☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説_第75話☆

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 そして――なんやかんやで5年が過ぎてしまった。
ユーノは相変わらず告白をすることができず、なのはとの仲は一向に発展しないままだった。
なのはに一方的に憧れ、しかし近づくことすらできない男達――こういう男は、わんさかいる――からしてみれば、
ユーノのポジションですら羨ましいことこの上ないのだが、しかし、ユーノからしてみれば、不満な5年間だった。

 この5年で、なのははそれまでの可愛らしい「女の子」から、美しい「女性」へと変貌した。
元々長かった髪を腰のところまで伸ばし、艶々とした美しいブラウンのロングヘアーをサイドポニーに纏めている。
子供だった身体は大人のそれへと変わり、スラリとした手足に、豊満な胸や尻。
高町なのはは、とんでもなく美しい女性へと成長し、そして――ますますユーノを悩ませることになる。

 この5年間で、ユーノも当然、「男の子」から「男性」へと成長していた。
そして当然の話なのだが、この時期の男性の多くは、有り余る性欲に悶々としながら夜を過ごすようになる。
ユーノも例外ではなく、そしていつしか、彼はなのはを『夜のおかず』にするようになっていた。

「はあっはあっ、なの、はぁっ!」

 なのはは現在、時空管理局・武装隊の戦技教導官を務めている。
相変わらず無限書庫で仕事をしているユーノとは、昔よりもさらに距離が開いてしまった。
お互いの仕事は忙しく、会おうと思ってもスケジュールがなかなか合わない。
現に、最後になのはに会ったのは、なんと4ヶ月も前だ。

「うっぐぅぅ……なの、はっ……」

 今日もユーノは、なのはに告白できなかった情けない自分を呪いながら絶頂を迎える。
そんな虚しい自慰行為が終わった後、いつも感じるのは、自己嫌悪……。
こんなことをしたって、何にもならない。自分が惨めになるだけだ。それは、わかっていた。

 それでも毎晩毎晩――ユーノは妄想の中で、なのはを汚した。

 次の日もいつものように、ユーノは無限書庫で仕事をしていた。書庫での仕事内容は、非常に多岐にわたる。
管理局の仕事に必要な資料を求められ、探して整理・提出したり、歴史的な書物を発掘して解読したり……など。
毎日新しい発見や変化があり、何年間もここで仕事をしているユーノも、一日として退屈したことはなかった。
この日も、いつものように大量の仕事に忙殺され、あっという間に夕方になってしまった。

(明日は休みか……。もう少しで今週も終わりだ、頑張ろう……)

 そんなことを考えながら書物を整理していると……

「ユーノくーん」

 突然、後ろから声を掛けられた。
その声にびっくりして振り向いたユーノの目に映ったのは、夢にまで見たなのはの姿。
「え、お、あ、え?!な、なのは!どうしてここに!」
「えへ、久しぶりだね」

 そう言って、嬉しそうにニッコリと微笑むなのは。対照的に、突然の訪問に慌てるユーノ。

「今日はお仕事が早く終わったの。随分長いことユーノ君に会ってなかったから、ちょっと顔が見たくなって」
「へ、へぇー、そうなんだ。お疲れ様……」

 せっかくなのはが会いに来てくれたのに、もっと気の利いた言葉は出せんのかいと自分に突っ込みを入れながら、
それでもようやく驚きの感が過ぎ去り、ユーノは多少なりとも冷静さを取り戻した。
と同時に、なのはがわざわざ自分に会いに来てくれた、という嬉しさが徐々に胸の中に湧き上がるのを感じた。

「ねえユーノ君。この後、時間ある?」
「え?あ、大丈夫だけど……」
「せっかくだから、一緒に夕食どうかなーと思って」

 その言葉に再びユーノの心臓が高鳴り、取り戻したはずの冷静さが飛んだ。

(な、なのはと一緒に……食事?!)

 久しぶりになのはに会えただけでも嬉しいのに、その上、一緒に食事をしようと誘ってくれる。
これは夢なのだろうか、とユーノは思ったが、どうも夢ではなくて現実のようだ。

「あ、夕食っていっても、局の食堂だけどね。どうする?」

 なのはと一緒に食事ができるなら、どこだっていい。火の中だろうが、水の中だろうが構わない。
混乱する頭で、それでも何とかユーノは即答した。

「も、もちろん行くよ!すぐに残りの仕事終わらせるから、ごめん、ちょっとだけ待って!」
「そう?じゃ、待ってるね」

 ユーノは意気揚々と残りの仕事に取り掛かった。心の中で「いィやったァァッ!」と叫びながら。
 はあ……とユーノは心の中で密かにため息をついた。
なのはと二人っきりで食事ができるのだと思っていたら、とんでもない思い違いだった。
なのはの「あ、フェイトちゃーん!ユーノ君連れてきたよー」という言葉を聞いたときは、正直騙された気がした。
そういうわけで今、ユーノの目の前にはなのはだけでなく、フェイトも座っている。
今のユーノはまさしく「両手に花」の状態なのだが、しかし、ユーノの目には片方の「花」しか映っていない。

「それでね、なのは。その時にね…………」
「えーホント?大変だったね…………」

 フェイトもこの5年間で、なのは同様、とんでもなく美しい女性へと成長した。
例の『事件』以後、しばらくはユーノとフェイトの間に気まずい空気が流れたが、時がそれを運び去ってしまった。
今では普通に話せるように――もっとも、なのはと同じく会う機会は滅多にないが――なっている。

(はあ……)

 ユーノはもう一度、心の中でため息をついた。
さっきのため息は、これでフェイトがいなければなあ……というものだったが、今度は違う。

――情けなくなったのだ。

 さっきまでは、なのはに食事に誘われた嬉しさが心の大部分を占めていたのに、
こうして彼女と会って話をすると、未だに告白できずに燻ぶっている自分が改めて情けなくなった。
目の前で太陽のような笑顔を浮かべるなのはを見ると、ユーノは自分の心がモヤモヤするのを感じる。

(まあ、いいか……)

 なのはと一緒に食事ができただけで、今回はとりあえずよしとしよう、とユーノは考える。
だが、これも情けない逃げの思考だということは心の奥底ではわかっていた。
告白するチャンスなど、今までいくらでもあったというのに、自分は一体何をしていたのだろう。
気持ちを落ち着けようと手を伸ばした食後のコーヒーは、いつもより数段苦く感じられた。

 そうこうしているうちに、食事+雑談が終わりそうな雰囲気になってきた。
もう、なのはと別れなくてはいけないのかと思うと、ユーノはまたまた自分が情けなくなった。
なんで今、この時間で告白しなかったのだろうと。

「ね、二人とも、ちょっとわたしの部屋に来ない?」

 なのはがこう切り出したのは、まさしくユーノが苦悶している真っ最中だった。

「美味しいって評判のお菓子が手に入ったの。どうせ明日はお休みだし、お茶でも飲みながらゆっくり話そうよ」
「あ、私は大丈夫。ユーノは?」

 なのはとフェイトの言葉に、ユーノの心臓がこの日三度目の高鳴りをみせる。
今からなのはの部屋に行けるだなんて、全く考えてもいなかった。
突然の展開に内心ビックリしながら、それでもユーノは努めて冷静に振舞った。

「えっ、その……僕も大丈夫だけど」
「じゃあ決まり。行こう」
 三人で談笑――正確にはなのはとフェイトの二人が喋ってるだけだが――しながら廊下を歩いて行くと、
フェイトがふと何かを思い出したかのように声を上げた。

「あ!」
「どうしたの?フェイトちゃん」

 なのはがそう尋ねると、一拍置いて、フェイトは気まずそうな表情で言った。

「ごめーん、なのは。私、ちょっと用事を思い出しちゃった」
「えー、そうなの?」
「たぶん、そんなに時間はかからないと思うから、部屋でユーノと待ってて」
「ん、了解〜。ユーノ君、行こ」

 目の前で交わされる美少女二人の会話の内容に、ユーノはびっくりした。

(な、なのはと……二人っきり……!?しかも、なのはの部屋で……?!)

 さっきまで、これでフェイトがいなければ最高なんだけどなぁ……と、ちょっぴり彼女の存在を疎ましく思っていたが、
しかしいざフェイトが一時的とはいえ離脱するとなると、ユーノは激しく動揺した。

「急いで行ってくるね。私の分のお菓子は取っておいてよ」
「わかってるって。行ってらっしゃーい」

 次の瞬間、突然の状況に混乱するユーノの頭の中に、フェイトの声が飛び込んできた。通信魔法の『念話』だ。

(じゃ、そういうわけだから、ユーノ、頑張ってね♪)
(……え?はあ?!)

 驚いてフェイトの方を振り向くと、彼女はユーノにウインク。長い金髪を靡かせながら、颯爽と去っていった。

(ちょっと、フェイト!)

 フェイトは相変わらず、なのはとユーノの仲を応援していた。
が、全く進展しないどころか(5年前に悪意がなかったとはいえ、ユーノの告白を妨害したのはフェイトである……)、
このままでは退行してしまいかねない二人の仲を心配し、咄嗟にこのような一計を案じたのだ。
(5年前、なのはに告白しようとしていた(らしい)ユーノの邪魔をしてしまった……という自責の念もある)
それにしても、百戦錬磨のなのはをもアッサリと騙す演技力。『劇団テスタロッサ』の炸裂である。

「……? ユーノ君、行こうよ」

 ポカンと立ち尽くすユーノに、なのはが訝しげに声を掛ける。

「え、あ、うん!行こう」

 上ずった声を上げてしまったユーノを、なのはが「……?」という目で見たが、たいして気にならなかったのか、
すぐにスタスタと歩き出した。ユーノも慌てて後を追い、なのはと並んで歩く。
横目でチラリとなのはを窺うと、会わなかった4ヶ月の間で、また一段と美しくなったようにユーノには思えた。
 なのはの部屋は女の子らしく綺麗に整頓されており、入った瞬間、女の子の部屋独特の甘い香りがした。
なのはの出してくれたお菓子を食べながら雑談。ユーノの頭に、5年前の記憶が蘇る。
彼女と毎日、病棟の周りを散歩して、お菓子を食べたり、楽しく話をして……

 だが、あの時に比べて、なのはが自分から随分遠ざかってしまったようにユーノには思えた。

「ユーノ君、これ美味しい?」
「う、うん。美味しいよ……」
「そう、よかった」

 可愛らしい笑顔、優しい心遣い、真っ直ぐの心。なのはは昔から変わっていない。
こうして久しぶりに会って話をすると、なのはのことが好きだとユーノは改めて認識した。
いや、昔よりその想いが強まっているといっていい。なのはのことが、好きで好きでたまらない。
そういうレベルにまで、なのはへの想いが強くなっているとは、ここに至るまでユーノ本人も思っていなかった。

 ならば今、告白するべきではないか。正真正銘、なのはと二人っきり。絶好のチャンスである。

 しかし、怖かった。告白してもし、「ごめん、ユーノ君はそういう目では見れない」と言われてしまったら?
そうなればもう、「今の友達としての関係」にすらヒビが入ってしまいそうで怖かった。
5年前に告白しようとした時は断られるとか、そんなこと考えもしなかったのに、
なまじ大人になってしまったばかりに、そういうところまで余計に考えるようになってしまった。
やっぱり、あの時に告白できなかったのが間違いだったとユーノは後悔する。

「それでね、そうしたらその後に…………」

 なのはは自分の仕事について、目をキラキラと輝かせながら夢中で喋っている。
だが、ユーノはなのはの話を聞くどころではない。
なのはに好きだって言いたい。でも、断られるのが怖い。好きだという一言が言えない自分が情けない……。
ユーノの心はいろいろな感情がごちゃ混ぜになって、ぐるぐると終わりのない循環を続けている。

 ユーノは突然、眩暈を覚え、とてつもない息苦しさを感じた。
青酸カリを飲むと、こんなに苦しいのかと思うくらい、胸を思い切り掻き毟りたくなるくらい苦しくなった。

「……ユーノ君、どうしたの?」
「……え?」

 なのはが心配そうな表情でユーノの顔をのぞきこんだ。
外から見てわかるぐらい、ユーノは苦しそうな色を出していたようである。
自分が毎日毎日想い続けている少女は手を伸ばせば触れられるぐらいすぐ近くにいるのに、
どうしてこんなにも遠い存在なのだろうか。なぜ手に入れることができないのだろうか。
「大丈夫?お仕事で疲れてるの?」

 昔からそうだ。なのはは誰にでも優しい。そう、誰にでもだ。きっと、自分以外の男にも優しいのだろう。
そこまで考えた途端、ユーノは体内の血液が全て沸騰したかのような感触に襲われた。

「ねえ、大丈夫?少し、横になる?」
「い、いや……」

 自分以外の他の男になのはが告白されたら?
他の男の告白を、なのはが受け入れてしまったら?
なのはが、他の男のものになってしまったら?

 なのはが、他の男に抱かれたら――?

 ユーノの中に、どす黒い感情が一気に広がった。
もう、自分を気遣ってくれるなのはの声も、ユーノの耳には届いていなかった。

 なのはが他の男のものになるなんて、絶対許さない――

 なのはに好きだって言いたい。彼女を自分のものにしたい。でも、拒絶されるのが怖い。

 それならば――拒む暇を与えないように、無理矢理自分のものにしてしまえばいい……

 気が付いた時にはユラリと立ち上がり、ユーノはなのはの目の前に立っていた。

 そもそも、なのはが悪いんだ。ユーノはそう考えることにする。
自分はなのはのことをこんなに想っているのに、どうしてなのははそれに気が付いてくれないのだろうか、と。
無茶苦茶な思考だが、既に今のユーノからは、それを無茶苦茶だと感じるまともな思考回路が弾け飛んでいた。

「あ、お手洗いは、そっ…ち……?」

 気分が悪そうなユーノがふらふらと立ち上がったので、お手洗いに行くのだとなのはは思った。
だが、それはとんでもない思い違いで。こうなる前になのはは異常に気が付くべきだったが、もう遅かった。

 ガバッ

「きゃっ!!」

 部屋の中になのはの悲鳴が響き渡った。ユーノがとうとう、理性を失ってなのはを押し倒した。
 なのはの悲鳴が途切れた後、部屋の中には目覚まし時計の秒針の動く音だけが静かに響いている。
その静寂を破り、ユーノがまるで感情を失くしてしまったかのような無味乾燥な低い声で喋り出した。

「僕は悪くない……」
「……え?」

 なのはは、自分が今置かれている状況を理解できなかった。
目の前に立っていたユーノがいきなり自分に抱きついてきたかと思うと、次の瞬間にはベッドに押し倒されていた。

「なのはが、いけないんだ……」
「ユーノ、君……?」

 ユーノの表情や口調から尋常ならざるものを感じ、なのはは恐怖を覚えた。
彼とは何年もの付き合いだが、こんな表情は見たことがない。
ユーノはなのはの手首をさらに強く握り、ベッドにグイッと押し付ける。
――まるで、逃がさないとでも言うかのように。手首に痛みが走り、なのはは思わず顔を歪めた。

「うっ……!」
「なのはが、いつまで経っても僕の気持ちに気付いてくれないから……」
「な、なに言って……どいてユーノ君!」

 さすがのなのはも、声を荒げた。ユーノが自分に対して何をしたいのか、言いたいのかわからない。
意味不明なことばかりブツブツ呟いている。一体これはなんなのか、全くもってわけがわからない。

――そう、なのははこの期に及んでも、ユーノが自分に対してどんな感情を抱いているか、理解していないのだ。

 ユーノにも、それはわかった。
わかった途端、ぽっかりと真っ白だった胸の奥から、突如怒りにも似た激情が迸った。

(なんでっ……)



――わかってくれないんだ。



 気が付いたときには、思わず叫んでいた。

「好きだっ!好きなんだ、なのはあぁっ!」
「……!!」

 これまで何年も伝えられず、内に秘めていた思い。溜まりに溜まったそれが、ついに歪んだ形で爆発した。
なのはへの想いのたけを思い切り打ち明けると、ユーノは一気に、なのはの唇を奪った。

「???!!!むぐうぅんんんんんっっっっ」
 突如口を塞がれ、大きく目を見開いて驚愕するなのは。
一、二秒ほど固まっていたが、自分にのしかかってくるユーノに対して必死に抵抗を始めた。
しかし、武装隊の戦技教導官とはいえ、なのはは肉体的にはごくごく普通の女性。
男性であるユーノに全力で押さえつけられては、逃れる術などなかった。

「んっ……!んんっ、んんんっ……!」

 ベッドの上で激しくもつれるユーノとなのは。
ユーノの唇に口を塞がれ、なのはの呼吸が苦しくなっていく。
わずかに開いた口の端から、なのはは必死に酸素を吸い込んだ。
そんななのはの事情を知ってか知らずか、ユーノはようやくなのはの唇を解放した。

「っぷぁ!ユーノ君やめて!」

 解放されたなのはの口から、ようやく抗議の第一声が上がった。
だが、その声もユーノの勢いの前では、あっという間に鎮圧されてしまう。

「好きなんだ、なのはのこと。好きで好きでたまらないんだ!」
「……っ!」

 ユーノに押さえ付けられ、なのはの身体が布団に沈む。逃げられないという恐怖感に――なのはの顔が歪んだ。
それがますます男の欲情を煽り、ユーノはもう一度なのはの唇にむしゃぶりつく。

「なのはぁっ!」
「いやっ!っぷ、んんんっ、んん……っ」

 なのはももう、数年前のような子供ではない。性的な知識も人並みに備えている。
だから、ユーノが今自分にしてきている行為がどんな意味を持っているのか、知っている。
ユーノは力ずくで自分を犯そうとしているのだ、と。なのはは真面目で、節操観念も固い。
そんな彼女にとって、こんなことは言語道断、価値観を根底からひっくり返されるに等しい行為だ。

「ぷぁっ……ねえっ……おねがい、やめてぇっ……」

 解放された唇から、なのはの悲痛な叫び声が上がった。
客観的に言わせてもらえば、「やめて」と言われてやめる男などいない。
だが、それでもなのはは「やめて」と叫ぶしかなかった。
なぜなら、それが今のなのはにできる唯一の抵抗――全くの無駄ではあるが――だったから。

「とにかくやめて……!待ってっ……!」
「待てないよ!僕は何年間も待ってたんだ!もう一秒だって待てないよ!」

 ユーノはそう叫ぶと、今度はなのはの首筋に顔を埋める。
唇を首筋に押し当てられ、なのはの背筋に悪寒が走った。

「やぁっ……」

 首筋をちゅっちゅっと吸われ、水音が上がる。
泣き出したい気持ちを懸命に抑えながら、なのはは必死に叫んだ。

「こんなの、ユーノ君じゃない……ユーノ君じゃないよぉ……!」
 なのはの知っているユーノは――いつだって優しかった。そう、いつだって。
だから、今のユーノは何かの間違いだ。元の彼に戻ってほしい。その一心で、なのははひたすら叫んだ。
だが、なのはの願いも虚しく、ユーノの暴走は止まらない。

「なのはのこと、好きで好きで仕方がないんだ!僕を受け入れて……」

 なのはの香りをたっぷりと吸い込んだユーノは、再びなのはの唇を吸った。
自分の下で喘ぐ彼女への征服感に酔いしれそうになる。だが、その時だった。

       がりっ

「――――ッッッッッ!!!!????」

 ユーノの唇に、突如激痛が走った。その痛みに驚き、ユーノは思わず身体を引いてしまう。
あっという間に口の中に広がる血の味。なのはが、ユーノの唇を噛んだのだ。
そしてユーノが怯んだその隙をなのはは見逃さず、思い切りユーノの身体を下から突き飛ばした。

「!! ぐ ぇっ!」

 なのはに突き飛ばされ、ユーノは派手に背中から床に落ちた。

 激しい拒絶――――。

 しばらくの間、なのはの部屋を支配したのは、はあはあという二人の激しい呼吸音と気まずい沈黙。
その沈黙は昂ぶっていたユーノを冷静に引き戻すには十分すぎて。
先ほどまでの高揚感はどこへやら、罪悪感が津波のように胸に押し寄せる。
噛まれた唇からは血が流れ、口の中で鉄臭く苦い味へと変わっていく。

(僕、は……)

 冷静に戻ったユーノは自覚した。傷つけた。なのはを、傷つけてしまったと。
さっきまでの自分は、自らの欲望に溺れ、相手のことを考えず、ただただ自分を押し付ける醜いオスだったのだと。
なのはは自分の行為に対して、一体どれほど恐い思いをしたのだろうか。
それを考えただけで、ユーノは吐き気を感じた。

 なのはは、怒りというより悲しみの表情を濃くしていた。
ユーノの唾液に塗れた口を手で拭うと、俯きながら吐き捨てるように呟く。

「……なんで……ユーノ君、最低……」

 その言葉は、ユーノの心にグサリと突き刺さった。
だが、ユーノは何も言うことができない。なのはと目を合わせることもできない。
彼女の言うとおり、自分は最低だと思ったから。
頭の中で「自分は最低だ」という言葉がグルグルと渦を巻き、眩暈を感じた。

「……帰って……」

 そんなユーノの耳に入ったのは、悲しそうに震えるなのはの声。
だが、ユーノの身体はまるで金縛りにあったかのように動くことができない。
そんなユーノに、今度は容赦なく怒声を浴びせかけるなのは。

「帰って!!早く!!」
「…ひぃっ!」

 その声に弾かれるように、ユーノの身体がビクッと反応した。
カバンを掴むと、ユーノは転がるように部屋から飛び出し、廊下を駆けていった。
 適当に時間を潰したフェイトは、頃合を見計らって、るんるんでなのはの部屋へと足を向けた。
今頃、もうユーノはなのはに告白しただろうか。いや、せっかく自分がそういうシチュエーションを作ってあげたのだ。
そうでなくては困る。親友であるなのはには、誠実で優しいユーノと一緒になって幸せになって欲しい。
だが、宿舎の廊下の突き当たりを曲がろうとしたその時、目の前をものすごい勢いで駆けていく人影があった。
動体視力の優れているフェイトには、それがユーノであることが一目でわかった。

「あ、ユーノ――って、あれ?」

 まるで何かから逃げるかのように、一目散にフェイトの目の前を駆けて行くユーノ。
フェイトの声にも全く振り向かず、あっという間に廊下の角を曲がって見えなくなってしまった。
あまりにも慌てているようなその様子を、フェイトは少々不審に思った。

(どうしたんだろ……)

 まさか自分の計略(?)が裏目に出てしまい、ユーノとなのはの間が大変なことになっているとは露知らずのフェイト。
ユーノは帰ってしまったようだが、「部屋で待ってて」となのはに言っておいた手前、戻るわけにはいかない。
とにかく、なのはの部屋に向かう。だが、ノックをしても返事がない。

「……なのはー?入るよー!」

 これまた少々不審に思ったが、フェイトはとにかく部屋に入ってみる。
そこには、布団やシーツがクシャクシャに乱れたベッドの上で、呆然と座っている親友の姿。

「なのは……?」
「……え、あ!ふぇ、フェイトちゃん!」

 フェイトの姿を見るや否や、それまで遠かったなのはの目が、たちまち焦りを帯びたものへと変わった。

「どうしたの?なんかユーノ、慌てて帰っちゃったみたいだけど……」
「あ、え、う、うん、そうなの。急用思い出したって……」

 何かおかしい。フェイトはそう思った。なのはの態度がどこか不自然だ。
さらには急用を思い出したにしても、慌てすぎだった感じのユーノ。
具体的な部分までは想像しなかったものの、鋭いフェイトは直感的に二人の間に何かがあったと思った。

「……ねえなのは。ユーノと何かあったの?」

 言ってから、フェイトはしまったと思った。なのはは何かあっても自分一人で抱え込んでしまうタイプだ。
この聞き方では何かあったとしても、「何もなかったよ」とかわされるのがオチである。

「えっ?な、なんで?何もないよ。ユーノ君、急用で帰っただけで……」

 果たして、答えはフェイトの予想通り。こう言われてしまっては、それ以上の追及ができない。
だが逆に、フェイトは今のなのはの態度から確信した。なのはとユーノの間に何かが起こったということを。

「なの――」
「ごめんフェイトちゃん。わたし、書かなきゃいけない書類があったの」

何かを言い掛けたフェイトを、すかさずなのはの声が遮った。

「わたしから誘ったのに、ホントごめん。今日は……」

 何にでもひたむきで真っ直ぐ、素直な性格のなのはは、嘘をつくのが下手だ。今だって、目が泳いでいる。
フェイトにも、なのはが嘘をついているのが瞬時にわかった。
だが、ここでこれ以上の追求はできそうもないとフェイトは思った。とりあえず、この場は引くしかない。

「うん、わかった。いいよなのは、気にしないで。じゃ、書類頑張って……」

 パタン、という音とともに玄関の扉が閉められる。その時にはもう既に、なのはは布団にくるまっていた。
「はあっはあっはあっはあっ……」

 ユーノは必死に走った。今、自分がどこを走っているかなんてわからない。
とりあえず管理局の宿舎を出て、敷地を出て、道路を走って……。
夜の暗闇の中、ユーノのはあはあという息の音が際立って聞こえる。

 とにかく、逃げ出したかった。なのはからではない。
なのはに襲い掛かり、彼女を傷つけてしまったという事実から逃げ出したかったのだ。
だから、必死に走った。だが、無駄だった。
ユーノがいくら走っても、「なのはを傷つけた」という事実が後ろから追いかけてくる。

 ダメだ、逃げられない――……。

 観念したユーノは、走るのをやめた。実際、もう足も疲れて走れそうになかった。電柱にもたれ、息を整える。

(しくった……)

 先ほどの光景が頭の中でフィードバックする。
理性を失くしてなのはに襲い掛かる自分。苦しそうにもがきながら「やめて!」と必死に叫ぶなのは。
「ユーノ君、最低……」と言ったときの、彼女の悲しそうな顔……。

(また……なのはを、傷つけた……)

 5年前、怪我で辛い思いをしているなのはの気持ちをわかってあげられず、
感情的な一言で傷つけたことがユーノの胸の内に蘇った。
だが、今回やってしまったことは、その時とは比べ物にならないほど重大だ。
男の欲望に負け、一方的にただひたすら自分をなのはに押し付けた。

 この世から消えてしまいたい――ユーノは本気でそう思った。

(二度となのはを傷つけないって、そう決めてたのに……)

 なのはのことが好きで好きでたまらない自分が、一番なのはを傷つけているではないか。

「僕は……僕は……ちくしょう、どう、して……」

 電柱にもたれかかったままズルズルと崩れ落ち、その場にへたり込む。
ユーノはひたすら己を呪い、後悔を繰り返した。時間だけがただ、無作為にすぎていった。