ご主人様スレ立てお疲れ様です!
1乙
女主に男主SF投下の職人さん乙でした。
男主スレも繁栄しますように。
>>1 喪服の老婆
「坊ちゃまが乙と仰っております」
1乙保守
>7 坊ちゃまの身の上に何が!?
続き物投下します。
(前回までのあらすじ)ショタと女傭兵の乗った船に魔物が来そう。
名前欄の「光の庭へ」かトリでNGお願いします。
夜の海はひたすらに黒く、空も海面も闇に塗り潰され境目を失っている。
象牙色の光をこうこうと放つ月と無数に散らばる星だけが、船と波の輪郭を細く照らしていた。
ジュネは船内でぶるりと身を縮めた。
(お腹、痛い…?)
腰掛けた椅子の上で、不安そうに眉を下げる。
腸が撫で上げられたような感覚を覚えたのだ。
それは一瞬で過ぎ去り、今は不快な余韻だけが体内に漂っている。
ジュネは細い腹を両手で擦り、首を傾げた。
(何か来る…)
おぼろげに抱いた嫌な予感に、思わず板張りの天井を仰ぎ見る。
ジュネの頭上、甲板にはアアメの迎撃に備える船員が10人、そしてカーナが立っているのだ。
(アアメが近いのかな――)
心の中、夜風に翻るカーナの長い髪を浮かべた瞬間。
ぞ、ふ
「うぁ!」
強く内臓を掴まれる悪寒に、ジュネの喉から高い悲鳴が上がった。
その場に居た船乗りが驚いてジュネに注目する。
「神官殿!どうされました?」船長がジュネへと駆け寄った。
ジュネは椅子を倒し、体をくの字に曲げてうずくまっていた。
慌ててその小さな背を抱きかかえた船長の手に、思いがけない高熱が伝わる。
腕の中のジュネは熱にうなされたようにほてり、喘いだ。
「すごい…、見え…た」
不規則に息を飲み、うわ言のように呟く。呼気は酷く短い。
誰の目から見ても尋常な様子ではなかった。
心配した船長らが水や薬箱を持って周りに集まる。
人垣の中央、船長は膝を折ってジュネを横抱きにし、楽になるよう両足を床に伸ばしてやった。
―戦闘前の緊張で何か発作を起こしたか。
―常に側にいる護衛ならば、この対処法も心得ているか。
船長は、誰かに甲板のカーナを呼ぶよう命じかけたが、ふいに懐から声が上がる。
「カーナ…居なくても、大丈夫…見えただけ…」
驚いて船長がジュネを見下ろせば、丸く開かれた双眸と視線がぶつかる。
栗色のはずの瞳は光の具合か、異様に澄んだ蜜色になって船長を映した。丸い、円い、大きな―…
――嫌だ
本能が恐怖を呼び、船長は危うく抱いた少年を放り出しかけた。
心を視られている。
ジュネは心を視て、それに答えているのだ。
視線を受ける恐怖を踏み止まり、船長はなんとかジュネに頷いて見せた。
船で共に過ごした僅かな日々でも分かる。ジュネは、易々と読心の技を他者に匂わすような愚かな子供ではないはずだ。
おそらく今のジュネには、他人の声も心の中も判別がつかないのだろう。
「あ、また、来たっ」
再び腑を絞られる圧迫を感じ、ジュネは白い喉を反らせた。
小さな唇から漏れる声は声変わりもまだなのか、女のように高く痛々しい。
「あ…、ねえ、すごく…大きいアアメなんです、…もう、来てる…」
身を反らせ空を仰いだまま、ジュネはどこか別の場所を見ているように目を張る。
魔物アアメの名が出た事で船内は緊張した。船長が注意深くジュネに訊く。
「何か、感じられるのですか?アアメがもう船に?」
額まで紅に染め、ジュネは懸命に首を縦に振った。
「今まで…こん、なの、…見えたり、とか、なかった…」
ジュネの脳裏に不安定に揺れる映像がある。
闇色の波に濡れる船の側面、海から伸びる触手が吸い付き緩やかに這い登る。
一本、次いで二本目が海面から伸びた。全部で六本の触手はそれぞれが一抱えの丸太ほどに太い。
そして海中には、牛五体はゆうに飲み込めるだろう巨大な本体が潜む。
通常見られるアアメの二倍の体積。
そ身を粘着力のある触手で船に貼り付け、ずるずると甲板を目指す。
「普通のより、ずっと大きい。右、船の、右手から…。きっと、強い」
船長の指示で一人が甲板への連絡窓に走る。
「強い…こんな大きさの、知らな、から、分からないけど…きっと」
何度も強く相槌を打ち、船長はジュネの額に船員の差し出した布を宛てがった。
水で冷えた布の温度が、揺らぐ脳まで染み入って落ちてくる。
ジュネは強張りを溶かすよいに瞳を閉じ、ゆっくりと長い長い息を吐いた。
いつしか、船長は嫌悪感もなくジュネを見下ろしていた。
上位神官という不気味な肩書きを恐れていたが、今は上気した小さな体から昇る石鹸の香りしか感じない。
この腕にかかる体重の切ないくらいの軽さが、雄弁にジュネの存在を語っていた。
―子供なんだ。これは、ただの人間だ。
「護衛殿を呼びしましょうよ。神官殿も護衛殿が側にいたほうが安心でしょ?」
船員の一人が告げる。
「アアメをやっつけるのは、増員を増やせばなんとかなりますから平気ですよ」
他の船員も頷いて続けた。
この少年がカーナに保護者として以上に特別な好意を寄せているのは、男同士よく分かっていた。
ならば、好きな女の子を魔物から遠ざけてやりたいと思う素朴な心。
どうせ巨大なアアメとの戦闘で散るかもしれない命なら、中央神殿に恩を売って家族に多目に金をやりたいという心。
(…あ…皆、優しい)
いくらか気分が治まったジュネは、ぼんやりと船員達を眺める。
「…お気遣いあり、がとうございます。随分楽になったから、平気です…」
床に手を着いてよっこらしょと身を起こす。
「船長殿も皆さんも、ご心配をおかけして申し訳ありません」
心配そうな一同を見回し頭を下げた。
丁度その時、天井を揺るがすような怒声が響いた。
―始まった!!
全員が頭上を見上げる。
「護衛殿は戻さなくていいんですか?強いアアメだとか…」
最悪の場合、神官と護衛二人で小船で逃がすことになるかもしれないと船員は言う。
ジュネは笑った。
「強い相手なら尚更カーナに当たらせないと。カーナだってすっごい強いんです」
―おいおい、薄情な坊主だな。護衛とはいえ女の子盾にすんなよ。
即座に非難の声がジュネの頭に送られた。
ジュネは困って首を傾げる。
(そう言われても…。小舟だってアアメから逃げ切れないだろうし…)
それに、
(盾も何も、カーナが死んじゃうような敵なら皆殺しにされちゃうよ…)
勿論カーナは大切だけれど、出し惜しみをすれば全員逝く。
ジュネはあっと思い出したように腹に両手を当てた。
何か僕、“よりよく視える”ようになった!?
投下以上です
職人さんお久し振りです!今回カーナが全然出なくて残念でした。次に期待してます。
GJでした!
いつの間にかスレ立ってたー!!
>>1乙。そして職人さんおかえりなさい。ジュネかわいいよジュネ
18 :
IceDoll:2008/10/06(月) 17:22:09 ID:4proxWkA
前スレ>697です。続きが書けました。
近未来?っぽい世界で、従者は猫耳アンドロイド。
苦手な方は、どうか名前欄: IceDoll でNG指定をお願いします。
不自然な息苦しさでわたしは目を覚ました。
やわらかいもので口を塞がれて、身動きが取れない。
「ん…んん…」
息が苦しくなってもがくと、あたたかくやわらかいそれは、ふいっと離れた。離れてからそれは彼の唇だったと気づく。
「済まない、起こしたな。」
起動したてのわたしの中のCPUが、この声は間違いなくわたしの主の声だと認識する。けれどわたしの頭は一瞬、誰の声か
分からなかった。とんでもなく優しいその響きが、昨日までの彼のものとは少し違っていたために。
「ぁ…。」
淡い水色の瞳がわたしを見つめている事に気づいて、慌ててさらけだされていた胸を毛布で隠す。そこに点々と残されて
いた薄紅色のしるしが、昨夜の出来事をわたしに思い出させた。
それでも、あれは幻想だったのではないのかと、わたしはぼぅっと考えた。
本当のわたしは、まだファクトリーで廃棄の通告を震えながら待っているのではないだろうか。
だって、信じられない。
アンドロイドのわたしを好きだと言ってくれた。対等の関係でありたいと言ってくれた。
ただの『物』に過ぎないわたしのことを。
「…大丈夫か?」
ぼんやりしているわたしの頬を、大きなてのひらが撫でる。なにが大丈夫かよく分からなかったけど、わたしは慌てて
何度も頷いた。
どうしよう。何を言えばいいんだろう。言葉が詰まって全然声にならない。
「…お…はよう…ございます…」
なんとか朝の挨拶をしてみると、彼はにこにこして、おはようと答えた。
その優しげな声を聞くだけで、心拍数が上昇して、体温も上がる。このままではどこかの回路がショートしてしまう
かもしれない。
どぎまぎとしているあいだに、もう片方の手もわたしの頬を包む。そして唇がそっと触れ合った。触れて離れて、もう
一度、今度はずっと深く絡み合う。舌がわたしの歯列を割って、わたしの舌に絡みつく。それだけでもう、頭の中が
白くなっていく。
こんな事は許されないとか、そんな事はどうでも良くなる。わたしは彼が大好きで、彼もわたしを好きだと言ってくれる、それだけがとても大事なことに思えた。
頬を撫でていたてのひらが滑り降りてくる。生身のままの首筋、肩、そして敏感な乳房に触れられて、反射的に身体を
そらしてしまった。
「…嫌か?」
彼は唇を解放すると、不安そうに聞いてくる。
「貴方が望まれるなら。」
わたしがそう答えると、彼の眉間に皺が寄る。
「…嫌か、そうじゃないのか、聞いているんだ。」
「嫌…なんて…」
わたしが口ごもると彼は怒ったように、もういい、と言って背を向けた。
…どうしよう。また怒らせてしまった。
わたしはしょんぼりとうつむいて、ベッドから這い出した。そういえば、昨夜抱き合ったのはソファだったから、
ここまで運んでいただいたことになる。重かっただろうに、申し訳ないな、と思う。
壁を向いたまま動かない彼に毛布をかけなおして、寝室から去ろうとすると、長い腕がすっと伸びて、わたしの尻尾を
引っ張った。
「…全く、嫌なら嫌と言えばいいんだ。」
「嫌な訳では、ありません。」
ただ、ちょっとびっくりしただけ。…朝から、こういうことをするとは、思っていなかったから。それに…
「貴方が望んだ時に求めていただければ、いいんです。それもわたくしの務めです。」
彼は、むぅ、と呻いて上体を起こした。目がすっと細くなる。
「…いつまで下僕のままでいるつもりだ。」
「わたくしは貴方のしもべ…」
全て言い終わる前に、彼はわたしの唇をもう一度塞ぐ。今度は、もっと乱暴に。
「…ん…ん…」
噛み付くようなキスとはこういうものを言うんだろうか。胸が苦しくてたまらない。
身体がベッドに押し付けられ、彼の大きな身体がのしかかる。両手が全身をまさぐり、教えられたばかりの快楽にただ
身悶える。
「嫌なら、嫌と言え!」
彼が何を怒っているのか解らない。容赦ない愛撫にさえ身体が熱くなり、意識がとろけそうになる。
はぁはぁと息を吐きながら、許しを請うように、両手を彼に差し伸べる。
「愛…して…ます…」
ずっと胸に秘めていたこの言葉を口にする事が許されるなら、わたしはそれだけで幸せになれる。それ以上は何も
望まない。望めるはずも無い。
乱暴な愛撫がぴたりと止まった。
「…まったく…」
肩を落として息を吐くと、彼は身体を起こして、裸のわたしに毛布をかける。
「…あ…の…?」
「我慢して抱かれることなんて無いんだ。それじゃあ、何も変わらない。」
彼はいらいらとした口ぶりで言い残すと、裸の上半身にシャツだけを羽織って寝室を出て行った。
「命令だ、そこで寝てろ。朝食は作らなくていい。」
ぽかんと、彼を見送った。
…どうすれば良かったんだろう。何を言えば良かったんだろう。何を望まれていたんだろう。それが解らないのは、
わたしが…人間ではないからなのだろうか。
悲しくて胸の底でしくしくと痛む。
後を追いたかったけれど、ここで寝ていろという命令に背くわけにはいかない。この間のように、出て行けと言われ
なかったことだけが救いだった。
人間用のベッドに寝た事はほとんどない。アンドロイドのためのそれは、横たわるとほとんど隙間が無いほど狭くて、
硬質の透明な樹脂硝子で出来ている。
このベッドは広くて手足が伸ばせるし、生身の部分も柔らかく受け止めてくれる。そしてかすかに彼の匂いがするのが
心地よかった。起床した主を放っておいて惰眠を貪れるなんて、こんな贅沢を許されているアンドロイドはそれほど
いないだろう。
少し開いた扉の向こうからは、雨のようなシャワーの音がかすかに聞こえてくる。
お着替えの用意をしないと…朝ごはんは要らないって言ったけど、召し上がって食べて頂かないと身体に悪いし…掃除も
しないといけない…昨日、ソファ、汚したかな…
まとまらない考えがぐるぐると頭の中を回る。わたしは、枕に頭を埋めて目を閉じた。
そのうち、浴室の扉が開く音がして、こつこつと足音が近づいてきた。
扉の外から、中のわたしの様子を窺う気配がする。探査・支援の性能も与えられているわたしには、音の強弱とかすかな
明るさの違いで、彼の動きが手に取るようにわかった。
ノブに手をかけて入ろうとして、くるりと背を向け、また振り返って中を窺う。
…何をしているのだろう?
彼はしばらく部屋の外をうろうろして、そのうち、小さなため息とともに去っていった。
…声をかけたほうが良かったのだろうか。
でも、何故か、気づいていることを知らせない方がいい気がした。
キッチンの方から、かたかたと音がする。バターの焦げるいい香りが、寝室の中にも流れてくる。
自分でお料理しているの?朝食は要らないと言ったのに!
さすがに、自炊している主人を放っておくわけにはいかない。命令に反したことで叱咤される事を覚悟しつつ、わたしは
跳ね起きるとキッチンに駆け込む。
「何をしていらっしゃるんですか!?」
「オムレツ。」
血相を変えたわたしの問いに、彼はコンロに向かったままのんきに答えた。
「久しぶりだな…300年と、10年ぶりくらいか。結構、料理は得意だったんだよ。」
そう言って軽くフライパンを振ると、卵は上手にくるりとひっくり返る。料理が得意、というのは嘘ではないらしい。
「…朝食を召し上がりたいのならば、おっしゃって下されば、わたくしが…」
「まあ、気分転換だな。ここは娯楽に乏しいからね。」
そう言って、白い皿の上にふわふわに焼けたオムレツを乗せると、わたしの方を見て少し眉をしかめた。
「風邪ひくぞ。これでも着てろ。」
慌てて裸のまま走ってきてしまったことを思い出して、わたしは穴があったら入りたいほど恥ずかしかった。
手渡された上着を受け取ろうとして、わたしは手を止める。
「…どうした?」
わたしの暗い表情に気づいて、彼がいぶかしげにのぞきこむ。
「…アンドロイドは、人間と同じ服を着てはいけない決まりになっております。」
わたしのような感情表現型アンドロイドが現れてから、人間とアンドロイドを誰が見てもきちんと見分けられるようにと
定められた法らしい。耳や尻尾のようなパーツも実用を兼ねてはいるが、見た目での識別のためにという意味合いも大きい。
「ここには君と私しかいないだろう。誰も咎めない。」
そう言って、わたしの背中にふわりと上着をかぶせた。
彼の匂いがする、大きくてぶかぶかのシャツがわたしを包む。
「…こういう言い方は、あまりしたくないが…」
ふうー、と大きく息を吐いて、彼は言った。
「命令だ。その服を着ていなさい。」
わたしは黙って頷くと袖を通した。袖口を何度も折り返して、やっと指先が外に出る。
「貴方は…」
胸元のボタンを留めながらそう言いかけて、それが主人に対してとても失礼な物言いだという事に気づいて、わたしは言葉を止めた。
「続き、言いなさい。気になるだろう。」
再びフライパンを振るっていた彼が、背中を向けたまま促す。
「…貴方は、アンドロイドのことを知らなすぎます。」
そう。彼は元々この時代の人間ではない。
300年もの長い間眠っていたところを、この時代の人々のエゴによって起こされたのだ。そして、起こしたのは、わたし。
彼が眠りにつく前は、いまのような形態のアンドロイドと、それにまつわる法律など無かったはずだ。
「確かにね。しかし、君の話を聞いていると……よっ、と」
もうひとつのオムレツが、空中でくるんと回転する。
「…知る必要も無さそうだな。少なくとも、君と私の関係には。」
そして、できたてのあつあつのオムレツを皿に移し、わたしに差し出した。
「食べ物は、同じものを食べても大丈夫なんだろう?自分で言うのも何だが、久しぶりの割には上手くできた。」
「……………わたくしの分、ですか?」
わたしはぽかんと口をひらく。
「自信作だから、これくらいは、命令しないでも食べて欲しいな。」
わたしは皿を受け取って、上目がちに彼を見る。
「…あの。」
「何?」
「…わたくしは、たぶん、世界で一番幸せなアンドロイドなんだと思います。」
主人の心尽くしの手料理を振舞われるアンドロイドなど、聞いたことも無い。
「それはなにより。」
彼は嬉しそうに笑った。
焼きたてのいい香りが鼻をくすぐって、わたしのお腹が、くぅ、と鳴った。
食事中、彼はにこにこしながら、わたしがスプーンを口に運ぶのを見守るものだから、なんだかとても落ち着かない。
美味しいだろう?そうだろう、と顔に書いてある。
そして、文句無くそれは美味しいオムレツだった。
――虐殺の魔人――
300年前の戦争の歴史に刻まれた、彼の二つ名。
その、虐殺の魔人の得意料理がオムレツだなんて、誰も知らないだろうな。そう考えるとおかしくなった。
「とっても、おいしいです。」
「そうか。」
わたしの素直な感想に彼はとても満足そうで、300年ちょっとも生きている割には、まるで子供みたいだと思った。
造られてから2年かそこらしか経っていないわたしがそう思うのも、変な話だけれど。
「とりあえず、それくらいしか作れるものが無かったんだよな。…食材も調味料もストックはいろいろあったけど、
どんな味なのかさっぱり分からないし。」
「今度はお手伝いしますよ。わたくしでお教えできることなら。」
「そうだね。次は一緒に作ろう。」
次はカルボナーラがいいかな。と彼は目をきらきらさせる。
…カルボナーラ、って何だろう?後でデーターベースを覗かないと…
「…できれば。」
ふっと、彼が真剣なまなざしになった。
「…そうやって、君の方からも少しずつ歩み寄って欲しい。」
「わたくしが、ですか?」
彼はテーブル越しに、手を差し伸べた。
「持って生まれた価値観が、そう簡単に変わらないのは分かっている。でも私は、君に下僕のままでいて欲しくない。」
「でも、わたくしは…」
「ほら、すぐそうやって突き放す。」
彼は唇を尖らせた。
「近づこうとすると距離を置かれるのは寂しいじゃないか。昔から…」
そらした彼の眼差しに影が宿る。
「…誰も私に近寄ろうとはしなかった。」
伸ばされた手が力なく下ろされようとする。わたしは必死にその手をつかんだ。
…わたしが、います。
その言葉が何故か声になってくれない。
彼は弱々しく笑って、もう片方の手でわたしの頭と、その上にぺたんと伏せた、金属でできた三角の耳を撫でた。
「私は君の本音が聞きたいんだ。君はすぐ、アンドロイドが主人がって…そんなのどうでもいいだろう。」
だって。だって。
どうして声が出ないんだろう。あふれそうな想いに苦しいほど胸がいっぱいになるのに、言葉になってくれない。
貴方が、大好きなのに。
貴方の寂しさを、ほんの少しでもわたしで埋められるものならば、どうにかしたいのに。
でも、どうあがいても、わたしは作り物のアンドロイドなのだ。本当なら、貴方を愛する事すら許されてはいない。
いくら目を背けても、それは変わらない、現実。
「…どうして、泣く?」
「…愛しています。」
「…だから、どうして!」
貴方を愛するというのは、なんでこんなに苦しいんだろうか。
静けさを引き裂いた自分の悲鳴に驚いて、わたしは目を覚ます。
薄暗い部屋の中。隣で眠っていた彼が驚いて飛び起きた。
「どうした!?」
わたしも、自分に何が起きたのか分からなかった。額の汗をぬぐって、ゆっくりと頭の中を整理する。
「…夢を」
そんなはずはない、と思いながら、結論を告げる。
「…夢を、見ていました…」
「ああ、夢か。」
彼は安心したように息を吐いた。
そんなはずない。埋め込まれたCPUで制御され、生身である脳に常に高負荷がかかるアンドロイドは、速やかに脳を
休めるため、就寝後は即座にノンレム睡眠に切り替わる。つまり夢を見るはずは無いのだ。それに、あれは…
「悪い夢だったのか?」
「…はい。」
彼は眠そうにわたしの頬にキスをすると、ベッドに転がる。
「私は、今日は夢を見なかったな。…目が覚めてからは毎晩、見ていたんだが。」
目が覚めてから、というのは、あの日、300年の眠りから、わたしに起こされた日のことを言っているのだろう。
「…何の、夢ですか?」
「昔の夢。」
吐き捨てるように言うと、彼は目を閉じた。
「君は?」
「…おぼえて…ません。」
「そうか。」
弱々しいわたしの声に、特に気を留めることはなく、彼はすぐに眠りに落ちる。
…わたしの嘘に気づいた素振りは無い。主に嘘をつかねばならないことに、言いようの無い罪悪感を覚える。
今夜は、身体を重ねていない。服を着たまま寄り添って眠っただけ。彼がそう望んだ。
身体が触れるとたまに苦しそうに呻くので、いいんですか?と何度も聞いたのだけれど、それでいいんだ、と言う。
…我慢して抱かれる事は無いと貴方はおっしゃいますけど、貴方こそ我慢なさるのは、体に良くないではないでしょうか。
迂闊にもわたしがそんなことを言うと、彼は本気で怒った。それでも不思議と突き放したりせず、ここで居てくれと、
寝室から出て行こうとわたしをベッドに引き戻した。
彼はもう穏やかに眠っている。すぐ側にいるわたしが、どれだけ恐ろしい存在か知らない。
震えながら、わたしはさっき見た夢を思い出した。
暗い暗い階段を、わたしはひとり降りる。
地下深く、誰もが忘れた施設の底で、その人は眠っている。
虐殺の魔人。遺伝子から操作されて生み出された、人の姿をした兵器。300年前の戦争で、数万人の一般市民…武装した
者もそうでない者も、女も老人も子供もぜんぶ……命ぜられるままに一人残らず虐殺した男。
わたしの最初の任務は、彼を目覚めさせる事。そのためにわたしは造られた。
全てのプロテクトはわたしの手で解除されて、彼の生命活動を凍結していた装置は停止する。
そして彼は、300年ぶりに目を開いた。
わたしは、息を飲んだ。
…なんて、きれいな瞳なんだろう。
淡い淡い、青灰色の瞳。
晴れた春の日の空は、こんな色をしていたのだろうかと思った。
わたしは青空を知らない。この時代に、空に太陽が見えなくなってから久しい。
瞳だけでない。整った顔立ちも、すらりと背の高い均整の取れた体躯も、まるで美術館の彫像のようで、わたしの
イメージしていた恐ろしい大男とは、あまりにもかけ離れていた。
「…誰だ?」
いぶかしげに、彼はわたしを見た。長い眠りから無理やり目覚めさせらて、怒っているようだった。
しかし、怯むわけにはいかない。わたしには大事な使命がある。わたしは彼に訴えた。
「どうかわたし達を助けてください。この時代に現れた人間ではない侵略者は、貴方のような力を持った方でなければ、
立ち向かう事が出来ないのです。」
「理解し難いね。」
彼は苦々しく吐き捨てた。地上の人間が今さら何を言うか。瞳はそう語っている。
当然だと思った。自国の民ために多くの血を流したこの人は、戦争が終結したとたん、真っ先に棄てられたのだから。
「お願いです。どうかわたし達を、この時代の人たちを助けてください!!」
わたしは必死に、彼のまだ冷たい手にすがりついた。そうしなければならない理由が、彼に絶対にYesと言わせなければ
ならない理由があったから。
彼は、静かにわたしに答えた。
「断る。」
違う、そんなはずはない。
あの時、彼はわたし達を助けてくれると約束してくれた。だからこそわたしはいま、彼に仕える下僕としてここにいる。
それがわかっているのに、震えが止まらなかった。あの答えの先にあるであろう結果が、恐ろしくてたまらない。
――味方にならないのならば、この時代にとって新たな脅威にしかなり得ない。もし協力を拒まれた時は――
――その場で抹殺せよ――
それが、わたしに課せられた本当の使命。
わたしの心臓には小型の爆弾が埋め込まれていた。彼が要請を断ったなら、わたしは彼を抱きしめて、深い地下の底で
共に命を散らすべく。
…だからこそこんな重要な任務が、アンドロイドのわたし、ただ一人に与えられたのだ。
彼に一生懸命仕える事で忘れようとしていた、おぞましい事実。わたしは彼を殺すために造られたのだ。
あの爆弾はまだ、わたしの胸の中で眠っている。もし彼がこの時代の人間に刃を向けた時は、わたしもろとも、誰かが
この爆弾のスイッチを押すだろう。
薄暗い部屋の中で、自分で自分の肩を抱きしめてうずくまっていると、不意に背中から大きな両手が包み込む。
「眠れないのか?」
眠そうな声。でも静かで優しい声に、泣きたくなった。
貴方に全てを懺悔して許しを請いたい。そうやって楽になってしまいたい。
でも、彼の所有物となる前の、暫定的とはいえ以前の主の不利益になることは、わたしは口外することはできない。
記憶にはプロテクトをかけられ、このことを誰かに告げることができないようにプログラムされている。
「震えてるな。寒いのか?」
自分の毛布でわたしを包もうとする彼にしがみついて、求めた。
「…あたためて、ください。」
自分でも、どうしてそんなことが言えたのか、解らなかった。
…わたしは、この人を殺すのだろうか…
…こんなに、大切にしてくれた、この人を…
…こんなに、愛している、この人を…
…たぶん、わたしは殺すのだろう…
…わたしは、ただの人形だから…
人形に過ぎないわたしを、彼はいつくしむように抱く。
その指先が与える電流のような快楽が、わたしの思考をちりちりと歪める。
わたしはねだるように身体を開き、嬌声をあげた。彼がいやらしいと言ったわたしの体は、はしたないほど乱れ、
彼を誘う。
もっと、もっと気持ち良くしてください。もう何も考えたくない。
わたしの望みどおり、巧みに動く指と舌は、ぞくぞくするほどの快感をくれて、頭の芯が真っ白になる。
押し寄せるうねりに身を任せ、快楽の天辺まで駆け上がって、わたしは彼の名を何度も呼んだ。『マスター』でも
『御主人様』でもなく、敬称もつけ忘れた彼自身の名前を。
「やっと、名前を呼んでくれたな。」
わたしの不敬を咎めるでもなく、彼が嬉しそうに囁いた。
そしてまだ熱のくすぶる中心に、彼自身が押し込まれる。くぐもった悲鳴がわたしの喉をついた。
たぶん、わたしは彼を受け入れるには、身体が小さすぎるのだろう。初めてのときほどでは無いが、じんじんする痛みと、
息苦しいほどの違和感に身をよじる。
苦しむわたしを不憫に思ったのか、不意に離れようとする身体に、わたしは必死にすがりついていやいやする。
それでも、繋がっていたい。こうしている今だけは、わたしも彼も同じ人間であると実感できる。
「…手加減して、やれない…ぞ。」
かすれた声で彼が言った。シーツを掴んでいる彼の手が、ぎりぎりと震えている。
それでもいい。あなたが優しいのはわかっているから。
わたしが頷くと、両膝が大きく持ち上げられて、最奥まで一気に貫かれる。
息ができない。苦しい。荒々しく腰を打ち付けられて、意識が遠のきかけ、その度に痛みで引き戻される。
その繰り返しの中で、何か違う感覚が首をもたげ、痛みを逃そうと腰をひねるたびに身体の芯が熱くなる。
彼の指で昇りつめるときとはすこし違う、いままで感じた事のなかったうだるような感覚。
わたしの喘ぎが変わってきたのに気づいたのだろうか。
「もう少しだから…我慢してくれ。」
そう言うと、獣のようにのしかかった。
壊れる、と思うほど滅茶苦茶に突き立てられる。
彼が呻く。そしてどくどくと脈打つような感覚のあと、わたしの中に彼の熱い滾りが満たされていった。
「済まないな。」
汗ばんだ胸に頬を寄せると、申し訳無さそうに彼はつぶやいた。
「舞い上がったかと思えば腹が立ったり…自分でも、どうしてこんなに情緒不安定になるのかわからないんだ。」
「わかります。」
わたしは目を閉じた。
…天国と地獄を行き来するような気持ちですよね。
恋をするって苦しいですね。心の中で、そう囁く。
「貴方のおっしゃる事も、よく解ります…でも、アンドロイドは…いえ、わたくしは、貴方がわたくしを求めてくださる
ことが、それに応えられることが、とても嬉しいのです。」
「…そう、か。」
彼はわたしの頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でた。
「お互い、少し肩の力を抜かないといけないな。」
うとうととしかけて、ふと、今しか聞けないな、と思った。
「…あの時、どうして、わたしの頼みを聞いてくれたんですか?」
彼の腕の中で丸くなって問いかける。もう、震えは止まっていた。お互いをあたためあうぬくもりが、たまらなく
心地良い。
「地上を救ってくれ、と言う奴か?」
わたしが頷くと、彼はう〜んと唸った。
「…君が、可愛いかったから、かな?」
「それだけ、ですか?」
わたしが目を丸くすると、彼は至極真面目な顔で肯定した。
「そう。あれが禿親父とか、高慢な眼鏡女とかだったら、断ってた。」
貴方の運命を決める大事な選択を、そんなことで…
「君じゃ無かったら、誰でも駄目だったろうな。君だから、断れなかった。…断った方が良かったか?」
冗談めかして言う彼に、わたしは、ううんと首を振った。
「…願いを聞き届けてくれて、とても、嬉しかったです。」
わたしでない誰かがあの使命を帯びていたら、彼とその誰かは、地下深くでひっそりと命を落としていたのかもしれない。
自分自身の存在意義を肯定されたようで、うれしい。
「夜が明けそうだな。目も覚めたし、少し早いけど朝食でも作るか。」
彼は伸びをして体を起こすと、わたしを厳重に毛布で包んだ。
「君は寝てなさい。昨日から調子が悪そうだしな。今日は午後から定期メンテナンスだろう?博士によく診てもらうと
良いよ。」
「ん…お手伝い…しますよ…そういえば…カルボナーラって、なんですか…?」
柔らかい毛布に包まれる感触に、とろとろと訪れる眠気をどうにかしようと、わたしは無理やり会話を引き伸ばす。
「ん?…ああ。パスタだよ。卵とクリームとチーズを混ぜたソースを…」
楽しそうな彼の講釈は、子守唄のようにわたしを心地よい眠りに誘う。
「で、仕上げに黒胡椒を振って…なんだ、眠っちゃったのか…。」
起きてますよ、と言いたいけど、なんだか身体が動かない。彼の指がわたしのプラチナ色の髪を軽く梳いて、おやすみ
と囁いた。
わたしはおいしそうに、カルボナーラ?を頬張る自分の夢を見た。
ファクトリーの片隅の、メンテナンス用のベッドの片隅で、博士は呆れたように愚痴った。
「今日がメンテの日だって、前から伝えてあっただろう。…もう少し、控えめにやれないもんかね?君の大事な御主人様は。」
裸で横たわったわたしの全身には、花びらを散らしたように点々と、真新しい赤い痣が残っている。
顔から火が出るほど恥ずかしい。
隣の部屋で待っている彼にも聞こえてるだろう…そもそも、彼に聞こえるように言っているんだから。
「オーナー様からは体調が悪そうだって指摘があったな。バイタルはそう問題無さそうに見えるが、どこが調子悪いかい?」
スキャナが読み取ったデーターを横目で確認しながら、博士は心配そうにわたしを窺う。
「…君はメンタル面が少し不安定だからなぁ。…ストレスがひどいようなら、投薬で感情の振り幅を少し低くしてみるのも
手だが…」
「大丈夫ですよ。」
わたしは答える。隣の部屋の彼に聞かれたくないし、博士にも余計な心配をかけたくない。
現在には存在しない強化人間である彼のサポートという、特殊な任務に就くために、わたしは実験的にさまざまな能力を
組み込まれた。それ故に既知のデーターでは測れない部分もあって、博士はわたしのメンテナンスのたびに、チューニングに
頭を悩ませる。バランスを間違うとすぐにどこか壊れてしまうらしい。
しかも彼はわたしの扱いが乱暴だと不満そうで、
「生まれつき身体の弱い末娘を、町の問題児の嫁に出したような気持ちだ」
と、博士はいつも心配をしてくれた。
「…お父さま。」
もっと幼いとき。育成カプセルの中にいるほんのひとときだけ使った呼び方で、博士を呼ぶ。
「なんだい?」
こんな時、博士は若さに似合わぬ落ち着いた物言いで、わたしの父親役を演じてくれる。
「わたしを造ってくれて、ありがとうございます。…わたしは今、とても幸せです。」
「そっか。良かったな。」
わたしの頭を撫でて、そっけなく、でも嬉しそうに博士は頷いた。
今回は以上です。
GJ!
超GJ!!
切ないなぁ…
>>15 今回はジュネのターンですね。
しかしジュネは毎度良いキャラだなぁ、カーナタンのターンも是非
次回も期待してます。
>>30 切ない感じが良いです。
前スレのナイーツの続きを投下します。
夜這いに来た生意気な騎士見習いを調教します。
NGはタイトルの「ナイーツ」でお願いします。
36 :
ナイーツ14:2008/10/10(金) 23:51:36 ID:wr4QM4ku
腕の中のマシュリの体はとても柔らかく、しなやかに身をくねらせる姿は正に子猫のようだった。
この気位の高い性悪猫に、頭のてっぺんから爪先までみっちりお仕置きをせねばならない。
(ええい、このっ、ぽわぽわしおって!)
シスレイは支配欲に身を委ね、マシュリのプラチナブロンドに顔を埋めた。
ペルシャ猫に似たもふもふワッフルの白い髪。
こうして頭を突っ込めば、綿菓子に包まれているようで非常に心地良かった。
スウと思い切り香りを嗅ぐと、甘いシャボンが胸一杯に広がる。
「子どもの匂いだな」
香水や化粧品のそれとは程遠い愛らしい香りに苦笑すると、マシュリは赤くなって身をよじった。
「イヤ…恥ずかしから嗅いじゃやだ…」
逃げようともがくマシュリをシスレイはやや意地悪く抱いて拘束する。
「敬語は?」
「…イヤ…デス…」
マシュリは屈伏し渋々従う。
重い二重の目元が紅く染まり、潤んだ眼差しは悔しさを滲ませている。
(うむ、なかなか…)
シスレイの胸にえもいえぬ快楽が広がった。
なるほど、これが意地悪をする悦びなのか。
いつも自分をからかって遊ぶ団長の気持ちが今なら解る。
相手を思いのままに翻弄するのはひどく心地よい。
37 :
ナイーツ15:2008/10/10(金) 23:53:24 ID:wr4QM4ku
そして、相手が普段自分に反抗的な人物であるほど、快楽は比例して跳ね上がる。
ご満悦なシスレイは、マシュリの顎を持ち顔を寄せた。
額同士をゴツッとくっつけ、わざと怖い顔で睨んでやる。
「まったく。お前はそんなモサモサした頭をして。騎士なら髪を縛るか切るかしろ」
「だって…」
「口ごたえするな、見習い」
ムスーッと不機嫌になったマシュリがさらに何か言う前に、その小さな唇をシスレイは自らの唇で塞いだ。
ちうっ…
「っ!」
マシュリは驚いたように目を丸くした。
普段眠そうな目をしているが、こんな時はさすがに驚くのかと微笑ましい。
シスレイは口角を笑んだ形に上げて、そのままマシュリの唇を強く吸った。
「っ…むっうぅ」
プリッと弾力のあるグミのようなリップが、男の口に痛いくらいに吸い付かれ、赤みを増す。
シスレイがようやく口を離してやると、マシュリはぷはっと苦しそうに息をした。
「はぁ…は…」
荒い息のマシュリを仰向けに寝かせ、自分は膝を立てて少し身を引いた。
このほうがよく見下ろせる。
「良い子にしていないと優しくしてやらん」
言いながら左手をマシュリの口に伸ばし、人差し指と中指を割り込ませる。
38 :
ナイーツ16:2008/10/10(金) 23:55:22 ID:wr4QM4ku
「うっ?あ…ぐっ」
閉じた口を二本の指でこじ開けた。
細かい歯列の感触が指にくすぐったい。
びっくりしたマシュリは口を閉じようと食いしばるが、指の力が勝り口は上下に割かれる。
うにゃー…
小さな口が無防備にあーんと開いた。
「あ、お前キバ生えてるな」
赤い口の中小さな白い歯が形良く並んでいるが、二本の糸切り歯は大きく尖って目立つ。
口中を覗いてからかうシスレイに、ハフハフと言葉にならない声を上げマシュリは解放を訴えた。
しかし、マシュリの両手は体の横でシーツを強く掴むばかりで、シスレイに本気の抵抗ができないでいる。
(本気で抱かれに来たんだな…。まあ、抵抗がないなら都合がいい)
シスレイはやや黒く笑う。
口を開かせた指はそのままに、素早く覆い被さりそこに舌を滑り込ませた。
スルリと熱い舌に侵入され、マシュリはピクピク身を震わせる。
猫のように細くて長いマシュリの舌が、急に攻め入った熱の固まりから逃げるように奥に縮まる。
しかしシスレイの大人の下はそれを捕らえてニュルリと巻き込み、更にピチャピチャと音を立てて味わい出した。
「ふにゃっ…れう、はぐぅ」
開いたままの口からは、中で絡まる舌の音も籠らずに響いた。
39 :
ナイーツ17:2008/10/10(金) 23:57:39 ID:wr4QM4ku
マシュリは初めて味わう舌の愛撫に夢中になったのか、両手をシーツから離し、シスレイの首に抱き付いた。
差し入れた二本の指も、舌と唾液で蜜を這わせたように濡れた。
(もういい、か)
シスレイは深くキスをしたまま指を引き抜くと、それをマシュリの下半身へと向かわせた。
シスレイの動きにハッと息を飲み、マシュリはキスを止めた。唇を閉じて舌を拒む。
「…隊ちょ…ぅ…」
「ああ、処女膜をくれるんだろう?受け取ってやる」
マシュリの太ももの間、濡れた指が先ほど晒された花びらをいじる。
「ふあ、あっあ!…んにゃっ」
つつかれ、くすぐられ、たまらずにマシュリは鳴いた。
「なんだだらしない。そんなに声を出して」
「やん、嫌っ。だってっ…」
「だって?」
シスレイはマシュリの小っちゃな突起をクチクチと転がした。
「ひゃあぁっあぁ」
体の中心から痺れが走り、マシュリはビンと両足を突っ張らせた。
シーツに広がる自分の髪の上で顔を嫌々と振り、目尻で光る涙がポロリと溢れた。
甘い刺激と、排泄欲に似たムズムズする感覚でソコが高まってゆく。
敏感さを増す割れ目は、指の動きに翻弄された。
反応を楽しみ、シスレイはマシュリの乳房に頬擦りする。
40 :
ナイーツ18:2008/10/10(金) 23:59:28 ID:wr4QM4ku
頬でベビーピンクの乳首を押し潰したり、鼻先で撫でるとその小粒は直ぐに固くなった。
(こいつ基本的にビンカンだな)
シスレイは二つのピンクを交互に口に含んだ。
その間も指の動きと、マシュリの悲鳴は止まらない。
こちょこちょ
…くちゅ
子猫の喉を触るように優しく指でいじり続けられ、マシュリは我を忘れて身をくねらせる。
「きゃっうっ…もう、隊長、ねぇっ…!」
マシュリの女の子の部分が本能で男を求め、もう我慢が出来ない。
必死でシスレイを求めて足をバタつかせる。
しかしシスレイは簡単にはご褒美をやらない。それでは躾にならないのだ。
「そうだな、お前がこれから先、永遠に上官に逆らわないって誓えたら入れてやる」
「誓う…っ」
涙がマシュリの頬を汚す。
いつもの生意気猫の顔じゃない。ぐすぐすと泣いてお願いする情けない顔。
「敬語は?」
ニヤリと笑うシスレイに、マシュリは泣いて叫んだ。
「チカイマス!」
「よし…、今入れてやる」
指を離すと、両手でマシュリの膝を掴み左右に開く。
ぷりっと開かれる桃のお尻。
はしたない入口から溢れる愛液と、塗り込まれた二人の唾液。
マシュリは不安そうに小首を傾げた。
41 :
ナイーツ19:2008/10/11(土) 00:01:30 ID:wr4QM4ku
眠そうな二重の目が、じーっとシスレイにすがるように向けられている。
(か…)
シスレイの胸が、その視線にキュンとうずいた。
(可愛い…!)
それは従順で、可愛くて、正に自分の理想とする部下の瞳だった。
調教は成功だ!
シスレイは晴れやかな気持ちでマシュリの花に自らを添える。
そして、一気に太いご褒美を突き刺した。
「いっ…にゃああぁあぁっあぁうっ!!」
きゅうきゅうにキツい処女の蜜壷を男の槍が割った。
大きな物を飲み込んだ衝撃と膜を失う痛みに悲鳴を上げ、マシュリは全身を弓なりに反らせる。
秘密の通り道をニュルルッと滑って突き進んで来る堅い熱。
ニュルッ。
柔らかな壁を力強く開いて奥へ。
ニュルルッ。
一番奥まで。
ニュッ。
収まった。
ニヤリ
涙に濡れたマシュリの目が、チェシャ猫が嘲笑うようにニィと細まる。
「馬ぁ鹿」
唾液と吐息の奥から、マシュリは勝ち誇った声を上げた。
「はい?」
耳を疑ってキョトンと動きを止めるシスレイの腰に、マシュリの両足が固く絡み付く。
マシュリはスゥッと息を吸い、全力で叫んだ。
「きゃあああああーー!!誰か助けてぇ〜っ!!!」
深夜の宿舎を電撃のように走る乙女の悲鳴。
42 :
ナイーツ20:2008/10/11(土) 00:04:16 ID:wr4QM4ku
シスレイは自らの置かれた状況を理解し、全身の肌を粟立たせた。
は め ら れ た !!!
「誰か助けてぇ!!隊長、シスレイ隊長が私を襲っていますううう!!」
「うわあ黙れ!ちょっ足離せ!」
「誰か早く来てーー!!」
血相を変えたシスレイが引き剥がしにかかるが、マシュリはシスレイを決して抜かせない。
ベッドの上でドッタンバッタン暴れている内にも、廊下を走る大勢の足音が津波のように迫まって来た。
ドンドン!
外から扉を叩くその音に、シスレイはギクゥと飛び上がった。
腰にくっついているマシュリもつられて飛んで「みゃっ」と振動に声を上げる。
「おい!シスレイ何をしてる!ここを開けろ」
この怒鳴り声は左隣の部屋の女騎士隊長。
「いいから蹴り開けよう」
「よし、私が斧で扉を破る!」
「任せた。ほら、お前ら下がれ下がれ。そんなに集まっていたら危ないぞ」
右隣もお向かいも、その他も大勢お越しのようだ。
正義に生きる騎士達が、女性の危機を見逃すはずはない。
絶句して固まるシスレイの胸にもふもふの毛を擦り付けて、マシュリは赤い舌をチロリと出した。
43 :
ナイーツ21:2008/10/11(土) 00:08:48 ID:G8j511Oy
「やってくれるわね…」
部屋の外。人混みの後ろでラランス団長もまた笑った。
狐を思わせる美貌が、心から楽しそうに微笑む。
女という生き物は、どこまでも甘く、どこまでも性悪である。
スイートな姿に騙されることなかれ。
おわり
以上です
美人局…!
隊長ご愁傷様です。GJ
保守
髪を下ろしたままでは潮風がまとい付くと、カーナは戦に備えて後頭部の高い位置で髪を結っていた。
絹糸を蒼色に染めたような一房の髪。意外にも、活動的な印象のポニーテールはむっつりなカーナに良く似合っていた。
未だ女性のふくよかさを持たない痩せた胴は、頑丈な白い布で縫われた防護服が包む。
プリーツの付いた腰当てと腿から伸びるタイツも同じ白で、無骨な義手と背追う大剣の鉛色が際立った。
髪を束ね白揃えで立つ華奢な身は、共に甲板に立つ十人の男を奮わせた。
(ジュネの坊主もポニテ姿見たかったろうにねえ)
背後に控えた男はカーナの後ろ姿を堪能しつつ呟く。
夜の視界に慣れた目には、この闇の中でも彼女の項のほの白さを感じ取れる。
最後になるかもしれぬと女の肌をよくよく拝み、彼は甲板の柵にずり登る巨大な生物へと視線を戻した。
闇の中、捕捉が難しいかと思われたアアメの出現位置の通達があり、数十秒。
アアメはようやく重い身を甲板へと持ち上げていた。
ジュネの異変を聞いた時は反射的に船内に戻りかけたカーナだが、今は無言でアアメを見据えている。
ここで自分達がアアメを止めねば、人の肉を求める触手はやがて船内への扉を破るのだ。
―グチ、チュ
水飴を掻き混ぜるような粘つく音を立て、小山のような影がせり上がって来た。
木製の柵にヌチヌチと肉がめり込み、柔らかに形を変える。その重量に船は微かに傾き軋みを上げた。
まだこちらから攻撃するには位置が悪い。近付けば触手に絡み取られそのまま海に落とされる。
緊迫が張り巡らされた甲板で、全ての注意がその蠢きに注がれた。
―ヌ、ズルリッ
アアメの全身が甲板に滑り込むその一瞬。
体勢は崩れ、厄介な触手も全て着地に備え床に伏せている。絶好のタイミングと思われた。
後ろに控えた一人が素早くレバーを倒すと、甲板の両脇の照明台に強烈な光が宿り、船上の闇が引き裂かれた。
「んくっ」
急激な明るさに目を眩ませ、カーナが喉の奥から引きつった声を漏らす。
昼間のような明るさの中に現れたのは、半透明の巨大な塊。
丸太程の太さの触手を身の両側に三本ずつ生やし、不意に光を浴びたショックで硬直していた。
白濁した体の中心には複雑にくねった長い管と、それに繋がる葡萄の房のような臓器が幾つか透けて見える。
目も口に当たる器官も無い。周囲の熱を感知し、体全体で餌を飲み込み消化する単純な構造の生物だ。
(クソッ)
船乗り達は配置に付きながら舌打ちした。
報告の通りこのアアメは巨大過ぎる。肝心の臓器が、肉に阻まれ奥深くに霞んでいた。
「面倒クセェ…肉の途中で矢が止まるぞ」
一人の船員が苦い顔で大きなボウガンを握り直す。つがえた矢は鉄製の銛に似ている。刺されば薬が流れ込む仕組みの特殊な毒矢だ。
アアメの内臓に打ち込めば薬が反応し、即座にアアメは死に至る。
「護衛殿!アアメの体を削って下さい!」
「はい」
ボウガンの男の声にカーナは小さなおとがいを引く。頭の尻尾と後れ毛が揺れた。
アアメの肉は柔らかな糊に似ている。刃で断ち切ろうとも即座に傷を元通りに繋げてしまう。
内臓もしぶとく、一部を叩き潰しても他の器官が変わりに動いてダラダラと生き続ける。この矢がアアメの内臓まで届かなければ泥試合だ。
普通のサイズのアアメなら一本でも内臓に刺せば終わりだが、この化物もそれで死んでくれるだろうか。不確定要素が多すぎる。
しかし、挑む他はない。
今更相談し合うより、アアメの硬直時間を見過ごす方が惜しかった。
「行きます」
斬り込み役のカーナが告げると、怒涛のような鬨の声が上がった。
―始まった!!
殺気を孕んだ人間達が一斉に巨体に群がった。
まずは作戦通り、硬直が解ける前に六本の触手を切断する。触手が無ければしばらくアアメは攻撃も移動も困難になる。
数十秒後には再び触手が生えてしまうが、触手分の体積を本体から捻出すればアアメもかなりサイズダウンするだろう。
甲板を力強く蹴る無数の足音を追い抜き、カーナは青い矢と化しアアメの右側面を目掛けた。
走ると同時に背負った大剣の柄を右手で掴む。柄の握りには凹みが彫られており、五本の鉤爪はそれにぴたりと嵌まり込む。
深く握れば剣の鞘がカタンと音を上げて縦に割れ、剥き出しの刀身が解放された。
ギッ、
一際強く踏み込み、カーナは夜空に跳ね上がる。
自由落下の勢いに合わせ、大剣は銀色の曲線となって振り抜かれた。
ドンッ
切っ先が床板にめり込む重い衝撃音があった時、アアメの右側に生えた三本の触手は根本から断たれていた。触手自身の重みで微かに傷口から身がずり落ちかける。
見事な一撃にあちこちからヒューだかピーだか口笛が上がった。
やはり何時でもむっつりなカーナは、息をつく間もなく、着地に反発する筋肉の弾みを使い再び飛んだ。残りは左の三本。
カーナが飛び去った次の瞬間、本体に三つ並んだ丸い断面からドッと濃い体液が吹き出し、床一面に粘つく水溜まりを作った。
切株のような切断面同士が粘液の糸で結ばれ、その糸を手繰るように、裂かれた部位は元の位置に戻ろうと引き寄せられる。
しかし、「引け!!」と野太い号令が掛けられ、数人の船員が斬られた触手を引いてそれを阻止する。
繋がりかけた傷口は糸と共に引き剥がされ、三本の触手は本体から分離した。
開始からここまでの僅かな時間、作戦は流れるようにスムーズに進行していた。
しかし、カーナが左側に生える触手も断とうと踏み込んだその時、アアメは覚醒した。
体の内部、内臓全てが一つのポンプのようにドクンと波打ち、自我を取り戻す。
船上の誰もが推測するより早く、アアメはショックから立ち直った。
以上ほしゅ
投下乙!!
次回もカーナのターンであろうか?
54 :
名無しさん@ピンキー:2008/10/18(土) 07:54:47 ID:bi0jzEn3
下がりすぎ
GJです!
56 :
名無しさん@ピンキー:2008/10/19(日) 16:06:36 ID:hiO3PjZz
カーナ強ぇぇぇぇ
57 :
名無しさん@ピンキー:2008/10/24(金) 22:54:35 ID:uCL6TG+T
age
保守
59 :
名無しさん@ピンキー:2008/11/03(月) 21:53:00 ID:MO/MxwUc
新作と続き期待
ぶつ切れを投下します。
注意・エロ無し。ヒロインがモンスターにボッコされる。
NGはトリか名前欄の「光の庭へ」でお願いします。
突如こちらへ頭をもたげた触手の姿に、カーナの瞳孔がビクリと収縮する。
―ヂュルルッ
嫌な音と共にアアメの三本の触手は起立し、飛び込むカーナに向かい槍のように伸びた。
カーナは咄嗟に得物を振るうが切っ先が二本の触手に切り目を入れただけに終わる。
剣撃を免れた一本の触手が大きくしなり、無防備となったカーナの胴を横殴りに叩いた。
「っ」
あまりに重い一撃に呼吸が止まる。
目の中に墨を落とされたように視界が闇に染まり意識が飛びかける。だが気を失ってはいけない。
自分の戦闘力を欠けば残された人間ではこのアアメに対抗できない。
そうなればジュネが死ぬ。
彼を守る事がカーナの役割。まだ自分は死んではならない。
カーナは叩き落とされながら、揺らぐ視界で天地を見定めた。
着地の衝撃を殺すため鋼の義手を床に向けるが、回り込んだ触手が両腕と胴に巻き付く。
動けない。
―風を切る音の向こう。遠くに、船員達の悲鳴が聞こえる。
ガンと大きな音を立て、カーナは頭から床板に落下した。綺麗な卵型の顔が床にバウンドする。
今度こそ、カーナの意識はブツリと黒く閉じた――
――こ、こんにちは。
…ええと、良いお天気ですよね。あ、曇りか。ははは…。
そのっ、お姿を拝見するに、お姉さんは傭兵さんをしなさってらっしゃるんですよね。
あっ敬語おかしいですね。ごめんなさい。
…ええと僕はご覧の通り神官です。一応上位神官。
えーあのっ、この度ですね、神官付きの護衛を募集しているのです。
それで…お、お姉さんに…僕の護衛をしてもらえないかなーなんて…。
……う、う、お給料も高いし危険な任務も少ないし、神官護衛ってすっごくお徳な仕事なんです。
め、迷惑でしたらもちろん断って下さって結構です。
もし興味がおありでしたらいつでもいいので中央神殿にお越し下さい。
はい。ここの通りを真っ直ぐ行った所の、あれです。
入口のおじさんにジュネリアって名前を出せば取り次がれますから。
あ、ジュネリアって僕の名前です。ジュネって呼ばれますけど。
…じゃ、じゃあその、お待ちしていますのでこれでっ。さ、さようならっ――
緊張のあまり手の平が汗でグシャグシャになっていたのを覚えている。
二年前。ジュネは街を歩いていたカーナを初対面で勧誘したのだ。
今思えば、相当思い切った事をしたものだと自分ですら驚く。
床にぺたりと座り込んだジュネは、古い記憶を丁寧になぞりながら熱の籠る吐息を細く吐いていた。
しばらくすると、落雷のような衝撃がガンと叩き付けられ天井が弾んだ。
首をすくめるジュネや船員達の上に埃や塩の屑がパラパラと落ちる。
額に落ちた塩の結晶にも構わず天井を見上げていると、船長のざらついた指が塵を払い退けてくれた。
「また何か見えましたか?」
船長の言葉にジュネはふるふると首を振る。唐突に沸いた透視の力は熱が引くと共に肉体の奥に隠れてしまった。
「ああいうの、僕も初めてだったんでまだ自由に見えないんです」
読心の力は相変わらず正常に使えますが、とは言葉を接げなかった。
上位神官の読心能力は公には密事なので、一般の船員の居るこの部屋では口に出来ない。
再びアアメの様子が見えるだろうかと腹に力を入れれば、ぐぅと真の抜けた音が鳴った。
普段なら眠りこけているはずの深夜に幼いジュネの体は空腹を訴えた。
ジュネは情けなくて眉を下げる。
―船上では大変な戦闘をしているというのに。
(…あの時、護衛は簡単なお仕事ですとか言ったけど…嘘になっちゃった)
ジュネは瞳を閉じる。
(ごめんね、カーナ)
二年間のあの時、道端でカーナと目が合わなければ衝動的に声を掛けなかっただろう。
だけどジュネは見てしまった。あの青い瞳の中。カーナの内側を覗いてしまった。
―初めて彼女を覗いた時の鮮烈な衝撃が蘇り、ジュネは制服の胸元をぎゅうと掴む。
(多分、一目惚れだったの…。カーナの中を見た瞬間、どうしてもこの人と一緒に居たいと思ったの…)
何故自分が千里眼の能力を発現させたのか推測できた。
カーナと出会ってから二年間、より深く見たい、より鮮明に見たいとカーナに目を凝らしてばかりいたからだ。
酷使する筋肉が太く育つように、瞳も自然と鍛えられていたのだろう。
では、何故ジュネはそこまでカーナに目を凝らしていたのか。
(それは、「見えない」から)
カーナの中に何も見えない事は分かっていても、注意して覗けば何か見えるかもと未だに疑ってしまう。
心が無い人間がこの世界に居るなんて、何年経とうが信じられない。
天井が鳴っている―。
ズルズルと何かを引きずるように端から端へ音が走る。
あれは、何を引きずっている?
ジュネの愛する女の子が引きずられているのだろうか。
カーナの内側。
そこには、何も無かった。
以上です。ほっしゅ
66 :
名無しさん@ピンキー:2008/11/05(水) 00:42:18 ID:szcip6ZV
軽いあらすじあると助かるかも。
あらすじ書いてみました
〜ジュネ君(12)の軌跡〜
この大陸では神官という職業が大きな権力を持っていました。
中でも中央神殿にお勤めの上位神官は、他人の心を読む術を持つ厄介な連中です。
上位神官のジュネは相手の目や顔を見れば心が読めちゃう男の子。
視察役に任命されたジュネはお供に護衛のカーナを連れて各地の神殿行脚に出発しました。
カーナは右腕に異形の義手を持つ女傭兵。無表情でだんまりな女の子ですが、ジュネはそんなカーナが大好きスキスキ。
まずは船に乗って近場の神殿を目指します。が、航海中にアアメという魔物に遭遇してしまいました。
カーナ達が甲板でアアメと交戦中、ジュネは船内でカーナの無事を祈り悶々としているのでした。
なるほど。助かりました。GJ!
カーナちゃんって何歳位なんでしょ?
かなちゃん「3しゃい」
「だんなさま、おかえりは遅くなりますの?」
舌っ足らずな声が玄関に響いた。
片足立ちでローファーを履いていた雪は青い血管が透ける白い首を声の方へ捻った。
二階に続く階段に幼い少女の影が有る。少女の服装を見た途端雪は眉をひそめて両足を着いた。
姿を誇示するように大袈裟に膨らんだスカートと胸元や袖口の豪華を極めたフリル装飾――。
足元から墨を刷けたようなグラデーションが美しい菫色の18世紀風ドレス。
目の上で揃えた前髪を囲う、黒薔薇を並べたデザインの幅広のカチューシャと合わせ、全て初見だ。
「シァンリー、また服買ったの?」と咎めれば、名を呼ばれた少女は煩わしそうに雪を睨み返す。
「いまわたくしが聞いているのはだんなさまのおかえりの時間。質問で返さないでくださる?」
くるんとした丸い目をスゥと細めて雪をたしなめた。
透明な薄紅色の瞳は桜花を封じ込めた水晶のように甘く、どこか人間離れした酷薄な色をしている。
ツンと上がった目尻とアイラインのように濃い睫に縁取られ、シァンリーの紅い視線は雪に突き立った。
――女王様気質の彼女に気弱な自分が勝てる筈はない。
雪は口をつぐみ、犬のような黒い目を伏せた。
騎士団もの投下します。
下品だけどエロシーンなし。
NGはタイトルの「ナイーツ」でお願いします。
74 :
ナイーツ:2008/11/11(火) 00:58:49 ID:9HbIYRzO
とある騎士団領。
温暖な気候の平野地帯に拠点を構えた城は穏やかな昼下がりに包まれていた。
この石造りの執務室にも日の光が差し込み、壁を飾る紋章のタペストリーを厳かに照らす。
騎士団の紋章――
盾を背景に中央に立つ白銀の剣と、剣を守護する様に左右に対となって吠える二頭の白い獅子。
騎士の忠心と勇猛とを示す美しく気高い意匠である。
その紋章を前に、気高さの欠片もない行動をする騎士隊長と見習いが居た。
「うちの見習いが迷惑をかけてすまなかったな」
「すまん…」
「俺の真似をするな!お前は誠心誠意ちゃんと謝れ!」
「もーしわけごじゃいません…」
「噛むな!」
部屋の中央奥に構えられた机の前に執務室の主が仁王立ちしている。騎士団二番隊隊長のシスレイだ。
「あの…マシュリちゃんも反省しているようですし、その辺で結構ですから」
困りきった顔の若い騎士が怒鳴る隊長をなだめた。
立派な体躯の隊長は、その右手に小さな女の子・マシュリちゃんをぶら下げて振り回していた。
まるで子猫の首の後ろを掴み上げるように襟ぐりを掴んでぶ〜らぶら。
マシュリはやる気のなさそうな無表情でされるがままに左右に揺れている。
75 :
ナイーツ:2008/11/11(火) 00:59:39 ID:9HbIYRzO
「マシュリちゃんが酔ってしまいますよ」
しかし、シスレイは頑固だ。
「おら!謝れ!」とマシュリを上下に高速シェイクしだした。
マシュリのふわふわしたプラチナブロンドが宙に舞い毛玉のような残像を作る。
もふもふ、ぶんぶん、ぽよぽよ。
激しく揺られながら「たたたすけてててて…」とブレた声で助けを求めるマシュリ。
二人の因縁を知らない人間が見れば悪質なしごきでしかない。騎士は我慢の限界とばかりに声を荒らげた。
「女性に対しこのような乱暴をされるとは!隊長ともあろうお方が騎士道を違えますか?」
うっ。年下から正論で説教される程恥ずかしい物はない。ノリノリだったシスレイも流石に腕を止めた。
「けぷ…」
マシュリはぐったりした顔でぷらーんと力なく四肢を垂らしている。
「ほら、嫌な感じでえずいてるじゃないですか!」
騎士はシスレイからマシュリをもぎ取ると、「失礼します!」とツカツカ退室してしまう。
…ぽつねん。
部屋に一人残ってしまったシスレイは何かの視線を感じて振り向く。
そこには、壁に掛けられた紋章の白獅子がいた。
―騎士たるもの、婦人には優しくありなさい―そう諭すような双子獅子。
76 :
ナイーツ:2008/11/11(火) 01:00:35 ID:9HbIYRzO
シスレイは思わず手を合わせタペストリーを拝んでいた。
(獅子様、獅子様…。今のは見なかった事にして下さい)
「うちは宗教団体じゃないんだが」
不意に声を掛けられシスレイは飛び上がる。
「お前、勝手に獅子様とか敬称付けて崇拝するなよ」
いつの間に部屋に忍び込んだのか、ラランス団長が机に腰掛けて悪戯っぽく笑っていた。
団長の神出鬼没には慣れっこのシスレイだがバツが悪そうに赤くなる。
「今の…口に出てました?」
「お前は自分が思ってるより単純な奴なんだよ。口にも出るし顔にも出る」
花のように笑って机から降りた。一息に間合いを詰めるとシスレイの太い首に自らの両腕を巻き付ける。
むにゅうっ――柔らかな胸が押し当てられた。
「わ!」
「まだ礼をもらってないからな、受け取りに来た」狐に似た長い吊り目がニィと笑う。
「礼はキスの一回でいいぞ。ただし下手糞だったらやり直しだ」
「お礼って…マシュリの夜這いのあの件ですか。あ、あの節はお世話になりました」
何とか話題を反らそうとシスレイは必死だ。
ぴたりと寄せられた団長の見事な胸やなだらかな腰から、熟した果実のような甘い香りがむんむんと鼻孔を突く。
77 :
ナイーツ:2008/11/11(火) 01:01:27 ID:9HbIYRzO
間近に迫る美貌に頭が(というか腰が)煮立ちそうだが、白昼堂々とけしからん真似をする訳には…。
さらに獅子様がガン見する前で騎士団長と隊長が絡み合うとは、騎士団への冒涜ではなかろうか。
シスレイの心などお構いなしに団長はくつくつ笑う。
「そうだ。あの時私が誤魔化してやらなかったらお前、今頃騎士団を除名された上に切り殺されてるぞ」
その言葉にシスレイの煩悩は一気に冷めてしまった。
――そう、あの夜。マシュリにハメられ絶対絶命というあの瞬間、
「皆の者、そこまで!これは私が仕組んだ訓練だったのだよ」と団長がペロリと嘘をついたのだ。
流石は騎士団長の一声、納得した騎士達は直ぐ様剣を鞘に戻し、破りかけた扉の前でお開きになった。
安堵のあまりぶっ倒れたシスレイの上を、とっとと服を着たマシュリが踏み越えて行く。
部屋を出る瞬間「失敗した…」とつまらなそうに吐き捨てたマシュリをシスレイは涙目で呼び止めた。
「マシュリ…お前…ここまでして俺を蹴落としたいのか?」
「うん」
うん…て。ブワッと泣き伏せるシスレイを置いて、マシュリはクールに闇に消えたのだった…。
(本当に最悪だった…)
シスレイは当時を思い出し瞼の裏を熱くした。
78 :
ナイーツ:2008/11/11(火) 01:02:18 ID:9HbIYRzO
今まで持っていた男としてのプライドをズタボロにされてしまった。ある意味犯されたのはこっちである。
シスレイは騎士の中でもエリートであり、権力あり金あり上背あり、オマケに床の上でもそれなりに強い男である。
女性にはモテていたのだ。
「あはん、騎士殿はこっちの剣捌きも凄いんですねぇ」とか、
「隊長さんの一番槍が熱いのぉ。あたし、もう落城しちゃう!」とか、
上手いんだか上手くないんだかよく分からない喩え文句で賞賛を浴びていたものだ。
それが、たかがチビ見習いの手の平でいいように転がされるとは…。
マシュリは憎いが、自分自身にも腹が立つ。
女の子なんて一発やれば調教できるだろうなんて不埒な考えがこんな事態を呼んだのだ。
「なあ、早くしろ」
団長が口付けを急かす声でシスレイは我に返った。
反省は後にして、とりあえず今はこの困った上司をどうにかしないと。
「ほら、見せつけてやろう」
団長がシスレイの耳に素早く囁く。クスクスと忍び笑う吐息が耳朶に熱い。
見せつける…?壁の二頭の白獅子に?
しかし、意味ありげに入口を横目で見る団長に気付いてハッと視線を追った。
じー…。
薄く開いた扉の隙間からこちらを見つめる瞳がある。
79 :
ナイーツ:2008/11/11(火) 01:03:45 ID:9HbIYRzO
あの重い二重瞼の眠そうな目は――
「い、いけません!駄目です!お礼なら何か他の物でしますから!」
マシュリの姿に気付いた途端、シスレイは団長の腕の拘束をヒョイと解いた。
団長は目を丸くする。
「ほう。随分とマシュリに弱くなったな」
「べ、別に」
「すっかり脅えてしまって情けない」
「…違いますよ」
シスレイはマシュリには聞こえぬよう声を潜めた。
ゴニョゴニョゴニョ…
二人の間から甘い空気が消えたのを見計らい、マシュリは扉を押し開けて突入した。
さっき青い顔で運ばれた癖に、トテテと小走りにシスレイに駆け寄って来る。
「お、来たなマシュリ〜」
団長が子どものようにマシュリの行く手を阻んだ。
「ほら、お前がグズグズしているからお前の隊長は私が取ってしまったぞ。お色気作戦永久に失敗ー」
わざとシスレイの腕に絡み付いてしなを作る。無表情のマシュリの瞳に一瞬険しい光が走った。
「駄目…」
マシュリはもう片側に回り込んでシスレイの腰に抱き付く。
未だ自分に執着するマシュリの姿に、シスレイはホッとしたようなドッと疲れたような複雑な感情を覚えた。
何にせよ、目の届く場所に居てくれなくては手に負えない。
80 :
ナイーツ:2008/11/11(火) 01:05:39 ID:9HbIYRzO
「ひっ付くな、離れろ。団長ももう悪ふざけはやめて下さい」
「えー、つまらん」
「つまらん…」
シスレイは女二人を振りほどくと、マシュリの背中を押して歩き出した。
「ほら、今日の分の稽古が残っているぞ」
「やだ…」
「マシュリ、隊長にはちゃんと従うように。団長命令だ」
団長もマシュリのお尻を叩いて送り出す。
「やだー…」
マシュリは面倒臭そうにシスレイに連行されて行った。
「シスレーイ!頑張れよ」
まるで娘のようにキャッキャと手を振って見送る団長に、「用が終わったなら早く出て下さいよ。机とか荒さないで!」とシスレイは釘を刺す。
シスレイが扉を閉める瞬間、紋章の二頭の獅子と瞳が合った。
(婦人には優しく…)
いや、力技なくてこの性悪を躾るのは不可能だ。
シスレイは胸の中で獅子様に手を合わせ、早速逃亡を試みているマシュリの襟首を掴み上げた。
「けぷ…」
――団長。俺はマシュリを一人前の騎士にしたいんです。
――男の…いえいえ、騎士の意地です。
シスレイの言葉を反芻して団長はプッと吹き出した。
ムキになっちゃって。しばらく退屈はしなさそうだ。
おしまい
以上です
82 :
名無しさん@ピンキー:2008/11/12(水) 20:25:34 ID:y3X9kFul
シスレイガンガレw
王様と書記官の続き来ないかなあ…
あー、好きだなあのシリーズ。
当人同士のキャラと互いに背負ってるものの重さ加減がよかった。
王様はいつから書記官に本気になったんだろーとかいろいろ気になるな。
女教師から私的に呼び出され、悪戯を受ける事は幼い時分から度々あったが、それを生業にしようと思い立ったのは中学二年の夏だったか。
今では、教師やOL、主婦達の数人が雪のパトロンとなっている。
贅沢な十代だと、プレゼントされたジャケットを鏡の前で肩に当てながら雪は微笑んだ。
鏡の中の少年もまた、花弁に似た薄い唇を吊り上げる。どこか儚げなその笑みは造り物めいた程可憐に整っていた。
――相手に従い、養われるペットの生活。
「美味しい生き方だね」
幸せそうに独りごち、貢ぎ物の山のにジャケットをはらりと放った。
それは、雪が年増の主婦とベッドを共にした日の帰りだった。
雪は、コートを着込んでもなお華奢な肩にブランドの大きな紙袋を提げ、閑静な住宅地を黙々と歩いていた。
本日贈られたのは細身のパンツとシンプルなシャツ。大概の客は自らの趣味で雪を着飾りたがり、次々と衣服をプレゼントしてくる。
そろそろ二つ目のクローゼットが必要になるかと思案していた矢先、携帯のバイブレーションが鞄を揺すった。
「何ーお母さん」
見た目通りのあどけない声で電話に出ると、母は随分と機嫌良さそうに笑っていた。
「今どこ?家にお客さんが来てるのよ」
86 :
郭狐求相:2008/11/16(日) 22:35:45 ID:JjPruIZM
中華風の主従モノとして書いてみました。
エロなしほのぼの系? なので、NGはタイトルでお願いします。
少年は呼吸を整え、構えをとる。全身の力を抜かず、そして入れず。矛盾しているよう
に聞こえる言葉だが、これは彼が目の前で同じ構えをとる師父から教わった、武術の基本
だ。
少年の準備が出来たのを確認すると、師父は一呼吸を置いて、最初の一撃を放つ。
右の上段正拳。少年は体勢を崩しながらも、それを辛くも躱して正拳を放つ。師父はそ
れを左手で叩き落とす。続いて脇腹に向けて左脚を撃ち込む。少年はすぐに防御の態勢を
取ろうとするが、すでに二度もバランスを崩していてはそれも適わない。師父の蹴りをま
ともに受けた少年は、鞠のように弾かれ地面に転がる。
慌てて少年は立ち上がるが、師父からの次の一撃が来る気配がない。
「ここまでです、郭様」
構えを解き、師父は少年に軽く頭を下げる。
「まだまだ麗狐には敵わないな」
郭と呼ばれた少年は土埃を払いながら、肩を落とす。
「郭様が武術を習い始めてまだ半年。その程度で追いつかれては、私の立場がありません」
麗狐は、もともと切れ長の目をさらに細めてクスリと笑う。
87 :
郭狐求相:2008/11/16(日) 22:36:25 ID:JjPruIZM
名は体を表す。
郭は、学問の時間に習った言葉を思い出した。
その目だけではない。すらりとした身体と流れるような仕草も、郭が狩りで見かける狐
にそっくりだった。
そもそも彼女の素性もはっきりしない。郭が、この国を治める王である父から、警護役
兼武術の師父にと紹介されたのが半年前の事だった。
王は麗狐の事を昔から知っていたわけではない。ちょうどその頃、都では、悪漢どもに
一歩も引けを取らない女武術家がいるともっぱらの噂になっていた。これを聞きつけた王
は、宮中にその女武術家、麗狐を呼び出したのだ。もともと若くして武の頭角を見せ、一
代でこの国を興した王は、旅の武術家をよく宮内に招いては、武芸の話をする事を好んで
いた。
王は麗狐としばし話をした後に、彼女に息子である郭嶺の警護と武術の指導を頼んだ。
麗狐はそれをあっさりと快諾すると、その日からこの宮内に部屋を与えられて、この宮内
で生活するようになったのだ。
「郭様、どうかなされましたか」
自分をじっと見つめたままの郭に、麗狐は首をかしげて問いかける。
「ねぇ。麗狐はどこから来たの」
「どこから……と言われましても」
問いに問いで返してきた郭に、麗狐は重ねて首をかしげる。
「物心がついた時には、すでに私は師父とともに旅をしていましたし。東西南北、色々な
国を回って参りましたから」
88 :
郭狐求相:2008/11/16(日) 22:37:22 ID:JjPruIZM
「でも、その服は北から来る者が身につけているものに似ているぞ」
麗狐は食事や住まいについては、この国の風習に何も言わず従っていたが、服装だけは
別だった。
宮内の女達は、みな鮮やかに染められた、襟のついた裾の長い上衣とスカートを着てい
る。しかし麗狐は、男が戦いに出るときに着るような素っ気もない服の上から、墨で染め
たような薄手の上衣を羽織り、それを一本の腰紐で結んでいるだけだった。しかもその上
衣の裾には大きく切れ込みが入れられ、動きを妨げないようになっていた。
「さすが郭様。よく勉強されているのですね」
麗狐は満足そうに頷くと、郭の前で右足を支点にして、くるりと回ってみせる。ふわり
と広がる上衣の長い裾が、まるで狐の尾のようにも見える。
「確かにこれは、北の方を旅した時に見かけた服装を真似たものです。ただし向こうでは、
もっと厚く編まれた布や、羊の毛を使います。あちらはこの辺りに比べて、だいぶ寒いで
すからね」
麗狐の説明に、郭は狐につままれたような表情を浮かべる。
「それにしても、今日は質問の多い日ですね。一体どうされたのです」
「それは……」
言いよどむ郭だったが、これ以上、質問を重ねることは出来ない。今度は、彼が答える
番だった。
「みんなが麗狐の事を、狐の物の怪だと言うから……」
郭の言葉に、麗狐はキョトンとした表情を浮かべる。
そして、次の瞬間――、
89 :
郭狐求相:2008/11/16(日) 22:38:16 ID:JjPruIZM
「くくく……私が狐の……くくくくく」
おなかを抱えて、笑うの必死に堪える。
「その、父上が簡単に麗狐を召し抱えたのは麗狐が父上を術にかけたからだとか、月の晩
には瞳が狐の瞳になるとか、夜中に麗狐が尻尾を生やして宮内から飛び出たとか。それに
――」
郭は真っ赤になって口から泡を飛ばしながら噂話を並べる。麗狐はその必死な姿を見て、
さらに可笑しくなったのか、苦しそうに身体をくの字に曲げる。
「れ、麗狐ッ」
麗狐の反応に、噂に踊らされた自分が恥ずかしくなったのか、郭は耳まで真っ赤にして
大声を出す。
「ハァハァ……すみません、郭様。しかし……それは、くくく。い、いえ。失礼しました」
ようやく笑いを飲み込んだ麗狐は、軽く咳払いをしてから続ける。
「私も自分の素性についてはよくは知りませんが、少なくとも妖怪の類ではないと思って
います。何でしたら、確かめてみますか?」
「確かめるって」
郭に答えるよりも早く、麗狐は郭の手を取ると、それを自分のお尻へと持って行く。
「え?」
自分が何をされているのか理解するよりも早く、手のひらを通して感触が伝わってくる。
麗狐のお尻の谷間。きゅっと締まっているが柔らかな肉感。先ほどまで稽古をしていた
せいだろうか、しっとりと濡れた汗の感触。
「郭様、そんなに力を入れないでください」
90 :
郭狐求相:2008/11/16(日) 22:39:01 ID:JjPruIZM
「は……いや……ご、ごめんッ」
謝る必要などないはずだが、この時の郭にそんな事を考える余裕などあるはずがなく、
慌てて手を離す。
「で、どうでした」
「ど、どうって……」
「尻尾があるかどうかですよ。何を考えてるんですか、郭様」
「な、何でもないよッ。尻尾はなかった、それでいいだろッ」
あまりの恥ずかしさから、郭はぶっきらぼうに言い放つと、その場を足早に離れる。
「郭様。お身体を洗われるならご一緒しますよ」
追いかける麗狐の足音に、それから慌てて逃げるような郭の足音。
今日も宮内は平和だった。
以上です。
麗狐かわゆいなぁ。
うん。
尻尾とか、エロくないのにエロくてほのぼので可愛いな、GJ!
管理人じゃないですがウィキの2章目を編集してみました。
途中で力尽きたので入ってないのもあります。
かなり大まかにやったので段落分けや小説の説明文、誤字脱字など、
間違いがあると思うので、気付いた方がそれぞれ修正を加えてくれると助かります。
一応「保管庫に入れないで欲しい」という注釈があった物については除外してますが、
間違えて入ってたらごめんなさい。
あと、個人的に表記で気になったんですが
和風時代小説っぽいのを何て表記したらいいのかよく分からないので
誰か良い言い換えの言葉を知っていたら修正をお願いします。
95 :
86:2008/11/22(土) 01:09:42 ID:BFTbPmld
感想ありがとうございます。
次は、スレの趣旨に沿って濡れ場も入れたいと思います。
続きなら、お風呂でかな……
「お客さん?誰?母さんの友達?」
「教授さんよ」
――ああ、おっさんか。
雪はつまらなそうに唇をツンと突き出した。
教授は雪の父親と親交が深く、昔から家族ぐるみの付き合いをしている。
小洒落たスーツとシルバーの髪がトレードマークの老紳士で、雪にとっては実の叔父のように気安い人である。
(可愛いがってくれても小遣いはくれないんだよな。おっさんはよー)
心中で毒を吐く雪をよそに母親は楽しそうに話し続けた。
「ねえ、だから帰りにマドレーヌ買って来てもらいたいのよ」
近所の商店街にはかなり有名なケーキ屋がある。そこのマドレーヌが雪家のお茶受けの定番なのだ。
「僕もう家に着くから無理。寒いし直帰るからね」
「えー?しょうがないわねえ」
「切るよ、切からね」
雪は強引に通話を終わらせた。もう道の先に自宅が見えている。
ご近所からプチベルサイユ宮殿と囁かれる巨大な敷地の白亜の御殿だ。
我が家ながら、見る度にその派手な外観に「手狭な日本で何してんの。馬鹿じゃない」と脱力してしまう。
門をくぐってから玄関まで広い庭を歩く雪は、ふと視線を感じて屋敷を見上げた。
二階の窓に人影が見えたが、すぐにかき消えてしまう。
とある秘書とバカ坊ちゃんで数レスお借りします。
上司部下でエロなし。
NGは名前欄でお願いします。
烏丸美鈴は如月怜二の元に派遣された私設秘書である。
表向きは怜二のスケジュール管理を仕事としている。
さて、表向きと言うからには裏向きもあるのかと問われれば、ある。
ちょうど今夜も始まるところらしい。
「おーい、もう19時だよ」
「あ、はい。では夕食をお持ちします」
その返事を聞くと怜二は目に見えてぶすくれた表情をした。
「違う。飯のことじゃなくて」
不満げな顔をしてそっぽを向いた瞬間振り返る。
「いや、二人で今すぐ食事に出る!」
言うや否や外出の支度を始める怜二。
――仕事を始めて1ヶ月。
美鈴は早くもくじけそうになっていた。
怜二はサボるわけでもなく、仕事をしないわけでもない。
実際怜二の仕事量は凄まじいものがあるが本人は平然のやってのける。
そこの所は尊敬できる……と思う。
尊敬できる上司の下で働けることはとても喜ばしいことだ。
上司のためにフォローしておくなら人の話を聞かないわけではないのだ。
ただ、自分に都合の良いように解釈してしまうところがあるというか。
それも別に仕事の上では悪いことではない。
強引に流れを変えて、自分のペースでもって仕事を運ぶのが怜二は得意だ。
ひとつだけ、美鈴が困っていることがある。
「美鈴ちゃん、準備は?もう出れる?」
それがこれ――怜二からのアタックだった。
勤務時間外の名前呼びに加えて、書類を渡すたびに手を握るのは日常茶飯事。
仕事が終われば食事や買い物に付き合わされる。
その度に美鈴の狭い部屋に増えていく分不相応なプレゼントの山。
断ろうにも「俺がしてあげたいからしてるだけ」と押し切られては積んでいく。
一体何がそんなに気に入ったのかと思って聞いてみたこともある。
「え?んー…直感?」
自慢ではないが、美鈴の容姿はせいぜい十人並みである。
22歳になる今まで男性とのお付き合いの機会には恵まれなかった。
その話も正直にしてみたのだが。
「だが、そこがいい!」
といわれる始末。
その上、「俺が初めての彼氏とかそれはそれでおいしーな!」とまで言い出す始末。
ここまで来ると美鈴にはもはや理解不能である。
しかし美鈴にいいところを見せたいのか、以前の秘書がいたときより仕事効率がいいらしい。
怜二は顔もよいしそれなりに性格もよい。
ので本当のところ、まあ悪い気はしなてない美鈴である。
そのため、今までは好きなようにさせてきたのだが。
「じゃあいこっか。今日は何が食べたい?」
美鈴の肩に手を置きながら部屋を出ようとする怜二。
「如月様、こういうことをされるのは本当に困ります」
一度といわず何度も口にした言葉。
だが今回は押し切られるわけにはいかない。
今回こそ、と言うべきかも知れない。
「えーなんでぇ?っていうか、時間外なんだから名前で呼んでよ、怜二って」
へらっと笑う怜二をきっと睨みつける。
流されてはけない。
相手は雇い主で、自分は部下なのだ。
それもあんな噂が流れているとなれば自分だけでなく、怜二の名に傷がつく。
「申し訳ありませんが、お断りします」
言うと美鈴の肩を離して顔の前で手を振って見せる怜二。
「美鈴ちゃーん、外野の言う事なんて気にするだけ無駄だよー?」
そのの言葉に美鈴の肩が震える。
「…知って、らしたんですか?」
驚きを隠せない美鈴に怜二が続ける。
「烏丸美鈴はカラダで仕事を取った、とか、如月家の次男坊は秘書に誑し込まれてる、とか?」
その通りだった。
社内でまことしやかに流れている噂。
補足しておくならば怜二は名前に二が付いてることでわかる通り次男である。
「まあ、後半は嘘じゃないけど……巻き込んでゴメンね」
そう言われてしまうと返す言葉がない。
「でも美鈴ちゃん……いや、烏丸さんは厳正な審査の上で俺が選んだのだから」
真面目な表情でそう言われてしまうと弱い。
しかも顔がいいからなおさら困る。
いつも、こんな風に真面目にしてればいいのに、と少し思う。
「仕事の出来にも不満はないどころか給与アップを考えるべきかも知れないなー」
アハハと笑いながら後ろを向いていた怜二が振り返る。
「でも本当に助かってるよ、いつもありがとう」
少し、鼓動が跳ねる。
いつもこうやって真面目にしてくれたら、私だって……そんな胸中を隠しつつ。
「はい、ありがとうございます」
何がありがとうなのかわからないままそう言って俯く美鈴。
それを見て、何を思ったのか怜二が美鈴の正面に立ち、真面目な表情をする。
「俺としては噂通り骨抜きにされたって構わないんだけど?」
美鈴の顔を下から覗きこむようにして口を動かす。
「カオよし、性格よしの上に金持ちの次男坊って普通お買い得なんじゃないの?」
怜二の口から出た言葉に一瞬あっけに取られて、思わず笑ってしまう。
「あ、笑った。よしよし、やっぱりかわいいな」
自分の顔を見て一緒になって笑う怜二にからかわれたのだと悟る。
「からかわないでください」
「からかってないよって言ったら本気にしてくれる?」
やられっぱなしでいるのも面白くない、と美鈴は反撃に出る。
「秘書に手を付けたって言われますよ?」
どうだ、と実際脅しにも何にもなっていないことを言って胸を張る美鈴。
「ああ。うちは社内恋愛自由なの。俺が君を採用してすぐに決めた」
軽く交わされ拍子抜けする。
「え?じゃあなんで如月様とこんなに噂になってるんですか?」
目を丸くして美鈴が怜二に詰め寄る。
社員食堂や女子トイレで好奇の目にさらされるのなら自分たちだけじゃなくてもいいはずだ。
「……俺が珍しく仕事してるから?」
言い難そうにそっぽを向く怜二。
「美鈴ちゃんがいてくれるとやる気が出るっつーか、なんていうか…」
ごにょごにょと怜二が話してるのを適当に聞きながら美鈴は思い出していた
引継ぎのときに美鈴が現在している仕事をしていた人から『如月様はすーーっごく大変だと思うけど、がんばってね』といわれたことを。
あれは仕事をしないから仕事をさせるのが大変だって意味で…そう思えばいろいろなことに合点がいく。
「なんだあ。私がどうとかじゃなくて、如月様だからこんなに噂になってたんだあ」
力が抜けて床にへたりこむ美鈴。
なんだか笑ってしまうが、意外に消耗していたようである。
「え、え?なに?どうしたの美鈴ちゃん?もしかして具合悪い?」
いきなりしゃがみこんだ美鈴を前にうろたえる怜二。
「気が抜けて、立てません」
だから自分を放って食事に行ってください、と続けようとした美鈴の体がふわりと浮いた。
「と、とりあえずソファに…」
そう言った怜二の顔がすぐ横にある。
いわゆる女の子の憧れ、お姫様抱っこされてると気付いた美鈴は暴れだした
「え、あ?如月、様ッ!お、おおお、重いですから!!はな、離して!」
人一人というのはそれなりに重量があるものであって、大人しくしていればそれなりに支えられるが暴れられれば均衡は崩れる。
怜二はとっさに尻餅をつくようにして後ろに倒れこんだ。
……美鈴を抱えたまま。
動くものがいなくなった部屋が静寂に包まれる。
「美鈴ちゃん、どこか痛いところは?」
床に倒れたまま聞くと、怜二の上で美鈴が身じろぎする。
態勢を崩しても美鈴を離さなかったために上半身が密着している。
「…いひゃい、れす」
お互いの体温が交わって溶けた頃、美鈴がポツリと声を洩らした。
「え?どっか痛いの?!どこ?!」
美鈴をなおも抱えたまま怜二が上半身を起こすと、膝の上に座らせるような形になった。
それが恥ずかしいのか、はたまたこういうことに免疫がないからか顔を真っ赤にした美鈴が口を開く。
「しら、をかんらみたいでふ」
覚束ない口調で言葉を紡ぐ。
倒れるときに大声を上げていたのでそのままの勢いで舌を噛んだのだろう。
少し涙目で口を開けて見せる美鈴。
夜、至近距離、想い人は腕の中で顔を赤くして涙目で、口を開けて何かをねだるように舌を突き出している。
この状況で狼にならないには、怜二は若過ぎた。
「んっ、んんぅ?」
抗議らしき美鈴の声ごと飲み込むように口付ける。
唇で、美鈴のそれを食み、舌でなぞり、味わって――口腔に進入しようとしたところで思いとどまる。
「ごっ、ごめん!」
我に返った怜二は自分のしたことに驚いて美鈴を膝から降ろすと頭を下げる。
…床に座っていたのでそれは自然と土下座の格好になる。
「本当にごめん!勝手に、合意なく、彼氏でもない男にこんなこと…」
謝罪の言葉を口にしながら何度も頭を下げる怜二。
「でもそれは美鈴ちゃんが本当に魅力的だったからで……ってそんなの言い訳だよね!ごめん!」
墓穴を掘りながらなおも言い募る。
――が、返事はない。
「美鈴ちゃん?」
怒りのあまり口もきいてくれないのかと恐る恐る顔をあげた怜二が見たのは唇を半開きにしたままぼんやりとしている美鈴の姿だった。
何を謝っていたのかも忘れて、手が伸びそうになる。
そういえば、美鈴ちゃんは彼氏がいたことないって言ってたっけ。
どこか冷静な部分でそう考えて、彼女の初めてのキスを奪ってしまったことに喜びと罪悪感を感じる。
「美鈴、ちゃん?」
もう一度呼びかけると美鈴の視線が怜二に向いた。
「え、ああ。……はい」
まだ少しぼんやりとしながら、顔を赤らめて俯く美鈴は仕事をしているときと違ってまた可愛らしい。
なんか初々しいよなあ。
そんなことが頭をよぎるが謝罪が届いてなかったのはたしからしい。
怜二はもう一度頭を下げる。
「本当にごめん!好きでもない男にあんなことされれば怒って当然だと思う。殴って気が済むならいくらでも殴っていいから」
額を床に擦り付けんばかりにして頭を下げながら美鈴に殴られるのならそれはそれで、いい…とMなことを考える。
「急に……だから、驚きました。どうしてあんなこと」
恥じらいながら話す美鈴ちゃんもまたいいなあ、と思いつつ謝罪を続ける。
「誰でもよかったわけじゃなくて君だから、思わず……」
そこまで口にしてふと怜二は思う。
俺、今までに美鈴ちゃんに好意はアピールしたけどちゃんと口にしたことはないんじゃないか?
まあ、口にはキスしましたけど。
一人でツッコミを入れながらさらに考える。
まず、告白して、お付き合いを申し込むべきなんじゃないだろうか。
怜二は顔を上げるとまっすぐに美鈴を見つめる。
「美鈴ちゃんが好きだ。俺と付き合ってくれ!」
飾らない直球。
驚いたように目を見開くと逃げ場を探すように視線をさまよわせる美鈴。
「断っても仕事に支障は出ないようにする!無理だから諦めろといわれても急には絶対諦められないと思うけど…」
床に手をついて美鈴の方に身を乗り出すようにして続ける。
「考えて、みてくれないか」
見上げる美鈴の顔はさっき以上に赤い。
だが、視線をそらさずに口を一文字に結ぶと、口を開いた。
「はい」
「美鈴ちゃん大好きだー!」
言うと同時に美鈴を抱きしめる。
考えてみることに対する返事なのか、付き合ってもいいということなのかなんてことは怜二にはどうでもよかった。
ただ、好きな人が腕の中に収まっているだけで幸せだったのだ。
嬉しそうにしている怜二を見て、美鈴も悪い気はしていないようで、怜二の背にそっと手を回す。
上司と部下という関係の他に彼氏彼女という関係が加わるのはそう先の話ではなさそうだ。
**終**
GJ!
面白かった。
GJ!!
美鈴ちゃんもかわええけど如月もいいキャラだなぁ
(*´Д`)
主人従者で社長秘書という発想は無かった
主従って言うとファンタジー物が多いから、現代物って新鮮だな
美鈴ちゃん可愛いよ美鈴ちゃん
美鈴をメイリンと読んでしまう俺orz
うわっ…
>>111-112 思っても書かないで心にしまっておく どうしても書きたくなったらチラシの裏活用
黙って気になる名前を一括変換
ジャンル萌えはジャンルスレでどうぞ
ところで主人の男はかっこいい方がいい?ぶさいくあり?
ぶさいくでも、上手く書けてれば大丈夫。
せむし不細工の金持ち次男に本気で惚れ込んで尽くす女従者と、
女を思うからこそ突き放そうとする男主人とか個人的に最高だと思う。
ロートレックさん最高です。
>>115 ロートレックとは渋いとこ付くなー
成り上がり障害持ち絵描きと
娼館から貰い受けてきてメイドにした少女とかか
ロートレックは名門貴族じゃん
>>115 自分がこのスレに求めてるのはそれ系だと悟った
119 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/21(日) 02:32:03 ID:w0gnx8UA
保守
120 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/22(月) 21:57:45 ID:zooc6bcd
新作と続きを期待
安芸
123 :
名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 18:50:26 ID:grSkwC8/
保守
124 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 20:02:29 ID:3+Chb+5E
上げ
過疎りすぎてるので投下。
長すぎるのとエロ的には薄味なので
要望がなければ次の職人が来たら打ち止めるよ
私が「彼」のことを知ったのは友人からの又聞だった。
友人と言うのは、自分で自分を遊び人だと自覚している私が、それ以上に遊び人だと認定
している、肥田悠人である。
三十も半ばだというのに、名前の通り悠々とのらりくらり生きていられるのは肥田家が名門
貴族だからに他ならない。私もまた似たような身分で、そのこともあって意気投合している。
ある日私の家で一緒に酒を飲んでいるとき、泥酔していた私がお前に真面目な友人など
いまいと言うと、悠人はへらへら笑っていた顔を急に無表情に変えて「いや、いる」と言った。
「まともではないが、真面目ではあるな。まぁ向こうが俺を友だと思っているかは定かでは
ないが……」
「はは、なんだそれは」
「学生時代の級友なのだよ。高等学校で一番の成績だった。俺は遊び呆けていて、そいつに
試験前にノオトを貸してくれと頼んだら、なんと貸してくれたのだ。あまり話したこともなかった
のに何で貸してくれたのだと聞いたら、俺という生き物の生態がおもしろいというのだ」
「セイタイ……?」
「奴からすれば俺は自分と別の生き物のように見えるらしい。遊び呆けている俺という人間が
理解できないというのだ。理性的すぎて、俺の方からも理解できない。なんとなく付き合いが
続いているが……なあ、まともではないだろう」
面白そうじゃないか、会ってみたいなと言った私に、悠人は急に真面目な顔で言った。
「お前にも理解できまいよ。あれは下半身に、種の代わりに脳髄が詰まっている男だ」
冗談だと思って笑うと、本当のことなのだと悠人は怒った。
「で、物は試しだと会いに来たわけか」
彼−−川城英博は私と悠人を代わる代わる、その鋭い目で見た。
首都日元から馬車で一時間かかる、酪農の町、恵土。
およそ最新の文化や技術に程遠い田舎町の小山の上に、どこの貴族の邸宅かと見紛うモダンな
白壁の屋敷が建っている。
しゃれた外観とは裏腹に、屋敷の中には美術品の一つも飾られてない。こんな屋敷を持っている
のに召使いの一人も雇っていないので掃除の手が回らないらしく、本当は磨き上げたように美しい
はずの長い木目の廊下は、隅のほうに埃が積もっている。
全体にそんな様子の屋敷の中で一箇所だけ、屋敷の東に位置する書斎だけは様子が違った。
一階と二階の吹き抜けになった書斎は、四方の壁が窓以外、全て本棚になっている。その全てに
悉くみっしりと本が並び、まるで本でできた部屋のようである。淡い黄色のタイルの床は鏡のように
磨かれている。
部屋の只中に構えた重厚感のある樫の机に、彼は浅く腰を掛けていた。
級友というからには悠人と同い年であろうが、川城は少なくとも悠人より一回りは老けて−−
悠人が若ぶりなせいでもあるのだが−−見える。原因は割合長身であるのに酷く猫背なせいで
あるのと、何よりその外見にあった。
醜男、というわけではないが、陽気で伊達男なある悠人と比べるとどうにも陰気臭く不気味だ。
暫く理髪にいっていないのか、黒い重たげな髪は、前髪が目元まで垂れている。痩せて頬骨が
でているし、何よりその鋭い目つきが威圧感を与える。
確かに高等学校に通えるというのに遊びに現を抜かしていた私達と違い、川城は学の匂いが
するが、果たして私達と彼、どちらがましな人間に見えるかと聞かれれば、九割の人間は返答に
困らないだろう。
「わざわざ話の種で出てきた変人に会いたいとは、物好きな人間もいたものだな」
「それはお前のことだろう。何を好んでこんな田舎に屋敷を構えたんだ。一時間も田舎町を走る
馬車に揺られたせいで、尻が痛いぞ。汽車の停まる場所にしろ」
「蒸気機関なら一年前、海外に短期留学をした時に毎日乗ったよ。あの煤煙は良くない。まだ
馬車のほうが健康的だと思うがね」
「……もういい。で、今は何の研究だ」
川城は不気味ににやりと笑った。
「『ヒト』の生態系だ」
「人?」
「そう。動物の中において、獲物をしとめる強力な牙も、襲い来る敵から逃げる強靭な脚力も
持たずに、生態系の頂点に君臨した『ヒト』という生物が、どのような生物であるかを研究して
いる」
「生物って……人間をそこら辺りの犬や猫だのの獣と一緒にするなよ」
「一緒だとも。君達こそ人間を犬や猫だのの獣を超越した存在などと考えることは止したほうが
いい。特に肥田、君のように物欲と性欲が盛んな、生物的な本能が濃い『ヒト』はね」
悠人は「俺はケダモノか」とあからさまに顔を顰めたが、川城は構わず続ける。
「最近の研究ではヒトはサルから進化したとされている。南方のゴリラというサル科の動物は
生活の中で道具を使うそうだ。何百年も昔の我々の祖先はゴリラのようなサルだったのかも
しれないのだよ。脳の巨大化と新たな大脳皮質、二足歩行などによって新たな……」
「あーあー、もういい、外国語じゃなく俺に理解できる言語で話してくれ」
「生憎今のは君の母国語なのだがね。さぁ、素見しが済んだのなら帰りたまえ」
「まぁ待てよ。別にお前の素見しの為だけにここに来たというわけでもないのだ」
「ほう? では何の為だね?」
川城は机の上に広げた書物の山から視線を悠人へと移した。
「一緒に買い物へ行かないか、誘いに来たのだ。お前が今、人を研究しているというなら多少は
その足しになるかもしれん」
「? 書物でも買いに行くのかね」
「いいや」
悠人は悪戯っ子のように、にいと笑った。
「いけば分かるさ」
次の日曜の朝、私は機関車に乗って、悠人と川城に会う為近江へと向かっていた。
二年前に開通した蒸気機関車路線は、計画では国を縦横無尽に繋ぐ大規模なものである。
しかし予算の関係で首都付近からの段階的な増設を余儀なくされており、現在利用可能な駅は
まだ五つに留まる。何れも政治経済の要衝であり、その一つが日元から二駅の近江である。
近江は首都に一番近い貿易の拠点で、町一つ入りそうな広大な敷地の港だ。埠頭にはぎっしり
倉庫が並んでいる。
駅から人と荷物の波を掻き分け掻き分け進み、三十分かけてようやく待ち合わせの第四倉庫に
たどり着くと、貨物を納める巨大な扉の前には既に川城と悠人が待っていた。
「一緒に行きたい買い物とやらを早く済ませてくれないかね」
川城の視線の先には、荷車で二つ隣の第六倉庫に運ばれていく輸入物の書籍があった。
「はいはい、解りましたよ。全く。こっちだ」
言って悠人は人通りの少ない第三倉庫と第四倉庫の間へ私達を手招きした。
「? 買い物に行くのではないのか?」
「もちろん行くさ、この中にね」
にやりと笑って悠人が指差した第四倉庫の壁には、壁と同じ色の引き戸がある。
「こんなところに入り口が?」
「ただの入り口じゃないぞ。会員専用の隠し扉だ。君達は僕の同伴者ということにしてある。変な
真似は起こさないように、あと誰にも言ってはいけないぞ」
扉を叩いてちょっとしてから、僅かに開いた扉の隙間からぎょろりとした目が覗いて私達の顔を
一巡した。
「会員百二十七の肥田悠人だ。この二人は同伴だ。入れてくれ」
じぃ、と悠人の顔を見つめた目はふと見えなくなった。暫くしてがらりと大きく扉が開き、狐に似た
タキシード姿の男がにこやかに私達を招き入れた。
「いらっしゃいませ肥田様。いつもご利用ありがとうございます」
「この二人は『あれ』の見学希望者なんだ。入れてくれるな?」
「勿論でございます。それでは案内を私めが……」
「ああ、構わんで結構。気心の知れた連中だからね、私が案内するよ」
こっちだ、と手招きした悠人に続いて、私と川城はランタンで仄暗く照らされた階段を降りていった。
「こんな地下に一体何の商店があるというんだ? 悠人」
私の言葉に、悠人ははは、と声を上げて笑った。
「商店ではないよ、競売さ」
「競売?」
「そう。欲しい商品が出した言い値で商品が買えるという寸法だ。ここは特別な会員制の競売でね。
参加しているのは国の外も内も関係なく、皆金持ちばかりだ」
「だが、こんな場所で何を−−」
私が言い終わる前に階段が終わった。地下は巨大な演劇場のような装いだった。私は何年も昔に
世界旅行をした際、西洋で見た歌劇の劇場を思い出していた。
舞台を見下ろす客席部分には大勢の紳士服の集団が座っている。ブロンドの髪や青い目もちらほら
−−いや、むしろそちらのほうが大多数だ。そしてその視線が集まる舞台の先には−−
「……! 人間!?」
舞台上には牢屋を思わせる鉄格子の四角い部屋があり、その中に数人の女性が閉じ込められて
いた。皆、一様にギリシア彫刻を思わせる裾長の白服を着ており、手首には手錠を嵌められている。
かなりの美貌の持ち主ばかりだ。
「肥田。これがお前の言う私の研究に役立ちそうな買い物とやらか?」
「その通り。海外の御仁に乗っては魅惑的な肉欲の市場、我らにとっては貴重な外貨獲得の場という
わけだ。己の快楽の為ならば、自分と同じ種族を売ることも厭わぬ人間−−お前に言わせれば『ヒト』
って生き物か、その様子を観察できる場所など滅多にないだろう」
「ふむ。ならば少し観察させてもらうとしようか」
私は二人の言動に軽く寒気を覚えた。確かに悠人と川城は外見こそ違えど、その価値観は実は
かなり似通っているのではないかと思った。だから学生時代から今まで付き合いが続いているのだ。
そしてその価値観は、かなり残酷なものなのではないのか。
「よおし、そうこなくては! 何なら買っていくか? 昔と同じく金を溜め込んでいるのだろう、そろそろ
妾の一人でも」
「断る。奴隷を買う趣味は無い」
川城はきっぱりと言い切って、胸ポケットから取り出したメモにさらさらと何かを書き留め始めた。
競売が始まり、女が檻から出される度に地下の空気は熱量を増した。競売参加者の欲望がそのまま
空気になったかのような、身体に纏わりつく異様な熱さだ。
私達は悠人の計らいで競売所の壁情報に設けられた、テラスの特等席からその様子を見ていた。私の
右隣に座った川城は、客席を見つめてはメモを取る動作を繰り返していて、私達のことなど微塵も意識して
いないらしい。
「……なぁ悠人、あの人たちは一体どうなるんだ?」
舞台上の囚われた女達を指して、私は左隣の悠人に問うた。
「海の外の御仁に買われれば、そのまま外へ行く。この国の御仁に買われれば国内だ。まぁどちらでも
使われ方に大差はないと思うがね」
「……つまり……」
「十中八九、性玩具か奴隷だろうな。買った人間の嗜好にもよるだろうが、ろくな扱いは受けないよ」
−−そんなことが、許されるのか?
私の考えを察したらしく、悠人は「お前はお坊ちゃんだからな」と少し悲しげに微笑んだ。
「海外の先進諸国に比べれば、我が国はまだ後進国扱いなのだよ。貴奴らと肩を並べるには金が入る。
こんな方法でも、資源の少ない我が国には外貨獲得の貴重な機会だ」
そう言って平然と悠人は視線を競売所へと戻した。
何となく、私は彼と眼下の紳士服を来た性欲の軍団を見るのが苦しくなって、半ば救いを求めて右隣の
川城を見た。彼は相変わらず競売の様子を観察している。今度は買い手ではなく、商品へと観察対象を
変えたようだ。
−−?
メモを取る手が休んでいる。先ほどと少し様子が違う。
私は彼の視線の先を辿った。
檻の中の女達は皆、青褪めたてさめざめと泣き続け見ているだけで哀れになる。が、その中に一人だけ
様子が違う女がいることに気がついた。
年の頃は二十歳といったところだろうか。長い艶やかな黒髪に色白の肌。はっきりとした二重の大きな瞳は
じっと紳士服の群れを見つめている。目の前の競りに熱中している買い手達は全くそれに気付いていない。
−−何を、見ている?
自分達を物としか見なしていない獣共に怒っているわけでもない。かといって悲観している風ではない。ふと
川城に視線を戻して、私は何となく女の視線の意味を悟った。
−−観察している。
女の視線は、川城のそれに何となく似ている。目を開き、対象を正確に理解しようとする探求の視線。
川城はそれに気付き興味を持ったのだろう。今、彼の観察対象は檻の中の女達ではなく、彼女だけだと、
訳もなく私は確信をもった。
舞台上で張り付いたような笑顔をした紳士服の男が声を上げた。
「只今の九番の商品は七十五円で会員四十九番様の落札と成りました。おめでとうございます!それでは、
次の商品をご紹介いたします!」
観察している女が、檻の外へと連れ出された。
初リアルタイムktkr
雰囲気が良いね。
主従としては結構変則的だが自分は好きだなぁ。
続き待つ。
133 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/07(水) 03:56:19 ID:hyxZDFDF
>>132 あいむ あぐりー うぃず ゆー!
>>125 ぐっじょぶ!
あいむ うぇいてぃんぐ ゆあ ねくすと わーく!!
これは面白い予感がする…!
続き楽しみにしてます!
続きに超期待
136 :
名無しさん@ピンキー:2009/01/14(水) 01:48:00 ID:PIn47mmQ
ほ
も
アッーーー
ほしゅ兼ねて
FSSの騎士とファティマって良主従のオンパレードだよな!
主がいるときはお馬鹿、いないときだけ本性発揮従者
頭が固くて経験不足の主を優しく賢くフォローする従者
今までの主に散々ひどい目に遭わされて、今の主に壊れてでも尽くす従者
子供の頃に出会った主をずっと思っていた従者
ただ一人と決めた主と死に別れた従者
主の死後、その子供に仕える従者
ぶち壊れて立場逆転してる主従
…どんなシチュ考えてもどっかかぶるぞ畜生!
FSSはなぁ、好きな部分もたくさんあるんだけど、
所詮洗脳(マインドコントロール)だしーと思うとな。
されてないふぁちまもいるけど。
完全な主従ではない感じもするんだがNHKでやってる星新一のショートショートのアニメであった「ある一日」ってやつの女執事が凄い好み
自分が今一番熱い主従はwjのアスクレピオス。
いざというときはかっこいい(?)けど普段は弱気な主と元気いっぱいで強気の従者。
こういう主従関係が一番好み。
…よし、何か書いてみる。
143 :
125:2009/01/22(木) 23:59:04 ID:xU32sJYb
・いんちきな昔の日本ぽい国が舞台
・誤字脱字は仕様だと思いたい
・↑なので保管庫は遠慮するorz
そして142に期待。
舞台上の男が声を張り上げ「商品」の美点を並び挙げている。女は好き勝手に自分を評する男の声も自分を
品定めする群衆の目も意に介さず、会場を見渡している。
時折、視線が止まるのに気づいて、私は彼女の視線の先を探る。彼女に程近い客席の、葉巻を吸う紳士服。
照明の洋灯。舞台に程近い出入口。
−−逃げるつもりか。
だが会場には腕の立ちそうな屈強な男たちが警備に回っている。辿り着いたところで捕まるのがおちだ。
「肥田」
「何だ。もう帰るなんてのはなしだぞ。いい年しているのに女の影もないお前のために折角−−」
女の競りが始まる。舞台上の男が開始価格を会場全体に響かせようと大きく息を吸い込んだ。
「買う。私は声の通りが悪いからお前が値段を言ってくれ」
「お!? 珍しいじゃないか、いいぞいいぞ、幾ら出す」
「五百だ」
「よ……な、五百だと!?」
悠人の驚きの声を、そのまま舞台の男が繰り返した。
「さぁ、五百が出ました! ……え、ご、五百!?」
言った後でやっとその額に気づき、競売の支配人の張り付いた笑顔が剥れた。紳士服の群れがざわめき
その視線が私達に集まる。それは檻の中の女達も、そして肝心の競りの「商品」についても同様だった。
驚いた顔で私達を見上げた女の視線が悠人と私を辿り、川城で止まった。見下ろす川城はたじろぎもせず
その目を無感情に見つめ返している。
何故だろう、私には女が自分を買った人間は川城だと確信しているように見えた。
「し、失礼いたしました。五百です。五百円! 他にはいらっしゃいませんか!?」
ざわつきは収まらないものの、それ以上の大きさの声はない。
「それでは十番の商品は、会員百二十七番様の落札となりました! おめでとうございます!」
落札の声に、女は我に返った。
−−?
一瞬だが、女は焦ったような動きを見せた。何故かそこに留まろうとしていたが、舞台袖から出てきた黒服の
男二人に両腕を掴まれ、為す術もなくずるずると引きずられていく。見えなくなるまでの間、女は何度も
川城を振り向いた。
まるで、助けでも求めるような顔で。
144 :
125:2009/01/22(木) 23:59:42 ID:xU32sJYb
全ての競売が終了し、私達は入り口で会った狐面の男に、更に地下へと案内された。
落札された女達は競売所の下にある個別の控室で待機させられていた。控室とはいってもそこは冷たい
石壁に鉄扉ひとつしか出入口のない個室が幾つかあるだけの牢屋のような場所で、本当に只「出荷」を待つ
だけの控室だった。目線の高さに設置された鉄扉のはめ殺しから、ランプ一つしかない部屋の中で、行き先も
そこで待つものも分からぬまま、迎えに怯える女達の姿が見えた。
「本日は高額でのお買い上げ誠にありがとうございます、川城様! 今後も魅力的な商品を取りそろえており
ますので、是非とも当競売所の会員に−−」
「彼女はここか。開けたまえ」
すり寄る笑顔を無視して川城は言った。狐面の男は「はい、只今」と胸ポケットから鍵の束を取り出し、流れる
ような動作で鉄扉の錠前を外した。こういう態度には慣れているらしい。
先程の格好のまま、彼女は部屋の真ん中に真っすぐ立ち、私達を待っていた。
遠目でも分かってはいたが近くで見ると成程商品になるだけあって美しい女である。可愛いというよりは美しい
顔立ちで、はっきりした二重の瞳は強い意志を感じさせる。長い黒髪は烏の濡羽色で艶があり、白い肌も触ると
いかにも心地よさそうだった。肉付きはそれ程でもないが、特別胸やら尻やらに執着がなければ彼女の凛とした
風貌に似合うすらりとした身体だった。
女の細い手首に嵌められた鉄の手錠を見つめる川城の視線に気づいて、狐面の男が言った。
「万一、反抗しないとも限りませんので。鍵はこちらです」
「わかった。少し外してもらえるかね。内密に話したいことがあるのでね」
川城に鍵を渡し、男は下卑た笑いを浮かべて「かしこまりました」と頭を下げ部屋を出た。格子窓からその姿が
十分に小さくなったのを確認してから、悠人に向きなおり、徐に胸ポケットから財布を取り出して手渡した。
「外で服を買ってきてくれ。妙齢の女子が町を歩いても問題ない、一般的なものを頼む」
「なんだよ、その女に着せるのか? だったら流行りの服でも……」
「一般的なものを頼む」
私は一年前、悠人が付き合っていた女に海外で流行りだという腿までしかない着物を買い与え、その日の内に
別れを言い渡されたことを思い出した。
ぶつくさと文句を言いながら悠人が出て行ったのを確認してから、川城は女に向きなおった。
「火を起こすのは諦め給え」
145 :
125:2009/01/23(金) 00:00:49 ID:xU32sJYb
「火?」
思わず問い返した私に、川城は「ああ」と振り返りもせず言った。そのまま女に近寄って手を差し出した。
「その手かせではランプの火をとることもできまい」
女はわずかにためらったが、川城の手にぐちゃぐちゃな灰色の紙切れを置いた。
「新聞紙……便所の紙をくすねたのか。いい判断だ。油分があるから火種にはもってこいだな」
川城は何故か嬉しそうだった。
「どういうことなんだ?」
「逃げようとしていたのだよ」
私に向きなおって川城は言った。
「だがただ逃げるのでは成功する確率は著しく低い。会場にはここの主人が雇った警邏が絶え間なく見回っていた
からね。だから火を起こし混乱に乗じようとした。密閉された地下の空間での火事は脅威だ。もっとも火を起こせる
確率も相当低いがね」
「じゃあ、君があんな高額で彼女を買ったのは……」
「できるだけ早く競売を終わらせて彼女をあの場所から遠ざけるという意味合いも確かにあったよ。彼女が自分に
一番近い火種と逃亡経路を見極める時間を与えてはいけなかったからね。万一彼女の計画が成功すれば我々が
危ない可能性もあった」
「どうしてわかったのですか」
私も川城も女を振り向いた。外見より少し若く感じる声だった。
「悲嘆にくれず、君は諦めていなかった。そして明らかに何かを探していた。君の置かれた状況、それを観察する
理由を考えれば逃亡を計画していることは自ずとわかる。彼も気づいていたよ。残りの一人は気づいていなかった
ようだが」
川城が私を目線で示した。
「なら、なぜ五百円も? 競売は平均五十円から百円で成立していました。貴方は相場の五倍から十倍で私を
買った。たかが奴隷を買うのに、こんな値段はありえないはずです」
女の言葉に、川城は益々喜びを顔に表した。私には、いっそ狂気じみて見えた。
「その通り。たかが奴隷ならばね。私は人間としての君の価値を買ったのだ」
「価値?」
146 :
125:2009/01/23(金) 00:01:49 ID:xU32sJYb
「君は自己の人間的権利を諦めていなかった。なおかつ逃げるため実現可能な最善の手を導き出していた。私は
そういう人間が好きなのだよ。君は、実に好い」
女は呆然としていた。それは私も同様だった。そんなことで、奴隷十人は買える金をたった一人を手に入れる為
だけに使う川城が、理解できなかった。
「おい、買ってきたぞ。なんだ、何かあったのか?」
帰ってきた悠人から服を受け取った川城はそれをそのまま女に渡し、手錠を外した。
「着替えて外に出るまでは静かにしていたまえ。それから後は自由にするがいい」
「!? おい、川城お前どういうことだ!」
「どうもしない。ああ、馬車に乗る金ぐらいは要るな。後で渡そう」
「お待ちください」
女の声に、私達は皆振り向いた。
胸に服を抱いたまま、女は川城の前に跪き頭を垂れた。
「川城様」
「様などいらん。君は人間だ」
「私をお使いくださいまし」
私も悠人も訳が分からず、固まった。川城は眉間にしわを寄せた。
「奴隷を買ったつもりはないと言ったはずだが」
「受けた御恩を返さねば私が納得できません。如何様にされても文句は申しません。せめて買っていただいた分
お役に立てねば、私は奴隷どころか役にも立たぬがらくた以下になってしまいます」
川城は黙り込んだ。私と悠人は彼の次の行動を待った。
唐突に部屋の扉を開け、川城は静かに言った。
「名前は?」
「セツでございます」
「セツ。使用人として君を雇う。それでいいな」
女は顔をあげた。喜びを湛えた笑みと共に。
「仰せのままに」
続ききてたー!
先が楽しみなんで続きをお願いしたい。
GJ!
なんか引き込まれる文だな。
続き待ってる!
うめえ・・・
いいなGJ!
ぜひ続きをお願いしたい
保守
154 :
名無しさん@ピンキー:2009/02/11(水) 15:01:24 ID:mT1/AKEL
捕手
>>154 上手いな…SSを待ち構えている感じがする
w
忘れ去られた聖地の続きが読みたい
カーナちゃんはまだか・・・
159 :
125:2009/02/21(土) 02:14:42 ID:16jX10x+
ごめんね、パパ忙しかったんだ……
納得がいかない。
女を連れて屋敷に戻り一休みに茶を入れ、どういうことだと聞いた俺に川城は「矛盾を突いたのだ」と言った。
「只買われ自由を与えられても、それでは籠の鳥を逃がすようなもので私の言う『人間』ではないということだ。
考え行動するのが人間。買われた分は返すのが自分の考えであり行動であり、人間としての自分であると彼女は
主張したのだよ」
「違う。それもあるが、そういうことじゃない。どうして買った女を雇っているのかと聞いているんだ」
「彼女が望んだからだ」
「馬鹿か! ただでさえ買った分金がかかっている女を、更に月々給料出して雇うなんて正気か!?」
「正気だとも。私は社会人として労働を望む者に、そしてその成果が期待できるものに出資は惜しまない。少なくとも
私と同い年で未だ親の脛を齧り続けている君よりはよっぽど真人間だと思うがね、肥田」
俺は喉の奥に石を押し込まれたようになって、黙り込むしかなかった。川城は俺の痛いところをよく知っている。
「……だが、あの女に何の労働の成果があるっていうんだ? 精々この屋敷の手入れと家事をするぐらいじゃないか。
あ、それとも何か、お前もまだ男を棄てていなかったか」
「相も変わらず君の脳は下半身でできているな、肥田。言っただろう。私は奴隷を買ったわけではないと。ちゃんとした
機会に恵まれれば彼女は絶対に化ける。できればこんな場所で家事手伝いなどせず、自分で仕事を起こすなり学問に
勤しむなりしてほしいところなのだがね」
「……本当に正気か? お前がそんなことを言うなど今まで見たことがないぞ」
「では私が一度でも間違っていたことを見たことがあるかね? 肥田」
「……」
俺は何も言えなかった。
「だがそれでは彼女が納得すまい。人間としての矜持を持っているからな。何かうまい理由をつけて世に出る機会を
作ってやらねば……」
160 :
125:2009/02/21(土) 02:15:15 ID:16jX10x+
川城がまた一人の世界に飛んでしまったので、俺は仕方なく一緒に来ていた友人の藤代優介と玄関の外に出、
葉巻をくわえた。
「理解できるか?」
聞いた俺に、優介は「さっぱりだ」と答えた。
「昔から付き合いのある君に分からないのなら、最近知り合った僕に分かるはずもないだろう」
藤代は俺から聞いた川城の話に興味を持ち、つい先日奴と知り合ったばかりだ。優介の言葉ももっともだった。
奴隷を十人は買える金をはたいて女を手に入れたと思ったらそいつに服と駄賃まで与えて自由にしようとし、女が
自分から奉公を申し出たのに、それを更に解放する手立てを考えている。女に、それほどの才能があるからだという。
何をどうしてそこまでの確信が持てるのか、さっぱり分からない。
「ですから、そういうわけにはまいりません」
俺も優介も屋敷の二階を見上げた。その辺りから、確かに件の女の声がした。
葉巻をくわえたまま屋敷へ入ると、女の声がした辺りから今度は川城の声がした。
「行く宛てのない君を雇う以上、ここのどこかに住んでもらうことになるのだ。構わんだろう」
「私は川城様にお仕えする身です。このような扱いをされては−−」
何となく察しがついた。
−−部屋でもめているのか。
洋館の二階に使用人用に誂えた部屋などあるはずもない。川城は客間の一つを女に与えようとしているのだ。
「自らを貶めるような物言いは感心しない。火を起こしてまで逃げ出そうとしていた先刻の気概はどうした?」
「あれとこれとはまるで違います! 私は−−」
「セツ」
名前を呼ばれて女は黙り込んだ。
「これは私の矜持だ。君が自由であることを他人に譲り難いように、私は私の意志を持ってして君に奴隷の生活を
させることは許容できない。私は君を雇う以上、君を人間として扱わねばならない。それが拒絶されることは私にとって
君に奴隷になれというのと等しい侮辱だ」
「……」
女が口を開く気配はない。言葉のぶつけ合いは川城の十八番中の十八番だ、無理もなかった。
161 :
125:2009/02/21(土) 02:16:36 ID:16jX10x+
「ずっとここに住まわせる気か?」
相変わらずの猫背で愛用の机についた川城に、俺は訊いた。
「まさか。適当に説き伏せて家に帰すさ。肥田、君の知り合いに探偵がいたら、日元周辺の富裕層で十代後半から
二十代前半の娘が行方不明になっている家がないか調べてくれ」
「どうして日元の富裕層限定なんだ」
「言葉遣いを気をつけているにしても一切訛りがない。女だてらに計算ができるということは、親に娘を学校に行かせる
経済的余裕があるからだ。田舎娘や下町娘ではありえないだろう」
「川城様」
二回ノックの音をさせて、書斎の扉が開いた。白いワンピースに紺のロングスカートに着替えた女がいた。こじんまりと
納まり過ぎて、俺の好みには合わない。競売会場での奴隷の服のほうがまだそそる気がする。
「掃除用具はどこにありますでしょうか?」
「それなら二階の物置部屋だ……といっても物置がどこか分からないか」
川城は腰をあげて、書斎を出て行った。
「…………」
−−何なんだ。
確かに、川城に女を買わせるつもりだった。
浮いた噂の一つもなく、田舎町に引っ込んでいるくせ、その頭脳でもって好き勝手に研究した成果を勝手に世の中に
認められ、お偉い方々の業界では名声を得ている嫌味な級友に、恩の一つでも売ってやろうと思っていた。
ならば、女がこの屋敷にやってきたことはむしろ予定通りではあるのに。
納得がいかない。
>>159 待ってました!やっぱり素敵だ
ぐいぐい引き込まれるわ。続き楽しみにしてます
おかえりパパ
パパおかえり。
すてきなおみやげをありがとう。
先が気になってしかたがないんだぜ。
おかえり。
すっごく続きが読みたかったんだ。ありがとう。
文章が読みやすくて引き込まれるよ。
かっこいい文章ってこういうことをいうんだね。
面白いな!続きが気になる。
書記官を地味に待ってる。
俺も書記官待ってる。
年下の王様に翻弄される書記官ハァハァ
光の庭への続きを待ってる
169 :
名無しさん@ピンキー:2009/03/17(火) 13:49:49 ID:bJJENiVi
上へ参りま〜す
170 :
誇り高き若様の意外な性癖:2009/03/18(水) 18:25:19 ID:HGt0o1Er
「ぁ…キラ様ぁ…もっと、下…」
お仕えしている若様の部屋の前で甘い声を聞いたリーナは、おもわず足を止めた。
そして、透けて見えもしないのにドアをじっと見つめてみる。
「どこがよろしいのか、具体的に申し上げてもらいたい」
「んもぅ、キラ様の意地悪…」
「フフフ、何をいまさら」
部屋から洩れるそれらの会話からは、妖艶な雰囲気がにじみ出ている。
リーナの味わったことのない世界。
中で繰り広げられている情事を想像して、彼女はため息を漏らした。
(また若様が女性を連れ込んでおられる…今日はどこの令嬢なのかな…)
その姿を想像し、嫉妬している自分がいることに、リーナはずっと前から気付いている。
決して認めたくはないけれど。
キラは、彼女が食事を部屋に運ぶと、イタズラなほほえみを浮かべながらリーナに意地悪を言う。
「今日もおまえの体は貧相だな。もう16なのに一向に成長する気配が無い」
そう言って胸を触られたこともある。完全なセクハラだ。
リーナはキラにされる行為を嫌がっている。主従関係にあるから反論できないだけで、本当は
すぐにでも怒鳴って平手打ちをくらわせたいくらいなのだ。
(…それなのに、なんで私はあの人のことが好きなのだろう?)
毎日女をとっかえひっかえして遊んで、俺様主義で、変態で、意地悪で、偉そうで、冷たくて。
命令に従っても、御苦労さまのひとつも言わない。そんなキラに、リーナはだんだんと
惹かれていった。日に日に、恋心は大きくなっていく。認めざるを得ないくらい。
「あふぅ…っ!」
あえぎ声が次第に色っぽさを増す。耐えきれなくなったリーナは逃げるようにその場を立ち去った。
(他の女を抱かないでなんて言わない…一度だけでいいから、若様に愛されてみたい)
その夜、リーナはいつものように若様に抱かれる自分を想像しながら、自慰をした。
「ん…っ」
大きな声が漏れないように気をつけながら、ゆっくりと下着の筋をなぞる。
「ぁ…若様…っ」
快感が押し寄せると同時に、むなしさもこみあげてくる。
一生かなうことのない夢。身分の違いという高い壁。
「ひ…くぅん」
涙があふれ出すと、興奮も次第に薄くなり、苦い感情だけが残った。
こんな気持ちになるなら自慰なんてしなければよかったと彼女は後悔する。
(疲れた…もう寝てしまおう)
リーナはそっと目を閉じ、毛布を頭までかぶった
ちょっ、続きは?!
終わりなのかー!
173 :
名無しさん@ピンキー:2009/03/18(水) 19:51:55 ID:HGt0o1Er
>>172 続きあります。間違えて消しちゃいました
明日投下します
続きwktk
深夜3時。
結局一睡もできなかったリーナは、重い体を起こして着替えを始めた。
メイドの朝は早い。特に彼女は、朝早くに起きて屋敷の掃除や庭の手入れをしなければならないのだ。
パジャマを脱ぎ、質素なメイド服に手をかける――その時、リーナの部屋の電話が鳴った。
こんな時間に鳴ることはめずらしいので、彼女は少し驚き、硬直した。
我に返り、あわてて受話器を取る。
「はい、こちらリーナ・ハイウィンドです」
「俺だ…」
低くて少しかすれたその声を聴いて、リーナはビクッとした。
「わ、若様ですか?どうされました?」
「今すぐ俺の部屋へ来い。一人でだ」
「えっ!?」
リーナは動揺した。
「若様…?私、なにか若様にご無礼を致しましたでしょうか…」
「いや、そんなことではない」
「では、なぜこんな時間に…」
「いいから来いと言っているんだ。これは命令だ。」
強い口調。これ以上何か言ったらひどい目に遭いそうだ。
「かしこまりました。すぐに向かいます」
ふぅ、と息をついて受話器を置こうとしたその時、受話器からまた声がした。
「30秒以内にこい。わかったな」
リーナはあわててメイド服を着込んだ。
豪華な装飾を施したドアの前で、リーナは今にも泣きそうな表情をしていた。
この中には、若様がいる。きっと怒っているに違いない。
(どうして?私は何もしていないのに、なんで呼び出されるの?)
何をされるかはわからないが、リーナにとって嬉しいことではないことは確かだ。
入りたくない…プレッシャーを感じる彼女の脳裏を、30秒以内に来いと言ったキラの声がよぎる。
(…えいっ!)
深呼吸して、ぐっと目をつぶると、彼女は勢いよくドアを開けた。
「たたた、ただいま参りましたっ!」
部屋の中は真っ暗だった。デスクの上の小さな明かりがついているだけだ。
キラは、ベッドの脇に置いてある椅子の上に座って待っていた。
「入れ」
鋭い口調に、リーナは内心震え上がるが、そんな態度を表に出すことはしなかった。
彼女は努めて微笑を浮かべ(無理しているのでひきつった顔になってはいるが)、明るい声を出した。
「はいっ!失礼します!」
「近くにこい」
「はひっ!」
緊張で声が裏返り、あわてて両手で口元を隠しながら近寄るリーナ。
「もっと近くにこい」
「えっ…」
リーナとキラの距離は今、1mほどだ。これ以上近寄って何をしようというのか。
「早くしろ」
言われるがまま、リーナは歩を進めた。こんなに間近でキラを見たのは初めてだ。
なんだか恥ずかしくなり、思わずうつむいてしまう。
キラは立ち上がり、リーナの肩をつかんだ。小さな体がビクンと震える。
「お前に頼みがある」
「な、何でございますか?」
「俺を苛めてくれ」
「……は…」
リーナがあっけにとられる前に、キラは彼女をベッドに押し倒した。
「わ、わわわわわかさまぁぁぁっ!?」
突然のことにリーナは激しく動揺し、手足をバタバタさせる。
「リーナ、静かにしろ…!」
「いいいいくら女好きでもわわわ私のようなものにまで…」
彼女の言葉はそこで遮られた。唇を塞がれたからである。
「……!?」
思わず口をあけると、容赦なく舌が入り込み、リーナの口内をねっとりと探る。
「んっ…んんっ…」
少し口を離したかと思うと、またすぐに付け、舌で彼女の歯列をなぞったり、舌を舐めまわしたりする。
「ふ…んぁぁ…っ」
初めての感覚に、リーナは頭がおかしくなりそうだった。
やっと唇が離されると、彼女は息苦しさに耐えきれずむせてしまった。
「ケホッ、ゴホッ」
「おい、大丈夫か?キスのときは鼻で呼吸するんだぞ」
気を使って背中をさするキラ。リーナは真っ赤になった。
「はぁ…はぁ…」
「やっと落ち着いたか」
「はい…すみません…」
見上げると、すぐ近くにキラの漆黒の瞳があった。
リーナの心臓が激しく波打つ。
「とにかく、やっと大人しくなったな。これで俺の望みをきくことができるだろう。
もう一度言う。俺を苛めろ。」
「い、苛めろって…」
「具体的に言うと、性的に俺を責めろということだ」
「せ、性的…」
リーナが困惑していると、キラが言う。
「これは初めて人に教えることなのだが、俺はマゾヒストの一面を持っている。」
「若様がマゾ…」
リーナはショックを受けた。今までの言動や行動からしてキラはどう見てもサドだ。
苛められたい願望があるなんて、誰が想像できるだろう。
「そんなことできません。私は若様に仕える身なのですよ?」
「だから頼んでいるんだ。これは命令だ」
(命令して苛められるなんて…サドなのかマゾなのかわからないじゃない。)
リーナは心の中でツッコミを入れた。
「リーナ、頼む。屋敷の息子がこんな性癖を持っていると知られたら馬鹿にされるのが落ちだ。
こんなことを頼めるのは、お前くらいしかいないんだ…」
すがるように自分を見つめるキラに、リーナは戸惑った。
それと同時に、小さな特別感を感じた。
若様がこんなことを頼めるのは、私しかいない…私しか……
「若様、わかりました。ご命令とあらば致し方ありません。」
「その気になってくれたか。」
キラが嬉々とした声をあげた。
「はい…私はこういった知識が乏しいので、ご満足させられるかどうかは分かりかねますが。
私なりに努力させていただきます。」
「リーナ、期待しているぞ。」
リーナは不思議な高揚感を肌で感じていた。
「ああ…、いいぞ、リーナ…」
「光栄です」
リーナは、キラの耳をじっくりと舐めた。
さっきされたキスの感じを意識しながら、耳穴に舌を入れてしゃぶる。
「……ッ」
キラの逞しい体がピクリと震える。
「若様は耳の感度が非常によろしいのですね?」
「ああ…だからそこばかり責められると…あぁっ」
普段は決して出さないような、色っぽい声を出すキラに、リーナは愛しさを感じた。
(若様にこんな一面があったなんて…私…)
たまらず耳たぶを甘噛みすると、キラが小さな悲鳴をあげた。
リーナはさらに体を火照らせながら、責めの位置を首筋に移動させ、再びゆっくりと舐めはじめた。
「リ、リーナ…」
「どうされました?」
「耳と首だけでイってしまいそうだ…」
「えっ!?」
リーナは驚いてキラの股間部分を見た。ズボンが大きく盛り上がり、いまにもはちきれそうだ。
「こんな感覚は初めてなんだ…今まで、女に責められることは想像の中でしかなかった…
まさかこんなに興奮するとは…」
(若様がこんなに変態だったなんて!)
リーナは軽い衝撃を覚えたが、なぜかそんなキラも愛しいと思ってしまった。
「しかしこれだけでイくのはあまりにも情けなさすぎる。頼む、乳首を弄ってくれ」
「乳首、ですか。わかりました。」
リーナはキラが身に付けている高級なシャツの裾をそっと捲りあげた。
すると、ほどよく筋肉のついた立派な肉体が露わになった。
興奮で、うっすらと汗ばんでいる。リーナはぞくぞくと興奮した。
続く
何という主従ww
若様はリーナの尻に敷かれながらイキまくるのですね
素晴らしい!!!
続き期待してます
「若様、失礼します」
リーナはお辞儀をして、キラの乳首に口付けた。
軽く先端を舐めた後、突起部の周りをぐるりと舐めた。
「はぁっ…!」
キラはあまりの快感に身もだえる。
「気持ちいいですか…?」
「さ、最高だ…」
「光栄です」
リーナはニッコリ微笑むと、キラにそっと口づけする。
「んっ…」
先ほどとは逆で、今度はリーナの舌が積極的にキラの口内に入り込んだ。
ざらざらとした舌を念入りに舐めながらも、しなやかな指先でキラの乳首を愛撫するのを怠らない。
そのテクニックは、とても初めてとは思えないほど秀逸で、キラは驚きを隠せない。
「はぁ…」
唇を離し、キラの口から垂れた唾液を舐め取りながら、乳首の先端を指で強めにつまむ。
「あぁっ!リーナ…!」
キラはどんどん快感におぼれていく。
恥じらうのも忘れ、女のように嬌声をあげる。リーナの主人としての威厳はもはや皆無だ。
リーナはそんなキラを見て、心臓がキュッと縮まるような不思議な気持になった。
(若様が、私の指でこんなに感じてる…!)
リーナはキラの乳首に吸いつきながら、自分のふくらみかけの胸を揉み始めた。
快感と興奮で、彼女のメイド服の下は汗ばみ、ほんのりとピンク色に染まっていた。
「若様…あん…」
「う…ああっ!こ、このままではもう…!」
キラのペニスは、痛いくらいに勃起していた。その先端からはガマン汁が漏れだしている。
そんなキラの乳首に、リーナはとどめとばかりに甘噛みをした。片方の乳首は爪で引っ掻いた。
「で、出る…!リーナ、踏みつけてくれ…!」
「えっ…」
リーナが驚いてを見つめる。
「頼む!!思いっきり踏みつけてくれ…!」
リーナは、少し戸惑いながらも、ズボンの上から膨らみを踏みつけた。
「あぁぁぁっ…!!」
その瞬間、大量の精液がズボン越しにリーナの素足を濡らした。
独特の香りがリーナの鼻をくすぐる。
「だめだ、どんどん溢れて…!」
困惑と恍惚の入り混じった表情を浮かべるキラを見たリーナは、激しく興奮した。
――次の瞬間、自分でも意識しないうちに、リーナはキラの股間をぐりぐりと強く押していた。
「うぁぁっ!!」
軽く絶叫しながら悶えるキラ。
どくどくと出る精液は彼の腹部にまで流れた。
「若様…とっても、素敵だわ…」
キラを見下ろすリーナの表情は妖艶で、少女のあどけなさと混じったそれはとても美しかった。
リーナは、自分の足に着いた精液をキラの顔に擦りつけようと足を動かした。
と、その時、部屋の外でバタバタと誰かが駆け抜ける足音が聞こえた。
「リーナ――!?どこにいるの!?仕事があるのよ――!」
その声でハッと我に帰ったリーナは、足を離してベッドから降りた。
「リーナ?どうしたんだ…?」
ベッドの上を見ると、乱れたキラの目が甘えるようにリーナを見つめていた。
(わ、私…いったい何をしているの!?これじゃあまるで、私は…)
「ししし失礼しましたっ!!!」
彼女は素早く、深く深く頭を下げ、バタバタと駆けだし、部屋を飛び出した。
「リーナ!?どこへ…」
部屋の中からはキラの慌てた声が聞こえるが、リーナはかまわずに走り続けた。
そして、自分の部屋の前で足を止めた。
さっきの自分の行動を思い出し、頭をかかえて座り込む。
(どうしよう…!?私…変…!)
彼女のパンツはしっとりと湿っていた。
ある夜、何人もの令嬢がキラの屋敷へ訪ねてきていた。
紳士的な老執事が困ったように受け応えしている。
「私は、キラ様に会いたいの!はやく会わせて!」
「あいにく、若様は体調が優れないようなので…
まことに申し訳ありませんが、今日のところはお引き取りください…」
「なによ!もう何日もそればっかりじゃない!そんなウソにはだまされないわよ!」
「そ、そう申されましても…」
執事は冷や汗をかいている。
「キラ様は会いたくないと仰っています…本当に申し訳ございません」
「なんでよ!?私はね、もう一か月もキラ様に抱かれていないのよ!」
「私のどこがお気にめさらないの!?言ってくださったら治すのに――!」
―――
外ではちょっとした騒ぎが起こっているのに対して、屋敷の廊下は驚くほど静まり返っていた。
その廊下を渡り、一番奥の広い部屋の中では、キラを想う令嬢たちには想像もつかないような
光景が広がっていた。
そこには目隠しされて手足を拘束されたキラと、その上に跨る一人のメイドの姿があった。
「リーナ…頼むから目隠しを外してくれ…不安でかなわん」
「駄目ですよ、若様。どうしてもはずすと言うのなら部屋へ戻ります」
「そ、それは困る」
「ならじっとしていてください」
笑みを浮かべ、キラの脇をそっと舐めるリーナ。
「ひゃッ!」
「フフ、女の子みたいな声ですね」
「た、頼む…もう脇ばかりを責めるのはやめてくれ…!このままじゃ壊れ…ッ」
キラが言い終わる前に、リーナは彼の肉棒を掴んだ。
「うぁっ!」
「そんなこと言っても、すごく興奮してるじゃないですか?
こんなに勃起しちゃって…いまにも張り裂けそうですよ」
「う…」
「若様は本当に淫乱ですね」
そう言って、握っている手の力をグッと強くするリーナ。
「ああああっ!!」
痛みと快感で、気絶しそうになるキラ。
「若様…愛しています」
その行動とは裏腹に、優しく響く少女の声。
キラはその時、もうこの娘なしでは生きてゆけないと思った。
終わり
以上です。
あまり文章を書くのは得意ではないのですが
こういうシチュが好きなのでついつい書いてしまいました。
失礼しますた。
GJ!
主従逆転もなかなかに良いな。
若様お幸せに。
190 :
名無しさん@ピンキー:2009/03/21(土) 22:13:27 ID:eULxF8Xk
リーナ可愛いよリーナ
初めて書いてみます。主従というより美鈴さんに近いかな?
っていうかこれって店主と雇い主になるんだよなー
「ところでこのスープの秘伝はなんでしょうか?」
「それは秘密ですね」
ったくどいつもこいつも同じことばっか言いやがって・・・
にこやかに笑ってるが、立花一樹はかなりうんざりしていた。
はっきり言って雑誌の取材は苦手だ。
取材は約1時間ほどで終わったが
明らかに店にいるときよりも気を遣う。
父親の代から続いていたラーメン屋(立花屋)が注目され始めたのはここ最近のこと。
ある雑誌に載ったことと、有名なラーメン評論家が絶賛したことからだった。
もともとは地元でひっそりと(何気に旨いラーメン屋)と評判だったが
そこから火がついたように店が忙しくなっていった。
「雑誌に載せてほしい」との話もちらほらあったが
めんどくさいと言って一樹はすべて断ってきた。
元から小さい頃から亡くなった自分の父親に厳しく修行されてきたので
味にはそんじょそこらの店には負けない自信があった。
雑誌に載ってにわかに客が増えることよりも
今、贔屓にしてくれている客を大事にしたかったのだ。
「兄貴は古いよ。やっぱこれからはメディア展開してかないと。不況だしね」
そう言って勝手にOKを出したのは、今年大学を卒業して広告代理店に勤めだした弟の直樹。
ラーメン屋を開いた父親は一樹が高校生のときに亡くなった。
亡き父の後を継いで、店も少しずつ父親の時と同じくらいに流行りだした頃
母親も事故で亡くなった。
一樹には兄弟が4人いる。
すぐ下の弟の芳樹は、26にして家庭を持って美容師として働いている。
その後が直樹、今は代理店に勤めながら家の近くのコーポに住んでいる。
紅一点の美樹は現在看護学校に通っている。
一番下の基樹は工業高校の整備師専門課程に在籍中である。
4人とも親が残してくれた遺産と、昼はラーメン屋、夜は工場で夜勤バイトをして
一樹が学校にいかせた。
現在一樹は29歳になったばかり。
今はおかげさまでラーメン屋一本で生活は成り立っている。
立花屋は一樹が注文を聞いたり、厨房に入ったりしているが
時折、基樹や美樹にも手伝わせている。
にわかに店が活気づいてきて
ほとんど広さのない、カウンターとテーブル席2席しかない小さな店も
食事時は客待ちをするようになった。
「バイトを雇おうよ。あたし実習始まったら店手伝うの無理だし」
「俺もいろいろ忙しいし」
今一緒に暮らしている美樹と基樹からのかってからの要望もあり
バイトを一人雇うことにしたのだが
このバイトの存在が一樹にとってはあまり心地良いものではなかった。
なぜならそれまでは家族だけでやってきたから
赤の他人が店にいるのがなんだか嫌だった。
時給も800円で決して高いとは言えない。
どんな人間が来るかもわからない。
面接を仕入などの忙しさから美樹に任せたのが良くなかった。
最初に来た女子高生は3日きただけで
「こんな忙しいとは聞いてなかったし」といってすぐに辞めた。
次に来た主婦パートは
「子供が熱を出して」などの理由で2日目から欠勤し
4日間で辞めてしまった。
そして3人目やってきたのは
化粧気のない、地味な女性だった。
だが、この彼女がもう3か月続いている。
名前は相川結衣。
履歴書に目を通すと、どうやら年も33歳で独身、以前はスーパーで接客業をしていたらしい。
(どう接したらいいか分からない)
(なんでこんな年でこんなバイト?リストラされた?)
(何か華がないなあ)
いろいろな思いがあって一樹はなかなか彼女の存在を受け入れられなかった。
しかも彼女は仕事以外では
ほとんど自分から口を開くことはなく
自分のことも一切話さない。
だが、彼女は結構真面目で
些細なことでもメモを取り、必死で覚えようとしているようだった。
意外にも客の応対は慣れており
クレーマーにもきちんと対応している。
頭の回転が早く
昼食時、夕食時など客が多いときでも
混乱することなく、注文も内容もきちんと把握出来ている。
勤務し始めた頃はミスも多く
やや短気なところがある一樹がどなることも多々あったが
3か月、それでも彼女はめげず、今ではかなりの戦力となっている。
忙しい時は厨房に入り、一樹を助けることもある。
そしてなによりも妹の美樹が彼女を気に入っているらしい。
一樹たちは店の二階に住んでいるのだが
美樹は店が暇になると下に降りてきては
彼女を捕まえて延々とたわいのない話をしている。
内容は彼氏との話だの
実習がすごくつらいだのそんなことなのだが
結衣はにこやかにうんうんとひたすら妹の話に耳を傾けている。
そんなヒマあるなら手伝ってほしいのが一樹の本音だが
早くに親をなくし、男兄弟の美樹には身近な同姓がいないのだ。
女同士で話したいこともあるのだろう。
最近では基樹も彼女に何やらぐちっているが
彼女は嫌な顔一つせず、楽しげに弟と妹の話を聞いている。
聞き上手なのだ。
それは一樹も感じていた。
彼女には、なんというか不思議な雰囲気がある。
両親は早くになくなっているのか、緊急連絡先には叔母と思われる女性の住所と
電話番号が書いてあった。
それだけでなく、時給800円でどうやら一人暮らししているようなのである。
確かにできないことはないが、それでもなかなか厳しいものがあるだろう。
以前はスーパーで接客業をしていたとのことだが
なんとなく(違う仕事をしていたっぽいな)ということは
一樹はうすうす感ずいていた。
もともと一樹はあまり女性と接したことがない。
高校は男子の方が多かったし、彼女らしい彼女がいたことも
わずかな期間しかない。兄弟の学費のために働いていたころは
それこそ彼女を作るどころではなかった。
余裕ができ、最近ではお見合いなどもしてみたが
なかなかうまくはいかなかった。
だから女性とどう接していいか分からない。
どんな話をしたらいいのか。
仕事では平気で話したりすることはできるが
普通に会話することが難しい。
ある日の午後、店に一本の電話が入った。
遠縁にあたる叔母からだった。
そういえば、こないだまで叔母の娘が妊婦だったが、先週無事出産したらしい。
一樹には
(無事に生まれたのはおめでたいけど、相変わらず叔母さんハイテンションだなあ)
ぐらいにしか思えなかったのだが
その日の夕食・・・といっても12時は余裕で過ぎているが・・・にそのことが話題に上った。
「出産祝い何がいいかなあ?」
「なんでもいいんじゃない?」
興味なさそうな基樹。
「美樹は何がいいと思う?」
「なんでもいいんじゃない?」
こちらはドラマに夢中で答える美樹。
「お前ら、もうちょっと考えてくれよ。おれ、出産祝いなんて何送ったらいいかわかんねーんだから」
「だってー別に興味ないし、マキねえってあたしらめっちゃ小さい頃にあっただけじゃん」
「そりゃそうだけど」
「相川さんに聞いてみたらいいんじゃないの?」
基樹がだるそうに膝をついて答える。
「俺なら最新の○ケータイが欲しいけど」
「あたしノートパソコン!」
「お前らのほしいもんきいてんじゃないの。大体あの人うちと関係ないだろ」
「でもさー、なんでも(うるさい)ですます兄貴よりはうちらの話親身になって聞いてくれるよ」
「お前は話がワンパターンだからだろ」
「まあ、いいんじゃね?あの人30代だし、色々しってるんじゃない」
「そうだな、明らかにお前らよりは頼りになるな」
基樹の言葉に皮肉をいいつつ、一樹は明日彼女に聞いてみることにした。
昼時が過ぎて午後3時
店がひと段落したころ、一樹は思い切って彼女に聞いてみた。
「・・・出産祝いですか?」
「何がいいと思いますか?」
「・・・そうですね」
彼女はちょっと考えた。
「ベビー服とかは?商品券とかでもいいんじゃないでしょうか」
「女の子らしいんですが、どういったものを送ったらいいんでしょう?」
「スタイとか肌着とかそんなものですかね?」
「スタイ・・・なんですか?それ」
一樹は困った。大体男が一人でデパートでベビーグッズを買うのも抵抗がある。
「あの・・・」
「はい?」
「明日、店、定休日ですけど、何か予定はありますか?」
「いえ、特にないですけど」
「じゃあ、俺に付き合ってもらえませんか?一人では何かっていいかわかんなくて」
言いながら一樹は
(おれ、この人をさそってるみたいじゃねーか)
とやや気まずい空気を感じたが、彼女は何とも思わなかったらしく
「・・・いいですよ。私でよければ」
とすぐに、以外にもOKのことばが出た。
「買い物の後で食事を奢らせてください。お礼ですから」
「いえ、そんなの結構ですよ。どうせ暇でしたし」
彼女はそういうと少しクスリと笑った。
なんとなく近寄りがたい雰囲気だった結衣が
すんなり了承してくれたことに少し驚いた一樹だった。
(ちょっと早く来すぎたかな?)
定休日の水曜日。
一樹は腕時計を見ながら駅前のデパートの入り口で結衣を待っていた。
時計は10時50分を指している。
食事はいらないとのことだったが、こんな時間から来て
そのまま帰るのも失礼だろう。
食事して、そのあと帰ればいい。
でも、何を話したらいいのか。
(まあ、いいや。俺は年上には興味ないし)
(第一あの人を異性としては見れないし)
(食事も適当にそこらへんのちょっと高めの店に入ればいいや。お礼も兼ねて)
そんな風に一樹はぼんやり考えていた。
「ごめんなさい。待ちましたか?」
考え事をしていたので、彼は彼女が来たことに気がつかなかった。
慌てて顔を上げる。
そこには別人がいた。
大きいはっきりした意思の強そうな茶色の瞳
小さな輪郭のはっきりした目鼻立ち。
いつもは縛っている茶がかった髪を下ろして
きれいに化粧している彼女は誰が見ても美人だった。
美人と可愛らしいが同居しているような感じだ。
どことなくほんわかしている雰囲気があり
それが彼女がきている桜色のワンピースと似合っていた。
店にいる時とは明らかに違って見える。
「・・・あ・・・すいません」
いきなり一樹は誤ってしまった。心臓がどきりと音を立てた。
顔が赤くなっているのが自分でもわかる。
「いえ、待ちました?ごめんなさい。行きましょうか?」
「ああ・・・は・・・はい」
しどろもどろになりながら一樹は歩き出した。
並んで歩いていても彼女の端正な横顔がちらちら視界に入る。
(こんな美人だったなんて・・・)
一樹は考えながら、そういえば化粧してないときも
結構目鼻立ちははっきりしていたよななどと考えていた。
女の子向けの子供服屋はどれもピンクやら可愛いキャラクターで囲まれており
一樹はやっぱり一人で来なくてよかったと改めて思った。
彼女は店員といろいろ会話し、一樹に予算をきいてから
とてもかわいいピンクのベビードレスと靴と帽子のセットを選んでくれた。
一樹もこれがいいと納得し、店員に送ってもらえるよう手配してもらった。
あっという間だったので時間は1時間も掛からなかった。
時間が余ってしまった。
「・・・少し早いけど、飯食いに行きますか?」
デパートのフロアをぶらつきながら、一樹はちょっと詰まって彼女に聞いた。
顔はたぶん、まだ赤くなっているだろう。声がやや上ずる。
「・・・食事はいいです。私はここで・・・」
「でも、そういうわけにはいかないですから・・・」
「・・・いえ・・・・本当に・・・」
彼女は遠慮しながら首を振った。
「そんな大したものじゃないですし、俺も家帰ったら基樹も美樹もいないし一人ですから。
よかったら付き合ってください」
「・・・でも・・・」
「・・・このままじゃおれの気が済みませんから」
言いながらやっぱり誘ってるみたいだと何回も一樹は考えていた。
だが、不思議なことに彼女とここでわかれるのが
なんとなく嫌だった。
もう少し、一緒に居たくなった。
心臓がどくどくとはっきりと響いている。
「・・・じゃあ・・・お言葉に甘えて・・・」
彼女はそういうとにこりと笑った。
それは今まで見たこともないような
かわいらしい笑顔だった。
小さなイタリア料理店でランチのコースを頼んだ二人は
窓際の席で向かい合って座っていた。
(・・・何から話せばいいか)
誘ったのはいいが、一樹には話すきっかけがなかなか掴めない。
沈黙が続いた。
「・・・すいませんでした。今日ついてきてもらって」
先に話し出したのは一樹だった。
軽く頭を下げて話す一樹に彼女は再びにこやかに笑った。
「・・・今日は店長は誤ってばかりですね。私も暇を持て余していたのでいいんですよ。
家は私一人だし、約束もないし」
「・・・そうなんですか?」
「ええ、だから今日は久し振りに休日を人と過ごせて楽しいです」
あきらかにお世辞に聞こえたが、一樹を気遣ってのことだろう。
彼女の優しい心づかいに感じられた。
「・・・それより店長は店と雰囲気が違いますね。店ではいつもあまり話したこともありませんし、すごく気づかいされるんですね」
「そんなことないですよ。それに、相川さんも店とは違って・・・」
「・・・何か派手ですか?私」
「・・・いえ、あ、っていうかそういう意味じゃなくて、なんていうか、垢ぬけてるというか・・・」
言ってしまってから一樹はしまった!と思い、慌てて口を押さえた。
それなら普段の彼女は垢ぬけてない、地味だと言っているようなものだ。
「すいません。おれ、そんなつもりじゃ・・・」
「いいんですよ。確かに店ではこんな格好じゃなくてジーパンにTシャツだし、化粧もしてないですしね。化粧ぐらいしなくちゃって思ってるんですけど、なんだかついつい・・・」
彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。確かに、店で彼女が、例えジーパンにTシャツでも今のように綺麗に化粧していれば、かなり客受けは良いかもしれない。
ただ、その場合は一樹も彼女を明らかに意識していただろう。
「・・・どこかに出かけたいって思っても、一人なら行く気も起きないし、駄目ですね」
(失恋でもしたのかな?)
一樹は彼女のうつむいた顔を見ながらふと考えた。
店ではともかく、今の彼女なら、言い寄ってくる男も少なからずいるかもしれない。
「俺もです。休日はパチンコ打ったり、やること無くてだらけてたり」
いつもは彼女と話すときは何も考えず、ポンポンと言葉にするのだが
今日は意識してしまってうまく会話が続かない。
「・・・あの・・・」
彼女が口を開いた。
「店長はおいくつなんですか?」
「・・・俺ですか?俺は29に今年なります」
「弟と一緒の年ですね」
彼女はにっこり笑って言った。
弟がいるなんて知らなかった。
だったらなぜ連絡先を弟にしなかったのだろう。
「・・・店長はいいですよ。名前で呼んでください。弟さんがいるんですか?」
「・・・もう2年ほど前に亡くなったんですけど、生きてたらあなたと同い年だなって思って」
彼女はそう言ってさびしそうに笑った。
悲しげな笑顔だった。
「・・・すいません。失礼なことを聞いてしまって」
「・・・いいんですよ。それよりも今日は店長、立花さん、誤ってばかりですね」
彼女は再び一樹に微笑みかけた。
「・・・俺、口下手で、失礼なことばっかり言ってしまって。妹にもいつも怒られてるんですよ。兄貴は女の人に対して失礼なことばっかり言うって」
「そうなんですか?兄弟仲がいいんですね」
「ぎゃーぎゃーうるさいだけですよ」
「でも、うらやましいな。私も弟と二人だったんで、妹がいればなあってずっと思ってたんですよ」
彼女は笑いながらも心底うらやましそうに見えた。
「・・・そういえば今日、デパートで全国ラーメン店やってるんですね。今日来るときに気がつきました」
「・・・気になります?」
彼女は肩をすくめてふふっと笑った。今日の彼女はよく笑う。
だが、その笑顔が逐一、一樹の心にどくんどくんと跳ね返る。
「うちの店は出店依頼こなかったなあ。よりにもよってうちを飛ばすなんてねえ?」
「そうですよね、立花屋のラーメンはおいしいのに」
二人は顔を見合せて笑った。さっきまでのぎこちなさが少しずつ消えかけていた。
「・・・立花さん、この後何かご予定はありますか?」
「俺は特に何も・・・」
「じゃあ、映画見に行きません?今すごく見たい映画があって。ひとりで映画みるのもつまらないし」
「いいですね、俺も映画なんて久しぶりです。こちらこそお願いします」
二人は食事が運ばれてからも、少しずつたわいのない会話を続けた。
結衣の見たい映画はてっきり恋愛ものだと思ったら
ホラーものだったのも一樹には意外だった。
彼も映画を楽しみ、その後二人でショッピングモールをぶらついたりして
夕食も一緒に過ごしてしまった。
彼女と一緒にいると何だか楽しかった。
なんだか時間があっという間に過ぎたような気がした。
今日、一樹が彼女について分かったことは、決して彼女は暗い性格ではないということだ。
そして他人を思いやる優しさも持っている。
一樹の話に耳を傾けて、くだらないことでも笑ってくれる。
その笑顔と声が耳に心地よく、一樹は美樹がきいたらおこりそうなくらい
だらだらと話続けてしまった。
休みのときに気づかなくて、次の日の朝まで寝てたとか
パチンコに行って大勝した日に財布を落とした話とか
基樹が学校で軽音部に入っていて、整備士になるつもりが、本人は歌手になりたがっていることとか
本当にたわいもない話ばかりしてしまった。
反対に彼女は、自分が弟がいること以外、あまり自分の身内のことを話さなかったが
好きな食べ物がラーメンで、求人広告を見て面接に来たことや
休日はほとんど家にいて過ごしているらしかった。
前職のことや、今までどんな生活を過ごしてきたのかなどには触れなかった。
夜10時を回った頃
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「こちらこそ付き合わせてしまって申し訳ありませんでした。おれも楽しかったです」
一樹と結衣は二人で駅までの道を歩いていた。
クスリと彼女が笑った。
「・・・?なんですか?」
「・・・私、立花さんてもっと怖い人だと思ってました。入ったばかりのころはよく怒鳴られてましたし・・・」
「・・・そうなんですか?すいませんでした。俺、本当にぶっきらぼうで、短気なとこあるから・・・」
「・・・でも、すごく真面目に仕事されてるなあって思いましたよ。いつも最後まで残ってスープの研究とかしてるじゃないですか?私、立花さんより遅く帰ったことなんてありませんから。朝もいつも早くから仕事してらっしゃるし」
「・・・そんなことないです。相川さんだってすごくうちの店を助けてくれてるし。本当に感謝してるんです」
「・・・ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」
彼女はにこやかに一樹に返した。
一樹の心臓がどくどくと音を立てた。
「・・・あの・・・」
「・・・はい?・・・」
「また、誘ってもいいですか?」
一樹は顔を真っ赤にしながら彼女に震える声で言った。
彼女は一瞬きょとんとした後、少しだけ顔を赤らめた。
「・・・私なんか立花さんより年上ですし・・・」
「そんなこと全然関係ないです!あの、誘うといってもその、食事とか気が向いたらで・・・」
思わず声が上ずる。喉がひりひりした。
「・・・それに、その嫌ならいいんです!すいませんでした。さっきのことは忘れてください」
一樹は慌てて彼女に言った。言わなければよかったと少し後悔した。
「・・・そんなことないです。私、嬉しかったです。よかったらまた誘ってくださいますか?」
「・・・あああ?は、はい!ありがとうございます。また、飯でも食いに行きましょう!
今度は何が食べたいか教えといてください。俺、調べときますので」
「そんなに気を遣わないでください。立花さんも気が向いた時でいいので」
彼女はにっこり笑って言った。一樹の心臓がまたドクドクと声をあげ始めた。
デパートに付き合ってもらってからというもの
一樹は暇ができると、厨房の中から
仕事の手を止めて、ボケーっと店の中の結衣ばかり見るようになった。
勿論、マジマジとみると彼女に気づかれるので盗み見しているのだが
ふとした瞬間に彼女の方に目をやってしまう。
あの後、結衣とは特に何もなく、相変わらず仕事上の関係だが、彼女がいないときでも
彼は彼女のことを考えてしまう。
あのデパートでの日の彼女のことばかり考えてしまうようになった。
かわいらしい笑顔の結衣、耳に心地よい笑い声
クリっとした大きい眼で自分を見つめながら話を聞いてくれたこと。
仕事場では彼女はジーンズに化粧もしていないが
あの時のワンピース姿の髪を下ろした姿など。
(・・・やばいな・・・)
一樹はうすうす感じていた。
(・・・俺、好きになったかもしれない・・・)
今までひたすら兄弟のために頑張ってきたため、おおよそ恋愛とは程遠かったが
急にこんな気持ちになった自分に戸惑いを感じずにはいられない。
結衣の存在が一樹の頭の半分以上を占めるようになってしまった。
(・・・まるで高校生じゃねーか。いや、いまどき高校生でももっと進んでるって)
一樹は思わず苦笑する。
もとから年上には興味がなく、好みのタイプは年下だとはっきり言っていた一樹にとって
年上にひかれたのも意外だった。
よくみればノーメイクの今だって、地味にこそみえるがなかなか整っている顔立ちをしている。
客の一人が
「・・・かずちゃん、あのバイトの子、あれは化粧したら化けるでえ」
と冗談半分で言っていたが、まさにそのとおりだと思った。
でも、時折、一樹にはちらちらある思いが浮かぶ。
(・・・俺が店主だから断りづらかったのかも・・・)
(・・・彼女は今までどんな人生を送ってきたんだろうか・・・)
あれだけの美貌だ。言い寄ってくる男もいたことだろう。
もしかしたら履歴書には書いてないだけで、結婚歴もあるかもしれない。
(・・・くだらないこと考えてるな、俺・・)
夜12時を回り、閉店作業をしながら一樹はそんなことを考えていた。
(とにかく明後日の定休日には彼女を誘おう。今日は何が食いたいか聞いておこう)
彼は店の掃除を始めた結衣に声を掛けようと厨房から出てきた。
その時だった。
「・・・もう店じまいかよ?まだいけんだろ?」
ぶっきらぼうな言い方をしながら、年配のスーツ姿の男が入ってきた。
「・・・申し訳ありませんが、本日はもう終了しましたので・・・」
男は結衣の言葉を無視して、カウンターの席にドカッと座り込んだ。
「お客様、大変申し訳ありませんが本日は閉めさせていただきたいのですが・・・」
一樹も客の態度にむっとしながら繰り返す。
だが男は一樹を一瞥しただけで
「ラーメンひとつと生ビールくれや」
と投げやりに言った。
近くにあったスポーツ新聞を手に取ると足を組んで読みだした。
ここにくるまでにずいぶん飲んできたらしく、酒臭い匂いがプンプンする。
一樹は溜息をついた。こういう客はちょくちょくいる。
腹をたてても仕方ない。
「相川さん、今日はもう帰ってもらってもいいですよ。後、俺がやりますんで」
こんな客の相手を結衣にさせたくなかった。
「ええ・・・でも、まだレジ閉めも残ってますし・・・」
「いいんですよ。遅くなったら申し訳ないし・・・」
男が新聞から目を離し、ふと結衣の方を凝視した。
「・・・あれ?あんた?どっかで?」
「ああ!あんた(銀座のはるか)じゃねーの?銀座で有名だった。本田代議士の愛人だった人気ナンバーワンホステスだろ?」
結衣はハッとした顔で男を見つめた。
その顔はみるみる青ざめていった。
一樹も男の声が心臓に突き刺さっている。
「俺、覚えてないか?汚職事件のときにあんたが囲われてたマンションに張り付いてた新聞記者だよ。あんた、ずいぶんあの男と親しくしてたんだろ?」
男は下卑た笑いを浮かべながら、結衣の近くに寄ってきた。
「それにしても銀座でナンバーワンだった女が、今はこんなラーメン屋で働いてるとはね。一体どんだけ落ちぶれたんだ?あの後、何人かパトロンになりたいって名乗りを上げてたんだろ?」
結衣はもう真っ青になって後ろずさっている。
一樹には今の状況がなかなか飲み込めない。ただわかっているのは結衣がこの男にひどく怯えていることだけだった。
「・・・お客様、私には分かりませんが・・・」
結衣は震える声で男に精一杯返す。
だが、男にはまるで効いていなかった。
「あんた、本当にいい女だったよ。おれも一発やってみたいと思ってたんだけどね。
しかし、今は落ちぶれてラーメン屋とは。どんだけ困ってんだ?なんなら俺が援助してやろうか?一晩3万でどうだ?ん?どうせ爺に金で飼われてたんだろ?」
その言葉に一樹は我に返った。
「・・・お帰りいただけますか?お客様。もう店を閉めますので」
「なんだ、てめー。ああ、お前もこの女とできてんのか?いったい何人咥え込んだんだよ。なあ(はるか)さんよお?」
「帰れっていってんだろ!」
一樹は男の胸倉を掴むと店の外まで引きずり出した。
「二度とくるんじゃねえ!」
「うるせえ!だれが来るかよこんな店!畜生!客に乱暴を働いたって記事にしてやるぞ!」
「勝手にしろよ!」
一樹は思い切り店の入り口を閉め、鍵を掛けた。
結衣はただ黙って俯いている。
その顔には血の気が全くない。
ただ、一樹と顔を合わせないようにひたすらうつむいているように見えた。
一樹は黙って彼女を見つめる。
銀座のホステス
愛人
囲われていた
その単語がグルグルと彼の頭を回る。
彼が重い口を開いた。
「・・・さっきの男の話・・・」
結衣の体がビクリとする。
「・・・本当なんですか?」
一樹は聞きながら、どうか冗談だと言ってくれ
酔っ払いのたわごとだと言ってくれと願っていた。
だが、彼女の口から洩れたのは一番聞きたくない言葉だった。
「・・・本当です・・・」
一樹は目の前がグルグル回った。そのまま前のめりに倒れる感覚が起きた。
「・・・すいません。いままで黙ってて。突然ですけれど今日で店を辞めさせてください。
後、この間の話は忘れてください」
結衣は振り絞るように言うと、そのまま店から飛び出した。そして戻ってこなかった。
彼女が出て行って1時間後、雨が激しく降ってきた。
古い家屋の立花屋の屋根に激しく打ち付けている。
一樹は彼女が出て行った後、何もする気がおきず、そのままカウンター席に座りこんでいた。
彼女は嘘をついていた。スーパーの店員も嘘だった。
本当は銀座のナンバーワンホステスで、代議士の愛人で、囲われていた。
どうしてラーメン屋の店員になったのか?
どうしてあの日、自分の誘いに乗ったのか?
どうして自分の告白に答えてくれたのか?
一樹は顔をあげると、奥の壁に掛けてあった自動車のキーを取り出した。
例えそうだとしても
どうしても聞きたいことがあった。
彼女の履歴書を奥の事務所の机から取り出す。
(どうか住所だけは真実でありますよう)
そんな風に思いながら。
都心近くにそのマンションはあった。とても豪華でオートロックのそのマンションは
どう見ても一樹の店の倍以上はするだろう。
入るのに手間取ったが、ちょうど入口に住民が帰ってくるところだったので
男の後に続いて入ることができた。
もし、結衣に電話して開けるように頼んだら
断られてしまったかもしれない。
拒絶されるかもしれない。情けないが。
それでもやっぱりあきらめられなかった。
はっきりと彼女の口から拒絶の言葉を聞くまでは
あきらめることはできないと自分でも思っていた。
部屋は501号。角部屋だ。ドアも重たそうな扉が付いている。
震える指先でチャイムを押す。
(こんな深夜に、彼女は出て来てくれるだろうか?)
だが、どうしても聞きたい。
「・・・どなたですか?」
結衣の声が問いかけた。一樹は唾を飲み込んだ。
「・・・立花です。どうしてもお話したいことがあって・・・」
結衣はしばらく黙り、ためらいながら答えた。
「・・・帰って下さい」
「・・・少しだけ、話をさせてください」
「・・・お願いします。私はもうあなたとは関係ないんです。店も辞めたんです。
お帰り下さい」
「・・・嫌だ。」
彼女がドアの前で戸惑っているように彼には思えた。
「・・・ここで帰ったら、きっとおれは後悔するから」
しばらくの沈黙の後、ドアが静かに開かれた。
泣きはらした顔の結衣が立っていた。
部屋は広々としており、家具も高そうなものが並んでいる。
彼女がナンバーワンだったというのもうなずける。
小さなチェストの前に写真が飾ってある。
おそらくホステスだったころの結衣だろうか
きっちりと化粧を施された顔は驚くほど美人で
妖艶に微笑む夜の女の顔をしている。
青いカクテルドレスが似合っていた。
その横に、おそらく弟だろうか
一樹と年の変わらなそうな青年がほほ笑んでいる。
どことなく、以前どこかで会っていたような気がした。
「・・・お掛けください」
結衣に促され、一樹は大きな来客用のソファに腰かけた。
おそらくかなりの値段のものだろう。
彼女も彼に向かい合って座った。
「・・・私は店を辞めました。」
結衣は少しきつい話し方をした。
顔は俯き加減で一樹の顔をみていない。
「・・・あなたとももう関係ありません」
「・・・相川さんはそれでいいのか?」
一樹の言葉に彼女はピクリと反応した。
「・・・聞きたかったんだ。何で、あのデパートについてきてくれた時、これからも誘ってもいいかって問いかけに、あなたがまた誘ってくれって言ってくれたのか」
彼女は下を向いたまま黙っている。
「・・・俺の勝手な考え方だけど、多分、あなたも俺に少しでも興味もってくれて、それで答えてくれたのかと思ってた」
「・・・違います。ただのきまぐれです」
「だったら何でこっちを見て話してくれないんですか?」
結衣はひたすら下を向いている。
「俺はあなたのことを何も知らない。けど、あなたに惹かれ始めてる。だから簡単にあきらめきれないんです」
一樹は立ち上がり、彼女に近づいた。
目の前に立っても彼女は顔を上げようとしない。
「・・・答えてください」
一樹は彼女の目線に屈みこんだ。
彼女がようやく顔を上げた。
大きな瞳からポロポロ涙を溢しながら肩を震わせている。
「・・・だって・・・全て・・・本当のことだから」
彼女は嗚咽を漏らしながらまっすぐに彼を見つめた。
「・・・私は・・・」
一樹の胸が締め付けられるように苦しくなった。
彼女の体に手を伸ばし、包み込むように抱きしめる。
なぜかためらいはなかった。
彼女は抵抗もせず、一樹の胸になだれ込んだ。
ひたすらしゃくりあげている。
どれぐらいそうしていただろうか。
ゆっくりと彼女が語りだした。
結衣が高校生、弟である隆が中学生のときに両親が蒸発した。
多額の借金を背負っていたのだ。
結衣の両親は小さな町工場を経営していたが、経営にゆきづまったらしい。
結衣は高校に通いながらバイトをして、弟と暮らし始めたが
生活はなりただず、卒業後は水商売の世界に入った。
彼女は慣れないながらも、銀座の世界で生きていた。
生きざるを得なかったのだ。
そのころ、常連だった本田という初老の代議士が彼女に目をつけ
妾にしたいと申し出てきた。
丁度その頃、隆も受験生であり、医者になりたいと思っていたが
姉の苦労や、親の借金のこともあり、あきらめようとしていたらしかった。
だが、結衣は弟の願いをかなえてやりたかった。
自分も大学進学を希望していたが、諦めざるをえない状況だったからだ。
だからこそ、弟だけでもと考えていた。
彼女は本田の申し出を受け入れ、弟に医大を受験するように促したのだ。
当初、弟は猛反対したが、結衣の強固な願いの前に折れ
大学卒業までという期限付きで、彼女が妾になることを了承した。
好きでもない、孫と祖父に近い年の男に抱かれるのは、最初抵抗があった。
だが、それさえも初めのうちで、だんだんと結衣は麻痺していった。
本田は結衣を束縛したがり、高級マンションを借りて住まわせ、そこに頻繁に通うようになった。
その頃、本田が政治献金を受けているという話がにわかに湧き出して
新聞記者が結衣の存在を知り、付きまとうようになった。
やがて本田は逮捕され、マンションは引き払われた。
時を同じくして、弟も無事大学を卒業して、医者になることができた。
そしてその頃には、弟の力もあり、借金は完済できたのだった。
生活にゆとりができ、10年以上に渡るトップクラスのホステスの報酬と弟の給料によって現在住んでいるマンションを買うことができた。
弟と二人で暮らし始めた結衣は
ホステスの仕事から足を洗うことにして、仕事を探し始めた。
その矢先だった。
弟が不治の病に掛かってしまった。
しかも発見したときにはすでに手遅れ状態であった。
彼女は弟を必死で看病した。だが、結局弟は帰らぬ人となった。
医者になって3年目のことだった。
それからの彼女は抜けがらだった。
何をする気も起きず、何も食べることができなかった。
いつも泣いてばかりいた。
弟は結衣だけに苦労かけたくないと
バイトしながら学生生活を送っていたが
ある時、給料日になると結衣をある場所に連れて行った。
それが立花屋だった。
姉にせめてラーメンでも御馳走したいと
連れて行ったのである。
弟と二人で食べたラーメンはとても美味しく
とても温かなものだった。
彼が大学卒業の時も
二人は立花屋でささやかなお祝いをした。
ある日、結衣は足先がふらっと立花屋に向いてしまった。
勿論、その頃は胃が何も受け付けず、何も口にできなかったが
弟との思い出が懐かしく、ついラーメンを注文してしまった。
そのラーメンの味は優しく、今まで食事もできなかった結衣が
初めて全部食べることができた。
店主の青年・・・一樹はどことなく隆をほうふつとさせた。
店から出た彼女は弟との思い出に
涙がこぼれおちるのを我慢できなかった。
嗚咽を上げていると、雨が降り出して、彼女を濡らした。
弟ともう二度とここにこれないのだ
そう思うと、彼女の胸は締め付けられた。
どうしょうもなく悲しみが彼女を襲った。
その時、彼女が雨から遮られた。
驚いて顔をあげると、さっきの青年が傘を結衣に手向けていた。
・・・濡れるでしょう?よかったら暇だし、店で休んでいってください・・・
青年はそういうと優しい笑顔を向けた。
青年は彼女を店の中でしばらく休ませてくれた。
何を聞くでもなく、ただ黙って結衣に温かいコーヒーを淹れてくれた。
その温かさが結衣にはどうしょうもなく嬉しかった。
結衣はその後、自分を奮い立たせ
亡くなった弟の分まで頑張って生きようと心に決めた。
彼女はそれから少しずつ元気を取り戻しはじめた
その時のお礼が青年に言いたかったのだ。
そして2年後、再び立花屋に行ってみると
求人広告が張り出されていたというわけだ。
「・・・すいませんでした。俺・・・気がつかなくて・・・」
「二年も前の話ですもの。仕方ないですよ」
彼女は彼を見上げて涙で濡れた顔でほほ笑んだ。
ああ・・・そういえば・・・
一樹は思い出した。
あの頃はやせ細ってガリガリで目の下に隅を作っていたし
髪型もロングではなく、ショートカットだったが
雨の中でずぶ濡れで泣いていたのは間違いなく結衣だった。
あれから彼はその客のことが少し気にかかっていたが
今は元気になってることを願っていた。
あの時の彼女が結衣だった。
弟の隆もかすかに覚えている。
「・・・分ったでしょう?私はこんな女なんですよ・・・だからあなたみたいな人には
私は向いてない・・・」
結衣はそういうとそっと一樹の腕から抜け出した。
「・・・やっぱりあなたは分かってない」
一樹は涙でグシャグシャになった結衣を見つめていった。
「あなたにどんな過去があろうと、俺はあなたが好きです。俺にはその感情しかない。
あなたが妾だったとしてもそれは過去のことだし、俺が好きなのはその過去も生きてきたあなたなんです」
結衣はただ黙って彼を見つめる。
「もっとあなたといろんな話がしたいし、もっとあなたが知りたい。おれのことが嫌いならそれでも構いません。嫌いならここではっきり言ってください。だったら俺はあなたをきっぱりとあきらめます。ただ、俺に少しでも望みがあるなら、俺の傍にいてください」
そういうと彼は彼女にかすかに手を伸ばし、もう一度ギュッと抱きしめた。
結衣の手がおずおずと彼の背中へと回される。
「・・・いいの?私で・・・本当にいいの?・・・」
「あなたじゃないと駄目です・・・」
一樹は結衣をもっと強い力で抱き締める。
「・・・私・・・ずっとあなたが好きだった・・・」
「え・・・?」
「ずっとずっと好きだった・・・一緒に仕事をするようになってもっともっとあなたが好きになったんです・・・」
「・・・相川さん・・・」
一樹は顔を上げて、彼女を見つめた。
どうしょうもなく嬉しさがこみあげてくる。
自然に顔が近付き、彼は彼女の唇を塞いだ。
「・・・結衣さん・・・」
何度か口づけを交わす。
「・・・立花さん・・・一樹さん・・・お願いがあるんです・・・」
「・・・なんですか・・・?」
「・・・抱いてください・・・」
一樹は顔を上げ、驚いた顔で結衣を見た。
心臓がドクドクと音を立てる。
「・・・嫌、ですか?」
結衣は顔を真赤にしながら、彼を潤んだ瞳で見つめる。
「・・・いいんですか?」
「・・・はい。今・・・抱いてほしいんです」
結衣の声は微かに震えていた。
広い寝室の中央に置かれている白いベッドの上
二人は抱き合っていた。
結衣の身体は白く、それでいて華奢で
年齢よりも幼く見えた。
「・・・私の身体、汚くないですか?」
「・・・どうして?すごく綺麗だよ」
一樹は心からそう思った。
なんだか触れるのに戸惑ってしまう。
指先で胸の突起を軽く刺激し始めると
結衣は可愛らしい声で嗚咽を漏らす。
舌先で突起を転がすと
その声がもっと強くなり、身体がピクンと仰け反る。
感じやすい身体のようだ。
一樹はその身体の反応を楽しむように愛撫を繰り返す。
暴走しないよう気をつけながらも
その手にはつい力が入ってしまう。
彼女の声が、一樹の手や舌によってもたらされる快感によって激しくなり
震えるしなやかな身体が彼を限界まで高めていく。
舌先で彼女の秘部を舐め、一番敏感な蕾を軽く歯を立てて噛むと
結衣はビクンビクンと仰け反りながら喘ぎ声を上げた。
奥からはとめどなく愛液が溢れ出し
彼が蕾を指先でいじったり、舐めたり、吸ったりするたびに
早く一樹が欲しいと要求するように結衣のふとももまで濡らしていく。
彼の肉棒も跳ね返り、痛いまでに張っているが
一樹はどうしても彼女からのお願いの声が欲しかった。
「あああ・・・っ!あ・・も、もう、駄目っ・・・」
結衣は白い肌を仰け反らせ、シーツを掴んで叫んだ。
「・・・お願い・・・いれて・・・挿れてください・・・」
涙声で一樹に懇願する。
彼はしっかりと彼女を抱きしめ、一気に結衣の中に押し入った。
「・・・ううっ!」
「・・・・あああああっ!」
結衣は彼の背を抱き締める。
中に一樹がいる。一樹の存在を膣で感じる。
「・・・動くよ・・・」
一樹は結衣の耳を甘噛みしながら、腰を動かしていく。
突き動かすたびに、彼女は小さく声を上げながる。
切なげな、それでいて悦びにも思われる彼女の喘ぎ声に、彼は一段と激しく腰を打ち付ける。
「・・・結衣っ!結衣っ!」
彼女の名前を呼びながら、ひたすら奥へと突き立てる。
二人が繋がっているところから、ジュブと淫らな音を立てる。、
結衣は白い裸体に汗を滴らせ、彼女の小ぶりだがきれいな胸は
彼を受け入れるたびに震える。
深く、深く、子宮の奥まで
「あああっ!そんなっ・・・ダメ・・・・ダメええええ・・・っ」
結衣は声にならない声をあげ、白い喉を一樹に見せる。
白い裸体がうっすらとピンク色に染まっている。
先に達してしまったのだ。
「・・・結衣!」
瞬間、一樹の頭が真っ白になり
彼女の中に彼の白い液体が打ち放された。
しばらく二人は繋がったまま、ぐったりとしていた。
静かな静寂の中、時計の音がカチカチと鳴っている。
「・・・結衣・・・さん・・・」
一樹は口を開いた。
結衣の髪を手で、愛おしそうになでる。
「・・・何ですか?・・・」
「・・・順番逆になっちゃったけど、俺と付き合ってくれますか?勿論、結婚前提で・・・」
「・・・はい・・・よろしくお願いします・・・」
「こちらこそ・・・よろしくお願いします・・・」
二人は顔を見合わせて、にっこりほほ笑むと、微かに口づけした。
長々おつきあいありがとうございましたー
後、バイトと店主でした ○TZ
下手糞なんで保管しないでください。
エロシーン書くのって難しい。
面白かったですよー
ヘタクソなんてとんでもない。
あえていうなら、
>>206-207を
今の半分、、、できれば三分の一まで削れば
もっと一気によめるのかな、と思いますた。
GJ
次回作楽しみに待ってます
(不治の病)が出てきてから目が滑り出した。
川城さまの続きはまだ?
とっても楽しみなんですけどおぉぉぉ
>>215に同じく待ってる
気になって毎日のように見に来てしまう…
217 :
名無しさん@ピンキー:2009/04/05(日) 19:11:51 ID:jJqSTryj
川城さま待ちage
あの人の文章すっごい好きだ
引き込まれてく感じがする
218 :
125:2009/04/11(土) 23:48:14 ID:87CbAf4o
新作きてたんでもう需要ないかと思ってたんで書くのさぼってた。
スマソ。
よく晴れた日の午後。
私は久しぶりに書斎を出、小山を道なりに散策した。
新緑の季節を迎えた小山は生命力に溢れている。椈や楢のまだ薄い若葉に、太陽の光が透けていた。
「時計は役に立っているかね」
傍らを歩いていたセツは私の問いかけに穏やかな笑みで「ええ」と答えた。
「おかげで随分、家事の時間を節約できていますわ。こうして英博様と散歩ができるほど」
小山の木々と同じく、この娘もまた若い命の輝きにあふれていた。彼女の自己申告によれば歳は十八だという。
二月前、競売場で私が落札した金額を返すべく、彼女は住み込みで私の屋敷で使用人として働き始めた。仕事の
呑み込みの良さには目を見張るものがあったが、それだけならば単に容量がいい程度の評価であろう。
一月ほどして、彼女は私に時計を貸してほしいと言ってきた。自分の仕事にかかる時間を計るのだという。
「遅い仕事を割り出して、並列的にできる作業がないか調べたいのです」
可憐な外見の中身に英知を飼っている少女であった。
219 :
125:2009/04/11(土) 23:50:06 ID:87CbAf4o
「こんなに働かれては、給料を上げねばならないな」
「とんでもない! 今のままで結構です」
「そうもいくまい。早く私に対する借りとやらを返してもらわねば」
セツは月々の労働と、それに対して私が払う月の給料、四分の三を「返済」としている。私ではなく、彼女が決めた。
「ではないと私は君という才能を田舎町で終わらせた大馬鹿者になってしまう」
「そうやって煽てるのは止めてくださいと何度も申し上げていますのに……」
「くっくっく……」
セツは少し拗ねたように眉を寄せたが、照れているのか少し頬を紅潮させた。何故かそれが愉快だった。
−−だが。
楽しい時間とは裏腹に、気がかりがあった。肥田に頼んだ調査の結果がまだ出ない。
間違いなくセツが上流階級の人間であるという確信があった。だのに日元を中心に探偵を走らせても情報は中々
つかめない。もう二月も経つというのに。
「どうかなさいました?」
気がつけば、足を止めた私の顔をセツが覗き込んでいた。
「……君は私を信用しているかね」
「勿論ですわ」
まるでそうでないほうがおかしいとでもいうように、セツは答えた。
「ならば君の身元を教えてくれ」
ざぁ、と風が木の葉を撫でて行った。
「……私を家に帰すおつもりですのね?」
「ああ」
言った私に、セツは何故かおかしそうに笑った。
「そういうことは普通、もう少し遠まわしに聞くものですわよ?」
「時間の無駄だ。君は教えると決めた人間には教えるし、教えないと決めた人間には教えないだろう」
「ふふ、そうですわね」
口元を押さえてくすくすと笑いながら、セツは言った。
220 :
125:2009/04/11(土) 23:51:28 ID:87CbAf4o
「英博様、もう私に帰る家はありませんの」
まだ頬に笑みの余韻はあったが、その目に冗談の気配はない。
「勘当でもされたか」
「いえ……でも、似たようなものかもしれませんわね」
空を眩しそうに見上げてセツは言った。
「ですからお気持ちはとてもありがたいのですけれど、帰そうとしてくださっても無駄なのです。御厭ならば直ぐにでも荷物を
纏め出て行きます。ですが、そうでないのならお傍に置いていただけませんか」
−−無駄と言い切るか。
問いに対してやんわりと回答を拒絶する理由は、詳細がなければまるで説得力がない。が、この賢しい娘がそれに気付いて
いないわけがない。私が小手先で騙せるような相手ではないことも理解している。
−−答えるつもりはないということか。
柔和な笑みで見つめ返すセツを観察して、この場は折れるしかないと悟った。
「……わかった。好きにするといい」
「ありがとうございます」
とりあえず了承はしたものの、私は内心まだ諦めていなかった。私が原因と過程を示さずに結果を納得できる人間ではない
ことを、セツもおそらく知っている。
私は肥田から調査の結果が届くのを待った。
221 :
125:2009/04/11(土) 23:52:30 ID:87CbAf4o
「あの女に似た人間の情報をつかんだぞ」
肥田から連絡があったのはそれから更に一月経ってからのことだった。書斎に顔を出したかと思うと、手にした鞄から十数枚
紙を取り出し机にばさりと置いた。
「似たとはどういうことだ」
「似てはいるが、当人がいるということさ。本田セツ。氏族本田文生の一人娘で、現在海外へ留学中だ。容姿端麗、齢十八」
−−本田セツ。
書類にはクリップで学校の卒業式に取ったと思しき、学生の集合写真が添えられていた。海外の其れを真似て四角の黒い
帽子を被り、まだどこか垢ぬけない顔をした学生達の列の中に、「彼女」の顔があった。
当人がいるという情報がなければ−−否、あっても間違いようがない。これは「セツ」だ。
だが、なら留学中の「セツ」は一体何者なのか。
私は肥田の持ってきた書類に目を通した。
本田セツが留学したのは二カ月半前になっている。高等学校の卒業の時期なのでこれ自体に不自然な点はない。
「……父親が心臓発作で死んでいるな。丁度彼女の高等学校卒業の時期に」
「ああ。だが生活的には何の心配もないようだ。本田氏の親戚筋−−本田氏の兄、つまり叔父の録太郎が彼女の面倒を見て
いる」
「母親ではないのか?」
「本田氏の妻は早くに病死している。子供は彼女一人だ。生憎成人していないということで家督相続の権利がないから成人する
までの間は本田録太郎が本田文生氏の財産を預かることになっている」
「本田文生は氏族という話だが、何故長兄の録太郎が家督を継いでいない?」
「は? さぁ、そこまでは調べてないから分からないな」
肥田は如何にも「何故本田セツの親父のことなんて訊くんだ」と言わんばかりに怪訝な顔をした。
私はセツの言葉を思い出していた。
(もう私に帰る家はありませんの)
222 :
125:2009/04/11(土) 23:53:41 ID:87CbAf4o
「入りたまえ」
夕食後、書斎の扉をノックしたのはセツだった。
「何か用かね」
「恍けるなんてお人が悪いですわ」
−−気づいたか。
本棚に向かっていた私は、仕様がなくセツに振り向いた。
「私のこと、お調べになったのでしょう?」
「ああ」
言った私に、セツは何故かふっと噴き出した。
「何がおかしい」
「そういう時は普通、いいやとかまさかとか言って誤魔化すものですから」
「君の言うその『普通』の対応をしたところで私と君どちらにも利点は生まれそうにないがね。もう君は確信しているのだろう?」
「ええ。英博様がお考えになっている『私』はどのようなものかお聞きしたいと思いまして」
−−変わった娘だ。
端から私が自分のことを調べたことに怒りは持っていない。それよりも、私が導き出した「セツ」の正体の答え合わせをしたがって
いる。
「……本田セツ。齢十八。日限国立高等学校卒業。海外留学中。世間的な君の情報はこれだが、正しいのは高等学校卒業まで
だ」
セツは私の仮説を静かに聞いている。
「君の卒業と同時期に父の本田文生氏が死亡。そこで登場するのが君の叔父、本田文生氏の兄にあたる本田録太郎氏。詳細は
不明だが基本長男に家督相続をさせる氏族にあって、本田家の長兄本田録太郎氏ではなく、次兄本田文生氏が本田家の当主に
選ばれたのにはそれなりに理由があるだろう。が、とりあえずは置いておく」
「それで?」
「録太郎氏にとっては本田家当主に返り咲く絶好の機会だが、生憎文生氏にはセツという子供があった。女子ではあるが実子で
ある以上、彼女が本田家の後継者だ。しかし年齢のためにこれは不可能になった。そこで録太郎氏は強行手段に出た。取替えだ」
223 :
125:2009/04/11(土) 23:54:40 ID:87CbAf4o
「まぁ、派手だこと」
茶化すように言ったセツに構わず私は続けた。
「本人を隠し、彼女に似た人間を使い『本田セツ』を『外国へ留学した』ことに仕立てた。そのまま彼女が家督相続の権利を得る
二十歳まで取替えを継続し、時間が来たところで『本田セツに似た誰か』に家督相続の権利を自分に譲らせる。本物の本田セツは
口を封じるつもりだったのだろうが、何故か生き延びてここにいる」
ぱちぱち、とセツは小さく拍手をした。
「流石英博様ですわ。概ね間違いありません」
「何故競売所に?」
「身の危険を察して屋敷を逃げだした時、運悪く人攫いにあってしまいましたの。まさか近江の地下で人が売捌かれているなど、
こんなことがなければ知ることもなかったでしょう」
「財産と家を取り戻そうとは思わないのか」
セツは逡巡もなく、首を横に振った。
「叔父とはいえ、血の繋がった物同士。骨肉の争いなど醜く愚かしいものですもの。お金は稼げばいいし、勉強は学校でなくとも
できます」
「……」
−−その叔父が、本田文生氏を殺した可能性もある。
肥田の調査の後、本田文生氏について調査を依頼した。死の直前、彼が数回録太郎氏と接触した記録が出てきた。
心臓の発作は特定の薬品を使って誘発できるものであることが近年の研究で立証されつつある。もし、それを録太郎氏が知って
いたら。利用していたとしたら。もう少し調査すれば或いはその確定的な証拠が、
「それに英博様」
セツは微笑んだ。寂しい笑みだった。
「私にとって、父も母もいない家に帰る価値はないのです」
「……」
−−無意味な情報だ。
「……わかった」
224 :
125:2009/04/11(土) 23:56:12 ID:87CbAf4o
セツをここから解放し「本田セツ」に戻したところで、あるのは家督争いだけだ。私はセツに本田家の家督を継がせたいわけでは
なく、まして争わせたいわけでもない。
その才能を奔放に発揮できる環境にいてほしいだけだ。
「ただし約束してくれたまえ。行きたい場所、やりたいことを見つけたらそこへ行き、それをすること。何物にも縛られずに行動する
こと。言っておくが君は自由の身だ。私が君を買ったのはあくまで私の自由意志であり、本来君は私に金を返す必要がないことを
覚えておきなさい」
「はい」
遠くからボーンと寝ぼけたような音が十回鳴った。恐らく応接室にある柱時計だ。
「もう遅い。先に休んでいたまえ」
「かしこまりました」
セツはぴんと背筋を伸ばしたまま深く頭を下げた。
「英博様、お休みなさいませ」
ぐっじょー
わけあり娘の従者か、、、今後が楽しみなりよ
おおー、読ませるなぁ。素直に上手いぜ。GJ! 続きが超楽しみ。
ちょっと遡るけど店主と従業員の人もGJ!
主従にしてはかなり小規模な関係だったけど良かったです。
このスレがひっそりと栄えますように。
この紳士がどのように手を出すのか楽しみだ
キテター(゚∀゚)ー
やっぱいいなあ、雰囲気の作り方とかすごい好きだ。
この先の展開がどうなるのか気になってしょうがない。
続き楽しみにしてます!GJ!
こういう人はプラトニックなまま主従だけど
ちょっと踏み込むと夫婦にしか見えないといった生涯おくりそうだ
圧縮回避
あげ
ここは良いスレだ・・・
末永く続く事を祈っておるでよ
ご無沙汰しています、『王都騎士団』の作者です。
何だか自分の中でオチがないまま、デュー×ファムを放置していましたが、これじゃあ駄目だと思い、久々に書いてみました。
が、主従色ゼロな代物になってしまい、スレ住人の方々の意見を、お聞かせ願えないかと。
まだまだ投下するのならば、わざわざ伺う必要もなく、別スレに投下して誘導する、と言った手段を取るのですが、
どうにもこうにも、自分の中で最終回として落ち着いてしまったので。
折角、保管庫等で取り上げて下さったこともあり、(書き手の自己満足に過ぎませんが)今まで読んで下さった方に
僅かながらでも楽しんでもらいたい、と言う思いもありまして…。
「自サイトでやれ」でも「好きにしろ」でも「主従色ないなら別スレ」でも構いません。
何かしらの声を元に、投下の場を考えたいと思います。
長文失礼致しました。
主従色ゼロなら別スレだと思うかなーと思ったけど
次で終わりなら軽く謝りつつ投下しちゃうのもアリだとも思うかも
そんなに投下されないスレだし
シリーズ自体には主従色があったんだし、別に最終回くらいいんでねっか?
っていうか、いきなり最終回投下される別スレの住人も困るんじゃねえろか。
>>234 久々に『王都騎士団』読み返しちゃったよ。
最終回なら、寂しいけどぜひ読みたい。
どこに投下するかは他の住人の意見も含めて決めたらいいと思うけど、
他に投下するなら、どこに投下したかは教えてほしい。
しかし、魅力的な脇役がいっぱいいたから、終わっちゃうと思うとほんと寂しい。
王都騎士団シリーズ大好きなのでぜひ!読みたいです!
皆様、ご意見有り難う御座います
此方で書き始めたシリーズなので、皆様の意見を受け止めた上で、やはり最後まで此方に投下させて頂きたいと思います
前回も書いた通り、主従色はほぼ皆無
NGワードはタイトル『王都騎士団』かトリで
以下投下↓
「いつもと違うことをしてみるか」
そう言って、ニンマリと笑ったデュラハムに、ファムレイユは嫌な予感を隠せなかった。
おおよそ、デュラハムがこんな顔をする時は、きまって良からぬ事を企んでいるからだ。
勿論、デュラハムにしてみれば、別段悪巧みでも何でも無いのだが、ファムレイユとの認識の違いは、付き合い始めて三年が経過した今も、微妙にズレたまま。
それに気付いていながら、互いに修正しようとしないのは、結局の所、二人にとっては、大した問題では無いのだろう。
デュラハムの手がファムレイユの背を撫でる。
優しい愛撫にゆっくりと吐息を漏らしたファムレイユは、デュラハムの首筋にすがりついた。
「デュー……あの」
「ン?」
先ほどから、デュラハムはファムレイユに、それ以上の刺激を与えようとはしない。
繋がるまでは、いつも通りの情事だったのだが、普段よりも時間を掛けた愛撫のあと、ファムレイユの中に自身を埋めたデュラハムは、ファムレイユを抱き起こすと、それ以上動くでもなく、ひたすらにファムレイユを撫でていた。
時折、瞼や鼻先に唇を落とす以外は、唇にすら触れようともしない。
普段ならば――言葉は悪いが――快楽を得ようと、ファムレイユを気遣いながらも事を進めようとするのに、だ。
「いつもと違うって……」
「ん、そゆこと」
ファムレイユの背骨に指を這わすデュラハムは、ニンマリと笑ったまま。
その僅かな刺激にも、ファムレイユは体を震わせるが、デュラハムは気にすることなく、首筋まで滑らせた手を、またゆっくりと下へと下ろした。
「いつもいつも時間がねぇからって、こうやって抱き合う事もなかったろ? たまには、こう言うのも良いんじゃねぇかと思ってよ」
「んっ……」
腰に下りた手がくすぐったい。
更に強くすがりついたファムレイユの胸が、デュラハムの厚い胸板に押し当てられて、形を変えた。
今まで数え切れないほど、ファムレイユはデュラハムと共に夜を過ごして来た。
けれど、これほどまでに緩やかな時間は、ファムレイユの記憶には殆ど無い。
むしろ回数ばかりが記憶に残り、今日も恐らく、最低でも三回は、デュラハムは欲望を吐き出そうとするだろう、と、そう考えていたのだが。
腰をなぞるデュラハムの手がファムレイユの太腿へと下りる。
そのまま足を持ち上げられるのかと思いきや、デュラハムはまた再び、なぞる手を腰へと滑らせた。
「デ、デュー……」
「ん?」
「……あんまり……撫でないで」
体の中に感じるデュラハムの熱は、未だしっかりとした質量を保っている。
なのに、普段と違うデュラハムの動きは、確実にファムレイユの熱を煽っている。
「嫌か?」
「違う、けど……」
「なら良いじゃねえか」
ファムレイユの頬に唇を落とし――それも、酷く優しい、軽く触れる程度のキスだ――、デュラハムは身動きもせずに、ファムレイユを撫で続ける。
その眼差しは、楽しんでいると言うよりも、慈しんでいるそれに近い。
これもまた、普段とは違うデュラハムの表情である。
「……ずるい」
ポツリ、と。こぼれた言葉は無意識だった。
聞き取れなかったらしいデュラハムが手の動きを止めたが、ファムレイユは、今度ははっきりと、自分の意志で同じ言葉を繰り返した。
「ずるい」
「何がだよ」
唇を尖らせたファムレイユに、デュラハムは眉尻を下げて笑う。
「デューばかり……触るのが」
口にしてしまえば、自身の不満が自覚出来て、自分でも思わぬことを望んでいたと知ったファムレイユは、何となく目を合わせ辛くなり、デュラハムの肩に顔を埋めた。
色事に身も心も溺れてしまった時などは、自分でも意外な事を口走ってしまったりするのだが、今はまだ、理性が勝っている。
それでも、己の中にある欲望に、戸惑いながらも口にする事で、少しだけ何かが軽くなったような気がした。
「じゃ、お前さんも触れば良い。遠慮すんな」
軽い口調のデュラハムは、ファムレイユの頭をぽんぽんと叩くと、両手をファムレイユの背中で組んだ。
それっきり、動こうともしない様子に、ファムレイユは暫し沈黙し。けれど、口にしたからには、何もしないのも妙だと思い直して、そっとデュラハムの背に手を回した。
筋肉質なデュラハムの体は、間もなく四十を迎えると言うのに、無駄な贅肉はない。
同じ筋肉でも、男と女というだけで、こんなにも違うのか……と、そんなことを考えながら、ファムレイユはゆるゆるとデュラハムの背を撫でた。
顔を傾ければ、デュラハムはファムレイユの動きに目を細め、何処か楽しそうに唇を弧に描いている。
その顔が何だか憎らしくて、かぷりとデュラハムの首筋に噛みついてみる。
一瞬、デュラハムは眉を動かしたが、やはり口元の笑みは変わらず。
ファムレイユが甘噛みを繰り返すと、デュラハムの口から吐息が漏れた。
「成る程な」
「何がです?」
「お前さんが鳴く理由が、何となく分かった」
一瞬、殴り倒してやろうかと思った。
が、それも今更。
喉の奥で笑うデュラハムに、軽い睨みを利かせて、ファムレイユは唇をゆっくりと滑らせた。
首筋から喉。喉仏を通り、鎖骨へと、薄く開いた唇から舌を覗かせ、優しく舐める。
反対側の首筋までをつぅとなぞると、胎内の熱がひくついた。
「美味いか?」
「何でそう言う事を訊くんですか、貴方は」
目線だけで見下ろすデュラハムの言葉に、ファムレイユは鼻先に皺を寄せる。
けれどデュラハムは、片口角を引き上げると、ファムレイユを抱く腕に力を込めた。
「俺は、ファムを美味いと思ってるから」
さらりと返されれば言葉も無く、ファムレイユは唇を尖らせた。
「こう言う行為、食うとか食われるとか言うけど、本当だな」
再び、背中を撫で始めたデュラハムは、ファムレイユの首筋に唇を寄せながら、ぽつりと呟く。
その言葉は、普段、ファムレイユが情交に対して持っていた感想だったので、何処か可笑しくもあり、ファムレイユは目を細めて小さく笑った。
「私、もっと前から気付いてましたよ」
「何で言わねえんだ?」
「態々言う事でも無いじゃないですか」
忍び笑うファムレイユに、デュラハムは動きを止めて少しばかり閉口したが、直ぐに苦笑混じりの笑みを浮かべ、ファムレイユの背中をなぞり始めた。
背骨を押すように、二本の指が窪みを伝う。
同じように、ファムレイユもデュラハムの背をなぞろうとするが、それよりも先に淡い刺激が全身を巡り、身を震わせる。
こんなにも丁寧に背中を刺激された事など無くて、意外なほどに敏感になった背中は、デュラハムが小さく爪を立てるだけでも、快感を呼び起こす。
知らず吐息を漏らしたファムレイユは、デュラハムの背を撫でるのを諦めて、目の前にあるデュラハムの耳に舌を伸ばした。
耳の裏から、耳たぶをなぞり、いつもデュラハムがするように、ぱくりと耳たぶを口にくわえる。
唇で軽く引っ張って、複雑な形を示す軟骨を舌先でなぞれば、デュラハムの口からくっ、と、うめき声にも似た声が漏れる。
それに気を良くした訳でもないが、ファムレイユは舌先を尖らせると、ちろちろと丹念にデュラハムの耳を舐めた。
「ちょっと、タンマ」
「ヤです」
「ずりぃ」
くすぐったいのか、感じているのか、微妙な所ではあるが、何かしらの刺激にはなっているのだろう。
笑みを浮かべながら制止を掛けるデュラハムに耳を貸さず、ファムレイユは手を首筋に添えると、反対側の耳元を指先でなぞった。
妙な征服感が胸の内に起こっている。
デュラハムの顔を伺い見れば、目を眇めて熱い吐息を漏らしている。
けれどその左手は、ファムレイユの背を上下に撫で、右手は密着させたままの胸元に伸ばそうとでもしているのか、脇をやわやわとさすって来る。
「意外だな」
「何がですか?」
「お前さんも、結構いじめっ子って事だよ」
「日頃のお返しです」
耳元から唇を離し、デュラハムの顔を覗き込む。
僅かに離れた隙間を縫って、デュラハムの右手はファムレイユの胸を覆ったが、それ以上動かす事もせずに、デュラハムはこつんと、ファムレイユの額に己の額をくっつけた。
「そんなにいじめてるか?」
「いじめてます」
問いかけに答えれば、デュラハムの顔が僅かに苦笑の色を帯びる。
密やかに笑い合い、触れるだけのキスを何度も交わして、また抱き合う。
胸を覆う手は身動き一つもしないが、暖かな温度に、心臓を掴まれているような錯覚に陥る。
無精髭の生えた顎に唇を這わせ、時折やんわりと歯を立てる。
舌を伸ばせば、ざらりとした感触が舌を刺し、それもまた、言い知れぬ快感へと繋がっていく。
愛しいと、素直に感じる。
「ファム」
名前を呼ばれ、顎に唇を押し当てたまま、視線を上げると、デュラハムが顔を傾けて、その唇を己の唇ですくい取った。
開かれた唇から舌が差し込まれ、僅かに煙草の味が滲む。
いつもと変わらぬキスの筈なのに、絡め取られた舌は普段よりも敏感で、きゅう、と下半身に力が籠もった。
いつしか、心臓を掴むデュラハムの手は、胸の頂を優しく撫で始めていて、全身が熱に包まれていく。
指先で固くなった頂を摘まれ、ファムレイユは思わず唇を離した。
「や……っ……」
想像以上の刺激に困惑するが、デュラハムの手は休まない。
「ちょ……ま、待って」
「駄目だ」
制止の言葉を掛けようとしても、デュラハムの唇が再び迫り、残る言葉は声にも出来ず、デュラハムの口に吸い込まれる。
繋がったまま、律動もなく愛撫を受け続けた体は、普段よりもずっと過敏になっているらしく、触れられた訳でもないのに体の奥から蜜が滲み出るのを、ファムレイユは口づけを交わしながら感じていた。
背後に回された手は、尚も優しく背筋をなぞる。
その指先が腰に下りたかと思うと、するりと脇腹を伝って、右の胸もデュラハムの手の中に収められた。
やんわりと揉みしだかれるその刺激は、飽くまで優しく、常ならば物足りないと感じるほどなのに、不思議と充足感に包まれる。
何故か泣きたくなったファムレイユは、呼吸の隙間に僅かに顎を引く。
デュラハムはそれ以上迫ることをせず、ペロリと己の唇を舐めて、ファムレイユを見下ろした。
「っ……ふ、……う」
見下ろす眼差しは変わらない。
言葉も無く見下ろされて、普段ならば多少なりとも何を考えているのか気になる筈なのに。
愛されている。
何故かそう、断言出来る。
「う……うぅっ」
「ちょ、え……どうした?」
愛しい、と。愛されている、と。
紛れもなく感じたファムレイユの目から、熱い雫がこぼれ落ちる。
突然泣き出したファムレイユに、当然ならがデュラハムは目を丸くし、訳が分からず当惑しているようだった。
「ふぇ……っ……す、すみま、せ……」
ファムレイユとて、泣きたくて泣いている訳ではない。
けれど、止めようとしても止められないのが、現状で。
日頃、感情を押し込める節があるだけに、一度緩んだ涙腺は、簡単には元に戻りそうもない。
「いや、謝るな。謝られたら、俺が悪いことしたみてぇじゃねぇか。……それとも、俺が何かしたか?」
ぼたぼたと涙をこぼすファムレイユの頬を、両手で拭いながら、困り顔のデュラハムが問いかける。
そうではない、と首を振ろうとしたファムレイユだったが、デュラハムの手の暖かさにそれも出来ず、すん、と鼻を鳴らした。
「ちが、ます」
しゃくりあげるファムレイユは、上手く言葉に出来ない。
しかしデュラハムは、それを承知しているかのように、うん、と小さく頷いた。
「ただ、わた……すご…っ…幸せだなって」
デュラハムと出会い、騎士を志し、直接言葉を交わせるばかりか、こうして共に過ごせる時間を得られた。
考えてみれば、ファムレイユの初恋は、十六年前から始まっていたのだ。
本人に、初恋の自覚があるかどうかは別として、ファムレイユが騎士を志すきっかけとなった騎士は、常に彼女の心の中に居た。
その相手を、愛し、愛される、その喜びが、こんな形で表になるなど、三年前までは予想も出来なかったことだ。
否、つい数刻前、デュラハムが部屋を訪れた時すらも、そんなことは露ほども予感していなかった。
「わたし……、デューが、好きで……っ……本当に、幸せで……」
頬を拭う手に自身の手を添え、ファムレイユは声を絞り出す。
ともすれば嗚咽に変わりそうなその言葉に、デュラハムの目は、ますます見開かれた。
「だから……デューも、っ……そう、想ってくれてるんだ、って……っ。……そう思ったら……何か……っ……」
「分かった」
声を詰まらせるファムレイユに、デュラハムは親指の腹で涙を拭い、鼻先がくっつくほどに顔を近付けた。
「うん、俺も好きだ。泣かせて悪いって思うぐらい好きだし、泣いてくれて有り難うって思うぐらい好きだ」
「ふ……ぅ…っ」
至近距離なのに、水の膜はデュラハムの表情をぼやかせる。
けれど、淡々と紡がれる言葉は、ファムレイユの胸の内に、すとんと収まった。
まるで、欠けていたピースがハマるかのように。
瞼を伏せるファムレイユの目から、熱い雫がこぼれたが。それは滲みを形作ることなく、デュラハムの手によって払われた。
「愛してる」
「……ん」
「愛してる?」
「……うん」
告白に理解を。
問いかけには肯定を。
小さく頷くファムレイユに、デュラハムは穏やかに目を細めた。
「あい、してる……」
それは恐らく、ファムレイユが初めて口にする言葉で。
笑みを浮かべたデュラハムは、その言葉を紡いだ唇に、優しく己の唇を重ねた。
「一つ、提案があんだけど」
「……っ……?」
ファムレイユが落ち着くのを待って、頬に、唇に、瞼に、キスの雨を降らせていたデュラハムが顔を上げた。
まだ僅かに横隔膜を痙攣させながらも、ファムレイユはデュラハムを見上げた。
「家、買わないか?」
「家……ですか?」
「そう。俺と、お前さんとで住む、家」
何の話をしているのだろう、と、ファムレイユは首を傾げる。
けれど。
「それって……あの……」
「こんな時に言い出す話でも無いだろうって苦情はパスな。今思いついたから」
「……っ……」
騎士団の隊長職以下、副隊長補佐までの役職を持つ面々は、各個人に私室が与えられている。
基本的には、そこが生活のスペースとなり、家を持っている者は数少ない。
強いて挙げるならば家庭を持つ者だが、言い換えれば、家庭がなければ家を持つ必要もないと言うことになる。極論ではあるが。
しかし、それが騎士団員や関係者の間では通説と言うか、ほぼ不文律にもなっているのも事実。
深読みなどしなくても、意図することは分かると言う物である。
「本当は、もっと別な文句も考えてたんだが」
「……例えば?」
「嫁に来い、とか。結婚しよう、とか」
それもそれで、どうかと思うが。
思わずこぼれた笑みは、ファムレイユの表情を明るくする。
その姿にデュラハムは少しばかり眉を寄せたが、直ぐに気持ちを切り替えたか、くっと喉の奥で笑いをこぼした。
「まあ、家を持ったら持ったで、大変だろうが。お前さんと、三人四人で暮らすにゃ、ここじゃ手狭だからな」
「三人……四人?」
ニヤリ、と口角を上げた笑みを見せたデュラハムに、ファムレイユは笑いを収める。
しかし、言葉の意味を理解するより早く、デュラハムはファムレイユを抱きしめて、ベッドに倒れ込んだ。
「ひゃっ…!」
「子どもは二人。嫌か?」
「っ……ヤじゃ、ないですけど……気が早くありませんか?」
繋がったまま、体を起こしたデュラハムは、ファムレイユの体に手を伸ばす。
穏やかになっていた筈の体の熱は、それでもしっかりと感覚を残していて、ファムレイユは甘い声を上げそうになったが、息を飲んで、それを堪えた。
「そうか?」
「そうです。それに私、まだ返事してませんよ?」
徐々に熱を帯びる吐息に言葉を乗せる。
途端、デュラハムの動きがはたりと止まった。
案外、押しには弱いのかも知れない。
「そう言や、そうか」
「そうです」
思案含みの顔付きになったデュラハムに、ファムレイユは笑いかける。
両腕を伸ばし、先ほど、デュラハムが自分にしてくれたように、両の頬を包み込むと、デュラハムは少し苦笑して、ファムレイユに顔を近付けた。
「俺と、生涯を共にしてくれないか?」
その眼差しは、何処までも真っ直ぐで、子どもの頃に見た、あの騎士の眼差しと、今も変わることがない。
喜んで、と。
呟いた声は、口づけによって、二人の間に密やかに仕舞われた。
何かを確かめるように唇を重ね、舌を絡める。
デュラハムの手が、ファムレイユの額に掛かる髪を掻きあげ、より深く、より強く、唇が重ねられる。
同時に、ゆっくりと胎内を擦り始めた熱に、ファムレイユはくぐもった声を上げた。
押し付けるように体の奥に擦り付けられるデュラハム自身に、閉じた瞼の裏で火花が散る。
呼吸が出来ない苦しさと、じりじりと焦がされる欲望に、全身が熱を帯びてくる。
絡め合う舌は酷く熱くて、なのに、絡めても絡めてもまだ足りない。
貪るような口づけは、ぴちゃぴちゃと濡れた音を響かせる。
デュラハムの手が、再びファムレイユの体をなぞり始める。
首筋から肩を通り、ゆっくりと胸を掴まれる。
ほんの僅かな刺激にも、体の奥が溶け出しそうな快感を覚え、密着させた秘所からは蜜が溢れる。
ぶつけられる欲望は、いつものような激しさは無いのに、それ以上の快感で。
もっと欲しいと切望する心のままに、ファムレイユは腰を浮かせて、デュラハムにすがりついた。
それが合図になったようで、ぬちゃりと淫らな音がする。
半ばまで引き抜かれた肉棒が、再びファムレイユの胎内に埋められ、最奥にぶつけられたその衝撃は、ファムレイユの目を見開かせた。
声にならない小さな悲鳴が口を吐く。
弾みで離れた唇ははくはくと、水辺に揚げられた魚のように震えるが、デュラハムの動きは更に勢いを増した。
「ひっ、あ…あああっ!」
体を起こしたデュラハムに痛いほどに両の胸を掴まれ、体の奥をえぐり出されるような動きで、律動が繰り返された。
固く尖った頂を指で摘まれ、ぐりぐりとこね回される。
同時に、僅かに引かれた欲望は、強い衝撃を伴って、体の奥の奥にまでぶつけられる。
その度に、悲鳴にも似た鳴き声を上げて、ファムレイユはすがりつく手に力を込めた。
自分自身の体なのに、別物になってしまったかのようで。
頭も体もぐちゃぐちゃに溶けて無くなりそうなのに、けれど、それが不思議な充足感にすり替わる。
気付けば自ら足を開き、デュラハムの動きに合わせて腰を動かす。
普段ならば、それこそ三度目の情交でなければしないようなことなのだが、そんな事を考える余裕もない。
「ファム…っ」
掠れた声で名前を呼ばれる、それだけで、もう幸せで、嬉しくて。
笑みを浮かべたファムレイユは、知らず涙を溢しながら、何度も何度もデュラハムの名を呼んだ。
膝を持ち上げられ、勢い良く抜かれた肉棒が、全身を擦るように埋められる。
突き上げられる律動で、溢れる蜜が太腿を汚し、ぐちゅぐちゅと籠もった音が絶え間なく響く。
「や、あっ、デュー! …っ、やあああっ!」
頭の中が真っ白になっても、デュラハムの動きは止まらなくて、一瞬気を失ったファムレイユだったが、それも直ぐに快感によって現実に引き戻される。
「やぅ…ら、あ、らめぇっ! も、ああっ!」
呂律の回らない口がだらしなく開かれ、意味を成さない声だけが、ファムレイユの喉を震わせる。
そんなファムレイユの姿に限界を感じたのか、デュラハムは持ち上げた膝をファムレイユの胸に押し付けて、今までに無い強さで、ファムレイユの体を突き上げた。
「ファム……愛してる…っ」
「あぁぁっ、んあ、あい、して…っ…!」
愛している。
譫言のように互いの口からこぼれる、その言葉の意味を全身で感じるファムレイユは、デュラハムの声と熱に、再び全身を震わせて。
体の奥に吐き出された、デュラハムの欲望の熱に、緩やかに気を失った。
数ヶ月後。
王都の、住宅地の一角に設けられた新居に、王都の守護を担う王都騎士団が住んでいる、と噂されたが。
周りに住む住民からは、年の離れた仲の良い夫婦が住んでいる、との認識で。
噂のほどは、定かではない。
*
以上です
これまで読んで下さった皆様、乙コールを下さった皆様、本当にありがとうございました
デューとファムの話は、以上で終了となりますが、また何か思いついた際には、こちらにお邪魔したいと思います
それでは
乙…ただ乙
王都騎士団の人が来てるとは・・
GJと言わざるをえない
気が向いたらまたなんか書いてくれ
最終回ならここで、って言った者だが、そうしてよかった。
GJ!ニヨニヨが止まらないぜ。
GJ!
気が向いたらスピンオフを書いてほしいな。
二人の子供世代とかもちょっと楽しそう。
おおっ! ここでまた「王都騎士団」を読めるとは…
デューとファムの行く末を見届ける証人のひとりになれて
嬉しいです。作者さま、長い間の投稿お疲れ様&有難うございました。
また新しい作品を書いて下さることを切に希望します
全編を通してのGJと、ありがとうの気持ちを捧げます。
いいものを読ませていただきました。
255 :
名無しさん@ピンキー:2009/05/06(水) 23:12:52 ID:tn+UhdfP
上げ
安芸
それはアキ
258 :
名無しさん@ピンキー:2009/05/16(土) 17:14:41 ID:4Gu6JHip
戦艦安芸?
過疎だな‥
ほす
あげあげ
過疎だな…
川城様とセツさんの話、待ってます
263 :
名無しさん@ピンキー:2009/06/07(日) 03:59:21 ID:2XU3eVTt
本当に過疎だ・・・
264 :
名無しさん@ピンキー:2009/06/12(金) 08:42:23 ID:HTWFOt4M
保守age
軽いネタですが投下します。
ふたなり成分がありますので、苦手な方は回避お願い致します。
「挿れますよ」と、悠愛の声がかかる。
ううっ、緊張する。
挿れられるのは、初めてだったからだ。
僕付きのメイド悠愛は、ちょっと訳がある人で普通の人とは少し違っていた。
半陰陽というのか、両性のモノを持つ人で、所謂「ふたなり」の女性だ。
両性の特徴があるとは言うものの、基本形は女性だと思う。
こんなにも美人なのだから……
白皙の肌に、憂いを含んだような男好きのする切れ長の眼。
背格好はモデルの様で僕よりやや高い。
胸部はとても女性的で豊かで柔らかな丸みを有している。
悠愛が専属メイドに決まった当初、こんな美人が僕付きになると舞い上がったものだ。
僕の家は低い家柄な訳ではないが、所詮新興台頭層でしかなくせいぜい中流の中〜上クラスである。
世間を見渡せば、貴族を含めた上流の家柄等上のクラスは幾らでもいる。
そんな上層の家柄であれば、例えば雇うパーラーメイドの容姿にもこだわる。
メイドという仕事の中において、客人の前に出る職種の為整った容姿が好まれる。
仕える家のイメージにも影響するからだ。
ある意味お屋敷のマスコットガールという側面があるのは否定できない。
悠愛は、そういうパーラーメイドとしても引く手数多であろうレベルの美貌だった。
「ふたなり」でなければ……
「ふたなり」は一部の層に根強い支持層はいるものの、「ふたなり」というそれだけで雇うのを好まない人も多い。
僕は分類するならば、特に気にしない層に入るだろう。
セクシャルな対象でなく、普通の使用人という意味合いにおいてだったが。
そうして悠愛を雇い今日まで働いてもらってきた。
もらってきた筈だったのだが……
……
…………
………………
悠愛は僕の腰を抑えつつ、僕の不浄の門にあてがってきた。
「力を抜いて下さい。 緊張しすぎですよ」
優しい声色で悠愛はそう言う。
僕は少し深めに息を吸い、自分を落ち着かせようとした。
僕の自分を落ち着かせようという行いを察したらしく、少し悠愛は待ってくれた。
やがて良い頃合と思ったのか、ズブリという感触でついにお尻に挿れてきた。
悠愛は押さえつける様にしばらくしていたが、やがて
「はい、これでいいですよ。 それではしばらくお休みくださいね」
と言った。
「大体ご主人様は夜更かししすぎで不規則な生活を送っているので、この様にお風邪を召してしまうのです」
やや高めの熱を下げる為に僕に座薬を挿し終えた僕のメイドは、看病しつつも苦言も付け加える事を忘れなかった。
投下終了です。
乙
普通の座薬か、葱かと思ったw
GJ
271 :
名無しさん@ピンキー:2009/06/22(月) 04:48:51 ID:6DoIZvDG
上げ
最近、アンナと王様っていう映画借りて見たんだけどすごく萌えた。
頭の中をいろいろな妄想がかけめぐった。
多分主従・・でいいんだよね、王様と教育係って。
誰かこれでエロ書いてくれる神はいないのか・・
王子様とその教育係の女性と書き間違えたのか
王様(大人)と現在その教育係を務めている(年上か年下かの)女性なのか
王子様の頃に教育係をしていた女性と王に即位後に男女の関係を持つ話なのか
何を書いているのかわからないと思うが自分でも何を書いてるのかわからなくなってきた。
>>274 3度読み返して理解できたw
「アンナと王様」は「王様」と「"その息子である王子"の家庭教師」の間の話だよ。
つまりトラップ一家物語の王様版か。
「アンナと王様」というとユンファ王か。
個人的には「王様と私」のブリンナー王のほうが好みだ。
トラップ一家のマリアは10代の修道女見習いで
アンナは未亡人という、どっちもヒャッホーな設定だよね。
トラップのマリアも、王様と私のアンナもどっちも
ジュリー・アンドリュースで思い浮かんじゃった自分は多分異端…ww
いや、個人的には好みなんだけどさ
普通、アンナはデボラ・カーだろう。
280 :
名無しさん@ピンキー:2009/06/24(水) 02:31:24 ID:CaKUhYPQ
人買いに売られてた少女とその少女を気紛れで買った貴族とか萌える
いいね
282 :
名無しさん@ピンキー:2009/06/28(日) 20:54:43 ID:8f02ZsJ1
保守
妻子ある上流階級の旦那様と下女とか
「アンナと王様」は見たことがあるが原作同様白人至上主義なプロパガンダ
映画という感覚しか受けなかったからあまり楽しめなかったな。
高校のときに日本史と当時の列強との係わり合いを習った身としては創作と
誇張が多くて好きになれんかった。
設定は嫌いじゃないけどね。
アンナとシャム王なら見たことがあるなあ。
恋愛要素は感じられないから、ここ向きではないかもしれないけど。
映画としてはそれが良かったりする。
286 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/06(月) 15:15:02 ID:76YbRP4E
川城さまの続きはまだでございましょうか?
気になって毎日ここに来ています。
-*-*-*-*
鈴と王様
-*-*-*-*
王になりたいと考えた事があるだろうか。
難しい意味合いでの王じゃない。鍛冶職人の王とか、商売の王とか。
そうじゃなくて純粋な君主としての王って事だ。
国を統べるものとしての王。
判り易い意味合いでの王様の事だ。
まあ、王じゃない人にとっては
王っていうのはなりたいと思うものなんだろうな。と思う。
なんたって何でも出来る。
そこに住んでいる人間達が守らなくてはならない決まりを作るのが王だからだ。
王がこうしろと言えばそれが正しいのであり、その結果がどのようになろうともそれは正解になる。
守らなくてはならない決まりに縛られて好きな事が出来ない人にとってみたら、
これは憧れて当然の事と云う事になるだろう。
例えばの話、戦争をして何千人と人が死んだとしても、
その結果国が滅ぼされない限りは王は正しい。局地戦でいくら負けようとも王は間違ってはいない。
万が一、勝利でもしようものならそれはすべて王の手柄だ。
無論実際に戦争をするのは国民なのだからその中から何人かの英雄は出るだろう。
だが、その英雄が結局王の代わりになると云う事はまず無い。
それらの英雄は国許に戻り、王の為に戦ったと公言し、無論いくらかの出世や金、名誉を手に入れるが
それすらも正直な話、実質的に見れば王の手の平の中の話。
最終的にはそれらの英雄を持つ王は正しいと云う事になるのだ。
それだけじゃない。少々の乱暴だって許される。
王のやる事は根本的な意味で正しいのだから、その行為は極大まで善意的に拡大解釈されるのだ。
例えばある人間を特に理由もなく殺したからと言って、王が責められる事はない。
何故なら、王にそうさせたその人間が、若しくは周囲の人間が悪いからだ。
例えその理由が王の前を無断で横切った、等というものであったとしても、
それはそんな事をしたそいつが悪い。と云う事になる。
それにしたって目の前を横切っただけで殺す事は無いだろう?
そんな事は無い。
神の代弁者たる王の目の前を無断で横切ると云う事はつまりは王に従わないと云う事であり、
つまりは反逆を企てるような奴かも知れず、もしそうなってからでは多数の犠牲者が出るかもしれない。
王はそこまで考え、そして緩み、甘えきっていた配下に対して模範を示したのだ。
なんて事が勝手に後からついてくるのだ。
無論これは王が考える必要すらない。周りが勝手に考えてくれる。
つまりは王が正しいのだと。
なぜそうなのか考えてみた事がある。
王なんか敬って楽しいのか?
王が全てを決めて、本当にいいのか?王が全部正しくて本当にいいのか?
都合悪いこと、ないのか?
いや僕が言う事じゃないかも知れないんだけどさ。
横切っただけで殺されてしまうかもしれないんだよ?
しかもその後、後付けの理由で悪者にされるかもしれない。
それなのに何故?
と、王が敬われる理由って奴をずっと悩んできたんだけれど最近漸く少しだけ判って来た。
王ってのは調整弁って奴なんだろう。
別に王なんて誰だって良いんだ。
ずっと見て来たけれど、人間っていうのは何か基準がないと安心できない傾向がある。
何かをした時にそれが正しいのか正しくないのか、良い事なのか悪い事なのか。
その基準が必要なんだな。
例えば哲学的な話になってしまうけれど
人は人を殺してよいのだろうか。という奴。
そんなものいいわけないだろう。
と思う訳だけれど世の中そう奇麗事だけじゃ終らない。
隣の国が攻めて来たらどうする?殺さざるを得ないだろう?
戦争だけじゃない。例えば国内に何の罪も無い人間を10人殺した奴がいたらどうする?
それ以上殺さないように閉じ込めるか殺してしまわざるを得ないだろう?
そう言う時に王ってのは必要になる訳だ。
王の治世を乱すものだから殺していい。
そいつらを殺す事は王の為になるのだから殺した奴は悪い事をしたどころか良い事をしたって事になる。
人は人を殺してよいのだろうか。
いいのさ。王様の為ならば。
この便利な概念を使う為に、人は王を敬うのだ。
敬うだけじゃない。反発するものだって国の中にはいるけれどそれだって王を基準にして考えられる。
王の支配にはもううんざりだ。王を倒して俺が王になる。
全て王が基準になって考えられる。
そういう事だ。
王がいるだけで色々な事がとても判りやすくなる。
0か1か。
その判断の為に王はいるのだ。
最初の質問に戻ろうか。
王になりたいと考えた事があるだろうか。
もしあるというのならそれに対する僕のアドバイスはこうだ。
いい事もある。
しかし、ならないにこしたものではないし、
何でもできる王でも、できない事はあるって事だけは知っておいた方がいい。
@
いや、まあでももしかしたら、とも思う。
もしかすると僕の子供あたりになるとなって良かったと思うのかもしれない。
いや、僕だって良かったと思う事は多々ある。あるとも。
でも同じ位良くないと思う事だってあるのだ。
きっと王である事が当たり前に感じられるようになるのは僕の子供か孫あたりなんだろう。
僕が王で良いのだろうか。
こんな事を悩むのは、こんな気持になるのはきっとこの国では3代目である僕が最初で最後になるんだろう。
そう思う。
最初に王になったのは僕の爺さんだった。
僕が物心付いた頃は既に国王を退いており、
僕には甘くてとても優しい人という印象しかないが、これがまた優秀な人だった。
簡潔に纏めるとこうなる。
地方の農村の長だった爺さんは飢饉の際に自衛の為の組織を作ったのが切っ掛けで、
それがどうしたもんだか周囲の村を巻き込んだ連合体の作成となって、
あれよあれよという間に領地を増やし、飲み込み、切り取った末、
一代で周囲の領主達を全て飲み込んで僅か40年程でこの広大な王国を作り上げた。
書けばそんなもんだが実際やったのだからたいしたものだ。
そんな風だから国産みの物語として爺さんの話は今は国中で語られており、
話半分に聞いたって大層な伝説には事欠かない。
なにせ周囲を全て敵にまわしながら大会戦を軽く10回、
小さいのを含めると100以上の戦争の悉くに勝利した結果での王国の樹立である。
物語として読むととても面白いが、当時はさぞかし凄かったのだろうと思う。
僕が遊びに行くと目元をぐんにゃり曲げて抱き上げてくれた優しい爺さんだったけれど
敵には鬼神、魔神と恐れられたというのだから人は判らない。
爺さんがそうやって広大な領土を手に入れた後、次に王となったのは僕の父だった。
父は爺さんに付いて各地を転戦したという意味では歴戦の勇者であった事は間違いないだろうが
寧ろその仕事の多くは国王になってから為された。
つまり、父はこれまた優秀だった。爺さんとは違う方向で。
爺さんは何だかんだ言っても要は地方の農村の長だった。
戦争には強かったが、国を作って王になった途端、何をやっていいのか判らなかったのだろう。
父に全てを任せて国王を退いて、後は昔の仲間と酒盛りなんかをやって楽しく過ごしていた。
爺さんに全てを任された父は国内から優秀な人間を集めて政治を行った。
連合体に近かったこの国を国王を中心とした強大な国に作り変えたのは父の力だ。
父の治世は15年に渡り、その間に父は戦争を治め、国内を安定させ、
ある意味では徹底的な粛清を行い、そして強大な権力をすべて国王の元に集めた。
それを全部やった後、父は満足しきった顔で17歳だった僕に国を譲り、
思い残す事は無いとばかりにあっさりと病気で死んだ。
当然爺さんはその前に死んでいた。
そして僕だ。
爺さんと父さんが大層働いたお陰で、国内は安定し、
長く続いた戦争は過去のものとなり民の声は喜びに溢れている。
つまりは平和だ。
国内は国王を中心とした強力な体制を引いているお陰で穀物も安定して生産されており飢える事はなく、
町には様々な文化が生まれている。
爺さんと父さんが作った法律は優秀で、しかも野心を持たない政治家達によって磨き上げられ、
悪商が栄える事もただ虐げられる国民も存在しない。
外交関係も順調で確かに敵対する勢力もいないではないが、
こちらの繁栄に合わせるように近年では寧ろ共に手を取って栄えようという風潮に変わってきている。
@@
「つまり、何をやるべきかって事だ。」
僕が呟くと、鈴が顔を上げた。
「ん……ぷはっ・・・何?」
ベッドに横たわった僕の下半身に跪いた格好のまま、口の端に着いた唾を右手で拭う。
30分に渡っての行為によって、鈴の顔は紅潮している。
僕の言葉を聞くために顔を上げたものの、手は休まない。
ぎんぎんに反り返った僕のモノをさりげなく左手で拭い、すかさず扱きあげて来る。
カリ首を鈴の温かい手で包まれて、じんわりとした快感が背筋を上ってくる。
「いや、僕ってさ。何すればいいのかなって思って。」
そういうと、鈴がついと目を細め、こちらを睨みつけてきながら名前通りの鈴の鳴るような声で返してくる。
「あのねぇ・・・幼馴染にこんな事させながら言う言葉がそれ?」
尖ってはいるが、ちょっとした甘えの口調もそこには響いている。
「あー、そういうことじゃなくってさ。ちょっと聞いてくれる?」
小さな声で言うのは部屋の外には御付の女官が控えているからだ。
鈴がこんな口調で喋ったと知れたら鈴の首が飛ばないまでもとんでもなく叱責されるのは目に見えている。
唯でさえここで僕が喋った言葉は全て後で全て報告するように鈴は言われているはずだ。
まあそこら辺は上手くやってくれているようだけれど。
「んっ・・・じゃあこっちはもうおしまい?」
僕のものをくっくっと優しく扱きながら、鈴が小首を傾げて聞いてくる。
「うん。」
「えーと。出さなくていいの?」
そういうとちょっと口の端を持ち上げた可愛らしくも悪戯っぽい笑顔になって、扱く手に力を入れてくる。
「あっ・・・ああ、もう、うん。ごめんね。」
「そ。判った。」
そう言うとベッド脇からハンカチを取り出して、
鈴の唾液と僕の先走り液でヌルヌルとなった僕のものを手馴れた手つきで優しく拭っていく。
そして綺麗に拭い終えた後、鈴は当たり前のようにぱくりと自分の指を咥えた。
そのまま口をもごもごとさせ、舌で自分の手についた鈴の唾液と僕の先走り液を舐め取っていく。
これも鈴の仕事だから当たり前なのだそうだけれど鈴にやられると妙に照れる。
ん、今日も体調良好。と、鈴が呟く。
それは僕の味がそうなのだという意味で、やたらと恥ずかしいけれど鈴は必ずそうする度に言う。
全部終った後、鈴は猫のように首を回しながらベッドの上に余分なものや汚れが無いかどうかを点検し、
女官用の水差しから水を口に含み、そしてワンピース状の女官の服を上から羽織ってから僕の枕元へと来た。
枕元に座ると一仕事終えた。という感じにほう、と溜息を漏らす。
ちなみに女官が疲れを王に見せると云う事は厳禁、らしい。
これもばれたら大事だそうだけれど鈴は幼馴染の気安さからかそこらへんはかなりオープンに僕に晒す。
それが鈴の良い所でもあった。
「ご、ごめんね。いつも。」
そう言うとじろりとこちらを見てから僕の横に寝そべり、小声で囁きかけてくる。
「王様がそういうこと言わない。これしか方法ないんだからしょうがないじゃない。
…で、何を聞いて欲しいって?またあの話かな。」
ふふん。と顎を上げて言ってくる。口調も変わる。
先程までの雰囲気とは違う。友人としての雰囲気といえば良いのだろうか。
僕には鈴しかいない、鈴には他にいるのだろうか。対等な、そういう僕の大好きな雰囲気。
「・・・うん、僕って何をすればいいのかなって。前にも言ったけどさ。笑わないで。なんだろう。
前にも言ったけどそういうのを考える事があるんだ。」
「だから、いつも言ってるじゃない。君、王様なんだから好きな事すればいいじゃない。」
「だから好きな事って何だろうって。戦争とか?」
「・・・君、戦争好きなの?」
私はやだなあ。やめときなよ。と鈴は眉を潜める。
「いや嫌いだけど。王様のやる事って言ったら領土を広げたりとかそんな事じゃない?爺さんとか父さんみたいに。」
「これ以上どこに広げるのよ。」
いや、海越えてとか・・・
と口ごもると鈴はへちゃん、と体の力を抜いてシーツに体を預けた妙に猫っぽい仕草をしながら睨んできた。
「本当にしたいの、それ。多分すっごい大変だしいっぱい人死ぬよ。」
「全然したくない。」
「じゃ、やめときなさい。」
「そうする。でもさ、じゃあ何すればいいのさ。僕。
毎日毎日儀式やら何やら。政治に口出す訳でもないしさ。」
「口出せばいいじゃない。君、王様なんだし。」
「あのね。簡単に言うけどね。僕が言うとそう決まっちゃうのよ。軽々しくそんな事言えないの。」
「何か問題でもあるの?」
「国内の政治ってのは、専門家がそれこそ毎日首ひねってバランス取ってるんだよ。
そこに僕が軽々しく何か言ってみ?
周りの人間は僕が言った事は実現しなきゃならないし、そのバランスは取らなきゃいけないし。
簡単に何かをしろなんて言えないの。」
「よく判ってるじゃない。」
「・・・判ってるなら言わないでよ・・・」
はあ、と頭を下げると、鈴は妙に優しい顔になった。
「大王様は何て言ってたんだっけ?」
そう言うと純白のシーツの上で完全にリラックスした体勢になってひょこひょこと足を揺らせている。
「父さんが死に際に言ったのは唯一つだけ。
爺さんも俺もこの国を平和にする為に、そしてお前にこの国を渡す為に頑張った。
沢山子を作り、この国を繁栄させよ。ってさ。」
「うん。じゃあそうすれば良いじゃない。王妃様と側室様だけで何十人もいるんだしさ。」
鈴の気楽な声にはあ、と溜息を吐いてごろん。と寝転がった。
鈴の顔が近くに来る。鈴の隣に寝転ぶ形になって、鈴の優しい匂いを感じた。
「こわいんだよあの人達・・・他国から来た人たちばっかりだし。
なんかもっとこうさ〜。父さんや爺さんも全部やる事はないんだよ。
こう、テーマというか課題を残しておいて欲しかったよ。
現状維持で子供だけ作れってさ、そりゃないだろ。
僕、将来、女好きで子沢山の王様として名を馳せるの確定じゃないか。」
「平和を維持するのだって立派な仕事じゃない。
女好きで子沢山の王様ってのはきっと悪いことじゃないよ。多分。
領土を倍に広げた王様より、私はそっちの方がずっと良いと思う。
・・・それにさあ、君、まだお世継ぎ作ってないでしょ。
ご遺言を果たしてからその手の文句は言うべきよ。」
「・・・だから、こわいんだってあの人たち。
夜の順番一つで御互い暗殺とかしそうになるんだよ。
おちおち寝室にも行けないんだってば。」
そう言ったその瞬間、鈴の目がびっくりしたようにひょっと開いた。
あんぐりと口をあけてもいる。
「じゃ、その、またしてないの?」
「ぅ・・・」
鈴のあからさまな言葉に口ごもる。
ない、訳じゃあない。夜は王妃や側室の所へ行くのは王の義務でもある。
でも何故だか鈴に言うのは憚られた。
それに確かに積極的に子作りに励んでいる訳でもなかった。
鈴に言った事は本当の事でもあった。
他国から来た年上の王妃とは話が合わなかったし、側室も他国から来た女が大半だ。
無論皆が若く美しくはあったけれど、鈴のように楽しく話が出来る間柄ではなかった。
その為、何だかんだと理由をつけては王妃や側室の所へ行かずに過ごす事もよくあった。
というか最近では月のうち王妃や側室のところへ行くのは3日程度だ。
それもサボる事が良くある。
「どれか一人に行くと、その後色々大変なんだよ・・・」
取次ぎの女官が群れを成して陳情してくるのだ。今夜はこれこれこうしてお待ちしています。と。
男としては名誉で、王としては義務かもしれないけれど、なんとなく脅迫されている気分にもなる。
「道理でいつも一杯出…って・・・あのねえ・・・」
鈴が自分の出した言葉に照れたのか少し顔を赤らめながら声を更に潜める。
「…私がどういう理屈でここ来てるか知ってるでしょう。」
「…し、知ってるけど。」
鈴がここにいるのは、僕と話をしたりするのは国の仕来りから言えばありえない事だった。
僕は国王になってから今まで一度だけ、国王として我侭を言った事があって、それがこれ。
鈴との事だった。
@@
その一度の我侭は僕にとっては大事で、そしてささやかな事だったけれど、
その所為で王侯庁やら宗教庁が大変な事になった。
鈴がここに来るのに理由をつける為に、王侯庁と女官のまとめ役と宗教庁の長が何週間も頭を捻る羽目になった。
何度も会議が開かれ、毎日のように何人もが僕の意図を確認しに来、でも僕は頑として譲らなかった。
そして出来たのがこれだ。
僕は絶対に認めたくないし、そんな事を思った事もそうあってほしいと思った事も無いけれど、
でもこれが精一杯の国の仕来りと、僕の我侭との間に出来たものだった。
鈴はここには穢れ落としという役目の為に来ているのだ。
女官としても城に入る資格の無い鈴にはそれしか方法は無く、
王侯庁と宗教庁が各地の仕来りと法律とを照らし合わせた上で考え出した新しい仕来りであるそれ。
「…ごめん、でも。えっと、そうだ、でもさ、だからって鈴に迷惑には」
ふと気になって、というよりもそのままだと会話が終ってしまいそうで口に出した言葉だったけれど
鈴は非常に遺憾だったらしく、僕のほうにばっと顔を向けてきた。
「あのね。大迷惑なの。最初に説明したでしょ。王様の身体を清めるのが穢れ落としで来てる私の役目。」
「・・・うん。」
「でも本当はそれは上官の女官の役目。君も知ってる通り、私はそもそも下官以下なの。
城に来てもいけないし、そもそも下官だって本当は王様の身体に触れちゃいけないの。
それなのに君が王妃様の所や側室様の所に行かないから、体調が悪いんじゃないかって、
ご機嫌はどうか、私が何か知ってるんじゃないかって取次ぎの女官の人が私を責める訳。」
「・・・ごめん。でもやっぱそれってさ、変だよ。」
「皆で考えた結果。私も納得してるの。君も覚えてるでしょう?
君のあれ、とんっでもない我侭だったんだから。」
唾を飛ばさん勢いで、僕を責める口調で、肩までの髪を片手で弄りながら
でも何となく楽しそうに鈴は話していた。
「いやだってさ、鈴とは今後目も合わせちゃ行けない、名前で呼ぶなんてもっての外、
そもそももう会えませんとか言われちゃ黙ってられないし。」
ふと思い出す。そう、大喧嘩したのだ。その所為で。
「でもルールはルール。私はお爺さま・・じゃない大帝様には君と一緒にすっごく可愛がってもらったけど、
父があんな事を起こしたから、下官にだって本当はなれないの。それなのに君が我侭言うから・・・」
「でもさ、鈴のお父さんだって父さんと喧嘩はしたけどすぐ謝ったじゃない。そもそも父さん同士だって仲良かったんだしさ。」
「だーかーら。そういう訳にはいかないでしょ。大王様が優しかったから私の父は許されたけど」
「いやー、あれは父さんが頑固だったからだと思うよ。」
「あーもー!それだって許される事じゃないの。貴族に残れたのだって奇跡だったんだから。
准男爵に落ちる位は当たり前なの。で、下官は男爵以上の家の子女がなる決まり。私は駄目なの。
だから、私は特別扱いな訳。下官になったってだけでも特別な上に、
君に会う事を許されるなんて本来ならありえない訳。それを無理やりどうにかしたんだから。」
「やっぱりそれが良く判んないんだよな。そもそも幼馴染の鈴に会うのが何でいけないの。」
はあ、と鈴が溜息を吐く。
「そんなの当たり前でしょ。君のお父さんはこの国を国らしくする為に色々決めたの。貴族は5爵2階級。
政治は子爵男爵が行い、公候伯は土地を治める。王にお目見え出来るのは5爵とその子女のみ。
・・・だから本当は貴族ですらない私はここにいちゃいけない位なの。君、知らないだろうけどね。
この城の内部に足を踏み入れられる人間は、つまり君の目の前に出られる人間はこの国じゃ本当に一握りだけなの。
ここじゃ下官と呼ばれる女官だって、外に出たら自分で足だって洗わないような身分なんだから。」
「だから鈴とは会えない。なら変だよ。」
「変でも、国は治まった。大王様は凄い方だった。」
鈴は真っ直ぐに僕を見ていた。
「だから私のお父さんみたいな反逆者は出なくなった。」
「あんなのただの喧嘩じゃ」
「うううん。違うって事は君が一番良く知っているはず。
本人達はただの喧嘩のつもりでもあれで何人も死んだの、知ってるでしょう?」
「でも」
「でもじゃない。いいの。」
俯いた僕に、鈴はちょっと笑いながら僕を励ますように声を続ける。
「穢れ落としで会えるようになったじゃない。」
「くだらないと、思う。」
鈴に判ってもらいたくて言葉に力を入れた。
穢れ落としは、国中の法律学者と宗教学者が父の決めた法律と身分制度、
それと国に根付く宗教と慣わしを捻り出して決めた新しい決まりだ。
汚れた王の身体を清めるのは女官の1人が行う。
その際に布、水は使用せず穢れ落とし女官の口及び手、体のみをもってそれを行う事。
聖なる王の汚れは穢れ落としの女官のみが落とす事ができる。
穢れ落としの女官はその口で、王に憑く不運や悪霊なども清めるのだ。
これはある田舎の地方の専制的な領主に伝わっていた習わしらしい。
後一つ、その日一回目の精液にて妊娠した場合、
女が生まれやすくなるという迷信から、
穢れ落とし役の女官が王のその日一回目の精液を頂き、男が生まれやすくするという役目も付け加えられた。
又その際は口内にて頂き、女官はその精液の濃度、味覚等を報告する事。
(但し王が拒否した場合はその限りではない。)
これもその田舎に伝わっていた習わしで。宗教庁が何度も確認した結果、その2つは不可分のものと結果が出された。
王侯庁と宗教庁は国中の仕来りを調べ、このしきたりが一番都合がよく、
鈴が城に入る為には穢れ落としの女官とするのが一番である。
と、そう結論付けたのだった。
穢れ落とし役の女官は下官と同様の身分とし、その期間は王が別途定める事とされた。
そして穢れ落としの女官に鈴は任命された。
あと、慣わしにはもう一つあった。
法律には入れなかったけれど、その仕来りが出来た田舎では実行されていた慣わしで、
おそらく実際にそうなった場合に実行されなければ侮辱されたとその地方の人間は感じるだろう。
穢れ落としの女は処女でなければならず、もし妊娠した場合、死が命ぜられる。
という慣わしが。
「我侭言ってさ。」
はあ、と鈴が力んで言った僕の顔を見ながら溜息を吐く。
そして笑う。
「幼馴染にこんなことさせて、さ。こんな事してくれる幼馴染、いないよ。」
昔から思っていた、色の深い、宝石みたいに綺麗な瞳。
決め細やかで、しっとり濡れてるようにすら見える真っ白な肌。
それを見ながら思わず声に出していた。
「僕は鈴が一緒に」
その瞬間、ドアが叩かれた。
「王様、お食事はいかが致しましょう。」
扉の外、扉にくっ付いて喋ってるんじゃないかという感じに声を響かせながらやたら尖った声が飛んでくる。
鈴がへたっと寝転んでいたその体勢のまま、ぴょんと跳ねる。
「は、はいっ!王様はお食事を御取りになるそうですっ!」
「なら鈴、あなたは早く出てきなさい。下官のあなたがいつまでも王様の手を煩わせるものではありません。」
「はいっ!」
言いかけた言葉を飲み込んで、僕の顔を見る鈴に頷く。
鈴はぺろっと舌を出してからベッドの上に立ち上がり、そしてドアの方へと駆けて行った。
@@
まあ、つまりはそういう事だ。そういう事。
王は何でもできる。でも何でもできるからって何をしても良いわけじゃない。
王が何かをしようとすると、それは実現されなくてはいけないから、周り中が迷惑するのだ。
だから決まりを作る。仕来りを作る。
それは不便だけれど、それを守っている限り、王は完全だ。
周り中が迷惑する事無く、完全な王を守り続ける為に仕来りや決まりというものがあるのだろう。
確かに王への反逆は許されない。
例えそれが始まりの時代の領主同士の些細な喧嘩であってもそれは許してはいけないのだろう。
許したら、それはもう完全な王ではないのだ。
そしてそういう事をした家に生まれた鈴は、そういう事になる前に仲良かった僕と会ってはいけないのだろう。
それを破って、会いたいと言ったから、穢れ落としなんていう歪んだ仕来りが一つ出来た。
これからもそうだろう。僕が我を通せばそれだけ歪んだ仕来りが出来ていく。
問題はそういうことだ。
王は自由ではない事もあるって事。
鈴の事を好きでも、それでも彼女と一緒にいるにはあんなに歪んだ事をしなければいけないって事だ。
鈴は僕の為にあんな事を毎日している。口と手を使って、僕の体を全て舐めて清めるなんて事をしている。
そして僕はそれを嫌だと思わずに、いや、少し期待してさえいて、そして鈴にさせている。
きっと鈴にとっては楽しいはずなんて、無いと思いながら。
それだけじゃない。鈴は毎日仕事の後処女であるかの検査をされる。
僕が手を付けていないか、誰かに手を付けられていないかを確認する為に。
何も知らない僕でもそれがきっととても楽しくない事だと云う事位は判る。
幼馴染に、いや多分僕の唯一の友人に僕は毎日そんな思いをさせている。
爺さんは何でもできる王を作り上げた。
父さんは何でもできる王がずっと存在し続けられるように決まりを作った。
僕は?
きっとそれを守る1人目の王になるのだろう。
それを守り続ける2人目の王、3人目の王へと引き継ぐ為に。
出来るだけ歪んだ仕来りを引き継ぐ事無く、そうする為に。
でも、もし
もし鈴と一緒にいられる違う方法があったら。
周りに迷惑を掛けず、忌わしい仕来りも作らずにもしそうする事ができたなら。
いつかそうできたら良いけれど、今はまだその方法は判らない。
僕は何をすればいいのかと、鈴に問う度に、少しだけ期待する言葉。
「私を、君と」
もしそうなら、もう一つだけ、忌わしい悪弊を作った王と呼ばれても良いと思っている。
でも鈴は決して言ってはくれないけれど。
だから夕方にまた会える事を願って、次の日の朝に会える事を願って、
鈴に会う事を願って、
僕は王様を続けているのだ。
了
-*-*-*
以上です。
ノシ
GJ!
なんか切ないわ、王は孤独ってことですかね。
おもしろかったです!
>>306 面白かった。実に読ませるねぇ、超GJ!!
GJ!
切ないねえ。
どうでもいいが、内容だけであなただとわかった俺って一体
エロくなくて残念
GJ!
歪んでんなぁ やっぱりその歪み具合が身分モノの華かね
そういや某スレに男主女従っぽいのきてたな
-*-*-*-*
鈴と王様 realize
-*-*-*-*
好きな人が凄い人だと良いな。そういう風に考えた事はある?
凄い人って言うのはそう、あんまりこ難しい意味じゃなくて、単純に凄いって事。
例えば、…王様とか。
あ、いやいや、ね、ま、王様とかはね。ちょっと。とか思うかもしれないけれど
素敵な騎士様(実際の騎士様はお爺さんが多いけど。)位なら女の子だったら考えたりした事あるんじゃないかな。と思う。
何でも出来ていつもクールだけど自分の前でだけはおっちょこちょいの騎士様とか。
いつも人を笑わせてばかりの3枚目だけれど、自分の前でだけ、真剣な自分の気持を教えてくれる騎士様とか。
普段はアウトローな渋い男だけれど実は女の子は苦手、な騎士様とか。
後、いつも自分を抑えてて、妙な所で他人には優しい泣き虫な王様とか。
ふむう。まあ、悪くはないよね。そういうのってさ。
ちょっとドキドキしちゃうよね。
あ、最後のは無い?まあ、良いじゃないか。
意外とそういうのに限っていざとなると頑張ったりもするんだから。
髪は銀髪で目は青みがかっててさ。剣の腕は並ぶもの無しの腕前ながら勿論体型はスマート。
それだけじゃない。何か問題が発生した時には数に優る敵をきりきり舞いにさせてしまうような策も持ってるクールな頭脳派。
それでいて私が絶体絶命!の瞬間には自らマントを翻し、剣を抜いて自ら助けに行っちゃう行動派でもあったりして。
走る馬車から突き落とされた私を間一髪馬上で受け止めて、
汗一つかいていない顔でにっこりと白い歯を見せながら爽やかに笑ってこう言うの。
「大丈夫かい、お嬢さん。」
馬上で抱きしめられた私はきゅんと胸を締め付けられながらこう言う訳。
「ああ、私の騎士様・・・」
うん。
そんなのだったら、素敵だよね。
ま、そうじゃない場合もあるかもしれない。
髪は黒髪でぼさぼさ、顔は、まあそこそこかな。うん。悪くはないかも。でも剣は出来ないね。運動神経無いから。
体型はスマートだけど痩せてるって言った方が良いかも。本当はもうちょっと食べた方が良いんだけどね。
珍しいよね。貴族って大抵太るものなのに。お父さんもお爺さんもそうだったから血かも。
頭、は悪くないけど頭脳派って訳じゃないなあ。どちらかというと実直な感じ。
私が困った時には死ぬって訳でもないのに持ち前の権力で周囲の迷惑を省みずに我侭の限りを尽くして助けてくれるの。
城から出て辺境にすっ飛ばされて名前だけ立派な荒地に住んで食うや食わずの生活を3代も続ければハイ解決、
の話を蒸し返すもんだから大騒ぎになって回りの人間が辻褄合わせの為におおわらわ。
もうさ、我侭はその辺にして諦めなよ。皆色んな所でメンツとか決まりとかあるんだからさ。
ってのを分厚いオブラートに包みながら誰が言っても頑として聞かないで1人でハンスト。
叱ろうがすかそうが脅そうが頑として口も開かず。
しょうがないから長老やら側近の人達やらが本気で泣きそうになりながら
あちこち駆けずり回って話し合って辻褄あわせとか皆のメンツとか今後への影響とか王様の我侭を秤にかけて
何日も寝ないでうんうん唸った挙句、誰かがど田舎の誰も知らないような土地の仕来りを引っ張ってきて
法律とメンツと宗教と旧来の仕来りを極大にまで解釈させた上でこれに従えばまあ、いいかな。
皆もまあ、納得するかもっていうラインっぽいものを引いてようやくまとめあげて。
それなのにそうやって出来た苦心の上のその案をさあこれでどうでしょう王様と差し出した所、
最初に出たのが「こんなの駄目。」
その後もこれ以上はもう押しても引いてもどうにもなりませんという説得にもがんとして首を縦に振らず何も食べず飲まず。
先々代からの国王の側近で王様の育ての親とも後見人とも自負しているような普段はそれはそれは恐い側近のご老人が
水だけは飲んでくれなきゃ今すぐ私はここから身を投げますと涙ながらに懇願するも無視。
引っ込みつかなくなったそのご老人が止めてくれるなと窓に向かって走るのを皆で必死に抑えていたら
いつのまにか抑える方も悲しくなってきて皆で団子状になって号泣しながら説得した挙句、数時間を経てようやく渋々と納得。
様々な仕来りによって城の内部には入れず、でも処分も決まってないし、もう処分決まってるんだし城の牢屋に入れるのもねえ、
でも近くに置いとかないと王様が。というこれまた誰も考えたくない類の難題に皆が頭を絞った挙句、
折衷案として城の門のすぐ前にある王様の側近中の側近(奇しくも飛び降りようとしたご老人)の屋敷の離れの家とも小屋とも軟禁場所ともつかない場所にいた私の所に側近振りほどいて城門を突破してきた挙句(それも異例の事態)鼻水たらした泣き顔でこういうの。
「ごめんね、鈴、ごめんね。」
そして物凄い勢いで王様が走ってきてるから。お前そのボロ着てるのはさすがにヤバイから何でも良いから早く着替えろ。
ええい、そこにあるのでいいから持って来い。
という理由で慌てて着せられたその側近の一人娘の一番のお気に入りの素敵なドレスにぐしぐしの鼻を擦り付けてくる王様の頭を撫でながら私がこういう訳。
「君ねえ、何でそんな無茶するの。」
…
あ、そういうのは無し?
無しだろうねえ。
うん。
でも、まあ、結構ドキドキするよ。
やるだけやってくれたんだから。
涙出たし。
私の家は父が行ってしまった罪が決まるまで数年間、
ずっと私の家は処分の決まらないままの半分だけ罪人って扱いの家で、
そんな時に先代の王様が亡くなってその男の子が王様になってさ。
不安だったろうに、右も左もわからなかったろうに、周りには頭の良いのやら頑固なのやら
王様の手を煩わせずになんでも決められる位に経験を積んだ側近が一杯いてさ。
そういうのは、恐いんだよ。王様だって平気で叱り飛ばしちゃうんだから。
きっと毎日、言われた事にはいはいって答えるだけだって大変だったろうにさ。
他人にいいえって答えるのにだって悩むような男の子が、その泣き虫が、
幼馴染の一つ年下の、泣き虫の男の子が、
私の為にもう一回決まってしまった事をひっくり返そうと、一生懸命頑張ってくれたのだから。
話がずれちゃったね。
最初の質問に戻ろうか。
好きな人が凄い人だと良いな。そういう風に考えた事はある?
そんな話だったね。
もしあるというのならそれに対する私のアドバイスはこうだ。
いい事もある。あるかな。まあ、あるかも。
多分ね。
でも、そうじゃないにこしたものではないし、行きすぎってのは何にせよ大変だ。
多分あなたが考えているよりもずっと、ずっとね。
あんまり高望みせず、手近な所で済ませた方が良いんじゃないかな。
程ほどにしとくといいよ。
例えばクールな騎士様のお気楽な次男坊とかあたりがぎりぎりじゃないかな。
その位のライン。
まあ、若しくは…なんだったら、近所のなんでもない、気の知れた幼馴染あたりにしておいた方が良いかもしれないよ。
まあ、もう好きになってしまった、とか?
その幼馴染が凄かった、というのならしょうがないのだけれどもさ。
@@
男の子と私が仲良くなったのはそう、お互いが大分幼い頃だった。
私が子供の頃、父の位は伯爵で、これは国の中では相当に高い地位だった。
国を作った初代の国王様が兵を挙げた時に私の祖父も他の地域で同時に兵を挙げていて、
ある戦争を切っ掛けに初代の国王様と共に戦ったという縁でその結果多くの領地を拝領して、
父も祖父を継いでその領地を治めていた。
父の領地は国土の東の山脈に連なる広大な平原を中心としていたけれど、
国土の西にある祖父の持っていた領地も飛び地として治めていた。
つまりは先祖代々の土地という奴だ。
祖父と初代の国王様が戦を共にした所謂戦友であったのと同じように私の父と2代目の国王様も戦友であり、
誤解を恐れずに言えば肝胆相照らす仲の友人だった。
父は他の伯爵、侯爵とは違い殆ど領地へは帰らず、
国王の城の側に屋敷を持って暮らしていた。
無論、私もそこに暮らしていて、
父が城に上がる事が多い関係上私もよくその後をついて行き(そういえば当時はそれだけ自由でもあった)、
必然的に周りは大人ばかりだったから、まあ、
城の中で出会った、同年代の、つまり2代目の国王様の息子であるという泣き虫の男の子と良く遊ぶ事となったのだ。
遊んだといっても私の方が一つ年上であったのだから、
どちらかといえば私が遊んであげたのだ。
お転婆だった私は木の枝を持っては殴りつけ、花を摘ませては花冠を作らせ、
虫を捕まえては背中に入れてやり大層泣かしたものだ。
まあ長ずるにつけ、さすがに私も2代目の国王様の息子であるその男の子は将来国王様になるのだと云う事に気がつく事となり、
と共に女の子としての礼儀をさすがにまずいと考えた周囲に教えられる事となり、
男の子を木の枝に殴りつける事は無くなったけれども。
でも基本的に私と男の子のその関係は変わらなかった。
城の中で長い昼間を一緒に過ごしながら
男の子のいくら女官に整えられてもすぐにぼさぼさにしてしまう髪を整えてやり、
儀式で失敗して誰それに怒られたと言っては泣くその男の子を慰めてやり、
こっそりと二人で城を抜け出して街に遊びに出かけては一緒にしこたま怒られ、
女官が隠し持っていたどこそこの文学者崩れが書いたという少々品の無い物語を持ち出してはソファに寝転がり、
ページをめくりながら二人で読んだ。
さらにもう少し時が経ってその男の子はいつの間にか王太子と呼ばれるようになって背もそれなりに高くなり、
そしてそんなには泣かなくなったけれど、
やっぱりそれでも私達の関係はあまり変わらなかった。
呼び方が少し、変わったくらいだ。
大きくなって私が城に上がる事が少なくなっても、
何となく気弱なその男の子は悩み事があるとすぐに私に手紙を書いたし、私も返事をした。
舞踏会があればずっと昔からのまま、その男の子は私を見つけるなり真っ先に私のところに駆け寄ってきたのだ。
まあ、その後のことは、さっき話したよね。
@@@
ゆっくりと舌を這わせる。柔らかい肌の感触を舌に感じると共に汗のにおいとすこししょっぱい味が舌先にぴりぴりと感じる。
ゆっくりと滑らせて舐め取るように動かす。
私の舌で、綺麗になるように。
まあ私は元々唾が多いから良いのだけれど、これは結構大変だ。
両脚から両腕。首周りと胸、お腹とその、お尻、と、ええと、まあ、大事な部分?
まあ、一部の隙も無く、という訳ではなく、腕とか足とかは汚れている部分を中心に。
首周りや胸、お腹は丁寧に。
ええと、それ以降は、丹念に。凄く。
まあ、よろこぶ、から、ね。
うん。
首元に顔を近づけると、ん、と悶える。ぺろぺろ、と喉から顎にかけて舐める。
男の子の顔は、真っ赤だ。何回しても顔を真っ赤にしていて、可愛い。
女の子、知らないわけじゃないだろうに、何でいつまで経ってもこう初心なのだろうか。
目をぎゅっと閉じて私の舌の動きに身を任せている。
ま、顔を真っ赤にしているのは私も一緒なのだけれど。
特に右半身をぎゅっと緊張させているのが判る。
理由はええと、多分、素裸の私が、右半身に身体を擦り付けているから。
私の顔の動きに合わせて実は大きさにはそこそこちょっと自信のある胸が彼の胸に当たって、
その度に最近少しは厚くなってきた上半身が律儀にぴくんと反応してくる。
きっと当たるたびに、私の胸が当たってる、なんて事を考えているのだろう。
丁寧に喉を舐めていると、くっと顎を引いてきた。
最近覚えた技だ。
「どうしました?王様。」
聞いてやると、その響きにからかいの空気を感じたのだろう。
男の子は「お願い、鈴。」
と小さい声で言ってきた。
その一瞬で体が火照って、きゅうっと下半身が熱くなるのを感じた。
男の子の唇に覆いかぶさろうとして、その瞬間に自分が今までしていた事を思い出す。
体が熱くなって、頭の中が性的な興奮で一杯になって、でも頭の片隅のほんの一部、
ほんのちょっとだけ残った部分で今まで自分が何をしていたのかを思い出す。
男の子の唇に覆いかぶさる一瞬手前で踏み止まって、
そのままキスしたい。そのままキスしたい。
そのまま覆いかぶさる事を望んでいる頭の中の大部分の意見を強烈な意思で無理やり押しやって
「ちょっと待って。」小さな声で言って、ベッド脇の水差しに手を伸ばす。
水を唇に含んで飲み干す。
少しでも男の子には不快には思われたくなかった。
私の事で、もう充分、この男の子は傷ついて、そして今も悔やんでいるのだから。
もう一度水で口の中を洗い流してからさっきと同じ体勢に戻る。
私の裸の肌が男の子に触れた瞬間、また男の子がぴくん、と震える。
いやらしい気持で、肌が火照っている。男のこの上半身に絡みつく私の上半身。
男の子の上半身は私の唾と、そして男の子の汗で濡れていて、そこに私の肌を押し付ける。
男の子の温かい肌が心地よい。
男の子にとっても心地よいものであれば良いな。とそう思う。
先程と同じ体勢で顎を引いたままの男の子の上に今度こそ覆いかぶさる。
私の唇と男の子の唇が触れ合うほんの一瞬。
ほんの一瞬手前で、さっきよりももっと強烈な衝動を堪えながら唇を止めた。
出来るだけ意地悪く聞こえるように、
勿論ドアの外で耳をそばだてている意地悪な女官に聞かれないように小さな声で。
「本当はしちゃだめっていわれてるんだけど。」
私がその声を出す為に動かした唇の動きだけで、ちょっとだけ男の子の唇に触れてしまう位の位置。
私の吐息が、男の子の口に吹き込まれる。
男の子が目を開けて。そして懇願するような。
そして私にごめんね、鈴、ごめんね。と言ったあの時と同じような。
そして一緒に昔、悪戯をした時と同じような。
それの全てが混ざったような目で、私を見つめてきた。
「お願い、鈴。」
言い終らないうちに、唇を押し当てた。舌を口の中に入れて、男の子の口の中で躍らせた。
男の子がついばむみたいに唇を動かす。
その動きに合わせて舌を引いて、唇と唇だけでお互いについばむみたいに唇を合わせる。
男の子がおずおずと、そう、おずおずと舌を出してきて、優しくそれに自分の舌を絡ませる。
頭の中が爆発しそうになる。
この男の子は、私に持たなくてもいい罪悪感を持っていて。
私が王様への奉仕、いや、役目として好きでもないのにさせられていると思っていて、
そして私がこれをする度にいっつも泣きそうになっているのに。
私はこんなにも興奮している。
男の子の唾液を舌先に感じる度に胸の奥底が興奮にくっと締め付けられて
私の唾液が男の子の口に含まれる度に背筋の先からぞくぞくとする。
心を奥から焼くような興奮が吹き出てきて、私の右手が自然と股間に伸びて、
自分を慰めようとする度に気がついて、思い直してシーツを掴む。
男の子が堪らないように私にしがみ付こうとする。
もう駄目だ。
このまま抱きしめ合うか、それとも。
抱きしめたらもう、終わりだから。我慢できないんだから、絶対にしちゃ駄目。
毎日鏡に向かって唱えるその言葉が頭の中に浮かぶ。
唇を離す。
男の子が名残惜しそうに、ほう、と溜息を吐いた。
「鈴…お願い・・・」
もっと、とせがむ様にする男の子から顔を離す。
これ以上は駄目。そう言うと又、罪悪感と、懇願が入り交じったような目になる。
そして一瞬だけ、私の顔を見ていた男の子の目がほんの一瞬だけ動いて、その視線が私の裸の体をなぞる。
ほんの一瞬だけのその動きを恥じるようにはっと視線を逸らす。
ぞくぞくする。
だから。と。
だから、もっと気持ち良くさせてあげる。
口には出さずにもう一度視線を合わせた後、身体をベッドの後ろの方へ滑らせた。
男の子の足の間まで下りて、奥へ向かって顔を埋めた。
肛門に舌を這わせた瞬間、男の子がうめいた。
明らかな快感と、そして戸惑いの声でうああ、と。
舌先に感じる汗と、ぴりぴりとした感触。
自分の行為に頭が焼け付く。
あああああ。
又股間に手をやりそうになって、ぎゅうとシーツを握り締める。
変わりに舌を押し付け、唾を丹念に塗り付けるように塗す。
「ごめんね、鈴。ごめんね。」
耳に入る声。
焼け付くみたいな興奮。
シーツを掴んだ手を求めて、ひとりでに腰がいやらしく前後する。
自分で慰められないから、頭の中でだけ興奮が倍化していく。
「おねがい、もう、鈴。おねがい。」
泣きそうな声。
キスするようになってからだ。
その前はこんなじゃなかった。
私がいくら男の子の身体を舐めても、その、そこを舐めてもこんな風にはならなかった。
ただちょっと悲しそうな、罪悪感に塗れた顔をして、
鈴、ごめんね。と言って、私の口内で達したり、途中で止めたりもした。
ごめんね。頑張っている君にこんな思いをさせて。
口を離して顔を上げて男のこの顔を見る。
私の男の子が、私の前で、こんな風になっている。
あああああ。
きゅうっと下半身に力が入った。
頭の中の快楽が爆発しそうになるのを必死で堪える。
まだいってしまったら駄目。
口を開いて、男の子のそれを口の中に入れていく。
少し苦い、あああああ、凄く刺激的な味が口内に入って夢中で吸い付く。舌を絡める。
「いっぱい出して。飲んであげるから。我慢しないで。いっぱい。ぜんぶ。」
口を離していたら言えない、言ってはいけない言葉を口内一杯に男の子のそれをほう張りながら呟く。
「ごめんね、鈴。ごめんね。」
男の子が腰を押し当てるように私の顔に押し当てて来て、ぶるっと身を震わせる。
かちかちに硬くなっていた私の口内のそれが一瞬、ぐぐぅっと引っ込むような動きをした後に膨張する。
どくん、どくんという動きと共に、私の口内一杯になめらかな苦味が広がる。
先端に舌を当てて軽く吸いながら次々と放たれるそれをこぼさないように口内に溜めていく。
ああ、
本当に、本当に、私は、幸せだ。
@
「ねえねえ、鈴、大丈夫かな。怒られないかな。」
「大丈夫だから、こっち来なさいってば。ほら。」
ソファーをばんばんと叩くと、おどおどと隣に座ってくる。
女官の部屋にこっそり忍び込み、見つかりそうになって慌てて走り回って逃げたおかげで
ぐしゃぐしゃに髪の毛を乱した男の子の膝に、本を広げてやる。
「ええと、あ、ほら、やっぱり子供向けだよ。絵がついてるもの。ほら。これが魔女だよ、きっと。
タイトルは・・・ええと、『物語の好きな魔女の話』」
読んであげる。私がそう言うと、男の子がにまあって笑う。
私は優しい気持ちになって、男の子の頭を撫でる。
「ほら、恐いね。魔女。」
「…鈴も恐い?」
「私は年上だから、恐くなんてないよ。」
「凄いなあ、鈴は。」
目を丸くする男の子に凄いでしょ。と笑いかけてあげる。
本当は凄く恐かった。
その本の魔女の挿絵は年寄りの魔女の口が耳まで裂けてこちらに笑い掛けてきていたのだ。
でも私の方が年上なのだから、男の子より強いのだから、恐いなんて事は、言えなかった。
いつも当たり前だった、いくらでも同じような事があった。
頭の中が、快感で弾ける。
あまりの快楽に口が緩んで、こぼしそうになる。
口の中のものを必死で飲み下すうちに快感が頂点に達して、ひとりでに私の下腹部が何かを締め付けるようにきゅうっと収縮する。
腰が自分の意思に反して物欲しそうにいやらしく前後に動く。
いつも私は、そんなある日の事を思い出しながら、そうやって達していく。
@@
「・・・うん、僕って何をすればいいのかなって。やっぱり考えちゃうんだ。」
なんだって、すれば良いじゃない。と、私は男の子の横に座って笑いながら言う。
王様なんだからさ。
あの時とは違って、小声だけれど。
「そんな、鈴が言うみたいに簡単じゃないんだよ。」
はあ、と溜息を吐く男の子を見る。
本当は背を叩いて、励ましてあげたいのだけれど。
頑張れ、大丈夫だよって。
あの頃みたいに。
男の子が望んでいる言葉を、私は知っているのだけれど、言わない。
だから私達はその言葉を繰り返す
「僕って何をすればいいのかなぁ・・」
男の子は、きっと私の言葉を待っているのだろう。そう思う。
でも、私は信じている。
だからその言葉を私から言う事はないだろう。
多分男の子が望んでいて、そして何よりも私も望んでいる言葉を。
この男の子に、これ以上罪悪感を持って貰いたくなんて無いし、
それに私は充分幸せで、男の子が助けてくれた事を、凄く嬉しく思っていたし、
それに私はの方が年上なのだから、これ以上の事なんて、言えなかった。
言ったら実現してしまうような気がしたから。
だからこの話はこれでおしまいだ。
あんまりすっきりとしないかな。
そうだね。
なかなか物語と同じように、って訳には行かない。
素敵な騎士様が、手を伸ばしてくれてめでたしめでたし、って訳にはね。
でも、最後にもう一つだけ、私からのアドバイスがある。
いや、アドバイスじゃないな。だってそうなるのかどうか、まだ誰にも判らないから。
だから、これは私の勝手に信じている事って、そういう事にしよう。
人生は時々、酷く大きな力で私達を殴ってくる。
高い壁は天まで届いていて、それが地平線の先まで続いている。
上っても迂回しても、向うにはたどり着けそうに無い。
そんな気分になる事もある。
でももし、そんな時にあなたに好きな人がいたら。
それが髪は銀髪で目は青みがかっててさ。剣の腕は並ぶもの無しの素敵な騎士様だったら。
ううん、例えそうではなくても。
泣き虫で、私が守ってあげなきゃと思っていたような頼りない男の子でも。
もしかしたらあなたが考えてもいないような方法であなたを助けてくれるかもしれない。
だから信じてみたらどうだろう。
絶望する前に、もしかしたら、何かが起こるかもしれないって。
泣き喚く変わりに、自分に出来る事をして、そして信じていれば何かが起こるかもしれない。
そう信じてみたらどうだろう。
私はそう思う。
その人が凄いってあなたが思っていて、そしてもしあなたの心の隅でほんの少しでも頼りにしていたら。
こうして、ではなくて、こうしなさい、ではなくて信じて待ってみたらどうだろう。
私には確信がある。
私がどうあれ、この男の子は、凄い王様になるって。
私だけの男の子にしては駄目だって。
贔屓目かな。贔屓目かも。
でも信じている。
まだ頼りないけれど、いざとなったら他人の為に頑張る事の出来るこの男の子が王様なら、
きっと幸せになる人が一杯いるはずだ。
少なくとも、1人は幸せになった人間を、私は知っているのだから。
良い王様は沢山の人を幸せに出来るはずだ。
だから私は私なりにその男の子に出来ることをやってあげる。
ありがとうって意味だけじゃなくて、私がそうしたいからという理由で。
男の子が私と一緒にいたいというのなら、いつまででも一緒にいてあげる。
君が王様で、少なくとも私だけは幸せになってるんだよって判らせてあげる。
一生懸命王様をやっている私の男の子を、何がどうなったって私だけは大事に大事にしてあげるのだ。
昔と同じだ。もし男の子が酷く大きな力で殴られたって感じたら、私が守ってあげるのだ。
男の子が私がそうなった時にしてくれたようにね。
そう、君が望む限りそれをするよ。
だから私はその言葉を言わない。
言ったらこの男の子はきっと皆を幸せにできる王様を捨ててでもそうしそうだから。
自意識過剰?
でもなあ。前科があるし。しかねないよね。
でもね。
でも、そう思うんだ。
そう思う。
そう私は思う。そして心の底では確信してもいる。
男の子が望んでいて、私も望んでいる、そんな幸せな結末を得る事はきっとできるのだって。
だって、泣き虫のあの子にあんな事が出来たんだから。
勿論、今はそんな方法は見つかりそうに無い。
私は反逆者の娘で、私の男の子は王様だ。
高い壁は、越えられない。
昔のように話すなんて事は出来ない。
声を潜めて、誰にも聞かれないようにしなければ普通に話す事も出来ない。
こんな形でしか、一緒にいる事も出来ない。
でももしかしたらあの時みたいに。
いやあの時よりももっと上手に。
男の子が王様らしい解決方法で、私を救ってくれるかもしれない。
勿論私だってただ待っていたりはしない。
だって私の方が年上なんだからね。それが本当に、良い方法なら。
そんな事ある訳無いって?
そのうち飽きられて、いつの間にか見向きもしなくなるって。
うん。そうかもしれないね。
それでも--
あの時以来、心の奥で自分でも奇妙に感じる位に私は確信している。
あの男の子に不可能なんてない。
ううん。私の好きな人に、不可能なんて事は無いって。
だって凄いんだよ。王様なんだから。
私の男の子は、優しくて、可愛らしくて、そして私と男の子はとっても仲良しだ。
今までずっとそうだったから、これからもきっとそうだろう。
だから私があの男の子と昔みたいに遊んだり話したりできるようにきっとそうなる時がくる。
いつかは判らないけれど、私はそう信じている。
そうしたら、昔と同じように。
暖かな日には男の子の隣に座って、二人で一緒の本を読もうって、そう思っているのだ。
王様と鈴
終わり
-*-*-*
感想、ありがとうございました。
以上です。
ノシ
GJ!
いいなぁ、なんか思い思われてる。
二人が望む未来にたどり着いて欲しいと思うわ。
あああ、GJGJ!
心情書くの上手いなあ。切ないけど萌える!
☆彡
340 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/20(月) 18:41:44 ID:L1QaMEbi
400
341 :
名無しさん@ピンキー:2009/07/25(土) 00:37:49 ID:pWkPWz9z
保守
良スレ
究極(テンプレ?)の主従ってなんだろう
王様と女騎士とかかね
一人ひとりの心の中にそれぞれの究極があるのさ
王様と女騎士みたい
王様(現在40代独身)と第一王子(青年)が護衛のりりしい女騎士をとりあうとかね
次はどっちの護衛につけさせるかとか喧嘩してるバカ親子に
呆れて溜息ついてる美人騎士が脳裏に浮かんだ。
>>346の設定に
喧嘩している二人を他所に第二王子(少年)が要領よく美人騎士を
かっさらっていく・・・という設定をプラスすればなお面白くなりそう。
>>347 いや、むしろ第二王子は王女(百合娘っぽい)に変え、女子分の不足が補う!
お姉さま!的に慕う少女相手ではついつい女騎士も油断してしまうに違いない。
そして要領よくお姉さまはかっさらわれていくわけだな・・・
>>348 スレタイに沿った設定ではないがそれもOK。
スレタイにあわせるならボクッ娘でいけばなんとかOK……かな?
ここで所謂『男の娘』はどうだ?
注意書き必須だけど!
>>350 男の娘wwwwww
ドタバタあったあげく、女騎士の秘めた本命はずっと王様(もしか王子様)
だったのです、でステキな男主人女従者タイムに。
争う親父と兄貴を尻目に超美人な女騎士をかっさらう見た目美少女で女装っ子な第2王子か
男の娘=男好きというわけではないしな
女性への好意を隠さないおーぷんすけべ型か乙ボク主人公な紳士か
>>353 腹黒にきまってるじゃまいかjk。
可愛い外見と純情ぶりっこで女騎士を油断させ、隙をつくり押し倒す。
第一「父上、女騎士をいい加減返していただけませんか。」
王「王の私が王立騎士を護衛に使っていけない道理があるか?」
第一「彼女は王族 共 有 の騎士です。どうぞ他の者を。」
王「ふん、たかが王子が生意気に。」
第一「・・そんなだから母上に逃げられたんだよこのクソ親父!」
王「なんだとこの七光り!!大昔のことを!!ええい剣を抜けい!」スパアッ
臣下「やめっ、お止めくださーいー!!」
女騎「‥‥はぁ」
第二「・・・女騎士さま」クイクイ
女騎「どうかなされましたか?」
第二「部屋で眠ってたら、雷の音が・・心細くて眠れない‥寝室でチェス、しません?」ウルウル
女騎「(うっ‥かわいらしい)しかし、任務中でして‥私めは陛下のご警護を」
王親子&臣下「わーわー!どんがらがっしゃーん!!」
女騎「‥行きましょうか」
第二「わあい!騎士様大好きっ」
第二「ボソッ・・・計画通り」ニヤリ
女騎「ん?何かお言いになりました?」
第二「ううん。雷怖いから眠れるまで添い寝してね‥」ニコリ
女騎「全く、まだまだ子供ですね」ポンポン
第二「エヘッ☆」
王親子「ハアハア‥‥あれ、女騎士は?」
チャンチャン
腹黒で見た目が美少女な女装王子に無理やり犯される美人女騎士とか最高だな
愛情があるものが好きな俺としては
趣味ではなく(慣れとかで嫌悪感は無いけど)王族としての義務とかで
仕方なく女装してるのが良いな
宗教上の問題とか王族の慣習で、第一王子以外は女装とか
王国上層位の情報で、次男は近衛だから男だって知ってるだろうと思ってて
実は騎士は知らない
とかいう差はどうだろう?
>>356 愛を手に入れるためには手段を選ばない腹黒少年なんだきっと。
直系の王族男子は、後継者争いに巻き込まれて暗殺される可能性がある。
ので、自分の身を自分で守れる年になるまで女装、とか?
もしかあれだ、
王族男子と聞くと貴族の女が地位や金目当てで目の色を変えてやってくる
→男にはなかなか女は本性を見せない
→女のふりして女と接して本性を暴く(見極める)
よって直系王族男子は13〜16位までの嫁探し期間に理想の嫁を見つけるか、
王族として正式に姿を晒す年齢(リミット16位)までは身分を隠して女装して過ごすとかな。
そこまで細かい設定だと父兄の影が薄くなってしまうなw
というかそれだと長兄はすでに結婚してるか婚約者がw
女装は日本の武家でいうところの
庶子は出家
的な意図いいんじゃなかろうか
>>359 王の座は望まないがこの女だけはどんな手段を使ってでも渡さないとかそんな展開なのですね
呪いか何かで第一が王になるまで(または結婚まで)は、それ以外の子は女装させないとみんな無事に育たない、みたいな?
で、それを王族以外に知られても呪い発動、とか
結局、第二王子までしか生まれなかったが世継ぎの為、国の繁栄の為、と下の王子は王女として育てられ…
…女装の理由を何とかしようとした結果、ものすごい都合いい厨二設定にw
単なる趣味でもいいんじゃね?
ハイスペックだし良い人だし女と見紛う美貌だが、間違いなく変態。
そんな王子様。いや高官でもいいけど。
趣味に留めるか他のやむをえない理由が他にもあるか
みんなそれぞれ好きな様に書いてみたらどうであろう?
理由がわからない(でっち上げられない)まま最後までいったっていいじゃない!
何でこの方は女装…と思いながらおいしく戴かれたっていいじゃない!
理由が分からないままってのも良いな。
周りには秘密なのか、もう既に知れ渡ってるかで女従者は
普通にお姫様だと思いこんで憧れていた。
ある日、憧れの姫様に「一緒に夜のお茶会をしましょう、お泊まり込みで」
と誘われ、パジャマパーティーだと思いこんで出かけていった従者。
「姫狭、ネグリジェ姿もお美しいです」
「ふふっ、そう言うあなたの方が可愛いじゃない。
私が贈ったナイトドレス、とっても似合っていてよ」
「え? 姫様、どこ触って……」
「やっぱり女の人じゃないとこういうラインは出ないわね。ちょっと口惜しいわ」
「あのっ! ちょっと……」
「いいじゃない、私とあなたの仲なんだし」
「そうじゃなくて姫様。大変失礼かとは思いますが、姫様の胸って
男らし……いえ、何だか異様に固くありませんか?」
「うふふ、だって固くなくちゃあなたをしっかり抱きしめられないじゃない」
「あっ……姫様って意外に逞し……いえ、骨格がしっかりされているんですね」
「あなたみたいな可愛らしい女の子に比べたら、いくらかしっかりしてるでしょうね」
「ひっ、姫様? 下履きの下のソレは……まままままさかまさかそんな筈が」
「あらやだ可愛い、動揺しちゃって。すぐ済むから大丈夫よ」
「ちょっ、何で、女装っ……」
「最後まで気が付かないなんて、やっぱりあなた面白い子ねえ。またいらっしゃい」
その他にも何か色々と仰っていたようですが、全く耳に入ってきませんでした。
取り敢えずあの方を今度から何とお呼びするか悩んでいます。
何か思い付くままに書いてみた。
後半が赤頭巾と狼のやりとりに見えるのはなぜだろうw
すぐ済むって姫?様、まさか早r
369 :
名無しさん@ピンキー:2009/08/12(水) 19:01:55 ID:+zoSNToH
年少の女装王子に無理やり犯される美人女騎士ハァハァ
職業柄、振り解こうとして部屋の隅まで吹っ飛ばしたりなw
>>370 萌えるww のでちょっとだけ、そこだけ書いてみた。
2レス
ガシャーン!
「っ・・いったぁ‥!」
閉じられた寝室の扉が乱暴にきしむ音。
寝台から、部屋の端まで、思い切り吹っ飛ばして、しまった。女騎士の顔がさーっと蒼ざめる。
「あっ・・も、申し訳ありません!!お怪我はありませんか!?つい‥!」
ふっとばされた形のまま、姫は背を扉に預けてしゃがみこみ、右肩を庇うように触れている。
「右腕、いためたかも‥‥足もちょっと‥」
差し出された腕の意のままに慌てて姫を抱き上げる。
「あっち‥‥」
抱き上げ、指ししめされたベッドへと急いで連れて行くまでに、見かけよりもかなりあるその重量、
硬い感触の違和感に女騎士の背中に知らず、冷たい汗がつたった。
そういえば、今まで姫を抱き上げた事は一度もなかった。
さっき、一体姫はなにをなされようとしていたのか。
沈むベッドで、自分の耳元ぎりぎりに近づいた彼女の吐息、掴まれた肩に何故か無意識に本能的な危機感が突き動かされて、
振りほどいてしまった。
なぜ自分があんな乱暴な行動に出たのかがわからない。
混乱した頭に、しかし今はそれどころではない。
私たるものが、王や王子ならまだしも、姫の大切なお体に、怪我をさせてしまった‥‥!
「申し訳ありません!このようなこと、二度と‥!」
寝台に注意深く降ろす。真っ白な絹のシーツに覆われた寝台は先ほどの名残で少し乱れていた。
寝台の端に腰を降ろした姫は未だずっと右腕を庇われたままだ。その痛々しさに女騎士の顔が歪んだ。
「‥お待ちください!すぐに医者を呼んで参ります!」
そういって、触れていた腕を離し、扉まですぐにとって返す、 つもりだった。
閉められた扉に振り返りかけていた自分の体が、その右腕一本の力によってベッドに沈み込まされるまでは。
ふいに引かれた体は、瞬時の抵抗など、できるはずもなく。
自分の頭の上から降る低い声。
「‥大丈夫だよ? あれくらい。 」
頭の上、ひとつに束ねられた手に、手枷のしまる感触、しゅるり、という音がする。
傷めたはずの右腕は、仰向けにされた自分の視界の左側で、自分の左腕をシーツに縫い付けていた。
見上げた先は、いつも無邪気さを浮かべているべき、はずの、姫の、見知らぬ顔。
「だって私‥『オトコ -男- 』、ですもの。 」
にこり、と無邪気に呟かれた言葉。
途中で一瞬低くなるその声音も、浮かべられたその笑みも、見知らぬ短髪も、
「でも『二度と』‥ふっ飛ばしたりは、しないでね?」
それは間違いなく、女騎士の知らぬ『男』のものだった。
-----------------------------------------------
読んでくれてありがとうございましたー!
さて、誰かこの一連の女騎士妄想をそろそろ具現化して吐き出してくれる人々が
ぼろぼろと現れることを祈って‥!
「い、いけません姫様!!」
そぉい!
「わー飛んでる〜、オレまた飛んでるよ〜」
「メイド隊であえ〜! 姫様がまた吹っ飛ばされておられるぞー!!」
>今まで姫を抱き上げた事は一度もなかった
そりゃ、ねえだろw
>>また
また、なんだw
しかし「姫様」呼ばわりねえ
そおい! は、一切手加減する気が感じられなくてワロタww
そおい!は観客(メイドたち?)の心の声だろうw
保守
ほしゅ
ほしゅ
捕手!
ジェイン・エアを読んで、ツンデレ女家庭教師と俺様なご主人様っていいなあと思いつつ保守。
御主人様が生徒なの?
芸スポニュース板で、森下悠里が胸を揉みまくられる。感想は「とてもお上手でした」
って記事ををみたときこのスレを思い出し
主従でメイドさんに照れながら感想として言われてる姿を想像した
>>385 いや、ご主人様の養女が生徒。
で、ご主人様がわざと他の女との結婚話をちらつかせて家庭教師を嫉妬させたり、
一方で他の女にわざと自分の悪い噂を吹き込んで関係を整理したり、
婚約がまとまったら今度は家庭教師がご主人様の気持ちをわざと焦らしたりだな。
389 :
名無しさん@ピンキー:2009/09/08(火) 21:02:07 ID:hLvYIn/Z
>>384 ブロンテ姉妹の長姉の作品か
妹の嵐が丘も中々萌ゆる
ろくでなしの主人の為に健気に尽くす女従者とか可愛い
しかし女従者が不幸過ぎるのは勘弁だ
不幸過ぎるのはアレだが不良な男主人に健気に尽くす女従者は萌えるぞ
雑誌名は忘れたが、今月発売ので
女装王子と男装騎士の話があった。
ベタだがなかなか面白かったな。
圧縮回避保守
男性視点からするとやはり
最低限男主もある程度感情移入できるが望ましいと思う
396 :
名無しさん@ピンキー:2009/09/14(月) 17:43:33 ID:SSG/5Twm
感情移入出来る程度にろくでない男主人か
出世?何それ美味しいの?方面の素行不良とかか?
引き替えに部下(女従者含)は泥沼の政権抗争とかから庇護される、みたいな。
戦場の英雄が色々あって閑職に配置換え。
本人は半隠居生活がまんざらでもないが、
女部下はそれが不満、とか萌える。
>>398 男主人は戦場の英雄が平時に重用されちゃ駄目だろうと
今境遇を楽しんでるが、女従者は納得がいかなくて文句言ってるのか
そしてそれを見て女従者もまだまだ子供だなぁと苦笑する男主人
毎日武具の手入れをしたり、戦場での活躍を周囲に喧伝したり、
酔っ払って管を巻いたりする嫁さんをあらあら見守るのんきな旦那とかか
英雄であるために戦場を駆け続け、恋愛経験ゼロ
現在はどうやって従者を口説けばいいか、内心悩み続けている主人とか萌える
女体の知識、魅力への耐性などは思春期並
のんびりほのぼのもいいけど、暗い目の話も好きだな。
長い間戦場を駆けて名声そこそこ。一件剛毅だが家族や
戦友を多く失くした孤独を酒と女で紛らわせている無精髭
ムキムキ不良ヲヤジと、心境を量りつつ黙って補佐する
沈着冷静な女士官。ふとした弾みに彼女が好きになるが、
商売女しか知らないのでどう触れていいか解らない、とか。
素人童貞w
未だにエメラルドドラゴンのプレイボーイ王子と堅いお目付け役がベスト主従。
物が古い上に、窓発売前のパソコンゲームという事で誰も知ってる人がいないorz
PCエンジンやらSFCにも移植されてたが、それすらも過去の遺物……。
>>405 懐かしいwww
ワラムル先生好きだったよ。
>>405 うっわ、エメドラとか超懐かしい。
PCエンジン版持ってた友人にハメられて、下校途中にアキバでPC版求めてさまよった事を思い出した。
>>405 PC98シリーズだっけ?
小学校のパソコン教室に何故かあったから覚えているよ。
FDで絵が綺麗だったな。
ただ、致命的なバグがあって何か装備を変更するとおかしくなったのは覚えている。
エメドラで印象的なのはタムリンビームw
410 :
405:2009/09/21(月) 23:42:26 ID:M/laBo47
こんなにエメドラ知ってる人いるとは……w
キャラデザの人のHP見たら、丁度、上記主従のアフターストーリー個人誌を
発行されたらしくwktkしながら購入してきた。
20年も前の作品の補完とかは嬉しい。
これ以上はスレチになりそうなのでROMに戻ります。
チラ裏ですいませんでした。
あげあげ
保守
うわーエメドラとか話題見るとは思わなかったよ
当時ゲーム誌にちょろっと載った小説版アフターストーリで
「あの王子が王位についたら、城の前に『王子の子供』を連れた女が列を作る」
って台詞があって笑った。
くっついたとしてもくっつかなかったとしても、女従者はたいへんだ・・・
と懐かしみつつほしゅ
保守〜
捕手
すれ違いかも知れないけど、質問スマソ
王様と書記官シリーズって保管庫に保管されている以外にもなかったっけ?
過去スレのどこかで読んだ気がするんだが、見つからないんだ
その3あったな、確か。
王様が書記官といちゃつきたいがために
あれこれ画策してたやつ。
ハムスターからちょっと進化した、という
感想レスを脈絡もなく思い出した。
datファイル保存してたwので検索してみた
王様と書記官 その3<>sage<>2008/02/14(木)
バレンタインネタ
王様と書記官 その4<>sage<>2008/08/11(月)
離宮ネタ
なん・・・だと・・・
頼む、概要だけでもいいから教えてくれ
書記官の話は萌えるんだけど気の毒すぎて好きなのに読み返せない
ハムスターからちょっと進化って、あのガキんちょ王様が多少なりとも成長したのか??
保管庫に入ってないってことは管理人さんが前スレ最後までのログを
もってないのかな?
HTMLに変換してみたところ、「ハムスターのように空回りしている王様」は
2.5の感想。
バレンタインネタは、媚薬入りチョコレートを家臣から貰った王様が
リトレさんに食べさせようとする、中略、結果として王様としては満足のいく
結果に終わった模様w。
離宮ネタは、そのものずばり、避暑と夏休みで行った離宮での出来事。
王様のガキんちょ度はエスカレートしている一方ともいえる。
1〜2.5にくらべると明るめだしラブラブ度は高いんだけれど、
4の最後にリトレさん自身、王様は近い将来お后を迎える身であることを
慮って複雑な心情を自覚してる。
あのシリーズは、リトレさんの過去の境遇が大きな設定の柱だと
いうことは重々承知してるけど、また二人のいちゃいちゃを読みたいな。
自分も続編待ってます。
>420
あーりーがーとぉぉ!!
あのシリーズはリトレさんが死ぬほど萌えるので幸せになって欲しいが、
日陰者のまま心身を略取されていく展開がありそうで怖い
王様がリトレさんにべた惚れっぽいのが唯一の希望だが…
おおー、こんなんあったんだ。
23ch見れないしunkarは完全じゃないしで
過去ログみるのが難しくなってつらかった。
読んで来たぜヒャッハー>422のおかげだぜ!
だが・・・ちょっとこの王様はいい加減最低過ぎるんじゃないか?
いくら絶世の池面相手だって、絶望して死んでもおかしくないレベル
いや王様は恐らくリトレさんにずっと片想いしてたんだろ。
で、長年チャンスを窺って、やっと念願かなったもんだからそこまで頭が回ってないとかw
でもなぁ…強姦したうえに、権力を利用して相手の都合も体調も一顧だにせず
催したら押し倒し、しかも中田氏し放題、周囲にバレないようにしてるって事は
何の報償も待遇も与えてない…よく考えなくても普通に鬼畜っつーか…
いや、こんなツッコミ入れちゃいけないんだが、書記官が可哀想過ぎて鬱になってきてしまった…
鬼畜成分は主従物の良スパイスだというのに、リトレさんが可愛すぎるのがいけないんだー
427 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/18(日) 22:55:35 ID:vpTPmcuN
しかしリトレさんを手籠めにして鬼畜に振る舞っちゃうガキんちょ王様の気持ちはわかるわ
リトレさんが可愛すぎるから
たしかにガキんちょだね、好きな子をとにかく独占したい気持ちでいっぱい。
身分制度が絶対な時代、王様と一家臣それも罪人として連座されても
おかしくない状況からある意味救われた寄る辺なき身の書記官だから、
あの超絶パワハラも仕方ない。
まさにスレタイ通り。
王様としては、もしかしたら正式に愛妾にして報償なりそれなりの待遇なり
与えてあげたいのかもしれない。
でも、それやっちゃうと国が乱れるんだよね…リトレさん自身に罪は
ないとはいえ。
リトレさんが開き直って、王様を誘惑して可愛くおねだりしまくれば、
報償も待遇も思うがままじゃね?
子供とかできちゃって、「もうおそばにいられません」とか言ったら、
王様慌てて何とかしそうじゃね?
しかし、そんなことをしようと考えそうにないのが、リトレさんの魅力
BADルートばっかり思い浮かぶんだ。
妊娠しちゃって、産んだら国が乱れるからって誰にも相談せず堕胎、体調悪化しても
全然気づかない馬鹿王様の相手、また妊娠堕胎、とうとう病気になって死んじゃいました…とか。
いっそ、早々に飽きられてポイされた方が、数年後に身分は低いけど優しい男やもめに
見初められ結婚、とかなれば意外と幸せになれるかも…
>429
>子供とかできちゃって、「もうおそばにいられません」とか言ったら、
こっちはむしろありそう。
っていうか、リトレさんは隠し事が下手そうだから、妊娠して動揺してたらすぐバレて、
凄まれて渋々白状するんだろうな。
ただ、慌てるかと言われると?だな。幾ら若いったって、聡明な辣腕家設定の国王だろ?
避妊もせず抱いて、孕んだら慌てるって、現代のだめんずレベルw
書記官の続きもだけど光の庭への続きも読みたい
カーナちゃん可愛いし
心身の疲労でリトレさんが倒れ慌てる馬鹿王様
とりあえず続き物の続き待ってます。
初代スレのユリシスとイリスってのがツボった!
リトレさんも好きだし、偉い人(男)が部下(女)にべた惚れってのが好きなことに気付いた。
ベタ惚れいいよな。
ベタ惚れ通り越して狂気とかもいいぜ…?
リトレさん大好きな馬鹿王様は大好きを通り越した狂気の片鱗をみせてる気がする。
リトレさん自身はあくまでお遊びだろうと思ってるようだが
自分に対するあの王様の執着がかなりヤヴぁい物だとリトレさんが知る時は来るんだろうか?
437 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/23(金) 00:27:16 ID:Qv3Y9z4r
投下期待
王様と書記官って、身分の組み合わせとしても美味しいよなー
でも人目を忍ぶわけとか考えると、状況がどうしてもリトレさんのシリーズに
似通うっつーか丸パクリになってしまう。
何か良い理由付けないかな?
王様の政敵が書記の身内とか。
実は外国のスパイとして潜り込んだものの、王様に見初められ他のスパイにばれるのが恥ずかしいから隠してるとか
王様と美人宰相とか。
年若い王を支える年上宰相なんかはどうだ?
年下の遣り手王に翻弄されるとか。
王様に敵のスパイだと見抜かれて他にバラさないかわりに
自分隷下の二重スパイになるように強要されたりとか
王様じゃなくて有力貴族でもいけそうな感じだな
自国の政敵でも良さそう
>433
>心身の疲労でリトレさんが倒れ慌てる馬鹿王様
何それ
超見たい
444 :
名無しさん@ピンキー:2009/10/26(月) 00:59:08 ID:Cnr4gobK
>>442 敵国の女スパイか自国内の敵対分子の女スパイかどちらでも大丈夫だろうな
でも見つけるのは最高権力者たる国王、皇帝が良い
容姿、頭脳、体力共に申し分のない名君だが、
一方で内面は愛することにも愛されることにも飢えた独りぼっちの子犬系陛下…
っていうのは男主人的に美味しいのか駄目なのか
>>445 良いと思うよ
それで幸薄そうな女従者に一目惚れして超絶パワハラ、セクハラ開始
まぁ、別に従者でなくても良いんだが、目を付けた庶民の女とかでも
惚れた弱みで無体の出来ない心理と両立しそうな
セクハラ・パワハラってどんなんだろうか
権力乱用して、自分の側に常につき従う役(護衛武官とか祐筆とか)をあてがう
部屋に二人っきりな状態を日常化させる
でも女との、あるいは好きな子相手だとまともな距離感がつかめない
勇気を振り絞ってアプローチしてみるも間違った方向性に走り彼女を困らせる
また彼女の関心を常に自分に向かせるためさばききれない量の仕事を与えたり
客観的にみれば逆効果なことをやって、後で落ち込む
女性側はそんな男主人の本心を見抜いているか否かで話の筋立てや展開が変わるな
さばききれない量の仕事w
泣きついて来る→優しく受け止めて頼れる男を演出、の予定がやりすぎて
女従者の方がマジに落ち込んで「私では器量不足です、どうぞ他の方に…」とか涙ぐみ、
男主人平謝り、うっかり口を滑らせて株を下げて、後日あの手この手でご機嫌をとる、という電波を受け取った。
450 :
名無しさん@ピンキー:2009/11/05(木) 23:33:01 ID:I7ucd0xF
保守
「おぉ〜うぅ〜!・・・ったいなんで私にだけこんな膨大な資料押し付けるのですかぁ!酷いです、鬼、鬼畜ー!」
「っはは、愛じゃないか、愛」
「んなもん愛じゃありません、愛なんてお妃様見つけてからにして下さい!」
「・・・私の愛はいつもそなたに向けているのだがなあ」
「何か仰られました?」
「これが愛ではないというなら別の方法で可愛がってやろうぞ」
「はへ?」
「何がよい?」
「え、うあっ、ちょちょちょ待って下さい近いです近い!
や何処触ってんですかってここ執務室ですってば!」
「この国は私のもの、この国のものも私のもの。ならばそなたも私のものだ」
「ジャイアニズムはんたっ・・・ぁ」
違う電波を拾ってしまった
セクハラしまくる王と突っ込みしすぎて敬語になってない補佐官
・・・これはこれで!
こういう馬鹿っぽいっつーか明るい話もいいよな
続き書かないか?
女従者弄くられ属性多いなーw
弄くられる男主人・・・?
いじくられる男主人というとお坊ちゃまを連想してしまうが、
お坊ちゃまじゃないのにいじくられる主人って何かあるかな
お坊ちゃまじゃないけど堅物とか、
どうしようもなく純情とか。
「専務って、結婚なさらないんですか?・・・あ、すみません。相手がいませんでしたか」
「ほっとけ。さっさと明日の資料のコピー渡しなさい」
「そんなんだからいつまでも奥さんいないんですよー」
「・・・・」
「だ、か、ら!私にしておきませんか?いかがでしょう(ずずずっ)」
「やめっ、顔近い近い近い!」
「(かわいーなあ)」
「(くそっ、後でひいひい泣かせてやる・・・・!)」
こうですか?わかりません
「後で」より「いつか」の方が自然だな。
面白そうw
ほしゅっ
誰か、すてプリのシャノンとゼフィリス知らないかな…?
あれなかなかいいと思うんだかなぁー
462 :
王子と女騎士:2009/11/18(水) 10:58:16 ID:fkLXVP0E
投下します。
描写不足など、不満な点もあるかもしれんが
そこはエロい皆の意見を参考にしたいと思います。
城下町から少し離れた森。
その森の中にある静かな湖の前で座る一人の男。
男は何かを待つようにそわそわしながら、それをひたすらに待っている。
暇つぶしに投げていた小石はもう男の周りから姿を消していた。
少し場所を変えようか、そう男は考え立ち上がろうとすると後ろから草を分け入る音が聞こえてきて、待ちわびた男は内心嬉しい気持ちを隠しながら、平然とした態度で振り向いた。
少し息を荒くしながら現れたのは、空のような蒼い髪を背中ほど伸ばした女性。
ただ、その美しい蒼い目は怒りに満ちていた。
「ジーク王子! また従者もつけずに一人でこんな場所に」
「そう怒るな。それにアリカが来てくれたじゃないか」
「私に脱走した王子を探すという仕事はありません。鍛錬をしようにも、団長から毎回私に探せと命令されるのですよ」
アリカと呼ばれた女性はいつも城での軽装の鎧は身につけることなく、城下町を探索するときいに使う服に帯刀という姿だった。
ジークは笑ってアリカに手を差し伸べる。
463 :
王子と女騎士:2009/11/18(水) 11:02:41 ID:fkLXVP0E
「確かに鍛錬は必要だが、お前は必要以上に身体を酷使しすぎだ。休めることもまた必要だぞ」
「心配なさるなら逃げ出さないでください。王子を探す時間を休養に当てることも出来ますから」
「そう、寂しいことを言うな。俺はお前とゆっくりしたい」
アリカの苦言も気にすることなく、ジークは自分の隣を手で叩いた。
そのいつもの調子にアリカは溜息を漏らすが、どう言っても聞いてくれない自分の主に頭を痛めながら仕方なくそこに座り込んだ。
「素直でけっこう」
「こうでもしなければ、王子は執務室に戻ってくれそうもありませんから」
淡々と答えるアリカにジークは心で溜息をついた。
こうでもしなければ、お前は私の下に来てくれないではないか。
寂しさを覚えるが、それを表情には出さずに、
「最近、私に会いに来てくれないではないか。何故だ?」
464 :
王子と女騎士:2009/11/18(水) 11:13:54 ID:fkLXVP0E
「私は一介の騎士に過ぎません。それに……」
アリカは口を閉ざす。
ただ、その理由に心辺りのあるジークは今度は隠さずに溜息を吐いた。
「周りの言うことなど気にするな。お前は私の贔屓目を差し置いても優れた騎士だ」
「……私の事はどう言われようと、王子の信頼さえあれば何も気になりません。しかしそのことで王子のことを悪く言われるのは我慢ならないのです」
アリカの手に力が入り、掴まれた雑草が千切れるのが音でわかる。
その手をジークは覆うように上に乗せた。
「私もだ。自分の事は許せるが、君の事は許せなくなる。だが、それを知っていてもなお、やはり私は君に会いたい。愛したい」
もう片方の手をアリカの肩にやり、軽く唇を重ねた。
アリカの柔らかい唇を感じたくて、今度は深く重ねる。
舌をアリカの口内へと侵入させ、アリカの舌を絡め取り、アリカの手を覆っていた手を後頭部に持っていき逃げられないようにしながら。
アリカも初めは抵抗の意を示していたが、徐々にジークの舌を自分から絡ませていく。
気を良くしたジークはそのまま彼女を押し倒し、さらにくちづけを続ける。
ジークは口に溜まる唾液をアリカの口に流し込み、許容を超えた唾液はアリカの喉を鳴らして彼女の身体へと流れ込んでいく。
「……はぁ、王子……」
465 :
王子と女騎士:2009/11/18(水) 11:21:56 ID:fkLXVP0E
荒い息をしながら、ジークを見つめるアリカの目はトロンとしており、その表情は男を魅了するには十分だった。
服越しにアリカの身体を撫でながら、色付いた頬や首筋にくちづけを落としていく。
その軽い刺激にアリカは甘い声を出し始める。
くねり出した体は着ていた服を少しずつ肌蹴させ、ジークはアリカの服を徐々に脱がしながら耳朶にへと口を運び、舌を這わせた。
「ひっ、ああ…」
外での情事のせいか、アリカの声は小さい。
それでも久しぶりに聞くアリカのあられのない声に喜びを感じ、ジークは肌蹴させた柔肌を撫でて、アリカの感じる部分を日の目に曝していく。
外に曝け出された双丘を丁寧に揉み始める。
頂点が少しずつ立ってくるのを掌で感じ、そこを親指で弾いた。
「はああっ」
目に見えて身体を震わせ、声を出すアリカ。
もっとアリカの声を聞こうと、ジークはもう片方の手で胸の突起を人差し指で弾き、もう片方を舌で潰す。
執拗な責めにアリカは甘い声をさらに上げながら、ジークの頭を自分の胸に押さえつけた。
アリカは自分の女が喜び、下着がだんだんと湿っていくのを感じる。
我慢できなくなったアリカは絡み合わせていたジークの足に腰を擦り合わせていく。
466 :
王子と女騎士:2009/11/18(水) 11:29:27 ID:fkLXVP0E
「腰が動いてるな。そっちも触って欲しかったか?」
アリカはコクリと頷く。
快感の欲しさに無意識にしていた行為にアリカはさらに顔を赤くしたが、このもどかしい刺激より愛する人の手で触って欲しかったのだ。
ジークは片方の手を下に滑らして、アリカの敏感な部分にたどり着くと、そこはとうに濡れていた。
何度かそこをスライドさせるだけで、アリカは喜びの声を上げる。
「指を入れるぞ」
一言断りをいれたジークは、蜜で溢れたアリカの秘所に指を入り込ませる。
そこは指ですらも食い千切らんとするほどきつく締め付け、またようやく訪れた刺激に喜ぶように蠢いている。
慣らすように徐々に動かすだけでもアリカの身体は踊る。
さらに溢れてくる蜜はジークの手を汚し、それを潤滑油として指は壁を弄ぶように動かす。
「はあ、んっ、あああっ」
さらにジークは胸の突起を甘噛みしたり、吸い付き、秘所を弄っていない方の手でアリカの肉芽を指で往復させていく。
自分の特に感じる部分を重点的に責められ続けたアリカはここが外だということも忘れ、淫らに声を上げる。
「ひゃああ、王、子……もう」
「見せてくれ、お前のイクところを」
「っああ……ふあ、あああああっーー」
首や背を仰け反らせ、ありったけの声を喉から上げながら、アリカは絶頂へと登り詰めた。
467 :
王子と女騎士:2009/11/18(水) 11:37:36 ID:fkLXVP0E
ジークの手がアリカの秘所から抜くと、蜜で光り輝く指を何度かくっつけたり離したりする。
すると粘ついた蜜はくちゅりと音を立て、それをジークは舌で舐め取る。
「ああ、お止めください。汚きものでございます」
「くくっ、そなたが感じた証ではないか。久しぶりだとこうも感じるものなのか?」
未だ冷めやらぬ興奮と絶頂の余韻の残るアリカは息が荒く、さらに自分の感じていた証拠を見せられ、そっぽを向いた。
そんなアリカに軽くくちづけを落とすと、
「そなたには悪いが、私も限界でな。もうかまわんか?」
「……はい」
ジークが下を脱ぎ去り、姿を見せたものはこれ以上ないほどそそり立ち、先端からは先走りで濡れていた。
アリカは喉を鳴らすと、中途半端に肌蹴たズボンを脱げ捨て、ジークが入れやすいように自分の秘所を両指で広げた。
テラテラと濡れぼそった秘所にジークは自分のものを何度か擦り付けると、その甘い刺激にアリカは身体を震わせる。
先ほどの指とは桁が違う大きさのそれの侵入もスムーズにアリカの中に入っていく。
「ああああっ」
全てが入りきっただけでアリカは身体を歓喜で震わせる。
ジークも久しぶりの快感に歯を食いしばって耐える。
久しぶりに迎えてくれた蜜壺は変わらず、ジークのそれを歓迎してくれ、何度も動くのを催促してくるように締め付けてくる。
それに従い、ゆっくりと腰を動かし始めた。
溢れ出た蜜によって起こる音が耳に立てることで、二人の快感をさらに高める。
468 :
王子と女騎士:2009/11/18(水) 11:46:07 ID:fkLXVP0E
中で蹂躙されるたびにアリカには例えようもない快感が送られ、嬌声を上げる。
「あぁ、気持ち、いいです。王子」
「名を。呼んでくれ、アリカ」
腰の動きを激しくし、アリカの唇を自分ので塞いで舌と舌を絡ませ、空いている手はアリカの胸の突起を責める。
両の口を、胸を責められるアリカの頭は快感で埋め尽くされていた。
「ジーク様、ああっ」
「アリカ、アリカ」
二人は名前だけを呼び合い、さらに密着しようと身体を摺り寄せる。
ジークのものがさらに奥に侵入していき、アリカの奥を何度も叩く。
「ひぁあああっ」
奥が叩かれるたびにアリカは嬌声を上げて、二度と離したくないかのようにジークを抱き寄せる。
それに呼応するようにジークもアリカを抱きしめ、再びジークの舌がアリカの口内に侵入し、アリカの舌を絡めとり激しく吸う。
その痛みでさえも今のアリカには快感でしかなく、貪るようにアリカもジークの舌を求め、絡ませあう。
上と舌の口が互いの体液を奪い合うように激しく動き合い、ジークを抱きしめていたアリカの手にさらに力が入る。
「くっ、そろそろ」
「ジークさまぁ、私も、もう」
腹に力を入れて、アリカを最後まで気持ちよくさせようとジークのそれがアリカの中を蹂躙する。
アリカの足が引きつり始め、ジークも限界を感じて蜜壺からそれを勢いよく抜き出す。
「あひ、ひああああっ」
その衝撃でアリカは体全身を引きつらせ、恥もなく嬌声を上げた。
引き抜かれたジークのものもそれに合わせるようにアリカの身体に精を撒き散らす。
「あ、はぁ、王子の熱い」
アリカは自分に降り注がれたジークの精を肌で感じ取りながら、空ろな目でジークだけを見ていた。
二人の荒い息だけが聞こえ、合わせたように二人はくちづけを交わした。
終わりです。
思いつきで書いたものですが、また思いつくなら書こうと思っております。
では、また。
投下キター! ъ(゚Д゚)グッジョブ!!
アリカたんは流されやすいなw
王子から恥ずかしい要求をされても結局は受け入れてしまいそうだ
惚れた弱みですな…
投下サンキュー
貴族の甘えんぼ末っ子坊ちゃまと、
その山岳地帯の領地からやってきた超勝気な侍女
みたいな話を書きたいんだが、こちらで投下はよいでせうか?
おっぱい…もとい、母性豊かな女従者ものってないのかな
いつか書きたいとは思ってる。
陛下より5、6歳年上の祐筆で未亡人とか。
477 :
真白な花1:2009/11/21(土) 00:28:39 ID:WtfXl5nW
彼女に初めて会ったのは、13の夏だった。
子どもに恵まれない叔父がその領地の一部を貴族の末子である彼に
譲ってくれることになり、叔父は国境の端に位置する山深いその場所へ
連れていってくれたのだ。
”なんと荒れた土地なのだろう・・。”
いずれ自分が領主となるその地を見て、初めて漏れた感想がそれだった。
夏なのに風は冷たく、冬ともなれば深い雪に閉ざされるに違いない。
剥き出しの岩肌とようやく馬一頭が歩けるだけの勾配の急な山道。
”ここは山岳地帯そのものだ”
国の首都から馬車で3日。麓の街に着き、それから叔父とともに馬に乗って半日。
ようやくたどり着いたその地は貧しい山村だった。
「どうだ、ヴィクトール、綺麗なところだろう?」
見上げれば白く高い峰々の上に空は青く澄み渡っていた。
確かに美しい地ではあるだろう。
「ええ。」
子どものいない叔父は甥である彼を実子のように可愛がってくれていた。
彼も優しいその叔父が好きだった。
その手前、頷いてみたものの、心の内ではひどく失望していた。
”兄たちの継ぐ広大な小麦畑や肥沃な大地、葡萄のたわわに実る丘陵地に比べ、
なんとも貧相な土地だ。末っ子の自分にはこんなところしか残ってないのか。”
ヴィクトールの失望に気付くことなく、大柄な叔父は微笑んで頷き、
彼を村の長の館へ連れて行った。
478 :
真白な花2:2009/11/21(土) 00:29:52 ID:WtfXl5nW
「ようこそ、領主殿。そしてこちらがヴェクトル坊ちゃまですね。」
実直そうで素朴な山男が、さしても大きくない家の前に立っていた。
その家にも失望する。兄の継ぐ領地の壮麗な城とはなんという違いだろう。
これではただの山荘だ。
それでも彼は愛想よく慇懃に馬を下りて、地主に挨拶する。
「よろしく、ヴィクトールです。」
「よろしゅうにお願いします。ヴェクトルさま。」
男の言葉には明らかな隣国の訛りがあった。この地は国境に近い。
軍事的には要地にあたるため、たやすく手放されることはなかったが、
隣国との長い抗争の中では、何度もやりとりされてきた領地なのであった。
「お疲れになったでしょう。すぐ食事を用意します。」
「ああ、ありがとう。ヴィクトール、ここの山羊の乳のチーズは
絶品なのだよ。」
予想はしていたが、食事も貧しいものだった。
それでも精一杯に用意されたものなのであろう、カモシカの肉を煮込んだ
シチューと山羊のチーズ,特別に開けられたと思われるワイン。
叔父は村長とは懇意の仲らしく、王都にいた頃の優雅な面持ちを崩し、
いたって寛いだ格好で山の話などをしている。
小さな山荘に見るべきものもなく、13歳の彼はすぐに退屈した。
「叔父上。」
叔父が甥を振り返る。
「外を見てきてもよいでしょうか?素晴らしい山峰だったので。」
「おお、良いとも。」
叔父は喜んで、村長に話しかけた。
「アステルも、もうずいぶんと大きくなったことでしょう。」
479 :
真白な花3:2009/11/21(土) 00:31:09 ID:WtfXl5nW
アステルという名からてっきり少年だと思っていた。
村長の子どもだというアステルが山羊追いをしているから
案内をしてもらうといいという叔父の言葉に従って、山荘を出て
白く続く山峰への道を歩き出した。
標高の高い土地、尾根の道は雲を下に見るような絶壁である。
ふいに上から、小さな石が転がってくるのを感じ、振り仰いだ。
そこに彼女がいた。
歳の頃は彼と同じくらい。後で聞いたら、彼より一つ上の14歳ということだった。
細身で白に近い金髪を肩まで垂らした少女が、崖の上に立っていた。
薄い水色の瞳で鋭い目つきの娘がじっとこちらを見ている。
肌は白く、鼻の上には雀斑が散っていた。
その立っているところときたら、およそ人が行ける場所とは思えないところだった。
どうやったらそこへ登れるのか、怖ろしく急な斜面の突き出た岩の上に
カモシカのような足で立っている。ローブと前掛け姿の村娘の格好でなかったら
およそ人でない妖精のようなものに出くわしたかと思うほどだった。
あっけにとられて見ていると、娘は口に指を入れて口笛を吹き、山羊たちを集めると
ひらりと驚くほどの高さからローブの裾を翻して、飛び降りてきた。
「ようこそ、ヴィクトール坊ちゃま。」
それがアステルとの出会いだった。
480 :
真白な花4:2009/11/21(土) 00:32:01 ID:WtfXl5nW
その年の秋に、彼女は王都の屋敷へ侍女として行儀見習いのためにやってきた。
叔父が村長に頼まれたのである。王都の華やかな地で短い期間でもその空気に
触れさせてやってほしいと。
「あんなんで大丈夫なのか?」
13歳のヴィクトールが心配する間もなく、案の定、彼女は侍女たちの間でつるしあげをくった。
兄たちですら、彼女の山育ちを馬鹿にする。それはそうだろう。兄たちの領地からやってきた
侍女らはその領地の代官の娘たちだ。その領地ではそれなりの城に住んでいたのである。
比べものにならないほど洗練されているし、およそ銀の食器さえ扱ったことのないであろう
アステルが馬鹿にされ苛められるのも無理はなかった。
「あの山猿が、今日もね。」
「え?今日は何をしたの?昨日はナプキンのたたみ方も知らなかったのよ」
容赦のない侍女たちのひそひそ話にうんざりとして、乳母と母に頼み、
アステルを自分づきの侍女の一人にしてもらった。
「ありがとうございます。ヴィクトール坊ちゃま。」
「坊ちゃまは止めてくれないか?」
「はい。では、何と呼べば。」
「ヴィクトールでいい。なんなら、君の土地の言葉でヴェクトルでも。」
「それは嫌です。」
貴族の末子に生まれた彼は、彼女のおよそ侍女らしくない物言いに驚いた。
「嫌だって?」
「私はここへ行儀見習いに来たのです。土地の言葉で話したくはありません。」
”なるほどね。”
頭を真っすぐに上げ、目線をそらさずに話す彼女を見て、彼は思った。
誇り高い痩せっぽちの野生の獣のようだった。頭もいい。
こんな侍女ではさぞかし苛められるだろう。
「それで、君は何を覚えたいの?アステル?」
彼はもう充分に彼女に魅かれていた。
481 :
真白な花5:2009/11/21(土) 00:32:56 ID:WtfXl5nW
結ばれたのは彼女が15、彼が14の時だった。
アステルという名は、雪割り草のことで高貴な白を表す古語だと
ヴィクトールは彼のラテン語の家庭教師から聞いた。
「君にぴったりの名だね。」
「ヴィクトールさま」
その頃になると、覚えの良いアステルは貴族の館の一通りのことを
知り、扱えるようになっていた。
それだけでなく、ヴィクトールはこっそり夜、自分の部屋にアステルを呼び、
侍女では知らないような高度な本も一緒に読んだりした。
アステルは好奇心が強く、一度覚えたことは忘れることはなかった。
思春期の少女と少年が知りたがることといえば決まっている。
先に手を出したのは少女の方だったかもしれない。
膨らみかけた胸に少年の手が触れた時だった。
「あ・・」
「あ、ごめん。」
「いえ、いいんです。」
「いいって・・。」
少女は少年の手を取って、自分の胸にあてる。
薄い水色の瞳は閉じられていた。
気の強い野生の少女の唇がかすかに震える。
ヴィクトールは引き寄せられるように、その唇の自分の唇を押し当てていった。
482 :
真白な花6:2009/11/21(土) 00:34:27 ID:WtfXl5nW
一度、そういう関係になるとあとはもうなし崩しだった。
少女は綺麗だった。白っぽい金髪の綺麗な髪の毛が長く流れ、
肩から鎖骨への魅力的な傾斜にこぼれ落ちている。
無駄な肉はなく、そのひきしまった躯はそれこそカモシカのようで、
清潔感があって、なのにそこだけ存在を主張している乳房は
形がよく、柔らかかった。
何者にも怖じ気づかない芯の激しさがあり、なめらかな肢体を
からめてくる彼女。
彼女は小さく喘いだ。
初めはぎこちなかった少年と少女であったが、いざ、そこを超えて
しまうと、二人とも驚くほど大胆になった。
「・・・面白い、ここ・・。ヴィクトールさま・・。」
最初はいやいやという気配もあったが、さわっているうちに興味を覚えたのだろう。
生まれ持っての好奇心でアステルはヴィクトールの股間に触れてきた。
アステルの愛撫がいつのまにやら実験をしている気配を漂わせはじめたのを感知して、
彼は憮然とした。
「待て。・・・もういい」
「ヴィクトールさま?」
「僕にさせろ。」
「あん・・」
彼女の腰の後ろを抱きとり、ゆっくりとその太腿の間に入り込む。
細い腰に丸い小さな尻。しなやかな躯がかすかにのけぞった。
押しいれられた花の芯から熱い蜜が溢れて少年のそこにたっぷりとまつわりつく。
彼女の中は熱くてきつくてとてつもなく気持ちいい。
ゆっくりと始めた動きが早くなっていくのに、さして時間はかからなかった。
何度もヴィクトールの名を呼び、彼が突き上げる時々に漏らす喘ぎも声も、
切羽詰まって切な気でとても可愛かった。
「あ、あっ、ヴィクトールさま、だめっ・・もう・・」
熱く叫んで全身をしならせ、震えながら、彼女の中が彼を絞った。
483 :
真白な花7:2009/11/21(土) 00:40:35 ID:WtfXl5nW
そんなふうにして、ヴィクトールはアステルを気に入りの侍女として
もっぱら傍に置いていた。
一度はこっそり彼女を連れ出し、秘かに貴族の子女のドレスを着せて
宮殿の舞踏会へ一緒に出かけたこともある。
17歳になったばかりのアステルは美しかった。
どこの貴婦人かと聞く友人たちには、叔父の遠縁のお嬢様だと嘘をついた。
誰も怪しまないほど、アステルは気品があった。
別れがきたのは彼女が18歳を迎えた時だ。
3年の月日を彼らは共に過ごしていた。
身分の違いは容赦なく若い恋人たちを引き裂いた。
「お別れです。ヴィクトールさま。」
「なんだって?僕が嫌いになったのか?」
「そうではないのです。私はここへ来て本当に幸せでした。
山猿と呼ばれた私を教えてくださって・・・。
でも、私は帰らなければなりません。」
「どうしてだ。ここにいろ。僕の傍にずっといろ。」
「私もできることならそうしたいのです。
でも、ここに3年いても坊ちゃまの御子を身籠ることは
できませんでした。代りに、私の妹がやってきます。」
ヴィクトールはアステルを抱きしめて叫んだ。
「僕はお前がいい。」
「ありがとうございます。でも、私は私の土地に
帰らなければなりません。幼馴染の従兄との結婚が
決まったのです。父方の従兄なので、血縁はありませんが。」
「なんだって?」
「私はヴィクトールさまと血が近いので、それで御子を身籠れなかったの
かもしれません。妹は父の子なので、きっと御子を授かることができるでしょう。」
「何を言っているんだ?」
「さようなら、ヴィクトールさま。貴方のことを一生忘れることはありません。」
翌日、叔父がアステルを迎えにきて、きちんと正装した彼女を馬車に乗せた。
ヴィクトールは、叔父と彼女がよく似ていることに気がついた。
薄い金色の髪。水色の瞳。
アステルは彼の従姉だったのだ。
彼女の母は若い頃、叔父の屋敷に仕えていた。年頃になって今の彼女のように
故郷の山へ戻り、村長と結婚したのだ。
数か月が経ち、アステルの妹がやってきた。茶褐色の髪の色の黒い純朴な娘だった。
短い少年の時は終わり、幼かった貴族の末弟にも宮殿に仕える日々が
迫っていた。
険しい山岳地帯の厳しい風雪に耐えて、崖の上に咲く雪割り草の白い花のような
彼の彼女は二度と帰って来なかった。
>>475 >陛下より5、6歳年上の祐筆で未亡人
すっごい萌えます。
ぜひ投下を!
ぬう・・・切なくていい話なんだが、
あっという間に終わってしまったのでGJと心から言えないorz
もっと読み続けていたかったよ・・・
>>484 GJ
切なくていい話だった。淡々とした語り口がいい。
結婚した先でぼっちやまによく似た子を出産したりして。
>>484 よかったよ〜。
ヴィクちゃんはこうして金髪碧眼の勝気な女の子好きになったのね。
ほしゅ
保守
初投下します。
妄想してたらどんどん長くなっちまったい。
とりあえずはエロなしです。
492 :
ミナ 1:2009/12/05(土) 02:46:02 ID:EF9H/4BS
月のない夜だった。夜は深く、あたりは静寂に包まれていた。
屋敷の勝手口を叩く者がいる。こんな夜更けに、と使用人の男は用心しながら扉を開けた。現れたのは、眠たげな眼をした身なりの良い青年と、その後ろに従う小柄な影だった。
「夜分に申し訳ございません。宿をお借りしたいのですが」
「何だね、あんたは」
「旅行中の商家のものです。所要あって王都から戻るところだったのですが、思いのほか帰りが遅くなってしまったのです。お嬢様がおりますので、野宿するわけにも参りません。まことに不躾ですが、一晩泊めていただけませんか」
「しかし……」
「そこをなんとか、お願いします。夜露をしのげればよいのです」
そういって青年は男に銀貨を握らせた。男は手の中と青年を見比べ、待っているようにと告げた。
しばらくすると、空き部屋に案内された。
少々埃っぽいが調度は一通り揃っているらしく、長椅子と、続き部屋には寝台もあった。青年は礼を言って、男にもう一枚の銀貨とともに食事を頼むと、今度は快く頷いた。
493 :
ミナ 1:2009/12/05(土) 02:48:14 ID:EF9H/4BS
「さて……」
青年は長椅子に荷物を放り出した。
娘は警戒するようにひととおり辺りを見回し、ため息をついた。
「大丈夫でしょうか、こんなことで」
娘は不安げに青年を見た。頭から肩掛けを被り顔を隠していたが、
見上げる目には動揺が浮かんでいる。
「しかし今日はこれ以上進めない。早朝、家の人間が起きだす前に出よう」
「そうですね」
先程の男が、残り物らしいパンとチーズ、ゴブレットに注いだ葡萄酒を
持ってきた。青年は黙ってそれを受け取る。
娘はそれをじっと見ていたが、長椅子に座るよう手で促される。
「いえ、わたしは」
「大人しくお座りなさい、“お嬢様”」
娘は渋々青年の隣に腰掛ける。差し出されたパンを齧り、娘はため息をついた。
「……王都は、大丈夫でしょうか」
「さて。何はともあれ、我々が無事領地に戻らないことには、落ちついて
状況を確認することもできない。一刻も早く戻らなければ」
494 :
ミナ 1:2009/12/05(土) 02:49:25 ID:EF9H/4BS
「はい……」
娘は俯いた。ふと傍らの青年の袖が目に入った。
彼が身につけているのは、宮廷の近衛兵の制服だ。よく見ると、大きさが合っていないのが分かる。
数刻前の惨劇を思い出しそうになるのを、パンのかけらとともに飲み込む。
本来の制服の主である近衛兵は、刺客に襲われた主を庇って重傷を負った。
青年は彼の制服を剥いでそれを着、追手の目を欺いたのだ。
「アーベルのことを考えていたのか」
青年がぽつりと呟く。娘が制服をじっと見ているのに気づいたらしい。
「あれのことは、すまなかった。無事でいるとよいが」
娘は頭を振った。問題ない、という意思表示だ。
「彼は立派に務めを果たしたのです。今度はわたしが務めを果たす番です。
ご領地まで、命に代えてもお送りいたします。殿下」
495 :
ミナ 1:2009/12/05(土) 02:51:22 ID:EF9H/4BS
主従を入れ替えるという案を考えたのは殿下だった。
近衛兵の格好は宮廷の人間なら欺けるだろうが、城下に出てしまえば
却って目立つ可能性がある。
ミナを“お嬢様”に仕立てることで、ただの護衛だと思わせようと考えたのだった。
ここまではその策が有効だった。
だが、このまま殿下の領地まで貫き通せる上策とは思えない。
明日街道に出たら、どこかで衣装を変えたほうがいいだろう。
同僚が命懸けで守った主の命だ。ここでわたしが下手をするわけにはいかない。殿下を、確実にお守りしなくては。
ミナは服の下に隠した剣にそっと触れる。
(それこそ、命に代えても――)
「しかし、おぬしの女装を見るのは久しぶりだな」
気づくと、殿下がいつもの眠たげな眼でじっとこちらを見ていた。
ミナもまた、近衛兵の一員だった。
一族が殿下の領地で家宰を務めていたこともあり、幼い頃から見知っていた。近衛兵になってからは、ほとんど毎日殿下と顔を合わせていたといっても過言ではない。
だが近衛兵ともなれば動きやすい軍服、男装にならざるを得ない。
殿下に会うときは近衛兵の制服ばかりだから、女の服装で会うのは
確かに久しぶりだ。
496 :
ミナ 1:2009/12/05(土) 02:53:57 ID:EF9H/4BS
でも、女装って。
ミナは内心ため息をつく。
この方はいつもそうだ。若干はずれたような、とんちんかんな物言いが多い。そのため、王弟であるにも関わらず巷で『変人殿下』の称号を冠せられているのだ。
しかしミナは知っている。思考が人の二つ三つ先に飛んでいて、それを
そのまま口にするから突飛に聞こえるだけなのだ。
付き合いの長いミナには、最初は理解できなくても話を合わせることができるし、後からその真意に気づくこともある。慣れない人はそれが奇妙で、『変人』扱いしてしまうだけなのだ。
ミナも実際変人だと思うこともあるが、そこは慣れだ。
そして、付き合いの長い主でもある。彼のことは信頼している。
これ以上、主として望むことはない。
「確かに、女の格好ですが。女装っていう言い方は変じゃありませんか」
「そうか?しかし目の毒だな、これは」
「似合いませんか。見慣れないからでしょう」
「服が大き過ぎるようだ。胸元が見える」
497 :
ミナ 1:2009/12/05(土) 02:55:32 ID:EF9H/4BS
「……え!?」
慌てて前を掻き合わせた。
侍女の着替えを勝手に借りてきたので大きさが合わない。
鍛えている腕などはきつい位なのだが、胸元には余裕があるのが悲しい。
殿下は表情も変えず淡々と呟く。
「全く、非常時だというのにこれでは別の意味で非常事態だ。アーベルにも全く申し訳ないのだがそれどころでなくなる」
「あ、あの、お見苦しいものを……失礼いたしました」
「ただでさえ宮廷を離れて監視の目もなく女装のおぬしと二人きりという
おいしい状況なのだから自制してもらわないと困る」
「?……は、はあ」
「おぬし、私がなんの話をしているのか分かっているか」
「いえ」
いつも微妙にかみ合わない会話に慣れているので、あまり疑問に思って
いなかったのだが。
しばしの沈黙の後、殿下はため息をついた。
「何だ、知らなかったのか?私はお前が欲しかったのだ、ずっと」
498 :
ミナ 1:2009/12/05(土) 02:57:08 ID:EF9H/4BS
いつもの眠たげな目が、ミナを見据える。
蝋燭のわずかな明かりでは、その表情はよくわからない。
真意が分からず見つめ返すが、何も言わない。
ただじっと、見つめ合っていた。
と。
「きゃああああああああっ!!!」
突然、耳に息を吹きかけられた。
「な、な、何をするんですかっ!?」
耳を押さえて思わず後ずさると、殿下がその分距離を詰めてきた。
ひとり感心したように頷いている。
「ふむ。耳が弱いんだな」
「誰だって驚きますっ!!」
「そうか」
「そうです!!」
「私は何ともないぞ」
「恐れながら、殿下。嘘を仰らないでください」
「嘘ではない。試してみるか」
499 :
ミナ 1:2009/12/05(土) 02:59:54 ID:EF9H/4BS
表情は変わらないものの、自信満々の口調で言われて妙に悔しくなる。
「……では」
殿下の耳に唇を寄せて、そっと息を吹きかけてみる。
微動だにしない。
「言ったであろう」
横を向いたままの殿下にまたも嬉しそうに言われて、こんな子供みたいな
挑発に乗ってしまった自分が恥ずかしくなる。
「失礼いたしました、殿下。ですが、お戯れが過ぎます。
今は非常時なのですよ?」
「残念ながらいたって真剣だ。ああ、そうだ。いいことを思いついたぞ」
「はい?」
「いっそ、このまま行方をくらますというのはどうだ」
「殿下!ご冗談はいい加減にっ……」
反論しようとして、急に掌で口を塞がれた。
何事かと思えば、静かだった廊下から物音がする。
追手に気づかれたのかもしれない。
互いに頷き、まだ解いていない荷物を担ぎ直す。
ミナは手早く身なりを整えるが、まだ頭がついていかない。
(へ、変人殿下……)
「と、とにかくこちらへ。窓から出ましょう。静かに」
小声で言うと、殿下は大人しく頷いた。
殿下の奇行や発言には慣れているつもりだったが、今日は興奮しているのか
いつも以上に意味不明だ。
このまま無事に殿下を領地まで送り届けられるだろうか。
二重の考えごとに頭を悩ませつつ、ミナは窓の外を窺った。
今回は以上です。
改行失敗しまくりすみません。
え、なにこれ面白い。
続き待ってる!
おお〜良いなぁ。変人殿下のキャラが良い。
俺も続き待ってる!
主従逆転は演技だったんだ。なんという良発想。続きお待ちしています。
感想ありがとうございます。嬉しいです。
調子に乗って二話目です。
またもエロなし&タイトル変更しました。
現王ハラルドは人望も厚く、寛大にして聡明、偉大な王と讃えられていた。
一方王弟ラルスは『変人殿下』の名で通っているほどで、王位継承権はある
ものの権力争いに巻き込まれる可能性は低い、はずだった。
しかし次第に王の専制が目立ち、臣下の声を聞き入れず、更に先日は先代からの
忠臣を遠ざけ流刑に科すという暴挙に出た。
そのため宮廷は、現王派と、子のない王の代わりに王弟を担ぎあげようとする二派に分裂した。
自領に引きこもっていたラルスが宮廷に登城した今回、刺客に狙われた背景はそこにある。
「あの、殿下、わたしが降りますので、どうぞお乗りください」
「“お嬢様”を差し置いて従者が馬に乗っていてはおかしかろう」
「二人で乗っているのはもっとおかしいと思うのですが」
「次の町で馬を手に入れるまでは仕方あるまい。追手との距離を
少しでも開かなければ」
「……そうですね」
最初は馬車を仕立てていたのだが、足が遅くなるので先程の宿を取った屋敷に
置いてきてしまったのだ。
護衛のはずの自分が抱えこまれる格好になってしまい、ミナは落ちつかない。
これで狙撃でもされたら、自分は何のためにいるのか分からなくなってしまう。
周囲を窺いながらも、早く無事宿場町に着くよう祈るばかりだ。
きょろきょろとあたりを見るたび、身じろぎして殿下の胸に当たる。
「少しじっとしておれ」
「は、申し訳ございません。ですが」
「こっちが落ちつかないのだ、いろいろと」
「?……はい」
夜通し走ってきたが、宿場町にはまだ着かない。
馬であと一日程度の距離だったはずだが、東の空が白々と明けてきた。
すっかり徹夜だ。
「あれは?」
殿下の声に顔を上げると、街道沿いに驚くほどの巨木がそびえていた。
葉陰をねぐらにしていた鳥たちがさえずり始めている。
「この辺りでは有名な古木です。旅人の憩う木として知られています」
「ああ、これがそうか……。そうだな、眠くなってきたことだし少し休んでいくか」
と、殿下はいつもと変わらない表情で欠伸をした。
急がなくてはならないのだが、確かに全くの休みなしではかえって危険かもしれない。
街道を少し外れた辺りに馬を停め、水を飲ませて休ませ、僅かな荷物の中から敷布を
引っ張りだすと、なるべく平らで木陰になる草地に敷いた。
「どうぞこちらへ」
「うん。おぬしも少し休め。疲れておるだろう」
「いえ、わたしは」
いつもの表情だが、殿下は少し考えるように眉根を寄せた。
「そうだな、では、おぬしはしばらくの間見張っていてくれ。交代で休むとしよう。
何かあれば遠慮なく叩き起こす、それでよかろう」
「畏まりました」
「ではここへ座れ」
示されたのは敷布の上だった。
「こちらへは殿下が」
「うん、そこで横になるとも」
無理やりミナを座らせると、殿下はその膝を枕に横になった。
「あの……殿下、これでは非常時に動けないのですが」
「どうせ非常時には私も起きねばならんのだ。かたいことを言うな」
そう言って満足げに頷くと、すぐに寝入ってしまわれた。
殿下の薄灰色の眠たげな眼は瞼に隠れ、くすんだ金髪が膝の上に散る。
これでは幼い子供のようだ。昨日から妙に我儘だった。
普段は、妙な言動はしても手のかかるようなことは言わない方なのに。
次第に、安らかな寝息が聞こえてきた。
殿下の乱れた髪をそっと直すと、思いのほか柔らかく、手触りがよかった。
ほとんど毎日その顔を見てきたのに、触れるのは初めてだ。
ふと我に返る。当たり前だ。身辺のお世話をする侍女ならいざ知らず、自分は
近衛兵、ただの護衛なのだから。
自らの本分を思い出し、周囲に目を向ける。今のところ、追手の気配はない。
ミナは服の下の剣に手を添え、じっとしているしかなかった。
ふと、思う。
殿下は、ご自分の状況を分かっていらっしゃるのか。
おそらく刺客を差し向けたのは国王派の臣下の誰かだろうが、それは国王の
――つまり、殿下の実の兄の命令かもしれないのだ。
幼いころから聡明にして寛大といわれてきた、あの国王陛下が。
領地にいる殿下を気遣って、お忙しい身なのにまめに親書を送ってよこしていた、
あの国王陛下が。
実の兄が、弟を殺そうとする。そんなことが、あっていいものなのか。
殿下は、お辛くないのだろうか。
だが殿下はいつもどおりのあの調子だ。刺客に追われているというよりはお忍び旅行の
気分でいるんじゃないだろうか。
殿下は、兄王のことを、何とも思っていないのだろうか――?
陽がすっかり高くなった頃、殿下が目を覚ました。
膝の上でもそもそと身じろぎするのを感じて、殿下が馬上でミナに「動くな」と言った
理由が分かった気がした。これは非常に落ちつかない。
「ご気分はいかがですか」
「最高だが最低だ。うっかり寝入ってしまった」
「お加減が?」
「いや、いい。気にするな。おぬしも休め」
「わたしは結構です」
「なにを言う。寝不足の体で護衛が務まると思っているのか」
「訓練は受けております」
「いいから大人しく寝なさい。一刻で起こす」
「……ありがとうございます。では、失礼を」
といって傍らの木に寄りかかろうとして引き留められた。
「なにをしておる」
「わたしはここで」
「それでは休まるものも休まるまい。おぬしもここで横になれ」
と、無理やり殿下の膝の上に引き倒された。
「いいいいえっ!そんな、滅相もない!」
「嫌か」
「いえその、嫌とかそういう話では……」
「ではよかろう。私が好きでしているのだ、遠慮するな」
といって、寝かしつけられる。
膝枕なんて、幼い頃に母や乳母やにしてもらったとき以来だ。
殿下の脚は硬くて、記憶にある母の柔らかいものとは違っていた。
男の人だからだろうか、などと考えているうちに、思った以上に体が疲れていたらしく、
気づけば泥のような眠りに落ちていた。
「殿下」
背後から声がする。低く、小さな声だがよく通った。
「目星は付いたか」
振りかえらずに答える。刺客ならば、声もかけずに襲いかかって来るはずだ。
それに、この相手なら振りかえったところで姿を現しはしない。
「今、国王陛下の身辺を探っております。おそらく、二つとも殿下の予想通りかと」
「そうか。……一刻も早く、挙げるように」
膝上の赤毛を弄ぶ。触れたくても触れられなかった、その手触りを慈しむ。
硬くて真っ直ぐな髪は、そのまま持ち主の性格を表しているようだ。
「もちろんでございます。恐れながら、殿下」
「何だ」
「そこにいる護衛の娘、果たしてその様子で役に立ちますので?」
無防備に寝入っている。
違う意味で刺客よりも危ないかもしれないというのに。鼻でもつまんでやろうか。
「少々疲れておったようだからな。それに、今はおぬしもいるだろう」
「契約外でございます」
「そのくらいまけろ。だいぶ弾んだだろう」
「……仕方ありませんな。殿下が亡くなられては我々も困る」
それきり、声は消えた。辺りは小鳥のさえずりのみが響き渡っていた。
ふと瞼に熱を感じ、目を覚ました。陽が動いて、木漏れ日が目を射たようだ。
「ん……」
身じろぎして目をこすり、瞼を開いたところで殿下と目があった。
そうだ。恐れ多くも殿下の膝を枕にしていたのだった。
ミナは慌てて飛び起きた。
「まだ一刻経っていないぞ」
「いえ、充分すっきりしました。もう大丈夫です!」
「……そうか」
「さ、だいぶ時間が経ってしまいました。急ぎましょう、殿下」
ミナは馬を曳いて来ると、手早く手荷物をまとめた。
殿下は渋々といった表情で肩をすくめた。
以上です。
なかなかエロまでが遠くてすみません。
GJ!何かニヨニヨしちゃうんだぜフヒヒ
エロも好きだがエロまでの溜めが充分あるエロはもっと好きなんでこの調子でゴーゴー
エロなしでも十分面白いよ。じっくり待ってます。
変人殿下イイ味出してる!ミナタンも可愛い
次回が楽しみです
GJ! 思ったとおり、殿下がツボだわw
次回も楽しみにしてるよ!
GJ!
また投下してくださいね
ミナと殿下の話を書いているものです。
ご感想ありがとうございます。
他の職人さんで近日中に投下予定の方はいらっしゃいませんか?
自分ばっかり続くのもどうかと思ったもので。
あと数日待って、無いようでしたら続き投下しますが。
>>519 他に投下の気配もないし数日待つとか言わずにガンガン投下して下さいませ
そっちのほうがスレが活性化するし投下する気になる職人さんが出るかもしれん
王子と女騎士を書いたものです。
>519
おもしろく読ませてもらってます、gj。
一応ですが、前の続きを投下します。
今回は前・後編と分けますが、前編はエロなしです。
城の一室。
ジークは執務に追われていた。
机の上には膨大な書類の数が束ねられ、片方の山には処理された書類を、もう片方は手をつけなければならない書類に挟まれながら、ジークはそれらを片付けるために奮起していた。
長時間、同じ体勢で固まった身体を一度解そうと身体を反らした。
それと同時に扉を叩く音が響く。
「王子、いらっしゃいますか」
「アリカか、入ってこい」
「失礼します」
アリカはいつものように部屋に入ると、さらに数枚の書類をジークに手渡した。
それを苦虫を噛み潰したように受け取るジークは、仕事が増えたことに重い溜息を漏らした。
先にこれを片付けてしまおうか、そう考えたジークはそれに目を通す。
肘をつき、一通り読み終えた後、ペンを持ってそれらにサインを書き綴った。
「とりあえず、これをギルバートに渡してくれ」
突然、ジークの体がグラついた。
差し出そうとした書類は受け取るはずだったアリカの手を素通りし、床にばら撒かれ、体が傾いた時に当たった肘によって積み重なれた書類すらもばらばらと落ちる。
「お、王子!! どうなさいましたか?」
すぐにジークの身体を支えようと傍により、ジークの顔色を見てアリカは愕然とした。
先ほど入った時には書類の影で見えなかったが、明らかに顔色が悪い。
「……すまん。この積もった書類で渡し損ねた」
「そのようなことより、王子の御加減の方が気にかかります。すぐに医者を呼んで参りますので、少しお待ちください」
ジークの身体を椅子に深く座れるように移動させ、すぐにアリカは踵を返す。
アリカが一歩踏み出そうとすると、ジークがアリカの腕を掴んだ。
「いや、どうせ寝不足か何かだ。それには及ばん」
「しかし、御身にもしものことがあれば……」
「なればほんの少しだけそなたの時間を貸してくれないか。その後に医者にでも見せてくれれば良い」
普段より弱弱しいジークの声に、アリカはジークの方に向き習った
ジークはそれを待っていたかの様にアリカの身体に頭を置いた。
その様子にアリカはさらに慌てふためくが、ジークは構わずアリカの体温を感じようと椅子に座りながらもアリカを抱き寄せた。
「お、王子!?」
「すまんな……そなたにしかこんな姿は見せられん。少しだけ、こうさせてくれ」
安心したような吐息をジークは漏らす。
ただ、アリカにとっては抱き枕状態といっても過言ではなく、自分はどうすればよい皆目検討もつかず、またジークのこのように何かに縋る姿を見るのは初めてだった。
「全く……そなたがいなければ私はとっくの昔に壊れてしまっているだろうな」
「どうされたのですか? 『黒翼公』とも称される貴方様がそのような弱気なことを」
黒翼公とはジークが戦場を黒い愛馬と共に駆け抜け、ジークの髪も黒いことから人々から呼ばれるようになった二つ名である。
しかし、ジークにとってはそれも重荷の一つでしかなく、もとより彼は戦場を好んでいない。
だが戦場で戦い、手柄をたてなければならないほど、彼の立場は危うい処にある。
「……私は所詮、妾の子。しかも早くに母上を亡くしたせいか、頼りになる者はおらず、正直周りは敵にしか見えなかったよ。実際、私が消し去ろうとする者達がいるのは確かだ。今までは、どうにか跳ね除けてきたが、な」
力なくジークは笑う。
何か言わなければと思う反面、何を言えばジークを元気づけることが出来るのかアリカにはわからなかった。
自分には体験することもない雲の上の世界のやり取りは、戦場では味方を鼓舞し敵方を恐れさせるジークをここまで追い詰めるものなのか。
ジークに胸を貸すことしか出来ない自分をアリカは恥じた。
投げ出されていた手を握り締め、震える程に。
「こうして、そなたとこうしているだけでも私は責められる。そなたがいなければ私は城でも戦場でもとっくに死んでいただろうに」
そのジークの弱弱しい言葉は、アリカにとって最も聞きたくないものであった。
王子が消える……それを思うだけで自分はどうしようもなく絶望してしまうのに。
アリカはジークの力が入っていない腕を振りほどくと、ジークの目の前に跪き、ジークの目を真っ直ぐと見つめたまま、言い放つ。
「王子は私に話してくれたではありませんか、貴方様の母君が語ってくれた話を私に教えてくださったことをお忘れですか?」
「……いや、あの日のことは忘れることはない」
それはジークとアリカが幾度か戦場を駆け抜け、帰還した時にアリカがジークに純潔を捧げた日。
アリカと情事を行う前にジークが話したのはジークの母が生きていた時によく話してくれた御伽噺。
それは二人の騎士の話。
二人は常に信頼し、共に助け合うというどこにでもあるありふれた話。
そんな友を、臣下を見つけなさいと母に教わり、母が亡くなった後、幼いながらジークは探した。
しかし、妾の子に忠誠を誓う者も友と呼べる者も見つからず、途方に暮れていた時だった。
ジークがアリカを見つけたのは。
女性というだけで、周りの騎士たちから軽蔑されていたアリカ。
剣の腕前も頭の回転も他の者より優れているのに認められず、それでも鮮やかな蒼い目は強く輝いたままで、美しかった。
だから一度腕を試し合った。
手加減は一切するなと言い放ち、アリカと真剣に剣を交わらせた。
素晴らしい腕の持ち主だった。
そして、傍に置き共に戦った戦場ではその判断力と戦いぶりに舌を巻いた。
いつの間にか、戦友という認識は恋へと変わっていき、ジークはそれを話した。
「私はその時、王子に背中を預けると仰せつかりました。どれほど私が歓喜に身を震わせたかわかりませぬか? 騎士として、これほど名誉なことはありません。
そして王子が私を見出していただいたことで私は今ここにいます。だからこそ、私は貴方様に忠誠を捧げているのです。
及ばないかもしれませんが、我が力の全てをかけて王子の不安は全力で取り除きましょう」
ジークだけが助けられているわけではなく、アリカもまたジークに助けられたのだ。
妾の子というだけで、周りから冷たい目で見られていたジーク。
第一王子はどんなにぐうたらに過ごしていても王妃に庇護されるが、ジークは違う。
どれだけ、国を民を第一に考え行動しても擁護する人物もおらず、下手をしたらその手柄も横取りされる。それでも漆黒の目には火が燃えていた。
修羅場が続く戦場でもその戦術眼と恐れぬ気迫がどれほど自分を含めた兵士に勇気を与えたことを。
そして、ある夜に力を試したいと言われ剣を合わせた。
戦場では知っていたつもりだったが、見ると戦うでは桁が違った。
その後、自分を側近として傍に置き、信頼して仕事を任せてくれたこと。
周りが非難しても、優秀な者を置いて何が悪いと言い返してくれた。
その全てが今のアリカを支え、憧れは尊敬に変わり、いつしか抱いてはいけない感情を抱き始めることにもなった。
「そなたにそこまで言われるとは、相当私は酷かったようだ」
「も、申し訳ございません。出過ぎた事を申しました」
呆れたようにため息を吐いたジーク。
すぐさま、アリカは頭を垂れた。
感情的になって出過ぎたことを言ってしまった。
騎士としてアリカは自分を恥じたが、そんなアリカをジークは愛おしそうにそっと抱きしめた。
不意の温もりにアリカは驚き、顔をジークへと向ける。
「アリカ……そなたがいてくれてよかった。ありがとう」
「……王子、ん」
アリカの顔に手を添えると、ジークは優しく口付けを落とす。
触れ合うような口付けを終えると、アリカの髪を何度か撫で、髪にも口付けを落とすジーク。
そのジークの仕草はいつものベッドでの行動と似通っており、
「御自身の体調はご存知ですよね、王子」
「む、やはりわかるか?」
「何年も王子と共に過ごしておりますから」
先に釘を刺されたことにジークはバツの悪い顔をしながらアリカの髪を手で遊ぶ。
「ご養生してくださいませ」
「仕方あるまい。今は諦めて休むとするか」
「そうしてください」
その言葉にアリカは安心したかのような表情で胸を撫で下ろした。
とりあえず、散らかった書類を片付けようと立ち上がると、ジークに背を向けた時、それを見計らったかのようにジークはアリカを背中から抱き締め、耳元で囁く。
「では、今日の夜待っておるからな」
「は、はい?」
耳に囁かれた言葉の意味がわからないと、素っ頓狂な声を上げるアリカ。
「今は。と言っただろう? それにそなたと過ごす時間が何よりの癒しだ」
「し、しかし……」
「これでも我慢しているのだぞ。夜はいつもより激しく求めると思うが、構わんか?」
「……明日は非番ですので、その……」
耳元で囁かれた言葉と今から自分が言うであろう事にアリカは恥ずかしくなり顔を赤くするが、ジークの腕をそっと握り締め、ジークへと目線だけ向ける。
「……多少の無理をされても、支障はない……と思います」
言葉にした事がさらに羞恥心を煽ったのか、すぐに目線を下に逸らすアリカ。
髪からちらりと見える耳はこれ以上ないほどに赤く染まっていた。
「そうか。ところで、そろそろギルバートの所にさっきのを持って行ってくれ。少し拘束しすぎたかもしれんからな」
「し、承知いたしました」
そう答えるのがやっとなのか、下に散らかる書類には目もくれずに慌しく執務室からアリカは出て行った。
それを見送った後、ジークは椅子に力が抜けたように座り込むと、顔に手を当てて溜息を漏らした。
「……あれはわかってやっているのか?」
目線をアリカと交わして、表情を見ただけで頭が沸騰して思わず押し倒してしまいそうになったのだ。
仮眠を取るのは今の状況では難しそうだと判断したジークはいそいそと床に散らばった書類を片付け始めるのだった。
前半はこれで終わりです、長くなってしまいましたが。
後半のシーンの準備は時間がかかるかもしれませんが出来次第投下
したいと思います。
いいじゃん!
GJ
おお続編きてる!GJ!
後編じっくり待ってます
ミナと殿下三話目です。
エロなしです。
草陰から辺りを見回す。
追手はまだこちらを探してうろついているはずだが、今のところ人の気配は
ない。抜き身の剣を握りしめたまま、ミナは突きだしていた頭を退いた。
「おらぬか」
低い声で殿下が尋ねる。わたしは頷いた。
「はい、まだ」
殿下は茂みに隠れるように、木を背にして座り込んでいた。わたしはその傍らに
膝をつく。
「お加減はいかがですか」
「ああ……大したことはない。少し驚いただけだ」
表情は変わらないが、額に汗が浮かんでいる。
当然だ、怪我を負っているのだから。
上着の左腕から血が滲んでいる。そこまで深い傷ではないが、出血が多い。
止血をしても既にだいぶ流れてしまっていたようで、殿下の顔色が
やや青ざめていた。
思わず唇を噛む。
わたしのせいだ。油断したせいで。
街道で、ちょうど人気のないところを見計らって追手が掛かってきた。
宿場町が近くなったこともあり、気が緩んでいたのだ。殿下に怪我を負わせた
ひとりは切り捨てたが、まだふたりは残っている。体勢を立て直すため
街道沿いの林に逃げ込み、一時的に追手を撒くことが出来た。
女物の長い裾が絡んでうまく動けなかったとか、そんなことは言い訳にも
ならない。
「あまり思い詰めるな」
ぼそり、と殿下の呟きが聞こえる。
「ですが」
「利き腕でなかったのは幸いだった。それにあいつらも仕留めそこねて焦って
いるだろう。そういうときこそおぬしが落ちつけ」
「……はい」
殿下の隣に並ぶようにして座る。追手はあと二人いたが、背を見せないように
していればまずは大丈夫だ。おびきよせて、ひとりずつ倒せばいい。
つまり殿下を囮にするわけで、あまり気はよくないが仕方ない。
膝を抱え、耳を澄ませてじっと座っていると、そういえば以前もこんな風に
並んで座ったことを思い出す。まさか他人の屋敷にまで追手が来るとは
思わなかったので、あのときはもう少し気が抜けていた。
その油断が命取りになるのだと、今思い知ったが。
隣の横顔を見上げる。とんだ変人殿下だが、さすがに今は大人しくしている。
ふと、もしかしたら普段の『変人』は演技なのではないか、という考えが
脳裏をかすめた。緊急時の対応にも機転が利いていたし、今も失敗した部下に
冷静な指示を与えてくれた。
偉大な兄王と同じく、本当は聡明で寛大な――。
視線に気づいたのか、殿下もこちらを向いた。
「何か」
「い、いえ、何でも。失礼しました」
「言いたいことがあるなら言えばよい。今なら咎めるものはおらんぞ」
そうは言うが、そんなことを言っていいものだろうか。
「いいのか」
念を押されて息を呑んだ。確かに、聞くなら今しかない。
思い切って口を開く。
「殿下は、奇行を装ってらっしゃるのではありませんか」
何を、と言うように殿下が眉をひそめた。
「普段からふらふら歩きまわったり議会に茶々を入れた挙句書類にいたずら
したり」
「……」
「屋敷に迷いんだ犬と一日中遊び倒したりでたらめな楽譜で楽師に演奏
させようとしたり図書室の本を書きうつしたかと思えばところどころ
嘘を入れて差し換えようとしたり」
「……よく知ってるな」
「護衛についておりますから。……そういうことは、皆、誤魔化すために
やってらっしゃるのではないですか」
「何のために?」
「分かりませんが、もしかしたら、例えば……国王陛下をお立てするために」
「なるほど。面白そうな話だが私のは地だ。残念だったな」
「そう……ですか」
殿下は話を終わらせようとしたが、それがいかにも怪しいと思ってしまうのは
穿ち過ぎだろうか。
「ミナ」
呼ばれて、顔を上げる。それから近さを意識する。吐息の掛かりそうな距離で、
視線が絡む。
前にもこんなことがあった。蝋燭の薄明かりの中で、表情は
よく分からなかったけれど。
あのとき殿下は――――なんと言った?
顎を引き寄せられ、気付いたら唇が触れ合っていた。
触れたところが温かかった。
優しくついばむように、そしてさらに深く口づけされそうになって――
我に返った。
「ななななな何をするんですかっ!!」
慌てて殿下の肩を押し返すと、当人はけろりとした表情で、
「すまん。我慢できなかったもので」
と言った。
何を考えてるんだろうこの人は。女なら誰でもいいのか。第一非常時だと
いうのにどうしてそんな余裕があるのか。
やっぱり変人だ。
紛れもなく類稀なき変人だ。
いいように解釈しようとしたわたしが馬鹿だった。
かっとなってそんな言葉が頭の中をぐるぐる回るが声にならない。
何か言ってやろうと口を開いた途端、前方の茂みを踏む音が聞こえた。
さっきの大声で気付かれたようだ。
「いたぞ!」
茂みから出て、追手のひとりが駆け寄って来るのを待つ。
剣を低めに構えて一歩踏み込む。一度剣を切り結ぶが、力は相手の方が強い。
とっさに力を抜き相手が体勢を崩したところで、懐に入り込んだ。
動きはこちらの方が早い。体重を掛けて、腹を刺し貫いた。
まず、ひとり。
振りかえると、もうひとりが殿下に駆け寄ろうとしていた。
座り込んだままの殿下は剣も握っていない。
「殿下!」
そのとき殿下が手の中の砂を追手に向かってぶちまけた。
目つぶしをくらった追手が一瞬ひるんだ隙に、座ったままの殿下が
足払いをかける。意外と器用だ。
その間に距離を詰めたわたしが、後ろから追手の背を斬った。
どちらも死んではいないが、致命傷だ。刺客としてすぐ復帰することは
難しいはずだ。
「お前。誰の使いだ」
足もとに転がる刺客に殿下が聞いたが、答えはなかった。
見れば、絶命している。あれしきの傷で、と思ったが、どうやら服毒していた
ようだ。もうひとりの方も息絶えていた。嫌な仕事だ。
務めだとはいえ、こういうものを見るのは気分のいいものではない。
露払いをすると、荒れた息と気持ちを落ち着けるために深呼吸した。
殿下は珍しく苦い表情でため息をついた。
「殿下、大丈夫ですか」
「ああ」
殿下が裾を払って立ち上がる。が、立ちくらみしたのかよろけた殿下に
慌てて駆け寄る。
「すまんな」
いえ、と言って振り仰ごうとして、さっきの瞬間を思い出してしまった。
それどころじゃないっていうのに。殿下の変人がうつったのだろうか。
街道に戻ると、先ほど乗り捨てた馬が手持無沙汰に待っていた。
逃げてしまわないでよかった。
「さ、殿下。乗れますか」
「おぬしはどうするのだ」
「怪我人が何を仰ってるんです。わたしが引いていきますから早く乗って
ください」
「しかし」
「人に紛れてしまえば格好や何かは皆気にしません。さあ」
そう言って殿下を馬上に押し上げると、手綱を引いて歩きだした。宿場町は、
既に遠目に見えている。
歩みを進めながら、それと知られないように俯いて、そっと唇に触れる。
思いがけず柔らかかった感触を思い出して、顔が熱くなる。
――――あれが気持ちよかっただなんて、言えない。
以上です。
>>521 ありがとうございます。
後から見たらなんか誘い受けみたいになってしまって申し訳ない。
続き来てたー!
変人殿下の具体的変人行為が本当に変人でGJ極まりない!
裏がありそうだけどやっぱり素で変人だといいなあw
gj
こういうキャラ好きだなぁ
GJ!!
どちらの職人さんも読んでいて幸せになったよ!!
今年も期待
保守
ほっしゅ
新作まだかー
ほっしゅん
保守
546 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 15:15:19 ID:CyjMZiDD
バレンタイン保守
健気な女従者は大いに結構だけど、
欲得ずくで主人とヤッちゃうタイプもたまには見てみたい。
>>547 そしてじわじわ好意を
持つ様になったら俺好みw
好意は持たないけど主人以上に美味しい相手がいないから他の男とはヤらないなら好みかも
美味しいって……何かその従者、生粋の狩人って感じだな。
儚げな女従者が鬼畜な男主人にやられちゃうのが良いですね
552 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 19:26:52 ID:ztUO1/sh
保守
そうじゃ、次あたりにはあの巨乳の金髪娘をベッドに引き込んでやろうかのう。フッフフ(^ิ౪^ิ))
554 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 01:56:28 ID:7Nu17aKi
∧_∧
⊂(´・ω・`)つ-、
/// /_/:::::/
|:::|/⊂ヽノ|:::| /」 光の庭への続きはまだですか?
/ ̄ ̄旦 ̄ ̄ ̄/|
/______/| |
| |----------| |
555 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/23(火) 15:45:07 ID:UX8qAmcM
期待上げ
クレ55-6
557でメイドさんは女王様思い出した
裏世界で女王様をやってた女が年下の少年に一目惚れしてメイドになる。
書き分け出来てないのとショタ色強いのが難だけど、それが平気なら結構お薦め
559 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 00:22:40 ID:a0HedV0V
今年に入って投下無し
とても哀しい
それはとても哀しいお話ですね。
タイプの違う美人二人の従者に左右からダブルパイズリで、パイズリ味比べとか。
562 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 11:23:24 ID:rXLxltC2
メイドと女執事から性的な奉仕を受けるのか
手っ取り早く沼地の魔女じゃなくて沼地の魔王にして
メナス、メローナ、アイリとエロいことをするくらいしか思い浮かばぬ。
平メイド1「あの橘副メイド長…」
橘副メイド長「ん?」
平メイド1「これ(ラブレター)受け取ってください(///)」
副メイド長「……という事がありましてね」
メイド長「あらあらまぁまぁ、それで橘はどうしたの?」
副メイド長「『お姉さま』ではなく、よき上司と思って欲しいって事を1ちゃんに懇々と説明し、
納得してもらいました」
メイド長「あら勿体無い、せっかく橘にもラブロマンスが生まれる所だったのに」
「…そっかぁ、橘今フリーなんだよね。 なら、私が橘の『お姉さま』になってあげましょうか?」
副メイド長「……、全力でお断りさせて頂きます」
夜のメイド控え室
一升瓶を抱え一杯やってて、ご機嫌のメイド長
副メイド長「桐生メイド長、既に休憩時間とはいえ共有スペースの控え室でこのような事では
下の者への示しがつきません。
どうしてもお飲みになりたいのでしたら、御自室にてお願いします」
メイド長「橘は相変わらずお堅いわねぇ」
「そぅだ、橘が相伴してくれるなら素直に言うこと聞いて自室に下がるけど、どうかなぁ?」
副メイド長「(両刀使いのウワバミメイド長に酔わされて、とって喰われては堪らぬな……)
消灯時間も近い事ですし、今晩は遺憾ながらお断りさせて頂きます……」
メイド長「そっかぁ、ならご主人様にご相伴して頂けるようお情けを縋ってみるか……」
副メイド長「(わ、私のご主人様に、手出しはさせるか! この、酔っ払いメイド長め!)
……分かりました、不肖この橘がメイド長の御自室でご一緒させて頂きます」
小説文体でなくて、ごめんなさい
男主人の存在は窺えるようにしましたが、直接は出てこなくてごめんなさい
次のネタでは出せるようにしたいです
567 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/09(火) 04:16:06 ID:rjY+KrTl
>>564-566 さぁ今こそ小説文体でこのスレに投下する時です
むしろ投下して下さいお願いします
王様と侍女のからみを現代に置き換えてみたらどうだろう…と妄想を膨らませたら
なぜか独裁者と秘書官という剣呑な結果に。
元首護衛部隊の礼服をぴっちりと着こなした怜悧な美人秘書官が、
主君に激しく責め立てられながら状況報告したり、
護衛と称してベッドの相手を務めたりとか。
570 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/10(水) 01:47:07 ID:fq4uG+Vg
>>568 元首執務室で独裁者閣下に乱暴に扱われてる生意気そうな見た目で有能な美女秘書官とか良いねぇ
572 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/13(土) 22:13:35 ID:PUI5zNm7
573 :
568:2010/03/14(日) 20:53:49 ID:RXWPWfry
振ってみたネタの意外なウケに驚愕。
それっぽい話を書こうとしてるが上手くいかん……しばしお待ちを。
575 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/16(火) 00:06:50 ID:QBpoIGeS
全裸待機モードか
ふぅ
そういう時はこのネタが膨らむようにアイディアをかきこむもんだぜ。って爺やがいってた!
普段はかっちり礼服(
>>568)なのに、
「今日はメイドの日」と称して丸一日メイド服
578 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/18(木) 03:36:14 ID:gC7pT0r9
むしろ女の子らしい幼いメイド美少女を国家元首が楽しそうに犯して調教してるのを見て
自分みたいなのよりやはり可愛らしい女の子のほうが男は良いのかと凹む
知的さと冷徹さと熟れた女の魅力満載な元軍人で秘書の美人おねいさんが良い
579 :
568:2010/03/18(木) 22:59:25 ID:P64+NR2n
とりあえずそれっぽいのが出来たんで投下してみる。
ちなみに結構バッドエンド風味なんでご注意を。
580 :
1/2:2010/03/18(木) 23:01:15 ID:P64+NR2n
「御命令というのは…それだけ、ですか、大統領閣下?」
共和国大統領特別首席補佐官であり国家警護隊総指揮官であるところの
ヴァネッサ・アルビナ・エスペランサ・デ・シルバ・デ・ラ・セルダ将軍−氏名も肩書も
何とも長ったらしいが、要は俺の秘書官兼護衛隊長−はいささか御立腹のようだ。
怜悧さを感じさせる美貌に、引き締まってはいるが女らしさを失わないボディーライン。
いささか野暮ったい第一種軍装も中身が良ければ引き立つという好例だな、
怒った顔も相変わらず美人だ、と視姦していると、彼女の不満はますます大きくなっていった。
「僭越ながら申し上げますが、このようなことをなされては大統領職の威厳という物が…」
いや、俺は諫言を聞くためにお前を呼んだんじゃないんだがなぁ。
まあ一番の懐刀をいきなり執務室に呼びつけたかと思えば夜伽をしろ、というのも非常識だが。
でもいいじゃないか、書類は全て決裁したし、規定の執務時間は過ぎているんだ。
「し、しかしっ!このような場所でというのは、いくら閣下の御命令とはいえ…」
そこまで言うのなら今回は下がってよろしい、誰か他の者に夜伽をさせるから。
「……分かりました。今夜は私がお相手をさせて頂きます」
不承不承答えるヴァネッサに近づくと、俺はスカートの中に手を差し込み、下着越しに
彼女の秘所を愛撫した。指が愛液に触れ、くちゅりと音を立てる。
「…んっ…あっ…」
仕方なくという言葉とは裏腹に、ヴァネッサのショーツはぐっしょりと濡れていた。
対する俺の方も彼女の指に撫でさすられ、股間の逸物がたちまちはち切れそうになっていく。
無理もない。俺もこいつも職務が立て込み、かれこれ一週間はご無沙汰だったのだから。
先程のやりとりも今まで何十回と続いてきたお約束、一種の前戯といっていい。
息を荒げながらショーツを引きずり降ろし、ズボンを脱がされる。
互いの服を脱がせ合いながら、俺たちは執務室のソファに倒れ込んだ。
今を去ること十年前、理想に燃える若き女性士官デ・シルバ嬢は祖国の腐敗に憤激し、
密かに自由将校団へと加わった。彼女に戦術と革命理論を叩き込んだのは、将校団の
リーダーだった某大佐。師弟愛は次第に男女の愛へと変わり、女は男に純潔を捧げた。
もちろん革命自体も大成功。電撃的に首都を制圧した革命軍はあっさり旧政府を打倒し、
堕落した国王と貴族どもを国外追放して財産を没収、勝利の功労者である大佐は
大統領となり、女性士官は将軍となって祖国の再建を手伝いましたとさ。
めでたしめでたし……いやはや、麗しい話だ、そう思わないか?
まあ、こんなおとぎ話を聞かなくとも。彼女の経歴を見てみれば
誰でも俺との関係に気付くかもしれない。
いくら革命戦争の英雄にして士官学校始まって以来の俊才とはいえ、
普通なら30にもならない小娘が将官や大統領補佐官になれるはずもないのだから。
−国家元首の愛人でもない限りは。
581 :
2/2:2010/03/18(木) 23:01:49 ID:P64+NR2n
ヴァネッサは俺の上にまたがり、腰をゆっくりと落としていった。
「んっ……あっ、はぁぁぁっ…」
花弁が肉棒を飲み込んでいくにつれ、彼女の唇から喘ぎ声が漏れた。
膣の奥まで挿入したことを確認し、腰を動かし始める。
「あ゙ぁっ…あ゙あぁっ…」
美貌を快楽で歪ませ、声にならない声で喘ぐヴァネッサに答えて
こちらも遠慮無く突き上げ、彼女を存分に味わう。
熱く、狭く、肉襞が絡みついてくるような感覚。やはりこいつの膣内は最高だ。
亀頭が子宮口を殴打するたびに花弁から蜜が飛び散り、淫猥な音が響く。
ヴァネッサは冷徹な秘書官の仮面をかなぐり捨て、ただ俺の突きに合わせて
腰を振りたくっていた。
「んあ゙ああああぁぁぁぁっ!」
彼女が気をやると同時に膣が収縮し、万力のように俺の逸物を締め上げる。
限界に達した俺も精を放ち、胎内に大量の白濁を注ぎ込んだ。
「あ゙あ゙あ゙ぁぁぁ…」
子宮内に精液が打ち付けられるのを感じて、ヴァネッサが甘い呻き声を上げる。
白目を剥き、舌をだらしなく突き出して快楽に浸る彼女を見ているうちに、
萎えた俺の肉棒が固さを取り戻し、再び膣内を埋めていく。
「はぁ、はぁ、はぁ…あっ…また…こんなに…」
嫌なら止めるが、どうする?、という俺の問いかけに答える代わりに、
ヴァネッサは妖艶な笑みを浮かべて腰を振り始めた。
「ああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁぁっ!」
絶叫と共にヴァネッサが三度目の絶頂を迎え、俺も精子を打ち放った。
快楽のあまり遂に失神した彼女を抱きしめ、性交の余韻に浸りながら、
俺は以前から幾度となく抱き続けてきた問いを、ぼんやりと考えていた。
彼女を愛人にしたのは、本当に正しい選択だったのか、と。
発覚したら問題…という訳ではない。
幸か不幸か、この国では政治家が秘書に手を出すこと自体はスキャンダルになり難い。
むしろ英雄豪傑が愛人の一人や二人持たんでどうする、といった風潮がある。
それはいい……が、それは相手が「ただの秘書」だった場合だ。
俺が抱いているのは、軍で一二を争うほど頭の切れるばかりか
我が国随一のエリート部隊を掌握し、俺の行動予定を知り尽くした女なのだ。
もし、ヴァネッサが俺の側近であり、愛人であることに飽き足らなくなったら…?
もちろん現在までの彼女が、公私共に俺に忠実だったことは分かっている。
しかし一国を手に入れるという野望の前に、愛情や忠誠がどれほど歯止めになるか…
そもそもヴァネッサには「前科」がある。王家の血を引く名門の出でありながら
(あの長い名前が単なる酔狂だと思ったか?、あれは紛れもない貴族の証だよ)、
王制に未来なしと見て取るや、あっさりと革命軍に加わった程の女だ。
(おかげで彼女の一族は、国外追放も財産没収も免れた、やれやれ)
俺に抱かれたのだって、どこまでが本気で、どこからが打算だったやら。
だから俺に大統領の資質なしと判断したら、あいつは祖国のため、国民のため、
なにより自分のために容赦なく叛旗を翻して勝ち組に付く、その可能性は大いにある。
何とも皮肉なのは、ヴァネッサをここまでの実力者にしたのは俺自身だということだ。
自分の引き立てた愛人に権力を奪われる独裁者! 我ながら笑うに笑えない。
まあ、これは全て仮定の話だし、万が一そうなったとしてもそれなりに手は打てる。
それにしても、こいつを愛していなければ、もう少し悩まずに済むんだがなぁ。
そう心中で溜息をついた俺は、もうしばらくヴァネッサと繋がっていることにした。
582 :
568:2010/03/18(木) 23:02:22 ID:P64+NR2n
以上です。
G――――J!!
男と女、って立ち位置になると、立場が逆転?!
面白かった
>>579-582 乙です!
萌えました、この後は大統領の懸念とは逆にヴァネッサが健気に尽くし続けるのも良いですし
野心を剥き出しにしてクーデターを成功させるもしくは失敗して肉奴隷化どれでも良さそうですね
GJ
上手い!
もっと読みたくなるSSだった
586 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/22(月) 02:59:21 ID:Zo9QLDSY
ほす
587 :
125:2010/04/02(金) 23:32:08 ID:umkPsg8c
過疎ってるので、覚えてる人がいるかわからないけど久しぶりに投下。
脳が下半身で出来ている人が出てこないせいでエロな会話すらない。
ごめんね。
「今日も雨ですわね」
六月。書斎の窓から見上げた空はぶ厚い雨雲に覆われていた。
どうやら梅雨に入ったようで、ここ数日は青空を見ていない。しようがない事とはいえ
そろそろ太陽が恋しい。
「昨日も同じことを言っていたが、何か不都合でも?」
「洗濯物が乾きませんわ。それにずっとこんな天気では気が滅入ります」
「農作物にとっては恵みの雨だろう。水を大量に必要とするイネ科の植物にとってはこの
時期の雨が秋の実りを左右する」
「私は植物ではありません。それに梅雨は黴雨とも書いて、稲熱病の原因にもなります。
長雨は植物にもよくありませんわ」
「そうか、それは失礼した。くっくっく……」
わざと小さく頬を膨らました私に、英博様は愉快そうに喉の奥でお笑いになった。
この屋敷で働き始めて、早いもので三か月が経つ。
奴隷として売られかけていた私を救ってくださった恩返しの為ではあるが、英博様の
召使いとして働く今の暮らしに不満はなく、寧ろ喜びすら感じている。直接聞いたわけ
ではないものの、英博様も私に気を許してくださっているらしく最近では多方面の知識を
教授してくださる。その膨大な知識と発想に触れているだけで私は日々の暮らしが楽しくて
しかたがない。
――英博様が主で、本当によかった。
常識的な人間が聞けば、自由を許されながらおかしなことをと言うかもしれない。だが
この気持ちには些かの偽りもない。
「早く晴れないかしら」
呟いた時、玄関の呼び鈴が鳴った。
「郵便かしら。出てまいります」
「うむ」
588 :
125:2010/04/02(金) 23:33:04 ID:umkPsg8c
「お待たせしました。どちらさまですか?」
私の声に、扉の向こうの来客は何故か一拍置いて返事をした。
「ヒデヒロ・カワシロに会いに来たのだけれど、いる?」
女性の声だ。しかも異国人――それにしては異様に流暢だが――らしい。
様々な分野の第一人者として国際的にも評価されていらっしゃる英博様には海外からの
手紙も多い。とりあえず怪しいところはなさそうなので、扉を開けた。
普通人の顔がある辺りを見たつもりだったが、そこは洋服の胸元だった。この国の女性
としては身長の高い自分よりも更に背があることに内心驚きつつ目線を上方へ移す。
肩の辺りで揃えられた波打つ白金の髪。唇には真っ赤な紅をさしている。典型的な西洋
の人間の容姿だ。そして何より。
――ああ、空だ。
瞬間に、思わずそう思った。厚い暗雲が切り取られ、空がそこだけ覗いているような
青い、青い双眸。
「私の顔に何かついてる?」
柔和な笑みで話しかけられ、私ははっとした。
「失礼しました。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
*******************
「まったく、この国はいつも雨が降ってるのね。うんざりしちゃう」
「君がこの時期ばかりに来ているからだろう」
書斎の机前に備えられたソファに深く腰掛け、彼女――ローズ・ジルベルスタインは
紅茶を啜った。
「この時期しかこの国に来る時間がないんだもの。しようがないでしょ?」
「なら天気に文句など言わないことだ」
じろじろと眺めるのは失礼と知りつつ、私は英博様と話すジルベルスタイン氏の容姿を
盗み見た。
玄関先では顔ばかり印象に残っていたが、全身を見れるようになるとその足の長さに
驚く。下手をすると股下が平均的な日元の成人男性の腰位まであるのではないだろうか。
――西洋人と東洋人で骨格が違うというのは本当なのね。
視線に気づいたのか、ジルベルスタイン氏が横目でちらりと私を見た。気に障ったの
かもしれないと少し焦ったが、特に怒っているふうではない。直ぐに英博様に向き直ると
早口で何かを捲くし立てた。
「――――――servante――――――femme――――――」
明らかに日元の言葉ではない。学校で習った他国の言語に似た響きをたが、どうやら
若干異なる地域のもののようで意味は分からない。
英博様には氏が何を言ったのか分かるらしく、ちらりとこちらに目線を移してから
首を横に振ってやはり私に分からない言葉を返した。内容は分からないが、二人の目線
からしてどうやら話題になっているのは私のようだ。
しばらく異国の会話が続き、氏のカップの中身がなくなった頃、どうやら話題は一応の
決着がついたらしい。
「セツ」
「はい、何でございましょう」
「彼女は今日ここに泊っていくことになった。上の客室を一室、整えておいてくれ」
589 :
125:2010/04/02(金) 23:35:02 ID:umkPsg8c
「今日はちょっと疲れたかな……」
日もとっぷりと暮れ、仕舞い湯に入った私は自室に戻るとベットに突っ伏した。
普段の仕事に加え、ジルベルスタイン氏のお世話が加わった為、流石に身体が疲労を
訴えている。横になると同時に頭の中が霞がかる。そのまま眠りに落ちようとした時。
「セツ? ちょっといい?」
ノックとジルベルスタイン氏の声に、私は慌てて起き上がった。夜着とベットを整え
扉を開ける。白いふんわりとしたネグリジェに身を包んだ氏が後ろに手を組んで立って
いた。
「どうかなさいましたか? 何か御要りようのものでも――」
「いえ、そうじゃなくてあなたに用なの」
「私にでございますか?」
「そうあなたに。お邪魔していい?」
「もちろんでございます。でも、この部屋では……」
「あら、なら私の部屋にする?」
「い、いえそういうつもりでは」
「分かってるわ。気を使わないで、ヒデヒロにもそう言われてるの」
氏は茶目っ気たっぷりに片目を瞑ってみせると、後ろ手に隠していた葡萄酒の瓶と
金属製の杯を見せた。
「ヒデヒロから聞いて、私もあなたに興味が湧いたの。少しお話しましょうよ」
今回はここまで。
ちょっとずつエロくしていくつもり。
ただし百合はない。悪しからず。
まってたよおおおお!!!
>>587-589 待ってました!!乙です。
ちなみに過疎というか大規模規制の影響がデカい気がします
ピンクは携帯が規制されてないぶんマシですがパソコンでの書き込みはほぼアウト
ほしゅ
保守だ
保守
作品名をつけることにしました。
「質素な部屋ね」
「そうでしょうか?」
私の言葉に目の前に座った異国の少女は首をかしげた。
いつも泊る部屋も客室としてあしらわれてはいたが、そもそも客自体来ないので
――単にヒデヒロの性格からかも知れないが――必要最低限の寝具があるだけで
装飾品の類は一切なく、白塗りの壁がどこか病院を思わせる。かろうじて本物の
それと違うところがあるとすれば、床に敷かれた輸入物の絨毯くらいのものだ。
この部屋もまた似たり寄ったりであったが、唯一他の部屋と違うのは、東向きの
窓際に机と椅子がおかれていることだった。
それにしても年頃の娘が暮らす部屋にしてはあまりに貧相だ。
「自分用の机を置かせていただけるのですから、身に余ることです」
「謙虚だこと。どう?」
椅子に腰掛け、ワイングラスを勧めた私に少女は首を振った。
「じゃあ私だけ頂くわね。とりあえず座って。立たれてると落ち着かないわ」
少女は遠慮しつつ、自身のベットに腰掛ける。
「……あの、ジルベルスタインさん」
「ローズでいいわ」
「じゃあ、ローズさん。日元へは何の御用で?」
「ヒデヒロに会いに来たのよ。私用と仕事両方でね」
「仕事?」
「国で大学教授をしているの。生物学のね。学会で渡来してたヒデヒロと三年前に
知りあってね。以降、日元に来る時にはここを宿にさせてもらってるの。今回は
こっちの学会に出席するついでに休暇を取って暫く滞在することにしてるわ」
「女性で、大学の生物学の教授を?」
少女は大きな黒目を更に大きく見開いた。
「そんなに驚くことでもないわよ」
「いえ、この国では大変なことですわ。女性が社会に進出するようになったとはいえ
せいぜい初等科の教師が精一杯。それが、海の向こうでは大学の教授をされている
方までいらっしゃるなんて……」
少女の言葉には驚きと高揚が感じられた。
――なるほど、ヒデヒロが好むはずだわ。
日元について多くを知っているわけではない私でも、この国の、女が蔑まれる文化は
理解している。いや、そもそも多くの女たちは蔑まれているとすら思っていない。自分
達に自由があるべきという考えを抱くことがない。
その点、この少女は先進的と言っても間違いない。
597 :
おかしな二人:2010/05/02(日) 00:07:31 ID:18nYC4Cf
「そんな風になりたくはない?」
「え?」
「私のように自立した社会人になる気はあるかってこと」
「もちろんですわ」
逡巡もなく答える。
「なら私と一緒にこの国を出る気は?」
「……一体何故そんなことを?」
流石にここまで話が進むと何かしらの考えを持っていることが分かったらしい。
私はまだワインが半分ほど残ったグラスを置いた。
「ヒデヒロは貴女を留学させたいと考えているの。見聞を広めてほしいと思ってる」
「英博様が、そうおっしゃったのですか?」
「ええ。もし貴女にその気があるなら海外での生活を世話してほしいと頼まれたわ」
「……」
――あら?
喜ぶかと思った少女は、意外にも戸惑いと悲しみの表情を見せた。
「折角のお話ですが、お断りします」
「差支えなければ理由を教えてもらえない?」
「私は今の暮らしに充分、満足しております。国の外に出て見聞を広める、確かに
魅力的はお話ではありますが、それよりもここで、英博様のお世話をさせていただく
ことが、何物にも代えがたいのです」
「下女として一生を終えたいと?」
「それでも構わないと思っております」
私は机に頬杖をついて、少女を見つめた。
日元の人間にしては大きなその双眸が私を見つめ返す。そこにはかけらの迷いも
感じられない。
「……そう。ちょっと残念だわ。あなたが世界を見てどんな人間になっていくのか
私も見てみたかった」
「申し訳ございません」
「いいのよ。ヒデヒロのことが好きなのね。あなた」
「ええ、お慕いしております」
598 :
おかしな二人:2010/05/02(日) 00:08:00 ID:18nYC4Cf
一瞬、沈黙した。少女が答えたその様子は、飼い主に尻尾をふる犬のようだ。
多分、伝えたいことが伝わっていない。
――ああ、そうだった。この国の言葉はややこしいのよ。
「ごめんなさい、そうじゃないのよ。えーっと、なんて言うんだったかしら」
「?」
「あなた、English……利語は使える?」
「ああ、利語なら大丈夫です。学校で習いました」
「なら、likeとloveの違いはわかるわよね?」
「はい……あ」
そこまで言って、漸くわかったらしい。
また一瞬の沈黙。だがそれは一瞬では終わらず十秒続き、三十秒続き、ついに
一分続いた。
「……セツ?」
堪らず沈黙を破った私に、彼女ははっとして口を開いた。
「あ……申し訳ありません」
「何かまずいことを言ったかしら?」
「いえ、そんなことは。ただそういう風に考えたことがなかったので……」
私にというよりは自分に呟くような調子でそう言って、セツは俯き考え込んで
しまった。
「………………」
今。
もしかすると今、私は一人の女性が一人の男性を意識する瞬間を目撃したの
かもしれない。
――おもしろい。
セツには失礼かもしれないけれど、率直にそう思ってしまった。
何せ、彼女の想う相手が、あの、ヒデヒロなのだ。それだけで彼女の恋を俄然
観察したい気分になってしまう。
男を性の生き物とするなら男であることすら疑わしいあの超朴念仁が、この子に
好きと言われて一体どんな反応をするのだろうか。
――大学に、休暇の延長の申請をしなきゃ。
ワインのアルコールで少し陽気になった頭で、私はそんなことを考えた。
599 :
おかしな二人:2010/05/02(日) 00:09:09 ID:18nYC4Cf
過疎ってるので投下してみた。
嫌いな人はスルーよろしくって書くの忘れたorz
今度からは書くわ
gj
少しずつ2人の距離が近づいていくのがいい
もどかしくてw
601 :
名無しさん@ピンキー:2010/05/03(月) 22:42:44 ID:OGdnS8Mz
GJです
素晴らしいなぁ
たまらんなぁ
待ってたよ
ちょっとずつ進む物語に毎回ニヤニヤ
保守
ほほ
ここの保管庫は機能停止しているの?
第二保管庫みたいなのはある?
二個のスレ兼用だし、気が付いた人が更新してってスタイルじゃなかったっけ
一応機能停止はしていないはず
ありがとう
新参なんでよく分からなかった
保管庫の最近更新したページの箇所が、2009-03-08で止まっていたので
どんなものなのかと疑問に思ったので
wikiだから更新する人がいないってことだよ
610 :
名無しさん@ピンキー:2010/05/30(日) 16:39:59 ID:aEQwx3H0
上げ
男主人は従者との恋愛事に切羽詰ったら権力を縦に命令できる立場っていいのがいいね。
しかし本来良識のある主人ならば、そんな自分に自己嫌悪を感じてしまいつつ・・・・。
>>611 うむ素晴らしい妄想だな
使いたくないのに権力を使って無理矢理物にして自己嫌悪とか素晴らしい
例えなんらかのすれ違いで、従者は従者でたとえ主人を愛してても
いや好きだからこそそんな命令をされるのは嫌だろうし。
珍しく反発しちゃったりするんだろうな。
そして頭に血が上った主人はますますむきになる。
ベッドで 「そこによこたわれ」「動くな」
みたいな相手の意思を全く無視した発言をして涙目になっている従者を妄想した。
さあその妄想を形にするんだ
>>615 文才がなくて・・・・
妄想しかできない。
誰かすてきな従者かご主人様がなにか投下してくれるはず
女従者が下賎な生まれなら尚良し
身分違いなので愛していても自分なんかを抱いたら主人が駄目になるとか思ってたり
ついでに主人の側に妻や婚約者が既に居る状態だと更に背徳感満載
主人は側室とか居ても問題ない立場だが、女従者の側は側室にすらなれんような身分の生まれとか
そういや王様と書記官……
あの王様ならウルトラC使ってでもどうにかしてくれそう。
つかあそこまでいったら絶対周囲にはバレてるだろ。
ベッドに髪の毛一本でも落ちてたら侍女は気づくはず。
>>619 侍女も王様もレイプとかお盛んですねぇで済ましてるんだよ
王様は強姦位余裕と
そんな絶対権力者が、惚れた弱みで手も足も出なくなるというのが美味しい
でも性欲は溜まるしオナニーしても解消されない女体への欲望……
なんか書けそうな小ネタ持ってる人は多そうなのに
小ネタなら腐る程脳内にある
だが文才がないんだよ俺には
死ぬほどよく判るw
誰か、王様と年上の未亡人祐筆の話を書きたくなってくれないかな〜
>>626 素晴らしいネタだな
マジで誰か書いてくれたら良いのにw
強烈なパワハラ、セクハラに見舞われる年上の貞淑そうな女従者が見たい……
あんまり理不尽だと現実の世の中みたいで鬱になるからほどほどがいい
>>629 愛してるけど女に優しく接する方法と愛し方と扱い方がわからない精力絶倫で年若い暴君とかなら
顔と声と態度以外は優しい、とかどうだ。
本当は優しい年上従者に甘えたいんだけど言えなくて、
どうしたらいいか悩む様子が殺人級に怖い強面陛下に女従者涙目。
>>631 分かる人(乳母とか昔なじみの同性の友人とか)が傍から見たら、
陛下のあまりのメロメロぶりに微笑ましさすら感じるけど、
本人と女従者だけが意思の疎通が出来ず困惑し合ってると萌える
>>631-632 あぁ、本当に親しい人は男主人がマジ惚れだと分かってるけど
年上で優しい女従者の方は自分に接する時にやたら恐い雰囲気の男主人に涙目で
結局当人達だけ上手くコミュニケーションが取れず困惑か
凄く萌えるね。
勿論女従者のほうは主が自分にそんな感情を持ってるなんて
夢にも思って無いから…
軍人系の主従で、主人は男として惚れた女を守りたくて、
忠実な女従者は敬愛する主人を守りたくて、
お互いの身体に傷がつくと、お互いに心を痛めてしまう
どちらも相手が怪我をするなら、自分が傷ついた方がマシと思い合っている
しかし普段はそんな素振りも見せず、ツンツンし合ってる
ツンデレ主従とかどうだろう
逆フルメタとか萌えるかも
男だけど守護対象な主人と戦闘力高めの女従者は良いですね
光の庭への続きが来れば…そんな感じの話だし
639 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 21:50:28 ID:2VLHGn/u
投下期待
>>633 本当に親しい人、は出てこないけど「王と書記官」だっけ?
割とそんな感じだったような
リトレさん好きだったんだけどなー
あれ良かったよな。
おかげで考えつくネタが似たようなのになっちまって困る。
またリトレさんに会いたい
>>643 あれは良い関係
だけど男主人は軍人じゃないのも良いなあ
女従者が強いのはわかってるけど女従者は女の子だから僕が守らないととか思ってて
尚且つでも、女従者がこんな事知ったら馬鹿にするなと怒るんだろうなとか思ってら良い
軍人系なら、武骨な現場主義(脳ミソまで筋肉系)主人と、
策士で知的な冷静美女従者とか萌え
「腕力しかとりえのない粗野な男」とかバカにしていたくせに、
あり余る体力の主人に、夜もヒイヒイ言わされて振り回される、と
屈強で粗野な男にヒィヒィ啼かされる知的で冷静な女従者萌え
ランスは・・・
まあ悪知恵は働くが該当するか
「はっ……私を、ですか?」
主の言には絶対服従。
骨身に染みて分かっている近衛騎士リーズをして、そんな素っ頓狂な返答。
「ああ。向こうがお前を所望している。コニャンの綿の供給量の便宜と引き替えだそうだ」
「はぁ」
生返事を返してしまいながら、それにしても、とリーズは首を傾げる。
コニャン綿と言えば、今回自らを呼び出した(らしい)豪商ライラックからすれば独占的に手にしている商品だ。
どこまででも強気にまかり通れる彼が、よりによって自分との逢瀬でなびくとは。
「閣下、意を汲めぬ不才、お許しを。それは私を女として、という事でしょうか?」
途端、半歩、後退る。
「――…ッ」
別に、誰ぞの手指が淫らな意図を以て己に掛かる事への恐怖などではなく。
「………ああ、そうだ」
淡々と、国王代理としての職務を遂行する眼前の王子が恐らくは自覚なしに、瞬間だけ漏らした怒気によって。
「バルフェリッタの家名でも俺への繋ぎでもなく、お前を欲している。一晩貸せ、とな」
判を押す力が僅かに増したように思えるのはリーズの気がそうであって欲しいと感じるからか。
表情を理性で覆い隠した王子の相貌のその奥に、思わずと相好が崩れそうになるのを自制して。
「リーズ・ヴァルヴェリッタ、御身の命に従います」
この日も、彼の騎士となった始まりの日と同じよう膝を折り、頭を垂れた。
一.NTR風味。豪商の手にかかりながら、主人を思う
二.堪えようとして堪えきれず悲鳴をあげた所で主人が登場
短い文だけど、どっちが好み?
ぜひとも主人になんとかして頂きたい
全力で回避して頂きたい
ここはやっぱり主人にお願いしたい
相手側の態度にもよるかなあ。
単なる体目当てのモブやエロオヤジだと主従ネタというより
陵辱シチュの一パターンになっちゃいそうだから後者。
主従の絆の深さを分かった上で奪う気とか、せめて一晩だけ
とかの流れなら前者。
654 :
名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 13:11:36 ID:I5c8tjNB
投下期待
男主人に冷たくされ乱暴されても健気に尽くして主人を慕うそんな女従者が出てくるSSを読みたい
お久しぶりです。
王子と女騎士を投下していたものです。
大分と遅くなりましたが、王子と女騎士の後編を投下いたします。
ちょいと流れが読めていないかもしれないですが……。
>649
自分的には二ですね。
まあ、王子がそういう行動に出たら大問題ですがww
月が淡い光で城の一室を照らしていた。
あの後、雑務と全体会議を終わらせたジークは約束どおり少しの仮眠を取り、アリカがこの寝室に来るのを寝転びながら待ち望む。
ジークが疲れからか一つ欠伸をすると同時に、控えめなノックが鳴る。
立ち上がり扉を開くとそこにはアリカが立っており、待ち人の登場にジークは心を躍らせてアリカを部屋へと迎えた。
ジークはアリカの肩を抱いて、先ほどのベッドにアリカを座らせると、そのままの勢いでアリカを押し倒した。
いつもならベッドに座り込み、何気ない話をしてから行為へと発展していくのだが、今日はいきなり押し倒され、ジークに馬乗りされたこの状況にアリカは目を白黒させる。
「……すまんな。今は少しでも……そなたの温もりに触れたい」
「王子?」
アリカはいつもの様子と違うことを口にしようとするが、先にジークに唇を奪われ、さらにいきなり舌を差し込まれ、咄嗟に手で抵抗の意を示す。
だが、その手もジークに両方とも押さえ込まれ、
「ん、あ……んんっ」
さらにジークの舌がアリカの口を蹂躙し、伝えられてくる気持ちよさにアリカの腕から力が次第になくなっていく。
ジークはもう片方の手でアリカの服のボタンを外しながら、キスをさらに深くしていく。
部屋は粘ついた水音が鳴り響き、それは二人を徐々に高める。
アリカの下着が見えるくらいに服を肌蹴させると、ジークは下着越しに胸を撫でる。
「……んっ」
鈍い刺激でもアリカは声を上げ、ジークは首筋にへと頭を移す。
「お、王子……ひうっ」
「どうした、もどかしいか?」
「き、今日の王子はお疲れの、ん、様子ですので……」
アリカの言葉に耳を傾けながらも、ジークは手を休めるようなことはせずに耳を舐め、手の動きを大胆にしていく。
何度も肌を重ね合わせたこともあり、アリカが感じるように触れるジークの手に翻弄されながらもアリカは、
「今夜は、わ、たしが、んんっ」
「なんだ、はっきり言わないとわからんぞ?」
必死に言葉を紡ごうとするアリカの姿にさらに興奮を覚えるジークは手を緩ませることはせずに下着越しから少し硬くなり始めた突起を撫でる。
「ああっ」
送られる快感に身を震わせ、それに身を委ねたい気持ちを抑え、アリカはどうにか言葉にしようと目線をジークに向けた。
「きょ、うは、私が王子にしたいと、思います」
「私に何をしてくれるのだ?」
ジークは今までの経験からアリカがどうしたいかなどわかっているが、アリカの姿を目に映すたびにジークの嗜虐心が煽られ、どうしても簡単には言わせられなくなる。
自分の眼前では必死に喘ぎ声を抑え、それを恥ずかしいながらも口にしようとするアリカが途方に愛おしいとジークは思う。
「王子に……ご、御奉仕、させてください」
目線は少しだけ逸らしながら、アリカはそう答えた。
アリカの顔は羞恥も合わせて顔を赤くしているのを見て、ジークはあっさりと触れていた手を外して身体をアリカの上から退かした。
「では、お願いしようか」
身に着けていた物を全て脱ぐとベッドの脇に腰を下ろしたジークは喉を鳴らしながら笑う。
そんな様子に意地が悪いと自分の主に一瞬だけ抵抗の目を向けても、ジークはあっけらかんとした態度でいた。
少しだけ為すがままで悔しいとアリカは思いながらもジークのモノにそっと触れる。
目の前にある愛すべき人の、自分を今までめちゃくちゃにしてきたモノが急かすようにヒクついている。
それにアリカはゆっくりと唇を重ね、自分の舌を這わせながら、右手でしごく。
ジークの教育を一身に受けたアリカはジークを喜ばせる様に、体が動く。
唾液をしっかり絡ませながら、口内でしっかり使い愛撫。
合間に舌で先端や竿全体を舐め挙げ、ジークを蕩けた目で見上げる。
激しさを増す行為は、粘ついた水音を部屋全体に響き渡り、そんな健気なアリカを愛おしそうにジークは彼女の髪を指で梳かす。
「気持ちいいぞ、アリカ」
今の行為とその言葉に彼女の中途半端に昂ぶらされていた身体は火を灯されたかのよう熱くなり、アリカはさらに行為を激しくする。
ジークのモノがさらに大きくなっていくのがアリカは口内で感じて、それだけでじんわりと湿り気を帯びていただけのショーツは、今ではしとどに濡れていた。
月明かりがアリカの熱の帯びた肌が淡く映し出され、その様子からジークは一度アリカの行為を止め、アリカの体を立ち上がらせた。
途中で中断されたことにアリカは一抹の不安を覚えるが、それもジークからの口付けで一気に吹き飛び、ジークの蠢く舌に体はビクリと震え、ぐったりとジークにもたれかかった。
「……俺はもう限界なんだが、いいか?」
アリカは小さくコクリと頷いた。
ジークはベッドに寝転がり、アリカを自身の上に跨らせた。
普段はジークにされるがままだったアリカは驚いた表情を見せるが、ジークは楽しそうに笑う。
「今夜はそなたがしてくれるのだろう? 偶にはそれも悪くない」
「わ、私が……その、ですか?」
「ああ、手を添えて自分の好きなようにしてみたらいい」
アリカは喉を鳴らすと、意を決したようにジークの筋張ったモノに手を触れるとビクリとそれ震えた。
手でモノを固定しながら、アリカはショーツをずらして腰をゆっくりと下ろす。
先端が秘部に触れるとぬちゃりと音が響く。
今までしたことのない行為は慣れないこともあって体が中々進まないが、ジークのモノが入り込んでくる感覚にアリカからは熱い吐息が漏れ、ジークの目線がさらに羞恥心も煽る。
何とか根元まで受け入れるも、いつもとは違う場所を刺激されていることもあり、支える場所が腕のみのアリカの体はガクガクと震えていた。
動こうにも体は快感に引っ張られて、アリカは息を漏らす。
ジークの両腕で身体を支えられ、ようやく動き出せたアリカの動きは酷く緩慢であり、アリカの蜜壺に常に締め付けられているジークにとっては如何にかなりそうなほどの快感が身体に駆け巡っていた。
その小さな動きだけでも二人が繋がる場所からは粘ついた水音が耳に入り込む。
「いつも以上にきついが……蕩けそうだ」
空いた両の手で目の前で揺れる胸をゆっくり揉みだしていく。
その優しい刺激ですら、腰が砕けそうになるのを我慢しながらアリカは体を揺らしていく。
すでに口は半開きになり、ジークの揉みだされる手で何とか体勢を保っている状態のアリカ。
「ひぅっ! くっあああ!!」
「もっと、聞かせてくれ。アリカの声を……」
今まで動かすことのなかったジークは急に揺らし始め、膣の奥をノック。
ゆるゆる動かしていた手も激しくし、硬く尖った頂点も指できつくつねる。
「ひあぁぁ! んっああ!」
突然の激しい動きがアリカを襲う。
アリカが背を後ろに反らすと、その動きに合わせるようにジークは身体を起こし、腕でアリカの身体を支える。
膣内の新たな刺激にアリカはさらに熱い吐息を漏らし、言葉にならない声を上げる。
「ああ、ジー、ク様……んんっ」
言葉はジークの口付けに封じられ、アリカの口内をジークの舌に蹂躙される。
歯を丁寧に舐め、肺の酸素を全て吸われる感覚にアリカは気を失う寸前まで追い込まれるが、さらに強い刺激はそれを許さずアリカを翻弄する。
アリカの口が離れるとジークは首に吸い付き、次々と赤い痣を生み出していく。
アリカにはもう自分の身体を支える力はなく、ジークに押し倒される身体はベッドに抵抗なく沈む。
大きく両足を開かされ、さらに深く入ってくるジークにアリカの意識は白く濁り始めていた。
ジークはアリカの尖った肉芽の包皮を剥いて指で押しつぶす。
「ひあああぁ! だ、ダメです……、おかし、くなってしまい、ま、す」
「おかしくなってしまえ。私の前だけは全てを曝け出せ」
深く突かれているアリカは開かれた両足をジークの体に絡ませ、愛する人の温もりが離れないようにがっちりと挟む。
動きづらいにも関わらずジークはさらに腰を動かし、与えられる快感にアリカは息つく暇もない。
自分が出す喘ぎ声がまるで他人事のように聞こえるアリカ。
ジークは目の前で揺れるアリカの豊満な胸が揺れるのを視覚で楽しみつつ、限界に近い自分を鼓舞させ、腰を動かす。
「あっん! あ、ああジークさ、ま! あああっ」
何度も背を仰け反らせ、シーツを力の限り握り締めたアリカの蜜壷はジークのモノをあらん限り締め付けた。
その刺激に耐え切れずジークはモノをアリカの最奥まで突き進み、欲望を吐き出した。
「ひああああああぁっん!!」
魂が吹き飛ぶほどの快感に膣が波打ち、ジークの欲望を全て受け止めたアリカは歓喜の声を上げながら背を折れるほど逸らした。
ジークは眼前で息も整っていないアリカに静かに口付けを落とした。
それに辛うじて反応したアリカはそっと舌を伸ばし、ジークの舌と絡めあった。
まだ自分の膣内で蠢くジークのモノを感じながら、アリカは愛する人との口付けを楽しんだ。
公に出来ない関係だからこそ、相手の体温を感じることが出来る今を二人は存分に楽しんだ。
その後、何度も肌を重ねあった二人。
ジークは眠るアリカにそっと口付けを落とし、月に照らされた城下町を覗き込んだ。
静まり返った自分の大切な故郷。
溜息と共に思い出す夕方の会議。
いくら話そうが、考えを変えない王妃を筆頭とした第一王子一派。
民たちを犠牲にしてまで開かれる戦。
再び、前線に出なければならない自分。
ちらりと横を向けば、ジークにとっての心強い片腕が眠っているが……それすらも奪われた。
その全ての不安を言葉にせず、ジークはアリカに近づき髪をそっと撫でた。
「だが……どういう状況だとしてもお前に危険が及ばないのなら」
少しは王妃に感謝すべきかもしれないなと小さく零した。
明日の朝のアリカの行動が目に浮かぶなと、小さく零してジークは眠るアリカを起こさないよう抱きしめた。
その温もりだけが今のジークを助ける唯一だったから。
次の日の朝、アリカに渡された一つの通知に声を失い、すぐさま自分の主の下に走り出した。
投げ捨てられた通知は、文官に当たりそのまま力なく舞い落ちた。
【配置命令 アリカ=アースガルト
本日付で ペルセフォネス=ブグ王妃直属の護衛騎士に命ずる】
以上です。
続き等はまた浮かんだら投下するかもです。
では。
>>663 乙です
続きに繋がるネタも出てるので続編期待
665 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 20:53:11 ID:2eoUun6y
期待age
GJGJ!
わくわくするなあ
そういや変人王子も久しく見てない
待ってるよ!
667 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 10:56:41 ID:BFu4nUL+
投下待ち
年下の男主人にいびられる健気な女従者が見たい
669 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 16:45:13 ID:/9B7qF+n
そろそろ投下来ないかな
670 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 21:27:49 ID:Iu24S/by
保守
671 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 23:02:25 ID:4Zbg1PEm
投下期待
672 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 03:20:04 ID:J2ojjfCn
人が居ない……
>>1にあるような男妖魔な主人と人間の魔法使いな従者の話が読みたいかも
>>673 おk。指が勝手に動いたので男妖魔主人&魔法使い従者です
出でよ出でよと泣き叫びながら召喚したら、突然家が吹っ飛んだ。
「…………は、……え?」
もうもうと立ち込める粉塵、ぱらぱらと落ちてくる家の残骸。
呆然、唖然、絶句。
コレハイッタイナニゴトカ。
狂瀾怒濤の瓦礫の山を前に、ずびびっとすすった鼻水の音がやたら間抜けに響いた。
全く事態が把握できぬまま、ぱちぱちと瞬きをする。
その拍子に溜まっていた涙が頬の上をぽろぽろと転がり落ちていった。
先ほどまで嵐のように見苦しく渦巻いていた負の感情は、家と共にきれいさっぱり吹っ飛んでいってしまっていた。
残ったのは、ただただ純粋な驚愕のみ。
この涙はただ単に号泣していたその名残だ。
ああ、両の瞼がまだ熱い。
不意にすい、と長く優雅な指が伸びてくる。
恐ろしく鋭利な爪が両目に接近し、とっさに「目玉を刳り抜かれる……っ」と本能的に固く瞼を閉じた。
果たして、尖った爪が無残にも薄い瞼を食い破り目玉を捕え、滝の如く吹きだす血によって視界が真紅に染まりあまりの激痛に絶叫が喉を引き裂き……。
などということは全く起きなかった。
代わりに予期せぬところに衝撃は来た。
ぶに
「!?い、いひゃい……なな、なんれすか」
「ほう、良く伸びる。頬袋かこれは」
「ち、ちがいまふ。やめへくらはい」
「くっ……なんとも間抜けなツラだ。斯様に下等な人間に喚ばれるとは、我も堕ちたものよ」
ぶにぶに
「ひっぱらないへくらはい、ちぎれまふ」
「ふむ。魔力はほぼ皆無、美貌も無い、冴えぬローブを見るからに財も地位も無かろうなあ」
突然両の頬を遠慮容赦なく引っ張ったあげく、何やらとんでもなく失礼千万な言葉を吐き散らかした妖魔は、その秀麗な顔をついと傾けた。
目の前で形の良い唇がにぃと釣り上がる。
悪寒がする果てしなく嫌な予感がする不幸が駆け足でやってくる気配がする、とアイビーは心の中で呪文の詠唱のごとく呟いた。
だがいくら呪文を唱えようともことごとく失敗するのが悲しいかなアイビーの常である。
なるほど、召喚は成功した。
しかし明らかに喚び出したものに失敗したようだ。
見るからに魔力に溢れ、信じられないほどの美貌を持ち、貴族の様な衣服を身に付けた王者の如き態度の妖魔はそうして彼女に愉快気に言い放った。
「さて、身の程知らずの愚かな魔法使いよ。無いものばかりの人間よ。よもや覚悟と代償すら無いとは言わせぬぞ?」
……崩壊した家と共にどうやら日常も崩壊したようだった。
>>674 乙!!!仕事早すぎですwwwww
素晴らしい
美貌も無いとかいってこの美形妖魔さまは、ドジな魔法使いにハァハァしまくるんですよね。
>>674 いくら夏とはいえ全裸待機はキツイぞ
早急にまとめたテキストを投下するんだ!
流れぶった切り失礼。
女家庭教師と坊ちゃま
投下します。
*
「今日はここまで」
分厚い歴史書を閉じると、向かいに座った少年はにこりと微笑みました。
「ありがとうございました、ミス・テイラー」
淡い金髪に青い目、この天使のように美しい少年は、わたしの教え子であり、この屋敷のご当主です。
早くに父親を無くされ、十三歳にして爵位を継がれました。
そのせいでしょうか。
歳の割に随分大人びていて、時折自分が恥ずかしくなることもあるぐらいです。
「あの、先生。お時間はありますか」
今日はきりのいいところで切り上げたので時間は早めでした。
「ええ、大丈夫ですよ。何でしょうか」
坊ちゃまは遠慮がちに尋ねます。
「教えて頂きたいことがあるのです」
「まあ、何かしら」
何て勉強熱心なんでしょう。わたしは感動してため息を漏らしました。
わたしのこれまでの教え子で、これ程出来の良い、賢い子はいませんでした。
ですから、多少甘やかしていたところがありました。
今思えば、それはこちらに付け込む第一歩だったと言えるでしょう。
しかしそのときは、気づいていませんでした。
坊ちゃまは柔和な笑みを浮かべたまま、机を廻ってわたしの傍らに立ちました。
「今日の授業で分からないところがありましたか?それとも……」
みなまで言うことはできませんでした。
坊ちゃまが急にわたしの両手を捩り上げたのです。
「なっ……」
華奢な外見に似合わず、凄い力でした。
「な、何するの……」
抵抗しようとしましたが、無理でした。
坊ちゃまは隠し持ったハンカチで、わたしの手を後ろ手にきつく縛り付けました。
「さて」
満足げに頷くと、坊ちゃまはわたしを見下ろします。
「何の悪戯ですか、坊ちゃま。
せ、先生は坊ちゃまがそんな人間ではないと知っていますよ」
あの天使のような坊ちゃまがこんなことをするなんて。
わたしは動揺していました。
分かったような口を利きながら、何が起こっているのかまるで理解できませんでした。
「何を言っているんです、ミス・テイラー」
坊ちゃまが微笑みます。
「教えて欲しいんです、言ったでしょう?」
「……何を?」
「先生、あなたのことですよ。理由に思い当たりませんか?」
「わたしのことなら、何でも教えてあげます。
こんなことをしなくても……」
「本当に?」
そう言うやいなや、坊ちゃまはわたしの服の裾をめくりあげました。
思わず悲鳴を上げるところでした。
「これでも、ですか?」
大きく脚を開かせられ、下着の合わせ目から肌が覗きそうになりました。
「やめて、お願い」
自分の声が震えていました。
人が変わったような豹変ぶりに、わたしは怖くなりました。
「何でも教えて下さるって、さっき言ったばかりなのに?
ねえ、ミス・テイラー」
「何だっていうの、坊ちゃま、本当に」
「授業中ではありません、ミス・テイラー。今は屋敷の当主として話しているんです」
「は、はい。失礼しました……サー」
「知っているんですよ、うちの使用人に手を出したでしょう」
わたしはかぶりを振りました。
「違います。わたしは、そんなことは」
それに、使用人同士の恋愛は推奨されることではありませんが、ここまでされる謂れは無いはずです。
それでも坊ちゃまは憎しみをこめた表情でつぶやきました。
「僕の従者と逢い引きしているところを見ました。
……顔を赤らめてこそこそと。
言い逃れはできませんよ」
「違うの、それは……っ、ああっ!」
思わず声を上げてしまいました。坊ちゃまが内股を撫で上げたのです。
「ふうん、あいつにはこんな声を聞かせているんだ」
ひとしきり腿の感触を味わった後、今度は上着の釦を外しにかかりました。
「やめて、坊ちゃま、いえ旦那様……お願い、やめて」
「僕にも教えて下さいよ、ミス・テイラー。あなたがどんな声を出すのか」
胸元がはだけられました。コルセットを締めたままの胸に、坊ちゃまが吸い付きます。
「あ、だっ、駄目です、そんなところを」
寄せた胸の谷間を辿り、坊ちゃまの唇は下着の奥、その先端ぎりぎりを強く吸い上げました。
痺れるような快感が襲います。
「あ、あっ!だめぇっ……!」
坊ちゃまは更に、舌先を伸ばし、ちろちろと乳輪の縁を舐めました。
届きそうで届かない、じりじりとした刺激がわたしを高ぶらせます。
「や、あっ……」
「あいつには触らせたんですか?聞くまでもないでしょうけど」
「坊ちゃまっ、本当に、違うの、信じてっ……ぁんっ!」
鎖骨、首筋、うなじへと、巧みに唇が這い、わたしはその度にぴくん、ぴくんと震えてしまいます。
思えば、坊ちゃまがどこでこんな技術を身につけたのか。
このときのわたしには、そこまで意識が回りませんでした。
「随分、反応がいいんですね」
坊ちゃまはそう言いながら、コルセットを解きにかかります。
こんなお屋敷の坊ちゃまに見せるのは恥ずかしいような安物の下着はあっさりと外され、見せるのは更に恥ずかしい肌があらわになりました。
しかし坊ちゃまは躊躇いもなくその先端にしゃぶりつき、ちゅうちゅうと吸いはじめました。
「……っや、や、だめ、は、あぁっ……そんな、あ、んんっ」
嫌だと言いつつ、いつの間にかその胸を突き出している自分がいました。
「いやらしいミス・テイラー」
坊ちゃまはいつものように、優雅に微笑みます。
その中にひとかけの愉悦を含んで。
「あ、ああ……そんな、わたしは……」
恥ずかしくなって、わたしは顔を伏せました。
あのきれいな坊ちゃまに、こんな淫らなものを見せてしまうなんて。
淫らに、されてしまうなんて。
「ほら、こんなに」
「やぁっ……」
「僕みたいな子供にだってこんなに感じるなんて、ミス・テイラーはいやらしい人なんだね」
「やっ、そんなこと……あ、あっ、言わないで……は、はっ、だめ、掻き混ぜないでっ……」
くちゅくちゅと卑猥な音が、静かな勉強室に響きます。
「これは折檻ですよ、ミス・テイラー。
そんなに悦んでいいんですか?」
その合間に自分の喘ぎ声、坊ちゃまの囁くような尋問。
わたしは気が遠くなりそうでした。
「あいつには使わせたんでしょう?どのくらい?もしかして、毎晩?」
「してない……」
「まだ?」
「まだ、も、何も……っ。わたしとその方とは、何もありません」
「じゃあ、この間、顔を赤らめて彼の部屋から出て来たのは何故ですか」
「……人には言わずに済ませるつもりでした。ばれてしまったからには、仕方ありません」
「何を?」
質問の合間にも責め苦は続きます。
「わたしは、……恥ずべき人間です。許されることではないと、思っていました」
攻め寄せる快感に抗いながら、わたしはうわごとのようにつぶやきました。
「坊ちゃま、わたしがお慕いしているのは坊ちゃまです」
不意にわたしの身体を苛む指が止まりました。
「……言い逃れですか」
「いいえ、いいえ」
もはや無我夢中でした。
涙を浮かべた目で、わたしは坊ちゃまを見上げました。
「坊ちゃまは素敵な方です。歳の差など感じさせないくらい」
今度は坊ちゃまが当惑しているようです。
「ミスター・ウィンストンは教えて下さったのです。
坊ちゃまの、わたしへの想いを」
坊ちゃまは呆然と話を聞いています。
「言われて初めて、気がつきました。わたしの坊ちゃまへの気持ちもまた、教師と生徒のそれだけではないと」
あれだけ暴れたからでしょう。手を縛るハンカチは緩んでいました。
「ミスター・ウィンストンはこうもおっしゃいました。
屋敷の主人と使用人、家庭教師と生徒……使用人同士の恋愛以上にご法度でしょう。
遂げるためには、実力行使しかない、と」
坊ちゃまの気が削がれた隙に、わたしは手枷を解き、坊ちゃまにつかみ掛かりました。
今度は坊ちゃまが机に乗り上げる形になりました。
降りようとするところを、わたしは素早く坊ちゃまの下履きを脱がせました。
「まさか」
坊ちゃまのそれは、子供ながらがちがちに硬くなっていました。
わたしの痴態を見て興奮して下さったのでしょうか。
可愛らしい坊ちゃま。
「それからは、坊ちゃまと来たるときのために色々勉強しましたわ。
ご存知でしょう?わたしは勉強が大好きなのですよ」
坊ちゃまが口を開きましたが、返答を待たずにわたしはそれを口に含み、扱き始めました。
形成逆転したことで、どうしたらよいか分からないのでしょう。
坊ちゃまは恐れおののくような、快感に耐えかねるような、歪んだ表情になりました。
まあ、いいお顔。坊ちゃま、気持ちいいんでしょう。
ですが、あの天使のような可愛らしさでこんな悪いことを企んでいたなんて。
せっかく、わたしが時機を図って待っていたというのに。
「悪い子には、お仕置きしなければいけませんね……」
わたしは、坊ちゃまの大事な部分がよく見えるよう脚を持ち上げました。
赤ん坊がおしめを替えるときのような格好です。
流石に恥ずかしくなったのか暴れだしましたが、今度わたしが攻める番です。
容赦はいたしません。
「ミス……で、出ちゃう」
そんなお声を出されたら、ますますやる気になってしまいます。
先端を舌先で突き、筋をなぞり、唇で根本から扱くたびに坊ちゃまの身体がのけ反ります。
ああ、感じて下さっているのかしら。
次第に動きは小刻みになります。限界が近いようです。
「さあ、先に言うことはありませんか?
……もっと、よくなりたいでしょう?」
「ええ……ミス・テイラー、好きです、ミス・テイラー……あ、あっ!」
内股を撫でさすると、ぴくんと身体が震えます。
「わたしもです、坊ちゃま。お慕いしております。
嬉しい……」
わたしは坊ちゃまの上着に手を差し入れ、脇腹を優しく愛撫しました。
「う、ああ……っ!」
とぷっ、と口腔に熱いものが満ち溢れました。
決して美味ではありませんが、このときばかりは甘美な味に感じられました。
有り難くそれを押しいただき、飲み干しました。
*
気づけば、二人とも汗だくになっていました。
「坊ちゃま、嬉しいですわ。わたしを想って下さっていたなんて」
「……僕もです、ミス・テイラー」
怠そうに椅子にもたれながら、坊ちゃまはいささか悔しげでした。
あれから更に二度ほど、して差し上げたのです。
わたしの手技で存分にいかされて、幼いながら矜持の高い坊ちゃまにはいささか屈辱だったようです。
可愛らしい坊ちゃま、女においたをするにはまだ早かったようですね。
ですが、想いのあまり手込めにしようとするなんて、子供のわりに積極的です。
……まだまだ時間はあります。
「……次の授業は、ミス・テイラー、あなたのことを教えて下さいね」
そうですね。
まだ、わたしの『中』はお預けでしたからね。
わたしはにこりと微笑みました。
「ええ、何から教えましょうか?」
以上です。
全裸で待ってた甲斐があったというものです、眼福でした。
淫乱だなミス・テイラー
うん、淫乱だ
つまり最高だった
686 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/18(水) 00:29:07 ID:g2skeU37
待ってる
688 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/26(木) 23:18:15 ID:mSRlzk5L
保守
おかしな二人の続きも待ってる
続き待ってる作品が多すぎる……
691 :
おかしな二人:2010/09/05(日) 14:22:18 ID:xq+1TLny
ちょうど続きを落とそうと思ってたんだぜ
「本当によろしいんですか? お会いにならなくて」
八月。屋敷を囲む青々と茂った木々の間から蝉の声が聞こえてくる。
日差しは強いが、この小山は風の通りがいいので空気の道さえ作っておけば屋敷の中は案外
快適だ。
庭に出られる南向きの窓と入口を開け放ち、英博様は普段通り書斎で読書をされていた。
私は白いレースのカーテンの陰に隠れて、屋敷から離れていくご婦人の後ろ姿を見送っている。
「いい。次も不在だと言って追い返してくれ」
面会を謝絶されたご婦人は英博様のご親戚だという。遠くからわざわざ汽車と馬車を乗りついで
やってきたらしい。名前を告げると英博様は本から顔も上げずに「散歩に行ったと言っておいてくれ」
とおっしゃった。
「どうせ大事な用ではない。縁談の話だ」
「お見合い……なさるんですか?」
「まさか。見合いをしないかとここのところ毎年、この時期にやってくるのだよ。三十男の寡暮らしが
気に入らんらしい」
「そうですか」
692 :
おかしな二人:2010/09/05(日) 14:22:42 ID:xq+1TLny
憮然とした英博様がおかしくてくすりと笑い、同時にどこか安心している自分に気付いた。
「でも、挨拶ぐらいされては……」
「あの手のご婦人は顔を合わせたが最後、自分の言うことを聞くまで放してもらえないから会わない
ことにしている。それだけで本が三冊は読める。時間の無駄だ」
まるでそれに賛同するように、ざあっと風が開け放った窓から部屋の中を通り抜けた。それに煽られ
机の上に積まれた読了後の本の山の一角が崩れた。
「あら大変」
急いで駆け寄り本を拾う。どれも辞書のように分厚く重い。
「ああ、いい。自分でやるよ」
言って英博様はまるで板切れでも拾うような調子でひょいと私の手から本を抜き取った。英博様の
手はかなり指が長く大きい。私が抱えるような本も片手で持てる。
「厄介な客も帰ったことだ、君は好きなことをしたまえ」
「……はい」
「? どうかしたかね」
「え?」
「随分ぼんやりしているじゃないか。体調でも悪いのかね」
「いえ、そんなことは」
「体調が悪いのは私よ、ヒデヒロ」
気がつけば、書斎の入口にローズさんが立っていた。いかにも気だるげにドアに体を凭れている。
いつもは既に帰国の途に着いているらしいが、今年は秋口までこの屋敷に滞在するつもりだという。
「何、この異常な湿気。日元の夏っていつもこうなの? もういや、町に逃げようかしら」
「町中に比べればここはまだ天国だと思うがね。石畳は熱を吸収して中々逃がさんからここよりも
数倍暑いはずだ」
ローズさんはまるで十年分の宿題を一度に出された学生のような顔をした。
「失礼します」
ローズさんの横を抜け、逃れるように書斎を出た。
涼しいと思っていたが、案外そうでもないらしい。夏の陽気に少し顔が火照っている。
――そのせいかしら。
あの手に少し触れてみたいなどと、はしたないことを考えてしまったのは。
*******************
「ねぇ、どう思ってるのよあの子のこと」
693 :
おかしな二人:2010/09/05(日) 14:23:22 ID:xq+1TLny
「あの子とはどの子のことだね」
「セツに決まってるでしょ、白ばくれないで」
目をやると、書斎の入口でローズがこちらを睨んでいた。
「白ばくれてなどいない。何のことだ」
「どうするつもりだって聞いてるの」
少しイラついているらしく、組んだ腕を右手の人差指が叩いている。
「ちゃんと彼女にふさわしい環境を用意するさ。君の国が好ましくないというなら他の国に当てを探す」
「あのねぇ……そういうことじゃないのよ、私が言いたいのは」
「ではどういうことだね? 君にしては歯切れが悪いじゃないか、はっきり云いたまえ」
「……あ〜〜〜〜、もう!」
凭れていたドアから離れてこちらに歩み寄り、ローズはびしりと私を指さして捲し立てた。
「あなたってどうしてそうつっけんどんなのかしら!? 鈍感もそこまでくると罪になるわよ!?」
「だから何の事を言ってるのかはっきりしてくれたまえ。主題の明確化なしに議論は展開できん」
「……やめた。時間の無駄だわ」
「そうか。では出て行ってくれたまえ。読書したいのでね」
「わかったわよ!」
つかつかと速足でドアまで戻り、扉を勢いよく閉める――直前、ぴたりとそれを止めて、ローズは
冷静に言った
「……ヒデヒロ、これは友人として忠告しておくけど、もしあの子が大切なのなら一度ちゃんと話し合った
ほうがいいわよ」
「……? どういうことだ」
「あなたの望みとあの子の望みがイコールだと考えないほうがいいということよ」
そう言ってローズは静かに扉を閉めた。
――イコールでない?
学習意欲旺盛な彼女のことだ、海外に留学できることを喜ばないわけがない。
まだ海綿のようなその脳髄にこの狭い島国では見ることも聞くこともできぬものを無限に吸収して
帰ってくるだろう。そしていずれ大事を為すに違いないのだ。
先だってローズからその話をしたときには断りを入れたらしいが、それは話が突然だったからだ。
あの聡い娘のことだから船賃や学費などの金銭面を気にしているのだろうが、それについては私が
負担すればいい。
才能の卵を、何故ここで腐らせることができよう。
694 :
おかしな二人:2010/09/05(日) 14:24:36 ID:xq+1TLny
「……」
だが、ローズの言葉は気にはなる。彼女があそこまでいうからにはそれなりの根拠があるのだろう。
――そういえば。
もし今年の春私が彼女の身請けをしていなければ、今頃肥田のような下劣に買われ異国の空の
下にいたかもしれない。
――海外に行くことに、自らの身にありえていたかもしれない負の可能性を抱いているのだろうか?
気がつけば、長いこと考え込んでいたらしい。遠くで柱時計が二時を告げていた。
「考えあぐねていてもしようがない」
我ながら馬鹿であった。本人に直接聞くのが一番早い。
三時のティータイムはまだである。ここ一月ほどの夏の陽気のおかげで洗濯物は既に取り込み済。
掃除は朝に終えていたから、今頃は自室で私が貸した本や自分で買った本をもとに勉学に勤しんで
いるはずだ。
私は読んでいた本を書架に戻し、数時間ぶりに書斎のドアを開けた。
規制が終わってイヤッフウウウ!なのでもう一本
投下。これまたエロまで長くて申し訳ないが
楽しんでいただければ幸い。
男主人×女従者?
とても晴れた日のことだった。
赤、ピンク、黄、白、と色とりどりの花が咲き誇っている庭の端、背の高い茂みに囲まれて
誰かが泣いている。
庭を囲む壁の向こうからその声を聞きつけた女の子がいた。烏の濡れ羽色の長い髪を
後ろでひとつに結わえ、勝気な雰囲気を宿した目をしている。貴族の雰囲気さえさえ感じ
させる優れた容貌であったが、その格好はといえば薄汚れた衣服の端から腕も足も露に
したみすぼらしい格好で――ようするに貧民であった。
見上げた壁はこの土地を治める領主の屋敷のそれである。分別のつく大人ならばまず
近寄ることもしないそれに、彼女は近くの木にするすると登ってひょいと飛び乗った。壁の
近くまで枝を伸ばしていた木につかまって庭の中に着地すると、女の子は声の方向へ
向かった。
茂みを分け入り、少し開けた場所に出て、女の子は声の主を見つけた。
紅い、赤い、火か血のような色をした髪の男の子が、しくしくと一人で泣いていた。
「どうしたの?」
「……おうち、わからくなっちゃったの」
涙にぬれた瑠璃色の瞳が女の子を見つめた。
「どんなおうち?」
「しろいおうち。おうちのまえにふんすいがあるの」
女の子は壁に上ったとき、広い広い庭の奥のほうに噴水があったのを見ていた。なら
あっちに歩いていけばこの子の家があるのだろう。
「おうちにつれてってあげる。いっしょにいこう」
「ほんとう?」
男の子は、女の子の手を掴んだ。二人は一緒に歩き出した。
**********
「それでは、明日のラーグ公のお茶会への御召物はこれでよろしいですかな?」
「ああ、いい。いいよ。もうそれで」
シドニー・オートレッドはソファーに深々と腰掛け、執事の問いかけにぞんざいに
そう答えた。
ぞんざいになるのには理由がある。彼の部屋はまるで仕立て屋が店をそのまま
持ってきたような有様で、天蓋付きのベッドやテーブル、挙句は床に至るまで、どこ
もかしこもにも、見立てに来た人間たちのお眼鏡に適わなかった哀れな洋服たちが
一面に死体のように折り重なっていた。
それらひとつひとつに袖を通して着て見せたシドニーは、明日の茶会本番を待たずに
既にぐったりと疲弊している。
「坊ちゃま、しっかりしてくださいまし! 明日は大事な――」
「はいはい、わかってる」
とある世界の西方に位置する国、ウェストリア。オートレッド家はそのウェストリアでも
指折りの有力貴族である。
名は体を表すとはよく言ったもので――この場合、体から名がついた可能性もあるが
この貴族がいつ頃からその「体」を持っていたかは定かではない――オートレッド家は
代々赤毛の一族であった。
現在の当主、ハルベルト・オートレッドの姉はウェストラント王十世の数多い側室の
中でも格別の庇護を受ける存在である。しかも十世には子がなく、次期王位には
オートレッド家の嫡男が選ばれるであろうという噂が国中に流れている――もっとも、その
出所にハルベルト・オートレッドの息がかかっているだの、かかっていないだのの噂も
同等に流れてはいるのだが。
明日シドニーが訪ねるラーグ公は国の執政官だった。シドニーの父、ハルベルトは
この茶会を機に、ラーグ公からシドニーの王位継承に対する後押しをもらいたいらしい。
「わかったから、さっさと出て行ってくれ。服も決まったんだ、もういいだろ? 明日は
大事な茶会なんだ、さっさと寝させてくれよ」
「むぅ……しっかりしてくださいましよ!」
「わかったわかった」
散らばった服を枯葉でも掃き集めるように片付けさせるが早いか、シドニーは部屋に
いた全員を追い出して、大きく息を吐いた。
そして、くるりと窓に向き直ると、大きなガラス窓を開けてひそひそ声で呟く。
「おい、出てこいよ。いるんだろ?」
しかし、窓から見下ろす屋敷の庭には木の影が落ちるばかりで動くものは何もない。
「あれ……? いると思ったんだけど」
「ここだよ」
声はシドニーの頭上からだった。
見上げれば、屋敷の屋根に腰を下ろした女の影が夜空を背景に浮かび上がっている。
月の光が風になびく髪を映し出していた。シドニーは女の姿を認めてにいと笑う。
「よお。待たせたな。入れよ」
「いいのかい? 明日は大事な茶会なんだろ?」
「かまうもんか。今日一日着せ替え人形やってやったんだ。その上お前と酒が飲めない
んだったら明日の茶会なんかばっくれてやる」
「言うと思ったよ。どいとくれ」
二、三歩シドニーが窓から離れたのを確認して、女は屋根からひょいと飛び降りた。
部屋の寸前で屋敷壁面の飾りに捕まって体を振り子のようにしならせ勢いをつけると
そのまま部屋に飛び込んでシドニーの眼前に着地した。
後ろでひとまとめにした髪がしなやかに揺れる。勝気な目がシドニーを見て微笑んだ。
「お疲れ。じゃ、一杯やるかい」
「おう。飲もうぜ、ミコト」
シドニーは破顔した。
「よし、これでどうだ。ツーペア!」
ワイングラス片手に、ミコトは器用にカードをひっくり返す。
先程まで洋服に埋もれていたテーブルは、ミコトが持ってきたトランプとポーカー用の
賭け品である。賭け品とはいっても大したものではない。彼女が自分の家で作ってきた
菓子やら酒のつまみやらで、今夜はほとんどがシドニーの胃袋に収まっていた。
「残念でした。フラッシュ」
シドニーはひょいと手札を机の上に投げ出した。一、三、七、ジャックにキングときれいに
スペードが並んでいる。
「……あ〜、また負けた! 畜生、なんであんたそんなに運が強いんだよ!?」
「お前が悪いだけなんじゃないか?」
「うるさいねぇ、もう一回だ! ……あ、でももう賭けるもんがないや」
「じゃあ、こういうのはどうだ? 買ったほうが負けたほうに一回だけ好きなことを命令
できるってのは」
「お、いうじゃないか! よしのった!」
言いながら楽しげにカードを混ぜ始めるミコトを見て、シドニーはふわりと笑う。
こんなふうに気安いやり取りをできるのは、彼の周りではもうミコトだけだ。
彼女と知り合ってから、もう十年以上になる。
その間、シドニーの立場は有力貴族の嫡男から王位継承候補へと変化し、周囲の
人間もだんだんとその態度を変えていった。ある者は媚び諂い、ある者は擦り寄り、
あるものは硬化し、そしてまたある者は敵意を向けた。
そんな変化の中、ミコトだけは変わらなかった。彼女はシドニーの立場など関係ない
場所にいたからだ。
だから、シドニーはミコトにだけは自分の心の全てを見せることができる。
今や彼女だけが、シドニーにとって親友と呼べる唯一の存在だった。
**********
「あ〜〜〜〜! ちくっしょう、結局負けちまった!」
「はは、何命令してやろうかな」
「……そんな性格でなんで女にもてるんだろうね。あたしにゃ分かんないよ」
けらけらと笑うシドニーを見ながら、自分の言った言葉に一部嘘があることをミコトは
分かっていた。
出会った時、一瞬燃えているのかと思った、背の真ん中まで伸びた紅い髪。
宝石を溶かしたような瑠璃色の瞳。
幼かったころの抱きしめたくなる可愛さはなくなったものの、それはそのまま人形の
ような精悍な顔立ちへと成長を遂げている。
気のないミコトでさえ見惚れるほど、シドニーは美しかった。
「ま、顔はかっこいいからな、俺。時期国王候補だし」
「あーあ、将来あんたの女房になる女が不憫でならないよあたしゃ……」
「ひどいなぁ、俺の心配してくれんじゃないのかよ」
「あんたは心配いらないさ。殺してもしなないよ。とっとと国王になっちまいな。で、なに
すりゃいいんだい、あたしゃ」
「……まだ考えてないや」
シドニーは言って後ろ頭を掻いた。
ぽかんと呆れて一瞬のち、ミコトはあははと大声で笑った。
東の国からの流民であるミコトに、こんな風に接する上流階級の人間など、シドニー
くらいのものだろう。貴族などいなくなってしまえばいいと思うことはよくあったが、彼を
嫌いになれないのはこのどこかお人よしなところがあるからだった。
「なんだよ、笑うことないだろが!」
「ごめんごめん。まぁ、あんたがこんな平民に頼むようなことなんて何もないだろ。代わり
といっちゃなんだが、またワインでも持ってきてやるさ」
「うむ、よし。それで許してやる」
「今更偉ぶっても全然迫力がないんだよ!」
軽口と笑い声は、結局夜遅くまで続いた。
**********
「ちゃんと明日の茶会に出るんだよ!?」
「はいはいわかったわかった」
「はいは一回でよろしい!」
「は〜い」
「よし! じゃ」
「おう、また来いよ」
軽く手を振ってから音もなく窓から飛び降り、ミコトは庭の暗がりの中へと姿を消した。
故郷で「カゲ」と呼ばれるスパイの家系だったというだけあって、その気配の消し方は
見事なものがある。
ベランダでひとりになったシドニーは一瞬前までミコトがいたあたりの茂みを黙って
見つめていた。
本当は。
本当はミコトに頼みたいことが一つだけ、あった。
「……ずっと……俺の友達でいてくれ」
つぶやいた言葉は、すぐに夜のしじまに吸い込まれて消えた。ミコトの影はもう庭の
どこにもなかった。
長ったらしい上、エロまで遠距離恋愛な作品なので
嫌な人がいたら二つともスルーよろ。
>>697 ×ミコトが持ってきたトランプとポーカー用の賭け品である
↓
○打って変わってミコトが持ってきたトランプとポーカー用の賭け品で埋もれている。
書きためてたのに間違うのはどうかと思うんだぜorz
(゚∀゚)キテタコレ!!
じれったい連中は大好物だ!
どっちも続き待ってる!待ってる待ってる!
どっちも好物その2参上
まってる。ちょうまってる!
イイヨーイイヨー
うわーどっちも乙
良い話を2作も書けるとは素晴らしい
他の作品も続き待ってる
705 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/10(金) 06:06:40 ID:4p1p3m3O
投下待ち
美熟女な未亡人右筆と美少女な女騎士で親子丼とか読みたい
707 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/13(月) 18:34:13 ID:LAu61Cfe
そして娘が姉妹なら親子丼と姉妹田楽が同時に味わえる
リトレさんの続き読みたい……
709 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/15(水) 01:47:02 ID:lvq50OLe
神の投下待ち
710 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/15(水) 01:54:47 ID:/GElZ5Dy
てす
711 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/17(金) 18:01:33 ID:pnMgvn0j
また規制か……
おまた。
その夜、ミコトはいつものように一本の赤ワインを持ってきた。
それは彼女からすれば何年かに一度手に入れられるかどうかの上物で、二人は
楽しくポーカーをしながらまたたく間に瓶を開けた。
このワインが、シドニーとミコト――そして一つの国の運命を大きく変えることになる。
********
「あーあ、結局また負けかぁ」
「ほんとに弱いな、お前」
テーブルに手札を投げ出してミコトはシドニーを睨みつけた
「うるさい! しょうがないなぁ、またワインを持ってくるよ。今日みたいな年代物は
当分無理だけどね」
珍しく手に入った上等のワインだったので、今日はミコトも相当飲んでいる。酒には
それなりに強いが流石に顔が上気しているのは隠せなかった。
「そういえばお前がヴィンテージを持ってくるなんて珍しいじゃないか。どうしたんだよ」
「まぁ、たまには、ね」
わずかに言い淀んだミコトにシドニーは気付かなかった。
そのワインは、ミコトがいつもシドニーへの土産を仕入れる貧民街の酒屋の主人から
特別に貰ったものだった。店を閉めるので、いつも贔屓にしていたミコトにとっておきを
くれたのだ。
「ここんとこ貴族階級からの締め付けが苦しくなってきてね。酒の仕入れも中々できない。
二つとなりの貧民街は焼き討ちにされたとも聞いてる。ここらが潮時だよ。嬢ちゃんも早く
他の国に逃げたほうがいい」
主人はそう言ってミコトにワインを手渡した。
「鬱憤がたまった貴族様の気晴らしのためにわざわざいいもん持ってきてやったんだよ。
感謝しな」
「感謝か……」
わずかに残ったワインをグラスの中で弄びながら何か考えていたシドニーは、不意に
よし、と言ってグラスを置いた。
「ミコト。かお」
「?」
手招きするシドニーにつられて、酔いが回ったミコトは訝しむこともなくシドニーのほうに
顔を寄せた。その頬に、流れるような動作でシドニーが手を添える。
「え――」
一瞬、酔ったせいで頭がおかしくなったのかと思ったが、目の前にあるのは間違いなく
シドニーの顔だった。同時に、頬に柔らかな感触。口づけられたのだと気付いたのは
頬から唇が離れた後だった。
「ちょ……、なにすんだい!」
「何って、感謝だよ」
「なんで感謝が接吻なんだよ!?」
「親愛の意味を込めてするだろう。お前の国じゃやらないのか?」
「するわけないだろ! この馬鹿!」
「そりゃ悪かった。すまんすまん。頬だからOKってことにしといてくれ」
顔を更に赤くして怒るミコトに、シドニーはけらけらと笑った。
子どものように笑う彼を見て、内心ミコトは安堵していた。
――そうさ、こいつが王さまになるんだ。
今は少し苦しいけど、もう少しでシドニーが王さまになる。こいつなら、私たちのような
貧しい人間の暮らしをよくしてくれる国を作ってくれるはずだ。
大丈夫さ。きっと大丈夫――。
********
異変は、夜半過ぎに起きた。
最初に気付いたのはミコトだった。音は殆ど聞こえなかったが、開け放った窓の外から
夜に似つかわしくない空気を感じ取った。
「……なんか、外が変じゃないかい?」
「どうした?」
ミコトの言葉にテラスへ出たシドニーが、僅かに地平が赤く染まっているのを見つけた。
丘を一つ越えた、ミコトの家があるオートレッド領と隣のノール領の境の貧民街付近だった。
時計は十二時半を指している。日の出にはまだ早い。
「ちょっと待ってろ、爺を呼んで聞いてみる」
数分後、呼び出された執事が部屋のドアを叩いた。ミコトは天蓋付きベットの下に潜り込んだ。
この十数年、部屋に人がくるたび、見つからないようミコトはこうして家具の中や下に隠れた。
大抵、ほんの少しで来訪者は帰っていき、ミコトとシドニーは隠したトランプを取り出して明け方
近くまでポーカーを楽しむ。
なにかざらざらとしたものが肌をなでていくような不安を感じながら、それでもいつも通りの夜が
くるのだと信じて、ミコトはシドニーと執事の会話に耳を澄ましつつ息を殺した。
「貧民街の掃討?」
ぎくり、と体が強張った。
――聞いていないぞ。どういうことだ!
――貧民街に潜む窃盗犯の捕縛のためと称しノール公配下の軍勢が――
――明らかな侵犯行為ですが窃盗犯がいるのは事実――ウェストリア法庁の証書が――
――オートレッドの名を貶めるのが狙い――
――貧民街を一掃すれば治安の維持と不当侵犯の妨害の一石二鳥だと――
貧民街に軍隊が向かったこと以外、聞こえてくる声はミコトの頭の中を通り抜けて行った。
町に向かったのがノール公の軍隊でもオートレッド公の軍隊でも、貧民街の危機は免れえない。
もう町までついてしまったのだろうか。もしまだなら早く知らせなければならない。あそこには父も
母も兄妹もいる。「影」の一員であった父と兄なら、事の仔細を知れば動いてくれるはず――
事態の粗方を聞き出し、シドニーは執事を部屋から出した。クローゼットから外套を取り出して羽織り
ながらベットのシーツをめくる。
「ミコト、落ち着いて聞け。今、爺に馬を用意させた。俺が行ってなんとか収める。お前はここで――」
だがそこにミコトの姿はなかった。
「あいつ、どこへ……!」
泳いだ視線が、一点で瞬時に止まった。
窓。
開け放たれた窓。
「あの馬鹿……!!」
シドニーは部屋を飛び出した。
********
ミコトは風のように駆けた。
家族の危機に、酩酊していたはずの頭ははっきりと覚醒したように思った。
だが彼女は気付いていなかった。いつもよりその足音がずっと聞こえやすいことに、気配を全く隠せて
いないことに。酔いは全く覚めておらず、むしろ彼女の平常心を奪っていることに。
二十分ほど後、ミコトは町はずれの丘のふもとにたどり着いた。もうそこからは耳をつんざくような悲鳴や
怒号や鳴き声が、聞こうとせずとも聞こえてきた。
「……! 間に合わなかった……!」
町は既に阿鼻叫喚の有様だった。火の粉が夜空を赤く明るく焦がしていた。建物という建物に火が
放たれ、飛び出してきた人々を鎧を着けた兵士が追い立て、剣を突き立てる。
――父さん、母さん、みんな。
見つかればミコトもただでは済まない。
家への最短経路を頭の中で組みたてて、ミコトは走り出した。
ミコトが選んだ道にはまだ火の手はそれほど回っていなかった。が、家々を焼く炎によって辺り一帯
灼熱地獄と化している。額や首筋を伝う汗を拭うこともせず、ミコトは駆けた。
――!
ようやく家が見えた。幸いまだ火はそれほど勢いがない。
駆け寄り引き戸に手をかけたミコトは、ふとそれを止めた。
「……これは……」
戸と鴨居に連なった鋭利な刃の跡。それは緊急時の「影」の暗号で、もうその家の人間が戻らない
事を意味していた。
――よかった。気付いたんだ。逃げたんだ。よかった……。
安堵に胸を撫で下ろした瞬間。
がしゃり――重い金属音。
振り向くと、鎧の兵士二人と目があった。
――まずった!
「待てッ!」
怒声に近い制止を背に受け、ミコトは弾かれたように逃げだした。
だが追手は鉄の鎧を身に付けている。男の「影」にも劣らない脚力を持つミコトにとって、重装備の
人間を撒くことなど造作もないことだった。
燃え盛る通りの角をいくつか曲がり町の外に出て、後ろに兵士の姿が見えないことを確認してから
ミコトは近くにあった茂りの深い木にするりと登った。
町を中心に周囲の様子を窺う。案の定、遠くに馬数十頭と兵士の姿を見つけた。
あの装備で領の外れの貧民街に夜襲をかけるには足がいる。今は町に入るため馬を下りて
いるが、もし町の外で見つかればミコトの足といえど逃げることはできない。それに安全を確認した
とはいえ、家族がどこへ行ったかがわからない。家の中に何かしら残してくれているかもしれないが
確かめる前に兵士に見つかってしまった。今は戻れない。
――ここでしばらく待つしかないか。
「くそっ、どこに行った!」
「そう遠くへは行っていないはずだ。探せ!」
先程の兵士二人が、ミコトのいる木のほうへとやってきた。
――上にいるとはわかるまい。ここにいれば安全だ。
それは、本来の彼女であればするはずのない油断、だった。
家族の安全を知ったためもあったが、何より覚めてなどいなかった酒気が動きまわったことで完全に
回り、本人の気付かないうちに彼女の頭を鈍らせていた。
疲れからミコトは木の幹に体を預けた。
ミコトの腕に当たった枯れた小枝が、パキンと存外大きな音をさせて折れた。
********
何かが燃える臭いを含んだ風を受けながら、シドニーは燃える町へと馬を全力で奔らせた。
おそらくミコトの足ならばもう貧民街に着いているはずだ。だが、遠目から見ても町は火に覆われ
ている。おまけにそこに住む住人を殺すことを目的とした騎兵隊が派遣されている。もし奴らにミコトが
見つかってしまえば。
――間違いなく殺される。
手綱を握る手に力が入る。早く。兵士達よりも早く、ミコトを見つけ出さなければ。
――俺はお前に別れなど言いたくない。
「!」
町の入口付近に馬の群れが見えた。おそらく騎兵隊のものだろう。馬をまとめていた下級兵は、
近づいてくるシドニーに一瞬剣を抜きかけたが、その赤い髪を認めてあわてて鞘に戻した。
「おい、これは何の騒ぎだ」
何も知らず通りかかったように装い、シドニーはきつい口調で兵士を糺した。
「は、はい、隣領の窃盗犯が貧民街に逃げ込んだとの情報が寄せられたため、その討伐を行っている
ところでして――」
「愚かな、貧しくとも我が国に暮らす民であろう。こんなものは討伐ではなく虐殺だ! すぐに指揮官に
兵を引き火を消すよう命じろ!」
「し、しかしシドニー様――」
兵士の言葉をさえぎるように、悲鳴が響いた。
無意識のうちにシドニーはそちらに手綱を向けて馬の腹を蹴った。誰かの悲鳴だった。それがミコト
である保証はない。
だが、行かねばならないとシドニーの勘が告げていた。
一本の木の下に、兵士が二人屈んでいた――否、片方の兵士は女に馬乗りになっている。
「何をしている!」
突然に激昂を浴びて、兵士はびくりと振り返った。組み敷かれた女の顔はよく見えない。
だが地面に広がった女の髪が見えた。美しい烏の濡れ羽色。
「貴様等――!」
「放せッ!」
聞きなれた声が響いた。自分を組み敷いていた兵士を突き飛ばして女がシドニーのほうに突進した。
瞬時にもう一方の兵士がそれを地面に押し倒す。
地面に顔を押し付けられて尚、その勝気な目がシドニーに何かを訴えようと見上げている。右の頬は
殴られたのか赤く腫れ上がり唇の端からは血が垂れている。服は破かれ、白い胸元が谷間まで覗いて
いた。
「こ、これはシドニー様、一体どうしてこのような場所に……」
「さるご婦人の邸宅からの帰りだ。これは一体どういうことだ!?」
「は、この貧民街に賊が忍び込んだため、その掃討を――」
「私が言っているのはそんなことではない! 早く――」
「やめろっ!」
「静かにしろ、この女!」
兵士は気付かなかったが、ミコトの制止は自分へのものだということに気付き、シドニーは続く言葉を
飲み込んだ。
瞳に宿るものは懇願ではない。
――何だ、何を言いたい? 何故止める? 何故どうしたいと言わない?
そこでふと気付いた。
――言わないつもりか。
言えばシドニーと知己の仲だということがわかってしまうから。
この十数年、密かに、密やかに、シドニーとミコトは友情を育んだ。二人の関係を知る者は互い以外に
誰もいない。
――貴族様が野蛮な流民と付き合いがあっちゃ体面が悪いだろ?
そう言って、ミコトは誰にも見つからず、誰にも話さずシドニーの心を支えてくれた。
噂というのは尾ひれをつけて広がっていくもので、政敵とする貴族の名を貶めるために、そういう謀を
使うものも少なくない。そしてそれが原因で爵位を剥奪された貴族も事実として存在した。
真意のほどは定かではないが、今この街には賊がいることになっている。もしそのひとりかも知れない
人間とシドニーが知り合いであるとこの兵士達が知れば、オートレッド領のみならず、国中に噂は広まる
だろう。形は違えどオートレッドの名を堕とすというノール公の策略に嵌ってしまうことに変わりはない。
家名の没落は、そのまま一家の断絶に繋がる。
――どうする。
もし立場を捨てられるなら今すぐ捨てて友を助け起こしたい。だがそこまで無謀になれるほどシドニーは
愚かになれなかった。家族とそれに連なる人々を容易に捨てられるほど非情でもなかった。
しかし、今ここで助けなければミコトはきっとこいつらに犯され弄られ、最低の死を迎える。
――どうする。
見捨てるのか? 命をかけてまで自分を思ってくれている友を。
********
――言うな、シドニー。
ミコトは沈黙したまま、どうにか自分の意思を伝えようとシドニーを見つめた。
馬上のシドニーは僅かに混乱の表情を浮かべたが、やがて何かに気づき、明らかに迷った。どうにか
ミコトの思惑は伝わったらしい。
――そうだ、それでいい……お前のお荷物にはなりたくない。
お人よしの貴族など余程の運がなければ生き残れない。下手に身分の違う自分との関係を知られれば
シドニーの未来に関わる。
万が一こいつらが事に及ぼうとしたとき、最悪、事後に油断した隙に逃げられる可能性はある。自分の
ようなもののために、友達の将来を棒に振らせたくない。死と犯されることへの恐怖は体を芯から震わせて
いたが、それでもシドニーをこの場から遠ざけたかった。
兵士たちは、黙り込んだ貴族に首を傾げている。いつまでもこうしているのは危険だった。
――……?
不意に、シドニーの雰囲気が変わった。俯いていた顔を上げる。
ミコトを見下ろす瑠璃色の瞳に、いつものお人よしのシドニーはいなかった。
そこから感情を読み取ることはできない。固まった人形のような顔が、遥か下方を見るようにミコトの方を
向いていた。
燃え盛る町の炎の明かりが、赤い髪をまるで燃えているように輝かせる。
まるで、人間ではない別の生き物のようだ。
――こいつは、こんな顔だった?
見知らぬ友の姿は悪寒が走るようでいて、それでも目を離すことができない力を持っていた。
「『これ』は私がもらっていく」
よく通る落ち着いた、それでいて有無を言わせぬ声だった。
「で、ですがしかし――」
「疑いが晴れるまで私が預かる。罪人と分かれば連れていくがいい。中々器量のいい女ではないか」
馬から降り、引けと命じるとミコトを抑えつけていた兵士は横へと退いた。腰に差していた剣を音もなく
抜くと、ミコトの右肩へその峰をひたりと置く。この国に伝わる契りの儀式だった。
「忠誠を誓え。そうすれば助けてやる」
――そういうことか。
ミコトは瞬時にシドニーの考えを理解した。
彼は身体目的に女を拾ったように見せかける気なのだ。シドニーのものになったとなれば、兵士たちは
もうミコトに手出しできない。女好きだの何だのの噂はとっくにあるからオートレッド家に対する被害もない。
シドニーにもミコトにも損にならず、何もなくこの場から逃れられる方法は、最早それぐらいしかなかった。
――頭がいいよ、あんたは。
シドニーの機転に感謝しつつ、ミコトは痛む身体を何とか動かしシドニーの足元に両手を添えて額づいた。
まるで幻でも見せられている気分だった。だが焼ける町の熱さも腫れあがった頬も、右肩に添えられた
剣の冷たさも全てまごうことなき現実だった。形だけとはいえこんな風にシドニーの前に跪くことになるとは
夢にも思わなかった。
「忠誠を……御身に仕えることを、誓います」
応えた「許す」という声は、少し震えていたような気がした。
最後だけ改行が変に\(^o^)/オワタ
コピーペーストがまともにできないパパを許してくれ
パパ待ってたよー!!
いやいやGJ!! ここから二人の関係がどうなるのかwktk
>>719 GJ!!
でも兵士達がミコトちゃんを犯そうとしてるのを見つけた時
適当に野蛮な流民の女相手でも、強姦なんて許さないとか
賊の掃討中にサボって女を犯すな、って怒る方向で場を凌げなかったと思ったが
元から貧民街の掃討時には報酬として、ある程度強姦を容認してるとかで
その場で静止するには自分が気に入ったから以外の理由だと
厳しい背景があったんだろうか?
ともあれ続き待ってます。
723 :
718:2010/09/21(火) 20:52:58 ID:xcNIOa5V
>>722 考えてた理由はとりあえず2つ。
1.
シドニーは結局のところまだ痛い目を見たことがない脛かじりの甘ちゃん
にすぎない。
故にまだ感情で走ってしまうので、村到着まではあれこれ考えられて
いたけど、大切な友人の危機――しかも辱めを受けようとしていたところに
突然遭遇してしまったので、
>>716の真ん中ぐらいはもう衝動で動いている。
(思考の表現を一切なくすことでそれを表現できないかと思ったんだけど
分かりにくかった。失敗だな。すまん)
ところがミコトの制止でようやく自分の言動が非常に危うかったことに
気づいて動揺し、その間うまくフォローができなかったので沈黙してしまい
兵士達が怪しむところまできている。正義を語るには少しタイミングがずれて
しまったので、意を決して違う方向に舵を切った。
2.
シドニーにとって、ミコトは野蛮な流民の女ではなく大切な友人。
1と重複になるが、その友人の危機的状況に至って完全に感情で動いて
しまっているので、無意識が自分の体面よりミコトの救出を優先してしまい
嘘をつく余裕がなくなっている。
我に帰ってもそれがすぐに抜けず、友人を「野蛮」と貶すことを潜在意識で
拒絶していたが、このままでは自分とミコト両方が危ういことに気づいたので
この場を切り抜ける方法を冷静に判断した。
この2つの複合的な感じかなぁ。
後だしジャンケン的でごめんね(´・ω・`)
続きwktk
725 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/27(月) 01:58:54 ID:A4q7VLKm
続き期待
ようやくスレタイに反さない展開にできてほっとしている。
「すまない」
貧民街から離れ誰もいなくなったのを確認してから、馬上で自分に掴まるミコトに
シドニーは言った。
「あの場は、ああするしか思いつかなかった」
「謝ることはこっちだ。あんたを面倒事に巻き込んじまった……ごめんよ」
言ってミコトは、こつりと背中に頭を預けた。腰に掴まる腕が少し力んだのが分かる。
兵士に殴られたときかばったからか、元来白いそれは痣だらけだった。
それならむしろ、この一件を引き起こしたハルベルトにこそ非はある。そしてそれを
知らなかった自分にも。
胸が痛んだ。きっとミコトが受けた痛みは、こんなものの比ではない。
「……町まで送る。とりあえず医者に診てもらおう」
一番近い町まで馬をとばし病院の戸を叩く。数分して、漸く寝ぼけ眼の老医師が出て
きた。
「夜分すまない。至急こいつを診てくれ」
馬からミコトを下ろそうとその手を引いた。瞬間、その身体がぐらりと不自然に傾いて
シドニーは慌ててそれを抱き留めた。
「どうした?」
「ごめん、足が……」
「足?」
見れば、腕と同じく痣だらけの足は、右の方の脛あたりが酷く腫れ上がっていた。骨が
折れているのかもしれない。痛むのか、ミコトは顔を青くし、脂汗をかいている。
「どうして黙ってた!? 馬に乗っているのも辛かっただろ?」
「……ごめん」
――ああ、そうか。
いくら痛むといっても、結局は病院に行くしかない。一番近いここで十数分はかかった。
そんな距離をシドニーが担いでいくのは無理がある。
「……もういい。じっとしてろ」
シドニーはミコトの体を肩に担いだ。軽かった。そして柔らかかった。
「い、いいよ。肩貸してくれるだけで!」
「これぐらいやらせろ……気付かないですまなかった」
ミコトは僅かに考えたようだったが、やがて身体の力を抜いた。少し肩にかかる重みが
増したのを感じ、シドニーはミコトの腰にまわした腕に力を入れた。
* * * * * *
その日のうちにミコトはオートレッドの屋敷に連れてこられた。足や腕にまだ包帯が巻かれ顔の
傷も痛々しい彼女が屋敷の外れの女中部屋に連れて行かれるのを、シドニーは自室の窓から
見つめていた。
――すまない。
届かないとは分かっていたが、シドニーは心の中でそう思わずにはいられなかった。
自由でいてほしかった。何ものにも囚われず、縛られず、そうやって生きてほしかった。そうやって
生きているミコトは、シドニーにとって憧れであり、希望であり、唯一の自由だった。
――俺がお前の自由を奪ってしまった。
自分自身が憤ろしかった。ミコトの自由一つ守れない自分が呪わしかった。
ミコトにどう詫びればいいのか、どう償えばいいのか、シドニーには分からなかった。
どうして赦されるだろう、こんな酷い仕打が。
――ならせめて、恨まれよう。憎まれ疎まれても、お前を守ろう。
シドニーは、誓った。それが唯一、自分がミコトにできることだと思った。
* * * * * *
――おかしなことになったね。
ミコトは屋根裏の物置部屋で古いベッドに腰掛け、ふむと考え込んだ。
何故、シドニーの屋敷に連れてこられたのだろう? おまけに部屋まで与えられた。つまりは
ここに住み込んで働けということだろうか?
不意に戸が叩かれた。
「入るぞ」
言って中年の男が食事を持って入ってきた。
「飯だ、食え」
「ありがとう」
差しだされたパンにかぶりついたミコトに、男が感心したように言った。
「自分の身体を質に入れてまで命を守るたぁ、大した女だなぁお前」
「何だって?」
とんでもない言葉を聞いて、ミコトは危うくパンを取り落としそうになった。
「何って、シドニー様に身体を売って命を拾ったんだろ? お前」
怒りを通り越して呆れそうになって、ふとミコトは昨晩シドニーが咄嗟についた嘘をを思い出した。
――ひょっとしてシドニーがそういって誤魔化してるのか。
「……そういうとこかな、一応」
「? まぁいいや。とりあえず怪我が良くなるまではここにいろ。良くなったらそれはそれで大変
だろうけどな」
「大変って、何か仕事でもするのかい? 私」
「そんなの決まってるだろ、シドニー様のお相手だよ」
男はにやあ、と下卑た笑みを浮かべた。
「なんでもすごいらしいぜ、なかされた女は両手じゃ足りねぇって話だ。なんなら俺が事前練習の
お相手になってやろうか?」
「遠慮するよ」
我知らずベッドの上で後ずさったミコトに、男はがははと笑った。
「はは、そりゃそうだ。実を言えばこっちだってシドニー様のものに手ぇ出すわけにはいかないしな。
じゃ、おとなしくしてろよ」
「はいよーだ……あ、ちょっと聞きたいんだけどさ」
横になりかけたミコトは、ふと身を起こして男に尋ねた。
「シドニー、様、には、会いたいって言えば会えるのかい?」
「お前が会いたくても会えるような御方じゃねぇよ。そのうちあちらからお呼びがかかるだろう。じゃ」
男はそう言って出て行った。
――あほらしい。あいつと私がそんな仲になるわけないじゃないか。
ミコトは横になり布団を被った。こんな真昼間から横になるのも妙な気分だった。おまけにここは
シドニーの屋敷である。もっとも、シドニーの部屋と場末の屋根裏部屋では月とすっぽんの差だが。
――まるで昨日のことが嘘みたいだ。
シドニーの部屋で、二人でワインを飲んだことも、ポーカーをしたことも、作りごとか絵空事のように
思えた。幸い骨は無事だったがそれでも滅多打ちにされた足は歩くのも辛い。あちこち殴られ打たれ
できた傷や痣が疼く。
自分はこの国でろくな扱いをうけない底辺の人間であるという現実は、紛れもない痛みとしてミコトを
苦しめた。
だが、とミコトは思う。
――あいつは私を守ってくれた。
ミコトにとっての真実は、シドニーが自分を守ってくれたことだった。例え彼との間に越えようのない
身分の隔たりがあったとしても、彼と自分が友だちであることこそが痛みよりも明確な真実だった。
――あんたに会いたいよ。シドニー。
眠りに落ちながら、ミコトはシドニーを思った。
瞼の裏に現れたシドニーは、いつものようにミコトに向かってからからと笑っていた。
ほい?
730 :
728:2010/09/30(木) 00:40:11 ID:t2SY2cvh
次はエロいくよ。
散々じらしてごめん。
でも我慢した後のごちそうって、すごくおいしいよねってことで
我慢してくれる人は次回まで我慢してくれ(´・ω・`)
>>730 乙!!
エロシーン楽しみにしてます
しかしシドニーは予想以上にテンパってるみたいですw
こんなんじゃ女の子を守れないぞw
見に来てみたらまさかの投下ミスorz
俺の方がシドニーよりテンパってる\(^o^)/
>>726と
>>727の間にくると思ってくれ。
「流民の娘を拾ったそうだな」
翌朝、自室で遅めの朝食をとっていたシドニーの元に、父ハルベルトが訪れた。
「夜中に屋敷を飛び出した上に、下賤な東の民を囲うなど何を考えている。オートレッドの
名を貶す気か、貴様」
「まさか。聞けば昨晩の掃討はノール公の領内侵犯の対抗だったという話ではないですか。
ならばもし向こうが無理にこちらに入ってきたときのため牽制をしておこうと思っただけです。
そこに女が襲われていたから助けた。それだけですよ」
ハムエッグを銀のナイフで切りながら、シドニーはそれらしい理由を述べた。
「ふん、お前の女好きにも呆れたものだ」
――あんたに言われたくねぇよ。
シドニーは心の中で父を嘲笑する。
ハルベルト・オートレッドの好色ぶりはシドニーのそれより有名であった。世間的にハルベ
ルトの息子はシドニーと弟のジョシュアの二人とされているが、本当のところは疑わしいもの
だとシドニーは思う。
――蛙の子は蛙か。
自分も所詮はこの男の息子なのだと、シドニーは自嘲の笑みを浮かべた。
「まぁいい。その娘は今どこにいる?」
「近くの町医者に診せています。怪我をしていたのでね」
「そうか。後で秘密裏に遣いを出す。屋敷に連れてくるぞ」
どくり、と心臓が大きく鳴った。幸いその音はハルベルトには聞こえなかったようだ。
「……どういう、ことです」
「お前が外で流民の娘と逢瀬を重ねているなどと噂が立ってはかなわん。ここで飼い殺す」
「そんな……そんな必要はない。あれが医者にかかっている間は、私は会いに行きません」
「お前のことを言っているのではない。その娘のことだ。卑賤な人間は金になることには躊躇
がない。このことを醜聞の種として強請り集りに使ってくるぞ。そうなる前に事を片付けねば」
「しかし――」
「玩具にしたいのなら好きにしろ。ただし下の口は使うな、面倒事になってはかなわんからな。
飽きたら使用人にでもくれてやれ」
血が沸騰するような怒りと持っていたナイフをハルベルトに突き立てたい衝動を、シドニーは
辛うじて堪えた。
ドンマイ
続き待ってるぜ
735 :
名無しさん@ピンキー:2010/10/06(水) 08:43:59 ID:g9AOHXwK
投下期待
まて、そうせかすんじゃない
739 :
名無しさん@ピンキー:2010/10/16(土) 23:14:16 ID:s+vH2nd1
投下期待
続きマダー?
規制くらったのでもう少し待ってけれorz
ものじたいはあるんだがね
初夜をじっくり書くのと あんあん言えるようになってからをしっかり書くのとどっちがいい?
展開による
どっちも好き
なので書きたい方を書いてください
つまり
初夜をじっくりとあんあん言えるようになるまでしっかりと
という事か。
>>747 初夜の場合はむしろ膜破るまでの責めでどれだけイカせられるかが勝負だろ
保守
750 :
名無しさん@ピンキー:2010/11/01(月) 21:54:46 ID:l5J0mRKz
投下期待
帰省したお陰で規制解除ktkr
まぁ予想してた流れではあるけどワロタw
ご希望通りにすることにするよ
遅筆の筆者故にそれまでの間生殺しで放置します
あしからず
夜襲の日から一月後の夜、怪我が完治したと聞いてシドニーはミコトを部屋に呼んだ。
「失礼いたします。娘を連れてまいりました」
執事がミコトを部屋へと促す。連れてこられたミコトは下女の服を着せられていた。
――妙な景色だ。
子どもの頃からずっと、彼女は腕も足も丸出しの服で窓からこの部屋に飛び込んできた。それが
屋敷の使用人として扉から入ってくる。言いようのない違和感だった。
ミコト自身も落ち着かないのだろう、きょろきょろと見慣れているはずの部屋を見回す。
目が合う。変わらない強い瞳に、ほんの少し安堵が浮かんだような気がした。
「お前は下がれ」
執事は「は」と恭しく頭を下げ、部屋を出て行った。
「ミコト!」
扉が閉まるや否や、シドニーは一足飛びに駆け寄るとミコトを抱きしめた。
「ちょ、ちょっと、いきなり何するんだい! はなしなってば!」
「良かった……ほんとに怪我治ったんだな」
暴れるミコトなど意にも介さず、シドニーはその身体を抱きしめた。存外小さく、柔らかく温かかった。
風呂に入ってから来たのか、石鹸の匂いがする。ミコトは暫くもがいていたが最終的に諦めたのか
シドニーの背に軽く腕を回した。
「あんたのおかげだよ。ここで養生させてもらったおかげさ。ありがとよ、シドニー」
胸の奥に僅かな罪悪感を覚えて、シドニーはそっとミコトを解放する。
「……すまない。こんなことになって」
「なんであんたが謝るんだよ? こちとら食事と住む場所まで世話になっちまってるんだ。
さっきの執事さんに頼んで屋敷の掃除やら何やらやらせてもらうことにしたんだ。あんまり
大したことはできないけど、医者代ぐらいは働いて返すからさ」
「……そんなことしなくていい」
「いいわけあるかい! こっちばっかあんたに迷惑かけてるんじゃ寝覚めが悪いってもんじゃ」
「そうじゃねぇんだ」
「……どういうことだい?」
シドニーが遠慮から言っているわけではないことを察し、ミコトの声に不安が混じった。
「お前と俺が友だちだってことを知られたらまずいってのは」
「知ってるよ。分かってる」
「なら何故ここに匿われたか」
「…………」
それはミコトの中にも疑問としてあったのだろう。答えを求め、勝気な瞳が珍しく戸惑いを浮かべて
シドニーを見上げる。
胸の辺りで言葉が閊える。
――だからってずっと黙っていられねぇだろ。
シドニーは大きく息を吸い込む。
「親父はお前をここで飼殺すつもりだ。俺がお前を助けたことを誰にも言わないように」
「私はそんなこと――!」
「分かってる。でも親父は流民を信用しない」
ミコトの顔が悲しげに歪む。自分でも酷い言葉だと思ったが、それが事実だ。
「あいつは貴族以外は人間じゃないと思ってる……きっと逃げれば殺される」
「…………」
「でも……いや。だから」
長い黒髪の垂れる肩をつかむ。
「お前のことは絶対自由にする。だから暫く我慢してくれ。それまで、絶対に惨めな思いはさせない」
きょとんとシドニーの顔を見上げていたミコトは、不意にふっ、と笑った。どこか寂しそうにも見える
顔だった。
「まったく、いっちょ前にいうじゃないか。庭の隅で泣いてた坊ちゃんが」
「え?」
「いいよ。あんたの家来になってやるよ」
「……怒ってないのか?」
「何を怒るってんだい?」
全く見当がつかないという風のミコトに、シドニーは拍子抜けしてしまった。
「だって、ここから出られないんだぞ?」
「あはは、出られないだって?」
ミコトは心底おかしいというように大きく笑う。
「あたしを誰だと思ってるんだい? この十数年、誰にも知られずここに出入りしてきたのはこのあたし
だよ? 見張りの目ぐらいいくらでもちょろまかして外に出られるさ」
「そんなことしたら――」
「シドニー」
ミコトは微笑む。一点の曇りもなく。勝気な目をして。
「あたしは自由さ。こんなことで縛られたりしない」
――ああ。
敵わない。自分の不安が杞憂にすぎなかったことをシドニーは悟った。ミコトは自分が思っているより
ずっと強く自由だ。世の中の柵など、彼女を妨げることはできない。
そんなミコトが、美しいと思った。
「シドニー?」
――ああ。
そして気付いた。
――俺は、こいつが好きだ。
何か言いかけたミコトの口を、シドニーは唇で塞いだ。
「……っ」
長い口づけから解放され、ミコトは大きく息を吸う。
「あ、あんたいきなり何んだい! 今、口に――」
いつもの悪ふざけだろうと思ったのだろう。怒鳴りかけて、しかし笑わないシドニーに、ミコトの口から
続く言葉は出なかった。その隙に再度唇を奪う。最初は浅く、徐々に深く変えていく。ふっくらと
柔らかな唇を舌先でなぞり、何か言いたげに開いたその奥へ更に這入る。退こうとするミコトの後ろ頭へ
手を添え、もう片方で腰を捕える。舌を絡めると腕の中で細い身体はびくりと跳ねた。
仕方なく唇を解放する。細い透明な糸が、名残惜しそうに二人の唇の間を伝った。
「っ……はっ……」
上気した頬でミコトがシドニーを見上げる。顔には明らかな混乱が浮かんでいた。当然だろう。ずっと
友達だと思っていた奴がいきなりこんなことをするのだから。
「な、なんで……」
「なんで?」
無意識に後ずさるミコトの腰を捕まえたまま、シドニーは部屋の奥の方へとその足取りを導いていく。
「駄目か」
「だ、だってあんたとあたしは……っ」
抵抗の言葉は再度塞がれた。ミコトの後ろにベッドを確認して、シドニーはミコトの腰にまわしていた
腕を解く。支えを失い、バランスを崩した四肢はどさりと音をたてて布団の上に落ちた。
ミコトが起き上がるよりも早く、シドニーはその身体を組み敷く。存外華奢な腕は、片手で押さえる
だけで簡単に封じられた。
「わ、わかった! あんた酔ってんだろ!? あたしが来るの遅いからって先に酒飲んだから、酔いに
任せてこんなこと――」
どうにか茶化してこの場を切り抜けようとするミコトを、シドニーはじっと見下ろす。やがてミコトの顔から
笑みが消えた。
ゆっくり顔を近づける。ミコトはびくりと震えて顔を背けたが、開いた片方の手でそっ、とこちらを向かせて
浅く口づける。
「……酒の味も匂いもしねぇだろ」
「……」
部屋を、静寂が満たす。
見上げるミコトの顔には怯えがありありと浮かんでいる。ふと、押さえた両の手が小さく震えているのに
気づいた。
――しまった。
シドニーは、漸く我に返った。
顔から手をはなし腕を解放する。殴られるかと思ったが、ミコトは組み敷かれたままシドニーを見上げて
いる。
「……ごめん」
「……本気?」
「冗談で、俺がお前にここまですると思うか?」
「……」
まだ混乱しているらしく、ミコトは困った顔で何か言いかけては黙り込む。シドニーから目を逸らし、羞恥
からか頬が紅く染まっている。
純粋に可愛いと思った。
――もう一度触りたい。
そっと顔に手を添える。肌理の細かい、柔らかい感触の肌は少し熱い。びくりと震えて逃れようとしたが
そうなるとまともにシドニーの顔を見ることに気づいてミコトは泣きそうな顔で男の掌に頬を埋める。手の甲に
押し付けられたひんやりとした黒髪が心地いい。
体の中から、どうしようもない衝動が広がっていく。
「そんなこと、いきなり言われても、どうすりゃいいかわかんないよ……」
そうだろうと、シドニーも思った。だが気付いてしまった思いをシドニー自身も抑えられない。こんな真似など
したくなかった。だが間違いなく、男としての性は真反対の行動をとろうとしている。
箍は外れてしまった。もう戻せない。
「……嫌だったら、そう言ってくれ。そしたら諦める」
一瞬、「い」の形を作った口からは、しかし何の言葉もでなかった。ミコトはシドニーを見上げる。困ったような、
苦しいような顔で。
「なんでそんな顔泣きそうな顔すんだい……」
シドニーが思ったことを、ミコトが言った。
「え?」
「卑怯だよ、そんな顔されたら、あたし何も言えないじゃないか……」
自由になった手でミコトは顔を覆う。ミコトと同じような顔をしていたことに、言われてシドニーは気がついた。
「……」
――もしかしたら。
ミコトも自分と同じことを思っているのだろうか。
『お前に嫌われたくない』と。
顔を覆っていた手をそっとはがす。泣きそうな顔のミコトが出てきた。
「……ごめん」
うわ言のような空々しい謝罪を吐きながら、シドニーはミコトに口づける。
ミコトは諦めたように目を瞑りそれを受け入れた。
生殺しで放置します…て。誘い受けもいいとこだな。
投下してくれるのはありがたいし、作品もおもしろいと思うけどあんた何様だよ。
>>756 家かえってきちまったんで携帯から失敬
言葉足らずゆえに気に障ったようでスマン
現在ちとリアルが忙しいため、読者の皆さんに満足してもらえるようなものを書くために構成を考えたり文章の校正をするのが難しい
だけどそんなの見てる人には関係ないしいちいち言い訳もなんだかなーなんで上記のような言い方になっちまいました
ま、言い訳乙てなもんだけどな
堪忍
>>755 GJ!!
>>722ですけどシドニーは自分の行動で勝手に追い詰めらてますねw
まぁ、最初に助けた段階でテンパってて
その後の言い訳も牝奴隷にしますじゃ仕方ないけど
でも結果的にミコトちゃん美味しく頂くシドニーに嫉妬
いや美味しく頂いて貰わないと困るがw
続きは忙しいのなら仕方ない
気長に待ってます。
投下まで待機中
>757
GJ
続き期待してるw
生殺しってシドニーの事かと思ったよw
>>760 確かにw
周囲の評判と違い童貞だろうからな、シドニーは
あそこで挿入までちょっと待ってね状態とか
童貞哀れw
乱暴なご主人様に伽を強要されて孕まされちゃう薄幸の可愛らしい美少女従者がみたい
投下待ち
過疎だ……
誰か居ないのか?
2007年11月のレス数 92件
2010年11月のレス数 14件
うむっ…
女たらしでちゃらんぽらんだけど妙に鋭い金持ちボンボン警部(♂)が、
堅物で融通が利かない美人秘書(♀)を口説き落とす話が読みたい。
あいさつ代わりに女性を口説いてる警部が初めて本気になったけど、
自分のやり方では気持ちが秘書に伝わらなくて悶々してるところがみたい。
秘書は秘書で、段々警部に惹かれていくけどそれが恋だと気がつかなくて、
警部が女の子と放すたびに胸が痛いのはどうして、と悩んでいたりするとよい。
最終的に秘書が「遊び相手の一人でもいい」と思いつめて、警部に身をささげるところまで妄想した。
女好きでやらしい男主人と堅物で性的な事に嫌悪感とか抵抗感を持つ女従者は良いよね
強引に関係を迫るも良し、徐々に迫るも良しで
このスレの1が見られない
保管庫の作品は好きなんだが投下後のレスとか感想も含めて読みたいんだ
専ブラで2chビューワーにも入っているけどだめなんだ
どうすればいいですか教えてください
>>767 強引に迫っていって許せるラインを麻痺させるっていうのも好きだなー
>>769 ありがとう!神作品の前後が読めてすごく嬉しい
保管庫の作品読みながらもどんな反応だったのか気になっていたから
過去ログ堪能したよ
>>769 関係ないけど堪能させてもらった
ありがとう!
自分の妄想
使用人に結婚を迫ったご主人様がプロポーズを受けてもらえて有頂天
しかし、その後義務(パワハラ)から求婚を受けてくれたと勘違いし
苛立ちのままに強姦→使用人は嫌われたと誤解→失踪。
一心不乱に探したら子供が生まれてて→二度と乱暴しないと再プロポーズ。
主人は妻を抱きたいが、約束があるし、嫌われたくないしで
手が出せないしぎこちない夫婦生活。
使用人も結婚してくれたのは子供が義務からで愛されてないと誤解
妻というよりは使用人として仕える毎日。
だんだんと子供が大きくなっていき、子供のおかげでいろいろな誤解が解け
夫婦なのに○年ぶりに……というのを妄想した。
>>772 結婚後我慢出来る主人が凄いw
結婚で思ったけどせっかくこういうネタのスレなんだし
妻の居る既婚者なのに自分の愛人になれと女従者に関係を迫る男主人とかも良いなあ
ところでここって主従スレだけど明らかに上下関係があれば夫婦でもおkなんだよね?
地位やら金やらで強制的に妻にされたとかなら
むしろ主従の関係から結ばれて晴れて夫婦になったものの以前の癖で従者として振舞っちゃう奥さんを頼む
教授と准教授ってのはスレ違いかな?
厳密には主従ではないんだが、仕えて支えているって感じで書きたいんだが
それだったら教授と助手じゃないかなあ…
何故かドクター・カオスとマリアを最初に連想した
>>778 助手か。分かった准教授を助手にしてみる
なぜ准教授かというと以前は助教授だったので教授を助ける、の定義につけこめそうだったからなんだが
助手でもいいか、書き換えたら投下してみる
中に人がいるのを確信してノックをし、ドアを開ける。
部屋の主は背もたれの高い椅子に座り窓のほうを向いている。机の前に立ち、呼びかける。
「教授」
振り返ったのはそう呼ばれるにしてはまだ若い。なんにでも好奇心旺盛なところも年齢不詳に見える原因だ、と思う。
若年で教授に選出された有能な彼に比べて、私のほうが年下なのに気苦労からか老け込んでいるのもしゃくな話だ。
彼の手の間には紐が見える。あれは
「教授、何をされているんですか?」
「あやとり。これ面白いよね」
ご丁寧に傍らのコンピューターではあやとりの動画が再生されている。
脱力しつつ持参した書類とメディアを差し出す。自分の上司たるとびっきり優秀で学会内でも有名な彼に。
「今度の雑誌に投稿する論文の最終版です。チェックをお願いします。
あと最近の症例から講義に使えそうな教育的なものを集めましたので、目を通してください」
彼は面倒くさそうにそれらを受け取る。
「俺がチェックしなくても君が了承したらもうそれでいいのに。あ、これ新しい依頼原稿、よろしく」
「教授、それは教授の原稿でしょう?どうして私が貴方の日常コラムのようなものを執筆しないといけないんですか」
彼は悪びれずに私を見つめる。知性と能力は比例しているのに、常識と社会性は反比例している大きな子供のような目で。
「君の役職は何だったかな?」
「助手です」
彼はにんまりと笑う。
「そ、教授を助ける、のが君の役割だよね。だからよろしく。あとこちらに来てくれ」
机の向こう側の彼の所へ、と促され棒立ちになる。
断られることなどみじんも疑わない彼の視線に根負けして、机を迂回して座る彼の前に立つ。
私の手首を捉えて彼は立ち上がる。腰を引き寄せられ唇が塞がれる。
「教授、鍵が」
ひとしきり口の中を貪った後、私の指摘で彼はいそいそと施錠にいく。
普段もこれくらい動いてくれればいいのに、彼が自発的に動くのは手術の時くらいだ。ただそのときの彼は別人、だが。
神の手と呼ばれる繊細で大胆で的確な手技で他所でお手上げとされた困難な症例も見事に切除する。
手術室での彼は天才で神々しいくらいで、その姿に目も心も奪われてしまう。
だからこそ手術室を出た彼の伸びたゴムのような姿に脱力しつつも、教育と研究と医局の運営に尽力しているのだが。
彼の手は大きくて指が長い。しなやかで繊細に動く。今も器用に白衣とブラウスのボタンをはずしている。
「教授なら手近で済ませなくても他に女性がいらっしゃるのに、酔狂な」
首筋に唇を落としていた彼は手を動かしつつおかしそうに言う。
「だって連絡したり食事とかホテルに移動とか面倒だし。俺は白衣の女性が好きなんだ」
ならさっさと結婚して家で白衣プレイでもすればいいのに。
心の中で毒を吐いても体は彼の指で早くも乱されている。
乳首を舐め転がされてそこが張り詰め痛く感じる。もう一方は指でこすられる。スカートはたくし上げられ足の間をかかれている。
前言撤回、手術だけでなく女の扱いも巧い。
「ん、あぁ」
耐え切れずにかすかに声が漏れると、一気に濡れるのが分かる。彼が満足そうな表情でストッキングと下着を下ろしていく。
中途半端に、だけど必要なところは露出されている私と、きっちり着込んだ彼の姿に私だけが乱れて彼に翻弄されているのを
思い知らされて切ない気分になる。
そんな感傷も彼の指が直接陰核と膣に触れると霧散してしまう。指は私の感じるところを執拗に刺激し立っていられなくなる。
そこが充血して腫脹し、指を締め付けるのが分かる。2本に増やされた指を往復されて達してしまった。
「いった? 君が乱れているのは可愛いな」
女医なんて可愛げのない女の代名詞だ。
結婚もせずそして長いこと付き合う相手もいない面白みのない私を可愛いなんて言うのは彼だけだ。
それもこうして体を重ねているときだけの台詞だから、リップサービスなのだろう。
「教授は、眼科受診したらいかがですか」
快楽の余韻で語尾がふるえてしまう私に、彼がため息をつく。
「君は、こんな時まで理性的なんだね」
それきりおしゃべりは時間の無駄とでもいうかのように、彼は私に挿入した。
「はっ、くう…」
机にもたれた私を彼は容赦なく突き上げる。部屋の中に響く荒い息と粘性を伴う水音、熱くなる体に五感が刺激される。
彼のもので内壁を擦られ、内部で特別に感じる部分をこすり上げられるとたまらない。
しがみついて彼の肩で口を塞いでみっともない声を上げるのを耐えようとする。
彼に感じても、抱かれてはしたなく反応するのも仕方ないが声だけはと、最後のプライドで抑える。
でなければ彼の体のいい欲望処理係の現状の惨めさに耐えられない。
声を耐える私の体は力が入り、彼を一層締め付けるのが分かる。もうその刺激に持ちこたえられそうにない。
彼が奥を突いた時、眼前が真っ白になり浮遊感が襲う。体の痙攣が止められない。
霞がかる意識の中で彼も達したのをぼんやりと感じる。
服の乱れを直し再び机の前に立つ。
「では依頼原稿は持っていきます。どんな内容になっても文句は言わないでくださいね」
かれは気だるげに頷く。出て行こうをする時、背後から声がした。
「君は…」
なんでしょうか、と振り返る私に何でもない、と低い声が返ってきた。
「失礼しました」
ドアを閉じ原稿を部屋に置いてからピルを飲んで病棟に向かう。
体の中心の熱に嬉しいような泣きたいような、なんともいえない感覚を抱きながら。
白い廊下が目に眩しかった。
終わり
ID変わっているけど781-2投下した者だけど
保管庫は辞退させてもらう
うぉ〜GJ!!!
続きが気になるじゃないかw
いいもん見たよGJ!
口説き文句(可愛い)が通用しないのがいいなぁ
>>784,785
GJありがとう
あと准教授じゃなくて助手のほうが、ってアドバイスしてくれた人ありがとう
准教授だと年齢が苦しいので助手のほうでよかったわ
そんな自分は主従とか年齢差とかが好物だ
教授と助手の小ネタ投下する
エロはなしなのですまん
憧れは遠くにありて思うものなのかもしれない。
医学部も5回生になると病院実習が始まる。全ての科を回り臨床の現場を学んでゆく。そうして自分の進路を決めるのだ。
18の時に職業は選択した。医学部に入ったからには医師になるのは当然だ。
そして5から6回生で初めて進路の選択に頭を悩ませるのだ。
どの科を選択するか、どの病院で臨床研修を受けるのか。
学生は数人のチームで各科を回る。どの科も忙しくそして誇りを持って仕事に当たっている。
その中で自分の適性や興味を吟味して、選んでゆく。一生のことなので真剣だ。
実習の中には当然手術の見学も含まれる。学生と分かる術衣を着てマスクをかぶり手術室で邪魔にならないよう、清潔な場所に
触れないように注意して術野の周囲で踏み台の上に立って見学する。
そして私は教授の手技を目の当たりにしたのだ。
ピンと張り詰めた空気の中入室した教授は、流れるような鮮やかな手つきで病巣を周囲から離して切除した。
その見事さは私達を指導してくれていた医師がため息をつくほど、そして自慢するほどだった。
私もその手の動きに魅入られてしまった。見ている間中頭の中にすごい、すごいという単語しか浮かばなかったのを覚えている。
きついとか色々言われているその科に、私は迷わず入ることを決めた。研修も大学病院で受けることに決めた。
医局長に連れられて初めて教授に挨拶にうかがった時、彼は私を上から下までじっと見て
「君、物好きだね。うちは大変だよ」
彼の物言いに局長が慌ててやりがいがあって勉強になる科です、と言葉をかぶせた。
医局長としてはせっかくの獲物に逃げられてはたまらないのだ、と今なら思う。そして教授の方が正直だったのだと。
それでも教授の下で勉強して一人前になりたかった私の決心は揺るがなかった。その時は。
晴れて医師免許を取得して働き始めた私は一番下っ端で実務は何も分からず右往左往していた。
同期と一緒に色々な検査の手順や器具の使い方を学んだり、指導医について病棟や外来、検査や手術を経験したり。
初めての医局会で新入医局員として紹介された時、拍手の先輩方の中で教授だけがご愁傷様とばかりの手つきをした。そしておもむろに
何かを取り出して机の上で作業を始めた。凝視しているとその手の中で見る見る物体が構築されていった。
折り紙の鶴だった。
この人は何をしているんだろう。そう思いながら見ていると彼は鶴の羽を広げ指の上に乗せて真剣にそれを眺めていた。
新入医局員以外はこの光景をなんとも思わないようで、医局会は淡々と進行していった。
教授が究極のマイペースで唯我独尊で天上天下な人なのだ、と程なく私達は気付かされた。手術室で神様のように奇跡の手技を振るう
のなら、そこを出た後では悪魔のように堕落して面倒くさがりなのだ、と。
下っ端のうちは被害を被ることはほとんどなかったが、時間が経過するにつれだんだんと、それはもう多種多様の……
そして現在、女性に声をかけてそこまで持っていくのが面倒だから、という理由で私は彼に抱かれている。
「そんな時間があったら他の事したいじゃない」
にこりと笑う彼に私は呆れてものが言えない。どうしてそれに甘んじてしまったのか、ずいぶんな侮辱を受けているはずなのに。
そんな言動も彼なら仕方ない、言っても不思議ではないと分かってしまっているから、だろう。
「他のことって何ですか?」
「うん、上は内視鏡を応用した新しい検査法の考案から下はそうだなあ、明日の会議を逃れる理由をひねり出すとか」
はあ、とため息をつく私にでもね、と
「今は君と一緒に気持ちよくなりたい」
そう言われて耳たぶを弄ばれる。彼の手を体に感じた際にふとある考えが頭をよぎった。
私はカモ、なんだろうな。
やっぱり憧れの存在は遠くからみているべきだったのだろうか。
終わり
これも保管庫は勘弁してほしい
>>789 GJ
このスレで現代ものは少ないから新鮮でいいな
気が向いたら続いてくれ
教授と助手のなれそめ? 投下する
主要各科のローテーションが終了して、私は正式に教授の科に入局した。
その日も医局で手技の練習をしていた。録画した画像を見ながら同じように手を動かすのだ。
ここで持ち上げて、下を通して、視野を確保して……
「そこ、違う」
静かな声に振り向くとコーヒーを淹れに来た教授と目があった。
彼は画像を巻き戻してある所で停止した。
「ここで一呼吸。神経と脈管の確認をする。結構破格が多いから注意しないといけない」
もう一度最初から、と言われシャドーオペを始める。今は鈎ひきしかさせてもらえないというのに、執刀者の教授の
手技を真似しているのを彼は笑うでもなくじっと私の手の動きを見ている。画像が終わったとき
「君が執刀したら三回失敗だ」
と駄目駄目宣告を下されてしまった。二回は私も理解した。だがあともう一回が分からない。
「教えてください。どこが問題なんでしょうか」
彼はもう一度画像を再生した。私もまた手を動かす。
私の後ろに椅子を引きずる音がして彼が腰を下ろし背後から私の手に彼のそれを重ねる。どきん、と心臓がはねた。
彼は画像に合わせて手を動かしてゆく。彼の手のしなやかさと熱さと、肩越しに画像を見つめるために近づいている顔を
意識して目線は画像と手にいっているものの変な汗が出てくるのを感じる。
「ここ。もう少し丁寧に。癒着しているところはゆっくりじっくりと、ね」
画像を見ながら頷く。教えてもらえて理解できたのは有難いが、この状況は有難くない。早く離れてくれないだろうか。
「わ、かりました。どうもありがとうございます。あとは一人で練習しますから」
そう言って手を離そうとしたところを、重ねられた手ごときゅっと体の前で交差させられた。同時に
はむ
と彼の顔に近い方の耳を唇ではまれていた。何が起こっているのか分からず頭が真っ白になった。
彼に後ろから抱きこまれて耳を噛まれている?
「き、教授、あの、手と口を離して下さい、というより離れて下さい。何しているんですか」
「ん――?色づいてておいしそうだったから、つい」
耳元でしゃべらないで欲しい。というか息を吹きかけるな。
じたばたと動いて拘束を解こうとするががっちり抑えられている。その間にも彼の唇が、舌が耳を這っている。
「教授止めてください。嫌です」
「俺は嫌じゃない」
彼が頬に唇を寄せる。
「何考えているんですか。こんなの医局でやることじゃないでしょうに、セクハラです」
私の言葉に顔が離れる。ほっとしたのも束の間
「確かにここでは差し障りがあるか」
行為ではなく場所に問題があると言わんばかりの彼は私を後ろから抱いたままで立ち上がり、ドアへと向かう。
僕の部屋に行こう、と言う彼に抵抗する。けれど腕の力は緩まない。手に爪をたてるのは……憚られた。
この甘さが命取りになってしまった。彼は私を横抱きのような状態で鍵を開けて自室に連れ込んだのだ。
ソファに押し倒され抱き込まれ顔に唇が触れる。嫌がって横を向くと耳がさっきのような刺激にさらされる。
「教授、嫌です。止めてください」
心臓はどくどくしているし、顔は真っ赤に違いないが展開に頭が付いていかないせいか我ながら冷たい口調だった。
彼は私の眼鏡を外して机の上に置き、少し体を離し上から見下ろされる形になった。
「俺は嫌じゃない、って言っただろう。うんセクハラだね」
悪びれない彼をにらむ。
「君に欲情したから鎮めて欲しいな。上司命令だからパワハラでもあるし、抱かせてくれたら俺の知識とか技術とか直接
教えてあげるけどそうじゃなかったら、ってうん、アカハラもかな」
ハラスメント三重奏の脅しにくらくらする。
権力を手にしている大きな子供が前後の見境なく駄々っ子のように欲しがっているかのようだ。
だけど嫌がる部下に無理にしなくても、女に不自由はしないだろうに。男性の医師なんてもてる代表じゃないか。
「私は欲情していません。他の人をあたってください。このことは他所に漏らしませんから……」
体をどけてくれ。
そう言外ににおわせた私をまじまじと見て、彼はにんまりと笑う。ご馳走を前にした猫を連想させた。
「加えて、口封じ。他言できない関係になろう」
一気に体重をかけてのしかかってきた。その思考回路をなんとかしろ、滅茶苦茶じゃないか。
乱暴に唇を合わせてきたがさすがに噛まれるのを恐れてか舌は入れてこない。手首を押さえながら白衣のボタンを外す。
ブラウスをスカートから引っ張り出して下から手を這わせてくる。
「嫌だ、教授、止めて」
そう言いながら嫌でも体をすべる手を指を意識してしまう。彼の手はしなやかで軽く指を曲げて掠めるように
引っかくようにしながら上へと移動してくる。胸を包まれやわ、ともまれると瞬間息が止まる。
大きさと感触を確かめるように手全体で胸を覆う。ほんの少し指先に力が入る。――触診、されている。
ブラの横から手が差し入れられる。直接の感触に身じろいでしまった。
「温かい、な」
「嫌、やめて……」
さっきと同じせりふなのに語尾が不明瞭になっていて弱気になっていると気付かされる。
手首を捕らえていた彼の手がはずれ両手で触れてくる。
肩に手をやり押しやろうとするのに、上からの圧力は私の抵抗などまるで頓着しない。
顔を横にそむけたせいで彼にさらした首筋を舐め上げられる。
手は胸をやわやわと揉んでいて手の平や指先で乳首を掠められる。
そのたびに鋭い感覚が体を走る。彼の手が、神の手と称されるその手指が自分の恥ずかしい部分に触れている状態に混乱する。
乳首をつままれて背中がソファから浮いた。
「痛かった? それとも気持ちいい? ……君は、可愛いね」
瞬間頭に上った血がすっと下がるような気がした。
お前は可愛くないんだよ。
言葉がよみがえる。学生時代の彼。一足先に医師になって女性にもてて、浮気して、妊娠した相手と結婚すると告げられた。
――男は自分を尊敬して頼ってくれる可愛げのある女が好きなんだ。守ってやりたくなる。
――お前はいつも冷静で俺が何しても涼しい顔で、俺がいなくても大丈夫だろ。
――彼女はそうじゃない。俺が守ってやらないと駄目なんだ。
私は可愛くなんかない。可愛げもない、手を離しても平気と思われている、そんな女だ。
男性の庇護欲をそそる存在じゃない。――だから
彼に抵抗するのが急に馬鹿馬鹿しくなった。
ゴールが同じならせめて早く終わらせてしまう方がいいかもしれない。
彼の欲望を満たすために突発的に抱かれている、いや、やられているこの現状は長引くほど惨めになる。
「そう見えるのは、間違いです」
私の言葉に彼は何かを感じたのだろうがそれを口にはしなかった。
ブラウスのボタンとブラのホックも外して、乳首を口に含まれた。熱く濡れた感触と刺激に、肩に当てた手に力が入ってしまい
とっさに声を殺す。外に漏れ聞こえるのを恐れたせいもあるけれど、彼の前であられもない声をあげたくなかった。
彼の手は腰と膝下から大腿を撫でさすっている。乳首を甘噛みされて体が震える。
「止めて、と言っても無駄ですか?」
「もう、止められない」
足を広げられ下着越しに彼の指が触れてくる。上下にそしてその周囲をゆっくり掻かれる。
「んっ」
食いしばった口の間からそれでも声が飛び出す。胸と恥ずかしい場所を口と指で同時に刺激されて体のひくつきが止められない。
ストッキングを脱がされて下着の隙間から彼の指が直接入ってくる。
陰核を指の腹で撫でられ押されて体に電流のような衝撃を感じる。
「あっ、やっ」
胸とはまた違う感覚に目を見開く。彼の手が下着を下ろしてそこが晒されてしまう。
「濡れてる、ごめん、我慢できない」
いきなり中に指が入れられ腰が引けてしまう。彼の指を受け入れて膣が収縮するのが分かる。彼の指が私の中に――
その状況はひどく私を混乱させた。あのしなやかな、信じられないくらいの動きを見せる神の指が中に入り内壁をこすっている。
快感を引き出すべく中を探っている。その指使いは的確で状況に流されてしまいそうになる。
「君の胸は温かかったけど、ここは熱い」
低い声で熱っぽく告げられた後指が引き抜かれ、下をくつろげた彼が指の代わりに彼自身をあてがった。
何度か先端をこすり付けられ
――彼が入ってきた。
熱い、そして圧迫感。緊張で体に力が入って苦痛を感じる。処女ではないのに。
彼も眉根を寄せている。ゆっくりと腰を進めながら突起を指で撫でさする方に意識が集中して力が幾分かぬけていった。
奥まで挿入された時に気付く。
「教授、避妊は? 」
「あ――今からやってももう遅い、か」
緊急避難のピルを飲まなければ。もうひとつの問題、感染症についてはどうだろうか。
一般的な項目は定期的に検査している。前の彼に浮気されていたと分かった時に性行為感染症の検査もやってそちらも陰性だった。
「教授、感染症は私は問題ありませんが、教授は? 」
「多分、大丈夫」
多分、だと?呆れと怒りが顔に出たのだろう、初めて攻守が逆転したようだった。
「あ、ええと多分じゃなく大丈夫、うん大丈夫」
終わったら即検査をしてもらおう。
彼は中でじっとしているのが辛いらしく動き始めた。ず、と内壁がこすられる。そこからくちゅりと音がして唇をかむ。
嫌だと言いながらしっかり反応しているのを思い知らされ、その浅ましさに恥ずかしさがつのってしまう。
「初めて、ではないな。だがきついな」
足を抱えられ奥に突き入れられると息が止まりそうになる。
「辛かったら俺に爪でも歯でもたてろ」
彼は気遣いを見せてくれるが、とにかくもう早く終わって欲しい一心でひたすら刺激に耐える。
突かれるたびに上がりそうになる声をかみ殺す。
最後にしたのはもう随分前のことだ。それも最後は嫌な思い出として終わってしまった。
まさかこんな風に誰かに抱かれるなんて思ってもいなかった。それも一方的に欲情されて。
行為の最中にも色々と考えてしまうのは私の悪い癖だ、そこが可愛くないと思われる原因とも分かっている。
しかし与えられる刺激に体は熱くなっているが、気持ちはついていかないのでどうしてもそこに乖離を生じてしまう。
彼の動きが大きくなり奥に彼を感じたときに、彼は動きを止めて呻いた。中で彼の脈動を感じる。
――彼が達したのだ。
小刻みに震えたかれの体が弛緩し私の上にかぶさってきた。
耳元で彼の荒い息を、熱い息を感じる。
終わった。
それにほっとする。ようやく彼が体を起こして私の中から出て行った。
久しぶりの行為で体が重だるい。後始末をして身を起こす。服の乱れを直してソファに深く座った。
服を着た彼も少し離れて隣に座る。少し前かがみで腿の上に肘を置き両手を組み合わせている。
「鎮まりました?」
彼を見ないで質問すると
「あぁ、うん」
少しあやふやな返事が返ってくる。だが弱気な彼はそこまでだった。
「いや、すごく良かった。気に入った。だからこれからも君を誘いたい」
きっぱり言われて呆れとも怒りともつかない思いが生じる。
「冗談ではありません。これっきりにしてください。失礼します。感染症は検査してください。問題があれば連絡を。
私は今から外の病院でピルを処方してもらいます」
立ち上がり彼に早口で告げて部屋を出ようとする。
「待ちなさい」
短いが逆らえない重みを持つ一言に足が止まる。
「俺は続ける。分かったね」
理不尽だ。横暴だ。勝手すぎる。罵詈雑言が頭の中を渦巻く、が。
「……失礼します」
それだけ言って部屋を後にした。どうしてこんなことになってしまったんだろう。
混乱したまま一刻も早くここから離れたくて大学をあとにした。
後日、私のボックスに本が一冊入っていた。添えられたメモには『参考になるから』とだけ書かれていた。
表紙をめくるともう一枚のメモ。彼の個人的な連絡先が記載してあった。
私から連絡を取ることはないだろう、そう思いながらぼんやりとそれをながめた。
終わり
GJ、いいねぇ。冷たい熱が伝わってくるようだ。
GJGJ
こういうクールなのもいいなぁ
791の意図するところと違ったらスマンが
教授が変わり者だからこそその変わった愛情が
主人公に伝わってないって感じですごく好きだw
どんなふうに両想いになるのか気になる
こんなただれた関係をずっとだらだらと続けていって
ある日教授に「君以外の女性と今更結婚するのも面倒じゃない」とか言って
急に結婚届持ってこられて一生お互いに好きあってると気づかないで
夫婦になって終わるとか妄想したけどw
>>797そのゴールまでいければいいな
教授と助手の契約、教授目線のおまけを投下する
「失礼します」
教授室に入るときには緊張する。これは医局員ならそうだと思うが、私にはそれに加えての理由もある。
主は机の前で書類に目を通している。真面目な顔は仕事中の緊張感もあいまって格好良く見える。
きりのよいところまで机の前に立って待つ。書類から目を離した彼が私を見る。
「大学院の願書の印鑑をいただきに参りました」
用件を切り出し書類を差し出す。彼はそれを受け取りそれに目を走らせ机から印鑑と朱肉を出した。
名前を書いて横に押印する。不足がないか確認してそれを私に返してくれた。
「ありがとうございました」
用件が済んだのでとっとと退散しようときびすをかえす。そこを引き止められた。
「待ちなさい。話がある」
書類を手に机の前に戻る。彼はじっと私を見る。その視線は私を射抜くようで手術中のものに似ている。
と、その雰囲気が柔和なものになった。
「こっちに来て」
机の彼の方に手招きされる。そっちは彼だけの領分だ。そこに?
彼はなおも私を促す。幾分かためらいながら座る彼の横までいった。
「座って」
どこにだ? 椅子はひとつきり、そこには彼が座っている。彼は私を見上げて自身の大腿をぽんぽんとたたく。
そこに座れ、と? 彼の顔をまじまじと眺めてしまう。彼は真面目な顔だ。
「教授、お話ならここで」
「話ならここで」
私の言葉を繰り返して彼はなおも大腿をたたく。
「鍵をかけておいで」
ここでは彼が王様だ。私はのろのろと書類を机の上に置くと施錠して戻ってきた。
彼に近寄り覚悟を決めて大腿の上に横座りになる。
手が背中に回って逃げ腰になりそうなのを阻止された。
「……連絡してもなしのつぶて。君からは連絡もしてくれない」
「あの時、これっきりと言ったはずです」
「俺は続ける、と言った」
彼は私の腰を抱いている。そらした顔は頬に手があてがわれ彼の正面へと向かされる。
「気のすすまない相手にどうしてですか?」
「気にいったって言っただろう。それにこの手軽さが実にいい」
手軽。
「つまり、気が向いたときに手がだせるから、ということでしょうか」
「そう言うと身も蓋もないけど、否定はしない。俺の諸々の効率化を図り仕事への還元への貢献と捉えて欲しい」
私の意志は無視して勝手なことを言う。いけない、彼に丸め込まれてしまいそうだ。
「どうあっても続ける、とおっしゃるんですね」
「俺はそう望んでいる」
「受け入れられない、と言えば?」
瞬間彼との間に剣呑な空気が生じる。
「俺はわがままで、だから何をするか分からない。この間のことを吹聴して回るかもしれない」
ハラスメント三重奏で迫ったばかりかあの出来事も脅しの材料にするのか。
本当にこの人は大きな子供のようだ。
ここを辞めて他の科や他所の大学に行く選択肢はある。でも彼の知識と技術は吸収したい。なら答えは……
「絶対に秘密にしてください。……業務時間内には嫌です。休日や学外もです。この部屋で以外触らないで下さい」
こちらの条件を挙げてみる。彼はそれを検討しているようだ。
手軽に抱くのだから学内限定だし、仕事優先なのは当然だろう。
医局の人たちにばれたらお互い今後がやりにくい。
「他の女性と関係したら感染症のチェックを。というよりそちらに本気になってください」
彼は私のうなじに手を添える。そこに力がこめられ引き寄せられる。
「お互い他の人に本気になったら終えよう。その条件で結構だ。俺は時間を、君は技術と知識を手に入れる。
業務時間が終わって学内にいれば誘いを無視しないで応じて欲しい」
そう言って彼は口付けてきた。唇を甘噛みされ舌でなぞられる。
促されて少し開けた隙間から彼の舌が入り込む。口の中をゆっくりとうごめき私の舌を探り当てた。
舌をからめられて息が苦しくなってくる。いつの間にか背を撫でる手を受け入れていた。
彼の手が白衣のボタンにかかるのを感じ慌てて離れた。
「教授、駄目です。このあとも用事があります」
彼は不機嫌そうにむくれているがこっちの知ったことではない。
「いつ終わる?」
頭の中で計算する。あれとこれをやって、書類を出して……
「一時間くらいです」
「分かった。それが終わったらおいで。必ずだよ。逃げるのは許さない」
ようやく開放されて教授室を出た。
自己保身も働いた上で彼の欲望処理係ともいえる関係を了承してしまった。
どうしてそうなった。自分でも良く分からないままとりあえず書類を医局長に出すべく廊下を歩き出した。
終わり?
おまけ
「大学院に進学します」
どんなに嬉しかったか君は知らない。
これで四年間は俺の傍にいてくれる。嬉しくてその願書に必要以上の力をこめて押印したくらいだ。
おまけに今後まで約束できた。
全身全霊で君を育てよう。一人前の医師になるように。
一時間後に、と約束させた。
待ちきれないが仕事を済ませてしまおう。決して邪魔が入らぬように。
終わり
乙。
思ったより教授が主人公にメロメロでびっくりした
てっきり教授自身も主人公のこと好きだって気づいていないのかとw
続きが楽しみだ
>>800 GJ!!
そしてそろそろスレを建てないと容量がヤバいな
803 :
名無しさん@ピンキー:2010/12/29(水) 04:29:29 ID:nuYNAkfl
容量が危険域なんでage
乙
乙
埋め?
埋め
じゃあ更にage
ageじゃない埋めだ……
うめえ
埋め立て地
鰤の日番谷×乱菊が最近気になっている
真面目な主人と奔放な部下もいいよな
ところで誰かウィキを更新してくれないだろうか。
これが落ちちゃったら過去作品読むとき地味に困るんだが
816 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/03(月) 00:59:22 ID:1cLH7I/S
埋め
817 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/04(火) 13:10:35 ID:z7QdVw00
埋め
埋め
819 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/05(水) 02:21:29 ID:Si3jzBsb
まだまだ容量あるな
一途な従者も好きだが、従者を好きだと自覚して手がだせない主人が好きだ
権力をつかえば簡単なのにためらってすれ違うのが萌える
でも己の魅力をとことん使って主人を振り回すのも読みたい
つまり何でもカモン!だ
同意しつつ埋め
生真面目な女従者をパワハラ、セクハラ全開で追い込んで強引に関係を持ちたい
梅
鬼畜ショタ主人に言葉攻めされる女従者が見たい。もう自分末期かもしれん。
>>827 貴方のレスを読んでそういうのも良いじゃんと思った
鬼畜ショタ主人に虐めらる女従者可愛いよ
鬼畜ショタも良いが、ショタの頃に主に懐かれて母性本能をくすぐられてた従者が
主人が成人した後に女性本能を開花させられるようなのも見たい。
SMのご主人様と奴隷だとスレ違いか?
>>829 年上の優しく献身的な女従者萌え
>>830 S男主人とM女従者の性的な部分以外での関係性次第ではないかと
梅ついでに母性本能ショタっぽいもの
私は両親を亡くし、引き取られた先のぼっちゃまにつかえていた。
旦那様と奥様は仕事や社交にお忙しく、私を実の姉のように慕ってくれた。
私も天涯孤独の身の上で、彼を実の弟のように思っていた。
そんなある日、奥様がお亡くなりになってしまった。
お葬式で、泣くのをこらえている坊ちゃまを心配げに見つめるしかできなくて。
ぎゅっと握られた手に、どんなに愛しさと……坊ちゃまの心が伝わってきて、せつなさが胸に広がる。
旦那様は少し顔を出されただけで、お葬式でも坊ちゃまは一人だった。
私は、奥様の変わりは出来ないでしょうが……お母さんだと思ってなんでもおっしゃってくださいねと坊ちゃまを抱きしめた。
胸に顔をうずめながら、嗚咽をこらえる坊ちゃまに……結婚をあきらめている私は、自分に息子がいたらこんな感じだろうか、と。
その夜、寂しさからか私の部屋に、坊ちゃまはやってきた。
「一緒に寝ていい?」
私は一瞬立場の事を考えて、迷ったが、その悲しそうな瞳にベッドに寝かしつけることにした。
すると、坊ちゃまは甘えたように、私の胸に顔をうずめてくる。
私は、また抱きしめた。
坊ちゃまは、まるで母猫を亡くした子猫のように私の胸を触ってくる。
くすぐったいですよ、と嗜めると、恥ずかしそうにママのおっぱいが吸いたいと言い出した。
さすがに私もその言葉には、焦る。
本当の親子というものはそういうものだろうか。
私は早くに両親を亡くしたし……子供のころは母親に甘える他の子供をみてうらやましかった気がする。
その時の気分を思い出し、相手は子供なのだ、と考え直し。
私は仕方のない坊ちゃんですねぇとため息をつきながら、胸を出して坊ちゃまの好きにさせた。
それから数年。
もう「子供」とは言えない年になった坊ちゃま。
しかし相変わらず何かがあると、夜誰にも見られないように私のところに甘えにやってくる。
段々と、私の体も……坊ちゃまはそういう気がないとはわかってるのに……はしたなくも感じてしまいそうになることが多々あった。
いくつになっても男の人はママのおっぱいをしゃぶるものだろうか。
いや侮蔑の言葉になっているぐらいだから、いつかはやめさせなければいけないことなのだろう。
乳離れをさせるために、おっぱいにからしを塗るというお母様方の体験談もある。
私は坊ちゃまの本当の母親ではないので、そのタイミングを完璧に見失っていた。
さすがにもういい年なんだし、こういうことは……とやっとのことで言った私。
すると坊ちゃまは、見捨てるの?と悲しい目をする。
母親は無償の愛を与えてくれる……そしてそれを裏切らない。
それが私の母親のイメージで、そして坊ちゃまもそうだと思っているようだった。
そして押し切られて、まだ坊ちゃまとの「親子関係」は続いている。
そして、今日はその甘えが顕著だった。
本当に貴女から生まれてくれば良かった。そういって、突然。赤ちゃんが生まれてくる場所を触られて、私はびくっと、してしまう。
散々、胸を揉まれて、しゃぶられて、感じやすい先端をこねくり回されて……感じている声をこらえるのが精いっぱいだったのに。
僕を、産み直してほしいな……。
快感に身をよじらせることを悟られたくなくて、取り繕うだけで精いっぱいだった私は、坊ちゃまのされるがままになっていた。
坊ちゃまの細い指が、ぬぷりと私の中に入ってくる。
ここから赤ちゃんが生まれるんだよね、お母さん。そう無邪気に私の中をかき回す。
だぁ……めっ。
産んで。
私は、寄せてくる快感の波に……頭が真っ白になってしまった。
「あれ、お母さん?」
「……」
「イっちゃった?」
どこか嬉しげな声の後。
「いつになったら、オレの事男として見てくれるんだろう」
そんなことを悲しげに坊ちゃまが言っているとは知らずに、私は心地よい眠りに堕ちていった。
GJ
年上女性もいいなあ
最初はそうでなかったのにある時から異性として意識しちゃうってパターンも好き。
837 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/10(月) 03:49:16 ID:+XXQ8rF1
さてそろそろ本当に終わりだなこのスレも
次も盛り上がることを祈りつつ埋め
839 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/10(月) 22:54:38 ID:+XXQ8rF1
更に埋め
>>834 GJ!
けっこう特殊なシチュだと思うんだが、読ませてくれるな
母性本能ショタいいね
埋め
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埋め埋め
845 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/13(木) 08:46:00 ID:XeKM0l4f
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主従すきだ!
部下が上司の無茶な要求に振り回されて、ぶつくさ不平不満を言いながらも
何だかんだ言って世話焼きさんな感じに上司に尽くす部下とか、
どれくらいの我が儘なら聞いてくれるだろうかと部下を試しつつ
少しずつ距離を縮めていこうとする上司とか、そんな関係の上司部下がみたい。
>>847 口では文句やら不平不満を言うが、実際は世話焼きで必死に尽くしてくれて、身体は従順で逆らえない女部下とか可愛い