出会いがしらに頭をゴツン!
目覚めてみればアラ不思議、ぶつかった相手と人格が入れ替わっちゃった!
……なんていう、漫画やアニメでしかお目にかかれないような現象が、わが身に降り注ぐなんて。
信じられない。
ありえない。
けれど、現実は厳然と私に事実を突きつける。
朝、遅刻しそうだった私は身支度を整えて部屋から駆け出すなり、妹の伊織とぶつかって意識を飛ばした。
そして、恐らくは一分と経たずに意識を取り戻し――自分と妹の中身が入れ替わってしまったことを知った。
何をバカな、とおっしゃる?
言いたいなら言えばいい、というか私が言いたいよ「人格交換? はぁ? 馬鹿じゃない?」ってさ。
だけど私の目には現実がくっきりと映し出されている。
……視界の中。
尻餅をついたままこちらを見て、信じがたいとばかり目を白黒させる『私』がいる。
頬をつねってみても、この現実に終わる気配はなかった。
伊織と急遽話し合い、お互い頭突きをしてみても人格が元に戻る気配がないのを知った私たちは、このまま登校することを決めた。
両親に相談なんて論外。
姉妹そろって仲良く発狂したと思われては、父さんも母さんも自殺しかねないし。
とりあえず今日のところは学校に行って適当にやり過ごし、今後のことについては夜話し合うということにしたのだ。
幸い、私たちは家に友達を呼ぶことが多かったし、姉妹仲も良好だから互いの交友関係の概容は知っている。
「なんとかなるよ。……しようよ、ね、お姉ちゃん――じゃなかった伊織」
よく通るアルトボイスが私の鼓膜を叩く。私の、という表現が正しいのかは微妙なところだけど。
「そうね……とりあえず、学校じゃ上手くやりましょ」
そう答えると、ぴたり、と人差し指で唇を封じられた。
「違うでしょ伊織?」
……もうなりきっている。
適応が早いというべきだろーか。
いや、それくらいの気構えは必要なのかもしれない。
私は何時もの伊織らしい柔和な笑顔を模してみせた。
「そうだね、いお、お、お姉ちゃん」
「よしよし、その調子。……ああそうだ伊織、自転車の鍵どこ?」
「私の机の上」
私こと水寺真姫と妹の伊織は違う高校に通っている。
成績で言えば伊織の高校の方がランクは上で、距離で言えば私の高校の方が遠い。
……アホだとわざわざ遠い低ランク高に通わないといけないのは悲しい現実だ。
いつもより低い位置で固定された視界に戸惑いを覚えつつ、階段を下る。
「それじゃ、行ってくるね、おかあさん」
いってらっしゃーい、という返事が来るのに小さくガッツポーズ。伊織らしく行ってきますを言えたみたいだ。
玄関を出ると秋の澄み切った青空と、清らかな朝日が網膜をつついた。
何も変わらない空。
物理法則を超越する勢いで変わった私。
……嘆息を禁じえない。
玄関脇の自転車に向かいそうになる足を修正し、門扉を押して家を出た。
途端、
「おはよ、伊織ちゃん」
穏やかな声が名前を呼んだ。
反応が遅れたのは、やはりまだ慣れないために、自分が呼ばれたのだと自覚できなかったためというのもある。
だけどそれ以上に影響したのは、私はどうしてこんな重大なことを忘れていたのか! という驚愕だ。
私も伊織も、彼氏いるんですけど!
しかも伊織の恋人は――私にとっても伊織にとっても幼馴染であるのだ!
やべえバレるとしたら確実にこいつからだ!
私は油をさしていない機械みたいにぎこちなく首を回し、その間に全力で『伊織っぽい笑顔』を構築した。
そして言う。
「うん、おはよう。夕平……げふんげふん、ゆー兄さん♪」
視界の中で、妹の恋人が平和そうに微笑している。
日高夕平――私にとってはただの幼馴染、伊織にとっては幼馴染、プラス恋人。
中肉中背で容姿はまあ、男らしい男が好きな私からしてもそんなに悪くはないと思う。
伊織が言うには、成績は毎度学年トップクラスだとか。私と同学年だったときもそんなだったなあ。
運動の方はからっきし。
性格のほうは何となく油断ならないと感じられるときもあるけど、概して温厚。
私に評させれば、いい奴だけど柔弱。
恋人にするには値しない。
やっぱ男は体育会系の、男らしい奴じゃないとね。私の彼氏、一久みたいにさ。
だけど伊織に言わせれば、『ゆー兄さんは私の世界そのものなのー』なのだそうだ。
まあ、好みは人それぞれ。口を出すような筋のことではないけれど。
うーん、それにしても、今日は大変だな。不審に思われないよう注意しないと。
――そんな風に、一瞬思考でトリップしてしまったからだろう。
気づくと夕平の顔がアップになっていて、私は思わず後ずさってしまった。
「伊織ちゃん?」
戸惑ったように言う夕平は、姿勢を少し低くしていて、右手が上がっている。
……もしかして、撫でようとした?
ううん、私にとっては受け付けない行為だけれども、そういえば伊織は夕平に撫でられるのが大好きなんだった。
付き合ってるのに、まだ前みたいな兄妹気分が少し抜けていないとこがあるのよね、伊織は。
ともあれ、朝っぱらから怪しまれるのは宜しくない。私は全力で柔らかく笑ってみせた。
「あ、ううん、何でもないんだよ。ちょっと考え事してたから、びっくりしちゃっただけ」
「そう? ならいいけど……言える悩みなら、いつでも僕も聞くからね?」
恋人っぽい言動。
当たり前だけど私はそんな言葉を夕平から向けられた経験はないから、少し妙な気分になる。
と、ちょっと奇妙な心境になっていると、背後から「行ってきまーす!」という威勢のいい声が聞こえてきた。
私だ。……違った、伊織だ。
伊織は自転車を引いて私の脇を軽快にすり抜けて道路に出、自転車に跨ると、夕平の方を向いた。
「おはよう、真姫」
穏やかな挨拶を受けて、私の、真姫の肉体はピッ、と右手を軽く上げた。
「よっす夕平。伊織のこと、ちゃーんと送っていってよね?」
夕平は微笑し、ちょっと気取った様子で胸に手を当てた。
「心得てますよ、姉君」
「いい返事だ」
伊織はカラッと笑うと、勢いよくペダルを漕ぎ出した。
「んじゃ伊織も気をつけるのよ! 行ってきまーす!」
私の肉体を駆る伊織は、ぐんぐんと遠ざかっていった。
伊織の肉体の運動能力は低い。ある意味夕平とはお似合いな感じに。
だからこの機会を使って存分に体を動かしてみようと伊織は考えたのか、自転車に乗る姿はどこか生き生きして見えた。
夕平は苦笑して、「真姫はいつも元気いいねえ」とコメント。
……あれ?
全然怪しんでないよ。
伊織のやつ、実は演技派?
図書委員で文芸部という私の妹に、隠された才能が?
また思考の渦に落ち込みそうになる私は、
「それじゃ、行こうか伊織ちゃん」
という夕平の言葉で思考を現実に復帰させた。
「うんっ」
弾むように言って、妹の恋人の横に並んで歩き出す。
穏やかに笑う夕平とは裏腹に、私は今日学校で味わうであろう心労を想像して、こっそりとため息をついた。
おはよう、と教室のドアを開けたときから私の戦いは始まった。
まず自分の座るべき席をさりげなく探るところから始まり、伊織の友達との会話、昼食などなど……
誰かと話さなくても済む授業の時間だけが救いだった。
普段はかったるくて、遅々として進まない時計の針に気をもむだけだったこの時間が、こんなにありがたいと思える日があるなんて。
……にしても、伊織は一つ先の学年の授業なんて受けて大丈夫なんだろうか。
私と違っておつむに刻まれた知性の回路は精緻だけど、全然習ったことのない内容を理解するのは無理だろうな。
いくらここよりランクが下の高校だって、学年の壁は厚いだろうし。
反面私のほうはというと、さすがに以前自分が習った部分を聞かされるだけなので、さしたる苦労はなかった。
姉のほうが楽な身分ってのも何だかなー。
などと考えているうちに、ようやく一日の終わりを告げるチャイムが鳴った。
個性のない無機的な音が、今日ばっかりは天使のラッパに聞こえた。
ほぼ未知の人間関係の中で、綱渡りするみたいに関係性を測って応対していく精神的負担と来たら!
普段ならここで「はああああああああ」と、でっかく溜息をつくところだけど、伊織はそんなことしない。
するなら家に帰ってから、だ。
ホームルームが終わると、私はカバンに荷物を手早く詰めて席を立った。
「わたし、今日はもう帰るね。亜子、ちぃちゃん、なつめ、バイバイ」
にっこり笑顔で手を振る。
よく我が家に遊びに来る、私――真姫とも顔見知りである、亜子ちゃんがにまーっと笑った。
「ういうい。まーた、日高先輩と下校ですかー」
うんうんと頷き、
「セーシュンだなあ。あたしも彼氏欲しいわマジで。ある日突然空から降ってこないかなあ」
ちぃちゃん……もとい、私にとっても初見だった、仲原千里ちゃんがそれを受けて、
「そういう漫画なら沢山あるから貸してあげるよ? どれがいい? 目録でも渡す?」
と眼鏡のレンズを光らせた。
どうやら彼女、女版のオタクのようだ。
なかなか伊織も面白い子たちと付き合っている。
正直ひとつひとつの会話自体が気が気でなかったとはいえ、この子たちとのお喋りは結構楽しかった。
伊織はやや内気な子だけど、学校では上手くやっているみたいだ。
私は姉らしい感情を覚えつつ、妹の友人たちに改めて別れを告げ、教室を出た。
部活に向かう生徒、家に帰る生徒たちの生み出す喧騒の中、場違いな私は心中で縮こまりつつ昇降口を目指した。
伊織の所属する文芸部は不定期に開かれるようで、その辺は都合がよかった。
「さて、と」
こっそりと呟く。
昇降口で靴を履き替え、外に出ると、家路につく生徒たちの背が連なるなかに、こちら側を見ている人間がひとり。
「またまた試練ね……」
要注意リスト上位である幼馴染、日高夕平。
わたしは伊織っぽく微笑んで、ゆー兄さん、待った?
と愛らしく尋ねてみせた。
「ん、大したことないよ」
気の抜けるような笑顔で夕平は応じる。
定型句なのか、本当に今来たところか……その辺はよく分からない。
悪いやつではないと思うんだけど、私は夕平の、本音を見透かせない感じが昔から少しだけ苦手だった。
妹の恋人であるのだから、間違っても変な対応は出来ないけれど。
伊織と夕平の間に禍根を生むようなことは絶対避けたいし、それに付き合いが長いだけに、妙な行動はすぐ不審を買うだろうし。
とはいえ、付き合いの長さは私にとっては不幸中の幸いでもある。
私との関係が薄い伊織の友達とは違って、夕平の伊織の関係については前から目にしていて情報もある。
夕平の人となりも大体把握してるから、対応のしようもあるしね。
条件は決して悪くない。勝てない勝負ではない――。
――って。
帰り道ひとつで戦争かよ。
私、いつになったらこんな罰ゲームみたいな状況から解放されるんだろ……。
「――はぁ」
「?」
「あ、ううん、ちょっと今日体育で疲れちゃって」
溜息をついた私に目をやった夕平に、すぐさまフォローを入れる。
伊織と同じく運動音痴であるコイツは、ああうん体育か、なら仕方ないよなあと頷き、
ぽん、と私の頭に手のひらをのせた。
よしよし、とばかりに優しく撫でる。
「がんばったね」
……調子狂うこと甚だしい。
私は帰途のことを考えて重くなる胃のことを必死で隠しながら、エヘヘ恥ずかしいよ、ゆー兄さん――とはにかんでみた。
予想通りに帰り道は胃袋殺しだったけど、私はどうにか家のそばまで来ていた。
隣を歩く夕平に私を疑う様子はない。
見た感じ、いつも通りだ。
あと百メートルくらいで、私はとうとう安息の城への帰還を果たす。
……母さんたちもいるけど、部屋にこもって負担を減らそう、うん。
伊織は自分の部屋に居ることが殆どだったし。多分、読書でもしていたんだろうね。
そんな風に、私が早くも帰宅後の算段をしていると。
「ねえ伊織ちゃん」と夕平が足を止めた。
夕平の家――日高家の直前だった。
私も流石に慣れてきていて、
「どしたの?」
と、同調して止まる。
夕平は、頭ひとつ低い私――伊織の目を覗き込むようにすると、
「うん。……今日も、うち誰もいないんだけどさ」
と言った。
「――――――」
私の思考に大いなる空白が訪れた。
数瞬して、再起動を果たした私の頭脳は一発で恐慌に叩き込まれた。
そう!
そうなのよ!
何で私はこんな簡単なこと忘れていたんだろ!?
伊織と夕平は恋人で、恋人ってのはつまりその、そういうことだって当然してるわけで!
あまり深く考えたことはなかった。
というか、近しい二人同士の交わりというものを想像することを、無意識に避けていたのかもしれない。
いやそれにしても!
つーかアレ!? もしかして伊織も一久からそういうお誘い受けてたりするッ!?
いやいや思考が脱線してる、今はここをなんとか凌ぐことを考えないと!
私のあまり高性能ではないCPUがガチャガチャ音を立てて稼動した。
一瞬、大宇宙や素粒子の世界が見えそうなほどに私の思考は展開、縮小した。
そして最後。シンプルながらも有効であろう対策を思いつく。
生理! これだね!
思い立ったら即実行、私は表情筋を駆使して困った顔を作り、たいそう申し訳なさそうに、
「あのね、わたし今日は――」
生理なの、というより早く、
「生理なら終わってるし問題ないよね?」
と夕平が人畜無害な笑顔を浮かべた。
つーか何でアンタが把握してるの!?
とよっぽど叫びたかったけど、私は渾身の一策が戦果ナシで散ったことに衝撃を受け、口にはできなかった。
「最近試験とかあって出来なかったし、ちょっと情けないけど、我慢できないんだ」
流石に恥ずかしそうに夕平は頬を掻いた。
……どうしよう。いい断り文句が思いつかない。
無碍に拒絶するのは簡単だけど、それで万が一この関係にヒビが入る一因となったらどうする。
私に責任は取れない。
ひとの恋人関係を破壊するなんて、私がやっていいことじゃないでしょう。
思案しかねて、私は結局、
「……うん」
と、恥ずかしそうに頷いた。
中身はかなりのヤケクソ状態ですけど。
ほら、まあ、一回、一回だけだし!
明日になったら元に戻れるかもしれないし! さすがにこんな希望的観測は自分でも信じがたいけど!
一久には――申し訳ないけれど。
それに、と私は目の前の背中を見つめた。
自宅の二階への階段を上る夕平は、多少高揚してるように見えた。
……夕平のセックスなんて、たかが知れてるよね。
少し侮るように、私は予測した。
おとなしい夕平とおとなしい伊織の交わり。
多分きっと、二人に相応しいような、穏やかなものだろう。
さっさと夕平に出させちゃえば、それでお終い。
うん。何も問題はない。
だって夕平、ねちっこく責めるとか激しく攻めるとか、そういうのとは無関係そうだしね。
どこかから、やっぱりな、という突っ込みが飛んできそうだ。
……私の予想は完全に外れていた。
「んっ……くぅ、ふぅ、ぁ」
声が漏れてしまう。屈辱だ。
夕平は何とも、ゆったりと事を運ぶタイプだった。
一久とのセックスだったら、もう挿入に移っててもおかしくないくらいの時間だけど、わたしは殆ど服を脱いでもいない。
ブレザーを脱いだ。
シャツの真ん中あたりのボタンを外して、伊織らしい子供っぽいブラを露出した。
ブラの右側がずり下げられて、形のいい丸い丘をあらわにさせられた。
それだけ。
ベッドに転がった私の上にかぶさる夕平は、丹念に胸をいじめている。
胸の左側、まだシャツに包まれているほうは服の上からじっくり揉みほぐす。
右、ブラをずらされた方は、小さくて桃色の乳首に吸い付いて、ちろちろと舐めている。
「あ、んん……」
ゆっくりとしつこい愛撫。
左手が動き、布越しに乳首を指でこすった。
もどかしい刺激が送られる。
(っていうか……舌の動きがっ)
乳輪をなぞるようにしたかと思うと、蛇みたいに乳首に絡みつき、先端をほじるように突く。
「あ、あ、う、きゃっ」
断続的に声を漏らしていると、ふと夕平が口を離した。
微笑んで訊いてくる。
「気持ちいい?」
問う間も、指はころころと乳首を転がしていた。
私は思わず頷いてしまった。
「う、うん、いいよぉ」
ショックだった。自然に出てきた言葉だった。
……一久を裏切ったみたいだ――。
夕平は楽しそうに頷くと、
「じゃ、いつもみたいに胸で一回イッておこうか」
と宣言した。
すぐに責めを再開する。
それは随分と巧みで、ショックを受けた私の頭は、すぐ桃色の靄で包まれた。
太ももの付け根、その奥が疼きだすのがわかる。
伊織の肉体は愛撫に敏感に反応し、さっきからずっとジュースを漏らしている。
「は、あ、ああん……いいよう、ゆーにいさん……」
悶えてしまう。どうしようもない。
気を良くしたみたいに夕兵は乳首をなぶり、ひっかき、さらに責めを重ねた。
そのうち、だんだん胸の奥から妙な熱が湧き、ついには胸の先に届き、そこでもどんどん膨らんでいく。
(やっ……私、これじゃイッちゃ……)
思った瞬間、乳首が少し強めに噛まれた。
甘い電気が脳みそを走った。
「は、ひゃ。いっちゃぁ!」
びくんと体が跳ねた。
腰がぴくぴく震えた。
どろ、と穴が欲望の液体を吐き出す。
もう、パンツにはすっかり染みができてしまっている。
「ふふ」
イッたね――と、身を起こした夕平はくりくりと乳首を指で弄った。
そのたび私は腰を小さく跳ねさせた。
結果に満足したのか、夕平は次の場所に移る。
それは勿論、下。
スカートを無造作にめくりあげ、青と白のストライプのパンツのクロッチを観察し、唇の端を上げる。
「すごいシミだね」
「や、言っちゃやぁ……」
私はどうにか芝居を継続した。私ならもっと乱暴に、「うるさいよ」とか言ってしまうだろうけど、伊織はそうではないと思う。
けど、予想に反して夕平は目をぱちくりさせた。
「……伊織ちゃん?」
今の対応、ヘンだった?
私はほんの少し焦り、しかしそれは表に出さず、
「なぁに?」と聞き返した。
さほど気にしたわけでは無かったのか、
「いや、なんでもないよ」
と、夕平は誤魔化すみたいに笑った。
身をかがめ、責めを再開する。
どうやら、はいたままが好みらしい。
夕平はパンツの上から、割れ目をついついとなぞり、時々入り口のところをぎゅっと押した。
「ふぁ、あああ」
私はそのたび、面白いように声を上げてしまう。
なんだか少し嫌な話だけど、伊織はよっぽど開発されたみたいだ。
ちょっとの刺激でも、理性が軋むみたいな快感が生まれてくる。
……そんなだから、パンツ越しにクリトリスを摘まれたときは、
「はっひゃあああああああん!」
簡単に、私は叫び声を上げてしまった。
どうしよう、すごい。
すごい……。
夕平は下着越しにクリトリスを撫でだすけど、それだけでも、おマメがどんどん勃起してくるのが分かる。
どんどんエッチな膨らみが、しましまのパンツに生まれていく……。
「ふふ、相変わらずすぐ勃っちゃうんだなあ、伊織ちゃんのクリは」
からかうような言葉に、わたしは思わず目を腕で隠して横を見た。
演技じゃなかった。
実際に恥ずかしかった。
でもそれは、夕平に違和感を与えてしまったみたいだ。
夕平は手を止めた。
「……ねえ、伊織ちゃん」
気遣わしげに、
「今日何かあった? それとも、僕としたくない?」
少し不安の滲む声だった。
それを聞き、私は確信する。
普段の伊織は、もっと積極的なんだ。
妹の知らなくても良いような一面を知ったのは愉快じゃないけど、ここでは重要だ。
このままここで、したくないと答えれば夕平は手を止めるだろう。
夕平も伊織のことが好きなのだから、無茶なことは言わない。
だけどそれじゃ、当初の目的は達成できない。
私は腕を外して夕平を見た。安心させるように心がけて微笑む。
「そんなことないよ。久しぶりで、ちょっと恥ずかしかっただけ」
それで夕平はとりあえず納得したらしい。
胸をなでおろしたように、
「そっか。えー、じゃ、続けても大丈夫?」と問いかけてくる。
「うん、もっと気持ちよくして?」
私は両手を広げた。迎え入れるみたいに。
こいつに与えられる快楽に期待したわけじゃ、ない。
夕平がベルトを外し、制服のズボン、トランクスと脱ぎ捨てた。
私は身をこわばらせた。
血液が巡り、鋼鉄の棒みたいになった夕平のそれは、とても大きかった。
ガチガチになって、腹まで反り返っていて、赤黒い亀頭はものすごいエラを張っていた。
私をいじめていた時から興奮していたのか、先端は分泌液でぬらぬら光っている。
(……どうしよう、一久のより、全然おっきい)
ごくり、と唾を飲む。
あんなの入れられたら……どれくらいキモチいいだろう。
――って、違うよ私っ!
なに、なにを考えているの。
まるであれに突かれるのを期待しているみたいなことを考えるなんて、絶対いけない。
私には一久という彼氏が居るんだ。
そして私は、犯してもらえるなら誰でもいいなんて言うような、いやらしい女では断じてない。
セックス自体そんな好きなわけじゃない、一久とのセックスでだって滅多にイカないんだし。
だから、期待なんて、ありえない。
あってはならない。
「久しぶりだし、今日はフェラしてもらわなくていいよ。濡れてるから、準備ももういいっぽいね」
夕平は言う。
伊織、これを咥えて、しゃぶってるんだ……。
きゅん、と甘い疼きがあそこの奥で生まれる。
だから、ダメだってば。
「それじゃ伊織ちゃん」
夕平は私の前に膝を突いた。
というかコイツは着衣のままするつもりなのか。
変態め、いつかからかってやる、と私は冗談を考えて、今の状況については深く考えるのを避けようとする。
けど、こいつは私のそんな努力を打ち砕く発言を繰り出す。
「いつもみたいに、やらしくおねだりしてよ」
夕平の顔には情欲の火が見られるけど、それだけ。
平然としている。
特別卑猥なことを頼んでみた、という感じの興奮はない。
今の言葉もごくあっさりと放たれた。
それだけ……夕平にとっては当然の発言ということだ。日常な訳だ。
(ひとの妹に何させてんのよ! このムッツリが!)
怒りで性欲が少し減退する。好都合だ。
まったく、人畜無害っぽい面をしているのに、こいつの性根はなかなかどうしてキてるじゃないの。
伊織が好きになってくれなきゃ性犯罪に走ってたんじゃないの? ふん。
……けど、おねだり自体は……しなきゃいけない。
そういう流れだ。
覚悟を決めろ、私。
頭の中で精一杯いやらしい仕草と文句を考え、検討し、決断する。
私はびちょびちょになったパンツをそっとずらした。
あそこが空気に触れる。
ぴんぴんに勃起したクリトリスが、外気で気持ちよさそうに震えるのに赤面しながらも、口上を並べた。
「ゆー兄さん、久しぶりに気持ちよくしてもらって、わたしのおまんこはドロドロです。
ゆー兄さんのおちんぽを入れてもらいたくてひくひくしてます。
立派なおちんちんで、伊織を気持ちよくして、兄さん?」
そして、空いた手であそこの花弁に指を添え、開く。
ぱっくりと、粘液にまみれたピンクの穴が晒された。
……これは恥ずかしすぎる。
怪しまれないように、懸命に考えた台詞だけど。
ここまでいやらしいと、逆にダメだったりしないだろうか?
そんな感じで、私が羞恥と不安の板ばさみになってると、夕平がいざって、私の腿を左右に大きく開いた。
身を乗り出して、私の頭、耳のそばをそっと撫でた。
「いつもよりちょっと大人しいね。久しぶりで恥ずかしいんだから、仕方ないけどね」
普段これより過激なの!?
パネー、夕平さんマジパネーっす。
私は少々呆れた気分になる。
さっきまでの興奮はだいぶ冷めていた。
この分なら、みっともなくよがるような醜態は避けられるだろうなー。
などと考えているうち、夕平は自分のものを手で調節して、私の穴にあてがった。
「それじゃ、行くよ」
「うん……来て」
私は順当に応じた。
次の瞬間、
ずん。
と巨大な衝撃が私を貫いた。
勢いよく埋め込まれた夕平のそれは、ずりゅずりゅと膣の中を突き進み、一発で私の子宮に抉りこんでいた。
脳みそが、
ばかに、なる。
「あっへえええええええっ!」
間抜けな絶頂の声が部屋に響いた。
気分が冷めかかっているなんて些細なことだった。
私は知った。
この、伊織の肉体は、夕平のちんぽに屈服しきっている。
何度も何度も貫かれて、完全に夕平のしもべになっている……そんな事実を。
「やっぱり、久しぶりだと気持ちいいな。……伊織ちゃんは、どう?」
ほっぺたに夕平の手のひらが触れた。
やめ、て。
犯しながら、優しくするなんて。
私の心が、あんたを認めちゃう……。
「さい、こう……だよ、ゆーにいさん。すごい、ちんぽ、すごい」
口は自然に快感を訴えた。
私の頭は早くも朦朧としつつあって――ほんの僅か、夕平が疑念に眉をひそめたのを見逃した。
「……それじゃ、続けるよ」
「う、うん、もっと、もっと乱暴にして」
なに言ってるんだろ、私。
今の、完全に、一久への、裏ぎ――
――ずん。
「ひはあっ!」
思考が千切れる。
一突きごとに、私はどんどん人間からメスへと堕落していく。
ずるずるともぐりこんでは引き出されていく、それ。
エラの張った亀頭は、やわらかいお肉を引っ張り出すみたいに削っていく。
こそげる。
ヒダヒダが物凄い勢いでこすられる。
「んいいっ! あはぁ! いいよ兄さんっ! すごい、すごいすごひ!」
すごいすごいすごい!
セックスってこんなに気持ちいいんだ!
知らなかった!
「らめ、りゃめっ、また、またイクッ、いくのぉ!」
「いいよ、沢山気持ちよくなって!」
びくびくびく、と痙攣。
これが本当の、ほんもののセックス――
一久としてきたのなんて、オママゴトだったんだ!
今までの私がばかみたい!
「いぐ、まらイグ、わたひ、おかしくっ!」
ずんずんずん。
突かれまくってわたしは狂う。
いつの間にか私は、夕平にあわせて腰を振っていた。
ぐじゅぐじゅと、粘膜の擦れる音が部屋を支配した。
ぞりりりりり、と。
まんこの天井側の一部をちんぽが通過した。
瞬間。
「んほおっ! なんかぁ、なんか出ちゃ、」
ぶしっ。
透明な汁を私は噴き出して悶絶した。おしっこ、なの?
「はは、伊織ちゃん、潮まで吹いて、絶好調、だね!」
やや息を切らしながら夕平が言う。
しお……?
しってるけど、いままで吹いたことなんて、ないよ……
あーあ。
一久、ばかだな。
さいしょにわたしに潮吹かせたの、あんたじゃないよ。
これは、伊織のからだだけど……だとしても。
あんたのちんぽ、こんなすごくないし。
むり、むり。
「いぐ! いぐのとまんないっっ!」
すごいよ! ゆーへー、あんたのちんぽ、すごひっ!
「子宮きもちいい! にいさ、もっと、もっどゴヅゴヅほじっへえええええええええええっ♪」
こんなとこ、かずひさのちんぽ、いちどもあたらなかった!
ずるいよ、いおり、ずるい!
わたしにかくれて、いつもゆーへーに、ちょうきょうしてもらってたんだぁっ!
ひどい、わたしは、ほとんどイッたこともないのに、いつもこんなにイキまくってたんだぁっ!
こんなすごいちんぽで、たくさんほじってもらってっ!
「はへ、はへ、はへ、はへぇ♪」
わたしは、かずひさの、粗チンなんかで、しょじょ、なくしちゃってぇ!
しょじょなくすなら、このちんぽのほうがよかったぁ!
「ちんぽしゅごい、しゅご、また、あ、またっ、うううううううううううううううっ♪」
ははっ、と笑うゆーへー。
「調子出てきたねっ、伊織、ちゃん! 僕も犯しがいがある!」
あ、いおり、いつもこうなんだ。
だよね。
こんなすごいのにおかされたら、おんななら……みんなこうなっちゃう。
こんなきもちいいの、はじめてだよ♪
「セックスすき! すき! せっくすすきっ!」
でも、かずひさとするのは、すきじゃない!
きもちよくない! これがほんもの! ほんもののせっくす!
「へえ、セックス好きなんだ」
「うん、だぁいすきぃ!」
「それじゃ、僕の、チンポはっ!?」
どすん。
「すきなのおおおおおおおお! ひぐううううううううううううう!」
きゅんきゅんする! まんこ、すごくきゅんきゅんする!
おんなのこなら、みんなこれすきになる!
さみしいなあ、とゆーへーは言う。
「僕は伊織ちゃんのこと大好きなのに、伊織ちゃんはチンコ好きなだけなのかい!?」
えと、それは、
「好きだよ、伊織ちゃん」
ゆーへーは、やさしくわらった。
「伊織ちゃんは、どーなのさっ!?」
ずん。ごりっ。
「きひゃああああああん!」
あ、あ、わたし、私はっ――!
(やっぱり、かずひさが……っ)
クリティカルな問いに、私の頭がすこしマトモになる。
夕平は伊織に問いかけてるつもりなんだから、この発言はどこまでも自然なだけだ。
でも私は、どこまで行っても正体は水寺真姫なんだ。
いくら伊織を装ってるからって、ここで夕平に愛を誓うのは……
さんざん夕平のちんぽにイカされて、もう裏切りも何もないのかもしれないけど。
でも、
ドスン。
「んふううううううう!」
「どうなのさ!?」
こ、こころ、心はやっぱり、一久のモノでいたい。
同じクラスになって、同じ委員会になって……。
最初は友達で、でも、私はあいつが好きになって、言えなくて、告白されたときは、泣くほど嬉しくて……。
『あのさ、水寺、その、俺な』
ドキドキしていたのを今も覚えている。
誰も居なくなった教室に呼ばれて。
もしかして、という期待が胸いっぱいになって。
『お前のこと――』
それを聞いたとき、いきなり現実感がなくなった。
何度も想像したことが、急にリアルになったから。
白昼夢でも、見てるかと思った。
でも、それはやっぱり現実で。
夢みたいな、夢じゃない、夢より嬉しい現実で――――
『好きみたいなんだわ。だから、』
私は真っ赤だった、一久も真っ赤だった。
あいつは今も軽い調子でよく言う、愛してるって。
だから、
『だから、』
私は、
『お前に――』
あいつを、
『付き合って、ほしいんだよ』
裏切ら、
ずドんッッ。
「伊織ちゃん! どーなのさッッ!?」
「ゆーへーが、すきですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
――あは。
あはは。
いっちゃった。
イッて、言っちゃった。
「すきなの、ゆーにいさんがすきです! だいすき! あいしてましゅぅ!」
「……あ、ああ、嬉しいね!」
……どかん。
「きもちいい、きもちいいよう!」
あはは、わたし……ねとられちゃった。
かずひさより、ちんぽがすきになっちゃった。
「すき、たくましい、ちんぽすき! ゆーにいさんもだいすきっ!」
かずひさがいけないんだ。
ゆーへーみたいに、わたしをきもちよくできないから。
しきゅーをガヅガヅえぐれないから、わたしダメになっちゃったんだよ。
「ひいいいい! もっと、もっとぉ! わたし、にーさんのオナホールにしてぇ!」
「してあげるよ! ……伊織ちゃんが望むならね」
オナホール……
かんがえただけで、こーふんするッ!
ああ、ちんぽちんぽちんぽ!
かずひさみたいな、ちっちゃくて、ソーローのじゃない、これがほんものの……ちんぽ!
ゆーへーさいこう!
だいすき!
わたしを、どれいに、どれいに!
「出るよ、伊織ちゃん、そろそろ!」
「だして、わたしのなか、ざーめんでパンパンにしてぇ!」
しきゅーが、下がる。
ざーめんゴクゴクのみたくて、さがる。
「いおり、ちゃん……イクよっ!」
ドズン。
「はがああああああああっ! すごいのくるうううううう!」
でた。
あついのが、しきゅーのなかに、まきちらされた。
なかだし、きもち
よすぎる♪
「とける、しきゅう、とけちゃうううううううううううううううううううううう!」
しあわせ。
このちんぽだけあれば、わたし、しあわせ……♪
「……ふぅ」
だしおわると、ゆーへーはちんぽを抜いた。
にゅるるるる、と抜けていく感触で、わたしはまた、しおをふいた。
だいぶ、つかれた。
でももう、終わり……
じゃなかった。
「さ、もっかい行こうか、伊織ちゃん」
夕平は当たり前のように言って、私をころんとうつ伏せにした。
そしてお尻だけを持ち上げれば、夕平に向けてお尻を突き出す女の完成。
まだするの?
でも、今の口ぶりからして、何回もするのは日常みたい。
じゃあ――それに付き合わないのは、ヘンだよね――。
私は口元がほころぶのを自覚しながら、両方の手を後ろにやった。
まんこをくぱっと開く。
どろりとザーメンがたれて、太ももを流れるのさえ気持ちいい。
「うん……
私のメスマンコ、もっともっと、犯して……♪」
たのしみ。
わたし、これから、何回イカされるのかな……♪
結局あの後、3回した。
私は数え切れないくらいイッて、その間に何度も夕平に愛を叫んだ。
だらしなく喘いで、卑語を垂れ流した。
バカだ、私。
冷めた頭の中に、後悔が満ち溢れる。
一時の肉欲に流されて、好きな人を完全に裏切ったんだ。
……私が家に戻ると、すでに私の肉体を借りた伊織は帰宅していた。
伊織は私を見るとすぐに事態を察知したようで、「ごめんね、ゆー兄さんが……」と手を合わせた。
そして、自分も一久と致してしまったと小声で白状し、謝られた。
伊織は実際、申し訳なさそうではあったけれど、まとう雰囲気に、
『大したことなかったな、お姉ちゃんの彼氏』
というニュアンスがはっきり存在した。
仕方ないと思う。
あいつは前戯をあまりしないし、下のほうも、夕平に比べれば……認めるしかない、粗末すぎる。
夕平とのセックスに慣れた伊織にとっては、不満足もいいところだろう。
肉欲だけで夕平に愛を叫んだ私と違って、伊織はあいつのことを心でも想っている。
肉体と精神の両面を満足させられてるんだから、一久とのセックスなんて、退屈なだけだったに違いない。
それでも一久は、私にとっては一番大切な存在なんだ。
それは絶対、そうなんだ。
「ごめん、疲れたからちょっと寝てくるね」
夕食まで時間が有ったから、わたしはそう言って伊織に背を向けた。
「そうね、夕平のは初めてだと疲れるものね。ちゃんと休みなさい」
お母さんが傍を通った途端、伊織は姉の性格を装って言ってみせた。
本当、演技派で困る。
私は苦笑しつつ、伊織の部屋に入り、下着を替えてベッドに寝転がった。
姿勢が変わったからか、ぷぢゅ、と音がして、わたしのあそこから精液が漏れた。
一久、ごめんなさい。
謝っても謝りきれないけれど……。
声が聞きたい。一久の声が。
でも、今の私は伊織だから、そんなこともできない。
もどかしくて仕方ない。
思い煩うのも一時のこと。
心身の疲労が噴き出して、私はすぐに眠りに落ちた。
そしてセックスの夢を見た。
私は夢幻の世界で、夕平に犯されて動物みたいに喘いでいた。
しばらくして目覚めた私は、またびちょびちょになった下着を見ることとなった。
物凄く情けなくて悲しかったけど、とても興奮して、オナニーして、潮を吹いてイッた。
「夕平、すごいよ夕平のちんぽすごすぎるよぉ……」
……さっきまでの情事を、妄想しながら。
お終いです
読めば分かりますが、夕平が不信感を抱くあたり、後編の存在を想定した形になっています
なるべく書きたいと思います。なるべく。
これ単体でも一応は終わってると思いますが・・・
平仮名ばっかのとこが読みにくいよハゲ、というクレームは全面的に受け付けます
クレーム多数の場合、後編では廃止しますので。