☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第78話☆

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675嘆きの中で ◆bsNe6z3qW2 :2008/07/29(火) 19:28:03 ID:PYCXTGNN
例えば、もしもあの時自分が早ければ。
例えば、もしもあの時彼女を護れたら。
例えば、もしもあの人が生きていたら。

全ては仮定。
無意味な想像、妄想。
決して叶うことの無い望み。
なんと、無意味な問いかけか――そう己を自嘲すると、その騎士はコートのようなバリアジャケットを翻し、槍を構えた。
腕のばねを伸縮することで放つ、神業的な速さの刺突が輸送コンテナを破壊し、陸上輸送用の大型リニアレールの積荷を露出させる。
既に警備の魔導師部隊は麻酔ガスで無力化してあり、あとは積荷を奪うのみ。
赤い結晶が五つ、コンテナから零れ落ちた。掌大の結晶体こそ、レリック。
現代の技術で練成できるにもかかわらず、ロストロギア(危険指定遺失技術)認定された高純度エネルギー結晶体。
そのエネルギーは街の一区画を丸ごと消し飛ばせるほどのもので、同時に死者の蘇生に用いることの出来る代物でもある。
計り知れない利用価値を持ち、強力な人造魔導師の精製にも必要な物質。
4年前の<ジェイル・スカリエッティ事件>では、これを巡って多くの争いが起き、騎士もまたその争いの渦中で戦った。
多くのものを失い。
多くの犠牲を目の当たりにし。
正義が絶対足りえないことを知り、道を違えた。

なんと、愚かな道か。
彼女や、あの人も決して喜ばない。
けれど、それは騎士が選んだ道――誰にも譲れない理想があった。
五つの結晶をあらかじめ持ってきていたケースに収めると、騎士は高速でレールウェイを駆け抜ける車両から飛び降りようとし――己の脇を掠めた魔力弾を見て顔を顰めた。
振り返れば、警備部隊の隊長と思しき魔導師が、バリアジャケットを展開して杖をこちらに構えている。
その顔には侮り難い、と云う念が篭っていて、油断など微塵も無い。それはそうだろう、この高速輸送車両を、騎士はただ一人で制圧したのだから。
突如として槍を両手で構え突撃してきた騎士の圧倒的スピードの前に、陸士部隊は瞬く間に撃破され、今では意識のあるものはこの隊長のみだ。
それでも驚きは隠せない。何せ、騎士は――。

「子供……だと?」

そう、騎士は純白のコートと赤い衣装を身に纏った13、4歳ほどの子供だったのだ。
本来なら、中等学校にでも通っている年頃の、その槍騎士は、被っていたガスマスクを外して投げ捨てた。
燃えるような赤毛――乱雑に切られた髪が風に揺れ、青いカウリングの突撃槍が構えられた。
矛先の後部から可動式推進器が生え、推進炎を吐き出す準備をし始める。
何処か愁いを帯びた双眸は、幾分か成長しているものの未だ幼さを残し、少年がまだ声変わりもしていないことを知らせていた。
その素顔を見た陸士部隊隊長が瞠目する。

「お前は……」

瞬間、推進炎とともに加速した突撃槍が陸士の身体を吹き飛ばし、積荷のコンテナに強く打ち付けた。

「がっ!」

頭を強く打ちつけ、意識が徐々に遠のいていく中、男はその少年へ向けて呼びかけた。
口の中に血の味が広がり、聴覚が風を切るリニアの音を聞く。

「なんで……管理局員だったろうに……」

少年はこちらを静かに見据え、呟いた。
嘆きも怒りも悲しみも捨てた、平坦な声。
でも、少年の表情はひどく悲しそうで――儚かった。

「今じゃすっかり悪人ですよ」

突撃槍が推進器から噴射炎を吐き出しながら加速し、槍を構えた少年ごとミサイルのように空を翔けていく。
やがて白と赤の人影は、青空の彼方に消えた。
<聖王の揺り篭>浮上から4年、<ジェイル・スカリエッティ事件>は未だ続いていた。
676嘆きの中で ◆bsNe6z3qW2 :2008/07/29(火) 19:29:35 ID:PYCXTGNN
それにしても、体の良い牢獄もあったものだと思う。
自分は死人、公式の記録では死んだ身だと言うのに、この軌道留置場――衛星軌道上に造られた刑務所はさながら楽園か何かのように設備が充実している。
24時間何時でも上手い水が飲めるし、就寝時間までは良い茶葉の紅茶を淹れて飲むことも出来る。
菓子の類も身銭を切れば買うことができ、定期的に甘いものが支給されるのである。とても軌道上に造られた施設の待遇とは思えない。
一種の隔離空間であり、転送システムを使えば物資や人の移動が容易なミッドチルダならではの光景と言えよう。
されど、脱出は容易ではない。転送システムは四六時中監視され、何時でも使用がストップできるよう設計されていたし、
外は真空の宇宙空間。有害な放射線が飛び交い、対環境装備のバリアジャケットを装着してもあっという間に魔力を使い果たしてしまう苛酷な環境だ。
脱走など考えるほうが愚か――それにこの待遇だ。大抵の者はここでの生活に満足するようになり、飼いならされていくのだと言う。
もっとも、脱走こそ考えはしないものの、ゼスト・グランガイツはここで飼いならされる類の男ではない。
未だ牙を生やした狼で在り続けようとする男であり、身体の鍛錬を欠かしたことなど一度とて無い。
そして今、ゼストは――無敵と謳われた槍使いの魔導師は、期待に胸を弾ませると同時に微妙な心持ちであった。

(どんな顔をして会えばいいのやら、だな……)

何故なら、妻と子が今日この場所に来るのだから。

そもそも、ゼストと言う男がメガーヌ・アルピーノと契り、夜を共にしたのは今から10年以上も昔のことだ。
愛し合った結果の情交であったが、不味いことにこの不精な男は、煮えたぎる子種をメガーヌの胎内にぶちまけてしまったのである。
普通に考えれば、男の側は慌てふためき、受精しないことを祈るなりなんなりするだろう。
さりとて、慌てなかったのは騎士の嗜みか、それともこの男なりの愛情表現であったのか。
ともかく、この子を成すかも知れないという営みにメガーヌは歓喜し、涙さえ流してゼストに囁いた。
愛している、と。
この言葉に、ゼストは無言の抱擁で応じた。受諾であり、女が子を成すことへの喜びであった。
その少し後――密やかにメガーヌが女の子を出産した後、戦闘機人を巡る一連の事件の最中にゼストは死んだ。
同じ部隊にいた部下たちは全滅し、メガーヌは仮死状態で邪悪ジェイル・スカリエッティにその身を保存され、ゼストへの首輪となった。
ゼストはレリックの魔性によって蘇り、悪鬼の手先となる羽目になったのである。

――己が子、ルーテシア・アルピーノと共に。

その呪縛はメガーヌの陸士部隊による救出で解けたものの、大人でありながら罪を犯していたゼストへの裁きは重く、この軌道留置場での生活を強いられていた。
幸いにもルーテシアはしばらくの保護観察処分の後、時空管理局への恭順を条件に罪を許され、嘱託魔導師としての仕事をこなしつつ学業に励んでいる。
寡黙なルーテシアに友人が出来るかゼストとメガーヌは心配したものだが、花開くように表情を見せるようになった彼女に惹かれた同年代の子供たちは、
幾人かが友人となり、親交を深めているのだと言う。これには親馬鹿のゼストも安堵したものだ。

「今年で13歳か……月日は経つものだな」

しみじみと呟いたゼストに、花のように美しい笑顔を浮かべたメガーヌが声をかけた。
紫色の長い髪が揺れ、スカートからは健康的な白い肌が見えている。
長い間仮死状態だった為に、彼女の肉体は数年分老化を免れていて未だ若々しい。
巌のようなゼストも肉欲を思い出すかも知れぬほどの美貌だった。

「あなた、一月に一回の面会なんだから、もう少し気の利いたこといえないの?」

「ん、ああ……すまん。どうも俺はそういうことが言えない性分みたいでな」

「そういえばそうね……告白も、そっけなかったし、ね」

そう言うとメガーヌはからからと快活に笑った。
そして、自分の後ろで今か今かとそのときを待っている愛娘の背を押した。

「ほら、ルーテシアも。お父さんに挨拶しなきゃ」

ルーテシアは俯き加減になってもじもじと指を弄くり、その紫の長髪と人形的に整った顔――母親譲りの美貌――を少しだけゼストのほうに向けた。
なんというか、我が子ながら可愛らしいの一言に尽きた。照れくさそうに鼻を掻きながら、ゼストから声をかけた。

「んー、あー……最近どうだ、ルーテシア? ちゃんとやれてるか?」
677嘆きの中で ◆bsNe6z3qW2 :2008/07/29(火) 19:31:57 ID:PYCXTGNN
「……ゼストは?」

質問に質問で返された。ついでを言うと、未だお父さんと呼んでもらえない。
ああ、これが報いか――今まで親父であることを隠していたことの。少しばかり寂寥感漂うゼストであった。
慌ててメガーヌがフォローするが、ルーテシアは意に介さず。

「お父さんって呼びなさい、ルーテシア」

「ゼストはゼスト、それ以外じゃないよ……」

「むう……」

苦笑しながらゼストはルーテシアと談笑した。
あの無感情、無表情だったルーテシアが、ここまで人の子として成長したことに感慨深いものを感じながら、今ある幸福を噛み締めた。
友人との遊びの話、学校での生活、母親との二人での生活、嘱託魔導師としてガリューと解決した事件。
様々なことを聞きながら、ゼストは己の身の振り方を考えていた。

(ここを出たら、共に暮らすのもいいかもしれないな……)

武人としての生き方以外ができるとは思えなかったが、それでも見るにはいい夢だった。
ゼスト・グランガイツは、紛れも無く幸福だった。友の死が心に棘として残っていたが、それでも幸せだった。
やがて面会時間が終了し、二人が去る時間がやってきた。日増しに成長していく我が子を見れるのは、実に新鮮なことである。
一月に一回でも、貴重な時間だといえた。
去り際に、ルーテシアが駆け寄ってきて、ゼストの服の袖を引っ張った。

「どうした? 何か――」

「……お父さん」

「?!」

ぱたぱたと慌ただしく母親の元へと駆けていったルーテシアを見つめつつ、ゼストは皺の刻まれた顔を綻ばせた。
微笑が口元に浮かび、知らず、呟きが洩れていた。それにしても――。

「お父さん、か」

父親というのも悪くない、と思った。


そして、時刻は昼食時である。
今日のランチはスパゲッティミートソースであり、トマトベースの挽肉と玉ねぎがたっぷりかかった一品だ。
さらにそれに温野菜サラダ、デザートのミルクプディングまでついた豪勢なもので、これだけで結構なカロリーになる。
個室での食事が許されている模範的囚人のゼストは、食事を静かな自室で取ることを選び、トレーに乗せたそれを運ぶ。
だが、それは呼び出しによって未遂に終わった。面会室へ食事を取ることも無く真っ直ぐに向かい、扉を開ける。
面会室にいたのは、時空管理局の制服を着た二十歳直前といった感じの青い髪をした少女で、身長は160センチ以上、170センチ以下といったところか。
ゼストはその少女の容姿を、遠い記憶の中で知っていた。かつて部下だった、己が死なせてしまった女性。
クイント・ナカジマ。青い長髪を持った、美しい女。そういえば、クイントには娘が二人いた。
ひょっとしたら、そのどちらかだろうか。いや、というよりも、以前見た機動六課の構成メンバーにいたような気がした。
思わず呟く。

「……スバル・ナカジマ?」

「はい? あ、ゼスト・グランガイツさんですかっ?!」

今日は馬鹿に客が多い――まったくわけがわからない、とゼストは思った。
678嘆きの中で ◆bsNe6z3qW2 :2008/07/29(火) 19:33:26 ID:PYCXTGNN
「執務官に? その歳で、か」

「はい。今年、晴れて執務官試験に合格しました」

そう晴れ晴れと語るスバルの顔には、何処か哀愁があった。
彼女は、4年前に多くの大切な仲間を失ったのだから、それもその筈か。

「……それで、ナカジマ執務官は、何故俺の元に? 俺に、君に合わせる顔はない」

ゼストにとって、過去に多くの部下を失わせたことは心の痛みだった。
己と契ったメガーヌが助かり、ゼストに家族のいる幸福を与えている、と言うのも罪悪感の根源か。
しかし、スバルは凛とした佇まいで言った。母親譲りの可憐な容姿は彼女の磨き抜かれた肢体によく映える。

「母さんのことは、いいんです。危険な仕事だってわかってて働いてましたし、ゼストさんが全力で戦っていたっていうのも、
メガーヌさんから聞いていますから。多分、あのとき母さん達が戦っていなかったら、今のミッドチルダは無かったと思います」

「すまない……そして、ありがとう。
だが、君がここに来た理由は何だ? 俺の司法取引は終わった筈だ」

それまで凛とした佇まいだったスバルが、少し窮屈そうな胸元を弄り、携帯端末を内ポケットから取り出した。
この携帯端末は、時空管理局の最新技術が惜しげもなく投入された逸品で、小型の個人用携帯端末として広く管理局員が携帯しているものだった。
スカイブルーのそれをスバルは操作すると、空間モニターが青いボディスーツを着込んだ少女を映し出した。
その少女の左腕は砕け散っていて、人間ではありえない火花を傷口から流していた。そして、撮影機器の方を振り返った少女の瞳は、金色。
紛れも無く、それは戦闘機人とよばれる存在だった。4年前の事件で、ゼストとルーテシアに命令していた男の娘たち。
ゼストは息の止まるような衝撃を覚えながら、その映像を見た。燃え盛る紅蓮の街並みで、月光の下、彼女は確かにそこにいた。
首元のナンバープレートの番号は、『\』――ナンバーズの9番目、ノーヴェ。

「スカリエッティ、か……」

「はい。ジェイル・スカリエッティは生きています。既に幾つかの次元世界でガジェットドローンの出現が頻発していて、多くの被害が。
また先日、レリックの輸送列車が襲われ、積荷のレリックを奪取されました。
今の管理局では、この事件に対応しきれないんです。
テロの頻発に<陸>は戦力を割かれ、4年前以降、不安定化する次元世界間のパワーバランスへの対応に<海>は追われています」

「だが、囚人の俺にできることなど……」

スバルは小脇に抱えた鞄からクリアファイルを取り出すと、そこから書類の束を取り出した。
その書類は司法取引に関するもので、随分と枚数があり、既に印鑑が押されていた。
ゼストは驚愕してスバルの顔を見た――本気の顔である。

「ゼスト・グランガイツの大幅な刑期短縮と行動制限解除を行います。
その代わりに、あたしの指揮下に入ってもらいたいんです。ジェイル・スカリエッティ対策班のメンバーに」

「……俺は罪人だ。君の経歴に傷がつくぞ?」

「あたしは決めたんです。もう、誰にも悲しい思いはさせないって。その為なら、なんだってします。
絶対に、メガーヌさんやルーテシアちゃんに悲しい思いはさせません。
ゼストさんは死なせないし、対策班の面子から犠牲者は出さない――その為のあたしの力です」

ゼストは押し黙り、己の生き方をもう一度考えた。
今あるささやかな幸福か、それとも万民の為に戦う道を選ぶか。
答えなど、決まっていた。亡き友の娘、オーリスが戦っているのに、己が戦わない道理があるだろうか?
だが、それでもメガーヌやルーテシアの幸せを壊すことはできそうになかった。
だから、静かに頷いて言った。

「少しだけ、時間が欲しい。家族と話し合って決めたい」
679嘆きの中で ◆bsNe6z3qW2 :2008/07/29(火) 19:34:13 ID:PYCXTGNN
電話口に立ったゼストは、スバルの監視下にあることを条件に通話を許された。
メガーヌから教えられた新居に回線を繋ぎ、永劫のように感じられる一時を味わいながら待った。
やがて通話可能になり、メガーヌの涼やかな声が聞こえた。

《はい、どちらさまでしょうか?》

「俺だ、メガーヌ」

《あなた? どうしたの、何かあったのかしら》

ゼストは、ただ淡々と事実を告げた。
仮釈放と刑期短縮、その条件であるジェイル・スカリエッティ対策班への協力。
危険な任務であり、殉職する可能性も高いこと。
自分なりに考えた結果、万民の為に立ち上がり戦いたいこと。
最後に、黙ってそれを聞いていたメガーヌが言った。

《……もう、あなたは、結局そっちに行っちゃう人なのよね……あなたの子を産むと決めたときから、覚悟はしてある。
でもね、ルーテシアは違うの。あの子はなんだかんだ言ってあなたのことを慕ってるし、あなたがいなくなったら悲しむわ。
だから――生きて。生きて帰ってきて、あの子の支えになってあげて》

「すまん……」

《愛してるわ、ゼスト》

「俺もだ、メガーヌ」

そして、どちらからと無く通話を切り、男と女は別れた。
ゼスト・グランガイツは、再び闘争に赴くことを決めてスバル・ナカジマ執務官を見た。
頭を下げて一礼する。

「よろしく頼む」

「こちらこそよろしくお願いします、ゼストさん」

この日、かつて敵同士だった二人は仲間となった。



アルピーノ家の通信端末は、若干大きめに通話を再生するようになっていて、少し近づけば音声が聞こえる。
だから当然メガーヌとゼストの会話は、トイレに行こうとしてそっと歩いていたルーテシアの耳にも入った。
自分の部屋に引き返して静かに考え込む少女は、やがて待機状態のグローブ型デバイスを掴むと、外に出かける旨の書置きを残してアルピーノ家を出た。
彼女は決めたのだ――もう誰にも母とゼストの幸せを奪わせないと。
行き先は決まっている、普段自分が仕事の為に出かける場所だ。
ジェイル・スカリエッティ対策班への参加を、一人の嘱託魔導師が申し出たのはそれから2時間後だった。


第4話 了
680シロクジラ ◆bsNe6z3qW2 :2008/07/29(火) 19:36:53 ID:PYCXTGNN
投下完了です。
ゼスト×メガーヌは私の趣味です。
ルーテシアの父親と自覚しているので、本編ほど死に急いでいなかったり。

そんなこんなで、親子競演です。
ではでは。
681名無しさん@ピンキー:2008/07/29(火) 20:33:58 ID:jlnylW3F
>>680
ルーテシア、(とガリュー)、ゼスト、それにエリオ?
少しずつキャラが動き出して来ましたね。オラワクワクしてきたぞ!
続きを楽しみに待ってます。

レスが空いてないのですが自分も投下して構わんですか?
682名無しさん@ピンキー:2008/07/29(火) 20:44:46 ID:oVqtocyy
一時間経ったしいいんでね?
ゴー
683ておあー:2008/07/29(火) 20:49:12 ID:jlnylW3F
一寸迷ったけどルール違反というわけでもないんで行かせてもらいます。
前回レス下さった方、ありがとうございました。
リリカルやがみけの第8話その1です。
その1ってどういう事かと言いますと、当初予定していた部分まで全然到達しないうちに容量が20kbを
超えてきたので分割して投下した方がいいかもと判断したからです……何故こんな事になったのやら……orz

ガリューがライダーじゃなくてバーサーカーです。
B・A氏の話みたいにちゃんとライダーしてません。
あと「作者が思うように書きたかったから」というひっどい理由で今回からしばらくの話には自重というものが存在しません。
もはやスーパーチートタイムです。全編全員全力全開です。四全です。何のこっちゃです。
それでもいいよ、という方だけご覧ください。

今作の注意(さり気なく増減注意)

・非エロ
・時期的には三期が終わった後
・八神家とガリューメイン
・蟲的なものが苦手な方は注意しないといけないはずだったがそんな事もないみたいです
・捏造設定あり
・本編で謎な部分に対する妄想補完あり
・パロ、中の人など各種ネタをフル装備、ただし最近はネタを挟める空気ではない
・それに伴ってほぼ全員凄まじくキャラ崩壊していたが、やっぱり最近は(ry
・目指すは笑いあり涙あり友情あり萌え?あり燃えありなごった煮話
・つまり総合するとデフォルトで超展開

今回も血が出ます。ダメな人は『魔法集団リリカルやがみけInsecterSその8-1』をあぼーんキーワードに。
この話の主な登場人物

・ガリュー(CV候補:どうもクロノ・ハラオウン(大人Ver.)の中の人は合ってないような気がしてきた)
重い過去を持つ芋虫。主食は魔力である事が判明した。

・八神はやて(CV:植田佳奈)と愉快な家族達(CV:人それぞれ)
今回もあまり出番が無い。まあ回想編だから仕方ないね。

・ゼスト・グランガイツ(CV:相沢正輝)
過去編の重要人物の一人。実はルーテシアの父親だが本人はその事を知らない。

・アルフ(CV:桑谷夏子)
現在ガリューと行動を共にする。彼の過去について聞く事になる。




前回までのあらすじ

 ある日八神家の冷蔵庫に巨大な芋虫が出現。その正体は子供フォームに失敗したルーテシアの守護虫ガリューで、旧知のアギトを
頼って八神家に転移してきたのだった。
 話を聞いた八神家の長・はやては彼を元の姿に戻すのを手伝ってやる事にしたが、途中で大喧嘩が勃発しガリューは八神家を
飛び出してしまう。ガリューを追ったアルフは異形の外見のせいで市民から襲われていた彼を助け、彼が主人達に感じている"負い目"
について聞く。『故郷に送り届けてもらう』という条件でアルフに自身の過去を語り始めるガリュー。
 それは守護虫としての挫折と絶望の記憶だった……

そんな感じで魔法集団リリカルやがみけInsecterSその8、始まります。
685魔法集団リリカルやがみけInsecterSその8-1:2008/07/29(火) 20:51:22 ID:jlnylW3F
 ……正直に言うと、この時の事はほとんど覚えてねえんだ。

 お前は『怒りで目の前が真っ白になる』って経験はあるか? 後先考えずに頭より体が先に動いちまった事。

 ある? ならわかると思うが、まさにあの時俺はそんな感じだった。
 アイツが言った『殺した』っていう言葉だけが頭の中をグルグル回って、気がついた時にゃあ体が勝手に
動いてたんだ。



 
新暦70年 ミッドチルダ某所


 静謐な夜の森に、一陣の風が吹いた。


 風には色彩があった。
 暗夜の中にあってなお、一層深く濃い漆黒が。

 風には力があった。
 触れた物を微塵に砕き、或いは彼方へと弾き飛ばす撃力が。

 風には感情があった。
 生けるその風は、明確な指向性を持って眼前の男を飲み込もうと吹き荒んでいた。


「ぐ、う、おおぉっ!」

 短い叫びと共に男の体が宙空を舞う。

 意図された跳躍ではない。
 その証拠に男は減速も回避もしないまま、背中から勢いよく岩壁に激突する。
 男が身につけている衣服はただの布ではない、魔力で構成された防護服である。
 かつて戦闘魔導師だった彼が敵から己を護る為に編み上げたこの魔法の服は、正しく騎士の甲冑と評するに
相応しい堅牢さを備えた代物で、並の衝撃であれば完全に吸収・遮断してしまう。

 その防護服が今、激突の衝撃を殺し切れなかった。
686魔法集団リリカルやがみけInsecterSその8-1:2008/07/29(火) 20:51:56 ID:jlnylW3F
「が、っ……!!」


 凄まじい速度で叩きつけられた体が、轟音と共に巨大な岩にめり込む。
 男の口から鮮血が舞った。
 衝撃は激痛に変換されて彼の視界を明滅させ、僅かな繋がりを残して肉体から意識を引き剥がす。


 また風が吹いた。


 先ほどの風を瞬間的な疾風と例えるならば、今度の風は突風。
 大幅に鈍った男の感覚器官が更なる危機の襲来を感じ取り、残された蜘蛛の糸ほどの伝達経路を最高速度で
駆け登る。報告が神経から脳へと到達するまでの所要時間はコンマ以下の刹那。しかしその時にはもう、風は
男のすぐ側まで迫っていた。
 岩壁に磔にされた肉体は万全の状態であっても容易に動かす事は出来ない、まして意識との統制が
取れていない状態ではなおさらである。恵まれた体躯も矢の当て易い的にしかならない。
 それでも風は全く減速する事なく、男を捕らえている岩の十字架ごと砕こうかという勢いでひたすら前方へと
突き進んでゆく。不可視の突撃槍となって、目の前の標的を穿とうとする。

 不意に、風の往く手を阻むように魔力の壁が現れた。

 こんな物が自然に発生する訳は無い。
 発生源となり得る可能性はただ一つ。気づけば岩壁の中に埋まっていたはずの左手が風に向かって
真っ直ぐに伸びている。
 元より不可能ではあるが、当然減速はしない。そもそもする必要も無い。
 そう結論付けるより早く、風は魔力壁に激突する。
 勿論風はこの程度で吹き止んだりはしない。
 風の勢いに押されて歪曲する壁は瞬く間に受容出来る衝撃の限界を迎え、表面に出来た小さな罅割れが
加速度的に広がりを見せてゆく。
 傍目から見ても崩壊は時間の問題だった。
 風は己の勝利を確信し、勝鬨の唸りを上げる。

687魔法集団リリカルやがみけInsecterSその8-1:2008/07/29(火) 20:52:33 ID:jlnylW3F
 壁が成し得た事といえば、せいぜい数秒の時間稼ぎ程度だろう。 
 では、この薄い壁は窮鼠の一撃を導くには至らなかったのか。

 答は否。 

 実は魔力壁が出現した時点において、男の意識は未だ此岸と彼岸の間隙を彷徨っていた。
 つまり伸ばされた左手は本能の所作。形式通りの返答を待っていては間に合わないと判断した男の肉体が、
これまで幾度と無く組み上げ実行してきた術式を咄嗟に行使したのが壁の正体である。
 それは高い練度が生み出す普段の彼の"鉄壁"と比べれば、児戯にも等しい代物。
 だがその児戯は壁の奥に立つ男に意識の糸を繋ぎ直し、霞んでいた双眸に再び光を宿らせるに十分な
時間を齎す。
 そして意識が戻れば当然――男は反撃に転じる。


「ぬ、ううぅっ……ぐおあぁああぁっ!!」

 風を切り裂いて、獣染みた咆哮が響く。同時に大音響と共に魔力壁が爆ぜた。
 衝撃に耐え切れなくなったからではない。
 崩壊に先んじて、男が自ら爆散させたのだ。
 発生した爆風は突風を相殺し、周囲に土煙が舞い上がる。数秒後に煙が晴れた時、そこにあったのは一匹の
召喚虫の姿だけだった。

『……』

 漆黒の虫は何も言わない。
 ただ二対の瞳を鮮紅色に輝かせ、周囲を見回して消えた男の姿を探す。
 叩きつける、切り裂く、引き千切る……男を探しながら、幾つもの言葉が虫の中で浮かんでは消えた。
しかしそれらは皆単なる残滓であり、渦を巻く思考がただ一つのシンプルな解答へと収斂していく過程で
削ぎ落とされた不要物に過ぎない。

 
 捜索はすぐに終わった。


 探し人は少し離れた場所で片膝をつき、両肩を激しく上下させながらこちらを睨んでいた。

 その様子からかなりのダメージを負っているという事は容易に推測出来た。だがまだ足りない。
男の目から、そして姿からは未だ消えぬ彼の戦意を明確に感じる。
688魔法集団リリカルやがみけInsecterSその8-1:2008/07/29(火) 20:53:15 ID:jlnylW3F
 ならば、もっと速く。


 虫の背から生えた濃紫の翅が細かく振動を始める。
 あの戦意を完全に消すまで。
 主人を"殺した"仇を完全に"殺し切る"まで。
 どこまでも速く、どこまでも荒々しく吹き抜けろ。

 一匹の虫から風へ。
 翅の動きが更に加速を増し、その姿がぼやけて闇に交じり始める。


 殺せ。

 殺せ。

 ころせ。

 コロセ。
 
 コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ
コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコ
ロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロ
セコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロ――


 羽ばたきが最高速度に到達した瞬間、召喚虫の姿が消えた。
 替わって三度生まれた風は、暴風。
 男が立ち上がり手にした槍を構える。
 その中で燃え上がる炎を吹き消さんと風は猛った。

 目の無い風には男が唇を動かした事に気付く術は無く。
 耳の無い風には唇が洩らした言葉を聞き取る術は無かった。
  

          ◆



「……許せなかった」

 濃紫の翅を震わせる召喚虫から瞳を逸らさずに、低く小さな声で男は呟いた。
689魔法集団リリカルやがみけInsecterSその8-1:2008/07/29(火) 20:53:45 ID:jlnylW3F
「遺されたお前の怒りや悔しさ、無念……その感情の数十分の一でもこの身で受け止めなければ、自分自身を
許す事が出来なかった」

 何故なら、"彼"の主人を死に追いやったのは他ならぬ自分だから。
 あの日、自分があの拠点への捜査を強行しなければ彼女が命を落とす事は無かった。
 友の真意を知ろうと焦るあまり与えられた情報が罠だと看破出来なかったせいで、自分は彼女を、そして他の
全ての部下を死地へと追いやってしまったのだ。
 彼女達の死の責任は全て自分にある。
 だからこそ彼にもそう告げた。メガーヌ・アルピーノを殺したのは、自分だと。

 愛槍のアームドデバイスを杖代わりに使い男は立ち上がる。

「だが、そうだな」

 責められても仕方が無いと思っていた。
 むしろそうなる事を望んでいる自分がいた。
 部下を失ってなお一人生きている自分を、それでいて彼らの後を追う事すら出来ない自分を誰かに裁いて
もらいたかった。
 けれど、所詮自分の行動などただの自己満足に過ぎない。
 こんな事をしても彼に許されるはずは無いのだ。
 大切な者の命を失った者に対して、己の命すら差し出せない者の謝罪など受け入れられる道理はない。
 彼の剥き出しの感情に直面するまで、そんな事にすら気付かなかった自分の愚かさに嫌気が差す。

 
 瞬間、漆黒の闘虫が消える。
 彼には自らの身体を魔力のヴェールで覆い隠し闇と同化させる能力があるが、今はその能力を行使してはいない。
 今目の前で起こった現象は、もっと単純な理由で説明がつく。
 速度。
 彼の動きが文字通り『目にも止まらぬ速さ』に達した事で、常人の視認出来るレベルを超越したのだ。
 その姿はまさに、風。
 自然そのものへと姿を変えた今の彼の前では、ただの人間は余りにも無力だ。


「すまない。ガリュー」


 しかし。

 男もまた常の者ではない。
 男の名はゼスト・グランガイツ。
 古代ベルカ式魔法の使い手、魔導師ランクはS+。かつてストライカー級と称された歴戦の騎士。
 例えその尊称を拝する資格を失うような過去があったとしても、その身が万全な状態でなくとも、刻み込まれた
力と技は変わらず彼の中に息づいている。
 未だ震える自身の膝に、腕に、体全体に魔力を流し込み、ゼストは強引に身体の運動機能を回復させる。
 回復といっても本当に負傷が消える訳ではない。低下した筋力を魔力で強引に強化する、或いは一時的に痛みを
感じなくさせる等の方法で回復しているように見せかけているだけだ。
 こんなものはあくまで付け焼刃の処置であり、戦闘後に訪れるであろう反動を考えても割に合わない。だが
そもそも、今を生き延びなければその未来も訪れない。
690魔法集団リリカルやがみけInsecterSその8-1:2008/07/29(火) 20:54:49 ID:jlnylW3F
 ゼストは両の眼を見開いて闇を見据える。
 先ほど彼が全身に行き渡らせた魔力の機能回復効果は、当然目にも表れている。
 とはいえそれは長時間の作業等で一時的に低下した視力が回復するといった程度のもので、不可視の相手を
捉えられる魔法のような眼力を得られる訳ではない。

 彼が見ているのは、空間そのもの。
 暴風と化したガリューが自分に向かって突進してくる際に巻き上げる土や小石。その動きからゼストはガリュー本人の
動きを予測する。
 視覚だけではない。
 頬や手に当たる風の感触から。
 耳に入る音から。
 自分に向けられる殺気の射線から。
 五感で得られた情報に直感も加えて組み合わせる事で闇の中に守護虫の姿を映し出す。

 そして完成した像(ヴィジョン)は――ゼストの眼前、右手甲から伸ばした刃を彼の心臓に突き立てんとする姿!!

「ぬうぅっ!」

 同瞬、ゼストの脳が竜巻の中に入ったかのような錯覚に襲われる。
 100キロ近い彼の巨体さえも浮き上がらせようかという強烈な風。平衡感覚は失われ、目を開けていられず、
耳には轟音だけが渦巻き、創り上げたガリューの像は千々に乱れて吹き飛ばされていく。
 だがそんな状況下においても、ゼストには一片の迷いも無かった。
 像を掻き消したこの暴風こそが、本物のガリューが眼前に存在する確かな証。
 己の作り上げた像と実物の動きに差異が無いのならば、次に来る攻撃は読む事が出来る。


 不可視ではあるが――不可避では無い。


 ゼストは鍛え上げた全身の筋肉を総動員し体を反らす。
 直後に彼の上半身があった場所を鋭利な影が通り過ぎる。

 バリアジャケットの一部が影によって切り離され宙を舞った。

 ひら、と揺れるその切れ端を見て、ゼストはガリューの爪だと確信する。
 彼の体に内包されている無数の武装は、平時ですらその一つ一つが業物の刀剣に匹敵する切れ味を誇る。
 その武装が今、速度という強化を受けて更なる威力を備えていた。
 例えるなら差し詰め死神の鎌。
 もし僅かでも回避が遅れれば、即座にゼストの体は上下に切り分けられるだろう。


 ならば――
691魔法集団リリカルやがみけInsecterSその8-1:2008/07/29(火) 20:55:35 ID:jlnylW3F
 回避と同時に動いていたゼストの腕、その手に携えたもう一つの刃が中空を跳ね上がる。
 死神の鎌と無銘の槍。
 交錯の瞬間、白い火花が闇に煌めいた。
 暴風がゼストの体を吹き抜け、十数メートルを過ぎた所で再度形ある虫の姿が現れる。
 虫に戻ったガリューは両脚と左腕、尾を使って大地を削りながら減速し急停止するが、そのまま動きを止め
さらなる追撃を見せようとはしない。
 一方のゼストもまた槍を振り上げた体勢のまま虚空を見据えていた。
 両者は互いに背を向けあったまま微動だにせず、夜の森に束の間の静寂が戻る。



 

 ……リ




 小さな音に先に気づいたのは、人間よりも優れた聴覚を持つガリューだった。
 真紅の瞳が驚愕に見開かれ、右腕を胸元に引き寄せる。
 その時、この夜初めて途切れた雲間からミッドの巨大な月達が顔を覗かせた。
 空から降り注ぐ月光を反射し、黒刃が鈍く輝く。
 その輝きが、歪んでいた。
 ガリューの見つめる前で歪みはますます巨大に広がり、やがて刃全体に亀裂を走らせ、
 

 
 パキイィィ……ン



 ――その刃が己が身を捉えるより前に、破る。


 乾いた音と共に、爪は根元から断ち切られた。
 ガリューが振り向く。
 無数の光の粒となって霧散していくバリアジャケットの欠片、その先に立つゼストは既に構えをとっていた。
 白光に照らし出された刃には些かの歪みも無く、まるで死神に対する勇者の剣のように超然と主の手の中で次に
使われる瞬間を待っている。
 

 物言わぬ召喚虫が、吠えた。

692魔法集団リリカルやがみけInsecterSその8-1:2008/07/29(火) 20:56:28 ID:jlnylW3F
 両腕から無数の刃が固い外皮を突き破って飛び出し、ガリューの手を中世の拷問器具の様な禍々しい姿に変えてゆく。
 鮮血が舞い散るだけに留まらず、切り裂かれた無数の肉片が地面に落ちてぺちゃぺちゃと音を立てた。
 それは気の弱い人間ならば目にするだけで失神しそうな光景。
 しかしゼストはけして視線を逸らさず、むしろその変化の一部始終を片時も見逃すまいと注視する。


「……っ」

 不意に、ゼストの視界が赤く滲んだ。
 眼の前にいるガリューはまだ攻撃体制を整えていない。
 思考を巡らせたゼストは、すぐに赤の正体が寸断された自分の血だと気付く。眼球を極度に酷使した事によって
周辺の毛細血管が破裂し、血の涙となって流れ出したのだ。


(この調子では、長くは保たんな)

 血涙を拭いながらゼストは自身の体について思いを巡らす。

 もっとも、彼の体の事は他ならぬ彼自身がよく理解していた。
 あのプラント戦の後、目覚めたゼストの肉体は以前とは全く違ってしまっていた。
 長い眠りの間に衰え、二回りも小さくなっていた筋肉の鎧。
 それどころか、首一つ、指の一本さえ満足に動かせなかった。
 世話係の戦闘機人の制止を振り切って与えられた量を遥かに超えるリハビリをこなしても、遅々として回復の
兆しが見えない悪夢のような日々。
 それでも執念だけで復活への階段を一歩一歩這い登り、何とか日常生活に支障がない程度のレベルに回復したのが
三ヵ月前。
 そこからさらにピッチを上げ何とか戦闘の真似事が出来るようになったのが、僅か一ヵ月前の出来事。
 如何に肉体に染み着いた技術があるとはいえ、ガリューという召喚虫を相手に手加減無しの戦闘を行うには、
余りにも何もかもが足りなかった。

(十一、十四、十八……まだ増えるか)

 目の前では相変わらずガリューが自身の腕の"改造"を続けていた。
 口には出さず、出現した刃の数を頭の中に刻みつける。
 それは最悪、先ほどのような刹那の攻防を刃の本数分だけ行わなければならないという事。
 もっとも全ての打ち合いが終了する前に決着が着く可能性もあるが――

 ゼストは視線の中心を腕に固定したまま、視界の端に映るガリューの両脚を観察する。
 漆黒の脚からは幾本もの紅い筋が流れ出して、コントラストを形成していた。
 そう。
 踏みしめる大地を赤黒く染める血液は両腕から流れ落ちているものだけではない。
 先ほどからガリューが見せる幾度もの突撃(チャージ)は、かつて多くの戦場を共にして来たゼストが知る彼の
スピードを遥かに上回っている。
 この数年の間に鍛錬によって成長した、という理由ではおよそ説明できないその差の理由が、あの血染めの両脚にある。
693魔法集団リリカルやがみけInsecterSその8-1:2008/07/29(火) 20:57:09 ID:jlnylW3F
 おそらく、ガリューは自らの限界も超えて加速している。

 ガリューにも人間同様、肉体にかけられたリミッターというものが存在する。
 そのリミッターが激しい感情の爆発によって解除され、元々人間より遥かに速い彼にさらなる加速――自身の
力だけでは停止できないほどの――を与えているのが異常な高速移動の秘密だとゼストは推測していた。
 先程のように自身の体を削ってでも強引に減速しなければ彼を待つ運命はそのまま岩壁や木々に激突するか、または
数百メートルの距離を滑空しながらゆっくりとスピードが落ちるのを待つかのどちらかだろう。勿論この瞬間にも
ゼストの息の根を止めようと猛っているガリューがそんなタイムロスを許容出来るはずがない。それに、もし後者を
選んだとしても加速の際にガリューが肉体にかける負荷は防げない。


 このままかわし続ければ、ガリューは何度でもゼストへの無謀な突撃を繰り返すはずだ。
 己の肉体を傷つけ、最高速度を少しずつ低下させながら。

 そこに、今のゼストに残された唯一の勝機がある。


 フルドライブ。


 確実に動きを見極められる速度に落ちるまで彼の猛攻を耐え抜き、全身全霊を込めた一撃を撃ち込む。

  
「これではまるで見世物だな」

 ゼストは自嘲気味に呟く。
 同時に動きが停止していたガリューの羽が、再び顫動を始めた。


「だが今の俺はまだ、死ぬ訳にはいかない」


 槍を握る手を強く握り締め、ゼストはガリューに対峙する。

 この身に為さねばならぬ事があるから。
 この戦いの後に、彼に伝えねばならぬ事があるから。
 

          ◆


 ――その数分前。
 
694魔法集団リリカルやがみけInsecterSその8-1:2008/07/29(火) 20:58:14 ID:jlnylW3F
 ゼスト・グランガイツを探していたナンバーズ5番・チンクは、夜の森に人影を見つけた。
 機械の瞳に映る人影は小柄で、近づくまでも無くそれが目的の人物でない事はすぐにわかった。
 ただ、だからと言って放っておく訳にもいかない。

「ルーテシアお嬢様」

 チンクは森の中に分け入って人影に近づくと、驚かせないよう優しく声をかける。
 チンクの配慮が功を奏したのか、それとも元々感情の起伏が少ないからかはわからないが、名前を呼ばれた
ルーテシア・アルピーノは悲鳴を上げる事も無くチンクの方を振り向いた。

「……チンク」
「夜の散歩ですか? そろそろ部屋に戻らないと、クアットロが心配しますよ」

 自分で言ってから『あの姉が本当に心配するだろうか』とチンクに一寸疑問が浮かぶが、ルーテシアの世話を
任されている以上、居るべき時間、居るべき場所に姿がなければ探しはするだろう。

「よければ私が部屋までお連れしますが」

 ルーテシアを送ればゼストの事は一旦放置する形になるが致し方ない。
 片や就学年齢にも達していない幼子、片や立派な大人の男。どちらを優先するかは明白である。
 それにルーテシアがここにいる事で、ゼストが最低でもこの基地の近くに居る事はわかった。彼にとってルーテシアは
部下の忘れ形見である(正確にはまだ死んでいないらしいが)。責任感の塊のようなあの男が、彼女を残したまま
この場所を去って何処かへ行く事など考えられなかった。
 
「……いい」

 その一言を肯定か否定か判りかねていると、ルーテシアがさらに言葉を繋いだ。

「ガリューと……一緒に帰るから」
「ガリュー?」

 チンクはルーテシアの口から出た耳慣れぬ言葉に首を捻る。
 この基地にガリューという名前の人間は居ないし、そのような名前をした物品も無い。
 クアットロに聞けば何かわかるだろうか。

「今……向こうでゼストとお話してる」
「ゼストと……?」

 ルーテシアが暗闇を指差す。
 チンクの眉間に寄せられた皺が、一層濃くなった。
 自分達以外に知り合いなど居ないはずのルーテシアが言う『ガリュー』は、チンクの探し人であるゼストと話し中だという。
 まさかゼストの仲間か? しかし彼は記録上は死亡した人間だし、外部との連絡手段も持っていない。仲間だとしても、一体
どうやって連絡を取ったというのか。
 

(……全く、あの男はどれだけ面倒事を起こせば気が済むのだ……!)
695魔法集団リリカルやがみけInsecterSその8-1:2008/07/29(火) 20:58:50 ID:jlnylW3F
 チンクは思わず悪態を吐きそうになるが、ルーテシアの手前喉まで出かかったそれを飲み込む。
 
 敵として対峙した最初の邂逅はともかく、この施設であの男が目を覚ましてからこれまで、チンクは散々あの男絡みの
問題で頭を悩ませて来た。

 食事を介助しようとすれば『自分でやる』と言い張って、結局器の中身をぶちまける。
 保管していたデバイスを返せば『余計な機能をつけるな』と文句を言う(まあ勝手に拡張機能を設定したのが"あの"創造主と
くれば、少しだけその気持ちも分からないではないが)。
 挙句の果てにはやっと少しばかり動けるようになり、リハビリを開始した時だ。 
 こちらが組んだプランなど毛頭守るつもりはないとばかり、幾ら静止してもすぐに無茶を繰り返す。
 仮にもドクター(医師)・スカリエッティが組んだプランなのだ、与えられたメニューが最適・最優なものに
決まっている。
 なのに結局あの男は自分のやり方を最後まで変える事無く、結果的に"主治医"の見立てよりも早く全てのメニューを
終えてしまった。
 彼の無茶を止めていた筈の自分は、気づくと何故か彼のリハビリを邪魔をしたかのようになっていた。


 そして極めつけが今日の"これ"だ。
 命令でなければ、流石の彼女も世話係の交代を訴えていただろう。
 チンクは自分にゼストの世話係になるよう命じた時のスカリエッティの顔を思い出す。記憶の中の彼は笑っていた。

 ゼスト・グランガイツは何か自分に怨みでもあるのか。
 あるに決まっている。
 自分は彼の部下を手に掛けたばかりか、一度は彼自身の命まで奪ったのだ。怨みも怨み、末代まで祟ってやると
言われてもおかしくはない。もっとも自分が子を成す事はないだろうが。
 一方のチンク自身もまた、彼に右目を奪われている。それから、人より優れた存在――戦闘機人としてのプライドも。
表立って口には出さないがあの時の記憶は、未だ屈辱と共にチンクの中に残っている。失った右目をわざわざそのままに
しているのも、いつか完全回復した彼と再戦して勝利してから直すという秘かな目標があるからだ。
 そんな自分達が上手くやっていける理由など、次元世界の何処にも存在する筈がない。
 なのに、どうして彼はわざわざ自分達の接点を増やすような真似をしたのか。きっとあの創造主の事だから何か思惑が
あるのだろうが……

 止めよう。考えても答えが出るものではない。
 チンクは溜息をつくと、膝を折ってルーテシアの高さまで目線を落とし彼女に語りかけた。

「そうですか……しかしルーテシアお嬢様、今日はもうお休みになられる時間です。騎士ゼストとそのガリュー……さんには
私から事情をお話ししておきますので、部屋に戻りましょう」
「……」

 ルーテシアは答えない。
 彼女は基本的に無口だが、話しかければハッキリと受け答えする。
 その彼女が返事をしない時は嫌がっているか怒っているか、とにかくこちらの言葉に対して何らかの拒否を示している時だ。

「お嬢様がそのような我儘を言われては、クアットロもきっと困ってしまいますよ」
「……」
696魔法集団リリカルやがみけInsecterSその8-1:2008/07/29(火) 20:59:30 ID:jlnylW3F
 切り札もあっさりと破られ、チンクは頭を抱えた。
 どうも最近ルーテシアは自分達の言う事を聞いてくれない事が多くなったような気がする。
 勘違いかもしれないがゼストと行動を共にする時間が増えてからだ。
 このままだといずれあの男のようになる、というのは自分の思い込みだろうか。
 親子というわけでもあるまいに、出来れば見る人間の背中はよく選んでほしい。

「わかりました。それでは二人に話して、お話の続きは明日してもらうようにしましょう。それでいいですか?」
「……わかった」

 なんとか譲歩案を引き出せた事に安堵しながらチンクはルーテシアに手を差し出す。
 ルーテシアが自分の手を握るのを確認すると、彼女はルーテシアを伴ってゆっくりと森の奥へ歩を進めた。

(……とはいえ、『ガリュー』の正体如何によっては戦闘も避けられん。一応ドクターに報告を入れて)



 轟音が夜の森に響いたのはその時だった。



「なっ!?」
「!!」

 地面が振動し、木々の葉が一斉にざわめく。
 繋いだ手に力を込めるルーテシアを咄嗟に抱き寄せながらチンクは混乱しつつも状況を把握しようとする。

 襲撃?
 それならばこの位置であれば基地のセキュリティに引っかかる筈だ。
 セキュリティが反応すればウーノから自分に連絡が来る。よって外部から何者かが襲来した可能性は限りなく
ゼロに近い。
 だとすればゼストの仕業か? 万全ではないとはいえ、十分に戦闘可能な状態までは回復している。
 それに、ゼストには伝えていないが実は今日は"ナンバーズ"もう一人の実戦型であるトーレが別任務で基地を
離れていた。つまり自分達に反旗を翻すタイミングとしてはこれ以上の機会はないのである。
 だがルーテシアを放ってあの男がそんな行動に出る事が有り得るのか?
 或いは謎の存在『ガリュー』が事態に関わっている?。

 とにかく音の発生した方向へ向かおうとして、チンクは胸の中の少女について逡巡する。
 
(お嬢様を危険に晒す訳にはいかない……だが、何が起こっているのか分からない以上此処に一人残しておくのも
危険か……クッ!)

「お嬢様、舌を噛まぬようしばらく口を閉じておいてください!」

 チンクはルーテシアを抱き上げると、地面を蹴って走り出す。
 目の届く範囲であればいざとなれば自分の身を盾にする事が出来る。それにもしゼストが本当に自分達を攻撃する
つもりなら、彼女を人質に使うという選択肢もある。

 そのような事態が起こっていない事を祈りつつ、木々の間を駆けるチンクはルーテシアに聞こえぬよう小さな声で呟いた。


「全く……ゼスト、貴様という奴はっ!!」
697ておあー:2008/07/29(火) 21:00:53 ID:jlnylW3F
今回は以上です、お付き合いくださった方ありがとうございます。しかしゼストメインの話が連荘とは珍しい。
エロパロ板に投下する作品なのに何故か戦闘シーンで悩んで推敲するほど泥沼にはまり込んでいくよ! 不思議!!

そして……
あ…ありのまま(略)『このSSは俺の中でリリカル坂を登っていたと思ったら、いつの間にか降りていた』
もっと素晴らしいケツ叩きの片鱗を味わったぜ…急かしてくれた方、ありがとうございました。
おかげで生還できました。半分だけですが。そして続きを待っててくださった方、他にもいたらすみませんでした。
もっともっと頑張ります、はい。

それから……
まとめの司書の方にお願いがあります。
保管庫の中にある『リリカルやがみけ』の7話終盤に、『新暦68年 ミッドチルダ某所』という記述があるのですが、
これを『新暦70年』に修正していただけないでしょうか。
よろしくお願いします。

次回8話その2『初めての共同作業(リリカル的な意味で)なの!』
698名無しさん@ピンキー:2008/07/29(火) 23:02:41 ID:Rn51e5af
なんというゼスト祭り!!
オヤジ好きとしては嬉しい限り、こりゃ良いわいwwww

シロクジラ氏&ておあー氏、両氏に最大級のGJを!!!
699名無しさん@ピンキー:2008/07/29(火) 23:37:26 ID:KoR1JBNE
>>652
GJ
クロノが生き残って最後の良心が来たと思ったら・・・・・・お前もかw
リーゼさんとこで何があった、いったい?

>>680
エリオ・・・・だよな?
てっきり死亡したものと思っていた。
生きていてくれて嬉しい反面、何で悪人に?
>「……お父さん」
本日一番の萌えポイント。



投下しようと開けたらまた偉い更新具合だ。
で、こちらの容量は10kbときたもんだ。
推敲に時間かかり過ぎたからなぁ・・・・・・。
700名無しさん@ピンキー:2008/07/29(火) 23:43:35 ID:V+1UiowH
>>697
ずっと待ってたぜ旦那!
戦闘シーンで推敲?このスレでは問題無ーし。
次回も超期待してる。

>>699
まだ20kb容量残ってるからちょうどOKかと。
701名無しさん@ピンキー:2008/07/29(火) 23:45:31 ID:g5lr3uct
そろそろB・A氏とアルカディア氏の登場を期待してしまう…

>>680
ルーテシアにゼスト、それにエリオ(?)と、だんだんと盛り上がってきました。
生きていたのは嬉しいですが、エリオ(?)は何故反旗をひるがえしたのか…すごく気になります。
キャロは……
702B・A:2008/07/30(水) 00:05:53 ID:+u7gTtJS
>>700
きっかり30kbです。
703B・A:2008/07/30(水) 00:07:58 ID:YRfhsFnS
>>700
きっかり30kbです。
すみません、「10kb“オーバー”ときたもんだ」
と書きたかったんです。
704名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 00:10:07 ID:PgxkdGyh
次スレをたてるべきなのかな?
705B・A:2008/07/30(水) 00:12:56 ID:YRfhsFnS
>>704
できれば、お願いしますorz
その・・・・立て方わからないんで。
706名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 00:14:59 ID:gyXVT6uX
ちょっと挑戦してみる
707名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 00:15:37 ID:PgxkdGyh
了解。じゃ立ててくる。
708名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 00:16:12 ID:PgxkdGyh
おおっと。
>>706さんどうぞ。
709名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 00:18:13 ID:gyXVT6uX
710B・A:2008/07/30(水) 00:28:00 ID:YRfhsFnS
>>709
乙です。
それでは、今から投下行ってきます。
711名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 00:57:58 ID:PgxkdGyh
埋めついでのお馬鹿小ネタ

 もしも映画が「魔法少女リリカルSPIRITS」だったら

 舞台は○年後…
 ミッドチルダからいつの間にか姿を消した3人娘。


 その1

 救助して施設に送った子供たちに異変があったと知って調査するスバル。
 優しく見えた施設の長は、異形のクリーチャーだった。
 単身乗り込むスバル。尊敬していた「エースofエース」の称号を名乗って!
 しかし、多勢に無勢で破れてしまう。
「ヒヒヒヒ、オマエガエースofエース? コノ…オオウソツキノ ニセモノメガ」
「く…そ…」
 そこへ見覚えのある魔法光。
「マサカ…」
「ごめんね、スバル、遅くなって」
「なのは…さん」
「敵は多いの……ううん、たいしたことはないの。
今夜は、私とスバルでダブルエースofエースだから」


 その2

 フェイトを探しているティアナは、内乱の絶えない別世界でおかしな噂を聞く。
 敵味方関係なく滅ぼすという「赤い瞳の悪魔」の噂を。
 内乱で難民となった子供たちの世話をしているフェイトと出会うティアナ。
  内乱に巻き込まれる二人と子供たち。
 反乱軍に向かい、フェイトが立ち向かう。
 内乱は、クローンによる人造魔道師の実践テスト場でもあった。
 怒りに燃える赤い瞳
「嘘…あれが、フェイトさん?」
「フェイトさん……そんな…」

「ほほう、いい性能だな。貴様の作戦目的とIDは!」
「正義。フェイト・テスタロッサ・ハラオウン」


 その3

 ベルカの砂漠で古代遺跡を調査しているはやて。

  (中略)
  
「今は、この力(夜天の書)が、あたしのプライドや…」
712名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 02:00:18 ID:ZMmJLhEL
不憫長ww
ちゃんと書いてやれよww
713名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 02:02:43 ID:reZ6N9Ac
ちょこっと埋め小ネタ投下
注意 陵辱 エロ控えめ 一応メインはフェイト 一応ふた

eranano StS 2が元ネタ
714umenanosts:2008/07/30(水) 02:03:59 ID:reZ6N9Ac
 だだっ広く『ソレ』以外には何もない部屋の中でフェイト・T・Hは目を覚ました。
 ……拘束ベルトがついて、頭のあたりに美容院にあるパーマ機の様なモノが鎮座している、『ソレ』を見ながらフェイト・T・Hはあまりにも異様な状況にわずかなおびえを浮かべていた。
「……ソレにスわレ」
 どこからか聞こえてきた声に、あらがいの声を上げようとしたフェイト・T・Hは、それでも気がつけば勝手に立ち上がっている自分に気付いた。
 それに訝りながら、聞こえてくる声の異常な響きに嫌悪感を覚える。
「ソレはイメえじグシょうキ。おまエのしリあいヲかたちドる」
 そんなフェイトの思いを無視して、声は淡々と続きを投げかけてくる。
 その声に、感情が感じられないことにわずかな恐怖を覚えた。
「そのしりアいをちょウきョうし、ドレいにしロ。おマえのイめえジりょクは、どれイやどうグをカうたびよわマり、ドれいをウるたびつよマる。いめエじリョくがなくナれば、オまエハシぬ」
「なんで、そんな、こと」
 かろうじて声が出た。
 それに応える声は無くて。
 身体が椅子に縛り付けられる。
 そして、いきなり光景が一変した。




 フェイト・T・Hの目の前には、いくつもの巨大なシリンダーがあった。
 薄い緑色の液体には、フェイト・T・Hが知る人々が入っている。
「……これ」
 驚きながらそれらを見つめるフェイト・T・H。
 いくつものシリンダーの最初に目についたモノに、思わず驚きを浮かべた。
 初めてであった頃のなのはや、アリサにすずか、ユーノとクロノ、エイミィやリンディと言った面々がいたのだ。
 否、それだけではない。
 幼い頃のはやてやヴォルケンリッター達に、六課の面々、聖王教会の関係者やナンバーズにヴィヴィオと聖王ヴィヴィオの姿まであった。
 しかも、その中に幼い頃の自分の姿や、母・プレシアの姿まであることにわずかな恐怖を感じた。
 先程の声の響きが思い出される。
 調教してドレイにしろ、そんな言葉にただ目の前のシリンダー群の意味が理解できた。
 ……死にたくない。
 それがフェイトの脳裏を占めていたから、最初になのはを選んだ。
 シリンダーから液体が抜け落ち、なのはがそこから解放される。
 どういう仕組みなのか、全く濡れていないだけでなく、子供の頃のお気に入りの服にツインテールという姿のなのはが、不思議そうにこちらを見つめてくる。
「あなたは、誰ですか? ……フェイトちゃんに似てるけど」
 小首をかしげるなのは。
 その愛らしさに、胸の奥が奇妙に揺れた。
 このなのはを、自由にしていいのだと、そう感じたから。
「私はフェイト。……そう、あなたの知るフェイトの大人になった姿ね」
「フェイトちゃん? ホントに?」
「ええ、そうよ。詳しいことは後で教えてあげるね」
 なのはに答えを返しながら、ここからどう動けばいいのか解らなくて。
 気がつくと、大きなダブルベッドが一つあるきりの部屋に移動していた。
 なのはが特に不審を覚えた様子も無く、こちらを見つめてくる。
 そのことに気付いて、けれど、どうすれば良いか解らなくて。
 ふと、あの声が言っていた道具と言う言葉を思い出した。
 同時に、フェイト・T・Hの眼前に道具の一覧が表示された。
 なのはの動きはまるでDVDをポーズしたときのように完全に固まっている。
 だから、ただ無心にその道具類を眺めた。
 最初はローターとペニスバンドそれにローションをいくつか選択すると、その画面が消えた。
 そして、フェイトの手元にそれらが現れて、また消滅する。
715umenanosts:2008/07/30(水) 02:04:38 ID:reZ6N9Ac
 ……まるで、バリアジャケットのように、意思の力で自由に出し入れ出来ることに納得してから。
 もう一度なのはに視線をむけた。
「それで、どうしていきなりおっきくなったの、フェイトちゃん?」
 不思議そうな表情で見上げてくるなのは。
 その表情に、なぜか異様な昂奮を覚えた。
「それは、ね」
 なのはの両脇の間に手を入れて、いきなり持ち上げた。
 そのまま、ぽすんっとベッドに落とす。
「フェイトちゃん?」
「なのはを、愛するためだよ」
 言うが早いか、フェイトはあっという間になのはを裸にした。


 ……それから何日が過ぎただろう。
 フェイト・T・Hは自分の異常さに戦きながらも、他の皆をその毒牙に掛けていった。
 すずかやアリサを従順に調教して売り飛ばす、……大人の高町なのはを助手のなのはに調教させたり、なのはを高町なのはと3Pで可愛がったり。
 だんだん、自分が壊れていっていることを、フェイト・T・Hは自覚していた。
 サドに目覚め、変身魔法を応用してふたなりになって、散々に皆の手を口を胸を膣を肛門を、散々に汚し、精液まみれにさせて、精液を飲み下させた。
 ユーノやクロノを逆レイプした末に、アナルを散々に犯してなのは達を犯させた。
 とくに、幼い頃の自分自身は、拘束した上で鞭や針で責め立て、何度も処女膜を再生させてはバイブやペニスバンドで痛みや恐怖を味わせて最後には売り払った。
 ……キャロとルーテシアを限界まで、けれど処女のまま調教して、助手にしたエリオに処女を破らせて、三人をそれぞれ専用にして、眺めて楽しんだ。
 今ではふたなり化だけでなく触手も召喚できるし、処女膜の再生や母乳を出せるようにする薬も買えるほどで。
 それがあまりにも楽しすぎた。


 そして、どれだけの時間が経っただろう。
 フェイト・T・Hは身体の下で足掻くなのはを見ながら、微笑みを浮かべていた。
 アイマスクにボールギャグ、クリキャップと搾乳機、アナルバイブも付けさせたなのはは、少し腰を揺らすだけで絶頂に達するほどになっていた。
 それはフェイト・T・Hも同じで、幾度となくなのはの中に精をはき出している。
 そろそろ、なのはも限界だろう。
 だから、アナルバイブを一気に引き抜く。
 同時に、思い切り背をそらして絶頂に震えるなのは。
 そんななのはを見ながら、視線を部屋の隅に向ける。
 全裸のまま所在なげに立って……、オナニーをしていた高町なのはがとことこと近づいていくる。
 高町なのはの前にペニスバンドを出現させただけで、こちらの意図が伝わって。
 震えながらペニスバンドを身につける高町なのは。
 そのまま、なのはのアナルを、一気に貫いた。
 ぎゅぅっと、ペニスが締め付けられて、フェイト・T・Hもまたなのはの中に精を放つ。
 びくびくと激しく痙攣して、ぐったりと身体の力を抜くなのは。
 けれど、それで許すはずが無く、フェイト・T・Hは高町なのはに顎をしゃくって動かせると同時に、自分も腰を動かしていく。
 甘い声を上げまくる二人のなのは。
 その姿は壊れたフェイトにはあまりにも心地よすぎて、限界を超えてしまった。
 最後に一際大きな声を上げたなのは。
 その姿ゆっくりと薄れて、消える。
「……ぁ」
 何かが、間違っている。
 そう思った瞬間、全てが闇に閉ざされた。

716umenanosts:2008/07/30(水) 02:05:09 ID:reZ6N9Ac
「……夢」
 びくりと身体が勝手に震えて、フェイトは目を覚ました。
 あまりにも陰惨で淫猥な悪夢。
 自分が、幼い頃のなのはや、今のなのは、六課の面々を思うままに貪るなど、悪夢が過ぎるというモノ。
 夢は願望と言うけれど、そんなはずがない。
 そう思って、ベッドから起き上がった時。
 不意に部屋の戸がノックされた。
「なのは?」
「うん、入って良いかな」
 こんな時間に、どうしてきたのだろうか。
 そんな疑問を抱きながらも、フェイトは戸の方まで行って鍵を開けた。
 ゆっくりと戸が開く。
「なのは、どうしたの?」
 廊下の暗がりにいるなのは。
 なぜか嗅ぎ馴れたにおいを感じて、思わず眉をひそめるフェイト。
 そのにおいは、夢の中で散々かいだモノだったから。
「フェイトちゃん……、私辛いの」
 呟きながら、暗がりからでてくるなのは。
 パジャマの股間から太ももにかけて、ぐっしょりと濡れそぼっていた。
「フェイトちゃんの熱いペニスで犯して欲しいの。前も後ろも思い切り埋めて欲しいの。おっぱいもいっぱいいじってミルク絞って欲しいのぉ」
 甘くとろけた声音に、ゾクゾクと背筋が震える。
 あの悪夢がまだ終わっていないのじゃないかと言う恐怖と、エースオブエースであり凛々しくて美々しいなのはを好きに出来るのだという快楽故に。
「いいよ。おいで、なのは」
 何かが間違っている。
 何かが壊れている。
 解っていても、なのはの淫蕩な誘惑は、フェイトには拒むことなど出来なかった。
717名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 02:07:20 ID:reZ6N9Ac
前書きでタイトル書き忘れ、失礼
……切腹してくる

異様にエロいeranano StS 2作成者に敬礼
718名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 02:33:26 ID:Nt+OxhhF
今までSS書いた事の無い人間が、ヤマもオチもイミも無い日常の1シーンだけ思いついた時はどうすればいいものかしら。



「今日の訓練はお休みにして、化粧の仕方講座をします」
「私達位の年になると、公式の席でノーメイクっていうのは流石に許されないからね」

「えーと、ちなみにこれっていくら位するんでしょう?」
「ピンキリだけど、これなら○○○○ぐらいかな」
「こ……こんな小さなボトルが○○のアイス10個分……」
「みっともないからそういう計算は止めなさい」
719名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 02:36:32 ID:Ds/zwp37
>>717
GJ!!
こういうのすごい好きだぜ!
出来ることなら続きに期待
720名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 02:36:42 ID:MRmufqlL
俺はそういう小ネタ的なものも好きだけどなー
1回1個だと何だから、3つくらいずつに纏めて1レスとして投下するとか?
721名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 06:16:42 ID:3ggDUKWo
>>711見て思いついた。スト○ンガーなフェイトそん。
コミック持ってないんで台詞すごいうろ覚え。


オットー「ハーケンスラッシュにハーケンセイバー。カスだね」
クァットロ「ば〜か」
ウェンディ「ノロマ」
チンク「我々は何万人もの実験体の中から選ばれている。
    プレシア・テスタロッサとやらが作った旧型など敵ではない」

フェイト「待て! その墓に触るな!」
トーレ「……この墓の下には死体が無い。
    答えろ。ここに眠っていた者も、お前と同じ人造魔導師なのか?」
フェイト「……ハズレだ。その子は魔導師でもなんでもない。
     アリシア・テスタロッサは、ただの女の子だ」

トーレ「パワー、スピード全てが互角か。だが、数が違う」
フェイト「互角? だったら、私の勝ちだ。
    バルディッシュアサルト、カートリッジロード!
    雷光一閃! プラズマザンバーー!!」
セッテ「ぐああぁぁ。つ、つよい……」
フェイト「見たか。これが再改造ベルカ式の力!」
722名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 08:23:29 ID:L1W8nrYd
>>717
フェイトが主導権握ってるのもいいねぇ
GJ!

残りわずかなんで、出かける前に埋め立てしてくどー
723名無しさん@ピンキー:2008/07/30(水) 08:26:17 ID:L1W8nrYd
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│順│      題名      │    作者    │開始│            内容                  ..│
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│01│ 風の癒し手(番外) │ザ・シガー  ..│>>6  ラブストーリー/シャマル×オリキャラ            │
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│02│ 嘆きの中で ( 2 ) │シロクジラ  ..│>>58  シリアス/StSアフター/事件/スバル中心?       │
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│03│俺達の正義      │B・A       ...│>>83  シリアス/居酒屋中将/if                 .゚│
├─┼────────┼──────┼──────────────────────────┤
│04│クリニック・F (8)  ..│554        . │>>123 オリジナルストーリー/きれいなスカリエッティ      .│
├─┼────────┼──────┼──────────────────────────┤
│05│貴方のための世界│野狗       │>>135 鬱/フェイトvsはやて/やっぱりプレシアの娘      .│
├─┼────────┼──────┼──────────────────────────┤
│06│宴は永遠に     │タピオカ   ...│>>166 コメディ/居酒屋中将/黄泉がえり               │
├─┼────────┼──────┼──────────────────────────┤
│07│愚者(16)        │◆Ev9yni6HFA│>>183 シリアス/オリジナルストーリー/地上局員/群像  ..│
├─┼────────┼──────┼──────────────────────────┤
│08│スクランブルシャマルさん.│CRR        │>>247 エロ/ヴォルケン/ヴィータの初めて.            ..│
├─┼────────┼──────┼──────────────────────────┤
│09│アルフ触手姦     │ザ・シガー  ..│>>275 エロ/ロリアルフ/触手/無限書庫は危険がいっぱい│
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│10│カナリア       .....│B・A       ...│>>285 エロ/凌辱監禁/ヤンデレ/ディード×ティアナ     .│
├─┼────────┼──────┼──────────────────────────┤
│11│名探偵エリオ   ..│アルカディア .│>>371 小ネタ/フラグ/犯人はヤス                  .│
├─┼────────┼──────┼──────────────────────────┤
│12│宴は永遠に     │タピオカ   ...│>>383 コメディ/居酒屋中将                     │
├─┼────────┼──────┼──────────────────────────┤
│13│Das Erbe〜(20)  .│B・A       ...│>>396 StSアフター/戦闘/エリルー/ガリューライダー  .....│
├─┼────────┼──────┼──────────────────────────┤
│14│ 嘆きの中で ( 3 ) │シロクジラ  .゚│>>424 02参照                                   .│
├─┼────────┴───┬──┴─┬────────────────────────┤
724名無しさん@ピンキー
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│15│いってらっしゃいの定点観測.│44−256 .│>>445 ほのぼの/日常/高町家                 │
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│16│しんじるものはだれですか?(3)詞ツツリ .│>>455 エロ/シリアス/復讐/鬼畜艦長×タヌキ.      │
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│17│宴は永遠に             │ タピオカ │>>476 コメディ/居酒屋ネタ・プレシア版           .....│
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│18│撃て!なのは! .        │野狗    │>>496 ギャグ/『太陽を壊した女』               │
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│19│テスタロッサに花束を     │        │>>543 鬱/病んデレキャロ/フェイト廃人           │
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│20│魔法少女リリカルふぇいと ...│562     .│>>629 1期再構成/コメディ/凛々狩る本気狩る     │
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│21│嘆きの中で(4)          ...│シロクジラ ゙│>>674 02参照/ゼスト×メガーヌ                   .│
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│22│リリカルやがみけIsS(8-1)   │ておあー │>>683 分類不能(ごった煮)/ガリューvsゼスト         │
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│23│umenanosts              │     ...│>>713 陵辱/エロ/奇妙なお話/サドフェイト        ...│
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【次スレ】
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第79話☆
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