間違い等あったら修正追加等お願いします。
一応無いとは思うんですが。
>2
乙彼
前スレ終盤は凄い勢いだったなァ
腹ぺこ共の多いこと多いこと
_,--、_
, -―'――-- 、`r‐-、
/ ヽ.‐-、ヽ
/ , \ i `}
j / ,ハ 、 ト、ヽ. Y´ ̄,ハ
i { j ⌒ヽ!\i`ヽヘ. /`ヽ./=}
ヾ小{ ● ● ル'ミ、 y'ミ、} ずっと腹ぺこのターン!
{ミl⊃ 、_,、_, ⊂⊃-、 >'=_} j
>>1乙/⌒ヽ.トミ、}、 ゝ._) ,i`ヽ./⌒i=、}
\ j``ヽ_,.>、 __, イ、{=、j /ミ/
Y ト} ヌ/_j_:j_|ヨ ゞ'、_,.ヘZ'
´ ̄ヽk} K|≧≦/ヲ 、_彡'
>>4のルー様のAAの可愛さは異常。
それはともかく>>1乙。
/ニ`,へ‐ '´ ̄ ̄`ヽ、 /ニヽ
〔``// / ヽ、`,イフ ̄ヽ
/ / /,. / { ヽ ヾ }</ヾ}` }
| { 〃{ { ヽトヽ|ヽ}ヽl }.|| |l /
| | {|小| ノ ` `ヽ | || |l }
{ | || j i ● ● | || jj |
リ(T)ヘ⊃ 、_,、_, ⊂⊃(T)j |
レル /⌒l,、 __, イ リイ从リ ちょこーん
/ ヽ/、 ヽ/ /" ヽ、
/ 〉.ヽ/ / l ヽ
┣━━━━━━━━━━━━━┫
┃ ち . ┃
┃ ゃ . ┃
┃ ん . ┃
┃ さ ┃
┃ ま . ┃
┃ ス . ┃
┃ | ┃
┃ プ . ┃
┃ ┃
┗━━━━━━━━━━━━━┛
>>1乙
ところでこの前NWでキャラクター作成してたんだ
GMなんだけどNPCにもキャラシーを用意するタチの人間なので、普通に作ってたんだよ
そしてグランギニョルみたいなのがやりたくてロボっ子ヒロインを作ろうと思ったんだ
・人造人間(ただしPC版のエコールさんみたいにメカ寄りの)
・ボーイッシュな服装
・メガネ
・綺麗な長髪
・ロリ
「やった! これは萌える!」そう思ったんだ
で、実際のセッションでのPLの第一印象
「あ、アラレさんや! アラレさんやないか!」
そう、則巻さんちの娘さんとモロ被りだったんだよ……
鳥山明を舐めるなよ
人造人間のメガネっ子がアニメの赤羽くれはのアイキャッチ風に、
「ほよよ、ナイトウィザードっ」という映像が浮かんでしまった。
いや、それだけのことなんだが・・・
地球を割っても、世界結界(せんべえさん)が修復してくれるからな
千兵衛さんはゲイザー、という説を唱えてみる。
というか鳥山デザインは多少脳内補完するだけで普通にエロ萌える。
ドラクエ同人とか滅びそうにないもんな。
リメイクでさらに人気出てるし。
GFのブレカナの記事を読んでいて、
リエッタは実はパランティアの恋人の転生した姿で、
夜な夜なリエッタ嬢の体のうずきを思いを込めて慰めている。
という無駄な妄想がポップアップしてしまって止まりません。
ピアニィとアルは何かいいね…
19 :
強化(ry:2008/09/04(木) 10:07:36 ID:rLdlF37s
新スレも立ちましたのでNWで小ネタ投下します
元ネタはNWアンソロノベルとマクロスF、あと日曜の某クイズ番組で
「あかんあかん! そんな編集じゃ尺に納まらんやないか! もっとこう、大胆にバッサリとやな」
裏界男爵【告発者】ファルファルロウの声が現場に響く。
裏界で唯一の放送局、ファルファルTVの編集室では、先日撮影された人気番組『サン=マーのメカニカTV』の編集作業の真っ最中である。
人気番組であるため、局長自ら現場で指揮を執るのが通例となっていた。
ちなみにこの局長、映し身を使って一人で記者からカメラマン、果てはニュースキャスターまで勤める働き者である。
そんなファルファルロウが現在編集作業に檄を飛ばしているのが、人気番組の中でもさらに人気のコーナー、裏界替え歌選手権だった。
画面の中では二体のデーモンが替え歌を披露していた。
「えー、次は東方王国から参加されているお二人です。どうぞ」
司会のエミュレイター・アズミが魚顔から泡を吹くような声で登場を促した。
余談ではあるが、日本神話に出てくるアズミというのは彼がモデルになったらしい。
入場のテーマにあわせて二体のデーモンがセットの向こうからカメラの前に出てきた。
「ではお二人、自己紹介のほうをどうぞ」
「あ、はい。東方王国から来ましたデーモンAです」
「同じくデーモンBです」
「ご職業は?」
「ええとですね、私らふたりともパール=クール様の宮殿で働かせていただいております」
「下僕という奴です。主にパールさまのお世話係をしております」
何故かしょんぼりとしているデーモン二体。だがアズミの質問は続く。
「えー、今回はどういった経緯でこちらに参加を?」
「はい、わが主に対する不満というか」
「なんというか……ストレス? そんなものを歌にしたいと思います」
「不満ですか。それは一体どういったもので?」
「それはですね、アンソロ【魔法使いと、休日の過ごし方】のP134を……じゃない、ええとですね」
「回想シーン入ります。どうぞ」
豪奢な天蓋付きベッド、何故か和風な床の間といかにもアンバランスなものが揃っている。
そんなパール=クールの私室に、ぺちゃり、ぴちゃり、とどこか卑猥さを感じさせる水音が響いていた。
「んっ……そう、そこよ。なかなか、んぁっ、う、うまいじゃ、ないの」
艶声をあげるのは見た目14、5歳に見える輝くような金髪の少女。
自ら超公を名乗る裏界の実力者、パール=クールその人である。
少し潤んだその視線の先には、股座に顔を埋める一体のデーモンの姿があった。
不幸にも本日のパールちゃんのムズムズ処理担当になってしまったデーモンである。
「あっ……そこよ……いい、のぉ」
入り口の少し奥、長い下でそのザラリとしたところを集中的に責める。
じっくり、たっぷり、牝汁と唾液の混合物の飛沫をあげながら舐りあげた。
「イっ……!」
少女の脚がピンと張り、ブルブルと震えた。
次の瞬間には全身の力が抜け、荒い息を吐きながらぐったりとその場に崩れ落ちる。
(ああ、よかった。イってくれた……!)
デーモンの喜びはひとしおだった。これで殺されなくて済む。そう思ったからだ。
だが相手はわがまま王女。そうは問屋が卸さない。
目ざとくデーモンの股間の屹立を見つけると彼女は上気しながらも冷たい目で言い放った。
「……アンタ、何おっきくしてんの。舐めてて興奮した?」
「あっ、いえこれは」
相手は実力者であり、古代神という尊い存在でもあり、そしてとびきりの美少女だ。
そんな彼女の秘部を命がかかっていたとはいえ思う様に舐めまわしていたのだから、彼に興奮するなというほうが酷というものであろう。
しかし超公を自称する少女は……
「不敬」
……酷だった。
白くしなやかな脚が躍る。
ぺき、という音とともにデーモンはブクブクと泡を吹いた。
俗に言う、陰茎骨折という奴である。
「なるほど、それでガニマタなんですね」
「はい。……全治6ヶ月ということだそうで」
目の幅涙を流しながら答えるデーモン。
アズミも聞いているだけで痛い、という顔をして司会台の裏で股間を押さえていた。
まあ男ならそんなシチュエーション想像すりゃこうなるよね。
「と、とりあえず歌っていただきましょう! えー、今回の曲は、
【ライオン】の替え歌で【したぼく】ですね。どうぞ!」
と、ステージにスポットライトがあたり、それとともにイントロが流れてきた。
金曜(地域によっては木曜)深夜におなじみのあのアニメ番組の後期OPイントロだった。
不幸叫ぶ 世界の真ん中で〜♪
油ー断すれば
あるじの 逆鱗に触ーれる♪
キミが放つ 命令はデタラメ〜♪
恐ろしい 気まぐれの
世話をする デーモンはつーらい〜♪
生き残りたい 生き残りたい まーだ生きてたくーなる〜♪
魔王のわがままで 今 命の危機♪
生き残りたい 途方に暮れて ヨロリ枯れてゆーぅく♪
超公様が お休みするまで 私 眠れーない〜♪
この後、イイ笑顔で歌いきった二体が東方王国宮殿に帰還することはなかったという。
めでたくもあり、めでたくもなし。
23 :
強化(ry:2008/09/04(木) 10:14:47 ID:rLdlF37s
以上、「生き残りたい」というワンフレーズから思いついただけの話でした
もう少し細かく描写しておけば良かったかな、申し訳程度に金色の恥毛が生えているくらいで幼いスリットが丸見えので愛液にテラテラと濡れ光る超公様の陰部を
鮮紅色の幼花ともうしたか
デーモン解体、楽しく行わさせていただいた!
うぎぎ、パール=クールのテラテラと濡れそぼる可愛らしくピンク色でヒダヒダの多い内臓の健康さがよく見える性器を
かき混ぜて、ヒダヒダを数えるように、
膣とその奥の気持ちよくなる道を懇切丁寧に隅々まで
いやらしく溢れたパール汁を啜りあげやがったな!
GJと言わせてもらう!
やばい。デーモン羨ましすぎる。
俺も、息子を犠牲にしてでも、超公さま特製の極上甘露を味わいてえ。
>1
遅ればせながらスレ立て乙です。
早速ですが続きの投下でございます。
月匣の展開と、 “それ” はほぼ同時に起きた。
全身を ---- いや、それどころか全神経、全魔力、全存在をまるごと鷲掴みにされた
かのような感覚とともに、まるごと身体を持っていかれる浮遊感。これこそが、ウィザー
ドや魔王たちに先んじて影エリスが力を蓄えることのできた要因のひとつ。月匣を検知
すると同時に、己の結界へとエミュレイターを強制転移させる、シャドウのオリジナル魔
術式 ---- 転移捕食結界とでも呼べばいいだろうか。
目まぐるしく上昇と降下を繰り返し、身体中を振り回されるような感じに戸惑ったのは
わずか数瞬のこと。平衡感覚と冷静さを、まばたきひとつの間で取り返した大魔王ベー
ル=ゼファーは、裏界の最高実力者を捕らえようと不遜な行為に及ぶことがどれだけ
愚かなことかを、影エリスに教えこんでやろうとほくそ笑む。
上昇。下降。上昇。下降、下降、下降していく。
あるべき形の空を歪ませ、流れるべき時間の河を塞き止め、意志と魔術の力により
産み出された異界の回廊を飛来するベルの視界に、光が見えた。
「あれが結界の入り口ね」
随分と長いこと到達までかかったような気がするが、実際の外界の時の流れと体感
時間にはおそらく大きな隔たりがあるはずだ。ベルが自分の月匣を展開してから、もう
数分の時間が経っているように思えたが、事実、時の流れは一秒にも満たないもので
あっただろう。
黒いマントをはためかせ、到達への速度を己が意志で速めるように、ベルは両腕を
ぴったりと身体の側面に押し付ける。さながら、海面へと飛び込む競泳者のように。
虚空に穿たれた光の洞まではあとわずか。さあ、大魔王のお出ましよ。いままで、貴
女が餌食にしてきた低級な魔王たちが来ると思っているのなら、それは大間違い。
大いに驚き、そして後悔するがいいわ。
「到着・・・ね ---- 」
輝く光輪をすり抜け、突入する。と、同時に仮初めの重力がベルの身体を捕らえ、結
界内の大地へと引きずり倒そうとした。ふん、とつまらなそうに鼻を鳴らし、ベルは空中
でひらりとそのほっそりした身体を軽く捻った。彼女は翼あるものすべての支配者。そ
れならば、世界に足場がないことが彼女に不自由を強いることがあるだろうか。
答えは ---- 否である。
人が歩くように、空を舞う。人が走るように、飛翔する。いや、呼吸するよりも容易く、
広大な空を我が物とする。美しき蠅の女王にとっては空こそが己の領域であり、結界
突入時の急激な落下すらも物の数ではなかった。
見惚れるほどの華麗な反転。頭から落ちる、と見えて次の一瞬には、飛来する鳥が
水辺に降り立つような優美さで、結界の大地に着地して見せた。
「・・・ここが、シャドウの結界 -------- 」
ベルが呟く。
見渡す限りの、黒い大地。汚泥にも似た足場は見た目よりも存外しっかりしているよ
うで、立っても足元が揺らぐことはない。黄昏よりも仄暗い空の下、ベルは抜け目なく
視界の及ぶ限りに意識の網をめぐらせる。敵影は ---- 知覚できない。ただ、だだっ
広い暗黒の大地に、ただひとり大魔王が立ち尽くす。
「ふふっ。自分が引き寄せたのが裏界の大公と知って姿を隠してるわけじゃないんで
しょう ? 出て来ないなら、それでもいいわ。貴女の結界を壊して、ここへ柊蓮司たちを
送り込ませるだけよ」
言うが早いか、赤色の燐光を放つ魔方陣がベルの眼前に浮かびだす。複雑で怪奇
な幾何学模様を多種多様に組み合わせた、見るも禍々しい文様が膨大な魔力を収束
し始める。ベルの意識は、すでにこの世界の “核” とも言うべき魔力の根源がどこに
あるのかを、ほぼ正確に捕捉していた。後はただ、彼女の正面で怪しく輝く魔方陣を
解放し、滅びをもたらす魔力の塊を解放してやるだけであった。
「ディヴァイン・・・・・・コロナっ !! 」
鬨の声にも似た高らかなる魔法の詠唱と、巨大な魔力を秘めた魔方陣の解放とは、
ほぼ同時であった。赤熱した光の渦が波紋を描くように幾重にも折り重なり、ベルの目
指す標的目掛けて放たれる。轟、と空気を灼く音と、それ自体が絶対の死を孕んだ熱風
が沸き起こり、虚無の大地のはるか彼方、この結界の核部へと命中した。
ズ・・・・・ンッッ・・・・・。
地鳴りと共に魔力の塊が弾ける。この世界そのものを揺るがす、大音量。
だが、二、三秒の余震が大地を震わせたわずか後、結界世界は再び静まり返った。
「へえ・・・簡単に壊せると思ったら、なかなかの強度じゃない ? ちょっと、本気出すよう
かしら ? 」
独り言にしては大きな声。あきらかに、わざと “誰か” に聞かせるように。
言うまでもない。この言葉を聞かせたい相手とは、シャドウ ---- 影エリスに他ならな
かった。わざとらしく挑発するような口調で、殊更馬鹿にするように。
「いいのかしら、壊しちゃっても ? 次は本気で行くけどー ? 」
嘲る声と共に、再びベルは両手に魔力を収束させていく。この挑発は、もちろんこの
場にいない影エリスを引きずり出すためである。どこに隠れているのか、どうやって姿を
隠しているのかは知らないが、結界を破壊して柊蓮司たちを突入させる時には、敵の
姿をきちんと把握させておいてやりたい。
それゆえの挑発であった。
ベルの両手に集められた魔力が、次第に独自の力場を形成し始める。暗黒の球体と
そこにまとわりつく赤色の紫電。細く、小さく、血の色にも似た赤色の雷光を纏う、黒々
とした魔球が、大きさを増していき両手から溢れ出す。
十秒。二十秒。
敵影は、依然見えない。
「ふん・・・・・・私の姿に恐れをなしたわけじゃないんでしょうけど・・・」
完全に嘲弄しきった表情を浮かべる大魔王。
「私もそんなに暇じゃあないのよねっ !! 」
叫ぶと同時に両手を天高くかざす。黒球はいまや、ベルの身長を超えるほどの直径
を持つ巨大さにまで膨れ上がっていた。雷光が奏でる耳障りな破裂音が、大気を震わ
せる。
「ヴァニティワールドっ !! 」
攻撃以上の攻撃。破壊以上の破壊。うねくる暗黒が周囲の空間を捻じ曲げながら、
目にも止まらぬ速度で飛空する。目指す核部を自身の闇に取り込んで、圧縮し、破砕
する無情の破壊。結界の魔力核が、軋んだ悲鳴を上げながら歪んでいく。
取り囲むように追い討ちをかける赤き雷光が、結界という小さな世界そのものの終焉
を推し進める。
ぎし・・・ぎ・・・ぎし・・・ぐしゃあぁぁぁっ !!
瞬間、世界そのものが弾けた。
結界は ---- この瞬間に完全に破壊された。
しかし。
「・・・・・・っ !! な、なによ、これ、ひ、引っ張られ・・・・・・っ !? 」
違和感と同時に、さっきの転移と同様の感覚が全身を襲う。
全神経、全魔力、全存在をまるごと鷲掴みにされたかのような、浮遊感。
「まさか・・・二度目の強制転移・・・っ !? 」
抗おうとして、抗いきれなかった。一瞬とはいえ、予期せぬ自体にたじろいだことと、
魔力を解放した直後であったために、ベルは “再転移” に抗う術をもたなかったのだ。
しかし、どこへ飛ばされるのか、それはおおよそ予測がついている。
再び上昇。下降。上昇。下降、下降、下降、そしてまだ下降。
永劫に続くかと思われた落下も、実のところ、実時間にして一秒にも満たない。
再度、ベルが降り立ったのは ---- 。
やはり、暗黒の大地であった。
だが。
闇の濃度が違う。漂う瘴気の匂いが違う。黒ずんだ大地はコールタールの海のよう
にどろどろと溶け、迂闊に足に体重を乗せて踏み込めば、その身が沈んでしまいそう
であった。黒い霧のような微細な粒子が漂う大気中には、それと同等かそれ以上の
どす黒い瘴気が漂っている。そして、顔を上げたベルの視界に飛び込んできたのは、
目指す敵 ---- シャドウ ---- 影エリス ---- の姿であった。
・・・・・・赤羽神社の境内で遭遇したときと、まるっきり印象が違う。
足首まで汚泥の海に埋没したその姿を、幾筋もの、いや幾十筋もの影が、ゆらめき
ながら覆いつくしている。それはさながら、影という鎧を纏ったかのようである。
まだ宝玉戦争のときのエリスと同じ白いブレザーを着用し、あの頃のトレードマーク
だった白い帽子も健在。青いリボンがついたカチューシャまでもが、同じ。
ただひとつの ---- いや、たった二つの違い。
それは褐色の肌の色。そして、本物のエリスならば決して浮かべることはないであろ
う、傲岸不遜な笑み。
「・・・随分とつまらないことをするじゃない。どういうつもり ? 結局自分のところへ呼び
寄せるなら、二度も転移させるなんて無駄骨だと思わないのかしら ? 」
ベルが忌々しげに憎まれ口を叩いた。しかし、その本心は別のところにある。
焦燥。
影エリスがなぜこんなまだるっこしい手順を踏んだのか、その意図するところを実は
瞬時に察したベルは、「してやられた」と内心歯噛みしていたのである。
「・・・まさか、わざわざ説明しないと分からないんですか ? 」
影エリスが、今度は逆にベルを挑発した。彼女は、自らの策が功を奏していることを
知っている。得意げに胸をそびやかし、愚者を哀れむ軽蔑の視線を大魔王に向けた。
「・・・この一週間、エミュレイターも魔王も網に引っかからなくなっちゃいましたから」
口調はエリスそのもので。
「私、気づいたんです。ああ、アンゼロットかそれとも貴女かが、私の結界に気づいたん
だなって。どうにかして、あの世界にエミュレイターが侵入してこないよう、手を打ったん
だな・・・って」
くすくすと笑い、手を口に当てる。
「だから、この後貴女たちがどんな行動に出るのか・・・考えてみたんです。エミュレイ
ターを捕食できなくなった私なら、一週間も待たされた私なら、次にかかった獲物には
無条件で食いつくだろう、って思ったんじゃありませんか ? だから、貴女は自ら囮役を
買って出た。生半可な魔王じゃ、私の結界は到底破壊できないんですもの、当然です
よね」
ベルが歯噛みする。大勢を前に集めてつい一週間前、名探偵の解説じみたことをして
のけた彼女だが、まさか敵である影エリスに似たようなことを目の前でされるとは思って
もみなかったのだ。まさに、屈辱の極みであろう。
「囮役が私の結界に突入する。すぐさま結界を破壊する。その反応を感知して、アンゼ
ロットがここへウィザードの援軍を投入する。そんなところじゃありませんか ? 」
まるで、ベルたちの作戦会議を見聞きしていたかのような言葉である。
ベルの背筋を冷たいものが通り抜けた。ただゲイザーの意志を盲目的に遂行するだ
けの木偶人形かと、始めは思っていた。だが違う。予想以上に、この娘は頭が切れる。
「ここへ最初に来るのは、貴女だってほとんど確信してました。だから、ちょっと細工を
してみたんですけど、ね」
「・・・・・・どうして私が来るって分かったのかしら・・・ ? 」
「赤羽神社の境内でちょっかいを出してきたのをもう忘れたんですか ? あの時、貴女
たちがアンゼロットたちと手を結ぶだろうってすぐ思いましたよ ? 貴女とリオン=グンタ
と、どっちが来るかな・・・って迷いましたけど・・・まあ、貴女のほうが好戦的な性格みた
いですしね」
まさに図星である。
「ここへ来るのがベール=ゼファーだと気づいたときは、本当に嬉しかったんです」
満面の笑み。このときだけは邪気のない、純粋そのものの微笑だった。
「 ---- 裏界の大公なら ---- きっとすごく “美味しい” はずだ・・・って」
顔中を笑いの形にしながら影エリスが言う。
その笑みに邪気がないのも、純粋なのも当然だ。
なぜなら、いまの彼女には一切の邪念や企みがないからだ。
「豪勢な食事」を目の前にした喜びこそは本能に根ざすもの。そこに邪念はなく、ただ
食欲にも似た捕食の喜びが、笑顔になって顕れただけなのである。
「だから私、思ったんですよ。絶対食べなきゃ。絶対失敗しないようにしなきゃ・・・って。
獲物を捕まえるときはどうします ? 最初に、仕留める相手を弱らせることから始めます
よね ? だから、もうひとつ、あの余計な結界を作ったんです」
ここまで聞けばもう確実だ。いままでは、エミュレイターや魔王たちを取り込むときに、
直接この結界 ---- いわば影エリスの本陣 ---- に転移させていた。しかし、次にやっ
てくるのが大魔王ベール=ゼファーであると感付いた影エリスは、 “もうひとつ” の 結
界を余分に作っておいたのだ。そして、それは先ほどベルが破壊したとおり、 “ある一
定以上の魔力による攻撃” でしか破壊できない。
一体それがなにを意味するのか。
彼女は言った。獲物を捕まえるにはまず弱らせる、と。
すなわち、自分が遭遇する前に、少しでもベルの魔力を消費させてしまうこと ----
それこそが、彼女の狙いであったのだ。事実、ベルはここへ来るため、「ディバインコロ
ナ」と「ヴァニティワールド」という魔法を立て続けに使う羽目になっている。
この魔力の消費が、実力未知数の影エリス ---- あれからどれだけ力を蓄えたか知
れない ---- を相手に戦うことにどれだけのハンディキャップになるのか。それが読め
ないからこそ、ベルは内心焦っているのだ。
ゲイザーが、エリスにもしものことがあったときのために作りおきしておいた “もうひと
つの” 器がこの影エリスだとするならば、それは少なくともエリスと同等か、それに近い
キャパシティを誇るはず。すなわち、それは裏界皇帝として君臨したあのシャイマール
に、限りなく近い力を持っているのではないだろうか、と。
これは、つまりそういう戦いなのだ。
そんな戦いを目前に、わずかかもしれないがベルは魔力を失っているのである。
だから ---- 覚悟を決めた。
すでに、結界の破壊という選択は失われている。この結界を破壊するには、さっきと
同等かそれ以上の攻撃でなければ敵わないだろうし、結界を破壊するための魔法を撃
てば、その隙を狙って影エリスが自分を攻撃してくるのは目に見えている。
となれば、ここでベルが取るべき選択とは ---- 全力で影エリスを叩きのめすこと以
外には考えられなかった。小細工などは要らぬ。持てる魔力のすべてを、次の攻撃一
点に絞る。ちまちまと小技を繰り出して、少しずつ魔力を削られていくくらいなら、その
ほうがいくらかはマシであろう。
勝機がない、とはベルは考えてはいない。
むしろ、自分のほうに数段の分があるはずだと彼女は考えている。
それは、戦いの経験値の差。
これまで、裏界での勢力争いやウィザードたちとの闘争を、何百年、何千年と繰り返
してきたベルのほうが、シャドウの何倍も何十倍も戦いというものを熟知している。
命を削る闘争における戦術眼、単純な魔力差や力量差には収まりきらない独特の戦
場の機微。それらすべてを持ちつくし、知り尽くしているのが大魔王ベール=ゼファーな
のである。ただ魔力のあるほうが勝つとか、ただ膂力の強いものが生き残るとか、そう
いうものではない。戦いとはそんな単純なバランスで量れるものではないのである。
「あっそ・・・・。それじゃあ -------- この私を見事 “食べて” ごらんなさい !! 」
戦闘開始の口火を切ったのはベル。
両手を背後に回し、力を溜め、続けてそれを正面の影エリスに向けて突き出した。
五指 ---- 両手であるからすなわち十指 ---- それぞれに灼熱を宿した赤き光弾が
灯っている。それはベルの合図と共に、優雅な死の曲線を描きつつ影エリスへ向けて
飛び立ち、頭上から、左右から、真正面から襲い掛かった。死角なし。どこへ避けても
被弾は避けられぬ八方からの魔力弾である。これらのダメージを受けないようにする
ならば、灼熱の弾のひとつひとつを叩き落していくしかないのである。
燃え盛る十もの炎を放つと、ベルが第二弾の攻撃準備を開始する。
相手にこの攻撃をかわす隙など与えてやりはしない。
そのための、初弾の全方位攻撃だったのである。
「ヴァニティワールド ---- 」
黒よりも深い黒。闇よりも重い闇。最初に、擬似結界を破壊したときのそれとは明らか
に異なる真の闇が凝り固まっていく。白熱する雷光と青白い燐光を纏った暗黒弾が、
獲物を屠り去るための膨張を開始して -------- 。
「 ---- ジ・アンリミテッドぉっ !! 」
巨大な闇が弾けた。
影エリスの攻防を封じるための、回避不能の初弾十連撃。それに追撃をかける、ベル
のオリジナル・スペル「ヴァニティワールド・ジ・アンリミテッド」。
十連撃の灼熱弾を打ち落とすだけでも至難の業である。それには、ベルの攻撃と同
等の攻撃魔法による相殺か、その威力すらも寄せ付けない防御魔法の発動が必要な
のは言うまでもない。しかも、それを十度。常識的に言ってもそれに対処するだけで、
精根尽きてしまうはずだった。
よしんばこれを凌いだとして ----
大魔王の奥の手のひとつ ---- ヴァニティワールド・ジ・アンリミテッドを防ぎうるか。
いや、防げまい。どちらかを防いでもどちらかは喰らう。あるいは両方を喰らう羽目に
なる。その攻撃力は、たとえシャイマールの器が相手であっても無傷でいられるはず
はないものだ。
どう防ぐ。どう凌ぐ ---- 戦いの最中でありながら、影エリスの次の行動にベルは我
知らず好奇心を刺激されている。この必殺のコンボにどう対処するのか。確かに、これ
はまたとない見物であった。しかし ---- わずか数秒後、ベルの好奇心は驚愕へと変
わる。
左右からの灼熱の弾は、影エリスのそれぞれの腕を貫いた。肉が焼けるような焦げ
臭さが鼻をつき、被弾の衝撃で両肘が砕けるとともに、腕がありえない方向に折れ曲
がる。上空からの攻撃は幻惑するかのようなスライスを描いて肩に突き刺さり、鎖骨を
砕きながらその勢いで足の甲に着弾した。正面からの攻撃が小さな胸元を、腹部を焼
き尽くし、白いブレザーに黒いこげを幾つも作る。七つ、八つ、九つ、十。
ベルの指から最初に放たれた十の光弾は狙い過たず、すべてが影エリスに “完全
命中” した。
避けない !? 防がない !?
驚愕の理由はそれだった。仕掛けられた攻撃に対しては、誰もが本能的に身構え、
または少なからず防御行動を取ろうとする。それを、一切彼女はしなかった。
なすがまま。されるがまま。まるで自分への攻撃を甘んじて受けるかのような無防備
さで、影エリスはすべての攻撃をその身に受けた。ダメージがないわけではない。ない
はずがない。事実、彼女の身体は焼かれ、破壊され、血を流している。
それなのに ----
彼女はそれどころか、ベルの奥義のひとつ ---- 千の破壊をもたらし、万の死を撒き
散らす暗黒の魔弾さえも、防ぐ素振りをまるで見せなかった。
自殺行為。そうとしか考えらられない。
傷ついた影エリスに、黒々とした暗黒が牙をむく。ただ立っているのが精一杯とさえ
見えるその華奢な身体を巨大な暗黒球が包み込み、そして爆音と黒煙が同時に、標
的の立つ地点を中心に噴きあがった。
黒煙が晴れ ----
地鳴りにも似た爆音が消え去ると ----
そこには、満身創痍の ---- 影エリスが立ち尽くしていた -------- 。
「・・・ちょっと・・・どういうつもり・・・ ? 」
影エリスの行動は、完全にベルの理解の外である。常軌を逸した無抵抗に ---- さ
すがの大魔王が絶句していた。
見れば ----
左腕は肩から半分ちぎれ、だらりと垂れ下がり。右腕は肘から先が炭化して真っ黒
な人の腕型をした黒炭と化し。焼け焦げたスカートから伸びた脚は裂傷と火傷で覆わ
れ。千切れた服の所々から覗く素肌は、黒ずんで凝固した血だまりに汚れて。
こそげ落とされたように消失した顔の半面は見るも無惨に崩れていたが、なぜかそ
の瞳が ---- 冴えて蒼く輝く双眸だけが無傷のまま ----
じっ、とベルを見つめ続けていた。
ぞくり。
裏界の大公が震えた。背筋に冷たいものを感じた。怖気立ち、肌が粟立った。
あまりの狂気と、おぞましさゆえに。
「・・・・獲物を・・・捕まえる・・・ときは・・・どうします・・・・・・ ? 」
裂けた唇から、さっきと同じ質問を繰り返す。
引きつった唇から、不鮮明な発音でその言葉を聞かされた瞬間 ---- ベルは完全に
自らの失策を悟った。いや ---- 正確に言えば、失策ではない。戦いの定石というもの
を、ベルは外してはいなかった。彼女の取った戦法は、敵の先手を打ち、自らが優位に
位に立つための、おそらくは最上の策であったはずなのだ。
ベルが見誤ったとすれば、それはただ、影エリスの持つ「狂気」と「覚悟」の量である。
彼女は、ベルの攻撃を防ぐことをあえてしなかった。それが、もし彼女自身の魔力を
温存するための無抵抗だったすればどうだろう。すでにベルは、影エリスを仕留める
ために相当量の魔力を消費している。通常の戦いであれば、影エリスに決して引けを
取ることのない大魔王であるはずだ。だが、しかし。
自らの身体を犠牲としても温存された敵の魔力。
確実に、それはベルの魔力残量を上回るはずだ。
この状態で、もし影エリスが “すべての魔力” をベルへの攻撃に使用したとしたら、
ベルにその攻撃を防ぎきることは不可能であろう。己の肉体を勝利のために差し出す
「狂気」、そして「覚悟」を、ベルはまったく予想していなかったのである。
獲物を捕まえるときはどうするのか。仕留める相手をまず弱らせること。
この場合、獲物であるベルの魔力を極力削ること、である。
案の定 ---- 物凄まじい笑みを浮かべた影エリスが、 “それ” を一斉に解き放つ。
ゆらゆらと周囲に踊らせていた影を、集め、凝り固め、凝縮に凝縮を重ねる。
影たちはひとつの巨大な闇となり、さらに己の質量を増大させるために、さらなる闇を
纏った。常軌を逸した黒。幾千夜の夜闇を折り重ねたような闇。それは一個の黒い球
状をした、超高密度の暗黒弾。
「ちっ・・・・・・ !! 」
舌打ちと共に、バックステップで十数メートルの距離を一息に飛び退る。それが逃れ
えぬ攻撃であったとしても、防ぎきれぬ攻撃であったとしても、ただ座して待つほど、
往生際が良いわけではない。しかし、影エリスの影弾はベルの後退を決して許しはし
なかった。放たれた影弾は、一直線に ---- ただ一直線にベルへ向かって突き進む。
その速度たるや、ベルの動体視力をもってしても捕らえきれず。ゆえに、彼女の持つ
俊敏さをもってしても避けること、かなわず。
どむうぅぅぅぅっ・・・・・・ !!
鈍い音を響かせながら、跳躍で飛び退ろうとしたベルの胴体にそれは直撃した。
「ご・・・お゛・・・うぶッ・・・・・・ !? 」
濁った苦悶の悲鳴。鳩尾を中心に、重たい衝撃がベルの全身を襲う。
ひしゃげた腹部が押し付けられて背にくっつくかと思われるほどの痛み。
衝撃の余波で、四肢までもが砕け散ったかと思われるほどの痛み。
「お゛・・・お゛・・・お゛うぅっ・・・」
カッ、と見開かれた目の中心 ---- 瞳が左右に大きくぶれる。強制的に停止させら
れた呼吸、押し潰される内臓。痛みにともなう嘔吐感は強烈だったが、逆流しようとす
る “中のもの” を吐き出すことすら許されぬほど、気管はまるで云うことを利かない。
ベルの身体が “く” の字に折れ曲がる。
膝をつき、黒い大地に顔から倒れこんだ。
魔法によるダメージではなく、単純な力業である。異常な速度と、異常な質量を持っ
た球体による、ただの殴打。しかし、それはただの殴打ではなく ----
おそらくは地を砕き、星を穿つほどの威力を持っていた。
漆黒の大地に顔を埋め、呻きながら腹を抱えこむ。痛みに身をよじることすら、痛すぎ
て出来ない。呼吸を回復させようと必死で息をするのだが、ただ苦しげなひゅうひゅうと
いう音が、開かれた唇からかすかに漏れ聞こえるのみである。
勝敗はここに決した、と言える。
双方ともに満身創痍。しかし、かたやベルが深刻なダメージと共に魔力が枯渇しかけ
ているのに対して、影エリスはまだ動くことが出来る。血まみれ、傷だらけの身体でも、
まだ倒れ伏したベルの元へ歩いて近づけるだけの体力も、傷つくこと覚悟で温存した
魔力も残っている。そして、なによりも執念。なによりも狂気。なによりも “食欲” 。
まだまだ、敵にはそれだけのものが残されているのだ。
歩くたび ---- 血が滴る。
踏み出すたび ---- 身体の何処かが壊れる。
だが、痛みなど感じてはいないのだろう。近づいて、足下に大魔王を見下ろした影エリ
スの崩れた顔半面が、笑いの形に歪んだ。
「あ・・・は・は・は・・・虫みたい・・・地面に転がって・・・這い蹲って・・・」
ずるずると幾筋もの影を引きずりながら、影エリスが嗤う。苦悶の表情を、それでも気
丈に敵意で満たし、ベルは相手を睨みつけた。
「弱小でも魔王は魔王・・・さすがに百人分の力をまとめてぶつければ・・・って思いまし
たけど・・・思い切って全部使ってみて正解でしたね・・・」
つまり、魔王と呼ばれる存在だけでも、百からの数を屠って己が養分としたということ
か。ベルの背筋が凍りついた。やはり後手に回り、力を蓄えさせたことが最初で最大の
失策であった。歯噛みするベルの脳裏に、しかし、ひとつの違和感が残る。
百人分をまとめてぶつければ ---- ?
全部使ってみて ---- ?
この言葉に、どことなく腑に落ちないものを感じる。しかし、その思考の邪魔をするよ
うに、傷だらけのシャドウの足元から伸びた影が、うずくまったベルの身体を無理矢理
仰向けに転がした。影は、シャドウの手足のように動く、質量と力とを持った存在である。
するする、とベルの四肢に影が絡みついた。影だけあって、質量を持つとはいえその
在り様は平面的なものである。ベルの腕や脚にぐるぐると巻きついた様子は、まるで四
肢に黒いタトゥーを入れ墨されたようであった。
合図もなしに影たちがベルの両腕、両脚を引っぱる。呼吸困難で自由の利かない身
体を、強引に大の字にされた。
「ご、ごほ・・・ちょっ・・・ぐ・・・苦し・・・い・・・」
額に浮かんだ汗が、眉間を伝って頬を滑り落ちた。
影エリスが、地面に貼りつけられたベルの身体に覆い被さるようにしてのしかかる。
「・・・ちょ・・・っと・・・な・・・に・・・」
かすれた声で抗議を上げる間もなく。
影エリスの唇が、ベルの唇を塞いだ。
「ん・・・むぷ・・・」
「・・・っ !? ・・・・・・っぐ・・・・っ !? 」
予想外の行動に目を見開き、呻き声を上げる。声は決して言葉にならず、身じろぎ程
度ではこの拘束を振りほどくことも出来ず、ただベルは仰向けに押し倒されたまま、自分
の身体に覆い被さる黒い少女の強引な口づけに身をよじっていた。
そして ----
新たな影がぞわりぞわり、と ---- ベルの首筋を這い登ってくる。
首から次第に頬へと達し、重なり合った唇の隙間に影の先端が侵入した。影は、ベル
の口腔内へと潜り込む。それは、影という存在だからこそ許される侵入であった。
ぺったりとベルの顔に、四肢に張り付き、その肌を滑るように移動する。影ゆえに厚み
もなく、影ゆえに振りほどけず。
「 ---- っ !! -------- っ !? 」
影が、ついに舌を絡め取った。影エリスが唇を解放してからも、ベルは言葉を発するこ
とができない。口の中いっぱいにみっしりと、影が張り付き、へばりついている。
影の強引な力で絡め取られた舌は、黒々と染め上げられたように真っ黒で。
「ひひゃっ・・・ !? ひはぁ・・・ !? 」
悲鳴が、こじ開けられた口からかすかに漏れる。口や手足だけではない。影は何本
も、何十本もベルの身体に張り付いて包み込もうとしている。脚から太腿へずるりずる
り、と。手首からわきの下へもずるりずるり、と。決してベルの戦闘用ドレスを傷つけ、
破くことなど一切せず、紙一枚の隙間からも影たちは侵入できるのだ。服の裾、手袋
や脇腹の隙間、大胆に開いた背中。肌が露出している部分は影の色に染め上げられ、
そしておそらくは服に隠された部分までもが、全身影エリスの操る闇にべっとりと覆い
つくされてしまう。
「こういうやり方で食事をするのって、初めてなんです」
嬉しそうに、傷だらけの顔をぐしゃぐしゃに笑み崩し。
「裏界の大公ってどれだけ美味しいんだろ・・・ううん・・・もう、さっそく頂いちゃいます
ね・・・ ? 」
舌なめずりをして、影まみれのベルを見下ろした影エリスの口元から、たらたらと唾液
が滴り落ち、その顔中を濡らす。影エリスの瞳に、食欲だけではないもうひとつの欲望
が見え隠れしているのに気づいて、ベルが戦慄した。
(なにを・・・ま・・・まさか・・・ !? )
その予想は、次の瞬間完全に的中した。
じゅるるるるるるるるうううううううぅぅぅぅぅっ !!
ベルの肌一面に取り付いた影が、一斉に吸引運動を開始したのだ。首筋を、腕や脚
を、背筋を、腹部を。それどころか少女の肉体の敏感な部分 ---- 引き締まった尻の
肉、慎ましやかな乳房とその中心でひっそりと蕾をつけた突起部分、大きく開脚された
脚の間に息づく花弁の襞、薄い皮に包まれた桃色の陰核だけではなく、本来はそうい
う用途には決して使われるべきではない “もうひとつの” 穴にまで。
吸う。引っ張る。蠢く。収縮する。ベルの柔肌に密着したままの、絶え間ない蠕動。
「く・・・・ふぉおっ・・・おっ・・・ふおぉっ・・・・・・ !? 」
舌の動きさえも封じられたベルの “影まみれ” の口から、不自由な悲鳴が溢れ出し
た。ざわりざわりと影が動くさまは、意志を持つ黒い布が肉体を撫で回し、擦り上げる
ようである。小刻みに、上下左右に、時には円を描くように。影が魔王の柔い素肌の
上を思うさま蹂躙していた。
乳首を擦る。臍の周りを回転する。背筋を這いずる。尻肉を摩擦し、股間の秘裂をな
ぞりあげる。拘束衣に締め上げられたような姿のベルには、当然この愛撫に逆らう力
は残されていない。ただ嬲られる。深奥に秘めた少女の性が表面に引きずり出されて
いく。瞳が焦点を失い、ぶれていく。うっすらと浮かんだ涙は、肉の悦びを強制的に表
出させられた戸惑いのためであろうか。
「ふふ・・・この前までは、私を怖がる・・・恐怖の感情が “美味しさ“ の秘訣だったんで
すよ。ほら、追い詰められたり感情を爆発させたりすると、人間が思いもよらぬ力を出す
ことってありますよね・・・ ? 魔王もおんなじですよ。精神が人間らしければ人間らしい
ほど、昂ぶった感情と一緒に存在の力も形を変えていくみたい・・・こればっかりは、低
級なエミュレイターには期待できないですからね・・・・・・」
ベルの痙攣する胴体をきつく抱きしめる。影エリスはその耳元に唇を寄せ、耳朶や耳
の穴に自身の舌を差し込みつつ、そんな言葉を囁いた。
「でも、おんなじ味ばかりじゃ飽きちゃいますから。身も心も昂ぶらせると、どんな味が
するのかなって・・・身も心も昂ぶらせるっていったら・・・こういう風にするのが一番で
しょう・・・ ? 」
ざわざわざわざわざわざわっ !!
貼りついた影の動きが速度と強さを一斉に増した。擦る。擦る。擦る。身体のどことは
言わず、どこでも擦る。肌という肌、性感帯という性感帯、器官と言う器官を擦り、嬲り、
犯し抜く。
「ぐ・う・ふうぅぅぅぅぅぅっ !? 」
ぶわっ。ベルの瞳から涙が溢れた。
おぞましい。屈辱である。この敵が憎い。それなのに ----
拘束された身体を走り抜ける強烈な快感。自分の意志とは別に、両脚の間が湿って
しまう。その快楽を否定しようと必死で声を上げようとするのだが、それすらもままなら
ない。
「うふふ。やっぱりなに言ってるのかわからないと、ちょっと味気ないですよね」
嘲る笑いを満面に浮かべ、影エリスが言う。同時に、ベルの口の中に蠢いていた影
たちは唇の端からするりと滑り出し、舌に絡まっていたものがその拘束を解いた。
「ぷ・・・っ、はーーーーっ・・・っ、はーーーーっ・・・」
肺一杯に外気を吸い込もうとするかのように、ベルが荒い呼吸をした。
猫科の獣のような吊り上がり気味の大きな瞳に、いいしれぬ怒気を孕んでいる。
「・・・こ、殺す・・・殺して・・・やるんだか・・・ら・・・」
息も絶え絶えの怨嗟の言葉。しかし、その呪詛にまとわりつく吐息は、誤魔化しようも
なく甘い。全身を愛撫する影たちの動きは決して休まない。それどころか、毎秒ごとに
その動きは巧みさを、淫猥さを、覚えていくようだった。
始めは軟体動物が地を這うように、目的もないただの蠢動だったものが、次第にその
意志を明確にしていった。犯すための、快楽を与えるための、肉欲を身体中から引きず
り出すための動きへの変化である。それは言うまでもなく影エリスの意志であった。
「・・・せっかく喋れるようにしてあげたのに、最初に言う言葉がそれですか ? 自分の立
場が分かっていないんですか ? 」
ぺろり、とベルの頬を影エリスが舐めた。
眼前の怨敵を射殺すような視線で睨みつけると、ベルは唯一自由に動く首を力いっ
ぱい振りかぶる。そして --------
「離れなさいよっ !! 気持ち悪いっ !! 」
振りかぶった頭を、影エリスめがけて打ちつけた。魔力も枯渇し、身体の自由さえも
利かない ---- ベルに戦う手段があるとしたら、悲しいことだがこれしかなかった。
ごすっ、と鈍い音を立てて、二人の頭が激しく打ち合う。
ベルの額に血の華が鮮やかに咲き、影エリスの崩れた半面が形をさらに失った。
「きゃあぁっ・・・・・・ !? 」
影エリスが始めて悲鳴を漏らす。
裏界の大魔王が戦う手段が、罵る言葉と頭突きだけとは笑い話にもならなかったが、
このなんでもない攻撃で、たしかに影エリスはダメージを被ったのである。むしろ、攻撃
を仕掛けたベルのほうが、戸惑いは大きかった。自分の魔法をわざと被弾した時でさえ
悲鳴を上げなかった影エリスが何故 ---- ?
そこでようやく、ベルは現在の二人の置かれた状況の、真実の姿に気がついた。
一見、自分が一方的に不利な状況にあると見えるが、実はこの戦いは危うい均衡を
保っているのではないだろうか。百体の魔王を喰らい尽くし、それ以上のエミュレイター
を養分となし、その力を肥大させていった影エリス。その力は、おそらく皇帝と呼ばれた
シャイマールに迫る途上であったに違いない。
しかし ----
まだ現時点では、彼女の力はシャイマールに及んではいないのだ。
加えて言うなら、影エリスの言葉の中でベルが違和感を覚えたあの台詞。
『弱小でも魔王は魔王・・・さすがに百人分の力をまとめてぶつければ・・・って思いまし
たけど・・・思い切って全部使ってみて正解でしたね・・・』
あの台詞の意味が、ここへ来てようやくベルにも理解できた。
影エリスは ---- あくまでも “力を容れる器” でしかないのだ、ということに。
魔王の力を喰べて成長し、シャイマールと同等の存在に “なる” のではない。
ただ喰べた分、 “力を溜め込むだけ” のいわば貯蔵庫に過ぎないのだ、と。
だからこそ、攻撃や防御に力を使うことは、彼女が溜め込んだ力を消費し、放出する
ことにつながる。ベルの攻撃を最小限の防護で中途半端に受け、わざと傷ついたのも
そのためだ。ベルを仕留めるための攻撃力を確保するために、防御力を削った・・・と
いうのが真相なのだろう。
ベルに魔力を消費させるための擬似結界を作り。
自分が大魔王の本気の攻撃を受けても致命的なダメージにならない程度の防御は
せねばならず。
さらにその上で、ベルの持つ固有結界を突き破り、一撃で仕留めるための魔力は保
持していなければならない。
これは、あの “金色の魔王” の持つ魔力をもってしても一度に出来る芸当ではない。
おそらく、影エリスも切羽詰っていたのだ。
大魔王ベール=ゼファーを完全に仕留めるためには、いまの彼女が持つ全力を使い
果たさなければなしえなかったのだろう。だからこその影エリスの悲鳴。ただの頭突き
という攻撃にもたじろいだ理由。それは、わずかなダメージが影エリス自身の滅びにつ
ながる危険を秘めているからこその、恐怖の悲鳴なのではないだろうか。
だとするならば、ここに勝機を見出すことが出来るかもしれない。
影エリスの本質は、シャイマールと同等の存在なのではなく、あくまでも『シャイマー
ルに近い力を容れることの出来る器に過ぎない』という事実。彼女が行使する力は蓄
えた力を消費することによってしか振るうことが出来ず、消費する以上は補充しなけれ
ば力を誇示できないのだという事実。
ベルは密かに ---- そして自嘲気味に微笑んだ。
(・・・・・・あーあ・・・この私が捨て石の役目なんてね・・・)
微妙なパワーバランスの上に成り立っている二人。だが、相変わらずベルが危機的
状況にあることには変わりはない。崩れた半面を手で押さえた影エリスが顔を上げる。
それは、いままで見せたことのない憤怒の表情であった。
失った魔力を、消費した力を、ベルの身体を使って彼女が補充することは間違いない
し、そうなればきっと影エリスは容赦しないであろう。写し身とはいえ、これほどの “器”
に吸収されれば、この身もきっとただでは済むまい。
しかし、それでいい。
柊蓮司やアンゼロットと共闘しておいたのは正解だった、とベルは「らしくない」ことを
考える。たとえこの局面において自分が敗北を喫しても、彼らならば “やってくれる” 。
自分が暴いた影エリスの存在と力の秘密を上手く彼らに伝えることさえできれば、そ
して『あの娘』が上手に立ち回ってさえしてくれれば、ウィザード・魔王連合の勝利まで
の道程は、ベルにとっては明白なものであった。
(リオン ---- リオン、聞こえる ---- ? )
それは『念話』とでも呼ぶべきものであろうか。ベルの思念はこの捕食結界の壁をす
り抜け、異界へと届き、アンゼロット宮殿で結界の破壊を待つリオンへと届けられる。
(---- 大魔王ベル・・・ ? ご無事ですか・・・ ? いまアンゼロット宮殿では大きな騒ぎに
なっていますよ・・・ ? )
同様の能力によるリオンの返信が、すぐさま返ってきた。
大きな騒ぎになっているのは当然であろう。
結界を破壊するために突入した自分の反応が、いつまで経っても感知できないので
あれば、アンゼロットたちはこの作戦においてベルが失敗したと判断したはずだからだ。
(・・・まあ、失敗なんだけどね)
(・・・っ、大魔王ベル・・・)
珍しく、どこか切羽詰ったようなリオン。
(ねえ、リオン。時間がないの。私のいま知っている情報と考えていること、全部は無理
かもしれないけど、できる限りあなたに送るわ。私の魔力が底を尽きそうだから、どこま
でできるかわからないけど)
それは、後事を託すということだった。
リオンを通じてアンゼロットや柊蓮司たちに、影エリスへの対策を練るための材料を
提供するということである。おそらく、自分は影エリスに “喰われる” はずである。
現界における存在力を失ってしまえば、裏界の本体が再びファー・ジ・アースに干渉
できるまでは相当の時間がかかるはずだ。したがって、この戦いにおいてベルがなん
らかの形で関われるのは、おそらくこれが最後であろう。
だからこそ、宿敵であるウィザードたちが相手であっても、後を託すのである。
(・・・すっごく悔しいけれど、ね。でも、しょうがないわ)
(---- わかりました。思念の送信を待ちます ---- )
その会話を最後に、リオンとの通信を中止する。ベルは最後の力を振り絞り、出来る
かぎりの情報を詰め込んだ思念の塊を、はるかアンゼロット宮殿にいるリオンへ向けて
放出した。
(これでよし・・・と・・・)
どこか満足げな笑みを浮かべたベルが、次いで眼前の敵の姿に視線を移す。
額を自身とベルの血で赤く濡らし、顔半分を破壊されたままで醜く歪め、吊り上げた
唇から獣のような唸り声を発する影エリス。瞳は冷たく青い輝きを点し、鬼火のように
揺らめく燐光が、その背に浮かんでいるようであった。
思いがけぬ恐怖を与えられた怒りに、影エリスが、ぎらついた目をベルに向けた。
「・・・私を喰べたくらいで勝ったと思わないことね。喰べて、力を取り戻して、自分が強
いって勘違いして、調子に乗ってファー・ジ・アースへと向かうがいいわ。貴女は、負け
る。どんなに貴女が力を得ても、ファー・ジ・アースで貴女は滅ぶわ」
ベルの言葉は、魔力などなくとも大魔王の威厳と力強さに満ちている。その言葉を、
わななきながら影エリスが聞いていた。
「そこが貴女の終焉の地よ。ファー・ジ・アースには、貴女の造物主をも滅ぼした二人
がいるんですもの。柊蓮司と、 “本物の” エリスちゃんがね !! 」
その最後の一言が、影エリスの理性を破壊した。
影たちが蠢き、ベルの身体に向かって一斉に襲い掛かる。それは食事などのため
ではない。食事のためではなく、“貪る”ための襲撃 ---- 。
結界の黒い大地に ----
大魔王の悲鳴が響き渡った。
(続)
次回やっと、ポンコツ魔王さまの壮大な負けロール(笑)と、影エリス降臨でございます。
柊やエリスたちとの遭遇まで到達するかしないか・・・ ?
なんとかゴールの姿が少し見えてきたようですので、もうしばらくお付き合いください。
ではでは。
>>39 …うまい。主導権を握り、ウィザード勢とベル様の打つ手に対して見事に対応して見せた影エリス。
これだけの悪条件下においてなお影エリスを追い詰めて見せたベル様。
そのどちらもキャラも立たせて魅せた手腕に、ただ感服するばかりです。
さて、次回。ベル様の最後のあがきはきちんとリオンに届いたのか。エリスに餌付けされたエリス守り隊は
はたして役に立つのか、楽しみに待たせていただきます。
>39
今回も堪能させていただきました
いい具合にエロピンチなベル様イイよー♪
壮大な負けロールに期待します
嗚呼きっとあーんなコトやこ〜んなコトを……いやいや、もしかするとそぉぉぉんなコトまで……っ!?
萌えるエロ描写&燃えるクライマックスへの仕込み、がんばってください
なにこの浸魔が堕ちる夜〜エミュレイタープリンセス〜
>42
シ(ホウ)ェリスさんがどうしましたか
>>42>>43 あかりんがエミュレイターの罠でフタナリになってエリスを孕ませて生意気な娘が産まれると申すか
ミドルでもクライマックスでもドロドロにやられて
エンディングフェイズで大逆転ですね
娘のエロシーンをずっと待ってるんだがまだ来ないぜ。
>>44 ふたなりになった事により、命とエリスの両方がいないと満足できない存在に
成り果てた自分を呪いながらも、自分自身の異形と化した肉体に与えられる
快楽の虜となっていくと
娘のエロシーンをずっと待ってるんだがまだ来ないぜー!
>>49 作者のホムペで展開してるアナザールートで娘エロはあるよ
魔が堕ちる夜闇の魔法使い
>50
MJD!? よぅし、行ってみるか。
スレ違いの話題ばかりでもあれなので、本筋を振ってみんとす。
カオスフレアSCが発売されたわけですが、恩讐の黒騎士がナイスバディのお姉さんになってるのは
どういうわけだ、一体。性転換か。それとも1stの黒騎士と同輩とかか。
滅びた国の騎士団で、お互い切磋琢磨した微妙な関係のライバル同士だったとかだと俺、勝手にストライク。
あと剣の聖女さんが3割増しくらいでエロくなってますね。脇見せとか、胸強調ポーズとか。
キャラクター作成コラムのハイテンションっぷりが、却って「危機的状況に陥ると案外しおらしくなるのではないか」
という妄想を掻き立てて止まない。
「私とて初めてなのだぞ?
……だが、既に死したるこの身でお前とこのような事になるとは思ってもみなかった。
……許せ。できる事ならお前の子を産める身でこうなりたかった」
と事後にお腹をさする黒騎士(SC)と申したか
>>50 ありがとう! で行ってみたら「イブセマスジー」って単語が見えて吹いた!
意外なネタから意外な繋がりがあるもんだなww
娘?
>>53 そしてエンディングで《金色の魔法》+セッション終了後に[赤き刻印]でリビルドして、
黄泉還りとしての運命から解放されて温かい血の通った肉体を取り戻す黒騎士さん(SC)という電波が。
……これなんてガオガイガー最終話?
>>57 肉体取り戻すと同時に妊娠ですね。わかります。
むしろ、ルー・シャラカンとオルディアはどっちがタチでどっちがネコかが問題なんだよ!!
>>59 ルーが無表情受けでオルディアがヘタレ攻めだろうがJK……
>>59 どっちが生えているか、に比べたら些末な問題だよ!
>60
百年も同衾してまったりいちゃいちゃとしていたわけだしな!
無表情受けとヘタレ責め……
自分を求めてくるオルディアに何も感情を持てず虚しさを覚えるルーと、
それでも構わないと抱き締めるオルディアか。
……なんかオルディアが死ぬ時にようやく成就しそうな仲だな。
ところでルーオリジナルの魂ってどうなってるんだろ、これ。
>>62 根性でエラーハの自分に転生して、タチに目覚めた
で一つ
>>63 マクロスFの2巻来月出るよ! 出るよ!?
まず、百年前の戦いからして夜のラスボス戦だったのではないかと思った。
両方に生えてれば相討ちにもなりやすいし。
仕事してるハッタリはハッタリちゃう
小太刀右京や!
68 :
名無しさん@ピンキー:2008/09/08(月) 23:17:46 ID:B3oQHClv
しかし、ベネットの服装がかぼちゃパンツになったのはなんでだろうな。
やはり爆天堂verだとあの丸見えお尻に興奮した男どもに路地裏に連れ込まれるケースが後を絶たなかったからだろうか。
フェチを突き詰めた結果だと、俺は考えている
むしろ、あかねちんが自制の為にそうしたんじゃないかという妄想が俺の脳内で(ry
>>40 あがきはキチンと届きました(笑)。エリス守り隊が役に立つかどうかは・・・どうでしょう ?
>>41 期待されたほど壮大でもなかったですが、負けロール(笑)です。
・・・んで、早朝から続きの投下でございます。
今回ちょっと痛々しい描写もあるかも ? なのでご注意いただけると。
ではでは。
重苦しい沈黙と張り詰めた空気が場を支配している。
『シャドウ捕獲殲滅作戦』の第一陣として、敵の捕食結界に突入した大魔王ベール=
ゼファーの反応は、作戦行動の開始から十五分を過ぎても完全に途絶えたままであっ
た。オペレーターからの報告は、大魔王の作戦行動の決行になんらかの支障があった
ことを示唆するもの。だが、あえてそれを聞かずとも、アンゼロットを始めとして柊蓮司や
赤羽くれはといったウィザード勢、オペレーターから待機中の実働部隊にいたるまでが、
決戦直前に垂れ込めた暗雲を敏感に察知している。
「・・・作戦遂行にあたっての大前提が崩れてしまったようですわね・・・」
まるで弔辞でも読むかのような陰鬱な調子で、アンゼロットが呟いた。
確かに彼女の言うとおりである。シャドウの潜伏する結界の位置が特定できなかった
からこその、そして、これ以上エミュレイターや魔王の捕食行動によってシャドウの力が
増大することを未然に防ぐための今回の作戦なのだ。ベール=ゼファーの反応が途絶
えたということは、おそらく彼女の敗北を意味する。もしシャドウが、裏界の大公ほどのも
のを結界破壊の暇も与えず打ち倒すほどの力を持っているとするならば。そして、その
上で大魔王を “捕食” したとするならば。
シャドウが完全にその器を満たし、機が熟したとしてファー・ジ・アースに顕現するのは
時間の問題ではなかろうか。
「事は急を要します。もしかしたら、わたくしたちだけでは対処しきれないかもしれません。
フリーランスのウィザードたちへも、可能な限り臨戦態勢を取るように要請する必要が
あるでしょう。もちろん絶滅社、コスモガード、聖王庁、考えうる限りのウィザード組織に
も警鐘を鳴らしておかなければ」
ひとつの決意を秘めた瞳をして、アンゼロットがてきぱきと臣下に指示を出す。
世界の守護者の責務を全うする彼女の様子に、それを窺っていたくれはが不安そう
な顔をしている。
「・・・すごい大騒ぎになっちゃったね・・・ひーらぎ・・・」
幼馴染みの少女が小声で言うのに、
「・・・ああ。前のときとはたぶん規模が違う。きっと今回の方が、もしかしたらある意味
危険なのかもしれねえ」
柊にしては珍しく、慎重でシリアスな物言いをした。
しかし、この柊の台詞はまったく的を得ていたのである。
彼が言う『前のとき』というのは、もちろん宝玉戦争時のこと。あの時よりも今回が危
険だという柊の言葉の真意は、次の理由からである。
宝玉戦争の終盤、エリスを核として覚醒しかけたシャイマールのもたらした破壊の光
は、不完全な状態であったにもかかわらず、あれだけの力を持っていたのだ。いわば
“繭” であっただけの存在ですら、全ロンギヌスを投入した総力戦をアンゼロットに覚悟
させるほどの危険を秘めていたといえよう。
ならば今回はどうだろう。やはり柊の言葉通り、前回以上の危険を孕んでいるのだろ
うか -------- 答えは、イエス、である。
あの大破壊をもたらした不完全シャイマールは、核としたエリスの心が力の解放を無
意識に制御していたおかげで、完全なる破壊神として降臨する事はなかった。しかし、
今回ゲイザー=キリヒトの意志を受け継いで現出したシャドウは、その力の行使や破壊
行動に一切の手加減をしないはずだ。しかも、全き皇帝に極めて近い力を持って、自ら
の意志を持って行動できるということは、あのときのエリス=シャイマールの数倍、いや
数十倍の危険な存在であると言うことができるだろう。
「・・・文字通り、本当の総力戦ってやつか・・・」
我知らず呟く柊のこめかみを冷たい汗がつたった。
総力戦とは、言うまでもなく『シャドウ対全ウィザード』 ---- 柊たちやロンギヌスだけ
ではなく、この星すべてのウィザードが総力を結集しての戦いになるかもしれない、と
いうことである。ふと、眉間に皺を寄せて腕を組んだ柊の服を、くれはがつい、と引っ張
る。
「ん ? なんだよ、くれは ? 」
「はわ・・・なんとなく・・・ただ、こーしてたいだけ。ちょっとつかまらせてね、ひーらぎ」
えへへ、と笑ってくれはが指先で柊の袖をつまむ。なにかをどうにかするわけでもな
い、ただそれだけの行為。ただそれだけのことが ---- くれはの心を落ち着けることの
出来る行為なのだと、柊は気づいているだろうか。不安げだったくれはの表情は少し
だけ和らぎ、青ざめていた顔色はいつしか元通りになっている。
「いいけどよ・・・あんまり強くつかむなよ。服、伸びない程度にな」
「うん・・・気をつける・・・えへへ・・・」
ぽやぽやとくれはが微笑んだ。こうやって人前で柊に甘えるようなことはくれはには
滅多にないことだ。逆を返せば、たとえ人前であってもこうやって気持ちを落ち着かせ
なければならないほど、くれはの緊張は重いといえる。彼女なりに、今回の一件の重大
さを感じ取っているからこそ、であろう。
「・・・オホンっ !! 柊さんにくれはさんっ !! あなたがたにも存分に働いていただきたいん
ですけれどもっ !? 」
寄り添うような二人の姿を目ざとく見つけ、アンゼロットが声を荒げる。こめかみに青い
筋を立てているのを見ると、相当彼女もイラついているようであった。
「あ ? 言われなくてもそのつもりだって。なに、ヒス起こしてんだお前 ? 」
ぽかんと呆れ顔の柊。それとは対照的にくれはが顔を真っ赤にして、つかまっていた
柊の袖から慌てて手を離す。
「ん ? もう気が済んだのか、くれは ? 」
「は、はわわ・・・うん、もうへーき、もうだいじょーぶ・・・あは・・あははは・・・」
手のひらをパタパタと振り、照れ隠しに笑うくれはに、「そっか。ならいーけどよ」と、な
んでもなかったような返事をする柊である。
「・・・本当にわかってらっしゃるんでしょうね ? 」
疑わしげなジト目で睨むアンゼロット。時々、柊蓮司という男のこういうところがひど
く憎たらしく感じるときがある。緊急事態、世界の危機、未曾有の災厄が迫っていると
いうのに、やたらと落ち着いて平素と変わらない素振りで振舞えることが、この男には
往々にしてあるのである。ベテランのウィザードだから、という理由だけではない。
今回の件に関しては、どんな歴戦のウィザードだとしても、平静でいられるような生易
しい事態ではないのだから。むしろ、自分が理不尽に、任務で拉致誘拐するときのほう
が、柊蓮司は狼狽するくらいなのである。そのくせ、『世界の危機』にはうろたえないの
だから小憎らしい。
しかし、だからこそ頼りになるし、信頼できる ---- アンゼロットは密かにそうも思う。
柊の真っ直ぐさや、底抜けの明るさ、頭の悪さ(決して悪い意味ではなく)。
それが、一緒に戦うものたちの心の救いになる場面を、アンゼロットも幾度となく目
にしている。人間の強さとはある意味心の強さだ、と知っているからこそ、柊の存在が
仲間たちに与える力の大きさも、アンゼロットは貴重だと思う ---- まあ、そんな風に
自分が柊を評価しているということなど、絶対口が裂けても教えてやるつもりはさらさら
ないのではあるが。
「わかってるってーの。たぶん、アイツがこっちの世界にまた現れるのは、そう先の話
じゃないはずだ。そして、次に現れるのはきっと ---- “器” を完全に満たしたときに
違いない。そうなりゃ、一筋縄じゃいかない相手だってことぐらいは十分わかってる」
直感にも近い柊の感想は、意外にもアンゼロットの内心の分析とまったく同意見であ
る。こういうところもアンゼロットにしてみれば小癪であった。彼女が状況や情報という
小さな積み木を積み上げて到達する解答を、時々こうやって一足飛びに捕まえてしま
うのだから。
「・・・ええ。ですから、時間がありません。だからこそ我々も総力を結集してこれに対応
する必要があるのです」
表面上は落ち着きを取り繕って、アンゼロットが言う。そこへ、この場において今の今
まで沈黙を守り続けていたただひとりのメンバーが、唐突に口を開いた。
「・・・総力戦の前に・・・もう一度状況を整理しておく必要がありますよ・・・ ? 」
静かなる声でぼそりと呟いたのは言うまでもなく ---- 本作戦における待機メンバー
のひとりである ---- “秘密侯爵” リオン=グンタであった。あまりに発言せず、あまり
に気配を殺し続けていたために、彼女が声を発するまでその存在は忘れられかけてい
た。柊たちが、丸テーブルの片隅にうずくまるように座っていたリオンを振り返ると、普
段は静謐でとらえどころのない彼女の瞳が、どこか熱を帯びているように感じられるの
に気がついた。
「・・・いま、大魔王ベルからの『思念送信』を受け取りました。現在の状況が、完全では
ありませんが把握できたところです ---- 」
ざわっ。
リオンの言葉に一同がざわめいた。
「 ---- 結論から言います。今回の作戦行動を、シャドウは完全に予測していた模様
です。彼女は自らの結界に罠を仕掛け、大魔王ベルの魔力を戦闘開始前に消費させ
ることで戦いを有利に進めることに成功。戦闘の結果は、大魔王ベルも善戦を果たし、
敵に大打撃を与えることに成功しましたが、おそらく戦いは自らの敗北に終わるであろ
う、と分析されています」
淡々と語るリオンの濃い紫色の瞳の色が、珍しく感情の昂ぶりを見せている。それは
もしかすると、静かなる怒りの表現であったのかもしれない。同じ魔王として、ウィザード
たちに報告する内容としては、おそらく屈辱的なものであっただろうから。
「ベルが ---- 敗けるほどの相手か・・・」
柊にとって、ベルは好敵手といっていいほどの相手である。敵味方とはいえ、それほ
ど長く二人は関わりあってきたのだ。だから、大魔王ベール=ゼファーの敗北という事
実は、どこか柊にとって不思議な感慨のあるものだった。
リオンが言葉を続ける。
「・・・自らの敗北を予期した大魔王ベルは、私へ思念を送ることに最後の魔力を使い
ました。今後の、シャドウとの戦いを有利に進めるために、敵の力やその性質、勝つた
めの戦いの指針などの情報をまとめて私に送ったのです・・・・・・柊蓮司たちに後を託
す ---- 大魔王ベルはそうも言っていました」
アンゼロットが目を見開く。なんて、らしくない。そう思ったのだろう。
ひとり、神妙な顔つきでリオンの言葉を聞いていた柊が、
「 ---- 続けてくれないか」
と促した。こくりと頷いたリオンが一同にもたらした情報は、いままで謎のベールに包
まれていたシャドウという存在に対処するにあたって、おそらくはもっとも有益なもので
あった。
つまり --------
シャドウの持つ力の性質とは、異常なまでの大容量を誇る巨大な器である、というこ
と。エリスが、シャイマールの転生の器であったという事実と大きく異なる点がここであ
る。シャドウは、摂取した力を蓄えることでシャイマールに近い存在になることができる
のではなく、溜めた力を消費することで力を振るうだけの存在である、ということ。
それは、たとえるなら電池のようなもの。蓄えられた力は、充電行為を行わないかぎ
り失われていく一方なのである。だが、それでもシャドウが危険な存在であるというこ
とに違いはない。なんといっても、彼女という形をした電池のキャパシティは、裏界皇帝
シャイマールに限りなく近いのだから。加えて言うなら、搾取と消費を無限に繰り返す
存在である以上、シャドウは “喰えるものはひたすら喰い続ける” ということである。
喰らいつくし、暴威の限りを尽くし、また果てなく喰らう。
無限に喰らい続け、無限に破壊しつくす存在。貪欲なる怪物。
それが、シャドウの正体である。
「 ---- これが、シャドウへ付け入ることの出来る隙だ、と大魔王ベルは考えているよ
うです」
リオンは一度言葉を切り、一同の顔をゆっくりと見回した。皆の考えがまとまるのを待
つかのような沈黙である。最初に口火を切ったのはアンゼロットであった。
「・・・つまり、今度は私たちが、シャドウがベール=ゼファーに対してとった作戦 ----
消耗させる戦術を仕掛けるということになるのですね ? 」
ひっそりとリオンが頷く。
「やっぱり総力戦ってことか。ウィザードをかき集めてとにかく休まず攻撃し続ける。防
御せざるをえない状況に追い込んで、蓄えた力を消費させる・・・そういう作戦だな ? 」
「そうすればシャドウの力はどんどん弱っていくもんね。弱ったところを叩く ! ・・・ってこ
とでいいのかな ? 」
柊とくれはも、リオンの言うところのベルの考える作戦に思い至ったようである。
「・・・はい。あなたたちの言うとおりです・・・ただし・・・」
リオンはここで言葉を切った。最後の最後でベルが届けた思念の欠片には、まだ続
きがあったのだ。
(お互いの総力をかけた潰し合い・・・基本的な作戦としては、たぶんこれが確実。消耗
戦なんて無様な戦い方だけど、おそらくファー・ジ・アースに降臨することをシャドウが
決心するときは、完全に力が満ちた確信をしたとき。そうなれば、対抗しうるウィザード
はきっと存在しない・・・だから、ね。リオン。ちょっと危ない賭けだけど、私、保険をかけ
ておくことにしたの。その保険っていうのは -------- )
思念はここで途絶えていた。
まったく、まるで狙い済ましたかのようなタイミングで魔力が尽きたものだ、とリオンは
思う。ただ、これがこの戦いに勝利を収めるための、ベルの最大の布石なのであろうと
いうことは理解できた。とはいえ、いまの時点ではそれが一体なんであるのかはわから
ない。先が分からないというのは不安なものですね ---- と、リオンは内心愚痴をこぼ
した。
実のところ、本作戦に参加するにあたって、実はこっそり愛用の “例の書物” を読ん
できていたのだが、残念かつ不可思議なことにこの戦いに関する記述はところどころ
が虫食いであったり空欄であったりして、普段のリオンがするように先を見越した行動
を取ることが出来ないでいたのである。
『而して、蠅の女王と秘密侯爵は豊潤なる青き星に降り立った。怨敵を滅するために
仇敵と手を携えた』
書物の記述はここで途絶えている。青き星とは言うまでもなくファー・ジ・アースであ
り、怨敵=シャドウを殲滅するために仇敵=ウィザードたちと共闘することを決定する
くだりまでは明確に記載されている。しかし、その先のベルの敗北、後事をウィザード
たちに託したベルが考える切り札がなんであるかは結局書かれておらず、当然のこと
ながら、この戦いの結末に関して一言一句も読み取る事は出来なかった。
だが、リオンの書物が機能を果たさなかったのはこれが初めてではない。
思い起こせば宝玉戦争の最中。大魔王が手にするとされていた最後の宝玉が書物
の記述に反して志宝エリスの手に渡ったとき ---- あのときの自分の驚愕と狼狽ぶり
を思い出すと、実は恥ずかしさで顔から火が出そうになるリオンなのだった。
あの後リオンは、絶対の信頼を置いていた書物の記述が誤った原因について、彼女
なりに分析を試みたことがある。
いくつかの可能性は考えられたが、結局のところただの考察に留まっただけで、明
確な答えは得られていない。それでもそれらしい理由を探すとするならば ----
ひとつにはゲイザー=キリヒトの存在が考えられる。宝玉戦争時、書物は最後の宝
玉が大魔王の手に渡ると記していた。しかし、それはゲイザーの思惑からすれば許さ
れざることである。ゲイザーがリオンの書物の存在を考慮していたとは思わないが、志
宝エリスに七つの宝玉すべてを獲得させようとの意図で、彼が動いていたのは周知の
ことである。故にこそ書物は記述を誤った ---- つまり、 “神” とよばれるほどの存在
の意図や行動は、あまりにもそれが上位の存在であるがために、書物が予知・予測の
範疇に収め切れないのではないか ---- というのが理由のひとつ。
そしてもうひとつが ---- これはあまりリオンも考えたくはなかったのだが ---- 柊
蓮司や志宝エリスという存在自体が書物に与えた影響のせい、というものである。
予知・予言・予測というものはつまるところ、無限に見える可能性をどれだけ手中に
収め、その中からもっとも蓋然性の高い結末を導くかという一面を持っている。
しかし。しかし、である。
リオンの書物に限ったことではないのだが、データや理論や経験値を駆使して先の
展開を読もうとしたときに、せっかくかき集めた膨大な情報を一切合財台無しにするよ
うなとんでもないヤツが、稀に ---- ごくごく稀に ---- いるのである。
それをイレギュラーと呼ぼうが特異点と呼ぼうが、それはどうでもいいことなのだが、
柊蓮司や志宝エリスを見ていると、リオンはどうしても思ってしまうのだ。
物事の筋道や、事象発生の確率、はたまた運命なんて代物を、思い込みや意志の力
でいいように振り回すとんでもない連中 ---- と。
柊蓮司が大魔王ベルと幾度となく戦い、また幾度となく世界の危機を救ってきた頃か
らなんとなくそんな気がしてはいたのだが、前回の宝玉戦争でその印象は決定的なも
のとなった。新しく、志宝エリスというイレギュラーも加わっての宝玉戦争の大事な局面
において、書物が機能を果たしきれなかったのは、上位存在であるゲイザーの介入と
柊やエリスといったイレギュラーたち ---- それこそ書物の予言の幅さえも飛び越える
ほどの ---- のせいだったのではないだろうか、といまのリオンは考えている。
そして今回。
間接的ではあるがゲイザーの意志が関わりあった事件であり、その事件の渦中には
志宝エリスの存在がある。挙句の果てには、柊蓮司も当然のように介入してきている
のだから極め付けだ。さらにはシャドウなどというまったく予測し得なかった存在までも
が現れたのだから、書物が前回同様に機能不全に陥ったとしても仕方がないであろう。
「ただし・・・なんだよ ? 」
いぶかしげな柊蓮司の言葉に、リオンがハッと我に返る。
「・・・・・・いえ・・・なんでも・・・それより、文字通りの総力戦です・・・気を引き締めてか
からなければなりませんね・・・」
下手な予断を挟み込むぐらいなら、不確定な情報で躍らせるのは賢明ではない。
そう思い返してリオンは口をつぐむ。
ベルのかけた保険。確実な勝利の布石。それがいったいなんなのかはわからない。
だが、ベルのその言葉をリオンはなぜか信じている。
自分が優位に立って調子に乗っているときに立てた作戦よりも、こういう窮地に追い
詰められたときの苦肉の策のほうが、ベルは見事な作戦を立てるのだ ---- どういう
わけか。
「気を引き締めるのは当然のことですわ。柊さん、くれはさん。臨戦態勢を続けてくださ
い。わたくしはロンギヌスたちへの指示のため、司令席へと移ります」
アンゼロットが立ち上がる。うなずく柊とくれは、そしてリオン=グンタ。
いまだ、ロンギヌス・オペレーターからは一切の反応報告はもたらされず、沈黙の重
圧も払拭されない。すでに作戦開始から ---- 二十分が経過していた。
※
見渡す限りの黒い大地。
広大で、草木も建造物もない殺風景な光景が広がる暗色の荒野。
その中心でぽつん、と。
ふたつの人影が絡み合っている。
ここは影エリスの捕食結界。自身の敗北と滅びの予言に我を忘れた結界の主が、満
身創痍のくせに自分を罵倒した、大魔王とは名ばかりの小娘を罰する刑場である。
四肢の自由を奪い、組み伏せたはずのベール=ゼファーが、こともあろうに唯一自由
の利く首を振り上げ、頭突きなどという野蛮な手段で自分に傷を負わせたのみならず、
こともあろうに「貴女は滅ぶ」などと ---- !!
だから、罰を与えてやることに決めたのだ。いままでしたこともないような食事の仕方
で “喰らって” やる。責め手の影は多い方がいいだろう。それにはまず、この拘束のた
めの影たちを引き上げなければならない。
しかし、拘束する影を引き戻す前に ----
ぐいっ。ぎりぎり。ぐきっ。
両腕を絡め取っていた影が、ありえない方向を向き --------
みしっ。ぎちっ、ぐりんっ、ごきっ。
両脚を掴んでいた影は、左右に勢い良く押し広げられ --------
「・・・・・・っ !? がっ・・・ !? あがっ、くあっ・・・・・・ !? 」
突然の影たちの激しい動きと共に、四肢を激痛が襲う。ベルは瞳を極限まで見開く
と、濁った苦鳴の叫びを上げた。鈍い音。それは、怒りに身を任せた影エリスが、大魔
王の肉体を破壊しようとする音であった。
肘の関節が砕ける。肩の骨が抜ける。膝は逆の方向に折り曲げられ、股関節が外れ
る。抗いを許さぬゆえに腕を奪う。歩行すらも許さぬゆえ、脚も奪う。
痙攣するベルの身体をふわり、と影の手が持ち上げ、続いて地面に叩きつけた。
べちゃり。
着地すらままならず無様な音を立て、ベルの身体が地面をはいつくばった。支える腕
も立つ脚も動かせず、顔からうつ伏せに土を舐める。影エリスがなにをしようが、影エリ
スになにをされようが、完全に成す術を持たないベルの姿を、愉しげに見下ろす褐色
の少女。
「ぐぐ・・・ううっ・・・」
「痛いですか ? 痛いでしょう ? でも、私のほうがたぶん痛いですよ・・・貴女の魔法の
おかげで、こんなに傷だらけなんですもの・・・責任とって、治してくださいね・・・」
影エリスの背中から、黒い二本の影が伸びる。それはうつ伏せに倒れたベルに迫り、
無防備な臀部に貼りついた。
「・・・ひいっ・・・ !? な、なにを・・・っ !? 」
首だけを後ろに振り向いて、ベルが影エリスの所業を咎める。それを無視して、二本
の影の先端は人間の手のような形を形作り、左右の尻肉を力いっぱい鷲掴みにした。
「はぎっ・・・ !? 」
身体が再び宙に持ち上げられる。ただ、尻肉をつかまれただけでなんの支えもなく、
全体重を丸ごと持ち上げられている。ぎりぎりと、決して豊かとはいえない尻肉が上に
引き上げられ、ミリミリと音が聞こえそうなほどに下半身が悲鳴を上げた。
「い、いた、ち、ちぎれちゃ、あぐうぅぅぅぅっ !? 」
力を失った両腕両脚がだらんとぶら下がり、尻を天に突き出された滑稽な姿で、ベル
は悲鳴を上げ続けた。影エリスの顔の前に、ちょうどベルの股間がくるような高さで身体
は吊り下げられている。
「まずは・・・この傷を治すところから始めましょうか・・・」
影エリスが、逆さにされたベルの下半身に顔を近づける。別の方向から影の手がもう
一本伸び、戦闘用ドレスのスカートをめくると下着を剥き出しにした。
スカートと同様の、黒いレースの下着。布地と太腿の隙間に影が張り付き、するする
と侵入を開始した。影ゆえにどんな隙間からも忍び込む。影ゆえにいかようにも形を変
えられる。着衣に一切の損傷を与えることなく、陵辱の影たちはベルの隠された部位
に到達した。そのおぞましい感覚に血の気を失う。ぺたぺたと張り付く黒いモノは、容
赦なくベルの股間をまさぐり始めた。
「や、やめ、やめなさ・・・」
制止の声は、そこで甲高い悲鳴になった。
下着の中。人の指よりも数多く、人の指よりも微細な動きを可能とする変異自在の黒
い陵辱者たち。あるものはぴったりと閉じた固い蕾をほぐし、あるものは割れ目の両脇
の襞をつまみ上げ、あるものは濃厚な愛蜜をたたえた洞の奥深くへと侵入し、あるもの
は内部の肉壁を擦りだす。もっとも敏感な部分を守っていた皮を剥き、その中心で息づ
く突起をつかまえると、ごしごしとその部分を強烈な勢いでしごきだす。じゅくじゅくと音
を立てて溢れ出す、どろりとした汁をかき出すように影が充血した柔肉をほじり返した。
「ひ ---- やあっ ---- も ---- だ ---- め ---- っ !! 」
影が蠢くたびに、強烈な快感がベルの脳髄に火花を散らす。
先ほどまでの愛撫で敏感になった部分。普段は決して外気に触れぬ隠された器官。
それを、人の手指では成し得ぬ精密な動きと、多種多様な蠕動で刺激する。
刺激、し続ける ---- 。
「あ、ひ、あ、ひゃ、や、や、いやあぁぁぁぁぁっ !? 」
だらり、と唇から赤く小さな舌がこぼれ落ちる。とろとろと唾液が溢れ、零れ、滴る。
人の手ならば休まることもあるだろう。人の指なら疲れて速度も鈍るだろう。
しかし、この黒い手たちは人外のモノ。影エリスの意志ひとつで、いくらでも動き続け
る。事実、半オクターブ跳ね上がったベルの喘ぎが、彼女自身の肉体の絶頂を迎えた
シグナルを発しても、影たちは止まらなかった。
しごく。擦る。舐る。穿つ。ほじる。捻りあげる。
疲れも限度も知らぬ無限陵辱。
影エリスの与えた罰とはまさしくそういうものであった。
「イ、イったわ、やめ、もうやめ、イ、った、の、よ、イッた、イ、イひっ !? 」
絶頂とは山の頂ではない。
到達したところにまだ先がある。激しいエクスタシーに震える身体は敏感さを増し、止
まることない愛撫が更なる快感を叩き込む。黒い下着が、その色すらも濃く変色するほ
どに濡れ、ぽたぽたとコールタールの大地に染みを作る。
「・・・うふふふふ。い・た・だ・き・ま・す・・・」
満足げにベルのあられもない絶頂の姿を見届けた影エリスが、ほくそ笑みながら濡れ
た股間に顔を埋める。下着の布地に噛みつくと、愛液で湿ったそれを口に頬張る。
じゅる、ずるる、こくん、こくん。じゅく、ぶちゅ、ぬくっ、ごくごく。
「や、なに、なにしてるのよっ !? う、うそ、やめなさいそんな・・・ !? 」
顔に火を点し、羞恥と屈辱のために涙目になったベルが金切り声を上げる。
味わっている。飲み干しているのだ。ベルの下着に含まれた彼女自身の蜜を、影エ
リスは甘露を味わうように飲んでいるのである。ありえない。こんな行為、許されない。
ベルは悔しさのあまり気が遠くなった。
しかし ----
そのとき、影エリスに異変が起きる。
肩から先に垂れ下がる、千切れた左腕。
炭化していまにも崩れ落ちそうな焼け焦げた右腕。
裂傷と火傷と黒ずんだ血だまりがこびりつく、露出した部位の肌。
見るも痛々しいそれらの傷が ---- 見る見るうちに再生していくのである。
ベルの愛液で喉を潤す影エリスの半面 ---- 傷つき、壊れ、崩れかけていた無惨な
顔は恍惚として。冴えて蒼く輝く双眸はますます輝きを増して。
戦慄と共にベルは気がつく。
これが彼女の “食事” だというのなら、これはさしずめ「食前酒」のようなものだ。
強制的に快楽を引きずり出された肉体は、愛液を媒介として残り少ない魔力、ベル
自身の生命力、存在の力、ありとあらゆる『ベール=ゼファーを構成するもの』を放出し、
影エリスへと供給しているのだ。
だからこその回復 ---- それに気づいた瞬間、ベルの意識が薄れかけた。
吸われているのだ。残りの魔力、生命力、存在力を、いままさにこの瞬間も。
犯されれば犯されただけ。それを媒介にして力を回復し、蓄える ---- !!
「・・・あ〜〜〜・・・傷が治っていく・・・凄い・・・美味しい・・・あ・はは・あは・は・・・」
満たされる。満たされていく。空っぽになりかけた器が満ちていく。
傷はみるみる回復し、見えない黒々としたオーラがその身を包み、より強大に、禍々
しく、更なる変貌を遂げていく。周囲の瘴気を集め、その身体に纏いながら、影エリスは
“いままで以上のもの” へと成長しようとしていた。
「な・・・なんて・・・力・・・これが完全に “満ちた” としたら・・・」
黒いモノが。影のようであり、影ではないモノが。
影エリスの身体に ---- 身体の一部に凝り固まっていく。
制服のスカートのあたりに濃厚な瘴気が渦を巻き、濃縮され、それは幾万の影を集
めて造られた黒い触手へと変貌した。
「・・・・・・ひっ・・・・・・ !? 」
新たな陵辱の武器。その形状。それの位置する部位。それが連想させるおぞましい
発想に、ベルはおののく。影エリスのスカートの裾を割って、その脚の間から伸びたモ
ノは ---- 誰がどう見ても、男性器以外のなにものではなかった。
黒を固めてより黒く。闇を重ねてさらなる闇に。
幾億の夜闇を濃縮した黒い “それ” が、ベルの開かれた脚の間に割り込んできた。
「そんなっ !? やめなさいよっ !? 喰べるならさっさと喰べればいいじゃないっ・・・ !! 」
影エリスが、その叫び声を意に介した様子はなく。
「・・・静かにしてください・・・力を抜いて・・・」
いっそ優しげな影エリスの口調が不気味である。
「なにを・・・・・っ !? いっ・・・ !? きゃあぁぁぁぁぁぁっ !? 」
「そうです・・・身を任せて・・・」
開かれた股を弄んでいた影たちが、絶頂を通り越して過敏になりすぎたベルの秘所
を、追い討ちをかけるようにいじり倒す。肉襞をしごき、蜜壷をえぐり、剥きだしにしたク
リトリスを捻りあげた。ぶしゅ、ぶしゅ、と激しい音と共に愛液が噴き出し、黒い戦闘用
ドレスに包まれたスレンダーな肢体がのたうち回る。
度重なる絶頂に肉も心も溶かされ、全身を襲う快楽に気をそらした瞬間、 “それ” が
襲い掛かってきた。
男根の形を模されて造り上げられた黒い影。
長さも太さもベルの腕ほどもある、凶悪な陵辱淫具。
それが、ベルにとっては完全に無防備だった、もうひとつの淫穴に突き立てられる。
「はがっ・・・ !? うぎ・・・い・・・ひいっ・・・い、ひ、ぁ、ひゃいぃぃぃぃぃっ・・・・ !? 」
力ずくで、二つの丸い尻肉を影の手が押し広げていた。侵入を容易にするために、
すぼまったそこの部分を無理矢理こじ開ける。その部分に ---- 通常では性交に使用
することなどありえない部分に ---- ある意味、女性器よりもさらけ出すことを躊躇われ
るその穴に ---- 異形の黒い男根が埋没させられた。
みちりみちり、という音と共に。深く。奥深くへと。
「お、お、お、お、お、お、お・・・・・・」
唇をアルファベットの “O” の字にして、ベルはただただ呻き声を上げる。
肛辱の激痛と恥辱は耐え難く。しかし、濡れそぼった秘部を犯す影たちの動きはます
ます激しさを増していき。痛みを中和することのない快楽。快楽を打ち消すことのない
激痛。痛みと快楽の二つの感覚が、同じだけの強烈さでベルの心身を打ちのめす。
「たしか、こう・・・うん・・・こういう姿勢でするんでしたっけ・・・」
地面に降ろしたベルの細い腰を、影エリスが背後から抱え上げる。後背位という体位
だ。陵辱の形。犯すための形。四肢は力なく地を這い、思うように下半身を抱かれ、秘
所ぱかりか「一番恥ずかしい穴」までも奪われた。
敗北の覚悟はとうにできている。
しかし、こんな形での屈辱などあり得なかった。激痛と快楽が限界を突破しようとする
まさにそのとき ---- ベルはこんなものは限界でもなんでもない、ということを思い知ら
それる。影エリスが、腰を使い始めた。腕ほどもある異形のペニスが菊門をめくり上げ
ながら出入りする。
「が・・・・・が・・・・は・・・・・っ・い・が・が・はあぁ・・・・」
灼熱の鉄棒で肺腑を灼かれるような激痛が、尻穴を、直腸を蹂躙した。
「はあうっ、う、ふ・ぐ・あうぅぅぅ・・・・っ !? 」
同時に、肉壺にねじ込まれた影たちが形を変えながら、ベルの子宮ごと滅茶苦茶に
突き上げてきた。前後の穴を同時に、しかも極限のレベルの感覚付きで犯される。
打ち付ける腰の動きが速度を増す。影の触れた二つの穴からは、大事な “なにか”
が吸い取られていくようだった。
「あ、う、はあぁん・・・美味しいです・・・とても・・・おい・・・し・・・」
影エリスの爛れた半面はすでに完治していた。
戦闘で受けた傷を完治させてなお、彼女は蹂躙し続ける。喰らう。喰らいつくす。搾り
取り、吸い上げる。なけなしの魔力を奪い、存在の力をしゃぶり、さらに彼女自身の持つ
“器” を満たす。
下半身を玩具のように扱われながら、朦朧と薄れいく意識の中で、ベルはぼんやりと
思う。
(吸われてる・・・アソコから・・・お・・・おし・・・り・・・からも・・・吸われてく・・・私が・・・
全部・・・吸われ・・・)
自分の身体を征服した褐色の肌の少女が、背後で激しく動き続ける。感覚は鋭敏に
なりすぎ、視界にちかちかと光が舞っていた。目はとうに見えず、抗う術はとうに失われ。
背後の闇の力だけがただ増大していくのだけは、微かに理解できた。
「あああ・・・ぜんぶ・・・ぜんぶ・・・い、ただ・・・きま・・・すうぅぅぅぅぅっ !! 」
影エリスが吠える。雄叫びといってもいい大音声で。
同時に、律動させていた腰を思い切り打ち付け、壊れよと言わんばかりの獰猛な突き
あげを敢行した。ぼこ、とベルの腹部が膨れ上がる。嘔吐にも近い呻きは、すでに声で
はなく、ただの濁った水音に近く。
焼き切れた神経が ---- 影エリスに、ベルの全存在を明け渡した --------
※
「 ---- っ!! 巨大な魔力反応ありっ !! 魔力波の測定値は初見、今までにない反応です
が・・・・・・と、とにかく膨大な数値が観測されました・・・・・・ !! 」
ロンギヌス・オペレーターの突然の報告。
作戦行動の開始から三十分近く経過したいま、アンゼロット宮殿のテラスを新たな緊
張感に包むには十分すぎる内容の報告がされた。
シャドウとの戦いに敗れたとされる大魔王ベール=ゼファーからの通信により、かの
強大なる敵の力の正体と対処についてリオン=グンタより知らされ、かつその検討が
なされたばかりのことである。
「ッ、ガッデムっ !! 今度は何事ですのっ !? 」
久々のアンゼロットの罵倒の台詞。主の叱責にも似た言葉にうろたえながらも、オペ
レーターは自らの任務を続ける。
「た、ただ巨大な魔力反応としか・・・・・・あ・・・それとは別に微弱なエミュレイター反応
も観測され・・・こ、この魔力波の数値はまさか・・・大魔王ベール=ゼファー・・・ ? 」
「なんだとっ !? お、おいっ、そりゃ、どういう・・・・・・」
思わぬ立て続けの報告に、混乱した態の柊が声を荒げた。オペレーターの狼狽ぶり
はそれ以上で、柊の問いに答えるだけで精一杯のようである。
「か、観測された魔力波の数値の特徴を見る限りでは、そうとしか・・・・・・あ、反応の
出現ポイントが特定されました・・・ ! 」
ごくり、と一同が息を飲む。
続けざまに伝えられた報告が柊たちに与えた衝撃と驚愕は、いかばかりか。
「巨大魔力反応・・・出現地は ---- 赤羽神社上空ですっ !! 」
※
コイズミを始めとする三十人余のロンギヌスと緋室灯の食欲を十二分に満たし、昼食
の後片付けをいそいそと始めるエリスの姿を、赤羽神社の境内で見ることができる。
せめて自分の食べた分だけでも、とロンギヌスたちがテーブルの前に並んで空の食
器を重ねていく。当然、食べ残すような不埒なものなど一人としていない。
ひとりひとりから空の食器を受け取るエリス。綺麗に食べてくれたロンギヌス隊員たち
それぞれに満面の笑顔を返していくのだから、彼らにしてみればこういう食事時という
のはエリスと触れ合うまたとない機会なわけである。
案の定、取りとめもない、益体もない二言三言の会話のやり取りをエリスと行い、誰
も彼もが鼻の下を伸ばしている ---- というのが現状なのだ。その様を溜息混じりに
見つめているのは緋室灯。真っ先に食べ終え、食器の処理も終わり、配下をテーブル
前に整列させているロンギヌス・コイズミに声をかける。
「・・・いざというとき・・・本当に役に立つのかしら・・・」
痛烈な一言にコイズミが硬直する。灯の言うとおり、いまのロンギヌスたち ---- エリ
スにでれでれとしているその様を見て、護衛のために集められた少数精鋭部隊とは、
お世辞にも言い難かった。
「み、耳が痛いですが・・・ご、ご安心くださいっ ! 彼らはアンゼロット様から命を受け、
この私が直々に選出した、いわばロンギヌス・エリート部隊ですっ ! いかなる敵が相手
であろうとも、エリス様に指一本触れさせるものではございませんっ ! 」
これは言い繕っているわけでもなく、コイズミの本心である。
たしかにここに集められたロンギヌス三十人は精鋭で、実のところ灯もそんなことは
百も承知なのだ。ただ、あまりにも彼らの様子が “あれ” なので、一応の警鐘を鳴ら
してみたに過ぎない。
「・・・そう・・・それなら・・・いい・・・・・・」
灯が、氷のような視線をコイズミからすっ、と外す。
思わずかいた冷や汗を拭ったコイズミの元に、緊急時にのみ使用される0 - PHONE
のエマージェンシー・コールが届いたのはその直後のことである。
「はい、こちらロンギヌス・コイズ・・・・・・はっ !! 直々にご連絡を頂けるとは光栄の・・・
えっ・・・ !? 戦闘態勢を、でございますかっ !? 」
直立不動の姿勢でコイズミが会話をしている。
そこまでの内容を真横で聞いていた灯が即座に立ち上がり、ガンナーズブルームを
構えた。コイズミの通話内容からわかることは二つ。連絡を寄越したのがアンゼロット
であるということと、なにか緊急に対処しなければならない危機が、すぐ近くまで迫って
きているということだ。
ガンナーズブルームを小脇に抱え、エリスの元へと駆け寄る。その肩に手を回し、灯
がエリスの身体を自分に密着させるように引き寄せた。
「きゃっ !? あ、灯ちゃん、急にどうし・・・・・・」
顔を真っ赤にしてしどろもどろになるエリス。きつくその肩を抱いて、灯が周囲に油断
ない視線を配る。続けざまに、コイズミが部下たちを叱咤する声が境内に響き渡り、つ
いさっきまでたるんでいたロンギヌスたちの仮面の下の表情が一変する。一流のウィ
ザード、一流の戦士の顔であった。
初めて ---- エリスは気がついた。
異変がすぐそこまで迫っているということに。
エリスと灯の周囲に、それぞれのブルームを構えたロンギヌスたちが防御の陣を展
開する。直後、まるで彼らの戦闘態勢が整うのを待っていたかのように “異変” は起
きた。
空が。真夏の空が。中天高く昇った太陽の日差しを降らせる真っ青な空が ---- 暗
転した。空の色が墨を流したように黒々と濁り、突如として暗雲が垂れ込める。
そして、『世界の常識』という結界を破壊する光景が眼前に展開した。
空がひび割れる。なにもない虚空が、まるで割れた硝子窓のようにひび割れる。
空間が軋み、ぎしりぎしりと耳障りな音を立て、天が砕け散った。
砕けた空の向こうに通じているのは異界である。人の手の及ばぬ空からこの世界
に訪れたものの姿を、エリスはなぜかやけにはっきりと見ることができた。
いまとなっては懐かしささえ感じる制服のブレザー。
エリスの記憶の中では、真っ白だったはずの制服。
黄色いシャツ。白い帽子。帽子のワンポイントである四つ葉のクローバーのアクセサ
リー -------- かつてはそんな色をしていたはずのものたち。
髪を飾るカチューシャも大きなリボンも色褪せ、 “彼女” が身につけたものすべてが
影の色に染め上げられている。不思議と、海の色の髪と瞳だけはその鮮やかな色彩
を残していた。
シャドウ ---- 濁った空に浮かんだその姿は、着衣の色まで漆黒に染め上げた、黒
い天使を思わせた。
ぶるるっ。
エリスの身体が無意識に震える。
自分と同じ顔をした褐色の肌の少女。かつての戦いの意志の忠実なる具現者。滅び
の使徒。影の ---- もうひとりの、自分。
見上げたエリスと、シャドウの瞳が。
互いの姿を視認して重なり合う。
シャドウが ---- 物凄まじい笑みを浮かべた。
(続)
>71
………ふぅ、ごっつぁんでやした
良い負けロールでした。GJ!
啜られたりかき混ぜられたり、大活躍ですねベル様。
リョナ趣味はありませんが、戦う変身ヒロイン(?)がヤられちゃうSSのお約束もちゃんとこなしてて………黒エリスたんの逆転サヨナラ大敗北への期待も嫌が応にも燃え上がりマシた〜♪
次回はエリス守り隊の負けロールに期待します。
エキストラの意地、とくと見せていただきましょう。
そして、敗北の運命に身命を賭して抗うPCのあがきにも。
ベルの腹ボコとか凄いな…
GJ!
ほす
風速40メートル?
真夏の日差しが翳る。大気の熱を奪い去り、世界を薄暮に染めるものが降臨する。
見上げた上空に浮遊した黒衣の少女。褐色の肌を黒く変色した衣服に包んだ、もう
ひとりの志宝エリス。アンゼロットたちがシャドウと呼び、エミュレイターや魔王たちを己
が力の増大のみを目的として喰らい続ける貪欲なるもの。
その行きつくところは、かつてゲイザーと呼ばれた存在が目指した世界の粛清。
それを愚直なまでに信奉し続ける狂気の遺児 ---- それが彼女であった。
ゆっくりとスローモーションのように地面へと降下しながらも、その視線はピタリとただ
一点 ---- 赤羽神社境内で、恐怖の表情を浮かべながら打ち震える志宝エリスにの
み仕向けられている。戦うことをわが身と心に誓ったとはいえ、いまのエリスはただの
イノセントだ。魔王を喰らうものの発するどす黒い瘴気や威圧感を真っ向から浴びるに
は、その肉体も精神も脆弱に過ぎる。
むしろ、よく意識を保って立っていられるものだ ---- 視界の脇にエリスの姿を収め
ながら、警護隊の責任者でもあるロンギヌス・コイズミが内心驚嘆する。
ここに集められた精鋭部隊は、いずれもアンゼロットに仕えるものたちのなかでも生
え抜きの猛者たちだ。かつての経験の中で魔王級エミュレイターと交戦経験を持つも
のばかりが優先的に選抜されている。
そんな彼らでさえ ---- シャドウ ---- 影エリスの放つオーラにたじろいでいるので
ある。部下たちの仮面の下の表情を瞬時に盗み見、コイズミは奥歯を噛み締めた。
頬を伝う緊張の汗を拭うこともままならぬもの。ブルームを構えたまま硬直するもの。
フルマラソンを完走したばかりのアスリートのように呼吸を荒げるもの。あからさまに
脚を震わせ、必死で恐怖心を押し殺すもの。三十人の部下たちが、それぞれの形で
このプレッシャーと戦っている。唯一、今回の護衛にあたって特別に派遣されてきた
強化人間の少女・緋室灯だけが、冷静に見える。少なくとも、うろたえてはいない。
そして、この極限の重圧のなかでエリスは、気丈にも立ち続けているのであった。
(並の人間ならあの姿を見ただけで気絶している)
コイズミは改めて、エリスの心の強さに舌を巻く。温かさと優しさだけではなく、その芯
の部分に鋼のごとき強さを秘めた可憐なる少女。改めてコイズミは ---- こんなことを
言うのも思うのも身の程知らずと言われるかもしれないが ---- エリスに惚れ直したと
いっていい。そして、思うのだ。
この少女のためならば笑って死ねる、と。
エリスに倣うように上空の影エリスに視線を戻し、決して目をそらさぬように力強く見
据える。必ず護ると心に誓った少女と同じ顔をした敵が ---- 禍々しい笑みを浮かべ
ていた。眼下の取るに足らぬものたちを睥睨しながら、影エリスの右手が真横に伸び
る。その手が伸びた先はなにもない虚空だ。しかし、なにも存在しないはずの空間に、
影エリスの右手は埋没した。空が歪み、水面にさざなみが立つようにゆらめく。消失し
た手の行き先は、おそらくここではない異界。手探りをするように上下に揺すられた手
が、なにかを掴みあげたような仕草をする。
にまり ---- と。
そう表記するしかないような微笑がその顔に浮かぶ。
目的のものを探り当て、満足げに二、三度頷くと、影エリスは虚空に埋めた手をゆっく
りと引き出した。掴みあげた “なにか” が引きずり出されていくに連れ、コイズミは息を
飲み、ロンギヌスたちは青褪め、そしてエリスは両手を口に当てて飛び出しそうになる
悲鳴を押し殺さなければならなかった。灯ですら、音を立てて唾を飲み込んだ。
影エリスが鷲掴みにしているのは、銀糸を織り成したような癖のある髪。普段は緩や
かなウェーブのかかっていたはずの美しい髪が、もみくちゃにされて台無しになってい
る。
ずる、ずるる、ずるるるっ、と。
虚空から引きずり出されていくのはここにいる誰もが知った顔。猫科の獣を思わせる
大きな吊り上がり気味の瞳は、いまや完全に生気を失って ---- いつでも自信満々の
笑みを浮かべていた唇は、こびりついた血糊に汚れてしまい ---- 自在に天空を舞う
たびに鮮やかにひるがえっていたはずのマントや戦闘用ドレスは煤けて、かつ色褪せ
て。
「・・・ベルさん・・・・・・」
ようやく、その変わり果てた姿をさらされたものの名を、エリスが口にする。
完膚なきまでに叩きのめされたその姿は、たとえ裏界の魔王であろうとも痛々しさを
感じることを禁じ得なかった。ずるっ、と完全にその身体が引きずり出される。中空で、
吊り下げられた身体は四肢の力を失い脱力しきり、それはまるで、絞首刑に処せられ
た死体のようにも見えるのだった。
「うふふ・・・もう要りませんから・・・お返ししますね・・・・・・」
遥か高みより ---- さながらぼろ布でも投げ捨てるかのように ---- 影エリスはベル
の身体を放り投げた。放物線を描き、落下するベルの身体。それは、計算ずくでそうし
ものであろうか、立ち尽くすエリスのちょうど足元目掛けて叩きつけられた。
どさり・・・・・・と重たい音。意識がなかったのであろうか、受身を取ることもできずに
ベルは神社の境内の土の上に無造作に転がされる。
血の気を失って崩れ落ちそうな身体を奮い立たせ、エリスが横臥するベルの身体の
側にひざまずく。ともすれば、膝が笑ってしまい自らも倒れそうになるところを、懸命に
堪えるエリス。腕や、脚の関節が不自然に曲がったままで、糸の切れた操り人形のよ
うになったベルの身体を、硝子細工を扱う以上の慎重さと優しさで、エリスが抱え起こ
した。両腕に傷ついた肢体を包み込む ---- 焦点のぼやけた瞳が、助け起こされた拍
子にかすかな光を灯した。
「・・・・・・エリスちゃん・・・ ? ああ・・・じゃあ・・・ここは・・・赤羽・・・神社・・・」
「・・・喋らないでください・・・ベルさん・・・もう・・・なにも・・・」
自然と涙声になってしまう。あの大魔王がこんなにも無惨に傷ついて。あのベール=
ゼファーがこんなにも小さく見えてしまうなんて。それがたとえ、かつて敵対した魔王で
あっても、こんな姿のベルは見たくなどなかった、というのがエリスの気持ちである。
アンゼロットなどは甘い、と言うだろう。もしかしたら、満身創痍の大魔王自身ですら
同じことを言うかもしれない。だが、エリスにとっていまの彼女は、ただの小さな女の子
でしかない。弱々しく、救いを必要として、全身の傷の痛みに耐える、けなげな少女で
しかないのである。
「・・・そういうわけにも・・・いかないのよ・・・ね・・・」
「ベルさん・・・だめ・・・喋らないで・・・」
ぽたぽたと涙がこぼれる。とめどなく、溢れる。
ベルの顔に弱々しい笑みが浮かんだ。エリスを、お人よしだ、と思ったのだろう。
「・・・黙ってるわけには・・・いかないの・・・いい・・・ ? 私は戦線離脱するけど・・・あな
たたちに後を託すわよ・・・ ? 」
「・・・私・・・でも・・・なにもできません・・・戦う力もないし・・・」
ベルの姿を見て弱気になったのか、か細く応えるエリス。
そんなエリスを、ベルが消え入りそうな声で叱咤した。
「・・・なに・・・言ってるの・・・せっかく・・・あなたの名前を出してシャドウを挑発したの
よ・・・ ? アイツが・・・エリスちゃんのいる場所に・・・転移することを狙って・・・」
それは、捕食結界内でベルが宣言した言葉。
シャドウは滅びる。
ファー・ジ・アースが終焉の地となる。
ゲイザーをも滅ぼした二人のいる地において、すべては決着する。
柊蓮司と “本物の” 志宝エリスによって ---- そう、ベルは言ったのだ。
つまり、力を取り戻した影エリスが、怒りに任せて志宝エリスの所在地に出現するこ
とを前提として、ベルは敵を罵倒しつくしたのである。自らの危機と引き換えにして。
それが一体何を意味するのか ---- 。
「・・・だから、ね・・・あなたに接触さえできればよかった・・・私たちの・・・勝ちは・・・揺
るがない・・・ふふ・・・作戦・・・通りだわ・・・」
「・・・そんな・・・私・・・私・・・いったいどうすれば・・・」
エリスの腕に抱かれたままのベルが ---- 一体、その身体のどこにそんな力が残っ
ていたのか ---- 、折れたままの腕に力を無理矢理込めて、彼女の青い髪に触れた。
さわさわ、とその髪を優しく撫でる。エリスの頭を抱え込むようにして、その顔を引き寄
せると、不意にベルは ----
「一度きり・・・もう一度きりでいいわ・・・私たちの勝利のために・・・戦いなさい・・・」
と、エリスの耳元で囁いた。ベルが、引き寄せたエリスの顔に笑いかける。
唐突に ---- 二人の唇が触れ合った。
ベルが、無防備なエリスの唇を奪ったのである。
不思議と、気恥ずかしさや驚きはなく。エリスはなすがままにその口づけを受け入れ
た。かすかに血の香る接吻。そして、重なり合った唇から、最後の生命の輝きをエリス
は確かに受け取ったのである。
「・・・私の “奇跡” を・・・あなたにあげるわ・・・一度だけ・・・一度だけだけど・・・あなた
に力を使わせてあげられる・・・」
その言葉の意味を確認しようとして、エリスはベルの顔を見る。
しかし ---- 瞳の中にかすかに灯った意志の光と生命の輝きは、二人の口づけを最
後に急速に失われていくようであった。
「・・・・・・ベルさん・・・っ・・・・・・ !! 」
「・・・・・・後は任せたわ・・・少し・・・休むから・・・」
瞳を閉じる。呼吸が途絶えがちになる。戦え、とだけエリスに言い残して。
しかし、だからといってどうすればいいのか。なにが自分に出来るのか。どうやって戦
い、どうやってみんなを護り、どうやってあの強大な敵と渡り合うというのか。大魔王で
すら敵わなかった、ゲイザー=キリヒトの意志の具現者、影エリスに。
エリスの不安を、絶えゆく意識でも敏感に感じ取ったか ---- ベルは最後にもう一度
だけ薄く瞼を開けた。
「・・・柊蓮司も・・・すぐ来るはずよ・・・しっかりなさい・・・あなたたちは・・・神ですら倒し
た・・・世界最強のコンビじゃないの・・・ ? 」
力づけるようにそう言うと、ベルは今度は本当に瞳を閉じた。
静かに。眠るように。
まるで霧が風に乗って流れていくように、大魔王の身体が少しずつ形を失っていく。
一度崩壊が始まってしまえば、あとは瞬く間の出来事。エリスの腕の中で、大魔王
ベール=ゼファーの写し身は塵芥のごとくに消え去った。
エリスは、ベルの身体を抱いた姿勢のまま地面にひざまずき、ただ涙を流している。
その肩に手を置くものがあった。振り返るまでもなく、それは灯のものである。
「エリス・・・」
呟くように声をかけ、肩に置く手に力を込めた。いまは、嘆くよりも他にやることがある
からだ。
「エリス様・・・ ! 立ってください ! いまは、どうか立ってくださいっ ! 」
コイズミが、エリスに悲痛な声で呼びかけた。
ベルの喪失を嘆く彼女の優しさは痛いほど伝わる。しかし、いまだけは心を鬼にして
エリスを立ち上がらせなければならない。眼前に迫り来る強大な敵という危難を逃れ
えずしては、嘆く暇もないのだから。エリスのもとに駆け寄ると、コイズミは己のブルー
ムをいまだ上空から降下中のシャドウへ向けながら、エリスをかばうように立ちはだか
る。ざ、ざざっ、と ---- ロンギヌスたちが次々と後に続き、エリスと影エリスとの間に人
の形をした垣根を作り上げる。仮面の奥に隠された瞳の奥に、強烈な意志の輝きと闘
志が燃えていた。
いま、このとき。
彼らは人の形をした砦であり、人の形をした銃や剣だった。
彼らは戦うだろう。彼らという名の弾が尽きるまで、彼らという名の刀身の鋼が欠け
るまで戦うだろう。
そして、彼らは護りもするだろう。彼らという名の柵が破られ、彼らという名の堀が埋
められ、彼らの身をもって築いた城壁が打ち崩されるまで、志宝エリスという少女を護
り続けるだろう。そして、それは言葉などに出さなくとも、目にするだけではっきりと伝
わる決意。まして、護られている当のエリスがそれに気づけぬはずもなく。
地に膝をついたまま ---- だからエリスは、流れる涙を懸命に拭い去った。
(ベルさんが私に託してくれた・・・あんなに傷ついて、自分が一番辛いはずなのに、私
を勇気づけようとしてくれた・・・灯ちゃん・・・それにコイズミさんも・・・ロンギヌスのみな
さんも・・・こうやって私を護ってくれる・・・)
涙を拭ってしまえば、そこにあるのはどこまでも美しく、どこまでも深い瞳の蒼。
かつて宝玉戦争の終盤において、戦い、護ることを決意した少女の、この惑星を宿し
た、あの瞳の色だった。
エリスは立ち上がる ---- もう、膝の震えは消えていた。
その勇気を。決意を。しかし、嘲笑うものがある。
シャドウ。影のエリス ---- !!
両手を左右に拡げ、羽ばたくように舞い降りる。どす黒い瘴気を噴き上げる影を、その
背中に翼があるがごとくに貼りつけながら。左右合わせて、六枚の黒い影の羽根。
“あの戦い” を良く知るものならば、それがかつての志宝エリスに力があったころの、
アイン・ソフ・オウルを天使の羽の如く纏っていたころの姿に酷似していることに気がつ
いたことだろう。
そして ---- 黒き羽根の堕天使が、ついに地に降り立った。
※
敵の ---- シャドウの出現ポイントが赤羽神社であると告げられた柊たちの行動は、
異常なほど迅速であった。アンゼロットは、配下に転移魔法装置の魔力充填を再確認
させ、赤羽神社の座標ポイントを装置に再入力させる。柊とくれはが席を立ち、テラス
の一角に用意されていた簡易版転移装置の台座に上ると、すべての準備が整うのを
いまや遅しと待ち受ける。それぞれの月衣から、柊が魔剣を、くれはが破魔弓を現出
し、いつでも戦える万全の態勢を取った。ロンギヌス・オペレーターからシャドウ出現の
報を受けた後ですぐ、リオンはその姿を消している。裏界の侯爵であれば、転移魔法
装置などに頼らずとも、自らの力と意志で瞬間移動ができるはずだった。
おそらく、柊たちに先行して赤羽神社へと移動したに違いない。
「急いでくれっ ! エリスたちが危ねえっ ! 」
もどかしげに柊が叫ぶ。大魔王ベール=ゼファーを敗北の憂き目に遭わせるほどの
力を持つものが相手である。いくらコイズミ率いるロンギヌス精鋭部隊といえども、苦戦
を強いられることは必至であった。まして、エリスを護りながらの戦いとなれば、おそらく
戦い方にも制限がつきまとうはず。一刻でも早く加勢に馳せ参じ、この戦いを終結に導
かねばならない。
「魔力充填異常なし。転移先、座標ポイントの再設定、完了」
オペレーターの報告を聞いたアンゼロットが頷いて、
「転移装置を起動させなさい。目標は、赤羽神社です・・・・・・柊さん。くれはさん。あと
のことは頼みましたよ」
彼女が心からの信頼を置く、二人のウィザードへと檄を飛ばした。
「ああ、言われなくてもそのつもりだぜっ ! 」
「まかせといてっ。ちゃっちゃと片付けてくるよっ」
奇しくも同時にガッツポーズをとる柊とくれは。底抜け、と揶揄したくなるほどに明るい
出撃前の言葉は、なぜかアンゼロットの胸を痛ませた。
これから戦う相手は、ただの器に過ぎないとはいえ、かの皇帝シャイマールに迫る
力を蓄えることの出来る巨大な器なのである。かつての宝玉戦争のときとは違い、エ
リスからはウィザードとしての力も箒も失われ、さらには、加勢してくれていた大魔王
ベール=ゼファーも戦線を離脱してしまっている。
いわば、切り札とも言うべき二人がいない状況での戦い。その前途に明るい材料な
どなにひとつないというのに、ここまで希望と強い意志を持てる柊たちを、アンゼロット
はどこか悲しげに見据えた。
「起動なさい」
感傷を振り払い、アンゼロットは命令する。転移装置の台座が仄白い光を帯び、二人
の身体を包み込む。次の一瞬、光に溶けるようにして柊たちの姿は掻き消えた。
しばし、二人の立っていた台座を見つめ続けていたアンゼロットが、ただ一度だけそ
の瞳を閉じ、また見開いた。そのときはすでに、あどけなく幼い少女の美貌に、 “世界
の守護者” としての威厳を漂わせている。
「可能な限り、各組織との連絡を密に取り合いなさい。現状、わたくしたちの知り得た
情報はすべて開示。フリーランスのウィザードとも極力連携を取り合い、柊さんたちへ
の援護協力を要請するのです。敵呼称は ---- “シャドウ” 。持てる力のすべてを注
ぎこみ、これを殲滅すること。これは ---- 最大級の世界の危機なのです !! 」
てきぱきと指示を繰り出すアンゼロット。宮殿内のロンギヌスたちが、一斉にそれぞれ
の持ち場で職務を遂行し始める。当初の目論みが破れ、切り札を欠いた形での最終
決戦 ---- だからといって、それぞれに出来ることをそれぞれが放棄するわけにはい
かない。緊急時に備えて、各部署への指示をいつでも出せるよう、アンゼロットは彼女
の持ち場である司令室へと退いた。
赤羽神社で戦う彼らを支援・援護するために出来る限りの手段を講じる。
このことが、自分の責務であると見極めて ---- 。
※
六枚の黒い翼を揺らめかせ、地に降りた影エリス ---- その姿が放つ重圧は、この
距離で目の当たりにすると、やはり只事ではない。
ロンギヌスという人垣の背後、エリスを護るために彼女のすぐ前に仁王立ちしたコイ
ズミは、ブルームを握る手のひらがジワリと汗ばむのを止められなかった。
三十人の部下たちが築いたバリケードの向こう側、影エリスまでの距離はおよそ二十
メートルといったところであろうか。エリスと、顔の造形こそ寸分違わぬものであったが、
影エリスの姿が持つ禍々しさは、一流の戦士やウィザードたちであっても足踏みさせる
ほどのものである。
その足元から幾十もの影が伸び、神社の境内という清浄な大地を穢しつくしている
ようだった。影エリスを中心に放射状に拡がる影たちは、それが意志あるもののように
蠢き、くねり、踊っている。いまとなっては懐かしく思い出される、あのころのエリスが身
につけていた制服と同じものを着てはいたが、いまやその色はどす黒く変色していた。
---- 影が染みついて。夜を呑みこんで。
ごくり、と生唾を飲む。エリスを挟んで自分の反対側には緋室灯の微動だにせぬ立ち
姿。恐れや気後れから動かぬのではない。この大地にしっかりと足を根付かせ、決して
退かぬよう、決して倒れぬようにと、決意するがゆえの不動の姿である。
ともすれば絶望的になりがちなこの戦いに、心を強く持てる要因があるとすれば、そ
れは彼女の存在も大きいと言えるかもしれなかった。
ガンナーズブルームの銃身を高く掲げ、死を放つ銃口が影エリスの心臓部にポイント
されている。絞り込んだ引き金にあとわずかの力を加えるだけで、灯はすべてを焼き
焦がし、穿ちぬける死の弾を、解放することができるのだ。
「前列、撃てぇーーーーーーっ !! 」
---- と。コイズミの号令と同時に、扇状に散開した内十人のロンギヌスが、ブルー
ムの魔力を解き放った。視界を焼くほどの閃光が十条、それぞれの目指す標的へと
一直線に突き刺さる。その飛来する速度も勢いも、生半可なウィザードとは比較にな
らぬもの。そしてそれを避けきることも防ぎきることも、並みのエミュレイターにはでき
ぬこと。そんな光が、十本ものブルームから放たれているのである。
さすがはアンゼロットが特別に命じて編成させた、魔王級と交戦経験のあるものば
かりで構成された精鋭部隊であるといえた。もちろん、敵の強大さは一目で理解して
いる。決して相手を舐めてかかったりはしない。コイズミの命を待つことなく、第二陣の
十名、そして最後衛の残り十名も攻撃に参加した。
エリスを守護するための陣形は崩さず、仲間と仲間の隙間を縫って攻撃できるように
考えつくされたポジショニングである。最初の攻撃が命中したと見るや、次の一斉掃射
が行われ、敵影を塵一つ残すまいとさらなる追い討ちを第三陣が仕掛けるや、また最
初の十人へと攻撃の手順を回す。十人ごとのブルーム同時攻撃、そしてさらに三段構
えの連続攻撃 ---- これを絶え間なく行う。魔力の尽きるまで、何周も、何十周も。
影エリスの姿が閃光に掻き消され、視界から覆いつくされる。
光の雨に ---- いや、嵐に打たれて赤羽神社の境内が白く染まり、あまりの眩しさ
にエリスは、額の前に手をかざして顔を背けなければならないほどであった。
三十人の精鋭ロンギヌスによる波状攻撃。魔力の限界まで絞りつくす掃射は、十数
周を数え、叩き出された打撃回数は三百から四百にも及んだ。
これではひとたまりもあるまい。コイズミの構えたブルームの先端がわずかに下がっ
たのは、勝利を確信した気の緩みのせいであろうか。
そこへ、
「・・・・・・っ !! まだ・・・・・・早いっ・・・・・・ !! 」
なんらかの異変を感知したか、灯が注意を促す声を飛ばした。すかさずガンナーズブ
ルームの引き金を引き絞り、光の収束する中心点 ---- シャドウが立っているはずの
位置へと弾丸を撃ち込む。なすがままであった影エリスが、そのとき初めて動いた。
数百ものブルームによる攻撃で生まれた輝きのなかから、一本の黒く太い影が伸び
る。影は灯の放った弾丸を絡めとると、直撃の寸前でその軌道を捻じ曲げた。
強制的に逸らされた弾丸が、神社の境内に聳え立つ御神木の太い幹に大穴を穿ち、
その背後に巨大な土煙を生み出す。魔力弾を打ち尽くしたロンギヌスたちが肩で息を
する中、視界を焼くほどの眩い光が次第に晴れていくと ----
そこには超然たる立ち姿でウィザードたちを睥睨する、“まるで無傷” の影エリスが
立っていた。
「ば、馬鹿なっ !? 」
コイズミが愕然と叫ぶ。それ以上の動揺がロンギヌスたちの間に拡がり、灯ですら第
二弾の装填を一瞬忘れたかのように目を見張る。
なにもしていない。回避どころか、防御すらも。すくなくとも、灯のガンナーズブルーム
以外のすべての攻撃に対して、影エリスは一切の防衛行動を取らなかったのである。
捕食結界においてベルと戦っていたときの無防備とは、当然意味合いが違う。
あれは、次に放つ己の攻撃で、確実にベルを打ち倒すための “魔力の温存” であっ
た。しかし今回は、ウィザードたちの攻撃など防ぐまでも避けるまでもない、との判断に
従っての無抵抗である。少なくとも、影エリスは灯以外のウィザードの攻撃を戦力外と
見なしたといえる。
現代科学で作られた兵器が、月衣の力で護られたウィザードたちには通用しないよ
うに、おそらくは月衣に相当する個人結界 ---- それを装甲というか魔力による障壁
と呼ぶかはともかくとして ---- の防御力は、能動的回避・防御行動を取る必要性を
ロンギヌスたちに対しては認めなかったということだ。
ただ、緋室灯のガンナーズブルームだけを、防ぐべきものとして。
「・・・緋室灯の攻撃には、つい手が出ちゃいました・・・さすが、ですよね・・・」
にたり、と影エリスが笑う。と同時にその足元から黒い影が地を走り、ロンギヌスたち
へと一斉に襲い掛かった。自分たちの攻撃が通用しなかったという衝撃から醒めるの
が一瞬遅く、しまった、と思ったときには鈍い痛み。展開した陣形の一角、扇状に散開
した前衛の十名が、単純な横殴りの攻撃に弾き飛ばされる ---- ただの一撃で。
地面を滑り、土の上を転がる身体、また身体。
態勢を立て直すために移動しようとする残りのロンギヌスたち。しかし、彼らの足の自
由はすでに奪われていた。わずかな心の動揺の間隙をついて、黒い触手が両足首を
捕まえる。絡みつき、動きを封じ、引き倒し、体勢を崩した次の十人が、次の瞬間宙を
を舞い、最後の十人をも地面に叩きつける。
黒い腕が、まるでずだ袋でも扱うかのような乱暴さで、ロンギヌスたちの身体を振り
回し、容赦なく打ち据えていた。所々で沸き起こる、絶叫と苦悶の呻き声。そして、わ
ずか数秒の間に、三十人の精鋭部隊は一人残らず地に這いつくばっていた。
「みなさん・・・ !! 」
その悪夢のような光景に、思わず叫んで駆け出そうとするエリス。
ハッ、と振り向いた灯がその動きを慌てて制し、
「エリス・・・・ !! だめ・・・・・・・・っ !! 」
彼女の細い腰に腕を回して抱き寄せ、自らの身体でかばうように包み込む。
「でも、でも・・・・灯ちゃん・・・・・・っ !! 」
自らを護るといってくれた人たちが、わずか数日の間だが寝食を共にした人たちが、
眼前で薙ぎ倒されていく様に心が痛まないはずもなく。駆け出す足を突き動かすのは
理や知ではなく、エリスの情と心である。無駄だとか、適うはずがないだとか、そんな
言葉で引きとめられるものではないのであった。
それでも ---- いや、それだからこそここでエリスを引き止めた灯の判断は正解で
あったといえよう。放っておけば、戦う術も、彼らを護る術も持たない自らを省みず、傷
ついたロンギヌスの元へ駆け寄りかねないエリスなのである。
「これ以上・・・私たちの仕事を増やさないで、エリス・・・・・・ ! 」
必要以上に強い口調で、灯がエリスに言った。きつい言葉かもしれなかったが、こう
でも言わなければ沸騰しかけた頭は冷えないだろう、と思ったのだ。案の定、エリスの
瞳が動揺に揺らめき、灯の強い視線を受けてなにかを言いかけた唇が石化したように
固まった。次いで、唇をぎゅっと噛み締めると、見る見るうちに目に涙が浮かびだす。
「ごめ・・・なさ・・・・あ・・・りちゃ・・・ん・・・」
蚊の鳴くような声で、ようやくエリスはそれだけを言った。
きっと悔しいに違いない。きっともどかしいに違いない。しかしエリスは、「みんなに美
味しいご飯を食べさせること、みんなに和める場を作ること」が自分の戦いだ、と考えた
ときのように、今回も、 “自分の戦いが武器を振るうことにはない” ことに気がついた。
戦いの邪魔をしないことが、いまのエリスがしなければいけないことであり、彼女の
戦いとは「この場を生き延びること」に他ならなかった。
灯がエリスの腰に回した手に力を込める。叱責の言葉を撤回するつもりも、それにつ
いて謝罪するつもりもない。ただ、エリスに伝えた無言の力で、自分が全身全霊をかけ
て彼女を護ることを決意した、ただそれだけであった。
「灯さん、シャドウが来ますっ !! 貴女はガンナーズブルームで威嚇攻撃を行いつつ、エ
リス様を後方へお連れして戦場から一時撤退してくださいっ !! 」
灯とエリスの言葉少ないやり取りを見届けてから、コイズミが叫ぶ。
「コイズミさんっ・・・ !? 」
「ご心配なく ! この現状は当然、我が主にも伝わるでしょう ! 援軍はすぐにやって参り
ますから、いまはできるだけここから離れていただきたいっ !! 」
エリスを護るという灯の無言の決意を感じ取り。そしてまた、自分の戦いの意味を明
確に理解したエリスを見届けたコイズミ。
二人の姿を見届けさえすれば、なんの憂いもなくこの戦いの前線に立つことができ
る ---- コイズミはそう考えた。己の部下たちが横臥する境内を見渡し、自らのブルー
ムを構え直す。
私はいま、盾だ。エリス様を護る盾だ。
私はいま、城だ。エリス様に近づくものを遠ざける城だ。
私はなおかつ、いまや剣だ。エリス様を害するものを切り伏せる剣だ。
自らにそう言い聞かせるコイズミ。
不思議だ、とコイズミは内心軽い驚きを覚えている。エリスの名前を唱えるごとに、こ
の地に立った己の足が、磐石の重みを持って力を増していく。エリスの顔を胸に想い浮
かべるごとに、ブルームへ伝わる魔力が増大していくような気すらするのである。
ですから、私は大丈夫。
エリスと灯に心の中でそう約束した。
「・・・・・・任せる。食い止めて」
「灯ちゃん・・・」
躊躇も逡巡もわずか一瞬。右手の甲で涙を拭うと、エリスはコイズミと逆の方向へ一
歩を踏み出した。そうです。それが正しいのです、エリス様。仮面の下のコイズミの顔
が微笑んだ。この場に自分を残していくことを憂うお心のなんと美しいことか。そして、
それすら振り切り己の成すべきことを成そうとするお心のなんと強きことか。
(我が主がもしもいなければ、このコイズミ、あなたの臣下となっていたかもしれません)
ああ、アンゼロット様にはお聞かせできない冗談だ ---- コイズミにしては珍しく、そ
んな諧謔にふける。二人の少女が駆け出す気配を察すると、コイズミは強敵の姿をも
う一度振り返った。
「青臭いお芝居はもう済みました ? それじゃ、いきますよ ---- 」
影エリスの嘲りと、その行動はほぼ同時。左右から放たれた二本の黒い影は、漆黒
の大蛇を思わせる姿でコイズミの頭上から襲い掛かった。
ゆらり、と。見るものによってはスローモーションのような緩慢な動きで、コイズミはブ
ルームを左から右へと、弧を描くように振るう。そのあまりにも緩やかな軌道に、シャド
ウはいかにも可笑しいといった風情で哄笑を爆発させた。
「あっははははっ ! そんなのんびりした動きで私の影からどうやって ---- 」
嘲り笑いがその途中で止まる。いや、我知らず止められる。
ぽつん。ぽつん。ぽつん。
虚空に三つの光の点が生まれた、と見えて、影エリスはその輝きに一瞬視線を奪わ
れた。もし、彼女が注意深く、またコイズミを侮りさえしなければ、その三つの光が表す
意味に気づけたことであろう。
一つはブルームの描く軌道の開始点。二つ目はその終着点。三つ目は、その描かれ
た弧の中間点で輝いた光である。三つの光点は、それぞれ違うポイントでありながら、
同時に虚空で発光したかのように見えた。
(・・・・・・ ? あの光は・・・・・・ ? )
気づいた時が、まさに被弾の瞬間であった。
ブルームの先端から “別のタイミングで” 放たれたはずの光弾は、完全に同時に撃
ち出され、影エリスに向かって飛び出した。左側で身をくねらせていた黒い蛇が、灼熱
に焼かれたように塵と化し、右側のもう一方は音もなく蒸発した。そして本命の最後の
一撃が ---- 影エリスの眉間を鋭く撃つ !!
あえて言葉で表現するなら、完全『虚』時間差攻撃。
ブルームの軌道によって、本来なら敵に読まれてしまうはずの発射タイミングや攻撃
の方向を、錯覚によって誤認させるテクニックであるといえようか。
被弾したそのままの勢いで、影エリスの顔がのけぞる。影の鎧に身を包んでいたは
ずの身体が、ゆうに四、五メートルは後方に吹き飛んだ。すかさず、コイズミはブルー
ムを連続起動させ、第二射、第三射を打ち込み続ける。
これで仕留めようなどとは思わない。仕留められるはずもない。自分の力でこの敵
を倒そうなどとは、コイズミは思いあがってすらいなかった。
(時間を稼ぐのだ。私への援軍など間に合わなくていい。ただ、エリス様をここから遠ざ
けるだけの時間が稼げればそれで・・・)
コイズミの願いは、叶えられた。すでに灯はエリスを境内から連れ出しているようで
あり、それは気配でなんとなく察知できた。しかし逆に言えば ----
コイズミの願いは “それしか” 叶えられなかった。
後方に吹き飛ばされたはずの影エリスは、地面に落下する寸前、自らの影をクッショ
ンとすることで墜落によるダメージをゼロにすることに成功した。かつ、撃ちぬかれたは
ずの眉間からは、血の一滴すら流れていない。かすかに赤みを帯びて、腫れている程
度のものである。つまり、ノーダメージに近い状態なのだ。
「・・・ロンギヌスの中にも・・・いるんですね・・・なかなかの人が・・・でも、ここまで・・・
あなたの力じゃ、私に傷どころか血を流させることもできはしない・・・」
その力量を称えつつも、やはり自分に及ぶ事はないと。
---- 明確な言葉で切り捨てられる。
しかし。
「・・・・・・・・・よし」
コイズミは満足げに、口元をほころばせる。怪訝そうに、影エリスが眉根を寄せた。
決して敵わぬ敵と相対して、その力量の絶望的な格差を見せつけられて。
いったい、なにが「よし」なのだ。
いぶかしむ影エリスへ、コイズミはなにも応えなかった。ただ、
(成し遂げた・・・・・・)
そう思っただけである。透明な笑顔で天を仰ぐ。それは、死を覚悟し、観念したように
も見える仕草であった。
「・・・なんですか、それ・・・ ? 気持ち悪い・・・・・・変な・・・・・・人・・・・・・っ !! 」
不快げに舌打ちをした影エリスが右手をかざす。深い、どこまでも深い黒が凝り固まっ
て、その手のひらに収束していく。その小さな暗黒の球体は、瘴気の密度や秘めた魔
力において、ウィザードひとりの肉体など消し飛ばしてしまうほどの致死性を持っている
はずである。絶望と破壊と死とを撒き散らしながら、暗黒の球がコイズミに向けて放たれ
た。
(エリス様・・・ご無事で・・・灯さん、皆さん、後は頼みます・・・それと・・・)
自分に最期の刻をもたらすものからは、せめて目を背けまいと、迫る暗黒に視線を戻す。
(最後までお仕えできなかったこと、お許しください)
ただひとつの心残りを主に謝し、覚悟を決める。
しかし ---- その謝罪の必要はおそらく、永遠になくなった。
「・・・・・・ヴォーティカルショット」
ひとつの命を摘み取ろうと放たれたものが闇ならば、それを阻止せんと彼方から飛
来したものもまた『闇』だった。影エリスの手とコイズミの立つ位置を結ぶ直線上、上空
から降り来るものは、さらなる暗黒。黒が黒を消し去り、闇が闇を駆逐するさまを、コイ
ズミは幻ではなかろうか、と一瞬だけ疑った。自分の命を助けたものの正体が、自分
たちの頭上にいると感知して、影エリスも空を見上げる。
「・・・・・・うふふ・・・命中・・・」
どこか自慢げな囁き声の主。もはやその正体を見極めるまでもなく ----
「・・・秘密侯爵・・・リオン・・・グンタ・・・っ !!」
憎々しげに影エリスが歯軋りをする。
漆黒の長い髪を揺らめかせ、黒いローブとスカートをはためかせながら。
心底の読めない不思議な色の赤い瞳を、静かに足下の二人に注ぐ。
「・・・ついこの間も・・・こんな展開でしたね・・・学習したほうがいいですよ・・・あなた・・・」
いかにもつまらぬことを言ったというように、リオンが溜息をつく。
影エリスの脳裏に甦る記憶。
そうだ。あのときもこの神社の境内だった。あのときは柊蓮司とアンゼロットを追い詰
めようとして、同じように同じ相手から邪魔をされたのだった。あのとき加勢に現れたの
は、リオン=グンタとベール=ゼファーである。ベール=ゼファーが戦線離脱したいま、
この場に登場するのはそれならば ---- !?
「タンブリング・・・ダウンっ!! 」
そんな声が響くと同時に、影エリスがガクッと膝を折りかけた。不可視の鎖で身体中
を拘束されたような重圧に襲われ、姿勢を崩す。
「・・・ぃーーーーよっし ! こっちも命中ーっ !! 」
腹が立つほど能天気な凱歌を上げたのは ---- 赤羽くれは・・・か !?
まさか、そんな ---- !?
愕然とする暇も、余裕もあるはずはなかった。コイズミを救いに来たのがリオン=グン
タならば。自分を足止めに来たのが赤羽くれはならば。
攻め手はもちろんあの男しかいないはずである ・・・・・・!!
「う・お・お・おおおおおおおおぉぉぉーーーーーっ !! 」
リオンが空中で、真横に一メートルだけ移動する。
いままでリオンの浮かんでいた空間を通過しつつ、遥か上空からひとりの男が落ちて
きた。魂をも凍らせる雄叫びを上げながら、その両手には一振りの魔剣を振りかぶり。
見上げた頭上から、影エリスめがけてその鉄の塊を打ち下ろす !!
「か・・・影よっ、砦となれっ ! 」
影エリスの反応がわずかに早い。足元の影が彼女の体を護るように頭上へ伸び、そ
の死の到来をなんとか防ぎきった。それでも魔剣は ---- 神殺しの魔剣は、防御のた
めに使わざるを得なかった影の一部を、八分の深さまで断ち割っていた。
「き・・・きさ・・・まぁ・・・っ・・・ !!」
憤怒と恨みをこめた呪詛の言葉が、影エリスの唇から漏れた。
やはり最後は、この男が邪魔をしに現れる・・・・・・ !!
「遅れてすまねえっ ! ここから逆転するぜっ !! 」
柊 ---- 蓮司 !!
影エリスの激昂に呼応するかのごとく、幾十もの影がゆらゆらと蠢いた。
コイズミをかばう位置に降り立つリオン、柊の背中がいつでも見える場所を確保する
くれは、そして最後の大詰めの瞬間にすべての力を注ぐべく、柊蓮司の登場である。
「さあ、ケリつけようぜ、もうひとりのエリスっ !! 」
柊が叫ぶ。
最終決戦 -------- 開始 !!
(続)
すげえなあ、単行本一冊分ぐらい書いてるんじゃないか?
You 出版しちゃいな YO!
うほっ いいクライマックスフェイズ
超GJ。
終わりまで頑張ってください。
GJ!盛り上がってきたなぁ〜
あと誰も言ってないから言わせてくれ
ロンギヌス精鋭部隊「うわーだめだー」
ヤバい…あかりんの陵辱エロも読みたくなってきた…
>>97 GJ!
やべえ、敵が最高にやべええ!
そして、参上柊! リオンもいいよ! コイズミが(フラグ的な意味で)危険だけどな!
柊に惚れ直しそうだなエリスw
続きを待ってます!
そして、どうもお久しぶりです。
ようやく規制から解除されたZE☆
魔王少女の爆撃舞踏曲の続きを1時10分から投下してもよろしいでしょうか?
ヒャッハー!!カモンベイベー!!
踊れ、踊れ、踊れ。
真っ赤に焼けた鉄の靴で息絶えるまで踊るがいい。
悪魔の如き女王よ。
無様に、醜く、死に果てるまで。
「第一歩は華麗に」
踊る。
足を踏み出し、アスファルトを蹴り出す。
ステップでも踏むかのように脚の位置を踏み変えて、腰をひねり、旋回する。
「続いて失礼にならない程度に手を伸ばす」
旋回。
腕を伸ばし、肘を広げて、手首を返す。
「そして」
加速。
柄を握り締め、その質量の全てを持って疾走する刃によって音速を超えた斬撃を生み出す。
両断、切断、分解。
斬る、斬る、斬る!
「踊りましょう」
異形共が吼える。
剣士たちが舞う。
女王が彩る。
それは舞踏会。
華麗なる、鮮烈なる、眩い会場。
ダンダンダンと無数の異形の足音が音楽のように踏み鳴って、魔剣と聖剣の使い手が剣舞を踊り、女王はその手に抱いた輝きを持って会場を染め上げる。
「心行くまで」
リブレイド。
光が宿る、右の手の平から光の奔流が迸り、聖なる光の輝きに異形たちが消失する。
ヴォーティカル・カノン。
左に振り抜いた手から虚無の歪みを発し、虚空を歪める球体が異形に着弾し、喰らい潰す。
蠅の女王たる裏界の大魔王、ベール・ゼファーは散り逝く異形たちの惨状に恍惚の笑みを浮かべる。
「いいわ、もっと踊りなさい。もっと壊れなさい!」
悦楽の表情を顔に浮かべ、甘く蕩けるような吐息を漏らしながらベール・ゼファーは告げる。
片手で自分の体を抱きしめながら、もう片方の手を突き出し、まるで男を誘うかのように指を折り曲げる。
カツ、カツと押さえきれない情欲を醸し出すかのように、彼女は踵を鳴らした。
白い肌が興奮に赤く染まる、銀髪が震えるベール・ゼファーの動きに合わせて靡き、彼女の美しさを輝き照らす。
まるで彼女が主役の舞台。
そこで輝くプリマドンナだった。
しかし。
「あんまりいい気になるなよ、ベール・ゼファー!」
舞台にいるのは彼女だけではないと告げるかのように、鮮烈なる風が彼女に吹き付けた。
彼女の背後にステップを踏みながら踏み込んで、そこに迫っていた異形を上段から両断する魔剣士が一人。
ニヤリと犬歯をむき出しに笑い、野生じみた凄みを見せる青年――柊 蓮司。
「魔法を詠唱中のお前は隙だらけだからな」
そう告げて、柊が足を踏み変える。
旋回するかのように反転し、その先に迫っていた異形を二体まとめて突き出した魔剣で串刺しにした。
「っとな!」
吐息を洩らして、柊は上へと手首を返し、異形たちの胴体から真上に切り裂く。
どろりと破壊された異形がまるで鮮血のように液状化し、地面に染み込む。
だろ? と柊が笑みを浮かべて告げると、興を削がれたとばかりにベール・ゼファーは唇を突き出して。
「――悪かったわね」
と言った。
子どもが拗ねて渋々謝るかのような態度に柊は苦笑を浮かべながら、魔剣を構える。
「さあて、まだドシドシ来るぞ」
「分かってるわよ」
やれやれ、調子が狂うわね。と、どこか困ったような態度でベール・ゼファーは肩を竦めると、さらに生み出される異形たちに目を向ける。
見れば、周囲のビル群は次々と変化を遂げ、異形を生み出す肉巣への異形化を果たしていく。
ぐちゃぐちゃと菌糸を引きそうな異形の産卵光景に、うえっと柊は声を洩らした。
「気持ちわりー」
「同意ね。センスがないわ」
常識を逸脱した悪夢の如き光景に、常識の外にいるウィザードにして数多の侵魔を屠り続けた柊も元より常識外である裏界の支配者の一人であるベール・ゼファーも動揺など浮かべない。
ただ気持ち悪いと感想を浮かべるだけだ。
そして、その二人に掛けられる言葉があった。
「それで、このまま続ければいいのか?」
全てを切り裂く王の聖剣。
全てから守り抜く守護の鞘。
その二つを所持し、先ほどから一人異形を屠り続けていた外套を羽織る少年――流鏑馬 勇士郎が呟く。
「一方的に数が増え続けるようだが?」
「問題ないわ。むしろ上出来ね」
異界化を進める町の惨状を見ながら、ベール・ゼファーは楽しそうに微笑んだ。
虚構と現実の境目。
それを操る魔王を取り込んだ冥魔を滅ぼす手段はただ一つ。
――その本体を見つけ出し、滅ぼすこと。
しかし、虚構の中――すなわち月匣に潜む冥魔の元へと辿り着くのは至難の業だ。
月匣と現実の境目は紙一重の差でしかないが、どこまでも遠い別世界。
例えこの町中を走り回り、捜索したところで冥魔を見つけ出すのは不可能だろう。
ならば、取れる手段はただ一つ。
こちらから虚構の中に飛び込めばいい。
危険を代償に、敵の領域に入り込む必要性がある。
これはウィザードとしては当然の行為、エミュレイターが展開する異相空間である月匣の中を進んでウィザードたちはエミュレイターを滅ぼすのだから。
問題はその月匣の中に飛び込むのが限りなく難しい能力を相手が持っているということ。
月匣の中に入らせず、虚構を持って襲い掛かる。
一見地味だが、恐ろしい能力。
それ故にベール・ゼファーは高く評価し、今回始めようと思ったゲームの一端を背負わせたのだが。
(冥魔に喰われるなんてね、台無しじゃない)
不甲斐ない部下を冷酷に罵りながらも、ベール・ゼファーの計算は続く。
(範囲10メートル四方を1ブロックと考えて、もう私たちの周囲27ブロックも裏返ってる。ここが裏返るのも時間の問題ね)
次々と変異を遂げて、月匣を剥き出しにして襲い掛かる冥魔の行動にベール・ゼファーは嘲りの笑みを浮かべるしかなかった。
冥魔は恐ろしい。
確かに本来持っていた魔王よりも裏返る範囲も支配する領域も膨大に強化されているが、どうやら知恵が足りないらしい。
いつまでも倒し切れないこちらに焦れて次々と周囲を裏返しているのがその証拠。
そして、その最後に待つのは“ベール・ゼファーたちのいる空間を裏返し、虚構に飲み込むこと”だ。
己を滅ぼす敵を自らの内へと引きずりこむという愚行。
それを彼女達は待っている。
「柊 蓮司! ブルー・アース! そろそろここも飲み込まれる可能性が高いわ! 私から十メートル以上離れては駄目よ!」
「了解!」
「戦いて勝つは易く、守りて勝つは難し……というのだけどね、まあやるしかないだろう」
迫り来る数十を超えるだろう異形たちに微塵も恐れもせずに、柊と勇士郎は平然と答える。
魔剣を、聖剣を構えて、眼前の敵を両断すると共に一歩後ろに後退する。
逃げるのか? 違う、攻めるための後退。
駆け出すための準備だった。
「往くか?」
魔剣を持つ剣に選ばれし魔剣使い。
異世界最高クラスの騎士を宿敵に持ち、彼との再戦の約束を胸にただ信じるがままに誰かを助けるために抗い続ける青年は魔剣を構える。
手首を柔らかく、膝を軽く曲げ、青眼の構え。
流派はなく、ただ実戦のみで磨き抜いた野生の如き剣の担い手。
「そうだな」
それに並び立ち、聖剣を構えるのは蒼き星に選ばれし勇者。
無限にも続く戦いをその聖剣のみで戦い抜き、一度は屈するも再び立ち上がり、戦いの道を選んだ少年の姿をした歴戦の剣士。
右手に握った聖剣を腰元まで引き付けながらも、左手に握る巨盾の如き形状をした守護の鞘を前に突き出す。
それは西洋剣術、遥か昔の幾つもの昔の前世にて、聖剣を手にした己を育ててくれた養父――円卓の騎士の一人から教え込まれた剣技。
その後ろで守護されるかのように立つ女王はほうっと感嘆の息を吐く。
(対照的な二人ね。剣技も武器も)
――柊 蓮司の魔剣。
それは星の守護者たる守護騎士が持ちえる魔剣にして、異例なる神殺しの剣。
かつて――碧き月の神子、伊耶冠命神の自害に協力した神を殺した刃だった。
しかし、それを継承した柊は何の歴史も運命も背負っていないただの少年だった。
突如目の前に現れた魔剣、ウィザードとして何の知識もない平凡なる高校生だった彼の前に降り立った災厄。
しかし、その魔剣を幼馴染を救うために手にし、襲い来るエミュレイターを退けながら柊は使いこなし続けた。
星の巫女の守護騎士、という宿命を柊は背負っている。
けれど、それが何の役に立っただろうか?
ただ彼は幼馴染の大切な少女を護るために剣を手にし、彼が知りえる誰かを救うために抗い続けた。
強制的なものは多かったかもしれない。
守護者たるアンゼロットからの依頼を受け、世界の危機に立ち向かうことが多かったのは事実。
だが、それがどうした。
彼はただ魔剣を手にした平凡なる人間でありながら、歴戦の戦士でも難しい破滅を防ぎ続けた。
ただの一生涯でありながら、数千年にも続く歴史の重みや陰謀を食い止め続け、進化し続ける魔剣士。
それが彼だ。
――流鏑馬 勇士郎の聖剣。
それは選ばれし王がかつて手にした聖剣だ。
騎士王とさえ呼ばれた伝説に残る王、アーサー・ペンドラゴンが湖の貴婦人から受け賜った魔法の剣。
その刃はあらゆる敵を切り伏せ、その鞘はあらゆる害悪から護る守護。
そして、それは王の死に瀕して湖に返却され、失われたはずだった。
けれど、それは彼が手にしている。
盗まれたはずの鞘をも持ち、王の刃を使いこなすまさしく勇者。
彼は湖の貴婦人から新たに聖剣を継承せしもの。
無限に続く戦いの連鎖を運命付けられた悲劇の少年。
繰り返す転生の中でも常に聖剣と共にあり、侵魔と戦い続けた。
彼の転生の歴史は語られない。
ただ数百年にも至り、これからも無限に続くだろう戦いに備えるために磨き抜かれた修練がある。
十代の少年であるが、その魂は地獄を生き抜いた勇者だ。
歩み続ける無間地獄を戦い抜き、これからも誰かを護るために貫き続け、研鑽を重ね続ける勇者。
それが彼だ。
片や年月の重みを覆す魔剣士。
片や歴史を積み重ねる聖剣士。
その二者が繰り広げる剣戟、比類なき剣舞、煌めく宝石の如き時間の予感に蝿の女王は喜びを感じる。
構えられる魔剣と聖剣の輝きに護られる魔王は恍惚に身を震わせる。
銀髪の少女は恋する乙女のような甘い吐息を漏らし、絶頂に至ったかのようにぶるりと肌を奮わせた。
(モーリーやマルコが聞いたら泣いて悔しがるわね、ああグラーシャならば即座に戦いを挑むかしら?)
ファー・ジ・アース最高クラスの魔剣と聖剣、そして最強クラスの剣士たちが奏で上げる闘争。
それをただ1人の観戦者として独り占めに出来る。
これほどの喜びがあろうか。
いや、ないだろう。
剣には精通していない、戦いに溺れるほどの享楽者でもない、だがしかし、彼女には確かな審美眼がある。
その領域の強さに酔いしれるだけの雅がある。
だから。
「あまり離れるなよ?」
「こちらの台詞だ」
聖剣魔剣、そのニ剣。
必要最低限のプラーナのみ放出し、薄く纏うように魂の色に輝きながら剣士たちが告げる。
異形たちが一斉に武器を構える。
その腕から伸びる刃を、その異形たる爪を、その歪なる棍棒を、その邪悪なる鎌を。
異形なる軍勢が集い、武器を構え、たった二人の剣士に進撃する。
進撃せよ、侵略せよ、侵食せよ。
恐ろしき軍勢が迫り来る。
されど、されど――それはベール・ゼファーからみれば単なるでくの坊にしか見えなかった。
願うのならば。
(一分でも、一秒でも長く持ちなさい)
剣士たちの奏でる舞踏曲を少しでも楽しむために。
そして、剣舞は始まった。
待ってたん、だからぁっ!
魔なる剣、それは神をも断つ。
聖なる剣、それは万物を切り裂く。
二人の剣士、ニ剣が奇しくも、否、必然を持って同時に踏み出した。
「彼を知り、己を知れば百戦あやうからず」
迫り来る無数の異形、十数にも至る兇器の矛先。
それに聖剣の持ち手が先導し、唇を綻ばせる。
瞬く間に迫り来る銃撃の如き速度の刺突、それらを左手に構えた楯が火花を散らして受け止める。
刃の鋭き刺突、鈍器の衝撃、猛爪の軋り、それらを巧みに楯の裏側で握り手を巧に操り、丸い表面から火花を散らせながら、上下左右に衝撃を分散させる。
叩き鳴らす太鼓のように金属音が響き渡るも、一つとして勇士郎には届かない。
彼は平然とした表情を浮かべながらも、無数の刃が降り注ぐ中を突き進み、突貫する。
雨を退ける傘のように、彼は軍勢を弾き散らしていた。
すたすたと歩きながら、降り注ぐ襲撃を弾き散らし、ゆっくりと数歩進んで。
「悪いが、君たちでは俺たちには勝てない」
そう叫んだ瞬間、クルリと楯が回転した。
握っていた楯の下部分、見ようによっては巨大な手甲剣にも見える楯の尖端を裏側から蹴り飛ばし、跳ね上げる。
カラカラと回りながら、彼を今まで護っていた楯が上空に吹き飛んで、それを一瞬視線を移す異形たち。
その首が――飛んだ。
一閃した閃光の如き一撃で同時に振り抜いた聖剣、それを握る手首を返しながら、勇士郎が足位置を踏み変える。
足の位置を変えて、同時に発生した力を、肘の動きに、膝の動きに、手首の動きに、指の動きに合わせて、自在に変える。
聖剣が舞う。まるで風のように、煌めき瞬く閃光の如く、剣閃が周囲を切り裂く。
刃が踊るように、次々と周囲の異形たちを両断し、その持っている武器ごとバターのように斬り飛ばされる。
聖剣の刃は防げない。
異形たちには防げるだけの技量もなければ、頑強性も備えていなかった。
故に木偶。
舞い踊るように突き出される武具の数々を斬り飛ばし、やがてクルクルと落ちてくる守護の楯を上空に掲げた手の平で受け止め――
「――プレゼントだ」
握り締めた楯で、真正面にいた異形の頭部を勢い良く叩き潰した。
彼が習った西洋剣術において、楯とは単なる自身を護るための防具ではなく、相手を倒すための鈍器でもあると教わっている。
躊躇いもなく、戸惑いもなく、異形の血肉を叩き潰し、ドロリと液状化する遺骸に目も向けずに、楯を翻すと、彼は旋回し。
「柊、頼む」
すっと、体を背けた。
そこに駆け抜ける一陣の閃光。
空間すらも切り裂きそうな、不可視の斬撃が直線状に異形たちを切り飛ばし、声無き悲鳴を上げさせた。
その一撃を振り抜いたのは共にいた魔剣使い。
刃に風の精霊の祝福を受けた青年の姿。
「これでいいか?」
「ああ」
勇士郎の言葉を聞いて、柊が満足そうに頷いた瞬間、彼の背後に爪を振り上げる異形の姿。
しかし、その胴体は――既に魔剣によって貫かれている。
振り抜いた斬撃から、背後への刺突へと振り抜いた柊の一撃によって。
「おせえ」
ぼそりと告げて、勢い良く魔剣を相手の腹から引き抜く。
彼の圏内に侵入した者はどの方角であろうと柊は感知し、切り伏せられる。
前方180度の全ての攻撃に瞬時に反応出来るだけの経験を柊は積んでいたし、背後から迫る襲撃もまた即座に反応出来るだけの感知能力もあった。
しかし、何よりも大きいのはその手に持つ魔剣との感応である。
あらゆる要因、あらゆる理由によって意思を吹き込まれた武具。
それが魔器であり、魔器を使いこなすものこそが魔剣使いと呼ばれるのである。
そして、優れた魔剣使いは魔剣を己の肉体と錯覚するほどに感応し、魔剣が導くがままに刃を走らせることがある。
例えば己の振り抜いた刃が受け止められたにも関わらず、魔剣が空を滑るように動き出し、相手の首を絶つ。
例えば打ち出された魔銃の弾丸が回避されたにも関わらず、虚空で弧を描き、弾丸をめり込ませる。
など、魔剣使いのもっとも強くなる最短手段とは魔器との感応能力を高めることにある。
高度な魔器の意思伝達によって手にいられるのは、新たなる視界であり、優れた動作であり、あらゆる戦士の常識を覆した可能性だ。
熟練の剣士と覚醒仕立ての魔剣使いが対峙した時、時として剣士が負けることがある。
長年の技術を、努力を、修練を、魔剣使いは感応のただ一つで凌駕するのだ。
だがしかし、それにはリスクがある。
感応を進めすぎた結果、魔なる剣は時として主に牙を向くことがある。
妖刀、魔剣、鬼刀、邪剣、呪具。
意思持つ魔剣が全て友好的とは限らないのだから。
邪悪なる魔剣を力づくで従える魔剣使いもまた存在する現状。
では、柊 蓮司はどのような魔剣使いか?
彼は感応能力に長ける魔器使いではなく、技量を持って魔剣を操る魔剣使いである。
最初こそは魔剣の感応に引きずられ、拙い剣技を一流の鋭さと技量に昇華させていたが、今は違う。
彼は魔剣に頼るのでもなく、魔剣を従えるのでもなく、魔剣と共に在る。
必要最低限の感応を見せて、意思ある魔剣の警告や連絡を受けながらも、己の力を持って、剣技を振るい、その力を引き出す。
無数なる実戦の果てに、彼は魔器の導き無しで使いこなす技量を手に入れたのだ。
ならばこそ、彼は魔剣士ではなく、魔器使いでもなく、ただしく“魔剣使い”という称号が相応しいだろう。
そして。
「風よ」
ふわりと周囲の砂を風に舞わせながら、柊は腕を動かし、足を踏み出した。
迫る、迫る、無数の刃。
三連撃、三枝の爪を、胴体を持った異形が真正面から迫り狂う姿を見て。
「舞い踊れ――エアダンス」
呟かれる言霊。
柊はダンッと地面でステップを踏みながら、前に乗り出す。
神速の踏み込みを繰り出しながら、指先で羽毛のように軽い魔剣を掴む――魔剣自体が意思を持ち、魔力を発しながら己の重量を軽減しているが故。
指先で握られた魔剣が閃く、恐るべき剣速、音速を超えた抜き打ち。
三枝の刃が振り下ろされる、その矛先が振り抜かれる前に斬り飛ばされる。
がんっと刃を無くした武器を柊の目の前のアスファルトに叩きつけた異形の顔面に魔剣を突き刺し、同時に足を突き出す。
逆間接の異形の膝を打ち砕き、間断無く柊は蹴り足で地面を蹴り飛ばすと、その勢いのまま異形の胴体に足を叩きつけた。
ボゴンと元はアスファルトの擬態していたらしい異形の胴体が陥没し、柊の魔剣を引き抜く動きと押し出す動きに逆らえずに吹き飛ばされる。
「あー」
暢気に声を出しながらも、柊は魔剣を手繰り寄せて――“視る”。
背後から袈裟切り、上半身を両断する鎌の一線。
それをおしゃがんで躱す。
無造作に、頭の上を風切り音が響いて聞こえた。
動揺したらしい、無音の震えが気配に乗って届く。
そして、柊は魔剣をアスファルトの上で火花を散らしながら、反転。
ぼっと虚空から火が灯り、魔剣の先端が炎に包まれる。紅蓮の輝き、まるで松明。
「エンチャントフレイム!」
轟ッと炎の焦げる音、陽炎に歪む大気、熱せられる空気を撒き散らしながら柊が魔剣を振り抜く。
死神の如き鎌を振り抜き、白骨模型のような異形の胴体を両断し、あばらを融解させ、さらに首を弾き飛ばした。
炎に包まれて、飛び上がる頭部が、風のささやきかそれとも燃焼音の錯覚が、ゲラゲラと笑い声のように聞こえて、柊が唇を不愉快そうに結ぶ。
ぶらぶらと手首を気に食わなさそうに揺らすと、いまだ燃え滾る魔剣を見つめて――動いた。
テンポを上げる。速度を上げる。
今までの自分がこんなものじゃないと、告げるかのように。
四肢にプラーナを供給、アスファルトの大地をひび割れさせて、激震する大気の抵抗を月衣で相殺する、高まる速度には歯止めが利かない。
たった一歩で高速から音速へ、たった二歩で音速から遷音速へ、四肢の速度は音速を超えて、衝撃破を発し、振り翳した魔剣は燃え盛る焔をまるで錆だとばかりに衝撃破が削り落とし、紅に熱せられた紅剣がそこにある。
音速を超えた速度の魔剣は恐るべき切れ味を発するだろう、鋼鉄を切り裂き、金剛石をも破砕するほどの質量を秘める刃の形をした巨槌。
その第一の犠牲者は誰か?
それは己だと告げるかのように真正面から迫る双剣の異形。
鳥のように細い手足、風を切り裂く刃だらけの全身、その手は斬馬刀の如き巨剣、両手で二振りの双剣。
その姿はアンバランスの極み。
何故に手足が折れないのか? 何故にその体で双剣を振り回せるのか?
不思議にして不可思議にして矛盾する存在。
けれど、そのようなことは些細なことだ。
謎を解き明かす前に壊れるのだから。
振り抜かれる二振りの双剣、その真正面から魔剣を叩きつけ――瞬く間もなく、双剣は斬り飛ばされた。
熔かし斬る。
その言葉がぴったりと似合うほどの光景、半ばから溶かされ、焼き切られた刀身がクルクルと虚空に舞い踊る。
絶句すべき光景だろう。
驚くべき光景だろう。
だが、それで止まらぬ刃を止めるのは誰だ?
振り抜かれる魔剣の一撃は、双剣を切り裂いた一撃もそのままに異形を両断する。
ガラスでも砕くかのように容易く、粉砕し、さらに踏み込んだ足を軸に柊は旋回した。
刃を煌めかせ、殺到する他の異形たちを悉く粉砕する。
ザン、ザン、シャラン。
切り裂き、貫き、両断し、刎ね飛ばす。
己の圏内に侵入する全ての異形を人外の速度で切り伏せながら、彼は舞う。
そして、いつしか彼の横にはもう一人の剣士が立っていた。
否、二人はそれほど離れず、殆ど同じ場所で戦っていたのだ。
魔剣を/聖剣を、使い/担い――戦っていた。
互いの目線が一瞬合う。
異形を切り裂きながら、その血飛沫を浴びながら、次なる動作に移りながらも、視線が交錯する。
――大丈夫か。
――問題ないさ。
互いの意思が伝わる。
そして、同時に互いの位置へと一歩踏み出した。
魔剣を、聖剣を、振り翳しながら――真正面から叩きつける。
音速を超えた斬撃の衝突に、その反動の全てを手首と肘と肩の動作で流しながら、互いに振り返り――衝突の反動で加速した斬撃を振り抜く。
その鋭すぎる剣閃の軌跡から免れたものはいなかった。
ニ分割された無数の異形が零れ落ち、ガラガラと残骸を大地に落として、液状化する。
剣劇の舞台裏ぐらいは支援しようぞ
「右へ!」
「左にだな!」
互いに背を合わせて、叫んだ方角に加速する。
それは一陣の剣風のようだった。
まるで長年の相棒同士かのように互いの隙を生め、互いのサポートを補いながら、効果的に異形たちを切り裂き続ける。
寄らば切り裂かれ、触れれば散る。
刃の如き竜巻。
魔剣と聖剣の二刀が、一体の巨大な異形の両肩を切り落とし、流れるように上半身を、下半身を、両断する。
まるで積み木倒しのだるま人形か積み木のように分解された異形がどろりと解けて、液状化するのも待たずに繰り出された楯が、蹴りが打ち砕く。
邪魔だ! と吼える咆哮が大気を響かせて、ニ剣がクルクルと旋回し、左右から迫った異形の胴体を同じ動作で貫く。
指した刀身は横に抉りこむと、胴体を半ばから切り裂きながら、剣を振りぬき、バッとその刀身に付いた残骸を振り払う。
「これで、終わりか?」
いつしか周囲の異形は全て居なくなっていた。
あれほど居た異形たちもまた姿を隠し、消えていた。
「多少は疲れたが、この程度、なわけないよな?」
そう思い、勇士郎が静かに眉を歪めると。
――ドクンと心臓が高鳴るような音が響いた。
「っ」
「これは」
二人は感じる。
二人は理解する。
これは空間が高鳴った音だと。
「――来るわよ」
静かに二人の剣舞を見つめ、恍惚に歪めていたベール・ゼファーが静かに告げる。
ずぶずぶと足元から溶け出し、異形化を始める空間を見つめながら、嗤った。
「さあ行きましょう、虚構の中へ」
バグン。
瞬間、三人の姿は世界のどこからも姿を消した。
――楽しい地獄の始まりね。
虚空に溶け行く女王の言葉を残して。
投下完了です。
剣戟だけで20KB アハハ自重しろ、俺。
何故かNWで武夾ものっぽく書いてしまい、申し訳ございません。
次回から遂にダイブシーンです。
話が進む度にベル様がエロくなっているような気がするのは気のせいです。
か、カリスマ取り戻せているよね!?
……空砦でなかったら、ザーフィVS柊のガチ死合を書いてみたいマッドマンでした。
読んでくださいまして、ありがとうございます。
まだだっ……まだ、僕の手には支援のための弾が残ってるっ……!
>土塊の方
もう、待ってた。超待ってましたとも。待ったよ。もう一ヶ所で話紡ぎながら待ったともさ。
相変わらず勢いある戦闘描写で超心踊りました。
次回もお待ちしてます。
チラ裏
くそぅ、剣士対魔剣使いとかおいらもネタにしたかったのに(自業自得。)!
見ててこれほど心踊る戦闘シーンは、たぶん自分には書けないなー、うらやましー
乙!であるます。
同じ戦士タイプでもスタンスが違う者同士が組むと映えていいですよねぇ
エロくなるのは板的に無問題、モーマンタイだっ!
やばい! 柊と勇士郎を並べて闘わせるととこんなにカッコイイとは!
ベル様じゃないけどこいつは眼福、GJでしたーっ!
これはいい!
そうかこの対比は思いつかなかった!
次も楽しみにしています。
前作同様戦闘描写の冴えが鋭い!視覚に迫る程の表現力、これは真似できないなあ・・・。
〉マッドマンさま。
コイズミの立てたリオンフラグは私の妄想が暴走した結果です。
あと、エリスは柊に惚れ直しません。より一層、惚れるだけですよ?(笑)
そんなこんなで、続きも楽しみにしています!
ところで・・・
「単行本一冊分?はっはっは、そんなまさか」
と思いつつ気になって調べてみたら。
「四千行オーバー!?あわわ、頁17行換算で・・・240頁!?後の投下分も計算すると・・・」
・・・本当に一冊分(汗)。真面目に気付いてなかった・・・。
も、もうすぐ完結しますんでお見逃し下さいませ・・・。
test
たのだんのアレの続きで性奴隷として飼われるのをひとつ
俺もそれ考えたけど、SWスレって別にあるんだよなぁ
ただあっちの空気がちょっと入り込み辛いんで……
(あくまで個人的な感覚としてね)
だなあ。ただアレはずるい、読者サービスとわかっていてもホイホイひっかかってしまう……!
ドロワーズ……キャミソール……ばんぢゃい………ばんぢゃいしちゃう……!
異形の影で降り注ぐ陽光を遮られてさえ、わずかな光を集めて輝きを帯びる刃。
刀身に刻まれたルーンが、立ちふさがる敵の視界までも焼き尽くそうとするかのよう
に照り返す。
微動だにせぬ不動の構えを取った魔剣使いの立ち姿は、なんと雄々しく力強く感じら
れることか。どれだけの異界の住人を屠り、どれだけの魔王と呼ばれる存在を切り伏せ
たら、ここまでの威圧感を放つことが出来るのであろう。
その背後に控えるのは、巫女服の少女。呪符を装填した破魔弓を構え、いつでも魔
剣使いの若者の援護が出来る位置を確保しているのは、この二人が共に戦った時間
の濃密さ、互いが互いに寄せる信頼の厚さを表しているようではないか。
しかも、この戦闘区域の外れには、もうひとりの伏兵までもが控えている。本来なら
ばウィザードたちと敵対関係にあるはずの “魔王” と呼ばれる存在。それも、裏界の
侯爵という地位にありながら、共通の敵に対して立ち向かうべく彼らとの共闘の意志
を露にした強敵。
影エリスが戦わねばならないのは、それほどの三人なのである。
歯も砕けよ、と言わんばかりの激しい歯軋りをして、影エリスは眼前の敵を睨みつけ
る。咄嗟に展開した影の防護壁は半ば以上切断され、次の攻撃をしのぐためには、新
たな力を放出しなければならないはずだった。
最初の攻撃は不発に終わった。
しかし、それで怯むような脆弱な相手ではない。
魔剣使い ---- 柊蓮司がすかさず後方へ跳躍し、影エリスと距離を取る。
距離を取るとはいっても、それは彼の脚力からすれば一足飛びの間合い。引き戻し
た魔剣は正眼に構え直され、次の一手に移るための力を、その両腕に込めているよ
うにも見えた。
影エリスは身じろぎをする。不覚にも、赤羽くれはの放った呪符を喰らったおかげで
全身の動きは鈍り、思うように動けない。そこへ、先程まで彼女が蹂躙しようとしてい
たコイズミの防御に入ったリオン=グンタが、影エリスに向けて魔力弾を次々と放つ。
ヴォーティカルショットの連弾である。
ひとつひとつは致命傷になるとも思えない攻撃だが、そのダメージが蓄積されれば
いずれはそれが勝負を決する決定打となりかねない。だからこそ、リオンの魔法を被
弾することは極力避けねばならなかった。止むを得ず影の防護を全周囲に展開し、断
続的に襲い来る魔弾を防ぐ手も緩めない。支援魔法だけでなく、自らも攻撃魔法を撃
つことのできる赤羽くれはという存在にも注意を払わなければならないのだから、なお
さら防御をおろそかにすることなどできなかった。
この状態で、柊蓮司を相手に戦わなければならない。
それは、影エリスがこの一連の戦いにおいて、初めて感じた戦慄であった。
「いくぜっ !! 」
怒号と共に柊が大地を蹴る。
無意識に一歩、後ずさる影エリス。
ウィザードとはいえ人の脚が、ここまでの跳躍を行えるのか ---- そう、驚愕するほ
どの瞬発力であり移動である。数メートル先に立っていたはずのその姿が、まばたき
ひとつする間に、もう至近距離に迫っている。
しかし、それは殊更驚くほどのことではない。
剣士であれば ---- まして柊ほどの使い手であれば、彼我の距離において己の獲
物が自在を得る間合いが獲得できているかどうかは、測るまでもなく自明のことであ
る。柊にとっては、己の一歩が到達しうる距離と、魔剣の持つ尺を足した長さを合わせ
た以上の間合いを取るという愚行さえ犯さなければ、それすなわちすべてが必殺の間
合いなのである。
さながら疾風。いや、その振るわれる猛威からすれば、むしろ嵐。
上体を捻り、膂力を以って振り抜いた魔剣は、横薙ぎに影エリスの胴を狙っていた。
野蛮な刃風を巻き起こしながら、死の鋼が迫る。
「く・・・ぐうっ・・・・・・!! 」
幾重にも重ねた闇の鎧で、影エリスがかろうじて受け止めた。全身を覆う黒い影が、
防護壁の役目を持っていることを知りながら、柊が闇雲に刃を繰り出したようにも見え
る。命中箇所の精度など無視をした、力任せの単調な打撃であった。
しかし、それでいい。
この場合、攻撃の精密さになど意味はないのだ。影エリスの防御は全身に及び、そ
の隙間を縫って攻撃を繰り出すことこそが至難の技なのである。下手な小細工をする
よりは、むしろ渾身の打撃をお見舞いするほうが有益だ。たとえ、それが防がれて不
発に終わったとしても、重要なのは『影エリスに防御のための力を使わせる』ことであ
る ---- アンゼロット宮殿で柊たちが立てた作戦が、これである。
影エリスの力の正体は、『力』という水を溜め込む貯水池のようなもの。
決して、喰らい続けた力によって強大な存在と “なる” のではない、ということ。
ただ膨大な力を溜め込むことの出来る充電地のような存在に過ぎない、という影エリ
スは、溜めた力を攻撃や防御の度に消費し続けなければならない。
ならばこそ、初撃は命中の必要はない。もっと言えば、続く第二、第三の攻撃ですら
命中の必要はないのだ。ただ、防御行動を取らせる ---- それだけで力を失っていく
ということが判明しているのであれば、とにかく強力な打撃を繰り出すことこそが重要
なのだ。力のこもった一撃を繰り出せば繰り出すほど、防御に余分な力を注ぐことにな
る。すなわち、影エリスの消費する力が多くなる、という寸法である。
だからこそ、力任せに魔剣を振るう。
正眼から構えた刃が背後に隠されたと思った瞬間、腰間から滑り出した刀身は横一
文字の薙ぎ払いへと変化する。黒い鎧が鈍い音を立てて、ぞぶり、と削れ、修復の間
を与えられることもなく、続く二撃目が反対側の影の壁をこそぎ落した。
左から、右から、また左から、右から。
あまりの斬撃、あまりの速度、あまりの迫力に反撃の糸口すらつかめない。
防戦を強いられる一方の影エリスは、ただ削られていく防御力を補修するためだけに
力を放出せざるを得ない、という状態である。
一撃が十、十撃が二十。回数を重ねるごとに、影エリスの顔は引きつり、次第に恐怖
に歪んでいった。
「・・・いける・・・ ! これはいけます・・・ ! さすがは柊様・・・ ! 」
コイズミが感嘆に打ち震え、尊敬する若きウィザードの剣戟の姿を見つめている。
ロンギヌスの精鋭たちを難なく倒し、また自分の攻撃をもものともしなかった怪物が、
柊蓮司の前では手も足も出ないではないか ---- !!
思わず握り締めた拳が、興奮の汗で濡れていた。そんなコイズミをたしなめるように、
くるりと振り向いたのはリオン=グンタ。ちろり、と流し目で見られ、コイズミは背中に冷
水を浴びせられたように身震いをする。眠たげに見えるうっすらとだけ開いた瞳が、な
んというかひどく苦手なのである。
「・・・喜ぶのは・・・まだ早いですよ・・・」
ともすれば勝利の確信が、慢心と油断に変わることを危惧したものか。
警告にも似た、リオンの言葉である。
「で、ですが、柊様の攻撃を防ぐので精一杯のようではありませんか・・・これはもう、
勝利以外の結末など考えられません・・・」
苦手意識が強く働いたものか、なぜか敬語でコイズミが弱々しく反駁する。
あの様を見れば、柊の勝ちが動かないであろうことは子供にも分かる。まして、支援
として、柊の戦いにおいては阿吽の呼吸でサポートできる赤羽くれはが参戦し、かつ
控えとして影エリスを牽制する役目を、裏界の秘密侯爵リオン=グンタが請け負ってい
るのだ。スポーツに喩えるなら、ある意味、ドリームチームといってもいい。
「・・・大魔王ベルをも屠ったシャドウが・・・防戦一方に回っているのは・・・おそらくただ
単に・・・自らの主ゲイザーを滅ぼした相手、という意識が足踏みをさせているだけにす
ぎない・・・私はそう見ています・・・」
静かに、リオンが状況を分析する。
信奉するゲイザーを滅ぼした憎い仇敵。しかし言い換えれば、憎くはあれど、自らの
造物主を滅ぼすほどの力の持ち主である、という認識が影エリスの深層意識には根
付いているはずだった。だからこそ、思い切った戦い方ができない。捕食結界におけ
る大魔王ベール=ゼファーとの戦いのときのように、『多少のダメージは覚悟の上』と
いう発想ができないのだ。なぜならば、多少のダメージが “柊蓮司の攻撃にいたって
は” 、取り返しのつかない致命傷になるかもしれないから ---- 影エリスの意識の底
では、そんな思いがあるのだろう。なんといっても柊蓮司の魔剣は、 “あの” ゲイザー
を滅ぼした刃なのである。
コイズミの背筋を冷たいものが通り抜ける。リオンの指摘が的を得たものであるとす
れば、わずかな油断や均衡の崩壊が、逆転の構図を造り上げることもあるからだ。
「もうひとつ・・・予断を許さない状況であるという理由は・・・」
すーっ、とほっそりとした白い指で、リオンが戦いの渦中を指し示す。
魔剣を繰り出す柊の姿が、そこにはあった。
斬りつけ、削り、撃ちこみ、壊し、黒い盾を刻み、影の鎧を穿つ。
ひたすら続けられるその繰り返し。傍目に見れば、一方的に影エリスに攻撃を加え
続けているようにも見えるその光景の、もうひとつの隠された顔 ---- 。
これが、影エリスに力を放出させることが目的の攻撃だ、とコイズミは認識している。
しかし。それならば。
「・・・・・・シャドウは・・・いったい “いつ” 、その力を使い果たすのでしょう・・・」
戦いの光景を見ているうちに気がついた。気づいてしまって、口に出してはいけない
ことと知りつつも、ついコイズミはそんなことを呟いていた。
たしかに、繰り返される魔剣の斬撃は、影エリスの防護壁に損壊を与えているのであ
ろう。たしかに、溜め込んだ力を使わせているのであろう。しかし、柊の全力の攻撃は
いまだ影エリスに傷ひとつつけてはいない。無尽蔵にあふれ出るかのように見える影
たちは、魔剣の一撃一撃に損なわれてはいるものの、泉が湧くようにその損害を修復
し続けている。全力のはずの斬撃が、届いていないのだ。
まるで終わりの見えない戦い。何回、何十回、あるいは何百回。
これでは、影エリスの防御を削り取る前に、柊の腕が使い物にならなくなるであろう。
「・・・だから、総力戦なのですよ・・・」
リオンが呟いた。
《・・・つまり、今度は私たちが、シャドウがベール=ゼファーに対してとった作戦 ----
消耗させる戦術を仕掛けるということになるのですね ? 》
《やっぱり総力戦ってことか。ウィザードをかき集めてとにかく休まず攻撃し続ける。防
御せざるをえない状況に追い込んで、蓄えた力を消費させる・・・そういう作戦だな ? 》
《そうすればシャドウの力はどんどん弱っていくもんね。弱ったところを叩く ! ・・・ってこ
とでいいのかな ? 》
アンゼロット宮殿での会話がこれであった。
現在、世界の守護者の名の下に、聖王庁、コスモガード、絶滅社、ありとあらゆる組
織に進行中の世界の危機的状況が説明され、フリーランスのウィザードに対しても協
力要請が行われている。彼らの現地到着は、早ければ早いほどいい。
柊やくれはやリオンだけでは、おそらく影エリスの防御を削りきることは至難である
はずだからだ。なによりも、彼らの到着前に柊の疲労がピークに達してしまうのが恐ろ
しい。いや、それ以上に影エリスが、自分が圧倒的不利と思われるこの状況の真実の
姿 ---- 実は、追い詰められているのはウィザード側であると気づいてしまうのが怖い。
それに気づいた時こそ、影エリスは攻勢に打って出るはずである。
そうなってしまえば、ウィザード側の勝利への道は、ひどく細いものになってしまうで
あろう。
「・・・わ、私も加勢します・・・ !! 」
いきり立ち、ブルームを構えるコイズミをリオンが制する。
「・・・無駄です・・・あなたの攻撃では、シャドウは防御すらしないでしょう・・・」
痛いところを突かれたコイズミが、傷ついたような顔をする。しかし、リオンの言葉は
残酷なほどに真実だ。先ほどの三点攻撃ですら、影エリス本体に直撃させることに成
功こそしたものの、事実ダメージを与えるには至っていないのだ。
「歯痒い・・・!! 柊様のお役に立てないとは・・・ !! 」
歯噛みするコイズミを見つめるリオン。その懊悩に身をよじる姿から不意に目をそら
すと、首だけでさらに向こうの空を見上げるのだった。
「・・・増援・・・間に合いましたね・・・」
弾かれたように顔を上げたコイズミが、「おおっ !! 」と歓喜の声を上げた。
彼方の空に幾十もの黒点が浮かんでいる。遠目にも分かるそれは、おそらく自身の
ブルームに跨って駆けつけたウィザードたちであろう。
タイムリミットに、なんとか間に合った。間に合ってくれた。
コイズミが、この戦いの完全な勝利を確信した ---- 。
※
走る。とにかく走る。もとから運動が得意なわけではない。ましてやいまは、ウィザード
の力を手放して、ただのイノセントに戻ったひとりの少女に過ぎない自分の、どこにこん
な脚力とスタミナがあったのだろう。
志宝エリスはそう思う。
緋室灯に手を引かれ、シャドウの元から遠ざかるために走る。とにかく、走る。しかも、
強化人間である灯の脚力に遅れないように、である。
必死の思いが、それを可能にさせたのであろうか。
「エリス。この辺りまでくれば大丈夫」
抑揚のないいつもの声で灯が言い、その歩を緩めた。その言葉が、わずか一時エリ
スにかけられていた魔法を解くキーワードとなったのか。安堵と同時に訪れたものは、
急激な脚と胸の痛み、そして激しい呼吸困難であった。抑えられていた汗が一気に吹
き出し、肺が大量の酸素を求める。走っていたときの勢いでつんのめり、膝から地面
に崩れ落ちそうになるのを、慌てて灯が抱きとめた。しっかりと抱えられる身体を灯の
腕に預けたまま、エリスは声も上げることすらできず、ぜえぜえと苦しげに喘ぐ。
そのとき初めて、灯もエリスに無理をさせていたことに気づいたのであろう。
背中に手を当て優しくさすりながら、
「・・・ごめんなさい・・・エリス・・・気づかなくて・・・」
赤い瞳に憂いを秘め、謝罪の言葉を口にした。エリスはその言葉に返事をすることも
できず、ただ自分を抱きしめる灯の腕に掴まる手に力を込め、なんとか二、三度頷き
返すことだけで精一杯である。
どれだけ走ったのだろう。見慣れた赤羽神社の敷地内からは、すでに抜け出して雑
多な秋葉原の街並みが見え始めている。腕に抱いたエリスの呼吸が落ち着くのを待っ
ていた灯が、なにかを感知したのか上空にその視線を上げた。
「・・・・・・っ !! あれは・・・・・・」
夏の日差しを遮る灰色の雲が覆う空。その雲を切り裂くように空を横断するものたち
姿を、ガンナーとしての灯の視力が確実に捉える。性別も年齢も様々、しかし確かに
箒に跨って赤羽神社の方角を目指す魔法使いたちの姿が、くっきりと見て取れる。
アンゼロットの要請で駆けつけたウィザードたちか。ほっ、と灯が安堵の吐息を漏らし
たのは、彼女にしては珍しい感情の発露である。シャドウという強大な世界の敵を討ち
果たすべく終結したウィザードは、灯の視界が捉えただけでも五十は下るまい。そして、
これが第一陣だとするならば、続けて多くの応援が駆けつけることは容易に予測でき
た。心強く思う半面、ここまでの増援を手配 “しなければならなかった” ことが、アンゼ
ロットの憂えた敵の強大さを暗示しているようでもある。
灯が唇を引き締めた。この戦い、増援が駆けつけたからといって、まだまだ気を抜く
わけにはいかない。ようやく呼吸の整い始めたエリスの身体をそっと離す。
「・・・は・・・はあ・・・はあ・・・あ・・・あかり・・・ちゃん・・・・・・ ? 」
「・・・・・・エリス。私も・・・戻る」
おそらくはここが正念場。ウィザードの増援部隊が到着しているということは、アンゼ
ロット宮殿から転移された柊たちも、既に赤羽神社に到着しているはずだ。ならば、い
ままさに、シャドウとの最終決戦の火蓋は切って落とされ、激戦の真っ只中であること
は疑いようもない。ならば、自分の火力をもってシャドウの力を削ぐべく参戦することが
急務であるように思われたのだった。
「私も・・・行ったらダメかな・・・ ? 」
意外なエリスの言葉に、灯が目を見開く。
「・・・その・・・柊先輩がいるなら・・・私も・・・あ、足手まといだと思われるかも知れない
けど、私・・・」
エリスの脳裏には、写し身が消滅する直前のベルの言葉が甦っていた。
《一度きり・・・もう一度きりでいいわ・・・私たちの勝利のために・・・戦いなさい・・・》
-------- と。
あれがどういう意味なのかは結局分からずじまいで、ベルは消えてしまった。なんの
力も持たないエリスに戦え、などと、なんの勝算も意味もなくあのベール=ゼファーが
言うとは思えない。自分にもこの戦いにおいて出来ることが、なんらかの役目があるの
ではないか、とエリスは思っている。それは、エリスの希望でもあった。
戦う力がないからといって、逃げるだけなんてしたくない。
仲間や大切な人たちを護りたい気持ちは、ウィザードだってイノセントだって変わらな
いのだ。それでも、灯は首を横に振る。
「エリス・・・あなたにできることがわからない以上・・・その賭けは危険すぎる・・・」
常識的な判断。冷静な分析。それは、緋室灯ならではの言葉である。
一時の気分に流されてエリスを連れて行くことができるはずもなく。だから、灯はエリ
スの申し出を言下に拒絶した。
「灯ちゃん・・・」
「お願い、エリス。聞き分けて」
真っ当といえば真っ当すぎる判断。それに異を唱えるだけの言葉は、エリスは持ち
合わせてはいなかった。エリスの肩に両手を乗せ、灯は一度だけエリスの瞳を覗きこ
む。赤と、青の瞳が一瞬だけ交錯して ---- ついにエリスが、悲しげに目を伏せた。
灯の拒絶も止む無し ---- それを、受け入れるしかなかった。
エリスの内心の動きを確認すると、初めて灯はきびすを返す。
本来、彼女があるべき戦いの舞台に戻るために ---- 。
※
“影の” エリスは夢を見た。
いや。それは益体もない、ただの夢を見ていたに過ぎなかったのだろうか ----
愛する “おじさま” のためにと始めたこの戦い。おじさまから貰った力と身体で、この
世界を無に帰すという目的のために、身も心も万物を喰らう怪物と化して臨んだ最終
決戦。エミュレイターを喰い、魔王を吸収し、あの大魔王ベール=ゼファーまでをも屠り
得ることのできた力。そうやって、おじさまの意にそぐわず存在し続けるこの世界へと
降臨したところで ---- 仇敵の邪魔が入った。
愛するおじさまに逆らったアンゼロットの手先。愛するおじさまを滅ぼした魔剣使い。
---- 憎き柊蓮司に。
大上段から切り下げられる魔剣が描く死の軌跡は、あまりにも鋭く、力強い。
耳を打ち、鼓膜を破るほどの風切音を頭上に聞きながら、必死で影エリスは防御に
専心する。影の砦を展開し、貫かれれば決して滅びを免れること叶わぬ死の切っ先を
弾き飛ばす。それでも力は放出され、闇の破片が虚空に飛び散る。鎧が、削り取られ
ていく。
その恐怖から、失われた鎧を次々と補修する。次々と力を放出する。
柊の刃を回避し、攻勢に転じるという発想は、どうしても生まれてこなかった。
ちょうど甲羅に亀が首を引っ込めるように。完全な防御姿勢を取りながら、それはつ
まり緩やかな敗北への道をたどる行為に過ぎなかった。
所詮、私はおじさまの代理はできないのだ。
無敵を誇った “神の盾” とは違い、影の砦は一定以上の攻撃力を誇る魔法や斬撃
を完全に防ぎきることは不可能なのである。
悔しさと絶望が、影エリスの胸の内を塗り潰していく。
ごめんなさい。ごめんなさい、おじさま。
私は、やっぱりおじさまの望んだエリスにはなれません。
おじさまの目は確かでした。おじさまの言うとおり、あの志宝エリスこそが、おじさまの
望んだ粛清の使徒だったんですね。ごめんなさい、おじさま。やっぱり私はニセモノの、
役立たずのエリスです ----
「・・・っせいやあぁぁぁぁぁぁぁっ !! 」
裂帛の気合が、心の折れかかった影エリスの防護壁に切りつけられる。何十回目の
斬撃であったか、もうお互いに覚えてはいなかった。しかしついに、その一撃が分厚い
影の砦を打ち破るときが来る。影が歪み、ひしゃげ、鍛え上げた膂力を持って振り抜か
れた刃の峰が、ついに影エリスの身体を捉える。胴体目掛けて迫り来る刃を、かろうじ
て新たな影を展開することで致命傷こそ避け得たが ---- その衝撃から完全に逃れ
ることはできなかった。
「きゃあぁぁぁぁっ・・・ !? 」
悲鳴とともに、影エリスは数メートルの距離を吹き飛ばされていった。
魔剣の与えた衝撃はあまりにも激しく、「斬」のダメージはなくとも「打」の痛みは殺し
きれなかった。魔剣のスイングと一緒に、見た目には華奢な肢体が宙を舞い、神社の
神木に激突。さらに、バウンドして地に叩きつけられた。
幸い ---- と言っていいものかどうか。
影エリスの落下した先は固い土の大地ではなく、さきほどまでの戦いで彼女が薙ぎ
払ったロンギヌスの精鋭部隊のひとり ---- 意識を失って倒れる仮面の隊員の肉体
の上だった。鈍い痛みを堪えながら、影エリスがロンギヌスの身体の上で身じろぐ。
不思議と、意識のないその身体の柔らかさは、痛む自身の身体を癒すようで ---- 。
「・・・・・・・・・ !? 」
ゆっくり。ゆっくりとその身体に手を伸ばす。心臓の鼓動。呼吸する度に上下する胸
板。帯びた熱は体温の温かみ。じわり、じわりと伝わるものは、生命の活動する証。
確かな生命が ---- 力が ---- そこに存在していることの証左である。
影エリスは “あの” 感覚を思い出す。
エミュレイターや魔王たちの存在の力を目の当たりにしたときの、あの高揚感を。
ひたり。
影エリスの手のひらがロンギヌスの心臓の上を這いずった。
そして、痛みに歪んでいた唇が、今度は別の形に歪む。
笑い ---- それは確かに笑いの形をしていた。
魔王にこだわらなくてもいいじゃない。喰べられるものはここにもあるんだし。もしか
したら、ウィザードじゃなくてもいいのかもしれない。イノセントと呼ばれる普通の人間
たちだって、それは魔王ほど美味しくはないかもしれないけれど、味気ない分は数で
補えばいいんだわ。そうよ。なんのために人間たちがあんな腐るほどこの世界にいる
と思っているの ? それは、魔王やウィザードほど、彼らが美味しくないからに他ならな
い。不味い ---- つまりは、腹の足しにならない ---- んだから数でカバーするしかな
いでしょう ? だからこそ、無意味に何十億もの人間が、この星に蠢いているんだわ。
ぞぶり。
影が蠢く。それはさっきまでの、たかが十数本の影ではない。
増大し、枝分かれし、分裂を開始する影また影。十数本が倍に増え、さらにそのひと
つひとつがさらなる増大を繰り返す。数十は数百へ、数百は数千へ。
増殖する影たちが、倒れ伏したロンギヌスたちの身体を覆いつくす !!
「・・・・・・ !! なにしてやがるっ、てめえっ !! 」
事態の異常な展開を瞬時に察した柊が、追撃のために走り寄る。
むくり、と起き上がった影エリスは、そのとき初めて仇敵の姿を冷静な眼で見ることが
できた。
なんだ。良く見たら汗びっしょりじゃない。私の砦を破るのに、よっぽど必死だったの
ね。こうしてみると、なんて脆弱。なんて小さいのかしら。あんなモノに恐れを抱いてい
たなんて、我ながら滑稽だったわ。
失われていたはずの蓄積された力が、再び器に満たされていく。
ぞぶぞぶと、影たちがなにかを吸い上げていた。そう。それはいうまでもなく。
三十人のロンギヌスたちの魔力であり、生命であり、存在の力 !!
「影よ」
詠唱とも呼べぬ短い呟き。迫り来る柊へ向けてかざした手のひらが、闇を産む。
もう、力を使うことに躊躇はしなかった。ここで、こうして新たな力の補給源を手にす
ることができたのだから。闇色の初弾が、迫る柊に突進していく。呻りを上げ、空間を
歪めながら、宿敵である魔剣使いを屠るために。
暗黒球を防ごうと、剣の峰を自身の中心線に据えたまま、柊は距離を詰める。
遠慮をすることをやめた影エリスの攻撃は、その勢いにおいて容赦がなかった。
刀身で防いだはずの攻撃。しかし、激突の衝撃は魔剣の柄を握り締めた両手にも伝
わり、腕から身体をも浸蝕する。気を抜けば肘の関節が、油断すれば肩の骨が抜けそ
うな、それほどの衝撃だった。
「ぐ、おおおぉぉぉぉっ !? 」
今度は、柊が後方に吹き飛ばされる番であった。
ぐるん、と身体が一回転する。幾度となく地面を転がり、土ぼこりをあげながら、柊は
後方支援のために控えていたくれはの真横まで後退させられた。
「はわっ !? ひーらぎ、大丈夫 !? 」
くれはが駆け寄ろうとするところに、
「ばかっ ! あぶねえから近寄るなっ !! 」
咄嗟に警告の叫びを発したのは、実戦で鍛えられた剣士の直感からか。
あまりの剣幕にくれはの足がぴたりと止まる。その眼前を、黒い風が通り抜けた。
第二弾目の攻撃が、くれはの前髪をかすめていく。
「は、はわわわわっ !? 」
柊の制止がなければ頭部に直撃であった。嫌な汗が噴き出し、全身が粟立つ。
「止まるな、くれは !! アイツ、次々と撃ってくるぞ !! 」
第三弾目の準備はすぐ整った。しかし影エリスは、それをすぐに放とうとはしない。
なにかの気配に気がついたように、上空を振り仰ぐ。
夏には似つかわしくない曇天を、いつの間にやら幾百の箒が埋め尽くしていた。
「おおっ !! 増援がこんなにも・・・ !! 」
不意に訪れた危難を救うウィザード増援部隊の到着に、コイズミが歓声を上げた。
しかし ----
「・・・・いけない・・・」
ぼそり、とリオンが呟いた。不吉な物言いになにやら不穏なものを感じて、問いただ
そうと振り返るコイズミ。その眼前、息と息とが触れそうな距離に、リオンが立っている。
右手を羽根のように広げ、リオンがコイズミの胴に腕を回した。思いのほか、力強い
抱擁。この儚げな少女の姿にどうしてこれほどの力が、と思われるほどの力だった。
「んなっ・・・ !? な、なにをしているのですか・・・ !? 」
大いに赤面し、かつ狼狽して、思わずブルームを取り落としそうになる。そんなコイズ
ミの動揺など意に介さず、リオンの身体が抱きしめたコイズミごと宙に浮遊する。
「・・・シャドウの勢力圏から離脱します・・・もっとも・・・いまの彼女の力が及ばないとこ
ろがどこまでなのか・・・それはわかりませんけど・・・」
ぎくり、とコイズミが身を固くした。それは逃げる、ということか。撤退する、ということな
のか。なぜ、いま撤退せねばならないのだ。ここへきて、我々にとって優勢を確保する
ための増援がたったいま到着したのではないか・・・ !!
不審がるコイズミの不満げな表情を察したリオンが、恐ろしい言葉を口にした。
「・・・増援は・・・私たちにとってではなく・・・シャドウにとっての有利・・・」
「・・・なっ・・・・・・・」
絶句し、リオンの傍らの空で眼下を見下ろしたコイズミが、信じ難い光景を見る。
数千の影が増殖する。数万に増えた影が天に放たれる。数十万の影が地を這いず
り、どこまでも、どこまでも伸びていく。赤羽神社の境内を這いずり回っていた影が放射
状に拡がり、境内の敷地をはみ出し、秋葉原の街並みのアスファルトを浸蝕した。
千里眼など持たずとも想像できる。
あの影は ---- 影たちは ---- きっとさらに拡がっていく。
それは都内を、この国をも埋め尽くす影となるだろう。巨木が地底に根を張るように、
この国の隅々まで拡散していくだろう。そしてそれはきっと海を越え、山々へも分け入
り、大地という大地、国という国の地の底深くに根付いていくはずだ。そう遠からぬ時
間を経て、シャドウはこの世界を ---- この星を埋め尽くす。見るがいい。天に伸びた
異形の黒い手を。秋葉原のビル群を軽々と凌駕する影たちは、この星の空までも征服
してしまうに違いない。
「そんな・・・なぜ・・・あれほどの・・・あれではまるで・・・この惑星ごと閉じ込める月匣
ではありませんか・・・そんな馬鹿げた規模の結界・・・ありえません・・・」
呆然とコイズミが呟く。
「・・・いくら皇帝シャイマールに近い力を収めることのできる器でも・・・ただそれだけ
ではこの結界を維持することは不可能・・・これはシャドウの持つ特性を生かした・・・
シャドウならではの結界・・・」
おそらく、シャドウの持つ力をすべて注ぎ込んだとしても、こんな大規模の結界を維
持し続けることはできはしないだろう。『蓄積した力を消費する』という能力特性を持つ
彼女がこれだけの力を使うということは、溜め込んだ力の極端な減退にもつながるこ
となのだから。
しかし、シャドウは同時に『力の奪取』をも、その能力として獲得した存在である。
消費した力は補填すればいい。腹が空いたら捕食すればいい。
イノセントもウィザードも等しく餌だ。エミュレイターすらも例外ではない。
強大な力を暴君の如く振るい、膨大な力を吸い上げる。
無造作に。無作為に。そして無限に ---- それが、いまの彼女という存在である。
強引な搾取者。無慈悲なる略奪者。シャドウが見上げた空に放った影たちは、天を
塗りつぶした闇におののき、怯んだウィザードたちを次々と捕らえていく。
悲鳴。
悲鳴。
幾十の、幾百の老若男女の絶望の声。
影に拘束されたウィザードたちが、たまらず箒を手放した。雨のごとく地に降り注ぐ、
主を失ったブルームたち・・・・・・。
「くそっ、あいつらを放しやがれっ !! 」
地を転がされた痛みなどとうに忘れていた。全速力でただ一直線に、影の森に佇む
影エリスに向かって走り出す。魔剣を振りかぶり、走る脚に力を込めた。その助走ごと
全体重を剣先に乗せる勢いで。
ゆっくりと影エリスが首を向ける。なんという余裕の表情。なんという己が力への自信。
一瞬、その仕草がキリヒトに似ているな、と余計な考えが頭をかすめる。
柊に向けてかざしたままで止められていた手のひらが、蜃気楼のようにぶれた。
この惑星に在る、生けとし生けるものすべてを浸蝕する存在の、本気の攻撃。
闇のつぶてが飛来した。
いままで、力の消費を恐れて「点」の攻撃に徹していたシャドウが、初めて「面」の攻
撃に転じる。幾百の黒点が襲い掛かる様は、さながら散弾のごとく。
ばらばらと一斉に放たれたそれらは、常識的に考えて防ぎきれるものではない。
それでも柊は走った。
進行方向を力ずくで捻じ曲げるサイドステップ。あの速度でまっすぐに走っていたもの
が、どれほどの鍛錬を積めば、どれほどの脚力があれば、こんな急激な方向転換が可
能だというのか。上空でこの戦いを固唾を呑んで見守っていたコイズミが、改めてその
身体能力の高さに驚愕するほどだ。
「ちょろちょろ動かないでください、柊先輩 ---- 」
ぐるり、と側面に顔を向けながら、追撃の第四弾目を放つ。移動だけでは避けきれな
い黒点を魔剣で叩き落していく柊。魔剣の弾き飛ばしだけでは及ばぬ残弾は、背後か
ら放たれたくれはの破魔弓が、攻撃の相殺を引き受ける。柊の背中の向こうから呪符
が次々と雨風のように飛び、次々と黒いつぶてにあたっては掻き消える。
ヴォーテックストライデントの連続掃射。
くれはも、すべての火力を持って柊の援護にあたっている。
右に飛び、左に跳ね。それでも、柊は前へと進む。影エリスへと ---- この世界の敵
の元へと !!
「・・・動くなって言ったじゃないですか・・・ほんと、聞き分けのない人ですね・・・」
苛立たしげな声と共に影エリスは舌打ちをする。邪魔をするな、と。その脆弱な力で
歯向かうな、と。もはや、彼女は柊ですら「敵」としてのカテゴリーに収めてはいない。
敵とは、あくまでも自分を脅かすもの。少なくとも対等のものを指す言葉である。
さっきまでの柊蓮司への恐れが嘘のように思える。
柊蓮司など、もはや相手にするのも煩わしい。
しかし柊は -------- 。
「うおぉぉぉぉっ !! 」
たとえるなら飛燕。たとえるなら疾風。
迂回と回避を目まぐるしく繰り返す遠回りな接近を経て、柊がついに己が魔剣の間合
いに到達する。斜めから下方へ、袈裟切りに切り下げたはずの刃は、しかし空しく虚空
を両断したに過ぎない。
影エリスが ---- 宙に浮いていた。
二本の影が蔓のように彼女の脚を絡めとり、まるで押し上げるように上空へと持ち上
げている。見る間に高度を上げていくその姿へ、柊が悪態とともに怒声を浴びせかけた。
「降りてきやがれっ ! 逃げるんじゃねえっ !! 」
-------- と。
ああ。
なんて野蛮な声だろう。
おじさまが憂い、滅ぼしたかったのは、きっとあんな人間たちに違いない。
遥か下方の貧弱な人間を見下す影エリス。
その周囲には、彼女のエネルギー源たちが百舌鳥の早贄のごとき姿でもがき、苦し
んでいる。彼らから流れ込んでくる力の奔流を味わいながら、影エリスが意識を全方
位に展開した。
無数の影が ---- もの凄まじい速度で伸びていく。
それは文字通りこの世界を ---- 惑星を覆いつくす、真の夜の始まりであった。
※
ほぼ同時刻。
ヨーロッパ ---- 英国。
古風な、しかし広大な敷地に建てられたその建造物は学園の校舎であろう。
歴史の重みが堆積したどこか荘厳な佇まいの建物 ---- 知る人ぞ知るウィザードの
学び舎のひとつ、ダンガルド魔術学校。突如として東方より浸蝕してきた謎の『影』に
よって暗雲垂れ込める世界と化したイギリスの、最後の防衛ラインとして魔術師たちが
立てこもっている。みながみな、疲労と絶望に打ちひしがれているなかで、ひとりの少
女だけがせっせと走り回っている。小さな顔に少し大きい眼鏡がずり落ちそうになるの
を懸命に押し上げつつ、校舎の中を駆けずり回っているのだ。
たまたまの帰省中に出くわしたこの危機的状況に、半べそをかきつつも。少女は決し
て、絶望だけはしてはいない ---- そんな風に見える。
「バリケード、オッケー です ! 見張りの方、交代で休憩に入ってくださいね。あ、お腹が
空いたら声かけてください。たっぷりと用意してありますから ---- おむすびが !! 」
校舎の硝子窓から遥かなる空を見やり、漏れ出しそうになる泣き声をぐっと押し込め
ると、少女 ---- マユリ=ヴァンスタインは無理矢理声を振り絞り、ガッツポーズを取っ
た。
「さあ、もうひと踏ん張り、頑張りましょうみなさんっ !! 」
※
同時刻。
ローマ ---- 聖王庁。
神の御許にあるものたちは、『影』の到来に黙示録の到来を予感した。
東洋より来たる極大の災厄は、人を喰らい、聖職者の祈りすらも嘲笑う、無慈悲な終
末の獣のようだった。
しかし、それでも神の子らは戦うことを放棄しなかった。
聖王庁を統べる聖王を護るため、なにより神の子らを護るための戦いは、ここでも繰
り広げられている。聖職者姿のウィザードたちを従え、陣頭指揮を取るのは筋骨隆々、
髭面もふてぶてしいひとりの神父 ---- 。
「・・・『遥か東より黙示録の時、到来せり』・・・。ふむ。あの預言書の記述に間違いはな
かったということか ---- 」
周囲を固める聖職者たちは、預言書がなにかとか思わせぶりな態度がなんなのか、
ということには完全無視を決め込んで、自らの職務に専念した。この神父の言う事は
半分が大げさで、残り半分は妄言なのだとみんなが知っている。
周囲の刺々しい空気に動じることもなく、髭面の神父は笑いを含んで言った。
「東洋の親愛なるウィザードよ。私は私の責務を果たそう。君は、君の戦いに勝利した
まえ。いや、君がすべての戦いを勝利に導いてくれると、私は信じている」
神父 ---- グィード=ボルジアの言葉は、そのときだけは真摯な響きを持っているよ
うに思われたのだった ---- 。
※
同時刻。
場所は ---- わからない。
ただ、電信柱が立っているところから見ると、たぶん日本。
夏の日差しを遮って空を埋めつくす暗雲 ---- いや、それは雲などではなくただ『影』
と呼ぶべきものであろう。電柱の上では、腕組みをしながらひとりの男が立ち尽くして
いる。眼帯で覆われていないもう片方の目が、虚空を睨みつけていた。
「まさか ---- こんな “悪夢” を見せつけられるとはな・・・」
いたるところで見受けられる、阿鼻叫喚の地獄絵図。この国に根付いた黒い影は、
まったくの無差別に生命あるものを襲い続けていた。イノセントもウィザードもお構い
なしである。過労、衰弱、そして死。存在の、消滅。放っておけば、各地でそんな状況
が始まってしまうのだ。
「・・・君たちに、世界の命運を託すぞ。どりぃ〜む・・・」
ナイトメアの見つめる方角に ---- 東京、秋葉原があった ---- 。
※
同時刻。
舞台は戻り、秋葉原。
赤羽神社、上空。
十数メートルの高さにまで伸び上がった影の搭。
その最上階に立つ褐色の少女を、柊とくれはが愕然と見上げていた。
コイズミが石化したように硬直し、リオンですら息を飲むその威容。
されば、見よ。
この星以上のものとして降り来たる彼女の姿。
この星よりも巨大で強大で、言語に絶する存在となって降臨した影エリス。
終末の喇叭を吹き、蒼褪めた馬に跨った褐色の肌の少女。
二人が聞いた影エリスの声は、どこかで聞いたことのあるような声音と口調で終末
の訪れを告げる。
「・・・すべてを飲み込む・・・私の闇・・・」
無限の循環を繰り返す “器” 。
大海の水を満たすことのできる盃。
それこそが、彼女。
「・・・・・・おじさま・・・おじさまのなさりたかったこと・・・もうすぐ始まります・・・」
“完全なる器” ---- シャドウ・エリスの降臨であった --------
(続)
なんとか目前に見えてきました。ラストが。
次回。ようやく、『柊・エリス VS “完全なる無限循環者” シャドウ・エリス』
の戦いが開始されます。
ようやくラスボス戦開始。どうか呆れずにお付き合いくだされば、と。
ではでは、次回の投下のときまで。
GJ! 乙でした!!
…にしても長いな。面白い物語が長いのは嬉しいけど。
携帯とかでまとめとかみると辛そうな…。
携帯で思い出したが、「・・・」は「…」の方がいいかもな。PCだと気にならんが。
ついでに「○○!××!」みたいなのは「!」の後ろに空白を入れて欲しい。これは逆にPCだと見辛いので。
何はともあれクライマックスを期待している。
敵は、地球の生命全てがエネルギー源・・・
やばい、燃え過ぎるシチュエーションだッ!
次回決戦にご期待させていただきますー!
かっこいいな!
もうなんかどっかで本で出そうぜ
贅沢かもしれないけど、一気読みできた方が嬉しい
お疲れ様です。
スケールのでかさに圧倒されつつ、既投稿分のチェック追いつかず、嬉しい悲鳴。
折を見て貪り読ませていただきます。
ところで、ひょっとしてこのところ保管庫で保管作業をされてるのは、作者氏ご本人でしょうか。
投下時から改行が変更されてるのに気がついたので、作者氏本人の作業じゃない場合を考えると、
ちょっと確認した方がいいなと思っていたんですが。
それと、近頃大型投稿が多いので、レギュレーションを見直して、
1000文字前後で、展開か投下の区切りを目安に小分けにしたいと考えていますが、どうでしょうか。
たのだん読み終わってここへきたら既に
>>126みたいな奴がいて安心した。
(レクサスさん、ごめんなさい……わたし、汚れちゃった……)とかそんな感じでひとつヨロシク
おまいたちのおかげでたのだん読みたくなって仕方なくなった、いまから注文してくる
計画どおり・・・・!
〉推定三号様
いつも保管作業お疲れ様です。
お問合わせの件、保管作業はどなたか別の方がされています。
投下時と相違があるのは、独自に読み易い形に変えて頂いた結果かと。
投下一回の中でもかなり長文があるので、お気遣い頂いたのでしょう。
意図的に空白行を作る場合(次の文章や台詞を特に強調したい時など)を除けば、
改行により文章の意味が損なわれることは少ないと思われたので(全てチェックした訳ではありませんが)、
問題はさほどないかな、と深く考えてはいませんでした。お気遣い、どうも有難うございます。
〉感想頂いた皆様
〉140さま
ご指摘有難うございます。PCエクセル上で基本原稿起こしてるので気付かない点もあり、
また読み手の視点不足への反省を促して頂いたこと、お礼申し上げます。
〉142さま
予想外の長さになったので(もはやSSではないか)そういう意見も出ますよね。
まとめて同人とかやってみたい気もするけど、そこまでのパワーは無いかなあ(そもそもTRPGの二次創作小説自体、需要少なそうですもんね)。
〉141さま
長くなった原因が、この風呂敷のでかさですが(笑)、ご期待を裏切らず完結できるよう頑張ります。
長文失礼しました。ではでは。
>>147 小規模ではあるけど、コミケじゃそこそこ需要あるよ
固定客が多い
それとなんでエクセルなんだw
ワードとかじゃないのか
>147
了解しました。お答えどうもですー。
>>144 うー先輩×さなえが一番エロイ気がするのは俺だけか。
ぼけーっと銀雨のリプレイを眺めていて思ったんだが……なんで銀誓館学園のスカートってあんなけしからんのだろう。
ミニスカートにスリットとか
はいてないのがバレちゃうじゃん
あの世界、男子は女子のパンチラ見放題だよな
何を言ってるんだ。無い物が見える訳なかろう。
履いてようが履いてなかろうが、ミニスカスリットだろうが、布切れ一枚だろうが、世界結界が全て認識させなくなってまs
あの世界は「ぱんつがないけど恥ずかしくないもん!!」がデフォなのか
パラダイスじゃないか
>>156 パンツという概念がないのかもしれない。
その証拠にルールブックにパンツに言及した文がない。
それを言うなら、ほとんど全てのシステムにパンツに関する記述はないはず!
するとあれか、そこから考察するに、TRPG界とはパンツの存在しないノーパンパラダイスであるという結論になるのだが、それに異論はないな!?
【馬鹿は興奮して極論を吐いた】
だが下帯は存在した。
人生は無情である。
>>158 その理屈で行くと男も全員ノーパンなんだが
残念ながら、卿の知っているTRPGと言う世界は狭すぎる
世の中には卿の知らないTRPGシステムが多い、舐めてはいかん
>>銀雨
リプレイ読んだ時からけしからんとは思っていた。が、まあ、ハイレグなり何なり
だろう、と思った。
が、すぴこぴ三巻で銀雨が紹介されている所で、どうみても女子PCがはいていない
ようにしか見えなかった。
あの学校はあれが本当に制服なのか?
ちゃんと制服だぞ。
それにはいてないとしか考えられないとか皆何を言ってるんだ。
ちゃんとスリットから横パン見えてる生徒の絵とかあちこちあるじゃないか。
つまり、履いて無い娘と履いている娘がいると、
まあ、生理の時は履かんとしゃーないわな。
はいてないことにしたい輩が多すぎるwww
いや、俺もそっち派なんだがな
お前ら何考えてんだよ。パンツは演出に決まってるじゃん。
はいてるだろう、はいてなきゃ困る。
昔の偉い人は言いました。
「女子のパンツは空よりやさしいんだぜ……」と。
その優しさを、朝の登校の時、誰かにそっと渡してきたのかも知れないだろ?
いまが夏だということを誰が信じるだろう。
この昏い空を見て。この寒々しい光景を見て。
空を覆う暗雲は、影そのものを凝り固めて生み出したもの。陽射しの熱を、太陽の恵
みを奪い去り、この大地に生きるすべての生あるものから生命と希望とを搾取しつくす
ものである。
地より湧き出たかのような黒い森。それこそはこの世界に存在するもの共通の敵、
影エリスの内より沸き出でたものである。海中に揺らめく海藻類にも見えるそれらは、
生命を喰らうための循環装置。ロンギヌスたちを絡め取り、ウィザードたちを捕獲し、消
費される力の補給源として彼らを餌食とするものたちである。
「くそっ、このままじゃ………っ ! 」
柊蓮司が歯噛みする。
眼前に聳え立つ黒々とした影の塔。見上げた空、塔の最上部にあたる場所に影エリ
スが君臨している。両手を拡げ、さらなる天を仰ぎ、恍惚とした表情をその顔に浮かべ
る姿は、まるで神に祈りを捧げる司祭のようである。彼女が司祭ならば、おそらく祈り
を捧げる神とはゲイザー ---- キリヒトのことであろう。この穢れた世界を、自分が見
守るに値するものへと創り返るため、シャイマール復活を目論んだあの少年。
彼と同じものを目指すならば、それの意味するものは粛清であり、現世の滅びである。
「くれは、背中はまかせたぜっ ! 」
叫びつつ、背後の幼馴染みを振り返ることすらせず、柊は影の塔に手をかけた。
ねじくれ、節くれだち、不気味な脈動を続ける黒い塔。己の手足だけで、登れぬこと
はないはずだ。足場となりそうな節や、手をかけられそうな瘤の位置を確かめると、柊
は四肢に力を込めて最初の一歩を踏み出した。よし。意外に頑丈だ。これなら、よじ登
ることができる。
「ひ、ひーらぎっ ! 登っちゃうの !? 背中まかせるって、私どうすれば………」
珍しく、くれはが蒼褪めている。いつも気丈で明るい幼馴染み。だが、さすがのくれは
もこの異常なまでの非常事態に、狼狽を禁じ得ないのであろう。
ただの対エミュレイター戦ではない。いつものように魔王と戦うのでもない。
敵の力はいわば、この星の力。
四十億の生命を蹂躙し、その生命の力をもって災厄をもたらすもの。いままでの戦い
とはなにもかもが違う。規模が、桁が、すべてが段違いといえる。くれはの狼狽は、ま
ともな神経の持ち主なら当然のことだ。一体誰が、この惑星に生きるすべての生命を
武器にするような怪物と戦えると思うだろうか。
なのに柊は。この底抜けに明るく、無駄に楽観的で、無茶ばっかりする幼馴染みの
魔剣使いは、やっぱりいつもと変わらぬ調子でくれはに言ってのけるのだ。
「どうもこうもねえよ。いつもどおりで頼むわ。さすがにこいつを登りながら敵の攻撃を
全部かわしたり叩き落したりはできねえからさ。さっきみたいにやってくれ」
「さっきみたいに、って、ひーらぎっ !? 」
本当に変わらぬ様子の柊。こちらに向けたその背中を、走り寄って思い切り引っ叩
いてやりたい衝動に駆られる。だって勝てないよ。こんな相手とどうやって戦えって言
うの。ねえ、ひーらぎ。
なんだか泣きそうになる。また無茶をするんだ。またひとりで突っ走るつもりなんだ。
それも背中を預けたままで。私のことは、連れて行ってくれないくせに。
「ひーらぎっ !! 」
もう一度、無駄だとは知りつつも呼びかけざるを得ない。
影の塔に右足の爪先をかけた柊は、そのとき初めてくれはを振り返った。
ああ。ずるい。ひーらぎってば、やっぱりずるい。ここで振り返るなんて。ここで、そん
な普段どおりの笑顔で応えるなんて。ひーらぎがいつも通りなら、私がいつも通りでい
ないわけにはいかないじゃない。
「んじゃ、ま、いってくっかんな」
ほら、そんな散歩に出かけるときみたいな言い方で。
くれはが溜息をついた。いつのまにか、その表情から悲痛さが、心の中から絶望が
取り除かれていることを、くれは自身も意識はしていなかった。ただ、柊が普段通りの
行動をするのなら、自分も普段通りのサポートに徹しなければ、と思っただけ。
破魔弓に呪符を装填する。簡単な挨拶だけくれはに返して、さっさと影の塔をよじ登
り始めた背中をしっかりと見据える。破魔弓を装着した左腕を高く掲げ、いつ、なにが
起きても柊の背中を護れるように。
あっという間に、幼馴染みの姿が小さく、小さくなっていくのを、くれははどこか寂しげ
に見つめ。
「…………ばーろー…………」
涙声で、そう呟いた。
※
赤羽神社での戦いに参戦しようと、きびすを返した灯の足が止まる。
柊蓮司とともに戦いの場に立ちたいと願うエリスを厳しく拒絶し、この場に留まることを
納得させた直後のことである。赤羽神社の境内から離れて、渦中の方角を見遣った灯
の表情は、いままでエリスが見たこともないくらいに、強張り、凍り付いていた。
「………灯ちゃん……… ? 」
ただならぬ気配を察したエリスが、灯の顔を覗き込む。そして、一見感情の読み辛い
灯の表情に隠されたものにぶつかって、はっ、と絶句する。
切れ長の赤い瞳は、普段以上に細められて怖いくらいだ。きつく閉じられた唇で見え
なくても、口の中で噛み締めた奥歯がぎりぎりと鳴っている様が想像できる。こめかみ
から浮いた玉のような汗が、頬を伝って顎に達する。ぽたり、と落ちる一滴。
「エリス……… !! 」
強い語調でエリスの名を呼ぶと、灯は二、三歩後退した。エリスのすぐ横、肌と肌の
触れ合う距離である。灯がエリスの肩を抱き、自分の胸元にその身を引き寄せると、
強く抱きしめ、さらに後方へと飛び退った。なにごとか、とエリスが戸惑う間もなく、異変
はすぐに二人の少女の視界内で展開される。
それは影。
地を這い、拡散し、ただただ増大することのみを目的としたような夥しい影の群れ。
ざわざわと蠢き、切断されたばかりの蜥蜴の尾のようにのた打ち回る幾十もの影が、
エリスと灯のいる、神社の敷地外の一角を目掛けて迫り来る。
「あ………灯ちゃん……… !! 」
呼ばわった声は悲鳴に近い。それはあまりにも薄気味悪く、おぞましく、言語に絶す
る禍々しさを撒き散らすような光景であった。
「エリス………しっかり掴まって。決して離れないで !! 」
目をきつく閉じ、エリスは灯のふくよかな胸に頬を押し付けながら、両腕をその腰に
回した。ぴたりと、灯の言葉通りに密着して。
「ガンナーズブルーム……… !! 」
虚空に浮かぶ長大な鉄の砲を構える。
エリスを護るという必死の想いゆえか。いかなる力をもってしてか、その鉄塊をなん
と片手で操り、浸蝕する影の怪物たちに銃口を定める。だが ---- 狙いをどこに定め
ればいいのであろう。敵影は幾十もの黒い触手。おそらく本体と呼べるものは、境内
にいる影エリス自身で、彼女を倒さない限りはこの触手たちは活動を止めないはずで
ある。だが、いまはそんなことで躊躇していられるはずもない。
灯の指が引き金を引く。銃口に魔方陣が閃き、灼熱の弾丸が眩い光となって迸った。
影たちの闇を照らし、その昏さを浄化するように。
群体の中央を真っ直ぐに打ち抜いた銃弾は怪物たちを穿ち、貫き、周囲を囲む木々
を焼き払う勢いで突き抜けていく。中心点で凝り固まっていた闇が十数体、熱した鉄
に零れた水滴のごとく、音を立てて蒸発した。かすかに銃口を右にずらし、第二射目の
準備を滞ることなく行う。流れるような動きが、それだけで美しい。洗練されつくした所
作というものは、たとえそれが戦闘行動であったとしてもひとつの芸術なのである。
引き金を引く指の動きと、もう一方の空いた手の上に虚空から出現した弾丸が落ち
たのはほぼ同時。月衣に収納した第三射目の弾丸が、すでに用意されていた。
第二射。中央に空いた穴を埋めるように、ぐじゅぐじゅと寄り集まった影たちの、最も
密集したポイントに狙いをつけた。彼我の距離はおよそ二十メートル。あの影たちをど
れだけ減らせるかが、この戦闘の明暗を分けるはずだ。だから、灯は躊躇をしない。
装填と発射の間のタイムラグは、おそらく一秒未満。目まぐるしく両手を動かしながら
次弾を、そのまた次の弾を用意し、装填しなければならない。すでに汗は引き、冷徹
な戦闘人形に徹する用意はできている。エリスを護るためなら、己の意識などいくら
でも殺すことができた。
超速度の連射に、影たちが次々と屠られていく。灼かれ、引き裂かれ、滅せられて。
瞬く間に数体までに減らされていく影たちは、それでも後退を止めない。生物であれ
ば持ち合わせているはずの生存本能や、恐怖心と言ったものは、ただの意志持たぬ
器官の一部に過ぎないために皆無なのであろう。いくら傷つけられ、その身が損なわ
れても、がむしゃらにただ前進し続けるだけである。
あと、一度。あと一度きりのガンナーズブルームの射撃だけで事足りる。
灯は冷静にそう判断した。
そして ---- その判断が過ちであったことに気づいたのは、それから数秒後のこと
である。
幾度目かの射撃が残存する数体にクリーンヒットし、黒々とした触手が雲散霧消す
る。尋常ならざる速度の複数回攻撃をやり遂げて気が抜けたわけでも、灯の射撃技
術に問題があったわけでもない。ただ、灯は知らなかっただけだ。
自分たちの敵が眼前の数十体ではなく ---- この惑星すべての生命であるという
ことを。
四散した影の破片が空中を乱舞し、風に乗って消え去ろうとするその瞬間。
悪夢のような光景が灯とエリスの視界に飛び込んできた。
破壊したはずの触手が、灼き尽くしたはずの影が、滅ぼしたはずの敵が。
その散り散りになった破片が生気を取り戻し、意志あるもののごとく収束したと見るや
結合を再開したのだ。彼我の距離、いまや五メートル。戦闘開始時となんら変わらぬ数
の触手が、灯たちに向かって前進を開始した。
「な………に……… !? 」
無意識のうちに、わずかばかり下げられていた銃口を即座に上げる。が、わずかコン
マ数秒の行動の遅滞が勝負を決した。唸りを上げて、しなる鞭のように伸びた触手が、
ガンナーズブルームの砲身に巻きついた。
めき。めきめき、と。
耳障りな音と共に、鉄の砲身が飴のようにねじられる。無惨にも、九十度の角度で
へし曲げられたガンナーズブルームは、もはや武器としての用を成さない鉄屑に過ぎ
ず、すなわちこの瞬間の灯の戦闘能力は、限りなくゼロに近いものとなった。
武器を失い、戦う手段を奪われた灯がとった行動こそは ---- いまの彼女にできる
ただひとつの、そして彼女がなさねばならぬと心に想い定めていたことだった。
引き金から指を離し、武器を投げ打つ。
完全なる徒手空拳。
武器ならぬ武器を持つ意味など、どこにもありはしないから。
ならば。ならば自分がしなければならないことは ---- 。
「灯ちゃん……… !! 」
悲痛なるエリスの悲鳴をどこか遠くに聞きながら。武器を自ら投げ打ち、戦うことを止
めた灯は ---- エリスを身体ごと抱きしめる。エリスと影たちの間に割って入るように、
襲い来る敵に背を向けて。自らの肉体を盾とし、エリスの身体を抱きしめ、覆うことで彼
女の鎧となるべく。
「だめっ……… !! 灯ちゃん、逃げてっ……… !! 」
灯の行動の意図は明確だ。自らの身体をもってエリスをかばう。自分の身体が傷つ
くことも厭わないという悲壮な決意をもって、灯は人型の盾となる。単純な足し算引き
算の話ならば、これは愚行中の愚行だった。灯の身体能力をもってすれば、おそらく
この影たちをかわしきることもでき、もしかしたら逃げおおせることもできるかもしれな
い。だが、エリスをかばう行動を取ることで、二人のうちひとりは助かるかもしれないと
いう可能性を自ら排除したことになる。たとえわずかの間、影からの攻撃を防いだとし
ても、いまの灯がその猛攻をしのぎきれるはずはない。打たれ、傷つき、いずれは崩
れ落ちる。そうなれば、もはやエリスに身を守る術はない。
二人とも死ぬのだ。
愚かしい行動の結果として ---- 。
二人揃って殺されるくらいなら、ひとりが生き延びたほうがいい。
単純な計算の世界である。
それでも灯は ---- 強化人間の冷徹な分析能力をもってしても、エリスを見捨てる
という選択肢を選ぶに足る理由など見つけることはできなかった。
「灯ちゃん……… !! 」
再びエリスが叫んだ。影は容赦なく、二人に覆い被さるように襲い来る。
黒い触手の一番細くしなやかな一本が、ぶうん、と風を切った。
それが振り下ろされたのは、敵にさらけ出した灯の背中の上。
そこで、なにかが破裂するような鋭い音が鳴り響いた。
「あ………ぐうぅぅぅぅぅっ……… !! 」
それはまさしく、渾身の力で振り下ろされた鞭の衝撃である。制服の生地が斜めに
破れ、背中の肉が爆ぜた。常人ならば一撃とて耐えられぬ、悪くすれば即、死に至る
ほどの痛みである。鮮血が赤い霧のように噴き出し、灯は漏れ出る苦鳴を抑えきるこ
とができず、身体を仰け反らした。それでもエリスを抱く腕の力は、わずかも弱まること
はない。顔中に噴き出す脂汗を拭うこともできず、極限まで赤い瞳を見開いて。
「だめ、放して、逃げて灯ちゃん……… !! 」
もがく。腕の中でエリスがもがく。灯がその身に受けた衝撃の大きさを思うだけで、
魂ごと凍りつく想いだった。黒い鞭の洗礼を灯が浴びたその瞬間、護られたエリスで
すらがその激しい振動におののいたほどである。
ならば、直接その打撃を受けた灯の痛みはいかほどのものなのか。
きっと自分が感じた何百倍、何千倍の力を甘んじて受けたのに違いなかった。
私がいなければ、足手まといの私がいなければ、灯ちゃんが怪我をすることもなかっ
たのに。だから放して、私なんか捨てて逃げて。この腕を、こんなにも私を強く抱きしめ
る腕を、お願いだからほどいて、灯ちゃん !!
だからエリスは必死でもがく。
灯の腕の拘束から逃れようと必死でもがく。どうして放してくれないの。どうして。
エリスは泣きながら、ただどうして、どうして、と口の中で繰り返す。
灯は痛みに耐えながら、その問いには答えなかった。
エリスが灯の痛みを想って涙を流すのと同じ理由で、灯はエリスを護るのだ。
友達だから。仲間だから。そんな大事な相手が受ける痛みに耐えられないから。
ならば、灯だって同じだ。
友達だから。仲間だから。そんな大事な相手が受ける痛みに耐えられないから護る
のだ。それが、灯の選択した愚かな行為の答えであった。
抱きしめ合う二人へ、再び黒い鞭は非情にも襲い掛かる。
ぶうん、という音がもう一度したかと思うと、次に訪れた攻撃は打撃ではなく『絞め』
であった。しゅるしゅる、と紐のように細い影が灯の首に巻きつく。腕を、脚を絡めとり、
ただでさえ不自由な四肢からさらに抵抗の術を奪い取る。
ぎり、ぎりぎり ---- と。
打撃の痛みには耐えたとしても、呼吸を奪われればどうか。
人間の生体を知り尽くしたかのように、ぴたりと頚動脈に当てられた触手が、血液の
脳への流れを阻害する。
「くっ………かっ………がっ………かはっ……… !! 」
絞める。力の限り絞める。
灯の口から漏れ出たかすかな叫びに、エリスが蒼褪めた。
顔を上げたエリスの目に映った光景 ---- 眼球が飛び出すかと思われるほどに目を
見開いた灯の顔。締め上げる触手が呼吸を奪い去り、空気を求めて大きく開かれた口
が、ぱくぱくと虚ろに動いている。唇の端からたらりと唾液が垂れ、突き出された舌が
ぴくぴくと震えていた。
「………っ ! やめてっ ! 死んじゃう ! 灯ちゃんが死んじゃうっ !! 」
護られた腕の中から、エリスが必死で手を伸ばした。灯の首に巻きついた影に手を
かけ、懸命に引き剥がそうと躍起になる。
だが、それがなんになるというのか。エリスになにができるというのか。なんの力も
持たない、ただの人の手に過ぎないというのに。
ぼろぼろと涙を流しながらもがくエリスを嘲笑うように、触手の締め上げる力はます
ます強くなる。力んで真っ赤になっていた灯の顔色が、次第に青く、そして紫色に変
わっていく。
そして、ついに。
「………エ…リス………ご…めん…な…さい…」
聴き取る事もできないほど小さな擦れ声を最後に ---- 灯の意識が落ちた。
首ががくりと下を向き、きつくエリスを抱いていた腕はだらりと下がり、冷たい土の上
に勢いあまって膝をつく。影たちが、脱力した灯の肢体を天高く捧げるように持ち上げ
た。それはまるで、祭壇に生贄を捧げる仕種のようでもあり、また勝ち得た獲物を見せ
びらかす仕種のようでもある。
「い、いやあーーーーっ !! 灯ちゃん、灯ちゃーーーーーんっ !! 」
エリスが叫ぶ。絶叫する。半狂乱になって金切り声を上げる。
私のせいで。私のせいで灯ちゃんが ----
死 -------- 。
《………静かにしなさいよ。泣きわめいちゃって、みっともない》
“影の中から” 、声がした。
それは聞き覚えのある声。いや、毎日自分が聞いている声。正確に言うなら、『毎日
自分が発しているのと同じ声』。
もうひとりのエリス。キリヒトに造られた影の自分 -------- シャドウ !!
《殺すわけないでしょ ? 大事な栄養なんだもの。特に緋室灯は力のあるウィザードな
んだから。ちゃあんと、生かしてあるわ………まだ、ね》
弾かれたように吊り上げられた灯を見上げる。
瞳の色は生気を失い虚ろ、虚脱しきって全身は弛緩しているが、制服の胸の部分は
確かに緩やかな上下運動を続けている。灯は、呼吸をしている。生きている !!
「よかった………」
思わず安堵の声が漏れる。状況はなにひとつ好転などしていない。むしろ絶体絶命
の状況であることには変わりはなかった。だが、いまのエリスにはこれで十分である。
灯が、生きているというだけで救われる想いだった。
《………ほっとしてる場合じゃないでしょ》
氷点下の冷たい声音が響く。
これが自分の声と同じものとは信じられないくらい、冷たい声の調子であった。
《エリス。私、貴女に大事な用があったのよ。だから、こうして捕まえに来たの》
「………え……… ? 」
瞬時に。
言葉と同時に影が蠢く。黒々とした触手がエリスの腕に巻きつき、足首を捉え、腰を
締め上げた。その力は、ただの少女に過ぎない彼女にとっては拘束の範疇を遥かに
超えて、もはや責め苦。すでに拷問の域に達するほどの力である。
来ると思ったけどはやいって!支援
「く……はっ………うあ………か、はっ………」
砕けそう。身体が折れる。痛くて苦しい。息ができない ---- 死んじゃう。
否応なしに思考が辿る連想。しかし、心が挫け、折れそうになることを、エリスは自分
自身に許さなかった。視界の片隅では、戦い、自分を護るために傷ついた灯の姿が垣
間見える。きっと、灯ちゃんの受けた痛みや苦しみは、私と比べることなどできないくら
いのものだったはずなんだ。だったら私がここで挫けちゃいけない。だったら、私は気を
しっかり持っていなきゃいけないんだ、と。
エリスは影の拘束に身体を苛まれながらも、キッと真正面を見据える。目を逸らして
はいけない。影たちの向こう側、はるか先にいるはずの影エリスを ---- 赤羽神社の
境内にいるはずの彼女を睨みつけるように、力強い瞳で触手の群れを見た。
《………だから、貴女って嫌い。やっぱり、私の手で痛めつけてあげようと思ったのは、
間違いじゃなかったのね ---- 》
舌打ち交じりの声がした。
ずるるるるっ、とエリスを縛る影が引き戻される。
そして、エリスの身体がなすがままに宙を舞った。触手が、来た道を引き返すように
赤羽神社の境内目指して、全速力で帰還していく。
身体を縛る痛みと、加速による重力の圧迫にエリスが悲鳴を上げた。
「あ………ぐぅっ………ふっ……… !! 」
影エリスの憎しみに満ちた呟きが、はたしてエリスの耳に届いたかどうか。
《………私の影の塔、最上階へ案内してあげる。そこで貴女を叩きのめしてあげるわ。
私自身の………私だけの手で、ね………》
※
奇怪な姿で屹立する影の塔を、一人の若者がよじ登る。
その手にはしっかりと魔剣を携え、額に汗しながら。無様な格好で力任せに、自らの
肉体のみを頼りとして。自前の箒を待たざるゆえに、高い塔を己が手足のみをもって登
らねばならぬ、愚かな若者である。
だが、その瞳に宿る決意の光のなんと力強いことか。
聳え立つ塔を征服しようとする意志のなんと強固であることか。
そこに、魔剣使い・柊蓮司の姿があった。
赤羽くれはに背中をまかせ、塔の最上部を目指す柊であったが、ただ登るという単
純な行為も、これはこれで命がけといえる。足場も不確かな、戦闘行動にはおよそ不
向きなこの場所で、もしも影エリスの攻撃を受けたとしたら ---- おそらくひとたまりも
ないはずだ。みるみるうちに高みへとよじ登っていく柊を、地表のくれはが気遣わしげ
に見つめている。
柊に襲い掛かるものがあれば、いつでも破魔弓を撃てるように。
幸いなことに、自らの力の真価に気づき、神の代理としての自覚を増長させた影エリ
スは ---- 柊の存在など眼中にないといってよかった。いまの彼女は、この惑星すべ
てに根を張ること ---- この星の生命すべてから力を搾取できる結界を構築すること
に腐心している。付け入る隙があるとすれば、そこ。
絶対の存在になりつつある彼女にもし弱点を見つけるとするならば、その「驕り」こそ
が唯一のものであっただろう。ともあれ、本体のいる最上部への邪魔が入らないこと
は柊にとって最大の僥倖であるといえた。
「………さあ………私たちは場所を移しましょうか………」
柊の姿を遠目に見つめていた二人のうちひとり ---- 影エリスの勢力圏内から退避
するため、空へと逃れていた “秘密侯爵” リオン=グンタがそう呟いた。もうひとりとは
言うまでもなく、リオンの機転で戦場から離脱し、彼女と共に難を逃れたロンギヌス・コ
イズミである。
宙に浮くリオンの腰に両手を回し、彼女の身体にぶら下がっているのはご愛嬌。
くそっ、ここの規制システムよくわかんないよ!支援
「場所を移すとはどういうことです !? 」
柊蓮司が決戦の地へと赴こうとしている。赤羽くれはも戦場に立っている。
部下たちは影エリスの闇の手に捕らえられ、増援のウィザード部隊も捕食の憂き目
に遭っている。この状況で場所を変えるということは、彼らを見捨てるということか。
いや、そもそも場所を変えたとして、それが影エリスの手から逃れることにはなり得な
いことは明白ではないか。ならばこの場に残りたい。残って戦いたい。それが無駄だと
分かっていても ----
「………だって、無駄ですし………」
うぐっ。
答えを先回りされて、コイズミが呻いた。
「そ、そんなはっきり言わなくてもいいではありませんか………」
情けない想いに、コイズミが消沈する。そんな彼の様子を面白くもなさそうに見つめ、
リオンが言葉を紡ぎだす。
「貴方の主 ---- アンゼロットのいる、あの宮殿へ転移します………」
はっ、と顔を上げるコイズミ。確かに、異次元に浮かぶあの宮殿であれば、シャドウの
勢力圏外であろう。だが、この状況で主の下へと帰ることは、なんというか「おめおめ
逃げ帰った」ような気がして心から賛成はできない。あからさまな不満顔になったコイ
ズミに、リオンがふわりと笑いかける。
「保身のために、安全地帯へと避難するのではありません………私が宮殿へ転移し
たいというのには、理由があります」
「理由、ですか……… ? 」
「ええ。ひとつには、これからアンゼロットがするであろう ---- するかもしれない行動
を、事前に止めること。そしてもうひとつには、現在進行中の作戦行動の路線変更を
彼女に促すこと、です ---- 」
リオンが含みのある物言いをした。
アンゼロットの行動を止める ? 作戦の変更 ?
それはどういう意味ですか、と尋ねようとするコイズミの仮面に ---- リオンの黒い
ローブが覆い被さる。書物を右手に。そして、それと同じくらいの強さでコイズミの頭を
かき抱き。
「な、なにをいったい ---- むぶっ !? 」
「静かに………転移中に振り落とされても責任持ちませんよ……… ? 」
かすかに笑いを含んだ声でリオンが囁く。
次の瞬間 ---- 二人の姿が虚空から消えていた。
※
アンゼロット宮殿、司令室。
高みからスクリーンを凝視する、この宮殿の主の緊張と戦慄がこの場にいる全員に
伝染したのか、控えのロンギヌス隊員やオペレーターたちは、言葉ひとつ発することな
く、機械仕掛けの人形のように己が職務に盲目的に邁進する。
なにか余計な動きをしたり、言葉を発したりすれば、それがなにがしかの破滅につな
がりそうな、そんなありえない妄想に捕らわれてでもいるかのようだった。
不穏な空気の発信源は、アンゼロットである。
無言。ただ無言で、十六分割された巨大なスクリーンを見つめているのだ。
画面に映し出されたのは、世界各国の惨憺たる状況。アジア、ヨーロッパ、アメリカ、
世界のいたるところで、無差別に行われる非情なる搾取行為。言うまでもなく、この
ファー・ジ・アース全域に、影エリスの魔手が伸びつつあった。
『影』に襲われるイノセント。それを撃退しようと駆けつけるウィザードたち。
斬っても、撃っても、魔法を駆使しても、それは巨象に立ち向かう一匹の蟻のように
儚く踏み潰され、蹂躙されていく。善戦といって差し支えないのは、絶滅社のように組
織的に対抗できているウィザード勢が存在するエリアのみである。
「………これ以上の被害の拡大を、許すことはできませんね」
重たい沈黙を、アンゼロット自身が打ち破った。
ロンギヌスたちが、一斉に息を吐く。この異常な緊張感から、ようやく解放されたかの
ようだった。
「転移結界の準備を」
この現状への回避策として、かつて取ったのと同じ手段をアンゼロットは選択した。
宝玉戦争終盤において、シャイマールとして覚醒したエリスとキリヒト=ゲイザーを、
柊蓮司ごとこの異空間へ転移させた方法である。これ以上の被害の拡大と、影エリス
の力の増大を阻止するためには、二つの存在を切り離す必要がある。
二つの存在 ---- 言うまでもなく、影エリスとファー・ジ・アースを、である。
シャドウを強制的にこの異界へと転移させることでこれ以上の捕食活動を止めさせ、
力の供給を断つ。その上で、ロンギヌスやウィザードたちによる総攻撃をしかけること
が、アンゼロットの考えた作戦である。
主の命に従い、司令室からの遠隔操作により、転移装置を起動させるロンギヌス。
「座標設定、赤羽神社境内。目標、敵呼称『シャドウ』。転移装置起動まで、三十秒
です」
臣下の言葉に頷いたアンゼロットが、ふと、なにかの気配を感じて天井を見上げる。
「……………っ !! 」
なにものかの侵入の気配に、思わず指令席を立つ。
虚空に巨大な黒点が浮かび、それは見る見るうちに等身大の大きさにまで膨れ上
がった。空間に穿たれた虚ろな闇。主の異変に色めき立つロンギヌスたちが、各々の
ブルームを手に取り、一斉に黒い洞へと武器を向ける。
その闇から ---- この場にいる誰もが見慣れた服を着た男が落ちてきた。
「うわああああああああっ !! 」
情けない悲鳴を上げて落下してきたのは、ロンギヌスの制服に身を包んだ男であっ
た。手足をばたばたと振り回しながら男が落ちたのは、先ほどまでロンギヌスが操作
していた転移装置の起動パネルの真上。
ぐわらっしゃん。
絶望的な破壊音を立てながら、装置が全壊した。
「ああっ !? 」
「て、転移装置がっ !? 」
世にも悲痛な叫び声を口々に上げるロンギヌスたち。それはそうだろう。現在の絶
望的状況を打破するための唯一と思われた手段が、目の前で木っ端微塵にされたの
だから。
「ガ、ガッデムっ !? どこのスットコドッコイですのっ !? 」
小さな拳を怒りに震わせ、アンゼロットが怒鳴り散らした。こめかみに青筋が立って
いるわりに、罵倒の言葉はなぜかユーモラスである。指令席から身を乗り出し、真下
を見下ろすと、この惨状をもたらした粗忽者の姿が目に入った。
その粗忽者こそが --------
「コ、コイズミっ !? あ、あなた、なんてことをしてくれたんですのっ !? 」
腹心中の腹心、もっとも信頼するに足る臣下のひとり、ロンギヌス・コイズミであった
のだから目も当てられない。破損した計器類の山の中から、
「も、申し訳ありません………アンゼロット様………」
と、痛恨の唸り声を上げるコイズミである。しばし唖然と、ネジやらバネやらと格闘し
ているコイズミを、口をぽかんと開けて凝視していたアンゼロットが、額に手を当てて
深い溜息をついた。
「被害状況の報告を………装置の復旧までにどれだけの時間がかかりますか ? 」
事態は一刻を争う。コイズミを叱り飛ばすのはいつでもできるのだから、とにかくでき
るだけ早急に事態の収拾に努めなければならない。
だが --------
「あらあら………だから振り落とされないように、と言いましたのに………」
あわただしさを増す司令室でさえ、不思議と通る囁き声。
コイズミの落下してきた虚空の黒い穴は、依然として開かれたまま。
足元からゆっくりと下降してくる優雅でたおやかな立ち姿は誰あろう、“秘密侯爵”
---- リオン=グンタであった。
「アンゼロット………臣下への叱責は無用です………貴女を止めに来たついでに、私
が無理矢理連れてきたのですから………ついでに言えば、転移装置の真上に突き落
としたのも私です………」
振り落とされたのではないではないですか、とコイズミが内心でツッコミを入れる。
だが、リオンの行為そのものよりも、彼女の言葉の中には幾つも気になるキーワード
が見え隠れしていた。
当然、アンゼロットもそれには気づいたようで、
「止めに来た……… ? 突き落としたですって……… ? それはつまり、わたくしの作
戦をわざと邪魔しに来た、といっているように聞こえるのですが……… ? 」
声音に含まれた剣呑な空気は爆発寸前。リオンの返答次第では、この場で共闘を
破棄し、非常時であるにもかかわらず、この二者間で戦闘を開始してしまいかねない
雰囲気が漂っていた。
「ええ………アンゼロット。私は、貴女がきっとそうするのではないかと思って、これを
止めに来ました………愚かで、無意味なこの作戦を………」
「なん………ですって……… ? 」
両者の間の空気が凍てついた。
最善と思われた策を邪魔された上に、それが愚かで無意味と決め付けられては、ア
ンゼロットもプライドを傷つけられたのに違いない。しかし、リオンはどこ吹く風。
自分を睨みつけるアンゼロットの視線を受け流しながら、ぱらり、とお馴染みの書物
の頁をめくり出す。
「不確定要素の多いこの戦い………それでも、この書物を紐解けばいくらかの真実を
示唆する記述を見つけることができます………」
かさりと、乾いた紙の擦れる音。
「………この局面において、シャドウをこの場に転移させることは無意味………いえ、
もはやそれは有害なだけの行為です………なぜなら」
リオンが言葉を切った。続いた台詞は、誰もが我が耳を疑うようなものである。
「なぜなら、もうシャドウはこの惑星と同化しつつあるからです」
衝撃が走る。
それが本当だとするならば、もし転移装置で強制移動を施せば ----
「ファー・ジ・アースごと、この異界へと転移されてくる、ということですか !? 」
絶望的な解答が唯一の正解である、とリオンは頷くことでそれを肯定した。
ファー・ジ・アースと影エリスを切り離すことができないだけではない。知らずに転移を
行っていたならば、エネルギー源をまるごと携えた影エリスは、“新しい補給源” を見つ
けて、喜び勇んでアンゼロット宮殿に攻撃を仕掛けてくるのは目に見えていた。
新しい補給源 ---- それはこの場にいるロンギヌス全員であり、もっと言えば、“世
界の守護者” ですらも捕食の対象となりうるということである。確かにそれでは、百害
あって一利なし。ただ悪戯に、敵の力を増大させてやる行為に過ぎないのだ。
「それならば………シャドウを倒すためには………」
思考を巡らせ、言葉を選ぶようにゆっくりと、アンゼロットは呟いた。
この戦いに勝利するための方程式とは。敵を打ち砕くためのルールとは。
それはいったいなんであるというのか ?
敵の能力、現在のこちらの戦力、ウィザード陣営が置かれた状況をひとつひとつ洗い
出す。この戦いに勝利するもうひとつの手段があるとすればそれは ----
さぁて、やるか。支援
「そんな無茶な………」
アンゼロットの口から、思わず漏れた言葉がそれだった。
敵を倒すためには、まず影エリスの身を護る影の盾を打ち破らなければならない。
しかし、生半可な攻撃ではその護りを崩すこともできない。よしんば、盾の一部を削
るほどの打撃を加えることができたとしても、生命の搾取と力への変換能力によって、
すぐさま損壊した盾は修復されてしまう。そうすれば、また罪もないイノセントや、この
星を護るために立ち上がったウィザードたちの命を無駄に搾取されることになる。
だから、この場合の勝利に必要な条件とは ----
すなわち、影の盾を一瞬で無効化し、その隙に影エリスを叩くこと ---- なのである。
具体的に言うならば、攻撃にも防御にもその力を変換できないように、彼女という巨
大な『器』の中に満たされた中身を “一瞬にして空にする” こと。
空になった器を満たすには当然時間がかかるから、その間に無力化された影エリス
を倒さねばならないということである。
「………さすがはアンゼロットですね………そう………それこそが彼女を倒す唯一の
方法………私も、そう考えます………」
アンゼロットの心の中を見透かしたように、リオンが言う。
一瞬、リオンが自分を馬鹿にしているのか、とアンゼロットは疑った。
いくらそれが唯一の勝利条件であることに気づいたとして、現実味のない絵空事で
は意味がない。実現できない方策に気づいたからといって、褒められるわけがないの
だ。だが、リオンの瞳は真剣そのもの ---- 真面目にこの『非現実的な作戦』の実行
を考えているようなのである。
「覚えていますか……… ? 大魔王ベール=ゼファーから、この戦いに勝利するため
の情報を、『思念送信』として私が受け取ったこと………」
「ええ。もっとも、せっかくベール=ゼファーが伝えてくれた敵の戦力も、予想以上の
成長を敵がしたために、ご破算になってしまいましたけど………」
リオンの台詞を受けて答えるアンゼロットの言葉に、大魔王ベール=ゼファーへの
嘲りはない。むしろ、宿敵であるベルが身命を賭して獲得した敵の情報を、自分たちが
十分に生かしきれなかったことへの悔恨、そして不思議なことに、せっかくの勝機をみ
すみす逃がしてしまったことで、ベルに申し訳ないという気持ちがかすかにあるのが、
奇妙といえば奇妙であった。
「………ウィザードの総攻撃によって敵戦力を削ぎ、その隙にシャドウを討つ………
これが、大魔王ベルの提案した作戦でした………ですが………」
《いい、リオン ? 時間がないから全部説明はできないけど、シャドウが私たちの予想
を超えて強力な存在になる可能性も否定はできないわ。もしそうなってしまったら、二
つだけ。二つだけ注意して》
《はい。大魔王ベル》
《ひとつ、アンゼロットが余計なことをしようとしたら止めてちょうだい。余計なこと、がな
にかの判断はアンタに任せるわ。せっぱつまると彼女、なんかやらかしそうだから》
初めて明かされる、ベルの思念送信の最後の部分。
握り拳を振るわせたアンゼロットが、ぐぬぬ、と歯噛みした。ベール=ゼファーに、少
しでも申し訳ないなどと思ったのは大間違いであった。やっぱり彼女は敵。敵以外の
何者でもない。まさか自分の与り知らぬところで、こっそりそんな陰口を叩いていたと
は。
《それともうひとつ、こっちのほうが大事よ。もしそういう局面に陥ったとしたら………
最終的には全部、柊蓮司と志宝エリスのふたりに状況を預けること………いい ? 》
《柊蓮司はともかくとして………志宝………エリス………ですか ? 》
さしものリオンが首を傾げる。
《ああ、もう時間がないから説明はナシっ ! でも、シャドウの今後の動きが私の予想
通りなら、シャドウの性格や考え方が私の思う通りなら、この戦いの勝敗の鍵を握る
のは、柊蓮司よりもむしろエリスちゃんなのっ !! ていうか、そういう仕掛けをしておく
つもりだから、後はよろしくね、リオンっ》
………これが、リオンの受け取った思念の最後の部分である。
「エリスさんが………鍵ですって……… ? 」
今度こそアンゼロットの顔が「 ? 」マークを形作った。
なんの力も持たないイノセントの少女。そんな彼女がこの戦いの行方を決する重要
な役割を果たすであろうという大魔王の言葉は、俄かには信じがたかった。
影の盾を一瞬にして無効化するだけの超弩級の一撃こそが、いまの我々に必要な
ものである。しかし、そこまでの攻撃力を誇るウィザードなど ---- いや、魔王の中に
だって、そんな強力な力を持つものは存在し得ないであろう。
唯一、アンゼロットが連想できたのは、かつての宝玉戦争の勝敗を決したエリスの
力 ---- すべてを貫くシャイマールの光。
ゲイザー=キリヒトの、あらゆる攻撃を防ぎきる『神の盾』すらも破壊した、あの力で
あった。
しかし、いまのエリスはただの少女だ。そんな力を期待できるはずもない。
「それが………大魔王ベルの伝言です………そして、もうひとつ………現在、ファー・
ジ・アース全土で展開している作戦の………路線変更を提案します………」
「わかっています」
リオンの言葉を遮って、アンゼロットがぴしゃりと言った。その表情は苦悩に満ち、自
らが導き出したこの結論に、心の底から懊悩していることが見て取れる。
「各地でシャドウと交戦中のウィザードたちに、攻撃を中止させること。被害に遭った
イノセントの救出と防衛にのみ徹し、柊さんたちが状況を打開する目処がつくまで、決
して攻撃行動は起こさないこと………そうじゃありませんか ? 」
この結論に達するまでのアンゼロットの苦悩がどれほどのものであったか。唇を噛み
しめ、俯き加減で。しかし、きっぱりとその指針を口にする。
消極的なようではあるが、影エリスの搾取行為をこれ以上エスカレートさせないため
にはこれしかなかった。一度、その巨大な器が満たされてしまえば、それ以上他者の
生命を奪い、捕食活動を行う必要はない。影エリスが攻撃行為を行わない限りは、そ
の力が消費されることはないのだから、ここで一時的に浸蝕は停止するはずだった。
下手にこちらから攻撃を続け、彼女に防御行動を取らせることこそが、影エリスのエ
ネルギーの消費を促進し、ひいてはこの星の生命を搾取し続けさせることになるのだ。
戦うこと。戦いを避けること。どちらを選択してもデメリットは避けられない。
だから、アンゼロットは「絶望的な死力戦」よりも「緩やかなる停滞」を選んだ。
この時間稼ぎが、柊蓮司と志宝エリスにとっての時間の猶予となるのであれば、そ
れを選択するしかなかった、と言える。
「………勇気ある決断だと………思います………」
リオンにしては珍しく、感情のこもった声音であった。
それは、あえてこの決断を下したアンゼロットに敬意を表しているようにも聞こえる。
司令室のモニターが映し出す映像は、いつしか赤羽神社境内へと切り替わっていた。
昏い虚空に屹立する影の塔。
魔剣を携えたまま、それを自らの手足だけで昇っていく若者の背中。
静かに脈動する闇色のオヴジェの最上部、禍々しきもうひとりの志宝エリスが恍惚
と天を仰ぐ姿。
「………いまは信じましょう………柊さんとエリスさんを………」
アンゼロットが静かに目を閉じ、リオンがスクリーンに視線を移す。
柊が最上部へと昇りきるまでは、わずか数メートルの距離を残すのみである。
この世界全土を巻き込んだ大きな戦いの結末が ---- その結末がどのようなものに
なるのであれ ---- 終焉へと突き進んでいることは、もはや誰の目にも明らかであった。
※
疲労などない。痛みもない。あるのはただ、進まなければ、という気持ちだけ。
影の塔を登り続ける柊は、ただの一度も攻撃を受けることなくここまで到達してきて
いる。やはり、いまの影エリスは柊のことなど眼中にないようだった。
つまり柊は、戦力を削られることもなく、まったくの無傷で敵本陣に乗り込むことがで
きるのだ。
撃つよ?支援
「よっ、こらせ………と」
年寄り臭い掛け声とともに、柊の手が最上部の地表に触れる。
手に触れた感触から、そこが平らな足場を形成していることがわかった。ここが、最
上部。おそらく、影エリスと自分の最終決戦の場になるステージであろう。
勢いをつけ、全身のバネを利用してひらりと身を躍らせる。軽やかに塔の最上部に
立った柊の眼前で、可愛い後輩と同じ姿をした世界の敵が、両手を大きく翼のように
拡げ、立ち尽くしていた。
背中には巨大な黒い影の羽根。褐色の肌。懐かしい、昔のエリスが身につけていた
ものと同じブレザー。身に纏った着衣こそ黒一色に浸蝕されていたが、紛うことなくそ
の姿は、志宝エリスと寸分違わぬものである。
その黒いエリスが ---- 超然と言い放った。
「なにをしに来たんですか、柊先輩………貴方にできることなんて、なにもありはしな
いのに………」
言葉のひとつひとつに、重厚な圧迫感があった。目に見えぬ圧力に押し潰されそう
になって、柊は身構える。一言でこれか。一声でこれほどか。力と威厳に満ちた存在
とは、かくもプレッシャーを周囲に与えるものか。だが、この程度で気圧されたまま黙り
こむ柊などではありえない。両手で魔剣の柄を握り締め、その切っ先をぴたりと影エリ
スに向けて。
「できることがねえ、なんて決め付けんなよ。いままで色んなヤツに似たようなこと言
われ続けてきたが、一度だって引いたことはないんだぜ」
不敵に笑う。なんの根拠の欠片もない底なしの自信。
それがある意味、柊の持つ武器の一つでもあった。
しかし、その自信を嘲笑うものこそが神の代理たる所以である。神の意志を継ぎ、神
の力を得、この星そのものを宿り木とする巨大なる存在の自負である。
影エリスは、柊の言葉を黙殺して横を向いた。
それが、戦線を離れた灯とエリスが駆けていった方角だと、柊は気づいただろうか。
「私………ちょっと忙しいんですよ……… “私” を………お仕置きしてあげなきゃいけ
ないんですから………」
その言葉が意味することに気づくのに、数瞬の間があった。
ハッ、と弾かれたように顔を上げ、柊は影エリスの視線の先を見る。
「まさか………てめえっ !! 」
ゆっくりと、右手を掲げる影エリス。なにかを引き戻すように手首を返す動作がそれ
に続いた。ごうっ、と地鳴りのような轟音を立て、なにかが凄まじい音を立てて近づい
てくる。それが、幾本もの紐状をした黒い影が、宙を飛んでくる音だということはすぐ知
れた。
そして、その黒い紐の先に ---- 四肢を絡め取られ、胴を幾重にも影で巻かれ、全
身虚脱してぐったりとなった小柄な人影が捉えられているのを、柊の目は見逃さなかっ
た。愕然と、声の限りに柊は叫ぶ。捕らわれた者の名を。影エリスの次の犠牲となる
者の名を。
「………っ、エリスーーーーーーーっ !! 」
闇色の触手が、柊の叫びと同時にエリスを手放した。
どさり。
華奢な肢体が、ちょうど影エリスの足元に放り投げられる。
ごろ、ごろり、と。二、三度、不恰好な形で横転したエリスの青い髪を、身をかがめた
影エリスが掴みあげた。乱暴に、顔を上向かせられると、エリスはうっすらと青い瞳を
開いた。かすかにぶれを生じた瞳が、ぼやけた輪郭の焦点を合わせようとしばし揺れ
動き ---- もっとも信頼する青年の映像を網膜上に結ぶと、一筋の涙を流す。
「柊………せんぱ………い………」
誰よりも、なによりも信じられる男の姿に安堵した、それゆえの涙であった。
柊が駆け出す。柊が吠える。
こんな戦いに巻き込まれた、可憐な少女を救うため。
「エリス、待ってろ ! いま助けてやるかんなっ !! 」
魔剣の構えは水平に。疾駆する力と勢いをすべて刃の上に乗せ。持てる力の限りを
込めた、文字通りの必殺の刃。
いまの柊が斬りつけるものは。
たとえ分厚い鋼であろうと両断されるだろう。
エミュレイターならば四散するであろう。
そして大魔王であっても瞬時に屠り去るであろう。
だが、影エリスはどうか。
この惑星の生命そのものを武器とする怪物ならばどうか。
渾身の力を込めたとはいえ、柊の刃は『星』をも断てるのか。
「影よ、砦となれ」
ぞぶり。ぞぶ、ぞぶ、ぞぶ、ぞぶっ !!
塔の最上部、黒い大地が盛り上がる。黒い泥にも似た隆起が湧き上がり、幾重もの
護りとなって影エリスと、倒れたエリスの周囲を取り囲んだ。
魔剣の軌跡を断ち、切っ先の勢いを殺し、柊のもたらす「滅び」そのものを弾き返す
鉄壁の護り。影が折り重なり、二人の少女の姿を覆い尽くす。半球状のドームを形成
し、内外の接触を完全に遮断する一種の結界 ---- エミュレイターの造るものを月匣
と呼ぶならば、さしずめこれは『影匣』とでも呼ぶべきものであった。
弾き返された魔剣から、激しい衝撃と共に両手へ痺れが広がっていく。
影の塔に新たに生み出された闇の結界 ---- その外壁に両の拳を叩きつけ、
「くそっ !! エリスっ ! エリスっ !! 」
少女の名前をひたすら呼ぶ柊の雄叫びが、暗雲立ちこめる空に空しく響き渡った。
二人の少女を飲み込んだ闇の結界は、沈黙を以って応えるのみである。
おそらく、この暗黒の空間の中で繰り広げられるのは二人の少女だけの戦いに違い
ない。
一方は、惑星の生命をも喰らい尽くす怪物で ----
もう一方はなんの力も持たないか弱き少女 ---- 。
戦いの結末は火を見るより明らかであろう。
「ちっくしょうっ !! 」
もう一度、拳を黒い影に叩きつけて、柊が怒声を上げる。
青い髪の少女の悲鳴が ------------
---- 聞こえたような気がした -------- 。
(続)
マーカーをセンターに。支援
心は鉄に。支援
終わってたorz
ごめん。いらなかったっすね。んじゃあ今から読んできまーす
数々の援護射撃に感謝しつつ。
予定では後、二、三回で完結できると思います。
クライマックスへ邁進しつつ、とりあえずの投下分終了です。
ではでは。
乙彼ー。
>188
クロススレから来た? 実はエロパロスレ、相当数の連投が許容されるので支援は要らなかったりする。
乙です。クライマックス燃え待ってます。
>>190 そーなんだ。勉強になった。こっちには最近きたもんで。
いやぁ、向こうで名物のようにさるさんくらう人がいるからそれくらい支援しないとマズいのかと思ったんだ。
改めて作家さんと住人のみんなには申し訳ないことをした。ごめん。
エリスの人乙
これから読ませてもらうぜ!
支援って今まで不思議だったけど連投制限回避のためだったのね
向こうは雑談板だから連投はスレに反するから規制される。
ココは投稿板だから連投して当然なので規制されない。
ところで俺は未だにこのあかりんのピンチに命が助けに来てくれると信じてるんだ(馬鹿は紅巫女の最終決戦のページを読みだした)
あと今回アンゼロットがしようとした作戦でシャドウと地球を切り離そうと考えたのは俺だけじゃないと信じてるw
蜜貴の絵はどう考えても履いてるように見えんなぁ
エリスの人、乙です。
後、アンゼが影エリスを呼び込もうとするあたりで、某クロススレを思い出しました。
向こうでは送り込んだリオンがこっちではさせない側ですか。
>>195 あれだ、見えないパンツを穿いてるんだろう。
お前ら、もっと常識的に考えろよっ。はいてないわけないだろ、きもいなっ。
常識的に考えて…前張りじゃね?
お前それ履いてないと=じゃないのかと小一時間(ry
常識的に考えたら下帯だろう。
和風に言うと――――――そう、褌だ。
スケベには見えない下着をはいてんだろ。
俺、スケベで良かった!
おかしい。
俺もスケベだけど、パンツ履いてない美女も美少女も美幼女も美熟女も、一人も会ってないぞ?
どこで呪文間違えたんだ?
呪文は間違えていない。
世界観を間違えたな。
ちゃんと特技で《スケベ》取ったか?口プロレスじゃどうにもならない事もあるんだぞ?
でもさ、パンツないパンツないというけど…
そもそもパンツ自体見えたら嬉しくね?
208 :
ぱんつ小ネタ:2008/09/29(月) 22:23:13 ID:JOV4X8gL
「……ああもう、何をやってるのよあの子は!」
怒りの中に若干どころではない焦りと戸惑いを含んだ口調で、“金色の魔王”ルー・サイファーが感情を露わにする。
自分の後に次ぐ実力者、裏界第二位の大魔王“蝿の女王”ベール・ゼファーが、
いつもの気まぐれで適当なダンジョンをぶらぶらしていたときに、思いもよらないハプニングに見舞われたのだ。
「仮にも現在の裏界帝国の支配者である立場で……。このようなみっともない痴態を……!」
ベルが見舞われたハプニング。それはダンジョンにおけるごく単純な部類に入るトラップ。
その名も『パンツ・テレポーター』!
そう、あろうことか裏界第二位の大魔王は、『パンツ・テレポーター』によって、
穿いていたぱんつをファー・ジ・アースのどこかに飛ばされてしまったのだ!
……ベルのぱんつが、愚にも付かない下劣な人間の手に落ちたりしたら……!
そう考えた瞬間、“最強の侵魔”の二つ名を誇る彼女は、己の力を如何なく発揮していた。
裏界全土を含む超☆巨大な魔方陣を展開! 裏界帝国の創始者の持つ力、全てを貫く破壊の光も裸足で逃げ出す、
一切の抵抗が不可、絶対的で圧倒的で暴力的で問答無用な魔力というか運命操作というか世界改変というか、とにかく凄いアレを振るい、
……木を隠すなら、森の中っっ……!
すぽーん!
裏界中の美少女魔王たちが穿いているぱんつを、ファー・ジ・アースにランダム転送してしまったのだった。
もちろん、彼女自身のモノを含めてだ。
そうして、裏界の魔王たちによるパンツ争奪戦が始まったのである。
…………つづく?
>>208 私の神は汝の為したきように続けろと仰っています。
というわけで(最早ツッコミ入れるのも面倒くさい)投下です。
雷火×正一の続きです。
以前までの物は保管庫をお読みください。
保管作業お疲れ様です。そしてありがとうございます。
ここからはクライマックス1です。
エロはほぼ無いです。全裸くらい?
ALFのルルブ持ってないので、ニンジャの技能解釈とかが
適当ですが、ご容赦ください。
また、例によって「これありえねーよ!」ってのが
あったら仰っていただければと思います。
では投下します。
「今、助けるっ!」
言うや否や、正一は全速力で疾走した。
「っ……!?」
女が雷火や彼自身に何かをしようとする暇すら与えず、一気に雷火の元へと辿り着き、
彼女の身体を抱きかかえるようにして、拘束していた闇のような黒い影を引き剥がす。
一瞬でそれを成し遂げた正一は、一飛びで女との間に距離をとる。
その動きに、そしてそれ以上に彼がここに現れたという事実に、雷火は唖然とした。
「正一、殿……?」
思わず漏らした言葉、彼の名前を呼ぶ声に、彼は笑みを見せた。
いつもと同じ、快活な笑みを。
「……無事か、服部?」
「え……ええ、それがしは何とも……あ」
「あ」
何とも無いと言おうとして、雷火は自らが裸身を晒したまま、お姫様抱っこのような
形で彼に抱かれている事に気付いた。
同時に、正一もその事実を今更意識してしまったらしく、互いの頬が赤く染まり、
視線が宙を彷徨う。
「と、とりあえず……お、降ろして、いただけますか、正一殿」
「あ、えっと、そうだな、うん……立てるか?」
「はい、大丈夫です。それがし、身体には特に問題はありません」
「じゃ、じゃあ、とりあえず、これ着といてくれ」
「あ……はい」
正一に、普段から彼が着ているパーカーを手渡された雷火は、一瞬それをジッと
見つめてから、袖を通した。こんな時だというのに、彼の温もりを残しているそれに
身を包むと、少し胸が高鳴った。
「……アレが、悪い奴か? 皆をこんな風にしてるの……アイツだな?」
だが、そんな想いに浸っている暇は、今はなかった。
目の前にいる悪い奴……敵を倒さねばならない。
「そうです。ですが……正一殿、貴方は……」
その前に、雷火には彼に聞きたい事が山ほどあった。
何故彼がここにいるのか。そして何故自分を助け出す事ができたのか。
普通の人間の身では、決して奈落に落ちた存在に抗する事はできない。
という事は、つまり――
「自分でもよくわかんねえけどさ……オレ、できると思うんだよ」
「え?」
「スゲー速く走れたりとか、お前ひょいっと抱えれたりとか、こういう状況でも全然
怖くないのとか、そういうのがなんでできんのかはさっぱりわかんねえ。だけどさ、
それでも……今のオレになら、こういう時に、お前を助ける事……できるよな?」
「……正一殿」
「約束したからな、何かあったら呼んでくれって。それで呼ばれて飛び出てきて、何も
できませんでしたー、じゃ、ちょっとカッコ悪いし。……手伝い、させてくれるか?」
「……はい」
「よし、さくっと皆助けて、いつもの学校、取り戻すぞ!」
「はいっ!」
――確認の問いは、発する必要を失くした。
彼は、戦う事ができる。その為の覚悟も……そして、その為の力にも、目覚めた。
――ならば、自分は彼を信じるまでだ。
違う形の、だが同じ方向を持った二つの決意をした二人の視線が、目前に立つ、
女の姿をした物へと向かう。
女は一瞬だけ、皮肉にも、というかべきか否か、狐につままれたような顔を見せた後、
声を挙げずに笑った。口唇の端を引き上げて、肩を震わせて。
だが、その顔に浮かんだ表情は、笑いに見合った物とは到底言い難いものだった。
一言で表すならば……嫉妬。
「……不意を打たれた故の不覚。二度はありません」
先程まで雷火を拘束していた黒い影は、女の周囲で渦巻いている。
「私には……もういない……もう逢えない。だから――」
女の声色が変わった。
「貴方達も……逢えなくしてあげるっ!」
それまでの冷たい殺意を含んだ物から――熱い、火傷しそうに熱い殺意を含んだ物へ。
今までの、絡め取る為の攻撃ではない、害意を持った、敵意を持った、殺す為の攻撃。
それが準備されている事を感じ取ったのだろう。正一は拳を強く握った。
「服部」
「はい」
「あいつ……どうやったら倒せる?」
「それがしの最大威力の攻撃が、二回当たれば。少々問題はありますが、二回打つ
事は可能です。外せない、というのは少々厳しくはありますが、何とかなるでしょう」
雷火の最大威力の攻撃。それは忍薬を飲み、身体能力を増強させてからの射刀術。
全長二メートルに達しようかという大剣を、精神集中によって発生させた斥力によって
打ち出す、とっておきの秘技とも言うべき攻撃方法。
それ一撃では、あの黒狐は滅ばなかった。二度当てれば、恐らくは――
「……問題?」
だが、正一は雷火の言葉に眉をひそめる。
「些細な問題です。あやつを倒すにあたっては、気にする必要はありません」
雷火は、表情を変える事なく、そう言いきった。その力強い言葉に、正一はそれ以上
問う事が出来なかったのか、違う事を訊いた。
「……じゃあ、オレがあいつに隙を作ればいいんだな?」
「はい……一撃目は、あやつはそれがしの事を忘れている様子ですので、当たるでしょう。
二撃目……その折に、お頼みします、正一殿」
雷火の視線の端に、無造作に放り捨てられているコントラバスケースが映る。
「……正一殿」
「……服部?」
正一の強く握られた手に、雷火の手が添えられる。
「勝ちましょう」
「……おお!」
二人の指が絡んで――
「死ねぇえええ!!」
――そして、離れる。
直後、女の両手から放たれる鬼火が、二人が数瞬前まで立っていた場所を焼く。
「おい、おばはん! お前の相手はオレだ!」
二手に別れた雷火と正一は、兼ねての作戦通りに動きを取る。
雷火は武装の詰まったコントラバスケースを取りに行き、正一はその動きを気取られぬ
ように注意を誘う。
果たして、挑発の言葉が効果を示したのか、それとも、正一を脅威と見なし、
一度は捕えた雷火を侮ったか、女は正一の方へと向き直り、両手から発生させた鬼火を
放とうとした。
「速攻召喚≪嘲笑うインプ≫!」
正一は、懐のカードケースに収められた一枚のカードから、一瞬で小悪魔を呼び出す。
呼び出された小悪魔は、女の眼前をひらひらと飛び回り、視界を遮った。
「ちょこざいなぁっ!」
意に介さないとばかりに、小悪魔を薙ぎ払いながら、女は鬼火を放つ。
だが、その僅かな照準のズレが仇となり、鬼火は正一の身体を捉えることはなく、
僅かに被った帽子の端を焼いただけに留まった。
「あ、あっぶねぇ!?」
「ちぃっ……ちょこまかと!」
女は、再び手に鬼火を生じさせ、走り回る正一を追う。
それこそが、二人の目論見である事も知らずに。
「もういっちょ速攻召喚≪嘲笑うインプ≫!」
彼は再び小悪魔を呼び出し、女の視界を遮るように飛び回らせる。
だが、女も同じ手は食わないとばかりに、小悪魔を一瞬で薙ぎ払った後、改めて
彼に狙いをつける。
「燃え尽きるがいいっ!!」
「げっ!?」
先程とは違う、正確無比な炎が彼を襲う。
「即時発動≪魔力障壁≫!」
まさに全身を炎が覆おうとしたその瞬間、炎を遮るように、カードから
発生した魔力による障壁が彼の身体を包む。だが――
「っ……ぐぅぅぅ!」
その障壁すらも、炎を全て防ぎきるには至らなかった。
まさに身を焦がされるような痛みに、正一は苦悶の声を漏らす。
「しぶといだけが取り柄のクズがっ……!」
一撃を耐えられた事を悟った女は、そう吐き捨て、最早純然たる殺意を帯びた瞳で
正一を睨みつける。その、常人であれば見つめられただけで息の根を止められそうな瞳を
正面から見つめ返し、正一は笑った。
「へへっ……こちとら、そうそうやられるわけにはいかねえんだよ……なあ、服部っ!」
「ぬっ? ぐごぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
声に振り返った女の臓腑――があるはずの場所、というのが正確か――を、長大な、
人が振うには不適という以外無い剣が、ごっそりと抉り取っていく。
女の視界に、印を結び、コントラバスケースからその大剣を放った雷火が映ったのは、
女が自らの身体を削り取られた事を気付いた、その後だった。
正一に着せられたパーカーは、大人の身体には丈が合わず、再び裸身を女の視線に
晒しているに等しい姿の雷火に、だが羞恥の念は無かった。まだ、それを感じている
場合ではないのだ。
「ぬ……ぬぅぅぅぅぅ……お、の、れぇぇええええええ!!」
最早、殺意を通り越し、女の瞳には狂気が宿り始めていた。
「もう一撃……正一殿っ!」
もう一撃を入れる事ができれば、恐らく倒す事ができるはず。
だが、狂気の中でも、警戒の意識を雷火にも向け始めた女に一撃を確実に当てるには、
正一による陽動が不可欠だ。
「………………」
だが、雷火に呼びかけられた正一は、固まっていた。
「……正一殿?」
どうして彼は固まっているのか。
「……すげー、きれいだ……」
答えに気付いた時、雷火の表情に羞恥が浮かんだ。
「しょ、正一殿、今はそ、それどころではないでしょう!?」
単純に、正一は見蕩れていた。雷火の、"今"とは比べるべくもなく成長した、均整の
取れた、それでいて出る所は出ている身体に。
戦いに関する覚悟はあっても、女性の、それもかなり美しいといえる女性の身体を、
もっと言えば裸身を、間近で見る覚悟はまだ正一にはなかった。健全なる十一歳の
男子としては、まあ仕方が無い所ではあるかもしれない。
「ぐがぁあああああああああああ!!」
「正一殿っっっ!?」
無論、そんな事情を"敵"が鑑みてくれるわけは、当然ながらなく、それは純然たる
隙以外の何物でもなかった。
呪詛にも似た苦悶の声と共に、全方位に向けて放たれた鬼火。それが放たれる事を
察知していた雷火は、ステップバックでかわした。
しかし、正一が炎の接近に気付いた時には、すでに手遅れだった。
「……っ!?」
障壁を展開する間も無く、彼の全身は炎に包まれ――
「正一殿ぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
――トサリと、小さな音を立てて、崩れ落ちた。
ここまで投下です。
>>208 ぱんつじゃないから(ry
続けてくださいお願いします
……今ほど、自分が本を読むのが好きであることを恨んだことはない……。
この世の全ての書物を所有しているという図書館魔王、“秘密侯爵”リオン・グンタは、そう思った。
“金色の魔王”ルー・サイファーが、問答無用でぱんつをファー・ジ・アースに転送するなどといった暴挙に出る、その三日前。
彼女は、実に自身の興味をそそる、一冊のユニークな本を発見していたのだった。
そしてこの三日間、彼女は一睡もせずに、夢中になってその本を読み続けていたのである。
まさに魔王の為せる技! だが、問題はそこにあった。
「……だって、着替えなんて、いつでもできると思ったんだもの……」
そう、彼女はこの三日間、ぱんつを穿き替えていないのだった!
さらに、彼女の読んでいた本は、健全な美少女魔王なら思わずそーいう気分になること間違いなしの、
濃厚なラブ・シーンが充実した内容であり……。
……あのようなぱんつを、人の手に渡させるわけにはいかない……!
普段の寡黙な彼女からは想像もつかない、なんかすごいオーラをその身から発しつつ、決意を固める。
このような事情……ぱんつの回収などという案件は、例えどれほど信頼に足る部下であろうと落とし子であろうと、頼むわけにはいかない。
人間界では他の魔王に連れ添って現れることが多いというこの魔王は、今回、たった一人で前線に立つことを選んだのだった。
「……普段の私なら、あらゆる秘密が記された書物の力で、ベルが『パンツ・テレポーター』に引っ掛かったことも、
その後の展開も予想できていたというのに……!」
後悔先に立たず。“秘密侯爵”は己の不注意を呪いながら、ファー・ジ・アースへと向かったのだった……。
とりあえず、問題なければ各魔王について書いていこうと思いまふ。
他の方が書かれる長編の合間にネタとして、息抜き感覚で読んでもらえたら幸い。よろしくお願いしまする。
あと、
>>212さんお疲れ様です。毎回楽しみにしています。続きも期待age♪
しかし、リオンの中の人はノリノリであった。
うう………
蛇の生殺しとはこのことか………
こんないいところで「引き」とは………(涙)
なんか、お姫様抱っことか、雷火が妙に「女の子」してていいなー。
続きを待ちつつ。
で、間隔ちょっと短めでしたが、少ししたら投下させていただきまーす。
そうか、あの男が混じるのだな。どういう反応をするのか楽しみでしょうがない
漆黒の大地、暗黒の壁。
そんな障壁に囲まれているはずのこの異空間の中で、なぜか志宝エリスは周囲を
知覚することができた。自分が倒れこんだ地面が黒いことが分かる。空は闇色の天
蓋に覆われ、夜の装いをしていることが理解できる。自分の手のひら、服の色、目に
写るものがすべて明確に見えた。視覚が正常に働くことで、現実感が急速に甦る。
最初に感じたのは痛みであった。
影エリスの黒い触手に、容赦なく身体を掴まれた激痛の名残りが、いまだあちこち
で疼いている。
「あう………いた………」
身体を起こし立ち上がろうとするが、膝に力が入らない。
無理矢理身体を引っ張ってこられた衝撃が、まだエリスの内部に澱のように沈殿し
ているようだ。灯と引き離され、赤羽神社境内に根の中心を張った影エリスの元へと
連れてこられたときは、意識がまだ朦朧としていた。しかし、あの聞き慣れた声。柊蓮
司が自分を呼ぶ声が響き渡った瞬間、エリスは覚醒したのだった。
「柊先輩………」
その名前を呼ぶだけで。エリスの中の不安が氷解していくようだった。こんな得体の
知れない場所に引きずりこまれて。救けるものもいない無窮の世界で。
ただ、柊蓮司の名前を唱えるだけで、心強く感じられる。これは、ウィザードの力を
失ったエリスが、たったひとつ使える魔法だ。いまに限ったことではなく、困ったときや
悲しいとき、不安なときや辛いことがあったとき、彼の名前を唱え、あの笑顔を思い浮
かべるだけで、エリスはどんなときも「いつもの明るく元気な」エリスに戻ることができ
るのだ。他人から見ればつまらないことかもしれないが、確かにそれはひとつの魔法
であり、ひとつの奇跡なのである。
「負けませんから………私………頑張ります、柊先輩………」
呪文のように言葉を繰り返す。
しかしそのとき、自分を奮い立たせるためのその呟きを、“自分自身の” 声が嘲った。
「あんな人の、どこがいいの……… ? 」
ハッ、と首だけ持ち上げて声のするほうを見る。
エリスをこの暗黒結界に引きずり込んできた張本人 ---- 影エリスの姿がそこには
あった。
自分を見つめる瞳の奥に、無限の憎悪が揺らめいている。そのどす黒い情念の揺ら
めきに思わずたじろいで、エリスはわずかに身を引いた。どうしたら、こんな暗い瞳で
人を見ることができるのか。いや、そもそも “どうして” 私はここまで憎まれているのだ
ろうか。エリスは、正体不明の悪寒に身を震わせた。
「あんな男に心を奪われて………あんな男のせいで……… “おじさま” を裏切ったの
ね………あなたのせいで………おじさまは………」
影エリスの血を吐くような憎悪の言葉に、エリスはようやく理解する。
この娘の言う『あんな男』というのはきっと柊蓮司のことで、『おじさま』と呼ぶ以上そ
れはキリヒト以外にはありえなかった。
この娘は誰よりも“おじさま”に心酔している。きっと、足長おじさんに憧れにも似た気
持ちを抱いていた、あのころの自分よりも。宝玉戦争という試練を経て、エリスはキリヒ
トの仕掛けた『おじさまの呪縛』から解き放たれたが、彼女はいまだにその影響下にあ
るのだろう。いや、キリヒトが何者で、なんのためにエリスたちを造り、なにを目指してい
たのかを知った上でキリヒトを信奉しているというのなら ---- 彼女の心に抱いたおじ
さまへの気持ちは、敬愛とか信頼とか、そんなものからは逸脱している。
つまりそれは ---- 妄信。むしろ、狂信と呼ぶべきものかもしれない。
だけど、それはひどく歪んだ愛情ではないだろうか。
この世界に絶望したキリヒトの粛清の意志。それを継ぐことで、彼女は “おじさま” へ
の親愛を証明しようとしている。すべてを滅ぼし、あらゆる生命を搾取することでしかそ
れを証明できないとするならば ---- それはやはり間違っているはずだ。
「お願い………私の話を聞いて欲しいの………」
エリスは正面から、もうひとりの自分に向き合った。誰かを苦しめ、犠牲にすることで
手に入れるものがどれだけ悲しいものなのか。それを、どうしても眼前の少女に理解し
てほしかったから。しかし ---- 。
「いまさらどんな言い訳をするつもりなの。せっかく造ってもらったのに。生命を貰ったの
に。生きる意味も力も全部。なにもかも、おじさまに貰っておいて。おじさまに、あんなに
愛してもらって。でも、全部裏切ったじゃない。あなたは、そうしておいて、おじさまを裏
切ったじゃない。そんなあなたが、いまさらなにを言うのよ」
影エリスは言下に拒絶する。
尽きることない憎悪を引きずって、絶えることない絶望に身を焦がし。
ついに力を手に入れて、愛する人の望む自分になれたことに狂喜するこの少女は。
この世界を喰らい尽くすことでキリヒト ---- おじさまへの愛を証明することに、すべ
てを捧げつくしているのだ。だからエリスの言葉は耳に届かない。どんな理屈も通用
しない。
狂気には狂気の持つ力があり。
狂人には狂人の理論がある。
それを体得した影エリスは人知を超えた力を持ち、それを知ったエリスは、狂気とい
うものの恐ろしさを理解する ---- その身をもって、思い知らされる。
影エリスの背中から、六枚の黒い羽根が消え去る。その身体を覆っていた黒々とし
た瘴気が薄れていく。闇色に染まったブレザーが次第に色を失い、急速に白くなって
いった。見守るエリスの眼前で、影エリスの姿から闇の力がみるみるうちに失われて
いき、ついにはただひとりの ---- ただの褐色の肌の少女へと変貌を遂げる。
「………え……… ? 」
いぶかしむエリスの、横たえられた身体の側に膝をつく影エリス。
「言ったでしょ ? 私自身の、私だけの手であなたを叩きのめす………って。影の力
になんて頼らないわよ。おじさまからせっかく貰った力を失くしたあなたなんかに、大事
な私の力なんて使ってやらない」
影エリスがのしかかる。脱力したエリスの両手首を掴むと、その身体を黒い大地に仰
向けに倒した。己が身に降りかかる災厄の正体が分からず、エリスは不安に打ち震え
る。なにが起こるのか。なにをされるのだろうか。目を見開いて、至近距離で自分をね
めつける褐色の少女を、わななきながらただ見つめる。
エリスの上に ---- 影が ---- 力によって産み出されたものではなく、影エリス自身
のただの影が覆いかぶさる。近づく。近づいてくる。エリスの頬を両手で挟み、無理矢
理固定して。
影エリスが ---- 不安と恐怖に震えるエリスの唇を ---- 力ずくで奪った。
舌を伸ばし、口腔内を舐めつくす。歯の表裏、舌、歯茎、ありとあらゆる箇所を。
自分の唾液を注ぎ込み、エリスに嚥下させる。とろとろと、いくらでも分泌される唾液
を、流し込む。与えてやるその代わりに、エリスの口の中に充満する彼女自身の唾液
は、一滴たりとも残さずすくいとり、飲み干してやる。くちゅくちゅと水音を立てる二人の
唇の合間から、エリスの呻きが漏れ、また影エリスの荒い呼吸が漏れた。
「んぷっ………ぶぷぅっ………んむっ、んむむっ……… !? 」
休むことを許さぬ激しい接吻。濃密で、濃厚な口づけ。いや、口づけなどという生易し
いものではない。それは、少女の唇を蹂躙する行為である。そして、汚れを知らぬエリ
スを、唇から貶める行為であった。
密着しあった唇の端から、唾液の泡がぷくぷくと溢れ出しお互いの頬を濡らす。
影エリスが、零れるそれをも惜しむように吸い上げ、エリスの口の周りにぬるぬると
なすりつける。
「ぷあ、ん………や………なにを………ぶむっ………いや………やめ………」
言葉が言葉にならない。発せられる拒絶の言葉は唇で塞がれ、くちゅくちゅという淫
らな音がそれに取って代わった。舐める。吸う。味わう。味わいつくす。存分に、飽くこ
となく。エリスの瞳が涙を浮かべる。汚された悲しみか、蹂躙されることへの恐怖か。
うっすらと目尻を濡らすものが、次第に膨れ上がり、ついには零れ出した。
どれだけの間、唇を重ねていただろう。
ようやく、影エリスが組み伏した少女から顔を上げたとき ----
エリスの身体は虚脱しきって弛緩し、小刻みに震えることしかできなかった。
ようやく不自由さから解き放たれた呼吸。酸素を貪欲に求めて、エリスは大きく口を
開け、ぜえぜえと咳き込むように息をつく。
「どうして………こんな………」
嗚咽混じりの問いかけ。自分と同じ顔の少女に口を犯されたという異常な状況に、頭
はひどく混乱している。背徳的で、しかも淫靡。ただ肌の色が違うだけの自分の分身は、
そんな問いを発するエリスを哀れむように見下ろした。その瞳に、サディスティックな欲
望が浮かんでいることに、エリスは気づかない。
「影の力を使わないで、どうやったらあなたを壊せるか………って考えたのよ。いい考
えだと思うわ、我ながら………どうせなら、私も愉しいほうがいいし………」
聞くだに怖気立つ物言いを、影エリスはした。
「それにどうせなら………あなただって愉しく壊れたいでしょっ !? 気持ちよく狂いたい
でしょうっ !? 」
これだけはエリスと同じ青い瞳に、突如として情欲の炎が揺らめいた。
二人分の唾液に濡れた唇を、狂おしいほどの嗤いの形に崩し、歪めながら。
哄笑と絶叫とが混じり合った声音で、エリスの破壊を宣言するその様は、すでに正常
さを欠いている。ぶわっ ---- と。エリスの全身の毛穴から、嫌な汗が噴き出した。
怖い。この娘はきっと、もう見境というものを失くしてしまっている。
「い………やあぁぁぁぁーーーーーっ !! 」
恐怖が、エリスの身体を突き動かした。のしかかる身体を押しのけようと、手足を滅茶
苦茶にばたつかせる。なんの考えもなく振り回した右手が影エリスの頬に当たり、折り
曲げた膝が相手の腰をしたたかに打った。ぐう、と影エリスが痛みに呻く。
思わず、ハッとするエリス。
彼女の言葉通り、影エリスがその鎧をかなぐり捨てているのは本当のようである。
なんの力も持たないイノセントの手足が当たっただけであるはずなのに、痛みを感じ
ているのがその証拠だ。しかし ---- 影エリスに痛みを与えたことが、最後の引き金と
なった。
「が………ああああああぁぁぁぁーーーーーっ !! 」
少女の姿には似つかわしくない、獣のような咆哮をあげる影エリス。
右手を拳の形で握り、思い切り振り上げ。
いま、エリスがなんの意図もなく結果として殴りつけただけなのに対して、こちらが明
確な意志をもって振り下ろしたのは ---- 無防備なエリスのみぞおちである。
どすん、と重たい衝撃。腹部に拳がめりこみ、胃を押し潰す。
「こ………か………おふっ………」
口の中に苦いものが広がる。目の前に白い閃光が弾け、また真っ暗な闇が帳を降
ろした。瞳にちかちかと火花が散り、小さな星が幾つも瞬く。呼吸が止まる。嘔吐感に
身をよじる。じわりと、額を脂汗が濡らした。
まるで轢き潰された虫のように ---- エリスは痙攣する。
「………暴れないでよ。往生際の悪い」
一瞬の怒りはすぐ醒めたのか。影エリスの顔からはすでに激情は消え去っていた。
いや ---- そうではない。
激情が消えた代わりに ---- 狂気が舞い戻っただけだった。
「エリス」
愛しいものの名を呼ぶように甘く囁く。その甘さは、しかし蠱毒の甘美さである。
「この結界の中は私とあなた、ふたりだけ。永遠にふたりだけ。時間なんていくらでも
あるわ。何時間でも、何日でも、何ヶ月でも………あなたをいたぶってあげられる。あ
なたに、償わせてあげるわ。おじさまを裏切った罪を………犯して、嬲って、身体も心
も壊して、徹底的に贖わせてあげる」
ふたたび、全体重をかけてのしかかる。重なり合う、白と黒のエリス。
「簡単に終わらせてなんか、あげないわ………狂うまで、やめない。狂っても、やめて
あげない。死ぬまで………いいえ、たとえ死んでも………私の腕の中で、悶え狂わせ
てあげる………」
影エリスが、まだ治まらぬ腹部の痛みに顔をしかめるエリスの耳元に囁いた。
前歯で、エリスの耳朶を優しく噛みながら。
左手が、輝明学園の制服の裾を割って忍び込む。
右手が、エリスのスカートを捲り上げた。
「ひっ……………… !? 」
喉の奥から、か細い悲鳴を漏らし。続けて、エリスは ----
「ひぃあああぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ !? 」
今度こそ、被虐と絶望の叫びを上げた -------- 。
※
堅固なる闇の牢獄。二人の少女を飲み込み、完全に沈黙した暗黒のドーム。
影エリスが展開した結界の前で立ち尽くしながら、柊蓮司はいま見たばかりの映像
を反芻する。弱々しく倒れ伏し、儚げにくず折れたエリス。自分の呼びかけに懸命に答
えるように、涙を浮かべた青い瞳をこちらに向けてくれた大事な後輩。
涙をこぼしながらも、あのときエリスは自分に笑いかけたのではないか。
不安と恐れに苛まれながらも気丈に堪えていたものが、自分の姿を見て安堵し、堰
を切ったように涙となって溢れ出したのではないか。
それは、エリスが柊のことを信じているから。
救いの手を差し伸べてくれると信じているからではなかったか。
「それじゃあ………いまの俺はいったいなんなんだよっ !? 」
あんなに側にいたのに。数歩踏み出して手を伸ばせば届く距離にいたというのに。
むざむざと敵の手にエリスを捕らわれ、呆然と立ち尽くし、結界を破る術も見つからず
に打つ手を見失っている自分はなんだというのか。
眼前の黒い半球体は、空恐ろしいほどに微動だにしない。
手に触れればそれは、闇であるからこそ冷たく、夜のように得体も知れず。
ただ外敵を頑なに拒む強固さで以って、柊の叩きつけた拳を無情にも跳ね返す。
だがしかし。
「助けるって言ったもんな。エリス」
柊が魔剣を振り上げた。
ゆっくりと、利き手で握りなおし。添えたもう一方の手でそれを補う。
柊の全身を、淡い金色の輝きが皮膜のように覆い、より多くの力を収束し始めた。
金色の光はプラーナの輝き。この結界を砕き、捕らわれたエリスの元へ向かうため、
いまここですべての生命を燃やし尽くしても足りないぐらいの存在の力をかき集める。
腕を伝い、柄を通り、魔剣の刀身に集められた生命の躍動。
眩く輝くそれを、振り下ろさんとしたまさにそのとき ----
「お待ちなさい、柊さん」
鋭い制止の声が大気を震わせた。
思わず柊が動きを止めてしまうほどの声の主は ---- アンゼロット。
振り返るとそこには、虚空を切り取るように浮かんだ四角の画面。空中から柊を見下
ろす巨大なスクリーンだった。背景の景色を見れば、そこがアンゼロット宮殿内にしつ
らえられた司令室であることがわかる。高い背もたれの指令席に鎮座する様子は、世
界の守護者の名に恥じぬ威厳に満ち満ちて、こちらへ向けられた厳しい視線に、柊が
たじろぐほどだ。腰掛けるアンゼロットの横には ---- 意外なことだが ---- リオン=
グンタがひっそりと立ち尽くす。これもまた、大変稀有な映像であるといえた。
「なんだよ、この忙しいときにっ !? いま、取り込んでんだから後にしてくれっ !! 」
ぶん、と左手を真一文字に薙ぎ。柊は余計な茶々を入れてきたアンゼロットを怒鳴り
つけた。いままでの経験で大体わかる。こういうタイミングでアンゼロットが登場すると
きは、たいてい柊にとってろくでもない話を持ちかけてくるときなのだ。
「後にする、というわけにはいきません。柊さん。その結界を攻撃することは、少し待っ
ていただけませんか」
「なにっ !? 」
ほら見たことか。柊は思う。
俺の勘は当たるんだ。こういうときにアンゼロットが口を挟んでくると、決まって俺の
やることなすことにケチがつく。だからって、いまコイツはなにを言いやがった !? この
結界を破壊するのを待てだって !? この中にはエリスが捕らわれているんだ。シャドウ
に捕らわれて、あの強大な敵と二人きりで心細い想いをしているんだ。いや、そんなこ
とよりも ---- シャドウに捕らわれたエリスの身の危険を看過ごせるか !?
「シャドウは ---- すでにこの惑星、すなわちファー・ジ・アース全土に根を張っていま
す。すなわち、この星に生きるものすべてが、敵の力の源なのです。いま、ここで中途
半端な攻撃を加えるということは、捕らわれた世界の人々の生命を危険にさらすことに
他なりません」
再び口を開きかけた柊の機先を制するように、アンゼロットがぴしゃりと言う。
絶句する柊。
影の結界を傷つけることはできても、それを修復するシャドウの行動を止めることが
できない限り、無限のエネルギー源からいくらでも影は補充される。そして、その補給
源は言うまでもなく、この惑星に存在する全ての生命なのだ。
「だからってこのまま指をくわえて黙ってろっていうのかよっ !? 」
わかっている。柊にだってわかっているのだ。いま、自分が叫ぶ言葉が駄々をこねて
いるだけなのだということは。続くアンゼロットの言葉が、柊に追い討ちをかけた。
「はい。指をくわえて黙っていてください。柊さんが、ただの一撃でその影の結界を破壊
できるというのなら、話は別ですが」
残酷なまでの指摘の言葉。
しかしそれが、アンゼロットが柊の力を侮って言った台詞ではないことは明白だ。
いったい、この世界のどこにシャドウの影結界をただの一撃で葬り去ることのできる
ウィザードがいるというのだ。柊でなくても、そんなことのできるものなど存在し得ない
だろう。しかし、それがこの戦いを勝利に導くための方程式なのだから皮肉なものだ。
アンゼロットの痛烈な言葉の裏に隠された苦渋に気づいて、柊も声を失う。
この決断は ---- アンゼロットも身を切る想いで下した決断なのだ。
シャドウの誇る『影の盾』を瞬時に無効化できるルール。
それが、いったいなんなのか。それはアンゼロットにも見当がつかない。
ただ、待つ。リオンが言った、大魔王ベール=ゼファーの伝言を信じて。
すなわち ---- 『柊蓮司と志宝エリスにすべてを託せ』。
いまは、柊の出番がまだ少し先であるというだけの話なのであろう。
「くそっ !! わかってんだ、わかってんだよ、そんなことは !! だけど、だけどよっ !! 」
地を踏みしめる。やり場のない焦燥に身を焦がしながら。
そのたぎる想いを冷ますように、リオンの声がどこか優しげに語りかけた。
「………柊蓮司………この局面は、“待機” のとき………大魔王ベルは、この戦いが
私たちの勝利に終わると ---- 私の書物にも書かれていない未来を予見しています
………あなたと、志宝エリスが戦いの勝敗を決める “鍵” である、と………」
俯きながらリオンの言葉を聞く柊。
「………大魔王ベルの予言を………私は信用しますよ………そして、おそらく………
いまは、あなたが剣を振るうときではないのです………そのときが訪れるまでは、志
宝エリスが戦いの主役………そう、きっといま、彼女はその暗黒の結界の中で戦って
いる………」
エリスが戦っている、だって !?
「………志宝エリスがあなたを信じたように………いまはあなたが彼女を信じてあげ
るとき………そうなのではありませんか……… ? 」
ゆっくりと。ひどくゆっくりと、柊は地に落としていた視線を上げて、 “秘密侯爵” の姿
を見る。知らず知らず、その口元には苦笑いが浮かんでいた。まさか、裏界の魔王に
『仲間を信じろ』と諭されるなんてな ---- そのことが、なんとなく可笑しくて。
柊の表情から、焦りの色がいつの間にか消えていた。
怒りも、絶望も、己の力が及ばぬ悔しさも、その顔にはすでに浮かんではいない。
次に自分が為すべきことを想い定めた、そんなすっきりとした顔をしているのだ。
「柊さん……… ? 」
やけに清々しい顔の柊に、そこはかとない不安を感じたのだろうか。アンゼロットが
密やかに呼びかけた。
「アンゼロット。やっぱ、なにもしないなんて俺の性には合わねえ」
にかっ、と笑う。するべき次の仕事を見つけた ---- そんな笑顔だった。
くるり、ときびすを返し。黒いドームに両の掌をぴたりと当てる。
「柊さんっ !? なにを……… !? 」
アンゼロットが慌てて席から腰を浮かせる。この、いつだってわたくしの言うことをき
かない魔剣使いの若者が、次になにをしでかすのか。それを恐れてのことであった。
その横で、リオンはただただ微笑んでいる。ぽそり、とかすかに動いた唇は、「そうき
ましたか………」と、確かに言っていた。リオンにしては珍しく、どこかひどく楽しげに見
える。
「エリスーーーーーーーーーーーっ !! 」
馬鹿でかい叫び声を、柊は上げた。
突然の、割鐘のように響く雄叫びに、スクリーンの向こうのアンゼロットとリオンが、
思わず人差し指を耳に突っ込むほどの大音声である。
「んなっ……… !? 」
一瞬、柊の正気を疑ったアンゼロットであったが、すぐさまその表情に淡い優しげな
微笑が拡がっていく。
柊さん ---- 貴方という人は ---- 。
「エリスーーーっ !! 頑張れよーーーっ !! エリスーーーっ !! エリスーーーっ !! 」
人の声など通さぬはずの暗黒結界に向かって柊は叫ぶ。一切の干渉を拒むシャドウ
の砦に届く声などありはしないのに。黒い壁に両手を当て、柊はただただ叫び続ける
のだ。この中で孤独な戦いを続けているという、なんの力も持たない少女にエールを
送る。張り上げた声が喉を傷つけても、血反吐を吐いても、きっと柊は叫び続けるので
あろう。届かない声を届かせようというのだ。それくらいの犠牲はしょうがねえ ----
柊はそう信じて叫ぶのだ。
虚空に響き渡る応援は、エリスの耳には届かないだろう。
だがそれでいい。これが俺の、いま俺にできる戦いだ。見てろよ、シャドウ。
エリスがきっと、お前に痛烈な一打を喰らわせるからな。いまはただ、喚いているだけ
だが、そのときこそ俺の本領発揮だ。
だから。
「………だから、エリス、頑張れーーーーーーーっ !! 」
柊の声が、垂れ込めた暗雲を振り払うように木霊した ---- 。
※
時間の経過がたぶん違う。この黒々とした結界の闇は、おそらく時間と空間をも捻じ
曲げる超重力の暗黒なのだ。
きっとそう。そうでなければ、説明がつかない。
ぼんやりと、エリスはそんなことを考えた。
もうどれだけ、私はこんなことをされ続けているんだろう。
もうどれだけ、私はいままでに上げたこともない悲鳴を上げ続けているんだろう。
もうどれだけ、私は ---- 。
さわさわと響く衣擦れの音。
舌を鳴らす音、荒い呼吸、もはやどちらが上げているのかわからない悩ましげな喘ぎ
声が継続的に沸き起こる。ぴちゃぴちゃと鳴り続ける水音の源は、口であり、舌先であ
り、自分と同じ顔をした少女が忍ばせた指で、はしたなく開かれた両脚の間を絶え間な
く弄ぶ音だった。
身に纏った着衣を脱ぎ捨てる暇を惜しむように、影エリスは服の上から、裾の間から
エリスを嬲り続けた。仰向けに寝かせた身体の上に覆い被さったまま、唇は唇を吸い、
舌は頬を舐め、前歯で耳朶を甘く噛んだかと思えば、熱い吐息を吹きかける。
輝明学園の制服は着崩れ、紺色の生地の下ではなにか別の生き物のように、影エ
リスの左手が蠢いている。臍の周りを爪でくすぐり、脇腹を指先で撫で回し、二つの膨
らみを交互に揉みしだく。すでに丹念な愛撫を経て、ブラジャーの下のエリスの乳首も
痛いほどに固く尖らされている。その突起を指先でこねくり回し、押し潰し、何度も何度
も引っ張り上げる影エリスの愛撫は、信じられないくらい巧みであった。
「あんうぅっ ! ふぅ、んん、くっ、うあふぅぅぅーーーっ ! 」
襲い来る快楽に耐え切れず、エリスが甘い悶え声を漏らす。
与えられる刺激のすべてが快楽に直結していた。軽く曲げられた膝の間では、残る
影エリスの右手が勤勉に動き、少女の一番敏感な部分を昂ぶらせていく。
純白の、清潔だったはずの下着のちょうど中心部が、しつこく擦りあげられて。
布地の奥に隠された割れ目のすじに沿って、指が幾十回もの上下運動を繰り返す。
「どう ? 気持ちいいでしょう ? あなたの気持ちいいところは全部わかるの。だって、
あなたは私なんだもの。私が、おじさまに教えてもらった、私の気持ちいいところはぜ
んぶ、あなただって気持ちいいところのはずよ。だから、あなたはこんなにも感じてる
の。もう、どれくらい果てたのかしら ? 」
エリスの耳元に唇を寄せ、辱めることを目的とした囁きが繰り返される。
確かに、その言葉の通り。
結界の内外では時間の流れがまるで異なっているようで、ここに閉じ込められてか
らの実時間は数分足らずだというのに、エリスはもう “何時間も” この責め苦に身悶
えている。理性は麻痺し、思考は断絶させられ、虚ろな心身が受容するのは狂おしい
までの快楽のみ。影エリスは的確に、確実に急所を責め続けることで、エリスの心身を
着々と蝕んでいた。
「うあっ、はうっ、ん、くぅんっ、あ、や、また、もう、わたし、あ、あ、だめ、だめ」
青い瞳に涙を浮かべ、エリスが身体をがくがくと痙攣させた。昇りつめる。強制的に
甘美な毒を流し込まれていく。下着の中で水音が激しさと卑猥さを増していき、切なさ
と絶え難い快感にぴたりと膝がとじられた。動き続ける影エリスの右腕を強く挟みこみ、
ぎゅっ、と唇が噛み締められる。
そしてエリスの中でなにかが大きく弾け ---- 。
「やっ、あーーーーっ !? ひやっ !? ひぃあうぅあーーーーーーっ !? 」
それはもはや断末魔の叫びに近かった。だが、この末期の悲鳴のなんと甘く、扇情
的なことだろう。全身の性感帯を知り尽くされた挙句の強制愛撫は、かつてエリスの
知っていたどんな感覚ともかけ離れた絶頂感に、彼女を容赦なく導いていく。
「あは。二十回目」
影エリスが愉しげに嗤う。度重なる強烈な絶頂を味わわされたエリスの肢体は、吊り
上げられて陸に揚げられた魚のように、びくびくと跳ね回った。
涙が。唾液が。汗が。愛液が。
体液という体液がとろとろと流れ出す。
虚ろな瞳が焦点を失い、小刻みにぶれている。半開きの唇からは小さな赤い舌が突
き出し、言葉にならない不明瞭な呟きを漏らしていた。エリスの股間に埋められていた
右手を、影エリスが勢い良く振り上げる。
びしゃあっ !!
その手を濡らした蜜液が、振り払われて飛沫を上げた音だった。
水を切った勢いそのままに、影エリスの手が再び濡れそぼった秘所に襲い掛かる。
親指を、下着の上からでもわかるくらいに、ぷっくりと膨れてしまっている陰核にあて
がい。とろけ、ほぐれ始めた陰唇を人差し指と中指でなぞる。ぐしゅぐしゅと乱暴にしご
いているように見えて、その手淫の技はあくまでも繊細。ただ、擦る速度だけが異常
に速い。
「きゃあぁあああああああーーーーーーっ !? 」
エリスの腰が浮き、股間を天に突き出すような姿勢になった。感度を極限まで高めら
れた上でオルガスムを迎え、その熱が冷めやらぬうちにどろどろに溶かされた秘所を
立て続けに嬲られる。いくら果てても終わりのこないエクスタシーのループ。
「やめ、や、こわれ、あ、も、やぁ、あ、だめ、し、ぬぅ、しん、じゃ、うぅぅっ !! 」
声の限りにエリスは叫ぶ。脳髄が快楽に灼き切られ、網膜で光が明滅を繰り返す。
体感時間にして数時間もの責め苦は、エリスの精神を限界にまで追いやろうとして
いた。なにをすればエリスが感じ、どこを刺激すればエリスが悶え狂うか。それを熟知
したものに責め続けられれば、最後には本当に気が触れてしまうかもしれなかった。
「ど、して、こんな、あ、やはっ、ど、うし、てぇ……… !! 」
泣きながら問う。問いかけながら泣きじゃくる。理不尽な辱めに身悶えながら、エリス
は眼前で淫蕩な身を浮かべる自らの姿に向き合った。
「どうして、ですって……… !? 」
影エリスの顔が ---- 怒りに歪む。
しかし、その怒りの表情がどこか、ひどく悲しげなもののようにエリスは思った。
激情に支配された憤怒の仮面。ともすれば、それはなにかの拍子に泣き顔に変じて
しまうような危うさがある ---- 失いかけた意識の隅で、エリスはそれに気がついた。
絶望が深すぎて。悲しみが深すぎて。怒りが深すぎて。
人は狂気に陥ることもあるのだ、と。
「おじさまに愛されていたくせに ! おじさまがあんなに大事に思っていたのに ! おじ
さまが『エリス』って呼ぶときはいつもあなたのことだった ! 私よりも優秀だって ! 私
よりも役に立つって ! 私はおじさまの望むことをあなたよりも知っていた ! あなたより
も理解していた ! おじさまの絶望も、悲しみも、みんなみんな、誰よりも理解していた
のよ ! 私だけが理解していたの ! 」
影エリスの真実の声であった。
おじさま ---- キリヒトの絶望は、世界への絶望だった。
人間の愚かさ。人間の醜さ。人間の弱さ。そんなものすべてに、キリヒトは絶望した。
だから、エリスという器を造り。この世界すべてを無に帰す存在、裏界でただひとりの
皇帝を名乗るもの、シャイマール転生の道具として造り上げたのだ。
一度、この世界は滅びなければならない。
滅び、そして再生されなければならない。
もう、二度と過ちを犯さないように。すべてをリセットして、一からやり直せるように。
そうやって、新たに生み出された新世界こそが、自分が見守るに値する素晴らしき
世界なのだ、と。
影エリスとは ---- キリヒトを愛しすぎたゆえ、その絶望に同調してしまった、もうひと
りの自分なのである。かつて、憧れの足長おじさんとして『おじさま』に憧れていたエリス
には、彼女の気持ちがなんとなく理解できた。あの時の自分の、感情の極北。それこそ
が、影エリスの根幹を成すものなのである。
「でも、いまは違う ! 私のほうが上 ! 私の力でこの世界を飲み込んでやるわ ! お
じさまの理想、おじさまの望み、私が、私が叶えるのよっ !! 」
「………そ、んな、そんなこと………」
違う。違う。それは違う。
そんなことで救われるものなどなにもない。決して止まらぬ影エリスの責めに、全身を
汗で濡らしながら、それでも遠のきそうになる意識をしっかりと捕まえて、エリスはしっか
りと狂気の具現者を睨みつける。ここで屈してはいけない。ここで諦めてはいけない。
エリスは、震える手を伸ばす。
服の隙間から侵入し、エリスの柔肌を苛むその左手を掴み。
スカートをはだけて蠢く右手をはしっと捕らえ。
「なにを無駄な………っ !? 」
影エリスの嘲り笑いが凍りつく。無力なはずのエリスの両手。力強さとはいっそ無縁
な細い指が ---- どうしてほどけない !?
「は、放しなさいっ ! は、放せえっ !? 」
「………放しません………絶対に、放さないっ !! 」
もがき、絡み合う二人のエリス。
脆弱な、ひ弱な、エリスの手指は ---- いまや、しっかりと影エリスを捕らえている。
影エリスは、狼狽していた。
ゲイザーの後継者、この惑星に生きるすべての生命を喰らうもの、そして生命を力
へと変換するもの。限りない暴食の象徴であり、浸蝕するものであり、その自在に操
る能力ゆえに “完全なる無限循環者” と成り遂せた絶対存在。
その絶対者が、狼狽していた。
影エリスは知らなかった。そう、キリヒトと同様に知らなかった。人間の持つ力が時と
して、魔や神の、その予測を超える成果へと到達することを。
そして、エリスは到達しようとしている。
この世界を護りたいという想い。この星に生きる生命を慈しむ優しさ。
それが、絶対者をもたじろがせる、エリスの力の源となっていた。
盃に大海の水は注げない。
それは赤子にも自明な理であろう。
広大無辺にも思われる潮の流れるさまを見て、手の内に捧げ持ったたったひとかけ
の盃が、それを満たして余るなどとは、所詮狂人の語る戯言に過ぎない。
されど ---- 。
それを妄言と嘲笑するものこそ、『人間』を侮ることなかれ。
常軌を逸した力をもって、不可能事を可能にするのが『人間』だ。
そのことを ---- 私は ---- 志宝エリスは、幾度となくこの目に見てきて知っている。
それは例えば、強大な敵に立ち向かう “あの人” であり。
そして、彼の元に集う仲間たちなのだ。
あの人は、想いの力でただ一本の微細な針をもって山を崩し ----
またあるときは、二本の腕を翼代わりにはばたかせて空を舞い ----
そうでないときだって、吐き出す息だけであまねく木々をなぎ倒してみせた ---- 。
想いには想いの持つ力があり。
人間には人間の強さがある。
そして、それを体得した者のみが人知を超え、それを嘲るものこそが、人間の持つ
無限の可能性におののくのである。
されば、見よ。
私はこの星を護る礎となろう。
この星よりも巨大で強大で、言語に絶する存在へ立ち向かおう。
終末の喇叭の音を掻き消し、蒼褪めた馬の蹄を砕いてみせよう。
だから、どうか --------
「私に………もう一度力を貸して………っ !! 」
エリスの全身が輝きを帯びた。
それが顕すのは、黄金の色。
旭光の輝きであり、すべてを照らす輝きである。
「な、にいぃぃぃぃぃぃっ !? 」
影エリスが、 “完全なる者” へと転じてから初めての、恐怖の悲鳴を上げる。
夜明けが ---- そこに近づいていた。
(続)
乙
相変わらず筆速いなぁw
>>217 読んでたの多分、桃色☆ファーサイドだろ
3日間はきかえてないリオンのオナパンだと・・・・!?ゴクリ
なぜか全てのぱんつが柊の机の引き出しから見つかるend
「ちょっとルー!? どういうことよ!?」
“東方王国の王女”パール・クールが焦りを隠そうともしない声で問い詰める。
その焦りの元凶“金色の魔王”ルー・サイファーは、パールのそういった様子に意も介さず、慣れない手付きで松葉杖をついて歩きながら、
「……む、パールか。悪いが、少しばかりファー・ジ・アースに出かけてくる。
身体のほうはまだ完治まで程遠いが、万が一のときには裏界帝国は冥魔の手に落ちるであろう。背水の陣を覚悟の上だ」
「そんなこと知らないわよ! そ、それよりも、あたしの下着はどこに行ったのよ!?」
「だからファー・ジ・アースだと言っておろう! 時間が無いのだ、予断は許されぬ! 一刻も早くベルのぱんつを探し出さなければ!」
「なに訳の分かんないこと言ってんのよ!? ちゃんと説明しなさ……ちょっと待って待ちなさいよルー!
わかったわよわかった! 仮にパンツのことはいいとして……いやよくないけど!
でもそれよりも、もう一つでっかい問題があるでしょうがっ!?」
日ごろから愛用している、丈の短い東洋の巫女風の装束から露出する太股を気にしつつ、“東方王国の王女”が絶叫する。
「……な、なんで他の服に着替えられないのよーーーーーー!!!」
「当たり前だ! 魔王たちが揃いも揃って普段と違う格好をしていたら、何らかの異変があったことなど一目瞭然!
今回の事件は表ざたにするわけにはいかぬ! 解除方法は自分のぱんつを見つけ出して穿くこと、ただそれだけだ!
それまでは他のぱんつを穿くことも許されぬ!」
「意味わかんないわよ馬鹿じゃないの!? ああああんたはそんな暑苦しい長いドレスを着てるからいいけどね!
あたしはほら! ちょっと見なさいよ! こんな短いひらひらのスカートなんだからね!? 見なさいほら!」
じとっ
「…………っ!?」
布地を指先でつまんでぴらぴらっとした後、視線を感じて慌ててスカートの前を押さえつけるパール。
そう、いま裏界の美少女魔王たちは、最強の侵魔“金色の魔王”の力によって、問答無用の『のーぱん』を強いられているのだった!
「……こ、この変態! ド変態! 超☆変態! こんなことして何が楽しいのよーーーっ!?」
「悪いがパール、今はそなたに付き合っている暇はない! 我はファー・ジ・アースへ向かう!
可及的速やかにぱんつを回収しなくては! 大魔王のぱんつが人間の手に落ちる、などという無様な羽目に、もしなったとしたら……!」
一息ついて、言った。
「クンクンされてペロペロされて頭に被られて添い寝されて、匂いも染みも汚れも温かみも弾力もたっぷりじっくり堪能されたあげく、
ぱんつの布地の表も裏も余すところ無くネットで配信されて全世界中に晒されるに違いないのだーーー!!!」
「……い、いぃぃぃやぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!」
そうして“東方王国の王女”の二度目の絶叫が、裏界に響き渡ったのだった……。
魔王たちの一人称がよくわからない……(´・ω・`)
間違えてたら教えてくれい。訂正してお詫び申し上げます。
ファルネーとか最初からパンツをはいていない魔王はどうなるんだろう……
光明に萌えた
つかツルペタのはずなのにイラストでは胸があるな…
ぱんつはいてないからはずかしい
といったところか
「……だ、誰もいないよね?」
身体を縮こまらせて、あたりをきょろきょろと見回す一人の少女。
“海の魔王女”フォルネー・ルシウス。海に棲む魔物を統べる裏界の公爵である。
感情を反転させる能力を持つこの魔王は、ちょっとした人間関係から国と国との戦争まで、
あらゆる物事に干渉し、海よりも深い権謀をもってして災厄を振り撒く。
だが今、ファー・ジ・アースの大地に降り立った彼女からは、そのような巧みな手管を誇る魔王としての面影は、
これっぽっちも感じられなかった。
「そもそも、わたしってまだ『マジカル・ウォーフェア』で受けた傷の回復中なのにー」
“金色の魔王”ルー・サイファーがしでかした、裏界全土を含む超☆大規模なぱんつの転送。
当然、他の美少女魔王と同じくその影響を受けてしまったフォルネーだが、
こと彼女に至っては、他の者たちとは比較にならないくらいの重大な問題が発生していた。
「せ、せっかく久しぶりに気持ちよく泳いでたのに。ああもう、大人しく身体を休めて眠ってたらよかったよ……」
そう、彼女はぱんつを穿いていなかった。
“海の魔王女”という二つ名どおり、水着を着用していたのである。
ぱんつを穿いていないのだから、そのまま何も転送しないまま終わってくれたらよかったものの、よりにもよって、
着ていた競泳用水着がすぽーん!
「……こ、こっちのほうに水着が飛ばされたことだけはわかるんだけど……」
手で身体を隠しながら、へっぴり腰でこそこそと物陰から物陰へと移動する“海の魔王女”。
“金色の魔王”の力は単にぱんつを脱がすだけではない。脱がされたぱんつを穿き直すまで、他の一切の服装を取ることが封じられる。
つまりフォルネーの場合、水着を見つけ出すまで素っ裸なのである。
「な、なんでわたしがこんな目にーーー!?」
“海の魔王女”フォルネー・ルシウスは、形のよいお尻をまるだしにしたまま、ファー・ジ・アースをさ迷い始めた。
こんな感じでおk?
>>235 魔王もぱんつはいてなかったら恥ずかしいんですきっと。あと外見17歳って『少女』っていう記述でいいのかな?
19歳の魔法少女とか、人妻な魔法少女とか、メイド喫茶を経営している妖艶な夢使いの少女とかいるから大丈夫じゃね?
なんか脳内でぱんちゅありーが流れだして困るw
…ダレだ、ラビリンスシティで幼女魔王に能力付きぱんつを履かせて鍛えるSLGなんて電波を送信したのは
光明はいいキャラだ。
というかドロシーのデザインがアニスと比べてもかなり性的になってるんだが。
ねーちゃんが趣味に走ったせいか。それで致命的欠陥を抱え込んだのかドロシー。
>214
雷火がどんどん可愛くなっていくな。
あと一撃、で形勢逆転する辺り実に王道。
それはそれとして大人モードでのエロい展開に胸が膨らみますよ。
>229
エロォォーーイッ!
エリスっていじめるかいじめられるかが似合う気がした今日この頃。
クライマックスに期待。
>238
ペースはえェーよッ!w
ルー様のお節介トラブルメイカーはアニメ板魔王スレから輸入か。
魔王の慌てっぷりがどいつもこいつも可愛い辺り、ある種神域に届くものを感じる。
とりあえず俺のフール様はぱんつを履いているのか気になるんだが。
>ノベル新刊
荒削り感がまだ強いが、NWのツボを押さえてるよなー。導入部を整理してくれればもっといいんだが。
次の巻は、公式キャラとのコラボなしで独自キャラのみでやってみて欲しい気がする。
しかし光明はいいPC1だ。あとみかき女史の絵で珍しくエロいな。風の聖痕リプレイの伏せ撃ち胸ひしゃげ以来だ。
……ところで箒姉妹とヴィオレットが共闘したらどうなるかなあ。
某マクロスF第8話のごとく、魔王達のパンツを抱えて輝明学園を逃げ回るべるぐるみと
それをノーパンなのを気にしながら追っかけ回す魔王's、
さらにそれに介入を計るアンゼロットという光景を幻視した。
「うー、本体のぱんつはどれっすかねー。とりあえず落ちてたぱんつ片っ端から集めてみたっすけど」
>>243 え?そのネタってギアスのじゃないの?ゼロの仮面を猫が…っていう
まあ、ギアスでも似たような事やってたがな
ここで重要なことは、我がアゼル様はやばいことになっているのではないだろうかということだ。
「ふぇ〜ん! 私の身体、汚れちゃったよ〜っ! フールちゃ〜ん!」
「あーはいはい、よしよし」
“温泉女王”クロウ・セイル。水を自在に操り、また人の隠れた才能を見出すことに長けた魔王侯爵。
現在、そんな彼女は、一糸纏わぬ姿で泣きじゃくっていた。
彼女に胸を貸しているのは、美少女魔王たちの中でも面倒見のいいことで知られている、
かつては色恋沙汰の願いを叶える古代神として一部の人々に信仰されていた経歴を持つ魔王、“風雷神”フール・ムールだ。
「……やれやれ。まったく、やっかいなことになったものだ……」
フールがため息をつく。今の彼女の姿は、裸にバスタオルを巻いたのみ。普段なら“温泉魔王”であるクロウの格好だ。
そのバスタオルも、身体を隠すには心許ない大きさだった。自身の太股あたりに視線を落とすと、思わず眉をひそめてしまうほどである。
“金色の魔王”ルー・サイファーがパンツ転送の力を振るったとき、フールはクロウに誘われて、温泉に入ろうとしていたところだった。
上の肌着……さらしを解いたところで異変に気が付き、咄嗟に身体にバスタオルを巻きつけて身構えたのだが、抵抗は出来ず。
まだ脱いでいなかったパンツが、ファー・ジ・アースに飛ばされてしまったのだ。
どういう力が働いているのか、別の何かを羽織ることもできず、小さめのバスタオル一枚がフールに残された最後の砦だった。
「フールちゃ〜ん……! ふぇぇ〜ん……!」
だが、それよりもっと悲惨なのはクロウである。
フールより先に温泉に入っていた(というかずっと入っている)彼女は、完全に裸だったのだ。
せめて、外を出歩くときのようにバスタオルを巻いていたのなら、そのバスタオルが飛ばされるだけで済んでいたのかもしれないが……。
結果、パンツの代わりとして、彼女が浸かっていたお気に入りの温泉のお湯が一滴残らず吹っ飛んだ上に、
温泉に入れない身体になってしまったのだった。
その後、狂乱したクロウが、自分が温泉に入れない身体になってしまったことを他の40箇所ほどの温泉にて延々と確認し続けたのち、
マジ切れしてルー・サイファーに全面戦争を吹っ掛けようとしたところを必死で説得して、今に至る。
こんなことが原因で戦争などしてたまるものか。実際、戦争になれば他の魔王たちは全てクロウの側に付くだろうが、
それでも戦いの結果はルー・サイファーに軍配が上がることだろう。
効果はどうあれ、裏界全土を覆う超☆巨大な魔方陣など聞いたこともない。チートにもほどがある。
「……それにしても、これからこの格好で下着を探しに出かけなければならないわけか……」
遠い目をしながら呟く。26の軍団の長である自分が、まさかバスタオル一枚で人間界で探し物をする羽目になるとは。
誰でもいいから、ルー・サイファーに一言申し立てておくべきだ。いいから大人しく療養してろ、と。
ああでもそれも自分の役目にさせられそうだなー、とぼんやり考えていたところ、
「…………ん?」
クロウの様子が、何かちょっと変だ。いつの間にか無言になっている。
妙にこちらに身体を押し付けてくるというか、もぞもぞしてるというか、というかなぜに胸の谷間に顔を埋めて……。
「フールちゃん、優しい……」
「……む」
「なんだかいい匂いがするし」
「そ、そうか?」
「お肌すべすべだし」
「いや、それはむしろそちらのほうが……」
「すべすべのお肌同士を擦り合わせると、気持ち良いんだよー」
「……いや、ちょっと待て」
「せっかくだから濃厚な時間を!」
「いやいやいや待て待て、私はあくまで男女の仲を成就させる存在であってだな、女同士というのは……!?」
「フールちゃ〜ん!」
「ちょ、まっ……!? ……え、エロスはほどほどにしておきたまえよーーー……!!!」
にゃん、にゃん♪
>>242とりあえずフール・ムール。なんか押し倒されてるみたいだけど、怒らないでね!
あとタイトルをちょっと変えてみたり。別に争奪戦はしてないような気がするけど、それはきっと気のせいだ。
ただ1レスにまとめ切れなかったことがすごい悔しい。ネタなのに2レスも場所を使ってしまって申し訳ない。次はがんがるよ!
>>214 武田くん…そりゃ見とれちゃうよね…w
>>229 エリスは本当に良いヒロインだなぁ…
>ぱんつ
レビュアータは気にしないだろうな…寝てるから。
ラビリンスシティ追加組は範囲外かな。あ、ムツミ=アマミは引っ掛かってそう。
ムツミ「よーし、みんなのぱんつ、ボクが探し出してあげるよっ!!」
とかなってそうだ。
あとフール様の魔王も蕩かす優しさに全俺がちんこたった。
だからはえェよっ!!ww
苦労性のフール様素敵。
ルー様がボケにシフトしたらフール様が一身に苦労を背負う図式になるのか、そりゃそうだよなあw
とりあえずバスタオル一枚は逆にエロいと思います。
そろそろバーレスク解禁か
優貴の体が液化したまま形状を維持しているということは、
スライムプレイや触手プレイも思いのままということでFA?
ぱんつネタはすんばらしいんだが……だがちょっと待ってほしい。
フォルネーやクロウ、フール様でこうなっているということは…………
アゼル、魔殺の帯パージされてスッパじゃね?
ラビリンスシティに倣って
ワールドピース:ぱんつを集めるキャンペーンの始まりですね、わかります
>アゼルすっぱだか
…世界の危機じゃね?
素晴らしい、ぱんつはいてない祭り。
アゼルは246でも言われてるな。
まっぱになることより、魔殺の帯が外れてプラーナ吸収能力が全開になる方が大変だなw
俺のリオンがノーパンで満員電車に乗って痴漢される展開はまだですか?
あんな生足が見えるすごい前開き(下半身限定)のドレス着てるから……
イスに普通に座ってるだけでも本かなんかでガードしないとヤバい服だよねアレ
ありがとう……っ!
裏界報われない苦労人ランキング一位(弊社調べ)の俺の上司フール=ムール様をありがとうっ!
感動をありがとうっ!
後の魔王?別にどーでもいいや。
ぱんつ祭り便乗。
変態ウィザードたちによる利き酒ならぬ利きパンツ大会が開催されると聞いて飛んできましたよ?
「ふむ。この微かに漂うミルキーな香り。女性のたしなみとして振り掛けられたパフュームも、
女体本来の芳しき体臭を損なうことなく。そして(ぱく。もぐもぐ)、舌に残るこの独特の酸味は………。
大魔王ベール=ゼファーの下着 ! 脱ぎたて新鮮 ! 」
「いやーーっ !? いっそ犯されたほうがマシよーーっ !? 」
そんなステキ電波受信中。
誰一人としてクロウ・セイルの不幸を嘆かないのに吹いた
人気ねえw
俺は同情してるぜ! …温泉に入れないという事をな。
だって、ぱんつとかまっぱとか言われても、クロセル様の場合、それがデフォだし。
「もう、一体どこに行ったのよ……!」
困った様子で周りを確認する“蝿の女王”ベール・ゼファー。現在の裏界帝国の支配者である。
裏界第二位の実力を誇り、かつて神々を恐怖のドン底に陥れた七体の大魔王“悪徳の七王”の一人でもある。
ここファー・ジ・アースにもたびたび出現し、ウィザードたちを脅威に晒してきた彼女だが、
今は普段の目的である世界征服だとかアステートの封印解除だとか気になる人間にちょっかいをかけるだとか、
そんなことをしている余裕はこれっぽっちも無かった。
『パンツ・テレポーター』。
文字通り、穿いているぱんつをどこかに転送するという単純なトラップである。
つい先ほど、彼女はちょっとした気まぐれでうろついていたダンジョンにて、その単純なトラップに見事に引っ掛かってしまったのだ。
裏界でも名だたる魔王として知られる“蝿の女王”ベール・ゼファーのぱんつは、ファー・ジ・アースの広大な世界のどこかに、
脱ぎたてほかほかになってしまったのだった。
「……いくら油断してたからとはいえ、まさかあんな単純な罠に引っ掛かるなんて……」
短いスカートの丈を気にしつつ、すーすーする腰まわりに嫌悪感を感じると同時に頬を染めながら、己の不注意さを呪う。
今すべきことは、一刻も早くぱんつを見つけ出して回収することだ。こんな罠に振り回されていることを知られたら、
パールには指をさされて大爆笑され、ルーに至ってはその場で正座させられて延々とお説教だろう。
もちろん、別の誰かに拾われるわけにもいかない。大魔王が人間にぱんつを拾われるなどプライドが傷つくどころではないし、
他の魔王もダメだ。弱みを握られるわけにはいかない。場合によっては、ぱんつの返却を条件に何かさせられる危険性すらある。
「……あのぱんつを穿いたのって、今朝だったわよね……?
あ、でも昨日お風呂から上がって、パジャマに着替えたときから、それっきり……?
ああもう、早く見つけ出さないと!」
とにかく、このことが公になる前に急いでぱんつを見つけなくては。
そう考えて駆け出そうとした、次の瞬間、
「きゃ……!?」
突然、なにか細長い布のようなものが目の前に出現した。
足に絡まって、びたんっ!と音を立てて転倒。地面に突っ伏す。一応、自由自在に空を飛んでいられる力を持っているはずなのだが。
転倒した勢いでめくれ上がったスカートを慌てて直しながら、悪態を吐きつつ足に絡まったその布のようなものを確認してみると、
「……アゼルの、魔殺の帯……?」
何でこんなものがここに、と思わず空……裏界のほうを見上げてみる。
まったくさっぱりわからないが、何だか大変な問題が起こってるような気がしないでもない。
「と、とにかく今は早くぱんつを見つけないと」
そうして“蝿の女王”ベール・ゼファーは、のーぱんのまま空を飛ぶわけにもいかず、スカートの前を手で押さえながら、
とてとてと小走りを再開した。
注文どおりアゼル……を書こうとしたはずなのに、変わってしまった。ごめん。
ネタ切れになるまで突っ走ろうと思う。とりあえず温泉に入れない身体にされてしまったクロウが、
ぱんつを人質にルーさまに鬼畜攻めするのはガチ。
温泉に入れないからばっちくなって臭くなっちゃうクロウさまというネタを考えてしまった自分はたぶんひどいんだろうなぁ…w
シャワーくらいは許されるだろw
プールや冷風呂はダメかもしれんが
ガチフェチエロネタ
巻き添え食ってノーパンにされてしまった某魔王さん。幸いというべきか、穿いていたパンティは
自らの落とし子の手元にあった。
見知らぬ人間やウィザードに拾われるよりはマシ、恥ずかしいやら何やらの気持ちをひた隠して返却を命ずるが……
「魔王〇〇〇が命ずる……ぱ、ぱぱぱ、パンティを返しなさい!」
「断る」
「?!」
曰く、貴女が本物だという証拠もない、そしてこのパンティが貴女のものだという証拠もない。
よって、貴女が本物であり、このパンティの持ち主である事を証明してもらおう!
あとはひたすら自分のパンティの形状の申告だの自分でスカートめくって見せるだの、
下着に染み付いた匂いや味を本人の股間と舐め比べ嗅ぎ比べ。しまいには緊張と羞恥心で、
落とし子の目の前で果てちゃったりしぃしぃしちゃったり!
ここから和姦ルートor鬼畜ルートに分岐するのだが、問題は俺がネタを文章に出来るほど
魔王達に詳しくないことだな!
そいや、秋葉原の一角で神田川やってる?フェウス=モールたんとかはどうなっとるんだろう
つーか、結界発動時裏界にいなかった、ノーパンにならずに済んだ魔王も多分いるよね?
いや、本体はみんな裏界にいるわけだから全員アウトでしょう
そうじゃないと映し身作り直して終了になっちゃうしな
亀レスだけど、エリスの人乙でした。
いよいよ柊の逆襲が始まるのか…! wktkして待ってる!!
それはそれとして、「!」や「?」の前に空白があったりなかったりするのは何でなのかな?
「!」や「?」以降に文章が続く場合、後ろに空白があるのは読み易いけど、前にあるのは若干読みにくいと思う。
「!」や「?」直後にカギ括弧で終了する場合は、空白はいらないと思うけど…。
時に、泣き虫だけどがんばり屋な光明ちゃんが可愛くて可愛くて仕方ないんだがどうすればいいと思う?
ちんちくりん?はっ!大好物だね!
ところで、ちょっと質問。
携帯でスレや保管庫見てる人ってどれくらいいるのかなあ。
>>251 スライムにも固い部分はあるって言うもんな。余裕!
>>269 ノシ
何をアレするのに勤しむ時に、携帯からの方が
都合が良いのですって何を言わせんだお前はっ!?
携帯からでも普通に見れるからね、スレも保管庫も。
>271
そんなに詳らかには聞いてねえ!?w
こっちもやって見たけど普通に見れるなあ。
保管庫の掲示板に携帯で見れないっていう申し立てがあったんだが、はて。
>>269 ノシ
うちはネット繋がってなくてなぁ……おかげで投下も大変です(泣)
>>272 機種的な問題かな?うちFOMA。問題ナシ
聞かれてないことまでうっかり話すどじっこ・・・それが俺っ!(無駄にかっこいいポーズで
FOMA、機種が新しくなる度に表示可能容量が
アップしてるからね。俺も機種変更した時に、
今まで「容量を超えたので中止します」と出てた
PC用のサイトが、普通にiモードで見れたんでおおっ、と思った。
その見れないという人は、恐らく結構前の機種から
見ようとしてるんじゃなかろうか。
DOCOMOに限らず、3G携帯の初期機種までは、
結構容量が厳しいんではないかな?
ちなみに俺はFOMAの905です。
>273
携帯から投下かッ、すげー。
しかし意外と携帯からのユーザーもいるんだなぁ。
携帯から見ると空改行が表示されないのは新発見だ。
こちらもFOMAで問題なし。見れる機種と見れない機種があるのかなー。
>275
センクス。となると単純なマシンパワーの問題か。
ど〜しよっかなあ〜。
>>276 いや、今はやってないよ(汗)?>携帯投下
今は代理頼んだりとかネカフェったりとかでなんとか。ここではやったことないし
昔は3レスくらいのなら本文に書いて切り取り連投とか、パソ子が規制くらってメルフォから転送→コピペとかした覚えがあるけど
打つレスポンス遅くなってくるし、メール通すことで妙な空白入ったりするし、正直おすすめしない。
つか本格投下だと誰もやんないよな、普通。
ディングレイ様やシャイマール様のパンツは、
跳ばされないのが、実に残念だぜ。
>>279 ぱんつテレポーターに引っかかればいいじゃない。
……色々検討した結果、ちょっとアンゼロット城に忍び込んでくる。
・・・つまり、菊田先輩(の本体)のパンツも跳ばされて然るべきだと?
>>281 >菊田先輩(の本体)のパンツ
なぜか越中フンドシを連想した
「アステートのぱんつまで飛ばされた!」とか聞いたら、
ベル様どんなリアクション示すだろう
スクールメイズのイラストからすると、アステートって素っ裸じゃね?
ぱんつの代わりに飛ばされるのは……?
……ヘア?
パイパン!?
パイパンじゃないか!
つるつるにさせられた大魔王か。
そりゃ確かに威厳のかけらも無いな。
逆に考えるんだ
マッパなら着せるようにすれば良いさ
そう考えるんだ
サイズの小さい中等部制服を着せられたアステート様を幻視した
バーレスク読んだが、光明いいなぁ…
意外と受けなところがまたいい
L&R第3号読んだ。
相変わらず六門リプレイは挿絵がえろいなぁ。
尻とか尻とか尻とか乳とか。
>>249ラビリンスシティ追加組の魔王。これでおk?
「ごきげんよう。では、ごゆるりとおくつろぎくださいませ」
「ごきげんようなのです。今日は、ヤなことが起こるのです」
ふくみある朝の挨拶が、淀みきった曇り空にこだまする。
大公様のお庭に集う魔王たちが、今日も悪魔のような妖艶な笑顔で、紅き月の門をくぐり抜けていく。
汚れを知らないふりした心身に包まれるのは、黒い腹。
ウィザードのプラーナを奪わないように、冥魔を倒すために利用するように、ゆっくりしていってね!させるのがここでのたしなみ。
もちろん、裏界の住人を仲間と見なす優しき心を持った、はしたない魔王など存在していようはずもな「もっと熱くなろうよ! 気合だよッ」
ラビリンスシティ。
表界と裏界の間に存在するこの世界は、もとは“金色の魔王”ルー・サイファーが創り出したという、
伝統あるエミュレイターの庭園である。
忘却世界。世界結界の影響を受けずに済むプラーナの多いこの世界で、神に離反し、
魔王学校から別荘までの避暑地気分が楽しめる美少女魔王たちの園。
時代は移り変わり、冥魔が闇界から各地に侵攻してくるThe 2nd Editionの今日このごろ、
しばらく通い続ければ修羅場育ちの純粋培養落とし子が箱入りで出荷される、
という仕組みが新たに生み出された貴重な狭界である。
「裏界全土を覆う超☆巨大な魔方陣を確認! 40秒以内でここ、ラビリンスシティにも到達するよ!」
“狭間の渡り手”パトリシア・マルティンが愛車のバイクにまたがったまま叫ぶ。
そのすぐ隣、ツバの広い帽子を目深に被ったローブ姿の謎の人物、ディン・ザエスは無言でわずかに顎を上げ、空をじっと見つめる。
肩口に止まった貴族風の服を着たオオガラスが、バタバタと煩く羽ばたき、
「カ〜ッカッカッ、間違いない! やはりこれは“金色の魔王”ルー・サイファーの力だ! あの女、ついに血迷ったか!」
「おい、そこの! あのめっぽう強い“金色の魔王”に向かって、何ナメた口きいとるんじゃ! ワレぇ!」
「そうです。大公様の悪口などおっしゃると、今夜のおかずが唐揚げになりますよ?」
それぞれ、ラビリンスシティの警備と管理を行なっている、“狼の王”マルコと“誘惑者”エイミーが共に非難の声を上げた。
「よりにもよって、“魔王女”イコ・スーどのが不在のときに……」
“女公爵”モーリー・グレイが困惑した様子で、空に描かれていく魔方陣を見上げる。
ルー・サイファーに忠誠を捧げている彼女は、現在の状況について判断しかねているのだろう。
それでも、何もせずに手をこまねいているわけにはいかない。ラビリンスシティは冥魔の侵攻を防ぐための重要な拠点なのだ。
「ここにいるみんなで何とかするしかないねッ! でも大丈夫、気合だよッ!
友情、努力、勝利! みんなが力を合わせれば、やってやれないことはないさ! さあ、手を取り合って!」
暑苦しい調子で伏せた手のひらを前にかざし(おそらく全員が輪になって、上に手を重ねていくのを期待したのだろう)、
周りから完全スルーされているのは、“勇者魔王”ムツミ・アマミ。裏界一の勇者と皮肉を込めて呼ばれ、蔑まれている魔王である。
そんな彼女がこの場に呼ばれていることが、現状がいかに非常事態かを如実に示していた。
「どうやら、お兄様は尻尾を巻いて逃げ出したようですわね。チッ、つくづく使えない男ですわ……!」
魔王の転生体であるウィザード、闇道アリスが舌打ちする。
表向きは兄を敬愛する健気な妹を演じている彼女だが、今はそんな皮を被っている余裕はないのだろう。
ちなみに彼女のことは誰も呼んでいない。他の魔王たち(ムツミ以外)は、彼女がこの場にいること自体を完全にスルーしている。
「到達10秒前! 全員、防御結界を!」
「……っ!」「ワイの全力、見せてやるけんのぉ!」「ご主人様、エイミーにお力を!」
「ルー様……!」「気合だよッ! みんなで世界を守るのさッ!」「ここで恩を売っておけば、後々たんまりと見返りが……っ!」
名だたる魔王たち(とウィザード)が一斉に力を振るう。
展開された防御結界が、世界一つを丸々すっぽりと覆い隠し……!
「3、2、1……くるぞっ!」
「「「「「 っっっっっ!!! 」」」」」
すぽぽぽーん!
「「「「「 ………………。 」」」」」
何の衝撃も与えられず、代わりに下半身が妙な開放感に包まれた。
硬直することしばし。
バッ!?っとみんなそろって、腰下に手を当てる美少女魔王たち(+1)。
穿いていたはずの下着の感触が無いことを確認し、その姿勢のまま、またもや硬直していたところで、
「……なるほどッ!!」
ぽんっ、と手を叩いて“勇者魔王”ムツミ・アマミが納得の声を上げた。
「つまり、ルーさまはボクたちの健康を気遣って、ノーパン健康法を推奨したわけだねッ!!」
「「「「「 んなわけあるかーーーっっっ!!! 」」」」」
まさかの3レス。超☆ごめん。次はもっと上手くまとめるから許して。
文章力が足りなさ過ぎて目を覆わんばかりの出来だけど、今の漏れにはこれが本当に精一杯。
精進するから今回はこれで勘弁してくれ……(´・ω・`)
魔王ネタに使うのがマリアネタに東方かよっww
吹いたわっ!
ゆっくりしていってね! 吹いたwww
あとイコがきっちり自分だけ逃げてるのにも吹いたw
しかしムツミはボケとして実に優秀だな。
>>294 >>249だが…大満足だッッ!
てかなんでマリア様&ゆっくりしていってね!なんだよw
面白かったわいw
エイミーとイコが「ゆっくりしていってね!」してるのを想像して吹いた
誰かAA作れw
モーリー様のぱんつか……あのガチガチに鎧で固めた露出0なモーリー様のぱんつと考えると股間の秘宝槍がゲイ・ボルぐ
男嫌いのモーリー様が、その男どもに自分のパンツを蹂躙される姿を思い浮かべただけで、
俺の股間がエクスカリバー!
モーリー様のぱんつはクマのバックプリント
見つかっても自分のだと言い出せず赤面
ファー・ジ・アースに飛ばされたぱんつが装着不能な程度に破損した場合、この呪いはどのように処理されるのだろう?
「……なんだったのら、いまの?」
裏界某所。空に描かれた魔方陣が消えていくのを、ぽか〜んと見上げる姿が一つ。
“殺戮伯爵”グラーシャ・ロウロス。裏界においてどの勢力にも属していない、ただ鮮血を見ることだけが望みの魔王。
理由なき殺戮、意味なき闘争、理想なき虐殺、意義なき戦役。
戦いにおいて、己が圧倒的に優位な状況下で敵をじっくりとなぶり殺すことを好む彼女は、
まったく問題なく相手にできる人間を恰好の餌食と考えており、ウィザードたちからもその存在を危険視されていた。
「……ふにゅ? なんだか下のほうがすーすーするのら〜」
ところで一応解説しておくが、彼女はバトルジャンキーで、頭はとてもとても悪い。
何も考えてないまま、がばっと自身のスカートをめくり上げ、下半身を覗き込んだ彼女は、
「ふにゅうううううぅぅぅぅぅっ!?」
信じられないモノを見たという様子で目を大きく見開き、動揺してスカートをめくったり下ろしたりをバタバタと繰り返したあと、
ぺたんとその場に座り込んで、涙目になった。
さすがの“殺戮伯爵”も、ぱんつはいてないは恥ずかしかったようである。
「ぶ、ぶんぶんー! ぶんぶんー!」
ドアをガンガンガンガン叩きまくる音。普段はまず聞くことがないであろう“殺戮伯爵”の涙声が届いてくる。
「あけてなのら、大変なのらー! ないのら、ぱんつがないのらーーー!!
どうしたらいいのらーーー!? ぶんぶん、ぶんぶんーーー!! ふにゅ〜〜〜!!!」
お互いに残忍で好戦的な性格の魔王として知られる仲、適当にそれっぽいことを言っておいて安心させてあげるのも悪くはない。
人の心を落ち着かせる巧みな話術はお手の物。それが彼女の十八番。“背徳の貴婦人”の二つ名は伊達ではなかった。
……だが、WCと書かれたドアの内側。
たくし上げたチャイナドレスの中を覗き込んだまま、“魔龍”ブンブン・ヌーは頬を引きつらせていた。
「……高くついたわね、これは……」
確かに、魔王に男も女もないと言ったのは自分だが。
これは、いくらなんでもちょっとひどい。
「ぶんぶんーーーっ!!!」
バコンッ!と派手にドアが叩き壊される。驚いて思わず振り返ってしまうブンブン。
勢いあまって床に顔面を打ちつけたグラーシャが、鼻を押さえながら彼女を見上げた、その視線の先、
「ふ、ふにゅうううううぅぅぅぅぅっ!? ななななんなのら、それはーーーっっ!?」
消失したぱんつの代わりに残された『それ』を見られた“背徳の貴婦人”は、まるで乙女のように頬を真っ赤に染め、
釘付けになっているグラーシャに向かって、「……ちょっと、そんなに見ないで……」と消え入るように言ったのだった。
トイレの個室、チャイナドレスの中にて。
ぱんつはいてない、ふたなり大魔王が誕生していた。
こうして、残忍で知られる二人の魔王は、ほとんど生まれて初めて、虐殺以外の目的でファー・ジ・アースへと降り立ったのだった……。
なんかナイトウィザード関連の別スレで、グラーシャとブンブンの人気の無さについて言われてたんで、とりあえず書いてみた。
これで二人の人気はうなぎのぼりだ! ごめんそれ無理♪ あと、無理矢理1レスにまとめたせいで読みづらかったらごめんなさい。
ハッタリ自重しろ。
リボンの騎士というか第一でナイトみたいなカッコした魔王が好きなんだが
名前なんだっけ
あれあんま人気ないんだろーか、全然出てくるとこ見ないけど
>>305 魔騎士エリィ・コルドン様か。
愉快な御方だぜ。
志宝エリスは、どこにでもいる普通の少女に過ぎない。
かつてはその腕に嵌めていた “箒” の力とともに、戦いと試練を乗り越えてきたの
かもしれないが、アイン・ソフ・オウルと呼ばれた彼女の箒は、すでに失われている。
魔法を使うこともできない。ましてや剣を振るって戦うことなどできるはずもない。
普通の、非力な少女に過ぎないのだ。
そんなエリスが ---- 世界の敵として降臨した絶対者、シャドウ・エリスを圧倒して
いる。
その身に纏った黄金色の輝きで。見るものの目を焼くほどの強い輝きで。
それは、もしもこう言って許されるものならば ----
エリスの ---- “想い” の輝きである。
それを陳腐だと、人は笑うだろうか。ご都合主義の夢物語だと、嘲るだろうか。
否。
エリスからこの光を引き出したものがなんであれ ---- いや、彼女にこの光をもたら
したものがなんであれ、きっかけはやはりエリスの想い。
この世界を護りたい。この世界に生きる人々を護りたい。
かつて、柊蓮司とともに『神の盾』を打ち破ったときと同様、その想いがエリスに戦う
力を与えたのである。
私にはなにができるの。私に戦う力があるとすれば、それはなんなの。
満身創痍でエリスに最後の激励をした大魔王ベール=ゼファーの言葉が思い浮か
ぶ。
《一度きり………もう一度きりでいいわ………私たちの勝利のために………戦いなさ
い………》
《………私の “奇跡” を………あなたにあげるわ………一度だけ………一度だけだ
けど………あなたに力を使わせてあげられる………》
戦え、と。彼女はエリスに託してくれた。自分のための力を、私にくれた。
英雄でもウィザードでもないイノセントの少女に、ベルが遺したものとはなんなのか。
その答えを見つけようと記憶の中を探し求めたとき ---- エリスの脳裏に閃くものが
あった。
影エリスの無限の砦を打ち破ること。
それが、誰もが考える勝利への条件だ。
ならば自分が戦うのであれば、誰もがエリスにあの輝きを求めるであろう。
そう。 “すべてを貫く” シャイマールの光を。
しかし、それはありえない望み。それこそが陳腐な夢物語である。あの宝玉戦争に
おいて、キリヒトの誇る『神の盾』の護りを貫いたとき、七つの宝玉も、アイン・ソフ・オ
ウルも砕け散り、エリスはウィザードとしての力を失った。そして、シャイマールの転生
であるという呪縛からも解き放たれたいまの彼女に、もはやすべてを貫く光は持ち得
なかったのであるから。
それじゃあ、私にはなにが残されているの。私に残された力は、いったいなんだとい
うの。
繰り返される自問自答の答え。
それは図らずも事件の始まりのころ、赤羽家の居間に皆で集まり、一連の騒動に推
理をめぐらしていたあのときに、明確な示唆がなされていた。
エリスの記憶の中から、アンゼロットの言葉が思い出される。
《いまのエリスさんは、ウィザードとしての力とシャイマールとしての力を失くした、抜け
殻のようなものです》
そうだ。わたしにはなんの力も残っていないんだ。
《 ---- 力を失った抜け殻は、ふたたび “なにか” で満たされることによって、利用で
きます》
なんの力も残ってないけれど。
《シャイマールほどの存在を封じ込めていた器の大きさ ---- それこそが、エリスさん
の隠された資質である ---- と、わたくしは考えます》
そうだ。そうだよ。
力を使ってなにかをすることは、もう私にはできないかもしれないけど。
私は、なにかによって満たされること “だけ” はできる。
それがどんなに大きな力でも。それが荒れ狂う風でも、大地を飲み込む津波であっ
ても、たとえそれが暴威そのものとしか形容できない巨大な “なにか” であっても。
例えば ---- この惑星中の生命を搾取するほどの言語に絶する『絶対存在』、シャ
ドウ・エリスの持つ力であってさえも !!
それに気がついたとき、エリスの全身をこの輝きが満たした。
“完全なる無限循環者” 、シャドウ・エリスでさえもたじろがせるこの輝きが ---- 。
「私の器よ………目覚めなさい !! 」
エリスの呼びかけと同時に、影エリスの全身から “それ” が噴き出した。
黒きもの。夜の象徴。地に落ちる存在のネガティヴ。影であり、闇。
影エリスの力の源である闇たちが、エリスの声に応じるかのように黒い蒸気となって
溢れ出し、見る間にエリスの身体へと、吸い込まれていく。
影エリスが ---- 今度は絶望の悲鳴を上げる番だった。
※
同じ頃。
こことは違う黄昏が支配する世界 ---- 裏界帝国。
軋む歯車のオブジェを背に、ゆらめく蝋燭の輝きを浴びながら。
大魔王ベール=ゼファーは、居城の一角でこの二人の少女の最後の戦いを見守っ
ていた。シャドウによる陵辱と存在力の搾取によって、ファー・ジ・アースに送り込んで
いた写し身が消滅の憂き目に遭ったため、いまの彼女はひどく消耗して見えた。
巨大な天蓋付きの豪奢なベッドに気だるく寝そべり、彼女の身長ほどもある大きな
枕に身体ごとしがみつきながら、ごろりごろりと寝そべって愛用のコンパクトを眺めて
いるのだ。身に纏ったものは、普段の輝明学園の制服ではなく黒のネグリジェ。
完全にお休みモードに突入しているのは言うまでもない。
「………そう。この “奇跡” によって力を発揮するのは、志宝エリスでなければいけな
かった。柊蓮司、赤羽くれは、緋室灯、誰の力を使っても決定的にシャドウを滅するほ
どのものとは成りえない。悔しいけれど、それがたとえ私であっても、ね………」
かつての神の眷属たるものでなければ為しえない奇跡を、ベルはエリスのために施
した。無限の補填を繰り返すシャドウの護りを崩すことは、不可能。ならば、その力の
根源を丸ごと収める “別の器” を用意してやらなければいけない。
この戦いに勝利するための必要条件。
シャドウという巨大な『器』の中に満たされた中身を “一瞬にして空にする” こと。
それは、同じく器としての資質を持ったエリスが居て、初めて為しえることだったのだ。
だからこそ、ベルは自分の戦いにおいて奇跡の力を使わなかった。戦いの中で、シャ
ドウの持つ力の特質に気がついたとき、彼女は自らの敗北を甘んじて受け入れ、エリス
に戦いの締めくくりを託したのである。
そして、ベルの目論見どおり ---- エリスは自らの資質の意味に気づき、与えられた
力を行使することを無意識に決意した。
すなわち、『自らの器を用いて、シャドウを満たす力を自分に移し返す』こと。
これこそが、ベルが “小さな奇跡” を行使することでエリスに与えた力。
ただ一度だけ、エリスの持つ器としての資質を目覚めさせることであった。
「………第一段階は上手くいったわ。あとは、力を奪われたシャドウが私の思い通りの
行動を取ってくれるかどうか………それで、完全に勝負は決する」
独り言を漏らしながらも、ベルは自らの頭に思い描いた勝利へのプロセスが不動の
ものであることを、もはや微塵も疑ってはいなかった。
真の黄昏はここ ---- 裏界帝国にこそ相応しい。
あの忌々しき、ファー・ジ・アース全土を覆う薄暮の闇など、さっさと消し去ってやるの
だ、と。
「私の期待通りに働いてもらうわ。エリスちゃんに、柊蓮司 ---- 」
大魔王の妖しげな囁きが、裏界の闇に響いて消えていった ---- 。
※
喪われていく。吸い取られていく。自分の力の根源であり、慣れ親しんだはずの影た
ちが、満たされていた自分の中から抜け落ちていく。なんの力もないと侮っていたはず
の志宝エリスの呼びかけのままに。望むままに。
いや、なんの力もないはずはないではないか。
事の始まり、すべての最初において、エリスの器としての資質に目をつけたのは他
でもない影エリス自身である。知っていた。知っていたのだ。エリスがウィザードたち
とは別種の特殊な存在であること。そして、もしかしたら自分を脅かすかもしれない存
在だということ。しかし、目を背けていた。その事実に気づいていないふりをして、いま
になってそのことに直面させられた。
それを認めれば、自分がエリスより劣る存在だと認めることになってしまう気がした。
自分よりもエリスのほうが、 “おじさま” に愛されていたことを思い知らされるような
気がした。
だから、それを認めるわけにはいかなかった。しかし -------- 。
「ぐ、あぁぁぁぁぁぁぁっ………っ !!」
巨大な喪失感に身を焦がし、影エリスは濁った叫び声を上げる。
体内に満ち満ちていた強大な黒い力が、急激に失われていくのが感じられた。
全身余すことなく、護り、覆い尽くしてくれていた影が。力へと変換することのできる
エネルギーが。すべて、志宝エリスの放つあの輝きに吸い込まれていく。
瞳を閉じ、なにかを祈るような真摯な表情で、エリスは両手を胸元で組み合わせて
いた。影エリスの闇を吸収しても、放たれた輝きはわずかも濁ることはなく、そのすべ
てを受け入れる『大いなる器』に、忌まわしき力を収めていく。
ぐにゃり。
二人のエリスを包み込んでいた影のドームが形を歪める。形成していた “場” を持続
することができず、自重に耐えかねたようにへこみ、崩れていき ----
パァアァァァァン………………ッ !!
影エリスの個人結界である影匣が砕け散る。
重たく垂れ込めた闇の緞帳が、まるで硝子の破片のように飛び散った。
自らの力と、絶対不可侵の砦を同時に失った影エリスがよろめく。闇に慣れたその瞳
に、どこからか、ぎらぎらと陽光が差し込んだように思われた。
陽光 ---- ですって !?
うろたえて背後を振り返る影エリス。天を覆う暗雲は、いまだ世界に重い影を落とし、
生命に恵みを与える太陽の光は、いまなお私の影に隠れているではないか !?
彼女が太陽の輝きだと錯覚したものの正体は、振り返りざますぐに理解できた。
それは ----
影の隙間を縫って、解放を求めて彷徨うかすかな光。
雲間から逃げ延びた小さな、小さな光たち。
その取るに足らないわずかな輝きを、ひとつところに集めたものがいる。
「………柊………蓮司………っ !?」
見よ。そしておののき、退くがいい。
なによりも力強く握られた魔剣を肩の上、大上段に振りかぶり。
渾身の一撃を放つその刻をいまや遅しと待ち受ける立ち姿は、行き場を求めて荒れ
狂う力そのものを体内に封じ込めているかのよう。
捕らわれたエリスを信じ、待ち続け、彼女が影エリスの結界を打ち破るのを待ち構え
ていた柊こそ、放たれるときを待つ弾丸であり、引き絞られた弓である。
そして振りかざされた魔剣の刀身こそが ---- 影エリスが陽光と錯覚したものの正
体であった。魔を屠り、神をも殺す鋼には、この場の光がすべて集められ、ぎらぎらと
輝いている。
抑圧されたすべての光が、巨大な闇の象徴である影エリスに一矢を報いるために、
柊の魔剣に力を貸し与えている ---- そんな愚かな思考すら浮かぶようだ。
結界の消滅。エリスの現実世界への帰還。
その瞬間を誰よりも待っていた男。
柊蓮司が疾駆する。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーっ !!」
人の姿をした暴風。刃を携えた疾風。
漆黒のステージを蹴りつけながら、ぐんぐんと迫るその姿に。影エリスはそれを避け
ることもも防ぐこともできなかった。滅びをもたらす刃の輝きが、彼女を金縛りにしたと
いっていい。勝負が決する ---- 柊の魔剣がこの戦いに幕を降ろす。
と、誰の目にもそう見えたこの局面。
かすかに残った悪運が、影エリスの消滅を先延ばしにする。
エリスの放つ光に影の力を瞬時に奪われたため、赤羽神社境内に屹立した影の塔
も、その構築する闇を失い始めたのである。ぼろぼろと、あるいはぐずぐずと。
とある箇所は塵のように風に乗って流れ、ある箇所は壊死したように腐りゆき、巨大
すぎるその姿を崩壊させ始めた。駆けつけようとする柊の足元が、ぐらりと斜めに傾く。
「どわっ !? なんだこりゃっ !?」
柊が叫んだ。ハッ、と気がついて視線を元に戻せば、その崩落は黒の浮島全域に及
んでいる。二人のエリスが立ち尽くした辺りが底なし沼のように深く沈み、突如として足
場を失った。
恐怖に歪んだ表情のまま、影エリスが垂直に落下していく。
闇を祓う聖少女のごとく、光を纏って立っていたエリスの全身から不意に輝きが失わ
れた。影エリスの器からすべての闇を飲み干して、その役目を終えた輝きが消えると
同時に ---- エリスの膝がガクリと折れた。
「エリスーーーーーーーっ !!」
かすかな迷いも躊躇もない。
柊蓮司は、エリスのいた方角の “斜め下” に向かって跳躍した。
全身の力が抜けたように、ふわりと落下するエリス。膨大な力を飲み尽くした反動の
せいか、自分が崩れ落ちる塔から墜落しているのだ、という感覚が希薄で悲鳴を上げ
ることもせず。放心したように、エリスは遥かな高みより真っ逆さまに落ちていく。
ぐんぐんと急降下していく少女の身体をめがけ、柊はそれ以上の速度をもって決して
失敗の許されないダイヴを敢行した。
近づく。エリスの頭部が、境内の玉砂利に向かって近づいていく。
近づく。墜死寸前のエリスの身体に、柊が近づいていく。
そして ---- 柊の指がエリスの腕に触れた。
「エリスっ !!」
細い腕を。普段、彼女に対してならこんな力の込め方は絶対にしないほどの握力で、
しっかりと掴む。その接触が、エリスの茫漠たる意識に覚醒をもたらしたのであろうか。
少女の青い瞳に、光が戻り。
その瞳が、確かに柊の姿を映したのであった。
「ひ………らぎ………せんぱ………い………」
「おうっ ! 俺だ、エリスっ ! わかるなっ !?」
エリスの手が震えながら柊に伸びた。
救いを求めるように。温もりと安らぎを求めるように。
自分に向かって差し伸べられた両手を、迷うことなく柊は握り締める。そして、不安定
なままのエリスの身体を護るように、その腕を力強く引き寄せた。自分の胸にかき抱き、
華奢な肢体を包み込むように抱きしめる。
(………あ………柊先輩の胸に………抱かれてる………)
この瞬間 ---- 。
後で思い返して恥ずかしいやら情けないやら大変な思いをしたのであるが。
世界が危機に見舞われていることも、影エリスとの戦いのことも、エリスの頭からは
綺麗さっぱり抜け落ちてしまっていた。柊の腕に、胸に抱かれている。抱きしめられて
いる。こんなにも強く、こんなにも温かく、抱擁されている。
それだけで、エリスの頭は一杯になってしまったのだ。
こんな熱い抱擁を交わすのは、恋仲にある男女以外にありえない ---- それほどま
でに強い腕の力。エリスはかすかに躊躇って、しかし我慢できずに柊の胸に頬をぴた
りと押し当てた。自分の胸の膨らみが、柊に伝わるほどに身体を近づけ。自分の身体
の形の隅々まで、柊に分かってもらえるように全身を押し付ける。
いまだけ。地面に着くまでのほんの短い間だけ。
-------- ちょっとだけ、恋人同士のふり。
心の中で、この刹那の間。
くれはと柊、二人に何百回も謝罪しながら。
至福の時間は瞬く間に過ぎてしまう。
時間にすればわずか数秒の抱擁。それは、柊の着地と同時に終わりを告げた。
どすうぅぅぅん………と鈍い衝撃が、柊の腕の中のエリスにまで伝わってくる。
空中で器用に身体を反転させた柊が、「どりゃあっ !!」となんだか間抜けな掛け声と
ともに、ガニ股で着地したせいだった。月衣という個人結界の加護があるせいで、これ
だけの高さから落下しても怪我ひとつしない。というより、生身で大気圏突入をする(い
や、させられている)こともしばしばなのだから、たかが数百メートルの高度など、 “落
ちる” うちにも入らないのだろう。
「は、はわわーーーっ !? なに、なに落ちて来てんの、ひーらぎ !? てゆーか、エリス
ちゃんも一緒なのに無茶するな、おばかひーらぎーーーっ !?」
くれはの慌てたような声で我に返る。こともあろうに、二人の落下地点はくれはの真
ん前であったようだ。
「す、すいません、柊先輩っ。わ、私もう大丈夫ですからっ」
頬を赤らめて、柊の分厚い胸に掌を当てて押しのけるようにするエリス。
ほんのり甘い、仮初めの恋人気分に見切りをつけて。
「おう。そんじゃ、下がってろ、エリス。これからケリつけるかんなっ !!」
あんなに強く熱く抱きしめていたエリスの身体を、あっさりと手放す。
背後で目を白黒させているくれはに、「ほれ」と彼女を預けると、
「ちょっと、これから決着つけるかんな。エリスのこと頼むわ」
振り返りもせずに、影エリスの落下地点と思しき辺りに視線を移すのだ。
あーあ………やっぱり、ドキドキしてたのは私だけなんだ………。
こんなときに不謹慎かもしれないけれど ---- そう思わずにはいられない。
「エリスちゃん」
くれはが緊張の面持ちで呼びかける。
「は、はいっ !?」
思わず上ずった声で返事をしてしまうエリス。ちょっぴりいけないことを考えてしまって
いた後ろめたさがあったから。しかし、見上げたくれはの真剣な顔つきは、戦いの場に
こそ相応しい厳しいもので ---- エリスは、いまだ気を抜ける状態ではないのだという
ことを実感する。
くれはの視線の先は ---- 柊が再び魔剣を向けた先でもあった。
距離にして、およそ十メートル。
赤羽神社の境内の一角、なにか尋常ならざる衝撃にえぐられた土の上で、もうもうと
砂煙が舞っていた。窪んだ土の上、かすかに視界に入るのは白いブレザーの背中。
土と埃にまみれて薄茶色に汚れてはいるが、それが昔エリスの身に着けていたのと
同じ白い制服であることはすぐわかる。影の力をエリスに奪われ、闇に染まっていた着
衣から夜闇の黒が抜け落ちていた。
「あ、ぐうぅっ………ご、こぉおぉぉぉっ………」
地の底深くより響くような嗄れ声。ゆっくりと身を起こした影エリスの身体は、落下の
衝撃で敵ながら痛々しい有様であった。良く見れば薄汚れた白い服は、所々が赤黒く
染まっている。足を引きずって、地の窪みから這い登ってくる姿は幽鬼さながら。
折れ曲がった肘。肉の破れた脚。無数の擦過傷と打撲、いくつかの致命的な外傷。
キリヒトに造られた創造物であるという特異性のみでは、数百メートルにも及ぶ高さ
からの墜落の衝撃を完全に殺しきることはできなかったのだ。普通の人間なら、全身
の肉や骨を四散させるほどの落下である。影の護りを失ったいまの彼女は、即死こそ
免れたものの、やはり無傷ではいられなかった。
ずる。
砕けた脚で歩み寄る。
ずるり。
柊と、その背中にいるエリスを血走った目で睨みつけながら。
その傷の深さ、大きさを考えれば、これだけ動けるということ自体が驚異である。
それほどまでにエリスが憎いのか。それほどまでに柊が憎いのか。
それほどまでに世界を憎み、それほどまでに ----
キリヒトを愛しているのか。
「はわ………ひーらぎ、気をつけて………なんだかあの娘、普通じゃないよ………」
血の気を失って、青褪めた顔のくれはが柊に注意を促した。
こくり、と頷いた柊の額に汗の玉が浮かぶ。確かに尋常じゃない。普通なら勝敗が決
したと思うところだが、あの執念には空恐ろしいものを感じる。そして、柊の研ぎ澄まさ
れた感覚は、
(アイツ、まだなにかやらかそうとしているな)
と、見えない危険を感知していた。
魔剣の切っ先を影エリスに突きつける。こちらには、もう『エリスの器』のような奥の手
は存在しない。敵が次に仕掛ける一手こそが、戦いの趨勢を決めるであろう。
ごくり、と柊が息を飲む。
鮮血で染まった唇を、影エリスがおぞましい嗤いの形に歪めた。
「私の器よォッ………再び………私のために………目覚めなさいぃっ……… !! 」
ぞわり。
くれはに肩を抱かれたエリスが、身震いする。
あの暗黒結界の中で、エリスが力を目覚めさせたのと同じように、影エリスが宣言を
する。
私も器であると。巨大なる器であると。
「あ、ぐうぅぅぅぅっ……… !!」
身体の中に集めた器の中身が一斉に暴れだして、エリスは呻いた。
「エリスちゃん !?」
「エリスっ !?」
影が。闇が。一度は取り込んだはずの力が ---- 再び黒い蒸気となってエリスから
抜け出していく。可能なのか。こんなことが可能だというのか。一度取り込んだ力を、
再びエリスから奪取するということが。
溢れ出す闇。こぼれ落ちる影が ----
---- 再び影エリスに集まり始めた ---- 。
※
それとまったく同時刻。
アンゼロット宮殿司令室。
この戦いの顛末を固唾を呑んで見守っていたアンゼロットが、腰掛けた椅子の手すり
を汗ばむ手で握り締めた。大魔王ベール=ゼファーの助力により、ただ一度だけ『器』
としての資質を目覚めさせることができたエリスのおかげで、満たされていたシャドウの
力を瞬時に空っぽにしてのける、という離れ業を演じてみせることができた。
だが。だが、まさか。敵も “こちらと同じ手” を使うとは !!
「ガッデムっ ! 迂闊でしたわ ! まさか………いいえ、シャドウも “大いなるもの” で
したのねっ !?」
悲痛とさえ聞こえる叫び。
ゲイザー=キリヒトに造られたもの。それは、ただキリヒトの被造物という意味ではな
かった。神の血肉を受けた娘。神の眷属として生み出されたもの。ならば、シャドウは
エリスと同様に ---- ただひとたびの “小さな奇跡” を使うこともできるであろう。
奥の手を最後まで隠し持っていたのは。
切り札をぎりぎりの局面まで保持していたのは。
わたくしたちではなく、敵のほうだった ---- !!
これで、完全にこちらの打つ手はストックが切れたことになる。
エリスに奪われた力を奪い返し、再びシャドウは暴威を振るうだろう。
司令室に重苦しい沈黙が満ちる中、かさり、という紙を捲る乾いた音が響いた。
そこでは。
リオン=グンタが書物の頁を捲り ---- 静かに微笑んでいた。
※
そして、やはりまったくの同時刻。
こことは違う黄昏が支配する世界 ---- 裏界帝国。
軋む歯車のオブジェを背に、ゆらめく蝋燭の輝きを浴びながら。
大魔王ベール=ゼファーは、居城の一角で唇の端を愉しげに吊り上げていた。
「シャドウの行動は、私の予想通り。これで、ウィザード側の “勝利” は確実ね」
不可思議な独り言を漏らすベール=ゼファー。
この状況下で、ウィザード側が勝利するとはいったいどういうことなのか ?
「ほんと、お馬鹿な娘。余計なことしてる暇があったら、隙だらけの柊蓮司たちの目を
盗んで一度逃げればよかったのよ」
完全に、影エリスを嘲る口調。
「だけど、あの性格ならそうするわよね。せっかくゲイザーに貰った力で蓄えたものを、
エリスちゃんに奪われたままで黙っている性格じゃないわよね。奪われたら奪い返す
のが当然よね」
くすくすと人の悪い笑みを漏らす。
「だけど、エリスちゃんと違ってシャドウはあの能力 ---- 生命を搾取して自分の力と
して蓄える能力はいくらでも使えるんですもの。一度仕切りなおして、もう一度ファー・
ジ・アースを喰らい直したほうが良かったのよ。もし、シャドウが冷静にそうしていたと
したら ---- ファー・ジ・アースも裏界も、あの娘に喰らい尽くされていたでしょうね」
戦線を離脱するというイレギュラーはあったにせよ、それ以降は完全にベルの思惑
通りに事が進んだといっていい。
己の能力の特質をベルに知られたこと。ベルの挑発に乗ってエリスとの接触の機会
をわざわざ作ってやったこと。そして ----
「エリスちゃんから力を奪い返したこと ---- それが貴女の敗因よ、シャドウ」
大魔王が、柊やエリスたちの勝利を予言した ---- 。
※
許さない。許せるはずがない。
私がおじさまに与えられた力で獲得したものを奪われるなんて。
粛清の切り札としての座も、おじさまからの愛も奪われて、いまなお私の力を奪おう
なんて絶対に許さない。
その執念が、影エリスに最後の力を ---- 奇跡を願う力を与えた。
「貴女のなかにある影の力、すべて私に返してもらうわっ !!」
それが、影エリスの願ったこと。
その願いに従って、一度は彼女の元を離反した影たちが再び黒煙の姿となり、影エ
リスの周囲に集まり渦を巻く。しゅうしゅう、と音を立てながらエリスの身体から闇という
闇、影という影が離散しては、元の主の力となるべく凝り固まっていった。
喪わせてやる。吸い取ってやる。自分の力の根源であり、慣れ親しんだ影たちを呼
び戻す。傷ついた身体が、回復を開始した。ちょうど、対大魔王ベール=ゼファー戦の
決着直後と同じく、急速な治癒速度であった。
「………ひ、らぎ、せんぱい、くれは、さん、わ、たし………」
膨大な力を一息に収め、また一息に奪われる。この急激な力の吸収と放出に、エリ
スが耐え切れずに膝をついた。すかさず手を差し伸べたくれはの胸に身体を預けるよ
うにして、呼吸を乱しながら。
「はわっ !? しっかり、エリスちゃん !?」
抱きとめたエリスの顔中には大量の汗が浮いている。
「すいません………せっかく………なのに………わたし………」
なんだかすごく申し訳なくなってしまって。エリスはなにに謝罪しているのかもわから
ずに、ただ謝っていた。本当は謝ることなどなにもないのだ。むしろ、エリスがいたおか
げで、頑張ったおかげで、シャドウという強大な敵にここまで食い下がることができた
のである。
「馬鹿いうなよ、エリス。お前のおかげで楽させてもらったぜ。てゆーか、後は俺たちが
決着つけるから、ちょっと休んでろよな」
「そ、そーだよエリスちゃん。私なんかよりずっとずっと頑張って、役に立ったじゃない。
ここからは、私たちに任せてよ」
柊とくれはが口々にエリスを励ます。そして、それは二人の本心からの言葉でもあっ
た。それに応えて笑おうとして、エリスの顔が苦しげに歪められる。影の最後の一切れ
までも吸い取られ、急激に消耗を強いられたせいであった。
支え合う三人を、影エリスが笑い飛ばす。
「あ、はははははっ ! 決着ですって !? 任せろですって !? もう貴方たちに打つ手
なんか残されていないでしょう !? 私は再び力を取り戻したわ ! 傷だって治ってい
く ! 見てなさい、いまから貴方たち三人、嬲り殺しにしてあげるから !」
完全なる勝利予告に、柊が歯噛みする。くれはとエリスの前面に立ち、二人の少女
をかばう形で仁王立ちして。魔剣を正眼に構え、大地にしっかりと足を着け。それでも
柊は、戦う意志を決して捨ててはいなかった。柊が戦うスタンスを曲げなければ、くれ
はもまた。破魔弓に新しい呪符を装填し直し、眼前の敵をしっかりと見据える。
「無駄、無駄よ無駄 ! 貴方たちは餌にすらしてあげないわ ! 殺す、殺してあげる、
いますぐ殺して -------- はっ………がっ !? ごほおおぅうぅぅっ……… !?」
傲慢なる勝利を告げる哄笑が ---- 途中で濁った悲鳴と化した。
影エリスの全身が、瘧がかかったようにびくびくと痙攣する。
喉を掻き毟り、嘔吐するときのような嗚咽を続けざまに漏らした。
「お、ぐぅ………ぐ、ぎ、いぃ………し、しほう、え、りすぅ………あなた、なにを………
なにをした………のぉ………っ !!」
愕然と、恨みをこめた目でエリスを射抜く。いまだ治まりきらない苦しげな呼吸をしな
がら、エリスは怪訝そうに身悶える影エリスを見た。なにもしていない。私は、なにもし
ていない。
「は、が………はいら、ない………あふれ、る………もう………こわれ……… !! 」
言葉は途中から、ごぼこぼという喉を鳴らすだけの音へと変わる。
「しほ、うえり、す………わた、しのな、かに………なにをいれ、た……… !? 」
怨嗟の言葉が呪詛のように地を這いずった。
突然苦しみ始めた影エリスを、息を止めて見守っていた三人が。
同時に、なにかに気づいたように顔を上げた。
「そうか………最初の………一番最初にエリスに押し込められた黒い少女たち………
十五体の魔王たちか……… !?」
言葉を最初に発したのは、柊であった。
事件のきっかけともいえるエリスの夢に現れた魔王。当初は、エリスこそが世界の
粛清に必要な器として利用しようとしていた影エリスが、無理矢理エリスの体内に押し
込めた十五体の弱小魔王たち !
柊の言葉を完全に理解した影エリスが、絶望と後悔に顔を歪めた。
あの十五体の影は、志宝エリスという巨大な器の中で薄められ、彼女の心身には
なんの影響ももたらさなかった。だからこそ、誰もそれを危惧することなく、むしろ忘れ
去られた形で放置されていたのである。
彼女が願った奇跡とは、『エリスの中にある影の力を “すべて自分に返す” こと』。
すでに満たされていた影エリスの器には、たとえ弱小な魔王の影がたった十五体で
あったとしても、さらにそれを収める余裕など、ありはしなかったのだ。
それなのに、彼女は願ってしまった。
影の力は、すべて自分に返せ ---- と。
「………そん、な、そんなあぁぁぁぁぁっ……… !!」
影エリスが叫ぶ。自らの体内に収めきれぬ力の暴走に、身をよじり。
そしてこのことは、もうひとつ決定的な二人のエリスの力の差を証明するものである。
志宝エリスは『影エリスの力』と『十五体の影』を同時に吸収していたが。
影エリスには ---- それができなかった。
それはすなわち、エリスの器の大きさが上回っていたことの証明である。
やっぱり。やっぱり私はあの娘よりも劣った存在だったのか、と。
力の暴走よりも、その想いがもたらす辛さに影エリスは慟哭する。
「ごっ………があぁぁぁぁぁーーーーっ……… !?」
影エリスの額に ---- ぴしりとひとつ、亀裂が生まれた。
※
わっ、と歓声に沸いてどよめく、アンゼロット宮殿司令室。
この戦いを注視していたロンギヌスたちが、シャドウの失策による自滅によって戦局
が大きく動いたことに喜びの声を上げていた。
「………不確定だった未来が………新しい頁に記述されたようです………」
指令席の斜め後方で、 “秘密侯爵” リオン=グンタが囁く。
世界の破滅という危機を逃れえたせいか、アンゼロットの頬が珍しく興奮に上気して
いるのを、背後からこっそりと窺いながら。
「………もう、私は裏界へ帰還します………これ以上留まる理由は………ありません
から………」
リオンの言葉に頷くアンゼロット。
「ええ。事後処理も含めて、あとはわたくしたちの仕事です………魔王である貴女たち
に言う言葉ではありませんが………今回の件における数々の助言、感謝するべきなの
でしょうね」
「………利害が一致したことによる共闘関係………互いに謝意を表すことはありませ
ん………むしろ貴女に感謝の言葉を言われたと知ったら………大魔王ベルなどひき
つけを起こすかもしれませんよ……… ?」
珍しくリオンが冗談を口にする。アンゼロットが不敵に笑い、
「あら。それなら、大魔王ベール=ゼファーに感謝状のひとつも贈りつけてやりますわ」
と、こちらも冗談でそれに応じた。
薄く口元に笑みを浮かべ、リオンが霞のように姿を消していく。
残留していたかすかな裏界の瘴気が消え去るまで、アンゼロットはいままでリオンの
立っていた位置をまるで見送るように見つめていた。
しばしの瞑目ののち。
アンゼロットが、 “世界の守護者” としての号令を発する。
「各地で防戦に徹するすべてのウィザードに再通達 ! 反撃に転じ、敵戦力を削ぐとき
はいまです ! 最終戦を戦う柊さんたちへの、支援攻撃を要請します !!」
(続)
次回、(やっと)最終章となります。
ていうか、シャドウ自滅のネタ、二回目ぐらいの投下時の伏線なんか誰も
覚えていないだろうなあ………。
ところで、ひどく遅い返信になりますが、
>>267さま。
以前、ご指摘を頂いたのと同じ方でしょうか ?
今回投下分、改善できていると思いますがどうでしょう。また、なにかお気づきの
ことがありましたら、お手数ですがお教えいただければ幸いです。
ではでは。
318 :
267:2008/10/04(土) 02:40:48 ID:R1wLvj08
>>317さま
エリスの人、GJ! 乙でしたっ!!
>十五体の魔王たちか……… !?
柊にしては勘がいいじゃねーか。さすがは王子(違
長かった悪夢もようやく目覚めの時を迎えようとしているわけで…。
壮大かつ面白い物語をありがとうっ! まだ終わってないけど…っ!!
期待していた柊の大暴れは次っぽいので、wktkして待ってる…!
>以前、ご指摘を頂いたのと同じ方でしょうか ?
うぃ、そうです。一応、気になった点は以下の通り。
・「!」「?」「!!」「!?」の前に全角空白は見辛いかと。
・「!」「?」「!!」「!?」の後に終わりカギ括弧等が来る場合、空白は要らない。(今回も若干あったので)
・1文字の「!」や「?」は全角の方が見易いと思う。
・「----」は「――」の方が見栄えが良いかと。
桁数を揃えて改行しているのは制限か何かかと思ったんだが…。
魔王少女の人とかは普通に長文書いてるし、問題ないなら改行しない方が見易いと思う。
あくまでも個人的な意見なので、必ずしもそうしろと言ってるわけじゃないけど、大体一般的な小説等ではそんな感じかと。
ネットという環境でもその方が見易いと思うし。
エリスの人乙!
でも!や?の前の空白は元のままだと思うよ…
>各地で防戦に徹するすべてのウィザードに再通達 !
>反撃に転じ、敵戦力を削ぐときはいまです !
>最終戦を戦う柊さんたちへの、支援攻撃を要請します !!」
それと
>>306>>307d
サプリでしか見たことなかったけど、ぐぐってみたら結構ネタになってるのね
アニメとかアンソロにでもでてきたのかな? ちょと探してみようとwktk
あとできればぱんつも期待してる!
生命を感じさせないほど整理された、無機質な空間。
同じように情報が蓄積された空間でも、図書館のように書物の温かみの無い、ただデータとしての、数式としての情報が無限に虚空に浮かぶ世界。
その中心に、かの魔王は在る。
彼女がその指を延ばした先に集う文字がキーボード上に並び、
彼女がその視線を向けた先に結ばれる光がモニタを形成し、
“知恵者”アニー・ハボリュウは、ため息を漏らしつつ己が領域で表界を俯瞰する。
「……裏界一位の座を追われ、いまだ移し身もろくに作り出せぬとはいえ、さすがは金色の魔王……と、言うところですか」
上品な女性用スーツを一部の隙無く纏っているが、膝上丈のタイトなスカートから伸びる生脚はきつく組まれており、頬にやや赤みが差している。
なにかしらの挑発を受けたのであればともかく、一人で居るときにこの魔王がこんな表情をしているのは極めて珍しい。
「こんな低俗で下劣な魔法をこれほどの範囲で、魔王の抵抗すら無意味にするほどとは……、いえ、程度の低い魔術であればこそ、というべきかもしれません」
そう。第八世界に身をおく魔王は全て金色の魔王の呪いの影響下にある。
それは、日頃より対呪詛攻撃を想定してスケープゴートを用意していた彼女とて例外ではない。
「ですが……彼女たちがいなければ、今の私の移し身を送らねばならなかったところです。やはり日頃の備えは重要ですね」
視線の先に浮かぶモニタ、その画面にはどこかの学校の校舎裏と思しき場所が表示されている。
登場人物は二人。三つ編みを長く垂らした女生徒と、やや血色の悪い男子生徒。
顔を真っ赤にした女生徒が、必死の様子で引き気味の男子生徒になにやら訴えかけている。
「彼女と私は等価であり、受けた影響もまた等価。私が受けた呪詛は彼女に影響を与え、彼女が影響を修正しきれば呪詛は正しく解呪される。
本来であれば私が受ける影響はゼロだったはずでしたが……こんな格好で表に出なくて済んだだけ、よしとしておきましょう」
同じように顔が真っ赤になった男子生徒を眼鏡の隅で確認しつつ、
「まだ高校生、しかも随分とプラトニックな交際をしていましたし、彼女たちなら変な気を起こさずに真面目に事態の収拾に望んでくれることでしょう」
魔王は己にとっての吉報を、ただ待ち望む。
「……あら? どうして急に抱き合って……えぇ! ちょっと神聖な学び舎でそんな……し、淑女がスカートたくし上げたりするんじゃありません! 呪詛の効果が続く間は貴方は私と等価なのでs……ひゃう!」
「こちらの想定以上に、っ二人とも知識は進んでいたということですか、ただ奥手だっただけで……っふあ!」
「ど、どうりで最近、彼女たちが秘密侯爵の裏を書いてくれると思ったら……リオンさえ読むのを躊躇うような妄想が頭の中に渦巻いていたというのですね……っあ」
「せ……せめて場所を体育倉庫に……。屋外でに、二時間も続けないで……」
〜〜〜
軽くネタだけ振ってすこし上でGJな本家のヒトに全て任せておけば良かったような気もするけど、思いついたら書き込んでいた。いまは反省している。
>>320 さぁ許してほしければ今すぐ省略された二時間の内容を書くんだ!
さぁ!さぁ!さぁ!
322 :
いつふた:2008/10/04(土) 20:56:07 ID:HcXH3nFH
ゲーム:真・女神転生200X(メガテンX11本目その10)
レス数:8+1
分割:18分割。
エロ度:狙って書いたエロ描写はない。
▲オヅヌの屋敷の午前中▲
サナの工房からオヅヌの屋敷まで、雑魚のみが相手でありながら、彼らは苦
戦を強いられた。
魔晶剣が文字通り身体の一部であったカムドは、使い慣れない斬馬刀に振り
回されていたし、彼の安定した攻撃力に依って立つ戦術ばかりを取っていたツ
ケで、アンクも戦いの流れを上手く掴めなかったのだ。
屋敷の門前では、赤い大鬼と青い小鬼が一体ずつ仁王立ちで、こちらを睥睨
している。
「中BOSS戦、ってところですかね。腕が鳴りますよ」
半ば強がりの舌なめずりで、カムドは斬馬刀を構えた。妖鬼オニは剣属性に
強く、今の彼には有効打を与えるすべがない。精々が壁役である。一方、アン
クは霊波の小太刀を鞘に収めたままだ。長期戦の覚悟を決め、最初から回復役
に専念する心積もりでいる。実質的なアタッカーとして期待されているDは、
しかし、MPが心許ないためマハザンマを連発するわけにもいかない。こつこ
つザンマを当てていくのが関の山だ。
「ここはオヅヌさまの屋敷!」
赤鬼が、凄まじい大音声を張り上げた。
「用のない者は早々に立ち去れぃ!」
「そうはいかない。おれたちは役小角に話がある」
アンクが応じ、次は青鬼が凛とした声を張り上げた。
「ならば合言葉を言うがいい!」
「…………は?」
人修羅たちは、気が抜けた。
「合言葉ぁ? そんなものが必要なんですか?」
「知らぬというのであれば、実力でこの門を破ってみせよ!」
赤と青、二体の妖鬼オニたちが、今にも暴れまくりに掛かる勢いだ。
「あ、わかッたッス!」
ポン、と精霊シルフが手を打った。
「『命落とすな、金落とせ』ッス!」
「それは組合のスローガンだろうがっ!?」
思わずツッコミを入れるアンク。
「おお、中商の紹介なのか。よくぞ来られた。中に入るがよろしかろう」
赤オニがにこやかに門を開けた。
「わーい、当たッたッスー!」
ピョンピョン跳びはねてDが喜び、
「え? い、いいんですかね? 本当に?」
カムドが狼狽え、
「……チューショーというのは、金剛神界中央商店街協同振興組合の略、なの
だろうか……?」
アンクは懊悩した。
『合言葉』には、勿論『パスワード』の意味も『スローガン』の意味もある。
ギ、ギギギギィ〜。
観音開きの扉が、重々しく奥へと開いていく。
明るい屋外から、暗い屋内へ。彼らの瞳孔が光量差に適応した瞬間。
正面投影面積が優に八畳はありそうな大顔面が、物理的な衝撃をも伴う音量
で盛大に雄叫びを上げた。
「儂が金剛神界の主・役小角であ〜るっ!」
ずぱ。
斬馬刀が閃いた。
大顔面は、右と左に泣き別れ。
「斬りますよ」
「気持ちはわかるが斬ってから言うな」
感情が先走っており反省の色もないカムド。今の敵対的行為がオヅヌの心証
を悪くしたに違いないと舌打ちするアンク。
「全く、人修羅というやつは。どいつもこいつも好戦的じゃのう」
壊れてしまったハリボテの中から、時代遅れのレゲエなロッカー、としか表
現しようがない、死ぬほどファンキーな姿のおっさんが、悲しげに登場した。
何が悲しいかというと、夜なべして仕上げた力作ハリボテが、一撃でダメに
されてしまったのが悲しいのであった。
「老い先短いおじいちゃんの、ちょっとしたお茶目じゃとゆーのに」
「千年単位で生きてるジジイに老い先もクソもないでしょうに」
カムドがツッコミを入れる。
「てゆーか本当に本物のオヅヌですか? こぉんなふざけたオッサンだなんて、
聞いてませんよ」
「儂ぁいっつもこんなモンじゃよ。ただ、一昨日までは“運命の少年”が来て
おったもんでの、もーちょっと地味〜な服を着てくれとスティーブンに泣きつ
かれて、まあそれっぽい格好をしておったんじゃが」
そりゃ泣きつきもするだろ、とアンクは頭痛を覚えた。かの有名な修験道の
開祖『役小角』が、ファッション・センスのトチ狂ったヘンなおじさんだった
のでは、“運命の少年”があまりにも気の毒だ。
「できれば、おれたちが来るまで地味〜な服とやらを着ていてほしかったもの
だが」
「見た目さえ地味〜なら、儂が本物のオヅヌじゃと信じるわけかの?」
自称オヅヌは、眉をしかめて髭をなでつけた。
「ゼンキとゴキを従えておらねば、本物じゃとは信じんのではないかね?」
急に人修羅二人は総毛立った。今の今まで何の気配も感じていなかったのに、
今は背中に、自分たちの真後ろに、強敵の気配をひしひしと感じるのだ。
何気なく振り返った精霊が、ヒィッと息を呑んだ。
高レベルの妖鬼二体が、一瞬で少年たちの首を刈れる状態でいる。絶対不利
のこの戦況から反撃し、しかも勝利するのは、たとえ不可能ではないにせよ、
至難の業には違いない。
彼らの背筋を、冷たいものが流れる。
実力差をわかりやすく示すことで人修羅どもを黙らせたオヅヌは、
「さ、奥へ上がんなされ」
招かれざる客人を、機嫌よく手招きする。
「丁度、ブラジルからいい豆を送ってもらったところでの。馳走しよう」
「あ、ぼくコーヒー駄目なんで、ジュースにしてください」
「順応早ッ!」
目を白黒させたのは、カムドの後ろにいた妖鬼ゴキであった。
アンクの後ろにいた妖鬼ゼンキは、是非戦わせて欲しかったのだろう。名残
惜しそうに人修羅たちを眺めている。
「先に二つほど訊いておきたい」
珈琲専門店のような佇まいの部屋に通され、手ずからゴリゴリ豆を挽いてい
るオヅヌに、アンクが質問した。
「ブラジルから豆を送ってもらう、なんて悠長な真似が、金剛神界では未だに
可能なのか?」
「とりあえずお前さんがたの世界では不可能じゃの。ただ、大破壊によって分
岐した、もう一つの世界でなら可能じゃ」
「もう一つの世界?」
シュウシュウと薬缶の湯が沸く。
「大破壊の直前、“運命の少年”は二人おったよ。その一方が生き残った世界
と、他方が生き残った世界。大雑把に言って、そういう違いじゃな」
「あんたは両方の世界を行き来できるのか? あるいは金剛神界が、両方の世
界につながっているのか?」
「好きに受け取ってもろうて結構じゃ」
コーヒー・サーバーがセッティングされる。
「今までもそうであったように、これからも世界はどんどん分岐するじゃろう。
人が、悪魔が、人修羅が、“ふらぐ”を立てたり倒したりするがゆえにのう」
「無理にそーゆー言葉遣いをしてくれなくてもいいッスよアンタ」
「世界は“まるち・えんでぃんぐ”じゃ」
「だから無理やりそーゆー言葉遣いをすンなとゆーにッ」
コポコポコポ、と注がれていく熱湯。
「もう一つ。人修羅はどいつもこいつも好戦的、とあんたは言った。つまり、
あんたは他の人修羅とも会ったことがある、というわけだな?」
「あるともよ。一人目は人修羅マロガレ」
アンクの胸に硬いものが詰まる。
「大破壊が起きたばかりの頃じゃったかな。ラクシャーサの奴めに、龍王洞へ
の道筋を訊いておったよ」
「遅かりし内蔵助。“ナルカミ”は既にマロガレの手中ですか」
バレンシア・オレンジ・ジュースをストローで吸って、カムド。
「とはいえ、他にアテもなし。一度くらい龍王洞へ行ってみるのも悪くはない
でしょう」
アンクとDの前には、香ばしい湯気を立てるコーヒーがスッと差し出される。
ふーふー冷まして一口飲んで、
「ンまい!」
女悪魔は目を丸くして大感激。
「これはンまいッスよ、なンてゆーかこの……苦味? が、渋味を優しく包み
込ンで、それが口ン中でプワッと広がると、濃厚なまろみがあとからついてく
る、みたいな?」
「ほほ〜っ、お前さん、舌が肥えておるのう」
オヅヌがほくほくと喜ぶ。
一方のアンクは、口元をヘの字に曲げて、カップをソーサーに置いた。
「おれには少し、苦すぎる」
少し、ではなく、かなり、という表情である。
てゆーかこれ、コーヒー風味の泥水だろ。とアンクは内心で毒づいた。
「そうかね。ま、若いモンには大人の至福はわからんじゃろーて」
何を言われようとも気にせず、少年はマグカップにミルクとコーヒーをドボ
ドボ注いで、カフェオレにしてしまった。
コーヒーやジュースがソーマのように、彼らの心身の疲れを癒していくのを
見届け、オヅヌは話題を元に戻した。
「二人目は人修羅イヨマンテじゃ」
「イヨ。あの子は今もここにいるんですねっ!?」
「それは難しい問いじゃの。で、三人目と四人目が、お前さんがたじゃな」
オヅヌは答えをはぐらかした。アンクの脳裏に再現される会話。
――イヨは、どこにいる?
――今は、あなたたちのすぐ傍に。いるともいないとも言える。
「……今は、おれたちのすぐ傍に。いるともいないとも言える……?」
「おや、サナちゃんから聞いたかね」
「『サナちゃん』? あんたは彼女と親しいのか?」
「親しいも何も、サナちゃんは中商の組合長じゃ」
途端にDが頭の天辺から素っ頓狂な声を出した。
「くみあいちょお? サナッチがッスか?」
「そうじゃとも。あの若さで、一癖も二癖もある商店街の連中を相手に、よう
やってくれておるよ」
つまりオヅヌはサナの味方である可能性が高い。彼の言葉も鵜呑みにはでき
ない。アンクは自らに注意を喚起する。
ガンッ! と空のコップをカムドがテーブルに置いた。彼の苛立ちを、その
高い音が顕わにしている。
「それで、結局イヨはどこにいるんですっ」
「生憎と、今の儂にはそれを説明することができんのじゃよ」
「何故です?」
「それはの、」
ズズイ、と、味噌汁みたいに音を立ててコーヒーを啜る。
そして、ズバリと告げた。
「お前さんがたが、まだ“ふらぐ”を立てておらんからじゃ!」
「…………ねぇアンク。今コレ殴り倒しても正当防衛ですよね?」
「奇遇だな。おれも似たようなことを考えていた」
瞬時に戦闘態勢を取る少年たちを、
「待てッ! 待て待て、焦るな諸君」
ジジイは青くなって制止する。
「儂にはサナちゃんとの約束があるんじゃ。組合長を引き受けてもらう代わり
に、イヨちゃんが殺されないよう気を配る、との」
「組合長ッて、そンなになり手がないンスか?」
「そりゃあもう、別名『罰当番』じゃったからの。まあ、サナちゃんの人柄に
打たれた連中が、それなりに手助けしてくれておるようじゃが」
サナの名前が出てきたせいか、カムドの表情がぼうっとしている。何があろ
うと、彼は彼女についての認識を拒絶しているようだ。
アンクは喰い下がった。
「おれたちはイヨを殺さない。いや、おれたちはイヨを護るためにこそ、ここ
まで来たんだ。ならば、あんたがイヨの居場所を話したところで、あんたとサ
ナとの約束には抵触しない。そうだろう?」
「その理屈が、サナちゃんに通じるかのう?」
オヅヌに指摘されるまでもなく、通じるはずもないことはアンクにだって予
測できる。
「お前さんがたがサナちゃんを不信がるのはわかるが、」
ぽんぽん、とオヅヌが手を叩くと、いつの間に来たのか妖鬼ゼンキが、紙製
の四角いボードを持って立っていた。
「これを見なされ」
ボードの上部に、『金剛神界トトカルチョ:人修羅イヨちゃん¥が誰とくっ
つくか大予想!』という、ハート・マーク付きのタイトルが書かれていた。
なお、タイトルの¥部分がハート・マークである。
「………………オイ」
永久凍土のよーに冷たくも硬い声のツッコミ。
「何だこれは?」
「御覧の通りのものじゃ。儂が胴元をしておるトトカルチョのオッズ表じゃよ。
ちなみに大穴は、ジャカジャンッ!」
オヅヌが口で効果音を鳴らすと、ゼンキの横にいた妖鬼ゴキが、ボードの一
部を隠していた四角いシールを剥がした。
「役小角! 360倍!」
「…………ねぇアンク。今コレ蹴り飛ばしても正当防衛ですよね?」
「奇遇だな。おれも似たようなことを考えていた」
瞬時に戦闘態勢を取る少年たちを、
「待てッ! 待て待て、焦るな諸君」
ジジイは青くなって制止する。
「お前さんがたはバッチリ本命枠におるわい。ジャカジャンッ!」
オヅヌの効果音に合わせて再びシールが剥がされた。
「人修羅カムド、2.3倍! 人修羅アンク、2.9倍!」
四捨五入するとぼくが2倍、アンクが3倍ですか、とカムドは嬉しそうだ。
そんなことで喜ぶな、とアンクが脳天チョップを入れる。
「だがしかし! 神よ驚くことなかれ! 人修羅イヨちゃんが誰とくっつくか
トトカルチョ、その大本命は、ジャカジャンッ!」
ビッ、とシールが剥がされた。
「悪霊サナちゃん! 1.1倍ッ!」
何故かサナの名前の周りだけ、キラキラ・マークで飾られている。
「いやもう、インド人もビックリの大人気じゃったよ。あやうく賭が不成立に
なるかとヒヤヒヤしたが、サナちゃん本人が、自分には他に好きなひとがいる
と公言したもんで、ようやくマトモなオッズに収まったのじゃ。尤も、期日ま
でにイヨちゃんが態度をはっきりさせんかったから、結局お流れ、全額返金に
なってしもうたがの」
まるで行動チャートの6番『実用雑学』を振ったかように、オヅヌは語る。
語り続ける。
「まあアレじゃ、儂個人の本音としては、イヨちゃんには是非ともサナちゃん
とくっついてもらいたい。なにしろ金剛神界には百合分が足らん。絶無と言っ
ても過言ではない。この殺伐とした修行場に、可愛い女の子同士のカップルが
一組でもおったら、どれほどの和み、心の癒しになるか計り知れんというのに、
今まではこの嘆かわしい事態に甘んじておるしかなかった。ところがどうじゃ、
神のご加護か仏の導きか、今ではイヨちゃんサナちゃんという、前代未聞、千
載一遇、空前絶後の逸材がおる! 二人が押しも押されもせぬ、らぶらぶあま
あまゆりんゆりんのカップルになってくれたら、金剛神界の住民、そして金剛
神界を訪ね来る全ての者たちに、至福の境地がもたらされること疑いなしじゃ。
お前さんがたもそうは思わんか? そう思うじゃろ、のっ、のっ?」
同意を求めるオヅヌを尻目に、アンクはゼンキ・ゴキ夫妻に顔を向けた。
「一発でいい。見逃してくれ」
「お気持ちはよぉ〜っくわかります。どうぞどうぞ」
ゴキが、色々腹に据えかねているところがあるらしい顔で快諾し、グッ、と
拳を突き出してゼンキが応援した。
「存分にやれぃ!」
判定+20%で会心付きヤマオロシの素手攻撃。命中、クリティカル発生。
ダメージ2倍。
斯くして少年の右ストレートが、ジジイの鼻柱にめり込んだ。
「要するに、これほどたくさん人々や悪魔たちが認めるくらい、彼女らの仲は
良好ということじゃ」
顔の中心部にバッテン型の絆創膏を貼って、オヅヌはフグフグと喋った。
「それでもお前さんがたは、サナちゃんが信じられんかね?」
「こンなもので信じろと言う方がアタマおかしいッス」
Dのツッコミは的確だ。
アンクのツッコミは、更に深かった。
「イヨとサナのことは、金剛神界の連中に知れ渡っている。それなのに、サナ
やJ、そしてあんたが、イヨの居場所をおれたちに教えないのは、他の連中に
は知る由もない、訊いても無駄、ということか」
「巡りがいいのう、お前さん」
オヅヌは褒めたが、アンクは嬉しくなかった。
「イヨちゃんのことは、せいぜい長期療養中、面会謝絶、ぐらいにしか思われ
ておらんよ。それとてあながち嘘ではないしの。あの子に何があったのか、今、
どうしておるのか。正確なところを知っておる者は数えるほどじゃ」
その上、知っているからとてアンクやカムドに教えてくれるかどうかは、ま
た別の問題なのだ。日暮れて道遠し。アンクは唇を噛み締める。
――あなたたちのパーティって、イヨちゃんがいないとおツムの大半が足り
ないのね。
サナの冷笑が聞こえたような気がして、彼は思考回路をフル回転させた。ま
だ、何か見落としていることがあるはずだ。
ふと、アンクは顔を上げた。
「おれたちがイヨを殺す、と、サナやJに誤解されているのは何故だ?」
オヅヌの口縁が、出来のいい生徒を見守る教師のように和らいだ。
「誤解かどうかはともかく、それについて儂は口止めされておらんよ」
「なら、教えてもらえるんだな?」
「無論じゃ。ただし、金剛神界は修行の場。何にせよ儂の助力を請う者には、
一つの“くえすと”を達成してもらわねばならん決まりじゃ」
「クエストでもミッションでも、何だって受けて立ってやるさ」
アンクは、パズルのピースがようやく噛み合った気分だった。
「で? 相談はどういう風にまとまったんです?」
サナの話題が出る都度、会話が理解できなくなるカムドは、既に頭脳労働を
放棄している。ややふてくされ気味に開き直って、結論だけをアンクに尋ねた。
「何をすればぼくたちはイヨを取り戻せるんですか?」
「まずはオヅヌの試練をクリアする。話はそれからだ」
アンクとカムドがイヨを殺す――その誤解、あるいは思い込みさえ解ければ、
サナたちはきっと彼らを信用し、全てを打ち明けてくれるはずなのである。イ
ヨを護る、その目的を同じくする仲魔として、共闘できる可能性もあるのだ。
本日はここまで。
◇補足
行動チャート6番『実用雑学』は覚醒篇の名物。悪魔は無駄なことを語るの
みで、事実上、行動を1回放棄します。
ところで、妖鬼ゼンキと妖鬼ゴキがご夫婦なのは、200Xのルルブにそう
いう記載があるからです。念のため。
オイオイオイ、なんだこの投下ラッシュ。
>317
クライマックス突入お疲れ。
よくもまあ、ここまで伏線とか突破口とか考えるなあっ。
いいぞもっとヤレ。GJ。
>320
知識と情報を活かして用意周到に策を弄して裏目に出るのはアニーの特権だと思う。
いや、決してリオンの下位互換とか言ってるわけではなく、決して。
青春少女は落とし子か? ちょっと説明が欲しいぞ。SS一本分くらいで。詳しく。
>323
祝・規制解除。ボリュームが多くて追っついてないのでゆっくり読むよ!
>>332 なんなんだろうなこのラッシュ。みんなバイオリズム似通ってるのか?
俺ここと卓上板の方も見てるけど体足りなくなりそうだよ。金曜から合計で6つとかおかしくね?
うれしいけどっ!
>いつふたさん
お帰りなさい、待ってました。これから読ませていただきますっ!
(´・ω・`) やあ。
連作書いてる人のほうが、
>>320の略された二時間を書かせてもらうよ。
というか思いついたら書き込んでいた。いまは反省している。
「……や、やめなさいっ……! いま、貴方は私と等価なのですっ……! ああっ……!?」
“知恵者”アニー・ハポリュウ。森羅万象あらゆる答えを知るという裏界の公爵。
人間をふしだらでだらしのない存在だとみなしている彼女は、普段は理知的な印象を醸す高潔な女性の姿を好むところとしている。
好むところとしているのだが……。
「こ、こんな……私が、このようなっ……!? まるで、あ、あさましいケモノのような格好をっ……!?」
耳まで真っ赤になって悲鳴を上げるアニー。その悲鳴にすら熱っぽい吐息が混じっており、あまりの恥ずかしさでもう涙目だ。
正面には電源が点いたままのパソコン。上品な女性用のスーツを身に纏った、裏界でも名だたる稀代の“知恵者”は今、
デスクに両手を付いてお尻を後ろに突き出し、
腰を前後にカクカクさせているのだった。
「こ、腰を掴んで……つかまれてっ……! ば、バックからガンガンされる感触がーーー!? あっ、ああっ、ああぁ〜ん!
……ち、違いますっ! 今のは決して、あ、喘ぎ声などではありませんっ……! こ、この私がそんな、いやらしいことなどっ!
ありえませ、んっ……! や、やめなさ……ああそこはだめっ! やめっ……あ、あああっ……あんっ! ち、違います、ちがっ……!
あんっ! ああぁ〜ん! あはぁ〜ん!」
漏れる喘ぎ声を必死で否定しながら、より一層、腰の動きを激しくするアニー。
目の前のモニタには、屋外で絡み合う男女の姿が映し出されている。
校舎の壁に手を付いた女生徒が、後ろから激しく攻め立てられ、恍惚な表情を浮かべてあふんあふんしている淫らな姿が……!
「こ、このような、不健全なっ……!? け、消さなくてはーーー!」
震える手で操作して、パソコンの電源を落とした瞬間。
黒画面にアニー自身の姿が反射して映った。
そこには、だらしなく口を開いた、いやらしいアヘ顔がはっきりと……!?
「な、なな、なーーーー!? い、いやぁーーーーーーっ!?」
否定しながらも目を離せない彼女が、もっと恥ずかしい自分のイキ顔を見るハメになるのは、もう少し後のことである。
あれ? ひょっとして漏れ病気じゃね?
不治の病ですが命に別状は無いのでガンガン悪化させましょう
怒涛のレス構成に吹いたw
おまいらww
むしろもっと悪化して欲しい
悪化しすぎてジャーム化でもしたらどうすんだ!
という訳でコレを忘れずに
つロイス「このスレの住人」&生還者
(訳・いつでも投下待ってます&帰ってきてね?)
>>334 やべっ、マジでおっきした
GJと言わせてもらうので病気をどんどん悪化させてくださいw
病気サイコー!
つーか、アニー様エロいよ、エロいよアニー様!
出番があって落とし子として嬉しい限りでつ
魔王サマ達だけ被害にあうのは不公平なんで、世界の守護者を筆頭としたウィザード勢のパンツもどうにかしちゃうべきだ。
そんでもって魔王サマ達以上の恥ずかしい目にあわせてあげるべきだと思うんだがどうでしょう、ぱんつ争奪戦のお人!
【頭にご主人さまのパンツを被りながら落とし子は目を輝かせた】
ふう・・・。
おいおいおまいら、変態はいけませんよ変態は。
>>343 そんなことをしたらアンゼロットのぱんつを巡ってロンギヌスが内乱を起こして壊滅しちゃうじゃないか。
ごく一部を除けばぽんこつぞろいだからあんまり影響ないような気もしないではないけど。
>>345 全員一斉に攻撃しあって、一斉に「うわーだめだー」となるわけですねわかります。
というわけで( )投下です。
雷火×正一の続きです。
クライマックス2です。
以前の分は、保管庫及び
>>211-214になります。
今回もエロはまだありません。すいません。
では投下します。
「ふははははっ、女の裸を見ながら死ぬ。男冥利というものだなっ!」
女の笑い声が高らかに響く。手応えははっきりとあったようで、彼女は正一の命を
自らの炎が奪ったという事を確信しているようだった。
「正一殿が……まあ、何と言うか、歳相応にエロい人だという事はわかりました……」
「どうした、幻滅したか? ふははっ、ははははははははっ!」
「ですが……好きな人に、自分の身体を綺麗だと言ってもらえるのは……女としては
嬉しいことでもあります。……少なくともそれがしは……こんな時だというのに、
恥ずかしいのと同じくらい……嬉しかった」
頬を染めながら、雷火は笑みを浮かべた。それは、紛う事なき本心だった。
「それに――」
「? 何っ!?」
崩れ落ちた、事切れたはずの正一の、その消し炭となったはずの身体から、淡い、
緑色の光が徐々に漏れ出し始めた。
「――クエスターは……奈落と戦う戦士は……正一殿は! これしきで命を落として
しまう程、柔ではないっ!」
「……さすがに、これで死んだら、カッコ悪すぎだろ?」
崩れ落ちた、事切れたはずの、正一の声が、雷火の叫びに呼応するように、響いた。
「……良かった」
ブレイク。それはクエスターが、奈落と戦う戦士が持つ、クエスターとしての命。
人としての命が一旦失われても、そこから立ち上がれる、クエスターの"本能"。
正一は、炎に焼かれる前の姿をそのまま取り戻し、ゆっくりと立ち上がった。
「すまねー、服部。何か、こう、言い訳しようが無いけど……見とれちまって」
「……色々と言いたい事はありますが、構いません。どうせこの後、見てもらわなければ
ならなくなるのですから」
「えっ?」
「それよりも……二度目はありません。それがしには蘇生の加護もありませんので」
「お、おお……」
「集中して下さい、正一殿……そして、倒しましょう」
「おおっ!」
雷火の漏らした言葉の一部を、正一は聞きとがめたようだったが、雷火は強引に
目の前の敵……両手に炎を這わせ、憎しみを瞳に滾らせて二人を見つめる女に意識を
向けさせた。正一も、指示の通りに女の様子をうかがう事に集中している。雷火の裸身に
意識を向けてしまう事は、もう無いだろう。それを、少しだけ……ほんの少しだけ残念に
想いながら、雷火は自身の意識も女へと集中させる。
「ふは……ふはははっ……はははははははっ! 死なぬなら、死ぬまで殺してやろう!」
最早、女は狂っていた。いや、最初から狂っていたのが露になったというべきか。
憎しみの眼差しはそのままに、頬を引きつらせるように三日月の形に吊り上げ、
狂気そのものの笑い声を発しながら、照準すら定めずに、炎を乱れ撃つ。
「くっ……」
雷火は余裕を持って、正一は寸での所でその攻撃をかわす。
だが、数度それが続いた所で、二人はある事実に気付き、顔をしかめた。
「……不味いですね」
「……不味いな」
二人の意識が女へと集中しているのならば、女の意識はただ一人にのみ集中していた。
即ち、有効な打撃を持っている雷火の方へ、だ。正一の方は、半ば無視されている。
「手が、読まれた……」
正一を囮に、雷火の最高の一撃を二回叩き込む。それが二人の作戦だった。だが、その
雷火の攻撃に備えられ、正一の存在が半ば無視されてしまう現在の状況では、いかに
雷火が攻撃を放とうとも、それが女を捉える事は難しい。目覚めたばかりであるが故に、
有効な打撃力を持たない正一を生かそうとしたその作戦は、だがしかし、有効な打撃力を
彼がもたない事を見抜かれれば、それで終わりだった。
「まあ、確かにオレに火力はねえけど……」
だが、その状況を逆に取った戦術は、すぐに正一の中で組みあがったようだ。
「即時召喚≪加速する力≫! さらに速攻召喚≪小さな暴竜≫! コンボ発動、
≪小暴竜の群れ≫!」
彼の、現在放てる最大の攻撃手段。呼び出された、小さな――と言ってもその大きさは
人間大だ――恐竜のような生き物の群れが、女へと群がっていく。
「ちょこざいな……失せろ!」
だが、女の身体へと達する前に、その大部分は炎に焼かれ、消し済みとなっていく。
「足りねえのかっ」
「貴様の攻撃など、効かぬわっ!」
同時に、雷火へ向けても炎は放たれ、彼女はその回避に手一杯で攻撃に移れない。
「もう一回っ」
二度、三度、繰り返し放つ正一の攻撃を、だが女はあっさりと打ち払う。
同時に雷火を狙って炎を放ち、行動を阻害する。思い出したかのように無造作に放たれ、
自らの元へと飛来する炎を辛うじて避けながら、彼は歯がみした。
「……オレ次第……そう言われた……なのに……」
この状況をどうにかするには、正一の攻撃が有効打を与え、もう一度女の意識を彼へと
向けさせる他は無い。だが、その為には彼の攻撃には、致命的なまでに威力がなかった。
わずかに当たろうとも、それは女にとってはさしたる負傷にはならず、そしてそもそも
当たりすらしない。
「オレは……助けるって……そう言ったんだっ!」
悔しさを悔しさのまま置かない人間。そう、彼のことを雷火は評した。
「えっ……?」
果たして彼は、悔しさを悔しさのままで終わらせない為、自らの内に眠る力に気付いた。
彼もそれと知らぬ間に、彼へと受け継がれていた、力に。
ブレイクした時と同じような、だが強さは段違いに強い光が、彼の懐から溢れる。
「っ……それは!?」
緑色の光。それは、懐のカードケースに収められた、一枚のカードから放たれていた。
≪運命の三女神≫。そう名付けられたカードの、本来カード種別を示す宝石の紋様が
あるはずの場所にはめられた、綺麗な宝石――シャードと呼ばれる、クエスターの力の
源たる、神々の欠片から。
「その光……力……これは、アルシャード……?」
呆然と、雷火が呟く。
「「「一度のみ、我らが力、貸しましょう」」」
三つの声が、重なったように響く。
同時に、正一の取り出したカード――シャードから、一人の女性の姿が浮かび上がる。
「未来は、現在(いま)を生きていく為の、希望」
三つの声の内の一つが言った。
「過去は、現在まで活きてきたという、希望」
三つの声の内の一つが言った。
「そして現在、生きているという事が、希望」
三つの声の内の一つが言った。
「「「我ら三女神、この一度のみ、希望という名の力を貸しましょう」」」
そして、再び三つの声が重なったように響き――
「希望……これがアバターなら……正一殿!」
雷火の声に応えるように、再び正一がカードを手に、攻撃を放つ。
その背後に、まるで抱きしめるかのように、シャードから浮かび上がった女性の姿がある。
「コンボ発動! ≪小暴竜の群れ≫! そして……希望よ、俺に力をっ!!」
正一がカードを掲げ、祈るように瞳を閉じる。正一の背後に見える女性も、同じように
胸の前で手を組み合わせて瞳を閉じた。
彼の閉じた瞳の裏に映ったものを、雷火は見たような気がした。
過去。今までの自分の十一年と、彼女との出会い。
現在。彼女を助けると誓った自分と、彼女への想い。
瞬間、女の元へと殺到する恐竜のような生き物が、その姿を変えた。
子竜が、成竜へと姿を変じる。
「な……っ!?」
再び正一の攻撃を打ち払おうとしていた女は、その変貌に目を見張った。子竜の身で
あればそれで消し炭となっていたであろう炎を浴びながら、成竜達は何事もなかったかの
ように炎を消し飛ばし、女の元へと殺到し、蹂躙する。
「ぐががが、がはっ、ごふぅっ!?」
全身を踏みつけられ、蹴飛ばされ、突き上げられ、女の口からは苦悶の声が漏れる。
それは、先程の雷火の一撃には及ばないまでも、十分な打撃となった。
「き、さ、まぁあああああああ!?」
成竜たちがどこかに消え去った後、女は起き上がりざまに、憎悪と怒りと、
その他ありとあらゆるマイナスの感情がないまぜになった、まさに視線で人が死ぬのならば
殺せるような、そんな瞳で、正一を見た。
正一は、その瞳を真正面から受け止める。
「おい、オレの攻撃は効かないんじゃなかったのか?」
「ぬが……ぐっぁああああああああ!!!!!」
狂気と称するのも生ぬるい、そんな凄絶な感情を露にし、女は正一へと照準を定めた。
効かないと思っていた攻撃が効いた事。そして、その攻撃を放った人間からの挑発。
女は、狂気の中でもある程度保っていた理性的な思考を完全になくしていた。
故に、それまで意識を集中させていた、"本命"を意識の外へと追いやってしまった。
それこそが狙いだという事に、気付けぬまま。
「雷火っ!」
正一の声よりも速く。
そう。音よりも速く。
雷火は動いた。
「てぇああああああああああっ!!」
裂帛の気合と共に、コントラバスケースから二メートル超の刀身を持つでたらめな
大剣が飛び出し、女の身体目掛けて一直線に飛ぶ。
加護を受け、大剣は完全に女の身体の中心を捉えた。
「……………………………………………………………………!」
声も無く。
声無き声で鳴き。
女の瞳は、印を結び、自らの視線を真正面から受け止める雷火を、次に正一を見た。
「……それがし達の、勝ちです」
「……だな」
二人の勝利宣言。
それを合図とするかのように、女の身体はその形を失っていく。
人の姿から暗闇よりも濃い黒になり、そしてその黒は、大気に溶けるように消えていく。
その消滅を見届け、
「……ふはぁああ」
「……ふぅ」
二人は、緊張の糸が切れたように、その場にへたり込んだ。
急速に、周囲に立ち込めていた邪気も薄れていく。
「何とかなったなー」
「……正一殿のお陰です」
「こういう戦いを……ホントの戦いを、ずっと服部はやってきたんだな……」
「……はい」
「皆は大丈夫なのか?」
「……生気を吸い取っていた存在を倒したので……大丈夫な……はずです」
「というか、いい加減なんか服着てもらえないと、ちょっと目のやりばが……って」
正一が異変に気付いたのは、その時だった。
異変とは、つまり、雷火が剥き出しの胸を抱きかかえるようにして、蹲っている事。
「だ、大丈夫か、服部!?」
「はぁ、はぁ……大丈夫、とは……ちょっと、言えませんね……っく……」
顔を真っ赤にして、辛そうにうずくまっている雷火の元へ、正一は駆け寄った。
「服部……そういえば、あの技出すのに、何か問題あるって……これがそうなのか!?」
彼女の身体は、未だ大人の姿のままであり、一向に元の十一歳の身体に戻る気配がない。
「……はぁ、はぁ……っ……」
瞳の焦点もどこかぼやけ、苦しげに吐息を漏らす雷火の姿に、正一は焦燥を覚えた。
「ど、どうすりゃいいんだ? 医者!? けど、こんなの医者に見せても……」
せっかく、彼女を僅かながらとは言え助ける事が出来たというのに、敵は倒したはず
だったというのに、正一にとっては思わぬ新たな敵が立ちはだかった格好となった。
「は、服部、どうすりゃいいんだ? 何か、オレにできる事はないのか?」
その言葉に、うずくまっていた雷火は顔を上げ、正一を見つめた。
潤んだ、熱を帯びた瞳で。
「……では、それがしを」
「お前を?」
「それがしを……抱いて下さい。性交渉を行うという意味で」
「………………へ?」
正一は、雷火の裸身を見た時以上の驚きを覚え――固まった。
ここまで投下です。
352 :
320:2008/10/06(月) 20:21:19 ID:2aZTzqZ0
なんかGJなモノが次々と投下されている昨今皆様いかがお過ごしでしょうか。
>332
ぶっちゃけ青春チームはサンプルの侵魔召喚師と落とし子から
それぞれ奥手っぽい属性抜き出して書いただけで大した伏線は無いのですヨ正直。
たぶんなんか事件あって侵魔召喚師がアニーと契約して、代償の一つとして引き受けたんだろうねー
>333
種を撒いた甲斐があった!と自分を褒めてあげたい。
自分がうだうだ考えてる間に超剛速球ど真ん中ストレートの作品が投下されると
さすが本家!!とかおもってしまいますのぅ
初心者同士がおっかなびっくりやってるせいかポイントを微妙に外した責めが続き、
知識として知ってる性感帯を教えてやるべきかひたすら悩んでるアニー様とか
ホントはこんなエロいの見たくないのよ!でも画面消しちゃうと次に自分にどんな責めが
来るのか判らなくなるのがおっかなくてつい見入っちゃうアニー様とか
あふんあふんヤってる青春チームを覗いてるナニモノカが居るのを発見しちゃって
自分が見られてるような気がして昂ぶっちゃうアニー様とか、誰か描いてくれないものですか喃。
【馬鹿は二匹目のドジョウを狙ってさじを投げた】
>>347 さあ、正一殿の股間に倍化法を使う作業に戻るんだ! 早く!
三女神が現われてサクセションしたときに《モイライ》とかくれたらどうするんだろう?とか真剣に考えてしまったw
>>351 乙です!
遂に二人は大人の階段登っちゃうんですね…
翌日になったら目を合わせるだけでも赤面しちゃいそうだ……
性的な意味でwww
これは、二人が一線を越えた後の初めてのデートとかも非常に気になりますな…
中学生編も期待ですじゃ……
>>345 「いや、必要ないし」
…とは、元ロンギヌスの流鏑馬勇士郎談。
とりあえず、魔王が出てくるなら、
我らが00も出て来てくれるよな?
しかし回ってみるもんだな…
触手に犯されるアンゼを視姦するベルの絵があるサイトとか、まだまだ世の中広いわ
kwsk
>>358 後生だ。せめて検索ワードだけでも教えてくれ。
ヒント希望、最近マジで見つからないのよねぇ
>>358 一枚絵だと「視姦する」ってのが脳内に再生されないんだけどどーゆー構図なん?
最初に言っておくけど絵柄が云々は言いっこなしね?
あとアンゼはちょい頭身が高いんでロリアンゼを期待する人は注意
>>358 アンゼが触手に拘束されて犯されてるのを覗き込んでるベルがニヤニヤしてる
それではメル欄でググッてどうぞ〜
アンゼロットが映ったコンパクトを見ながら舌なめずりするベルとか?
pixivで見つけた
>>363 うむ、ナイスなシチュでした。情報サンクスです。
そして、おいおいおい、何を言ってるですか?
月の女王☆アンゼロット様はぼんっきゅっぼーん! の、ドクロにしなだれかかる姿もスェクシーなないすばでぃ……
……ん、窓に な に か
アッー
>>365 昨日のR-18ランキングに載ってたな。
369 :
名無しさん@ピンキー:2008/10/07(火) 22:46:52 ID:mogZSQxb
昨日付けの定点観測に(ry
というかあのサイトベルやモルガンもあるしな。
モルガンもあると聞いて必死に検索開始し始める俺参上
唐突にちゃん様をめちゃくちゃにいじめるベル様ネタが浮かんだ
もう徹底的にいじめたい感じ
これ以上の犠牲を出さないように耐えてきた。
戦う術をその手に持ちながらも、矛を収めざるをえなかった。
それは、いまこの世界を危機に陥れている敵の脅威を目前にしても、決して攻撃することは許されず、ただ防戦
に徹せよという “世界の守護者” の通達があったからだ。
唯々諾々と従ったものもいる。彼女に、届くはずもない罵声を張り上げたものもいる。
しかし、敵の持つ力の特異性ゆえに、誰もが迂闊な戦いを控えざるを得ないという状況だけは皆に理解された。
戦えば戦うほど生命を搾取する怪物。そんな怪物を相手に、勝機が訪れるまで待て、などという気休めにしか聞
こえない言葉を、根拠もなく信じて耐え続ける。
その辛さ、そして苦しさは筆舌に尽くしがたいものがあったであろう。
だからこそ、再びアンゼロットから世界中のウィザードたちに配信された通達は、彼らに歓喜をもって迎えられた。
これまで耐え忍んでいた時間は抑圧のときではなかった。雌伏のときであったのだ、と。
そして、世界中で反撃の狼煙が上げられる ――― 。
※
暴食の報いが影エリスに訪れたのは、必然であった。
己の器の大きさを心得ず、闇雲に喰らい続けようとして、ついには自らの器にひび割れを入れてしまった。
エリスの身に押し込めた、最初の十五体の魔王の分だけ溢れた力。それを取り込もうとした結果がこれである。
「こぼれる………ああ………私の力があぁぁぁ……… !!」
喪失の痛みを嘆く声。影エリスの額に、小さな亀裂が生まれていた。その小さな裂け目から、黒い霧が立ち昇り
天へと還されていく。それはさながら黒い陽炎のようであった。
「見て、ひーらぎ ! 溢れた影が、光に変わってくよ !」
くれはの言葉に目を凝らしてみれば、なるほど確かに黒い蒸気のように揺らめく影たちは、影エリスの額から噴
き出し、そのそばから光の微粒子となって周囲に散らばっていくようだ。
「ああ。喰らった生命があるべき場所へ還っていくんだ。あるものは生命のエネルギーだろうし、あるものはプラー
ナそのものなんだろうな」
真剣な面持ちで、欠けた器から中身が零れていく様を見つめ、柊が呟く。
搾取され、取り込まれ、影エリス自身の力へと変換されながらも使われることのなかった生命は、奪われた本人
の元へ還ろうとしているようだった。
「つまり ――― まだ間に合う生命も、助けられる生命もあるってこった !!」
柊が吠える。両手に握り締めた魔剣に輝きを宿しながら。それは柊自身がプラーナを解放した徴しであった。
いま、ここで影エリスを叩くことで、まだ救えるものもいる。
その想いが、柊の全身に新たな力を注ぎ込む。
ざん、と柊が地を蹴った。
じゃり、と小石が跳ねる。
わずかばかり宙に浮いた身体は、魔剣を振りかぶった姿勢のまま。うねりを上げる力を、ひねった腰から双腕へ
と伝え、鋼をも両断する威勢をもって横一直線に飛来する。
目指すは、奪った力を放出し続ける影エリス。
額の亀裂を右手で必死に抑えながら叫び続ける、その姿へ目がけて特攻をかけた。
「うおおおおおーーーっ !!」
気合を込めた柊の雄叫びに、影エリスはどう反応するか。噴出する影を必死で抑えようとする掌が、その額から
振り払われる。自分に迫る魔剣使いの姿を、彼女はようやく真正面から見据えたのであった。
「ひ………らぎ………ひぃぃらぁぎぃれぇえんんんじいぃぃぃぃぃっ !!」
百年の孤独。千年の絶望。そしてそれ以上に深く悲しい怒りの叫びを影エリスが上げる。
振りかざした魔剣の軌跡を目に焼き付けるように、カッと眼を見開いて。
このまま、成す術もなく葬り去られるなどありえない。
最後の最後まで抵抗する。その意志を明確に表す叫びと共に、影エリスが最後の闇の力を解放した。
柊と正対した影エリスが両手を大きく拡げ、両脚を開き、大地をしっかりと踏みしめる。
その腕から。その脚から。背中から。轟、と唸りを上げて噴き出した闇が幾十もの刃となって躍り出る。
もう、身を護るための鎧などは必要ない。
敵を屠るための ――― 憎き柊蓮司を葬り去るための刃だけがあればいい。
それは、どこか悲しい決意であった。
がきいぃぃぃんっ !!
柊の、振り下ろされた魔剣を受け止める数対の闇刃。強靭なる影の刀身は、魔剣の一撃を受け止めることにお
いては砦と同じ役割を果たすはずである。
「ちいいぃっ !?」
刃同士がかち合う衝撃に、わずかに柊が身体を引く。影エリスは肉弾戦などまるで知らない戦いの素人である。
しかし、たとえどんな素人であっても敵を屠る刃が幾十もあればどうか。
敵の一撃を受け止める幾十もの刃に、護りを任せたとしたらどうか。
「下手な鉄砲も、ってヤツか !? 厄介だぜ、こいつはっ !?」
おそらく、これは消耗戦になる。夥しい攻撃の刃。夥しい護りの刃。それらすべてと撃ち合い、お互いの心身とも
に削り合う不毛な戦いとなる。それならばこの戦い、どちらに分があるのか。それは柊にも予測がつきかねた。
だが、それでも柊は全身全霊をかけて戦わねばならない。戦闘が長引けば長引くほど、消費される闇は増加す
る。助けられはずだった生命を、無駄に影エリスに消費させる前に、少しでも早く決着をつける必要があった。
「上等だ ――― やってやるぜっ !!」
再び、跳躍する柊。
輝くたった一本の刃が ――― 蠢く闇の刃たちに踊りかかった。
※
英国。
ダンガルド魔術学校校舎。
多くの学徒と共に影の浸蝕から学び舎を護るため、額に汗して戦うローブの少女が大声で叫ぶ。
「み、みなさ〜〜ん ! アンゼロットさんが戦ってもいいって言ったということは〜、勝てるメドがついたということだ
と思いま〜〜す ! つまりここで頑張れば私たちの勝ちということですよ〜っ !! ファイトぉ〜、お〜〜っ !!」
ほっぺたや口元にご飯粒を二つ三つこびりつけながら。どこか間の抜けた、緊張感には少しだけ欠ける激励の
言葉を少女は放つ。
マユリ=ヴァンスタイン。なんだかんだいって優秀な魔術師であり、かのマーリン師の愛弟子でもある彼女が、こ
の英国防衛ラインにおいて果たした役割は大きいといえる。影からの攻撃に対する防戦、戦いの合間を縫っての
おむすびの炊き出し、そして、ともすれば悲観的になりがちな現場の空気を和ませる柔らかな雰囲気。
ここまでやってきた。ここまで頑張ってきた。ここまで一生懸命守り抜いてきた。
「だから、みなさ〜〜ん ! もうちょっとだけ、もうちょっとだけ、がんばりましょ〜〜っ !!」
マユリのへろへろと掲げたげんこつに、すべての魔術師たちが怒号のような声と共に、握り拳を振り上げた。
※
※
聖王庁。
アンゼロットからその日何度目かの緊急通達を受けた神の使徒たちが、信ずる神に祈りの言葉を捧げながら戦
う。何度も崩れかけた陣形をそのたびに立て直し、街を、教会を、信じる神を、愛する人を護る戦いに邁進する。
陣形のほころびを目ざとく見つけ、その都度弱体化した防衛線に飛び込むとある神父の姿が、その日、生ける伝
説となったというオマケつきの戦いである。
「むふぅん………使い古された言葉だが、『信じるものは救われる』といったところか」
筋骨隆々、神父というよりはプロレスラーのような体躯の彼。
なぜか剣を振るって戦うでも、魔法で仲間を援護するでもなく、黒々とした触手をその巨体で組み敷いているの
であった。びちびちと獲れたてのマグロのように跳ね回る触手に対してマウントポジションを取りながら、グィード=
ボルジアは野太い声を張り上げた。
「我らの信仰の前に神の敵はたじろいだぞ ! 我々の愛は試されている ! そして最後に愛は勝ぁつ !」
言葉の最後は、とある東洋の島国に赴いたときに聞いた歌のフレーズの完全な剽窃であったが、幸いローマの
ウィザードたちにはそれと知られることはなかった。
重要なのは、戦いの場においてモチベーションを保つこと。その意味において、グィードの煽りは完璧であった。
「父と子と精霊の御名において !」
「アーメン !」
幾百の唱和が、神の名を称えた ――― 。
※
そして、同時刻。場所は日本。秋葉原、赤羽神社近辺。
黒い触手の生贄と成り果てた少女の肉体が、吊り上げられた空中でかすかに身じろぐ。
緋室灯。単身でエリスを護った末、傷を負い、いまやこうして影に捕らわれた強化人間の少女。
意識を失っていた彼女は、自分の身体を拘束していた影がぶるぶると震え、その束縛を緩め始めた振動をきっ
かけに、覚醒しかけている。
「ん………あ………」
吐息に混じってかすかなうめきを漏らすと、灯は赤い瞳をうっすらと開けた。かすかにぼやけた視界が曇天の空
を映す。次第に鮮明になりつつある映像が、彼女に現在自分の置かれた状況を知らせた。
敗北 ――― そして、連れ去られた志宝エリス。
こんなところで、暢気に触手にぶら下げられている場合ではないはずだった。
ガンナーズブルームは圧し折られ、戦うための装備は失われた。それでもこの局面、自分にできることがなにか
あるはずだ。赤羽神社境内では、きっと柊蓮司や赤羽くれはがシャドウとの最終決戦を行っている最中であるに
違いない。
ならば、その場に赴かなければ。戦うことができないならば、せめて敵の的にならなければ。
灯が、密かにそんな壮烈な決意を固めたとき。
「………あ……… !」
触手がずるり、と灯の身体を手放した。十数本の黒い紐がするすると後退していく。それが、主の元へ慌てて逃
げ帰る姿のようだ、と灯は思った。不意に自由になった身体は、しかし自らの意志で動かせるほどには自由を取り
戻してはおらず、重力に従って真っ逆さまに落下する。高さにすれば十数メートル。普通人なら即死の高さだ。
できるだけ脱力し、目をつぶる。
墜落したところでウィザードの灯にとってはどうということもないが、やはり落下の衝撃は少ないほうがいい。
そして ――― どさっ、と。
予想外の弾力に灯が瞳を開ける。地面に叩きつけられる寸前のその身体は、なにものかの手によって受け止
められていた。そのとき、影に鞭打たれた背中の傷だけが、じわりと痛んだ。激痛であるはずだが、かすかに眉を
ひそめただけで、灯は自分のクッションになってくれた相手を冷静に視認する。
「………ナイトメア」
「君ほどのウィザードが、手酷くやられたでどりぃ〜む」
眼帯で隠されていないもう片方の目を細めながら、歴戦の夢使いがそう言った。
灯の身体を立たせ、肩を貸しながらナイトメアが視線を彼方へ向ける。方角は、いうまでもなく赤羽神社。
「ここで待機していよう。あとは柊蓮司たちに任せて」
見透かすように灯へと言う。武器を失くし、自身も傷を追ったいまの灯が戦場に向かうことは無意味だ、と。
「だけど」
「君のことだから戦わぬ代わりに柊蓮司や赤羽くれは、そして志宝エリスの代わりに敵の的にでもなろうと考えて
いるのだろう。君がかつてしていたような戦いならばそれも有効かもしれん。だが、共にある仲間がいったい誰だ
と思っている ?」
ナイトメアの言葉は、灯を絶句させるには十分な説得力があった。
灯のしようとしていることは、戦場を盤上と捉え、戦うものをゲームの駒に見立てる限りにおいて有効な戦術であ
る。また、自分や他人をそういう目で見ることのできるものが戦場に立つ限りにおいて成り立つ理屈である。
灯がこれから加勢に向かおうとする場において、誰がいったい彼女をそんな目で見るというのだろう。
誰が、灯をゲームの駒のように見るだろう。
「柊蓮司、赤羽くれは、そして志宝エリス。彼らは、君が勝利への布石として置いたはずの、囮のマーカーすら必
死で護ろうとする愚か者の集まりだ ――― きっと、盤上におけるキングとポーンの違いも理解しようとはしないだ
ろうな」
いちいち納得できる、ナイトメアの喩え。言葉尻だけ捕らえれば、ナイトメアの言葉は柊たちを手酷く愚弄している
もののように聞こえるが、その声音には彼らを揶揄する響きは微塵もなく。どこか昔を懐かしむような、誰かを羨む
ような、そんな響きさえあるのだった。
「………ナイトメア。いま私が参戦することは、彼らの重荷になる。そう言いたいの……… ?」
それは質問ではなく確認のようであった。そうだ。そうではないか。自分でついさっき、エリスに向かって言って
いたではないか。戦う力がないものは戦場に居るべきではない。まして、戦えるものの足手まといになりかねない
ものならばなおさらのこと。いまの自分が、その通りの有様ではないか。
「この戦いにおける自分の役割を、君がすでに終えただけのことだ。これ以上は出しゃばりというものだろう ?」
どこかほろ苦く笑ってみせるナイトメア。決して灯のことを邪魔者だといわないところが、珍しく見せた彼なりの気
遣いというものであろうか。一度納得してしまえば、灯の決断はなによりも素早く。その場にぺたりと座り込むと赤
い瞳をそっと閉じ、休息の姿勢を取った。
「………後は任せる」
再び、視線を戦いの中心の場、はるか先に見える境内のある高台へと移す灯。
「ふっ。止めにきた甲斐があったでどりぃ〜む」
ナイトメアが、口元をようやくほころばせた ――― 。
※
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歪にねじくれた左右の手指を掲げながら。
まるで、幾重にも重ねられた黒い刀身を指揮するマエストロのように。
左手は頭上へ持ち上げ、右手を胸元から滑らせるように地へと向け。
十や二十では到底きかない数の刃が、まるで整然と隊列を組む歩兵のごとくに、その切っ先を柊へと向けなが
ら、影エリスの指揮を今か今かと待ち受ける。足元に落ちた彼女自身の影を目指して周囲から押し寄せる黒いも
のは、エネルギー源搾取のためにファー・ジ・アース全土へと根を張った触手たちである。
いままさに、主の決戦を支援せんと、膨れ上がり増大し続ける影、また影。
うず高く堆積する闇が、境内を埋め尽くしていく様子は、まさしく悪夢を絵に描いたようである。
影エリスの額に生じた亀裂からは、絶え間なく黒い霧が溢れ出て、それらは見る間に光の粒子へと変換されて
いく。割れた器の、ほんの小さな穴 ――― そこから、彼女の奪い続けた生命力、プラーナが、元々のあるべき場
所へと還っていくのであった。
だからこそ、影エリスには時間がない。
いずれ蓄えた力をすべて失うのは避けえぬ事実。しかし、それまでにはまだ時間があるし、使える力もまだ残
されている。ならばせめて。柊蓮司だけでもこの手で抹殺しなければ。ゆえに全力で、鎧も纏わず盾も構えず、
彼女はすべての闇を刃に作り変えたのだ。
掲げた左手を振り下ろす。
ざむ、ざむざむ、と。黒い切っ先すべてが柊のほうを向いた。
同時に、柊が空けていた間合いを一気に詰めていく。
蹴った大地がえぐられるほどの踏み込みを残し、柊の身体が弾丸のように飛んだ。
真っ直ぐに ――― ではなく、左斜め前方に。
正面突破の正攻法を予測していたか、最初に柊の立っていた地点から前方二メートルほどの直線を狙って放た
れた刀身は空しく空を切り、鈍い音を立てながら誰もいない大地へと突き立った。
墓標のように地を穿つ闇の刃。結果として空打ちになったその数は、およそ三十。
敵の獲物が刃とはいえ、その戦い方は、およそ通常の剣士が切り結ぶやり方とは当然異なる。
形こそ剣だが、距離を保ち空を飛来する以上、それは射撃武器であった。
言うなれば、剣の形をした弓を構える、幾百人の射手相手の戦闘である。
その言葉通りの戦闘であれば柊に勝ち目などあろうはずもない。
しかし、この場合幸いしたのは、幾百の弓を構える射手の意志が、影エリスひとりに担われていることである。
相手がひとりだからこそ、攻撃も読みやすい。攻め手の数こそ只事ではないが、複数人を相手に戦うときのよう
な無用な気遣いが不要になる。
まして、戦場の機微に疎いであろう、影エリスの戦闘時の考えはおそらく未熟。
また、影エリスの未熟な戦場勘は、柊の行動を完全には予測し得ないに違いない。
圧倒的物量を誇る敵戦力に対し、柊が唯一優位に立てるとすれば、この一点。
逆に言えば、この有利な一点を生かしきれなければ、柊の勝利もないというわけである。
だから、柊は正攻法をあえて避けた。というより、影エリスが予測するであろう『柊蓮司的行動』というやつに、あ
えて逆らってみた。自分で言うのもなんだか悲しくなるが、おそらく影エリスは柊のことを、猪突猛進の猪武者、の
ように考えているに違いない。普段の言動があれだし、およそ機転が利きそうにも見えないだろうし、力任せの戦
闘方法だけが能の魔剣使いだと思っているだろう。
実際の柊は、戦いにおいて鋭い勝負勘と剣の理をもって戦いを進める男なのであるが、普段の彼を見たとき、そ
ういう印象を持つことはとても難しい。ご他聞に漏れず、影エリスもそういう認識であったのは、不発に終わった影
の刃を見ても明らかである。
「くっ………当たらないっ !?」
苛立ちまぎれの叫びと共に手を振りかざす。目で追った柊の後を追うように十本の刃が襲い掛かり、走る軌道に
合わせるように二十の刃が後にすがる。三十、四十と数に任せた投射攻撃を続けても、影エリスに柊の姿を捕ら
えることはできない。
それもそのはず。影エリスが攻撃のポイントを決定するのは、柊の姿を見てから、彼の向く方向を確認してから
のこと。それでは遅いのだ。飛燕のごとく疾駆する柊が次に到達する地点を予測しなければ、そして予測した上で
まだ見ぬ柊の姿へ向けて攻撃を放たねば、彼に攻撃を当てることはできない。
こればかりは、数多の戦場で磨かれた勝負勘や、近接戦や体の運びという戦闘理論のセオリーを知らなければ
できないこと。ありふれた言葉で言うなら、『戦い慣れしたもの』でなければ分からない領域である。
詰めたと思われた間合いは、立ち止まってみれば戦闘開始時とまったく同じ距離。
最初は真正面に立っていたのが、跳躍の後には影エリスの右真横に立っている。
突進ではなく、影エリスの側面に立ち位置を変えるための飛翔。
柊と正対しようと、影エリスがぐるりと身体を真横に向けようとしたとき ―――
今度こそ柊が突進した。
姿勢を変えるために右を向こうと腰を捻った影エリスが、すでに魔剣の必殺の間合いに自分が立っていることに
気づく。いや、そうではない。真横を向いたとき、柊はすでに “そこ” にいたのである。肉弾戦の経験のないものに
してみれば、まるで柊が瞬間移動をしたように見えたであろう。
だが、それは誤りだ。柊はただ、地を蹴っただけ。
肉体の持つ瞬発力を最大限に生かして、ただ移動をしただけなのである。それが、影エリスにしてみれば埒外な
速度であっただけであり、彼女の動体視力では捉え切れない速度であっただけだった。
「うおおおおおおおっ !!」
裂帛の気合を込めた咆哮を上げ、柊が振り上げた魔剣を垂直に下ろす。
魔剣の輝きが真っ直ぐに、死の軌跡を描いた。天から降るような大上段。戦闘の終了を誰の目にも明白に見せ
つける、確定された滅びの徴し。
百の刃を振りかざしても、千の剣で斬りつけても。
柊蓮司の熟達した力に戦闘の素人が敵うはずがないのだ。
それに、見るといい。
なんて濁りのない真っ直ぐな瞳をしているのだろう。ゲイザーに造られた器という、異常なまでの潜在力を秘めた
相手に対しても、決して臆することなく立ち向かえるその闘志。
裏界の皇帝が覚醒しようが、神の写し身が顕現しようが、決して自分を曲げることのなかったその精神力。
力で負けた。技でも負けた。
そして心においても、いま敗北を認めざるをえなかった。
至近距離。魔剣の間合い。柊蓮司の姿が目と鼻の先にある。
私の闇を掻き消そうと、私の影を照らし出そうと、ぎらぎらと輝く鋼の色。
やはり敵うわけがない。勝てない相手と分かっていながらも立ち向かい、最後には勝利をもぎとっていってしま
うこの男には。
ああ。私は負ける。私は、柊蓮司に負けている。
“たったふたつのことをのぞいては” ――― 。
そして影エリスが、物凄い嗤いを顔面に貼りつけた。
※
※
戦いのことなんか全然わからない。
動きが早いとか、振りかざす剣に込められた力強さとか、それがどれだけ凄いことなのか、とか。
そんなことは全然わからないけれど。
だけど、柊先輩が勝つ。それだけは信じられる。
エリスは戦いの終焉が近いことを予感していた。いや、予感というよりは早く終わって欲しいという願いにも近い
祈りである。真剣そのものの柊の表情は遠目からでも良く見え、躍動する体躯の柔軟さや軽やかさに、思わず見
惚れてしまうほどだ。自分の後ろで、同じように固唾を呑んで見守っているくれはの両手が肩をぎゅっと抱いている
のは、彼女も同様にこの戦いに見入っているからだと思う。エリスは柊の姿を見守りながら、自分が彼のためにな
にもできないことがやっぱり歯痒くて仕方ない。だから、精一杯の声を上げ、世界のために戦う青年にせめてもの
エールを送ろうと口を開いた。
「柊先輩、頑張って !」と。
その声が柊に届いたかどうかはわからない。彼は必死で戦っていたから。だけど、その声援に応えるように振り
かざした魔剣が天を指し、まさしく勝利の瞬間に向かって振り下ろされようとしたとき。
エリスは ――― 信じられないものを見た。
こちらに背中を向けた柊の動作が止まる。ただ、振り上げた剣を一息に斬り下げるだけなのに。
魔剣を振りかぶった姿勢のままで、柊の身体がなにものかに止められた。そんな風に見えた。
なにが。なにが起きているのか。
ざわざわと背筋を這い登る嫌な予感に、エリスは身震いをする。悪寒、吐き気、頭痛、眩暈。そんなものが一斉
に襲い掛かってくるほどに、そこに恐ろしい沈黙が停滞した。そして。
「ひいらぎ………せんぱい……… ?」
エリスは見る。
消え去るはずの。もう消えてなくなってしまうはずの。決して柊には届かない、決して柊を傷つけることなどでき
ないはずの黒い刃。その、禍々しい先端。
黒い刃の切っ先が、柊の腰の辺りから “生えて” いた。
ほんの数センチだけの、尖った黒い切っ先。ゆっくりと、じんわりと、柊の服の色がどす黒い染みを拡げていく。
それは見る間に大きくなって、腰から背中の辺りまでを濡らしていった。柊の服を濡らし、濃く染め上げていくも
のの正体が、彼の流す血液であるとは俄かに信じられなくて。エリスは瞳を見開いて硬直した。
肩に置かれたくれはの手が強張る。痛いくらいに掴まれた肩だったが、すでに自分の痛覚すら麻痺してしまって
いるかのように、エリスはなにも感じなかった。自分の頭上で呟く、「ひーらぎ……… ?」というくれはの声も、どこ
かひどく遠くに聞こえて。
「せんぱい………柊先輩っ !!」
柊蓮司の腹部を、影の刃が刺し貫いているのだと認識したのは ―――
エリスが自分自身の悲鳴を聞いた、その瞬間だった。
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私は柊蓮司に負けている。
だけど勝っているものが二つだけある。
それに気づいて影エリスは会心の笑みを浮かべた。
戦闘においては力と技とで及ばず、その意志においても引けを取る。そんな私が柊蓮司に勝てるものが、二つ
だけあるのだ。それに気づくことは、影エリスが逆転の可能性に気づくことだった。彼女が持つ二つの優位。
それは ――― 『狂気』と『滅びの覚悟』。
このままじゃ滅ぼされるのだ。このままじゃ無惨に敗北を喫するのだ。ならば捨ててしまえ。まともな神経など、と
うに惜しむことを忘れたはずではないか。結局滅びてしまうのなら、滅びる覚悟でなりふり構うな、と。
戦闘の経験において到達できない領域をカバーできるもの。柊蓮司の戦闘経験ですら思いもよらぬ戦法。
それは狂気に身を任せ、己が肉体を滅する覚悟を持たなければ持ちえぬものだ。
だから。だからこその、この戦法。
「ぐ、がっ………………」
「かは、ごっ、ほぉ………………」
柊と、影エリスの口から同時に漏れる濁った水音。それは血反吐を吐く音であった。
闇の刃の軌道を読まれてしまうのなら、読まれぬようにすればいい。読まれぬようにしなければならない。
正攻法で繰り出した刃は、それが幾十、幾百あろうとも、百戦錬磨の魔剣使いの本気には及ぶべくもない。
柊蓮司が予想もしない、別領域から降り来る刃。それこそが、これだった。
「………は、あはは………つ、かまえ、た………ひいら、ぎ、れ、んじ………」
影エリスが笑う。
柊の腹部を刺し貫いた影の刀身は ――― これもまた、影エリスの腹部から生えていた。
「て、め………やってくれる………じゃね、えか………」
口の端を血泡で汚した柊が、搾り出すようにようやく言った。熟練の剣士の目を欺く刃。それは、自らの身体を
犠牲にしてまで繰り出したもの。影エリスは、自分の背中から自分ごと、柊を刺し貫いたのである。己の肉体を隠
れ蓑にして、至近距離から刺突する黒の剣。いかに手練の剣士であろうと、かわせぬ、避けられぬ攻撃である。
勝利への執念という『狂気』と、自らを犠牲にした『滅びの覚悟』なくしては、取れぬ作戦だった。
ずるるっ。
二人の身体が、互いの肉をこそげ落とす嫌な音を立てて離れた。
よろめき、後退し、ととととっ、と頼りない足取りで後ろへと下がる柊の歩みと共に、血の赤が地面を濡らす。
「く、そぉ………」
足を踏ん張り、魔剣を地に突き立てて杖代わりにし、ようやく柊の後退が止まった。
「ひーらぎ……… !!」
「柊先輩っ !!」
弾かれたように、くれはとエリスが駆け出した。自然と、くれはが柊の右肩を支え、エリスが反対側に回って左の
肩を支える。二人とも、負傷した柊以上に顔から血の気を失っていた。
「いて、てててて………ドジったぜ………とんだ隠し玉、だ………」
安心させるためか、たははと笑う柊。口をきくのも辛いだろうに。笑っていられる余裕などないであろうに。
それなのに、柊は笑ってそんなことを言うのだ。
「ばかっ、ひーらぎっ ! 喋っちゃダメだってばっ !」
くれはの涙声が、柊の負傷の深さを物語る。幾度となく柊と共に戦いの場に立ったくれはだからこそ、そのダメー
ジがどれほど深刻であるかがわかるのであろうか。
対して ――― 。
影エリスには、柊に深手を負わせたことで時間の猶予が生まれた。一時的に刃を収め、蠢く影を自分の胴体に
巻きつかせる。しゅうしゅうと音を立て、みるみるうちにその傷が塞がっていった。対大魔王ベール=ゼファー戦の
ときと同様の戦法である。力が拮抗している相手や正攻法でかなわぬ相手に対しての、自滅覚悟の正気ならざる
相打ち戦法。もっとも、その直後に影の力で驚異的な治癒を行えることを前提とした、彼女ならではの戦い方であ
る。ひびわれた額の隙間からは、いまだ途切れることなく器の中身 ――― 闇の力を放出し続けてはいたが、この
傷を癒し、柊たちに止めを刺すことぐらいは容易い。
そして、腹部に深い傷を与えたことで、柊の戦闘力を大幅に削ぐことに成功した彼女は、逆転の勝利を確信して
いる。初めからそこに傷などなかったかのように自傷の痕は消え失せて。いまや、完全なる復活を遂げた影エリス
の眼前に、既に敵などいなかった。赤羽くれはなど恐ろしいとは思わない。切り札を使い切った志宝エリスなど話
にもならない。ただひとり恐れた魔剣使いですら、重症を負って今にも倒れそうではないか。
ゆっくりと、確実に一歩を踏み出す。
闇の力は砂時計の中身が零れて落ちるように、少しずつ、だが確かに彼女の中から失われていく。
でも、もう構わない。傷は完全に癒えた。戦闘の経験にどれだけの開きがあろうとも、いまの柊の刃は私を捉え
ることはできないし、私の刃は決して彼を逃がさない。ただ一度。ただ一度きりですべてが終わるのだ。柊の息の
根を止めるための影の剣は、百振りも産み出せば事足りるだろう。
世界中に根を張った影たちが、いまこの瞬間、ただひとりの魔剣使いを屠り去るために集められた。
ぶううぅぅうん………大気を震わせる振動と共に、百本の黒い剣が現れ出ずる。
虚空に浮かぶ刀身。切っ先は、ただひとり柊蓮司にすべてが向けられ、影エリスの周囲を舞っている。
彼我の距離、わずかに五メートル。
決着のときは、もう、すぐそこまで迫っていた。
(続)
※※※
とんだホラ吹きがやってきましたよ ?
次回が最後だなんてって、どの口が言ったのか。
書き終えてないのに予想だけで迂闊なことは言うものじゃありません。
ちなみに、遅くなりまして申し訳ありません。前回ご指摘への返信なんですが。
一行の文字数を四十字前後で区切ってるのは、一応一般的な文庫本がそれくらいだからという理由です。
区切りなしで連続の文章にすると、たぶん一行七十字以上になるかと思うんですが、私なんかは行の左から
右まで左右にくりくり眼を動かすのが疲れちゃうタチなんでこの形にしていました。
あと、これくらいの文字数だと作業上(添削とかいろいろ)私がやりやすいというのも大きな理由だったりします。
だから、今回は自分の作業性を阻害しない(目で追いやすく改稿しやすい)ギリギリのラインである五十字前後に
一行の文字数をアップしてみました。
多少なりとも以前より読み易くなっていればいいのですが。
次回こそホントに最後です………って、もう余計なことは言わないほうがいいですね(笑)。
ではでは。
乙だよー。みんなさすが歴戦のウィザード。
状況、役割、そして紡ぐべき言葉がよく分かってらっしゃいます。
さてさて、本当に次が最後なのですか?まだ続けてもいいんですよ?とか、囁いてみる。
>>377 >>381 やべぇ……不覚にも萌えた。
,ハ,_,ハ
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>>383ツヅキタノシミモサー
,―-y"'u"゙u" |
ヽ ´ ∀ ` ゙':
>>384 ミ ミ., モサモサ スレバ キブンハ キヨラカー
':; ミ;,,.,.,) (,.,ミ シエンスルノニ AA ヨウリョウガ イイカンジ
ミ :; / ̄ ̄ ̄ ̄/
ミ゙゛';:, ~) :,, ~)_/ MOSA /
`゙ "`'''~^"~'''゙"''" \/____/
モモモモ・・・・
可愛い顔してるだろ…
ウソみたいだろ…
旧支配者(ツァトゥグァ)なんだぜ…それで…。
もっさりさんがいあいあ言ってるやつもあったな…
なぁに、アメリカお化けにかかれば旧支配者だって萌えキャラになるのは当たり前
この流れでひでぼんの書を思い出した俺
ファム攻めのヴァリアス受けを見てみたい…
一瞬ファラリス受けに見えて大いに混乱した。
>390
ファム&プリシア×ヴァリアスとな
>391
どんな行為でも受け入れてくれるツンデレっ娘ですねわかります
ドラ子「汝の為したきように為すがよい」
>>390 ヴァリアスが受けなのに普通に違和感が無いのは何でだぜ…
隼人が受けでも問題ないのと同じ理由じゃね?
椿の糸でがんじがらめにされる隼人(服は裂かれて半裸)
でもここぞと言うときにダインスレイフが発動して大逆転
そんな妄想
一転攻勢ですね
ぬふう
>>398の書き込みから連想させられてしまった。
つまり、ヴァリ×隼人、リバ可?
糸拘束でSMプレイをおねだりする椿。
そんでもって俺の股間のダインスレイフが治まりつかなくなっちまったじゃねえか、とくんずほぐれつになだれこむ隼人。
つまりそういうことでいいのかな?
【馬鹿は都合のいいにも程がある解釈をした】
保管庫眺めててふと思い出した鳥取の話題。
「オヴァラン子、テメーはケータイの前に服を買え!
イリュージョナリィアーマー脱げねぇだろ!」
それは居候先の勇者候補生……は持ってないからPC3の土下座からもらうんだっけ。
ロスレクと元ネタ的に。
借りた服は胸がきつくて腰周りが余るというところまでセットで。
元ネタ的に言うと土下座>オヴァ子だと。
実際どんな感じよ3サイズ
元ネタってなに?
とりあえず咲紀はエロいよな
なのはさん(StS)>セイバー
ってことじゃねえかな
お久しぶりです。
魔王少女の爆撃舞踏曲の続きが出来たので、55分から投下してもよろしいでしょうか?
どうぞどうぞ
そろそろ投下開始します〜
今回の注意事項:
@ 所詮ポンコツ
A エロもあるよ
B おま、どこのスーパーマン?
グロ注意で、クライマックス直前です!
悲しみを。
痛みを。
喜びを。
苦しみを。
怒りを。
何もかも受容し、理解し、受け入れよ。
心を理解できぬものには支配など出来ない。
誰かを縛るほどの強さを持たぬものは君臨など出来ないのだから。
巡る、回る、駆け巡る。
表から裏へ。
裏から表へ。
ひっくり返り、裏返り、捲られる。
月匣の中へのダイブ、唐突に始まり、突然に終わる違和感。
一瞬にも数時間にも思える感覚の果てに、地面の感覚があった。
「ここ、か」
三者が目を見開く。
柊 蓮司は息を吐き出しながら目を開く。
流鏑馬 勇士郎は冷静な顔つきで瞼を見開き。
ベール・ゼファーは優雅さすら感じられる動きで目を開いた。
そこは赤光ではなく、血しぶきで満ち満ちた紅の空間。
淀み、狂い、満たされ、呪われた世界。
息するだけでも肺が爛れて、菌糸が生えそうなねっとりとした瘴気に満ちた異世界。
「ここも月匣なのか?」
勇士郎が少しだけ驚いたように声を洩らし、周りを見渡す。
侵魔の形成する月匣。
そこもまた異世界であった。常人では立っていられない、存在することも許されない異空間。
だが、このおぞましさはなんだ。
侵魔よりもなお暗く、夜闇の魔法使いでも嫌悪を隠し切れない憎悪とおぞましさを湛えた地獄のような世界はなんだ。
闇界より這い出した冥魔、その心と精神は歪みきり、憎悪と絶望に染まりきったことの証明か。
「センス、最悪ね」
愚弄するかのようにベール・ゼファーは口元に手の甲を当てると、呆れたように表情を歪める。
「まあ冥魔如きにセンスを求めてもしょうがない、か」
パチンと指を鳴らすと、その手に無数の小さな光球が形成された。
まるで蛍のような儚さと美しさ。
それらはベール・ゼファーの周りをふよふよと浮かんでいると、続いて鳴らした指の音に合わせて四方に飛び散った。
「今のは?」
「――サーチャーよ。貴方たち、本当に戦闘に特化しただけの馬鹿ね。情報収集の魔法ぐらい憶えていなさい」
肩を竦めて、ベール・ゼファーは二人の剣士を笑う。
空に浮かぶ紅い満月――実際の月ではなく、大気中のプラーナの濃度が変幻することによって屈折した世界が生み出す偽りの月。
それを見上げて、ベール・ゼファーはステップでも踏むようにかつんと足を鳴らすと、クルリと舞ってポンチョを翻した。
「なにやってんだ?」
見るものが見れば見惚れるだろう美しき蝿の女王の仕草、それに柊はまったく何も感じることなくただ心のままに思ったツッコミを発した。
無粋ね、とどこか罰悪そうにベール・ゼファーは唇を尖らせると、静かに手を上げて。
「少し確認していたの」
「なにを?」
勇士郎の問い。
それに少女の姿をした魔王が答える。
「月匣の強度と――」
にやりと半月のように笑みを浮かべて、銀髪の髪がさらりと風に揺らしながら、蝿の女王は告げた。
「こいつらがどこにいるかをね」
刹那、爆発的とも言える圧力が吹き出した。
柊が、勇士郎が、瞬間的に身構える。
ベール・ゼファーに立っていた背後、そこから突然巨人の如き腕が飛び出した。
「ベル!」
それを見た瞬間、柊がベール・ゼファーの名を呼んで飛び出した。
けれど、振り下ろされた巨腕の一撃に、ベール・ゼファーは。
「慌てないで」
すらりと振り上げた手、それを横薙ぎに払っていた。
同時に巨腕がベール・ゼファーを叩き潰す数センチ真上で停止する。
ずるりと巨腕が横にずれ落ちて、見れば少女の手の指、そこから伸びた不可視の魔力刃がこびりついた巨腕の血液を残して霧散化していた。
「ここは既に敵地よ。いつこういう不意打ちがあるかどうか、覚悟しておきなさい」
「はぁ。さ、先に言えよ……そういうことはよぉ」
飛び出した足を止めて、ベール・ゼファーの前でたたらを踏んだ柊が疲れたように肩を落とした。
そんな柊に嗜虐心でも煽られたのか、くすりと笑いながらベール・ゼファーは髪を掻き揚げると。
「そういえば、ベルって呼んだわね」
「あ? ああ、そういやそうだな」
「どうして?」
ベール・ゼファーの質問。
それに柊は目を丸くし、少しだけ考えると……さらりと告げた。
「呼びやすいからじゃねえか? 咄嗟だったしよ」
「そう。まあ呼びにくいなら、ベルって呼んでもいいわよ。貴方もね」
「……俺もか?」
巻き込まれぬよう会話に参加しなかった勇士郎が少しだけ目を丸くすると、くすくすとベール・ゼファー――ベルは笑いながら告げた。
妖しく、美しく、可憐で、それでいて儚い微笑を浮かべて。
「貴方達は私が認めたウィザードよ。誇りなさい」
「蝿の女王に認められるとは、光栄だな」
決してそう思ってなどいない顔つきで勇士郎は告げて、柊は特に感じずにはぁっと息を吐く。
「で? ベール・ゼファー」
「ベル、よ」
「へいへい。敵の、冥魔の位置は分かったのか?」
白兵及び直接戦闘要員が二名である、勇士郎はまだ補助技能を取得しているが、柊に至ってはその手の収集能力と感知能力に欠けていた。
ベルの能力だけが頼りだったのだが、彼女はにやりと嗤って。
「――わからないわ」
あっさりと彼女は肩を竦めた。
「おおい!?」
「なん、だと!?」
二人のツッコミが入るが、しょうがないでしょとベルは唇を尖らせる。
「相手の月匣に入ったからまだ感知がやりやすくなったけど、サーチャーも完全に巡らせたわけじゃないし――」
彼女は明後日の方角に目を向けた。
偽りの町の奥。
裏側の現実を真似ただけの虚像の世界、その奥を睨んで――
「あれだけ反応が多いとね、見分けにくいのよ」
少女は言った。
女王は告げた。
魔王は見据えていた。
世界はキリキリと音を立てて、矯正にも似た悲鳴を上げる。
紅い世界は歪み始めて、分解されて、再構築される。
誰が信じるだろう。
誰が理解するのだろう。
街が、ビルが、地面が、粘土のように形を変えて、より集い、おぞましき化け物へと姿を変えていく。
恐ろしい巨人へと姿を変えていく。
再構築されて、その手には巨大なる槍を携えた巨像となり、立ちはだかる。
異世界。異空間。異相結界。
呼び方などなんでもいい。
そこは敵の領域、敵の妄執の具現化、月匣。
法則も構築も破滅も何もかも支配者が決める絶対領域。
それだけを理解していればそれでいい。
「往くわよ、冥魔はあの奥にいるわ」
ポンチョを翻し、ベルは不敵に嗤う。
その手には光を携えて、もう片方の手には虚無を握り締める。
「やれやれ。骨が折れそうだな」
柊が魔剣を肩にかけると、とんとんと爪先で地面の調子を確かめる。
いきなりの不意打ちで地面から敵が飛び出す――以前遭遇した冥魔の月匣での経験からの学習。
「――虎穴に入らずんば虎子を得ず、か。しかも虎よりも危険で、厄介な相手だが……引く理由はないな」
どこまでもマイペースに、不動の佇まいで勇士郎が故事を口草む。
聖剣が光を放っている、闇を祓えよと、光を齎せよと。
ここにいるのは誰にも止められぬ三人。
誰とも知れずに笑みを浮かべる。
迫り来る巨像、異形の巨獣、形すらも取り繕えぬ化け物の数々。
だが、それがどうした。
この程度で止めるつもりか。
「笑えるわね」
蝿の女王が手の平を差し伸ばす。
天を仰ぐように、或いは掌握するかのように。
「消し飛びなさい、無礼者」
瞬間、空から無数の光が降り注いだ。
世界は彼女のもの。
異形の世界など知らぬ。
絶対なる法則など、軽々と蹂躙して見せよう。
魔王の爆撃が撃ち放たれて、二振りの刃が全てを切り刻まんと走り出した。
嗚呼。
嗚呼。
悲鳴が聞こえる。
肉の軋みがあった。
嗚咽が漏れ出していた。
ギシギシと骨が悲鳴を上げている、肉がぶるりと震えて、流しだす血液――否、生血にテラテラと濡れながら淫靡な輝きを帯びていた。
それは闇に包まれて部屋。
それは苦しみしか満たせぬ箱庭。
ガラスの箱のようにどこか透明で、内部に満たされた暗黒が生々しく見える世界。
その中で一人の少女が居た。
全裸の少女。
汚濁に汚され、四肢の関節まで這い上がったところまで穢れた腐汁に繋ぎ止められた哀れなる人型。
一糸纏わぬ亜麻色の髪の少女が涙を流しながら、獣のような体勢で悲鳴すらも上げられずに、汚濁に犯されていた。
否、貪られている。
それは陵辱などというものではない。
それは蹂躙などというものではない。
股間から侵入した闇、それは彼女の肛門を貫き、直腸から内腑を弄り回し、その奥にある命を冒していた。
ジュルジュルと茂みの奥に隠れていたクリトリスに小さな黒色の触手が茨のように絡みつき、その先端で口を広げた闇に吸い付かれて、音を立てて流しだす液体を吸われていた。
痛みが、快感が、少女の心を蕩かし、粉砕し、切り刻んでいく。
言葉にすら出来ぬ苦痛、涙を流し、口を塞がれた闇に噛み付きながら、本来ならば端正な顔つきを歪めて、淫猥なる表情を浮かべていた。
乳房は闇に啜られ、舐められて、噛み付かれている。
全身をしゃぶり尽くされ、常識では考えられないほどの苦痛を味わいながらもその肉体には崩壊していない。
ただ心だけが壊されていく。
まるで生娘のようだった。
恥じらいを知らぬ、汚れを知らぬ、処女が暴漢に襲われて無残に華を散らしているかのような残酷さ。
されど、それはありえない。
元来ならばそれは魔を統率し、闇を従え、絶望を振りまきし魔王。
人の命を奪い、存在を略奪し、己の欲望のままに他者を蹂躙すべき侵魔。
だが、力を持って暴れるものはそれ以上の力によって叩き潰されるのが世の道理か。
威厳など欠片もなく泣き叫び、誇りなど微塵も残らずに砕かれて、命乞いの悲鳴を上げようにも口は締め付けられて、届かぬ声となって虚空を震わせる。
惨めだった。
哀れだった。
端正なる少女、美少女と呼ぶに相応しい少女は闇に犯されている。
それを哀れだとせせら笑うのに何か間違いがあるだろうか?
未だに成熟もしていない小振りな乳房がジェル状に広がった闇に覆われて、まるで揉まれているかのように形を変えて、その度に微細な刺激が快感となって少女の脳髄に電流を発する。
哀れなる女の性。
如何なる苦痛をも快感へと変える浅ましき欲情。
全身を苛む絶望のような痛みから逃れるために、魔王たる少女は激痛を快楽だと錯覚し、正気を失った瞳で闇を見上げて、誰にも届かぬ絶叫の歌を響かせ続ける。
足を吊り上げられて、両足から広げられた開脚全開の股間。
その臀部が押し広げられるように開けられて、そこから闇が鋭い尖端を見せて潜り込むと、うごごごと苦痛の叫び声を上げるその喉から闇が吐き出される。
生きていることすらも不思議な串刺し状態になり、その四肢が口から伸びた闇に絡められて、肌がきしみ、肉がぶるぶると震えながらも、はち切れんほどの美麗さを見せていた。
人がもっとも美しいのは二つある。
輝かしく命を燃焼させ尽くそうとした時と苦痛に心が壊れかけたときだ。
今の少女は後者に属していた。
全身から切り刻まれた肌、うっすらと流れ出す生血が床に――否、床を埋め尽くす闇に染み込んで、恍惚に喜ぶように波紋を広げる。
だらだらと流れる涙も、滝のように噴出す汗も、淡い茂みから垣間見える華の花弁から溢れ出す蜜すらも、滴り落ちて、闇に飲まれて、消えるのだ。
彼女の悲しみも。
彼女の絶叫も。
彼女の全てが何処にも届かない。
決して、決して。
届かない。
絶望のふちで貪られながら、その全てを吸収され、心がへし折れかけた時だった。
――震動が走った。
一瞬の僅かな違和感。
それに少女は反応し、闇が蠢く手を止めぬままに震えた。
何かある。
何かが起こった。
それに少女が希望かさらなる絶望か見極めようと考えて――次の瞬間、覆い被さった汚濁の中に呑み込まれた。
虚構が咆哮を上げる。
ビルよりも高い、見上げるほどの巨大さを持った巨人。
瓦礫の塊、アスファルトの塊、土くれを混ぜ合わせて菌糸を持って貼り付けた巨大なる巨像。
隻腕の、己の胴体ほどもある数百万トンにも至る巨腕を振り上げて、声無き咆哮が轟いた。
「■■■■■■■■■■v!!!!」
大気を砕き払い、消し飛ばし、振り下ろされる先には何も残らぬ荒廃のみ。
その結果が見え透いた衝突点、地面に立ち尽くす一人の少年がいた。
紅い外套を纏い、左手に握った巨大な刀身にもガントレットにも似た楯――守護の鞘を構えた聖剣の担い手が呟く。
「フォースシールド」
言霊を発声。
重量と速度のあまりに先端が赤熱化した大いなる巨腕の打ち下ろし、その前に一つの小さな光の楯が生み出される。
それはたった一瞬だけれども巨腕の進行をせき止めて、すぐさま粉砕された。
魔力の幻像が破砕され、粉砕した光がシャワーのように降り注ぐ。
それで十分。
勢いは僅かに殺せた。だからこそ――少年は慌てる事無く。
「鞘よ」
左手を振り上げて――音速を超えて落下してきた数百トンの鉄拳を受け止めた。
爆砕。
粉砕。
爆圧。
あまりの威力、あまりの質量、前人未到の破壊力によって大気が打ち抜かれて、その反作用でリング状に広がった衝撃破が台風の強風をも超える風を生み出した。
それを受け止めようとした少年はどうなった?
ひき肉か、消滅か、それとも――?
「……中々だな」
ビルほどにもある隻腕。
振り下ろされたその下から声がした。
巨腕と地面の間数メートル、その間に佇む少年がいた。
その身から燃え上がるようにプラーナを迸らせ、足元に無数の亀裂を走らせながらも、屈する事無く佇むのは流鏑馬 勇士郎。
数百トンの重量、加速度を付け加えれば数万トンにも達する一撃をその手で、その身から噴き上がるプラーナによって受け止めていた。
常人が見れば卒倒するであろう光景。
それど驚くことは無い。
かつて一人の騎士がこれよりも巨大なる異形の突進を、ただ一人でもって受け止めたことがあるのだから。
「柊!」
「おうっ!」
一撃の反発力で動きを硬直させた隻腕。
その上に飛び乗る人影があった。
魔剣をざくりと瓦礫と菌糸に張り巡らされた腕に突き刺し、柊がそのまま切り裂くかのように奔る。
一陣の刃となったかのように数十メートルを越える隻腕を駆け上がり、樹齢数千年の巨樹にも匹敵する厚みを持った腕を切断していくと、その肘辺りで腰を捻り、横薙ぎに切り裂きながら飛び出した。
べろりと肉をこそぎ落とされたかのように隻腕の腕が腕の大部分を落とし、その細くなった腕が自重で軋みを上げると、同時に地上から撃ち出された閃光が命中した。
鋭い牙を持って噛み裂かれたような傷口。
「■■■■■■■■■■a!!!!」
爆風を上げて隻腕の腕が完全に折れ砕けて、瓦礫の巨像が咆哮を上げる。
どこか切なく、怒り狂った咆哮。
されど、それを嘲笑うものがいた。
「黙りなさい、木偶」
巨像の眼下。
遥かな下から手を伸ばす少女が一人。
閃光を放った片手とは逆の手を振り上げると、大気が歪み、時空が捻じ曲がり、虚無が広がる。
――ヴォーティカル・カノン。
虚無の砲撃。
それも現在に伝わり編み出されたそれとは同名でありながらも、その術式を紡ぐのは遥か古代の言語であり、最古の神言。
圧倒的過ぎる虚無の暴虐が巨像の頭部を噛み砕き、全身を虚無で削り上げ、大多数の質量を失ったそれが自重に耐え切れずになって崩壊を始めた。
「あら、根性がないわね」
クスクスと嗤う銀髪の少女――蝿の女王、ベール・ゼファー。
そんな彼女に対して叫ぶものが居た。
「ってうおい! やりすぎだろ!! 足場崩すはずがなんで頭ぁ?!」
頭部を失ったことにより、倒れこむように瓦礫を撒き散らす巨像の破片を懸命に弾き払いながら、柊と勇士郎が叫んだ。
そんな二人に大して、自分はちゃっかり障壁を頭上に展開しながら、ベルは肩を竦めた。
「うるさいわね。やっつけたからいいでしょうが」
「そういうもんだいか! って、あ」
「え?」
柊の呆然とした声。
ベルがなによっと首を傾げた瞬間、グワンと音がした。
障壁の横、地面に一度落ちた薬缶――巨像の一部になっていた家財道具がアスファルトの上で跳ねて、ジャストミートと言わんばかりにベルの額に命中した。
「あうっ!」
のぉおおと額を抑えて、うずくまる魔王。
……本当に魔王だろうか?
柊と勇士郎は最後に振ってきた瓦礫を弾き飛ばすと、はぁっとため息を付いた。
「痛ったいわね! 柊 蓮司、貴方の所為よ!」
「何で俺の所為なんだよ!?」
「貴方が話しかけてこなければ気が付いてたのよ!」
「んなわけねえだろ!」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる二名。
それに見切りをつけて、勇士郎は空を見上げると、その先にある建物を見つめた。
それはおぞましい建築物だった。
まるで蚕の繭か、それとも菌糸の森か。
町の電波塔だったのだろう原型に無数の肉片を継ぎ接ぎして隙間を埋め、それらを触れるだけで糸を引きそうな菌糸と汚水によって染め上げられた異形の塔。
発狂した芸術家が、絵の具をぶちまけ、粘土を叩きつけたかのような整合性も理由も美しさも感じられない場所。
そこにある。
この距離まで近づけば柊も勇士郎も理解出来る。
この月匣のルーラー、冥魔はそこにいるのだと。
「まったく、ようやくここまで来れたわね」
「ん? 口げんかは終わったのか」
「いつまでも話していても意味がないでしょう?」
冷静さを装ったベルが不敵に笑うと、その後ろで魔剣を肩にかける柊を見つめ、勇士郎を一瞥した。
おもむろに唇を自分の指で撫でると、彼女は不敵に微笑んだ。
「さて、と。それじゃ手っ取り早く往くわよ」
その瞬間、スカートを翻して、ベルは両手を空に掲げた。
祈るように、念じるように、嘲笑うかのように。
「あ?」
「手っ取り……早く?」
その言葉に二人が考え込み、数秒後発せられた魔力の波動に理解する。
ベルの両手、その先で光球が生まれた。
燃え盛る炎の如き光球、それは瞬く間に膨れ上がり、生み出された多重術式陣に取り囲まれて、制御されながらも太陽の如く膨張し。
「我が裁きを知らしめよ――ディヴァイン・コロナ!!」
数十メートルの小さな太陽と化した光球をベルは撃ち放った。
大気を焼き尽くし、異界の空を眩く照らしながら、全てを灼熱の焦土へと変えると圧縮された太陽は塔に直撃し――光よりも眩く極光を撒き散らした。
「っ!」
「くっ!!」
閃光に目をやられない様に手を顔の前に翳しながら、二人の剣士が声を漏らす。
圧倒的な魔力。
如何に弱体化しているとはいえ、魔王の魔法。
人知を超えた強大さ、それをありありと知らされた。
「燃えなさい」
パチンと指を鳴らす。
塔を飲み込まんと迫っていた極光は瞬く間に業火と化して、塔の全てに燃え移る灼熱と化した。
燃える。
消えていく。
おぞましき塔が太陽の業火によって焼かれていく。
菌糸の繭が、接ぎとめられていた肉片が、燃え盛りながら、崩壊していき――震動した。
「やっぱりね」
ベルは嗤う。
塔の奥、そこから足掻くように震える存在を感知。
「だろうな」
勇士郎がため息を吐く。
瓦礫を弾き飛ばし、飛び出てくる漆黒の巨腕――現存するあらゆる生物とは異なる禍々しき触腕。
「来るぞ!」
柊が構える。
咆哮が聞こえた。
繭の奥、肉の坩堝の奥、そこで根を張り、貪るように成長していたおぞましき冥魔が這い出でる。
その全身から一斉に見開いた邪眼に憎悪と混沌の瞳を浮かべて――
狂乱の咆哮が月匣の全てを震わせた。
投下終了です。
次回からはクライマックス。
クライマックス、エピローグで魔王少女も残り二話の予定です。
大変遅くなってすみませんでした。
エロが苦手なので、あーにもこーにも戸惑っていましたよ。
戦闘すらも苦手で、エロもダメってどんだけーと思うでしょうが、本当にすみません。
>>383 あうあう、相変わらず凄い展開ですねー。
エリスの愛が勝つか、それとも柊がさらに根性を見せるのか。
打倒黒エリス! けれど、凄い不安(というなの願望)としてエリスがこれで柊への愛を再燃させてしまいそうですね。
くれはは嫌いじゃないけれど、エリスが好きな俺としてはもどかしい。
そして、黒エリス相変わらずというかますますTUEEEEE。
なんという素敵能力、素敵ラスボス風味。
お嬢さん! お願いですから戦わせてください!(強い敵大好き、滑り込み土下座)
……などと九割がた本音は置いといて、次回も楽しみにしてます。
こちらのベル様はそちらに比べて今一ポンコツ過ぎて、比べるのも恥ずかしいですw
これからも頑張ってくださいね!
支援・・・はいるのかな?
乙、グッジョブ。
さり気無く語られた不凍湖の騎士。
そして何やってんだジョニー・ク□ームドーム(違
422 :
支援:2008/10/10(金) 02:00:07 ID:BZXFW4k1
l^丶
| '゙''"'''゙ y-―, あ ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう
ミ ´ ∀ ` ,:'
(丶 (丶 ミ いあ いあ
(( ミ ;': ハ,_,ハ ハ,_,ハ
;: ミ ';´∀`'; ';´∀`';, ,
`:; ,:' c c.ミ' c c.ミ
U"゙'''~"^'丶) u''゙"J u''゙"J
/^l
,―-y'"'~"゙´ | それ るるいえ うがふなぐる ふたぐん
ヽ ´ ∀ ` ゙':
ミ .,/) 、/) いあ いあ
゙, "' ´''ミ ハ,_,ハ ハ,_,ハ
(( ミ ;:' ,:' ´∀`'; ,:' ´∀`';
'; 彡 :: っ ,っ :: っ ,っ
(/~"゙''´~"U ι''"゙''u ι''"゙''u
GJ!相変わらず素敵なまでに文字&爆撃の嵐に圧倒されるばかりですw
しかしこの前のめり過ぎるPTで大丈夫なのか……特に柊!あいつ回避も防御もダメダメだからなぁ
所でマッドマン氏の作品にフェイトっぽさを感じるのは俺だけだろーか?
424 :
エリ夢の者:2008/10/10(金) 07:35:29 ID:073eAWGs
マッドマンさまGJ!
いやー、ご謙遜されてますが一読でご本人とわかる個性は凄いし、迫力ある戦闘は流石っス。
真面目に何処かで文筆活動されてません?いやホントに。
因みに、今まで柊の浮気はナシ路線でしたが、外伝的に他ヒロインとのイチャラヴも書いてみたいと最近思い始めてます(笑)。柊×エリとか魅力的カプかな、と考え始めている自分がいたりして(笑)。
シャドエリは、強いというかしぶといだけかと思ってたんで、強敵と認識してもらえて嬉しい。心行くまでバトって下さい(笑)。
ベル様もカッコ可愛いし大丈夫です!こっちはベル様のキャラが安定してなくてどうにもこうにも…。
長文失礼しました。クライマックスまで頑張って下さい!
ではでは。
パールちゃん様って乳どの程度だっけ?
俺の手のひらに収まるくらいだよ。ついさっき確かめたから間違いないね。
>>425-426 アンソロ ノ サシエ ダト
セイフク ノ ウエカラ ワカル クライ アルモサ。
/^l
,―-y'"'~"゙´ |
ヽ ´ ∀ ` ゙': ハ,_,ハ ソンナ トコ マデ チェック シテル アタリ
ミ / ̄ ̄ ̄ ̄/';´∀`';, サスガモサネ
__゙, ,/) / モサモサ / c c.ミ モサタチ。
\/____/  ̄ ̄ ̄ ̄
ツイデニ ヨソカラ テンサイ モサ
391 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/10/05(日) 15:18:37 ID:sgndRkC9
ラブ心で制御されちゃうちゃんさま、という電波を受信した
407 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/10/05(日) 20:46:50 ID:G7Ea7bmC
>>391 それ見て何故か
アンソロで結構「ある」事が判明した
制服姿なぱーるちゃんさま(ネコミミ先生バージョン)が
いきなり教室に飛び込んで
あまりのことに硬直した愛さだのトオルの膝に乗って
ベッタリくっついて
「んふふふ〜、モッガちん分補充〜♥」
と抱っこせがんでデレデレに甘えまくってる姿を幻視した
ついでにそれ見たベルやルー様があまりのあり得なさに
何か拾い食いして当たったかと大恐慌になって
みかき絵な麒麟とユリの口から魂はみ出して
教室が阿鼻叫喚の大惨事になる最中
教壇のリオン先生が「……この本に書いてあるとおり」と
なかのひとじみた笑い浮かべるのも見えた
フゥ……今日の電波はいつにもましてゆんゆんしてるぜ……