金の力で困ってる女の子を助けてあげたい 2話目

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358名無しさん@ピンキー:2009/01/09(金) 13:24:06 ID:szcgvtV7
GJです。
ひたむきな女の子はかわいいですね。

しかし、いくらエロパロ板といっても、レス数より容量の方が多いのはすごいな…
359名無しさん@ピンキー:2009/01/09(金) 14:20:40 ID:q7cAg3S4
力作GJ!
金の力で救われた女の子
女の子の力で心を救われた主人公
理想的です
360名無しさん@ピンキー:2009/01/09(金) 18:09:04 ID:cT8zQnKa
GJ
いい話だぁ
361名無しさん@ピンキー:2009/01/09(金) 18:52:51 ID:mepsHCsQ
GJ!
しょぼいなんてコト無いです。



>>358
幸福姉妹物語とか、凄いボリュームだったりするからねえ。
362名無しさん@ピンキー:2009/01/09(金) 20:58:16 ID:mPcl1t+/
あれ?目から汗が…
GJです
363名無しさん@ピンキー:2009/01/09(金) 22:14:13 ID:izpvJidD
GJ


>>344
ありがとう
だが予想以上に重かったw
364名無しさん@ピンキー:2009/01/09(金) 23:18:14 ID:55D7+Iqo
いいね!GJ!
365名無しさん@ピンキー:2009/01/10(土) 10:24:19 ID:+ICPHE+8
GJ!
主人公の孤独感がひりひり伝わってきて泣けた。
366名無しさん@ピンキー:2009/01/12(月) 23:40:01 ID:Gu6EcAvz
ほしゅあげ
367名無しさん@ピンキー:2009/01/15(木) 22:59:39 ID:sUkuOe1Z
保守
368道具の人:2009/01/15(木) 23:35:17 ID:NhyS2PA5
お久しぶり。
某赤い石を探すやつとかキノコやカタツムリを殲滅するMMOにはまっていたもんで。
軽く書いてみたよっと。

まぁ、いつも通り張り逃げするからよろしく。
369moon buy:2009/01/15(木) 23:39:18 ID:NhyS2PA5
クリスマスも終わり、正月までもうすぐの頃。
そろそろ夜が訪れるかの時間で、俺は書類の山を片付けていた。

「ったく。人様が辞める前だってのに、なんでこんなに仕事を押し付けたのか」
「『辞める前のひと仕事をするから必要なら机の上に全部置いておけ』。
 そうおっしゃったのは社長本人ですよ?」
「だからってこの山は何だこの山は。いつもの三倍はあるぞ」
「それでももうすぐ終わるんですから社長は異常です」

机の上に積み重なった書類の山。山。山。
机越しにドアが見えないほどの書類ってどうよ。
まぁ、秘書の言うとおり、もうすぐ終わるんだけどさ。

「そもそも何でデータにしないんだ」
「社長のサインが必要な書類ばかりですので」
「……茶」
「かしこまりました」

秘書がドアの向こうに行ったのを確認して、休憩……出来る筈もなく。

「腱鞘炎確定か。もう、そんな事もなくなるが……」

何の感慨もなしに、そうつぶやく。

一つの目的があって建てたいくつもの会社。
紆余曲折があったにせよ、どの会社も大企業と肩を並べるまでに成長した。
この会社もその一つで、このまま順調にいけばほかの大企業と同様に肩を並べられるだろう。

「金が欲しくて建てたわけじゃないんだけどな……」
「なら社長はどういった理由でこの会社を創設なさったのですか?」
「ただの好奇心だよ。この会社ならどこまでいけるのか」

いつの間にか戻っていた秘書に驚くことなく、左手でトレイから緑茶を奪ってひとくち。
その間にも、目は活字を追って右手はペンを走らせる。

「……この茶ももうすぐ飲めなくなるな」
「ならやめなければいいじゃないですか」
「もうこの会社に対しての興味は失せた。会社にとってもそんな俺は害になるだけだ」
「社長らしいですね……」

諦めたように秘書はため息をひとつ。
そんなことは知らずに、俺は最後の一枚にサインを走らせた。

「さて、ようやく終わった。屋上でたばこを吸って帰るから。
 見送りはいらんと重役共に言っておいてくれ」
「かしこまりました。……どうかお元気で」
「何今生の挨拶かましてんだ。気が向いたらタバコでも吸いに来るから」

軽く苦笑をして、壁に掛けてあった上着を羽織り、社長室を出た。
気が向いても来ないであろう、屋上に向かって。
370moon buy:2009/01/15(木) 23:43:48 ID:NhyS2PA5
階段を昇るにつれ、だんだんと気温が下がってくる。

「コーヒーでも買ってくればよかった」

一人ごちりながらも、一歩一歩上を目指す。
もうすぐ屋上へのドアが見えるところで違和感が走る。

「いつもより寒い……開いてるのか?」

果たして、予感的中。
暖房代がもったいないと、会社を辞めたのにそう思った。

さらに違和感。
叫び声とどなり声がドアの向こうから聞こえる。

「ゆっくり煙草吸いたいんだがな……」

まぁ、辞めた身だ。
大人しく端の方で煙草でも吸いましょうかというところで。

「まだ期日まで時間があるじゃないですか!」
「その期日までに払えるのか!あぁ!?」
「それは……」

そんな会話が聞こえた。

「人様のビルで何やってんだか……」

そんなことを思いながらも、きっと知り合いの所だろうと踏みながらドアを抜ける。

「何してんだ?」
「あぁ!?テメェには関け……って旦那!?」
「旦那はやめろとあれ程。それより人のビルで何してんだ」

的中。
知り合いの組の人でしたよっと。
そんなことを片隅に思いながら話を進める。

「いえ、この女が借金を返すアテがないもんで。それより、ここのビルは旦那が?」
「ああ、たった今辞めたばかりだけどな。最後に煙草吸って帰ろうとした時にコレだ」
「それは……すいやせん。すぐ引っ込みますから」
「いや、それよりコーヒー買ってきてくれ。その間に話つけるから」
「……わかりやした」

そう言ってドアの向こうに消える……誰だっけ?

「……まぁいいか。で、あんたの借金はおいくら?」
「……あなたに話す必要はありますか?」
「救いかどうかは知らないが、差しのべられた手をはたくなら必要ないな。ただ、その手を握らないと闇に沈むのは目に見えている」
「……あなたは何者ですか?」
「話の下りでわかってくれるとありがたいんだが。この会社の元社長だよ」

煙草を取り出して、火を点ける。
371moon buy:2009/01/15(木) 23:44:36 ID:NhyS2PA5
「まぁ、手をはたくつもりならどっかに失せてもらえるとありがたい。この場所で吸う最後の機会なんでね。ゆっくり吸いたいのさ」
「……」

考えあぐねている様子。
薄い上着にぼさぼさの髪、ボロボロの手と痩せた体。
ずいぶんと苦労しているらしい。
年端もいかない娘だろうにと思いながら、紫煙を肺に入れる。

「……5億」
「ん?」
「5億……です」
「ふーん、5億ねぇ……まぁいいか」

胸のポケットから小切手とペンを取り出し、5をひとつ、0を8つ書いて渡す。

「ほれ、アイツに渡してとっとと消えろ」
「……受け取れません」
「アンタの事情なんか知らない。人様の事情になんか興味がない。物思いに浸るのに邪魔だ」
「……そんな理由で受け取れません」
「金持ちの道楽。理由はこれで十分だ。存在が邪魔だからとっとと失せろ」

吸い終わったたばこを携帯灰皿に入れて、小切手を強引に握らせる。
小さい、冷たい手だと思いながら。

「受け取れません!そんな理由で受け取れるほどの金額じゃないです!」

そう叫んだ少女は、小切手をビリビリに破いて捨てた。
小切手の欠片が、風に流されてゆくのを見ながら、
舐めたことをしてくれる、そう思った。

「調子に乗るなクソガキ。そんな事を言うなら、なぜ消えなかった?
 最初に言ったはずだ。差し出された手を握るかその手をはたいて闇に沈むかだと。
 そんな理由?ならアンタが納得のいく理由を言ってみろ。
 誰もが感動するような理由が欲しいなら小説でも読んでろ。
 この世界は、そんなくだらない道楽で廻っている。
 搾り取られるだけの弱者が、奇麗事を言ってる暇なんて無い程の速さでな」

もう一度小切手に同様の金額を書いて渡す。
煙草が吸いたいと、くだらないことを頭の片隅で思いながら。

「もう一度言う。アイツに渡してとっとと消えろ」
「……」

それでも、力なく首を振る少女。
そろそろ飽きてきたところで、組の……もう組員Aでいいや。
組員Aがやって来た。

「旦那。お待たせしてすいやせん」
「いや……丁度いいかね。悪いんだけど今から爺さんの所に行きたいんだ。車出してくれないか?」
「……どうしたんすか?」
「存外強情でさ。久しぶりだし爺さんに直接渡す」
「わかりやした。この女はどういたしやすか?」
「本人次第。アンタはどうするんだ。爺さん……組の会長の所に行くかい?」

俺が借金を払うことに対して、諦めたのだろう。
おずおずと、それでもしっかりと彼女はうなずいた。
372名無しさん@ピンキー:2009/01/15(木) 23:48:24 ID:NhyS2PA5
シミ一つない畳。
金のかかってそうな掛け軸。
その下にはこれまた高価な壺。
真新しい障子の向こうには、何匹もの鯉が悠然と泳ぐ池。
年代物の座卓の上には茶が三つに小切手。
そんな金のかけすぎた部屋に、俺と爺さんと少女はいた。

服を着た悪鬼。
そんな二つ名をもつ爺さんに小切手を渡す。

「んじゃ、これで足りるよな?」
「ああ、借金分確かに受け取った。おめでとう譲ちゃん。これであんたは晴れて自由の身だ」
「ありがとう……ございます」

ぺこりと、頭を下げる少女。
そんな様子に、爺さんは笑う。
『服を着た悪鬼』なんて二つ名も仕事上での話だ。
内心、心苦しかったのだろう。
冷酷な笑みではなく、朗らかな明るい笑い方だった。

「しっかし……明日は槍が降るのぅ」
「いやいや、核の間違いだろう」
「違いない。病原菌とまで言われたお主がまさか、どこの馬の骨かもわからぬ女の借金を払うとはのぅ」
「固いこと言うなよ爺さん。鬼の目にも涙って言うだろうに」
「この場合、病原菌の情けじゃがな」
「だな。煙草吸うぞ」
「ああ、灰皿はそこにある」

煙草に火をつける。
紫煙が肺を犯す感覚が体に満ちると同時に爺さんが話しかけてきた。

「で、どうするんだ?」
「なにを?」
「この娘。このまま家に帰すのも悪くないが、家はもうないぞ?」
「……は?」

驚いて少女の方を見る。
相も変わらず、彼女は自分の足元を見つめていた。
改めて爺さんの方に向きなおる。

「爺さんが?」
「いや、儂とは違う組の奴らじゃ。新参の若造どもが儂の領地を荒らしおった」
「……彼の悪鬼、老いて力を、衰わす。か」
「誰が老いた誰が」
「まずは鏡を見ろ。話はそれからだ」

所々禿げた白髪の頭。
皺がよりきって真っ直ぐなところがない肌。
儂口調。
さて、齢70以上のどこが老いていないというのか。
小一時間ほど問い詰めたいが、時間がないので割愛。
373名無しさん@ピンキー:2009/01/15(木) 23:49:05 ID:NhyS2PA5
「で、どうするよ?それなりの家と真っ当な職、当面の生活費は保証してやれるけど?」
「偉くなったもんだのぅ坊主」
「偉くなったつもりはないが、これでも色々な企業を成功させたもんでね。……当初とは打って変ってだが」

遠い憧憬に思いをはせながら、煙草の火を消す。
……最近煙草を吸う本数が多くなってきたな。

「それより、坊主の家で侍従させるのはどうじゃ?」
「おいおい、冗談が厳しいんだが?」
「至極真っ当な意見のつもりじゃが?」

いけしゃあしゃあと、こんなことをのたまうジジイ。
俺のトラウマを知っているくせしやがって。
そんなことはつゆ知らず。
爺さんはつえを使って立ち上がる。

「どうした爺さん?」
「久しぶりに知人が来たんじゃ。それなりのもてなしはせにゃならん。
 準備にそれなりの時間がかかるから、その間に決めればいい」
「……へーよ」

ため息をひとつ……どうしろと。

障子の向こうに消える爺さんを尻目に、
俺は爺さんがいたところに移動する。

「で、どうするんだ?さっきも言ったとおり、それなりの家に真っ当な職、当面の生活費は保証してやれる。
 何か必要なものがあれば、その都度言ってくれれば用意できるしな」
「……」

少女は何も答えない。
ただただ、うつむいているだけだった。

「何か言ってくれないと始まらないんだが」
「……働かせて下さい」
「ん?ああ。どこで働くんだ?いろんなコネを持ってるからそれなりに選択肢は―――」
「―――あなたの所で、です」

……今何て言った?

「……ああ。さっきの会社か。辞めたばっかりだけどまぁ大―――」
「―――あなたの下で働かせて下さい」

顔をあげて力強く、少女はのたまった。

「……すまんが無理だ」
「何故、ですか」
「……精神的な問題。これの一言に尽きる。大体、もうちょっとマトモな選択肢があるだろう。
 OLとか、経営者とか、実力があるなら女子アナにもなれる。本音を言えば、これ以上アンタとかかわるつもりはないんだ」

二本目の煙草に火をつける。
もうすぐ無くなるな……後で買いに行くか。

「さっさと決めてくれ。そろそろ面倒になってきた」
「……働かせて下さい」
「あのなぁ……」
374名無しさん@ピンキー:2009/01/15(木) 23:49:53 ID:NhyS2PA5

会社を降りて、久しぶりにゆっくりできると思ったのに……
こんなところで疲れるとは思わなかった。

「……ひとつ、昔話をしようか」




それはある日の憧憬。
いつか見た行動原理。
そして、俺というパズルを構成する一つのピース。



 ……ある所に、幸せな夫婦がおりました。
 そんな夫婦に、子供ができました。
 ですが、子供が出来たところで、夫婦はけんかになり、やがて離婚しました。
 子供は母にの下ですくすくと育ちました。
 ですが、子供が5歳になったとき、母は詐欺に引っ掛かりました。
 簡単に返せるような額ではなく、母は闇に沈み、
 子供は孤児院に引き取られました。
 その孤児院はひどい所でした。
 ぎりぎり餓死しない程度の食事を子供たちに与え、
 子供たちに重労働を背負わせました。


 その子供はそこで、人を信用することをやめて、
 道具に執着するようになり、不眠症を患いました。
 子供は15の少年になり、ようやく孤児院を出ようとしたところで、
 母方のおじいさんの遺言が見つかりました。
 100億を相続させること、お屋敷に住んでほしいとのことでした。
 孤児院の院長に5千万ほど渡し、少年はお屋敷に移りました。
 お屋敷に移って半年ほど過ぎたころ、
 院長は5000万を逃げて闇に消えたと、風の噂で聞きました。
 それから少年はお金が嫌いになりました。
 さらに周りは敵だらけ。少年は人間を敵だと思い込むようになりました。


 そして、ふと疑問に思いました。
 なぜ母は闇に沈んだのかと。
 それから彼はいくつもの会社を立ち上げます。
 到底上手くいくとは思えないような会社ばかりを。
 どうすれば母のように闇に沈む事が出来るのか。
 それが彼の行動原理でした。
 ですが、その会社は期待を裏切ります。
 到底上手くいくとは思えなかったその会社は、
 いまでは最大手の企業でした。
 子供のころに患った、不眠症と重労働の経験がこんな所で活きてしまいました。

375moon buy:2009/01/15(木) 23:50:25 ID:NhyS2PA5
 ある人は言いました。
 「そこまでお金を稼いで何に使うのか」と。
 彼は答えました
 「稼ぎたかったわけじゃない、むしろ闇に沈みたかった結果がこれだ」と
 ある人は責めました。
 「なぜ困っている人たちのために使わないのか」と。
 彼は答えました。
 「そんな貴方は困っている人たちのために何かしているのか」と
 ある人は嘲笑いました。
 「病気ではないのか」と
 彼は笑いました。
 「何を今さら、それに病気ではなく病原菌そのものだ」と。

ある人は呆け、ある人は口をつぐみ、ある人は彼を妬みました。
そんな事もあり、彼の人間不信と道具に対する執着は、一段と激しくなりましたとさ。
それでも彼は止まりません。
自身が闇に沈む、その日まで。


煙草はいつの間にか燃え尽きていた。
ずいぶん長くしゃべったようだった。
注がれていた茶を飲む。
温かった。ただただ……ぬるかった。

「俺はもう、人を…人間を信用しない。俺が信用できるのは……道具だけだ。
 それに、闇に沈みたがっている俺についてきたところで、明るい未来は望めない」
「……」

俺の心情の吐露に、少女は答えない。

「…最後だ、働きたい所を言ってくれ」
「……私は―――」

ようやく、まともな職を言うのかと思ったら違かった。

「―――あなたの道具になります。
 …私を、3千万で買って下さい。
 立花雫という『道具』を、3千万で買って下さい」

少女―――立花雫はこうのたまった。

「……勘弁してくれ。大体、アンタに三千万の価値があるのか?」
「三千万の価値か、1円にも満たぬ価値になるかは、あなたの使い方次第です」
「……何故、そんな簡単に道具になれる?こんな得体の知れない男の道具になるなんて、まずあり得ない選択肢のはずだ」
「ならなぜ貴方は、道具という選択肢をくださったのですか?」
「……病気じゃないか?最低でも、正気の沙汰じゃない」
「あなたが望むなら、私は道具にでも病気にでもなります」

俺は言い、責め、嘲笑う。
少女は、ただ笑って答えるのみ。

俺は呆け、口をつぐみ、そして―――

「……病気は俺だけで十分だ。
 俺の名前は星夜流。お前を三千万で買い取る。
 雫。今日からお前は俺の『モノ』だ」
「……よろしくお願いします」

―――笑って答えることのできる彼女を少しだけ……羨ましく思った。
376道具の人:2009/01/15(木) 23:52:09 ID:NhyS2PA5
 (・ω・) 投下終了につき
 (゚Д゚)  脱出!

壁|ミ☆
377名無しさん@ピンキー:2009/01/16(金) 00:09:10 ID:ohLtlXBR
GJ。
ところでエロはいつ頃になりますかな?
全裸待機するタイミングがございまして…
378道具の人:2009/01/16(金) 00:16:50 ID:Dp2xraYk
待機するのは構わないけどさ

震えて眠れ
379名無しさん@ピンキー:2009/01/16(金) 00:39:46 ID:yRQA5ROs
GJ。

えーと、咲夜=雫、でいいのかな?
380名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 00:02:39 ID:WvZZk4oV
GJ

何かいい気分になったよ
381名無しさん@ピンキー:2009/01/18(日) 01:20:49 ID:juM8GCIB
>>378
犯人に告ぐw
382あやしいバイト:2009/01/18(日) 02:25:45 ID:R5ST5pUi
残り:今までに投下したのと同じくらい。長い。ばかみたいに長い。
アップローダー利用とかのほうがいいですか?


眠りに落ちる直前の続きだったから、すぐには夢だってわからなかった。
「結衣ちゃん」
耳のすぐ側で声を出されると吐息がかかる。首筋の産毛が動いたのがわかるくらい私は敏感に
なってる。
「んんっ……。はい」
名前を呼ばれたらちゃんと返事をする。それはうちでは絶対だった。いくら解散したからって
そんなに簡単に癖は抜けない。
でもそれ以前に、川島さんに呼ばれたら返事をしたい。
呼んで。
他の誰かじゃない、一被験者じゃない、私を呼んで。
もう胸に触れられても怖くない。
ペッタンコだけど川島さんはそれに対して何も言わない。
だって私の夢だもの。
こんなメリハリのない、女らしくない体、誰だって抱くのは嫌に決まってる。
だけどこれは私の夢だから。夢の中に出てくる人は私に対して誰も文句を言わない。
みんな私を大事にしてくれる。
どんなに似合ってなくたって、髪を伸ばしてリボンを結んでスカートを穿いていられる。
好きな人に抱いてもらえる。
しかも自分はまったく傷付かないで。
川島さんの手が肌の上を滑っていく。
たくさん泡立てたスポンジで体を洗っているみたい。
優しくて柔らかくて、触れられたところから気持ちよくなっていく。
「結衣ちゃん、好きだよ」
「わ、私も…っ、あ、はぅ…っ、好き、です」
全部嘘。全部夢。
全部私の望むこと。
男の人とこんなことをして、こんなふうに感じるとは思ってない。
自分の体も相手の体も生きてる。呼吸をしてる。汗をかく。
だからきっともっと生々しい。気持ち悪いこともあるはずだし、痛いこともあると思う。
でもいいの。
知らなくていい。
ずっと夢の中にいればいいから。
「川島さんで私をいっぱいにして……」
どこがなにでいっぱいになるのかくらいは知ってる。
現実だったら絶対に言えない。
川島さんは嬉しそうに微笑んで軽く頷いてくれる。
頭を撫でられる。
片方の足を抱えられ、広げられる。
そこは現実にはぜったい見られたくない場所だ。
自分の体は貧相だと思うけど、そこは貧相である上に幼い。私のその部分の体毛はすごく薄くて
少ない。まるで子供のように。
だから見られたくない。触れられたくない。
でも夢だから。
川島さんの手が、指が、そこに触れてくる。
「あああ…ん!」
ぐちゅ、と熟れた果実を握りつぶしたような音がした。
「結衣ちゃんのここはかわいいね」
「やッ…」
恥ずかしくなって目をそらす。
「待ちきれない、って言ってるみたいだ」
「やぁ……ん。言わ、ないで」
もっと言って。
欲しい。
夢の中くらい、欲しいと思ったものを全部欲しい。誰も私を傷つけない、幸せが欲しい。
「いくよ」
「はい。――っ! あ、ああっ、あはぁ…っ!」
383あやしいバイト:2009/01/18(日) 02:28:41 ID:R5ST5pUi
熱い塊で股の間がいっぱいになる。なんか塞がれたような感じ。
よくわからないまま私は声を上げてのけぞる。
体の中心に感じているのは川島さんの重みとぬくもり。
気持ちいい。
気持ちいいよお……。
もう、夢から覚めたくない。


それでも眠り続けるなんて事はできなくて、前の日の夕方から寝始めた私はその翌日の午後遅く
には目が覚めてしまった。
昼寝と合わせたらほぼ丸一日寝た計算になる。
でも薬を飲み始めてから私の体や感覚は、そういうあたりが麻痺してしまったみたいだ。
もっと眠っていたかったし、もっと夢を見ていたかった。
ううん、と伸びをする。
「おはよう」
突然薄暗い中で声がした。
びくっ、と体が動いてしまった。こ、怖かった。
私が寝ているせいで、川島さんは部屋のカーテンも開けられなかったんだろう。
それにしたって電気くらいつければいいのに。
「お、はようございます」
夕方近くにおはようってどうなんだろう。
パソコンの前の定位置で川島さんは、何もせずにただ座っているだけに見えた。
だって、パソコンのモニタのライトが川島さんの顔を照らしてない。
「どんな夢を見てたの?」
パソコンも起動させずに聞くの?
ちょっと不思議に思った。
でも聞かれること自体はこの生活を始めてからは当たり前のことだったから、私は深く考えずに
話し始めた。
「また、川島さんに抱かれる夢でした」
事細かに話すのはさすがに恥ずかしい。だから、何をどうしたなんて細かいことは言わない。
夢の中の川島さんは優しかった、ってことと、私はそれで嬉しかった、気持ちよかったってことを
言えばそれで終わりだ。その間川島さんは黙って聞いてる。昨日だってそうだった。
でも今回は違った。
「それがきみの望みなの?」
突然聞かれて、それは『はい』としか返事ができない問いで、でもそんな返事をしたが最後、
私はきっとここにはいられなくなるのが明かで、私はたっぷり一分は何も言えなかったと思う。
「な、なんでですか?」
やっと口にしたのはそんな時間稼ぎ。
それに答えず川島さんは
「お腹は?」
と聞いてきた。
「え? いえ」
それだけ言って首を振った。
起き抜けだ。まだお腹が空いたなんて感覚、無い。
「昨夜も食べてないのに?」
そういえばそうだった。
「昨日はお昼も食べてない。そして今日はもう夕方だ。ほぼ一日食べてないことになる。それなのに?」
そう……だったっけ?
でも本当にお腹は空いてない。お腹が空きすぎたときの胃の痛みも感じない。
ただ寝たいと思う。
あんなに寝たのにまだ眠い?
違う。眠くない。ただ寝たい。あの薬を飲んで夢を見たい。
「結衣ちゃん。きみは今、何をしたいと望んでいるの?」
「え?」
心の中を見られちゃったみたいな気がして聞き返した。
「今。まさにこの瞬間。お腹は空いてないって言う。ご飯を食べに外に出るのはおっくう? 
じゃ、出前を取れば食べる? 昨日からお風呂にも入ってないけどそれは? 遊びに行くのは
どう? 何かしたいと思うことが今きみの中にある?」
外に出るのはおっくう。お風呂も遊びに行くのもめんどくさい。ご飯を食べることもどうでもいい。
384あやしいバイト:2009/01/18(日) 02:31:33 ID:R5ST5pUi
ただ夢を見ていたい。
寝て、また川島さんとの夢を見たい。
「マウスは喋らないから」
川島さんは独り言のように言ってお尻ごとずらして、ベッドとは関係のない方を向いてしまった。
本当に独り言なんだろうか。そんなふうに背中を向けられると相づちを打っていいのかも
わからない。
「薬を投与し始めて三日もすると全てのマウスの動きが鈍くなった。見た目にはどこにも
異常を認められなかった。ただ、エサ入れの前にうずくまってじっとしている。
薬入りのエサを入れるとそのときだけ活発になる。エサを食べてしまったらまた
うずくまって眠ってしまう。一週間もしたら全てのマウスが一日中眠り続けるようになった。
まるで冬眠しているように」
「冬眠……しますか?」
ほ乳類で冬眠するのって、熊とかそんなのしか思い浮かばない。マウスって、ねずみって
そんなに寝る?
「ふつうはしないよ。だから僕はてっきり冬眠できる薬を作ってしまったんだと思った」
目の前のマウスがばたばた眠ってしまったんなら、そう思っても不思議はないかもしれない。
「簡単に言うと、寒くなるとまず体温を維持するために大変なエネルギーが必要になるわけだよ。
でも冬場はエサになるものも少ない。エネルギーの元にできるものが無い。
だから冬眠をする動物ってのは、まだエサが豊富な内に体や巣穴に蓄えておいて、
外気温が下がったら自分の代謝活動も低下させて活動をやめてしまう。
でもね。マウスはそんな寒い場所に置いていたわけでもないし、
エサも体に脂肪を蓄えられるほどには与えていなかった」
えーと?
マウスはふつう冬眠しない。で、川島さんが実験に使ったマウスは、冬眠しなきゃいけないような
状況、たとえばすっごく寒いところだとかに置かれてたわけじゃなかったし、
エサも薬混じりってだけで高カロリーなものをたっぷりってわけでもなかった。
なのに日が経つにつれマウスたちは活動が鈍ってきて、しまいには冬眠に似た状態になった……?
「そういうこと。僕はそんな薬を作ったつもりはなかった」
ふう、と細く息を吐いて川島さんはメガネを外した。そして眉間をあの長い指で揉んだ。
疲れてるんだろうか。
「僕は夢を見る薬を作ろうとしてた」
寝る薬じゃないんだ。やっぱり夢なんだ。
「現実の世界に影響される夢を見る薬、ってすごいと思わない?」
眉間を揉む指の隙間から、底光りするような川島さんの目が見えた。
怖い。なんで?
「夢を見ることで脳は影響を受けるか否か。その影響は現実の世界を変えるかどうか」
意味がよくわからない。
川島さんはいったい何の研究をしてるの?
「人は、生き物は、眠らずにはいられない。どんな野生動物だって眠る。寝ている状態
というのはとても無防備だ。それでも睡眠をとらないことには生きていけない」
川島さんの話はちゃんと聞いていないとわからなくなる。
いったい何に関係してるんだろう。
私?
私はたくさん寝てた。
夢をたくさん見て、すっきり目が覚めて、また寝たいって思った。
「眠りにはいるとまずノンレム睡眠が始まる。眠りは少しずつ深さを増して、
もっとも深い眠りの状態に入る。脳の活動はほぼ限界まで低下する。
これを徐波睡眠と呼んでいる。この段階で起こそうとしてもなかなか起きられないし、
夢は見ていないことが多い。脳の電圧変化を測るととてもゆっくりとした大きな波形を描く。
しばらくすると体は眠ったままなのに脳電図は覚醒状態と同じ波形を描き始める。
レム睡眠と呼ばれる眠りだ。この段階で起こすと脳は活動しているときと同じ状態に
近いからだろうが、さっぱりと目を覚ますし、約80%の人が『夢を見ていた』と答える」
「ふ……ぁ」
「眠い?」
あくびを見とがめられてしまった。
「あ、いえ。ごめんなさい。なんだか急に。あのっ、決してお話がわからないとかそういうことでは」
それじゃすごいバカみたいだから、そこは必死に否定を試みる。
あ、信じてない感じの顔だ。
「いいよ。退屈な話だね。けど、きみにも関係する話だからもうちょっと聞いて」
385あやしいバイト:2009/01/18(日) 02:33:40 ID:R5ST5pUi
「はい」
ベッドの上だから眠ってしまいそうになるんじゃないだろうか。
私は体を起こすとベッドの縁に座った。
ああ、でも体がふわふわする。寝たいな。やっぱ眠い。
困ったな。
知らない言葉が多すぎて意味を考えられない。
「ほぼ90分の周期でノンレム睡眠から徐波睡眠を経てレム睡眠というサイクルを
3回から6回繰り返すのが一晩の典型的な睡眠のパターンだ。その周期を繰り返すごとに
徐々に眠りは浅くなり覚醒する。ではもし繰り返しのない睡眠を取ったとしたら?」
「……は?」
繰り返しに何か意味があるのかな。
あるんだろうな。意味があるからそういう眠り方をするんだろう。
「眠っているあいだじゅう夢を見続け、目が覚めても覚えていられるようにレム睡眠に入ったら
それを覚醒するまで持続させる。そんな薬があったらどうだろう。そしてそれは、
その日もっとも強く印象に残った出来事を必ず夢に見せるという特性も持っている。
たとえば生まれて初めてキスをした。するとそれを夢に見る」
うわあ!?
「頬に触れる。抱きしめる。そうするとそれを必ず夢に見る」
見た。見ました。だからもうやめて。それは恥ずかしくて聞いてられない。
「もう少し強く影響するような薬を作れないだろうか。キスをしただけで抱かれてしまうような夢を
見る。優しくされただけで、自分はこの人に愛されている、と実感するような夢を見る。
それも強烈なリアリティを持った夢。現実と夢と、どちらが本当なのかわからなくなるような夢」
「ひえっ!?」
変な声が出た。
それは、すごく今の私の状況じゃないですか?
「そうしたらね、その薬はとても『使える』薬になる、と思ったんだよ」
「使える……?」
えっちな夢を見る薬のどこに利用価値が?
今の私はなんか幸せ。好きだけど絶対振り向いてくれないってわかってる人と、
現実なんじゃないかって勘違いするくらいすごい夢が見られる。
もしもこの薬が買えたりするんだったら買いたいと思う。
でも逆はどうだろう。好きでもない人をむりやり好きにさせる、くらいのことはできる
かも知れないけど、それで誰が得をするの? ストーカーしてる人が思いを遂げられるくらいの
ことしか考えつかない。
「たとえば――そうだな。もしも選挙運動真っ最中に、自分が思ってもいなかった候補者に
投票する夢を見たらどう思う?」
投票権、まだ無いんでぴんときません。
「街の中で声を張り上げてる車を見て『ああ、そろそろ選挙か』なんて軽く思う。そんな認識
しかない人たちが誰かに、はっきりと決まった誰かに投票する夢を毎晩見るようになったら、
どうすると思う?」
「き、気持ち悪い……かな」
投票所の夢ってなんかあんまり楽しくなさそうだし、自分が思っていた人に投票するならまだしも、
そうじゃない人に投票する、ってなると、なんか嫌だ。
「まあね。でも続く内に『なぜこんなに夢に見るんだろう。もしかして自分は本当は
この候補者の方がいい、と無意識に思ってるんだろうか』と思い始めたら?」
もう全然意味がわかんない。
思い始めたらどうだって言うの?
「夢によって『この人に投票すべきなんだ』と思わせる。当日実際に投票させる。これは
立候補者にとってはおいしい話だよ」
「そう、ですね」
一応肯定してみたけど、実はよくわからない。
だって、投票する『かも』なんでしょ? そもそもそんな夢をどうやって見させるの、って話だし。
「そんな暗示をかけるくらいなんなくやってのける人たちはいる。でもこの薬は今はまだ
直接関わらないと夢に見るほどの影響は与えられないみたいだ」
「え?」
川島さんはやっと眉間を揉むのをやめて、メガネをかけた。
「僕がきみにしてたこと」
ああ。
薬がカプセルなのに不必要に口移しで飲ませたり、一緒のベッドで寝て起きたら抱き枕状態だったりのあれか。
あれが!?
386あやしいバイト:2009/01/18(日) 02:35:07 ID:R5ST5pUi
あれは全部実験に必要だからやってたこと、っていう意味!?
座っているのに全身から力が抜けそうになる。
うそ。
そんなの嘘だ。
だって川島さんは。
私に好きって言ってくれたのは現実じゃない。夢の中だ。
私にかわいいって言ってくれたのも現実じゃない。それも夢の中でのことだった。
じゃあ、私が川島さんを好きだと思ってるのも、これは夢の中の川島さんを好きなだけで、
ここにいる現実の川島さんを好きになったわけじゃない、ってこと?
でも、じゃあ、どうして夢の中で私が好きになる相手が川島さんの姿をしてなきゃいけないの?
だってほんの数日前に知り合っただけの人だ。
そうだ。
好きになる方がおかしい。
困ってるところを助けてくれた。
お金がない、って言ったのに、それを助けるように、お金をくれた。
行くところも頼れるあても無い私は本当に助かったんだ。
だけどそれだけだ。
この人との関係はそれだけだ。
好きになるような出来事は何一つ起こってない。
夢を見る前にされたことに影響された夢を見て、川島さんはすてき、だの、川島さんは優しい、
だのってイメージが私の中で出来上がって、私は偽物の川島さんの前でなら自分を偽らずに
『女の子』でいられるって思い始めて、その川島さんを偽物だと気付かずに好きだと思ってしまった。
「ゃ……で、も……」
喉が潰れたみたいに声が出せない。
そんなのって。
そんなのってない。
「実験は成功したように見えたよ。三日目の夜にはもう僕に抱かれる夢を見た、なんてね」
口の中がカラカラなのに、目の前が水っぽくぼやけてくる。
やだ。
言わないで。
そんな夢を見る自分にびっくりした。でも嫌じゃない、と思い始めてた。
それが見せられてた夢なんて。
つう、と最初の雫が頬を伝い始めたら、涙が止まらなくなってきた。
「きみはキスの経験もない、って言ってた。その子がたったこれだけのことでそんな夢を見るまでになった。
それもたった三日で。これはいける、と思ったよ」
いける、って何ですか。
その薬を悪用するんですか。
何に使えるのか、私の頭じゃまだピンと来ないけど、なんか悪いことに使えるんでしょう、それ。
偉い人が使ったら多分世の中のいろんな事がぐるんとひっくり返っちゃうようなことができちゃうかも
知れないんでしょう。
川島さんはそういう悪いことに関わってる人なんだろうか。
「ところが」
川島さんは、小さな声で「よっこらせ」と言って座り直した。
私の方を向いてあぐらをかく。
「マウスだ。思い出して」
「え?」
涙がだらだら流れてる顔を上げてしまった。
川島さんは驚いた顔をして、ティッシュの箱を取ってくれた。
「マウスが冬眠状態になった、と言ったでしょう」
「ああ、はい」
なんかすごく悲しい気持ちなのに、つい返事をしてしまった。
だって、なんかもう、この目の前のことがどうでもいいんだもの。
目の前にいる川島さんは私が好きになった川島さんじゃない。私が見る夢の中の川島さんが、
私の好きな川島さんなんだ。だったらもう夢なら夢でいいから、私、夢を見たい。
眠ってしまって、幸せな夢を見たい。
話が早く終わってくれるんだったら返事くらいいくらでもするわ。


書き上がってますが残り容量が怖いので本日ここまでです。
387名無しさん@ピンキー:2009/01/18(日) 04:43:44 ID:qs0/nyUw
GJ!これは、きついな……なんというか……きついな
どう決着つけるのかまるで読めない。続きが待ち遠しいぜ
388名無しさん@ピンキー:2009/01/18(日) 05:53:28 ID:tWxgnXkJ
GJ
いよいよクライマックスに向けて盛り上がってきたな…!


>>残り
投下してもいいんじゃない? 他にえらく長い作品もある事だしw
ただ、スレの残り容量は気にした方がいいかも?
389名無しさん@ピンキー:2009/01/18(日) 05:56:51 ID:tWxgnXkJ
すまん、容量についてはちゃんと言及してあったな。
よく読んでなかった。重ねてすまん。
あと、30KB超か…
390名無しさん@ピンキー:2009/01/18(日) 09:17:09 ID:4kJlon1w
アプロダって携帯の人とかも落とせるのかな?
読めない人がいるようなら、普通に投下がいいと思う
個人的には、別に長いぶんには気にならないよ
391名無しさん@ピンキー:2009/01/18(日) 12:49:55 ID:ymAMioyM
は、早く続きください。
392名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 00:21:22 ID:n/umplZ1
gj!
続きの投下楽しみにしてんぜ。

…もう月曜か
393名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 00:30:03 ID:ZsfO3Rj9
あと残り30KBだから、投下には容量足りないんじゃね?

よしんば、ちょうど投下できても次スレへの誘導とか感想が限定されるし…

…次スレ、建てるか?
394名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 00:38:54 ID:TAIhjo6M
ああああとうとうまとめに入ってしまうのか…
毎回すごく楽しみにしてたから、終わってしまうのはさびしいが
続き楽しみにしてます
395名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 01:25:12 ID:gZ+ZZ4bt
次スレ……次スレがあれば続き読めるのかな?
建ててみる
396名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 01:31:09 ID:gZ+ZZ4bt
金の力で困ってる女の子を助けてあげたい 3話目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232296111/

建てました。ちょっと早漏だったかな……
続き期待してます
397あやしいバイト:2009/01/19(月) 01:38:19 ID:FYMCzQNg
わがまま言ってるのに申し訳ない&ありがとう。
>>395 スレ立て乙です。
続き置いていきます。


「その原因は何だろう。投与期間に、あるいは量に限界があるのか。でもマウスは喋らない。
マウスはどんな夢を見ていたかも教えてくれない。だから人体実験に踏み切った」
それで私なんですね。
多分、私がどこにも行けない状況だったのも「うってつけ」だったんですよね。わかってます。
「多感な時期の女の子であること、身寄りが極端に少ないこと。これはとても都合が良かった。
命に関わるようなものは作ってないけど、それでも万が一って事もある。でもきみなら
――その点の心配は必要ない、と考えた」
川島さんの声が右から入って左に抜けていくような感じがした。
壁にもたれかかって座る。
この人にとって私、本当に20万で買われた実験動物だったんだ。
手足から力が抜けていく。
かっこいい、と思った川島さんの顔を見る気にもなれない。
ただ寝たい。
眠くて、寝たくて、朦朧としてきた。
薬が欲しい。
「でもこの薬はだめだ」
わさわさと布が擦れるような音がした。
ベッドの縁が沈む。
川島さんがこっちに動いてきたんだ。
はなし、まだ続きますか?
眠っちゃだめですか?
「まず第一に、命に関わる。無気力どころじゃない。きみは食事をしなくなってる」
だって、お腹空かない。
それに一食や二食抜いたくらい、どうってことない。三日くらい食べなかったら大変だろうけど。
「マウスたちがエサだけを食べていたのは、それ以外の幸せを知らなかったからだろう、
と推測する。彼らがもし夢を見るとすれば、きっとエサをたらふく食べる夢を見ていたと思う。
だからこそエサ入れのすぐ側で眠り、エサが入れられればそれをすぐに食べ、
また眠っていたんだ。夢と現実の境が曖昧になりながら、彼らは常に『満腹』という幸せを
得ていたはずだ」
わけわかんない話が子守歌になる、って本当だったんだ。
ねずみたちはきっとやさしいおじいさんが穴の上からおむすびを落としてくれた夢を見ただろう。
おむすびころりん、すっとんとん。もひとつおまけに、すっとんとん。
そうしてお腹いっぱいおむすびを食べるんだ。
おむすびの後に穴に落ちたおじいさんはきっと、川島さんの顔をしているだろう。
ねずみたちは川島さんを、お餅をついてもてなしたんだ。楽しかっただろうなあ。
だって夢の中は楽しい。そう決まってる。
「次に副作用がある。副作用、と断じていいかわからないが、夢から覚めた後もまだ
夢うつつなのは僕の意図していたところだ。だが、睡眠を充分にとっても
まだ寝てしまうのならこれは使えない。レム睡眠を連続させる不自然さに
体がついていかないのかもしれない。僕の使ったマウスは常に眠ろうとした。
眠っている間に見る夢の世界に生きていたからなのか、眠っているはずなのに
眠っていない状態に陥っていたのかそれはわからない。けど、この薬に必要なのは、
夢を現実と取り違えることと、取り違えたまま行動できることの二点だ。眠っているばかりで
動けないのならこれは失敗作だ」
失敗か。
「だから実験はここで打ち切る」
「え!?」
半分くらい眠りかけていたけど、一気に目が覚めた。
打ち切る?
終わり?
「じゃ、私は?」
ここを出て行かなくちゃいけないの?
もう薬は飲めないの?
あの夢は見られないの?
398あやしいバイト:2009/01/19(月) 01:39:38 ID:FYMCzQNg
「残りのバイト代を払うよ。もう薬は飲ませるわけにはいかない」
川島さんは立ち上がると、台所へ行った。食器棚の引き出しを開けて、封筒を手に戻ってくる。
「80万入ってる。前金と合わせて100万」
差し出された封筒を受け取れない。
合わせて100万!?
なんで?
「そんなにもらえません」
実験が最後までできなかったのに、そんな大金もらえない。
「きみには必要なはずだ。これでも足りないくらいだと思う。家を探すというのなら
手伝ってあげる。保証人が必要だというならなろう」
「なんでですか」
私のことなんかどうでもいいはずだ。
だって『実験に都合がいい人間』ってだけだもの。
他に助けを求めるあてもない、身寄りだってどこに行ったかわからない父さんと
兄ちゃんだけだもの。兄ちゃんは最悪会社に問い合わせれば連絡は付くだろうけど、
せっぱ詰まらない限り頼れなさそうな雰囲気を、兄ちゃんからではなく兄ちゃんの恋人から感じた。
だから。
私は多分『私』として、つまり『松下結衣』として必要とされてる場所をどこにも持ってない人間なんだ。
「きみに対してはそうしたいと思ったから。それじゃ理由にならない?」
「なりません」
だって。
だって、あなたは私のことを。
泣きたいのに、目がぴりぴりするだけで涙が出ない。
瞬きをして、気が付いた。
これが、川島さんが言っていた『肥大した自意識』なんだ。
笑えてくる。
私を見て。私だけを見て。私だけを大事だって言って。
そんな気持ちがふくれ上がって、でも実際には川島さんは私を『私』じゃなく
『被験者』としか思ってなくて私はその現実を受け入れられない。
私が『私』だった、しかも『そうなりたかった私』だった夢の世界に帰りたくて仕方ない。
川島さん。あなたは天才かもしれない。あなたの薬は、私の夢と現実の世界の境界を
めちゃくちゃにしてしまった。
私はもう『こっち側』にいたいと思えない。
好きだなんて思わなければ良かった。
もう涙は流れていないのに、私はもう一度ティッシュで目を拭いた。
「お願いがあります」
「なに?」
「前金の20万と今いただいた80万で、あの薬を売ってください」
こんなお金使い切ってしまえばいい。
そしてありったけの薬を飲んで寝てしまおう。
どのくらい眠れるかわからないけど、きっとかなり長い時間眠っていられるはずだ。
長い間、幸せな夢だけを見て眠って、そしてそのまま。
川島さんは一瞬目を見張ったけど、すぐに
「だめだ」
と言った。
「なぜ……」
「無認可の薬なんか、売れるはずがないだろう。それにこの薬が失敗作である理由は
言ったはずだ。命に関わる、と。そんなものを渡すわけにはいかない」
つい、くすっと笑ってしまった。
そんなものを飲ませたくせに。
私、契約書まで書いたのに。
今更だ。なにもかも。
「なるほどね」
私が笑ったせいで、考えるような表情になっていた川島さんが口を開いた。
「つまりきみはそこがどうしても克服できないんだな」
「え?」
「克服でないなら納得と言い換えてもいい。きみは別に僕に抱かれたかったわけじゃない。
女の子になりたかっただけだよ。違うかい?」
399あやしいバイト:2009/01/19(月) 01:41:21 ID:FYMCzQNg
違う、と思います。
「ふつうはね、『僕の家に来る?』って聞かれて、会って10分も経たないような男に
ついて行かない。どんなに困った状況にいたって、警戒するものだよ。なのにきみは
あっさりついてきた。聞けばお兄さんがいると言う。警戒心の無さはそれかとも思ったけど、
僕ときみのお兄さんじゃ年齢からして合わない。きみが警戒心を抱かない理由にはならない。
じゃあ、なぜきみはついてきたか」
そりゃ他に行くあてが無かったから。
「きみは心のどこかで自分を女じゃないと思い込もうとしている部分があるんだよ。
相手が誰であってもあまり態度が変わらないから、男女関係なく誰とでも仲良くできそうでいて、
深く付き合える相手がいない。自分で一歩引いてしまうし、相手もどこまで
きみに踏み込んでいいのか掴めない」
そんなの知らない。
だってずっと女の子になりたかった。
みんなと同じように髪を伸ばしたり、休みの日に目的もなくぶらぶらしたり、かわいい服を着たり
好きな人の話をしてみたりしたかった。
「したいのにできない。抑圧されたその感情は逆に向かう。できないのではなくしないのだ、
と行動を正当化する」
そんなことしてない。
「男の家に転がり込んでも何も起こらないと思っている。自分は女じゃないから。
他人に女だと認めてもらえないから。女に見られないんだったら綺麗に着飾ることもない。
服装だってユニセックスな物になっていく。行動も仕草も、どうせ何をやっても女だと
見てもらえないなら、と変化していく」
そんなことない。
そりゃ、ここに来てからはスウェット上下とかの格好が多かったけど、
それは仕事が寝ることだったから、寝やすい格好を選んだだけで、それ以上の意味は……。
「ついこの間まで高校生だったのに、好きな子もいなかった?」
それは。
好きだって思えるような人がたまたまいなかっただけで。
そんなの私のせいじゃない。
現に私は川島さんを好きになった。薬や夢が大きく影響してるかも知れないけど、
本当に好きだと思った。
男の人を好きだって思う私はちゃんと女だと思う。
「自分で作った枷が僕の薬のせいで外れちゃったんだよ」
川島さんの手が伸びてきて頭を撫でられた。前髪をかき上げるように髪の中に指を入れてくる。
「僕に抱かれるような夢を見たのは、誰でもいいから誰かに女性として扱われたい願望の表れだ。
それ以上の意味は無い。だからきみは安心してその気持ちもあの夢も忘れていい」
「川島さん……」
「キスは、ごめん。こんなおじさんが最初で、本当に悪いことをしたと思ってる」
なんで。
忘れなきゃいけないの?
嫌じゃなかった。
川島さんとキスしたのは嫌じゃなかった。
何をどう言えばいいのかわからなくてただ首を振る。
でも川島さんは困ったように微笑んだ。
「そう簡単に忘れられるわけないか」
忘れたくないです。
実験は終わってしまった。でも私は川島さんを好きでいたいです。
たとえそれが夢のせいで植え付けられた恋心だとしても。
「薬を売ってもらえないのなら、こっちならきいてくれますか?」
せめてひとつだけ。
「なにかな」
「私を抱いてもらえませんか?」
夢の中でなく、現実で、女だと実感させてください。一度でいいから、それきり終わりで、
その後はさようならで二度と会えなくてもいいから。
川島さんは痛みを堪えるように顔をしかめた。
ぎし、と音がしてベッドのマットが揺れる。縁に座っていた川島さんが立ったんだろう。
ぎゅっと抱きしめられた。
背の高い川島さんの腕と胸の中に閉じこめられたようで、体中から力が抜けていく。
あたたかい。
川島さんはもちろん、こうして抱きしめられていると体の内側からじわっと温かくなる。
400あやしいバイト:2009/01/19(月) 01:42:39 ID:FYMCzQNg
なんて安心できる場所なんだろう。
夢と一緒だ。ううん。それ以上だ。自分の内側から満たされていく。
川島さんが喉が絞られたような変な声を出した。
「ごめん」
たった一言。
それで充分だった。
温かいもので満ちかけていた私の体が凍り付く。
頬がこわばる。
そんなに、私は、だめ?
川島さんは四十って言った。女の人との関係は当然あるだろう。
こんな子供に口移しで薬を飲ませちゃうくらいだ。きっとそういう事に慣れてる。
そういう人が、戯れにでも抱けないって言う。
そのくらい私はこの人にとって女じゃないってことなんだ。
腕が離れていく。
「いえ。すみませんでした」
頭を下げるふりをして川島さんから目をそらす。
無理を言ったのは私。
これで決心が付いた。
「実験終了なら、もう薬は飲まなくていいんですね?」
「ああ。もう飲んじゃだめだ」
じゃあ、と私は布団をめくった。
「ふつうに寝ます。明日から家を探そうと思いますが、見つかるまではここに置いてください」
「もちろん。家探しも手伝うし、手伝えることがあったら言ってく」
「ありがとうございます。それじゃ、おやすみなさい」
川島さんの言葉を遮ってお礼を言った。
話のさいちゅうはあんなに眠かったけど、もう眠気はすっかり消えていた。
でも私は目も合わさずに挨拶をして、布団を被って、壁の方を向いて目を瞑る。
眠くて仕方ないふりをする。
「結衣ちゃん。食事やお風呂は」
「なんだか疲れてるので明日にします。私のことは気にせずにどうぞ」
薬を飲むのをやめたんだから、もう私を監視する必要はないはず。
私が食べてないんだから、と外食はしないかもしれない。
でも、食べる物を買いにコンビニに行くくらいのことはするかもしれないし、
お風呂にだって行くだろう。
川島さんは私が薬を飲んで眠ってしまってからお風呂に入っていたようだ。
監視をしなくてはならないのは私が起きている間だけ。
薬を飲んだら私はぐうぐう寝ているんだからその隙に自分のことをしていたに違いない。
そこまで考えて、あの抱き枕状態の理由にも気が付いた。
あれは、万が一私が先に起きた場合の保険だ。
寝ている川島さんが私が起きたことに気が付くためには、
私の体を押さえているのが一番わかりやすい。
そんな理由だったんだ。決して特別な意味があったわけじゃない。
どんどん心が冷えていく。
ともかく、川島さんは私が寝たと思ったら絶対にお風呂に行く。
何時間後になるかわからないけど、きっとお風呂に入る。
その時がチャンスだ。
401あやしいバイト:2009/01/19(月) 01:43:57 ID:FYMCzQNg


息を殺して寝たふりをするのは苦しい。
すぐに耐えられなくなって、はふ、と大きく息を吐いた。
本当に寝ているときってどんな息の仕方をしてるんだろう。
知ってるはずがない。寝てるんだもの。
でも多分こんなふうに力が抜けてるはず。
だから私はゆっくりと呼吸を繰り返した。深呼吸のように長々と吐いて、ゆっくりと細く吸い込む。
あとどのくらい待つことになるのかわからないんだから、力は抜けてる方がいい。
ふいに肩に温かい物が触れた。
動かないようにするのが精一杯だった。
川島さんの手だ。
なに? ひっくり返されるの? 寝たふりってばれた?
力を入れちゃいけない。
でも心臓がドキドキする。
川島さんの手はしばらくすると離れた。
そして溜息がひとつ。
足音が遠ざかる。
洗面所のドアの開く音。電気のスイッチの音。それからちょっとして、
お風呂のドアが開いて閉まる音。
もう少し。
もう少しだ。
かすかにシャワーの水音が聞こえてきた。
それでもまだ安心できなくて、そこから百数えた。
もういいだろう。
咄嗟にこっちに戻ってこられないくらいには川島さんの体は濡れたはずだ。
ベッドから起き出す。
常夜灯の薄暗いあかりの中でもその場所へは迷わずに行けた。
本棚の上から二段目。私にだって手が届く高さに置いてあるインスタントコーヒーの瓶。
その中に入っているのはつい数時間前まで私が飲んでいた薬だ。
瓶を手に取る。
フタを捻り、受け皿代わりにしてそこへカプセルをざらざらと出した。
あんまりたくさん出すと、私が取った、ってすぐにばれちゃうだろう。
でもばれたっていい。もう構わない。
このカプセルだけ持って、川島さんがお風呂から出てくる前に私はここからいなくなるんだから。
荷物もなにもかも置いて出て行けばいいんだから。
「なるほどねえ」
声と同時に部屋の灯りがついた。
ぎょっとした拍子に瓶を取り落とした。
「あっ!」
慌てて手を伸ばすけど掴めるわけがない。
瓶は床に落ちて、カプセルがざあっとこぼれた。
「依存症というのはものがなんであれ深刻だ」
川島さんが部屋の入り口の壁に寄りかかって腕組みをしてこっちを見てた。
「な、なんで……」
「なんで?」
だってお風呂に行ったじゃないですか。
川島さんはなんだか意地の悪い微笑みを浮かべて言った。
「そりゃ警戒してるからに決まってるでしょう。寝息らしきものは立て始めてたけど、
体を触っても入眠したと思えるような弛緩は起こって無さそうどころか緊張してるように見えたし。
それに『薬を売ってくれ』なんて言われてるんだ。疑わない方がどうかしてる」
ああ、つまりこうやって薬を盗むだろう、って思われてたんだ。
もう私はどこまでこの人に嫌われればいいんだろう。
ただの被験者でさえなくなってしまった。未遂とはいえ泥棒で、失敗作とはいっても
これを元にまだ何かするんだろう貴重な薬を床にぶちまけて無駄にした。
今更拾ったって多分3秒ルールってわけにはいかない。
うなだれる私に川島さんは
「心配しなくていい。それは全部偽薬だから」
と言った。
402あやしいバイト:2009/01/19(月) 01:46:16 ID:FYMCzQNg
「ギヤク?」
「そう。偽物の薬。中身はブドウ糖やビタミン剤とかそんなもの。薬を飲んだ、と思いこませるために
使う物で、体に害は無い。いくらなんでもそんなところに本物を放置しないよ。作ったときのデータがあるから薬はすでに処分してある」
どこまで用意周到なんだろう。
そうだよね。私みたいな不心得者がいるものね。
こんな危ない薬、誰でも手が届くようなところに置いてるはず無いよね。
「そうまでして薬がいるの?」
その問いに答えろって言うんですか?
他ならぬあなたが。
「夢はどうしたって現実じゃないよ」
「わかってます」
そんなことはわかってる。現実にはこんな幸せなことは起こらない。
だから夢の中に逃げ込むしかない。
「そんなにきみの見た夢は幸せだった? そんなに叶えたい夢を見たの?」
あなたが好きでした。
薬のせいだったのかどうかなんて、どうでもいいです。関係ないです。
ただ好きなんです。夢で見たようなことをしたい、されたいと思うほど好きなんです。
でもそれは叶わない。
絶対に現実には起こらない。
ごめん、っていうたった一言で私は拒絶されてしまった。
私は確かに自分中心で物を考えているし、そうだったらいいなあ、だけで生きてきたんだと思う。
うちにお金が無いってだけで一家離散したし、お金をもらえるって思って
得体の知れない薬を飲んだ。
人生ってすごく簡単に狂う。
思ってもみなかった状況に自分がいる。
それでも。
それでも今私はここにいて、感じることがあったり、考えることがあったりするんです。
あなたから見たらそれはとてもバカバカしいことだろうし、ガキのたわごとだと思います。
でも私は今これが精一杯なんです。
誰かに迷惑をかけることしかできない。
迷惑をかけて生きていくしかできないなら、迷惑をかけないためには――。
この薬をいっぱい飲んで、眠ったままでいればいい。それがきっと一番いい。
「薬の効果が抜ければきみはきっとその気持ちを忘れる」
川島さんはふいと壁の方へ顔を向けた。
「薬のせいでこんな気持ちになってただけだ。だからあれ以上のことをしなくて良かった。そう思う日が
すぐに来る。なんといってもきみはまだ若いんだから。未来はきみの前でまだ何の形も取っていないんだから」
説得、されてるんだろうか。
でもそれにしては川島さんの声はやけっぱちな感じに聞こえた。
「二、三日ふつうに生活してごらん。体に蓄積された成分も排出されてしまうだろう。
そうしたらきみは新しい生活に踏み出す。こんな実験のことも、僕のことも忘れて、新しい家を見つけて、
仕事を見つけて、きみの人生を見つける。僕とは関わっていない未来がある」
川島さんはそう言いながら自分の腕をぎゅっと握りしめていた。
服のしわがきつく寄る。握りしめてる拳が震えてる……?
「眠れるならなにもせずに眠りなさい。そうでないなら、風呂に入るなり食事をするなり、
とにかく薬を飲んでいる間はしなかったことをしなさい」
そんなことを言われても。
何も言えなくて、私はしゃがむと落としたカプセルを拾い集める。
たとえ偽物のカプセルでも片付けないと。
「そのままでいいから」
「いえ。落としたのは私なので」
それに、他に何をしたらいいのかわからない。
川島さんは大きな溜息をつくと、どこかへ消えた。
水音が止まる。出しっぱなしになってたシャワーを止めてきたんだ。そしてゴミ箱を持って
私の側にしゃがんだ。
拾いながらどんどん捨てる。偽物の薬とはいえもったいない。中身がビタミン剤なら
サプリ代わりに使えるんじゃないだろうか。でもカプセルの表面はちょっとぺたぺた
し始めている。床の埃もくっついている。
捨てるしかないんだ。
403あやしいバイト:2009/01/19(月) 01:47:24 ID:FYMCzQNg
「結衣ちゃん」
「……はい」
「僕は今日はよそへ行くから」
「はい?」
「別の場所で寝るから」
もう一緒のベッドで寝ることさえ無いんだ。
胸の真ん中を砲丸が通り抜けていったような感じがした。
痛い。大きな穴が開いて、風が抜けていく。寒い。
「は……」
『はい』以外の返事をしちゃいけない。
いけないんだけど。
「い……やです」
「は? 結衣ちゃ……」
「嫌です!」
川島さんの袖を掴んだ。
「どこにも行かないで! 行っちゃやだ! 私がだめならだめでいいです。でも側にいるのもだめだ
なんて、そんなのやだ!」
「結衣ちゃん、待って」
川島さんはぺたりと尻を落として、詰め寄る私の体重を支えようとした。
周りには積み上げただけの本の壁もある。
でももう崩したって知らない。
もう片方の手で胸ぐらを掴んでのしかかった。
「結衣ちゃん!」
「初めてのわけ無いよね、って言ったのは川島さんじゃないですか! 経験があっても
おかしくない年なんでしょう? だったら」
困っているのか慌てているのかはっきりしなかった川島さんの表情が急に引き締まる。
「だめだ、結衣ちゃん。言うな」
「抱いてください」
「聞かない。僕は聞いてない」
「初めては川島さんがいいです。抱いてください」
苦しそうな顔をして川島さんは横を向いた。
「聞いてない。だめだ」
「何度でも言います。好きです。私に未来があると言うのなら」
ぽた、と涙が落ちた。
やだ。興奮して涙出てきた。
「その未来に踏み出すための勇気をください。一度でいいから抱いてください」
忘れないから。
生涯忘れないから。
お金では絶対買えない大事な何かを私に教えてください。
「ゆ……」
言いかけた唇をぎゅっと引き結んで、川島さんはぐっと私を抱き込んだ。
「ひゃっ……」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。腕と胸とに挟まれて苦しい。
「かわし、まさ……ん、くるし」
息ができない。
ゆっくりと川島さんの腕から力が抜けた。
やっと呼吸が楽になる。
「どこまで信じたの?」
「…………え?」
初めて聞く低い低い声と、唐突な話の方向転換について行けなくて、十秒くらい呆けた。
「僕の話を。どこまで信じたの?」
信じるもなにも。
だって本当のことでしょう?
私、夢見てたよ。ぐっすり眠って、目覚ましも何にもないのにすぱっと目が覚めて、夢の内容を
これでもかってくらい覚えてたよ。
それはさっき川島さんが言ってた――なんだっけ?
夢を見るときの。レム睡眠か。たっぷりその状態になって、眠りが浅くなるとかなしに
突然目が覚めてたんじゃないの?
「本気でそんな薬があると思ってる?」
404あやしいバイト:2009/01/19(月) 01:49:23 ID:FYMCzQNg
「そう言ったじゃないですか!」
「そんなもの一人で作れるわけないだろ!」
え?
えええ?
はあ、と溜息をついて川島さんはメガネに触れないように手で額を抑えた。
まぶしくてひさしを作ってるわけじゃないよね。これ、頭抱えてるんだよね。
「そんなとんでもないもの作れるわけがないじゃない」
もう一度自嘲気味に言うと、川島さんは私を抱えてくれていた手をすっかり離した。
「夢を見るっていうのはレム睡眠の特徴だ。そしてレム睡眠のさいちゅうに目が覚めた被験者は
たいていすっきりしている。ということは」
「ということは?」
「眠りのサイクルを無視してレム睡眠ばかりを取ることができたら人間は睡眠時間を削ることが
できないだろうか」
「……川島さんはいったい何の研究をして、何の実験をしようと思ってたんですか?」
よくよく考えてみたら、バイトを始めるときにこの人は『夢を見てそれを覚えておいてね』って言った。
それは内容がだんだん過激になる内容をしっかり覚えておけ、ってことじゃなく、レム睡眠の状態で
いてね、って意味に取れないこともない――かもしれない――ような気も――。
なんかこんがらがってきた。
「睡眠不足ってとても怖いことなんだよ。知ってる?」
川島さんは膝を抱えるように座ると話し始めた。
現代人は睡眠を削ることを社会から要求されている。睡眠を削ればその分仕事に充てられる。
仕事量が増えれば生産性が上がる。生産性が上がれば社会全体が潤う。
寝るな。働け。
それが正しい社会人というものだ。
朝早くから長時間満員電車に揺られ通勤し、仕事は時間内に終わらずサービス残業を強いられ、
へとへとになってまた電車に揺られて帰宅してもすぐに寝床へはいけない。
眠らずに生きていくことは不可能なのに、生活をするために睡眠時間を削らなければならなくなる。
慢性的な睡眠不足を抱えた人々は、日中も頭の働きがぼんやりするし、積極性も見られない。
仕事量も生産性もがた落ちだ。ストレスも溜まる。ミスを起こしやすくなる。抵抗力が落ちる。
せめて人間が必要としている八時間の睡眠が取れれば。
本来なら成人であっても十時間は正しい睡眠を取りたいところなのだ。
「でも社会はそれを許さない」
決められた労働時間。時間内には終わらないオーバーワーク。
「どこで取り返す? 休日に寝だめをする? それでも週の半ばにはまた睡眠不足を感じて
体には疲労が蓄積される。社会のサイクルを変えるのがムリならいっそ睡眠のサイクルを
変えてしまったらどうだろう」
十時間眠りたいところを短縮する方法はないだろうか。
浅いノンレム睡眠から始まり徐波睡眠、そしてレム睡眠へ移行し、深い眠りは徐々に浅くなり、
だがそこではまだ覚醒せず再び深い眠りへと落ちていくこの周期を変えることはできないだろうか。
体はぐっすり眠って疲れを癒し、脳も一日をリセットして明日の活動をスムーズに行える
睡眠の仕組みはないだろうか。
「もちろん、レム睡眠を連続させる危険性は考えた」
「危険があったんですか?」
あるよ、と川島さんは答えた。
「科学が進歩して、他の動物とはまったく違う生き物になっちゃった人類が大昔から変えてない、
変えられなかったものだよ。それを弄るんだから危険に決まってる」
そんな危険がある薬を飲んでたの!?
あれ? でもそんなもの作れないって言った?
「僕はそういう研究をしてました。学生たちは当然それを知ってた。だから学生たちに
実験に協力してもらうわけにはいかなかった」
「学生を使おうと思ってた、って言ってませんでしたか?」
「うん。それも嘘」
川島さんはあっさりと言った。
「彼らに偽薬は効かないから、僕の研究を知らない人に実験に参加してもらわないとだめなんだよ」
「偽薬ってさっき言ってた……」
ちらりとゴミ箱を振り返る。
全部捨てられてしまった、中身はブドウ糖やビタミン剤っていうカプセル。
「うん。きみにとっては本物になっちゃったみたいだけどね」
「は? え?」
405あやしいバイト:2009/01/19(月) 01:50:12 ID:FYMCzQNg
川島さんはくすっと笑った。笑ったんだけれどそれはとても疲れた笑いに見えた。
「寝る前に飲んでたでしょ」
「やっぱりあれを飲んでたんですね? 実験終了って言った後ですり替えたとかじゃ
なかったんですね?」
本物を処分して偽薬を、なんてそんな暇無いと思ったもの。
川島さんは頷いた。
「ずっときみはブドウ糖だの整腸剤だのビタミン剤だのを飲んで、僕の暗示にかかって寝てただけ」
すい、と川島さんの手が伸びてきた。頭を撫でられる。
「ありがとうね。素直な子で助かったよ」
なんかバカにされてる気がする。
「そんなわけだから」
川島さんは私の頭に手を乗せたまま、ふい、と目をそらした。
「一時の気の迷いは忘れてしまいなさい」
なんか、変よ。
なんかうまいこと煙に巻かれてない?
この、はっきり形にならないもやもやした疑問を確かめる方法は無いだろうか。
「じゃあ忘れます」
「うん。そうしなさい」
川島さんはほっとしたような声を出した。
それだけでも状況証拠に思えるんだけど。
私は立ち上がると、まだ中身がほんの少し残っているコーヒーの瓶を手に取った。
本物を偽物にすり替える暇はなかった。じゃあこの中身は最初から偽物だったのか、
それとも本物だったのか、どっち?
「体に害は無いんですよね。ブドウ糖って『脳の栄養』ってCMで言ってましたっけ」
「結衣ちゃん!?」
「整腸剤ってあれですか? 『生きて腸に届く乳酸菌』的な。確かにどれを飲んでも
問題無さそうですね」
手のひらにひとつ出す。
ブドウ糖かな。整腸剤かな。ビタミン剤かな。
スリルのないロシアン・ルーレットだわ。
「飲むな!」
立ち上がるやいなや川島さんは手をはたいてきた。カプセルが飛んでいく。
「やっぱり、本物なんですね?」
振り返りながら聞く。
「違うと言ったはずだ」
川島さんはコーヒーの瓶を取り上げると中身を全部ゴミ箱にあけてしまった。
「ならどうして全部捨てるんですか」
「偽薬といえども薬品を軽々しく扱うな」
「体に影響は無いって言ったじゃないですか」
抱き合う寸前くらいまで近づいてにらみ合う。
「川島さんは、私に責任があるって言いましたよね」
薬を飲んで私に万が一のことがあった場合の責任は川島さんが、って言った。
「結衣ちゃん、話を聞いて」
「聞きましたよ。どれが本当でどれが嘘ですか?」
あの長い長い話のどこまでが本当でどこからが嘘だったのか。
私が飲んだ薬は、本当は何ができる薬なのか。
川島さんは何をどうしたかったのか。
詰め寄るようにつま先立った。
川島さんと私の身長差はそれでもちっとも埋まらない。
「なんでだ。納得できる話を作ったつもりだぞ」
どれがそうなのかわからないけど、やっぱり嘘だったんだな。
「納得できないですから」
「どうしたいの? 何が望み?」
つま先でバランスが取れなくて川島さんの胸に倒れ込みそうだったのを支えてくれて、
川島さんは諦めたのか、ひどく冷たい声を出した。
「薬は渡せないよ。もっと金が要る?」
「両方とも要りません」
夢に逃げ込むなって言ったのは川島さんだ。
406あやしいバイト:2009/01/19(月) 01:50:53 ID:FYMCzQNg
「じゃあなに?」
「抱い……」
「それは絶対に駄目だ」
川島さんは私を遠ざけるように腕を突っ張った。
「絶対に後悔する」
「しません」
きっぱり言って、じっと川島さんの目を見上げる。でも目を合わせてくれない。
「僕は今年で三十八だぞ」
「四十って言ってたじゃないですか」
なんで急に年齢の話なんか。
「あれはもうすぐ四十、って言ったの。だいたいきみね、僕がどんな気持ちで……」
私は川島さんの腕を振りほどいてぶつかるように抱きついた。
うわって声を上げる川島さんは、私ごときでは倒れなかった。
「二十二歳も違ったら親子だわ、って思ってたけど、二十歳違いなら平気ですよ」
言った後で、平気かな、と思った。
あんまり変わらないような気もする。
いや、でも、二十歳って成人したばっかりよ。それで子持ちって――いるか。
親子か。
「充分親子だよ」
川島さんにも言われてしまった。
「でも本当の親子じゃないです」
「当たり前だ!」
こんな大きな子供、いてたまるか、と川島さんは言った。
私も困る。こんな、もうすぐ四十のくせにこんなかわいらしいお父さんなんて困る。
っていうかお父さんだったらこんなことできないから困る。
「事実がどうあれ、私にとってあの薬は本物でした。もし川島さんが、あの薬のせいで
私がこうなってると思うなら、責任を取って抱いてください」
「それは責任を取った内に入らない」
川島さんは厳しい口調で言った。
けち!
すごく頑張って言ったのに!
「いや。そうだな」
川島さんは軽く二、三度頭を振って言った。
「そういう責任の取り方をさせてもらおうか。僕もその方が楽な気がしてきた」
『そういう』の意味を聞く前に抱きしめられた。
407あやしいバイト


キスをすることを目的にしてキスをするのは初めてだ。
後ろへ倒れかけている川島さんに覆い被さるようにしてそっと唇を乗せる。
「ん……」
急に恥ずかしくなってきた。目や頬が熱い。
互いの唇をちゅうと吸うのがこんなに恥ずかしい気持ちになる行為だなんて思わなかった。
だ、大丈夫だろうか、私。
まだこれから先があるのに、なんかもう逃げ出したくなってきた。
だってこれは夢じゃない。
唇を舐める舌に、混じり合う唾液に、温度も味もある。
夢の中でもそれは感じていたような気がするんだけれど、今実際に感じているもののほうが
強烈すぎて、夢でどうだったかなんて思い出せない。
そろっと頭を後ろに引いた。
やっぱり自分からなんてできない。
川島さんの手ががっしりと逃げる私の頭を掴んだ。それ以上後ろに行かしてくれない。
綺麗な手だと思った。父さんや兄ちゃんと比べて、だけれど、白くて長い指をしている滑らかな手だと思った。
でも実際にこうして触られるとわかる。
これは男の人の手だ。
髪の毛をかき分けるようにして指先が入ってくる。
地肌に触れられてぞくぞくする。
「あ……」
唇が離れる瞬間に盗むように息をした。
でないと窒息してしまう。
角度を変え、深さを変えて、川島さんと口づけを交わす。
唇が濡れる。
舌が絡まる。
吐息が混じる。
それは夢では知ることのできない現実だ。匂いも味も温度も、夢の中で想像はしたんだろうけど
結局感じることはできなかったものだ。
「…て、る」
「なに?」
川島さんが聞いてきた。
声に出ちゃってたんだ。
「わ、たし……、川島さんと、キスしてる」
目の前の顔がくしゃっと笑った。
「そうだよ。何をしてると思ってたの」
「ん……」
ぶつかりそうなくらい近くに川島さんの顔があるせいでうつむくこともできない。
「夢でも、いっぱいしました」
「そうらしいね」
頬を撫でられる。その手が首を撫で、肩を撫でて、下へと降りていく。
「でもそれ、僕は知らないから」
「知らないって……」
ちゃんと報告したのに。かなり恥ずかしい思いをしながら。
川島さんはまたちょっと笑った。
「そうだね。それ以上のことも聞いた」
うわあああ! やめて。いや、えっと、今からそういうことをするのはわかってるんだけど、
言っちゃだめだあ!
「でも詳細を知らない」
言わないでしょ! そこはふつう言わないでしょ!
「夢の中の僕の方が上手かったら嫌だなあ」
くくく、と川島さんは笑った。
嫌そうに見えない。
脇腹に川島さんの手が添えられた。
「ひゃっ」
「くすぐったい?」
「少し」
それよりも驚いた。いつの間にそんなところに手が。
スウェットをめくり上げて手が中に入ってくる。