ビッチな娘が一途になったら

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1名無しさん@ピンキー
男を取っ替え引っ替えしてる女の子、モテまくりで男を下にみてる女の子
そんな娘が一人の男にマジ惚れしてしまう、そんな話はどうだろう?

自分の男性遍歴を知られて嫌われるのを心配したり。
奉仕させる側だったのに一生懸命奉仕したり。
「○○はモテるもんな」なんて意中の男に言われて
好きなのはあなただけよアピールしちゃったり。
2名無しさん@ピンキー:2008/07/04(金) 06:18:22 ID:q9V/eGvo
>>1
削除依頼出しとけよ
3名無しさん@ピンキー:2008/07/04(金) 08:03:35 ID:jkzZqDFm
さあ早くその妄想を作品にして投下するんだ
4名無しさん@ピンキー:2008/07/04(金) 08:23:22 ID:PlKHE7G5
また糞スレか
5名無しさん@ピンキー:2008/07/04(金) 10:33:39 ID:XrKJQyNO
嫌いじゃないと言うかむしろ好きだ
>>1の頑張りに期待
6名無しさん@ピンキー:2008/07/05(土) 01:41:45 ID:ILBNjSCz
男を堕とすために鍛えられた様々なテクニックを、ただ愛する人に尽くしたいがためにフル活用するんですね、わかります。
7名無しさん@ピンキー:2008/07/05(土) 21:42:00 ID:Hm5F/ssU
腹黒スレじゃダメ?
8名無しさん@ピンキー:2008/07/06(日) 00:11:41 ID:RVHMnNSy
ビッチだからって腹黒とは限らないだろ
私ってモテモテと思いこんでる天然娘とか、
頼まれると嫌と言えないお人好しとかいろいろ考えられる

ホストにハマったキャバ嬢、とかもありかも試練


っていうかそろそろ>>1は作品を投下しろ
9名無しさん@ピンキー:2008/07/06(日) 16:51:08 ID:9LE48nqV
スイーツ(笑)を犯すSS
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1200136428/
10名無しさん@ピンキー:2008/07/07(月) 12:42:33 ID:LH9X2mid
甘エロでいいの?
11名無しさん@ピンキー:2008/07/07(月) 18:24:45 ID:ug1nGCAy
oke
12名無しさん@ピンキー:2008/07/12(土) 09:58:45 ID:YCbu6GPq
保守
13名無しさん@ピンキー:2008/07/14(月) 06:33:58 ID:yupeUeeJ
こういうの大好き
14名無しさん@ピンキー:2008/07/15(火) 22:47:41 ID:BIAZ7O5v
想い人の前では可愛い少女を演じ切って本性を完全に隠しているつもりで、
だけど自分の中の本質的なビッチに気が付いていない乱れを希望
15名無しさん@ピンキー:2008/07/19(土) 13:33:42 ID:XQSg7+hr
一途になるけど、相手は所詮ビッチって事で全く取り合ってくれず悩む
そういうのは萌える
16名無しさん@ピンキー:2008/07/19(土) 15:34:32 ID:m5w23VgX
誰か書いてくれm(__)m
17名無しさん@ピンキー:2008/07/23(水) 00:03:16 ID:BP2cLoXl
18名無しさん@ピンキー:2008/07/25(金) 00:26:24 ID:1mQdhyuT
ビッチの定義、ってどう考えてる?
俺は、たとえば背伸びでギャル系やっているのもビッチかなと思うのだけど。
19名無しさん@ピンキー:2008/07/28(月) 14:28:32 ID:b2cNRzkL
サセ子はビッチ
20名無しさん@ピンキー:2008/07/29(火) 10:13:41 ID:2otQM63o
なんだかんだで結局、股を開く
21名無しさん@ピンキー:2008/07/31(木) 23:30:50 ID:sTz9D9g+
無気力系ビッチが本気の愛に目覚めるとか萌えるんだけど
22名無しさん@ピンキー:2008/08/06(水) 02:22:11 ID:kTwdjThM
23名無しさん@ピンキー:2008/08/06(水) 09:06:16 ID:G+wZdR8p
24名無しさん@ピンキー:2008/08/06(水) 12:40:35 ID:cWQ7jt/q
25名無しさん@ピンキー:2008/08/06(水) 22:37:06 ID:GzLejW+A
26名無しさん@ピンキー:2008/08/09(土) 10:46:17 ID:xQ5InUmw
しゃ
27名無しさん@ピンキー:2008/08/09(土) 11:43:28 ID:MWgIxDgJ
28名無しさん@ピンキー:2008/08/09(土) 13:26:37 ID:q6sCYN7I
29名無しさん@ピンキー:2008/08/09(土) 14:20:22 ID:k/12bJbf
30名無しさん@ピンキー:2008/08/09(土) 15:37:26 ID:c+5isuny
自演乙
31名無しさん@ピンキー:2008/08/11(月) 15:57:16 ID:z563Ouh0
支援上げ
32スイーツと香辛料1:2008/08/13(水) 00:56:05 ID:k+87tkBL
場違いな人を見た。

恵比寿のベトナム料理のレストランに同級生の男の子がひとりで食事をしていた。その人はとても地味で名前も思い出せないくらい。それなりに値段もはるこういう店にいることをわたしはうまく受け入れられなかった。

斉藤さんが黙々と料理を食べている中、わたしはどうも信じられない気持ちでその人を見つめていた。

「げっ」
小さく、でもはっきりとその人は私を見て言った。あからさまに嫌そうな顔。

ムカついた。

あんたこそ「げっ」だよ。「あんたみたい」のが、なんでこんな店にいるの?「あんたみたい」なさえないのが、来ていい店じゃないよ、私は心で毒づいてそしらぬ顔でフォーに手をつけた。

33スイーツと香辛料2:2008/08/13(水) 00:58:54 ID:k+87tkBL
「どうかした?」
斉藤さんが尋ねる
「なんでもないよ」
微笑んでおいた。斉藤さんのおかげで高校生ではとても行けない(といってもコース五千円くらいだけど)ところで食事ができるのだ。

少しはサービスしてやらなければならない。

友達が誘いで行った集まりで出会った斉藤さんは、毛並みがよさそうな感じがした。

お金もありそうだし、大学も名前があるし、ガツガツしてなさそう。

だから愛想よくしてまんまと二人で会おうと言わせた。最初のデートが恵比寿で映画をみてベトナム料理というのも、まあありだった。

料理もおいしい。辛いの好きだし。知る人ぞ知る、評判のお店らしい。わたしはけっこう感激していた。

友達からあの店に連れてってもらった、おごってもらったという話は聞いていたが、派手目な格好のわりにわたしはあまりそんな経験がなかった。

恥ずかしくて友達には適当に話を合わせていたが、実は少し奥手だったのだ。目論見通り大学生に誘われちょっといい店でおごってもらって、わたしは得意だった。







34スイーツと香辛料3:2008/08/13(水) 01:02:27 ID:k+87tkBL
「こんばんわ、高梨さん」
ビクッとした。不意をつかれてしまった。顔をあげると地味な同級生がいた。名前は…。

「松崎くん?こういう所くるんだ?」
思い出した。松崎啓だ。ケイ、似合わない名前。
「うん、ちょっと。じゃあ」
松崎くんは目を合わさずに言った。やっぱり「こういう人」は鼠色のジーンズにチェックのシャツなんだな。

「余計なことだけど、高梨さん、スプーンにのってるのはお好み辛さ調節するためのものだから、タレみたいにつけなくていいんだよ」
マツザキは、斉藤さんの前で、ソウイイヤガッタ。
斉藤さんが少し笑う。顔が赤くなるのがわかった。

「じゃあ。ついでだけどデザートはココナッツプリンがおすすめです」

そういって松崎啓は店を出ていった。ムカつく。オタクのくせに!なんなのあいつ!

わたしは嫌がったが、面白がった斉藤さんがデザートにココナッツプリンを頼んだ。

…すごく、すごく、美味しかった。

…なんかムカつく。
35スイーツと香辛料4:2008/08/13(水) 01:15:09 ID:k+87tkBL
「葉子、どうだった」「楽しかったよ。あ、でも…」

みさきに昨日のことを聞かれて、私は松崎啓のことを思い出してしまった。腹が立つ。

「みさき、聞いてよ。斉藤さんにベトナム料理連れてってもらったら松崎がいたの」
「松崎って誰?」
「うちのクラス」
「えー!?」
「しかも一人で」
みさきは爆笑した。スッとした。
「マジで?ネタでしょ?」
「ほんとほんと。私もびっくりしたよ。なんでっ!?って。しかもさあ」
と松崎のあの生意気な一言を話す。みさきは期待通り、はぁ馬鹿じゃない?と言ってくれた。
「だよねー、だいたい松崎があんないい店いくなんで十年早いっつーの!」
そうわたしが言って二人で笑う。ああ、スッとした。昨日傷つけられた高梨葉子のプライドが友達と陰口をいうことで回復してくる気がした。
36スイーツと香辛料5:2008/08/13(水) 01:42:07 ID:k+87tkBL
「あ、葉子」
みさきが指さした方をむくと、ちょうど向こうから松崎が来た。
「松崎くーん、昨日葉子と会ったんだって?」
意地悪な笑い方をしながらみさきが声をかけた。
やめてよ、と一瞬思ったが居心地の悪そうな松崎の顔を見てわたしも意地悪くいった。
「昨日はどうもー。松崎くんてお洒落な店行くんだね。一人で」
最後の一言を強調して言う。みさきバカウケ。
「ああ…、ごめんね声なんかかけちゃって」松崎はまた目を合わさず言った。う、少しかわいそうだったか?
「いいの、いいの、むしろ今度は葉子を誘って二人でいっちゃいなよ」
みさきが自分でいって自分でうけている。
松崎くんはいや…と口ごもっている。
「じゃあ」
すごすごと、という感じで松崎くんは行ってしまった。
「みさき変なこと言わないでよ」
「いいじゃん。あいつグルメなんじゃない?連れてってもらいなよ。ウケる」
みさきが笑う。わたしはため息をついた。
37スイーツと香辛料6:2008/08/13(水) 02:34:06 ID:k+87tkBL
高校時代一回くらいはこんな偶然があるのかもしれない。

本当に、松崎啓と二人で食事に行くことになった。

世界史でグループ発表をすることになり、みさきと2人でなんとなく組む相手が見つからず、余り物同士2人―2人でまとめられたらその中に松崎くんもいたのだ。

わたしもだったが、向こうも「マジかよ…」って顔をしている。

「テーマ何でやるー?」
村田くんが言った。やる気のない他の3人を仕切ってくれるようだ。
「ベトナムの食文化とかー?」
みさきが悪ノリしてる。
「はあ?何それ?」
村田、食いつくな。
「やめてよ、みさき」わたしが止めるのも空しく、みさきは昨日のことを村田くんに喋ってしまった。
「へえー、そういえばマツは食い物屋詳しいもんな」
村田くんが普通に言ったので、ああ友達には有名なんだ、と思った。
38スイーツと香辛料7:2008/08/13(水) 02:35:36 ID:k+87tkBL
「なんで松崎くん詳しいの?」
「いや…」
「お前辛いものとか好きなんだろー」
「まあ…」
「でも昨日のお店とか高くない?」
「バイトして…貯めて…」
「そこまでするの!?なんで!?」
やばい、ちょっと面白い。
「いや…なんとなく好きで…その内エスカレートしていったというか…」
「一人で行くの?」
「ほとんどは。たまに親とか」
「辛いもの中心なの?」
「最初はそうだったけど…最近はなんでも…」
「一人で?」
「まあ…」

「…すごいね」
ちょっと呆れ気味にみさきが言った。
39スイーツと香辛料:2008/08/13(水) 02:39:35 ID:k+87tkBL
授業が終わり皆動かした机を元に戻したりしてるとき、教室から出ていく松崎くんを追いかけて声をかけた。

「昨日言ってたココナッツプリン食べた。おいしかったよ」
「あ、ほんとに…?よかった…」
「近くとかで何かあったらまた教えてね」
一応、朝にからかったの悪かったかなと思ったので、フォローしておこう。まあたしかにココナッツプリンはおいしかったし。

すると松崎くんは難しい顔で何か考えて、こちらを見たりそらしたりを数回したあと、言った。
「芦沢ホテルのデザートビュッフェの入場券、ネットの懸賞で当たったんだけど…興味ある?」

あれ?

調子のられてる?わたしを(「あなたみたい」のが)お誘い?

「いや!なんでもない!」
松崎くんが顔を赤くして逃げようとする。やっぱり「そういう」自覚あるのかな。

わたしは、悪いけどこんなリスキーな話に乗ったりするほど怖いもの知らずじゃない。最初からからかうためならまだしも、デート(デート?まあデートだよね)するなら恥ずかしくない相手を選ぶ。

なのに「行く」と言ってしまった。

…ココナッツプリンがおいしすぎたせいか?血迷ったのは。

40名無しさん@ピンキー:2008/08/13(水) 02:41:24 ID:k+87tkBL
ちょっと長めのプロローグを書いてみたけど、こんな感じのはお呼びでないかな?

このいやーなやつがメッロメロになっていくという…。
41名無しさん@ピンキー:2008/08/13(水) 05:18:40 ID:j3qFqjd1
早く続きを書けや!

書いてください、お願いします。
42スイーツと香辛料9:2008/08/13(水) 09:48:55 ID:k+87tkBL
日曜日、わたしは芦沢ホテルに向かっていた。みさきには内緒にしておいた。ここなら多分知り合いにそうそう会ったりはしないと思う。

松崎くんは今日はクリーム色のジャケットに綿パンだった。彼のなかでは余所行きの格好なのだろう。時間に正確なのは、合格。

「ごめんね。待った?」
「いや、全然…。十分前だし」
わたしも時間は守るほうだ。
「松崎くん、今日はこんな服装で大丈夫かな?」
「ああ…ギャルって感じだね。大丈夫じゃない?」

かちーん。「ギャルって感じだね」?何その言い方。

「ギャルって…松崎くんはどの辺でギャルって思うの?」
こめかみをひくつかせながら、という感じであえて笑顔で聞いてみた。
「うーん、髪染めてる。なんか髪がグネグネしてる。化粧が濃い。財布とかバックが似た柄?あとは…」

こいつまともに答えやがった…。グネグネって…。最悪!自分はキモいグルメオタクのくせに!

腹がたって喋らないでいたら、松崎くんはあわてて言った。
「ごめん、別にギャルが悪いとか言ってるわけじゃなくて、ただ僕はよく知らないからそう見えただけで…」
「もういいよ。行こう」
さっさと目的だけすましてしまおう。
43スイーツと香辛料10:2008/08/13(水) 16:36:05 ID:k+87tkBL
芦沢ホテルはそれなりに有名なだけあって格がある感じでいい。
14階にデザートビュッフェがあるらしい。入るとかなりの広さに真っ白なリネンのかかったテーブルと、銀色のトレーにのったたくさんのケーキなんかがあった。わたし達ふくめ客は4〜50名だろうか。

「席は…ここだ」
松崎くんがわたしを案内してくれる。学校とはうって変わってこういう時は自信にあふれてる感じ。さすがグルメオタク。

わたしは色々珍しいものもそろっているお菓子に目移りしつつ、ケーキやマカロンをお皿にのせた。

「えっ」
松崎くんが声をあげた。
「パパナッシュだ」
ぱぱなっしゅ?
「何それ」
「ルーマニアのお菓子で…ドーナツに生クリームとストロベリーとかのソースがかかってる、みたいな」
「へえ」
松崎くんはパパナッシュに夢中なようで一心に取り分けている。
よく知ってるんだな、と少し感心した。

彼がとってくれたパパナッシュを食べてみた。けっこう強烈。
「酸味が意外と強いんだな」
と松崎くんがつぶやく。
「面白い味だね」
「そうだね。僕もはじめて食べたから。…ケーキとかはどう?」
「うん。ちゃんとしてるよ」
「そう。よかった」
松崎くんが穏やかな微笑みを浮かべた。本当に嬉しそうにしてるがわかる。ああ、いい人なんだな。
オタクだけど。
44スイーツと香辛料11:2008/08/13(水) 16:49:25 ID:k+87tkBL
それからわたしは時おり松崎くんとなんというか食事デートにいくようになった。
けっこう面白いものをいつも見つけてくるし、何よりおごってもらえるので、さえない男と遊びに出かけることについては目をつぶった。

松崎くんは相変わらず目を合わせずにこういう店を見つけたんだけど、興味ある?と聞く。
「うん、行きたい。連れてって」
笑顔でこたえる。それくらいはね。なんなら手をとって言ってもいいけど、勘違いさせすぎるからやめておこう。

彼は自分が本当に興味をもった所にしか行かないし誘わない。そういう所も好感をもった。ちょっと学校ではオドオドしてるけど媚びてない。そうでないとホルモン焼きに同級生の女の子は誘わないだろう。でもそこは肉の刺身が驚くほどおいしかった。
「今日もおいしかった。また誘ってね」
そんな言葉を私は本心からいうようになった。
「ああ…。また機会があったら」
目をちらっと合わせて松崎くんは答えた。
45名無しさん@ピンキー:2008/08/13(水) 19:23:40 ID:FIrTN7Ry
やばい、なんか面白い。
松崎くんも高梨さんも魅力的で、読まされてしまった。駄スレだと思ったのにwww
続き楽しみにしてます。
46名無しさん@ピンキー:2008/08/13(水) 23:35:30 ID:45AvyiWq
スレは職人が来ることで命を宿すというが

まさにそうだな
47名無しさん@ピンキー:2008/08/14(木) 00:48:18 ID:6Fa1lupQ
>>46
そうだね。

面白い。どんな風になっていくのか続きが気になる。
48名無しさん@ピンキー:2008/08/14(木) 05:04:59 ID:WItfoN/q
反応があってありがたい!

なるべくダラダラやらず展開を早くしてデレ→エロスにもっていきたいんだが…エロなんか書いたことないなぁ。
49スイーツと香辛料12:2008/08/14(木) 05:40:43 ID:WItfoN/q
「葉子、最近斉藤さんと会ってる?」
みさきが机につっぷしながら聞く。
「全然会ってない。もうメールもしてないかも」
「そうなの?あんた、最近つきあい悪いから、斉藤さんかと思ったのに」
そういえば、みさきに誘われたコンパやらに最近行ってない。斉藤さんもなんとなくメールとか返さなかったりでつきあいが途切れてしまった。
「ごめん。今度どっかいこ?」
「土曜日は?」
「あ、その日はちょっと…」
その日は松崎くんと約束がある。北欧料理。トナカイ肉のステーキ、食べてみたいし。
「えー、やっぱ男?」みさきがジト目で言う。
「ちがうって」
「そういえば葉子、世界史発表終わったのに、まだ時々松崎くんと喋ってるよね」
「…」
みさきめ、勘がいい。「あら?あらあらあら」
楽しそうにおどけるみさき
「やめてよ」
そんなんじゃないんだから。
50名無しさん@ピンキー:2008/08/14(木) 11:36:34 ID:FXrIgLPX
ベルギー! ベルギー!
51名無しさん@ピンキー:2008/08/14(木) 11:41:49 ID:rcTEN+7m
ビッチ娘というとハーレム漫画とかでよくあるお色気ポジションを連想するなあ。
らぶひなでいうキツネだったり、ゼロの使い魔でいうキュルケとか。
こういうキャラはまず間違いなく主人公とはくっつかないから、そういう「もしも」な話として興味深い。
52名無しさん@ピンキー:2008/08/14(木) 11:55:24 ID:AjM+lhkB
今の職人はキャラ使わないでやっているのがすごいな。普通に楽しみ。
エロは苦手だったらソフトでもいいから、書上げてくだしあ
53名無しさん@ピンキー:2008/08/14(木) 13:59:47 ID:JWRijbf3
>>48
ビッチとオタク、エチーにもっていくのは難しそうだけどガンガレ
5432:2008/08/14(木) 14:06:19 ID:IUEnvNs6
>>50

>>52

↑これでつくのかな。ありがとうございます。書き上げはします。
2ちゃんにssあげること自体はじめてですが、このスレのテーマ好きなので、ないよりましということでお目汚し失礼しますm(_)M

エロも読者としては最初のよりも、慣れてきて当たり前になった日常の一コマ的エロが好きなので、なんとか一回はそういうシーンを書きたいと。
5532:2008/08/14(木) 14:14:30 ID:IUEnvNs6
>>53
ありがとうございます。そうビッチ(コギャル?)とオタクをどうくっつけるかを書きたくて。
なんとかあまりにご都合でない形でいければいいんですが。

ちょっと補足として、今までの各章タイトルつけます。以後は名前につけていきます。

1 出会い(32〜35) 2 からかい(35,36) 3 初デート(37〜39,42,43)
4 重ねるデート(44,49)

大幅にはしょるかもしれないが、今立ててるプロットからすれば全15章で、7でつきあい、10でエロ突入のはず。 
56名無しさん@ピンキー:2008/08/14(木) 15:49:46 ID:gnD70qFV
ぜひ続きを
57名無しさん@ピンキー:2008/08/14(木) 19:18:55 ID:wBGC8YNi
続き投下を待ってる奴はたくさんいる
作者さん頑張れ
58スイーツと香辛料 5章「告白?」1:2008/08/14(木) 20:44:36 ID:WItfoN/q
「お酒はだめだよ」
松崎くんは困ったように言った。
「大丈夫だよ。普通のカッコしてるんだから、わからないよ」
「そうかもしれないけど…」

少し浮かれていたのだろうか、普段松崎くんと食事するときにお酒は飲まないのだが、給仕の女性から珍しい果実酒をすすめられわたしはそれを飲みたくなったのだ。

結局しぶる松崎くんをいいくるめて、果実酒を頼んだ。甘い口当たりで、店の家庭的ながらムードのある内装もあいまって、早いペースで飲んでしまった。

わたしは、あまり普段しないしなをつくって甘えた声で、松崎くんを見つめた。
「もう一つ、頼んでいいかな?」
松崎くんはなにか言おうとしたが、えへへと言いそうな媚びのある笑顔で見つめるわたしを見て、ため息をついて頼んでくれた。
59スイーツと香辛料 5章「告白?」2:2008/08/14(木) 21:07:25 ID:WItfoN/q
「どうして松崎くんはこんな風に色んなお店に行ったりするようになったの?なにかきっかけとか?」
今日はすごく気分がよかったので、わたしはいつもより踏み込んだことを松崎くんに聞いてみた。

「うーん」
松崎くんはかなり考えたあとぽつぽつと言った。
「親が中学生の頃からけっこう連れてってくれて…その雰囲気とかが別の世界みたいで…」
「別の世界?」
「なんか外国の映画のパーティとか…そういう…うーん優雅なっていうかそんな感じが好きで色々雑誌とか見て、バイトするようになってから行ってみたりして…」
「へえ…でもホルモン焼きとかも行くよね?」
「うん。だんだんそれぞれの料理の国の文化とか…そういう違いも面白くなってきて…日本のおでん屋は他の国では何になるだろうとか…」
「すごいねー、そんなこと考えて」
「いや…全然後付けで…ただ食べるのが好きなだけかも」
「ふーん」
果実酒のせいだろうか、松崎くんのこういう話を聞いているのは、とても楽しかった。


僕なんかがレストランとか似合わないけどね、と松崎くんが苦笑した。
60スイーツと香辛料 5章「告白?」3:2008/08/14(木) 21:26:26 ID:WItfoN/q
「えー色々詳しいし、なんか松崎くん落ち着いてるから似合ってるじゃん。かっこよくない?」
「作る方とかなら格好いいかもしれないけど、ただお金払って食べるだけだから…なんかいいレストランとかは年齢もそうだけど、僕みたいのじゃなく、なんか成功してる人とかが行くべきなんだろうなぁ…とか」
「ああわたしたち若すぎとは思うね。…でも」
酔ってるせいか、わたしは考える前に言葉が出る感じになっていた。
「松崎くんがコックさんじゃなくてグルメくんだったから、わたしはいつもすごく楽しくておいしい思いをさせてもらえるてるよ?」松崎くんはちょっとびっくりした顔をして目をそらしながら言った。
「よ、よかった。喜んでもらえるのは、嬉しいから」
「いつも誘ってもらって、支払いしてもらっちゃって、ごめんね?」
「…好きでやってることだから」
目を伏せながらそう言う松崎くんを見て、わたしは、もっと踏み込んでみたくなった。
「ねえ、松崎くん」
「なに?」
「どうして、いつもわたしを誘ってくれるの?」
6132:2008/08/14(木) 21:30:09 ID:WItfoN/q
>>56

>>57

ありがとうございます。なんとか声におされて書きました。

だんだん苦しくなってきたけど、途中中断よりはましと自分に言いきかせて書こうと。

つぎ男の子に何て言わせよう…。
62名無しさん@ピンキー:2008/08/14(木) 21:36:14 ID:o91EHEu0
GJ!
何となく読み始めたら引き込まれてしまった。
二人とも可愛いくていいな。
6332:2008/08/14(木) 21:58:03 ID:WItfoN/q
>>62

どもです!
可愛いですかー。よかったです。キモい男子&傲慢な女子に見えすぎてないか心配だったんで。

コギャルの生態に詳しくないせいか、なんか全然ビッチじゃない清い子達になっちゃってる気が…。現実はこんなもんじゃないですよね。高校のときコギャルは薬を使って彼氏とやってる話とかしてたからなぁ。
64名無しさん@ピンキー:2008/08/14(木) 22:47:58 ID:FxXOrm4J
コギャルて
6532:2008/08/14(木) 22:59:17 ID:WItfoN/q
>>64

古いすかね^^;
66名無しさん@ピンキー:2008/08/14(木) 23:02:40 ID:0YM7PK3B
1から読んでみたがいいな。作者頑張れ
67名無しさん@ピンキー:2008/08/14(木) 23:25:07 ID:1eqdbOAV
マイペースでね。あとメアド欄に半角でsageといれたほうがいいかも。
全員にレス返すのは大変だから、返さないでも良いと思うよ
6832:2008/08/14(木) 23:30:41 ID:WItfoN/q
>>66
よかったです。不定期ですが、全部は書きます。

>>67
教えてくれてありがとうございます!
たしかにマイペースでないとへばりそうです。時間あるときにちょこちょこうぷします。

これ以後はレスもそれなりにしときます〜。
69スイーツと香辛料 5章「告白?」4:2008/08/15(金) 00:06:38 ID:+TWYqaqa
松崎くんは固まった。
「いや…その…」
「うん?」
「あんまり、こういう趣味とかまわりには変に見えるみたいで…一緒に行くひともいなくて…」
「うん」
「それで…」
「うん」
それで、どうしてわたしなの?
「高梨さん興味ありそうで、おいしそうにしてるから結構自分で選んだ店が間違ってなかったって思えるっていうか…」
「ふーん」
松崎くんのしどろもどろな話をわたしはたぶんにやにやしながら聞いていた。

ちょっと調子にのってたのかもしれない。わたしは松崎くんを見ながら心でつぶやいた。

わたしが、好きなんでしょう、と。


70スイーツと香辛料 5章「告白?」5:2008/08/15(金) 00:28:33 ID:+TWYqaqa
店を出て二人で並んで歩いていると、少し足元がふらついた。
「大丈夫?高梨さん」
「うん、少し酔ったかも」
「お酒、強くないの?」
「あんまり。今日の度数強かったかも」

喋りながら、それが他人事みたいに遠くで聞こえる。ちょっと酔いすぎたかも。ふらふらしながら歩いていると何かにつまづいてバランスを崩した。

「大丈夫?」
松崎くんがわたしの体をささえている。
「ふふ」
わたしは松崎くんの腕を両手で抱えた。
あっ、と松崎くんは驚いたが、離さない。
「ふらふらするから、ささえてて」

「今日もありがとね」
「いや…」
「もうけっこう何回も行ってるね」
「そうだね。だいたい月2回くらいだから…高梨さんとはもう5、6回行ってる」
「楽しい?」
「えっ?えーと、うん喜んでもらえると、やっぱり、うん」
「わたしと一緒に行くと楽しいんだ?」
「…うん、まあ」
「ふーん」

二十秒くらい、黙って二人で歩いてから、わたしは口を開いた。
「もうつきあっちゃおうか?」
71名無しさん@ピンキー:2008/08/15(金) 00:31:43 ID:v1NVz3ph
>>32
「書きながら投下」はやめよう。
理由は、住民がレスするタイミングが掴めない、他の職人が投下するタイミングを掴めないなど。
メモ帳などにまとめて書いて、ある程度溜まったところで投下していこう。
そして投下終了時に一言、「以上です」があればベネ。


ついでに紹介。下記のスレの>>2に、ためになることが書いてある。
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1218717327/1-2
72スイーツと香辛料 5章「告白?」6:2008/08/15(金) 00:53:34 ID:+TWYqaqa
きっと松崎くんは驚いてあたふたするだろう。そう思っていた。でも松崎くんは前をむいたまま、ずっと黙って歩いていた。

どれくらい経ったかわからないくらい時間がすぎて、松崎くんはぽつんと言った。
「無理だよ」

「え」
そう答えたきり、わたしの思考は止まってしまった。無理って、無理ってこと?嘘。松崎くん、明らかにわたしのこと好きじゃない?
「なんで?」
わたしは予想外の答えにちょっとむきになっていた。ほんの思いつきでつきあっちゃうと言ってしまったのだけど、断れるとは思わなかったから。

「ねえ、なんでよ?」
松崎くんはしばらく考えてから、はっきりわたしの目を見つめて言った。
「僕と高梨さんじゃつりあわないし、僕なんかじゃ自分とはつりあわないと高梨さんも思ってる」
静かだけど、強くそう言い切った。

「そんなこと…」
言いかけてわたしは絶句してしまった。頭がぐちゃぐちゃでまとまらない。
「そんな…つりあうとか…関係ないし…わたし、そんなこと…思ってな…」
最後の語尾は言えなかった。松崎くんがわたしを見つめているのがわかる。わたしは強い視線がこわくて目をそらした。

そのまま長いあいだわたしと松崎くんは止まっていた。長い沈黙。先に動いたのは松崎くんだった。

「嘘だよ」
乾いた声で松崎くんはそう言って、ゆっくり私の腕を外した。
「じゃあ…」
松崎くんはわたしを見ずに早足で駅に歩いていく。

正直、しばらくボーッとしてなにがなんだかわからなかった。えーと…。

あれ?

これは、もしかして…わたし、ふ、ふられた?



5章終




7332:2008/08/15(金) 00:56:15 ID:+TWYqaqa
以上です。

ルール知らなくてすみませんm(__)mありがとうございます。

次からリンク先のやり方を見て、気をつけます!
74名無しさん@ピンキー:2008/08/15(金) 01:31:23 ID:VdiWLIGW
段々気になってきた…。
続きを待っている。
75スイーツと香辛料 6章「落ち込み」1:2008/08/15(金) 02:14:50 ID:+TWYqaqa
次の日二日酔いで一日ねていた。日曜日でよかった。

だんだん回復していくうちに麻痺してた思考がまわりだしてくる。
「アーッッッ!」
思わず枕に顔をうずめて叫んでしまった。足をジタバタさせる。
なんてことだ。ひどい。恥ずかしい。…悔しい。

過去に二人の人とつきあった。一人は中学の時でバカなのですぐふった。
もう一人は高1の時別の高校の人と遊んだときに会った1コ上の人。この人とはそれなりの関係はもった。
遊びとかノリでとかで男の子とそういう関係になったことはない。

そのあまり多くはない経験からしても、男の子―特に高校生くらいのーはいつもガツガツしてて、隙をみせると手を出してくるし、ゆるすと癖になる。
珍しく紳士的にふるまってくる人は本気で好きになった人―これもつきあってしばらくすると、ね―だいたいこれらは間違いないはずだった。
76スイーツと香辛料 6章「落ち込み」2:2008/08/15(金) 02:23:29 ID:+TWYqaqa
いくら遊びとかに慣れてなさそうな人でも二人分一万円位になる食事に5回も6回も誘ってきてたんだよ?
それは、そういうことでしょう?

「無理だよ」
冷たい声。その後すごく強い目で見つめられた。あれじゃこわくてごまかせない。

「つりあわないと高梨さんも思ってる」
…あまりに図星だったから、何もいえなくなってしまった。でも。それならなんで何度も誘ったの?

涙が出てきた。嫌な想像ばかり出てくる。
もしかしたら、彼は下心なんてなかったのかもしれない。変わってるし。
本当にただ自分の選んだ店で喜ぶ人が見たいだけでたまたまわたしを誘っていたのかも。
だとしたら昨日のわたしは…バカ?勘違いさせないようとかいって自分が勘違いしてたということ?

母さんが心配になって見にきたくらいの声でまた二回叫んだ。

はあ、別にいいじゃないか。酔ってたし気まぐれで言っただけだし。…気まぐれのはずだし。
7732:2008/08/15(金) 02:26:23 ID:+TWYqaqa
以上です。寝ます。

だんだん登場人物の整合性をとるのが難しくなってきました。
アドバイス・苦言・要望等ありましたらぜひお願いします。プロットは大筋全部決めてはいますが、変わるかもしれません。
78名無しさん@ピンキー:2008/08/15(金) 03:35:24 ID:3vvYksXl
>>32
ヒロインが『ビッチ』というほど嫌な女じゃないので、逆に可愛げがあっていいですね。
オタク(?)少年も気の弱そうな面と「無理だよ」と言える強さのギャップが堪らない。

今後の展開を楽しみにしています。

更新が早いのは嬉しいのですが、書いてから一晩おいて読み直してみてから投下、
というぐらいのペースでもいいかと思います…老婆心ながら。
79名無しさん@ピンキー:2008/08/15(金) 10:03:46 ID:TfyDciKZ
久し振りに作品を読んで「う〜ん面白い」と唸ってしまった……Gj!!
作品は職人さんの、タイピングの結晶です。好きに書いたら良いと思いますよ。
80名無しさん@ピンキー:2008/08/16(土) 01:20:17 ID:TeQTD9x5
イイヨーイイヨー
81埋められない場所 1/10:2008/08/16(土) 01:43:12 ID:nK6h/LEg
触発されて書きました。このスレの話があまりに面白かったので。


 寝る前に携帯をチェックするのは日課だった。今日もメールの件数が二桁。そしてその半分以上が男。
 私には彼氏が常に数人いる。ただし、記憶に残る恋人というものはほとんどいない。
 記憶に残ってるのは二人だけ。付き合って一か月で死んじゃった初恋の男の子。そして、付き合った男の中では唯一年下の男の子。
 その子は別れ際、
「違うでしょう」
 と言った。
 違う・・?何が違うっていうの?
 その時の状況を私は何とか思い出そうとしたが、どうしてもぼんやりとしか思い出せない。
 その時の私の隣には誰かいたような気がした。そして私の正面には、その男の子が暗い顔で私を見ていた気がする。その口が、「違うでしょう」と言っている。その時の私の顔は・・・
「やめた。変なこと考えるの」 
 私は途中で考えるのをやめ、ベッドに入った。
82埋められない場所 2/10:2008/08/16(土) 01:46:16 ID:nK6h/LEg
 翌日、私は恋人とお洒落なカフェにいた。 
 彼はなかなかカッコいい顔で、社交家だった。お金はそれほどもっていなかったが、それに関しては「他の恋人」の担当なので気にしていなかった。
 学生時代、私は自分でも社交家だったと思う。友達も多かったし、彼氏もいた。出会いも別れもたくさんあった。社会人になった今でも、それは変わっていない。
 ただ、貰う物やお金の額、そして恋人の数は変わった。
 私は、恋人というものは、自分を満たしてゆえに存在するのだと思う。しかし、存分に満たすことを考えるのなら、一人では無理だし、そんなのは酷というものだろう。
 だから恋人が複数いるというのはむしろ自然なことだと思う。私を「ビッチ」なんて罵倒して去って行った男が何人かいたけど、よくよく不思議でならない。
女を・・・いや、人間を理解してないのではないのだろうか、と思う。私はその男達にそれほど過度な期待をしていたわけではない。
私が必要としている部分のひとつかふたつ程度を埋めてもらいたかっただけなのに、彼らは理不尽にも怒り、時には何かを投げつけて、去って行った。
 それ以来、私はできるだけそんな理不尽を起こさなさそうな男だけと付き合うことにしている。
 今、目の前にいる男もその条件にあてはまっていた。彼の役割は、ぺらぺらと面白い話をして、そこそこに楽しい空気を作り、そこそこの時間を私に与えることだけだ。それでいいのだ。
 ふと、視界の端に知っている顔が映った。
「あ・・」
 忘れもしない顔だった。昨日の夜、寝る前に思い出した男の子だったのだ。思わず目が釘付けになる。
「ん、どうしたの?」
 現在の恋人が不思議そうに聞き、私の視線の先をたどろうとする。
「あ、ごめん、ちょっと化粧室に・・」
 たどられる前に止めようと、私は席を立ち、トイレへと向かった。その途中で、例の男の子かどうかもう一度確認する。やはり、間違いなかった。彼だった。
 化粧室と書かれた標識の前で、私はメールを送った。「トイレの前に来て」と。
 もうアドレスが変わってしまっていたどうしようかと考えたが、幸いなことに彼はやってきた。・・不機嫌そうな顔で。
83埋められない場所 3/10:2008/08/16(土) 01:48:32 ID:nK6h/LEg
「ひ、久しぶり」
 最初の挨拶は私からだった。
「・・そうですね。大森さん」
 彼の声は暗い。
「げ、元気だった?」
 声が上ずる。私らしくもない。
「・・まあまあですよ。大森さんこそ、相変わらずみたいですね」
「相変わらず?う、うん。元気だよ」
「違います。相変わらずモテているってことです」
 どきりとした。
「え?なんで?」
「一緒に話してた人、恋人でしょう?」
 何ということだろう、彼もまた、私に気づいていたのだ。
「うん。えへへ、私モテルから。あはは」
「・・そうみたいですね。彼は何曜日の恋人ですか?」
 ぐさり、と何かが私に刺さった気がした。何故だろう。同僚の女の子に言われても、少し前に別れた恋人に言われても何も感じなかったのに。
「あはは、きついなぁ」
「・・否定はしないんですか?」
「・・・・・」
 軽い怒りの感情が沸いてきた。何だろう、こいつは。
「ねえ、もうどれだけ経ったと思ってるの?まだ根にもってるなんて、器の小さい男ね。そんなんじゃどうせ、彼女もいないんでしょ?あの時みたいに」
 彼は、当時恋人がいなかった。積極的なほうじゃなかったし、少し暗かったから。そんな彼とわざわざ私が付き合ったのは、神様のいたずらというか、気まぐれというか。
 まあそんな男だから、どうせ一人だろうと思って言ったのだ。
「いますよ」
 しかし彼の口からは驚きの答えが返ってきた。
「え?うそ。もー、また見得はって・・」
「大森さんとは違って、一人とだけ付き合ってますよ」
 私の声をかき消すように彼は言葉を続けた。信じられなかった。でも、その表情があまりに自然だったので、本当かもしれないと思えた。
「・・・ふうん。それは良かったね」
84埋められない場所 4/10:2008/08/16(土) 01:51:04 ID:nK6h/LEg
「ありがとう。大森さんも今の彼と幸せに。・・他の彼とも」
 また私の癪に障る言い方だった。
「ええ、そうね、ありがとう」
 私はそう言って彼との会話を切り上げ、その場から歩き出した。
「あ」
 しかし十メートル程度離れたところで、私は振り返った。思い出したことがあったのだ。
「ねえ、違うでしょうって、どういう意味?」
「え?」
「言ったじゃない、違うでしょうって。私が聞き返す間もなく、あなた帰っちゃったから聞けなかったけど。ねえ、どういう意味?」
 彼はしばらく沈黙した後、私に教えてくれた。
 しかしその時の私には、その答えは全くもって意味不明だった。

 月曜の夜。私の上に乗っている男の顔を見ながら、私は昔の事を思い出そうとしていた。
 一昨日はぼんやりとしか思い出せなかったが、昨日彼と会ったお陰で大分記憶が鮮明になってきていた。
 彼が「違うでしょう」と言ったその日。私は彼には内緒で、彼の知らない男を自分の家に上げて、キスをしていた。そこへ彼が訪ねてきて、彼は例の言葉を残して去って行ったのだ。
 彼の言葉は、もちろん単独で突然出てきたものではなく、私の言葉に対してのものだ。
「ごめん、怒らないで。私、寂しくて・・」
 私はそう言ったのだ。
 寂しくて、という言葉に対し、違うでしょう、と彼は言ったのだ。
 私の浮気現場を見て、怒ってそれっきり、という恋人は他にもいた。いい別れ時だ、なんて言って笑ってる男もいた。
 けれど大半は後で許してくれた。「寂しい思いさせた俺が悪い」なんて言って。
 でも「違うでしょう」なんて、そんな謎かけみたいな言葉を残して去って行ったのは彼だけだった。
 違うでしょう、か。何が違うっていうんだろう?寂しい、というのは私の本心だ。
 寂しいっていうのは、つまり女の求める「男」という欲求の部分において、埋められないパーツがあるゆえにおきる感情だ。
それを好色だの男好きだのヤリマンだのビッチだのと言うのは勝手だし、まあ仕方ないとは思うのだけど、とりあえず「寂しい」っていうのを否定されるのはおかしい、と、思う。
 考えても仕方ないことなのだろうか。別れ際に言う言葉に、大した意味なんてないのだろうか。
「ああー、いいよ、いいよ・・いきそう・・」
 私の上に乗っている男が、真剣な顔で気持ちよがっている。私の身体も別に不感症というわけではないのでそれなりに反応はしているのだが、どうも集中できない。
85埋められない場所 5/10:2008/08/16(土) 01:53:04 ID:nK6h/LEg
 昨日、彼は私に質問の答えを言った。
「寂しいからじゃない。いろんな人相手にニュートラルにしてないと不安なだけなんだと思うよ、大森さんは」
 ニュートラル・・。車で言えば、どこにもギアが入ってない状態のこと。動いてないってこと。
 私が、動いてないとでも言うのだろうか?いや、私は行動派なタイプだし、色んな経験もしてきた。少なくとも、インドア派な彼よりは色々なところに出かけたと思うし、色々な人とも会ってきた、と思う。
 ・・いや、もちろん彼もそういう意味で言ったんじゃないだろう。もしかして、私がどんな人相手に対しても、かたよりがない、と言いたかったのだろうか。
 偏りがない、そう、悪く言えば八方美人。八方美人にしていないと不安、だといいたいのだろうか?
 そりゃそうよ!と心の中で叫ぶ。
 私は自分の充足のために、色んな男に粉かけてるもの。それに世間、社会っていうのはそういうものでしょう。みんな多かれ少なかれ八方美人じゃない。人気が出るのはそういう人でしょう?
「ああ、いく、いくーっ!」
 目の前にいる男が叫び、私の腰を強く引き寄せた。
 八方美人か。脳裏に、昨日の彼の言葉に加え、声色まで鮮明によみがえり出す。
『いろんな人相手にニュートラルにしてないと不安なだけなんだと思うよ、大森さんは。でも本当は、そんなことしたくないんでしょう?』
 不意に、私は目を見開いた。心臓がどきん、と大きくはねあがり、そのまま鳴り止まない。
「あ。大森さんもいった?イった?」
 顔を上気させながら言う男を、私は無表情で押しのけた。
「う、うわ、なんだよ!」
「ごめん、明日朝一で必要な書類作るの忘れてた。悪いけど先帰るね」
 もちろんこれは嘘だ。
「お、おい、待てよ!」
 男の言葉に耳も貸さず、私はホテルの部屋をあとにした。そして家に帰ってシャワーを浴びた後、すぐに「違うでしょう」の彼に電話をした。
86埋められない場所 6/10:2008/08/16(土) 01:55:17 ID:nK6h/LEg
「大森さん、今何時だと・・」
「良いから。もともとあんたのせいなんだから」
「な、なにそれ・・・」
 二十四時間営業の喫茶店で今、私は彼と向かい合わせに座っていた。
「もうこっちはベッドに入ってたのに」
「あらそう。私はホテルのベッドから出て、シャワーを浴びたばかりよ」
 さすがに、この言葉の意味は分かるだろう。
「・・・・・どうしました?なんか今日は感じ違いますね」
「ややこしい前置きはなしにしたい気分なの、今日は。ねえ、言葉の意味、分かったわよ」
「え?」
「八方美人を嫌々やってるんでしょうってことかと最初は思ったけど、そうじゃないわね」
「ええ、違いますね」
「誰にでもいい顔をする、じゃなく、私が誰とも深いところまで踏み込んでないってことでしょ?身体じゃなく心が。私が相手にのめりこまないようにしてるって、言いたいんでしょう?」
「はい」
「やっぱり。でもそれっていけないこと?だって人間、一人によりかかっては危険じゃない。その人に裏切られたときどうするの?きっと酷い傷がつくわよね。そうじゃなくても、その男に冷めたときどうなるの?
それまでのめりこんでた自分が酷くみっともなくなるじゃない。それに・・それに・・」
「死んじゃったら、どうするのって?」
 私は耳を疑った。
「何で知ってるの?」
「風のうわさで」
「・・ふん。そうよ。死んじゃったらどうするの、いなくなったらどうするの?その時、他に私の心の支えになってくれる人がいなかったらどうするの?
あんた責任とってくれるの?私の『保険』、誰に否定できるっていうのよ!」
 最後の方は、もう叫び声になっていた。周りの客が何事かと私を見る。私はその視線に気づき、軽く頭を下げ、小さくなる。
87埋められない場所 7/10:2008/08/16(土) 01:56:42 ID:nK6h/LEg
「否定はしません」
「だったら!」
「でも、本当に今は幸せですか?今まで、楽しかったですか?」
「はん、決まってるじゃない。私はいつだって・・」
 幸せと言いかけて、言葉が詰まった。答えは決まっていたはずなのに。まるで何かに口をふさがれたように、私の言葉はとまってしまった。
「死んじゃった彼と付き合った日々は、無駄でしたか?」
「・・・・・」
「・・・・・」
 反則だ、と思った。死人を持ち出すなんて反則だ、と。
「・・・無駄なんかじゃ・・」
「え」
「無駄なんかじゃ、ないもんっ!!」
 ぶわっ、と涙が溢れ出した。ゆっくりとではない。まさに滝のように、設けられていたダムが決壊したように流れ落ちていった。
「わあっ!ご、ごめんなさい!言い過ぎました!」
 彼があわてて備え付けのティッシュペーパーを差し出してきた。私はそれをひったくるように受け取り、終いにはぶびびびび、と鼻をかんだ。とても、同僚達や男達には見せられない行為だった。

 しばらくして。
 涙がすっかり乾いた後、私は口を開いた。
「あんたね、年下なのに生意気なのよ。何よ、たった数か月付き合っただけのくせに。『私の本心を知ってます、隠れた気持ちを知ってます』面してるのよ。今まで誰にも言われたことないわよ、そんなこと」
「数か月も、ですよ。それだけ付き合えば分かります。気づかない奴らの方がどうかしてるってもんですよ。本当に好きなら。それに・・大森さんのことは前から知ってましたし」
「え、何それ。私は知らなかったわよ、あんたなんか」
「・・例の転校生が死んだって事件の頃。上級生の大森さんが、一人でクラスで泣いてたのを偶然見て。それで大森さんのことを知りました」
「・・・・・」
 なるほど。あの場面を見られてたのか。どうりで・・・。
88埋められない場所 8/10:2008/08/16(土) 01:58:32 ID:nK6h/LEg
「ねえ」
「はい?」
「・・あんた彼女と一緒に住んでるの?今」
「あ、いや・・」
「一人?」
「・・ごめんなさい。実は、今彼女いるってのは嘘なんです」
「え」
「実は別れたばかりで。俺も人のこと言えないんです本当は。大森さんのことまだ引きずってたから、それを見破った彼女にも愛想つかされて。
何回も大森さんのこと諦めようとしたんですけど。でも、だからこそ大森さんには本当にしたいことをしてほしかったというか・・いや、勝手な言い分なんですけど」
 最後まで聞かず、私は言った。
「なら・・あんたの家、行きたい」

「ね、ねえまずいですよ、やっぱりこんなこと」
「何今更言ってるのよ。本当に駄目だと思ってるのなら、家に入れないくせに」
 私は彼の一人暮らしの部屋に入るや否や、彼を押し倒し、その顔にキスの雨を降らしていた。
「や、やめ・・」
「ふんだ、本当はやめてほしくないくせに。ほら、こんなに固くなってる」
「あ、あうう」
 彼は魂が抜けるような声を出す。やれやれ、そんなに気持ち良いか。
89埋められない場所 9/10:2008/08/16(土) 02:02:03 ID:nK6h/LEg
「そういえば、あんたとはHまでいかないで別れたもんね。手でしてあげただけ。ふふ。でも、あんた手でされるの凄く気持ち良さそうにしてたよね。あんた童貞だったし」
 そう言いながら私は動く手を止める。意地悪のつもりで、だ。
「あ、あ、と、止めないで」
「ぷはっ、やっぱりHしたいんじゃない。ほらほら!」
「あ、ああっ!」
「・・・え?」
 右手に、パンツ越しに熱が伝わってきた。こ、これはもしや・・。
「あんたはやすぎ!」
「だ、だって・・」
 はずかしそうに顔を赤くする彼。とても先ほどまで私に冷静に諭していた男と同一人物とは思えない。しかしそのギャップがまた妙に愛しく思え、私は心の中でもだえた。
「あははは。まあまだまだ固いようだし、いけそうね。さ、脱がすわよーん」
「ちょ、じ、自分で脱げるって!」
「だめ。お姉さんに任せなさい。さっき偉ぶった罰よ」
90埋められない場所 10/10:2008/08/16(土) 02:03:06 ID:nK6h/LEg
 そう言って私はさっさと彼の下着を脱がし、モノを丸出しにさせた。
 そしてその上にまたがり、そのまま入れた。下着を脱ぐのも面倒だったので、ずらしただけの状態だった。
「ちょ、いきなり!しかも生で・・」
「だって。早くしたかったんだもん」
「そ、そんな・・」
 私は腰を一心不乱に振り、彼を味わった。予想通り、すさまじい快感と充足感が私の心を覆う。それは、技術とか相性とかの話ではない。浅い付き合いではどうしても埋められなかったその場所に、必要なものがようやく入ったという感覚だった。
「んっ!ふ・・っ!うっ」
「あ、あ、大森さん・・・!」
 溶け合う。下半身から上半身が。触れている場所すべてが快感で溶け合う。気持ちよさを、幸せな気持ちを、嬉しい気持ちを深く共有できたような感覚。
「やんっ!だめ、まだ膨らんじゃ、だめえっ!」
 永遠に続いてほしい感覚。なのに、突如膣内で「中断」の宣告があったため、私は彼に抗議した。
「そんなこと言ったって・・気持ち良過ぎて、あ、やばい、抜かなきゃ!」
 そう言って彼は私から離れようとするが、それはならなかった。私が彼に強くしがみつき、離れなかったから。
「お、大森さん、ちょっと。ふざけてる場合じゃ・・あああっ!」
 その瞬間、彼のは一気に膨張し、私の中に精を吐き出した。
「はあ・・はあ・・」
 彼は快感のせいでしばらく言葉も発せない様子だったが、落ち着くとすぐにこう言った。
「お、オオモリさん。まずいよ、中に出しちゃったら・・」
「大丈夫」
「え、な、何で?あ、そうか、ピルとか使ってるんですか?」
「ううん、気持ちよかったから大丈夫。さ、もう一回。まだ固さ保ってるし、いけるでしょ」
「・・・・・」
 彼は一瞬言葉を失ったようだったが、すぐにまた、「私」という快感の虜になった。・・お互い様だったけど。
 結局、あの後彼の精がほぼ尽きるまで私は彼を貪った。息も絶え絶え、腰も抜けきった様子の彼に、私は声をかける。
「あんたには責任とってもらわないと。私ですら忘れてたこと思い出させたんだから、ね。浮気したら許さないわよ」
「よ・・よく言うよ・・」
「何か言った?」
「ええ、言いましたよ。幸せにします、と」
「もう、ばかっ!」
 そう言って私は彼に枕を投げつける。胸の中に、満ち足りた暖かい感覚が広がっていく。大人ぶっていた私が、ようやく本当に大人になった瞬間だった。
91名無しさん@ピンキー:2008/08/16(土) 02:06:07 ID:nK6h/LEg
おしまい。読んでくれてありがとうございました。
92名無しさん@ピンキー:2008/08/16(土) 02:07:40 ID:l+3EjqcN
Gj。リアル投下で読めたし面白かったぜ。
93名無しさん@ピンキー:2008/08/16(土) 02:09:02 ID:sb0WuVDV
GJ
イイヨイイヨー
94名無しさん@ピンキー:2008/08/16(土) 03:23:04 ID:CmHAYfy6
これは良スレの予感
9532:2008/08/16(土) 09:27:50 ID:cyrobnDz
GJ!

このスレのテーマに自分のよりぴったりで素晴らしい!

えろいのに積極的なキャラ造形もいいですね〜。
9690:2008/08/16(土) 11:28:54 ID:nK6h/LEg
感想ありがとうです。また何か思いついたらすぐ書きますね。
あと>>32さんの続き、すげー期待してますね。俺はそもそもスイーツと香辛料が無かったら書いてなかったと思うので。
97スイーツと香辛料 6章「落ち込み」1:2008/08/17(日) 00:47:40 ID:pLe/SbU2
「は、くだらない」
誰にきかせるともなく一人でつぶやいて、月曜日の憂鬱な教室にむかった。

教室に入り、中をみまわす。

いた。

こちらをふりむきそうになった瞬間おもいっきり無視してやるようにみさきの方へふりむいた。
ふん、て感じ。
は? そんな人いましたっけ?

結局、その日から二週間わたしはあまり見もしなかったし話もしなかった。

「葉子」
「…なに?」
「…こわい。にらまないで」
「え、にらんでた?」「うん。ブスだったよ」
「ブス…」
ため息をついてうでを枕に頭を机におしつけた。
「ブスだよねー、わたし」
「えー?葉子どうしたの?」
「んー…」
みさきはわたしをしばらく見ていった。
「葉子、最近変だよね?」
「んー」
「ちょっとイタイみたいな?」
「マジで?」
自分ではそれほどでもないつもりだったのだけど…。
「葉子、最近松崎くんと喋ってないよね?」「…わかった?」
「ていうかね、正直バレバレだった」
「あー」
「なんか無視してるけどすごい意識してるし」
「うー」
「ちょっと葉子、大丈夫?しっかりしなよ」みさきにうながされ、わたしはそのことを話した。
9832:2008/08/17(日) 00:54:55 ID:pLe/SbU2
今日は以上でm(__)m

他の書き手を触発できてとてもうれしいです!自分のはちょっと現実のグロさエグさを知る一歩手前のぴゅあ?気味な物語でまとめようと思うので(だから性的な部分はソフトで短くなりそうです。何章かなくなる感じで(*_*)、いろいろな切り口の話を見たいですよね。
9932:2008/08/17(日) 08:36:28 ID:pLe/SbU2
訂正です。

>>97タイトル「落ち込み」1じゃなくて3でした。
100名無しさん@ピンキー:2008/08/17(日) 14:34:28 ID:DChrwF8U
続ききてた!早くみさきの反応がしりたい
101スイーツと香辛料 6章「落ち込み」4:2008/08/17(日) 16:13:37 ID:pLe/SbU2
「なるほど」
みさきはイスの背もたれにひじをかけて、わたしの話を一通り聞いたあと、そう言った。
「私誘ってくれないなんてひどいじゃん」
「ごめん」
たぶん、彼は月二回二人分が精一杯だったと思うから、三人でとかなかったと思うけど……。みさきと彼で二人? やだ。
「それで、葉子の結論は?」
「結論?」
「葉子は今こうなってて、これからどうしたいの?どうなりたいの?」
わたしはどうしたいのか……そうだ、それに直面しなきゃいけないんだ。

「それは…」
「うん、それは?」
「こんな風に自分がなっちゃってるってことは……」
「うんうん」
「やっぱり、そういうことだよねえ……?」
「そう思うけどね」
そうだよね、と答えてから、わたしは呆然としてつぶやいた。
「びっくりだよね」
「かなり。私からするとけっこう驚愕なんだけど」
「そうだよね……」
わたしは机につっぷした。
「どうしよう……」
みさきはわたしの頭をよしよしと撫でた。ありがたかったけど、わたしは顔を上げられなかった。顔が熱くなっているのがわかっていたから。
要するに、わたしは気づいてしまったわけだ。彼、松崎くんに対する、自分の気持ちの変化に。
「どうしよう……」
もう一度わたしはつっぷしたまま、つぶやいた。
「んー、ああいう人ってあんたみたいのが誘えばコロッといくんじゃないの」
「馬鹿」



6章終。7章「告白」へ。
10232:2008/08/17(日) 16:16:21 ID:pLe/SbU2
以上6章です。
次が話の曲がり角。全体も10章ちょいになりそうだし。
次は一章分全部書いてからアップしましょうか?携帯で打って携帯であげてるから、つい細切れになりがちで。
103名無しさん@ピンキー:2008/08/17(日) 16:37:01 ID:DChrwF8U
続きGJ。いい展開、面白いです。携帯ならそりゃ時間かかる・・こちらも気長に待ちます
104名無しさん@ピンキー:2008/08/18(月) 02:56:11 ID:Bymg2l3A
GJ!

続きが気になる〜
105名無しさん@ピンキー:2008/08/19(火) 22:38:36 ID:EPNv2w9l
ほしゅ
106変わる自分、本当の自分 前半 5/5:2008/08/19(火) 23:23:58 ID:ynVFSF+l
性懲りもなく、また書かせてもらいます。思ったより時間がかかってしまったので、前半部分だけですが。続きは推敲した後、明日にも全部あげる予定です。


「あれ、小木さん?」
 夜の静かな電車内。女友達と会話していた私に声をかけてきたのは、同い年ぐらいの高校生の男だった。
「え・・誰だっけ?」
 その人懐っこそうな顔に見覚えはあるのだが、名前が出てこない。ちらりと隣にいた友達の顔を見ても、首を横に振るだけだった。
「あ、覚えてない?ほら、小学校で一緒のクラスだったじゃん。あげぱん食いまくった・・」
「あーーーーー!思い出した!あげぱん食べ過ぎて保健室に運ばれた・・レンちゃん!」
「そうそう、そいつ俺。いやー懐かしいなあ」
「あはは」
「何々、昔の同級生?」
「そうそう、小学校の・・」 
 私は今の友達に笑顔で説明しながらも、背中に冷たい汗を感じていた。
(何で・・・・・分かったんだろう・・)
「いやー見違えたよ、小木さんきれいになっててマジびびった」
「えー、そ、そーかなー?」
 私はどう反応していいか分からず、ぎこちない笑顔で答える。それを見て、友達が吹き出す。
「何ネコ被ってんのあんた。もしかして昔好きだったとか?」
「ば・・かなこと言わないでよ」
「え、マジで?いやー嬉しいなー」
「違うってばっ。もー」
 傍から見たら、どれだけ普通に見えるだろうかと心配しながら、私はなんとか会話を続ける。早く電車が目的地に着いてくれることを願いながら。
 妙にゆっくりと時間が流れた後(私にはそう感じた)、目的の駅に電車が止まった。やっとこの心臓に悪い会話から抜け出せる。
「あ、私ここだから。じゃあね二人とも」
「あい」
 と、答えたのは女友達。それに続いてレンちゃんも返事をする。・・とんでもない返事を。
「あ、俺もここで降りるよ」
「えっ!?」
 同じ小学校に通っていたということは、引越しや一人暮らしでもしない限りは基本的に住所は近いものだと、叫んでから気づいた。
(どうしよう・・)
 顔にこそ出てないだろうが、私の頭の中は緊張のあまり混沌としていた。
108変わる自分、本当の自分 前半 3/5:2008/08/19(火) 23:26:36 ID:ynVFSF+l
 小学生のころの私の容姿は、正直可愛くなかった。そしてぽっちゃりしていた。性格も暗めだった。
 男子によるからかいの的で、毎日憂鬱だった。私はコンプレックスのかたまりだった。
 綺麗になりたい、そう願って出した答えが整形だった。
 高校生になる少し前に私は顔をいじり、化粧を学び、そしてダイエットに励んだ。
 高校生になった時、私は明るく綺麗で、人気者になった。
「付き合ってほしい」と私に何人も言いよってきた。そして色んな男の子と付き合ってみた。しかし、すぐに物足りなくなった。
 その理由を自分なりに考えてみた結果、つまりもったないから、ということだった。せっかくきれいになったんだから、ずっと同じ男とだけ付き合うなんてもったいない、ということだった。
「ただいまー」
 レンちゃんに近くまで送ってもらった後、私は自宅の玄関の鍵を開け、中に入った。
 予想通り、ママは仕事でおらず、妹だけがいた。
「おかえりー」
 妹は相変わらずゲームをやっていた。
 ゲームといっても、敵をバシバシやっつけていったり車のレースをするようなジャンルのものではなく、意中の男を落としていくというややアレ系なゲームだ。
オタクを明るく公言している妹は、家では暇さえあればこういうのをやっているか、男と男が絡み合うような漫画を読んでいる。妹でなければ、正直近づかないタイプだった。
 そんな妹でも、学校では不思議と人気者だった。小、中、高とずっと学校が被り続けているが、妹のクラスをいつ覗いても妹はクラスの中心で、蔑まれたり嫌われたりしている風が無かった。
 明るさのせい、というのはあった。しかし何より、顔が美少女だったからだ、と思う。私が整形に踏み出すほどコンプレックスを抱いた理由のひとつは、妹の顔だった。一緒に並ぶといつも妹が可愛がられ、ほめられた。
「今日、レンちゃんに会ったよ」
 そう言うと、ようやく妹がテレビ画面から目を離し、私のほうに向き直った。
「え!レン君に!?どうだった、どうだった?」
109変わる自分、本当の自分 前半 4/5:2008/08/19(火) 23:27:56 ID:ynVFSF+l
 犬のように寄ってくる妹。
「うん、相変わらず良い奴だった」
「かっこよくなってた?」
「うん、まあね」
「やっぱり!お姉ちゃんが好きだった人だもんね」
 ずきんとした。
「うん・・」
「ねえ、メアドとか番号、交換したよね?今度こそ付き合ってって言ってみようよ!」
「・・・・・嫌よ、そんなの」
 電話番号は確かに教えてもらった。しかし、交換ではなかった。今は携帯の電池が切れてるからと嘘をついて私は自分のメアドや番号を教えるのを何とか拒もうとした。
昔の私を知る人とはあまり関わりたくなかったからだ。レンちゃんに教えれば、芋づる式に昔の同級生達にも私のことが知れ渡る可能性がある。
『あいつ整形したんだってよ』
 そう陰で言われそうで嫌だった。そう思っている相手と話をするのはいやだった。新しくなった私に、忌まわしい過去は必要なかった。
 でも、レンちゃんは私の意図を知ってか知らずか、
「じゃあ気が向いたら電話してよ」
 と自分の番号とメールアドレスを書いたメモを私に渡してきた。しかしかけられるわけが無い。
「ねえねえ、かけよーよ!私もレン君の声久々に聞きたいなあ」
 またずきんと胸に刺さるものがあった。嫌な思い出がよみがえる。
「ねーねー」
「うるさい!かけないって言ってんでしょ!」
 私はそう言うと、妹を突き飛ばして自分の部屋へ入り、横になった。
 携帯を開くと、タケシからの着信があった。なんてしつこい男だろう、と思いながら、私はそのまま眠ってしまった。
110変わる自分、本当の自分 前半 5/5:2008/08/19(火) 23:29:16 ID:ynVFSF+l
 翌日。
 廊下で数人のクラスメートと雑談をしていると、クラス一目立たないと言われている女、高橋が目の前を通り過ぎた。
 通った後、みんな好き勝手に喋る。
「あの子、地味だよねー。男っ毛全然なさそう」
「きっと処女だよね。キャハハ」
 そうだろうなあ、と思い、私も笑う。
 この中で、きっと一番暗い笑みをしているのは私だろう。
 高校生になってからの私には、優越感という強烈な快感が常に纏わりついている。
 コンプレックスの反動だと自分でも思う。しかしだから何だ、とも思う。
 この世の中で可愛いということはとても大きい。社会的強者ってやつだと思う。その快感に浸れる喜びは、なってみないと分からない。
過去の劣等感がそれを増幅させているというのなら、私はそこに感謝しなくてはいけない。
「おい、カオル」
 聞きなれた声に名前を呼ばれ、げんなりしながら振り返る。そこには残念なことに、やっぱり、タケシがいた。
「おい、なんで返事くれねーんだよ」
「何で私が返事すんの?あんたこそ、またかけてきたら着信拒否にするって言わなかったっけ」
「ばっか、おまえ、照れんなよ」
 きもい。
「きもい」
 現実の声と心の声が同時に出ていた。
 タケシは一日だけ付き合ってやったことのあるチャラ男だ。
 やたらしつこいので付き合ってやったが、あまりの台詞や性格のキモさに耐え切れず、速攻でふってやったが、依然としてまとわりついてくる。
「なー、今日遊びにいかねーか?良い店見つけたんだ」
「あのさ、いい加減・・」
 しつこすぎるタケシに私が本気できれかけた時、目の前に信じられない光景が広がった。
 先ほど私が嘲笑っていた地味な女、高橋が男と話していた。そしてその相手は・・レンちゃんだった。
「ん?どうした?カオル」
 タケシの声など耳に入っていない。
 私は目の前で起きている事態にただただ唖然としていた。
111変わる自分、本当の自分:2008/08/19(火) 23:31:26 ID:ynVFSF+l
今日は以上です。読んでくれてありがとうございました。
112名無しさん@ピンキー:2008/08/20(水) 00:57:50 ID:uqkYeN74
おおGJ!
これは先が気になる!!
是非是非続きをお願いします
113名無しさん@ピンキー:2008/08/20(水) 02:44:14 ID:k/Y05Ff2
ああ、やっぱりGJだ。
11432:2008/08/20(水) 03:22:22 ID:Flj1gFz3
GJ!これはいいですねー!けっこう多い登場人物のそれぞれの対比・関係が立ってる感じがして、楽しみです!
115変わる自分、本当の自分 後半 1/15:2008/08/20(水) 22:55:51 ID:DZDVEV9N
感想ありがとうございます。それでは思った以上に長くなってしまった後半、どうぞ。


 夜。
 騒がしい店の中、私は壁によたれかかり、考えていた。
(あの女、高橋・・)
 後で他のクラスメイトに聞いたところ、高橋は最近他校の男と付き合いはじめたらしい。そしてその相手は・・・よりにもよっ

てあのレンちゃんだった。今日はたまたま近くに来たから寄って行っただけらしく、すぐに彼はいなくなった。
 彼の姿を見つけた後、私はすぐに隠れたため、彼が私に気づくことはなかった。
「ね、ねえ私、やっぱり場違いだよね・・」
 高橋はそう言って困ったような顔を見せる。私はそれに対し、得意の作り笑顔を見せる。
「大丈夫だよ。こういうところはただ楽しめば良いんだから。あ、ちょっと私トイレね」
 そう言って私は高橋からちょっと離れたところに行った後、タケシを呼ぶ。
「なあなあ、なんで高橋も呼んだんだ?別に仲良くなかったろ?」
 そう、仲は特に良くない。良くないどころか、私の中では最も嫌いなクラスメートに今日格下げしたところだ。
 しかしだからこそ私はこの店に誘ったのだ。
「ねえタケシ、あんた私のこと好き?」
「ええ?いきなり何言い出すんだよ。むしろ愛し合ってるだろ!」
 相変わらずのノリ。私は軽い吐き気を催しながら、言葉を続ける。
「何なら、本当に愛してあげても良いよ。ただ、その前にあの女犯して」
116変わる自分、本当の自分 後半 2/15:2008/08/20(水) 22:57:10 ID:DZDVEV9N
「お、おい、お前何いってんだよ」
「あの女と私が一緒に帰るとき、途中公園に寄るからさ、あんたはマスクでもして高橋に襲いかかって。私は上手く逃げることができた被害者ってことにするから」
 タケシが、普段見せないようなマジな驚き顔で私を見る。
「な、何いってんだよ、馬鹿じゃねーの」
「成功したらやらしてあげる。・・まあ犯すの無理そうなら、顔でも腹でも殴るってのでもいいよ」
「おい、お前どうかしたんじゃねーのか?」
「いいからやってよ」
 私はそういいながら、触りたくも無いタケシの一物を握ってやった。布ごしとはいえ、みるみる固くなっていくのが分かる。
「うおっ!やべえっ、やべえって!」
「この続きがしたいでしょ?」
「う・・ぐ・・わ、分かった」
 話は決まった。
(高橋、あんたぐらいの女がレンちゃんと付き合うとか、許されるわけ無いじゃん)
 私はまた最高の作り笑顔で高橋のところへと戻って行った。
117変わる自分、本当の自分 後半 3/15:2008/08/20(水) 22:58:12 ID:DZDVEV9N
「凄かったね。私ああいう場所はじめてだから凄く新鮮だった!」 
 帰り道。高橋は無邪気にはしゃぎながら、私に言う。
「そう、良かった」
 私は作り笑いで相槌をうつ。糞女が、と内心で思いながら。
「音楽とかあんまり聴かないから分からないけど、かっこ良かったね。私もレンちゃんの影響でちょっとギターとか初めてみたんだけど、全然うまくいかなくて・・」
「レンちゃん?」
 レンちゃんという呼び名に、思わず反応してしう。
「あ、うん。一応彼氏。実は幼馴染なんだ。高校では離れちゃったけど、この間私から告白して・・」
 恥ずかしがりながら話す高橋の顔に、私の憎悪はさらに燃え上がる。
(レンちゃんだあ?あんたごときがレンちゃんなんて呼んでいいと思ってるの?彼氏とか呼んでいいと思ってるの?)

(・・・ん?)
 
「ちょ、ちょっと待って、幼馴染って・・どういう・・」
「え?どういうって言われてもそのままの意味だけど・・。家が近くて小さいころから友達だったの」
 当たり前のことのように高橋は言う。事態が物凄い速さで、それもおかしな方向へと展開していくのを感じ、視界がゆがむ。
「高校では離れたって・・?」
「うん、レンちゃんとは小・中と一緒だったから。クラスも同じ時結構あったし」
 同じ時があった?それって、もしかして・・
 もしかして・・・?
 頭がまとまらないまま歩いているうちに、少し開けたところにいた。
「ここ・・?」
 私のあほっぽい呟きに高橋が答える。
「公園だね。行く時もここ通ったよね」
118変わる自分、本当の自分 後半 4/15:2008/08/20(水) 22:59:05 ID:DZDVEV9N
 高橋の言うとおり、そこは公園だった。さすがに夜なので誰もいない。
 ・・公園?あれ、何か公園という場所で何か約束があったような・・
「うおおおおおお!」
 茂みの方から突然の叫び声。そしてそれと同時に飛び出す大きな影。
「・・あ」
「きゃあああああ!」
 頭も身体も鈍っていた私は反応が出来ずにその場に立ち尽くしてしまったが、高橋の方は、そのぽーっとした見かけと違い、思

いのほかすばやい反応で駆け出していった。
「うおおおおい!」
 そう叫びながら出てきた影は、トランクスを被って覆面をしたタケシだった。下にはやる気満々のあれがあり、まさに性犯罪者

と言わざるをえない格好だった。
「馬鹿・・」
119変わる自分、本当の自分 後半 5/15:2008/08/20(水) 22:59:45 ID:DZDVEV9N
 あまりの馬鹿っぽい登場に私が呆れはてていると、タケシはおかしな行動を取った。なんと高橋を追わずに、私に襲いかかってきたのだ。
「きゃあっ!」
「うおおおお、カオルううううう!」  
「な、何すんの馬鹿!」
「だって俺、あんな女よりお前とやりてえんだよ!お前が握るからスイッチ入っちまったんだよ!」
 タケシは勝手なことをほざきながら、私の顔のいたるところに自分の唇を何度も何度もおしつけようとしてくる。そしてその左手は私の服やブラの下をはいずりまわり、反面右手は冷静に私の抵抗をおさえこんでいる。
「きゃああああ!小木さん!」
 高橋が、かなり遠くの方から悲鳴を上げている。
「・・やっぱりここじゃやりずらいな。そこのトイレに入ろうぜ」
「なっ!てめ、誰が・・っ!」
 タケシが強引に私を公衆トイレへと引きずり込もうとする。私は必死に抵抗するが、やはりずるずると引っ張られていき、トイレの中へと近づいていってしまう、
「やだ、やだーーーっ!あんたとだけは死んでもやだーーーっ!」
 私は全力で叫ぶが、タケシの力が一向に緩む気配はない。 
(どうしよう・・フェラしてあげるとか言って、隙を突いて金玉にぎりつぶして逃げだそうか・・)
 などと考えていると、暗闇の中から誰かが私の方にむかって走ってきた。
「う、うそ!」
 私は驚いた。今日は驚くことばかりだったが、その中でもさらに一際驚いた。
「レンちゃん!!」
 現れたのはレンちゃんだった。まるでドラマや物語みたいな絶好のタイミングに、思わず涙が出そうになる。
「やべっ、早く個室に入らないと!」
 タケシも頭が混乱しているようで、かなりおかしなことを言っている。
「ぎゃあっ!」
 しかしレンちゃんが持っていたバットで後ろからタケシを殴ったため、それは阻止された。
120変わる自分、本当の自分 後半 6/15:2008/08/20(水) 23:01:14 ID:DZDVEV9N
「ミーちゃんだったんだ。全然気づかなかった」
 私の部屋には今、私とレンちゃん、そしてミーちゃんこと高橋道子・・・さんがいた。
(ちなみにタケシはあの後やってきた警察の人に連れて行かれた。レンちゃんは近くでミーちゃんを待ちあわせしていたからすぐに来ることが出来たらしい)
「まあ無理ないけどね、もう何年も経ってるし、親離婚して苗字変わってるし」
 ミーちゃんはそう言って静かに微笑んだ。微笑みは変わっていないなあ、と感じる。
 ミーちゃんは、小学校のころ、レンチャンと、そして私とも同級生だった女の子だ。当時ミーちゃんは男勝りな性格で、レンちゃんとも私とも仲が良かった。
 私が男子にからかわれたりすると、さりげなく私をかばってくれたのがレンちゃん、そしてミーちゃんだった。
 二人は当時、私と友達として親しくしてくれていた。それがどれほど私の救いになったことだろう。
「全然気づかなかったよミーちゃん、前は男の子みたいだったのに・・今はずいぶん大人しい子になって・・」
「ふふっ、そうでしょ?ちょっと行き過ぎて、家族からも気味悪がられたし、化粧はまだ下手なまんまだけどね。おとこ女ってあだ名にはいい加減うんざりしてたから、カオルちゃんと同じく、私も自分を変えてみたってわけ」
「え?」
「カオルちゃんも、暗いって言われるのが嫌で明るくなったんでしょ?」
「・・うん」
 恥ずかしい気持ちがゆっくりとこみ上げてくる。やっぱり、昔の知り合いと話す時は平静でいられない。
「それと顔も変えた」 
 どっくんと心臓が跳ね上がる。ミーちゃんてばなんてストレートな子なんだろう。こういうところは全然変わってない。
「うん。・・・やっぱり、分かるよね」
「実は私、今年同じクラスになった時から気づいてたんだ。でもカオルちゃん気づいてくれなかったから、気づいてくれるまで黙ってようと思って。
でもいつまで経っても気づいてくれなくて・・だから今日誘われた時は、ついに気づいてくれたんだって思ったんだよ。勘違いだったけど」
「・・・う、うん・・」
 三年になってもう一ヵ月は経っている。相当鈍いと言われても仕方ない。
121変わる自分、本当の自分 後半 7/15:2008/08/20(水) 23:02:53 ID:DZDVEV9N
「でも、そんなにすぐ気づいたの?私凄く変わったし・・」
「変わったけど、面影はあるよやっぱり」
「うっそだあ」
「ほんと」
 冗談を言ってる風には見えない。そんな馬鹿な、と思った。
「うん、あるある、俺もすぐ気づいたもん」
 レンちゃんまで同調する。
「どこ?どこにあるっていうのよ!完璧に別人になったはずなのにっ!」
 私の変身が否定されたような気になり、ついむきになってしまう。
「どこって言われても・・うーん、なんていうか、こう、全体の雰囲気っていうか表情っていうか」
 期待していたのと違い、なんともはっきりしない答えが返ってきた。
「何よそれ!全然違う顔なのにどうして分かるのよ!目も鼻も口も違うのに!」
「そうなんだよね、そうなんだけど・・分かるというか・・」
「・・・・・」
 私は絶句してしまう。
 目の前の二人も私と同じくしばらく無言だったが、不意に思い切ったようにレンちゃんが言った。
「でも!そのおかげで会えたんだから良いじゃん!」
 そう言って私の手を握る。
「わっ!」
 その行動に思わず私は硬直し、赤くなる。色んな男と付き合ってきたはずなのに、レンちゃんの前では何故中学生の頃のような反応をしてしまうのだろうか。
 ミーちゃんもレンちゃんの意見に同調する。
「そうそう!そのとおり!またこうして話すことが出来て、私凄く嬉しいな!」
「・・・・・っ!」
 ミーちゃんは無邪気に私の手を握って笑顔を見せる。
 くっそう。悔しいけど、やっぱり嬉しい。
 賢い女になったつもりだった。強くてずるくてモテモテで・・誰にも馬鹿にされない、むしろ人を馬鹿にして陰で笑っているような、そんな女になったつもりだった。
 でも。この数年間で作り上げた心の城塞が、がらがらと音を立てて崩れていく。繕うことなど出来そうにもないほどの速さで崩壊していく。
「うわーん!許して、許してミーちゃんッ!」
 私は鼻水を垂らしながら泣いた。二人がきょとんとして私を見ているのを感じるが、私は顔を上げることが出来なかった。
いつまでも。いつまでも。
122変わる自分、本当の自分 後半 8/15:2008/08/20(水) 23:04:30 ID:DZDVEV9N
「お飲み物お持ちしましたーっ・・ってあれ、おねえちゃん泣いてるの?」
 長い沈黙の中、空気を読まずに妹が入ってきた。本当にこいつは・・。
「泣いてないわよ。あんたもノックぐらいしてよ」
「えー?せっかく持ってきてあげたのに。レン君にミーちゃん、お久しぶり」
「あら、ありがとうちーちゃん。大きくなったね」
「それは育ち盛りですから。ミーちゃんもずいぶん変わって。それにレン君も」
「あはは」
 ミーちゃんと話すのと違い、妹はレンちゃんと話す時は少しだけ緊張しているように見えた。私はその何ともいえない雰囲気から逃げるようにトイレに立った。
「・・くそ」
 トイレに座り、私は苦い顔になる。
 あの空気の中に入っていくのは、私にとって苦痛だった。それにはもちんろ訳がある。
 中学生になった時、妹が彼氏を一度だけ連れてきたことがあった。その相手は・・レンちゃんだった。
 妹も私の気持ちを知っていたのでこっそり会っていたようだったが、その日はたまたま私がずる休みをしていたため、はちあわせしてしまったというわけだ。
 妹は結局レンちゃんとは別れたようだったが、そこのところは詳しく聞いてないし、知りたくも無い。
(あの気まずい空気はもう味わいたくない。妹の反応はやっぱりぎこちないし・・・)
123変わる自分、本当の自分 後半 9/15:2008/08/20(水) 23:06:08 ID:DZDVEV9N
 とは思うのだが、いつまでも戻らないわけにはいかない。
 はあ、と一つため息をついた後、私は意を決してトイレを出た。
 するとそこには、帰り支度をしているミーちゃんと、それを見送る妹の姿があった。
「ちょ、ちょっと、もう帰るの?」
「うん、今日は楽しかったよカオルちゃん。また遊びに来させてね」
「う、うんそれはもう。いつでも遊びに来て。・・あれ?レンちゃんは?」
 そう言うとミーちゃんはいたずらっぽく笑った。
「カオルちゃんだからね。許してあげるのは。他の人にだったら絶対あげないもん」
「え?どういう意味?」
 不可解な事を言い残し、ミーちゃんは帰って行った。後に残された私は、視線を妹に移す。妹もすべてを知っているような顔でにやにやしている。
「お姉ちゃんは幸せ者だよ。ほら、部屋に戻って」
(何なんだろう。何がなんだか分からない)
 分からないまま私は自分の部屋のドアを開けた。そこには真剣な顔をしたレンちゃんが立っていた。
「あ、レンちゃん・・わあっ!」
 何も言わず、レンちゃんは私を抱きしめてきた。どういうことだろう、頭が回らない。
124変わる自分、本当の自分 後半 10/15:2008/08/20(水) 23:07:41 ID:DZDVEV9N
「ごめん、もう、我慢できそうに無い。好きだ!ずっと前から、小学校の頃から!」
「ええ?えええええ!?」
 全身、頭も顔も、一瞬で真っ赤になり、のぼせあがる。一体何を言ってるんだろうこの人は。そして私の身に一体何が起きているのだろう。
「ごめんな、今日の俺がどうかしてるってのはわかってるんだけど、どうしても止められそうにない。小木さんが襲われそうになったの見てから、おかしいんだ俺。誰にも小木さんを触らせたくないし、その反面俺が触りたい」
「・・・・・!?」
 展開がいきなりすぎて、上手く聞き取れない。言葉ひとつひとつはちゃんと耳から入ってくるんだけど、その言葉が脳を通らずそのまま反対側の耳から抜けていくような感じだ。
「嫌っていわないと、このまましちゃうからな」
「え・・う・・え・・・」
 頭の中ではそれこそホラー映画ばりに叫んでいた私だったが、現実の口では何も言えなかった。嫌だったらと言うが、今は嫌とかそんなんじゃなく、とりあえず脳に酸素が欲しい。まず脳にこの事態を充分理解させてから、発言したい。
「んっ!」
 唇が唇で塞がれる。息が出来ない。思考もますます出来ない。心臓だけがうるさい。
「ひっ!」
 思わずおかしな声が出る。それもそのはず。レンちゃんの両手が私の服を脱がしにかかっていて、その際に私の胸やへそに直接触れたのだ。
「だめ、だよお・・こんなの!」
「だめ?本当にだめ?すっごく嫌ならいますぐやめるけど」
「・・・・・」
 嫌だ、とは思わなかった。そして言えなかった。ずるい聞き方だと思う。
(でもミーちゃんとの事はいいのだろうか。妹とは・・)
125変わる自分、本当の自分 後半 11/15:2008/08/20(水) 23:09:13 ID:DZDVEV9N
 なんて思考が一瞬よぎるが、すぐに目の前の現実にかき消される。
(ああごめん、私やっぱり意志弱い)
 すでになされるがままの体勢を取った私に、レンちゃんは手際よく私を脱がしていく。
 あっという間に裸になってしまった私の身体を、レンちゃんが子供のように吸い付き、愛撫する。
「あんっ」
 自分でも聞いたことの無いような女っぽい嬌声。脳が、「私のイメージする最も可愛い女」を私にさせようとしている。
「だめ、だめだめえっ!」
 指がゆっくりと私の中を開いていく。恥ずかしいほどに準備を整えた私のそれは、貪欲な「女の顔」をしていた。
「やべ、すげーエロくて、鼻血でそう」
「ばかっ!」
 レンちゃんの本気顔に物凄い「オス」を感じ、私は身震いした。まるで初めてセックスをする時以上に、私の身体はこわばり、それと同時に興奮していた。
今の私の顔を写真で撮ったら、一体どんな顔をしているんだろう、とふと思った。きっと、とんでもなくエロい女の顔をしているに違いない、とも思った。
「あ、あ・・」
 彼のそれが私の一部分に触れ、そしてそのままあるべき場所に帰るようにゆっくりと私の中に収まっていく。
「はああああ・・・あ・・」
 熱にうなされ、声が漏れる。
126変わる自分、本当の自分 後半 12/15:2008/08/20(水) 23:14:35 ID:DZDVEV9N
 耳も視界もぼやける。くっついてから、動いていたのは私だったのだろうか彼だったのだろうか。
 恥ずかしさや倫理観などもはるか遠くの世界で、私と彼は快感を共に味わい、貪る。
 真っ白な世界の中、気持ち良い、という感情だけを時々知覚する。しかしそれ以外の瞬間は感覚とかではなく、ただただ一面の真っ白い海だった。
 それは息継ぎも何も必要無い海だ。まるで母親の羊水のような、ただただ安心して気持ちよさを味わえばいい場所。
「気持ち・・よすぎるよおおっ!」
 不意に意識がしっかりしたと思った瞬間、私は絶頂を迎えた。
 自分の叫び声で思考力が戻り、その思考力が快感を一気に受け止めてしまったがために、私はそのまま高いところへと上り詰めてしまったのだ。
 それと同時に、身体の中に何かが吐き出されるような感覚があった。
 それは気のせいだったのかもしれない、とも思った。イメージのせいかもしれない、生でしたのは初めてだったから、と冷静に考えた。でも、「やっぱり本当に感じた、熱かった」とも思えた。
 彼の熱情が私の奥の奥まで吐き出されたという事実。その事実を認知することで襲ってくる幸福感。
 息も絶え絶えなまま、私は彼のそれにしがみつき、くわえた。
 口の中に広がる苦い味が、私に事実を確認させる。
 彼のものが復活するのに時間はかからなかった。
 私はそれから時間を忘れ、何度も何度も彼と交わった。
127変わる自分、本当の自分 後半 13/15:2008/08/20(水) 23:16:10 ID:DZDVEV9N
「ねえ、本当に私を昔から好きだったの?」
 ベッドの中、手をつなぎながら私は聞いた。
「うん。ずっと言いたくて言えなかった。中学、高校では離れちゃったからずっと言いそびれてた。
・・でもミーちゃんは高校でカオルと一緒になったって言うからこっそり会いに行こうと思ってた。
それで最近はよく会うようになったんだけど・・付き合ってる、なんて噂されたってミーちゃんは言ってたな」
(そうか。それで・・)
 状況が把握できていく内に、私はさらに聞きたくなった。こういう勢いのときでしか聞けそうに無いことを。
「ねえ、妹とは何で別れたの?」
 レンちゃんの顔がひきつる。やはり答えにくい質問なのだろうか。 
「それはえーと・・言いたくない」
「言いたくない?・・まあどうしてもって言うなら良いけど。でも何かひっかかるなあー」
 相手の過去を気にする男も女も最低だと常々思っていた。でもいざ自分が本気でほれた相手を前にしたら、どうしても気になってしまう。
128変わる自分、本当の自分 後半 14/15:2008/08/20(水) 23:20:56 ID:DZDVEV9N
「・・・分かった。言うよ。俺はサイテーな男だってこと」
「え、どういうこと?」
「えとつまり、付き合ったのは小木さんの妹だからで・・ごめんなさい」
 しばらくの間意味が伝わらなかったが、そのうちに氷解した。
「え、ま、まさか!」
「ある時言われたよ。私はお姉ちゃんの代わりじゃないって」
「うわあ・・サイテー」
(でもだからこそ妹は、私にあんなにレンちゃんをすすめたのかな。さっさとくっついてくれ、と)
(それにミーちゃんのあの別れ際の台詞。あれはどう考えても・・)
「だから言いたくなかったんだって・・」
「さっさと私に直接こくれば良かったのに。そうしたらこんな面倒にならないで済んだのに」
「だって・・さ。思春期って難しい年頃だし・・ね。でもようやく今日、小木さんに好きだって言えて、長年のつかえが取れた気分だよ」
「ねえずっと気になってたんだけどさ、その小木さんって、そろそろやめない?恋人になったんだから」
「え、じゃあなんて・・」
「名前で呼んでよ」
「・・・カオル?うわっ、はずかしっ!」
「押し倒しといて今さら恥ずかしいも何もないでしょ」
「そうだな、うん、カオル・・カオル・・やっぱカオルちゃんで」
「ぷっ、あははは」
129変わる自分、本当の自分 後半 15/15:2008/08/20(水) 23:22:19 ID:DZDVEV9N
 部屋の外では、妹が紙コップをドアに押しつけ、盗み聞きしていた。
「・・告白するって言うから場を提供したのに・・。そのはるか先まで言っちゃうとは・・。
ママとパパが二人とも旅行だからいいようなものの・・ま、お幸せに、お二人さん」
 

 妹には悪いと思いながらも、私はその夜、数年ぶりに微笑みながら眠った。
 今の自分も、そして昔の自分もまるごと愛してくれる恋人や友達の存在をかみ締めながら。
130変わる自分、本当の自分:2008/08/20(水) 23:24:37 ID:DZDVEV9N
以上です。途中改行失敗すみませんでした。
ここまで読んでくれた人、本当にありかどうございました。
13132:2008/08/21(木) 00:58:03 ID:6zwUx/0g
GJ!
い、意外な展開だった…。

自分の方もようやく書けたので投下します〜。ちょっとタイミング早いかな?そうだったら申し訳ない…。
132スイーツと香辛料 7章「告白」1:2008/08/21(木) 01:00:09 ID:6zwUx/0g
「高梨さん」
顔をあげると松崎くんがいた。正直、心臓が飛び出すかと思った。

「少し話したいことがあるんだけど……」
ちょっと怯えも入っているけれど、強い意思が宿った目でまっすぐわたしを見つめて、彼はそう言った。
「え、あ、う、うん」
バカみたいな受け答えをしてわたしは松崎くんにうながされついていった。廊下を歩きながら、半月以上ぶりに松崎くんと口を聞いたことに気づいた。前を行く彼の背中を見ながら、ホッとしたり、嬉しい気持ちがこみあげてきたり、どんな話があるのか不安になったりした。

図書室に松崎くんは入った。昼休みで誰もまだいないようだ。隅の長イスにわたしと松崎くんは座った。

松崎くんは目をとじてゆっくり深呼吸みたいなことをしている。ひさしぶりに間近で見る松崎くんの髪、首筋、とじられた瞼を思わず見つめてしまった。時間がゆっくりと流れてると錯覚してしまうほど、わたしはふれて感触をたしかめるように彼を見つめていた。

「高梨さん、この間はごめん」
意を決したようにこちらをふりむいて松崎くんは言った。
「……わたしも酔ってたから」
違う。そんなことを言いたいのではないのに、体が思ったようには動いてくれず、わたしは目をそらしてしまった。
「勝手な思いこみでひがんだようなことを言っちゃって」
「……」
わたしは答えられなかった。
「ごめんなさい」
「そんな……。いいよ、全然」
頭をさげる松崎くんを直視できず、わたしはそれだけいうのが精一杯だった。
「ほんと……気にしないで……」
133スイーツと香辛料 7章「告白」2:2008/08/21(木) 01:02:44 ID:6zwUx/0g
松崎くんはしばらく黙っていた。彼の顔を見れないからどんな表情でいるかわからない。
「……高梨さんは、優しいね」
松崎くんはぽつりと言った。それを聞いて、わたしはもうたえきれなくなった。
「どうしたの!?」
松崎くんがあわててわたしの肩に手をおく。一度泣いてしまうと、止まらずにわたしは下をむいたままでいた。椅子の下の床に涙がぽたぽたと落ちる。
「松崎くん間違ってないよ」
「え……?」
「わたしは……」
その後は言葉にならずわたしは腕で涙をぬぐいながら喉をならして泣いた。
「あの時松崎くんの言ったこと、本当だよ」
そう言ってわたしは立って図書室から出ようとした。

「待って」
松崎くんがわたしの手をつかんだ。わたしは振り払おうとする。松崎くんは驚いて転びそうになりながら、でも手を離してくれなかった。わたしはあきらめて腕をつかまれたまま松崎くんを見た。松崎くんもわたしを見て言った。
「あの……、えっと、また、誘っていいかな? また面白い店見つけたんだけど」
「……ふぇ?」
意外すぎて変な声を出してしまった。
「高梨さんと一緒に店に食べにいくのが、……僕にはすごく楽しいことで……」
「……」
「その、前のことがあってから、もうそんな機会はないと思ってたんだけど……、もう一度誘ってから諦めてもいいかと……違う!そうじゃないや」
わたしがびっくりして顔を上げると、松崎くんは頭をふって自分の腿を殴った。
「その、今みたいな言い訳とかしてる自分があまり好きじゃなくて、前のこともそういう自分だったからああいうことを言ってしまったから、つまり」
言葉を切って松崎くんは言い切った。
「高梨さんと一緒にレストランとかをまわるのが、僕には今一番楽しい大事なことなので、よければまた行ってください!」

松崎くんは顔を赤くして肩で息をしている。長い時間がすぎて、ようやくわたしは口をひらいた。





134スイーツと香辛料 7章「告白」3:2008/08/21(木) 01:11:05 ID:6zwUx/0g
「わたしなんかじゃないほうがいいよ……」
とても不器用で格好悪いと言ってもいい、しかもよくありそうなテンパり方の松崎くんの誘いを、わたしはいつものわたしみたいに寒いとは思わなかった。
むしろ自分の価値観をしっかりもっていて落ち着いてるように見えた松崎くんにわたしに対してこんな生な反応をしてくれることに感動すらしていた。でも、だからこそ。
「さっきも言ったように、わたしは松崎くんが言うとおりのことを松崎くんに対して思ってたから」
また涙が出てくる。言わなくていいことをわたしは言ってる。スマートなやり方じゃない。馬鹿みたいだ。
「かまわない」
松崎くんは即座に言った。
「え」
「それはお互い様で、僕も高梨さんのことを色眼鏡で見てたから。だから心をほんとには許さないようにとか」
「……」
「でも実際に目の前で話している高梨さんは、ちゃんと話してくれたし、一緒に楽しんでくれたし、自分の先入観の方を実際に自分で見た高梨さんの方より信じるのはおかしいと思って」
「それは演技してただけかも?だまされてるだけかもよ?」
「それでもいい。僕は言いなりになってるわけじゃないし、自分が本当に好きなことしかしないから。
それを高梨さんが一緒してくれたら、それが演技だろうと嘘だろうと、自分にとっては、その、一番価値のあることだから。……何言ってんだろ僕、恥ずかしいね」
松崎くんが照れ笑いをした。わたしも笑ってしまう。
「恥ずかしいと思うんだ?」
「ちょっと自分らしくないことしたから。でも言わない方があれだから。自分の価値は自分で決める。さっき高梨さんと一緒においしいものを食べるのは、今僕にとって一番大切なことだから」
松崎くんは、迷いなくそう言い切った。
「……ありがとう。うれしい」
わりと素直に笑顔をそう言えた。
「松崎くんがそんなにクサいこと言うなんて思わなかった」
「そうだよね。凄い恥ずかしいけど……もし笑われてもいいと思って。それでも高梨さんと一緒に遊んだときの楽しさは変わらない、って言いきかせて」
「わたしがそういう嫌なことしても変わらないの?」
不可解だ。




135スイーツと香辛料 7章「告白」4:2008/08/21(木) 01:15:21 ID:6zwUx/0g
「この間からずっと考えてたんだけど……例え笑いものにあとでされても、やっぱり変わらず自分にとって大事なものだって結論になった。
……僕は馬鹿なのかも。高梨さんがよっぽど好きなのかな」
そう言って、松崎くんはあからさまにしまったという顔をした。つい口をついて出てしまった言葉なのだろう。
「いや、今のは……」
「松崎くん」
「え? はい」
「わたしも、好きです」
「えっ」
「嘘じゃなくて、今は本当にわたしは松崎くんのことが大好きです」
不思議と落ち着いて言えた。
「お願い。わたしとつきあってください。わたしにとっても松崎くんが一番大事です」
「……」
愕然とした顔で松崎くんはわたしを見てる。可愛い。わたしは離れていた腕を松崎くんにからませて彼に体を預けた。
「あっ」
驚く松崎くんの胸に顔をおしつけ、背中に手をまわした。
「返事をきいていい?」
混乱した松崎くんが落ち着きをとりもどして、ちゃんと返事をくれるまでにまた長い長い時間がたった。

こうしてわたしと松崎くんはつきあうことになった。なぜかもうまったく迷いはなかった。
それも当たり前かもしれない。
わたしをあんなに価値ある存在だといってくれた人はいないし、しかもわたしはあんな嫌なやつだったのに、それでも変わらないと彼はいったのだ。
好きになっていたことに気づいた人にそんな風にいってもらえるなんて、わたしほど幸せな人なんていないじゃない。
そのことの前では、もうさえないとかオタクとかはどうでもよかった。



7章終。 8章「のぼせる葉子」へ。
?




13632:2008/08/21(木) 01:17:08 ID:6zwUx/0g
以上です。疲れた^^;皆様のお気にめせばいいんですが……。
137名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 01:35:06 ID:OO6ks48F
ふぅ…

お二人共じっじぇー
最近スレが活性化しつつあって嬉しい限り
138名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 02:29:22 ID:iBVJ5EZF
一気に二つも話を読めるとは・・・お二人ともGJ!!
139名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 02:35:00 ID:WxGRVxFo
>>130 GJ!

タケシカワイソス(´ ・ω・` )
140名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 08:32:41 ID:wntJVO4s
>>130
ヒロインがちょっとアレだね
141130:2008/08/21(木) 18:51:54 ID:PZML7lm5
続ききてた!相変わらずさらに続きが見たくなる引きで、感心。


感想やレスをくれた人、本当にありがとうございます。参考になりますし何より嬉しいです。

スレ、活性化もしてきたようで何より。もっと書き手が増えても良いぐらい面白いジャンルだと思います、一途ビッチって。
142名無しさん@ピンキー:2008/08/21(木) 23:11:36 ID:2/aOFxXN
お二方ともGJ。
うまくやるとホントにいい話になるよねこのジャンル。
143名無しさん@ピンキー:2008/08/22(金) 12:34:34 ID:94LuIKdi
ビッチな子が一途になるのはいいが
その要因がビッチな子が一途に思われるだと正直かなりご都合に感じる
ビッチな子が冷たくあしらわれて、振られてそれでも諦められなくなる
それぐらいじゃないとそこらの携帯小説と変わらないと思う
144名無しさん@ピンキー:2008/08/22(金) 12:46:19 ID:gEYP5/V9
>>143
期待してる
145名無しさん@ピンキー:2008/08/22(金) 17:18:31 ID:HMWkQXUQ
>>143
後者の小説を期待しています。
146名無しさん@ピンキー:2008/08/22(金) 18:03:38 ID:9DoWPBEf
>>143
なるほどなあ
14732:2008/08/22(金) 19:23:20 ID:yby/sDVp
>>132

鋭い意見ありがとうございます!

ご都合感ありますねー。一応この後の展開のためのギミックではあるんですが。

見下してた関係から対等になり、かつての自分の偏見などを恥じて悔いるところまでは書くつもりでその為の布石です。
(男の子が古いですがメッシーくんではなく、自分の本当に好きな趣味につきあってくれる存在である限りにおいての価値なのが一応ポイントで)。

その後立場の逆転とか依存、追いすがり的なものはこれでは書かなそうです。
それもリアルにある事というよりは別の形のご都合だし(悪い意味じゃなくてそういうご都合好きですが)、あまり片方が完全に相手の上に立って見透かしてたり、片方が完全に掌の上で踊らせられたりみたいなものが好みではないもので……。

でも自分のやつの漠然と感じてた弱点がわかった気がします。ありがとうございましたm(__)m
14832:2008/08/22(金) 19:24:39 ID:yby/sDVp
間違った(*_*)

>>132さんではなく>>143さんです。失礼しました!
149本当の初恋 前半 1/11:2008/08/22(金) 23:25:18 ID:9DoWPBEf
意見を踏まえてまた投稿します。またかききれなかったので前半部分を。


「何であんたの顔で付き合ってくれとか言えるの?ねえ、教えて」
 目の前の不細工は口をぱくぱくさせている。何こいつ。
「え・・え・・・」
「え・・じゃないってば。あんたの家に鏡はないの?」
 ますます口をパクパクさせる不細工。相当驚いているようだったが、私にはどうでもいい事だった。こいつが死のうが生きようがどうでもいい。
「ひ・・ひでえだろいくらなんでも・・普段の中林さんは・・」
 普段の私とは違いすぎる、とでも言いたいのだろうか。
 何でこいつはそんなに人を簡単に信じられるのか。十数年も生きてきて、社交辞令や建前なんかの存在を知らないのだろうか。
 私は美少女だ。稀に見る顔とスタイルの良さを誇る美少女だ。
 ほとんど化粧が必要ないほど可愛いが、化粧もオシャレも大好きだし、センスはいいほうだ、と思う。
明るくて人気者で、人間として最高に価値があるこの私が、何故こんな不細工(確かミナミとか言う名前だっただろうか。部活でよく来ていた他校の生徒だ)
と付き合わねばならぬのか。
 今までに、私に付き合ってくれと言ってきた男の数は数え切れない。
 真顔で言う男が6割、冗談ぽく言う臆病なイケメン(&イケメン気取り)が3割、後は金や背景、人数の勢いや空気などで私を落とそうとするくずが1割だ。
 正直、今まで私に見合う男はいなかったので、それら全てを断ってきた。
 私にふられた男の中には、私がレズだなんて噂をばらまくのまでいた。
 だからこそ最近は、それなりに交友関係の広そうな男相手には、「それなりの態度で」お断りするようになった。
影響力のなさそうな男には、相変わらず本心をぶちまけてすっきりしているが。今のように。
「うっさい、死ね。消えろ。バスケやってればもてるとでも勘違いしたのか不細工」
 ミナミという男はさらに早く口をぱくぱくさせた後、その場を全力で走って去っていった。
「あーあ、いい男いないかなー」
 かつて私が自分に見合うと感じた男は1人だけだ。しかしその相手はテレビの向こう側の相手で、しかも私と出会う前に病気で死んでしまった。
150本当の初恋 前半 2/11:2008/08/22(金) 23:27:52 ID:9DoWPBEf
「あ、今日私寄るところあるから。それじゃ」
 友達との帰り道。ある交差点まで来たとき、私はおもむろにそう言った。
「え、なに?あ、分かった、カレシ?」
「うん、まあそんなとこ」
 勝手に勘違いしてくれたことをありがたく思いながら、私は一人、ある場所へと向かった。
 そこは、人にはあまり言えない私の趣味の場所だ。
「はーい、おじーちゃん」
「こらこら、せめて制服だけは着替えてから来なさい」
「あ、ダイジョブダイジョブ。替えの服持ってるからトイレで着替えてくるね」
 いくら私でも、そこが制服のままではいられない場所だってことぐらい、知っていた。
「うーん、今日も良い音が聞こえる・・」
 トイレの中からも聞こえる、心地良いジャラジャラという音。
「あい、着替えてきたよ。どう、今日は?」
「ああ、今日は強い人がいるよ。まだ若いんだろうに」
「え、あー、あの人ね。本当に若そう」
 示された方を見ると、帽子を目深にかぶった男の人がいた。その格好のせいで顔はよく見えないが、ひげは見えないので若いことは確かだろう。
「どんな感じ?」
「うん、実際に見てみると良いよ。とにかく振り込まないんだ」
 おじいちゃんに促され、私は彼の後ろに立って様子を見ることにした。
 オーラスだったため、打ち筋をしっかり見極めることは出来なかったが、確かに強い、と感じた。危険牌を全て止めている。
 ・・・そう、ここは雀荘。そして先ほど話した老人は私の実のおじいちゃん。小さいころからよく顔を出していて、ルールややり方を教わった。
 すぐに夢中になった。そしてそれは今も続いていて、最近ではこの雀荘常連を相手にしてもトップのアベレージを残すまでになっていた。
 麻雀は楽しい、最高だ、と思う。まあ、友達にはあまりいえない趣味だったが。
151本当の初恋 前半 3/11:2008/08/22(金) 23:30:15 ID:9DoWPBEf
「お、ユウちゃん。来たんだ。ねえ、ちょうど俺抜けるところだから、俺の代わりにうってみてよ。仇とってくれ。あ、半荘清算だから」
 この店の常連のおじさんが私に席を差し出す。もう何度も打ち負かしている相手だがら、お互い顔をよく覚えていた。
「ふふーん、いいよ。やりましょう。あ、よろしくお願いしまーす」
「おねがいしまーす。か。ユウちゃんはやっぱり可愛いなあ」
 両隣の常連のメタボのおっさん二人がにやにやしてそう言う。ああなんて見た目が悪い人たちなんだろう。麻雀するより運動でもしなよ、と言ってやりたい。
 なんて感情はおくびにも出さず、私はにこにこしながら椅子に座る。
 と、そこで私はある事に気づいた。目の前の男、つまり強いと評判の、先ほど私が後ろから打ち筋を見ていた帽子の男の反応がなかったのだ。
 こういう無言の反応の場合、たいてい、というかほとんどの場合は照れ隠しか、単に「俺はがつがつ行かないぜ」アピールである。
 やれやれ、クール気取ってるつもり?と思いながら私は自分に配られた牌を見た。
 いきなりこれか、と思った。高得点が狙える、それでいてばれにくい迷彩を施す事ができやすそうな理想的手牌。
 事実、その局はメタボおじさんの振込みで一気に点棒を得ることができた。
 勝負あった!と思った。
 私はふり込まない、点数を守ることにかけては自信があるのだ。
 そしてその予想通り、局が進んで行っても私の点数が減ることは無かった。
 やがてラストの局が来た。私は勝ちを確信しつつ、順番を消化していく。そして残り数巡となったところで、例の帽子男がリーチをかけた。勝負に出たのだ。
 ラストでリーチということは、当然トップ狙いだろう。私は慎重に彼の手配を見て、予想をする。
 その結果、ある牌を捨てた。
 私は、先ほど後ろで観戦していた際、彼の癖を見つけたのだ。すなわち、欲しい牌をやたらと目で追ってしまう癖だ。
多分彼は、そのために深く帽子を被っているんだろうと思う。
 彼の捨て牌の傾向、そして目で追った牌の情報をもとに、私は最も安全そうな牌を捨てた。しかしその瞬間。肌がざわっ・・とした。
「ロン・・」
「え?」
 彼は手を倒していた。私の捨て牌に対して。つまり、私からあがった、ということであり、私の点を奪う、ということである。
「う、うそ」
 私に電流が走った。
信じられない思いだったが、彼の倒した手は確かに私の捨て牌であがっていて、それは逆転するに充分な形だった。
 そのどこかで聞いたような声の「ロン」を聞いた瞬間が、私の人生最大の転機だった。
152本当の初恋 前半 4/11:2008/08/22(金) 23:33:14 ID:9DoWPBEf
 それからも、彼は度々私のおじいちゃんの雀荘に来ていた。
 最初はたまたまだろう、と思っていた私だったが、何回やっても彼は強かった。
 もちろん私も勝つことはあった。しかし総合計から言えば遥かに負けていて、しかも勝った時はやたらと手が最初から良いという時だけだった。
 ある程度話もするようになった。
 無口で偏屈な男かと思ったが、話してみると意外にも感じの良い、素直な性格の男だった。・・やっぱり、やや暗かったが。
 話しの大半は、麻雀のことだった。私と彼が初めて会った時、何故私が負けてしまったのかと聞いたら、
『勝負が始まる前の局で、私がギャラリーとして後ろから彼の手を見ているとき、わざと癖があるように見せて引っ掛けた』とのこと。
「麻雀漫画の読みすぎ!」
 と彼にはつっこんでおいたが、実際に引っかかってしまった私が言ってもどうしようもないことかもしれない、とも思い、素直に参考にすることにした。

 そしてある日。
「ねえ、ちょっと」
 私は帰りがけの彼に声をかけた。相変わらず、深く帽子をかぶっていて、表情がいまいち読み取れない。
「ねえねえ、普段は何してる人?」
 私らしくも無い質問だった。気まぐれではあったが、しかしこの正体不明の謎の麻雀バカが普段何をして生計を立てているのかというのはちょっと気になるところだった。
「・・実は学生なんだ」
 と、彼は言いにくそうに言った。
 私は、何故彼が言いにくそうに言うのか分からなかった。この店には中年だけじゃなく大学生とかだってけっこうきてるのに。
「へー、大学生なんだ。もしかして学費これで稼いでるとか?あはは」
 あははと笑いながらも、「実際こいつ稼いでるなあ」と頭の中で呟いた。 
 と、その時ぐーっと私のおなかが鳴った。そういえば麻雀にしばらく没頭していて飲まず食わずだったことを思い出す。
「あはは、おなか減ったんだ?」
「え、うん・・・」
 彼は笑ったが、つい私は彼の顔をまじまじと見てしまった。彼の笑い顔は初めてみたからだ。
「どっかで食べて行こうかな」
 と何も考えずに呟くいた瞬間、彼と目があった。
 ・・もしかして。
153本当の初恋 前半 5/11 :2008/08/22(金) 23:36:27 ID:9DoWPBEf
「そっか。それじゃあね」
「え、ちょっ!」
 私は驚いてついつい突っ込みのような声を出してしまった。当然誘われるものと思っていたからだ。
今までの私の人生では、こういう風に私のおなかが鳴ろうものなら、その時近くに男達がいたならたいてい、「一緒に食べに行こうと」誘ってきたからだ。
 もちろん、誘ってこない男もいたにはいたが、そういうのは大抵私に「声をかけたいけど声をかけない」というオーラを放っていた。大小の差はあれど。
 それがまさかのガン無視。私はついつい一言言いたくなってしまった。
「ねえちょっと。こういう時って一緒に食べてく?とか言うもんでしょフツー」
「え・・。じゃあ、一緒に食べてく?」
 もちろん答えは決まっている。
「・・・・・嫌」
「な、なにそれ・・じゃあなんで・・」
「う、そ。たまには男と二人っきりで食べるのもいいかもね」
 普段は女友達と喋りながらだったり、友達の付き合いで渋々蝿のように寄ってくる男と大勢で食べたりしてるもんなあ、と心の中で続ける。

「ねえねえ、帽子取ってみてよ」
 ゴハンを一緒に食べた帰り道、私は彼にそう提案した。彼はいつも帽子を被っているため、どんな顔か、どんな髪型か、私は知らないのだ。
「ここなら、麻雀やってるわけでもなし、視線とか分かっても何の不都合もないでしょ」
「うん・・そうだね。でも俺が帽子取らないのは別に視線とか関係なくて・・」
「?」
 なんだろう。何故彼はそこまでして顔を見せたがらないのか。私の頭の中ではクイズ番組が始まった。
 @指名手配犯、A酷い傷や火傷がある、B物凄く不細工で人に見せられない、C実はのっぺらぼう・・私は可能性の低い@と面白回答のCを捨て、AかBにしぼった。
 多分Aだろう、いやBかな、などと考え込んだが、答えは出るはずもなく、結局私は彼に頼むしかなかった。
「ねえお願い、帽子とってみて。驚いたりとかしないから」
 AでもBでもカバーできる気遣いのおかげか、彼は帽子をとってくれた。
「わあああああ!」
 私は約束を破り、絶叫して驚いてしまった。
「驚かないって言ったじゃん・・」
「ご、ごめん」
 答えはAでもBでもなかった。
 彼が顔をかくしていた理由は全く別だったのだ。
154本当の初恋 前半 6/11 :2008/08/22(金) 23:39:21 ID:9DoWPBEf
 翌日。
 私にとって、教室は安息の場ではなくなった。
「どうしたのユウ?」
 女友達が聞いてくるが、私は適当に返事を返し、元気を装う。
 私はある同級生の男の子の背中をちらりと見た。振り返らないでよ、頼むから、などと念じながら。
 しかしその願いもむなしく、彼は振り返り、一瞬私と目が合った。しかし直後に何も無かったかのように前を向き直した。なんて心臓に悪い状況なんだろう・・。
 そう、例の帽子男は、私の同級生だったのだ。
 彼が帽子を被っていた理由は単に、高校生だとばれたらおじいちゃんの雀荘に入れてもらえなくなるからだった。
 私の前で中々顔を見せなかったのも、単に雀荘に出入りしていることを学校にばらされたくなかったから。
 ひどい!と私は心の中で叫んだ。すっかりだまされていた気分だった。
 彼とは昨日、雀荘に入り浸っていることをお互いに誰にも話さないよう約束した。彼の方はそれで良かっただろうけど、私の方の精神的ダメージは大きい。
同年代の男子なぞに負けていたことが分かり、悔しくて仕方がなかったのだ。

 とはいえ、それからも彼とは雀荘でよく会った。
 彼は相変わらず強く、手加減などしてくれなかったが(されたらされたで嫌なのだが)、以前より言葉の端々に優しさがこもるようになった。
 お互い顔を知っているせいか、以前よりずっと親近感が沸いたのだ。
 彼とはもちろん、学校では話はしない。
 しかし麻雀が終わった時は、度々彼と食事に行くようになった。まあ食事といっても安いファーストフードばかりであったが。
 そしてある夜、急に気づいてしまった。彼のことをずいぶんと信頼している自分に。
 そしてあのそれほどかっこよくも悪くもないような微妙な顔が、可愛く、あるいはかっこよく見えたりしていることを。
「ばっかじゃないの、あたし!」
 と、一人自分のベッドの上で叫んでみるが、もう気持ちは隠せなくなっていた。
 がつがつせず、かといって気後れしない彼みたいなタイプは、考えてみれば初めてだった。好きな事を一緒にして、わらったり怒ったりを共有するあの小さなスペース。いつしか私は彼を・・
「だからばっかじゃないのあたし!あんなレベルの男!」
 私は再び一人で叫んでいた。
 しかし叫べば叫ぶほど、自分の心臓が高鳴り、否定できない感情がとめどなく沸いてくるのを感じた。
「くっそう恋か。私としたことが・・・」
 口元の緩みを私ははっきりと自覚したまま、私はそのまま眠りについた。
155本当の初恋 前半 7/11 :2008/08/22(金) 23:42:21 ID:9DoWPBEf
「よ、ユウ!今日こそ俺と遊びに行こうぜ。いいとこ見つけたんだ」
 翌日の休憩時間。
 背後から聞きなれた声がしたが、私は振り向きたくなかった。例のしつこい男だと確信していたからだ。クラス内では八方美人を演じている私だが、こいつ相手には冷たくしてもマイナスイメージにはならない。
「なーなー、無視すんなよ。行ってみようぜ、楽しいんだから」
「うるさい」
 振り返らないでいると、そいつは私の前に移動して視界に入ってきた。なんてうざい男なんだろう。
「タケシ、先月あんたが嫌がる女の子に襲いかかって未遂で捕まったって話、有名なんだよ。あんたと話してると私までみんなから浮いちゃうでしょ。話しかけないで変態」
「いやあ、あの女はひでえビッチだったぜ。だまされたんだよ。よくいるだろ、誘っておいて急に気を変えて、無理矢理とか言う女。俺は被害者なんだよ」
「あっそう。でも仮にあんたが被害者だとしても話しかけられたくないの。あっち行って」
 私の拒絶発言に、一緒にいた友達も加勢してくれる。
「そうだよタケシ。あんたどっか行ってよ」
「そうよド変態。レイプ魔」
「おいおい、俺はユウの本心を見抜いて誘ってるんだよ。あれだよ、あれ。ツンデレってやつだ」
「うっざぁ・・・」
「きもい・・」
 白けたムードが漂う中、不意に別方向から私を呼ぶ声がした。
「中林さん」
 ふと見ると、すぐそばに例の雀鬼・・本名、北君が立っていた。
「え・・?」
「ちょっと、来てもらえるかな」
 意外な展開だった。私は驚きのあまり、ちょっとの間口をパクパクさせていた。
 どこかで見たリアクションだ、と思いながら。
 とりあえず、私は素直に彼の後についていこうと席を立った。
「おいユウは俺と・・」
 タケシの声には、誰も耳を貸さなかった。
156本当の初恋 前半 8/11 :2008/08/22(金) 23:43:46 ID:9DoWPBEf
「ね、ねえ何で学校で話かけてきたの?」
 屋上に着いた途端、私はそう聞いた。
「うん、ごめんね」
 彼はさらっと謝る。どうやら本当に話したいことがあるようだ。
 もしかして、と思った。
 ここは屋上、そして男の子と女の子が二人きり、となれば、あのイベントしかない。
そう、私はもう飽き飽きしているあのイベントだ。
「あ、あのさ、もしかして・・あれかな?」
「え?あれって?」
 私の問いに、彼はすっとぼける。分かってるくせに。
「もしアレなら・・私は、オーケーだよ。うん。実は私も・・」
 ごくりとひとつ唾を飲み込み、続ける。
「あなたが好きだったの」
「・・・・・!」
 彼はびっくりしたらしい。固まった表情のまま、唖然として私を見ている。
「えへへ、私人に好きって言ったの初めてなんだあ」
 浮かれる私を尻目に彼の顔はやがてどんどん暗くなっていった。
「え、あれ?どうしたの?そんな顔して」
 暗くなることなど何一つ無いはずなのに、と思っていると、彼は信じられない発言をした。
「・・・ごめん」
157本当の初恋 前半 9/11 :2008/08/22(金) 23:44:55 ID:9DoWPBEf
 空気が一気に冷えきった。ほんの少し前に彼の顔は固まったいたが、今は私の顔が固まっていた。
 今、今なんて言った?
「え、な、何て今?」
「ごめん、付き合えない」
 高ーい場所に上げてもらったあと、いきなり落とされたような感覚だった。
足から力が抜け、いつしか私はへたりこんでいた。
「中林さん!」
 あわてて駆け寄ってくる北君。
 信じられない、こんなの信じられない・・
「嘘、でしょ?」
「・・ごめん、本当なんだ。実は今日、話したかったのは・・」
「聞きたくない!」
 そう叫ぶや否や、私の拳は彼の顎を狙って放たれていた。しかし惜しくもあたらない。
「うわっ!ちょっと、頼むから聞いてよ、ミナミのことなんだ」
「・・・ミナミ?」
 空白状態になっていた頭にぽんと入り込んだミナミ、という言葉をあまり機能してない頭で分析する。
「ミナミ・・方角?それとも大阪の・・」
「違うよ、高校生のミナミだよ。君が先日振った」
「え・・?・・・あ・・・あっ!」
 私はようやく思い出した。自分に先日、告白してきた男の名前だ。
「ああ、いたいた!確かミナミとか言う他校のバスケ部員」
「そう、あいつ、俺の友達だったんだ」
「・・・・・」
 一瞬意味が分からず、私は沈黙してしまったが、やがて顔が青くなるのを感じた。
158本当の初恋 前半 10/11 :2008/08/22(金) 23:45:49 ID:9DoWPBEf
「あいつの振られ方、聞いたよ。正直、聞くに絶えなかった・・」
「ちょ、ちょっと待って、なんて言ってたの?」
「え、だから不細工とか、何であんたの顔で付き合ってくれとか言えるの?とか、死ね。消えろ、とか」
「・・・」
 一字一句間違っていなかった。
 しかし何とかイメージを挽回したい私は、必死に言いわけする。
「う、うそだよ、そこまで言ってないよ。もうちょっとソフトだったし・・」
「・・本当に?」
「うん」
「ふーん・・・」
 お?反応あり?もしやちょっと修復できた?と期待した途端、
「でも他の人からも聞いたんだ。君に振られた人から君の話を」
「・・・・・」
 また高いところから落とされた気分になった。
「本当に、やばいぐらい酷い罵倒だった」
「で、でもさ、それってふられたからつい悔しくて誇張しちゃってるだけだよ、みんな」
「・・・・・」
159本当の初恋 前半 11/11 :2008/08/22(金) 23:47:14 ID:9DoWPBEf
 彼の表情はちっとも変わらない。私はますます焦る。
「それに、ふる時ってあとでしつこくされて嫌だからはっきり言った方が良いと思って。だからかなりきつめに・・あ」
「やっぱり酷いこと言ったんだ・・」
「ち、違うのよ」
 暗に認めてしまった自分の迂闊さをのろいながら、私は必死に釈明する。しかし彼の心は変えられなかった。
「・・ごめん。俺はミナミと昔からの親友だから、それだけでも君と付き合うのはまずいし・・やっぱり、君の本性ってのがどうしても許容できない。
ごめん。俺頭がちょっと固いのかもしれないけど」
 そう言って彼は、一人私を残して教室に戻っていった。
「せっかく・・好きになったのに・・」
 私の目から大粒の涙があふれてきた。 
 演技ではなく、本当に泣いたのは久しぶりだった。
160本当の初恋:2008/08/22(金) 23:51:12 ID:9DoWPBEf
前半は以上です。後半は多分明日に。

あと、>>152
>と何も考えずに呟くいた瞬間、彼と目があった。

>と何も考えずに呟いた瞬間、彼と目があった。

でしたごめんなさい。正直、他にもミスというか変な文はあるのですが、それをいちいち訂正していくのも邪魔臭かろうということで、すみませんがご了承ください。
読んでくれた人、ありがとうございました。
161名無しさん@ピンキー:2008/08/23(土) 00:24:40 ID:5O+qWhz8
gj
良スレ
16232:2008/08/23(土) 01:11:55 ID:+cxe2/JK
GJ!

なんてニヤリングな展開。麻雀という設定がすごく決まってますね。
163名無しさん@ピンキー:2008/08/23(土) 09:07:33 ID:dr8Et5TS
ざわざわ
164名無しさん@ピンキー:2008/08/23(土) 11:13:30 ID:tGA979Rb
最近私が覗いてるスレがやんちゃで困る


作者に惜しみないGJ!
165名無しさん@ピンキー:2008/08/23(土) 13:46:06 ID:60p+xKTP
住人の意見を聞きすぎる必要はないと思いますよ?

一応頭には入れておくけど、好きなように書くってぐらいで十分だと思います。
166本当の初恋 (中) 1/6:2008/08/24(日) 00:35:57 ID:NadPjgE/
続きです。後編を、と思っていましたが思いのほか長くなり、まだ書き終わりません。ごめんなさい。
ゆえに予定を変更して、後半ではなく中盤として投稿させてもらいます。


「ちょっとユウ、ユウってば!」
「え・・なに?」
「もう、またぼーっとして話聞いてない。最近おかしいよ」
「うん・・そうかな・・」
 彼にふられて以来、私は抜け殻だった。どんな話を聞いても、何をしても夢中になれず、毎日をただ消費していくだけの日々。
彼と顔を合わしにくいという理由から、雀荘にも行っていない。
 今日は友達の付き合いでバスケ部の練習試合を見に来ていたが、やはり試合内容も何も頭に入ってこない。
「ねえねえ、バスケ部の沢川君、かっこいいよね」
「え?・・ああ、そうだね」
「もー、どうでも良さそうに言わないでよ」
 だってどうでも良いもん、と頭の中で付け加える。
 しかしあまりに話につきあわないのもまずいと思い、私は少しだけ集中して試合を見る。
 と、その時一人の男の姿が目に入った。忘れもしない強烈な不細工顔。確かミナミとかいう男だ。
 交代でコートに出ると、その顔に似合わず華麗なテクニックを見せて、ゴールを量産していった。
「ありゃー、相手のチームが主力出してきちゃったね」
 友達の言葉に私は久々に耳を傾けた。そうか、主力だったのか。本当にバスケはうまいんだなあ。顔はあれなのに。
 やがて試合終了のブザーが鳴った。結果は私の高校の負けだったが、正直勝敗はどうでも良かった。試合が終わったということに意味があるのだ。私はすぐさま客席を離れ、下へと降りていく。
「ごめん、ちょっと私用事できた」
「え?ちょっと、まさかあんた沢川君に・・」
 酷く勘違いした友達の台詞を背中で聞き流しながら、私は目的の相手に近寄っていった。
「ねえ、ミナミ君だっけ」
167本当の初恋 (中) 2/6:2008/08/24(日) 00:37:41 ID:NadPjgE/
「え・・あ!な、何の用だよ!」
「ちょっと良い?話があるの」
「何だよ今更」
「お願い」
 最初不満げに答えた彼も、結局は私に従い、外へとついて来た。私は自分の「お願い」顔の強力さをよく知っている。
「で、今更なんの話?こんな不細工に用でもあるのかよ糞ビッチ」
 人気の無い校舎裏について、彼が放った第一声がこれだった。
 普段の私ならその十倍ぐらいの罵倒を返しているところだが、今回は見逃すことにした。
「ねえ、謝りたいの私。あの時はちょっとイライラすることがあっただけなの。本当にごめんなさい」
 私が頭を下げると、彼はいくらか驚いたようだったが。
「・・どういう風の吹き回しだよ。どんな裏があるんだ?」
「本心よ。謝りたかったの」
「うそつけ。あんたにふられた男の話、聞きまわったんだぞ。酷い女らしいじゃないか。
今更謝ったところで信用するとでも思ってんのかよ」
 なんて余計なことをするんだろう。北君が聞いた私の悪評というのも、情報元は全部こいつなんじゃないだろうか。
「本当なの。許して。お願い」
「へっ。じゃあ何でも言うこと聞くか?」
「え、そ・・れは・・・」
 普段の私ならきれている。ご機嫌な時でもやっぱりきれている。
「何でもってわけじゃないけど・・ある程度なら・・」
「じゃあまず、試しに3回まわってワンって言ってみろよ。話はそれからだ」
「・・・・・」
 私は呆れた。なんて古典的なことを言うんだろうこいつは。
「嫌なのかよ。なら何ならできるんだ?」
「えーと、一回食事に付き合うとか」
 破格のご褒美を与えたつもりだったが、彼は驚くべきことにそれを断った。
「今更あんたと飯なんか食いたくねーよ。じゃあそうだな、フェラでもしてもらおうかな」
「は?フェ・・ラ・・・?」
168本当の初恋 (中) 3/6:2008/08/24(日) 00:39:51 ID:NadPjgE/
 あまりの突飛な提案に、私はしかめっ面になる。
「フェラだよ。しゃぶるんだよ。さあ、やれよ。それともまさか知らないとか言うんじゃねーだろうな」
 やり方は知っているが、したことなど無かったし、したいとも思わなかった。しかもこんな醜男を相手に・・。
「ちっ、やっぱ無理かよ。なら許してやらねーよ」
 そう言って立ち去ろうとする彼に、私は何とか声を絞り出す。
「ま、待って」
「何だよ」
「あの、せめて手をつなぐぐらいに・・」
「なめてんのかよ」
 本当は手すらつなぎたくなかったが、それすら断られてしまった。
「ごめん。じゃあえーと・・手で、してあげるから。それでどう?」
 吐き気がする提案だったが、効果はあった。ミナミは少し考えた後、「それで良い」と言った。
 言われた方の私は、自分から提案したものの、全身がぞわっとするような寒さに襲われていた。
 手でするなんて言ったけど、あんなものには少しも触りたくない。
「ほら、早くしてくれよ」
「きゃあっ!」
 見ると、ミナミは既にあれを露出させていた。グロテスクで生々しく、感情と本能の塊みたいな醜い物体を。
「ほら!」
 ミナミは私にわざわざ近寄ってきて、それを私の前に出した。
「い・・いやあ・・・汚いし臭いし・・」 
「お前が手でするって言ったんだろ!」
「だって・・」
 だって触りたくないんだもん。と思いながらも、渋々、手を伸ばす。
 しかし、触れるほんの少し手前でとまってしまう。やっぱりこんなの嫌だ。
169本当の初恋 (中) 4/6:2008/08/24(日) 00:42:08 ID:NadPjgE/
「ね、ねえお願い。こんなことなくても許してくれて良いでしょう?」
「なんだよそれ。勝手なこと言うなよ。そうだな、じゃあとりあえず何で俺なんかに許しを請うのか、その理由から教えてくれよ。
そうすりゃ、もうちょっと軽くしてやってもいいぜ」
「・・・それは・・・」
 言えるわけが無い。わけはないのだが、私の口は意思に反して喋りだしていた。
「北君が、私を酷い女だって。私があなたにひどいこと言ったって・・」
「な、んだよ!それ!」
 予想しない答えだったのか、ミナミも驚いたようだ。
「もしかして北にふられたのかよ?おいおい、それで今更俺に謝りに?
言っとくけど、俺にちょっと謝ったところであんたの本性が変わるわけじゃないだろ。北だってそんなこと分かるだろうし」
 そう、そんなこと私だって分かっている。
「将を討つにはまず馬から射て、ってつもりなんだろうが、仮に俺が許したところであんたに足蹴にされた馬はたくさんいるんだ。諦めな」
 そう言って彼は立ち去ろうとした。手でしろ、なんて言いつつそこまでスケベじゃなかったのか、あっさりした引き際だった。

それともプライドの問題だろうか。
 しかし私はその時、自分でも思いがけない行動をとっていた。歩き始めた彼に追いつき、手でそれを掴んだのだ。
「おわっ!いてっ!ちょ、ちょっと待てよ!無駄だって言ってるだろ?俺が仮に許したとしても一時的なことで・・」
「うるさいっ!だまれっ!」
 そう言って私は彼のしまったモノを引きずり出し、ペースなどお構いなしに右手でこすりだした。
「ちょ、ちょっと待てよ、早けりゃいいってもんじゃ・・」
 彼の抗議にも耳を貸さず、私は一心不乱にそれをしごいていた。
「ちょ、ちょっと待って、出ちまう・・くっ!」
「っ!」
 顔に熱いものが飛び散る。どうやら射精したようだ。
 これで約束は果たしたといえるだろう。
 早ければ良いってもんじゃ、なんていっていた彼だったが、今回は早くしごくだけで良かったようだ。
170本当の初恋 (中) 5/6:2008/08/24(日) 00:44:33 ID:NadPjgE/
「さあ、約束は果たしたわよ。北君に、私が誠意をもって謝ったって伝えてね」
 そう言って立ち上がり、私は回れ右をして歩き出す。
「お、おい!聞いてるのかよ!あんたの評判、もう知れ渡ってるのに今更・・」
「評判あげてみせるわよ。悪評広めてた男達に謝って」
「ま、待て、待てよ!おい!そういう奴らに謝りに行って、許してくれるとはかぎらねーぞ!
俺みたいな無茶ふっかけてくる奴もいるかも」
「・・・そしたらまた、今みたいにするわ」
「・・・!」
 彼が息を呑むのが聞こえた。
 ホント、私は何を言ってるんだろう。先ほどからまるで、別の人間が私の身体に入り、私をコントロールしてるかのよう。
「おい、やめろよ!やめてくれよ!あんたそこまでする必要ない!俺が、俺が北に言うから!」
 身体がぴくりと反応する。
「言うって、どんな風に?」
「良いように伝えるさ、過去の評判をなんとか別解釈で覆すような言い方とかしてな。
正直、あんたが他の男のもの触ったりすると思うと、すげー嫌なんだ」
「え・・?」
「だって・・一回好きになった奴をそんな簡単に嫌いになれるかよ。
だからある意味、あんたの言ってた事は正しいんだ。よっぽどきつく言わない限り、なかなか諦めたりできないもんだぜ」
「・・・・・」
 私は黙って聞き入る。その気持ちが、今なら少しは分かるからだ。
「だから、無駄なことはやめてくれよ、頼むから」
「だって・・」
 また私は泣き出す。
「私だって、どうしていいのか分からないんだもん!他にやり方は思いつかないんだし、仕方ないでしょう!
どうすれば良いって言うのよ。どうすれば彼が振り返るって言うのよ!」
171本当の初恋 (中) 6/6:2008/08/24(日) 00:46:08 ID:NadPjgE/
 叫んでいる途中、視界がにじんだ。涙がでていたのだ。
「そんなに、惚れてるのかよ。でも、あんたはただ単に欲しがって駄々こねてるだけだろ。
自分のものにならないからパニック起こしてるだけだ。ガキの恋愛って奴だぜ。断られたら素直に引けよ。俺みたいにな」
「何よ、あんたは大人だって言いたいの!?行動が出来ないだけの臆病者でしょ?一回断られたぐらいで諦めるような・・」
 そこまで言ってハッとした。
 告白されて断って、それでもしつこくよってくるような男は私が最も嫌っていたタイプではなかっただろうか。
「・・・あんたなら、何回も同じ相手に言い寄られるのがどれだけ苦痛か分かるんだろう?」
 空気が止まったような気がした。ああ、そうだ、私は最低だ、しつこい女だ。
「でも・・諦められないのは・・どうすれば良いの?」
 涙を流し続けながら私は聞く。ミナミからは無慈悲な答えが返ってくる。
「・・俺こそ聞きたいね」
「・・・・・」
 長い沈黙があった。そのうちに、ぽつん、と何かが耳に触れた。
 それが雨だと認識した時には、酷い豪雨になっていた。
降り出してからまだ一分も経ってないのに、身体がずぶ濡れになっている。
「雨か。話は終わったろ、俺は戻らせてもらうぜ。風邪をひくわけにはいかないからな」

 ミナミが立ち去った後も、雨の中でひとり、私は立ち尽くしていた。
172本当の初恋 (中) :2008/08/24(日) 00:51:33 ID:NadPjgE/
以上です。後半は早ければ昼ぐらいまでに、遅くとも今日の夜にはあげる予定です。
今回も読んでくれた人、ありがとうございました。

そして感想くれた人、凄く感謝してます。
>>165
やさしい言葉、ありがとうございます。基本は自分が書いてて楽しいものを書いてますので大丈夫ですよ。
173名無しさん@ピンキー:2008/08/24(日) 01:04:32 ID:oc7Hxnih
>>172
この話後編どうなるか予想できませんが、好きです。
174名無しさん@ピンキー:2008/08/24(日) 11:42:22 ID:k41un8/q
>>172
確かに想像出来ない展開だ
これからどうなるかをwktkして待っております
GJ
175本当の初恋 後編 1/18:2008/08/24(日) 19:26:11 ID:NadPjgE/
思った以上に長くなってしまいましたが、後編です。
視点の問題で、若干いつもより読む感覚が違うかもしれませんが、楽しんでいただけたら幸いです。

 その日も俺は、雀荘にいた。
 中林ユウと会ってしまう可能性は充分にあり、正直会ったら気まずいだろうな、と感じながらも、やはりやめられなかった。
「なあ兄ちゃんよ。最近ユウちゃん見ないんだけど、知らないかい?何か喧嘩でもしたとか」
 対局中、常連の一人がそう言った。
「いえ、知りませんよ」
 俺にはそう答えるしかなかった。
 あの一件以来、中林の顔が時々浮かんでくる。
 確かに美人だとは思う。スタイルも良い。
 しかしその裏の顔を聞かされた途端、酷いだまされ方をしたような気がした。
 もちろん、あれだけの女なら、そりゃあモテるだろうと思うし、振り方がきつくなるのも分からないでもない。
 建前やお世辞をある程度はみんな使うものだし、それを完全に真に受けて「だまされた」なんて言うのもちょっと間抜けで、筋違いなんじゃないかという気持ちもある。
 ただ、それでもミナミをあれだけ罵倒した女を許すわけにはいかなかった。
 ミナミとは小さいころからの長い付き合いで、奴には俺が一番苦しいときに助けてもらった恩がある。俺にとっては最も信用できる人間と言って良い。
 ゆえに、当然ミナミを裏切るようなことはできないのだ。
 しかし、それでも中林の事が気になってくるのは何故なんだろうか。
「お、それロン」
「えっ・・あ、しまった」
 向かいに座っている中年のおばさんの声で俺は現実に戻された。
「今日は珍しく不調だねえ。それとも、あたしがついてるのかな」
 おばさんがけらけらと笑う。
 結局、その後もいつもの調子を維持できず、俺は散々な結果で店を出た。
176本当の初恋 後編 2/18:2008/08/24(日) 19:27:42 ID:NadPjgE/
 外に出て、自分のチャリに近寄った時、俺はその異変に気づき、ため息をついた。
「またか」
 そう、また、だった。
 俺の周りで、最近妙なことが多い。
 届いた郵便が既に開けた跡があったり、インターホンの音に出てみても誰もいなかったり、 そして、サドルの上に変な液体がついていたり。
「勘弁してくれよ、もう。どんな嫌がらせだよ」
 最近では常時持ち歩いてるタオルでそれを拭く。
 拭きながら、一体誰がこんなことをしているのだろうと考える。
 こんなことをされる理由があるとすれば、きっと恨みだろうと思った。しかしそこまで恨まれるほどのことをした覚えがない。
 と、その時、別の考えが浮かんだ。ストーカー、という可能性だった。
 嫌がらせの始めにそれを考えなかったのには、ストーカーとはイケメンにつくものと考えていたから、というのがひとつ。
もうひとつは、つまり、現実感がなかったからだった。
 ストーカーの被害というのは全国ではたくさんあるらしいが、とりあえず自分の周りでは聞いたことがほとんど無かった。
それも男に対してとなると絶無であり、何度考えても、「ストーカー?そんな馬鹿な」という先入観が強く、考えすらしなかったのだ。
 しかしストーカーという仮定を信じ、改めて考えてみると、記憶の端々に思い当たるところがあった。時々俺を遠くから見ている視線があったように思えたのだ。
「うそだろ、ありえねーよ・・」
 自分を励まそうとして言ったつもりだったのに、言ってみるとますます暗い気持ちが俺の胸に押し寄せてきた。
177本当の初恋 後編 3/18:2008/08/24(日) 19:29:58 ID:NadPjgE/
 自分が一人で住んでいるアパートの前まで来ると、そこにはミナミが来ていた。
 もちろん勝手に来たわけではない。俺が家へと戻る途中に携帯で呼んだのだ。ミナミの家は近いので、俺より先に着いたらしい。
「お」
 俺の姿を認めると、ミナミが軽く手を上げた。
「俺のが早かったな。どうよ、今日も勝ったか」
「いや、負けた。調子の悪い時もたまにはある」
 俺はミナミを部屋に上げると、早速相談した。
「・・・ってことなんだが、どう思う?」
 一通り説明すると、ミナミは思いのほか神妙な面持ちになって、こう言った。
「思い当たる相手、いるだろ・・中林だよ」
「え・・?」
「告白されたんだろ」
 確かにされた。しかし何故ミナミはそれを知っているのか。
「な・・んで知ってるんだよ、そのこと」
「本人から聞いた。俺がお前に中林ユウの悪評を伝えた後のことらしいな」
 そう。
 俺はあの日、ミナミに謝ってくれ、なんて事を頼むためにあの中林を屋上に呼んだのだ。
 それと同時に、俺には真実を確かめたい気持ちがあった。雀荘で話したときの彼女は、決して酷い女などではなかったし、彼女と話していると楽しかった。
 それが全て演技だったと知らされた時、俺は何かの間違いではないか、と疑った。信じたくなかった。
 ミナミからの情報を自分で聞いた、なんて言ったのは、軽いカマのつもりだったが、それは思いのほか彼女に効いた。効いてしまった。
「それとも、お前にこくるなんて奇特な女が最近他にいたってのか?お前は今まで一回しか女と付き合ったことないだろ」
178本当の初恋 後編 4/18:2008/08/24(日) 19:31:48 ID:NadPjgE/
「・・いや、確かにいないけどさ。つかお前だってもてる方じゃないだろうよ」
 突っ込んでる場合じゃないとは思いつつも言わずにはいられなかった。
「俺のことはいいんだよ!で、どうなんだよ」
「確かにいないけど。でもだからって中林さんはしないだろ」
 ストーカーなんてするタイプではない、と思った。
 あれほど良い女なら俺に執着する必要なんてないし、そもそも俺に告白したのだって単なる気まぐれとかお試しぐらいの気持ちのはず、とも思った。
 俺は言葉を続ける。
「プライド高そうだし。俺のことなんてへたすりゃもう忘れてるんじゃないの?」
 俺は笑い声を混じえながらそう言ったが、ミナミの表情は少しも変わらなかった。
「いや、何するか分からない女だと思うぞ、中林って女は。なんせ今までいくら言い寄られても誰も相手せずにそっけなくしてた女が、わざわざ自分から告白したんだ。
男に関しては誰でも手にいれられる状況だったからこそ、断られたときのショックはでかかっただろ。
だからこそ、何としてでもほしいとダダをこねるんじゃないか?つまり、誰かを使って嫌がらせとか・・あるいはストーカーとか」
「・・・・・」
 ミナミがあまりに本気な顔で言うので、俺は笑い飛ばすことができなくなった。
179本当の初恋 後編 5/18:2008/08/24(日) 19:33:58 ID:NadPjgE/
 ミナミが帰った後、俺はシャワーを浴びながら一人、考えた。
 あんなきれいな女がストーカーだなんて、どこまで考えてもやはり現実感が無かった。
「まあ、まだ決まったわけじゃないよな。
たとえぱどっかの粘着質な男とかに恨まれてやられたいたずらかもしれないし」
 俺は自分に言い聞かせるようにそう言うと、窓から月を見た。
 その瞬間、俺は戦慄した。窓の外にいる何かが動き、去っていくのが見えたからだ。
「うわあああああああっ!」
 俺は慌てて身体を拭き、服を着た。そして慌てて携帯を手に取る。
 第一にまず警察にかけようかと思ったが、しかし男が覗かれたからと言うのは恥ずかしい気がして、結局ミナミに電話をかけた。
 しかし携帯のそばにいないのか、ミナミは出なかった。俺は仕方なく、
「これを聞いたらすぐ来てくれ」という旨のメッセージを留守番電話サービスに残しておいた。
「ちくしょう、こんな時にいないのかよ。くそ、どうすりゃ良い?」
 混乱する思考の中、ふと一つの考えが閃いた。
「そうだ、そうすれば・・」
 自分の人生の中でも稀に見る名案だった。
180本当の初恋 後編 6/18:2008/08/24(日) 19:35:52 ID:NadPjgE/
 私は今、北君の家の裏にいる。
 彼と会わなくなってから、彼のいそうな場所に行って、ひっそりと遠くから見つめることはあったが、話は最近全くしていない。
 しかしいつまでもそうはしてられないと、意を決して話しかけようとしたが、やはりできなかった。
 ある日、彼が雀荘に入っている間に、ちょっとしたいたずらをした。
 彼の乗っていたサドルに乗ってみたのだ。
 してはいけない、と思っていたのに、一度触ってしまうともう歯止めが利かなかった。
 私は彼のサドルの上に下着をずらした状態で乗り、自慰をした。
 彼と会わなくなってからの私は、以前はほとんどしていなかった自慰を、しょっちゅうするようになっていた。
そんな私にとって、彼の股間が直接触れていたそれは、充分すぎるほどの刺激物だった。
 サドルに残った「私の跡」。それに気づいた彼が驚くのを、私は影から見て、ひとりほくそ笑んだ。
 気づかれても良い、気づいて、とすら思ったが、彼は私に全く気づかなかった。
 しかしその日が始まりだった。私はその日から彼に、「私がいたという痕跡」を執拗に見せ付けた。
 彼に届く郵便物を見て、他の女の匂いがあるかということをチェックするのは、ここのところ私の日課だった。
 夜、彼の部屋からシャワーの音が聞こえると私はすかさず窓から覗いた。今日まで気づかれたことは無い。
 そう、今日までは。しかしつい先ほど、彼は私の視線にはっきり気づき、驚きの声をあげた。
 とうとう彼は私の存在に気づいたのだ。
 そうと決まれば、私のすることはたったひとつだった。私は彼の部屋の扉の前まで行き、インターホンを鳴らした。
 ピンポーーン、というのんびりした音が、私には祝福の鐘に聞こえる。
 そのうちに、中から彼が出てきた。何故か、ドアチェーンをつけていたが。
「・・久しぶり。えへへ、とうとう気づかれちゃったね。そう、最近のいたずらは全部私だったの。もう、サドルあんなに必死に拭かなくてもいいでしょ」
 彼の目が、一瞬で見開かれる。
181本当の初恋 後編 7/18:2008/08/24(日) 19:37:16 ID:NadPjgE/
「ねえ、部屋に入れて・・」
 私の声が聞こえなかったのか、彼はその驚きの表情のまま玄関のドアを閉めた。
 私には彼の意図が分からなかった。
「ねえ、どうしたの?何で閉じたの?」
「か、帰ってくれ!」
 部屋の中から、彼が変なことを言う。一体どういうつもりなんだろう。
「ねえ、どうしたの?あ、分かった。勝手に裸見たの怒ってるんでしょ?分かってるって、もうすぐ私の裸も見せてあげるから。好きなようにして良いんだよ」
 しかし彼の返事は無かった。さすがに私も苛立ちを覚え始める。
「ねえ!どうしたの!早く開けて!」
「頼むから、頼むから帰ってくれ!」
「何で?ねえ、何を言ってるの?開けない理由なんてひとつも無いじゃない!」
 彼の奇妙な抗議に、いよいよ私も荒々しくドアを叩き始める。
「ねえ、早く開けないと、隣の部屋の人とかにうるさいって怒られちゃうよ。早く開けてよ!」
 しかし彼は帰ってくれと叫ぶばかりだった。
 と、その時、私は後ろから声をかけられた。
「あの」
 振り返ると、一人の女が立っていた。その顔には見覚えがあった。
「何?」
「私もよく分からないんだけど・・北君に呼ばれたんで。携帯で場所教えてもらいながら来たんですけど、家族の人ですか?」
 何を言っているのだろうこの女。こんな女が呼ばれるわけは無い。
182本当の初恋 後編 8/18:2008/08/24(日) 19:39:11 ID:NadPjgE/
「・・そうね、家族ね。まだ予定だけど」
「予定・・?でも開けてくれないみたいですけど・・」
 そう言って女は不思議そうな顔をする。全く鈍い女だ。
「家族になるって言えば意味分かるでしょ。だから彼は当然私を招きいれるべきなのに、何故か私を部屋に入れないから、ちょっとだけもめてたの」
「え、まさか、北君、実は彼女いたの?ミナミのやつ、そんなことちっとも言ってなかったのに・・」
 女がようやく自分の立場を理解し始める。さあ、さっさと帰った帰った。
「でも、じゃあ何で私は呼ばれたんだろう」
「うるさいわね、知らないわよそんなこと!」
「・・あ、もしかしてあなたストーカーって奴じゃ?北君、電話の声慌ててたし」 
「っっ!」
 そのストーカーという言葉を聞いた途端、私の頭に一気に血が上った。
「なんて?あんた今、なんて言ったのよ!」
「ひっ!」
 私は女の首をつかみ、躊躇い無く力を込めていく。
「ストーカーっていうのは、愛し合ってる人間同士には使わないのよこの馬鹿女!」
「う・・ぐっ・・・!」
 見る見る女の顔色が悪くなっていく。仕方なく、私は手を離す。
「げほっ、げっほっ!」
 女は自分の首を触りながら、むせた。私は改めてドアの方に向き直り、女に言う。
「分かった?私はストーカーじゃないの。邪魔なあんたは早く帰りなさい。これ以上しつこくすると・・そうね、あんたこそストーカーってやつになるわよ」
 女はしばらくむせていが、やがてまた喋り始めた。
183本当の初恋 後編 9/18:2008/08/24(日) 19:42:25 ID:NadPjgE/
「確かに彼には断られたけど、でも、私は嫌がらせなんてしない」
 妙にきっぱりとした声だった。私は思わず振り返る。
「確かに、彼と何とか付き合いたいと思ったし、悪いイメージを取り除きたいと思ったけど、でも彼に嫌がらせなんてしない。
・・近づく度胸も無かった、嫌な顔されるのが怖かったっていうのもあるけど」
 私は顔をしかめながら、女の話を聞く。
「子供みたいに、ただ欲しい欲しい言ってもだめだって、ある人に言われて。
凄くむかついたし、泣いたけど・・でも、私も人をたくさんふりまくってるから、それが本当だって知ってる」
「・・・・・」
「だから、嫌がらせなんてしない」
「でも」
 と、私の口がいつしか言葉を挟んでいた。
「あんた、諦められないんでしょう?だったらどうするの?それとも簡単に諦められるようなレベルの話?」
「違う、違うけど、でも、やっぱりストーカーはルール違反だって思う。だから私は彼に・・好かれるような自分に、今後はなっていきたいの」
 女の言葉は、私を強く揺さぶる。何を理想論を言っているんだろうこの女は。そんなことが通るのは、少女漫画かドラマの中だけなのに。
「身近な人を好きになるのは初めてだったから・・私も最初どうして良いのか分からなかったけど。
でも、自分の身勝手を押し付けるのはやっぱり相手にとって気分悪いから・・どれだけ嫌かは、私も嫌ってほど、本当に嫌っ!てほど、知ってるし・・」
 その初めてという言葉に私はようやく合点がいった。
 きっとこの女は、今まで相当ちやほやされてきたのだろう。
184本当の初恋 後編 10/18:2008/08/24(日) 19:43:42 ID:NadPjgE/
 そして、男を手に入れられなかったのも初めてなんだろう。
 自分に自信があるから。自分なら自分すら変えることができると信じて疑わないから、いつかきっと振り向いてくれるという希望を信じられるような環境で育ってきたから、そんな発想ができるのだろう。
 私は違った。
 私は決して美人じゃなかった。
 初恋も二度目の恋もかなわなかった。
 だからこそ、初めてできた恋人は失いたくなかった。失ってはいけなかった。
 私は自分に自信が無い。だからこそ、どんな手を使ってでも彼を失うわけにはいかなかった。
 なのに、なのに・・
「・・うっ!」
 私の身体に強烈な悪寒が走った。また、またあれだ。こんな時に!
「ちょ、ちょっと、大丈夫!?」
 女が話しかけてくる。うるさい、あんたなんかに心配されたくない。
「ちょっと、北君!この人倒れちゃったよ!」
「え、マジか!おい、大丈夫か!美奈子!」
 視界に、北君の顔が映る。私の名前を呼んでくれた。
「やっぱり・・心配してくれるんだ・・・」
 久々に私は微笑むことができた。意識を失う直前ではあったが。
185本当の初恋 後編 11/18:2008/08/24(日) 19:46:11 ID:NadPjgE/
 病院に運び込まれたその美奈子という女の子は、持病の発作が起きただけで、生死にはかかわらないとのことだった。
 ここしばらくの間勝手に外に出ては、ふらっと帰ってきたりしたため、どこに行っているのか母親も心配していたそうだ。
「あの子は、渡部美奈子って言って、数年前付き合ってたんだ」
 病院から戻ってきた時、北君は私を部屋に入れてくれた。私は黙って彼の話を聞く。
「病気がちで、学校にもあんまり通えなかった。でもちょっとしたことがきっかけで、よく話すようになった。
それで、付き合うようになった。でもやがて彼女は好きな人ができたと言って、俺から離れた。だから、まさか彼女がストーカーなんて、と思ったよ」
 そうだ、その話が本当なら北君にそこまで執着する理由がない。
「でも、病院で彼女と、彼女の母親の話を聞いて納得いったよ。彼女はその男にあっさり振られて自殺未遂をしたんだそうだ。
ただでさえ病院に通う身だったのに、その一件のせいで入院生活を余儀なくされてしまった。
彼女は病室で、俺に会いたいっていつも言っていたそうだ。やっぱり自分を理解してくれたのは・・その・・俺だって」
 最後の方は妙に恥ずかしそうに言う北君を尻目に、私は考え込む。
 渡部美奈子は、もう一人の私だといえるかもしれない。事実、私はその一歩手前まで行ったといえる。
 引きとめてくれたのは、悔しいが、ミナミの奴の言葉。そして、「自分のものにしたい」という感情をわずかに上回った「彼の嫌がることをしたくない」という気持ち。
「美奈子だって本当は無理だって分かってたって。本当にごめんなさいって謝ってくれたよ。」
「・・今後、また凶暴化する恐れは?」
 私は失礼な言い方だろうとは思いつつも、首絞められたんだからこれぐらい当然だろうという気持ちもあったため、さらっと言った。
「多分もうない。美奈子、昔みたいに笑ってたから。俺の笑顔を見て、なんか安心したって。
いや、そんなこと言われた時はちょっと恥ずかしかったけど、でも・・ちょっとうれしかった」
 む。
 なんだそのにやにや顔は、と少し気分を害した私は、聞いた。
「彼女は離れてみて、本当の気持ちに気づいたってことらしいけど、北君はどうなの?」
「どうって?」
「・・今も、美奈子って人、好きなの?」
 彼は少し考え込んだ。その間が、やたらと私を緊張させる。
186本当の初恋 後編 12/18:2008/08/24(日) 19:48:07 ID:NadPjgE/
「・・・情は、やっぱりあると思う。でも・・恋とか愛じゃなくて・・友達を心配するような・・」
 やったあ、と頭の中では跳ね回っていたが、それを表に出すのはまずいと感じ、私は表情を変えずに別の質問をした。
「そういえば、何で私を呼んだの?ミナミ・・君、とか呼ばずに」
「いや、かけたんだけどでなかった。もう寝たのかも」
 ということは、ミナミの次ぐらいには私を信用しているということだろうか。しかし次の言葉が、私の出来かけの自信を崩壊させた。
「それと・・実は・・ちょっと、ほんのちょっとだけ疑ってて。その、最近されてた嫌がらせの犯人じゃないかって・・」
「・・・・・」
 私は無言で彼をにらんだ。
「ごめん!その、悪い評判聞いてたし、他に思い当たらなくて!」
「・・・・・」
 両手を合わせて謝る彼を、私は尚もにらみ続けた。
「ごめんなさい、本当に!」
「・・・ま、良いわ。でもこれで、評判よりはマシな女って分かったでしょ?」 
「うん。ごめん。それに・・さっきの二人の会話、途中から聞こえたけど、中林ユウさんは思ったより嫌な奴じゃなくて・・」
 お?と思った。流れが良くなってきている。
「うん、そうでしょそうでしょ?」
「・・というか自分に素直な人で これまで生きてきただけなんだなあって」
 あれ?
「振られたことが無いから、あんまり罪悪感無く、人に酷いこと言ってたんだなあって」
 アレ、あれあれ。また流れが・・。
187本当の初恋 後編 13/18:2008/08/24(日) 19:49:11 ID:NadPjgE/
「で、でもっ!」
 と言いかけた私の唇に、暖かいものがあたった。それが彼の唇だと気づいた瞬間、私は驚きを通り越し、
「あひゃえいっ!」
 というような、奇怪な叫び声を上げ、そのまま後ろに倒れてしまった。
「・・だから、変わり始めた中林さんを信じるよ」
「え、え、え?」
 私はあまりといえばあまりの急展開に、今までの人生で最大級に動揺していた。手や足に力が入らない。
「んっ!」
 彼はへたり込む私に、追い討ちのように二度目のキスをする。
 二回目だったから、さすがに先ほどよりは意識をしっかり保ち、その唇の感触を感じることができた。
「・・こ、これが、キスかあ・・・」
「えっ!」
 彼の驚きの声。まあ驚くのも無理は無いか。
「悪い?ファーストキスだよ」
 動きが止まった彼に、今度は私からキスをした。
 もう止まれなかった。
 止まる気も無かった。
188本当の初恋 後編 14/18:2008/08/24(日) 19:49:56 ID:NadPjgE/
「んっ、あっ・・!」
 恥ずかしがりながらも、しかし勢い良く脱いでいった私の身体に、彼が唇で触れていく。
 彼が触れた場所には、小さな熱が残る。
 その何ともいえない気持ちいいようなくすぐったいような、恥ずかしいようなそんな感覚に、私はいちいち騒いでしまう。
「やっ!・・ひっ!ううっ・・・」
 まるでしゃっくりが止まらない人のようだ、と自分の事ながら思った。
 やがて彼の手が私の中心に触れると、先ほどの比ではない、強烈な刺激がきた。
自分で触るのと人に触られるのはこんなにも違うものかと私は軽く感動する。
「・・あの、キスがはじめててってことは、その・・」
 指先でそこをいじりながら、彼が言う。
「・・・もちろん。そういうこと。今、死ぬほど恥ずかしいんだから。分かってる?」
「・・うん、俺も最初はそうだった」
 ということは今は恥ずかしくないということか、不公平だ、と思った。
 やがて、彼の指は入り口の前をいじるだけではなく、中まで入ろうとした。
「んくっ!ちょ、ちょっと待って!指入れたらだめっ!」
 私の抗議に彼は耳を貸さなかった。
 そしてそれに呼応するように、湿り始めた私のそこは、少しずつ彼の指を招き入れる体勢を作っていった。
189本当の初恋 後編 15/18:2008/08/24(日) 19:52:02 ID:NadPjgE/
 あまりの可愛さに、俺は理性を保つ上でぎりぎりのところまで来ていた。
 目の前の中林さん・・いや、ユウは、はっきり言って物凄く可愛い。上気した美しい肌に、恥ずかしくて仕方ないといった真っ赤な顔。
 もう細かい前戯なんてすっとばして、深くつながりたい、激しくしたいという感情が噴出しそうだった。
 しかし現実の俺は、ただ静かに、ユウの状態を整えていく。少しでもつながる際に苦しくない状態へと。
「やだっ・・やだっ・・恥ずかしくて、死ぬ・・・っ!」
 ユウは泣きながら、笑ったような顔や怒ったような顔を作る。
 やばいほど可愛い、という言葉が浮かんだ。やばい、本当にやばいんだ。頼むから、それ以上興奮させないでくれ。
「うくっ・・はぁ・・っ!」
 まだ不慣れといった感じのあえぎ声をしばらく聞いた後、俺はようやく自分のものを取り出し、ゴムをつけた。
「え、入れるの・・?」
 肩で息をしながら、ユウは聞く。
「大丈夫だから。力抜いて」
 一刻も早く入りたいと主張している俺の分身を必死になだめながら、俺はユウを安心させる。
「うん・・力、抜く。だから、やさしく・・してね」
 だから、だからそんなに可愛い顔をするなってば。
 俺はそれでもなんとか自分自身をおさえ、ゆっくりとそれを近づけ、埋没させていく。
「う・・くっ!」
 ユウが顔を逸らし、苦しみを表現する。
 一方、俺のほうは初めてでもないのに、入れただけでいきそうになってしまった。
 その射精感をなだめながら入れて行ったおかげで、自然とゆっくり入れていく形になる。
「ううっ・・うう・・」
 ユウの呻き、声、一挙動全てが可愛らしく、愛しく思える。
 冷たくされていた相手に優しくされると、そのギャップのせいで凄く良く見えるというが、もしかしたら俺は今それにかかって、尚のことユウが可愛く見えるのかもしれない、と思った。
190本当の初恋 後編 16/18:2008/08/24(日) 19:53:46 ID:NadPjgE/
「いた・・い・・痛いよ・・やっぱり、痛いんだ・・」
 ユウが泣き顔で俺に訴える。
 その痛みは共有することはできなくても、安心させることならできるかもしれないと思い、俺は少しでも安心させられそうな言葉を、思い浮かぶ限りユウになげかけていく。
 ユウはそのたびに、「うん、うん・・」と頷く。ユウの両手は俺の手をしっかりと、それこそ痛いほどに強く握りこんでくる。
 やがて、なだめすかして何とかもたせていた射精感が、有無を言わせない勢いで襲ってくる。
「ううっ!」
「えっ・・?」
「ご、ごめん、もう、いくっ!」
「え、で、出るの?」
 その返事に答える間もなかった。俺は巨大化していたその熱情を(コンドーム内とはいえ)ユウの中で放った。
「あ、あ、いったの?」
 ユウがまだ事態を理解できてない顔で言う。
「うん・・」
 ユウの中から俺は萎んだものを引き抜き、それをはずす。
「あ・・ホントだ。こんなに、出したんだ」
 取り出したコンドームを指で触りながらユウが子供みたいに言う。
「う、ん・・でも、あんまり見ないでくれ。なんか恥ずかしい」
 自分の精子を恥ずかしがる奴はあんまりいないだろうが、俺の場合は違った。自分の精子がいつまでもその場に残ってたりすると、なんかトイレを覗かれた後みたいな気分になり、妙な気恥ずかしさを覚えるのだ。
「ふふーん、恥ずかしいんだ」
 ユウが小悪魔っぽく笑う。その笑みが、物凄く妖艶に思えて、身震いがした。
191本当の初恋 後編 17/18:2008/08/24(日) 19:54:56 ID:NadPjgE/
「ああ、はずかしいからそれ・・返して」
「やーだよ。私ばっかり恥ずかしがるのは不公平だから、お返しに・・」
 と、その瞬間、ユウはコンドーム内にたまった精子を、自分の身体の上に落とそうとした。
「わああああ!何してるんだ!」
 俺は慌ててひったくる。
「えー、だって顔とか身体にかけてたよAV女優は。普通、するもんなんじゃないの?」
「するもんじゃ・・ない・・と、思う。多分」
 一体何を普通とするかは知らないが、俺はとりあえずそう言っておいた。
「でも。なんか私痛がってばっかりでつまらなかったでしょ?だからせめて・・」
「いや、いいんだ、そんなことしなくて。それに最初大抵の人は痛いもんなんだから」
 むしろ初めての仕草が可愛かったから、むしろそれで良いんだ、とすら思った。
「ねえねえ、ところでさ。これで・・私たち、恋人で、良いんだよね?」
 そういえば話の途中でいきなり俺からキスしたんだったっけ。
 今となっては、素直に気持ちを認めざるを得ない。
「うん、ホントは俺も・・雀荘で一緒に麻雀したり喋ったり、飯食べたりしてて、楽しかった。実は元々好きになりかけてた、と思う。
でもミナミの話を聞いて、分からなくなって。でも、色々あったけど・・・うん、好き・・かも・・」
「かも?」
 またあの凄い目で睨まれ、俺は慌てて言い直す。
「ごめん、すげー好きです。めちゃめちゃ可愛い、と思う」
「・・そう」
 今度は逆ににんまりとして、それでいて照れたような顔をユウはする。
 ああやばい、可愛い。さっきからそればっかりだ。なんて落ちやすい男なんだろう俺。
「じゃあさ、もっかい、キスして」
192本当の初恋 後編 18/18:2008/08/24(日) 19:59:16 ID:NadPjgE/
 ユウの言葉に反対意見などあるはずもなく、俺は彼女の顔に唇を近づけていった。
 そして合わさった瞬間、ガチャリと玄関のドアが開き、聞きなれた声が聞こえてきた。
「よー、ちょっとバスケ部でカラオケしててさ、電話出られなかったんだけど、一体どうし・・た・・・」
 よりにもよって。よりにもよって今頃来るか。しかも俺とユウは裸だ。
「うら、う・・裏切り者っ!」
 ミナミはそう捨て台詞を残し、走って去ってしまった。悪いことをしてしまった。
「見られちゃったね・・」
 ぽん、とユウに肩をポンと叩かれた。
 その肩をポン、はどういう意味だと聞きたかったが、結局聞くことは無かった。
193本当の初恋 :2008/08/24(日) 20:01:05 ID:NadPjgE/
以上です。読んでくれて、ありがとうございました。
194名無しさん@ピンキー:2008/08/24(日) 20:14:30 ID:LTw6oKV9
GJ
195名無しさん@ピンキー:2008/08/24(日) 20:39:00 ID:NadPjgE/
やばい、書き終わったら気が抜けてた・・

前半、中盤と、感想やgjコメントくれた人、ほんとありがとうございます。すげー嬉しいです。
あと32さん、続き熱望してます。余計なプレッシャーになったら、その時はごめんなさい・・
あと、新しい書き手が現れてくれることも期待してます。このジャンルがもっと広まってくれたら、と思います
19632:2008/08/24(日) 21:15:39 ID:uYvYVJPC
GJ!
いやーこういう叙述トリックみたいのでくるとはびっくりしました!面白かったです。

しかも励ましていただいてありがとうございますm(__)mとりあえず最後まではこちらで書かせていただきます。よろしくお願いします。

これからもお暇あらばガンガン書いちゃってください(^^)
197名無しさん@ピンキー:2008/08/24(日) 23:01:17 ID:k41un8/q
>>193
ふぅ…

GJ
198スイーツと香辛料 8章「のぼせる葉子」1:2008/08/25(月) 01:14:09 ID:ngXlJwb5
もうすぐ夏休みになる。

この休みには母と父が二人だけで旅行にいく。
姉は家を出ているのでわたし一人になるが、まったく心配しなくていいと強くすすめて1週間夫婦水入らずのローマ旅行にいかせることに成功した。

「というわけで」
校舎裏の目立たないベンチで彼氏によりかかりながらわたしはいった。
「お父さんお母さんがいない1週間のあいだ、泊まりにきて」

わたしの彼氏―松崎啓はわたしが自分の胸に頭をあずけてきただけで動揺していたのに、このお誘いをきいて完全に冷静さを失った。
「ちょ、ちょっと待って」
「ま・た・な・い」
ニッコリ笑ってわたしは啓くん―最近こう呼びはじめた。こう呼ぶと恥ずかしがる姿が可愛い―をさらに追いつめる。
「大丈夫だから。きっと楽しいよ? 1週間わたし一人だけなんて危ないでしょう?」
「あ、危ないのはそうだね……。でも……」
「なあに?」
「その泊まるのは……」
「なんでだめなの?」
「なんで!?」
わたしはクスクスと笑いながら、口を啓くんの耳に近づけた。
「なにか期待してるの?」
啓くんが声にならない声をあげる。
「た、高梨さん」
「啓くん」
「う……」
「名前で呼んで」
「よ、葉子さん」
「もう。さんはいらないのに」
わたしは不満で口をとがらせたが、ゆるしてあげた。
「せめて一泊とかにしない?」
啓くんは観念したように、でも最後の妥協策をいった。
もちろんわたしは頭をあずけた胸から啓くんを見上げて満面の笑みでいう。
「い・や。1週間ね」
絶句しやがて肩を落として降参した啓くんにまたわたしはささやいた。
「ねえ啓くん」
「な、なに……?」
「期待、しててもいいよ?」
また啓くんは絶句した。
199スイーツと香辛料 8章「のぼせる葉子」2:2008/08/25(月) 01:16:44 ID:ngXlJwb5
「……変わったね」
みさきは処置なしというように首をふって言った。
「ふふふ」
「1週間も何すんの? やりまくるの?」
わざと下品な言い方でみさきはいう。
「さあ? 啓くん次第ではそうなるかもね〜」
「…はあ」
みさきはあきらめたようにため息をついた。
「幸せそうだね」
「うん」
「松崎くんってそんなにいい男なんだ?」
「うん」
「どこが?」
「聞きたい?」
「う……」
「聞きたいの?」
のろけられる、とみさきは嫌な顔をする。
「……まあいいか、言ってみて」
「あ、聞くんだ」
「なによ」
「いや、えーと。……わたしあんまりノリがいいとか強引な男の人とか好きじゃなかったみたい」
「あー、そうかもね。葉子ちょっと合コンとかもひいてた感じするかも」
「やっぱそう?みんなしてるし、できないとダサいと思ってたから合わせてたんだけど……なんか体に合わない」
「それで松崎くん?」
「そう……うん、でも」
わたしはため息をついた。
「でも?」
「啓くんはわたしにはもったいないかも」
「はぁ!?」
みさきはクラスの皆がふりかえるような大声を出した。
「声がでかいよ……」
「どうしたの葉子。正気?」
「うるさい」
「わたしにはもったいない……いつの時代の話?昭和?」
「……」
「なんでそう思うの?むしろ松崎くんでしょう?そう思うとしたら」
「……啓くんは、ちゃんと自分の価値観もってるから、そういうのにあんまり左右されないよ」
「へえ」
「わたしが舞い上がって告っちゃったから、つきあったけど本当は啓くんは乗り気じゃないかも……」
「なんでそう思うの?」
「……」
「それで1週間泊まらせて体でつなぎとめるみたいな?きゃー」
「そんなんじゃないけど……」
「……でも、あんたがそんなになってるし、別のもきてるみたいだし、松崎くんマジでプチブレイクするかもね」
「……別のって何?」わたしが不穏な空気を感じで低い声でいうと、みさきは意地悪な顔で笑った。
「近づいてる女がいるらしいよ、松崎くんに」
200スイーツと香辛料 8章「のぼせる葉子」3:2008/08/25(月) 01:20:10 ID:ngXlJwb5
啓くんに近づく女がいる―。わたしはみさきから恫喝まがいの迫り方で、その噂のことを聞き出した。

宮本まさみ。違うクラスだ。啓くんが色々なレストランをめぐっていることを聞きつけて、一緒に行きたいなどと誘っているらしい。
わたしは敵情視察のためこっそり彼女のいるクラスにきた。
「あれ?葉子じゃん」
友達が声をかけてきた。
「どうしたの?」
「いやなんでもないんだけど……このクラスの宮本さんってどの人?」
「宮本さん?あそこ」友達が指さした先をわたしは目を細めてみた。

……やばい。かわいい。

「……宮本さんってどんな子?」
「えー、いい人だよー何か天然?」
「……モテそうだね」
「超モテる。ギャルって感じでもないし、誰とでも仲良くしてるからねー。ちょっとブリッ娘?でも彼氏いないみたいだよ」
最悪だ。状況がどんどん悪くなっていく。
「でもなんで?」
「なんでもない。ちょっと話に出たからさ」
「へえ。あ、葉子聞いたよー、なんか変な人とつきあったんだってー?」
友達の質問に上の空で適当に答えながらわたしの中では焦りや不安がうずまいていた。

「わたしにはもったいないかも」
もし彼女が、本当に彼にふさわしい人だったら?
先走りすぎな考えが、頭にいすわって離れなかった。


8章終。9章「肯定による改心」へ
20132:2008/08/25(月) 01:21:56 ID:ngXlJwb5
以上、こっそり更新です。ついにデレ期に入って自分は書いてて楽しいんですが、どうでしょうかね…。
202名無しさん@ピンキー:2008/08/25(月) 01:45:35 ID:8SkhjrR7
GJ
203名無しさん@ピンキー:2008/08/25(月) 02:17:29 ID:GpRPpDpW
GJ!!

自分はこういう展開大好きです!
204名無しさん@ピンキー:2008/08/25(月) 02:20:52 ID:XxZ1M+vz
それは妄想に脂が乗ってきてるからでは?大トロゾーン突入です。
205192:2008/08/25(月) 18:34:30 ID:qNY9c3QL
スイーツと香辛料続ききてる!葉子ずいぶん可愛くなってていいなあ。
デレ期をどれだけ可愛く書けるかが、このジャンルの重要ポイントな気がしないでもないです。

あと、gjかいてくれた人含め、32さんも、感想マジでありがとうございました。
また何か浮かんだらその時はすぐ書くようにします。
20632:2008/08/26(火) 12:20:18 ID:cQETCkjh
皆様ありがとうございます!とても励まされました!

ちなみに下がなんとなくの高梨葉子のビジュアルイメージだったり。

http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0010/11/31/040010113140.html
207名無しさん@ピンキー:2008/08/26(火) 14:09:56 ID:Lqi8aeKP
まさかエロ漫画のキャラがモデルとは思いませんでした。
俺だけかもしれないけど
20832:2008/08/26(火) 16:24:33 ID:TG+k8Cuc
いや、すいません^^;

半分くらい書いてから葉子っぽいのいないかなーと探してたらなぜかこの同人が見つかったという。
209名無しさん@ピンキー:2008/08/26(火) 20:58:01 ID:Lqi8aeKP
いや、想定してたより可愛かったけどw
210名無しさん@ピンキー:2008/08/28(木) 03:45:58 ID:NrVrg0I7
保守
211名無しさん@ピンキー:2008/08/28(木) 23:54:54 ID:U208Kmim
保守と言わずに誰か書こうぜ保守
212名無しさん@ピンキー:2008/08/29(金) 02:51:32 ID:zsgmYyeZ
喪主
213名無しさん@ピンキー:2008/08/29(金) 23:57:21 ID:jFIB49dw
続きまだかなまだかな
214スイーツと香辛料 9章「肯定による改心」1:2008/08/30(土) 22:20:24 ID:OgO5dJux
わたしは渦巻く不安や焦りのなかで、どうしたらいいか悶々と考えていた。

わたしは啓くんの彼女で、相手は―まあ、たしかに可愛いけど……―天然でちょっとダサいただの女子の一人。気にする必要なんてない、とクールに無視しよう。眠れずにあちこち迷走したあとに、わたしはわりと無難な結論をだした。

「おはよう、……葉子さん」
まだ名前で呼ぶのに慣れない感じで啓くんがわたしに声をかけた。
「お、おはよう」
なぜわたしは動揺してるのだ。
「ね、ねえ啓くん?」
「うん」
「こ、今度どこいこうか?」
「ああ、京都に本店がある喫茶店が東京にもあるからそこに行ってみようと思うんだけど?どうかなあ?」
「うん、すごく行きたい。……それでその」
「うん?」
「最近とかわたし以外に誰かと出掛けたりする予定なんかあったり……ごめんなんでもない」
「え?」
啓くんは戸惑っている。てゆうかわたしは馬鹿か。意識しまくりである。
「いや……ないよ。今入ってる予定は葉子さんとのだけ」
「あ、そ、そうなんだ」
嬉しい。啓くんの腕に自分の手をからませる。
「わ、よ、葉子さん」
「ふふふ。啓くん、好きだよ」
「……っ!」
啓くんが目に見えて動揺してる。わたしもそれを面白がりながら少し顔が赤いかもしれない。
「……最近啓くんが色んなお店行ってるのけっこう知られてきてるみたいだから……」
「ああ……そうかな?」
「うん」
「へえ。そういえばたまにそういう話してくる人いるなあ」
絡ませていた腕が自然にかたまった。
「それって、……誰?」
わたしのあからさまに低い声にも気づかず啓くんは言った。
「宮本さんだったかな。料理研究会の人で……」
21532:2008/08/30(土) 22:22:30 ID:OgO5dJux
以上、すいません。なかなか進まないのでここまでアップしちゃいますm(__)m
216名無しさん@ピンキー:2008/08/30(土) 22:55:58 ID:fTRHOajl
まさかのすん止めw
続きは見たいけど気にしないで、ゆっくり書いてください
217名無しさん@ピンキー:2008/08/31(日) 12:18:29 ID:12ix+Y8y
ドキドキする。キャラが可愛らしいな
218スイーツと香辛料 9章「肯定による改心」2:2008/09/02(火) 21:37:46 ID:m9Jy19Bw
「聞いちゃったよー」
みさきが意地悪そうな顔をしてわたしの前の席に座った。
それでなくても朝に啓くんに聞いた宮本まさみのこと―といっても料理研究会の人で色々な料理に興味があるから自分に話を聞きにくる、ということくらいしか啓くんは言ってなかったが―で穏やかじゃない気分だったので、わたしは嫌な顔をした。
みさきのこの表情はきっと悪いニュースをもってきたにちがいないから。
「なに?」
「ふっふっふ」
「なによ」
「さっき廊下で松崎くんと宮本さんの話してるの聞いちゃった」
「……っ!」
「聞きたい」
「……」
「いいの?じゃあ……」
「ちょっと待って!」
立とうとするみさきのシャツをひっぱって座らせる。
「ちょっとやめてよ、スカートから出ちゃうでしょ」
「ごめん。で、なんて言ってたの?」
「いやあ」
「いやあじゃなくて」
「彼女さんが羨ましい〜」
「……!?」
「私もつれてってほしいなぁ〜」
「……」
「いやあ、天然ブリッコの威力はすごいね」
「……啓くんはどんな感じだった?」
「うーん、まあいつも通りといえばいつも通りだけど……」
みさきがにやっと笑って言った。
「まんざらでもない感じ?」
21932:2008/09/02(火) 21:38:30 ID:m9Jy19Bw
以上、小出しで申し訳ないm(__)m
220名無しさん@ピンキー:2008/09/02(火) 21:59:43 ID:TOTMPI8N
GJ!!

あせらずマイペースでいいと思いますよ。
221名無しさん@ピンキー:2008/09/02(火) 22:50:23 ID:NgCIXEcn
こ、小出し過ぎる・・

が、gj!
222名無しさん@ピンキー:2008/09/05(金) 01:28:24 ID:0gzd29px
ほしゅ
223名無しさん@ピンキー:2008/09/07(日) 15:07:46 ID:C+QD/nAS
age
224名無しさん@ピンキー:2008/09/08(月) 16:43:26 ID:G6bT8qR/
続きが気になる!
225名無しさん@ピンキー:2008/09/10(水) 20:47:54 ID:N3EmqoWd
このスレでいうビッチって性格の悪い女?
それとも尻軽女?
226名無しさん@ピンキー:2008/09/10(水) 22:57:14 ID:AWJMznFN
どっちでも
227名無しさん@ピンキー:2008/09/13(土) 01:41:27 ID:GfZ5XFua
続きまだかなー。
228名無しさん@ピンキー:2008/09/14(日) 15:54:48 ID:EN9WtsIM
(´・ω・`)
229名無しさん@ピンキー:2008/09/15(月) 00:39:50 ID:aDBEVjJj
続きまだああああ
生殺しすぎる
23032:2008/09/15(月) 05:44:52 ID:bN+xjTD5
すいません(*_*)

ウィルス性胃腸炎でぶったおれてて(*_*)
231名無しさん@ピンキー:2008/09/15(月) 11:16:04 ID:OgIBz+wi
>>230
マジか!?
まずは身体第一にお大事にな


いちまでも待ってるぞ
232名無しさん@ピンキー:2008/09/15(月) 18:54:04 ID:XJgYZmTm
>>230
お だ い じ に
233名無しさん@ピンキー:2008/09/16(火) 20:05:46 ID:coyfl+9F
>>230
啓くんもアタって倒れ、葉子に看病してもらうフラグですね。

俺もウィルス性胃腸炎もどきで倒れたが辛いよな
おだいじに
23432:2008/09/17(水) 19:39:58 ID:4RyNwXTj
皆様ありがとうございますm(__)mやさしい方々に感謝です。

もちなおしたのでまたぼちぼち書いていきます。ほんと胃腸炎ははじめてですが辛いですね。

看病フラグいいなぁ。しかしとりあえず早く一応全部終らせたいからそのシーンを挟むことはできるだろうか…。

葉子はあまりビッチって感じでもなくなってきちゃいましたが(まあ偏見・蔑視をもっていたコギャルみたいなライト・ビッチな感じで^^;)、今後改心→一途メロメロ→エピローグと、早めに書いてしまいたいものです^^;
 なんとかしなければ。わたしは延々とベッドの上で寝そべりながら考えていた。ふと以前の啓君との会話が思い出される。

……
「松崎くん、今日はこんな服装で大丈夫かな?」
「ああ…ギャルって感じだね。」
「うーん、髪染めてる。なんか髪がグネグネしてる。化粧が濃い。財布とかバックが似た柄?あとは…」
……

 そんな会話があった。やっぱりギャルなんて啓君は嫌いだよね……。意を決して、わたしは準備のため家を出た。

次の日、待ち合わせて、老舗の喫茶店にむかう途中で啓くんが言った。
「葉子さん、……どうしたの?」
「え、なにが?」
不自然な笑みなのが自分でもわかる。
昨日危機を感じたわたしは考えた。啓くんの好みそうな見た目はどんなだろうか。
髪はストレート、黒く染める余裕はなかったので、急しのぎでダーク目にし長いスカートに春色のニットカーディガンだ。
コンサバなお嬢様風。きっとギャルっぽいのよりこっちの方が啓くんの気に入ると思ったが、呆気にとられている啓くんの顔を見て急激に羞恥心がおそってきた。
「格好がずいぶん変わったような……」
「う、うん……その……」
声が小さくなる。
「こういうのの方が、啓君好きだと思って……」
「ええ?」
啓君は驚いた顔をしている。
「ギャルっぽいのとか啓君きらいでしょ……?」
「そんな……」
啓君はわたしの手を握って、そっと肩に手においた。
「葉子さん、大丈夫?」
「大丈夫……」
うつむいてわたしは言った。もう最悪。なんでこんなうつむいた感じになっちゃうんだろう。
「葉子さんの格好できらいなのなんてないよ」
「だって、ギャルっぽいって前言った……」
「え!? あ、ああ前に言っちゃったよね、ほんとごめん!」
「もっと普通の子みたいなほうがいいんでしょう?」
「いやいやいや」
啓君が慌ててる。でもわたしもそれどころではなかった。
「啓君は、ほんとはわたしとつきあってたくないんじゃないの?」
「えええ」
「もっとほかの子とか……」
「そんなことないよ!」
啓君が大きな声でいった。わたしはびくっとして顔をあげる。真剣な目だ。
「そ、そんなことないよ……僕は……葉子さんが、その」
「だって……」
「だって?」
「啓君、最近宮本さんとかと仲いいって……」
自分でもびっくりするくらい大粒の涙がながれた。
「み、宮本さん!?」
わたしがしゃくりあげる感じになっているのと同時に、啓君も混乱しきっている感じだ。
「ち、違いますよ。宮本さんってどこからそんな話が……」
「宮本さんが啓君を誘ってるって……」
「え? いや断ったよ!」
「え?」
「あの、誘われたというか、そういうのでもないけど、僕が一緒にレストランとかいくのは葉子さんだけだからって言ったから!」
「……!?」
道の真中で、わたしと啓君ははっとまわりに気付いてだまって見つめあった。
23632:2008/09/20(土) 19:43:21 ID:seaWIPdj
・・・以上です。1章書き上げられず申し訳ない。
237名無しさん@ピンキー:2008/09/20(土) 20:46:49 ID:tT0hM/di
きてる!
かみしめて読みました。

しかし葉子かわいくなったなあw
238名無しさん@ピンキー:2008/09/20(土) 22:29:34 ID:2ud3Sz4L
乙です。
無理せずゆっくり書いてください。
239名無しさん@ピンキー:2008/09/21(日) 01:21:43 ID:CQEPmtP1
乙です♪

やべーよ、葉子に萌え殺されそうだ!!
240名無しさん@ピンキー:2008/09/21(日) 21:56:39 ID:p/t/kZoJ
月9の『太陽と海の教室』の灯里と八朗の関係ってまさにこのスレど真ん中だよね?
241名無しさん@ピンキー:2008/09/22(月) 13:37:19 ID:cJ+y8md3
wikipediaより。

屋嶋灯里 - 吉高由里子
18歳。多忙な両親の元で育ったせいかクールで大人びた性格であり、学年一の美少女とも言われる。年上の男性と7人同時に交際し遊んでいた。
だがそのことが元でトラブルに巻き込まれるが櫻井に救われる。実は洋貴の事が好きだが、凜久がいたため自身の本心を伝えずにいた。
八朗のことはパシリ程度にしか思っていなかったが、やがてその一途な優しさを理解し次第に惹かれ、付き合うようになる。
好きな色は水色、好物は練乳。

田幡八朗 - 濱田岳
18歳。通称ハチ。もじゃもじゃ頭の三枚目キャラで、場の空気を盛り上げるムードメーカー的な存在。実家はせんべい屋。
優しい性格で常にユーモアを忘れない。屋嶋灯里が大好きだと公言していたが、本人からは全く相手にされていなかった。
様々な事件を経てついにその想いが実るが、その直後、次原雪乃が自殺願望から引き起こした事件に巻きこまれて死亡してしまう。
さそり座のO型。


ドラマ見てないからよくわからんがこれ読む限りじゃド真ん中だと思う。
てか死んだのかよw
242名無しさん@ピンキー:2008/09/22(月) 14:33:51 ID:wVDd4u2q
事件に巻き込まれて死亡・・・・・・orz
243名無しさん@ピンキー:2008/09/22(月) 15:48:50 ID:DK1VI1u5
死んだのか…
244名無しさん@ピンキー:2008/09/22(月) 16:27:02 ID:+hy9TrFh
で、何年か後に生き写しの奴が現われて云々で、実は八朗は生きてて記憶をなくしてたでけで・・・・
245名無しさん@ピンキー:2008/09/22(月) 16:50:04 ID:DK1VI1u5
冬ソナ!?三枚目で!?
246名無しさん@ピンキー:2008/09/22(月) 19:22:17 ID:cJ+y8md3
ググったら普通に見れたわ。
アニメだけかと思ったらドラマもうpされてるんだな。

早見してみたら7話〜9話の話題らしい。
http://v.youku.com/v_show/id_XNDEzOTU0MTY=.html
http://v.youku.com/v_show/id_XNDIyNjc4MjA=.html
http://v.youku.com/v_show/id_XNDMxMjgyOTY=.html
247名無しさん@ピンキー:2008/09/23(火) 23:22:28 ID:3PgaU0hU
学園モノなら個人的に「OverDrive」の深澤ゆき&篠崎ミコトのカップルがストライクなんだが
248名無しさん@ピンキー:2008/09/27(土) 06:26:54 ID:YMD7k2O0
続き、待ってます。
249名無しさん@ピンキー:2008/09/27(土) 06:35:26 ID:5BSQAell
>>247

アニメのサイト見た。この二人はどんな感じでカップルになるのかな?
250名無しさん@ピンキー:2008/09/30(火) 02:12:49 ID:Guec/T8l
お得意の小出しさえこない・・・
続きが気になってしょうがなあ
251名無しさん@ピンキー:2008/10/01(水) 02:34:03 ID:eh5J14W2
葉子タンマダー?
252名無しさん@ピンキー:2008/10/02(木) 11:40:07 ID:a1MU4dkr
age
253名無しさん@ピンキー:2008/10/03(金) 14:23:43 ID:eV4L63wf
ho
254名無しさん@ピンキー:2008/10/05(日) 01:47:47 ID:NHw9bONL
あげ
255名無しさん@ピンキー:2008/10/05(日) 05:25:29 ID:gqXeqPPY
こんな時間ですがあげです
256名無しさん@ピンキー:2008/10/06(月) 02:20:09 ID:3skecqr7
>>236はまだか!!

257名無しさん@ピンキー:2008/10/06(月) 03:56:25 ID:gR1oeIip
続き読みたいなー(´・ω・`)
258名無しさん@ピンキー:2008/10/07(火) 15:15:17 ID:bLWpgwha
こんな良スレを見落としてたとは、不覚
一休み中のようだが期待して巡回リスト入り
259名無しさん@ピンキー:2008/10/07(火) 20:36:10 ID:mzKI0Imv
続きはまだかな・・
260名無しさん@ピンキー:2008/10/07(火) 22:44:46 ID:3lJZmYiR
もうダメだろ
261名無しさん@ピンキー:2008/10/08(水) 00:01:58 ID:byafBI/k
またーり待とうぜ
262名無しさん@ピンキー:2008/10/08(水) 00:41:36 ID:C3fwD5s3
俺は信じて待つ
263スイーツと香辛料9章「肯定による改心」4:2008/10/08(水) 01:57:26 ID:NggPzEH3
喫茶店にはいり、啓くんが注文をとってくれてるあいだも、わたしは胸の鼓動がとまらず目の焦点もさだまらないような感じだった。

「僕が一緒にレストランとか行くのは葉子さんだけって言ったから!」

啓くんがそう言って、道のまんなかで人がふりかえるのに気づいて急いでわたしの手をひいて喫茶店に向かっていったときから今まで、わたしはまわらない頭でその言葉の意味を考えていた。
今考えれば痛いとしか思えないことをして啓くんにひかれた恥ずかしさと相まって全然思考がまとまらなかった。

「葉子さん、とりあえずコーヒー頼んだけどいいかな?ここのは最初からミルクと砂糖が入っているけれど…」
「え? あ、うん。大丈夫だよ。ちょっとぼーっとしてただけ」
「え?…そう」
しまった。わたしの様子をきいたのかと思ったら、全然違った。なにずれた返事をしてるんだわたし。

「お待たせしました」
「はい、どうも。…葉子さん」
「…」
しっかりしなきゃ。なんでわたしはこんなに動揺してるんだろう。
「葉子さん?」
「…え?ああっ!ごめん大丈夫だから!」
「そ、そう」
「じゃなくてコーヒーきたんだよね!?」
砂糖の入っている壷をつかむ。
「あ、葉子さん
264名無しさん@ピンキー:2008/10/08(水) 01:59:53 ID:NggPzEH3
皆様こんなはじめて書いたssを待っていただいてありがとうございます。

また小出しですまぬ。職場の人間関係が小康状態にならないと書く気力が…。結局胃炎もそれですしねー。
265スイーツと香辛料9章「肯定による改心」4の続き:2008/10/08(水) 02:02:15 ID:NggPzEH3
「あ、葉子さん、砂糖もう入って…」
「えっ!?あっ…」
テーブルの上に思いっきり砂糖をまきちらしながら壷が倒れる音がした。しかも私のコーヒーカップまでなぎたおしながら。
「大丈夫、葉子さん!?」
啓くんが駆け寄ってくる。わたしは下をむいて、盛大にかかったコーヒーで染まったスカートをみた。
「もう、最低…」
両手で顔をおおってわたしは泣き出した。今日は厄日だ。ひどい日だ。もういなくなっちゃいたい。
266名無しさん@ピンキー:2008/10/08(水) 02:06:39 ID:NggPzEH3
ごめんなさい、途中で切れてました。しかもsage忘れ(*_*)スマソ。

自分の遅々とした愚作だけでなく誰か書いてくれないかしら。
267名無しさん@ピンキー:2008/10/08(水) 02:17:27 ID:d0np3On4
おいいいいいいいい
いい所で切るじゃねえか・・・
胃炎に気をつかいつつ小出しでがんばれー
268名無しさん@ピンキー:2008/10/08(水) 11:56:28 ID:2nlMA8um
おお、続き来てるーー!
少しずつでも待ちますよー、無理はしないでねー。


ビッチから一途なヒロインというと、下級生の橘真由美を思い出すなー、デレた時の破壊力は凄かった。
269名無しさん@ピンキー:2008/10/08(水) 17:59:20 ID:ACwtR0Ba
きてる!
待ってた甲斐があった
270名無しさん@ピンキー:2008/10/09(木) 01:03:54 ID:9CRBZx/X
>>268

いたねー。あれは可愛かった。まさにビッチが一途ににぴったりのヒロインだった。
271名無しさん@ピンキー:2008/10/09(木) 23:51:41 ID:b+a1r1CP
>>264
大丈夫ですか

初めてとは思えない最高のSS
272名無しさん@ピンキー:2008/10/10(金) 20:57:10 ID:nO11oMDK
273名無しさん@ピンキー:2008/10/10(金) 23:12:38 ID:CybRdHkk
274名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 02:48:57 ID:Z83iwFrm
275名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 04:23:29 ID:JeAjE8HY
276名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 11:03:59 ID:5tp266Wc
277名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 12:19:30 ID:6vPGCxHd
278名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 17:29:48 ID:nxisxIew
279名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 18:15:30 ID:PcqGMP8u
280名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 19:09:30 ID:Cz1bwD9Y
281名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 19:15:39 ID:PbOEjacB
282名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 19:31:09 ID:nxisxIew
283名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 19:50:04 ID:Osx/ZWcJ
284名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 20:15:22 ID:/+bbd1s7
285名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 22:44:22 ID:9wn9UwyY
286名無しさん@ピンキー:2008/10/11(土) 23:48:06 ID:PcqGMP8u
287名無しさん@ピンキー:2008/10/12(日) 00:00:16 ID:nxisxIew
288名無しさん@ピンキー:2008/10/12(日) 03:01:58 ID:SSy+iaiL
続き来たかと思ったじゃねぇかよ。
289名無しさん@ピンキー:2008/10/12(日) 22:42:32 ID:dlYpzVyg
北海の目玉音楽食べ過ぎ・・・だと・・・?
290名無しさん@ピンキー:2008/10/13(月) 03:04:27 ID:Na51uVco
いやー待ちきれないよ
291名無しさん@ピンキー:2008/10/15(水) 04:45:36 ID:uV5bbXH2
292名無しさん@ピンキー:2008/10/15(水) 12:39:17 ID:wWWyYxqc
293名無しさん@ピンキー:2008/10/15(水) 18:49:28 ID:nO/tYVdb
294名無しさん@ピンキー:2008/10/16(木) 00:57:51 ID:FbQapN/+
295名無しさん@ピンキー:2008/10/16(木) 01:05:51 ID:2I6nyugd
296名無しさん@ピンキー:2008/10/16(木) 01:13:48 ID:2w8mk5/f
297名無しさん@ピンキー:2008/10/16(木) 10:26:35 ID:s6XQ0TIM
298名無しさん@ピンキー:2008/10/16(木) 11:42:31 ID:m5nv4syL
299名無しさん@ピンキー:2008/10/17(金) 03:46:45 ID:k6t06FD9
続き・・・続きをください!
300名無しさん@ピンキー:2008/10/17(金) 13:01:10 ID:WDnucB12
そう、あせるなって
じっくりワクテカしながら待とうぜ。
301名無しさん@ピンキー:2008/10/18(土) 01:50:06 ID:sDplKTri
つかこの一文字レスのながれじゃ、投下しづらいんじゃないの?
たいして面白くないし。
302名無しさん@ピンキー:2008/10/18(土) 13:26:46 ID:+SUIDpDF
関係ないだろ。
303名無しさん@ピンキー:2008/10/18(土) 15:52:38 ID:SAslz255
いつ流れをぶった切ろうと問題ないしね。しかしこの新ジャンル?は良いね。
304名無しさん@ピンキー:2008/10/20(月) 21:19:01 ID:trb6xKmN
wktkしてまってる
305名無しさん@ピンキー:2008/10/22(水) 04:12:58 ID:byTwvrJd
もうそろそろ来てもいいんじゃないか
306名無しさん@ピンキー:2008/10/23(木) 15:37:15 ID:FYpImpTR
俺たちは見捨てられたんだよ
307名無しさん@ピンキー:2008/10/25(土) 06:44:55 ID:kltBox4V
国境無き投下者が、全ての物語を書き連ねる
308名無しさん@ピンキー:2008/10/25(土) 15:43:04 ID:/rI2M5e7
もっとドビッチなのも読んでみたい
309名無しさん@ピンキー:2008/10/26(日) 13:36:16 ID:oXIxD2lH
新規投稿者参入も待ち望んでる。
310名無しさん@ピンキー:2008/10/27(月) 01:02:58 ID:levOgLHX
>>308
ドビッチってなんか字面が汚いな。
311名無しさん@ピンキー:2008/10/27(月) 06:39:11 ID:+FtUpDmB
スポポビッチ
312名無しさん@ピンキー:2008/10/27(月) 23:02:59 ID:iTMnO1T4
モット=ドビッチ ( 露 1987- )
313名無しさん@ピンキー:2008/10/28(火) 00:15:56 ID:L1Sqn7cl
サノバビッチ


ドーターオバビッチってあるのかな
314名無しさん@ピンキー:2008/10/28(火) 02:24:27 ID:t2kvZe1J
ワイキキビーチ
315名無しさん@ピンキー:2008/10/28(火) 03:44:42 ID:p+X4vlyV
おいおいまだかよ
316名無しさん@ピンキー:2008/10/29(水) 03:41:42 ID:udt2p3jY
おいおいまだかいな
317名無しさん@ピンキー:2008/10/29(水) 03:50:26 ID:TnY4UlYm
P4の海老原あいってのが、割といいかんじでした。
318名無しさん@ピンキー:2008/10/29(水) 17:33:34 ID:VXaxTvaz
そろそろ第三の書き手も現われていいんじゃないかと
319名無しさん@ピンキー:2008/10/29(水) 21:25:40 ID:VXaxTvaz
よーし、こうなったら久々になんか書くぞー

↓が
320名無しさん@ピンキー:2008/10/30(木) 00:14:23 ID:iFltxhTd
よーし、かくぞーw
3211/2:2008/10/30(木) 23:47:53 ID:iFltxhTd
 街中のとある噴水の前。私を含め、三人の女子高生がいた。
「ほら、来たよ来たよ、早く行きな!」
 私はそう言って、馬鹿女の美咲をはやしたてた。ひげ面のオヤジが、目印を持っているのが見えたからだ。
 私の女友達である和葉は、そのやり取りを、やや冷やかに見つめている。
「い、嫌、やっぱり行きたくない・・」
 美咲は予想通りというべきか、必死に抵抗する。
「おら、今更嫌がってんじゃねーよ。あ、そうだ、パンツここで脱いでいって。ノーパンで行くって言っておいたから」
 美咲が嫌がるのも無理はなかった。なんせ相手は見ず知らずのオヤジ。出会い系サイトで呼び出した、明らかな下心をもった男だ。
 しかしそんなやつに美咲をぶつけるからこそ、反応が面白そうだと思い、私は嫌がる美咲をここまで連れてきたのだ。
「や、やだあ!パンツ引っ張んないで!」
「いいから脱げっつってんの!」
 痺れを切らした私が美咲のスカートの中に手を突っ込んだ時、私の肩を誰かがつかんだ。
「んー?」 
 てっきり和葉かと思って振り返ると、そこには予想だにしない顔があった。
「何してんだよ、美咲に」
「沢長くん!」
 私が名前を思い出す前に、和葉が叫んでいた。
 沢長君?何でこんなところに?
「樹村さん、これどういうこと?」
 明らかに怒った様子で私を見つめる沢長君に、私は言葉が出なかった。
『いやー、美咲に出会い系の男と無理矢理会わせようとしてました、理由は単に興味本位で』
 と言ったらさらに怒るだろうということだけは分かった。しかしだからといって、代わりに何を言うべきか、全く頭に浮かんでこなかった。
「・・良い、私が説明するから、あっち行こユキ君」
 美咲はそう言って、沢長君をどこかへと引っ張って行った。
 私と和葉は、二人が視界から消えるまでただ茫然と立ち尽くすだけだった。
3222/2:2008/10/30(木) 23:49:40 ID:iFltxhTd
「ねー、やっぱやりすぎだったよあれは。美咲マジ泣きしてたじゃん」
 帰り道、和葉が自分の爪をいじりながら言う。
「シャレにならなそうだったじゃんあれ、あんたもパンツ脱がすとかさー、いきすぎ」
 私はその言葉を黙って聞いていた。
 美咲は馬鹿だ。行動や性格が、馬鹿だ、と思う。
 その馬鹿さを私は普段からからかったし、文字通り馬鹿にした。
 今日もいいところに連れてってあげるよと言って誘い出し、途中でネタばらしして反応を楽しんだ。
 知ってからはものすごく嫌がっていたが、それでもなんとか引っ張っていった。しかしクラスメートの沢長クンのおかげで、計画は中止になった。
「そりゃあたしも美咲はからかったりしたけどさー、今日のはちょっと引いたわー。ねえ、マジで行かせる気だったの?」
「・・んなわけないじゃん」
 と、一応言っといたが、自分でもよく分らなかった。あのおっさんに引き渡した後、連れ戻すことなんて私はしただろうか?
「ところでさ、あの沢長君って、もしかして美咲と付き合ってんの?」
 極力何気ない風を装って私は聞いた。
「え?あー、知らない。クラスじゃ仲良い感じだったけど、そこまでは」
 沢長君は、私の知りうる限りでは、最もできた人間だ。
 イケメンで、かといって派手すきず。成績も優秀で、運動神経も良い。
 誰に対しても分け隔てなく明るく、やさしく。それでいて気弱ではなく、言うべきことははっきり言う。
 暗い奴、浮いてる奴に対しても、見下した態度をとらない。
 てっきり、そういう性格の延長線上で、美咲にも話しかけているのかと思っていた。
「でも、あの二人なら釣り合ってないよね、美咲が人よりちょっとだけ良いのなんて顔だけだし・・」
 私は笑みをひきつらせながら言う。しかし私の内心は和葉には丸分かりだったようだった。
「明日でも聞いてみたら美咲に。明日はガッコー休みだから美咲に聞くしかないし」
「え、な、何それ。別にあたしそこまで興味ないし」
「もろばれだって、ついでにあやまっといたら」
 何もかもお見通しの和葉に、私は何も言えなかった。
3232/2:2008/10/30(木) 23:53:20 ID:iFltxhTd
書くぞーとっいってしまったので書きました。続きはまた明日以降で。

すいーつと香辛料の続き待つ間の中継ぎになれたら嬉しい。
324名無しさん@ピンキー:2008/10/31(金) 00:23:55 ID:HVOr60PF
ありがたやありがたや・・・・・・
325名無しさん@ピンキー:2008/10/31(金) 01:37:22 ID:qmwWG3iU
>>323
頼んだ。
326名無しさん@ピンキー:2008/10/31(金) 03:35:30 ID:DLMinzo5
香辛料待ちだったのにもう一つ待たないといけなくなったじゃないか
327名無しさん@ピンキー:2008/10/31(金) 10:17:47 ID:3IKccToc
>>323

おお新しいのがきてる!GJ!面白い出だしです。

自分も個人的トラブルがもう少しで解消しそうなので、終わったら遅れまくりのスイーツと香辛料書かせていただきますm(__)m
3281/3 昨日の続きでございます:2008/10/31(金) 23:18:52 ID:e6Y7sKb7
 初めて美咲と会ったのは三か月前だ。
「山星美咲でーす、美咲はー、明るさだけは誰にも負けないので、よろしくお願いしまーす」
 これが、美咲が私のクラスに入ってきた時の自己紹介だ。
 高校生でこれはひどい、と思った。最初はネタか何かかとも思ったが、違った。話せば話すほど、抜けた頭と性格が明るみになっていった。
 そのせいで美咲はクラスで少し浮いていた。
 といっても誰も話しかけないというほどではないし、それなりにはうまくやっているのだが、やはり浮いている感はあった。しかも性質の悪いことに、本人はそれに気づいていなかった。
 しかしだからこそ、私はそこに目をつけた。うまくいけば、きっと面白いオモチャになると思ったのだ。
 最初は親しげに話しかけた。
 そして少しずつ優位に立っていき、言葉の端々で馬鹿にした。
 上手く操ることができるようになると、遊びと称して色々と命令した。命令とは言っても、本当にチンケなことではあったが。
 そして昨日、そろそろ大きな事をと考え、出会い系で男を呼び出した。
 最初は美咲に出て行かせて、笑ってすますだけと考えていたが、実際に来ているのを見ると、思った以上に高揚してしまい、凄いことをやらせたくなった。
3292/3:2008/10/31(金) 23:19:47 ID:e6Y7sKb7
「・・真美ちゃん・・何?」
 電話越しに、美咲のしずんだ様子が伝わってくる。
「うん、いや昨日はやりすぎたかもしんないと思って」
 こう言っておかないと、さすがに今後は完全にガードを固くしてしまって、言うことをきかなくなるだろう。
「・・・私、すっごくいやだったんだよ?」
「うんごめんごめん、もうしないからさ。ねえねえ、どっかで会わない?ちょっと聞きたいことあって」
 美咲が答えるまでに、妙な間があった。
 不審に思い、私が何か言おうとした瞬間、美咲が言った。
「・・・何か、あるの?」
「うん、実はさ、えーと」
 さらっと本題を言い出せない自分が、ちょっと恥ずかしかった。
「あのさ」
「うん」
「美咲って今カレシとかいるの?」
 また沈黙があった。
「うん」
 うんと答える直前、フッ、という美咲の吐息が聞こえてきた。それが何を意味していたか、私は一時間後に知ることになる。
3303/3:2008/10/31(金) 23:21:00 ID:e6Y7sKb7
 私は今、美咲の家の前まで来ていた。詳しいことを聞くために直接会うことにしたからだ。
 美咲は一人暮らしだ。両親に仕送りをしてもらっていると聞いたことがある。
 その親がそこそこ金持らしく、美咲はアパートではなくマンションに住んでいた。
 ピン・・ポーン、ポーン、というチャイムを鳴らし、携帯の時計を見る。まだ午前十時だ。さっきの寝起きのような声からすれば、すっぴん状態で出てくるかもしれない。
そう思いながらドアノブを見ていると、予想とは違った相手が現れた。
「えっ」
 上半身が薄いシャツ一枚で、髪も濡れていたから誰だか一瞬わからなかった。が、すぐに名前が浮かんできた。
「沢長君?なんで・・」
 その格好は、まるで今自分の部屋から起きてきたかのような、ラフさであった。
「何でって・・あの、樹村さんこそどうして?」
 あっけにとられ、私は何も言えない。
 何も言えないまま、ただ眼だけを動かした。
 視線の先に、美咲の姿があった。
 ベッドの上で、何も着ていない上半身を、薄めの布団で隠していた。
 その口元が、フッ、と笑った。
 あの時聞いた美咲の吐息が、鮮明に蘇ってきた。
331名無しさん@ピンキー:2008/10/31(金) 23:26:10 ID:e6Y7sKb7
今日は以上です。読んでくれてありがとうございます。感想もかなり嬉しかったです。
香辛料さんも感想ありがとう。もう耳にたこできるぐらい聞きあきた言葉かもしれないけど、続き待ってます。
332名無しさん@ピンキー:2008/11/01(土) 09:07:05 ID:GkbAolb7
>>331

GJ!どんな展開か読めなくなってきました!
333名無しさん@ピンキー:2008/11/01(土) 13:44:04 ID:BSmGsdJh
オラわくわくしてきたぞ!
ぐっじょ
334名無しさん@ピンキー:2008/11/03(月) 00:52:43 ID:9v/nnqek
gjとかなら良いけど
ぐっじょ、と書かれると擬音みたいで嫌だな
しかも男から聞こえる大量の粘着質な・・・
335名無しさん@ピンキー:2008/11/03(月) 22:22:20 ID:XREqQpfB
どんなイチャモンだよwww
3361/4 330の続き:2008/11/05(水) 21:54:24 ID:+vAeburM
 翌日、学校は休んだ。家から出ることさえ面倒な気分だった。
 学校や和葉には体調が悪いから休むとだけ伝えた。
 ぼんやりと、部屋の中を見渡す。
 普段はせまいと感じるこのワンルームが、今はやたらと広く感じた。
 連絡をしていない美咲の顔が思い浮かぶ。
 そういえば以前、美咲が好きだった相手と付き合ったことがある。素知らぬふりして。美咲がどんな顔をするか見たかったから、ただそれだけのために。
 予想通り、美咲はまるで魂が抜け出たような顔で驚いていた。
「ごめーん、知らなかったの」
 そう言って、白々しくしたりしてみた。
 まあ、好きでもなんでもない男だったのでその後すぐに別れたが。
 それ以降、美咲はそいつにすっかり近づかなくなっていたが、てっきりまだいくらか未練があるものと思っていた。それなのに。
 それなのに、もう気持ちを切り替えていたなんて。
 それもよりにもよって、その相手が沢長君なんて。
「くそ・・」
 知らず知らず、呻きが漏れる。
 もう人眠りしようかとベッドに横たわったとき、不意に、ブザーが鳴った。
 最初は新聞勧誘か何かだと思い、無視を決め込もうかとも思った。しかし、
「真美ちゃーん、開けてよー」
 という聞き覚えのある声がしたために、私は改めて選択を迫られた。
3372/4:2008/11/05(水) 21:55:52 ID:+vAeburM
さんざん逡巡したあと、仕方なく私はドアを開けた。
「あは、やっぱりいたー。ねえ真美ちゃん、体調悪いんだって?」
 美咲はいつもどおり笑顔だった。そしてその笑顔に、黒いものを感じているのは決して私の被害妄想ではない。
「ねえねえ、元気になるものたくさん持ってきたんだよー」
 そう言って美咲が出したのは、栄養補助食品や、果物だった。
「・・ねえ美咲、あんた沢長君と付き合ってるんだね」
「え、うんそうなの。えへへ」
 いらっ、とした。体内の血液が沸騰したかのようだった。よっぽどその顔にパンチしてやろうかと思った。
 こんな女に沢長君が、という思いが改めて湧いてくる。
 自分はビッチの部類に入る女だ、と思う。
 男に飽きては自分勝手に捨てたこともあったし、モテナイ男子を告白と称してからかって、どっきりでした、なんて遊びもした。そして美咲をいじめたりもした。
 しかしそんな自分なのに、唯一汚れていない時間があった。
 沢長君と話してる時、まるで自分がまだ幼いころのように、無垢で素直な人間でいられるような気がした。
 まるで初恋のように、頭の中がぼーっとしてしまい、それでいて全神経を集中させてその人との対話をするような感覚。
 いわば、心の聖域。
 その聖域が、何故だか自分が見下している奴に横取りされる。その「汚され感」は、とうてい許容できるものではなかった。
3383/4:2008/11/05(水) 21:57:31 ID:+vAeburM
「ふーん、そうなんだー」
 心の中では荒れ狂いながらも、私はなんとか美咲と会話を続けた。
「あ、このサンドイッチ美味しいんだよー食べてみて」
 美咲がカツサンドを差し出す。
 朝からまだ何も食べていない私は、そのまま流されてそれを食べてしまう。
 瞬間、吐き気がこみ上げた。やばい味に酷い匂い。
 食べるべきではないものを食べてしまったという事が、瞬時に理解できた。
「きゃはははっ!きったなぁい!きったないもの食べた真美ちゃん!」
 美咲の、人が変わったような突然の笑い声。私は口元を抑えながら、その続きを聞く。
「あはは、真美ちゃーん、私が本当に馬鹿だと思ってたの?ずーっとやられてるだけだって?
沢長ユキ君てさー、案外簡単だったんだよ、真美ちゃん。がばがば真美ちゃんみたいな子は嫌いだろうけどさ。きゃははは!」
 信じられない言葉の連続だった。
 美咲は、私のさせていたことの真意も、そして恋心もすべて知っていたというのか。気付かない振りをしていただけだったのか。反撃の機会を、ずっと待っていたというのか。
3394/4:2008/11/05(水) 21:59:03 ID:+vAeburM
「てめ、調子に・・うぐっ!」
 殴りかかろうかとしたが、吐き気がこみ上げてきたために、私は立つことすらできなかった。

 一体何を口に入れてしまったのだろうか。目の前が暗く、ゆらゆらとする。
「毒もちょっとあるらしいからね、くすくす」
「うっ!」
 頭が、今度は後ろ側へと倒れこんでしまう。美咲が笑いながら私の頭を蹴りとばしたからだ。
「真美ちゃーん、じゃあねー」
 言いたいことを言い、やりたいことをやったというように、美咲は私の部屋から出て行こうとする。
 朦朧とする意識の中で、私はその後ろ姿に向かって何とか声を振り絞る。
「さ・・沢長君は、私が好きだと知ってて・・?」
「そうだよ、誰かさんにされたことを仕返ししただけ。文句はないでしょう?
飽きたらあげても良いよ。いくらぐらいかな、五万ぐらいで譲ってあげてもいいよ」
 実際に蹴られた時以上に、頭に衝撃があった。 
 私はそれ以上喋ることすら出来ず、そのまま意識を失った。
 美咲が笑いながら、部屋を出ていくのが見えた気がした。
340名無しさん@ピンキー:2008/11/05(水) 22:02:49 ID:+vAeburM
今日は以上で。小出しなうえに、遅くて申し訳ないです。
341名無しさん@ピンキー:2008/11/05(水) 22:23:16 ID:R9VFPauM
GJ!美咲こえぇ!
342名無しさん@ピンキー:2008/11/05(水) 23:53:40 ID:ABlcMXjL
GJ!
両方がビッチだったから、どっちが正ヒロインなのか分からないところが良いな
まあ流れ的には真美か

だが俺はあえて美咲派で行かせてもらう
343名無しさん@ピンキー:2008/11/06(木) 22:56:31 ID:D+yTWnU+
僕は真美ちゃんo(^-^)o

つーかマジでどうなるんだw
344名無しさん@ピンキー:2008/11/07(金) 00:46:38 ID:GhtgyQcc
うーん、続きが木になる木
345名無しさん@ピンキー:2008/11/09(日) 02:29:59 ID:En0cOKVC
スレタイ読んだ時のイメージでは、エロゲみたいな性欲過多で
男がいないと生きてけない系や、惚れた男に振り向いてもらえず
他の男たちに慰めを求めるヒロインが多いのかと思ってた。

そういうのも好きだが、思った以上に純情なヒロインたちが可愛くて
いい意味で予想外でした。投下主さん方乙です。
346名無しさん@ピンキー:2008/11/10(月) 03:12:48 ID:UGb/H3Q5
すっかり過疎
おわったな
347名無しさん@ピンキー:2008/11/10(月) 03:28:51 ID:uUy6CLVu
お前の存在が終わってんじゃね?
348名無しさん@ピンキー:2008/11/10(月) 10:26:26 ID:ILPaKZzf
いろんなスレにあらわれる終焉クンです

ほっとくと次のスレに旅立つので、関わないようにしてください
椅子を後ろ足でけとばすように立ち、店を飛び出した。
「葉子さん!」
啓君の声をふりきって外に出て、人目のつかない路地に飛びこんだ。

「痛い」
イタイよわたし。悲しい。どうして啓君を惹きつけようとするとこんなことになるんだろう。恥ずかしい。何この格好。帰りたい…

突然両肩をうしろからつかまれた。声を出してしまう。
「見つけた」
啓君が息切れしながらそう言った。びくっとしたわたしを逃がさないように後ろから抱きしめられた。
「あっ…」
痛いくらい強く抱きしめられる。啓君らしくない。わたしは別の意味であせりはじめた。
「コ、コーヒーがついちゃうよ」
「いいよ」
そう言ってもっと強く密着してきた。いや、いいよっていわれても。

わたしはしばらく身じろぎしていたが、あくまでわたしをつかまえてはなさない啓君に負けて、力を抜いた。倒れるようによりかかる。
啓君はわたしが力を抜いたのを見てほっとしたように両腕をゆるめた。
「葉子さんがこのままいなくなっちゃうかと思った」
350名無しさん@ピンキー:2008/11/12(水) 08:17:30 ID:LCmam1N/
今の連載(?)と仲良く並走するように(^^)、でもまた小出しですいませぬ(*_*)個人トラブル解消!少し疲労回復させたらこれ書ききらねば…
351名無しさん@ピンキー:2008/11/12(水) 08:22:53 ID:qN0gHs9g
乙!
葉子さんに萌え死にそうになりました!
352名無しさん@ピンキー:2008/11/12(水) 18:48:42 ID:920L8wRF
きてる!おつ!

小出しの書き手ってどうしても途中でいなくなったりするものだけど、ちゃんと書いてくれる書き手は珍しい
353名無しさん@ピンキー:2008/11/12(水) 21:43:07 ID:LCmam1N/
「……」
「よかった。火傷とかしてない?」
「大丈夫…」
「しみになっちゃうかな」
「け、啓君、その…」
「帰るか…服を買おうかな」
「啓君、あの、これ」
そういって今もわたしの体にぴったりまわされてる腕をさした。
「うん」
そういうものの、啓君はまったくはなしてくれる気配をみせない。
「は、はずかしくない?」
「ううん」
「そ、そう…」
どうしたのだろう、今日の啓君は……。わたしは戸惑いつつも体をもっとあずけて、テンパっていた自分がおちついてくるのを感じていた。
「葉子さんは、いや?」
「ううん…そんなことないけど」
くるり、と啓君がわたしを正面にむかせた。とっさのことだったのでまっすぐ啓君と目が合う。
一瞬わたしの息がとまったすきに啓君は今度は正面からわたしを抱きしめた。

「ありがとね」
「え、えっと?」
「色々気をつかってくれて」
「……」
「そのせいですごい負担かけさせちゃって…」
「それは…わたしが」
「ごめんなさい。そのおかげで葉子さんが好きってあらためてわかった」
「えっ…」
「あと、その…」
「……?」
「よ、葉子さんが、その、僕のことが好きなのもわかった」
息をのんだ。今度は自分から啓君を見つめる。
そのまま長い時間がすぎてから、わたしは笑って啓君の胸に顔をうずめた。
「わかった?」
「うん、ちゃんとわかった」
「啓君も、わたしのこと好き?」
「好きです。本当に好き」
わたしは胸の中でうごかない。このままでいたかった。
354スイーツと香辛料 9章「肯定による改心」7:2008/11/12(水) 21:45:56 ID:LCmam1N/
「ごめんね。葉子さん」
「なにが?」
「僕がまえにギャルがどうとか言ったからじゃない?今日の…」
「あ、うん、いや…」
「あの時は、僕が、ええと…間違ってた!」
「え?」
「葉子さんとか友達の人とか、なんていうか綺麗な感じで華やかで―変とかっていう人もいるかもしれないけど―
今思うと、そういう人にちょっと憧れてたんだと思う」
「……」
「でもそんな人は、僕とかを下に見たりするんじゃないかなとか、そんな風に思ってて…」
それは、本当だ。わたしは……。
「でも、葉子さんが一緒にお店いってくれるようになって、その、つきあって、
今日とかこんな風に気をつかってくれて……自分の偏見だったな、って」
「見た目が似てても、皆が同じなわけではないとわかってたんだけど、
葉子さんで本当に実感した」
「……」
「だから、ごめんね。ありがとう。……大好きです」
啓君がゆっくりと、でも普段にないくらい饒舌に話すのをきいている間わたしはいたたまれない気持ちでいた。
涙が啓君の服をぬらしている。
「ごめんなさい……」
「うん?」
「わたしは、全然そんな風にいってもらえるような子じゃなくて!全然わたしは……!」
耐えきれず叫ぶように話すわたしの唇に啓君がひとさし指をあてた。
「え?」
「大丈夫。わかってる。葉子さんはそんな風にいえるひとだよ」
穏やかな笑みで啓君はそういって、…キスをしてきた。
はじめての―はじめてだったのだ―啓君の感触に、わたしは驚き、…やがて目をとじた。泣きっぱなしだったけど。

啓君の言葉はわたしがいわなきゃいけなかった。
彼みたいな人を、どうしてわたしはあんな風にみて、あつかってきたのか。こんなに自分を幸せにしてくれる人だったのに。

わたしが本当に「変わった」のはこの時だったと思う。

そのキスのあと、どうなったのかは、言わない。



9章終。10章「一週間」に続く。
355名無しさん@ピンキー:2008/11/12(水) 21:48:45 ID:LCmam1N/
やっと9章終わりました。長々延ばしてすみませんm(__)m

あと2章!終章はエピローグみたいなものだから次書けば終らせられる。これで燃えつきますm(__)m
356名無しさん@ピンキー:2008/11/12(水) 22:15:13 ID:fd0cQeR0
テラ萌ゆす!
良質すぎる。
357名無しさん@ピンキー:2008/11/12(水) 22:26:49 ID:920L8wRF
くっそおおおばかっぷるめが!

最高です
358名無しさん@ピンキー:2008/11/12(水) 23:00:46 ID:Aua/Z4gF
なんという僥倖
待ち続けたかいがあったというものだ!
359名無しさん@ピンキー:2008/11/12(水) 23:06:52 ID:dhJZ1OI/
こんなとこで何やってんですか武士道さん

>>355
気長に待っとります
360名無しさん@ピンキー:2008/11/13(木) 12:53:36 ID:f27uPjFS
もはや彼女はビッチなどではない乙女だ
とか言う流れかこれはww
361名無しさん@ピンキー:2008/11/13(木) 16:24:31 ID:x6KJZCNn
ぎゃあああちくしょう啓君が憎い…ッ
362名無しさん@ピンキー:2008/11/16(日) 04:21:45 ID:f+tjqtKU
スイーツ楽しみすぎて風邪引いた
363名無しさん@ピンキー:2008/11/17(月) 16:01:35 ID:i9hVe88e
久々に見たらきてやがった!!
GJ
364名無しさん@ピンキー:2008/11/20(木) 02:46:14 ID:sW6bZLNI
みなさまほんとにありがとうございますm(__)m
過褒いただいて恐縮です。

自分のは誰か指摘してくれたように、ビッチがビッチじゃなくなって一途になる話になりそうで、
ビッチのまま一途とか色々話の展開の幅がまだまだありますよね。
というわけでまた新しい感じの展開で、美咲派、真美派にわかれた話の続き楽しみに待っておりますm(__)m
365名無しさん@ピンキー:2008/11/21(金) 03:20:43 ID:hYZueOaT
いやー両方楽しみ。
とにかく完結してください
366名無しさん@ピンキー:2008/11/21(金) 23:17:29 ID:1TSgi7oB
まだかな?かな?
367名無しさん@ピンキー:2008/11/22(土) 10:46:44 ID:KlM7Or9j
こんなに待つのは、学研のおばちゃん以来だぜ。
368名無しさん@ピンキー:2008/11/23(日) 11:59:50 ID:JThn141u
まだかな、まだかな〜
369名無しさん@ピンキー:2008/11/24(月) 05:01:35 ID:Md4N0haK
まだかよ・・・・・・・・・・・・
370名無しさん@ピンキー:2008/11/24(月) 23:16:30 ID:G2sKFso3
私待つわ。いつまでも待つわ。
371339:2008/11/25(火) 20:03:56 ID:pAnb3LYt
前回から時間が空いてしまい申し訳ないです。完成は必ずします。
感想やコメントつけてくれた人、ありがとうございました。凄くうれしく思います。
小出し小出しですみませんが、今日の分投稿していきます。
3721/4:2008/11/25(火) 20:05:24 ID:pAnb3LYt
 翌日から、美咲の雰囲気は大きく変わった。
 沢長君との関係を通し、クラスの中心人物に美咲はなっていった。
 よっぽど蹴り返してやろうかと思っていたが、いつも沢長君やほかの女子と一緒にいるために、それもやりにくかった。
 携帯は着信拒否にされ、二人きりになることはほとんど不可能になっていた。
 当初は怒りの目で美咲を見つめていた私だったが、しばらく経つと、その熱も冷めていた。
 お互いまるで最初から知らない者同士のように、親しくないもののようにふるまい、それぞれの生活を送っていた。
 ただ、それでも沢長君のことだけは時々気になっていた。
 向こうの私に対する印象は最悪だと分かっていたが、それでも目で追わずにはいられなかった。
 そして美咲と親しげにしているのを見る度に、胸が痛んだ。
 ここまで執着するのは、人の男だからだろうか、それとも憎たらしい女にしてやられたからだろうかと考えてみたりもした。
3732/4:2008/11/25(火) 20:06:27 ID:pAnb3LYt
 それは本当に偶然だった。
 ある雨の日の帰り道。美咲と沢長君が、私の100メートル先を一緒に歩いていた。
 私の前方に二人がいたのは本当にたまたまのことで、普段ならこんなことはなかった。
 いつもなら私は和葉と逆方向に歩いて、店を回って帰っていたからだ。
その日は、和葉が休みだったため、私も珍しくまっすぐ帰ったわけだ。
 視界の悪さもあって、二人は私に気づいていないようだった。
 私も気付かれたくないため、距離を縮めずに歩いた。
 途中、二人は別の道へと歩いて行った。毎日どこかでいちゃいちゃしているんだろうと思っていたため、それは意外な行動に思えた。
3743/4:2008/11/25(火) 20:07:28 ID:pAnb3LYt
 残念なことに私の家へとつながる道は美咲の歩いている方向だったため、仕方なくその後をついていく。
 そしてその内に、美咲はある男に声をかけた。
 まさか、とまず思った。
 そう思いながら見ていると、美咲はその男の首に手をまわし、キスをした。
 傘が、ずるっと手からすべり落ちかけたところで、私は慌てて握り直した。
「五万ぐらいでゆずってあげてもいいよ」
 美咲の言葉が頭の中で蘇ってきた。
 考えるより先に、足が動いていた。
 私は元来た道を引き返し、沢長君の進んだ方向へと走った。
 幸いなことに、彼は雨のためか、まだあまり進んでいなかった。見つけたその背中に思い切り叫ぶ。
「沢長君!」
 彼は一瞬立ち止った後、振り返った。
「あれ、樹村さん」
 彼の目の前までくると、私は息切れした身体を必至に抑えながら、言った。
「み、みさ・・美咲・・・」
 大事なこと・言わなくちゃいけないことがあると思ったのに、いざ言うとなるとなかなかうまく言葉を紡げなかった。息切れのせいもある。
 そもそも、何と言えば良いのか?
3754/4:2008/11/25(火) 20:09:16 ID:pAnb3LYt
 美咲が浮気してましたよ、というのが事実だろう。
 しかしそんなことを美咲に嫌がらせしていた私が言って、信憑性があるだろうか。嫌悪感のこもった目で見られるだけではないか。
 どうかしている。以前の私なら、もっと計算高く、効果的な手段で伝えただろうに。
「美咲?美咲がどうしたの?」
「み、美咲が、別の男と・・ハァ、ハア」
 しかし私の口から出てきた言葉は、なんとも間抜けなものだった。
 予想通りというべきか、彼は私のことを胡散臭そうに見た。
「本当に?美咲から聞いたけど、嫌がらせしてたんだろ、美咲に。これも嫌がらせ?」
「ほんとう、本当なの、信じて・・」
 そう言って、顔を上げる私。顔が雨以外の、熱い液体で濡れていた。しかし彼の目には雨でぬれているようにしか見えないだろう。
「悪いけど・・」
 彼はそれだけ言って立ち去っていく。
 私は膝から崩れ落ちた。
 そしてしばらく、そのまま雨に濡れていた。
376名無しさん@ピンキー:2008/11/25(火) 20:10:01 ID:pAnb3LYt
今日の分は以上です。
ありがとうございました。
377名無しさん@ピンキー:2008/11/26(水) 01:42:50 ID:0LOBzIbQ
GJ

>「み、美咲が、別の男と・・ハァ、ハア」

なんかドMっぽくてフイタw
378名無しさん@ピンキー:2008/11/26(水) 02:25:43 ID:4qk85AHv
GJ!

さあどうなるかな〜
379名無しさん@ピンキー:2008/11/27(木) 03:56:04 ID:oEBmwkpk
はいはいこないこない
380名無しさん@ピンキー:2008/11/27(木) 18:23:35 ID:Dko3yhNr
真美ちゃんの作者さん、よく読むと連作になっているんだな。
前作と登場人物が被っていたりで、同じ学校の話なのかな。
しかし、ビッチの多い学校だw
いい意味で!!

スイーツと香辛料、とどちらもこれからが楽しみです。
381名無しさん@ピンキー:2008/11/29(土) 14:47:41 ID:imlK3G6i
そうだったのか。
ナイスな読みですな。
382名無しさん@ピンキー:2008/11/30(日) 05:50:30 ID:QJFYuFMV
まだかなまだかいまだかよ
383名無しさん@ピンキー:2008/12/01(月) 19:51:42 ID:h/gRVK2Z
こんなスレがあったとは・・・・
最高じゃないか・・・・・
384名無しさん@ピンキー:2008/12/02(火) 22:36:06 ID:qQ2habEz
書き手もうちょっと増えてもいいと思うんだ
385名無しさん@ピンキー:2008/12/03(水) 18:32:45 ID:Couumboh
どういうネタがいいのかな〜
モヤモヤしたものはあるが、ハッキリしたネタが浮かばない。
萌え語りをしていたら、誰か電波を受信してくれるやもしれん。
386名無しさん@ピンキー:2008/12/03(水) 23:25:34 ID:rA1/Uyp4
お前の中のピッチ像を一途キャラにすればいいと思うよ
387スイーツと香辛料 10章「1週間」1:2008/12/04(木) 16:35:38 ID:/rbhK8SS
心配性の両親が飛行機のチェックインの時間よりかなり早くつく時間にでるを見送って、
わたしは一人残されたうちの中で解放感につつまれていた。

少し親不孝かもしれないけれど、
今日から1週間わたしとかれのふたりきりの時間がはじまるのだ。

部屋は夏休みに入ってから入念にかたづけて、必要なものもそろえた。
その場のノリできめていこうと思うけれどやりたいことも何度もリストアップした。
あとはかれが来るのを待つだけだ。

啓くんは、わたしの大失敗の日以来すこし変わった。
その変化を思い出すだけで口元がゆるんでしまう。
みさきが「松崎くんもうすっかり葉子の彼氏になったね」といってるくらいだからまわりにもわかるのだろう。
二人でいるのが自然な感じにみえていればいいな、と思う。
少なくとも啓くんがそう感じているように見えることが、わたしを安心させる。

「あとは…」
ソファーに体をあずけてわたしは誰ともなくつぶやいた。
期待と不安が胸に切傷みたいにひびく。
啓くんは今日から1週間泊まりにくる。
その間ふたりきりなのはかれも知っている。
「わかるよね…」
でも、とかれには聞けなかった懸念がよぎる。
かつての自分の経験、過去、かれはそれを嫌がっていないだろうか…。
わたしがかつて「嫌いじゃない」ことを発見したことへの期待を軽蔑されたりしないだろうか。
ソファーのクッションをだいてわたしは黙りこんだ。
でもしばらくしてからわたしはふふっと笑って目を細めた。
「そんなの関係なくなるくらい、誘惑しちゃえばいいんだ」
388スイーツと香辛料 10章「1週間」2:2008/12/04(木) 16:39:55 ID:/rbhK8SS
11時10分前ぴったりにインターホンが鳴った。
「はい」
「あ、松崎です…。葉子さん?」
「うん、今開けるね」わたしは普段着っぽく、
でもそれなりに考えた服で啓くんを出迎えた。
「どうぞ。道迷わなかった?」
「大丈夫…おじゃまします」
啓くんは不安げにうちのなかをみまわした。
「どうかした?」
「いや…」
わたしは啓くんの手をとってひきよせた。
「あっ」
啓くんがバランスをくずしてわたしにもたれかかってくる。
「啓くん、まだうしろめたいんでしょう?」
啓くんは態勢をたてなおしわたしの言葉をきいてはっとした顔をした。
「うん…、ちょっとね。葉子さんといられるのは嬉しいんだけど…
こんな大それたことしていいのかなって」
啓くんわたしの肩に手をおいて困ったような顔でいう。
「うん、そうだよね。わたしのわがまま。親に悪いともおもうけど…」
わたしは啓くんに抱きつく。
「どうしても一緒にすごしたいの」
啓くんは一瞬とまどい、その後わたしの腰に手をまわした。
「ありがとね。葉子さん」
一瞬強く抱きしめて啓くんはわたしの手をとった。
「1週間お世話になります。荷物はどこにおけばいい?」
「うん、わたしの部屋」
手をつないでスキップしかねないような感じで二階の部屋にいく姿は
たぶん他人がみたら相当ひくようなものだったろう。
389名無しさん@ピンキー:2008/12/04(木) 16:40:44 ID:/rbhK8SS
以上。小出しですみませんm(__)m
年内に終わらせるぞー。
390名無しさん@ピンキー:2008/12/04(木) 19:45:50 ID:bwsEng0q
乙です

ちょw葉子カワユスすぎ
いいぞ、もっとやれ!

いつまでも待ってるから無理しないペースでお願いします
391名無しさん@ピンキー:2008/12/04(木) 19:47:07 ID:bwsEng0q
すまん、つい興奮してsage忘れた
392名無しさん@ピンキー:2008/12/04(木) 19:47:13 ID:iEcCOIqW
北!!
393名無しさん@ピンキー:2008/12/04(木) 21:55:23 ID:Ef13oN1M
いま>>1を見ただけで興味をそそられた
394名無しさん@ピンキー:2008/12/04(木) 22:42:38 ID:bADbkf5/
きたああああああああああア亜吾ああうあうさああああああああああ
395名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 05:38:13 ID:Ns5mX+Uy
葉子さんが可愛すぎてやってしまった
http://imepita.jp/20081205/197770
携帯からで画像の回転が出来なかくてスマソorz
夜勤中になにやってんだろね俺は
396名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 06:51:24 ID:exh8SRFU
おおお、すごい!保存しました。

まさかイラスト書いてくれる人がいるとは…。
ありがとうございます!

感想かいていただいた皆様ありがとうございますm(__)m
何とか書いてしまいます。
真美・美咲の作者の方、続き期待しております(^^)
397名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 08:05:45 ID:h1YCLkTZ
両名スバラスイ
398スイーツと香辛料 10章「1週間」3:2008/12/05(金) 10:25:50 ID:exh8SRFU
あまり見栄とかはったりはしなくていい。だけどやっぱり可愛いとは思われたい。
考えたすえに自分の部屋をわたしは少しだけいかにも「女の子」風な小物や色づかいをふやしてみた。
啓くんは同年代の女の子の部屋にはいるのははじめてだといっていたので、
これでドキドキさせられるかも、とわたしは含み笑いをしながら部屋に入った。

「どうぞ、荷物はそこにおいてね」
「あ、はい…。…きれいな部屋だね」
「そ、そう?ちょっと子供っぽくない?」
ちょっと恥ずかしくなってわたしはおおげさにベッドに腰かけた。ぽん、と弾む。
「ううん、いや、なんていうか、こういう女性の部屋に入るのはじめてで…」
啓くんは予想通りドキマギしながら目を泳がせている。
「啓くん」
わたしは両手をひろげて啓くん微笑んだ。
「え、いや、その」
啓くんは顔を赤くする。
「おいでー?」
わたしはからかうようにおどけていう。
啓くんはかわいそうな位動揺し、ゆっくりとわたしの腕のなかに入ってきた。
「葉子さん…」
啓くんがわたしの背中に手をまわす。
しばらくそのままわたしたちはくっついていた。
「葉子さん、ちょっと僕で遊んでるでしょう」
苦笑しながら啓くんがわたしの耳元でさ
399名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 10:28:04 ID:exh8SRFU
イラストに盛り上がってちょっと書いてしまいました。
1週間かけて書こうと思った幸せ感がもう書けてしまった気が…。
「こうして1週間がたった」で終わっちゃおうかしら…
400スイーツと香辛料 10章「1週間」3の続き:2008/12/05(金) 10:40:57 ID:exh8SRFU
苦笑しながら啓くんがわたしの耳元でささやく。
「えー、そんなことないよ」
とわたしは余裕ある感じの声で返す。じつは本当にそんなことはなく心臓が痛いくらい早く鳴っていたのだが。「そうかな…?」
「そうだよ」
啓くんはそうか、といって少し安心したようにわたしをだきしめてきた。
「その、えーと、葉子さん」
「なあに?」
「馬鹿なこというみたいだけど…」
「うん…」
「幸せな感じとかこういうのをいうのかとか思ったり、その…」
啓くんのどもりながらの、でもおどろくほど素直な言葉にわたしはちいさく息を吐いた。この人はこういうところ幼いくらい無防備だ。その無防備さにわたしは泣きそうになる。
「わたしも…本当にそう思う」
「本当?よかった…」
「きっと忘れられない思い出になると思う」
「そ、そう。思い出になったときにも一緒にいれたらいいけど」
啓くんがぼそっと言う。それを聞いてわたしは強く抱きついた。
「一緒だよ、絶対」
正直、もうこの1週間を一緒にすごす目的ははたされちゃったと思うくらい、このときわたしは幸せだった。

401名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 10:41:41 ID:exh8SRFU
すみません、途中できれてました(*_*)
402名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 11:45:55 ID:5NRq7rwB
だった。・・・ですか
GJです。
403名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 11:58:36 ID:Zp96ZmUq
なんで過去形で終わるんだ!
くそーーーーーッ!!
404名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 12:10:41 ID:exh8SRFU
いや不幸になりませんよ^^;

この話はこのまま幸せで終わるはずです〜
405名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 12:31:08 ID:FQN3ICXA
工エエェェ(´д`)ェェエエ工工
ビッチ者なのに黄色ENDかよー ( `д´)、
406名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 12:49:12 ID:O59jUnL6
黄色?
407名無しさん@ピンキー:2008/12/05(金) 21:08:03 ID:rSgeGYy1
きてるうううううう
408名無し:2008/12/05(金) 23:51:34 ID:uPa03kOV
gj
409名無しさん@ピンキー:2008/12/06(土) 10:22:49 ID:ZxGvrOHr
>406
つ幸せの黄色いハンカチ

まはそれはそうとGJ!!
410名無しさん@ピンキー:2008/12/07(日) 16:41:28 ID:gQUlQpJ9
いやー幸せな終わり方じゃないと逆に読むのがつらいヘタレな俺。
411名無しさん@ピンキー:2008/12/08(月) 08:23:46 ID:ZuGL4jro
どうなるんだろ
wktk
412339:2008/12/08(月) 20:36:32 ID:vQ6Rj1JW
物凄く時間空けてすみません。待っててくれた人、感想をくれた人本当にありがとう。
続き投下します。
413339:2008/12/08(月) 20:39:00 ID:vQ6Rj1JW
 その日から、俺の中に違和感が芽生えた。
「ユキくん、きもちいいよ・・んっ・・はあっ・・」
 美咲の上気した顔を見つめながら、全身の感覚が下半身へと集まって行くのを感じていた。
 すでに何度も美咲とは交わっていたが、この行為で得られる満足感と充足感は薄まる事がない。
 そう、薄まることはないはずだった。
 しかしこの日は違った。
 心が、快感と幸福感でいっぱいにはならなかった。
 それは、昼間に聞いた樹村さんの言葉のせいだった。
『美咲がほかの男と』
 そんなわけはない、と一度は思ってみたものの、一度疑念が生まれると、中々完全に消しさることはできない。
「どうしたのユキ君、顔怖いよ」
 美咲がかわいらしい仕草で言う。俺はそれを見て、考えすぎだ、邪推だ、あの娘の言ったことは単なるいやがらせだ、と思い込むことにした。
 しかし、なぜだろうか。
 そう信じきることがどうしてもできなかった。
414339:2008/12/08(月) 20:40:21 ID:vQ6Rj1JW
「今さら何の用?」
 校舎裏で2人きり。あたしは真美とそこにいた。
 普段ならさらりと避けているのだが、この日は違った。やや強引に連れてこられてしまった。
 まあ何かされそうになったら、叫べば聞こえる距離にユキを待たせているので別に良いんだけど。
 真美は私の顔を見つめるばかりで、なかなか話を始めない。しびれをきらしたあたしは、言った。
「みさきねー、もう帰りたいんだけどー。早くしてくんない?」
 その言葉で、ようやく真美が動いた。
「五万でゆずって」
 あたしは 髪の毛先をいじっていた指も止め、口をあけて真美の顔を見つめた。
 何言ってんだろうこの女。
「はあ?」
「言ったじゃん、ゆずってくれるって。だからゆずって」
 あたしは少しの間呆然とした後、噴き出した。
「あっはっはっ!何言ってんの真美ちゃん!本気?」
415339:2008/12/08(月) 20:41:19 ID:vQ6Rj1JW
「・・本気」
 あたしが笑うことは予想していたことなのか、真美は真剣な表情をくずさなかった。
「あっそう、あはは。譲ってあげてもいいんだけどー、そうだなー、じゃあお金はいいからさ、殴らせて」
「え?」
 あたしは返事を待たず、真美に近づいて殴りつけた。
「うぐっ!」
 ひっくり返る真美に、私はそのまま蹴りをいれ、立ち上がらせまいとした。
「ぐ、いたっ・・!」
 立ち上がろうとする真美に、あたしは素晴らしい台詞を言った。
「耐えたら譲ってあげる」
 多少の効果しか期待していなかったというのに、驚いたことに真美はそれ以降抵抗しようとしなかった。
 それに気を良くしたあたしは、それから2、3回蹴りをいれた後、やめてやった。
「はははっ!ほんとどうかしてるよ真美ちゃん」
 息も絶え絶えになりながら、あたしを見つめる真美。
 てっきり悔しそうな顔をすると思ったが、意外にも毅然とした顔で真美は言った。
「・・・これで、ゆずってくれるんでしょ?」
416339:2008/12/08(月) 20:42:20 ID:vQ6Rj1JW
 あたしの中に、不快感が走った。
 思いっきり作り笑いをしながら、あたしは真美の耳もとに近づいて、言った。
「やるわけねーだろばーか!」
 瞬間、真美の顔色が変わった。
 あたしはその反応にぞくぞくとした快感を覚えながら、その場を立ち去ろうとした。
 しかしその時。
 あたしの髪は後ろから引っ張られ、ひきずり倒されていた。
「きゃああっ!」
 そしてあたしの上に真美が馬乗りになる。
 真美の顔は、涙でぐしゃぐしゃになりながらも、目をそらしたくなるほどの怒りを映していた。
 私はその表情に驚きながらも、次の瞬間には楽しい考えが浮かんでいた。
「ユキくーん!助けてえええ!」
417339:2008/12/08(月) 20:43:01 ID:vQ6Rj1JW
 真美の顔が、はっと色を変えた。
 ユキはすぐにやってきた。
 押さえつけられている私を見て、すぐに私が「被害者」と認定したようだった。
「おい、何してるんだよ!」
 どん、っという衝撃とともに、私の身体にかかっていた重さが消える。ユキが真美を突き飛ばしたのだ。
 私は心の中で大笑いしながら、現実での表情は凄く辛そうに見せる。
「美咲に何したんだよ!?」
「いきなり、いきなり真美ちゃんが美咲に襲いかかってきて、美咲、必死に抵抗したの!」
 真美の顔についた傷のことを聞かれても大丈夫なように、言葉を選んで答える。
 真美ちゃんは弁明する気力もないのか、魂が抜けたような顔で、ユキを見つめるだけだった。
418339:2008/12/08(月) 20:43:52 ID:vQ6Rj1JW
今日は以上です。

さんざん待たせて小出しですみません。完成は必ずさせます。
読んでくれてありがとうございました。
419名無しさん@ピンキー:2008/12/08(月) 22:11:20 ID:pZSpgKBv
ハードな展開だ…

GJ!
420名無しさん@ピンキー:2008/12/09(火) 04:38:29 ID:qIln0ZZb
これはキツいw
421名無しさん@ピンキー:2008/12/10(水) 04:33:21 ID:zCIaZ2nE
どちらかというと修羅場系だね。
422名無しさん@ピンキー:2008/12/11(木) 09:51:07 ID:rdHntv+v
続き待ってます
423名無しさん@ピンキー:2008/12/14(日) 22:58:41 ID:XWEMXROE
>>418
今更ながらGJ!
仕方ないとは思いつつユキくんの良さがわからなくなってしまった。
ていうかユキがバカに見えて来た
424名無しさん@ピンキー:2008/12/15(月) 14:31:09 ID:hgLp2QeN
良スレ発見

>>418
GJ!真美かっこいい
これは続きが気になる
425名無しさん@ピンキー:2008/12/19(金) 01:50:47 ID:pqEftN+x
>>423
・・・同じく
426名無しさん@ピンキー:2008/12/21(日) 23:23:39 ID:qr5TvAsr
サノバビッチって外国だと定番の罵倒らしいが
427名無しさん@ピンキー:2008/12/21(日) 23:24:34 ID:qr5TvAsr
ごめん、誤爆
428スイーツと香辛料 10章「一週間」1:2008/12/23(火) 17:10:48 ID:3pGorMef
ベッドによりそって座ると啓くんは部屋の隅をみて言った。
「あの袋とかはなに?」
「あれは泊まりのために色々買ってきたの。料理とかしようと思って」
「そうなんだ!ありがとう。じゃあお昼作ろう」
啓くんは急にいきいきとして買ってきたものを見ている。
変にサフランとか香草の瓶とか買ってきちゃったのは当たりだったみたいで、目を輝かせている。
「すごい!色々あるねー」
「ちょっと料理とかもっとやろうと思って。そのついでもあって」
「そうなんだ。費用僕ももたせて」
「いいよ」
「いやいや僕も使わせてもらうんだから…食材は?」
「ある程度は冷蔵庫に、あとはまた買ってこようかなって」
「そうなんだ!」
啓くんはうれしそうにお昼何を作ろうかとわたしに話してきた。
好きなことをやっていたり話している啓くんは本当にテンションが高い。
喜んでくれている姿を見てこの準備は正解だったなと思った。
「じゃあ台所いこうか」
「うん!」

料理はあるものとたくさん買った香辛料を活かせるものということで、ブイヤベース(のようなもの)にきめた。
わたしは料理は苦手で啓くんも料理を作る方はあくまで色々なお店の料理をよりはっきり味わうために少しやっているだけということなので、
あまり本格的なものを目指さず〜っぽくいこうと考えたわけだ。
「緊張するなあ。ごめんね失敗したら」
「ううん、一緒に作るのが楽しいから」
啓くんは昼食の出来に責任を感じているらしい。
啓くんならそうだとは思ったけど、わたしに過大な期待をかけてまかせたりしてこないのに
ホッとしたようなちょっと釈然としないような複雑な気持ちになった。

啓くんがもってきていた料理の本を見ながら調理をはじめた。
二人ともあまり手慣れていないので手間取ったが、
二人で野菜を切ったり海老をむいたりして話していると
啓くんがとてもリラックスして楽しそうにしているのがわかって、退屈はまったく感じなかった。
「あとはサフランとスパイスを入れて…」
啓くんが本を見ながら分量を計る。
「よし」
サフランが入り、鍋の中が黄色く色づく。そうするとそれなりにブイヤベースっぽくなった感じがした。
「あれ?」
啓くんが表情をくもらせた。
「どうしたの?」
「なんか黄色すぎるような…こんなもんかな…。あっ!しまった!?」
啓くんが本を確認して叫ぶ。
「ど、どうしたの?」
「…分量まちがえちゃった」
429スイーツと香辛料 10章「一週間」5:2008/12/23(火) 17:14:56 ID:3pGorMef
啓くんが落ち込んでいるのを励ましながらも、
わたしはそのへこみ具合が可愛くて笑いそうだった。
「大丈夫だって。ちょっと辛いけどそんなに変わんないよ」
「ごめん…」
先ほどまでの勢いがうそのようにうなだれて啓くんがつぶやく。
「…やっぱり」
「ん?」
「いや…」
「やっぱり、なに?」
「…調子にのるとうまくいかないなぁって」
「調子にのる?」
「うん…」
「のってたの?」
「うん…」
「全然わからなかったけど…」
「…」
啓くんの顔がすこし赤いような気がする。
「ねえ、啓くん?」
「…葉子さんにいいとこ見せられると思って…」
小さな声でそう言って啓くんはうつむいた。ああ、そういうことか。
「わたしにいいところ見せたかったんだ?」
「うん…」
「それではりきってたんだ?」
「うん…」
「得意分野の料理がきたみたいな?」
「…そう、ってなんで葉子さんそんなニヤニヤしてるの?」
「えっわたしそんな顔してた?」
気づかなかった。でもたしかにわたしは彼の言葉に可愛いなあと思っていた。
マイペースで動じないようにみえる啓くんがわたしにそんな風に見栄をはってくれることがうれしかったから。
「このスープは啓くんみたい」
「え?」
「なんかそんな気がする」
「…どういうことだろう?」
啓くんが首をひねる。わたしにもよくわからない。
スープを口にしてその味をたしかめる。ちょっと辛くて色も不思議。でも。
わたしは突然腰をあげてテーブルごしに啓くんにキスをした。
呆然とする啓くんにわたしは、
「大好きってこと」
といっていたずらっぽく笑った。
430名無しさん@ピンキー:2008/12/23(火) 17:18:15 ID:3pGorMef
すいません、>>428のタイトルは「一週間」4の間違いです。

適当につけたタイトルにようやく後付けのそれっぽい話をつなげられました。

このタイトルつけてから「狼と香辛料」っつ作品があることも知りしまったなぁとか思ったり。

小出しですみませんm(__)m
431名無しさん@ピンキー:2008/12/23(火) 18:29:11 ID:cBh9j9qL
キタキター!
狼と香辛料をしらないで、つけたタイトルだったのかww
432名無しさん@ピンキー:2008/12/23(火) 21:55:10 ID:Fyfs5IDb
今年中の完結希望!
433名無しさん@ピンキー:2008/12/23(火) 22:58:35 ID:mDkGVNaE
狼と香辛料知らないでつけたって…色々とすげぇなおい
434名無しさん@ピンキー:2008/12/24(水) 01:01:01 ID:pS4xqZuk
更新キテタ---!!
何気なく開いたスレでしたが、すっかりファンです。

それにしても題名w
435名無しさん@ピンキー:2008/12/25(木) 10:27:20 ID:AZ4pdA24
更新キタ━━(゚∀゚)━━!!
436名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 00:09:44 ID:sIwYIKp6
更新キテター
狼と香辛料から取ったと思ってたw
437名無しさん@ピンキー:2008/12/26(金) 09:42:22 ID:NNlYNypK
狼と香辛料自体、金と香辛料っていう中世の経済を書いた書物からきてるし
438名無しさん@ピンキー:2008/12/27(土) 13:28:12 ID:dmC3uUYB
んなこたぁ皆知ってる
つか金と香辛料軒並み売り切れ中吹いた
439名無しさん@ピンキー:2008/12/29(月) 10:39:12 ID:jeQDMXEv
スレタイに惹かれてみてみたら…なんたるGJなスレwww

スイーツと香辛料の続きをマターリ期待してます

(;´Д`)葉子たんハァハァ
440スイーツと香辛料 10章「一週間」6:2009/01/01(木) 02:34:47 ID:jNwz06JN
食事のあと部屋に戻ってゆっくりとこの一週間にやりたいことを話した。
啓くんはこっちの方のレストランを探して予約してくれていた。
またわたしの育った町や学校を見てまわりたいというのでそれも予定にいれた。
料理のリベンジも毎日やることにした。時間はたっぷりあるのだ。
そんなふうに予定を組みつつも、
わたしが一番したかったのは啓くんとこうしてとりとめもなくゆっくり一緒にすごすことだったので、
午後いっぱい二人で話しているのがとても楽しかった。
夜は地元の家族でよくいく欧風料理屋にいった。啓くんがいきたがったのだ。
「せっかく葉子さんの地元に来てるから知りたい」という。ちょっと恥ずかしい。

「このカレーはおいしいね」
「うん、ここの名物。黒胡椒の粒か大きいの」
「ほんとだ」

ちょっと顔馴染みの店長さんとかに見つからないいか心配だったけれど、混んでいたせいか大丈夫だった。

「おいしかった。雰囲気のいい店だね」
「そう?気に入ってもらえてよかった」
「うん、また行きたい」
「一週間あるからまた行ってもいいね」
「…そうだよね、一週間…泊まらせてもらうんだよね…」

啓くんが小さな声でつぶやく。そうこれから一週間啓くんはうちに泊まっていく。
啓くんは色々な心配で身をかたくしている。わたしも少し緊張していた。この一週間の最初の夜がくる。

啓くんはわたしに触れてくるだろうか。
9時過ぎにうちに帰ってきて、予約しておいたお風呂のお湯加減をみながらわたしはぼんやり考えていた。
啓くんは性格上、ちょっと驚くほどそういうことをしてこない。
わたしがねだったりしてようやくキスしてくれるくらいだ。
啓くんは異性とつきあうのがはじめてだし、遠慮してるのかなと思っていた。でもそれにしても、と思う。
441スイーツと香辛料 10章「一週間」7:2009/01/01(木) 02:38:51 ID:jNwz06JN
わたしは正直そういうことがきらいじゃない。
前に一人だけつきあっていた人とそういう経験をしただけで遊んだりしていたわけではないけれど、
わたしは彼氏に求められて断れないという友達とかとは違って、
わりとむいているというか積極的な方のようだ。
だからこの一週間の泊まりはやっぱりそういう意味もあって計画した。
さすがに啓くんでもそのことはわかってると思う。
実際レストランからの帰り道こわばっていたのもそのせいじゃないだろうか。

お湯はあたたかかった。自分の部屋へむかう。
一緒に入ろうかとさそってみようか迷う。今朝は啓くんを誘惑しまくろうとか意気込んでいたのに、
実際面とむきあうとできない。それはある不安からだった。

「お風呂わいてるよ」
「どうも…。葉子さんお先にどうぞ」
「お先に…か」
「え?どうかした?」
「…別に」

わたしから誘いをかけたら啓くんはわたしを「ギャル」として軽蔑しないだろうか。
それがわたしの不安だった。啓くんは前にわたしにそんな風にみないといってくれた。
わたしも啓くんに偏見をもっていた自分がなんてバカだったんだろうと思って変わった。
でも前にわたしがそういうことを覚えたのは、
わたしが変わる前でいわゆるギャル的なつきあいかたや終わり方だった。
前の彼氏はそれほど嫌な人ではなかったし、後悔しているわけではない。
でも啓くんはそれをどう思うだろうか。きっと気にしないといってくれると思う。
でももし啓くんがわたしに手をだしてくれない理由がそこにあったら。
わたしから誘いはかけられない…。

「よ、葉子さん?」
「…ごめん。なんでもない。啓くん先に入ってきて。お客さんなんだから」
笑っていう。
「…葉子さん、もしかして怒ってる?」
「ううん…」
静かに答えてベッドに腰かける。横にいる啓くんの方を見ず「お風呂いってきなよ」という。

…しばらくして啓くんがわたしをだきしめてきた。
442スイーツと香辛料 10章「一週間」8:2009/01/01(木) 02:42:54 ID:jNwz06JN
「ん…啓くん?」
「今日葉子さんがだきしめてくれてすごく安心できたから。
僕もやってみようかなって」
「…ありがとう」
体を啓くんにまかせる。啓くんは後ろからだきしめながらわたしの両手をつつみこんだ。
わたしは啓くんの顔をみた。きっとわたしは赤くなってる。
「葉子さん、かわいいね」
啓くんがゆっくりキスをしてくれた。
わたしは一瞬とまって、ちからなく息をはいた。
「嬉しい」
「え?」
「啓くんからは、あまりしてくれないから」
「あ、ああ。いや、ごめん」
慌てている。
「もっとして」
わたしは目をつむっていった。啓くんが息をのむのがわかる。
少しして啓くんの唇の感触を感じてわたしのスイッチが入ってしまった。

そっとふれるように、でも相手を支配してしまうように、
相手をやさしくうけいれるように、あるいは相手の思うままに自分がうばわれてしまうように、
わたしは啓くんをもとめた。

啓くんは戸惑いながらもわたしにこたえてくれる。
わたしはまずいと思いながらも我慢しつづけてきた衝動に身をまかせてしまう。

「ごめんね。軽蔑しないで…」
行為をとめずかすれるようにいう。
啓くんは揺れる瞳でわたしを見ながらはっきりいった。
「葉子さんを信じてるから」
啓くんが力をこめてわたしをだきしめる。
「むしろ僕が葉子さんを傷つけるくらい狂っちゃいようでこわい。」
啓くんがわたしの首筋に口づけをしながらいう。
わたしは気を失いそうだった。
「大丈夫だよ。わたしも啓くんを信じてるから」
あとからふりかえると赤面してしまうようなことでもいい、
おだやかであたたかなふれあいであるとともに、
強引でおたがいが溶けて変わってしまいそうな危険がわたしは好き。
啓くんの手のままに染められてしまうような戯れも好き。
わたしが啓くんを翻弄してあやつるのも好き。
そのあやうくてでも相手をとても近くに感じることをしたい。
わたしは自らそこに溺れようとしていた。



…一週間たった。色々なことがあった。それを細かくはいわない。
でもこの一週間でわかったことがある。
わたしはもうはなれなれない。啓くんをけっしてはなさない。
443スイーツと香辛料 エピローグ:2009/01/01(木) 02:46:02 ID:jNwz06JN
ぼやけてしまうような、あたたかく陽があふれている日だった。

長い坂道をわたしと彼は歩いている。
スローモーションのようなまばたきするたびにすごく時間がすすんでいるような不思議な感じだ。

わたしは彼に微笑みかけ、そのあと急にはしりだした。
彼はわたしを目でおいかけて、
おもいきり陽の光に視力をうばわれてしまう。

わたしは坂道の上まで走った。彼を見下ろす。
最初はこんなふうにわたしが上にいるつもりだった。
彼がのぼってくる。同じ場所にたつ。

「坂きつかったね。やっと平らになった」
彼が笑う。
「うん。ここに啓くんと一緒に立てた」
「うん?」
「最初から、普通に、同じところで同じ目線でいればよかった」
「…葉子さん?」
「啓くん」
「…」
「本当にごめんね。ありがとう」
わたしは頭をさげた。

音が消え、すべてが止まった、と思うくらい静かな時間が流れる。

わたしはゆっくり頭をあげて、真っ正面の啓くんを見た。
「今日は、わたしがお店見つけてきたんだ」
「本当?ありがとう!」
「今日はわたしのおごり」
「え、それは…」
「お願い、そうしたいの」
「葉子さん…」
わたしは啓くんに右手をさしだした。
「行こう」
「うん」
啓くんがその手をとる。

穏やかな陽光の奔流に蒸発しそうに感じるほど包まれながら、
わたしたちは同じ高さの道を踏んで新しい場所へきえていった。
その手をけっしてはなさないで。





スイーツと香辛料 終
444名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 02:49:13 ID:jNwz06JN
以上、すいません年内終了ならず(*_*)新年になってしまいました。

これでスイーツと香辛料は終了です。色々力不足や後悔はありますが、とりあえずピリオドをうてて、燃えつきました…。

今まで感想や過褒をくれた方々本当にありがとうございますm(__)m
おかげで最後まで書けました。本当にここで書かせてもらえてよかったです。
445名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 03:18:17 ID:XsPtnINw
GJとしか言えねぇな。

なんつーか、谷川史子の絵が浮かぶような話だった。
作者、愛してるぜ。また書いてくれ!
446名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 06:39:37 ID:ZHJzQdPC
作者さん明けましておめでとう&寂しくもありますが、乙でした!!

文章がすごく心地よいので、読んでいて癒されますた
447名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 07:24:21 ID:Ehsr6Lcw
やべぇ…自分的に大好物なハッピーエンドの終り方に目から変な液体が…

作者さ…いや!神よ!最高の作品を書いてくれてマジ感謝だぜ!

また創作意欲が燃えあがったら次の作品にも期待してるぜ!
448名無しさん@ピンキー:2009/01/01(木) 17:40:53 ID:uFwgg7Gc
キャラクターの作りが良かった。
なんつーか二次創作、ラノベ、エロゲ特有の典型的な型にはまったキャラクターじゃないというかね。

そのうちもっと面白い作品ができるようになるよ!
449名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 06:56:45 ID:vrSW1rTn
なんと幸せなエンディング。
作者様、GJ!!
しっとりとした語り口が、色っぽくてどきどきした。
直接の行為は描かれていないのに物凄く色っぽくて艶があった。
幸せがこちらにも伝わってきた。
450名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 12:43:52 ID:K2YF7kJU
作者さん乙!
なんとなくこのすれ開いてみてよかった。
ちと恥ずかしいがすごく暖かい気持ちになったよ。
いいお話をありがとう。
451名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 21:54:47 ID:wuIvPo82
おつ!
エロシーンなか(r

それはともかく面白かったよ。もう上で違う人描いてるけど、型キャラじゃないのがいいと思う
452名無しさん@ピンキー:2009/01/02(金) 23:56:11 ID:I6sbJdJK
たまたま通りすがりに見かけてから終了するまで通いつめてました。
乙でした!!!なんか心臓がきゅんきゅんしましたよw
453名無しさん@ピンキー:2009/01/03(土) 12:54:55 ID:f5kd7qRN
みなさま本当にありがとうございますm(__)m

感想のほうが本編より感動的でまじありがたいです。谷川史子読んでみたくなりました。

とりあえずROM専に戻って真美・美咲の続きをまちたいと思います(^^)
454名無しさん@ピンキー:2009/01/04(日) 23:38:18 ID:0Kgh60LT
なんという綺麗なエンディング
一枚の絵画のようでした
GJ!
455名無しさん@ピンキー:2009/01/06(火) 17:34:34 ID:QuB3Xq3M
流石「空腹は最高の調味料」だなw
456 ◆WoueFxyFoA :2009/01/08(木) 13:52:17 ID:ikuIchh+
ビッチ像がきちっとないものの、
スイーツと香辛料に影響を受けて書いてみた。


「ねぇ、ユウ、今日空いてる?」
 緩いカールが私の目の前で揺れた。
 覗き込んでくる目は、バッチリアイラインが引かれている。
「空いてるよ。どっかアテあんの?」
ワタシは机においた鏡でリップを塗り終えると、ノゾミの方へ視線を移した。
ノゾミがニッと唇を上げた。
「アヤがさ、この間ナンパした男が結構持っているんだって」
「あー、あいつか」
アヤは背が高く、スタイルもいい。
 顔は、どうなんだろ、ちょっと鋭角的っていうか、きつい印象なんだけど、美人、だと思う。
 そのアヤに何日か前にプリクラを見せてもらったのを思い出した。
 アヤは、その男からもらった、とブランドのポーチを見せてきた。
 男の印象は、ちょっと頼りない印象でスーツもそれほど高そうに見えなかったが、すぐにそんなものを買うようだから、金はあったんだろう。
 遊び慣れはしてなさそうだったから、女からのナンパでコロっと引っかかった口だと思った。
「そうそう、アヤがさ、アイツ、てかアイツらの奢りで合コンセッティングしたんだって」
 ワタシは頷いた。
457 ◆WoueFxyFoA :2009/01/08(木) 13:52:40 ID:ikuIchh+

 いかにもギャルな印象のノゾミ、スタイリッシュなアヤと比べるとワタシは高校デビューってやつで。
 中学の頃好きだった男の子は、陸上部だった。少しでも近くにいたくて、マネージャーなんてやっていたけど、彼の趣味はワタシが苦手だって思っていたチャラい感じの娘で、3年の途中で”彼”から告白して付き合い始めた。
 ワタシだって、他の男の子から告白されたことはあった。だから、人並みな容姿だとは思う。けど、なんかバカらしくなっちゃって、中学とは離れた高校に進んだワタシは高校に入るなり、髪を明るく染めた。チェンジってやつ?
 最初は、話しかけてくるヤツらと合わないなぁ、って思った。
 中でも男子で、チャラい格好のやつは、下心まるだしでダサすぎだった。
 夏休みにはもどそうかな、って思っていた。
 7月頃、中学までは真面目にやっていたお陰か、中間の成績がそれなりだったら、ノート見せて、とかいって、期末前にはアヤとノゾミとつるむようになってた。
 付き合ってみれば、趣味がチャラい印象を与えるだけでアヤもノゾミもフツーだった。
 
458 ◆WoueFxyFoA :2009/01/08(木) 13:53:01 ID:ikuIchh+
 雑誌の話、テレビの話、音楽の話。
 こういう格好って背伸びだ、って思った。でも、背伸びするにはバイトしなきゃお金がないから、バイトして、クラスの他の連中より大人だって3人とも思っていた。
 夏休みに入る前から3人で、海行こうって決めた。
 自分たちのお金で、旅行に行く!これってすごいことじゃない?
 その時に、ノゾミは大学生からナンパされた。ワタシはちょっとビビったんだけど、アヤが「いいじゃん、いってみようよ」って言うので、大学生は2人で、5人で飲んだ。
 夜中、気づいたらノゾミと大学生の1人がいなかった。
 ノゾミは感想を、「メッチャ痛い」って言っていた。
 大学生とはしばらく付き合っていたけど、勢いで付き合い始めただけなのもあって、10月頃には別れていた。
 ただ、ノゾミはワタシ達よりセンパイになったって気分なのか、すっごい積極的になって、アヤとワタシは引っ張られる感じだった。
 11月頭の連休のとき、折角、新宿まで出たのにクラブに入るお金がなくって、結局カラオケにしよっか、って話していたらノゾミが、ナンパしよう、って言い出したときはびっくりした。
459 ◆WoueFxyFoA :2009/01/08(木) 13:54:11 ID:ikuIchh+
 「ノゾミ、パワフルだなー!」
 アヤがノゾミを感心するように見ている。
 「う、うん」
 ワタシは、そうはいっても不安もあった。所詮、女子高生3人なんだよ?っ
て。
 ノゾミは「3人ならなんとかなるって」と言って男に声をかけにいった。無
茶だと思った。でも、しばらくして、背が高くてちょっと濃い顔のレザーの
ジャケットを着た男を連れてきて、私たちはクラブに入れた。
 ちょっとクラブではべらせられればいいってタイプだったみたいで、ワタシ
達は目一杯楽しんだ。
 その彼はアヤとだけは携帯交換していて、イブは結構有名なホテルにお泊り
だった。
 
クラブに行ってから一週間くらいたった時に、
アヤが「この間の彼、ユウはどう思う?」って聞いてきた。
「いいよね、サラッとしててさ」
アヤが小さく頷いた。ノゾミが思い出しながら、指をくるっと回した。
「ジローラモぽかったよね」
「それはない!」
ワタシとアヤの声がハモった。
その後から、アヤは、デートが増えた。
460 ◆WoueFxyFoA :2009/01/08(木) 13:54:34 ID:ikuIchh+
 イブは、ワタシはノゾミと二人でカラオケオールしてたんだけど、
 「これで、ユウだけだね」って言われたのは気になった。
 焦るもんじゃないけど、二人とワタシは違う、っていうのが。
 でも、ノゾミもアヤも、一応は気に入った人としてるわけなんだから、ワタ
シだってそういう人がいれば、って思ったんだ。
 
 アヤはその彼と喧嘩して別れた後、また3人で遊ぶようになった。
 「子供だな、ってなんなのって思わない?その子供と付き合ったのが、お前
だろ、みたいなさ」
 学年末の試験用にノートを書き映していたガストで、アヤがコーラを飲み干
していった。
 「そうだよね。高校生に夢中になってたでしょ、って。あ、コーラでい
い?」
 アヤのコップを受け取って、ドリンクバーへ立つ。
 「まーまー、喧嘩別れなんて、どっちもどっちだよ。それよりさ、試験終
わったらどこいく?ユウ、ホットコーヒーね」
 グラスとカップ混ざると持ちづらいんだよな。
461 ◆WoueFxyFoA :2009/01/08(木) 13:55:29 ID:ikuIchh+
とりあえず、ここまでで。
改行ミスで前半レスが横に長くてすいません。
462名無しさん@ピンキー:2009/01/08(木) 23:57:16 ID:vYLjwHtM
ついに新人がきた!
463名無しさん@ピンキー:2009/01/09(金) 05:34:24 ID:R4qfNP4V
GJ!かなりリアルだ
464 ◆WoueFxyFoA :2009/01/09(金) 22:34:27 ID:B9HtqVqO
続きいきます。
エロは当分ないです。

465 ◆WoueFxyFoA :2009/01/09(金) 22:35:07 ID:B9HtqVqO

 試験が終わって、3人でセンター街にいったときに、4人くらいのストリート
系って感じのヤツらからナンパされて、一緒にクラブに行った。
 クラブは楽しかった。代金もあっちもちだったし。
 ナンパだと安く上がるよね、ってノゾミが喜んでたの、覚えてる。
 アヤなんか、クラブでも声かけられまくっていた。アヤはうまく4人の男を
スクリーンに使って距離をとって、他の客からよけていた。
 たっぷり踊って、クラブからでると空が白んでいた。
 「楽しかった!けど、マジ疲れた」
 アヤの発言に、まとめてる感じの男が答えた。
 「疲れているなら、休んでいかない?」
 「どこで?」
 ノゾミが聞いたら、急に男らは私たちのサイドに入ってきた。
 そいつらは最悪だった。駅に歩いていこうとしたら、2台車がとめてあって、
その中にワタシらを乗せようとした。
 「タダで遊んだんだから、分かるだろ!」
 「なに、勘違いしてんだ豚!ざけんなよ!」
 ノゾミが怒鳴った。ワタシ達は必至で暴れた。
 人通りが少なかったけど、見かけた通行人が警察を呼んできてくれたみたい
で、大事はなかった。
 ただ、女子高生が明け方になにしていたんだ、って注意はうけた。
 3人とも警察沙汰はさすがに凹んで、帰りの電車は反省ムードだった。
466 ◆WoueFxyFoA :2009/01/09(金) 22:36:04 ID:B9HtqVqO
 それからは、相手の人数に気をつけるようにした。やめないのかよ!って、
女子高生だもん、止めてらんないよ。
 自分らで遊ぶのはお金使うけど、ナンパをする、される、それで遊ぶとお金
はぜんぜん使わないでよかった。
 声をかける頻度は、ノゾミ、アヤ、ワタシの順。声をかけるのは各人の好み
のタイプ。
 でも、タイプだと思っても、なんかげんなりすることが多かった。同級生の
男子は下心まるだしでだっさい、って思っていたけど、男は大概ワタシ達3人
の誰かを気に入ってのってくる。
 ノゾミは胸のあたりまで巻き巻きの髪型で、アヤは頭のてっぺんでアップで
固めていて、ワタシは肩の辺りまでのミディアム。
 服装もそこまではバラバラじゃないけど、ノゾミがミニとかホットパンツは
いていることが多くて、アヤはロングのパーカーワンピとか。ワタシもどっち
かっていうとアヤの服に近いけど、もうちょっとカワイイ系のを着ていた。
 このバラケ具合は3人で相談とかしたんじゃないんだけど、これもよかった
みたいだった。
 ただ、酒が入ると、まんま「処女なの?」って聞いてくるヤツがいて、ノゾ
ミなんか「ヴァージンなのー!」って答えると喜んでいてバカじゃん、って
思った。
 3人で、なんかアレだよね、って話をしているとアヤは「関係ないじゃん、
それが大事って、今目の前にいるワタシを大事にするのに、条件が必要なんで
しょ。なんかうそくさい」って話していた。
467 ◆WoueFxyFoA :2009/01/09(金) 22:39:44 ID:B9HtqVqO
 使わないで済んだお金で、新しい服を買ったりしていたけど、ノゾミが上手
くねだって買ってもらえた、って言うからまねしたら本当に買ってもらえた。
 『男は下心と自分を精神的にも気持ちよくしてもらいたいから付き合ってい
るんだ』
 だから、付き合いが浅いうちにねだって、買わせて、プライドにひっかかる
コトを言えば、喧嘩して分かれられた。簡単だった。
 ノゾミは「気持ちいいから、したいなって思うときだけHまでする」って
言って、Hに特別の意味なんかない、って言った。
 アヤはバイト先の男の子と付き合ってみたけど、Hしたら彼が自分のことを
所有物みたいにいってきて別れた、って話をした。
 「なんかさ、やるのが最終目標なんだよね、バッカみたい」
 そんなの見ているうちに、付き合うって特別じゃない、ってなってきて、
ヴァージンすてるのも適当でいいやって意識になった。ノリがあったときで、
いいな、って。
 でも結局、そのノリもなんか冷めちゃって上手くつかめなかった。
 スタバでラテを飲んでいるときに、アヤとノゾミに、ちょっとだけ謝られた。
 「ユウがさ、すっごいドライになっちゃったのうちらのせいかな、って思う
んだよね。」
 「別にいいよ、男がくだないって思うだけで、アヤとノゾミといるのは楽し
いよ。ノープロブレム!」
 ワタシはアヤとノゾミに掌をふった。
 でも、アイツは違っていた。
468 ◆WoueFxyFoA :2009/01/09(金) 22:41:15 ID:B9HtqVqO

 モンテローザ系じゃないだけで、大して高くもないチェーン店の居酒屋だっ
た。
 別に高くないとイヤ、なんて思わない。けど、アヤのプリクラの男を思い出
すと、あー、だから冴えないんだ、って納得した。
 ノゾミは「気楽でいいじゃん、こういうとこ」って言ったけど、金はもって
いてもそのセッティングで、こういうとこしか思いつかないってのがね、とワ
タシは苦笑した。
 しかし、彼の連れてきたメンバーを見て、さすがに……。
 
 退いた。
 
 だって、女の子と合うのに今日びミリタリージャケットだよ?細くって首筋
が鳥みたいな男がそんなの着ていて、うわぁ、って思ったのに、もう片方は
ちょっとだけ小太りの男だった。服はまともだったけど、髪もところどころピ
ンピンと跳ねちゃっていて、会う気で来たのか、こいつはって感じだった。
 アヤのアイツが一番まとも、ってのはセッティングの常だけど、それにして
もって感じだった。
 席について、飲み物を頼んですぐにトイレタイム。
 ノゾミがワタシの袖を掴んで、頭を下に振った。
 「びびったわー、どうみてもアキバ系じゃん」
 「さすがにあれはないなー」
 アヤも手を合わせている。
 「ごめん、お金もっている人ならもうちょい考えてくるかと思った。あいつ
らと一緒には、いたくないよね、とっととあがっちゃお」
469 ◆WoueFxyFoA :2009/01/09(金) 22:44:57 ID:B9HtqVqO
 ワタシは頷いたけど、ノゾミが急にプッと笑い出した。
 「いや、逆に面白くね?アヤの罰ゲームってことで、ちゃんと時間までいよ
うよ」
 「罰ゲームならワタシら帰ればよくない?」
 アヤが懇願するように、手を振り回しながら説得する。
 「ノーゾーミー!」
 「いや、あんな連中と会うことなんてないっしょ。だから、珍獣見るような
もんでさ、二次会とかも誘ってくるならいっちゃおうよ。レアだよ!」
 そんなもんか?って思ったけど、たしかに今日限り合わないんだからアクシ
デントってことで、いいかって。アイツらなら危険もないだろうし。
 たしかにアイツらのイタイとこは後々笑い話にできそうだった。
 「わかった。じゃ、戻ろうか」
 ナメてるっていったって、流石に最低限のマナーはあるつもりで、誘った相
手が好みじゃなくても、タダで奢ってもらうなりの時間はワタシ達もいる。
 ただ、1時間ちょいを過ぎたら、すっと帰っちゃうってのが、パターンだっ
た。
 アヤは自分でやっちゃった分、ちょっと顔を引きつらせたけれど、ワタシ達
が残ることになってちょっと安心したみたいだった。
 「ありがと、ユウ」
470 ◆WoueFxyFoA :2009/01/09(金) 22:46:21 ID:B9HtqVqO
 席の配置は、アヤの前にプリクラの彼、ノゾミの前にミリタリー、私の前に
小太りだった。
 乾杯をすると、しばらく静かになった。
 ……。
 ………。
 絶対童貞でしょ、アンタら!
 こういうときは、ノゾミの出番だ
 「え、っと3人はどういう知り合いなんですか?」
 プリクラが答える。
 「あ、うん、あのネットゲームで知り合ってさ」
 ネトゲかよ!
 「で、結構話が合うんで一緒にのむんだ。」
 ネトゲの知り合いってコトはプリクラはお金があるけど、他はないってパ
ターンも結構あるわけで、なにからなにまでアヤはチョンボだな、って思った。
 そう思ってアヤを、ちらっと見たら顔を引きつらせていた。今度、ガスト奢
り決定だね。
 ちなみに私たちは相手を見て、女子高生って言った方が喜びそうならぶっ
ちゃけるし、20歳以上ってしたほうがよさそうって思えば、20歳以上っていう
ことにしていた。当然、コイツらには20歳以上ってことにしている。
471 ◆WoueFxyFoA :2009/01/09(金) 22:47:42 ID:B9HtqVqO
今回はここまで。
472名無しさん@ピンキー:2009/01/09(金) 23:24:34 ID:vsmSK54W
現実的なビッチの書き方がうまい
473名無しさん@ピンキー:2009/01/10(土) 06:22:24 ID:ColtvNMN
面白くなってきた!
GJ!
474名無しさん@ピンキー:2009/01/11(日) 01:59:05 ID:HTEmOvwI
名前がカタカナなところが恋空(笑)みたいでビッチっぽいなw
475名無しさん@ピンキー:2009/01/11(日) 08:17:51 ID:HLD+07bw
判断基準カタカナかよw
しかし(おそらく)主人公の娘はビッチの友達ってだけで、身持ち十分硬いな
某漫画みたく、「何で処女じゃないんですか!」って鬱展開なさそうで安心w

次の投下も楽しみにしてます
476名無しさん@ピンキー:2009/01/12(月) 01:25:43 ID:1wqE8pQu
カタカナわろた
477 ◆WoueFxyFoA :2009/01/12(月) 13:04:02 ID:sks/peIQ
レスありがとうございます!
恋空は未読なんですがw 
ぽくなっていてよかったです。
近いうちにまた投下したいと思います。
478 ◆WoueFxyFoA :2009/01/13(火) 01:29:00 ID:G4eRMRTV
展開が遅くて申し訳ない。
お付き合いくだされば幸いです。
それでは、投下します。
479 ◆WoueFxyFoA :2009/01/13(火) 01:30:58 ID:G4eRMRTV
 それでもノゾミがバイプレイヤーとして上手く盛り上げてくれたお陰で、
ちょっとは話が弾むようになってきた。
 私たちも携帯でネットは見てるし、テレビもちょっとは被ってるの見てたり
するし。
 小太り君は、高原ヨシヤって名前だった。
 「長谷川さんは、その野球とかって見ます?」
 長谷川ってのは、ワタシね。いまさらだけど、長谷川ユウが本名なんだ。
 で、野球?
 「えー、全然みない。なんかルール難しいし、巨人?ってのがよく試合して
るよね」
 「え、そ、そうですか。あ、でも野球選手の面白い話があるんですよ」
 多分、高原クンにしてはとってもがんばったんだと思う。で、その話は結構
面白かった。珍プレー集みたいのはパパ(変な意味じゃないよ)と一緒に見た
こともあったし。
 「結構面白いね、そっか、選手も人間だもんね、色んな話があるわけね」
 「そうなんです。あ、球場とかいったことも、ないです、か?」
 顔が少し赤くなるくらいテンションがあがっている。久しぶりだな、話すだ
けでこんなに興奮しているヤツって。
 「ない。んー、いや、ちっちゃい頃に行ったかも知れないけど覚えてない」
 「そ、そうですか。あの、その」
 え、なに、デートに誘っちゃうわけ?別に、誰だから付き合うとかも適当に
なっていたから、誘いにのってもいいし、どう断れば面白いか、とか考えて高
原クンを見ていた。
 でも結局1分くらい、もごもご言った挙句、彼は話題を変えた。
 
 どんだけ、奥手だよ!
 
 3杯目が飲み終わるくらいの人も出始めて、少しまったりな感じでしばらく料理を摘んでいたら、高原クンが声をかけてきた。
 「長谷川さん、嫌いな食べ物ってあります?」
480 ◆WoueFxyFoA :2009/01/13(火) 01:32:54 ID:G4eRMRTV
 「あんまりないかな。あ、でも貝とか苦手かも、それと蕎麦はあんまり好き
じゃないかな」
 彼はやや嬉しそうな顔をした。
 「あ、俺も貝は苦手なんですよ、あの歯ごたえとか、香りとか。……蕎麦は、
僕はそれほど嫌いじゃないんだけど、すごくおいしい店があって、そこで食べ
たら印象変わるかもしれないですよ」
 好き嫌い直してもらおうとか思ってないけど。あと「俺」なんだ、って
ちょっと思った。スポーツ観戦とか好きだと、俺って言いそうって妙に納得し
た。
 それで、蕎麦、ね。ボソボソとするだけって印象で、ワタシ達の活動範囲内
にないから食べない、ってのもあったけど、ちょっとだけ興味があった。
 「ふーん、高いの?」
 「いや、そんなに高くないです。」
 「どこにあるの?」
 「秋葉原です。」
 でちゃったよ。ちょっとだけ首を傾げる素振りをした。
 「秋葉原にそんなところあるんだ。詳しいんだ?」
 「あ…、はい。」
 いくら鈍めでも、ネットをやっているなら秋葉原が一般的な女の子たちから
どういう印象をもたれているかは、分かっているらしく、すこし言い澱んだ。
 なんか、その凹み方が分かり易すぎて可愛らしかった。
 「連れてってもらおうかな、ヨシヤに」
 一瞬、高原クンの顔が豆鉄砲を食らったようになった。名前を女の子に呼ば
れたことなんてなかったから、って言っていたな。
481 ◆WoueFxyFoA :2009/01/13(火) 01:34:00 ID:G4eRMRTV
 帰り道でノゾミが笑った。
 「ユウ、遊びすぎじゃない?」
 「たまにはいいじゃん、それこそレアでしょ、あーいうタイプ」
 アヤが納得したように小さく頷いてから、軽く視線を上にした。
 「へたれなだけかもしれないけど、がっつく感じ出されなくて楽だったよ
ね」
 ノゾミもそれには同意だったみたい。あしらうことはできるけど、面倒くさ
いのも多いのに、一次会終わって、ノゾミが「今日は、ごちそうさまでし
たっ!」って言って、そのまま解散はイージーで疲れなかった。
 「それで、ユウ、約束はどうするの、すっぽかし?」
 ワタシは首を振った。調子こいてる勘違いイケメンならともかく、高原クン
にそんなことしたら、ずっと待っていたり、トラウマになりそうだったから。
 「きっと初デートだよ、ユウのボランティア精神にカンドーでありますっ」
 「ボランティアじゃねーし!」
 3人で笑いあった。
482 ◆WoueFxyFoA :2009/01/13(火) 01:35:27 ID:G4eRMRTV

 秋葉で待ち合わせってことで、ワタシは普段よりはだいぶ控えめの格好にし
た。街のカラーってあるでしょ。コスプレとかは特別としても、やっぱり渋谷
やブクロと比べると違うと思う。それに今日は一緒に歩くのが、高原クンだか
ら、気を使ったつもり。
 パーカーにジーンズなんていう、部屋着か地元のコンビニに行く感じの服く
らいのほうがいいと思った。
 高原クンはワタシより先に着ていて、この間よりは服に気を使っていた気が
する。
 改札の中で会って道順を説明してくれてから歩き出そうとしたら、俺の服お
かしくないですか?って聞いてきた。
 男の服は、変な方向に走らなきゃそんなにやばくないから、大丈夫だよって
答えた。ワタシが、普段の服だと少しバランス悪かったろうな、って思ったけ
どね。
 ノゾミとかアヤが言っていたけど、男はブスとは歩きたくないって思うらし
いけど、女の子は意外と寛容だよ。ドラドラの塚地とマツジュンならマツジュ
ンってワタシだって答えるけど、それは比較だからで、別に普通の格好なら気
にしない。
 それっぽいことを、高原クンが気にしていたみたいで、距離開けたほうがい
いですか、なんて聞かれた。別にいいよ、って並んだら、高原クンの顔が少し
赤かった。なんか、ほほえましいって言うか、なんだろう、こんなに素直に反
応されるなんて、久しぶりで、ほわっとした。
 彼オススメのお店は、中央通からは外れたところにあるとかで二人で歩き始
めた。
 やっぱり……無言だなって苦笑いした。でも、いいんだ、今日はこれで。
 なぜかって、今日はこういう初デートっぽい気分を久々に味わっちゃおう、
みたいなのがワタシのテーマだから。
 と、雨がポツポツと降り始めた。
 「うそ、傘持ってないよ!」
 「俺もです……」
 雨足が強くなって、仕方なく駅の屋根があるあたりに戻った。
 
483 ◆WoueFxyFoA :2009/01/13(火) 01:37:33 ID:G4eRMRTV
 落ち込んでいるなぁ、って他人事のように思った。
 そうしたら、急に「ちょっと、待っててください」って言って雨の中を走っ
ていった。
 なんだろ?
 ワタシは、ぐるっと見回した。
 メイド喫茶のチラシを配っていたメイドも雨にぬれないように構内で空を見
上げている。
 メイド服のフリフリ具合はすごいな、本当、高原クンはメイドはどうなんだ
ろうなんて、考えるともなしに考えていたら、高原クンが戻ってきた。
 手には、ビニール傘が2本。
 「あ、これ、どうぞ」
 「ありがとう」
 傘の取っ手の部分を差し出されて、ワタシは傘を受け取った。随分、高原ク
ンの手が遠いな、って思った。
 
 2つの傘が並んで、雨の中を歩いていく。
 「おすすめのメニューとかあるの?」
 「どれもおいしいんですけど、まずはもりを食べて欲しいです」
 「ふーん」
 普通に答えたんだけど、その返事に少し、まずいと思ったのか、すぐ付け加
える。
 「長谷川さんの好きなのでいいと思いますけど、一応、俺としては、です」
 「せっかくだし、ヨシヤのオススメ通り食べてみるよ。あと、敬語じゃなく
ていいし、ユウでいいよ、こっちはヨシヤって言っているし」
 高原クンは名前を呼ばれると、すこしぴくって反応する。
 「わかりました…あ、うん、わかった。でも、その、ヨシヤって呼ぶのはい
いんだけど、ユウって呼ぶのは、なんか……」
 言い籠もった。ワタシは促すようにつなげた。
 「じゃ、呼びやすいように呼んでくれればいいよ」
 「長谷川さんのままに、しま……、する」
 少しため息をつく高原クンに、敬語をなくすのも、一苦労だね、って笑った。
484 ◆WoueFxyFoA :2009/01/13(火) 01:38:47 ID:G4eRMRTV
 蕎麦屋の扉を開けると、人が結構いた。昼時だから当たり前だけど。
 はた目に見ても賑やかで、こんだけ人が入っているってことはおいしいんだ
ろうって印象を受けた。
 一応はデートなんだけど、威勢のいい声が飛び交っていて、デートっぽい雰
囲気とは無縁の空間だった。
 4人用の机の向かい合わせに座った。
 席について、3分たったかたたないうちに、店員のおばさんが来た。
 「お客さん、ご注文は?」
 「俺はもりで、長谷川さんも?」
 「うん、もりで。」
 「もり2つー!!」
 置かれた水を飲む。ドリンクメニューは日本酒ばっかりだったから、水で
いっかって思った。高原クンと、目が合うとすぐ視線をそらすのが面白い。
 「なんか、すごいね、パワフルって感じ!」
 「うん、12時半くらいだとすごいんだよ。」
 そうだろうな、って思って周りを見た後にさっき気になったことを聞いた。
 この時のワタシは、まだ高原クンを弄る対象としか思っていなかった気がす
る。
 「ね、メイド服とかって好きなの?」
 「え?!どうかな、かわいいなとは思うけど」
 反応を見るに、本当は結構好きでしょ!だって、プリクラとミリジャケで3
人でいったってミリジャケが話していたの聞いてたしね、と心の中で舌を出し
た。すこし上目遣いにして聞いてみる。
 「ワタシが着たら似合うと思う?」
 「長谷川さんが……?」」
 泳がせながらも、ワタシを見る。きっと、似合うって言うな、って思った。
そうしたらコスプレできるプリクラのあるゲーセンにでも連れて行ってもらっ
て、ノゾミたちに見せて、こいつのことと合わせて「ウケるんですけど」、っ
て話そうって考えていたときだった。
485 ◆WoueFxyFoA :2009/01/13(火) 01:40:12 ID:G4eRMRTV
 「多分、似合わないんじゃないかな」
 耳を疑った。いや、ワタシが似合うと思っていたわけじゃない。
 でも、大体の男って初デートのときは、お世辞乱射!って感じだから。
 しかも、言ってみれば、餌をかけたつもりだったのに、だ。身勝手もいいと
こだけど、茶化すようにはしたけど、思わず
 「女の子に、似合わないってひどくね?!」
 って言っちゃった。
 そうしたら、しまった!って顔をしたけど、高原クンはなんかを飲み込んだ
ように話した。
 「その、長谷川さんが着てみたいなら、着ていいと思う。でも、俺は長谷川
さんの髪はちょっと明るすぎて似合わないと思ったんだ。」
 ムキになって言い返すところじゃない。そう思ったけど。
 「じゃあ、どんなのが似合うと思うの?」
 「ごめん、その、今日の服とか」
 「え……」
 面食らった。適当に答えたのかもしれない。
 それでも、自分の趣味で買った服は自分に似合うと思っていて買っていても
他人からは、うーんって思われることもあるし、直前に男の好みの服をワタシ
が着るよ、って言ったのに、そう答えるなんて、想定外だった。
 「はい、もり2つ、おまたせー!」
 机の上に、もりそばが2つ置かれた。
 「こういう服、好きなの?」
 こう聞けば、私の想定内だ。たまたま自分の好みの服を着てきただけ、それ
なら。でも、高原クンは遠慮がちに首を振った。そして、さっきまで逸らして
いた視線をまっすぐに向けた。
 もしかして、彼はすこし気づいていたのかもしれない、ワタシが彼と会った
理由を。
 ゆっくりと彼が口を開いた。
486 ◆WoueFxyFoA :2009/01/13(火) 01:41:51 ID:G4eRMRTV
今回は以上です。
487名無しさん@ピンキー:2009/01/13(火) 18:58:10 ID:5mX5V1lg
気になるところでw
GJです
488名無しさん@ピンキー:2009/01/14(水) 11:17:02 ID:XOad6Y+O
これは面白い
すごいな
続き待ってる
489 ◆WoueFxyFoA :2009/01/15(木) 23:36:40 ID:ZN79VJfZ
 「嫌いじゃないけど、もっと女の子女の子している服のほうが、好きかな、
なんかフェチの告白みたいになっちゃうけど。」
 すこし笑って、続ける。
 「けど、長谷川さんに似合っているのかって聞かれたら、この間の時の服も
似合っていたし、今日のも似合ってるって思った。俺の好みは置いてね」
 ドキッとした。
 だって、高原クンが嘘をついているとは思えなかったから。
 これって、ワタシにはすごいことだったんだ。
 結局ワタシを誉めているんだから、落としにきた男の言葉って邪推もできた
よ。でも、違うと思った。ワタシを見て、ワタシに似合っているか普通に答え
てくれた。
 ワタシを落とす女、って対象じゃなくて、長谷川ユウとしてみていないと出
てこない言葉、って思った。ワタシの方が答えるのに、困る展開なんて考えて
なくて。
 「そ、そっか。誉めてくれてあ、ありがとっ」
 「食べよう」
 照れたように咳払いをして、高原クンは割り箸を割った。
 「うん」
 お蕎麦は香りがたって、のどごしも良くてとても美味しかった。
 「美味しい!」
 高原クンがほっとした顔をする。
 「良かった。……その、ごめんね」
 「ううん、変なこといってごめん」
 そば湯も美味しいと思った。そして、この目の前の、見た目は冴えない彼。
 私はカルチャーショックってこういうことだ、って思った。
490 ◆WoueFxyFoA :2009/01/15(木) 23:38:10 ID:ZN79VJfZ
 食べ終わってお店を出るとき、彼は会計を別々でと言った。
 彼は、傘のときは別に請求してこなかった。ワタシが濡れないようにって気
を使ってくれた。気がつかないわけじゃなく、ケチなわけでもない。奢る関係
にあるかないか、それが決まっていない時は別々だよ、って意味なんだろう。
 自分自身でいうのもなんだけど、オンナノコであること、女子高生であるこ
と、都合よく使い分けていたし、そういうのが当たり前になっていた。
 彼のことが垣間見えた後の、ワタシを一人の人として扱ってくることが新鮮
だった。
 ワタシは、彼に興味が湧いてきた。お店から出ると雨が上がっていた。
 「次はどうしようか、長谷川さん、どこか行ってみたいところあるかな?案
内できそうならするけど」
 ワタシは、アキバっぽいとこ、って言った。彼は、苦笑いしながら、わかっ
たって言った。
 
 その後、ワタシ達はドンキホーテ、その上のメイドカフェ、コスプレでカー
ドを撮れるゲーセン、ヨドバシとかを回った。
 メイドカフェ以外は、アキバ分控えめ、な気がしたけど、彼なりに考えた
ルートかなって思った。
 回ってる間に、ワタシは自分でもびっくりするくらい話をした。ワタシの恋
愛観みたいなのや、アヤとノゾミの恋話(コイバナ)、本を読んで思ったこと、
アヤやノゾミとは話せないようなことも、この年上の彼に話してみた。
 それは答えが貰えそうだと思ったからだったり、彼に話しても大丈夫と思え
ることが話している間に感じられるようになってきたからだった。
 彼もさすがにある程度打ち解けてきて、沈黙の時間も短くなってきた。ただ、
やっぱり彼は適当に答えなかった。わからないことには、わからないと答えて、
知ったかぶりをほとんどしなかった。
 こいつわかってんのかな、って思う相槌をされるより、なんか沁みこんでき
た。
491 ◆WoueFxyFoA :2009/01/15(木) 23:39:50 ID:ZN79VJfZ
6
 一通り、ヨドバシを回り終えて中の喫茶店に入った。カフェラテとブルーベ
リーヨーグルトのドリンクがトレーに並んでいる。
 「結構色々あるね、アキバ」
 「メイド喫茶だけでもかなりあるし、他にも色々なお店があるから。その、
楽しかった?」
 「うん」
 これは本音。未知の領域に飛び込むのって、面白かった。それに、高原クン
は色々説明をだらだらしないのも良かった。聞くと答えてくれるんだ。これっ
て地味だけど、ポイント高い。
 ワタシは悪戯っぽく笑いながら、さっきのメイド服を着て撮ったカードを出
して、自分で見た。くるっと、高原クンの方に向ける。
 「これ、似合わないかもしれないけど、いる?」
 彼はバツの悪そうな顔をした。
 「ウソ、ウソ、あげる!いらないなら、渡さないけど」
 あてつけで撮ったわけじゃない、ってのは伝わっていると思う、ノゾミとア
ヤの話もしたし。自分の言ったことをちゃんと覚えていて、躊躇しているのが
分かった。ワタシは彼のカフェラテのコースターの隣に、置いた。
 「いらない?」
 「貰っていいの?」
 「大事にしてね!」
 ワタシが冗談めかして言うと、彼ははにかむ様にカードを受け取った。そし
て、少し頭を掻いた。
 「あのさ、お昼とか、奢らなかったのってやっぱダメだったかな?それに、
そのなんか買ってほしかったりとか」
 「全然、気にしてないよ。むしろ、ヨシヤって、すごいなって思ったよ」
 「え?」
 「ワタシさ、さっきも言ったけど、この間あったコたちと一緒に遊んでいる
からさ、今までもデートはしたことあるよ。そんでさ、みんな奢ってくれた」
 彼は、ああ、俺は、って顔をした。だから、ワタシは手をひらひらとさせた。
492 ◆WoueFxyFoA :2009/01/15(木) 23:41:04 ID:ZN79VJfZ
 「みんな付き合いたいから、点数稼ぎだった。でも、ヨシヤはワタシとは、
まだ知り合いだから、払わなかったんでしょ?」
 「そう…だね。長谷川さんを案内するだけ、って思っていたから」
 高原クンは少し考えて、
 「今日のはデート、だよね、一応。でも、俺はそのデートじゃないって気持
ちでいたから」
 どういうこと?
 「それに……がっかりするかもしれないけど、付き合いたいって思ってない
わけじゃないよ」
 寂しそうな顔をした。ワタシは、彼が付き合いたいって思ったことがワタシ
を落胆させると考えたんだと思った。
 「がっかりしないよ。ヨシヤには、ワタシ、まったく魅力ないのかと思っ
ちゃった」
 ワタシがおどけるように言った。
 「魅力がないなんて。そんなことないよ、長谷川さんは……」
 なにか繋げようとして黙った。
 「なに?」
 彼は真っ赤になりながら、搾り出すように声を出した。
 「可愛いよ」
 言われたことが何度もある言葉。
 だけど、こんなに拙く、そして、本心って思える可愛いなんて言われたの何
時以来だろう。子供の時にパパやママが言ってくれた可愛いとは質が違うけど、
それと同じ本当の言葉。
 胸が暖かくなった。
 「ありがと」
 「それに」
 また、寂しそうな顔をした。
493 ◆WoueFxyFoA :2009/01/15(木) 23:42:16 ID:ZN79VJfZ
 「これは俺も謝らなくちゃいけないけど、やっぱり見た目からもっと話が合
 わないって思い込んでいたよ。ネタにされるんだろうな、って、でも女の子
と一緒に歩いてみたいってのも、それはあって。すっぽかされるのも覚悟して
た。来てくれて嬉しかった。でも、勘違いしないようにって自分に言い聞かせ
る意味もあって、お金出さなかったんだ。距離を、とって、って。
  だけど、話していたら、良い人だなって思ってさ、また会いたいなって
思ってきて……ごめん、こんなのにそんなこと言われても困るよな。」
 最後は、力なく言った。そうか、彼は自分の見た目を気にしているんだって
気づいた。そして、さっきの寂しげな表情の意味に気づいた。ワタシが考えて
いた落胆させるんじゃないかってのもあったけれど、それよりずっと苦しい気
持ちを抱えて、可愛いって言ってくれたんだ。胸が締めつけられた。
 彼と合流して、すぐに彼はおかしくないですか、って聞いてきた。その後、
ワタシは服に文句もないし、高原クンと歩くことも全然抵抗なんかなかった。
でも、彼の中ではワタシと一緒に歩くことを楽しいって感じてくれていて、好
意を多分もってくれて、だけど、だから、俺は一緒にいられないって思ってい
たんだろう。
 俺と歩くのは、たまたま、今回限り。
 そう思って、長谷川ユウと付き合う自分を打ち消したんだ。
 今日の会話だけで、彼の今までの女の子との付き合いはわからない。彼の様
子をみればわかることは、きっとうまくいったことなんてなかったんだ。傷つ
いたことしかなかったのかもしれない。
 卑屈な言葉だ。それにワタシが彼が今までの男と違うって思ったのは、彼の
そういう卑屈さからきていた面もあったのかもしれない。
 …だけど、ワタシの中で、ことり、と音がした。
 たしかに女子高生としてのワタシを目当てにした男の方がスマートで洗練さ
れていた。でも、ワタシの話を聞いて、適当に答えるだけだった。彼は、ちゃ
んとワタシの話を、聞いてくれていた。
 たった数時間だけど、ワタシのことを理解しようとしてくれていた。そんな
男が何人いた……?彼と、歩めたら?
 彼の「可愛いよ」って言葉は、告白にも近い勇気を乗せた言葉だったよね、きっと。
 応えよう。
 ワタシの口から自然に言葉が出た
494 ◆WoueFxyFoA :2009/01/15(木) 23:43:13 ID:ZN79VJfZ
 「ヨシヤ、ワタシと付き合ってくれる?」
 だけど、真意が伝わらない。
 「馬鹿にしているの?」
 彼の自信のなさを切なく思った。ワタシの右手が高原クン、ヨシヤの手に触
れる。びくりとして、ヨシヤの手が引かれる。
 「ちがうよ。ワタシ、ヨシヤのこと、気になるの。ワタシが今まで知らな
かった格好よさを持ってるから」
 「うそだっ!」
 今日で一番強い語気だった。ワタシはヨシヤを見つめた。ヨシヤは視線を
ぐっと逸らした。
 顔は赤く染まり、目が充血して赤くなっている。
 「ウソじゃない!ヨシヤはウソついてないでしょ。だからワタシもウソはつ
かないよ。付きあって」
 ヨシヤの顔に戸惑いが広がり、確認するように呟く
 「俺と付き合いたい……?」
 「本当だよ。……さっき、ヨシヤの言ったとおりだよ。最初はネタにしよ
うって思ってた、ごめんね」
 こんなに心を込めてごめん、って言ったことなんて数えるほどしかない。私
はすぐに息を継いだ。
 「でも、そんなことできないくらい良い人だって思った!格好良いって、見
た目だけのことじゃないよ、ううん、誤魔化さないで、ちゃんと言うね、
ちょっとひどいかもしれないけど」
 ワタシは手を伸ばして、ヨシヤの手に重ねた。今度は手を引かず、その手を
見つめ、視線をワタシに移す。その瞳にまだ疑心暗鬼が燻ぶってはいるものの、
穏やかさを取り戻したのが分かった。
 「たしかにイケテるルックスじゃないよ。でも、だから付き合えないなんて、
ワタシ思わない。格好良い、ってヨシヤのスタンスっていうか、トータルです
ごいなって思ったんだよ。ワタシ、あなたともっといたい、ホントだよ」
 疑ってない、そう分かる目だった。
 すぐ応えてくれると思った。
495 ◆WoueFxyFoA :2009/01/15(木) 23:45:02 ID:ZN79VJfZ
 「……とても嬉しいよ、けど、だめだよ」
 
 どうして?
 ワタシのコトバは……伝わらないの?
 
 「長谷川さんは、珍しいタイプの男を見てそう思っただけかもしれない」
 
 ヨシヤが静かに言う。
 
 ちがう。
 
 ワタシはあなたのことが好き。この期に及んでも、自分を持って話してくれ
る、あなたが好きなんだ。間違いないよ。
 でも、ワタシはこれ以上どう言えば良いのかわからなかった。
 
 カフェのBGMだけが流れていく。
 パリン
 と、ワタシの中に彼の態度に自らの納得できる答えが、割れて出た。
 「ワタシみたいな、遊んでそうなコは、イヤなんだ」
 だから、ワタシはフラれるんだ、そう思った。
 彼は首を振ると掌をワタシの掌と合わせて、遠慮がちに、優しく握った。
 「それは関係ないよ」
 「じゃあ、なんで!」
 「長谷川さん、俺たちはまだ2回しか会ってないんだよ」
 冷水を浴びせられたようだった。
 ノゾミなんて初めて会った日に……っていうのが、標準になってしまってい
たのか。
496 ◆WoueFxyFoA :2009/01/16(金) 00:03:40 ID:ZN79VJfZ
 「長谷川さんからしたら珍しいタイプの男、俺からしたら長谷川さんは俺が
関わった、って会社の同僚とか学校の同級生って程度だけど、少しでも接触の
あった女の人とは明らかに違うんだ。だから、強烈で、勘違い、しているかも
しれない。意外性に、惹かれたと思っているだけっていうか」
 たしかに聞く話だ。だけど、ワタシの気持ちはワタシが一番分かってる、勘
違いなんかじゃない。でも、そう言われると、このテンションが絶対に影響し
ていないって断言は……?
 アヤとかを見ていたから、ヨシヤのいうことも分かった。日が経って、その
ときでも気持ちが、っていう姿勢が、彼の臆病さもあったけど、ワタシを大事
にしたいって気持ちに思えた。
 それとも、やっぱり、と、ワタシの心がさざめく。ワタシが思っているだけ
なのかな。ヨシヤはワタシを拒絶しているんじゃ……。
 ヨシヤが小さく唇を上げた。うなずくようにしたと思うと、少しだけ手に力
が込められた。
 「好きになった女の子と手握ったことなんて、初めてで、手、ものすごい汗
かいてる」
 ワタシは好きになったって言葉に、安心感を与えられて、小波が引いていく
の感じた。そして、その掌の湿り気が大事なものに思えて、でもその奇妙さに
変な笑い方をしてしまった。
 「ア、アハハ、すっごい汗」
 ヨシヤも笑う。
 「うん、やばい。ね、長谷川さん、付き合うことの返事はまだできないけど、また会ってくれるかな?」
 「うん」
 ワタシは大きく、ゆっくり頷いた。

 帰りの電車で、彼のことを思うだけで、ドキドキしているのに気づいた。
 ワタシ、別れたばっかりなのに、すぐ会いたいって思ってる!
 電車の窓に映る、私の顔が赤くないか気になった。
 それくらい、ドキドキしてた。
497 ◆WoueFxyFoA :2009/01/16(金) 00:08:47 ID:rFUeUimo
以上です。
付き合ってんじゃん、て思われる方もいるかもしれませんがw

レスいただけて、うれしいです。
展開に悩んでいるときに、励ましていただいてます♪
498名無しさん@ピンキー:2009/01/16(金) 00:13:46 ID:qRm4W1ap
おもしろい!
おつです!
499名無しさん@ピンキー:2009/01/16(金) 00:16:58 ID:1Gx5rAwS
一番槍GJ!
いいのお、地の文からパワーがビリビリと伝わってくる。
500名無しさん@ピンキー:2009/01/16(金) 00:18:16 ID:1Gx5rAwS
更新したら二番目だった。orz
重ねてGJを送りたい。
501名無しさん@ピンキー:2009/01/16(金) 00:58:27 ID:rMAGRenu
超GJ!
相変わらずこのスレの男はいい男ばっかりだな!
502名無しさん@ピンキー:2009/01/16(金) 04:44:36 ID:/A/P81OX
性格だけでもイケメンになりたいとです・・・
私生活もあるかと思いますが早の続きに期待します
503名無しさん@ピンキー:2009/01/16(金) 13:03:11 ID:M+AZC9kS
すっごい続きが読みたい。
なんか、日々の楽しみになってる。
しあわせ。
504名無しさん@ピンキー:2009/01/16(金) 19:51:11 ID:jjPQJXNn
いやー地味に良スレw
505名無しさん@ピンキー:2009/01/16(金) 23:54:04 ID:pc+9LDmZ
ありがとうございます
506 ◆WoueFxyFoA :2009/01/16(金) 23:58:29 ID:wnpqdeQv
7
 翌日は3人ともバイトがなかったので、学校帰りにモスに寄った。
 3人で頼んだポテトとオニオンリング、ノゾミはアップルパイを食べながらワタシは
昨日のカードを見せた。ノゾミが笑った。
 「すげー、でもメイド服ってカワイくね?」
 アヤも同意する。
 「さすがに着て歩くのはわかんないけど、こういう服みたいなの、昔は着てみたいっ
て思ったことはあるな、幼稚園とかの頃だけど。メイドだけどお姫様っぽいていうか
さ」
 ノゾミがカードを見ながら、悪代官って顔をしながら聞いてきた。
 「ご主人様ー、とかいってやっちゃったの?」
 「いや、それがさ」
 ワタシは昨日の話をした。
 
 ノゾミには驚かれた。でも、アヤもノゾミも話をしたら、分かったみたいだった。
 「カフェ出てすぐ帰ったの?」
 「そ、言葉どおり、ね」
 「一緒にいると、冷静になれないし、今日はここで」ってヨシヤは言って、ワタシ達
は別々の電車に乗った。もっと、いたかったけど……。
 「なんかすっごいね、高原さん」
 アヤの言葉が、うちらのもっている男性像から離れていたのを物語っていると思う。
付き合うって言っているのに付き合わない、ってのがすでにありえないんだ。その上、
その対応も、ありえなかった。ワタシ達の知っている男では。
 好き、だから付き合うんだけど、ワタシ達の感覚ではデートしたからって付き合うこ
とにはならないんだ。付き合うってのはその人とだけ、会うってことで、恋愛関係のス
テップを進めるって意味だった。付き合ってから、好きになる場合もある。ノゾミなん
かは、そのパターンの方が多いくらい。
 もちろん、男がそういう付きあいたい、と好きってのを分けているかは分からないけ
ど。
507 ◆WoueFxyFoA :2009/01/16(金) 23:59:52 ID:wnpqdeQv
 アヤは好きだから、付き合いはじめるのは順番どおりだけど、「好き」って言葉は本
当に良いって思わないと言わないんだって言っていた。なんで?って聞いたら、好きっ
ていうと男の扱いが明らかに変わるんだって言っていた。喜ぶけど、その後が大体よく
なかったんだって。
 ワタシは、昨日、「好き」って言葉を自分が一回も言わなかったのを思い出した。な
んでだろう、アヤの話で疑っていたのかな……。でも、アヤの話から、ちゃんと自分の
心に「本当」が浮かんできたら、言うべきなんだって思っていたのは、あったかも。
 「じゃあ、ユウはもう1回あってみるんだ?」
 ノゾミの問いに、答える。
 「そのつもり」
 「1日経って、どうなの?ま、あんまり変わらないだろうけど」
 「好き、なまんま」
 なんかこういうの、友達にいうのでも、照れる。アヤは嬉しそうに微笑んだ。多分、
ワタシに好きな人ができたことを喜んでくれているんだって思った。
 ノゾミも嬉しそうだけど、経験人数が多いから、気になったらしい。
 「おーおー、顔が赤いよ!でもさ、彼女いるってことは?」
 ぎくりとする。でも。
 「ないと思う。初めて手握った、っていっていたし」
 「初めて、ってのは常套句だからねー」
 ノゾミの言葉にアヤも肯いた。
 「この間見た感じ、いるとは思わなかったけどね」
 アヤがフォローすると、ノゾミが重ねた。
 「それに、会ったユウがいないって感じたなら、大丈夫だろうけど。付き合うって
いって、メチャ好みじゃないってならともかく、付き合わない男とか考えられねーし。
ま、気をつけて、そこまで作戦ってのもいるから」
 なんか少しモヤモヤした。ノゾミがなんか少しいらついてる、って感じたんだ。
 帰りにノゾミが本屋に寄りたいって、買い物しているときアヤがそっと囁いてきた。
 言ってみれば、ワタシからアプローチ、っていうと初めてに近いわけで、それが嫌な
ことにならないといいって、ノゾミなりに気を遣ってくれているんだよ、って。
508 ◆WoueFxyFoA :2009/01/17(土) 00:03:30 ID:2g/pPo+u
 アヤは「ユウの話し聞く前から、微妙に浮かれているってわかるくらいだったよ」って言った。アイツに高いもんでも買ってもらって自慢話かなって思ったら、違かったからフェイントだった、って言っていた。
 そんな浮かれているときって、周り見えてないしね、って言われた。
 たしかにアヤの男と会ったときに、ワタシもノゾミもどうよ?って思うところがあっ
たけど、アヤは気をつけるとは言ったけど、聞いてなかった。ワタシ、いまそんなんな
の?!って思ったけど、二人からそう思われているってのはそうなんだろう。
 別れ際に、ノゾミにありがと、って言っておいた。
 すこし「?」って顔をしたあと、ああ、って納得したみたいで、「うまくいくといい
ね、ガンバレ!」って言って、ワタシの肩をぽんぽんって叩いてくれた。
 アヤとノゾミに話して良かった、って思った。
 浮かれたままじゃ、ヨシヤが時間空けた意味ないしね。どれくらい、冷静になれているか自信はまったくなかったけど。
509 ◆WoueFxyFoA :2009/01/17(土) 00:05:33 ID:wnpqdeQv
8
 結局、ワタシはいっつも男に任せて回っていただけで、いざ自分で計画を考える段に
なって、思ったより悩んでしまった。
 ヨシヤに次は、長谷川さんに任せるよ、って言われたからだ。
 好きな人と、デートって大変なんだ。いまさら、そんなことを思って、なんかそんな
悩むことも楽しかった。
 とはいえ、今までの男とは違うし、ヨシヤがクラブってタイプじゃないのも間違いな
いわけで。
 うーん、って結局悩んで、ブクロの水族館にした。ちょっと子供っぽいかなって思っ
たけど、逆にヨシヤとじゃなきゃいかないな、って場所だったからトクベツって気がし
て選んだ。
 ヨシヤとはメールくらいはしていた。ヨシヤは徹底していてワタシが早く会いたいね、
とか送っても、ハートとか、好きみたいな言葉を使わなかった。
 もっと言えば、感想メールか、って内容だった。好きな服くらいは答えてくれたけど、
ワタシからのアプローチはあえてスルー気味に返答してきていたし、メールでは、相変
わらず敬語だし。あまりにも冷静な気がして、ちょっと、冷却期間で冷めちゃったん
じゃないか、って思うくらい。返事はしっかりくれていたけど。
 デートの前の日に夕飯のあと、メールが来ていたのを見たら、本当あの日以来初めて
「長谷川さんと会えるのが、楽しみです。返事が事務的っぽくてごめんなさい。でも、
会えると思ったら、とても嬉しいです。」って送ってきてくれた。
 なんかもう脳内物質とかがドッってでた感じだった。メールだけでハッピーって、ど
うかしてる!どうかしてるけど、どうにもなんない!
 なんか、じっとしていられなくって、しばらくクッションを抱えて足をばたばたさせ
た。
 
 ワタシは、服装は前くらいで問題ないよ、ってメールした後、彼が好きだっていうワンピをメインに服を用意した。もちろん、彼とのバランスは考えて。
 媚びる女って思われたくないけど、彼にかわいいって思ってもらいたい、って素直に
思ったから。
 クラスの女子がデートに出かけるときと、オシャレにしても、女友達で会うときとは
違う格好をしていくのを、なんだよって思っていたけど、気持ちが分かった。
 彼氏に喜んでほしい、って思うからなんだ。
 ワタシの方が、わかってなかったんだな、ってつくづく思った。
510 ◆WoueFxyFoA :2009/01/17(土) 00:11:29 ID:2g/pPo+u
今回は以上で。
あと、いまさらですが>>149氏とヒロインの名前が、
被ってるのに今日読み直していて気づきました。ごめんなさいorz

レスでテンション上がって、連日の投下をしちゃいました。
511名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 01:06:28 ID:CKci77aQ
G……J……
なんだろぅ…なんか良い
512名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 01:21:43 ID:D3XDZOJj
なんというGJ・・・
かわいすぎて脳がどうにかなりそうでおま
513名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 01:24:08 ID:JWBeSZiJ
GJ
514名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 02:08:28 ID:ZHl8i5A9
作者は男なのかな・・・
すごいよな
515名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 10:23:33 ID:s8LC5XXr
これすげー
GJでした!
516名無しさん@ピンキー:2009/01/17(土) 19:56:25 ID:UUn+KH0p
続き待ってます
全裸で星座して
517 ◆WoueFxyFoA :2009/01/18(日) 02:19:50 ID:mBTs5P/j
 翌日、ブクロの東口カラ館の近くでヨシヤを待っていた。
 待ち合わせは11時だったけど、20分前にはそこにいた。
 「あれ、長谷川じゃん」
 名前を呼ばれて振り向くと、ワタシ達とは別のグループのクラスの女2人がいた。山
本と野木だ。普段、教室では他に2人いて、4人のグループ。
 「なにしてんの?」
 こいつらとは、仲が悪い。仲が悪い理由は、もう本当バカらしい話だけど、中心の山
本の好きな男が、アヤのことが好きで告ってきたんだ。
 でもアヤは、クラスのやつに興味ないし、フったんだ。そいつは、サッカー部で人気
だったけど、2、3人付き合ってモテル気になっているウザだったから。
 でも、自分のメとかも関係なしに逆恨みして、アヤに因縁つけてきたんで、ワタシ達
と険悪になった。向こうは陰口とか言う方だったのもあって、クラスから一時期、ワタシ達は孤立したけど、アイツらの陰口は日常茶飯事で皆が皆、真に受けたわけじゃないからそのうち平穏になった。っていうか、冷戦状態になって落ち着いた。
 そいつらと会った。折角のふわふわ気分に、異臭を持ち込まれたようで不快だった。
 「岡島と吉井と待ち合わせ?って、一緒に来るよね、なに、また男?」
 軽蔑するような色合いが混ざっているのがすぐ分かる。
 不機嫌さを隠す努力も、ほとんどしないで言い放つ。
 「そ、デート。アンタ達は何の用?」
 「うちらは買い物。ハンズにキャンプグッズ買いにきたんだよ」
 3年の秋だって言うのに、余裕だな、って思った。ま、ワタシもそこんとこは人のこ
と言えないんだけど。
 山本の家は片足だけセレブ生活につっこんでますって感じの家で、別荘があったり、
兄貴がクルマだしてそういうアウトドア的なこともたまにやっているってのは、知って
いたけど。
 「じゃ、ま、彼氏によろしくね」
518 ◆WoueFxyFoA :2009/01/18(日) 02:27:24 ID:mBTs5P/j
 野木がそういった時に、ヨシヤが来た。
 「長谷川さん、ごめん、待たせちゃった?」
 ブルーがかったボタンダウンのシャツに綿のジャケットで、及第点だったと思う。
 でも、
 山本のヤツが笑った。
 「あ、どうもぅ。長谷川のクラスメートの山本です、こっちが野木です」
 この間のときに、ワタシが高校生だっていうのはもう伝えていたから、クラスメー
トって言葉には驚かなかったみたいだけど。
 ヨシヤが頭を下げる。
 「あ、どうも。長谷川さん、今日は?」
 この人たちと一緒なの?って目で問いかける。
 「たまたま会ってね。これから買い物なんだって」
 「あ、そうなんだ」
 野木が値踏みするように見てから、少し含み笑いをしながら、わざとらしくヨシヤの
顔を覗き込む。。
 「パソコンとか詳しそうですね」
 「え、ええ、まあ……」
 ワタシも元々こうだったから、あんまり言えないけど、失礼だった。
 こいつらは、自分がバカにしているのがばれていないとでも思っているんだろうか。
バカにしているのを見せて、相手の反応をバカにしているのだろうか、どちらにせよ、
最悪だ。
 省みて、ちょっと自己嫌悪した。
 「じゃ、アタシ達買い物あるんで失礼しまーす」
 二人が少し歩いてから、ちらっとこっちを見て笑いあったのが見えた。舌打ちした
い気分になって、彼の方を向いた。
 「声、かけるの、待った方が良かったみたいだね、ごめん」
 彼の心に小さなひっかき傷ができたのがわかった。
 「いいよ。今行くとあいつらと一緒だから、ちょっと早いけどお昼にしよう」
 ワタシは彼の手をとって、ひっぱるように歩き出した。すこし力がない。振り向いて、
聞いた。
 「手、つながない方がいい?」
 ヨシヤは肯定も否定もしないで、ため息をつく。
 「俺と一緒のとこ、クラスメートに見られて、それも多分あんまり仲良くなさそうな
コたちに見られて、平気?」
 ワタシが思うのは、アイツらへの怒りだ。彼と会えただけで、こんなに嬉しい。この
気持ちに水をさされたことが腹立たしかった。彼が気にすること無いのに、優しさから
ワタシが気にしない、っていっても、「ワタシのこと」が気になってしまうんだろう。
 「平気だよ。もう!折角会ったんだから楽しもう?」
 ワタシはまだ立ち尽くす彼の腕を抱いた。ワタシの身体の感触に、緊張してるのがわ
かる。
 「長谷川さん、あの」
 「ね?」
 ワタシの言葉に、ようやく一緒に歩き出した。
519 ◆WoueFxyFoA :2009/01/18(日) 02:31:51 ID:mBTs5P/j
 その後ワタシ達は昼食を食べて、水族館へいった。昼食も水族館も支払いは別々でい
いよって、ワタシから言った。
 彼と一緒にいられることが大事で、お金を払ってもらうとかえって今までと同じに
なっちゃう気がしたんだ。
 昼食の間に、ヨシヤは元のテンションに戻ってくれた。そして、この前と変わらず穏
やかに話してくれた。すこし、自分の高校時代の失敗とか、恋愛とかもね。
 告白成功率0%。でもさ、ワタシがいうのもなんだけど高校くらいの頃って見た目が
一番な人の方が多いでしょ。話からすると、高校時代も今もそんなに変わってなさそう
だし、そういうことはあるだろうな、って思った。論外な見た目はあるけど、年齢とと
もに許容範囲が広がるっていうか、見た目の重要度が下がれば、また違っていたろう
なって思った。
 でも、そういうことがあって、彼は他の男の人と違う距離感を持てたんじゃないかと
思う。だから、ワタシは、そういう話を話してくれて、ワタシの間違いっぽいことに語
気は強くないものの反対を示してくれる、彼の中にまっすぐあるものに惹かれて、自分
の気持ちが強まるのを感じた。

 店から出て、水族館に入るまでも水族館の中でも、彼から手を握ってくることはな
かったけど、ワタシが手を出すときゅっって握ってくれた。手に触れることは同じなの
に、今までの男たちが手を触ってきた、って感じたのに、好きな人と一緒に手を握って
歩くのって、こんなに違うんだって思った。
 水族館なんて、いつ以来だろ。久々にみたら、面白い魚、綺麗な魚、グロい魚、色々
面白かった。
 ヨシヤも水族館なんて久しぶりだって言いながら、二人で魚に似た顔の芸能人なんて
いって笑った。
 幼生とかのいる小さい窓から見る時に、ヨシヤの顔が近くて、息が詰まるような気が
した。
 本当、フツーだ。いや、フツーより世間的にはすこし悪いかもしれない。ヨシヤの気
にするとおり、ハタから見たら遊ばれている男に見えちゃうんだろう。
 でも、ワタシはこの顔に見とれる。だって。
 ヨシヤが隣の窓へ移った。ぼーっと残っているワタシに声をかける。
 「長谷川さん?」
 「なんでもない」
 ワタシはヨシヤの方に行った。
520 ◆WoueFxyFoA :2009/01/18(日) 02:35:03 ID:mBTs5P/j
 水族館をでて、しばらくサンシャインシティの中を見て回った。
 ヨシヤが、そろそろ帰る?って言ったけど、中学生じゃないんだし、夕飯までは、い
いでしょ?って言ったら、それもそうだね、って言ってくれた。
 今日一日のヨシヤの表情を見て、多分大丈夫って思う。
 大丈夫、だよね?
 でも、少し気になった。ヨシヤの表情にずっと暗い影が残っていたから。
 夕飯は、ダッキーダックに入った。チェーン店だけど、シフォンケーキの美味しいお
店だ。
 注文を終えて、飲み物がきた。
 「今日も楽しかった!」
 「俺も楽しかった。それに……」
 一口、飲んで。
 「それに?」
 「今頃、って思うかもしれないけど、今日の服、アキバのときよりかわいいね。
俺の好みでは、だけど。会ったときに、友達がいていいそびれてたよ」
 「そう?良かった!」
 ワタシの中で花が弾ける気分だった。最悪の出会い頭になっちゃって、そのあともな
んにも言ってくれなかったから、空回りしたのかと思った。やっぱり好きな人に褒めら
れるのって、とっても嬉しい。
 もっと近づいて、言って欲しいって思った。ちょっと澄ました顔をして、首を傾けた。
 「あれ?かわいいのって、服だけ?」
 ヨシヤが不意をつかれたような顔をする。求めるように応えさせちゃだめだ、って
思ったけど……ワタシはヨシヤの口から聞きたくって。
 「長谷川さんも。……言わせないでよ」
 ヨシヤがすこし視線を逸らしながら、言う。耳が赤い。
 自分で言わせておきながら、カーッって赤くなっちゃった、なんだろ、ワタシ馬鹿み
たい。でも、ワタシの中でアキバからの答えは、とっくに出ている。今日会って、その
想いが重ねられただけ。
521 ◆WoueFxyFoA :2009/01/18(日) 02:37:13 ID:mBTs5P/j
 ワタシはどうしても聞きたくって、レポーターのように聞いた。こういうのって、
ちょっと助走つけなきゃいえないし!
 「じゃ、ヨシヤさん、そのかわいいユウと付き合いたいですか?」
 ヨシヤがきょとんとした後に、笑った。
 「俺は会社員で、キミは女子高生。それでもかまいませんか?」
 「それは、OKってこと?」
 「長谷川さんがよければ」
 目の前が明るくなるのを感じた。同じ場所なのに、電球が変わったみたいだった。
 「本当?」
 「ウソついてどうするの」
 「嬉しいっ!」
 ワタシは蕩けるような心地のまま、夕飯を終えた。普段から美味しいシフォンケーキ
は多分今まで一番、甘いスイーツだった。
 
 もう少しだけ、一緒にいて、って言って、ワタシ達は階段状になっている公園を歩い
ていた。
 すこし肌寒い。
 「長谷川さん、さっきはちょっと冗談ぽくいっちゃったけどさ、長谷川さんは、本当
にいいの?」
 「いいよ、だってワタシ」
 ワタシが「好き」って言おうとヨシヤの手を離して振り向いたら、ヨシヤがかぶせて
きた。
 「ありがとう。でもね」
 ヨシヤの顔が、真剣になった。私は息をのんだ。
 「長谷川さんが、無理だって思ったら、すぐ離れて。ごめん、もっと気が利いたこと
いえたら良いんだろうけど、キミのこと守るなんて簡単に言えないから」
 別れるときの心配なんて。でも、今日ずっとヨシヤの引きずっていた影は、山本たち
のせいだって認識した。無理、っていうのはワタシが嫌な思いをしたら、ってことだっ
てわかった。
522 ◆WoueFxyFoA :2009/01/18(日) 02:39:50 ID:mBTs5P/j
 自分の弱さを理解して、だけど、私のことを想わないと出てこない言葉だって思う。
守るっていって、守れることがどれだけある?逃げのある言葉、だけどウソじゃないホ
ントの言葉。ワタシが裏切られたって思うことが無いように、傷つかないように。

 ホント、優しいね。
 
 だから、大好き。
 
 「離れないよ。ワタシ、ヨシヤのことが好き!」
 ヨシヤのほうへ跳んだ。転ばないように、ヨシヤがワタシを抱きとめた。ちょっとだ
けメタボな腕が柔らかかった。
 腕の力を強くもせず、弱めもせず、ヨシヤが私の肩のあたりを見るようにしながら、
耳元に伝えてくれた。
 「俺も好きだよ。本当はもう少し、様子見ないといけないかもしれないけど、……抵
抗できないや」
 「ね、ユウって呼んで」
 「ユウ……」
 なんか言いづらそうで、苦笑した。
 「呼びづらい?」
 「う……ん。ユウさん、じゃダメ?」
 なんか、昔の芸能人みたいだなって思ったけど、長谷川さんって呼ばれるより近く
なった気がした。
 「いいよ、ユウさんで。名前で呼んでくれて嬉しい」
 そう言ってワタシは左腕をヨシヤの肩の方へ回した。
 ヨシヤの唇にワタシの唇が触れた。キスくらいは今までの男としたことはあった。騙
すのに、簡単でテキメンだったから。だから、ファーストキスじゃなかったけど、その
時よりずっと、ていねいに唇を重ねた。
 ヨシヤの目が大きく開いた。しばらく、口をぱくぱくさせた後、すごい優しい顔に
なった。
 「柔らかいんだね、唇って」
 「そうだね、ふふっ」
 ヨシヤの腕に包まれているだけで、胸の中に白い綿毛が舞っているようだった。
 「暖かい。もう少しこうしてていい?」
 「うん」
 ヨシヤの暖かさとワタシの体温の移動が、服越しに感じられなくなるまでずっと抱き
合ってた。
523 ◆WoueFxyFoA :2009/01/18(日) 02:41:29 ID:mBTs5P/j
 その後、駅の方に手をつないで歩いた。
 今日は土曜日だし、離れたくないって思ったけど、ヨシヤはワタシの誘いには首を
振った。
 「ユウさんと一緒にはいたいけど、もっと時間をかけたいんだ。その、初めて好きっ
て言ってくれた人だし。だから……」
 つなぐ言葉に苦労しているのがわかる。
 「急いだら良くない気がして」
 でも、一緒にいたいよ。
 「どうしても、ダメ?」
 「どうしても、って言われると困るけど……」
 ヨシヤが本当に困った顔をしているのを見て、あ、ワタシ、自重しろ!って思った。
無理強いしたら、きっと、泊まってくれる。それで……。
 だけど、それってワタシががっついて、ヨシヤのこと考えてないのとおんなじだって
気づいた。
 実は、さっきからヨシヤの腰は、少し引けている。
 なのに、誘いに乗らない。
 間違いないよね。身体よりも気持ち、大事にしてくれるから好きになったんだもん。
 「ごめん、うん、今日は帰る」
 ヨシヤがほっとした顔をする。改札に入って振り向いた。
 「電話はたまにしてよね!メールも、もうちょっと……んー」
 どういうか悩んでいたら、ヨシヤが笑った。
 「わかった?」
 ワタシの問いに、何回か首を上下にふった。
 「わかった」
 
 最寄駅について、家までの間に電話する。ノゾミはでなかったけど、アヤが出てくれた。
もう10時だけど、土曜の10時なら普段は遊んだりもする。
 「よかったね!!今日はアタシ、明日朝からバイトだからダメだけど夜はお祝いだ
ね!」
 「ありがと!」
 
 翌日は3人ですっごい弾けた。ノゾミも、この間と違って手放しでお祝いしてくれて
た。
 大事な人って、本当いつ会えるか分からない。
 そして、それに出会えた私と喜んでくれる友達がいるワタシは幸運だって思った。
524 ◆WoueFxyFoA :2009/01/18(日) 02:46:22 ID:mBTs5P/j
以上です。
全裸待機の方は大丈夫だったでしょうかw

この後は、ちょっと学校の話が続いて、予定ではそのあと、ようやく、ですね。
本当長くなってしまって、読んでいただいている方に感謝です。
レスくれた方のお陰で完結まで、燃料もちそうです。ありがとうございます。
525名無しさん@ピンキー:2009/01/18(日) 03:34:09 ID:dotqtZAk
ツマンね。。。。
526名無しさん@ピンキー:2009/01/18(日) 03:48:48 ID:SHoSn2j0
>>524
いいねぇ。
なんかいい。
527名無しさん@ピンキー:2009/01/18(日) 06:25:01 ID:rETODlae
>>524
全裸だがおかげで風邪ひきそうにもないぜ
あったまった

男のスタンスが臆病だったり自虐的すぎたりしないのがいいと思うのです。
つか、女の子が見る目ありすぎだ
かわいすぎる
528名無しさん@ピンキー:2009/01/18(日) 14:16:05 ID:gfBIfNZY
何なんだこの胸のときめき…。
主人公も可愛いし、リアルっぽさとフィクションのさじ加減が絶妙過ぎる。
GJ!
529名無しさん@ピンキー:2009/01/18(日) 15:19:07 ID:g7EobQLo
GJ!なんだかこっちまで恋してる気分になってきたぜ…
530名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 01:29:59 ID:eDfWUEsf
これは良スレだ!ツンデレよろしくビチデレ。たまんねーよチクショウ!
>>528もいってるけど絶妙すぎるぞまぢで。
531名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 04:53:16 ID:aGRQR+MP
快適な更新速度
532 ◆WoueFxyFoA :2009/01/19(月) 22:00:43 ID:+XKN/1+t
9
 月曜日、学校に行くと山本達のグループがワタシを見て、ひそひそとしていた。
 それは珍しいことじゃない。
 問題は、野木がなんか携帯を見せて、笑っていることだった。
 なに?
 山本達のグループと絡む男子連中もそれをみて笑っていた。
 「長谷川、趣味わりーな、なにエンコウ?」
 「パソコンとか買ってもらっちゃったんじゃない」
 その言葉で、意味が分かった。
 アイツら……!ヨシヤのこと撮ったんだ。
 ノゾミも察して、叫んだ。
 「なにやってんだよ、勝手に撮ってんじゃねーよ!早く消せよ」
 「ネタじゃん、なんだよ、消しますよぉ。奢ってもらうにしても、もっと相手選べよ、
マジないわぁ」
 山本達のグループの輪から下品な笑い声が上がる。その嘲笑にワタシはキレた。
 「相手選ぶのはてめーだよ!!」
 ワタシの声が、マジすぎたからか一瞬静かになった。アヤが手を引いた。そうだ、こ
いつらなんかスルーするのが一番だったのに。
 「な、に、……もしかして、長谷川さんマジなんですかぁ?」
 野木が含み笑いを含みきれない感じで吹き出した。
 「えー、こいつがイケるなら俺告っちゃおうかなー」
 軽口の男子が、調子にのって茶化す。
 笑い袋みたいな、甲高いバカ笑いが続く。
 歯噛みする思いだった。
 けど、アヤのお陰で冷静さをちょっと取り戻したから、後はもう黙っていた。
 ワタシが馬鹿にされるのもイヤ。でも、ヨシヤのことを馬鹿にされることに黙ってい
ないといけないことが辛かった。アヤやノゾミに火の粉が降りかかったときに怒ったこ
とはあったけど、ヨシヤのことがネタにされているのを黙っているワタシが許せない気
がした。
533 ◆WoueFxyFoA :2009/01/19(月) 22:01:34 ID:+XKN/1+t
 「ごめん、アヤ、ありがと」
 アヤが昼のパン用のチルドのカフェオレを買っているときに、アヤにお礼を言った。
 「いや、ほんっと山本とかってサイアク。でもユウが怒鳴るなんて思わなくってさ。
あいつら、余計ノるタイプだし」
 「わかってたけど……」
 しょげるワタシに、ノゾミが自分のいちごオレを買いながら視線で同意した。
 「そりゃ、ガマンできないよね、昨日の今日だもん、って一昨日だけど」
 「ま、うちらもアイツらのグループが高原さんと同じタイプのといたら、言っちゃい
そうだっただけにね」
 前のワタシ達はそうだったから、それは否定しない。
 ワタシ達とあいつらのグループは結局、鏡みたいなもんでグループ内だから結束して
いるけどちょっと調子こいた女子高生グループであることに変わりなんかない。
 ワタシが変わっただけ。そして、アヤとノゾミはそれを受け入れてくれただけ。
 アヤとノゾミに退かれる可能性もあった。実際、付き合いの時間は限られていて、男
と友達で男を選んで、男にはそのうちフラれて孤立ってコは、いる。だから、ワタシは
ついていると思う。まだ数える程しか会ってない、としてもね。
 「ま、暴発しちゃったけど、その後はよく我慢したよ、よしよし」
 ワタシもカフェオレを買って、それを取り出そうと取り出し口へ手を伸ばすのに頭を
降ろしたら、ノゾミがワタシの頭を撫でた。撫でられたら、ワタシはヨシヤのことを悪
く言われて、黙っていただけの自分がイヤでなんか目頭が熱くなってきた。
 ズズッ、って鼻をすすったら、ノゾミが焦った。
 「ちょ、泣かないでよ」
 「ご、めん」
 もー、って言いながらノゾミがティッシュを渡してくれた。このコはギャル系だけど、
こういう気の遣ってくれかたが本当すごい。ワタシが鼻をかむと、アヤが屋上に行く階
段に歩きながら、笑った。
 「ベタボレだなー、ちょっと情緒不安定で心配ですけどっ!」
 「ううっ」
 「はいはい、後は食べながら!」
 ノゾミがワタシの袖を引っ張った。
534 ◆WoueFxyFoA :2009/01/19(月) 22:02:55 ID:+XKN/1+t
 その日はバイトがあったから、帰り道は、駅近くのスタバにちょっと寄っただけだっ
た。
 ノゾミがソイラテを飲んで、エロ親父っぽい顔をする。
 「でもさー、まさか高原っちEDじゃないよね?」
 高原っち、って。ノゾミが年上をさんて呼ぶことなんて滅多にないから、そう呼ぶの
かー、って思っただけだけど。腰が引けていたから、それはない、と思う。
 「ワタシからするとさー、大事っていっても、もうちょっとアグレッシヴでよく
ね?って思っちゃうんだよな」
 それは、正直、思う。
 「そうかなぁ、高原さんってそういうキャラっぽいじゃん。そこにユウちゃんベタボ
レなわけで!」
 アヤがニヤニヤしてる。アヤにまで弄られるなんて!
 「まーね。でも、もう少し自信は持って欲しい感じ?ユウが大事なのはマジだと思う
んだ。でも、ビビり部分もかなりあるっぽいからさ」
 「うん。しなきゃダメって思わないけど、高原さんならそうなった方がもっとユウ
にもいいかも、って思うかな」
 こういう話だともうアヤとノゾミの方がセンパイなわけで。ワタシも、アヤが初めて
だったときは、当時は好きな人とだったから、すごい幸せぽかったのを思い出した。
 まあ、そう思ったからこの間、泊まりたいオーラを出しちゃったんだけど。
 「んー、でも当分かかると思う」
 「奥手だもんね」
 アヤの言葉に、うなずく。
 「でも、これはおねーさんとして言わせてもらうけどっ」
 ノゾミがびっと指をワタシに向ける。なんだ、おねーさんて。
 「高原っちの気持ちも大事だけど、ユウの気持ちがのっているときも大事だよ」
 「うん、それはそう思う、アタシも。別にしたから、最後じゃないんだもん。そりゃ、
大きいイベントだけどあくまで通過点でしょ、付き合っていくなら」
 ああ、そうか、って妙に納得した。ワタシも初めてで、ヨシヤと初めてでよかっ
た、って乙女チックに思っちゃったけど、なんかそこが到達点って思っちゃっていた。
 ヨシヤなんて、きっともっとそう思っているだろう。
 これって、二人に言われなかったら、気づかなかった。
 「で、次いつ会いますか?」
 ってノゾミが、エロ親父顔で聞く。梨本かよ!
 「教えない!」
 「ぶーぶー」
 アヤとノゾミがブーイングをするので、ワタシがむくれていると二人が笑い出した。
ワタシもつられて笑った。もうひどいよ、二人とも!
535 ◆WoueFxyFoA :2009/01/19(月) 22:04:08 ID:+XKN/1+t
10
 その夜の電話の時に、ヨシヤは山本達のことを覚えていて、「平気だった?」って聞
いてきた。よく覚えていたなって思った。
 「うん、まあ……大丈夫だよ」
 ワタシにしては歯切れ悪く答えた。ヨシヤに話したら、心配するだろう。ううん、心
配してくれることはとても嬉しい。だけど、心配させたくなかった。特に、週末までは、ヨ
シヤの仕事が立て込んでいて会えないことが確定だったから。
 それすらも無理して会ってくれるかもしれないけど、そういうのはダメってワタシは
思った。
 「そう……?」
 「うん」
 なにかあったってのはヨシヤのことだから、察知できただろう。だけど、ヨシヤは詮
索はしなかった。話したくないことを話させないでくれるのって助かる。隠し事になっ
ちゃうのは気持ち悪かったけど、会った時に話そうって思った。
 それにね。
 スタバで話したこと、こっちのほうが重要なんだから。
 「金曜日の夜に会える?」
 「金曜日?うん、でもちょっと遅くなるかも。土日はなにかあるの?」
 「ちょっと、ね。金曜会いたいんだ」
 これは……そういうことで。金曜の夜、遅くのほうが自然な気がして。
 ヨシヤはきっと簡単には、行かないと思う。でも、それはノゾミの言っていたヨシヤ
の自信、悪い言い方をすればビビり部分とワタシの希望を天秤にかけて、そのワタシの
希望が、適当じゃないって思ったら、わかってくれるよね。
 絶対、しなきゃいけないことじゃない。だけど、ずっと一緒にいるなら、そこはゴー
ルじゃなくって、二人にとってただのチェックポイントなんだ。なら、別に早い遅いだ
けで答えを出さないでいいでしょ。
 そう思ったら、早く……ヨシヤを一番近くに感じたかった。
 「わかった、それじゃ金曜で」
 「ヨシヤ……」
 「なに?」
 「大好き」
 息を吹き出した音がした。ヨシヤの顔が赤く染まるのが、電話越しでも分かった。
536 ◆WoueFxyFoA :2009/01/19(月) 22:04:54 ID:+XKN/1+t
 すぐに好きって言葉を返せないのが、ヨシヤらしかった。
 「ユウさん、無理してないよね?」
 「してないよ。じゃあね」
 今日は、言ってくれないかな、って思ったけど誘導みたいにしたくなかったから、切
ろうとしたら、あの、って声が聞こえた。
 「俺も、ユウさんが好きだよ。じゃ、じゃあ!」
 言ったと思ったら、ツーツーって音が鳴っていた。早っ!
 でも耳に残った言葉が、魔法のようにリフレインしていた。
 もう!バカップルだよ、これじゃ!

 木曜日の放課後、ガストに寄った。
「バカップルですな」
「対処のしようがありませんな」
 ワタシはすっかり弄られ役になってしまった。こんなに弄られるんなら、アヤが付き
合っていたときにアヤを弄っておくべきだった。
 「それで、明日、勝負かけるわけ?」
 「かける……つもり」
 ノゾミが仰々しくうなずくと、グラスを掲げた。
 「じゃあ、ユウのハッピータイムが来るように!カンパーイ!」
 アヤがグラスをぶつけた。制服だから、もちろんソフトドリンクだけどワタシはな
んか弄られているだけな気がして、遠慮がちにコツンとぶつけた。
 「なんか、怒ってる?」
 「怒ってないけどさ」
 ちょっと口を尖らせる。アヤがワタシの方に身体の向きを変えた。
 「いや、真面目な話、ユウが羨ましいよ」
 また弄られるのかと思ったら、ノゾミがこくりとうなずいた。
 「ぶっちゃけ、高原っちはイケてないじゃん」
 うー。これにも反論したくなってる自分は、本当ダメダ。これ、あばたもえくぼって
言うんだよね。そうなっちゃ、だめだろ!て突っ込むのがワタシの最後の理性かも。
537 ◆WoueFxyFoA :2009/01/19(月) 22:10:21 ID:+XKN/1+t
以上です。

ビチデレって面白いですねw
リアルっぽさとフィクションのさじ加減は、皆さんの評価次第なので、
そう思っていただけているのは、ありがたい限りです。
538名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 22:21:15 ID:Tkl6Fgty
>>537
今回もGJ
次回までまた全裸で待たせてもらう
無論正座でな
539名無しさん@ピンキー:2009/01/19(月) 23:24:34 ID:pufMVo0m
>>537
今日は暖かかったからな!
続きを全裸で待つのもなんともないぜ!

あーもうGJ!
540名無しさん@ピンキー:2009/01/20(火) 00:07:47 ID:NMSHKN2H
続きまだなの?
541名無しさん@ピンキー:2009/01/20(火) 00:36:33 ID:/Ha7m7Qz
もう日付変わったことだしそろそろ来るんじゃないだろうか

それにしても、ネトゲをやれば女子高生と合コンできるのか・・・知らなかったぜ。始めてみようかな
542名無しさん@ピンキー:2009/01/20(火) 18:59:19 ID:TTxPt+6D
えー、541がイケるなら俺も告っちゃおうかなー
543名無しさん@ピンキー:2009/01/20(火) 21:12:58 ID:tO7Gvtcj
>>542
やめとけ、お前が自分のIDみたいに泣くのが目に見えてる。
544 ◆WoueFxyFoA :2009/01/21(水) 23:20:31 ID:3C/cOc15
 「だけど、ユウの話聞いててさ、ま、相手がいないとダメなんだけどね、付き合うな
ら、やっぱハートが大事!って思ったよ。
  今までもハート無視してたわけじゃないけど、あの見た目でユウが夢中になるの、
聞けば全然わかるし」
  アヤが右手の人差し指をこめかみのあたりに当てる。
 「ワタシたち、損得で付き合えるようになっちゃったからさ。ユウやノゾミへの感情
と男に対する感情を同じラインで考えられなくなってたとこ、あったと思うんだ」
 指が離れる。アヤの言ったこと、ワタシは実感としてある。男なんて、みたいになっ
ていた。
 「だけど、違うんだ。大事な人っているんだって。だけど、焦ってもダメだって」
 「焦ってもダメって、ワタシが明日勝負かけんのは?」
 アヤの言ったことに疑問があったから、口を挟んだ。
 「いいんだよ、ユウは。高原さん、絶対大丈夫だって思うもん」
 「うん、高原っちがユウへの態度変わるの、想像できないもん」
 これは、弄られてるのか?ノゾミが続ける。
 「でさ、焦らない方がいいっていうのは、落としにくる男だっていいけど、そいつら
がアタシとどっちへ進んでいくのかって、そういうこと考えられるヤツと付き合ったほ
うがいいんだって、考えてみようって。で、そういう風に思える人だったら、もっと
ちゃんと向き合おう、とかね」
 いっているコトはわかる。でも、ワタシ見てそんなこと思うのかな、ワタシの話して
たことがそういう風に聞こえていたのかな。
 「そういうもん?」
 「これだから、困っちゃうよねー」
 アヤとノゾミが、わざとらしくため息をつく。
 「ユウがアキバ行った時、高原さんに、言われたことでしょ。高原さんはすごい
なー、って思ったのはそれを自分って言わなかったこと」
 ヨシヤとは数時間しか話していなかったアキバで、なんでヨシヤが嘘をついてないっ
て思ったのか。
545 ◆WoueFxyFoA :2009/01/21(水) 23:21:18 ID:3C/cOc15
 「そっかぁ」
 なんか間抜けな感じで、納得していた。
 似たようなことはきっと他の男も言っていただろう。
 だけど、彼は自分はその対象として外して言っていた。だから説教臭すぎず、都合の
いい文句でもないって思えたんだ。ワタシの口から伝えただけのアヤやノゾミにも、そ
れはワタシから伝わった分素直にってところもあるだろうけど、大切なことが伝わる。
それは、彼が真摯だから。だからアキバの日に、もう惹かれてた。
 そして、そういう言葉を言って、ワタシと付き合おうとすぐしなかった。格好付け
じゃない、彼の中の真実だからそういう態度がとれたんだよね。
 アヤもノゾミも、それをできるヨシヤだからワタシが付き合い始めることに反対しな
かったし、むしろ喜んでくれたんだ。そして、ワタシがヨシヤと出会えたことが本当に
ステキなことだったんだって実感した。運命、ってチープな言葉だけど、そんな言葉を
信じたくなるくらいは、ワタシも女の子で、胸の暖かさを軽く右手で触れていた。
 ワタシがはっと気づくと、アヤがニヤリとした。
 あうー、また弄られる!
 「ってなことで、ユウが羨ましいよ、ホント」
 「もう少し格好良かったら、最高だったけどね」
 む、って思わないようにしたけど、アヤが被せてきた。
 「気にならないくらい、最高なんだよね、ユウ?」
 やられっぱなしでなんていないんだから!
 「最高だよ!ほら、もっと羨ましがれ!」
 「うざっ、うざあっ!開き直りやがった!」
 ノゾミがのけぞるようにして、手をバタバタと振る。
 アヤも、口をイーって形にあけて、目を見開いて、手をシッシッって感じに振る。
 「やぶへびー!」
 「ヘビ出したのはアンタ達でしょ、さ、聞いてもらおっか!」
 ワタシが不敵な笑みを浮かべたら、アヤとノゾミが手を合わせて謝った。
 「だーめ、とりあえず、注文そろうまでは覚悟してよね!」
 「デザートまで頼むんじゃなかった……」
 ノゾミが観念した様子で天を仰いだ。アヤはデザートまで頼んでなかったから、ノゾ
ミのせいで巻き込まれたようなもんで、
 「ノーゾーミー!」
 アヤがノゾミに叫んだ。
546 ◆WoueFxyFoA :2009/01/21(水) 23:22:09 ID:3C/cOc15
11
 金曜日の8時に新宿の南口のGAPのあたりで待ち合わせ。
 ワタシだって覚悟してきてるけど、やっぱ緊張する。
 ヨシヤが仕事を終わったらメールくれることになっていて、7時ちょいにメールが来
た。ワタシは時計を見た。そろそろかな?
 
 「あ、ユウさん、ごめんね、遅くなっちゃって。」
 ヨシヤがスーツ姿で来た。
 ヨシヤのスーツってはじめて見るんだよね、そういえば。こうみると……スーツって
ものすごい体型以外は、見れる感じがする。
 「スーツのヨシヤもいいね!なんか、いい感じ!」
 ワタシは腕を絡めた。ヨシヤが自分のスーツを見て、照れくさそうにする。
 「そ、そう?ユウさんの服も似合ってるよ。今日は、カワイイ系じゃなくって、綺
麗っていうか。なに言っているんだろ」
 ヨシヤが咳払いをするように、明後日の方向を向く。
 普段はちょっとパステル系の色の服を中心に着るんだけど、今日は白を中心にシンプ
ルな色合いで、シルエットも割りとタイトな感じの服にした。
 照れながらも、こういうこと言ってくれるのって、とっても嬉しいし、女の子にとっ
てこういうこと言ってもらえるとカワイクなれる。だって、ワタシがチガウこと、わ
かってくれてるってことでしょ。ちゃんと見てくれてなきゃ、言えないはずだから。
 「綺麗?えへへっ」
 ワタシが言うと視線を戻して、ためらいがちにうなずいてくれた。
 「夕飯、どこにしようか?」
 「タイムズスクエアの上でいいかな」
 ヨシヤが時計を見る。
 「わかった。今日は、あんまり長くいられないね」
 その言葉にワタシがちょっと強張る。でも、これは後で。
 「そうだね。うん」
 
 夕飯はクリヨンってフレンチのところに決めた。
 ヨシヤが珍しく、「奢りたいんだけど、いいかな?」って聞いた。
547 ◆WoueFxyFoA :2009/01/21(水) 23:23:00 ID:3C/cOc15
 「え、別に出すよ?」って言ったけど、ヨシヤは「スーツで会ったの初めてだし、
ちょっとは年上らしいとこ、見せたいから」って言ったんで、甘えることにした。
 ペアコースがあったから、それを頼んだ。
 食前酒のときに、ヨシヤにいい?って聞いた。一応、未成年だし、ヨシヤはそういう
の平気で無視するのキライだから。
 「最初の一杯だけね」
 「うん」
 真面目なんだけど、融通はある程度利かしてくれるんだよね。ま、これは働いている
からかもしれないけど。もちろん、ヨシヤがダメって言ったらやめるつもりだったけど。
どうしても飲みたいってほどお酒が好きなわけじゃないし。
 
 スープが済んで、魚料理が来るまでの間にヨシヤがすこし言いづらそうに切り出した。
 「あのさ、この間の、山本さんだっけ?月曜日、なんかあったんじゃない?」
 「うーん。なんでそう思うの?」
 「ユウさんにしては、なんか様子がおかしかった、っていうか。気のせいならいいん
だけど」
 やっぱり気づいてたか、って思ったし、それを覚えていてくれたのもヨシヤらしい
なって思った。
 「わざわざ言うほどのことじゃないんだけどね……。でも隠し事みたいになっちゃう
のもいやだし、気になるだろうから」
 ワタシはかいつまんで、写真をとられていたこと、それを多少ネタにされて、ワタシ
が悔しかったことを話した。
 「そっか……。ユウさん、ごめんね」
 ヨシヤが落ち込んでいる。自分がネタにされたことについては、多分ほとんど落ち込
んでないと思う。ワタシがつらい思いをしたことに、悲しそうにしているんだと思う。
だから、ワタシに謝っているんだろう。
 「なんで、謝るの?悪いのは山本たちだよ」
 「だけど、やっぱり、俺と一緒だと……」
 「ね、ヨシヤ?」
 ワタシが名前を呼ぶと、視線がぶつかった。
548 ◆WoueFxyFoA :2009/01/21(水) 23:23:37 ID:3C/cOc15
 「ワタシと山本たちの噂、どっちが大事?」
 「それは、ユウさんだよ。でも」
 ヨシヤが答えるのを制して、ワタシが繋ぐ。
 「なら、気にしないで。そんなことで、ヨシヤがワタシから離れるのはもっとイヤ」
 ヨシヤの波立っていた瞳が、無風の湖面のように静かになっていった。
 「ユウさん……」
 「ワタシ、ヨシヤと一緒にいられることが一番大事なんだ。他のことなんて、それと
比べたら全然気になんないよ」
 「俺も、ユウさんといられることがとても大事だよ。だけど」
 まだ、何か留保しようとするヨシヤにワタシは首を振る。
 「ヨシヤがワタシのコト想ってくれているのは、本当嬉しい。でも、ワタシだって
色々あるよ。全部、心配されたらワタシもヨシヤに話せなくなっちゃうよ」
 ヨシヤの湖面に、ワタシの言葉が雫となって波紋のように広がっていく。
 「そっか。そうだね、俺は自分のことで、キミが辛くないようにって心配したけど、
俺がキミが嫌な思いをすると辛いように、俺が辛いって思いすぎたら変わらないよな。
……ユウさんのほうが大人だね」
 ワタシが大人、なんてことない。ヨシヤと知り合って、ヨシヤと話していたから、た
だ気遣い続けるだけが優しさじゃないって気づいたんだ。
 ワタシにとって大事な人、だから大事な人が辛い思いして欲しくない。それはただ気
遣うだけじゃない自立が必要で、それはとっても大変だと思う。でも、本当につらいと
きに支えてくれるなら、きっとずっと一緒にいられる。
 「ううん、ヨシヤに会わなかったらこんなこと思わなかった。ヨシヤが優しいから、
そう思えるようになったんだよ。だから、ワタシはヨシヤといられるなら、あんなこと
なんて平気だよ、大丈夫!」
 ワタシの大丈夫、って言葉がヨシヤの心のベルをリンって鳴らした気がした。
 ウェイターが来て、魚料理をセッティングする。
 「こちら、カレイのソテーです。ローズマリーと黒胡椒をアクセントにオリーブオイ
ルを中心にシンプルにしましたものですね」
 ウェイターが去った。
549 ◆WoueFxyFoA :2009/01/21(水) 23:24:58 ID:3C/cOc15
 ヨシヤは、しばらくうつむき気味だったけど、フォークとナイフを取った。
 「ありがとう。俺も……」
 不意にヨシヤが無言になって、ワタシを見つめた。
 「?」
 「さっき、ユウさんが言ってくれたけど、俺もユウさんといられることが一番大事だ。
それが一番で、心配だったりはするけど、さっきみたいにユウさんの気持ちと俺の気持
ちを比べる時に間違えないようにしたい。世間とか、勝手に自分で思いこみすぎちゃ、
だめだね」
 周りからのことをまったく気にしないのもどうかとは思う。だけど、周りは周り。周
りを気にして、一緒にいられなくなる、一緒にいられないなんて思うのは絶対間違って
る。
 ワタシは、ヨシヤの自信のなさが心配だった。周りを理由に、離れちゃうかもってと
ころがあったから。だけど、きっともう大丈夫。
 「うん。ね、冷めちゃうよ」
 ワタシもフォークとナイフを手に取った。
 「そうだね。うん、美味しい」
 きっと、これからも色々ある。ヨシヤは、ワタシと付き合っていることが会社の人に
知られたら、10代かよ!?とか、遊ばれてんじゃないの?とか言われたりはするだろう。
 だけど、それとワタシ達の気持ちは別で、二人で一個ずつ乗り越えていけばいい。だ
から、ワタシは。

 「ごちそうさま」
 ワタシがヨシヤにぺこりと頭を下げた。
 「どういたしまして。やっぱりコースだと時間かかるね、もう10時前か」
 「うん。でも美味しかった」
 笑顔を向けると、嬉しそうに微笑む。
 「そうだね。遅いけど、少し一緒にいたいかな。ユウさん、電車は何時くらいまで平
気?」
 この少し一緒にいたい、ってヨシヤから言ってきたのは小さな変化。必ず、ワタシに
聞くのが今までだったから。だから、こうやって素直に言ってくれるのは嬉しい、けど。
550 ◆WoueFxyFoA :2009/01/21(水) 23:26:00 ID:3C/cOc15
 「11時半くらいまで平気だよ、明日土曜だし……」
 「そっか、じゃあ喫茶店かマックとかでも行こうか。飲み屋は金曜だからあんまり空
いてないだろうし」
 ヨシヤが東口のほうへ視線を向けている。でも、そこらへん行っちゃったら普通に帰
る展開になる気がした。でも、今日はそれじゃダメ。
 「うん……」
 うう、やっぱり恥ずかしいよ。でも!
 「ユウさん?」
 がんばれ、ワタシ!
 「ね、ヨシヤ、ヨシヤがイヤなら、いいんだけど」
 「うん?」
 「ホ、」
 「ホ?」
 ホじゃない!すごい、裏返ってるし!
 「ホテル行きたい」
 ヨシヤがむせた。こ、こっちだってむせたいくらい恥ずかしいんだから!
 「ヨシヤは、早いって思うかもしれないけど、ワタシ、ヨシヤのこと好きだし」
 「で、でも」
 「ワタシ、ヨシヤと一緒になりたい。そ、それにね」
 なんか、もうすっごいパニック。やっぱり、少し怖さもあるからなのかな。
 もっと整理していたはずなのに!でも、言い切らなきゃダメだって、そう思って続け
る。
 「アヤとかノゾミがいっていたんだけど、その、することってゴールじゃないって」
 ワタシも酷いあわて方だけど、ヨシヤもすっごい狼狽していて。
 「そ、それは、うん。え、どういうこと?」
 なにその分かってるの、分かってないの?って答え!
 「だから、別に、してもずっと一緒に……」
 と、息を吸い込んだ。そうだ、こっからが最重要なんだから。必至に冷静になろうと
する。頭の奥がアツイけど。
 「一緒にいてくれるよね?だったら、通過点でしかないって」
 ヨシヤはワタシの問いを反芻して、少しだけ落ち着いたみたいだった。
 「あ、ああ……うん。なるほど、そ、そうか」
 ヨシヤがぐっと目をつぶった。5秒くらいして、ゆっくり瞼をあげた。
551 ◆WoueFxyFoA :2009/01/21(水) 23:27:23 ID:3C/cOc15
 「突然で焦ったけど、うん、ユウさんの友達の言うとおりかもしれない。ユウさんと
ずっと一緒にいるなら、その、なんていうか、してからのほうが長い……ってことだよ
ね」
 さっきよりはだいぶ落ちついたけど、やっぱりちょっと顔が赤いままヨシヤが言う。
 「うん。だったら、早い遅いってそんなに関係ないっていうか。さ、さっき言ったけ
ど……」
 うまく言えないよぅ。
 って、思ったらヨシヤが急にワタシのことを抱きしめた。気を張っていたのに、抱き
しめられてふにゃって力が抜ける。
 「ごめん、気持ち大事にするっていったばっかなのに、言わせちゃって。ユウさんが
いいなら、ホテル行こう?」
 すごい体が熱くなった。きっとワタシ、今、真っ赤だ。
 「む、無理しなくてもいいよ?」
 「やめるほうが無理かも」
 ぎゅってヨシヤの腕の力が強くなった。
 「じゃ、じゃあ」
 ワタシがヨシヤの腕を外すように手をかけると、両肩に手が置かれた。ヨシヤが本当に
軽くだけど額にキスしてくれた。おでこなあたりがヨシヤらしいけど、ヨシヤの方から
してくるのって、本当思ってなくてワタシが目を丸くしていると、照れながら両肩から
手を下ろした。
 「無理してない証拠、になったかな」
 ヨシヤからしてくれただけで、十分な証拠。
 ワタシは、さっきまでの硬さがなくなって、ふふって笑ってヨシヤに右手を差しだし
た。ヨシヤがワタシの右手を取る。まだとっても緊張しているし、もっと緊張するかも
だけど、この気持ちの温かさは本当にあるもので、それを確かめられるなら怖さなんて
とてもちっぽけだって思った。
552 ◆WoueFxyFoA :2009/01/21(水) 23:28:39 ID:3C/cOc15
ちょっと長くなりましたが、以上です。

風邪で胃腸がやばいです。皆さんも気をつけてくださいね。
自分のSS中のセリフとかでやりとりされると、なんかムズムズしますw
553名無しさん@ピンキー:2009/01/21(水) 23:57:18 ID:9GpOD79Y
>>552
きてたー
いいぞいいぞ、GJGJ
最後まで全裸正座待機で俺は待つ
554名無しさん@ピンキー:2009/01/22(木) 01:33:56 ID:TbbnvIUt
>>552
顔のニヤニヤが止まらん!!
可愛いのう可愛いのう。
あーもうGJ!!
555 ◆WoueFxyFoA :2009/01/23(金) 02:50:10 ID:ogV25IzV
12
 タイムズスクエアから10分くらい歩いたところにあるホテル街についた。
 いざ、近くになるとやっぱり、ドキドキしてきちゃって、でも、ヨシヤも慣れてな
いっていうか初めてだから、多分傍からみたらワタシ達が初めてなのってわかるんじゃ
ないかってくらい、ぎこちなく、どこにしようかってキョロキョロする。
 金曜の夜、ってことは、やっぱそういう人は他にもいるわけで、最初に、見えたとこ
ろは満室だった。そうしたらなんか、どこがいいのかも分からないし、迷っちゃってい
た。
 で、少し歩いたら、ビジネスホテルに近い入り口のところがあった。
 「ここにしようか」
 「うん」
 一応、看板にrest、ってあるし、多分そういうホテルなはず。22時以降はご宿泊に
限ります、って書いてあった。さっき、もう10時近かったから、22時は過ぎている。
自動ドアが開いて、中に入ったら部屋の内装の写真があって、部屋番の横にボタンがあ
るタイプだった。
 ヨシヤが3階の部屋を押そうとした時に、手がとまった。
 「どうしたの?そこで、いいよ?」
 「あ、その、俺、ゴム、持ってないよ……」
 ヨシヤの声がすぼむ。ヨシヤが持っている方が驚くけど、ここまでくるのも結構気合
いれていたのに、ここでまたコンビニとかって、なんか微妙な気分になるのは、わかる。
でも、ワタシもノゾミに言われていたのを忘れてた。ホテルにあるけど、気になるなら
持って行きなよって言われたんだけど、ヨシヤにホテルに行くのどう言うかで頭が一杯
で、買っておくの忘れちゃっていた。
 ヨシヤのことだから、なしでいいか、って言うのはナイよね。たぶん安全日だし、ワ
タシはそれでも……っていうか、間になにもない方が嬉しい気がしちゃうんだけど、ヨ
シヤの中では、ワタシとできることとそれはきっと別で、多分、別のものも気にしな
きゃいけなくなっちゃうって思うから。
 だから、ちょっとだけ気になるけど。
 「あ、あるらしいよ。2つくらい」
 「そ、そう、じゃあ、この部屋でいい?」
 ワタシがうなずくと、ヨシヤがボタンを押す。カギがディスプレイの下に出てきた。
556 ◆WoueFxyFoA :2009/01/23(金) 02:51:28 ID:ogV25IzV
 エレベーターの中で、二人きりになると動悸が早くなった。
 3階でドアが開いて、左手に進んで部屋のカギを開ける。電気のスイッチをヨシヤが
押すと、部屋が照らされた。
 ドアからまっすぐのところにバスルームがあって、右側がリビングっぽくなっていて
大きいベッドが1つにソファーとテーブルがあって、その正面には液晶テレビ。テレビ
台の横に、1人暮らし用くらいのサイズの冷蔵庫があった。
 「こういう風になっているんだ」
 ヨシヤは、わざとらしく部屋のものを眺めてる。
 「意外とシンプルだね」
 でも、ワタシはチェックしなきゃいけないことがあるから、ノゾミの言葉を思い出し
て、ベッドの枕元を見る。
 サイドボードにティッシュとかと並んで、、普通のホテルのアメニティみたいな袋が
ある。その中に正方形のパックが2つ入っている。
 「ね、これ……」
 「あ、うん、あるんだね。よ、よかった」
 ヨシヤはちょっと焦るようにしながら、その袋を元の位置に置くと、ソファに座った。
ワタシも隣に座る。
 
 沈黙。
 
 何話そう。
 ヨシヤがなんとなく、テレビのリモコンを持って電源をつけた。
 「んっ、ああっ……!」
 突然、裸の男女が絡み合っているAVが映し出された。ヨシヤが慌てて、チャンネル
を変える。変えたチャンネルではちょうど映画がクライマックスっぽかった。
 「び、びっくりしたね」
 「うん、びっくりした」
 「いきなり、あれはないよなあ」
 ヨシヤの顔が引きつったのを見て、なんだかおかしくなって笑った。
 「あーいうの、ネットとかで見たりする?」
557 ◆WoueFxyFoA :2009/01/23(金) 02:52:49 ID:ogV25IzV
 ええ?!って顔をしたけど、苦笑しながら答える。
 「それはまあ、ね。でも、テレビつけて写るとは思わなかったからさ」
 「いきなり、なに?!って思ったもん!」
 すこしリラックスできて、二人で笑いあった。
 緊張が緩んだら、もう照れてたってしょうがないって思って。来る前も、そしてこの
部屋に入った時から決まっているんだから。
 このまま勢いで、って思わなくは無いけど、ちょっとだけクールダウンしたいような
気もして。
 「シャワー、浴びるね。えーと」
 ベッドの足元のほうにバスタオルやバスローブの入ったかごを見つける。
 「どっちが先に入る?」
 ヨシヤもさっきまでと比べれば、いくらか余裕ができたみたいで、表情に柔らかさが
戻ってる。
 「ユウさんが先でいいよ」
 「じゃ、先に入るね」
 一瞬、二人で、って思ったけど、さすがにワタシもいきなり裸で向き合うのはちょっ
と心の準備ができてないっていうか……、だから1人でシャワーを浴びることにした。
そんなんだから、多分本当はおかしいかも知れないけど、下着はバスルームで脱いだ。
一応シンプルでかわいいめの着てきたんだけど、そんなこと忘れちゃうくらいは、テン
パってはいて。扉を開けて、カゴの中に下着を入れる。ヨシヤは努めて、こっちを見ないよ
うにテレビを見ている。
 
 シャワーで身体を洗っていたら、またさっきまでとは別の緊張って言うか不安がすこ
し湧いてくる。
 ワタシの胸は、そんなに大きくない。スタイルも特別よくない。全然、気にしないで
いられたことが、がっかりしないかな、とか不安になってきた。ヨシヤがそんなことい
うキャラじゃないのは分かってる。だけど……。
 いまさらしょうがないことなのに、どうしてこんなこと気にしちゃうんだろう、って
思った。
 ホテル備え付けのよく分からないメーカーのシャンプーは気になるので、髪以外を
洗って身体を拭く。バスローブを纏ってヨシヤの隣に座る。
558 ◆WoueFxyFoA :2009/01/23(金) 02:53:23 ID:ogV25IzV
 「はい、ヨシヤ、どうぞ」
 ヨシヤはテレビを凝視するようにしながら、うなずく。バスローブのワタシを見るの
にドキドキしているんだって分かる。だけど、向いてくれないから、不安が纏わりつい
たまま。二人ではいれば良かったって、思うのに、二人で入れないとか、ムジュンして
るよね。
 「ヨシヤ、早くあがってね?」
 ワタシの言葉の意味を掴みかねたまま、ヨシヤは返事をする。
 「う、うん」
 「待っている時間が」
 この言葉が合っているかどうかわからないけど。
 「怖いの……。だから」
 ワタシの視線が下向きなことに気づいてくれたのか、ヨシヤの腕がワタシを包んだ。
 「早く上がる。俺もやっぱなんかバンジージャンプみたいな気分だけど、ユウさんも
怖いよね」
 違うの、そのこともちょっぴり怖いけど……どうしよう、ヨシヤのこと信じているの
に、なんでこんなこと思っちゃうんだろう。
 「違うの、なんか、そのがっかりされないかな、って……」
 ヨシヤが不思議そうな顔をする。
 「がっかり、って?」
 「その、ワタシ、スタイルとかよくないし……胸もあんまり……」
 ヨシヤが、ふって笑った。
 「ユウさんでもそんなこと思うんだね。でもね」
 ヨシヤが少し悩んだ後、密着するように抱きしめてきた。そのちょっと硬いトコロが
ある。
 「ひかれると困るんだけど、一番分かるかなって。ユウさんは、俺にとって一番カワ
イイし綺麗な女性だって思う。それに」
 硬いところは当たらないように少し腰を引く。
 「大好きなことに勝る人なんていないよ」
 硬い感触に気恥ずかしさはあったけど、その感触とその言葉に、不安がほうっと吐息
となって抜けていった。
 「ありがとう……ちょっと、びっくりしたけど」
 「う、うん、じゃあ、早く上がるようにするから」
559 ◆WoueFxyFoA :2009/01/23(金) 02:57:59 ID:ogV25IzV
以上です。

毎回、レスありがとうございます。
待っているなんて過分のお言葉をいただいて、本当嬉しいかぎりです。
次で、多分ラストになると思います。

560名無しさん@ピンキー:2009/01/23(金) 04:47:56 ID:0j+2Kopf
>>559
今回もGJ
そして今回もすぐに読めた俺幸運
全裸待機は間違いじゃなかった
続き、楽しみにしてます
561名無しさん@ピンキー:2009/01/23(金) 20:44:23 ID:AUvUU5zb
おけおけ
あーあ、読んでて羨ましくなってきて仕方がない
562名無しさん@ピンキー:2009/01/23(金) 23:04:58 ID:58BCOUpO
>>559
おお…こっちまでドキドキする。
これは全裸待機しかあるまい。
待ってる。
563名無しさん@ピンキー:2009/01/24(土) 10:13:09 ID:wjr33SYy
ドキドキするな〜
564名無しさん@ピンキー:2009/01/24(土) 10:14:08 ID:pIwNPmya
うん
楽しみ
565名無しさん@ピンキー:2009/01/24(土) 18:06:48 ID:yT5MXOan
>>559
GJっす。明日は氷点下の冷え込みらしいけど、貴方の作品を待つ為なら全裸待機もなんともないぜ。
でもなんか、カップルの二人が羨ましすぎて真剣にムカついてきたわww
566 ◆WoueFxyFoA :2009/01/24(土) 23:44:52 ID:5NswRNto
 ベッドに入って、テレビを見る。テレビの中身は全然頭に入ってこないけど、しばら
くするとガチャってバスルームの扉が開いた。ワタシの鼓動がその音に跳ねる。
 ヨシヤがベッドに横になった。ベッドの端と端くらいに離れた位置でしばらく見つめ
あった。
 
 耳の近くまで心臓が来ちゃったんじゃないかって思うように、鼓動ががドッドッって鳴ってる。でも、後は、飛び込むだけ。
 ベッドの中を滑って、ヨシヤに近づく。
 「ヨシヤ……」
 ワタシはヨシヤに抱きついて、唇を重ねた。
 「ん……」
 もっと……。
 ワタシの舌がヨシヤの唇の裏に少しだけ届くとヨシヤの舌があたった。舌の感触、っ
てすごい。映画なんかでみるディープキスってくどすぎじゃない?って思っていたけど、
官能的だからなんだって知った。
 舌が硬くなり柔らかくなる。その柔らかくなった時に自分の舌が柔らかいと、まるで
溶け合ったみたい……。
 「んん……」
 唇を離したら、透明の糸ができて、消えた。なんか、もうこの感触だけで、身体の奥
が熱くなってきちゃって。
 「ちょっと、やばい、かも」
 ヨシヤの目が少しだけ赤い。
 「ワタシも、すごい……舌、融けちゃいそうだった」
 「うん……」
 ヨシヤが遠慮がちに尋ねる。
 「その……、触っていい?」
 「ネットで予習した?」
 ワタシが悪戯っぽく聞くと、唇を歪めた。あ、ヨシヤにしては悪いカオしてる。
 「もう!……そうだね、予習だけならしてるね」
 ヨシヤの手が、ワタシの胸をバスローブ越しに触れる。
567 ◆WoueFxyFoA :2009/01/24(土) 23:47:23 ID:5NswRNto
 「ぁ……」
 胸の膨らみをなぞるように触れられているうちに、先が硬くたってくるのがわかる。
硬くなった部分がバスローブと触れて、また刺激になって……。
 ヨシヤの手がバスローブの中に入ってきて、先端に触れ、膨らみを包むように撫でる。
ヨシヤの手が触れるたびに、ワタシの身体が火照ってくるのがわかる。
 「……っ」
 吐息が漏れる。ヨシヤが耳元で訊ねる。
 「耳、いい?」
 「ん……いい、よ、ヨシヤに任せ……る」
 ヨシヤの指が鎖骨の辺りをなぞる。くすぐったいって思ったら、耳たぶが咥えられた。
 「ひゃん!」
 なんか、うなじがぞぞぞってした。一番似ているのはくすぐったい、って感じなのに
身体の奥にこよりができたような感覚。
 ヨシヤの手が胸の辺りに戻る。耳を責められながら、胸に触れられたら、こよりが解
けて中から、熱が溶けだした。
 そのうち、ヨシヤはワタシにキスをすると、バスローブをはだけさせ、舌を胸の先端
に這わせた。指と違った生温かさがワタシの熱を溶け出させる。
 ヨシヤの手がやがて、ワタシのお腹を弧を描くように触れながら、ワタシのそこの近
くへ移る。指が、ヘアの辺りをさわさわと蠢く。
 「いや……そこじゃ、あはっ……くすぐったい」
 「あ、そ、そう。もう少し下?」
 ワタシはこくんとうなずいた。ヨシヤの指が、ワタシの間に入ってくる。
 ためらいがちに分け入る指の動きは初めてで、たまにピッってワタシの敏感なところ
に触れる。
 「ん……はっ…ん」
 ワタシも人並みに興味はあって、自分で、指でしたことはある。だから、その性的な
快感っていうものも、初めてなわけじゃない。だけど、自分以外の人の指だと自分とち
がって、どこが一番敏感か分からないから「近い」って思っても遠ざかったり、そう
思ったら急にポイントに触れてきたり、想像できない。
 自分でするときが一直線だとすると、彼に触れられているのはまるで浮きが水面に
入ったり沈んだりを繰り返してるみたい。
568 ◆WoueFxyFoA :2009/01/24(土) 23:48:52 ID:5NswRNto
 その不規則さが、ワタシの中の熱を溶かし、そこを湿らしていく。
 「ユウさん、指、いい?」
 「うん……」
 湿り気のある音と一緒にワタシの中に、指がヌルって入ってきた。
 「はぅ……んんっ…」
 ヨシヤの指が上壁を奥から手前になぞる度に、
 
 溶けていく。
 溶け出していく。
 
 チュク……チュプ……って音がするようになって、
 身体の熱と頭の熱が同じになって、快感がせりあがってくる。
 ワタシのあげる声がヨシヤもなにかに取り付かれたみたいに呼吸が荒くなってくる。
 「ヨ……ヨシヤ、大丈夫、だ……から……」
 ワタシの言葉に、ヨシヤは手を止めるとバスローブを脱いで、枕元にある袋を取る。
ヨシヤのそれは、反り返るようにたっていて、先っぽのとことそれ以外の部分の色が違
う。
 パッケージを開けると、ゴムが出てきた。ヨシヤが身体の向きを変えた。つけるとこ
ろは見えないようにかな……?
 ……?
 「どうしたの?」
 「う、うん……うまくつけられないっていうか、うーん」
 「ちょっと見せて」
 「え」
 ワタシの熱があるうちに、あんまり待ちたくなかったから、ヨシヤの方に顔
を近づけたら、さっきよりなんかずんぐりしてた。
 「さっきより小さくなってる?」
 「いや……その」
 ノゾミが言っていたのを思い出した。男によってはゴムつけるときにその作業で、少
し弱まっちゃったりする場合があって。大抵自分で少し擦ったりとか、女につけさせた
りとか、リカバリして、つけるみたいな。
569 ◆WoueFxyFoA :2009/01/24(土) 23:51:11 ID:5NswRNto
 思い返したら、今までヨシヤに責められていただけだったから、これくらいはしてあ
げたいって思って。
 「貸して」
 ヨシヤの手から、左手でゴムを取って、右手でヨシヤのそれに触る。
 「っ!」
 「ワタシがつけてあげるね」
 キスをして、舌を絡ませる。
 「んん……」
 ワタシの薬指が触れたら、ちょっと上向きの力が出て、中指が触れるとすこし太く
なった。人差し指と親指で輪を作って、親指がくびれているところに触れたらもうさっ
きくらい……さっきより少し大きくなった。
 これに、被せればいいんだよね?でも、なんか先から、透明なのが出てるから、ゴム
の輪の中止をその透明なのが出ている部分にあたるようにして、被せる。
 被せていく最中も、それがたまにびくって上に跳ねたりする。
 大きい、かどうかわからないけど、ゴムは根元まではちょっと届かなかった。
 「あ、ありがとう……じゃあ…」
 「うん……」
  ワタシがベッドに寝そべると、ヨシヤが手でワタシの両膝を押し広げる。
  ヨシヤと本当に1つになれるんだっていう幸福感とちょっぴりの恐怖感が交錯する。
  ヨシヤの手がワタシの腰の外側に置かれる。
 「ユウさん、挿れるよ」
 痛っ……だめだ、力、抜かなきゃ……。
 おへその辺りまで迫り来るような、裂ける痛みは想像以上で。
 ワタシの顔が思ったより厳しかったんだろう、ヨシヤが心配そうにワタシを見つめる。
 「痛い?む、無理そうなら」
 「ううん……少しずつ……なら、多分…んっ…大丈夫だから」
 呼吸を深くする。ワタシの呼吸に合わせて、そこが動くからかヨシヤのそれが脈動し
て、ワタシの中をすこし押し広げようとする……と痛いけど、無理なほどじゃない。
 「ヨシヤ……」
 ワタシは腕を伸ばして、ヨシヤの身体に絡めると、ヨシヤも抱きしめてくれた。
 「好きっ……」
 ワタシがヨシヤにキスする。少しずつ、ヨシヤが中に入ってきて、止まった。多分、
一番深くまで入ったんだと思う。
570 ◆WoueFxyFoA :2009/01/24(土) 23:55:25 ID:5NswRNto
 「俺もだよ、ユウさん」
 痛い、けどヨシヤと1つになれたって実感があった。ワタシの奥にヨシヤが繋がって
る。たぶん、本当は動かないとヨシヤ、気持ちよくないよね?
 だけど、ヨシヤはワタシの顔を見ながら、じっとしてくれている。もうきっと爆発し
そうだって思うのに。痛くないように、ってワタシのこと考えてくれてる。
 ヨシヤの腕に抱かれて、顔がこんなに近くにあって、一番深く繋がってる。痛みすら
愛しいって思えた。
 ワタシはヨシヤにもう1度キスをすると、微笑んだ。
 「ヨシヤ、ありがと……動いて、いいよ」
 「でも……」
 「ヨシヤがイけた方が、ワタシ、嬉しいから……平気、だから」
 「ありがとう……でも、痛かったら言って」
 「うん……わかった」
 ヨシヤのそれが入り口へ戻っていく。なんか引きずられるみたいで、やっぱり痛い、
けど。
 また、中に入ってくる。でも、さっきよりは痛くない気がする。
 「大……丈夫?」
 「うん、ゆっくりならへ…平気そ…あっ……」
 もう1度外へ。
 オブラートのように少しずつだけど、痛みが減っていく。
 「ふぁ……ん……」
 スライドが繰り返されていくうちに痛み以外に少しずつ、快感が混ざってきた。自分
でした方が、快感は強い。けど、肉体的な快感とはちがう温かい気持ちが湧いてきて、
痛みまじりの行為なのに、なんだかすごく嬉しい、に近い感情に変化していく。
 「んっ……、……はあ…も……すこし……早く…して…もっ…あっ」
 ワタシの言葉に、ヨシヤの腰の動きが早くなる。
 ちょ……と、激しいけど……。
 そこに熱がだんだん集まっていく感じがした。
 「ユウさん……!」」
 「あ……んんっ……!」
 グッってヨシヤの腕に力が込められて、ワタシの中にあったそれが細かく震えた。
 本当は、ゴムとかすぐ外さなきゃダメなのかもしれないんだけど、ヨシヤがイってく
れたこと、その震えた時にでたモノ、全部、大事なものな気がして、しばらくその状態
でいた。
571 ◆WoueFxyFoA :2009/01/24(土) 23:58:42 ID:5NswRNto
 ヨシヤの腕がワタシを包んだ。でも、その腕の力は夕飯までの遠慮がちのものでもな
く、さっきまでのような力じゃない。
 とても柔らかくて、優しくて、だけど強さももっていて、きっとワタシを守ってくれ
る翼って思った。ちょっと、ロマンチックすぎるなって思ったけど、今はそう思っちゃ
う自分をそのままにしたい気分で。
 「ヨシヤの腕、羽根みたい」
 「羽根?」
 「ふふっ」
 ワタシはヨシヤの胸に、顔を埋めた。
 しばらくそうしていたら、ヨシヤは顔を耳元へ寄せると、大好きだよって囁いてくれた。耳に
吐息がかかるのもそうだけど、心の奥までくすぐったくて、心にバラのような香りが広がる。
 
 この香りを表せる言葉は1つしかなくて。
 
 「いま、すごい幸せ」
 ワタシがヨシヤの頬に頬擦りする。
 「うん」
 また、ワタシはヨシヤにキスをした。
 この幸せを更に上乗せできる言葉があるとしたら、ワタシの中ではたった1つ。
 その言葉が、今より相応しいタイミングなんてないってワタシは思う。
 だけど、ヨシヤはそれは言わなかった。きっと、もっと先にならないと言ってくれな
いんだろう。だけど、そういうヨシヤだから、ワタシは心の底から思うんだ。

 「ヨシヤ、愛してる!」って。
572 ◆WoueFxyFoA :2009/01/24(土) 23:59:51 ID:5NswRNto
13
 見るともなしに、街灯に照らされる桜の木を見たら、桜のつぼみが膨らんでいた。
 そっか、そろそろだよね、って思いながら見ていたら、アヤとノゾミがカラオケ屋か
ら出てきた。
 「明日は、高原さんと?」
 「うん、卒業祝いしてくれるんだって」
 「そっか、あそこ行くんだっけ?」
 「そう」
 ま、遊んでいるようでもそれなりにこなしていたから、3人とも無事卒業ってわけで。
ワタシは一応は4月から大学生、ってことになる。
 アヤとノゾミは専門学校に行くことにした。アヤは服飾デザインとかで、ノゾミはネ
イルアートとかの学校で、学校は別々なんだけどね。
 とりあえず、みんな進路も決まったし、卒業も決まったんで、卒業パーティを3人で
開いたんだ。昨日は、クラスのパーティで2連荘。
 他愛のない話をしながら歩いて、交差点に着く。ここからは、別々だ。ノゾミとアヤ
に手を振った。
 「じゃあねっ!」
 「おつかれ!」
 「明日、遅刻しないようにね!」
573 ◆WoueFxyFoA :2009/01/25(日) 00:03:17 ID:5NswRNto
 翌朝起きて出かける準備をして、ドアから出て、空を見上げると雲が黒く厚かった。
 「雨、降りそうだなぁ」
 ワタシは傘を持って、家を出た。
 家から駅までの間に雨が降ってきて、傘をさす。
 乗り換えて山手線に乗ると、傘を持っている人と持っていない人がいた。
 「思ったより降ってやがんな」
 「出るとき降ってなかったからなァ」
 細身のジッパーが多めのジャケットを着た二人が話している。
 こっちのほうは、降ってなかったんだ。
 駅名がアナウンスされて、ワタシは電車を降りた。
 彼はいつもとあまり変わらない格好で、あの日と同じあたりに立っていた。
 ワタシが微笑むと、彼も微笑んだ。
 「雨、結構強くなってる?
 「そうでもないよ、小雨でもないけど」
 「そっかぁ」
 改札を抜けて、左側に出る。
 「ちょっと待っていて」
 「傘?」
 うなずく彼に、ワタシが傘を差し出す。
 「一緒に入っていこう?」
 彼は照れたように首を縦に振った。
 
 彼の腕にワタシの腕を絡める。
 「お昼はさ、自分で出すよ」
 「え、いいよ、お祝いだし」
 「いいのっ!」
 だって、いくのがあのお店なんだから。

 1つの傘の下、二人で並んで雨の中を歩いていく。
 雨が跳ねて、靴が汚れる。雨って嫌だって思っていたけど。
 それだけじゃないよね。こうやって二人で歩けるなら。

 目的のお店に着く。
 雨空でも通る声が私たちを出迎えた。
574 ◆WoueFxyFoA :2009/01/25(日) 00:18:23 ID:Exmw5MON
以上で、この作品は終了です。
タイトルは悩んだんですが、 『雨の下で』 って最初つけていたので、それで。

この長さは初めてで、至らなかった点もあると思いますが、笑ってやってくださればありがたく思います。
そして途中でもお礼を述べましたが、
皆さんのレスが、原動力になりました。レスって本当嬉しいですねw
改めて、お礼を言いたいです。ありがとうございました!


それでは、真美&美咲の続き そして 新しい書き手さん待機モードに移行しますw
では。


575名無しさん@ピンキー:2009/01/25(日) 00:24:36 ID:Tcdo/v4i
>>574
ありがとう
そして、おつかれさま
リアルタイムで読めて俺は最高に幸せだと思った
よい作品でしたよ
終わってしまって寂しくはあるけど、仕方ないですね

というわけで、全裸正座待機の任務終了します
576名無しさん@ピンキー:2009/01/25(日) 00:33:15 ID:nHFmFdAQ
>>574
乙!!
この2人のバカップルな話も見てみたいが、それだとスレ違いかw

ともあれずっと待っててよかった!
577名無しさん@ピンキー:2009/01/25(日) 17:40:16 ID:MGZ/lobE
>>574
GJ! 二人が『いい娘、いい男』になっていって、急速に盛り上がっていく感じが良かったよ。
エピローグ(?)読んでたらちょっと蕎麦食いたくなってきたから、行ってくるわw
578名無しさん@ピンキー:2009/01/25(日) 23:08:27 ID:2VwocoPx
幸せなエピローグで胸が熱くなった。
どうもありがとう。お疲れ様でした。
579名無しさん@ピンキー:2009/01/26(月) 15:53:13 ID:fwnkVKZt
( ̄^ ̄)凸
580名無しさん@ピンキー:2009/01/26(月) 19:20:41 ID:xNTTCQR9
お蕎麦食べたい

GJ!
581581@JR:2009/01/26(月) 23:16:52 ID:32XLKCfu
スイーツと香辛料さんと◆WoueFxyFoAさんに影響を受けて俺も書いてみたくなった

だがどんなのにしようか…orz
582名無しさん@ピンキー:2009/01/26(月) 23:58:18 ID:N7TVtVmb
ならばネタを投下しよう

主人公(20代前半くらい)は中学生のころから援交にどっぷりはまっていて
名目上の彼氏を作る判断基準も顔や性格は二の次で、いかにお金を絞りとれるかで、もちろん金が出なくなったらポイ捨て上等
そんな生活をしていたら、当然の成り行きのように風俗嬢になって現在に至る
ちなみに稼いだお金の使い道は、金のかかる何か(なんでもおk、例えば車とか)にほとんどつぎ込んでいるので
見た目や生活は派手じゃなくて、案外質素っていうギャップ、ぱっと見はとてもビッチには見えない

ある日街中で、会社の営業で外回り中の、小学校のころからの友達(女)とたまたま出会う
ちなみに唯一の友達でビッチでも何でもない普通の女、主人公とは腐れ縁みたいな感じで
昔からビッチな生活をいいかげんやめたら?と何度も言ってくれてる保護者的存在
その友達と一緒に外回りをしていた部下の男が何故か気になる
金も名誉も地位もない平々凡々な男だったのに、どんどん惹かれていく
さらに今まで恋なんて感情を経験したことがないので戸惑ってしまう
そして、初めて経験する10代のようなウブなときめきと、自分がまごうことなきビッチであるという現実とのはざまで悩み・・・

みたいな話を読んでみたいなァ
583名無しさん@ピンキー:2009/01/27(火) 00:03:30 ID:p9D4Q5ee
じゃあ俺もネタを。
幼馴染兼ビッチ。ビッチだけど毎朝起こしに来て、弁当作ってくれて、至れり尽くせり。
でもビッチ。

簡単にいえば、トゥハートの神岸あかりがビッチな場合。
584名無しさん@ピンキー:2009/01/27(火) 00:34:53 ID:isetT2Th
>>583
下級生2のたまきんでは?
585名無しさん@ピンキー:2009/01/27(火) 04:20:04 ID:ycAnGZzT
なにこの神スレ
俺も混ぜろ
586581@JR:2009/01/27(火) 19:04:02 ID:6uvEqduB
>>582と583さん
レス遅れました・・・(泣)
とりあえずそのシチュで考えてみます(´ω`)
587581@JR:2009/01/27(火) 19:05:46 ID:6uvEqduB
エチを先に持ってくるか男が振られるのどっち先にしよう・・・??
588名無しさん@ピンキー:2009/01/27(火) 19:17:32 ID:46n0/6eS
エチしたのに1回振られるに
589581@JR:2009/01/27(火) 19:21:52 ID:6uvEqduB
>>588
了解です!

では最初こんな感じで如何でしょう・・・??
590581@JR:2009/01/27(火) 19:30:46 ID:6uvEqduB
「ハァ・・・ハァ・・・で,出るっ・・・」ドピュ・・・ピュッ・・・
そう言い,誠(一応主人公の彼氏で)は射精した。

「いっぱい出たね・・・ふふっ(はぁ・・・こんな事ばっかめんどいし・・・。なんで男ってこうなんやろ・・・)」
体内に出された物を感じながら理沙はそんな事を考えていた・・・。

という出だしで如何でしょう??正直皆さんには及びませんが・・・(泣)
591名無しさん@ピンキー:2009/01/27(火) 19:33:12 ID:ZJM0MjAy
投下するなら細切れ投下にはせずまとめてから投下するといいよー
詳しいことはhttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1218717327/のスレの
>2に書いてあるから参考にどうぞ
592名無しさん@ピンキー:2009/01/27(火) 19:35:13 ID:plHuuFtb
待て!ある程度書き溜めるまで投下は待つんだ!
593581@JR:2009/01/27(火) 19:44:59 ID:6uvEqduB
分かりました・・・
ではまとまるまでレス控えますね(汗)
594 ◆/zbBBLZ1gg :2009/01/29(木) 02:36:01 ID:JdSOt1cG
近年希に見る良スレの予感!

というわけで、遅筆だけど頑張って書いてみる。
気長に待って頂けるとありがたいです。
595タイトル未定:2009/01/29(木) 02:37:38 ID:JdSOt1cG
 こんなつもりじゃなかった。

「てめぇ! ちょっとモテるからっていい気になりやがって!!」
「痛い! ちょっとやめて!!」
「ああん?! テメェに汚された俺の心の方が数倍痛いっつーの!!」
「ちょっと離してッ!!」
「きちんと責任は取ってもらうからな、このビッチがッ!!」

 私の手首を掴んで強引に後ろに回される。いくら素人と言っても所詮男と女だ。しかも、それで男は数人いる。力の差というか、もはや勝負にすらなっていない。
 私は今、数人の男に囲まれて逃げ場を無くしていた。場所が人気のない深夜の公園ということを考えると、この後に待ちかまえる私の運命は容易く想像することが出来る。
 男に倒されて一瞬だけ月が見えた。ただ純粋に光り輝くそれを見て、自分の滑稽さにただ笑いたくなった。
 男なんてのは一種の見栄。自分がどれくらいのレベルの女であるかをアピールするためのいわば道具でしかなかった。
 数人と一緒に付き合うなんて事はザラで、金は全て男持ち。自分で言っておいて妙だが、道具というのはかなり的を得た表現だ。
 もちろんそれに見合った行為、例えば腕を絡めたりとかキスしたりとか、少し長い間続いたヤツには体だって許したりとか、そういうことだってしてきた。
 最初は友だちが同じようなことをしているのを見て、そして薦められて。何かと言い寄ってくる連中も居たりしてウザかったけど、遊びで付き合ってくれる人たちが多かったから気軽に付き合えたし、気軽に別れられた。
 だから、それなりに楽しかった。なんだかんだ言って異性と喋ったりするのは面白かったし、金を持ってくれるから好きに遊ぶことが出来たし。
 だから、学校のどこかで尻軽女と罵る声が聞こえても、それはただの負け惜しみでしかないだろ。惨めすぎて言葉も出ない。そう思っていた。
 けれど、こんな状況になって初めて自分の愚かさが身に染みた。今更自嘲の笑みを浮かべたところで遅すぎる。
 私の頬に何か熱いものが流れた。そんなすぐ男をフるなんて、お前には心がないんじゃないか。そう捨てゼリフを言って立ち去っていった元カレもいたが、どうやらそれは間違いだったらしい。
 まだ自分のこれからのことを思って嘆くくらいの心は残っていた。そんな姿をこんなフザけたヤツらに見せたくなくて、馬乗りなられて身動きできない私はせめてもの抵抗として腕で顔を覆った。
 暗い視界の中で、何かが溢れだしていくのを感じる。悔しい。そう思ったが、口元には何故か笑みが浮かんでいた。おそらく、私はもう諦めてしまっているのだろう。
596タイトル未定:2009/01/29(木) 02:38:41 ID:JdSOt1cG
「へへっ……。さあ、観念しやがれッ!!」
「……ッ!」

 ヤツの手が私の胸へ迫る。もう終わりだ。明日から学校へはもう行けないな。
 そう思ったときだった。気のせいだろうか、誰かが走り寄ってくるのが聞こえた。

「お前ら何やってる……ッ!!」
「な、なんだお前……ああ、岸本じゃねえか」

 岸本? 岸本浩樹。ぼんやりと頭に浮かべたその名前には聞き覚えがあった。いや、昔は毎日のように呼んでいた。
 岸本とは小学校からずっと一緒で、中学の時までは一緒に遊んだりした。
 だけど、私が男をとっかえひっかえの生活を送るようになってから、私に声を掛けてくることはなくなった。アイツもアイツであまり積極的な方ではなかったから、たぶん様変わりした私に違和感を感じたんだろう。
 顔はそれほど悪くないが、なにぶんあまり喋らないから、私としてもあまり喋りたいと思う相手ではなくなっていたし。
 目を瞑ってしまってよく分からないが、そんな岸本がそこにはいるらしい。こんな深夜なのに、なんでまた。

「何やってるんだって聞いてんだよ!!」
「ああ? 見て分からないのか? 犯ってんだよ」
「犯ってるって……お、お前、そいつ……」
「ああ、香田咲妃。お前もよく知ってるビッチだよ」

 私の関係ないところで関係のないやり取りがされる。もう自分は終わりなんだ。相手は不良が四人ほど。今更岸本が出てきたところでどうにかなるものでもない。

「お前ら……一発殴って大事にするのは止めようかと思ってたが、気が変わった」
「な、なんだよ」
「完膚無きまでに叩きのめす。尻尾撒いて逃げ出すなら今のうちだ」

 「はっ!」と岸本の台詞を吐き捨てて、私に馬乗りになっていた不良が私からどく。それと同時に、手下と思われる一人に合図を送り、私の喉元にナイフを突きつけさせる。
 今私にナイフを突きつけているヤツを除いても三対一。普通の高校生に過ぎない岸本に勝算があるとは思えなかった。
597タイトル未定:2009/01/29(木) 02:39:27 ID:JdSOt1cG
「俺たちに喧嘩売ったこと、後悔させてやるぜ」
「その台詞。そっくりそのままお返しする」

 「逃げて!」 私がそう叫んだが、その声が届く前に不良は岸本の方へ走り出していた。
 絶対に敵いっこない! 腕っ節にいくら自身があると言ってもそれは所詮一対一でのことだ。喧嘩慣れした不良相手に三対一など、無謀も良いところだ。
 私は怖くなって目を瞑った。次の一瞬には岸本が倒れていると思ったからだ。
 だが恐る恐る目を開けてみると、状況は全く逆だった。

「お、お前……」
「この程度で俺に一発ぶちかまそうってのか? 覚えておけ。いくら頑張ってもアリは人間様には勝てないんだよ」
「て、テメェ……」

 血に倒れ伏した不良が取り出したのは小型のサバイバルナイフ。今度こそ危ないと思ったが、私は闇夜に光るその鈍い光に怖じ気づき、声を出すことが出来ずにぱくぱくと口を開けるだけだった。
 見れば、同じく岸本にやられた手下の二人もナイフを取り出し、その切っ先を岸本へと向ける。

「死ねぇ!!」

 その一言で三人が同時に走り出す。今度こそ無理だ。数秒先には血に染まる岸本の姿を見ることになるんだ。
 今度は度を超えた恐怖心からか目を瞑ることも許されず、ただその戦いをぼうっと見ていることしかできなかった。
 しかし、岸本は彼らのナイフを避け、避け、そして手首を蹴り上げ一つずつ地面へ落としていく。まるで赤子の手を捻るようにいとも容易く三人のナイフを地面に落としてしまった。
 それを見て本能的にヤバいと感じたのか、不良は怯えていたのか、よく聞き取れない捨てゼリフらしきもの叫んで夜の闇夜に消えていった。
598タイトル未定:2009/01/29(木) 02:40:06 ID:JdSOt1cG
「大丈夫か?」
「あ、その……大丈夫」

 未だに倒れ伏して動けない私に岸本が手を伸ばしてくる。
 伸ばした前髪から鋭い切れ長の目が覗き、私の心がとくん、という音を立てる。

「必要ならおぶっていくが」
「そ、そこまでしなくても大丈夫ってか、なんでそんなに…………あれ?」

 いくら立とうとしても座り込んだままで、体が言うことを聞いてくれない。
 初めての経験だが、腰が抜けた、というやつらしい。
 私は恥ずかしくなって、顔を背けた。

「と、とりあえずベンチまで肩かしてくんない?」
「ああ。分かった」

 私の腕が岸本の背中に回され、体が密着したような格好になる。
 腰が抜けていて動けないとはいえ、これでは恥ずかしすぎる。と、そこまで考えたところで何故恥ずかしくなっているのか見当も付かない自分が居ることに気づいた。
 キスくらいはしょっちゅうしてたし、体だって重ねたことがあるし、あんまり大きい声じゃ言えないけど、いわゆる”奉仕”だってしたことがある。なのに、何故?
 そう考えたところでよく分からなくなり、とりあえず深呼吸。少し汗くさい彼の匂いが鼻から全身へ行き渡り、ますます落ち着かなくなる。
599タイトル未定:2009/01/29(木) 02:40:27 ID:JdSOt1cG
「おい」
「ななっなに?」

 うわー、超上ずってるんですけど。

「こんな時間に出歩くんじゃない。これに懲りたらもう夜の外出は控えるんだな」
「は、はい……」

 冷たい口調で罵られ、返す言葉もない私。しまいには涙まで出てくる始末。仮にもクラスメイトの前で、情けないったらありゃしない。
 岸本にハンカチを貸してもらいながら、考える。しかし、初めての経験だった。夜遅くに遊んでいることを咎められることなど。
 親とは半ば決別状態だし、友だちにもこの時間まで遊んでる娘はたくさんいるし、なんだかんだで初めてだった。
 そんな初めての感覚に、私は戸惑いを覚えると共にちらりと覗いた彼の瞳が気になって仕方がなかった。
 隣に座っている彼をそっと見てみると、今までの剣幕はどこへ行ったのやら、掴めない顔をしていた。
 だが、その奥に怒りの炎が宿っていることを、すこしだけ見えた切れ長の目から伺い知ることが出来た。それが自分に向けられているものだと分かり、怒られているのに何故だか嬉しい気持ちになった。
 そんなこんなで、彼は私が落ち着くまで隣で何も言わずに座っていてくれたのだった。変に気を遣われるよりよほど嬉しかった。
 成り行きで持ってきてしまった彼のハンカチ。まだ手元に残っているが、これはどうしたらいいだろう。
 明日洗って返そうか。その時は、お礼にどこかへ誘って―――

 こんな思いを巡らせるのは何年ぶりだろうか。
 そのせいで、この思いの名前に私はまだ全く気づけていなかった。



600 ◆/zbBBLZ1gg :2009/01/29(木) 02:42:00 ID:JdSOt1cG
投下終了です。

一応他のスレでも職人やってるので、投下のタイミングは遅くなりそうですがご勘弁を。
そして素晴らしいスレを立ててくれた>>1に無限の感謝を。
601名無しさん@ピンキー:2009/01/29(木) 04:00:52 ID:tQ1h9X1r
>>600
GJ!
これからどう展開するのか楽しみです。

寝付けない夜も悪いことばかりじゃないな。
602名無しさん@ピンキー:2009/01/29(木) 10:15:40 ID:gUsO0WKz
>>600
GJです
他の男達と接している時の
心と身体の変化とかどうなるんだろ
たのしみだ
603sage:2009/01/29(木) 14:26:18 ID:jxcU8czP
こんないいスレがあったとは
604名無しさん@ピンキー:2009/01/29(木) 18:20:24 ID:bwaL0HRZ
これからの展開に期待。
同級生か、どうなるんだろ。
>>593 さんとは別の方なのかな?
605 ◆/zbBBLZ1gg :2009/01/29(木) 18:50:08 ID:JdSOt1cG
581@JR氏ではないです。 他のスレで職人やってる人間です。
なんか趣味が一緒なような気もしますが。

>>603
sageはメール欄に入れるとうまくいくんだぜ。
606名無しさん@ピンキー:2009/01/29(木) 18:53:17 ID:bwaL0HRZ
>>605
レスどうもです。
マイペースでがんばってください。
607名無しさん@ピンキー:2009/01/29(木) 21:34:46 ID:N4AD0+9b
おお、今度は幼馴染系か。
最初からこうだと知りながら読む分にはとても飲み込みやすいな。
608581@JR:2009/01/29(木) 22:32:25 ID:kgGzNzTU
さんざ待たせてすみません…

中々学校とか有ってここに来れなくて…(泣)
609名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 00:55:52 ID:EJwyVkZA
このスレの方々に感化されて書いてみたんだけど、明らかに毛色が違う件
だが退かぬ媚びぬ省みぬ
スレタイからは外れていないと思うので投下します


注意
・若干のNTR?(冒頭は乱交とか。後半も危ない。懸想相手とのHは無し)
・ハッピーエンドではありません
・エロくない+下手な文章

また、PCは規制中なので携帯での投下です
改行、分割の不備があったらすいません
610名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 00:56:40 ID:EJwyVkZA
私は体を売っていた。
別にお金に困っていた訳でもないし、お金のかかる趣味があるわけでもない。
かと言ってセックスが大好き、というほどでもなかった。
ただお金はあって困るものではない、という理由だけで、だ。

///

薄汚いホテルの一室で、私を組み敷いた中年の男が私を貪っている。
「あんっ……あぅ……ん……」
「ハァッ……ハァ。いいよ、舞の中……ハッ……ハッ……」
脂ぎって緩んだ体が私の体に覆い被さり、私をベッドに埋め込む。
私の足は男の体によって割り開かれ、膣は男の醜い肉棒で抉られていた。
男が私の上で上下し、私はそれに反応する。
両手首を押さえつけられている為、逃げることは出来ない。
「ハァ……ハァ……。ねぇ、舞……、舞、俺のチンポ気持ちいいか?」
こういうことを聞いてくるのは、中年特有のイヤらしさだと思う。
正直言ってあまり良くない、そしてキモい。
しかし、この男の金払いはなかなか良いのだ。
ここは機嫌を取っておくべきだろう、と判断した。
「うぁん……!気持ちいいっ!あんっ!おじさんのおちんぽ気持ちいいのぉっ!」
ついでにサービスで、足を男の腰に巻き付け、少し膣を締め付ける。
男はうっ、と気持ちの悪い声を出し動きを鈍らせ、そして突然唇を塞いできた。
男の舌が私の口の中に入り込んでくる。
最低な気分になりながらも、それを振り払えない私。
両手首は押さえられているし、足は割り開かれ、体には中年太りの体が乗っている。
私自慢のたわわに実った胸は、男の脂肪を纏った胸板で押し潰され、勃ち上がった先端が男の胸板で踊る。
男の動きが再び加速し始めた。
「……んちゅっ、ちゅぼっ……ぐちゅ、ちゅっ」
重なった口からは粘った水音が漏れ、男はそれに興奮したかのように速度を上げ……。
「う、あっ、で、出るっ!!」
「―――――っ!ひぁあああっ!」
男の肉が、私の中で弾けた。

///

「はい。金」
「ありがとう」
「しかし、いつも舞の体はいいな」
性欲処理が終わり、お金を受け取る。
1、2……。相変わらず金払いの良い男だ。
「ねぇ、いつも言ってるけどさ、舞。俺の女になりなよ」
そしてこの勘違いも相変わらず。
そんな容姿でよく言えたものだ、と思う。
若い頃ならいざ知らず、今では嫌悪感しかないイヤらしい笑顔で言ってくる。
「それはいつもお断りしているでしょう」
表面上は苦笑いしながら、いつも通り返す私。
611名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 00:57:32 ID:EJwyVkZA
私には自分の容姿と体を十分に理解している。
男の視線を惹き付ける大きな胸。
コルセットを着けているような、細く締まった腰。
意外なほど肉付きの良い尻と、同性にも羨まれる細く長い、しかし貧相には見えない量感のある足。
そして、その辺の女優になど負けない顔。
相手には困らなかった。

///

ぐちゅ……ぐちゅ……ぐちゅ……。
多人数が相手だったことも、しばしばあった。
私は男の腹の上で腰を振り、両手は二本の肉棒を。
口は正面の男のモノをくわえこみ、胸はアナルを貫いている背後の男の玩具にされていた。
「うぁ、やべ、すげぇぞ、中。もう出そう」
「マジで?いいな、次は口かなと思ってたけど、そっちもいいな」
「いや、口も上手すぎるぜ、この女」
「ケツも締まってやべえって。抜けねーかも」
ゲラゲラ、と下品な笑い声を立てる男達。
カラオケでもいかない?と下心満載の声を掛けてきた男達だ。
カラオケを一頻り楽しんだところで酒を飲ませようとしてきたから、こっちから誘ったのだ。
お酒にお金を出すより、私に出したほうがいいでしょう?と言ったら、直ぐにホテルに連れていかれた。
元々体目当てだったのだろう。
代わりに、お金ちょうだいね、と言うと1も2もなく承諾した。
「やべぇ、この喉。たまんねえ」
そう言って、私の頭をわしづかみにして腰を使い出した正面の男。
私の両手で肉棒をしごかれている二人は、中出しすんじゃねーぞ、なんて、私の2つの穴を責めている男達に言っている。
こういう時の為に避妊対策はしているし、直腸の掃除もしているので、出されても特に困らないのだけど。
「なぁ、次はこのやらしー乳で挟んでくれよ」
後ろ男が耳元で囁く。
固くしこった先端を強く摘ままれ思わず体が反応する。
「あんっ、は、あっ!」
「いきなり締まっ、くあっ。……出ちまった。なんてことだ」
おいおいふざけんなよ、とか早漏が、なんて言われている。
仕方ねーだろ、なんて悪態をつきながら私の下からどき、男たちはそれぞれ私を蹂躙するために動く。
私を仰向けにすると、一人は私の背後からアナルを貫き、一人は膣に挿入する。
「あー、ホント良い具合だわ」
「な、中が詰まってる感じ」
残りの男達は私の胸を肉棒で虐めだした。
「どけよ、お前ら。俺が挟んでもらう約束なんだって」
「いいじゃん、こんなやらしいおっぱい、お前だけには勿体無い」
と二人が言った。
さっき私に中出しした男は、精液のついたものを私の顔になすりつけてくる。
「この女エロすぎだろ……。萎える気配がない。空っぽになるまでやってやんよ」
夜はまだ長い。

///

そう。相手には困らなかったし、相手が誰でも良かったのだ。
彼に会うまでは。
612名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 00:58:10 ID:EJwyVkZA
彼の名前は池上達人。
中肉中背の、取り立ててカッコいいわけでもない、何処にでもいるような人だった。
合コンの最初で「人数合わせで来た」と言い放つ神経はちょっとどうかと思うけど。
他の男が舐め回すように私を見、下心だけで構成された声を掛けてくるなか、彼は適当に飲み食いをし、私以外の女の子に適当喋っていた。
数合わせ、と言った割にはキチンと気を配り、私だけに集中する話題に飽き始めていた女の子たちに話題を振っていたのだ。
だから私は彼に興味を持った。
他の男達に「他の子にも話題を振らないと!」と追い払い、彼に近付く。
しかし、私が声を掛けても適当に返事をする。
私が擦り寄っても特に反応を示さない。
私が、私だけに目を向けさせようとしても、何気無く避け、話題から外れ気味な女の子に声を掛ける。
正直、最初は頭に来た。
ここまであしらわれたことは、過去には無かったのだ。
ちやほやされていないと気が済まない訳ではない。
私は容姿を鼻にかけ、女王様気分で振る舞っているわけではないのだ。
女の子同士の付き合いもきちんとしているし、自分で言うのも何だが、人望もある。
容姿は金払いの良い男を引っ掛けるのに便利、というくらいなものなのだ。
高慢にならないよう意識していたハズだ。
しかし、あしらわれた、という事実は、私のプライドを些か傷付けた。

///

これが私と彼の馴れ初め。
私は彼を夢中にさせようと躍起になり、彼に好かれようとした。
彼が大きな胸が嫌いでは無いとわかると胸を撫で下ろし、彼がポニーテール好きと言ったから、肩までだった黒髪を伸ばして結わえた。
ミイラ取りがミイラになってしまった。
私の方が彼に夢中になってしまったのだ。

///

「ねぇ、私って魅力がない?」
彼に夢中になっていった私は、彼が私を求めないことに不安になり、ある時勇気を出して聞いてみた。
自分に自信を持っていたはずなのに、こんなことを聞くなんて。
「どうしたんだ、いきなり」
彼が苦笑いしている。
「お前は美人だし……その、言わなくてもわかるだろ?」
少し赤くなりながら、そう言葉を濁す彼。
当然だったはずのことが不安になる。
しかし、私はそれを笑うことが出来なかった。
私はきっと彼が好きなんだ。
素直にそう思えた。
初恋と言って良いかもしれない、と意識したら止まれなかった。
「だって部屋に誘っても中々来てくれないし」
「ちゃんと家までは送ってってやってるだろ」
と、呆れたような彼。
「じゃ、今度は部屋に入ってお茶も飲んでいってよ」
「バカ。送り狼に気を付けるべきだな、お前は」
「……いいのよ?」
そう言った途端、苦笑いしていた彼の表情が、苦いものになる。
マズイ、と思った。
「……あのな、もうちょっと自分を大事にしろ。そもそも俺達は恋人同士じゃないんだから」
その言葉にショックを受けた。
そうだ、まだ恋人ではなかったのだ。
「だから……」と、何か続けようとした彼に、体当たりするように抱き付いて言った。
「好き!達人が好きなんだ!」
613名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 00:58:48 ID:EJwyVkZA
それからまた暫くは、幸せな日々。
彼は私の告白を受け入れてくれた。
恋人同士になっても、私達の関係はあまり変わらず、肉体関係もなかったが、私は幸せだった。

///

ある時、彼の部屋で寛いでいると、彼が小さな小箱を持ってきた。
「な、舞。これあげる。」
そう言って差し出した小箱には銀のネックレスがあった。
「え、どうしたのこれ」
「いや、その……」
贈り物など、体を売っていた頃に沢山貰っていた。
中には驚くほど高価なものもあった。
縛られるのが嫌だった私は、あまりに高すぎるものは受け取らなかったが、このネックレスの三倍、四倍の物は割と頻繁に貰っていた。
というより、このネックレス程度の値段の贈り物はなかったのだけれど。
「いや、あんまり良いものじゃないと思うけど、似合うかな、と思ってさ」
「……うん」
「あれ、今良いものじゃないって所肯定した?」
「うん」
「……うお、やっぱりか。若干凹むわ。
まあ、お前ほどの美人なら、もっと良いもの貰ったことあるわな。
正直すまんかった」
と、少し暗い表情の彼。
でも、箱を引っ込めようとした彼の手を取った。
「でも、値段なんか関係ない。達人が私の為に買ってくれただけで、今までの値段だけ高い物よりずっと嬉しいよ。
だから、受け取ってあげる。……いや、受け取らせてください」
そう。今までの贈り物は、私の気を惹くためのもの。
私はその男達に興味がなかったから、どうでもよかったのだ。
しかし、これは違う。私はが本当に好きな人から貰った、初めてのものだ。
「……本当に嬉しい。顔が弛むのが止められないよ。
……あ、ちょっと、達人見ないで!」
ニヤニヤが抑えられない。
今絶対変な顔になってるのに。
「でも、なんでいきなり?」
でも、突然ネックレスを贈ってくれた理由がわからなかった。
それが少し気になる。
「……ん、と。その、不安にさせちゃいけないかと思って」
「……何が?」
「いや、恋人になる前に聞いてきたことがあったろう」
「ああ。何で私を抱かないか、ってやつ。そういえばそういうこともあったわね」
そういえばそういう時もあったな、なんて強がりだけど。
本当は怖かったのだ。
彼が苦いだけの表情をしたことが。
「今は不安じゃないよ。達人は私を好きでいてくれるじゃない」
「そういうことは真顔で言うんじゃねーよ。恥ずかしいだろ」
正直言って逃げたかった。
「あの、な。俺さ、前付き合っていた彼女がな……俺に、な」
彼は顔をしかめて言った。
「彼女が、俺に隠れて体を売っていたんだ」
以前「恋人同士じゃないんだから」と、彼は言った。
彼の中では、いや、一般常識では、普通赤の他人と肉体関係を結んだりはしない。
「理由を聞いたら、なんとなく、だって。……それ以来ちょっと怖くてさ。
女の子と親しくなったりがさ。だからこれはお詫びというか……舞?」
過去に戻れるのなら、なんとなく、なんて理由で体を売っていた自分を潰してやりたい気分だった。
614名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 00:59:31 ID:EJwyVkZA
「そうか。そんなことがね……」
「……どうした?」
「何が?」
「いや、何でもない……」
何とか平静を装えたと思うけど、本当は目の前が真っ暗になった気がした。

///

それから私は徹底的に過去を消そうとした。
幸か不幸か、彼と出会ってから体を売っていない。
お金は余っていたし、お金のかかる趣味がなったことも幸いした。
ほとんどの男は私の連絡先すら知らないし、携帯も変え時だ。
機種変更の時に番号も変えてしまえば、私の携帯番号を知っていた、極少数の男とも切れる。
髪型や服の趣味も彼の好みと合わせて変えているので、以前男を引っ掛けるために通っていた猥雑な繁華街に行かなければ会うことは無いだろう。
彼との生活が壊れることだけは、何としてでも避けたい。
それだけが怖かった。

///

努力の甲斐があってか、どうやら私の過去が彼にバレることはなかった、と、言う風にはならなかった。

///

二人で食事した帰り。
何だかんだで肉体関係はないままだったが、距離は随分近づいたように思う。
半年以上かけてだったが、初めてキスもした。
昔はあまり好きではなかったが、彼とのキスは天にも昇るような気分だった。
キスだけでイかされそうで、これでセックスなんかしたらどうなっちゃうんだろう、と処女みたいに不安になったりもした。
昔では考えられないほどゆっくりと関係を育んでいた。
だから、気が緩んでいたのかもしれない。
「おう、久しぶりだな、舞」
その声に振り向くと。
「金やるからホテル行こうぜ。そんな貧相な兄ちゃんの五倍は出してやるよ」
あの、勘違いした中年の男がいた。
「何ですか、あなたは。彼女は僕の恋人ですが」
彼が私を守るように前に出る。
が、私は目の前が真っ暗になり動くことが出来なかった。
「恋人ぉ?テメエみたいな貧相なガキがかぁ?はっ、笑わせんな。舞はな、俺の誘いを蹴ってたんだぜ?」
動くことが出来ない。
「……酔っぱらいか?あまりしつこいと、警察を呼びますよ。舞、行こう。……舞?」
動けない。
「……ほぉら、行きたくねえってさ。俺のが良いってことだ。な?」
「……何を……」
「そいつは昔、体を売ってたんだよ。少しばかり高かったが、具合の良い体でな、忘れらんねーんだよ」
彼の顔色が青ざめていくのがわかる。
違う、と叫びたかった。
人違いだ、と言いたかった。
「買う度に舞もよくよがってたぜ!最後なんか足まで絡めてくるんで、腹の中に何度もぶちまけたもんだぜ、なあ?」
「……とにかく、人違いです。これ以上騒ぐなら警察を呼びますよ」
「警察警察って鬱陶しいガキだな。おい、舞、ホテル行こうぜ。そんなガキなんか置いてよ」
男が近付いてくる。
が、何とか動き出せた。
声が出てくれた。
「……人違いです。寄らないで下さい。警察を呼びますよ」
男は私を睨み付けて、舌打ちをした。
「……ちっ、俺の事を忘れちまったのかい、この売女が。連絡つかねーようになったと思ったら男が出来たとはな。
ま、男がいるなら仕方ねえが、おい、兄ちゃん。そいつには気を付けるんだな。
そいつは金で誰にでも股を開くアバズレだぜ。案外あんたと会ってない日は他の男の腹の上で腰振ってるかもしれねーぞ」
イヤらしい口調で言い捨て、去っていく男。
そこからどう帰ったか、記憶にはない。
615名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 01:00:04 ID:EJwyVkZA
「……舞。本当のところはどうなんだ?」
無言のまま家路につき、彼の部屋に招かれた。
逃げ出したかったが、それは最低の選択肢だろう。
「……」
「……」
沈黙が痛い。
「……」
「……あまり信じたくないけど、な」
「……違うの」
「何が違うんだ?」
「……っ」
彼は今にも死にそうな顔色をしていたが、無表情だった。
「……初めて会った時から、たまにそういう噂は聞いていたんだ。でも、金使いも荒くなかったし、他の男の影も無かったから質の悪い冗談だろう、と思っていたんだけど……」
彼と一緒に居られないなんて思いたくなかった。
でも、それは私のせいだ。
「……達人に会うまで、体を売っていたのは本当。でも、達人に会ってからは一回もないよ」
「それは信じるよ。だってお前俺にべったりだったもんな」
そう言って力なく笑う彼。
過去を懐かしんでいるようであった。
「お前と仲の良い女の子から「独り占めするな!」って文句をつけられたことがあったくらいだ」
「じゃぁ……」
「でも、何で体を売っていたんだ?お金に困っていたようには思えなかったけど」
「……」
「……なんとなく、ってやつか」
「……」
何も答えられなかった。
何を言っても言い訳にしかならない。
「……。なぁ、舞」
「……嫌、それだけは嫌」
「俺の恋人だったお前は何も悪くはない。だからこれは俺の我が儘だ。」
「お願いだから……」
「でも、俺は過去を過去と割り切れないんだ」
「それ以上言わないで!」
「悪いけど、別れてくれ」

///

それ以降、私の生活はモノクロの日々。
彼は私を責めなかったが、私など存在していないように振る舞った。
私が彼の側にいても、視線をこちらに向けることもなく、声を掛けてくれることもない。
でも、私は彼の側にいようと思う。
彼が私を見てくれるまで。
616名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 01:01:04 ID:EJwyVkZA
投下終了

SS書くのは2回目なので、書き方とかよくわかっていません
出来る限り手は入れたつもりなんですが……
改善点等、批評指摘をお待ちしています


っていうか、あと20日の膨大な作業があるのに何やっているんだろう俺
こんな良スレがあるのが悪い
617名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 01:25:20 ID:u8iUs1ip
>>616
続きがありそうな、なさそうな。
切ないけど、ビッチだからこその苦い終わり方もあるか。
毛色が他の人と違う感じで面白かった!GJ
618名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 12:47:24 ID:hGcrmpx1
GJ!こういう終わり方もイイ。読みやすかったです。
619名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 15:07:36 ID:poNZkHYE
>>616
おもしろかった
舞が幸せになるかは置いといて続編が読みたいかも
その作業が終わった後でいいから
620名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 17:10:38 ID:63XmrKK+
面白かったよGJ
舞ちゃんが幸せになってほしい
ということで続編を…
621名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 18:58:30 ID:S+d/uAVz
GJ
グッときた。続編よみたいな
622名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 19:28:22 ID:sR8vcPDK
うんこれはGJ!
特に終わり方が今までない感じで新鮮だったよ
623名無しさん@ピンキー:2009/01/30(金) 23:12:09 ID:EJwyVkZA
読んでくれた人、感想を書いてくれた人、ありがとうございます
凄く嬉しいです
続編の予定は無いのですが、暇になって何か書けたらまた投下しますのでノシ
624名無しさん@ピンキー:2009/01/31(土) 00:04:03 ID:ROeegpbZ
なんでこんなスレあるのに紹介してくれなかったんだ

作者の方々は毎度お疲れさまです
625名無しさん@ピンキー:2009/01/31(土) 00:38:17 ID:Z0TophoT
GJ!!こういう終わり方もいい
626 ◆WoueFxyFoA :2009/01/31(土) 21:51:44 ID:9RHWjZh0
書き手さんが増えて嬉しい限りです。

ファンタジーで、ビッチというのを考えてみました。
あと最初の方にソフトSMっぽい描写なので、苦手な方はスルー推奨。
以後名前欄にタイトル「ドレイン」と入力いたします。
異色ですいません
627ドレイン:2009/01/31(土) 21:53:07 ID:9RHWjZh0
1
「この私が、こんな家に住まなければならないとはね」
 私が自嘲気味に笑う。
 白い石で飾られた家は2階建て、部屋の数は8つほど。畑などではなく、庭のみで1
エーカー程度はあるだろう。この辺りの家としては破格である。
 しかし、この家は私、ミルネラ・バキンプルツには相応しくない。
 だが、これからはここが私の家なのだ。


 図々しい男だと思った。
 たしかに、私の家と同等の格を持つ男である。
 しかし、ここは私の城なのだ。あのような無礼な言動に腹立たしさを覚えた。
 「ビット、あいつに付きなさい。あいつのおかしな癖でも見つけたら報告にいらっ
しゃい」
 部屋の端にいるこげ茶色の髪の男に私は命じる。
 「は、はい。でも、お嬢様、僕の目では……」
 茶色にすこしの白濁した瞳をこちらへ向ける。
 「でも見えるのでしょう?見えないということにして仕えなさい。そのほうがボロを
出すでしょうから」
 「わかりました……。でもレクトール様に目を隠すようにいわれたら、どういたしま
しょう」
 私には慣れた目だが、たしかにビットの濁った目を嫌う者も多い。
 「そういわれたら、別の者を出します。早くお行きなさい」
 ビットは一礼をすると、部屋を出て行った。
 しかし、あの男は弱みを弱みとして受け入れてしまい、だからどうしたんだ?と言い
かねないとも思った。
 そういう男であれば、またそれはそれで面白いか、とも考えた。
 
   ◆
 
 私は、王国の名門バキンプルツ家の長女として生まれた。
 時代の慣わしどおり他国なり、同国のやや格上の家に嫁ぐという将来が迫っていた時
に父が亡くなった。
 兄が家を継ぐこととなり、しばらくの間、私の相手探しができないということで家に
残っていたら、今度は流行り病に兄と母がかかり亡くなった。
 普通ならば、養子を取って後をつぐはずだったがその時間もないまま、女帝の君臨す
ることが許されたこともある国だったことから、私が家を継ぐことになった。
 しかし、やはり女の当主ということで、与しやすいと思ったのだろう。同国の伯爵家、
子爵家などから子息が大量に私の元を訪れた。
 あわよくば、バキンプルツ家を乗っ取ろうという親の顔が、透けて見える男たちばか
りだった。
628ドレイン:2009/01/31(土) 21:54:30 ID:9RHWjZh0
 また自分の意思で来たと思われる男も、私の外見に大いに興味があることは明らか
だった。自分でいうのは愚かしいが、王宮に招かれた時に褒め称えるしか能がない詩人
が私に捧げた歌によれば、母譲りの金色の髪はすける様に明るく、肌も陽に照られされ
た春の白い薔薇のようだそうだ。
 その評価は過大だろうが、男たちの反応を見るに、男たちの興味を誘う程度の魅力は
兼ね備えているのだろう。
 小娘と侮って、顔がいいだけの次男坊、王立の研究機関で認められたという秀才、逆
に腕力を頼みに自分の力を誇示する男など、それは両手の指では足りない数の男が私の
元を訪れた。
 私は、バキンプルツ家を潰すつもりはなかったが、そのような政略のみで来る男もつ
まらないと思い、私の満足しない男を選ぶつもりは当主になった以上なかった。自らの
意思の許されない状態でなくなったのは、父や母、兄がくれた最後の贈り物と都合よく
理解することにしたからだ。
 そして、私は当主となって3年、領内は安定しており名君とはいわないまでも暗君で
はないと断言できるだけの運営はしてきた。
 しかし、やはり無理を重ねているという自覚、卑屈な態度もしくは居丈高な態度とい
う単調な男の反応に飽き、その疲労は私の中に歪みを生じさせた。
 やがて、私は訪れる男たちを弄ぶことを激務の対価とするようになった。
 男たちは、私の顔色を窺い、私が望むのならばその通りに行動した。
 戯れに身体を重ねてやると、篭絡できたものと思い込む様は滑稽で、翌日、荷物を贈
り物として受け取ると告げさせ、寝間着のみで城を追い出したこともあった。
 仮にも爵位のある家の男たちだ。いくらバキンプルツ家にやられたにせよ、そんな恥
晒しを吹聴することなどできるはずもなく、相変わらず数ヶ月に1回、私の城には各地
から青年がやってくる。
 
   ◆

 「いい……、いいわ!」
 私の股の間に跪いた男がいる。私の花陰に舌が這う。
 蒼い月明かりが、私の裸体を照らし出す。
 「そう、そこ……っ……んっ」
 私は右足の親指と人差し指を広げ、男の肉茎を掴む。
 「っ!」
 「やめていいなんて、言ってないでしょう……そう……あ」
 男の舌が再び動き始める。私の足が肉茎を動かすたびに、それは硬くなり先から透明
のつゆがあふれ出てくる。
 「ミル……ネラ……さまっ……もうっ」
 切なそうな男の声に、私は足で男の睾丸のあたりを踏むようにして、足の指を強く挟
む。うっと声をあげる男を見て、私は口元を歪める。
 「もう……なにかしら?」
629ドレイン:2009/01/31(土) 21:55:18 ID:9RHWjZh0
 「夫にしていただけるのですよね?ならば……こんな……くっ……」
 男の発言が終わらない段階で、私は再び足の指を広げ、男の肉茎を上下させる。
 「そうね……私の夫ならこれくらい耐えてみせてくださらないと」
 私の足を肉茎からのつゆが汚す。
 「あ、ミルネ……ラさま…」
 「我慢なさい、いったら追いだしますよ」
 男の視線が虚ろに上向きになり、吐息が限界を示している。
 「う、う……あ」
 猫がクッションの上で足踏みをするように柔らかく、しかし絶えることなく刺激を与
え続ける。
 「ふふふ……かわいそうだから、侍女にお願いしてあげる。ミリィ、入りなさい」
 男が混乱したように扉の方へ視線を向ける。
 扉の前に、きつね色の髪をしたメイドが立っている。流石にヘッドレストは外してい
るが。
 「さ、彼の相手をしてあげて」
 侍女の中でも一番男に好かれ、そして男が好きなこの少女は特別の手当てをする代わ
りに、私に協力している。
 男の前に来ると、ミリィがスカートをたくし上げ、自らの秘所をさらけ出す。男はそ
こから目が離せないまま、私に問いかける。
 「ミルネラさま……?」
 「あんまり辛そうだから、彼女としていいですわ」
 私が答えている間にも、ミリィは自らの秘所を指で弄び、喘ぎ声を漏らす。その声が
男の脳を熱で侵す。
 「ん、ん……ああっ……」
 ミリィが身体を男の肉茎に沈める。
 「ただし……いってはいけませんよ。仮にも私の夫になろうというのに別の女性に精
を出すなんて……」
 快感と興奮で半分も聞こえていないだろう。だが、それでいい。
 獣と変わらぬ状態になった上で、無理な注文をすること、わずかに残る理性が敗北感
を掻きたてるのが愉快なのだ。
 「大き……っ……ん…やっ……」
 ミリィがすこし腰をくねらせると、男の腰が動き始めた。
 「ミリィ……気持ちよさそうね」
 頬を上気させるミリィに微笑みかける。
 「はいっ……ミルネラさま……彼……す……ご…ああんっ!」
 ミリィのツーピースの中にある胸が上下に跳ねている。
 「出したら、許しませんから、ね……うふふ……」
  私は腕を男に回し、男の耳を舌でねぶった。
  すると、男の身体が痙攣した。
 「あらあら……ミリィの中でいっちゃったのね……」
630ドレイン:2009/01/31(土) 21:59:23 ID:9RHWjZh0
 ミリィは男の肉茎から精液が出尽くしたと感じたのか、腰を上げるとミルネラに頭を
下げた。
 恍惚となっている倒れている男を見下ろして、ニコリと微笑む。男の顔にわずかに恐
怖の色が入る。
 「グリテリッド伯によろしく伝えてくださいな。……自制の聞かない人は私の夫には
なれませんわ。明日には出て行ってくださいね」
 私はグリテリッド伯の長男の肉茎を左足で蹴飛ばし、部屋を出た。
 本当に、男というのは愚かだ。
 でも……私も否定はできない。ミリィの蠢く様を見ていて、身体が疼いてきたからだ。
 ルメニ家の次男坊エルフォンスのそれが大きかったとミリィが言っていたのを思い出
し、滞在しているその男の部屋に向かう。
 優男といった感じの男だが、ベッドの上部に腕を拘束し、ここ数日はミリィを主とす
る私が特別の手当てを出しているメイドたちの絡む様を見せ付けている。

 優男ゆえの馴れ馴れしさか。
 夕食の段階で、自信満々という口調で、身体に触れてきた。調子にのっている男には、
自身の容姿がなんら効果がないことを告げさせてやるのが楽しい。
 癇に障るまねをした相手を虚仮にすることは、私に暗い充実感を与える。
 別に生娘ではないから、身体に触れられたことのみで怒ることもないが、女を見くびって
いることを意識もせずに吐いた言葉で、私はこの男をどういたぶってやろうかと考えながら
優雅に微笑みかけ、彼に語りかけた。
 「私、夫とする方には条件がありますの」
 「条件?バキンプルツ家ならではのかい?」
 「いえ、私が考える条件ですが」
 「へぇ……君がね」
 侮蔑に近い馬鹿にした雰囲気が顕れていた。
 私は、あえてそれを無視し、彼に条件を話した。
 彼”だけ”の条件を。
 
 ルメニのいる部屋にはいると、メイド二人が彼の身体を舐めていた。股間の肉茎は膨
張しきっている。
 それはそうだろう、ここ3日食事、排泄、すべてメイドが行い、手を拘束したままな
のだから。
 「ひっ……ひっ……」
 「ずっとこの調子なの?」
 私の言葉にルメニの乳首を舐めていたメイドが答える。
 「そうですね……昨日の晩から」
 「じゃあ、大丈夫そうね……」
 メイドの一人が皮製の紐を出すと、肉茎の根元を結ぶ。
 「い……たい……」
 「ごめんなさいね、苦しいでしょ……でももう少し我慢してね…」
631ドレイン:2009/01/31(土) 22:00:48 ID:9RHWjZh0
 結び終えると、メイドたちはすこし下がった。万が一のために、部屋には残ってい
てもらう。
 私は先ほどまでの男の舌の刺激と、ミリィとの交わりでまだ蜜の残っている花陰を男
の肉茎にあてがう。
 「う……おっ……」
 「あ……太くて……いいわ……腰だけは動かせるのだから、もっと動きなさい」
 男が狂ったように腰を跳ね上げる。私の太股に男の骨盤が当たる。
 「んん……あ……そう……もっと……もっとよ……」
 肉と肉のぶつかりあう音が室内に響く。
 男の眼はもはや正気を完全に欠いて、血走っている。
 「ひっ……ひっ……」
 男の刻む拍が、私の中の快感を強く突く。
 「いい……いいわっ……」
 駆ける馬のような規則性が形作られ、身体を跳ね上げる。
 私の奥にある弾力のある果物のような快感の核が突かれるたびに、溶岩のように快感
が吹き出す。
 男の腰を深く身体に埋め込むように、私も身体を打ち付ける。
 私の腰が男の腰と同期し、上下へ跳ねる。
 男の肉茎が私を貫く。
 「ん……ん…あああああっ!」
 私の入り口が僅かに震える。私の頂点を構うことなく腰を動かす男を見下ろすと、私
はメイドたちに命じた。
 「はあはあ……もう…んっ…いいわっ……」
 「かしこまりました」
 メイド二人はベッドに駆け寄ると男の足を押さえつけた。
 腰の可動域が狭まり揺れが小さくなる。動きを読んで、私は肉茎を抜いた。
 「はっ……はっ……」
 男の肉茎は根元を結ばれたせいで、射精することができない。
 その苦痛は分からないが、私は満足した体の火照りから妖艶な笑みを向ける。
 「貴方、顔だけは好みだったわ。気持ちよくしてくれてありがとう……特別にどちら
がいいか希望を聞いてあげる」
 私は両脇に立つメイドの肩をそれぞれ手で掴み、尋ねた。
 「はっ……はっ」
 男は黒髪の長い方のメイドを見て、呼吸を荒くした。
 「そう、じゃあ、出させてあげてね」
 「はい」
 メイドはうやうやしく礼をすると男の肉茎の紐をほどいた。
 「口と手、どちらがよろしいですか?」
 「ひっ……ひっ……」
632ドレイン:2009/01/31(土) 22:05:28 ID:9RHWjZh0
 男の獣のような姿を哀れみの目で見て、私は尋ねる。
 「受けてあげないの?」
 「別に構いませんが……これだと腰がおかしくなってしまいそうで」
 男は拘束具を外さんばかりの勢いで身体をねじっている。たしかに私は1度きりだか
ら良かったが、これではこの男もメイドも腰を痛めそうだ。
 「そうね……ね、貴方、だしたいでしょう」
 男は血走った目でうなずく。
 「一晩いいわよね?」
 「はい。……いただけますよね?」
 メイドが私に聞く。私は即答する。
 「もちろん」
 私はネグリジェを羽織ると、扉の前に向かう。
 「じゃあ、エルフォンスくん、扉の前に衛兵を置きますから、私のかわいいメイドに
乱暴なことしないでくださいね?」
 男は荒い息で返すことしかできないようだ。
 「もし暴れるようなら、すぐに声をかけなさい。では、おやすみ」
 「はい」
 「貴方もありがとう」
 片方のメイドは恭しく腰を曲げた。
 城内の中を通る夜風が、火照りを収めていく。
 父がどうであったかはわからないが、パキンブルツ家の規模であれば特殊な性癖を持つ者もいたであろう。
名家の者といえど人間であり、領主として寛大であるために、人間としてどこか欠ける部分の闇を持つ可能性は
否定し得ないのではないか。そして、その闇を御せるだけの収入があるのならば、その権利を行使することは正
当化できると考えるようにした。
 異常ではある。そして、男を使ってはいるものの自慰であることも分かってはいる。
だが、私はそれらを自覚しているし、それによる安定でよしと考えることにしている。
 男は屈辱の色を示すが、その後一晩なり二晩なり男の思うままの交わりをメイドで与
えれば、一応の満足をして去っていく。
 中には、恨みを持ったままの男もいようが、そのための手はずは整えている。
 私は身体の疼きを収めた後の、この愚かしい行為に若干の自己嫌悪を感じながら、
眠った。
633ドレイン:2009/01/31(土) 22:11:34 ID:9RHWjZh0
 翌日の夜、そのメイドに話を聞いたら、私への恨みを吐きながらメイドに十回近く射精
したらしい。
 あまりにも愚かしく、私は思わず声を上げて笑った。
 狂気にとりつかれていないとは思わない。このような行為を重ねるごとに肉体的な快
楽と精神的な快楽が乖離していくことも認識している。しかし、精神的な快楽を得たら、
私は家を留めておけなくなるという強迫をいつしかもつようになっていた。それならば、
肉体的な快楽で埋めればいいと割り切った。
 精神がさらさらと砂の城のように静かに崩れていっている。しかし、私にとって他に
方法が思いつかない以上、崩れる速度が緩やかならば、私は狂ったという評価を受けずに
領主としての責務をまっとうできると決め付けた。。急激な家族の消失は、バキンプルツ家が
もはや無くなるさだめであることへの予兆かもしれない。
しかし、パキンブルツ家としての矜持は私の中に現に存在していて、それを棄てようと考えて
いるわけではない。
 だから、私は領主として、当主として、この家のために生きる。
 男を愛せなくなったのならば、養子を招けばよい。それならば、私がもっと歳を重ね
てからで良い、そう思った。
 
 その者が十分な役目を果たせるものであれば、
 この心が癒され、休める日々が来るのだろう。
 
 
 そんな矢先だ、レクトール・セイデンがこの城を訪れたのは。
634 ◆WoueFxyFoA :2009/01/31(土) 22:13:04 ID:9RHWjZh0
以上です。続きます。

あっさりコンパクトに書ける方はすごいですね。
635 ◆WoueFxyFoA :2009/02/01(日) 09:13:26 ID:IwTMttdf
ごめんなさい。
続きはナシでw
636名無しさん@ピンキー:2009/02/01(日) 10:09:06 ID:ozarnv1c
そうですか(´・ω・`)
異色で良いなと思っただけに残念です
637 ◆WoueFxyFoA :2009/02/01(日) 10:47:30 ID:5pr8z+rv
>>636
ありがとうございます。
誘い受け見たくなってしまって申し訳ありません。
投下して放置もなんなので、完成したらtxtであげさせていただきますね。
638名無しさん@ピンキー:2009/02/01(日) 20:52:16 ID:aTn51dI+
GJ!ビッチさがツボにきた
txt楽しみにしてる
639名無しさん@ピンキー:2009/02/01(日) 21:06:21 ID:StvB9Ku6
ちょっと聞きたいんだが本当に全裸待機してる奴っている?

おれ時々裸で読むのはやるけど・・・(((
640名無しさん@ピンキー:2009/02/02(月) 01:30:38 ID:iNhF63Yl
GJ
txtwktkです
641名無しさん@ピンキー:2009/02/02(月) 02:22:06 ID:9PK2bXUz
家ではいつも半裸、風邪をひかない夏は全裸が標準装備だが
642 ◆/zbBBLZ1gg :2009/02/02(月) 21:19:12 ID:IezRZJUx
投下いきまーす。 今回は若干ですがエロありです。
643タイトル未定:2009/02/02(月) 21:19:55 ID:IezRZJUx
 私は面白くなかった。

「今日は銜えてほしいなー、とか思っちゃったりして」
「えー? ちゃんと洗ったの?」
「当たり前だろ」
「なら、いいよ」
「マジで? やっりー」

 薄暗い部屋の中に裸の男女が二人だけ。この説明だけでもうこの状況を説明するには事足りないだろう。
 笑顔を浮かべながら男のモノを口に銜える。顔に貼り付けるのは偽物の笑み。今の自分の姿は絶対に鏡に映すことは出来ないだろう。

「ほう? ひもひいい?」
「おうっ! く、銜えながら喋るとっ……!!」

 むさくるしい男の股間に顔を埋めながら考える。行為自体は別段キライでもない。むしろ好きな方だ。
 学校でも遊んでるときでもそこまで偽って過ごしているわけではないけど、それでも隠したいことや良い子に思われたいと思うのは自然なことだと思う。だから、無意識のうちにちょっとだけの仮面で日々を過ごして居るんだろう、私は。
 けれど、行為をしている最中はそんなことを考えなくて良い。私も相手も自らの快楽だけを求めているんだ。だから、そんなところで良い子ぶっていてもしょうがないし、そんなことしたらかえって覚めてしまう。
 行為というものをそのままの自分で居られることで有意義に感じていたはずの私だったが、今日は何故だかしっくりとこない。
 イヤでも考えてしまう。あの時彼が見せた怒りの視線を。

「どうしたの? 止まってるじゃない」
「あ、ごめんねー。ちょっと考え事しちゃって。あはは」
「ったく。そんなんじゃオレ覚めちゃうよ?」
644タイトル未定:2009/02/02(月) 21:20:43 ID:IezRZJUx
 何自分勝手なこと言ってるんだ。私が付き合ってやってるだけでお前の都合なんかしらねーっつの。
 そう心の中で毒づきながらも確かに今のは私らしくないと、すぐに思考を仕事モードへ戻す。

「そんなに言うならナカに入れなよ」
「えっ? もういいの?」
「いいの! じれったいからさっさと入れなさいよ」
「じゃ、遠慮無く」

 彼はいそいそとコンドームを付けた後、体重を私にかけて押し倒したような格好になる。
 やがて、彼の見るからにヤンキーなその顔が私の顔の方へ近づいてきた。
 薄い光に照らされた私と彼それぞれの影がやがて一つになり、それが何秒も保たれる。
 深い口づけにいつもなら興奮するはずなのだが、頭は何故だか冷静なままで、湿り気を帯びている股間とはひどく対照的だった。
 その湿った股間を満足そうに眺めた彼は私に気持ちの悪い笑みを向けてきた。睨み付けてはいないだろうが、私の笑顔はかなり引きつっていたように思う。

「なーんだ、キスだけでこんなに濡らしちゃって」
「さっさと入れなって言ってんでしょ」
「へいへい」

 へらへらと気にくわない笑顔を浮かべながら彼の男根がゆっくりと私のナカへと侵入してくる。
 何とも言い難い包み込まれるような心地の良い感触……にはならなかった。私の頭は快楽を貪ろうとは決してせず、彼のチャラい顔をじっと見つめながらただ冷静にこう思った。
 私、何やってんだろ。

「ふあっ……ぁぅ……」
「し、締まるっ」
645タイトル未定:2009/02/02(月) 21:21:20 ID:IezRZJUx
 冷静な頭が真の快楽を得ていないことを告げる。事実、悩ましげな声を上げているこの口は、はっきり言ってしまえば嘘だ。
 援交まがいのことをしている私にとって、これからも目の前のコイツと関係を保っていけるかどうかは死活問題だ。それ故に、表では自分が官能の波に捕らわれていると錯覚させる。
 だが本当の意味で私は満足できていない。そりゃあ行為が終われば「これ餞別ね」と言ってプレゼントや現金を渡してくれるし、財布的には満足の一言だ。
 けれども、性行為という観点で話をするならば私の満足感は全くと言っていいほど得られていないと断言しても言い。
 それは単にコイツがヘタなのか。いや、それもあるだろうが、本心ではこの行為に浸かりきれていないんだろう。だから、頭は冷静なままだし、こうやって揺らされている間もセンチメンタルな気分になるんだろう。

「―――い、イクよッ!!」
「ぅぁああああっっ!!」

 彼はゴムの中で果てたが、私はイッたフリをしただけ。膣を締め上げて声を響かせれば結構騙されるものだ。
 フリなのだから当然情事の後の幸福感など得るはずもなく、私はただぼうっと真っ白な天井を見つめていた。
 ああ、明日は学校だ。ダルいな。
 そう考えてしまうのだから、私にとってコイツとはどうでもいい存在なのだろう。
 ふと、バッグの中に入っているアイツのハンカチのことを思い出した。
646タイトル未定:2009/02/02(月) 21:21:55 ID:IezRZJUx


 あー、タルい。そんな事を考えながらそのままの表情を浮かべて教室に入ると、そこには見知った顔が何人か。その中で茶髪の女の子二人がこちらへ向かって手を振ってくる。
 私はその緩い笑顔にひどく安心感を覚えた。

「おはよー」
「おはよう」
「おはよー、エリにアヤノ」

 エリとアヤノというのは新谷枝理(にいや えり)と岡田綾乃のことだ。エリは中学から、アヤノは高校からの友だちだ。二人とも良き親友で、三人揃ってイマドキの女子高生を満喫している。
 茶髪で活発そうなのがエリで、今は部活をやってないが中学までバスケットをやっていた。そのおかげか体が引き締まっていて私も羨ましい。本人は引き締まりすぎた胸を気にしているようだが、私は充分に可愛いと思う。
 ロングの黒髪で少しお姉さんっぽいのがアヤノ。出ているところは出ているし、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。正に理想のプロポーションと言っていい。
 それに加えて話し上手だし、料理上手いし。欠点なんてあるのかな、と思ったらどうもその豊かなブツを気にしているらしい。エリに知られたら殴られるだけじゃ済まされないと思う。
 とにもかくにも、親友達に挨拶を交わした後、席に着くなりその安心感からかべたーっと机に寝そべってしまう。

「昨日もやってきたの?」
「うん。だから体ダルくてさ」
「やめろとは言わないけど、体大事にしなよ」
「ありがとうね。でも、ゴム付けてたから大丈夫だよ」

 そう言って軽く受け流しているが、これだけの話を苦笑いだけですませてくれる友人などそうは居ないだろう。そう言う意味でも私は良い親友を持ったと思っている。
 私がこんな生活を始めたのは中学の頃。親と喧嘩して、家を飛び出して。所持金の無かった私は駅前で途方に暮れていた。そんなときヤンキーの女友達がやってきて、こう言ったんだ。
647タイトル未定:2009/02/02(月) 21:24:04 ID:IezRZJUx
「あたしは金に困ったら体売ってるよ。ああ、別に怖くなんか無いよ。むしろ気持ちいいし」

 そう言ってカラカラと笑ったのを今でもよく覚えている。その後、私はかなりの大金を手にすることになる。もちろん、ヴァージンだということを告げて値段を目一杯まで釣り上げた。
 それからというもの、私の生活は激変した。もちろん学校にもちゃんと行っているし、危ない薬に手を付けたりとか、そういうことはない。
 バイトの延長として付き合ったり、体重ねたり。付き合っていると言ってもかなりドライな関係で、お互いにすぐ別れられるようにあまり情を入れたりしない。
 ただお互いにとってメリットがあるから付き合っているだけであって、そこには愛とか、そういうものはあまり関係ないように思う。
 そりゃあ付き合ってみてドライな関係から一歩踏み出したいと思うこともあるかも知れないけど、今までに一度だってそんな経験はない。そりゃそうだ。私の体目当てに近づいてくる男の器なんてたかが知れてる。
 いい男いないかなーなんて、所詮男は男なんだよ。そう思って諦めている。机に突っ伏したまま「うー」と唸った後、ダルそうな声が自分の口から出た。

「一限ってなんだっけ?」
「リーディングー」
「うわー、一限から斉藤のイヤミ聞かされるのかよ。えーっと、リーディングリーディングっと、あ…………」

 バッグを漁っていたところで私は固まった。

「どしたの?」
「なーに? そのハンカチ」

 そうエリが話しかけてくる。その間も私の体は硬直したままで、脳が思うように働いてくれなかった。
 そこで、さすがに不審に思ったのかアヤノが私のバッグの中を覗きこんだ。私の手にはブラウンにチェック柄のハンカチ。私の持っているものとは明らかに違う。
 お、落ち着け私。昨日岸本に貸してもらったハンカチがただ入ってるだけだ。困ってたところを助けてもらって、その時の顔がちょっとカッコ良かったかなーなんて。
 そ、そういえばあの時肩貸してもらったんだっけ。あれ? そうするとあの時私ってば岸本に体を密着させて、それでなんか良い匂いが…………。

「顔真っ赤にして、ホントにどしたの?」
「……ッ!! な、なんでもないっ!! あっ、ちょ、ちょっとトイレ行ってくるねっ!!」

 嵐のように去っていく私の背中でエリとアヤノが一言ずつ。

「ねぇ、アレ、かなあ?」
「っぽいんだけどねえ。でもあのサキが?」

 なんだかんだ言って失礼な親友二人だった。



648 ◆/zbBBLZ1gg :2009/02/02(月) 21:25:15 ID:IezRZJUx
投下終了です。 一章が終了した感じですかね。

それではまたー。
649名無しさん@ピンキー:2009/02/02(月) 21:26:12 ID:kYlXKtxI
gj

続きが楽しみっス
650名無しさん@ピンキー:2009/02/02(月) 21:41:08 ID:+d6SGmUx
GJ!
やっぱり女は3人グループ率高いよなw
サキが感情をどう扱っていくのか気になる
651名無しさん@ピンキー:2009/02/04(水) 10:19:30 ID:IVGuoaWq
ほしゅ
652名無しさん@ピンキー:2009/02/04(水) 15:31:05 ID:SlzMIjoD
昔、日曜夕方にやってた『史上最悪のデート』っていう番組をたまたま見てたら、

中学生の主人公が女子高生に惚れて告白。
付き合いだすが、彼女がOKしたのは主人公をからかって楽しむ為だった。
(「○○とあいつが釣り合う訳ないじゃん」とか仲良しグループで言ってた希ガス)
ある日、デートの途中で女子高生が溺れる(彼女はカナヅチ)。
デートについて来ていた仲良しグループの面々もカナヅチ。
主人公もカナヅチだけど、必死で女子高生を助ける。
その姿を見て、女子高生は主人公の事を本気で好きになる。

とかいう話やってたんだけど、覚えてる人いない?
653名無しさん@ピンキー:2009/02/04(水) 23:45:54 ID:94lU/e+6
知らないけど気になった。
wikipedia見たけど、該当話もわからなかったw
654名無しさん@ピンキー:2009/02/06(金) 00:25:16 ID:mCGKvOOl
ビッチの定義は人それぞれでおけ?
俺は理由なき浮気=ビッチなのだが
655名無しさん@ピンキー:2009/02/06(金) 08:56:37 ID:BiEMeBqq
人それぞれでいいんじゃない?
浮気と一途を両立させるのは難しそうだけど、それはビッチだなw

俺は股開く早さと人数だった
656名無しさん@ピンキー:2009/02/06(金) 23:20:10 ID:390fGuTx
主人公が初めての男でない限り全員ビッチという童貞理論で
657名無しさん@ピンキー:2009/02/07(土) 01:25:38 ID:cujQ/1wV
>>656
あれ?俺の書き込みかこれ?
658名無しさん@ピンキー:2009/02/07(土) 09:33:25 ID:Y3p9uh6V
>>655
> 股開く早さ


毎秒5回くらいのスピードでパカパカと。
659名無しさん@ピンキー:2009/02/07(土) 10:29:26 ID:hcldr+hD
それ速さ
660名無しさん@ピンキー:2009/02/07(土) 16:57:26 ID:wDZSAOkf
出会ってからセックスするまでの早さってことじゃね?


特定の彼氏がいなくて、不特定多数の男に貢がせたり遊んだりHしたり
そんな風に男を弄ぶ小悪魔ビッチが好きかな
661名無しさん@ピンキー:2009/02/08(日) 19:49:10 ID:Bp6mKRNw
>>660
ネタにネタでレスしてるのに何マジレスしてるんだよw

毎秒5回パカパカとってとこからわかるだろ
頭使え
662名無しさん@ピンキー:2009/02/08(日) 22:04:34 ID:ixw03EYS
>>661
ですよねー
すまんかった
663名無しさん@ピンキー:2009/02/09(月) 23:05:08 ID:1894xhxr

美術館の館長とかを自分の体を使って誘惑し、狙った美術品を盗む女怪盗
それを追う刑事。

怪盗稼業がオフな日に刑事とばったり遭遇
女怪盗は変装してるため、刑事の方は目の前の人物が自分の追っている犯罪者だと気付かない
女怪盗は刑事の手の内がわかればラクに仕事ができると考えて、刑事に近付く
しかし、だんだんと刑事に惹かれていき……

みたいな話が突然浮かんだんだけど、俺にはカタチにできんかった………
これもビッチになるよな?
664名無しさん@ピンキー:2009/02/09(月) 23:11:37 ID:rd4BgGMt
ビッチは美人にだけ許された政府発行の特権
665名無しさん@ピンキー:2009/02/11(水) 00:02:03 ID:YEqlCYz+
求められると断れない天然系ビッチは難しい?
受動的ビッチっていうか
666名無しさん@ピンキー:2009/02/11(水) 14:50:05 ID:hTolOaoc
迷わず書けよ
書けばわかるさ!

ってどっかの偉い人が言ってた
667名無しさん@ピンキー:2009/02/11(水) 15:57:23 ID:ZdETsIgO
>>665
それいいよ!書いてみてよ!
668名無しさん@ピンキー:2009/02/14(土) 12:32:10 ID:r0M8llHY
神スレ乙
669名無しさん@ピンキー:2009/02/15(日) 00:48:11 ID:FKQR32vm
マジレスすると
>>665の口ぶりから職人ではないようだから
その新しいジャンルとはいわなくても、見ない性格とどう恋愛してくかってのはむずかしくね?

ジェバンニが一晩で・・・とかよりかは書かない方がいいと思うんだが・・・

一応いうけど書くなってことではないよ 超展開はなぁ・・・ってこと
670名無しさん@ピンキー:2009/02/15(日) 12:59:47 ID:FMMZlzlq
天然だから誰に対しても一途(っぽく)なってそうなっちゃう
という逆転から始まるから難しそう
一途の意味に気づいていく、とかかな
671名無しさん@ピンキー:2009/02/15(日) 14:51:55 ID:XHI7U85t
>>670
天然系ビッチの僕のイメージとしては、
前の方で誰か言ってたけど、幼馴染なんだよ。で、頼まれると断れない。
だからいろんな男と寝るんだけど、朝起こしにきたり昼の弁当つくってきたり、
エロゲ的幼馴染の典型みたいなことを幼馴染の男にだけするの。
ビッチだけど実は一途といえなくもないかもしれない感じ
672名無しさん@ピンキー:2009/02/15(日) 19:48:13 ID:cYvQFMDZ
でも幼なじみの男だけとは肉体関係がないんだよな
673名無しさん@ピンキー:2009/02/15(日) 20:10:34 ID:dECFEEAQ
自分も天然系ビッチのイメージは「やらせてと頼まれたら断れない」だな
好きでもない相手でも、お願いだからやらせて!って言われたらかわいそうになって…とか
その流れでセフレができて、そのセフレの後輩の童貞卒業も頼まれて〜とかでズルズルと…
674名無しさん@ピンキー:2009/02/15(日) 22:00:29 ID:CHAuz2Aa
それビッチってかただのバカなんじゃ
自覚してやるからビッチなんだろ
675名無しさん@ピンキー:2009/02/15(日) 23:06:20 ID:CqEJ/jAO
全部寝取られ漫画のヒロインにしか見えないんですけお・・・
676名無しさん@ピンキー:2009/02/15(日) 23:49:03 ID:WTKnIoKw
なんか昔に観た戦争映画で、出征前の主人公の想い人が、求められると誰にでも体を許す奔放な少女ってのがあった希ガス
タイトルが思い出せない・・・
677名無しさん@ピンキー:2009/02/16(月) 03:18:59 ID:qzq0xLMV
兄の嫉妬を引きたくて彼氏をとっかえひっかえしてる妹(兄妹の境界線を超えて欲しいと願う妹)
はジャンル違いか。書いてから気付いた
678名無しさん@ピンキー:2009/02/16(月) 03:35:10 ID:t/kdIc0m
エンゲキブみたいな感じはちょっと違うな。
679名無しさん@ピンキー:2009/02/16(月) 05:02:42 ID:d6XEApFZ
>>677
読ませてくれ
680名無しさん@ピンキー:2009/02/16(月) 11:32:32 ID:BtGfW2Aq
>>677
ビッチはビッチじゃね?
注意書きすればいいから、投下希望
681名無しさん@ピンキー:2009/02/16(月) 16:23:40 ID:rMWJ8a1E
>>677
兄を諦めるためにてのなら
たしかいもいと大好きスレにあったよ
682名無しさん@ピンキー:2009/02/18(水) 02:31:34 ID:EJ2qlIB9
>>681
ああ、あれはいいビッチだった。こっちで作者やってくれないかな。
683名無しさん@ピンキー:2009/02/19(木) 17:19:25 ID:4N7MOEbG
一途ビッチと言えばMCと親和性が高いかも知れんと思った
ビッチがMCで一途に、とか
E=mC^2の「形而上の散歩者」がそんな感じ

メインがMCだから、ビッチの葛藤が好きって人には合わないか
684名無しさん@ピンキー:2009/02/19(木) 22:08:58 ID:Zlw6FmlZ
MCって何? ハマー?
685名無しさん@ピンキー:2009/02/19(木) 22:30:22 ID:W1qZoJdp
Eはエネルギー
Mは質量
Cは光速度
686名無しさん@ピンキー:2009/02/19(木) 23:10:20 ID:vPYXnYwb
アインシュタインの相対性理論のことだ

E いいね
M マジ
C 簡単
687名無しさん@ピンキー:2009/02/22(日) 23:50:12 ID:u+I7KOd6
亀レスでマジレスすると、マインドコントロールなはず。
でもMCは他の意味が多いのでこの略語はピンとこなかったり。
688名無しさん@ピンキー:2009/02/23(月) 00:40:05 ID:8ImeF2hD
レスも減ってきたな・・・保守
689名無しさん@ピンキー:2009/02/26(木) 00:25:32 ID:kjrMnU6t
切に投稿を待ってます
690名無しさん@ピンキー:2009/02/26(木) 13:45:06 ID:xhcmg2mW
過疎ってるな…
691名無しさん@ピンキー:2009/02/26(木) 18:58:44 ID:zxU8tmBx
妄想はあっても投稿するまでいける奴なんてそうそう居ないもんな…俺とか
692名無しさん@ピンキー:2009/02/27(金) 00:41:58 ID:HdheL9jr
思いついたシチュエーションをぶつ切りバラバラに書いてるんだが、なかなかまとまった形にならない。
2chに書き散らかすとはいえ、やはり小説は難しいな。
693名無しさん@ピンキー:2009/02/27(金) 05:10:37 ID:gLF4+23k
やっぱりビッチって言うのがかなりのネックなんだね
694名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 02:15:57 ID:haKSNOAm
俺もいろいろ考えて書いてるが
一途になる過程が必要だから長くなってしまって
いまいち上手くいかないな
695名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 02:27:09 ID:4TbWaNgS
親からも愛されず過ごし、大学で付き合い始めた彼氏にも酷い降られかたをし
寂しさから男に媚びるようになり、同時に何人もと付き合ったり、振られてもすぐ他の男と一緒になったりを繰り返していた女が
ふと電車の中で高校まで同じだった幼なじみと再開
他の昔の知り合いのように自分を避けず遊び、他の男のようにうわべだけ猫かぶってもすぐ見抜き笑い飛ばされ
彼氏と一緒に居るときに逆に寂しさを感じてしまうようになり、何人もいた彼氏やセフレとの関係を切っていってしまい
「あれ、私どうしたんだろう」と気付いた頃には相手に惚れていた

なんてのを前VIPで見た一つのレスから妄想した。しかし文章力が無い
696名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 02:49:46 ID:N0k/neyR
695はやればできる子のはず
697名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 02:51:22 ID:XZtmsFn+
>>696
俺もそう思う
698名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 05:30:43 ID:vjsvWxx3
スレを最初からざっと読んでみたけどやっぱ女視点の作品が多いな
難しいかもしれんが一度男視点のやつとか見てみたい
ちょいちょい女視点も混ぜればいけそうな気もするんだ
699名無しさん@ピンキー:2009/03/01(日) 08:15:07 ID:i1XwWcn3
昔の、硬派番長ものの漫画だと、あばずれのヤンキーが番長に惚れて一途になる、って展開がよくあったけど、そういうのもこのスレの範疇か。
700名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 16:03:17 ID:UfDQCunY
>>699
投稿したらすべてがわかりますよ!さあ!
701名無しさん@ピンキー:2009/03/04(水) 22:25:50 ID:dtbfebE7
クレクレ厨 自重しろ
702名無しさん@ピンキー:2009/03/06(金) 19:34:31 ID:g8F1YcbA
いざ作るとなると難しいものだなと思った
703名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 00:42:19 ID:PQW1GIRn
100人中作品を想像できる人は80人くらい
そしてその想像を文章にできる人は30人くらい
そして物語を完結させることができる人は10人くらい
だと思ってる
704名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 01:28:25 ID:KPjCgcRj
10人?もっと少ないだろ
705名無しさん@ピンキー:2009/03/07(土) 13:14:11 ID:4IqbPzup
人というより、300回考えて、30回書いて、1回書き上げるみたいな。
そして一つ書き始めると何回も書けるようになる。
同様に一度書き上げると完成させるスキルが上がるんだろう。
706名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 23:22:41 ID:hfUXPXVd
pinkだけ規制とかあるんだな。
707名無しさん@ピンキー:2009/03/10(火) 23:52:13 ID:nWAasr9t
このスレを盛り上げるためにもなんか書きたいが
なかなか上手くいかんな
708腹黒ビッチ(前) 1/4:2009/03/13(金) 23:38:50 ID:TwHx7SL8
保守のつもりが長くなりました
前後編でいきます


「ねえ、何読んでるの?」
 初めて彼女に声をかけられた日のことを、俺はいつまでたっても忘れられ

ない。
 暗くてダサくて取りえなんて何もなく、声を出さない日もザラにあるよう

な、いわゆる典型的なオタク君だった俺。明るくてオシャレで頭が良くて、

いつだって友達に囲まれて笑っているような、クラスの中心にいる彼女――

―斎藤有華(さいとうありか)。
 いつもはクラスの隅で、そんな奴らを鼻で笑っているはずの俺は、すっか

り混乱してあわあわと答えを考えた。
「あ、ぅ、変身っていう……」
「変身……ああ、世界史で習ったアレ?スゴイね、そんなの読むんだ」
「そんなことない……」
 あまりの恥ずかしさに、体と語尾が縮んでしまう。スゴイ、という言葉は

確かに嬉しい。だけど有華の言うような「スゴイ」というような自覚は自分

にもあったのだ。小難しい本を読んでみたい、ロシア文学なんてものを読ん

でる自分カッコイイ、陰で笑われてるようなラノベだけじゃないんだぞ、と

いうような明らかに他人を意識した自意識が働いて、この興味もクソもない

ものを読んでいたのだ。だって実際読んでみて、確かにスゴイ文学性を感じ

たけど、惹きこまれるほどの強い興味なんてなかったのだ。
 それくらいならむしろ―――目の前にいる有華のほうに、ずっとずっと惹

かれる。
「一宮君、顔が真っ赤。かわいー」
709腹黒ビッチ(前) 1/4:2009/03/13(金) 23:41:57 ID:TwHx7SL8
ごめん、なんか改行おかしいなorz
もっかい投下しなおすわ


「ねえ、何読んでるの?」
 初めて彼女に声をかけられた日のことを、俺はいつまでたっても
忘れられない。
 暗くてダサくて取りえなんて何もなく、声を出さない日もザラにあ
るような、いわゆる典型的なオタク君だった俺。明るくてオシャレで
頭が良くて、いつだって友達に囲まれて笑っているような、クラスの
中心にいる彼女―――斎藤有華(さいとうありか)。
 いつもはクラスの隅で、そんな奴らを鼻で笑っているはずの俺は、
すっかり混乱してあわあわと答えを考えた。
「あ、ぅ、変身っていう……」
「変身……ああ、世界史で習ったアレ?スゴイね、そんなの読むん
だ」
「そんなことない……」
 あまりの恥ずかしさに、体と語尾が縮んでしまう。スゴイ、という言
葉は確かに嬉しい。だけど有華の言うような「スゴイ」というような自
覚は自分にもあったのだ。小難しい本を読んでみたい、ロシア文学
なんてものを読んでる自分カッコイイ、陰で笑われてるようなラノベ
だけじゃないんだぞ、というような明らかに他人を意識した自意識が
働いて、この興味もクソもないものを読んでいたのだ。だって実際
読んでみて、確かにスゴイ文学性を感じたけど、惹きこまれるほど
の強い興味なんてなかったのだ。
 それくらいならむしろ―――目の前にいる有華のほうに、ずっとず
っと惹かれる。
「一宮君、顔が真っ赤。かわいー」
710腹黒ビッチ(前) 2/4:2009/03/13(金) 23:43:50 ID:TwHx7SL8
 馬鹿にするでもなく、指を口元にあててくすくすと笑う様はあまり
に可愛らしかった。有華が言ったように、頭に血が上っていたんだろ
う。脳みそが火になって、何も考えられなかった俺は、思ったことを
素直に言ってしまった。
「斎藤さんの方が、ずっと可愛いよ」
 有華は目を丸くした。「えっ」と予想外のことを言われたらしく、思わ
ずついて出た声がこれまた可愛い。いい匂いがする。ずっと後に教
えてもらったが、それは彼女の愛用するハンドクリームの香りだっ
た。砂糖菓子のように甘くて上品な香りは、教室での彼女の明るくて
屈託ない性格に、少しだけ合っていなかった。頭が細胞以外のものに
なってたその時の俺には、深く考えることはできなかったけれど。

 誰が見たって不釣り合いだった。そんなことは俺だって分かってい
た。なのに女子と話したことなんてない俺は、俺だけに向けられた可
愛らしいソプラノボイスに舞い上がったその瞬間、俺は実にオートマ
ティックに恋をした。我ながら、単純だ。でも女と話したことがない男
だったら、誰だって勘違いする。そうだろう?
711腹黒ビッチ(前) 3/4:2009/03/13(金) 23:44:57 ID:TwHx7SL8
 その日から、有華は俺に毎日話しかけるようになった。俺の会話の
内容なんて、ネットで得た情報と本の話。だけど有華はうんうんと頷

いてくれる。面白くもない俺のうんちくを、さも楽しそうに聞いてく

れる。そして時々、俺の話題にも口を出してくる。その作家の本面白

いよねとか、物理なんて全然興味がなかったけど面白いんだねとか。

思えば、そんなつまらないことによく合わせられたものだと思う。し

かし当時の有華曰く、
「せっかく近くの席に座ってるのに、話さないの勿体ないと思って」
 そう言って、有華はにっこり笑った。なんと心の広いことだろう。

女の子に笑いかけられるのなんて、何年振りだろう。中学生の妹でさ

え、俺のことは気味悪がって話しかけてこない。出来のいい兄には馬

鹿にされているし、有名私立に幼稚舎からエスカレーターで上がって

行った兄と、幼稚舎も中等部も高等部も落ち続けた俺とは、親の期待

のかけ方も天と地の差。もしかしなくても、俺がまともに会話するの

は有華だけだった。オンラインですら、便所の落書きにアンカー付き

でレスが来たら狂喜するレベルのコミュ力だ。
 相手にしてもらっただけで恋をするなんて、なんて安っぽい男なん

だろう。そして頭良し、器量良し、性格良しの有華は、なんて高嶺の

花だろう。
 恋に落ちた瞬間に、こんな自分に落ち込みもした。
 背がそこそこ高いせいで逆に目立ってしまう貧相な体型と、それを

さらに悪化させる猫背。寝癖どころかカットすらおっくうで伸ばしっ

ぱなしの髪。二十年前でも通りそうなダサい眼鏡。成長期に買い替え

ないままだった制服は、さらに貧相さを増している。高校に入ってか

ら投げやりになってそのまま暴投しっぱなしの成績。そして何より、

誰一人として自分に近づかないという現状。
 他人の陰口なんて気にしないように、他人の視線をかいくぐって地

味に、地味に、と自分の世界にこもりきっていた俺は、自分自身の情

けなさにようやく気付いた。
712腹黒ビッチ(前) 4/4:2009/03/13(金) 23:47:42 ID:TwHx7SL8
「俺に近づかない方がいいよ」
と、何度か有華に言ったことがある。すると決まって、有華は悲しそ
うに目を伏せる。
「私、何か悪いことした?悪いことがあったら、直すよ。だからそん
なこと言わないで」
 うるうるとした大きい目で見上げられると、そんなことを有華に言
わせてしまった自分の方が情けなく思えてしまう。
「俺が悪いんだ、こんな地味で気持ち悪い男、嫌だろ?」
「そんなことないよ!一宮君は色んなこと知ってて、話しているとす
っごく楽しいの」
「いつも本かネットの話題ばっかじゃないか……」
「いいじゃない。私、一宮君のおかげで、読書が趣味になっちゃった
んだよ?いろんな本を教えてもらえて、嬉しいの」
 そうして、何も無かったかのように、最近読んだ本について語り始
める有華。無邪気に笑いながら俺の目をまっすぐ見つめる有華は、い
つだって俺にはまるで天使のように見える。そしてそれ以上、強いこ
とは俺には言えないのだ。
 有華に恋をするなんて、おこがましい。席替えを間近に控えた頃に
なって、ようやくそれに気付いた。有華との会話が無くなるのは身が
切られるほどの苦痛だった。しかし恋が実ることが無いことは、その
身の芯まで知っている。
 だから誰にも、有華にも気づかれないように、フェードアウトして
いくつもりだった。有華は誰にでも優しいし、友達ならいくらでもい
る。有華も気にしないで、いつの間にか俺のことも忘れていくだろう
。そう思って、席替えの日を待った。

 が、席替えの前日。
 珍しく俺に話しかけない有華が、HR間近になってから耳元でこそり
と「放課後、裏庭で待ってるね」と呟いた。裏庭というのは、保健室
の裏の温室とその周辺で、ほとんど誰も訪れないような場所だ。だけ
ど秘かに、告白スポットとして人気を集めていた。俺はまさかと淡い
期待を持ちながら、だけど内心、そんなことありえないと思いながら
裏庭に向かった。
「一宮君のことが、好きなの!つ、……つ、付き合ってください!」

 まさかの逆転サヨナラ満塁ホームラン。

 目をぎゅっと閉じている有華は、手を握りしめてうつむいていた。
うそだろ、ウソだろ、嘘だろ、とそんなことばっかり頭を駆け抜けた
。これは何かの罠だ。だけど罠でもいい。こんな嬉しいことって無い
よ。
「は、い」
 情けない声だった。有華に届いたのかすら分からないような、小さ
くて、どもった、俺らしい声。だけど、有華はぱっと頭を上げて、俺
の呆然とした顔を見つめて、ぱぁっとその顔を満面の笑みに変えた。
「ほんとに!?」
「う、うん」
「私と、付き合ってくれるの?」
「うん、お願いします」
「ありがとう、一宮君!」
 ぱっと俺の手とり、有華はぎゅーっと握りしめ、そしてぶんぶんと
振った。ひとしきり感情の爆発をしたらしき後、落ち着いて、へにゃ
っと体の力を抜く有華の姿の、何もかもが愛おしい。体の力が抜け
て、口元が緩んだ有華は、にへらと笑う。
「うれしぃよぅ」
 その時の安心しきった有華の顔を、俺は今も忘れられない。この顔
を、ずっと守っていってあげたい。俺はその時、確かにそう思った。
713腹黒ビッチ(前):2009/03/13(金) 23:49:30 ID:TwHx7SL8
なんかまた改行おかしくなってますね
メモ帳から直張りがいけないみたいです

次は有華がビッチになってるはず
714名無しさん@ピンキー:2009/03/14(土) 00:17:49 ID:M3LSGwEy
男性視点とは斬新だな。
タイトルから、主人公が心配だがwktk
715腹黒ビッチ(後) 1:2009/03/14(土) 06:01:48 ID:isbQ7kqO
なんか筆が乗っちゃって徹夜で最後まで書いちゃったぜ!
そして予想GUYに長くなっちゃったんだぜ!
今日が土曜で本当に良かったよ

というわけで以下、投下行きます

*注意*
凌辱描写あり
苦手な方はスルーどうぞ






 有華と俺が付き合い始めたことは、当初は誰にも秘密にしていた。
俺が頼み込んでのことだ。
「私は、そのまんまの克哉君が好きなんだよ?何も気にすることなん
てないのに」
 有華は悲しそうにしていたけれど、結局俺の意をくんでくれた。本当
に、俺には勿体くらい出来た彼女だと思う。だけどだからこそ、堂々と
「俺達付き合ってます」と言うのははばかられた。こんな暗くてダサく
て気持ち悪い男と、明るくて可愛くてモテる有華が付き合ってるなんて、
みんなに知られたら有華が可哀想だ。せめて、俺が誰の前に出しても
嫌悪感をもたれない男になるまで、内緒にしておくべきだと思った。
「俺、有華に釣り合うような男になるよ。だから、待ってて?」
「……うん」
 有華は、はにかむように笑った。がんばってね、と言う様に、俺の頬に
キスをした。そのまま雰囲気が良くなって、自然と唇が重なった。それ
が、俺のファーストキスだ。
716腹黒ビッチ(後) 2:2009/03/14(土) 06:04:00 ID:isbQ7kqO
 可愛い彼女がいると、俄然やる気が出るものだ。まず気にしたのは
、何より外見。モサいダサいと言われ続けた俺の人生だ、それを直す
のは大変なように思えた。
 初めに気にしたのは、ひょろい体型だった。今まで運動部になんて
入ったこと無い俺は、何をしていいかも分からない。ジョギングと腹
筋を始めたけど、元々脂肪すらないからつくものもつかない。とりあ
えず飯をひたすら食った。スポーツショップに初めて行って、ジャー
ジとダンベルとハンドグリップを買ってきた。そうしてトレーニング
を始めたのだが、
「私も一緒に走っていい?」
と有華が聞いてきたのは嬉しい誤算だった。秘密で付き合っているか
ら登下校は一緒じゃないし、デートだって遠くに行かなきゃいけない
から月に二三度くらい。平日に会おうとしたって、有華はアルバイト
もしていて、いつも忙しかったのだ。
「だって、克哉君が頑張ってるところ、間近で見たいんだもん。それ
に克哉君と、もっと一緒にいたいの。ね、ダメ?」
「いや、嬉しいよ!」
「やったぁ!えへへ、私も嬉しいな」
 とろけるような声に、携帯の向こうで俺の方がとろけそうだったっ
ていうか溶けた。有華への恋心で、もうでろんでろんだ。
 それから毎日、有華とジョギングをするようになった。女の子だし
途中で辞めてもいいくらいに考えていたけれど、有華は毎日必ず俺の
家の前に立っていた。それが二か月経った頃には、俺の体は多少なり
ともがっちりとし始め、疲れると曲がり始める猫背を有華が注意して
くれるから、体格も良く見えるようになってきた。
「克哉君、最近すごくイイ体になってきたねえ」
 なんて、有華が首を傾けてしみじみ呟く。俺は嬉しくて、有華の手
を握る。最近は照れずにそういうこともできるようになってきた。骨
と皮だけで貧相な手のひらも、ハンドグリップのおかげでがっちりし
てきた。有華を、守れるように。そんな手に、少しでも近づけるよう
にと頑張ってきた成果だ。
「有華も体が引き締まってきたな」
「そうなのー!前はぷにぷにだったでしょ?克哉君の隣にいると、ち
ょっと太く見えないか、ひやひやしてたんだぁ」
「有華は元々すっごく細かったよ。いつだって有華は可愛い」
「う!……うー、ありがとー」
 有華は「可愛い」と素直に褒めると、すごく照れる。クラスの男子
にだっていくらでも「可愛い」と言われたことがあるくせに、俺が言
う時だけは本当にもじもじと照れて顔を真っ赤にする。そんな有華が
可愛くて、俺はなおさら有華を褒めてしまう。
 頭が良くて性格も良くて、お小遣いは自分で稼ぎたいのなんてしっ
かりしている頑張り屋で、そして照れ屋で、人間としてもなんて素晴
らしい子なんだ。感動した俺は、なおさら自分を変えなければと奮起
することになった。
717腹黒ビッチ(後) 3:2009/03/14(土) 06:06:10 ID:isbQ7kqO
 肉体改造を進めているのと同時期に、俺は勉強も始めた。俺も有華
も文系だけど、理科の選択が別れているので、来年は違うクラスにな
るのは確実だ。しかも、有華は成績がいい。俺達の高校は、三年にな
ると文理一クラスずつだけ特別クラスを作るのだ。トップ5に名を連
ねる有華は、このままだと特別クラス入りは確実だった。
 それに比べて、俺はゲームやラノベにかまけて、平均点に届くのが
せいぜいだった。有華と同じクラスに入りたい、その一心で勉強を始
めた。特進クラスの編成は、三学期の外部テストと期末試験で決まる。
有華と会えない平日の夜、俺は一心不乱に勉強した。今まで心血を
注いでいたゲームとラノベは、勉強の息抜きにとってかわった。すぐ
に成績が上がったとはお世辞にも言えなかったが、それでも、じわじ
わと成績は上がって行った。点数が上がるたびに、有華は「すごいね」
と喜んでくれた。
 ある日、初めて訪れたのは、兄オススメの美容室だ。彼女ができた
からと頼み込んで教えてもらった。兄には散々バカにされ、どうせ彼
女だってそんなに可愛くないだろうと言われて、さすがの俺もブチ切
れかけた。が、そうして兄の機嫌をそこねてはいかん。「有華はテメ
ェの今までの彼女より数倍可愛いんだよ!」という言葉をどうにか呑
み込んで、「お兄様、どうかこのダサい俺をお兄様のようなイケメン
にしてください」というキラめく装飾を施した賛辞にメタモルフォー
ゼさせた。
「くそっ俺の取っておきなんだぞ」と渋々兄が教えてくれた美容室は
、今まで半年に一回程度行っていた床屋とは雰囲気が全然違う。女の
美容師(本人はスタイリストと言っていた)が俺を見て鼻で笑ったよ
うな気もしたけど、本当のことだから我慢した。有華と初めて行った
ゲーセンで撮ったプリクラを見せて、この子に似合う様な髪形にして
くださいと頼んだ。クラスメイト?友達?この子可愛いねー、という
美容師の言葉に、やっぱり決して彼女には思われないんだなぁと軽く
落ち込んだ。
 染めるかは迷ったけど、有華が黒髪を綺麗に伸ばして巻いているの
を思い出して辞めた。黒髪の可愛い女の子の隣に、ダサい茶髪が一緒
に歩いても気味悪いだけだろう。何調子に乗ってんだと笑われるのが
オチだ。
 初めて行った美容室は、兄が勧めるだけあって腕がいいみたいだっ
た。俺のようなダサい男でも、それなりに清潔感があるように見える。
「君、さすが健介君の弟よねー。そうしてるとカッコいいよー、服と
メガネ変えちゃったらいいんじゃないかな?すぐ隣がメガネ屋だよ」
 最初とは態度が変わった美容師と、千円床屋の七倍の値段にビビり
ながら、とりあえず礼を言って、そのままメガネ屋に直行した。
718腹黒ビッチ(後) 5:2009/03/14(土) 06:08:11 ID:isbQ7kqO
「克哉君、かっこよくなったね」
 髪を切ったのは春休みに入ったこともあって、有華は驚いたようだ。
春休みになれば、俺も有華も時間があった。電車を乗り継いで来たの
は九十九里浜。海に行きたいと言う有華に、どうせなら今までの
ような汚い海じゃなく、綺麗な海を見せてあげたいと思ったのだ。
「有華にそう言ってもらえると嬉しい」
「うん、かっこいいよ。私の彼氏ですって、みんなに自慢したいくら
いかっこいい!」
「あはは、そこまで言わなくても」
「本当だよ?私には、克哉君が一番かっこいい」
「……ありがと」
「前だって今だって、私にとっては克哉君は変わらないもん」
 かぁっと、顔に熱が上って行くのが分かる。有華は、俺が可愛いと
言うとこんな気持ちになるんだろうか。海は寒いからって、ミドル丈
のボアのコートを着ている有華は、文句なしに可愛い。寒いけど頑張
っちゃったと、俺の前でミニスカートを翻して見せる。ええ、可愛い
です。食べちゃいたいです。スケベ心を隠すように、手で口元を覆っ
た。
「もう、半年経ったんだねえ」
 何を、とはわざわざ聞き返さない。俺だって指折り数えてるからす
ぐに分かってしまう。
「俺、有華と付き合えて、本当に幸せだよ」
 呟くように言った。俺は、幸せだ。それは、胃にしみるように広が
っていく。独り言のような俺の言葉を、有華は俺の手を握って答えた。
その指先は、海風のせいで冷えていた。
「なんかあったかいもの飲もうか。有華冷えてる」
「いいねいいねー」
 砂に沈む足を二人で動かして、駐車場近くの自販機を目指す。有華
は途中で足をとられて、一回転びそうになった。つないだ手と反対の
手で、なんとかそれを受け止める。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫。ありがとー」
 俺の手は、少しは有華を守れるようになってきた。ダサ男じゃなく
て、せめて無害な男になれているといいんだけど。そう思うと、この
メガネがいきなり気になってくる。いわゆるオシャレメガネというや
つだ。枠は普通の黒縁だけど、耳かけが違う色になっている。他にも
三個ほど衝動買いしてしまった。有華はどれを見てもかっこいいと言
うけど、「何この勘違いしてる奴」みたいに思われないことを祈る。
 自販機に辿りついて、俺の方は缶コーヒーとすぐに決めたけど、有
華は迷っているようだった。その姿の、また可愛いこと。有華は何を
しても可愛くて困ってしまう。迷っているうちに俺の方は先にコーヒ
ーを取り出し、自分の財布を取って、有華の分の金も入れてしまう。
「ほら、早くしないと金落ちてくるだろ」
「うーんうーんうううーん」
 そうしているうちに、ちゃりーんちゃりーんと空しい音。
「ほらなー」
「もうちょっと待ってー」
 買い物をする時だって有華はそうやっていつも迷っている。有華に
は、最早硬貨を手渡して、コーヒー缶で手を温めながら有華を待った。
あ、と有華が突然に俺を振り返る。
「三年も、同じクラスになれるといいね」
 忘れようとしていた現実に、俺はうっと言葉に詰まる。
「私、信じてるから」
 にこっと有華は笑って、紅茶のボタンを押した。
719腹黒ビッチ(後) 7:2009/03/14(土) 06:12:25 ID:isbQ7kqO
 そして、春。
 生徒玄関に、多くの生徒が集まり、ざわめいている。いつもの登校
時間よりも早く着いた俺は、心臓をバクバクさせながら掲示板に向か
っていた。
 ―――行けるかどうかは、五分五分。外部テストは四十二位だった。
でも期末は十五位。枠は四十人。二学期までが酷かったから、それを
考慮されて落とされてるかもしれない。
 不安だった。もし、有華と違うクラスだったらどうしよう。有華は
絶対大丈夫だと言ってくれた。外部テストでギリギリ駄目だった時は、
本当に落ち込んだ。だけど、有華が応援してくれたから、なんとかこ
こまでやってこれた。
 あまりの緊張に、胸が苦しい。学ランのボタンを一個開けて、少し
息をつく。近づいてくる掲示板。人が多く群がっている。
 一宮 克哉。あ行だから、どのクラスになったってすぐに見つかる。
俺は人よりは少し背も高いし、掲示板にそれほど近づかなくても見つ
かるだろう。遠巻きに、掲示板を見た。人の名前は十分判別できる距
離だ。特別クラスは十組。三年十組の表を、見つけた。

 三年十組 担任 田中成知
1.浅田義之
2.一宮克哉

「いよっしゃあああああ!!」

 後ろから歓びの叫びが聞こえて驚いてか、数人が俺を振り返る。そ
れは嫌悪感より、ただの驚きのようだ。しかしガッツポーズでそれら
をいなした。確認する必要もないと思ったが、一応有華の名前も探す。
「32.斎藤有華」あまりの感動にもう一回俺は吠え、そして踵を返し
た。
 有華はもう学校にいるだろうか。と、急いで教室に向かおうと掲示
板を離れようとしたが、有華は丁度、友達数人とこちらに歩いてきて
いた。
「有華っ!」
 本当は少しだけ、有華を呼ぶのをためらった。いくら頑張ったって、
まだ俺は成長途中のオタク君なのだ。だけど、この間のホワイトデー
から、有華と二人で決めていた。
 もし、同じクラスだったら、付き合ってることを隠さないようにし
ようと。
「おはよう、克哉君」
 いつもと同じように、有華はにっこりと天使のように笑う。落ち着
いたその姿に、少しでも俺のこの興奮を分けたいと、有華の手を掴ん
だ。
「有華、同じクラス、十組だ!」
「え、本当!?」
「また一年間よろしくな!!」
「すごい、すごいよ、克哉君。よかったねー!」
 有華の友人たちは、びっくりしたように俺達を見ていた。
720腹黒ビッチ(後) 8:2009/03/14(土) 06:14:32 ID:isbQ7kqO

「え、有華、それって一宮?」
 おずおずと、茶髪の女が俺を指差す。
「うん、一宮克哉君でっす」
 俺とつないだ手を、有華が見せつけるように上げる。三人の女がぽ
かんと俺達を見る様に、俺は我に帰った。やっぱり、俺、かっこ悪い
よなー。有華に、釣り合うわけないよなー。と、秘密にするのを辞め
ることを、後悔し始める。俯きかけた俺を、有華が下からのぞきこむ
。落ち込みかけた俺と、にっこり笑いかける有華の視線が絡む。大丈
夫だよ、と彼女の眼が告げる。
 有華は再び友人たちの方に向かうと、あっさり言った。
「ごめん、克哉君と先に行ってるね。いこ、克哉君」
「あ、うん」
 棒立ちしている女三人をそのままに、有華は歩き始める。つないだ
ままの手にひっぱられるように、俺も有華の隣に立った。
「……ふふ、気分いー」
 上機嫌の有華が、聞き取れるかどうかの大きさで呟く。
「何が?」
「ん?ふふ、克哉君をみんなに見せびらかせられて、嬉しいの」
 なんだ、そうか。俺は少しがっかりした。てっきり、同じクラスに
なれたのが嬉しかったのかと思ったからだ。俺はそれで気持ちがいっ
ぱいだったのに。だけど有華はそんな俺の気持ちを察知したのか、す
ぐに目線を上げた。
「また、同じクラスだね」
 177cmの俺と、160cmの有華とは、目線の高さが少し違う。だから有
華の顔は、いつも上目遣いで可愛い。俺は沈んだ気持ちをすぐに霧散
させてしまった。我ながらやっぱりお手軽な奴だ。
「ごはん、一緒に食べようね」
「ああ」
「毎日一緒に学校行こうね」
「うん、楽しみだな」
「でもって、毎日えっちしようね」
「うn……ってコラ有華、ここで言うことじゃないだろ」
「あれ?克哉君、エッチ嫌い?」
 初めてのセックスは、二月だった。学外テストの結果が悪くて落ち
込んでいた俺に、心配した有華がバレンタインチョコと一緒にくれた
のだ。期末テストの結果が良かったら、またしよーねと言われて、乗
せられた俺は、ああ、至極単純に脳みそができているようだ。
「……」
「嫌い?じゃあ、もうしないでおこうか?」
「……大好きです」
「エッチだけ?」
「有華のことが、もちろん一番大好きです」
「んふふ、よろしーい」



 新学期が始まってからというもの、俺の生活はバラ色だった。
 有華とは、朝はジョギング、昼食、登下校と、学校ではほぼずっと
一緒にいた。土日はデートだが、最近はカミングアウトしたというの
もあって、堂々と都内を出歩いていた。有華は「嬉しい」と言って笑
う。
721腹黒ビッチ(後) 9:2009/03/14(土) 06:18:48 ID:isbQ7kqO

 だが、変化はそう言った些細なことだけではなかった。クラス替え
をして、俺は高校に入って初めて、友人と言うものができた。それも、
いわゆるイケメングループだ。特進クラスとはいえ、ガリ勉ばかり
じゃなくて、顔よし運動神経よし頭よしというような奴らも一定数い
る。そいつらとなぜか仲良くなってしまったのだ。今までだったら完
全に委縮するような奴らで、最初は気後れしたけれどそのうち慣れた。
それに、なぜかイケメンは大抵いい奴らばっかだったのだ。ゲーム
だってするしマンガだって読むし、最初はなんだこのパーフェクト人
間たちはと思った。だけど有華を見ていれば、そういう人間もいるも
んだと納得がいく。有華も含めて、決まってそういうのは「要領がい
い」のだ。
 有華に釣り合うように、と頑張ったおかげで俺も人並程度に、……
いや、人並以上になれた。春の体力測定で驚いたのは、1500m走と握
力測定が学年トップ10に入ったことだ。地道な運動が実を結んだ結果
だ。成績だって、今は十位以内で安定している。有華にはさすがに及
ばないが、俺も一目置かれるようになった。
 充実した学校生活に、可愛い彼女。友人には羨ましがられる。これ
までの経緯を語って聞かせれば、「斎藤アゲマン説」が公然と流れる
始末。下品だからやめろと一応言ったが、俺も内心事実だと思ってし
まったから説得力はない。有華は、俺の幸運の天使だと、くさいこと
も思っていた。
 後にして思えば、これが俺の幸せの絶頂だった。

 九月。有華と付き合い始めて一年を迎えようとしたある日、俺は女子
に呼び止められた。彼女には見覚えがある。二年の時に、同じ委員会
だった女の子だ。放課後の裏庭に連れていかれ、その思いつめた表情
で、なんとなく気付く。告白だ。
 自己改造が上手く行ってから、俺はたびたび女の子に告白されるよ
うになった。最初はなんで俺なんかと思ったが、どうやら、有華のおか
げで俺は外見だけいい男になっていたみたいだ。だけど体の隅々まで
有華に惚れぬいている俺は、告白を全て丁重にお断りしている。案の
定、彼女のそれも告白だった。
「悪いんだけど、俺、彼女いるから」
 と、お決まりのセリフを言い、さっさとその場を去ろうとする。だけど彼
女は、引き下がらなかった。
「諦められないの。だって、私、去年からずっと一宮君のことが好きだ
ったの」
「……さすがにそれは嘘じゃない?」
「ほ、本当だよ!」
「いや、君、俺のこと無視してただろ。話しかけても答えてくれなかった
の、しっかり覚えてるから」
 はーっと呆れを含んだため息を吐く。
「俺は、有華のことを大事に思ってる。だから、絶対君とは無理。俺の外
見しか見てないような子なんて、特にね」
 ちらっと彼女の顔を見る。これで諦めてくれるかと思った俺は、彼女の
なぜか勝ち誇った顔に違和感を覚える。
「斎藤さんだって、一宮君のこと外見しか見てないじゃない」
「は?」
「斎藤さんは、一宮君のこと利用してるのよ」
「……有華のことを馬鹿にするな」
 有華のことを悪く言うような女となんてこれ以上話したくない。踵を返し、
裏庭を出ていこうとしたその時、女は叫んだ。
722腹黒ビッチ(後) 10:2009/03/14(土) 06:21:30 ID:isbQ7kqO
「斎藤さんは、一宮君の家の財産を狙ってるのよ。友達に話している
のを、一年前に聞いたもん!」
 ―――は?
 とんでもない内容に、思わず歩みが止まる。そんな俺を見て、彼女
はさらに言葉をつづけた。
「図書室にいるのは当番の私だけだからって、大声で話してたわ、あ
の人たち。最初は一宮君の悪口だったけど、誰かが言いだしたの。一
宮君の家が代々広崎財閥の顧問弁護士で、大金持ちだって。そしたら、
最初はあなたのこと馬鹿にしてた斎藤さんが、一番食い付いたの」

『へぇー、じゃあ私、一宮クン狙おっかなー。女慣れしてないじゃん?
ちょっと優しくすれば食いつくでしょ』

「私、一宮君のこと可哀想だと思ったの。だから、それから気になり
始めたわ。……それで、これ以上、見てられないと思ったの」
「……うそだ」
「本当よ。司書の先生だって覚えてる」
「……うそ、だ」
「嘘はついてないわ」

 その後のことは、あまり覚えていない。

 気がつけば俺は、家で電気もつけずにベッドに横たわっていた。ふ
と横を見れば、カバンがあった。有華と一緒に買った高校生仕様の普
通のカバン。有華がふざけてつけたストラップがある。デートで行っ
た渋谷のゲーセンでとった。そういえば金は俺が出した。
 チカチカと、携帯が着信を示している。夏休みに有華とお揃いにし
た機種。金は俺が出した。有華は一応遠慮していて、だけど嬉しそう
にしていた。惰性で携帯を取る。着信五件、メールが二十通。どれも
六時以前。それからはぷつりと切れている。有華はバイトに行ってい
るはずだ。最初の頃はデート代は自分で出すと言っていたが、俺がさ
せなかった。それでも有華がバイトを続けている理由は、大学の進学
費用のためだった。そう、聞いている。でも、それも怪しいものだ。
 俺が喜んで出していたはずの金、全部合わせたらきっとすごいこと
になっているはずだ。映画好きの有華のために毎週のように新宿に行
ったし、ショッピングモールやデパートに行くたびに有華の服を買っ
た。似合う?と有華がくるりと回れば、まるでそれは有華のものでな
ければいけないように思えてくるのだ。飲食代だって俺が出した。親
からは小遣いを有り余るほど貰っていた。俺はそれに疑問を持ったこ
とはなかった。なのに今になって、自分が馬鹿みたいに思えてきた。
 その時、丁度着信が入った。時計を見ると、十時半。バイトが終わ
ったんだろう。連絡もなく帰った彼氏に、電話をかけているんだろう。
 彼氏?本当にそう思っているんだろうか。男心をくすぐる仕草、男
を惑わせる言葉、男をその気にさせる態度。
 有華の着信を知らせるメロディが、延々と流れ続ける。ループして
いくうちに、だんだんと脳内のもやが薄れていく。
 そうか、俺って金づるか。
723腹黒ビッチ(後) 11:2009/03/14(土) 06:24:32 ID:isbQ7kqO
「ああああああああああああああああああ!!!!!」
 携帯を壁に投げつける。バキッと嫌な音がした。投げたその手がう
ざったくて、そのままの勢いで本棚を倒す。数が減った小説、その代
わりに増えた参考書。買ったばかりの赤本が目に入る。有華が行きた
いと言うから、選んだ大学の名前。見たくなくて、ベッドの布団を乱
暴に引きずり下ろした。布団。ベッド。
 ああ、ここで何度も有華を抱いた。何度も、何度も。最初は二人と
も手探りだった。初めての時、俺はうっかりアナルに入れそうになっ
て、有華を泣かせた。有華も初めてで、固まっていた。
 そうだ、有華は、処女だった。そのことは間違いない。血が出てい
たし、物凄く痛がって、俺の腕まで傷つけた。
 金のために、処女まで差し出すのか。
 気違いみたいに叫びながら、シーツを破った。ついでに布団も破っ
ていた。綿が少しこぼれる。なんだか癪に触って、それをずたずたに
引きちぎり始める。勢い余って、後ろに倒れこむ。見えたのは鏡。
 俺が。俺なんかが。そう思っていた、一年前の俺。
 大丈夫だよ、ダサくたっていい。有華が必要としていたのは、金の
ある俺だ。容姿なんてどうでもいい。
 才色兼備の有華に釣り合おうと、必死に努力した。同じクラスにな
りたくて、同じ大学に行きたくて、今だって努力してる。でもそんな
のいらない。俺さえいればそれでいい。金のある俺さえいれば。
 金さえあれば、完璧な有華には釣り合うのだ。
 ガシャン。
 すぐ向こうの俺が、粉々に砕けた。こちら側の俺の拳は、血にまみ
れている。有華を守るために作った手の平。有華の、小さな手。バイ
トで荒れやすいからって、バラの香りのハンドクリームにいつも包ま
れている、か弱い手。守らなきゃいけない、なんて、勝手に俺が思っ
て。
「っ、く、……」
 唇を噛みしめてなんとかこらえようと思っていたものが、あふれる。
「う……うっく」
『ねえ、何読んでるの?』
 俺は、本当に嬉しかったんだ。有華と二人になって、初めて俺は自
分が寂しかったんだと分かったんだ。話をして、誰かが真剣に返事を
してくれる、君にとっては些細なことだろうけど、俺は幸せだったん
だ。幸せ、だったんだ。
 一年前の、有華と出会わなかった頃の自分に戻って、俺は泣いた。
724腹黒ビッチ(後) 12:2009/03/14(土) 06:27:35 ID:isbQ7kqO
 破壊衝動が収まり、暗闇の中でぼんやりと座りこんでいた。その暗
闇の世界が、唐突に破れる。かちゃりとドアが開き、廊下の電気が入
り込む。
「克哉君?」
 ソプラノボイスが奏でる俺の名前。愛おしくてたまらなかった――
―そんないつもの感情が、ぴくりとも反応しない。
「どうしたの?今日、勝手に帰っちゃったでしょ。すごく心配したんだよ」
 と、さも気遣わしげに中に入ってくる。どうやら、有華を気に入る母
親に入れてもらったらしい。電気がついていないのを不審に思った
らしい。
「真っ暗だよ、電気つけるね」
 ぱちりと、軽快なスイッチが四角い空間に鳴り響き、そして次の瞬
間、有華の「ひっ」という押し殺した悲鳴で満たされる。
「なっ……なに、これ?」
 そして有華は、部屋の真ん中にいる俺を見つける。
「どうしたの、克哉君。何か、あったの?」
 有華は、うつろな俺の顔をのぞきこむ。
「具合、悪いの?」
 俺のおでこを触ろうと、有華の手が差し出される。白くて、綺麗で
、小さくて、俺が、守るための、手。ふわりとバラの香りがする。バ
イト後でハンドクリームを塗り直したんだろう。可愛くて柔らかい有
華には、上品すぎて似合わないと思っていた香り。だけど、今は似合
うと心から思う。
 この、したたかで、狡猾な女には、とても。

「きゃあっ!」
 乱暴に腕を掴むと、床に引きずり落とした。非力な有華は、ろくな
抵抗も出来ずに引き倒される。
「な、なに?どうしたの、克哉君」
 無垢な目をして、俺をまっすぐに見つめるその目が、今は癪に触っ
て仕方ない。
「どうしたの?変だよ、何かあったの、かつ」
「お前さぁ」
 誰にも向けたことのないような、凶悪な声が出た。それは確かに俺
の声帯から、俺の声音で、正しく紡がれた。
「俺と付き合ってたの、金目当てだったんだってな」
 一瞬、何を言っているのか分からないという様に、有華は黙った。
言葉の意味が、理解できないらしい。もう一度言ってやろうかと考え
たその時、有華がはっとして、目を見開いて、息をのんだ。
「やっぱそうなんだな」
「な、んで、」
「なんで知ったかなんてどうでもいいだろうが。事実は変わらないん
だから」
「ちがっ、私!」
「『女慣れしてないじゃん?ちょっと優しくすれば食いつくでしょ』」
「―――っっっ!!」
「だっけ?」
 馬鹿にしたように見下ろしてやると、顔面を蒼白にしている有華が
そこにはいた。そうして、俺の残りかすのような最後の期待が、音も
なく消えていった。くっくっと、腹の底から笑いがこみ上げる。くだ
らない。そんなものにまだしがみついていた自分に、心底呆れてしま
う。
「違う、私、ほんとに克哉君のことが」
「うるせえんだよ!!」
725腹黒ビッチ(後) 13:2009/03/14(土) 06:29:44 ID:isbQ7kqO
 バシッと、有華の頬と俺の手のひらとはあまりに大きく音を立てた。
乾いたそれを、俺は冷静に聞いていた。叩かれた勢いで横を向いた
有華の顔は、俺を見ない。叩かれた左の頬は、俺の血で少し汚れた。
「お前は金で俺と付き合うんだろ。金で俺に抱かれるんだよな。だっ
たら、援交でいいじゃねえか」
 言いながら、制服のセーターを押し上げ、シャツを引きちぎる。ボ
タンがぶつぶつと飛んでいくのを見てか、有華が我に帰る。
「違う、最初は、お金目当てだったけど、違うの。違う、違う……」
「最初が金なら最後まで金だろ。なぁ?」
 馬鹿な女だ、と思った。本当に信じてほしいなら、一言だって「金
目当て」だと認めてはいけなかった。そうすれば、俺はまた期待した
だろうに。そう思いながら、慣れた動作でブラジャーのホックを外す。
完璧な有華の唯一の欠点、膨らみの薄い胸があらわになった。
「や、やめ……ねえ、違うの、違う」
 その顔が、くしゃくしゃになっていく。大きな目が、涙を浮かべ始
めた。有華が泣くのを見たのは、これが三度目だった。一度目は、誕
生日にプラチナの指輪を贈ったとき。二度目は、小さな喧嘩をしてし
まったとき。二度目は、悲しそうにぽろりとこぼした涙に、俺は本当
に後悔して、その後平謝りしたのだった。そのどちらとも、この涙は
違った。ああ、やっぱり今までのは演技か。妙に冷静な自分がいた。
この女は、今、男に初めて乱暴されている。本気で泣いている。これ
までの涙は、本物じゃなかったのだと結論付けた。
「違う、違う、違」
「壊れたみたいに同じことばっか繰り返して、馬鹿じゃない?いい加
減やめないと、また殴るよ?」
「ちが、ひっく、……ひう、あぁあ」
「大人しくしてろよ。すぐ終わるんだから」
 何度も触った有華の乳首は、胸の大きさの割に敏感だ。つまみ上げ
れば、鳴き声の中に甘い響きが混ざる。舌でもなぶろうかと考えたが、
そこまでする必要がないと思ってやめた。手だけで十分だ。薄いけれ
ど一応ある胸を、寄せ集めて揉みほぐす。
「うあ、あう……んんーっ!」
「そうだね、感じてる方がいいんじゃない?その方がお前も楽だし」
 揉みがいはないけれど、でも見た目よりもずっと有華の胸は柔らか
い。最初はしこりがあって固かったのも、一年かけて柔らかくしたの
だ。それも俺の成果だった。
「あ、あ、いやあぁぁ」
 乳首を刺激すれば、すぐに反応は帰ってきた。いつもは楽しむそれ
も、今は不快感とまぜこぜだ。左手で胸を揉みほぐしながら、手をす
るするとスカートにおろしていく。顔は有華の首筋に。息を吹きかけ
ながらこうすると、有華は面白いほど良く反応する。耳の裏で呼吸を
すれば、有華は身を震わせた。
「ふああぁぁ!」
 本当に分かりやすくて、嫌になる。何度飽きもせずに同じことをや
っても、有華の体は慣れていないような反応を繰り返した。それが愛
おしくてしょうがなかったのは、以前の自分だ。ちりちりと脳髄が焼
け切るような怒りにまかせて、下着を無理やりおろした。有華が悲鳴
のような喘ぎを上げる。
726腹黒ビッチ(後) 14:2009/03/14(土) 06:32:25 ID:isbQ7kqO
「なんだ、濡れてるな。そんなに金が欲しいんだ?」
 ははっと、笑いながら言い捨てる。有華の喘ぎの中の、泣き声が強
くなった。
「やぁー……ひっく・・うえ、ごめ・ごめんなさい、ごめ・・・・・うああぁー」
「相変わらずモノ欲しそうにしてるよな、こんなにエロいのに、本当
に俺だけだったの?」
「かつやくん、としか、ひっく・・してない、っ」
「どうだかね。まあ、もうどうでもいいんだけどさ」
「っつ……う、うあああ!!」
「うるさい。だまって感じとけよ」
 スカートの中に突っ込んだ血まみれの手を、有華の秘部に押し当て
る。既に立っているクリトリスを中指で撫でてやる。有華はなぜか、
中指でしかクリトリスで感じることができないのだ。中指と同じよう
な大きさのおもちゃでもダメだった。そのことを、『有華は俺専用だ
ね』と、からかったこともある。
「うぁん!あっあっ、あぁぁああ!」
「やらしいね、有華」
「ふうぅぅ、ん、んっんっんっ」
「強姦されてるのに、感じるんだな。ああ、金のためだからか」
 わざと有華を刺激する言葉を使っているのに、腕で口を押さえる有
華には聞こえていないらしい。首を振って、快楽に抗っている。イキ
そうなんだろう。
「ほら、イっちゃえば?ほら、ほら」
「あっあっ……っああー!!ああー!!んぅ―――っ!!」
 足の先までつっぱって、背筋をしならせ、有華はイってしまった。
恐ろしく劣情を誘う有華の姿に、俺の腰が熱くなるのが分かった。膣
から流れ出す愛液を、指にからめ取る。固まっていた血が溶け込み、
愛液が赤く染まって行った。ちょうど転がっていた布団で指をぬぐう
と、血は消えて元の肌色が見えた。指を膣に差し入れて、具合を確か
める。いつも通りの、あたたかでぬるぬるの有華がそこにあった。
 かちゃかちゃとベルトを外す。そこでやっと、自分も制服だという
ことに気付いた。煩わしく思いながらそこをくつろげると、腰下まで
降ろし、すっかり準備できた俺自身をこすりつけた。はぁはぁと荒々
しい息を続けながら自分のことに必死な有華を、笑みすら浮かべて見
下ろす。クリトリスでイったばかりの膣が、ひくひくとわなないて俺
を誘う。亀頭をはめ込んで、その誘いを受けることにした。
「っ、や・・・・・だ、め……ぁっっっ―――!!」
 強引につき入れるのにふさわしい場面ではあった。が、俺はわざと
その身に分からせるようにゆっくりと貫いていった。有華がそれを好
いていたからだ。ゆっくりと、感じる場所を撫でていく。
「んぁっ、あっ・あは………ぅううん」
 ゆっくり、ゆっくり、奥に向かっていく。限界まで進んで、そうし
て子宮口にぴとりと当ててやると、有華はぶるりと体を震わせた。
「は…ん……ぁん・…」
 控え目なあえぎ声と一緒に、少しずつきゅうぅっと根元が締め付け
られる。そこに肉棒があるだけで、有華は感じてしまうのだ。有華は、
中はゆったりと俺を包み込む癖に、袋に近い入口をどうしようもな
く強く締め付けるのだ。そして、さらに奥に行けばいくほど、また強
く締め付けていく。包み込むような柔らかさと、強烈な締め付けを同
時に楽しめる。それからかすかに、ぱくぱくと子宮口も精液を求めて
口を開け始めた。
727腹黒ビッチ(後) 15:2009/03/14(土) 06:34:51 ID:isbQ7kqO
「ひん……っ」
 自身の蠢きがいいところにこすりつけられるらしく、放っておいて
も有華は感じてしまう。それを延々と眺めていて、有華に怒られたこ
ともある。そのことを思い出して、また怒りが再燃して、俺は猛然と
突きこみを始めた。
「あん、っ、んっ、んあぁっ」
 十分にほぐれた膣壁を、亀頭でさらに突きほぐす。すぶ、ぶちゅ、
と音を立てて。彼女の弱い手前のポイントだけ、しばらく鈴口でこす
り続ける。
「あはぁ、ああぅ、あっ、んー、んふ」
 その度に有華の奥は、さらにしまっていく。ここを突き入れてほし
い、ほじくり返してほしいと、体が訴える。それでもこすこすと、確
かにGスポットだからそこも気持ちいいのだけれど、有華が本当に求
める部分の愛撫を避けてしまう。入口を押し広げるように出し入れす
れば、くちくちと鳴いていたそこはだんだんとぐちっぐちっと本気の
音を出し始めた。
「んっんっんっ、ぅ、…うあっ……あぁー」
「ん?奥に入れてほしいのか?」
「あ、ああ、・っ、あう、うんっ」
「へえ、奥、ねえ」
「やあっつ、だめ、あう・ぁっ……」
「でもここでも十分イッちゃうだろ、有華は」
 俺の言葉を肯定するように、有華はぶんぶんとまた顔を左右に振り
始めた。それは否定じゃなく、有華が感じている証拠なのだ。
「ほら、イッちゃえよ。イカせてやるよ」
 強く、細やかにそこを衝く。ぐちゅり、ぐりゅ、と少しその部分を滑っ
てしまうのは仕方ない。有華はぶちゅぶちゅと愛液を吹き出し続け
ているのだから。
「あああっ、あっあっあっ、…………あぁあー!!んんー!!」
 ガクガクガクガク。壊れてしまうくらい、有華は震えた。そして一
瞬体を硬直させて、そしてまた床に降りてきた。その間、俺はずっと
動きを止めて、眉根を寄せてそれに耐えた。イッた瞬間に、有華は中
の包み込むような部分まで、ぎゅうっと万力で締め付けるように力を
入れるのだ。最初のころは、それに耐えられなかった。今となっては、
腰に力を入れて、それを堪える耐性ができていたが。
「っは、はぁっ、はぁっ……ぐ、ぅ」
「……っ、は」
 荒い息を吐きだし、途中で唾を飲み込むのに失敗して、口の端から
それを垂れ落とした。ようやく力を緩める膣内に、俺も止めていた息
を吐き出す。そろそろ動くぞという合図のように、黙って軽く二三度
腰を引く。とろりと結合部から愛液が滑り落ちて行った。カーペット
はもう既に濃い色に変わっている。膣内に残っている愛液で、ずるず
るの内部は、さらに滑りよく奥へと俺をいざなう。そうか、それなら。
「あぐっ!」
 勢いよく中に押し入れる。子宮に響くほど、強く。ぱくぱくと有華の
口が酸素を求めた。なんとかとどまっていた唾液が、こぼれおちて
行った。
728腹黒ビッチ(後) 16:2009/03/14(土) 06:37:06 ID:isbQ7kqO
「い、やだぁ・・や、、やぁっ」
 痛みを感じるほどだろう、と分かってはいる。そのままぐりぐりと
奥に押し付けてるなど、鬼畜の所業だろう。でも有華はこれで感じる
のだ。腰を引き、押し込む。それを何度もつづけた。何度も、何度も。
あんあんと喘ぐのも疲れたらしい有華は、ふぅふぅとか細く息を吐
き出す。
「おかしく、なるぅ」
 目を白黒させて、有華は呟いた。
「元々腐ってるだろ、有華は」
 耳元で囁いてやると、ほとんど正気じゃないはずの有華は、俺の言
葉に意識を遠くさせ、ぼろりと涙を落した。
 その目をまっすぐに見下ろしながら、ひりひりする亀頭をはめこん
で、細かく腰を動かし始めた。その度にまた大きくなった喘ぎが耳に
ささやきかける。
「あ・あ・あ・あ…あああっ、あ」
「あー、うっ、イくぞ、イく」
「んあーっ、あああーっ!あ・あ・はぁあん、ぁああああ!!」
 最後の激しい律動に、有華が鳴いた。それを心地よく、そして心地
悪く耳に響かせながら、最後に奥まで突い上げた。同時に、どくんと
根元を精液が駆け上がって行った。
「あっ、ああ……あぁぁ……」
「…っ、ぉう……・っう」
 いつもなら。いつもなら、二人で抱きしめあいながら、最期を迎えて
いるはずだった。背中の後ろまで、有華の腕を感じているはずだった。
なのに、こんなに、今は寒い。接しているのはお互いの下半身だけだ。
「っ・・・・さ」
 精子を出し切るのに一生懸命で、有華が何かをつぶやいているのに
気付かなかった。汗だくのまま、朦朧としながら、有華の紡ぐ何事か
に耳を傾ける。
「なさい……ごめんなさい……ごめんなさい、…ひっく、……ごめん
なさ」
 虚ろな目で謝罪を続ける有華に、急激に熱が冷めて行く。

 今日、あの女が俺に告白なんてしなければ、こんなに最低のセック
スをすることはなかっただろう。そもそも、いつも通りに有華と帰れた。
冗談を言いながら、どうでもいいような話を楽しみながら。受験前だけ
ど、一周年記念にどこか旅行にでも行こうかなんて話しながら。
 あの瞬間まで、俺は金なんてどうでもよかった。俺を何よりも幸せ
にしてくれる有華を、幸せにしてあげたかっただけだ。有華にとって
はその対価が俺自身じゃなくて、金だっただけなのだ。
 だったら、何も知りたくなかった。何も知らないまま、幸せなまま
でいたかった。何も知らないままなら、有華はただ俺と一緒にいてく
れたのに。
729腹黒ビッチ(後) 17:2009/03/14(土) 06:40:30 ID:isbQ7kqO
「……帰れよ」
 勝手にそれを引き抜くと、寝ころんで泣いて謝罪を続ける有華に、
冷たく言い捨てる。荒れ放題のベッドからカバンを探すと、財布を取
り出す。夏休み明けのテストの結果が良かったおかげで、母に渡され
たばかりの万札があった。適当にひっつかんで有華にばらまく。四枚
が、はらはらと落ちて行った。一枚は、涙でぼろぼろの頬に張り付い
た。呆然としていた有華は、それでよろよろと起きだした。
 金を取る有華を見たくなくて、綿がむき出しでボロボロのベッドに
横たわり、目を閉じた。ごそごそと音が聞こえた。服を着ているんだ
ろう。それからしばらくして、がちゃりとドアが開く音がした。俺を気に
したのか、閉じる音は、本当に小さな小さな音だった。電気をつけた
まま、俺は強制的に意識を無くした。何も考えたくなかった。
 その日の夢には、有華が笑う顔と泣く顔が交互に出てきた、気がす
る。



 朝。目覚ましがなくても勝手に目は覚める。五時。有華とジョギン
グに行く時間。外を見たが、有華はいない。当然のことだった。結局
学ランを着たまま寝ていたらしい。下にベルトがないのを見て、昨日
のことは夢じゃないんだとまざまざと思い知った。
 朝日の下で、改めて部屋は酷い惨状だった。本棚は本やCDやゲーム
類をすっかり吐き出してしまって、かろうじて勉強机の支えがあって
斜めにとどまっている。が、そのおかげでデスクランプが完全に割れ
ていた。
 床も酷いものだった。カーペットはめくれあがり、ローテーブルが
ひっくり返っている。ソファは重いからか無事だが、位置は多少ずれ
ている。
 ふと、ベッドを見る。酷くした自覚はあったが、あっちにもこっちにも
綿が飛んでいる。制服にもついていた。顔にも。頭にもついているか
と、鏡を見た。割れていてほとんど見えなかった。手は、ところど
ころ血が残ってはいたが、傷口は固まったようだ。
 金はなかった。昨日、有華に投げたそれら。全部そのまま、有華の
頬に張り付いていたのも、そこになかった。
 やっぱり金が目当てだったんだな。声にはしないで、ここにいない
有華に言う。
 ここまで荒れた部屋の中で、ぼんやりと、これを母親に見せるわけ
にはいかないなと冷静なことを考えた。だったら、いつも通りに学校
に行かなければ。俺は、風呂に入ろうと立ち上がった。
730腹黒ビッチ(後) あとがき:2009/03/14(土) 06:45:50 ID:isbQ7kqO
以上
中編と後編に分けようかと思ったけど、眠いんで一気にやっちゃいました
本当にすいません

有華が金を持って行くか行かないかは最後まで悩みました
が、忙しくて続き書けるか微妙なので、持って行かせました
そのほうが「このビッチめ!」で終わると思わない?ってばっちゃが言ってた
731名無しさん@ピンキー:2009/03/14(土) 08:22:22 ID:uAhmP9wf
GJ
最後になんだかんだで金を持って行っちゃうのは一途なのか疑問を感じましたが面白かったです
あとは有華のバイトは何をやっていたのかも気になりました
732名無しさん@ピンキー:2009/03/14(土) 10:01:13 ID:wLcR3u9U
一途?
面白かったけど、一途じゃなくね?
733名無しさん@ピンキー:2009/03/14(土) 17:15:01 ID:QsW+vkS/
>>730
GJ!面白かった
ちゃっかり金取ってく有華可愛いw
にしてもその後が気になる終わりだなぁ
734名無しさん@ピンキー:2009/03/14(土) 18:38:08 ID:KTgF0l7q
ビッチな女が本気になって、うまくいくこともあればだめなときもある。
最後に彼女が金を持っていったことも、自虐的な気持ちになってたんだろうなぁ、と思った。
おもしろかったです。

これから復縁は難しいでしょうけれど、その困難さにチャレンジ精神がわいてきたら、続きを書いてみてください。
735名無しさん@ピンキー:2009/03/15(日) 01:49:29 ID:ar7XYkCL
おもしろかったぜ
しかし男のほうもひでえなこりゃw
少しは彼女を信じてやれよ
金もってく女も女だが
736名無しさん@ピンキー:2009/03/15(日) 03:44:47 ID:qAY8Gl8S
持って行っても持って行かなくても疑問が残る終わり方になると思う

でもおもしろかったです
737名無しさん@ピンキー:2009/03/15(日) 09:15:43 ID:JcK6VsTm
このスレ好きで何か書きたいんだけど、いまいち自分の中の
ビッチ像がはっきりしないからあれなんだよなあ……。
というわけでみんな、参考の為に自分の理想のビッチについて
語ってくれると良い材料になると思うんだ。
738名無しさん@ピンキー:2009/03/15(日) 09:40:01 ID:mrKg3+LL
一途じゃないってのがな〜ちょっとこのスレとはズレてるような…
739名無しさん@ピンキー:2009/03/15(日) 09:43:01 ID:ykcCqUj9
書いた後に出しゃばっちゃいかんとは思ったが
あんまり長くしたくない一心で、駆け足で終わらせたのがいけなかったみたいだな
でも734が答え書いててワロタwすげえwww
いつになるか分からんけど、その内続き書くよ
740名無しさん@ピンキー:2009/03/15(日) 12:10:25 ID:jO7Xtuuz
つーか、別にビッチじゃなくね?
金持ち属性に魅かれたとはいえ、交際は全校カミングアウト
してるし、早朝ジョギング付き合ったり、ずっと世話
焼いてるし、処女まで捧げてるし・・・

裏で二股〜とかバイトが実は〜とかの隠し設定がなきゃ
むしろ純愛スレ向きとすら言えそう。

つーワケで、次回「アリカの秘密アルバイト篇」をワッフル!w
741名無しさん@ピンキー:2009/03/15(日) 13:18:27 ID:EB517xdr
ここでのビッチは「軽い女」とか「ちょっと遊んでる」レベルから
「男を利用することしか考えてない」まで、比較的広い意味じゃないかな

上のに関しては、最初がビッチ(金目当て)で近づいたけど、
一途になったあとだったって解釈してるけど、男視点で、
有華の心変わりの部分がないから、ビッチって感じが薄いとは思う

ので、有華視点(じゃなくてももちろんいいから続き)の話をwktkして待ってるw
742名無しさん@ピンキー:2009/03/15(日) 21:25:05 ID:tyJvAc8t
ここまで藤崎詩織モノ無し
743ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/15(日) 22:26:22 ID:8nVkcwqE
<国見クンの初恋>・1

「カズはやっぱドーテー?」
「ああっと……そんなわけないでしょ」
どう答えようか迷ったあげく、一番垢抜けない答え方をしてしまった。
いかにも焦った、振った側が悪意がなければリアクションに困る答え。
とっさの切り返しは、いまだに苦手だ。
まわりの皆が、生ぬるい笑いを浮かべる。
――この辺は、学生時代より、まだマシか。
サークルの飲み会では、ここでやんやとはやしたてるバカがいて、
結局、一年生の後期から飲み会と言うものには出席しなくなった。
おかげで、アルコールに慣れなくて、社会人になってからちょっと苦労した。
でも、まあ、会社のそれは――。
「アッ君は、マジそれっぽいからねー!
アタシがドーテー切ってやろうかあ?」
「ちょ、……桑名さん、それは勘弁してください!!
僕にも選ぶ権利というものが……」
「なんだとー!?」
「ひええ!!」
「国見。桑名係長がお怒りだぞ。水割り係り交代な」
「アタシ、焼酎梅割り、濃い目ね」
もっと大きい声で言って、笑い話にしてくれるオバちゃん上司がいて、それを機に、話題が変わる。
……明日も普通に仕事するチームで禍根を残すのは得策ではない。
サラリーマンは、自己保身が何よりも大切で、
そして、皆も、僕――国見一志(くにみ・かずし)も、
そんな処世術は、うんざりするくらいに身についていた。
たとえ、僕が、三十過ぎて、セックス経験どころか、
デートも片想いの恋愛さえもしたことがない人間だとしても、
これくらい生きていれば、まあなんとか、やっていける。
上っ面を飾りながら。
744ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/15(日) 22:26:56 ID:8nVkcwqE
三月。
送迎会の季節。
親会社から天下ってきて、また戻っていくお偉いさんを見送る飲み会。
意に反していじられキャラになっている僕をからかう、いくつかのネタ。
大学時代のように、決定的に滑ったり、傷ついたりしないで済む。
部長決裁の社内交際費。
飲み放題付四千円(2年前から比べると千円減額)、会社負担。
だけど、あまり気が進まない。
本当はパスしたい。
でも逃げられない。
――二時間の社会人の義務。
駅前で、二次会に行く連中と別れ、
皆とは逆方向のガラガラの電車に一人で乗るまでの、
いつもの、「耐えられないわけではない」時間。
今日も、それで終わるはずだった。

「しゅ〜にん!」
突然、声をかけられるまでは。
「櫛田さん……か」
「やだ、気付いてなかったんですか?」
大声でケラケラ笑ったのは、櫛田寿々歌(くしだ・すずか)さん。
同じ課の、僕の後輩。
……じゃないな。
部下だ。
年齢(とし)が六つも違えば、世間じゃ先輩後輩の間柄じゃないらしい。
だけど、入社以来の不況で、長年「一番下っ端」の地位に慣れていた僕は、
去年の十月の移動で他のフロアから来た大卒三年目の女の子を、
いまだに「部下」として認識できないでいる。
さん付けで呼んでしまうのも、多分、そのせいだ。
745ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/15(日) 22:27:26 ID:8nVkcwqE
「まったく、さっきから隣にいたのにひどいですよー」
櫛田さんは、眼鏡をちょっとズラして「めっ!」とばかりに軽く睨んだ。
黒い、縁(ふち)が太くてレンズも大きい眼鏡は、
いかにも真面目で明るい彼女の雰囲気に良く似合う。
セミロングの黒髪と、白のブラウスが、さらにそれを引き立てている気もする。
人見知りをするタイプの僕でも、結構会話ができるのは、
こういうふうに、向こうから気軽に声をかけてきてくれるからだ。
「ああっと……。櫛田さん、こっちのほうだったっけ?」
とは言うものの、二人きりで電車に乗ると、なんだか焦る。
ベッドタウンの駅へは逆方向で、この時間はガラガラなのも、僕をあたふたさせる。
「んー。うふふ、ちがうですよー。今日はちょっとこっちに用事が」
櫛田さんは、くすくすと笑った。
ほんのりとピンクに染まった頬が、どきりとするほど綺麗だ。
(こんな娘を嫁さんにしたら、幸せだろうな)
よく気配りが利いた彼女の仕事ぶりを思い出しながら、僕はぼんやりと考えた。
彼女が、僕に身を寄せ、それをささやくまでは。

「国見主任。ホントにドーテーなんですかあ?」

「……え?」
櫛田さんの口から、思いもかけない単語を聞いた僕は、ことばを失った。
今、彼女はなんて言ったんだ?
アルコールが入った脳みそは判断力を失い、
僕は呆けたように六つ年下の女性を見詰めた。
「うふふ。図星みたいですね!」
櫛田さんは、笑い声を大きくし、不意にそれをやめた。
そして――。
「……!?」
いきなりの、キス。
「それじゃ、――私がドーテー捨てさせてあげましょうかあ?」
746ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/15(日) 22:27:57 ID:8nVkcwqE
「え……?」
唇に残る、柔らかな感触と、いい匂い。
耳の残る、ありえない言葉の声音。
僕は、……そうだ、酔って寝てしまって、夢でも見て――。
「あはっ、混乱してる、混乱してる。主任、かわいー」
櫛田さんが、ケラケラと笑った。
ああ、これは現実か。
じゃあ……。
「じょ、冗談はよしなさい。酔っ払いすぎだぞ」
そう。
櫛田さんも、酔い過ぎてるのだ。
こういうのって、なんていうんだっけ。
ワイ談上戸?
まあ、そんなもんだろう。
キスされたのは――ラッキーだ。
「えー。ビールしか飲んでませんよ」
櫛田さんは、まだくすくす笑っている。
眼鏡の奥の、笑顔で細まった目を、ゆっくり開く。
その目は――。
「冗談じゃないです。私、国見主任とセックスしてもいいなーって思ってます」
……かなり、冷静だった。

「――私、けっこう遊んでるんですよ?」
「――中学校の頃から、しまくってましたし」
「――ウチの課の男の人、主任以外とは、もう全員とセックスしちゃいましたよ」
「――気がつきませんでした? 主任、ニブいから……」
電車から降りて、入ったバーで、そんな会話をした気がする。
いや、一方的に彼女が喋り、笑っただけの気もするが。
時折、僕の手を取って、意外に大きな胸に押し付けたり、
バーテンダーの目を盗んで、キスをしたり――。
747ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/15(日) 22:28:28 ID:8nVkcwqE
僕は、どこから酔っていたのだろうか。
彼女は、僕が全然知らない人間だった。

「――と、言うわけで……。
私、意外と、おち×ちんなら誰のでもいけちゃう方なんです。
主任のドーテーも美味しく「いただきまぁす!」してあげちゃいますよ?」

いつの間にかバーも出ていて、公園のベンチで櫛田さんは僕にささやいていた。
キス。
また、キス。
「うふふ、でも、今日はもう、主任のほうが頭バクハツ、しちゃいそうですね」
すっ、と離れる。
「じゃ、今度の土曜。気が向いたら、セックスしましょ。
場所はケータイに、メール入れときますから、
……ドーテー捨てたければ来てくださいね!」
僕より六歳年下の娘は、そう言って離れていった。

彼女が視界から消えるまで、僕は呆けたようにそれを見送り、
そして、ガタガタと震えた。
何か、僕の知らない世界が、突然牙を剥き、僕を飲み込もうとするように思えたからだ。
そして、多分、それが、すべての始まりだった。

                       ここまで
748名無しさん@ピンキー:2009/03/15(日) 23:13:22 ID:i1vvK6F6
>>747
GJ!
今後の展開が楽しみです
749名無しさん@ピンキー:2009/03/16(月) 00:22:53 ID:Ax4ySSVf
日曜の夜なのに先が気になって眠れないじゃないか
750名無しさん@ピンキー:2009/03/16(月) 01:52:00 ID:9dFHs8Ow
ゲーパロ氏と言えばまとめサイトにある「プレゼントは……」もこのスレ向きだな
751名無しさん@ピンキー:2009/03/16(月) 02:27:03 ID:NCFzPmC3
GJ!
童貞描写が妙にリアルでいいね
752名無しさん@ピンキー:2009/03/16(月) 11:06:27 ID:0lo0EqQ1
>>747
まさかここでゲーパロ氏を見かけるとかは思わなかったw
続きを激しく期待
753名無しさん@ピンキー:2009/03/16(月) 20:29:37 ID:rErQswyo
流石に仕事場全員の男と寝たことのある女とマジに付き合うのはキツいだろうなw
いろんな意味で
754腹黒ビッチ 2章(前) 1:2009/03/18(水) 03:33:33 ID:mf3OzW4s
こんなに反応貰えたの初めてで、嬉しさの余り続きを書いてしまった
あれでぶん投げて終わるつもりだったんだけどなw
いつか有華視点も書くから、一途なとこはそのときどっさりネタバレします

というわけで今回も克哉視点の前後編です






 午前は授業が無かったので、サークルの部室で数人とテスト勉強をしてから学
部棟に向かった。学部の掲示板の前に、人が集まっている。集まりすぎて、近づ
けない。
「おいそこのでかいの、ちょっと見てくんねー?」
「身も心も小市民達が偉そうに。……ちょっと待ってろ」
 高校からさらに三センチ身長を伸ばしても、いまいちプラスになったことがない
それが、珍しく利用されるこんな時くらいと言うのが悲しい。
「んー、あー、ゼミの選考結果か」
「俺どこ出したか覚えてないわ。俺何になってる?」
「悪いけど、名前小さすぎて読めない」
「克哉、そのメガネは伊達か。根性で読め」
「無茶言うな、お前こそ裸眼2.0だろうが」
 後ろでそんな風に騒いでるからか、掲示板前からだんだんと人がいなくなってい
く。ぞろぞろと数人連れ立って掲示板の前に立つ。
「里中と達吉は磯矢ゼミだな」
「第一通ったよっしゃー」
「マジで?てか俺磯矢んとこ出してたっけ」
「あー、田中ゼミと大倉ゼミはは俺らの中じゃ誰もいないみたいだな。あ、神田と克
哉とエイジが和田ゼミか」
「女子いねーの、女子」
「えーっとー、あ、女子は磯矢に集中してんな」
「いよっしゃああ!」
「華があるぞー!」
「お、別所さんが和田ゼミだぞ、克哉」
 別所さんと言うのは二年で一番有名な可愛い女の子で、去年のミスキャンだ。
「そういえば克哉、別所さんと最近どうよ」
「どうよって言われても、まあ、遊んだりは何回かしてるけど」
「うおおおおお別所さんがなんで克哉みたいな奴に!確かに雰囲気イケメンだけど
超シャイボーイなのに!」
「うるさい!シャイボーイって言うな!」
「てか、克哉が和田ゼミってのが意外だよなー」
「あー、親父が最近うるさいんだよ」
 振りではなく、心の底からうんざりした声が出た。そう、最近父親がとみにうるさい
のだ。全然期待をかけていなかった次男が、ひょんなことでそれなりの大学の法学
部に受かってしまったのだ。兄がいるってのに、どうせなら保険にと俺にまで弁護士
になれと言いだした。
「正直言って面倒臭い。和田ゼミきついって有名だし……」
「まあまあ。これから別所さんとバラ色の大学生活が送れると思えばいいじゃねーか」
「そうだぞ、他には目ぼしい女子いないけど、別所さんがいるんなら万々歳だろ」
「キャワイイよなー、別所さん……」
「あ、女子もう一人いるぞ。斎藤さんも和田ゼミだ」
755腹黒ビッチ 2章(前) 2:2009/03/18(水) 03:38:13 ID:mf3OzW4s
 斎藤、という名前に一瞬体を強張らせてしまう。が、誰もそんな俺には気付
かなかった。斎藤さんという名前に大きく反応したのは、俺だけじゃなかった
からだ。
「うおおおお、和田ゼミに法学の二大美女が揃ってんのかよ!挟まれてゼミ
受けたい!『阿部君と一緒に一緒にレポートしたいな』なんて別所さんに言わ
れたい!『しっかり聞かかないとお仕置きよ』なんて斎藤さんに冷たくあしらわ
れたい!!」
 ヒャッホーと、まだ新学期どころかテストも終わってないのに、栄治が一人
で興奮している。いつも一人でいる有華は、俺と付き合っていた頃とはまるで
真逆のイメージを持たれているようだった。
「一瞬磯矢ゼミ行けばよかったと思ったけど、別所さんと斎藤さんがいればト
ントンだなーいよっしゃー」
「お前いい加減に落ち着けよ……」
 そろそろ周りが邪魔そうに俺達を見ている。里中が行こうぜと言うので、俺達
は掲示板を離れようとした。
 が、振り返るとそこに、斎藤有華その人が立っていた。
「あ……斎藤さん」
 呟いたのは、今まで興奮していた栄治。だけど有華はにこりともせずに掲示
板を見た。
「掲示板、見てもいい?」
「ご、ごめん!今どきます!」
 さささっと大げさな動きでそこをどくと、栄治は俺達の方に駆け寄った。有華は
もう栄治には興味がないらしく、掲示板の文字を追っている。
 掲示板を見る有華は染めてもいない黒髪を横で纏めて、いかにもお嬢様風の
女子大生だった。そのしゃんとした姿勢のいい立ち姿を、今まで騒がしかった俺
達もその場にいた学生も、みんな見ている。視線を感じているのかどうか、有華
は気にした風でもなく、自分の名前を確認すると、掲示板の前をさっさとどいた。
 有華は次の授業に向かうらしく、真っ直ぐ、わき目も振らずに歩いていく。少し
意気をそがれた俺達も、なんとなくぞろぞろと歩きだした。

「斎藤さんって、なんかかっこいいよなー」
 大学に入った当初、友人たちはそんなことを口々に言っていた。大学に入って
から俺の世界はますます広がり、有華は確かに明るくて可愛かったが、他にも
可愛い子がザラにいるんだと知った。それでも有華が世間でいえば上等な部類
の女だという事実に変わりはない。腹が立ったので、金さえ払えばヤれる女だと
話してやったら、信じたのかどうかは知らないがさらに誰も気軽には近寄らなく
なった。軽そうな男が何人か話しかけているのを見たことがあるが、有華が相手
にしていたかどうかは知らない。
「大した美人でもないくせに、お高く止まってるのよ」
 女は有華をそう評する。誰もまともに相手にせず、一人の世界に没頭している
有華を、男の前ではまるで蔑みの対象のように扱う。大学の構内で時々見かけ
る時の有華は、いつも何か本を携えていた。まるで以前の、暗くてダサい俺のよ
うだった。ただ、元がいいからマシかもしれないが。が、そのせいで根も葉もない
噂が駆け巡るようにもなっていた。お水で働いてるとか、援助交際をしてるとか、
同年代の男は相手にしないで年上と付き合っているんだとか。それらの噂を聞い
ているはずの有華だが、学校では何も反論したりすることもなく、静かに過ごして
いる。
756腹黒ビッチ 2章(前) 3:2009/03/18(水) 03:40:53 ID:mf3OzW4s
 後期最後の授業だった。いつも通り友人たちと、大教室の後ろを陣取る。サーク
ルの女も数人来たりもして周り一帯が華やかだった。買わされて以来開きもしない
教科書をルーズリーフと並べておいて、惰性でペンを持ちつつやっているのは雑談。
いわゆる、楽に単位が取れる授業という奴だった。
 上からは教室全体が見渡せる。寝てるのも携帯をいじってるのも、いくらでもいた。
真面目に授業を取っている方が珍しい。有華は、そんな珍しい学生の一人だ。
「何が楽しくて学校来てんのかな」
と、うちの大学に来た割には馬鹿なことを言う女には少し呆れた。まさに有華を見て
いれば分かるだろう。お勉強のため、ただそれだけだ。受験から解放されたら遊ぶこ
としか考えていない部類の女子には、到底分からないかもしれないが。
 有華は、大学に入ってからずっと一人で過ごしているようだった。高校最後の数か
月もそうだった。俺が有華とのことを友人たちに言えば、みんなこぞって有華を責め
た。有華は孤立した。クラスの女子も遠巻きに、有華の悪口を言っているようだった。
 有華と同じ大学なんて行きたくないとも思ったけど、自分の目指せる偏差値の中で
は一番いい大学だったし、国立だからネームバリューもあった。それに、今更有華の
ために進路を変えるのも癪だった。有華はあんな事があってもやはり要領と度胸は
あるらしく、成績を落とすことはなかった。それどころか最後まで教師に東大を受けて
くれとうったえられるような余力さえ残して、有華は余裕で受験を終えていた。私立す
ら一個も受けなかったらしい。不安がった母親にやたらめったら受けさせられた俺と
は全く正反対だった。
 そもそも俺と有華は、大学では話したことがない。高校では顔を合わさなければなら
なかったし、狭い空間の中、嫌でも毎日有華の気配を感じなければいけなかった。だ
が大学と言う所は不思議なもので、意識しなければ同じ空間にいることすら分からな
いような、希薄な関係しか存在しない。

 まるで、あの一年が夢のようだ。



 レポートやらテストやらに追われるさなか。次のテストに備え、学食で数人とたまって
いた。
「あ、一宮君、神田君!」
 明るい声に話しかけられ頭を上げるとそこには、今代のミスキャンパス・別所愛美が
いた。
「丁度良かった、探してたの」
「何かあった?」
「うん、春休みに入る前に学生全員と話しておきたいから、暇な時間に和田先生の部屋
に行ってくれって。今週中なら毎日いるらしいから」
「そっか、ありがと」
「葉山君にも伝えておいてくれるかな」
「分かった」
 屈託なく笑う別所さんは、いつもにこにこと笑っていた昔の有華に重なる。どちらかとい
うと愛らしい顔立ちの別所さんと、綺麗どころといった感じの有華とは対照的に見える。
だけどどちらも俺に愛想が良くて、そして世間一般に言えば美人だと言うことは一緒だっ
た。有華とのことがあって女性不審気味で、しかも美人と言うこともあって別所さんには
一歩引いてしまう。
「今のところ、テストどんな感じ?」
 そんな引け腰の俺にかまわず、別所さんはこうして交流を持とうとしてくる。
「ん……まあ、単位は大丈夫ってくらいかな」
「和田先生の面接パスするくらいなんだから、一宮君の大丈夫はとってもいいってことね」
「それって別所さんにも言えない?」
「私はすっごくがんばったもん」
 別所さんは、魅力的な唇をにっこりと釣り上げる。その姿はまるで大輪の花を思わせた。
「ああ、そういえば和田先生の伝達って、図書館で斎藤さんに教えてもらったんだけど、」
 と、別所さんは付け足す。
「あの人、噂には聞いてたけど本当にすごいみたいね」
「噂?」
757腹黒ビッチ 2章(前) 4:2009/03/18(水) 03:43:30 ID:mf3OzW4s
 学内に出回っている有華に関する噂で、男とか遊んでるとか以外のものを初めて聞いた気
がする。驚いて、つい先を促してしまった。
「うん、一年の時から和田ゼミに顔出してるらしいの。ヤル気ありすぎよね。三年で取るはず
の授業のテスト勉強してたわ斎藤さんだけは、最初から和田ゼミに内定してたらしいわよ」
 和田ゼミは、俺達の大学の中でも屈指の司法試験予備校として有名なゼミだった。和田教
授もその気のある学生しかとらず、またその選抜も厳しいことで知られていた。
「ま、他人は気にせず、とりあえず単位とっちゃわないと。じゃあ、またデート行こうね、一宮
君」
 軽い口調でそう言うと、別所さんはブーツの踵を鳴らしながら颯爽と去って行った。その後
ろ姿をぼんやりと見送り、ふと視線を感じて振り返る。
「克哉、お前いつの間にか別所さんと親密になってないか」
「なに、またデート行こうねって。俺達の前で堂々と言うくらいだから、もしかしてお前ものすご
いアピールされてんじゃねーか」
「うおおおお!俺は単位とれるかどうかでひーひー言ってんのに、なんで克哉ばっかおいしい
思いしてんの?何だこの格差社会」
「……なんか慣れてる感じがして、俺は引いちゃうんだけどなぁ」
「もったいなさすぎるだろ!用意された据え膳を食わない男は今すぐ去勢しろー!!」
「ちくしょうっ、克哉なんて本当はエロゲでシコシコしてるくせに……!何があっても新作チェッ
クは忘れないエロゲマニアのくせに……!」
「外では小説とか読んでインテリぶってるけど、ブックカバーの下がフ●ンス書院なこと俺達は
知ってんだぞ!」
「お前ら今すぐ黙らねーと、この間話してた学園モノ貸さんぞ」
 シーン。一転、四人掛けのテーブルに響くのは、カリカリとシャーペンが紙を滑る音だけだった。

 三コマ目が専門のテストだと言うこともあって、午前中からずっと学食に居座り続けた。それか
らぞろぞろ連れ立って、最後まで教科書を読みながら法学部棟に向かう。その途中の図書館か
ら、背筋をぴんと伸ばして何かを読んでいる有華が出てくるのを見た。小さなハンドブックのよう
で、今から同じテストを受けに行く俺達の教科書とは明らかに違う。濃い青のストールで髪も一
緒に包みこんでいる有華の姿は、没頭しているのもあってかなんだか孤高の人のように見える
のだった。
 意識したわけではないが、そんな有華の後ろをついて行くような形になってしまった。それなり
に俺達は喋りながら歩いているのに、有華が気付いている様子はない。有華はイヤホンをしても
いないのに、集中しているのか何も聞こえないようだった。
 学内では、この曜日しかほとんどすれ違うこともない有華。それが、四月からは同じゼミでまた
クラスメイトだったころと同じ、近い場所で授業を受けることになる。
 嫌な予感がした。ざわりとした何かが、俺の中で暴れ始めている。こんな風に突き放したような
距離で、やっと自分を保てているのに。また少しでも近くなれば、正気でいられなくなるかもしれ
ない。そんな恐れが、どうしても消えなかった。
「(……悪循環だな)」
 俺は結局、有華の呪縛から逃れられない。
758腹黒ビッチ 2章(前) 5:2009/03/18(水) 03:48:16 ID:mf3OzW4s
 有華と見た海を、何度も夢に見る。
 海なら何度も行った。夏だって、冬だって。だけど目の前に浮かぶのはいつも、海風
の吹きすさぶ、あの春の海だった。
 海岸線を、歩けるだけ歩いた。有華と俺の指が、絡まるように繋がっていた。ただ明る
いだけに見えていた有華の笑みに、少しの柔らかさを見た。つられて俺の顔の筋肉も
弛緩してしまうようなあたたかさ。そして対照的な、指の冷たさ。全てが、まだそのまま
手の中に残っている。

 視覚が、聴覚が、ゆっくりとフェードアウトしていく。自然と瞼が上がって行く。現れる
のは、見覚えある天井。夢が夢だったと気付くのは簡単だった。
 感情は、有華を見るたびいつも荒れ狂う。だけどこの夢を見る時だけは不思議と凪い
だ。波の音と共に洗い流される様々なもの。そうして何も無くなった時だけ、俺は安らぐ
ことができるのだ。
 右手で顔を覆う。また眼を閉じる。が、眠気すらも全て無くなってしまっていた。それで
も余韻を味わう様に、しばらく何もする気が起きなかった。こうして横たわっていると、目
が覚めているのに、波に乗っているようにゆらゆらと心地がいい。呼吸をするのも忘れ
るくらい、自分が無に近いのを感じていた。
 少しずつ思考が戻ってくる。朝。日差しが強い。晴れか?ああ、そうだ。今日はガイダ
ンスがあったはず。
 ゆっくりと起き上がる。時計を見る。十二時前。
「……行かないと」
 悠長な口調だが、実際は遅刻ギリギリだ。だけどそんな気になれない。あの夢を見る
時は、いつもそうだった。
759腹黒ビッチ 2章(前) 6:2009/03/18(水) 03:48:37 ID:mf3OzW4s

 成績通知書は、とりあえず全部の単位が取得できていることと、教養の授業を取り終
えたことを教えてくれた。専門の二つほどC(可)の評価を見つけて、これが二年前期じゃ
なくて本当に良かったと胸をなでおろした。学務課でそれを受取って、その足で学部棟に
向かう。ゼミの顔合わせのために。
 ホワイトボードを正面に、コの字型に並べられた机とイス。少し寝坊をした俺はギリギ
リだった。既にそのほとんどが埋められていて、どこに座ろうかよりどこなら空いてるか、
座るのにマシかを優先的に考えるしかなかった。栄治と神田は既に二人で座っている。
どこがいいか思案していると、ひらひらと手を振られる。別所さんだ。
「ここ空いてるよ、一宮君」
 何気ないような口調だけど、やってることは大胆だ。女子が三人しかいないのに、かた
まる気はさらさら無いらしい。全員に聞こえるように言われては、断るのも悪い。選択の
余地もなく、渋々といった表情は隠して、別所さんの隣に座った。
「駆け込みね」
「ん、寝坊した」
「成績取りに行けた?」
「ギリギリ間に合ったよ」
「よかったね」
 言っているうちに和田教授がやってきた。いかにも厳しそうにしかめっつらなのはいつも
のことだが、学生に厳しいのは本当のことなので、囁き程度にも会話があった教室内は
しんと静まり返った。
「揃ったかな。じゃあはじめる……」
「すいません!」
 ガチャリ、と教授の声が遮られ、ソプラノが割って入る。急いで来たようでおでこを丸出
しに肩を張る、有華だった。
「遅れて、すいません」
「……まだ始まっていない。早く席に着きなさい」
「はい」
 はぁはぁと息の荒い口元を隠しながら、斎藤有華はすぐ傍の最前列にさっさと腰を下ろ
した。遅れてカバンからガサガサと物を出す音。それらを横目でさっと見つつ、和田教授
が話し始めた。
「えー、民法ゼミ担当の和田慶一郎です。よろしく」
 愛想笑いの一つも漏らさない教授は、まず抑揚の少ない話し方で周りを圧倒した。
「このゼミを取る人は、おそらくほとんどが司法試験を目指す生徒だと思う。そういう風に
シラバスにも書いてあるはずだ。途中でリタイヤするのは勝手だが、その場合はすぐに
このゼミを抜けるように。邪魔だ」
 睨みつけるでもないのに、ピリピリした空気が教室内を包んでいく。
「じゃあ、全員シラバス開けて」
 その言葉に、ほとんど全員が固まる。シラバスなんてクソ重いモン、誰が持ってくるん
だ。思わず隣を見ると、別所さんはなんと持ってきていた。口でパクパクと見せてと伝え
ると、にっこりと彼女は笑った。が、隣の栄治も神田も持ってきていないらしい。ふと見渡
すと、持ってきているのは別所さんと有華だけだ。それを知っているのか知らないのか、
教授は勝手に話を進めていく。一年の予定をさらっと流すように言っていくが、そこに交
流的なものの説明が何もないのが気になる。淡々と説明を終えた後、付け加えるように
教授が言った。
「というわけで来週から授業に入るから教科書は買っておいてくれ。それと今日はこれか
ら新歓コンパなんかがあるらしいが、ゼミのイベントには私は一切関知しない。先輩達と
話し合って勝手にやっててくれ。あと、君たちの学年の代表が決まったら知らせに来るこ
と。以上」
 勝手に話を進め、勝手に終わらせ、そして教授は去って行った。聞いていた以上に、厳
しいというか学生に関心のない教授だ。これのどこが司法試験の合格率は学内随一なん
だと少し不安になった。
760腹黒ビッチ 2章(前):2009/03/18(水) 03:51:59 ID:mf3OzW4s
以上、投下終了。展開遅くてスマソ
後編はいつになるかわかんないけど、金曜休みだしやれるだけやってみる
次は「有華の秘密バイト編」です
761名無しさん@ピンキー:2009/03/18(水) 10:31:12 ID:rLZEz0y+
すごく…(期待が)おおきいです…
762名無しさん@ピンキー:2009/03/18(水) 16:22:39 ID:UXPYJf9E
つまんね
763名無しさん@ピンキー:2009/03/18(水) 16:41:55 ID:WfMjXd1C
おもしれ
764名無しさん@ピンキー:2009/03/18(水) 18:51:48 ID:Q0GCtgLZ
乙です
続きktkr、次も楽しみにしています
765名無しさん@ピンキー:2009/03/19(木) 01:20:38 ID:CZQpFEcY
乙…だけど、今って弁護士になるには大学院行かないといけないんじゃ…
先輩と友達がひいひい言ってるから。
先輩は「司法試験7割受かると聞いてたのに!」と半ばキレ気味に。
友達は「院いけるかわからん」と。
766名無しさん@ピンキー:2009/03/19(木) 02:07:35 ID:2YtZT39u
別所ちゃんと修羅場になりそうな悪寒
767名無しさん@ピンキー:2009/03/19(木) 02:21:04 ID:Sp7cYEfd
わっふるわっふる
768ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/19(木) 06:56:23 ID:PBWLJGHP
<国見クンの初恋>・2

「えへへ。やっぱり、来ましたね!」
昨日の夕方に来たメールどおりに、櫛田さんは駅前のカフェで待っていた。
カウンターの上には、ミルクティーと、カバー付の文庫本。
白いブラウスは、会社で着ているのとはちがうけれど、簡素で清潔なのは変わらない。
それは、紺色のスカートと、おとなしめのアクセサリーやバッグといっしょに、
「櫛田さんらしい」格好だった。
……「櫛田さんらしい」?
僕は、自分の頭の中に浮かんだ言葉に、自分で詰った。

──何が、どんなことが、「櫛田さんらしい」ということなのだろう。

火曜日の夜にあんなことがあって、三日間、
櫛田さんは、いつもの櫛田さんだった。
真面目で、明るくて、気配りが利いて──。
僕と目が会うと、何の邪気もない笑顔で会釈をする櫛田さんに、
(あの夜のことは、きっと酔っ払った僕の妄想だ)
金曜日の午後には、そう確信することが出来るくらいに、
櫛田さんは、いつもの櫛田さんだった。
──午後五時に、メールが来るまでは。

「明日の土曜日、午前10時。
××駅前の<カフェ・ファンタスティックス>で待ってます。
P.S.今晩はオ○ニーは控えてくださいね!」

最後の行を目にした僕は、火曜日のあれは、夢ではなく、
──悪夢だったことを思い知った。
769ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/19(木) 06:56:53 ID:PBWLJGHP
「じゃ、行きましょうか」
櫛田さんは、にっこりと笑って立ち上がった。
「あ、いや。来たばっかりだし……」
店に入ったけど、まだ注文もしていない。
さっき「いらっしゃいませ」の声をかけた店員が、
こっちのほうを見ているような気がして、僕はあたふたした。
こんな時なのに、いや、こんな時だからだろうか、
なぜかどうでもいいことが気になる。
それは、きっと、物事を先延ばしにしたいという本能だろう。
小さなややこしいことにかまける振りをして、
もっと厄介で大きなことから目を背ける──。
それは、僕の悪い癖。
分かっている。
分かっているけど──。
「……大丈夫ですよ。そんなこと気にしなくても。
時間ももったいないですし」
櫛田さんが、くすりと笑ってそれを吹き飛ばす。
こんな時でなければ、それは嬉しいことなのだろうが、
僕はそれを、そう捉えることもできず、馬鹿のように立ち尽くした。
「……うふふ」
櫛田さんは、目を細めてまた笑い、
そして立ち上がって僕の手を取った。
「行きましょ、主任」
「えっ……あっ……ええっ?!」
ぎゅっ。
僕の手を取った動作のそのまま、櫛田さんは、それを自分にひきつけ、
ブラウスを大きく盛り上げている胸のふくらみに押し当てた。
柔らかさと、弾力と、体温と。
それを感じると同時に、僕は、櫛田さんに操られるように
彼女に歩調を合わせて歩き出していた。
770ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/19(木) 06:57:39 ID:PBWLJGHP
「んー。こっちです、こっち」
駅前から、三分の路地。
繁華街と風俗街を併せ持つ街は、そこにラブホテル通りを持っていた。
僕と同じか、もっと若い男女が横をすれ違い、
いかにも風俗嬢といった感じの女性が携帯を片手に足早に追い越して行く。
「ちょうど、今の時間が部屋の入れ替え時なんですよねー。
お泊りカップルが帰って、部屋のお掃除が終わるんです。
あ、ここにしましょう!」
櫛田さんは、腕ごと抱え込んだ僕の手に、さらに大きな胸を押し付け、
身体ごと押すようにして、僕をラブホテルの一軒に誘った。
入り口。
「んー。狭い部屋しか開いてないなー。まあ、いっか。安いし!」
ちょっと残念そうにつぶやいてから慣れた手つきでパネルを押して部屋を決める。
「あ、ワリカンでいいですか?」
曇りガラスで目隠しされている窓口の前で振り返る。
「あ、いや。出すよ」
慌てて財布を取り出す。
「いえ、半分だけでいいです」
もたつきながら紙幣を取り出した僕の指先から五千円札だけを抜き取り、
代わりに二千円と四百円を握らせる。
「あ、ちょ……」
返そうとする間もなく、窓口で支払いを済ませた櫛田さんは、
僕の腕に抱きつくと、エレベータの前まで引っ張っていった。
「く、くし……」
「しーっ。こんなトコで名前呼ばれるのは、ちょっと恥ずかしいです」
「あ……」
僕は、自分の失敗を悟って、真っ赤になった。
「ご、ごめ……」
「いいです。あ、エレベーター来ましたね。203号室だから2階です」
そして、僕は、彼女に謝る暇もなく、エレベーターに乗り込んだ。
771ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/19(木) 06:58:10 ID:PBWLJGHP
「やっぱり狭いですねー」
「そ、そうなの……か?」
はじめて入るラブホテルの部屋。
僕にとって広いか狭いかの判断は付かない。
「んー。ここ、高いお部屋はとってもいいんですけど、
安いお部屋だと狭くて不便なんですよー。水周りはいいんですけど」
「ほ、他の部屋に入ったこと……あるの?」
「ありますよー」
あっさりと答えられる。
「だ……」
誰と? と聞こうとして、さすがに思いとどまった。
「んふふー。気になりますか?」
「え……」
櫛田さんが、眼鏡の縁を持って直しながら、こっちを見詰めていた。
「そ、そりゃ……」
「んんー。ここは、全室制覇したかな?
大学のときによく通いました。
その頃、奥さんいる人ともお付き合いしてたので」
「それって……」
不倫? という単語が頭をかすめる。
「あ、学校に彼氏はちゃんと居ましたよ?
既彼のことバレて別れちゃいましたけど」
あっけらかんと続ける。
キカレってなんだ?
「あの頃はちょっとローテきつかったかなー?
彼氏がけっこう敏感で、アパートで他の男の子とできなかったし」
ローテ?
ローテーションのことかな?
不意に「あなたの知らない世界」に突き落とされて、僕は戸惑った。
そんな僕を見て、櫛田さんがまた笑う。
772ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/19(木) 06:58:40 ID:PBWLJGHP
「うふふ。――じゃ、はじめちゃいましょうか。
主任の、童貞クン、ソーシツ!」
「え、ちょっ……!!」
「えーい、世界を取った胴タックル〜!」
かわいい声とともに、櫛田さんが僕のお腹の辺りに抱きついてきた。
いきなりのことにバランスを崩した僕は、
後ろのベッドに櫛田さんごと倒れこんだ。
「……!」
胸元に、櫛田さんの顔がある。
甘い、爽やかな匂い。
髪の匂い。
薄いお化粧の匂い。
デオドラントの匂い。
こんな間近でかいだことのない、女の人の匂い。
肺の中が、未知の、そしてかぐわしい空気でいっぱいになる。
それは、酸素に溶け込んで、僕の頭の中をくらくらさせた。
喘ぐように深呼吸をしようとすると――。
「んふふ。ドーテーくさぁ〜い」
櫛田さんが、先に深呼吸して、言った。
「え……」
「主任、男の子の匂い、ぷんぷんですよぉ〜」
「え、あ……」
頭と頬に、猛烈な勢いで血が上り、世界記録モノのスピードで僕は真っ赤になった。
「私、けっこう鼻が利くんです。
前から、主任のこと、ドーテーくさいなーって思ってました」
「……い、いや、ちょ……。そ、そんな匂いなんてあるの、か?」
「ありますよ〜。夕方なんか、男の子の匂いが、もうぷんぷんっ。
私、くらくらきちゃうくらいです」
「……」
「えへ。でも、これ、けっこう好きな匂いです」
773ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/19(木) 06:59:11 ID:PBWLJGHP
予想もしなかった会話に、僕が半ば呆然している間に、
櫛田さんは、手早く僕のシャツのボタンを外し始めていた。
「ちょ、ちょっと待って。シャワーを……」
そうだ。
こういう時は、シャワーを浴びる。
ラブホテルにはそういう施設もちゃんとあって、
カップルは、セックスの前にお風呂に入って身を清めるのだ。
本とTVドラマとインターネットで得た知識が、
匂いのことが話題に上ったことで記憶の淵から蘇ってきた。
「んん? このままでいいですよ?」
「だ、だって……」
「うふふ、主任、朝、お風呂に入ってきたんでしょ?」
「え……、あ、うん」
昨日の夜から、風呂と歯磨きは一時間置きだ。
「じゃあ、大丈夫です。私も出がけにシャワー浴びてきましたから。
このまま、セックスしちゃって、全然大丈夫。
――主任の匂い、嫌いじゃないですから。むしろ好きなほう、かな?」
「え……」
これも想像の範疇を超えることば。
どきりとしたのは、不意打ちのせいだけじゃない。
「うふふ、じゃ、主任のおち×ちん、見せてくださいね」
あっ、と言う間もない。
ズボンとパンツを一緒に脱がされて──。
「わあ〜! やっぱり、主任、仮性さんだあ〜!」
櫛田さんの、はしゃいだような大きな笑い声。
「えっ、あっ……」
恥ずかしい、という気持ちは、どうしてこんなに素早く頭と心臓を締め付けるんだろう。
目を逸らそうとする。
その僕の顔の上に、櫛田さんの顔が迫って、キスされた。
774ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/19(木) 06:59:44 ID:PBWLJGHP
「うふふ、恥ずかしがることないですよ〜。
仮性包茎の男の人、けっこう多いですから」
「そ、そんな……」
「うん、私の知ってる人の半分以上、おち×ちんが包茎かな?」
何かを思い出すように小首を傾げる仕草をした櫛田さんは、
やっぱりあっけらんかんと言った。
何か、ぞわぞわするものが僕の背骨のあたりを這いずり回る。
それは、嫌悪?
気後れ?
それとも──。
「あはっ、主任のおち×ちん、すごいヤル気満々ですね!」
僕のその強張りを手にした櫛田さんは、目を細めた。
黒縁の眼鏡の奥の瞳がキラキラする。
「そ、そんなこと……ないよ……」
なんでそう言ったのか、よくわからない。
「嘘ですねー。だって、主任、――あの夜からオ○ニーしてないでしょ?」
「えっ……」
「うふふ、図星ですね! だって、お風呂に入ってきたのに、主任のここ、
先走りのおつゆがもう垂れてます。精子の匂いがダダ漏れですよ〜」
「う、うそ……」
自慰をしていないのは、当りだった。
今朝なんか、身体の中に精液が溜まって血液の代わりに流れているんじゃないかと思うくらいだった。
でも、それを相手から指摘されると──。
「うふふ、主任、「今日、童貞捨てられる!」って、期待してきたんでしょ? わっかりやすいなあ」
「!!」
「そりゃ、はじめてのセックスですもん、
せっかくだから思いっきりザーメン溜めて出したいですよね?
うふふ、童貞クンって、みんな同じですねー」
屈託のない笑顔。
また、背筋にぞわりとくる、感覚。
「あの……」
「はい?」
僕の性器を手にする櫛田さん。
清楚なブラウスは、もうはだけられていて、
中の薄いグリーンのブラジャーさえ見える。
非日常的な光景。
それがあまりにも僕にとって非現実的な眺めだったから、
僕は、そんなことが言えたのかもしれない。
「なんで、こんなに簡単にセックスするの?」
「え……。んー。好きだからかな。――セックスが」
問いは、簡単に、本当に簡単に返事された。
そして、僕は、反射的にもがいて、ベッドの上から開放された。
「あ……主任?」
「ごめんっ! 本当にごめんっ!!」
何に謝るのかわからないまま、僕はズボンを履き、
そして、驚いてこっちを見詰めているだけの櫛田さんを残して、
──部屋から逃げ出した。


ここまで
775名無しさん@ピンキー:2009/03/19(木) 09:35:59 ID:JE9WlVTE
gj
これから櫛田さんがどうデレてくのか楽しみです
776名無しさん@ピンキー:2009/03/19(木) 12:07:00 ID:aX0k4WCP
GJ
性に対する二人の考え方に、ハッキリとした溝があるのな
これからどうやって、その溝を埋めていくのか気になりました
777名無しさん@ピンキー:2009/03/19(木) 19:47:24 ID:2tOv+Gox
GJ
ゲーパロ氏すげぇな
778名無しさん@ピンキー:2009/03/19(木) 22:21:01 ID:cWWav8K3
GJ
やっちゃうのか?と心配になってしまったがこういう展開で良かったです。
779名無しさん@ピンキー:2009/03/20(金) 00:04:41 ID:6ny4Yxh8
大学って、遊ぶ所じゃ無かったのか…。
780名無しさん@ピンキー:2009/03/20(金) 07:17:47 ID:WIpMYi37
>>760
つまんね 
>>768
GJ
以上でした。
781名無しさん@ピンキー:2009/03/20(金) 08:03:38 ID:EcLXVwaY
こんなビッチに童貞奪われるくらいなら風俗で捨ててこい!

翌日、女が、
「昨夜はすいませんでした。主任が仮性包茎のこと、そんなに気にしてたなんて、知らなかったんです」
とか言い出したら爆笑だ。
782名無しさん@ピンキー:2009/03/20(金) 10:30:04 ID:3hpU7073
ガチでビッチが相手では、
逃げ腰の童貞だと決着が早そうだ。
完全に心を許してなのか、それとも強引に食われるのか
783名無しさん@ピンキー:2009/03/20(金) 22:16:39 ID:e+hTHDOj
ゲーパロ氏大好きだ
784ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/21(土) 02:08:30 ID:fXkGRDo+
<国見クンの初恋>・3

一週間。
僕の睡眠時間は、このところ、普段の半分だった。
仕事が忙しい――わけではない。
四月に入って、昨年度の事務を〆て整理するのと、
新年度はじめの色々をやるのは、それはそれで忙しいけど、
今年は自分が異動するのではないので、まあ、別に大したことはない。
にも関わらず、僕の目の下のくまが色濃くなったのは、
やっぱり、この間の土曜の、あれ、だ。

櫛田さん。

斜め向いの席の女性を、目の端で追ってしまう。
そのくせ、それが視界に入ろうものなら、
強い光を見たときのような痛みを覚えて、あわてて目を逸らす。
櫛田さんとは、あれから、仕事以外の会話をしていない。
朝晩の挨拶を含めて、一日に五回も事務的な指示をすれば、
彼女とはそれ以上触れないで済む。
――もともと、彼女とはそんな関係だったのだ。
そう言い聞かせて、僕は、お茶をがぶ飲みしようとして、
カップが空っぽなことに気がついた。
「はい」
不意に缶コーヒーが渡される。
「え?」
「部長から。3時のおやつ代わりだそうです」
修羅場の時期は、たまに上司がそんなことをする職場だ。
夕方に牛丼でも差し入れてくれたほうがありがたいが、
このご時勢、そんな企業文化を持ってるだけでも上等なのかもしれない。
僕は、我ながらギクシャクしながらそれを受け取った。
785ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/21(土) 02:09:01 ID:fXkGRDo+
「――あのさ」
「あ?」
「いや、なんでもない……」
「そうか。――で、な。最近はやっぱり地下メシだな。
昭和からあるようなデカいビルあるだろ。ああいうとこの地下のメシ屋が安くて旨い」
「それって年取ったんじゃないの?」
「胃袋は若いぞ。こないだポンドステーキを2枚食べた」
「それは……すごいな」
ぼんやりと受け答えする。
相手は、同期の渡来(わたらい)だ。
同い年の中でも不思議と気が合い、会社の中で僕がタメ口を叩ける数少ない相手。
帰りがけに、玄関ホールで会ったついでに久しぶりに夕飯を食べることになった。
というよりも、渡来のほうから強引に誘われた。
うまい店を見つけたから行こうぜ、だ。
たしかにこいつのお奨めの店は、安くて旨い。
味付けがこってり系で量が多いのが難点だけど。
「あのさ――」
「なんだよ」
「いや……」
何度も言いかけて、何度も途中でやめる。
言いたいのは、聞きたいのは――櫛田さんの話。
渡会は、入社当時の櫛田さんといっしょの部署に居たことがあるはずだ。
その後、僕の部署に来る前にもう一つ移ったけど、
<人事マフィア>を自認する渡来は色んな事を知っているはずだ。
僕が、寝不足でもたれている胃袋を抱えて、
99センチソーセージとか、フライパン丸ごと餃子とかが名物の
無国籍居酒屋についてきたのは、それを期待してのことだ。
――多分。
……あるいは、そうじゃないのかも。
786ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/21(土) 02:09:32 ID:fXkGRDo+
「ひょっとして、あれだ。――櫛田女史のことか?」
99センチソーセージを70センチくらい平らげてから、渡会が言った。
図星。
いや、誰でもわかるか。
「ん。ああ、そう……だね」
「やめとけ。もう寝ちまったか?」
ジンジャーエールをがぶりとやっての、あっさりとした忠告。
毎回思うんだけど、辛口の瓶入りのやつをがぶ飲みできるのは一種の才能だ。
「いや……」
「彼女、不思議と問題は起こしてないが、あいさつ代わりにアレしちゃう系だぞ」
「有名なのか?」
「ん。だな。同じ部署の男はたいてい喰っちまうらしい」
「……お前もか?」
「まさか。仕事仲間とそういう関係になれる感覚がわからないねえ。
会社は金を稼ぐところだぜ。それ以外のものを期待するところじゃないんじゃないの?
しがらみ多いとがんじがらめになるぜ?」
「僕とこうして飲んでるのは、しがらみじゃないのか?」
「――旨い店に付き合ってくれる奴は、しがらみじゃないな」
人事畑一本の総務男は、フライパンにぎっしり詰って出てくる福島餃子をあらかた胃に収めてから返答した。
中身は野菜オンリーとは言え、すさまじい。
「まあ、なんだ。誘われてるなら、断っておけ。
――お前が好きになれそうなタイプとは違うんじゃないかね」
「そうか」
「結構、そういうところ潔癖だろ、お前?」
「……だよね」
「セックスの価値観が違ったら、やっていけないぜ、普通」
「……だ、よね」
「お前のところの親御さんだって、許さないだろ。――ああいう娘は」
「……だ、よ…ね……」
突然、忘れかけていたものを指摘されて、僕はあわててコーラをがぶ飲みして、むせた。
787ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/21(土) 02:10:17 ID:fXkGRDo+
――虫の予感とでも言うのだろうか。
半年ぶりに、自分の実家のことを思いだしたとたんに、連絡が入った。
おおよそ、最悪の形で。
「――兄貴が……?」
取り乱した母からの連絡と、電話を変わった、小憎らしいまでに冷静な父からの連絡。
家を継ぐ予定の兄の死を、僕は、渡会と別れて五分後に知った。


「即死だそうです」
「まだ若いのに――」
「奥さんと子供を残して……」

弔問客はひっきりなしに続いた。
県会議員の家は、そんなもんだ。
大学に入って上京してから、こっち、
あまり戻っていなかった家は、やっぱりどこか落ち着かない。
次の選挙では兄貴は父から地盤を譲ることがすでに決まっていた。
僕は、その十年も前から、それを知っていたし、
次男の、それもかなりできの悪い次男の気楽さで、
離れれば、もう無縁の場所だと思い込んでいた。
だけど、「近所でも評判の息子」が、酔っ払い運転のトラックに追突されて、
この世から消え失せてしまうと、今まで気にもしなかった血の呪縛は、
恐ろしいほどの勢いで僕を縛り始めた。
「――お前に、家を継いでもらうぞ」
こけた頬をした父は、僕を睨んだ。
とりあえず、四十九日が終わるまで、会社は休職。
そんな非常識なわがままが通ったのは、入社自体が、父のコネだったからだ。
結論をなるべく先延ばしにしながら、色々な人に会わされる。
兄貴のときもそうだったけど、父はそれを当然のことだと思っているらしい。
そして、流される僕も、どこかでそう思っていたのかも知れない。
788ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/21(土) 02:10:49 ID:fXkGRDo+
「……結婚?」
「明和(あきかず)の喪が明けたらな。何にせよ、お前に嫁さんは必要だ」
「選挙のために?」
「それもある。が、色々とな」
四十九日の手配を終えて、明日を待つばかりになった夜、父はそう切り出した。
馬鹿馬鹿しくて、返事もせずに僕はそっぽを向いた。
「お前には悪いと思っている。
が、ウチも田巻(たまき)と離れるわけにはいかんのだ。
それに、明和の財産をただで渡すわけにもいかんし」
僕はちょっと嫌な顔をした。
田巻は、明和兄貴の奥さん――多喜(たき)さんの実家だ。
地元の有力者で、父の後援会の幹部でもある。
兄貴の死で、兄貴名義の財産は、法的には多喜さんに渡る。
代替わりを見据えて、かなりの物を兄貴に相続させていたそれを
普通に渡してしまったら、かなりの痛手だ。
父は田巻と何度か話し合い、話をつけたのだろう。
おそらくは――。
「田巻の親族から、お前の嫁さんを迎える。
代わりに多喜さんには明和の財産を、相応分、相続放棄してもらう」
……そんなところだろう。
トータル的には、双方とも何も変わらない。
そう、何も。
ただ、兄貴の位置に僕が代入されただけ。
だから、僕は、ぼうっとして父のことばを聞いていた。
父が、その相手を言い出すまでは。
「田巻の弟のほうの家から、美園(みその)を出してもいいと言われてる」
「ちょっと……。美園ちゃんは、まだ高校に入ったばかりのはずですよ?!」
「もうすぐ十六だ。弟の家のほうは乗り気でな。
その分、本家のほうが、多喜さんの相続のほうで強く言ってくるかも知れん」
多喜さんは、田巻の本家のほうの出だ。
内部で何かと張り合っている田巻の兄弟の噂話を僕は少しだけ思い出した。
「田巻の本家のほうの顔を立てるとすれば、――いっそ、多喜さんか。
それなら、財産は全部放棄すると言ってきては、いる」
「……え?」
兄貴の嫁さん?
僕は、とんでもないことを言い出した父を呆然と眺めた。
「どちらか、選んでおけ。――財産のことは、あまり気にすることはないぞ」
「ちょっ、どちらも――」
返事を待たず、父は部屋の外に出ていった。
そして、僕は途方にくれた。


ここまで
789ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/21(土) 02:12:10 ID:fXkGRDo+
>>782
>逃げ腰の童貞だと決着が早そうだ。

だがここで、詰めろを外して混戦に持ち込んでみる。
櫛田嬢とは別タイプのビッチを投入。

「処女ビッチ」か「熟女ビッチ」か、どちらになるか、まだ決めてません。
どっちかの字面でリビドーがもぞっと来た方は、ここでやるとスレも流れますので、

ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/7952/1237413437/

でその辺をちょこっと教えていただけるとありがたいです。
790名無しさん@ピンキー:2009/03/21(土) 07:45:47 ID:yDdECxHa
一つ聞いておきたいんだけど、
それらのビッチは、櫛田さん含めて主人公一途になるんだよね?

なんか、ヒロインのビッチ具合だけが描写されていて、「一途」の気配がどこにもないので心配になった。

まさか、ビッチが書きたいだけじゃないよね?
791名無しさん@ピンキー:2009/03/21(土) 10:35:55 ID:4/bWLMq6
あんまり身の回りにビッチばっかり集まってくると、女性不信になるんじゃね?
792名無しさん@ピンキー:2009/03/22(日) 00:22:56 ID:Uuktum2Y
>>789
楽しみにしてます。
ビッチよりオトンが嫌なヤツだな。
793名無しさん@ピンキー:2009/03/22(日) 02:51:48 ID:kPDlXoNf
俺、熟女ビッチがいいな。でも、三十代は熟女ではないな
794名無しさん@ピンキー:2009/03/22(日) 15:44:24 ID:kWPDl9E+
暇を持て余す金持ちの奥さんが芽が出ない芸術家の若い男に金つぎ込む話か?
795名無しさん@ピンキー:2009/03/22(日) 17:58:47 ID:ixuJzuhj
今晩はスパイダーマンやるんだ。
久しぶりにあのビッチを見ることにする。
796ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/23(月) 00:12:55 ID:7PlbUMT4
<国見クンの初恋>・4

「――それでは、美園をよろしく」
アクの深そうな顔が、軽く上下する。
お辞儀のつもりなのだろうが、これじゃまるで会釈だ。
「こちらこそ」
父も、軽く頭を下げただけだ。
コメツキバッタのように頭を下げた僕がまるで馬鹿のようだが、
まあ、この場合、そうするほうが当然だろう。
何しろ――。
「……よろしくお願いします」
硬い表情で頭を下げた美園ちゃんは、まだ十五歳。
僕の、きっかり半分の年齢だ。
他人が聞いたら、まちがいなく犯罪だ、と断定するような婚姻。
「美園、そんなに緊張することもない。一志君との結婚は、お前が高校を出てからだ」
「そうですな。せっかく入ったばかりの高校だ、楽しんでおいてください」
「……はい」
喪中。
しかも相手は、先日、本当に二ヶ月前に高校生になったばかりの女の子だ。
さすがに、結納も何もないけど、今日、この場の打ち合わせが、事実上の婚約だった。
僕と、美園ちゃん──田巻美園(たまき・みその)――との。

田巻家は、僕の地元の名家だ。
地場産業の会社をいくつか持ち、父の有力な後援者のひとつなんだけど、
今の本家とその弟の家は、仲があまりよくない。
羽振りのほうは、最近弟のほうが良くて、
まあ、向こうでいろいろとあったんだろうけど、
国見の跡目に対しては、弟のほうが手を出すことになったらしい。
「兄貴のほうは、心配せんでいいからな。わしのほうから、よく言っておく」
田巻氏は大声で笑った。
797ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/23(月) 00:13:26 ID:7PlbUMT4
ここまで、僕の意思は何一つ尊重されず、
また、それを知っている僕もほとんど声をあげなかったために、
「父の跡継ぎ」の話と、それに付随してくる結婚話は、どんどん進んでいった。
兄貴の死。
かわりに僕が家を継ぐこと。
父の地盤を引き継ぐこと。
次の選挙で県会議員に出馬すること。
田巻から嫁を迎えること。
──それは、将棋やチェスの定石のようにワンセットであって、動かせない。
変更すること、変えることは、そのまま失敗――人生を終わらせるのと同意味の大失敗につながる。
それは、10年も離れていたとはいえ、
そういう家に生まれ育った僕にはよくわかっていた。
僕に許される自由は、せいぜいが、その相手を選ぶこと。
──差し出しれた、二枚のカードの中から。
「だいたい、一志君に明和君のお下がりをあてがう、というのも失敬な話だしな。
まあ、兄貴も色々言ってきたようだが……」
「とりあえず、多喜さんと、美恵(みえ)が暮らせるようにはします。
美恵は、私の孫でもありますからね」
「そうしてくれるとありがたい。
まあ、私にとっても多喜はかわいい姪だし、美恵ちゃんはその娘だ」
父の言葉に、田巻氏は上機嫌でそう言い、また笑った。
僕の胸は、少し痛んだ。
結婚相手の候補の片方──美園ちゃんじゃないほう──は、兄貴の奥さんだった人。
嫂(あによめ)には、もちろん何度も会っているし、
兄貴の葬儀では、ずっといっしょだった。
六歳になる娘の美恵ちゃん、僕にとっては姪っ子と悲しみにくれる姿を見るのは悲しかったし、
そして、その彼女と再婚するのは、もっと心が痛む。
人のすることでは、ない。
たとえ、兄の遺産が何百万、何千万かの単位で彼女と、その娘に渡っても、
それは、法的にも正しいことであり、とにかく、僕が家のために彼女と結婚するのは絶対に間違っていた。
798ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/23(月) 00:13:56 ID:7PlbUMT4
だから、僕は、多喜さんとの結婚話は拒絶し、
そしてその結果、もう一人の候補者が僕の結婚相手になることになった。
「……」
父と田巻氏の長々としたか会話を聞きながら、僕は、その相手を見た。
「……」
県一番のお嬢様学校のブレザーを着た少女が、その視線に気付いた。
ぺこりと頭を下げる。
黒い直ぐい髪が、綺麗に揺れ、また元に戻る。
僕は、視線を逸らした。
「お、どうした美園」
「……いえ、なんでもありません」
「わはは、まあ、この子は大人しくてな。
一志君も、かわいがってやってくれ」
「……はあ……」
愛人が何人もいるという噂の田巻氏は、屈託のない、
だけど脂ぎった感じの笑い声をあげた。
「ま、その辺はおいおいでいいだろ。
そうだ、一志君、美園を家に送っていってくれんか。
わしは、このまま本家に顔を出してくる」
「え……」
「これでも箱入り娘でな、一人で帰すのも心配だ。
送り狼も、未来の旦那なら、まちがいが起きても間違いではないからな。
うん、我ながら名案だな」
自分の冗談に大笑いしながら、田巻氏は手を叩いた。
話は決まり、ということらしい。――強引な人だ。
「と言っても、在学中に美園を孕まされても困るぞ。
──その辺は、ほどほどにうまくやるように」
にやりと笑う田巻氏から、僕は思わず目を逸らした。
そして、多分、美園ちゃんも。
799ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/23(月) 00:14:27 ID:7PlbUMT4
「……大変なことになっちゃったね」
車を運転しながら、僕は、後ろの座席の女子高生に声をかけた。
田巻氏が見ていたら、なんて言われるか分からなかったけど、
まだ、隣に座らせる度胸なんて、ない。
すまない、という気持ちはある。
彼女の家が了承してのこととは言え、
仕方のなかったこととは言え、
僕の選択で、彼女の人生が変わってしまったのだから。
──たとえ、それが、消極的な選択の結果だとしても。
……あるいは、消極的な選択の結果だから、なおさらに。
「……」
美園ちゃんは、黙って、窓の外を見ている。
父の後援者の娘として、彼女とは何度か会っている。
彼女がもっと小さくて、僕が学生だった頃、
うちの家が主催のパーティ会場で、子守のように世話したこともある。
美園ちゃん、と呼ぶのもその頃の名残だ。
だけど、それがこんな風になるとは──。
「……ごめん」
思わず、そんな言葉が出る。
「……そうですね。まあ、謝られてもどうにもなりませんけど」
美園ちゃんは、窓の外を眺めたまま、そう返事をした。
「……」
どう答えていいのか、わからないまま、僕は沈黙した。
沈黙は、十秒だろうか、二十秒だったろうか。
「まあ、いつかは誰かとこんな風に結婚させられるとは思っていましたけど。
ちょっと早すぎますよね」
美園ちゃんの声は、昔聞いたものと随分イメージが違って聞こえた。
まあ、当然だろうか。
親しく話した頃からは何年も経っているし、
結局のところ、僕は彼女を本当の意味ではまったく知らない、と言っていい。
800ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/23(月) 00:14:58 ID:7PlbUMT4
そもそも僕は、自分自体のことすら──分かっているのだろうか。
「……ごめん」
もう一度、そんな言葉が口を突いて出てきた。
「そう思っているなら、多喜さんを選んでくれればよかったのに」
不意に、思いもかけなかった返事を聞き、僕は愕然とした。
ハンドルを握っていることを思い出し、スピードを緩める。
……美園ちゃんには、そう言う権利がある。
僕の選択が、結果的にこの事態を招いた。
多喜さんには罪がない。
でも、それ以上に美園ちゃんに罪はない。
「ごめん。本当にごめん。でも──」
「多喜さんにとっては、別に明和さんでも、一志さんでも変わりはないのに?」
「え……」
今度こそ、不意をつかれて、僕はあわててハンドルを切り、路肩に車を停めた。
「危ないです。運転、苦手なんですか?」
冷静な声にも、僕は気を使っている余裕がなかった。
「なんて事を言うんだ、美園ちゃん……!」
「別に……? 事実ですよ。
多喜さんは、自分と美恵ちゃんの生活が保てれば、旦那さんは誰でもいいんです。
──それは私も同じですけど」
「……え?」
美園ちゃんは、くすくすと笑い出した。
──さっきまで、父親の隣で無言無表情で目を伏せていた女の子。
それは、今、僕の車の後部座席に座っている娘と同一人物なのだろうか。
ひょっとして、僕は、何かの手違いで違う子を乗せてきてしまったのではないか。
「一志さんも、アレなんですねえ。
今時、政略結婚なんかするような家の娘が、他に何を旦那さんに求めると思ってるんですか?」
「……」
「最初に言っておきます。一生安泰な暮らしの玉の輿と、リョーサイケンボの取引。
それが、私と一志さんとの結婚の契約条件で、――それ以上は求めないでください」
801ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/23(月) 00:15:57 ID:7PlbUMT4
「え……」
何を言っているのか、分からなかった。
最初は。
だけど──、
「別に、好きだの嫌いだの、そういうのは私たちの間に意味なんてないと思いませんか?」
「……」
「結局、一志さんに期待されてるのは、親の跡を継ぐこと、だけ。
私に期待されてるのは、誰かに嫁いで子供作って家を結び付けていくこと、だけ」
「……それは……」
「それ以外ないことくらい、わかってます。
全部を台無しにすることはありません。
でも、――だったら、それ以外のことは楽しみたいな、って思ってます」
「……美園ちゃん……?」
「高校卒業したら、私、一志さんと結婚します。一志さんの子供産みます。
上手に育てて、国見を切り盛りして、田巻ともうまく行くようにします。
──それ以上は、保障しませんし、求めないでくださいね」
「……」
「私、高校では彼氏作りますよ。家とか、国見の人にもわからないようにして。
中学の時もいたけど、面倒なので卒業のとき振りました。
だから、新しい彼氏。誰にするか、まだ決めてませんけど」
「……」
「たぶん、――結婚しても、そういう相手、作ると思います」
「……」
「あ、当面、セックスは一志さんとしかしないつもりですから安心してください。
疑われるのも面倒なので、一応、バージンから、子供が出来るくらいまでは。
気になるなら、DNA判定もしてもいいですから──その辺は約束ですから、誠心誠意守ります」
「……」
「――だから、そういう夫婦で、そういう生き方でやりましょう。
後は干渉しない──割り切ったほうが、お互い楽、です」
802ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/23(月) 00:16:28 ID:7PlbUMT4
「美園ちゃ……」
何を言っているんだ?
何を言われているんだ?
混乱が、僕を襲う。
「明和さんと、多喜さんだって、そういう夫婦だったんですもん。
私たちも、きっとうまく行きますよ。
あ、でも多喜さんはツバメさんがいたようだから、私よりフマジメ、かな?」
ミラー越しに微笑む15歳の女の子は、
無邪気に、本当に無邪気にそう言い切った。
「馬鹿な……兄貴が……」
「まあ、明和さんもアイジンさんがいたみたいですし、お相子ですね。
一志さんも、破目を外さなければ、別にそういうの、してていいですよ」
「……な……」
「あ、お互い生活はちゃんと守りましょう。
──どうせ、一志さんも私も、家から離れたらこんな暮らしできないんですから」
美園ちゃんは、今乗っている、車のシートをわざとらしい仕草で叩いた。
父から足代わりに与えられた、ベンツ。
東京では乗ったこともない車。
「……」
「……田舎名士の家なんて、そんなもんですよ。特に、ウチは。
私、贅沢するつもりはないですけど、
多分、お金がないのも、使用人がいないのも耐えられない人だと自分で思ってます」
「……」
「だから、中学に入るときに、決めました。
誰と結婚することになっても、そうやって生きていこうと。
──一志さんとは、その辺、上手くやっていけそうな気がします。
好きにはなれそうにもないですけど」
そう言って、美園ちゃんは、にっこりと笑った。
その笑顔に、僕は震えた。
――そして、なぜか、僕は、その時、別の女の子の笑顔のことを思い出していた。


ここまで
803ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6 :2009/03/23(月) 00:18:06 ID:7PlbUMT4
結局、櫛田さんと「貞操」と「好き嫌い」が真逆の方向の
処女ビッチのほうで動かしてみることにしました。

>>790
すみません。
今回もまだデレてませんが、最終的にはくっつく女の子は一途になります。
804名無しさん@ピンキー:2009/03/23(月) 00:42:37 ID:cvf1nl9u
GJ!
処女ビッチがどんなもんになるのかと心配したけど、思ってた以上に性格が腐ってて安心(?)したw
805名無しさん@ピンキー:2009/03/23(月) 01:17:03 ID:HWijo0nc
ビッチの名にふさわしいビッチだw
806名無しさん@ピンキー:2009/03/23(月) 07:22:29 ID:D23Vn05O
主人公に宣言するぶんマシだと思うなぁ。
内心は浮気しまくるつもりなのに、
「これからは、あなただけを愛しますね」
とか言って男を騙すビッチのほうが腐ってる気がする。
807名無しさん@ピンキー:2009/03/23(月) 13:19:52 ID:CinodDip
まだまだ序盤でどうなるか予想がつきませんが
ゲーパロ氏ということで期待です!
808名無しさん@ピンキー:2009/03/23(月) 22:41:48 ID:uG1xgniO
美園ちゃんが一途になる姿は、、、
みてみたい、みてみたいぞぉおぉぉぉ

もちろん、櫛田さんもね
809名無しさん@ピンキー:2009/03/24(火) 03:17:53 ID:D/t1CYEv
実に楽しみだ!
櫛田さんも美園ちんも正直で明けすけなんであまりムカつかないビッチでいい
誰かもいってたが表向き偽善的で裏ではっでビッチが一番ムカつく。まあそれもエロパロ的には…(以下略)
810名無しさん@ピンキー:2009/03/24(火) 12:25:40 ID:VkInbhT+
月光条例のエンゲキブが結構このスレの趣旨に合ってそうな気がする
811名無しさん@ピンキー:2009/03/24(火) 16:18:58 ID:DVwneVej
ゲーパロ氏の続きは次スレかな?
812名無しさん@ピンキー:2009/03/25(水) 02:45:38 ID:pd+rzVO+
職人様方、皆様ホントGJでございます。
…しかしながら。ストライクゾーンに入ってくる話が、
「スイーツと香辛料」以来見つからない自分。(涙)
ああ、悲恋な達人と舞のお話も、意外と受け止められたが。
でもね。「腹黒ビッチ」の有華ちゃんが可哀想だと思うのは違うのか。
克哉のおこちゃまブリに腹が立つのは違うのか。
この上秘密のバイト編でNTRなんぞされたら、涙で溺死する…。
職人様は
>いつか有華視点も書くから、一途なとこはそのときどっさりネタバレします
と言ってくださっているから、それはないと信じているが、
有華に同情している時点で、
自分はこのスレの観点から逸脱してしまったのか?!
…やはり自分で書くしかないのか。ああう。ちょっと頑張る…。
ちなみに、ゲーパロ専用様の方では、両方ともに萎え気味。(苦笑)
物語&設定が素晴らしいだけに、とっても続きが楽しみすぎですが、
美園ちゃんは一途になってもらっても、好きになれそうもない自分がいる。(汗)
親の呪縛から離れ、櫛田さんの笑顔を得て頑張る主人公、
…にはならないんだろうなぁw
813名無しさん@ピンキー:2009/03/25(水) 03:19:46 ID:V9muewQ+
長文乙
814名無しさん@ピンキー:2009/03/25(水) 09:40:32 ID:gcqiT/ec
釣り?
815名無しさん@ピンキー:2009/03/25(水) 14:29:42 ID:56L1qYUd
「もっとぶってください女王様」まで読んだ
816無題
「ねぇねぇ、君らってどんなのが趣味なの?」
「え〜? んー、お金があってぇ、顔良くてぇ、後はぁ……」
「アハハ、そんな奴いないよミキ」
「だってぇ、それぐらいじゃないと私に釣り合わないしぃ〜?」
「わー、この、自意識過剰女!」
「ひどぉいユキィ〜! 私傷ついちゃったぁっ!」
「大丈夫大丈夫、ほら、俺なんか適当だぜ?」
「どの口がそれを言う? そして、それは俺のセリフだ馬鹿者め」
「なんだとぅ!? 鏡見てからものを言え!」
「それも俺のセリフだ馬鹿者め!」
わいのわいの、がやがやがや。
女性特有の甲高い笑い声と、男特有の太い笑い声が耳に障る。
……僕は静かな方が好みなのに……!
居心地がすこぶる悪い。
理由は単純。今まで一言も喋っていないからだ。
場違いなのは分かっていたことなのに、どうして断りきれなかったのか……。
でもそれが、NOと言えない日本人の悲しい性。情けなさに涙。
大体、なんで僕を合コンに呼ぶんだよ。人数合わせでも人は選べよ。
心の中で毒づきながら、慰みに頼んだ烏龍茶をちびちび飲む。
でも、余りに手持ち無沙汰だから、失礼だけど目の前の女性たちを値踏みしてみる。
女性は5人。全員、美人。以上。
情報はそれだけで十分。ていうかぶっちゃけそもそも僕には関係ないし。
だって、悲しいかな、自分のスペックを鑑みれば、その説明として足りてしまうのだから。
顔。希望的観測で平均並。現実は知らん。眼鏡。
体型。もやし。
高校生。オタク。I love 二次元。オーイエー。
うん、これだけでもう説明として足りちゃうね。うん。泣いてなんかない。
あ、あと一つ。話長い。心中描写だけで会話パート超えちゃったもんね。
そして面白くない。これ致命的。一つじゃ足りなかったね。
まあ、なんにせよ、自分以外の男衆が頑張ってりゃいいのさ。
そんなことをつらつら考えていると、
「あ、あの……」
黒髪ロングな女の子が、僕の方を向いて言った。
後ろを振り返っても誰もいない。
ということは、つまり。
……なんか話しかけられたあ――!


ここまで。
文才ない奴が書くとこうなるっつー見本。

続かない