スクールデイズの分岐ルートを考えるスレ part7

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262視線2
いたるSSを投下します。
視線1の続きです。
ちょっと長いです。
263視線2:2009/02/24(火) 20:38:27 ID:3il37jhb
『やめて!一体何なの!』
「もごっ・・くっ・ううっ。」
いたるは口を塞がれてるせいで声が出せない。
『あれ?でもこの人・・』
少し冷静になったいたるが相手を確認すると自分を押えている相手は
全体的に柔らかくて華奢だ。
それに体臭と言うよりは香水の匂いが身を包んでいるし指にはマニキュアが塗ってあった。
『女の人?』
「ごめん!お話したいだけだから暴れないで!」
いたるを押さえ込んでいる人物は耳元でそう言った。


いたるが抵抗をやめて振り向くと
「本当にごめんなさい。」
と言いながらその女性が深々と頭を下げていた。
やがて身を起こした相手はまっすぐにいたるの顔を見つめてきた。
その瞬間いたるの背中に戦慄が走った。
そう小さい頃に感じたあの戦慄を・・・
「もう覚えて無いよね?君小さかったもんね?」
『知っている・・・私はあなたを知っている・・』
いたるはそう思ったけれど口に出せなかった。
264視線2:2009/02/24(火) 20:39:08 ID:3il37jhb
「私は・・・
 『世界っていう名の邪悪なおねーちゃ』
・・・世界っていうの。」

いたるの感は当たっていた。
いたるには誠の知り合いで怖いと感じた人物が二人いた。
1人は加藤乙女でいたるをあやそうとして誤って天井にぶつけた事から
しばらく怖くて近づけなかった。
でも乙女とはその後段々と打ち解けていく事が出来た。
そしてもう1人は世界だった。
世界には最初からいたるを受け入れる様子はなくてただの邪魔な
石ころでも見るようにいたるを見ていた。
その視線からは誠に近づくものは何者をも許さないし近付けば
手段を選ばず排除しそうな禍々しい雰囲気を感じ取ったものだった。


いたるにはその当時感じた恐怖感が蘇っていた。
世界は当時と違って後ろ髪も肩の下辺りまで伸ばしていたし
年相応の落ち着きは見せていた。
でも小さい頃の強烈な印象によっていたるの足は自然に震えてきた。
「ねえ?」
「は・はい。」
「君は誠の妹さんでしょ?伊藤いたるちゃん。」
名前まで知られているようでは他の事も知られているだろう。
いたるはここは素直に答える事にした。
「はい。」
265視線2:2009/02/24(火) 20:39:40 ID:3il37jhb
「そっかーやっぱりね。
 犬の世界ちゃんに会いに行った時に見かけてから気になってたのよ。
 それで飼い主の娘に君の事を後で色々聞いてるうちにね
 君とお話したいなって思ったの。」
「何故ですか?」
「やっぱり君があの頃の誠に似てるからかな。
 でもさあ、いざ声をかけるとなると色々迷っちゃって。
 で結局さっきみたいな最悪の形に・・アハハハハ。」
そう世界は頬をポリポリかきながら言った。
「そうだったんですか。」
いたるが察知できなかった理由もわかった。
怖い印象がある相手とは言え邪心があってつけてきたわけでは無いからだ。


「誠は元気?」
「はい。」
「そう。あの二人は結婚したみたいだね。」
「ええそうです。」
「幸せそう?」
「はいそれはもう。」
「そっかーやっぱり誠には桂さんか。」
そう言いながら世界は複雑な表情を浮かべた。
この話題は続けない方が良さそうだと判断したいたるは
今一番気になっている事を訊く事にした。

266視線2:2009/02/24(火) 20:40:12 ID:3il37jhb
「所で私は犬の飼い主からあなたが高校の頃のクリスマス以来
 行方不明になってるって聞かされてたんですけど?」
「えー私が!?そりゃ振られたショックとその後のゴタゴタに
 嫌気が差して何日かあちこち彷徨ったけど・・」
「え?」
「そう言えば飼い主の娘には私の名前名乗ってなかったわね。
 知ってたらそんなこと言うはず無いもんね。
 今度行ったらちゃんと名乗っとくわ。」
確かに世界の言う通りなのだが飼い主の癖を思い出したいたるは頭を抱えた。
飼い主には人から話を聞いても肝心な所を忘れたり自分の印象で話を歪曲する癖があった。
いたるが引っ越した後なのに沢越家に犬を置いてきたりするのはその典型といえた。
恐らく未だに行方不明という項目は勝手に飼い主が脳内補完したのだろう。
こういうタイプはよくいるのだが本人に悪気が無いとは言え迷惑な事この上ない。


「どうしたの君?」
「い・いえ何でもないです。所で今日あなたにお会いした事は兄達には・・」
世界は首を横に振った後に
「言わない方が良いと思う。」
と言った。
それを聞いていたるもほっとした。
やはりそれが一番だと思ったからだ。
「ねえ君の事いたるちゃんって呼んで良いかな?」
「はい。」
267視線2:2009/02/24(火) 20:40:48 ID:3il37jhb
「いたるちゃんに一つお願いがあるんだけど。」
「なんでしょう?」
世界は歩を詰めると正面からいたるを抱きしめた。
「えっ?」
突然抱きつかれたいたるは当然困惑した。
でも
「ごめんね。少しの間で良いからこうさせて。」
と涙声で世界に言われると振りほどく事は出来なかった。
いたるは戸惑いつつもいたわるように世界の背中に手を回した。


そして数分後世界は
「さよなら誠。」
とポツリと言っていたるから離れた。
「ありがとう。いたるちゃん優しいんだね。」
「いえそんな。」
そう言つつもいたるは思った。
世界の表情が実にすっきりとしたいいものに変わったと。

「所でいたるちゃんは今恋してる?」
「うっ・・・」
いたるの頭の中をろくでもない連中が横切る。
世界もただならぬ気配を察して
「ま・まあそのうちいい相手が現われるよ。」
とフォローした。
「そうでしょうか?」
「うんいたるちゃん可愛いし。
 でも私や桂さんみたいに命のやり取りをするような辛すぎる恋は
 やめた方が良いかもね。」
『全くあのバカ兄貴は一体何をやらかしたのよ・・・・』
268視線2:2009/02/24(火) 20:41:17 ID:3il37jhb
「じゃあね。今日は話せてよかった。」
と世界はそう言ってその場を去ろうとして振り返った。
「あのね。」
「はい?」
「もういたるちゃんに話しかけちゃダメかなあ?」
「え?」
「別にいたるちゃんの電話番号聞いたり家まで行ったりはしないよ。
 犬の世界ちゃんの所でたまに会ったら挨拶くらいしてもいいかなあ?」
「はい。」
といたるは満面の笑顔で答えた。

「ありがとう。」
「でもそれなら飼い主にあなたの名前は言わないで下さい。」
「え?」
「あの娘からお兄ちゃんたちに話が伝わるかも知れませんし。」
「そうだね。じゃあ適当な名前を名乗るよ。
 その娘から私の噂を直に聞きたいし。」
「それが良いですね。」
そして二人はお互い手を振って別れた。

269視線2:2009/02/24(火) 20:42:40 ID:3il37jhb
帰り道にて


いたるは世界の事を考えながら家路についていた。

『聞きそびれちゃったけど今は幸せなのかなあ・・いい人見つかったのかなあ。』
『あの人邪悪というより必死だっただけなのかも知れないなあ・・・
 でも場合によってはあの人をお姉さんって呼んでたわけだよね・・・
 そう思うと複雑だなあ。』
『今日あの人が私と話したかったのはお兄ちゃんにちゃんと
 お別れが言いたかったからなんだね。
 そう思うと切ないなあ。』
『でも私でお兄ちゃんの代わりが出来たみたいだし良かった。ん?待てよ?』

いたるがそこまで考えた所で後ろから心が走ってきた。
「いたるちゃーん。今そこで焼き芋屋さん捕まえてさあ。
 いっぱい買っちゃったあ。」
と心が幸せいっぱいの笑顔で焼き芋が入った紙袋をいたるに見せた。
でもいたるにとっては芋どころでは無かったようだ。
「心お姉ちゃん!」
と真剣な顔でいたるは心に迫った。
「な・何?いたるちゃんにもちゃんとあげるよ。それに一個余ったらいたるちゃんが食べていいよ。」
「私ってそんなに男顔?」
「え?何の話?」

「これって私の一生がかかった問題なの!ちゃんと答えて!」
「訳わかんないよ!早く帰らないとお芋冷めちゃうよ!」
そう言って心は紙袋を抱えて家に向かって走り出した。
「心お姉ちゃんってばー。」
いたるは慌ててその背中を追った。
いつもの日常に戻れた事を嬉しく思いながら。

End
270視線2:2009/02/24(火) 20:44:32 ID:3il37jhb
今後世界を出すかは未定です。

でも犬の世界はまた出したいなと思っています。