【貴方なしでは】依存スレッド3【生きられない】

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1名無しさん@ピンキー
・身体的、精神的、あるいは金銭や社会的地位など
 ありとあらゆる”対人関係”における依存関係について小説を書いてみるスレッドです
・依存の程度は「貴方が居なければ生きられない」から「居たほうがいいかな?」ぐらいまで何でもOK
・対人ではなく対物でもOK
・男→女、女→男どちらでもOK
・キャラは既存でもオリジナルでもOK
・でも未完のまま放置は勘弁願います!

前スレ 【貴方なしでは】依存スレッド2【生きられない】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1193297652/
2名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 06:30:56 ID:8oYzVl1H
>>1

1乙!!
3名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 07:37:53 ID:GGGjMPmW
>>1
4名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 08:31:15 ID:NkZ88zBh

669 :名無しさん@ピンキー:2008/04/09(水) 18:36:51 ID:cShlfD4I
依存大好き教の(自分的脳内)派閥図
├― 対人依存派(二大派閥)
|   ├─ 依存する娘萌え派(主流派)
|   |   ├─ ひたすらに愛する姿が良いよ(一途派)
|   |   ├─ 征服欲が満たされるよ(支配者派)
|   |   ├─ 必要とされたいよ(シンジ君派)
|   |   ├─ 依存している娘を虐めたいよ(加虐依存派)or(SMで言うとS派)
|   |   └─ 依存のあまり病んでいる娘に依存してるよ(ヤンデレ派)
|   ├─ 依存する男萌え(非主流派)
|   └─ 相手を依存させるよ(依存過程快楽主義派)
|       ├─ 策略で陥れる(依存原理主義者派)
|       └─ 薬や魔法、機械で依存させる(MC派)
├― 対物依存派 (二大派閥)
|   ├─ 薬等(中毒者派)
|   └─ その他物品(コレクター派)

├― 行動依存派(コミュニケーション派)
|   ├─ キスや膝枕などいちゃいちゃしたいよ(恋人派)あるいは(キス魔派)
|   └─ 占い等に依存している娘って良いよ(極少数派)

├― むしろ依存したい派(M派)
|   ├─ Mだから(SMで言うとM派)
|   ├─ 自分で考えるのは面倒だよ(無気力派)
|   └─ 自分が依存させられていく過程に興奮するよ(過激派)

└― 共依存派(シーア派)
5名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 10:03:19 ID:85r0ZIes
>1
乙です。
6名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 13:56:14 ID:fSKWDnl3
>>3のIDがガオガイガー
7名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 22:50:02 ID:f3ZiDIyh
>>1乙です
8名無しさん@ピンキー:2008/08/22(金) 00:51:35 ID:+bWTjmDw
乙。
たまにくる投下がとても楽しみだから落ちないでほしいところだなぁ
9名無しさん@ピンキー:2008/08/22(金) 01:25:10 ID:nmJF9oA5
ところでゲーパロ氏以外で投下ってあったっけ?
まあ、それはそれでいいんだが落ちるはずのスレが、彼のおかげで助かった。
もう足向けて寝れないな、どっちにいるかわからないが
10名無しさん@ピンキー:2008/08/22(金) 07:03:36 ID:ETTjDCdV
いくつかはあったよ
11名無しさん@ピンキー:2008/08/22(金) 19:20:33 ID:QMkqQFDk
>>1おつ
12名無しさん@ピンキー:2008/08/23(土) 20:41:31 ID:x4eOPnAJ
>>1
13名無しさん@ピンキー:2008/08/23(土) 21:50:46 ID:JDjsSrqk
ここって保管庫ないの?
14名無しさん@ピンキー:2008/08/23(土) 22:38:19 ID:x4eOPnAJ
確かなかったはず
気になるなら君が作ってみたら?
15名無しさん@ピンキー:2008/08/23(土) 22:55:34 ID:JDjsSrqk
いや、ちょっと別のところでSS書いてたらなんか内容がずれて依存スレっぽいものになってそうな気がしたから
過去のヤツ見て行けそうなら投下しようと思っただけなんだ。
16名無しさん@ピンキー:2008/08/23(土) 23:04:40 ID:x4eOPnAJ
ならば迷わず投下するんだ。
人が少ない時だからこそ依存っぽいものならガンガン投下して熱いパトスを放出
してくれ
17名無しさん@ピンキー:2008/08/23(土) 23:27:03 ID:CLH5AffA
そういや、前に誰かがhtmlをうpしてなかったっけ……
まだ持ってる人居たら再うp頼む
1815:2008/08/24(日) 04:24:41 ID:XdXi4UTk
「お兄ちゃん…?」
夏の刺すような日差しの中、声がした方へ振り向く。
5、6メートル離れた所に、制服姿の少女が立っていた。
一人っ子の俺を“お兄ちゃん”なんて呼ぶ人は一人しかいない。
「…夏美ちゃん?」
「わー、本物のお兄ちゃんだ!」
答えるとほぼ同時に、その少女が白いカッターシャツをなびかせながらこちらに駆け寄ってきて一気に距離が縮まる。
「はは、なんだよ本物って」
「だってだってー!勝手にどっか行っちゃうんだもん!」
彼女が密着してくるのを、軽く手で制した。
住宅街の細い路地だから他に人気はないとはいえ、一応白昼の公道でとるような仕草じゃない。
それでも、お構いなしといった様子で俺の腕をつかむとまくしたてるように話し続けている。
「ホント、久しぶりだな。元気だったか?」

彼女は俺の実家のすぐ隣に住んでいるが、兄妹でもなければ何の血縁もない。
しいて言えば幼馴染みたいな関係かもしれないが、
俺の方がずいぶん年上なので、お互いよくある幼馴染像は抱いていないと思う。
やっぱり兄妹みたいなものが一番しっくりくる関係かもしれない。
「お兄ちゃん!」
「ん?」
とりあえず返事はしたが、用がないことくらいわかりきっていた。
もともと人見知りが激しくて、内気な子だったが、
いつからか二人っきりになるとこうやって、意味もなく注意を引くのが好きな子だった。
今も上の空で回想にふけっていた俺が気になったみたいだ。

隣に住んでいるとは言っても、5歳も違う異性だから小さい頃は遊び相手としては物足りなかった。
小学校の時の集団下校で一緒に帰るようになって、会話するようになったのが最初かもしれない。
それから、彼女の両親がおとなしい彼女を心配しているのを知り、ちょくちょく登下校を共にするようになった。
“お兄ちゃん”はその時漢字で書かれていた俺の名札が読めなくて、
彼女が俺を呼ぶのにとっさに使った言葉だったが、いつの間にかそれが定着していた。
俺も俺で、その時は年下の子の世話を任されて、大人になった気分に浸れたので悪い気分でもなかった。
半年ぶりぐらいに顔を合わせたが、今でもその口癖は治ってないみたいだ。
まあ、もっとも10年以上こう呼ばれてたから、突然変わってしまっても違和感がある。
それに、変わってなくてどこかホッとしたような気持になってしまった。

「お兄ちゃん、最近どうしたの?全然見かけないんだもん。死んじゃったのかと思ってた」
相変わらずの屈託のない笑顔だった。
「おい、勝手に殺すなって」
「だってー」
「俺、今年から社会人だからさ、一人暮らししてるんだよ」
「えー、そんなの知らなかったよ」
「ん、言ってなかったっけ?」
「知らないよー」
彼女が頬をぷくっと脹らませて不満げな顔をしている。
それを人差し指で突きながら続けた。
「意外と帰りが遅くなって家族にも悪いしさ、会社から補助も出るしアパート借りたんだよ。
 でもこっから電車で30分くらいだから、いつでも遊びにおいでよ」
「うん、行く!バイトしてお金貯めて行く!」
「はは、同じ市内だよ?がんばれば自転車でも来れるって」
1915:2008/08/24(日) 04:25:11 ID:XdXi4UTk
「そういえば、親父に車動かしてくれって頼まれてたんだ」
一通り会話が途切れた所で、ポケットから車のキーを取り出す。
キーレスのボタンを押し、ロックが解除されるのを確認して車に向う。
が、急にシャツの後ろを引っ張られた。
「ん、どうした?」
振り向くと、夏美が両手で俺のシャツをつかんでいる。
「…夏美ちゃん?」
「……あ」
二度ほど呼びかけると、ようやく我に帰ったといった感じで彼女がかすかな声を上げた。
「つ、次いつ帰ってくる?」
何かもっと別のことを言いたそうだったが彼女の口からはそんな言葉が出た。
「さあ…、ちょっとわからないな」
「……」
相変わらず彼女の両手は俺のシャツを離してはくれない。
「…これから、暇なら一緒にドライブでも行く?」
「え…?」
「忙しいか。今年で高校3年生だもんな?」
「ううん。行く!大丈夫!」


一応両親に許可取ろうか、と訊いたが彼女はもう子供じゃないから心配いらないと一言答え助手席に座った。
助手席のシートベルトがカチッと音を立てるのを確認すると、
俺はサイドブレーキをゆっくり下ろし、家のガレージの前に路注状態だった車を動かした。
大通りに出てしばらくは、すいている道を選び適当に車を走らせる。
夏美も調子を取り戻したようで、他愛のない会話に花が咲く。
彼女は、今は部活のマネージャーをやっていて、今日も学校に行ってきたとか、
近所で起きたちょっとした変化なんかをいろいろ話してくれた。
休みなく喋る彼女の姿を時々横目で見る。
まるで会話をやめると俺がどこかへ消えてしまうのではないかと、彼女は思っているんじゃないか。
そんな雰囲気が伝わってくるようだった。
だが、普段おとなしい分その反発で、喋りやすい相手を見つけると止まらないのだろう。
俺はそっちの考えの方が、より自然に自分を納得させられた。

「…お兄ちゃん」
「ん?ちゃんと話聞いてるから大丈夫だよ」
お盆ということもあり、少し交通量の多い道で注意がそちらに行っていたせいか、相槌が適当になりすぎていたのかもしれない。
「…うん」
「そういや、お腹すいてない?」
「ううん、大丈夫。でもちょっと喉乾いたかも」
「じゃあコンビニに寄ろうか」
数百メートルも走ると、左手にコンビニが見えた。
広い駐車場に車を止める。
ジュースでも買ってくるから待っててと一声かけ一人でコンビニに入った。
どうせすぐ戻るつもりだったので、車のエンジンを切るのが面倒だったというのもあるが、
制服姿の女子高生と二人で歩くのは、今は少し照れくさかった。
誰もそんなこと見てやしないだろうが、むしろ本物の兄妹と思うやつの方が多いような気もするが、
そういうつまらないことの方が気になったりする。
再び車に戻り、助手席に座って待っていた夏美にビニール袋を手渡した。
中からミルクティーとチョコを取り出している。
特にリクエストも聞かずに勝手に買ってきたものだったが満足しているみたいだ。
俺はそれを見て缶コーヒーを開けると、煙草に火をつけて窓の外に腕を垂らした。
「さて、これからどこ行こうか?」
夏美の方を向くと、彼女は板チョコをパキッと折り、俺の口に入れてくれた。
しかし彼女からの返事はなかなか返ってこない。
「…もう帰ろうか?」
「やだ!」
意外な返事だった。
「急に大人しくなったから、疲れてきたのかと思ったけど…」
「…違うの。なんて言うか……」
2015:2008/08/24(日) 04:26:04 ID:XdXi4UTk
そのまま彼女はペットボトルを持ったまま俯いて、しばらく言葉に迷っていた。
俺もつられて何も話しかけられないまま、車のエンジン音だけが静かに響いていた。
吸うのも忘れていたタバコがフィルターまで灰に変わり、慌ててもみ消す。
それがこの気まずい空気を打ち破る一助になったのか夏美がゆっくり話しだした。
「…お兄ちゃん、大学卒業してからちっとも見かけなくなっちゃってさ」
確かに大学の時は、しょっちゅう遊んでいた。
週に一回くらいは何かしらで会っていたはずだ。
こっちは忙しくてそれどころじゃなったから、言われて初めて自分の鈍さを思い知った。
「っていうか、黙っていなくなっちゃうんだもん…」
「まあ、さっきも言ったけど引っ越すったってすぐ近くだし」
「でも…、私はずっと会えなかったんだよ……」
「あ、ああ…、悪かったな。今度はちゃんと家教えてあげるから遊びに来なよ。
 親とケンカした時に家出して来てもかくまってあげるからさ」
妙に重苦しい雰囲気を何とかしたくて、冗談交じりに答えた。
「携帯にメールか電話でもくれればよかったのに」
目線を合わせないように彼女の方を見ると、ペットボトルを握る手にグッと力を入れているような気がした。
「何にも言わないで、突然いなくなっちゃってさ……。
 こっちから連絡なんてできるわけないよ…」
「そっか…。悪かったな…」
「うん…。でも、いなくなって初めて気づいた。
 私、こんなに何でもしゃべれる人、他にいないんだなって」
なんて返せばいいのか、考えているとまた彼女が続けた。
「でも、彼女にしてくれなんて言うつもりはないんだ…。
 たまに会って、さっきみたいに話聞いてもらって…、それだけで十分っていうかなんか元気になれるから。
 私友達としゃべっててもどこか気を遣っちゃうって言うか、本心が勘ぐられないような態度ばっかりとっちゃって」
俺は下唇を噛みながら、手持ち無沙汰で新しい煙草を箱から出す。
火をつけようか迷ったが、間をつなぐ動作が欲しかっただけだった。
「お兄ちゃんとしゃべってるときはそんなことないんだ…。
 だから傍にいてくんなきゃ困るのに…」

結局二本目の煙草に火を付けたが、ほとんど手を付けないうちに灰皿に押し込んだ。
昔から彼女は、友達は多くはなかったみたいだった。
それでも中学の途中から人並みに付き合いはしていたように、俺の目には映っていた。
俺の前では明るく、なんでもしゃべる子だったので、親からそのことを聞くまでは全く気付かなかった。
だが今の彼女は、いつもの彼女の様子とは違う。
受験や進路のから来る悩みか、急に理解者を失ったストレスか、
俺にはなんとなく想像できたが、どれも答えからは遠いような感じもする。
「ごめんね、…お兄ちゃん」
頭の中で今の一連の会話を整理していた俺の思考を遮るように、夏美がかすかな笑みを浮かべながら呟いた。
「…ん?」
「私ホントに今までみたいな関係でいいんだ…。
 でも、またいつ突然いなくなっちゃうかわからないって思うと、
 もっと私の思ってたこと話しておきたくて……」
「そっか…。とりあえず連絡くらいは入れておくべきだったな…」
「うん…。ごめんね、急にこんなこと…」
「いいよ。俺も悪かったし」
もう一度彼女の方を確認する。
「ちょっと、長居しすぎたけどドライブの続きでもするか」
彼女が頷くのを見て、車を発進させる準備をする。
俺にとっても彼女は特別な存在だが、
彼女にとっての俺は、それよりもずっと重要な存在だったのかもしれない。
21名無しさん@ピンキー:2008/08/24(日) 04:28:50 ID:XdXi4UTk
一応まだ続く予定です。
もともと別のシチュ用に書いてたやつが途中で脱線したものなんで
依存っぽく手直しは致しますが、お口に合わない可能性は高いです…

それでも暇つぶしにどうぞ
22名無しさん@ピンキー:2008/08/24(日) 06:38:40 ID:0o8hwjlv
よし、誰もいない……。とりあえず一番槍GJだ。
真に心を許せる人が一人しかいないなんて萌えますなぁ
23名無しさん@ピンキー:2008/08/24(日) 15:09:38 ID:KUCYL6fp
二番槍GJ
これはいい依存
24名無しさん@ピンキー:2008/08/24(日) 22:17:59 ID:OIF75T8e
遅れをとったが、GJ!

>「でも、彼女にしてくれなんて言うつもりはないんだ…。
とか
>「私ホントに今までみたいな関係でいいんだ…。

って部分はもちろん拒絶ではなく譲歩なんだよな?
25ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/08/24(日) 23:58:53 ID:iKqoiCGD
<つながれた犬>

「ん……はぁっ……」
唇を重ねると、志穂理は甘えた声をあげた。
俺の他に誰も聞くものがいない、その状況が、
普段の鋭利さを、この女から奪う。
もっとも、俺は、めったにその「普段」を見ることが出来ない。
なぜなら、俺の前では、志穂理はいつも「こう」だからだ。
からめた舌に全神経を集中させるように、目を閉じる。
ねじ切るように唇を奪うと、百人が百人、「とびっきり有能な秘書」と太鼓判を押すであろう
理知的な美貌が桜色に染まるのが、眼鏡越しでもわかった。
午前11時45分。
窓の外は雲ひとつない青空だが、俺と志穂理のオフィスラブはブラインドがいらない。
地上75階。
半径10キロ以内にこの部屋を覗けるだけの高さを持つ建物はないし、
あったとしても、子会社が開発したマジックウィンドウは、完璧な一方遮光性を保っている。
旧本社ビルでは、うっかりカギを閉め忘れて覗かれたことがあったが、
この新ビルではそういうことも起こりえない。
もっとも、俺がこの<秘書>との情事を覗かれて困るということは、あまりないが。
スキャンダルにはならない、という意味では。
むしろ、この時間を誰にも邪魔されたくないという相方の意思が、
このビルの最上階の設計思想の根本になっている。
「ふわ……啓太さんの、固い……」
俺のズボンとブリーフを下ろして、それを握った志穂理がうっとりとつぶやく。
今日は四度目のご対面なのに、まるで久々に触れたかのように、その感触を確かめる。
丁寧にしごき、口に含む。
唾液にまみれた舌が、俺の先端をちろちろと舐めあげる。
びくびくと男根が反応する様にさえ、志穂理は歓喜の声をあげた。
俺の<秘書>兼、<上司>兼、性欲処理係。
つまり俺の妻である女が。
26ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/08/24(日) 23:59:47 ID:iKqoiCGD
ソファに──このために特注した、ベッドにも使えるソファの上で重なり合う。
天を向いてそそり立つ俺の性器に、志穂理は頬ずりをする。
匂いと感触を、女が一番綺麗に装う場所にすり込む。
「固いです、啓太さんのおち×ちん。それにとっても逞しい……」
中高生のガキのようにおっ立ったそれは、
たしかに結婚十年目の妻を持つ年齢の男のものには思えない。
俺が、唯一他人に自慢してもいいモノだ。
志穂理は、それが嬉しくてたまらないというように、
ことばと手と唇でそれを誉めたたえた。
ソファの上に転がす。
期待に濡れた瞳は、黒く、妖しく、きらきらと輝いている。
なぜそんな目で俺を見れるんだ。
十年経った今も。
湧き上がってくる考えを振り払うように、志穂理の上に覆いかぶさる。
俺の女は、自分から足を大きく開いた。
志穂理の女性器は、たっぷりと濡れそぼっていた。
俺の部屋──社長室に入った瞬間から濡れている。
キスだけで、何度でもいける身体だ。
俺が、高校時代に、そう作ってしまった。
人一倍精力が強くて、変態的性欲の男のセックスを従順に受け入れ続けて入れば、
朝昼晩いつでも性行為を期待する精神(こころ)と身体(からだ)の女になってしまう。
「あはっ、啓太さんのおち×ちん、大きい……!」
大企業の社長室で真昼間から交わることを心の底から悦ぶ女に。
「くそっ!」
なぜか分からない衝動に押されて、俺は思いっきり志穂理の中に突き入れた。
「きゃふっ!!」
あられもない嬌声をあげ、志穂理がしがみついてきた。
隠花植物を思わせるような生白い肌が、俺の身体に吸い付くようにまとわり着く。
27ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/08/25(月) 00:00:32 ID:iKqoiCGD
「ひあっ、啓太さん、すごいっ……すごいっ……」
うわごとのように、志穂理がささやく。
俺の男性器は平均より大きいし、志穂理の女性器は平均より小ぶりだ。
それが、俺のものをしっかりと飲み込み、締め付ける。
付き合い始めたはじめのころは、何度も出血したが、
志穂理は一度もセックスを拒まなかった。
俺がセックス好きということを知ると、積極的に性交渉を求めた。
「だって啓太さんは、セックスしてくれる女の子が好きなんでしょう?
私、啓太さんに好きになってもらいたいから、セックスのお相手になります」
俺が他の女に全然もてないことがわかっても、志穂理の態度は変わらなかった。
抱き寄せればすぐに応じる女と、俺は何度交わっただろうか。
気がつけば、志穂理は痛がることもなくなり、
ますます性行為に積極的になっていた。
ぬちゅ、ぐちゅ。
ぐちゅ、ぬちゅ。
たっぷりと分泌された愛液が、棒のように硬くなった男性器にからみつく。
背中にまわされた手が、驚くほど強く俺を抱きしめる。
「ううっ、もう……」
うめくと、志穂理は、手足の力をいっそう強めた。
「中に、中に出してくださいっ……!!」
婚約中もたびたび膣内射精はしていたが、
結婚してから、志穂理は一切の避妊行為をとっていない。
名門を受け継ぐものとして、ましてやどこの馬の骨とも知れない男を婿に迎えた
次期当主の義務として、しっかりとした「道明寺の子供」を作っておくための処置。
──それもあるだろうが、
新婚初夜に大真面目な顔で俺にそれを誓約した理由が、
「啓太さんが、生でするほうが気持ちいいって言ったから」
とは、親類縁者には言えない。
反り返るようにして、身体の奥底に精を放つと、
志穂理は、声をかみ殺してしがみついてきた。
28ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/08/25(月) 00:01:08 ID:ri9a6Wha
「どうしました? 啓太さん……」
三度、志穂理の中に精液をぶちまけた後は、さすがに気だるい。
だが、僅かに感じる疲労感は、年齢や精力の衰えじゃないことは自分がよく知っていた。
俺の股間に顔をうずめる妻から目をそらし、俺は机の上を眺めた。
何百万するかわからない社長室のデスク。
もちろん、これも、妻からの贈り物だ。
道明寺グループ会長であり、俺を社長に据えた妻。
つまり、今、ソファに座る俺の前にひざまずいて、性行為が終わったばかりの男根を舐め清めている女、だ。
ペニスについた精液を丁寧に舐め取りながら、志穂理は、机の書類をちらりと眺めた。
「ああ、連結決算の報告書、ですか。
――あん、動いちゃダメです。まだ、おち×ちんの中に精子が残ってますよ、啓太さん」
鈴口をくわえて、尿道の中に残った精液を吸い取る。
風俗嬢でもやらないサービスを覚えたのは、多分、高校時代の俺のリクエストのせいだ。
「ん、おいし……。夜、また飲ませてくださいね。
今日は、まだ啓太さんの精液飲んでないですから」
唇の端についた白濁の粘液を上品に舐めあげながら、志穂理は立ち上がった。
「今日は、これから取引先と打ち合わせです。四時には戻ってこれると思いますが──。
啓太さんは、休憩と……その後はここにいてくださいね?」
道明寺グループの総帥は、会長職のほかに、夫の<秘書>役を務めている。
夫のスケジュールを自分で管理すれば、自由時間はセックスのし放題だ。
それ以前に、他の人間、特に女性秘書が自分の男に付く、という状態を
道明寺の娘は許容できない。
俺は、うなずいて、また机の上を見た。
連結決算報告書。
社長の座についている俺は、この簡単な書類の読み方を知らない。
ぱらぱらとめくったが、まるで意味が分からなかった。
道明寺の令嬢を射止めてしまった男は、一介のフリーターから
超一流企業の社長職に引き上げられたが、それで中身が変わるというわけではない。
結局、妻の言うとおりに、おとなしく社長室で彼女の帰りを待つしかないのだ。
29ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/08/25(月) 00:01:40 ID:ri9a6Wha
「……なあ」
「はい?」
<秘書>のブラウスを脱ぎ、<会長>用のスーツを手に取った志穂理が振り向く。
俺に向ける顔は、そのどちらでもない。
恋人に甘え、媚びる、――どこか、おびえた女の目。
それは、結婚後、俺を完全に自分のものにしてから
逆に強くなったように思える。
その前、俺に結婚を迫っていたころの志穂理は、
今より積極的で、押しが強かったように思える。
だが、今は、昔よりも、さらに弱々しく見えるのは俺の思い過ごしか。
「お前、……幸せか?」
「はい。……でも、なぜそんなことを?」
間髪を入れぬ答え。
「いや、なんでもない」
「私は、啓太さんがいてくれれば、幸せですよ。」
素直な、誰が聞いても裏や嘘がないと分かることば。
俺は、目をそらした。
「うふふ、それに、今日も啓太さんとのセックス、とっても気持ちよかったですもの」
五分前の痴態を思い出したのか、道明寺グループの会長は、白い頬をほんのりと染めた。
その脳裏に、当たり前のように描かれているのは、
最高級店で、札束と引き換えにどんなことでもするソープ嬢でもサービスしきれないような
濃厚で、変態じみて、マゾなセックス。
この街の支配者たる女が、自分自身よりも相手の快楽を喜びとするようなセックスに溺れている。
しかもその相手は、道明寺の総帥にふさわしい立派な男でも、一時の快楽のためにあとくされなく買える男娼でもない。
彼女にとって、他に代えがたい存在になってしまった相手だ。
他に代えがたい、つまらない、無能な男。
報告書のひとつも自分で読めない、馬鹿な男。
それを、宝石のように大事に扱っている。
「じゃあ、また後で……」
名残惜しげに部屋を出て行った志穂理を見送り、俺は、大きくため息をついた。
30名無しさん@ピンキー:2008/08/25(月) 00:02:05 ID:sstYGwPx
こっからどういう話になってくのか期待だねえ
GJですた
31ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/08/25(月) 00:02:18 ID:iKqoiCGD
遠くまで、歩く。
今、最上階から降りてきた75階建てのビルから逃げるように。
なるべく遠くへ、離れるように。
だけど、振り向かなくても分かる。
あのビルが見えなくなるところまで、俺は行けない。
この街に、あれが見えない場所はないのだから。
唇から、諦めたようにため息が漏れる。
無意識に自分の唇を舐め、俺は自分が無性に喉が乾いていることに気が付いた。
(飲み物……)
あたりを見渡す。
目の前にスーパーマーケットがあった。
通りの向側のビルの二階に喫茶店。
──後者を選んだのは、座りたかったからだ。

喫茶店は、エアコンがかかっていなかった。
窓から入る風が涼しい。
こんな日は、こういう店のほうが気持ち良い。
俺は、紅茶を頼んだ。
コーヒーが美味い店らしいが、貧乏舌では違いが分からない。
もっとも、紅茶の良し悪しが分かるわけでもないが。
まあ、だったら好きなほうを頼むのがまだマシだ。
入り口横の棚から取ってきた雑誌を広げる。
ビジネス誌にしたのは、見栄だ。
他に客もいないのに、愛読の「週刊少年チャンプDEAD」はなんとなく取り辛かった。
先週は久々に「ステゴロの王子さま」が再開していたので続きが気になっていたのだが。
まあ、いいさ。
「……」
見るともなしに広げた「月刊コード10」に、俺の視線が止まる。
見慣れた──さっきまで一緒にいた人物が載っていた。
32ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/08/25(月) 00:02:48 ID:iKqoiCGD
<世界に展開する道明寺グループ>

理知的な瞳を光らせ、インタビューを受けている道明寺グループの会長。
年商数千億。
いや、それは俺が社長に据えられている会社だけの話だったか。
グループ連結決算はそれより一桁多かったような記憶もないではない。
この街の半分の人間が勤め、残りの半分もそれを相手に商売することで生きている大企業。
この喫茶店も、ほんのちょっと前のランチタイムは、
道明寺に勤める人間の胃袋を満たすのにてんてこまいだったにちがいない。
俺は、写真の中の美女をぼんやりと見詰めた。
それは、さっきまで俺の隣にいた人物なのだろうか。
或いは──俺の隣にいてはいけない人物なのかもしれない。
ぬるくなった紅茶をもう一口すすり、俺は「月刊コード10」から目をそらした。
窓の外を見下ろす。
向側のスーパーマーケットの前に、犬が一匹いた。
白い、大きな犬。
買い物をしている主人を待っているのだろう。
店の前につながれて、大人しく座り込んでいる。
俺は、それを眺め、――ふと違和感を抱いた。
「……」
なんだろう。
何かが、不自然な感覚。
犬に、おかしなところは、ない。
通り過ぎる人に吠えることもなく、じっと座って店の自動ドアを見詰めている。
時折、軽く尻尾を振る、白い、大きな犬。
何もおかしなことはない。
首輪から伸びた紐でつながれて──。
「ああ」
俺は思わず声を出した。
違和感の正体がわかったからだ。
33ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/08/25(月) 00:03:20 ID:iKqoiCGD
犬の首輪からのびた紐がつながっているのは木やガードレールではなかった。
地面に置いた、こげ茶色の、小ぶりな買い物袋。
その取っ手の部分に、犬の紐はくくりつけられていた。
「……」
買い物袋は、わずかに膨らんでいる。
缶詰少しに、野菜の二つ三つ。
あるいはジュースのペットボトル。
そんな程度のものしか入っていないことは、外目からもわかった。
重さにして、1キロがあるかどうか。
あの犬をつなぎとめておくには、到底足りない重量の袋。
犬が歩けば、軽々と引きずることができる重し。
「……なんで逃げないんだ?」
犬は、それがまるで大木につながれているかのように、動かない。
動こうともしない。
今、自分をつなぎとめているものが、どの程度の重さなのか、確かめようともせず。
──こっけいな、まるっきりこっけいな風景。
「なんで……」
もう一度、つぶやきかけて、俺は息を飲んだ。
それが、なぜか、唐突にわかってしまったから。
「……ずっと、そうだったんだな」
あの犬は、子犬の頃からああやってつなぎ止められていたのだ。
最初は、もっと大きな袋で、中身ももっと入っていたにちがいない。
ビールの半ダースに大根やら人参やら。
小さな小さな子犬をつなぎとめるには十分な重さ。
子犬は、その頃、何度も動こうとしたにちがいない。
自由に走ろうとして、袋の重さを知った。
何回も、何回も。
そして、ついにこの袋は自分の力では動かせない、と思ったのだ。
その後、十分に育って力をつけた今も、そう思い込んでいるのだ。
袋は、呪縛のように犬をつなぎとめている。
34ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/08/25(月) 00:03:52 ID:iKqoiCGD
「……」
俺は、息苦しくなった。
あの袋の卑小な残酷さ──それは、まさしく俺だった。

高校の初日。
俺は、隣の席の女の子をナンパした。
ナンパなんか、初めての経験だった。
それは、相手にとっても。
黒く、暗い目が、驚愕に見開かれる様を、俺は今でもはっきりと覚えている。
今でも夢に見るくらいに、それは綺麗だった。
大人しく、引っ込み思案な同級生を誘った理由は、
ただ単に「高校デビューの遊び人」がリードできる相手だと思っただけに過ぎない。
その娘が、なぜいつも皆からはなれたところに一人でいたのか、その理由を知らなかった。
思ったとおり、おどおどと後ろを付いて来る娘を強引にモノにしたときも。
この街の支配者の娘が、こんな学校に「社会勉強」しに来ていたなんて知らなかったのだ。
そして、その娘が、その時までは病的な晩生(おくて)で、
俺の下で「女」になった瞬間から、病的な恋着に生きる人間になることも。

馬鹿な男が、欲望にまかせて抱き寄せるたび、娘は、その男への執着を深くした。
その本当の価値を知らずに、ただ性欲と精液のはけ口として抱き続けた娘が、
男との結婚以外の将来を考えられなくなった頃、
男は、その女が、どれだけの力を持っているのかを知った。

この街――どころではない、世界中に傘下企業と部下を抱える「道明寺」を受け継いだ女は、
破瓜のあの日のように、俺に媚び、俺の側に侍(はべ)る。
恋人を失うことを恐れる少女の目で、夫にした男の足元にすがりつく。
自分が支配する会社のナンバー・ツーに据えた男を。
何も出来ず、何かをしようとすれば足を引っ張るだけの男を。
昔、自分の価値を知らなかったときのように。
あの、軽い袋につながれた大きな犬のように。
35ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/08/25(月) 00:04:23 ID:ri9a6Wha
「――ここでしたか」
涼やかな声を耳にして、俺は振り返った。
いつの間にか、志穂理が立っていた。
「商談、早く終わったので戻って来れました」
どうしてここが、とは言わなかった。
この街では──いや、多分世界中のどこにいても、この女は俺の居場所がわかる。
そして、可能な限り俺のそばにいようとする。
俺の横などにいなければ、世界のどこにでもいける女なのに──。
「――」
何か言おうとして、俺は喉の奥の塊を飲み込んだ。
機嫌よく俺の向側の椅子に座った妻を見た俺は、今にも泣き出しそうだったのかもしれない。

犬。
俺が、子犬のとき、つまらないものに縛り付けてしまったので、
今でも逃げようとしない、犬。
俺から逃げようとしない、犬。
きらきらと輝く黒い瞳は、本来、俺を映すべきではない。
もっと高みの何かを見詰めるべきだった。

窓の外を見た。
もう一匹の犬がいた。
目の前の女と同じく、可能性を捨ててしまった犬。
「……」
俺の視線の先をたどり、志穂理はそれを見た。
そして、
「――あら、幸せな犬ですこと……」
そう、つぶやいた。
36ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/08/25(月) 00:04:55 ID:ri9a6Wha
「何を──」
言っているんだ、と続けようとして、俺は押し黙った。
窓の外を横目で眺める志穂理の唇に浮かぶ微笑を見て。
たぶん、こいつは、判っていたんだと思う。
俺が見たもの、俺が考えていたことを。
そして、もっと深いもの──真実さえも。
そうでなければ、その時始まった小さな事件を平然と眺めていられないだろう。

「なんだ、こいつぅ〜!!」
耳障りな声をあげたのは、店の前に車を停めた二人組みの片方だった。
まだ若いが、これから脳みその中身が成長するとも思えない男だ。
つまり、俺とそう変わらない価値しかない男。
ただ、声に関しては、まだ俺のほうがマシかもしれない。
こいつらの大声は、こいつらの下品な改造を加えた車のエンジン音と同じくらいに、不快だった。
「つながれてねーじゃん」
「めーっわくだよなー!」
大人しい犬と見て取ったのか、もう一人の若者が犬を軽く蹴った。
きゃん。
小さな声をあげて、犬が縮こまった。
その場に。
袋につながれたまま。
「ちゃんとつないどけって!」
「うぜえんだよ」
すくむ犬に、二人組はますます居丈高になった。
昼間から酒でも入っているのかも知れない。
いくら大人しくても、つながれていない大型犬を蹴るなど、正気の沙汰ではない。
たとえ、分厚い靴底のブーツを履いているにしても、だ。
だが、犬は、吠えもせずに身を縮めるだけだった。
ただ、店の出入り口を見て。
二人組の顔が、通りのこちらから見て分かるくらいに邪悪に歪んだ。
37ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/08/25(月) 00:05:26 ID:ri9a6Wha
「おら、じゃまなんだよ!」
蹴り。
膝をあげて、前に蹴る、ただの蹴り。
犬は、きゃいん、と悲鳴をあげた。
後ろに下がる。
ガードレールに当たる。
右に逃げようとする。
紐が伸びる──犬は動きを止めた。
見えない力に止められたように。
「おもしれー、これ、おもしれーよ!」
笑い声。
二人組は、からかうように犬をいたぶった。
「――やめてくださいっ! やめてください!!」
不意に、悲鳴があがった。
初老の女性が、店から飛び出てきた。
犬の飼い主だろうか。
「うるせーよっ!」
「てめえの犬だろうが!」
逆らわなければ、ますます図に乗り、止められれば、逆上する。
最悪の精神構造の二人組は、ついに怒鳴り声をあげた。
小柄な女性の、肩を小突く。
「――おい」
思わず立ち上がりかける。
通りの向こうのこと、やっかいなこと。
立ち上がって、それからどうする?
駆けつけるのか、止められるのか。
そんなことまで頭は回らなかった。
それでも、立ち上がろうとして──止められた。
「……大丈夫です」
俺の腕をつかんだ志穂理は、静かに微笑んだ。
38ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/08/25(月) 00:06:00 ID:ri9a6Wha
「大丈夫って、お前っ……!!」
頭に上った血が、少しだけ、すとんと落ちる。
その分だけ、ちょっとだけだが冷静になれた。
ことばを捜して、息を吸おうとした瞬間、「事件」は終わった。
「うあっ!!」
「ぎゃっ!!」
悲鳴は、先ほど犬があげたものよりも、大きく、切羽詰っていた。
命の危険にさらされた小動物のあげるものにふさわしく。
一瞬にして手首をかみ砕かれた若者は、噴水のように血を撒き散らして地を転がり、
Gパンごとふくらはぎを噛み千切られた相棒も、同じく地べたをはいずっている。
薄汚い小動物を狩ったのは、白い犬だった。
四本の足をびしっと伸ばして飼い主を守るように立つその姿は、
大きく、頼もしく、そして野性そのものですらあった。
猛獣。
人間が銃を持ってはじめてハンディなしと言われる戦闘力を持つ、獣。
それが、本気になれば、厚底ブーツなど身を守る防具にもならない。
毛を逆立て、悲鳴をあげる「敵」をねめつける白い犬にとって、
次の瞬間、二人の喉笛を噛み切ることも造作ないことだ。
そして、犬には、その暴力を行使する理由も、意思も、凶気も十分にあった。
だが──、犬は二人組があわてて逃げ出すのを見送った。
「敵」がはるかに去るのを確認し、主人の無事を確かめ、
それから、もとの位置に戻った。
暴れたせいで、中身を散らかした袋をくわえ、
先ほどまで「つながれていた」元の位置に。
くうん。
小さく鳴いた声には、主人の言いつけを守れなかった悔悟の音。
うなだれきって小さくなった犬は、
ひざまずいて泣き出した初老の女性に抱きしめられて、はじめて尻尾を振った。
ちぎれるばかりに。
39ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/08/25(月) 00:07:05 ID:ri9a6Wha
「……幸せな犬ですこと」
もう一度、志穂理がつぶやいた。
膝の力が抜けて、すとんと席に座りなおした俺に視線を戻し、
志穂理は、バッグから携帯を取り出した。
「ああ、敷島? あとはよしなに──」
秘書との二言だけの会話。
それだけで指示は通じるのだろう。
道明寺グループの会長と、その秘書なら。
「あのお婆さん、……たぶん、あの二人から訴えられるようなことにはならないでしょう」
普通、人間側がどれだけ悪くても、犬が人を噛んだらとても不利だ。
たとえ、主人を守るための正当防衛であっても、訴えられたら、最悪保健所送り。
──好意的な証言者と、しかるべき筋へのいくつかの手回し、
それと、「なぜか被害者が訴える気にならなくなる」幾つかの状況が重ならなければ。
警察と地回りに影響力がある女なら、そんなことは朝飯前だ。
俺はため息をついた。
すっかり冷めた紅茶をすする。
「……わかってたのか? ああなるってことを」
目の前の女が、世界の全てを見通す預言者だと言われても納得できる気分だった。
「さあ。……でも、他のことはわかっていました」
「他のこと?」
「あの犬が、幸せだってことを」
「……」
「買い物袋につながれて大人しくしていたのは、
あの袋が<自分の力では動かせない>と思いこんでいたからではないのです」
「……」
「動かせることをあの犬は知っています。ずっとずっと前から。
でも動かない。動きたくないのです。」
「なぜ……だ?」
「だって──あの飼い主が動かないでほしい、って思ってつないだからです」

「――!」
俺は絶句した。
「犬がつながれているのは、つながれていたいからです。
つながれるのが幸せだからです──大好きな相手に」
志穂理は、俺を見詰めた。
おびえたような、弱々しい光。
……それは、志穂理の黒い瞳に映った、俺自身の瞳の色だ。
俺を見詰める志穂理の瞳は、いつもきらきらと強く輝いている。
なぜなら、
「だから、――あの犬は、とても幸せなのです」
幸せな者は、その幸せを疑わない。疑わない強さを持っている。
犬も。
人も。
気が抜けたのだろうか、わあわあと泣き出した飼い主の顔を熱心に舐めて慰める犬を、俺は眺めた。
たぶん、あの白い犬も、俺が大好きなこの女と同じ目をしているのに違いなかった。

                                 Fin
40ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/08/25(月) 00:12:58 ID:ri9a6Wha
<私が私でいられる時>END候補からネタ流用。

馬鹿ップルがラブラブすぎて、
「男の子が女の子におびえを残す段階」を過ぎてしまったので、
道明寺娘に使ってもらいましたw

>>15
GJ!!
シチュ流れで別シチュは、美味しくなります。
最初から固めてきたものより以外にスムーズになることも多いです。
期待してます!
41名無しさん@ピンキー:2008/08/25(月) 00:29:43 ID:6LWBP47z
ゲーパロ氏GJ!

さすがはネ申
42名無しさん@ピンキー:2008/08/25(月) 00:51:51 ID:a7cBnrqX
ゲーパロ氏GJです。
道明寺娘がエロイくてどっぷり依存しているのがいいですね〜。
43名無しさん@ピンキー:2008/08/25(月) 01:46:51 ID:INnusmUO
もうなんていうか……ありがとう。しか言えない。
当たり前だと思っている幸せより、幸せだと噛み締められる幸せの方がどれだけよいことか。そんなちょっとしたことから聡明さがうかがいしれる所が何ていうかもう魔術の領域だと思う
44名無しさん@ピンキー:2008/08/25(月) 02:34:00 ID:XxZ1M+vz
ゲーパロ万歳!万歳!
将軍さまって呼ばせてくれ
45名無しさん@ピンキー:2008/08/25(月) 02:39:43 ID:RjMDDhf4
これだけ有能な娘なら、夫の劣等感を埋め合わせるために
「秘書業のストレスを開放させるため」とか理由をこじつけて
赤ちゃんプレイでおむつをせがんだり何かに驚いたはずみに失禁するなど
わざと無様な姿をみせたりしそうだと思ったが、
「もしそんなことをしてドン引きされたらどうしよう」とか想像しちゃって
実行に移せないのかな

46名無しさん@ピンキー:2008/08/25(月) 20:51:55 ID:a7cBnrqX
>>45
>「もしそんなことをしてドン引きされたらどうしよう」
そんな事も考えさせないくらい夢中にさせる策を巡らせるかもしれん。
47名無しさん@ピンキー:2008/08/25(月) 20:55:12 ID:zOaaqyOA
ぐ…GJGJGJ!!!
幸せ、しかし怖く、かといってそれが相手を傷つける方向じゃない
ありがとう依存万歳!
48名無しさん@ピンキー:2008/08/25(月) 22:52:20 ID:yHi+R2MD
ゲーパロ氏の依存モノはホンマ俺のストライクど真ん中やでぇ……
GJとしかいいようがありません、ありがとう!
49名無しさん@ピンキー:2008/08/26(火) 00:01:52 ID:wxHiePYF
Good☆Job!×136

今更だが、本当に記憶に残るキャラを書くよね。
依存が依存の形を保ったまま進行するとこんな凄いことになるのか・・・。

それにしても、バカップルの方を忘れないでくれてて良かった。
50名無しさん@ピンキー:2008/08/27(水) 03:59:03 ID:DQe/bU09
バカップルの方で一度子宮がたぷたぷになるまで注ぎ込むようなシチュエーション
は読んで見たいな。
51名無しさん@ピンキー:2008/08/28(木) 18:59:21 ID:sr303+7a
52名無しさん@ピンキー:2008/08/28(木) 23:55:06 ID:oCnD+5uO
53名無しさん@ピンキー:2008/08/29(金) 14:11:47 ID:ucs+eit6
>>51
1スレ目の読んだ事ないから助かった
出来ればこれからも更新してほしいです
54名無しさん@ピンキー:2008/08/29(金) 22:48:33 ID:u8UK+1h8
ゲーパロ氏のWEBサイトにあった昔の「道明寺志穂理」が主人公を言葉攻め
してる話だけどこの会話って普通に聞くと結構凹むよなぁ。
俺だけかも知れないけどここまで言われたら「そんな風に思ってるんなら俺より
もっといい男を捜して幸せになりなよ」とか言って別れそうだ。

セックスしか「能が無い(実際そうなのかもしれんが)」駄目男って言われてるような
もんだし。
55名無しさん@ピンキー:2008/08/30(土) 01:17:52 ID:r8biQL7J
>>54
たぶん君はSなんだと思う
56名無しさん@ピンキー:2008/08/30(土) 03:51:18 ID:IB53Md55
>>54
きっとその後に大切さを今まで以上に思い知るイベントがあったに違いない
57名無しさん@ピンキー:2008/08/30(土) 05:04:22 ID:IMp+PCV2
>>54
あれはああやってダメだと繰り返し洗脳することで
目の前の道明寺娘しかいないんだと思い込ませ刷りこんで
啓太を彼女に依存させてるんだとおもった
じゃないとすぐに浮気してふらふらするような男だからなあ
あの母さんのえげつない復讐方法みて育ってたら
手放したくない男を自分に依存させるべく頑張ってもむしろ自然だ
怖いよ道明寺の女たち

だがそこがいい
58名無しさん@ピンキー:2008/08/30(土) 13:53:33 ID:OMb4jQXk
ってことは皆はMなのか。
Sでじらしプレイが好きなだけかもしれんが相手の子が自分の事をどれだけ思って
いるかを確認するのは必要だとは思うけどなぁ。
愛情を感じられない&実感できなくなったらもう終わりだろ?
59名無しさん@ピンキー:2008/08/30(土) 14:18:16 ID:jr71vHrc
え?志穂理さんは啓太大好きオーラ全開じゃない。
言葉の端々で好きって言ってるし。
俺別のSS読んでる?
60名無しさん@ピンキー:2008/08/30(土) 17:32:53 ID:OMb4jQXk
ゲーパロ氏のWEBサイトのSSのことだが?
61名無しさん@ピンキー:2008/08/30(土) 22:05:35 ID:XPvirrwR
志保理さんは前田慶次
結局は、だがそれがいい、で終わらせるから
62名無しさん@ピンキー:2008/08/31(日) 20:39:56 ID:tz10PrsI
保守
63名無しさん@ピンキー:2008/09/02(火) 12:40:49 ID:CxhdNLEx
>>61
・・・・・・・ん?・・・・・・それどいう意味?
64名無しさん@ピンキー:2008/09/02(火) 23:26:49 ID:1RKoj961
>>40
このシリーズも随分深みが出てきましたねー、GJです。
なんか志穂理視点の初々しい高校時代のストーリーとか見たくなりました。
65名無しさん@ピンキー:2008/09/04(木) 07:50:24 ID:YrV/PHWc
>>64
それいいですね。
高校時代からねっとり依存だったのかもしれないけど。
66名無しさん@ピンキー:2008/09/05(金) 02:37:18 ID:jR+6D/NP
何この綺麗なリック
67名無しさん@ピンキー:2008/09/08(月) 06:43:08 ID:r/FeT0h1
ほしゅ
68名無しさん@ピンキー:2008/09/09(火) 18:59:06 ID:HgABKHyI
ほしゅ
69名無しさん@ピンキー:2008/09/12(金) 05:24:47 ID:a3GN3tc4
保守
70名無しさん@ピンキー:2008/09/14(日) 08:58:36 ID:OuL9brnB
保守
71名無しさん@ピンキー:2008/09/15(月) 17:58:21 ID:r/oiAZKf
保しゅ
72名無しさん@ピンキー:2008/09/15(月) 20:02:16 ID:pvYug1b5
そんなに頻繁に保守しなくても消えやしないと思うが
73名無しさん@ピンキー:2008/09/15(月) 21:49:38 ID:zNQ5xwms
スレッドへの依存度が高いからだな。
74名無しさん@ピンキー:2008/09/16(火) 19:23:11 ID:tXbAGEsR
依存はぁはぁ
75名無しさん@ピンキー:2008/09/17(水) 19:53:41 ID:DEMPl4ZF
依存・・・・
76名無しさん@ピンキー:2008/09/17(水) 23:54:58 ID:1TaM0U9M
子供駅で再放送しているカレカノみたらイイ依存だった
どっちかっていうと共依存なパパママの昔が好きだけど
77名無しさん@ピンキー:2008/09/18(木) 04:56:50 ID:YT/jREVH
確かにカレカノは依存っ気の強いの多い気がするなぁ
名前もう出てこないけど、ちっこい女の子とバンドやってる男の子もそんな感じだったような
78名無しさん@ピンキー:2008/09/18(木) 15:10:50 ID:X2+pH9wa
依存っ気の強いのは男キャラばっかじゃん(つД`)
79名無しさん@ピンキー:2008/09/18(木) 19:02:51 ID:R1YoGfBh
真理はなぁ、俺の母親になってくれるかもしれない女なんだ!
80名無しさん@ピンキー:2008/09/18(木) 20:41:10 ID:LCP2TJxt
元ネタ思い出すのに3分かかった
81名無しさん@ピンキー:2008/09/18(木) 21:40:55 ID:TuXeqwls
ロリコンでマザコンの人か
82名無しさん@ピンキー:2008/09/19(金) 18:45:01 ID:QL1PiRju
依存がなければ即死だった・・・
83名無しさん@ピンキー:2008/09/21(日) 22:36:13 ID:55W7SgOk
ロリコンでマザコンとな・・・・・・・すごい矛盾してる
84名無しさん@ピンキー:2008/09/22(月) 00:22:48 ID:CznSQDe5
ロリコンは外的な要素(ペッタンコ胸・ツルツル肌・低身長などの嗜好)
マザコンは内的な要素(包容力などの母性)
85名無しさん@ピンキー:2008/09/22(月) 04:25:05 ID:GGH5AoJ3
要は甘えさせてくれる幼女が好みってことだろ。なんら矛盾しない
86名無しさん@ピンキー:2008/09/22(月) 11:28:04 ID:+hy9TrFh
幼女みたいな母だろ、幼女に包容力があるとは思えん
やあ、僕はアッキー!
突然だけれど、僕には恋人がいるんだ!
容姿端麗成績優秀家事もこなせる幼馴染の恋人。
ちょっと困ったことがあるとすれば――

  うららかな朝。起きたとたんに笑顔の少年が元気にカーテンを開く。
  すると窓越しに、セミロングの黒髪をした美少女が座っていた。
  窓には吐息の白い痕。見開いたレンズのような無機質な瞳が、じぃっと凝視している。
  窓を挟んで20cm弱の近距離に現れた影に、しかし少年は笑顔を崩さない。
  目が合って美少女がふわっと安心したような笑顔をすると、手を振ってカーテンを閉めた。

――ちょっと僕に依存していることくらいかなっ
でも大丈夫! だって彼女は綺麗で、二人はラブラブだからねっ!

  カリカリ……カリカリカリ……
  窓を引っ掻く音に、ほんの少しだけカーテンを開けて着替えを始める。
  カーテンの隙間から、ギラギラと瞳を輝かせた美少女が凝視していた。

さあ、今日も元気にご飯を食べて、学校にいかなくちゃ!
いっただっきまーす! 納豆ご飯かー! ねばねばー!
ごちそうさまー! お弁当はいつもどーりだからいらないよー!

  がち「おはようっ、アッキー♪」
      ゃ、ばたん

おはよー! ゆーちゃんっ! 今日も可愛いねっ!
でも着替えを覗くのはダメだよっ、手を繋いであげないぞっ。

  「そんなっ、やだよアッキーっ、なんでもするからっ!
   ここではだかんぼさんになったりおしっこしたりでもいいからっ!」

うーん、じゃあ、お仕置きね。ここでキスしてっ。んー、ちゅっ、んみゅっ!?
うわー、舌入れちゃダメだって! チョップ!! それじゃー出発!!
もちろん手を繋いでだよっ! 今日もいい一日になりそうだねっ!!
満員電車もゆーちゃんが抱きしめてくれるから快適さ!
僕は背が低いから、おっぱいにむにゅむにゅできるんだ!
ゆーちゃんがハァハァして頭をくんくんしてよだれを垂らすけど気にしないよ!
いつものことだし、僕は恋人に優しいからねっ


時は流れてお昼休みだよっ!
僕のお弁当はもちろん彼女の手作りさっ!
いただきます! 手作りハンバーグかー、美味しそーっ、ぱくっ。
あははは、お肉に隠れて鉄の味だーっ。血を入れたな〜?
どこ切ったの? へー、ヒジの近くかー、どうりで気付かなかったよ!
むぐむぐ、あれ、なんか縮れた毛が入ってたんだけど。これって。
わー、おまんこの毛を入れたんだ! すごいなぁ、なんかの呪い?

  「えっと、ア、アッキーがずっと私だけを見つめてくれるように……
   やだった? 怖い? 引いた? ごめんね、刻んで入れればよかった……」

何を言ってるのさ、気にしてないよっ!
ただ、健康には気を配りたいからねっ、煮沸消毒して欲しいかなっ!
だから今日のはおしおきだよっ! ぱんつ脱いでねっ! 今日はこれからノーパン!
それと消毒してないおけけを入れた罰として、帰ったらおまんこの毛を剃るからね!
わかったら「わんっ!」ってたくさん返事してっ。……うん。よしよし、いーこいーこ。
いいこだからおちんちんしゃぶらせてあげるねっ! 手を使っちゃダメだよっ!

そんな感じで僕たちの時間は過ぎていくよ!
彼女はちょっと僕に依存してるけど大丈夫! だって二人はラブラブだからねっ!
おしまいです。ノシ
89名無しさん@ピンキー:2008/09/22(月) 17:19:21 ID:s1cxJqj4
>>87
これはひどいwwwww
90名無しさん@ピンキー:2008/09/22(月) 20:10:17 ID:AMQ0Xb4t
惹かれるものがあるが、引いてしまう・・・
テンションを30%OFFぐらいにしてくれw
91名無しさん@ピンキー:2008/09/22(月) 21:23:11 ID:DDxzZVw/
ラジオドラマとかでこんなのやってほしいね
笑いすぎて窒息死するわw
92名無しさん@ピンキー:2008/09/22(月) 21:50:12 ID:+hy9TrFh
ひどいとかじゃなくて
> ゃ、ばたん が気になってしょうがない!なんの音なの?
それと、>がち「おはようっ、アッキー♪」
がちって誰?
93名無しさん@ピンキー:2008/09/22(月) 21:54:13 ID:um4e0cYV
テンション高杉ワロタw
94名無しさん@ピンキー:2008/09/22(月) 23:59:44 ID:GLmcDy0R
血や陰毛を食事に混ぜるとかヤンデレの領域ジャマイカwwwww

>>86
幼い頃に母親を亡くし、うだつの上がらない父親を懸命に支える幼女をですね

エプロンつけて台の上に乗り鼻歌歌いながら味噌汁かき混ぜて「あ、そろそろお父さん起こさなきゃ」
とかいってぱたぱたスリッパを鳴らしながら部屋に入り「もうしょうがないな〜」といいながら
揺り起こして「早く髭そって顔洗って着替えて、ご飯冷めちゃうでしょ!」といいながら父親の背中を押して
洗面台に連れて行き台所に戻って配膳をすましてやっとテーブルについて新聞を広げた父親に
「お父さんは私がいないとだめだね。そうだ!私がお父さんのお嫁さんになってあげる!」なんていっちゃったりして。
父親が仕事でドジやったときに晩酌に付き合ったり頭を自分の胸に抱きしめてなでてあげるとかいったイベントもあったり。
実はお父さんが自分に依存するように(何時までもダメ人間であるように)かいがいしく世話をしているとか
自分がお父さんに依存(母親を亡くした寂しさと、美人なため同性から虐められて唯一頼れる父親に依存)したとか
裏設定があったりなんかして。

うん、こんな幼女居ないなwしかも微妙に包容力じゃないし。
95にっぷし:2008/09/23(火) 00:19:10 ID:OTob8cOG
感想ありがとうございます。

>>92
>   がち「おはようっ、アッキー♪」
>       ゃ、ばたん

玄関の扉を開けて締める音「がちゃ、ばたん」とセリフ「おはようっ、アッキー♪」を重ねることで、
玄関の扉を開けきる前に挨拶が飛んできた、というのを表現してみたものです。
ですので、 がち は玄関の扉を開ける音で、セリフはゆーちゃんが喋ったものです。
わかりづらくてすいませんでした。ノシ
96名無しさん@ピンキー:2008/09/23(火) 01:00:07 ID:YSvTl4mO
>>94
その死んだ母親の魂が幼女に転生して元々肉体に宿っていた娘の魂と
同居状態になっていれば包容力アリでもOK。
父親が再婚したら娘(かつての妻)からは離れてしまうわけだから依存状態
を保とうする部分の説明にもなりそうだがな。

97名無しさん@ピンキー:2008/09/25(木) 01:59:56 ID:mGPdvgWR
>>94
すごくいい
98名無しさん@ピンキー:2008/09/26(金) 21:41:57 ID:bJIW9LM3
他スレの保管庫で依存っぽいのを見つけた
依存度は温めだけど俺はこれくらいが好きだ
ttp://wiki.livedoor.jp/amae_girl/d/1-509%202c6ce1%b7%ee%b2%fb%a4%ab%a4%ec
99名無しさん@ピンキー:2008/09/26(金) 22:21:04 ID:n/O6F4aM
>>98
パスワード入力を求められるんだが
100名無しさん@ピンキー:2008/09/27(土) 00:27:37 ID:mrb1Zj1e
直接SSのページには飛べないみたいだね
トップから入れってことか
101名無しさん@ピンキー:2008/09/27(土) 04:37:04 ID:D+ZwCGS8
>>98
保管庫はなんて名前なの?
102名無しさん@ピンキー:2008/09/27(土) 04:41:57 ID:D+ZwCGS8
間違えた。SSの名前が聞きたかった。
まあそんな多くないし片っ端から見てけばいいか
103名無しさん@ピンキー:2008/09/27(土) 10:39:11 ID:Qe5o6fiv
>>98のアドレスを良く見れば一発でわかるだろ
104名無しさん@ピンキー:2008/09/27(土) 11:32:14 ID:Wx95Tf00
ヒント
1  初代スレ
509 そのまま
105ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/09/28(日) 22:54:36 ID:xDGfC9+M
<レベル99>

その娘とはじめてキスしたのは、予備校の帰りだった。

教室で、講師が来る前にいじくっていた携帯ゲーム機。
彼女は、それを覗き込んで、言った。
「──ね、付き合わない? 私と」
わずかに茶色に染めた髪の毛と、いかにもな、お洒落な服。
僕とは全然違う世界の住人からかけられた言葉に、僕は狼狽した。
「バラクエ5ね。私も持ってる」
そう言って鞄の中から取り出したのは、僕と同じゲーム機。
ストラップがたくさんついた携帯電話のほうが似合いそうな娘の
ボタンを押す手つきは、僕と同じくらい慣れていた。
だから、僕は、その娘のことばに流されたのかも知れない。
その日の帰り、僕らはキスをした。

「ベレベレ、レベル20までいったよ。」
「あれ、そこまで行ってはじめてまともに命令聞くんだよね」
「前の機種だと、すごく苦労したわ」
はじめて味方になるモンスターのレベルを最大まであげるのは、僕のデフォルト。
みんなは、そこまで上げる前にストーリーを進めるのが普通だけど、彼女は、違った。
その日の夜、公園でキスをして、僕ははじめて彼女のおっぱいにさわった。

「スライムロード、3匹揃ったよ」
馬の代わりにかわいらしいモンスターの上に跨った騎士は、
中盤はじめの味方モンスターの中でも仲間にしやすいけど、
3匹捕まえるのはけっこう時間と根気が必要だ。
「やりこむんだね」
「君だって、とっくに3匹そろってるんでしょ?」
その日、家族が留守の彼女の家で、僕は彼女とあそこを見せてもらった。
はじめて見る女の子の性器に、僕は帰ってから何度もオナニーをした。
106ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/09/28(日) 22:55:07 ID:xDGfC9+M
「ミントガムの鞭、8本そろえたよ」
「僕もプラチナクイーンの剣、8本取った」
「これでこの先、楽になるね」
「うん、ニセ女王も楽勝だ」
運と根気が不可欠のカジノ。
パーティ全員が最強装備を揃えられるまで頑張る子は、僕以外ではじめて会う。
その日、彼女は、僕の部屋で僕の性器を手で愛撫してくれた。
彼女の白い手の中にはじけた精液を、彼女は不思議そうに弄んだ。

「結婚式、誰を選ぶ?」
「うーん、直前でセーブしてるから誰を選んでもいいんだけど」
「私、たぶん何度もやり直さないと思う」
「あ、僕も。結局一週目で終わっちゃうんだよね」
ゲーム中最大のイベント。
話をしているとき、彼女はなぜかとても嬉しそうだった。
その日、僕と彼女ははじめてセックスした。
彼女が処女だったことに、僕はあまり驚かなかった。
ただ、なんで彼女は僕を選んだのかが、まだ僕には分からなかった。

「砂漠の国って、さらっと流れちゃうね」
「ここから進み方が早くなるのがちょっと苦手」
「ついつい進んじゃうけど、もう少しじっくりやりたいよね」
「今までと同じペースでゆっくりとでいいのに」
その日、二人で海に行った。
砂浜なんて、海水浴なんて、何年ぶりだろう。
はじめて見る彼女の水着姿にどきどきした僕は、
誘われるまま、帰りに岩陰で彼女とセックスをした。
107ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/09/28(日) 22:55:38 ID:xDGfC9+M
「トゾッタの山って、なかなか出られないよね」
「はぐれプラチナ3匹捕まえるのが大変だもんね」
「でも、ここでレベル上げもできるから好き」
「僕も」
その日の帰り、僕らは高いビルに登った。
階段で、1フロアずつ降りながら、いろんなところで
キスをしたり、フェラチオをしてもらったり、クンニリングスをしたりした。
女子トイレであそこを舐めると、彼女は何度も絶頂に達した。
男子トイレであそこを舐めてもらって、僕は何回も射精した。
最後は、一階の駐車場の片隅でセックスをした。



「子供、できたね」
「できたね」
その日、産婦人科から二人で帰って、報告した。
彼女の親は何も言わなかった。
僕の親も。
僕は予備校を辞めて、働き始めた。
お金も時間も余裕もない暮らし。
だけど、僕は彼女と、生まれてくる子供と、ちょっとだけゲームがあればそれで良くて、
それは彼女も同じだった。
108ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/09/28(日) 22:56:09 ID:xDGfC9+M
「……ね。なんで、君は、僕と一緒になったの?」
双子を抱く彼女に問いかける。
「あなたは、ゲームをやりなおさないから」
僕の妻、僕の子どもの母が答える。
バラクエ5は、まだやり続けている。
主人公たちはとっくにレベル99になった。
それでも、仲間になるモンスターは全部揃ってないし、レベル上げも完成していない。
「私ね──親が離婚したんだ。それも何度再婚して、また分かれて。
そのたんびに家族がバラバラになって、私はひとりになって……」
だから、一度はじめたらやりなおさないあなたを選んだ、と彼女は笑った。
最初に選んだ女の子とどこまでも旅を続けて。
子供を産ませて、家族になって。
全部のアイテムを集めて。
全部のモンスターを仲間にして。
それでも、まだまだいっしょにいて。
そんな人といっしょになりたくて、あなたを選んだ。
彼女はそう言ってキスをした。
109ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/09/28(日) 22:56:40 ID:xDGfC9+M
「――それにね、レベル上げを最後まで続ける人はね、臆病なの」
臆病だから、一度手に入れたものを絶対に離さない。
離さないから、どんどんレベルが上がっていく。
レベルが上がるから、――もう最初からやり直せない。

双子が眠ったことを確認して、彼女は、そっと服を脱ぎだした。
あれから、何度彼女とセックスしただろう。
二人は、ことばがいらないくらい相手を知り尽くして、
それでもまだ、全部を掘りおこしきれていない相手に夢中だった。
こんなに僕を喜ばせる唇と指と性器を持つ女性に、僕は二度とめぐり合えないだろう。
こんなに君を喜ばせるほど君の性癖を知り尽くした男性に、君は二度とめぐり合えないだろう。
手に入れた幸せのいくつかは、まったく幸運のなしえたもので、
それは、もう一度やり直しても、絶対に再入手はできない。
臆病な二人が臆病さゆえに互いの周りに築きあげたものは、失えば二度と手に入らない。
だから、たとえ、時間を巻き戻すことができたとしても、
二人は今以外を、互い以外のパートナーを選んでやり直せない。やり直さない。
だから、僕らは、ずっといっしょにいるんだ。


                                        fin
110ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/09/28(日) 23:01:20 ID:xDGfC9+M
これまた、馬鹿ップルEND候補から流用です。
昔はやりこんだものですが、今は大作の2週目は辛いw
111名無しさん@ピンキー:2008/09/29(月) 01:19:14 ID:buwA1NdW
一番槍!
GJ!!
112名無しさん@ピンキー:2008/09/29(月) 02:45:40 ID:XjZfZOYC
GJ!
そこまでやりこむ二人をマジで尊敬してしまった
113名無しさん@ピンキー:2008/09/29(月) 02:58:22 ID:bGti5HDQ
GJ!
見事な依存でした
114名無しさん@ピンキー:2008/09/29(月) 21:31:16 ID:yNJccoAF
久々のゲーパロ氏ktkr
相変わらずのGJな仕事
改めて敬服いたしました!
115名無しさん@ピンキー:2008/09/29(月) 23:32:32 ID:4uG+tSXm
俺は同じモンスター二匹揃えてレベル99にした卑怯者、だからか彼女できないの!
116名無しさん@ピンキー:2008/09/30(火) 00:46:53 ID:UnCA9VIz
俺に彼女ができない理由は、ゲームにすぐ飽きてチート使うからだったのか・・・
117名無しさん@ピンキー:2008/09/30(火) 01:54:55 ID:6UjHHfP5
>>115、116
いや、同じようなプレイをしている子達なら彼女になってくれるさ
ただ依存娘を彼女にしたいならゲームに依存する事から始めろとそういう事なんだろう…

あ、あとゲーパロさんGJです!
118名無しさん@ピンキー:2008/10/02(木) 01:53:19 ID:sUkW+TSr
ゲーパロさんGJ!

ドラクエ9は新作発表でしたがまた遅れないといいナァ。
2009年3月って書いてたけど延期しやすいしなぁ。
119名無しさん@ピンキー:2008/10/05(日) 04:05:29 ID:l8bcieVn
保守
120名無しさん@ピンキー:2008/10/05(日) 15:14:00 ID:TVqg0189
>>84-86
八神君の家庭の事情を思い出した
121名無しさん@ピンキー:2008/10/07(火) 20:43:07 ID:zEXNweLA
懐かしいw
実母がヒロインってのが斬新すぎたなあれは
122名無しさん@ピンキー:2008/10/10(金) 18:07:02 ID:AsCwbKw4
ほしゅ
123名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 18:21:31 ID:oUl0hiIf
ほしゅ
124名無しさん@ピンキー:2008/10/15(水) 01:50:10 ID:GOvcwQmx
ほしゅ
125名無しさん@ピンキー:2008/10/15(水) 21:57:55 ID:IwxccYoC
依存カップルの出てくる漫画を教えてくれ
126名無しさん@ピンキー:2008/10/16(木) 17:09:10 ID:dkscQBv6
そのまんま共依存のカップルが、TAGROの「変ゼミ」に出てくる。
127名無しさん@ピンキー:2008/10/18(土) 11:10:59 ID:i62mnrTW
保守
128Hurricane Run ◆RFJtYxNEj6 :2008/10/19(日) 07:45:36 ID:WCbErY1s
投下します
129Hurricane Run ◆RFJtYxNEj6 :2008/10/19(日) 07:46:07 ID:WCbErY1s
『安全保障』

毎日武術の訓練をするのが日課となったのはいつからだろう。
物心が付いた時には師匠と呼ぶ人物がいた気がする。

―お前には守る人がいる。

周囲の人間からは常にそう言われてきた。
俺の家は或るかなりな旧家の分家筋にあたるらしい。
そして代々本家の子息を護衛、警護する役目を背負っている。

その「守る人」に出会ったのは小学校くらいの時だった。
ある日、やたら物々しい高級車で本家へ連れて行かれた。
そこに居たのは1人の少女。年は自分とそう変わらないだろう。

―今日から、この子をお前が守るんだよ。

幼いころから聞かされてきた、「守る人」。
しかし実際にその人が現れてみると、なんだが妙に気恥かしかった。

―ねえ、あなたがわたしをまもってくれるひと、なの?
―うん、…たぶん。
―じゃあ、きょうからわたしのないとさん、だね!
―ないと?
―おひめさまとかをね、まもってくれるひと!
 わたしね、いつかわたしをまもるひとがきてくれるってずーっといわれてきてね、ずーーっとたのしみにしてたの!
 これからよろしくね、わたしのないとさん!

無邪気に、矢継ぎ早に言葉を繰り出す彼女が愛しくて、
そして初めて他人に頼りにされたことが誇らしくて。

―うん!

俺は満面の笑顔で返事をした。
130Hurricane Run ◆RFJtYxNEj6 :2008/10/19(日) 07:47:07 ID:WCbErY1s
それから始まった、俺と彼女の日々。
毎日同じ学校に通い―どうやったのか知らないが毎年同じクラスになった―俺は彼女を守る。
守る、とはいっても特に大それたことはしていない。
彼女は天真爛漫な性格でいじめに遭うタイプではなかったし、俺との関係が表沙汰になるようなこともない。
俺はただ遠巻きに、騒ぎに巻き込まれないか見ていただけ。
習い続けた武術が発揮されるような場面に遭遇することは全くと言っていいほど無かった。
それは少し不満だったけど、別に構わなかった。
確かに彼女とはそれなりに親しかった。が、友達とも、恋人とも違う。守り守られるという特殊な関係。
その関係が心地よかったし、誇らしかった。
―私の騎士様。
彼女はたまにふざけて俺のことをそう呼んでいた。

その関係が変わったのは高校生の時だった。
入学式の帰り、2人でたまたま繁華街を歩いていたら数人の不良に絡まれた。
最初は適当に追い払おうと思ったが、そのうち暴力を振るってきたので実力行使させてもらった。
負けるはずが無かった。こういう場面のために修行を積んできたのだから。
尻尾を巻いて逃げ去っていく不良どもを見つめながら、俺は歓喜に打ち震えた。
―彼女を守ったんだ。初めて。
その事実は、素晴らしいほどの充足感と喜びを俺に与えてくれた。
しばらくボーッとしてしまったが、はっと我に返って俯いている彼女に慌てて声をかけた。
その瞬間、何かで唇を塞がれた。
キスされた。それに気付くのは数秒かかった。
おい、と言葉をかけたが、それより速く彼女の手は俺の手を引っ張った。
訳も分からず彼女についていき、辿り着いた先は―ラブホテル。
当惑することしかできない俺の前で彼女は服を脱ぎ、俺に迫った。
助けてくれたお礼。確かそんな事を言われたような気がする。
そして俺たちは初めてのセックスをした。

その日から俺たちは毎日のようにセックスをするようになった。
彼女に誘われるまま、ホテルや学校、色々な場所で体を重ねあった。
特に、誰もいない時を見計らって本家でするのが互いにお気に入りだった。
彼女を守る。その使命に反していることを一番強く感じて、背徳感みたいなものがあって燃えた。
ただ、いくらセックスをしても彼女の本心だけはよく分からなかった。
単なる護衛であるはずの俺に、なぜここまでするのだろうか?考えても答えは出なかった。
131Hurricane Run ◆RFJtYxNEj6 :2008/10/19(日) 07:50:20 ID:WCbErY1s
「なあ、何で俺を選んだんだ」

いつものセックスの後、彼女にふと聞く。
大学を卒業後、彼女とは結婚することが決まっている。
話を持ちかけたのは本家だった。彼女が周囲の人間たちを説得させたらしい。
こういうことになったのは、家の歴史の中では別に俺たちが初めてではないという。
俺達の関係は、他人から見れば、恋人、に見えるのだろうか。俺はどうしてもそうは思えなかった。

彼女は少し考えると、やがて口を開いた。
「安全、ってね」
「安全?」
「そう、安全。それってね、社会から与えられたり、権利として持ってるようなものじゃないと思うの」
何を言っているのかよく分からない。
「例えばね、最新の車と壊れかけの車が目の前にあったとして、どっちを選ぶ?
 ね、最新の車の方でしょ?
 事故に遭うと分かってて、わざわざ壊れかけの車に乗る人はいないでしょ?」
「それが何を―」
「つまりね」
俺に向き直る。
「安全っていうのはね、与えられるものじゃないの。自分で最善の選択をして、自分で守っていくものなの。
 そして、わたしにとっての『安全』は―あなたがそばにいてくれること」
少しはにかんだ顔が眩しい。
「高校の時さ、不良を追い払ってくれたことあったでしょ。
 あの時ね、私思ったの。大袈裟なことじゃなく、一生この人に守ってもらうんだって。
 この人がいなきゃ私は生きていけないんだって、本気で思ったの。
 だからあの場で体を求めたの。関係を繋ぎとめておくために。
 あなたを選んだのはそういう理由」
そして彼女は俺に体を預けて、その顔に最高の笑顔を湛える。
ああ、そうか。
最初は、周りに言われるままに彼女を守っていた。それが使命だと思っていた。
だがいつからか、俺は彼女の笑顔が見たい、共にいたいと思うようになって―

「これからもよろしく。
 ―私の騎士様」

今までも、そしてこれからも。
俺は、彼女を守る。ずっと守り続けていくんだ。
132Hurricane Run ◆RFJtYxNEj6 :2008/10/19(日) 07:51:36 ID:WCbErY1s
以上です
よくあるお嬢様とその護衛の関係って依存になるかなあと思って書いてみました。
133名無しさん@ピンキー:2008/10/19(日) 11:23:41 ID:+6na+QY2
>>132
投下乙

んー、依存っていうより純愛物に見えるんだが気のせいかな。
134名無しさん@ピンキー:2008/10/19(日) 19:22:57 ID:pPUHsuml
>>132
GJ!ずっと、投下まってました!!
135名無しさん@ピンキー:2008/10/19(日) 21:59:14 ID:ehGyS+ok
GJ!
従者スレでも行けそうだな
136名無しさん@ピンキー:2008/10/19(日) 22:00:18 ID:ehGyS+ok
スマソ
sage忘れた
137名無しさん@ピンキー:2008/10/20(月) 00:36:33 ID:YpxiMkLx
依存というには若干の強引さを感じるが、十分にGJだな!
GJ!
138名無しさん@ピンキー:2008/10/21(火) 02:30:49 ID:cbiS2rKy
あれ?ここって、保管庫ないの?
139名無しさん@ピンキー:2008/10/21(火) 02:32:45 ID:pm1i5gWK
なんせほとんどの投稿がゲーパロ氏ですから
140名無しさん@ピンキー:2008/10/21(火) 13:32:57 ID:BkAU126p
>>132
良い話しを読ませて頂きました。ぐっじょ!
141名無しさん@ピンキー:2008/10/25(土) 00:27:07 ID:AnjAoDbI
保守
142名無しさん@ピンキー:2008/10/26(日) 11:43:43 ID:x0uUBJnQ
143名無しさん@ピンキー:2008/10/26(日) 13:43:59 ID:R7wTK0eR
144名無しさん@ピンキー:2008/10/26(日) 17:17:56 ID:J15aRDGK
145名無しさん@ピンキー:2008/10/26(日) 23:42:22 ID:g/7Ef9ZC
146名無しさん@ピンキー:2008/10/26(日) 23:53:02 ID:4HymH/uq
147名無しさん@ピンキー:2008/10/26(日) 23:59:30 ID:Ypw+qUJr
148名無しさん@ピンキー:2008/10/27(月) 03:31:36 ID:6S/iBkUa
149名無しさん@ピンキー:2008/10/27(月) 04:02:59 ID:DZV1OTNT
150名無しさん@ピンキー:2008/10/27(月) 15:46:17 ID:TR+p+ZNi
しゅ
151名無しさん@ピンキー:2008/10/27(月) 19:29:02 ID:937rqB/H
インラインスラッシュ!!!
152名無しさん@ピンキー:2008/10/27(月) 22:20:47 ID:XKjBEfua
のーじゃっく!
153名無しさん@ピンキー:2008/10/30(木) 07:46:31 ID:XecLW2O2
保守
154名無しさん@ピンキー:2008/10/31(金) 16:59:47 ID:jUKMa6Ej
保守
155名無しさん@ピンキー:2008/11/03(月) 00:17:00 ID:euwKx+zW
保守
156名無しさん@ピンキー:2008/11/06(木) 01:29:38 ID:jCSID1Y2
157名無しさん@ピンキー:2008/11/09(日) 01:20:28 ID:lOKzOvm4
保守するしか能がないのも悲しいな、俺
158名無しさん@ピンキー:2008/11/11(火) 08:55:24 ID:ftUq+XQD
そんなことはない
書きたまえよ諸君
159名無しさん@ピンキー:2008/11/16(日) 00:54:45 ID:eGFuzfh/
保守
160名無しさん@ピンキー:2008/11/20(木) 08:14:40 ID:ykeI5FzF
ほしゅ
161名無しさん@ピンキー:2008/11/22(土) 20:07:52 ID:5YwDvI1P
ほっしゅ
162名無しさん@ピンキー:2008/11/22(土) 22:28:02 ID:0hWUdL+d
このスレ保守してる人とおれしか見てない気がしてきた
163名無しさん@ピンキー:2008/11/22(土) 22:58:53 ID:SvYNjoRq
安心し…ろとは言いがたいが俺もいるぞ!!

保守ついでにチラ裏
先日、ヤンデレと依存が区別がイマイチついていない潜在的に依存好きな友人に対して
ヤンデレが例えば「あなたが私以外のものになるなんて我慢できない」「あなたを殺して私も死ぬ」だとすると
依存は「私をあなただけのものにしてください」「あなたが死んだら後を追います」みたいななもんと説明
→友人を依存同志に転向させることに成功したぜ!
164名無しさん@ピンキー:2008/11/22(土) 22:59:18 ID:QVeREJ0e
このスレはROM専です。
165名無しさん@ピンキー:2008/11/23(日) 01:11:43 ID:qvjc4Mi6
>>163
GJ!!
そうだよね依存ってそういうもんだよね
ヤンデレでハーレムは血の臭いしかしないが依存でハーレムはありえそうなあたりも違うよね
お互いがいればそれで良いっていうのも好きだけどね
166名無しさん@ピンキー:2008/11/23(日) 01:54:31 ID:4PldqAaB
今、ちょっと書いてみてる物がある
こういうのは初めて書くからあとどれくらいかかるかわからんが、一週間以内を目標に頑張ってみる
167名無しさん@ピンキー:2008/11/23(日) 02:00:55 ID:AzP5gdML
>>165ヤンデレてやっぱそういうイメージなんだな
168名無しさん@ピンキー:2008/11/23(日) 14:32:59 ID:SVxv2U01
依存は「何番目でもいいから、時々でいいから私を見て」
ヤンデレは「一番でいさせて、ずっと私を見ていて」

こういうイメージだな。
169名無しさん@ピンキー:2008/11/23(日) 15:03:30 ID:f02PKS9e
自分が一番になるまで他の女を消すのがヤンデレじゃね?
170名無しさん@ピンキー:2008/11/23(日) 15:59:47 ID:SVxv2U01
>>169
そうそう。
「一番じゃいられないなら……」って感じでザクッと行っちゃうんだよな。
依存は「……全然見てくれなくなった。死のう」とザクッと行っちゃう感じ。
171名無しさん@ピンキー:2008/11/24(月) 05:51:56 ID:cHT9ePZA
ヤンデレは積極性の極地だが、依存は受身的という分け方が適切だと思う。
例えば男に裏切られて遂に無理心中を図ったとしよう。

ヤンデレなら死ぬことで一緒になるという意味合いがある。

依存なら、何もかも依存しきっていた対象に裏切られたことで世界全てに絶望し、
愛情転じた憎しみで相手を殺し、裏切られた悲しみから完全に決別するために自分も死ぬ。

俺のイメージはこんな感じかな。
172名無しさん@ピンキー:2008/11/24(月) 21:33:17 ID:HB2B3OhW
>>171わかりにくい
173名無しさん@ピンキー:2008/11/24(月) 22:24:59 ID:rx1AUxsX
>>170 のイメージの方がはるかに分かりやすいし俺もそっちだろうと思う。
174名無しさん@ピンキー:2008/11/25(火) 00:45:03 ID:Ir18/ZIX
心中を図る時点で俺にとっちゃヤンデレかな
依存はひっそり消えていくイメージ
175名無しさん@ピンキー:2008/11/25(火) 01:13:27 ID:zE9LiiZA
俺はヤンデレはもっと包括的なイメージで、その中の依存型て感じなんだが
176名無しさん@ピンキー:2008/11/25(火) 02:05:14 ID:yri4n00+
>>175
まあ最近誤解されてるが、ヤンデレは精神的に異常な状態であることが重要であって、人を殺したりとかはヤンデレであることに必要な要素ではないからな
もっとも人には何かしら大事なものはあるから、軽度か重度かの違いはあれど人はみんな何かに依存してると考えれば病的に依存してる人は割と少なくなるが
とはいえ仮にも依存シチュのスレである以上、ここに投下されるものはほとんどが病的な依存を描くものだろうから>>175の認識も正しいと言えるかも知れない
177名無しさん@ピンキー:2008/11/25(火) 08:53:15 ID:MikYktjH
そんな語られても
178名無しさん@ピンキー:2008/11/25(火) 20:24:58 ID:8KLn7NYc
何でもいいからSS投下しろ
179名無しさん@ピンキー:2008/11/25(火) 20:47:20 ID:A6MVtyxh
なに過疎スレで殺伐としてるんだ
ちょっと落ち着け
180名無しさん@ピンキー:2008/11/25(火) 21:12:36 ID:LwUc0M4B
>>177
>>176は「依存」に依存しちまってるんだよ。

たとえば依存君が学校を休んでバイトして、バイトが終わって一人暮らししている家に帰るとだな
依存「なあ…俺の部屋になんで>>176がいるんだ?」
>>176「もちろん、貴方が今日学校を休んだからですわ!」
依存「理由になっていない気が猛烈にするんだが……」
メイド「>>176様は、貴方が学校にお越しにならないばっかりに禁断症状が出まして」
依存「うぉ!いつのまに後ろに!……禁断症状って俺は麻薬か!」
メイド「>>176様にとっては変わりませんわ。午前中はそわそわなされたり授業に集中されなかったりですみましたが、
    午後には手の震えや異常な発汗、果てにはパニックになり貴方に会いにここまで貴方の名前をつぶやきながら幽鬼のごとく歩いてきました。
    貴方が帰ってくるまでは貴方の枕に顔をうずめることによって依存様分を(ry」
>>176「(依存に抱きつきながら)すごく……さびしかったです」
依存「(くっ この上目づかいは反則だ…!) ちょっ!首に鼻を擦り付けないでくれ!こそばゆい!」
>>176「いやです。我慢できませんわ!」
メイド「この後の予定は>>176様と一緒に(>>176様が抱っこちゃん人形状態で)散歩、そのあとは一緒に(きゃっきゃうふふしながら)お風呂に入っていただいて
   その間に私が作った(ハッスルできる粉入りの)料理を出た後に食べていただき、(>>176様を膝の上にのせながら)ホラー映画を鑑賞、
   その後に(>>176様をお姫様抱っこしながら)布団に入り(激しい運動をしたあと)就寝です」
依存「何か間に嫌な言葉が入っている気がするんですけど!? それに勝手にそんな予定を」
メイド「ちなみに明日には、依存様分を定期的に補充できる環境を作るため、市役所に行き婚姻届を受け取り、>>176様の両親に(ry」
>>176「そうなれば貴方は私の体を自由に弄べますわ。それに私の家の財産だって好きにできますし、私ができることならなんだってしてみせます
    だから…お嫌かもしれませんが、私をそばにおいていただけませんでしょうか・・・?」
依存「(胸!胸があたってる!)うっ、それは・・・ううう・・・」
メイド「今>>176様をお買い上げいただけえればもれなく私もついてまいりますが(依存の股間をなでながら)」
依存「うわああああああああああ!!!!!(ヘブン状態!)」

なくらいに>>176はもう依存無しでは生きられない体になっちまったんだよ!
だから…語る事ぐらいは許して…やってくれ……orz
181名無しさん@ピンキー:2008/11/25(火) 21:18:16 ID:L0jBoDkh
安価がSSに入ると急に読む気が失せる、不思議!
182名無しさん@ピンキー:2008/11/26(水) 00:19:45 ID:WFfNLAPX
ううん、上手く「でも、もし〇〇だとしたら…?」につなげられないよう
183名無しさん@ピンキー:2008/11/26(水) 02:38:34 ID:kLgn47u4
>>180の妄想フィルターのほうがヘブン状態www
184名無しさん@ピンキー:2008/11/26(水) 04:10:07 ID:Uj7cll7s
>>180
そんな妄想力があるならSS書いてくれww
185名無しさん@ピンキー:2008/11/26(水) 22:59:10 ID:qjy3BIwI
>>181
それはアカンな ナンチテ
186名無しさん@ピンキー:2008/11/27(木) 00:35:45 ID:MyttAnHJ
>>180その力を何故SSにしない? 180にSSを書いて欲しい奴挙手
187名無しさん@ピンキー:2008/11/27(木) 02:12:29 ID:kdFaX5+r
飢えてきてんなあ…
>>166が本当に投下してくれりゃ助かるが
188名無しさん@ピンキー:2008/11/27(木) 21:40:41 ID:1/xGeyvD
>>176は俺の嫁
189名無しさん@ピンキー:2008/11/28(金) 03:12:38 ID:5e3x7CKv
誰かー
この前上げられたまとめのHTMLくれー
間違えて消してもーた
190名無しさん@ピンキー:2008/11/30(日) 22:52:32 ID:U3UP7k+3
土日に保守すらないとはw

そういえば漫画ガンスリンガー・ガールの義体少女達も見方によっては薬物や担当官に依存してるよな。
191名無しさん@ピンキー:2008/11/30(日) 23:00:17 ID:DpzdZdJw
担当官には、そうなるように条件付けされてる節もあるな。

四巻以降読んでないが。
192名無しさん@ピンキー:2008/12/01(月) 07:42:45 ID:oJUMIxWw
電撃大王購読組だが「節もある」どころかほぼ間違いなくされてるw

最近じゃそれふまえた上で担当官にまっとうな恋愛感情持ってるキャラとか出てきたが、
依存系としてはどうなんだろうかね
193名無しさん@ピンキー:2008/12/01(月) 11:58:03 ID:YsLQfAxu
依存心に表面的な抵抗をみせる、ツンデレ依存系かぁ…複雑すぎるw
194名無しさん@ピンキー:2008/12/01(月) 17:24:29 ID:SSIsO/Rr
投下したいと思います。
エロなし・男視点
依存と呼べるかは自分も、不安です。
苦手な方はスルーして頂ければ幸いです。
195チョコレート中毒:2008/12/01(月) 17:25:15 ID:SSIsO/Rr
彼女はぷくんとした唇にそれを運ぶ。桜貝のような爪で大切そうにつまみ、赤い舌でちろりと舐める。
その光景をみるのが僕は好きだ。
「そんなに好き?」
「うーん。それは難しい質問だな、ツトム君」
ブレザー姿の小柄な少女は小さく首を傾げながら、名探偵のように言った。
年頃の男女が放課後の教室に二人きり。だが僕らの間には緊張感はない。
「中毒なんだよ」
「中毒?エリカが?」
エリカの口から出た物騒な言葉に驚く。
196チョコレート中毒:2008/12/01(月) 17:28:14 ID:SSIsO/Rr
「チョコレート。食べ過ぎだもん私」
「自覚があるなら、食べなきゃいいだろ」
再びチョコレートを口に運んだエリカは、指を舐めながら僕を見つめた。
思わずドキリとする。
「それが出来ないから、中毒なの。正しくは依存っていうらしいけど。」
「ふーん」
エリカがチョコレートを食べる姿に再び僕は魅とれてしまう。
「ツトムはないの?」
ぼんやりしていた僕は、唐突な質問に頭が追いつかない。
「何が?」
197チョコレート中毒:2008/12/01(月) 17:33:32 ID:SSIsO/Rr
「だから、ツトムは何かに依存してる?」
――している。
だが僕は笑って答えた。 「してないよ。それよりそんなに食うと太るぞ」
机の上の箱からチョコレートを取り出し、口に放り込もうとした。
「あ、ダメ!最後の一個なのに!」
ツンと唇を尖らすエリカがかわいくて、余計にからかいたくなる。
「いいだろ一個くらい!エリカのケチ」
「ケチじゃないもん」
エリカは僕に飛びつき、手で口を塞ごうとした。
さっきまでエリカが舐めてた指が僕の唇に触れる。 甘いコロンの匂いと触れたエリカの柔かさに、僕はチョコレートを落とす。
198チョコレート中毒:2008/12/01(月) 17:50:06 ID:SSIsO/Rr
――僕は依存している。 幼なじみという心地よい関係に。友達より近くにいられ、家族にも似た信頼を築けるこの居場所に。
エリカに恋人が現れても、結婚しようとも、僕らの関係は変わらない。
僕らは「幼なじみ」なのだから

彼女はぷくんとした唇にそれを運ぶ。桜貝のような爪で大切そうにつまみ、赤い舌でちろりと舐める。
その光景をみるのが僕は好きだ。
そのために僕は幼なじみであり続ける。たとえ心が悲鳴を上げても。
199名無しさん@ピンキー:2008/12/01(月) 17:56:34 ID:SSIsO/Rr
投下終了です。
書かせて頂き
ありがとうございました。
200名無しさん@ピンキー:2008/12/01(月) 23:08:47 ID:ihuSofIj
一番槍GJ
201名無しさん@ピンキー:2008/12/01(月) 23:35:43 ID:gyLp+yAp
二番槍GJ
202名無しさん@ピンキー:2008/12/02(火) 17:09:19 ID:kEjYVTgs
三番槍は頂いた
GJ!
203名無しさん@ピンキー:2008/12/03(水) 12:32:53 ID:lr7xXz/7
保守
204名無しさん@ピンキー:2008/12/07(日) 05:55:28 ID:SqiShMTW
チョコレート中毒いいね
中毒という言葉は依存に似合う
今更だがGJ
205名無しさん@ピンキー:2008/12/10(水) 08:12:55 ID:CjiBpNf/
ほしゅ
206名無しさん@ピンキー:2008/12/10(水) 11:22:46 ID:tUhIN+AY
私が私でいられる時の続きを全裸で待ってる
207名無しさん@ピンキー:2008/12/12(金) 00:02:49 ID:jfzw+5Bz
>>206
馬鹿野郎!


全裸にネクタイ・靴下着用が正装だろうが
208名無しさん@ピンキー:2008/12/12(金) 01:12:42 ID:76p3GcvP
シルクハットもつけようぜ!!
209名無しさん@ピンキー:2008/12/12(金) 13:59:35 ID:f2Jvsev7
オプションで蝶々マスクモ付けようか!
210名無しさん@ピンキー:2008/12/12(金) 18:47:06 ID:HgCGpJh0
投下されたら蝶サイコーなGJを捧げねばなるまい!
211ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/12/15(月) 01:48:57 ID:yl2tgwY1
>>206-210
ありがとうございます。
いつの間にか冬になって、止まっているシーンの季節が回ってきました。
この冷気で当時のインスピレーションを思い出して描きたいと思います。全裸で。

その前に、犬な依存ものを保守代わりに。
依存度は高め。今回はまだエロエロには行きません。
たぶん、お漏らしとか、唾液とかそういう描写が出ると思います。
212ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/12/15(月) 01:49:31 ID:yl2tgwY1
<やまいぬ>・1

車から降りると、山の中腹のせいか、風が冷たく感じられた。
雪が積もっているのは、下の街でも同じだけど、
枝のない木々に積もった雪が、見た目にも寒さを強調しているように思える。
「ありがとうございます」
運転手さんに頭を下げる。
立場的に、下げる必要はないけど、僕はいつもそうしている。
厳密に考えれば、僕――犬養友哉(いぬかい・ゆうや)が頭を下げるべき相手は、
この山には、一人しかいない。
目の前に広がる大伽藍、一宗派の総本山にも匹敵する寺院の中にいる数百名の人間は、
すべて僕の下位にある、ということだ。
もっとも、それは便宜上の話だ。
いくら僕が、宮司であっても、まだ十五歳の少年が、
千年以上の伝統があるこの「神社」で二番目に偉いとは僕自身も思っていない。
だから、駅から運んでくれる「神社」お抱えの運転手にもきちんとお礼を言う。
それは、どこかで、自分が普通の人間であることを確認する儀式なのかもしれない。
普通の、十五歳の男の子。
ただの、高校生。
そう。
普通の、ただの──。
「ふう……」
鳥居の代わりにある大門をくぐったときに、ため息がもれた。
冷えた空気の中で、白く白く、僕の目にもそれが見える。
形になったため息を目にして、僕は、自分に言い聞かせている「それ」が、
虚しい自己暗示であることを改めて思い知らされた。
「……普通なわけ、ないよな」
山中のとほうもなく広大な私有地に建つ、巨大な「神社」。
信者の一人、観光客一人も立ち寄らない、「神社」。
──そんなものが、普通のはずがない。
213ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/12/15(月) 01:50:03 ID:yl2tgwY1
本殿に入って用意されている部屋で着替える。
学生服を脱いで、神官衣に。
黒褐色の袴を穿いたところで、禰宜(ねぎ)の岩代(いわしろ)さんが入ってきた。
「――友哉様。佐奈(さな)様が、お待ちです」
「はい、すぐ行きます」
「今日は昼餉(ひるげ)も召し上がりませんでした」
「またですか。じゃあ……」
「はい。ご機嫌がとても……」
岩代さんは語尾を濁した。
才色兼備のこの女性が、こういう言い方をするとき、
それは、彼女たちの手に負えない状態であることを遠まわしに言っている。
「相馬(そうま)さんは?」
「権宮司(ごんぐうじ)は、来客中です」
禰宜の岩城さんより偉い、この神社の神主の第二位の人、
つまり、事実上この神社を切り盛りしている人の名前を口にしてみると、
黒髪の美女は、意外な返事をした。
「来客? 誰?」
「双奈木(ふたなぎ)の方だそうです」
「双奈木が? ……面倒なことのようですね」
この神社にも縁の深い名門<支族>の名前は、久しぶりに耳にする。
ということは、あまり面白くない内容の相談だろう。
「それも佐奈様のご機嫌を損ねている理由の一つのようです」
「そうですか」
ため息を押し殺す。
佐奈がそうなったら、相馬さんや岩代さんでどうこうなるものではないことは、
宮司、すなわちこの神社の神主の長である僕が一番よく知っていた。
「とりあえず──台所に行きます」
「そうしてください」
岩代さんは頷いて足早に出て行った。
僕はもう一つため息をついて、部屋の外に出た。
214ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/12/15(月) 01:50:34 ID:yl2tgwY1
赤身の肉。
京野菜。
貝。
米。
味噌。
鰤のいいのが入っていたので取りあえず、捌く。
用意された食材を、手当たりしだいに使う。
献立は、いつも適当。
考えすぎないことの大切さは、<修行>先で教えてもらった。
<神食>(かんじき)の作り方は、技術ではない。
もちろん技術も大切だけれど、それよりも、
食べる側が食べたいと思うか、思わないか、が大事だ。
そして、厄介なことに、あいつらは、往々にして
「何を作るか」よりも「誰が作ったか」のほうを重要視することが多い。
──佐奈は、その最たるものだ。
三十分でざっくりと仕上げて、膳に並べる。
相馬さんも、岩代さんも、もっと古式にのっとってきちんと盛り付けろと
小言を言うけど、今の僕にはこれが精一杯だ。
「渡ります」
部屋の外に声をかけると、緊張しきった様子の巫女さんたちが、観音式の扉を左右に開ける。
「寒っ!」
思わず言いかけて、慌てて口を閉じる。
料理を膳ごと持ち上げて、扉の向こうに出る。
僕の後ろですぐに扉が閉められる気配。
「向こう」までは、屋根付の渡り廊下。
長さは、百間(約180メートル)。
だけど、この寒さの中では永遠に続くように思える。
215ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/12/15(月) 01:51:07 ID:yl2tgwY1
走るように、渡り廊下を進む。
奥の院──神様の住まいに渡るときに、
それに仕える人間が、ゆっくり歩いて行くなど失礼だから、
必ず小走りに渡らなければならない。
──そういう作法だ。
だけど、実際は、そうせずにいられない。
足袋が踏みしめる白木の廊下はまるで氷の板のようで、
じっと立っているほうが、よっぽど辛い。
そういうことも考えてこの吹きさらしの渡り廊下を作り、
小走りに走って「向こう」に渡ることをもっともらしい作法にしているんじゃないか?
思わずそんな事を考えてしまう。
あながち、間違っていないかもしれない。
何しろ、僕の先祖どもがやらかし続けていることの悪辣さを考えれば、
それくらいの欺瞞はお手の物だ。
しょうもないことを考えているうちに、百間の廊下は尽きた。
奥の院。
古びた木作りの建物は、しかし、千年を閲(けみ)して、いささかの揺るぎもない。
どんな人間が、どんな技術で建てたのか。
僕にはわからないが、きっと「何か」があるのだろう。
ここに棲むものが、ここに棲んでいられるように、
あるいは──ここから逃げ出さないようにする技術。
ただの木材を千年保(も)たせる技術など、きっと、その副産物に過ぎない。
「……宮司、参りました」
本式の祝詞はめったに使わない。
どうせ、ここから先は、僕以外に誰も進むことは出来ないし、
佐奈はそういうことに特別気をかけないから。
相馬さんたちはうるさく言うけど、案外、本物の神様はそういうことを気にしないものだ。
そう。
この神社の奥の院は、本物の女神の棲家だ。
216ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/12/15(月) 01:51:38 ID:yl2tgwY1
「遅かったでないかえ……?」
陰々とした声が響く。
部屋の中央でうずくまっている白い布の塊。
部屋に入ったとたんに、こっちに駆け寄ってこないのは、
──重症だ。相当機嫌が悪い。
「ごめん。……いったいどうしたの?」
できるだけ刺激しないように声をかけながら、そっと膳を置く。
「わらわは昼餉も取れずにおったのに……」
こちらの質問には回答せず、ただ文句だけを返す。
瘴気が、渦巻いた。
最低限。
僕の鼻先──膳のぎりぎり手前でそれは巻き戻って散る。
相手に、それをわからせる程度。
本気ならば──膳の上の料理は腐り、僕は発狂するだろう。
そして、佐奈は僕以外の相手にそれを躊躇することはない。
「ごめん。……でも昼ご飯は用意していたよ?」
向こうに手付かずに残っているもう一つの膳を見ながら言う。
紙をかぶせたそれは、朝、僕が作っておいた「おにぎり定食」だ。
「わらわに、あんな冷たい物を食わせる気かや?」
ねっとりとした声に含まれる怒りと苛立ちは、耳から入って腹の底に沈む。
僕以外の人間なら、一週間で胃潰瘍、一ヶ月で胃癌だ。
しかし、毎度のことながら、佐奈の言うことは理不尽だ。
……そりゃ、朝作ったおにぎりは、昼には冷めているだろう。
でも、普段はそんなものでも喜んで食べる。
「わかった。そっちは片付けるよ」
「……後で食す」
食べないとき、捨てようとすると慌てて抱え込む。
仔犬のころから変わらない。
この辺の呼吸は、他の人にはわからないらしい。
あるいは、わかっても、どうしようもないのか。
217ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/12/15(月) 01:52:09 ID:yl2tgwY1
僕が佐奈に対して、「こうできる」のは、昔からの関係によるものに過ぎない。
「じゃ、とりあえずお昼にしようよ」
少し強引に会話を切り上げ、膳を置くのも他の人にはできない。
──次の瞬間、床に突き飛ばされた。
佐奈が座っていたところから僕の場所まで、軽く10メートルはある。
膳を飛び越えて体当たり。
何が起こったのか見当がついたのは、床に思いっきり頭をぶつけてからだ。
「おそいおそいおそいおそいおそい!!」
一瞬気が遠くなるが、なんとか踏みとどまる。
僕の身体の上に、白い神衣の女が乗っていた。
白磁の美貌。
黒髪と、そこから生えた獣の耳。
鋭い牙。
そして堅く閉じられた目と、空気に渦巻く凶気。
佐奈、この神社に祭られた女神は、
盲(めしい)た犬神。
病み、狂気に陥った凶神(まがつかみ)。
そして、その凶神は、叫んだ。
「なぜ早く戻らない。なぜ早く戻らない。
わらわが待っているというのに! わらわが待っているというのに!」
千年の間、代々に犬神の血を受け継ぐものの間に生まれてきた、
人が作った、美しく、狂った、強力な女神。
そして──。
「――わらわは、友哉だけを待っているというのに!」
……そして、佐奈は、僕の飼い犬。
この娘が、産まれたばかりのまだ力に目覚めない仔犬の頃から飼い育て、
僕の匂いを覚えさせ、食事を、用便を、生きることのすべての世話をして、
犬神の血が目覚めても逆らえないように作った、女神。
僕は、犬養の宮司。
──盲目の女神を飼う、神官。

ここまで
218名無しさん@ピンキー:2008/12/15(月) 02:29:20 ID:OyaAlJld
>>211
縁側越しに日本庭園を臨む和室で
黒檀の文机に向かって端座し
巻紙に筆で書き付けるゲーパロ専用師の
全裸のお姿が浮かんだ

GJ !!

続きをお待ちする
まっぱで
219名無しさん@ピンキー:2008/12/15(月) 12:44:36 ID:IrJ8NMnJ
全裸だと風邪引くぜ
靴下履けよ
220名無しさん@ピンキー:2008/12/15(月) 18:17:17 ID:zDZ+hO39
>>217
犬×呪術的要素×依存関係とは、これはまた一味違うものを出してきなさったな。
舞台設定を現代系じゃなくてファンタジーっぽくするのは、目から鱗の発想。一刻も早く続きが読みたいです
221名無しさん@ピンキー:2008/12/15(月) 18:25:47 ID:xpT8CWIX
おぉ素晴らしい
続きをwktkしながら待っております。
222名無しさん@ピンキー:2008/12/15(月) 18:29:42 ID:vY1uaX2/
獣系だと鋭い眼光とかを想像するけど盲目なのか。歪みを感じていい感じ。
口は人間のなんだよねきっと。激しい性格っぽいのでつい獣口を想像してしまう。
とにかくGJでございました!
223名無しさん@ピンキー:2008/12/16(火) 21:35:14 ID:zDl6KmNM
盲目ってそのままの意味で目が見えないって
いう意味なの?
てっきり主人公のことしかみない、狂った様を
表現しているのかと思った。
224名無しさん@ピンキー:2008/12/16(火) 21:57:10 ID:DMvTslg9
おそらく犬は色盲という話から生まれた設定だろうから、そのまま目が見えないんでしょう。
文中でも主人公視点から、堅く目が閉じられているとかいう描写もあったし
225名無しさん@ピンキー:2008/12/17(水) 21:31:41 ID:RT9M5rGV
GJ
226名無しさん@ピンキー:2008/12/21(日) 15:27:04 ID:tobtolHe
直接的な行為は何一つ描写されてないのに
濡れているような文章で勃起してしまった
GJ
227ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/12/21(日) 23:59:22 ID:c+S4/sRs
続きをいきます。
まだ本番までは行きません、ごめんなさい。
おしっこのシーンがあります。
苦手な人はパスしてください。
228ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/12/22(月) 00:00:13 ID:c+S4/sRs
<やまいぬ>・2

ほんのわずかな時間でも貴方と離れていることは辛いことなのです 。
私と暮らす前にどうかそのことを覚えておいてください。(犬の十戒より)

「……飯は左手前、汁は右手前。汁は、けんちん。
左の奥は、バイ貝の肝と大根の煮物。
右の奥は膾(なます)の代わりに鰤の刺身と水菜。
中央は香の物。
焼き物膳は、牛の赤身を塩胡椒で焼いたものでございます。
箸は一番手前にございます」
……盲いた神様に膳を供えるときは、膳の位置と料理を申し上げる。
もとは、稲の葉で目を突いて目が見えなくなった豊穣の神様への儀式だが、
目が見えないことが多い「病犬(やまいぬ)の神」へ食事を献じるときの儀式として、
何百年か前のご先祖様がこれを取り入れた。
──多分、それは宮司の考え付いたことではない。
僕と同じく、「病犬神」を飼う宮司なら、
そんなものが必要でないことを、最初から知っているだろう。
目を閉じた佐奈は、僕のことばのたびに膳の上のその料理に正確に顔を向ける。
そして、そわそわと僕の顔を「見る」。
「……召し上がれ」
儀式は、この後、長々と祝詞をのべることになっていたが、
僕はいつもそれを省略している。
佐奈が我慢している顔を見るのは、好きでないから。
きっと、儀式を考え出したのは、「犬」を飼ったことのない人間だろう。
相馬さんや、岩城さんのような立場の人にとっては、
神社を運営するために必要なこと──権威とかそういうもの──を細かく考える必要がある。
でも、多分、「犬」と直接触れ合っている宮司は、
代々それをこっそり無視しているにちがいない。
僕と同じように。
229ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/12/22(月) 00:00:46 ID:c+S4/sRs
「いただきます!」
許可のことばを耳にするやいなや、佐奈は箸を取って食べ始めた。
昼を抜いたせいか、いつもより「喰い」の勢いが良い。
焼き物も、煮物も、サラダも、刺身も、素晴らしい速さで消えて行く。
箸使いは、僕が教え込んだ。
僕が母上に教え込まれたときよりは厳しくはないだろうけど、
それでもかなり徹底して教えた。
目が見えなくても、皿の位置が分かるのは──佐奈は鼻が利くからだ。
犬の嗅覚は、人の一万倍。
でも、佐奈は──それどころでは、ない。
「犬神」は、この世ならぬものの「匂い」も嗅ぎ分ける。
そして、「病犬神」の「嗅覚」は、普通の「犬神」の比ではない。
だから、佐奈は、閉じ込められた。
この「神社」の奥底に。
接するのは、彼女に仕える宮司の、「飼い主」の、僕一人。
そうしないと、佐奈は──。
「喰(く)らい終えたわ」
つぶやいて、佐奈が箸を置いた。
いつの間にか、膳の上は、何も残っていない。
苦手なサラダも、鰤の味がよかったのか、統べて平らげている。
残す残さないで叱らないですむ。
「おそまつさまでした」
「……ごちそうさまでした」
膳を片付けはじめると、佐奈はあわてて手を合わせて言った。
女神になった今では、僕に対して言わなくてもいいことばだが、
佐奈は、どんなに機嫌が悪くても、これだけはやめない。
それは、出された料理が、僕の作ったものだから。
そして、佐奈は、他のものを食べることが出来ない。
僕以外の人間が、佐奈の世話をすることが出来ないのと同じように。
230ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/12/22(月) 00:01:18 ID:edYG/sM9
佐奈の嗅覚は、鋭い。
外法によって強化された「病犬神」は、
文字通り「法(のり)」の外の嗅覚を有しているのだ。
それは──普通の世界に出たら、たちまちのうちに狂って
周りにあるもの全てを殺しまくり、自分も狂死するくらいの。
もともと狂った、そして強力な犬神を、さらに強化して「作られた」女神は、
ごく普通の空気の中にある匂いから、あらゆる事象を読み取る。
──そして、その「匂い」に耐え切れない。
だから、佐奈は、「神社」の奥の院に閉じ込められる。
幾重にも結界を張り、匂いを抑える術を重ねた、特殊な空間の中でしか
この女神は生きられないのだ。
だが、それを世話する人間が要(い)る。
生きている以上、様々な匂いを身にまとう、生きた人間が。
女神に、その匂いを耐えさせるために、
「神社」の外法使いたちが考え出した方法は、「飼い主」だった。
「病犬神」が生れ落ちた瞬間、最初に匂いを嗅がせ、
以降、衣食住、全てにわたり世話をする、飼い主。
髪を、肌を、肉を、血を、汗を、涙を、排泄物を、精液を──。
全てを刷り込むように嗅覚になすりつけ、「慣れ」させる。
それは、女神の一生に一人だけ。
赤子の持つ、順応力にのみ許される業(わざ)。
生れ落ちた瞬間からはじめる、ただ一度の機会を逃せば、
「病犬神」の嗅覚にそれを慣らすことは不可能だ。
そして、その飼い主は、長じて「宮司」となる。
生れ落ちた、犬とも人ともつかない無力な赤子が、
人の数倍の速さで成長し、自分の背丈を追い越すころ、女神の力に目覚めるとき。
凶神の「飼い主」は、彼女に仕える神官になるのだ。
──佐奈の飼い主は、僕だ。
佐奈は、僕の匂いにだけは「慣れ」ている。
だから、僕が作ったものだけは食べることが出来るし、僕の手だけが彼女を世話することが出来る。
231ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/12/22(月) 00:02:00 ID:edYG/sM9
「――嫌な匂いがするぞえ……」
食事を終えた佐奈が、ぽつりと言った。
僕は、はっとして振り返った。
「きょ、今日は何もないはず、だよ……?」
僕が高校に通うようになってだいぶ経つ。
佐奈も慣れたはずだ。
四月の頃はひどかった。
僕の身体に移った、クラスメイトの女の子たちの匂いに反応した佐奈は、
荒れ狂って奥の院を破壊するところだった。
六月にラブレターを貰った日には、
「神社」の職員の三分の一を衰弱死寸前にするくらいの瘴気を放った。
七月と八月には──いや、やめておこう。
とにかく、半年近くをかけて、僕は佐奈に、
僕が高校で「普通」の学生生活を送ってくることを慣れさせた。
佐奈の嗅覚は、尋常のものではない。
それは、文字通りの意味だ。
食べ物の匂い、汗や排泄物の匂い、服に着いた空気の匂い……。
普通の犬なら、匂いで主人の体調を嗅ぎ取るくらいはできる。
普通の犬神なら、さらに進んで、主人が何をしてきたか、過去を「嗅ぐ」ことができるだろう。
だが、「病犬神」は──。
嗅ぎ取れないはずのものを嗅ぎ当てる。
10メートルも離れて座ったクラスメイトから僕の学生服に移った匂いから佐奈が嗅ぎ当てたのは、
──彼女の素性と、僕に対して好意を持ったという、僕さえ知らない相手の心の中。
本殿に置いてきたカバンの中のラブレターから嗅ぎ取ったのは、
──ラブレターの一字一句ちがわない文面。
「病犬神」の嗅覚は、この世のあらゆる事象を嗅ぎ取る。
当たり前の話だ。
「病犬神」は、この世ならざるものの「匂い」を嗅ぎ、悟る女神。
そのために目から光を奪われ、「神社」の外で生きる術を奪われ、
ただ飼い主だけを与えられて力を強化された凶神。
232ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/12/22(月) 00:02:31 ID:edYG/sM9
「……違う。今日の友哉は、良い匂いじゃ」
佐奈がそう言ったので、僕はちょっとほっとした。
機嫌の悪い日の佐奈には、気を使う。
……待てよ、機嫌が悪い?
はっとして、本殿のほうを振り返る。
もちろん渡り廊下に続く扉は閉まっている。
でも、佐奈にはわかる。
呪法を重ねた分厚い木の扉を通して、
百間の渡り廊下を隔てて、
本殿のいくつもの部屋を越えて。
「双奈木の来客か」
「……嫌なものを持ち込んできたぞえ」
先ほど岩城さんから聞いた、<支族>の人は、
何か厄介ごとを頼みに来たのだろう。
──きっと、「病犬神」が必要なくらいに厄介な、「あちら側」の問題を。
「……」
「……」
僕と佐奈は黙り込んだ。
佐奈は、何を「嗅ぎ取った」のか。
それが、「良くないもの」なのは、僕にも分かる。
凶神といえど、「こちら側ではない世界」のことに関わるのは、危険なのだ。
でも、僕は、この「神社」を預かる僕は──。
「良い。聞かせてたも」
佐奈は、軽く頭を振りながら言った。
「……ごめん」
「わらわの仕事じゃ。のう、主どの?」
僕は答えられなかった。
犬養の宮司は、そのために、女神を飼う。
病犬に、この世ならぬものを嗅がせ、識(し)るために。
「神社」は、その外法を欲する者たちの莫大な援助によって成り立っているのだ。
233ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/12/22(月) 00:03:27 ID:edYG/sM9
「そのような顔をいたすでない。わらわは、そういうことをする犬神じゃ」
佐奈は笑った。
釣りあがった唇から、白い犬歯が見える。
黒髪の間から、犬の耳が見える。
硬く閉じた目蓋から、暗い光が見える。
くすくすと笑う、美しい女。
僕の喉が、ごくりと鳴る。
それは、恐怖だ。
僕は、佐奈の飼い主。
この凶神を、生まれたときから飼ってきた、飼い主。
だから、佐奈は僕だけは傷つけない。
僕の言うことだけは聞く。
だけど──。
「どうしたかえ、主どの?」
時が経ち、身体も力も僕よりも「早く」成長していく佐奈に、
僕は時々恐怖を覚える。
この娘は──昨日と同じ、僕の飼い犬なのだろうか。
ひょっとしたら、幼い頃から縛り続けていた見えない鎖は、
今日は、もうこの娘を縛るだけの力を有していないのではないか。
──歴代の宮司には、女神を縛り続けることが出来ずに、食い殺された者もいる。
僕が、そうならない保証はどこにもない。
「……なんでもない。双奈木さんの話を聞いてくる」
僕は、ちょっとだけ歯を食いしばって、その恐怖に耐え、佐奈に返事をした。
「……ふふふ」
佐奈が、また笑う。
「どうした?」
「駄目じゃ。――その前にわらわに湯浴みさせてたもれ」
佐奈は立ち上がって、するすると神衣を解き始めた。
234ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/12/22(月) 00:04:03 ID:edYG/sM9
「――腕、上げて」
「こうかえ?」
僕の言葉の通りに佐奈は腕を上げた。
白い腕。
生まれてから、一度も陽の光を浴びたことのない肌は、
妖しいまでに白くなまめかしい。
腋の下は、もっと白いように思える。
僕は、そっと唾を飲み込んで、そこを布でぬぐった。
ゆっくりとこすり、流す。
お湯は、霊峰から湧き出る清水を沸かしたものだ。
水と空気は、術法を加えれば、なんとか「病犬神」が耐えられる匂い。
──そのために、「神社」はこの地に作られた。
「ふふふ、どうしたかえ?」
湯気の中で、佐奈が笑う。
「なんでもないよ」
僕は目をそらしながら言った。
「もそっと強く洗ってたもれ。胸乳を、の」
佐奈が胸をつき出した。
まだ背の伸び盛りを迎えていない晩生の僕より、今の佐奈は背が高い。
日を追うごとに成長の差は開き、佐奈の身体はどんどん成熟していく。
おっぱいは──ものすごく大きくなった。
「仔犬」のころの、まるで人形のように小さく薄い身体を見ている僕には、
その成長は、目の前にしていても信じられない。
だけど、これは現実だった。
「どうしたかや? 早う……」
促されるまま、布越しに触れる、弾力と重みも。
「ふふふ」
佐奈の含み笑いが、湯殿に小さく反響する。
「くそっ……!」
僕は小さく毒づいた。
235ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/12/22(月) 00:04:36 ID:edYG/sM9
最近、いつもこうだ。
佐奈は、どんどん大人になっていく。
そして、こうして戯れる。
弄うように。
いつからだろうか。
彼女が女神として目覚め、僕との力関係が逆転してからか。
僕はため息をついて、今度はお腹をこすり始めた。
女体。
嗅ぐ能力を別にすれば、犬神とて、普通の人間と変わらない。
人間に神を「下ろ」して作られた神様だから当たり前だけど。
耳と、牙と、爪を除けば、佐奈は、まるっきり人間の女だ。
それもとびっきりの。
その身体を洗うのは、高校生には刺激が強すぎる。
──三年前までは、考えもしなかったことだけど。
それまでは、佐奈は、まさに僕の愛玩動物だった。
小さく、弱い、盲目の生き物。
人間とか、犬神とか、そういうものを別にして、
とにかく、僕が世話をしなければ今にも死んでしまう、小動物。
それが、成長するにしたがって、妹のような存在になり、
同世代の女の子のような存在になり、
今では、完全に僕を追い越した大人になっている。
そんな女神の身体を洗うことには、どういう意味があるのだろう。
「ふふふ」
また、佐奈が笑った。
僕の「匂い」から、僕の思考を読み取るくらい、この娘ならなんということはない。
だから──。
「怖いかえ? わらわが?」
佐奈が、そう言ったとき、僕の心臓は、どきんと音を立てた。
236ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/12/22(月) 00:05:37 ID:edYG/sM9
「……な、何を……」
一呼吸、いや二呼吸遅れて、答えた。
「……」
佐奈は、沈黙していた。
白い湯気が全てを隠す湯殿。
聞こえるのは、お湯の沸く音と互いの息遣いの音だけ。
僕の目の前にいるのは、「病犬神」。
僕の飼い犬だろうか。
もう僕の手に負えない病んだ女神だろうか。
「――さ……」
「――小水じゃ。見てたもれ」
思わず名を呼ぼうとした瞬間、いつもの甘えた声が聞こえた。
「え……?」
「小水をしたい」
佐奈は、照れたように笑った。
「あ、うん」
用便の世話は、仔犬のころから僕の仕事だ。
医者さえも近寄ることができない犬神の主治医は、宮司が務める。
そうした管理は、犬を飼うときの基本中の基本だ。
だけど、こんなにまで成長した女神のそれは──。
「いくぞえ。見てたも」
佐奈は、立ったまま大きく足を広げた。
腰に手を当てて、突き出すように。
飼い主に全てを見せる、無防備に、あまりに無防備に見せる姿勢。
透明な液体をしたたらせはじめても、佐奈のその無防備さは変わらなかった。
「――」
僕は、気がついた。
佐奈は、笑っている。
先ほどの、弄うような笑みではなく、心底うれしそうな笑みで。
もっと小さな頃、まだ女神になっていないときに、いつも浮かべていた微笑で。
237ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/12/22(月) 00:06:44 ID:edYG/sM9
「……洗ってたも」
我に返ると、佐奈の放尿は終わっていた。
慌ててお湯で足と床とを流す。
「布は嫌じゃ。指で洗ってたも」
佐奈は、腰をつき出したままの姿勢でささやくように言った。
甘えるような声に、昔と違う響き。
それは女の媚びか──それとも……。
操られるように僕は腕を伸ばした。
白い阜(おか)の上に、僕の手が這う。
薄桃色の秘裂は、今まで何度も触れて世話してきた飼い犬の排泄器官。
いやらしい意味なんか、ない。
だけど、それは、僕がはじめて触れた女性器でもある。
それは、いやらしい意味そのものが形をとったものだ。
「ああ……」
かすれた声は、明らかに嬌声。
溝に沿って撫でる男の指に反応する女の声。
その秘めやかな響きは、僕が知り、理解しているどの佐奈の声とも違う。
「ふふふ、主どの──友哉の指は、良いのう」
佐奈が、ささやく。
僕は生唾を飲み込んだ。
わからない。
理解できない。
まだ──この佐奈が「何」であるのか、僕は識(し)らないのだ。
「ふふふ、どうしたかえ? 男根(へのこ)から、精の匂いがしてきたぞえ?」
佐奈が、笑う。
完全に、僕が心のうちを読めない笑み。
「抱きたいかえ、わらわを。犯したいかえ、わらわを」
笑い声は深くなった。
「抱くが良い、犯すが良い、いつもの通りに。のう、主どの?」
佐奈は、唇を釣りあげて笑った。
白い白い犬歯を見せて。
僕は、その笑顔の意味がわからない。
数ヶ月前、誘われるままに佐奈を抱いてから、僕は彼女のことがわからなくなってしまった。
だから、僕は、恐怖する。
佐奈に──僕の飼い犬、僕の女神に。


あなたがどんな風に私に接したか、私はそれを全て覚えていることを知っておいてください。(犬の十戒より)


                     ここまで
238名無しさん@ピンキー:2008/12/22(月) 00:51:57 ID:kcbOF1ja
先鋒でGJ
239名無しさん@ピンキー:2008/12/22(月) 01:23:08 ID:b1Jl1iwn
この怖い病犬神の心中が早く読みたいっ。本当になに考えているんだろうか?
しかしまあ、こういう圧倒的に上位の立場の者が、自分からその首を差し出している、
差し出さずにはいられないっていうゲーパロさんの依存シチュの表現手法は本当にいいなぁ。
240名無しさん@ピンキー:2008/12/22(月) 02:38:25 ID:17K3hhEW
佐奈が何考えてるかわからなくて怖い 

と最初は思ったんだが、>>239を見て目が覚めた。
そうだよな、ゲーパロさんだし・・・
241心の隙間:2008/12/23(火) 02:30:31 ID:Ew1MHl/M
夜8時、部活帰りの途中ふと道路を挟んだ反対側の公園に目をむける。

「・・・・・・なにしてんだあれ?」
暗いためハッキリとは見えないが女の子がベンチで座ってるのが見える。

すこし様子がおかしい。
「・・・泣いてる?」
街灯の灯りで少しだけしか見えないが、震えてるみたいだ。
「どうしようかな・・・」
少し公園から離れたとこで足を止め公園のほうを振り返る。
「なにかあったのかもしれないし、話すだけなら危険はないか」
少し迷ったが意を決してもときた道を戻りさっきの公園が見える場所までもどる。

「まだいるな、話しかけるぐらいなら大丈夫だろ」
深呼吸をし自分に言い聞かせ道路を渡る。
242心の隙間:2008/12/23(火) 02:54:25 ID:Ew1MHl/M
道路を渡り終えて公園の門の前にたってもう一度彼女を見る。
「・・・歳いくつだこの子?」
うなだれてて顔が全く見えないが、少し小さくないか?
(やっぱり警察に)と思ったがまず話を聞かなければならないと思ったので少し遠めから話しかける。
「あの〜大丈夫ですか?」
反応が全く無い。
少し大きな声でもう一度言う。
「スイマセン、大丈夫ですか?」
すると女の子は少しビクッとする。

この反応で近づいていいか迷ったが意を決して彼女に近づく。
ベンチで体育座りをしなが顔を隠してるため顔は全く見えないが、かなり幼い感じがする。

「大丈夫ですか?なにかあったんなら警察呼びますか?」
彼女の目線まで顔を下げて話しかける。
するとようやく顔をあげた。

「・・・キミ歳いくつ?」
(やはり声をかけて正解だったな)
心の中でそう思った
なぜなら見た目は小学生そのものだった(変態が見つけたら最悪だったな)
「こんな夜中に危ないよ?早く家に帰りな」
優しく声をかけてあげる
その子は小さく聞き取りづらい声で呟く。
「帰るお家ない・・・お父さんいなくなっちゃったから」
そう呟くと少女は涙をボロボロ流しながら下をむいてしまった。
243心の隙間:2008/12/23(火) 03:29:55 ID:Ew1MHl/M
はぁ・・・俺じゃどうしようもないな。
心の中でそう思った。
話を聞く限り問題がかなり複雑そうだ。(やっぱり警察だな)
そう思い少女に
「それじゃお巡りさんに助けてもらおっか?」
極力怖がらせないように優しく話しかける。
しかし少女は
「嫌!お兄ちゃんも私を置いてどこかいくんでしょ!?」
いきなり大きな声で叫ぶ。
(お兄ちゃんって俺だよな?置いていくって今会ったばっかだろ)と思ったが。

「こんな暗いとこに置いていくわけないだろ?一緒にお巡りさんのとこまで連れていってあげるよ」
優しく手を差し伸べると
10秒ほど俺の顔色伺ってオドオドしながら手を握ってきた。
ただまったく動こうとしない
「どうしたの?早くいこ?」
問いかけると
「嫌、お巡りさんのとこにいくとあの家に連れていかれる・・・」
「家があるの?なら帰らなきゃ心配するよ?お母さんだって今頃探してるかも」
しかし少女は握った手を振りほどくと
「あの家に帰るならもうここでお家つくるもん!!」
といいながらまたベンチに座りこんだ。
(はぁ・・・めんどくさいことになったな。)
そう思いながら少女を見下ろすとなぜか俺の指ばかり見てる。
(しかしこのまま置いてく訳にもいかないしなぁ・・・)
10分ほど考えてある決断をした

「キミが嫌じゃなかったら一晩だけ家にくるかい?」
少女はよくわからないといった顔をしている。
「ここじゃ寒いでしょ?風邪ひくし寝る所ぐらいなら用意するよ?」
彼女は小さく
「いいの?迷惑じゃないの?」と聞いてきたので
「大丈夫だよ、てゆうかキミをここに置いていったら心配で眠れないから」
笑いながら話すと
彼女は嬉しそうに抱きついてきた。
こんな小さな子が笑うとこっちまで嬉しくなる。

この出来事がこの先彼の人生を大きく変えるようになることを、まだ彼はしらない。
244名無しさん@ピンキー:2008/12/23(火) 19:55:47 ID:eWb+sUOF
二つも新作が投下されたとは!
これはGJせざるをえない。
245名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 00:34:01 ID:y4f007jm
うぉぉおぃ!GJだろ!
246名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 02:16:38 ID:EgVqrmQG
続きが気になる!とにかくGJです!
247心の隙間:2008/12/24(水) 02:28:32 ID:Xuj+cdYA
少女を家に連れていくことになったが・・・。


「姉ちゃんなんて言うだろ・・・」
両親は離婚し、一緒に暮らしてた父は去年癌で亡くなった、だから今家には俺と姉の二人暮らしだ。

一年前に女の子(同級生)を家に入れただけで、普段おとなしい姉が怒り狂って一時間も説教食らったのにこんな小さな子を連れていくとなると殺されるかもしれない。

「・・・・・・お兄ちゃん怒ってる?」
顔にでてたのか、少女が不安そうに上目使いで話しかけてくる。
「ん?怒ってないよ〜ちょっと考えごとしてただけだよ、あっそうだ!!名前聞いてなかったね、俺は中村 勇(ゆう)、高校1年生だよ、よろしくね。」
頭を撫でながら自己紹介をする。
「私は高原 凪(なぎさ)○○小学校の六年生だよ。」
礼儀正しく頭をぺこりとする。前髪を髪留めで一つに纏めてるのでピコピコっと動くのが可愛らしい。
「凪ちゃんの家は隣町にあるの?○○小学校ってあの有名な小学校だよね?」
隣町に有名な私立のお嬢様お坊っちゃま小学校がある。
「そうだよ!お兄ちゃんしってるの?」
「よくテレビで見るよ、でかい学校だよね。」
まぁ俺には無縁の場所だから直接見たことは無いけどね。




あれ?
高原ってどこかで聞いたことあるような・・・・・・
248心の隙間:2008/12/24(水) 03:26:54 ID:Xuj+cdYA
「・・・凪ちゃんのお父さんってなにしてる人?」
変な汗が出てくる。
「えっとね、あんまり知らないけどなにかの社長してるんだってさ。」
あぁ・・・終わった。

高原ってあの高原□□かよ。
一週間前からニュースで社長の高原 修司が事故で亡くなって妻の高原 恭子が女社長になったとかで騒いでたな。

「あの高原□□の娘さんなんだね・・・それじゃあなおさら家に帰らなきゃお母さん心配するんじゃない?」
「イヤッ!もう帰らないもん!!家に帰ったらまた一人になるもん・・・」
最後のほうは涙声で聞き取り辛い。
「わかった、もう言わないからね」
そう言って涙を拭いてあげようと思って手を離そうとすると
「やっ!ダメ!」
俺がどこかに行くと勘違いしたのだろう。ぎゅっと両手で力一杯握りしめてくる。
「どこも行かないから、涙拭かなきゃね」
優しく言うが、右手で俺の手を強く握り、左手を離して自分で涙を拭いてしまった。
拭き終わるとまたすぐに両手で握りしめてくる。

(あの高原□□の社長だもんな
そりゃ両親は忙しいわな・・・
子供まで目が届かないか。)

そう考えながら歩いていると知らない間に
我が家の近くまできていた。
「・・・・・・はぁ、大丈夫かな」
そう呟きながら玄関の前に立つ。
玄関のガラス越しに見える一人の影。
「ははっ・・・今日は鬼の影に見えるな」

開けるのを躊躇したが玄関を開ける。
「ただいま、姉ちゃん」


あ〜これはやばいな。



「おかえり・・・・・・いま何時?」
249名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 07:34:47 ID:XE7ov61Y
さすがに今のご時勢で見知らぬ女の子を家に連れ込む展開は無理が無いか?
どうみても逮捕フラグ

もしかして逮捕されて人生オワタな主人公を慰める女の子という展開になるのか!
250名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 12:43:50 ID:Xuj+cdYA
>>249
ちょっとまってよw

無理がないかってまさかエロパロで言われるとは思わなかった
周り俺より無茶してる作品ばっかりだと思うけどw
251名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 13:23:20 ID:ndtYNTXC
>249
気が早すぎるwww

>250
落ち着いてくれ、幻想ありきの場所で現実感を本気で持ち出すような人はそんなに居ないって。
252名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 14:26:26 ID:RaF9EQyA
まぁ、
・主人公が高校生
・姉と同居

以上2点からするとそう無理はないと思うぞ。
本人が交番をいやがってるんだから、
自分の家以外つれてく先を思いつかんのが普通だろう。
高校生で児童相談所の存在を知ってるほうが不自然だろうし。

主人公が30歳童貞無職ニートの一人暮らしのところに
連れ込むなら、確かに無理があるが。
253名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 19:32:00 ID:qiuLpw0u
>>252
30歳童貞無職ニート+キモオタデブの俺は生きてていいですか?
254名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 21:03:13 ID:XTbnXt8z
35歳童貞ほぼ無職すねかじりキモオタメタボの俺が「生きてていい」って言ったら楽になる?
255名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 21:16:06 ID:6/TqT888
他人を見下して安心しようとする自分が嫌になるだけ。
256心の隙間:2008/12/25(木) 02:24:47 ID:rwIVt/5J
遅い・・・・・・・・・。



玄関で弟の帰りを待ってるがまったく帰ってくる気配がない。
壁に掛けてる時計を見上げる。

「門限って意味しってるのかしらあの子・・・・・・。」
もう二時間近く立って帰りを待っている。
門限が7時、もう9時を過ぎている。
電話しても出ない、メールしても返ってこない、学校に電話したら担任がもう帰ったと言う。

「なにかあったのかしら・・・」
イヤな予感がする。
冷や汗が止まらなくなる
「あの子になにかあったら私・・・」
頭では最悪の出来事しか想像できなくなっている。

「やだ・・・嫌ッ!!!私の前からいなくなるなんて考えられない・・・」

足が震えて崩れ落ちそうになる。
「早く帰ってきて・・・」
携帯の画面に移る弟を見ながら口ずさむ。

すると扉の向こうから足音が聞こえてくる
小さい声だか声も聞こえる





あの人だ
257心の隙間:2008/12/25(木) 02:30:35 ID:rwIVt/5J
「・・・帰ってきてくれた・・・」

嬉しさで玄関の扉を開けて迎えに行こうと思ったが、安心したらなぜか怒りがわいてきた。

こんなに心配させてほっつき歩いてたんだから私から行くことないんだ、あの子から謝らないと許さない。
「でも・・・・・・あんまりしつこくすると嫌われるかな。」
嫌われることを考えると怒りよりも不安のほうがでかくなる。
でも心配したことは伝えなきゃ!

「ただいま、姉ちゃん」





「おかえり・・・・・・いま何時?」
258名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 15:34:53 ID:kJMgwwle
犬神のやつマジ楽しみなんだが(*゚ω゚*)次の月曜日あたりかなぁ
すげー耽美な設定で最高やわ
259名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 21:54:51 ID:IXLNevsk
神々が集うスレがあると聞いてやって来ました
260名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 01:37:31 ID:72KwzLpo
>>257
オーケーオーケー、姉は弟依存なのか。続きが楽しみだぜ、GJ!
261心の隙間:2008/12/26(金) 01:51:26 ID:32uqUvJo
ものすごく怒ってる・・・

ここは素直に謝ってたほうがいいな
「ーー姉ちゃん、ごめん、部活が長引いてさ。」
なにも言わず近づいてくる姉に少したじろぐ、
すっと姉の手が頬に近づいてくる
殴られるッ!!

とっさに目をギュッと瞑ってしまった。
しかし痛みではなくかわりにヒヤっとした冷たい感触が頬に伝わる。

「遅くなる時は電話して・・・メールでもいいから・・・」
目を開けると涙をためている。
「(手が冷たい・・・姉ちゃんずっと玄関で待ってたんだ)次からはちゃんとメールするね。」

姉の頭を撫でると、姉は目を細め大きく息を吐きながら勇の胸にもたれ掛かった。
甘えようとしてもたれ掛かったのでは無く、足に力が入らないのだ。
(早く一緒に寝たい・・・このままベッドに連れていこうか)
姉は勇と添い寝をすることで頭がいっぱいだ。
週に一度だけ一緒に寝てくれるこの日を姉は一番楽しみにしている。

ーーしかしこの唯一の楽しみを2時間後に壊されるどころか、奪われることを姉はまだしらない。

「姉ちゃん、それでちょっと相談なんだけど・・・」
勇が玄関の影に向かって手招きをする
すると玄関の影から姿を現す小さな破壊者。



「おじゃまします・・・・・・」
262心の隙間:2008/12/26(金) 01:56:47 ID:32uqUvJo
こんなんでいいのかものすっごい不安なんだけどw
263名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 03:14:12 ID:NfoMDO+y
GJ
先が気になるぜ!
264名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 03:29:36 ID:0+TYYegl
つづき!
つづき!!!!
265名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 17:43:27 ID:ST1ZlDAO
>奪われることを姉はまだしらない
お姉ちゃんヤンデレ覚醒フラグw
見事にフラグを叩き折ってくれることを期待


266心の隙間:2008/12/27(土) 01:32:55 ID:2qbeJ2Sg
ーー姉ちゃんはまったく状況が飲み込めていないみたいだな・・・

姉は口を半開きにしながら凪を見ている。
(まぁ、いきなり小学生連れてきたらこうなるわな。)

頭を掻きながら、なんて説明するか考えていると。
姉ちゃんから小さな声で聞いてきた。
「・・・・・・なにこの子?」
隠しても余計に怪しまれるから、今日あったことを全部姉に話した。

ーー始めは頷いてるだけだったが、状況を少しずつ把握してくると、顔を真っ赤にし勇に向かって怒鳴った。
「勇!!なに考えてるのッ!!!なぜすぐに警察に電話しなかったの!?親御さんが心配して、探してるかもしれないじゃない!!」

息を荒げて勇を怒鳴る。
「いや、警察に電話しようとしたんだけど嫌がってさ、公園に置いていく訳にもいかないし、だから今日一日だけ泊めてあげようとおもってね。」
「あのね・・・周りからみたら勇が連れ込んだって思われるでしょ!?勇が警察に連れて行かれたら私死ん!ッ・・・」

姉はハッとなって勇から目をそらす・・・
ーー感情が溢れ出そうになる。
(早く、この子を警察に引き取ってもらわなきゃ!!)

なんとかいつもの2人の日常を取り戻そうとするがうまく頭が働かない。
267心の隙間:2008/12/27(土) 01:34:56 ID:2qbeJ2Sg
ーー頭が追いつかない・・・
なぜ、よりによってこの日にこんな災難がくるの。

いきなり現れた子供は私からしたら邪魔者以外の何者でもない、
子供は好きだけど今の状況で好きか嫌いか聞かれたら、間違いなく嫌いだ。

「ーー警察に電話するから待ってなさい・・・」
凪を一睨してからリビングに歩いていく。
勇にも目をむけようとしたが、今さっき怒鳴ったばかりなので、心の距離をとられることを恐れて、これ以上は言えない・・・

今は感情的になってしまったが私が勇にむかって怒鳴ることはまずない。
一度同級生を連れてきたことがある、その時の同級生の勇を見る目は、表には出ていないが見るからに好意を寄せている目をしていたのだ。
その時は我を忘れて怒鳴ってしまったが、その後一週間勇とはギクシャクしてしまった。
今考えても胃が痛む、
なにか言えば勇の機嫌を損ねるんじゃないか、なにを作れば勇は喜んでくれるか
ーーあの同級生とは違う・・・私の目は勇しか写らない目



その目をこの子も持っている。
268心の隙間:2008/12/27(土) 01:41:44 ID:2qbeJ2Sg
夜勤の休憩に書いてるから少しずつになるんですよ、ごめんなさいね。
まぁゲーパロさんや、ほかの人が書いてくれるまでの繋ぎとして、見ててくださいね。
269名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 02:12:49 ID:+m5xDUpg
最初のレスかな?
まずはGJ

繋ぎと言わずに、隙間も期待してみてるよー

270名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 07:36:52 ID:GKT0b5vR
お疲れ。

まだ序盤っぽいので内容には触れないけど
「ーー」は使わないほうがいいかな。
271名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 10:19:03 ID:JZ8r6ldR
つか「ーー」じゃなくて「――」だね
272名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 11:02:53 ID:Tp4qAKXM
前々から気になってたんだが「――」ってどうやったら出てくるんだ?
273名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 11:19:58 ID:OcxVifK7
うちのは、「だっしゅ」と打ち込んで変換すると「―」がでるです。
274名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 11:44:45 ID:Tp4qAKXM
―おお本当だ。ありがたいありがたい
これをきっかけに>>273には依存せざるをえない
275心の隙間:2008/12/27(土) 14:01:33 ID:2qbeJ2Sg
OK、やめるわ
276名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 22:14:35 ID:qGBBKm+w
勇と聞くとブレンを思い出す
277名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 23:22:12 ID:lMgLTN6P
>>276
ごめん、覚えてない。
278名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 04:32:09 ID:EsxkaK1H
>>276
ブレンパワードの主人公か。
あれも姉がブラコン風味だった気がする。
279名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 10:52:39 ID:b1+MsJBJ
>>278
イイコ姉さん(漢字忘れた)は明らかにブラコンの域を越えた方です。

考えりゃブレンは登場人物が何らかに依存していた気が。
ジョナサンや艦長とか。
280心の隙間:2008/12/28(日) 19:35:32 ID:lC8W8hhB
書いてたらヤンデレと依存の違いがわからなくなってきたw
281名無しさん@ピンキー:2008/12/28(日) 22:17:27 ID:sVZFVDeu
>>280
ヤンデレ 要するに自己中心。自らの快楽が全て。 否定されると殺しにかかってくる

依存 献身的。相手の喜びが自分の喜び。 否定されると泣くか、謝罪&捨てないでコールをしてくる

さてどちらが現実にいてほしいかな
282心の隙間:2008/12/28(日) 22:34:38 ID:lC8W8hhB
>>281
あぁそういうことか、
依存は現実にいっぱいいてるけど、ヤンデレはちょっと危険すぎるよねw

今まで書いたのヤンデレになるんじゃないかなって思ったからちょっと不安になったの
すぐに続き書きますね。

ほかに誰か書いてくれないかなぁ
283名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 00:02:41 ID:M1GR0GxL
ここはゲーパロさんが定期的に投下してくれるから、過疎スレ化を免れている危ういスレだからねぇ、
というわけで、心の隙間の作者さんには勝手ながら期待させてもらっているのです、頑張ってね。
284名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 01:42:09 ID:hpiBKAbq
俺はヤンデレは愛しすぎて病んでしまうというか愛情表現が過剰になってしまう人の事だと思ってる。
だから依存型のヤンデレとか猟奇型ヤンデレとかそんな感じで広義な意味でヤンデレを認識してるわ。
285心の隙間:2008/12/29(月) 02:29:44 ID:lVbRlJtr
私は警察に電話をするためにリビングに入って電話の受話器を持つと、バタン!と玄関から扉の閉まる音が聞こえた。

「勇?」
なぜか胸の鼓動が早くなる

少し遅れてリビングの扉から、冷たい夜風が入ってくると同時に、勇の気配も、声も、匂いも、一瞬にして消え去った。
受話器を置き、恐る恐るリビングの扉から玄関を覗く。

「・・・・・・え?」
勇がいない・・・
カバンは置いてあるが靴がない。
血の気が一瞬で引いていく。
なんで・・・どうして?怒って出ていった?
「ッ!早く追いかけなきゃ!!」

靴を履くことすら忘れて、裸足で家を飛び出すが、家を出たらすぐにT路地になっている。
「どっちに行ったかわからない・・・早く謝らなきゃ」

足が震える。
「勇・・・・・・ゆうユウ・・・」

口から出るのは弟の名前ばかり、こんな時にも私は座り込むことしかできない。

周りには闇しかない・・・・・・光(勇)が見えない
286心の隙間:2008/12/29(月) 02:31:35 ID:lVbRlJtr
「なんで小学生ってあんなに足が速いんだ!!」
凪を追いかけながら呟く。

姉が警察に電話をしようとリビングに入ったら
凪はいきなり走って逃げてしまった。

「ハァ、ハァ、凪ちゃん!!ハァ、ちょっと待って!」
大声で叫ぶと凪は走るのを辞めた。
(こんな真夜中に・・・周りが聞いたら間違いなく警察に捕まるだろうな。)

凪は息切れ一つしていない。

「(俺が歳なのかな?)凪ちゃん足速いね、ビックリしたよ」
「お兄ちゃんも速かったよ、絶対に見失うと思ったもん」
凪は笑いながら話しかけてくる。
「もう鬼ごっこはおしまい、風邪引くからお家に行こう、お姉ちゃんには俺が言ってあげるからね」

しゃがんで凪に話しかけると少し悩んで凪がコクッと小さく頷いた

俺がそっと手を差し伸べると、凪は顔を少し下げ照れた仕草をしながら、手探りで人差し指と中指を握ってきた。


凪と話しながら歩いていると、家の前になにかうずくまっているのが遠目でもわかる。

凪は勇の顔ばかり見ているので全く気づかなかったが勇はそれを見て一瞬で体が硬直した。



「・・・・・・姉ちゃん!?」
287心の隙間:2008/12/29(月) 02:40:48 ID:lVbRlJtr
>>283
ありがとうございます。
少しずつですが書いていくのでよろしくお願いします。
288名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 09:54:57 ID:e+Ty9FNx
>>287
超GJ!!
依存好き&お姉ちゃん大好きの自分としてはたまらんだぜ

ただまとまってから投下したほうがよいかも
289名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 13:45:30 ID:B3uSNMAz
>>281
お前とはいい酒が飲めそうだ。
290281:2008/12/30(火) 00:42:20 ID:7aMdJy0Z
あともう一つ違う点があるな。
ヤンデレ バッドエンドが多い
依存 ハッピーエンドが多い かな?
ヤンデレのバッドエンドは「あーあ死んだか」程度にしか思わんが
依存のバッドエンドは心が痛い
291名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 00:58:09 ID:6r7Rf1Lw
依存型は普段は暴れてたりツンツンしてても、いざ破局間近になると泣いて縋りそうだよね。
そりゃ心も痛むってもんだよ。
292心の隙間:2008/12/30(火) 04:32:58 ID:lziqKQYF
凪の手を離し、うずくまっている姉に走って近づく。
背中に手を置くと小刻みに震えているのがわかる。
「姉ちゃんどうしたの!!?怪我はない!?」
なんで道路で倒れてるのかわからない、なにか事件に巻き込まれたのかと嫌な考えが頭によぎる。
「ユウ・・・・・・ゆう?・・・・え!?勇!!」
いきなり抱きつかれ姉の全体重が胸にのしかかってくる、
「ちょッ!!姉ちゃん?、どうしたのこんなとこで?心臓とまるかと思ったよ・・・」
「勇が怒って出ていったから探しにいったんでしょ!?」
(怒った?俺が?)

勇を離すまいとしがみついてるので、無意識の内に背中に回している手の爪が、服を通り越して皮膚に食い込む。

「痛ッ!!ちょっと!背中に爪が食い込んでるよ!!」
「やッ!嫌だッ!!」
離そうとするが姉は混乱して全く離れようとしない、それどころか、しがみつく力が増してきた。
「ッ!!・・・姉ちゃん、大丈夫だからね?早く家に行こうね?風邪引くから」
髪を撫でながら小さい子を宥めるように、優しく言う。
「・・・・・・」
「まだご飯食べてないんだよね〜、お腹空いたから早く家に帰ろうよ」
なるべくいつもの会話みたいに、違和感の無いように話しかける。



「・・・・・・なに食べたいの?」
293心の隙間:2008/12/30(火) 04:34:55 ID:lziqKQYF
背中から痛みが和らいでいく。

「う〜ん、部活で身体動かしたからさ、ものすごくお腹へってるんだよね、肉が食べたいかな」
「うん・・・それじゃいっぱい料理作るよ」
背中から手が離れていく、その手が勇の左腕に移動する
「それじゃ早く帰ろう。」
左腕に姉がしがみついるから歩きにくいが、拒んだらまたややこしくなりそうなので、そのまま歩こうとすると。


「あの・・・・・・お兄ちゃん・・・」

忘れてた・・・・・・
「凪ちゃんごめん、こっちにおいで」
凪が泣きそうな顔でこっちを見ている。
左腕は姉で埋まっているので右手で凪を手招きする。
子供が2人いきなりできた気分だ。
小さな女の子と女性に挟まれて歩く光景は周りから見たら微笑ましく写るかもしれない。

しかし勇は息苦しくて仕方がなかった。
勇の頭の中は寝ることでいっぱいだ、
(早く帰って寝よう、今日はイロイロなことがありすぎた・・・)

疲れはてた身体で考えることは難しく、姉との週に一度の約束も忘れてしまっていた。
294心の隙間:2008/12/30(火) 04:40:51 ID:lziqKQYF
「ただいま〜」
玄関を開けて誰もいない家に声をかける
「おかえりなさい」
一緒に入ってきた姉が小さな声で答える。
少し後に続いて凪がおじゃましますと家の中に入ってくる。
玄関で立ち止まってても仕方ないので、靴を脱ぎ凪を連れてリビングに入る。
姉は靴を履いてないので先にリビングに入ってくれてよかったのだが
何故か靴を脱いでリビングに入るまで、玄関を離れなかった。

ふぅ、やっと落ち着ける。
ソファーに腰をかけため息を吐くと、凪はオドオドしながら部屋の中を見渡している。
「凪ちゃん、こっちに座りな」
隣をポンポンと叩くと、凪はそれに従ってソファーに座った。
姉を見るとチラチラとこちらを意識しているが、なにも言わず冷蔵庫を覗いている。
「お腹へってるから早く食べたい」
「うん・・・それじゃ簡単な物にするね?」

正直早く寝たい・・・
欠伸をしながら目を擦る。
凪を見ると下を向いたまま動かない。
寝てるのかな?と思い顔をのぞき込むと、目は開いている。
目線をたどると俺の手を見ている。
少し凪の顔を眺めていると、やっと顔をのぞき込まれてることに気づいたのか、凪がヒャァッと変な声をあげて飛び上がった。
「手になにかついている?」
295心の隙間:2008/12/30(火) 05:03:08 ID:lziqKQYF
「・・・・・・お父さんみたいに優しい手してる」
勇の手を握り小さく呟く。

お父さん亡くなったんだったな・・・そりゃ寂しいよな。
「そっか、お父さん優しかったんだね」
凪はポロポロと涙を流しながら勇にしがみつき、小さな声で泣き出した。
俺からはなにも言えないよな・・・
自分の無力さにイラッとするが、どうしようもない。
明日はちゃんと家に帰さなきゃ、親が絶対に心配してるはず、でも今日だけはこの子の父親でいてあげよう。


この子は一年前の俺だ・・・父に依存していた俺は父が死んだ時一瞬で自分の世界が崩壊した。

父が死んだ後、依存する対象が姉しかおらず、父から姉に移った。
結果俺は立ち直ったが、その「代償」は大きく、俺の心の隙間が姉の心に伝染したのだ。

その隙間が大きな亀裂となり家族を失う恐怖と、一人になる寂しさから、姉は俺を離さなくなった。
今の姉はしていることは違えど「あの人」を思い出す、
「暴力」でしか愛せない。唯一歪んだ愛を俺にむけた人・・・
もう誰もいない夫婦部屋に目を向ける。


「2人には広い家だな・・・・・・」
姉も凪にも聞こえない小さな声で呟いた。
296名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 14:00:24 ID:dP/GKZ2J
>>270「――」がなんでダメなの?
297名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 14:12:55 ID:v6Q/Ru01
>>296
あんた本当に21歳以上か?
298名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 16:12:45 ID:ik28Fdtz
今は18歳以上なのだが

>>296
指摘されてる作品はそれを連発しすぎていたからだろう
三点リーダーと同様に多用するとくどくなるからね
299心の隙間:2008/12/30(火) 16:23:20 ID:lziqKQYF
>>298
あっそうなの?
―とーの違いを指摘されたかと思ってた
300ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2008/12/30(火) 20:05:40 ID:bNGYkHt4
「──」「……」依存症がここにも約一名。
そりゃあもう辞書登録するくらいに依存症。

「ー」とい「―」は携帯で見るとほとんど同じに見える場合もありますね。
モニターで見ると「ー」の左側の上にあがっている部分が気になりますが。
301名無しさん@ピンキー:2008/12/30(火) 20:26:02 ID:5IQZ65BB
「・・・・・・」は「……」に直した方がもっと読みやすくなるぜ。
面白いのにリーダのせいで読み辛いとちょっと悲しいぜ。
302心の隙間:2008/12/30(火) 20:30:00 ID:lziqKQYF
依存者だらけたなw
まぁ俺も最近ここに依存してるけど、ちょっと控えなきゃ出れなくなるw
>>300
そんなんですよ、
それに俺の携帯は古いからかーは端があがってないんです・・・
長さで区別するしかないんですよね。
だから始め間違えて使っちゃったんだけど

303 【大凶】 【1704円】 :2009/01/01(木) 02:19:32 ID:jdsjBq15
あけおめー
304名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 12:08:51 ID:rvcYO4rN
>>302
携帯だと確かに横棒系記号の区別は辛いものがある。自分のには4種あったけど内2種は区別困難だった。
「・」を重ねるよりは「…」の方が主流というかそこが気になる人は多いようだから気をつけた方が吉。
305心の隙間:2009/01/02(金) 04:29:26 ID:ZtMlyIiv
あけましておめでとうございます。

「…」があるってことを今の今まで知らなかったです
みんな「・」を並べてると思ってた……
次からは気をつけますね。
ありがとうございました。
楽しみにしてくれている人が何人いるかわからないですが、なるべく早く続きを書けるように頑張ります。
306名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 05:10:33 ID:8c/5rAxc
あけおめ!
期待させてもらいます。
307心の隙間:2009/01/04(日) 05:43:34 ID:QUwcrSkA
――昔のことを思い出しながら、夫婦部屋の扉を眺めていると、姉が料理を運んできた。

「買い物行ってないから、冷蔵庫の中にあるもので作ったんだけど、こんな物しか作れなかった……ごめんね。」
そう言うと、サラダ、味噌汁、肉じゃがを申し訳なさそうにテーブルに置く。

「いや、作ってくれるだけ有り難いよ、姉ちゃんの料理はなんでも美味しいからねぇ、いくらでもお腹に入るよ。」

姉は親が離婚してから家事を一人でしているからか、料理が人一倍美味い。
感謝の気持ちをこめて、たまに俺が料理をつくると。
「嬉しいけどお姉ちゃんの仕事が無くなるから……」
と複雑な顔をするので、ほとんど俺が台所にたつことはない。
だから家事全般は姉がすることになっている。

「ありがとね、勇」
姉が嬉しそうに笑う。
こんなに綺麗で優しい自然な笑顔を、なぜ家族以外の異性に見せられないのだろう。
スーパーの定員におつりを渡してもらう時も、どことなくぎこちない笑顔になっている。
ナンパなんてされた日には、顔が引きつるどころか、泣き出してしまいそうだ。
こんな姉が家族として心配でならない。
308心の隙間:2009/01/04(日) 05:44:30 ID:QUwcrSkA
ふとテーブルを見ると、俺の前にしか料理が無い。
そういや凪にも聞くの忘れてた……
「凪ちゃんご飯食べた?」
「……グゥ〜…」
口からでは無くお腹から返事が聞こえた、
「ちゃんと作ってあるわよ、今持ってくるわ。」
姉が背中を向けて凪に話す。
凪はお腹の音を聞かれたせいか、顔を真っ赤にして下を向いてしまった。

「はいどうぞ、召し上がれ。」
凪の前にも俺と同じ物が並ぶ。
「美味しそう……。」
「姉ちゃんの料理は美味しいよ!この料理食べたら毎日食べにきたくなるよ」
凪の耳元で小さく姉に聞こえるように言う。
「馬鹿言ってないで早く食べましょ、冷めるわよ。」
「うん!それじゃ〜いただきま〜す。」
「いただきま〜す。」
「いただきます。」
礼儀よく三人で手を合わせて食べ始める。

「美味しい!!」
「そうだろう?美味いだろ?家の自慢は姉ちゃんの料理だからな」
笑いながら凪の頭を撫でる。
「ボソッ……作ったの私なのに…」
「え?なに?」
姉が小さい声でなにか呟いたが聞こえなかった。
「べつに、なんでもないよ早く食べよう」
「うん…」
てゆうかテーブルに三人並んで食べるって変な感じだな……いつもならテーブルを挟んだ俺の前に座るのに今日は何故か横に座ってきた。
309心の隙間:2009/01/04(日) 05:45:44 ID:QUwcrSkA
姉の行動の意味がわからないので放置する。
よく解らないことに口をだすと、後々変なことに巻き込まれそうだからだ。

凪は少し距離を置いて座っているが姉は太ももが密着してる状態なので、非常に食べにくい。
「姉ちゃん…ちょっと食べにくい」
「…」
たまに姉は頑固として言うことを聞かない時がある。
今がその時なんだけど。
俺が横に少し移動をすると姉も膝を上げ正座の状態でススッと移動してくる。
一度それを繰り返したことがあるが最終的に膝の上に座られた。
(凪は料理に夢中だな。)
凪はさっきとは違い、余程お腹が空いていたのか、花より団子と言った感じだ。
(美味しそうに食うな……ほっぺたに米粒がついてる)
妹ができた気分で嬉しくなる。
「凪ちゃん、ほっぺにお米ついてるよ」
凪は慌てて米粒がついていない反対の頬を触る。
「そっちじゃないよ、取って上げるね」
そう言うと口元についてる米粒を人差し指でとってあげた。
「ありがとうお兄ちゃん!」
「どういたしまして」
そんなやりとりを一部始終見ていた女が一人
おもむろに茶碗に手を伸ばしご飯を手で一掴み。

「ピトッ…ピトッ…ピトッ…」
310心の隙間:2009/01/04(日) 05:46:25 ID:QUwcrSkA
「姉ちゃん……」
どんだけ腹へってたんだ…
凪の米粒を取って振り返ると、料理を食べる訳でもなく口の周りの米粒を取るでもなく前を向いたまま動かない姉ちゃんがいた。

いや目だけはこっちをチラチラ見ている。
「……(取れって意味だよな)ね、姉ちゃんも米粒ついてるよ、ほら)」
一つずつ取ってやると
「あっほんとだ!ありがとう」
と胡散臭さ抜群の返しをしてきた。
なにをしたいのか、今一解らないが早く食べたほうがよさそうだ。
残っている料理を素早く食べると10分後に姉と凪も食べ終わった。
「いや〜美味しかった!!ごちそうさま」
「ごちそうさま」
「はい、ごちそうさま」
姉が纏めて食器を流し台に持っていく。
「ふぅ〜食った食った。」
「お兄ちゃん、ありがとう美味しかった。」
「俺が作ったんじゃないけどね、お姉ちゃんに御礼いっときな」
「うん、ありがとうございました!、ものすごく美味しかったです!!。」
凪は台所の姉に向かって御礼を言った
「そう、喜んでくれて嬉しいわ」
姉も洗い物をしながら凪に言う。
311心の隙間:2009/01/04(日) 06:13:06 ID:QUwcrSkA
――やっぱり家族が多ければ楽しい。
思い出すな……
(父さんと俺と姉ちゃん、いつも楽しかったな。)

父から色々なものを貰った。
思い出やプレゼント、土日になれば俺と姉ちゃんのために、どこにでも連れていってくれた。

周りから見たら「甘すぎる」かもしれない。
しかし俺はそんな父の優しさ、背中の広さ、人に対する心遣いをこの目で見て育った。
だから凪もほっとけなかった。
父なら同じようにしたと思うから…。

ただ唯一父が激怒したことがある。
離婚する時に言った「あの人」の言葉「勇は連れていく」
その言葉に父は「ふざけるな!!姉弟を離ればなれにさせる訳にはいかない!絶対に俺が育てる!!」

ある日「あの人」が俺にしていたことを父は知った…いや、見てしまった。
そのことが離婚の引き金を引いたのだから正義感強い父の性格上、絶対に渡すわけにはいかなかったのだろう。
そんな父にいくら感謝をしてもしきれない。

感謝をしたくても、もう親孝行すらできない。
312心の隙間:2009/01/04(日) 06:13:40 ID:QUwcrSkA
父のことを考えると涙が出そうになる。
「勇、お湯を沸かしたから、お風呂入ってきなさい。」
姉の言葉で現実に引き戻される
「うん、わかった」
眠気が襲ってくるので早く風呂に入ろう」
ソファーから立ち脱衣場に足を進めようとすると凪もついてこようとする。
「……今からお風呂入るんだよ?先に凪ちゃん入る?」
(こんな時にもレディーファーストしなきゃいけないのか…)
「……お兄ちゃんと入る」
その瞬間ガシャーンッ!!と大きな音が鳴り響く。
「姉ちゃん大丈夫!?怪我ない?」
フローリングには皿が割れて飛び散っている。
拭いている途中で手を滑らせて落としたらしい。

一瞬姉ちゃんが停止したが我を取り戻したのか慌てて皿をかたづようと、しゃがみ込む。
「ごめん、ちょっと手滑っちゃった」
「怪我がなければいいけど、気をつけてね」

下に落ちた皿の破片を全部拾いゴミ箱に捨てる。

「んじゃ風呂行ってくるね」
「まって!!凪ちゃんと一緒にお風呂入るの!?だ、だめ!!駄目だからね!!」
姉がえらい剣幕で話しかけてくる。

「わかってるよ……凪ちゃん、ごめんね?お風呂は一人で入ってくれる?」
流石に一緒には入れない。
313心の隙間:2009/01/04(日) 06:14:12 ID:QUwcrSkA
凪は露骨に嫌な顔をした。
「まぁ、風呂ぐらい入れるだろ?先に入っておいで。」
凪を風呂場に連れていく。
「……」
完璧、膨れてるな……
凪は下を向いたまま勇の手を取り風呂場に向かう。
「まぁ、こればっかりはちょっと許してね」
凪の頭を撫でる。
「……それじゃ、お風呂出るまでここにいて」
「ここって脱衣場なんだけど…」
「うん、すぐに入るから」
そう言いながら服を脱ぎ出す
「ちょッ!まッ!まって!!」
脱衣場から出ていこうとすると
「やッ!ダメダメ!!ここにいて!!」
ガシッ!と凪が背中にへばりついてくる。
「わっわかったから!!早く背中から離れて!!」
そう言うと凪は勇の手を掴んだまま服を脱ぎだした
「もう、服脱いだよ」
「う、うん、それじゃ、お風呂に入って(小学生相手にアホか俺は!)」
「逃げない?」
「に、逃げないよ!」
「絶対に?」
「ぜ、ぜったい!」
「……」
やっと解ってくれたのか風呂場に入ってくれた。

「ふぅ……疲れた」
一人になり一気に肩の力が抜ける。

「お兄ちゃんそこにいる?」
「ちゃんといるよ〜」
……今日はなかなか休めないな。
314心の隙間:2009/01/04(日) 06:14:50 ID:QUwcrSkA
凪が出た後は俺だ。
流石に脱衣場から出ていってほしいと言ったら
顔を真っ赤にして脱衣場から出ていった。
見られるのは大丈夫なのに見るのは恥ずかしいのか?
よくわからない…
なるべく早く身体を洗い頭を洗う。あまり湯につかることができなかった。
「――お兄ちゃん、まだ?」
「もう出るよ、ちょっと待ってね」
脱衣場の扉の前で待ってるのか…
凪を待たすと風邪を引きそうなのでさっさと身体を拭き、服を着て、姉に出たことを伝えにいく。
すると、姉は入る用意してたのか、すぐに風呂場に直行した。
俺と凪はリビングのソファーに腰を掛け、テレビを見ていたが凪がウトウトしている。
時計を見るともう22時だ。
流石に小学生に22時は無理があるな
「凪ちゃん、眠たい?それじゃ寝よっか?」
「………うん。」
ボーッとしているのか声が小さい。
「それじゃ二階に行こうか?」
凪をつれて二階の勇の部屋に向かう
(凪をベッドで寝かせて俺はソファーで寝よう、明日休みだし大丈夫だな)
2人とも頭で考えることは同じ、「早く寝たい」これだけだ。
ただ凪の思考には純粋なオマケがついてくる。




(お兄ちゃんと早く寝たい。)
315名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 13:13:38 ID:IWaudGV3
GJ!!!!!!
凪の依存度が増えていくw



もう7時間も正装でまってるんだが続きは無いのか
この寒い中、裸に靴下ネクタイはきついんだが
316名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 19:27:48 ID:AodhF/hW
GJ!!

胸にキュンキュンくるww
317心の隙間:2009/01/04(日) 20:50:08 ID:QUwcrSkA
>>315
寝てましたw
まだ続き書いてないので出来次第また来ますね
あと服着て待っててくださいw

>>316
ありがとうございます
まぁ携帯なんでちょっとずつになりますがなるべく早く頑張ります
318名無しさん@ピンキー:2009/01/05(月) 09:42:02 ID:A8vWONKk
>>317
PC持ってないの?
319名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 00:59:32 ID:NMNblGtY
しかし依存スレでなければ登場人物の命が心配なレベルw
320心の隙間:2009/01/06(火) 06:56:13 ID:HeA4JfUN
――お父さん…



いつもある「毎日」が一本の電話で音を立てて崩れ落ちた。
お手伝いさんのヒソヒソ声が、偶然扉越しに聞こえてしまった。
ハッキリと聞こえた「事故」、「即死」と言う言葉。
トラックとの接触事故らしいがどうでもいい……
お父さんがいなくなった今、私の居場所はもう無かった。

お母さんはいつも忙しく、私の周りのことは、全部お手伝いさんがしてくれた。
だからお母さんとの思い出がまったくない。
だけどお父さんは違った、忙しいけど暇をみつけては私と一緒にいてくれた。
夜寝る時も、私が寝るまで側にいてくれた。
私の大好きなお父さん。

なのになんでだろう……
お父さんの葬式の時も、お父さんが火の中に入れられるのを見た時も、涙は出なかった。

なんでだろう――お父さんの顔が思い出せなくなっていた。
321心の隙間:2009/01/06(火) 06:56:41 ID:HeA4JfUN
お父さんの葬式から5日も経てば、周りのみんなは、なにもなかったかのように普段の日常を取り戻していた。
私だけ日常に戻れず、学校と家の行き帰りだけになっていた。
外に遊びに行くわけでもなく、家でなにかするわけでもなく、窓の外を見るだけ。
お父さんの部屋の前に行ったが扉を開けようとすると手が震えて開けられなかった。
扉を開けてお父さんがいなければ、私は多分泣き叫ぶと思う。
いや…絶対に壊れるという確信があった。
だからお父さんのことは、頭では解っていたけど心が現実を拒んでいた。
お父さんがいないこの家は私の家ではない……

どうせお母さんは私のことを探さない。
そう思うと行動は早かった。
財布とお父さんから貰った携帯以外なにも持たず家を飛び出した。

――なにも考えず歩いた。
夕方になり空が薄暗くなるとカラスが鳴き始める。

財布の中を見てみると千円と小銭がちょっと
「…」
近くのコンビニで肉まんを買いまた歩き始める。
「寒い……ここどこだろ…」
なにも考えずに、歩いて来たため、ここがどこかまったくわからなかった。

トボトボと歩いていると近くに自販機が見える
「…なにか暖かいの飲もう…」
322心の隙間:2009/01/06(火) 06:57:15 ID:HeA4JfUN
自販機の前に立ち、財布から千円札をだそうと手をかけたその時。

後ろから図太い男の声が聞こえた。


「ねぇ、どうしたの?…… 」
いきなり声をかけられたので、ビックリしてお金を下に落としてしまった
「あぁ…ごめん、怖がらせちゃったね。」
振り返ると小太りの30代の男の人が立っていた
「うぅ…あの、えっと…わたし…」
「大丈夫だよ、おじさんがとってあげるよ」
そう言うとしゃがみ込んで千円札を拾う。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」

御礼を言うとまた自販機に向き直る。
なにも買わずに走って逃げたら怪しまれると思って手が震えるのを我慢し、千円札を入れる。
「髪になにかついてるよ……」
そう言うとり小太りの男は髪を触ってきた
「ありが……ざいます…」
背筋がゾッとする
(早く逃げなきゃ!!)
ジュースを買い、とるためにしゃがみ込むと
男の手が肩に置かれる。
「夜遅いから……家まで一緒に行ってあげるよ。」

この瞬間、身の危険より、家に送り返されることが頭が浮かんだ。
「やッ!!」

ジュースもお釣りも取らず、走って逃げようとした。
ガシッ
「まってよ…大丈夫だからね?こっちおいで」

腕を掴まれ、恐怖で足が動かない。
323心の隙間:2009/01/06(火) 06:57:44 ID:HeA4JfUN
「それじゃ、僕の家においでよ…」
凪がピタッと止まる。
それを見た男は、汚らしい笑顔を浮かべた。
「……家?」
私がこの人の家に行く?
「そう……遊ぼうよ」
意味がわからない、私を家に連れて帰るんじゃないの?
「遊ぶってなにして?」
「楽しいことだよ」
男はニコッと笑って頭を撫でてきた。

本来なら嬉しいはずが、男の行為すべてに嫌悪感しか抱けない。
この時になってやっと本当の身の危険を感じ取った。
(この人おかしい…ついて言っちゃダメだ!)
男が凪の頭を撫で終わった直後、男を両手で、力いっぱい突き飛ばした。

すると男は、中腰で立っていたため、女の子の力でも勢いよく派手に転んだ。
その隙に凪は、男の横を全速力で走り抜けた。
男もすぐさま立ち上がり、追いかけようとしたが凪の足の速さに勝てる訳もなく、ただ呆然としてるだけだった。
324心の隙間:2009/01/06(火) 06:58:16 ID:HeA4JfUN
――後ろを振り返らず、がむしゃらに走った。
「ハァ…ハァ…ハァ」
どれぐらい走ったかわからないが、追っかけてくる足音も声も聞こえない。
後ろを振り返ると誰もいない、
「……はぁ〜怖かったぁ」
安堵か恐怖か解らない足の震えが来る。
「これからどうしよう、お金もう無いし…戻るのは嫌だし。」
お釣りを置いてきてしまったので財布は空っぽだ。

またトボトボ歩き出す。
(私このまま死んじゃうのかなぁ?…そしたらお父さんに会えるかな…)
ふとそんなことを考えながら歩いていると
視界に薄暗い公園が入ってきた。

空を見上げればもう真っ暗だ…
無論公園には誰もいない。

夜の公園は怖いが仕方がない。
街灯に照らされている一つのベンチが目に入る。
(歩くの疲れた…ちょっと休もう)
フラフラになりながらベンチに腰を落とす。

(少し休んだらまた歩こう)

どこに?

(はぁ…心配してるかなぁ)

だれが?

(………)

私を心配する人や、帰りを待ってる人なんて、誰もいない。
325心の隙間:2009/01/06(火) 07:04:16 ID:HeA4JfUN
「……お父さん」
公園で遊んでいれば迎えに来てくれた。
「…ウッ…グスッ…」
いつも私の頭を撫でてくれた
「お父さんに…会いたい…」
顔を思い出せないんじゃなくて、思い出したくないんだ……
(お父さんが探してくれるまでここにいよう……お父さんなら見つけてくれるはず)
今は、唯一この街灯の照らす光が、私の居場所。


お父さんのことを考えていると、少し遠くから小さな声が聞こえる。
お父さんの声ではないので私ではない。
しかし足音は公園内に入ってくる。
(もしかして……追いかけてきた?)
嫌な汗がでる。
(ヤダ、怖い!逃げなきゃ!!)
そう考えていると視界に靴のつま先が入ってきた。
(もうダメ!逃げれない!!)
ギュッと目を瞑り膝を強く抱え込む。



――「大丈夫ですか?なにかあったんなら警察呼びますか?」
326心の隙間:2009/01/06(火) 07:06:20 ID:HeA4JfUN
――あの人じゃない?
聞こえてきた声はもの凄く優しい声だった。
お父さんと同じ優しい声
何故か分からないけど、その人の顔を見たくて自然と目線が上がる。

お父さんに似てる…
顔や背格好が似てる訳じゃなく、雰囲気がお父さんに似てる。
「帰るお家ない…お父さんいなくなっちゃったから」

なぜこの人にこんなこと言ったんだろう…自分でもよくわからない
ただこの人が、本当に心配してくれてるのが声でわかった
こんな優しい声を私にかけてくれる人なんて、お父さん以外にいなかった。

気が緩んだのか見知らぬ人の前で私は泣いてしまった。
私が急に泣き出したのを見て、男の人が困惑してるのが分かる
だが感情が溢れかえってる今、涙を止めることはできなかった。
オロオロしながら男の人が私に言う
「それじゃお巡りさんに助けてもらおっか?」

おいて行かれる!!
「嫌!お兄ちゃんも私を置いてどこかいくんでしょ!?」
327心の隙間:2009/01/06(火) 07:10:41 ID:HeA4JfUN
言い終わった後にハッとなった。
(もうダメ…私おいていかれる…)
「こんな暗いとこに置いていくわけないだろ?一緒にお巡りさんのとこまで連れていってあげるよ」

考えていたことと違った答えが返ってくる。
どうしたらいいか考えていると、彼が私にスッと手を差し伸べてきた。
(…握ってもいいのかな?)
少し警戒したが思い切って手を握る。

(……暖かい)
手袋もせず、何時間も真冬の夜の街を歩き回っていたから手の感覚が無かった。
「どうしたの?早くいこ?」
手の暖かさを感じていると声をかけられた。

「嫌、お巡りさんのとこにいくとあの家に連れていかれる…」
「家があるの?なら帰らなきゃ心配するよ?お母さんだって今頃探してるかも」
「あの家に帰るならもうここでお家つくるもん!!」

感情的になって繋いでいた手を離してしまった。
(手……離れちゃった…)
よくわからない感情がこみ上げてくる。

もう一度手を繋ぎたい、そう思いながら彼の手を見ていると。
「キミが嫌じゃなかったら一晩だけ家にくるかい?」
328心の隙間:2009/01/06(火) 07:15:33 ID:HeA4JfUN
――え?今なんて?私がこの人の家に行く?…

(さっきのおじさんと同じこと言ってる…どうしよう、でも…おじさんみたいに嫌悪感がまったく感じられない。)

父の顔色ばかり伺う人を見てきたからなのか、上辺で話してる人と、心から話してる人の区別がつく。
「ここじゃ寒いでしょ?風邪引くし寝る所ぐらいなら用意するよ?」

でも…もう、私にはこの人しかいないんだ。
「いいの?迷惑じゃないの?」
「大丈夫だよ、てゆうかキミをここに置いていったら心配で眠れないから」
彼が優しい笑顔で答えてくれる。
思わず嬉しくなって抱きついてしまった。
彼は倒れそうになるのを支えてくれた。
(お兄ちゃん…)
何時間もかけて、ここまで歩いてきた理由がやっとわかった…。



――この人に会うためだ。
329心の隙間:2009/01/06(火) 07:18:00 ID:HeA4JfUN
終わりです(-.-)zzZ
仕事行ってきまーす。
では
330名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 09:01:40 ID:4fqB5ygN
超GJ!!
凪ちゃんは頭いい子なんだなー。語彙がすげぇ
これからも楽しみにしとるよ
331名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 23:11:29 ID:HeA4JfUN
>>318
もってないですね、PC使うことがないんで。
>>330
ありがとうございます。
俺ばっかり書いてるけどあんまり書きすぎると、他の人投下しにくくなるかな?
332名無しさん@ピンキー:2009/01/07(水) 01:23:14 ID:zLfw8c9e
自己主張はほどほどにしといたほうがいいと思うよ。
333名無しさん@ピンキー:2009/01/07(水) 01:37:35 ID:Ff5SGBw1
>>332
OK、気をつける
334名無しさん@ピンキー:2009/01/07(水) 01:40:14 ID:xnHVUBCc
>>331
丁寧に個別にレスしたりしていると、たまに変なのに絡まれて面倒なことになるんで
気をつけた方が良いよ、作品に直接関係しないようなことで作者さんの意見やら個性を出すと
付け込まれる恐れがある

あと、今ここで書いてくれているのは貴方の他はゲーパロ氏しかいないから特に遠慮する必要はないかと
335心の隙間:2009/01/07(水) 06:01:09 ID:Ff5SGBw1
――はぁ……どうするかな。

勇は今、少し困った状況に追い込まれている。
「凪ちゃん…ベッドは一つしかないんだよ?小学生の凪ちゃんと違って身体が丈夫だから俺がソファーで寝るよ。」
「だからさっきから言ってるでしょ?このベッドを2人で使おうよ。」

勇の部屋に入った2人は、ベッドで2人で寝るか、1人で寝るかについて押し問答している。
凪の意見は、「お兄ちゃんがソファーで寝るなら私がソファーで寝る、それが嫌なら2人で寝たい」

勇は「凪ちゃんはお客さんだからソファーで寝てもらう訳にはいかない、風邪でも引かれたら困る、一緒に寝るのは反対」
凪の本音は「2人で寝る」しか選択肢が無いのだが
勇も一筋縄ではいかない。

なにもないとは言い切れる……が、如何せん姉が許すわけがない。

家に連れてきただけでも、犯罪臭がするのに、一緒に寝るとなったら……
「それじゃ横にいてあげる、じゃダメ?」
「ダメ」
即答。
はぁ…
ため息がでる
なにを言っても最終的には「一緒に寝る」に行き着いてしまう。
どうしたものか。
336心の隙間:2009/01/07(水) 06:01:45 ID:Ff5SGBw1
――早くしなきゃ…あの人がくると、確実に一緒に寝るのは無理になる。
多分あの人は私のことを良く思っていない。

話しかけられた初めの声で解った、お兄ちゃんは気づかなかったが、あの罵倒の言葉は私にぶつけていた。
お兄ちゃんのほうを見ていたが、すべての罵倒は私に容赦なく突き刺さってきた。
あの人の私に対する感情は、憎悪しか感じ取れなかった。
食事もお兄ちゃんに言われなければ、私に出すことは無かったと思う。
(ものすごく、美味しかったけど)
だから、怖くてあの人の顔もまともにみれなかった。

――お父さんによく使っていた最後の手段……
純粋なお兄ちゃんには使いたくない作戦だけど、しょうがない。
勇が凪を説得してる途中、凪は下を向き、肩をフルフルと震わす
「……凪ちゃん?」
お兄ちゃんが心配して声をかけてくれる。
罪悪感がでるけど、お兄ちゃんのガードが堅すぎる。
「グスッ……お父さんがいつも一緒に寝てくれてたから寂しくて…グスッ…ごめんなさい」

下を向きながら泣いてる真似をする…
(お父さんは私の泣き真似でいつも騙されてた…)
お兄ちゃんこれで「一緒に寝る」っていって!!お願い!!!

「……凪ちゃん…」
337心の隙間:2009/01/07(水) 06:02:42 ID:Ff5SGBw1
凪ちゃん……



泣き真似下手すぎたろ………
凪は下を向いて一生懸命泣き真似をしている。
泣き真似をする前の、「閃いた!!」みたいな前フリから始まり、小さな手の平で顔を隠しているが、指の隙間から時々チラッとこちらの様子をうかがっている。
隙間から見える横顔が一生懸命なので、本気で俺を騙せてると思ってるらしい。……
(はぁ……この歳で姉ちゃんと同じようなことをしてくるのか…いや、姉ちゃんの精神年齢が幼すぎるのか…)
2人とも騙すならしっかりと騙してほしい…
変なことを考えていると、階段を上がってくる足音が聞こえる。
この家には今3人しかいない。
凪と俺はここにいるので、必然的に階段を上がってくるのは姉になる。
階段を上がり、勇の部屋の前で足音が止まる。

コンコンっ…
「勇…入るわよ?」
ノックをした後、姉の静かな声が聞こえる。
「うん、いいよ」
姉は、入ると言っても俺からOKがでない限り絶対に入ってこない、まぁ普通かもしれないが、朝これで何度遅刻したことか。
338心の隙間:2009/01/07(水) 06:03:17 ID:Ff5SGBw1
ガチャッと扉が開くと、パジャマ姿の姉が入って来た。

風呂からでたばかりなのだろう、髪から湯気が出ていて、石鹸とシャンプーのいい匂いがする。
「勇、その子の布団をお父さんの部屋に敷いたわ」
「あぁ…うん、凪ちゃんどうする?」
「グスッ……」
「それ………私に通用すると本気で思ってるの?…」
凪がビクっとする。
「姉ちゃん、怖がらせちゃダメだよ」
「……」
どうしよう…ややこしくなってきたな。
「私…お父さんと寝てたから…一人で寝れない…お兄ちゃんと寝たい」
「ダメに決まってるでしょ?なに考えてるの?…てゆうかなにベッドに座ってるの?そこは私とゆッ」
「姉ちゃん!!」
今度は姉がビクッとなる
「はぁ…わかった、それじゃ今日は凪ちゃんと一緒に寝るよ」
凪の顔がパァっと明るくなる
逆に姉の顔は青ざめていた。
「ただし、姉ちゃんもこの部屋で寝ること。
ベッドの横に布団を敷いて同じ部屋で寝れば、姉ちゃんも俺のこと監視できるでしょ?だから今日はこの部屋で三人で寝る。」

まぁ姉から言ったらなんで私が?って感じだろうが、正直これぐらいしか思いつかない。
339心の隙間:2009/01/07(水) 06:04:17 ID:Ff5SGBw1
お風呂に入っていると二階に上がる足音が聞こえた…

一つは聞き慣れた落ち着く足音
もう一つは聞きづらい小さな足音…だが心に重くのし掛かる足音。
嫌な予感がする。
いつもは念入りに身体を洗うのだが(勇と寝る時は特に)素早く頭と身体を洗うと、身体をてきとうに拭き、ドライヤーで乾かさずに勇の部屋に直行した。
勇の部屋の前に立つとノックをする。

コンコンっ…
「勇…入るわよ?」
勇の返事を待つ
「うん、いいよ」
勇の返事を聞き中に入るとあの子が勇のベッドに座っている
(勇と私のベッドよ?)
心の声がでそうになるのをおさえて勇に言う。
「勇、その子の布団をお父さんの部屋に敷いたわ」
本当はまだ敷いてないけど、この子を早くベッドから降ろさなきゃ。
「あぁ…うん、凪ちゃんどうする?」
「グスッ……」
この子…やっぱり勇しか見てない。
「それ………私に通用すると本気で思ってるの?…」
(フフ…よく私も使うけど、嘘泣きで騙せるのは勇だけよ)

「姉ちゃん、怖がらせちゃダメだよ」
「……」
勇に言われるとなにも言えなくなる。
340心の隙間:2009/01/07(水) 06:04:44 ID:Ff5SGBw1
「私…お父さんと寝てたから…一人で寝れない…お兄ちゃんと寝たい」

は?なに言ってるのこの子?

「ダメに決まってるでしょ?なに考えてるの?…てゆうかなにベッドに座ってるの?そこは私とゆッ」
「姉ちゃん!!」

私と勇のベッドと言いかけたところで勇が私を睨む。
…勇に嫌われることをなにより嫌う私からすれば、勇に睨まれただけで心臓を掴まれた錯覚に陥る。
「はぁ…わかった、それじゃ今日は凪ちゃんと一緒に寝るよ」


いま……なんて言ったの?勇が他人と寝る?、何故?、勇を怒らせたから?、今日は私と寝る日じゃ……
思考が追いつかない。
勇がなにかを言ってるがなにも聞こえない……聞こえるのは自分の心臓の音だけ。
私の目は勇しか写らないはず……。


なのに見えるのは、勇の優しい顔ではなく。
初めて私にむかって笑みを浮かべる凪の笑顔だった。
341名無しさん@ピンキー:2009/01/07(水) 06:11:45 ID:Ff5SGBw1
>>334
忠告ありがとうございます、気をつけます。

今日はちょっと少くなくて申し訳ないです。
人がいれば仕事終わりか明日の朝に投下します。
では
342名無しさん@ピンキー:2009/01/07(水) 06:57:48 ID:/Xa6pOPv
GJ!! 私もこれから仕事なので良い活力剤になります。
343名無しさん@ピンキー:2009/01/07(水) 08:29:04 ID:/Xa6pOPv
GJ!!
まさか姉が、ナンパされたくらいで泣きそうになるのに
そんな気の強いキモ姉だとは思わなかった。
344名無しさん@ピンキー:2009/01/07(水) 09:00:58 ID:pvBWrQZR
GJ!!
345名無しさん@ピンキー:2009/01/07(水) 10:57:47 ID:QYwMtuNM
下手な泣き真似萌え。姉にもいいことありますように! GJ!
346名無しさん@ピンキー:2009/01/07(水) 15:23:56 ID:x+gfQrz7
(つД⊂)エーンエーン
(つД・∩チラッ
347名無しさん@ピンキー:2009/01/07(水) 17:50:31 ID:a0Nxyz5p
いい仕事だ
348名無しさん@ピンキー:2009/01/08(木) 08:35:09 ID:QQhTbCfm
そろそろ来るかな
349心の隙間:2009/01/09(金) 03:39:04 ID:CXTYMzZR
――――1年前――――



「……勇、男の子だろ?もう泣くな」

「イヤだ!!お父さん、いかないで!!!」

「勇が…麻奈美(まなみ)を守らなきゃ駄目だぞ…」

「うぅ…お父さ…まってよ……」

「麻奈美……」

「……お父さん」

「今まで苦労かけてごめんな…これからも苦労をかけるだろうけど……勇を……頼んだからな……」

「……わかったわ」

「わかったってなんだよ!!!お父さんも頑張って!まだお父さんと、したいことがいっぱいあるんだ!」

「二人とも……俺の子供に産まれてきてくれてありがとう…幸せだったよ…」

「まってよ!!お父さん!!!」

「勇………」

「イヤだ!!お姉ちゃん、離してよ!!!」


(お父さん………。
勇は私が守るから…安心して)
350心の隙間:2009/01/09(金) 03:40:36 ID:CXTYMzZR
――父の葬式には、たくさんの人がきた……。

職業、年齢、性別は幅広く、父が知人にどれだけ愛されていたかわかる。

そんな、老若男女が集まれど、思う気持ちは皆一緒だった。

棺桶にしがみついて離れない小さな女の子。

――おじさんを連れていかないで!!

泣き叫ぶ子供の頭を撫でながら、「ありがとう」と言う。
でないと自分が崩れ落ちてしまう。

この女の子と同じように、父にしがみつき、泣きたかった。
もっと甘えたかった…
遊びたかった…
怒られたかった…
一緒に居たかった………

怒りか悲しみか解らない感情が溢れ出そうになる。

「………姉ちゃんは守らなきゃ。」

最後に父から言われた、
――麻奈美を守れ……
もう家族は姉ちゃんしかいない、俺がしっかりしなきゃ駄目だ。
姉を見ると忙しなくテキパキと行動している。

その後ろ姿を見ると心から感心する。
351心の隙間:2009/01/09(金) 03:43:17 ID:CXTYMzZR
外にでて空を見上げる。

雨が降りそうな曇り空。
昼間なのに日差しがまったくなく、冬独特の乾燥した風が肌寒い。

「……家に帰りたい」
ここから歩いて帰れば30分で帰れる。
でも姉をおいて帰るわけにはいかない。
帰ったら一人になる、それだけは避けたい。

「勇、外寒いよ?中入ろうよ」
自販機で買ったコーヒーを、ベンチで飲んでいると、姉が探しにきた。
「うん、わかった。」
飲み終わったカンをゴミ箱にむかって投げるがゴミ箱からハズれる。
チッと舌打ちしながらカンを拾いにいくと、女性に拾われゴミ箱に捨てられる。
「あっすいません、ありがとうございます。」
慌てて頭を下げ御礼を言う。


「勇……大きくなったわね、三年ぶりかしら?」
どこか懐かしく、優しい声。
「もう、中学3年生になったんだね…」

俺の頭に女性の手が近づいてくる…頭を触られた瞬間、昔の記憶がフラッシュバックする。

全身から脂汗と震えが止まらない。

「勇に触らないで!!」
姉が俺と女性の間に割り込んできた。
「あら…麻奈ちゃん、いたの?あなたも大きくなったわね」

女性がニコッと笑い姉に言う。

「今更なにしにきたの……お母さん」
352心の隙間:2009/01/09(金) 03:46:23 ID:CXTYMzZR
「お父さんに会いに来たのよ」

「ふざけないで!!!お父さんと会ってどうするのよ!?もう関係ないでしょ!!」

「最後のお別れを言いに来ただけよ…」

「ふざけっ「いいですよ…父は中にいますから、どうぞ」
姉の言葉を制して母に言う。
「勇!!!」
「ありがとう、案内してくれる?」
最終的にはどうせ親戚が母を中に入れるので、ここで言い合ってても仕方がない
姉は母を父に近づけたくないのかイラついた雰囲気を醸し出している。

母を父が眠る場所まで連れていくと親戚の目が母に向く。まったく気にならないと言った感じで父に近づき、父の顔をのぞき込む。
「あなた……死んでも優しい顔をしてるのね」
母が父の頬を優しく撫でながら呟く。

「本当に、ごめんなさい…」

母の涙をはじめてみた……それは後悔の涙なのか、悲しみの涙なのかわからないが、それを見た瞬間、今まで母にされたことが嘘みたいに「昔の思い出」となった
353心の隙間:2009/01/09(金) 03:48:11 ID:CXTYMzZR
お母さん元気かな……
一年前の葬式以来まったく会っていない。

葬式の後の半年間は姉に辛い思いさせた。
自分が姉に依存してることに半年間も気づかないなんて……。


――「てゆうか、凪ちゃん……早く寝ようよ…」

さっきまでは半分眠てるような顔をしていたのに、ベッドに入るが寝る気配がない。

「お父さん以外の人と寝たことないから……恥ずかしい…」
「今更はずかしいの?さっきまでは普通だったじゃん。」

顔を真っ赤にして布団を頭まで被ってしまった。
そのくせ掴んでる俺の手は離さない。

まぁ年頃なんだろうな……

姉が布団を取りに行ったが部屋を出ていく時に「忘れてる…」と呟きながら部屋を出ていった。

なにかを忘れたみたいだ
よくわからない。

まぁいろいろあったがやっと寝れる!!
明日は凪を帰さなきゃならない。
たぶん今日よりもっと疲れるだろう。
354心の隙間:2009/01/09(金) 03:49:33 ID:CXTYMzZR
――勇は完璧に忘れていた。

私と一緒に寝る約束。
私が人生の中で一番楽しみにしている至福の時。

今日会ったばかりの子にもっていかれた…
一年前、葬式の帰り際、母に言われた言葉。
「私と同じ苦しみだけは味わわないように」の意味が今ではなんとなくわかる気がする。

母も勇を愛していたのだろう…しかし勇は父に愛情を求めた。
結果、母の嫉妬心から愛が歪み、勇を縛った。

母はよく勇にキスをしていたみたいだが、キスでは飽きたらず、その先に踏み込もうとして父にバレたのだ。
自業自得。

私は母のようにはならない、勇を傷つけない。
私が勇を守る。
勇が言ってくれた
「お姉ちゃんは俺が守るから。」
この言葉を聞いて私は決心した。

勇と生きていこうと。
355心の隙間:2009/01/09(金) 03:52:34 ID:CXTYMzZR
……早く布団もっていかなきゃ。

こうしてる間にも私の居場所が無くなっていく。

父の部屋から強引に布団を掴むと階段を走り、布団を引きずったまま勇の部屋にむかった。

勢い良く扉を開けると二人はまだおきていた。
(小学生…おめめパッチリじゃない…)
さっきまでウトウトしてたのに…早く寝てほしい…。
そしたら勇を嘘泣きで私の布団に連れ込もう。
私自身我慢ができなくなっている、早く勇と寝たい!!

頭の中はそのことでいっぱいだ
「それじゃ、電気消すわよ?」

パチッと壁のボタンを押すと部屋が真っ暗になる。
「姉ちゃん豆電球にして。」
凪のことを考えてだろう。嫉妬心が沸き上がってくる
(ダメ、私はお母さんとは違う)
自分に言い聞かせ豆電球にしてから布団に入る。

布団をベッドに極限まで近づけている為、なにをしても止めに入れる。
勇は信用できるけど……凪は危ない。
私がいる限り勇には手を出させない。



てゆうか、豆電球ってなんであんなに心地いい光なんだろう……布団暖か…い…




「………zzZ」




「姉ちゃん……よっぽど疲れてたんだな。」
356名無しさん@ピンキー:2009/01/09(金) 03:54:55 ID:CXTYMzZR
遅くなって申し訳ないです……
今日も少なくてごめんなさい。
多分夜には続きかけると思います。
357名無しさん@ピンキー:2009/01/09(金) 10:09:18 ID:/lAq8iRv
GJ!!
姉ちゃんに萌えた!!
358心の隙間:2009/01/10(土) 03:06:24 ID:m1Fu2zaR
――寝てしまった……

携帯の時計を見るともう3時だ。
0時ごろから記憶が無い…
計算すると三時間、2人の行動を見逃したことになる。

ふと上に視線をむけると、いつの間にか豆電球の光が消えている…
だか、窓から射す月明かりの光が、部屋の中を照しているので、薄暗くてもある程度見えている。

音を立てず上半身だけ起きあがると、ベッドに目をむける。…
「勇?」
「…ウ…ン…」
(かわいい…)
携帯の液晶の光を勇にむけると眉間にシワがよる
少し眩しそうに顔を隠してしまった。

微笑ましい…
(お母さんが手を出すのも……唇触るぐらいなら…)
と考えるが頭を振り邪念を振り払う。
(勇のトラウマになるわ!!それだけはダメよ…)

悪魔と天使が頭の中で戦っていると、横に凪がいないことに気がついた。
「…?」
あれ?どこに行ったのかしら
トイレにしては遅いし多分一人ではトイレまでいけない。

ふと勇のお腹あたりに目をむけると布団越しに膨れ上がってることに気づく。
359心の隙間:2009/01/10(土) 03:10:18 ID:m1Fu2zaR
勇の布団を少し下げてみる……

「………」

パチッ

なにも言わず立ち上がり電気をつける。
「う…う〜ん…なんだよ姉ちゃん…眩しいな…」
「その子なにしてるの……」
「はぁ?………おわ!!」
勇もビックリしている、てことは勇も気づかなかったのか…
「zzZ」
凪は気持ち良さそうに勇の服に頭を突っ込み寝ている…そりゃ気持ちいいだろうね。
「凪ちゃん……どこに頭突っ込んでんの?」
「んえ?」
凪は変な声をあげて勇のシャツから頭をだす。
「寝ぼけてたの?服の中に頭突っ込んでたからビックリしたよ」
勇は笑いながら話してるが、私は顔がひきつりっぱなしだ。
私でも躊躇することをサラッとする…これが子供の特権だ。
勇が拒まないと解っているのだろう…なんの迷いもなく、勇の腕に抱きつく。

「……やっぱり布団は別々にするべきね」
「いや、もう大丈夫だろ、凪ちゃんも大丈夫だよね?」
「うん、もうちゃんと寝る」
「そう、それじゃ早く寝なさい」
(今日だけの我慢よ、私頑張れ!!)

また電気を消し布団に入る。
ふぅ……早く朝になってほしい。
360心の隙間:2009/01/10(土) 03:13:36 ID:m1Fu2zaR
――起きたのは朝の七時。

凪はまだ寝ているが姉はすでにおきている。
「姉ちゃん…目の下クマ凄いよ?寝てないの?」
「うん…見張らなきゃ…」
「俺そんなに信用ない?」
「勇じゃなくて……」
よくわからないが、あまり信用されてないようだ…少しショックだな。
「まぁ、いいや。朝ご飯食べようか?」
「うん、今から作ってくるね。」
(少しふらついている…大丈夫かな?)
凪を見るとニヤニヤしながら寝ている。
お父さんの夢を見てるのか、「お父さん」と言う寝言が聞こえる。

俺も葬式の後2ヶ月は父の夢をみた。

夢の内容は決まって同じだった。
父、俺、姉で手を繋ぎ、公園を散歩している。
楽しいが最後に父がいなくなる。
だから葬式の後の半年間、眠れない日が続いた。
寝たら寝ただけ父との別れがまっている。
それがなにより辛かった。

――窓の外を眺めていると、凪が眠たそうにおきてきた。

「よく眠れた?」
「うん、お父さんと寝てるみたいだった」
「ものすごく幸せそうな顔してたよ?なんの夢見てたの?」
「う〜ん…わかんない…」
まぁ夢なんてそんなもんか。
361心の隙間:2009/01/10(土) 03:15:07 ID:m1Fu2zaR
今日は学校が休みなので私服に着替える。
凪ちゃんは来たときと同じ服なので着替える必要はない。
勇の部屋を出て、2人で一階のリビングに行く。
テーブルを見ると朝の食卓定番と言ったおかずが並んでいる。
「凪ちゃん、おはよう」
エプロンをはずしながら、姉が凪に挨拶をする。
「…おはようございます」
凪も眠たそうに挨拶をする。
テーブルの椅子に腰をかけると俺の横は凪、前に姉が来る。
昨日みたいに凪と姉に挟まれることは無かった。

朝飯を食べ終わり、ソファーに座ると凪もくっついてくる。
もうすぐ凪ともお別れだ、少しは凪のお父さんみたいに出来ただろうか…。

「……勇」
姉が急かすように言ってくる…。
「わかってるよ、凪ちゃん……携帯持ってるよね?」
「……」
意味が解ったのだろう、俺の手を離してうなだれる。
「家族の人……心配してるよ?迎えに来てもらおうよ」
「……」
「……凪ちゃん…あなたには帰る場所があるでしょ?」
「帰っても誰も私に興味がないもん…」
「心配しない親なんていないよ、」
「……嫌」
ふぅどうしたもんか……警察に電話すれば一番早いのだが。

「……凪ちゃん、あなたいい加減にしなさいよ…」
362心の隙間:2009/01/10(土) 03:16:42 ID:m1Fu2zaR
泣きそうになる凪に言い放つ。

「ずっとここにいるつもり?あなた一人の為に家族の人が探し回ってるかもしれないのに」
なぜか姉も俺のほうをチラチラみながら泣きそうになっている。
「私のことを見つけてくれたのはお兄ちゃんだけ…お母さんが探してくれるわけがない…」
「だから逃げるの?ずっと逃げ回ってるの?」

「……」

姉の発した言葉から凪は喋らなくなってしまった。

「……凪ちゃん、携帯かしてくれる?」
凪の頭を撫でながら問いかけるとなにも言わずポケットから携帯をだす。
携帯を開けると電源を切っているため画面が真っ暗だ。
「お母さんに電話するよ?」

もう無理だと解ったのか小さくコクッと頷く。
凪の携帯から母親に電話をしようとすると姉に止められる。
「勇より女の私のほうが相手を混乱させずにすむから、私が電話するわ。」
「うん、そうだね、お願い。」
凪の携帯を姉に渡す

「凪ちゃん、こっちにおいで。」
凪に向かって手招きをするが近寄ってこない。

あんまり言いたくないが仕方ない。

「……凪ちゃん、俺もお父さんいないんだよ?」
363心の隙間:2009/01/10(土) 03:18:30 ID:m1Fu2zaR
「……え!?お兄ちゃんもお父さんいないの?」
ビックリしたような顔をむけてくる。
「うん、お母さんもお父さんもいない、家族はお姉ちゃんだけなんだ」
「なんでお兄ちゃん元気なの?……寂しくないの?」
「俺も始めは逃げてばっかりだったんだ。寂しいし、時々会いたくなる。でもねお父さんと約束したんだ、家族を守るって。」
凪の目を見て話すと凪も下を向かず話を聞いてくれている。
「凪ちゃんも俺みたいに逃げちゃダメだよ?寂しかったらお母さんに言いたいことを言えばいいよ、ちゃんと聞いてくれるはずだから。」
「……わかった、頑張ってみる…」
「うん、頑張ってね、応援してるからね」
先ほどの落ち込んだ顔よりやや晴れた顔をしている。

唯一の理解者を亡くせば誰だって逃げたくなる。
ましてや小学生…辛いって言葉じゃ足りないだろう。


「お兄ちゃん………抱っこして。」
「うん、おいで」
凪を膝の上に乗せ頭を撫でると俺の肩に顔を埋めてくる。

「○○駅にいきましょう、迎えに来てくれるって。」
姉が電話を終えて、戻ってきた。
「それじゃ、凪ちゃん、いこうか?」
「うん!!」
家から駅につくまで凪ちゃんは俺の手を離さなかった。
364心の隙間:2009/01/10(土) 03:21:52 ID:m1Fu2zaR
――駅につくと、ベンチに座り車で来るらしい迎えを待つ。
大手会社のご令嬢を一日預かったのだ…なに言われるかわからない…
「……大丈夫よ、勇はなにも悪いことしてないでしょ?親御さんもわかってくれるわよ。」
顔にでてたのか姉に慰められた。

三人で雑談していると。
少し遠目に一台真っ黒の車がむかってくる。
「あっ!あれだ!!」
凪が立ち上がり黒い車にむかって指をさす。

「うっわ……」
小さな駅にふさわしくない車が到着する。
ガチャッと助手席から女性が降りてくる。
「凪!!!」
「お母さん…」
その女性は凪に近づくや否や凪を力一杯抱きしめる。
「痛いよ、お母さん…」

「バカ!!ものすごく心配したのよ!?もうあなたしかいないの…だからいなくならないで……」
「うん…お母さんごめんなさい……」

やっぱり子を心配しない親なんていない。これならもう大丈夫だろう。
凪と母親を眺めていると、母親が姉に顔をむける。
「本当にありがとうございます!!なんて御礼をいったらいいか……。」
「いいえ、警察のほうに電話をしようと思ったのですが事情が少しわからなかったので…携帯を持ってることにも今朝気づきまして電話をするのが遅れました」
365心の隙間:2009/01/10(土) 03:25:47 ID:m1Fu2zaR
姉が頭を深々と下げる。慌ててそれに続く。
「いいえ、あなたみたいな人に凪を見つけてもらわなきゃ…今頃どうなっていたか……」
「そう言っていただけると有り難いです。」
「なにか御礼をさせて頂きたいのですが…」
「いいえ、お気持ちだけで結構です。これから用事があるので。」

母親と姉の押し問答が続く。
その間に凪との別れをすませよう…

「凪ちゃん…身体に気をつけるんだよ?」
「…うん、わかった」
「よし、それじゃ握手ね。」
手を出すと凪も手を握ってくれる。
もの凄く疲れた一日だったが。なんだかんだで楽しい一日だった。
凪の目には涙が溜まっている。
「お兄ちゃん………しゃがんで」
凪の言われた通りにしゃがむ。
「目瞑って手を出して…」
「変なイタズラしないでよ?」
笑いながら目を瞑る。
「………お父さんにもしたことないから……」
え?と聞き返すと唇に暖かい感触が触れるのが感じられた。
驚いて目を開けると凪の頬は真っ赤だ。
母親は背中をむけていたので気づかなかったが、姉には見られた。姉の顔も違う意味で真っ赤だ。
366心の隙間:2009/01/10(土) 03:28:26 ID:m1Fu2zaR
――あの子、勇にキスをした……
自分の顔が怒りで熱くなるのがわかる。
ふざけるな!!私の勇なのに!!母親が来たんだからさっさと帰ればいいのに。
母親との押し問答もさすがに疲れた。
「勇…帰るわよ?用事があるでしょ?」
「用事なんかあったっけ?」
「(私と寝る約束よ!!)忘れたの?早く帰りましょ。それでは、娘さんとお幸せに」
勇を無理矢理に立たせて歩き出す。
「ちょっ、姉ちゃん、あっそれじゃ凪ちゃん元気でね!!!」
「うん!お兄ちゃん電話するね!!」

ピタッと歩くのを止める。
「電話?…番号をしってるの?」
「ん?昨日の夜中に番号を教えてって言うから教えたよ」

私の不覚だ……やっぱり寝なきゃよかった……早く家に帰らなきゃ……。
休みの日をもっと有効に使わなきゃ。
2人のために。

母親の最後の御礼を軽く無視して家にむかう。

自宅に帰る途中、もう凪のことは頭になく、勇とどう過ごすかしか頭になかった。
367名無しさん@ピンキー:2009/01/10(土) 04:14:17 ID:yUkrQ/wO
GJ!
姉の逆襲に期待
368名無しさん@ピンキー:2009/01/10(土) 04:16:38 ID:AT1NnQHb
GJ!
369心の隙間:2009/01/10(土) 04:24:52 ID:m1Fu2zaR
投下終了です。
ありがとうございます。
次もなるべく早く投下します。
では
370名無しさん@ピンキー:2009/01/10(土) 19:14:08 ID:TgoUrTFu
GJ
幼女相手に、嫉妬するお姉ちゃんかわいいぜ
371名無しさん@ピンキー:2009/01/10(土) 22:15:54 ID:YuhLe9z4
GJ!!

次回も楽しみにしてます!
372心の隙間:2009/01/11(日) 02:51:29 ID:rCfrNZfi
――やっと落ち着けると思ったのに…。

凪を送り届け別れた後、姉に腕を引っ張られ家にむかっているが、なにか鬼気迫るといった感じでズンズン歩いていく。
「姉ちゃん、買い物にいこうよ、家に食べるものなにもないよ?」
「嫌。」
「姉ちゃん……手痛いからもう離して。」
「絶対にイヤ!!」

離すどころか余計に力が増してくる。
「姉ちゃんどうしたの?なんか変だよ?」
「勇……私との約束を忘れてるの?」
「約束?……」
なんだろう…姉との約束…思い出せない。
「毎週金曜日の夜!!」

考えていると姉が思い出せない俺にイラついたのか、ヒントをだしてきた。

「金曜日の夜………あ!!」
「勇……忘れてたでしょ。」
思い出した…だから昨日からあんなに機嫌が悪かったんだ
「でも凪ちゃんもいてたし…昨日はさすがに無理だよ…」
「だから我慢したのよ…今日まで我慢すれば、昨日の約束を今日に繰り越してもらうつもりだったから…」
俺の手を握り下を向いてしまった…
「……わかったよ、それじゃ今日の夜は一緒に寝よう。」
まぁ、約束だからしかたないか。
「…夜までまてない…」
違う意味に聞こえるから考えて喋ってほしい。

「それじゃ……買い物に行かなきゃ約束は無し…」
373心の隙間:2009/01/11(日) 02:52:32 ID:rCfrNZfi
その言葉を聞いた瞬間、カッと熱くなり、私は勇の頬を叩こうと、手を振り上げていた……
しかし勇は怯まず私の目をジッと見るだけ。
振り上げた手をどこに持っていけばいいか分からず、勇を睨みつける。

ここで叩けば今まで我慢したことがすべて崩れる、勇に嫌われる恐怖から、どこに怒りをぶつけていいかわからず、ただ戸惑うだけ…。

「わかった…それじゃ早く買い物にいこう……」
ここは勇の言うとおりにしよう…ここで揉めても時間が減るだけだ。
「うん、それじゃ行こっか?」
勇が先に歩き出す
置いて行かれないように慌てて勇の隣に並ぶ。

――勇は卑怯だ。

私は姉としての威厳がまったく無いといってもいいだろう。
なにをするにしても勇の側でないと落ち着かない。
今の私の人生はすべて勇で成り立ってるからだ。

――俺が姉ちゃんを守る――

その言葉に私は甘えているのだ。

もし守る相手が私では無く、違う相手に変わったら……
「考えるのは辞めよう……今が幸せなんだ」
自分に言い聞かせる。
そうしないと「姉」ではなく「女」としての感情が溢れ出てしまう。
374心の隙間:2009/01/11(日) 02:53:00 ID:rCfrNZfi
――昔の姉なら喧嘩になれば平手打ちなんて当たり前だった……
ここまで弱らせたのはほかでもない俺だ。
姉を見るとなにか考えごとをしてるのか、上の空で歩いている。
「姉ちゃん前をむいて歩かなきゃ危ないよ?」
そう言うと姉の腕を掴み、引き寄せる。
「分かってるわよ!!歩くぐらい自分で歩ける!!!」
バシッ
「痛っ」
「あっ!!勇……ごめんなさい。」
手を振り払われた……かなり怒ってるな。
まぁ家につく頃には機嫌よくなっているだろう。

そう信じてスーパーに足をむける。

――、スーパーにつくとカゴをもって歩き出すが、休日で人が混雑してごった返している。
「これと…これと、あと野菜売場にいかなきゃ…」
姉は食料を俺が持ってるカゴの中に放り込んでいく。
「…ちょっと姉ちゃん入れすぎじゃない?……」
食料をバンバン入れてくる。
「いいのよ、買いだめすれば毎日こなくてもいいでしょ、それに今日は美味しいもの食べさせてあげる」
いつ機嫌が治ったのだろう……
女性の感情は激しいな。
375心の隙間:2009/01/11(日) 02:53:27 ID:rCfrNZfi
見る見るうちにカゴの中が食料だらけだ。
さすがに重たい…
「………はい、半分。」
見透かされたのか姉がカゴの取っ手を片方掴んだ。
そのまま2人でカゴを持ち、レジの台にのせると、定員の冷たい視線に気づく。
彼女となら気にならないのだが、姉となると、なぜかその目が気になってしまう。
会計をして、買った物を袋に詰め、二つあるうちの軽い方を姉に渡す。
店の中が暖房で暖かかったので外に出ると来る時より寒さが増している。

「寒っ!早く家に帰ろう、身体が寒さを通り越して痛くなりそうだよ。」
「そうね、早く家に帰って布団に入らなきゃ」
「(そのことしか頭にないのか)いや、まだ昼だから、寝るには早いよ」
「私は3時間しか寝てないわ。」
「夜寝れなくなるから、今日はちゃんと夜中に寝ようね」
「ええ、帰ったら寝ましょう。」
……姉と会話が成り立たないので、会話することを辞める。
家に向かって歩いている道中、空から冷たい水の雫が顔に当る。
見上げると、空一面に雨雲が広がっている。
「あぁ〜降ってきたな…傘なんて持ってきてないし…姉ちゃん走れる?」
「うん、大丈夫よ、風邪ひく前に家に着きたいわ。」
雨が本格的に降る前に家まで走って帰りたかった。
376心の隙間:2009/01/11(日) 02:54:14 ID:rCfrNZfi
「はぁ、はぁ、はぁ、買い物袋を持ったまま走るのは流石に疲れるね。」
「はぁ、はぁ、そうね、卵割れてなきゃいいんだけど…」
家の前まで走ってきたが、結局びしょびしょになってしまった。
「濡れるんなら歩いてくればよかったな。」
「バカッ、風邪ひいたらどうすんのよ、男手は勇しかいないんだっ?!…か…ら……。」
姉が固まった。

「姉ちゃん?どしたの?」
姉の目線を辿ると自宅の玄関を見て固まってるみたいだ。

「なに?家になにかある……の…」
姉につられて玄関に目をむけると………一年振りに見る母が扉の前に立っていた………

――「おかえりなさい。」

当たり前のように迎え入れるその声は、普段からある日常だと勘違いしてしまいそうになるぐらい、身体に優しく浸透してきた……



「ただ…い…ま。」

あれ?姉ちゃんと2人暮らしじゃなかったっけ?
意味が解らない。
お母さんが帰ってきた?手には買い物袋を持っている。
………懐かしい。
勇は感覚が麻痺して昔の思い出を懐かしんでいる。
だが麻奈美はそうはいかなかった。
母を睨み一言。

――「私達の家に……なにしに来たのよあんた…」
377心の隙間:2009/01/11(日) 03:04:04 ID:rCfrNZfi
今日の投下終了。
また短くて申し訳ないです。
短いときは夜勤だと思ってください。
では。
378名無しさん@ピンキー:2009/01/11(日) 03:36:43 ID:6SL5xfl8
GJ!!
お仕事がんばって下さい!今このスレにはあなたのSSを読みに来てるよ
うなものですから・・・
379名無しさん@ピンキー:2009/01/12(月) 02:18:58 ID:tsLJEkvk
GJ!!
姉の受難は続くよどこまでも
ほぼ毎日更新お疲れ様。スレが作品で伸びる事のなんて健全なことよ
380心の隙間:2009/01/12(月) 05:28:13 ID:L5IYTmpZ
――勇と2人が一番楽しい。
やっぱりあの子は私達の間にいらない存在だったのよ……。

スーパーに行く途中少し大人げない行動をとってしまったけど…見た感じ怒っては無いみたいだし、今日の夜美味しいものを作って謝れば勇も許してくれるだろう。

スーパーに着くと夕食のために必要なものと、5日間ほど買い物に行かなくてすむように、多めに買い込む。

勇を見ると重そうにカゴを持っている。
カゴの取っ手を片方掴むと、一緒に持ち上げレジに持っていく。
――勇との共同作業。
勇は少し照れていたみたいだが私は照れより嬉しさが増している。

スーパーを出て歩いていると雨が降ってきた……
「あぁ〜降ってきたな…傘なんて持ってきてないし…姉ちゃん走れる?」
「うん、大丈夫よ、風邪ひく前に家に着きたいわ。」

このまま2人、雨に濡れれば一緒にお風呂に入れるんじゃないかな?…
と有り得ないことが脳裏によぎる。
(2人でお風呂なんて99%無いわ…風邪引いたら元も子もないのにバカね私。)
ため息を吐き、勇を追いかける。
――しかし、その1%に未練が残ってしまい、自然と走る足が遅くなる…。
結果2人ともびしょ濡れになってしまった。
381心の隙間:2009/01/12(月) 05:28:55 ID:L5IYTmpZ
「はぁ、はぁ、はぁ、買い物袋を持ったまま走るのは流石に疲れるね。」
途中から勇が私の足が遅いため袋も持って走ってくれた。
優しい勇の心遣いを感じる…。

「濡れるんなら歩いてくればよかったな。」
罪悪感が少しでるが1%の確率に期待してしまっている。

「バカッ、風邪ひいたらどうすんのよ、男手は勇しかいないんだっ?!…か…ら……(お母さ…ん?)」



なぜ…いるの…よ……私と勇の家に……
「姉ちゃん?どしたの?」
勇の問いかけに気づく。
勇に見せてはいけないと思い、勇を家から遠ざけようとしたがもう遅かった。
「なに?家になにかある……の…」
勇が母を見た瞬間固まってしまった。

――「おかえりなさい。」
おかえりなさい?今更家族気取り?
ふざけるのもいい加減にして!!
そう叫ぼうと一歩前に出る。

「ただ…い…ま。」

その言葉に足が止められる。
たぶん無意識のうちに出たんだろう
勇を見るとまだ状況が把握できてないらしい。
私も母がなぜここにいるか分からない。
ただ私にとって良くない理由には変わりないだろう。

怒りを込めて母に言い放つ。


「私達の家に……なにしに来たのよあんた…」
382心の隙間:2009/01/12(月) 05:29:35 ID:L5IYTmpZ
――姉ちゃんの言葉で現実に引き戻される。

そうだ、何故母がいるんだ?

「二人に料理を作ろうと思ってきたのよ。」

ニコッと笑いながら言う。
母の手料理?なぜ今になって?
「…いきなり?一年間も音沙汰無しで、現れたと思ったら料理って…」
これは本音だ、母の情報なんてこの町にいないってことぐらいしか、分からなかった。
いきなり現れて、料理作ると言われても意味がわからない。
「…私は何回も電話したわよ?ただ勇には繋いでくれなかったけどね。」
母が姉のほうを見る。
「あっ当たり前よ!!家を出ていった人と話す事なんて一つもないわよ!!!」
「なにそれ?……俺は電話かかってきた事すら知らなかったんだけど?」
軽く姉を睨む。
「う…だって……勇は嫌がると思って…それで…わたし…」
小さくなってしまった。
まぁ姉も俺のことを思ってしてくれたことみたいだし……
「ふぅ……まぁ、雨も降ってるし…とにかく家に入ろう、風邪ひくから」
「ちょっ勇!?、なんでこの人も入れるのよ!!?」

「こんな所で言い争ってたってしょうがないだろ?母さんも風邪ひくから、早く家に入って。」
母の背中をぽんと押す。
「ふふっ……ありがとう、勇。」
383心の隙間:2009/01/12(月) 05:30:09 ID:L5IYTmpZ
母を家に招き入れるのは不思議な感じだ。
元々は父と母の家だったのに……

「姉ちゃん、先にシャワー行ってきて、後で俺も入るから。」
姉は無言のまま、何故か悲しそうな表情浮かべ、風呂場に向かった。

「勇…もう高校一年になったのね。」
荷物をテーブルの上に置き母が俺に話しかけてくる。
「うん、身長はあまり伸びないけどね」
「そんなことないわ、カッコ良くなったよ。」
母とはいえ面と向かって言われたら恥ずかしい…
「やめてよ、恥ずかしいから」
「お父さんに似てきたわ……顔も性格も」
「…うん…ありがとう、おかあ…さ…。」

――お父さんに似てる――




それは俺にとって一番の誉め言葉だ。

俺が一番言って欲しかった言葉…

「あ…れ?ははっ…なんで…涙なん…か…」

自然と涙が出てきた…
拭いても拭いても止まらない…
「勇……ごめんなさい……お母さんを許して…」
「え?…お母さん…」
母に抱きしめられる…懐かしく、優しい匂い。
「……うん、もう大丈夫だよ…気にしてないから」
「ありがとう、勇…本当にありがとう…」



――「なにしてるの……」
384心の隙間:2009/01/12(月) 05:30:36 ID:L5IYTmpZ
「ね、姉ちゃん!?はっ早かったね!」
リビングの扉から姉が入って来たのに気づかなかった……


「えぇ…なにかあったら駄目だと思ったから早く出てきたの……で?なにしてたの…」

「つまずいて転けたところを勇が支えてくれたのよ…勇ありがとね。」

母が機転を利かしてくれた。

「う、うん、お母さんも気をつけてね。」
こんな言い訳で姉に通じるのか?
「勇……風邪ひくから早くシャワー浴びてきなさい。」
「うん、それじゃ行ってくるね。」
通じたのかよく分からないが助かった…
(…ただ姉ちゃん震えてたな…。)
「……大丈夫かな?」

姉と母を2人にすることが心配だったが、早くシャワーを浴びて出てくればいいか。
385心の隙間:2009/01/12(月) 05:44:02 ID:L5IYTmpZ
シャワーを浴び、姉が持ってきてくれた服を着て、リビングに向かう。

「あれ?姉ちゃんは?」
リビングに入ると母しかいなかった。

「二階に行ったわよ?」
幸い姉は自分の部屋にいるみたいだ。
「ふ〜ん、あっそうだ!お母さんが料理作ってくれるんでしょ?なに作ってくれるの?」
「え〜?まだ夕食には早いわよ?でも、楽しみにしててね。」
「秘密なの?まぁ楽しみにしてるよ」

ちゃんと家族らしい会話ができてる。
何年離れててもやっぱり家族なんだな…。
母と話していると、ふと母の髪型に目がいく。
「お母さん、髪短くなったね…髪の色も…」
一年前は茶髪にウェーブのかかったロングヘアーだった。
今はセミロングで綺麗にカットされている…色も真っ黒だ。

「あと…服装もなんか落ち着いてる。」
昔は派手な服装を好んで着てた。
だから子連れでも関係なくアホな男は声をかけてきたりした。
「ふふっもう今年で 37よ?そりゃ、お母さんも落ち着くわよ」
「でも見た目は20代後半ぐらいに見えるよ?」
「そう?…お小遣いあげようか?」

「え?…うん……ありがとう…(500円!?)」

「また言ってくれたら、あげるかもね」

笑いながら呟く母は心から楽しそうだった。
386心の隙間:2009/01/12(月) 05:44:55 ID:L5IYTmpZ
「てゆうか姉ちゃん、降りてこないな…ちょっと見てくるね?」
ふと姉が気になった…
「えぇ…それじゃ食材冷蔵庫に入れとくわね?」
「うん、ありがとう」
母から貰った500円を握りしめ二階の姉部屋に向かう。

こんっこんっとノックをする。
「姉ちゃん、いるんでしょ?下に降りてこないの?」
「……」
「姉ちゃん、入るよ?」
ガチャッと扉を開ける……
しかし姉の姿が見当たらない。
「あれ?姉ちゃんどこにいったんだ…?トイレか?」
部屋を出てトイレにむかう。

こんっこんっ

「姉ちゃん、いますか〜?」
「……」
返事がない。
「あれ?ここも違うのか……」
二階には姉の部屋と俺の部屋とトイレしか無い。だとすると……

――ガチャッ。

「姉ちゃん、いんのか?」
自分の部屋だからノックせずに入る。

「姉ちゃん……なにしてんの…?」

よく解らないが、ベッドの上で三角座りしている…


俺に気づくとか細い声で姉が呟く。

「…ゆう……私は勇のことならなんでも分かるわ…。」
387心の隙間:2009/01/12(月) 05:45:27 ID:L5IYTmpZ
「え?いきなりなんなの、姉ちゃん?」
「勇の好きな食べ物、甘い肉じゃが。
嫌いな食べ物、トマト、納豆。
好きな色、緑。
嫌いな色、紫。
好きな動物、犬。
嫌いな動物、蜘蛛。……全部言えるわ」
「うん…あってるけど、それがどうかしたの…?」
「勇の家族は私一人…私の家族も勇一人。2人で頑張って行こうってお父さんとも約束したわ。」
「……」
「あの人は私達を裏切ったのよ!?当たり前みたいに母親面するあの人が許せないのよ!!」
「……でももう四年も前のことだよ?許せないのはわかるけど……ずっとこのまま許さないつもりなの?」
「勇は許せるの!?被害の張本人は勇、あなたなのよ!!?」
「……さっきお母さんが謝ってきた……それで許したよ。」
「なっ!?なんで許せるのよ!!」
「ずっと引きずっててもしょうがないだろ…?」
「………私は認めないわ……勇は騙されてる…」
「姉ちゃん……」


俺じゃ説得どころか逆撫でするだけだな…。
388心の隙間:2009/01/12(月) 05:45:54 ID:L5IYTmpZ
「ゆうくん…抱っこして…」

姉が俺のほうに両手を差し出す…

(ゆうくん…?小学生の時姉ちゃんに言われてた名前だ…なんで今頃?)

「…うん、分かったおいで。」

ベッドに座り姉を膝の上に呼ぶ
「ゆうくん……暖かい」
膝に座ると腕を首に巻き付けてきた。

「ゆうくん…置いていかないで…ゆうくんに必要とされるようにもっと頑張るから…だからお母さんのとこなんかに行かないで……」
「姉ちゃん…大丈夫だから…ほら…泣き止んで」

泣きじゃくる姉は俺の知ってる姉じゃなかった…。
ここで突き放せば、姉は立ち直れないどころか壊れてしまいそうで怖かった……
「…ゆうくん…勇…」

姉から奪った感情と植え付けた感情。


「はぁ〜勇の匂…いいい匂い…大好き…」


植え付けた感情が少し多かっただけ


「勇は私の弟――私はゆうくんのお姉ちゃん――」




――自分が犯した罪と罰からは、絶対に逃げられない。
389心の隙間:2009/01/12(月) 05:49:39 ID:L5IYTmpZ
ありがとうございます。
今日はこれで投下終了です。
15日までに終わらそうと思ったけど…無理臭いな…
390名無しさん@ピンキー:2009/01/12(月) 08:29:05 ID:ZuP7XTsy
GJ!!

焦らなくてもいいんだぜ
391名無しさん@ピンキー:2009/01/12(月) 10:47:55 ID:OUqqWm2c
ゲーパロさんを全裸でまってます
392名無しさん@ピンキー:2009/01/12(月) 14:14:06 ID:W1bQWOaD
>>389
GJ! いい依存でした。この姉はいいな。
393名無しさん@ピンキー:2009/01/12(月) 15:37:16 ID:I6DJvaeC
>>389
GJ! 報われない姉ちゃんだが壊れないで欲しい。
394心の隙間:2009/01/13(火) 03:18:36 ID:imylJ3wA
――お風呂から出てきたとき、母と勇が抱き合っていた……

――その瞬間、私は悟った。

……母に勇を盗られた…。

(勇と母を離さなきゃ…)
頭にすぐに浮かんだが唇が思うように動かない…
勇と抱き合ってた母が、私がリビングに入ってきたにも関わらず、勇を離さなかったからだ……

――「なにしてるの……」
やっと振り絞って出た言葉がこんな弱々しい声なんて…

その言葉を聞いて勇が慌ててこちらを向く……
「ね、姉ちゃん!?はっ早かったね!」

……ムカつく……

「えぇ…なにかあったら駄目だと思ったから早く出てきたの……で?なにしてたの…」
精一杯、嫌みを込めて言う…。
「つまずいて転けたところを勇が支えてくれたのよ…勇ありがとね。」
母は言葉の裏に私だけが気づくように「嘘よ。」と言っているのが分かる…。

抱き合ってるのを途中から見てしまってるのだ、そんな言い訳通じるはずがない…母もそれは知っているはず…。
395心の隙間:2009/01/13(火) 03:21:45 ID:imylJ3wA
――勇が風呂場に行けば、リビングに私と母の2人だけ…
気まずい空気が流れる。
「…麻奈ちゃん、大学に行ってるんだって?」
そんな空気の中、母が私に話しかけてくる。
「えぇ……○○大学に……それがなにか?」
「○○大学?……懐かしいわね、お父さんが行ってた大学ね。」
「そう……」
「…麻奈美……私のせいで苦労をかけたわね…本当にごめんなさい…」
「今更なに……?」
「私は親として、してはいけないことをしたわ……あなたには一生許してもらえないかもしれない…ただずっと償っていくつもりよ…本当にごめんなさい…」

「ふざけないで……謝ってもらっても、もう、昔のようにはいかないわ…」

本心で謝ってるのはわかる……
だが母の最終目的が「また勇と一緒に暮らしたい」と願ってるなら私は絶対に許さない……
先ほど、なぜ抱き合ってたのか分からないが、あの行為も母には勇と暮らす第一歩になったはずだ。
家族と言うのは出てたり入ったりできない絆で結ばれているはず…。
そんな謝罪一つで家族に戻りたいなんて、傷つけられた側からすれば許せる訳がない。
「そう……麻奈美……あなた勇に彼女が出来れば、ちゃんと祝福できる?」

――勇に彼女?……なにいってるの?
396心の隙間:2009/01/13(火) 03:25:17 ID:imylJ3wA
「なによ…いきなり…」
「もしも……勇に彼女が出来て…結婚することになったら、あなたどうするの?」
私にその質問をする意味がわからない…「どうもこうも……私は勇の姉よ…姉だか…ら…」
――姉だからどうする?
勇のことを祝福する?
勇の横には私ではなく別の女…
その女と勇は新しい家族を作る…
私はどうすればいいの?

「私は我慢が出来なかった…大事に育てた勇が他の女のとこに行くのが怖かったのよ。」

「私…は…」

「…あなたはこの先、絶対に私と同じやりかたで勇を縛るわ……」
「お母さんとは違う!私は勇のことを最優先に考えて行動するわ!!ましてや勇を傷つけたりしないわよ!!!」

「私も勇を最優先に考えてたわ…なにをするにしても…」
「だったら何故あんなことを勇にしようとしたのよ!?あなた母親でしょ!!?」
「えぇ、私は母親よ…誰よりも勇を愛しているわ…私が産んだんだもの…」



――なにも…言い返せなかった。
勇を語る母には誰にも劣らない絶対的な勇への愛が溢れていた。
「無論あなたも愛している」
「…」
「あなたにも分かる時がくるわ――身体の半身を持って行かれた気持ちがね…」

「ぅ…あっ…」

――始めから母には勝てないんだ…
397心の隙間:2009/01/13(火) 03:26:57 ID:imylJ3wA
私は母から逃げた……
母の本音と現実を叩きつけられた私は勇を守る気持ちを忘れ自分可愛さに現実から逃げてしまった…
勇の部屋に逃げ込んだが無論勇は、風呂場にいて部屋にはいない。
勇のベッドに近寄り布団に顔を埋める…勇の匂い…の他に甘い匂いがする…凪の匂いだ…
「なんで…私には勇しかいないのに…」
今すぐ勇に触れたい…
私の「勇を守る」と言う信念から大きく外れているのは分かっている…
だがもう抑えられない…
勇に甘えたい。
撫でられたい。
匂いを嗅ぎたい。
母や凪と同じように………勇とキスをしたい。


――まただ……勇がいなきゃ不安で仕方がない…ここから動けない……自分の小ささに嫌気がさす…勇……。



助けて…
398心の隙間:2009/01/13(火) 03:31:20 ID:imylJ3wA
――「…姉ちゃん…大丈夫?」
「うん…少し落ち着いてきた……」
姉が泣き出してから30分間ずっと膝の上で抱っこしてたので足が痺れてる。
「勇……私を置いていかないでね…ずっと家族だから…」
俺の頭を姉の手が忙しなく這う。
「……」
「なんでなにも言ってくれないの……」
「いや、うん…分かってるよ…」
「……それじゃ今日は早く寝ましょ…勇こっちにきて…」
「まだお母さんが下にいるだろ?ご飯も作ってくれるし…食べなきゃ悪いよ…」
「勇は私とお母さんどっちが好き?」
「え?」
「私は勇が一番大切よ…?」
「あ…うん…」
「だから…勇もっ「コンっコン」
「勇?食料冷蔵庫に入れたわよ?」

いいところに母が来てくれた……
「は〜い!わかったぁ!すぐに降りるよ〜」
姉をチラッと見ると扉を睨み殺しそうな勢いで睨んでいる…「姉ちゃん…下に降りれる?」
「うん……大丈夫…」そういうと俺の膝から立ち上がる。
「ふぅ……それじゃいこっか…」
足が痺れてるのを我慢して立ち上がる…部屋の扉を開けると母が立っていた。
「勇、もう料理作っちゃうね?」
「うん、お願い、美味しい料理お願いね。」
「任せなさい、私は料理美味いわよ?」

「ははっ楽しみだね。」
399心の隙間:2009/01/13(火) 03:33:12 ID:imylJ3wA
「……お母さんと仲良く話さないでよ…」
「っ!?」
今の声姉ちゃんか?…すごく冷たかった…あんな声初めて聞いた。
「……でさっ、トマトとか入れないでね?」
姉のほうを振り替えれない…
「勇、あんたまだトマト食べれないの?昔からダメだったわよねぇ」
「匂いがね…駄目なんだよ」
「まだまだ子供ね…ふふっ」

「勇…聞こえないのお母さんと仲良く話さないで。」
今度は耳元で囁かれる。
「……」





――この日を境に麻奈美は母親の予言通りに勇の心を縛り付け、1ヶ月後には勇を壊してしまうことになる。
400心の隙間:2009/01/13(火) 03:36:30 ID:imylJ3wA
見てくれてる方ありがとうございます。
短いですが今日は終了です。

401名無しさん@ピンキー:2009/01/13(火) 12:08:30 ID:Ks4R1OAe
めちゃくちゃこえーよ!!!エ、エロは……?
402名無しさん@ピンキー:2009/01/13(火) 21:05:01 ID:0U4UPnU/
・・・これヤンデレじゃね?
403名無しさん@ピンキー:2009/01/13(火) 21:51:25 ID:imylJ3wA
>>401
エロパロだもんね…
エロいれなきゃ駄目かな?
>>402
俺はヤンデレでも依存でもどっちでもいいけど
ヤンデレってあれでしょ?
殺す!みたいな感じのやつでしょ?
人にたいして怪我させたり殺したりしないから安心してみてくださいね。
404名無しさん@ピンキー:2009/01/13(火) 21:54:27 ID:lby/JXbU
NO、刃傷沙汰=ヤンデレではない。
405名無しさん@ピンキー:2009/01/13(火) 22:01:56 ID:RxhkHtmn
エロは? あくまで個人的な要望なんだが女言葉はそこまできつくなくても
いいと思うぞ。
406心の隙間:2009/01/13(火) 22:41:44 ID:imylJ3wA
――私の犯した罪は計り知れないほど大きく、絶対に消せない…

家族を失った私は自暴自棄になり、死のうと何度刃物を手にしたか……
しかし死ねなかった…
もう一度勇と話がしたい…勇に触れたい…私の感情は高まるばかりだった…

いくら家に電話しても麻奈美が切ってしまう…
勇の携帯番号を知らないので家電に頼るしかなかった。
――そして会いに来てしまった。
…しかし家には誰もいないようだ…私は落胆したが何故か少しホッとしていた。

勇に会えば私はまた昔の罪を繰り返すんじゃないかと考えてしまったからだ。
「ふぅ……しょうがないわね……帰るしかな……い…」
後ろを振り返り家を離れようと一歩踏み出すと小さく聞こえる懐かしい声………勇?…

私の前に勇がいる…話しかけなければ。
麻奈美が私に気づいた…その顔は嫌悪感一色だ……
勇は私を見ればどんな顔するだろう…怖い…

――勇が姉の異変に気がつき、姉の目線を追って私を見る……久しぶりの勇の顔……ドキッとした。

その顔は拒絶でも喜びでもなかった。

「おかえりなさい。」なぜこんな言葉がでたのかわからない……ただ…勇の声が聞きたかった…

「ただ…い…ま。」
407心の隙間:2009/01/13(火) 22:42:17 ID:imylJ3wA
当たり前のように返してくれた…嬉しい。

勇の久しぶりの声は私の耳を通り抜け身体全体に染み渡る。
私の子……。
私の勇……。
一年前と比べてまた一段と若い頃の父に似てきた。
今でも私の旦那はあの人以外は考えられない、私にはあの人しかいなかったからだ。
私とあなたの間に出来た2人の子供…
麻奈美が産まれた時は2人で抱き合って喜んだ…麻奈美は私と父平等に甘えた…。初めての子供、可愛くて仕方なかった…それから三年後…勇が産まれた。

この時もあなたは男の子が産まれたって物凄く喜んでくれた。

でも勇は私にしか懐かず、あなたを困らせたわね。

それが成長して行くにつれ母親から父親に移行する…
私に甘えることは無くなり、なにかあればあの人に話した…。

学校のこと、友達のこと、悩み。
すべて私に報告していたのに…
初めは年頃だからしょうがない、と諦めていた。

――小学3年生の時4人で祭りに行った帰り、勇は父におんぶをねだった、私がしてあげると言った時、勇の「お父さんがいい」と言う言葉に私の心にある何かが弾けた…



この時初めて勇に必要とされたいと強く思った。
408心の隙間:2009/01/13(火) 22:42:43 ID:imylJ3wA
――「それじゃ、またご飯作りに来てね、お母さん。」

「えぇ、私はいつでもいいわよ?たまには電話してきてね」

母の料理をごちそうになり母を玄関の外まで送り届ける。

「勇、ありがとうね…私、拒絶されるかと思ってたから…」

「もういいよ…姉ちゃんにも言っとくから。」

「ありがとう…それじゃ、またね」
手を振り母を見送るが名残惜しそうな母の顔が脳裏に焼き付く…

「もう帰った……?」
玄関の扉から姉が顔を出す。
「あぁ…もう帰ったよ…また料理作ってくれるってさ。」

「……風邪ひくから早く家に入って。」

「うん…」
姉の言うとおりに家に入ると、姉に抱きしめられた。
「姉ちゃん、痛いよ…」

「少しだけ…少しだけこうさせて…」

「……(どうしよう…)」

「それじゃ、もう遅いから勇の部屋にいきましょ」

まだ8時だが仕方ない、これ以上伸ばしたら本気で切れそうだ。

姉と二階に上がり、俺の部屋に向かう。「……やっぱり私の部屋で寝よう。」

「は?なんで?姉ちゃんのベッド狭いじゃん。」

「いいのよ、いきましょ。」

いきなりなんなんだ?
409心の隙間:2009/01/13(火) 22:43:06 ID:imylJ3wA
姉に連れられ姉部屋に入る。

あまり姉の部屋には入らないので少しドキドキするが、部屋は昔とそんなに変わっていない。
年頃の女性の部屋にすれば、少し落ち着いてる気がする。
「勇…寒い…」
俺が部屋を見渡している間姉は一切俺の横を動かなかった。
「うん、それじゃ寝よっか?」
姉のベッドに俺が先に入ると。後から姉がベッドに入ってくる。

「……やっぱりちょっと狭いね」

「うん…」

小さいシングルベッドに大人2人が寝るとやっぱり窮屈だ…姉の身体が背中にピタリとくっついている。

「やっぱり俺の部屋に行こうか…」

「ここでいいよ…暖かいからこっちのほうが寝やすい…」

「……」

こんなんで寝れるのだろうか……

「勇、こっち向いて」

「え…なんで?」

「勇の顔が見たいから…こっち向いてよ…」
「……」
なにも言わず振り返ると、姉と俺の顔がスレスレの位置にあるのがわかる…
410心の隙間:2009/01/13(火) 22:43:34 ID:imylJ3wA
「ははっ、ちょっと恥ずかしいね。」

「うん、ちょっとね、でも勇と一緒に寝ると落ち着くわ…」

「そだね、もう寝よっか?」

「うん…」

寝れるかわからないが早く寝てしまおう…。
―――――――――――――――――――――――――
「……」

「……」

「勇…寝た…?」

「……zzZ」

「ごめんね…お姉ちゃん弱くて…少ししたらまた頑張るからね……」

「…zzZ」

「……チュッ……おやすみ…」

「!?……zzZ………(姉ちゃん…)」


この日を境に一週間に一度だった約束が4日に一度になった。
411心の隙間:2009/01/13(火) 22:46:00 ID:imylJ3wA
スイマセン、朝の続きこれで終わりです…
次はなるべくまとめて投下します
412名無しさん@ピンキー:2009/01/14(水) 22:36:10 ID:AmJNWoez
俺が思うに
依存=献身的、自己犠牲的な感じ
ヤン=独占、自己中心的な感じ  
まあここでも一度話し合いがあったと思うけど。
なにはともあれgj 
413名無しさん@ピンキー:2009/01/14(水) 23:35:24 ID:vKHaTys6
勇みたいのを魔性って言うんだろうなぁ
414名無しさん@ピンキー:2009/01/15(木) 06:17:17 ID:frr4qOqP
test
415心の隙間:2009/01/15(木) 07:46:33 ID:an/+82FO
今日仕事から帰ってきたら投下します。
416名無しさん@ピンキー:2009/01/15(木) 20:46:22 ID:3DMxBHww
待ってます!!!
417心の隙間:2009/01/15(木) 22:12:32 ID:an/+82FO
――母が夕飯を作りに来てくれてから二週間、あれから姉が俺の部屋に居る時間が倍近く増えた。

一週間に一度の約束も4日に一度になってしまった……姉から泣きながら頼み込まれたからだ。
それも姉の小さなベッドで寝るから体の節々が痛い。
「はぁ……」
最近ため息をよく吐くようになった…あまり身体の調子も良くないな…

授業の内容もあまり頭に入ってこない。

今も授業中だが空ばかり見てしまう…。


――「あんた…大丈夫?…」
隣席の女子、に声をかけられる。
「ん?あぁ、まぁちょっとね。」

「なんか最近元気ないみたいだけど…悩み事?」
異性の中で一番仲がいい女子かもしれない。
話しやすく、あまり気を使わなくてすむから楽だ。

「まぁ…家族のことだから相談しようにもね…」

「そっか……まぁいつでも相談してよ!!私が答えれる範囲でよければ、いつでも相談にのるからさ!!」

「ありがとう……あと授業中だから静にな?。」

周りを見渡すと全員俺達のほうを見ている……立ち上がり話しているこの女子は周りをキョロキョロと見ると顔を真っ赤にし小さく「バカ勇!」と言うと椅子に座り直した。
418心の隙間:2009/01/15(木) 22:12:58 ID:an/+82FO
キーン、コーン、カーン、コーン。


――「ふぅ…やっと終わったな。」
今日は学校が終わる時間まで空を眺めていた、
いつもは長く感じる学校の時間も今日ほど早く感じた日はないだろう。


――「勇、帰りにマック行こうぜ!腹減ってしょうがねぇよ。」
いつも一緒に帰っている男友達が話しかけてきた。

「は?、今日って部活無いの?」
「おう、三年生はもうすぐ卒業だろ?なんか三年生だけでパーティーするらしいよ。」
「なんだそりゃ?部活関係無いじゃん。」
「まぁ、集まって何かするってことが無くなるから羽目外したいんだろ。」
まだ一年だからわからないがやっぱり寂しい物なのか…
「まぁ、部活無いならべつにいいよ?」
「んじゃ、行こうぜ。」


――「勇〜!!」
2人で一階まで降りると。
授業中、俺に相談にのると言った女子が俺の名前を呼びながら走ってくる。

「なんだ?走るなよ、転けるぞ」

「いや、校門に勇の知り合いが来てるわよ?」

「俺の知り合い…?誰だろ…」

「女の人だったよ…綺麗な人だったけど…あんた彼女いたの?」

「はぁ!?かのじょぉ!?勇……おまえ裏切ったな…」
419心の隙間:2009/01/15(木) 22:13:25 ID:an/+82FO
「ははっ裏切ったって。」

「なに笑ってんじゃボケ!!おまえは俺と同じように部活一筋の親友だと思ってたのに…女なんかの尻追っかけやがって。」

いきなりなにキレてんだ?

「いや、おまえだって高橋(女友)とつきあってたじゃん」

「ちょっ!!私は大樹(男友)とつきあってなんかいないわよ!?」

「まぁ、つきあってたのは本当だな…手も握らせてくれなかったが…」

「立派な彼氏彼女だよ。頑張れ」


「3日間だけよ!!今はなにもないわよ!!」

「すんげー必死だな…流石に傷つくぞ?」

「まぁ…仲良くな?俺は知り合いって奴を見てくるわ」

「まて!!おまえは俺とマックの約束があるはずだ!!」

「いや…まぁ、また明日な。」

「ヤダ!!約束だ約束!!」

姉ちゃんが男ならこうなるのか…

「てゆうか、本当になにも無いからね!?勘違いしないでよ!!?」

ギャーギャーと騒がしいな…似たもの同士で良いと思うけど…

「高橋…わかったから大樹をなんとかしてくれ……涙でボロボロじゃないか」
420心の隙間:2009/01/15(木) 22:13:48 ID:an/+82FO
「高橋頼むからな?」

「えぇ…誤解しないでよ?私と大樹は本当になにもなかったからね」
まだ言ってんのか…

「勇!!ちょ、ちょっと待てって!!Sサイズならなんでも奢ってやるから!!なっ!?」

「(なに言ってんだこいつ?)……んじゃ、また明日ね」

靴を履き替えて校門に向かう。
後ろで叫び声が聞こえるが無視しよう。
今は大樹より、校門で待つ女性だ…


――校門まで走ってきたが、どこにいるんだ?

「(いないじゃん…)」
周りを見渡してもいない…
「新手のイタズラか?」

するとヴーヴーッとポケットの携帯が震動する。

携帯を開いてみると画面には「姉」と表示されている。
「メール?なんだろ…」


『勇、迎えにきたよ〜!○○駅に先に行ってるから、後で追いかけてきてね』

姉ちゃんが迎えに?校門の女の人って姉ちゃんか…
「でも珍しいな…姉ちゃんが迎えにくるなんて…なにか用事かな」

ここでウロウロしててもあの2人に捕まる恐れがある…よく解らないが一応駅に向かおう。
421心の隙間:2009/01/15(木) 22:14:08 ID:an/+82FO
――駅の改札口に着くと姉に電話をする。

「姉ちゃん今どこにいるの?」

『えっとね、三番線ホームのベンチに座ってる。』

「わかった、そこで待ってて。」

姉との電話を切り、三番線ホームを目指す……

学校帰りの生徒達が数多く、少し混雑している。


階段を登り三番線ホームにたどり着く。
「どこだろ……」
周りを見渡すが生徒だらけでまったくわからない…歩くことすら困難だ。

――「…勇」

「姉ちゃん!?ビックリしたぁ〜」

肩を叩かれ後ろを振り向くと姉が立っていた。

「姉ちゃんよく後ろ姿だけで俺だってわかったね」
老若男女いるがほとんど俺と同じ学生に通う学生だ。

「弟の後ろ姿見間違えるわけないでしょ?」

「ふ〜ん、まぁいいや、なにか用事があったの?迎えにくるなんて珍しいじゃん。」

「ん?べつに用事なんてないわよ?」

「は?じゃあなんで来たの?」

「……駄目だった?…嫌なら今から帰るけど…」

「いや、俺も今から家に帰るから一緒に帰るけど。」

「それじゃ帰りましょ。」
422心の隙間:2009/01/15(木) 22:24:59 ID:an/+82FO
電車に入ると後から後から人が入ってきて、10秒もしないうちに満員になってしまう…
姉は運良く座れた(譲ってくれた)みたいだが俺は座れなかった。
なんとか姉の前を確保することが精一杯だった。
「勇、交代する?」

「お姉ちゃんに立たせるわけにはいかないでしょ?大丈夫だよ30分ぐらいだから。」

「そう…辛くなったらいってね?」

「立つぐらい日常茶飯事だよ、気にしすぎだって。」

「うん……ギュッ……」

「……」

最近は一緒に居る時、俺の身体のどこかに触れていないと落ち着かないらしい。
誰が見ても姉の依存が悪化してるのはわかる。
姉にカウンセラーを勧めたが拒否反応が凄まじかったので断念した。


目を瞑り昔のことを思い出す…

昔は元気な姉だった。
美人と言う言葉が、そのまま当てはまる姿と、誰にも負けない強気な性格で姉の周りには人が耐えることは無かった。

姉に頼る人もいっぱいいるだろう…俺もその一人だ。
423心の隙間:2009/01/15(木) 22:25:20 ID:an/+82FO
俺に費やした時間が姉から周りの人間を遠ざけた。
周りからの誘いをすべて拒否し、休みの日を俺の為に使いだした頃から多くの人が離れていってしまった…

地元の友達はいるみたいだが、やはり大学の友達を作ってほしい。
そして大学生活を満喫してほしい。
一番世話になってるからこそ姉には一番幸せになってほしい。
本当にそう思う。


――「勇…着いたわよ?」
姉の声に現実へと引き戻される。

姉と一緒に降りて改札口を通り抜ける。

「勇?空見て…綺麗…」

「お?雪だ…積もるかな?」

「夜も降り続けば積もるかもね…」

「寒いねぇ…早く家に帰ろうか?」

「勇は右手に手袋付けて、私は左に手袋付けるから…はい反対の手は繋いで帰ろっ」

「恥ずかしいよ…」

「え?あっ……そっか…それじゃ勇が手袋使って言いよ?私は平気だから…」

「ははっ俺は手袋なんかしたことないよ、大丈夫だよ、お姉ちゃん使ってよ」

「え…でも…霜焼け出来るかもしれないし…」

「大丈夫、寒さには強いから」

「そう…そ、それじゃ…えっと…」

「……わかったよ、手袋片方付ければいいんだね…ハイ、繋ぐんでしょ?」

「!?……うん!!それじゃ帰ろっ!!」
424心の隙間:2009/01/15(木) 22:26:00 ID:an/+82FO
家につくと服に付いた雪が溶けて結局びしょ濡れになってしまった。
「お風呂沸かしてくるね?タオル持ってくるからちょっと待ってて!」

「わっ私も行く!」
慌てたように姉が俺の後を追ってくる。
「ハイ、姉ちゃん、タオル。」
姉にタオルを渡すとありがとう、と言い身体を拭き始めた。
10分経ち風呂が沸いたので姉を先に入れさせようとしたのだが、姉はとんでもないことを口走った。
「一緒にお風呂入る…とか…」

「え?」
思わず聞き直してしまった。

「いや、風邪引いたらさ…アレだから…」
「流石に…ね…先に入っていいよ?」

「うん……わかった…」

「……(一緒に風呂はやばいな)」
姉がでた後、俺もすぐに入ったが、何故か俺ではなく姉が風邪を引いてしまった…。

――やっぱり風邪か…風呂でた後姉の顔色が悪かったので熱を計れば38℃という高熱表示がされている。
「今日は大人しく寝なきゃ駄目だからね?」

「勇はどこいくの?」

「風邪移るといけないからさ、自分の部屋で寝るよ。」

「そう…たまに勇の様子を見に行く…」

「いや、風邪引いてるのお姉ちゃんなんだから俺が様子見に来るよ」

「わかった…なるべく早く見に来てね?」
風邪で余計に心細くなっている。
425心の隙間:2009/01/15(木) 22:26:40 ID:an/+82FO
一応明日は姉の看病で休むつもりだった…
だから一時間ごとに姉の部屋を覗いた…姉は苦しそうにしながらも俺が顔を覗かせると布団から出ようとする…
俺が行くから寝れないのかと思い
行くのを止めると今度は姉が部屋を覗きにくる…
どうにも姉の身体が休まってる気配が無かったので
俺も姉部屋に布団を敷いて寝ることにした。
約束の日では無いこの日に姉部屋で寝ることが姉自身嬉しかったようで。
一人はしゃいでいる。
姉を落ち着かせお腹をさすると10分もしない内に寝息をたて始めた…
「……本当に子供みたいだな」

小さく呟くと光を豆電球だけにし自分も床につく…


この小さな病気が麻奈美の依存を加速させることを勇はまだしらない…。






(病気や怪我をすれば勇は構ってくれるんだ…)
426心の隙間:2009/01/15(木) 23:04:48 ID:an/+82FO
ありがとうございます。
今日はこれで終了です、
次もなるべく早く投下します
427名無しさん@ピンキー:2009/01/15(木) 23:35:57 ID:yoaZqWID
GJ
姉にミュンヒハウゼン症候群の兆候が…
428名無しさん@ピンキー:2009/01/16(金) 00:30:38 ID:pc+9LDmZ
GJ!姉ちゃんかわいいな!
これから、エロのデプシーロールが始まるわけですな
429名無しさん@ピンキー:2009/01/16(金) 00:57:54 ID:sHC//RZe
あー、たまらん!!
GJ!!
430名無しさん@ピンキー:2009/01/16(金) 13:28:14 ID:KteqC19J
( ´Д`) <まだ続くの?。。。。
431名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 00:49:30 ID:uJTVSh15
( ´Д`) <ほらぁ!ちゃっちゃっと投下しろやぁ!続きが読みてんだよ!
432心の隙間:2009/01/17(土) 00:57:12 ID:0EiW6Psj
>>430
ごめんなさいね。
なるべく早く終わらそうと一日、一日書いてるんですけどね〜頑張ります。
>>431
多分投下は四時ぐらいになるかも…
433名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 00:57:58 ID:sQCsA8hM
>>432
煽りは無視して自分のペースで投下してくださいな
まってます
434心の隙間:2009/01/17(土) 04:20:30 ID:0EiW6Psj
――「勇!!おまえ一昨日電車でいちゃついて帰ったらしいじゃねーか!!」

朝からやかましいな…

「いや、べつにいちゃついてないよ。」

「嘘つけ!!電車の中で見た奴がいるんだよ!!だから昨日彼女とエッチなことして学校に来なかったんだろ?」
通学路で言うことではない。

「勇……あんた…最低ッ!!」
もの凄く睨まれた…

「あのな、高橋……いちいち大樹の話を本気にしてたらきりがないぞ?第一彼女なんかいないって。」

「じゃあ昨日の女は誰だよ?……家族とかしょーもない答え返すなよ。」

「いや、姉だから。」

「今言ったばかりの嘘つくんじゃねぇ!!」

「本当だって…昨日もこっちにくる用事があるから学校に寄ったらしいよ?」

「へ〜お姉ちゃんいたんだ?すごい綺麗な人だったよ?」

「まぁ昔からいろんな物貰ってくる人だったからな…でも姉だから気にすんな。」

「そうか……それじゃ、おまえの家に遊びに行っていいか?」

「ダメ」

「なぜか!?」

「………俺オマエ嫌いだもん。」
435心の隙間:2009/01/17(土) 04:21:36 ID:0EiW6Psj
「なんだそりゃ!?と、友達に言うことじゃねえだろ!!」

「冗談だよ、昨日休んだのも、一昨日の雪で姉が風邪引いたからだよ。料理も洗濯もしなきゃいけないからね。」

「へ〜家の家事は勇がやってんのね〜両親は共働き?」

「ばっ!!おまえっ!!」
大樹が慌てて高橋の口を塞ぐ。

「んっ!?ちょっと、なにすんのよ!?」

「大樹べつにいいよ、…親はいないんだよ、父は去年病気で死んで、母は離婚してるから、今は家に姉と二人なんだ。」

「えっ!?そんなこと!!…わた…し…ごめんなさい…」

「ははっ高橋に言ってなかったからね。べつに気にしてないよ。」

「しかし中学からつるんでるけど姉がいてるなんて初耳だな」

「まぁ家族構成なんて誰にも教えてないからな、てゆうか早く学校いかなきゃ遅刻するぞ?」

「やばっ!早く行くぞ。」

「……うん…」
436心の隙間:2009/01/17(土) 04:22:11 ID:0EiW6Psj
――食堂で券を買うためにならんでいると。
姉から電話がかかってきた。

「もしもし〜姉ちゃん?どしたの?」

『勇?今なにしてるの?』

「今?、昼休みで食堂に来てるよ」

『そう……さっきね料理してたら指きっちゃった。』

「そうなの?大丈夫?てゆうか、料理作って置いといたよね?」

『うん、サラダ食べたくなっちゃって』

「傷は深くないの?」

『わかんないけど…一応絆創膏貼ってる』

「そう…で?どうしたの?」

『え?どうしたのって…』

「あれ?なんで電話してきたの?」

『いや、勇もうご飯食べたのかなって』

「いや、今から食べるよ…あっ!俺の番来たから切るね」

『え?あっうん、バイバイ』

最近姉からこういった電話がよくかかってくる。
多分一人じゃ不安なのだろう、寝る時も腕を組むのが定番になってきた。
――「お母さんに相談しようかな……」
437心の隙間:2009/01/17(土) 04:22:38 ID:0EiW6Psj
――勇から電話を切られた…

「はぁ…」
包丁で切った指を見ながらため息をつく…
深い傷は怖くてつけられない…
ただ些細な優しさを勇に向けられるだけでいい。
…なんでこんなに私弱くなったんだろ…
昔は家より外にいる時間のほうが多かった。
今は勇の事ばかり考えている…。
今行る場所も勇の部屋だ…先ほどまで寝ていたが勇の看病のお陰で少し熱が下がった。
勇のベッドに倒れかかる…枕に顔を押しつけて息を吸う。

「すぅ〜はぁ……また熱でそう…」
体が火照ってきた…これ以上行為を続けたらさすがに勇に嫌われるだろうな…

「はぁ…部屋にもどろう…勇に怒られる」
勇のベッドから体を持ち上げる…名残惜しいが、勇にはちゃんと寝ていると約束した…。

「勇のお姉ちゃんだから…約束守らなきゃ…」

自分の部屋に戻り携帯を開け、勇にメールをする。

『夕方には帰ってこれるかな?風邪少し治ったから、私が夕飯作るね。』
直接的にではなく遠回しに「早く帰ってきてほしい」と伝える…

「送信…っと」
今日はなに作ろうか?
勇の好きな揚げ出し豆腐を作ろう…

「あっ!勇からメールきた…………え?」




『今日は食べて帰るから、先食べてていいよ。』
438心の隙間:2009/01/17(土) 04:23:07 ID:0EiW6Psj
――「これでよしっと…」
姉に夕飯を断り携帯を閉じる。

母に電話で「ちょっと相談したいことがある」と言うと
「それじゃ今日夕飯食べに来なさい、用意するから。」
悪いと思い断ろうとしたが。
「別にいいじゃない、たまにはお母さんに会いに来てよ。」
と言うので夕飯をご馳走になることになった。

「凪の両親の会社…あれだな。」
高層ビルが立ち並ぶ中で一際でかい高層ビルが中央に建っている。
母の家は凪と同じ隣町にあるらしい。
一番ビックリしたのが、母の仕事場が凪の両親の会社だってことだ。
よく凪母と買い物にいくらしい。…
(世界は本当に狭いな…。)

電車を使って、母が住む町までやってきたが右も左も人だらけだ。
「やっぱり都会は人が凄まじいな…」
自分が住んでる町は物静かで、夜になるとコンビニぐらいしか店は開いていない。
「てゆうか出口ありすぎだろ…」
どこから出ればいいか全くわからない。母に電話するしかないか…
携帯を取り出し母に電話をする。

「もしもし?改札口どこから出ればいいの?」

『もうついたの?南出口よ、お母さんもう来てるから。』

「わかったぁ、んじゃね。」

携帯を切り早足で南出口にむかう。
439心の隙間:2009/01/17(土) 04:23:32 ID:0EiW6Psj
南側の改札口を抜けると柱に母がもたれ掛かっているのが見えた。
「勇〜!こっち、こっち〜!!」
母が俺に気づき手を振る。
俺も小さく手を振り返すと、母が近寄ってきた。
「勇、制服似合うね、さすが私の息子!」

「ははっ、お母さんだってスーツ似合ってるよ、キャリアウーマンって感じがする。」

「そう?太らないように必死よ?」
笑いながら母が背中を叩く。
「それじゃ車をまわしてくるわね?ここでまってて。」
そう言うと母はパーキングエリアまで小走りで行ってしまった。
「お母さん…小さくなったな…」
俺がでかくなったのはわかるが、小さい頃の母のイメージが頭に焼き付いてるので、違和感を感じる。

――程なくして母が車に乗ってきた。
助手席を開け中に入ると、自販機で買ってきてくれたのか暖かいお茶をくれた。
「ありがとう、寒いから暖かいものがほしかったんだ。」

「ふふっ寒いものね、食材は買ってあるからこのまま家にむかっていい?」

「いいよ、別に買いたい物ないから。」

ふと目線を上げると。ミラーにミッキーの人形がぶら下げてある。

「あぁ…それ勇から貰ったものよ?覚えてる?」

「覚えてるよ?懐かしいね…」
440心の隙間:2009/01/17(土) 04:23:55 ID:0EiW6Psj
俺が小学生の時に母にプレゼントしたものだ…姉と一緒にスーパーのおもちゃ売場に行き母のプレゼントになる物を探した。
姉は花を母にプレゼントしたが
俺は少ない小遣いで買える物がこの人形しかなかった。

「まだもってたんだ?」

「貰った物で残せる物は全部あるわよ?写真もね。」

「写真かぁ…あんまり自分の子供の頃は見たくないなぁ」

「可愛いわよ〜?写真の勇と麻奈美がキャッキャッ言ってるのが聞こえるくらいに」

話していると真っ白いマンションが見えてきた。

「ここよ、勇。」
駐車場に車をとめて外にでる。

「へぇ〜なんかオシャレだね。」

「そうでしょ?私もこの外見が気に入ったのよ、私の部屋は七階だから景色も良いわよ?行こっ!」

母に手を取られエスカレーターで七階まで目指す。

――2LDKの部屋は綺麗に整頓されてて、少し緊張した。

「ソファーに腰掛けてて」
言われるがままにソファーに腰を掛けると母が熱いコーヒーをいれてくれた。

「おっありがとう」

「どういたしまして、それじゃ夕飯作るからまっててね」
母が冷蔵庫の中から食料をだし始めた。
「美味しい物作ってね?」
なんでだろう…料理している母の背中を眺めると落ちつく。
441心の隙間:2009/01/17(土) 04:24:22 ID:0EiW6Psj
「勇?どうしたの?」

いきなり声をかけられビクッとなる。
「いや、べつに…」
ヤバい…顔が真っ赤っかだ…
「?変な子ね。」
母はまた料理にとりかかった…
「一応姉ちゃんに電話しとくね?」

「え?……ご飯食べてからでも遅くないわよ、後でいいじゃない。」

「そうかな…って姉ちゃんからだ」
かけようか迷っていると姉から電話がかかってきた。

「もしもし?」

『もしもし…帰ってくるの何時ぐらいになりそう?』

「9時ぐらいかな?なるべく早く帰るよ」

『そう……わかった、心配するからなるべく早くね』

「勇〜!これ運んで〜!」

「うん、わかったぁ〜!…んじゃ、9時頃には帰るからね、ちゃんとベッドの中に入ってなきゃだめだからね。バイバイ」

『ちょっ勇!?今のだっ』

「あれ?姉ちゃん今なんか言ったかな…よく聞こえなかった。」

「麻奈ちゃん許してくれた?」

「うん9時に帰れば大丈夫だってさ」

「それじゃ一緒に料理運んで、テーブルに並べてくれる?」

「うん!」
442名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 04:31:10 ID:0EiW6Psj
>>435の続き抜けました申し訳ないです
443心の隙間:2009/01/17(土) 04:50:22 ID:S+/bvpPL
――遅刻ギリギリで学校の校門をくぐることができた。

「はぁ…はぁ…きっついな」

「あぁ、部活してて良かったな」

「……」

「……高橋、気にしてないって。」

「は?おまえ、まだ気にしてんのか?」
さっきから高橋は黙りっぱなしでなにも喋らない。
「もう随分前の事だからさ、マジで気にすんなよ」

「うん、ありがとう」正直気を使われる疲れてしまう。
父を亡くした後はみんなに可哀想と慰められた。
なにか出来ないと両親が…一日休むだけでまだ立ち直れないのか…
正直うんざりしている。
だから高校に入ると誰にも両親のことは話さなかった。
この学校では担任と中学からの友達である大樹しかしらない。

――昼休み、みんなが机をくっつけたり一人で食べたり食堂に行ったり、それぞれの時間を過ごしている。
「勇、おまえ弁当は?」

「作る時間が無かったから、食堂行くわ。」

「そっか、んじゃな。」
大樹と別れ食堂にむかう。
今日は、まだ熱が引かない姉を時間ギリギリまで看病していたので、弁当を持ってきてない。

「はぁ…姉ちゃん大丈夫かなぁ」
家に一人居る姉が心配になってきた。
444心の隙間:2009/01/17(土) 04:52:45 ID:S+/bvpPL
なんか規制されました…
445名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 05:20:25 ID:0EiW6Psj
後でまたきます
446名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 12:15:43 ID:uE2fFoo6
楽しみに待ってます
447名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 13:38:32 ID:kWE6oH1K
おいらも待ってるお。
448名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 20:30:18 ID:B0VtVGac
凪、姉、母と依存娘がそろい踏みしたね
これからオチに向けてどう収束していくのか楽しみ
449心の隙間:2009/01/19(月) 00:43:11 ID:PfpCdvTi
――今の声…お母さんだった…勇はお母さんのところにご飯を食べにいってるの?
なんで?
前にお母さんの所に行かないでっていったのに……
昨日私がご飯作らなかったから?
母の所に行く理由…



――私に愛想つかした?――

「いやあぁぁぁあぁぁぁ!!!」

…あ…れ…?スカートの中…暖か…い…私オシッコ漏ら…し…

気持ち悪い感覚に襲われる…
「勇に嫌われ……ッそんなことより…早くっ勇を迎えにいかなきゃ。」

住所は?
確か一週間前母から勇宛てになにかの荷物が届いたはず…
それに住所が書いている。

階段を駆け上がり勇の部屋の扉を乱暴に開ける…
机の上にダンボールが置いてある
「あった!!えっとこれだ………隣町じゃない…すぐにいけない…でもいかなきゃ!!」

服を着替え、伝票を強引にダンボールから引き剥がし、財布を持って家を飛び出した。

お母さんだけは私にはどうしようもできない。
凪ならなんとかなる…ただ母は無理だ。
――「はぁっはぁっ身体が重い…」
こんな時にも風邪の影響がでるなんて…
でもこんなとこで座って居られない…勇の所にいかなきゃ…お母さんの色に染まる前に。
450心の隙間:2009/01/19(月) 00:43:41 ID:PfpCdvTi
――「こんなに食べれるかなぁ…」
縦横1メートルのテーブルが料理で埋め尽くされる。
「高校生でしょ?大丈夫よ、」
エプロンを外し椅子に掛ける。
「なんか5人分ぐらいあるけど…」

「まぁ残ったら明日にでも食べるわよ。」

「うん、それじゃいただきます。」

「はい、いただきます。」
前は姉と三人で食べたがあの時は正直気まずくて、味もあまりわからなかった。
今は美味しく母の味を堪能できる。
「うん!美味しい!!」

「ふふっそうでしょ?勇はこの味で育ったんだから」

姉ちゃんと食べるご飯も美味しが。
懐かしさからか、母と食べる料理は、今まで一緒に食事をした誰よりも美味しく感じた。
「本当?ありがとね…さっ、いっぱいあるからたくさん食べてっ!」
母も楽しそうだ。
姉ちゃんとお母さんと俺…三人で暮らせたら楽しいだろうなぁ…
ふと姉ちゃんのを思う…
一番支えてくれた姉ちゃんだけは絶対に幸せになってもらわなきゃ。
(俺の甘えもそろそろ治さなきゃな)
「自立」と言う言葉が頭に浮かぶ。
451心の隙間:2009/01/19(月) 00:44:01 ID:PfpCdvTi
――仕事中に勇から電話かかってきた。
勇から初めての電話…。

携帯の画面を見て一瞬で身体が硬直する。
画面に表示されている勇の名前を眺めていると、電話がきれてしまった。
ハッと我に還り、すぐにトイレに駆け込む。
慌ててかけ直すとワンコールで勇が出てくれた。
勇から話を聞くと、なにか相談に乗って欲しいらしい。

「今仕事中だから夜でいい?」と聞くと血の気が引くような答えが返ってきた。

――「忙しいの?それじゃまた今度でいいや、仕事頑張ってね。」

「え!?ちょ、ちょっと待って!!!」

「ビックリした!!どうしたの!?」
自分でも自分の声のでかさにビックリした。

「いや…うん、多分あと一時間ぐらいしたら帰れるかも…」

「え?でもさっき夜になるって…」

「いや、すぐに終わる仕事ばかりだから大丈夫だよ。」

仕事が詰まってるが私一人いなくなったって会社は大丈夫だろう。
勇と会うのは夕飯を作った日以来だ。
会社の取締役という重役を担っている人間として、失格かもしれないが私は仕事より息子をとる。

食事を一緒に食べるという約束をして電話を切る。

「勇……」
まだ私を母として頼ってくれる勇に感謝しなくては。
452心の隙間:2009/01/19(月) 00:44:27 ID:PfpCdvTi
――「ごちそうさま、ちょっと食べ過ぎたかも…お腹いっぱい…」

テーブルに置いてある料理をすべて食べ、だらしなくソファーにもたれ掛かる。
「ふふっ凄いわね、全部食べちゃうなんて…さすが高校生ね。」
あんな嬉しそうな顔で食べてる姿を見られると全部食べないと悪い気がする。
「お母さんはお腹空いてなかったの?あんまり食べてないけど…」
食事の途中から母は箸を置いて俺の食べてる姿を眺めてるだけだった。
「勇の食べてる姿を見ているだけで、お腹いっぱいになったわ。」
そういいながら自分のお腹を撫でだした。


――「私も手伝おうか?」

「大丈夫だよ、休んでて。」

「そう…」

母は「私が洗うから休んでていいよ。」と言ったのだが、食べてばかりでは悪いので皿洗いをさせてもらっている。


「よしっ終わった。」

「お疲れ様、ありがとね、勇」
手をタオルで拭き、母が座るソファーに近づく。

「お母さん…それで話なんだけど…」

「ん?あっそうだったわね…でっなに?相談って。」

「姉ちゃんのことなんだけど…」
453心の隙間:2009/01/19(月) 00:44:50 ID:PfpCdvTi
「麻奈美…?」

母の表情が曇る。
「うん…最近姉ちゃんにどう接していいかわからなくてさ…」

「どうゆうこと?なにかされたの?」

――母に父が死んだ後のことを話した…
俺が姉に依存していたこと…俺は立ち直れたが俺の依存が姉に移り、姉の依存度が日に日に増していること。
母に言えることはすべて話した。

「私のせいね…私が家族を壊したから…」

母が涙を流しながら呟く。

「違う!!俺の精神面の弱さが姉を巻き込んだんだ…お母さんが悪い訳じゃない…」
気がつくと母を抱きしめていた…

「きゃっ!?、ゆ、ゆう??」

「俺がもっと強かったら姉ちゃんは自由になれたんだ……」

「勇…勇は悪くないわ…ほら泣きやんで…お母さんも悲しくなるから。」

いつの間にか涙が溢れていた。

「っ!?ごめんっ!!」
慌てて母から離れる。
涙を拭い深呼吸をする…
「すぅー…はぁー…すぅー…はぁー…相談どころじゃ無くなったね…」

「そうね、でもちゃんと相談にはのるわよ?」

「…また今度でいいや…てゆうか今何時?」

「……8時40分。」

「ええ!??」
454心の隙間:2009/01/19(月) 00:45:33 ID:PfpCdvTi
「九時までに帰らないと!!」
慌てて帰る準備をする。
「ふふふっ、勇はお姉ちゃん大好きなのね。」
母が笑いながら話す

「いや、まぁ…姉ちゃんだからね…あと風邪引いてたから…」

「ちょっと妬けるわね…でもまっ、仕方ないか…私と勇は時間が空きすぎたのね…」

「お母さん…」

「よし!私が家の近くまで送って行くわ、家まで送ると麻奈美が怒るでしょ?」

まぁ姉は良い顔しないわな…
いつか母とお姉ちゃんが仲良くなる日が来るのだろうか…。

いや、またみんなで仲良く話せるように三人の時間をこれからも作ろう。
昔のように過ごせるには時間がかかるかもしれない…でも人生はまだ先が長いんだから時間をかけて溝を埋めていこう。

「うん!お母さんお願い。」
455心の隙間:2009/01/19(月) 00:46:01 ID:PfpCdvTi
玄関を出ると暗闇の中でもわかるぐらい大粒の牡丹雪が空から降り注いでいるのが見えた。

前に姉ちゃんと帰った時も雪が降っていた…あの時は手を繋いで帰ったっけ…。

「勇!!下の駐車場見て!!」
姉ちゃんの子供っぽいところは母譲りみたいだ。
母が七階から上半身を乗り出して下を見ている
俺も同様に下を見る。

「うっわ〜綺麗…真っ白だ…」

地面のアスファルトは完全に雪で隠れ車もすべて真っ白だ…
「こんなに積もったの何年ぶりだろうね!?早く下に降りましょ!!」

母に手を引かれエレベーターに乗り込む
エレベーターに乗ってる間母は手を離さなかった。
早く近くで雪を見たいらしい
すぐに走る準備ができている…

「勇!早く!!」
一階に着きエレベーターのドアが開ききってないにも関わらず走って外に飛び出す
ドアが肩に当たって少し痛かったが
母の喜びようを見るとどうでもよくなる。
「お母さん、走ったら滑るよ」

「まだ若いから大丈夫よ!」


姉が歳をとればお母さんみたいになるのかな…
そんなことを考えながら母が転けないように手を握りマンションからでると、少し離れたところで人影が見えた…。


は…?


姉ちゃん?
456心の隙間:2009/01/19(月) 00:47:40 ID:PfpCdvTi
ガタガタ震えながら立つ姉は顔色が真っ青だった…
すぐに姉に駆け寄りたかったのに……足が全く動かなかった…
「麻奈美!!」
母が俺よりも早く姉に走り近寄る。

俺は母が近寄ると確実に拒否反応がでると思い母を止めようとした。

…しかし姉の行動は考えていたのと全く違った…
「ちょっ!!麻奈美!?なにしてるの!?」


「お母さん…お願いですから…勇を盗らないでください…私は勇しかいないんです…」

――土下座……

姉は雪の中母にむかって地面ギリギリまで頭を下げたのだ。
「麻奈美!!いいから早く立ちなさい!!あなた顔真っ赤じゃない!!」

「お願いします…勇は盗らないでください…家も返すから…」

小さく呟いているのに姉の声は離れている俺のところまで聞こえてくる…


「姉ちゃん違うでしょ…?姉ちゃんは強くて…優しくて…憧れで……うっ!!」


あれ…お腹が痛い…食べ過ぎたのか…な…
「「勇!!!」」


身体に力が入らない……
なんで?雪があか…い…の?
苦し…い…お姉ちゃ…ん
457心の隙間:2009/01/19(月) 00:49:19 ID:PfpCdvTi
「きゅっ救急車呼ばなきゃ!!」

母が慌ててるのが見える……姉ちゃんは?
「勇?大丈夫だからね?すぐに病院いこうね?」

「大丈夫だ…よ、ちょっと転けた…だけだか…ら…それよりお姉ちゃん…風邪引いてるか…ら…早く」

立とうとするがお腹に激痛が走る…

「わかった!!わかったから!!」

母に肩をつかまれる。
そういやお父さんも血吐いたな…お父さん痛くないって言ってたのに…


――「ははっすんごい痛いじゃん」

母がなにか叫んでる……
俺もなにか返さなきゃ…
「安心して…大丈夫だか…ら泣かな…いで…」


――気を失う前に聞こえた最後の声は俺の名前を呼ぶ姉の声だった。




なんでだろう……





無性に姉に顔が見たくなった。
458心の隙間:2009/01/19(月) 00:53:47 ID:PfpCdvTi
ありがとうございます。

今日はこれで終わりです。
次はちょっと投下遅くなるかも…
でもなるべく早く続きを書くのでお許しを。
では。
459名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 01:03:57 ID:1DOVW1wP
こういう話が好きな人もいるだろうしスレ違いじゃないんだけど、自分としてはちょっと残念な展開・・・
460名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 01:52:25 ID:q2QkiRJP
・・・・・・・・・・・エロは・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「父さんの嘘つき!今度の日曜はエロ入れてくれるって言ったじゃないか!うぇーん」
461名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 02:52:00 ID:tDYaHupy
え?これって、ただ単に勇が腹痛で倒れたってこと?それとも
誰かに、なんかされたん??
462名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 02:56:42 ID:PfpCdvTi
書いてる文足りなかったですかね。
誰かになにかされた訳ではありません
463名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 02:59:00 ID:PfpCdvTi
あっ今見たら姉に刺されたと思いますねw
スイマセンでした
464名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 03:57:13 ID:ibg0PJw4
食い過ぎじゃ吐血しないよな……
465名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 04:28:17 ID:gcDrLvw9
>>464
いや、食い過ぎと吐血100%関係ないでしょw
466名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 11:55:16 ID:tWuBJw3Y
父親も吐血したっていう描写があったから遺伝的な病気かな?なんて思ったり
467ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/01/19(月) 21:30:47 ID:87xMjrJb
<やまいぬ>・3

私が「貴方が私に望んでいること」を理解できるようになるまで時間を与えてください。(犬の十戒より)

はあ、はあ。
はあ、はあ。
はあっ、はあっ。
自分の息遣いが、どんどん荒くなっていくのがわかる。
いつになっても、慣れない。
どきどきする。
ぞくぞくする。
──佐奈と交わるのは。
床に這った佐奈の白い大きなお尻を、後ろから抱え込む。
成熟し、脂の乗った女の人のお尻。
それは、十五歳の小柄な「子供」には、過ぎた代物だ。
戸惑いと、焦りと、そして欲情。
僕のあそこは、かちんかちんだった。
「ふふふ、どうしたかえ? いつもよりも堅くて熱いぞえ、主どの?」
振り返った佐奈が、弄うようにささやいた。
白磁の美貌の中で、唯一赤い──血のように紅い唇の端がきゅっっと吊り上っている。
それは微笑なのだろうか、それとも──。
わからない。
わからないまま、腰を振った。
「おお、逞しや」
佐奈が仰け反る。
でも、それは、たっぷりと余裕を残した反応。
その証拠に、自分から腰を振った佐奈の「中」が、なぶるように僕の性器を弄ぶ。
「……くっ……」
危うくいきそうになって、僕は、奥歯をかんでこらえた。
468ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/01/19(月) 21:31:17 ID:87xMjrJb
セックスなんか、よく分からない。
佐奈と交わることは、神社の人たち──相馬さんや岩代さんから勧められている。
凶神に人間の言うことを聞かせるのは大変なことだ。
人が願っても、聞き入れられることはない。
だから、人は、食欲、睡眠欲、物欲、破壊欲――欲望で神を釣り、取引をする。
性欲を刺激するは、その中でも食欲と並んで一番効果的な方法だと言う。
<女神>の飼い主なら、なおさらだ。
「友哉様。何のために、<凶犬神>の宮司が、神と異なる性の人間に定められていると思っているのです?」
佐奈がはじめて発情した日、僕に相談された岩代さんは、
眼鏡の奥の瞳に、何の感情も浮かべずに言った。
その日から、僕は佐奈と交わっている。
多分、同級生の誰よりも、セックスをした回数は多いんじゃないかと思う。
佐奈は、綺麗で、成熟して、そして淫らな女神だ。
交わり始めれば何度も僕を求めてくるし、僕のほうも何度しても欲望が尽きない。
教室で、すすんでいる子たちが、誰としたとか、
どこでどうやってしたとか、話しているのを耳にすることがある。
僕なんかは、みんなからまるっきり未経験と思われているだろうし、
実際そうしたことで、からかわれたこともある。
でも、「神社」に戻れば、僕は、こうして毎日佐奈を抱いている。
だけど、――セックスは、よくわからない。
こうしていると気持ちいいけど、ものすごく気持ちいいけど、
これは正しい交わり方なのだろうか。
DVDとか本とかで、知識は仕入れている。
でも、細かい──あるいは根本的なところで、
自分のこのセックスは間違っているんじゃないか、といつも不安になる。
同級生が熱心にひそひそ話しているセックス。
あの娘をいかせたとか、何をしてもらったとか。
ひょっとしたら、僕が今しているこれは、彼らがしているものとは違っていて、
そして佐奈はこれに満足していないんじゃないか。
僕は、それがとても不安だった。
469ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/01/19(月) 21:31:48 ID:87xMjrJb
「残念ながら、これ以上はどうアドバイスもできません」
恥を忍んで相談した相馬さんも、岩代さんもそう言った。
DVDやビデオ、それに聞きかじりの知識。
──それが佐奈の「許容範囲」だった。
佐奈は、僕が他の人間と親しく交わることを望まない。
まして、他の「牝」との性行為はなおさらだ。
佐奈は「凶犬神」。
あらゆる事象を「嗅ぎ取る」ことができる「鼻」を持つ。
それはつまり、僕が他の女性と交わって「練習」したり、
あるいは他の人間の交わりを生で見て「勉強」したりすることが不可能ということを意味する。
僕は、人間の女の子とセックスしたこともないのに、
女神、それも狂った女神としている。
──不安。
佐奈は、――この女神は、僕の捧げる「貢物」に満足しているのだろうか。
白くて大きなお尻を後ろから抱きながら、僕は、焦燥にも似た感情を抱く。
それは、経験の少ない男の子が、今、接している女の子、
それも自分よりはるかに成熟した、強力な女神への畏れ──。
牡と牝との間に、これほど力の隔たりのある二人。
いや。
一人と一柱は、交わってもいいのだろうか。
「……」
不意に、佐奈が振り返った。
四つん這いの肩越しに、強い視線が僕を突き刺す。
「どうしたかえ? 何を考えておる?」
「……い、いや。何も……」
「余計なことを考えるでない。わらわだけを感じや。――主どの?」
最後にとってつけたような、「飼い主」に呼びかける言葉。
佐奈は、まだ僕のことをある字だと思っていてくれているのだろうか。
──それとも……。
そう思った瞬間、佐奈が腰を僅かにゆすり、僕は悲鳴を上げた。
470ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/01/19(月) 21:32:19 ID:87xMjrJb
締まる。
佐奈のぬるぬるとした粘膜が、急に荒ぶる。
自分を深く貫いている僕の性器を、肉の洞(うろ)が包み込む。
いや。
これは、僕が貫いているんじゃない。
これは、僕がくわえ込まれているのだ。
佐奈の性器──佐奈の顎(あぎと)に。
喰われる。
尖った、敏感な、聖気の先っぽから。
白い肉の中の、薄桃色の粘膜。
それが、白い牙と、真っ赤な口に化けたような気がして、
僕は背筋が凍りついたように硬直した。
「……」
すがめた目で、佐奈が僕を睨む。
「いかぬかや? ―−いけ、主どの」
傲慢なまでの一言とともに、佐奈が、腰を激しくゆすった。
「ああっ!」
唇からまるで女の子のように高くて甘い悲鳴が漏れる。
同時に、僕は佐奈の中に射精していた。
「ちょっと、あっ、待って、待っ──!!」
耐えようとする僕の努力を、佐奈の白くて大きなお尻は無視した。
僕の下腹にぴったりと吸い付くように触れている滑らかな肌は、
そこから僕の動きを見通しているかのように、僕を放さない。
僕は、佐奈の中に射精し続けるしかなかった。
何度も、何度も、退職の限界まで。
搾り取られる、毟り取られる、吸い取られる。
身体の中身を丸ごと、全て。
頭の中が真っ白になって、やがてそれが真っ暗へ変わる。
気を失う瞬間、僕は佐奈の声を確かに聞いた。
「わらわが怖いかえ? ――いい気味じゃ」
471ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/01/19(月) 21:34:09 ID:87xMjrJb
思い出して下さい。
私には貴方の手の骨を簡単に噛み砕くことができる歯があります。(犬の十戒より)

夢。
闇の中。

灯りは、いつの間にか消えていた。
僕は、――目が覚めたのか?
それとも……。

夢現(ゆめうつつ)
暗闇の中。

誰かが僕のそばにいる。
ああ、これは、佐奈だ。
僕の佐奈。
佐奈の匂い、佐奈の息遣い、佐奈の体温。
でも──。
「わらわが怖いかえ? ――いい気味じゃ」
気を失う前に耳にした佐奈のことばを思い出し、僕は愕然と跳ね起きた。

暗黒の中。
現実。

僕は、凶犬神と二人きりで、光が一切ない部屋の中に閉じ込められていた。
灯りは、灯りはどうしたのだ。
佐奈の気配だけが、闇の中で感じ取れる。
窺っている。
僕のことを。
闇を友とする、盲目の狂犬が。
472ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/01/19(月) 21:35:01 ID:87xMjrJb
「……」
何か言おうとして、僕は、声が出なかった。
締め切られ、幾重にも結界を張られた本殿の中は、
光を失えば、真の闇の中に閉ざされる。
それは、佐奈の空間。
佐奈が閉じ込められている世界そのもの。
こうした状態が、どれだけ危険か、「神社」の人たちからよく聞かされている。
「狂える神」は、例外なく人間を憎んでいる。
人間に作られ、人間に使われる神なら、なおさら。
「凶犬神」を生まれたときから「飼う」のは、決して安全なことではない。
それだけ強力で、狂った女神だから、生まれたときから縛るのだ。
それは、つまり、そうでもしないと手に負えないほどの凶神(まがつかみ)だということ。
飼われること、養われること。
目も見えず、力も弱い、犬と人の間の弱い赤ん坊。
庇護し、世話をし、愛情をついでくれる「飼い主」に抱くのは、
感謝と、信頼と、愛情。
でも、だけど──。
長じて力を持ち、全てを「嗅ぐ」ことができるようになった女神。
それが、自分と言う呪わしい存在を生んだ張本人だと知ったときに抱くのは、
──感謝と、信頼と、愛情であり続けるだろうか。
力を高めるために、目から光を奪い、
その力を支配するために結界の中に閉じ込め、
この世ならぬものを「嗅ぐ」ことを強制し続ける「飼い主」の正体を知ったとき、
女神が抱く感情は──。
事実、何人もの犬養の宮司は、飼い犬に「喰われて」いる。
比喩ではない。
文字通り、喰われたのだ。
脳裏に、灰燼と化した本殿跡が浮かぶ。
何代か前の「凶犬神」の住まい。
──三日経っても宮司が戻らぬ場合、それは、女神が自分の「飼い主」を喰い殺してしまったのだ。
473ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/01/19(月) 21:35:32 ID:87xMjrJb
以後の、食事も、世話も、つまり自分の生命までも拒否して「飼い主」を殺す。
凶犬神は、そこまで歪んで狂ってしまうのだ。
結界ごと焼き払われた跡地を見たとき、
僕は、僕が佐奈にそうされる日が来ないという保証がどこにもない事を知った。

「――目が覚めたかや?」
闇の中での、問い。
「あ、ああ……」

「――わらわが怖いか、主どの?」
暗闇の中での、問い。
「……怖い。怖いよ」

「――いい気味じゃ」
暗黒の中での、ことば。
「……いい気味か──」

ふっと、近づく気配。
佐奈は、僕が思っていたよりも、ずっと近いところにいた。
暖かな舌が、べろりと、頬を舐められる。
いつか、―−ずっとずっと昔に、佐奈にそうされたように。
「いい気味じゃ。――佐奈は、友哉のほうがずっとずっと怖い」
「――え……」
拗ねたような声。
それには、隠しようのない甘えがこもっている。
僕が良く知っている、佐奈の声。
「わらわが、友哉に捨てられることをどれだけ畏れておるか。
──たまには、思い知るが良い。――いい気味じゃ」
暗闇の中で、床に優しく押し倒される。
佐奈が一人、ずっとずっと僕だけを待っていた闇の中で。
474ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/01/19(月) 21:36:25 ID:87xMjrJb
「あ……」
そして、僕は、佐奈がいつもどんな思いで僕を待っているのかを、はじめて知った。

涙が溢れる。
頬を伝うその涙を、佐奈が舐め取る。

飼い主よりも、ずっと成熟してしまった犬が。
飼い主よりも、ずっと力を持ってしまった犬が。

飼い主から恐がられてしまった犬が。
飼い主──世界の全てから恐がられてしまって、
飼い主に捨てられることを畏れて、
飼い主よりもずっとずっと怖い思いをしている犬が。

そんなことを、そんな単純なことをはじめて知った
愚かな飼い主は、ことばもなくただ泣き続け、
僕の犬は、ただただそれを慰め続けた。
優しい闇の中で。


思い出して下さい。
私には貴方の手の骨を簡単に噛み砕くことができる歯があります。

──けれども、私は貴方を噛まないように決めている事を。(犬の十戒より)


思い出してください。
貴方には仕事や楽しみがありますし、友達だっているでしょう。
でも……、私には貴方だけしかいないのです。(犬の十戒より)


そして──どうか忘れないで下さい。私が貴方を愛していることを。(犬の十戒より)


                   fin
475名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 21:46:55 ID:oDUgHCJH
ぐっ…GJ!!
ラストにほろりとしてしまった…
476名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 21:56:51 ID:tDYaHupy
GJ!!
やっぱ、あんた最高だ!!!!
477名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 22:00:21 ID:sFnOPBNT
GJ!!
素敵!
478名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 22:43:32 ID:g3yJQY8m
やまいぬで抜くの23回目です
479名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 23:15:33 ID:g90G7UXb
GJ!!
480名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 23:19:08 ID:0u2wqRT1
GJ!! 以外の言葉は見当たらん。
481名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 23:55:55 ID:ttONECFv
いいなぁ、<やまいぬ>今までので一番好きです。ラストがあっさりめなのが個人的には惜しいですけど
後日談とかどうだろうか?
依存系小説はファンタジー要素無の現代が舞台という、固定観念を見事に打破したところも素晴らしいし、
犬の性質やら呪術的要素を取り入れることを選択したのも素晴らしい。設定の一つ一つが魅力的過ぎる、
アイデアの勝利にゲーパロ氏の技量が加わったこの作品は最強ですよ。
ああ、佐奈の可愛いところもっと見たいなぁ……
482名無しさん@ピンキー:2009/01/20(火) 00:12:57 ID:OBLPOtNs
gj
これはいい神
待ってたかいがありました  
483心の隙間:2009/01/20(火) 06:27:20 ID:DJHNV9YO
――なんとかタクシーでお母さんのマンションにたどり着いたのはいいが、母の部屋まで行っていいのか、勇に電話をして出てきてもらうか迷っていた。

ここまで勇を迎えにきたんだ…勇からすれば迷惑に違いない。
ただ待ってることは出来なかった…もし勇が母と暮らし、私達の家に帰ってこなかったら私は一人になる……そうなれば私は父に会いに行くだろう…一人は耐えられない。

「……勇にメールしよう…」

もし電話で拒否されたら立ち直れない…勇の声で否定されたら……
そう思い携帯を取り出すとマンションから見覚えある人が小走りで出てきた…




「勇…と…お母さん」
手繋いでる…楽しそう…

「……あっ」

勇が私に気づく…その顔はどこか怒っていて、寂しく、私を哀れんでるような顔に見えた…

「麻奈美!!」
お母さんも私に気づいたようだ、名前を呼びながら私に駆け寄ってくる…

もう私はなにも持っていない…勇からお母さんを遠ざける術がなにもない……

母にお願いしよう……心から言えばわかってくれるはず…

私は地面に座り母頭を下げる…
「お母さん…お願いですから…勇を盗らないでください…私は勇しかいないんです…」
484心の隙間:2009/01/20(火) 06:28:00 ID:DJHNV9YO
母がなにか言ってるが頭がクラクラして聞こえない、まだ勇を連れていこうとしてる?お願いしなきゃ…
「お願いします…勇は盗らないでください…家も返すから…」

これでダメなら……



――『姉ちゃん違うでしょ…?』


あれ…勇の…声…?


『姉ちゃんは強くて…』


わたしは勇がいなきゃ……


『優しくて…』


勇のほうが……


『憧れで……』


勇が私に憧れ…



私は勇…の…お姉ちゃん…。
485心の隙間:2009/01/20(火) 06:28:34 ID:DJHNV9YO
勇が私の名前を呼んだ……立たなきゃ…

……ドサッ……



……え?

……勇?

……なんで寝て…ッ!!

「勇!!」
勇を助けなきゃ…
「足が…」
動かない…
母が勇に駆け寄っていくのが見える…

「うぅ…ぁ…(お母さん!!勇を助けて!!)」
声がでない…

「(勇!!まって!!すぐにっ!!)」
視界がぐにゃぐにゃになっている…。
なのに勇の姿ははっきりと見える…


――「はぁ、はぁ…ゆ…う…」

やっとでた言葉…あまりにも小さく弱々しい声は勇に届くはずがない。

動かない足をズルズルと引きずり、柵に手を掛け無理矢理に足を進める…

「もう少し…もう少しで…」
勇の顔が見える…

母が携帯で電話をしている…救急車を呼ぶのだろう。
「はぁ…はぁ…ゆう…もう大丈夫だ…か…」



――勇?なんで笑ってるの……



そんなに苦しそうに笑わないで……
486心の隙間:2009/01/20(火) 06:29:00 ID:DJHNV9YO
―――――――――――――ここは?――――――――――――

目を覚ますと真っ白の部屋にいた。
真っ先に視界に入ったのは蛍光灯……
身体には布団が掛けられている…
少し重たいが、上半身を持ち上げて座る。

「ここどこだろ…?」
周りを見渡すが部屋の中にはなにもない…
ふと腕に違和感を感じて腕を見る。
なにか刺さってる…
「点滴……病院?」

そうだっ私風邪引いてたんだ…でも誰が病院まで…
周りを見渡すが誰もいない。

「…勇がここまで連れてきてくれたんだ…」

やっぱり勇に迷惑かけた…
たしかあの夜勇を迎えに行って…それから…頭がクラクラして…勇が…


「え……勇…?」
たしか勇が倒れて…助けに行かなきゃって…

「ッ!?勇!!」

思い出した…確か勇も救急車で運ばれたはず!!
「今から、いくからね…勇ッ」
ベッドから降りようとすると点滴に繋がれてることを思い出す…
「……こんな物ッ!!」




「なにやってるの!?やめなさい!!麻奈美!!」
点滴の管を掴み、引き抜こうとすると母が扉から入ってきた。

「お母さん…?」

「あんたね…まず自分の身体を治しなさい。」


「お母さん……勇は?」
487心の隙間:2009/01/20(火) 06:29:32 ID:DJHNV9YO
「勇は……今検査中よ…」
お母さんの顔が一瞬にして曇る…

「お母さん…勇なにかの病気なの?吐血するなんて……」

「わからないわ…ただ病気だとするとあまり軽い病気ではないでしょうね…」

「もしかして…お父さんと……」

「麻奈美!!!」
母の大きな声にビクッとなる。

「でかい声だしてごめんなさい…今は麻奈ちゃんも身体を休めなさい。」

「勇に会いたい…」

「すぐに会えるわ…それまでに身体を治しなさい…勇に笑われるわよ?」
母が手を振り出ていく。
私はそれをふり返す訳でもなく、ただ母の後ろ姿を見ていた…

「勇……」

勇もお父さんと同じようにいなくなるの?
私はどうすれば……

――「私のなにが気に食わないのよ…役立たず。」

熱で思うように動かない自分の体を睨みつけ言い放つ。

しょうがないので上半身をベッドに戻す。
布団を肩まで掛け、目を瞑る……





――お姉ちゃん…




「……勇」

目を開けようが瞑ってようが、勇のことが頭から離れない…
488心の隙間:2009/01/20(火) 06:30:00 ID:DJHNV9YO
――ふぅ……麻奈美も勇の事になると周りが見えなくなるわね……
「周りじゃなくて…自分が見えないのか…」

やはり麻奈美は私と同じ過ちを犯した…
私は勇をこの手で縛り付け
麻奈美は自分を傷つけて勇の性格を逆手に取った…
なぜこうも悪いところだけ似てくるのだろうか…

「私もバカだな…勇の事になると周りが見えなくなる…」

ふぅっとため息を吐き袖を捲り上げる…
勇の診察中、自分を抱きしめる形で腕を必死に握ってた…結果皮膚に爪が食い込んで血が出てしまった…

「後で消毒してもらわなきゃ…」
服に血が付くが仕方がない…

さっき麻奈美に言われた、もしあの人と同じ癌なら……


嫌な汗が一気に吹き出す。


「絶対にダメよ!勇はまだ若いもの!!ガンなんかになってたまるものですか!!」

そう自分に言い聞かせないと、まともに立っていられない…。




あなたお願い…勇を連れていかないで……。
489心の隙間:2009/01/20(火) 06:30:51 ID:DJHNV9YO
―――――――――――――夢を見た――――――――――――

父と2人で散歩している夢…

なぜか懐かしいとは感じなかった…
死んだ父が出てきても当たり前のように接していた…。

昔は夕方まで遊んでいると父が迎えにきてくれた…帰り道に手を繋ぎ夕焼けの河原道を2人で歩いて帰った…

あの時の俺はまだ四年生だった…
だが夢の俺は現代の年代の姿形をしていた。

「勇、ちょっと疲れたか?」
父が優しく話しかけてくる。

「うん…ちょっとだけね…なんか眠たい…」

「よし、おんぶしてやろう!」

「いや、この歳で恥ずかしいよ…」
さすがに高校生でおんぶは恥ずかしい…。

「あほか、子供は親に甘えるのが仕事だ早く乗れ!!」
父が俺の前に座り手を後ろにする。

「俺…昔と違うけどおんぶなんてできるの?」

「子供担げない父親がどこにいるんだ!さっさと乗れ!」

「はぁ、わかったよ」
しかたなく父親の背中に乗る。

「おっ?なかなか重いな…健康に育ってる証拠だな。」

「足プルプルしてんじゃん…」

「ははっ大丈夫だよ」
――俺は成長したはずだ。
なのに父の背中は子供の頃に見たあの時とまったく変わっていなかった。
490心の隙間:2009/01/20(火) 06:31:32 ID:DJHNV9YO
――「あれ?見てよ、お姉ちゃんとお母さんだ…」
100メートルほど先に母と姉が立っている…
「おーいっ!!」

手を振ると母と姉も手を振り返えしてきた…
「ははっ…さっ早く帰ろっ!!」

「……」

「お父さん?」

「んじゃっここでお別れだな…」
父の手が俺の太ももから離れていく…

「は?…なんで?」

「なんでって、わかるだろ?」

「わからないよ!!帰る家は一緒でしょ!?家族なんだから!!」

本当はわかってる。

「唯一無二の家族だ…だが行く場所は違う…勇はまだやらなきゃいけないことが山ほどあるだろ?」

「お父さんと一緒にしたいことが山ほどあるんだ!!」

「それを麻奈美と一緒にしてあげてくれ…」

「お父さんに聞いてほしい相談がいっぱいあるんだ!!」

「それをお母さんに聞かせてあげてくれ…」

「まだお父さんに甘えたい!!」

「疲れたら2人に甘えればいい…その代わりいざとなったら勇が2人を守るんだぞ。」

「まってよ!!お父さん!!」

「ずっと見守ってるからな……愛してるぞバカ息子。」






「お父さんっ!!!」
491心の隙間:2009/01/20(火) 06:46:32 ID:DJHNV9YO
今日の投下終了です。
もうすぐ完結すると思うのですが…次こそちょっと遅くなるかも…
では
492心の隙間:2009/01/20(火) 06:53:31 ID:DJHNV9YO
ゲーパロさん楽しかったです
超GJ!
次も楽しみです
493名無しさん@ピンキー:2009/01/20(火) 19:00:18 ID:Bwxsdx8U
ゲーパロ氏最高すぎだろ……いぬがみはシリーズになったりしませんかね。やばいハマった
494名無しさん@ピンキー:2009/01/20(火) 21:23:34 ID:Rq7tgkiM
ゲーパロ氏の作品はいつどこで何を見ても最高だ
まず設定からしてすごいわ。ゲーパロ氏になら抱かれてもいい
495名無しさん@ピンキー:2009/01/20(火) 21:23:48 ID:3BYCFVdL
いぬがみって平仮名で書くと某裸王ラノベを思い出すから困る。
あれも重度の依存娘がヒロインだけどな。
496名無しさん@ピンキー:2009/01/20(火) 21:43:50 ID:lDI7ZE9Q
おおう沢山投下きてたっ。
作家の皆さんGJです!
497名無しさん@ピンキー:2009/01/21(水) 22:59:51 ID:15sdnR5c
>>491
GJ!!この後で凪の出番はあるのでしょうか?
498名無しさん@ピンキー:2009/01/24(土) 20:58:19 ID:/ps+PZN4
最近は1日に一回投下あったのに…

保守
499名無しさん@ピンキー:2009/01/24(土) 23:09:15 ID:QXcIDF/o
とりあえずヤンデレ展開でなくて(?)良かった
おやぢGJ!
500名無しさん@ピンキー:2009/01/25(日) 14:55:16 ID:KLGyxMKB
GJ!
母と姉ちゃんの和解おねがい〜
501名無しさん@ピンキー:2009/01/28(水) 11:36:52 ID:sdv4hVlu
誰もいないね〜
502名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 01:11:56 ID:Q+VmOawj

「お父さんっ!!!」 「キャスバル父さん!!!」
503名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 18:03:23 ID:I9sRVHnv
キャスバル「はっはっは・・・どうだ、冒険は楽しいだろう!」
504名無しさん@ピンキー:2009/01/31(土) 18:29:43 ID:3yJ2xeX1
age
505名無しさん@ピンキー:2009/02/01(日) 02:49:32 ID:NHkD0Fjd
>>503
そりゃキャッシュじゃねーの?
506名無しさん@ピンキー:2009/02/02(月) 22:27:19 ID:jZsjqo6c
続きマダー?
507名無しさん@ピンキー:2009/02/06(金) 14:35:08 ID:J3NCdONK
ここ人少ないな…いいスレなのに…
508名無しさん@ピンキー:2009/02/06(金) 23:18:11 ID:e4T+kflx
一番好きなジャンルなのに人がいないという…
509名無しさん@ピンキー:2009/02/06(金) 23:20:49 ID:sac5FUFT
てか、心の隙間どうしたんだろうね?
510名無しさん@ピンキー:2009/02/08(日) 11:45:22 ID:84n24osa
良い依存のある小説漫画を教えてけれ
511名無しさん@ピンキー:2009/02/08(日) 19:12:17 ID:SrLVkJDe
羊のうた
512名無しさん@ピンキー:2009/02/08(日) 20:23:05 ID:GjBQCISI
>>510
「なるたる」
513名無しさん@ピンキー:2009/02/08(日) 22:04:49 ID:XowV8fmT
やめろー!やめてくれー!
514名無しさん@ピンキー:2009/02/08(日) 23:47:52 ID:MEliLDVF
なるたる読んだことないけど結構な鬱らしいな
鬱エンドはヤンデレで十分だよ…
515名無しさん@ピンキー:2009/02/09(月) 02:22:31 ID:Wap9i1hr
依存は普通にヤンデレの一種だと思うが
516名無しさん@ピンキー:2009/02/09(月) 02:49:06 ID:W2BiHRJH
すまんな言い方が悪かった
最近よく見る、殺傷沙汰起こすヤンデレの事を言いたかったんだ
こういうヤンデレは何て呼んだらいいの?
517名無しさん@ピンキー:2009/02/09(月) 02:51:10 ID:YpbAVXnZ
サイコ?
518名無しさん@ピンキー:2009/02/09(月) 16:28:23 ID:LyPynvXu
最近になって映画化した「空の境界」も、なにげにヒロインは依存タイプだと思う
ナイフ振り回したり主人公を一度殺しかけてるせいかヤンデレ扱いされることが
多いけど
519名無しさん@ピンキー:2009/02/09(月) 16:40:23 ID:CQ4r8t9n
>空の境界
映画版の一作目のラストで敵と戦った際に「自分が最初に見つけた」
ってな感じの台詞があるしな。
520名無しさん@ピンキー:2009/02/09(月) 18:01:32 ID:3MQPmBPn
ああ、男を誘拐?した敵に対して、お前なんてどうでもいいけど、拠り所にしたのはこっちが先なんだから、返してもらう
みたいな台詞言ってたね。
あと、男に暫く会ってないだけで、ものすごく不機嫌になってきたりとか
521名無しさん@ピンキー:2009/02/09(月) 18:41:29 ID:CQ4r8t9n
>>520
それそれ、その台詞。
今DVD見て確認してたw
やっぱり依存型彼女だなあれは。

修羅場じゃないが自分の惚れた男を助けるor守るために敵を皆殺し
に来る女ってのは何気にツボだ。
522名無しさん@ピンキー:2009/02/09(月) 21:49:11 ID:Td/jQHWZ
そもそも原作の最終章では「お前がいないと生きていけない」発言があるしな
523名無しさん@ピンキー:2009/02/10(火) 00:38:11 ID:gpX2t7XG
空の境界は上巻で読むのやめてたな
今度続き買ってみるか
524名無しさん@ピンキー:2009/02/10(火) 01:04:05 ID:r6HXcmx+
作者いないね〜
525名無しさん@ピンキー:2009/02/10(火) 03:16:23 ID:zqh4Qlba
お互いが寄り掛かってるような依存も良いけど、ドロドロに溶けて混ざりあってるような依存が特に好きです
526名無しさん@ピンキー:2009/02/11(水) 00:51:06 ID:/I8IUj9n
知名度低いんだろうなぁ…このスレ
527名無しさん@ピンキー:2009/02/11(水) 17:20:27 ID:3F+5oc7W
だろうなぁ
自分的には依存ってヤンデレと違うものだと思ってる
528名無しさん@ピンキー:2009/02/11(水) 18:27:12 ID:EaY0db7K
そもそもヤンデレの定義がよく解らない
相手を病的に愛するのがヤンデレなら依存も同類だと思うけど、ヤンデレスレとか見たらとても同類には見えない
529名無しさん@ピンキー:2009/02/11(水) 22:16:36 ID:VaAubQAL
ヤンデレ自体も定義しづらい概念だからなぁ…

恋敵を殺した、痛めつけたがヤンデレなんだみたいな傾向があるけど
根本にあるのは「私から離れないで、私だけを見て欲しい」
っていう依存心だと思う

依存心が病的なまでになっちゃうとヤンデレ、一歩手前が依存かなぁ…


個人的な見解でスマン
530名無しさん@ピンキー:2009/02/11(水) 22:27:50 ID:YHjozVKO
依存は愛
ヤンは恋
愛は献身
恋は独占
531名無しさん@ピンキー:2009/02/12(木) 02:01:47 ID:2GJa5MNb
依存が悪化したらヤンデレ?
俺もあんまり区別つかんな。
自分と男のためなら人殺す、これが一番わかりやすいヤンデレでしょ?

依存は人を怪我させない?
でもゲーパロも心の隙間も人を怪我させてるしな…
意味わかんね
532名無しさん@ピンキー:2009/02/12(木) 02:13:07 ID:Z+xgEE5J
ヤンデレ辞典なるところからコピペ

>「ヤンデレ」とは

>「ある対象に対して社会通念上から病的とみなされるほど深い情念や執着を抱え込み、それを原動力として
>過激な求愛、排他、自傷、他傷など極端で異常な言動に駆られるキャラクター、もしくはその状態」のことであり
>大きく分けて

>1 「ある対象に好意、恋愛感情を持っているが、第三者が割り込む、介入や対象に届かない、
>  通じないことへの煩悶によるストレスの蓄積が募り精神に異常を来たしたキャラクター、もしくは状態」
>2 「トラウマやコンプレックス、フェチズム、思想など初めからなんらかの精神的な傷や執着があり、
>  それがある対象に恋愛感情を持つことで浮き彫りになったり悪化して一種の暴走をするキャラクター、もしくは状態」
>の2パターンに分けられる

らしいので「貴方なしでは生きられない」レベルまでいっちゃうとヤンデレ
それより手前にいるならヤンデレになる可能性がある依存系ってところなのかな
533名無しさん@ピンキー:2009/02/12(木) 04:53:06 ID:Fagx3V66
貴方なしでは〜って方向性だとヤンデレも依存も類似してしまうような気がするですよ個人的に

ヤンデレは、愛情が憎悪に直結する傾向で、
依存は独占欲を通り越して相手と自分を同一化しようとする感じ
だから台詞にすると
ヤンデレは「彼は私の恋人よこの泥棒猫!」で
依存は「キミがいないと生きていけないの……」なんだと思う

そーゆー意味では、依存と言うのは「ヤンデレ」ヒロインが多く持つが故に、
ヤンデレというカテゴリに一緒に括られた、基軸の違う要素であるのだと言ってみます。
つまりこのスレはヤンデレと掠っているように見えるが、
「依存」というを更にマイノリティな要素を精密に抽出しようと……
え、何?モニターばかり見るな?
いやそれなら帰ればいいんじゃ、明日も忙しいんだしって待ちなさい話合おうだから竹刀を



ボスケテ
534名無しさん@ピンキー:2009/02/12(木) 05:10:34 ID:rtzef4Cm
つ、つまり柿ピーのピーナッツてことだな!!
535名無しさん@ピンキー:2009/02/12(木) 08:24:55 ID:96aqUQzU
ヤンデレ「あなたは私のもの」
依存「私はあなたのもの」
536名無しさん@ピンキー:2009/02/12(木) 13:04:13 ID:A4dJpnsh
ヤンデレは自分の価値観がすべて。相手の都合など知ったこっちゃない
依存は相手(対象物)の価値観がすべて。自分の都合など知ったこっちゃない

根本は同じだが執着心のベクトルが真逆。
537名無しさん@ピンキー:2009/02/12(木) 23:13:35 ID:7m/0M08g
>>535
それだ!
538名無しさん@ピンキー:2009/02/13(金) 00:09:26 ID:4Fn7I991
>>535
なんと分かりやすい
539心の隙間:2009/02/13(金) 10:40:43 ID:T+aoaCDe
遅くなってスイマセンでした…
微熱のインフルエンザとかあるんですね
すごくしんどかったです。
15日、遅くても16日の夜中までには投下します。
540名無しさん@ピンキー:2009/02/13(金) 13:12:55 ID:4Fn7I991
キタ━━━(゚∀゚)━━━!!
541名無しさん@ピンキー:2009/02/13(金) 22:41:44 ID:v7g56UAZ
おお待ってました!! 止まっちゃったのかと思って、心配してました!!
542名無しさん@ピンキー:2009/02/14(土) 03:01:39 ID:Np51smAw
>>539おお、ようやっと続きが読める
543名無しさん@ピンキー:2009/02/14(土) 17:44:29 ID:1TG68YMI
今wikiでACの項を見ていたが、中々おもしろいね。
依存と共通点がいくつもある。
544心の隙間:2009/02/15(日) 18:17:39 ID:jSQHCAMk
――――――――――――お父さん…―――――――――――――



「ぅ…ん……」



眩しい…頭が…グラグラする…それに独特の嫌な薬の匂い…




――目が覚めると自分の部屋じゃない見知らぬ個室のベッドに寝かされていた…。
夢の余韻が残っていていまいち頭が働かない。


「………(ここどこだろ)」

起きあがるために、手すりに手を伸ばそうとするが身体が重くて思うように動いてくれない…
自分の身体じゃない感覚に襲われ吐き気がする。

(頭がクラクラするのは…なんだろう…視界がぼやけて………)
目だけで周りを見渡すと、少しぼやけてだが人らしき姿が見える。

「……(姉ちゃん?)」

目覚めた俺に気がついたのか、その物体はベッドの側まで近寄ってきた…。
最低限人間だとシルエットでわかるが、なぜか恐怖心はまったくなかった。

「(誰だろ…もう少し近くに寄って来てくれたら…)」

目を凝らすが、やはりぼやけてハッキリと見えない…
仕方がないので声をかけようと息を吸うと、不意に頬を撫でられた。


「勇……目が覚めた?…まだ薬が効いてるからちょっと辛いでしょ?」


声を聞いてやっとわかった。

「………(あぁ…お母さんか…)」
545心の隙間:2009/02/15(日) 18:18:15 ID:jSQHCAMk
肌を撫でられてる感覚はあまり感じないが、嗅覚で感じる優しい匂い。

…母の匂いがする…

「まだ眠たいでしょ?…お母さん横にいるから寝ていいよ?」

「コクッ……」

少ししか動かない体を無理矢理動かして頷く。


――夢を見ていた時は父のことで頭がいっぱいだったのに意識が現実に戻ると父のことはあまり気にならなかった…
もう夢の内容もほとんど忘れている。
父と一緒に歩いていたこと、あと父に言われた最後の言葉だけ頭に残っている…

「……(甘えろ……か……)」

父や姉に甘えていたのは覚えている…ただ母に甘えた記憶はまったく無い。

なのに母の匂いに包まれると安心するのはなんでだろう…

(もう少し寝よ…)

ぼやけた母の顔を目に焼き付け、目を閉じる。



頭に浮かぶのは父のことではなく、楽しく三人で暮らす未来の家族予想図。






――なぜかわからない………ただ、もう父には会えない気がした…。
546心の隙間:2009/02/15(日) 18:18:52 ID:jSQHCAMk
――「……よかった…」

勇が寝たのを確認し、病室から出た瞬間安堵からか、足の力が抜けて座り込んでしまった…。
壁の手摺りを両手で掴むが、足がおぼつかない。
手摺りに体を預けて、少しずつだけど、なんとかベンチまで歩いてこれた。

「よ…っと………ふぅ〜…」

ベンチに座ると、本格的に全身の力が抜けていくのが分かった。

「…麻奈ちゃんにも教えてあげなきゃね……ふふっ……また熱ぶり返しそうだけど。」

麻奈美はというと。病院にはこばれてきた時は40℃以上熱があったのだが、点滴の効果で今は微熱程度に下がっている。
顔色も良くなって気分も楽みたいだ。


「あの子の半分は、勇で出来てるような物だから……喜ぶ顔が目に浮かぶわね………。」


――私が出ていった後、麻奈美は本当に頑張ってくれたと思う。
勇の姉として、お母さんとして、家族として、一番の理解者としても…。

私が出来なかったこと、なにが一番勇の幸せかを、探し出せなかった……最終的に麻奈美を追い込んだのは私…。

私の考えの甘さが招いた罪。
あわよくば、昔みたいに母親になれると自分に言い聞かせて勇に会いに行った…。
本心では解ってる。
罪の重さがどれほど重いかを。
547心の隙間:2009/02/15(日) 18:19:24 ID:jSQHCAMk
私がしたことは、数年前の罪を繰り返しただけ。
愛する子供を傷つけただけ…。

「愛する……か……人の愛し方も知らないくせにっ…ていわれそうね…」

麻奈美の顔が脳裏に浮かんでくる。

あの日の麻奈美の顔は、今でも忘れたことが無い…。


――私が家を出る時、勇はどうしていいか分からずに大泣きしていたが、麻奈美は違った。

玄関先で勇を守るように私の前に立ちはだかり、下唇を噛みしめ、私を睨みつけていた。


あの家を出た時から一度も私は麻奈美の素顔を見ていない気がする…。


母親なのに――


「母……親…?……私が?」

子供を傷つける母親なんて存在していいはずがない。


「本当……なにが母親よ……立派すぎて涙が出るわ……」


自業自得だってことはわかっている――

だけど、悔しさ、寂しさ、後悔が渦巻いてる感情を制御することはできず。

看護士に声をかけられても、溢れ出る声と涙を止めることはできなかった。
548心の隙間:2009/02/15(日) 18:19:51 ID:jSQHCAMk

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

――「勇、大丈夫かな…」

母には寝てなさいって言われたけど、やっぱり勇が気になって仕方がない…。
熱は下がったのに何故ベッドから出られないのだろう。
母が部屋を出ていってから、ずっとベッドに寝たきり。

「はぁ〜…病院ってほんと窮屈…」
熱が下がったお陰で気分は良好なのだが、どうも病院は嫌いだ…逆に病気になるような気がする。

「…早く点滴終わってくれないかな…。」
吊されている点滴を見上げる…まだ半分以上薬が入っている。

「おとなしく待つしかないか……はぁ」
睡眠は十分とったし喋る相手は誰もいない。
一人になると時々昔からずっと一人っ子だったんじゃないかと思う時がある。

それが嫌で家族の誰かが確実に家に帰っている時間まで、外で友達と遊びほうけていた。
毎日狙って夕方に帰ると、学校から帰ってきてる勇が玄関先まで無邪気な笑顔で出迎えてくれる。

それがたまらなく嬉しかった。
549心の隙間:2009/02/15(日) 18:20:21 ID:jSQHCAMk

「麻奈ちゃん?身体どう?」


昔の思い出に耽っていると母が病室に入ってきた。
「うん、大丈夫…もう熱も無いし、体もダルくないよ。」

「そう、この点滴が終わればもう帰っていいそうよ。」

「うん……」

「……」

――気まずい…母とはやっぱりギクシャクする。
勇は母のことを本当に許したのだろうか…。
私は……わからない。
勇が昨日雪の中で私に言ったあの言葉。

憧れだって言ってくれた…それも嬉しかったけど、もっと違う心の叫びを聞いた気がする。

なにかわからない。
ただ大切な何かを勇は私に伝えてた。

「…わからない……」

「え?なにが?」

「え…?あっ!!いや、えっと…べつに…」
つい言葉に出てしまった。

「そう…あっそうだ!勇が目を覚ましたわよ。」

「え!!?本当!?」
病院だというのに大声で叫んでしまった。

「えぇ、また寝たけど夕方には起きるんじゃない?それまでには点滴もはずれてるわよ。」

「よかった…本当によかった…」

やっと勇に会える…
550心の隙間:2009/02/15(日) 18:20:45 ID:jSQHCAMk
「……ごめんね…」

「え?なにが?って……お母さん…目…」

「ううん、なんでもない…ちょっと先生と話してくるわね?」
そういうと母は病室を出ていった。

「……」

私に指摘されて慌てて目を伏せたが、瞼が腫れて目が真っ赤に充血していたから泣きはらした後だとすぐに分かった。

「なにが正しくて、なにが間違いなんだろう…」

どうすればこうならなかったとか、今更考えても答なんて見つからない。
ただ私の体内時計は、家庭が壊れたあの日で止まってるのかもしれない…。

勇もお母さんも関係を修復しようと頑張っていたのは分かってる。
だけどお母さんに勇を盗られたら私は勇がいない生活をしなければならない。
ここ数年私の家族は勇だけだと自分に言い聞かせ、ごまかし続けてきた。

「お父さん……お父さんはお母さんのこと許したの?」

窓の外に広がる青空に向かってつぶやくが、返答など返ってくるはずもない。

「…許す努力…か…」
ふぅ…と溜め息を吐き目を閉じる…眠気などまったく無かったのに、何故か深い眠りについてしまった…。



――母の夢など数年間まったく見なかったのに…



なんでだろう?この日初めて無邪気に母に甘える夢を見た。
551心の隙間:2009/02/15(日) 18:21:19 ID:jSQHCAMk
父に教えられたことがある…。

身近な人に目を向けれない人間は、絶対に人の心の声を聞けないと。

『世界中の人間を守れとは言わない…せめて自分の大切な人ぐらいは守れるようになれ……息子のおまえは俺が守るから。』

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「大切な人…か…」

――時計を見る。何時間寝たのか分からないが夕方の7時を過ぎている。

身体から薬が抜けたのかおなかがキリキリと痛む…
「なんだろこれ…ご飯の食い過ぎか?」

「こら!なに座ってるの勇!!」
いきなり声をかけられてビックリした…
「あれ?お母さん?」

「ほら先生も来たから早くベッドに横になって。」

母の後から続いて四十代前後の白衣を着た短髪の男と若いナースが一人入ってきた。

「気分はどう?良くなった?」

「少しだけ…。」

「今日はまだ疲れが溜まってるからね、明日になれば楽になるよ。」

「はぁ…」

「それとね…薬のことだけど…」

ペラペラと話し続けるが、どうでもいい。
俺が聞きたいことはなんの病気かってことだ。
俺の頭の中では吐血した時点で父と同じ病気だと思いこんでしまっている。
552心の隙間:2009/02/15(日) 18:21:48 ID:jSQHCAMk
医者がなにか話してるが頭に入ってこない。
受け答えもすべて空返事で返している。
この先生が悪い訳じゃない…だが先延ばしにされてるみたいでイライラする。
早く教えてほしい…

「それとy「あの!!」

我慢が出来なくなって医者が話してるところを割って入ってしまった。

「ん?なに?」
紙をペラペラと捲りながら話していたため、その手がピタッと止まる。

「すいません…あの…俺ってなんかの病気なんですか?…」

聞くのは怖い…だが聞かずに終わるのがもっと嫌だ。

「ん?あぁ…そうだね、お母さんには言ったけど君には言ってなかったね。」

その言葉を聞いて母に目を向けるが、母は俺に背中を向け花瓶の水を入れ替えているため、表情が分からない。

――まだやりたいことだっていっぱいある。

父とも約束もした。

まだ生きていたい!!

「君はね……」
553心の隙間:2009/02/15(日) 18:22:09 ID:jSQHCAMk

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「いつの間に寝たんだろ…」

変な夢…母の夢なんてまったく見なかったのに。
複雑な心境になる…
私の夢に勇が出なかったことなんてまず無いと思う。
さっき見た夢は、母と私2人きりだったけど。悪夢とはかけ離れた穏やかな夢だった。
「なんでだろ…よくわからないな……ん?…」
ふと身体が軽いことに気がついた。

「あれ?…点滴はずれてる…」

腕を見ると私に刺さっていた針は無くなっていた。

一応周りを見渡す…誰もいない…
窓の外を見ると寝る前とは違う吸い込まれそうな暗黒が広がっている。
「何時間寝たんだろ…」
壁に掛かっている時計を見上げる。

「8時…かなり寝たなぁ……」

寝起きであまり頭が働かないので冷たい水で顔を洗いたい。
「トイレに行こ…そこで顔洗えばいいや…」

起きあがり下半身をベッドから外に出すと、靴を履き、扉に向かって歩き出す。
ドアノブに手を掛けようと右手を差し出すとドアノブが独りでに回った。
瞬間扉がガチャッと勢いよく開いた。

「あぶなっ!?なっなに!?」
554心の隙間:2009/02/15(日) 18:22:37 ID:jSQHCAMk
勢いよく開けられた扉が鼻先をかすったのでビックリして後ろに仰け反ってしまった。

「あれ?麻奈ちゃん?なにしてるの?」

扉の向こうにいたのは母だった。

「いや…なにしてるって…ちょっとトイレに…」

顔にぶつかりそうになったことを言おうとしたが、言い争いをしたくない。
「そう?気をつけてね」

母とすれ違い部屋を後にする…が気になることが一つある。

「……勇はどうしたの?」
もう8時だ。
母の言うとおりなら勇はもう起きてるはず…
「勇?……勇は入院することになったわよ…」

――は?なにいってるの?…意味が分からない…

「…勇の病室どこ…」

「え?なに?」

「勇の居場所を聞いてるのよ!!勇はどこよ!?」

「ちょっ!?麻奈美!」

――気がつくと母につかみかかっていた。
母に罵倒っていたのは覚えているが、なにを言ったのかわからない…父と勇の状況があまりにも似すぎてて、頭が真っ白になっていたからだ。
555心の隙間:2009/02/15(日) 18:23:14 ID:jSQHCAMk
「麻奈美!!勇の病室に連れていくから落ち着いて!!ねっ?」

母が私の両手を掴んで諭すように話しかけてくるが駄目だ…感情が押さえられない。

「勇に!…勇に会いたい!!…お願いだから勇に会わせて…お願いだから…」

「麻奈美……ほら勇に涙姿見せるつもり?勇がまた心配するわよ?」


「え…?」


勇が心配?


――そうだ、私は勇の姉なんだ。
今苦しんでるのは勇本人に違いない…

「ほら涙拭いて…」
母にハンカチで涙を拭われる。

「うん…お母さんありがとう……それとごめんなさい…」
何故か分からないが自然と口から出た言葉だった。

「ん?べつに良いわよ…ほら勇に会いに行きましょ?」
さっきまで渦巻いてた感情は嘘のように消え去っていた。

私がこんなにもうろたえていたら勇も道を見失う…。
これからは勇の姉として…家族として勇を守らなきゃ駄目だ。




勇がいない人生なんて今は考えられない。
だけど私の精一杯を勇に見せてあげたい。

「今度は私が勇を支えなきゃ。」
556心の隙間:2009/02/15(日) 18:25:17 ID:jSQHCAMk
これで今日は終わりです。
なるべく早く続きもかきますので
もう少しつきあってください。
557名無しさん@ピンキー:2009/02/15(日) 22:49:45 ID:KN/drogg
一番槍GJ
新作待ってました
勇の病気が気になるぅ
558名無しさん@ピンキー:2009/02/15(日) 23:06:21 ID:dpCK2vIW
乙。
続き期待してます!
559名無しさん@ピンキー:2009/02/15(日) 23:23:42 ID:WTKnIoKw
これで盲腸とかいうオチがついてどっとはらいのハッピーエンドなのか
はたまたシリアス展開か
続きが楽しみっす
560心の隙間:2009/02/16(月) 19:15:16 ID:DXB7gHLN
ありがとうございます。
明日の朝には投下できると思います。

できればこのスレも活気づいてほしいんだけどね〜上手くいかないですね。
では、失礼します。
561名無しさん@ピンキー:2009/02/16(月) 19:46:36 ID:utGHpeCk
がんばってくれ
待ってるわ
562心の隙間:2009/02/18(水) 00:56:29 ID:hHJ/mBqo
――母がいなくなり、父が他界、自分が壊れ、次に姉が壊れた時。昔と比べて精神面は強くなったと思ってた。

家族が絆を取り戻せばみんなが幸せになる…。
しかし自分が考えている以上に現状は深刻で、母と俺が和解すればすむことだと勝手に思いこんでいた。

一度出来た心の隙間は数年では埋められない…。

「体も心も弱いんだな俺は…」
自分の弱さに苛立ちを覚えるが、どこに持っていけばいいか分からない。

この前まで姉ちゃんと2人で楽しく暮らしていたのに…。
未来に不安が無いのかって言われれば、不安だらけだった。

でも本当に楽しかった…。

「この病気のことは絶対に姉ちゃんには言えないな…」

姉は絶対に自分のせいにするだろう…
これ以上姉を追い込めない。
俺からしたら一番の被害者は姉なのだ。

「一応お母さんにもお姉ちゃんには言うなって言ったけど……」

もう謝られるのは母だけでいい。
医者が出ていった後30分近く泣きながら謝られた。

父は絶対に家族を泣かせたことは無かった。
泣かせたと言えば父が亡くなった日ぐらいだろう。

「本当……強くなったと思ったんだけどなぁ…」


実際は空回りするだけで父のように強くなれなかった。
563心の隙間:2009/02/18(水) 00:56:59 ID:hHJ/mBqo
――「勇、起きてる?中に入るわよ?」


少し窓の外を見て呆けていると。ドアをノックする音と母の声が聞こえた。
部屋に何もないからか、やけに音が響く。

「体の調子は?疲れてない?」

「え?あぁ…うん、全然大丈夫。」

母が部屋に入って来たが、扉を閉める気配が無い。

「お母さん?寒いんだけど…」

今は真冬だ…さすがに開けっ放しにされると肌にこたえる。

「えぇ…なにしてるの?早く入ってきなさい。扉閉めなきゃ。」
母が扉から上半身を部屋の外に出し、誰かに話しかけている。

「なに?誰かいるの?」
話し相手の小さな声は聞こえるが姿がまったく見えない。

「えぇ?……泣いたせいで目が変って…目なんか気にしないわよ……なに?……鏡なんか持ってないわよ…はぁ、今化粧したばかりでしょ……ホラッ」

途切れ途切れしか聞こえない声を聞こうとするがやはり誰か分からない。
母に腕を引っ張られ腕だけ部屋の中に入っているが、確実に拒否反応がでている。
「お母さん誰なの?…すんげー嫌がってない?その人…」

「嫌がってんじゃなくて、恥ずかしがってんの……よッ!!」



「キャッ!?」
564心の隙間:2009/02/18(水) 00:57:46 ID:hHJ/mBqo
母が強引に相手の腕を引っ張ると。女性らしい声と共に母と言い争っていた人物が姿を現した。



「あれ?……お姉ちゃん?」

姿を現したのは下を向いて目を伏せている姉だった。

逆に予想外だ…姉ならスッと部屋に入ってくると思っていたし。
なにより母とあんなに話してる姉なんて見たことが無かったからだ。

「…」

「お姉ちゃんさっきからなんで下向いてんの?」
部屋に入ってきてからずっと下を向きっぱなしだ。

「いや、ちょっと…寝過ぎで…目が腫れてて…」

「いや、俺は別に気にしないけど…。」

「ほらね、勇が気にするわけ無いでしょ?目もそんなに腫れてないわよ?てゆうか、なんのために化粧したか分からないわよ麻奈ちゃん…」
母が姉にフォローを入れるが姉は一切顔を上げない。

「まぁ別にお姉ちゃんが見せたくなかったら別にいいけど…」
無理矢理に見せろなんて言う必要もないし、本人が嫌がってんなら仕方がない。
「うん…ありがとう…」

なんだろう…変に空気が重い。
母も姉もどことなく元気が無いみたいだ。

「えっと…あっそうだ、お姉ちゃん風邪は大丈夫なの?体だるくない?」


なにか話をしないと気まずい空気に押しつぶされてしまいそうだ。
565心の隙間:2009/02/18(水) 00:58:07 ID:hHJ/mBqo
「うん…点滴で熱も下がったし体も楽だよ。」

「そっか、よかったね…。」
なんでこんなに話しづらいんだろ…。
母も立ってるだけでなにも話さない。

「……勇、入院するの?」

姉の言葉を聞いた瞬間母を睨みつけた。

「これは言わなきゃ、どうせ後々分かることよ。」

母の言うことが正しいのですぐ目をそらす。
「……うん、ちょっとだけね…まぁすぐ帰るよ。」
当たり障り無い答えを返す。

「勇…なんの病気なの?」

「え?…なんの病気って……それは……その……」


――ヤバい…考えるの忘れてた…どうしよう…。
母に助けを求める目を向けるが、溜め息を吐いて「あなたが言いなさい。」って顔してる。

しょうがない自分のことだからなんとかするしかない。
「え〜と……盲腸?…だったよ。」

――姉は俺に対して、もの凄く高度な技を使う時がある――

「嘘でしょ。」

即答で返された。

「勇…嘘つく時の苦笑いの癖治したほうがいいわよ?」

そんな癖があったのかと慌てて両手で頬を触った。

「ほら…嘘だ…」

「え?……あっ!?」
すぐに手を下ろすがもう遅い。
母も呆れた顔をしてため息を吐いている…。
566心の隙間:2009/02/18(水) 00:58:50 ID:hHJ/mBqo
「勇…やっぱり麻奈ちゃんにも本当のこと言ったほうがいいわよ?」

姉の肩を優しく掴み、小さく呟く。

「……」

――やっぱり無理か…
こうなったらもう姉に嘘は通用しないだろう。

「そうだね……わかった…お姉ちゃん、嘘ついてごめん。」
姉に向かって頭を下げる。

「べつにいいよ…私を思っての事なんでしょ?」

いつの間にか姉も顔を上げている。
姉が言ってたように目が少し充血し、瞼が腫れていたが酷いと言ったほどではなかった。

――その充血が気にならないくらい姉の目は真剣なのだ。


「俺ね……」


「うん……」




「胃潰瘍だってさ。」
567心の隙間:2009/02/18(水) 00:59:26 ID:hHJ/mBqo
――「胃潰瘍…?」

「そう、胃に穴開いてるんだってさ。」
笑いながら話すが姉は顔を崩さない。
多分姉は父と同じ病気を考えていたのだろう、俺だって考えてた。

「でもね麻奈美、もうちょっとで危なかったのよ?。」

「え?」

「先生にもうちょっと早く連れてきてくださいって言われたわ。」
そんなこと言われてたんだな…知らなかった。

「お母さんのせいじゃないよ…自分の体をちゃんと管理してなかった俺が悪かったんだよ。」
母は申し訳なさそうに話すが、母は知らなくて当然だ、一緒に暮らしていないのだから。

「…胃潰瘍って食生活とかストレスでなるんだよね…」

――やっぱりきた…

「…そうみたいだね…あんまり知らないけど…」
話をごまかそうと頭で考えるが、なんてごまかせばいいか分からない…。

「……やっぱり私は勇のことなにも分かって無かったのね…姉なのに。」
こうなることが嫌で姉に言わないでおいたのに…

「そんなんじゃ無いよ、こればっかりは自分のことだから…」
治すどころか胃が余計に痛くなる…。

「勇の為とか都合の言いように自分に言い聞かせて…私今まで何してたんだろ…お父さんとも約束したのに……やっぱり私いなきゃ…」
568心の隙間:2009/02/18(水) 00:59:58 ID:hHJ/mBqo

「お姉ちゃん!!!」
「真奈美!!!」
母とほぼ同時に姉に向かって怒鳴る。
声のでかさに姉が肩を強ばらせて目を瞑る。
さすがに聞き逃せない言葉が出かけたので止めた。

「お姉ちゃん…それとお母さんもだけど、こればっかりは自分の体の管理を怠ったことが原因だから。怒られることがあっても、謝られる筋合いはないよ。」

ちゃんと言い聞かせないとこのままお互いにずっと引きずっていくだろう。
この事態でまた家族が離ればなれになるのは絶対に嫌だ。

「わかった?お姉ちゃん…」
姉にもう一度言い聞かせる。
「うん…わかった…」
小さくだがはっきりと頭を縦に振ってくれた。

「…勇……ありがとう、私ね…これからは絶対に勇が自慢できるお姉ちゃんになるか…ら…だから……だから…強くなるから……お願い…」

最後の声は聞こえなかった…。だけど言いたかったことは分かる。
涙声は聞こえないが震える体と姉の手の甲に落ちる水滴が、どれほどの思いで伝えているか十二分に心へ伝わってくる。

姉が言った最後の言葉の返事は決まってる…


「あたりまえでしょ?、俺の家族はお姉ちゃんとお母さんだけなんだから。」



「ッ!?勇ッ!!!」
569心の隙間:2009/02/18(水) 01:00:36 ID:hHJ/mBqo
姉が勢い良く抱きついてくるのを受け止める。
ベッドに座ったままなので、後ろに倒れそうになってしまった。


「これからも一緒に頑張っていこうね?」

「うん!!絶対に頑張るから!!ゆう!勇!!」
感極まってるのはわかるが、姉が頬ずりをしてくるので姉の涙やらなんやらでお互い顔がえらいことになっている。

少し苦笑いになってしまうが、幸せな苦笑いもあるんだなって本当に痛感した。
母のことが気になり母に目を向けると姉の少し後ろで座り込んで泣いている。

母も辛かったんだろう……罪悪感に苛まれ誰に許してもらえばいいかさえわからなかったはずだ。

「ははっ…まだまだお父さんみたいな人間にはなれそうに無いな。」

姉を抱きしめたまま窓の外をみる――

空には一面綺麗な星空。
父も空からちゃんと見てくれてるはずだ。
夢の中で父に言われた言葉を思い出す。
「疲れたら甘えろ…か…」
いつの間にかハグに母も加わり凄まじいことになっている。

「勇!!真奈美!!ごめんね!!私もこれからは母としてあなた達を絶対に守るから!!」

――お互いに少し道に迷っただけ…

「うわぁぁぁ〜〜ん!!お母さん!お母さん!ごめんなさいぃ!」
570心の隙間:2009/02/18(水) 01:01:07 ID:hHJ/mBqo
――家族が道に迷えば探すのが当たり前。

「本当にごめんなさい!!許してもらうまでいつまでも償い続けるから!」

――見つけたら手を繋ぎ、後は出口を探すだけ。

「私の方こそ意地になってて!!」

――その出口が今やっと見つかった気がした。


母も姉もなにを言っても泣きやまなかった。
しかしふと考えるとここは病院だ。
さすがにこんだけ声を出せば、誰かが注意しにくるはずだ。

「二人とももう泣きやんでね…ここ病院だから…」

母も姉も思い出したように口に手を当てる。

「それとこれは二人に相談なんだけども…話を聞いてもらっていい?」

俺の入院をきっかけに、母と姉にしてもらいたい重大なことがあった。

「え?なに?」

目を擦りながら聞き返してくる。
涙で化粧が取れてるのが気にならないくらい、無我夢中だったみたいだ。


「それはね……」


――今日の出来事が、家族の心の隙間を埋める第一歩になってくれるに違いない。

「えぇ……私は大丈夫だけど…」

「…私も大丈夫よ…勇と約束したからね…」

母と姉が顔を見合わせて笑う。


――はじめから心の隙間なんて無かったんじゃないかって思わせるぐらい二人は自然に笑っていた。
571心の隙間:2009/02/18(水) 01:10:47 ID:hHJ/mBqo
今日は終わりです朝に投下するって書いたんですが…遅れてしまい申し訳ありませんでした。
あと二回ぐらいで終わりかな?
572名無しさん@ピンキー:2009/02/18(水) 02:43:05 ID:EJ2qlIB9
もう、エロは諦めました。人間、諦めるのにも勇気がいるんですね。
そんな私ですが作者にこの言葉を……GJ!
573名無しさん@ピンキー:2009/02/18(水) 03:22:10 ID:rO3OEZA3
GJ!! 何か、ハッピーエンドっぽいですね・・・
574名無しさん@ピンキー:2009/02/19(木) 18:52:34 ID:NhsNo5Ee
エロは…ごめんね。
途中までシリアスでいこうかと思ってましが…。
なんかこの家族に愛着わいてきて無理でした。
多分明日の朝か夜までには投下できそうです
575名無しさん@ピンキー:2009/02/19(木) 19:26:07 ID:KrJkMlaM
おっけーですよGJ.待ってます。
576名無しさん@ピンキー:2009/02/19(木) 21:09:00 ID:WLEuqAYL
>>574
エロ大盛りでよろ
577名無しさん@ピンキー:2009/02/20(金) 02:55:09 ID:4wTGJALN
よし、全裸で待機してる
578名無しさん@ピンキー:2009/02/20(金) 15:24:50 ID:6bZZttS/
ここまでエロがないエロパロのSSは初めてだ。
まあおもしろいけどね
579心の隙間:2009/02/20(金) 17:31:09 ID:4z5syA7w

「はぁ〜お腹減ったなぁ…」

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

入院生活が始まって一週間が経ち、病院の空気にも慣れてきた今日この頃。
7日間丸々点滴で過ごした人生なんて、これ一回で十分だと身に染みて感じた。

体重も一週間で七キロも痩せた…。
さすがに何か食べたいと思っていたら、今日から病院食がでるとのこと。

胃が弱っているためお粥らしいが、米が食べれると思うと嬉しくてしょうがない。

「はぁ〜夜まで待てない…」
時計を見るとまだ昼の3時だ。

母は仕事、姉は大学。
二人とも俺が退院するまで休むと言ったが、さすがにそれは無理がある。
俺は知らなかったが姉に関しては最近大学をサボりまくってまで俺との時間を作っていたらしく。
大学生活がかなり危うい状態のようだ。
姉には大学生活もエンジョイしてもらわないと困る。

「夕方にはお姉ちゃんが見舞いにくるって言ってたな…」
嬉しいのだが二人とも忙しい中、朝と夕方の一日二回も見舞いにくるから気を使ってしまう。

一応無理しないでとは言っているが見舞いにくると姉も母も面会時間ギリギリまで話していく。


「まぁ誰も来ないよりはいいよな…」
580心の隙間:2009/02/20(金) 17:31:30 ID:4z5syA7w

――コンっコンっ。

「あの〜スイマセ〜ン…こちら中村 勇さんの病室……あ!!勇だっ!!」

ノックが聞こえたかと思うと。こちらから返事を返す前に扉が開き2人の男女が入ってきた。

「あれ?なんでここがわかったの?」

入ってきたのは同級生の高橋と大樹だった。

「担任が勇が怪我して入院してるって聞いてさ。おまえの家に電話しろっ電話しろって高橋がうるさくてよ〜。」

「な!?今言わなくてもいいでしょ!?だいたいあんたが勇が入院するなんて何かあったんだ!って騒ぐから心配になったんでしょ!!」

2人とも病院がどういう場所がいまいちわかってないらしい。
「見舞いに来てくれたのは嬉しいけど…ちょっとだけ静にな?」
二人を落ち着かせるために俺も静に喋る。
高橋はわかってくれたみたいだが、大樹がくせ者だった…。

「勇!!お姉さまから聞いたよ!!胃潰瘍だってな…悪かったなぁ…しつこくマックに誘って…まさかここまで思い詰めてたなんて知らなかったんだ!!許してくれ!!」

そう言うと大樹が高橋の頭を掴んで二人で頭を深々と下げてきた。

「ちょっと!!なんで私まで巻き込むのよ!!?」
581心の隙間:2009/02/20(金) 17:31:55 ID:4z5syA7w
「楽しいからずっと見ていたいんだけど…ここ病院だから…ね?」
夫婦漫才を見てるみたいで楽しいが。さすがにこのまま騒げば2人とも追い出されるだろう。

「あっごめん…勇、病気なのに…」
高橋が下を向いてうなだれる。

「まぁ勇よ…高橋も謝ってることだし許してやれよ…」
自分のことを棚に上げてよく言う。
高橋は大樹のほうを睨みつけ今にも飛びかかりそうだ…。

「高橋も大樹のこと本気で相手してたら胃潰瘍になるよ?」
高橋の肩をポンポンと叩きながら落ち着かせる。

「ふぅ…そうね…」

高橋も夫婦漫才に疲れたのかパイプいすに腰を下ろす。
大樹もこれ以上騒げばどうなるかわかったようだ、部屋から廊下に頭だけだして看護婦がどうたら呟いている。

「勇…大丈夫なの?…まだ辛いんじゃない?」
高橋が心配そうに聞いてくる。

「もう大丈夫だよ、1ヶ月入院しなきゃダメみたいだけど、体もだいぶ楽になったしね。…心配かけてごめんね?」

「ううん…早くよくなるといいね、みんな心配してたよ?いつかわからないけど、部活の先輩とかクラスのみんなで勇のお見舞いにくるってさ。」


「…そっか…本当にみんなに迷惑かけるなぁ。」
582心の隙間:2009/02/20(金) 17:32:31 ID:4z5syA7w
――「べつにいいんじゃね?一人で生きてる訳じゃあるまいし。」

「え…?」
扉から顔を引っ込めて、大樹がこちらに近づいてくる。

「中学の時からずっと一緒につるんでるけどさ、親父さんが死んだ後おまえは一切弱い心を人に見せなかったよな。」
大樹がいつになく真剣な表情で話しかけてくる。

「俺が知ってる人の中で一番尊敬する人は間違いなくおまえだ。」

「やめろよ恥ずかしいな…」
恥ずかしいことをよく真剣に話せるなと思うが自分自身大樹の声に真剣に耳を傾けている。

「だけどな…中学の時から…今でもだけど、いつも思ってたことがあるんだ。」
高橋も大樹のこんな真剣な顔を見たことが無かったのだろう…大樹の顔を不思議そうに眺めている。


「……おまえなんで周りにいる人間に頼らねぇの…?」

――大樹の言葉に心が揺れる。

「いつも思ってた…みんなといる時は笑ってるくせに。一人になると寂しいのか悲しいのか、訳分かんねえ表情してたもんな。」

「……」


「おまえが親父さんを目指してるのは知ってるよ……俺も親父さんによくしてもらってたしな……でも親父さんだって疲れた時ぐらい誰かしらに甘えてたんじゃねぇの?」
583心の隙間:2009/02/20(金) 17:32:57 ID:4z5syA7w
――疲れたら甘えればいい――

「あ……」
夢で言ってた父の言葉を思い出す。

「おまえの親父さんだって超人じゃないんだから…疲れたら休憩するだろ。目的地も分からず、休憩もしないで走り回るから体壊すんだよ、バカ勇。」

「そっか…そうだな…本当にバカだな俺は…」
父の言ってる言葉の意味がやっと分かった気がする。

「まぁ、俺の言いたいことが伝わってたら言いよ……」

大樹も照れてるのか俺の方をまったく見ない。

「ビックリした…まさか大樹があんなまともなこと言うなんて……」
高橋も大樹に驚きの目を向けている。

「アホか!俺はいつだってまともだ!」
平手で高橋の頭をパチンと叩く。

「痛ッ!叩くな!高校生の癖にウルトラマンごっこしてた人間が言う台詞じゃないわね。」

「ばっ!?おまっ!秘密って言ったじゃねーか!!」

高橋は大樹にウルトラマンごっこを無理やりさせられて別れを決めたらしい。
つきあって三日でウルトラマンごっこは大樹の中でセーフだったのだろう…アホまるだしだ。

「ははっ大樹だからな、そこは我慢しなきゃつきあえないよ」

「勇もあぁ言ってるじゃねーか!おまえが悪い!」



「なんですってぇ!?あんたがッ!」
584心の隙間:2009/02/20(金) 17:33:20 ID:4z5syA7w
――本当にこの二人の友達になれてよかったと思う。

「ほら、静にね。」

「そうだぞ?勇の見舞いじゃなく騒ぎにきたのかおまえは?」

「ぐっ……大樹…後で覚えておきなさいよ…」
高橋の言いたいことは分かるが大樹に口で勝てる人を見たことがない。
…まぁ大樹が高橋に喧嘩で勝ってるとこも見たことないけど。
「まぁ、元気そうでなによりだわ…早く病気治して学校に来なさいよ?」

「わかってるよ、こんなとこまでわざわざ悪かったな、退院したらお礼するよ」

イスから立とうとする高橋が中腰でピタリと止まる。

「あのさ…それじゃ一つだけ聞いてほしいんだけど…」

「なんだ?あんまり高いもの買えないぞ?」
神妙な顔つきで話そうとする高橋は少し怖かった。

「あっあのさ…」

「うん…」
大樹も意味が分からず高橋の顔を見ている。

「も、もしよかったら…」

「う、うん」

「…わっわたしの…こっ…ことも、下のなっなまえでy――「ガラガラガラ」

「「「勇ぅ〜!!」」」


「よ…ん……で…」


「は!?なっなんだ!!?」
585心の隙間:2009/02/20(金) 17:33:43 ID:4z5syA7w
高橋の話を真剣に聞いていたので、いきなり扉が開いたことにビックリした。

「なっなんだおまえら!!なんで今日くるんだよ!?」
大樹も驚いている。
高橋に至っては、驚きを通り越して放心している。

「ばか!!おまえら授業サボって見舞いに行きやがって!俺らも授業終わったから心配で見舞いに来たんだよ!!」

「みんな…てゆうか何人いるの!?」
部屋の中でも15人はいる。

「いや、わかんね。なんか部活の先輩もきてるみたいだけど…」
後ろのほうで俺の名前を叫んでいる。
嬉しいが何度も言うようにここは病院なんだけど…。

「少しくらい休憩しても、ここに来たみんなはおまえから離れていかねーぞ?」
大樹が嬉しそうに話す。

「うん…ありがとう…」

父のようになりたい…父のようになって家族を守れる人間になりたい。
それだけ考えて生きてきた…
――目標にはできるけど、本人にはなれない…
父から教わったものを同じようにしても父にはなれない。

なぜなら俺に無い物を父は持っているからだ…。
逆に父に無い物を俺は持っている。

これからは自分自身を貫いていこう。

こんなに自分を支えてくれる人がいるんだから。
586心の隙間:2009/02/20(金) 17:34:08 ID:4z5syA7w
この後一時間近く入れ替わり立ち替わり人が入ってきて騒ぎ倒して看護士に怒られ帰っていった。

最後に残った高橋と大樹も疲れた顔をしている。
「んじゃ…俺らも帰るわ…またくるからな?ちゃんと病気治せよ?」
大樹が俺の頭をポンッと叩いて扉を出ていった。
「それじゃ…またくるね…ちゃんと休んでね…」
どことなしか落ち込んでるみたいだ。

「わかった、それじゃーな、早苗。」

高橋がビクッとなり、こちらに振り返る。
「なんだよ?おまえが言えっていったんだろ?」

「え!?あっ!!うん……ありがとう…ちゃんと体治しなさいよ!?まってるからね!!?」
そう言うと、ゆるみきった顔で大樹の後を追いかけた。

「ふぅ…帰ったか…」

少し寂しいがこれでやっと落ち着ける。
時計を見るともう6時30分だ。
もうすぐ待ちに待った夕食がくるはず。
「さすがにお腹へったな…」
お腹をさすりながら呟く。
目を閉じ、ボーッとしていると。
遠くからカラカラと何かを押す音が聞こえる。
「…やっときた…」
音を聞いてすぐにわかった。
夕食を乗せた小さな台がこちらに向かっている…。
看護士の声も近づいてくる。
こっちも座って食事がくるのを待つ。


――コンっコンっ
587心の隙間:2009/02/20(金) 17:34:56 ID:4z5syA7w
「勇くん、夕食ですよ〜?入りますねぇ〜」

きた!!
待ちに待った食事がやっと運ばれてきた…。

「はい、しつれいしま〜す。」
看護士がベッドについてる台に夕食を置く。

「はい、それじゃ残さず食べてくださいね?」

「えぇ……(マジでお粥だけだ)…」
なにかおかずがついてくると思っていたのでガッカリする。

「あぁ、それとお母さんきたわよ。」

「え?そうなの?」
仕事が終わるのは早すぎる。

「うん、なんかお友達も一緒みたいだったわよ?。」
そういうと看護士のお姉さんは病室を出ていってしまった。
「お母さんの友達…?」
なぜ母の友達が見舞いにくるのだろう…意味が分からないが見舞いに来てくれるのであれば、対応しなければならない。
早く夕食にありつきたいが仕方がない…お客さんを迎えなければ。

――「あら勇?夕食?ごめんね〜少し早くきちゃった。」
母入ってきてその後から女性が入ってきた。
「お久しぶりね…勇くんでいいかしら?」

「え、えぇ……(誰だこの人…まったく覚えていない)」
入ってきた女性は身長が高くモデル体型の美人だが。すっかり記憶から消え去っている。


「ふふっまぁ覚えてるわけないわね…ほら入っておいで。」
588心の隙間:2009/02/20(金) 17:55:41 ID:4z5syA7w
その女性が横に声をかけると一人の少女が姿を現した。


――「え!?凪ちゃん!!?」
その女性の横にいたのは凪だった。

「え?っと…あれ?どういう…」
理由が分からず頭で考えるが、まったく浮かび上がってこない。

「前に言ったわよね?恭子がうちの会社の社長だって。」
そんなことを言ってた気がする…てことは…。

「凪ちゃんのお母さん…?」

「ピンポーン、大正解!」
凪母が両手でピースをする。

「でもなんでわかったの?俺はお母さんに言ってないよ?」
そう…凪のことを母にはまったく言っていないのだ。

「…それがね、凪の携帯の待受が勇くんの写メールなのよ。」

「は?俺の?」
凪が慌てて凪母を止めに入ろうとするが逆に凪の携帯を取り上げてしまった。

しかし俺には凪と写メを撮った記憶が全くない…。

「多分気づいてないわよ勇くん…だって…ほら。」
凪の携帯の画面を見せられる。

画面には情けない顔で爆睡してる自分の寝顔が写っていた。
589心の隙間:2009/02/20(金) 17:56:13 ID:4z5syA7w
「お兄ちゃん!!見ちゃ駄目!!」
凪母から携帯を取り返そうと必死になってピョンピョン飛び跳ねている。
「ははっまぁ許してやってね?凪も悪気があってやってるわけじゃないからね?」
凪母から携帯をとるとカバンの中に携帯を隠してしまった。
チラチラと泣きそうな顔でこちらを見ているがべつにこれぐらいでは怒りはしない。
「でもそれだけじゃ分からないはずじゃ…」
凪の携帯をみただけで父と離婚して名字が変わってるのに俺が母の息子だなんて気づくはずがない。
「少し前にね?あなたのお母さんが私にやたら息子の自慢をしだしたのよ…」

母に目をやるが「なにか?」と言った感じの目で返された。
「優しいわ、男前だわ、可愛いわベタぼめするから、顔を見せなさいって言ったらあなたの写メールを撮ってきたのよ。」

「また写メ!?」

今度は母の携帯を見せられる。
画面いっぱいにご飯を食べてる自分の顔が写っている。

「この写メールをみた時にどこかで見たことがあるなぁ〜と思ったのよ、そしたら凪の携帯に入っている、男の子と同じ顔だったわけよ、わかった?」

「はぁ…なんとなく」
少し強引な感じはするがここまで来てるのだから本当なんだろう。
590心の隙間:2009/02/20(金) 17:57:02 ID:4z5syA7w

「んで一週間前にあなたのお母さんから勇くんが入院してるって泣きながら話し聞かされたのよ……それを凪に話したら、病院の場所も知らないくせに泣きながら、また家出しようとしてねぇ〜。悪いと思ったんだけど来させてもらったわ。」

「そうですか…迷惑かけて申し訳ありませんでした。」

やっと少し状況が把握できてきた。
凪は凪母の後ろに隠れてモゾモゾしている。

「……それじゃ、ちょっとお母さん達は出かけてくるから。凪…迷惑かけちゃダメだからね。」

「え!?」
――意味がわからない。
病院に子供を普通置いていかないだろ。

「それじゃ、勇も優しくしてあげなきゃダメだからね?また後でくるわ、んじゃ」
そういうと二人ともそそくさ部屋を出ていってしまった。
残された俺と凪はポカ〜ンとしてるだけだった。

「凪ちゃん……元気だった?」
声をかけると凪の頭だけコクっと頷く。

「そっか…風邪とか大丈夫?最近風邪が流行ってるみたいだから…」
また頭だけコクっと頷く。
自分の服の胸元を握りしめて下を向いているため表情はわからない。



「お兄ちゃん……病気なの?…大丈夫…?」
聞き取りづらいか細い声で凪が聞き返してきた。
591心の隙間:2009/02/20(金) 17:57:28 ID:4z5syA7w
「え?大丈夫だよ、もうすぐしたら家に帰れるよ?」

「よかった……お兄ちゃん…?」

「ん?なに?」

「お兄ちゃんの隣に座ってもいい?」
なぜ許可を求めるのかよくわからない、緊張してるのかもしれない。

「うんいいよ、おいで。」
凪にむかって手招きをする。

「やった!…それじゃ…よいしょっと…」

「…あぁ…だから許可を求めたのね……」
パイプいすに座るんじゃなくてベッドの中に入ってくるって意味か。

「お兄ちゃん…暖かい…」
真冬の中スカートで来てるのだから寒いに決まってる。
よく見るとほんの少し化粧してる…。

「お化粧してるの?…可愛いね」

「あ……ぁりが…と…ぅ」
顔が真っ赤っかでえらいことになっている。

ふとお粥に目を向ける。
まだ湯気がたっている…
美味そうだなと考えていると凪が気まずいことを言い出した。

「お兄ちゃん……私がご飯食べさせてあげるね!」
言うや否やスプーンとお粥が入ったお皿を掴んで俺の前まで持ってくる。
「はい、あ〜ん!」


「ははっそれぐらい自分で食べれ…」


「…お口…あ〜ん…して…」


「ないかもね…」

一生懸命口元にお粥の入ったスプーンを持ってこられたら自分で食べるなんて言えない。
592心の隙間:2009/02/20(金) 17:58:00 ID:4z5syA7w

「あ〜ん……パクッ……うん、美味しい。」
久しぶり食べる米は本当に美味しかった。

「ふふ〜ん、美味しいでしょ?」
さも自分が作ったかの如く誇らしげに話す。
多分凪が食べさせてるから美味しいと言わせたいのだろう。

「うん、美味しいね。ありがとう、凪ちゃん。」

「うん!!もっと食べさせあげる!はい、あ〜ん…」
このお粥が無くなるまで食べさせてくれるらしい。

「あ〜ん…」
――前と比べて少し積極的になった気がする。
初めて会った日は物凄く大人しい子だと思ってた。
なにをするにも顔色ばかり伺ってた。
まぁ他人に接する時は顔色も伺うか…ましてや知らない男の高校生となると、なおさらだ。

――「はい、終わり〜!美味しかった?」
皿とスプーンを台に戻して、もう一度ベッドに入り直す。

「うん、ごちそうさま。美味しかったよ、凪ちゃんも腕疲れたでしょ?」

「ううん、大丈夫!」
変な緊張がとけて安心したのか、凪の位置が俺の隣から膝の上になっている。

「あ!?そうだ!!…ふふ〜ん…お兄ちゃんビックリするよ?」

俺の指で遊びながら思い出したように声をあげる。
よく分からないが物凄く嬉しそうだ。
593心の隙間:2009/02/20(金) 17:58:29 ID:4z5syA7w
「お兄ちゃんの家の前にでっかい真っ白な家がいっぱいあるでしょ?」

「うん、あるね。その家がどうかしたの?」
最近、家前の道を挟んだところに住宅街が建てられた。
どの家もかなり立派で古家としてはあまり好ましくなかった。
「私とお母さんね〜そこに引っ越すことになったの!」



――「え?…は!?なっなんで?」
急な展開に頭が追いついていかない。
凪は満面の笑みで話すが、多分俺は苦笑いだったと思う。

「えっとね、もうすぐ私中学生でしょ?」
たしかに会ったとき、小学6年生だって言ってた。

「だから私、中学は〇〇中学校に行くの!」

「え!?マジで!?」
これには驚いた。
○○中学校は俺が通ってた中学校だ。

「マジで〜!だから退院したら引っ越し手伝ってね!?」

「う、うん、でもなんで?凪ちゃん中学校は決まってるはずじゃ…」
凪が通うお嬢様、お坊っちゃん小学校は隣にも同じようなお嬢様、お坊っちゃん中学校がある。
その小学校に通うと97%でその中学校に入ることになるらしい。

「こっちのほうが楽しいし、お母さんも自然が多い方がいいってさ。」
凪母…恐るべし。
金持ちの考えることはよくわからない。
てゆうか積極的すぎるだろ。
594心の隙間:2009/02/20(金) 17:59:05 ID:4z5syA7w
「それとね…その家の近くにね…私の好きな人が…いるから。」

後ろから見ても分かるくらい耳が真っ赤だ。

「へぇ〜一途だねぇ、んじゃ頑張らなきゃね。」
隣町まで追いかけてくるぐらい、好きなんだな。
少し感心する。

「うん…がんばる…お兄ちゃん…。」
凪も中学生だ。
行動と見た目が幼すぎて小さい子供のように接してしまうが立派な女性。
好きな人の一人や二人いて当たり前な歳だ。


――コンっコンっ

凪にもう一度ど頑張れといいかけたところに誰かが扉をノックする。

「ん?お母さん達帰ってきたかな?」

時計を見るともう七時半だ。

「お母さん達どこにいってたんだろーね?」

「なにか美味しい物でも食べにいってたんじゃない?」

「え〜ずるい!」
凪が俺の顔を見て不機嫌そうに言う。


――ガラガラッ


――「入るね〜勇〜大好きなお姉ちゃんが来ましッ!?…た…よ…。」


――扉から入ってきたの母達ではなく大学帰りの姉だった。
595心の隙間:2009/02/20(金) 18:04:16 ID:4z5syA7w
今日はこれで終わりです少し長かったので疲れました…。
あと二回の投下で終わりそうです。

エロは次なにか書くことがあればそっちに入れるので勘弁してください。
596名無しさん@ピンキー:2009/02/20(金) 18:44:17 ID:8w1hTKoE
いいとこで切ったなおいw

GJ!!続き待ってます!!
597名無しさん@ピンキー:2009/02/21(土) 00:06:52 ID:cUfYPT2J
修羅場再び?
…にはならないよな?
598名無しさん@ピンキー:2009/02/21(土) 00:40:54 ID:PocPjWow
早苗の蜜壷はしとどに濡れそぼって・・・・・
599ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/02/22(日) 23:40:26 ID:AJWULkuU
<私が私でいられる時>、一年ぶりの続きです。
本編はもうほとんど完結です。
随分とご無沙汰なので、保管庫でアップしました。

ttp://green.ribbon.to/~geparosenyo/izonsyuraba/izonsyuraba05-aya16.html

これまでの分は

ttp://green.ribbon.to/~geparosenyo/index/gameparos-01-index02.html

の真ん中当り、「依存・修羅場シチュ」にあります。
600名無しさん@ピンキー:2009/02/23(月) 01:47:42 ID:W1K3dgk5
おおお久しぶりじゃないか!
今から読んできます
601名無しさん@ピンキー:2009/02/23(月) 15:54:49 ID:v/K28hTG
読ませて頂きました!

貴方に惜しみないGJを!やっぱり物語は底抜けにハッピーなエンディングじゃなきゃね!?
602名無しさん@ピンキー:2009/02/23(月) 16:58:31 ID:1Qb6t+fL
まとめてで失礼だが、心の隙間、ゲーパロ両氏ともGJ!

「ぴ、ぴ、ピラルクー」でどうしても吹いてしまうのは俺だけじゃないはずw
603名無しさん@ピンキー:2009/02/23(月) 17:07:20 ID:+jlqEGmf
神GJ
604名無しさん@ピンキー:2009/02/23(月) 18:14:47 ID:tWok7hzy
605依存系幼なじみ(0/5) ◆9DJPiEoFhE :2009/02/24(火) 05:36:18 ID:YFNOwbAs
5レス投下します。
606依存系幼なじみ(1/5) ◆9DJPiEoFhE :2009/02/24(火) 05:37:23 ID:YFNOwbAs
 頭部を鈍器で殴られたかのような衝撃。今日も一日の始まりだ。
「ってぇ……」
「浩樹(ひろき)、起きたぁ? もいっちょいっとくぅ?」
 甘えるような声で囁く少女。言葉と行動が違えば天国なのだろうが。
「起きた起きた。見ればわかるだろ、妻依(さより)」
「何よ、嫌そうな声出しちゃって。やっぱりもいっちょ……」
 拳を振り上げる。
「やめい。そりゃ毎朝毎朝殴られてれば嫌な顔にもなるだろ」
「毎朝殴ってくれって言ったのは誰だっけ?」
 整った美麗な、しかし幼さを残す顔を歪ませてこちらを見下ろす妻依。にやにやすんな。
「いや、そりゃ、だって、起きれないし……てかその言い方は語弊があるぞ。別に殴ってくれとは」
「はいはい自業自得。さ、着替えるわよ」
「聞けよ……」
 そう言いつつもしぶしぶと従う自分。慣れとはかくも恐ろしいものである。
「未だにこのパジャマ着てるのね。かっわいい〜」
「茶化すなよ。時間ないんだろ」
 顔に血が上っているがわかる。今着ているパジャマは小学生からのものだ。寝巻きというものは自分が一番楽に過ごせるものにするべきであって、そういうものは時間が経てば経つほど変えられないものなのだ。だから仕方がない。仕方がないのだ。
「はい、終わり」
 手馴れた様子でネクタイを軽く締められ、ポンと胸を叩かれる。
「ん」
 妻依は顎をついと上げ、薄い……失礼、小ぶりな、いや、ささやかな、取るに足りない、粗末な……これ以上考えても僕の語彙じゃ墓穴を掘ってしまいそうだ。つまり、その、洗濯板を張った。
「っでぇ!」
「今、失礼なこと考えたでしょう?」
 頭をさする自分と張り付いたような笑顔で問う妻依。穴はすでに掘りきっていたようだ。
 さて、気を取り直して次からはずっと俺のターンだ。
「お前こそずっとそのパジャマだよな」
「……仕返しのつもり? 言っとくけど、あんたがそれ着てるからあたしもこれずっと着てるのよ」
 ターンエンド。もう僕のライフは0だ。
「ほらほら、顔赤くしてないで続けなさいな。本当に時間なくなってきちゃった」
 妻依には勝てた試しがない。無駄な抵抗は諦め、急いで制服に着替えさせる事に努めた。
607依存系幼なじみ(2/5) ◆9DJPiEoFhE :2009/02/24(火) 05:38:24 ID:YFNOwbAs
「行って来ます」
「行って来ます」
 家を出る。
 今日は快晴だ。しかし冬空に雲ひとつないと逆に寒く感じる。
「寒いわね」
 ぶるりと体を震わせる。妻依も同意見のようだ。
 いつものように二人で登校する。会話はない。幼馴染といってもそんなものだろう。
 昔はともかく、もう思春期もそろそろ終わりという年頃だ。異性の幼馴染というのは意識する対象ではなくなってしまっている。ありふれた言い方だが兄妹のようなものだ……姉弟かもしれないが。
「飯塚(いいづか)さん、桜咲(さくらざき)くん、おはようございます」
 振り返ると、クラスメートの三神さんが小さく手を振りながらこちらに歩いているところだった。
「おはよ」
「おはよう」
 挨拶を返す。
「ふふ」
 三神さんが小さく笑った。笑い方も人が違うとこんなに上品に見えるんだな。朝に見た邪悪な笑顔とは大違いだ。
「何にやにやしてるのよ、実夏」
 にやにや? 三神さんの笑みは微笑んでいるという表現が正しい。自分と同じ基準で物事を考えるのはどうかと思うぞ、妻依。
「あ、浩樹、あんたまた騙されてる。この子は」
「二人は本当に仲がいいんだなって」
 三神さんが妻依を遮るように笑顔で言い切った。
「そりゃ悪くはないわよ。幼なじみなんだから」
「そうだよ、こんな暴力幼なじみと一緒にいれるのは僕だけだと自負してるよ」
「せんでいい! ……さっき、痛かった?」
「ん、いつものことだし。それに大体、僕が悪いし」
「いつも、ごめん」
「くすくす」
 三神さんから視線を感じる。
「何よ」
「何でもありませんよ」
 その時の三神さんの顔はとても綺麗な笑顔だった。

「今日は一段と寒いですね」
 どうやら誰もが今日の天候に関しては共通認識を持つらしい。まぁ真冬の朝なんてそんなものだろう。
「そうね、毎朝毎朝寒くてやんなっちゃう」
「飯塚さんと桜咲くんには関係なさそうですけどね」
 そう言ってくすり。
「どういう意味?」
「そのままの意味ですよ。あったかそうだなぁって思っただけです」
 妻依と二人して首を傾げる。
 三神さんはそう言うが、僕らは取り立てて特別な防寒をしているわけではない。
 妻依は制服に市販のダッフルコート、それに手編みのマフラーと手袋。僕に至っては制服に妻依と同じマフラーと手袋という始末だ。寒そうと思われるならともかく暖かそうと思われる謂れはないはずだ。
608依存系幼なじみ(3/5) ◆9DJPiEoFhE :2009/02/24(火) 05:39:25 ID:YFNOwbAs
「そこの二人、止まれ」
 校門を抜ける。この寒空の下、三十分近くも歩き続けるのは苦行だ。
「おい」
 家からだと自転車通学の許可がでないギリギリの距離なのだ。十メートルくらい大目に見ていただきたい。まぁ、自転車でも寒いことには変わらないのだが。
「貴様ら! 止まれと言っている!」
「何よ」
 鬱陶しそうに妻依が応える。
「何度も何度も言ってることなんだが、誰も見ていないところだったら何をしていても誰も文句は言わない。だが、ここは学校だ。最低限度の校則は守って欲しい」
 苦々しげにこの学校の生徒会長である上原さんがそう言ってくる。
「何度も何度も聞いてることだけど、あたしは別に校則を破ってなんかいないじゃない? こいつは知らないけど」
 僕を顎でしゃくる妻依。
「僕だってそんな覚えなんかないですよ」
「自覚のない悪が一番の悪だとはよく言ったもんだ……」
 上原さんがぼそぼそ何か呟いたが僕には何と言ったのかはわからなかった。
「だから、その、べたべたとくっつくのを止めてくれ、とそう言っているんだ」
 べたべた? 僕らはそんなことをしている覚えはない。
「だから、そんなことはしてないじゃない」
「そうですよ」
「ぐっ……いや、つまり……」
「お二人が仲睦まじく手を繋いで身を寄せ合っている姿を全校生徒に晒していることが、校紀を乱すことに繋がるかもしれないと生徒会長さんは心配しているのですよ。ね?」
 今までどこにいたのか、三神さんが割り込んできた。
「そ、そうだ。不純異性交遊をするななどとは言わん。ただ、何だ、もう少し節度を守って欲しいというか、その、他人の目を気にする努力をして欲しい」
 上原さんはなぜか顔を俯かせながらそう言った。
「手ぇ? 手を繋ぐなんてこと普通でしょ? それにこんなに寒いんだし、誰かにくっついてないとやってられないわよ」
 白いため息をつきながらうんざりしたような表情を作る妻依。それに関しては僕も同意だ。加えれば早く教室に行きたい。
「ふつうじゃない! 貴様らの基準は知らんが世間ではそういうことは恋人同士でしかやらんのだ!」
 鼻息も荒くがなりたてる上原さん。せっかくの美人が台無しだ。
「だからあたし達は恋人なんかじゃないって。ねぇ、浩樹」
「そうですよ。ただの幼なじみです」
 淡々と返す。何となく火に油を注いでるな、とも思いつつ。
「恋人じゃないぃ? どう考えても」
「事実はどうであれ、周りにどう見えるかが問題だと生徒会長さんは言いたいのですよ。ね?」
「あぁ、そっか。それならそうと早く言いなさいよね」
 すっと腕から離れる妻依。寒い。
 その場を去る僕ら三人。
 振り返ってみると、校門の前で上原さんは毒気を抜かれたように呆然としていた。

 妻依と三神さんはクラスが同じだが、僕は別だ。一年と二年のメンバーはほとんど変わっていないのに僕らは離れてしまった。少々面倒だが、クラス分けは水ものなのだから仕方がない。そう思いながら、僕は一限の準備を始めた。
609依存系幼なじみ(4/5) ◆9DJPiEoFhE :2009/02/24(火) 05:40:32 ID:YFNOwbAs
 チャイムが鳴る。今日もようやく一日が終わりだ。私は鞄に教科書を詰め込み、隣のクラスに入る。
「あれ?」
 いつもの席に彼がいない。どうしたことだろう、何かあったのだろうか。
「誰もいない教室を覗いたりしてどうしたの? 妻依」
 後ろからの声に振り向くと、不思議そうな顔をしているクラスメイトがいた。
「ひろ、いや、このクラスはどうしたんだろうって」
「最後の授業の先生が病欠とかで自習だったらしいよ。うちのキムも休めっての」
 キムとはついさっきまでうちのクラスで授業をしていた数学教師のことだ。妖怪ラリホー、α波製造機など、異名の多さだけが取り得である。
「……そうなんだ。ありがと、瑠璃」
 瑠璃に礼を言ってその場を後にする。
 さて、彼はどこに行ったのだろうか。帰宅したということは考えられない。なぜなら、私が同じ立場だったらそうすることは絶対にありえないからだ。
 まず昇降口で彼の下駄箱を確認する。うん、靴はある。
 次に彼が一番いる確率の高い図書室へ。放課後の図書室というものは試験前でもなれば閑散としているものだ。今日も例に漏れずここは静寂に満ちていた。
 念のため、通路にある座席も含めて隅々まで探したが彼の姿はなかった。次。
 可能性は低いが生徒会室へ。
「おや、一人とは珍しい」
 嫌な奴に会った。回れ右をしようとするが。
「桜咲君をお探しだろう。いくら恋人とはいえ常に一緒で気が滅入らないのか」
 会長はそう問うた。私は彼女を見据えた。
「だから、恋人同士ではないのよ」
「ただの幼なじみだと」
「ええ」
「それは、いつか恋人同士になるかもしれない、という意味も含まれているのか?」
「考えたこともないわ」
「それでは、いずれお互い別の恋人ができる日が来るかもしれない、と」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「君は曖昧だね」
「あたしは他の人より成長が遅いのかもしれない。恋とか愛だとかそういうものがよくわからないの」
「私だってわからんさ。それでも君が彼といたいという気持ちは変わらないのだろう」
「そうね、それは本当。昔から、彼と過ごした記憶の中でそれだけは一度も変わっていないわ」
「……そうか」
 顔を伏せる会長。そして生徒会室を占める沈黙。
「……で?」
「で、とは何だい」
 まだいたのか、とでも言いたそうな顔で会長がこちらを見上げた。
「いや、こういうシリアスな会話をした後に浩樹の場所を教えてくれるのがお約束かなーって」
「ゲーム脳も大概にしたまえ。そもそも私は最初に君が一人なのを珍しがったじゃないか」
「だったら思わせぶりな会話しないでよ!」
 まったく、喋り損だ。早く浩樹を探しに行かねば。もう日はずいぶんと傾いている。
「しかし、こんな時間までここで話していてよかったのかい? もう桜咲君は帰ってしまったのではないか?」
「ううん、浩樹は絶対にあたしを待っているわ」
 これだけは言い切れた。そうして生徒会室を後にする。
「わかってるよ」
 会長はニヤリと人の悪そうな笑みを浮かべた。
610依存系幼なじみ(5/5) ◆9DJPiEoFhE :2009/02/24(火) 05:41:34 ID:YFNOwbAs
 どこを探しても彼の姿はない。
 駄目元で、最初に探した図書室に入った。
 目の覚めるような赤。窓から夕焼けが差し込み、部屋は相変わらず静寂に満ちていた。 そんな中、備え付けの机で舟をこぐ者が一人。
 向かいの椅子に座って眺めた。アホ面だ。それ以外に表現しようがない。そんな顔を見ていると私はどうしても顔の緩みが抑えられなかった。だから……

 頭部を鈍器で殴られたかのような衝撃。
「ってぇ……」
「お目覚めぇ? 居眠りとはいい身分ねぇ?」
 目の前には妻依、いや殺意の波動に目覚めた者がいた。
「うわっ、はんにゃ、ってぇ! いや妻依、いつの間に」
 ボカボカ殴るのはやめて欲しい。ただでさえできの良くない頭が悪化してしまう。
「今何か言った? こっちの台詞よ! さっきはあんた図書室にいなかったじゃない」
「え? 僕はずっとここにいたはずだけど……」
 そう、僕は六限が休講と聞いてからずっと図書室で妻依を待っていた。褒められる理由はあっても殴られる理由はないはずだ。
「六限の終わった直後! この部屋誰もいなかったわよ?」
「あー、その時は、トイレ、行ってたかも……」
 あの時は僕の中のテロリストが大暴れだったのだ。早々に最善の処置を講じる必要性があった。
「トイレなんてずっと我慢してなさいよ」
「無茶言うなって」
 ぷいと顔を背ける妻依。それを見て気づいた。つまり妻依は六限が終わってから僕をずっと探して歩き回っていたということになる。
 この暖房の効いた図書室ではなく、身を刺すような寒さの校内を。
「ごめん」
 素直に謝る。申し訳ない気分でいっぱいになった。
「お詫びに帰りにアイス奢りなさい」
「え、この冬のしかも夕方に?」
「い・い・か・ら! 行くわよ!」
「……わかったよ」

 腕を組んだ二人が部屋を出て行く。
 一部始終を眺めていた図書委員の男子生徒は久々の光景を堪能したことに満足しつつ欠伸をひとつ。
 とっくに過ぎた閉館時間をまた顧問の教師に注意されることを憂いつつ、読みかけの文庫本に栞を挟み、すでにほぼ終えていた退室準備を手早くこなし、図書室を後にする。
 冬の日の入りは早い。少し前まで騒がしかったそこは、完全なる暗闇と静寂で満たされた。
611 ◆9DJPiEoFhE :2009/02/24(火) 05:42:35 ID:YFNOwbAs
投下終了です。
書き忘れましたがエロなしです。
612名無しさん@ピンキー:2009/02/24(火) 13:02:15 ID:q2aDpOuh
投下乙
続き期待
613名無しさん@ピンキー:2009/02/24(火) 20:47:40 ID:oNgr3B5b
wktk
614名無しさん@ピンキー:2009/02/24(火) 21:30:54 ID:5eNMk5EX
>>610
GJ!これはいい依存。
一人で帰るのそんなに嫌かw
615心の隙間:2009/02/25(水) 03:40:51 ID:7veM0QOl
>>611
よかったです。
GJ!!
ゲーパロさんも楽しかった
616名無しさん@ピンキー:2009/02/25(水) 03:47:49 ID:7HQLlxcE
>>611
こういうのなんかいいね、本人達に自覚がないのがおもしろい。


そして、ゲーパロマンセー!
617名無しさん@ピンキー:2009/02/25(水) 04:06:12 ID:p1eurv0u
>>611
ネタの仕込み方が上手いな。こうもすんなりと。
それぞれが思惑ありげに依存カップルを見守っている雰囲気が良い。
618名無しさん@ピンキー:2009/02/25(水) 08:36:56 ID:HLWCZKoc
>>611
GJです。
幼馴染のまま踏み込んでいったらこうなりました、という感じだな。
619心の隙間:2009/02/25(水) 20:28:54 ID:7veM0QOl
明日の朝には投下できるかもしれないです。
遅れても明日の21時までには投下します。
それでは
620名無しさん@ピンキー:2009/02/26(木) 11:28:59 ID:v3suS8n0
待ってます。
621名無しさん@ピンキー:2009/02/26(木) 23:21:47 ID:hAJ4hqrT
まだかな
622心の隙間:2009/02/26(木) 23:48:57 ID:q7RgKJAu
すいません、投下したいんですけど。
なぜかできない…

もう少し待ってください
623心の隙間:2009/02/27(金) 01:04:56 ID:gLF4+23k

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「ふふ…あの二人仲良くしてるかしら?」
楽しそうに話す恭子になぜか少し苛立ちを覚える。

「仲良くしてるかって……そりゃ勇は面倒見がいいからね。妹できたみたいな感じじゃないの?」
レモンティーが入ってるカップから口をはなして返答する。
少し返答に棘があったかと恭子を見るが、気づいていないみたいで笑みを浮かべている。

――私達は今、恭子の頼みで勇が入院している病院から少し離れたオープンカフェで時間を潰している。

凪ちゃんがどうしても勇と二人で話をしたいそうだ。
「ふふっ…家出の後、家に帰ってきてからずっと携帯握ってるから何事かと思ったけど…とうとう凪にも春がきたわね。」

「……」

時計を見る…7時20分。
8時になったら面会時間が終わる。

「あら?もうこんな時間…それじゃいこっか?」
恭子が席をたち伝票をとる。

私と恭子がカフェに入ると、どっちがお金を払うかジャンケンで決める。
私たち2人の学生からの決まり事だ。

恭子の旦那である修司くんも子供っぽい恭子の仕草が一番好きだったらしい。
624心の隙間:2009/02/27(金) 01:05:19 ID:gLF4+23k
理想の女性像は?と聞かれれば間違いなく恭子と答えるだろう。
あんなふうに男の人に甘えてみたかった。
「ほら!おいて行くわよ?」
恭子の声が後ろから聞こえてくる。
振り返るともうレジをすませてコートを羽織っている。

「う、うん!今いく!」
慌てて私もコートを手に取り恭子の後を追う。

外にでると冷たい風が勢い良く肌に突き刺さる。
昔は真冬にミニスカートを着てもまったく気にしなかったが30半ばになれば昔みたいに短いスカートなんて着れない。
悲しいことだが、そんな服装をしたとろこで喜んでくれる人もいない。

「はぁー…はぁー…少し遅くなったかもね…凪心配してるかしら?」
恭子が自分の手に息を吹きかけると、寒さで白くなった息が両手を包み込む。

「大丈夫よ、もうすぐ中学生でしょ?」
来月から高原一家が家の前の住宅街に引っ越すことになった。
その新居から凪ちゃんは中学校に通うらしい。
通う中学校は新居に近い私と恭子の母校。
勇の通ってた中学校でもある。

凪ちゃんに頼まれたと言うのだが、まず娘に頼まれたって一軒家を買うなんてあり得ない。
そこには少なからず私も関係してくるのだ。
625心の隙間:2009/02/27(金) 01:05:42 ID:gLF4+23k
――勇の約束。

少しギクシャクするが麻奈美も精一杯頑張ってくれているので順調に勇との約束を継続できている。

あの勇の一言がなければ確実になかった現実。
勇と麻奈美には感謝してもしきれない気持ちでいっぱいだ。

「あんた…物凄く泣きそうな顔してるわよ?」
恭子が心配そうに話しかけてくれてる。

「バカ、子供じゃあるまいし…早く病院いきましょ。」

多分私は本当に泣きそうな顔をしていたのだろう。
少し滲んで視界が見づらくなっている。
今日はあまり勇と話していない。
面会時間の終了が近づいてるが恭子が隣にいる限り、走る訳にもいかない。

「ちょっ!ちょっと」」

頭ではゆっくり歩いてるつもりだったが
自然と足が速まっていたみたいだ。

――急激に勇に近づきすぎたのだろう。
最近、勇の顔を見ないと落ち着かなくなっている。

玄関前から上を見上げると勇の病室が見える。

「勇見えないかなぁ…」

「ははっ見えるわけないでしょ?」

小さく呟いたのに恭子に聞こえたみたいだ。
「ふふっ…わかってるわよ…」
分かってることだがなぜか寂しさがこみ上げてきた。

「…わかってるわよ…」

勇の存在がどれだけでかいか思い知らされてしまう。
626心の隙間:2009/02/27(金) 01:06:09 ID:gLF4+23k

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「お姉ちゃん、ちょっと…凪ちゃんも…」
なぜか姉もベッドに入ってきて姉と凪に挟まれてしまった…。
この部屋だけえらく濃い空気が流れている気がする。

――姉が部屋に入ってきて凪の顔を見た瞬間、時間が止まったかのように三人とも停止した。

数秒の間だったのだが何時間も時間が止まったような錯覚に陥っていたのだ。

「あれ?…なんで……え?」
姉もパニックに陥ってるのだろう。
手もポケットに入ったり後ろにいったり忙しない…。
表情も病室を間違ったかの如く申し訳なさそうに周りを見渡していた。

「えっとね…ちょっとややこしいんだけどね…」

戸惑っている姉に凪がいてる理由を話すと。
話が終わった瞬間冷静な顔つきで「嘘つけ」と言われた。

「本当だって…もうすぐお母さんも帰ってくるから聞いてみたらいいよ。」

「そう…わかった。」
分かってくれたのか姉はパイプいすに座り、大きなため息をついた。

「体の調子はどう?少しは楽になった?」

「うん、もう大丈夫だよ。」

駅から走ってきてくれたのだろう……顔が熱を帯びて赤くなっている。
627心の隙間:2009/02/27(金) 01:06:41 ID:gLF4+23k
「ごめんね?今日おそくなっちゃって…友達が離してくれなくて…」
この言葉を聞いて安心した。
大学でもちゃんと楽しんでるようだ。

「来てくれるのはありがたいけど、たまには友達と遊びなよ?ストレスたまるよ?」

「勇と話すことにストレスなんて微塵にも感じたことないわよ…それに大丈夫、大学では友達ともよく話すから。」
まぁ、大学で友達ができただけでも大進歩としておこう。

「それと…これ…」
姉がカバンから何かを取り出す。

「おぉ!!お姉ちゃん、それはっ!!」

姉がカバンから取り出したもの……それは真っ赤なリンゴだった。

「ふふっ…美味しそうでしょ?勇大好きだもんね。」
姉が真っ赤な果実を俺の目元まで持ってくる…

「それ…どうするの…まさか俺の前で食べるの?……さすがにお姉ちゃんでも怒るよ?」

「そんなことしないわよ…お医者さんに聞いたらリンゴなら少し食べてもいいそうよ?」
この時ほど姉に感謝した日はないだろう…。

「マジで!?お姉ちゃん愛してる!!早く食べさせて!!」

姉の顔がリンゴの如く真っ赤だったがそれ以上に魅力的な真っ赤な果実に夢中だった。


「ゴッ…ゴホン…しょうがないわね…剥いてあげるから少し待ってて。」
628心の隙間:2009/02/27(金) 01:07:09 ID:gLF4+23k
「うわ〜すご〜い!皮全部繋がってる〜!」

凪が珍しいものを見るように身を乗り出して眺めている。

「ふふっ…凪ちゃんも料理するようになれば、すぐに覚えるわよ♪」
器用な手つきで皮を剥いていく姉も少し誇らしげだ。

「これで…よしっと!はい勇、召し上がれ。」
芯の部分を切り落とし、皿に並べて手渡しされる。

「…姉ちゃん…これ…」

丁重に切りそろえられたリンゴは物凄く美味しそう……だが。

「ん?なぁに?食べさせてほしいの?」
そういうと俺の皿に手をかけようとする。

「違うよ!!…なんで俺の皿だけリンゴ二きれしか入ってないの!?」
姉と凪のお皿には四きれある。
新手の嫌がらせかと思うほどあからさまな行動に、苛立ちを覚える。

「お医者さんにいってよ、あまり食べささないでくださいって言われたんだから。第一お粥食べたんでしょ?」

「ぐっ!?……っいただきます!!」
自分の病気だからしかたないリンゴを食べれるだけでも姉に感謝しなくては。

久しぶりの好物を口に入れようとする……が口に入る前に腕を掴まれ阻止される。




――「お兄ちゃん…あのね……その…私がお粥の時みたいに食べさせてあげよっか…なんて…」
629心の隙間:2009/02/27(金) 01:07:37 ID:gLF4+23k
口の前でフォークに刺さったリンゴがピタッと停止する。

「…食べさせてもらった……?」
姉のほうを振り替えれない…振り返ったら大惨事になると直感で感じたからだ。

「家では私がいくら食べさせてあげると言ってもさせてくれなかったのに……凪ちゃんにはさせるんだ…ふ〜ん…」

あぁこれは怒ってる…

「いやっ!…あれだよ!…ほらっ!!今病人でしょ?だからしかたなくみたいな…感じで…」

「そう…それじゃ私が食べさせてあげる、私も隣にいくわ…ちょっと横に寄ってよ勇。」
そう言うと、イスから立ち上がり掛け布団をまくりあげてベッドに入ってこようとする。

「ちょっ!?なっなんで!?狭いよ!!」
さすがに三人は狭い…この2人は俺が病人だと認識してるのだろうか。

「大丈夫よ、落ちないから」

姉は落ちないかもしれないが凪が危うい。
落ちまいと必死に左腕にしがみついているが、このままいけば凪が落ちてしまう。

「お姉ちゃん!!ちょっと危ないからマジで!」
左手で姉の肩と顔をグイグイと押し返す。

「コラッ!!勇ッ!お姉ちゃんに向かってッ…!泣くわよ!?」

なぜ俺の周りはこんなに騒がしいのが多いんだろう…
630心の隙間:2009/02/27(金) 01:08:11 ID:gLF4+23k

「わかったから、お姉ちゃん!!」
まず興奮を冷まさないと姉が本気で泣きそうだ。

「ふぅんとぅ〜?〜うぅ―」
姉の頬を全力で押し返しているので裏声でもない低音の声が口から漏れている。

「本当だって!!……それじゃ凪ちゃん悪いけどイスに移動できる?」
どちらが小学生かわからなくなる。

凪が少し考えた末思いついたかのように提案をだす。

「う〜ん……それじゃ…こうしたらお姉さんも入れる。」

そういうと布団を捲り上げて股の間に凪が入り込んできた。

まぁこれなら、三人でも入れる…が姉の顔が嬉しさからではなく、怒りで鬼の如く真っ赤になっている。

凪も姉の異変に気がついてるのだろう…俺の両太股を離すまいとがっしり掴んでいる。

「凪ちゃん?…前にも言ったけどその場所はっy「お姉ちゃん?ほっほら!!リンゴ食べなきゃ!」
この話題は早く終わらせないとややこしいことになる。

「……そうね、わかった…それじゃ、勇…あ〜んして。」

姉も凪を諦めたのかすでにリンゴにフォークを刺して口元に持ってきてくれてる。
凪は複雑そうな顔をしているが、今の姉に触ってはいけないと分かってるのだろう…。なにも言わずにリンゴ食べている。
631心の隙間:2009/02/27(金) 01:08:34 ID:gLF4+23k

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「はぁ〜美味しかったぁ〜」
数少ないリンゴの切れ端だったが口に入れた瞬間、今まで食べたリンゴの中で一番美味しいと感じた。

「そう言われると嬉しいわ。それじゃまた私が食べさせてあげる。」

姉も凪も「自分が食べさせたから美味しかった。」と考えているらしい。



「ふふっ……それじゃ…交代ね!!はい、私に食べさせて。」
そういうと姉にリンゴの入ったお皿を渡される。

「え!?俺が食べさせるの!!?」

凪も驚いた顔をして姉の顔と自分のお皿を交互に見ている。
凪のお皿にはもうリンゴはない…。
時間をかけて食べさせてくると思ったら凪が食べ終わるのを待っていたのか…。

「ほら!早くして、あ〜ん…」
なぜ目を瞑るかわからないが、これは食べさせるまで口を閉じないだろう。

「わかったよ…はい、あ〜y「コンっコンっ…ガラガラガラッ」



――「ごめ〜ん、ちょっと遅くなっ…ちゃ……た…」

ノックが聞こえたかと思ったら、こちらから返事をする前に勢いよく扉が開けられた。

「ほら、なぎ…さ…も…」

母の後に続いて凪母も入ってくる。



「…なにしてんの…?」
632心の隙間:2009/02/27(金) 01:08:55 ID:gLF4+23k

母の声に一番に反応したのが姉だった。
口元で停止しているリンゴをパクッと頬張ると、凪母に頭を下げそそくさとベッドから降りてパイプいすに座った。

姉もパニクったのだろう。
涼しげな顔をしているが、靴を履き忘れている…。

――「ははっ…ちょっと三人で遊んでただけだよ。」

「遊ぶのは結構だけどあんまり無茶するともう一つ胃に穴があくわよ?」

「はぁ…気をつけます…」
クスクスと凪母がなにか悟ったように話す。

「ほら、凪帰るわよ、もう勇くんといっぱい話したでしょ?」

「えぇ〜まだお兄ちゃんと話したい〜」
凪が抗議の声を上げるが、もうすぐ面会時間も終わる。

「俺は暇だからいつ来てもいいよ?それにあと三週間もすれば退院だから、いつでも遊べるしね。」

頭を撫でると少したってから凪がコクッと頷いた
「……それじゃまたお見舞いにくるね?約束ね?」

「うん、約束。またきてね。」

約束で納得したのかベッドから降りて凪母の元まで小走りで駆け寄る。

「はいはい、それじゃ、帰ろっか?。」

凪母に抱きついてるとこを見ると、まだ子供みたいで可愛らしく感じる。
633心の隙間:2009/02/27(金) 01:22:07 ID:gLF4+23k

「ふふっ…勇くんは子供の相手も女性の相手も得意なのね?こんどは2人で話しましょうね。」

「いえ、そんな…はい…」
凪母の雰囲気は少し苦手だ。
女性らしさが全面に出ているので、あたふたしてしまう。

「お母さん!?ダメだからね!?」
凪が精一杯背伸びをして母に文句を言う。

「あら?凪もお父さんが欲しいっていってたじゃない。あんなに若いお父さんがいたら素敵じゃない。」

「お父さんは天国にいるもん!!だからいい!」
小学生相手だから通じる挑発だと思う…。


――「ボソッ…年増のくせに…」


「わかったって。ほら、凪もちゃんと勇くんにお別れしなさい……それと…今の聞こえたわよ?あんたも私と同じ歳でしょーが。」

母の小さな呟きが凪母にも聞こえたようだ。

「それじゃお兄ちゃん、またくるからね。」

「うん、またね。ばいばい。」
こちらに元気よく手を振り病室を後にする凪を見送る。

「…少し疲れた顔してるわよ?」

「そうだね…少し疲れたかも…」

今日2度目の嵐が過ぎ去って落ち着きをとりもどす。
634心の隙間:2009/02/27(金) 01:22:41 ID:gLF4+23k

「勇、冷蔵庫に残りのリンゴ入れとくけど勝手に食べちゃダメだからね?それとポカリも入れとくから。」
カバンからリンゴとポカリを冷蔵庫に入れている。
リンゴは冷蔵庫に入れたらダメらしいがあまり気にしない。

「うん、ありがとう、お姉ちゃん。」
あ姉も満足したのか帰る用意をしている。

「勇ちょっと寝るの待ってね、体拭かなきゃ。」

そういうと母が部屋についてる水道から小さい桶にお湯を入れ、カバンからタオルを取り出してベッドに腰掛ける。

「それじゃ上着脱いで背中向けてくれる?」

「うん、わかった。」
母は俺の背中を拭いて帰るのが日課になっている。

三日に一度で大丈夫だし、自分でできるといったのだが「垢がたまると悪影響だし、一人じゃ綺麗に背中を拭けないでしょ?」と言われて母にお願いをしている。

「お母さん、私がしようか?仕事で疲れてるでしょ?」

「ありがとう、でも大丈夫よ、これぐらいは私にさせてね?」
なぜ姉が落ち込むのかわからないが、早くすませて欲しい。
家族とはいえ女の人に肌を触られるのは正直恥ずかしい。



――「…勇…ありがとうね…」

「……うん」
唐突にお礼を言われたが何のことを言ってるのかすぐにわかった。
635心の隙間:2009/02/27(金) 01:23:06 ID:gLF4+23k
――俺と母と姉の約束…。

それはまたあの家で家族一緒に住むことだ。

入院した次の日から2人には一緒に暮らしてもらっている…この話が凪母の耳に入り。
母が地元に帰るなら良い機会だし私も帰るっとなったそうだ。
凪母と家の母は少し仲が好すぎるみたいだ。
姉と母の2人暮らしに始めは不安だらけだったが、日に日に家族らしい会話も増えてきているらしい。
「どう?2人の生活でなんかあった?」

「麻奈ちゃんが、フライパンを焦がしたわ、あと勇の部屋のベッドも壊したわ。」

「ちょっ、ちょっと、お母さん!?お母さんだって雨降ってきた時、慌てて洗濯物取り込もうとして、閉まってる扉のガラスを走って頭突きで割ったじゃない!!それに勇のベッドはお母さんも関係してるんだからね!?」

ほんの些細なことだが聞いてるうちに、話の中で小さな幸せが少しずつ溢れてきているのが分かった。

「ははっ本当に?」

「本当よ?まさか雨が降ってくるとは思ってなかった…。
天気予報では晴れのマークがニコニコしてたのに…。天気予報なんて信用できないわ。」

「反省そこっ!?ガラス割ったとこでしょ普通…」

姉と母の言い争いも幸せの風景の一部になっている。
636心の隙間:2009/02/27(金) 01:23:51 ID:gLF4+23k
「まぁガラスは明日ガラス屋さんに来てもらって新しいガラスと交換するわ…フライパンも今日帰りに買って帰る。
あと、麻奈ちゃんが壊した勇のベッドだけど勇が退院したら買いにいきましょ?…ベッドの上でなにしたらあんな壊れかたするのかしらねぇ?」

「まだ言うかッ!!お母さんが勇のシーツを私に渡さずベッドに潜り込むからッ!」

「いや…まぁ楽しそうでなによりだよ。」
元気すぎて少し不安になってきた…。

「仲良くやってるから勇も早く体治して家に帰ってきなさい。治ったら家族みんなで旅行いきましょう。」

「そうよ?もうすぐ春だし桜咲いたら花見も行きたいね。」
2人はもう退院したらなにするか決めてるみたいだ。

「うん、すぐに治すから待ってて。」

「えぇ、私はいつまでも待つわよ?」

「私も…だから早く良くなってね?」

――小さな幸せは人間の欲に埋もれてしまう。
その小さな幸せを無くして初めて気づく本当の幸せの意味。

今この部屋には俺とお姉ちゃんとお母さんしかいない。

端から見たらなんの変化もない家族に見えるだろう。

たが胸を張って誰よりも幸せだと言える。

――だってそこには家族にしか見えない幸せが溢れているのだから――
637心の隙間:2009/02/27(金) 01:33:23 ID:gLF4+23k
今日の投下終了。
次の投下で終わりです。
なんやかんやでここまで来ましたねw。
638名無しさん@ピンキー:2009/02/27(金) 01:53:08 ID:f40NK+o+
GJ!
639心の隙間:2009/02/27(金) 21:14:28 ID:gLF4+23k
明日か明後日に投下するかもだけど
これ見てる人一人しかいない臭いなw
640名無しさん@ピンキー:2009/02/27(金) 21:31:29 ID:50e4orLM
>>639一人がGJと打ち込むとき、その裏では100倍の人が投下に感謝し、更に100倍の人が続きを期待している。
そして俺と>>638がGJと打ったということは、2万人がこの作品の完結を期待しているという事だ!
641名無しさん@ピンキー:2009/02/27(金) 22:09:09 ID:32sx4MpQ
20001人目参上!
GJ!
そして続き期待
642名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 05:00:18 ID:Y6ej3Hi/
>>641
お前だけに、いい格好させるかよ
643名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 10:39:22 ID:DIX/mR7X
誘い受け
644名無しさん@ピンキー:2009/02/28(土) 15:30:29 ID:o3xCreO0
>>639
おいおい俺もいるぜ
645名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 21:48:39 ID:tXr4pvOg
俺もいるぜ俺を置いていくなよ!
646名無しさん@ピンキー:2009/03/02(月) 23:22:29 ID:mAqLh1yw
おまえ等いったい今までどこに(ry
647名無しさん@ピンキー:2009/03/03(火) 09:04:48 ID:s+eOd4T1
保守
648心の隙間:2009/03/04(水) 04:04:00 ID:ADPolyeK

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇



「ふぅ…やっとかぁ…長かったなぁ…」

――入院から1ヶ月。
今日ようやく晴れて退院の日を迎えれた。
ベッドから降りて窓を開ける。
冬風の冷たい匂いではなく、春の息吹…桜の甘い匂いが微かに香る。

下の駐車場を眺めると道にそって桜の木が植えられている。
まだ七分咲きだが見ていると心が落ち着く。
咲き乱れる桜ほど綺麗な花はないって聞いたことがあるけど、桜は満開になる前が一番綺麗だと思う。

「なに見てるの?……あぁ……もうすぐ桜も満開になるわね。」
荷造りを終えた母がペットボトルのお茶を差し出してくる。

「ありがとう…そだね、桜が咲いたら、みんなで花見に行こうね。」
少し前に約束した花見は凪家族と俺たち家族。それに大樹と早苗も加わり七人ですることになった。
なぜ大樹と早苗が加わることになったかと言うと、見舞いに来てくれた大樹と母が鉢合わせしてしまったのだ。
終始大樹が母のことをべた褒めするので「今度花見に行くけどくるか?」と誘うと何が何でも行く!とのことだ。

母と大樹が楽しく話してるのを見て少し嫉妬してしまったのは口が裂けても言えない。
649心の隙間:2009/03/04(水) 04:04:36 ID:ADPolyeK

早苗も同様、「花見に行くから早苗もいかない?」と誘うと友達と花見に行ったことがないらしく、すごく喜んでいたのを覚えている。

何回か見舞いに来てくれたけど大樹と早苗が2人で見舞いに来たのはあの一回だけだった。

なぜ別々にくるのかと早苗に聞いたら、「勇が勘違いするでしょ?だから別々にきてるのよ。」らしい

大樹が意味深に「あいつは怖いぞ。」と言っていたが今でも意味があまり分からない。


――「…ねぇ、勇?」
窓の外を眺めていると母に服の袖を引っ張られた。

「ん?なぁに?」

「今日から一緒に三人で住むんだけど…勇は本当にいいの?迷惑じゃないの?」
まだ母の中では罪悪感に苛まれているらしい。
溝がすぐに埋まるとは思っていないが、少しやるせない気持ちになる。

「前にも言ったけど俺は家族三人で暮らすことが本当に嬉しいし、楽しみなんだ。お母さんが帰ってくるのに不平不満は無いよ。」

「ありがとう……勇は本当に男前になったわね…私も負けずにがんばらなきゃね。」

母の言葉が「ごめんなさい」から「ありがとう」に変わったのが一番の嬉しい変化だ。
650心の隙間:2009/03/04(水) 04:05:11 ID:ADPolyeK
――「…2人ともなに見つめあって惚けてるの?私のいない間に……。」

ビックリして振り返ると、いつの間にかトイレから戻ってきた姉が真後ろに立っていた。
姉は女性と話すとなんでも変な方向に持っていく癖があるみたいだ。

「べっ、べつに見つめ合ってないよ、」

「そうよ?…第一息子と母なんだからべつに見つめ合うぐらい普通だよ?」

母が言ったことに疑問をもったがまぁ見つめ合う家族だっているだろう…あまり深く考えないようにしよう。

「普通じゃないでしょ…まぁいいわ…荷物はまとめたんでしょ?早く帰ろうよ。」

「そうね…それじゃ私はナースの人達にお礼言いにいくから先に表玄関まで行っといて。すぐに私も行くから。」
母がそう言うと、前もって買ってきてたケーキを冷蔵庫から取り出し、部屋を後にする。

「それじゃ行こっか?」

「うん…」

1ヶ月お世話になった病室を見渡す。
この部屋に少し愛着が沸いてきていたのかもしれない。
私物が無くなって真っ白な風景になった部屋を見渡すとどこか寂しく感じる。
もう来ることもないだろう…

「お姉ちゃん……玄関まで手繋ごっか?」


「え?………うん……はいっ!」
651心の隙間:2009/03/04(水) 04:05:42 ID:ADPolyeK
俺から手を繋ごうなんて、言ったことがないから驚いたのだろう。
少し戸惑っていたがすぐに手を差し伸べてきた。

「さっ行こっか?」

「うん。」
姉に手を引かれ部屋を後にする。

「早く家に帰りたいでしょ?リクエストなんでもして良いよ?作れる範囲なら。」

「ははっ、今から考えとくよ。」

今から家に帰り、俺の退院祝いをしてくれるらしい。
夕方には凪と凪母も参加すると言ってたので、俺たち家族が食材を買って家に帰らなければならない。


――「まだちょっと肌寒いな…」

母を待つために病院から出る。
ロビーで待っていても良かったのだが、早く病院から出たかったのと、一際でかい桜の木が病室から見えたので、近くに行って下から眺めたかったのだ。

「うわ〜綺麗な桜…満開になったらすごいでしょうね。……」

「うん、上から見えたから近づきたかったんだ……綺麗だね。」

この一本だけやたらでかい…なのに物凄く繊細で桜の色も綺麗だ
姉も見惚れている。

「ん?な〜に?何か顔についてる?」

「いっ…いや、べっ、べつに…。」

姉の横顔を眺めていると見られてることに気がついたのかこちらに振り向いた。
慌てて目を反らすがなぜかオドオドしてしまった。
652心の隙間:2009/03/04(水) 04:06:25 ID:ADPolyeK

「…さっきね?…勇に手を繋ごうっていわれた時、ビックリしたけど物凄く嬉しかった…」

握っている手をもう一度しっかり握り返してくる。
少し手汗をかいてるが、離すどころか姉は力強く握っている。

「…勇……今しか言わないことだから…私の話聞いてくれる?」

顔が髪に隠れて表情が見えない。
声を聞く限り泣いてる訳でもなくはっきりと話している。

「うん……べつにいいよ。」

多分お母さんが居てると話せないことなのだろう。
2人だからこそ話せる話だってある。

「…私ね?……勇が他の人と話してるのを見かけると、たまに物凄くイラッと来るときがあるの……姉なのに嫉妬なんておかしいでしょ?」

「……」

その感情がおかしいのか正直わからない…俺はこの家族で育ったから他人の家族と比べることなんてできなかった…。

姉に彼氏ができれば少なからず嫉妬するかもしれないし。
母が再婚すれば始めは反対するかもしれない。
ただ仲が良い家族には良くあることじゃないのかと俺は思っている。

「私バカだから………こんなこと普通聞かないと思うけど………私どうしたら勇の自慢のお姉ちゃんになれるの?」
653心の隙間:2009/03/04(水) 04:06:54 ID:ADPolyeK

――「自慢の……お姉ちゃん…?」

「うん……ずっと考えてたんだけど、正直自慢のお姉ちゃんってどんなのかわからなくて……一応いろんなことしたけど勇と一緒にいる時が一番楽しいし……自慢のお姉ちゃんって……勇に近づかなきゃ自慢のお姉ちゃんになれるの?……わからない…」

入院してる間ずっと考えてたのか…。
入れ替わりで姉が入院したらたまったものじゃない。

「…お姉ちゃんにとってさ…俺って胸張って弟ですっいえる?」

「あたりまえじゃない!?勇は私の弟よ!!」

「あたりまえ…だよね?俺も一緒…あたりまえなんだよ。」

「え…?」

「俺の姉はお姉ちゃんだけだし、お姉ちゃんしか考えられない…だってあたりまえに毎日一緒にいたからね。」

「ぇ……あ…」

「他人に自慢なんてしなくても俺のお姉ちゃんってだけで大満足だよ?家族愛なんて俺たちが決めることでしょ?他人が決めることじゃないでしょ。」

「……」
そう…これは俺たち家族のことなんだ…いちいち他人に自慢なんかしても、なにも得る物なんて無い。


「今の俺があるのもお姉ちゃんのおかげなんだよ?俺が自慢って言うなら、自慢の弟にしたお姉ちゃん自信、誇りに思っても罪にならないでしょ?」
654心の隙間:2009/03/04(水) 04:07:27 ID:ADPolyeK

「勇…」

「だから強いて言うなら普段のお姉ちゃんが自慢できる姉かな?」
そう…普段の姉こそ一番魅力的だと断言できる。
正直無理してる姉はみてるほうが痛々しくなる。

「そう………ふふっ……勇って本当に女ったらしね……ちょっとドキドキしたよ?。」

姉が髪をかきあげてこちらを見る姿に少しドキッとした。
さっきまでの姉と違って表情がどことなく色気を感じたからだ。
なにか吹っ切れたみたいに清々しい顔をしている。

「女ったらしって……人聞きが悪いな…」
心を見透かされてるみたいで恥ずかしくなり桜の木に目を向ける。

枝の間から差し込む太陽が眩しい…。



「勇?」



「ん〜?なに?」




――「心から愛してるわ…。」



「うん…ありがとう。」

家族愛か別の愛情か……姉の声からは判別できなかった。

ただ多分もうこの言葉は聞けないと思う……。
姉として一つの区切りなのだろう。


「ふふっ…勇に彼女ができたら大泣きしてやるから、おぼえてなさい?。」

恥ずかしいが桜よりも姉の笑顔のほうがはるかに綺麗だった。
655心の隙間:2009/03/04(水) 04:08:01 ID:ADPolyeK

――「こらー!!勇も麻奈ちゃんも、お母さん置いてなにウロウロしてるのよー!?」

声につられて後ろを振り返ると、こちらに走ってくる母が視界に入る。

「あぁ…そういや玄関前で待ってろって言われてたね…忘れてた。」

「はぁ、はぁッ忘れてたって……てゆうか仲良く手繋いでなにしてたの?」

多分探してくれたのだろう。
服が少し乱れている。

「ん?上から見た時この桜だけ目立ったから近くで見たかったんだよ。だから見てた。」

「そう…じゃあ、なんで手繋いでるの?」
どことなく膨れっ面に見える。

「お母さん…知らないの?姉弟で手を繋ぐなんてあたりまえなのよ?…見つめあうのがあたりまえみたいにね。」

姉なりの母に対する仕返しなのだろう。
だが母は「あっそっか。」と普通に流してしまった。

最近分かったことだが母は魔性の天然らしく、姉が言うには1ヶ月一緒に暮らしたけど、未だに行動パターンが読めないらしい。

「それじゃ、私は反対の手…を握りたいけど荷物あるからこうするね。」
開いてる腕を母が組んでくる。


「まぁいいけど…車までだよ?」

こうやって三人で歩く桜道が一番の退院祝いかもしれない。
656心の隙間:2009/03/04(水) 04:08:30 ID:ADPolyeK

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

―― 「この辺までくるとやっぱり安心感があるなぁ…。」
車に乗って40分、やっと地元についた。

ここまで来ると見慣れた建物がいくつも並んでいる。

いつも見ていた建物だが、なぜかテンションが上がる。

「そうね……」

母の車に乗るのはこれで二回目だが、運転はかなり慎重だ。

だから運転中の母に話しかけても、あまり返答が返ってこない。
母の身長のせいで少し前が見づらいらしい。

「もうすぐ家かぁ〜なんだかワクワクする。」

「おかしなこと言うね勇は、自分の家へ帰るのにワクワクするの?」

後部席から身を乗り出し話しかけてくる姉を、母が危ないと注意する。

自宅へ帰るのにワクワクするなんて入院しなければ分からない感情だと思う。

このワクワクはもう経験したくない。


懐かしさに浸っているとポケットに入ってる携帯がヴーッヴーッと震えるのを感じた。

携帯をポケットから出してディスプレイを見る。


「誰だろ?………凪ちゃん?。」

携帯の画面には「凪ちゃん」と表示されている。
657心の隙間:2009/03/04(水) 04:14:43 ID:ADPolyeK
ありがとうございます。
少し長いので切りました…後半部分は20時までには絶対に投下します。

では仕事いってきますね。
658名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 08:22:42 ID:I6e8uLcs
そこまで気合入れて投下時間指定しなくてもw
GJ! 長かった物語もそろそろフィナーレなのか。感慨深いな。
659名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 11:26:34 ID:Jt0DDngE
GJ

僕はこいつが嫌いだ。
僕と同じ声。同じ顔。僕はこいつの「代用品」として育てられた。

「企業」の創設者、その血を最も濃く受け継いだ小さな少女は、生まれた時から敵に囲まれていた。
だから、「企業」は一つの保険をかける事にした。
危険から少女を遠ざけるために。
「もしも」の時、少女の不在を隠すために。
つまりは、影武者という代用品を使って。

「でも、僕はあなたの事が大好きですよ」

僕はこいつが心底嫌いだった。

こいつと同じ顔でさえ無かったら、僕は僕として生きることが出来たろうに。
こいつと同じ声でさえ無かったら、僕は僕として生きることが出来たろうに。

こいつと同じでさえ無かったら―――
僕はこいつを、愛する事が出来ただろうか。

「構いません」

こちらの考えを見透かしたように、言う。

「あなたが僕を愛してくれなくても、あなたが僕を憎んでも、僕は構いません」

だから、だからどうか。

「何処にも行かないで。何処へも行かないで。僕を、独りにしないで。」
「あなたを縛った僕を許してくれなんて言わない。あなたが望むなら僕は今すぐ舌を噛み切ります。だから」

だからどうか、僕を置いて死なないでください――

僕が死んでも誰も悲しまないと思ってた。
「代用品」が居なくなったって、何も変わらないと思ってた。だけど。

僕と同じ顔が泣いていた。
僕と同じ声で泣いていた。

結局、僕は死ねなかった。



僕の世界には、価値のあるものなんて一つしかない
その一つが無くなってしまった世界なんて、滅びてしまえばいい
僕がそう思っていること、あなたは知っていましたか?
662名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 18:39:36 ID:RAD3wjfo
ちょっと思い付いたんで、場繋ぎ的に投下
「代わり」にしかなれなかった少年に恋した「代わり」のいる少女、みたいな?
続くかどうかは微妙ですけど―――

さて、半裸で待とうか
663心の隙間:2009/03/04(水) 19:46:57 ID:ADPolyeK

――「凪、勇くんなんだって?」

「べつに良いよだって!!お兄ちゃん達もまだついてないんだってさ。」

時計を見るともうすぐ四時になる。

やはり少し早すぎたみたいだ。
凪に早く行こうと言われて、予定より二時間も早く私たちは家を出てしまった。

買い物もまだ行ってなかったらしい。
早く付くのならと、私たちも一緒に買い物へ行くことになった。

「勇くん大丈夫かしら……奈々の運転は怖いからね…身長が低いから危なっかしいのよ…。」

あの子の助手席に座ったことがあるけど、正直心臓に悪い。

「…奈々って……誰?」


「ん?勇くんのお母さんよ?」

「あっそうなの?可愛い名前だね。」


――名前で思い出した。
勇くんが入院中、私が奈々の名前を呼んだら不思議そうに「奈々ちゃんって誰ですか?」って聞いてきたことがある。

さすがに私も奈々もポカーンとしてしまった。

あなたの母の名前よと教えると、物凄く驚いてた記憶がある。

さすがに天然爆発なあの子でも相当ショックだったらしく。その日は一日中、上の空だった。
664心の隙間:2009/03/04(水) 19:47:30 ID:ADPolyeK

まぁ息子に名前を知られて無いなんて気落ちどころではないだろう。
奈々には心中お察しする。

「もうすぐ勇くんの家につくわね…楽しみ?」

「うん!!早くお兄ちゃんと遊びたい!!」

凪もまだまだ子供。
あの子が小学生になびくとは思えないけど、面倒見は良いみたいだ。

「…勇くん……はぁ…」

凪に聞こえない声で小さく呟く。


――勇くんを一番始めに見た瞬間、呼吸をするのを忘れるくらいビックリした。

麻奈美ちゃんと話しをしていても勇くんが気になってしかたがなかった…。

なぜ気になったかと言うと、奈々の旦那に似ていたから…。
そして誰より私の旦那に雰囲気が物凄く似ていたのだ。

一瞬で目を奪われて初恋の時のように心臓が大きく跳ね上がった。

あの時。なんとか勇くんと話がしたい、声が聞きたい…だから麻奈美ちゃんを引き止めようと必死になった。
しかし用事があると麻奈美ちゃんに会話を中断されて勇くんと話すことが出来なかった…。

「ふふっ……恥ずかしいわね…高校生相手に…」

帰り際、見えなくなるまで勇くんの背中を眺めていたのを覚えている……背中姿だけでも目に焼き付けるために…。
665心の隙間:2009/03/04(水) 19:48:02 ID:ADPolyeK

私と凪は本当に似ている。
顔や性格は勿論なのだが、一番私の血を濃く受け継いでる部分がある。

それは一つの物に魅了されると、その物しか目に写らなくなるのだ。

簡単な話、産まれもっての依存症なのだ。
携帯番号を聞いてくるあたり凪はかなり本気らしい。

父が亡くなってすぐ、運命的に父に似た人と出会った……。
勇くんは依存するならもってこいの人間なのだ。
多分凪より私が先に出会っていれば、歳関係なしに勇くんと関係を持とうとしたかもしれない。

皮肉にも私の大親友の息子と言うことで叶わなかったが…


――「あぁっ!お兄ちゃんだ!!お〜い!」

車の窓も開けず手を振る凪に少し苦笑いをしてしまう。
玄関先で私達が来るのを待ってくれていたのだろう。
笑顔で凪に手を振っている。

「お兄ちゃん!!」

玄関前で車を停めると、凪が助手席から飛び出して勇くんに駆け寄る。

「ははっいつも元気だね凪ちゃんは。」

やはり何度見ても似ている…
凪を見る目もあの人と同じ父親が娘に見せる目と同じだ。

凪は気づいていないだろうが、勇くんは凪のことを完全に妹か娘として接しているだろう。

これから成長する凪と勇くんが、どうなるか楽しみだ。
666心の隙間:2009/03/04(水) 19:48:30 ID:ADPolyeK

「こっちは大丈夫ですよ〜。」

「お母さん、こっちもOKだよ〜。」

車を奈々宅の駐車場に入れるために勇くんと凪がサイドから誘導してくれる。

奈々の車が奥に停まっているので誰かに誘導してもらわなければ、ぶつけそうで怖いのだ。

「勇くんも凪もありがとうね、もう大丈夫よ。」
勇と凪のお陰で綺麗に停めることができた。
エンジンを止め、後部席からカバンを掴み、ミラーで少し前髪を整えて外にでる。
ドアを開けると強い風がヒュッと音をたてて車の中に入ってきた。
先ほど整えた前髪が乱れる。
春風にイラッとしてもしかたがないので適度に髪を整えて再度外にでる。

「風が少し強いですね。大丈夫でしたか?」

駐車場の奥から勇くんと凪が出てきた。
少し苦笑いをしているが、セミのように腰にへばりついてる凪を鬱陶しがる訳でもなく頭を撫でながら引きずるように歩いてくる。

「コラ、凪!!勇くん退院したばかりなのよ?無茶しちゃダメじゃないの。」

私の声に反応した凪が、慌てて勇くんから離れる…が手はしっかりと繋いだままだ。
667心の隙間:2009/03/04(水) 19:48:51 ID:ADPolyeK

「わざわざスイマセン、こんな所まで来ていただいて。」

「良いのよ、凪がお世話になってるんだし。それとそんなにかしこまって話さなくてもいいわよ?普通に話して。」
礼儀正しく話す勇くんに少し寂しさを感じる。

「ははっ癖なんです。他人の年上女性と話す時、なぜか緊張するんですよ。」

「あら、そうなの?でもお隣さんになるんだから、普通が一番気が楽よ?」

かわいい癖だが私だけが蚊帳の外みたいでムズムズする。

「そうですか?わかりました…なるべく普通に話すようにがんばります。…それじゃ中に入りましょっか?まだ肌寒いですし。」

春とはいえやはり薄着だと少し寒い。

「そうね、お邪魔するわ。」

家にお邪魔したのは奈々が結婚した日以来。
もう十数年前になる。

懐かしい…あの時も家の前で落ちた桜の花が風で舞っていたのを覚えている。



――「……ッ、あっ!!」


舞っている桜に目を奪われ、足元の段差に気が付かなかった。

無防備に前へ倒れ込む…。
このまま落ちれば確実に怪我をするのを頭ではわかったのだが硬直して手が前に出なかった。

怪我を覚悟して目をギュッと瞑る。





――「…っと、大丈夫ですか?恭子さん。」
668心の隙間:2009/03/04(水) 19:49:32 ID:ADPolyeK
なにが起こったか分からなかった…。

倒れ込んだ先は固いアスファルトではなく柔らかい「なにか」。

そして私の名前、「恭子」と聞こえた。
恐る恐る目を開ける。

「…」

どうやら私は誰かの胸板に顔を埋めているみたいだ…。

「お母さん!?」

凪の声が聞こえる。支えてくれたのは凪?
有り得ない…凪が私を支えれる訳がない。
それに男性の声だった…。
だとすると一人しかいない。

――「大丈夫ですか?どこか痛めましたか?」

視線を上げると心配そうに支えてくれる勇くんの顔が私の目の前にあった。



「ひゃっ!、ひゃいっ!?」

慌てて勇くんから離れるが、少し足を挫いたみたいで痛みが走る。

「おっと…歩けます?」

よろけた私の腰に手をまわして耳元で呟く。

「だっ大丈夫よ!少し挫いただけだから…支えてくれてありがとう。」

多分悪気は無いと思う…だが私には十分すぎるほど毒なのだ。

「いえ、どういたしまして。それじゃ中に行きましょう。」

「えぇ…。」

勇くんにだきしめられた時、一瞬だが私は母ではなく女になっていた。

「…はぁ……どうしよう…」


心の中で凪に謝るが、勇くんに抱きしめられた感触が体から抜けることは無かった。
669心の隙間:2009/03/04(水) 19:50:08 ID:ADPolyeK

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「あぁ〜やっぱり我が家が一番落ち着く〜」

1ヶ月ぶりの我が家はどこも変わっていなかった。
リビングしか見ていないが姉の部屋も、俺の部屋も、母と父の部屋も、変わってい無いだろう。

「ほら、紅茶。恭子と麻奈美も、はい。」
お盆に乗せてある紅茶を俺と姉、凪母に渡される。

「ありがとう、お母さん。」

「あら、ありがとう。」

三人ともそれを受け取りソファーに座る。
久しぶりに座るソファーは眠たくなるぐらい心地がよかった。

「そういや凪ちゃんは?居ないけど。」

リビングを見渡すが姿が見えない。
さっきまで俺と遊んでいたが、いつの間にか居なくなっている。

「あれ?本当だ…あの子どこに行ったのかしら。」

「まぁ玄関の閉める音はしなかったし。多分二階にいったのよ。」

紅茶をのんきに飲んでいる…探しに行く気は無いみたいだ。
「ふぅ……ちょっと探してくるよ。」

紅茶をテーブルに置いて立ち上がる。

――「あらそう?お願いね、あなた。」

凪母の発言に母と姉が紅茶を吹き出す。

「ゴホッ…ゴホッ…あっ、あっ、あなたぁ!?恭子あんたねぇ!!」
670心の隙間:2009/03/04(水) 19:50:31 ID:ADPolyeK

「冗談でしょ?なにをそんなに取り乱してるのよ…」

母と姉は冗談の区別がつかないのだろうか…。

てゆうかなぜ冗談を言った凪母が顔真っ赤っかなんだ?
チラチラとこちらを見ている……はぁ…乗らなきゃダメなのか……。




――「…それじゃ探してくるよ……恭子。」



「ブファッ!!なっなっ?きょっ!?なにっいッて!?」

今度は凪母が勢い良く紅茶を吹き出した。

意味が分からない……チラチラ見ていたのは、冗談に乗れって意味じゃなかったのか…。

「きょっ!きょっ?きょうっこ!?」

母はもう紅茶の入ってるカップを持っていない。
多分テーブルの下に落ちているのだろう…。
姉は…よく分からない、放心状態で窓の外を眺めている。

「…もう凪ちゃん探しに行くからね?」

あまり相手にしてたら長引くと思いリビングを後にしようと扉まで歩く。
するとこちらから開ける前に扉が勢いよく開かれた。

――「お兄ちゃん!?大変!!」
入ってきたのは目的の人物凪だった。
なにやら息を切らしえらく慌てている。

「どうしたの?なにかあった?」



「お兄ちゃんの部屋…誰かいるかも……」
671心の隙間:2009/03/04(水) 19:50:57 ID:ADPolyeK

「は?俺の部屋に?」

みんなの声がピタッと止んだ。

「嘘…ヤダ、私たち以外に誰がいるのよ…」

「凪、それ本当なの?」

「本当だって!!二階に見に行ってよ!!」
さっきまでの楽しい気分が嘘のように一気に不安に煽られた。
「俺ちょっと見てくるわ、みんなまってて。」
男は俺だけ…流石に女性を行かすわけにはいかない。

「勇!危ないわよ!もし刃物持ってたらどうするのよ!?そ、それよりまず警察にッ!!」
流石に刃物は怖い。やはり警察に連絡するべきか…。

「凪どんな人だったの?顔見た?」

「ううん、見てない…でも部屋が滅茶苦茶だった…泥棒かも…」

「え?誰か見た訳じゃないの?」

「うん……お兄ちゃんの部屋に入って電気つけたら…タンスとかベッドとか滅茶苦茶だった…」




――「「あぁ、それ私達よ。」」

声を揃えて母と姉がハモる。

「「「は?」」」

こちらも俺と凪と凪母でハモってしまった。

「麻奈ちゃんと争ってると散らかっちゃうのよ。」


(子供が怖がるほど散らかすってどんな争いだよ…。)
672心の隙間:2009/03/04(水) 19:51:23 ID:ADPolyeK

「でも散らかすってレベルじゃ…」

凪の不安な声を聞いていると流石にこちらも不安になってきた。

「…ちょっと部屋見てくるよ。」

母と姉にそう言い放つとリビングを後にする。
走って二階に上がり部屋の前に立つ。

「お兄ちゃん気をつけてね〜?」

一階から凪の声が聞こえるが凪はまだ誰かいてると心配してるみたいだ。

「すうー…はぁー…すうー…はぁー……よしッ!」

深呼吸をして、一気にガチャッ!と扉を開ける――。



「……なんだ…これ…」
タンスは服が溢れており。
ベッドは破れてるどころか中のバネが飛び出ている。
フローリングには服やパンツがばらまかれている。

「勇が帰ってくるまでに片づけようとしたんだけどねぇ…片づけても片づけても麻奈ちゃんが邪魔しちゃうのよ。」

「お母さんじゃない!!私が片づけようとしたらお母さんが勇のベッドに潜り込むのよ!?」

二人ともリビングに居たのにいつの間にか二階に上がってきていた。

「いや、喧嘩は仲が良い証拠だからいいんだけど…なぜ俺の部屋なの?もしかしてお姉ちゃんの部屋やお母さんの部屋もこんな感じ?。」



「「ううん、勇の部屋だけ。」」
673心の隙間:2009/03/04(水) 19:51:47 ID:ADPolyeK

「えぇ!?なんで!?」

平然とハモったが、なぜ他の場所は安全で俺の部屋だけ争いの場になるのか分からない。

「それは……これが原因よ…」

「…なにそれ?それがどうしたの?」


「これは綱引きのヒモ……通称、トランクスよ」
母が下から拾い上げたのは俺のパンツだ…しかもよく見ると完全に伸びきっている。

「これで綱引きしてたの?……二人で?」
母からパンツを取り上げて母の目線に持っていく。

「まぁ大まかにいえばそうね…白熱してくると麻奈ちゃんがパンツを取り上げて勇のベッドに潜り込むのよ。」

「逆でしょ!?お母さんが負けたふりしてッy「わかった、わかったから…まぁとりあえずもう綱引きは止めてね…パンツいくらあっても足りないから…」
このまま行けばまたなにか犠牲がでるかもしれない。
早く止めた方がいいだろう。

「これはまた…派手に遊んでるわね…」

いつの間にか後ろから凪と凪母も来ている。
凪母が呆れたようにため息混じりに呟く。

「まぁ…この部屋は明日片づけます…どうせベッドも買わなきゃならないし。」


――今更だが姉と母を見ていると実家に帰ってきたと深く実感できた。
674心の隙間:2009/03/04(水) 20:19:20 ID:ADPolyeK

俺の部屋を後にし、リビングに戻る。

緊張がとけたのか、みんなへたり込んでしまった。

ふと時計を見るともう5時…。

「…お母さん、買い物行かなきゃ。もう5時だよ?」

俺の声を聞いてみんな時計に目を向ける。
先ほどまで聞こえてた風の音も聞こえなくなっていた。

「うん、そうね。風も止んだみたいだし行こっか?…あっ!それと恭子は休んでなさい?足挫いたんだから。」

凪母の足には一応湿布を張ったがあまり無茶しないほうがいいだろう。

「えぇ、そうするわ…凪はどうする?」

「…私は……お母さんと一緒に待ってる!!」

俺たちと一緒に行く準備をしていたが止めてしまった。

「ん?べつに良いわよ?行きたいんなら」

「ううん、ここで待ってる。」

凪なりの母への思いやりなのだろう。
知らない家に一人は少し寂しい。

「そっか…それじゃなるべく早く帰ってくるから待っててね?」

小学生がここまで気を使えるのは親の賜物だろう…凪母も気づいているらしく、満面の笑みを浮かべながらムツゴロウの如く凪を撫で回している。


――「それじゃ、行ってくるから。」

「うん、気をつけてね!!」

玄関先まで見送りにきた凪に手を振り家を後にする。
675心の隙間:2009/03/04(水) 20:20:55 ID:ADPolyeK

――「なんか懐かしく感じるね…」

「うん…なんか子供の頃を思い出すよ…」

スーパーに行くために見慣れた歩道を家族三人で歩く。

昔はよく姉と一緒に母に連れられてスーパーに行っていた。
買い物に行くと一つお菓子を買ってもらう…それが嬉しくて母についていってた覚えがある。

「ここら辺も変わったよね…昔はここに公園あったのに…。」

昔あった公園や広場が住宅やビルにかわっている…。

新しい時代に追いつくために、環境も進化していかなければならない。
それは分かっているのだが思い出の場所が無くなるのは、やはり寂しい…。

――「そりゃ年が経てば人間と同じ変わる物もでてくるわよ……あっほら!、見えてきたわよ。勇なにが食べたいか決まったの?」

子供の時からよく行く近所のスーパーが見えてくる…。
唯一このスーパーだけが昔から変わっていない。

「うん、凪ちゃんと恭子さんにも聞いたけど、焼き肉で大丈夫だってさ。」

退院したら肉が食べたいと思っていたのでオーソドックスな焼き肉に決めた。

「焼き肉ね…わかった……それと恭子さんじゃなくておばさんで大丈夫よ?」

凪母に対抗してなにか得があるのか…家を出てからずっとこの調子だ。
676心の隙間:2009/03/04(水) 20:21:34 ID:ADPolyeK

「おばさんなんて失礼でしょ…」

凪母の姿を見ておばさんだなんて口が裂けてもいえない。
見た目がおばさんと言う言葉からかけ離れているからだ。

「私と同じ歳なのよ?それに、見た目も私と変わらないでしょ?昔はよく似てるって言われたもん。」
一年前のように凪母と同じような服装をしていたら、凪母と並んでも違和感が無いと思う。

今は母親という雰囲気が全面的に押し出されているので、凪母と並ぶとどうしても凪母に目がいってしまうのだ。

「まぁ、いいや……早く材料買って帰ろう。凪ちゃんと恭ッ……凪ちゃんのお母さんも待ってるから。」

言い合いのループは避けたい。
それに言い争いをしていると余計にお腹が空いてくる。

「そうね…それじゃパッパッと買って帰ろう。」

来慣れた場所だ…目を瞑っても目的地まで歩いていける。
カゴを掴んで肉売場へ歩いていく。

姉は野菜売場へ向かう。

母はお菓子売場へと一直線。

なぜか分からないが昔から母はスーパーにつくと、お菓子売場へ直行するのだ。
そしていつも待たされる…。

買ってくれるのは嬉しいが、子供に混じってお菓子選びをする母を待つのが小学生の頃は苦痛でしょうがなかった。
677心の隙間:2009/03/04(水) 20:22:03 ID:ADPolyeK

――焼き肉に必要な食材はカゴにすべていれた。
肉を見ていると余計にお腹が減ってくるが、それと同時に楽しみでもある。

「もう忘れ物ないよね?それじゃ会計しにレジにいこっか?」

忘れ物がないようにもう一度確認する。

「うん大丈夫!それじゃいこっか?」

姉とカゴを二人で持ちレジに向かう。
前に来たときも同じことをしたがやはり恥ずかしい。


――「ありがとうございましたー…。」

姉は気にしていないみたいだが、やっぱり店員に睨まれた…。
姉曰く普通のことらしい。

「早く帰ろっ二人とも待ってるから。」

「そうね、早く帰ってみんな…で………あ〜っ!!」

姉が思いだしたように後ろを振り返る。

「買い忘れ?戻る?」

今ならまだスーパーを出たところだからすぐに戻れる。




――「………お母さん……忘れてる…」



「はぁ?……………あッ!!」

姉がなにを言ってるのか意味が分からなかったが、母のことを思い出すと慌てて振り返る。

ガラス越しにスーパーの中を覗くと両手いっぱいに、お菓子を抱え込んだ母の姿が見えた…。


キョロキョロと周りを見渡し、泣きそうになりながら俺達を探すその姿は、迷子そのものだった。
678心の隙間:2009/03/04(水) 20:22:27 ID:ADPolyeK

――「グスッ…ヒック…うぅ…ひどい…」

「ごめんって…別に忘れてた訳じゃなくてちょっと驚かそうとしただけだよ?ねぇ、お姉ちゃん。」

歩きながら母を慰めるが、母の存在を素で忘れていたため、誤魔化すしか方法が浮かばなかった…。

「ふぇ?あっうん、私たちがお母さん忘れるわけ無いじゃん。」
姉が思い出さなければどうなっていたか…多分大泣きだっただろう。

息子としてあるまじき行為だが、いつもは姉と二人で買い物に行っていたので、自然と二人で外に出てしまったのだ。

「グスッ…絶対に忘れてたのよ…グスッ…あの戸惑いようは半端じゃなかったもの…」

この時点で嘘は無理だとわかり、姉と二人で母に謝り倒してなんとか許してもらった。

帰りはきた道と違う道を歩いて帰る…子供の頃からの習慣だ。
空を見上げると一面オレンジ色になっている。

もうすぐ新学期になる…あと数年もすれば姉の就職だ…こうやって三人一緒に買い物もなかなか行けなくなるだろう。
考えると少し鬱になる…。




――「あっ見て勇……あそこ懐かしいね…。」

姉が指さす場所。
それは夢の中で最後に父を見た場所…。

「………うん。」


父と歩いた思い出の場所……河原歩道だ。
679心の隙間:2009/03/04(水) 20:23:07 ID:ADPolyeK

「ちょっと河原までいこうよ。」

そう言うと俺達の返事を聞く前に姉が信号を渡ってしまった。

「ちょっと……ったく……まぁ少しなら大丈夫か…お母さん行こ?」

早く家に帰らなければならないのだが自分自身もう一度あの道を歩いてみたかった。

「ふふっそうね、それじゃ、行こっか。」
母には俺の気持ちが見透かされていたかもしれない。

姉の後を追い、信号を渡る。
階段を登り、見慣れたレンガの石畳に足をつけ、周りを見渡す。



――驚くことに見渡す景色は小学生の頃と全く変わっていなかった…。


なにかしら変わっていると思いこんでいたので、風景が全く変わっていないことに嬉しさがこみ上げてくる…。

「うわぁ〜なにも変わってないわね〜」

「本当…周りは変わってるのにこの場所だけ全然変わってない…」

母と姉も懐かしんでいる…
やはり母と姉もこの道は特別な場所として心に残っているようだ。

「勇とお父さんがこの道通って帰ってきたよね……。」

姉が頭を撫でてくる…心が昔に戻っているのか撫でられることが心地よく感じる。

「うん…俺の一番大好きな場所…」

タイムスリップしたように風景も…景色も…風の匂いさえも昔と同じなのだ。
680心の隙間:2009/03/04(水) 20:27:13 ID:ADPolyeK
――父と手を繋いで歩いた。

「これから俺、頑張れるかな……お父さん…。」

――疲れたら、おんぶしてくれた。

「俺…」

――もう、その父はいない。

「…うぅ…お父さん…」




――『見守ってるからな、勇』――



……ギュッ




「え…?」

今…父の声が聞こえた…幻聴にしてはハッキリと耳に残っている。

それに…。

「今の……手の感触…」
左手てを見る…微かに温もりが残っている。

「お父さんの手の温もりだった……」
周りを見渡すが父の姿らしき人物はいない…。
あたり前だ…父もういないのだから。


――「勇ー!!おいていくわよ〜!?」

いつの間にか姉と母は先に歩きだしている。

「見守ってるから……か」
確かにそう聞こえた……

「勇〜!待っててあげるから早く〜!!」

父からの最後の励ましの言葉として受け入れよう…。


「お母さん、お姉ちゃん、ちょっとまってよ〜!!」

父の声を胸に姉と母を追いかける……その姿は子供の頃に戻っていたのかもしれない。


――だって俺を迎えてくれる姉と母の姿も、昔となんら変わっていなかったのだから。
681心の隙間:2009/03/04(水) 20:30:20 ID:ADPolyeK

心の隙間はこれで終わりです。

見てくれた方々、長い間本当にありがとうございました。
682心の隙間:2009/03/04(水) 20:43:19 ID:ADPolyeK
>>662
GJ!続き楽しみにしてます!
683名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 00:37:42 ID:+dN3fptj
>>681
GJ!!
長い間お疲れ様。


こんなこと言うとアレだけど、番外編とか書けそうだなw
684名無しさん@ピンキー:2009/03/05(木) 09:09:59 ID:z95wF2mO
>>682
GJ!!お母さん勢に萌えた!!
さて、次回作は何かな? 
685名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 01:32:27 ID:XsHx1Mav
>>681
GJ!!
もし余力があるなら一年後あたりが見たいいいいいい
686心の隙間:2009/03/06(金) 03:01:05 ID:QHS7BUeZ
>>684
4月15日より後になるかもしれないです…。
>>683-685
少しだけ書いてます。なるべく早く投下しますね。
687名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 11:31:05 ID:L3k2PkRp
>>682 >>681
…寂しかったんだな。
688名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 11:31:42 ID:L3k2PkRp
まあともかくGJ!
689名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 11:51:26 ID:/6bNtrYo
人いない…
690名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 20:01:10 ID:+hym97Es
これは自演したくもなるな。
691名無しさん@ピンキー:2009/03/08(日) 23:35:32 ID:SvB3TRx6
誰も書こうって気が無いのが悪い
という訳で>>662期待
692心の隙間〜続:2009/03/10(火) 07:20:30 ID:bEElFY9a

――
―――
――――


満開の桜が優しく揺れ、花びらが舞う。


この町に越してきた時も、新学期と共に綺麗な桜の花びらが咲き乱れていた。


――大切な人からの贈り物である私の宝物、熊の目覚まし時計を見る。
針は6時を指している。

「ふぁ〜あっ…。」
大きな欠伸をし、両手を上にあげて背筋を伸ばす。
窓から入ってくる朝陽が気持ちいい。

ベッドから降りて、窓から外を眺めると綺麗な桜の木が見える。
その桜の木に朝陽が射して、よりいっそう花びらが明るいピンクになっている。

ある程度、景色を楽しむとまたベッドに戻る。
寝るためではなく、ベッドに置いてる携帯取りにいくために。

「ふふっ…おはよう。」
携帯を開くと、優しく笑う大好きな人の笑顔。

少し眺めた後、携帯の画面にキスをする。
張本人にしたいのだが目の前にすると、恥ずかしくて体が硬直してしまう。
携帯でも顔が熱くなるのに…考えただけでも熱がでる。

名残惜しいが携帯を閉じ、机に置く。

「早くしなきゃ…」

クローゼットから制服を取り出してベッドに放り投げる。
そう…私にはあの人と過ごす時間が少ないのだ。

早くしないとタイムリミットがきてしまう。
693心の隙間〜続:2009/03/10(火) 07:21:55 ID:bEElFY9a
素早く制服に着替えて一階に降りる。

その足でリビングに入ると冷蔵庫から牛乳を取り出す。
コップ一杯に注ぎ込んで、一気に飲み干す。
洗面所にむかうと顔を洗い歯磨きをし終わると寝癖を整える。

最近お母さんに化粧の仕方も教わった。
学校なので、あまり派手にできないが、薄化粧のほうがあの人には好評だった。

「…よしっと……忘れ物ないかな…」

最近独り言が多い。
お母さんは仕事で忙しくて五時には家を出ていってしまう。
帰ってくるのも22時を過ぎてることが多い。
この町に引っ越してきたので職場が遠くなってしまったのだ。

「よし、大丈夫!」

リビングに戻り、お母さんが作ってくれた弁当を掴むと玄関にむかう。

靴を履き、玄関を開けると風に吹かれて甘い桜の匂いが嗅覚を刺激する。

「いってきま〜す。」
誰もいない家に声をかけて玄関の扉を開ける。


――外に出るとまだ少し肌寒いが1ヶ月前と比べると全然違う。

「やっぱりまだ寒いなぁ…早く行こっと。」

これからむかう場所は学校ではない…目的地は自宅前の道路を挟んだ一軒家。

そこに住んでいるある人を今から起こしに行くのだ。
694心の隙間〜続:2009/03/10(火) 07:22:31 ID:bEElFY9a

――「おじゃましま〜す。」

その人の家の扉を鍵で開けて中に入る。
一人じゃ寂しいからいつでも遊びに来て良いとのことで鍵を渡されているのだ。
そのまま二階に直行する。
二階の一室の前に立つと扉に耳をつける。
なにも聞こえない…まだ寝ているみたいだ。

音が鳴らないように、ゆっくりと扉を開けて中にはいると。
私が大好きな匂いが部屋一面に広がっている。

ベッドに目を向けると、山のように膨れている。
もちろんベッドの中には持ち主が潜んでいる訳で頭まで布団を被って寝ているようだ。

バレないように、そ〜っと忍び足でベッドに近づき、恐る恐る布団をめくる。
するとかわいい寝顔が姿を現した。

「ん、う〜ん…」

眩しそうに唸るが目を覚ます気配が無い。

「…」

一年前からこの人は一緒に寝てくれなくなった。
理由を聞くともう中学2年生だかららしい。


――その夜私は大泣きしたのを覚えている。

寂しくて、悲しくて…この感情をどこに持っていけばいいか分からない…ただ、ワガママを言うと見捨てられそうで怖かったのだ。
695心の隙間:2009/03/10(火) 07:23:08 ID:bEElFY9a
少し前まで私のワガママはあの人なら何でも受け止めてくれると勘違いしていた。
優しさに甘えていたのだ。

一度あの人とケンカしたことがある…私のワガママが発端なのだが話がでかくなってしまい最終的に「バカ!!もうこない!絶交だからね!!」
と言ってしまったのだ。

言った直後、後悔したが意地になっていたため謝れなかった。

「そっか、それじゃ今日でお別れだね、さようなら。」
この言葉を聞いた瞬間頭が真っ白になった。

なにがなんだか分からず、空返事で「うん」と言って部屋を後にしてしまった…部屋の扉が閉まった瞬間、頭に「さようなら」の言葉が再生される…

この時初めて捨てられる危機感を感じた。
泣きながら「ごめんなさい」と謝ると許してくれたが、それからあまりワガママは言わなくなった。



――「…なにしてるの?」

「へ!?」

いきなり声をかけられて変な声がでてしまった。

さっきまで寝ていたのにいつの間にかおめめがパッチリだ…イロイロしようと思っていたが無理だった…


――「お、おはよう…お兄ちゃん」


――「お、おはよう凪ちゃん…」


大好きな、大好きな、お兄ちゃんのお目覚め。
696心の隙間〜続:2009/03/10(火) 07:23:59 ID:bEElFY9a

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「ふぁ〜あッ……もうこんな時間か…」
時計を見ると6時30分。
寝たのが3時…寝不足で頭がクラクラする。

「もう、お兄ちゃんまた夜更かししたでしょ〜、ったく、本当に体壊すよ?。」

凪が呆れたように溜め息を吐く。
まぁ夜更かししているのは事実なので、しかたがない。

「そだね、もう少し早く寝るよ、朝飯は?もう食べたの?」

恭子さんが朝早い時凪は家で食べることになっている。
おもに俺か姉が作るのだが最近料理を覚えだした凪がよく作ってくれるようになった。

「まだだけど……それよりお兄ちゃん…。」

「ん?どうしたの?」
モジモジしている…これは凪の癖で、俺に対してなにか甘え発言をする予兆なのだ。



「……抱っこ。」

両手を差し出して甘えるような声を出す。
少し前にワガママを言わないと約束したが、凪の中で俺に甘えることはワガママに入らないらしい…。

「はいはい、これでいい?」

凪が膝に座りやすいようにベッドに腰を掛ける。

失礼しますと言うと膝の上に座る…礼儀正しいのだがその座り方に問題があるのだ。
697心の隙間〜続:2009/03/10(火) 07:24:43 ID:bEElFY9a

「凪ちゃん…せめてイスに座るように座ってくれない?」

恥ずかしいことに、凪は真っ正面から抱きついてくるのだ。

「それ抱っこじゃないでしょ?…それにお兄ちゃんの顔見えないもん。」

小学生の時の凪なら大丈夫なのだがもう中学三年、さすがにイロイロ困ることがある。
首筋に鼻を押し当てているため、鼻息が当たってこそばゆい。
それにスカートを履いてるので、生足の感触がパジャマ越しでもわかる…

「でも…来年から高校生だよ?みんなに笑われるよ?」

我慢をしているが俺も男なので気まずいことになる前に止めたいのだ。

「べつに笑われてもいい……」

まいった…凪相手に説得はあまり通用しないようだ。

「それじゃ…高校生になったら強制的に終了だからね。」

「えっなんで!?嫌だよ?ねぇ、嫌だからね!?」

恭子さんから受け継いだ二重の目が見開くと少し怖い。

「ダメ〜はい、この話終わり、ご飯食べよう。」

凪をベッドに座らせて立ち上がる。
それと同時に抱っこも終了になる。

「あっお兄ちゃん!?ちょっと待ってよ!!高校生になったら本当に終わりなの!?」


「うん、終わり。先に下に降りて朝飯作ってるからお姉ちゃん起こしてきてね〜。」
698心の隙間〜続:2009/03/10(火) 07:25:07 ID:bEElFY9a
凪に姉を任せて一階のリビングに向かう。

リビングの扉を開けると少し冷たい風がパジャマの隙間を通っていく。
正面の窓を見ると窓が半開している。

母が仕事に行く前に開けたのだろう、心地よい風に乗って桜の匂いが部屋に充満する。

「今日は食パンでいっか…」

朝食はいつも米なのだが、寝不足もあって米を洗うのが、めんどくさい。

姉が起きてくれば料理を作ってくれるのだが、最近姉と凪に料理は頼りっぱなしなので、朝飯ぐらいは作らなければ。


「なんか一人で料理するの久しぶりだなぁ…」

俺が料理をする時は常に母か姉か凪がいる。
このリビングで三日に一度は恭子さんと凪が夕食を一緒に食べにくる。
あまり恭子さんも凪も家族と変わりなくなってきた。
今が一番幸せなのかもしれない…。

「よしっできた!俺的料理完成!」

テーブルの上に料理がならぶ…料理と言っても食パンの上に卵とベーコンが乗っているだけなのだが…。
俺と姉にはコーヒー、凪には野菜ジュースを入れてテーブルにおく。


――「それにしても、お姉ちゃんと凪ちゃんなにしてるんだ?まだ寝てるのか?」


作り終えてふと気が付く…まだ姉と凪が二階から降りてこないのだ。
699心の隙間〜続:2009/03/10(火) 07:25:32 ID:bEElFY9a

「お〜い!パン焼けたよ〜!?冷めるから早く降りてきて〜!」

リビングから出て一階の廊下から二階の姉部屋にむかって声をかける。

「…」

返事がまったく無い…凪が起こしに行けばすぐに下に降りてくるはずなのだが…俺が起こしに行くと布団の中に引きずり込もうとするので、なかなかベッドから出てくれないのだ。

「ったく、しょーがないなぁ〜。」
エプロンを階段の手すりに掛けて二階に上がる、姉は朝に弱く低血圧なので、すぐにベッドから出ないのだ。


――「…あれ?凪ちゃん?」
姉の部屋に向かうために俺の部屋の前を通ると、扉が開いており、ベッドが盛り上がっている。

「凪ちゃん?寝てるの?学校行かなきゃダメだよ。」
なぜ俺のベッドに潜り込んでいるのかわからないが、今寝たら学校に遅刻してしまう。

「こらこら、寝たらだめでしょ〜が…」

容赦なく布団を捲り上げる。
さぼりは許さない。


――「……どうしたの?」
布団を捲り上げると、小さく丸まって、声を殺して泣いている凪がいた…

「なにかあったの?凪ちゃん大丈夫?」

背中をさすりながら抱き寄せると、大粒の涙を流しながらしがみついてきた。
700心の隙間〜続:2009/03/10(火) 07:25:55 ID:bEElFY9a

「ヒック…お兄ちゃん…ウゥ…私…お兄ちゃんと…ヒック…」

途切れ途切れにしか聞こえないのでなにを言ってるのかわからないが、なんとなく言いたいことはわかる。

「あぁ〜わかったから…もう言わないから、ほら早く下に降りよう…あと化粧なおさなきゃ…すごいことになってるよ?」
涙やら鼻水やらで綺麗な顔が台無しになっている。


「…うん……抱っこ…」

話をちゃんと聞いていたのだろうか…首に腕を絡めてくる…早く料理を食べなきゃ、マジで遅刻してしまう…

「また今度してあげるから…本当に遅刻するから先に下に降りてて、お姉ちゃん起こして俺も降りるから。」
渋る凪を一階に向かわせる。

「ふぅ、後はお姉ちゃんか…」

家族の中で母の次にやんちゃな姉を起こしに行く…まぁ三人しか家族はいないのだが、凪と恭子さんを合わせても、母のやんちゃぶりは群を抜いている。
その母の血を受け継いだ姉を今から起こしに行くのだ。

――「お姉ちゃ〜ん?もう起きてくださいよ〜」
コンコンとノックをする…返事は無し。

「お姉ちゃん、入るね?」

姉の返事は無いが扉を開ける。

ベッドに近づくと、幸せそうな顔で抱き枕を抱きしめ、気持ち良さそう眠る姉の寝顔があった。
701心の隙間〜続:2009/03/10(火) 07:26:41 ID:bEElFY9a

「なんの夢みてるんだ…えらい幸せそうな顔しているけど…」
ニヤニヤしながら抱き枕にキスしている…
幸せそうな顔を見ていると起こし辛いのだがそうも言ってられない…

「お〜い、起きてくれ〜、朝飯できたよ〜?」

「ん〜うるさい…。」
うるさいとは何事だ…所々はだけているが寒くないのか、お腹むき出しでもにやけている。
しょうがないので強行手段で行くことにする…。


「よいしょっと………ほら、こちょこちょ〜」


「やひゃははははは!?、ひ〜ひひひひ、やめてぇ〜起きるから〜」
姉のお腹に体重をかけないように馬乗りなり、わき腹をくすぐる。

「ほら〜こちょこちょ〜」

「あっははははっ、止めなさッ、きゃはははは!、起きますからぁ〜っ」

脇から手を離す。
物凄く疲れた顔をしており、ぐったりしている。
寝汗ではない汗のせいで肌にパジャマがへばりついている。

「起きるって言ったのになんで止めないのよ!?オシッコ漏らしかけたじゃない!」

「いつも起きないから少し長くしました。早く下に降りてきてね。」

姉を解放してベッドから降りようとする……が姉に足を掴まれた。


「ふふっ……さんざん私の体で遊んだんだから、お返ししなきゃね。」
702心の隙間〜続:2009/03/10(火) 07:29:45 ID:bEElFY9a
「お兄ちゃんもお姉ちゃんも…朝から暴れすぎ、近所迷惑になるよ?」

「「すいませんでした。」」

姉に捕まった後、20分近く布団の中に引きずり込まれて、もみくちゃにされた…凪が見に来なければもっと長くやられていただろう…。

「もうお兄ちゃんが作った料理、冷めてるよ?」

「あぁ〜そうだ!料理作ってたんだ!」

料理のことをすっかり忘れてた…姉を睨むが、そそくさとシャワーを浴びに風呂場に逃げてしまった。

「まぁ、いいか…早く食べて、行かなきゃ…大学生初日に遅刻するわけには行かないからね。」

そう…俺は姉と同じ大学を受験して晴れて今年から大学生なのだ。
姉も一年留年したので俺と一緒に行くことになっている。

やはりあの一年は大きかったみたいだ…姉に謝り倒したが、「勇と大学行けるなんて夢みたい!」とあまり気にしていないようだった。

「ほら、お兄ちゃんも着替えて、パジャマのまま行くの?」

凪に指摘されてパジャマのままだと初めて気がついた。

「それじゃ、着替えてくるから、リビングで待っててくれる?」

「うん、わかった…それじゃ、お兄ちゃんが作ったやつ暖め直すね。」

そう言うと凪は姉の部屋から出ていき、リビングに向かった。
703心の隙間〜続:2009/03/10(火) 07:57:19 ID:bEElFY9a
服を着替えて、リビングに降りる、姉もお風呂から出てきてイスに座っている。

「勇は遅いなぁ〜待ちくたびれてお腹空いたよ。」

さも早起きしたみたいに話す姉に少しムッときたが、反論すればまた長引く…。

「すいませんね、それじゃ〜ご飯食べよっか?」

「うん、それじゃ、いただきます。」

――凪が二年前に越してきてこの生活か始まった…始めはどうなるかと不安だったがみんな仲良く今まで過ごしてこれた。

姉も凪も一緒に買い物に行ったりと仲の良い友達感覚で接しているみたいだ。

俺も二年たてば少しは成長できたかもしれない。
成長できたか父に聞いてみたいところだ…

父の夢はあの日以来一度も見ていないが、父との約束は今でも守っている。

隙間だっていつの間にか綺麗に埋まっていた。



――「勇…もうすぐお父さんの命日だから…お墓参りいかなきゃね。」

そう…もうすぐ父の命日なのだ…人生が一変した日、いろいろな物を失った日でもあり、たくさんの物を得た日でもある。

「うん、大学生になったこともお父さんに報告しなきゃいけないしね。」



――なによりこの新しく新鮮で楽しい日常を父に報告したくてたまらなかった。
704名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 08:09:46 ID:bEElFY9a
少ないですが心の隙間続編は終わりです。

新しく書く時はもうちょっと濃い依存内容の物を書きたいと思います。
705名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 10:35:16 ID:4ZIRyFfk
>>704
続きキタコレ
これからの展開に期待しています
706名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 01:13:56 ID:BzNfTMZL
>>704
GJ!
新作楽しみにお待ちしております
707名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 11:14:18 ID:cDord+bd
GJ
新作待ってる。
708名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 22:50:27 ID:1dszr8hm
>>704
GJ!!!
新作は何時ごろだろ?
709名無しさん@ピンキー:2009/03/11(水) 23:03:07 ID:zpuxROha
妄想は有れど文は作れず…
710名無しさん@ピンキー:2009/03/12(木) 00:18:04 ID:Th56B7Cw
>>708
>>686に4月15日以降って書いてる。
>>709
頑張ってくれ!待ってます。
711名無しさん@ピンキー:2009/03/18(水) 00:43:14 ID:c8VPrBxI
712名無しさん@ピンキー:2009/03/20(金) 04:04:39 ID:aEA+EVX8
依存し合う女の子同士

という電波を受信した
713名無しさん@ピンキー:2009/03/20(金) 10:14:50 ID:cIL42gP1
さあ早くそれを文章にするんだ
714名無しさん@ピンキー:2009/03/20(金) 20:02:08 ID:SGoKmm67
双子姉妹を希望
715名無しさん@ピンキー:2009/03/22(日) 13:43:48 ID:UmztdGqy
誰もいないね〜
716名無しさん@ピンキー:2009/03/22(日) 22:49:15 ID:8wE3zpkT
依存は小ネタが作りにくい


一応age
717桜木マヤは俺の嫁:2009/03/24(火) 03:30:33 ID:EG9au3hc
 土砂降りの雨の中を俺は傘も差さず走っていた。
こんなに急に降るなんて思っていなかったからとにかく早く帰るしかない。
あと少しで家に着くというところで、道の隅の黒い固まりに俺は気付いた。
最初はでかいゴミかと思った。
違う。
丸まっている猫?
違う。
それはうずくまった女の子だった。
「きみどうしたの? かぜひくよ」
女の子は何も言わず俺をじっと見ている。
「まいご?」
返事はない。
「まいごならうちにおいでよ」
今思えば俺はずいぶん遠慮のない子供だった。
その行動が俺の人生を変えることになるなんて、もちろん想像もしていなかったさ。


 目を覚ますと、視界全部が白い顔だった。
顔の主は灰色の瞳を微動だにさせず俺を見つめている。
いつものことでなければ飛び上がっているところだ。
「マヤ、頼むから寝ている俺を観察するのはやめてくれ。呪われそうだ」
「そう」
マヤは意に介さずとばかりに背を向け部屋の外に出て行った。
ご飯できてるから、とだけ小さくつぶやいて。
俺は何か言おうとしたが、朝日に照らされるマヤの銀髪はあまりに綺麗で、
俺はまだ夢の中にいるような気がしちまったんだ。
それにしても懐かしい夢だったな。
もう10年以上もたつのか・・・・・・。

 俺がリビングに降りると、そこには香ばしい焼き魚の香りが漂っていた。
マヤお得意の純和風献立だ。
料理に関してはすでにうちのオカン以上の腕前と言っていい。
学校の制服にエプロンというマヤの出で立ちも正直言って眼福だし。
俺はマヤと向かい合う場所に座っていただきますを言った。
両親が長期出張に出てからはや一週間、二人だけの暮らしにも慣れてきている。
うん、やはりうまい。
ふと顔を上げるとマヤはその無機質な目でじいっとこちらを見ていた。
「いつもありがとう、うまいよこれ」
「そう」
マヤは頬をわずかに染めて目をそらした。
意外に褒められるのに弱いんだよなこいつ。
米の一粒も残さずに平らげごちそうさまを言って席を立つ。
マヤが食器を片付けている間に俺は部屋に帰って着替えと支度。
全くもっていつも通りの平和な朝だ。
718桜木マヤは俺の嫁:2009/03/24(火) 03:31:10 ID:EG9au3hc
 俺とマヤは必ず二人並んで歩いて登校する。
学校が近くなるといろんな奴がマヤの前に現れては挨拶していく。
中にはアイドルに対面したファンのように興奮する女の子さえいる。
大抵俺は視界に入っていないとはいえ、そんなことを今更気にすることもない。
マヤは少々目立ちすぎる。
隣にいる平凡な男に気付かなくなるぐらいには。
170センチを超す長身、真っ白い肌や腰まで届く銀色の髪。
ソフトボールみたいな小さな頭と大きな灰色の瞳。
可愛いとか綺麗を超えた、ある種この世のものとは思えない幻想的な美しさ、
それが桜木マヤという少女だった。
誰もマヤを日本人とは思わないが、かといって何人なのかと聞かれても
誰にもわからない。俺にも、本人にさえも。

 あの日、あの雨の日に俺がマヤを連れて帰ったとき俺の両親は当然うろたえた。
マヤは自分の名前以外は何も知らず、親がどこにいるのかさえもわからなかった。
翌日オカンは警察に連絡したが何日待っても何一つ成果は得られない。
やがて児童福祉施設の職員さんが彼女を引き取ろうと現れた。
だけどマヤはそれを拒む。
ほんのわずかな期間だったが、仮の住まいとしてうちで暮らす内に
彼女はこの家が気に入ってしまったようなのだ。
何より俺にはずいぶん懐いていた。
職員さんが近づこうとすると彼女は俺の陰に隠れてひどくおびえる。
そんな様子を見たうちの両親はマヤを自分たちが育てることを決めた。
「元々女の子がほしかったしね。
 第一マヤちゃんあんたよりよっぽど可愛いじゃない」
それがオカンの言い分だ。
とにかくそれ以来マヤはうちの家族の一員になった。
年齢はもちろんわからなかったが俺と同じでいいだろってことになった。
719桜木マヤは俺の嫁:2009/03/24(火) 03:32:03 ID:EG9au3hc
 あれからもうずいぶんと経つ。
それにしてもまさかこんな美人になるなんてなあ。
なんとなくマヤの横顔をちらりと見ると、
その前からこちらを見ていたらしい彼女と目があった。
マヤはほんのわずかに口元をゆるめてわかりにくい笑顔を浮かべる。
「コウ」
「ん?」
「なんでもない」
「そうか」
「そう」
「マヤ」
「なに?」
「別に」
「そう」
マヤと歩いているときはいつもこんな感じでまともな会話はほとんどない。
それでいいと俺は思う。
いつまでもこのままの関係でいられるはずはないけれど。
校門をくぐると、クラスが違うのでここでいったんお別れとなる。
「じゃあな」
「うん」
別れ際彼女は必ず少し寂しそうな顔をする。
俺はいつものようにあえてそれを気にしないふりをしてさっさと立ち去った。
俺は寂しくなんかない。

「ようナイト君」
「その呼び方はやめろっつーに」
機嫌良く話しかけてきたのはクラスメイトの岡島だ。
俺のことを「姫のナイト」と呼ぶお調子者。
姫が誰かなんて言うまでもないだろう。
「耳寄り情報だぜ。姫がまたコクられた。今度は生徒会長だ!」
「ふ〜ん」
ケータイをいじりながら適当に相づちを打つ。
ちなみに電話帳をスクロールさせているだけで意味のある操作はしていない。
「ふーんじゃねぇよタコ。
 ナイト様としてどういう了見なんだ。
 生徒会長のところに殴り込みに行かねぇのか」
「なんで殴り込むんだよ」
「姫をかけて決闘するに決まってんだろ」
偉そうにフフンと鼻を鳴らし胸を張る岡島。
「アホか」
ケータイを机において岡島を見上げる。
「俺はマヤの彼氏じゃない」
「じゃあ何か。兄か弟か。それとも単なる同居人、か?
 誰が信じるんだよそれ」
信じるも何もない。あいつと俺とは家族だ。
誰より大切な家族だけど、決して恋人同士なんかじゃない。
あいつは俺に懐いているだけだ。
刷り込みって奴だ。
恋愛感情とは違う。
720桜木マヤは俺の嫁:2009/03/24(火) 03:33:11 ID:EG9au3hc
「コウ!」
廊下を歩いていると後ろから大きな声で呼び止められた。
この声を間違えるはずがない。
そいつは校則なんぞ気にせず廊下を走って俺に追いついた。
「コウ、どこに行っていたの?
 教室にいないから探したよ」
マヤは息を切らせて肩を上下させている。
結構走り回ったんだろうな。
「別に、散歩していただけだよ」
「お昼ご飯は?」
「食堂で済ませた」
「どうして!?」
俺の弁当は毎日マヤが作っている。
マヤは家でそれを渡すことはせず、必ず学校で一緒に食べる。
「俺だってたまには食堂の飯が食いたくなることぐらいある」
嘘だ。
あんな400円の丼よりマヤの弁当の方が100倍旨い。
マヤはもう泣きそうな顔になっていた。
「あたしコウを怒らせた?」
「別に」
「飯島先輩に告白されたから?」
「違う」
俺がバカだから。
「あたしすぐに断ったよ。コウがいるのに、他の人となんて付き合えないよ」
「なんで!」
バカだからどうしていいのかわからないんだ。
「なんで断るんだよ! あんないい人他にいないだろ!
 俺なんかと比べものにもならないぞ!」
学校の廊下のど真ん中で俺は怒鳴った。
立ちすくんだままマヤはとうとう涙をこぼした。
「どうしてそんなこと言うの・・・・・・?」
俺はもう止まらなかった。
「マヤ、いい加減君は俺から離れるべきなんだ。
 俺なんかにべったりくっついていていい奴じゃないんだ。
 俺よりもっとふさわしい人がたくさんいるんだ」
「どうして・・・・・・?
 あたしはコウが一番好きなのに」
マヤは震えている。
こんなおびえたマヤを見たことがない。
これじゃまるで叱られる幼子じゃないか。
721桜木マヤは俺の嫁:2009/03/24(火) 03:34:05 ID:EG9au3hc
「だからそれは・・・・・・錯覚なんだよ。
 君は俺に拾われて、俺のおかげでのたれ死なずにすんだから、
 だから俺を好きだとカン違いしているんだ。
 俺に嫌われるとあの家に住めなくなると思っているから、
 だから俺を好きになるしかないんだ。
 ずっと俺にべったりで他の男とまともに話したこともないから
 俺が一番だと思い込んでるんだ・・・・・・」
「そんなじゃない・・・・・・そんなじゃないよ・・・・・・」
力なく首を振るマヤ。
「俺達は家族だ。家族はいつまでも一緒じゃない。
 いつか他の誰かを好きになって離ればなれになるんだ。
 だけどそれでも家族は家族、それはなにも変わらないんだ」
「違う!!」
マヤが叫んだ。
「あたしはコウが好きなの! あたしにはコウが必要なの!
 きっかけとか! 事情がどうとか! 錯覚とか!
 そんなのなにも関係ないよ!!」
胸にズシンと衝撃がかかった。
マヤが俺にぶつかってきたのだ。
「お願い、あたしを捨てないで。
 コウに捨てられたらあたし生きていけない」
「そんなわけが・・・・・・だって」
「知ってるよ。コウがあたしを嫌いになっても、
 パパやママまであたしを嫌いになったりしない。
 あたしはずっとあの家の子として生きていける。
 でも、ダメなの。
 コウじゃなきゃダメなの。
 コウがいるから生きていけるの。
 あたしにはコウが必要なの・・・・・・」
マヤは人目もはばからず泣き通しだった。
鼻水もグショグショに垂らして俺の制服ににじませた。
気がつけば俺達の周りには黒山の人だかりができている。
不思議と気にならなかったが。
「俺は・・・・・・俺だってマヤが必要だよ」
「それじゃあ」
「俺は・・・・・・そんなにいい奴じゃない。
 マヤに釣り合うような男じゃないし・・・・・・
 毎日君をオカズにオナニーしてるような奴なんだぞ」
「どうして言ってくれなかったの!」
突然マヤは顔を起こして俺をにらみつけた。
「あたしだって毎日コウでオナニーしてるよ!
 コウが出かけている日はコウの布団に潜り込んだりしてオナニーしてるよ!
 コウが寝ているときにこっそりコウにキスしたりしてるよ!」
「い、いきなり何言ってんだ!」
爆弾発言にもほどがあるぞマヤ。
「あたしたち似たもの同士だよ・・・・・・。
 ねえコウ。あたしのこと好きにならなくてもいい。
 家族のままでいいから、ずっとそばにいさせて」
「マヤ・・・・・・」
722桜木マヤは俺の嫁:2009/03/24(火) 03:34:39 ID:EG9au3hc
今まで見たこともないマヤのわがまま。
ずっと俺に忠実だったマヤの、絶対に譲れない一線がやっとわかった。
やっぱり俺はバカだ。
マヤがこんなに強い想いを持っていたのにそれに気付こうともしなかったなんて。
彼女を手放して、それからどうしようと思ってたんだ?
考えるほどに自分のバカさ加減に腹が立つ。
ここでケリをつけなきゃ一生もののド阿呆だ。
「ダメだ」
「え・・・・・・」
「好きにならないなんて無理だ。マヤのいない人生なんて無しだ。
 君は一生俺のものになれ」
そう、それが俺の本心。
結局俺だってマヤ抜きで生きていくなんて考えられないんだから。
「コウ・・・・・・!」
マヤの目からまた涙がこぼれた。
「マヤ」
「うん」
「結婚するぞ」
「うん!」
マヤは涙や鼻水でぐしゃぐしゃの顔をさらにくしゃくしゃにした。
そんなマヤの腰を乱暴に抱き寄せて俺は歩き出した。
目の前の人混みがモーゼの十戒のように割れていく。
俺はマヤを腕に抱いたままそこを突き進む。
「お、おいお前ら。どうする気だ?」
誰かが言った。
「家に帰る」
「午後の授業は? 帰ってどうすんだ?」
「夫婦の営みだ」
もう話すことはない。
俺は数十人の前でマヤにキスをした。
これが俺のファーストキス・・・・・・いや、違うのか? どっちでもいいか。
とにかく俺は見せつける必要があった。
無謀にもマヤに恋い焦がれるすべての奴らに対して。

桜木マヤは俺の嫁、ってな。



                完
723名無しさん@ピンキー:2009/03/24(火) 10:53:18 ID:WIq0JK0l
久々の投下に乙
そしてGJ!
ヤンデレ化がないマヤが良い!
724名無しさん@ピンキー:2009/03/24(火) 21:31:37 ID:nnirMJ/l
GJ!
ハッピーエンドな依存物っていいよね。
725名無しさん@ピンキー:2009/03/24(火) 23:34:06 ID:NDpze9Qr
GJ!!!
726名無しさん@ピンキー:2009/03/25(水) 03:14:57 ID:6S5pPGQW
GJ。癒される。
727名無しさん@ピンキー:2009/03/25(水) 23:19:03 ID:z8uBHwN2
久々に神をみたぜ・・・
728名無しさん@ピンキー:2009/03/27(金) 16:43:40 ID:WHuviSyk

次の8つのうち5つ以上あてはまると依存性人格障害が疑われます。

1.普段のことを決めるにも、他人からの執拗なまでのアドバイスがないとダメである。

2.自分の生活でほとんどの領域で他人に責任をとってもらわないといけない。

3.嫌われたり避けられたりするのが怖いため、他人の意見に反対することができない。

4.自分自身から何かを計画したりやったりすることができない。

5.他人からの愛情をえるために嫌なことまで自分から進んでやる。

6.自分自身では何もできないと思っているため、ちょっとでも1人になると不安になる。

7.親密な関係が途切れたとき、自分をかまってくれる相手を必死に捜す。

8.自分が世話をされず、見捨てられるのではないかと言う恐怖に異常におびえている。

まあジャンルの依存がイコール依存性人格障害な訳じゃあないがね。
って突然何貼ってんの俺
729名無しさん@ピンキー:2009/03/28(土) 07:57:05 ID:yFInZuwx
5つも当てはまった
ヤバいな俺
730名無しさん@ピンキー:2009/03/28(土) 08:37:07 ID:n/bnPX+2
結構当てはまってると一瞬吃驚した。
よくよく考えてみたら、ただ卑怯な奴なだけなんじゃねって事に気づいた。
731ネトゲ風世界依存娘:2009/03/28(土) 20:32:54 ID:GWXnS/xz
 生きていればいろんなことが起こるものである。
 有り得ないと思うようなことでも起こってしまうのが人生というものであろう。

 俺はしみじみとそう思った。

 ことの始まりは一週間前に遡る。

 俺はいつもの如く、VMMO……意識をオンライン世界に直結することで、本当に
異世界で冒険しているような気分になれるネットゲーム……で、遊んでいた。
 生活費以外の仕事の収入と仕事以外の時間を全てゲームに当てているいわゆる廃人と
いわれる人間である。

 俺がやっているVMMOは戦闘系スキルは武器や技ごとに分かれ、生産系スキルはさらに
細かく、一口に鍛冶といっても精錬スキルや採掘スキルなどの関連スキルが必要になるなど
分かれており、様々な職種のものと交流することで足りない部分を補っていくというシステムが
とられているゲームであった。
 そのためギルドシステムが発展しており、殆どの者はこれに加入している。
 だが俺はそんなゲームをソロで(知り合いは勿論大勢いるが)楽しんでいた。
 ゲームでは全部のアイテムとレベルコンプリートしないと気がすまないタイプの俺にとってこのゲームはまさに底なし沼である。

 何時もどおりに遊んでいたとき、俺は一人の女性(?)に出会った。実際に女性かどうかは
わからない。選択でどちらでも選べるからだ。
 とにかく、犬人族のその女の子は登録後初めに選ぶことの出来るはじまりの町の一つであり、
ゲーム中の主要6王国のひとつ、ミルガリンの首都、レトの中央広場で途方にくれていた。

 石畳で出来た広い広場にぽつんと立つその姿はまさに捨てられた子犬といった感じである。
なまじ生身に近い感覚があるだけに、戸惑いも大きいのであろう。不安そうに耳をぱたんと後ろに倒していた。

 俺は、裁縫スキルを上げるためにちくちくと最高級の革鎧を作りながら間違いなく
参加したての初心者であろう彼女を遠目で観察していたのだが。

(あ、声をかけようとしてる……無理だった。)
 ちくちく。

(おっ!今度こそ!!……あ、気づいてもらえなかった。)
 ちくちく。

(声をかけた!!おめでと……ありゃ。無視された。涙目だ。なんか苛めたくなるな。)
 ちくちく。おけ、鎧完成。

  涙ぐましい努力を続ける犬耳少女(?)がなんだか可愛そうになり、俺は声をかけることにした。
 スキルを上げ続けるだけでは正直しんどい。気分転換、きまぐれだった。
732ネトゲ風世界依存娘:2009/03/28(土) 20:33:55 ID:GWXnS/xz

「こんにちは。なんか探し物か?」
「ひゃあっ!あ、あの。こ、こんにちは!いえ、そんなのじゃないんです!」
 にこやかに声をかけると、犬耳少女は手をぶんぶんふって慌てていた。近くで
よく見ると初心者用の革鎧に初心者用の短剣を装備していることがわかり、予想が
当たっていたことを悟る。俺はなるべく意識してゆっくりと話しかけた。

「慌てずにゆっくり落ち着いて。いい?深呼吸。」
「はい……。」
 このゲームで深呼吸は意味は無い。気分の問題だ。

「で、どうしたの?」
「実は親に薦められて、ゲームに参加したんですが何をすればいいのかもわからずで……。」
 しゅんと、耳をたれて俯く少女。動物が混じったキャラは感情によって付属パーツが動く
ようになっている。全く製作者はよくわかっているといわざるを得ない。

「親が薦めるってまたなんで……いや、さっきの見てればわからんでもないか。」
「えええ、み、見てたんですか!」
「ああ。微笑ましかった。」
 くっくと笑うと、彼女は涙目で俯いていた。

「私、暗くて不細工で引っ込み思案だから……中学でも苛められて……
こういうゲームならどうかって……。」
「こらこら。こういうゲームで自分の身分が判る様なこと言ったら駄目だ。」
「そうなんですか。……ごめんなさい。」
 く、暗い。俺は内心顔を引きつらせながらも、笑顔で胸を叩く。

「まぁゲームは楽しくやるもんだ。今日は俺が町を案内しよう」
「え、いいんですか?」
 ぱぁぁぁっと表情が明るくなる。顔を上げた少女のキャラメイクはとことん地味で
あったが、髪や瞳の色合いは落ち着いた茶色を用いており、顔立ちは少々幼いが穏やかな性格で
あることを思わせることに成功していた。
 正直、笑顔は可愛かった。

「お兄さんに任っせなさっい!俺はベテランだからな。」
 わざと馬鹿っぽく大げさに身振りをつけて話すと彼女は徐々に緊張が取れてきたのか
微笑んでいた。

「有難うございます。親切なんですね。」
「暇だったしな。で、名前は?」
「えっと、若……じゃなかった。蕾です。」
「俺は匠だ。今日だけだと思うがよろしくな。」
 今日だけといった俺に彼女は驚きの表情を向けるが、俺は真剣な顔で続ける。

「今日だけ……ですか?」
「俺と君じゃ強さがぜんぜん違うからな。それに、蕾ちゃんは自分で頑張らないと意味ないだろ。」
「はい……。」
「だから、自分で楽しみを見つけていくんだ。」
「はい。」
 ぶっちゃけ、毎日初心者の相手なんてしてたらきりが無い。俺はそんな内心をおくびにも出さずに笑顔に切り替える。

「まあでも、今日は一緒に楽しもうな。」
「はいっ!よろしくお願いします。」
 犬耳少女──蕾は尻尾をぱたぱた振り耳をぴんと立て、満面の笑顔で頷いた。俺は表裏無く喜ぶ彼女に、多少の罪悪感を感じていた。

733ネトゲ風世界依存娘:2009/03/28(土) 20:34:50 ID:GWXnS/xz

「今日はそろそろ落ちようか。」
「はい。有難うございました。本当に楽しかったです。」
 現実世界で午前2時、出会ったのが夕方6時だったのでたっぷり8時間、町の主要施設案内を
した後に味を実際に感じることの出来る甘味処へ案内して奢りでケーキを食べたり、生産スキルを
実践してもらったり、町の外で狩りの仕方を教えたりしていた。

 腰の低い性格で引っ込み思案っぽい彼女も打ち解けると、一つ一つのゲームの演出に
年相応の女の子のようにかわいらしくはしゃいでいたのは印象的だった。

 時間が過ぎるのはあっという間で、今は出会った街中の広場で別れの挨拶をしていた。

「明日から頑張れるよな?」
「はい!匠さんにはなんてお礼をいったらいいか。」
 そういって笑顔で頭を下げる蕾をみて俺は心底いいことしたなぁと、充実した気分に
なっていた。……のもつかの間であった。

「な、なんだ?」
「きゃっ!!」
 ごごごごごごごっ!!!!!!!!!!と大きな地震が起き、世界中が崩壊するような地響きが轟く。
バグったか!?と思ったその瞬間、脳がミキサーにかけられたような不快感と痛みが俺を襲う。
 勿論そんなものに耐えられるわけも無く、俺は意識を失っていた。

 どれくらい気を失っていたのだろうか。判らないが目を開けると心配そうに俺を覗き込む
蕾の顔があった。

「あれっ……。どうなった?」
「わかりません。」
 俺の問いかけに彼女は涙を浮かべながら不安げに答えた。

「地震が起こったかと思うと街中の人が頭を抑えて蹲って……、私はちょっと頭痛が
きただけでしたけど匠お兄さんの苦しみ方は死んじゃうんじゃないかと思いました。」
「それは良かった。蕾ちゃんが無事で。」
 初めてのプレイでこんな事故であんな痛みを体験したらトラウマになる。
 そう思って俺は心底ほっとする。

「有難うございます。それで……気がついたら中央広場に急に人が大勢出てきて……。」
 俺はその言葉を聞いて周囲を見渡す。彼女の言葉通り、中央広場には普段以上の人や
獣人で溢れていた。
734ネトゲ風世界依存娘:2009/03/28(土) 20:35:27 ID:GWXnS/xz
 ゲームでのこの首都の謳い文句は人口100万の都市というものであったが、参加プレイヤーの
数の関係上、そこまでの表現は出来ない。
 だが、今、広場は人ごみと喧騒で溢れており、実際に大都市の熱気が感じられた。作り物っぽかった
街並みも生活の雰囲気を感じさせる。それに、街の広さも大きくなっているような……

 俺は眉を潜めた。

「それから…ログアウトが出来ません。」
「システム画面が……出ないな。ステータスやスキル表示も何も出ない。」
 彼女はもう涙を流していた。俺の背中にも嫌な汗が流れる。
 まさかと思い、俺はズボンに手を突っ込みパンツの中を見る。全年齢推奨のこのゲームでは
禁止行為であるのだが……。

(で、でかい。)

 不審者丸出しのこの行為を彼女は泣いていて見ていなかったのは幸いだったろう。
 そして、頬をつねる。このゲームには味覚はあっても痛覚は無い。が、痛かった。これの意味するところは……。

「よくわからないが、とんでもない事に巻き込まれたかもしれないな。」
「匠お兄さん……私怖い……。」
 当然ながら蕾は怖がっていた。初めにあったときのような暗い表情で俺の服を掴んで離さない。
 俺だって怖い……が、努めて笑顔で頭を撫でる。

「大丈夫。心配するな。事情がわかるまで一緒にいてやるから。」
「はい。有難うございます。」
 子供にそうするように彼女の背中を軽く叩くと顔から恐怖心は消えたが、不安は消えていなかった。
 まぁ、俺だって不安だしな。

 だが、大人の自分がうろたえる訳にはいかない。見慣れているはずの世界が変貌した恐怖心を
抑えて俺は必死に己を保っていた。
735名無しさん@ピンキー:2009/03/28(土) 20:40:59 ID:GWXnS/xz
厨二病な電波が来たので書いて見た。
設定なんて、どうでもいいので依存娘が書きたかった。
反省はしていない。あんまり。
736名無しさん@ピンキー:2009/03/28(土) 20:47:24 ID:cGHsmZZy
元ネタは.hackか?とりあえず今後に期待
737名無しさん@ピンキー:2009/03/28(土) 21:31:39 ID:OsxVDyVn
GJ
続きは書くんだよな?
738名無しさん@ピンキー:2009/03/28(土) 22:58:05 ID:HqnKIMlR
なんとなくルサンチマン思い出した
739 ◆9DJPiEoFhE :2009/03/29(日) 03:28:01 ID:COhumIqf
投下します。
3レスです。
科学的根拠だとか、実際はどうなんだとかそういうところは目を瞑っていてください。
ファンタジーです。
エロなしです。

一応、多分、続きます。
740大草原の小さな女の子(1/3) ◆9DJPiEoFhE :2009/03/29(日) 03:28:31 ID:COhumIqf
 とある時代、とある国のとある草原。
 そこはとてもとても辺鄙なところにありました。
 辺りいったいに広がる草の絨毯。人っ子一人見当たりません。
 そんな緑野のど真ん中で、ただ一筋もくもくと煙が立っています。
 おや、その煙が出ている建物から何か声が聞こえます。
 少し耳を傾けてみることにしましょう。

「茶」
「……」
「茶だ!」
「……」
「茶を煎れろと言うのが聞こえんのか!」
「……畏まりました」
 そう言ったのはエプロンドレスを着込んだ女性です。物腰柔らかに立ち上がり、しずしずとキッチンへと向かいます。背筋を伸ばし、品のある姿勢の歩き方から、育ちの良さが窺えます。
 一方、大声を上げて茶を請うたのは白衣を着込んだ男性です。白衣の下に身に着けているこれもまた白いフードを頭から被り、表情は窺えません。
「……どうぞ」
 コトリと男性の前に置かれたコーヒーカップ。ふわふわと湯気が漂っています。
「やればできるじゃないか」
 白衣の男性は、ふんと仰々しく嘆息します。なんだか偉そうですね。
「……ありがとうございます」
 ぺこりと一礼。エプロンドレスを着た女性は姿勢を傾けたまま、なぜかぷるぷると震えています。
「しかし、いくら作法がなっていても味がなっていなくてはどうしようもないからな。
 作法は基本というよりむしろ、前提条件でしかない。本質的に重要なのは、味だ。
 茶葉の風味をいかに生かし、最適の温度を身体で覚え、どのようにマグに煎れるか、それに限る」
 男は長々と語り始めてしまいました。女性は未だに頭を下げた姿勢のままです。心なしかひくひくと痙攣しているかのように見えます。
「そしてこれらのことを踏まえた上で、最も重要な点がある。わかるか? ……って何いつまでもお辞儀してるんだ」
 自分の語りに陶酔していた男は、そこで頭を下げ続けていた女性に気づきました。
「はっはっは、馬跳びでもして欲しいのか。文字通り馬鹿みたいだぞ」
「……っ!」
 ぶち、と何かが切れるような音がしました。
「人が下手に出てればあんたはぁぁぁぁ!!」
 ごす、と何かがひしゃげるような音がしました。
 見ると、床には真っ白な物体が転がっていました。
「だいたいなんでわたしがメイド服を着なきゃならないのよ! それもあんたなんかのために!
 いつまでお辞儀してるかですって? あんたが許すまで動くんじゃないって言ったんじゃない!
 それに、このわたしが、丁寧に、丹念に、手間隙かけて、文句も言わず、持ってきてあげたっていうのに、あんたってばぐちぐちぐちぐちぐちぐちと!
 お茶、もう冷めちゃってるじゃない! あんた、人を何だと思ってるのよ!」
 メイド服の女性はマシンガンのように捲し立てます。
 白い絨毯と化していた男性はむくりと起き上がりまして、こう呟きました。
「うるさい、幼女のくせに」
 屋敷にまた、爆音が響きました。
741大草原の小さな女の子(2/3) ◆9DJPiEoFhE :2009/03/29(日) 03:29:03 ID:COhumIqf
「ったく、加減を知れ、加減を。これ、直さにゃならんだろが」
「……それだけのことをさせるのはどなたでしたか。もう一発差し上げましょうか?」
「あー、わかったわかった。まったく仕方のない奴だな、君は」
「勝手に私が悪いみたいな流れにしないでください」
「ワガママなんだから。でもそういうトコロも好きだぜ?」
「語尾を上げる言葉遣いはお止めください。吐き気がします」
「そこまで言わなくてもいいじゃないか。俺は好きだ。よくなくなくない?」
「唐突に殺意が沸きました。お殺害してもよろしいですか?」
「しかし寒いな」
 壁にぽっかりと開いた穴を見つめながら、男。
「……それは、あん……あなたの」
 口ごもる女性──少女。落ち着いてきたのか、自分でもやりすぎだと薄々反省してきているようです。
「まぁ、僕のせいなんだけど。でも、思ったんだが」
「……何でしょう」
「ご主人様に歯向かうメイドってのも珍しいと思わないか。普通はなんでもハイハイ従っちゃうものだと思うのだが。従者って言うくらいだからな」
「だから私はあなたのメイドなんかじゃないのよ! 
 目が覚めたら、メイド服を着せられてベッドに寝かされていた上に、見知らぬ男から『毎日、僕の味噌汁を作ってくれ』って言われて、わたし、もう、わけわかんない!」
 混乱しているのか、いくぶん言葉遣いが乱暴になっている少女。
 そんな少女に、白衣の男性は言い聞かせます。

「やれやれ、だからさっきも言っただろう」

「君は、僕の創った人造人間だ」

「呼称は、アンドロイド、サイボーグ、クローン、ホムンクルス、なんでもいい」

「ただ、これだけは言える」

「君の命は、僕という人間によって創られた、モノだ」

 男は淡々と告げます。まるでそれが事実であるかのように。
742大草原の小さな女の子(3/3) ◆9DJPiEoFhE :2009/03/29(日) 03:30:20 ID:COhumIqf
「そ、そんなこと……あるわけ……ない……」
「君は、ない、ということを証明できるのか?」
「だって、だって! そんなもの作り話の世界でしか聞いたことない!」
「存在するということは簡単に証明できる。ただ、その存在を見せ付ければいいからな。
 でも、存在しないということを証明するには、全ての存在・可能性に関して、『ないこと』を示さなければならない。
 わかるか?
 つまり、君が世界中に存在する技術全てを僕に提示して、『そんなものない』と示してでもくれない限り、それが『ない』とは言い切れないんだよ」
「…………」
 少女は力が抜けたのか、その場にへたり込んでしまいました。
 長く重苦しい静寂が場を満たしました。
 男は黙って、すっかり冷め切ってしまったお茶を啜ります。
 しばらく沈黙が続いていましたが、ふと少女がハッとなり男にこう言いました。
「わたし、いや、私が作られたものだとしたら、キオクなんてものがあるはずがないじゃないですか。
 私にはありますよ。お茶の煎れ方も知っていますし、クローンが行進する映画も観ました。
 味噌汁だって飲んだことありますし、メイド服も以前に見たことがあります。
 あはは、冗談きついんだから。私がツクラレタソンザイナンテ」
「ふむ、そろそろ限界か」
 男は自分の右腕を見やりながら言いまス。
「アレ……? ナンダカ、カラダガ……?」
 少女の体ガ痙攣しだし、壊れタ機械のような動きをし始めましタ。
「君は創られたばかりで、代謝だとか生理的熱量だとかの調整がうまくいかないんだ。だから、定期的に僕から検診を受けなければならない」
「ネムク……ナッテ……」
 少女はもハや、何も聞こえテいないようでス。
「ひとまず、おやすみ。いい夢を」
 ソウシテ、少女ノ、目ノ前ハ、真ッ暗ニ、ナリマシタ。


ツヅク……?
743名無しさん@ピンキー:2009/03/29(日) 11:03:25 ID:rbEcLMnF
依存性人格障害
いわゆる「甘えの強い性格」です。
甘えが強く、大切なことも自分で決められず他人の判断に任せます。
並はずれて従順で、非常に受け身的、世話をやいてくれる人がいなければ何もできません。
いつもまわりから元気づけや励ましが必要です。
独立を避けるために、自分自身の欲求でさえも、他人の欲求に合わせます。
自分の責任を他人に押しつけるので、いざ1人になると非常に不安や抑うつにかられる人格障害です。

境界性人格障害と似ている点もありますが、
依存性人格障害のメインは「自分にかまって欲しい過剰な欲求と、それを維持するための服従的な行動」です。
比較的女性に多く、末っ子に多く見られます。

依存性人格障害が発生する過程には、親の子供への接し方があげられます。
この点は、回避性人格障害と似ています。
まず、過度に干渉的な母親、父親が存在します。
そして「世の中は危険がいっぱい」ということを子供に刷り込んでいくのです。
子供が少しでも自立しようとすると、親は子供を非難し、
忠実だとひどく溺愛します。
自立とは、親や社会から見放されるもんだよと刷り込んでいくのです

またコピペ
744名無しさん@ピンキー:2009/03/30(月) 09:00:51 ID:ifEbCUvs
>>79
ディケイド効果で先週末まで全部見直してた俺には余裕でした。
745名無しさん@ピンキー:2009/03/30(月) 14:11:50 ID:roOqpblZ
なんという亀レスww
746名無しさん@ピンキー:2009/03/30(月) 14:28:04 ID:ifEbCUvs
>>745
携帯で見てたら去年の夏場に投稿したのにレスしてた。
我ながら酷すぎる。
747名無しさん@ピンキー:2009/03/30(月) 16:29:59 ID:07TyDt7q
ところで過去スレは読んでると精神的に辛くなってくるな
草の生えたニコ厨の発言は大量にあるし
類似ジャンルへの敵視やマイナスイメージの押し付けみたいなレスが有るし……
748名無しさん@ピンキー:2009/03/30(月) 21:01:11 ID:ivNps40s
心の隙間みたいに長い作品を誰か書いてほしいな。

もう少しこのスレも元気になってほしいけど俺は…
749名無しさん@ピンキー:2009/03/30(月) 21:36:22 ID:o3lCTDjv
>>717に永住してもらいたい
750名無しさん@ピンキー:2009/03/31(火) 08:44:05 ID:uoQHZT0S
ここも寂しくなったもんだ
751ネトゲ風世界依存娘 二話:2009/04/01(水) 22:40:40 ID:3pWx0Q3a


 唐突だが、ギルドを作っているものたちは大抵溜まり場というものを持っているものである。
 俺自身はギルドに加入していないが、戦闘と生産の双方を廃プレイで楽しんでいた俺には多少のツテがあった。

 俺は耳を後ろに垂らし、泣きそうな顔で服を掴んで離さない蕾を連れながらレト中央銀行に向かって歩く。

 その敷地内の芝生に、知り合いがギルマスをしているギルド「ライトピアス」のたまり場はあった。
 ギルマスとはオフ会でも会ったのだが……そのときの惨劇は思い出したくもない。恐ろしいトラウマである。
 それでも付き合いが続いているのは友人としては気があうからだろう。

「やあ。やはり君もいたか。」
 溜まり場には数人の男女が芝生に座り込んでいた。その中で声をかけてきたのは長い薄紫色の髪の
人間の女だ。その女はにやにやと意地の悪そうな笑みを浮かべる。
 そう、こいつは俺にトラウマを植え付けた例のギルマスであった。
 女性としてはそこそこ高い身長のスレンダーな体を持ち、白のスーツのような服の上に繊細な装飾を
施した白の革鎧を着こなしている。ぱっと見は仕事の出来る大人の女性といった印象だ。
 犬耳少女はひっと小さく悲鳴を上げて俺の背中に隠れる。

「お前らはログアウトできるか?」
「無理だね。」
 困惑した様子のほかの者たちと違い、女は嬉しそうに無理だと笑った。

「原因はわかるか?」
「数日経たなければ確実とはいえないけど、この2時間で考えた推測でいいなら。」
 俺は頷くと彼女は説明する。

「我々は今異世界にいる。」
「はあ?」
 自信満々にそうそいつは言い放つ。

「ゲームの世界が受肉したという表現でもいいけどね。」
「わけがわからん。判るように説明してくれ。」
「ようは……だ。」
 薄紫色の髪の女は嬉しそうに楽しそうに笑う。

「ヴァーチャルなゲームの世界が、現実になってしまったということだよ。我々はゲームの能力を持ち、
資産を持ちながら現実となったこの世界で生きていかなければならないわけだ。」
「何でそんなことがわかる?」
「発汗、痛覚、生理的機能もどうやらある……ゲームにおいてあるべきではないしあるわけもない
肉体の機能。全ての規制行為の解除。機械的なシステム関連機能の消失。急激に大きくなった都市。
現実と同じ時を刻むようになった時間。生きているNPC。その他から考えた結果さ。大規模なパッチが
当てられたなんてことは無いと思うね。まあこの世界が現実だったらいいなって願望も混じっていることは否定しない。」
752ネトゲ風世界依存娘 二話:2009/04/01(水) 22:41:53 ID:3pWx0Q3a


 にやにやしながら話すそいつにそれまで隠れていた蕾が顔を真っ青にしながら話しかけた。

「では、私達はもう戻れないんですか?」
「君は誰?……まあいいか。わかんないけど数日中に帰れなければたぶんね。それ以上は現実の肉体も持たないだろうし。」
 たいしたことのないように女は言う。俺は紹介していなかったことを思い出して、慌てて再び後ろに隠れていたわんこの首根っこを掴んで前に出した。

「ああ。すまん。こいつは蕾っていうんだ。今日ゲームをはじめたらしい。」
「そうか……。ご愁傷様。ああ、私はハルっていうんだ。よろしく。」
 怖がる犬耳少女に頭を下げた後、苦笑しながらハルは俺の肩を両手で掴む。そして残念そうな顔で、

「そんなに女に飢えているなら私がいつでも相手にしてやるのに……よりにもよってこんな子供を……。」
 蕾の外見は10代前半で背も低く、胸もない。茶色の髪と瞳で印象としては柴犬の子犬といった感じだろうか。

「人聞きの悪いことを言うな。それにお前は男だろうが。」
「中の人などいない。というジョークが洒落ではなくなったな。今の私は身体も完全に女だ。」
 そう朗らかに笑う薄紫色の長い髪をもつスレンダーな美女、ハルの中の人はリアル8○1な男であった。

「で、蕾君。君はこれからどうするんだい?」
「え……?」
 不意に真面目な顔でハルは蕾に問いかける。

「言ってみれば君と彼とはほぼ見知らぬ他人。君のような女の子がそんな男とずっと一緒に
いるなんてことはないだろう。」
「はい……」
 こいつ楽しんでやがるな。そう苦笑しながら答えられずしょんぼりしている蕾の後ろ頭を
軽く叩き、助け舟を出す。

「子供を苛めてやるな。一人で生活できるまでは助けるさ。」
753ネトゲ風世界依存娘 二話:2009/04/01(水) 22:42:35 ID:3pWx0Q3a


「匠は甘いね。人を助けるというのは大変なことだよ。乱暴だが、お金を渡して放り出すのが
一番だと思うね。絶対苦労する。」
「いつになく突っかかるな。」
 少数精鋭で癖のある者が多いギルドを纏めていることもあり、この見慣れた変態は狭量ではない。
小声で俺だけに放り出すようにハルが呟いた後、理由を聞いた俺に彼女(?)は少しだけ考え、
笑って言った。異変の前とは違い、作り物ではない自然で妖艶な笑みだと俺は思う。

「女の勘だよ。」
「男だろうが。」
「心は女だ。そして今は身体も女だ。」
 俺は黙って肩をすくめた。

「ま、なんでもいい。ハル達にも蕾を自立させるのを手伝って欲しい。」
「悪い子ではなさそうだしそれは構わないが、こちらも頼みたいことがあるんだ。」
 ハルは少しだけ困った顔をたまり場で座り込んで話している他のメンバーに顔を向ける。

「期間限定イベントの性転換ポーションを持ってないか?」
「いつか遊びに使おうと思っていたから10個くらいは持っているが。」
「悪いが二つ欲しい。私はいいんだけどねー。」
「……なるほど。お前らには世話になってるからいいよ。価格が高騰しそうだな。」
「すまないねぇ。匠にはいつも迷惑かけて。」
「それは言わない約束だろ。お父っつぁん。」
 苦笑しながら意味不明なぼけを交わす俺とハルに蕾はわけがわからないといった顔を向けていた。
年代の違いを感じる。


754ネトゲ風世界依存娘 二話:2009/04/01(水) 22:43:25 ID:3pWx0Q3a


 俺はハルと情報のやり取りを約束し、蕾を連れて宿の密集している宿屋街へと向かった。
 半歩後ろで俺の服の裾を掴んで離さない犬耳少女の表情は相変わらず不安げでびくびくしたような感じで暗い。
 無言のまま宿に到着し、一番いい個室を二つ取る。余り広いと現実の自分の生活とあまりに違って
落ち着かないので、広さよりも清潔さで部屋は選んでいた。

 ルームサービスの夕食を部屋に運んでもらい、二人でテーブルを囲む。
 部屋はランプがいくつか置かれており、テーブルには蝋燭が置かれているがそれでもなお薄暗い。
 俺は『明かり』の魔法を詠唱し、現実程度の部屋の明るさを確保する。

 蕾はずっと不安げなままだ。料理にも手をつけていない。

「どうした。美味しいぞ?」
「匠お兄さんは……怖くないんですか?寂しくないんですか?」
 搾り出すような悲痛な声。俺は首を傾げる。

「別に。」
 正直な俺の返答に彼女は驚いたような顔で固まる。

「だけど、俺も蕾ちゃんと同じ立場なら焦るかもしれない。」
 肉料理にフォークを刺し、食べようか迷って一度フォークを置く。

「俺にはここに友人もいる。仕事で困ることもまずない。金もある。現実の家族は……まあ、一人暮らしだったしな。」
 憂いはない。仮に戻れなくなっても困らない。

「蕾ちゃんは違うだろ。」
「うん……。」
「だから別に怖くてもいいだろ。怖がってる子供を抱えてしまった俺まで怖がってどうすんだ。
余計不安にするだけだ。」
 ほら食え。と、肉を突き刺したフォークを口元に持っていくと犬耳少女は小さな口をようやく開いて食べた。
 咀嚼と同時にぺたんと寝ていた三角形の耳がぴんと立つ。

「まあ、何事もなく帰れるかもしれないしな。明日のことは明日考えようぜ。今は食え。」
「むしゃむきゅむきゅごきゅっ!」
 お腹が空いていたのだろう。俺が言う前に彼女は何かに取り付かれたかのように料理を貪り食っており、
お尻の部分が開いている背もたれの後ろでは尻尾が全力で振られていた。

「こくん。ん?」
「なんでもない。美味いか?」
 彼女は無言でこくっと頷いた。


755ネトゲ風世界依存娘 二話:2009/04/01(水) 22:45:41 ID:3pWx0Q3a


 食事を終え、少しだけ蕾と話をして彼女を部屋に帰らせると俺はベッドに横になる。

 彼女との会話はなるべく聞き役に徹していた。彼女は学校の話はあまりしなかった。他人に会話するのが
慣れていないのか、伝えようと一生懸命だが拙い彼女の話は殆どが家族との団欒の話だった。

 ベッドに横になりながら考える。あの時点で見放せといったハルの言葉は正しい。俺は彼女を
もはや見捨てることは出来ないだろう。
 捨てられてダンボールに入っている子犬に懐かれた様な複雑な気分といったところか。

 くだらないことを考えていると、睡魔はすぐにやってきた。魔法など強制の眠り以外の眠りという
概念もゲームにはなかった機能だ。あと肉体的な疲労もだ。

 かちゃ。

(………?)
 眠りの世界へ落ちようとしていたその時、小さな物音が静かな部屋に響く。

 …みしっ。

 ………みしっ。

 徐々に近づく、木の床を踏みしめる音。ぴたっと音が止まると俺は眼を開けた。目が合った瞬間、
犯人の耳と尻尾がぴんっと天井に向く。

「ひあっ!」
「何やってんだ?」
 気づかれていないと思っていたのか、蕾は飛び上がって驚く。

「ご、ごめんなさい。」
「何か用か?」
 今にも閉じそうな目を必死に開けながら、彼女に聞く。

「う、何でも……ないです……。」
「嘘付きは外に放り出す。」
「……ううう……ごめんなさい。一緒に寝ていいですか?」
 彼女は屈んでベッドに眠る俺を泣きそうに目を潤ませて上目遣いで見つめる。
 ロリコンじゃない。俺はロリコンじゃないので頷いてスペースを少し空けてやった。

756ネトゲ風世界依存娘 二話:2009/04/01(水) 22:46:46 ID:3pWx0Q3a


「有難うございます。眠れなくて。」
「そうか。もう起こすなよ?」
「はい。」
 彼女は外を歩いていた時のように服を掴み、俺がそんな彼女の頭を撫でると安心したのか
ようやく少しだけ可愛らしく笑みを零し、直ぐに寝息を立て始めた。
 俺はというと目が覚めてしまったのか、中々眠ることができなかった。

「う……ぅん。」
 彼女は、革鎧を脱いで大き目のシャツ一枚になっていた。
 着替えを買ってやらないとと思う。彼女の要望で顔を合わせながら眠っているが、少しだけ
視線を下に下ろすと、シャツの隙間から膨らみかけの小さな胸の谷間が見えてしまう。
 ……誓ってどきどきなんてしていない。

 彼女が完全に眠っているのを確認し、天井を向く。普段はおどおどしているので、誰も気づかない
だろうが彼女は怖いくらい整った顔立ちをしている。
 数年経って成長すれば誰もが羨む美女になるかもしれない。
 そんな彼女と向き合ってると自分が変な気になりそうな気がして怖かったのだ。
 煩悩を追い出して目を瞑り、今度こそ眠りの世界へと旅立とうとする。

 ふにっ

 腕から伝わる何かの柔らかい感触。目を開けると蕾が俺の腕を胸に抱えるようにしがみ付いていた。

「ん……お兄……さん……。」
「……。」
 俺が眠ることができるまでにはまだまだ時間がかかりそうだった。

757名無しさん@ピンキー:2009/04/01(水) 22:53:22 ID:3pWx0Q3a
3/27から電脳ダイブしてました。
申し訳ありません。

次回から色々全開で頑張ります。
758名無しさん@ピンキー:2009/04/02(木) 00:23:55 ID:NhBp5bmp
>>757
GJ
俺も昔にオンゲーをやっていたこともあって、この手の話題は大好きだ。話も面白い。
続きを待っています。
759名無しさん@ピンキー:2009/04/02(木) 01:31:51 ID:cXLLiSds
GJ
なんかやっと長い作品が来そうな予感。
760名無しさん@ピンキー:2009/04/02(木) 02:16:09 ID:X58R/16u
GJ!
俺も不測の事態に備えて、しっかりモンハンやろ。
じゃあな馬鹿共!俺はハンターとして生きていく
761名無しさん@ピンキー:2009/04/02(木) 10:16:22 ID:4eQnv/Q3
ネトゲ現役の俺にはイメージしやすい話だぜ
762名無しさん@ピンキー:2009/04/02(木) 15:03:16 ID:+l6iOMgJ
俺はマビノギを背景として見てしまう。
763名無しさん@ピンキー:2009/04/02(木) 20:32:38 ID:gfOT+hLM
生活系、生産重視のオンラインゲームだとマビノギ、ウルティマ・オンライン、
D&Dオンラインやエバークエスト2(サービス終了?)辺りもイメージとして
出てくるな。
764名無しさん@ピンキー:2009/04/02(木) 23:38:09 ID:3lVI702r
投下します。
ネトゲ面白いから危険すぎますね。
765ネトゲ風世界依存娘 三話:2009/04/02(木) 23:38:59 ID:3lVI702r


 翌朝、目を覚ますと目の前に犬耳の少女が眠っていた。
 一瞬何事かと焦るが、脳が目を覚ますと先日の出来事を思い出していた。

「起きたら夢だったって展開だと思ったが夢じゃなかったか。」
 小さく呟き、未だ眠っている少女の顔を見る。頬には涙の跡がついていた。

 俺は彼女を起こさないように気をつけてベッドから起き上がり、服を着る。異世界の朝は寒い。
 こちらの世界ももう春になろうというのに、空気が澄んでいるせいもあるのだろうが、冷え切っていた。
 満開の花のような見た目の季節感だけではなく、気温を感じることが出来るようになってしまったのは
いいことなのか悪いことなのか……判断に迷うところだ。

 宿の主人に頼んで羽織れる毛皮のコートと二人分の朝食を貰って部屋に戻り、職人が作ったと思われる
派手ではないが品のあるテーブルに朝食を並べる。
 そこまで準備すると、蕾の頬を軽くぺしぺし叩き、

「おい、朝だぞ。」
「ううん……お母さん後5分……。」
 むにゃむにゃとお約束な寝言を幸せそうな寝顔で蕾は呟く。寝かしておいてやりたい気持ちがちらっと
出るが容赦なく布団をひっぺがす。

「起きろっ!!」
「わぁぁっ!えっ?ええっ!!」
 犬耳少女は驚いて飛び起き、座り込んでわけがわからないといった感じで左右を見渡す。
 頭と一緒に耳がぴこぴこ動くのが小動物っぽくて可愛らしい。

「こ、ここどこ!?」
「落ち着け。そのコートさっさと着ろ。パンツ見えてるぞ。」
「きゃっ!お兄さんのえっち!」
 困惑よりも羞恥が勝ったのか、ショックで蕾も状況を把握したらしい。顔を真っ赤にして抗議しながら
ぶかぶかのコートを羽織る。
 下位の常駐型の火系統魔法を暖房代わりに唱え、蕾と二人でテーブルを囲んで椅子に座る。

「起こしてくれたのにえっちっていってごめんなさい。」
「謝るな。俺がえっちなのは間違いない。お前さんは対象じゃないけどな。」
 落ち着くとしゅんとなって彼女は謝る。そんな彼女に俺は笑顔で応える。

「とりあえずまずは朝ごはんだ!」
「えっ、目の前のはパンじゃないんですか?」
「……。」
 無言で頭にチョップを食らわし、何事もなかったかのように手を合わせる。

「いただきます!」
「いただきます。」
 一人と一匹は、目の前のパンと卵焼き、サラダという朝の基本セットに対して宣戦を布告した。
 四人前の朝食は二人の猛攻に僅か5分しか耐えることは出来なかった。


766ネトゲ風世界依存娘 三話:2009/04/02(木) 23:39:56 ID:3lVI702r


 朝食を食べ終えると、服を着替えて街を散策することに決めた。
 満腹になったお陰か俺の半歩後ろを歩く蕾は心なしか幸せそうだ。歩きながらゆっくりと左右に尻尾を振っている。

「今日から蕾ちゃんの自立を目指す。」
「はい。」
 銀行から自作の剣と女性用革鎧を引き出して渡して銀行の更衣室で着替えるよう促し、本日の目的地へと向かった。
 先日の夜に、ずっと一緒にいることに対して(主に理性的な意味で)危機感を覚えた俺はさっさと
一人暮らし出来る強さを持って貰おうと考えたのである。

 安全に食べていくなら生産系の職がいいのだろうがシステム機能がないため、スキルの熟練度的に
どうなるのか判らない上に、自分では物を作ることが出来るがどういう理屈でそれが出来るのか説明することが
出来ないので、生産職の知識を教え込むのは諦めた。

 そういうわけで戦闘系の仕事をこなしてお金を稼げるように頑張ってもらおうと思ったのだ。装備さえしっかり
しておけば、初級モンスターのエリアなら安全にお金を稼ぐことも出来るし、経験も積める。

 何より犬人族そのものが力強さと素早さを併せ持つ、戦闘向けの種族であった。反面不器用で生産職には向いていない。


「いらっしゃい。仕事かい?」
 仕事斡旋所は異変前と変わらない。仕事の内容と報酬が書かれた紙がいくつも張られており、NPCだった
中年の親父が退屈そうに座っている。
 違うのはそのNPCだった親父が『生きている』ことくらいだ。

「初心者向けの首都近郊のモンスター退治依頼はあるか?」
「ジャイアントラット駆除があるぜ。畑を荒らすこいつらを退治して欲しいそうだ。5匹で100。退治した数に
応じて報酬を払う。退治証明は尻尾でいい。あんたが受けるのか?」
 悪そうな笑みを中年の親父は浮かべる。

「後ろのこいつだ。」
「よ、よろしくお願いします。」
「こりゃ可愛いお嬢ちゃんだ。本当に出来るのかい?」
 訝しげな顔で親父は蕾を見つめる。人見知りの彼女はいっぱいいっぱいになりながらも頷いた。

「や、やります!」
「わかった。じゃあサインを頼むぜ。依頼は失敗したら3割を違約金として払わないといけないから気をつけるんだぞ。」
「わかりました。」
 俺は頑張る彼女の様子を見ながら心の中だけで応援していた。

「匠お兄さん。大丈夫みたいです。」
「よし、じゃあ指定された場所に行くか。場所はちゃんとわかっているか?」
「はい。地図を描いてもらいました。」
 真剣な顔で彼女は頷く。俺は彼女の頭を撫でた。

「そうか。偉いぞ。……頑張れ。」
「うんっ!」
 蕾は気持ち良さそうに顔を緩めて頷いた。


767ネトゲ風世界依存娘 三話:2009/04/02(木) 23:41:10 ID:3lVI702r


 戦闘のやり方は異変があっても変わらない。俺も何匹か試してみたが剣も魔法も違和感なく扱うことが出来た。
 一日だけだが戦闘はこなしていた蕾も同じらしい。

「元々、運動は苦手だったから……こんなに自分の身体が動くなんて信じられない。」
 郊外に広がる広大な畑で彼女は楽しそうに駆け回る。その姿はまるきり子犬であった。
 飼い主たる俺はというと見失わないように追いかけさせられるのだが、どれだけ動いても少ししか
疲労を感じない。不思議な感覚だった。

 お昼には二人並んで弁当を食べて休み、再び狩りを始める。夕方には尻尾の数は40本を越えていた。
 すっかり安心した俺は蕾を放置して一人、いろいろな魔法を実験していた。油断であった。

「きゃぁぁぁっ!な、なんですか!」
 遠くから蕾の悲鳴が聞こえ、それに驚きながらも俺は声に向かって全力で駆け出した。

 声の場所に辿りつくと二人組みの剣士が蕾を囲んでいた。穏便な雰囲気には見えない。蕾は剣を
向けられ腰を抜かして座り込んで震えている。

「わんちゃんよー。俺たちと遊ぼうぜ。」
「そうそう。折角リアルな感触再現されてるんだしさ。その顔、そそるなぁ。」
 見覚えがある。よく見るPKだ。異変前は結界があり、一定以上のランクの狩場でなければPKも
出来なかったのだが今回のことで出来るようになったのだろうか。

 苦労して敵を倒しかけたときに襲い掛かり、装備とモンスターを持っていく性質の悪い奴らで
中級プレイヤーからはゴキブリのように嫌われている二人組みだ。

「どこまでリアルかひん剥いて試そうぜ。」
「おいおい!先は俺だぞ!」
「はいはい。そこまでなー。」
 俺は相手を確認すると恐怖で動けない蕾を庇うように前に立つ。

「格好付けか?」
「ひゃはは、かっこぅいいー!」
 下品に笑う二人組み。俺は何も応えずに高速で詠唱する。

「『雷神』!」
 このゲームでは魔法には法則性があり、属性を詠唱で組み合わせて魔法を作成する。俺の唱えた魔法は
魔法の専門家、ハルが組んだ対個人用の上級魔法。性能はいいが必要スペックが高すぎて使える人間が
殆どいないのが難の魔法だ。

「な、なっ!!」
 一撃で一人が炭化する。人を殺せた。あっさりと。
 俺の心が全く揺れないことに自分自身驚いている。ゲームだと思っているからだろうか。

「街に戻る気配はないな。死んだか。」
 冷静に呟き、蕾には目を閉じていろと促す。俺は仲間が街に転送されずに戸惑っている男と平坦な声で話す。

「し、死んだ?」
「このゲームの復活アイテムは『気絶状態を回復するアイテム』だ。女を犯せるように人が殺せて何か不思議か?」
「ひひひひっ人殺し!!」
 剣士の男は怯えながら俺を罵る。

「弱い子供に悪戯しようとするやつなんぞ死んだほうがいいだろ。」
 俺は苦笑しながら無造作に刀を引き抜いて動揺していた男の首を刎ねた。そして、証拠を残さないように
炎で焼き尽くす。
 全てを焼き尽くして炎が消えるまで俺はなんとも言えずにそれを見つめていた。

768ネトゲ風世界依存娘 三話:2009/04/02(木) 23:42:07 ID:3lVI702r
「やっちまった。」
 空虚な心で思わず呟き、片手で頭を抱える。背中で守っていた蕾は二人がいなくなっても
まだ怯えて目を見開き、がたがた震えていた。

「怖がらせてごめんな。怖い目にあわせてごめん。見通しが甘かった。」
 声は出せず、怯えて震えながらも彼女は首を横に振る。俺がしゃがみ込んで彼女が立ち上がれるように
手を貸そうとしたが、

「ひぁっ!!」
 びくっと大きく震えるとしゃぁ……と静かな音を立てて、緑の芝生に小さな水溜りを作った。

「……なんというか、いろいろすまん。」
「ぁぅ……。ううう……。うわぁぁぁぁぁん!」
 羞恥で顔を紅く染め、恐怖で身体を震わせ、蕾は声を上げて泣いた。俺はどうすることもできずに
少しだけ距離を空けて座り、彼女が落ち着くのを待つことにした。


 彼女が泣き止む頃には完全に日が暮れており、疲労で動けなくなった彼女を俺は背負って歩いていた。
 空には二つの月が浮かぶ、地球のものとは違う満天の星空がある。
 素直に美しいと思う。

「蕾ちゃん。空を見てみなよ。」
「はい。……綺麗です。」
 背中の少女の表情は見えない。だが、魅入っているのは気配でわかる。暫く時間を置き、静かに語りかける。

「さっきはごめんな?」
「いえ、私のほうこそ。助けてもらったのにあんなに怖がってしまって。」
 彼女は恩知らずです。と情けなさそうに呟いてぎゅっと強く首にしがみ付く。か細い腕はまだ小さく震えている。

「俺怖いだろ?自分でも怖いからな。誰か優しいやつを紹介しよう。」
「そんなこと……ないです。匠お兄さん……私……やっぱり邪魔ですか?」
 さらに強くしがみ付く。

「何でもします。やります……だからこわいところにおいていかないで……一人にしないで……。」
 風に吹かれて消えるような声でそう呟く。PKはどうやら彼女に恐怖心を植え付けてしまったらしい。
 折角笑ってたのに。強く生きていけそうだったのに。俺は残念に思いながらも少し考えてから努めて明るく、

「あほ。お前一人くらいきちんと自立できるまできちんと面倒見てやる。」
「……本当?」
「お兄さんを信じろ。今日も守ってやったろ?」
 冗談めかして笑う。

「一緒……いてください……。」
「ああ。だけどお前もさっさと強くなれよ。」
「……うん。」
 犬耳少女は俺の背中に顔をぴたっとくっつける。震えはようやく止まった。

 仕事斡旋所へたどり着いた頃には彼女は背中から降り、いつものように半歩後ろを歩いていた。

「よう。遅かったな。首尾はどうだ……40匹か。ほらよ800Gだ。」
 親父から蕾にお金の入った袋が手渡される。
 依頼斡旋所から出ると蕾は暫く耳をぴこぴこさせて悩んでいるようだったが、袋をそのまま俺に渡そうとした。

「違う。それはお前がこの世界で稼いだお前のお金だ。大事に使えよ?」
「でも……。」
「頑張ったな。」
 何も言わせずに俺は頭を撫でて笑った。
 ここに着くまで無表情だった彼女の顔がゆっくりと歪み、俺に抱きついて大声で泣いた。
 今度はどうやらうれし泣きのようだった。
769名無しさん@ピンキー:2009/04/02(木) 23:44:19 ID:3lVI702r
投下終了です。
770名無しさん@ピンキー:2009/04/03(金) 00:04:27 ID:1q4PluYn
GJ
続きを期待します。
みんなゲームにハマってリアルで人殺しはだめだぞ
771名無しさん@ピンキー:2009/04/03(金) 03:10:53 ID:yoxXS78E
GJ
自分殺しもだめだぞ!
772名無しさん@ピンキー:2009/04/03(金) 03:19:52 ID:L+h99hiS
ボタン押すのとリアルにアクションするのは違うからな、まだ大丈夫だろ。

ただこれみたいに電脳世界的なものができたら現実にも危ない奴が出てくるかもな
773名無しさん@ピンキー:2009/04/03(金) 19:03:44 ID:BMLMl1KM
映画「アヴァロン」だとゲーム世界で死ぬと下手すれば廃人になるしなぁ。
多少なら吐く位で済むのだがやはり仮想現実とはいえ「死」というのは
結構反動が大きいのだろうな。
774名無しさん@ピンキー:2009/04/03(金) 21:32:34 ID:qvNzwJug
GJ
やべえ、またネトゲやりたくなってきた。
77551:2009/04/04(土) 14:50:46 ID:o1dvrReV
ttp://www1.axfc.net/uploader/He/so/212741.zip
今回はHDDの物理障害で以前に作ったまとめが消えてしまい、ほとんど最初っから作り直しました
色々と雑です


ところでどなたか籠城戦 ◆DppZDahiPc氏の百合の話のタイトルを覚えている方いらっしゃいますか?
本人のサイトに行ってみたらもう消えていて確認できなかった……orz
776名無しさん@ピンキー:2009/04/04(土) 16:52:15 ID:E0YqfFah
>>775
超乙。
777名無しさん@ピンキー:2009/04/04(土) 20:07:41 ID:ScG8aNz7
スレチになるけどネトゲはグラフィックよりゲーム性だなぁ。
グラフィックは3日で慣れるけどゲームが続けられるかどうかは
別だしなぁ。
778名無しさん@ピンキー:2009/04/05(日) 00:00:38 ID:O2FKfV5Z
投下します。
相変わらずのエロ無し。

申し訳ない。
779名無しさん@ピンキー:2009/04/05(日) 00:01:12 ID:O2FKfV5Z


 朝起きて目を開けると女の子の寝顔がある。というのは長い間、一人暮らしをしてきた俺にはあまりない経験である。
 全くないことはないとは力強く主張しておく。

 昨日はあれから蕾が俺を離さず、結局宿も一部屋だけ取ることになった。懐かれるのは嫌ではないが
どうせなら色っぽい女性に懐かれたいものである。

 決して、腕に押し付けられる小さな胸や瑞々しく張りのある綺麗な肌や柔らかい身体に色気を感じてはいない。
 時たま漏れる吐息や寝言で俺を呼ぶ声にも何も感じていないのだ。

 ……本当だぞ?

 昨日と同じように二人でテーブルを囲んで朝食を取り、街に出る。今日の目的は日用品の買出しだ。
 今までゲームでは服が汚れたりといったことがなかったため、何着も服が必要になるといったことは
なかったのだが、異変後は汗をかけば匂いが出てしまうようになってしまっていた。
 男の俺はともかく、女の蕾には代えの服がないというのは少し辛いだろう。

 必要になるのは服だけではない。細々とした日用品も必要になる。風呂なんてないので清潔さを保つために
小まめに身体を拭かなければならないし、冒険をする場合にはテントなどの野営道具なども必要になる。

 生きていくために必要なものが増えてしまっていた。まぁ、現実世界では当たり前のことなんだが。
 他のは後回しでもいい。とりあえずは服だ。

 宿屋で街に点在する服屋の場所を聞き、俺達は町中を歩いていた。何時もどおり蕾は半歩後ろに控えて
服を掴んで歩いている。無表情だが尻尾がゆっくりとリズムよく振っていることから機嫌はいいのかもしれない。

「俺はセンスないから、ファッションとか詳しいハルでも誘うか?」
という俺の提案は、

「匠お兄さんは、私の服選ぶの……いや……ですか……そうですよね……。」
 反対はしないが耳が垂れてしょぼんとして泣きそうになったので自ら取り下げた。

780ネトゲ風世界依存娘 四話:2009/04/05(日) 00:02:16 ID:O2FKfV5Z


 自分で着る服ならユニ○ロでもなんでも気にしないが、人の服を選ぶのは非常に気を使う。出来れば遠慮したいのだが、

「好きなの買って良いぞ。」
といっても、

「匠お兄さんが選んでください。」
と、縋るような上目でお願いされるのだからどうしようもない。
 諦めて店内に並ぶ服を一つ一つ真剣に検討していく。

 普段着る服は鎧の装備の有無で大きく異なる。鎧を身につける場合は下の服はデザインよりとにかく
動きやすい服でなければならない。
 逆に考えれば動きやすければ、色だけを考えておけばいいのだから楽だ。彼女にあげた鎧は濃い茶色なので白い上着と黒のズボンで色のバランスを取る。冒険用なので同じものを三着購入しておいた。

 問題は街での散策用の私服だ。
 難しい顔で蕾を見つめる。茶色の髪。淡い茶色のかわいらしいくりっとした瞳。庇護欲を誘う小柄で
よわよわしい身体。いかにも小動物なびくびくした仕草。
 一瞬、リードのついた犬用首輪を思い浮かべてしまい、首を振って妄想を追い出した。

 自慢じゃないが女の子に服なんてプレゼントしたことない俺には少々難易度が高いクエストだ。ゲームでならともかく。

 ゲーム?
 服飾系のスキルはどうなっているんだろうか。作れるのは判っているがデザインは想像通りに物を
作れるのだろうか。今度試してみよう。

 そんなことを考えながらも服を必死で探していたが、5件目でようやく似合いそうな服を見つけていた。

「こんな感じでどうだ?」
「匠お兄さん……ありがとうっ!」
 購入したのはボーダーの模様の入った濃い茶色のスカートに胸元に赤い小さなリボンのついた白いブラウス。
 一張羅の初心者用の服を脱いで蕾はその服を着る。本当に嬉しいのか耳をぱたぱた動かし、
尻尾をぶんぶん振っていた。

「よく似合ってる。」
「えっ…えええ!本当ですか?」
 服を変えただけで印象が大きく変わった。まるで毛虫が蝶になったような気分だ。野暮ったい捨て犬
から小奇麗な飼い犬に変身している。
 可愛い服を着て嬉しそうな彼女を見ていると俺まで嬉しくなる。時間は掛かったが頑張った甲斐が
あったと素直に思えた。

「櫛やアクセサリーも買わないとな。」
「う……でも、匠お兄さん……お金……。」
「子供が金のことは心配するな。出世払いでいい。」
 ぽふぽふと頭を軽く叩くと、蕾は気持ち良さそうに目を細めていた。

「匠お兄さん。後下着……選んで下さい。」
 さらになにかを期待するような瞳で見つめる彼女だったが、

「お願いだからそれは自分で選んでくれ。」
と断ると、少し不満そうな顔をしながらこくんと一つ頷き彼女はとてとて下着の置き場へと歩いていった。


781ネトゲ風世界依存娘 四話:2009/04/05(日) 00:03:14 ID:O2FKfV5Z


 買物を終えて、宿に荷物を置きもう一度出かける。次の行き先は公演場だ。
 城を中心に盤の目のように道が走っているこの都市の東部にその建物はあった。公演場とは俺たち
プレイヤーが勝手に名づけた名前だ。主にプレイヤーの開催する音楽イベントのための施設になっているそこは、
多くのギルドの溜まり場でもある。

 β時代から特によくつるんでいた知り合いと組むときの待ち合わせ場所でもあった。しかし……

「いないか。」
「誰がですか?」
 何かのイベントがあるのか大勢の人が集まり、公演場はがやがやと活気に満ちていたがお目当ての
人物は残念ながらいなかった。

「一番長い付き合いの知り合いだ。相棒といってもいいな。そいつが俺達のように閉じ込められているかと思って。」
 いないことに内心ほっとする。この世界に閉じ込められてないということだから。

「そうなんですか。……女の人?」
 聞きにくそうに聞いてくる蕾に苦笑して首を横に振る。

「男だよ。蕾ちゃんと同じ犬人族の刀使いだ。ぶっきらぼうで愛想は良くないが気があってたまに一緒に狩りをしてたんだ。」
「匠お兄さんと一緒に戦える人なの?」
 ちょっと驚いた様子で蕾は俺を見る。PKとの闘い以降、彼女の俺を見る目がちょっと変だ。どこがとはいえないが。

「俺より強い。生産は出来ないけどな。」
「……。」
 表情を見ると俺の答えはちょっと気に入らなかったらしい。その知り合いは求道者といった感じで
近接戦闘に魂を賭けていた。
 スキルは高ければ高いほど上がりにくくなるが上限はないので、βから三年間近接戦闘に注ぎ込んでいた
彼に近接で勝てるものは下手するといないかもしれない。

「いないならしょうがないんだけどな。」
 ふぅ……と溜息をつく。ゲームだけの知り合いだったが三年も付き合いがあった友人だ。二度と会えないと
考えると寂しいものである。

「わ、私はずっといますから!」
 落ち込む俺に必死な顔で慰めようとしてくれているらしい蕾だったが俺は無表情で、

「お前さんはさっさと自立して独立しろ。」
「い、痛い。痛いよお兄さん!」
と、こめかみを両手でぐりぐりしていた。


782ネトゲ風世界依存娘 四話:2009/04/05(日) 00:03:58 ID:O2FKfV5Z


 もう暫く探したが、見つからなかったので公演場を覗いていくことにした俺達は、直ぐに興味本位で
覗いたことを後悔することになった。

「6000!」
「えええい、7500だ!」
「8000!」
「なにを!こっちは10000だ!!」
 俺は眉を顰めて目の前の光景を見つめる。

「た、匠お兄さんこれ……。」
 蕾は顔を青ざめて俺の腕にしがみ付く。

 公演場と呼ばれ、多くの音楽系ギルドが参加者たちを熱狂させてきたその壇上では、蕾と同年代くらいにしか見えない犬人族の少女が、下着一枚で首輪を付けられて立たされていた。少女は全てを
諦めたように死んだ瞳をして俯いている。
 恐らく、男たちが叫んでいる数字は『値段』。

 俺は近くにいた城の警備兵に近づく。

「すまない。俺達はこの町に初めて着たんだがこれは何をやってるんだ?」
 胡散臭げに話しかけるなというような顔を相手はしたが、黙ってお金を掴ませると説明をしてくれた。

「ここは公演場だ。演劇等が普段は行なわれるが、今日は月一の奴隷のセリだ。こんなもの、どの国にもあるだろう。」
「それもそうだな。この国ではどんなことをしたら奴隷になるんだ?」
「犯罪と借金だな。冒険者が身を持ち崩して自分を売るしか手がなくなることもある。後は奴隷商人に捕まって
違法に売られる場合もあるらしいが。あのガキみたいに親に売られる場合もある。哀れなもんさ。」
 あまり喜んで警備しているわけではないのか、その兵士は肩をすくめて言い捨てた。

「……帰るか。」
 悪趣味な見世物をこれ以上見るつもりはなかった。俺は帰宅を促すと、蕾はぶんぶんと縦に首を振って頷いた。


 帰り道、蕾は一言も口を利かなかった。口数は普段から少ないが、深刻に考え込んだような顔で
黙り込んで歩いているのは初めてである。
 壇上に上がっていた少女は年頃といい、種族といい、毛色といい……蕾によく似通っていた。
 案外子供っぽい正義感で助けようなんていうかと思ったが、それはなかった。ただただ、自分の思考に
沈み込むように考え込んでいた。

 蕾は多感な年頃だ。あんな光景を見せ付けられて何も考えるなというほうが無理なのかもしれない。

 時折泣きそうになったり、俯いたり、俺の服を思いっきりひっぱったり、怯えたりと挙動不審なことを
しながらも無言で歩く。

 宿に着きかけたとき、考えがまとまったのか真剣な顔で蕾は俺の眼を見つめた。

「……。」
 そして、口を開こうとして閉じる。目には何かを決意したような色。何か追い詰められたような余裕の無い表情。

 彼女は結局何も口には出さず。俺も何も言うことはなかった。


783ネトゲ風世界依存娘 四話:2009/04/05(日) 00:05:16 ID:O2FKfV5Z


 宿に入ると一人の男が待っていた。
 黒い毛並みの耳と尻尾、流れるような長い黒髪に長身。絵にかいたような美形の青年だ。装備も殆どが
黒で統一されている。蕾を小型犬といった印象だが、落ち着いた雰囲気のあるこいつは差し詰め
大型犬といったところだろう。

「久しぶり。」
 にこりともせず、青年は俺に向かって手を上げる。蕾は男に見られると情けない声を上げて俺の後ろへと隠れる。相変わらず人見知りをするやつだ。
 目の前の男──β時代からの知り合い──九朗は気を悪くした風でもなく、黙っている。しかし、彼女には目も合わせない。

「今日は公演場にいったんだが、入れ違いだったか。お前もやはりいたんだな。」
「すまない。」
 愛想がないので敬遠する者も多いが、俺はこの男が嫌いではなかった。お互い廃人だったし戦闘中は
何も言わなくても最高の連携を取ることもできる。
 男同士だから変な気を使うこともない。生産系アイテムは安く譲ってくれる。俺が作ったアイテムは大事に使ってくれる。
 会話はあまり続かないが下ネタ以外には反応はしてくれる。
とまあ、一緒に長時間いても疲れない相手なのだ。

「ハルから大体の事情は聞いている。」
「そうか。」
「私もハルの意見に賛成。」
 何のことかわからないといった感じで蕾は俺たちを見つめている。おそらくは金を渡して放りだせということだろう。
 彼は無表情に淡々と続ける。

「物価から考えれば100万もあれば一生遊んで生きていける。私が出してもいい。」
「おいおい。クロまでそんなこというのかよ。」
「出来ないのは長い付き合いだから判っている。幻滅されるかもしれない。でも言わずにはいれない。恩人だから。」
 何を言われているのか判ったのか蕾は不安げにこちらを見つめている。

784ネトゲ風世界依存娘 四話:2009/04/05(日) 00:06:08 ID:O2FKfV5Z


「どちらにしろ私は彼女のことはどうでもいい。」
 九朗は女には厳しいことで知り合い連中の中では有名だった。例外はハルだがやつは中身が男である。
 女性キャラは話しかけても殆ど放置するほど普段から女嫌いは徹底していたので俺はなんとも
思わなかったが、きつい言葉に蕾は泣いていた。

「恩人って、俺達はもちつもたれつ。借りなんてなかったと思うんだが。」
 生産素材を安く譲ってもらい、装備を安く提供する。そこに関係の優劣は無い。

「ある。」
 九朗はこくんと一つ頷く。懐から取り出したのは壊れた指輪だった。

「見覚えがあるな。」
「匠の魔法道具の一作目。」
 魔法の道具作成が実装された後、熟練度目的以外で初めて作ったもの。
 思い出した。『帰還』の魔法を付与した指輪だ。

「ヘカトンケイルと戦闘中に頭痛。咄嗟にこれを使って脱出。壊してごめん。それからありがとう。」
 無表情に九朗は淡々と呟く。……というか、まだ持ってたのか。二年位前の作品を。

「ありがとう。クロ。作成者冥利に尽きる。」
 俺は九朗の肩を叩き、心の底から笑った。自分の作ったものが大事にされているというのは、生産者にとって
最も嬉しいことだと思う。九朗も大きな尻尾をゆっくりと振っていた。

「……?」
 ぎゅっと蕾の服を掴む手に力が込められる。不思議に思ったがあまり気にしなかった。 
 なんだか涙目で九朗を睨み付けていたが相手はスルーしている。

「私は恩を絶対に返す。」
「気にするな。お前が助かって本当に良かった。」
「匠とは対等の関係でいたい。だけど、私はもう一つ匠に借りを作ることになる。」
 いつもゲームとはいえどんな苦境でも平然としていた九朗が、少し迷っているように見えた。
 そんなに言いにくいことなのだろうか。

「何でも言えよ。俺とお前の仲だろ。」
「ありがとう。性転換の薬を一つ譲って欲しい。」
 俺の頭は真っ白になった。

「……は?」
「すまない。騙すつもりはなかった。高いものだということも理解している。だが、どうしても生きる上でそれが私には必要だ。」
 九朗は珍しく早口で長々と話し、頭を下げる。
 俺は三年越しで知るはじめての真実に、頭が正常に働かなかった。というか俺の頭は悪すぎるのではなかろうか。

 蕾はますます、俺の服を掴む力を強めていた。

785名無しさん@ピンキー:2009/04/05(日) 00:13:44 ID:O2FKfV5Z
投下終了。

依存成分切れて中毒症状でそうなので次は他の人の作品で依存成分を補充するまで
書き溜めと推敲とプロット作り頑張ります。
786名無しさん@ピンキー:2009/04/05(日) 01:01:47 ID:yoeyKWkM
最後どういうこと?クロが女だったってこと?
787名無しさん@ピンキー:2009/04/05(日) 01:18:09 ID:lVz6Q2Ws
多分中の人が女なんだろ
まあ変化球で性倒錯者って可能性もあるが
788名無しさん@ピンキー:2009/04/05(日) 03:02:11 ID:aGQanLOO
確かにクロは女ぽく見える
789名無しさん@ピンキー:2009/04/05(日) 03:52:06 ID:fsBMbNro
新キャラと新展開キターw

修羅場がいくらあってもいいので、
さいごはハーレムエンドにしてください
おながいしまつ
790180:2009/04/05(日) 13:30:43 ID:QwyMlplQ
>>785
>>785は依存中毒とな?

例えば依存君が複雑な事情でメイドを雇っていてだな。

――――俺は>>785が嫌いだ
>>785は親父の愛人の子供だった。俺の両親は両方とも会社の重役だったので俺の面倒を見る余裕が無く、
また母親は俺や親父を大して愛していなかった。それをいいことに、親父は愛人を住み込みの女中として雇ったのだ。
愛人は愛欲が強い女性だったらしく、親父により愛されるためにかいがいしく世話していた。
そんな親を見ていた>>785もまた、俺を世話していた。……あるいは、今から思えば親から捨てられないために努力しろと
刷り込まれていたのかもしれない。24時間一緒にいようとし、起床から着替えから風呂から就寝から、すべての世話をしようとした。
俺は、一人で出来ると反発した。幼稚園や小学校の中でも俺の事を「依存様」と呼んでいたのも気に食わなかった。

――――俺は>>785が嫌いだ
>>785は俺の世話をすることを生きがいとしている。両親と愛人を事故で失った後、学園に通う様になった今現在に至るまで
二人暮らしをしている。しかし、俺は>>785の事がより嫌いになってきた。>>785の世話がより過剰になってきたのだ。
今では靴下一枚履くのにも>>785がやり、食事の時は俺が箸を持つことが無く、ある飲み物を飲みたいと思った時はすでに
>>785が用意しており、……性欲が高ぶったと思った時には、いつのまにかそばにいる>>785が処理をした。
そういえば、>>785は小さい時から俺の目をじっと見つめている。なぜか>>785に聞くと、目を見れば俺がどんな気分か、
どんな事をしてほしいのか推測できると言う。俺はそれを聞いたときに背筋が凍るような思いだった。

――――俺は俺が大嫌いだ
俺は>>785に やめろ。と言った。彼女ができたからだ。>>785は哀しそうな表情をして
捨てるのですか?とか置いてかないでくださいとか言ったが、俺は固持した。すると、>>785は部屋に篭り
一日中泣いてばかりいるようになった。……結論から言うと、彼女とは長続きしなかった。当たり前だった。
>>785が世話をしてくれるように、彼女が世話をしてくれるわけではない。彼女は、彼女が自分の世話を
するのが当たり前だと(無自覚に)している俺に愛想がつきたのだ。
>>785の部屋の前に行き事の次第を言うと、>>785はドアを開け飛び出し俺にすがりつき大泣きしながらこう言った。お帰りなさい、と。
それを聞き、俺は目の前が真っ暗になった。
――――俺は>>785に依存しているのかもしれない

このぐらいに>>785は依存中毒が酷いに違いない!
なんたって良作の依存作品を書くぐらいだからな。
791名無しさん@ピンキー:2009/04/05(日) 14:36:55 ID:pMNXDPeh
GJ!!
書き溜めも良いけど、すぐ帰ってきてね・・・・
792名無しさん@ピンキー:2009/04/07(火) 00:02:52 ID:oEznBdRp
只今このスレは464kbぐらい
あとSS1〜2個分ぐらいはあるかな
793名無しさん@ピンキー:2009/04/07(火) 22:04:40 ID:osmiow+T
結局三日しか我慢できなかった。
投下します。

790の作品を待ち望んでいるのは自分だけではないはず。
凄すぎて吹いたw
794ネトゲ風世界依存娘 五話:2009/04/07(火) 22:06:24 ID:osmiow+T


 九朗は銀行で性転換ポーションを受け取った後、同じ宿に部屋を取って今は三人、同じテーブルについていた。
 コーヒーの香りが鼻を擽る。食料品や嗜好品が現実と同じようにあるのは救いだった。誰も何もしゃべらない。

 こと……。

 薬の入ったビンを九朗がテーブルに置く。

「ぐっ……!」
 一瞬の間を置いて、九朗の身体が作り変えられていく。ゆっくりと少しだけ身長が縮み、平らだった
胸部が盛り上がってシャツを持ち上げる。長い黒髪の艶がまし、鍛えられた無駄な筋肉の無い細いが
ごつごつとした肌が、女性らしいしなやかで柔らかそうな肌に変わる。
 元々美形で女性に間違われそうだった顔も、女性らしさが際立っている。眠たげな表情はそのままだったが。

「上手くいったか?」
「今確認する。」
 10分ほどかけて女性になった九朗は、自分の身体の調子を確かめるように軽く動かして礼を言う。

 蕾は椅子を立って身体を動かす九朗に見蕩れているようで、驚いて口をあけていた。
 俺も少し驚いていた。三年見慣れた男としての九朗より、今の女性の九朗のほうのほうがしっくりとくる。
 自然だと感じる。
 長い黒髪と黒い毛並みの耳と尻尾、黒いシャツは胸で押し上げられて臍がちらっと覗いている。
動きやすい黒いズボンを履いたそのしなやかな体躯の美女は確認を終えると安心したように小さく
息を吐き再び椅子に座った。

「大丈夫なようだ。」
「そうか。よかったな。」
 動揺を悟られないように努力しつつ、色々聞きたくなる好奇心を抑えてそれだけを口にする。

795ネトゲ風世界依存娘 五話:2009/04/07(火) 22:07:42 ID:osmiow+T

「……何故怒らない?」
 そう呟く九朗の表情は無表情で読めない。俺は、

「男だろうが、実は女だろうがクロはクロだ。俺は寧ろ気づかなかった俺が見捨てられないほうが不思議だ。」
と、本心から答えた。

「関係が変わるのが怖かった。離れてしまうかと思うと話す勇気が無かった。」
「そうか。」
 確かに女と知っていれば付き合い方は違ったかもしれない。その可能性は否定できない。

「だが、異変が起こった。私の心は女だ。男としては生きていけない。」
 もし、自分がいきなり女になったら……そう想像すると確かに恐ろしい。

「お陰で選択を迫られた。私は匠との友情より女であることを選んだ。」
 罪を告白するような重い口調。

「ちゃんとこうして本音で話してくれてるんだし問題ない。驚いたけどな。」
 コーヒーを一口啜り、俺は努めて明るく笑った。

「そういってくれて助かる。代金だが……。」
「いらないいらない。ハルのギルドの奴からも貰ってないし。」
 手を振って断ったが、九朗は首を横に振る。

「対価は支払わなければならない。」
「元々タダみたいなもんだ。」
「だが、現状なら幾ら積んでも欲しがるものもいるだろう。」
 ネカマやネナベがどの程度いるのか。参加者数を考えると結構いそうではある。

「それに女性用の装備も作ってもらわなければ。」
「ああ。そっか。」
 九朗の装備を作っているのは俺だ。オーダーメイドで男性用に作っているため、女性になって体格が
変わると身につけることが出来ない。刀以外は作り直しだ。
 さらにそれに魔法を付与する必要もある。九朗の装備は作ったばかりだったから……。

「私は今持ち合わせが無い。」
「だろうな。お金はあるときで良い。」
 こういう金銭面で九朗はしっかりしている。今までもこういう貸し借りが必要になりそうなことは
あったが、断られていた。

「適当な装備でお金を稼ぐから待っててくれ。」
「それは駄目だ。」
 反則的な強さの九朗でも、安物の装備ではこいつの装備を揃えるほどの金を稼ぐ狩場では危険だ。

「どうして?」
「今死ねば二度と復活できないからだ。お前に死んで欲しくない。」
「……。」
 九朗は少し考え込んでいたが、ふと何かに気づいたような顔を見せる。

「わかった。匠……頼む。」
「ああ。早めに用意するよ。」
 折れてくれたことに俺は少しほっとした……のもつかの間だった。

「借金には担保が必要だろう。」
「それで気が済むなら何でもいいぞ。」
「その言葉に二言はないな。」
 じっと見つめる九朗に俺は頷いた。

796ネトゲ風世界依存娘 五話:2009/04/07(火) 22:09:55 ID:osmiow+T

「匠は人間だからあまり変わった事は無いかもしれないが、異種族の私には人間のときに無かった種族
としての本能らしきものがいくつかある。」
 いきなり何を言い出すのか。

「犬人族は一生に一度だけ、一人にだけある契約を結ぶことが出来る。」
「ふむ。」
 そういや、ゲームには無かったが設定的にはそんなこともあったな。確か───

「首輪を召喚し、契約者にそれをつけて貰う。誓いの言葉共に口付けを交わせば契約者との関係は
絶対的なものになる。これは一度しか出来ない。」
「おい、まさか。」
「ああ。私自身を担保にする。」
 主従契約。首輪の意味するものは飼い主への服従。九朗の顔を呆然と見直すが、そこに冗談の色は
なかった。沈黙を破ったのは蕾だった。

「だ、だめです!そんなことっ!!」
「部外者が口出しするな。」
 九朗は冷たく言い捨てて蕾をにらみつける。気弱な蕾はひっと小さく悲鳴を上げながらも、

「で、でも、女の人なのに……あれは……。」
「私は自分を預けられないような相手と三年も行動を共にするほど酔狂ではない。」
 迷いの無い強い言葉。

「担保のほうが高すぎて釣り合いが取れていないぞ。」
 言葉の意味を考え、そう苦笑する。だが、俺に断るつもりは無い。断れば何をするかわからない。
 金を得るために他の者に同じ事を言うかもしれない。今始めて女とわかったとはいえ他の男に
この相棒を渡すことなど考えられない。
 このまま友人として付き合うにしても他の付き合い方を考えるとしても。

「卑怯だな。クロは。最高のものを作らせて貰う。報酬は出来てから頂く。」
「まあ、褒められたと思って置こう。よろしく頼む。」
 そう返して彼女は女性になってから初めて微笑んだ。

797ネトゲ風世界依存娘 五話:2009/04/07(火) 22:10:54 ID:osmiow+T


 作成は明日からにすることにし、装備の細かい仕様を詰めてから九朗は自分の部屋へと戻った。
 剣の腕を上げることは続けるらしい。あいつにはあいつなりの考えがあるのだろう。

「匠お兄さんは……あの人のことどう思ってるの?」
 二人に戻った後、彼女は冷めたコーヒーを飲みながら困惑しながら俺に聞いた。

「変わってない。相棒だ。」
「あんな約束受けるなんて……不潔だよ……。」
 そういや、本当に子供だったか。恋愛もしたことないんだろう。従属という言葉でそういうことを
考えるとは……耳年増というやつか?

「俺があいつに不当な命令をすると思うか?」
「……しないと思う。」
 事実、命令なんてする気はない。はっきりいって俺にとって九朗は蕾より大事だ。それは、女になっても変わらない。大切な友人だ。あいつの尊厳を奪うような命令なんて考えただけでぞっとする。

「なら問題ないだろ。」
「うん……でも……。」
「馬鹿なことを考えてないで早く寝ろ。」
「はい。」
 わかったのかわかってないのかよくわからない声を出して、当たり前のように俺のベッドに蕾は潜った。


798ネトゲ風世界依存娘 二話:2009/04/07(火) 22:20:18 ID:osmiow+T


 今日もいい天気です。私──蕾は街を散策しています。


 匠お兄さんは集中して作業をするそうで、翌朝、私は部屋を追い出されました。一般の方と違い、
プレイヤーのスキルなら一日あれば大抵のものが作れるらしいので便利です。
 とはいえ、材料は大量に必要になるそうですが……。

 私は今心底嫌そうな顔をした九朗さんと昨日買ってもらった可愛い洋服を着て
街を歩いています。
 無表情なので実際はわかりませんがそんな空気が流れていました。匠お兄さんに頼まれたので
しぶしぶといった感じです。

 思えばここに着てから色々なことがありました。特に大きい出来事は春日 若葉という人間だった
私が今では犬人族の蕾として生きることを余儀なくされたことでしょう。
 もっともこの身体には不満はありません。ちょっと小さくても可愛らしい姿は私の理想でしたから。

 初日は楽しかった。初めは声をかけても誰も反応してくれなくて困ったけど、匠お兄さんのお陰で
ゲームを楽しめました。でも、異変が起こって戻れなくなるとこの御伽噺のような世界が恐ろしくなったのです。
 私は他人が怖いです。男子は他の人より大きかった私の胸をじろじろ見てくるし、女子は私を暗いとか
ムカつくとかいって陰湿なことをしてくるし。
 ですが、私には優しい両親がいました。この世界にはそんな両親もいません。唯一の知り合いである
匠お兄さんもたった一日、彼が気まぐれで私を助けてくれただけ。

「で、蕾君。君はこれからどうするんだい?」
「言ってみれば君と彼とはほぼ見知らぬ他人。君のような女の子がそんな男とずっと一緒に
いるなんてことはないだろう。」
 匠お兄さんの知り合いであるハルさんの言葉は正しいと思う。

799ネトゲ風世界依存娘 二話:2009/04/07(火) 22:22:26 ID:osmiow+T


「子供を苛めてやるな。一人で生活できるまでは助けるさ。」
 だけど、そういってくれたことが私をどれ程安心させてくれたか匠お兄さんにはわからないでしょう。
 夜、私を励ましてくれたことでどれ程元気がでたことか。

 見知らぬ世界に何も判らないまま放り出される恐怖は、この世界に慣れている人にはわからないだろうから。
 子ども扱いは不満だけど。
 ……怖くて一人で寝れないけど子供じゃないの!
 匠お兄さんに触れていると、心が落ち着いて気持ちいいし頭を撫でられると本能的にどうしょうも
ないくらい嬉しくなっちゃうのが悪いんだから。

 初めに助けてくれたのが匠お兄さんで本当に良かったと思う。彼と一緒にいるとき、この世界は
楽しいけど本当にこの世界は怖いのだ。

 PKと呼ばれていた人たち。彼らのような人はきっと沢山いるんだと思う。人を傷つける武器を
平気で相手に向けるような人。私に何をしようとしていたかはわからないけど、きっと虐める
つもりだったんだと思う。
 匠お兄さんはそんなときでも助けてくれた。強くて格好良かった……。血に塗れた姿が怖くて
格好悪いところ見せちゃったけど、恐怖心と一緒に何故か下腹部が熱くなってしまって……なんでだろう。
 背負われているときも……濡れてるの気づかれないかどきどきしました。

 次の日は買物をしました。男の人と外を歩くの初めてで楽しかった。匠お兄さんにお任せで困らせて
しまったけど、真剣に選んでくれました。本当に頼りになる人。

 その後連れて行ってくれた公演場では、私と似た子供が売られていてぞっとしました。
 匠お兄さんと離れたときの自分の未来を見ている気がして……。身を守る術も生活の術もない私は、
今、文字通り命を匠お兄さんに握られています。私にはお兄さんしかいません。
 あの人に見捨てられたら……私はもう生きていけません。あんな風に売られるくらいなら……どうせなら……。


800ネトゲ風世界依存娘 二話:2009/04/07(火) 22:24:31 ID:osmiow+T


 そして、現れた隣を歩く人。匠お兄さんと3年の付き合いのある相棒といってた人。お兄さん曰く、
この世界一の剣士。綺麗な女性。この人がいれば私なんて必要なくなってしまう。捨てられて
しまうかもしれない。それは困ります。私にはお兄さんが絶対に必要だから。

 ふと、昨日の夜の九朗さんの話を私は思い出しました……。一生に一度……。

「その服、匠が?」
 考え込んだ私に隣から声をかけられました。私は少し驚きましたが頷きます。

「はい。選んでもらいました。」
「そう。」
 そして、再び口を閉じます。耳も尻尾も全く動かさない九朗さんはその真っ黒の瞳の奥で何を
考えているのか私にはわかりません。

「昨日はきついこといって悪かったね。」
「いえ、私こそ……。」
 悪い人じゃないのかもしれない。怖いけど。

「三年男として付き合っていたから、焦っていた。」
「匠お兄さんは一番気の会う男だって楽しそうにいってたから……驚きました。」
 九朗さんは頷きました。

「お陰で三年間、ゲーム内の恋人が出来ないか怯えていた。」
「ゲーム内の恋人?」
「君は始めたばかりだったな。言葉の通りゲーム内での恋人関係だ。結婚システムもあったからな。
あいつくらいのプレイヤーならかなりの割合で使っている。」
「匠お兄さんは使ってなかったんですか。」
「理由は判らないが。お陰で気軽に匠を誘えた。そして少し前あの異変が起こった。」
 断るということは、申し込む相手はいたんだ。

「私は異変が起こったとき神に初めて感謝した。」
「どういうことですか?」
「女性に戻るチャンスをくれたことを。そして、生き延びさせてくれたことを。」
「指輪のことですか?」
 確か匠お兄さんがくれた指輪のお陰で命拾いしたって……。

801ネトゲ風世界依存娘 二話:2009/04/07(火) 22:26:19 ID:osmiow+T


「現実世界の私は最期の退院中で異変の翌日、匠と別れて引退する気だった。」
「……?」
「重病患者は容態が落ち着いているときに退院が一度だけ許される。そういう意味で最期だ。そんなときでも
家に帰らず、金とゲームだけを与えていた親は私が消えて今頃清々していることだろう。」
「そんな……。」
 嘘をついている様子はありません。彼女は何時もどおりの表情で当たり前のことを離すような
感じで重い話をしました。

「普段は接続していない異変に巻き込まれる時間にログインしていたのもそのおかげだ。私は運がいい。
三年も我慢して、何もせずに何も言わずにただ諦めるつもりが機会を得たのだから。しかも、昔くれたアイテムで
命を助けてくれるおまけ付きだ。運命だな。」
 九朗さんは少しだけ幸せそうに微笑みました。女の私から見ても素敵な笑みだと思いました。

「でも、あの契約はしてしまえばどうなるか……。」
「そうだな。判らない。首輪をつければどうなるのか。だが、同時に期待もある。私は嬉しくてたまらない。」
「……?」
 次の言葉に私は少し驚きました。

「強くて優しい、理解のある主人を持つことは幸せだと思わないか?お前も犬人族になってしまったのなら
少しは理解できるんじゃないか?」
「そんなこと!……ありません……。」
「何にせよ、私はどんな手を使ってでも彼と一生を共にする。私はあいつがいないと生きている意味が無い。
誰にも邪魔はさせない。」
 九朗さんは迫力のある笑みで私を見ます。そのためには殺すことも厭わない。そんなぞっと
するような迫力が彼女にはありました。
 ですが、それでも私は……。
 決意を隠すために下を向いた私に九朗さんは、続けました。

「今の話は匠には内緒だ。フェアじゃないから。それに過去などもうどうでもいい。」
 そう無表情ではっきり言い切る九朗さんに臆病な私は恐怖を感じていました。

 ですがそれでも、私は決意していました。


──匠お兄さんと私はずっと一緒にいる──どんな手を使ってでも。





802名無しさん@ピンキー:2009/04/07(火) 22:27:41 ID:osmiow+T
以上で投下完了。
803名無しさん@ピンキー:2009/04/07(火) 23:01:19 ID:uaK6YTde
GJ!
しばらく投下はないと思ってたら、こんなに早く・・・・うれしくなっちゃうなぁ〜あ♪
ところでタイトルが2話になっているのは?
804名無しさん@ピンキー:2009/04/07(火) 23:56:42 ID:BZh4dVmC
まずはGJ
しかしこのままだと血生臭い事になりそうだ。
一人じゃ足りないから、皆で匠の重しになって逃がさないとか、人類皆仲良くハーレムとかの方向に女性陣の考えがシフトしないと危なそう。
まぁなんにせよ平和的解決を願ってる。
久々にいい依存の匂いがしたからこれからも頑張って欲しい。
805名無しさん@ピンキー:2009/04/08(水) 00:08:31 ID:dzXMQq1E
強気系(実は臆病)と弱気系(苛められっ娘)の依存の会わせ技できたか……いいなこれ!GJッ!!

二人の鞘当てに期待
そして今後の展開に超期待!
806名無しさん@ピンキー:2009/04/08(水) 00:42:14 ID:3WOUriu7
最高です
807名無しさん@ピンキー:2009/04/08(水) 01:22:12 ID:K/VTNClh
何はともあれGJ!
これからの二人の融和に期待
ハーレムとかになると個人的には狂喜乱舞する
やっぱり依存は依存者同士が仲良ければ何人いてもいいよね!
808名無しさん@ピンキー:2009/04/08(水) 05:08:54 ID:PUzYebxP
ここはまとめないんだね
809名無しさん@ピンキー:2009/04/08(水) 15:03:26 ID:pzM5VR9+
>>802
GJ
最高だね。最後はハーレムendがいいなぁなんていう個人意見


是非ともまとめは作ってほしいがね

810名無しさん@ピンキー:2009/04/08(水) 16:31:40 ID:fm4I10rH
811名無しさん@ピンキー:2009/04/08(水) 18:12:09 ID:7kKHB/If
>>808
なんか最近保管庫無いって発言やたら見るけど
おみゃらなぜ自分で作ろうとしないよ
最初に一つ形式決めりゃあ後は簡単だに

過去ログなら>>775入ってるから今すぐがんばれ
812名無しさん@ピンキー:2009/04/08(水) 20:43:32 ID:fjMACuiZ
そろそろ次スレかな?
813名無しさん@ピンキー:2009/04/08(水) 20:50:30 ID:pzM5VR9+
>>811
作り方がわからないのですよ。私の場合は。申し訳ないね他人任せで
814名無しさん@ピンキー:2009/04/08(水) 21:38:52 ID:1vuTVvCg
ノクターンで依存ものな短編を見つけた
ただ依存→隷属になっちまったけどね
でも隷属も依存の範疇に含まれるのか?という疑問を抱き始めた
815名無しさん@ピンキー:2009/04/08(水) 21:40:06 ID:5xvMZoGa
wikiでまとめサイト作る案もあったが管理がな・・・・。

>>802
GJ!
>>809じゃないが犬耳二人とハーレムはいいなぁ、二重依存というかそんな奴。

オンラインゲームで馴染みのPTとかギルドでダンジョン潜ってたりすると
ゲームなのに現実に近い仲間意識というか守りたいって感情が出るん
だよなぁ。
俺の場合魔法使い系しかやったことが無いけど前衛が頑張っている間に
他の仲間をゲートで脱出させたり、自分が身代わりになって仲間が脱出
する時間稼いだりってのはよくあったなぁ。
816名無しさん@ピンキー:2009/04/09(木) 00:05:43 ID:louLzTgR
>>814
タイトル教えて
817名無しさん@ピンキー:2009/04/09(木) 09:55:36 ID:mIhbwQmd
>>814
「歌姫女さんと主婦の男くん」?
818名無しさん@ピンキー:2009/04/09(木) 15:30:47 ID:f96vleCn
ほのぼの(純愛的な意味で)するよなあの話。
819名無しさん@ピンキー:2009/04/09(木) 21:51:43 ID:ibxTcqqq
あの話すごいいいよね。
このスレともマッチしてるし
820名無しさん@ピンキー:2009/04/10(金) 00:08:51 ID:cDIS1LjC
知らない話題は〜
821名無しさん@ピンキー:2009/04/10(金) 05:35:25 ID:swr+u807
>>816
『MISS!』って短編。
ただし近親、ロリが苦手な人にはオススメできません。
822名無しさん@ピンキー:2009/04/11(土) 19:16:12 ID:FyUufVuR
なんで俺が依存好きかわかった
・・・・・・自分に自信がないせいだ
823名無しさん@ピンキー:2009/04/11(土) 20:30:51 ID:d1rPC5oc
3スレの最期のSS投稿になるのかな。
というわけで投下します。
824ネトゲ風世界依存娘 六話:2009/04/11(土) 20:32:24 ID:d1rPC5oc


 会話が無くなり街を道を覚えるために散策していると、武器屋の前に見知った女性がいました。初めに
紹介してもらった薄紫色のスレンダーな女性。おかまの人?

「ハルさん。こんにちは。」
「……ちわ。」
 無愛想に呟いたのは九朗さんだ。

「ああ、九朗に蕾ちゃん。匠に無理やり襲われたりしてないかい?」
「た、匠お兄さんはそんなことしませんっ!」
 冗談だよとからかうようにハルさんは笑います。酷い冗談です。

「一緒に寝てますけど大丈夫です。頭撫でてくれます。紳士です。優しいです。」
「……。」
 ん?何か変な目で二人とも私を見ているような。

「あの馬鹿。ついに入ってはいけない道に……。」
「一発殴る。」
「あ、あの!私が無理やり頼んだんです!」
 私の必死な叫びにハルさんは溜息をつきました。

「冗談だよ。しかし、君たちが来てくれて丁度良かった。」
「何があった?」
「私はこの数日遊んでたわけじゃないからね。色々判ったよ。」
 今、ハルさんは前の鎧ではなく、男物の白いスーツを着ている。白い手袋をつけて腕を組みながら
話すその姿はいかにも仕事が出来る女性といった雰囲気があります。

「私の話の内容は、匠にも伝えて欲しい。」
「わかった。」
 そう前置きして、ハルさんは私達に現状どうなっているかを話してくれました。

「現在、この街にいる私達と同じ立場の者は1500人前後と予想してる。この街を拠点にしている
有力ギルドと連絡を取って人数を把握して計算して予測した数字だよ。」
「そんなに!」
 私達みたいな人がそんなにいるなんて驚きです。ですが、九朗さんは意外そうに言います。

825ネトゲ風世界依存娘 六話:2009/04/11(土) 20:33:12 ID:d1rPC5oc


「思ったより少ないな。」
「異変の時間が時間だからね。次に死んだ人間は生き返らない。」
「匠もそんなこといっていた。」
 ハルさんは九朗さんの言葉に小首を傾げました。

「そいつはおかしいね。どうやって知ったんだろう。」
「あ……私を助けるためにPKの人を……」
「それは相手に運がなかったね。」
 九朗さんも相手は死んでいるというのになんでもないというように頷く。

「蕾ちゃん。それは大っぴらには話さないこと。いいね。」
「はい。何故ですか?」
「人と人には思いもよらない繋がりがあったりするからだよ。復讐なんてされたくないよね?」
「な、なるほど……。」
「……格好良かったかい?」
 にやにやとハルさんは笑っていましたが、私は素直に頷きました。

「他には?」
 九朗さんは不機嫌そうに先を促します。

「種族によって人の性格に影響が出ているようだね。君たちも感じているかもしれないが。ドワーフは
頑固になったり、猫人族は孤立主義的になったり、エルフは賢者モードになってたり。」
「賢者モード?」
「帰ったら匠に聞いてみればいいよ。」
 ……何なんでしょう。九朗さんも首を傾げています。賢くなるのかな?

「後は一番重要なのが……この手紙を匠に渡してくれればいい。」
 ハルさんは小声で呟き、何時の間にか服の中に手紙の感触が。

「スリ……」
「便利な技能だろう。」
 呆れる九朗さんにハルさんは声を上げて笑った。

「じゃ、よろしく頼むよ。私は他の者にも会わないといけないから。」
「わかりました。」
 適当に挨拶すると風のように去って言った彼女の後ろ姿を私は見つめていましたが、九朗さんは
少し不審そうに後姿を見つめていました。

「……どうかしましたか?」
「ハルは少し苛立っていた。」
「えええ!私何か失礼なことしましたか?」
 私のせいで匠お兄さんとハルさんの仲が悪くなったりしたら……捨てられちゃうかも……

「違う。なるほど……それで手紙か。」
「じゃあ、どうしてでしょう。」
「想像はつく。だけど、君には今は話せない。」
 九朗さんは険しい顔をしました。

「……?」
「君は悩みがなさそうで羨ましいな。」
 小さく溜息をついて九朗さんが呟いたので。

「私だって人並みに悩んでます。」
 色々と悩んでます。と主張しておきました。


826ネトゲ風世界依存娘 六話:2009/04/11(土) 20:34:00 ID:d1rPC5oc


 初日で匠お兄さんと二人で歩いたような主要施設を一通り案内してもらって戻る頃には日が暮れていました。
 九朗さんは、何故かどんなときでもぴったりと離れず寄り添うように案内してくれました。
 質問には答えてくれますし、他愛のない話にも少しだけですが反応してくれます。

 匠お兄さんが絡まなければ親切ないい人です。

 稼いだお金を使って案内してもらった雑貨屋でお土産を買うと、私達は宿屋へと戻りました。
 部屋に戻ると、部屋は凄い惨状でした。

 色んなものが部屋中に散乱し、あらされ放題になっています。その中央ではお兄さんがぼろぼろに
なって倒れていました。

「た、匠お兄さんっ!!!!!!!」
 私は急いで駆け寄ります。ま、まさかど、泥棒に……

「すー…すー…」
 ……寝ているだけでした。なんだかやり遂げたような幸せそうな笑みで彼は倒れこむように眠っていました。
 無造作に散乱しているように見えた部屋の中には、鎧の部品や、服、アクセサリーなど様々な
ものも混ざっていました。
 これは作成したものなのでしょうか。たった、一日で……。

「流石だ。半分以上完成している。」
 うんうんと九朗さんは頷いています。無表情ですが尻尾がゆらゆら振られています。

「よく寝てますね。」
「余程集中してたんだろう。」
 ふと、気づいたように九朗さんは屈みました。そして立ち上がると手には小さな指輪が。

「これも直してくれたのか。」
 彼女は心なしか頬を染めて指輪を眺めていました。ためらいも無く、左手の薬指に嵌めました。
 表情は変わりませんが尻尾を振る速度があがっています。
 私はそれを自分でも驚くほど冷めた目で見ていました。

827ネトゲ風世界依存娘 六話:2009/04/11(土) 20:35:05 ID:d1rPC5oc

 九朗さんは疲れて眠る匠お兄さんを軽そうに抱えると、ベッドに移して布団を掛けてまた明日と
機嫌よく部屋を出て行きました。
 あの人はきっと私のことなんて眼中にないのでしょう。それとも、現実世界で他人と関わら
なかったせいなのでしょうか。だから、私とお兄さんを二人にしていても大丈夫と思っているようです。
 事実、匠お兄さんは九朗さんのことを一番気にかけていますし、匠お兄さんが私を助けてくれて
いるのはただの親切で下心みたいなのは一切ないみたいなんですが。

 なんにせよ何もしなければ……私の居場所は無くなります。一人になります。それは何よりの恐怖。
それを避けるためには……。どうすればいいんでしょうか。

 眠る匠お兄さんの姿を見つめながら考えます。まずはいいつけをちゃんと守らないと。お兄さんの
いうことは私にとって絶対です。破って嫌われたくないもの。

 匠お兄さんとの約束事。二人で一部屋にしたときにいっぱい約束したこと。
 毎日、身体をきちっと拭く。歯を磨く。清潔にする。お風呂がないからせめてってことでした。
 匠お兄さんは私のために、お店の女性を雇ってくれましたが今日はもう夜が遅いし、お金を勝手に
使うわけにはいきません。私のお金は全部お兄さんへのお土産に使ってしまいましたし。

 部屋に備え付けられてある水桶にタオルを浸し、自分の身体をまずは拭きます。手の届かない場所は
しょうがないですが、それ以外は服を全部脱いで念入りに拭きました。

 そして、匠お兄さんのほうを確認します。鼻を近づけてくんくんと嗅ぐとやっぱりといいますか、
強い汗のにおいがしました。無理もありません。

 ボタンを外し、起こさないように私はゆっくりと腕から服を脱がしていきます。熱かったのか
シャツ一枚だったのは幸いでした。腕をぬくと、服を背中の下に入れ身体を横にしてこちらを向かせます。
 反対の腕から服を引き抜くとちゃんと脱がせることが出来ました。
 起きるかもと思いましたが、余程疲れているのか目を覚ましません。

 これで上半身裸になりました。もちろん、匠お兄さんが裸なのに自分が服を着るわけにはいきません。
 私もベッドの上に乗り、匠お兄さんの胴を挟み込むようにして座ると、身体を拭き始めました。
828ネトゲ風世界依存娘 六話:2009/04/11(土) 20:36:18 ID:d1rPC5oc
 鍛えこまれた男らしい身体に、なるべく手に力を入れることができるように身体を密着させながら
身体を拭いていきます。匠お兄さんの高い体温が私に流れ込んでいるのか私の身体もゆっくりと
火照って来るのが判ります。
 前を拭き終わると背中です。身体を横にし、自分の身体で挟む込みます。そう、力を入れるためです。
 少し疲労したのでそのままの態勢で休憩します。全身……とくに下腹部の熱が凄いことになっていて、
むずむずします。少ししか動いてないのに何故か短い呼吸が口から漏れてしまいます。
 それは、何故か決して不快ではなく、もっとこの気持ちよさを味わいたいような──

「……はぁ……はぁ……」
 ふと部屋の鏡で自分を見ると遠くからでも自分の頬が真っ赤になっているのがわかりました。
 ですが、やめるわけにもいきません。匠お兄さんとの約束ですから。
 私は背中を拭きました。何事もなく拭き終わり一息ついたのもつかの間、

「う…ん。」
「ひゃっ……っ!!?くぅん!!」
 寝返りをうとうとした匠お兄さんの腕が私の陰部を少し擦った瞬間、全身が痺れて力が入らなくなりました。
 しかも少しですがお股がお漏らししたように濡れています。ちょっとショックを感じながらも、
力が入らないので匠お兄さんに抱きつくようにして休憩しました。

 暫く休んで動けるようになってから、私ので汚してしまった匠お兄さんの腕を丁寧に拭き、仰向けに戻し、私は悩みました。

 私にはお兄さんの全身を拭くという使命があります。
 ですが、ここから先は……。
 自分だったらと置き換えて見ます。


 匠お兄さんに眠っている間にスカートを脱がされて……丁寧に優しく動けない
私の大事なところを拭いてもらう……。


 考えるだけで幸せです。私は起こさないように匠お兄さんのズボンを下ろすことにしました。

829名無しさん@ピンキー:2009/04/11(土) 20:38:16 ID:d1rPC5oc
投下終了です。
830名無しさん@ピンキー:2009/04/11(土) 22:07:32 ID:HHaO30X8
GJ!
クロとのことで順調に蕾の依存が進行してるなぁ
続きに期待ッ!!
831名無しさん@ピンキー:2009/04/12(日) 00:06:50 ID:6U1xlzP2
GJ!
832名無しさん@ピンキー:2009/04/12(日) 02:58:43 ID:yoHkhAY8
GJ
二人の依存が進行してるのは犬化が進んでるってことかな?
そのうち発情期とかにもなりそうだ
833名無しさん@ピンキー:2009/04/12(日) 16:51:23 ID:25RBN/7U
ここ最近行ってるんだけど、けっこう
いい感じです^^。

http://dancingflower.net/aab/

自分的には左の子が理想です。
834名無しさん@ピンキー:2009/04/13(月) 00:00:39 ID:xOYrvlfW
GJ!!
835名無しさん@ピンキー:2009/04/14(火) 00:57:40 ID:gMALeW5L
GJ過ぎます!
836名無しさん@ピンキー:2009/04/14(火) 17:13:36 ID:5efLqwVq
なんだかオラわくわくしてきたぞ!
837名無しさん@ピンキー:2009/04/14(火) 20:59:55 ID:dJVH1GAN
次スレどこ?
838名無しさん@ピンキー:2009/04/14(火) 23:23:02 ID:PgLADfAH
次スレたててください
839名無しさん@ピンキー:2009/04/15(水) 04:33:59 ID:vzCqloeY
次スレ立ててきた
【貴方なしでは】依存スレッド4【生きられない】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1239737590/
840名無しさん@ピンキー:2009/04/17(金) 00:34:23 ID:66TrVErq
埋め
841名無しさん@ピンキー:2009/04/18(土) 17:14:19 ID:s8vykr8J
埋めネタ待ち
842名無しさん@ピンキー:2009/04/19(日) 13:35:23 ID:l1FPxRNF
埋めがてら短編。3レスほど。
微エロ。エロ突っ込むかどうかマジ悩んだ。
キモウトスレの方がいいかもしれんが……まぁ気にするなw
843兄依存妹 1/3:2009/04/19(日) 13:35:49 ID:l1FPxRNF
「おにーちゃん、ななのカバンどこー?」
「おいおい……昨日自分のベッドに引っかけたの忘れたのか?」
「あ、そうだった。てへ」
「てへじゃねぇよ、てへじゃ。まったく、これで4月から一人暮らしって言うんだから呆れちまうぜ……」

 妹・奈々からの電話につい3ヶ月ほど前の事を思い出した。
 妹は4月から大学生。実家から通うには多少厳しいので、大学の近くにアパートを借りて
一人暮らしを始めた。
 俺は実家から通える範囲の大学だったので、実家住まいのまま。
 1ヶ月くらい持つかなとは思ってたんだが……甘かった。
 まさか、3日でSOSが出るとは思わなかったぜ……。

 とりあえず自分の愛車を飛ばし、妹の下へと向かう。

「で、今日はどうしたんだ?」
「えとね、やっぱね、ななね、ひとりじゃダメなんだ。おにーちゃんといっしょがいい!」
「おいおい……一人暮らしするってなったとき大丈夫って行ったのは誰だ?」
「だってぇ〜……おにーちゃんがいない暮らしがこんなに辛いなんて思わなかったんだもん……」

 それもそうだろう。修学旅行以外で俺が家を空ける事は滅多にないし、空けてもせいぜい4〜5日くらい。
 その修学旅行にしても、妹となぜかタイミングが被ってる事が多く、妹は一人にならない事が多かった。

「ったくもう……だから俺は実家から通えるところにしろって言ったのに……」
「だってぇ〜私の学力じゃお兄ちゃんの大学なんて無理だよ〜」

 まぁ、それもそうか。進学校でしかも学年でトップクラスだった俺とは異なり、妹は赤点の常習犯。
 とても近所の俺が進んだ国立のK大には行けるわけがない。

「でもよぉ、他にあったろ?F女子大とか、K産大とか」
「え〜、お兄ちゃんと同じ医者になりたいのになんでそんな大学行かなきゃいけないの?
 ななの夢、おにーちゃんと一緒に手術室に入る事なんだよ〜?」

 そう、タチが悪い事にこいつも医者志望。
 国立K大の医学部に落ち、F大の医学部にも落ち、結果少し遠いがK大に合格したのだ。

「別に医師じゃなくても手術室で手伝いできるんだぜ? 看護師でも、技師でも」
「いーの!ななは助手としておにーちゃんの手伝いするの!」

844兄依存妹 2/3:2009/04/19(日) 13:36:23 ID:l1FPxRNF
 こうなったら手に負えないのがうちの妹。
 これは俺が医学部志望を出してからの年中行事と言ってもいいだろう。

「で、どうすんだ?諦めて実家帰るか?」
「おにーちゃんこっから通って」

 その瞬間、俺は危うく飲みかけのウーロン茶を吹くところだった。

「バカ!こっからK大までどんぐらいかかると思ってんだ!」
「ん〜と……1時間半ぐらい?」

 ちなみに妹は実家からここまで2時間かかる。俺は実家から1時間弱でつくが。

「ななより近いからいいよね」

 本気で頭を抱えようかと思った。

「金曜授業終わってから実家帰って、月曜の朝また学校に行けばいいんじゃないのか?」
「え〜。めんどくさい〜」
「ちったぁ我慢しろよ……」
「無理無理〜。おにーちゃんのいない生活なんて、ななには考えられない〜」

 ……

 疲れた。もういいや。

「分かった。親父と話してくるから、しばらく我慢してろ。ったく〜……」
「ありがとうおにーちゃん〜」

 ふと俺は室内を見渡す。
 明らかにたまってる洗濯物。ゴミ。使った形跡すらないキッチン。

 ……このまま放置したら絶対こいつヤバいなと思った。


845兄依存妹 3/3:2009/04/19(日) 13:37:17 ID:l1FPxRNF
       ◇


「じゃ、また来るからな」

 おにーちゃんが帰った。
 それを見届けたアタシは、布団の中から写真を取り出す。
 大好きな、おにーちゃん。
 おにーちゃんの写真で毎晩オナニーしてる。
 寝てるおにーちゃんのベッドに忍び込んで、キスしたこともある。
 おにーちゃんの目の前で下着でウロウロしたこともある。
 気づいてないだろうけど、ななすっごくもてるんだよ?みんなすぐ振ってるんだけど。
 そんなななの初恋の人、それがおにーちゃん。
 
 洗濯だって料理だって人並み以上には出来るけど、あえてやってなかった。
 だって、そうすればおにーちゃんがななの面倒を見るって事で来てくれる。
 ママには悪いけど、バカななながおにーちゃんと一緒にいる為に必要な事。
 お願いおにーちゃん、ななの願い、叶えて。
 ななね、おにーちゃんと一緒なら、それでいいの。
 それが、ななの願いだから。


846名無しさん@ピンキー:2009/04/19(日) 19:48:27 ID:dkX8gkZ0
素晴らしいGJ埋め
847名無しさん@ピンキー:2009/04/20(月) 00:32:50 ID:lLoqWP03
>>845
やっとわかったよ。
俺が生きていた意味が。
お前にGJするために俺は……!
というGJ。可愛いすぎる。
848名無しさん@ピンキー:2009/04/20(月) 07:00:24 ID:ZErOyA4C
GJ
埋め
849名無しさん@ピンキー:2009/04/20(月) 22:11:07 ID:ZErOyA4C
あともう少し…
850名無しさん@ピンキー:2009/04/20(月) 22:37:03 ID:p736Z041
やぁ、伊蔵くん。
今日も依存させて貰って構わないかな?
以前気付いたのだが、キミの側にいるととても落ち着くんだ。
……ああ、ここは良いゾーンだ。満たされた気持ちになる。

うむ、確かにくっつき過ぎというキミの意見に異論の余地はない。
しかし依然として私の精神安定にキミの存在が不可欠であることに変わりはない。
いろんなくっつき方を試すくらいの譲歩はできるが、離れることだけは考えられないな。
私としてはむしろこの状況を受け入れ、挑んできて欲しいところなのだが。
キミならいいぞ。望むままに私に若い滾りをぶつけて手中に収めて欲しいものだ。
冗談ではない。こうしてキミの側にいると、私も異常に昂ぶってしまうのだ。
キミと共に過ごす将来のビジョンが浮かぶほどに。
さて、私からは以上だ。キミの返事を聞かせて欲しいな?


という「いぞん」っぽい響きの単語をあれこれ入れて作文してみた埋め。
慌てふためく依存素直クールも悪くなさそうだなぁ。
851名無しさん@ピンキー:2009/04/21(火) 01:29:16 ID:F8HSport
さて次はどんなSSが待っているのでしょうか。


次の体験者はあなたかも知れません。それではまたあえる日まで・・
852名無しさん@ピンキー:2009/04/21(火) 05:33:59 ID:cbcERjUq
>>851
IDが「Hなスポーツ」!!
853名無しさん@ピンキー:2009/04/22(水) 01:43:57 ID:yp+kNGeK
マジだWWW
854名無しさん@ピンキー:2009/04/22(水) 11:58:32 ID:Duy/OYzN
依存な元気っ娘がスポーツと称して押し倒すんですね、わかります

wktk
855名無しさん@ピンキー:2009/04/22(水) 22:57:40 ID:cud09u1N
散々犯りまくったし、コイツともそろそろ別れるか。
泣くなよウゼェ。もう飽きたつってんだろ。
もーそんなユルマンにも興味ねーし。擦り寄ってくんな。
メシも食い飽きたな。感想聞いてくんのウザかったぜ。
金とかいらねーし。なんだそれ。馬鹿にしてんのかよ。
とにかくお前とは終わったんだよ。さっさとわかれっつの。
あーあー泣き喚くんじゃねーよ。
そんなんされても変わんねーし。じゃーな。


みたいな。DQNぽい埋め。
856名無しさん@ピンキー
>>855
ニヤニヤした
悪い男に依存して、最終的に捨てられる女・・・
たまらんな