スクールデイズの分岐ルートを考えるスレ part7

このエントリーをはてなブックマークに追加
636SINGO
【祭の後】

《秋》
『行為』が終わって、彼は満足感と共に違和感をも抱いていた。
(大丈夫なのか?この学園…)
学園祭の出し物の一つがオバケ屋敷というのは理解できる。
が、その暗闇に乗じて擬似ラブホテルが展開されているなど、誰が予想できただろうか?
彼自身、学園校内で性行為に誘われるとは予想外だった。
彼女に連れ込まれ、最初こそ面食らった彼だが、別段、支障がある訳ではない。
むしろ彼女からのサプライズプレゼントで、彼は存分にそのプレゼントを味わった。
誰かに覗かれているかも知れないスリリングな状況の中で。

《11月某日》
「すっかり遅くなったな…」
彼はアルバイトを終え、帰りの夜道を歩いていた。
バイト時間を増やしたため、そのぶん恋人と会える時間が少なくなった。
(彼のバイトには訳があって、その理由を恋人には伝えていない)
彼は恋人の淋しそうな顔を想像して…、
と、ベンチに座り込んでいる一人の男を発見した。男も彼に気付いたのか声をかけてきた。
「よお、どぉした?こんな所れ」
ろれつが回っていない。
男は彼の友達だ。
その男が今、目の前で一升酒瓶片手に酔っ払い、堕落している。
「な…!お前、何やってんだよ!?」
「なにも。おれには、もー何もない。なにも無いんだ」
男は泣いていた。
「何か哀しい事でもあったのか?」
「ああ。おれは本気だった。ほんきで惚れてたのに…」
どうやら女にフラれたらしい。
「よりを戻せないのか?」
「むりだよ。おれわ棄てられた」
聞けば、最近になって女の浮気&通姦が発覚。問い詰めた男に対し、女が別れを突き付けた。
直接的な表現をするならば、
「つまり、女を寝取られた訳か」
「ちくしょお…」
男の言葉の端端に『イトウ』という名前が出てきた。おそらく、そいつが女の浮気相手…寝取り魔なのだろう。
彼は男に何もしてやれなかった。ただ慰めの言葉をかけるだけだ。結局は他人事だから。
「たしか、サカキの学園だったか?なら、おまえの女もヤバイな。せいぜい気お付けろよ」
寝とられないようにな、と男は彼に忠告してきた。
男にとっては善意でも、彼にとっては無神経極まりない言葉だった。
「な!?お前…!!」
怒声が出かかったが、彼は何とか自制した。

637SINGO:2010/03/10(水) 01:28:02 ID:sjwzhCkd
《後日》
彼は恋人との情事にふけっていた。
「ねえ。早く、ちょうだい」
恋人がねだってきた。すでに開脚状態だ。
やけに積極的だな、と彼は思いながら、
「じゃ、入れるから」
彼は恋人の中に欲棒を突き入れた。恋人の締め付けをじっくり味わう。
「もう。焦らさないで」
恋人の要望で、彼はすぐに前後運動を始めた。
「もっと強くぅ」
何度も何度も前後運動を繰り返す。
「あっ、あん!イイ」
やがて彼の欲棒にも限界がきた。
「俺、もうイクっ!」
「や、ダメぇ。もっと!」
どくん。
彼は恋人の腹で果てた。

恋人と肌を重ねるのは久しぶりだった。思い返せば、学園祭での校内シャセイ以来だ。
そのせいか、行為が終わっても恋人の表情は物足りないと言いたげだ。

実のところ、彼は不安だった。友達の忠告が現実のものになってしまう事が。
『榊野学園だったか?お前の女もヤバイな。イトウに寝取られないようにな』
恋人が浮気している可能性。
とはいえ、直接、恋人に確認する訳にもいかない。酔っ払いの戯言が発端だし、何より証拠が無い。
彼に出来る事は、雑談にみせかけた誘導尋問だけだった。
「そうそう。この前、俺の知り合いがヤケ酒してて。聞けば、恋人を寝取られたんだってさ」
「へ〜、かわいそ」
「その寝取り魔、イトウって名前なんだけど。そいつも榊野の生徒なんだ。心当たりある?」
「ううん、知らない」
恋人は即答。だが、恋人の顔に生じた僅かな緊張を、彼は見逃さなかった。
「噂じゃ、手当たり次第の浮気者らしい」
「へ〜。その男、最低」
おい待てよ、と彼は思った。
彼はイトウの性別を彼女に伝えていない。なのに彼女はイトウを男だと断定した。
(こいつはイトウを知ってる。その上で、知らないフリをしてる)
隠し事をしている。
恋人が浮気している可能性は、彼の頭の中で数百倍にも跳ね上がった。

不意に、恋人が口付けてきた。
「んも〜。こんな時に、そんな話しないでよ」
彼は恋人の瞳を凝視した。
無垢な瞳だった。
俺はなんて馬鹿なんだ、と彼は思った。
恋人を疑うなど、重大な裏切り行為だ。
(こいつが俺を裏切るはずが無い。俺は間違ってた。あの馬鹿のせいだ。戯言に乗せられてしまった)

638SINGO:2010/03/10(水) 01:28:47 ID:sjwzhCkd
《12月某日》
彼は一人で榊野町の繁華街を歩いていた。
どこを見てもクリスマス用の飾り付けでいっぱいだった。
彼の手には、綺麗にラッピングされた小箱。今までのバイト代をはたいて買った、恋人へのプレゼント。
彼は恋人の笑顔を想像して、
「あ」
人ごみの中に偶然、恋人を見つけた。彼は慌ててプレゼントをポケットに隠した。イブの夜まで内緒だ。
恋人は携帯電話での会話に夢中なため、彼の存在に気付いていない。
彼は恋人に声をかけようとして、
「じゃあ、イトウの家にレッツゴー」
彼女の台詞を聞いた彼は絶句した。

「イトウ」「テクニシャン」「ベッド」「セックス」「三ピン」「今度産ム」
卑猥な言葉を拾いながら、彼は彼女に気付かれないように尾行した。まるで警察かスパイみたいに。
東原巳駅で下車して以降、どの道を辿ったのか、彼は覚えていない。
やがて彼女は、とあるマンションに入って行った。
彼女はエレベーターに乗り込んだようだ。
ドアが閉まるのを確認した彼は、その扉に駆け寄った。
表示パネルを見る。エレベーターの止まった階を確認し、彼は後を追った。
その階に辿り着くと、彼は玄関のネームプレートを確認して回った。
やがて『伊藤』宅の玄関を発見。中から恋人の楽しそうな声が聞こえてきた。
彼は携帯電話を取り出すと、恋人の携帯にかけた。
『もしもし。何?』
恋人はすぐに出た。
「今、どこ?」
『自宅』
嘘が返ってきた。
「今、お前ん家の近くまで来てるんだけどさ。出て来れる?」と彼は揺さ振りをかけた。
『え?今、無理。取り込み中ー』
「急に会いたくなってな。顔見せてくれるだけでいい」
『え?無理、無理』
「何で?俺のこと避けてるの?てか今、何してるの?他の男でも居るの?」
それでも恋人は頑なに拒否。
彼は最終手段に出た。
「もういいよ。俺達、別れよう」
そう言って彼は通話を切った。もちろん、ただのブラフだ。
普通なら、この直後、恋人から電話なりメールなりが返ってくるものだ。
もしくは、ただちに伊藤宅を出て彼に会いに行くかだろう。
だが、現実には彼の電話も伊藤宅玄関も沈黙を保ったままだった。
それでも彼は恋人を待ち続けた。
やがて伊藤宅の中から、あえぎ声が聞こえてきた。その中には、彼のよく知る声も混じっていた。
彼の体から、全ての力が抜け落ちていった。幸せも希望も、心さえも。

639SINGO:2010/03/10(水) 01:30:02 ID:sjwzhCkd
あれ以来、彼のもとに電話やメールは来なかった。どころか、彼女自身も来なかった。
彼女は、彼の『別れよう』発言を冗談だと判断したのか、能天気にも彼を放置。
彼自身も自分からの接触を諦めていた。

最終的に、先に動いたのは彼女だった。なぜなら…
彼は、ある噂を友達から聞いた。例の伊藤が誰かを妊娠させたという噂。
ここにきて、ようやく彼女は彼に電話した。遅すぎるくらいだ。内容は復縁。
このタイミングの良さ、変わり身の早さに、さすがの彼も頭にきた。
仮に彼女が伊藤に孕まされていたとしても、彼は同情しない。もう愛想が尽きた。
「お前には伊藤がいるだろ。さんざん俺を放置しといて、今さら俺にどうしろって?」
『伊藤って誰よ!変な言い掛かり付けないでよ』
「しらばっくれんな!俺、知ってんだよ。お前が伊藤とセックスした事」
そして彼は全てを彼女に伝えた。
あの日に彼女を尾行した事。その時の彼女のエロ通話。伊藤宅内から聞こえてきた、あえぎ声。
「浮気相手が危険な男と判ったら、即モトサヤかよ?ふざけんな!」
全てをぶちまけた彼は通話を切り、着信拒否モードにした。

《聖夜》
彼女は彼の家にまで押しかけて来た。一人では不安なのか女友達二人を同伴して。
彼女は弁解してきた。そして女友達二人は彼女を弁護。
聞けば、この女友達二人は無理に彼女を伊藤宅に呼び出し、行為に及ばせたらしい。
あくまで悪ふざけで、彼女はただ巻き込まれただけだ、と。

そこへ、
「よう。いっしょに飲もうぜ〜」
彼の友達がやって来た。かつて伊藤に女を寝取られ呑んだくれていた(今でも酔っている)男。
「…って、あれ?そいつら、たしか東はらみで…」
「ん?お前、知ってんの?」
「ああ。みおぼえがあるろ。そのシャギーの子にボブのこ。そっちのヘアバンドの子は確か…」
男は順番に指さして彼女達を確認した。
ちなみにヘアバンドの子が恋人だ。もっとも、これから恋人ではなくなるわけだが。
「んん、まちがい無い。伊藤のマンションに入っていったろ」
なぜか男は伊藤の住所を知っていた。おそらく調べたのだろう。女を寝取られた報復のためか。
「さんにんそろって」

640SINGO:2010/03/10(水) 01:30:56 ID:sjwzhCkd
「…え?今なんて?」
彼は自分の耳を疑った。
「だからー。三人そろって」
いや。あの日、彼が見たのは、彼女が単独でマンションに入って行く場面だった。
それが、三人そろって?
「おい待て。それ、いつの話だ?」
「いっかげつくらい前かなあ」
彼が彼女を尾行した日よりも、さらに前だ。
♪ピリリリリ…。
不意に、彼女の携帯電話が鳴った。
彼は彼女の手から携帯電話を奪い、ディスプレイを見た。
『着信あり:伊藤 誠』
「なあ、メールボックス見ても良いか?」
おそらく伊藤とのエロトークでいっぱいだろう。
彼女は首を横に振った。
確定。もう見る必要は無い。
彼は携帯電話を投げ、憎悪の瞳で彼女を睨みつけた。
「よくも騙してくれたな。このビッチ糞が…」
すると彼女の女友達の一人が、彼女を庇うように割って入ってきた。
「ちょっと!その言い方、非道過ぎない?大体、ボンヤリしてたアンタが悪いのよ」
「部外者は黙ってろよ。いや、共犯者だったか。腐れヤリマン」
「うっさい、負け犬」
「なんだと?」
話が違う方向にズレてきた。
「ちょ、やめてよ。ナツミちゃんも」
彼女が女友達を止める。が、ナツミと呼ばれた女友達は構わず暴言を続ける。
「女を満足させるテクも無いくせに。だから飽きられるのよ。その点、伊藤は凄く上手くて…」
その言葉は彼の心を深く傷付けた。絶望。彼の目から涙がこぼれ落ちた。
「うわ。何コイツ、泣いてるの?男のくせに」
「どうせ俺は負け犬だよ。でも負けるならセックスじゃなくて、優しさとか誠実さとかで負けたかった」
これが彼と恋人の決定的な違い。
恋人は自由奔放だった。目先の快楽を求めて。
一方、彼は今まで自分の自由を犠牲にしてきた。自分と恋人の将来を見据えて。
自由よりも遥かに尊い不自由がある。そういって自分を納得させてきた。
その結末に、彼が手に入れたものは……。
彼はポケットの中身を取り出すと、彼女の足元に叩き付けた。
それは綺麗にラッピングされた小箱。今までのバイト代をはたいて買った、恋人へのプレゼント。
中身は、彼女の薬指に合うサイズのプラチナアクセサリー。
「メリークリスマス、来実。さようなら」
今度こそ、本当に。
彼は、酔っぱらいの友達を自宅に引き入れると、内側から鍵をかけた。
しばらくして外から彼女の声が聞こえてきた。玄関の扉を叩く音も。
だが、彼は何も聞かなかった。何も聞こえなかった。

Bad End