。
俺は差し出された左の薬指に触れて思わず苦笑してしまう。
「そうね、だから」
「だから?」
「一人前になってわたしの事をもらいに来なさい。早くもらってくれないと許さないんだから!」
そう言って大河は笑顔と共にぽふっと俺に抱きついてきた。
腕の中に飛び込んできた華奢な体を軽く抱きしめて、柔らかい髪に顔を埋める。
「もらいに行くまで空けとけよ。予約だ」
「あったりまえじゃない! 竜児以外考えられないわよ」
その言葉と共に俺の背中に回された大河の腕に力が入る。
「それはありがたいな」
「だから、今ある幸せが続きますように。今は小指で我慢してあげる」
ぱっと顔を上げた大河は、多分俺以外には見せた事のないであろう笑顔でそう言った。
今は小指で我慢してあげる、か。まったく大河らしい。
こりゃあんまり待たせると大河の方からプロポーズされそうだ。
さすがにそれは避けたいところだな、なんて考えたら思わず口元がほころぶ。
そんな俺の顔を見て「?」となっている大河がとても愛おしくて、
もう一度腕に力を込め大河を抱きしめた。
1レスで足りたわwww。
竜児と大河を書くと、ハルキョンになるのはなんでだろう…
確かに名前をハルヒとキョンに読み替えても問題なく読めるなw
だがしかしラブラブは良いものだ!
ほんとだ、ハルキョンでも不自然じゃないw
なんとなくだけど大河のツンは原作どおりで、
デレは真っ赤になって目をそらして恥ずかしそうに強気で言ったり、
キョドったりすると思う。後はまったりイチャイチャとか?
ハルヒは確かに恋人になったら自信満々でラブトークしそうだな。
つん 一般の生徒への態度
デレ 実乃利や、小説6巻以降の竜児、祐作相手の態度
でしょ?
なんとなく、ですけど小説8巻位からの亜美に対する態度が、それまでとはかなり違うように感じるのです。
大河の態度で言える事は、
信用してると言うか仲良しというか、そういう相手に対してと
それ以外の人に対してと、極端に態度か変わる様に見えるのですよ。
同じ「暴力」でも加減が違う感じです。
大河はデレ状態でも態度はほぼツンのままなんじゃないだろうか
北村にとってた態度を竜児にするようなことはないだろう
自然体で付き合えるから好きになったわけだし
大河のツンデレと言えるような点なんて、原作3巻での嫉妬や5巻で竜児の誘いをキョドりながら拒否ったところくらいで
あとは基本的にデレデレだろ
タイガみたいなのはツンデレとは言えないな
あみちゃんこそ正しいツンデレ
みんな大河のツンデレの印象違うんだな、
難しいがそれぞれ職人さんに頑張ってもらうしかないか。
大河は信用してる相手には、なんとかだもん、という喋り方をすることがある
ゆえに亜美はすでに大河に信用されている
>>1乙
28 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/14(日) 18:49:45 ID:0lVwdLsp
正直言おう。
大河はツンデレでも何でもない
大河はツンデレじゃないな
ツンデレいらね
前スレの60レスの人はまだか
少しは待つということをしろ
みんながみんな、毎日2chできるほど暇じゃないだろうに
とりあえず年内中に投下してくれたら嬉しいが
マターリ待ってます
昔投下したSSで、保管庫にも保管してもらっちゃってるやつで
あまりに読みにくく、誤字が多く、表現が稚拙で書き直したいものがあるんだけど書き直してもいい?
別にいいんじゃね?
止める理由はねえな
じゃあ書き直してくる
保管庫管理人さんには申し訳ないのですが、
できれば昔のはサクっと破棄して黒歴史にして差し替えていただきたく、よろしくお願いします
>>38 差し支えなければ何ていうタイトルか、
無題なら何スレのどんな作品か教えてください
>>39 どうせアップしたらわかっちゃうんだけど恥ずかしいので勘弁してください
できれば今までに投下したの全部書き直したい
うわっ、迷惑かも
すまん誤爆
43 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/15(月) 01:35:28 ID:NRVwc910
■オフィシャル海賊本「電撃BUNKOYOMI」掲載、「にせトラ!」のネタバレを含みます。■
■未読の方は……1月刊行の「スピンオフ2!」にも掲載されないからごめんネ!>arl■
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今夜は七夕祭り、夏祭り。
はしゃぎながら駆けていく子供たち、可愛い浴衣姿の女のこ、
人混みで賑わう、電球の光が燦々ときらめくたくさんの夜店、
……夏は、それ自体がもう『お祭り』みたいな、楽しい季節。
ふわふわ綿飴、りんご飴、チョコバナナ。
甘いクレープ、いちごやメロンのかき氷。
お好み焼きや焼きとうきび、フレンチドッグ。
お面に風鈴、くじに型抜き、スマートボール。
「特製短冊はいらんかね〜……あらゆる呪いや願いを叶える呪法の短冊だよ〜……」
……ああ、屋台と屋台の隙間に座り込んでる『それ』は、もちろん無許可営業。
藁人形とか退魔の灰とか呪術の御札とか得体の知れない中身の小瓶とか、なんだか売っちゃいけないモノばかり。
楽しい夏まつりの夜だというのに、浴衣姿じゃなく黒の魔女マント姿、
どんな闇よりも暗い漆黒の髪、闇より生まれし黒い美少女、玉井伊欧。
そこにはなぜかテーブル半分・椅子2つ、『タ−20a 偽愛パラノイア』とも。
……それは違う夏まつり?
コ○ケスタッフもショバ代取立てのヤーさんも来ないが、客も来ない。いや、既に2人ほど――。
手元にある、2枚の短冊。1枚はあの(高須竜児、とかいう)極悪人相男の言う通り、願う通りに、
ちゃんと正確に書き足しておいた、伊欧が勝手に。
……もっと性格も可愛くて、素直で優しくて女らしくて、俺に超惚れまくってるような状態で、
浴衣くるくるプレイもできちゃうような、【大河】を見つけたい、と。そして、もう1枚は――。
「伊欧、こんなところにー。せっかくお兄ちゃんがお祭りに連れて来てあげたのに〜」
「……召喚儀式に用いる生贄用の鶏買ってくれないお兄ちゃんなんか、知らない」「いやあれ、カラーひよこ……」
違う【大河】を見つけたい竜児と、
違う【竜児】を見つけたい大河と。
もし違う2人が出逢ったなら、何が起こるのだろうか。
***
「ん……あ……」
大河の浴衣の襟元から、竜児が大胆にも手を忍ばせ、その胸元へと。
乱れた襟をゆっくり押し広げれば、下から花開く、薄紅に染まった白絹の柔肌。
剥き出しになった華奢な肩、美しい曲線を持つ、ブラをつけてない白い膨らみ。
「竜児……大好き」
もう何度目だろうか。何度目かも判らない大河の言葉が、想いが、
竜児にその唇ごと、触れる心地よい感触ごと、塞ぎ閉じ込められる。
「ね……ここなら、誰もいないから……誰も、見てないから……」
「いいのか?」「うん……いいよ……」
いつもの大河を、ホントの大河を探して走った竜児と、
いつもの竜児を、ホントの竜児を探して駆けた大河と。
……それを追いかけた、幻想の【竜児】と【大河】が、
お互い惚れまくってる状態の2人が、出逢ってしまったら。
夏祭り会場から遠く離れたここまで来れば、祭りの喧騒はほどんど聞こえない。
竜児と大河、ふたりが木々の影の茂みに寄り添い消えるのも、誰も見ていない。
竜児と大河以外、誰もいない。
「むぐーっ! ……ふーっ!」
「黙れって大河っ! ……踏むな蹴るな吼えるな暴れるなっ!」
――暴れる手乗りタイガーを草藪の影に無理矢理引きずり込んで、必死で羽交い絞めにしてる、
「離せっ竜児! そこでサカってるエロばか犬も、乳揉まれてる発情期偽者女も、全員まとめてモルグ送りだー!」
……と、その雄叫びを口ごと、もう全力で塞ぎ閉じ込めてる、本物の『竜児』と『大河』以外は。
誰もがビビる三白眼のヤクザ顔の男が、暴れ逃れようとする女のこの華奢な身体を無理矢理力まかせに押さえつけ、
耳元で「騒ぐんじゃねぇ」「大人しくしろ」――――哀れな少女を脅し乱暴しようとする犯罪者以外の何者でもないが、
竜児ここで力を緩めたら、この暴れ虎、怒りのあまり何をしでかすかわかったもんじゃない。
タイガーを竜児の檻から逃がしたら、大河が偽大河(黄色くないけど)をぶっ殺して、とか、
ガイシャの男のバラバラ死体を組み合わせたら、おや不思議、竜児が2人ぶん揃った〜とか、
もう名探偵も頭抱えるようなミステリアスな事件発生に違いない。
「ん……んーっ!」
……目の前に自分達と姿形同じな偽【竜児】と【大河】がいて、
おまけに『サカるぜぇ〜超サカるぜぇ〜』モード、そりゃ当然竜児も大河も大混乱。
塞がれた大河の口から「う〜!」と漏れる声も、驚きなのか怒りなのか叫びなのか何なのか、もう区別つかない。
***
もう最悪。縁日の雑踏で竜児とはぐれるし、探し回ったら履き慣れない下駄に足は靴ズレするし、
お財布竜児に預けてたから、ラムネも飲みそこねるし。
それに、やっと見つけた【竜児】は……大河に惚れまくってる竜児は、別人のように私に迫ってくるし。
やっぱりいつもの竜児じゃなきゃヤだ、と痛い足我慢して駆け出した(逃げ出した)ら、
追ってきた【竜児】と【大河】が出逢って、屋外で、目の前で…………え、えろっちい事をしてるし!
……しかもしかも、なんでばか犬に羽交い絞めにされなきゃならないのよっ! わ、私まで変なこと、されそうじゃない!
いい加減に、しなさいよね……竜児も、あの変な【竜児】も、あの偽者の【私】も!
なっ、何――――なんであいつ、私に、く、口でさせようとするの! 汚いでしょっ、なんで私もしちゃうのっ?!
目の前の光景に、自分達と姿形そっくりな【竜児】と【大河】が2人だけの世界で愛し合ってる光景に、
ち、違う違う違うっ!! あんなの別人偽者不良品、私、あんないやらしい事、絶対したりしないのに!
……と竜児に押さえつけられ思いっきり爆発していた大河も、いつしか、かくんと抵抗する身体の力が抜け。
だって――あんな、あんな信じられないことを……してるのだ、自分達の目の前で、”わたし”は。
「……ん……んっ……くふうっ……」
火傷するほど熱い、女のこのちいさな手や指ではもう抑えきれないほどに高ぶった竜児を、
恥じらいながら一生懸命に口をいっぱいに開いて、そっと可憐な唇で、そして優しく舌で。
……さっきまで夜店の焼きそばとかイカ焼きとか、がつがつ咥えてた口。
いつも捻くれて、意地張ってとんがってて、口を開けば罵詈雑言ばかり。
でも、大好きな乳製品摂ってる時は もう無邪気に白い跡なんかつけて、
それにやっぱり女のことして、いつでもテカぬる潤いリップは忘れずに。
ダメばか犬に侮蔑の歪み唇、でもこの頃、竜児の側では微笑み多めの唇。
……そんな大河と同じ唇で、今夜は言葉より素直な甘いキスを、二度、三度と。
塞がれてる大河と同じ唇で、何度も竜児を根本から先端まで、愛しげに小さな口の全部を使って。
――――そんな、そんな気持ちいいことを……してるのだ、自分達の目の前で、”わたし”は。
「感じるわ――我が同じ魔方陣より生み出されしふたつの偶像、惹かれ合う様に巡り会いて……」「い、伊欧?」
「でも所詮は形亡きモノより生まれし偽者……浴衣姿に欲情して、破廉恥な宿泊施設・ご休憩コースまで待てずに、屋外で?!」
暑苦しい魔女マントをがばっと翻して玉井伊欧、七夕の天に向かって「ふ・け・つ・よぉーっ!!」と大絶叫。
雨雲の上のベガとアルタイルも、天の川挟んだ遠距離恋愛・年に一度の逢引中の牽牛と織姫も、きっと大迷惑。
「わ、わかった伊欧その通りだ、浴衣姿にハァハァして押し倒すなんてケダモノさんのすることだ、だからそれ以上興奮するなっ」
「猥褻な行為に爛れる偽者も、浴衣くるくるプレイに耽る煩悩バカップルも! 今夜この”涙夜”の手で封殺してやるわ――っ!」
***
目の前の【竜児】と【大河】の高まりに合わせて、
まだ羽交い絞めの体勢を解かれない2人の鼓動も、竜児と大河の体温も、浴衣越しの素肌の熱量も――急上昇していく。
(あ……。わ、私のお尻に当たってるの――って、これ……竜児……の?!)
目の前で愛し合う、絡み合うその光景に、浴衣を乱れさせ【竜児】に貫かれた【大河】の甘美で切なげな喘ぎ声に、
そして背後から離さない大河の身体の柔らかさやシャンプーの匂いに、女のこの綺麗な肌に、その可愛さに、紅潮する首筋に、
――竜児だって、もう抑えきれないほど高ぶっている。そして、大河も……。
「大河……」
耳元で竜児にそうちいさく囁かれるだけで、背筋をびくん! と電流のような何かが這い登る。
空いてる片方の手を、浴衣の胸に……小さな身体がまたびくん! と震えたけど、もう、抵抗したりしない。
胸に添えた手を優しく動かす。まだ口を塞いだままのの手のひらが感じている大河の吐息も、漏れる声も、次第に熱さを増していく。
やがて羽交い絞めの体勢は解かれても、自分の口をまだ塞いでる竜児の手は、跳ねのけられない。
押さえててもらわないと、指先の動きに「ひゃうっ!」と恥ずかしい大きな声、上げてしまいそうになるから。
「やあ……あ、やぁ、あぁ……りゅう、じぃ……」
草むらの上で竜児に組み敷かれ、手が、唇が、柔らかい白い膨らみの先端の可愛らしい突起を固くし、
指が下着まで這い下りてきた時には、既にそれと判るまでにショーツをびしょびしょに濡らしていて。
「脱がすぞ、大河」
「いやっ……いやぁ……」
いや、いや、と小さく頭を振り、長い髪を乱しながら、
途切れ途切れの声を漏らしながら、甘い声で切なげに鳴きながら、竜児にしがみつく。
すごく恥ずかしいけど、そう、求めてくるのなら――好きだって、言ってくれるなら。
だから……偽の【私】のように、恥ずかしい事だって何だってできる、竜児のためなら何だって、”わたし”も……。
「ふ・け・つ・よぉぉ――――――っっ! この世からとっとと消え去れっ、この破廉恥肉欲傀儡人形めがーっ!」
「うわっ!」「きゃーっ!」
「そこ! お前らもだーっ! その性欲まみれの穢れた精神を、この”涙夜”の聖なる焔で浄化してやるわっっ!!」
轟音と閃光。
次の瞬間竜児と大河の元にも、玉井伊欧特製・髑髏マークつき爆弾(夜店で売っちゃいけません)が投げ込まれて――大爆発。
どかーんと爆風に吹っ飛ばされて天地がごろごろ逆転し、凄まじい痛みが目や鼻を襲いまくり、2人の意識は暗転。
***
瓶ラムネを2本買って、ぐったり大河を背負って帰る、夏祭りの帰り道。
白い足の靴ズレは痛そうだし、あんなことがあってまだ意識も瞳もふわふわぼんやりしてるし、身体も余韻に甘く痺れてるし。
……ついでに大河、ぱんつはいてないし。
伊欧の爆弾に大河もろとも吹き飛ばされて、脱がされた大河のショーツも、どこか草むらの中に飛んでいってしまったのだ。
「ね、りゅうじ……」
あんな不思議なことがあったせいか、ばか犬に押し倒されてあんなことまでされたせいか、
いつもの気性の荒さやわがまま横暴さ、傍若無人さまであの伊欧爆弾に吹き飛ばされたのか、
今夜の大河、背中の大河……まるであの、竜児が伊欧に願った「もっと性格も可愛くて、素直で優しくて女らしい」大河のよう。
「あ、あのな――――今夜の事は、俺、気の迷いとかそんなので、大河にあんなことしたんじゃないから……」
「……」
あんなことがあったせいか、竜児と大河のいろんな余計なものが、あの伊欧爆弾に吹き飛ばされたのか、
今夜の竜児、顔を赤くする竜児……まるであの、大河が伊欧に願った、竜児のような――。
「ちゃんと……責任、とってよ」
「あ、ああ」
「じゃあ――――ちゃんと、キス……して。さっきはずっと、竜児の手で押さえられっぱなしだったんだから……」
背中からおずおずと降りて、自分から薔薇の蕾のような形の良い唇、尖らせて。
背中のぬくもりが無くなる代わりに、互いの唇に心地よい感触、ぬくもり、何度も何度も繰り返して。
「あと、帰ったら、さっきの……続きも……」
七夕の天で逢引中の牽牛と織姫も、竜児と大河と同じこと、してるのだろうか。
――でも向こうは一年に一晩限り、でも、こっちは一年365日、ずっと一緒。
<Fin>
竜児×大河。
オフィシャル海賊本「電撃BUNKOYOMI」「電撃h&p(はじまり&ピリオド)」「電撃AprilFool」は入手できたので、残るは
「とらドラ!な日曜日」でコンプなんですが、電撃文庫総合目録2006SpecialEdition(抽選で1000名にしか当たらなかったらしい)
なんてそもそも入手不可能だい。
あと、某所の『根本的解決策』こと、鍋つかみミトンごしに大河の胸を揉む竜児絵、
「アイディアは某SSから勝手に拝借したものだったりしますよ」とのコメント&ゆゆぽスレSS保管庫へのリンクに
「いやっほーぅ!国崎最高!」と叫んだりしましたが、なにぶん名無しの身、この場で「有難うございます!」とお礼を。
神様ありがとう
憂鬱な月曜から素晴らしい作品をありがとう
ぱんつーぱんつー
おっつーおっつー
GJ
超GJ!
竜虎可愛いよ竜虎
54 :
SL66:2008/12/15(月) 18:13:19 ID:Hj2lSs7R
前スレで予告した長編を投下します。
60レスと告知しましたが、なんとか47レスに収まりました。
なお、本編は、前スレの「川嶋亜美の暴発」の続編です。
なお、途中で、投下が中断した場合、残りは後日ということで、ご了承願います。
眠い、とにかく眠かった。カフェイン入りのミントキャンディを貪るように口にし、
目の下にメンソールが効いたリップクリームを塗っても、まぶたが勝手に閉じようとする。
「だめだぁ、蓄積した疲労が、抜けねぇ…」
そう、つぶやきながら、高須竜児は、頬をつねり、鼻毛を引き抜いたりして、
どうにか正気を保っていた。
風薫る5月だというのに。エアコンのない理学部旧館の教室には、眠気を催す気だるさが漂う。
竜児以外の学生も、まぶたを擦ったり、シャープペンシルの先端で、こめかみを突いたりして、
必死に睡魔と戦っていた。
線形代数学は、数学科の必修科目だというのに、何の因果か、土曜日の2時限目に行われる。
必修科目、その中でも、この線形代数学は、数学科の『鬼門』とされ、毎年、少なからずの学生が
赤点を喰らって留年の憂き目を見ることで恐れられていた。
学期末に行われる試験は厳しく、毎週、真面目に聴講していないと歯が立たない問題が出る。
そのため、土曜日にもかかわらず、数学科1年、プラス留年組の全員が、気だるい眠気をおして
出席していた。
加えて、竜児は、3、4年は、就活や資格試験対策を行うべく、1、2年で主要な単位をほとんど
取得する腹づもりであったため、日常的にかなりの無理をしていた。
帰宅すれば、家事もしなければならない。疲労が蓄積するのも道理である。
だから、高須竜児が、90分の講義を文字通り必死に聴講した後、机に突っ伏して惰眠を貪って
いたことを、誰が責められよう。ましてや、講義終了後に教室に入り込んできた他学部の学生に、
その腕をつかまれ、拉致同然に教室から連れ去られるに至っては、もはや、お気の毒様としか言い
ようがない。
「ほ〜ら、高須くん、しゃんとしてよ。」
整った顔立ちに、意地の悪さをいくぶん含んだ笑みをたたえて、法学部1年の川嶋亜美は、
腕を組んだ竜児を引きずるように歩かせていた。睡眠不足で、朦朧とする竜児は、「ふへ〜」
という、およそ生気が感じられない生返事しかできず、それが亜美を苛立たせる。
「麻耶がねぇ、どうしてもあんたの協力を必要としているの。だから、眠かろうが何だろうが、
来てほしいのよっ!」
亜美は、歩きながら、竜児の鼻をつまんで、左右に揺さぶる。
「何せ、あんたと、あたしは、麻耶に借りがあるんだからぁ、ほら、目ぇ覚まして」
−そうだった、川嶋が泥酔して殴り込んできた時、電話とはいえ、フォローしてくれたのが
木原だった…。
竜児は、どうにもはっきりしない思考で、その時のことを思い出す。
電車に乗って、大橋駅下車。向かうは、通称スドバ。須藤コーヒースタンドバーだ。
「あ〜、亜美ぃ、ここ、ここ」
窓際の席に座っていた木原麻耶が、立ち上がって手を振った。傍らには何故か香椎奈々子まで居る。
「ごっめ〜ん、高須くんを拉致るのに手間取っちゃった」
とか言いながら、右手拳で自分の額を軽く、コン、とばかりに叩き、ペロッと舌を出す。
朦朧とする意識の下、竜児は、川嶋め、よい子ぶるのは、相変わらずだなぁ、とぼんやり思う。
テーブルを挟んで、竜児は麻耶の、亜美は奈々子の正面にそれぞれ座らされる。
「さてと…」
いつになく真剣な麻耶の視線が竜児には痛い。
「話は、亜美から聞いていると思うけど、今回は、どうしても高須くんの協力が必要なの…」
竜児は、そういえば、電車の中で、川嶋が麻耶と北村祐作のデートのお膳立てとかなんとか…、
言っていたな、とまでは記憶しているものの、その詳細な部分が思い出せない。
スドバに集った、元大橋高校2‐Cの美女3人組に囲まれるのは、悪い気分ではないが、
「既に、説明済み」と決めつけられた事項を、「何でしたっけ?」と、率直に訊ける雰囲気
ではないのがツライ。
訊いたら、多分、左隣にいる亜美から、『高須く〜ん、あんた…、いつもいつも、あたしの話を
聞いちゃいないんだから!』と、ヒスを起こされ、
麻耶からは、『高須くん、亜美ちゃんと、懇ろになっちゃって、色ボケ?』と、侮蔑の言葉を
投げつけられ、
奈々子からは、無言の冷笑を浴びせ掛けられるに違いない。
『もっと賢く臨機応変に』、今はアメリカにいるはずの狩野すみれの言葉ではないが、
正直であることがベストであるとは限らないのだ。
ここは、一つ、既に用件を完全に把握しているふりをして、彼女らの会話から、その要点を抽出
しよう、と、高須竜児は、睡眠不足の脳髄で思考する。
おそらくは、麻耶と北村のデートを、正攻法でセッティングするのは、現段階では時期尚早と
思われるので、竜児と亜美が、北村と麻耶を外出に誘うという作戦だったような気がする。
そして、当日は、竜児と亜美がドタキャン。待ち合わせの場所には、麻耶のみが居て、後は、
北村と麻耶とが2人きりでデートに出かけるという算段か。
その後、竜児と亜美、それに奈々子は、麻耶をサポートすべく、2人の後を追うというものの
はずである。
問題は、出かける先がどこで、いつ出かけるかだが、これがさっぱり思い出せない。
でも、まさか、明日ということもあるまい。
何しろ、明後日は、解析学のレポートを提出しなければならない。
明日の日曜日は、書きかけであるそのレポートの仕上げに充てるつもりなのだから。
「で、亜美、まるおの明日の都合は?」
恋する乙女、木原麻耶の問いに、亜美は、黒一色でシンプルな薄型携帯をいじり、
「万事、おっけぃ。今、メール見たんだけど、祐作は、『喜んで参加する。高須にもよろしく』
だってさ」
竜児は、飲みかけのブレンドコーヒーを思わず吹き出しそうになった。よりにもよって明日か!?
さらに、亜美は、潤んだ瞳で、竜児の顔を覗き込み、
「高須く〜ん、明日は、麻耶のサポート役、一緒に頑張ろうね。ほら、あたしたちは、麻耶に
恩があるしぃ〜」
>>44 GJGJGJGJ!
なんという良作
素晴らしすぎる
と、猫なで声で、寄りかかってくる。
−しまった、すでに用件を完全に把握しているふりをして、彼女らの会話から、その要点を抽出
しようという作戦は裏目に出た。
何よりも、大学からここまでの電車の中で、竜児が亜美の説明に適当に相槌を打っていたのが仇
になった。
電車での亜美の説明には、当然のごとく、北村×麻耶のデート・サポート作戦の決行日時、場所が
含まれていたに違いない。
冷や汗が吹き出してきた。解析学のレポート提出が危うい。
いや、待て、明日がダメなら、今日がある。レポートは今晩中に仕上げればいい、
とコーヒーをすすりながら、高須竜児は努めて平静を保とうとした。
だが、それも、
「明日の、ファザー牧場へのピクニックは、何といっても、高須くんオリジナルのお弁当がキモ
だよね。プロ顔負けのお弁当をもってすれば、まるおの心も麻耶になびくかもしれないよ」
という奈々子の一言で粉砕された。
−ファザー牧場? 他県で遠いじゃねぇか。ピクニック? 弁当? 俺が作るのか? それに、
いつも大学に持っていくようなお手軽な奴じゃなくて、特別なイベント用のスペシャル弁当を?
いかん、あまりの事態に、体が震えてきた…。
隣に座った亜美が、「ほう?」という感じで、そんな竜児を面白そうに注視する。
その亜美が、
「そうだねぇ、今夜は、下ごしらえから始めて、明日の早朝にお弁当を詰めるから、高須くんを
手伝いたい人は、高須家に泊まり込みで頑張ろう。は〜い、あたし、高須くんちにお泊まりぃ」
と、挙手。それに釣られるように、麻耶も奈々子も、「は〜い、あたしも」と、手を挙げる。
「私も、もはや伝説の域に達している、高須くんの料理の腕前を、間近で拝みたいし」
と、3人組の中で一番控えめな奈々子までがはしゃいでいる。なんてこった…。
竜児は、おずおすと、美女トリオに尋ねる。
「な、なぁ、年頃の娘が外泊して大丈夫なのか?」
その問いに対し、亜美は、鼻に小ジワを寄せて、
「高須くんて、バカ? アリバイ工作なんて簡単じゃん。麻耶と奈々子があたしの家に泊まる
ことにして、あたしが麻耶の家に泊まることにすれば万事オッケイ!」
と、小馬鹿にするように言い、うふふ、と笑うのだ。
終わった…。
彼女らのテンションの高さを見ると、今さら、手伝いは要らないとは言い出せない。ましてや、
「俺、レポートがあるから、無理」などと言える雰囲気ではない。
−解析学はレポート未提出で赤点か? 奨学金はどうなる? ていうか、俺、留年?
ネガティブな蓋然性が次々と竜児の脳裏に浮かぶ。
−あれ? それにしても、川嶋は、泊まり込みで手伝うなんて、電車の中で言ってたか?
川嶋が、この場の雰囲気で勝手に言い出したことではないか? 川嶋ぁ、お前は何を企んでいる?
そのことを指摘しようとした矢先、
「じゃぁさぁ、今からさっそく、スーパーかのう屋に行って、食材をgetしよう!
高須くんの食材を選ぶ眼力も、見ておきたいしさぁ〜」
という麻耶の一声で、うやむやに…。やられた…。機先を制された。
どっ、ばかりに冷や汗をかきながら、竜児は、頭の中でスケジュールを組み立てる。
−夕食を終えて、仕込みにかかれば、11時ぐらいには目処がつく。
その後の時間を、可能な限りレポート執筆に充てて、書き終えたら、翌朝5時まで仮眠。
これだ、これしかねぇ。何とかいけそうだ。
と、竜児はつぶやく。
「ねぇ、何、ブツブツ言ってるの?」
スケジュールを思案するのに気をとられ、亜美が顔を近づけてきたことに気がつかなかった。
すでに、麻耶と奈々子は席を立ち、居合わせるのは、竜児と亜美だけ。
亜美は、大きな瞳を、ちょっと意地悪そうに眇めて、竜児の顔を覗き込む。
亜美の吸い込まれそうな瞳。見る者を虜にしそうな、強烈な魅惑はモデルをやめても健在だ。
「なんか、高須くん、隠し事でもありそうな感じなんだけどなぁ〜、独り言をブツブツ言ってると、
正直キモイよ。大丈夫?」
竜児は、亜美に、「俺は、何でもないって」とだけいい、『いらん、いらん』の意思表示のつもりで、
手をぶらぶらと振ってみせた。
亜美は、
「そう? 何か、高須くん、今週末に、やらなきゃならないことを抱えているような感じがしてさぁ。
でも、それを隠して、無理をしようとしているじゃないのぉ?」
と、「ふふん…」と、鼻先で笑うように囁き、髪をかき上げながら、立ち上がる。図星をさされて、
竜児は、どきりとする。
さらに、亜美は、
「高須くんの、そうした無理を承知で頑張るところ、あたしは嫌いじゃないよ。でも、ほどほどに
しておかないと、それがいずれ高須くんにとって致命傷になるんじゃないかなぁ」
竜児も、黙ってはいない。
「じゃ、何で、お前は、俺んちに泊まるとか、面倒なことを言い出すんだ? 俺が無理を承知で
頑張っていることが分かっているのなら、そんなことは言い出さないはずだ。矛盾してるぜ」
「矛盾? 矛盾なんかしてないわよ。あたしが高須くんの家にお泊まりするのは、高須くんを
サポートするため。たとえ微力であってもね。これは信じてほしいわね」
そう言いながらも、亜美は、素で持っている意地の悪そうな笑みを浮かべ、まだ座っている竜児の
手を引いて、立たせようとする。
その刹那、
「ただ、あたしは、高須くんみたいにはなれないから…」
「川嶋?」
謎めいた言葉とともに亜美の表情から笑みが消え、その表情が、硬直したように竜児には感じられた。
だが、竜児の視線を急に意識して、
「やだ、高須くん、そんなに見つめないでよ。恥ずかしい」
と、頬を両手で押さえながら、天使のように明るい笑顔。
「麻耶は今回の作戦に賭けているし、奈々子や、あたしも彼女のサポートをするのは、ちょっと
面白そうだし、それに高須くんが加勢してくれれば、鬼に金棒。
あ、高須くんは鬼みたいな顔してるもんね」
竜児が、『鬼』という文言に苦虫を噛み潰したような反応を示すと、「ごっめ〜ん、怒った?」と、
ころころと声をあげて笑った。
店の出口付近では、麻耶と奈々子が既に待機しており、麻耶が「2人とも、おっそ〜い!!」と、
抗議の声を上げている。
竜児は、亜美に手を引かれて立ち上がり、−無理は承知さ…。弁当作りも、麻耶のサポートも、
レポートの作成も。全力でやれば何とかなるかもしれない−と、自問自答する。
何よりも木原麻耶には借りがあった。
***
地域密着型スーパーであるスーパーかのう屋は、新鮮で品揃えが豊富なことで知られている。
その店内フロアを、カートを押しながら、竜児と亜美、麻耶、奈々子は、弁当に使う食材を物色
していた。
「なぁ、どんな弁当を作りたいんだ?」
麻耶は、「う〜ん」と、言いながら、唇に左手の人差し指をあてがって、
「恥ずかしながら、イメージが貧困でさ、どんなお弁当がいいか、分からないんだよね。もう、
高須くんのセンスにすがるしかないかなぁ、と思ってるんだけど、ダメ?」
上目遣いで、竜児を見上げる。弁当作りを竜児に丸投げするつもりらしい。
しかし、高須竜児は、頼まれるとイヤとは言えない性分の男だ。「木原、ちっとは考えろ」とは、
言うものの、結局は、依頼者の期待に応えようとする。
「弁当は、三段重ねの重箱に入れることにしよう。一番下の三の重には、餅米と黒豆のおこわ、
真ん中の二の重には肉料理を入れよう。宮崎県産の地鶏の腿肉がうまそうだから、これを赤ワイン
で煮込んだ鶏のぶどう酒煮をメインにして、彩りにブロッコリやニンジンのグラッセ、ポテトサラダ、
オクラの輪切り、それと、鮮やかな黄色が欲しいから卵焼きも添えよう」
そう言いながら、竜児は必要な食材をカートに放り込んでいく。
「一番上の一の重はどうするの?」
麻耶の問いに、竜児は、「おいおい、木原、お前が作ったことにする弁当なんだぜ」
と、苦笑しながら、
「そうだな、一の重は魚介類になるだろう。お、ブラックタイガーじゃなくて、本物の車海老だ。
こいつは鬼殻焼きにしよう。それと、彩りがいいから、この小鯛なんか塩焼きにしたいけど、
小骨が多くて食べにくいからパスだな。何か代わりになるやつは…」
う〜ん、と呻吟しながら、竜児は魚売り場の品々を吟味する。
「おっと、カジキマグロの切り身が良さそうだ。刺身では無理でも、竜田揚げにするといい。
こいつの竜田揚げは、下手な鶏肉よりも美味いからな。それと、厚揚げをだし汁で煮染めたものを
添える」
「あとは野菜の煮物が欲しいところだな。国内産の筍の水煮があるから、これとゴボウとニンジン
と大根の薄味の煮物を添えることにしよう」
竜児は、麻耶に向かって、「ざっとこんなところだけれど、どうかな?」と、いうと、麻耶は、
「もう、お任せ、文句なし。女の出る幕がないね」
と、言って、恥ずかしそうに小鼻を掻いた。
竜児は、「よせやい、俺だって、素人なんだぜ」と、謙遜する。しかし、
「高須くん、自分を、素人、素人って、凡人にはどんだけイヤミなんだか…」
背後から、いつの間にか、亜美が忍び寄っていた。無遠慮な亜美の一言に、さすがの竜児もカチン
と来る。
「川嶋ぁ、お前の、その一言の方が、よっぽどイヤミだぞ」
「そうかしら? 高須くんは、言葉では自分を『素人』と言っておきながら、本心では、
『半端なプロにも負けない』位の自負があるんでしょ? 実力を控え目に言うのは、一見、
美徳なようでいて、すっごくウザいんですけど」
つうーっと、白く細い指を竜児の頬に伸ばし、
「それに、ずいぶん、熱心なのね。日頃、亜美ちゃんには冷たいくせにぃ」
白磁のような頬を竜児の頬にすり寄せる。
「バカ、人目がある、離れろ!」
その抗議よりも一瞬先に、滑るように竜児の側から離れ、髪をかき上げながら、意地悪い笑みを
竜児に向けてくる。
「何なんだよ、今日のお前は変だぞ」
亜美は、竜児から視線を逸らし、髪をいじりながら、ふてくされたように「別に…」と、
言ってから、謎めいた一言。
「全力疾走ってのは、傍目ではかっこいいのかもしれないけど、間近で見ると、結構、痛いよね」
白い頬を、再び、竜児に近づけて、
「高須くんは、『手を抜く』ってことをおぼえた方がいいかもね。特に、今回の場合はぁ〜」
全てを見透かすかのような、大きな瞳で竜児の顔をじっと見る。
「お前、やっぱおかしいぞ。電車の中や、スドバで話し始めていた時は、木原へ協力するように、
えらく熱心に俺を叱咤していたのに、何で、今になって、それとは反対みたいなことを
言い出すんだ?」
亜美は、額に人差し指を当てて、「う〜ん」と、一瞬考えるようなそぶりをした後、
「亜美ちゃん、わかんな〜い」と、無邪気を装った笑顔で、竜児の質問をはぐらかした。
そうしたやりとりを、ちょっと離れたところから見ていた麻耶と奈々子が、
「お〜、お〜、お熱いこって」と、冷やかしている。
亜美は、笑顔で、2人に、「は〜い」と、軽く手を振り、
「いや〜、高須くんってさ、祐作よりもいじり甲斐があるっていうかぁ、からかうと面白くてぇ」
と言って、あはは、と笑う。
「まるおをいじるのは私なんだから、亜美は幼なじみでも手出しは無用だからね」
という麻耶の突っ込みに対し、亜美は、「分かってるって」と、にやりとして、
「ねぇねぇ、今晩、高須くんちでお弁当の下ごしらえするとき、どんなエプロンを持っていく?
あたしは、黒で、前に大きなポケットが付いたシンプルな奴ぅ〜」
と、言って、話題を、竜児や祐作から切り替えた。それに応じて、麻耶は「あたしは、白で、
刺繍がしてある奴かな?」、奈々子は「ピンクで、フリルが付いた奴」というと、亜美は、
「奈々子のは、イメージ通りだねぇ、いや、想像しただけで似合ってる様が目に浮かぶ…」
といって、本当に目をつぶって、半ば笑いながら瞑想するような仕草をするのだ。
「見ている分には飽きねぇな、川嶋は…」
これほど、態度や表情や仕草をめまぐるしく変化させる女もそうは居まい。
そういえば、『手抜き』なんていうきわどい台詞は、麻耶には聞かれなかったのか? と竜児は、
思った。
もっとも聞かれたところで、おそらく亜美は、『高須くんは、亜美ちゃんには、こ〜んなことして
くれないからぁ、亜美ちゃん、ちょっと妬けちゃう。だから、手を抜け、とか言っちゃったぁ』
とかで麻耶たちを煙に巻くことだろう。
人心を掌握する術に長けた女、それが川嶋亜美だ。
***
第一志望の有名私大には合格できず、第二志望の受験も失敗に終わった能登久光は、『三流大学』と
自嘲する近隣の私大に通学する羽目になっていた。
講義のレベルも学生相応であり、はっきり言って面白くない。そこで、大学生という身分を
とりあえずキープしたまま、来年はもう一度、第一志望を受験する腹づもりであった。
いわゆる『仮面浪人』である。
受験に失敗した負け組であるという自覚が、能登を憂鬱にさせる。
家にいても受験勉強には身が入らず、気分転換のつもりで、町中をぶらついていたところ、
竜児と亜美の姿を認めた。
「ああ、高須の奴、亜美たんと出来ているってのは、本当だったんだなぁ…」
それに、2人とも第一志望に合格しているし…、ということを思い出し、鬱な気分に拍車がかかる。
さらに…、
「あ、何で、木原と香椎が高須と一緒なんだぁ」
2人の周囲に麻耶と奈々子の姿も認め、能登の思考は混乱する。
「高須の奴、亜美たんだけじゃ飽きたらず、木原や香椎まで…、ハーレムかよ!」
‐高須ばっかり、何で? 特に、木原麻耶が竜児と一緒なのが解せなかった。
「奴ら、いったいどういう関係なんだ?」
‐確かめてやる! とばかりに、能登は人混みに紛れて、竜児たちを尾行する。
4人がスーパーかのう屋に入ったことを確認して、能登は店の外で待つことにした。
店内に入って竜児たちの行動を見張るのも一興だが、店の中では、能登の尾行が竜児たちに
気付かれるおそれがある。
自炊でもしているのなら話は別だが、両親が健在で、文字通り『上げ膳据え膳』で日常を送っている
能登にとって、スーパーかのう屋は、疎遠な場所であった。そうした不案内な場所で、
竜児たちを尾行するのは難しい。
能登は、出入り口付近に設けられた自動販売機のコーナーのベンチに座って待つことにした。
ここは、出入り口から一段引っ込んだところにあって、出入りする客の注意が及びにくく、
逆にこちらからは、出入り、特に店から出ていく者を、当人に気取られずに注視できるという点でも
好都合だった。
竜児たちが入店してから40分程度が経過した頃、通学用のショルダーバッグを肩に掛けた竜児と
亜美が現れた。2人は、竜児手製のエコバッグを持っており、竜児がエコバッグの片側の取っ手を、
亜美がもう片方の取っ手を持って、1つのバッグを協力して運んでいる。
バッグは食材で膨らんでおり、かなり重そうだ。この2人に麻耶と奈々子が続く。
麻耶と奈々子は手ぶらだ。
竜児と亜美が先導するように歩き出した。それに従い、麻耶と奈々子もついていく。
能登も、4人とは十分な距離をとって尾行していった。
大橋を渡り、着いたところは、竜児が住む木造借家だった。
一同は、2階にある高須家に入り込み、約20分後に出てきた。出てきたのは、亜美、麻耶、奈々子
の美女トリオ。
竜児は、買ってきた食材の処理でもしているんだろう、と、能登は推測した。
その美女トリオの1人である亜美が、「じゃぁ、お泊まりの用意をしてぇ、またここに集合ぉ!」
と言うと、他の2人が「おーっ!」と、右手の拳を突き上げて応ずる様が確認できた。
「何だ? お泊まりって。高須の家にこの3人が泊まるのか? 泊まりがけでホームパーティー?
何がどうなっている?」
能登の心には、嫉妬と羨望と猜疑心が芽生えてくる。
‐ちくしょう、一体何が行われようとしていやがる。
「こいつは、ちょっと無視できない状況だよな…」
と、能登は、楽しそうにはしゃいでいる3人を尻目に、そっとその場を離れるのだった。
***
水を得た魚の如く。陳腐な言い方だが、台所での高須竜児の立ち居振る舞いほど、この常套句が
当てはまるものはない。
時間がかかる鶏のぶどう酒煮は、タマネギなどの香味野菜を刻んで炒め、鶏のもも肉をソテーし、
赤ワインを注いで、煮詰める段階まで、映画のコマ落としを見るようであった。
同時に、車エビの下ごしらえをして、後は焼くばかりにして、
次には、煮物に使う野菜類の下ごしらえ、ゴボウなどは、十分に洗った後、表層の皮を剥いて、
斜切りに、大根や人参も適当な大きさに切りそろえ、だし汁に放り込んで、煮始める。
人参は、肉料理の付け合わせにも使うので、こちらは面取りして、塩と砂糖とバターを入れた湯で
煮て、グラッセにする。
「すごぉ〜い、手八丁っていうか、千手観音みたいに何本も腕があって、それが同時に動いている
みたい」
奈々子が竜児の台所での動きを的確に表現する。
「でしょう? あたしはとてもまねできないから、皿を洗ったりとか、野菜を洗うのが精々。
でも、見てるだけでも参考にはなるね」
「おい、おい、お前だって、最初の頃は、台所に立つことすら嫌がったじゃねぇか」
と、いう竜児の突っ込みに、亜美は、「そうだったっけか?」と、無垢を装う笑顔ですっとぼける。
さらに、鶏を煮るために使った赤ワインの残りをめざとく見つけ、
「ねぇねぇ、高須くん、これ飲んじゃってもいいでしょ?」
と、チワワ目でおねだりする。しかし、竜児は、間髪入れず「却下」の一言。
亜美が舌打ちして抗議すると、竜児は、調理の手を休めることなく、
「だって、お前、酒癖悪いからなぁ」
の一言で、それ以上の、亜美の不平、反論を封じた。
頬を膨らませて、不満げな亜美は、奈々子に「まぁまぁ」となだめられる。
「海老だけは、今夜焼くが、カジキマグロの竜田揚げは、明日の早朝に揚げた方がいいだろう。その方が美味い」
そして、炊飯器に、研いだ餅米と適量の水、それに煮た黒豆をいれ、タイマーをセットする。
次いで、煮物の出来をあらかた確認して、今夜の下ごしらえは完了とした。
「明日は、朝、5時ぐらいから揚げ物等を始めて、弁当を詰める。7時までにここを引き払うことが
できれば、上出来だ。と、いうことで、今夜はここまで」
時刻は11時。ほぼ予定通り。
竜児は、不要な器具を片づけ、エプロンを脱いだ。
美女トリオは、泰子の寝室に布団を敷いて、寝泊まりすることになっている。
畳敷きの部屋に通された3人は、「なんか修学旅行思い出すね」「うんうん、畳敷きの部屋で、
こうしてみんなで枕並べるのって、そうないことだからねぇ」と、口々に言い合っている。
寝間着が、揃いも揃って、スウェットの上下とか、大橋高校のジャージとか、色気がないのも、
修学旅行めいていた。
「でも、あの修学旅行は、あたし的には黒歴史…」
と、亜美は、罰が悪そうに言う。
「そんなことないって、櫛枝とは喧嘩になったけど、今となっては、あれも青春の一こまだって」
奈々子がなだめると、麻耶が、
「悪いのは、能登、それでいいじゃん」
と、間髪入れずに言う。
「能登、嫌われているね。なんでかな?」
「カワウソみたいなんだよね、あいつの顔。とにかくキモイ」
と、麻耶は、寒気がするとばかりに、両腕を抱えて、震えてみせる。
「まぁ、ウザいことは確かだよね」
と、奈々子。
「顔か? 基準は? それだったら、あたしが言うのは何だけど、高須くんだって、相当アレだよ。
でも、あたしとか、実乃梨ちゃんとか、タイガーとか、気にしてなかったじゃん」
と言い、「まじで、何なんだろうね?」と、亜美は首を傾げる。
「まぁ、高須くんは特殊だから。あれだけ万能だったら、多少不細工でも、マニアには受けるって」
との麻耶の問題発言に、亜美は、あはは、と笑いながら「露骨に不細工とか、マニアとか、ゆーな!」
と、抗議する。
「まぁ、不細工とかマニアというのは言い過ぎだったけど、なんていうかなぁ、高須くんや、
まるおには、母性本能をくすぐるかわいげがあるけど、能登にはない感じがするんだよね」
の、麻耶に対して、
「ああ、それ、私も感じる。まるおとか、いじって楽しいっていうのは、かわいげがあるからなんだ
よね。能登なんか、そういうかわいげがなくて、逆になんか、構ってやりたくない、って思っちゃう
ウザさがある」
奈々子も容赦がない。
「なんかさー、私、かわいげのある男って、実はマザコンなんじゃないかって、
思うときがあるんだよね」
麻耶の意外な発言に、奈々子が「えー、どういうこと?」と、身を乗り出してきた。
「親戚に、決してイケメンじゃないけど、なんか、こう気になる人がいるんだよね。あ、誤解がない
ように言っておくけど、その人はもう、いい年をしたおじさん。もちろん、妻子持ち」
「なんだ…」
奈々子が、つまらなそうに零すが、麻耶は、
「だけど、すっげー、かわいげがあるんだよね。なんか、構いたくなるような。
なんなんだろう、って思っていたんだけど、その人と、その人のお母さんとの関係を見て、
なんか分かったような気がしたんだよね」
「どんなことが分かったの?」
亜美が、崩していた脚を正して、麻耶に向き直る。
「う〜んとね、その人は、末っ子で、お母さんにものすごく大事にされてきたらしいの。
それで、その人も、お母さんのことを大事に思っている。典型的なマザコンなんだよね」
「マザコンっていうと、なんか嫌な感じだよね…」
奈々子は、ちょっとだけ眉をひそめる。
「マザコンのイメージは、世間的にはよくないけど、要は、その人が母親に大事にされる存在で
あって、かつ、その人が母親を大事にする関係なわけじゃない? これは、その人が、母親というか、
女から見て価値ある存在だということだし、その人も母親、ひいては女の人を大事にする存在って
ことなんじゃないかな」
「ああ、それはいえるかもねー」
と、亜美。
「ええ? 何が、何が?」
と言う奈々子に、亜美は、
「なんかさー、生まれて初めて接する他者が母親なわけでしょ。その母親に大事にされるのが、
他者に愛される最低限の条件じゃないかな? って思うんだよね。
逆に、母親にすら愛されなかった存在が、他者に愛されるわけがないとか…。
そんな気がする」
「うっわぁ〜、残酷ぅ!」
と、奈々子は、顔をちょっとしかめた。
「でも、自然界は、もっと残酷なんじゃない? 母親に見捨てられた個体は、
絶対に生き残れないわけだし…。その点、人間は法律をはじめとする社会規範とか倫理とかがあって、
子捨て・子殺しは御法度だから、母親が愛せない子供でも成長しちゃうんじゃないかな?」
麻耶が、「さっすが、法学部生!」とヨイショしてから、
「で、能登なんだけどさぁ、あいつの家庭の事情なんて知ったこっちゃないし、
知りたくもないんだけど、あいつ、母親からはそれほど好かれていないんじゃないかな?
って感じはあるよね。その点は、まぁ、かわいそうなんだろうけど。
でも、キモイもんはキモイんだよね」
能登に矛先を向け、さらに、
「でもさぁ、能登自身は母親を憎からず思っているようだったら、さらにキモイよね。
一方通行のマザコンっていうか、こっちは想像しただけで、もう結構っていうか…」
容赦なく切って捨てる。
「マザコンでも片想いのマザコンは、不健全ていうわけね。
こっちは、麻耶が定義しているマザコンじゃないんだろうけどさ」
と、奈々子も納得したように言う。
「そういえば、高須くんなんだけどさぁ、お母さんの泰子さんっていう人が高須くんのことを
すっごく大事にしていて、高須くんも泰子さんのことをすっごく大事にしていたんだよね。
本人もマザコンだって自認しているみたいだし、やっぱ、健全なマザコン男は愛されるってのは、
正解かもね」
亜美は、思い出したように言う。「ただ、一時、進学問題で2人はもめたみたいだけどね…」と、
言いかけて、あわてて口をつぐんだ。
麻耶は、亜美が言いかけたことには気付かず。「いやいや、愛しているのは亜美だけだから…」と、
お約束の突っ込みをして、
「母親に愛されたという自覚というか自負のあるなしってのも大きいよね。誰かに愛されたってのは、
当人が自身の存在価値を自覚することにもなるだろうから、そういう人は、出世っつーか、
大物になるよね。ほら、暴君ネロとか、ヒットラーとか…」
「あ〜っ、それ例えが悪すぎ」
との亜美や奈々子の批判にもめげず、
「まぁ、ワルでも、世界史に残るほどの奴なら、大したもんだって!」
と、結局は開き直る。
それぞれの発言に対して突っ込みを入れたり、あはは、と笑いながら、女のおしゃべりは、
際限なく続くかと思われたが、亜美が時計を見て、
「あ、もう12時回ってるじゃん」
驚いたように言う。一方で、麻耶と奈々子は、「え〜っ、まだ宵の口だよ」と、不平を漏らす。
「でも、明日は5時起きだし、その頃には泰子さんが帰ってきて、この部屋で寝るから、
あたしたちは強制的に起こされちゃうよ」
「そっか、だったら寝るか、そういや睡眠不足はお肌の大敵だってか?」
「そゆことだねぇ…」
ようやく寝る準備を始めた2人を前に、亜美は、「ちょっと…」といって、部屋を出ようとした。
「何、何! 高須くんのところへ行くの?」
亜美が、ちょっと恥ずかしそうに軽く頷くと、麻耶と奈々子は、「きゃー!」と歓声を上げた。
「まぁ、ちょっと様子を見てくるだけ。2人とも、先に寝ててよ」
「するの?」
と露骨に訊いてくる麻耶に対しては、
「ノーコメント!」
と、憮然として言い切って、亜美は部屋から出て、襖を閉めた。
襖越しに麻耶と奈々子の「ノーコメントだってよ」「後で追求してやろう」という声が聞こえてくる。
後で2人が何かとうるさいだろう。
「ま、いいか…」
それよりも、気になるのは今の竜児の状態だ。
竜児の部屋からは、明かりが漏れていた。
「高須くん、起きてる?」
ノックしたが返事がない。部屋に入ってみると、竜児は、机に突っ伏して居眠りをしていた。
顔の下には書きかけの解析学のレポートと、亜美には意味不明な記号が羅列された解析学の専門書。
「やっぱりね…」
亜美は、台所へ行き、冷蔵庫から作り置きしてあるアイスティーのボトルを取り出し、
ボトルの中身を2つのグラスに注ぐ。
「眠気覚ましには、ちょうどいいか…。あたしもちょっとのどが渇いたし」
そのグラスを盆に載せ、竜児のところへ持っていく。
「高須くん、ほい、アイスティー」
といって、グラスを竜児の頬に押しつける。
竜児は、「う〜ん…」とか言って、ちょっとむずかったが、机の上のデジタル時計の表示を見て、
びっくりしたように上体を起こした。
「しまった、俺、寝てた?」
亜美は、「うん」とだけ答えて、机の上にグラスを置く。
「すまん、川嶋」
亜美は、そんな竜児をあきれたように見据えて、
「スドバで、高須くんがキョドっているのを見て、高須くんが自分のスケジュールを考えずに、
明日、ていうか、もう今日か、のお弁当づくりと、デートのサポートを安請け合いしちゃったのが、
あたしにもわかっちゃたからねぇ。で、何? その書きかけのは」
竜児のベッドに腰掛け、膝に盆を乗せた状態で、亜美はグラスからアイスティーをすする。
「解析学のレポート。月曜日に提出する奴」
亜美は、アイスティーの残りを飲み干し、
「できるの? 解析学って、たしか必修科目でしょ? 提出できなかったら、ダメージでかいよね」
竜児は、痛いところを突かれた、とばかりに顔をしかめながら、「うん」と、力なく言った。
「だったら、何で、断らないのさぁ! 豪華なお弁当作って、さらには麻耶たちのサポートで、
丸々1日つぶれるんだよ。そんなことするより、レポート書いた方がいいって!」
「いや、寝ぼけ眼で、お前の説明聞き流して、適当に引き受けた俺が悪いんだって。
一度、引き受けたら、完遂しなきゃ。それに俺は…」
亜美は、腕を組み、険しい表情で竜児の顔をにらみつけた。
「それに、俺は? 何なのよ。そんな意地張って、元も子もなくなったらどうするの。
一度、引き受けたって、ちゃんと事情を説明すれば、麻耶だって分かってくれるって。
だから、明日は、お弁当づくりだけやったら、サポートは、あたしと奈々子に任せて、
高須くんは午前中ゆっくり休んで、午後は、そのレポートの仕上げに充てたほうがいいよ」
しかし、竜児は、眠気を吹き飛ばすつもりで、自分の頬を両手ではたいてから、
「いや、もうすぐ書き終わるから、明日は俺もサポートに回る」
と、力なく言った。どうみても、相当参っている。
「だから、そんなにバテた状態じゃ、ダメだって。もう、今日は休んで、
サポートもなしにした方がいいよ」
「いや、これしきでバテる俺が不甲斐ないのさ。数学科は実験がないけど、物理科や化学科は
毎週実験があって、そのレポート書くだけで大変だっていう。それに比べりゃ…」
亜美は、「へぇ〜、そう?」と、竜児に冷笑めいた一瞥を浴びせると、ベッドの下に手を突っ込んだ。
「か、川嶋、待て!」
亜美は、凶暴チワワの本性むき出しで、
「もう、遅いって!」
と、吐き捨て、ベッドの下から書類の束を引きずり出し、それを床へ無造作に投げ出した。
「泰子さんとの約束で、バイトは禁止なんじゃなかったっけ? でも、これは何?」
竜児は、「うっ」と、息を飲み、亜美と、書類の束を直視できずに目をそらす。
「大学受験生向け数学の通信添削の答案だよね? これ」
その書類の束の一番上に添付されている『発注書』を手にとって、
「期限が、今度の水曜日じゃん。今やってるレポート書いても、これがある。むちゃくちゃだよ」
亜美は、その紙片を、目をそらしている竜児の目の前でヒラヒラと翻し、
「高須くんは、単位取得のために、かなり無理なスケジュールを組んでるよね? 朝から夕方まで
講義がびっちりでさぁ。しかも、家事全般もやった上でだよ。
こんなバイトなんかする余力はないって。いくら高須くんでも限界があるよ」
竜児は、口をへの字に曲げたまま、無言だ。
「奨学金と泰子さんの稼ぎで、学費は足りているじゃん。なのに、何でバイトなんかするの?」
竜児は、それには答えず、「何で、分かった?」とだけ、ふてくされたように言った。
「質問しているのは、あたしなんだけどなぁ。まぁいいか。
なんかね〜、あたしがアポなしでここ来ると、部屋に入れてもらえる前に、いつもあわててドタバタ
してた感じがしてさ。で、先日、ベッドの下を調べさせてもらったら、分かっちゃった。
で、どうなの? 何でバイトなんかするのよ」
「そ、それはだな、ノ、ノートパソコンが欲しいなぁ、と思って、そのためなんだ」
竜児は、視線を亜美からそらしたまま、どもりながら、そう答えた。
「ふ〜ん、ノートなら、この前、OSなしの奴を中古で買って、Open Solarisだっけか?
あたしはよく知らないけど、それインストールして使い始めたばっかじゃん」
そういって、机の脇に置いてあるB5サイズのノートパソコンを指さす。
「高須くんは、そのノートを『すげぇ掘り出し物。フリーで公開されているOS入れれば、
十分使える』とか言って、ご満悦だったよね。この上、またノート買うの?
言ってることに全然、説得力ねぇって」
亜美は、竜児の脇に立ち、そっぽを向いている竜児の首根っこをつかんで、
強引にその向きを変える。
「いてて、何すんだ!」
竜児の抗議は無視して、亜美は若干紅潮した頬を竜児の顔に近づけ、
琥珀色の瞳で竜児の目を見据える。
「白状しなさいよ! 高須くんがバイトをする理由を。その理由は、高須くんが無理して今のうちに
単位を取得しようとしていることとも関係があるんでしょ?」
「関係ねぇって、いてて、首の筋がおかしくなっちまう、
いや、本当に、遊ぶための金が欲しかったから、バイトしているだけだって、
だから、か、勘弁してくれぇ」
亜美は、「うそつき!」と、鋭く言い放ち、竜児の首根っこをガクガクと左右に揺さぶった。
「あんたが遊ぶ金欲しさなんて理由だけでバイトするなんて、おかしいじゃない?
高須くんはそういう人じゃない。本当の理由は別にあるんでしょ?」
竜児は、「べ、別に理由なんかねぇよ」と、苦痛で顔を歪めながら抗弁する。
「あ、そう、正直に言わないのなら、このことは泰子さんに報告するだけなんだけどぉ」
亜美の脅迫に、竜児はあわてて、
「川嶋、わかった、それだけは勘弁してくれ。言う、白状するから。
それと、これ以上、俺の首筋を痛めつけないでくれぇ」
亜美は、竜児の首根っこを押さえていた手を離し、琥珀色の目をちょっと眇めて、竜児を見る。
その視線を意識しながら、竜児は、
「し、資格試験の受験勉強のための学費稼ぎなんだ…。単位取得もそれに関係がある。
今のうちに単位と学費を稼いで、来年以降に受験勉強を始めるつもりだった…」
と、しどろもどろに答える。
亜美は、「ああ、やっぱり…」というように、にやりとした。
「最初から、そう言えばいいのよ。本当にバカなんだから。で、どんな資格なの?」
「まだ、はっきり決めてねぇけど、弁理士試験とか、考えている…」
「え〜っ、弁理士試験? あの、すんげ〜難しい奴? マジなの?」
亜美が、目を丸くしているのを見て、竜児は「いや、まだ確定じゃないって…」と、小声で言い、
「そうだよなぁ、俺なんかが受けちゃいけない試験なのかもな…」と、鬱になる。
「あれって、司法試験の次ぐらいに難しいんだよね。
法学部生もそのOBも、毎年かなり受けているけど、合格するのはほんの数人。
合格率は5%位だったかな?」
とにかく困難な資格試験であることは確かだ。そのため、「現状でも相当な無理をしているのに、
これ以上無茶なことはやめろ」、と、亜美に説教されるものと、竜児は覚悟した。
しかし、亜美は、
「ただし、弁護士はもう飽和状態だけど、弁理士は未だそうでもないから、法文系の学生も、
最近は司法試験ではなく、弁理士試験狙いが結構いるしね。
何しろ、司法試験はロースクール(法科大学院)出ないと受験すらできなくなるけど、
弁理士試験はそうじゃないから…」
意外にも肯定的な態度。しかも、やたらと詳しい…。
「何よりも、理系も文系も挑戦できる法律系の資格っていうのがいいよね。
社会的なステータスも高いしさぁ」
亜美は、右手の人差し指をこめかみにあてがい、瞑目して、「う〜ん」と、しばし考えるような
素振りを見せた後、大きな瞳で竜児を見る。
「高須くんが受験したいなら、それでいいんじゃない? 正直、ものすごく大変だとは思うけど…。
あたしも、法学部生として、高須くんをサポートできるかもしれないし」
そして、亜美は、「ただし…」と、前置きして、
「あたしも受験する。高須くんを応援するだけじゃつまんないし、何よりも法律のド素人である
高須くんに一泡吹かせる、またとない機会でもあるし…」
と、わざと意地悪く笑ってみせた。
「それが狙いか?」
竜児は、痛めつけられていた首筋を自分でマッサージしながら、苦笑いすると、亜美は、
「高須くんて、バカ? あたしは、高須くんと一緒に頑張れるのがうれしいのさ。
それを察することができないんじゃ、やっぱ、鈍いね、あんたは」
冷笑し、白磁のような顔を竜児の顔に近づけて、
「この美人でかわいい亜美ちゃんが、一緒に勉強してやるんだよ。もうちょっと喜んでほしいな。
亜美ちゃんが居れば、弁理士試験だって、司法試験だって、パラダイスなんじゃない?」
そのまま目を閉じて、竜児にキスをおねだり。
竜児も、「そうだな…」と、つぶやいて、亜美と唇を重ねる。
しばしの沈黙後、唇を離した亜美は、ちょっと深呼吸。そして、目を開けた。
「そういうことなら、バイトの件は、泰子さんには秘密にしとく。
つーか、バイトなんかやめるか、ノルマをうんと少なくしても大丈夫なんじゃないかな?
多分、高須くんが考えているほど、弁理士試験の受験勉強にお金は必要ないよ。
法学部には弁理士試験対策のサークルがあるらしくって、ここで勉強すれば、多分、
お金はかからない…」
そして、もう一度、竜児に顔を近づけて、
「だから、無理はしないで。もっと、楽な方法があるかもしれないのに、わざわざ苦しい道のりを行くことはないわ…」
と言い、今度は、竜児と抱き合い、その首筋をやさしく撫でる。
「さっきは、思いっきり高須くんの首根っこを掴んじゃってごめん…。
でも、何でもかんでも自分で背負い込もうとする高須くんを見ていられなくなったのも事実。
もう、あんまり無理はして欲しくない。だから、明日は、サポートは奈々子とあたしに任せて、
高須くんはゆっくり休んで…」
亜美が愛用しているトワレの香が竜児の鼻腔をくすぐる。
竜児にとって、もはや馴染みとなった花のような香り。
「分かった、明日は、無理せずに、ここでゆっくりしている…」
亜美は、「うん…」とだけ囁くように答えた。
***
「あれ?」
机の上に置いてある竜児の携帯が振動したことに亜美は気付いた。
「こんな時間に誰だろうね?」
竜児は、画面を見て、「能登からだ…」というと、亜美は、
「え〜っ、さっき、女の子たちで、噂してたんだよね。そのせいかな?
ほら、言霊ってあるらしいし」
ちょっと顔をしかめて言った。その表情から、『噂』とやらが芳しいものではないことを竜児は
悟った。
竜児は、通話ボタンを押して、話しかける。
「能登か?」
『高須か? 久しぶりだな』
竜児は時計を見た、時刻は午前1時ちょっと前。
「こんな時間に、わざわざ何だ? 懐かしさから電話するには遅すぎる時間じゃねぇか?」
『じゃ、手短に言う。今、お前の家に、木原と、香椎と、亜美たんが来て居るんだろ?
いや、こっちは分かっているんだ。何で、あの3人が一緒なんだ? 亜美たんだけじゃなく、
木原や香椎までいるのは、どういうことだ? 」
能登の声に混じって、自動車が走り去る音が聞こえてくる。この音は、家のすぐ近くにある車道の
騒音だな、と竜児は判断した。
「お前、俺の家を張っているのか?」
『ああ、悪いがそうさせてもらっている。夕方、スーパーかのう屋で、お前たちを見かけたのさ。
どっさりと食材を買い込んでいるところをな。それで、ちょっと尾行をさせてもらった。
そうしたら、3人娘たちが、高須の家にお泊まりする! とか、大声で言ってるんだ、
誰だって気になるさ』
竜児は、携帯のマイクロフォンを手で塞ぎ、「おい、奴は、お前らがここに居ることを知ってるぞ」
と亜美に小声で耳打ちすると、亜美は、口を手で押さえて表情をこわばらせた。
『で、大量の食材をどうするんだ? 夜っぴてホームパーティーか? ハーレム状態での
パーティーとはうらやましいな』
電話の能登の声には、嫉妬と怒りがにじみ出ているように思え、竜児は口中が苦々しくなるような
気がした。
「そんなんじゃない。ただの高須流料理術の勉強会だ」
『何だそりゃ?』
「行楽用の、ちょっと豪華な弁当を一から作るプロセスを、3人の女子に公開する、
それだけのことだ」
『じゃ、何で、泊まり込みにする必要がある?』
「料理をしたことがなさそうなお前には分からないだろうが、弁当は、前の晩から食材を処理して
おく必要があるんだよ。彼女らは、その過程もつぶさに見ておきたいから、泊まり込みになったのさ」
『そういうことか…』
「そういうことだ、だから、お前が期待するようなことは何もない」
電話口では、しばしの沈黙。
『さっき、行楽用の弁当と言ったな…』
竜児は、しまった、と思ったが、努めて平静を装った。
「ああ、それがどうした?」
『で、あれば、明日は、その弁当を持って、どこかに出かけるんだな?』
ここは、否認して、すっとぼけるに限る。
「いや、あくまでも、作ってみるだけだ。試作した弁当は、彼女らがタッパー等に入れて自宅に
持って帰る。それだけのことさ」
電話口では、またも、しばしの沈黙。
『まぁ、お前の今の言葉が真実かどうかは、明日になれば分かる。
俺は、出かけるお前らの後についていくだけだ。じゃ、夜分に邪魔したな。
天気予報では、明日は行楽日和だそうだ。お互いに楽しみだな』
そう言って、能登からの電話は切れた。
「ねぇ、どうなったの?」
亜美が不安そうに尋ねてくる。
「まずいことになった…。能登の奴、明日は俺たちをストーキングするつもりだ」
亜美は、美貌を歪めて、「え〜、キモイ!」と、吐き捨てた。
「ただし、狙いは、お前や香椎じゃなくて、木原だろうな。修学旅行でのトラブルのしこりが
解消していないから、その報復のつもりか、あるいは、未だに未練があるか、だな…」
「どうするの?」
「こうなれば仕方がない、俺も、明日はサポートに回る。川嶋と香椎だけでは万が一のときが
ヤバイだろ? それと、能登と冷静に話し合えるのは、俺たちの中で、多分、俺だけだ」
亜美は、先ほどの、麻耶と奈々子との会話で、能登が彼女らに蛇蝎の如く嫌われていることを
思い出し、「そうだねぇ…」と言った。
「というわけで、俺は、徹夜してでもこのレポートを仕上げて、明日は弁当作って、
木原のサポートに回る。そのため、明日は今日以上に睡眠不足で朦朧としているかもしれねぇ。
そのときは、川嶋、ひっぱたいてもいいから俺を正気に戻してくれ」
亜美は、「う〜ん…」と、眉をひそめてから、
「分かったよ、あたしは、あんたをサポートするつもりでここに来たんだ。高須くんが望むなら、
何だってするよ」
「ありがとうよ、川嶋、頼りにしてるぜ」
「さて、あたしは、もう遅いから寝るね。高須くんも、少しでも仮眠とってよ。でないともたないよ」
部屋を出ていく亜美に、竜児は、「おう」とだけ答えて、机に座り直した。
時刻は1時20分。5時までにはレポートを仕上げたかった。
***
レポートは、結局、明け方の4時過ぎまでかかって、ようやく書き終えた。
このまま少しは仮眠がとれると思ったが、いつもは5時頃に帰宅するはずの泰子が、4時過ぎに
帰ってきてしまった。泰子の部屋には、亜美たちがいる。
やむなく竜児は、泰子を自分の部屋に寝かせた。結局、睡眠時間はゼロ。
ふらつく頭に渇を入れるべく、竜児は、シャワーを浴び、服を着替えた。目立たぬように、
学生にとってありふれた、ダンガリーのシャツにジーンズという出で立ちだ。
薄暗い台所へ行き、昨晩仕込んだ煮物の出来を確かめた後、ポテトサラダ用にジャガイモを
塩茹でし、ミックスベジタブルを塩とバターを加えた湯で煮る。
次いで、湯を沸かし、濃いめに茶をいれて、飲む。
1杯目を飲み終えようとする頃、「おはよう…」といって、亜美が起きてきた。
まだ、寝ぼけているのか、髪の毛はぼさぼさ、色気のないスエットの上下、当然にノーメイクだ。
「おう、しかし、寝起きの川嶋を見るのは、これが初めてだな」
亜美は、その一言に不満なのか、
「女がすっぴんを晒すのは、気を許した相手だけ…。だから、光栄に思いなさい」
と言って、竜児と向かい合わせに座る。
竜児の、「飲むか?」の問いかけに、亜美は軽く頷いて応答した。
「んじゃ、新しい茶碗をもってくる」
亜美は首を左右に振って竜児を制した。
「高須くんが飲み終わった茶碗でいいよ。わざわざ新しいのなんかいらない」
竜児が、空の茶碗を手にして、「これでいいのか?」と言うと、亜美は、「うん」とだけ答えた。
「夕べは、眠れた?」
「いや、仮眠しようと思ったら、泰子が早めに帰ってきちまって、しかたがないから泰子は
俺の部屋で寝てもらっている。それと引き替えに俺は完徹になっちまった…」
亜美は、ちょっと顔をしかめて、「うわ〜、きっついねぇ」と言った。
竜児は、そう言う亜美の両目にも、いわゆるクマが出来ているのを認めた。
「川嶋だって、寝不足なんじゃねぇか?」
亜美は、茶碗のお茶を一口すすり、
「まぁね、夕べ、あんたの部屋に行ったのを、麻耶と奈々子に追求されてさぁ、
全然眠れなかったんだから」
と、嘆息する。
「まさか、能登がストーカーになるかもしれないことを言ってないよな?」
亜美は、一瞬、意地悪そうににやりとし、
「その点は、ご心配なく。適当にエロい話をでっち上げて、ごまかしておいたから」
と言って、竜児が困惑するリアクションを期待した。
竜児は、「ふ〜ん」とだけ相づちを打つ。
「な、何よ、妙に落ち着いちゃって、つまんないわね。キスはしたじゃない、キスは!」
「ま、キスはしたな…、抱き合いもした。でも『エロい』っていったら、そんなもんじゃないだろう?
それに、聞き役は木原に香椎だぞ、連中は俺が甲斐性なしってのを、よく知ってるからな。
お前が面白おかしく話すのを、よくできたフィクションだと思って聞いていたんだよ」
亜美は、「けっ!」と、舌打ちして、「免疫がつきやがった…」と、ふくれっ面をする。
能登怖ぇー
「ま、連中がまだ寝て居るんだったら、その間にシャワーでも浴びて、着替えてこい」
「うん、そうさせてもらう…。ちょうど、着替えに高須くんが着ているようなシャツとジーンズが
あるから、今日は、それを着るわ」
と、亜美は言い、
「ペアルックみたいだねぇ」
と、にやりとする。
「俺のは、所詮安物だけど、お前のはアルマーニとかのブランド品だろ? ペアじゃねぇよ」
「そういう、つまらない突っ込みは入れない!」
亜美は、着替えやタオルを取りに、一旦は泰子の部屋に戻っていった。
そして、浴室へ向かう際に、「高須く〜ん、亜美ちゃん、一緒にお風呂に入りたいなぁ、2人で
裸のおつき合いをしましょうよぅ」と、竜児に抱きついてくる。竜児が、「こら!」と、一喝すると、
「あはは、怒った、怒った」と、笑いながら逃げるように浴室へ入っていった。
「さてと…」
カジキマグロの竜田揚げをするため、天ぷら鍋に油を入れ、適温になるまで加熱した。
水で溶いた片栗粉を1滴落とし、一旦、沈んでから浮き上がったことを確認して、油温を判断する。
「頃合いだな…」
たれに浸しておいたカジキマグロの切り身に片栗粉をまぶし、揚げていく。
「ジャー!」という揚げ物特有の小気味よい音が台所にこだまし、香ばしい匂いが漂ってくる。
「なんだ、もう始めちゃったの?」
シャワーを浴びて、竜児と似たようなシャツとジーンズに着替えた亜美が、タオルで髪を拭きながら、
台所にやって来た。
「おう、5時だからな。朝飯の支度とかも考えると、もう始めないといけねぇ」
「麻耶と奈々子はどうするの?」
「ギャルトークに熱中して、疲れてるんだろう。
それに、こんなに狭い台所じゃ、大勢が居てもしょうがない。寝かせとけ」
亜美は、髪をポニーテールに束ね、持参した黒いエプロンを着用した。
「あたしが手伝うよ。何からやったらいい?」
「そうだな、鶏のぶどう酒煮とか、その他諸々の煮物に一通り火を通してくれ」
「わかった」
竜児は、その横顔を眺めながら、
「しかし、川嶋、お前、変わったな」
感慨深げに言った。
「何が?」
「いや、一昨年の別荘では、台所仕事なんか見向きもしなかったじゃねぇか。それが、今は、
積極的に台所に立っている」
亜美は、「そんなこともあったねぇ…」と、恥ずかしそうにしてから、
「あたしは、今までの自分を変えたいし、変えようと思っている。
今は、自分が変わりつつある瞬間なんじゃないかな」
と、鍋の中の料理を見ながら呟き、傍らに立っている竜児に目を向けた。
「高須くんに出会って、あたしは変わったんだ。少なくとも私はそう信じている」
竜児は、「よせやい!」と、照れ隠しをするように、手を振った。
「変わりたいし、変わらなきゃいけないのは俺だ」
「弁理士試験も、その一環なの?」
「ああ」
「ふ〜ん」
亜美は、そんな竜児を、琥珀色の瞳でじっと見る。
「何だ、今になって反対か?」
「私も高須くんと一緒に頑張ることにしたから、ちょっと気になっただけ。でも…」
「でも?」
「ううん、何でもない…」
「そっか…、おっと、川嶋、ちょっと火が強すぎないか?」
竜児の指摘に、亜美は、はっとして、火を弱めた。
「ごめんなさい、危うく台無しにするとこだった…」
「糖分が入っているから、煮物は大体が焦げ易いのさ」
「うん、でも料理って難しいね…」
竜児のようになるのは容易ではない、ということを思い知らされたのか、
亜美は鍋を見ながら悄然とする。
竜児は、そんな亜美の背中を軽く叩くように撫でて「気にするな」と慰め、揚げ物を終えると、
ポテトサラダを作り始めた。
タマネギとケイパーとキュウリのピクルスのみじん切りに酢とマヨネーズと塩を合わせ、
そこに茹でて皮を剥いたジャガイモを入れ、マッシャーで押し潰す。
さらに、塩とバターで茹でたミックスベジタブルを入れ、全体を混ぜ合わせて出来上がり。
「川嶋、ちょっと味見をしてくれ」
亜美は、竜児が小皿に取り分けて差し出したポテトサラダを一口食べた。
「おいしい! 酸味が効いてて、それが味のアクセントになってる。
こんなおいしいポテトサラダは食べたことないよ」
「これなら傷みにくいから、弁当に詰めるのにも適していると思ってな」
その他の煮物等の味見も亜美にしてもらっていると、「おはよう…」といって、
麻耶と奈々子が起きてきた。時刻は5時40分。
麻耶は、エプロン姿の竜児と亜美を見て、「仲睦まじいね、いいね、いいねぇ」と、
冷やかしを入れる。
「おう、お目覚めか。後は、重箱に詰めるだけだから、2人ともよかったらシャワーでも
浴びてきてくれ」
奈々子が、「覗かないよね?」と竜児に念押しすると、
亜美は「大丈夫、高須くんがそんなことしたら、亜美ちゃん、リンチにしちゃうから」と、笑う。
「ベタなこと言ってねぇで、重箱に詰めるぞ」
竜児は、昨夜洗っておいた黒塗りの重箱を手に取った。蒔絵も何も施されていないものだが、
プラスチックではなく木地に本漆が入念に塗られている。
「何の飾りもないけれど、あたしにも作りのよさが分かる。これ、結構したでしょ?」
その問いに、竜児は首を横に振って、
「浅草近くの合羽橋で安く買ったのさ、ま、結構な掘り出し物だな」
と、ちょっと、得意そうに、にやりとする。
「合羽橋って、何?」
「プロの調理人御用達の什器、調理器具の専門店街だ。今度、中華鍋を買いに行くんだが、
よかったら一緒に行くか?」
亜美は、わざと眉をしかめて、「それ、デートのお誘い?」と言うと、竜児は、
「まぁな…」
と、照れたように少し笑ってみせた。
「え〜っ、どうせなら横浜の中華街で買おうよ。そっちの方がデートらしいって」
「そう言うと思ったよ。まぁ、考えとく…」
竜児は、炊飯器の蓋を開け、「おお、おこわも上出来だ」と呟くと、一番下の三の重に、
そのおこわを詰めた。次いで、二の重に鶏のぶどう酒煮等の肉料理を詰め、
最後に一番上の一の重に車海老の鬼殻焼きやカジキマグロの竜田揚げ等の魚介類を盛り付けた。
「川嶋、盛り付けは、こんな感じかな?」
「いいんじゃないの? 彩りもきれいだし。でも…」
「でも?」
「麻耶が作ったんじゃないことが、祐作に一発でバレそう」
竜児は、「大丈夫だ、あいつは細かいことは気にしないから」と、笑うと、
亜美も、「そうだった、なら安心か」と、言って、一緒になって笑った。
さらに、竜児、亜美、奈々子のサポート部隊用として、重箱に詰めた残りをタッパーウェアに
入れていく。
「量的には、3人分は十分にあるだろう。少し、余るから、これは朝食での試食用にしよう。
ただ、おこわは朝食分までは十分ではなさそうだから、冷凍してある普通のご飯だな」
竜児は、鍋に水を張り、頭とはらわたを取り除いた煮干しを10本ほど放り込んで火にかけた。
沸騰する寸前に火を弱め、さらに削り節を一掴み入れ、2分ほど弱火で加熱して、
鍋の中身をこし取った。
「出汁を取ったの?」
「ああ、味噌汁は、味噌の美味さも大事だが、出汁が決め手だな。
だが、いつもは手抜きして出汁の元を使ってる。今回は特別だ」
「あたしのため?」
という亜美に、竜児は、「まぁ、そういうことにしておけ」と笑う。
そのだし汁に味噌を加え、賽の目の豆腐を入れて、煮立つ寸前に火を止め、
小口切りにしたネギを散らす。
「あとは塩鮭を焼けば、十分かな? 何せ、昼と全く同じものじゃ飽きるだろうし」
弁当に詰めたものと同じおかずと、塩鮭、味噌汁それにご飯を卓袱台に配膳した頃合いに、
麻耶と奈々子がシャワーを終えて、やって来た。
「うちら、出る幕なかったね」
奈々子が、ふっ、と苦笑する。
「まぁ、取り敢えず飯だ。塩鮭とご飯と味噌汁以外は弁当に入れたおかずと同じだが、勘弁してくれ」
「私、高須くんの作った料理を食べるのは初めてなんだ」
の麻耶に、奈々子も、
「私もそうだけど、期待以上の出来だね」
と、感嘆する。
「どのおかずもおいしいし、お味噌汁もなかなかでしょ? 化学調味料使ってないし」
と、亜美も、竜児の料理を賛美する。
「さて、時間に余裕があるから、みんなはゆっくり食べていてくれ。俺はちょっと…」
と、言って竜児は、亜美に目配せする。
『能登が居るかもしれねぇから、辺りを見てくる』という竜児の意思表示が伝わったのか、
亜美は無言で軽く頷いた。
玄関を出た竜児は、家の周囲を一回りし、大河が住んでいたマンションと、近隣の車道の周囲まで
探った。しかし、能登の姿はない。
車道を渡った側のブロックも確認し、さらには、近くのコンビニ周辺まで足を伸ばしたが、
能登は居なかった。
「諦めたか?」
竜児は、少しほっとして、自宅に戻ることにした。
***
午前7時、一行は竜児の自宅を引き払い、大橋駅に向かった。
駅では、麻耶と奈々子が着替えなどの余計な荷物をコインロッカーに預け、麻耶は、大橋駅の改札口で北村祐作を待つ。
つばの広い白い帽子と、萌黄色のワンピースが似合っていたが、
弁当の重箱を包んだ紫色の風呂敷とのコンビネーションは正直言って微妙なところだろう。
その様子を、竜児と亜美それに奈々子が、売店の陰から見守る。
「ピクニックにスカートってのは、まずくないか?」
「あたしもそう思うんだけど、麻耶は何かテンパっていて、どうしてもフェミニンな感じで
行きたいみたいだったよ」
と、亜美。
「私みたいにキュロット・スカートとかの方が無難だよねぇ」
と、奈々子も言う。
時刻は7時30分。そろそろ北村が来る頃だ。このまま、能登が現れなかったら、俺は、
今日はゆっくり休めるな、と、竜児はぼんやりと思っていた。
「まるお、来たよ!」
バスターミナル方面からユニクロのポロを着た北村がやって来て、改札口で待っている麻耶に、
「やぁ」という感じで片手を上げて挨拶した。
麻耶は、その北村に歩み寄り、「まるお、久しぶり」とでも言ってるようだ。
北村は、竜児と亜美の姿がないことから、ちょっと周囲をきょろきょろと見渡したが、
麻耶からの説明で竜児と亜美がドタキャンしたことを納得したのか、
麻耶と2人で改札口を入っていった。
「よし、最初の段階はクリアだな」
これで、今日はゆっくりできる、と竜児が安堵した矢先、奈々子が、
「あれぇ? こんなところに能登がいるよ」と、言い出した。
「「何ぃ!?」」
と、竜児と亜美は思わず叫び、奈々子が指さす方向を見た。
眼鏡に茶髪の能登が、今しがた、麻耶と北村が入っていった改札口を通っていく。
「能登の奴、俺達じゃなくて、北村を張っていたんだな」
麻耶の相手は北村と推測し、それが能登にとってビンゴだったというわけだ。
もしかしたら、北村本人に電話でもして確認を取っているかもしれない。
その場合、警戒心の薄い北村は、行き先を含めて能登に何もかもしゃべってしまった可能性がある。
なんてこった…。
ピリピリした竜児と亜美のただならぬ雰囲気を察し、奈々子は不安気に、
「どういうことなの?」と、亜美に尋ねた。
「能登は、麻耶をストーキングするつもりなんだわ。昨夜、高須くんに能登が電話してきて、
そうするようなことをほのめかしたの。そのときはまさかと思ったけど、よもや本当に、
しかも祐作を尾行するなんて、完全に予想外ね」
「こいつは、厄介なことになったな。能登が現れなければ、俺はこのまま家に帰るつもりだったが、
そうもいかなくなった。北村と能登に気づかれないように、十分な距離を取ってついていくしかない」
3人は、能登を追うように改札口をくぐって、ホームへ向かった。
***
ピクニックの目的地であるファザー牧場は、丘陵地帯にあって、最寄り駅からはバスで行くのが
通例だった。この駅は、海岸沿いにあるテーマパークの最寄り駅でもあり、乗降客の大半は、
このテーマパークへ向かうバスに乗る。
「川嶋、木原にメールでバスではなくタクシーで牧場に向かうように言ってくれ。
バスだと、行く先がモロバレになっちまう」
「祐作が行く先を白状しているかもしれないけど、いいの?」
「それでもタクシーの方がいいだろう。バスで能登と鉢合わせするのは、いかにもまずい」
「わかった。理由は、バスが混んでいるからタクシーの方が2人の会話が楽しめる、
とか何とかにしとく」
亜美は、携帯のキーを左手の親指で器用に操作する。
「まるで私たちスパイみたい…。でも、能登はどこ?」
と、奈々子は、駅から降りた群集に目を凝らす。
「まずいな、見失った。しかたがない。俺たちもタクシーで北村たちを追うぞ」
***
ファザー牧場は、その敷地にある小山を中心とした一角が、ピクニック用のエリアとして開放
されていた。小山を含めてエリアの全域は元牧草地なので、樹木が小山の頂き等にわずかに点在
する以外は、所々が深い薮となっている草地であった。
竜児たちは、その小山の頂きから麻耶と北村の姿を見守ることにした。
小山の下、距離にして200mほど離れた場所に麻耶と北村はシートを広げ、
弁当を食べようとしていた。
「のっぺりした草地だから、傾斜があまりないように見えるけど、実際は結構急だな」
小山の斜面の斜度は30度くらいだろうか。うかつに真っ直ぐ駆け下ろうとしたら、
勢いがつきすぎて大変なことになるだろう。
奈々子は自宅から持ち出してきた双眼鏡で北村たちを観察する。
「香椎、用意がいいな」
「父が使っていたのを、ちょっと拝借してきたの」
「どう? 能登は居る?」
という亜美に、奈々子は、
「今のところ見当たらない。もしかしたら、牧場じゃなくてテーマパークへ行ったのかも」
と、双眼鏡で辺りを監視しながら答えた。
「こっちも、昼飯にするか…」
竜児は、適当に日差しを遮ってくれる楢の大木の下にシートを広げ、タッパーウェアを開ける。
重箱に比べて見てくれは冴えないが、味自体は、今朝試食した限りにおいては、文句なしであった。
それを亜美と奈々子は、「おいしいね」と言いながら、食べている。
竜児も、自身が作った料理の出来栄えを確認するかのように、食べ始めた。
薄曇りだが、柔らかな日差しは暖かく、座っていると、眠気を催してしかたがない。
麻耶と北村をサポートするというアサイメントさえなければ、このまま眠ってしまいたいところ
だった。それにしても、眠い…。
「高須くん、あの、草地にいる奴、もしかして能登じゃない?」
鶏のぶどう酒煮を食べながら、亜美は、竜児の脇腹を突ついた。
「えっ!?」
竜児は、失いかけていた意識を取り戻し、亜美の指さす方向を見た。
そこには、眼鏡をかけた茶髪の能登らしい姿があった。すかさず奈々子が双眼鏡で確認する。
「間違いないよ、確かに能登だ」
遅れてやって来たところを見ると、律儀に路線バスでやって来たのかもしれない。
能登は、草原の上で所在無くうろうろしていたが、そこかしこでシートを広げて昼食をとっている
人たちをあらためるように、歩き出しては立ち止まり、を繰り返している。
「木原たちを探しているようだな…」
「まずいじゃない。麻耶にはメールで知らせよっか?」
胸ポケットから黒い携帯を取り出した亜美を、竜児は、左手のひらを振って制した。
「せっかく、北村との昼食を楽しんでいるんだ。それに水を差すような真似はしたくない」
「そっか、そうだね。でも、もし能登が麻耶たちと接触しそうになったら、
高須くんは、どうするの?」
「そのときは、この斜面を駆け下って、奴の行動を阻止する」
亜美は、草地の急斜面を見て、
「え〜っ、危ないって。やめた方がいいよ。絶対にこけるって。
それに高須くんは喧嘩なんか全然ダメじゃん」
眉をひそめて抗議した。
「阻止ってのは語弊があったな。能登を説得して、木原たちに接触するのを思いとどまらせる
つもりだ。木原たちが危ないっていうことに加えて、能登の保護も重要だな」
「どうして?」
「逆上した木原が相手では、能登も無事ではすみそうにないからだ。恋愛がらみのとき、
女ってのは怖いからな。俺も、誰かさんのおかげで、それを思い知った」
竜児は、亜美を見て鼻の頭をポリポリと掻いた。亜美は亜美で、「それ、あたしのこと?」と、
わざと表情を険しくしてみせた。
「2人とも、能登が動き出した」
双眼鏡から目を離さずに奈々子が言う。
能登が、北村たちのいる場所へ、身を屈めながら近づいていくのが竜児にも亜美にも確認できた。
能登は、北村と麻耶がそこにいることに気づいたようだ。
立ち止まって、そこに誰が居るのかを確認するような素振りをみせず、忍び足で、着実に距離を
詰めていく。
「どうやら、本当にヤバイ状況のようだな。奴を説得してくる。川嶋、香椎、後は頼んだ。
行ってくる」
亜美の、「高須くん!」という叫びを背に、竜児は斜面を駆け下った。
しかし…、
斜面の傾斜は竜児の想像を超えていた。最初のうちこそは、駆け足で自ら加速していったが、すぐにオーバースピードに達し、今度は減速するのに脚の筋力を総動員しなければならなかった。
「うおおおおーーーーっ!」
声にならない絶叫とともに、竜児は急斜面を下っていく。でこぼこの地面が恨めしい。
クッション性に富んだスニーカーであっても、脚にかかる衝撃はかなりのもので、
ちょっと気を許せば、即、転倒しそうだった。
あと少しで、能登に追いつくという寸前、竜児は深い薮に右足を取られ、大きくバランスを失した。
「あっ!」という短い叫びも虚しく、そのまま前につんのめり、柔道の背負い投げを喰らったように
草地の上を転がった。
二転三転して、竜児の体は草地に突っ伏して止まった。
「いてぇ…」
草地なので、怪我はなさそうだったが、それにしても体の節々が痛む。
竜児は、草地に突っ伏したままで顔を上げた。視界にスニーカー、黒いデニム。
さらに顔を上げると、横ストライプの長袖シャツを着て、目を丸くして驚いている能登の顔が
視野に入った。
「高須、だよな?」
竜児は、「ああ…」、と、うめき声のように答え、腕立て伏せのように両腕を突っ張って
立ち上がろうとした。
「高須、つかまれ」
能登は、そんな竜児に、右手を差し出した。
--------------------
一方で、小山の上では、亜美と奈々子が、駆け下っていく竜児をハラハラしながら見守っていた。
そして、案の定、能登に追いつく寸前で、派手にひっくり返ったのを見て、亜美は、
「きゃー、高須くん!」と、悲鳴を上げた。
ひっくり返った竜児は、数秒間ほどだが、そのまま草地に突っ伏している。
「ね、ねぇ、高須くん、どうなっちゃったの? なんか、ひっくり返ったまま動かないみたい
なんだけど」
奈々子は、双眼鏡で竜児を見ながら、その様子を亜美に伝えた。
「首とか動かしているから、意識はあるみたい。
でも、あの分じゃ、どっか怪我しているかもしれない…」
「え〜っ、だから、やめろっ、つーたのに…」
竜児は、両腕を支えにして、上体を起こそうともがいているようだった。
しかし、そのまん前には能登。
その能登が、竜児に対して手を伸ばしているのが、双眼鏡のない亜美にも確認できた。
「あ、今の、能登の奴が高須くんの胸ぐら掴んだんじゃないの?」
‐ヤバイ、能登は弱っている竜児にとどめを刺すつもりだ、と亜美は思った。
「う〜ん、こっちからだと、高須くんと能登の姿が交錯して、双眼鏡でもよくわからないなぁ。
そうとも言えそうだし、そうでないとも言えるし…」
亜美は、部外者のように冷静そうな奈々子に苛立ちを覚え、「どっちなのさ!」と、思わず怒鳴る。
「なんか、能登がひっくり返っている高須くんを手助けしているように見えるんだよね。
胸ぐら掴んだっていうのは、違うかもしれない」
「そうなの?」
--------------------
竜児は、差し出された能登の右手を掴みかけたが、
転倒のショックによる痛みで握力が思うようにならず、再び、草地に突っ伏した。
「大丈夫か? 高須」
「面目ねぇ」
「まさか、お前が、山の上から転がり落ちてくるとは思わなかった。ほら、もう一度、つかまれ」
「すまねぇな、能登」
--------------------
「今の見た? 能登の奴、弱っている高須くんを地べたに叩きつけたよ!」
亜美は、怒りと、不安で目をまん丸にして、奈々子を見た。
「どうかなぁ、この角度からじゃ、何とも言えないけど…」
あくまでも冷静な奈々子に亜美は業を煮やして叫んだ。
「もう、いい! あたし、高須くんを助けに行く!!」
「ちょっと待ってよ、亜美。未だ、高須くんが能登にやられたことが、はっきりしたわけじゃ
ないんだし」
「でも、でも、こんな状況、目の当たりにして、見過ごせないよ! 高須くんをフォローしなきゃ」
「そうは言うけど、能登だって男だからね、奴が本気で暴力をふるったら、
女の私らじゃ手に負えないよ」
「だったら、不意打ちすればいいじゃない。このまま坂を下って、その勢いで、
能登に飛び蹴りをお見舞いしてやる」
奈々子は、「え〜っ!」と、絶句して、
「無理だよ、亜美、そんな芸当ができるのは、特撮のヒーローくらいだよ。やめなよ。
それに、高須くんだって、派手にすっ転んだじゃない。危ないよ」
頭に血が上っている亜美を必死になだめようとした。
「でもさぁ、ほっとけないじゃん。あたしが助けなくて、誰が高須くんを助けるのさ」
亜美はスニーカーの靴紐を締め直し、ポケットのタブのボタンをしっかり止めて、
「奈々子、ごめん、行ってくる」
と、言い残して、斜面へ一歩踏み出した。
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竜児は、能登からの二度目の助けを借りて、どうにか立ち上がった。
草地を転がったため、つま先から頭の上まで枯れ草がくっついていて、
見る者に哀れを催す情けなさが漂っていた。
そのせいか、面と向かっている能登は、「ぷっ」と、思わず吹き出し、次いで、
「すまん、つい…」と、竜児に詫びた。
「能登、お前なぁ…」
竜児も、笑いをこらえる能登の不謹慎さをなじるように、怒気を孕んだような言い方をしたが、
次の瞬間、「ふっ」と、息を抜くようにして、口元を歪めて笑った。
「すまん、すまん、まずはストーカー行為を謝らなきゃいけないよな。すまなかったな、高須」
「本当に、昨晩の電話はびっくりしたぜ。お前がストーカー行為を予告してきたんだからな。それで、俺たちは、ストーキングしているお前をさらに尾行していたんだ」
「そこなんだよな、結局、俺は、高須の掌で踊らされていた哀れな野郎だったってわけだ。
それをお前が、手違いからか、斜面から転がり落ちてきた瞬間に分かり、
急に自分のやっていることがバカバカしくなってきて、それで笑いがこみ上げてきちまった」
能登は、「もっとも…」と、前置きして、
「お前の今の格好が、結構、笑えるってのも否定はできないけどな」
と、言って、また、「ぷっ」と、吹き出すのだった。
竜児は、そんな能登を見て、安堵したように、嘆息をついた。
「なら、今、お前がやっていることのアホらしさも分かっているってわけだ。悪いことは言わない。
今日のところは、俺に免じて、引き下がってくれないだろうか。
何しろ、川嶋を通じて木原の気持ちをそれとなく確認したんだが、お前のことを木原は相当に
嫌悪しているらしい。ちょっかい出したら、お前の方も無事じゃすみそうにない」
能登は、「耳が痛いねぇ…」と、寂しそうに笑った。
「木原には、一発ガツンと言ってやりたいことがあるが、諦めるよ。俺も、恥ずかしながら受験に
失敗して面白くなかったし、その鬱憤からもこんなバカなことをしでかしたんだ。反省している」
竜児もそんな能登を見て、「そうか…」とだけ、言った。
「しかし、『俺たち』って、言ったよな?」
「おう、俺の他に。川嶋と香椎がお前を尾行していたんだ。今も、どこかで、俺たちのやりとりを
監視しているはずだ」
「いよいよもって周到だな。作戦はお前が立てたんだな?」
竜児が、「いや、完全に成り行きだよ」とだけ返事をすると、能登は、首を左右に振った。
「いや、高須竜児を敵に回した時点で、俺の敗北は決定的だったんだな。
お前ではなく北村をマークしたんだが、その上手をいかれたわけだ」
能登は、「参りました」とばかりに。自分の額に手をあて、その手で額をぺたんと叩いた。
その時だった、小山の上から、「た、か、す、く〜ん!」という、悲鳴のような甲高い声が
聞こえてきたのは。
「お、噂をすれば、あの声は、亜美たんじゃないのか?」
能登の問いかけに、竜児は、「お、おう」とだけ応答し、声がする方向を見て、狼狽した。
「か、川嶋ぁ!」
よりにもよって、亜美が、竜児の名を絶叫しながら、小山の斜面を駆け下って来ているのだ。
竜児もそうだったが、きつい傾斜のために完全な暴走状態で、こちらに向かって突進してくる。
「あのバカ、何で突っ込んで来るんだ!」
亜美は、ほとんど泣きそうな表情で、ポニーテールを振り乱して突っ込んでくる。
竜児は、両手を広げて、暴走してくる亜美を受け止めようとした。
「川嶋ぁ! こっちだ、俺につかまれぇ!」
次の瞬間、どしん、という鈍い音と、激しい衝撃とともに、亜美が竜児の胸元に飛び込んできた。
「くそ…」
衝撃で崩された体勢を竜児は必死に立て直そうとしたが、その努力も虚しく、竜児と亜美は、
半ば呆然とたたずむ能登を置き去りにして、斜面のさらに下へと抱き合ったままの状態で
転がり落ちて行った。
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万事において磊落な北村祐作にとって、来るべきはずの竜児と亜美が不在であることについて、
深く詮索するようなことはなかった。
したがって、自身のことを「まるお」と呼ぶ木原麻耶との2人だけのピクニックについても、
さしたる意義を認めることはできなかった。
ましてや、これが亜美たちの画策によるデート作戦であるとは夢にも思っていない。
その点において、すでのこの作戦は無意味なものであったようだ。
それでも、麻耶は、まるおこと北村に、重箱に詰めた弁当を甲斐甲斐しく食べさせ、
努めてデートであることを、北村に気づかせようとしていた。
だが…。風に乗って、かすかに聞こえたのは、「た、か、す、く〜ん!」という女の悲鳴。
「おや、今のは、亜美の声みたいだな。しかも、『高須』と聞こえたような気がしたが? はて…」
と、北村が警戒心ゼロの優等生面で、呟いた。
「え、そ、そうかなあ〜。私は何も聞こえなかったけど。まるおの空耳じゃないの?」
麻耶は、慌てて『空耳』と決めつけて、その場を取り繕う。
内心では、『亜美にしろ、高須くんにしろ、何をやってるのかしら、作戦がまるおに
バレちゃうじゃない!』と、毒づきながら。
さらに、今度は、もっとはっきりと、「か、川嶋ぁ! …川嶋ぁ! こっちだ、俺につかまれぇ!」
の声が聞こえた。
「おや、今度は高須の声みたいだな、さっきよりもはっきりと聞こえる。
なあんだ、高須と亜美も、こっちに来ているんじゃないのか?」
と、麻耶に笑いかける。
‐まずい、作戦が破綻しつつある。
どう取り繕っていいものやら分からず、麻耶は、「さ、さぁ…」とだけ、苦し紛れに答えるのだった。
--------------------
「川嶋ぁ! しっかりつかまってろ」
竜児は、亜美を抱きしめ、彼女とともに急斜面を転がり落ちる。
「高須くん。あたし、め、目が回る」
「手を絶対に離すなよ! 下手に手を伸ばしたら、腕の骨が折れちまう。いずれ、傾斜が緩くなって、
自然に止まる。それまで、ちょっとの辛抱だ」
「で、でも、傾斜が緩くなる前に、何かにぶつかったら、どうなるの、あたしたち」
「そのときは、そのときだ、覚悟するしかない」
小さなギャップで、2人の体がバウンドする。
「きゃっ!」
竜児は、亜美の頭を覆うように抱きしめた左手に力を入れ、着地のショックに備える。
さらに、二度三度とバウンド。草と体が擦過する、ガサガサ、という音と、互いの声以外に
音のない世界。
不意に竜児と亜美は、背中と脇腹に鋭い衝撃と痛みを覚えた。
「きゃー!」という聞き覚えのある叫び声と、何かをなぎ倒したような音とショック、
それに草地ではなく、すべすべしたシートのようなものが下にあるような感触。
だが、世界は音を取り戻した。
止まった。回転しながら斜面を転がり落ちていた竜児と亜美は、ひとまず停止したのだ。
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「やっぱり自爆したか…」
暴走した亜美が、竜児に抱き止められたものの、その勢いが止まらず、2人とも斜面を転がり落ち、
挙句の果てには。斜面の下に居た麻耶をなぎ倒して止まったことを双眼鏡を通して見届けた奈々子は、
シートや弁当を入れていたタッパーウェアを片付け、小山を降りる準備を始めた。
まとめた荷物を持ち、首から双眼鏡を掛けた奈々子は、未だ、斜面の中腹に能登が居ることを
確認した。その能登に向かって、奈々子は、ゆっくりと斜面を下り始めた。
--------------------
「川嶋、川嶋! 大丈夫か?」
未だ視野が、ぐるぐる、と定まらない亜美は、竜児の声で、我に返った。
「た、か、す、く、ん…?」
目の前に意識が朦朧としているような竜児の顔があった。
「よかった…、川嶋、怪我はないか?」
亜美は、竜児を下敷きにしていたことに気づき、頬をちょっと赤らめる。
「う、うん、あちこち痛むけど、正直、よくわからないや…。それより、高須くんは、大丈夫?」
「俺のことはいいから…。そ、それより、ここは、どこなんだ?」
亜美は、竜児の体に馬乗りになったままで、上体を起こし、周囲を見渡した。
まず、視界に飛び込んできたのは、ピクニック用シートの上にひっくり返っている竜児、
次いで中身をぶちまけて散乱する重箱、さらには萌黄色のワンピースの裾がめくれ上がった状態で
うつ伏せに倒れている麻耶の姿だった。
おまけとして、シートに座ったまま、事態を飲み込めているのかいないのか、優等生的な表情から
は伺えない北村祐作の姿。
麻耶は、レースで彩られたピンク色のショーツを剥き出しにしたまま、ひっくり返っている。
いわゆる『勝負下着』で、決めてきたのだろう。
その麻耶の体が、ぴくぴく、と痙攣するように動き、瘴気のようなオーラが立ち上ったように
亜美は感じた。
そして、「う〜っ…」という地鳴りのようなうめき声とともに、麻耶は上体を起こし、
めくれ上がった裾をおもむろに正して、北村との逢瀬を台無しにした亜美と竜児に向き直った。
「あんたら〜っ!」
顔は真っ赤で、目は吊り上がり、こめかみの血管はちょっと突つけば血が吹き出そうなほどに
浮き上がっている。
「た、高須くん、こ、こわい…」
怒り心頭に達した麻耶に気圧されて、亜美は、未だ倒れている竜児にしがみつく。
竜児は亜美がしがみついたままの状態で、上半身を起こし、怒り狂っている麻耶を見た。
「ま、待て、木原。これは、ちょっとした手違いがあって、そ、そう事故…、事故なんだ。
わざとじゃない、わざとじゃないんだ。だけど、状況を台無しにして本当に悪かった、
すまん、だから、許してくれ」
しかし、麻耶は、「ふ〜っ!」、という、うなり声のような吐息を漏らし、
竜児と亜美の前に立ちはだかった。
「ま、麻耶、落ち着いて。順を追って説明するから、実は、能登が…」
「ええい、うるさ〜い! 本来、あんたらは、私のサポート役だったはずじゃない?
それどころか、全てをぶち壊しやがって!」
「ちょっと、気持ちは分かるけど、落ち着いて聞いてよ。実は、能登がここにも来ていて、
麻耶をストーキングしていたから、それを阻止しようとして…」
しかし、亜美の必死の釈明は、麻耶の怒号で中断された。
「ごちゃ、ごちゃとうるさいんだよ! 能登? いきなり、そんなこと言われても、
こっちは理解不能だって! とにかく、あんたらは、サポートどころか、作戦そのものを
滅茶苦茶にしたんだぁ!!」
麻耶に無用な不安を与えないようにと、能登の存在を伏せていたことが仇になった。
そこへ、ずれかけた眼鏡を右手人差し指で、くぃ! とばかりに持ち上げた北村が、
「木原、サポートとか作戦って何だ? 俺は、何だか蚊帳の外なんだが?
まぁ、たしかに、高須と亜美がどこからともなくやってきて、木原と、弁当が残っていた重箱を
ひっくり返したが、高須たちも悪気があってしたわけじゃなさそうだし、
ここは、広い心で許してやろうじゃないか」
と、調停者よろしく、麻耶をなだめにかかった。
しかし、北村は、今まさに修羅場が展開されようとしている空気を全く読まずに、
実に剣呑なことを言う。
「まぁ、何だ、木原も、ひっくり返ったときに、スカートがめくれて、パンツが丸見えになったが、
これもご愛敬だな、わっはっはっは…」
‐なんてことを言いやがる。竜児と亜美は、血の気が引く思いがした。
北村の一言は、麻耶をなだめるどころか、全くの逆効果。
しかも、当の北村は、そのことに全然気付いていない。
「ま、まるお、言っていいことと悪いことがあるでしょ! つか、見えたの? 見たの? 見ちゃったの?!!」
「ああ、ピンクでレースの付いた奴だったかな? 木原が、うつぶせになっているとき、
ほら、スカートがここまでめくれて…」
と、北村は、自分のウエストあたりを指さした。
「う、うううう、うぇ〜ん! まるおのバカァ!!」
思い人である北村からのあまりの仕打ちに、麻耶は怒りで赤くなった顔をさらに赤く染めて、
大泣きした。
「祐作、最低!」
素の北村というものを理解している亜美にとっても、この言動は許しがたかった。
だが、最低云々は、今の麻耶にとって、より許しがたい存在は誰か?
ということを熟慮の上で言うべきではあった。
「亜美、あんたねぇ〜…」
大泣きしていた麻耶の血走った目が亜美を見据えた。
「ひっ!」
怒りと憎悪がほとばしるような視線に、亜美は怯え、竜児に縋る。
「まるおを最低だと? 最低なのは、あんたらだ、川嶋亜美に高須竜児!!」
「ま、待って、麻耶、話を聞いてよ、これは能登が…」
「能登、能登って、面倒な話はどうでもいいんだよ。あんたらが、まるおを誘い出して、
私とまるおのデートをサポートするはずだったのに、
黒子であるはずのあんたらが、飛び出してきて、全てをぶち壊し…」
「高須くん、こわい…」
「しかも、私が、こんな仕打ちを受けているってのに、あんたら2人は、べったら、べったら、
いちゃつきやがって…」
‐こりゃまずい、とばかりに、亜美は抱き合っていた竜児から離れ、その背後に回ったが、
時既に遅し。麻耶の怒りは臨界点を突破していた。
「高須竜児、あんたもだよ、亜美との仲を私にフォローさせたくせに、今回のこの不始末。
むかつくんだよ!」
竜児が、「待て」と、弁解するいとまも与えず、麻耶の右フックが竜児の顔面に炸裂した。
「うげ…」
「高須くん!!」
痛打を浴びた竜児は、白目を剥いて、昏倒した。
「高須くん! 高須くん! お願い、しっかりして!!」
竜児は、亜美にもたれかかったままで、意識がない。
亜美は、「きっ!」と、ばかりに、涙目で麻耶をにらみつけた。
「やりすぎだよ、麻耶! あんたの行為は傷害罪! もし、高須くんが死んじゃったら傷害致死
だからね。この犯罪者!!」
「うるさーい! 法学部の1年坊主が、ちょっと法律かじっただけで偉そうに。
あんたが色気でたぶらかした男が、何だっつーの!」
「色気でたぶらかしたぁ!? ふざけんな、あんただって、髪の毛染めて男に媚び売ってる
じゃないか。この売女!!」
「黙れ、淫乱!!」
「なにおぉ!」
「なんだとぉ!!」
女同士の不毛で醜悪な戦いが始まろうとしていた。
--------------------
特攻してきた亜美と、それをキャッチし損ねた竜児とが、一緒になって急斜面を転がり落ちていき、
北村とピクニックをしていた麻耶をなぎ倒して止まったことは、能登にも確認できた。
温厚とはとても言えない麻耶の性格を考えれば、一悶着あることは間違いない。
「どうする? 俺が連中の前に行って、土下座でもすれば、多少は事態が収拾するだろうか?」
竜児には、この場を立ち去るように指示されたが、これまでと、これから起こるであろう一連の騒動
の元凶が自分であることを思うと、この場を立ち去ることに、ためらいがあった。
そのとき、麻耶が竜児を殴打した。殴打された竜児は、亜美に体を支えられたまま、
ぴくりともしない。
「高須…、おれのせいで」
竜児がやられたとなると、亜美も黙ってはいまい。能登は、麻耶や亜美に謝罪すべく、
斜面を下ることにした。
「ちょっと待った!」
背後から呼び止められた能登は、振り返った。そこには、首から双眼鏡を下げ、バックパックに
ショルダーバッグ、手提げバッグを持った奈々子が立っていた。
「今、あんたがあそこに行ったら、麻耶と亜美に袋叩きにされるよ。それでもいいの?」
能登は、奈々子が一瞬、にやり、としたように感じた。それは錯覚であったかもしれないが、
少なくとも当事者の中で、奈々子だけが比較的冷静であるようだ。
「しかし、このままじゃ、木原と亜美たんが大喧嘩になっちまう。止めなきゃ」
奈々子は、「ふふん」と、せせら笑うようにして、
「その心がけは立派だけど、賢明じゃないね。まぁ、マゾだっていうんなら止めないけど…。
それよりも、2人の喧嘩を確実に止められて、あんたも怪我をしない方法があるんだけど、どう?」
と言って、奈々子は目を眇めた。
能登は、そんな奈々子に言いしれぬ圧迫感を感じ、「ごくり」と、生唾を飲み込んだ。
「わかった、お前の提案に乗ろう。であれば、俺はどうすればいい?」
「だったら、すぐに、ここから走って逃げてちょうだい。もう1つ、あんたが走り出してから
5秒後に、あたしが大声出すけど、決して振り返らないこと。この2つを守ってくれる?」
「わ、分かった…」
能登は、奈々子の真意を計りかねたまま、承諾した。
「それと…」
奈々子は、気恥ずかしそうに、言った。
「あんた、来週の週末はどうしてる?」
能登は、いよいよもって奈々子の狙いが不気味に思えたが、正直に答えた。
「たぶん、家で勉強している」
「暇なの?」
「正直なところ、そうだ」
勉強に身が入らないことを奈々子に見透かされたような気がした。
「そう、メルアドは変わってないわよね? さっき言ったことを忠実に実行してくれたら、
この埋め合わせは必ずする。だから、もう走り出して!」
「あ、ああ…」
能登は牧場の出口に向かって走り出した。その数秒後、奈々子が、斜面の下の方に向かって、
叫んでいるのが聞こえてきた。
「もう! 麻耶も亜美も、何やってんのよ!! ほら、喧嘩なんかしている場合じゃないでしょ。
能登が逃げちゃう。今回の騒動の原因は、あいつがストーカーやってたからだってばぁ!
早くあいつを追っかけなくちゃダメじゃん!!」
--------------------
口汚い罵り合いから、つかみ合いになる寸前、奈々子の声で、亜美と麻耶は、我に返ったように、手を止めた。
「えっ!? 能登が逃げる?」
と、亜美。
「能登って、やっぱ居たの?」
しかし、亜美も麻耶も、つかみ合いはひとまず止めたものの、互いに対する敵意は消えてはいない。
そこへ、奈々子のさらなる絶叫。
「もう、麻耶も亜美も、いい加減、頭を冷やしてよ。特に、麻耶ぁ!
亜美と高須くんが転げ落ちてきたのは、能登が2人を突き落としたからなんだってばぁ!!
能登が諸悪の根源なんだよぅ」
‐え? あたしと高須くんは、突き落とされたっけ?
一瞬、亜美は怪訝に思ったが、すぐにそれが事態の収拾を図ろうとする奈々子の嘘と理解した。
‐やるな、奈々子。
ここは、一丁、奈々子の嘘に便乗させてもらうことにした。
亜美は、未だ憤怒の表情の麻耶に向かい、
「そうなんだよ、あたしと高須くんを急斜面から突き落としたのは、能登。
ストーカー行為をしていたところを高須くんが押さえ込もうとしたんだけれど、
あたしも高須くんも能登にやられちゃってさぁ…」
しかし、麻耶は、未だ半信半疑なのか、ぶ然としている。
「悪いのは、能登。あんたも、あたしも、高須くんも、あいつの被害者。
だから、あたしらが争うなんてバカげているんだよ」
亜美は、北村にも助け船を出してもらうことにした。
「祐作ぅ〜、あんたからも何か言ってやってよ。さっき、あたしと高須くんに悪気はなさそうって、
言ってくれたじゃん。その調子で、もう一度、麻耶を説得してよ」
かつての生徒会長、北村は、壇上での演説を彷彿とさせる直立不動の姿勢をとった。
だが、どっかピントが外れているのが北村の常である。
「木原が不快に思うのはもっともだな。そうだ、うまい解決策がある。法的には相殺という手段が
ある。この考え方で、本事案の紛争解決を図ることにしよう」
‐相殺? いきなり何を言い出すんだ? そもそも、何と何を、おあいこにするんだろ?
亜美は、何となく嫌な予感がした。
「よって、こうすれば解決だ」
と、言うやいなや、北村は、ズボンをずり下げた。
「これで、おあいこだな、木原。こうすれば、パンツを見られた、お前の機嫌もなおるはずだ、
が…あれ?」
しかし、北村がはいていたブリーフはゴムが緩かったのであろう。
「きゃーっ! まるおが、丸出しぃ!!」
「祐作、あんた、本当に最低!!」
唐突に陰部を丸出しにした北村を前に、亜美と、麻耶と、奈々子は、パニックに陥るのだった。
***
頬に誰かの掌のぬくもりを感じ、高須竜児は、目を覚ました。
薄目を開けると、ぼんやりとした視野の中に、庇のように突き出た胸と、
ほっとしたような表情の川嶋亜美の顔があった。
「よかった、気が付いたようね…」
「川嶋、俺は?」
そう言いかけた竜児の額から頬を、亜美の右手が滑るようになぞっていく。
「あんたは、麻耶に殴られて、そのまま眠っていたんだから。殴られた直後は、救急車でも
呼ばなきゃならないかと思ったけど、何のことはない、あんたはすやすや眠っていただけ…」
その人差し指が、竜児の頬を、軽く突く。
「無理をしてきた疲れが出たんだよ。起こすのがかわいそうなくらい、本当に気持ちよさそうに、
あんたは眠っていたんだ」
亜美は、膝枕をしている竜児に微笑んだ。
「俺は、どのくらい眠っていたんだ?」
「そうねぇ、今が3時半だから、かれこれ3時間くらいかしら」
胸ポケットから取り出した携帯電話を見ながら、亜美は事も無げに言う。
「3時間も! そんなに寝ていたのか、俺は…」
竜児は、あることに気付き、はっとする。
「川嶋、まさか、3時間もすっと俺を膝に載せていたのか?」
亜美は、それには答えず、意味ありげに「うふふ」と、笑った。
「そうなんだな? すまねぇ、重かったろう、もう、俺は大丈夫だ」
と言って、竜児は起きあがろうとした。亜美は、起きあがろうとする竜児の胸に手をあてて、
それを制した。
「あたしが好きでやってることなんだ。あんたが、どうこう、気をもむことじゃないよ。
せっかくだから、もうちょっと膝枕をさせてちょうだい」
「膝枕なんて、小学校1年のときに、泰子に耳掃除をしてもらって以来だぜ…」
亜美は、「そう…」と、呟くと、前髪からヘアピンを抜き出した。
「じゃぁ、せっかくだから、耳掃除もしてあげるよ。ちょっと、横になって」
「いいよ…」
「遠慮しない。というか、あたしがやりたいのさ、だから横になりなよ」
竜児は、半ば観念して、亜美に背中を向けるようにして横たわった。
「OK、右の耳から始めるね…」
亜美は、竜児の頭部に覆い被さるようにして、耳の穴にヘアピンをゆっくりと挿入していった。
竜児の耳朶に、頬に、亜美の柔らかな吐息が当たる。
「痛かったら言って、手加減するから」
竜児の耳にヘアピンで引っかかれる「かり、かり…」という音が響く。
「いや、大丈夫。すごく気持ちいい」
竜児は、「何だか泰子にやってもらって…」と、言いかけて、「すまねぇ、妙なことを口走って」
と、亜美に詫びた。
「そう? 謝ることなんかないのに。母親と同じように見てもらえるなんて、あたしにとっては
最高の誉め言葉だよ」
「そうなのか? マザコン野郎はダメだろ?」
亜美は、うふふ、と笑う。
「昨晩、麻耶たちとも話したんだけど、少なくとも、あたしはマザコン男は嫌いじゃないよ」
「嘘だろ? マザコンってのは、嫌われるもんじゃないのか?」
「そんなことないって。マザコンってのは、一般に母親に愛されることが前提になるでしょ?
生まれて初めて出会う他者である母親に愛された人間は、
これから出会う他者にも愛されていくんだよ」
「言ってることが、よくわかんねぇ」
「高須くんは、泰子さんに愛されて来たじゃない? あたしは母親である泰子さんに愛されてきた
高須くんだからこそ、あんたのことが好きなんだ」
「そんなもんかねぇ…」
「そんなもんなんだよ」
半信半疑の竜児に、亜美は、笑いながらも、そう決めつけ、竜児の右耳から引き抜いたヘアピンの
先端に「ふぅっ!」と、息を吹きかけた。
「よっしゃ! 右はこれでOK。今度は左ね。高須くん、あたしの方を向いてくれる?」
「で、でも、川嶋、こっち向くと、あの、何だ…」
竜児は、首の向きを変えようとして、視線の先に亜美の下腹部があることに気付き、躊躇した。
「遠慮することなんかないよ。あたしは、高須くんに股ぐら見られたって、恥ずかしいなんて
思わないんだから。むしろ、変に恥ずかしがってる高須くんの方がおかしいよ」
亜美は、あはは、と声をあげて笑った。
「わ、分かった、俺は、目をつぶっている」
「うふふ、照れちゃって。やっぱり高須くんって、かわいいよ」
「う、うるせぇ…」
亜美は、再び竜児にかがみ込み、竜児の左耳にヘアピンを挿入する。
「ねぇ、耳掃除をしている間に、あたしの質問に答えてくれる?」
「どんな質問だ?」
「う〜んとね、高須くんは、なんでいつも無理をするのか、なんで自己犠牲をいとわないのか、
これを知りたくてね」
「そんなこと…、俺は無理なんかしていないし、利己的で、自分を犠牲になんかしない。
お前の質問は不適切だ」
と、言った瞬間、「いてっ!」と、竜児は顔をしかめた。
「あ〜ら、ごめんなさ〜い。ちょっと、手元が狂っちゃった。でも、今のは嘘つきさんに罰が
当たったんだわ」
「お前なぁ〜」
「ほら、ちゃんと正直に答えないと、また神様が罰を当てるわよ」
亜美は、意地悪そうに、うふふ、と目を眇める。
「べ、別に、俺は、無理なんかしてねぇよ。川嶋が勝手にそう思い込んでいるだけだって」
「そう、答えたくなければそれでもいいわ。ただ、高須くんは、レゾンデートルっていうのかしら、
自身の存在意義が不確かだっていう焦りがあるように思うんだけど、違う?」
亜美は、手にしたヘアピンで、竜児の鼓膜の周辺を突っついた。竜児は顔をしかめる。
「どうなの? 早く答えてくれないと、何だか拷問みたいで嫌なんだけどなぁ…。じゃぁ、いいや。
高須くんからの反論がないので、民事訴訟法第159条第1項の規定に基づき自白擬制が成立し、
自身の存在意義が不確かだという焦り故に、高須くんは無理をしているということになりましたぁ。
これでいい?」
竜児は、目をつぶったまま、口をへの字に曲げて、抗議する。
「川嶋ぁ、法律を引き合いに出して、嫌みったらしく言うな。第一、民事なんとか法なんて、
俺は知らねぇ」
「うん、ちょっとひどい言い方だったよね、その点は謝るわ。でもね、傍から見ていると、
高須くんは、自分の存在を卑下していて、それがために無理をしてでも他人に尽くそうとして
いるのが分かっちゃう。これは本当」
「う…」
「この上、すごく酷な言い方をするけど、高須くんは、もしかしたら、自分のことを
『いらない存在』だって思っていないかしら?」
竜児は、答えない。
亜美は、耳掃除を終えたのか、ヘアピンを竜児の左耳から引き抜いたヘアピンの先端を、
さっきと同じように「ふぅっ!」と、吹いて耳垢を飛ばし、それを元通りに自分の前髪に
セットした。
「でも、それは間違い。だって、さっきも言ったように泰子さんが高須くんを大事にしているし、
実乃梨ちゃんやタイガーがあんたのことを好いていた」
「泰子とは、進学するしないでもめたんだ。正直、今でも、しこりみたいなものを感じる」
「でも、泰子さんは、あんたのことを今でも大事に思っているよ。実の親子なんだから、
いつか高須くんのわだかまりも解消出来るときが来るよ」
竜児の頭部を両手で支え、潤んだ瞳で竜児の顔をのぞき込む。
「何よりも、あたしが高須くんのことを必要としているんだよ」
可憐さを装った天使の仮面でもなければ、酷薄な笑みでもない。
澄み切った水をたたえ、さざ波一つない湖面のような無垢な穏やかさ。
「だから…」
そう一言だけ呟き、うつむいて、竜児の唇に軽くキス。
唇を離して、再び、竜児に静謐で無垢な瞳を向けてくる。
「もう、自分を卑下しないで。
あんたが自分自身に価値がないと思い込むのは、あたしや泰子さんの思いを蔑ろにする。
あんたが自身の存在を否定することは、あたしや泰子さんの存在も否定すること…。だから…」
大きく見開かれた亜美の瞳から一筋の涙が零れ落ちる。
「あんたはよくても、あたしは許さない…」
その涙が、竜児の頬に滴った。
「川嶋…」
亜美は、左手の甲で、涙をぬぐった。
そして、「あは…」と、笑いとも嘆息ともつかない吐息を漏らす。
「あたしは、高須くんの苦悩を直に癒すことはできそうもないけれど、理解だけはできるつもりだよ。
あんたも意地を張らないで、つらいときや苦しいときは、正直に言ってくれればいいんだ。
あたしには、それを聞くぐらいしか能がないけれど、あたしに話して、高須くんの気分が少しでも
晴れればいいな、と思ってる」
竜児は、亜美の膝枕から身を起こした。
「俺は、人にはあまり相談せずに今までやってきた。だが、例外的に川嶋には結構、
本音をぶちまけてきているからな。正直、これで、俺はだいぶ救われていたのかもしれねぇ。
だから、お前が、これからも俺の愚痴を聞いてくれるのは助かるぜ」
竜児は、「まぁ、何だ…」と、付け加え、
「だが、俺はだなぁ、お前が以前指摘したように、しょーもない奴で、バカだからな。
まぁ、バカの悩みなんてのは、知れている。それを延々聞かされるのは、結構、ウザイぞ、
その覚悟はできているのか?」
一見凶悪そうな面相の相好を崩して苦笑した。
知らない人には、夜叉がせせら笑っているように見えたかも知れない。
「あたしも、バカだからねぇ、お互い様だよ。
それに、バカの悩みは、バカにしか分からない場合だってあるんじゃない?」
「お前と俺とでは、バカのベクトルが違うような気がするけどな」
「そうかもしれない。でも、方向性が違うから、互いの違い、互いのことが分かるんじゃないかしら?
きっと、完全に同質なものだったら、互いのことはかえって分からないのかも知れない」
亜美は、「ベクトルなんて、大学入試以来だよ」と、苦笑する。
「川嶋が言う通りだな。方向性が違うから、どこかで交差する。
交差するから、互いが理解できるんだ」
「何か衒学的だね」
「そうか? 高校数学のレベルだぞ」
「亜美ちゃん、法学部だから、数学なんて関係な〜いの」
亜美が、うふふ、と笑うと、つられて竜児も笑いだし、やがて、2人とも、あはは、と大笑いする。
「ほんじゃ、バカ同士、仲良く帰るとするか…」
「そうだねぇ…」
「ところで、他のみんなは、どうしたんだ?」
「先に帰ったよ。まぁ、祐作と麻耶はどうもねぇ…」
と、言いかけて、亜美は、「ぷっ」と、吹き出しそうになるのをこらえた。
‐その話は、帰りの電車の中ででもゆっくり聞こう、能登のことも気になるし…。
そう竜児は思い、「やっぱりダメだったか…」、とだけ呟いて立ち上がる。
そして、尻の当たりに枯れ草が付いていないか確認するように、慎重に手ではたいた。
「川嶋、立てるか?」
「何言ってんの、赤ん坊じゃあるまいし、ちゃんと、この通り…、あれ?
脚が、痺れちゃって、ダメだ…」
それを見て、竜児は、「ふっ…」と、嘆息してから、
「3時間以上も膝枕していりゃ、当然じゃないか。
お前だって、俺のことを言えた義理じゃないんだぞ。無茶ばっかしやがって…」
再び、しゃがみ込んで、亜美の困ったような表情を観察する。
「ねぇ、見てないで、肩貸してくれる?」
「少し休んでいった方がよくないか?」
「無理にでも歩いた方が、脚の血行が早く回復するんじゃないかしら。
それに、高須くんと肩を組んで歩きたいの、亜美ちゃんは」
竜児は、ちょっと面倒臭そうに「やれやれ…」と呟いて、亜美が差し出してきた右手をつかみ、
引き寄せた。
しなやかで華奢な亜美の右半身が、竜児の左半身に密着する。
「これは、軽いから、あたしが持つよ」
亜美は、風呂敷に包まれた重箱を持ち上げる。
「洗っといてくれたんだな」
「麻耶が、高須くんを殴った責任を感じてね。後始末はしてくれたんだ」
「じゃぁ、他の荷物は、俺が持つ」
荷物を持って、竜児と亜美は歩みだす。
「二人三脚みたいだねぇ」
「だとしたら、ゴールはどこなんだろうな…」
亜美は、整った面相を、一瞬、竜児に向けた後、正面を見据えた。
「あんたとあたしは、ずぅ〜っと一緒に歩いていくのさ。これからも、一緒に頑張っていくんだ」
「ずぅーっと、なのか?」
亜美は、正面を見据えたまま、軽く頷いた。
「ねぇ、憶えている? 一昨年前の夏に、あの洞窟であたしが言ったこと」
「俺が、『月』だって話のことか?」
「そう、その話。さらに言うなら、あたしも『月』だから…、あんたとあたしは対等の存在
なんだってこと」
「ああ…」
「だから、あたしたちは、ずぅーっと一緒でいられるのさ」
そうして甘えるようにすり寄ってくる亜美の肩を抱き寄せ、
「そうだな…」
とだけ竜児は囁くのだった。
104 :
SL66:2008/12/15(月) 19:04:32 ID:Hj2lSs7R
以上です。
好評であれば、続編を制作致します。
GJなんだぜちくしょう!
そして書きかけのSSとネタがもろにかぶった俺おつ…。
同じとらドラ!二次創作の書き手として語彙力と料理の知識の豊富さに素直に嫉妬です。
後、自分のSSの材料やら料理やらでてきて少し嬉しかったです!
続編、待ってるからね!
超GJ(*´Д`*)/ヽァ/ヽァ
これは続編が楽しみな逸作だ。 あみドラいいよあみドラヽ(゚∀。)ノ
いやこれは・・・、大河x竜児もん書いてるが・・・これは・・・亜美もいいな・・・
すげぇ
ストーリーしっかりしてるし、読ませるよね
料理うまそうww
>>104 亜美と竜児のかけあいとか話の展開も書き方もよかった。GJ。続編も見たい。
ただ、一つ心に留めて欲しいのは一度に多くのレスを使った話を嫌うものもいるので
連載化したほうがいいかもしれない。今回の量なら2回から4回くらいに分割して。
このスレの速度なら今回みたいにまとめて出しても何の問題もないけどね。
個人的にはこういう秀作がまとめて見られるのはすごく嬉しいけどねw 保管庫で再度見るときにも楽だし。
GJとしか言いようがない
個人的にはまとめてきた方が読みやすくて良いけどな
ちゃんと新スレ立つまで待ってたんだし
>>109 今回どこで分割できるん?
スレなんていくらでも立てられるんだし職人さんの好きにして貰えばいいじゃん
ところどころキャラ崩壊が酷いけどこれはこれでGJ
ストーリーもおもしろいし、設定も細かくまとめてあるし、
会話の内容もわかりやすかったし、もう、GJとしかいいようがない。ヤバス!
まあ、ひとつ意見、っつーか、要望?を言わせてもらうと、
亜美のセリフの語尾を、もっと亜美っぽくしてほしい。
「〜だからさ」とか、ちょっと鶴屋さんを連想しちまったもんでww
抽象的ですいません^^:
>ヤバス!
>ちょっと鶴屋さんを連想しちまったもんでww
>^^:
116 :
if story:2008/12/15(月) 22:57:20 ID:87pdWqJ+
7巻ラストのif story 〜もしも竜児が大河の叫びを聞いていたら〜
竜児は思わず立ち止まった。誰かが、自分の名前を呼んだ気がしたからだ。
「・・・・?」
気のせいだろうか。振り返った道はただ暗いだけで、誰も居ない。竜児は止めた足を再び動かそうとする。
が―
凍て付くように冷たい空気を震わせて、小さく、しかしはっきりと聞こえたのはやはり自分の名前を呼ぶ声。そして、その声の主は―
「大河・・・?」
確かにあの声は大河だった。先ほど、自分を追い出すかのように送り出してくれた声とはまるで違う、それは助けを求めるかのような・・・、そんな声。
竜児は少し迷ったが、すぐに体を翻すと元来た道を戻っていく。大河が自分を呼ぶときは、いつも彼女がドジをやらかした時だった。いつだって、そうだった。あんなに大きな声を出すとは、これまでにない事をしでかしたのだろう。そう確信しながら、竜児は元来た道を急ぐ。
「・・・おうっ?」
曲がり角で、人とぶつかってしまった。幸い自分はクマの気ぐるみを着ていたので、衝撃は小さかったのだが、相手は転んでしまった。
「すすすす、すいません大丈夫ですか?」
竜児は手を差し出すが、相手は見ておびえる様な目をして・・・・、
「くし・・・えだ?」
「高須・・・くん?」
櫛枝実乃梨その人だった。今から想いを伝えに行こうと思っていた人が、学校にいるはずの人が、何故か目の前にいる。
思わず、頭の中が真っ白になる。痺れたかのように、何も言えなくなる。
「高須くん・・・、ちょっと言いたいコトがあるんだけど、いいかな・・・」
暫く続いた奇妙な沈黙を破ったのは、実乃梨のほうだった。
「あ、ああ」
「高須くんは、覚えてるかな。ほら、夏休みにあーみんの別荘で、幽霊がどうの、UFOがどうの、話したよね」
実乃梨が唐突に話し出したその先は、竜児には予想できなかった。
確かに、そんな話をした。実乃梨は恋愛を幽霊に例えいてた。
そして、見える人には見えるのに、自分には見えたことすらない。
だから、竜児は実乃梨に幽霊を見せたいと思った。
だが、ここでそれを言って何の意味があるのだろう。
「私ね、少し前まで、幽霊が見えてたの。でも、それに見とれていて、躓いたんだ。
自分は見とれているつもりがなかったのに、気づいたら目に入るのは幽霊。
目の前にあった段差に、気づかないで・・・・。今までずっとひたすら歩いてきたのに、
躓いたことがものすごく悔しかった。だから、私は決めた。幽霊は、見ない。UFOも見ない。
ひたすらに、歩いていくんだって。」
竜児は、混乱していた。櫛枝が見えた幽霊とは誰なのであろうか、何故躓いたのか、
そして、幽霊はもう見ないといっている。
何故?そんな疑問が、生まれては消えていった。
「幽霊ってのは、実は高須くんだったんだ。でも、自分でも気がつかない内に私は高須君
のことばかり考えていて、試合じゃミスるし、せっかくみんなが作ったツリーも壊しちゃうし・・・。
だから、決めたの。私はもうブレない。夢を、夢を絶対にかなえるんだって」
「・・・・」
「ごめんね・・・。勝手なこと言っちゃって。高須くんが、私を好きだったのは、なんとなく気づいてた。
でも・・・、でも高須くんは本当は誰が好きなの?」
それは自分が言ったじゃないか。櫛枝、おまえだよ。そう言おうとする。
しかし実乃梨はそれを遮るかのように再び話し出した。
「高須くん、なんだか最近、大河が北村くんと仲良さげにしているといつも面白くなさそうだった。
高須くんは、心の奥では本当は大河が好きなんだよ。」
竜児は、自分の記憶を反芻するように思い出す。
確かに、自分は北村と大河が仲良さげに話している所を見ると不思議な、落ち着かないような気分になった。
だが、それは・・・
「いや・・・・。違う。俺はただ今までずっと大河と一緒にいたのが終わりそうで、それが寂しく・・・」
「一緒に居られないのが寂しいのに、好きじゃないってどうゆうコト?」
竜児の声にかぶさるかのように、再び実乃梨は話し出す。
「高須くん、大河と居るといつも楽しそうだった。大河だって。
大河が私以外にあんな楽しそうにするなんて、今までになかったんだよ。
私に見せたことの無いような顔も、高須くんには見せてた・・・・。
大河、さっき泣いてた。高須くんの名前呼びながら。
大河だって、本当は高須くんが好きなんだよ。やっと、正直になった。
高須くんは・・・まだ正直になれてない。
一緒に居られないのが寂しいって、それは好きだっていう事なんだよ!」
自分は・・・大河が好きだったのか?
なんか読み辛いですね。次から気をつけます。
今日はちょっとここまでがギリギリなんで続きは明日から。
>>561 いくら童貞だからって男相手に突っ込むのは関心できない
アニメ本スレと間違えたぜ
兎にも角にも長編GJ
こちらを出した方がキリが良いかなとおもって続き。これで今日は最後です。
その続きは明日で。
心の中で強く否定する。
しかし、一度生まれてしまった疑惑は加速度的に膨らんでいく。
「色々言っちゃって、ごめんなさい。私は、帰るね・・・・」
実乃梨は、呆然と立ち尽くす竜児の脇を小走りに駆け抜けていく。
竜児は暫く立ち尽くしていた。ひたすら、自分の中で1つの答えを見出そうと。
たまに通りがかる人は、街頭にその凶悪な面を照らされた1人の男におびえ、道の端を歩いていく。
だが、彼はそれに気づいた様子もない。
そして、10分ほどが経った頃だろうか、竜児は何か決意したかのような力強い足取りで道を歩いていく。
行き先は―、大河の住む家。
唯一つ「答え」を携えて。
修正
街頭にその凶悪な面を照らされた
→街灯ね。収録する時はよろしくお願いします。
GJGJ
どんな全面戦争が始まるか楽しみだぜ
アニメ版の真endですね。わかります
>>104 どうでもいいけど法学部で弁理士っておかしくね?
理系の院卒が時代の潮流を必死に勉強してやっと受かる試験なんだが。
弁理士は特許を扱う仕事だからな
行政書士か司法書士と間違えてるのでは
理学部で弁理士とるやつは比較的多いみたい
最近まで便利士だとおもってたw
>>104 今回も乙です。相変わらず素晴らしいあみドラマですね
亜美と高須がお互いに思い合って成長してるのがすごく好きです
そして能登の転落ぶりにワロタ…救いはあるようでよかったけとw
続編(前に書いてた「横浜紀行」ですか?)楽しみにしてます〜
>>104 亜美の描写が抜群に上手いな
面白かったぜ!GJ
>>104 亜美どら、イイなあ
すごくイイ
ダダ甘デート編も楽しみにしてるんだぜ
もちろん嬉し恥ずかし初エッチ編もな!
みんなGJ
>>121 GJ
ここからのifは見たかったから楽しみだ
暗く、そして静まり返った、広い家の中。大河はソファに沈んでいた。
その目は未だに赤い。今にも泣き出しそうな自分の目を、大河は必死に抑えているのだ。
一人で生きていく。竜児には頼らずに。
そう決意はしてみたものの、それは容易い事ではない。
竜児と出会って8ヶ月。大河は彼に全てを任せていた。料理、洗濯、掃除、毎日の弁当、毎朝起こしてもらったこと・・・・。
こうして竜児が去った今、大河は初めて竜児の力の大きさを思い知った。
でも、それはもう遅い。明日からはまた、起伏のない退屈な日々に戻るのだ。
当然の代償だった。今年はサンタさんが来てくれた。そして、その代価として竜児を失う。
あまりに辛い現実に、思わず涙がこぼれる。
「・・・っ」
泣き出しそうになるのを抑えるために唇をきつく噛み締める。
「はぁ・・・」
ため息と共に、重い体を起こす。何か食べれば気持ちも紛らわせると思ったからだ。
確か、冷凍チャーハンがあるはずだった。
ぺたぺたと足音を静まり返った部屋に響かせ、大河は冷蔵庫に向かう。
竜児と出会って以来、一度も開けていない冷蔵庫。
無機質な、その扉を開ける。
「・・・・うそ」
黄色い光が照らし出す、狭い空間。そこにはチャーハンはおろか、何も残っていなかった。
竜児が、恐らく掃除の時に捨てたのだろう。
「竜児・・・っ」
再び泣き出した大河を、止める者はだれいなかった。
恐ろしいほどに静まり返った部屋の中、泣き声だけが響く。
一人で生きていくって決めたのに。
竜児には頼らないと、決めたのに。
でも、でも、やっぱり竜児が・・・、竜児が必要だった。
ぽっかりと開いた心の穴を埋めてくれたのは、竜児だけだったから。
「竜児っ・・・、りゅ・・うじ・・・。うっ・・・うっ・・・」
フローリングに、涙がたまっていく。
竜児は大河の家のドアの前で立ち止まった。
クマの着ぐるみはもう脱ぎ、普段着に着替えていた。
汗をシャワーで流したかったが、そんなことは言ってられない。
大河が、自分の名前を呼んで泣いている。
それだけ。たったそれだけの事が、シャワーを浴びることよりも優先すべきことなのだ。
本当なら、着替える時間も惜しかった。
でも、サンタクロースとして、ではなく、「高須竜児」として大河の前に出るのならクマの着ぐるみは不要だ。
むしろ、邪魔だ。
しかし、竜児はドアを目の前にして突っ立っていた。あと一歩が踏み出せないでいる。
この答えは、果たして正しいのだろうか。
櫛枝に指摘され、たかが10分そこらで出したその答えは。
その時、大河の声が、泣き声が聞こえた。
「大河・・・」
竜児の心は完全にまとまった。こうして、はっきりと大河の泣き声を聞くことで初めて分かった。
大河が辛い時は、自分も辛いこと。
大河が落ち込んでいるときには、慰めてやりたくなること。
大河が泣いているなら、笑わせてあげたい。
大河と共に、笑っていたい。
大河を・・・離したくない。
竜児は、今、答えを掴んだ。
それは、他人から言われて気づいた答えではない。
自分で見つける、真の答えだ。
何故今まで気づかなかったのだろう。
こんな簡単なことなのに。
竜児は、ドアをゆっくりと開けた。
ドアを開けると何故か大河が立っていた。
まるで天使のような笑顔で両手で孤を描くように指先指先を合わせようとしている。
竜二は両手を胸の前で組み、目を瞑り、ただ必死に祈っていた。何故かはわからない。
そうしなければならない気がしたからだ。
「あぁ・・・俺は今まで間違い続けたたかもしれない・・・でもこの選択は間違ってないんだ!頼む・・・」
何も起こらない?竜二は恐る恐る目を開けた
その時、竜二は見た。目の前一面にキラキラした物が舞っていた。
そして
大河が笑顔で涙を流しながら
両手で大きな丸を作っていた
完
マテ
137さんGJ。てか、続くのかな?
139は違うよね?
すまん・・・待ちきれなくてワルノリしてしまった。
そ、早く続きを・・・
とりあえず2人をケンカさせなけりゃならんので、苦労してます。
しばしお待ちを。
考えながら投稿するなよwww
次からはある程度書き上げてからな。
驚いたww
144>幸せな竜虎を期待しているので、がんばってー。
147 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/16(火) 23:28:29 ID:oFDRZfXK
SL氏GJ
書きながら投稿したら他に投稿したい人とかに迷惑だぞ
まとめて投下してくれ
せっかく面白いのにもったいない
さあこれで最後の2レス!
ガチャリ・・・・
重い扉が開く音に、大河は見えない玄関の方向を振り返る。
薄暗い照明が、灯される。
誰・・・?
涙目を、つり上げて警戒する。
玄関から続く廊下から現れたのは、竜児だった。
「大河・・・?」
竜児が呼びかけてくる。
大河は目と耳を疑う。竜児はここにいるはずがないから。
みのりんに、告白して、結ばれているはずだから。
サンタさんが来た以上、竜児が来るわけ無いから。
しかし、その姿は決して幻ではなかった。
「竜児・・・?」
何で、ここにいるの?
「・・・」
今まで見たことが無いほど真剣な目をした竜児と視線が合う。
しばらくその状態が続き、
「大河・・・。言いたいことが・・・」
竜児は口を開いた。答えを、大河に手渡すために。
しかし、大河はそれを拒絶した。
嬉しいのに、本当は竜児に飛びつきたいのに。
でも、大河は拒否した。
「あんた、なんでここにいるのよ!」
心にもない言葉を、竜児に言ってしまう。
「なんでって、そりゃお前が心配で戻ってきたんだよ!俺の名前呼んで、お前が泣いてる。
それを放っとける訳無いだろ!」
大河の顔が赤くなる。竜児は、自分の叫びを聞いてくれていた。それを必死で隠そうとする。
「はぁ?空耳じゃないの?ってかみのりんはどうしたのよ!あんたみのりんの所にいったんでしょ?
告白・・・したん・・でしょ!」
「もういいだろ!櫛枝のことは。さっき、あいつに会ったんだ!あいつは俺に教えてくれた!
お前が、俺の名前呼びながら号泣してた。お前が、俺を好きだって・・・」
最後は、もはや聞き取れなかった。恥ずかしさで、声が小さくなってしまったからだ。
「あんた・・・ふざけないで!私が何のためにあんたを送り出したと思ってんの?」
さっさとみのりんを追って、告白してこい。
大河はそう言った。
「サンタさんも来てくれた!もう私は十分なの!もうこれ以上何か望むことは許されないの!」
大河は、間違っている。竜児はそれを分からせてあげたい。そう思った。
「何を・・・何を言ってんだ!さっきも、泣いてたのに。俺の名前を呼んで。
さっき、お前の泣き声を聞いて分かったんだ!俺が本当に好きなのは櫛枝じゃなくて、おま・・・」
その言葉は続けられなかった。
両手両足をめちゃくちゃに振り回しながら、大河が体当たりをかましてきたから。
「言わないで!みのりんの所に行って!あんたの恋を私は本当に応援してるんだから!
あんたにはもう十分過ぎるほどいろんなものをもらっちゃったから・・・だから、お返ししなきゃいけない。
いいから行って・・・行けっ!」
竜児は、めちゃくちゃに暴れる大河を必死で抱きしめる。抵抗されても、殴られても、離さない。
「知るか!俺は、お前が泣いてるの見ると辛いんだよ!いつも笑ってて欲しいんだよ!お前と、一緒に笑ってたいんだ!」
言っちまった・・・。竜児は思わず自分に驚く。正直、こんなにすらすら言えるとは思っていなかったのだ。
「・・・・っ」
大河は、もう耐え切れなかった。
今まで抑えていた感情が全て爆発したかのように、大声で竜児に泣きつく。
竜児は、こんな自分を受けて入れてくれる。絶対に見捨てないでくれる。
竜児の大きく、やさしい腕がそう教えてくれる。
「竜児・・・」
「おう・・・」
「どうして・・・、いい子に出来なかった私の側にいてくれるの・・・?」
決まってるじゃないか。俺はお前が・・・・
「お前が、好きだからだ。やっと気づいた。遅くて、ごめん。俺が好きなのはお前なんだ。」
大河は、子猫がするみたいに竜児の胸に顔をこすりつける。
「ねぇ、ずっと・・・側に居てくれる?」
「おう」
離れるものか。この、乱暴で、傍若無人で、そしてドジで、繊細な手乗りタイガーを。
「絶対に、裏切らないって約束してくれる?」
「おう」
裏切るものか。絶対に。
竜児は、大河を抱きしめる腕に力をこめる。
その時、
ぐうぅ〜
・・・。
「お前の腹の音か?」
「うん・・・へへ、ちょっとおなかすいちゃった」
そうか・・・。思わず笑ってしまう。
「何食べたい?何でも作ってやる。」
「チャーハン!」
元気よく、大河は言う。今まで見たことがない光を、瞳に宿しながら。
「なんだってこん時にチャーハンなんざ・・・。もっと別な・・・」
ビンタを頬に喰らう。
「いいから!チャーハン食べたいの!あんた私に忠誠尽くすって言ったでしょ?ほら、さっさと作りなさい!」
にやりと、笑いながら。
まったく。今更変わらないか。ずっと馴れ合ってきたもんな。
「よし、じゃあ家に来い。すぐに作ってやる。」
大河は、嬉しそうに廊下へと走っていく。
「あっ!大河待てっ、スカートの裾が破れてる。着替えてこい。後で直しといてやるから。」
えー、と大河は言ったものの、素直に着替えて再登場した。左腕にブラックドレスを抱えて。
大河の家から、竜児の家までの短い距離、2人は何も話さなかった。
話さなくても、伝わるから。
言いたいことは、お互い全部言ったから。
もう、何も心配することは無いから。
***
「たらいま〜。りゅうちゃーん、おみゆ〜・・・、あれれ?」
12月25日。午前3時半。仕事から帰った泰子は自宅であるものを見つけた。
それは、幸せそうに寄り添い、手を握り合い、壁に寄りかかって眠る竜児と大河。
「へへへ〜そっかぁ、りゅうちゃん・・・」
泰子は、全てを理解し、微笑む。そして、やさしく毛布を掛けてやる。
end
149>GJ×10!
こう言う幸せな虎が読みたかった。
>>150 GJ!!!
いいねぇこういう二人がいいよ
>>150 GJ
おいおい俺の中で6皿目1番が決まったぜ
>>150 超GJ!
これは素晴らしい…
こういうのが読みたかったので大満足です
やっぱりは竜虎は良いのう
うぉ、凄い良作が…作者さんGJです!あみも大河も可愛いですねー。
では、自分も独身続きを投下したいと思います。長く間が空いてしまって申し訳ありません。
「……はっ」
竜児が我に返った時、その手にはしゃもじと客用茶碗。向かいに座っているゆりに、ご飯をよそっていた。
ゆりが座っているテーブルの上には、魚、味噌汁、サラダ。ほぼ和食で固められており、
大河がいないため久々の肉抜き夕飯だった。
「ごめんね高須くん。お味噌汁に、ご飯まで盛ってもらっちゃって」
向かいに座ったゆりが、両手で茶碗を受けとる。
そうすると、自然と胸部を左右から圧迫する形になり、それは竜児の視界に飛び込んできた。
大きめのシャツといっても所詮は男用。
胸回りにあまり余裕がなく、張ったシャツに何かの模様が浮かび上がる。
その模様を、ついさっき脱衣所で見たものだった気付いた竜児は、即座に顔を背けた。
「…?どうしたの、高須くん。今日は少し落ち着かない様子だけど」
お前のせいだ!と目で訴えるが、普段の竜児の目付きに慣れているゆりには少しも伝わらなかった。
(おかしい…なんだ、さっきから起こる、この微妙な心揺さぶる青春フラグは。
まさか、独身は狙ってやってるのか!)
不自然な竜児の態度に首を傾げたが、しかしゆりの意識は既に料理の方に向いていた。
チラチラとテーブルの上に目を送り、気のせいか目が爛々と輝いているようにも見える
「…先に食べていいですよ」
「え!い、いえいえ、高須くんを差し置いて、先生だけ先に食べるなんてできません。
ほら、やっぱりご飯は皆手を合わせて、『いただきまーす』の合図で――」
ぐぅ〜、と低い音が狭い部屋に響く。色気も何もないその音は、ゆりの腹部から発せられた。
ゆりは罰が悪そうに「ふ、ふへへ」と笑った。
それを見て、竜児の変な緊張も無くなり、苦笑しながら立ち上がった。
「いいから、食べてください。俺も、準備が出来たらすぐ食べますから」
竜児は自分の分の味噌汁を取りに、台所に向かった。
「そ、そう?ごめんね、高須くん。先生、あのお店で食べるつもりだったから、あんまりお昼食べてなくて」
腹が鳴った理由を説明しつつ、ゆりは箸をしっかり持ち味噌汁を持つ。
ゆっくりお椀を傾け、口の中に味噌汁を運んだ。
「…なにこれ、凄い美味しい」
その呟きが聞こえ、竜児はニヤリと口元を歪ませた。
味噌汁に毒が仕込まれていて、何の疑いもなく飲んだゆりに対して愚かだと笑っているわけではない。
自分の料理に対し、久々に「美味しい」という言葉が聞けて嬉しいのだ。
大河の場合、特に感想も言わず勢いよく食べていく。
泰子の場合、何を作っても「さすが竜ちゃん。いつもおいしー」しか言わない。
それはそれで嬉しいのだが、やっぱり作り手としてはもう少しリアクションがほしかった。
上機嫌で自分の味噌汁を持って、テーブルに着いた。
「魚も絶妙な焼き加減で、ご飯もふっくら!
高須くんが家事が得意なのは知っていましたけど、まさかここまで…」
「料理とか掃除とか、昔からやってましたから。
初めはめんどくさかったんですけど、やってる内にこだわりとか出てきて。
気付いたら、家事が趣味みたいになってました」
感心したように、ゆりはへぇ、と頷く。
「そういえば、教室の掃除の時も、不思議な棒みたいの持ってたわね」
「あれは高須棒といって、非常に万能な掃除道具で――」
『高須竜児の楽しい家事講座』が始まり、竜児は生き生きとした様子で知識を披露し始めた。
そんな竜児を見て、ゆりは無意識に微笑んでいた。
ゆりが初めて竜児を見た時、やはり怖かった。
生徒や教師の間でも様々な噂が飛び交っていたし、竜児自身それについて諦めていたのか、
否定するような素振りも見せなかった。
まして、一年の副担任になるとは思わず、その時は何度も上長に確認をしたほどだった。
しかし、いざ高須竜児という生徒を受け持ってみれば、遅刻はせず、授業態度も良し。
成績は優秀で、掃除に関しては誰よりも熱心に取り組む。
ともあれば、他人の仕事を奪う程だった。
二年の担任になり、クラス名簿に竜児の名前があったときは、すこしだけ嬉しかった記憶がある。
同僚には「可哀想に」という目で見られていたが、ゆりは全く気にしなかった。
ゆりは一度、竜児とはゆっくりと話をしてみたいと思っていた。
ただ、唯一の母親が夜の仕事をしており、普段は竜児が家事をしていると知った。
その竜児をわざわざ引き留めるのも気が引け、なんともなく機会がやってくることはなかった。
だが、竜児に対するイメージは早い段階で払拭され、無意味に怯える様なことはなくなった。
竜児自身、ゆりのような教師は初めてだった。
小学生の頃は意味もなく呼び出され、何が不満なのかと何度も問いただされた。
中学になると逆に呼ばれなくなり、触らぬ高須に祟りなし状態だった。
高校に至っては、さすまたを使われそうになったくらいだ。
副担任は女の先生と聞いたとき、まず関わり合いはないだろうと踏んでいた。
担任ですら、あれなのだ。
しかし、予想は裏切られた。
恋ヶ窪ゆりという教師は、他の生徒と全く変わらない態度で竜児と向き合ってくれた。
ちょっとした雑用を頼まれたこともある。それだけで、竜児にとっては驚嘆すべきことだった。
一年の頃、竜児が早くクラスに馴染めたのは、生徒から親しまれているゆりのおかげでもあった。
生徒と教師であり、歳は十以上離れている二人だが、会話が途切れることはなかった。
主にゆりが聞き手となり、竜児が話し手になっていた。
聞き手側が多かった竜児は、今までの分を消化するように話が止まらなかった。
「あら、もうこんな時間になってたのね」
ふと、ゆりが腕時計に目を落とし、針が八時近くを指していた。
「うおっ、全然気付かなかった…すいません、何か俺ばっかり話してたみたいで」
「むしろ、高須くんから色々教えてもらえて、先生にとって貴重な時間でした。
だけど、そろそろお暇しないとね。えっと、スーツはどこにあるかしら?」
竜児はゆりに乾かしたスーツを渡し、着替えるために泰子の部屋を貸し出した。
テーブルの上を布巾で拭いている最中、襖の向こうから衣擦れの音が聞こえた。
竜児の喉が鳴り、しかし勢いよく顔を横に振った。
もしかして俺って相当エロなんじゃ、と若干自己嫌悪に陥る。
「高須くんは、きっと良い旦那さんになれますね。
気が利くし、家事も出来て、何より正直ですから」
突然襖越しに話しかけられ、思わず手を止める。
誉められて嬉しいが、ゆりの様子がどうにもおかしい気がした。
その竜児の気負いは、間違いではなかった。
「それに比べて、先生は駄目ね。最近は料理しないでファミレスとか、出来合のものばっかり。
友達がどんどん結婚していく中、一人独身のまま…三十路過ぎちゃったし、このままずっと独身かしら?
いえ、独身なんて名前じゃ生温いわ。独臣?それとも独神?う、うふ、うふふー」
襖の向こうで不気味に笑うゆりに呼応して、今まで静かだったインコちゃんがバタバタと騒ぎ始めた。
何を血迷ったのか、「ドドド、ドドド、ドドドド独身!」とリズミカルに歌いだす。
ええい、何故こんな時に限ってインコとしての能力を発揮するのか!
こんなのを聞いたら、独身の暴走がエスカレートしてしまう!
「せ、先生だって、優しいし面倒見が良いし可愛いですから、すぐに良い人が見つかります!
今まで回りの見る目が無かったんです、きっと!俺なら…!」
とっさに出た言葉は、そこで止まった。励ます為でも、これ以上はまずい。言えない。
「俺なら…なに?高須くん…?」
妙に艶っぽいゆりの声色に、竜児は少し体を固くする。
「え、えっと…続きは…あー…」
竜児がしどろもどろしていると、ふふ、と小さな笑い声が聞こえた。
からかわれたことに気付いた竜児は、顔が熱くなるのを感じた。
と同時に、川嶋以外に、それもまさか担任にからかわれるとは思わず、脱力してしまった。
はぁ、と深い溜め息が漏れる。
「高須くんは、本当に正直ね。でも…高須くん」
襖が開いた時、普段は気付かない仄かな匂いが竜児の鼻孔をくすぐり、
「ありがとう」
少しはにかんだようなゆりの笑顔は、初めて実乃梨と会話をした時のように、竜児の動悸を強くした
その日の夜――
「……?」
「ん?どうしたんだ、大河」
「…別に、何でもないわよ」
実乃梨と別れた大河は、いつものように高須家に上がり込み、茶の間に寝転んでいた。
竜児は妙に気が抜けた様子で、大河の向かいに座っていた。
何か違和感を感じる。それが匂いだと気付いたのは、少ししてからだった。
始めは、泰子が新しい香水を買っただと思った。しかし、大河は首を捻る。
―この匂い、知ってる。気がする。
大河がその正体にもやもやしている時、思わぬところから答えが明かされた。
「ど、どく、独神!可愛い、かわ、イイッ!
俺は!俺、はー!ウッ」
大河の時が止まった。
ああ、そうだ。あの憐れな独身が、身体中から振り撒いてる悪臭だったのね。
なぜ、それが、ここでも、するの、かしら?
あの馬鹿インコの言葉。どういう意味かしら?可愛い?あの三十路が?誰が言ったの?
凶悪なまでに吊り上がっていく両の眼が、現在この部屋に同席している者へと向けられる。
しかし、彼はそんな視線にすら気付かず、大河が来てから何度目かの小さな溜め息。そして、
「年上、かぁ…」
数秒後、高須家の家賃はまた少しだけ上がることになった。
終わる
以上です。
お待たせした挙句、こんなで申し訳ありません。
次はもっとしっかりとした描写を目指したいと思います。
失礼しました。
インコちゃんwwwww
GJ!
>>164 竜児側にフラグが立って終わりとは・・・!
“次”に期待してるぜGJ!
待ってました!
竜児もゆりもインコちゃんの間の良さも凄く特徴とらえてて最高!
二人とも原作で1・2を争う常識人だからこれ以上の進展は難しそうだけど次も期待してます
>>150 ベリーGJ!
続きが気になって寝起きに覗いたんだが、来て良かったぜ
やっぱチャーハンだよな!
>>164 GJ!
やはり独神は良い女だと思うw
そしてヤキモチ大河にも萌えたw
独身テラカワユス
if storyの後日談的モノ。衝撃の展開!
後日談 〜竜児・・・?〜
7月2日。午後5時。
大河は不機嫌だった。
理由は大したことではない。でも、どうしても気に入らなかった。
それは昼休みのことだった。
竜児がクラスの女子と2人で勉強をしていたのだ。
傍から見れば、ただ単に竜児に1人女子が数学の質問をしていたに過ぎない。
でも、それがどうしても気に入らなかったのだ。竜児の隣は大河の場所だから。
竜児と大河は3年生になっていた。2とも理系選抜クラスへと進級。
竜児をからかうバカチワワもいない。竜児は大河の彼氏になっていた。
期末試験を控えた7月頭、選抜クラスでなお成績優秀な竜児の側にはちらほらと質問をする者がみられた。
殆どは男子だったから良い。でも、そいつは女子だった。
名前は松野梓。成績は下の上だが、性格も明るく、顔もなかなかの美人で男子達に人気があった。
そいつに、竜児は少し笑顔を見せていた。どうでも良いことに大河は嫉妬していたのだ。
沈み行く太陽のオレンジ色の光を浴びる下校途中の道。
凶悪顔な男子高校生と、少し先を足早に歩く小柄な女子高生がいた。
「なぁ大河、何むくれてんだよ」
当然の疑問を竜児は口にする。
そりゃそうだ。HRが終わって、一緒に帰ろうと言ったら何も言わずに教室を出て行ったのだ。
そして、何か話し掛けても「なんでもない」だけしか言わず、今にいたる。
「しつこいなぁ。だから何でもないって言ってるでしょ!」
何回目だろうか。不毛な争いに嫌気が刺した竜児は、大河の肩を掴もうとする。
が・・・
「ちょっ、触んじゃないわよこの変態!いくら彼氏だからって調子に乗らないで!」
と言い、走り去る。
竜児はすかさず追いかける。
「!」
大河を追って、少し大きな交差点に出た竜児の目に衝撃的なシーンが飛び込んできた。
竜児から逃れようと、走る大河。その先の、まだ赤い歩行者信号。
その手前側車道の少し右には、中型のトラックが。
大河は―気づいていない。
「大河、あぶねぇ!」
竜児は走りながら叫ぶが、声はかすれていて、大河に届かない。
竜児は必死に大河の肩を捕まえ、後ろに引きずり飛ばす。
勢いあまって、自分が車道に出てしまう。
時間が急にゆっくりになった。
自分へと迫るトラックから逃れようと必死に体を動かす。
足が意志についていかない。顔が恐怖に歪む。トラックの運転手が、顔を引きつらせるのが見えた。その顔が、近づいてくる。
トラックが、自分にぶつかるのを感じた瞬間、竜児は暗闇の中へと落ちていった。
「いったぁい・・・・」
塀にぶつかった大河はうめいた。そして、
「なにすんの!」
と怒鳴りながら、竜児を睨み付
「え・・・?」
いない。
「え・・・竜児・・・?」
顔をゆっくりと回す。
竜児はどこ?
その答えはすぐにみつかった。
大河の左手10メートルほど先の車道に、1人の男が倒れていた。
見覚えのある、しかし変わり果てたその姿に、大河は息を呑む。
流れ出る血が、車道を赤く染めていた。
「・・・・・・え・・・・?」
大河は音も無く膝から崩れ落ち、
「うそでしょ・・・・」
地面に手をつき、
「・・・ぃゃ」
小さい声を漏らす。そして、
「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
悲痛な声が、町中に響いた。
大河は救急車の中で本心状態となっていた。
救急車とパトカーが駆けつけ、辺りを封鎖しても、大河は座り込んでいた。
そして、竜児が救急車に担ぎこまれたとき、大河は立ち上がり何も考えてはいなかった頭で、
「この人の彼女です!乗せてください!」
と叫び、救急車に同乗した。
大河は自分を責める。
つまらないことで私が嫉妬したから。
必死で捕まえようとしてくれた手を振り払い、逃げたから。
絶対に離さないと誓ってくれた手を、自分から振り払ったから。
どうしようもない罪悪感と怒りが、大河を突き刺す。
目の前の竜児は目も当てられない状況だった。
頭から血を流し、Yシャツを汚している。
心電図をとるためにシャツが開かれた胸も、どす黒く染まっている。
腹には裂傷。右足と右腕を複雑骨折。
この惨状の中、脊椎が無傷なのはもはや奇跡に近かった。
しかし、心音は小さく、頼りない。
その光景さえ、大河には見えていない。
学校近くの、河原沿いの大きな救急病院についた時、竜児の心音は途切れ途切れになっていた。
担ぎ出され、救急治療室へと運ばれる竜児を大河は追う。
「ごめんね、ごめんね!竜児、ねぇ竜児ってば!返事・・・してよっ!」
大河は治療室前に取り残される。力なく、椅子に腰を落とす。
目からは涙が滝のようにあふれていた。
***
しばらくして、泰子もやってきた。目を赤く腫らして。
大河から連絡先を聞いた病院から連絡を受けたのだろう。
お互い、何も言わないまま、時間は過ぎていく。
暫くして、大河は口を開いた。
「やっちゃん・・・、ごめんね。私が悪いの・・・。
竜児が、他の女の子に笑ったのが許せなくて、竜児が追いかけてくるのも無視して走ったの。
そしたら、私がトラックにぶつかりそうになったのを竜児が・・・・」
その後は泣き声にかき消されて声にならない。
「大河ちゃん・・・」
泰子は大河をやさしく抱きしめる。
「いいの・・・。りゅうちゃんは、優しいから。だから、大河ちゃんを救えて・・・幸せだったんじゃないかな・・・」
大河は泣き止まない。
何時間経ったのだろう。大河の涙も涸れてきた頃・・・
治療室の入り口のランプフッと消え、ドアが静かに開く。
「先生・・・、竜児は、彼はどうなんですか?!」
「りゅうちゃん・・・息子は?」
2人は同時に、出てきた執刀医に質問する。
「ご安心ください。手術は成功しました。」
その言葉に、2人は安堵する。
医師は言葉を続ける
「しかし、油断をゆるさない状況です。脳に深刻なダメージを負っています。この状態になって、
生還する確率は80%ですが、その後意識を取り戻すケースは1000人に1人と言われています。」
2人は愕然とした。
じゃあ・・・
「息子さんが、意識を取り戻すことは考えづらいと思われます」
申し訳なさそうに医師は言う。
その後ろから、担架に乗せられて竜児が現れる。
「竜児・・・っ」
「りゅうちゃん・・・」
2人は見た。
頭、腹、腕、足に包帯を巻かれ、あちこちにチューブを繋がれ、もはや誰とも分からぬその姿を。
「ICUに入棟していただきます」
医師の言葉が、事実を淡々と告げる。
***
時は過ぎ、今は10月24日。
竜児は8月21日に一般病棟へと移っていた。
傷も癒え、自発呼吸も可能となっていた。
しかし、意識は未だに戻らない。
その側には、いつも泰子か大河がいた。
大河が学校の間は泰子が。
泰子が仕事に行っても大河が。
大河が家に帰ると、仕事から戻ってきた泰子が。
「竜児・・・、もうすぐ付き合ってから一年だね・・・。私、寂しいよ・・・っ。
ねぇ、起きてよ。起きてよ竜児っ・・・」
「りゅうちゃんはぁ・・・、やっちゃんから超能力受け継いでるから大丈夫だよ・・・。
早く、早くそれを使って戻ってきなよ」
毎日、2人は竜児に話し掛ける。
いつも不良顔の男の側に居る大河のことをナース達は邪推していた。
―ヤンキーの彼女―
ナースステーションを通るたび、ひそひそと交わされる非情な言葉を大河は無視していた。
大河はあれ以来、少しだが高須家の家事を手伝っている。料理も少しなら出来る様になった。
でも、顔に笑顔は戻っていない。
***
富家幸太はむしゃくしゃしていた。
2学期の中間テストの数学で、思いもよらないミスをしてしまった。原因は寝不足。
前日、寝る直前に試験範囲の一部をやっていないことに気がついた幸太は慌てて勉強を始めた。
朝4時半までかけてその難解な範囲を理解し、朝7時まで眠ることにしたのだ。
いやな予感が的中した。試験問題のうち、7割がその範囲からの出題だった。
当然、出来は最悪。
「ああっクソっ!」
足元の石を蹴りつけるが、意味など無い。
そして、やはり幸太は黒猫男だったのだ。
その石は、竜児が入院している2階の病室の窓ガラスを貫通したのだ。
***
夢を、見ていた
暗くなった自宅の階段を上り、家のドアを開ける。いつもの光景だ。
何かが違う気がした。
そう、いつもなら大河が後ろについてきている。
その彼女がいない。
「・・・大河?」
そのとき、
「竜児、入るよ〜」
明るい、愛しい彼女の声が聞こえる。
竜児はドアを開く。
***
大河は学校から帰ると、いつも真っ先に竜児の病室へと向かう。
そして、いつものナース達の冷ややかな目線と噂を無視して病室の前に立つ。
そして、精一杯明るい声で
「竜児、入るよ〜」
と言うのだ。
ドアを開ける。その先に待っていたのは・・・・。
ピーッ ピーッ ピーッ ピーッ
心音停止を告げる、乾いた電子音。
蹴った石が病院の2階に届くとはw
手で狙って投げても難しい距離だろww
そもそも大きな緊急病院なんだから敷地面積はそれなりあるだろうし
河原から蹴っても届かないだろ
敷地に侵入して窓方向に蹴ったのか?
大河はバッグを取り落とす。
竜児は目を見開いて、こちらを見ている。
でも・・・・、死んでいる。
頭が真っ白になり、竜児に飛びつく。
そして、大声で泣き出す。
「ひどい・・・っ、ひどいよっ竜児・・・っ!ねぇ、私を一人にしないって、言ったじゃん。
裏切らないって約束してくれたじゃん。ねぇ・・・ねぇ・・・うっ・・うっ」
シーツが濡れていく。
そして、あの時と同じ悲鳴が、病院を貫く
「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
***
担当医師は慌てて235号室へと向かう。
機器の異常を知らせるサインと、その部屋から悲鳴が聞こえてきたからだ。
そして、彼は見た。
長いこと意識が戻らなかった、あの不良顔の患者が起き上がり、その彼女とキスをしていた。
***
竜児は何が起きたか分からなかった。
ドアを開けたら、白い部屋が目に入った。
そして、少し離れたところに大河がいた。
その大河が、バッグを取り落とし、自分に飛び掛ってきたのだ。
そして、悲鳴をあげた。
不意のことに体か動かない。
いや、動けないのだ。何故か体のあちこちが痛くて。
何とか逃れようと、竜児は口を開いた。
「何すんだ大河!やめろ!いてぇだろ!」
大河は驚いたかのように、顔を上げる。
すかさず質問をする。山のようにあふれ出る質問を。
「今は何時だ?ここはどこだ・・・?なんで俺は寝てるんだ・・・なんでお前は泣いてんだ。何で体が痛いんだ?」
大河は答えない。その代わりに
「竜児―――!」
そう叫び、キスをしてきたのだ。
ガラっと扉が開く。
2人は慌てて離れる。
医者が混乱したかのように言う。
「あれ・・・意識を取り戻したのか。そうか・・・いや、でも機器の異常が?
君、何かおかしい所は?」
竜児は答える
「いや、無いですけど・・・。」
それよりも・・・
「何が起きたんですか?俺はなんで・・・・病院?にいるんですか」
「まあそれは後だ。後で詳しく説明する。それよりも、機器のチェックだな」
医者はそう言い、電子音を放ち続ける機器をチェックしだした。
原因はすぐに見つかった。
病室に飛び込んできた小石が、心電図をとる電極の接続をはずしていたらしいのだ。
>>176 土手に面しているので、病院の2階の窓が土手の高さよりやや上に来ている。
ていうのと、竜児の病室が丁度土手に面していた
という設定です。
簡単に言うと、河原に1階分ほどの高さの土手があり、その土手だけが回りより
高くなってるっていう設定です。
まさかリアルタイムで遭遇するとはgj
ねぇ、上の方で指摘されてるのにまだ書きながら投下してんの?
それにキャラが死んだりとかが嫌な人も居るんだから、
「衝撃の展開」とかじゃなくて断りの一つくらい入れろよ
つか投下中に設定ですとかいらねぇよ、投下し終わった後でしろよ
***
その夜、竜児が意識を取り戻したという知らせを聞いて病室には泰子と担任、さらに北村と実乃梨、川嶋亜美が集まっていた。このメンバーが集まるのは久しぶりだ。
そして、竜児は全てを知った。
自分は大河をかばってトラックにはねられたこと。
3ヶ月も、昏睡していたこと。
ひき逃げ犯は逮捕されていること。
完全に日常生活に復帰するには、4ヶ月のリハビリが必要だということ。
つまり・・・留年は免れない。
ため息をつく。
「大丈夫だよぉ〜。ほらぁ、引き逃げ犯がね、罰金として治療費と慰謝料を
払ってるからぁ、その慰謝料を学費に回せばいいんだって。それよりも本当に意識が戻ってよかったぁ。へへへ〜」
泰子が竜児にすりすりしてくるのから慌てて逃げる。
ふと、大河と目が合う。
「ごめんな・・・。色々心配かけて・・・俺・・・」
大河がその言葉を遮る。
「ううん。謝んなきゃいけないのはあたし。つまんないことで怒って、竜児の手を振り払って・・・、そのせいでこんなことになったんだから・・・。ごめんね。」
2人は笑いあう。
その2人を見つめて、残りのメンバーはニヤニヤする。
その後、大河の言動がおとなしくなったのは言うまでも無い。
END
安易に死持ち込むのはなあ
強すぎる調味料は味壊しちゃうよ
SSとしての評価は下がっちゃうよね
>>180 wordで書いて、それをこっちにコピペしてるから色々と改行の直しとかが大変で・・・。
このパソコンなんか最近重いから時間余計にかかるし。
まあ
>>181は
>>180見て慌てて投稿しちゃったから改行が・・・orz
>>183 GJ!
下らないことにぐだぐだケチつけてる子が湧いてますが気になさらずに
次回作も楽しみにしてます
死ネタ、死ぬかもネタは心の準備がしたいです。前置き頼みます
>>186 はい分かりました。
といっても今後はこーゆーネタは描かないつもりです。
思いつきませんしねw
乙だけど
前作が最高傑作と思ったら鬱ですかァーッ!!読めねえよ・・・
なら ワード → テキストエディタで直し → 書き込み開始 で時間短縮できる。
他の板なら連投規制やさるさんの回避に効果があるかもしれないが
ここはSS板で連投規制も緩いから、投下に時間あける必要が無い。
あなたが投稿を始めてから終わるまで今回で1時間以上、
ほかの人は書き込んでいいのか分からない状態になるのだから
できるだけ短く投稿できるようにしてくれるとうれしい。
読み返しもできて誤字脱字も減るし、なにより慌てなくて済むよ
死ネタは安直だなあ。
いまいちノれないし
そもそもエロくないw
んー。やっぱそうですねー。
前作が自分の中でも1位ですし。
まあこれでいまはネタ全部使っちまったんで暫くROMってます。
そのうち短編なら書くかも知れません。長編は疲れる&気を使う・・・
長々とすいませんでした。
>>183 乙 本編ハッピーENDからの突然の展開に少々驚いたけどこういうのも自分的にはいいと思いますぜ
ただ、どうでもいいことかもしれないけど突然飛び出してきた歩行者をはねて怖くなり逃げてしまった運転手が完全悪役扱いされるってのは少々かわいそうな気も
>>194 そういや竜虎に気を取られすぎて運転手のことあんまり考えてないですね・・・
「7巻ラストのif story 〜もしも竜児が大河の叫びを聞いていたら〜」
が初めての作品なんで、色々変なところとかあるかもしれませんが、
生暖かい目で見てくださいwww
あ、入院ネタって良いかも
エロくね?
198 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/17(水) 19:54:44 ID:MCRYMXlG
『TrutH』
※死ネタ注意
こんな話をきいたことがある
人はみんな、自分よりも大切な何かを探し出すために、生きている
それを見つけられた時がその人のゴールなのだ、と
午後から降り出した突然の雨に、竜児は憂鬱な気分だった。
(洗濯物、入れてくりゃよかった)
「なに呆けてんのよ、バカ犬」
頬杖をついて家の心配をする竜児に容赦ない言葉を浴びせるのは、当然逢坂大河である。
竜児「呆けてナイツ☆」
大河「That's arl right!!」
竜児の振り下ろした鉈によって大河の右手がゴトリと音をたてて床に落ちた。
傷口からは鮮やかな血がポタポタと滴っている。
一瞬の静寂
教室は悲鳴に包まれた。
大河「あれ〜?私の右手…どこ行っちゃったの…」
亜美「あなたが探してるのはこれのこと?」
実乃梨「アハハ♪大河の右手がブ〜ラブ〜ラ〜」
挑発的な声とともに現れた亜美が、乱暴に掴んだ大河の右手を目の前でブラブラさせ、それを実乃梨がからかう。
その時、机を拳でドンっと叩く音がして、三人はビクッと振り向いた。
竜児「お前たち………大河がどんな思いで、右手を失ったか分かってんのかよ…」
普段は温和な竜児は今怒りに燃えており、外見も相まって自然に亜美と実乃梨は気圧される。
松本「いや切ったのお前やろ!!」
大河「切ってナイツ☆プォンプォンスブォプォン…」
三人「アハハハハハハハハハハ」
その頃、仕事中の泰子が脳梗塞に倒れ、息を引き取った
>>194 いや、逃げた時点で同情の余地なしだろjk
人をはねて冷静になれる奴は少ないぜ
どんな事情があれ、人はねてそのまま何もせずに逃げたら犯罪者、悪者だろ。
自分が同じ状況で冷静でいられるかなんて関係なく。
「相手が悪いから」「気が動転してたから」でひき逃げやひき摺りが許されてたら
おちおち散歩も出来なくなるぞ。
そりゃ然るべき対処をして、その上で「なんでこんな事に…」とか言ってるなら同情の余地もあるが。
ちょっと前のインドみたいに、轢かれる方が悪い文化圏もあるけどな。
そういう話は別のスレでやってくれ
204 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/17(水) 20:57:29 ID:MCRYMXlG
パオーーーンwwwww
オパーーーンwwwww
>>198 最初うえ〜グローと思ったが
すまん、何故か最後ワラテしまったw
とりあえずコテつけたまま馴れ合うな
馴れ合いとsageについてはテンプレ化した方が良いかもね。
『ななどら。』の続き投下します。
注意点を少々。
奈々子→竜児の話です。
エロなしです。
時期は4巻ぐらいですが、少々原作との矛盾を感じる方もいるかもです。
苦手そうだと感じられた方はスルーでお願いします。
では、どうぞ〜!
「あ〜!ねぇ、あれってまるおじゃない?」
夏休みもすでに半分以上がすぎ、今日も麻耶と二人で遊んでいると、麻耶が突然指を指して、声をあげた。
相変わらず元気ねえ。と思いつつ、指された方向に視線をむけると、スドバでコーヒーを飲んで、真剣に話している二人組の男の子。
二人組のうち一人は、うちのクラスの委員長にして生徒会の副会長であり、また顔よし、頭よし、性格よしのハイスペックさで女子からの人気も高い、麻耶の想い人でもあるまるおくんこと北村くん。
そして、もう一人は凶悪な目つきと、それにふさわしい低い声をあわせもち、その気になれば(絶対にそんな気はおこさないけど)、学校を恐怖のどん底まで簡単に落とすことができるであろう、あたしの“メル友”高須くんだった。
「ねぇ、奈々子っ!喉もかわいたし、うちらもスドバに入らない!?」
「ええ、暑いし、そうしましょ」
魂胆が丸見えな麻耶に少し苦笑しながら、ちり〜んと略称にはあわない前時代の鈴の音をならして、あたし達もスドバに入る。
太陽は高く、天気は快晴。空は今日も青い。
「おっ、木原に香椎じゃないか!一緒に喋らないか?もちろん、お前たちさえよければだが」
おそらくは麻耶の計算通り、あたし達に気づいたまるお君が、気さくに声をかけてくれる。
「えぇ〜!?どうする〜、奈々子?」
体全体からまるおと一緒にいたいオーラをだしてるクセして、照れてるのかこんな事を言っている親友の気持ちを汲んであたしは答える。
「あら、それも楽しそうよね。あたしも一緒にお茶したいわ。いいわよね、高須くん?」
「おう。別にかまわんが」
といいながら席を立って隣のソファとテーブルをくっつけてくれる高須くんはやっぱり紳士だと思う。
あたし達はセットしてくれたソファに腰をおろす。
そのまま流れで一口カップに口をつけた。
「二人は飲み物は何にしたんだ?」
ちゃっかり、きっちり、まるお君の隣をキープした麻耶がそのまるお君に
「あたしはカフェオレで、奈々子はミルクティ」
と答えた。けれどもあたしがすぐに訂正する。
「うふふ、ロイヤルミルクティよ」
間違ってもここはゆずれない。今日のチョイスはあえてのロイヤルミルクティなのだから。
「もぅ〜、奈々子。どっちでも、いいじゃん。どう違うのか、わっかんないし!」
ねっ、この前いったとおりでしょ?と高須くんを横目で見ると、高須くんもちらっとだけこちらを見て優しく笑う。
通じあえたようで、少し嬉しい。
そんなあたしたちの様子に気づく事もなく、どんどん会話は続いていく。
「ああ、そういえば違いがよくわからないな。それになんでロイヤルミルクティはあって、ロイヤルレモンティはないんだ?」
「ああ、ロイヤルミルクティは牛乳で茶葉を煮出すのに対して、ミルクティは水で煮出した紅茶に、牛乳を混ぜたものをいうんだよ。ロイヤルレモンティも作ろうと思えば作れるんだろうが、とても飲めたもんじゃないだろうな」
にやりと笑いながら、まるお君の疑問に答える高須くん。
ただ、その顔はちょっとは慣れているあたしでも少々恐い。
「へ、へぇ、高須くんって物知りなんだね」
斜め前とはいえ、高須くんの顔面を浴びてしまった不幸な麻耶は、あからさまに怯えながらも
「で、二人なに話してたの」
と気丈に話を続けた。
まるお君しか見てないのはまあ仕方ないわね。
「ああ、どっか遊びに行こうという話をしていた訳だ。高須とは、なんだかんだで亜美の別荘ぐらいしか遊ぶ予定がないしな」
「それで、どこ行くの?」
「いいや、まだ決まってはいない。俺と高須の空いてる日を調整しただけだからな」
その言葉を聞くやいなや、麻耶の眼が光った気がした。
どうやらチャンスと踏んだみたいね。
「じゃあさ、うちらと一緒に鎌倉行かない?あたしと奈々子だけだとナンパとか、超うざいし」
「別にいいが、なんで鎌倉なんだ」
「日本史の宿題!あたし鎌倉時代がテーマだからさぁ」
「ああ、なるほどな。それなら俺らも木原の宿題につきあうとしよう」
あたしと高須くんをおいて話はどんどん進んでいく。
そもそも宿題のために鎌倉に行くなんて話は聞いてないし、麻耶らしくもない。
「じゃ、鎌倉で決まりっ!日にちは二人で遊ぶ予定の日に合わせるってかんじで。奈々子と高須くんもそれでいいよねっ?」
「ええ、あたしは別にかまわないわよ。もともと、鎌倉には行く予定だったし。男の子が二人もいてくれたら心強いわ」
親友の恋を応援しているあたしには、麻耶のはなしを断るなんてとてもできないし、あたしにとっても決して悪いはなしではない。
だから初めて聞いたなんておくびにもださず、麻耶のはなしにのっかることにした。
横目で高須くんを見ると、眉間にしわをよせ、いつもより怖い顔。
たぶん迷い困っているのだろう。
ただ、迷っているのなら断りづらくすればいいだけのはなし。
「あら、高須くんはダメかしら?日時はふたりに合わせるし、鎌倉ならそんなに遅くならないうちに帰ってこれるわよ。それともあたしたちのこと嫌い?一緒にでかけたくもない??」
上目遣いでちらちら見ながら追い詰めた。
「そ、そんなことはない。ああ、俺もたぶん大丈夫だ」
易しい高須くんを捕まえると、麻耶がもともと大きな目を見開いてこちらをみていた。
そんな麻耶にとりあえず、微笑みだけ返し、話を進めさせる。
「じゃ、きまりだね!まるおたちはいつ遊ぶ予定だったの?」
「来週の水曜だな」
「じゃあ、水曜10時に駅の改札に集合!それでいいよね」
「ああ、いいぞ」
麻耶にむかってまるお君は返事をし、あたしたち二人は首を縦にふって合意をしめした。
こうして、麻耶にとってはまるお君とのデート、あたしにとってはダブルデート、男子二人にとってはおそらく友人とのおでかけにすぎないであろう鎌倉行きが決まった。
窓ガラスの向こう側では太陽が力強く照っている。
スドバで少し話したあとに男の子達と別れ(二人でかのう屋に行くらしい。二人とも少しウキウキしていた)、あたしと麻耶は、ふたり並んで歩いていた。
帰宅を急ぐ人も増えてくる時間なのに空はまだ高く青い。
「ねぇ〜、奈々子。高須くんといつからあんなに仲良いの?」
ニヤニヤしながら聞いてくる麻耶。きっと聞きたくてうずうずしていたのだろう。
「そんないうほど仲良くはないわよ。ただたまにスーパーで会って話す程度ね」
「そのわりには、ずいぶん高須くんにこだわってた気がするんだけど」
「あら、麻耶に協力しようと思っただけよ。もし高須くんが来なければ、たぶんまるお君だってこないだろうしね。っていうか鎌倉って何よ?少なくともあたしは聞いてないわよ」
「あぁあれ、合わせてくれてありがとねっ!あん時急に思いついたんだよね。ああ言えば、きっとまるおは食いついてくると思ったし!そうそう最近読んだ小説の主人公がさ〜、鎌倉時代好き――」
楽しそうにしゃべり続ける麻耶は真夏の太陽に似ているなとふと思った。
明るさと元気さでまわりにパワーを与えてくれる。麻耶の大好きで少しうらやましい部分。
そういえば、高須くんも太陽に似ている。
日が沈む直前、ほんのりと暖かく、とても優しく赤く照る夕陽に。
「って、奈々子聞いてる!?」
「ええ、クラスメートの方とくっついて欲しかったんでしょ?」
「そうなんだよねぇ!ああっ、続きでないかなぁ〜?奈々子も読みなよ!」
「じゃあ、今度あたしにも貸してね。あたしスーパー寄るから、ここで。じゃあまた、月曜日にね」
「うん、じゃあ月曜日ね!あっ、奈々子、その日のお弁当よろしく〜!」
「ええ、わかったわ」
お弁当ねえ。高須くんに相談してみようかな。
いや、むしろ……うん、そうしよう。
少し大胆な発想に、自分で驚き、照れて、それでもちょっとワクワクする。
麻耶から高須くんになりつつある空の下、あたしはうちに帰ることにした。
口の端があがっていることを自覚しながら。
夕食の準備を終え、あとは仕上げを残すのみ。父親はまだ帰ってこない。
半端にあいたこの時間を使って、あたしはさっき思いついたあの事を、高須くんに話してみることにした。
自室に戻り、ケータイをとる。電話帳、タ行の一番上には高須竜児。
あたしはすこしためらった後に番号をだした。
思えば高須くんとは、メールしかしたことがない。
表示された電話番号を見て緊張、心拍数があがっているのが自分でも分かる。
ただ、このまま番号とにらめっこを続けてもラチがあかない。
だからあたしは、心臓の音に合わせて大きく息をはくと、意を決して発信ボタンをおした。
高須くんがでるまでのコール音はとても長く感じられる。
なぜかでてほしいような、でてほしくないような複雑な気分に襲われながら待っていると、五回目のコール中に声がした。
「もしもし」
電波を通した高須くんの声はいつもより低音が強くく響いてドキドキする。
「あっ、高須くん?あたし香椎だけど、今大丈夫?」
「おう、どうした?電話なんて珍しいってか初めてじゃないか?」
「うん、ちょっと今日の件でね」
「ああ、鎌倉の話だな。なんだ、俺は当日にドタキャンでもすればいいのか」
えっ、なんで?なにをどう考えればそうなるの?そもそも高須くんがいなければ、あたしにとってたいした意味なんてないのに。
「だったら、最初から誘わないわ。それに鎌倉っていうよりは、その日の朝のはなしなの」
「朝?朝になんかあるのか?その日は10時集合のはずだろ」
「ええ、実は麻耶にお弁当を頼まれてね。だからもしよければなんだけど、高須くんに手伝ってほしいなって」
「おう、弁当か」
「ほら二人で作ればそんなに時間もかからないしもし高須くんが北村くんにお弁当頼まれてもかちあわなくてすむじゃない」
あたしはなぜかあせりぎみに捲したて、相手の返事を待つ。
「おう、いいぞ。行楽地で食事だと金もかかるだろうからな」
拍子抜けするほど、あっさり了承を得ることができて、ホッとしたのもつかの間
「それに香椎との料理ってのも興味あるしな」
高須くんが続けた言葉に心臓がドクンとはねた。
言った本人は、はずみで言ったに違いない。動揺したのが悔しかったから、意趣をかえす。
この天然ジゴロさんに
「高須くんって天然なのね」
この人の顔が怖いのは神様からのプレゼントなのだろう。
高須くん自身と高須くんと関わる女の子を守るため。
不用意に近づけば、みんな虜になってしまうだろうから。
「ああ、なにがだ?」
「ううん、なんでもないわよ。それでお弁当づくりはうちでいい?高須くんも場所知ってるし」
「おう、出来れば俺ん家がいいんだが。母親にも弁当を置いといてやりたい。ああ、でも香椎んちも親父さんがいるからあれだな。やっぱり香椎んちか」
ほら、この人はやっぱり優しい。ただの友達の父親にまで気遣える。
それにひきかえあたしはあまりに自分本位、高須くんがお母さんを大事に想ってる事は知ってたのに。
「あら、うちの父親なら大丈夫よ。お昼はどこかで食べるでしょう。ってことで高須くんのお宅ね」
「おう、悪いな」
「いいのよ、気にしないで。じゃあ中に入れる物とかの細かい事はメールでね。」
「おう、わかった。そろそろ飯だし切るな」「うん、水曜日たのしみにしてるわね」
「ああ、またな」
なんの未練もなく電話をきる高須くん。
ツー、ツー、と虚しい音がケータイからは響いている。
ケータイをおく。
カーテンの向こうに光が走る。
雷は町には雨を、あたしに強い感情を。
ほんとは薄々気づいていた。
例えば、メールを待ちきれずメールセンターに問い合わせたり。
例えば、スーパーで必要なものをカゴに入れた後、もう一度無意味にぐるっとまわってみたり。
でも、はじめてだからちゃんとした確信はもてないでいた。
けれども、光がおちてくのを見たときに閃いて気づいた、いや気づかされてしまった。
そして、強く自覚する。
……あたしは高須くんがすき。
以上です。
実はデート編まで含めてさんなので、これは前編です。筆がなかなか進まなかったのでプレッシャーをかける意味で、前編だけ投下させていただきました。
近いうちに必ず後編も投下します。
あと、一ヵ所月曜と言ってますが水曜です。落とした瞬間にきづきました。脳内補完で水曜に換えてくださいね。
後書きでの長文失礼しました。
おお、待ってました!
これは…ついにやってきましたかその時が
原作ではなかなか内面を捉えづらいキャラなのでどう展開させるのか楽しみにしてます
で、料理(の上手さに驚く奈々子の)描写は次回っすか?そちらも楽しみです
GJ
まあ本編と少しばかり矛盾するのは仕方ないし、俺は気にしないぜ
GJ!
221 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/18(木) 06:46:32 ID:LpkOjiQi
GJ!
ななドラ最高だよ〜
職人さんの文章もレベル高いし
題材が奈々子や麻耶のサブキャラ中心になるのがたまらん
奈々子も自覚したようだし、いつかは大河にやきもち妬く奈々子が見れるんかねぇ
待ち望んだななどらが…GJです。自覚した奈々子がどう動いていくか、楽しみです。
次スレ投下予定の「横浜紀行」の抜粋です。
------------------------
「もう、さぁ、在学中に弁理士試験に最終合格して、卒業したら、どっかの事務所で修行して、何年かしたら、
そこから独立して、高須くんと、あたしとで事務所を共同経営しよう!」
「鬼が笑い死にしそうなほど遠大な計画だな…」
「理系の高須くんが所長で特許・実用新案の担当、文系のあたしが副所長で意匠・商標の担当、これって最強タッグ!
もう、完璧じゃね? て感じぃ?」
「お、おう…」
亜美のナルシシズム丸出しハイテンションに、竜児は、ちょっと引く。
「それで、事務所の名称は『高須特許商標事務所』、語感も悪くないし、いい感じじゃない?」
「そうか? 特許事務所の名称ってのは、経営者である弁理士の名前を全部入れるのが筋なんだろ?
だったら『高須・川嶋特許商標事務所』だよな? 普通…」
はしゃいでいた亜美の表情が、一瞬こわばったような気がしたので、竜児は、言い直した。
「そっか、『川嶋・高須特許商標事務所』か、これなら名前が五十音順だしな…」
「…、高須くぅ〜ん、そういう気遣い、亜美ちゃん、うれしいな。さっすが、『気遣いの高須』」
そう言って、竜児の背後に回り、その後頭部にもたれかかる。
「お!」
竜児の後頭部が、弾力に富んだ2つの物体の狭間に置かれ、亜美の体温が伝わってくる。
「うふふ、気遣い上手の高須くんに、これは、あたしからのご褒美」
亜美は、竜児の後頭部に胸を擦り付ける。
「ねぇ〜ん、高須くんも気持ちいいでしょ〜? もっと、気持ちいいことしたくなぁ〜い?」
竜児は、あいまいに「お、おう」と返答した。その直後、後頭部の柔らかな感触は、両こめかみに電撃のように走った
激痛によって遮断された。
「う、うわぁあああああ! い、いてぇ、いてぇよ! 川嶋ぁ、やめてくれぇ!!」
竜児の両こめかみには亜美の拳が、ぐりぐり、とねじ込まれていた。それも、渾身の力を込めて。
「あんたは、女心の機微ってもんを、もうちょっと学習しなさい! 『川嶋・高須特許商標事務所』?
ばっかじゃね〜の」
吐き捨てるように言った極悪チワワは、「けっ!」と、舌打ちをした。
>>217 そういや鎌倉とか出始めたあたりからもしやとか思ってたら
木原が田村君読んでるのに吹いたww
231 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/18(木) 14:01:28 ID:krmlOFld
職人様みのりんSS書いてよ〜
来週の仲直りまで切なすぎるよ〜
>228
やべえ
予告編でニヤニヤしちまったぜ
っていうか、次スレまで待たせる気かよ!
233 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/18(木) 14:35:42 ID:84XlHbrs
>>228 俺もニヤニヤだぜ
次スレまで待つのか・・・・
待てないっ!!
次スレとはまた遠いな!?
200レスくらい使う気なのか
書き溜めてるのか
一人でスレ使うな
と、いちゃもんつける輩が現れないとも限らないから賢明な判断だと思う
>>231 みのりん電波を受信したので、これから書いてみます。投下は…来週にはなんとか…
>>217 待ってました!乙 GJ 後半が待ちきれないですぜ
自覚した香椎の出方に期待
>228
これは期待せざるを得ない 待ってますぜ
240 :
アサーッ!:2008/12/18(木) 19:24:41 ID:MUhHvJej
竜虎の日常を書いてみました。時は竜児たちが高3の初夏って感じで。
241 :
アサーッ!:2008/12/18(木) 19:26:42 ID:MUhHvJej
「アサ―――――ッ!」
「インコちゃん・・・朝からなんてテンションなんだ・・・」
「竜虎、休日の朝」
ガタガタ揺れる鳥かごから聞こえる声に起こされる。
目覚めは当然最悪だった。
ふと時計を見れば、9時。普段ならとっくに学校へ行ってるが、今日は土曜日。
少し遅いくらいが丁度良い。
朝食はサンドイッチにするか・・・。
朝でさえなお暗い部屋の中、竜児は寝たまま、ぼんやり考える。
隣には大河が寝ていた。
2人が付き合いだしてから、大河は殆ど竜児の家で過ごしていた。
大河はほとんど自宅に戻らない。
そのため、もはや大河の自宅は巨大な物置と化していた。MOTTAINAIことに。
あれだけいい家具がありながら。あれだけセンスのいい部屋なのに。
そう思うのと同時に、
―まあ、仕方ないか。
そうも思う。大河にとってあの部屋は親に捨てられた象徴。1人で居ることが、嫌でも意識されてしまう空間。
狭くても、家族の暖かさにあふれる高須家の方が大河には心地よいのだろう。
自分の首に巻きついた、白く細い腕をそっとはずし、大河を起こさないようにベッドから降りる。
ベッドに2人で寝ている、つまり一線を超えてしまった・・・のではない。
昨日は嵐だったのだ。
それはもう、雨風がボロい借家を押しつぶさんばかりに叩きつけ、さらに雷まで鳴る始末。
雷を嫌う大河が、夜、自分の側を離れなかったのは当然かもしれない。
が・・・
「おい、大河。狭いんだけど・・・」
「うっさいわね。グダグダ言わないで。私ベッドから落ちそうなんだから・・・」
「・・・なら下に布団敷けよ。これはシングルベッドなんだぞ。」
「嫌よ。上からあんたが落ちて来たら圧死するもん」
「・・・離れて敷けば良いじゃないか」
「黙れ」
「・・・」
・・・相変わらず、素直ではない。
いくら付き合いだしたと言っても、それまでがそれまでなだけに、態度がそう簡単に変わるわけではない。
とはいえ、「それが彼氏に対する態度かよ」と思うのだ。
だが、雷におびえて自分に抱きつく大河はやはり可愛く、一層愛しく思えるのだ。
そして、あの時の決意を思い出す。
「大河を離さない。守っていく」
そんなことを考えながら、昨日は眠りについたのだった。
242 :
アサーッ!:2008/12/18(木) 19:30:24 ID:MUhHvJej
寝ぼけた頭をリセットするため、暗い家から外に出る。
階段の上で、まぶしい朝日に目をしかめるが、その顔を爽やかな風がくすぐる。
風が、夏が近いことを告げていた。
嵐はすっかり去って、雲1つ無い空は澄み渡るように青い。快晴だった。
思い切り背伸びをした後、家に戻るとすぐさま朝食の準備を始める。
***
トントントントントン―
リズミカルな包丁の音に、大河は目を覚ます。
―そういえば、昨日は竜児と一緒に寝たんだっけ
思い出しながら、目を開ける。
竜児がエプロンを着て、朝食を作っていた。
見慣れた光景だが、昨日怯えていた自分を抱きしめてくれた後ろ姿は妙に大きく、頼もしく見えた。
鼻をくすぐるのはマヨネーズの香り。サンドイッチかな・・・、サラダかな・・・。
不意に竜児がこっちを向く。
目を怪しく光らせるが、別に「大河も刻んでサンドイッチの具にしてくれようか」などと考えているわけではない。
ちょっと驚いたような顔なのだ、あれは。
「おう、起きたのか。おはよう」
「ん・・・おはよ・・・」
「朝食はサンドイッチだぞ。そろそろ出来るから、ほら着替えて顔洗っとけ」
「うん・・・」
そうは言ったものの、この場を動きたくない。
竜児の後ろ姿をずっと眺めていたかったから。
しばらくして、竜児はサンドイッチを完成させたらしい。
同じ数だけのサンドイッチを3つの皿に載せ、卓袱台へと運んできた。
「なんだ大河。まだ着替えてないのか。もう出来・・・」
「ねぇ」
大河は微笑みながら話し掛ける
「キスして?」
「はぁ・・・?」
「昨日あたしを抱きしめてくれたでしょ?そのお・れ・い」
イタズラっぽく笑いかける。
「ちょっ、待てよ泰子もいるんだぞ。いくらなんでも、なぁ・・・」
「お礼でキスさせてあげるって言ってるでしょ?キスしてくれなきゃ、着替えない」
「・・・ったく。わがままな。仕方ねぇな・・・」
「ん・・・」
「ありゃりゃりゃりゃん・・・・」
!!!
2人は同時に振り返る。
「ごめんね〜。じゃあごゆっくりぃ〜・・・」
そう言いながら、泰子は襖を閉めて退場していった。
「見られただろうが・・・・」
顔を赤くしながら、小声で抗議するが、
「へへへ・・・ごめん」
同じく顔を赤くした大河を見て、すぐに何も言えなくなった。
え〜と・・・流れを読まない超遅レスだが
>>44ベリーベリーGJ!!
とらドラのエロSSでは「よめトラ」と双璧だと思う、自分の中では
しかしあそこでくっついちまったら、4巻以降はバカップル前提だなw
あーみんの別荘でついサカってしまい
あーみんがキレて
北村が脱いで
みのりんが再びジャンピング土下座する光景が目に浮かんでしょうがないw
245 :
アサーッ!:2008/12/18(木) 19:34:29 ID:MUhHvJej
***
いつもどおりだが、なんとなく気まずい朝食を終えた後、2人はダラダラしていた。
泰子はすぐに寝室に引っ込んでいった。いつものことだ。
不意に
「ねぇ、竜児。見たい映画があるんだけど・・・、見に行かない?」
大河が訊いてくる。
「映画ねぇ・・・」
やる気の無い返事に大河はむかつき、竜児の上にごろりと転がる。
「ねー、行こー行こー行こー!」
「だー、暑苦しい!分かったよ行こうぜ・・・時間は調べたのか?」
「やったー!時間は後で調べるから!」
ガッツポーズ。
2人は一端着替えてからマンション前で待ち合わせすることにした。
大河が、泰子の寝ている部屋の襖をあけ、
「やっちゃーん。竜児とデート行ってくるね〜」
などと言っているのを竜児が止めようとして肘鉄を食らう。
・・・一瞬、向こうの世界が見えた気がした。
「んじゃ、泰子、行ってくるな。昼飯は冷蔵庫の中だから、チンして食えよ」
そう言い、家を出る息子を泰子は複雑な気分で見ていた。
成長したな、と泰子は思う。そして数ヶ月前のことを思い出す。
自分との約束を破り、バイトをしていた。(たった2日間だけだったが)
進学してと言っているのに、就職希望を譲らなかった。(すったもんだの末、バイトをしながら学生を続けるという条件で進学を彼は選んだが)
そして、大河と共に逃げ出したのだ。(結局、すぐに見つかったが)
そこに、寂しさを感じると共に、なんとなく嬉しさも感じるのだ。
今まで、常に自分の言うことに従順だった息子が、少しだが、自立していく。
それに、大河とも付き合っている。16歳で息子を出産した自分の二の舞を演じやしないか、
と、少し不安な気分もあるのだが、それは大きなお世話だったらしい。大丈夫。信じているから。
「竜ちゃん・・・」
息子の名前を呼び、また寝室へと戻っていく。
246 :
アサーッ!:2008/12/18(木) 19:35:26 ID:MUhHvJej
***
竜児は、マンション前で大河を待っていた。
なかなか現れない大河に、痺れを切らしてエントランスに入ろうかと思ったその時、大河が現れた。
普段よりも目いっぱいおしゃれをして、手にはプリントアウトされた紙を持って。
「どう・・・似合うかな?こないだ買ったんだけど・・・」
大河は下を向き、おずおずと聞いてくる。
「うん、似合ってる似合ってる。いいな、その服」
「ホント!?」
顔を輝かせ、竜児の顔を見つめてくる。
「じゃ、行こ!」
2人は歩き出した。
どちらからともなく、手を繋ぐ。
「時間は何時からだ?」
「えーとね、11時20分から」
そんな、他愛もない話をしながら2人は歩いていく。
***
大河が見たいと言っていたのは、今話題のホラー映画だった。
正直、むちゃくちゃ怖かった。あまりにCGや特殊メイクがリアルすぎるのと、音楽、演出、ストーリーが上手すぎたのだ。
その夜、相手を離れられなかったのは竜児の方だった。
―なんとでも言え。男のプライドなんて捨てたからな。
竜児は決して失わない。
世界の、誰も見つけることの出来なかったものを。
それは、竜児だけが見つけることが出来た。
竜児しか、見つけられなかったから。だから、失ってはならないのだ。
To be continued…
>>217 いや、スゴイよかった!
ディテールまで気が利いてるし、
最後の場面の舞台設定まですごく上手だなあ。
すごく引きつけられた。
>>240 オツーッ!
俺こういうの好き。だから俺にも好きに掘っていいよ(*)
>>243 マジに流れ読めてなくてワロタ
>>240 GJGJ
こういう日常系は好きだ
2828したぜ
>>240 乙であります!!
いいねぇ、いいねぇ、GJですよ。
>>240 さっきはすまなかった、そしてGJ!
読みやすくて良い感じだった
続きも期待してますw
252 :
アサーッ!:2008/12/18(木) 20:28:36 ID:MUhHvJej
次は竜虎の結婚式でも書こうかと・・・。
ブーケは誰に手に!とかね。
独神は絶対手に入れることができないんだろうな
>>246 乙!!良かった!!
>>237 来週とな!?大作の予感wktk
楽しみにしてます(^ω^)
255 :
アサーッ!:2008/12/18(木) 20:46:59 ID:MUhHvJej
ブーケの行き先は
A 独身
B さくらと幸太
C やっちゃん
D 2-Cの誰か
D 大河の頭に落ちる
どれかな・・・。
F竜児
インコちゃんだろ
戦場になるなら、A
ほのぼのになるなら、B
昼ドラになるなら、C
新たなラブコメなら、D
お笑いなら、E(でいいんだよな?)
259 :
アサーッ!:2008/12/18(木) 21:13:25 ID:MUhHvJej
とりあえず来週あたりまでに書き上げてみます。
Aを全力で支援します
261 :
アサーッ!:2008/12/18(木) 21:35:03 ID:MUhHvJej
いっそのことブーケの行き先はぼかすか・・・。
『コテつけたまま馴れ合うな』
いちいち過敏に反応するのはどうかと思うが
>>261 空気が悪くなるからあんまり言いたくないけど
少しは上のレスとか見ろよ、散々職人の馴れ合いで問題になってんだよ
一々読み手の反応伺うとかウゼエよ
馴れ合うのも、それに過敏に反応するのも同じくらい迷惑なのでやめとこう
コテつけたまま馴れ合うな
基本的なことが分からん馬鹿の為に
このことをテンプレに加えとけ。
>>265 おちつけよ。空気悪くなったジャン。どうしてくれんの?
せっかく投稿してくれた職人に、ただ見てるだけのおれらにウゼエとまで
言う資格はないだろ。
コテつけたまま馴れ合うな=SS書けない奴の嫉妬
>>268-269 同意
つーかぶっちゃけ過剰に反対してる子が数人いるだけだよね
職人さん、気にしないでこれからも素晴らしい作品を投下して下さいね
過敏に反応してるクソガキはおそらく二人くらいだけど
無用な争いでスレの雰囲気悪くしないよう馴れ合いのネタフリは自重してくれよ
この板では基本的に馴れ合いを嫌うスレが多いと思うが…
馴れ合いOKでそれなりに賑わってるスレを知らないではないけど
コテがあるせいで荒れるたびに職人が一人消えるというすごいスレだし
>過敏に反応してるクソガキはおそらく二人くらいだけど
>無用な争いでスレの雰囲気悪くしないよう馴れ合いのネタフリは自重してくれよ
馴れ合おうがそうでなかろうが別にいいけどこれはないわ
やっちゃんSSを投下
「やすドラ?」はこれでおしまい
エピローグが長いけど、最初から決めていた落ちに持っていきたかったんで力技で
誤字脱字、描写の使いまわし、読み辛さとかセリフの多さの言い訳を言い出したらキリが無いんで、一言で・・・すみません
・・・誰かキャラの崩壊を止めて・・・特に独身の・・・あと裸族
「やすドラ?」
大河達と話し終えた後、昨日よりも更に遅くなってしまった晩飯を作ろうと台所に立つ。
だが、なにを作ろうか考えながら冷蔵庫を開けたら・・・しまった、使えそうなものがほとんど無い。
昨日買い込んだ分は昨日の晩飯と今日の朝飯、昼飯に使っちまったし・・・どうせこんな時間じゃ大した物も作れそうにないな・・・
何より、色々あって疲れた・・・今日はさっと飯食ってとっとと寝たい。
大河は今日はもう来ないだろうし、俺と泰子の飯ならテキトーにチャーハン辺りでもいいだろう。
炊飯器に残ってた米と冷蔵庫の中にあった余りものを卵と炒めて、皿に盛って今日の晩飯は完成。
手抜きだけど、こんなもんでいいだろう。出来上がったばかりのチャーハンを持って居間でテレビを観ていた泰子の隣に腰を下ろす。
いつもより1人分少ない『いただきます』をして、こっちを向いてる泰子と食べ始める。
「悪いな、結局有り合わせで済ませちまって・・・泰子、あ〜ん」
「あ〜ん・・・うぅん。竜ちゃんのお料理って、なんだっておいしいよ?
やっちゃん、竜ちゃんが作ってくれたものならぁ、いくらでも食べちゃうもん」
「・・・おぅ。おかわりもあるから沢山食べてくれよ? ほら、あ〜ん」
「うん。あ〜ん・・・おいふぃ〜♪」
昨日みたいな手の込んだものは用意できなかったけど、これはこれで喜んでくれたようでホッとした。
作った方としては、やっぱり『おいしい』って言ってもらえると嬉しいし。
しばらくパクパク食べてると、泰子が不意に呟く。
「・・・やっぱり竜ちゃんにお家のことしてもらってぇ、やっちゃんがお仕事に出た方がいいなぁ・・・
こんなにおいしいご飯作ってくれるんだもん・・・」
・・・? 多分風呂に入ってる時に言ってた事だろうけど、急になんだ?
「なんだよ、いきなり」
「え? あ・・・・・・だってぇ、竜ちゃんがね? そのぉ・・・言ってくれたでしょ・・・?」
言いながらだんだん泰子の顔が赤くなっていき、チラチラと俺を見てくる。
俺が何か言ったらしいけど、今の会話だけじゃ何を言ったか分からないな・・・
「・・・俺、なんか言ったっけ?」
「うん・・・」
何を言ったか思い出せないで結局尋ねる俺を、真っ赤になった顔の泰子が見つめてくる。心なしか瞳が潤んでる気がする。
「・・・やっちゃんとぉ、ずっといっしょにいてくれるって・・・」
あ、それか。
「あ〜・・・確かに言ったけど、恥ずかしいからあんまり言うなよ」
特に大河とかの前ではな。どういう訳か大河はこの手の話題に異常に反応する気がする。それでまた泰子の話しに乗っかってくるだろうし。
俺も、『ずっと〜』の部分に嘘とかは無いけど・・・面と向かって言われると恥ずかしいから、あんまり口に出してほしくないんだけど。
泰子は俺の言葉なんてどこ吹く風って感じに流して、頬を上気させたまま続ける。
「だからね? やっちゃん思ったんだけどぉ・・・
今みたいにやっちゃんがお仕事してぇ、竜ちゃんがお家のことしてくれてるのが1番いいなぁって・・・」
「・・・やっぱり今とあんまり変わんないな」
「それでねぇ、やっちゃんがお仕事から帰ってきたら、玄関で待っててくれた竜ちゃんが『おかえり』って言ってくれてぇ・・・
『疲れたろ。飯にするか? 風呂にするか? それとも・・・』って・・・竜ちゃん、真っ赤な顔して見つめてきてぇ・・・
・・・どれにしようか決められないやっちゃんを、竜ちゃんが『泰子・・・俺、もう・・・』って言って抱きしめてぇ・・・チュウして・・・
イヤ〜ン♪竜ちゃん気がはやぁい〜♪ここまだ玄関よ〜♪せめて台所で・・・」
「まるで新婚みたいだな」
・・・・・・なんか、途中から不穏なこと言ってるけど・・・まぁ、普段の泰子・・・だな、うん。いつもの泰子だ。
包帯を巻かれた手を頬に添えて、右へ左へゆらゆらしてる泰子を眺める俺。
いい加減慣れたんだろう、この程度では動じなくなった。逆に冗談を返す余裕すらできた。この調子ならどうせ聞いてないだろう。
「そうなの〜♪やっちゃんとぉ竜ちゃんがぁ新婚さん♪みたい・・・に・・・・・・新婚さん・・・? ・・・竜ちゃん、いま・・・」
げっ、聞いてたのかよ。
今度はちゃんと俺の相槌を聞いてたらしい。ご機嫌に喋っていた泰子が急に静かになって俺を見てる。
ちゃんと聞いてると思わなかったから、素で聞き返されると途端に恥ずかしくなった。
泰子もなんだか風呂入ってる時みたいになったし・・・ほっとくと長くなりそうだから話題を変えてやり過ごそう。
「いや、だから・・・泰子が言ってるのって、ドラマかなんかの新婚夫婦みたいだなーって・・・
も、もういいだろ? 飯が冷めるから早く食おうぜ? ほら、あ〜ん・・・」
「・・・・・・あ〜ん・・・ふぉいふぃ〜♪竜ちゃん、おかわりちょうだい」
「おぅ、ちょっと待ってろ」
よし、上手く泰子の注意を逸らすことができた。これで問題ない・・・はず。
それにあれだけ元気なら、もう大河達との事を引きずってる感じでもないし・・・心配無いだろう。
立ち上がって台所に入り、コンロの上の鍋から皿へチャーハンを盛りながらそんな事を考えてる俺。
若干気が楽になったように感じる。居間に戻ってテーブルに皿を置いて、泰子の隣に腰を下ろすと
「ありがと〜、あ・な・た♪」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・え、えっとぉ・・・竜ちゃん? あ〜ん・・・・・・ぁ、あ〜ん・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
・・・・・・泰子? ・・・恥ずかしがるくらいなら言うなよ・・・
座った途端に肩にもたれ掛かられて、いきなりそんな事を言われてどう反応するべきか考えて固まる俺と、
言ったはいいが無反応な俺を見て恥ずかしくなったのか、今のを無かった事にしようとする泰子。
赤い顔して、口開けてプルプル震えるなよ。こっちも余計にどうすればいいか分からなくなるだろ。
・・・その後はお互い無言になってしまい、俺が泰子にただあ〜んさせるだけになったので晩飯は思ったよりも早めに終わった。
「・・・ごちそうさまぁ。おいしかった〜」
「・・・ごちそうさま。お茶でも飲むか?」
「うん、ちょうだい」
晩飯が済んでからやっと泰子が口を開いた。それを合図にして、いい加減沈黙に耐え切れなかった俺も喋り出す。
もうする事も無いし、正直すぐにでも寝たいが飯食ってすぐ横になるのもなんだから、お茶飲んで一息吐いてから寝よう。
台所で急須にお茶っ葉とお湯を注いで、湯飲みを1つ持ってくる・・・いや、だって・・・2つ持ってきても結局使わないし・・・
「・・・泰子、ほら・・・」
言って、お茶を含んだままの自分の口を泰子の口にくっ付ける。
「・・・ん・・・おいし・・・・・・もっとちょうだい・・・」
どの道口移しで飲ませるんだから、湯飲みは2つも必要ないよな。使わないのに持ってきても洗い物が増えるだけだし。
・・・・・・買っておいたストローは無駄になったけどな・・・いや、そんな事今更気にするなよ・・・
しばらく口移しを繰り返すと、湯飲みの中のお茶が無くなる。
おかわりも淹れたが、泰子がすぐに飲み干してしまう。
「・・・ん・・・ふぅ、ん・・・っはぁ・・・竜ちゃん・・・もっとぉ・・・・・・」
「・・・・・・十分だろ? もう急須も空だし・・・それに何で一々舌入れて」
「知らなぁい・・・んふ・・・んちゅぅ・・・ん・・・・・・あ、やぁん・・・もっとぉ・・・んぅ・・・ちゅむ・・・」
もうお茶ねぇよ。
俺の膝の上に乗って、正面から口をくっ付けてくる泰子。
抱きついてる状態で、更に胸が押し潰されてるくらい体をグイグイ押し付けてくる。
・・・けっこう力ずくで口を離すと、泰子は首に腕を回して、追い縋るように乗りかかってくる。
耐え切れずに床に倒れる俺の上で、泰子は・・・
「ん・・・んん・・・・・・くちゅ・・・はぁ・・・ん・・・りゅうちゃん・・・もっとぉ・・・・・・はぷ・・・ちゅ・・・・・・」
・・・酸欠のせいなのか、それとも別のせいか・・・頭がぼぅっとする中、ぼんやりと思った。
(・・・・・・・・・ヤバッ・・・もう・・・・・・)
「ちゅ・・・んぅ? ん、んん! ちゅぅ、んちゅ・・・ふぁ・・・りゅうちゃん、はげしっんむぅ! くちゅぅ・・・んぁ・・・もっとぉ・・・もっとしてぇ・・・」
いつ『食後のお茶』が終わったのかは覚えてないけど、
あの後泰子をトイレに連れてって・・・なぜか湿っていたような・・・何がだ? ・・・ダメだ、まだ頭がボーっとしてるのかよく思い出せない。
いつの間にか自室に居たし・・・敷いた覚えも無いのに布団が敷いてあるし・・・最近よくある記憶が飛ぶ感じじゃないのが尚更恐い・・・
頭の中と同じく部屋の真ん中でボーっと突っ立っている俺を、布団の上に座ってる泰子が呼びかける・・・泰子? いつ着替えた?
「・・・・・・竜ちゃん・・・寝よっか・・・」
「あ、あぁ・・・・・・もうどうにでもしてくれ・・・」
展開に付いていけないためか、生返事の後にポロっと小さく出た俺のセリフを、耳聡くも聞いてたらしい
「・・・それぇ、本気にしちゃうよ・・・?」
足元の泰子が、俺を見上げながら言ってきた。
嘘だ・・・その目はもうマジな目だ・・・
「何がだ? 俺は疲れたからもう寝るって言っただけだ」
「・・・・・・そぅ・・・じゃあ、早くお布団入ろ?」
「お、おぅ・・・明かり消すぞ?」
「はぁい」
電気が消えて一瞬で暗くなった部屋を、泰子を踏まないように目を凝らして歩く。
ゆっくりと布団まで近づいて、泰子と一緒に布団に包まる。
・・・寝てるときに腕を踏んづけないよう、十分に空けた隙間を埋めて寄ってくるな。
隣で横になっている泰子とは別の方に向けていた顔を泰子の方に向けると、暗いのとかが関係無い程間近で泰子と目が合った。
「泰子? 何で昨日も今日もこっち向いてんだ? ・・・いや、もういい・・・
・・・それと、手首だけは気をつけろよな・・・おやすみ」
「あ、ちょっと待ってぇ」
もう何もかも無視して寝よう。万が一泰子を踏んだときはその時考えよう。
そう決めた途端に泰子が話しかけてくる。
「・・・なんだよ」
「竜ちゃん、ちょっと手出してみて」
「はぁ・・・・・・なんで?」
「おねがぁい」
「・・・・・・これでいいのか・・・?」
なんだ・・・? 意図は分からないけど、布団の隙間から手先を出して泰子の目の前に持っていく。
「うん。そのままやっちゃんの方に伸ばしてぇ」
「・・・・・・・・・」
無言で腕を伸ばす。
泰子が頭を浮かせてるみたいだから、とりあえず腕を突っ込んでみる。すると、そのまま泰子が頭を下ろしてきて腕に乗せた。
頭を俺の腕に乗せたまま、体ごとズリズリ寄せてきて泰子が俺にピッタリくっ付く。
ていうかこれ・・・この格好・・・・・・
「えへへ・・・竜ちゃんの腕まくら・・・スンスン・・・」
「・・・・・・これって俺もだけど、泰子も寝づらいだけじゃないか?」
「うぅん、竜ちゃんの腕まくらってすっごく落ち着くの・・・スンスン・・・気持ちよくてぇ、よく眠れそう・・・」
・・・これがしたかっただけか? あと嗅ぐな、恥ずかしいだろ。
さっきよりも更に寄ってきて、完全に体を預けてくる泰子。
もう腕どころか胸や肩辺りに頭を乗っけているので、首筋に泰子の髪の毛とか吐息が当たってくすぐったい。
「・・・寝てる間に変なことするなよ?」
「・・・・・・変なことってなぁに? やっちゃんしないよ? ・・・竜ちゃんがしてくれるの待ってるもん・・・・・・さっきみたいに・・・」
「何をだよ・・・いや、言わなくていい・・・おやすみ、泰子」
最初の間と最後のボヤキは気にするなよ、俺。気にしたら負けな気がする・・・もう色んな意味で負けてる気もしないでもないけど。
質問して、予想してる返答の上を行かれるのが恐くなってそれ以上聞くのを止めた。
ただでさえ疲れていて眠いのに、何だかんだで色々やって・・・変な意味じゃ・・・
・・・ダメだ、変な意味じゃない自信が無い・・・時間もずいぶん経ってるし・・・とにかく、もう寝よう・・・
「おやすみ、竜ちゃん・・・ちゅっ」
さっきのよりかは全然軽めだった。口でなくて頬だったし。
・・・・・・上に乗っかってる泰子のことが気になって中々眠れず、それでも時間が経つと共にウトウトしてきた俺に泰子が話しかけてくる。
「・・・竜ちゃん、ホントに寝ちゃったのぉ・・・? ・・・もう・・・竜ちゃんのいくじなし・・・ばか・・・」
・・・・・・・・・
「・・・・・・だいすき・・・・・・」
・・・・・・・・・
・・・きっと夢だな。物凄く恥ずかしい夢だ。
だから・・・俺はもう寝てるんだから、なにしたって寝ぼけてた事でいいじゃないか。
俺は寝ぼけながら、仰向けに寝てた体を横にして泰子の方に向ける。
腕まくらしてる方と、さらに空いてる方の腕を泰子の背中に持っていって・・・
「ぁ・・・えへへ・・・だいすき・・・・・・」
その日は泰子を抱きしめて眠りに就いた。
ガチャーン・・・カラカラ・・・・・・トン トン トン・・・・・・スー・・・
(? ・・・もう朝か・・・なんかガラスが割れたような音が)
「・・・竜児? きょ、今日はね、私から起こしに来てあげたわよ? ・・・ホントは昨日するつもりだったんだけど、先に竜児が来ちゃって・・・
だからね、今日は昨日よりも早起きしたんだから・・・玄関開いてなかったから、『仕方なく』窓から入ってきちゃったけど・・・
でで、でもえらいでしょ? ちゃんと1人で起きて、支度も済ませて・・・だから誉めて・・・あ、あの・・・『ぎゅっ』とかでも私はぜんぜん・・・
・・・竜児・・・? フフ・・・んもぅ、まだ寝て・・・・・・!? オラァッ!」
「ゲフゥッ!」
「ふぁ・・・どうしたのぉ・・・竜ちゃん、だいじょうぶぅ? ・・・大河ちゃん・・・? ・・・勝手に入ってきたりして・・・・・竜ちゃんになにしたの・・・」
目覚め方は最高だった。これ以上無いくらい強烈な意味で。
目が覚めたら・・・違う、もう制服まで着てる大河にわき腹をおもいっきり踏みつけられて目が覚めた。
っていうか「オラァッ!」って・・・見た目可愛いんだから、もうちょっと何かあるだろ・・・
朝っぱらから苦しくて咳き込み、それでもなんとか体を起こして大河を見上げる。
隣で寝ていた泰子も起きだして・・・・・・大河に、見せつけるような動きで首に手を回してくる。
・・・大河が更に不機嫌になっていくのが顔を見なくても分かる・・・実際に大河の顔を見てるから間違いない・・・超不機嫌だ・・・
「おはよう竜ちゃん♪・・・あと大河ちゃんも・・・あ、昨日は本当にごめんなさぁい・・・けどぉ、大河ちゃん? 1つ訊いてもいい?」
「おはよ、竜児・・・やっちゃんもおはよう。それに昨日の事なんてもうどうでもいいの・・・私もやっちゃんに訊きたい事ができたし」
「なんでぇ、竜ちゃんとやっちゃんが気持ちよく寝てたのをあんな風に起こすの? 大河ちゃん、そういうところ治したほうがいいよ」
「なんで竜児と一緒のお布団で、しかも抱き合って寝てたの? 絶対おかしいと思うんだけど。竜児も嫌だったら嫌ってちゃんと言いなさいよ」
「「・・・・・・・・・・・・」」
「竜ちゃん、やっちゃんといっしょに寝るのいやじゃないよね? だってあんなに強く抱きしめてくれたもん・・・あんなに愛し合って・・・」
「はぁ!? ・・・竜児? あんた、やっちゃんと変なことしてないでしょうね・・・うぅん、されてないでしょうね・・・?」
俺が口を開く間も無く、泰子と大河がお互いを睨みつける。
2人とも俺に挨拶した一瞬以外は相手から目を逸らしていない。逆に俺は2人の顔すらまともに見れない・・・というよりも目線1つ動かせない。
昨日の事について、大河はもう気にしてないらしい事だけがありがたかったけど今はそれどころじゃない。
睨み合った泰子と大河がお互いに質問を・・・しかも両方とも答えないのかよ・・・
と思ったら2人して急にこっちを向いて話を振ってくる・・・同時に。
なにこれ
「・・・お・・・おはよう・・・泰子、とりあえず首から手を離してほしいんだけど・・・」
「竜児? なんでやっちゃんからなの? 私には?」
「べつに深い意味は・・・あ、そうだ・・・大河? お前なんて起こし方を・・・それにどうやって家に入って・・・
・・・や、泰子・・・ちょっと、苦しいから・・・」
「いや・・・竜ちゃん、まだ早いしもうちょっと寝ようよぉ・・・いっしょに・・・ちゅ・・・」
「!? ・・・・・・竜児・・・?」
「・・・・・・・・・」
「「・・・・・・・・・・・・」」
本当になにこれ
泰子と大河の間に流れてる険悪な雰囲気をなんとかしようと、まずは起き上がるために泰子に声をかける俺を制して
大河が1歩近づきながら言ってくる。
その迫力にビビッて慌てて大河の方に話しかけたら、泰子が首に回してた腕に力を込めて密着してきて、ほっぺにチュウ・・・
再び睨み合い始めて押し黙る泰子と大河。そんな2人に何て言えばいいのか分からないで黙ってる俺。
・・・ふと耳を澄ませると、居間の方から「りゅうちゃんん・・・だ、だだだだして・・・っこ、こ・・・ここからだしてぇ・・・」って・・・
・・・・・・ごめん、インコちゃん・・・逃がしてあげたいけど、そんな余裕があっても多分無理だと思う。きっと俺の方が先に逃げてるから・・・
──あの後
大河の腹の虫が鳴ったおかげで場の空気が少しだけ軽くなり、ひとまず朝食にすることになった。
大河はずいぶん早い時間に家に来たらしく、時間にはまだけっこう余裕がある。
・・・・・・割れていた居間の窓ガラスの破片を片付けても全然余裕だ・・・大河、お前どっから入ってくるんだよ・・・
多少の理性は残ってたのか、鍵の辺りを中心に腕が入るほどの大きさの穴が開いている。無駄な部分だけ器用なやつめ・・・
・・・割れてる物は仕方がない。テキトーな紙で窓の穴を塞いでおく。
俺が朝飯の支度やらガラスが散乱している居間を片付けている間、泰子の着替えとかトイレなんかは大河に任せ・・・
「「・・・・・・・・・」」
結局俺がやった。いつまで睨み合ってるつもりだよ・・・
出来立ての朝食をテーブルに並べ終え、篭の中で微動だにしない・・・羽毛が抜けきって丸裸になってるインコちゃんにご飯をあげて・・・
そうして、丸1日ぶりに3人で食事を
「竜ちゃん・・・」
「竜児・・・」
「「 あ〜ん・・・ 」」
・・・・・・2日ぶりに「あ〜んマシーン」になって食事を済ませた。
適当な時間までテレビを観ながらヒマを潰して、学校へ行くために制服に着替える。
医者からは2〜3日経てば添え木はいらないって言われてたし、俺もそろそろ学校に行っとかないと授業に付いていくのが辛くなる。
弁当の用意は朝食と一緒にしたが・・・おにぎりのみと言う手抜きになってしまったので大河に怒られた。
「泰子? 俺、学校行ってくるけど・・・ホントに大丈夫か?」
「・・・うん。もう湿布だけでいいってお医者さんも言ってたしぃ・・・多分だいじょうぶ」
添え木を取って手首を軽く動かしてる泰子の様子を見る限り、思ったよりも心配無さそうだ。
これなら昼食用に作っておいたおにぎりも自分で食べられるだろうし、トイレにも行けると思う。
それでも万が一を考えると心配だから、玄関まで付いてきた泰子に注意を入れておく。
「・・・じゃあ、俺もう行くけど・・・何かあったら電話しろよ? すぐに帰ってくるから」
「うん。ありがと・・・・・・ねぇ、竜ちゃん」
「おぅ? ・・・・・・」
靴を履いて、既に外で待ってる大河と登校するためにドアを開ける俺を泰子が呼び止める。
振り返ると、泰子が飛びついてきて・・・
「ちゅ・・・ちゅ・・・ぁん・・・・・・いってらっしゃい♪」
「・・・・・・・・・行ってきます」
ゆうに30秒は経ってから泰子が離れる。俺と泰子の口から架かってる糸が日の光を反射して妙に生々しい。
・・・行ってきますのチュウって、人に見られてると尚更恥ずかしいんだな。そうでなくても恥ずかしいんだろうけど。
特に、すぐ横でありえないくらい目を開いて震えてるお隣さんで同級生の女子に見られてると思うと、血の気が引くほど恥ずかしいなぁ。
その女の子が握った拳をブルブルさせていると、もう生きた心地がしないほど恥ずかしい。
今の俺はきっと恥ずかしさで死ねる・・・その前に息の根を止められるかもしれないけど。
ゆっくりとドアを閉めた俺は1度深呼吸してから、力の限り走り出した。
横目に見た大河はまだ固まってる。動き出す前に、できるだけ遠くへ逃げろ。例え行き先が学校ってバレてても全力で走れ、俺。
階段を降りたら絶対に振り返るな、とにかく地面に足が着いたら通学路なんて考えないで、他所の敷地内とかも無視して通れば・・・・・・
「りゅうぅぅぅぅぅぅぅぅじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!!!」
「うおぉおっ!? 大河、お前どっから!?」
・・・・・・・・・アパートの階段を降りきったところで、俺は空から降ってきた虎に捕まった・・・・・・・・・
「・・・竜ちゃん、はやく帰ってこないかなぁ・・・そしたらぁいろいろできるのに・・・
お帰りなさいのチュウもぉ、お風呂もぉ、あ〜んもぉ、チュウもぉ・・・その後も・・・・・・昨日みたいに・・・えへへ・・・
・・・昨日・・・昨日の竜ちゃん、すごかったぁ・・・やっちゃん腰が抜けちゃうのなんて初めてだったしぃ・・・たくさん・・・赤ちゃんの・・・・・・
・・・ホ、ホントにできちゃったら、竜ちゃん喜んでくれるかなぁ・・・うぅん、ずっといっしょなんだもん。絶対喜んでくれるよね・・・
今から赤ちゃんのお名前考えとこっかなぁ・・・あ、でもぉ・・・2人で考えた方がやっぱり・・・竜ちゃん、はやく帰ってこないかなぁ♪」
「やすドラ?」〜おわり〜
「やすドラ? 〜えぴろぉぐ〜」
空から舞い降りた虎は、どういう訳か2〜3発ぶん殴っただけで俺を解放した。
ぶっちゃけ足腰立たなくなる程度は覚悟して身構えていたので、この程度で済んだ事はむしろ俺に更なる強烈な折檻を予感させた。
だから大河が腕を組んできた時は関節を極めてくると思い、最悪骨折もあるかもと絶望する俺。
だが、痛みに恐怖して目を閉じてると大河はそのまま歩き出す。
恐るおそる目を開けてみると、大河がアホを見るような目で俺を見上げていた。
「どうしたのよ、そんな顔して? 早くしないと遅刻するわよ」
「・・・大河? 腕・・・折ったりしないのか・・・?」
「はぁ? バカ言ってないで・・・ほら、ちゃんと歩きなさいよ。私だって歩きにくいんだから」
「お、おぅ・・・・・・?」
とりあえず、しっかりと目を開けて普通に歩き出す。しばらく大河と並んで歩いて、学校が見えてきた辺りで我に返った。
見慣れた制服を着た・・・うちの学生が俺達を指差してヒソヒソ話してるのが見えたから・・・
「大河・・・なんで腕なんて組んで・・・ほら、あれうちの生徒じゃないか? 見られてるからもう・・・・・・」
「い、いいでしょ、そんなの・・・これはね? 昨日やっちゃんのお見舞いに行った私へのごほうび・・・ち、ちがくて、埋め合わせなのよ?
あんた、電話で言ってたじゃない。ちゃんと聞こえてたんだから」
「・・・それは櫛枝と川嶋に言ったんであって・・・てか、大河は普通に帰ってきただけだろ」
「・・・みのりんとばかちーはよくて、ご主人様はダメだなんて・・・言わないわよね、駄犬・・・?
あと、『学校に着いたらお終い』じゃないわよ? 今日は一日こうしてるんだからね・・・お分かり、犬?」
「ちょ・・・大河、罰ゲームとかにしてもやり過ぎじゃへぶっ! ・・・なぁ、何で俺は今ビンタされたんだ?」
「・・・・・・罰ゲームじゃないわよ・・・罰ゲームじゃないもん・・・罰ゲームじゃ・・・」
・・・校門まで来ると、他の生徒は一定以上俺と大河には近づかないで遠巻きに眺めてる。
俺が言った『罰ゲーム』って単語がよっぽど大河の中の何かを刺激したのか、下駄箱の所まで大河は俯いて歩いて・・・
「・・・あっ、待っ・・・・・・ひぐっ・・・っく・・・ぐす・・・」
「お、おい・・・」
上履きに履き替えるために腕を離した瞬間にポロポロ泣き出した。
慌てて目線を大河のそれに合わせると、いきなり抱きついてきて俺の肩に顔を押し付けてくる。
・・・少しの間頭をポンポン叩いてやってると、ようやく泣き止んだらしい。大河が顔を上げる。
「・・・大河、俺が悪かったって・・・だから泣くなよ・・・・・・」
「・・・・・・うるさい、泣いてないわよ・・・」
じゃあ俺の制服で目元を拭うなよ。周りの連中が余計に注目してるじゃないか・・・
「そんなとこで拭いてないで・・・ほら、こっち向けよ」
「ふみゅぅ・・・ちょ、止めて竜児・・・恥ずかしい・・・」
「分かったから・・・ちゃんと拭いとかないと荒れるぞ」
「・・・うん・・・ふにゅ・・・痛くしないで・・・」
「はいはい」
制服だと痛そうだと思って、ポケットからハンカチを出して大河の顔を拭いやる。
・・・そうすると更に周りがうるさくなっていく。
と、今まで目を閉じてされるがままだった大河が、薄目を開けて周りを見渡した。
「・・・なに見てんのよ」
それだけ言っただけで蜘蛛の子を散らしたように野次馬が消えた。お前はどっかの毒舌女芸人か・・・
大河は回りに人影が無いのを確認すると、また目を瞑って顔を上げる。
「・・・も、もうちょっと拭いて・・・ふみゅ・・・痛くしないでってばぁ・・・」
・・・後でどんな噂が立つか恐い・・・まぁ、良い噂なんて立ったこと無いけどな。
満足するまで顔を拭いてやったおかげか、教室に着く頃には大河はすっかりいつも通りになっていた。俺と腕を組んでる以外は。
「・・・・・・なぁ、さすがに」
「ど、どうしにゃ・・・どうしたの竜児? 早く入りましょ」
これ以上はもう・・・っておい。
話しかける俺を無視して教室に突っ込んでいく大河に引きずられて、俺も教室に入る。
・・・大河、自分から腕組んできといて緊張してんなよ。しかも、今ので顔真っ赤になってるぞ?
教室に入ると、たかだか2日休んだだけなのに注目されてるような気がして恥ずかしいな・・・俺まで赤くなりそうだ。
(お、おい・・・高須くんと逢坂が腕組んでたのって、やっぱり本当だったのかよ・・・)
(本当もなにも・・・現にあの手乗りタイガーが借りてきた猫みたいに大人しくなって、高須くんにくっ付いてるじゃないか・・・)
(隣のクラスの子、下駄箱で高須くんと逢坂さんが抱き合ってるの見たって。しかも逢坂さん泣いてて、これ見よがしに高須くんに甘えて)
(嘘っ!? 入学以来、数多の男子を物理的に沈めてきたあの野良虎が!? あ、ありえないわ・・・)
(デレタイガーktkr!)
いや、教室中が腕を組んで入ってきた大河と俺を間違いなく注目してる。ていうか最後の奴なに言ってんだ?
大河が真っ赤だった顔を更に赤くして俯く・・・だから、腕離そうって・・・おい、更にくっ付いてくんなよ・・・
俺も確実に赤くなってくのを自覚しながら、周りのざわつきを無視して自分の席に座る。
さすがにもう大河も自分の席に着くだろうし、あとはテキトーに能登なり春田なりとダベってればいいだろう。
まだ登校してないみたいだけど、どうせ誰かが教えてるんだろうな・・・からかわれたり笑われるくらいはこの際・・・
トスンッ
「・・・・・・・・・」
(うぉい・・・逢坂のやつ、いくら手乗りって言われるくらい小さくったって高校生だよな? あれはそういう意味で取っちゃっていいのか?)
(・・・あれはもう借りてきた猫じゃない・・・完全に『大好き』な飼い主に甘える猫そのものだ・・・ほら、しっぽ見えたろ? な?)
(キャー! 逢坂さんだいたーん・・・あ、他のクラスの子にも教えてあげなくちゃ・・・『カシャッ!』・・・はい、一斉送信っと)
(野良虎も、もう野良じゃなくなったんだ・・・あんなにじゃれついて・・・)
(俺の膝にも乗ってくれえええええええええええええええええええええええええええええ!!)
周囲が一気に騒がしくなる。俺の動悸も激しくなってく。汗が噴き出る。あと最後の奴はなんなんだ。
逃げ出したいけど逃げられそうな空気じゃないし、なにより俺の膝に乗ってる大河が邪魔して立てない。
しかも泰子や大河曰く「お姫様抱っこ」に似たような、俺から見て横向きに座ってるので赤くなってる顔が丸見えだ。
「た、大河・・・? ・・・なにしてんだ・・・?」
「・・・だって・・・・・・こないだは竜児からしてくれて・・・それに埋め合わせ・・・」
両手の指を絡めて結んだり開いたり、膝を擦り合わせてモジモジしながらいつもの大声が嘘みたいにボソボソ喋る大河。
眺めてるだけなら可愛いのは確かだけど、状況が状況だからどいてもらいたい。っていうかどいてくれ。
「いや・・・もっと別のとかがあるだろ? ほら、飯とか・・・な? ・・・帰ったらいくらでも聞くから、だから今はどいてくれると・・・」
「・・・これじゃダメなの・・・?」
「ダメなんてことは・・・ただ、周りの目があるだろ・・・?」
「・・・何よ、他人の目なんてほっとけばいいじゃない・・・私はこれがいいんだから、ちょっと黙ってなさいよ・・・ばか・・・・・・」
ポスッ・・・
「・・・・・・・・・」
((((・・・・・・・・・))))
(・・・あ、甘えんぼタイガー・・・ハァハァ)
そう言って、目を瞑った大河が頭を寄せてくる。ついでに背中を支えてやってた腕が引っ張られて腰に回され、余計に密着する格好になる。
俺を含めて教室中が・・・1部を除いて静まり返る。だから最後の奴は一体なんなんだよ。
俺を椅子にして、真っ赤な顔で小さく丸くなってる大河は本物の猫みたいだけど・・・そりゃあ可愛いけど・・・周りの視線が痛すぎる・・・
無理やりどかすことが俺にはほぼ不可能になり、こんな格好で・・・こんな衆目に晒された状態で今日1日過ごすのか・・・
・・・まぁ、大河が良いならそれも良いかもしれないな・・・そんな風に俺が若干麻痺ってきた時、教室の扉が勢いよく開いた。
「おはよー! ・・・大河ー? そんなとこでなにしてんの・・・?」
「・・・・・・逢坂さん? いくら小さいからって、高須くんが邪魔そうにしてるよ? 少しは高須くんの迷惑も考えなきゃ・・・ね? だからどけ」
櫛枝と川嶋が一緒に教室に入ってきて、真っ先に俺と大河の所まで来る。
自分にかけられた声に反応して、チラッと目を開けた大河が途端にギョッとした顔になって体を起こした。
ついでに下りて・・・は、くれないのか・・・
明らかに動揺しまくってる大河が、俺達の前で仁王立ちしてる櫛枝と・・・本当に仁王みたいな顔してる川嶋と喋り始める。
「み、みのりん・・・これはその・・・・・・ぁ、竜児がね? 昨日の埋め合わせしてくれるって・・・
私は遠慮したんだけどね? 竜児が『それじゃあ俺の気が済まない。大河さえよかったら一生俺の作った味噌汁を飲んでくれないか?』
って言って、どうしてもきかないから・・・だから私ね、しょうがなく竜児の膝に乗ってあげてね・・・・・・」
・・・なんだよその古臭いプロポーズみたいなセリフ。それ俺も初耳なんだけど・・・しかも今の格好の説明と関係無いんじゃ・・・
「あ、そういうことなんだー・・・んん? どういうこと? ・・・大河、それ本当なの? なーんかおかしくない? 特に高須くんのセリフとか」
「う・・・あ、か・・・そ、そんにゃこちょ・・・・・・えっと・・・い、いい今のは・・・」
「嘘なんでしょ? ・・・逢坂さん、とりあえず高須くんから下りようよ? それ見てると、亜美ちゃんなんだかすっごくイライラするの」
「・・・みのりん? これはね・・・これは・・・・・・・・・い、いつものこと・・・だよ? ・・・ぁ!? そうよ! いつもしてるの! そうそう・・・
竜児のお家行ったらね、竜児ったら抱っこしてきて、私を膝に乗っけて、そのままあ〜んとか・・・う、嘘じゃないよ?
・・・きっとご主人様に甘えてるのよ・・・まったく、いつまで経ってもホント竜児は駄犬なんだから・・・だからね、みのりん?
これは普段通り、いつも通りのことなんだから。全然変なことじゃないんだから・・・もういいでしょ? はい、この話はお終い」
嘘だろ・・・一部はやった事あるけど、少なくともそんな事を日常的に大河にしてたなんて記憶、俺には無い。それに人前でなんて事を・・・
「あはは〜そっかー・・・いっつもしてるんだ〜そっかそっか・・・でも大河? それって、学校でまでする必要ないんじゃないのかなー・・・?」
「しかも甘えてるのは逢坂さんの方ってみんな分かってるよ? だから早く下りてよ? 情緒不安定になりそうだから、亜美ちゃんが」
「・・・それはほら? みのりんだって、昨日の埋め合わせで竜児からお弁当作ってもらうんだし・・・それと大して変わんないよ」
「わだすにゃーそうは思えないんだけどな〜・・・なんでか大河の方が得してるように思えちゃうんだべー」
「・・・だからぁ、それはみのりんの気のせいだって・・・んもぉ、おかしなみのりん・・・ウフフ・・・」
「・・・だからー、そんな事は絶対に無いってば・・・おかしな大河・・・あはは・・・」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「・・・ねぇ、あんまり無視決め込んでると亜美ちゃん泣いちゃうよ? いいの? 亜美ちゃん泣き顔も超可愛いけど、さすがに可哀想でしょ?
亜美ちゃんが泣いたら、きっとそこいらのバカが暴れちゃうよ? 『亜美たんを泣かすな』って。どうするの?」
「・・・さっきっから・・・うっさいのよ、ばかちー! あんたなんて自販機の間で1人寂しく泣いてなさいよ、誰も見てないから」
「高須くんだけは見ててくれるから。自販機の間でも下でも、中でもちゃんと見つけてくれるよ。
・・・高須くん、亜美ちゃんが泣いちゃったら抱きしめてくれるよね? ・・・うぅん、抱いてくれるよね?」
「!? ダメ! 竜児は私のなんだから! メタちーは泣きまねでもして、そこいらのハァハァ言ってるバカに抱かれてればいいでしょ!」
「・・・メタボチワワ? メタボチワワの略なの? ・・・メタボメタボって、あんまりしつけーとあたしだって本気で泣くのよ!?
それに全然よくねぇんだよ! ハァハァとかキメェ言い方してるバカとか! そんな奴、こっちから願い下げだっつの!」
「お似合いじゃないの? 『落ち目のモデル、川嶋亜美に恋人発覚』とか、スポーツ新聞が隅っこに取り上げてくれるかもしれないわよ?」
「当然相手は高須くんだよね? ごめんね、高須くん・・・亜美ちゃんのせいで、婚約者とかって報道されちゃって・・・それにおめでたとか・・・
だからね? 亜美ちゃん・・・責任取ってキチンと引退して、いい奥さんになってあ・げ・る♪これでも尽くすタイプだって自認してるよ?」
「・・・りゅうじのこんやくしゃ・・・りゅうじのおくさん・・・りゅうじのあかちゃん・・・あかちゃん・・・りゅうじとわたしの・・・あかちゃん・・・・・・
・・・ふ、ふん! ばかちーみたいな腹黒が何言って・・・私の方がよっぽど・・・およめさんだもん・・・あかちゃんだって・・・
りゅ、竜児? 竜児も私の方がいいでしょ? あんな無駄にお肉ばっかり付けたプヨプヨなチワワより、私の方が・・・ね? ね? りゅうじぃ・・・」
「高須くんはぺドとかじゃないから、断然亜美ちゃんの方がいいに決まってるよね? 手乗りタイガーったらなに言っちゃってんの?」
「あ、じゃー2人の意見を参考にすると、1番高須くんの好みに合ってるのって・・・私かな? どうする、高須くん? 損はさせないぜ?」
「「 はぁ!? なんでよ!? 」」
「・・・なんで私のときばっか・・・・・・」
(・・・なぁ・・・逢坂の惚気はいいよ? だけど櫛枝や川嶋さんは何を言ってるんだ? 抱くとか・・・あれじゃ・・・あれじゃあ・・・まるで・・・・・・)
(それ以上見るな、言うな・・・泣くな・・・あれだ、夢だろ? じゃなきゃ櫛枝も川嶋も、俺達をからかってんだよ・・・早く覚めないかな・・・)
(えぇ? 逢坂さんと高須くんって、もうそんな仲だったの? すご・・・それにみのりんやあーみんまで・・・え? えぇ? 四角関係!?)
(やめてあげてよ・・・もう、虎を野良に戻さないであげて・・・味を占めて甘ったれた虎は、自分じゃ餌だって獲れないんだよ・・・・・・?)
(誠氏ね)
・・・・・・微妙に本当の事も混ぜながらとんでもない事を口走り続ける大河・・・
笑いながら、だけどたまに能面みたいな無表情になって大河にツッコミを入れる櫛枝・・・
途中、物凄くいや〜な空気になった気がするけど・・・・・・大河と櫛枝って、親友だったよな・・・? だ、大丈夫だよな・・・
そんな2人に無視され続けていきなり爆弾発言をかます川嶋と、一気に川嶋に反応した大河がもっと大きな爆弾を落として・・・
俺が口を挟むタイミングなんて無いじゃないか。そう思ってたら、今度は3人一緒に俺に話を振ってきた・・・なにこれ・・・
腕の中にいる大河が、下から俺の顔色を窺ってきて・・・そんな捨てられそうな猫みたいな目で見るな・・・それに『赤ちゃん』って・・・
自信満々の川嶋が、空いてる方の俺の腕を取って・・・手が震えてるぞ? 軽く汗ばんでるし・・・
目だけ見たらまったく笑ってない櫛枝が冗談交じりに顔を近づけてきて・・・冗談だよな? ・・・・・・ていうか・・・
「・・・お前ら、さっきから一体何の話をしてんだ・・・・・・?」
「「「・・・・・・・・・」」」
何で黙るんだよ・・・・・・
自分の席に座ってる俺と、その俺を椅子にしてる大河を見下ろしてくる櫛枝と川嶋。クラスの連中は俺達を中心に輪になって見てやがる。
そんな状態で、大河達は顔を合わせた瞬間からほとんど途切れることなくギャーギャー喋って・・・そんなもんじゃないな、騒ぎまくってた。
多分両隣・・・いや、もうこの階の教室中に聞かれてたんじゃないのか? ・・・大河達が静かになると、教室の外からすら物音1つ聞こえない。
何故か口を開くことを躊躇われる雰囲気の中、しばらくは続くと思った膠着状態は・・・まぁ、やはりと言うか・・・大河がぶっ壊した。
「・・・ねぇ、竜児?」
「お、おぅ? どうした? 下りるか?」
「うぅん・・・あのね? 今日、1日中竜児と一緒にいるのってね? 昨日の埋め合わせのおねがいなんだけど・・・」
「・・・・・・・・・」
俺、そんな約束絶対してないよな? そしてお前はそこで授業も受けるつもりでいたのか? ・・・まさか家に帰ってからもとか言わないよな?
ただでさえ泰子とケンカ気味になってるんだから、絶対また機嫌悪くするだろ・・・2人とも。本当に勘弁してくれよ・・・
口に出せば何されるか分からないので、黙って大河が何を言うのか待つ・・・余計なこと言ったら、ホントに腕の1本くらい折られそうだ・・・
「だからね? まだ一昨日の約束が残ってるでしょ・・・? 竜児が『何でも』言うこと聞いてくれるって・・・あれね? 今決めたの・・・」
教室の中がまたざわつく。どっかで唾を飲み込む音が・・・ってこれは俺のか・・・何故だかひどく緊張する。
大河のやつ、なんて言う気だ? しかもこんな所で・・・けど、なんか最近こんな事があったような・・・あ、泰子とも似たような事・・・が・・・・・・
背筋に何か走った。大河の言おうとしてるお願いって、この後の俺の人生をメチャクチャ左右するんじゃないのか? そんな予感がする。
「た、大河? 俺、トイレに・・・」
「・・・今言うんだから待てるでしょ・・・? すぐ済むから・・・・・・あ、あのね? 私とね・・・・・・ふんっ!」
トイレに行くふりしてそのまま帰ろう。なんだか泰子が呼んでる気がするし・・・・・・家に帰ってもマズイ気がするのは何故だ・・・?
とにかく今のこの状況よりはマシだろう・・・多分。
目先の問題を後回しにして逃げようとした俺を、大河は最初は優しい言葉で、最後は腕力に物を言わせて無理やり止めた。
だけど、俺は待てと言われた段階で上げかけてた腰を落としたんだ・・・なのに、なんで首絞めてくんだよ!
見ようによっては大河に抱きつかれてる風だけど、実際のところ大河の腕が俺の首をキツく締め上げてる。
「・・・た・・・大河・・・息が・・・く、櫛枝? それに川嶋も何して・・・・・・」
「・・・みのりん? どうして私を竜児から無理やり引き剥がそうとしてるの? それも気付かれないように後ろから近づいたりして・・・
ばかちーも離しなさいよ・・・さっきも言ったでしょ? この格好はいつもしてることだもん、気にしないでよ・・・
・・・・・・先に言っとくけど、私は竜児から絶対に離れないからね? 今日はずっと・・・竜児とずっとこうしてるんだから」
「・・・やっぱり大河が1番得してるよね? 『何でも〜』って、子供じゃあないんだから〜・・・とりあえず、トイレにでも行こっか?」
「逢坂さん、それはさすがにずるいよ? しかもこんな・・・断れるような事、できない場所で・・・・・・だからちょっと顔貸しなさいよ、ドチビ」
俺の首にしっかりと引っ付いてる大河を引っぺがそうと、櫛枝と川嶋が大河に手をかけてる。
何を言ってるのかサッパリだけど、2人は大河のする『お願い』を言わせたくないらしいのは分かった。
理由は知らないけど、やたらと必死なのは伝わってくる。首を絞めてる大河の力が半端じゃないから、向こうも相当力を入れてるんだろう。
折られるのは腕じゃなくって、首の方だったか・・・それ・・・俺、本当にヤバイんじゃ・・・マジで意識が遠のいてきた・・・
真っ青になってるだろう俺を無視して、櫛枝達にグイグイ引っ張られながら真っ赤な顔した大河が耳元で囁く。
「りゅ、りゅうじぃ・・・わ、私と・・・・・・」
「おう、高須じゃないか、今日は来てたのか。それに朝からいろいろと凄いな」
「私と・・・・・・ふぇ? 北村く・・・あっ! やだ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁりゅうじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・・」
「たーかすくーん! ちょっと大河と、とっても大事なお話があるからあとよろしく〜〜〜・・・・・・」
「祐作! そのKYぶりが祐作の良いとこよー! けど亜美ちゃんがする時にしゃしゃり出てきたら承知しないから〜〜・・・・・・」
「ぶはっ! ・・・はぁっはぁ・・・はー・・・」
北村が俺達に声をかけた瞬間、大河の腕から力が抜けた。
その一瞬を逃さずに、櫛枝と川嶋が一斉に大河を引っ張って・・・3人ともそれぞれ喚きながら凄いスピードで遠ざかっていった。
流れるような動きで櫛枝と川嶋に担がれた大河は、見えなくなるまでずっと俺に手を伸ばして・・・
まるで断末魔のような叫び声は、俺が息を整え終わるまで学校中に響いていた・・・夢に出そうだ・・・
・・・ようやく落ち着きを取り戻した俺は、机の前で待っていた北村に感謝を述べるために口を開く。
「・・・悪いな、北村・・・助かった・・・本気で助かった」
「気にするな・・・詮索するのもあれだが、逢坂は高須に抱きついて何をしてたんだ? 亜美達が全力で阻止しようとしてたように見えたが」
「・・・・・・俺も分かんねぇよ・・・」
「・・・そうか・・・災難だったな、としか言えないが・・・あれはやり過ぎだろう・・・・・・高須に何かあったら俺は・・・・・・」
ぞわっ・・・
・・・あれ、鳥肌が立ってる。なんでだろう・・・
北村は俺を心配してくれてるし、助けてくれたじゃないか・・・なのに何で俺は、北村を無性に・・・
不意に感じた違和感を無理やり押し込めるために、北村と当たり障りない会話をする。いろいろ聞きたいこともあるし。
「・・・なぁ? 俺が休んでる間、なんか変わった事ってあったか?」
「ん? あぁ・・・まず高須がいなかった事だな。他に変わった事と言うと・・・高須がいなかった事しかないな。俺にはこれが1番変わった事だ」
ぞわわっ・・・
「・・・・・・そういう事を聞いてるんじゃないんだけどな」
「冗談だ。そうだな・・・逢坂なんかは相当大人しかったぞ。珍しくドジらしいドジもせず、まるで別人だった。まぁ、例外もあったが・・・
亜美ともケンカしていなかったようだし・・・あぁそれと・・・聞いた話なんだが泣いていたそうだ。理由までは分からないが・・・」
「そ、そうなのか? 以外だ・・・他になにかあるか?」
「春田と能登が入院したな。逢坂の肩に手を置いた春田が
『高っちゃんがいなくて寂しいんだろう? 俺が慰めて』・・・これ以上は逢坂が言わせなかったが・・・
能登は春田の隣にいたばっかりにとばっちりを・・・まぁ、これが例外だな。あとはずっと大人しかったぞ? 逢坂は。
・・・これは俺の推測だが、逢坂が泣いていた理由と関係あるんじゃないのか? 図星を突かれたりとか・・・実際はどうだか知らないが」
「・・・春田・・・お前はバカだ、大バカ野郎だ・・・能登に謝れ・・・・・・他には?」
「他というと・・・あぁ、これがあったな・・・・・・高須がいなかった。俺にとっては大問題だ」
ぞわっ!
よし、もう聞くことは無いな。
俺は立ち上がって北村と肩を組む。いつの間にか鳥肌が蕁麻疹になってるが我慢しよう。すぐに引くはずだ。
「わざわざありがとうな、北村・・・ちょっといいか?」
「なんだ急に? それにこんな事で礼なんてべつに・・・」
「いや、俺の気持ちの問題なんだ・・・ちょっとそこに立っててくれるか? すぐ済むから・・・」
教室の隅まで北村を連れて行き、そのまま突っ立っててもらう。
この距離、この位置ならよっぽど上手い避け方をされてもどこかには当てられるだろう・・・いや、例え避けられようと必ず当てる。
俺は北村と人1人分の間を開けて、軽く足を引いて重心が十分乗るように用意する。
どんなに当たり所がよくても半端なものだと北村は耐え切る。なぜか脅迫めいた予感がする。
・・・軽く深呼吸して集中して・・・俺の準備が終わった。顔には出すな、態度にも出すな。
「高須? 改まってどうした? ・・・まさか告白か」
「・・・・・・ちょっと違うな・・・あぁ、眼鏡だけは取っておいた方がいいぞ?」
「・・・これでいいか?」
北村が眼鏡を取る。ついでに目も瞑ってる。意味なんて考えたくもないけど好都合に違いは無いな。
「おぅ・・・北村? 今までありがとうな・・・」
「? ・・・高須? お前なに言って・・・」
ドゴンッ! ゴンッ! ゴツッ、グチャ・・・
・・・・・・・・・ゴト・・・
「・・・これでよしっと・・・能登と春田によろしくな・・・・・・・・・あれ? おい、北村? そんなとこでなに寝てんだ? 起きろよ。おいって」
気が付くと北村が教室の隅っこで寝ている。さっきまで座ってたはずの俺も何故か立ってるし・・・
それにやたら気分が良いな。悩みが一気に吹っ飛んだような・・・ムチャクチャ爽快な気分だ。あと額が少し痛いけど、何でだ?
ふと周りを見ると、みんな変な顔して俺と北村を見て固まっている・・・何かあったのか?
「・・・なぁ、誰か知らないか? 俺、自分の席に座ってた筈なのにいつの間にか立ってるし・・・北村もこんなとこで寝てるし」
1人くらい見てた奴がいるだろう。そう考えて、とりあえずその辺の奴に尋ねても
(え? 高須くんがそれ言うの? しかもあんな晴々とした顔して・・・あ、『何も無かったよな』的な口止めか? ヤベェ、とぼけてなくちゃ)
(・・・なぁ・・・高須くん、なんかさっきと今と雰囲気ちがくないか・・・? それにホントに北村が倒れてる理由、覚えてないっぽいぞ・・・)
(( キュン・・・ ))
(( えぇ!? なんで!? ))
(強面だけで不良だと思ってたけど実は優しい男子がふと出したBLっぽい展開とそれをワイルドにぶち壊したギャップに萌えて立ったフラグだよ)
みんなヒソヒソ話しをしてるだけで答えてくれない。最後の奴に到っては日本語を喋ってるのかすら分からない。本当になんなんだ?
何があったのか気になるが、北村をこのままにしておく訳にもいかない。仕方なく席まで運ぼうとすると
「おはようございま〜す・・・は〜い皆さん? そろそろ席に着いてくださ〜い。
・・・あら? おはよう、高須くん・・・お母さんのお具合はどうですか?」
すぐ後ろから声をかけられた。
振り向くと、予鈴は鳴ってないが既に独し・・・恋ヶ窪先生が教壇に立っている。もうそんな時間か・・・大河達、どこまで行ったんだ・・・
連れてかれた大河の事も気になるが、心配して声をかけてくれてるのを無視するのも失礼だろう。北村から手を離して先生の方を向く。
「あぁ、はい。もう大丈夫らしいんで」
「それはなによりですね・・・あの、北村くんはどうして床で寝てるのかしら・・・」
「俺も分からないんですよ・・・普通に話してたと思ったら、いつの間にか北村のやつ床で寝てて・・・
何しても起きないんで、とりあえず席まで引きずろうとしてたところで」
「そぅ・・・北村くん、疲れてるのかしら? 北村く〜ん、起きてくださ〜い・・・本当に起きませんね」
「・・・・・・おい、北村? いい加減起きろって・・・ほら、立って・・・」
「あ、先生も手伝いま・・・きゃあっ!」
「あぶな・・・!」
北村を起き上がらせようと屈んだところで、手を貸そうとした先生が足を縺れさせて転んだ。しかもこっちに。
咄嗟に手を伸ばして、突っ込んできた先生を抱きとめる俺。
背中と頭が床にぶつかって目を閉じる・・・痛みを堪えて目を開けてみると、先生も目を閉じていて・・・近いな。
間近に先生の顔があるのでちょっとドキッとする・・・そのせいかどうか、少し息苦しい気が・・・ん? これは・・・舌みたいな・・・舌?
俺より数瞬遅れて先生がそろそろと目を開ける。バッチリ目が合ってから気付いた・・・ちょうど口が当たってて、俺と先生は・・・
「・・・・・・!」
「!? ちゅ・・・ぁ? ・・・ちゅ・・・? ・・・ちゅる・・・はむ、んちゅ・・・んっ・・・んふ、んんぅ! ちゅぅぅ・・・っぽん! ・・・あぁん・・・はあぁっ・・・」
「!? ・・・!? っ!?」
「くちゅぅ・・・んぁ・・・し、知らなかった・・・はぁん・・・くちゃぁ・・・キスって、こんなぁ・・・ちゅ、ちゅぷ・・・いや、逃げないでぇ・・・ぢゅるる・・・」
「ちょ・・・せんせ」
「こく・・・ん、ふぅ・・・ゆりぃ・・・ん・・・ゆりってぇ・・・ぁん! ・・・ちゅむぅぅぅ・・・ふぁ・・・
・・・だ、だめ・・・ちゅ・・・た、たかすくんはぁ・・・んちゅ・・・せいとなのに・・・こんなのだめ・・・んふ・・・なのにぃ・・・と、とまらな、ちゅ・・・」
「だ、から・・・んせい・・・」
「ん・・・ゆりってよんでぇ・・・ペロ・・・いいのに・・・はぷぅ・・・ちゅ、ちゅ、ちゅぅ・・・んふぁ・・・ん・・・ぅ・・・」
(・・・こないださ・・・独身、また合コン失敗したって聞いたけど・・・ここまで飢えてたのか? まさかキスしたくらいで高須くんのことを・・・)
(多分な。足まで使ってガッチリ絡み付いてるし・・・それにあれ、雑誌かなんかの記事を鵜呑みにしてるんじゃないか? なんかぎこちないぞ)
(・・・あれ、あの号に載ってた『☆気になる男子♪を落とす48のキステク☆』だ・・・三十路、今だにティーン誌読んでるんだ・・・)
(『知らなかった』って・・・もしかして独身、あれがファーストキスなんじゃ・・・え、あの歳で初めて? しかも初めてがディープ? うわぁ・・・)
(ふぅ・・・みんなちょっと落ち着けって・・・・・・)
・・・・・・周りが何か言ってるみたいだけど、水っぽい音が大きすぎてよく聞き取れない。
それに俺の初めてが・・・泰子をノーカウントにしたらだけど・・・それに一昨日からこんな事ばっかりしてる気が・・・初めてとかもうどうでもいいか・・・
担任に押し倒されて唇まで奪われるという、一見ドラマかそれ系なビデオっぽいシチュエーションに混乱する俺。
呆然とされるがままになってると、ふと教室の入り口辺りから聞き覚えがあり過ぎる声がする。
目だけを動かして、なんとか教室の入り口を見ると・・・あぁ、やっぱな・・・
「大河ー・・・もう教室だからいい加減泣き止んでよ? そういうのって卑怯だよ」
「逢坂さんって、最近ちょっと泣き過ぎじゃない? いざって時に期待通りの結果にならないわよ、そんな事してると」
「うっさい! そんなの・・・ひっく・・・あれ・・・りゅうじぃ? どこ? ・・・どこぉ・・・? うぅ・・・ぐすん・・・なんでいないのよ・・・ぐしゅ」
・・・・・・大河達が戻ってきた・・・・・・って、大河? なんで泣いて・・・? 一体どこで何を・・・
櫛枝と川嶋も・・・あれは一応宥めてるのか? 口調はともかく、会話の内容は大河を責めてる気が・・・
教室に入ってきた大河達は隅にいる俺に気付かないで、俺の席の周りをうろうろ・・・さすがにカバンの中に入れるわけないだろ。
い、いや、今は・・・
「ちょっ先生、マジでどいて・・・あれ?」
「・・・・・・ど、どうしたんですか、高須くん? もうHRの時間ですよ? ・・・ぁ、あの・・・続きは、その・・・」
「あ、いたあっ! りゅ・・・だ、駄犬? そんなとこで何してたのよ! ・・・まったく、早くこっち来なさいよ。私も座れないじゃない」
「え、いや・・・・・・・・・おぅ」
「・・・・・・ッチ・・・じゃ〜出席とるわね〜。逢坂さん? ・・・・・・居ても居なくてもいいわね」
・・・・・・いつの間に教壇の上に・・・しかも今ボソボソなにを・・・
さっきまで床に転がってた俺に乗っかってたはずの先生は、どうやったのかもう教壇の上で普段通りに振舞って・・・
いや、さり気なさを装って服に付いた埃を払ったり、髪型を直してる。
クラスの連中もそれに絶対気付いてるはずなのに、皆が皆見ないふりでやり過ごしてる・・・
櫛枝と川嶋はクラスに流れてる微妙な空気を不思議がってるみたいだけど、特に何も言わないで自分の席に座ってる。頼むから誰も教えるな。
さっきまで涙声交じりだった大河も・・・大河は・・・・・・
「・・・大河、お前自分の席に」
「今日からここが私の席よ。異論なんて誰にもさせないわ」
「・・・今日1日じゃなかったか?」
「・・・竜児の聞き間違いよ。私は最初から『今日から』って言ったもん・・・だからここが私の席よ」
「・・・あ、じゃあ俺が大河の席に・・・なんでもない。なんでもないからちゃんと前を向けよ、大河。 な?」
「・・・・・・・・・」
さも当たり前のように俺を椅子にしてる。
それに地味に言ってる事が変わってるぞ・・・本気で俺を椅子にして、これからずっと授業を受けるつもりなのか? ・・・やめてくれ・・・
幾らなんでも恥ずかしさに耐え切れなくなって席を移ろうとすると、今まで前を向いてた大河がこっちに向き直って・・・また抱きつくのかよ・・・
俺がなにを言っても、無言でギュっと腕に力を入れるだけで大河は一向に離れてくれない。
・・・もうどうでもいいか・・・ほら、猫みたいなもんだし ・・・どうせ何言っても離してくれないって・・・
そんな事を考えてると、前方から視線を感じる。大河に向けていた顔を上げると独し・・・先生が珍しく目を吊り上げてこっちを見てる。
歯軋りでも聞こえてきそうな気がして軽くビビッてると、先生が大河に対してキツめに話しかけ・・・は? 大河相手に?
「逢坂さん? そんなことは認めませんよ。担任のこのわ・た・し・が、認めません! だから早く自席に着きなさい。高須くんが迷惑してます」
「・・・・・・竜児? なにか言った?」
「俺じゃなくって・・・前見ろよ、俺達めっちゃ睨まれてるぞ・・・」
「そうよね、竜児が迷惑とか・・・私のことを・・・そんなこと言うはずないもん。
・・・三十路? 竜児がいいって言ってるんだからもういいでしょ? ・・・これだから三十路は・・・そんなんだから三十路まで独り身なのよ」
「あ、ちち違うのよ? せ、先生は確かに逢坂さんは睨んでたけど〜、高須くんを睨んだつもりは・・・み、見つめてただけで・・・
・・・あ、逢坂さん、高須くんは『いい』だなんて一言も言ってないでしょ? だから早く自分の席に着きなさい。HRが終わりませんよ?
それに先生はまだ20代ですから、その失礼な間違いを今すぐ訂正しなさい! ぶっちゃけそれが1番頭にきてんだから・・・あんただってその内・・・」
「・・・? 今日はしつこいわね、独身・・・三十路じゃなくても、独身は独身らしく独身ライフを満喫してなさいよ・・・独りで。
だから独身生活とは一生関係ない私たちのことはほっといて・・・独身のくせに・・・独身が・・・この独神」
「・・・聞き捨てならないわね・・・あと2年もすれば、先生苗字を変えるつもりなのよ? それにきっと・・・うぅん、絶対に家族も増えてるし・・・
だからもう独身とか言わないでほしいな〜・・・逆に逢坂さんが独身になっちゃったりして・・・ねぇ、高須くん? ・・・子供は何人がいいかしら」
ガシィッ!
・・・ガタ、ガタン・・・・・・
「大河、俺用事が・・・あれだ、ちゃんとした弁当作ってくるから・・・な、なんならもうずっと俺を椅子にしてても・・・
だから今だけでいいんだ、離してくれよ! 頼むから! ・・・な? 虎と竜は一緒だから・・・な?」
「うん、ずぅっと一緒だけど・・・そんな事より竜児・・・? 私がみのりんとばかちーに拉致られてた間、そこの『行き遅れ』となにしてたの・・・?」
「あ、それ私も聞きたいなー・・・高須くん? 『お局さん』となにかあったの・・・?」
「亜美ちゃんも興味あるんだけど・・・教えてくれるかなぁ、高須くん? 『売れ残り』と一体どんなことしたの・・・?」
しがみついてた大河が、俺の脱走を封じるために全身に力を入れて羽交い絞めにする。
それを確認した櫛枝と川嶋がゆっくりこっちに向かってくる。
この場から逃れられるんなら何でもかまわないと、大河に媚びへつらってみるが全く効果が無い・・・むしろ墓穴を掘った・・・
大河達は一部おもいっきり強調しながら、俺の膝の上と左右をガッチリ固めて訊いてくる。
「た、高須くんと先生の間になんてなにも・・・だ、だって教師と生徒なのよ? いかがわしい事なんて・・・まだ・・・
・・・それから、逢坂さんと櫛枝さんと川嶋さん? あんたら今学期の成績表見てから泣き入れに来ても遅いわよ・・・
言いたい放題言って・・・さっきも言ったでしょ? 先生もうすぐ独身じゃ・・・あら、起きたの? 北村くん」
頭のどこかで『嘘だ、だって息が止ま・・・』・・・なんのことだ。
大河達に囲まれ、更に先生が放つ何かに恐怖し固まる俺の目が、教室の隅で動くそれを見つけた。
「・・・俺はようやく理解した・・・裸でソフトボールだったんだ。何でこんな簡単なことに今まで・・・
逢坂、そこを譲ってくれないか? 俺は高須に用があるんだ」
訳の分からない事を呟きながら北村がこっちに向かってズンズン歩いてくる。
・・・またどこかで『・・・チクショウ! ホンモノになりやがった・・・』って聞こえるけど意味が分からない・・・分かりたくない。
「高須、俺はお前の事がヒデブッ! ・・・すぎぐふぅ! ・・・・・・あいしゴヴォ! ・・・お前と! 裸でソフトボールがしたぐうぅ!? ・・・」
俺の席の前で止まった北村は、虚ろな目をしながら俺に向かって何かを言おうとして・・・その度に大河にぶっ飛ばされている。
痛い・・・見ているだけでこっちまで痛い・・・北村が言いかけてるセリフなんて絶対に聞きたくないが惨すぎる・・・凄惨の一言に尽きる。
「・・・逢坂、離し・・・高須ぅぅぅう! 俺は・・・・・・あ・・・」
・・・北村が黙らないことを悟ったようだ・・・大河のやつが北村の頭を片手で掴んで・・・激痛でのた打ち回る北村を引きずって・・・北村を・・・
「チビとら、あんた祐作に惚れてたんじゃなかったの? ・・・それにたとえ嫌いな奴でも、普通窓から捨てないわよ? ・・・やるじゃない」
「・・・惚れてたとか・・・窓から捨てるとか・・・ばかちーが何を言ってるのかサッパリだわ。
それに北村くんなら自分の席にちゃんと居るじゃない。ね? みのりん?」
「そうそう! ねー? 先生?」
「は〜い北村くんは今日も出席・・・っと。これでだいじょぶよ〜」
北村の机にあるのは眼鏡だけだぞ・・・北村の全存在は眼鏡に集約されてるのか? そしていつの間に北村の眼鏡が・・・櫛枝? 何で手を拭いて・・・
それに何だよその息の合い方、俺はむしろそっちの方が恐いって・・・人が飛び降りたのに未だ騒ぎになってないのも尚恐い。
うちのクラスだけなら女子は言うに及ばず、男子ですらガタガタ震えて下を向いてるのに・・・念仏まで唱えてる奴もいるぞ。
・・・・・・い、今の内に逃げよう・・・
音を立てないように教室を出ようとすると、誰かに肩を掴まれた。
慌てて逃げようとするが、俺が走り出すより先に目の前に回りこまれる。
「せ、先生・・・俺、ちょっとペットのインコちゃんを病院に連れてかなきゃ行けなくなったんで早退を・・・」
「・・・高須くん・・・あれ、先生の・・・は、初めてだったのよ? ・・・もうお嫁に行けないわ・・・・・・
だから・・・ね? 高須くんが卒業したら・・・18歳になったら・・・ちゅ・・・ん・・・んぅ・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「「「 !? 」」」
「ん・・・・・・続き・・・後でね? ・・・じゃ、じゃあ今日のHRはこれでお終いですから、あと勝手にやっといてね〜」
「・・・・・・・・・」
固まる俺達を放り出して、教室を出て行く先生。丸投げかよ・・・
・・・言うことを聞かないで逃げ出そうとしてる体を『逃げた後の展開』をイメージする事で、無理やり大河達に向き直る。
・・・・・・櫛枝は笑顔・・・を作ろうとしてすぐにくしゃくしゃな顔に・・・川嶋は・・・なぁ? それはいつもの演技だろ? 作った顔だよな?
・・・俯いている大河が、珍しく弱々しい口調で話しかけてくる・・・
「・・・りゅうじ・・・? 独身が言ってたのって・・・なぁに? 『はじめて』とか・・・それにチュウまで・・・あれって・・・なぁに?
・・・・・・まさかあんた、独身と・・・え? え? うそ・・・・・・うそでしょ・・・? ・・・うそだもん・・・」
「た、大河・・・? そのことはさー、後ででも・・・ずず・・・あ、あれ? おっかしいなぁ・・・ひっ・・・私までなんで・・・ひっく・・・うぅ・・・」
「・・・りゅうじが独身と・・・独身とりゅうじが・・・いや・・・いやぁ・・・そんなのいやぁ・・・・・・やだぁぁ・・・・・・」
「逢坂さん、ちょっと落ち着いて・・・落ち着けって言ってんでしょ! あたしだって・・・ぐうっ・・・なんで亜美ちゃんがこんな・・・ぐす・・・」
(・・・・・・なんで高須くんばっかり・・・逢坂だけで十分だろ? それなのに・・・依存ロリに天然元気っ娘に現役モデルに・・・おまけに女教師・・・)
(俺、北村起こしてくるよ・・・確かに逢坂にやられたけど、窓から落ちたけど・・・それでも北村なら・・・北村ならきっと何とかしてくれる・・・)
(ご、五角関係・・・それも修羅場・・・どうなっちゃうの? 高須くん、誰と一緒になるの!? まさかハーレム!? ・・・その前に刺されるかも・・・)
(・・・・・・初めてって・・・キスしただけじゃ・・・それに『責任取ってね?』みたいな感じだったけど、被害者ってむしろ高須くんの方・・・)
(誠死ね)
・・・・・・教室中から視線が突き刺さってくる・・・まるで『何股もしてる最低のクズ野郎め・・・』みたいな・・・
ヤバイ・・・その事実無根極まる誤解を早く解かないと・・・自分で言ってて説得力が皆無なのはなんでなんだよ・・・
「・・・なぁ、大河? 櫛枝? 川嶋? ・・・俺の話を・・・『初めて』とか、お前ら絶対勘違いして」
「・・・りゅうじぃ・・・? きいてもいい・・・・・・?」
「あ、あぁ・・・なんだ、大河・・・?」
「ふぐ・・・あの・・・ひっく・・・あのね・・・・・・っく・・・」
「・・・・・・・・・」
俺のセリフに割り込みながら、今まで俯いていた大河が顔を上げる・・・これ以上涙を流さないように、ちょっとだけ上を向いて・・・
たまにしゃくり上げる大河が、言いたい事をキチンと喋り終えるまで待とう。
それに混乱してるみたいだから、まずは刺激させないように・・・
俺が待っててやると、少ししてしゃっくりが止まったようだ。息を整えた大河がゆっくりと口を開く。
「・・・りゅうじの・・・りゅうじのおよめさんは、わたしでしょ・・・?」
「・・・おぅ・・・え? いや・・・た、大河・・・?」
「・・・ほらぁ! やっぱり竜児のお嫁さんは私なのよ! だって今竜児が『おぅ』って、私のことお嫁さんにしてくれるって言ったもん!
それに竜児、さっきのあれ・・・虎と竜はずぅっと一緒だって・・・ぁ、あれ、プロポーズだよね・・・? 嬉しいけどこんな、みんなの・・・
・・・みのりんやばかちーの目の前でするなんて恥ずかしいじゃない、んもう・・・まったくもう・・・・・・ぃぃょ・・・? ・・・んしょ・・・ん・・・」
・・・涙目で見上げられたのが1番効いた。あれに見惚れていたせいだ。
次の瞬間に大河が放った一言を理解する前に返事してしまい・・・俺が理解したときには
大河はさっきまでの泣き顔から一転して『パァッ!』って擬音が聞こえてきそうな勢いで、花が咲いたような笑顔になってる。
それにプロポーズがどうとかって・・・俺はそんなつもりは・・・
おい、何で爪先立ちになって首に腕を回してくんだよ。その姿勢で目を瞑るな、誤解されるじゃないか。
今日何度目かの真っ赤な顔になった大河から目を逸らすと・・・呆然としている川嶋と・・・櫛枝はなんでカバンの中に手を入れてんだ?
「・・・ちょっと! テメェきったね・・・! っ・・・・・・高須くん? 亜美ちゃんのお願い忘れてないよね? 付き合ってくれるって・・・
あれをお願いしたのが昨日だから・・・タイガーにしたプロポーズよりも、よっぽど早く亜美ちゃんの想いを受け入れてくれたんだよね?
もう私たちって・・・きゃ♪・・・だ・か・らぁ・・・今日は学校サボって亜美ちゃんのお家に来ない? ・・・ホントの亜美ちゃん、見せてあげるね・・・」
「・・・おぃ、バカチワワ? あんたはここで『負けちゃったなぁ・・・ねぇ? そこいらでハァハァ言ってるバカそうなきみ? ・・・抱いて』
って盛った負け犬になってればいいのよ・・・そのダルダルなお腹で、なにが『ホントの』よ・・・」
「・・・は〜・・・なにか言った? 『哀れ乳』・・・うざ・・・」
「「 ・・・ぁ? 」」
「高須くーん? 私のお願いも聞いてくれるんだよね? お弁当は高須くんに任せるからさ・・・ふ、2人で遊園地とか行って・・・そこで食べない?
ほら、ここなんかどう? 私バイト先でこういう割引権とかよく貰うからさー、そうしようよ! 私、高須くんと一緒に行ってみたい!
・・・それに、大河達みたいな重いこと言わないよ? ・・・だ、だから・・・・・・た、高須くん! まずはお友達から始めて」
「「 誰のなにが重いって・・・? それに・・・2人でなんて絶対にダメッ!! 」」
「・・・いいかげんにしろ〜! 私だってぇ!」
・・・大河達がまたギャーギャー騒いでる・・・ああなった大河達は絶対に止められない。
俺にはよく分かる・・・なんで騒いでるのかはちょっと分かんないけど・・・それにいい具合に先生の事は忘れてるみたいだ。
・・・そういえば先生が教室を出てから随分経つのに、一向に授業担当の教師が・・・あぁ・・・今日の1限って、先生の担当かよ・・・
何してるんだ・・・? い、いや・・・深く考えるのは止めとけ、俺・・・嫌な汗が止まらなくなりそうだ・・・ほら、もう汗が・・・・・・
「・・・・・・あ、お母さん? 朝からごめんね。急だけど今度の休みに顔出すから、お掃除しっかり・・・・・・お見合いの話はもういいわよ・・・
あの、それでね? お客さんも一緒なんだけど・・・彼氏って、まだそんなんじゃ〜・・・だ、だけどね? いい人だから紹介しとこうって・・・
・・・え? どんな人・・・目つきは悪いんだけど、とっても優しくって、家事も得意らしくって・・・けっこう年下なんだけどね・・・?
あと、その・・・初めての人で・・・っい、今のお父さんには黙っててよ!? ・・・うん・・・やだ、お母さんったらもう・・・子供はまだ早いわよ〜
だって高須くんまだ高校生で・・・冗談じゃなくて、私は真剣に高須くんと結婚したくて・・・は? なんでダメなのよ・・・どこがおかしいの?
そりゃあ歳の差とか、高須くんが私の生徒とか・・・けどね? そんなの私たち全然気にしないで・・・問題になる? どこに問題があるのよ。
世間体・・・? 29歳の独身女が高校生に恋したらダメなんて聞いたこと・・・仕事仕事って、仕事よりも愛でしょ!? 私が間違ってるの!?
・・・さっき言ったじゃない、初めての人って・・・私もう高須くん以外の人となんて・・・っごめん、もう授業だからまた今度・・・じゃあね。
・・・何で反対するのよ・・・さすがにまだ学生の内から紹介とかは早すぎたの・・・? でも、できればすぐ式とか挙げたいのに・・・はぁ・・・
あ、先に高須くんのお母さんから攻めた方がいいかしら? お義母さんになるんだし・・・仲良くしてた方が結婚した後も・・・同居とか・・・
よし、今日の放課後にお見舞いとか言って寄らせてもらお。それに料理とかすれば、高須くんに家庭的な面をアピールできるわよね?
・・・最初の印象が大事って言うし、今日は早引けして色々・・・それじゃ高須くんに会えないわね・・・さっきの続きもしたいのに・・・」
「っくちゅん・・・なんだろ? 竜ちゃんがとぉっても危ないような・・・すっっごく気に食わないのが来るような・・・気のせいかなぁ・・・
・・・そんなのよりも・・・竜ちゃん、はやく帰ってこないかなぁ・・・やっちゃん、もう・・・そうだ、 電話しちゃお♪
えっとぉ、どんなお話ししようかな・・・あ、多分帰りに晩ご飯のお買い物するだろうしぃ・・・
本屋さんで、た○ごクラブとひよ○クラブ買ってきてっておねがいしよっと♪ 他にもぉベビー服の本とかも♪
竜ちゃんとぉ並んで赤ちゃんのお洋服とか選んでぇ・・・えへへ・・・竜ちゃん、はやく帰ってこないかなぁ♪」
「やすドラ? 〜えぴろぉぐ〜」〜おわり〜
「やすドラ?×りえドラ?? 〜ぷろろぉぐ〜」〜おわり〜
おしまい
乙でした
sageとかどうでもいいから、
>>271このクソガキからどうにかしろよ
>>297 超GJ!
長編完結、お疲れ様でした。気が向いたら是非次回作を…
乙&GJ
長編が完結するのは嬉しくもあり悲しくもあるなぁ
保管庫に収録されたらまた最初から読み返すかな
>>297 長編乙でしたww
今まではエピローグのためにあったのかと思えたww
楽しめましたw
GJと乙でした。
>>297 超GJ!
長編お疲れでした。やはりハーレムはいい…
ところでりえってだれー?
独神はゆりちゃんだしなぁ
×「やすドラ?×りえドラ?? 〜ぷろろぉぐ〜」〜おわり〜
○「やすドラ?×ゆりドラ?? 〜ぷろろぉぐ〜」〜おわり〜
とんだ落ちがついちゃったもんだ・・・生温かく脳内変換して下さい
保管庫の管理人さんならきっと何とかしてくれる・・・お願いします
>>297 超大作&ハーレムEND乙。そしてGJ!
また何か書いてください。楽しみにしてます!
>>304 独身の中の人じゃない?
それは盲点だった
ハーレム過ぎwww
(誠氏ね)でクソワロタwwwwww
需要ないかも知れないけど田村モノ書いてるからちょっと待っててね
軽くSS書きながらスレ見てたんだけど、
馴れ合い自重と
死ぬ話とか拒絶する人が居る様な話は先に注意書きと
書きながら投稿しない、なるべく短時間で一気に投稿の三つかな、
五月蝿く言うのに反対の人はいてもそれ自体に反対の人は居ない様だから
次からテンプレに入れてくれたほうが親切だと思うな。
SS書いてる人が全レスチェックしてるとは限らないし、
知らずにSS書いてくれてる人も居るだろうから。
そんな人の作品も読みたいしね。
>>297 なんつうか…、暴走機関車みたいな感じ?
>>297 誠氏ねはずるいwwwwwwGJでした
竜児に安らかな日々が戻るよう願ってますw
死に病みネタとか悲劇END、レイプ・スカとか過激なプレイ、オリキャラがメイン級
ここらは前置きしてるのが多いんじゃないかな?作品単位のスレでは
>>297 ちょwwwwなんという総受けww
まあ独神は学生時代長いこと付き合ってた彼氏がいるらしいから未経験ってことはないだろうけど
ここまでブッ飛んだ世界観の作品にそういうツッコミをするのは無粋だし無意味だよねw
GJでした
「おい、バカ犬」
「ごめんなさい」
「わけを話してもらおうか」
「いや、それはなんというか」
「みのりんが好きなんじゃねえのか?」
「はい」
「じゃあこれはなんだ?」
「川島亜美のアイコラです」
「で、なにしてた」
「オナニーです」
「はぁ」
大河はそれはそれは深いため息を吐いた
「いや櫛枝のことは好きだが好きな子では…その、な?」
こっから頼む
315 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/19(金) 11:43:02 ID:z2vPpDhM
「好きな子では…?」
「オナりたくないと言うか…」
「時にバカ犬よ、これは何かな?」
「逢坂大河のアイコラフォルダ300MBです」
\(^O^)/
「いい?これに懲りたら二度と私でオナニーしないこと」
「ごめんなさい二度としません本当です」
903:名無しさん@ピンキー 2008/12/19(金) 06:01:20 ID:O5ChDsFq[sage]
朝の登校中。
いつも通りのやり取りをしている大河と竜児。
「グダグダ言うな、この堕犬!」
「おぅ……なんか、漢字が違わなくないか?」
「これで良いのよ。堕落した犬、略して堕犬。あぁ、可哀相な竜児。犬ランクの最下層にまで急降下。でも安心して、私は見捨てないわ。だって側で見ていると滑稽だもの……うぷぷ」
大河はうきゃきゃきゃっと悪魔のように笑って竜児を指差す。
が、その指が竜児を指す事はなく、間に入り込んだ人物の上半身を突き刺した。
「ちょっと道の真ん中は邪魔――あんっ!?」
その人物とはわざわざ竜児と大河の間を通った川嶋亜美。
彼女は甲高い声を上げ、大河に突き刺された上半身――乳房を抱き抱え、キッと大河を睨み付ける。
「何すんのよ、変態!」
「……る」
呆然と自分の指を見つめていた大河の口から何かが呟かれるも、周囲の喧騒に書き消されてしまう。
「ハァ?」
「……る」
「何だ、大河、どうした」
変わらず呟く大河の口元に竜児が耳を寄せて言葉を聞く。
「えーと――ばかちーのおっぱい、ぷるるんるん」
「何言ってんだテメェッ!」
竜児の首を絞める亜美。
自治厨ウザw
>316
笑ったw
壮大なミスをした
>>316をコピペしてて間違えてここに貼っちゃった
あぼんしといてゴメン
>>317 アレを自治というのは、ゆとりか馬鹿のどっちかだな
>>317がよくわからなかったんだけど、コテ馴れ合いの話へ言ったのか?
ゆゆぽスレを久々にみたら自分のSSが紹介されててビビった。
紹介してくれて嬉しいんですけど、色々と許せない方も本スレにはいると思うんで、こっちの話はあっちでは無しの方がよいと思います。
書き手としてもゆゆぽのSS読みたい!とわざわざここを探しだした、このスレの皆さんのような方に読んでいただきたいですしね。
ただ、9割以上妄想の話をわざわざ本スレで噂として流してくれたことは自信になりますし、ほんとに嬉しかったです。ありがとうございました!
えらそうこいた上、思いの外長文になり失礼しました。
住み分けもできないやつが増えただけ
>>297 長編完結乙&GJ!
北村の扱いの酷さにフイタWWW窓から落とすなよWWW
また投下してくれると信じて今から裸に靴下で待ってます
if story書いた者ですが、
なんか自分でも気に入らないので、
>>170-181は収録から外してください。
その代わり
>>150の続きをきちんと書こうかと思っています。
後日談ではなく続きを。
>>327 それは言わんで良い。誘い受けウザいから。
あ、すいません。
期待してるよ
前作は俺の中で今スレ最高傑作なんだ
>>331 一番ウザイのはそういう事を書いちゃうお前。
まあ嗜めるにしてももう少し言いようを考えようぜ
わざわざ空気を悪くすることもあるまい
334 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/20(土) 01:18:49 ID:PqX6T2El
>>328は正しいのに
>>331みたいなのが増えて・・・
前スレでボロクソ言われた人らなのか、最近多いな
脇キャラ好きだからななドラ最高!独身もいいね。
最新刊でイメージダウンしたから泰子は微妙かな、もともと母キャラはあんまり好きじゃないし
脇キャラ好きだから亜美たん大好きって言ったらみんな怒るかな?
確かに
>>327みたいのはウザい
続編書きますからねー、期待してくださいねー、応援してくださいねー、ってレスから構ってちゃん臭が滲み出てる
構ってちゃんがウザいなら構わなければいいだけだろ?
いちいちいちいち空気悪くせんでもいいじゃないか。
悪い意味で殺伐としてきたな
投下とGJのループで淡々としてるぐらいがちょうどいいよ
>339
自治厨乙
場を和ます渾身のギャグか
>>338 構ってちゃんは、誰かが釘を刺さないと止まらないから構ってちゃんって言うんだよ。
よくわからんが、聞かなくてもこういう展開良くないかと書く奴はいるし
職人も自分の書きたいもの書きに来てるんじゃないの?
わざわざコテで馴れ合って皆で話の展開考えて作る、萌え詰め込み話が書きたいの?
まぁエロパロ板にはそういうスレもあるけど
嫌なら見なければいい。
コテ雑がそこまで嫌なら雑談してるコテをNGすればいいだけだろ。
なんでそうしないの?
コテの作品は読みたいけど、うざいからそれ以外は喋るな、なんてふざけたことは言うなよ。
構ってちゃんもコテ雑談もどうでもいいが噛み付くやつとそれに反応するやつがウザイ
馴れ合いがウザイと思うなら「馴れ合いウゼー死ね」じゃなく
「GJだが馴れ合いは噛み付くやつがいるから自重しとけ」となぜ言えない
下らないことで職人が去るなんてやってらんねー
>>書きながら投稿しない
これは守って欲しいよな。書き手が「だしてっ、私のナカにいっぱいGJ出してっ」と
思って書くのと同様、読み手も「出すぞ、お前の中に、俺のGJいっぱい注いでやるっ」と
思って読んでるわけだけど、
投稿にダラダラ長い時間かけるのは「だめっ、まだイっちゃダメ、GJ出しちゃだめっ」って
寸止めしてるのと同じ。
あと「待たせるな」と同じく「ちょっと待て」も。
この板では誰かの投下直後に間を置かずに続けて投下されるのを嫌がる。前の人に感想レス
つく機会を奪うことになると。
だから先に投下されてたら、次に投下しようと予定してた書き手もそこにレスがつくまで
時間的猶予を見て(前の投下から丸1日過ぎるまで投下しない、って人もいるし、夕方・夜の
「レスのつきやすい時間帯」が過ぎるまで待っててあげる、って人も。…その辺は「空気を読んで」)
待ってあげる思慮も欲しい。
読み手は書き手に構わず「今日は投下祭りだ!ヒャッホー」でいいんだけど、書き手は
他の書き手にも考慮してあげないと。
職人と言われるほど精神のレベルが高いと言えない。
これだからアニメ化は嫌だったんだ
基本おれらは職人に、作った作品をみせてもらってる立場だろ。
それを、馴れ合いウザいだの、誘い受けウザいだの、態度がでかすぎるだろ。
このスレの住人のためにがんばって書いてくれてる職人もいるんだぞ?
それをこんな言い方されたら、誰だって書く気なくすだろ。
>>348 そうそう、連投はやめてほしいよなー
俺も自分なりに書いて投下して、誰か楽しんでくれたかなぁって思ってたら
凄い大作とかに潰されたりして、楽しめてもヘコんだことあるわ
まあ俺の作品がつまらんのが原因なんだが
よかったよ
また馴れ合いすんなって怒られそうだし惨めになるから勘弁してくれ……
360 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/20(土) 20:17:35 ID:P7VvumUr
荒れとるのぉ〜
じゃあここまでにしようぜ
―――キリトリ―――
切ったよ〜(^o^)/ >arl
363 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/20(土) 21:45:21 ID:Tv6hJNoE
俺はSS乞いをするぜ
\(^O^)/m(_ _)m\(^O^)/m(_ _)m\(^O^)/m(_ _)m\(^O^)/m(_ _)m\(^O^)/m(_ _)m\(^O^)/m(_ _)m
364 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/20(土) 23:25:55 ID:Tv6hJNoE
\(^O^)/m(_ _)m\(^O^)/m(_ _)m\(^O^)/m(_ _)m\(^O^)/m(_ _)m\(^O^)/m(_ _)m\(^O^)/m(_ _)m\(^O^)/m(_ _)m\(^O^)/m(_ _)m
わたしはただ一言「ありがとう」って言えなくて竜児の背中に抱きついた。
「おう、大河?」
竜児が不思議そうに後ろに抱きついてるわたしへ振り返る。
ギュッと抱きついてなかなか離れようとしないわたしに、いつものように優しいトーンで竜児が話しかけてくる。
「抱きついてくるのはとっても嬉しいんだがな。さすがの俺もそれじゃおまえが何を言いたいのか分かんねぇよ」
言葉にしないとちゃんと相手に伝わねぇぞ。抱きついたあたしの手を包む大きな手がそう言ってる。
「あのね」
「おう」
たった5文字、なんで言えないんだろう。自分が自分で嫌になる。
「ゆっくりでいいから」
そう言う竜児はきっととっても優しい顔をしているんだろうな。わたしの目の前には大きい背中。
見えない表情を想像したら急に気持ちが楽になった気がする。
うん、今なら言えるかな?
「あのね、竜児」
竜児は返事をする代わりにわたしの手を包む手に力をこめる。
「ありがとう」
「おう、どういたしまして」
向き合った竜児は多分わたししか見たことないであろうとっても優しい顔をしていた。
>>346 自分がどれだけ的外れな事を言ってるか――それに気付けたら、ようやくお前もゆとり脱出だ。
>>365 GJ!
本編で不足しがちなほのぼの分補給した
>>365 GJ!
ミリオタな俺は
竜児が航空自衛隊に戦闘機パイロットとして入隊して
大河が戦闘機にやきもちやいたり、領空侵犯のニュー
スにハラハラしたりの電波を受信したんだが・・・
それはないw
戦闘機にやきもちを焼くとはよく訓練された虎だな
>>372 「兄貴を追って俺も宇宙に行く!それには戦闘機パイロットになるのが近道だ!」
と防衛大に入って、同期トップの一選抜で空自のラプタードライバーになった裸族、
(TACネームは「タイガー」。米国留学過程で、NASA所属の兄貴と再開する物語)
なら俺電波送信したんだが、反応無いのでステルスに違いない。
目が悪い人には無理
そういや肝試しの時言ってたけど、みのりんって本当に目が悪いの?
コンタクトがあるしな、今のご時世
竜児の夜の操縦桿を握る大河たん
竜児はエースだ(撃墜数的な意味で)
竜児「怯えろ!竦めぇ!」
みのりんの思い人と出会うとはね
面白い人生だったわ
竜児「大河様の夢が北村と結ばれることなら、それを果たすのが主人公としての私の務め」
「見事その思いを成就させてご覧に入れる」
竜児「目の良さが命取りだ!」
独神「愛など粘膜の作り出す幻想に過ぎない…」
イーグルドライバーとして日本の空を守る竜児。
・・・竜児が自衛官になったら大河と泰子はどうやって生きていくんだろうか。
少なくとも最初のうちは寮に入るだろうからその間2人は竜児に頼れないぞ。
元自衛官の俺
普通に餓死、もしくは掃除しなくて不衛生で病死。
マジレスすると食事は三食外食or出来合ですませ、
掃除は定期的にハウスキーパー(ダス○ンのおばちゃん)呼ぶので問題ないと思われる。
二人とも太りそうだな
竜児が寮に入り、数ヶ月が経った。
お盆休みに、久しぶりに実家へと帰省した竜児を満面の笑みで迎えたのは、
ニキビ顔の大河と、お腹や二の腕の無駄なお肉が気になり始めた泰子だった。
休暇明け、職場へ戻った竜児は、退職願を提出した。
「いった……」
古文というまるで睡眠のために当てられたような授業が終わりを告げ、長かった眠気にさらばを告げ伸びをしていた俺の耳に聞こえたのは、大河が上げた小さな声。
緩慢に振り返ると大河はなにやら自身の指の先をいじっていた、どうしたんだよ?
「う〜〜〜〜〜、なんか棘が刺さったみたいなのよ、取れなくて痛いの。そうだ竜児、あんた毛抜きとか持ってない?」
生憎というべきかもちろんというべきか、俺がそんなものを持っているわけがない。あればすぐにその煩わしい痛みから抜け出せるとわかっているのだが。
掃除道具なら充実しているのに…
「う〜〜〜〜」
大河はなおもうめき声を上げる。目の前で人が苦しんでるというのにそれを見て笑うような人間では、俺はない。それがもう二度と離さない誓った大河ならばなおさらのことだ、
その痛みから抜けるために力を尽くしてやろうではないか。
「どれ、取ってやろう、手を出してみろ」
「ん」
大河の今の状況をいい表すならば藁をも掴むだろう、その細くて白い――白魚のような指を掴みながらそう考える。普段ならば『何で駄犬なんかに!』と怒るところだろうからな。
さてさて、その痛みの原因はどこにあるのか。大河の指を見ると虫に刺されたように赤くなっているところが。間違いなくここだろうと察しをつけ指先、というか爪で掴もうとした。
「んっ!」
……なんだ、今の色っぽい声は。
うん、聞かなかったことにしよう、でないといろいろ危ないからな。
俺は神経を集中させてもう一度チャレンジしてみる。
「たっ」
僅かな出っ張りは確認できるのだがつかめそうにない、後もう少しなんだけどな。
「んもう……痛いわね、これ……」
ふぅむ、いい加減にそれを取らなくては今日の我が家はいつぞやの川嶋の誤解のときのように空気が重くなるだろう。
何故か俺がねちねちと謂れのない批判を受けることになるんだよな。納得いかねぇ。
さて、どうしたことか。頭をひねったおかげか分からんがふと思いついた、おう、これならいいだろう。
「大河、手を動かすんじゃないぞ」
そう声を掛けて未だ持ったままだった大河の手に顔を近づけ、その指を口に含んだ。
ざわっと教室中がどよめき、大河の体がぴくりと震えた。
それを知らない振りをして舌先で確認するとその棘らしきものが触れる。それを慎重に歯に挟み顔を引く、僅かに引っ掛かりがあったがどうやら棘が抜けたようだ。
「った」
大河は小さく声を漏らし異物感がなくなったのに気付いたのかほっと息を吐いた。
俺は先程取れた棘を手の上に出してみる、短い木のくずらしい。こんなものが大河を苦しめていたと思うとやるせねぇな、そして許せねぇ。
「まったく、何でそんなに小さいくせにあんなに痛いのかしら」
言いながら血の滲んだ指を咥えている。
ピン、と棘を外へ投げ捨て大河を見るとぶすっとした顔で外をにらみつけていた。その指はまだ咥えたままで、何故だか俺の口の中にも鉄の味が広がる気がした。
気のせいなんだがな。
ところでクラスの女子たちが顔を赤くしていたり、男子たちが睨みつけていたのはなんだったのか。
「だから教室でいちゃつくなっつーの(ギリギリ)」
「あれって間接キスだよな?」
「そうよね、でも2人にとっては気にならないことみたい」
「気にもならないんでしょうねぇ、ウフフ」
大河のために指をくわえる竜児が、容易に想像できてしまいますね。
甘々GJです
コピペじゃね?
ヤンデレモノがみたいです(ボソッ
コピペならコピペって書けやクズ
>>400 そのハルキョンSS自体がコピペ改変でしょって話
まあネタは良かった
なんだよコピペか畜生、チクショォオオーーっ!!!(若本ボイス)
>>404 だからそのハルキョンSSは、あるコピペから改変したものってことじゃないか?
コピペだったんですね。でもニヤニヤとしてしまいますね。
話は変えて、今から投下したいと思います。例の、みのりんものです。
甘々話ではないので、ご注意下さい。
タイトル:シークレット・トーク
校舎を赤く染めあげる夕陽も、あと数刻で姿を隠すだろう時間。
生徒の姿はほとんどなく、生徒用玄関に向かう姿ばかりが見えた。
しかし、その中を逆走し、階段を三段飛ばしで駆け上がる姿が一つ。
「うぉぉぉぉ!まさか弁当箱を机に置いたまま部活とは!私としたことが、とんだドジッ子だぜぃ!!」
けたたましい音を立てながら、実乃梨は軽快に走る。重そうな鞄が大きく揺れるが、お構い無しだった。
幸い教師に見付かることもなく、目的の自教室へとそのまま滑り込んだ。
「とうっちゃーく!さぁ、私の弁当箱はぁ!って…あれ?」
教室の中に人影を見つけ、確認する。机に伏せているらしく、どうやら寝ているのだとわかった。
それが誰かをはっきり認識した実乃梨は、大きな瞳を更に大きくした。
普段であれば、とっくに下校しているはずの人物が、暮れた陽に照らされ、教室に大きな影を作り出していた。
「高須、くん…?」
逆光で顔はよく見えないが、実乃梨はそれが竜児だと分かった。
実乃梨の声に竜児の体がピクリと反応するが、すぐに規則正しく背中が上下し始める。
実乃梨は鞄を入り口に置き、足音を立てないようにゆっくりと竜児に近付く。
「うっへっへ…高須くんの無防備な寝顔、拝ませてもらうかんのぅ…」
いつもの実乃梨節を呟きながら、腕を枕にしている竜児の顔を覗きこんだ。
「っ!!」
一瞬で自分の顔が熱くなっていくのが、実乃梨は感じられた。
のけぞった時に後ろの机に激突しそうになったが、持ち前の運動神経で事なきを得た。
しかし、一度はね上がった動悸はなかなか止まらず、顔の熱りも止むことはなかった。
「ぐふっ…そ、それは、反則、だぜ、高須くん…」
回りを見渡すだけで人が脅え恐怖し、しまいには逃げ出す普段の極悪フェイスはどこにもなかった。
大人と少年の合間に位置する、年相応の寝顔がそこにはあった。
勘違いされる要因である目付きの悪さが消え、更にそれに釣られていた愛想の悪さも無い。
あまりにも予想外な寝顔に、実乃梨は不意をつかれた。
実乃梨はその場にしゃがみこみ、竜児の机の上で軽く腕を組み、その上に顎を乗せた。
目の前には、竜児の顔がある。距離は三十センチもなかった。
「…高須くんは、いっつも私を驚かせるね」
一人言のように、小さく呟く。実乃梨の吐息で、竜児の髪が少し揺れた。
―最初は、多分まわりとおんなじだった。高須くんには悪いけど、正直怖かった。原因は、やっぱり目。
きっと関わることはないんだろうなと思ってた。
だから、北村くんと仲良さそうに話をしているときは、目どころか色々飛び出るかと思った。
二度目は、初めて話したとき。その時には、高須くんが不良、なんて噂は信じていなかった。
たまに遠目から見ていたから。
だけど、
『…櫛枝実乃梨、だろ』
まさか私の名前をフルネームで知っているなんて思わなかった。
接点と言えば、北村くんに用事があるときにニアミスしていたくらいだったから。
何でか分からないけど、少し恥ずかしくなって「呼ばれてる」と嘘ついてその場を後にした。
三度目は、大河と色々噂になり始めた時。何となく感付いていたけど、私からは触れないようにしていた。
いつか、向こうから教えてくれるはず。だって、大河は私の親友で、高須くんは私の―友達だから。
だけど、いつまで経っても何も教えてはくれなかった。そして、あのヒソヒソ話。
今となっては、ただの聞き間違いだったんだろう分かる。あの時の私は、しかし止まらなかった。
勢いで二人を屋上に連れてきて、秘技ジャンピング土下座を高須くんに決め、そのまま巻くし立てた。
何であんなに私は必死だったのか、今は分かる。分かってしまった。
でも、何より――あーみんの別荘で、私の突拍子もない話を真剣に聞いてくれたこと。
幽霊が、私にもいつか見えたらいいって言ってくれたこと。
きっと、あの時点で…いや、もっと前から私は負けてていて、あれは駄目押し満塁ホームランだったんだろう。
それから、大河の親のことで本気で喧嘩したこと。福男レースで、手をとって一緒にゴールしたこと。
クリスマスツリーの星を壊してしまった時、高須くんが「何度でも直る」と言ってくれたこと。
固くなにパーティーに行かないと行った私を、力強く待っていると言ってくれたこと。
「ずるいよ、高須くん」
私の初めてを、たくさん持っていっちゃった人。側にいてほしい時、当たり前のように横にいてくれた人。
そんなの…そんなの……
「好きに、なっちゃうに決まってるだろ、このやろー…」
だけど駄目。高須くんには、大河がいる。二人は相思相愛で、お互いを大切に思ってる。
私が入る隙間なんて、少しもない。ないのに…。
「…大河、ごめんね?」
実乃梨は立ち上がり、ゆっくりとすぼめた唇を竜児に近付ける。そして、
「んっ…」
竜児の唇、のすぐ側にそれを当てた。もしかしたら、端っこに当たっているかもしれない。
実乃梨はゆったりとした動作で離れ、今しがた竜児に当てた唇に触れた。
もう離れているのに、竜児の肌の感触がしっかりと残っていた。
余韻に浸っていた実乃梨は、だが普段の自分にシフトチェンジ。息を大きく吸い、
「たっかすくん!」
「おうっ!?」
突然の大声に、竜児はガタン、と大きく机を揺らして飛び起きる。
「な、え?く、櫛枝?!あれ、俺…」
寝起きで混乱した頭に、竜児は整理がつかない。何故櫛枝がここに?いや、寧ろなぜ俺はまだ教室に?
「ほら、こんな寒いのに寝てたら、風邪ひいちまうぜ!早く暖かいコートを羽織るんだ!」
「お、おう」
まだ夢現から抜け出せないが、今は実乃梨と自分しかいない。
幸運が舞い降りたと、竜児の気持ちは鰻上りだった。だから気付かなかった。実乃梨の表情に。
これが最後だと。もう、自分の想いに振り回されない。決心した。
大河と高須くんの恋路は、誰にも邪魔はさせない。だけど…だからこれが最後の我が儘だから、
「一緒に帰ろう、高須くん!!」
今だけは、まだこの想いのままで。
以上です。
みのりんは、三人娘のなかで、きっと一番乙女なんじゃないかと妄想してます。
駄文失礼しました。
411 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/22(月) 02:10:33 ID:nME6/zgp
GJすぎるぜ旦那
>>410 GJだ、そう俺の中でも実乃梨が1番乙女だと思うぜ
あんたのSSのとおり見えないとこで切り換えてる強い子なんだよ(´;ω;`)
413 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/22(月) 03:07:32 ID:TbdQoJyE
>>410 GJだぜ
あんた最高だ
また俺を2828させてくれ
>>410 GJ
俺はニヤニヤはできんかったが・・・
櫛枝や亜美のこういう話は切なすぎるぜ・・・
>>410 やべえよ。
もう、やべえよ。
みのりん・・・おまえってやつは・・・GJ・・!
みのりん可愛いよみのりん
報われない女の子に萌えてしまう俺はドSなんだろうか?
でも思うことは「幸せになって欲しいっ!」なんだよな
みのりん幸せになって。もう竜児のハーレムEDでもいいから
>>417「俺が幸せにしてやるから報われなくて結構」
ってことか
>>417 文学少女にななせというキャラがおってな…
422 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/22(月) 14:14:42 ID:Lq1DsBHw
>>410 天 才 現 る
みのりんSS欠乏症が大分マシになりますた
次回作も期待してます!!出来ればみの(ry
423 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/22(月) 19:12:58 ID:ny5Yh6tr
そろそろ保管の時期じゃね?
新婚旅行先の空港で手荷物受け取りのテーブルで流れてくるはずのわたしのスーツケース。
待てど暮らせど全然出てこないじゃない!しかも全ての荷物は出きりましたといわんばかりに同じ荷物がぐるぐると回っている。
隣にいるあたしの飼い犬(旦那)である竜児は自分のスーツケースを片手に困り顔。
「こりゃあロストバゲージかもな」
ロ、ロスト!?無くなっちゃったの?わたしの荷物!
「多分どっか違う飛行機に載ってるんだろう。仕方がない、航空会社に手続きに行くか」
そっか迷子か。無くなっちゃったわけじゃないんだ。ちょっと安心したわ。
でもせっかく竜児(婿だけど嫁です)と二人だから見せようと思って新調したワンピースとばかちーに聞いて買ったきわどい下着が入ってたのに。
どこ行っちゃったの、あたしのスーツケース。
いきなり荷物行方不明でテンションの低いわたしを竜児が引っ張っていき、ロストバゲージの手続きをしてホテルへ向かった。
手続きをしてくれた竜児曰く、どうやらわたしのスーツケースはお隣の国まで遠足に行っちゃったらしい。
明日には滞在先のホテルに届くように手配してくれた。竜児(だんなだけど主夫です)なかなかやるじゃない。
でもなんで竜児と一緒に預けた荷物が隣の国まで行っちゃうのよ。
ばふっ。
荷解きをしようにも荷物がないわたしはそのままベットに倒れこむ。あーあ、もう疲れちゃった。
「ねえ、竜児。着替えたい……」
着替えがないのに着替えたい。無いと余計欲しくなる心理ってヤツよ。竜児に言ってもわたしの着替えは隣の国。
「おう、そうだなあ、ずっと同じ格好だとしんどいだろ。今日はもう出かけないから俺の服でも着てるか?」
そう言って竜児はあたしにシャツを投げてきた。仕方ない、今日は夕食で部屋を出る以外は竜児の服を借りることにしよう。
荷解き中かつホテルの掃除状態の竜児の背中を眺めながらゴソゴソ着替えを始めたんだけど……これ、ぶかぶかだわ。
「しかし、旅行初日からロストバゲージなn」
わたしの格好を見て竜児が固まった。どうしたのよ?
「どうしたの?竜児」
「あー、こりゃマズイ」
顔に手を当ててそう言う竜児は心なしか焦っている様な感じがする。
なんだかよく分からないわたしは竜児の顔を覗き込む。
そうしたらいきなり竜児に抱きすくめられた。
「ちょ、ちょっと。どうしちゃったの?」
「大河、その格好は心臓に悪い」
「え?なんで?どうしてよ?」
ほんの少しの沈黙の後、竜児が口にした言葉にわたしは真っ赤になったのだった。
「おう、はっきり言うぞ。なんというかその格好は……そそる」
「……エロ犬」
ロストバゲージに感謝、したほうがいいのかしら。そんな新婚旅行初日。
426 :
425:2008/12/22(月) 20:30:35 ID:A0nSzSEB
うん、なんだかごめん。最初の竜児のところはいつぞやの独神いじりみたいにしたかったが、
いかんせん、俺では無理のようだ。やっぱりゆゆぽすごいわ…
GJGJ!
フハハ!
途中からロストバゲージがロストバージンとしか読めなくなる呪いにかけてやる!
ロストバージンに見えた
>>425 GJ!
ロストバゲージでロストバージンですね
続き書いてくれ!
433 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/22(月) 23:55:24 ID:ny5Yh6tr
>>425 ロストバージンさせちゃってくださいww
うほっw
いい男w
盛り下げるようで申し訳ないが
>>425もハルキョンサイトで見たことある
コピペか知らないが出来ればやめて欲しい
お前らハルキョン読みすぎw
ハルキョン改変だったら後書きでもいいから書いた方がいいかもな
前書きだと先にハルキョンが頭に浮かんで竜虎にみえなくなりそうだが
ハルキョン改変とはいえロストバゲージのは大河のちっささのおかげでダブTの破壊力が増してるな
つか逆にキャラの特徴出さないとハルキョンと区別つかなくなっちゃうという警鐘か
コピペネタなんてやった結果が――ごらんの有様だよ。
彼女の身長は150センチ。
それも自称150センチ、しかしどう考えても150以下だ。
俺が思うに140を軽く切ってる様に思う。
車の免許は取るつもりがないらしい。
歩きが一番と豪語するが歩調が合わない。
自転車は二人乗りは楽でよい。
しかし自分では運転したがらない。
小さい手でしごかれるとすぐいってしまう俺は
実はロリコンなんじゃないか?と自問自答。
風呂でローションプレイしたら滑りすぎて浴槽にゴツン。
キッチンでお鍋噴いちゃうプレイをしようとしたら
結局は駅弁プレイになってしまう。
ちょい乱暴気味にプレイするとレイプ風味になってしまう。
無毛土手は犯罪の香りがする時がある。
座位で廻してたらとろける快感で果ててしまった。
中出しはエロマンガみたいにコプっとか言って溢れてくる。
大河は145だっけ
2chコピペ改変ならまだしも、他サイトのss盗んで書き換えるとか死ねよ
どうにかしてコピペを保管させたいんだろうな
そしてそれを前例にしたいんだろ
本編で描かれてなかった部分を勝手に妄想しました
以下、タイトルは『深夜のチョコレート作り』で
「はぁ……。」
小さくため息をつく。
珍しく台所に立った大河は、ネットでやり方を調べた湯煎でチョコレートを溶かしながら、
その小さな肩を力なく落とした。
生まれてはじめての手作りチョコレート。
甘い匂いが部屋に充満する。
ネットで調べた通り、鍋などを用意し、ゆっくりと時間をかけて溶かしていく。
鍋が倒れたりしないよう細心の注意を払い、
砕いたチョコレートを少しずつ入れていく。
試行錯誤していたらあっという間に時間がたってしまった。
竜児にも実乃梨にも、もちろん亜美にも頼れない。
全て一人でやらなければ意味がない。
そうこうしているうちに気がつけば夜も深け、
すでに時刻は0時を軽く過ぎ、バレンタイン当日になってしまった。
「時間、あっという間。ホント、あっという間。」
自虐的な笑みを浮かべ、大河は呟く。
時間がたつのは本当に早い。
この街に戻ってきてから、2週間弱。
あのイブの日から、1ヶ月半。
「はぁ……。」
再びため息。
昨日からケータイに何度もあの女からの電話が何度もかかってきている。
全て無視してはいるが、それの意味することは一つしかない。
時間切れが近づいているということだ。
ついにこの時が来たということだ。
大河は目をこすり、最後の一かけらを溶かす。
4人分のチョコレートが全て溶けて混ざる。
竜児と実乃梨の想いも、このチョコレートのように溶けあい、一つになるのだろう。
そこに自分の居場所はない。
そんなことは、最初からわかっていた。
大河はゆっくりとかき混ぜ、十分に溶けたことを確認して火を止めた。
用意してあった茶碗を裏向きに並べ、その底の部分にゆっくりとチョコレートを流し込む。
慎重に、少しずつ、丁寧に。
亜美の分、実乃梨の分、北村の分、そして…、
最後に、自分がいつも朝、竜児の作ってくれた朝ごはんを食べていた茶碗の底に、
様々な想いと共に、竜児の分のチョコレートを流し込んだ。
これはケジメだ、大河は思った。
今までの感謝を込めて、みんなに渡して、
竜児に渡して、それで終わりにしよう。
ケジメをつけよう。
そして後はその時まで、時間切れのその時まで、
いつもの、竜児を応援する私でいよう。
「……あ。」
その時、竜児の分のチョコレートに、涙が一滴零れ落ち、溶け合った。
気づかないうちに頬を伝っていた涙。
驚き、手で拭うも、堰を切ったようにあふれ出て止まらない。
「…うぅ……」
歯を食いしばり、涙を拭うことも諦め、チョコレートを冷蔵庫へ仕舞った。
しっかりと扉を閉じ、そのままその場にへたりこんだ。
「………だめよ…こんなんじゃだめ…」
自分に言い聞かせ、再び顔を歪め笑みを浮かべるも、
頬を伝わる涙の勢いは変わらなかった。
しばらくそのまま座り込み、数分が経っただろうか。
ようやく落ち着きを取り戻し、大河は散らかった台所を片付け始めた。
危なげな手付きで洗い物を済ませ、最後の皿を仕舞う。
時計を見上げるとすでに時刻は4時半になっていた。
一息つき、冷蔵庫からチョコレートを取り出す。
固まっているのを確認してから器から外してラッピング。
たどたどしく、しかし丁寧に包み、4つの袋が机の上に並んだ。
「これで、全部おしまい。」
何かを考えることもわずらわしい。
意地も気力ももう残っていない。
大河は頭を一度振り、そのまま寝室へ向かう。
暗く、冷たい牢獄のベッドに、倒れこむように体を沈める。
心も体も疲れきっているのに、大河は寝付くこともできず、
時折軋むように痛む胸を抱えるようにして目を瞑った。
これで、もうやり残したことはない。
後は、最後のその時まで、笑顔を浮かべよう。
ママに手を引かれ、笑顔で別れを告げよう。
大河はそう誓い、再度歪めるようにして笑みを作った。
夜が開け、学校でみんなに会うまで、1万秒。
傷つき、砕けかけた大河の心の涙が止まるまで、あと……
End
と付け忘れた
以上です
あと
>>35なんだけど、再度スレ使うのはもったいないし
メモ帳にはっつけてzipで投下してもいいですか?
GJGJ
切ないなぁおい
zip投下は問題ないかと
まとめサイトの人がどれくらいの頻度で見てるかしらんが
一週間くらいは持つろだに貼った方が賢明かな
>>452 そのまま別れを告げたら心の涙が止まる、傷が癒える日は来るかどうか・・・
切なさが伝わってきたよ GJ
個人的にはスレに投下しちゃっても問題ないと思うけど
めんどかったらtxtzipでも良いと思うよ
まとめの人が来た時に流れてたら誰かが再うpしてくれるでしょう
>>452 広い部屋のキッチンで、たった一人チョコを作ってる大河を想像したら、凄い切なくなりました。
GJです
最近はミラーの方が保管早いね
本家さん忙しいのかしら
「ぬわっ、えっ、おあ」
こんな声をあげながら下に住む大家ことも考えもせず、ものすごい音を立てながら転んだのは誰だろう。
隠すまでもない、転んだのは最強生物手乗りタイガーことドジ神を背負って生きてきた逢坂大河その人である。
今まで、転んだりすることはたくさんあったが、しかし大河よ…飲んでいた牛乳を頭からかぶることもないだろうよ…。
「ああ、もうこのドジ!何やってんだよ」
生まれついてのキレイ好きな性格のせいか、いつも大河がドジをやるせいか当たり前のように畳を拭いていたら、ぶすくれた大河の姿が目に入ってきた。
「けほっ、目に入った……」
尻餅をついて髪から牛乳の白い液体を滴らせながら涙目で睨んでいる大河はちょっと別の何かを連想させた。
『うわっ、濃い。どんだけ出してんのよあんたは…。この万年発情期犬め』
そうだ、風呂だ。はやく大河を風呂に入れよう。自分の中の妄想を払うかのように頭を振り、できる限り大河を見ないようにして、
大河を風呂まで引っ張っていった。変な妄想のせいで思考がまともではなかった。
無駄に焦っている俺はシャワーを手に取り蛇口の栓を思い切りひねった。
おいっ、こら竜児おーい」
大河の怒鳴り声で我に返ると大河にしては珍しいTシャツ姿の上から牛乳&水をかぶった大河の姿が。
水で濡れたシャツが肌に張り付き白い滑らかな肌が透けて見える。
さっきの妄想と今の姿のコンボは卑怯だ。
ゴクリ。
自分の意思とは関係なく動く俺の腕が大河の小さい肩を掴み、そのまま細い首筋に吸い込まれるように唇を寄せようとしたところで……
ごつっ!
思い切り大河にどつかれ正気に戻る。
「このっ! エロ犬!! バカ犬!! !」
と真っ赤な顔をした大河に俺は浴室から叩き出された。
俺はいったい何をしようとしたのだろう。
それを考え終わる前にドアから大家の呼ぶ声が聞こえた。
460 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 01:02:32 ID:3ifLl6Uw
終わり?
またハルキョンサイトの改変だね。しかも同じサイトって
オリジナルで書いて下さる職人様に失礼すぎる
改変とわかる人は色んな所を見てるんだな
改変を落としてる人も同一人物なんだろうか
改変なら改変ってかけや
しかもコピペじゃなく人様のssならかってに書き込んでんじゃねぇよ
今までのハルキョン改変SSを投下してんのが同一人物でも別人でも
改変てわかると一気に冷めるからもう投下すんじゃねーよ
つか人様が書いた物を名前だけ変えて投下するとか、改変てよりももう盗用だろ
466 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 07:24:06 ID:a6y60yfm
勘違いをした職人気取りだろう スルーでいこうよ
467 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 07:32:32 ID:/iC7mDsJ
ダメだ、もう何見てもハルキョン改変にしかみえねえ・・・
萎えたからここにはもう来ないよ・・・ちきしょう・・・
>>463 過去のもハルキョンサイトでは有名なとこだと思うよ。アニキャラに投下もされてるし。
自分も単純に竜虎を楽しめないし改変に気づいちゃったらスルー出来ないからもう来ない
特徴的な単語で検索したら普通に元ネタのサイトが出るし、これはダメだろ
改変するなら皆が知ってるような2chネタにしようぜ、喧嘩にならないし次作投下までの暇潰しになるし
なにやら、不穏な空気。
なので、PCのバックアップをとってる間に書いたのを投下してみる。
前作に引き続きコタツネタってわけではないですが、もういっちょ。
大河x竜児モノを書いているとなぜだかエロを書く気に全くならないのはなぜなんでしょうか…
次回作は頑張ってエロいれてみようかしら。
それでは。
「まっさーじ」
特になんてない土曜日。
特に予定なんて無い高須竜児。
特に予定なんて無い逢坂大河。
二人がすることと言えば…そう、ただ暇をつぶす。それだけ。
ちなみに、只今の時間はお昼を回って3時過ぎ。
見たいテレビも無い、やるゲームも無い、仕事も無い。
無い無い尽くしの二人がすることは先にも言ったとおり、暇をつぶことだけだ。
最も、竜児は先ほどまでお菓子作りに使った器具などを洗っていたためたった今暇になったようなものなのだが。
だがそれでも暇には違いない。まして昼が過ぎて部屋の中は朝に比べて暖かくなったとはいえ
現在の季節の台所はそれでも寒いものである。
「うー…、さむさむ。おい大河、お茶飲むか?」
「…たまには気がきくじゃないの。」
文面だけを見れば、寒さに打ちひしがれている中での好意を褒め称えているように受け取れるが
実際には、大河はコタツから上半身を出しうつ伏せになりながら手を伸ばしつつ、うにうにやっている。
普段の険悪な空気を出しまくる大河しか知らない人が見れば驚き、おののくだろうが
なんてことはない、暇なのだ。することがないからうにうにやるしかないのだ。
「…っと、ほらよ。で、何やってんだ?さっきから」
「さっきじゃないわよ…今よ、今。暇なのよ。なんか良い暇つぶしないの?」
あるわけないだろ、と返す前に、あるわけがないよね。馬鹿犬の事だし。と罵られた。
だったら聞くな、と返せばさらにひどい言葉が返ってくるのは火を見るより明らかだったので
適当にお茶を入れてやり、それをコタツの反対側に滑らす。
まだうにうにやっていたものの、お茶が入ったことによってその行為は一時中断され
とりあえずお茶でも飲んでやろうかと虎は起き上がる。
「んー…、暇すぎて体が痛いわ… 暇ってのも考えものよね。」
「お前のそれは暇ってよりか寝すぎて体が痛いだけだろ。体動かせ体。インコちゃんの相手でもしてやんな。」
スーパーで半額だったみたらし団子を腹に送りつつ他愛もない会話を繰り返す。
ちなみに時間は4時が目前、というところでだいぶ日も傾きつつある。
目の前にある高級アパートならいざしらず、こちとら築ウン十年のぼろアパート。
あちこちから熱が奪われていき部屋の温度は急速に下がっていくが
日本の名産物の一つである緑茶と名物?の一つに数えられてもおかしくはないコタツの力によって
二人の体温は寒さを知ることはなくなった。
「あー。あったまる。でも、暇は解消されないのよねー…」
「おう…、だから暇つぶしなんて自分で考えろよ…」
「うっさいわね。あー…体の節々がぁ…」
30代のようなセリフを吐く高校生はどうなんだろう、と思いつつ
竜児の目の前にいるちっこいのは、体中をあっちこっちひねっている。
「あたた…。あ、そうよ。ちょっと揉んで」
返事をする前に答えを言われた。
それはそれでなんていうか、反対する気をなくされる行為の一つではないだろうか。
どうしたものか、と竜児はしばらく考え込んでいたのだが
目の前の暴君は、やや不機嫌な視線を飛ばしながら肩らへんをんっ!と親指で示している。
ここまでくれば折れるしかない。というか、変に意固地になっても折られるだけだ。
「…はいはい。よっと。」
ここで負けておくのも、この仲…いや、主従関係を円滑に進めていくための必然的な手法なのかもしれない。
「とりあえず、そのまま肩の周辺やるから首あたりの力を抜くんだぞ」
ふぁい。と気の抜けた返事に意も介さずとりあえずどこらへんから攻めてやろうか、いやらしい意味は抜きで考えてみる。
竜児の母親、泰子の疲れを少しでも軽くしてやろうと小さい頃はよくやったなぁ…なんて少し思いつつ
とりあえず、肩こりなんかには無縁そうな細々とした肩周りに手を添えてゆっくりと揉みほぐ
「あwけfばおj;slkdfj」
せなかった。
例外は存在するが、肩コリなんかは凝ってない人にやっても効果がない所か逆効果も生む。
それが今回のような事例だ。
「ほれみろ。単なる寝疲れだ。体動かせ体」
してやったり、とでもいいたげな顔を浮かべながら竜児は目の前でぷるぷる震えるちっこいのに声をかけた。
後はまぁ、立ち上がって所定位置にもどろうかな。と移動を開始しようとして。
「い、今のは不意打ちよ!もっかい!もっかいやんなさい!」
阻まれた。
毒を食らわば皿をまで、の精神ではないがやるならとことんやってしんぜよう。が高須流掃除術の心得である。
とりあえず、さっき揉みほぐしてやろうと思った周辺にもう一度手をつける。
「ひぅっ」
耐えた。今度は耐えたぞちっこいの。
でも声が漏れてらっしゃるという、まさに頭隠して尻隠さずとでもいうような状態。
ちょっと力を弱めて大河の様子を見ていた竜児だが、顔を真っ赤にして耐えてるので
ここで辞めたらまたなんか言われるんだろうな、と今までの付き合いから推測する。
肩周りから首筋へと手はゆっくりと揉みほぐしながら移動していく。
「えっ、ちょっ、そこっ」
首は人によってはウィークポイントに当たるらしい。
今回は大河さんがそうらしい。
肩周りとは違い、首筋では力を込めるたびに細い体を動かさまいとしてる様がありありと分かる。
「な、なぁ…大河。辛いならやめてもいいんだぞー…?」
「これくらいでっ!やめるわけがっ!ないでしょっ!」
もはやマッサージをする前より疲れてるんじゃなかろうかというくらい肩で息をしている大河を前に
竜児は諦めてマッサージをするしかない。
が、負けず嫌いな大河の事だ。おそらくすべての工程を終えるまでは満足しまい。
ただ、それが肩の周辺だけと思っているなら、だ。
竜児には高須流掃除術のほかに整体術も持っている。
なんていうか、もはや何でもありだな。お前。
飄々と、目の前で悶える大河に気をやることなく肩周り周辺のマッサージを進行していく。
手が動く度進む度に小さい虎はぷるぷる震え、その苦行に耐えていく。時折声を漏らしながら…
普段、泰子にもやらないくらい念いりに肩周りのマッサージを終えた頃には4時を少し回ったところだった。
「おーい、終わったぞ」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「終わったって。大河さーん?」
「あ、あによ!終わったっての!?」
「そうだよ」
竜児のその一声を聞いて、これはこれでおかしいのだが勝ち誇った顔がうっすらと大河の顔に現れた。
が、
「次やるから、ほれ寝ろ寝ろ」
勝利の美酒も一瞬で覚めるような声だった。
しかし、一度「やめるわけがない!」と公言してしまった手前引き下がるわけにもいかない。
というかマッサージはいつの時代から勝負になったのでしょうか。という考えにすらたどりつかない竜と虎。
とりあえず、太ももから入念に揉み解していく。
「しっかし…お前、あんだけ食っといてほっそいよなー…。どこいったんだ?うちの食糧達は」
「わっ、わたしっ、のふっ、血となっ、って、肉となっ、あうへっ、ってるわよ!」
へいへいそーですか、と生返事をしながらも意識と視線は目の前の細い脚へと注がれている。
実はさっきから、普段の仕返しというわけではないがそれらを返してやろうと目論んでいるのだ。
かつ、今までの大河の反応から全てのウィークポイントは読めた。と、
普段ならば、そのキツい目線は全く別のベクトルを向いている事が多いのだが
今回ばかりは、目の前の獲物をどう料理してやろうか。そんな欲望が渦巻いていた。
「さて、と。脚周りはこれで終わりかな。」
「はぁ…はぁ…」
「大河さーん、次いきますよー」
「………」
無言の反応を肯定と受取ってよいしょ、と人のことを言えないような声を出し背中にまたがって華奢な背中へ手を回す。
その度にビクッ!と大河が反応するのだが、今ではそれが楽しく思えてきてしまっている。
肩甲骨、肩甲骨と背骨の間、背骨から骨盤にかけて、それら周辺を入念にマッサージしていく。
そろそろ・・・ころ合いか。と目線を三割ばかし輝かせてゆっくり、ゆっくりと手を脇腹へ持っていく。
「次いきまーす。」
最初、大河は何のことだかさっぱり分からなかった。
ただただ襲ってくるなんとも言えない衝動を耐えるために目をつむり歯をくいしばっているので
何を言われたのかそこまで気が回らない。
しかし、次の行動で自分が何をされているのかハッキリと分かった。
「ちょ!まっ!そこはっ!あはははっ!ダメ!ひょへへへへ!ダメだっあにゃにゃにゃ!」
実際には大したことはなにもしていない。
ただ、脇腹に手を近づけただけでダイレクトには触っていないのだ。
それでもこの反応。相当弱いようだ。
まるで敵将を打ち取ったかのような顔を示しながら竜児はなおもその手を休めることはない。
むにむにと、男には無い、かつ自分の母親の手触りでもない少女のような感触を楽しみつつ
少しづつ少しづつ、力を強めていく。
そのたびに、うににに!だのにょー!と下敷きにされた少女は奇声を発していく。
「さて、これで終わりだ。満足したか?大河」
なんというか、満足したのはお前のほうだろうと言えるような顔をしながら
ぐったりしている大河に声をかける。
普段のマッサージとは違う体の動かし方をしたので、やや火照ってしまっている。
湯呑の中にはいい具合に冷めた緑茶が一口分残っていたので一気に飲み干してやる。
「り〜ゅ〜じ〜ぃ〜………?」
半口分が喉でつっかえた。
あわてて後ろを振り返ると、ドドドドドと怒気のせいで髪の毛がゆらめいているようにすら見える。
「あんたも…そこに寝る・・・。いいわね?」
ここらへんは手乗りタイガー、やられたことにはやられた事でやり返すのだ。
クイッ、とまるで首をかっさばくかのような仕草で床を指す。
それに反抗出来る者がこの世にいるのならば見てみたい。と一人思いながら言われた通り竜児は床にうつぶせになった。
「さぁ〜てぇ…うふふ…どうしてあげましょぉかねぇ…?」
とりあえず、やられたことはやり返せ。というわけで
背中にまたがり、竜児の体をロックし視線と手は脇腹へロックオン。
喰らえ!積年の恨み!とでも言わんばかりにぐにょんぐにょんくすぐる。
が、もともと竜児はそういうのには強く、しかも大河の力の入れ具合が強かったせいもあって全く効いてない。
効かない事に業を煮やしたのか、とりあえず適当にそこらじゅうをしっちゃかめっちゃかにしてやる。
それでも全く効かない。
「〜〜〜〜〜…、どういうことなのよっ!このエロ犬!」
いったい自分が何をしたのか、と思ったが今回ばかりはそう言われても仕方ないのかな、と一人納得した竜児は
ふと、背中にさっきまで感じたはずの重みが無くなった事に疑問を抱いたが次の瞬間には消えた。
「こうなったら・・・強制的に…お仕置きだわね…」
怖いです。
怒りを持って踏み出された一歩には、およそマッサージとは言い難い力と場所を踏み込んだ。
そうなれば当然
「あっだぁぁぁぁっ!?」
となるのは仕方ないことである。
しかし、それで終われない。何せ、見かけは小さくても力は強い小さい子なのだ。
その激痛たるや、頭のてっぺんから足のつま先まで、何万ボルトかの電流が流れたんじゃないかと思えるレベルで
体を反転させてしまった。
うわっ…、と小さく大河が声を上げる。
痛みが体中を駆け巡りながらも、たまたま視界の中にゆっくりと床に向かって落ちていく大河が映る。
声をあげ、落ちようとする大河の体を支えるように竜児の右腕は膝の裏、左腕はなんとか背中のあたりへ。
おかげで、腕、腰、背中にピキピキッ!と痛みが走っていく物の、床から破壊的な音は聞こえない。
無我夢中だったので、あいていた目も瞑りながら一心不乱に手を伸ばした結果功を奏した、と考え付いたのか
ふう、と一息つき、目をあけると目と鼻の先には虎。
大きく目を見開いて、顔を真っ赤にして口はむにょむにょ動こうとしている。
竜児は「目と鼻の先の距離、ってこういうことを言うんだろうなー。」なんて思っていた。
「あー…その、何だ。大丈夫か?」
「あ、あ、あんたが!あんたがいきなり動いたりするかりゃっ!」
噛みながらも必死に自分は悪くない事を弁明する大河。
その小さな体は竜児の腕にすっぽり収まりながら顔を真っ赤にしつつ釈明を始めた。
「第一!あんたが悪いのよ!いきなり変なとこ触って!ふしだらったらありゃしない!」
「お、おう…すまん…」
「あんたのせいなんだからねっ!私は悪くないのっ!」
真っ赤なのは顔だけだったが、気づいたら目まで赤く潤み始めてる。
泣くほどの事なのかな・・・と考えながら、とりあえず頭をなでてみる。これでダメならもうどうにでもなれ。
「その…すまん。機嫌直してくれよ。な?」
「………」
その間も手はやさしく頭をなでてやる。
「ダメか?今日の晩飯好きなモン作ってやるから。な?」
むぅ〜、と脹れっ面をする大河を必死になだめてみるも無反応。
だめかなこりゃ。と半ばあきらめかけてた時
「………て…」
「ん?なんだって?」
「このままにしてなさい!」
このままとはどういうことだろう、と考える前に
自分の身体に埋まってる竜児の左腕を掘り出し、まっすぐにのばす。
右腕は、とりあえずどかし左腕に頭を預けて、大河は小さい体を体育座りをするかのように丸めて大河版竜児の腕枕の完成である。
竜児はまだ知らない。
腕枕で大河の機嫌が直ることを。
だから聞いてしまう。
「機嫌直しに、今日の晩飯は何がいいんだ?」
機嫌が直りきって、ニヤついてる顔は竜児からは全く見えない、今竜児が見えるのは大河の後ろ頭だけだから。
そっと、大河の体が冷えてしまわぬよう、はだけたコタツの布団をかけてやりながら
もう一度聞こうとする竜児の言葉を遮って
「ちゃーはん」
とだけ聞こえた。
来週、また同じ事が起きる事を竜児も大河もまだ知らない。
---
ちなみに30分後。
「なぁ……腕、痺れてんだけど」
「痺れさせてんのよ」
こんなやり取りがあったとか無かったとか。
>実際には、大河はコタツから上半身を出しうつ伏せになりながら手を伸ばしつつ、うにうにやっている。
これなんですけど、カウボーイビバップを知ってる人ならエドがいつもやってる手の動きを思い出していただければw
なんとなく、あのイメージが大河にも合うなぁなんて思いながら書いてみました。
前作と同じような展開ですが、お付き合いいただければ幸いです。
長文駄文失礼しました。
GJ!
マッサージでへにょへにょな大河…YESだね!
478 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 09:26:58 ID:DD/CCQK+
相馬さんまだー?
GJ!
やっぱ大河が一番可愛いわ
竜虎SSを投下
・・・今日はただの平日だから、イベントネタじゃありません
「ただいま・・・・・・」
意味なんて無いのに、真っ暗な空間に向かって声をかける。
返事が返ってきた事なんて一度だって無いのに。
それでも、今の今まで私がいた場所には「おかえり」って返事をしてくれる人がいたから・・・
だからつい「ただいま」なんて言葉が口から出てしまう。
「・・・・・・・・・」
私以外には誰も住んでない家。
だからこんな時間になっても、どの部屋にも明かりは灯っていない。
・・・私は、『私の家』が大っ嫌い
「・・・・・・・・・」
玄関の明かりが、『パチッ』なんて乾燥した音の後に点いた。
その明かりを点けたのは私。
だって、他に誰もいないから。
私のために明かりを点けて待っていてくれる人なんて、ここにはいないから。
ここにいるのは、私だけだから。
「・・・・・・・・・」
靴を脱ぎ終わったら、また明かりを消しておく。
べつに点けっ放しにしてもいいけど、この家で明かりが必要な人間なんて私だけだから。
・・・用が済んだら電気やガスは切っておけよって・・・竜児が言ってたから。
靴を脱ぐためだけに点けた明かりにはもう用なんて無いから、私は電気を消しておく。
また真っ暗になった廊下を、私は自室に向かって歩き出す。
「・・・・・・・・・」
不意に、普段は素通りしていくリビングで足が止まった。
・・・誰か・・・いるの・・・?
多分床か何かが軋んだ音。もしくは、ただの空耳。
真っ暗なリビングは先が見えず、どこまでも続いていそうで・・・その向こうで、誰かの息遣いが聞こえた気がする。
・・・誰もいないのなんて見なくても分かりきってるのに・・・けど、もしかしたら・・・
ありえないって思ってても、いない誰かを探すことを止めることができずに私はリビングを歩き回る。
「・・・・・・・・・」
ほら、やっぱり誰もいやしない。最初から分かってた事じゃない。
そんな事で一々泣きそうになってんじゃないわよ。
・・・さっきまでいた『竜児のお家』が暖かすぎたから・・・目の前に広がってる『私の家』の中心は、とっても冷たく感じる。
「・・・・・・・・・」
いもしない人間の息遣いが聞こえたくらいだから。
動くものが私だけしかいないこの部屋だと、どれだけ小さく呟いても私の耳に絶対聞こえる。
そんなことをしても余計に惨めになるだけだって、そう知ってても・・・私は・・・
きっと応えてくれる
「竜児」
・・・呼んでみても、竜児は隣のボロいアパートにいるんだから返事なんてしてくれない。
そもそも私の声なんて届かない。
でも、呼んだら目の前に・・・家具がただオブジェになってるだけの部屋に竜児が来てくれるかもしれない。
そんな風に思ったから。
「こんなとこで何してんだ、大河? 家を間違えるなんてドジにも程があるぞ。早く俺達の家に帰ろうぜ」
目を瞑りながらそう言ってくれる竜児を想像すると、少しだけ暖かくなった気がした。
・・・自分でも夢みたいな、バカな妄想だって思うけど・・・
夢でも妄想でも、『ひとりぼっち』だって実感するよりは全然マシに思えた。
だけど
「・・・・・・・・・」
瞑っていた目を開けても、見えるのは何も変わってないリビングだけ。
・・・・・・少しだけ暖かくなった気がしたのに、さっきよりも冷たくなっちゃったじゃない・・・・・・
これ以上リビングに立っていても仕方がないから。
ひとりぼっちで惨めな私は自室に向かって歩き出す。
「・・・・・・・・・」
自室に入った私は、寝巻きに着替えるために服を脱ぐ。
鏡を見ると、写っているのは真っ暗な部屋にポツンと一人でいる私。
・・・ひとりぼっちで惨めな私・・・チビで子供みたいな体つきの、親からも見放された・・・ひとりぼっちで惨めな私。
ムカついたんで睨んでやると、鏡の中の私はポロポロ泣き出した。
「・・・・・・・・・」
余計にムカついたからもっと睨んでやると、鏡の中の私はもっともっと・・・
・・・やめなさいよ、みっともない・・・
鏡に写る自分にうんざりして顔を逸らした私の目に、脱ぎ散らかした服が映る。
「・・・・・・・・・」
竜児からは、脱いだ服を放っておかないで洗濯カゴの中に入れておけって言われてる。
だけど、私は自分から片付けたりとかはしたことない。
・・・私しかいないこの家に来てくれるのは竜児だけだから・・・
・・・ひとりぼっちで惨めで・・・そんな私と一緒に、この部屋にいてくれるのも竜児だけだから・・・
・・・少しでいいから、ちょっとだけだから・・・床に散らばってる服を拾ってる一瞬でもいいから・・・
・・・・・・私をひとりにしないで・・・この部屋に私以外の・・・竜児の匂いを残して・・・・・・
だから、私は自分では片付けない。
服も、ゴミも、全部竜児が片付けてくれる。
竜児がこの部屋を片付けてる間は、絶対竜児が私の傍にいてくれるから。
私以外誰もいないはずのこの部屋に・・・少しでも長く、いてほしいから。
「・・・・・・・・・」
ノロノロと立ち上がる。いつの間にか座り込んでいた。
もうベッドに入りたいけど、下着しか着けていない今の格好で寝たら起こしに来た竜児に見られる。
それだけはやだ・・・
竜児にだけは絶対見られたくない・・・こんなからだ・・・見られるのはいや。
それにきっと竜児はこう言う。
「なんでそんな格好で寝てんだ」
「風邪ひくだろ、服着ろよ」
「俺はなにも見てないぞ」
・・・他にもいっぱい想いつくけど、これだけは絶対に言いそうな気がする。
みんな、みんな・・・私を心配してくれてるのが伝わってくる言葉。
竜児の思いやりが伝わってくる、優しい言葉。
だから、言わせたくない。
嬉しいけど聞きたくない。
だって・・・
心配をかければかける程、気を遣わせれば遣わせる程、私は竜児の負担になるから。
これ以上お荷物になるのはいやだもん。
・・・そう思ってても、私は竜児に何もしてあげられない、何もお返ししていない・・・
床に散らばっている服だってそう。お荷物になるのはいやなのに、一人が怖い私は身勝手な本音をいくつも使い分ける。
私は思っているだけで、結局は私ごと私の荷物を竜児に押し付けてる。
なのに竜児は文句の一つも言わないで・・・自分の荷物と一緒に、私と私の荷物も抱えてくれる。
そんな竜児を見るのはいや。
竜児に寄りかかってるだけの私を見ているようで・・・いや。
・・・本当に、いや・・・
いやなのに・・・竜児が優しくしてくれるのが、私をちゃんと見ていてくれるのが
ひどい事もいっぱいしたのに、それでも「大河」って名前で呼んでくれるのが
ひとりぼっちで惨めな私を知ってても、変わらず傍にいてくれるのが嬉しくて・・・
負担になるって分かってても、竜児に隣にいてほしい私は
あれやこれと自分勝手な理由を見つけて、結局竜児に寄りかかってしまう。
「・・・・・・・・・」
クローゼットから寝巻きを取り出す。
袖を通すと、洗剤の香りと一緒にキチンと外で干さないと出ない、良い匂いが鼻をくすぐってくる。
前は着回しだってザラだったけど、今では毎日キレイに洗濯してある服を着て眠れる。
ベッドのシーツも、枕も、毛布も・・・竜児がちゃんと干してくれてるからふわふわで、触ってるだけでいい気持ち。
この家の中で冷たくないのはベッドの上だけ。
この家の中で暖かいのはベッドの中だけ。
この家で『私以外の誰か』を感じられるのは、ここだけ。
竜児が洗濯してくれた寝巻きと、清潔にしてくれてるベッド。
包まるとヌクヌクしてて、横で誰かが寝てくれてるみたい。
「・・・・・・・・・」
しばらく寝そべっていると、今日あった事を思い出す。
みのりんはやっぱり元気いっぱいで
ばかちーはやっぱりムカつくやつで
北村くんはいっつも急がしそうで
クラスのみんなはいっつもバカみたいに騒がしくって
・・・竜児は・・・
「・・・・・・・・・」
ずっと一緒にいてくれて
「・・・・・・・・・」
だから、大丈夫。
『おはよう』って起こしてくれて、『おやすみ』って見送ってくれて。
この家には私だけだけど、さっきまで一緒にいてくれたから大丈夫。
「・・・・・・・・・」
・・・だけど、それでも今日みたいにダメそうな日は
なるべく楽しかった思い出や、こうなったら嬉しいことを想像する。
バカみたいな妄想だって、そのまま寝ちゃえば楽しい夢になるから。
「・・・・・・・・・」
みのりんもばかちーも、竜児のことが気になってる。
知ってる。
北村くんは生徒会長のことが好き。
知ってる。
竜児は・・・竜児は、みのりんのことが・・・
・・・知ってるわよ、そんなこと・・・
「・・・・・・・・・」
だけど、寝る前に考えるくらいはいいじゃない
都合のいい私の頭は、今考えてたことも頭の隅に押し込んで・・・都合のいい妄想に逃げる。
だって、見たい夢があるんだもん
竜児がずっと一緒にいてくれる夢。
・・・昼間の間は見れてるのかもしれないけど、やっぱり『私の家』にいる時はどうしても考えちゃう・・・私の夢。
誰かがずっとこの家にいてくれる夢。
・・・これは絶対に見れないって分かる。
それに『誰か』じゃいや・・・贅沢だけど、わがままだけど・・・竜児に、この家にずっといてほしい。
・・・だから、この夢は絶対に見れない。竜児のお家は隣のボロいアパートだから。
私が竜児のお家でずっと暮らせる夢。
・・・ずっと見ることができたなら、どんなにいいんだろう・・・
竜児がいて、やっちゃんがいて、ついでにキモインコもいて・・・そこに私もいて・・・
・・・でも・・・『私の家』はここだから・・・それに竜児はみのりんが・・・
だから、これも見れない夢。今はともかくいつかは覚めて、見れなくなっちゃう夢。
・・・・・・ずっと見たいな・・・・・・
他にも見たい夢はいっぱいある。
竜児と一緒にいっぱい遊びたい・・・一人でできる遊びなんて飽きたから。
竜児が作るご飯をお腹いっぱい食べたい・・・これは毎日してるかも。
竜児と一緒に買い物にも行きたい・・・似合う服なんてあんまりないけど、着てみたい服も、したいオシャレも・・・竜児と一緒に選びたい。
いろんな所へ行って、いろんなことして、いろんな・・・全部、全部竜児に隣にいてほしい。
もっと、ずっと・・・私を見ていてほしい。
他の誰でもない、竜児に。竜児じゃなきゃいや。竜児がいい。竜児だけは・・・
竜児が・・・竜児と・・・竜児に・・・・・・竜児・・・・・・・・・りゅうじ・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・」
1人はいや
1人はいやだから、誰かに傍にいてほしい
顔も知らない誰かじゃなくて
顔を知ってるだけの誰かじゃなくて
実の親でもなくて
みのりんでも、ばかちーでも、北村くんでも・・・クラスのみんなでもなくて
────────虎と並び立つものは、昔から竜と決まってる────────
────────俺は竜になる・・・そんでもって────────
────────竜として、大河の傍らに居続ける────────
「・・・・・・うん・・・・・・」
楽しかったことは全部、竜児と一緒だったこと。
見たい夢は、竜児と一緒にいる私の夢。
だから私は、頭の中を竜児のことでいっぱいにして
竜児が洗濯してくれた服と、毛布に包まって
竜児に抱きしめられてる気分になる頃になってようやく、私は眠りに就くことができた
「大河、そろそろ起きろよ。もう朝飯にするぞ」
・・・おみそ汁のいい匂いがする。
目を開けると、真っ暗だった部屋が窓から入る陽光で照らされて眩しい。
(・・・竜児だ・・・)
声の方を見ると、竜児が立ってる。
モゾモゾと、私はベッドの上で起き出す。
「お前なぁ・・・また脱いだ服をそのへんにほっぽって寝て・・・」
竜児が昨日脱いだままにしてた私の服を拾いながらブツブツ言ってる。
・・・だって・・・
「・・・だって・・・ふぁ・・・」
思わず口から出てた。慌ててあくびをしてごまかす。
それ以上喋らない私を見て竜児はキョトンとしてたけど、拾った服を纏めながらリビングに行くように言って出ていった。
少しして、私は名残惜しい暖かいベッドから降りる。
(・・・今朝はこっちでご飯なんだ・・・なんでだろ)
ペタペタと、リビングまで歩きながら考える。
・・・そういえば、竜児と会ったばかりの頃にもこんな事があったわね・・・
そんなに経ってないのに、なんだかすごく懐かしく感じる。
・・・あの日・・・片付けられたシンクやお皿、キレイなテーブルに・・・温かいご飯・・・
ずいぶん経った筈なのに、昨日の事のように思い出せる。
ペタペタと、竜児と会ったばかりの頃を思い出しながらリビングに入る。
「わぁ・・・」
いつの頃からか、起き抜けには枕を抱っこして歩くのがクセになっていた。
今だって、ギュって抱きしめてる。
・・・力を入れすぎたせいで、枕が皺くちゃになっちゃった。
昨日帰ってきたときは真っ暗だったリビングが、カーテンを開けただけなのにとっても明るい。
それにいい匂い・・・炊けたごはんに、おみそ汁に、できたてのおかず・・・そこに色んな音が混ざり合って
なんだか竜児のお家にいるみたい。
「大河? そんな所で突っ立ってないで座ってろよ。すぐ飯にするから」
昨日は探しても誰もいなかったのに・・・呼んだって誰も返事してくれなかったのに・・・
今は竜児が目の前でご飯の支度をしてる。呼んでもないのに、私に気付いて声をかけてくれる。
・・・あんなに冷たかった『私の家』の中心は、竜児がいるだけでポカポカになっちゃった・・・
・・・・・・あったかい・・・・・・
座って待ってると、竜児が次々におかずを乗せたお皿を置いてくる。
テーブルに並べられたそれは普段通りの朝食なのに、とってもおいしそう。
「朝飯作ろうとしたら、家のコンロの調子が悪くってさぁ・・・泰子は酔っ払って起きないし、
俺と大河の分だけだったらこっちで作って食った方が早いと思って、勝手に上がって作ってたんだけど・・・
・・・さすがに迷惑だったか?」
ご飯をよそいながら、竜児が口を開く。
「・・・・・・・・・」
ご飯を受け取って、フルフルと首を横に振る。
「そうか? ならいいんだけど・・・あ、お前・・・顔と手、洗ってきたのかよ?」
「・・・洗ったわよ」
洗ってないけど。
「・・・まぁいいか・・・いただきます」
「・・・あ・・・」
思い出した
前は意地張って・・・せっかく作ってくれたのに・・・竜児に向かって『いただきます』って言えなかったっけ
「・・・竜児?」
「ん?」
「・・・・・・いただきます」
「おぅ」
いつもと同じ、竜児の作った朝ご飯。
なのに、今日は『私の家』で食べる・・・竜児が作った朝ご飯。
少しだけ、いつもと違う朝ご飯。
「・・・あつっ・・・」
「悪い、ちょっと火に掛け過ぎたみたいだ。大丈夫か、大河?」
・・・こんなことでも返事が返ってくる。心配してくれる。
自然にかけてくれる竜児の言葉に、胸の辺りがじんわりと暖かくなって・・・
お荷物とか、負担になるとか・・・そんなこと、もうどうでもよくなっちゃう程嬉しい。
それに誰かと一緒に食べるご飯は、やっぱり一人で食べるときよりもずっとおいしく感じる。
「・・・うん、大丈夫・・・おいしい・・・竜児、おかわり!」
「おぅ、沢山食べろよ」
竜児がいる時は・・・ちょっとだけだけど、私は『私の家』が好きになる。
『私の家』には、今だけだけど竜児がいるから。ひとりぼっちじゃないから。
『私の家』の中心に・・・私と、すぐ傍に竜児がいるから。
竜児が来てくれてる間は、他に誰も来ないこの家が・・・
私と竜児以外、他に誰もいないこの家が・・・
ちょっとだけ、好き
「私の家」〜おわり〜
おしまい
多分「やすドラ」と「イン娘ちゃん」でバカやり過ぎた反動
GJとしか出てこない・・・
すごくイイ!
GJGJ!!
GJ
これで今日も生きていける
イブだってのに昼間っから妄想を共有か……
何やってんだろうな……俺ら……
イブ?
何を言ってるんだ
今日はただの平日だろHAHAHA
だよな
今年のクリスマスは中止ってお知らせ見たぜ
今日はただの平日だろ?
イブにフラれた上にインフルエンザにかかるような男に比べりゃ
俺らは恵まれてるよ
500 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 17:29:29 ID:YDfPuMlP
『マフラー』
「高須とタイガー今ケンカしてるらしいぜ」
つまらないと言っては失礼だがこれといって面白くもない古文の授業の中、生徒達の小さくひそめた声
しかし凄まじい地獄耳を持つ虎はそれを聞き逃しはしない
「チッ」
そいつは授業中だというのに構わず舌打ちを炸裂させる
「今回はあの高須くんもちょっとキレてるらしいよ」
「えぇっ!あの見た目とかなりギャップある性格の高須君が?」
「チッ」
「いつもみたいにタイガーだけが一方的にキレてるってわけじゃなさそうだぜ今回は」
「チッ」
「………………」
さすがに虎の顔…もとい仏の顔も三度まで、と悟った2‐Cの生徒達は口を閉ざした
しかしそんな中…ことわざなんか知っているわけのない裏口入学疑惑の容疑者の声
「ていうか原因は何なの〜?高っちゃんがキレてるなんて相当じゃん〜!」
「…………春田…」
声をsaveすることが出来ないそのアホの声は虎の耳にはよく聞こえたのだろう
次の瞬間、虎の席から放たれたそれはそれは分厚い参考書が春田めがけて発射され教室に鈍い音が響く
春田はそのまま机にひれ伏し、散った…
「春田…お前はどうしていつもこう…」
春田の隣りの能登はその場で手を合掌し、春田に別れを告げたのだった
501 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 17:32:20 ID:YDfPuMlP
休み時間――
クラスの生徒達はこの数ヶ月でいかにも何人か殺ってそうと思われる竜児の生まれつき犯罪者フェイスにもやっと慣れつつあった
「俺さ〜最近高須のことやっとヤンキーじゃないってわかったんだけどさ…」
「そーそーあいつ根は母ちゃんみたいないいやつなんだよ。でも今日はヤバいよな…」
生徒達の目の先にいるその人物はとにかく今日はやばいらしい
その男はその鋭い眼光をいつも以上にぎらめつかせ、よく見るとカタカタと震えている
「ヤクが切れたんだよきっと…」
誰か一人がつぶやく
実際はただの貧乏ゆすり…のはずだ
「おい北村が高須の所に行くぞ」
北村は竜児のもとに駆け寄り、さすが少しずれてる生徒会会長
「どうしたんだ高須。今日、お前機嫌悪そうな面してるぞ。逢坂とでも何かあったのか?」
いきなり核心をつくのだった
すると竜児はいつもの三割増し犯罪者フェイスのまま口を開けた
「あんまり陰口みたいで言いたくないが…あいつのことなんかもう知らねぇ、それだけだ」
野次馬根性丸出しの2のCメンバーはぴたりと会話をやめ耳を傾けていた
「そうか…原因は何なんだ?」
北村はその先を聞こうとしたが竜児はそれ以上何も口に出さなかった
502 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 17:33:18 ID:YDfPuMlP
噂通り昨日の夕方から大河と竜児はけんかをしていた
大河がいつものように豪快に高須家のボロドアを開けると、そこには背を向け胡座をしながらごそごそしている竜児が居た
「今何してたのあんた?今隠したの何?こっちよこせ」
とてもその小さく華麗な容姿から発するとは思えない乱暴な言葉
「べっ…別に何も…それより今日の飯どうする?何か食いたいもんでもあ…」
「嘘こけ!話をそらすんじゃない!見せなさいよぉぉ!」
その小さい体ではありえない力で大河は竜児が隠したぶつを引っ張る
「だめだ!お前が持つとほつれる!確実にぃぃ!」
沈黙の中…数秒間の引っ張り合い
ピリピリピリ…
それに竜児が気付いたときにはもう遅かった
「「あっ!」」
そのぶつは見事に引き裂かれた
「ったく何やってんだよお前は。あ〜あ…ていうか普通ここまで破れねえだろ。これはもう最初から編まねえと…」
「あんたがさっさとこっちに渡さないからよ 」
マフラーを手に取り竜児は大河を睨み付ける
迫力はあるが大河にとってその顔は日常茶飯事だ
「お前なあ…これ作るのに何時間かかると思ってんだよ!?見てみろこのクマ!」
竜児の両目の下には誰が見ても明らかな立派なクマが二つ
「うっさいわね!あんたがさっさと素直に見せないから悪いのよ!また作ればいいでしょ!そもそも高二の男がちまちまマフラーなんか編んでんじゃないわよ!気持ち悪い!」
「はぁ!?お前こそ素直に謝ったらどうだよ!どう考えてもお前に非があるだろうが!性格が悪いのも大概にしろよ!鬼だお前は!」
竜児は久し振りに近所迷惑を無視して声を荒げてしまう
「帰る!!」
大河は来たときと同じくらい荒々しくドアを開けて自分の巣へ帰って行った
「何で俺が悪いみたいになってるんだ…」
イライラしながら破れたマフラーを何とかしようとしたがさすがの竜児にもお手上げの惨状らしい
503 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 17:34:17 ID:YDfPuMlP
「何よっ!」
大河は訳の分からない気持ちになっていた
自分が悪いのは分かっていた
だがなぜだろう…素直に謝れなかった
大河は見てしまった
マフラーに刺しゅうされたT・Yという文字を
「なんでやっちゃんなのよ…」
私がマフラー持ってないの前から知ってるくせに
大河はマフラーを見た時自分のために竜児が作ってくれていると勘違いをした
自分は期待し過ぎたのだ竜児に
自分の為に作ってくれたマフラーを『寒くなってきたから作ってやったぞ』とか言いながらそっと自分の首にかけてくれる竜児の姿があった
でも実際はそんなわけない
そうであってはならない
竜児にそこまで求めてはいけない
竜児が自分の為にマフラーなんか作ればまた誤解されるじゃないか。あのすぐに勘違いをする親友に。やっぱり大河は高須君のことが好きなんだねって
「……はあ…寝よ…」そして大河はベッドに潜り込む
『ぎゅるぎゅるぎゅる〜』
そういえば結局夕飯食べてなかったっけ…
504 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 17:34:58 ID:YDfPuMlP
朝――
大河が起きると台所には竜児がいた
そしていつものように竜児が作った朝食を食べ竜児が作った弁当を持って一緒に家を出る
しかし今日はいつもとは違い家を出るまで二人に会話らしい会話はなかった
チラッと横で歩く竜児に目をやる
わずかだがいつもの竜児の顔じゃないことに大河は気付く
最初は昨日のことを謝ろうとしていた大河だったが、いつもと違う竜児を見ていると話がなかなか切り出せない
結局、一言の会話もないまま実乃梨が待っているいつもの道までやって来てしまう
「あっ!おっはよう〜お二人さん!あれっ?今日は高須君…なんかいつもと違う顔してるね〜?なんかあったでしょ?」
それでも竜児はいつものように挨拶を返した
「別にそんなことねえよ…生まれつき機嫌の悪そうな面なんだよ俺は」
そしてついに大河は口を開ける。謝ろうとしたのだ。でもやっぱり自分は不器用な女らしい
「絶対機嫌悪いでしょあんた…顔の極悪性がいつもの三割増してるわよ」
今日一番の竜児と大河のまともな会話がこれだった
「あんたまだ昨日のこと怒ってるわけ?ほんと―にどうしようもなく狭量ねあんたは…一回自分の心をその自慢の高須棒とやらでピカピカに気が済むまで磨いてみれば?」
大河はいつも竜児が常備している高須棒が入ったポケットを指で指す
「お前…朝からずっとおとなしくしてるから昨日のこと…少しは反省でもしてるかと思ってたのによ…もう知らねー許してやるか!」
やはり竜児は怒っていた
大河はそれがわかると急に罪悪感が出てくる
「べっ…別にあんたの許しなんかいらないわよ!もう行こっ!みのりん」
大河はその場から実乃梨の手を持ちさっさと走って行ってしまう
「さらばだ〜高須くん!また会おう〜」
実乃梨の声が余韻に残る
そして現在に至るのであった
2のCの教室は竜児の顔面から放たれる黒いオーラと手乗りタイガーの不機嫌面によって一日中空気が悪かったのだった
二人は結局一日中お互いを無視し続けていたのだった
505 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 17:35:42 ID:YDfPuMlP
放課後――
いつもなら竜児と一緒に帰るはずだがそういうわけにもいかず大河は一人で帰っていた
「謝らなきゃいけないのに…」
大河は一人ごちになりながら今日一日を思い返していた
結局いつもみたいに竜児が構ってきてくれると思っている自分がいた
こけそうになったらいつも腕を引っ張って助けてくれる竜児
お弁当のおかずを制服にこぼしてもしょうがないなと拭き取ってくれる竜児
そして今回もきっと自分が謝らなくても自分のドジを心配して竜児の方から話しかけてくれるだろうと心のどこかで思っていた
「どうしよう…はぁ…」
大河が大きなため息をすると後ろから爽やかな声
「よう!逢坂どうした?ため息なんかついて」
その男…北村は大河の肩をぽんと軽く叩いた
「きっ北村くん!?どっどうして?生徒会は?部活は?」
「生徒会はやっと仕事に一段落ついたから今日は久しぶりに休みをもらったんだ。部活はこのところずっと土日も試合やら練習やらがあったから今日は休み」
そうこの超がつくほど多忙な北村が放課後に普通に帰っているなんてめったにないのだ
「と言うことで今日は奇跡的にこの時間帯に帰宅しているんだ。逢坂も今帰りか?良かったら一緒に帰らないか?」
「えぇっ!?……うん…帰ろっか…」
北村が自分を誘ってくれている
普段なら相当嬉しいはずだが大河はそんな浮かれる気分にはなれなかった
でも今はそばに誰かが居て欲しかった
誰かが横にいることで今のうじうじした気分が少しは飛んでいってくれるだろうと思ったからだ
最初に口を開けたのは北村だった
「逢坂…高須と何があったんだ?男の俺がこんなこと言うのは気持ち悪いと思うが…」
北村は続ける
「あいつは自分の感情を表に出さないタイプなんだ。前にも言ってた。『俺は見た目がこうだからどんなに嫌なこと、むかつくことがあっても顔には出さねえ。たぶんもっとひどくなるからな』と。だから今日の高須はよっぽどなはずなんだよ」
そこまで言われると大河も昨日の出来事を話すしかなかった
506 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 17:36:16 ID:YDfPuMlP
「……ってことなの。どうしたら良いんだろ…」
「そうか…逢坂は自分が悪いとわかってるんだな」
「うん…」
「なら謝れば良いじゃないか」
「え……?」
北村の答えは単純だった
「そもそもなぜ逢坂はそのときに謝れなかったんだ?高須にも何か原因があるんじゃないのか?」
北村は大河に鋭い質問をした
大河は立ち止まり地面に顔を向けてしまう
自分の身長の三分の二はあるであろうその髪で耳まで真っ赤な顔を隠すようにして
「どうした逢坂…?」
北村は心配そうに大河の顔を除き込む
「……から」
「何だって?」
「……じゃなかったから」
「悪い。聞こえないんだが逢坂…」
すると大河は意を決したかのように顔を上げ北村に聞こえるように言った
「……わ…私のマフラーじゃなかったから…マフラーにね…T・Yって…」
T・Y?
北村は少し考えるとそれが誰なのかすぐに分かった
「T・Y…ああ。泰子さんだな」
大河は沸騰まじかの顔をしながら続ける
「竜児は私のことをいつも見てくれてるの…だから…今回も…今回も竜児が私のためにマフラーを編んでくれてるって勘違いしたの… それで…」
「何言ってるんだろうね私…勝手に期待してそうじゃなかったからキレてさ…親子なんだからマフラーくらい作ってあげるよね…竜児が怒ってるのはわかってる…」
沈黙
自分は何を言ってるんだろうと思う
好きな男の前で別の男に対しての悩みを打ち明けているのだ
そんなこと言えばまた竜児と自分が誤解されるじゃないか、この好きな男に…好きな男?
大河は自分に問い掛けた
そうだ…合ってるじゃないか…自分が好きな男はこの目の前にいる北村祐…
それと同時に頭に浮かぶのは目付きの悪い一人の男
そして気付く
そうか…自分はずっと前から…
北村がようやく口を開ける。その整った顔はいつもより真剣な表情
「逢坂…そろそろ素直になっても良いんじゃないか?」
北村はわかっていたのだ。大河の気持ちを
だからこそ今日のことが気になりわざわざ追いかけて来たのだ
「北村くん……」
北村は下を向く大河をしばらく見つめていると気付く
大河の背後10メートルの電柱に一応隠れているつもりなのだろう…よく知っている男がいる
「逢坂。悪いな…用事を思いだしたからもう一度学校に行ってくる。じゃあまた明日」
北村はそう言うと大河を放ったらかしてさっさと来た道を逆走して行った
そしてそのまま隠れている目付きの悪い男に口パクで「行け」と
男は目を丸くした
ばれていないと本気で思っていたからだ
北村と入れ代わりでその男は大河の前に駆け寄った
507 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 17:37:53 ID:YDfPuMlP
学校が終わってどれ位時間が経っただろう
辺りはそろそろ暗くなり冬だといわんばかりの痛々しい風も吹いている
「はっ…はっくしょい!!」
目付きの悪い男は寒がりな大河の後ろから自分の掛けているマフラーをそっと掛けてやる
カシミアの結構良いやつだ
「えっ…竜児…!?」
竜児が優しくマフラーを巻いてくれる
大河は顔を見ずともその男が誰なのかすぐにわかった
いつも竜児から強引に奪うマフラー
竜児の匂いがする……自分を安心させるその匂い…
大河はその作業を黙って受け入れた
だがそれが終わると同時に反射的に大河は竜児から距離を取った
「あんた…いつからいたのよ…?」
「いや…今来たばっかだぞ…家に帰ってたらお前が立ち止まってて…」
大河にはわかる
竜児は嘘をつくのが下手くそな方なのだ
だがその嘘を否定すれば自分と北村とのさっきまでの会話を聞かれてしまったのかも知れないと思ってしまう
「へっくしゅん!」
竜児のくしゃみ
自分にマフラーを掛けるためにそいつは相当我慢しているのだろう
よく見ると震えている
大河は竜児がうまく巻いてくれたマフラーを取って持ち主の首に巻いてやる
「いいって……俺は別に寒くねえからお前が掛けてろよ」
竜児は最初は抵抗したが背伸びしながらマフラーを巻く大河を見てすぐに観念した
「……私も…別に寒くないからいらないだけ…………はっくしょい!!」
大河の嘘は二秒でばれた
「あ〜あ〜鼻水出てるじゃねえか」
竜児は大河の鼻をいつものようにティッシュで拭いてやる
その作業を終えると今度は自分のバッグから何かを取り出した
大河は不思議そうにそれを眺める
「本当はクリスマスに渡したかったんだが…これだけ寒いんじゃもうしょうがねえよな」
竜児はそう言いながらあからさまにクリスマスを思わせる包装紙から鮮やかなピンク色の何かを取り出す
「そっ…それって…?」
大河はそれが何かすぐにわかった
だけど聞いてみた
だって昨日…自分はそれの色違いを破壊したばかりなのだから
大河はそのマフラーの存在にしばらく戸惑った
A・T……誰それ?
そして竜児はさっきのようにそれを大河の首に優しく巻いてやる
竜児の長いマフラーとは違って、それは大河の小さい首に対してジャストサイズに仕上がっている
「やっぱりお前はピンクが似合うな」
竜児は手で軽く大河の頭を叩いて満足そうに大河を眺める
「大河…?」
大河の両目が潤んでしまう
「これ…私に?私にも作ってくれてたんだ……」
「当たり前じゃねえか。お前のはとっくに仕上がってたんだよ。クリスマスまで学校のロッカーにでも隠して置こうと思ってたんだけどよ、掃除道具(私物)で満席でさ」
竜児は得意そうに大河に顔を向ける
大河はそのままマフラーの暖かさをかみ締めた後、己の全身を竜児に倒した
竜児は一瞬驚くが大河を抱くようにして見事にキャッチする
「っ……どうした?大河……?」
大河はその状態のまま何かごにょごにょ言っている
「………?」
気が付くと辺りはもう真っ暗。こんな時間帯だ。今の二人は抱き合うカップルにしか見えないだろう
「りゅっ…りゅじ…ごめん…私…やっちゃんの…やっちゃんのマフラー破っちゃったのに…なのにりゅうじは…」
かすかに匂うカシミアマフラーと同じ匂い…
体は徐々に暖まっていく。竜児が自分に流れてくるようだ
一度竜児の体温を感じてしまうともう体は離れられない。離れたくない
竜児も最初は戸惑ったがすぐに大河を受け入れてその小さい頭を撫でてやる
なぜなら大河が泣いているから。それ以外に理由なんていらない
「もういいって大河…もういいから…」
508 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 17:38:39 ID:YDfPuMlP
「…どうだ…?落ち着いたか?」
それから三十分は経っただろうか
その間、竜児はずっと大河の頭を撫でたり背中を擦ったりしていた
そうだ。こいつは普段はああだが素直になるとこうも可愛いくなるのだ
だから自分はこいつをほっとけないんだ
時に実乃梨と同じ…いや、それ以上の感情を抱いている自分がいる
「ありがと…竜児…マフラーすっごくあったかい…」
「…おうっ」
竜児は今までずっと泣いていた大河が急に口を開けたので少しトーンがずれた間抜けな声で返事をしてしまう
間――
この後どうすればいい?
二人は同じ質問を自身に問うていた
自分達は抱き合っている…互いの顔は見えてはいないがあれからずっと…ゼロ距離だ
「………ほっ…ほらやっちゃん……そろそろ仕事の時間でしょ…」
「……ああ…いや今日は早めに仕事行って飯はあっちで食うそうだ…イタリアン…」
「そっ…そうなんだ…イタリアン…」
間――
マフラーとお互いの体の体温のおかげでもあるのか、外の冷えた空気をあまり感じない。むしろ暑いくらいだ
そしてついに動き出したのは竜児の方だ
そっと大河の体を自分の体から離す
竜児には見えていなかったが大河は一瞬名残惜しそうな顔をした
「そろそろ帰るか…」
辺りはやけに静かでまわりには誰もいなかった
この冬空の中、誰も外になんてしたくないのだろう
竜児が家に向かって先に歩きだそうとすると大河は竜児を呼び止めた
「……待って!竜児!」
竜児は大河の方に振り返る
「あの…今ならなんか…なんかね素直にっていうか正直になれるっていうか…話があるのよ…」
大河は爆発するくらいの真っ赤な顔で話を続けた
「最近ね…変なんだ…そう…さっきも最初は北村君と一緒に帰ってたんだ…」
「………そうか」
「いつもなら緊張してまともに話せなかったはずなんだけどさっきは大丈夫だった…」
竜児は帰る途中で偶然二人が並んで帰っているのを目撃していた
そして竜児は二人が良いムードで帰っている気がしたので二人の会話を聞くような野暮なことはしなかったのだ
しかし今思えば確かに変だ…二人きりだというのに大河はいつものように緊張して変な動きや変な顔をしていなかった
そういえばここ最近も………いや、それはそうだろう
亜美の家の別荘、文化祭、北村がぐれた事件、いろいろな行事(?)を通して大河と北村は確実に仲良くなったはずなのだ
「そりゃそうだろ、いろいろなことがあったからな。今さらお前が北村とまともに話せても別に変じゃないと思うけどな俺は」
大河は竜児の顔をまっすぐ見つめたまま残念そうな顔をする
「違う…そうゆうことじゃなくて…うん、確かに最近は北村君ともよく話せるようになった…けど…何ていうか…どきどきしたりしないの…」
「……だからあれだろ。免疫が付いたんだよお前は。北村に対しての」
『この駄犬は…』いつもの自分ならここでキレて話をうやむやに流してしまうだろう
だが今日こそはやっと気付いた自分の今の気持ちを打ち明けたい…いや打ち明けなければならない
このままじゃ実乃梨といつまでたってもフェアじゃないから
「私…今ね…ほんの少しだけど北村君とは別の人にどきどき…してるんだ…」
大河は精一杯のヒントを与えたつもりだった
「……そうだったのか…誰なんだ?俺の知ってる奴か?」
そして大河は覚悟を決め、竜児の足元を睨みつけながら小さく言葉を発した
「あんたなのよ…」
まわりはまるで大河にスポットが当たったように静かだった
「…………は?」
竜児はもう一度聞き直すかのようにたった一文字で返答する
「『は?』じゃない!だから……今はあんたのことが好きなの!北村君じゃなくて…わたち…わ…私は高須竜児が好きなのよ!!」
509 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 17:44:23 ID:YDfPuMlP
竜児はもう一度聞き直すかのようにたった一文字で返答する
「『は?』じゃない!だから……今はあんたのことが好きなの!北村君じゃなくて…わたち…わ…私は高須竜児が好きなのよ!!」
竜児は驚いた。大河が噛んだことに驚いたわけではないが本気で驚いた
だが嬉しくもあった
こんな感情はあの日以来だ
自分が溺れたときに起こった大河の『竜児は私のだぁ事件』
だめだ…何を言っているんだ自分は。自分には想いを寄せる実乃梨という女がいるじゃないか
大河とはただの家族、兄弟みたいなもので別にそういった特別な感情なんてないに決まって……
………なぜ言い切ることが出来ない?
「大河…俺は…ぶはっっ!?」
大河の小さい手の平が竜児の口を捉えた
「ごめん…ちょっとまだ黙ってて」
大河はその状態のままあのね…と続けるのだった
「卑怯だってことはわかってる…あんたと私は互いの親友に想いを寄せていた言わば戦友…そしてあんたが今もみのりんのことが好きなのもわかってる…わかってるけど………好きなのよ…どうしたって…あんたのことが…」
「…だから…勝手だと思うけど私はあんたに振り向いてもらえるように頑張る。今日からあんたの家にも入り浸らない、お弁当もいい、起こしに来なくてもいい、あんたはみのりんを追い続けていい、何も文句なんて言わない」
「でもお前…ぶふっ!」
再び大河は竜児を抑える
「私はいつまでもあんたに甘えてたら駄目なのよ…あんたが好きだから…それに大丈夫!何とかするから!ちゃんと炊事も洗濯も掃除も始めてみるから…だから竜児にはその後の私を見て欲しいの…竜児に頼らなくなった私を……!」
ようやく竜児の口から手を離すと大河は帰り道とは違う道に走って行く
「大河!どこ行くんだよ!」
状況をまだよく飲ま込めないままの竜児だったが大河を引き止めようとする
「どこって…買い物よ!今日からいろいろ頑張るって言ったじゃない。あとマフラーありがと!大事にする。じゃあね竜児!」
大河は風のように竜児の前から去って行く
「ったく……」
いつもながらだが本当にあいつには振り回されっ放しだ
竜児は見えなくなるまで大河がこけたりしないかを確認する
そして再び歩き出す
いつもの見慣れた通学路を、今日は一人で歩く
510 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 17:44:59 ID:YDfPuMlP
クラス替えまで残り三か月ちょっと
それまでには答えを出したい
いや出さなくてはならない
これからの為、自分の為、そして大河の為にも答えを
「……で、これがそのときのマフラーよ。久しぶりに見つけたけどちゃんと大切にしまってたのよ」
「……ママ達ののろけ話って数え切れないくらいあるよねほんと…」
普通の家庭の親子の会話
「なっ…何言ってんのよ!べっ別にのろけ話とかしょんなじゃ…」
うまく喋れていないこの人は私の母親
「……のろけ話でしょ。この前の文化祭の話ものろけっぽかったし。いいな〜私もパパみたいに尽くしてくれる彼氏欲しいな〜」
私はもうすぐ高校生
思春期とやらか母と父の昔の話を聞くと本当にうらやましく思う
「だから別にそうゆう話じゃないったら…文化祭…あの時も…パパが私のために全力で走ってきて…」
人より少し小さいがまだまだ若く綺麗な(自慢の?)母は照れながら顔を赤くする
この年でまだ夫に対して照れたりするなんてうちの母くらいじゃ…とか思ったり思わなかったり
「はいはい…その話は聞いたって」
私は呆れて母の話を流した
「何の話をしてるんだ?」
家に帰宅してきたのは目付きは悪いが家事万能、この家の大黒柱で私の父親
「あっパパ。おかえり。今ね、またママったら…ふがっ!?」
母は私の口をその小さい手で塞いでくる
なんて力なんだろう
「あっ…明日の入学式のことを話してたのよ…」
「そうかもう明日なのか…それよりそのマフラーって…」
父はピンク色のそれに気付く
「えっ!?まだ覚えてたんだ…へへ…なんか嬉しいな…」
「当たり前だろ。そのマフラーから今までいろんなことがあったよな…」
「そうね…本当にいろいろあった…」
そして両親はお互いを見つめ合い顔を赤らめ幸せそうな顔をする
もはやこの二人は私の存在を消している
というかリアルに消されかけている
「………っ…マ…マ…息…でき…な…い」
母は今にも私を窒息死させようとしていたのだから
「あら忘れてたわ」
母は手をやっと私から離す
「ったく…もうじき高校生の娘がいるってのにいまだにお熱いわね〜」
私は両親をちょっと意地悪く言ってやる。まあ本音なんだけどね
「うっ…うっさい!それより明日早いんでしょ?さっさともう寝なさいよ!」
母は自分の顔の温度の上昇にも気付かないまま私を怒鳴ってくる
明日のことを思うとまだ眠れそうにないのだが母には逆らえない
なんたってママは明日から通うあの大橋高校で名をはせたあの手乗り……
終わり
あーみんはまだかぁ…
>>510 子供が高校生となると2人の年齢は・・・ 考えない方がいいとわかっていても考えちゃうんだよな
でも良かったよGJ
こうやってもっと早く虎が素直になってたらクリスマス以降、高須が傷つくことは無かったのかもしれないな
まあ、ああいう辛い経験した方が人として成長できるのかもしれないけど
>>510 乙でしたー。大河可愛い
北村といたときに大河キョドってたけど、3か月まえなら免疫ついてると思ったがあんなもんか
原作7〜9巻と相違無かったか。気のせいか
GJ!
今鏡見たらキモい生物が映っててびびった
>>516 風呂上がりにみてみろ。イケメンが映るぜ
>>470 >>480 >>510 帰ってくると、朝の荒れようが嘘みたいな優良竜虎SS祭だった…
もう乙!とGJ!しか出てこねえよ!
こんな何でもない平日に素晴らしいプレゼントを落としてくなんて…
もうあんたら大好きなんだぜ!
俺、大阪からはるばる九州まで夜行バスで帰る途中なんですが、
寝せないき?
GJ過ぎてヤバイよ…
神は…ここにいた…
竜虎滅牙斬
竜虎王
虎竜王
クリスマス間に合わなかった。ーヽ(`Д´)ノ ウワォォォ
今から、亜美→祐作もの投下します。
乱文ですので、あまり期待しないでください。
ふぅ、振られちゃったか…。
やっぱり、高須君ってばあの子のほうが大切なんじゃない。
クリスマスだけでも、あのダンスの後だけでもいいからわたしのほうをむいてほしかった。
思い出すと落ち込んでしまう。だったら、思い出さなければよいのだが、一人の寂しさがわたしにそのことだけしか考えさせない。
帰ると言い残し出てきた手前、体育館にはもう戻れない。
あの時のキャンプファイヤーのときの『仲良しの五人組』のままでいたかった。
でも、それはもうできなくなった。みんな、自分の思いに気づき始めてしまったからだ。
あの子も高須君もみのりちゃんも、そして…私も…。
わたしが入ったからかな…。こんなにこじれたのは…。わたしがなんにでも首をつっこんだから…。わたしが高須君のことを好きになってしまったから…。
自分を責める言葉は止まらず、そして意外と暖かい自動販売機の横で、現実から逃げるように夢の世界へと逃げた。
肩をゆすられる。誰だろう…。
目を開けると祐作だった。
「こんなところでなにやってるんだよ。亜美…」
心配そうな顔、寒いのに汗をかいている額、それらは全部私を探すためのものだった。
「クリスマス・パーティーは終わった?」
「いや、亜美が出て行ってからそんなにたってないぞ」
わたしはそれほど寝ていなかったのか…。
「どうして、わたしがここにいるってわかったの?」
「亜美は落ち込んでるときはいつも狭いところに隠れるからな」
わたしは、何てことないように言う祐作の姿に昔のことを思い出した
小学校の低学年のときだった。
まだ、自分が世界の中心だと信じていて、性格の隠し方も笑いの作り方も知らなかった頃。
クラスの女の子をわたしが泣かせてしまった。原因は、わたしの性格、わたしがクラスの男子を奴隷のようにあつかったことに対する怒りからくる口げんか。
泣いてしまえば、どうあっても泣かせたほうが悪い。子供の理屈だ。みんなの視線に耐え切れず、わたしは逃げ出した。
その頃のわたしのお気に入りの場所は図工室の石膏像の隙間だった。
泣いた。自分が何をしているのか、自分が何を口走ったのかを思い出して…。
そのとき、図工室のドアが開いた。祐作だった。うれしかったはずなのに、幼いわたしはついついこう口走ってしまった。
「なにしにきたのよ。ゆうさく。でてってよ」
でも、祐作はそんなわたしにこう言ってわたしのまえに座ってくれた。
「あみのことがしんぱいだからな」
そして、こう言ってくれた。
「ぼくは、あみのいわるいところもしってるよ。だけど、ぼくはあみのみかただよ。だって、あみのことだいすきだから」
その言葉に、わたしはまた泣いた。悲しいからではない。うれしいからだ。
「さあ、いっしょにきょうしつにいこう。ぼくも、あやまってあげるから」
いつもそうだった。わたしが落ち込んだりしてるしてるときは、祐作がいた。
そこまで思い出してるとき、わたしのほほに冷たいものが当てられた。
「ひゃうっ」
思わず、変な声が出してしまった。
「なに、ボーっとしてるんだよ」
「いや〜子供のときはかわいかったのになと思って…。っていうか、亜美ちゃんの顔にいきなり何するのよ」
普段の調子を取り戻す。自分の心にかすかに浮かんだ気持ちを押し殺して、仮面をかぶって…。
「ハハ、やっぱり亜美は泣いてる顔よりそっちの顔のほうが似合ってるぞ」
「ハ〜アッ、亜美ちゃんがいつ泣いてたのよ?っていうか、亜美ちゃんの寝顔見たんだろ、お金を請求してぇ」
言われて気づいた。確かにわたしは泣いていた。
耐え切れず、わたしは話した。自分の犯した罪について話した。祐作はそれをちゃんと聞いてくれた。
話し終えてしまった後、祐作は笑いながら言った。
「そうか…。でも、心配しなくていいだろう。高須も逢坂も櫛枝も自分で自分の道を見つけるだろう。それと、亜美おまえにはそういう相手はいないのか?」
「フンッ、いたら、ここでこういうふうにすごしてねぇよ」
「確かにな。でも、亜美。困ったら相談してくれよ。俺は亜美の味方なんだからな」
何気なく言ったその一言、でも大切な一言。
わたしの恋は実らない運命なのだろう。なぜなら祐作にも高須君にも振られてしまったからだ。
どちらにも勝てないのだ。狩野すみれにも逢坂大河にも、わたしは敵わないのだ。
なにせ、わたしが来る前に固まってしまった関係だ。わたしの入り込む場所はない。
そして、わたしは分からない。わたしは祐作と高須君のどちらが好きだったんだろう。
祐作はわたしのすべてを受け入れくれる人、高須君はわたしの心にじかで触れてくれた人。
わからない、どちらが『恋』かなんてわたしは分からない。
あの子もこれに悩んだのだろうか。この、複雑な感情に…。
でも、今はいい。
「祐作、戻ろ」
「ああ」
わたしの味方だといってくれた祐作が横にいる。今は、それだけでいい。
本当に乱文失礼しました。また、わたしの小説のおかしいところがあったらぜひ教えてください。
SSは良かったんだが最後の改行には何か意味あるの?
乙。
亜美は個人的に一番作品中で幸せになってほしいキャラクターなので
北村という救いの可能性を見せてくれたのは新鮮で面白かったです
というかその改行は何だ
535 :
始めの一歩:2008/12/25(木) 01:46:22 ID:r8iBA2v5
竜児×実乃梨です。とらドラのSSは始めて書きます。
クリスマスの夜、めぐり合わせが良くて告白がすんなりいった後の話。
というか、気づいたらどうしてクリスマスイブにこんなもん書いてるんだぜ?
「じゃーねー、大河、高須君っ」
言って手を振りながら、向こうへ駆けて行く少女……櫛枝実乃梨の背中に声をかける。
「おう。バイト、頑張れよな」
「うんっ」
顔だけ振り返り返事をするその笑顔は、自分の贔屓目でなければ、確かに以前とは違う
輝きを持っており――
「なに会話だけで発情してんのよ馬鹿犬。死ぬ?」
――感極まっているところで、隣の少女に水を差される。
「大体いまだに名字で呼び合ってるってのはどういうことなのよ。私はあんたを去勢した
覚えはないわよ、甲斐性なし」
「ぐ……」
浴びせられる罵詈雑言に胸を抉られつつ、しかし高須竜児は反論する術を持たなかった。
言われるだけの覚えはあったからだ。
時は一月、年も明けたばかりの今。
高須竜児と櫛枝実乃梨は、恋人同士であるはずだった。
クリスマスのあの夜、パーティの余韻も静まった学校で、竜児は実乃梨に恋の告白をし
――そして、実乃梨もそれを受け入れた。
晴れて恋人同士となり、新学期が始まって毎日会うようになれば、夢のような生活が待
っているかと思いきや、
「一緒に学校行って、ご飯食べて……今までとやってること変わんないじゃない」
「だ、だってよ。櫛枝は放課後大体バイトか部活で、俺も家事があるし……」
「土日も全部埋まってるわけじゃないでしょ。ちゃんとデートにでも誘いなさいよ」
「……どうやって何に誘えばいいのかわかんねんだよ」
呆れた駄犬ね、と頭を左右に振り溜息をつく少女――逢坂大河と竜児は、今でも奇妙な
共同生活を続けていた。
三人でいるとき、時折実乃梨は大河に気を遣う様な素振りを見せ、大河は気にしないで
という風に笑顔を見せる。それを竜児は気づかないことにしている。
理由を考えると、なんだか頭に浮かべるのもおこがましいような傲慢な考えに至るのと
……二人の間で話がついて、自分に伝えないことに決まった何かがあるのなら、自分が口
を出すのは余計なことだと思うからだ。
――そのうち大怪我する、と亜美に言われたことを思い出す。
(……大怪我したら、治すさ。絶対、死んでも)
そう思える程度には、腹は決まっていた。
「ああやだやだ、これだから年齢イコール彼女いない暦の男は。球種が少ないったらあり
ゃしない」
明らかに年齢イコール彼氏いない暦である少女に何か反論してやりたかったが、抑えた。
口調は辛辣でも、大河が心底実乃梨と、自分のことを心配してくれていることは知って
いたからだ。
代わりに続きを促す。
「……じゃあ先生だったら、どんな球を投げるんですかね」
「人に聞かなきゃ何も出来ない? これだから童貞は」
めげそうだった。
「まあ、今回は哀れな犬に免じて、ご主人様が必勝法を伝授してあげる。一生恩に着なさ
いよ」
「……おう」
竜児は身を乗り出した。
なんだかんだ言って花の男子高校生、かわいい彼女との距離を縮める方法があるのなら
土下座してでも知りたいのだ。
「今週の土曜から日曜の昼にかけて、みのりんは暇よ。そこで新年会とかなんとか言って
みのりんをあんたんちに呼んで、飲むもん飲ませなさい」
「はあ」
「名づけて」
「名づけて?」
大河は一呼吸置き、自信の炎を眼にたぎらせつつ、拳を握り締め叫んだ。
「『酔ったみのりんを押し倒して既成事実バンザイ作戦』……っ!」
「お前のがド直球だろうがあああっ!」
ついでに暴投だった。
「新年会、北村君とばかちーも呼んどいたから。デコイとして」
「は?」
翌日の帰り道、二人きりになった瞬間言われる。
一瞬何の話か分からなかった。
「……え、もしかして昨日言ってたやつ? え? ギャグじゃなかったのか?」
「私がそんなつまらない冗談をいう女だと思う?」
「……お前の冗談で笑えたためしがねえよ」
頭を抱えた。本気で押し倒せとか言ってんのかこの虎は。
「あのなあ、お前――」
説教してやろうと思って、止まった。
横を歩く大河の顔は、本当に、真剣にこちらを向いていた。
「うるさい。あんたはとっとと、ちゃんとみのりんとくっつきなさい。それが義務なの、
男の責任なの。でないと――」
――諦めきれないじゃない。
かすかに聞こえたその声は、果たして幻聴だったのか。
竜児が確かめる間もなく、大河は駆け出し、
「みのりんは自分で誘いなさいよ。反論は聞かないからね!」
言葉どおり何かを言う暇を与えず、足早に去って行った。
「あのさ」
「ん? なあに高須君?」
部活へと赴く実乃梨を送るわずかな逢瀬(というほど色気のあるものではなかったが)
の際、辺りに人がいないことを見計らってから、竜児は話を持ちかけた。
「今度の土曜なんだけど」
「うん」
「うちに来ないか」
瞬間、目の前の美少女がぶほぉと噴き出した。
「うおっ!」
「たっ、たたた高須君っ、ちょ、それはちょっと早すぎるんじゃないかなーと小生愚考す
る次第でありますけれどもっ!?」
顔を真っ赤に染めて、つばを飛ばしながら叫ぶ。
無駄に驚異的コミュニケーション能力を誇る実乃梨だが、この手の話になると思考回路
に支障が出ることを、竜児と大河は知っていた。
「お、落ち着けよっ。二人じゃなくて、大河や北村や……そうそう川島なんかも呼んで、
新年会でもやろうって話になってさ!」
慌てて訂正すると、
「へ、あ。……新年会?」
顔に理解の色が広がっていき、落ち着きを取り戻す。
「あ、あはは、なーんだ新年会! やだなあ、おじさん勘違いしちまったい!」
安堵したかのように笑う実乃梨を見て、良心がちくりと疼いた。すいません、嘘です、
やる気満々です。
「そんなら一発芸とか任しといてよ。櫛枝48の殺人技と52の関節技を披露するときがつい
にやってきたぜ」
「……いや、いい、そういう物騒なのは」
ていうか持ってんのか、殺人技。聞こうかと思ったが、本気で首を縦に振りそうな気が
してやめた。
「まあ、そういうわけだから。土曜空けといてくれな」
部活棟も近くなったので、会話を打ち切り踵を返す。
その背中に声が掛けられた。
「高須君」
「ん?」
振り返ると――実乃梨は両手を腰の後ろで組み、やや恥ずかしそうな笑顔で告げた。
「楽しみにしてるね、その……高須君のうちに行くの」
「……おう」
男の意地にかけて表情を崩さず返事をし、実乃梨から顔を背けてから、にやけた。
(……俺は三国一の幸せもんだ)
飛び上がりたい気分だった。
土曜日の夕方。
「お邪魔します」
「お邪魔しま〜す」
「おう、いらっしゃい」
ドアを開けると、北村と亜美が立っていた。
すでに居間でぐうたらしている大河を含めてこれで四人。あえて少し遅めの集合時間を
伝えた実乃梨を除く全員が揃う。
「……ていうか、マジで来たんだな、川嶋」
「来ちゃいけない?」
亜美が、外面を気にしない顔で――つまりは仏頂面で聞き返す。
「いやそうじゃなくてさ、お前こういうの好きじゃないかなと思って」
「別に、今日暇だったし。それに……」
そこで言葉を区切り、竜児の顔を悪戯っぽく見てから続けた。
「面白いモンが見れるって聞いたから」
「見んのかよっ!?」
思わず叫ぶ。
見れば、いつの間にか玄関にやって来ていた大河と亜美が目線を交わし、にやりと笑う。
なんだお前ら、なんでこんなときだけ仲よさげなんだ。
「高須」
「お、おう、きたむ……ら?」
途中で言い淀む。北村が何かを差し出していた。
「俺たちはまだ学生だ。これだけはきっちり着けとけ」
「だあああああああっ!」
北村の手から、いわゆるゴム製品を弾き飛ばした。
「なんでそんなに準備がいいんだよっ!」
「これはな、俺が来るべき会長戦に備えて、二年間財布に忍ばせておいたシロモノだ。つ
いぞ実戦の機会は訪れなかったが……高須、お前に俺の夢を託すぞ」
「そんな呪われたアイテムを俺に託すな! 捨てろ!」
後ろでは、亜美が「きもっ」と吐き捨てるように呟いている。
「はは、安心しろよ高須、冗談だ」
爽やかに笑い、肩を叩きながら告げる。
「それはちゃんと箱から出した新しいやつだ」
「結局お前のかよおおおお!?」
今日幾度目かの叫びを上げながら、竜児は気づいた。
――ああ、もしかしてこいつら、俺をネタに笑いにきただけじゃねえのか――。
悲しいことに、多分当たってる気がする。
ぴんぽーん。
「あ、はいはい……っと、櫛枝」
憔悴しながらも、玄関のチャイムに反応しドアを開けると、想い人がそこにはいた。
「本日はお招き頂きありがとうございますッ! 私、櫛枝実乃梨と申しまして、息子さん
にはいつもお世話になっておったりしましてッ――って高須君?」
何故か右手で敬礼しつつ、突如として礼儀正しい(風味な)挨拶をかます実乃梨は、顔
を出したのが竜児と分かるや否や、体勢を崩した。
「おっす、オラ櫛枝。その、高須君、親御さんは……」
「……いや、いねえよ。朝まで」
一転してんちゃ、と微妙に間違った挨拶をしてくる実乃梨に返答すると、その顔ははっ
きり分かるほど弛緩した。
「なーんだ、緊張して損しちゃった。うへへ」
笑いながら、お邪魔しまーすと玄関に入ってくる。
亜美たちに無意味なハイタッチを強要して嫌がられている実乃梨の後姿を見て、
――彼氏の親に会うって意識してくれたのか?
報われる気持ちになる竜児だった。
不純な動機があるとはいえ、新年会は楽しく過ごせた。
竜児の用意した鍋を五人で突付きながら、いかなるルートから用意されたものか知れな
い酒類を流し込む。
「いや、いいのかそれ」
「いいんじゃなーい? チューハイなんてジュースみたいなもんだし」
「えええ……」
躊躇する竜児をよそに、他の面々は次々と缶を開けていく。
まあ、ちょっとくらいいいか……と缶に伸ばした手を、大河に叩かれた。
「いてっ。なんだよ」
「あんたは飲むんじゃない」
どうしてだよ――疑問の表情になった竜児の耳元に口を寄せ、
「飲むと勃たなくなることがあるというわ」
「……」
二の句を告げずにいる竜児の肩を寄せ、にやりと嫌らしい笑みを浮かべる大河。
「見なさいみのりんを」
言われるがまま見ると、やべえうめえよコレすげえよ高須君、何がいいってナベはカロ
リー少ないのが最高だよほふほふ――と、貪るように鍋の中身を平らげていく実乃梨がい
る。
「ふふふ、みのりんったらがっついちゃって……デザートにポークビッツが待っていると
も知らないで……!」
――デザートって何だよとか、ポークビッツって何のことだよとか、誰のがポークビッ
ツだコラとか、そもそもマジでやるんすか先生とか、いくつものツッコミを胸に秘めたま
ま、一言だけ発した。
「お前、酔ってるだろ」
「酔ってなんかいないわ! これっぽっちも!」
どう見ても酔っていやがる。
「ここは私に任せて先に行けええええ!」
「そんな……! 一人でトイレに行くなんて、死ぬつもりなのみのりん!?」
「へっ、背中は任せたぜ……大河!」
「いいからとっとと行きなさいよ馬鹿」
鍋も酒も大半がなくなった深夜、亜美の無情なツッコミを受け、実乃梨は千鳥足でトイ
レへ向かう。
その後姿を見送ってから、酔った様子も見せず亜美が立ち上がる。
「……んじゃ、亜美ちゃんそろそろ帰るねー。ほらあんたも」
「んー」
先ほどのコントが最後の元気だったのか、力尽きたようにぐでりとしている大河の腕を
引っ張り上げる亜美に、どう声を掛けるべきか迷い、言葉を失う竜児。
その視線をどう解釈したのか、興味なさそうに言う。
「……ま、あんたは実乃梨ちゃんを選んだんでしょ? じゃあ、ちゃんと仲良くしてれば
いいんじゃないの」
それだけ言って、右手に大河、左手に自分の荷物を持って玄関に向かう亜美に、
「……ありがとな、今日」
礼だけを簡潔に言う。
亜美は、呆れたように苦笑していた。
「……いい加減起きなさいよあんた、いつまで亜美ちゃんのかよわい腕によっかかってん
のよ」
「ぐうう……頭痛い」
夜道を歩く大小二つの影。
高須家に来たときと表情の変わらない亜美に比べ、酒が回ったのか、大河はしかめっ面
になっていた。
「……ばかちーは酔ってないの」
「ばぁか、あたしは――」
一度言葉を切り、吹っ切るように息を吐いてから続ける。
「――あたしは、あんたみたいに、失恋くらいで酔いつぶれるほど弱くないのよ」
答えはなかった。
言葉は交わさず、ただ暗い夜道を二人で歩いた。
一人になると、途端に頭が冷静な方向に向かっていく。
(……やるのか? 本当に? マジで?)
大河にけしかけられ、勢いで計画に乗ったはいいものの、いざとなると尻込みしてしまう。
(襲うなんて……いやでも、案外櫛枝もそういう展開を望んでくれてたり、は……しねえ
よなあ? する? しねえだろ?)
考えがまとまらず、とりあえず散らかったテーブルと焦げ付いた鍋を片付けるか、と逃
避しかけたとき、トイレのドアが開いた。
「待たせたな! この俺が来たからにはもう好きにはさせねえ……って、あれ? あれ?」
勢いよく開いたドアからずばっと飛び出し、奇妙なポーズを取りながら口上を述べる実
乃梨が、辺りの静寂さに気づいてきょとんとする。
「あれ? 高須君、大河たちは?」
落ち着け。慌てるな。
「ああ、その……帰ったよ。酔いが回りすぎたとかで」
「えー、なんでえなんでえ、薄情なやつらめ! 私一人置き去りにしやがって」
ぶー、と唇を膨らます。
その細い身体に、じわり、じわり、と近づきながら、
(……もしかして今の俺は、変態めいてはいないだろうか)
そう考える頭はあるが、身体は止まりはしなかった。
「…………櫛枝」
「……え?」
実乃梨が気づいたときには、竜児との距離はわずか1メートルに満たず。
切羽詰った表情で荒く息をつく男がそこにはいた。
「うおっ……高須君、変態ぽいよ、マジで」
さすがに慄いた実乃梨に言われるが、構わなかった。何せ否定できない。
「櫛枝、俺は、……俺は、」
気の利いたセリフが出てこない自分の脳みそが恨めしい。
実乃梨の、微妙に汗ばんだ顔が、ひどくいやらしく見える。
「高須君、いや、ちょ、ダメ……今日は」
そこでぷちんと、どこかが切れた。
「櫛枝……っ!」
何も考えられない。右手を実乃梨の肩に掛け、実乃梨を――
「だ……だっしゃあああああああああ!!」
ぐるん。
ごしゃっ。
「うごっ!?」
視界が回転する。
押し倒そうとした勢いを利用してブン投げられたことに気づいた時には、すでに実乃梨
は次の技に入っていた。
「おっしゃあああああああああ!!」
倒れ伏した竜児の背後から、手足を自分の両手でつかみ、膝で竜児の背中を押し曲げる。
竜児の身体は大きく海老ぞりをする形となった。
「あ、いでででええっ!?」
これぞ櫛枝52の関節技のひとつ、ボー・バック・ブリーカー!
「って、……なにすんだよ櫛枝っ! あだだっ!」
「だってだってだって! た、高須君、何しようとしてんのさあっ!?」
無理矢理顔を上げ見てみれば、泣きそうな顔をしながら(しかし技は極めながら)実乃
梨がこちらを見ている。
「きょ、今日、もしかして最初からそのつもりだったっ?」
「ぐ、は、はい……ムチャクチャやる気でした……」
痛みでただでさえなかった余裕が消し飛び、問われるままに答えてしまう。
ああ、やっぱり彼女は、こんな行為望みはしなかったのか――
「さささ先に言うべよそういうことはよう! 皆一緒だって言うからそういう展開はない
と思って、おもっくそ暖かさ重視のババくさい下着で来ちゃったじゃんよおおお!」
うおお、と咆哮する実乃梨のセリフに、……一瞬引っかかった。
「……え」
「鍋もめっちゃめちゃ食ったし! 腹出てるよ! ただでさえ出てる腹が! あ、自分で
言って泣けてきた……コンチクショオオオ!」
「ちょ、ちょい、待って」
実乃梨が叫ぶたびに力が入り、背骨がぎしぎし悲鳴を上げるため喋りづらかったが、こ
れだけは確認したかった。
「その、さ。もしかして櫛枝も、そういうこと俺とするの、想像したりしてくれてたの……か?」
瞬間、
「……っ!」
実乃梨の顔が赤く、これ以上なく赤く、染まった。
「だっ……それは、だってっ……そりゃあ……付き合ってるんだし……そのうちそういう
ことにもなるかなー、くらいには……ねえ」
ぼそぼそと、普段の快活さからは想像できない声量で答える実乃梨の様子に、
「……ははっ」
考え込んでいた自分が馬鹿みたいで、笑えてきた。
「んなっ……笑うことないじゃん」
「や、違うよ。俺、その、女の子と付き合うの櫛枝が初めてで……櫛枝と話してても俺ば
っか焦ってる気になって、でも櫛枝も、当たり前だけど色々考えてるんだってわかったら、
なんか俺馬鹿みたいだなって」
ゆっくりと、自分の気持ちを咀嚼しながら喋ることができた。
焦ることはなかったんだ。もう、お互いを遮るものはないんだから。恋人同士になれた
んだから。
「……高須君、私と、あんなことしたいとかこんなことしたいとか、いつも考えてた?」
「おう。健康だからな」
探るような声色の問いに、てらいもなく答える。
途端、技が解かれた。
「ぐへっ」
手足が開放され、そのままの勢いで仰向けに寝そべる。
見上げた天井に、にゅっと実乃梨の顔が現れた。
「……そういうことは、また今度ってことでさ」
言いながら、赤く染めたままの顔を、どんどん近づけてくる。
「……え」
唇に、かすかな感触。
それはわずかに触れるだけのものではあったが、竜児は信じられないような心地でその
感覚を味わい、やがて離れていく実乃梨の顔をただ見上げる。
「今日のところは、これでどうかな」
恥ずかしさ五割、悪戯っぽさ五割の表情で呟く実乃梨が、
「……もう一個。実乃梨って呼んで、いいか」
「うんっ。竜児……君」
たまらなく、愛しかった。
一緒に部屋を片付けて実乃梨を家まで送り、もう一度唇を重ねてから自宅に帰る。何事
もなかったかのように片付いた部屋を見ると、今夜の出来事がまるで夢のように思える。
「……夢じゃねえんだよな」
確認するように唇を手でさすって、感触を思い出し……にやけた。
「うわ、きもっ」
「うざっ」
……………………。
深呼吸をしてから、振り返る。
大河と亜美がいた。
「ひあああああああっ!?」
「うるさい竜児」
「ちょっとお、近所迷惑じゃないのー? まあ亜美ちゃんのご近所じゃないから知ったこ
っちゃねーけど」
「なん、なん、なんでいるんだよお前ら!?」
「うわ失礼、せっかく忘れ物回収しにきてあげたってのに」
は? 回収?
見るからに疑問符を上げる竜児に、口で説明するのも面倒だと思ったのか、おもむろに
押入れを開ける。
「……っ!」
人は本当に驚いたとき、声は出ないものだと知った。
押入れの中には、パンツ一丁のまま気を失い涎を垂らした親友北村が、さかさまになっ
て入っている。
「なんだこの地獄絵図……」
「酔ったみのりんが殺人技の練習とか言って色々やってるうちにこうなったんだけど、覚
えてない?」
――そういえば、テンパっていて記憶が空ろだが、櫛枝バスターだか櫛枝ドライバーだ
かの叫びを耳にしたような。それでどうして裸になるのかは定かではなかったが。
んしょ、んしょ、と北村を引っ張りながら玄関に向かう大河(亜美は触りたくないらし
く、その後を手ぶらで歩いている)が、思い出したように振り向き、聞いてきた。
「んで、ちゃんとみのりんとはアレしてコレできたんでしょうね。ここまでお膳立てさせ
といて、何もありませんでしたじゃ済まないわよ」
えーと。
「……キスして、名前で呼び合うようになりました」
一瞬の沈黙の後、「小学生かよ!」という叫びと共に、二対のローキックが放たれた。
546 :
始めの一歩:2008/12/25(木) 01:55:02 ID:r8iBA2v5
終わりです。楽しんで読んでいただければ幸いです。
とらドラはアレですね、ヒロイン三人とも幸せになって欲しすぎて扱いに困りますね。
GJ!
やっぱりみのりんはいいなぁ
ありゃ、ミラー保管庫の6スレ目の作品が404になっとうぜ
乙でっす。
アニメの方今週かなりいいな・・・
>>546 超GJ!、つか上手いな、マジで上手いなw、ゆゆぽテイストの再現率が半端ないw
羨ましいよマジで、俺もこれくらい書ければ妄想フォルダに溜め込んだ数々を文章化できるんだが…
是非また書いておくれ
551 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 04:16:07 ID:VgYKKuR7
>>546 文才あり杉ワロタwwwwwwみのりん最高だぁぁぁ
竜児とみのりんがあんなことやこんなことをしちゃう後日談はもちろんあるよNE?
書かないと…お仕置きだべ〜!!!!111
>>531 GJ こうでもしないと川嶋は救われないよな
>>546 ギャグとシリアスの調和具合がすごくGJ
ってか書くの上手いな どんどん書いちゃってくれ いや、書いて下さいお願いします
553 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 10:20:25 ID:Q5ZHHjGR
ef - a tale of memoriesでエロパロを話しませんか?
GJすぎる
まじクリスマスの寂しさが紛れたぜ
いや、紛れたのではなく満たされた
作中のクリスマスがアレなせいか、
クリスマスネタ書いてる職人さんはあんまりいないのかね
一つ質問なんだけど、モブ設定のオリキャラを主人公にして書くってのはナシなのかな?
傍観者的なポジションから学校生活やら恋愛模様やらを記述する、みたいな感じで
>>548 当方の記述ミスです。訂正しました。
気が付きませんでした、ご指摘ありがとうございます。
年末年始はペース落ちますがご容赦くださいませ。
>>557 俺はありだと思う いままでそういうの無かったから新鮮な感じがする
是非とも書いてみてくれ
>>558 いつもながら乙
>>557 冒頭に注意書きしとけば有りだと思う
ただオリキャラ書くなら叩かれても泣かない覚悟は必須
オリキャラである必要がちゃんとあればいいんだが
傍観者というだけなら春田や能登や奈々子様とかでもかまわない気がする
>>558 いつも乙です
ミラー保管庫の七夕ボンバー。が竜児×みのり、大河になってたけど
みのり登場してないと思ったんだが。
>>559-560 わかった
とりあえず注意書きと鋼の精神とある程度の必然性があればおk、ってことで
それは特別、何でもない日。
学校から帰ればだらだらと過ごすだけの、何でもない日常。
ただ一つ。
いつもと違っていたことは
担任の残されたお人形さんみたいな虎が自分の家の隣にあるアパートに行ったとき、そこに住む竜が着替えもせず眠っていたことだけ。
そう。 ただそれだけのこと。
『何でもない日』
帰宅したとき
自分の家では言ったことのない習慣となった「ただいま」の言葉に、返事がなかったことが物足りない。
いつも返ってくる「おう、おかえり」の言葉。
それがなかったことが物足りない。
玄関からリビングを通り抜け、台所へ。
水道の蛇口をひねり、冷たい水でよく手を洗う。これも、竜児に言われて習慣となった行為だ。
うがいと洗顔も忘れない。
顔と手をタオルでよく拭ってから、冷蔵庫を開ける。
お気に入りのメーカーの、紙パック入りの牛乳。
コップに注がず、直に口をつけて飲む。
そうする度にいつも注意されるのに、今日に限ってはそれもない。
それがやっぱり虚しくて。
一口だけ飲んで、牛乳をしまった。
これでどうだと、お尻で冷蔵庫を閉じる。
「…竜児」
通り過ぎたときは気がつかなかった、こたつの中で眠っている少年。
普段の目つきの悪さを隠し年相応のあどけない顔で眠ってる、力の抜けたこの部屋の主人の姿。
替えもすませず制服姿のまま、こたつの中で眠っている。
「あたしを出迎えもせずに……幸せそうな顔、しちゃって」
言葉と裏腹、少女に自然とうかんだ微笑。
竜児の寝顔なんて、こんなふうに見たことはなかったから。
隣に腰掛けて、初めて見る同居人の寝顔をじっと観察する。
いつも自分より早起きして。
いつも自分より遅く寝る。
学校でも家でも、昼寝なんてしない優等生。
それが今こうして、手を伸ばせば、届くことさえできるほど近くに。
「どうするのよ。 夕飯」
「あんたが寝てたら…誰もつくってくれないじゃない」
そういえば、やっちゃんは今日で外で食べてくるとテーブルにメモが置いてあったことを思い出した。
起こさぬよう、起こしてしまわぬよう。
時間をかけて。
ゆっくりと、白い指先で触れてみる。
触ってみると自分とは違うごつごつとした、男らしい顔つき。
意外と柔らかな頬。
そして、唇。
なぞるように指先で触れる。
その指先をそっと自分の唇に持っていく。
今は、これだけで…。
竜児の横に寝そべる。顔を、眠る竜児の首元に。
頭を預けてみる。
耳にとどく、小さく、でも確かな息づかい。
生きている証。
それがくすぐったくも心地いい。
「…竜児」
起きたときにこんな格好だったら――どんな顔をするだろう?
そう思って、瞳を閉じる。
それは特別、何でもない一日。
仕事を終えて、息子と娘の待つ我が家に帰宅した泰子が目にしたのは。
着替えもせずに眠り続ける、寄り添う子供達の安らいだ寝顔。
普段見られぬ子供のままの姿。
部屋から、毛布だして彼らにかけ背中を向けた。
「いい夢をね。 竜ちゃん、大河ちゃん」
柔らかな笑顔でそう呟いた。
彼女はそっと、リビングの電気を消した。
それは多分、何でもない日だからこそ見つかる。
小さな小さな、幸せの一コマ。
とりあえず避けとけと言わざるをえないw
やっぱ既存のキャラを動かしたり、それを読むのが楽しいんだし
俺はこれ以上スレが荒れるのは嫌だ
すいません、改行とかがおかしくなってました…。
>>564 みのりんが竜児の寝姿みる話があったから、俺も書こうとしてた大河バージョンだ
雰囲気がGJだ、俺が書かなくて良かったよ
俺は寝言で、大河の名前が出る、太るぞとか続くオチ、怒る
しかしまた二回目、大河と優しい顔で寝言
「夢ぐらいみのりんの夢みなさいよ」といいつつ、大河も優しい顔になり髪を撫でる
というネタだったよ
>564さん
GJです。幸せな気持ちをいただきました。ありがとう!
>>571 すいませんでした。ネタかぶっちゃいましたね。
そちらのほうも、ぜひ投下してください。実際、そちらのほうが面白そうですし…。
>>564 GJです、いや大河が一人の時の空気が切なくもいいですな
あとは、亜美が竜児の寝顔を見てたときのSSですね
実乃梨版や大河版の作者さん、亜美好きの職人さんのどなたかお願いします
>>535 俺の頭が幸せでパンクしそうだ
作品の雰囲気とかキャラの特徴とかすごくよく再現してる
また書いてくれたら嬉しいぜ
>>574 受信したので書いてみます。投下はいつになるかは少し分かりませんが、気長に待っていただければ幸いです
577 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 09:07:07 ID:RhMTiRPj
櫛枝最高ォォォォォ!!
今なら言える気がする
今でなくともいうといい
俺はむしろこの5人組が好き
保管庫、更新されたな。
だが
>>170-181が収録されてる・・・。
たしか作者が収録しないでくれと言ってなかったか?
580 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 15:56:44 ID:kENAYAQ6
>>546 あんた最高だぁ!超うめぇし超萌ぇ!
あ〜カレー食いたいな
保管庫見てて思い出したんだが前スレで北村が成人しても会長から卒業できてないって感じのSSを書いた職人が
北村救済策として続編を書くと言ってたんだがもしかして忘れてる?それとも煮詰まってる?
忘れてるんだったら是非とも続編希望
私も北村救済策に期待。
ここ投下も頻繁で早いスレだから麻痺ってるんだろうけど
急かし過ぎww期待してるのは同じだけどね
586 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 20:18:26 ID:1kMZ32Cr
>>585 同感ww
早く読みたいって気持ちはよくわかるけど
急かすのはかわいそうだべや
>>585>>586 すまんすまん ついつい気持ちが抑えられなくなっちまった
俺このスレ以外のSSスレ見たこと無いから知らんかったけどこのスレは流れが速い方なのか
589 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 21:12:49 ID:kENAYAQ6
>>581 ゴメンやり方分からないんだけど
教えて
>>583 リアルが忙しくて書けなかった
今日から休みなんだ
>>535 GJ!
大河派の俺としては凄まじく切ない気分だぜ・・・
>>589 マジかネタかは知らんが、メール欄に『sage』だ
全角じゃなくて半角だぞ
>>588 サンクス 向こうはDAT落ちも経験してるスレなのか
このスレの流れがいかに速いかよーくわかった
>>590 忙しかったのか 急かしてすまん 乙
待ってますぜ
>>589 メール欄に「sage」って入れるだけ。
sageわからんとかIE厨かよ!
専ブラいれろ
教えてくれてありがとう ネタじゃないんだ…
まだここ来たばかりで分からなくて
それと保管庫と言うのはドコに?
質問ばかりでゴメン
半年ROMれ
599 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 22:45:39 ID:kENAYAQ6
>>597 ありがとう こんなにあるとは…全部読むの大変そうだ
現行スレくらいログろうぜ
そして2ちゃん初心者用のスレなら他にあるから読んでみたら?
聞く前に調べようよ
>>599 そろそろ気の短い奴がキレ始めるから自重しとけ
あ゛ぁーーーっ!!!!!
教えてクンに調べろは無意味
むしろなんで教えてくれないのって聞き返す動物だから
>>601 実際切れられても仕方ないレベル。みんながsageてるぶん、ある意味コテハン状態だぜよ。
605 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 00:14:37 ID:mai+OBuv
北村覚醒の巻き
よろしく
いろいろとありがとう
そしてゴメン
成長したな・・・
スレの速度やばすぎだろ、3日ぶりくらいに来たらもう600いってるとか
職人の皆さんほんとGJです
609 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 22:21:37 ID:mai+OBuv
そしてみな老けて行くのさ
>>1 >◆エロパロスレなので18歳未満の方は速やかにスレを閉じてください。
みなさん、春日ですよ
\ウィ/
亜美ちゃんマダー??
竜児から大河へのプロポーズ。
ゆゆこ先生の作風とは違ってしまいましたが、どうかお読みください。
「プロポーズ」
それは、あまりにも突然だった。
そして、嬉しかった。
あの日から数年が経つ。私は、あの日のことは決して忘れないだろう。
竜児も、忘れないでいてくれてるのかな・・・?
***
竜児と大河の日常。それはあまりにも当たり前のこと。
高2の春以来、2人はずっと馴れ合いの関係を続けていた。
そして、高2の終わり頃、2人は恋人関係となった。
とはいえ、1年近くも馴れ合ってきた仲。恋人らしいことも、やるにはやったが大して変化はなかった。
そんな、奇妙な恋人関係が始まってから数年後の、大河の誕生日。
竜児がプレゼントを渡すときに、事件は起きた。
ささやかな、大河と竜児と、泰子の3人だけのパーティ。
大河は相変わらずといった感じで、竜児に話しかけ、泰子と笑いあっている。
突如として、竜児が言う。
「なあ、大河。プ、プレゼント、受け取ってくれないか?」
「ん?なになに?」
大河は、待ってましたと言わんばかりに、期待に満ち溢れた目で竜児を見る。
そんな大河を見て、竜児はポケットの中から、震える手で箱を取り出す。
「・・・」
大河は、その箱を食い入るように見つめていた。
ゆっくりと、開いた箱の中には、銀色に輝く―
「指輪・・・」
大河が、つぶやいた。
「そう、指輪だ」
竜児がうやうやしく指輪を取り出すと、
「で、その指輪をどこにつけてくれるのかしら?」
不躾に、竜児の目の前に手が突き出される。
「そりゃ」
竜児は大河の左手をとり、
「ここだろ」
薬指にそっとはめた。
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
蛮勇を奮い、誕生日に結婚指輪をプレゼントするという計画を立てたのは自分だけで。
泰子にも秘密にしていた。恥ずかしさ×2。
顔を上げ、大河の顔を見る。
「・・・・・」
大河は、何故か泣いていた。指輪を見つめたまま、頬を涙が伝っていく。
「おう!どうしたんだ大河?・・・もしかして、嫌・・・」
「ねぇ、竜児」
涙を流したまま、大河は竜児に話しかけた。
「やっちゃんに、教わらなかった?女の子を泣かしちゃいけないって」
「・・・え・・・」
そうか・・・、嫌・・・なのか・・・。
そう思い、肩を落とす。が、大河は言葉を続ける。
「でも・・・許してあげる。嬉し涙は別よ。」
「・・・いいのか?」
「あたりまえじゃない・・・。なんであんたのプロポーズを断んなきゃならないのよ」
大河は竜児に、甘えたように抱きつきながら言う。
そんな大河を、竜児も抱きしめる。
そのとき、存在を消していた泰子が2人を抱きしめた。
「よかったね〜大河ちゃん。これで大河ちゃんは正式にうちの子だよ〜」
涙ぐみながら、心から嬉しそうに言うのだった。
この世で、竜児だけが見つけられなかったもの。
この世で、竜児にしか見つからないようになっていたもの。
竜児は、それを守り抜く義務がある。
End
617 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 01:32:26 ID:V7rqI7+Y
なかなかいい話じゃないか
GJすぎるぜ、ありがとう
凄い好きだよ!乙
>>615 GJ! 寝る前にありがとう! いい夢が見れそうだ。
621 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 03:49:39 ID:87QZnXbg
GJ!!俺ちょっとドンキで指輪買ってくる
GJ!心が温まったぜ
>>615 GJ 高須の鈍感さは健在だな だがそれが良い
>>616の修正です
この世で、竜児だけが見つけられなかったもの。
↑
これは、「この世で、竜児だけしか見つけられなかったもの。」
でした。
625 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 14:24:01 ID:RT0rZxor
>>616 いい話だが、Fireてwwwwww
恥ずかしくて顔からFireが出そうだったんですね、分かります^^
職人様 あんまり需要無いかもしれないけど能登×木原お願いします
能登乙
職人様 需要ありまくりであろう竜児×みのりん
たのんます
能登に木原はもったいない
どちらかというと能登×木原のブラウスくらいでちょうどいい
>>629 そうか?友人思いのいいやつじゃないか 能登良い奴だよ能登
まあサブキャラ故に細かい描写が無いから説得力ないかもしれないけどさ
あんだけフラグ立ててりゃそのうちゆゆぽが書いてくれるでしょ<木原能登
能登ってどうも北村にコンプレックス持ってるっぽい
んだよな。「あいつだってアホでメガネなのに、
なんであいつばっかり」的な。
麻耶の邪魔をするのも、麻耶に対してどうこうよりも
北村への対抗意識のほうが強いように思う。
呼び方も「高須」「春田」「大先生」と、微妙に
一線引いてるっぽいし。
穿ちすぎだと思います。
そうかなあ?
7巻辺りでは「北村×タイガー、超ウケルwww」
とか言ってたし、麻耶の邪魔をするのは単なる懸想
だけじゃない、もっとこう黒いものがあるように見えるんだが・・・
能登も木原も自身の恋愛のために大河や竜児を使おうとして自爆した者同士
適当に傷の舐めあいさせられるだろ
初投稿。正直、どういう風にやればいいのかわかんないけど、竜児×亜美を投下したい。
よかったら読んでみてくれ。ちなみに時系列とか色々と――無視、だ☆ぜ。
…
『こんな年末』
何故か今年の年越しは我が家ですることになって、ボロ借家の狭い我が家では現在、北村、櫛枝、大河、川嶋がやんややんやと盛り上がっている。
泰子は仕事仲間と年越しをするそうで、家にはいない。
保護者がいない、子供だけの空間で、何故か自分が保護者になっているような気がしてため息が出る。
だって俺以外皆酒飲んでるし。北村と櫛枝なんか、大声で歌い始めて何時大家が飛んでくるかと内心ビクビクしているのだ。
大河に至っては……、
「ブス☆インコ。アハハハハ!!!」
愛しのインコちゃんに絡んでやがる。
アイツ、何らき☆○たのノリでインコちゃん罵倒してやがる。
ブス、ということに否定できないのが悔しくて堪らない。
……とまぁ、本当に皆がすき放題やっている中で、
「あれ?そういや川嶋は?」
一人いないことに気づいた。
トイレか?なんて思ったが、それならば俺に声をかけるはず。
泰子の部屋は初めに出入り禁を言っておいたのでそれもない。
風呂?ないない。
となると、狭い我が家で川嶋がいる所は、一つしか思い当たらない。
…
「…何してるんだよ」
思った通り、川嶋は俺の部屋の窓を開けて、大河のマンションを見ていた。
川嶋は俺の声に振り向いて、「こんばんわぁ☆」と陽気に挨拶。
「こんばんわ…じゃねえだろ。大河のマンションなんか見て、なにしてんだ?」
ため息をつきながら尋ねると、川嶋は小さく笑って、
「あそこから見える景色はどうなのかな…って」
「…は?」
間抜けな声が出てしまった。何を言ってるんだ、川嶋は。
「どうって…、大河の寝室からは俺の部屋しか――」
「そうじゃなくて」
俺の言葉を川嶋が遮る。
「そうじゃ…ないんだよ…」
いつも見せる余裕な川嶋亜美はそこにいなくて、
「お前……どうしたんだ?酔ってるのか?」
戸惑う俺に川嶋は「うん…、そうかもしれない」と意味深に微笑む。
「ねえ高須君、お願いがあるんだけど」
「あん?」
そして、こんなことを言いやがった。
「――新年までさ、一緒にいてくれない?」
「は?」
「ダメ?」
「いや別にいいけど…」
了承すると、「そっか」と川嶋は言って俺の傍に近寄ってきた。
「じゃあ一緒にいようね♪」
「…お、おう…ってか、川嶋!?」
「? なぁに?」
「何故そんなにピッタリくっつく!?」
そしてあろうことか、俺の腕を取ってピッタリと寄り添ってきました。
鼻腔に香る、川嶋の匂いに(変態チックとか言うな)、俺の心音が速くなる。
「えー、別にいいでしょ?それとも…、高須君はこういうの、嫌?」
「嫌とか…そんなんじゃ…なくて…」
本当にどうしちまったんだ、今日の川嶋は。
こんなんじゃまるで…。
「ふふ…。今『恋人みたい』って思ったでしょ?」
「!?」
川嶋の言葉に、身体が強張る。…だって、図星ですから。
以心伝心!?と思ってしまうくらいに心を読まれましたから。
川嶋に言われて、妙に緊張してしまった俺を見て、川嶋がくすくすと笑った。
「あはは…。高須君カワイイ♪」
「なっ…!」
「カワイイのに強面…。コワカワイイ?あはは!チョーウケるんだけど!?」
「お…お前なぁっ!!」
誰のせいだ!と言ってやろうかと思ったら、川嶋がさらにぎゅう、とくっ付いてきた。
おい、いい加減に…、と距離をとろうとしたが、
「でも、好きだよ。高須君」
川嶋のその一言に、本当に身体が硬直した。
「おまっ…!いきなり何を…」
「さぁ?亜美ちゃんわかんな〜い」
顔に血が上っていく。間違いなく俺の顔は真っ赤だ。
川嶋の『好き』があまりにも衝撃的だったから。
でもそれは、どういう『好き』なのかわからない。
からかいがいのある高須竜児が好きなのか、それとも恋愛対象としての高須竜児が好きなのか…。
どちらにしろ、コイツから答えは返ってこないだろう。
「……なんなんだよ、全く」
急に抱きついてきたり、よく分からない『好き』発言だったり。
酒の勢いからなのか?それとも自覚アリ?
どちらにしろ、質が悪すぎるぞ性悪女。
やられてばかりは悔しすぎたから、俺は反撃しようと思う。
もうじき今年が終わる。だから今年最後の、最大の、反撃を。
「なぁ川嶋」
「なぁに?高須君?」
喰らえぃ!竜の一撃を!!
「好きだぞ」
その一言が川嶋にどれだけ効果があったか分からないが、きっと間違いなく反撃は成功したと俺は思った。
なぜなら川嶋が、物凄く驚いた表情をしていたからだ。
これで俺をからかうこともなくなるだろう、と川嶋の顔を見てニヤニヤしていたら、
「高須君」
「何だ?川―――…」
かわしまにきすされた。
………アレ?
end
拙い文で申し訳なかった。
でも書きたかった。後悔はしていない。
ここに投稿するのってある意味初体験だから…緊張しました…。
良かったらまた投稿したいと思うんで、そのときは生暖かい目で見守ってください。
竜児と亜美、他三人に目撃されこのあと事情聴取。
GJ!乙だぜ
642 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 07:59:20 ID:BdHUHX5V
興奮シマスタ
ニヤニヤが止まらんw
GJ!!
>>640 GJ 高須家は新年早々盛り上がりそうだな
あみちゃん最高!
網ちゃんは俺の嫁!
>>640 GJ過ぎる!ここ最近で一番ツボです!続きキボンヌ。
648 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 15:31:19 ID:0CsqDAri
竜児はらき☆すた知らないと思う。ネタなんだろうけどかなり違和感があった。
でもそれ以外はGJ!続編キボンヌ
レギュラーメンバーで知ってる人いなさそうだならきすた
サブ含めても能登くらいしかいなさそう
まあ叩いてるのは一人の基地外って感じだがw
この位で叩きってお前……
打たれ弱すぎだろw
冬休みだから耐性無いガキが沸くのはしょうがない
このくらいで叩いてるって思うようだと
他の所いったら発狂するんじゃないか
ここの住民は叩き耐性無いからな
内容指摘しただけでめちゃくちゃ言われてたりしてた
あー、ホントすまん
凄い勢いで誤爆してた
656 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 17:29:35 ID:adotIFnA
『竜虎 温泉に行く』
冬休みも残りわずか…いつもと変わらないある日のこと――
「あー…全くこの家は本当に寒いわね…本当に壁なのかしら?この壁…」
信じられないことを言うその虎はボロアパートの壁をがんがんと叩く
「おい!やめろって大河!また家賃上がったりしたらもうしゃれになんねえよ」
台所で洗い物をしながら竜児は家賃の心配をする
そしてその虎…いや大河の動きはようやく止まる
「でもこの寒さは尋常だわ…この壁…実は壁じゃないのよ…きっと…」
何を言い出すんだ、こいつは…
じゃあ何か?自分は壁のないこの家で何年も生活してきた…というのか?
「残念だが大河…これは紛れもない壁だ。ていうか俺の家は毎年この時期、これぐらいの温度なんだよ…」
竜児は悲しい事実を大河に告げる
「そうなんだ…毎年…へえ…やっぱ壁だったんだ」
当たり前のことだが未だ信じられない顔をしている大河は一応納得する
しかし、竜児の家はとにかく寒いのだ
そして二人はため息をつく
「まあ…でもお前は良いじゃねえか。お前は帰れば家には暖房付きエアコンがそこら中に取り付けられてるんだしよ」
竜児は隣りの大河のマンションに目をやりながら卑屈っぽさ丸出しで言葉に出してしまう
そしてすぐに…
しまった…あの家は大河が親に捨てられた象徴…言ってはいけないことを言ってしまった
竜児は今ので大河がキレてしまうとこれまでの付き合いで察知したが何やら様子がいつもと違う…
「…そりゃね…まあ帰ればエアコンだってあるし、壁だって本物だけど…その…あの…竜児が…いないじゃない…」
そっちの方が嫌…とそのまま大河はうつむいて顔を赤らめる
『ズキュン!』
今の竜児の心の中の音を再現すると、きっとこの音に限り無く近いだろう
あんな顔して…上目使い…なんて破壊力なんだ…大河…いつからそんなに素直になったんだ…
思わず竜児はうつむいている大河を抱き締めてしまう
657 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 17:31:32 ID:adotIFnA
竜児と大河が付き合い出したのはつい最近だ
今の竜児の行動もだからこそ許される
ちょっと前に同じことでもやろうとすれば…(まあ、しようとは思わなかったが…)確実に竜児は二秒で死んでいるだろう
だが今では…
「好きだぞ…大河…」
大河も黙ったまま竜児の背中に手を回す
そして竜児の胸に自分の頬を猫のようにすり付ける
その状態のまま三分が経った
大河は急に竜児の胸に埋めていた顔を離して声を張り上げた
「ねえ竜児!温泉にでも行かない!?」
「…………え?」
「だから、温泉よ。お、ん、せ、ん。まさかあんた…温泉知らないの…?大丈夫…?」
大河は今の三分間をリセットし、いつものように自分を馬鹿にする口調で聞いてくる
さっきのあの可愛らしい真っ赤な顔は何処に…?
「知ってるよ…温泉かあ…そうだなあ…行きてえなあ…」
そして竜児も竜児で今のいいムードをぶち壊して気の抜けた返答をする
「でしょ!行きたいでしょ。じゃあいつ行く?明日?明後日?何泊する?」
「おい待てよ…お前、まさかこの冬休み中に行くつもりなのか…?泰子とインコちゃんの飯とかどうするんだよ」
「あっそうよね。じゃあ学校始まってからズル休みでもして……」
ズル休みは駄目だと悪党顔とは打って変わってのくそ真面目の竜児が口を開こうとした瞬間、ふすまがゆっくりと開く
658 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 17:32:25 ID:adotIFnA
「行ってくればいいじゃな〜い」
仰向けの姿勢で顔はふすまの間から…というこの家の大黒柱の声
「「…えっ……!」」
「だーかーらー行ってきなよ〜せっかくの休みなんだし〜竜ちゃんと大河ちゃんが付き合いだして初めての旅行でしょ〜」
「でもよ…」
自分でも認めるマザコン野郎竜児はマイマザーを心配するが泰子は続ける
「ほら〜別荘行った時もやっちゃん、ちゃんとお留守番出来たでしょ〜今回も大丈夫。行ってきなって〜」
竜児は、それでもなあ…と思いつつチラッと横を見る
大河がその大きな目をうるうるしながら竜児を見ていた
だから…そんな目をするなよ大河…卑怯だぞ…
「………わかった…じゃあ行くか!温泉旅行!」
「やったー!」
とはしゃいだのは大河
パチパチパチパチと馬鹿らしい拍手をしてくれているのは泰子
そして竜児はあることに気付く
「………泰子…お前いつから俺達の会話を…?」
そして大河も気付いてしまう
「ええっと〜確か〜大河ちゃんが顔を真っ赤にして〜竜ちゃんがいないと嫌…」
「ストッーープ!!」
大河はふすまを閉める
「ほらっ!やっちゃん…まだ酔いが冷めてなさそうだからもうちょっと寝てたほうがいいわよ!」
「そう〜?わかった〜じゃあもうちょっと寝てるね〜」
ふすま越しに聞こえる泰子の声
「泰子の野郎…まさかずっと聞いてたのか…?ていうか、ふすまから覗いていたのか…?」
「ああ゛ーーー」
大河は再び顔を真っ赤にして唸っている
何も聞こえていなかった振りでもしているらしい
659 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 17:33:04 ID:adotIFnA
「じゃあ行ってくる。本当に大丈夫なんだな?」
「……うーん…だいじょ〜ぶ〜…いってらっさい〜…」
酔いが抜けていないのと無理矢理起こされたので泰子は今にも倒れそうだ
「ごめんね、やっちゃん…私のわがままでやっちゃんを一人にして…」
「いいんだよ〜それより〜…」
ふらふらな泰子はそれでも大河のそばに寄り竜児に聞こえないように耳打ちをする
「竜ちゃんはね、超奥手ちゃんだから、積極的に責めないと〜何もないまま旅行終わっちゃうから頑張ってね〜」
大河はそのまま硬直してしまう
顔面信号はいつも通り赤だ
「なっ…なにいってるの……だって…そんな…キスだって…その…まだ…だし…」
何の話をしてるんだ?と思いながら竜児は携帯のフリップを開け時間を確認する
そろそろ行かないと電車に間に合わない時間だ
「おい大河!そろそろ行くぞ。じゃあ泰子、行ってくる。インコちゃんを…餓死させるなよ」
そう言って竜児は未だに固まっている大河の腕を無理矢理に引っ張って高須家を後にする
行き先は京都
張り切った大河が何から何まで手配した
大河は行こう思えば豪華なホテルにでも何でも行けたのだが、竜児に合わせて格安の旅館を手配した
その旅館は設備も充実しており露天風呂もあるそうだ
それでも格安で済んだのは、そこに泊まるはずだった団体の何人かが急遽キャンセル
元々安い宿泊費だったが旅館の人はその空いた部屋ならさらに格安で泊まれますよと、図々しく大河に勧めてきたらしい
出来るだけ竜児に負担をかけたくなかった大河はその話に乗っかりそこに予約をしたのだ
660 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 17:33:45 ID:adotIFnA
新幹線の中――
竜児は駅弁を豪快に食らう大河を見つめる
別に大河をこの新幹線から引きずり落として完全犯罪をしてやろうと思っているわけではない
感謝しているのだ
大河は普段はああだが、優しいやつだ
経済的に問題のある自分のこともちゃんと考えてくれている
この旅行もそんな大河の頑張りがあったから
竜児はそれがとても嬉しかったのだ
だから無意識に大河を見つめてしまう
「………あんた…何さっきからジロジロ見てんのよ…私の食欲が失せる一方なんだけど…」
………駅弁二つ目で何を言ってるんだ…こいつは…
「いや…その…なんとなくだな………うっ!…めっ…目が〜!!…」
竜児の言い訳と同時に右目に飛び込んでくる黄緑色の物体
枝豆だ
「ったく…そんなキモい目で私を見るんじゃない。落ち着いて駅弁も食べれやしないわ!」
『もぐもぐもぐもぐ…』
食ってんじゃねえか…
竜児は涙がぽろぽろと出る右目を抑えながら大河に心の中でつっこむ
…やっぱり訂正だ!こいつは優しくなんかない…なんていうか…黒い…
しかし、そんなことを言えばまた大河は自分の想像を遥かに超えた暴言を放つので口には出さない竜児であった
まあそんなこんながありつつも竜児と大河を乗せた新幹線は走り続けるのであった
661 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 17:34:40 ID:adotIFnA
「おお!高須に逢坂!終業式以来だな!」
「………おっ…おう…そうだな…久しぶり…北村…」
「元気だったかね〜二人共!櫛枝はバリバリ元気だったぜ!冬の寒さなんかぶっ飛ばしてやったわ!わっはっは!」
「……み…みのりん…そう…私も…元気だったよ…」
そして北村と実乃梨の二人は竜児達が歩く逆方向の廊下を歩いていく
「「…………なんで……?」」
竜児と大河はお互いの顔を見合わせた
五時間前――
京都に着いた二人は早速、京都の観光に来ていた
とりあえず二人はパンフレット片手に有名な観光地をひたすらに巡った
写真を撮ったり、京都名物を食らったり(大河)迷子になったり(大河)迷子になったり(大河)…
いろいろあったが、二人はそれなりに京都を満喫した
そして歩き疲れた二人はようやく予約していた旅館に到着した
「おう…なかなか…っていうか…充分立派な旅館じゃねえか…」
竜児は旅館を眺める
別に今日中にこの旅館を灰にしてやると考えているわけではない
感動しているのだ
「へへっ…そうでしょうよ。感謝しなさいよ!この旅館に泊まれるのはこのわ、た、し、のおかげなんだからね」
そう言って大河はふん反り返る
二人が認めるように確かに今夜泊まる旅館はいい感じの旅館であった
少々古い造りだが逆にそれによって代々から続いている歴史ある旅館だと物語っているかの様
あの値段で泊まれるなんて嘘のような申し分ない旅館だ
「そうだな。本当にありがとな…大河」
大河は少し驚く
竜児が素直過ぎるお礼を言ってきたからだ
「……まあ今日はゆっくりしなさいよ…私への奉仕は今日は免除してあげる。この旅行は竜児への…普段の感謝?的なあれでもあるし…」
「ああ。じゃあ今日は思う存分ゆっくりさせてもらうな。だから…迷子とか…今日はもう勘弁してくれよ…」
後半の本音をぽろりと出してしまった竜児は大河に軽く睨まれる
しかし確かに今日はゆっくりさせてくれるらしい。普段なら、ここで蹴りの一発や二発は当たり前だ
そして二人は旅館の中に入る
名前を名乗って部屋の鍵をもらう
鍵は一つ。つまり二人で一部屋
662 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 17:35:11 ID:adotIFnA
前の日――
大河いわく「一部屋ならより安く済むから…私もしょうがなく…仕方なく…妥協してあげるわ」だと
「まあ今さらお前と同じ部屋でもいつもと対して変わらねえよな」と答えると大河から回し蹴りを食らった…なぜだ…?
そして実はその時の蹴りがまだちょっと痛い…
そんなこともあったが、竜児はこの旅行が本当に楽しみだった
別に何かを期待している訳ではないが今日と明日の二日間は泰子もいないし、インコちゃんだっていない
つまり二人きりだ
京都巡りで横にいる大河もいつもより機嫌が良さそうだし
とにかく竜児はうきうきしていたのだ。していたのに…
そして今に至る
竜児と大河は今の状況についていけない
だって……なぜ奴らがここにいる?
よく知っている坊っちゃん刈りメガネと元気ハツラツ天然少女と廊下でばったり会うなんてありえない。ありえてはいけない
だってここは京都。東京じゃない。だからこのよく知る二人がましてやこの旅館にいるなんてもっとありえない
普通に話し掛けてくるなんてもっともっとありえない
竜児はこの二人の存在を頭の中で否定する
そして恐る恐るその二人が歩く方に駆け寄った
大河もその後に続く
二人を呼び止めてみる
「お…おい…お前ら…北村と櫛枝なのか…?」
「ああ。そうだが…何当たり前のこと言ってるんだ、高須」
「……………そうなのか…やっぱり北村だよなお前は…ははっ……」
竜児は壊れてしまう
「いや〜でも偶然って怖いですな〜まっさか高須くんと大河のお泊まり旅行に居合わせちゃうなんて。なんかごめんね」
「……………やっぱりみのりんなんだ…ははっ……」
後に続くように大河も壊れてしまう
663 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 17:35:53 ID:adotIFnA
二人の話によると、ここは大橋高校ソフト部御用達の旅館
毎年この時期に参加出来る者だけを集めて合宿を行なうそうだ
合宿と言ってもそんなのは名ばかりで、ほとんどただの正月明けのお楽しみ旅行
参加人数が毎年多いので、もはや恒例の行事となっているらしい
ちなみに竜児と大河が今夜泊まる部屋は元々はインフルエンザで欠席したソフト部部員の部屋だったらしい
「はあ…どうするのよ…」
「……どうするって言ってもなあ…」
時刻は午後六時、二人は各々の座椅子にへばり付くように、もたれかかっていた
「まあ、別にいいんじゃねえか?北村達がいたところで別に俺達、やましいことなんかしねえわけだしよ」
「………まあ…そうね…」
心なしか大河は残念そうな顔をする
えっ…おい…なぜそんな顔をするんだ大河…まさか…やましいことを望んでいるのか…?…いや…そんな訳ない…のか…?
竜児は勝手に汗をかいたり首を横に振ったりしてしまう。一人でジェスチャーゲーム状態だ
そんな竜児に目もくれず大河は立ち上がる
「竜児………あのさ……」
えっ…何なんだ大河…何なんだ…その溜めは……まさか…
「温泉行くわよ」
えっ…温泉だと…?温泉……ああ温泉か…
竜児は気が抜けてしまう。だって…あの溜めは何だったんだ…?嫌がらせか…?
「なんて顔してんのよ…言っとくけど、別々だからね。混浴もあるらしいけど、あんたと一緒じゃ毛とか脂とかがねえ…」
嫌味ったらしく大河は竜児を罵る
「…べっ…別にそんなこと期待してねえよ…」
負けじと竜児も応戦する。しかし嘘だ。大河があんな風に言うからムッとなってるだけ
竜児だって年頃の男なのだ。好きな女と混浴なんていう嬉し恥ずかしイベント…嫌なはずないだろう
「あ〜らそう。どうしても一緒に入りたいって泣き付いてくるなら考えてやっても良かったけど、いいのね?あっそ。」
そして大河は部屋を出ていく
「……はあ…」
残された竜児は溜め息。そして重い体を無理矢理起こす
せっかくこんな所まで来たのだ。温泉に行かないとMOTTAINAI
下着と浴衣とバスタオル、そして大河の分のバスタオルを手に持つ
どうやらあのドジはバスタオルの存在を忘れているらしい
結局今日も虎の世話をしなければならないのだろうなと思いながら竜児は大河を追いかける
664 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 17:42:25 ID:adotIFnA
竜児からバスタオルを渡された大河は一人で女湯と書かれているのれんをくぐる
せっかく奇跡的に親友がこの旅館にいるのだが、あえて誘ったりはしない
中に入り、人がいるかを確かめる
別に誰かいたところで引き返したりはしないが一応だ
誰もいないことがわかると早速服を脱ぐ
竜児が可愛いぞと言ってくれたおニューの服をだ
そんなことを思い出して少しにやけてしまう
「…可愛い…か…ふふっ…」
そしてこの旅行の一番の目的であった温泉へと続く扉を開ける
「はあ〜生き返る〜」
大河は湯船の中で定番の言葉を発する
温泉はパンフレットで見た通りの大浴場。掃除も丁寧に行き届いていてぴかぴかだ。奥には露天風呂だってある
今日一日の疲れが嘘のように消えていく。歌だって歌いたくなる
「い〜い湯だな。あははん…」
この後の歌詞はよく知らないが、まあいいか
『ガララッ』
大河は振り返る
この音はさっき自分がこの浴場に入って来た時の扉の音だ
つまり誰かが入ってきたのだ
せっかく一人でいい気分だったのに…と思ってもしょうがない。自分だけの温泉じゃないからだ
扉から光臨したその女は走り出す。タオルは…巻いていない…
そしてそのまま全裸で大河の浸かる湯船にダイビング
「………みっ…みの………ぶはっ!…」
その女のダイブによってできた飛沫が大河を襲う
「ふっふっふ…お前だけに温泉を独り占めなんてさせてやらないぜよ…」
「みのりん…相変わらず登場の仕方が最高ね…」
その女の名はみのりんこと実乃梨
説明しなくてもさっき会ったばかりだ
そして実乃梨は大河の傍らに浸かる
「あれっ…みのりんだけなの?他の部員は?」
「それがさ〜奴等め…私がミーティングしてる間にさっさと行ってしまいやがって…はあ…取り残されちまったぜ!」
そう言って実乃梨は親指をぐっと立てる
「まあいいや。大河が居たし、寂しくなんかねえよ!それよりさ〜…」
実乃梨は急に顔をにやけつかせる
「高須君と混浴に行ったりしないの〜?た、い、がー?」
大河はにやにやする実乃梨から顔を背ける
「別に…いいの。竜児だって、私と入ったって嬉しくないと思うし…」
「えっ…なんでそんな事思うのさ〜?高須くんは大河のことが好きなんでしょ?」
大河は口ごもる
「まあ…たぶん…この前も『好きだ』とは言ってくれたし…」
そして大河はお湯の中に口を入れてぶくぶくさせる
「なら一緒に入りたいはずだって。男っていうのは、好きな女のこと想ってムラムラしたりする生物なんだからさ」
男女交際は恐らくないだろうと思われる親友の理論。根拠はどこからなのか?
665 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 17:43:08 ID:adotIFnA
温泉から上がった竜児は待ち合わせ場所で大河と落ち合う
夕食まで少し時間があったので大河の提案で卓球をした
予想以上に白熱してしまったので二人はヘトヘトになって部屋に戻る
そしてここが旅館だと言わんばかりの和の夕食をたらふく食べて、いつもの風景が出来上がる
大河が座布団を枕にして寝そべり、竜児は机の前に座り一緒にテレビを見るというものだ
ほどほどにテレビを切り上げて布団を敷く。もちろん二人分だ
電気を消して二人はそれぞれの布団に入る
「おやすみ、竜児。今日はゆっくりしてね」
「…おう…おやすみ」
電気を消して三十分が経った――
…横には大河がいる……
竜児はそれだけで一杯一杯だった
大河とは普段から共同生活をしているようなものの寝る時はいつも別々なのだ
だが今日は違う…
手を伸ばせば横に眠っているまるで人形のような少女に届いてしまう距離
「すぅ……すぅ……」
耳を澄すと大河の寝息
「………何を考えているんだ…俺は…」
今日の旅行は自分の為に大河が用意してくれたもの
変な気を起こしては大河に失礼だ
竜児はそう自分に言い聞かせてようやく眠りに入る
666 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 17:43:51 ID:adotIFnA
深夜一時――
竜児は目を開けてしまう
何かが自分の顔をぺちぺちと叩いているからだ
別に痛くはないがそれが何かはわからない
ようやく暗闇に慣れた目でそれが何かを確認する
手だ。当然その手の持ち主は自分より先に寝てしまったはずの大河だ
「竜児…起きて…起きてったら…起きろ!」
大河が自分の顔を叩いていた。しかも最後の一回は少し痛かった…ていうか、ほぼビンタだ…
「…ったく…何だよ…便所か…?それくらい自分で…」
「違う…温泉…混浴……」
「はい…?」
「だから…温泉行くわよ…混浴の…今ならたぶん…誰も入ってないと思うから…」
「何だ温泉かよ。ったく………………えっ…混浴……?」
竜児は起きたばかりなので大河が何を言ったのかを脳で整理するのに時間が掛かってしまう
混浴……?つまり俺と大河が同じ湯船に浸かるということなのか……?そうなのか大河…?
「嫌……?」
大河は動揺しまくっている竜児に顔を近付けて困った顔をする
「……いっ…嫌…じゃない…むしろ……ていうか…大河はいいのか…?」
竜児は答える。もちろんOKに決まっている
「そう…嫌じゃないのね…じゃあ私と混浴…嬉しい…?」
なんてハズい質問をしてくるんだ…こいつは…
そう思いつつ、ここで変に受け流してはいけない気がした竜児は素直に答える
「…そりゃ…嬉しいに…決まってるじゃねえか…好きな女との混浴だし…」
大河は微笑む。この旅行一番の笑顔。大好きな男からの愛が確認できたから
667 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 17:44:38 ID:adotIFnA
「良い温泉よね〜何回でも入りたいくらい」
「………おう…そうだな…」
「やっぱりこの時間帯じゃさすがに誰もいないわね」
「………おう…そうだな…」
「あんた…どうしたの…?さっきから同じことばっか言ってるわよ」
「………おう…そうだな…」
深夜一時半――
他の観光者達はもうとっくに夢の中だろう
だからこの混浴露天風呂にいるのは大河と自分の二人だけのはずだ
外の冷たい空気が二人の顔を冷やす
「……大河…そろそろ上がらないか…?」
「えっ…何言ってんのよ。まだ入ってから五分も経ってないじゃない」
「まあ…そうだけど…」
大河のハズい質問に素直に答えた竜児であったが、やはりこの状況には耐えられないのだった
横を向くとタオルは巻いているが、透き通っているかのような大河の白い肌が嫌でも目に入る
華奢な体つきだが大河だって充分立派な女性。年頃の男児をどきどきさせるフェロモンだって持っている
まるで一分が一時間…五分が一日のように感じられるほど時間の流れが緩やかだ
とにかく早くここから離れたい…
668 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 17:45:20 ID:adotIFnA
「あのさ…」
大河の声が聞こえる
竜児はこれ以上刺激を与えて欲しくなかったが一応返事をしてみる
「…なっ…なんだ…?」
「実は私…混浴なんて来たくなかったのよ…」
「………え…?」
「ほら、半年前のプール開き…覚えてる?」
手をちゃぷちゃぷと湯船で遊ばせながら大河は続ける
「哀れな姿を北村君に見せたくないって…」
「おう…覚えてる。それで俺が偽乳パッド作ったっけな」
竜児は理性を保ちながら、そのときのことを思い出す
あの時、北村のことが好きだった大河は胸の小ささで悩んでいた
そのことで水泳の授業を全部受けないつもりだったのだから相当悩んでいたのだろう
「だから…今回もこんな姿…竜児には見せたくなかったのよ…でもね…」
大河はそばにいる竜児に近付こうとする
「おっ…おい…?大河…!?」
竜児は慌てて再び大河と距離を取る
「………ほら…竜児はこんな姿の私でもドキドキしてくれる…女として見てくれてる…それが嬉しい…」
「そりゃ…な…お前はそんな綺麗な肌してるし…可愛いし…」
竜児は精一杯の言葉を出す。恥ずかしいが本音だ
「……ありがと…やっぱり来てよかった…」
669 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 17:46:09 ID:adotIFnA
そして二人は早めに温泉を上がる
あまり浸かっていたらのぼせて眠れなくなってしまうからだ
互いに恥ずかしいことを言ってしまったためか、部屋に戻るまで二人に会話はなかった
部屋に辿りついてもやはり何を喋っていいのかわからない
そうなるとやはり明日に逃げてしまうしかない
「……大河…おやすみ」
「……うん…おやすみ」
竜児はこの微妙な空気を取り除き、明日に持ち越すために電気を消し布団に入る
そして時間はどんどん過ぎていく
だが…眠れるはずないのだ
さっき寝ようとした時だって横にいる大河を意識して、なかなか眠れなかったばかりなのだから
大河はどうだろう?やはりさっきみたいにすぐに寝てしまったのだろうか
ふとそんなことを思ってしまった竜児は横にいる大河の方に体を向ける
「………たっ…大河…どうした?眠れないのか…?」
大河はばっちり起きていた
何がばっちりかと言うと大河は寝ているどころか…ちょこんと布団に座っていたのだ
一人で勝手に明日へ逃げようとしていた竜児は全く気付かなかった
「……うん、ちょっと目が覚めちゃったかも…」
大河はそう言って枕を抱き抱えながら横になる
「………一緒に寝るか?別に変なことはしないし…頭擦ってやるよ」
「……えっ……うん…そうする…」
その言葉に驚いた大河だったがすぐにそれを受け入れ竜児の布団に体を潜らせる
布団の中は竜児の体温で暖められ、こたつみたいだ
早速竜児が頭を優しく撫でてくれる。心地よくてすぐに眠れそう…
大河はすぐに意識が朦朧となってしまうが、それを振り切りそばにいる男の名を呼ぶ
670 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 17:47:02 ID:adotIFnA
「竜児…ちょっといい…?」
竜児は大河の頭を撫で続けながら返事をする
「どうした大河?」
「実は私ね…最近までずっと勝手に勘違いして悩んでたことがあるんだ…」
「何だよ…?」
「竜児はどうして私のそばに居てくれるかって…馬鹿みたいでしょ…?」
「なんでって、そんなの好きだからだよ…」
竜児はすぐに答える。今日は恥ずかしいことばかり言ったのだ。今さら口ごもることもない
「そのことで悩んでたの…私達ってさ、四月からずっと一緒にいるでしょ…」
「まあな…」
「だから竜児がそばに居てくれるのは、竜児にとってそれが習慣になったから…義務だからって思ってたのよ」
大河の大きな瞳が潤む
「だから…竜児がそれに気付いて…いつか居なくなるんじゃないかって想像して…怖かった…ずっと…」
「『俺はいつまでこいつの世話をしているんだ?こんなことする必要なんてないじゃないか?』って思ってないかなって…」
そう言って大河は竜児から背を向ける。潤んだ瞳からは涙がにじみ出す
「付き合うことになった時も…竜児は私のこと…本当は好きじゃないかもって…一人ぼっちの私に同情したからかもって…」
「そんなことばかり考えてた…だから今日の竜児の言葉…すごく嬉しかった…」
竜児は背を向ける大河にゆっくりと手を伸ばす。別に変なことをするためじゃない
大河が急に愛しくなったからだ
そうして大河を優しく抱き抱える
丁寧に扱わないとすぐに傷付いてしまう少女だから
慎重に触れないとガラスのように割れてしまう少女だから
「大丈夫だよ…大河…お前のそばにいるのは、習慣でも義務でもねえ…本当にお前が好きだからだ…」
背を向けていた大河は体を反転させ竜児の体に飛び付く
「……へへっ…私も好き…竜児が…大好き…」
671 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 17:47:45 ID:adotIFnA
二人はとっくに馴れ合いだけの関係なんかじゃなかったのだ
ただ…二人はそれに気付いていなかっただけ
でもこの瞬間だけは違う…
だって…
近付けば…こんなにもどきどきしてしまうのだから
抱き合えば…こんなにも顔が赤くなってしまうのだから
見つめ合えば…こんなにももどかしいのだから
そして…唇を重ねれば…こんなにも――
午前八時――
「ここが高須達の部屋か…」
「はい…そうでありますな…」
竜児と大河の部屋の前――
そこで待機している二人の人物
『ガチャッ』
「おっ…開いておりますぞ…どうしましょう…北村隊長…?」
「不用心だな…櫛枝隊員、これはもう突入するしかないではないか…」
実乃梨の小さくひそめた声に答えるのは同じく北村の小さくひそめた声
そして実乃梨は扉に耳を当てる
「この静けさは…まだ寝ているのでは…これは寝顔を頂戴しなければ…」
そうして二人は扉を豪快に開ける
「「……………」」
そしてゆっくりと閉める…その時間わずか二秒
「なんていうか…軽率だったな…俺達…」
「うん…空気読めよって感じですな…私達…」
そして二人はそのままUターン
自分達の部屋に帰っていく
二人が見てしまったもの
それは…
二人分の布団
しかし一方はもぬけの殻
そしてもう一方は…互いの体を抱き合ってこれ以上ない幸せな顔をする竜虎の寝顔
おわり
>>656 GJ
この忙しい時期にパソコンの前を離れられんかった…
GJ…では味に欠けるから、NW!
sageろよ。
乙。スピンオフみたいで良かった
arl上げでワロタ
678 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 20:00:23 ID:0CsqDAri
GJ!大河かわいい
>>650 まさかアレで基地外とかまで言われるとは思わなかったorz
今年も、後わずかなのでHD整理してたら夏に書いたと思われるやつが出てきた。
駄文だが、燃料になればいいかと思うので投下してみる。
「りゅう〜じ〜…おなか空いたぁ〜〜〜」
台風一過のあまりの暑さに間伸びした声で、扇風機の前を独占していた大河から愚痴がとんできた。
「おう、。今晩何する?肉か、魚か?」
「えええーーーっ? まだ作ってないのお?」
大河は寝そべったままバタバタバタバタ、シュプレヒコールをあげる。
でもまだ4時である。
俺は呆れた。
「買い物だってまだだ…。どうすんだ? ハンパーグか?」
『肉がいいんだけど…んん〜ヤダ。さっぱりしたものがいい〜!」
「じゃ何だ? そうめんにするか?」
「飽きた」
にべもない。また大河はどうやらバタバタ暴れると熱さと空腹が増すことを学習したらしく、今度は床を這って扇風機の風を追いはじめた。
こう暑いと、本当にへっぽこだなあこいつは。
「う〜ん…。そうだ、あれにしよう」
「なににするのぉ〜〜〜?」
「内緒だ。でもきっと気に入ると思うぞ」
俺は身支度を整え財布を握った。
兄貴のところのスーパーで品物を物色する。
「えーっと。これとこれ…それから、これだな」
俺は慣れた、というより慣れてしまった手つきで、買い物篭に食品を放り込む。
「え、こんだけ?」
あついあつい唸っていたくせに何故かついて来た大河は、僕が籠に入れた食品の少なさに驚いた。
「おう、今晩のはあまり色々使わねぇんだ。それにこの時期はあまり買い込んでも保存が大変だしな」
「ふ〜ん」
「お前も将来覚えておかねぇと。いいお嫁さんになれねぇぞ」
「んななッ!! なッなにを言ってんのよ!!??バッカじゃないの!!」
何故か大河は真っ赤に俯いて無口になってしまった。やっぱりこんなに暑いのについてくるからだな。バカめ…
消費の早い清涼飲料をかごに入れる。
僕はまだ顔色の冷めやら大河の赤い頬を見ながら考えた。
(俺んちってそんなに変なのか…?)
とりあえず暑い時期には
「大河…お菓子買ってきていいぞ」
「おうっ待ってましたあ!!」
大河は喜び勇んでお菓子コーナーに駆けていった。
「…………はあ…」
「さて……」
台所台の上には先ほど俺達が買ってきた食材が並ぶ。
「いよいよ料理ね」
「おう…って大河。今日はどうしたんだ?」
「何がよ」
「いつもは…竜児、作っときなさい!!…って言ってるくせに。今日は(いつ買ったんだか)エプロンまで…」
「い、いいのよっ…(ぼそ)その、お嫁さんになったとき…困るでしょ…」
「え?」
「なッなんでもない!それより早く作ろう!ね、私は何をすればいい?」
「そうだな…」
俺は食材たちを見回しながら、料理に不慣れなどころか油断するとドジ神様の力を借りて台所を燃やしかねない大河に、
手伝ってもらっても円滑に進めるには何を頼めばいいか考えた。
「おう、この鶏肉。フォークを使ってまんべんなく穴をあけてくれ」
「おう」
マネすんなと言いつつパリパリとラッピングをはがし、大河に渡す。
「気持ちわる」
大河は鶏の身をつまんでまな板にのせると、おもむろにフォークをつかんだ。
「とりゃあ!大河・THEフォーク乱れ撃ちっ!!」
がすがすがすがすッ!!!!
「はあ…」
対して俺はいま大根を擦り卸している。目の荒いおろし金でがりがりと。卸し終わったらそこに擦りゴマを入れる。
ゴマは本当はちゃんとすった方が色も香りもいいんだけどな…まあ、別にいいか。
そして塩コショウ。
「これでいい、竜児?」
「おう、充分充分」
俺は大河が下ごしらえしてくれた鶏肉を包丁で一口大に刻む。皮はあらかじめ外しておいたほうが切りやすいかもな。
「ねえ…穴をあけるのって、何か意味あんの?」
「これはな、味を染み込ませる意味もあるし、今回の場合、お肉をやわらかくするためでもあるんだ。一見地味かもしれないけど、意外と大事な事なんだ」
鶏肉を卸して下味を付けた大根に漬ける。こうすると肉がやわらかくなるし、生臭さも消えてしまう。夏場、さっぱりとお肉を食べたいなら、この調理法は憶えて損はない。
肉を鍋に入れるぞ」
「う…うん…」
「?」
鍋が沸いてきたのを確認して、俺は下ごしらえした鶏肉を鍋に入れた。この時はもちろん漬けておいた大根卸しごと鍋に入れる。
水を少なめにしておいたのもそのためだ。鰹節の口に残る食感も大根卸しのお陰で気にならないから、鰹節をわざわざ取り出す必要もない。
それにしても大河…今「さて、じゃ次はね…ネギをみじんに刻んでくれるか?」
「みじん切り…確か縦に一度細く切ってから、輪切りにするとキレイにできるんだっけ」
「おう、って何でおまえみじん切り知ってるんだよ?」
「うっさいわね…。わたしだっていろいろ勉強してんのよ。で、あってんでしょ。どうなのよ?」
「おう。でもネギの場合は小口切りにしてから叩いたほうが速いな。ものにもよるんだが…ま、それはやってみないとだけど」
大河が危なっかしい手つきでネギを刻んでいる間、僕は次の行程に移る。
浅めの鍋に少量の水を張り、同量の醤油をいれて火にかける。そして鰹節を一杯入れる。
「あいたっ!!」
やっぱりというか、なんというか…。
「大河、指切った?」
「うん」
大河の左手の親指には1ミリくらいの切り傷が。
「はあ…」
「はあって何よ〜!!痛いのよ、これ」
「へえへえ…」
ぺろっ。
「!!!!!!!」
俺は傷口に軽く口をつけた。
「舐めときゃ治るって」
「あ…あ…わ…わ…わ……」
ぱくぱくぱくぱく……。
大河は金魚みたいな顔の仕種をして、食器棚の扉まで一気に後ずさる。ついでに顔も金魚色。
…大河はよくわからない。
ぐつぐつ……。
大河は大丈夫か?夏の暑さで頭の回線が誤作動を起こしたか?
「味付けはこれだけだが、大根が煮えるから甘味が出る。だから余分な砂糖を入れる必要はない」
そして続けざま、先程大河が名誉の負傷(?)を負って刻んだネギを投入。
「あと、とりあえずは煮えるのを待つだけだね」
「お、おう…」
「おい、おれになってるぞ。あ、そうそう。海苔を千切りにしておいてくれ。ハサミそこにあるから」
俺はシンク上の壁に掛かっているハサミを示して言った。
「え、ハサミで?」
「おう、いちいち包丁でやっても面倒くさいしな」
鶏肉にあらかた火が通ったことを確認し、みりんを入れる。
「さ、もうできるぞ、大河は食卓について待ってろ。あ、そうそう…泰子起こしといてくれ」
「そういや、やっちゃん起こさなくてよかったの」
「おう、今日は特別に休みなんだってよ」
「やっちゃん、起きて〜」
「ん〜、パパ」
「えっ、違うって…。アッー」
なんか、変な声が聞こえたが…。
まあ、あっちは大河に任せておいていいだろう。
「さて…と」
俺は冷蔵庫から炒りゴマを取り出す。え?さっき入れたろうって? ふっふっふっ。下味に擦りゴマ、出来上がりに炒りゴマ。
これが味と香りと見栄えの三要素のための手間暇ってモノなんだ。
ばさばさばさ〜。もうたっぷりとな、サービスサービス…。
出来上がるまでの間にどんぶりにごはんをよそう。刻んだ海苔を全体にふりかけ、飯の準備は完了。
「こっちも準備OKか?」
鍋からは食欲をそそる醤油の香りが立ち込める。みりんの照りがいい感じだ。
俺は冷蔵庫からしょうがを取り出して、包丁で細かく細かく刻み、火を止めた鍋に入れた。あえて卸さずにササメに切って入れるところがポイントだな。
ぴりっと辛いしょうがの特性を前面に押し出したいときにはこの切り方が良いと思うぞ。
出来上がった「あたま」を丼飯にかける。もちろんつゆだくで。
「さ、出来たぞ〜〜!!」
「な、さっぱり食べられるだろ?」
最初はこの暑いのにどんぶりだったの〜? と難色を示していた大河だったが、一口ぱくりといったあとはただ無言で最後までかき込んでしまった。おまけにおかわりまでする始末。食欲ない〜と言っていたが…まあ食べてもらえるのは嬉しいし、良かった良かった。
「う〜ん、竜ちゃん…。これってしょうが入れた?」
「おう、わかるか?」
「え〜〜そうなんだ。どうりでピリッとすると思った〜」
気づかなかったのか…俺は心の中で苦笑した。
「あと大根卸を煮たっていうのが不思議な感じだったけど、おいしかったわ」
「あと鶏肉は脂肪少ないから、食べやすいだろ?」
高須家の夕刻は和やかに暮れてゆく。
▼竜児くんのかんたんお買い物メモ (3人分)▼
鶏肉(ムネ)…………250g
大根…………………20cm
ショウガ………………適宜
ネギ…………………15cm
かつお節……………すきなだけ
海苔…………………すきなだけ
ゴマ…………………すきなだけ
塩………………小サジ1.5
コショウ…………少々
醤油……………50cc
みりん……………大サジ5
これで終わりです。
季節外れのもの投下して、ほんとにすまん。
あと、竜児が作中でつくったのは、ほんとに食えるぞ。
いやー、為になったし面白かったしちゃんとsageてたし、乙です
クッキング竜 流れ板竜児 土鍋の竜 たかすけ ハラヘッタ
乙。なんかお腹が減ってきそうな話でした。
>>678 あれ誤爆らしいぞ。耐性はつけるべきだが。
リロードするべきだったか。これは(/ω\)ハズカシーィ
>>687 なんかめちゃくちゃためになる話だなってかリアルに料理できそうな687に嫉妬
>>686 typoが気になったがGJ!
実に美味そうな話だぜ。
買い物に行く前に投下されてれば今夜のメシはこのドンブリだったのに。
竜児×みのりん妄想を文章にしてみたんだけどセリフばっかり+設定が微妙かもなんだ 脳内補完できる程度だと思うけど…
生暖かいアドバイスを頂けるのであれば投下しようと思うんだけど…
いいんじゃね?
全然おk。このスレの住人は妄そ・・・・・想像力豊かだから。
竜児×実乃梨
設定は竜児 実乃梨 大河の恋愛関係がこんがらがったまま9巻ラストになった感じ
こんな無理な設定をした理由
ちまい娘が好きで読み始めたがみのりんに惚れてしまったため幸せになって欲しいと…年の瀬に何言ってんだか
二人はとにかく走った 何処に向かっているかもわからない
そして…止まった 同時に
二人の間に会話はない ただただ肩で息をするだけだった 困惑して頭が回らない
そんな時ケータイが鳴る 相手は亜美
二人は亜美に呼び出された場所に来た
(ここって…アレだよな…ラブホテ…)
「竜児、〇〇〇号室だって」
先程亜美と電話していた大河はさっさと行ってしまう
「アイツ恥ずかしくねぇのか?」
ドアを閉めカギを掛ける竜児 ガチャっという音が冷たく響く
中には呼び出した当人の亜美 北村 そして実乃梨
亜美が少し早い口調で話始める
「私は私を変えてくれた皆の辛い顔を見るのがもうヤなの 今日ここで全ての蟠りを解消しましょう」
続けて「皆のおかげで少し大人になった私は高須くん 実乃梨ちゃんそして逢坂さんの気持ちを理解しているつもり」
「高須くんは実乃梨ちゃんが好きで逢坂さんは祐作が好きだった そして皆で過ごしていく内に実乃梨ちゃんも高須くんを好きになっていった そして……逢坂さんも高須くんに惹かれていって二人は互いの親友のため高須くんと距離を置いた」
そこまで話すと今度は逆に少しゆっくりと
「実乃梨ちゃん逢坂さん親友を思うのは良いことでもこの場合は自分に素直に特に逢坂さんは意地を張らないように」
大河が少しうつむく 亜美に対し敵意はない
亜美がクルッと竜児を見る
「高須くん 選んで逢坂さんか実乃梨ちゃん 高須くんなら逢坂さんの生活も実乃梨ちゃんの夢もどちらも支えられる 辛い選択だけど二人に辛い思いをさせた罰だから」
そこまで言い終えると得意の仮面を被り
「答がでたらその人と高須くんを残して後は帰るから」
この言葉を聞き顔を真っ赤にする三人
「なっお前正気か!?」
「ば、ばかちー何考えてんの!?」
「え、エロいです安西先生!」
「だって選んだ後に気持ちが揺らいだりするかもだし選ばれなかった方も気が楽だと思うけど?」
「やっぱお前いい性格してるよ」
「この場合は褒め言葉だね〜て言うか高須くんって顔面凶器のクセに女ったらしぃ〜」
川島の話を真剣に聞いてやった己の馬鹿さ加減と顔をからかわれ挫けそうだ
空気が少し懐かしくなる それは別荘に旅行に行った時のような
「高須、ココは亜美に賛成だ男なら決めろ 恋は手の届く内にしないとしたくても出来なくなるかも知れないものだ」
大河と実乃梨を交互に見る 別にどちらから葬って殺ろうかと考えているのではない 自分がこんな傲慢な選択をしていいのかどちらかを傷付けなければいけないのかと考えているのだ
大河は「アンタがいなくても一人で生きていけるわ」といつものようにふんぞり返っている
実乃梨は「恋でダメになるようじゃまだまだ努力が足りないんでぇ 今度は逃げないぜぇ」と親指を立てる
しばらく静けさが続いた そして竜児は
「―――」
春休み
「ゴメンねぇわざわざ来てもらって」
「でもホントに引っ越すのか?遠いだろ?」
「ストーカーもいないしいつまでも迷惑かけてられないし実家から通えない距離じゃないから」
「ばかちー引っ越すなら元の学校に戻ればいいのに」
「うっさい 大橋が好きなの それに高須くんといると楽しいし」
と亜美が意地悪そうに竜児を見る
すると実乃梨が竜児の腕をがばっと掴む
「コイツはもうあたしんだぁ あーみんには渡さん」
そう竜児ははっきりと大きく「櫛枝」と答えたのだ その答えに亜美も北村もそして大河も笑顔を作った
「やだぁとらないってぇ それにしてもやっぱり一線を越えると仲が良くなるみたいねぇ」
その言葉に竜児と実乃梨は顔を赤くした……が少し焦っているように見える
「え?まさかあの状況でしなかったの?」
二人とも沈黙 アイコンタクトでどうしようとなってるのはとてもわかりやすかった
そして突然
「キ、キスはな!」
「あ、それ言ったらバレるって」
亜美は呆れ果てため息をついた
「マジありえねぇつまんねぇ高須くんそれでも男?」
上手い言い訳が出てこない頭が恨めしい
「いややっぱり恥ずかしくてねぇカラオケで盛り上がっちまったい」
「お、おぅ それにまだ高校生だしな」
女の子に庇って貰う…ヘタレである自分がまた恨めしい
「まぁいいわ で逢坂さんはどうしてるの?」
「大河は前と変わらず内に入り浸りだ」
「おぉよ!私らが親 大河が子供みたいなもんだ」
「アンタのお陰で何の問題もなく世話になってるわ ありがとばかちー」
「ありえねぇある意味つまんなくねぇけどありえねぇ」
亜美は納得がいかず不機嫌そうだ
「まぁ川島、あれだ、その…ありがとな」
心から素直なお礼に亜美が戸惑っている時 北村が張り切って
「亜美、そろそろ始めないか?」と
亜美が再び素の不機嫌な顔になった
北村はやっぱりちょっとアホでそしてそれを小さい時から見ている亜美はちょっとウザいと思っているのかもしれない
竜児は凄い目付きで掃除を 北村はきびきびと段ボールを運び 実乃梨も筋トレを兼ねてそれに続く 大河は…手がガムテープでグシャグシャになっている
「何やってんだドジ」
と手の使えない大河の頬を軽くパンチ
「黙れこのエロ犬!!」
手乗りタイガーは吠える 竜の傍らで 皆に囲まれて
高校生活も後1年 それはもう楽しくなるだろうと皆の顔はそんなように見えた
え〜とまずすみません 素人丸出しです
そして9巻ラストと言っておきながら親問題に全く触れてません
妄想の範囲外です ゆゆぽさんには想像出来ないような続きを期待してます
10巻発売前でしかこういった事が出来ないので書かせていただきました
生暖かいアドバイスありましたらなんなりと…
それと
内→家でした
>>671 GJ!
大河が最高に可愛い
やっぱ竜虎が一番萌えるわ
>>686 こっちもGJ!
料理うまそー
おうおう!今年最後の投下ラッシュだな!
どれもこれもGJ!
職人の方達の活躍に、感謝します!
GJ!ただ俺が素人的アドバイスを言うならば文脈の終わりに「。」をつけたらもっと読みやすいんじゃないか?折角の良作なんだから、さらなる高みを目指そうじゃないか!
714 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 11:03:11 ID:QUKXMnLc
>>709 あれ?デジャブ?
VIPだかキャラスレだかで一回見たことある気が…
ちと教えて貰いたいんだけど、SSのzip投稿ってどうやるんだい?
716 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 12:00:35 ID:kv+USVAC
全裸になる
そしてネクタイをまきます
>>713 アドバイスどうもです
>>714 そこで書いた時は色々微妙なコメントを貰ったのとエロパロ行けと言われたので…
感想 アドバイスあったらなんなりと…
>>718 言いづらいけど、確かに微妙だねー。
9巻ラストでの「大河を離さない」の決意はいずこへ?ジャイアントさらばはどうした?
とか色々疑問がわく。
>>720 そこは701で一応言ってはあるんですが…ifを書くのってやっぱり難しいですね汗
まぁみのりんファンに少しでも共感頂けたらって感じですね
感想どうもです
細かいことを言いだしたら、竜虎物以外はどれも辻褄の合わない疑問点だらけになっちゃうよ。
これまでにもキャラの皮を被せただけの実質オリキャラ物とかいっぱいあったし。
SSなんだから、その辺りはある程度寛容に見るべきだと思うけどね。
ssで原作と辻褄が合うようにしたら、竜虎ss以外できなくなるじゃんか。
みのりんssを期待する僕としては、それは困るわー
>>723は撤回するわ
一行目しかちゃんと読んでなかったスマン
500と656を投稿した者です
すいません…自分、500が初投稿で…よくわからないんです…sageってどういう意味があるんですか?
しょうもない質問して本当にすいません…
メール欄にsageと入れないとスレがエロパロ板のtopに来てしまい、色々な人の目に付き、荒らされる可能性が上がります。だからみんなageられるのを嫌います。
逆にsage過ぎるとそのスレは過疎になってるとみなされ削除されてしまいますから、まぁバランスが大事です。基本はsage進行ですね。
ありがとうございます
理解できました
なにこのヌクモリティ。
そんな聞けば当然教えてもらえると思ってるクズとかググれ自分で調べろだけでいいのに…
調べた俺は勝ち組...なんてな。てかPSPだと「・・・」が変換出来ないから困る。
>>729 大事な書き手様ですから、ただ書くのをまって読むだけの自分にしたらそのくらいはすべきかな、と・・・・・・
うん、そうだよな
同意ーー。
小さな親切をやればみんな、生き生きするぞっ!
それに、ここに書き込むことによって、他にも疑問に思ってた人(俺)とか
にもわかる。
半年ROMればいいんだよ
ここの住人はルールを守らないとさっそく注意してくるけど、でもちゃんと親切に教えてくれるよね。
それで良いと思うよ。
しばらくROMればメール欄にsageと入れなきゃいけないっぽいのはわかるが
本当に全く誰もそういうこと説明したりしなくなっちゃったら
何年ROMっても「なぜそうしなきゃいけないのか」はわからないままだからなあw
俺はいい作品読ませてもらってるわけだし、わかる範囲で力になるぞー。...まぁ、教えられることはなにもないんだがwww
そもそも、sageとか知らない人はROMるの意味もわかんないと思うよ。
初心者板いけよ
聞くな調べろ。なんど言わす
>>740 説明書読みたくないのと同じで、直接聞きたくなるのも自分は分からなくもないですよ?
まぁ結局ググるのが1番ですがね・・・・・
新参ロムれ
中学生か?
古参気取り乙
アニメ化最悪だわ
変なのが沸くのは本スレに留めてくれよ
亜美「高須くぅ〜ん。亜美ちゃんROMってわからないからぁ、教えてほしいなぁ」
竜児「調べてきなさい」
亜美「チッ!ちょっと高須君!高須君の亜美ちゃんに対する態度は明らかにタイガーと違うよね!?」
竜児「ああ。だってお前と俺は"対等"だからな」
亜美「そう意味じゃないから!対等って意味絶対間違ってるから!」
竜児「川嶋亜美は俺の先を歩くんだろ?」
亜美「ムガーー!!」
...
みのりん「見てみ大河、まぁたじゃれついてるぜ高須きゅんとあーみん」
大河「あの駄犬共はそんな意識ないんだろうよ...」
みのりん「無自覚...ねぇ?なーんかおじちゃん、体から熱いパトスがほとばしってきたぜ...」
大河「Go,Minorin.」
みのりん「Yes,Mam」
大橋高校が誇る戦略兵器Tigerから対発情犬弾頭Moruzer発射。
そして話は続かない。
ま〜初心者は初心者版なんて知らないし
聞いちゃいけないなんて思わないし
仕方ないっちゃ仕方ないと思うけどね
そうだな、むしろsageを知る前にピンクBBS、エロパロ板にたどり着いたルート
それが他人の事でも少しせつない
エロパロなのにエロくないよね・・・
エロいSS読みたいです
竜虎のイチャイチャがみたかとです
そろそろ480kbに近づいてまいりました
あら...。あとどんくらいもつかな。
この流れ的に普段何kbまでもつの?って聞くのはヤボか・・・・
どうも、竜児×亜美の年末の話書かせてもらったものです。たくさんのGJにわたくし嬉しくて鼻血が止まりませんでした。
それで、続編というお声がありまして、その後の話でも書けたらいいなぁと思いながら話を考えています。
もしよろしければ、その時はまた私の拙文にお付き合いしていただけると嬉しいです...。
普段つーか500で
もうらめぇええはいりきらないのぉぉぉぉぉ
になる
PCが諸事情により使えないのでPSPから投下します。
更新遅いのはご了承願います。
では出だしの部分をどうぞ。
...
[こんな年初め]
遠くから除夜の鐘がなっている。
内容の濃かった去年から、新たな年を迎えたのだ。
来年はどんなことが起こるのだろう、とたった今迎えた今年に思いを馳せていたのは少し前で。
「さぁバカ犬。とっとと吐いてもらおうか、色々と」
どんなことが起こるんだろう。
皆から恐れられているヤンキーフェイスを悪化させながらも、その思いを馳せていた新年。
「イヤモウオレモサッパリ」
そんな高須竜児のニューイヤーは、眼前で仁王立ちする虎たちを何とかすることから始まった。
新年になる数分前。
当初の予定では、俺は皆の年越しそばを準備して、新年いつでもカモンなはずであった。
そのはずだったのだが、俺はその時、そばどころではない状態(状況)に陥っていたのだ。
ーーその状況とは。
「さっさと説明しなさい。なんでアンタがばかちーとキ...キキキキスをしていたのかを!」
ばぁん!と虎がテーブルを叩いて叫ぶ。
櫛枝が作ってくれたのか、テーブルに置かれた年越しそばが驚いたかのように小さな音をたてた。
...正直、そのそばに俺自身を重ねてみたり。
突然のことに驚いたのは俺であるからだ。
理由は今虎ーー大河が言った。
まぁそれが、俺がそばを作れないほどの大変な...の答えにあたるのだけれど。
そう。今年をあと数分に控えた、言うならギリギリ去年に、高須竜児は大人への階段を一段抜かしで駆け上った。
クラスメート...しかも(どうやら)大橋高校のアイドルであり(おそらく)人気モデルの川嶋亜美とキスをしたのだ。
次スレのテンプレには是非コテハン付きでの馴れ合いと
誘い受け云々について一言加えておいてほしいですね
どうせ読みもしないんだろうけど
どんだけ神経質なんだよ
なんでヤンキー顔がそんな美人とキスしてんだよ!てかお前が襲ったんだろ!?と、どこかの眼鏡とarlが叫びそうだが断じて違う。
寧ろ襲われたのは俺だ。
「あ?...いきなりキスされて、それで何がなんだかさっぱり?」
読者へ説明するため経緯を振り返って、ようやく落ち着いてきた俺が必死に説明すると、
「なんだそれはぁ!」
「バリバリ同意じゃないかーー!高須きゅんもあーみんも最後の最後にデッケーの打ってくれたもんだ!」
「いやぁ亜美の相手が高須とは...。良かったな、亜美!」
大河のほかに、大河の傍らで暢気にそばを啜っていた櫛枝と北村も声を上げた。
正直、書いてもらってる立場で何言ってんのこいつらって感じなんだが。
まあ感想は人それぞれだとは思うけど。
ちゃんと読めっての
荒れてほしくないからもう消えるけど
次スレテンプレには注意のようなの入れるべきだな
どーでもいいよ
「うっわ、コテハンの馴れ合いマジうざ……どっか消えてってカンジなんですけど」
「そう言ってやるなよあーみん!誰だって友情を語り合いたい時はあるさ!」
「まあばかちーの言うことも一理あるけどね。馴れ合う場所じゃないんだし」
「逢坂は馴れ合うのが嫌だったのか……?」
「き、北村君! ……な、なななななんていうかその、ひ、人それぞれ好みがあるってことをその……言いたかった、のよ……」
「おう、顔が赤いぞ大河。……確かに不快に思う奴もいるからなあ。
争いを避けたいならコテをつけての投稿以外の書き込みは避けた方がいいかもな」
***
「前置き説明くらい書けっつーの。……なんかタイガーばっかり高須くんと上手くいってるし。あたしはあたしの話だけ読みたいんだよねー」
「その気持ちわかるぜえ!くうー、親友が幸せになる話もいいけどたまには私も高須くんと……」
「俺も、夢の中だけでいいから会長と上手くいく夢を見たかったな……」
「駄犬、ハーレムの時のあんたなんなの? あんたは一人だけ見てればいいのよ」
「そのつもりなんだが。……とまあ色々な意見があるんだな。
好きな組み合わせだけ読んでる人もいるし、死ぬの
とかも人によってはきついものがあるかもな。
投稿前にネタバレしない程度に内容説明しておくと作者も後々文句言われなくていいんじゃないか」
***
「sageない奴ちょーうざいんですけどー」
「あーみんの言うとおりsageは必要だよな!」
「生徒会会長から言わせてもらってもsageた方がいいと思うぞ」
「……sage? なにそれ、おいしいの?」
「大河、sageは食い物じゃないぞ……。詳しくは
>>727を見てくれ」
***
「また亜美ちゃんの書いた作品が叩かれてる……こいつらマジ許せねー……」
「私はミラクルグッドジョブだと思ったんだけどな、こんないい作品なのにもったいねーぜ」
「亜美、内容はすごくよかったが俺を裸で描写するのは止めてくれないか」
「ばかちーの妄想ってくだらないわね……」
「はあ!?今なんつったチビタイガー!!」
「止めろって川嶋!大河も言い方ってもんがあるだろ!
どんなにつまらないと思った作品でも作者は時間をかけて頑張ってるんだよ、読む方もそれなりの対応ってもんがあるだろ。
面白かったらグッジョブとでも書いて作者をねぎらえばいいし、川嶋のみたいにつまんなかったらコメントしなければいいんだよ」
「高須くんって何気にひでー……」
他に何かあったっけ
あーつまんねー
>>769 スレが荒れるとこうゆうのが出ます
ご注意を
自分がうんこだからつまらないといけないんですよ
スレの流れがきれいだと住みづらいんすよ、うんこなんで
だからつまんねーいうんですよ
もっと亜美ちゃんを!!!
みのりんを・・・
だれか・・・みのりんをくれえええ
776 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/31(水) 13:03:58 ID:q2jhZBaq
それにしてもなんでみのりんのssはこんなに供給が少ないんだろう
やっぱ原作のこともあって難しいんですか?
1.他人と深く関わる事を恐れているキャラだから
2.ギャグパロセリフがめんどいから
3.ファンが少ないから
なんでみのりssを求める奴はsageない奴ばっかなんだろう
ゆりドラの続きを…
もう完結しただろうが
とりあえず一足早くあけましておめでとうってことで
>>777 失敬な!
僕はちゃんとsageてるぞお
もう480kB越えてるな
そろそろ次スレ?
そろそろ年越しっすね。
プレパレー
あけおめー
あけおめ〜
こうだっけかな、うる覚え
>>789 名前欄にfusianasan
!omikuji !dama
えいっ!
>>790 オオ、サンキュー!
fusianasanだな!・・・・ってやらねえよw
なんかめっちゃミスったw
今時フシアナ引っかかるとか何処の春田だよ……
平均年齢低いんだろうなと考えるとげんなり
年始だし心機一転さっさと新スレ立てようぜ
>>791 新年早々騙されて気の毒すぎる…
しかしfusianasanは2chやる上では基本事項だから覚えておけよー
ぶっちゃけ会社でPC使ってる可能性が低い時間にフシアナ誘導しても意味ないだろ
>arl
あけおめ!
799 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 02:38:56 ID:Fvi8uZpj
相馬さんは俺の嫁
あけおめー
節穴ワロタ
新年早々おめでたいです
どれどれ
803 :
【末吉】 :2009/01/01(木) 05:49:13 ID:OPHRWBQa
あーあ。
どれどれ
805 :
【末吉】 :2009/01/01(木) 06:36:21 ID:JlNK9Cb2
あれ?
手乗りタイガーを押さえつけて屈服させて姫初めする
おまえら議論するのは構わないけど誰かがss投下中ぐらいは自重しろよ……
こんな最低限のマナーぐらいわかっとけよ
>>760の人続きお願いします
節穴なんかに引っ掛かったりsageを知らなかったりするやつがいるってことは
明らかに冬休みだな
test
あけおめー
だまされた・・・
このスレのゆとり臭は異常
この流れなら言える
田村は俺の嫁
コテ雑の数倍うざい流れ
760さん気にせず続きお願いします。誰かが投下してくくれれば、流れが変わると思うんで。
クレクレとゆとりしかいねえ
冬
皆さんあけましておめでとうございます。
昨年は自分に至らない点があり、何だか空気を悪くさせてしまったようで、すいません。
話の続きなんですが、次のスレに投稿したほうが無難なのかぁと思っているんですが、次スレで投稿してもOKですか?色々とすんません。
なら次スレ立てたほうがいいかな
いって来る
必要以上に殺伐としてたら職人は消えるぞ
古参はゆとり臭がしても、わざわざそれを言わなくていいし
ゆとりは大人になってから来い あと空気よめ
>>819 是非お願いします
乙
今度は前みたいに残さずにさっさと埋めようぜ
825 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 18:27:15 ID:RNiw0nXN
おめでとう!挨拶とともに穴埋め!
行くぞ、埋めろっ!
とりあえず梅の手伝いするお
>>822乙
ところで、6皿目の一番はどれだと思う?
俺は『竜虎 温泉に行く』だな
831 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 19:17:48 ID:oD8bx0UZ
埋めます
梅
まだ生きてやがるとはな
さらに埋めなければ!
うめ
ヒロイン三人の胸のサイズの設定ってあったっけ?
あーみんのカップサイズが知りたい
836 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 20:41:52 ID:oD8bx0UZ
埋め
837 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 20:48:16 ID:w1/QFfta
ウメ
うめ
>>835 ばかちーはDカップ B86cm
みのりんはCカップ B78cm
タイガーはA…AA B62cm
埋めネタ投下
「ねえ竜児、明日なんだけどさ。北村君と――」
指先でチーズ鱈をこねくり回しながら大河が話しかける。
が、いつもならすぐに帰ってくるはずの返事はない。
顔を上げて竜児を探す。と、竜児はちゃぶ台の横に転がっていた。
「ねえ、竜児ってば」
這うようにして竜児の側に行く。竜児は完全に寝ているようだ。
仰向けで両足を少し開いて伸ばし、蛍光灯の灯りを遮ろうとしてか、
右腕を額に乗せている。
大河は、むっとした顔で仰向けに寝ている竜児の傍ににじり寄り、
そのまま上から覆い被さるように、四つん這いの姿勢で竜児を見下ろす。
「やだ、なによ。もう寝ちゃったの?」
低い呟きを漏らし、そのままじっと竜児の顔を見つめる。
大河が覆い被さっていることで眩しさが薄れたのか、
竜児は、軽く呻き声のような息を漏らして、右腕を腹の上に動かす。
そして規則正しい寝息に戻る。
竜児の寝顔は、あの特徴的な三白眼が閉じられているせいか、
比較的整って見え、何となく大河はその慣れた筈の凶悪顔に見入ってしまう。
「まあ、北村くんほどじゃないけどね」
そう呟いて、大河は竜児を跨いだまま顔を上げた。
そして泰子が寝ているはずの部屋の襖に視線を移す。それからゆっくりと反対側の襖、
北村が寝ているはずの竜児の部屋の襖へと視線を移動させる。
しんと静まった早朝の時間帯。
聞こえてくるのは、冷蔵庫の低く唸るようなコンプレッサーの振動音だけ。
今、このウチで起きているのは私だけ。
そう思った瞬間、急に部屋の中の冷えた空気を感じ、ぶるっと震えた。
竜児の部屋の襖から、大河の視線は、布切れを被さられている鳥かごを捉え、
そして再び、竜児に戻る。その大河の顔が少しだけ憂鬱そうに歪む。
いつも独りで寝ているのだ。あの殺風景な広い部屋の中で独りで膝を抱えて寝ているのだ。
ここで独りだけ起きているからといって、今更、寂しさを感じる道理などないはずだ。
みんなここにいる。竜児もやっちゃんもブサ鳥も、
北村くんだって声を出せば聞こえる距離にいる。手を伸ばせば届く距離にいる。
でも、目を醒ましているのは私だけ。独りだけ。
大河は足元から底知れぬ冷たさが這い上がってくるような気がして、
思わず、竜児の胸に抱きついた。寒くて冷たくて、だから温めて欲しかった。
先ほどコンビニに行く途中で、そうっと手を握ってくれたように。
そうすれば、きっとまた勇気が湧いてくる。独りでも頑張ることができる。
竜児の胸に顔を埋めたまま、そっと竜児の手を握る。
顔や胸、握った手のひらに竜児の温もりを感じて、大河はふうっと息を吐く。
安堵に顔が緩まる。
そうして大河は、コンビニに行く途中に竜児と話したことを思い返す。
北村を想っているつもりで、大河は自分の気持ちしか考えていなかったことを。
だから北村は振り向いてくれなかったのかもしれない。
竜児の言った通りに頑張っても、もう北村は振り向いてくれないかもしれない。
でも……。
そこまで考えて大河は、顔を竜児の胸に擦りつけた。
北村は振り向いてくれないし、きっとこれからも振り向いてくれることはないだろう。
そんなことにはとっくに気づいていた。気づかない振りをしていただけだ。
でも、それでも、北村の力にないたいと思う。
北村と解りあえるように、そして北村との距離を縮めたいと思う。
北村と付き合うことができないとしても、やはり、北村は特別なのだ。
そして、ふと、こんな姿を北村に見られたら大変だと思いついた。
完全に大河と竜児の関係を誤解するだろう。そうなったら竜児だって困るはずだ。
でも今は竜児から離れたくなかった。もう少し竜児の温もりを感じていたい。
竜児は特別だ。北村も特別だが、竜児は別の意味で特別なのだ。
父親のような存在で、家族みたいなものだ。きっと今この状態で目を醒ましても、
慌てることもなく「おう大河、なにやってんだ?」と言うだけだろう。
そう思うと、なぜか胸の奥に痛みを感じた。
なぜ痛みを感じるのか解らないまま、大河は、竜児の手を強く握りしめた。
また少し寂しい気持ちになる。
竜児は家族のようなものだ、改めてそう自分に言い聞かせる。
家族でなければ、一体、何だというのだろうか。
そのような存在を大河は知らないし、知る必要もないのだ、竜児さえいれば。
と、竜児が何か寝言のような言葉を発して、身体を揺らした。
そして大河が握りしめていた手を振りほどき、両手をバンザイするみたいに頭上に伸ばす。
竜児の手が離れていく。そう思った大河は、反射的に竜児の腕を掴もうと手を伸ばした。
まだ放さないで! そう叫びそうになる。
その瞬間、ばふっと竜児の両手が大河の背中を抱きしめた。
両手を竜児の肩の辺りに伸ばしたまま、きょとんと目を見開く大河。
そのまま、ぎゅっと抱きしめられ、
次いで竜児の放った言葉が大河の真っ白になった頭の中に響く。
「たいが……メシ……だ」
ねぼすけ。そう呟いて、大河はくっくっくっと喉の奥で笑い声を上げた。
竜児に抱きしめられただけで、もう他の事はどうでもよくなってしまった。
ただ、温かで幸せで、嬉しいような落ち着いた気分になる。
パパに抱きしめられてもこんな気分になるのだろうか。
そんなことを考えながら、大河はゆっくりと目を閉じる。
『私はちゃーんと、やっちゃんの部屋で寝ようとしたんだけど、
竜児が寝ぼけて抱きついてきちゃって、どうしても放してくれなかったの』
『あんた、なに抱きついてんのよ。たまってんじゃないの、このエロ犬』
『仕方がなかったの。
駄犬が寝ぼけて絡み付いてきただけで、仕方がないからそのまま寝ちゃっただけ。
別に大したことじゃないから、気にしないで』
うん、言い訳も完璧だ。
そう大河は頷いて、顔を竜児の胸に埋めたまま両手を竜児の肩に回し、呟いた。
「おやすみ、竜児」
以上ってことで。
乙! GJすぎる
まだ言い残せる…!
GJ!
GJだぜ!!
締めにはふさわしいぜ!
職人の皆様、今年もよろしく。
期待してます。
849 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 22:42:35 ID:oD8bx0UZ
GJです
うめ
GJ
GJ!
GJだよう
どこぞの放置職人とは違うねえ
GJ
GJ
空気の読める職人は大好きだぜ
GJ
しかし、次スレでは投下のサイクルが異常に遅いな。書きながら投下か?
GJすぎるぜ職人さん
なるほど書きながら投下か その可能性が高いな
あんまり強くはいえないが投下するときは出来るだけ感覚を短くして欲しいな
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