「ちょっと待てって! 一旦離れろ!」
「そういう事を……したかったのではないのか? だから私を押し倒した
のだろう? 違うのか?」
傍から見れば、男が男を組み伏せているような、奇妙な光景にそれは
見えただろう。もしも、私の正体を知る者がそれを見たとしても、同じく
女が男を組み伏せているような、奇妙な光景に見えただろう。
どちらにしても奇妙な光景の中で、私の心もまた、奇妙に弾んでいた。
「だ、だから……両想いなら、別に……そんな、急がなくても……」
「……一年以上……私にとっては二年以上か……それだけ待ったのだから、
急ぐも何も……遅すぎるくらいだ」
そうだ……ルームメイトとなり、初めて顔を合わせたその日に、もう
私は恋に落ちていたのだと、今ならばわかる。普通に男同士、友人として
付き合うのに、どこか寂しさを感じていた理由が、今ならばわかる。
一目惚れだったのだ、と。
歳月は、奴にだけではなく、私の方にもまた、思慕を募らせていた。
「で、でも……もっと、こういう形じゃなくて、ちゃんとした……」
慌てふためく奴の姿は、普段まず見れない事もあり、それなりに面白い
ものではあったが、それよりも、もどかしさの方が先に立つ。
「問答無用!」
私は、奴の両腕を押さえつけたまま、
「……ん」
「ちょ……ん!?」
――口唇を、奪った。
ただ合わせるだけの、恋人同士がするような深い物ではなかったけれど、
それでも、私の胸はこれ以上ない程に高鳴り、同時に感じていたもどかしさ
が薄れ……幸福感とでも言うべき感情が沸きあがる。
――――――。
どれくらい、そうしていただろうか。
「……っは」
「……ふはっ!?」
ろくに息をしていなかったのだろう。私が口唇を離すと、奴は大きく
肩で息をして、呼吸を整えていた。
「くくっ……」
その姿がまた妙に面白く思え、私は笑った。
「……何がおかしいんだよ……まったく、もう」
「いや、何……普段、割と泰然自若としているお前の、意外な一面を見れた
ような気がしてな」
「……どうせわかるだろうから言っとくけど……俺、こういう事するの
初めてなんだからな? いきなり強引にんな事されりゃ、慌てもするわ」
「それは奇遇だな。……私も、初めてだ」
「……ま、それはそうだろうな」
「む……何故納得する?」
「いや、だって、そりゃ今までずっと男として生きてきて、そういう事する
機会があったと考える方が難しいだろ」
「なるほど」
奴の言う通り、今までそういう機会は無かったし、そういう気持ちを
抱くような男もいなかった。優しくて賢くて男らしい……そんな、こいつ
のような、惹かれてやまない男は、いなかった。
「私のファーストキス……どうだった?」
「どうだった、と聞かれても……なんか、いきなりだったし、頭の中が
真っ白になっちゃって……正直、よくわからん」
「むぅ……それは残念」
私の方は、なんだか凄く幸せな気分になれて、物凄く嬉しかったのだが。
そんなことを考えていると、奴は思わぬ事を言い出した。
「だから、だな、その……もっと、していいか? しっかり……あ、味わいたいし」
キスをした時と同じような嬉しさが、幸福感が私の胸を満たす。
「もちろんだ!」
日が落ち、暗くなった部屋の中で、私達は互いに肩を抱き合い、口唇を
合わせ始めた。
最初はただ合わせるだけだったそれも、次第に激しくなっていく。
「舌、出して」
「こ、こうか?」
私が出した舌を、奴の舌が絡めとっていく。
「んっ!」
その瞬間、背筋に寒気にも似た、だが心地いい感覚が走る。
「んちゅ……はっ……ちゅむ……」
自然と、私の方からも奴の舌に自らのそれを絡めていってしまう。すぐ様
心地いい感覚――快感が、倍になって私の身体を襲う。
「……気持ち、いい?」
一度口を離してのその問いかけに、陶然と蕩けかけていた頭が現状を認識し、
私は顔を真っ赤に染めて、コクリと頷いた。
「よかった。……俺も、だから」
「うん……嬉しい」
自分が快感を覚えている事よりも、奴に同じような快感を与える事が
出来ているという事が、私には嬉しかった。
しばしの会話の後、再び互いの舌を舌で弄り始める。
送られて来る快感に私の身体は幾度か小さく跳ね、それが十を数えた頃、
奴は口唇を離して、私の顔を覗き込んだ。
「ここから先進んじまうけど……俺で、いいのか?」
ここから先……その言葉の意味する所は、蕩けかけた頭でも理解できた。
理解した上で……私は頷いた。
「俺も、よくわからないから……何か、痛かったり、駄目だったりしたら、
遠慮なく言ってくれよ? とめられるかどうかわかんねえけど、
努力は……まあ、一応する、つもりでは……うーん、どうだろ、無理かも」
こんな時でも……いや、先程欲情に押し流されそうになった時ですらも……
どんな時でも、こいつは優しくて、そして、嘘をつかない。
その事が嬉しくて、嬉しくて……私の瞳には涙が滲む。
「え、あ、おい!? どうした? どっか痛いのか!? 嫌なのか!?」
「違うよ……嬉しいんだ。お前が凄く私を気遣ってくれるのが、凄く……
凄く、嬉しいんだ」
「な、何か……正面切ってそういう事言われると照れるんだが……」
「ふふ……照れてるお前は可愛いぞ」
「そういうのは俺の台詞じゃないか?」
「可愛いのか? 私が?」
「そんなの……可愛いに決まってるだろ」
嘘をつかない男が口にした賞賛の言葉に、私の鼓動はまた一つ高くなる。
「……確かに、正面切って言われると、照れるな……」
「ふふっ……照れてるお前も可愛いな」
「……っ」
お返しにかけられたその言葉に、全身のみならず、耳たぶの辺りまで
熱くなっていくのが、自分でもわかった。
そうやって褒められることは、恥ずかしくもあったけれど、それ以上に
嬉しかった。嬉しさが、際限なく、どこまでも溢れていく。
心臓の鼓動も、それに呼応するように早くなっていく。
「……いい、よ」
「へ?」
「もう、私は大丈夫だから……来て」
「……」
ごくりという、彼の唾を飲み込む音が、私の耳にも聞こえた。
あるいは、もしかするとそれは私が唾を飲みこんだ音なのかもしれなかったが、
最早そんな事はどうでもよかった。
私が彼を求め、彼は私を求めている。
……もう、妨げる物は、何も……無い。
「……じゃあ、触る、ぞ」
「……うん」
彼の手が、その頷きを許諾の合図として、私の身体に伸びていく。
「……ん」
身にまとっていたままだった学ランに、彼の腕がかかる。
ずり下ろすように脱がせる動きに抗う事なく身を任せ、私の上半身を
覆うものはクマのワンポイントの入った下着だけとなった。
「……やっぱり、このクマさん下着はずるいな」
「な……何が?」
聞き返す言葉に応える言葉はなく、男は続けて下の方へ手をかける。
履いていたスラックスを抜き取られ、上半身と同じく、私の下半身を
覆うものもまた、クマのワンポイントの入った下着のみとなった。
「……だってさ、」
肌の感触を確かめるかのように、腕を、足を、お腹を、ゆっくりと、
ゆっくりとさするように動く彼の腕。まるで、全身にキスをされている
かのように、触れられる度に快感が走り、私の身体は小さく跳ねる。
「凄く……女の子なんだな、って、そう思えて」
「……それで、辛抱できなくなっちゃった、と?」
「か、からかうなよ……そうだけどさ」
「ふふっ……クマさん様様だな」
小さく伯母に感謝し、再び私は全身を巡る快感へと身を委ねた。
「んっ……ふぁ……」
少しずつ、意志に拠らない声も漏れ始める。
「じゃあ、胸……脱がすぞ?」
「……許可取らないでいいから……余計恥ずかしい」
「す、すまん」
謝りながらも、彼の腕はすぐ様私の両肩にかかっていたストラップへと伸び、
少し持ち上げるようにしてそれは外され……両の胸が、外気に触れる。
「……可愛い」
思わず漏らしたのだろう彼の言葉と、まじまじと見られているという羞恥に、
たださえ赤くなっていた顔が、さらに赤みを増したように感じた。
「もっと、その……大きければ、良かったんだけど」
「……いや」
「ひゃっ!?」
彼が手で、慎ましやかな私の胸を、揉みあげるように上へと押し上げ、次第に
円を描くように動かし始める。
「よくわからんが……凄い、揉んでて気持ちいいぞ、お前の胸」
「……ばかっ、そんな事真面目な顔で……ふぁっ!」
途中で先端を彼の掌がかすめ、全身を震えるような快感がはしる。
「あ、やっぱりここ、気持ちいいんだ? ……触っても、大丈夫か?」
「……ゆ、ゆっくりしてくれ。ちょっと……怖い、し」
刺激が強すぎて、快感に頭の中が塗りつぶされ、何もわからなくなりそうで……
私は、先端を刺激される事に、少し恐怖を感じていた。
「……こうすれば、怖くないか?」
そう言うと、彼は私の身体を横たえ、その横に同じように横たわり、添い寝を
するように身体を密着させた。
それまで掌からしか感じられなかった彼の体温が、直接私の全身の包む。
彼のまとうシャツ越しではあったが、それでも、その温かさは、私の心の
不安をきれいに拭い取っていく。
「うん……何だか、ホッとする」
「じゃあ……いっぱい、触るからな」
「……うん」
先程と同じように、胸を揉むように触られた後、ゆっくりと、まるで焦らすかの
ようにして、彼の指が先端へと近づいてくる。
「んっ……!」
先端を刺激された時に覚えた快感は、先程と同じように強かった。
だが、恐怖は無かった。頭の中が真っ白になっても、全身を包む温かさは
感じていられるから。
「あっ……あっ、んっ、くっふ……」
だから、私は、純粋にその快感だけを覚え、溺れていった。
彼の指の動きが上手いのか下手なのかは、私にはわからなかったが、ゆっくりと
私の身体を気遣いながら、それでいて私の反応を見て気持ちよい所を探して
くれようと努力してくれているのは、十分にわかった。
「ああっ、そこ……なんか、へんな感じぃ……」
先端と乳房を丁寧に揉まれ、触られ、彼の温かさを感じながら、すっかりと
私の頭は蕩けていこうとしていた。
鼓動が際限無く高まっていく。
快感も同様に際限無く。
「……下も、触るぞ」
だから、そう言われた時、私は何も考えずに頷いていた。いや……正確には、
もう何も考えられずに、だろうか。それだけの、頭を蕩かす快感が、その時点で
既に私の身体の中には送り込まれていた。
だが……下着の中に手を差し入れられ、直接下の敏感な部分をさわられた瞬間、
「ひぅぅぅぁっ!?」
そんな快感など問題にならない程の刺激が私を襲った。
真っ白どころではない。一瞬で、透明になってしまいそうな激感に、私は腰を
宙に浮かせ、激感が消えるまでのしばしの間、彷徨わせた。
「だ、大丈夫か?」
程なくして、ペタンと腰が落ちる。
思わず腰を浮かせてしまった私にびっくりしたのか、彼は思わず手を差し入れて
いた下着から抜いて、心配そうに聞いてきた。
……大丈夫なのかどうかは、私にもわからなかった。
絶頂……とはまた違うのだろう感覚だと、なんとなく思った
という事は、さらにこの上があるということになるわけで……。
ごくり。
「……だ、だいじょうぶ……ちょっと、びっくりしただけで……」
「痛かったりしたら、言ってくれよ」
「うん……だいじょうぶだから……もっと、してぇ……」
こんなに蕩けた声を出せるのかと、自分でも驚く程に甘い声が口から漏れる。
その内容は、はしたない、快感を求め、ねだる言葉だ。
冷静になって考えてみれば、初めてなのにこんなに触られただけで感じまくり、
尚且つおねだりまでしているなんて、正直一般的な女としてはどうなのかと
思ったりもするが、そんな冷静な思考は、この時の私には無理だった。
……だいたい、冷静になって考える必要自体、無いしな、うん。
「随分感じやすいみたいだな……ほら、もう濡れてる」
「ふぇ?」
言われて、視線が下を向く。
そこには、明るい茶色から黒ずんだ茶色に色を変えたクマさんの姿があった。
「ぬがせてぇ……」
下着を汚してはいけないという考えだけが、何も考えられない頭の中を
駆け巡り、またしてもはしたないお願いが口をつく。
「……おっけ」
彼の手が、下着へと伸びる。
腰を浮かせ、足を挙げると、スルスルとクマさんパンツが抜き取られ、私は
全身をあます所なく彼の目に晒す事になった。
「やっぱり……お前、可愛いな」
「……はずかし……」
見られているという事よりも、褒められた事の方が恥ずかしくて、私は顔を
手で覆った。すると、今度は私のものではない衣擦れの音が聞こえる。私は既に
もう脱ぐ物が無いのだから……となると、これは……。
「……と、とりあえず……俺も脱いでおいたから」
「……え」
そっと指を開き、その隙間から眼前にある物を覗くと、そこには、男の象徴を
屹立させた、彼の姿があった。
「ひゃっ!?」
素っ頓狂な声を挙げて、私はもう一度顔を覆う。
「……な、何か……変じゃない、かな、俺?」
「………………わ、わかんない」
そう答えるしかなかった。
何せ、私は彼以外の男は知らないのだから。
だが、一瞬だけ見えたその身体は、思ったよりもずっと大きくて……ついでに
男の象徴も相当大きくて……私は、顔を覆った手を外せなかった。
「そ、そっか……あー、じゃあ、その……下、もう少し弄るぞ?」
コクリと、顔を覆ったまま頷くと、先程全身を襲った激感が、少しだけ柔らかく
私の身体を再び襲い始めた。
同時に、布地越しではない、少しだけ汗ばんだ肌の感触が、私の身体を包む。
背後から抱きしめるようにしながら、彼は私の下半身に手を伸ばしている。
「さっき、いきなりクリトリス触っちゃったみたいだから……今度は、こっちの
ヒダの方、ゆっくりやるから」
クリトリス……股間の上部にある、突起のようになった部分の事だ。先程の
激感はそこを触られた事によるものらしい。
「んふぁぁぅ……んくっ、ひぅっつ……」
そこを避け、彼の指は私のスリットの部分を撫でるように上下している。
それでも、胸の先端に勝るとも劣らない快感が私の身体を走り抜けるが、
先程のように一瞬でどこかに飛んで行ってしまいそうになる程の激感は、無い。
顔を覆っていた両手は、いつの間にか彼の両腕を掴んでいた。
「凄い綺麗だな……なんか、ぷにぷにしてて」
「……んっ、な……っくぁ、ふぅ、んっ……!」
男を受け入れた事がなく、自慰の経験も殆ど無い私のそこは、まるで一筋の
線のようにぴたりと閉じていて、その隙間から滲み出るように液体が生じている。
「ちょっと……広げてみても、いいか?」
その言葉に、私は頷く事しかできない。
言葉で応える事も、ましてや首を横に振るという選択も、今の私には無かった。
「じゃあ……」
彼は、体勢を変えると、私の両足の間に身体を割り込ませ、私の下半身へと
両の手を同時に伸ばした。筋の両側を押さえ、引き伸ばす。
くぱっ、と音を立てるように、私のそこが広げられ、中の部分が空気に触れた。
「ひぁっ、ぁっ、ぁぁ……」
それまで感じた事が無い部分で外気を感じ、私の身体は震える。
「凄く綺麗だぞ……お前のここ」
「……あ、ぅっぁ……」
褒められているのだと思うと、恥ずかしさと嬉しさがないまぜになった感情が
胸に溢れ、それだけで私のそこはとろとろと愛液を分泌した。
その様を注視していた彼が、自身の象徴を私の眼前に突き出す。
それは、彼が脱いだ時よりも、さらに大きさと太さを増しているようだった。
私は、今度は顔を覆わず、先程まで自分の中心を注視されていた仕返しとばかり
に、その象徴をじいっと見つめた。
「そろそろ……俺、我慢できないんだが……」
時折ビクビクと震え、先端からは透明の液体が漏れ出ているそれを見れば、
その言葉の意味する所はわかった。
「……なるべく、優しく……できるといいけど……まあ、善処するとしか」
段階を負う度に、自制心がなくなっているのを正直に白状する辺り、こいつは
本当に正直で、どうしようもなく真面目なのだなと、そう思う。
だから私は、そんなこいつになら……何をされてもいいと、そう思った。
「……だいじょうぶだよ」
「え?」
「あなたになら……なにをされても、いい。いたくても……つらくても、
がまん、できるから……」
「………………」
またしても、唾を飲み込む音が聞こえた。
それが私の物か、それとも彼の物かは、やはり、わからなかったが。
「……じゃあ、いくぞ」
こくりと頷くと、待ちきれないとばかりに私の中に彼は入ってきた。
「ぐっ……ぎ……いっ、いたぁ……」
筋のような私のそこは、大きく固くなった怒張に、めりめりと音を立てて
割られ、侵されていく。
「んぐぁっ! かはっ、くっ……ふぅっ……んっ!」
抑えようとしても、どうしても苦悶の声が出てしまう。
その度に、彼は心配そうな視線を私に送ってくるが、その度に私は心配するなと
視線で返した。が、青ざめて歯を食いしばっているであろう表情では、説得力が
なかったのだろう。
「……一気に、全部入れるぞ!」
最初はゆっくりと侵入を図っていた彼は、それでは私の苦悶を長引かせるだけ
だと判断したのか、僅かに腰を引き、反動をつけて、一気に怒張を突き入れた。
「ぐぅぅ……いっ!? いったぁぁあああああああ!?」
絶叫が、私の口をつく。
クリトリスを触られた激感と、正反対にある激痛が、全身を駆け巡る。
頭が違う意味で真っ白になりそうだったが、全身でしがみついた彼の身体が、
何とか私を引き止めてくれた。
「だ、大丈夫か!?」
流石にここまでの反応は予想外だったのだろう。
彼は本気でうろたえていた。
「あ、かは……くっ、くぅ……」
何をされてもいいといった手前、彼を責める事はできないが……ちょっと本気で
死ぬかと思うくらい痛かった……。
何とか呼吸を繰り返し、息を整える。そうでもしないと、言葉すら発せそうに
なかった。
「すまん……ちょっと、無理矢理に行き過ぎた」
「いや……ふぅ……はぁ…………いい。かまわない」
「……それでも……すまん」
「その気持ちだけは……ありがたく受け取っておく」
「少し、このままじっとしておくな?」
「……ああ、そうしてくれると嬉しい」
先程まで快感に蕩けていた頭が、一気に現実へと引き戻された。
そして、その現実へと引き戻された頭が、現在の状況を認識する。
「……一つに、なったんだな……私達は」
「……ああ」
結合部から太腿にかけて、ぬるっとした、愛液とは違う感触がある。
正上位で、彼の身体を抱きしめ密着している為目では確認できないが、
恐らくは破瓜の鮮血が、彼の物を伝って垂れているのだろう。
「……初めて……奪われちゃったな」
「……ああ」
それまでの快感が快感だっただけに、ありえないと感じる程の激痛には流石に
参ったが、それでも……それでも、その激痛が落ち着き始めた今、私の胸の中は
幸福感で一杯だった。それはもう溢れんばかりに。
「……今、私……凄く幸せだよ」
「……ああ」
……あれ?
「聞いてる?」
「……ああ」
……やっぱり聞いていないようだ。
というか、今度は彼の方が苦悶の表情を浮かべて、歯を食いしばっている気が。
「どうしたんだ?」
「……ぶっちゃけていいか?」
「構わないぞ」
「動きたい。止まってるの辛い。もう出そう。……けど、お前辛そうだし、もう
ちょっとだけ我慢しようかなけどできないかなやばいなどうしよう?」
「……ぶっちゃけたなぁ」
確かに、男……しかも初めて事を経験する男が、女性器に挿入したまま
待つというのは、中途半端な快感に晒されて、拷問に近い苦しさがあるだろう。
先程、何をされても我慢するといった手前もあるし……何より、彼にも気持ち
よくなってもらわないと……彼にも今私が感じているような幸福感を覚えて
もらえないと、せっかく一つになれたのに、一つになれないまま終わってしまう。
「動いて、いいよ」
「……ホント? もう、大丈夫なのか? 俺が大丈夫かどうか微妙だが、
お前の方も微妙だろ?」
「さっきも言ったろ。あなたになら何をされてもいい……痛くても、なんでも、
我慢するって。それに……」
「……それに?」
「何となく……変な感じ、してきて……動いて、欲しいかな、って」
その言葉は、事実だった。
繋がっている部分から、未だ鮮烈な痛みは感じていた。
だが同時に……痛みではない、小さな何かも、少しずつ感じていた。
疼きにも似たそれは、恐らくは快感の萌芽。ゆっくり動いてもらえれば、
それを育てていく事はできそうだった。
「でも、ゆっくり動いてくれ……痛いのは、まだ痛いし」
「……うん、わかった……善処はする」
善処かいっ。
……まあ、そういう正直な所が好きなんだが。
動きとめてくれてる間に大分落ち着いたし、激しく動かれても我慢できなくは
無いだろう……恐らく。
「じゃあ、動くぞ?」
「……うん」
ゆっくりと、ゆっくりと。
まずは最奥にまで収まった物を引き抜き、そしてそれを再び最奥にまで差し込む。
ただ前後に移動するだけのその動きは、だがしかし、彼には強い快感を与えている
ようで、表情が苦悶から快感を耐えるようなそれに変わっていく。
「ん……そのくらいのスピードなら大丈夫……もっと、速くてもいいよ?」
しばらくとまっていてくれたお陰で、身体の力が抜けたお陰だろうか。痛みは、
挿入直後のそれとは比べ物にならないくらいに減って、少し覚悟してれば
十分耐えられる物になっていた。
逆に……その動きでは、快感の萌芽への刺激が足りない。
もっと速く、強く動いて欲しくなって、私はそう言った。
「……じゃあ」
彼のピストンのスピードが上がる。痛みは、それ程増さなかった。
だから、私は痛みへの備えを緩め、快感の萌芽へと意識を集中する。
「ここ弄りながら突いたら、気持ちいいんじゃないか?」
集中し始めた所に、そんな言葉が降ってくる。
どういう意味だと考える暇もなく、彼の指が、私のある部分を弾いた。
「ひぃぃぁあぁぁあああああっ!?」
喉をのけぞらし、腰を彼の身体ごと持ち上げんばかりに突き上げ、私の身体を
激感が駆け巡り、頭の中が一瞬無色透明な状態になる。
クリトリスを触られたのだと気付いたのは、その激感が過ぎ去ってからだった。
「ひぁ……そこ、だめぇ……さわっちゃだめぇ……」
腰を突き上げた事で彼の物が膣壁を擦り、痛みもあったはずなのだが、クリトリス
への愛撫による激感の前では、そんな痛みなど問題にもならなかったようだった。
「っく……今……凄い、ぎゅっと締め付けてきて……今も、うねうねしてる……!」
「へ……へぇぁあ……」
何がなんだかわからなかった。
何がなんだかわからないまま、続けて彼は私のクリトリスを続けて愛撫してくる。
「あっ、ひぁっ、くぅんっ、いや、なんか……へんっ! へんになるぅぅっ!?」
触られる度に身体が跳ね、私は何を口走っているのか自分でもわからないまま、
ただただその激感から逃れようと頭をふった。
「や……ばい……も、もう……我慢でき……ないっ!」
私が感じている激感を、少しでも彼に還元しようとしているのか、私の中は、私の
意志にはよらずに彼の物を食い締め、淫らに扱きあげている。
歯を食いしばり、荒い息を漏らす彼には、最早余裕は無さそうだった。
無論、それは私も同じだ。
「ふぅんっ、くっ、あっ、あっ、ああっ、あぁっ、なにっ!? なにこれぇっ!?」
もう、わからないという事すらもわからなくなった。
私はただ、奔流に流されるまま、彼がくれる激感に誘われるがまま、一気に
今まで昇った事も無い、遥かなる高みへと駆け上がっていく。
「……出るっ!」
「いっ……あああああああああああああああっっ!!!!???」
彼の白濁がしとどに私の最奥へと注ぎ込まれるのと、私が背筋をこれ以上無い
くらいに弓なりに仰け反らせて絶頂へと達するのは、ほぼ同時だった。
「あっ……ああっ……」
どくんどくんと、脈動は長く続いた。
「……なか……でてるぅ……あつ……ぃ……」
その度に、私も身体を震わせ、注ぎ込まれる彼の白濁の熱さに酔いしれて――
倒れ込んでくる彼の身体を受け止め、愛おしさに抱きしめながら――
私は、意識を手放した――
翌日。
あの後、そのまま私達は眠ってしまっていたらしい。
朝になって先に目覚めた私は、何となく彼と顔を合わせ辛くて、先に部屋を出て、
学校へと向かっていた。そして教室で何となく時間を潰していると……
「よっ、おはよう」
「あ、ああ……おはよう」
彼は、何事もなかったかのように、いつもの如く私に挨拶をしてきた。
「……」
「どした? 何か俺の顔についてる?」
私の憮然とした表情が見えたのだろう。歩み寄ってくると、周囲に聞こえないような
小声でそんなことを聞いてくる。
「君は、何か僕に言ったりやったりする事はないのかな?」
「……言う事?」
思案するような顔をした後、彼は言った。
「ああ! ……ごちそうさまでした」
「……っ!?」
顔が赤くなるのがわかった。
そうじゃないだろ!? そうじゃなくて……。
「でも、学校では今まで通りで行こうぜ」
「へ?」
何か意識するようなそぶりを見せて欲しかった私の考えを見透かしたかのように、
彼は私の抗議を遮るように、そう言った。
「だって……まだ、男としての生活、辞めるわけじゃないんだろ?」
それは、その通りだった。別に、"女になった"からと行って、女として生活する
ようにしようとは思わなかった。この生活には、理由があるのだから……辞めようと
して辞められるものじゃない。
「だったら、今まで通り。いいだろ、それで?」
「それは……その、そうだけど……何かもうちょっと、ねぇ……」
「そういうのは、部屋に帰ってからとか、休みの時とか、そういう感じで、な?」
「え? それって……」
「むしろ、しっかり付き合ってもらうぞ。せっかく恋人が出来たのに、誰にも
自慢できないんだからな」
「……う、うん」
嬉しさと恥ずかしさで、頬がさらに真っ赤になるのがわかった。
……ホントに、正直で、根っこの所では真面目で……凄く、私の事を想ってくれて……。
「色々一緒に楽しもうぜ……これから、ずっとな」
「うん!」
これから、色々大変な事もあるだろう。
だけど、私は……この人がいたら、大丈夫だと、そう、確信できた――
終わり